初めに…。
予告通りに続編を更新できなかったことを深くお詫び申し上げます。
元々は40人で一つの部隊だったらしい。
しかし、厳しい任務を潜り抜ける過程で多くの隊員が命を失い、
その穴を埋める隊員となる人材が居ないため、現在は36名で運用されているようだ。
~帝国軍富士駐屯地第二演習場~
ブリーフィングが終わり部隊は演習場へをむかう。
この演習場は大きな都市の跡地のために多くの障害物がある。
「これより、演習を始めます。各部隊は所定の配置に着いて下さい。」
第四中隊CPの須藤少尉の声が聞こえる。もうじき演習が始まるようだ。
ブリーフィングでは、相手チームの構成や隊員のポジションなどについ
て確認はしたものの、不安が残る。着任二日目でいきなり部隊の指示を
出さなければならない。
「いくらブリーフィングで打ち合わせをしたからと言って…。」
私はつい言葉に出してしまったのだろう。
「心配ないですよ、部隊の動きを確認するのが目的のようなものですか
ら。」と、副官の七瀬中尉から言われてしまった。
「わかっている、この部隊の連携をしっかりと見させてもらうつもり
だ。」
その時は本当に見せてもらうつもりだった…。
演習は統合仮想情報演習システムJIVESを使用して行う。
戦術機の実機の各種センサーとデータリンクを利用した砲弾消費による
重量変化や着弾や破片による損害判定及び損害箇所など物理現象をシ
ミュレートできる優れものだ。そのため演習と言えども実線へ赴く気分
だ。また、今回は部隊が全滅するか、指揮官機が落された時点で戦闘が
終了する。
「戦闘開始です。」
その一言と共に両部隊が動いた。私の部隊は二手に分かれた。強襲掃討
を前に出し、制圧支援にカバーさせる。
一般的な陣形だが、この部隊編成ではこれがもっとも効果を発揮する。
「ピクシー6、フォックス1!」
「ピクシー7、フォックス1。」
制圧支援による誘導弾の攻撃が前方へ扇形を作る。
「北原機、胸部損傷。大破。」
少し間をおいてCPから報告が入る。今の攻撃で1機仕留めたようだが、
油断できない。なぜなら相手はこの大隊の中でもトップの実力を持つ部
隊なのだ。誘導弾を撃ち切った機体はすでにコンテナを投棄して身軽に
なっている。手際のよさは流石としか言いようがない。
(この部隊を私が率いることが出来るのだろうか…?)
その一瞬が仇となった。突如警報が鳴る。私めがけて数十発の誘導弾が
接近している。
(くっ、なんで気が付けなかった…!?)
緊急回避に移る。ほとんどは回避したか撃ち落したが数発被弾してしま
う。損害は…多目的追加装甲に被弾しただけだ。私が攻撃を受けていた
その間、味方機は誘導弾の発射位置を特定し即座に攻撃をかけていた。
「ピクシー2、フォックス3。ピクシー3は私の援護を。ピクシー4は隊長
のカバーを頼む。」
七瀬中尉と三木中尉らが突撃砲を撃ちながらビルの間を縫うように進ん
でゆく。敵チームの機体を追撃しているよう
だ。それとは逆にピクシー4の剣中尉が此方に向かってくる。
「大尉、大丈夫でしょうか?」
剣中尉の問いかけに大丈夫だと答える。
私が全ての損害を確認したとき、敵チーム機を5機撃墜したとの報告が
入った。どうやら展開していた制圧支援の護衛として強襲掃討が付いて
いたようだ。
(二人だけでこれほどとは…。私が出る幕はなさそうだな…。)
そう思っていた時だった。
「中本機、胸部被弾。大破。高山機、胸部損傷。大破。」
と味方が落された通信が入ってくる。
「渡辺大尉、後は頼みました…。」
その通信を最後に、後方に展開していた小隊のマーカーが消えた。
「大尉、どうしましょうか?」
「これより後方の敵機を落しに行く。藤高中尉が最後に敵機をマーキン
グしてくれたおかげで大まかな位置は把握できている。この機を逃すわ
けには行かないだろう。」
そう、藤高中尉らを落した敵機は敵指揮官機なのだ。ここで指揮官機を
落すことができれば此方のチームの勝利となる。
「隊長、一つよろしいでしょうか?」と七瀬中尉が質問をしてくる。
「どうした?」
「追撃をかけるにしても敵機の正確な位置までは把握していません。無
闇に追撃をかけるのは危険ではないでしょうか?」
確かに中尉が言いたいことはよくわかる。
この部隊の不知火はステルス性を高くするための電波吸収塗料が使用さ
れている。そのため、このような演習では位置の特定が困難だ。
「敵機は此方の陣地だった市街地にいる。開けた場所に残っているので
囮と考えられる。恐らくは自分の周囲に僚機を配置して、待ち伏せてい
ると思われる。」
現在敵チームには位置を確認されていない機体が2機ほどいる。
この状況なら奇襲をかけてくる可能性がなくもない。そして相手が起伏
の激しい場所を取っているのであれば待ち伏せすることもできる。
「そうかもしれません。ほかの敵機はいまだ確認されていませんで…。
しかし、仮にそうだとしても潜伏している敵の位置が分からない以上は
迂闊に攻められないのではないでしょうか?」
どうも七瀬中尉は納得が出来ないようだ。
「おおよその推測は付いている。あのポイント付近には二つの大きなビ
ルがある。あの位置なら囮に向かう我々を十分に狙えると思う。」
「と言うことは…先にビルを占拠すると言うことですね?」
「その通りだ。しかしそれは貴様たちに任せる。私は指揮官機を狙う
ルートを進む。一方のビルを片付けた後は即座にもう一方のビルに向
かってくれ。」
三人がビルを制圧しやすくするためには相手の注意を逸らさなければな
らない。
「隊長一人で少佐のお相手をするつもりでしょうか?もしそうなのであ
れば私は反対です。どうしてもと言うのであればせめて2機編成を組んで
ください。」
戦術機の最小戦闘単位は2機編成だ。残存機が4機だけなのでこの場合は
2:2で組むのが最良だと思われる。しかし、私は編成を組もうとはしな
かった。もしもこの時2機編成で行動していたのなら戦況は大きく変わっ
ていたのかもしれない。
「七瀬中尉、反対する気持ちは分かるがここは私の腕を信じてほしい。
どうしても反対するのであれば上官として命令するしかないが…。」
命令は最終手段だ。私は基本、上下関係を気にする方ではない。
前の部隊でも命令をして強制することはなかった。
「・・・了解です。隊長の腕を信じることにします。しかし、言ったか
らには責任を取ってください。私たちの夕食が懸かっていますで…。」
何とか承諾してくれた七瀬中尉の口から聞き覚えのない事が告げられ
る。
「なんだと?それは聞いていないぞ。七瀬中尉、詳細を報告しろ。」
「はい。この演習が始まる前、第3中隊の隊員達と少し賭けをしていまして…。」
衝撃の事実だ。この戦いに私の楽しみ(食事)が賭けられているらい。
「何だと!?貴様ら、賭博が許されるとでも思っているのか?」
「あ、いえ…。これは公認と言うか…。演習時の決まりごとみたいなも
ので…。」郷に入って郷に従えとはこのことだ。
「全く、呆れて物も言えんな…。そうだとしたらなぜ私にその報告が来
ない?」
「それは…。」
網膜に映る七瀬中尉の目が泳ぐ。これは何か裏があるに違いない。それ
にほかに二人も黙り込んでいる。どうやらこの問題は隊全体に関わるこ
とのようなので話を切り替えることにする。
「まあいい。とにかく、先ほど話した通りに頼む。伏兵を早く片付けれ
ば片付けるほど私の負担も小さくなる。」
それに4:1で敵の指揮官機と戦うことが出来る。
「了解です。」
部下達からの返事が返ってきた。
「よし、作戦を開始する。」
私の掛け声とともに3機の不知火が陣地へと向かった。少し間をおいて私
も突入する。
3機はどうやらビルを目指しているらしい。となれば、私はそのビルに居
ると思われる敵の注意を引かねばならない。私は噴射跳躍で大きく跳
び、中央の通りを走り抜ける事にした。通り
をちょうど半分ほど進んだとき、私にレーザーが照射された。
これは突撃砲が相手に照準を点けるときに照射するものだ。
どうやら私の読みは当たっていたらしい。しかし私に向けて1発も銃弾が
放たれることはなかった。先行していた七瀬中尉らに敵機が落されたか
らだ。
「敵機を撃破しました。このまま次のビルに向かいます。」
間髪入れずに報告が入る。
「了解した。もう1機もこの調子で頼むぞ。1機たりとも欠けるな!!」
「了解です。隊長の方こそ落されないでください。」
「なんだと?私がそちらよりも先に落とされると言うのか?良いだろ
う、ならば先に落された方には何か罰でも与えよう。」
「罰ですか…。了解しました。演習が終わったときが楽しみですね。」
完全に私が落されると思っているらしい。なんだか腹が立ってきた。
「おいおい、私が落された場合はチームの負けなんだぞ?そうなったら
夕食が無くなるのではなかったかな?」
「うっ…。」
どうやらこの勝負は私の勝ちらしい。それ以上七瀬中尉は話しかけてはこなかった。
こんなやり取りをしているうちに、指揮官機が潜伏していると思われる
広場にたどり着いた。
目視で周囲を確認する。すると、元は大きなビルであっただろう残骸に
紛れて1機の不知火が隠れているのを発見した。それもあからさまに見
つけてくれと言わんばかりの偽装だ。怪しい
とは思ったものの見つけたからには攻撃を仕掛けるしかない。
私はトリガーを引いた。
此方の八方に気がついた敵機は回避行動に移った。そしてそのまま応射
してくる。こちらも回避しながら攻撃を続ける。そして相手との距離を
詰めた時、私は敵機の異変に気がついた。
朝倉少佐は迎撃後衛装備だ。しかし今対峙している相手は強襲掃討の装
備をしている。
(まさかこっちは本当に囮なのか!?)
そう思った矢先、七瀬中尉から通信が入る。
「隊長、現在敵と交戦を開始しました。しかし…。」
どうやらあちらも戦闘に入ったようだ。私の予想が当たっているのであ
れば相手は恐らく…。
「…敵機は指揮官機です。奇襲を受け、三木中尉が落されました。」
やはり指揮官機だった。私の読みが完全に外れたらしい。さらに三木中
尉を落されてしまった。まだ数では優勢だが、どのくらい持つのかわか
らない。
「了解した。此方を片付け次第、そっちの援護に回る。可能であれば此
方に誘い込んでくれ。もっとも、撃墜できるのであればそれが一番だが
な。」
「了解しました。出来るだけそちらのほうへ誘導してみます。しかし…。」
七瀬中尉の顔が変わったような気がした。何か良からぬことを企んでい
る様な、そんな顔だ。
「…もしも指揮官機を落したら、罰は無しでお願いしますよ?」
「いいだろう、撃墜させるのはちょっと厳しいだろうから…相手の突撃
砲の残弾を全て使わせたらそれで免除だ。」
「了解です。今言ったこと、忘れないでくださいよ?」
そう言って交信を切られる。
「さて、どうしたものかな。」
先ほどから激しい弾幕を張ってくる敵機を確認する。どうやら4門の突撃
砲を2門ずつ交互に使い、此方には反撃をさせる隙を与えさせてはくれ
ないようだ。少しは反撃して見てもなかなか当たらない。
ついには残弾が残り僅かとなった。
(銃撃戦では向こうに分があるか…。それなら白兵戦でも仕掛けてみる
か。)
そう思った直後には突撃砲を投棄する。そしてビルを盾にし相手への接
近を試みる。だが敵もそう易々と接近を許してはくれなかった。
リロード中は相手を自分の懐に入れないよう常にもう一組の突撃砲から
攻撃を加えてくる。
(これでは接近できないな…。だからと言って突撃砲に持ち替える余裕
もない…どうするか。)
そう思ったときだった。突然コックピット内に警報が鳴り響く。
気がつけば七瀬中尉たちが交戦しているエリアまで来ていたのだ。
「隊長、なぜ此方に?」
驚いた表情の七瀬中尉が視界に映る。どうやら七瀬中尉もこっちに気が
ついていなかったようだ。
「すまない、攻撃を避けていたらどうやら此方のほうに誘導されたらし
い。」
それらしい言い訳をしておく。戦闘に集中しすぎて自分の場所が分から
なかったなどとは口が避けても言えない。
「了解です、とにかく無事で何よりでした。」
その時、追撃してきた敵機の姿が目に入る。相手はどうやら此方が味方
と合流したと見えたらしい。そのせいなのか動きか鈍くなったように見
える。
(やるなら今か!?)
私は長刀を構え、一気に敵機へと接近する。しかし此方に銃弾が放たれ
ることはなかった。敵機は長刀を構えて突撃してくる私と、その後ろで
突撃砲を構える七瀬中尉のどちらに攻撃を加えるのかで判断を鈍らせて
いたようだ。相手が後退し始めてももう遅い。十分に接近していた私の
長刀を喰らい撃墜判定を受けた。
「ふぅ、やっと1機仕留められたか。」
「隊長、まだ指揮官機が残っています。油断は禁物ですよ?」
「わかっている。それよりも…剣中尉はどうした?」
私は七瀬中尉一人しか居ないことに気がつく。
「剣中尉も落されました。後は私と隊長だけです。」
「そうか…。それで、指揮官機は今何所にいる?」
「はい、先ほどまでここから1ブロック離れたポイントで剣中尉と交戦
していました。恐らくは今いるブロックのどこかに潜伏しているのでは
ないでしょうか。」
そうかもしれないな。と言おうとした時だった。自機の後方に大きな振
動を捉えた。
「何だ!?」
「隊長、後方に敵機が現れました!!」
粉塵の中を良く見てみると見慣れた影が見える。すかさず七瀬中尉が突
撃砲で攻撃を加える。しかし銃弾は空しく粉塵を抜けただけだった。次
に敵機を捕らえたときには既に長刀を構え、此方に向かって噴射跳躍し
ていた。
「隊長、見てください。長刀を構えています。つまり突撃砲は撃ち切っ
たということですよね?」
七瀬中尉がこの期に及んでそんな事を言っている。しかしこの直後、彼
女の機体はあっさりと切り捨てられてしまい撃墜判定を喰らった。
(バカ者!!何をしているのだ…!!わたし一人になってしまったではない
か。)
などと思っても既に遅く、朝倉少佐の斬撃を避けるだけで精一杯だっ
た。ついには持っていた長刀まで弾き飛ばされる始末だ。
「渡辺大尉、おとなしく諦めたらどうだ?」
突如少佐の顔が視界に映る。
「すみませんが降参するわけには行きませんので。」
「このまま続けても結果は見えていると思うんだが?」
「だからと言って勝負を捨てるわけには行きません。」
「そうか…。では決めさせてもらう。」
そう言い終らないうちに再び急接近してきた。残された兵装と言えば短
刀しかない。抜く余裕すらないので回避行動にでる。少佐の袈裟斬りを
避けたと思ったそのとき、斬り終えた姿勢から突きが繰り出されるのを
見た。突き自体は寸止めであったが判定では胸部を貫通され撃墜。第4
中隊の敗北だ。さらば私の晩御飯。
演習終了後の反省会で朝倉少佐に今戦いでの相手チームの詳細を教えて
いただいた。藤高中尉たちの後衛部隊を強襲した際、マーカーを付けら
れたのはフェアリー4こと北原少尉だった。それもわざと付けられたとの
ことだ。案の定マーカーが付けられた機体を指揮官機だと思い込み、良
いようにやられてしまったと言うわけだ。
反省会の後、第1中隊は食事をしにPXへ、食事がない我々第4中隊は自室
へと戻った。
~兵舎士官用個室~
「おや、ちゃんとロックをしたはずなのだが…。」
自室へ入ろうとした朝倉少佐は異変に気がついた。演習前、自室を出た
ときにはしっかりとロックをかけていたはずなのだ。それが今は解除さ
れている。腰の拳銃に手をかけながらも自室へ入り明かりを点ける。す
ると部屋の椅子に一人の男が座っていた。そして此方に背を向けたまま
話しかけてきた。
「おや少佐、いまお帰りかね。仕事熱心で結構だ。」
「ええ、熱心にやらなければ命に関わりますから。それはそうと、今日
は一体何の用で来られたんですか?村上さん。」
朝倉少佐の問に村上と呼ばれた男は淡々と答える。
「ああ、そうだった。今日は少しばかり重要なお話があってね。」
「重要なお話ですか?帝国情報省の課長さんが来るほどのことなんです
か?」
「うむ、実は先日帝都戦略研究会なるものが出来たのだ。どのような活
動をしているのかと探りを入れたところ、若い青年将校たちが集まり色
々と活動しているようなのだ。」
どうやら厄介ごとの処理を頼みに来たようだ。尤も、この部隊は厄介ご
とを極秘裏に片付けるために情報省が作った部隊なのだが。
「活動ですか・・・?それはまた一体どのようなことをしているのでしょう
か?」
「うむ、確認されているだけでは対戦術機を想定した演習や歩兵部隊の
拠点突入など、どこの部隊でもやっていそうなことばかりだ。」
「青年将校たちが集まって各々の技術を高めているんですか。それの何
所が問題なのですか?」
ただ集まって訓練をしているだけではそれほど重大ではないはずだ。
情報省の課長が直接話しに来る理由が何かあるはずだ。
「これはまだ確定事項ではないのだが…。」
と言って顔を曇らせる村上課長。
「近いうちに彼らが武装蜂起するかもしれないのだ。」
「武装蜂起ですか!?」
「そうだ。どうも現政府の対米追随の政策に不満のある者が集まってい
るという噂があってだな。その噂と今回の研究会の活動を見ていくと実
際に武装蜂起するかもしれないのだ。」
明星作戦以降、国民の反米感情は日に日に高まっている。もちろん帝国
軍の兵士も例外ではない。
「なるほど、わかりました。で、我々はどのようにすればいいので
す?」
「諸君ら特別任務部隊には研究会へ参加してほしい。」
「内部工作をするということですか?」
「そうだ。潜入後、その者たちの動向を報告するとともに武装蜂起を起
こした際には内部から鎮圧してもらいたい。」
「了解しました。ところで、教導部隊のほうには何て言っておきましょ
うか?」
そう、この部隊の表向きのトップは富士教導部隊だ。
「此方の調べによると、君達の上官である秋山大佐もどうやら研究会に
引き込まれたそうでな。近く教導部隊所属の全部隊に研究会への協力及
び参加が指示されると思われる。」
「秋山のおやじさんも参加していたんですか?」
秋山大佐は後退し始めている白髪が目立つ頭髪と濃い眉毛、貫禄のある
太い声から密かにおやじさん呼ばれている。無論、本人はそのことを知
らない。また、秋山大佐の米国嫌いは周知の事実で、教導部隊の不知火
が露迷彩なのが気に入らないらしく技術部へ米国軍の迷彩にしろと文句
をつけたほどである。
実際の訓練でも敵兵を鬼畜米英呼ばわりしているくらいだ。ここまで米
国が嫌いな理由は分かってはいないが、噂では頭の中が先の世界戦時の
まま育てられたとか明星作戦のときに米軍に先祖代々の家を壊されたと
か色々ある。
「少佐、上官をおやじさんと呼ぶとは…。上官侮辱罪だぞ?」
「あ、失礼しました…いつもの癖で…。」
「まあとにかくだ。君達が動くのは正式な指示を出されてからで良い。
もしも指示が出ないようならばまた此方から声をかける。」
「了解です。」
「では、部下達への説明はよろしく頼むよ。」
立ち去ろうとする村上課長に少佐は以前からの疑問をぶつけた。
「はい。それはそうとお一つよろしいでしょうか?」
「何かね?」
「村上課長はどうやってロックを解除して私の部屋に?」
すると課長はおどけた様子で答えた。
「どうやったも何も、ドアが勝手に開いたから入ったまでだよ。」
そう言って足早に立ち去っていった。
(やれやれ、今回ばかりは厄介な任務だな。下手をすれば国家反逆
か…)
そう思いながら朝倉少佐は村上課長が出て行ったドアをぼんやりと眺め
ていた。ふと、村上課長が座っていた椅子を見てみると小さな紙袋が置
いてあった。
「何だこれは?」
恐る恐る中を見てみると、どこかの民芸品らしき木彫りの人形とメモ用
紙が入っていた。メモ用紙には「これは私の知人から頂いたものなのだ
が、特別に君に譲渡することにしよう。彼曰く、自身に訪れる災いを防
いでくれる効果があるそうだ。」と書いてある。
「ようは面倒だから押し付けたということか…。」
朝倉少佐はしぶしぶ木彫りの人形を棚の上に飾った。
後日、教導部隊内での隊長会議の際、秋山大佐から研究会への参加が告
げられた。我々教導部隊はその技術や経験を活かし、研究会に所属する
衛士たちの仮想敵機として協力するとのことだった。この時点では各部
隊長も普段の任務とさほど変わらないことだと思い、異議を唱える者は
いなかった。そして研究会の中心人物「沙霧尚哉」大尉と会い、彼本人
からこの研究会の目的を話された後も誰一人として疑問を持たなかっ
た。秋山大佐の日ごろの賜物である。
そして月日は流れ12月。ついにこの日が訪れることになる。
おまけ:登場人物まとめ1
所属
名前 ポジション 階級 コール
第1中隊(フェアリーズ)
朝倉涼介 :右翼迎撃後衛:少佐:フェアリー1
宮沢誠 :強襲掃討 :中尉:2
中条哲也 :強襲掃討 :中尉:3
北原修一 :強襲掃討 :少尉:4
相原陽子 :強襲掃討 :少尉:5
藤井聡 :制圧支援 :中尉:6
毛利謙一郎:制圧支援 :少尉:7
国木田南 :制圧支援 :少尉:8
竹崎洋一 :制圧支援 :少尉:9
朝倉悠 :CP :大尉:フェアリー
第4中隊(ピクシーズ)
渡辺依々子:左翼迎撃後衛:大尉:ピクシー1
七瀬風香 :強襲掃討 :中尉:2
三木辰則 :強襲掃討 :中尉:3
剣良一 :強襲掃討 :中尉:4
藤高庄治 :制圧支援 :中尉:5
中本春樹 :制圧支援 :少尉:6
藤本良 :制圧支援 :少尉:7
高山愛美 :制圧支援 :少尉:8
佐々木翔 :制圧支援 :少尉:9
須藤 :CP :少尉:ピクシー
教導部隊司令部
秋山源三郎:大佐
帝都情報省
村上康夫:外務一課