地面が柔らかい。掬ってみると、土と草が手に握られていた。芝生だ。
何でこんなとこにいるんだ? つーか……。
俺、誰だっけ?
「話には聞いてたけど、ホントにふざけた形した戦艦だな……」
「いやいや、これは手厳しい」
アキトの言葉に眼鏡をかけたひ弱そうな人物――プロスペクターは困ったように頭をかく。そして、アキトにそう言わせたものを見る。
突き出た何かに、むき出しのブリッジ。お世辞でも戦艦には見えない形。
これこそが、ネルガル重工が作り出した戦艦――ナデシコ。
「……まあ、いいや。さっさと挨拶したいし、入ろうぜ」
「そうしましょうか」
プロスは頷き、アキトとともにナデシコに入っていった。
「…………」
「……テンカワさん、どうしました?」
ここは格納庫。アキトは自分専用に造られたとされる機動兵器――ブラックサレナを一目見ようとやってきた。そして、ブラックサレナを見た瞬間、凍り付いてしまった。
「……なあ、プロスのおっさん」
「何ですか?」
「俺さ、確かに装甲と機動性に特化した機体を造ってほしいって言ったよ」
「ええ。だからその要望に忠実に造りましたよ」
プロスペクターの言葉にアキトはふぅ……と溜息をつき、
「だからって、『コレ』はないだろ」
アキトが『コレ』と言ったもの、それは……。
漆黒の鎧以外に何も身に着けていない、エステバリスだった。
「……ハンドカノンは?」
「現在では威力の低いものしか造れないので必要ないとしました」
淡々と話すプロスにアキトは辺りを見渡し、
「……高機動ユニットは?」
「予算の都合上カットしました」
「……じゃあ、これだけ?」
「ええ、これだけです」
「……そうか」
アキトはにっこりと笑みを浮かべ、
「……最悪だ」
へたり込んだ。
「テンカワさん、いい加減機嫌直してください」
「だってさ~、武器のない機体なんてさ~、ただの鉄の塊じゃ~ん」
「けど、ディストーションフィールドは他の機体よりも強力ですし、バッテリーもエステよりも遥かに長持ちしますよ」
「けど、武器ないじゃ~ん」
完全にいじけているアキト。扱いに困るプロスぺクター。そのとき、
「お前~!! 何勝手にエステバリスに乗ってるんだ~!?」
怒声が響いた。少しだけ意識を向けるアキト。見ると、ピンクのエステバリスが謎の動きをしている。
「どうしたんでしょうか? おや、テンカワさんどちらへ?」
プロスが振り向くと、アキトはどこかに向かおうとしている。振り向くアキト。その顔には笑顔。
「ちょっと、ぶっ飛ばしてくる」
「何なんだよ、パイロットは3日後に乗艦だろ?」
『いや~、本物のロボットに乗れるって聞いたんで、一足先に来ちまいました!』
再び謎の動きをするエステバリス。それを見て呆れている整備班長。
『ギャアギャアうるせぇんだよテメェ!!』
その時、突然現れた黒い何かが、怒声を撒き散らしながらエステバリスを吹き飛ばした。
『うおわあああぁああぁあぁあぁぁぁ!!』
エステバリスは凄まじい速度で吹き飛び、そのまま壁にぶつかった。当然、唖然となる一同。
そんな中、黒い何か――ブラックサレナは殆ど動かない腕を出来る限り動かし、倒れているエステバリスを指差す。
『こっちは落ち込んでんだよ! なのに横からギャアギャアギャアギャアと……喧嘩売ってんのか!?』
「て、テンカワさん落ち着いて……」
ブラックサレナから飛んでくる怒声にプロスは汗を浮かべながら何とか宥めようとする。
その直後、艦内が大きく揺れた。