『タケル~』 『白銀』 『白銀くん』
―誰だ?―
『タケルさ~ん』 『タケル』
―お前たちは誰だ?―
武はまた光の世界にいた。
武は『誰か』と会っている。
『誰か』は一人一人武の名前を呼んでいる。
しかし、あまりにも眩しくその『誰か』の顔はわからない。
およそ10人くらいいるのはわかるのだが・・・
『タケルちゃん』
最後の一人が名前を呼ぶと皆で微笑み武から遠ざかっていく。
――っ!!待ってくれ!!何故お前たちは俺の名前を知っている。!!お前たちは誰なんだ!!教えてくれ!!――
武は焦った。走ろうと体を動かすが、追いつく気配が無い。
――くそっ!!待ってくれ!待ってくれ!!――
「待ってくれー!!!!」
――はぁ・・・はぁ・・・――
(・・・夢・・・か・・・)
目を覚ますといつもの天井が目に入る。
武は体を起こす。
時間を見たが夕呼先生の呼び出しまでは時間があるようだ。
――コンコン――
「白銀さん・・・起きてますか・・・?」
丁寧に戸をたたき、霞が部屋に入ってくる。
「あぁ、起きてるよ。おはよう霞。」
「おはよう・・・ございます・・・」
そこで白銀は自分の記憶が完全ではないことを思い出す。
(夕呼先生に言われた呼び出しの時間はまだだからな・・・霞に自分のことを聞いてみるのもいいかもしれない・・・)
「夕呼先生からの呼び出しまで時間があるんだけど、時間とらせてもらってもいいか?霞」
少し首を傾げたが、察したのかすぐに頷く
「一応昨日の段階で、ある程度思い出だしたが忘れてることもたくさんある。そこで思い出した記憶が本当のことかどうかの確認と、忘れていることを少しでも教えて欲しいんだ。」
霞は少し戸惑いを見せたが、すぐに頷く。
「・・・わかりました。」
「それじゃあ、まず俺がここで何をしていたか教えてくれ。」
顔に疑問の色が見えたが、「確認のためだ。」と言ったらわかってもらったようだ。
「白銀さんは、ここ『横浜基地』の戦術機のパイロット・・・つまり衛士です。香月博士の直轄の部隊で行動してました・・・階級は少尉です・・・」
(思い出した記憶と間違いは無いようだな・・・)
今聞いた話と自分の記憶を照らし合わせて確認した。
「うん、大丈夫そうだ。じゃあ、人間関係のことを教えてくれないか?」
「・・・・・・。」
「・・・無理・・・なのか?」
「・・・はい・・・すみません・・・これ以上は教えることはできないです・・・」
「何故・・・?」と聞く前に霞は答えてくれた。
「香月博士にこれ以上教えることは止められています・・・変に教えてしまうことで記憶の流入が起こるとどうなるかわからないからだそうです・・・もし、記憶の流入が止まらなければ脳のキャパシティーを超えてしまい・・・あとはどうなるかわかりません・・・」
今聞いてある程度は納得した。
霞や夕呼先生の時の記憶だけで激しい記憶の流入が起きたのだ。
今はほとんど白紙の状態の自分にすべての記憶が流れれば記憶の整理もできずに気が狂う可能性もある。
恐らくそのことも考えて夕呼先生は制限をかけたのだろう。
「そうか・・・。まぁ、仕方が無いか。今は右も左もわからない状態だからな。下手なことして死んでしまうよかゆっくり思い出してしっかり記憶を補充した方がよさそうだ。」
「時間はたくさんあります・・・私も手伝いますから一緒に頑張りましょう・・・」
霞は微笑みながらそう言ってくれた。
俺は霞が親身になってくれることが素直にうれしかった。
「ありがとうな、霞」
「いえ・・・お互い様ですから・・・」
少し照れながら霞は微笑んだ。
時間を見ると夕呼先生に呼ばれた時間まで後もう少しだった。
「いい時間だな。そろそろ夕呼先生のところに行くか?」
「はい・・・!」
「来たわね。」
夕呼先生はあきれたようにして待っていた。
「早速、戦術機のシュミレーションをしてもらうけど、先に言っておかなきゃいけないことが何個かあるわ。」
夕呼先生はこちらに向き直り話を始める。
「まず昨日、『あなたは不安定な状態』と言ったのは憶えてるわね?」
「はい」と相槌を返す。
「もう社には聞いたかもしれないけど、今のあなたはほとんど空っぽの状態。たとえ空っぽでも容器はあるからね。そこに大量の記憶が入り込めばパンクしてしまう。簡単に言えば白銀という箱に整理もせずにぶち込めば決壊してしまうってこと。」
箱が決壊・・・つまり精神の崩壊ということだ。
確かにそうなると廃人同然の状態になるだろう。
再度今の状態を聞いてゾッとした。
「そこであなたは社と一緒に行動することになるわ。」
「え!?どうしてですか?」
「どうしてって・・・そりゃあんたの激しい流入を抑えるために決まってるでしょ。一応あんたと親しかった人たちには今の状態を言っておいたけどそれだけでどうなるってことでもないのよ。だってあなたが考え込むと記憶の流入が始まっちゃうもの。そこで必要なのは社の能力。憶えてる?社の能力は。」
「確かリーディングとプロジェクションですよね?」
リーディングは相手の思考を読み取る能力で、プロジェクションは相手の脳に直接自分の伝えたいことを映し出す能力だったはずだ。
「そ。その社の能力であなたの状態をリーディングして、もしも無理に考えこんでしまいそうだったり、激しい記憶の流入が起こりそうだったらプロジェクションの能力を使ってリミットをかけるわ。」
「わかりました。」
夕呼先生の配慮に感謝し答えた。
「やけに素直ね~。まぁいいわ。」
夕呼先生は軽く座り直すと話をシュミレーションの話題に変えた。
「それじゃあ、シュミレーションのことを軽く説明するわ。白銀には午前中いっぱい戦術機のシュミレーションをしてもらうわ。その時はさっき言ったとおり社をついて行かせるからそのつもりで。その後だけど、昼食を取ったらここに来てもらうわ。大事な話があるからね。それと。」
夕呼先生は社をみつめる。
「社。白銀のことは頼んだわよ。」
霞は軽く頷き部屋の入り口に向かう。
「白銀」
夕呼先生に呼び止められ夕呼先生に振り返る。
「社のこと。頼んだわよ。」
軽く返事を返し部屋を出る。
「さてと」
白銀たちを見送るとパソコンに目を向ける。
「あいつが今までの戦術機を扱えたとして・・・」
夕呼はパソコンを操作すると1枚のウィンドウを出した。
「これを扱えるかどうか・・・」
画面には『02式換装型高速機動システム』と書かれていた。
『白銀さん準備はいいですか?』
俺は強化装備を身につけ操縦席についていた。
「いつでもいいぞ」
網膜に直接映し出された霞に返事をする。
オペレートは霞がしてくれるらしい。
『それでは始めます』
「ふぅ・・・」
午前のシュミレーションはほとんど終わった。
今は最後のプログラムの前に休息をとるところだ。
「白銀さん・・・お疲れ様です。」
シュミレーターから出ると霞がタオルを持って待っていた。
「・・・大丈夫・・・ですか?」
霞はタオルを渡すと心配そうな表情をしながらそう聞いてきた。
それもそのはず。
シュミレーションを行っていた時にも記憶の流入は起こっていたのだ。
だが激しい流入は無く、それどころか記憶を喪失しつしてしまう前に俺が行っていた戦術機の特殊な機動も思い出すことができたのだ。
「あぁ、大丈夫。心配することはないぞ。それより、最後のプログラムってなんなんだ?」
今までは訓練兵がやるような練習過程プログラムを順々にやっていたからある程度予想はついていたが練習過程プログラムを終えた今、次に何をやるか見当もつかなかった。
「最後は・・・ハイヴ・・・です・・・」
(・・・ハイヴ・・・)
武は一瞬唖然とした。
頭がうまく回らなかったのだ。
(ハイヴ・・・それってつまり・・・)
武が次のシュミレーションのことを聞こうと口を開く前に霞が先に説明する。
「次はハイヴ内でのBETAとの交戦シュミレーションです・・・」
――BETA――
その単語を聞いた時、自分の中に変な違和感を感じた。
恐怖とは違った感覚だったが良い違和感ではないのは確かだった。
「記憶の流入は起こると思います・・・」
まだ頭がぼんやりとしているが、無理やりにでも霞の話に耳を傾ける。
「私も白銀さんを手伝います・・・けど・・・記憶の流入を抑えることが私にできるかわかりません・・・」
激しい記憶の流入が起きたとき霞のプロジェクションががうまくいかなければ廃人になる可能性だってありうる。
だが・・・。
「霞、弱気にはならないでくれ。俺も怖いが・・・霞とならなんとかやってやる!それに俺も戦場に出るなら絶対に回避できないことなんだ。だから・・・力を貸してくれ霞!お前じゃないとできないんだ!」
確かにこれは霞にとってもつらいことだと思う。
だけど、俺には使命がある。
こんなところで躓いているわけにはいかないんだ。
霞は一度深呼吸をして
「・・・わかりました・・・私も白銀さんの力になるために頑張ります・・・!」
俺はその言葉を聞いてすぐにシュミレーターに向かった。
『・・・用意ができました・・・。』
俺は自分の高鳴る鼓動を感じながら霞の声を聞いた。
「あぁ、始めてくれ。」
網膜に起動画面が映し出される。
次の瞬間、目の前にはハイヴの内部が広がっていた。
(今のところは異常なし・・・)
一呼吸おいて自分の状態を確認する。
『600m先にいる中隊規模のBETAを殲滅してください』
「了解」
ジャンプユニットを吹かせ進攻を開始する。
『接敵まで後300mです』
敵を目視で確認できる位置まで来た。
「BETAを目視で確認これより戦闘を・・・」
武はそれ以上言葉が続かなかった。
理由は頭痛ではなかった。
しかし記憶の流入は確実に起きていた。
今、武の頭の中に流れ込んでいるのはただひたすらに蹂躙するBETAの群れ、群れ、群れ。
「う・・・・・ぁ・・・・・」
そこから生み出される感情は恐怖以外にはなにもなかった。
「うあああぁぁあぁあああ!!!!来るなぁああああ!!!!来るんじゃねぇええ!!!!」
突撃銃の弾をただ撒き散らしながら後ずさる。
迫り来るBETAの波から距離をとろうとして後ずさる。
次第に流れる記憶の量も増えていき、ついに武の意識は記憶によって押しつぶされてしまった。
武が錯乱状態に陥った時、霞も混乱していた。
記憶の流入が霞に起こっていたわけではない。
武の状態が予想していたものより比較にならないほどひどかったからだ。
霞は夕呼先生に言われた通り、武に『自分が何をやっている途中なのか』をプロジェクションしたがまったく効果はなかった。
「白銀さん・・・」
霞は少し俯くと・・・
「・・・白銀さん・・・待っててください・・・」
そうつぶやくと霞は胸の前で手を組んだ。
「私の思い出が・・・届きますように・・・」
武は暗闇の中にいた。
――ここは・・・――
――俺は・・・どうなったんだっけ・・・?――
自分に起こったことを整理してみる。
(確かBETAを見て・・・記憶が流入して・・・そして・・・怖くなって・・・)
――そこで記憶を失ったんだっけ・・・――
ある程度整理したところで今どのような状態なのか確認してみる。
(自分がどこにいるかわからない・・・どうなっているかもわからない・・・一つだけわかるのは・・・)
――すごく・・・楽だ・・・――
何の苦痛も恐怖もなく何の負担も感じない。
――このまま・・・寝てしまいたい・・・――
武は体から力を抜いてまぶたを閉じようとした。
すると・・・
――なんだ・・・あれは・・・?――
少し離れたところに光が現れた。
光は少しずつ近づいてきて武を包みこむ。
包みこむと同時に目の前にはたくさんの絵が映し出される。
――これは・・・――
それは自分の記憶にも刻まれているであろう霞との記憶だった。
たくさんの絵は交差するように流れている。
まるで武に語りかけるように。
武は流れる絵に1つ1つ注意してみてみる。
――あぁ・・・そうだ・・・こんなこともあったな・・・――
屋上でのあやとり・・・
毎朝起こしに来てくれた記憶など・・・
所々伏せられていたような場面もあったが霞との思い出を思い出すには十分な数だった。
そして・・・
『前に――――――――海を見たことないって言ってたよな。』
――――――――
―――――
『本当はあそこまで連れてってやりたいんだけど・・・』
―――――――
――――――――――――――
『いつか平和になったら・・・・・・行こうな』
『・・・・・・はい』
それはあの丘での出来事だった。
――そうだ・・・俺は・・・!!――
武は体に力を入れる。
無理に力を入れると体に痛みが走ったが武はその痛みをこらえ体に鞭をうつ。
(そうだ・・・俺はここでへばるわけにはいかない・・・!!!)
「うおおおぉぉぉぉ!!!!」
霞は今までの思い出を武に伝えようとしていた。
(白銀さん・・・)
霞は必死にプロジェクションをする。
記憶の中余すところがないくらいに。
(・・・!?)
一瞬武に変化が現れた。
(っ!!・・・)
一瞬の変化に気を取られそうになったがすぐに意識を集中してプロジェクションを再開する。
(・・・白銀さん!・・・白銀さん!!)
自分にできるありったけの力をつかって武に呼びかける。
(お願い・・・白銀さん・・・)
霞はこれで最後だというように力を振り絞った。
「私に・・・こたえてください!!!」
「うおおぉぉぉぉ!!!!!」
抜刀縦斬り、そしてすぐに横に薙ぎ払う。
接近してきた、遊撃級は武の放った長刀によって切り伏せられた。
『白銀・・・さん・・・?』
霞の声が聞こえる。
「霞、もう大丈夫だ」
感覚がしっかり戻ったことを確認しながら応答する。
「しっかり霞の思い出は伝わったよ。・・・俺にはまだやることがある。そのすべてがはっきりとわかっているわけじゃないけど、霞との約束は思い出すことができた。その約束のためにも俺は今倒れているわけにはいかない。」
残弾数を確認する。
錯乱時に相当の弾を使ってしまったが多少残っている。
「よし!01白銀!これより作戦を続行する!!!」
武はジャンプユニットを左右に展開する。
右手に長刀、左手に突撃銃を装備し戦場を縦横無尽に駆け巡る。
「お前らには負けない!!俺には・・・俺には・・・!!!!負けられない理由があるんだぁぁぁぁ!!!!!」
遊撃級に突撃し、長刀で切り抜けた後すぐさま振り向いて突撃銃で止めを刺す。
直後接敵アラートが鳴り響く。背後だ。
すぐさまジャンプユニットのバーナーを吹かし後方に飛びながら宙返りを行う。
宙返り中、突撃銃を打ちながら着地と同時に遊撃級に突撃し、切り抜け止めを刺す。
不知火は戦場を駆け巡りすぐに周囲のBETAを掃討した。
「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・」
武は息を整えて状況報告をする。
「こちら01。周囲のBETAの掃討を完了。これより残存BETAの掃討を開始する。」
周囲の遊撃級を中心としたBETAは掃討したが、遠方にはまだBETAが残っている。
『CP・・・了解・・・あの・・・白銀さん・・・大丈夫ですか・・・?』
武からの状況報告を受けると同時に霞は武に心配の声をかける。
「ん?あぁ、大丈夫だ。霞に礼を言っておかなきゃな。おかげでしっかりしてる。開始前より調子がいいくらいだ。」
そう言うと霞は安心したような表情を浮かべた。
「残りは後もう少しだ。ほんの少しだけ待っててくれ。」
『・・・はい!』
―――
――――――
―――――――――
――パシュウ――
任務を終えてシュミレーターの中から出ると霞が待っていた。
「お疲れ様です・・・」
「あ、あぁ、そっちもおつかれ。それにありがとうな。」
俺は霞に感謝する。
「あのまま記憶の流入がおき続けてたら本当にヤバかったなぁ。マジで廃人になるかと思ったぜ・・・霞は命の恩人だ!ありがとう!」
ほんの少し大げさかと思ったが感謝の気持ちを表すには十分だろう。
「そ・・・そんな・・・私は・・・。」
顔を赤くして俯いてしまった。
フフフ・・・可愛いやつめ。
「・・・ですけど・・・」
落ち着いたのか霞は顔をあげる。
・・・まだ少し照れているようだ。
「・・・ですけど・・・助けることができたのも・・・白銀さんの・・・おかげです・・・。白銀さんが私に・・・思い出をくれたから・・・」
照れながらだがしっかりと気持ちは伝わった。
「そうか?だけどまだ海に連れて行ってやるっていう約束はまだ守ってないぞ?」
「それでもいいんです・・・その約束が私にとって大事な思い出ですから・・・」
・・・そんなこと面と向かって話されれば恥ずかしくないわけがなかった。
「そ、そうか・・・そ、それよりもう昼だ飯食いにPX行こうぜ。」
「・・・そうですね。」
雰囲気を察したのか霞は微笑みながら答えてくれた。
※修正:12月27日:霞の最初の方の台詞の「夕呼先生」→「香月博士」に修正
:12月28日:「ハイブ」→「ハイヴ」に修正