(ここは・・・どこだ?)
光り輝く世界で彼は問うた。
(今は・・・いつだ?)
光り輝く世界で彼はまた問うた。そして・・・
(私は・・・誰だ?)
そこで光り輝く世界は終わりを告げた・・・
『・・・・・が・・・・ん・・・・』
(誰かの声が聞こえる・・・)
『・・・ろ・・ねさ・・・・・・・』
(誰だ?何を言っている?)
『・・し・・・・がさん・・・・』
(言葉がさっきより鮮明に・・・)
『・・・しろがねさん・・・』
(さっきよりもはっきりと聞こえる・・・『しろがね』とは・・・誰だ?)
「・・・白銀さん!・・・白銀さん!・・・」
―ガバッ―
自分は体を起こす。
やっと、意識が覚醒したようだ。
「ここは・・・どこだ・・・?」
周りを見回す。
とにかく散らかっている部屋だ。
目に付くのは大きな机だが、その上には紙が何重にも積み重なっている。
はっきりとはわからないがここは誰かの仕事場なのだろう。
「!!っと・・・」
横から何かが抱きついてきた。
それは黒い衣服を身に着けた少女だった。
白い髪と肌と、ウサギの耳のような飾りをつけた特徴的な少女だ。
「・・・・ッ・・・・ヒク・・・・・」
少女は泣いているみたく、一向に顔を上げない。
私は少女が泣き止むまで待つことにした。
「・・・・・・・・。」
しばらくすると少女は泣き止んだ。
「大丈夫か?」
私が聞くと体を離して頷いた。
「大丈夫・・・です・・・。」
「そうか、よかった。」
おそらくこれで普通に会話ができる状態になっただろう。
(これなら質問しても大丈夫かな?)
「えっと、君に少し質問があるんだけど・・・大丈夫?」
そう聞くと少し驚いたようだがすぐに頷いた。
「そうか。じゃあ聞くけど、ここがどこだかわかるかな?」
少女は驚き戸惑うような素振りを見せたがすぐに答えてくれた。
「ここは・・・香月博士の・・・書斎です・・・」
(つまり、私は知らないうちに『香月』という人の仕事場で寝ていたということになるのだろう。)
「だが、どうして私はここで寝ていたんだ?」
その独り言にも聞こえる質問に、少女は返事を返す。
「いえ・・・別の部屋で倒れていたのでここまで運びました。」
私はなぜ『倒れていたのか』少しだけ疑問に思ったが、今はそれよりも大事なことがある。
「そうか、君が運んでくれたのか。ありがとう。聞き忘れていたが君の名前を教えてくれないか?」
相手の名前を聞いていなかった事に気づき、少女の名前を聞こうとした。
すると少女は顔が見えなくなるくらいうつむいてしまった。
「・・・社・・・霞・・・です・・・」
少し声が震えて聞こえるのは泣き出してしまったからだろう。
「えっ!えぇっと・・・大丈夫?変なこといっ――」
―ズキン―
言い終える前に強烈な頭痛に襲われた。
「ぐうぅぅぅ・・・!!」
(何なんだ!?この痛みは!!頭に・・・頭に何かが入ってくる・・・食堂?屋上?研究室?まだ入ってくる!?ここはどこかの高台か?っ!次は学校?の坂か?枯れた木がたくさんある・・・!!この子は・・・)
『またね。』
(知って・・・いる・・・のか?わた・・・し・・・いや・・・お・・・れ?はこの子・・・を・・・)
頭に流れ込んでくる絵には必ず、今話していた少女が写っていた。
(この映像は・・・なんなんだ?)
「!!っ・・・」
意識が覚醒した。
「大丈夫・・・ですか?」
頭痛の余韻が残っているが気になるほどではない。
少女は先ほどとは違い、少し驚いていたがすぐに微笑を浮かべ、泣いていたような素振りは無い。
「あぁ、大丈夫だ。か・・・社さん」
霞といいそうになったが、普通に考えればさっきの映像が本当のことなのか確信は無いのだ。
ましてや、これが初対面でないという事もない。
ところが社さんは、
「霞・・・でいいです・・・。霞と呼んでください・・・。それに・・・初対面ではないですから・・・」
俺は驚いた。霞が積極的に自らの名を呼んでほしいといったことに。
何故かはわからないが少しうれしかった。
「えっと・・・じゃあ、霞?」
ウサギの耳のような髪飾り(?)がピコピコ動いて反応する。
俺は最後の質問をすることにした。
「もう一つ聞きたいことがあるんだ。さっき言っていた『白銀さん』って――」
聞こうとしたときだった。
―パシュウ―
「あら、お目覚めのようね。救世主さん。」
白衣を着た女性が部屋に入ってきた。
「何よ?『あなたは誰?』みたいな顔して。初対面じゃあるまいし。」
「初対面・・・じゃないんですか?」
女性は唖然として「まさか。」と言い霞を呼ぶと、何か話を聞いているようだった。
少しすると霞から話を聞き終わったのか、「なるほどね。」と言うとイスに座り話しかけてきた。
「あなたに何個か質問するからできるだけ答えてちょうだい。」
俺はいきなりだったので少し戸惑ったが、すぐに「わかりました」と返事をした。
「じゃあ、まず一つ目。自分のことはどのくらい覚えてる?」
(自分のこと・・・・・・あれ?まったく思い出せない・・・そもそも自分が『誰』かもわからないのに覚えてるわけが無いじゃないか。)
「・・・すいません。わからないです・・・。自分の名前も思い出せないので・・・。恐らく自分よりあなた方のほうがよく知っているんじゃないかと思います。」
もう一度「わかることは一つも無いの?」と聞かれたが「はい・・・」としか答えることができなかった。
「そう・・・じゃあ、あたしが誰だかもわからないわけなのね?」
やはり「はい・・・」としか答えようが無かった。
「・・・はぁ、わからないんじゃしょうがないけど名前とかここはどことか知っておかないと大変ね。」
と言うと少しこちらに体を向きなおし口を開いた。
「まず、ここが何処かというところから。ここは国連太平洋方面第十一軍、横浜基地。そしてあたしはここの実質的責任者、香月夕呼。」
香月夕呼の話を聞くと引っかかるものがあった。
(横浜基地・・・香月夕呼・・・夕呼・・・先・・・生?あ・・・れ?俺はどこかで会って――)
「うぐっ!!」
俺をさっきと同じような頭痛が襲う。またしても『記憶』が流れ込んでくる。
何故自分で『記憶』だとわかるのかがわからないが、確かにこれは自分の『記憶』だと実感がある。
(そうだ、俺は夕呼先生を知っている。あぁ。霞のこともよく知っている。まだ完全ではないが横浜基地のことも知っている。まだ、もやがかかったところがたくさんあるが今はこの分思い出していれば十分だろう。)
そうして、考えることをやめると静かに頭の痛みは引いていった。
「大丈夫?落ち着いた?」
「はい、もう大丈夫です。」
「そ、じゃあ思い出したことを言ってみて。」
恐らく一回目の記憶流入を霞が特殊能力のリーディングで読んだものを聞いたのだろう。
少しせかすような口調で話してきた。
「はい。俺が思い出したのは夕呼先生と霞のことと、横浜基地のことを少しです。あと自分が『白銀武』だということくらいですね。」
記憶の中で夕呼先生によく『白銀』と呼ばれていた気がする。
何の記憶、いつの記憶かまだわからないが『しっかりやんなさいよ!!白銀武!!』という言葉が聞こえて自分が白銀武だということを確信した。
「戦術機のことは思い出した?」
―戦術機―
戦術機は戦術歩行戦闘機の略で地球外生命体『BETA』と戦うために作り出されたロボットだ。
記憶が曖昧ではっきりとはしないが俺も乗って戦っていたような気がする。
「完全には思い出していませんが一応基礎だけは覚えています。」
「そう、じゃあ明日はシュミレーティングしてみるから今日はもう部屋に戻って寝なさい。」
時間を見るともうすでに深夜だった。
「部屋はそのままだから気にしなくていいわよ。」
それを聞いて安心した。
「ありがとうございます」と一礼して部屋を出ようとしたとき、
「あ、そうそう今のあんたは精神的に非常に不安定な状態だから、隣の部屋に霞を待機させておくからね。」
「え?あ、はい。」
夕呼先生は不敵な笑みを浮かべ・・・
「なぁに~?隣の部屋じゃ不満~?じゃあ、同じ部屋で添い寝でもさせてあげましょうか?」
なんだか、夕呼先生の冗談を聞くと安心した気分になる。
「勘弁してください。」
だが、さすがに添い寝は厳しいので受け流す。
そうして、俺は自分の部屋に戻っていった。
香月夕呼は閉まった扉を見つめていた。
「はぁ・・・また問題が増えたわね。」
今は白銀のことも気がかりだが――
「ん・・・」
(また、きてるわね・・・)
夕呼にも記憶の流入が起こっていた。
武ほど激しいわけではないが少しずつ、けれども確実に流れてきていることがわかった。
夕呼の記憶の流入はこれで二回目だが一回目の少し違っていた。
一回目はなにやらいろんな映像だったが、二回目は『声』が聞こえたのだ。
そして、確かに自分の声で『まりも』と何回も叫んでいた。
(まさか・・・ね・・・)
不安と疑問を抱えながら夕呼は自分の仕事に戻った。
武の消えた元の世界でも変化が起きていた。
香月夕呼は学校の物理準備室で実験を行っていた。
今研究中の因果律量子論である。
実験は八時半から続けていたが、九時になる少し前に実験をしていた機械が暴走し出した。
夕呼は焦った。
自分の理論は正しかった。
機械も間違いなく正常に作動していた。
何故、突然暴走したのか夕呼にはわからなかった。
そもそも、暴走するほどの電力は無かったはずなのに。
今はそんなことを考えている暇は無い。
夕呼はすぐに強制停止させようとしたが、激しい閃光で近づくこともできない。
準備室は光に包まれようとしていた。
・・・と、そのとき扉が開かれた。
光は一瞬のうちに、引き寄せられるように扉の方に集まる。
夕呼は光の中心にいる人物に叫んだ。
その瞬間、光はさらに強くなり目を覆った。
光が引くとそこには何も無かったかのように静まり返っていた。
・・・まずい・・・夕呼は思った。
たとえ事故であっても、人一人確率時空の世界へ送ってしまったのだ。
しかも、扉の前には何も無い。
ということは、あいつがもうすでに死んでいるか、そもそも産まれていない世界に飛んだかのどちらかだ。
少なくともこの世界への干渉が無い状態では、この世界に戻すことも対策を考えることもできない。
一人考えていたところへ誰かが物理準備室に来たようだ。
夕呼は確認するために扉の方を向いた。
そこには親友の神宮寺まりもがいた。
――のだが頭を抑えうずくまり、何か恐怖を感じているようだった。
夕呼はすぐに駆け寄りまりもの名前を叫んだが、声が届いていないようだ。
夕呼は何度も叫んでいたが自分も次第に様子がおかしくなり、視界が暗くなり、ついに意識が途切れた。