常春の国より愛を込めて
第四話:ベリト曰く、この作品は間違い無く面白い
常春の国
マリネラ
パタリロ・ド・マリネール8世の朝は一杯のミルクで始まる。
「健康的だな」
「健康な人はコンデンスミルクなんて飲みません」
「うむ、そろそろ朝食前の軽い食事の時間だ。もってこい」
「しかも2ガロンも飲まないでください」
「…………」
「…………」
「うるさい! ぼくは低血糖なのだ!」
「糖尿病でしょう!」
マリネラの朝は斯くの如しである。
「うむ、今日は調子が良い」
「…………いつもの1.5倍でしたからね、朝食の量」
この王宮で一番の激務は厨房に違いない。
「こんな日は、どこかに出掛けたいものだ」
「本日は9時より執務室で書類の整理と 「この前の台風で壊れた王宮の修理はどうなっているのだ?」
「……昨日全て終了しました」
「では殿下、執務室の方へ 「観光事業の再計画案はどうなっている?」
「……ツタカズラ市の再生案が来週までに纏まる予定です」
「執務し 「朝食のベーコンがいつもと違ったな、業者を代えたのか?」
「……廃棄品ですので毎日違います」
「し 「天気が良いのは悪くないが、あまりに雨が降らないと農作物の出来が心配だな」
「……昨日は土砂降りの雨でしたが、そもそも我が国の農業は食料自給率に影響があるほど大きくありません」
「…………」
「…………」
「久方の 光のどけき 春の日に 「それにつけても 金のほしさよ」
「殿下ー!」
「逃げたぞー!」
「追えー!」
実に珍しい事に、今日はタマネギ達の勝利に終わった。
やはり最古参の5号が昨日から王宮に帰っていたのが大きな要因だろう。5号は昨日まで欧州のとある貴族の家に商談に出掛けていたのだ。
「なんだ、結局買って貰えなかったのか」
「ええ、一緒に持っていった小振りの石を幾つかだけ、本命のサファイアは一瞥しただけで気に入らなかった様でした」
椅子ごと腰の当たりを縛り付けられて、人間離れした速さで次々に書類を片付けていくパタリロ。その縛り付けた縄をしっかりと握ったまま、5号が答える。
商談相手は古くからの得意様である。5号の若い頃からの知り合いでもあり、古参の重役級ながら彼自らが足を運ぶ事になったという事情があった。
「たまにおるな、変わった石の選び方をする客」
「……そうですな……、あの方の選び方も昔から変わってます。なんとしてもこの石と、注文を付ける事も有れば、同じ様なクオリティの石を大量に注文される事もありますし…………」
「まるで消耗品のように同じ数を定期的に注文して来る客もいたな」
宝石の第一義は鑑賞品である。
希少性からの資産的価値もあるが、基本的に何かの役に立つというものではない。無論鉱物資源として何かしらの役に立つ石もあるが、それらは逆に宝石とは称されない。
宝石とは見て楽しむ、持って楽しむものなのだ。
だから、売り手としては普通その石の美しさ、希少性などを看板にする。客の好む色、形、金銭的価値。それらを如何に理解して相手の購買欲を刺激する石を薦めるか、それが宝石バイヤーの考える事なのだ。
しかし、たまに全く相手の希望に見当がつかないことがあるのだ。
パタリロは商売の天才。古参タマネギとて元が軍人などの門外漢とはいえ、宝石の国マリネラに生まれ優秀な才能を持ち、この歳までその世界で切磋琢磨して来た超一流のバイヤーだ。彼らをもってしてたまに虚を突かれる注文というのがあるものだ。
「ま、得意客には変わりない。相手も自分の注文が風変わりなのは分かっているしな」
ぺたぺたと国璽を紙に叩きつけながら「儲ければ良いのだ」とパタリロ。
しかし、5号の方は言われて初めて気に掛かっていた。要するに普通でない注文をする客は普通でない理由で購入するという事なのだ。
普通でない宝石の利用法とは一体何なのだろうか。
そして、そんな事を考えているから殿下に逃げられるのだ。
「ええい! モビルスーツ隊だけでなく戦術機部隊も出せ!」
「ちょいとマイナーでないか?」
「というか殿下がこれを知っている事が問題じゃないか?」
「全年齢版がある!」
「おーい、オタクの1022号が何か言ってるぞー」
ごめんなさい
どこかの地球外起源種のごとく追っ手を蹂躙したパタリロは、悠々と廊下を歩いていた。
すると目の前から二人のタマネギが歩いてくる。すわ、追っ手かと身構えたパタリロだったが、二人が王宮の観光客案内に付いている面子と分かり安心する。
「あ、殿下」
「やあやあ、ご苦労。案内中かね?」
「はい、丁度今から宝石庫を案内しようとする所です」
「宝石庫? 別に構わんが、防犯上あまり大人数は無理だぞ」
「大丈夫ですよ、たった三人です」
「ロンドンの学生さん達です。宝飾を勉強しているそうで、マリネラ王宮の宝石が見たいと予約されてました」
「ほう、学生か。若いのに感心な事だ。
…………しかし、二人揃ってとは何か、相手は金持ちか?」
「いえ、今日の見学客がその一組だけなんですよ」
「何だ、そういうことか」
次の拍子、パタリロの口元がニンマリと緩んだ。
二人のタマネギは、この職に就いて以来磨きぬかれた勘が危険を知らせるのを感じた。
「よかろう。はるばるロンドンから我が国の宝石を学びに来た前途有望たる学生諸君だ、ぼくが直々に案内してやろう」
予感的中
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今回は少し短め。 前回長かったしね!
Fate勢が大騒ぎしていた頃の裏側。
マリネラは今日も平和です。 もう暫くは。
あの パタリロ! の雰囲気が少しでも出ていれば良いのですが…………。
こればかりは不安です。
よく考えてみると恐れ多くもあの殿下を動かそうというのですから、今更ながらパタリロSSの少なさの理由が垣間見えた気がします。
いきなり更新停止したら禁固30年の刑に服していると思ってください。貧乏なんで300ドルも持ってません。