ロモス国王・シナナ視点
これはまた随分と強そうなヤツらが集まったものだわい。観客も闘技場の客席を埋め尽くしておるし大盛況でなによりじゃ。
突如現われた精霊ルビス様の娘を名乗るエターナル様には面食らったが、彼女の云われるままに武術大会を開いて正解じゃったな。
ロモス国内外から腕自慢を集め、国力増強を図っては如何かとの着想は見事に当たり、こうして人を集める事に成功しておる。
初めは魔王軍の罠かとも疑ったものだが、気が済むまで好きに調べて構わないと皆の前で裸になってみせた胆力と穢れを見いだせぬ真摯な眼差しに信じる事にしたのだ。
無論、体には指一本触れてはおらんぞ? 我が国には偽りの姿を見破る秘宝・ラーの鏡があるので彼女が正真正銘の人間である事は証明済みじゃ。
おまけに普段は滅多に人前には姿を現さぬ精霊や妖精達が、周囲の好色な目線から彼女を守るように囲んだ事も信じる要因となった。
人の身でありながら精霊ルビス様から娘になって欲しいと請われるような女性を晒し者にはできず、ワシは妻に命じて貴賓室へ案内させた。
余談じゃが、自分から服を脱いだとはいえエターナル様が人前で裸になった原因は疑いの眼差しで彼女を見ていたワシらにある。
そこで王妃はせめてもの償いにドレスをプレゼントする事にしたそうじゃが、彼女は女性としては背が高すぎるので似合うデザインがなかなかできず苦労したらしい。
「武術大会の狙いは腕自慢を集めるだけではありませんわ。試合を観戦しようと海外から来たお客で宿屋を始め、土産物屋、食事処なども潤う事でしょう」
そこまでお考えだったとは、この御仁は経済的な意味でも国力増強を視野に入れておられたのか。
「それに私もお小遣い稼ぎをさせて頂いてますしね」
エターナル様はワシに数枚のカードを手渡された。
「こ…これはダイ!? マァムにポップ…おお、このカードに描かれておる男は丁度今、戦っている男ではありませぬか!?」
「ええ、武術大会出場者や勇者様達アバンの使徒の肖像をカードにして販売しております。結構、売り上げがありますのよ?」
どうやら彼女は精密な印刷技術をお持ちのようで、小さなカードに色彩豊かな肖像画が綺麗に印刷されていた。
売れ筋としてはダイのような勇者は男の子に人気で、マァムのような若い娘やハンサムな騎士なども多く売れているという。
「意外なのはスライムやドラキーといった可愛い系のモンスターも需要があるようです。今、印刷所は嬉しい悲鳴をあげていますわ」
うぅむ…かさばらない小さなカード、子供の小遣いでも買える値段、蒐集欲をくすぐりそうな秀逸なイラスト…なるほど、売れるかも知れんのぅ。
「勿論、肖像画のモデルには売り上げに応じたバックマージンを支払っておりますわ…けど、勇者様には突っぱねられてしまいましたけどね」
「なんと!? ダイが来ておるのか!?」
「ええ、実は駄目で元々って気持ちで招待状をお送りしていたのです。本当に参加して頂けるとは夢にも思ってませんでしたけど」
ふむ、ダイは今、魔王軍と激戦を繰り広げている真っ最中…戦いの日々の中では思うように力を抜けまい…たまにはこうした穏やかな大会に出るのも良い息抜きじゃろう。
「魔王軍との戦いでお疲れでしょうに、私の我が儘にお付き合い下されたのです。後でお礼の品を持って参上するつもりですわ」
「そうして下され。あの子はちぃと無欲が過ぎる…かつて百獣魔団の猛攻から救われた時も、お礼の装備は受け取って貰えたが金や宝石は頑なに固辞しておったからの」
無欲が悪い訳ではないが、助けられた方からすれば礼を受け取って貰えぬ事はある意味心苦しいものがある事も知って貰いたいものじゃて。
「ええ、是非にも…『ただ働きはしない』『ただ飯は食わせない』『ただ飯は食わない』を人生のモットーにしている私の矜持に賭けても…」
せ…精霊ルビス様のご令嬢とは思えぬ恐ろしく現実的なモットーをお持ちの御方じゃな…
「さて…私は少し野暮用で外します。予選が終わるまでには戻りますので失礼を…」
「おお、主催者は多忙ですな! ですが、少しは息抜きをして下されよ? 武術大会の準備期間から貴女はずっと働き詰めでしたからな!」
「お気遣い、ありがとうございます。王様…でもご心配には及びませんわ。ある意味、楽しみな事ですから」
エターナル様は本当に楽しそうに微笑まれた。
「主催者推薦で登録した選手の様子を見に行くだけなのですが、本当に会うだけで楽しいのです…まるで恋人との逢瀬のように…」
今まで見せた事のない妖艶な笑みにワシの背筋が震えた。
「それでは失礼致します…」
エターナル様は洗練された身のこなしでワシ専用に設えた観覧席から去られた。
「恋人との逢瀬のように…か。誰かは知らぬが彼女の推薦を受けた男は幸せ者じゃなぁ」
後にエターナル様の推薦を受けた選手が誰なのかを知ったワシは大いに面食らう事になるとは思ってもみんかった。
「おっ? いよいよ、ダイの出番じゃな! 頑張れよ、ダイッ!!」
応援するまでもなく、ダイは一睨みで対戦相手を降参させてしまったのだった。
チウ視点
うう…僕は今、手足が短いという武道家として死刑宣告に近い事実を突きつけられてショックを受けている。
ダイ君は、パワーはあるんだから頭突きや体当たりで戦えば良いと云うけど、そんな格好悪い戦い方をマァムさんに見せられるものかい!
あのエターナルって主催者までダイ君の言葉を肯定して、自分に見合った戦法を取り入れるのも格闘家として大事な事だと云う始末だし…
『会場の皆様っ!! 予選は全て終了し、ついに決勝進出選手八名が決定いたしましたっ!!
それでは我が国で最強を誇る八名のファイターをご紹介しましょう!!』
僕の憂鬱など知らずに、場内アナウンスの声に会場が湧き上がる。
『まずは今大会優勝候補ナンバー1!! 怪力無双の戦士・ラーバ!!』
立派な髭を蓄えた筋肉質の男が腕を振り上げているのが見えた。
「何が優勝候補ナンバー1だ!! 勇者ダイ君やマァムさんも決勝に残ってるのに、よくそんな馬鹿な事を云えたもんだ!!」
観客を煽ってるだけと分かってはいても僕は憤懣やるかたない気持ちになっていた。
『続いて強大な呪文を誇るフォブスター!! どちらも劣らぬ強豪であります!!』
「あっ! あいつは予選で僕に屈辱を与えた…!!」
『そして! パワーに加えてレスリングテクニックにも長けたレスラー・ゴメス!!』
頭頂部に巫山戯た星の刺青を入れた大男がいい気になって雄叫びを上げている。
『強いのか弱いのか全く分からない! 謎の実力者・ゴーストくん!!』
何だあれ…? あんな布袋を被ってふらふらしてるヤツなんて今まで気付かなかったぞ? 予選にいたかな?
『更に体は小さいながらも自分の身長以上の斧槍(ハルバード)を軽々と操る少年騎士・ディーノ!!』
途端に会場内を黄色い声援が包み込んだ。
「キャ――――――――――――ッ!! ディーノ様ぁ!! こっち向いてぇ!!」
うわ…小さい女の子からそのお母さんってくらいの女の人まで身を乗り出して声援を送っている。
確かに彼は予選の最中でもとんでもない速さとパワーでハルバードを振り回して対戦相手を圧倒していた。
しかも常に礼儀正しく、自分が勝った相手にも礼を尽くす姿にファンを増やしていったのを覚えている。
そのディーノ君は彼女らの大歓声に目を丸くし、キョトンと首を傾げている。
「あ~~~~ん!! きっとディーノ様は何で自分があんな歓声を受けているのか分かってないのよ! 奥ゆかしくて可愛いらしいわぁ♪」
隣に座る若い女性がうっとりとした表情でディーノ君を見つめている。
ん? 何故だろう? ダイ君が親の仇でも見るような目でディーノ君を睨んでいる。
あ、そうか! ディーノ!! 確かエターナルが云っていた魔王軍からの参加者の名前がディーノだったっけ!!
あれがねぇ…ダイ君より頭一つ二つくらいしか背は違わないし…ダイ君がいなかったら参加者で一番背が低いんじゃないかな?
それにどことなくダイ君に似てるような気がするんだよなぁ…
『驚く事なかれ!! ベスト8に残ったのは男ばかりではありません!! 並み居る男を蹴散らした二人の女傑!! 美と強さを兼ね備えた戦女神!!』
そこでマァムさんとのっぺりとした白い仮面を着けた騎士姿の女の子が同時に手を挙げて観客の声援に応えた。
『武闘家・マァム&仮面の騎士・アニマ!!』
僕は口笛吹いてマァムさんに声援を送った。
『最後はなんと我らがロモス王国を襲った百獣魔団を蹴散らした英雄!! 勇者ダイ様です!!』
一際大きくなった歓声にダイ君は照れたように頭を掻いた。
『以上の八名が決勝に臨みます!! 果たしてルビス様手ずからお作りになったというルビスの護りを手に入れるのは誰か!? より一層のご声援を!!』
太陽の光を反射させるようにルビスの護りを頭上に掲げるエターナルに会場全体にどよめきが広がった。
『それでは! 今大会の主催者・エターナル様から決勝トーナメントの説明をして頂きましょう!!』
エターナルは銀色の鎖に繋げてネックレス状にしたルビスの護りを首にかけると、優しい笑顔になって口を開いた。
「皆さん、よくここまで勝ち残りました。想像以上の実力者が揃い私は大変満足しております。
国王陛下にご提案申し上げ、この大会を開いた甲斐がありました…」
ちょっとちょっとマァムさん!? 何で頬を赤らめて溜息なんかついてるんですか!?
カフェでエターナルと難しい話をしてからどうにもマァムさんの様子がおかしい…
「さあ、それでは最後のステージを整えましょう! 皆さんの立っている舞台の端々には合計八つの宝玉が埋まっています。一人一人好きな物を選んで下さい…」
「これか…?」
まずラーバが宝玉の一つを手に取った。
「なるほど…それで対戦相手を決めようって云う訳か…」
続いてディーノ君が宝玉を手にし、他の選手も次々に手を伸ばした。
ダイ君は最後までエターナルを睨んでいたけど、宝玉を持ってないのは自分だけだと気付いて、露骨に警戒しながらも残った玉を取った。
宝玉にはAからDまでのアルファベットが刻んであるみたいだった。
「まずは同じアルファベット同士で戦い、次にAとBの勝者、CとDの勝者で準決勝を行います。そして勝者で決勝戦を行い、敗者は三位決定戦を行って貰います」
組み合わせはこうなった。
A:ゴメスVSディーノ
B:ラーバVSアニマ
C:ダイVSフォブスター
D:マァムVSゴーストくん
「決勝トーナメントは明日の十時から一回戦を開始します。選手の皆さんは今夜は大会本部に宿泊して頂きます。ささやかながら宴を開きますので、鋭気を養って下さい」
エターナルはそう話を締めるとニコリと微笑んだ。
マァム視点
大会本部で開かれた宴はどうにも重苦しい雰囲気だった。
決勝進出者も予選敗退組も一緒に宴に参加してたんだけど、予選落ちした選手の一人が私を名指しして罵った事から始まった。
「俺の記憶じゃこの姉ちゃんは一回も予選で戦ってないんだけどよぉ? アンタ、どうして決勝にコマを進めたんだ?」
「主催者のエターナルに推薦を受けて登録したからよ。主催者推薦を受けた選手が予選免除なんて知らなかったけど…」
「ケッ! さっきの“どうして”ってのはどんな手を使って主催者の推薦を受けたんだって事だよ!!」
相当酔ってるらしいその男は私が口を挟めない程に捲し立てた。
初めはすぐに飽きるだろうと聞き流していたんだけど、次の一言で私の我慢が利かなくなってしまった。
「主催者の姉ちゃんは純情そうだったしよぉ…アンタ、色目を使ったんじゃねぇのか!?」
「私をどうこう云うのは構わないけど…エターナルを侮辱しないで!!」
私の平手があの男の頬に当たる瞬間、誰かにその手を掴まれた。
「こんなくだらない男を殴っても、貴女の手が汚れるだけよ?」
「貴女は確か…アニマさん?」
淡い桜色の髪を腰まで伸ばした仮面の女性は、特徴もないのに良く覚えていたわね、と平板な口調で答えた。
「…貴方も格闘家の端くれなら、これ以上みっともない真似は慎みなさい」
周囲からも男を詰る声が上がり始め、彼はバツが悪そうに大会本部からそそくさと去っていった。
しかし、男がいなくなっても私に対する周囲の心証は悪いままのようで、白い目に曝されるのに耐えられそうになく私もあの男に倣ってこの場から去ろうと思った。
「よォ!! 皆の衆! 楽しンでるか!?」
その時、酒瓶を持ったエターナルが顔を真っ赤にさせて会場に姿を現した。
…って、さっきと印象が全然違うんだけど? もしかしなくても酔っ払ってるわね…
あーあーっ!! ドレスをあんなに乱して、下手すると脱げちゃうわよ!?
「んー? 沢山食いそうなのにあんま食ってなさそうだな? 兄ちゃん?」
エターナルは千鳥足でゴメスに近づくと、彼の頭をペチペチ音を立てて叩いた。
「今日、必要な分のカロリーはもう取ってるからな…今日はもう茶ァだけで結構だ」
その瞬間、エターナルの目が光ったのを見逃さなかった。
もしかして酔っ払った振りをして選手の様子を観察している?
見れば、声をかけられれば返事をしているけど、近づいて体を触っているのは決勝進出が決まった人間だけだった。
そして用意された食べ物を食べているのは予選で落ちた者とダイくらいで、他の選手は明日に備えてかアルコールすら飲んでいなかった。
「…っ!?」
私と目が合ったエターナルは挑戦的な笑みを浮かべた。
きっと彼女はこう云っている…武術大会の決勝戦は既に始まっているのだと…
するとエターナルは私に抱きついてお酒臭い息を吹きかけてきた。
「マァムぅぅぅぅぅ…三時間ぶりぃぃぃぃ…貴女に会えなくてターさん、寂しかったぁ…」
「ちょ…エターナル!? 胸に顔を埋めないで!!」
私の体のアチコチに頬擦りしてくるエターナルに私は困惑と羞恥で頬が熱くなった。
まるで猫みたい…実際、エターナルの口から、うにゃ~~~~~って甘えたような声が漏れている。
助けを求めて周囲を見渡すと、ダイとチウがこちらの様子に気付いたようでつかつかと私達に近づいてくる。
「おい、エターナル! マァムから離れ…っと!?」
背後からエターナルの肩を掴もうとしたダイは大きく後ろへ跳び退った。
数瞬遅れて、ダイの方へ振り上げられてるエターナルの右足が知覚できた。
「チッ…後ろ向きとはいえ外したか…カラミティエンドの蹴りバージョン、カラミティシュートで真っ二つにしたろーと思ってたのによォ…」
「やっぱり…俺とマァムじゃ扱いが違う…」
「ったりめーだ!! テメェみてーな糞餓鬼と愛するマァムが同じ扱いになるわきゃねーだろ!!」
「愛するって…」
思わず呟いた言葉にエターナルは真剣な表情で私の目を見つめてきた。
闇色の瞳はどこまでも深く、私はその瞳の虜にされたかのように動けなくなり、言葉も出なくなっていた。
「マァム…これが俺の正体…俺は男を愛せないンだ…マァム…俺が気持ち悪いか?」
「そんな訊き方…卑怯…」
私は顔を背けようとしたけど、エターナルはそっと私の顎に手を添えて顔を正面に持ってくる。
「マァム…俺はお前の為なら死ねる…」
「私の為に死ぬだなんて…そんな哀しい事云わないで…」
「マァム…俺はお前の事を…」
「…二人でいい雰囲気になるのは勝手だけど、周りの目も気にして欲しいわね?」
見つめ合う私とエターナルの顔の間に手を差し入れたのはアニマさんだった。
「ご…ごめんなさい!! アニマさん!!」
「…ったく、もう少しでマァムを堕とせたのによォ…十六女十八女(いろつきさかり)と云われる昨今、この歳で純情な女は貴重だってのに…」
恐らく真っ赤になってるだろう顔を俯かせている私と対照的に、エターナルは子供のように拗ねたような顔になってアニマさんを睨んでいた。
「いつからそのように好色になったのよ…それに誰と恋愛するのも自由だけど、時と場所を選びなさい! エターナル!!」
「は…はい!!」
アニマさんに一喝されてエターナルは急に背筋を伸ばした。
「エターナル? どうしたの?」
「俺ァ…昔っからああいうタイプにゃァ弱ェンだ…頭ごなしに怒鳴るンじゃなく、ああビシッと叱るタイプの女に…」
私は思わず吹き出した。
「貴女の本性が男勝りなのには驚いたけど、そのクセ、女性には頭が上がらないタイプだったなんてね?」
「マァムにゃァ心が強いと云ったけど、俺は逆に心が弱ェ…女は俺にとって愛する存在であると同時に恐怖をもたらす…その矛盾を抱えてるせいで俺の心は強くなれねェ…」
エターナルは耳元に口を近づけ、私にだけ自分の弱さを教えてくれた。
それって本当に私を愛してるからって事なの?
「まあいいや…マァムも場の勢いで口説き落とされるのもヤだろ? 俺も焦らずじっくり腰を据えてアタックさせて貰うさ」
「アタックって…本気なの?」
「本気さね…俺はマァムに本気で惚れたからな。ま、とりあえずお友達から始めようじゃねェか?」
差し出されたエターナルの右手を私は握り返そうとして…何故か、アニマさんに先を越された。
「何してくれてンの?」
ジト目のエターナルには答えず、私に向けてアニマさんは闘気を放射する。
「…な…何?」
「貴女がこの子に相応しいか…ゴホン! 貴女、強いわね? 明日の決勝トーナメントでは、是非貴女と決勝戦で技と技をぶつけ合いたいものね?」
何故だろう? 抑揚のない口調なのに、かなりの焦りを感じたのは…
アニマさんはエターナルの方へ振り向くと愛おしげに右頬を撫でてからその場を後にした。
「…お姉ちゃん…」
「エターナル?」
「ああ…すまねェ…あの仮面の姉ちゃん、何故か懐かしい感じがしてよ…」
エターナルの頬を伝い落ちる一粒の涙に、私は今まで感じた事のない感情が胸に去来して、どうにも落ち着かなかった。
翌日、決勝トーナメントが始まった。
まず、Aの組み合わせであるゴメスとディーノが舞台に上がり、私達は選手用の観戦席へ案内されて二人を見守る事となった。
『大変長らくお待たせしました!! いよいよ決勝トーナメントがスタートします!!』
アナウンスの声に闘技場は割れんばかりの大歓声が上がった。
『早速、試合を始めたいと思います!! 第一回戦はパワーとテクニックを併せ持つ者同士の戦い! ゴメス対ディーノです!!』
観客席から若い女性特有の黄色い歓声が上がりディーノコールが巻き上がった。
ディーノは昨日と同じようにキョトンと首を傾げている。
「う~~ん…誰だったっけ? こんなに応援してくれるんだから知り合いだと思うけど…」
昨日の選手紹介でそんな事を云っていたのを思い出して、私は思わず口元を緩ませていた。
ダイがやたらとディーノを睨んでいるのが気になるけど、何かあったのかしら?
『それでは第一回戦を始めます!!』
ゴメスがファイティングポーズを取り、ディーノもハルバードを持って構えた。
『レディー…ファイト!!』
合図と同時に何故かディーノがハルバードを手放してしまった。
自らの得物を手放す騎士という光景に観客は呆気に取られ、それはゴメスも例外ではなかったようね。
その隙を突くようにディーノはゴメスに向かって走り出した。
「クソッ!!」
ハルバードが石の床に落ちる派手な音に我に返ったゴメスは向かってくるディーノに蹴りを繰り出す。
そこでディーノは蹴りをかいくぐるようにスライディングをして、ゴメスの軸足を脇に抱えるように掴んだ。
更に両足でゴメスの脚を挟むように固定して一気に捻りあげた。
「ウギャアアアアアアアアアアアアッ!!」
「靱帯が切れた…レスリングの達人であるゴメス殿を一瞬にしてヒールホールドで仕留める…恐ろしい子だよ、ディーノ君は…」
ゴーストくんと名乗る選手の解説に私は戦慄を覚えた。
予選ではずっとハルバードを使っていた事からそれが彼の戦法だと先入観を持っていたせいで、試合開始直後に彼が得物を捨てた事で虚を衝かれたのが第一の敗因…
そして先程の先入観と騎士という職業からまさか素手で戦うとは想像すらしてなかったであろう所をあっという間に関節を極められてしまった…
「ゴメス殿はもう戦えないね…ほら、チェックメイトだ」
膝を抱えて転げ回っていたゴメスの鼻先にハルバードの先端を突きつけたディーノは降参を促している。
ゴメスは苦痛と屈辱が入り混じった目でしばらくディーノを睨んでいたけど、やがて項垂れて降参を宣言した。
途端に湧き上がる大歓声とディーノコール、皆がディーノの勝利を祝福していた。
「ただ強いだけでなく、こんな駆け引きもできるなんて…」
ダイは悔しそうに、けどどこか羨ましそうにディーノを見つめていた。
ディーノはゴメスの膝に手を当てて回復呪文を唱えていた。
立ち上がったゴメスは清々しい顔で右手を差しだし、ディーノがそれに応えて握り返すと観客席から惜しみない拍手が送られた。
「遺恨が残る戦い方をする者と戦いの中で友情が芽生える者がいるが…ディーノ君は明らかに後者だね」
本当ね。命懸けで戦った結果、クロコダインとヒュンケルを仲間にしたダイと同じタイプの少年だわ。
どこの国に所属している騎士かは分からないけど、もし仲間になってくれたらとても心強いでしょうね。
選手用の観戦席にやって来たディーノに皆が祝福の声をかけ、ゴメスには労いの言葉がかけられた。
「次は私達の出番だな…お手柔らかに…」
「…こちらこそ」
握手を交わしたラーバとアニマさんが観戦席から出て行った。
それから間もなく二人は舞台に上がり、第二回戦がすぐに開始された。
ラーバは戦士だそうだけど、格闘技術も持っているようで素手で構えを取った。
対してアニマさんは片刃の剣を下段に構えて対峙する。
「アニマ殿の剣…古い文献にあったカタナと呼ばれる種類の物だね」
ゴーストくんによると斬る事に特化したアイテムで、その鋭さは既存の剣のどれをも上回るとか…
やがてアニマさんは足裏を擦るように間合いを詰めながら腰を沈めた。
ラーバは動かない…いえ、動けない?
「嫌な予感がする…」
ゴーストくんが漏らした呟きに皆の表情に不安が宿る。
アニマさんは両肩をつぼめるようにして少しずつ切っ先を上に持ち上げていく。
途端にラーバの顔に恐怖が浮かび、徐々に後ろへと下がっていった。
それを追うようにアニマは間合いを詰めてくるので、ついには舞台の端まで追い詰められてしまった。
「馬鹿!! 相手が目の前にいるのに後ろを見るヤツがあるか!!」
どうやらラーバは自分が後ろに下がっている事に気付いてなかったようで、踵が舞台の外へはみ出たのを驚いた顔をして振り返ってしまった。
先程のゴメスの罵声が合図であるかのようにアニマさんが一気に踏み込んできた。
「突きだ!」
アニマさんの突きを迎撃すべくラーバが腕を失う覚悟で剣を払おうとした瞬間、異変が起こった。
なんとアニマさんはラーバの胸を突くと見せかけて、刀身を返して彼の胴を薙ぎ払った。
かなり深く截断したらしく、お腹の傷から臓腑が溢れ出てきた。
あまりの惨劇に観客席から悲鳴と怒号が上がった。
「ター姉!!」
ディーノの叫びに応えるようにエターナルが王様専用の観戦席から舞台に向かって飛び出すと、ラーバの臓腑を手際良く傷口に押し込みベホマと叫んだ。
どうやら一命は取り留めたらしく血塗れのエターナルは倒れているラーバに安堵したような微笑みを向けていた。
「突きと見せかけて胴を薙ぐ技か…しかし、それだけの技じゃないだろうね。その程度ならラーバ殿も顔に恐怖を浮かべないだろうし、容易く斬られもしないだろうさ」
私はアニマさんをじっと見る。
「秘剣『飛龍』…」
「え…?」
歓声に包まれている中で、確かにアニマさんの声を聞き取った。
「秘剣『飛龍』か…ひょっとしたらボクには荷が重いかも…ダイ、折角ター姉がお膳立てしてくれた場だけど、決勝戦でまみえる事ができなかったら…ごめんね?」
準決勝でアニマさんと戦う事になったディーノは若干顔色を悪くさせてそう云った。
ダイは複雑そうな表情でディーノを見つめ返すだけだった。
私は舞台から担架で運び出されるラーバに付き添うエターナルを目で追う事しかできなかった。
今はただエターナルにそばにいて欲しい…
あとがき
今回、三つの視点で書いてしまいましたが、皆さんは読みづらくなかったでしょうか?
さて、原作では描かれなかった武術大会の決勝トーナメントが始まりました。
初めはゲストとしてドラクエⅣのアリーナを登場させようと思ってたのですが、マァムと被るので残念ながらボツになりました。
まずは小手調べでディーノがゴメスに圧勝、幸先の良いスタートと思いきや準決勝で当たるアニマの登場で雲行きが怪しくなってきました。
果たしてディーノは必殺剣『飛龍』を破る事ができるのでしょうか?
そしてエターナルを取り巻く女性達。
マァムはノンケですがカフェで会話以降、エターナルが気になり出し、アニマもエターナルにはただならぬ思いがあります。
エターナルとアニマの関係は遠からず明らかにしていくつもりです。
次回はダイとマァムの試合からです。まあ、原作終了後のダイには誰も勝てないとは思いますけどね(笑)
それでは、また次回に。