ダイ視点
「けっ…結局こうなっちまったか…!!」
その正体は操り人形だったキルバーンに仕込まれた黒の結晶(コア)を俺とポップで抱えながら上空へと登っていく。
もう手放す余裕がないのは分かっていた。俺達は爆発から逃れられないだろう…けど!
「…お前となら…悪かねぇけどな!! ダイ…!!」
「…ごめん…ポップ…!!」
けど、こいつだけは…一番の親友のこいつだけは!!
俺はポップを蹴り落とし、更にスピードを上げて上昇する。
「なっ…何故なんだよオオッ、ダイッ!!」
許してくれ、ポップ。
こうする事が…こうして自分の大好きなものを庇って生命をかける事が…!!
ずっと受け継がれてきた…俺の使命なんだよ!!
「バッカヤロオォォオォッ!!」
真っ青な空に父さんと母さんの姿を見たような気がした瞬間、俺の目の前が真っ白になった。
「…ま、まさか…ディーノか!?」
気が付くと俺は父さんに抱きかかえられていた。
「…父さん? …って事は…ここは…天国?」
周りを見渡してみると、真っ暗で石造りの壁に囲まれていた。
「ここって…まるで牢屋みたいだ…ひょっとして地獄に来ちゃったのかな?」
「馬鹿を云うなっ!! ここは確かに牢屋だが現実の世界だ。決して地獄ではない!!」
そうは云うけど、周りは陽炎のように歪んでて現実味があまり感じられない。
「恐らくは結界を破壊した余波で空間が歪んでいるのだろう…だが、それも直に落ちつき迷宮と化したこの地下牢もすぐに元へと戻るだろう」
「そうか…現実か…俺はまだ生きてたんだ…あの爆発の中を…」
しばらく手を握ったり開いたりを繰り返してた俺はある事に気付いた。
「…え? …現実? なら目の前の父さんは…」
俺は素早く父さん(?)から離れると両の拳に紋章の力を宿らせた。
「な…何っ!? 竜(ドラゴン)の紋章が二つあるだと!?」
「お前は何者だ!? 父さんの姿になって何を企んでいる!?」
呆けている父さん(?)の首を掴んで引き寄せる。
きっとこいつは魔王軍だ!! しかも父さんに化けるだなんて許せない!!
「ディーノ!? や…やめろ! 私はお前の父親だ! お前を迎えに来たのだ!!」
「お前は魔王軍の残党か!? だったらもう父さんに化けるなんて無意味な事はやめろ!! 大魔王バーンはもういない!! 魔王軍は負けたんだ!!」
「ディーノ!? 血迷ったか!? 魔王軍は未だ健在だぞ!!」
飽くまでシラを切る父さんの偽者を俺は紋章の力を込めて石壁に叩きつけた。
「いい加減にしろ!! これ以上、父さんを侮辱するのは許さないぞ!!」
俺はありったけの怒りを込めて睨み付けるけど、まったく臆さない偽者に腹を蹴り飛ばされて、つい手を離してしまった。
「いい加減にするのはお前の方だ!! さっきから訳の分からぬ事を…もしや記憶が混乱している!? 記憶が戻りかけているのか!?」
父さんの偽者の額に紋章が輝き、俺に向けて思念波を飛ばしているようだけど、紋章が額にない俺には効果がない事に気付いてないようだ。
「ならばもう一度記憶を消してやる!! 二度と揺らぐ事のないように念入りにな!!」
「無駄だ!! 紋章が拳にある俺には頭脳支配が効果ない事くらい分かってるはずだ!!」
竜の紋章が使える事には驚いたけど、虚仮威しに決まっている。
俺は偽者の顔面に連続パンチを何度も叩き込んだ。
「お…おのれ…図に乗るな小僧!! 我が息子ゆえに抑えていたが、どうやらある程度の仕置きは必要なようだ!!」
父さんの偽者が左目の飾りを頭上に掲げると、牢内であるにも拘わらず雷が落ちた。
「ま…まさか…この偽者…竜魔人に変身できるのか?」
偽者の額から滴る血が赤から青に変わって…全身が鱗に覆われた人型のドラゴンのような姿へと変身した。
「紋章が何故、二つあるのかは知らぬ!! だが私がこの姿になったからにはお前に勝ち目はない!!」
偽者のパンチが俺の竜闘気(ドラゴニックオーラ)を貫いて顔面を捉えた。
「ぐぅ!! この強さ…本物の父さんと引けを取らない!?」
「これ以上、私を怒らせるな!! 身も心も魔獣と化した私に最早手加減などできないのだからな!!」
「ま…魔獣…父さんを魔獣と呼ぶなぁ!!」
俺達の殴り合いの余波は周りの空間の歪みを更に広げていっているようだった。
「ハアッ!!」
少し周囲に気を取られている隙を突かれて俺は腹を浅く斬られてしまった。
「うう…真魔剛竜剣…」
バーンとの最終決戦で砕けたはずの剣が父さんの偽者の手にあった。
「認めがたいものがあるが、どうやらお前は竜魔人と化した私よりも遙かに上を行く強さを持っているようだ…
だが!! 神が作りたもうたこの真魔剛竜剣を持つ私と素手のお前…どちらに分があるかは火を見るより明らか!!」
確かに今のままでは俺に勝ち目はない!!
俺の…ダイの剣は…どこにあるんだ!?
「やっと大魔王バーンを倒し、キルバーンの最期の罠からも生き残ったのに、ここで父さんの偽者なんかに負けてたまるか!!」
その時、空間の歪みが更にうねり、奧から凄まじい威力を持った何かがこちらにやってくる!?
いや、この感じは知っている!! 俺の闘志に引かれて来てくれたんだ!!
「俺の剣よ!! 俺はここにいるぞ!!」
俺の呼びかけに応えるように剣は俺の手の中に収まった。
「消えろ、偽者!! この剣がある限り俺は誰にも負けない!!」
両の拳の双竜紋を額で一つにする。
「ウオオオオオォォン!! 行くぞ!!」
俺の喉の奥から咆哮が迸った。
気付いたら俺はベッドの上にいた。
「気が付いたか…ダイ?」
丁度俺の顔を覗き込んでいたクロコダインと目が合った。
俺の名前を呼ぶのに少し間が開いたのは仕方ないのかも知れない…俺は本来ここにいる人間じゃないんだから…
「ここは…?」
「テランの森の中にある小屋だ。エターナルと太陽神信仰との戦いの後、傷を癒すまでの隠れ家として借りたものだ」
ああ、俺が父さんに記憶を消された時やハドラーの襲撃の時に使ってた小屋か。
「俺は…ここにいて良かったのかな?」
「…なんだと?」
「エターナルの言葉を信じるなら、俺は未来から来た人間…しかもこの時代の俺はここにはいない…」
するとクロコダインは乱暴に俺の頭を撫でた。
「子供がくだらん事を気にするな! どの時代から来ようとどのような存在だろうとお前はお前だ!」
「…う、うん…でも、俺のせいで事態がややこしくなったようなものだし…」
「それは違うぞ、ダイ!」
今度ははっきりとおれの事をダイと呼んでくれた。
「魔軍顧問エターナルはあの場では誰よりも強かった! あのバランすら彼女の前では霞んで見えた程だ。恐らく誰がいようと結末は変わらなかっただろうよ」
「うん…バーンを圧倒する事ができた俺でもエターナルの前では身が竦んだ…バーンより強いって言葉はきっとハッタリじゃないと思う…」
「そう云えばお前はバーンを倒した未来から来たのだったな…さぞや厳しい戦いであったのだろうな」
クロコダインの目には俺を疑っている色が全然見えなかった。
「しかし未来を知ると云う事はこれから先の戦いで魔王軍に対して大きなアドバンテージを取れるのではないのか?」
「いや、俺はそうは思わん」
松葉杖をついたヒュンケルが小屋の中に入ってきた。
「どういう事だ、ヒュンケル? 未来の魔王軍が何を企んでいたのか知れば、いつも後手に回るばかりだった我らが先手を打てるようになるかも知れんのだぞ?」
「それだ! 恐らく魔王軍はこのダイが未来の知識を持っていると予測しているはず! 奴らはきっと現段階で進行していた作戦の見直しを必ず図るはずだ!
思い出してみろ…エターナルはあの僅かな会話でダイ本人すら気付いてなかった時間の逆行の可能性を示唆したのだぞ? その彼女が無策に動くはずがない!!」
そうだ。しかもエターナルは俺の知る未来では存在しなかった。
「その通り! 魔王軍の編成とダイの知る魔王軍の編成には大きな違いがある。その代表がエターナル率いる近衛騎士団の存在だろう」
「違いは魔王軍だけじゃないよ…俺が知る世界では太陽神信仰なんて敵はいなかった…並行世界だっけ? 俺の世界とはやっぱり歴史そのものが違うんだ!!」
「そうか…こうまで違うと未来の知識は却って弊害になりかねんな…」
クロコダインは渋い顔で顎をさすった。
「ちなみにダイ…未来ではお前は魔王軍には行かなかったのか?」
「とんでもない!! 俺はポップのメガンテを見て記憶を取り戻し、父さん…バランを退けてその後も魔王軍と戦ってたんだから!!」
するとヒュンケルとクロコダインの顔に遣り切れないって表情が浮かんだ。
「ここで既に歴史が変わっているという事か…お前は記憶を取り戻し、あのダイは勇者としての記憶が完全に消去されてしまった…」
「そう云えばポップは? この世界のポップはどうしたの?」
俺がそう訊くとヒュンケルの顔は複雑なものになった。
「会ってみるか? ヤツは今、二重の意味でショックを受けている…一つは自分のせいでダイの記憶が消えた事…そしてもう一つは…」
「ああ、もうたまんない!! どうにかならないのかしら、あの二人!?」
そこへ苛立った様子のレオナが小屋の中に入ってきた。
「あら、ダイ君!? 目が醒めたのね!?」
レオナは嬉しそうに、どこか複雑そうに俺に駆け寄って手を取った。
「もう! エターナルが去った後、この世の終わりだって顔で気を失っちゃうんだもん! 吃驚したわ!!」
「ごめん…俺も混乱しちゃってて…」
俯いて謝る俺にレオナは腰に手を当てて溜息を吐いた。
「無理もないわよ。未来から過去に飛ばされてきましたって云われたら、あたしだって絶望しちゃうわ。ましてや大魔王バーンを倒した直後だったんでしょ?」
「うん…って、それよりポップがどうしたの!? メガンテを唱えて死んじゃった後、どうやって生き返ったの!?」
するとレオナは戸惑い半分苦笑い半分といった顔になった。
「なんて説明したら良いのかしらね…? 早い話がポップ君は天使になっちゃったのよ!! しかも女の子になって!!」
「ええ~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」
俺の叫びは竜魔人の咆哮よりも大きかったかも知れない…
「ほら、ポップさん! 恥ずかしがらないで!!」
「いやでも…こう足下がスースーすると落ち着きがなくてよ…しかも動く度に結構捲れるように感じて心許ないと云うか…」
何、この光景…
背中に光の粒を纏わせた大きな羽を持つ女の子がメルルに手を引かれて歩いている。
「ほら、また! 脚が開き気味ですよ!? 唯でさえ丈が短いんですから、そんな歩き方じゃ体がぶれて余計にスカートが捲れますよ?」
「いや…だったらもっと丈の長いスカートにしてくれよ…むしろズボンで良いだろ?」
「何を云うんですか!? 丈の長いスカートでは戦いに支障が出るのではないですか?」
「だからズボン…」
「ほら! またがに股になってますよ!!」
どこかポップに似た顔立ちの女の子の太腿をメルルはピシャリと叩いた。
でも気のせいか、厳しい口調とは裏腹にメルルの頬が緩んでいるように見えるんだけど…
「あれ…誰?」
「だからポップ君よ…本当にポップ君は天使になっちゃったのよ! しかもすっごく美人になっちゃって!!」
うーん…確かにポップはおばさん似だったけど美人って感じは…ほら、メルルの厳しい声にゲンナリして洟を垂らしてるし…
あ…目が合った…
「ダイ!! 目が醒めたのか!?」
ポップは俺に駆け寄って来ると、目に涙を溜めて物凄い力で抱きついてきた。
「ダイ! ダイ!! ダイイイイイィィッ!! お前はダイだよな!? 勇者ダイなんだよな!? 俺を置いてどこにも行かないよな!?」
「ちょ…ちょっと!? ポップ、苦しい…ってば!!」
駄目だ。全然聞く耳持ってくれない…しかもこの力、とても魔法使いの…女の子の力とは思えない…
下手すると双竜紋を展開した俺の腕力に匹敵するかも?
「おい、ポップ! お前はダイを絞め殺す気か!? いい加減にせんとダイが潰れてしまうぞ?」
「え…? コロス…?」」
クロコダインの声に一瞬、ポップの力が抜けたので俺は素早く抜け出した。
「そうだ…俺はダイを…殺しちまったんだ…何が親友だ…俺は最低だ…俺はダイを守れなかったんだ…」
ポップは絶望の表情を浮かべて腰砕けに地面に座り込んでボロボロと大泣きを始めてしまった。
「く…クロコダインさん!! もう少し言葉を選んで下さい!! 折角、自責の念が薄くなり始めてたのに!!」
「す、すまん!! ポップ、もう自分を責めるな!! ほれ、ダイはこうしてお前の目の前にいるぞ?」
見てるだけで吸い込まれそうなくらい光を失ったポップの瞳に射竦められて、俺は微動だにできなかった。
しばらく俺を見つめていたポップの瞳に徐々に光が戻ってきて、やがて笑顔を見せた。
でも、その笑顔は無邪気な子供のようで、どこか背筋が凍るような感じのする見ていて不安になるものだった。
「ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイ…」
ポップは俺の頬を両手で挟んで固定すると、俺の瞳を覗き込みながら名前を何度も呼ぶ。
「ヒッ!?」
ポップの口の両端が吊り上がり三日月のようになって、目もどこか焦点があってない…
俺はなんだか怖くなって視線だけでみんなを見渡す。
(ごめん…ダイ君、あたし達にはどうして良いか判らない!)
手を合わせて俺を見るレオナの目はそう云っていた。
クロコダインとヒュンケルも同じような目をしていた。
メルルだけは三人とは違うような感情が籠もった目を俺に向けていた。
「ああ…もうこんな時間か…そろそろ飯の仕度をしねぇとな?」
いつの間にかポップは俺から離れていて、メルルと一緒に小屋へと歩いていく。
俺はというと、腰を抜かしたように地面に座り込んでいた。
「ああ…そうだ…」
小屋の扉に手をかけたポップは首だけを真後ろに向いて俺を見る。
「ヒアッ!?」
モウ、オマエヲ、ダレニモワタサナイ…
ポップの唇は確かにそう動いていた。
「今日は俺が当番だから期待するなよ?」
体ごと振り向いていたポップは苦笑気味にそう云っていた。
さっきのは気のせいだったんだろうか?
テーブルの上には色とりどりの野菜と鶏肉が沢山入ったシチューとパンが入った駕籠がいくつか並んでいた。
「教わりながら作ったから結構時間がかかちまった…けど、先生が良かったから味は保証するぜ?」
「もう、ポップさんったら! ポップさんも初めて本格的なお料理を作ったとは思えないほどの出来映えですよ」
ポップとメルルは笑いながら銘々にシチューを皿にそよって配っていく。
うん、良い匂いだ…デルムリン島にいた頃、ポップが試しに作ったスープはとても食べられるものじゃなかったけど、このシチューは美味しそうだ。
「沢山作ったからいっぱい食べてくれよ! ダイもおっさんも一杯二杯じゃ足りないよな!?」
「はははは! まるで初めて料理を作った子供だな! ああ、さっきメルルがそう云っていたか?」
「おっさん、おかわりはいらないって云ったように聞こえたんだけどよ?」
ジト目で睨んでくるポップにクロコダインは苦笑して降参のポーズを取った。
「悪かった! 冗談だからそうむくれるな!!」
「それにしてもメルルも上機嫌だねぇ? まるで可愛い妹ができたみたいだよ」
ナバラさんにからかわれてメルルは顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。
「婆さん、勘弁してくれよ。妹って俺とメルルは同い年だぜ?」
「そうですわ…ポップさんを妹だなんて…」
イモウトジャナクテ、ワタシダケノテンシニ、シタイノニ…
「えっ…?」
「どうかしました、ダイさん?」
「ううん…何でもない…」
俺は食事に夢中になる事でさっきの事を忘れようとした。
うん、気のせいだ…メルルがあの三日月のような笑い方をするなんて…
アナタナンカニ、ポップサンハ、ワタサナイ…
美味しかったシチューはいつしか味が分からなくなっていた。
夕食を終えた俺達は今後について話し合っていた。
「状況はダイが体験した未来より厳しいという事か…バーンより強力な幹部がいる上に太陽神信仰か…」
確かにエターナルはベギラゴンのような極大呪文を目眩ましに使うどころか、カラミティウォールといったバーンの技を使えるような怪物なんだよな…
しかも精霊に愛されてて、あいつに放った呪文は軒並み無効化され、逆にメラ一発分の魔法力で極大呪文を使えるなんて殆ど反則のような能力もあるだなんて…
「それだけじゃないわ! エターナルは強力な攻撃呪文だけでなくボミオスやルカニのような弱体化呪文を好んで使ういやらしい一面もあるのよ!!
それにヒュンケルの話じゃあらゆる格闘技や剣術を究めていて、それらの長所を抽出して一つの戦闘術を作り出す天才的な頭脳と戦闘能力も持っているの!!」
「弱点らしい弱点は見当たらないが、クロコダインの話では太陽神信仰の結界に入る直前のヤツは様子がおかしかったそうだ」
ヒュンケルの言葉にクロコダインは大きく頷いた。
「あのクンビーナとの戦いの最中、何度か激昂した事からも太陽神信仰となんらかの関係があるのは間違いないだろう…」
「ヤツは神獣クビラとクンビーナから巫女と呼ばれていた…あの儀式めいた刺青から見ても断言しても良いだろうな」
そこでメルルが手を挙げた。
「エターナルが人間である事からもバーンとの血の繋がりがない事は明白です。恐らく生け贄されかかった所を救われてそのまま養女になったのでは?」
「あのバーンが…俺の知ってるバーンは生け贄にされかかってる人間を救うような性格じゃないと思うけど…」
けど、この世界のバーンは俺の知るバーンとは違うのかも知れない。
エターナルのバーンに対する感情からも意外と人間に寛大な性格なのかも?
「確か神獣クビラの話ではエターナルの子宮には何とかの炎だかグレイト何とかってのがあって、そのせいでクンビーナに支配されかけたって云ってなかった?」
レオナ…何とか何とかじゃ分からないよ…
いや、それより…
「レオナ? 子宮って何?」
「ええと…く、クロコダイン、お願い!!」
何でレオナは顔を赤くしてるんだろう?
「仕方ありませんな…話が脱線するから手短に話すが、要は内臓の一つでな…卵のように赤子を育て守るものと覚えておれば良い」
「ふーん…なんかピンと来ないけどそういうもんだってのは分かった…」
「早い話がエターナルの中には太陽神信仰が信じる神の力が宿っていて、ヤツらはそれに干渉してエターナルを操ろうとしているらしいのだ」
つまりエターナルに取って太陽神信仰は天敵って事か…
「阿漕なやり方だが、俺としてはエターナルと太陽神信仰をぶつけるのが最良の策だと思う…」
「ポップ! そんな卑怯な方法は駄目だよ!!」
「では、どうするのだ? 真正面からエターナルや太陽神信仰と戦うのか?」
ヒュンケルの言葉に俺は何も云えなくなってしまう。
両方とも正面から戦って勝てるような甘い連中じゃないのは分かっている。
けど…
「例えばフレイザードとの戦いでは俺達は五人がかりでヤツと対峙した…それは正々堂々と云えるのか? 逆に卑怯と罵られる事なのか?」
「ごめん…俺の勝手な理屈だった…でも、エターナルも太陽神信仰も人間なんだ…できればどっちも死なせたくない…」
「ダイ君…貴方が人間の味方でいてくれるのは嬉しいわ。けど限度があるわよ…太陽神信仰は敵を倒す為なら疫病も利用する危険な連中なのよ?
勿論、中には説得に応じて改心する教徒もいるかも知れない…でも、あたしには太陽神信仰がそんな甘いヤツらとは思えないのよ」
レオナの厳しい声に俺は目を丸くした。
「尖兵であるシスター・クンビーナでさえあたし達は歯が立たなかった…これから戦っていくのなら倒す気でいかないと、とってもじゃないけど勝てないわ」
「俺も姫と同意見だ。お前は優しい…割り切れとは云わん…だがお前も竜の騎士ならば、魔族だけではなく人間も正さねばならぬのではないのか?」
レオナとクロコダインだけではなかった。ヒュンケルもポップもメルルもナバラさんも同じ表情で頷いている。
考えてみれば、俺は魔族やモンスターには剣を振るっていたけど、人間相手にはどんな悪いヤツでも剣を向ける事を躊躇った。不死騎団長時代のヒュンケルにさえも…
自分の正義が酷く偏っているように思えてきて、気付いた時には俺はテーブルに目線を落していた。
「ああもう! 暗い話題は一旦、置いておきましょう!!」
レオナは手を叩いて場を仕切り直した。
「ダイ君! ヒュンケルから貴女の未来の知識は魔王軍に対してアドバンテージを取れないとは聞いてはいたけど、一応何があったのか聞かせて貰える?」
俺は頷いてまずこの小屋に夜襲をかけられる事から教える事にした。
「父さんとの戦いが終わって俺達はこの小屋で回復を図ってたんだけど、ある夜、ハドラーとザボエラが夜襲をかけてきたんだ」
「ハドラーが…バランの件で相当追い詰められたようだな…」
「けど、ハドラーが来る気配は今のところないみたいだね…俺は三日間くらい寝てたらしいけど、ハドラーの奇襲はまさにその三日の内だったから」
ヒュンケルはしばらく考え込んでいたけど、やがて口を開いた。
「バランがダイ…お前ではない方だ…ダイを連れて帰る事に成功した…俺がバーンならバランを魔軍司令に任命する…」
「つまり魔軍司令の地位を追われたハドラーは処刑されたとでも?」
クロコダインの言葉にヒュンケルは首を横に振った。
「そして俺がエターナルならばハドラーを生かしておく…ハドラーに俺達の相手をさせて、自分は秘密裏に恐ろしい企てを進めるといった戦法もできるだろうしな」
「だったらもうハドラーが襲ってきても良いんじゃねぇのか?」
「いや、ハドラーはこちらのダイの強さを知っているはずだ…夜襲をかけたところで勝てないのは十分理解しているだろう…」
俺は漸くハドラーが襲撃してこない理由が分かった。
「まさかハドラーは自分のパワーアップを考えている?」
「恐らくはエターナルの監視の下でな…エターナルほどの切れ者、ハドラーをそのままダイにぶつけても捨て駒にすらならない事に気付いていない訳がないからな」
確かにあのエターナルって無駄に兵士を死なせるタイプには見えないよなぁ…
「あーあ、やっぱり未来の知識はアドバンテージにはならなかったか…」
レオナはテーブルに突っ伏して溜息を吐いた。
「結局、俺達、魔王軍、太陽神信仰…この三つ巴の戦いという状況を上手く利用する以外の上策はないだろう」
スッキリしない戦い方だけど、仕方ないのかなぁ…
こうして今夜の話し合いは終わった。俺は胸の中にできたモヤモヤ感を抱えながら寝室へと向かうのだった。
そして、その夜、夜襲があった。
「ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…ダイ…」
耳からではなく頭の中に直接響くようなポップの声に俺は一晩中悩まされ続けた。
しかも声は段々、熱を帯びてきて、時々苦しそうに喘いでいるようだった。
だけど俺は…何故か、ポップの部屋の様子を見に行く事が危険であるような気がして、結局ベッドから出られず、まんじりとせずに朝を迎える羽目になった。
おまけ
「こ…ここですか?」
ザボエラがエターナルに連れられてやってきたのは魔界にあるかつてバーンが棄てた城の一つであった。
「おう、ここが近衛騎士団の秘密道場・錬武館だ」
「何々…ここでは一切の感情を捨てよ…ですと?」
「ま、その内、泣いたり笑ったりできなくなるから覚悟しておけ?」
城の入り口に書かれた魔族文字を読んだザボエラは恐怖の表情を浮かべていた。
「早速だが行くぜ? ああ、一つ忠告しておくが…絶対に笑うなよ?」
エターナルに蹴り出される恰好でザボエラは城の中へと入っていった。
「よく来たな!! 歓迎するぞ、新入り!!」
上半身裸の筋肉質の男がザボエラを傲然と見下ろしていた。
顔立ちも無骨そのもので、左側のこめかみから頬にかけて大きな傷があり、歴戦の戦士である事が窺い知れた。
頭髪は一本もなく、目元が見えないほどの色の濃いサングラスが余計にこの男の迫力を増していた。
「申し遅れたが、俺が錬武館館長!!」
男はサングラスを取る。
「ポコタン♪ である!!」
サングラスの下から表れたのは顔に似合わない小さくつぶらな瞳だった。
しかも「ポコタン」と名乗った瞬間のみ声が裏返り可愛らしいものに変わった。
その瞬間、ザボエラはエターナルの忠告を忘れた。
「ぶふぅ!!」
物の見事に吹き出していた。
だが、すぐに警告を思い出す事になる。
『ザボエラ! アウトォ!!』
何者かの声が響き、ザボエラは数人の男達に囲まれて、ひのきの棒で尻を思いっ切り叩かれたのだ。
「ヒギャアアアアアアアアアッ!! な…なにが起こったんじゃ?」
「だから絶対に笑うなって云っただろ?」
エターナルはおどけるように肩を竦めてザボエラに云ったものだった。
「これが我が錬武館、歴代の館長である!!」
城の中を案内されたザボエラは、中で行われている特訓と呼ぶのも馬鹿らしい苛酷な訓練に頬を引き攣らせていた。
そして最後に館長室に案内されてガイダンスを受けていた。
尚、ここに来るまでにザボエラは六回も吹き出し尻を叩かれた事を明記しておく。
「皆、同じ顔に見えるんじゃが…」
館長用の机を見下ろすように並ぶ歴代館長の肖像画にザボエラは笑うまいと腹筋に力を込めていた。
「まずは初代館長のピーちゃん♪ 二代目館長のプータン♪ 三代目館長の…」
館長は次々に歴代館長の名を挙げていく。
「そして十四代目館長のジュウシマツ♪」
「「ぶふぅ!!」」
ごつい男達の肖像画に挟まれるように飾られたジュウシマツの肖像画にエターナルとザボエラは堪らず吹いた。
『エターナル! ザボエラ! アウトォ!!』
「ちょっと待て!! 前に来た時はあんなンなかっただろ!?」
エターナルの抗議は無視され、二人は仲良くひのきの棒を尻で受け止めた。
「あー…ヒデー目に遭った…」
その夜、大勢の訓練生達が雑魚寝する大広間でエターナルはお尻をさすりながら毛布を頭から被ろうとしていた。
「え…エターナル様…まさかここで眠るおつもりでは?」
同じく毛布一枚しか与えられなかったザボエラがやや呆然とした様子で隣のエターナルに声をかけた。
「そうだが、何か不都合でもあンのか?」
「いえ、滅相も…しかしバーン様のご息女ともあろう御方が…」
「ここじゃァ身分なんざ関係ねーンだよ。だから今の俺とテメェは五分と五分だ。余計な事云ってねーでさっさと寝やがれ!!」
エターナルはこれ以上、ザボエラに耳を貸さないと云わんばかりに毛布を被ってしまった。
「くぅぅ…ここまでされては逃げるに逃げられぬではないか…しかもワシの訓練に付き合ってここまでされるとは…」
ザボエラは笑う。だがそれは、いつもの下卑た笑いでもなく、吹き出し笑いでもなかった。
「少しこの老骨に鞭を打ってみるかの…」
ザボエラは八百年以上生きて初めてと云えるほど穏やかな気持ちになったのだった。
『ショウヘイへ~~~~~~~~~~イ!!』
天井から降ってきた声に全てが台無しになってしまったが…
あとがき
おまけが長すぎる上に巫山戯すぎました(爆)
本編とは関係ないので、流してくれて構いません(おい)
今回はダイ視点でアバンの使徒サイドを書きました。
冒頭ではダイとバランの戦い、そして何故ダイの剣があったのかを補完してみました。
なにやらポップとメルルがきな臭いですが、なんでこうなったのか私にも分かりません(マテ)
筆が乗るとキャラが一人歩きするとはよく聞きますが、何でこういう方向に…
そしてなんらアドバンテージにもならない未来の知識、逆行キャラの面目丸潰れです(汗)
さて、次回もアバンの使徒サイドです。書けるかどうかは分かりませんが、私の一番好きなマァムを出せたらなと思います。
それでは、また次回に。