常春の国より愛を込めて
第十五話:マネー三姉妹で絶対可憐チルドレン結成
マリネラ王宮の用意された一室で、バンコランは仕事の書類を整理していた。
一応オークションに参加している立場上、ホテルに帰る訳にも行かずタマネギに用意させた部屋だ。
大体この国には仕事で来たのだ。それを何の因果かヘチャムクレの主催するオークションなんぞに参加させられ、出したくも無い金を払わされる事になっている。
無論バンコランも、マライヒにプレゼントを送る事に不満がある訳では無い。宝石なぞ門外漢ではあるが似合う石で飾ったマライヒの姿を見るのは嫌いではないし、その喜ぶ顔も良いものだ。何より浮気がばれた時の悪鬼の様な顔が治まるのだ、多少の出費も痛くは無い。
まあ、その結果あの下ぶくれが儲けるというのは業腹ものだが。
「全く、この国は…………縁起が悪いと言うのだったか……」
無論信じている訳ではないが、究極の現実主義者を称するバンコランがそう呟く。意外と先日のマライヒから受けた傷が堪えているのかも知れない。
対象のデータが記された書類を眺める。既に内容は頭に入っているが、確認と認識の転換を求めてのものである。
既に見たものでも、再び見る事によって新たな発見がある事は珍しくない。
地道な努力。
例え結果に裏切られる事はあっても、この過程を経ずしてはそれにたどり着く事さえ出来ない。
「全てコイツが悪い」
バンコランはとりあえず自分の不満を仕事にぶつける事にした。何だかんだと言って彼は立派なワーカーホリックなのだ、本部に居る彼の同僚がこの呟きを聞いたら犯人に同情する事だろう。
資料には事件のあらましが記されている。
今回の事件はその人数もさる事ながら、それぞれの内容も奇妙な事だった。自殺者の状態がおかし過ぎるのだ。ある一人は台所の包丁で自分の腹を切り裂き、内臓の殆どを自分の手で掻き出していた。ある一人は家の中に沢山の食べ物がありながら、水一滴摂らず衰弱死していた。ある一人は―――――。
全ての人間が自殺である、それは間違い無い。しかしただ死を選ぶだけにしてはその方法が奇怪過ぎる。
しかも、それを行うには多大な苦痛を伴う方法で、だ。
この事件を調べていたMI5の職員が言った言葉を、バンコランは思い出していた。
まるでインドの僧が行うという苦行を極端にした様な感じだ―――――と。
「…………くだらん」
要するに肉体的苦痛を味わう事で脳内物質による多幸感を味わうという行為だ。
宗教的には“魂”の精製を目指す行為という事らしい。実に非合理的で無駄な行為だ。
しかも全員が同じ宗教だったという記録も当然無い。有るのは同じ人物への接触記録だけ。
彼の勧誘にいきなり死ぬ事が確実な苦行を行う宗教に入信したとでも言うのか。余程彼が催眠術の達人で自殺を命令されたという方が余程現実的だ。
「……ありえん、が。念の為調べてみるか」
そう呟いてバンコランは電話を借りる。真夜中というのに担当者を叩き起こし、対象の記録を調べさせる。例えばそういった方法を研究していた組織との接点は無いか、自身の研究に関係は無いか。
正に地道な努力である。
しかし、バンコランのその地道な努力は、今回実を結ぶ事は無かった。やはり彼にとってこの国は縁起が悪いのかもしれない。
王宮内に深夜だというのにけたたましい警報音が響いた。
話は少しばかり遡る。
いきなり響いた大喝に、タマネギの身体が思わず止まった。
台座から転げ落ちた宝石は磨かれた床を、まるでいきものの様にとびはね、正面に座っていた魔術師の目の前に転がった。
目の前に転がってきたその石を、若い魔術師―――――ヴェールズのある都市に百年ほど続く家系の当主はぼんやりとそれを眺めた。
彼の家系は“魂”の制御を研究していた。最終的に第三魔法を目指す一派の家系である。彼の得意魔術は精神操作、その能力から一年前まで時計塔に籍を置いていたほどだ。
しかし先頃彼が当主となって以来準備しており、満を持して行った実験が大失敗に終わり研究資金が心もとなくなった。
そんな折、時計塔時代の知り合いからこのオークションの事を聞き、数代前の当主が片手間にアプローチしていた精神置換の研究に用意された宝石を処分してしまおうと参加を決めたのだ。
精神的な影響を与える術には詳しい、その対抗手段にも充分な自信があった。宝石などに其れ程思い入れがある訳でもない。
なのにその石に魅入られた、操られたとしか思えない。
かれは何かに誘われる様に、その石に近付き、触れた。
何処からか聞こえる静止の声など、聞こえる事は無かった。
それで彼の定命、家系の歴史は決定した。
そのとき、その石がまるでいきものの如くさけんだ、様に、その場に居た人間の全てが感じた。
石を掴んで立ち上がった青年が、雷に打たれた様に硬直した。その手から再び宝石がこぼれる。
その光景を見ていた全ての人間が息を呑んだ。何故今まで気付かなかったというのか、その宝石は鮮やかな深紅に輝き、光が揺らめく様だった。
あまりに強烈な輝きに、そのカットも、材質さえも定かではない。何にしろ、そのこぶし程の大きさといい、これほどの逸品を見た事のある人間は少なかった。
輝く宝石はそのまま、まるで意思が有るかのように転がり、舞台の影に入る。
幾人かは確かに見た、その影が宝石の深紅の光に切り裂かれるのを。
そして、その裂け目が広がるのを。
転がっていった影から、何かが飛び出した。
一本の触手である。
それは蛸の肢に似ており、両生類の肌の如く湿っていた。表面はざらついている様にも見え、それでいて何よりも滑らかで、形容し難い色をしていた。
それが凍り付いていた青年に絡み付く。
魂消る悲鳴が、青年の口から飛び出した。それが室内に響く。
成す術無く半ば呆然と佇んでいた室内の人間が動き出す。次の三つの動きは殆ど同時だった。
「逃げろ!」
「止めんかっ!」
「くそぉ!」
パタリロが叫びながら、メレムは黙って、その場から全力で脱出を図る。
ヴァン・フェムが静止の言葉をかけたのは、参加している魔術師の中で戦闘に特化している何人かが詠唱を始めたのに気付いたからだ。
その後の対応も別れた。パタリロの声を聞いたタマネギたちは脇目も振らず逃げ出す。それに続く魔術師も何人か居たが、ヴァン・フェムの静止を聞かず詠唱を完成させた幾人かが、未だ苦悶の声を上げ続ける青年もろとも攻撃魔術を放った。
狙い過たず、魔術が触手と青年に命中する。込められた術式が青年の手といわず足といわず抉り、削る。しかしそれだけだ、如何なる仕掛けか触手には何の影響も及ぼす事は無かった。
それで事切れた青年は比較的幸運だった部類に入る。
何せそのあとの惨劇を見ることも無ければ、大した苦痛も無く死の安らぎを得られたのだ。更に言えば、彼が実家で起こした騒ぎはあまりにも大事になっており、時計塔は『神秘の漏洩』を防ぐ為に彼と彼の家系の処分を決定、執行者が既に彼の実家に向かっている所だったのだ。彼は自国の官憲に犯罪者として裁かれる屈辱を受ける事無く、魔術師に闇に葬られる絶望を味わう事も無く、苦痛のうちではあったが、すぐに死ぬ事が出来たのだから。
既に事切れた死体を絡めたまま、触手が影に引き込まれた。一拍を置いた後、今度は無数の触手が、同じ場所から飛び出した。
それらは先程攻撃魔術を放った者に向かい、途中の障害物を刎ね飛ばし、いつの間にか表面から生えた鉤爪で切り裂きながら一直線に進んだ。
障害物の大半は、皆が座っていた椅子と、未だ状況が掴めず呆然とその場に佇んでいた魔術師達である。
その後の部屋の惨状を描写する事は難しい。あえて例えるならば、その部屋と同じ大きさのジューサーを用意し、無数の触手が出て来る前を再現した上で作動させた状態に非常に近いと言うしか無い。
タマネギたちと同時に脱出した魔術師たちの中に、凛は居た。
その手には、強引に引っ張ったままのルヴィアの腕があった。
「な……なんですの!? なんですのあれは!!」
「うるさい! 黙って走る!」
未だ完全には自分を取り戻してはいない様なルヴィアを一喝して走り続ける。
しかし呆れるは一緒に逃げてきたタマネギたちだ。いくら人一人引きずっているとはいえほぼ全開で身体強化を施した凛の脚力をして追い付けないほどの速度だ。
更に論外なのが先程ちらと見えたパタリロである。マラソン世界記録に届こうかというこの逃亡集団が、遥かに離されている。
そのパタリロの隣を走っていたのは先日見かけた黒髪の少年だ。向けられた魔力から只者ではないと思っていたが、その速度だけでも並の魔術師ではない。
背後から何かが近付いてくる気配がした。まさかあの触手か! 驚いた凛が思わず確認すると、同じくらい物騒なものだった。
それは凛に追い付くと、なんと話し掛けてきた。
「パタリロ君に話がある。君も付き合いたまえ」
殆ど命令といった口調で、ヴァン・フェムがこちらを見る。
「貴方は! あれが! なにか……知っているの!?」
「そうだ。来なさい」
決断に掛かった時間は殆ど無い。あの会場の裏手には士郎達が居た筈だ、その無事は一刻も早く確かめなければならない。
「タマネギ!」
凛が叫ぶ。
前を走るタマネギたちが振り向く。
腕に渾身の力を込めた。
「預かっといて!」
「え、ちょっと…………!」
空中を青が舞った。
わたわたと慌てたタマネギたちだったが、ルヴィアは無事彼らの手の中に納まった。
同時に凛はヴァン・フェムの両腕の中に引き込まれた。
「行くぞ」
「ええ!」
凛は彼の首に両腕をしっかりと絡めた。
加速するヴァン・フェムの腕の中、凛は何とはなしに思い浮かんだ台詞を慌てて打ち消していた。
そういえば私人外に抱きかかえられてばかりよね。サーヴァント、死徒二十七祖と続けば次は真祖か悪魔かしら?
それこそ縁起でもない話だ。
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絶望した! Fate編に入ってからの感想の激減に絶望した!
えー、何ですか。駄目ですか。やっぱfateファンは厳しいってホントですか! Fate書いてないでとらハ板のフェイトちゃん書いとけってか! 全く書いてねぇ……
…………しかしそれにしちゃPV数はえらい勢いで増えてるんだよな…………。
原因の考察。
① 普通に面白くない
② パタリロファンが切った
③ 三作品クロスオーバーとかまじ自重
④ というか展開の馬鹿らしさに読者硬直中
⑤ 占星術的に感想を書いてはいけない時期
⑥ ぬるぽ
さあどれ!?
いや感想頂けるだけで有り難いので、頑張って書き続けますがね。
というかあまりに感想が多いので当初うろたえましたが、ご覧の通り大概なネタですのでチラ裏出る事も考えましたが…………どう考えてもTYPE-MOON板には行けねぇよなぁ……。
ガムバリマス