常春の国より愛を込めて
第十四話: 家政婦呼んだら何かすっごいのが来た
木槌の音が室内に響く。
「……23番の品は白のオパール様が落札されました」
数人が落胆に肩を落とす。
オパール席に座る男の一人が、満足げに鼻を鳴らした。
「…………次に参ります。24番、ブルーゾイサイト、60.57カラット。
カッティング……不明、クラリティ不明。俗に言うタンザナイトでございますが、こちらは中東の遺跡からの出土品と謂れております。その為に表面は傷が生じておりますが内部に入る傷が無い事は確認済みです、同時に非熱加工であり…………」
「500だ」
「…………800!」
解説のタマネギの言葉を遮り、品が目の前に出てきた途端次々に声が掛かる。
魔術師たちの夜は更けた。
オークションは既に始まっていた。
会場は静かに盛り上がっていた。それぞれ宝石の名を配された席に客達は座り、己の色がついたカードを掲げながら希望の値を伝える。
今回の特別オークションの性質上、出品は客の直ぐ近くまで運ばれる。場合によっては担当のタマネギ達の手で直接触れられる事もあった。
「サファイア席の黒様、1700…………クォーツ席、青様1950…………」
値は順調に吊りあがる。主催者席の豚マンの眉は順調に垂れ下がっていた。
その隣に座る男性は、苛立たしげに葉巻を吹かしていた。
「…………何の集まりなんだ、これは」
「世界奇術同好会の皆さんだ」
「妙な格好が多いのはその所為か」
「そういうことだ」
葉巻を吹かす男―――――バンコランは不機嫌さを隠す事もしない。
原因は会場に漂う怪しげな雰囲気か、手痛い出費の所為か。
「心配せんでもお前にはきちんと別に石を用意してやる。…………もっとも、お前の安月給では手が出んだろうがな」
「黙れ金の亡者」
バンコランの耳に客達の呟きが洩れ聞こえる。
「…………この石があれば、あの呪詛に……!」
「悪くない魔力であるな……使えるかも知れん」
如何にバンコランとて他人の仕事に口を出すほど狭量ではない。奇術師というなら無知蒙昧な女子供に対して、そんな雰囲気も必要という事なのだろう。
だからといって、来たくも無かった場所である事には変わりない。
マライヒとフィガロは特別会員制と聞いていたもあり、大人しくホテルで眠っている頃だ。馬鹿正直に参加もしないオークション会場に居る事も無い。
「後でホテルに届けろ。私は帰る」
そう言ってバンコランは席を立った。
会場の裏ではセイバーと士郎が働いていた。
『次はC6の棚です、台の用意は出来ていますのでそちらに来たら出して下さい』
「了解……C6ですね。セイバー、頼む」
「はい」
魔術的に魅力的な品―――――即ち何かしらの付加がある宝石たち。
それらは即ちホープダイヤの様な“謂れ”がある品が揃う事になる。
触れただけ、近付いただけでも、死ぬ、病気になる。そういう謂れのある宝石たちなのである。
といっても実際そんな能力のある宝石は滅多に無い。無論存在はするがそれは即ち魔術師がその様な意図を持って作り出した石が殆どだ、それが一般の市場に出回る様なヘマはしない。
普通そんな謂れがある石の殆どは、自然に魔力を内包した宝石を、感受性の豊かな、若しくは多少なりとも魔術的才能がある一般人がその雰囲気を感じ取って、何となく付けた話である事がほぼ全てなのである。
例え本当にその石の近くで殺人なりの災いが起きたとしても、魔術的要素が揃っていない限り、石にその後も影響するような強力な呪詛が掛かる事は無い。
パタリロが目を付けたのは其処だった。そういう謂れは基本的にその石の価値を下げる。その為に売る事が出来ない宝石をパタリロが大々的に買い占めたのだ。
“本物”は滅多に無い。その通り集まったのは魔術師に魅力的な石ばかり。一つ一つを詳しく解析するほどの時間は無いものの、凛や士郎が少し見た限り触れただけで危険といった宝石は無かった。
それでも念の為、出品の前は士郎のチェックと、取り扱いは対魔力のスキル持ちのセイバーが担当していた。
『もう暫くしたら手伝いを向かわせますので、そうしたら休憩して下さい』
「了解」
「3000!」
黒髪の少年が実に楽しげに声を上げる。
対抗馬は消えた様で、その少年が宝石の新たな持ち主と決定した。
「うん、素晴らしい」
そう言って少年は席に戻る。
隣に座る壮年の男が、呆れたように話し掛けた。
「其れ程のものか…………? あの石は」
言外に出し過ぎと批判する男。それに対し少年は芝居がかった仕草で落胆を表した。
「解ってないね…………というより、あれは魔術師には逆に勿体無い代物だよ。
恐らく……いや間違い無く、あれは12世紀頃散逸したさる宗教家の持ち物さ。その話を知らない者が持っていてもそれこそ宝の持ち腐れだ、僕が大事に預かるに相応しい」
「ははあ…………12世紀に散逸というと……あれか」
「そういう事、いや~ほんとに掘り出し物だね。来て良かったよ! しかし良く見つかったものだ、大したものだよあの王様!
そういえば…………君はあの王様と知り合いみたいだね」
さっきは何か一緒に女の子を虐めていたみたいだし…………と、下世話な笑みで擦り寄ってきた。
「おお、あれか。あれはゼルレッチの系譜らしい、いや中々愉快な娘だったわい」
「へぇ」
少年は、それだけだった。
男がからかう様に続ける。
「ほれ、向こうに居るぞ」
見ると、赤い少女は次の品が欲しいらしく、別の席に座る青いドレスの少女と盛んに火花を散らしながら値を吊り上げていた。
「それは“どうでも良い”や、其れよりあの奇天烈な王様と君が何処で知り合ったかが知りたいね。早く聞かせなよ」
一瞬だけ走った殺気は、会場の誰も気付く事は無かった。
其れを向けられた男も、まるで気付かなかった様な仕草で話を続ける。
「そういうお前は知り合いではないのか? 先程主催者席に手を振っていたではないか」
「あれは隣の人に挨拶しただけさ。王様にはちょっと会っただけ、その時もとても変な王様だったけど」
「私もそんなに親しい訳ではないぞ。ちょっとした集まり…………国発団連協の会員同士というだけだ」
「なんだいそれ」
「発明家の集まりだ。あの国王、あれでそちらの方面では有名でな、私も参考にしておる。
話しかけたのは懇談会で行われたかくし芸大会で、彼の踊る“クロダブシ”とやらが見事でな。その後地中海に生息するタテジマチョウセンフナムシにおける体節の構造の話題で盛り上がった」
「……何をやってるんだ、君は」
「そういうお前は何処で見かけたのだ」
「ついこの前さ。それこそ変な小芝居を拝見したもんだよ」
「…………」
「…………」
「やっぱり変な王様だね」
「全く」
会場受付には手持ち無沙汰のタマネギが座っていた。
流石にもう始まってしばらく経つ。参加者は殆どが既に会場入りしており、今から参加するような者は居ない。
其処に近付く人影があった。
タマネギもそれに気付く。
「参加証をどうぞ…………はい、もう既に始まっていますよ。
え? 出品ですか? はい、まだ大丈夫ですよ。こちらにご記入下さい」
「………… …………」
「はい、お持ちですか。ではこちらに…………は? はい、でしたらお預かりします…………ははあ、これは立派なもので…………あれ?」
タマネギがそれに見惚れている間に、客の姿は消えていた。大方会場に入ったのだろう。
とりあえず品は預かったのだ、急いで会場裏に届ける。
「あれ? セイバーさんと衛宮くんは?」
「休憩中。何だ? 出品か?」
「うん、これ…………どうしようか?」
オークションに出す品は、凛たち三人の誰かがチェックしないと出せない規則になっていた。
「あー、衛宮くん達が戻ったら見せよう。5品くらい後にエントリーしておいて」
「おい! 次の品は?」
「え? 何処行った?」
「仕方ない、その次の品に繰り上げろ」
「そっちは台座の用意がまだだ」
宝石は見た目が命である。勿論簡単にではあるがそれぞれの石が映える様に色や光を考えられた台座を用意していた。
目の前には殻の台座がセッティングされて置かれている。
「…………丁度良い、この石に合うな」
その場の責任者が決めた。
「司会に伝えろ、順番の変更だ」
「ラジャー」
こうして、今来たばかりのその石は、直ちに客の前に運ばれた。
「えー、次の品は参加者の方からの出品でございます。あー…………こちらの品には由来がございまして、アッシリアの王アッシュールバニパルに仕えた魔術師……ズトゥルタンの使用した一品…………という事でございまして」
その言葉に、殆どの人間は首を傾げた。そんな名前を聞いた事が無かったのだ。
確かにアッシュールバニパルの名は知っている、彼が知識を求め魔術師を雇っていた事も事実である。
しかし彼がその知識を納めたニネヴェ図書館にその魔術師の名前が記されていたかどうか覚えている者は、特に詳しい者でも覚えが無かった。
だが、その名を聞いた途端、腰を浮かした人物が居た。
先程より有る意味同胞と談笑していた壮年の男、ヴァン・フェムである。
「どうしたんだい? …………待てよ、ズトゥルタン……?」
隣に座る、メレムも何かが引っかかった。
「えーこの宝石には“銘”がありまして…………その名は
“アッシュールバニパルの焔”
…………でごさいます」
その時、出てきた台座が、何かに躓いたように揺れた。
まるで、石が勝手に動いたかの様に、台座からその拍子に飛び出した。
慌ててタマネギが其れを受け止めようとする。そこに大喝が飛んだ。
「「其れに触れるな!!」」
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二作品クロスと見せかけて、三作品クロスオーバー。
そろそろ反省した方が良いのかもしれない、読者から愛想尽かされる前に。え? もう切った? いやいやそこを何とか…………! 勘弁してもらえないでしょうか!?
いやほら、ミーちゃんこちらの作家としてはwikiに載ってる位だし! Fateも小説ではちょっとばかしクロスしていたし!
とりあえず“奴ら”の設定は魔夜峰央作品基準、fate側魔術の有効性などは独自設定で進行する予定です。
御不快に思われた方は申し訳ありません。