アキトとユリカがブリッジに行くと、全員の視線が二人に向いた。どうやら、彼等が一番遅かったらしい。
「テンカワさん、艦長。もう少し早く来てくれないと困りますなぁ」
「ユリカに言ってくれよ、そういうのは」
「あ~、アキトひど~い!」
頬を膨らませるユリカに手をひらひらと振り、プロスペクターの隣りに移動するアキト。未だ頬を膨らませているユリカに、ミナトとメグミが近寄り、
「ねえ、艦長。アキトくんとはどういう関係なの?」
ニヤリと笑いながら聞く。隣にいるメグミも興味津々だ。
「アキトと? そんなの決まってるじゃないですか~。アキトは私が」
「艦長!!」
このままでは話が進まないと判断したのか、プロスペクターが怒鳴る。ユリカはしゅんとなって、申し訳なさそうに下を向く。
「え~、ではそろそろナデシコの目的地をお教えしようと思います」
「しつも~ん」
ミナトが手を上げる。……小学校か? そう思いながらも、プロスペクターはどうぞと促す。
「何で最初から言わなかったのよ? 普通、目的とかは契約の最初に言わない?」
「妨害者の目を欺くためですよ、ハルカさん」
アキトが腕を組み答える。アキトはプロスペクターを見る。プロスペクターが頷くのを見ると、一歩前に出て説明を続ける。
「これよりナデシコは、スキャバレリプロジェクトの一端を担い、軍とは別行動を取ります」
「で、結局どこに行くの?」
急かすミナトを宥め、アキトはフクベに一礼すると、スッと下がる。フクベは咳払いし、
「我々の目的地は、火星だ!!」
高らかに宣言した。
「それじゃあ、地球は見捨てるのですか!?」
それまで大人しかったジュンが、突然声を荒げる。それを見てアキトは溜息を吐き、ジュンの前に出る。
「そうは言わないさ。だが、火星の住人は? 資源は? まだ残っている可能性だってあるんだ。その救助のために、ナデシコは火星に行く」
「そ、そんな確率の低い事をするより、このままナデシコは地球防衛に使うべきだ!」
「つまり、火星の住人は見捨てる、と」
「そんな事は言ってない!!」
「言ってるだろ」
「ぐっ……」
黙ったジュンを見て、アキトはプロスを見る。プロスは頷き、
「では、これよりナデシコは火星に向けて発進します!」
「そうはさせないわよ!!」
突然の声と同時に、銃を持った軍人が大量にブリッジに入ってきた。
そして、少し遅れてムネタケが入ってくる。
「……何のつもりですか、ムネタケ副提督?」
「この艦は軍が地球防衛に使わせてもらうわよ!!」
「困りますなぁ。軍とのお話はすでに済んでいるはずですよ」
「あら、そうだったの? けど、これも軍の命令なのよ、悪いわね」
ムネタケはふふん、と笑い、アキトに近寄る。アキトは相変わらず腕を組んでいる。
「久しぶりねぇ、テンカワ元中尉」
「そうですね、ムネタケ中佐。ああ、今は副提督でしたっけ」
「相変わらず生意気な奴ね」
「お互い様ですよ」
ニヤリと二人は笑い合う。暫くするとアキトが口を開き、
「しっかし、ホントにムカつく人ですね。わざと大騒ぎして自分を無能だと思わせ、油断したところを突然の奇襲。ホント、あくどい事この上なしですよ」
「褒め言葉と受け取っておくわ」
「お好きにどうぞ。しかし、この人数で何ができます?」
「確かに何にも出来ないわね。けど……」
そのとき、ナデシコのモニターに海から現れる戦艦が映し出された。その名は、連合宇宙軍第3艦隊旗艦、トビウメ。
アキトやプロスペクターなどのネルガル職員以外が呆然とする中、モニターにカイゼル髭の男が姿を現した。
「こちらは、連合宇宙軍第3艦隊提督、ミスマル・コウイチロウである!!」
カイゼル髭の男、ミスマル・コウイチロウは告げる。アキトは苦笑してムネタケを軽く睨み、
「……ホント、あくどい事この上ない人ですね、あんたは」
「ありがと」
「褒めてねえよ」
とうとう敬語を使わなくなったアキト。だが、そこである事に気付く。
「ミスマル? ってことは……」
「お父様!!」
『えぇっ!?』
ユリカの衝撃発言に、全員が驚く。そりゃあそうだ。ユリカとは似ても似つかない。コウイチロウはユリカの姿を確認すると、
「ユウウゥゥウウゥウゥゥゥリカアァアァァァ!!」
涙を流さんばかりの大音量で叫んだ。
『ギャアァアアァアァアァ!!』
その余りの声の大きさに、全員が、ムネタケまでもが悲鳴を上げた。