ブリッジ。周りが騒がしい中、ホシノ・ルリは黙々と何かを見ていた。
それは、オモイカネで検索した、テンカワ・アキトのデータ。
『テンカワ・アキト 18歳。火星出身。
火星時代については不明の為、地球での彼のデータのみ記載する。
15歳で軍の養成学校に入学。そこで極めて優秀な成績を取り、軍に入隊。
しかし1年後、とある理由で軍を除隊。軍も、その理由のために除隊を許可する。
その後、ネルガル重工に就職し、ネルガル所属のパイロットとなる』
ルリは、それを呼んで眉を顰める。
(……とある理由?)
そう、このとある理由の部分。プロスペクターもこの部分については説明していなかった。
(……オモイカネ、この部分を検索)
《了解》
再び、検索開始。だが、どうも厳重なプロテクトが掛けられているのか、時間がかかる。ルリは溜息を吐いて天井を見ると、
「なにやってるの?」
ミナトの顔が、どアップで映った。
「!!」
「あっ、ごめ~ん。驚かせちゃった?」
びくりと、目を見開いて大きく震えるルリを見て、ミナトは手を合わせて謝る。だが、口元が笑みの形を作っていることから、本気で謝ってはいないようだ。
「いえ、別に」
「ホントにごめんね。で、何見てたの?」
「テンカワさんのデータです」
ルリは抑揚のない声でそう答える。すると、ミナトは驚いた顔をすると、すぐににやける。ルリにはその意味が分からず、首を傾げる。
「ふ~ん、ルリルリ、テンカワくんの事が気になるんだ」
「ええ。あれ程の腕を持つパイロットが、今まで噂一つないなんて変ですから」
「あっ、そう……」
ミナトはつまらなそうに口を尖らせる。ルリが再び首を傾げると、モニターに反応があった。どうやら、検索が終了したらしい。ルリがそれを見ると……。
そこには、黒いエステバリスがバラバラになっている写真が、10数枚映っていた。
テンカワ・アキトは、シャワーを浴びながら考える。
(あれは、何だったんだ?)
あのとき、脳裏に映った映像。黒の男と、死に掛けの女。自分には全く記憶にない。
(もしかして、アレが俺の火星時代の記憶?)
だが、しっくりこない。もしあの映像が自分の失われた記憶だとしたら、黒の男は自分だろう。だが、黒の男は明らかに自分よりも年上だ。
「……訳分からん」
シャワールームから出て、迅速に着替えを行う。そろそろ、プロスからの説明の時間だ。
着替えと、特注品の黒い制服に着替え、アキトは扉を開けた。
「……ユリカ、何やってんの?」
何故か、ユリカが自分の部屋の前で蹲っていた。
「ううっ、ねえアキト、マスターキーって全部の部屋を開けられるんじゃないの?」
「俺、プロスのおっさん、ゴートさんみたいなネルガル職員の扉は特別で、本人じゃなきゃ開けられないんだよ」
「えええぇ!! 何で恋人の私がアキトの部屋に入れないの!?」
いつ恋人になった? アキトは溜息をつき、対応を考える。
そのときだった。
『艦長……って、テンカワさん!?』
突然、コミュニケが開き、メグミが出てきた。メグミはアキトの顔を見た瞬間、顔を茹蛸のように真っ赤にしてしまった。
「ん? えっと……」
『あっ、メグミ、メグミ・レイナードです! ナデシコの通信士をやってます! あ、あの、テンカワさんの戦ってるところ、凄くかっこよかったです!!』
「そう? ありがと」
アキトは軽く笑う。それだけで、メグミは唯でさえ赤かった顔をこれ以上ないほどに赤くしてしまった。それを見て首を傾げるアキト。……やはり、スケコマシの素質があるのかもしれない。
「……む~。で、メグミちゃん、何かあったの?」
当然、ユリカが黙っているはずがない。頬を膨らましてアキトの前に立つ。当然メグミは慌てて、
『そ、そうだ艦長。ブリッジに来てください』
「ほぇ?」
『プロスさんから、重大発表があるそうです』
それだけ言うと、メグミは名残惜しそうにアキトを見てコミュニケを閉じた。頭にクエスチョンマークを浮かべるユリカ。
「……ったく、疲れる戦艦だな」
アキトは苦笑して呟き、ユリカを連れて行った。