格納庫。整備班の面々と他一名が、彼の到着を待っていた。
そして、運ばれてくる漆黒の機動兵器。やがて止まると、コクピットが開き、童顔の青年が顔を出した。
「アキト~!!」
「おっ、艦長か。待ってろ、今降りるから」
他一名、ユリカを見ると小さく笑みを浮かべ、コクピットから飛び降りる。おおぉ。とざわめく整備班。そんな中、ユリカはアキトが降りてきたのを確認すると一目散に駆け出した。
「アキトッ!!」
「おっと!」
飛びつくユリカ。それを数歩下がりながらも、抱きとめるアキト。ちなみに、現在地からさっきユリカが居た場所まで、10mはある。さっきの飛び降りと同じく、流石である。
ユリカをゆっくりと降ろすと、ニコニコと満面の笑みを向けてくるユリカに頬を少し赤く染めて頬を掻き、
「艦長。人前で抱きつくのはどうかと思うけど……?」
「え~、何で~? あっ、やっぱり恥かしがりやさんなんだね、アキトは」
「いや、そうじゃなくて……」
苦笑を浮かべるアキト。ユリカは相変わらず笑顔を絶やさない。
「ねっ、それより早くお話しようよ。何話そうかな~」
「えっと……ここじゃ何だから、食堂に行かないか? 俺、昨日から何にも食べてないんだよ」
嘘だ。アキトは昨日も今日もちゃんと食べている。
「え!? 駄目だよアキト、ちゃんと食べないと倒れちゃうよ!」
ユリカはさっきまでの笑顔を一変させ、アキトを引っ張っていく。引き摺られながらも苦笑を絶やさないアキト。そのまま二人は仲睦ましく格納庫を出て行った。
「……あのやろ~、早くも艦長を落としやがって」
その際、整備班長がそう恨みを籠めて呟いていたらしく、アキトは身震いし、ユリカがそれを心配して一悶着起きていた。
「いらっしゃい!! おや、艦長と……」
「パイロットのテンカワ・アキトです」
ナデシコ食堂のコック長、ホウメイにアキトは一礼する。ホウメイは手を繋いでいるアキトとユリカを見ると意地の悪そうな笑みを浮かべ、
「なんだい、あんた等随分とお似合いじゃないか」
「やっぱりそう見えます? 良かったねアキト、私達お似合いだって!」
「か、からかわないでくださいよ!」
頬を赤く染めるアキトに、ホウメイは豪快な笑みを浮かべる。
「いや~、悪かったね。そんなに純情だとは思わなくてさ」
「あんまり慣れてないんですよ、もう……ラーメン一つ」
「私もアキトとおんなじの!!」
「はいよ! ちょっと待ってな」
そう言い残して厨房に消えていくホウメイを見届け、アキトとユリカは椅子に座る。……その際、さり気無くユリカをエスコートしてるあたり、アカツキと同じくスケコマシの素質があるのかもしれない。
「さて、と。あのさ、ホントに俺達って火星で会ってるの?」
「えっ、覚えてないの? 私達お隣さんだったじゃない」
首を傾げるユリカ。アキトは言いにくそうな顔をして、顔を天井に向ける。
「……俺さ、火星に居た頃の記憶がないんだ」
「えっ……」
「気付いたら地球にいて、何度思い出そうとしても、思い出せないんだ」
アキトからの衝撃の発言に、ユリカは固まってしまった。アキトは顔をユリカに戻すと、苦笑して、
「だから、艦長の事も覚えてないんだ。悪いね」
「う、ううん。いいの。それでもアキトが私の王子様なのには変わりないもん!」
そう言って、華の様な笑みを浮かべるユリカ。
その笑顔を見た瞬間、何かが頭の中に浮かんできた。
病院の一室。涙を流す黒ずくめの男と、これから命が散るというのに、それを感じさせない笑みを浮かべる女性。
ゆっくりと上げられる女性の手を黒ずくめの男は掴む。それに満足したかのように、女性は何かを呟き、瞳を閉じた。
そして、慟哭。黒ずくめの男の慟哭。愛する者を失った男の、慟哭。
(!? 何だ、今のは?)
意識を取り戻したアキトは、辺りを忙しなく見渡す。そこにはユリカが一人、心配そうに自分を見ているだけで、他には何もない。
「……アキト、どうしたの?」
「ん? いや、何でもない」
だが、それでも心配なのか、不安そうな顔でこちらを見ている。アキトはどうしようか考え、
「……あ、そうだ。俺は艦長の事を何て呼んでたんだ?」
「えっ、私の事? ユリカって呼んでたよ」
「そっか。じゃあ、これからはユリカって呼んでもいいかな?」
アキトの提案にユリカは顔を綻ばせ、頷く。それを見てアキトも微笑む。
「お待たせしました、ラーメン二つです!」
そこに、従業員の一人がラーメンを運んできた。軽く礼をし、アキトはユリカに割り箸を渡し、
「さて、と。じゃあ、食べよっか、ユリカ」
「うん!」
二人は箸を割り、手を合わせる。
「「いただきます!」」
(それにしても、まだ十分経ってないぞ?)
食べる直前、アキトはそんな疑問を抱いていたのだが、
(あっ、美味い)
食べた途端、その疑問は消え去ってしまった。