常春の国より愛を込めて
第五話:そろそろ台風の季節なのでポップ・グレムリンを用意しておこう
「ではマリネラの誇る宝石庫に案内しよう」
そう宣言したパタリロの腰にはしっかりと縄が結ばれ、その先をタマネギが握っていた。
凛達がたまねぎの謝罪を受け入れた後、いいだしっぺなのだから最後まで責任持ちなさい、という事でパタリロの案内が実現した。
パタリロが率い、三人が後に続く。その周りをタマネギたちが主にパタリロの監視のために取り囲んでいた。
まるでVIPの様な待遇に有る意味居心地の悪さを感じながら、凛と士郎は大人しくついて行くしかない。ただ、セイバーだけは落ち着いたものだ。
「セイバーは平気なの?」
「お忘れですか? 私は長い事王宮に住んでいたのですよ」
「…………そういや、そうか。
けど、考えたら最初からセイバーは冷静だったよな。王宮みたいな所に慣れているからといって、いきなりあれは驚くと思うんだが…………」
流石に豚まんの言は濁しながら、小声での会話は続く。
セイバーは少し考えながら答える。
「何と申しましょうか…………。ある意味、私の予想した範疇からは逸脱した事態ではないのです。
ここに来るまでに見た市井の様子からこの国が非常に素晴らしい所である事は分かっていました。これは支配者たる国王とその周りが優秀であるという事です、そしてそれはこの王宮が“普通”ではないという証左に他なりません。どんな伏魔殿に、どんな怪物が出てきてもおかしくない。
只人に、王は務まりません。
…………正直、あの国王が出てきた時は一瞬呆然としましたが。王は国の顔、容姿にも不利があれば隠すという手段は採るべきです。民を偽る事になるでしょうが、それが国益になるのであれば選択しないという事は出来ない。
態度にしても、確かに彼は厚顔無恥、傍若無人です。しかし支配者とは人に命じる事が仕事です。人としてはどうであるか疑問もありましょうが王とは常に揺るがず、動じてはならない。」
セイバーさんもいいかげん失礼な事を言っている。
「…………そうね、とんだ伏魔殿だったわね…………」
「…………全くだ」
実のところ三人を取り巻く状況が改善された気配は全く無いのだ。
「…………とりあえず、私達の目的はばれていないという事かしら」
「断言は出来ないが……とりあえず直ぐにでも俺達を如何こうする気は無いみたいだな……」
目的の宝石は目の前である。この後どうなるかは判らないものの、当初の目的は果たしても良いだろう。
そこは静謐にして豪華。コンクリートと金属で造られた味気無い部屋の中、溢れんばかりの宝石たちが放つ色と光が目の眩む彩りを放っていた。
「我が国で採れた石の他にも、売買用に入手した石が納められた部屋だ」
先程とは違う意味で、三人は絶句する。今までに見たことも無い量もさながら、一つ一つの宝石の圧倒的な存在感が三人を圧倒した。
「気に入ったものが有ったら言ってみたまえ。先程の侘びもある、お譲りしよう」
「えっ!」
凛さん素早い。
「定価から1ドル50セント引きでな」
ずっこける士郎とセイバー。
「…………10ドル引き!」
「……1ドル75セント」
「止めとけ凛」
「10ドル引いていくらですかリン」
「あーうー!」
何か同じ匂いが漂った気がした。
気を取り直して目的の石を探す。それは直ぐに見つかった。
リンの表情が即座に魔術師としてのそれに変わる。色、形、全てが願っていた通りだ。これ以上の一品はそう無い。
「それか? それはUAEのさる豪族から一昨年買い取ってものだ。かなり昔に掘られたものらしくてな、カットは古臭いがクオリティは一級品だ。多少カラットは落ちても今風のカットに加工しなおせばかなりの値が付く………「いいえ」
「このカットが最高なのよ…………! この形のまま長い歴史を刻んでいる、その間に吸収したものも最上級……!」
リンの言葉に、パタリロは一瞬いぶかしむ。
が、次の瞬間には口元にニンマリとした笑みを浮かべた。
この間、パタリロの頭脳はフル回転した。三人にとって実に性質の悪い方向に。
「…………ああ、なんだ“そういうこと”か。
ならば最初からそう言ってほしいものだ。“そちら”の客なら、“そちら”の対応をしたものに」
「!」
凛が弾かれた様にパタリロの方を見る。
パタリロは今までと全く変わらぬ豚まんヅラに平生なままの笑みを浮かべていた。
「うちの客は世界中に居るのだ。“どんな”客の相談も受けつけている」
リンの頭脳がフル回転する。魔術師としても一流のそれが、その家系のうっかりを内包して。
「…………そういう事、ね。
考えて見れば宝石魔術を専門とした家系はそう多くはないけど、宝石を使用した魔術自体はそう珍しいものではない。……時計塔に直接のルートが無いのは特定の一族との取引に限定しているからかしら?」
……魔術、……家系、……時計塔、……宝石、……使用
「雷は怖いねぇ」
「はい?」
「なるほど!」
パタリロは納得がいったと、満面の笑みを浮かべる。
「魔術師というのか。そんなものがゴロゴロしているとは思わなかった。しかも時計塔……ロンドンにそんなものの総本山があるとは。
オカルト関係はしばらく食傷気味だったが…………なに、人間相手なら実に楽しそうな話ではないか」
「え?」
パタリロがきびきびと下知をとばす。
その態度は、タマネギたちの見慣れたものだった。
面白いおもちゃを見つけた時の、パタリロが見せる態度。タマネギたちの間に諦観がうかんだ。こうなったら誰も止められない。
「よし、また応接室に行こう。おいタマネギ、今度は茶を用意しろ。ああ、出がらしで良い。それと、誰か44号を呼べ」
「44号なら『疲れた、しばらく遠くに行きたい』なんて言ってたのを殿下が聞き入れて、ムルマンスクにクーラーの行商に行かせているじゃないですか」
「転送装置に放り込め」
そこまでタマネギに指示を出し、ゆっくりと凛たちの方に振り向く。
「…………さーて、ゆっくりと話を聞こうじゃないか」
その表情から感じる邪悪な何かに、士郎は聖杯戦争以来の恐怖を感じていた。
「え? もしかして…………引っ掛けられた?」
「もはや何も言いません………… …………」
凛ちゃんのうっかりは常に致命的な状況で発揮される。
そしてこの国の住人ならばどんなに小さな子供でも知っている事がある。
パタリロ殿下のやる気は、人の最も致命的な部分をいじくる時に発揮されるという事を。
■■■■■■■■■■■■■■■■■
今日はここまで。
うちのセイバーさんは何と殿下に好意的!
やっぱり王様なんて職業の人は何所かしら逸脱しているもんです(偏見)
遅くなりましたが、たくさんの感想有難う御座います。
レス返しに関してですが…………一つ一つ返信していますとただでさえ少ない執筆時間が減ってしまいますので、申し訳ないですが出来そうにありません。
各感想ともきちんと読んでおりますのでどうかお許し下さい。
それだけは何なので、パタちゃん魔法使い説に一言。
「奴は人をおちょくる為ならどんな努力も惜しまない」
魔法使いさん達マジ涙目。