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No.101の一覧
[0] ”運命”の子供達 ~7日間の黙示録[行](2005/02/06 17:39)
[1] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月1日・昼[行](2005/02/06 17:40)
[2] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月1日・夜[行](2005/02/06 17:41)
[3] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月2日・昼[行](2005/02/07 21:07)
[4] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月2日・夜[行](2005/02/07 21:09)
[5] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月3日・昼[行](2005/02/08 20:33)
[6] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月3日・夜[行](2005/02/08 20:35)
[7] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月4日・昼[行](2005/02/09 20:45)
[8] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月4日・夜[行](2005/02/09 20:47)
[9] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月5日・昼[行](2005/02/10 20:31)
[10] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月5日・夜[行](2005/02/10 20:35)
[11] おまけ・サーヴァント解説[行](2005/02/11 16:05)
[12] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月6日・昼[行](2005/02/11 19:38)
[13] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月6日・夜[行](2005/02/11 19:39)
[14] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月7日・夜[行](2005/02/12 19:57)
[15] あとがき[行](2005/02/12 20:02)
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[101] 「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月5日・昼
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Date: 2005/02/10 20:31

 


 


「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」2月5日・昼

 


 


 


 



 夢を見ていた。少女の夢を。

 夕暮れの教室、そこに残っているのは幼なじみの少年と眼鏡の少女だけだった。少女は偶然それを目撃する。

「わたしね、転校するの」

 眼鏡の少女の頬が赤いのは夕焼けのためだけではないだろう。彼女の声が少し震えている。拳は胸の前で固く握り締められていた。

 彼女の言葉に、少年は少なからぬ衝撃を受けているようだった。

「……そうなんだ、寂しくなるね」

「そう思ってくれる?」

「も、もちろん」

 廊下にいる少女は二人の死角に隠れながら、二人が交わす言葉に耳をそばだてている。こそ泥のように盗み聞きをするなど、誇り高い少女にとってはあってはならないことのはずだった。だが現実に少女は今、みじめで見窄らしい行為に及んでいる。自分にこのような行為をさせている少年に対し、少女は憎しみの炎を燃やした。

「……あの、わたし、これで最後だから、聞いてほしいことがあって……」

 彼女が何を言おうとしているのかを少女は悟る。少年もどうやら理解しているようである。少年の唾を飲み込む音が少女の耳にも届いたような気がした。

(あいつ、普段はぼけぼけの鈍感バカのくせして……!)

 怒りのあまり少女の歯が軋んだ。

「あの、わたし……あの……」

 彼女の声がどんどん小さくなり、囁くような声になる。そして声の大きさは少女が盗み聞きできる範囲を下回った。だが、少年にはその声は確かに届いていた。少年が彼女へと答えを返す。

「……あの、もちろん僕も君のこと……」

 少女は少年の答えを最後まで聞くことなく、その場から逃げ出していた。

(何でそんな女のことを……そいつのことなんか関係ないのに)

(あいつはあたしだけを見てくれていると思っていた)

(あいつはあたしだけと一緒にいてくれると思っていた)

(あいつはあたしだけを守っていてくれると思っていた……これからもずっと)

 子分、下僕、そんな言葉で頑なに心を守り抜いていた。だがその鎧は現実によって打ち砕かれる。鎧の下にあった幼く弱い心に傷を受け、
少女は泣いた。一晩中、涙が枯れるまで泣き明かした。

 数日後、眼鏡の少女は学校から去っていった。少女は胸を撫で下ろす。彼女のために少年との間に空いた隙間を、少女は時間を掛けて慎重に埋めていく。2月も経った頃には少年との関係は以前と同じになっていた。まるで眼鏡の少女が最初からいなかったかのように。

 だが、少女が彼女のことを忘れることは決してなかった。彼女はこれからも、いつまでも少女の心にあり続けるだろう。彼女が教えてくれた胸の痛みと、自分の少年への想いとともに。

 


 


 


 


 時刻は既に正午を過ぎている。碇邸ではシンジが少し遅めの昼食を用意していた。

 昨晩、ライダーとの接近遭遇後、シンジとアサシンは早々に碇邸へと逃げ戻ってきた。布団に潜ったシンジは眠ろうとしてなかなか眠れず、恐怖と悔恨にまみれた夜を過ごしながら明け方を迎える。午前中に何とか睡眠を確保し、ようやく起き出してきた次第である。

 シンジは憂鬱な思いを抱えながら機械的に調理を進める。自分とアサシンしか食べる者がいなければインスタントラーメンで終わらせるところなのだが、レイやゲンドウにそんなものを食べさせるわけにもいかない。アサシンは料理するシンジの背中に主婦の哀愁を感じたような気がしたが、多分気のせいだったろう。

 レイはゲンドウの元へと料理を運んで、二人で食べるようである。シンジとアサシンは台所で卓袱台に付いて昼食を取っていた。自分で作っておきながら美味くもなさそうに箸を進めるシンジ。アサシンはシンジに対し何か言いたげにしていたが、結局何も言わなかった。

「よう、シンジ君」

 突然台所に現れたのは、加持だった。

「えっと、加持さん」

 シンジは確認するように加持の名前を呼ぶ。加持は何かを待つように台所の入り口で佇んだままだ。

「……加持さん、リツコさんはどうしていますか?」

 シンジは躊躇いながらもそれを訊く。加持は少し遠回りをしながらそれに答えた。

「昨日取引をしたんだ。りっちゃんがこの戦争の勝者となった場合、りっちゃんは俺に聖杯に関する情報を提供する。その代わり、俺はりっちゃんが勝てるよう協力する、というものだ。協力の一環として、俺が作った対アレックス用の監視網をりっちゃんに譲り渡した。りっちゃんがそれを使って何をするか、シンジ君には判るかい?」

「今キャスターのマスターが優先しようとしているのは、セイバーのマスターの殺害です。セイバーのマスターが単独で行動するのを把握しようとしているのではないでしょうか」

 シンジに代わってアサシンが答える。加持はアサシンの答えに肯定を示した。

「そういうことだ。そして今、セイバーのマスターがライダーから離れて単独行動をしている」

 シンジが腰を浮かし、膝で卓袱台を蹴った。

「リツコさんが……?」

「セイバーとそのマスターを襲撃しようとしている」

 加持の言葉にシンジは顔を俯かせ、唇を噛み締める。アサシンが、

「場所は判りますか?」

 そう加持に問い、加持が居場所の詳細をアサシンに伝える。アサシンはその一字一句を脳裏に刻んだ。

「……ここから遠くない。セイバーの方もシンジ君とアサシンへの襲撃を企んでいるんじゃないかと思う」

 加持とアサシンは何かを期待するようにシンジの方に顔を向ける。だがシンジは拗ねたようにそっぽを向いていた。

「僕が行かなくったって……セイバーは最強のサーヴァントで、不死身の英雄なんだから」

「ああ、『ニーベンゲルンの指輪』のジークフリートだったか。君がりっちゃんに情報提供したんだろう? 確かにジークフリートは強力な英霊だが、弱点が判っている以上恐れる必要はさほどない。キャスターはジークフリートにとっては天敵みたいな英霊なんだ」

「どういう意味です」

 アサシンが問い、加持はシンジ達に説明する。

「キャスターの真名はオイディプス、その宝具は『呪われた神託』と言う。何千年にも渡る信仰により、オイディプスと『呪われた神託』が一体化してしまったらしい。キャスターが神託したことは必ず実現するんだ。その宝具の本質は確率操作、敵の不運を極大にして死という結果をもたらす……『キャスターの剣がセイバーの弱点を貫く』、そう神託すれば必ずそれが実現する」

 シンジとアサシンは、バーサーカーと戦った時のキャスターを思い返していた。

「貴様の攻撃は私には届かん!」

 確かにバーサーカーはその言葉にまるで暗示に掛かったかのように攻撃を空回りさせていた。あの言葉が宝具だったのだ、とシンジ達は思い当たっていた。

 加持の説明が続く。

「サーヴァントとしての魔力容量・剣の技術・英霊としての信仰、あらゆる点でセイバーはキャスターに勝っている。普通に戦えばキャスターがセイバーの弱点を突ける可能性は非常に低い。だが戦いである以上何があるか判らない、セイバーの弱点を突ける可能性はゼロじゃない。そしてキャスターの宝具は、そのゼロに近いような可能性を強引に100にまで引き上げるものなんだ」

 シンジの身体が左右に揺れる。葛藤のあまりじっとしていられないようである。そんなシンジを加持とアサシンが見つめ、シンジは不審・不満・不安に満ちた視線を加持とアサシンに等分に送る。

「僕にどうしろって言うんですか……? 『世界を救うにはアスカを殺すしかない』、加持さんもリツコさんのその判断が正しいと思うからこそリツコさんに協力したんでしょう?」

「りっちゃんの判断は間違っちゃいないさ。だがりっちゃんに反対することも間違っているとは思わない」

 加持の言葉にシンジは目を見開いた。加持は肩をすくめる。

「正義や真実は人の数だけあるものさ。その中でどの正義を選ぶかは自分で判断して自分で決断するしかない。……俺は君がどんな決断をしようと責めるつもりは一切ない。ただ、自分が後悔しない決断をしてほしい、そう思うだけさ」

 胸の前で汗を握ったり開いたりしていたシンジの拳が、やがて鉄のように固く握り締められた。決意に満ちたシンジの瞳がアサシンを見つめる。

「アサシン、リツコさんを止めに行く」

「了解しました、シンジ」

 アサシンが即答し、発条のように立ち上がった。コートを掴んだシンジが風のように加持の前を駆け抜け、アサシンがそれに続く。加持はそれを微笑みながら見送っていた。

 


 


 


 


 町外れにある、何年も前に閉鎖されたと思しき工場跡。その敷地内の、中庭かグラウンドのようなスペースで、2人のサーヴァントが激突していた。

 セイバーが長剣を閃かせ、キャスターがそれを剣で跳ね返す。セイバーの剣戟は破壊槌のように力強く、流水のように淀みがない。その速度は人間の動体視力の範囲に収まるものではなかった。セイバーの連続攻撃が剣舞のようにキャスターを襲う。だがキャスターはそれを全て剣で受け、あるいは避けていた。セイバーの長剣はキャスターにかすりもしていない。

「何やってるのよセイバーっ!」

 苛立ったアスカがセイバーに罵声を浴びせる。セイバーは一見冷静さを保ったままだが、その剣閃からは次第にしなやかさが失われていった。速さと打撃力だけに気を取られたセイバーの剣は、ますます避け易いものとなっていく。キャスターはセイバーに長剣を空振りさせ、少し間合いを取った。

「無駄だ。貴様の剣は私に触れることもできん」

「無駄よ。ジークフリートであろうとキャスターに敵うはずがないわ」

 キャスターとそのマスターが傲然と言い放つ。アスカはさらに余裕をなくし、ヒステリックになった。

「セイバー、宝具を使いなさい!」

 セイバーはどうやら、キャスターの正体を掴む前に宝具を使うのは気が進まないようである。だがマスターに逆らうことなく、魔力を長剣に集中させた。

 一方リツコもキャスターに命ずる。

「キャスター、貴方も宝具を使って構わないわよ」

 キャスターはわずかに片方の頬を上げた。

 魔力が集中するあまり、セイバーの長剣は目が眩むほどの輝きを放っている。長剣が放射する魔力と死の気配は肌を焦がすほどのものだった。だがそれを真正面から受けてなお、キャスターは涼しげに剣を構えている。

「貴様の宝具が私を傷付けることはない。地面に大穴を開けてそれで終わりだ」

「それは予言か?」

「いいや、神託さ」

 セイバーとキャスターの短い会話が終わる。最早話すことなど何もなかった。あとはただ持てる魔力の全てを叩き付け、敵を存在ごと抹殺するだけだ。セイバーがその宝具の真名を、魔力を解放した。刃のような鋭さで己が宝具の真名を呼ぶ。

「怒れる神の剣!!」

 大地を打ち砕くように、セイバーが神剣グラムを袈裟懸けに叩き付けた。だがキャスターの身体を肩から両断するはずだったグラムは空しく宙を斬り、大地に突き刺さる。神剣グラムは直径数メートルにも及ぶ巨大なクレーターを生み出した。だがキャスターはその淵に無傷で立っている。爆風で吹き飛んだ石礫の一つすらキャスターを傷付けたりはしなかったのだ。

 セイバーは自ら作った爆心地に棒立ちになり、大きく見開いた目をキャスターに向けている。包帯で目を完全に覆ったキャスターは、その表情を窺うのが難しい。だが今キャスターは確かに口の端に皮肉げな嗤いを浮かべていた。

「セイバー!」

 アスカの罵声はまるで悲鳴のようだった。だがセイバーはあくまで冷静にアスカを呼ぶ。

「マスター、奴の性質がやっと判った。奴が口にしたあの言葉、あの神託が奴の宝具だ」

 それを聞いたアスカが多少なりとも魔術師らしさを取り戻す。

「神託が宝具? 『セイバーの剣がキャスターに触れることがない』って言ったあの神託……口にした神託がそのまま実現する宝具ってこと?」

「よく判ったわね、セイバー」

 セイバーの推測をリツコが肯定する。

「キャスターの宝具は『呪われた神託』。キャスターが神託したことは確率を踏みにじって必ず実現する。それがキャスターの宝具よ」

「そんな宝具を使える英雄、聞いたこともないわよっ!」

 アスカが叫ぶように憤懣を吐き捨てた。リツコは薄く笑いながら肩をすくめる。

「そうね、わたしも聞いたことなかったわよ」

「マスター、落ち着け」

 セイバーはアスカを宥めるべく言う。

「確かに強力な宝具だが、それだけに無理があるはずだ。あんな宝具を無制限に使えるわけがない。使用回数、または使用範囲、何らかの厳密な制約があるのは間違いない」

「さすがゲルマン神話の英雄、油断がならないわね」

 リツコが警戒するようにセイバーを見据えた。続けてキャスターへと視線を送る。

「キャスター、足下をすくわれないうちに終わらせてしまいなさい」

 キャスターは「よかろう」と頷いた。そして包帯の下の瞳を真っ直ぐにセイバーへと向け、厳かに宣告する。

「セイバー、この剣が貴様の弱点を貫く」

 キャスターが剣の切っ先をセイバーへと突き付ける。さすがのセイバーも顔色を変えていた。アスカは顔面を蒼白にし、身体を小さく震わせている。

 剣を真っ直ぐに突き出したキャスターが一歩足を進める。セイバーは冷や汗を流しながら一歩後ずさった。キャスターが進む分、セイバーが後退する。両者の距離が縮まらない一方、アスカとセイバーの距離が開いていった。それを見ていたリツコがキャスターに指示を出す。

「キャスター、セイバーのマスターを狙いなさい」

 キャスターが包帯の下の目でアスカを見据え、アスカは身をすくませた。蛇に睨まれた蛙のように身動きのできないアスカ。キャスターがアスカへと向かい、剣を振り下ろそうとする。セイバーが背後からキャスターに追い縋るが、届かない。数瞬の後にはアスカはキャスターの剣に心臓を貫かれるはずだった。だが、

「何……!」

 キャスターの剣は、降って湧いたように突然現れたアサシンの短刀により弾き返されていた。アスカは自分を守ったアサシンの背中を呆然と見つめている。アサシンが追撃すべく短刀を振るおうとするが、キャスターは大きく後退してアサシンとの間合いを取った。

 セイバーは当惑したようにキャスターとアサシンとを等分に見つめている。リツコは苦々しげな顔をしていた。3人のサーヴァントが奇妙な三竦み状態となって沈黙している。その微妙な力の均衡は、最後の人物の登場によって破られた。

「アスカ!」

 全力疾走でこの場に現れたシンジは、前屈みになって荒い呼吸を繰り返している。

「どういうつもり、シンジ君。私の邪魔をしようというの?」

 リツコの詰問に、シンジは即答した。

「そうです。アスカを死なせません」

 アスカが大きく目を見開き、セイバーが片方の眉を吊り上げた。リツコが聞こえよがしにわざとらしくため息をつく。

「アレックス・ラングレーの計画が実現すれば全世界の数十億の人間が死ぬことになるわ。シンジ君はたった一人の女の子のために数十億の人間を見殺しにしようというの?」

 シンジはゆっくりと首を振り、穏やかな口調でリツコに言った。

「間違ってますよ、リツコさん。アレックスの計画が実現すればアスカも死んでしまう。数十億と一人、どちらを選択するかなんて問題じゃないんです」

「確かにそうね、でも結論は同じだわ。数十億とゼロ、どちらを選ぶかなんて考えるまでもないことよ」

 リツコは数字の権化となったかのようにそう言い捨てる。だがシンジはそれでも首を横に振る。

「選択肢はそれだけじゃない。僕が選ぶのは数十億プラス1……アスカは死なせない、アレックスの計画も阻止する、それが僕の選択です」

 シンジは一同を見回し、決然と宣言した。

「聖杯を破壊します」

 アスカの瞳がシンジを見つめ、離さない。シンジがアスカに微笑みかけ、アスカの瞳から涙が零れそうになった。だが、リツコは残念そうに首を振る。

「……無理よ、どんな英霊だってライダーには勝てないわ。シンジ君は敗北し、唯一神が降臨して地上の数十億の人間が一掃される。それを避ける確実な手段がここにあるのに、それを使わない手はないわ」

 顔を伏せていたリツコが再び顔を上げた時、そこには一切の感情を捨てた冷酷な魔術師しかいなかった。

「惣流アスカを殺すわ。邪魔をするならシンジ君、貴方も排除する」

「僕はアスカを守る、アスカを傷付ける全てから」

 シンジとリツコの視線が宙で交差し、火花が散った。リツコが後退し、キャスターがシンジの前へと進み出る。シンジを庇うように、アサシンがキャスターの眼前に立った。そのまま両雄が対峙する。

 シンジは後方に退いてアサシンを見守ろうとする。が、そのシンジの肩に冷ややかな刃が乗せられた。シンジが後ろを振り返る。

「……先程の言葉は本気か? アサシンのマスター」

 長剣の刃と同程度に冷たく鋭い瞳がシンジを射抜いた。

「セイバー、何してるのよ!」

 アスカがセイバーを止めようとするが、セイバーはアスカを無視した。シンジの足は震えそうになるが、シンジはセイバーに対し胸を張って見せる。

「もちろん本気だ。僕はアスカを守る」

「妄想だ」

 セイバーは一言で斬って捨てた。

「ライダーの力がどれ程のものか、貴様は理解していない。人間の身で神に挑むのと同じなのだぞ。それでも戦おうというのか、アサシンのマスター」

「戦う。諦めるなんてできない」

 セイバーの眼光がシンジの瞳を貫く。セイバーの瞳が放つ殺気だけでシンジは気を失いそうになるが、シンジは足を踏ん張った。シンジは瞳に迷いの欠片も交えず、セイバーを見つめ返す。不意にセイバーがゆっくりと長剣をシンジの肩から離し、振りかざした。長剣は光の速さで振り下ろされる。シンジがそれを避けられたのは僥倖以外の何物でもない。シンジは腰を抜かしたように無様にしりもちを付いていた。

「セイバー!」

 アスカが悲鳴を上げるが、セイバーはそれに構わない。セイバーの長剣がシンジの喉笛へと狙いを定めた。

「貴様の覚悟がどの程度のものか、試させてもらう!」

 セイバーの長剣が一閃する。シンジは後ろに飛んでそれを転がり避けた。シンジはアサシンの足下まで転がり這い進む。だがアサシンは既にキャスターと斬り結んでいた。アサシンは短刀を力任せに押し出して一旦キャスターを弾き飛ばし、

「シンジ、これを!」

 その隙に背中の長剣をシンジへと投げ渡した。シンジはアサシンの長剣を掴み取り、鞘を投げ捨てるようにして剣を抜く。

「ほう……!」

 セイバーの口から感嘆が漏れた。アサシンの長剣は剣としては大して長いものではない。せいぜい1mを越えるくらいの長さである。幅はかなり広く、中央部が膨らんでいる。そしてその刀身は水のように透明で氷のように鋭く水晶のように輝いていた。

「それがアサシンの宝具か。私の宝具にも充分対抗できるくらいの、かなりの神秘と魔力を秘めているようだな。それに背負っている信仰も相当に強い」

「当然だ、これは日本最高の宝具、日本最強の神剣なんだ!」

 セイバーが斬撃を繰り出し、シンジは剣を盾にしてそれを受け止める。アサシンの剣はセイバーの長剣を全て受け止め、跳ね返す。だが剣を越して受けた斬撃であっても、シンジには確実にダメージが貯まっていった。一撃ごとにシンジの気力と体力がごっそりと奪われていく。


 一方、キャスターとアサシンは剣と短刀をぶつけ合っている。両者の力量に大きな差はなく、しばらく均衡が続いた。両者の刃が激突し、力と力の押し合いとなる。力となればキャスターに分があった。キャスターがアサシンの身体を弾き飛ばし、アサシンもキャスターの力を利用して後方に飛び、両者の距離が大きく広がる。わずかな隙を作ったキャスターが口を歪め、その宝具を使用した。

「アサシン、貴様の刃は私には届かん!」

 アサシンはかすかに眉をひそめただけで、冷静な表情を保ったままでいる。キャスターがにじり寄るように少しずつ歩を進め、アサシンは獲物へと跳び掛かろうとする肉食獣のように身体を屈めた。

 一方、シンジはセイバーを相手にしてまだ立ち続けている。シンジはアサシンの剣を盾代わりにし、セイバーの長剣をひたすら受け続けていた。シンジからはまだ一度も攻撃していない。

「どうした! 神に挑もうという覚悟を私に示して見せろ!」

 セイバーは左に右にと長剣を振るい続ける。シンジの身体は打ち身と切り傷で既にボロボロである。未だ立っているだけでも充分賛嘆に値した。だがセイバーは容赦なく斬撃を繰り出している。セイバーは気を抜くことも油断することもなかった。シンジの瞳はまだ死んでいない。堅い意志の光を灯し、希望を見つめ続けている。

 セイバーにはシンジの見ている希望が何か見極められなかった。だがその気力ごとねじ伏せてしまえばいいと判断し、力任せに長剣を叩き付ける。シンジの身体は吹き飛ばされ、地面を転がった。シンジにとどめを刺すべく、セイバーが進む。

 一方、アサシンは短刀を腰だめに構え、キャスターの懐へと飛び込んでいく。キャスターはアサシンの身体を両断すべく、剣を両手持ちにして高く振りかざす。アサシンはキャスターの振り下ろした剣を短刀で受け、

「ぐっ……!」

 アサシンの放った蹴りがキャスターの股間に深々と食い込んだ。たまらず屈み込みながら後退するキャスター。続けてアサシンの繰り出した右拳がキャスターの鼻をへし折る。キャスターは血を吹き出しながらぶっ倒れた。

「な……」

 リツコが唖然とする間にアサシンが風となって地を走り、影となってリツコの背後に立つ。リツコが気が付いた時には既に自分の敗北が確定していた。身を起こしたキャスターが見たものは、リツコの首に短刀の刃を当てているアサシンの姿だった。

「キャスター、それまでです。貴方が斬り掛かってこようと、宝具を使おうとしようと、その前にわたしの短刀が貴方のマスターの喉を切り裂いている」

 キャスターは屈辱のあまり顔に血を昇らせ、歯軋りしている。アサシンはそれに構わず、キャスターに命じた。

「キャスター、武器を捨てなさい。そのまま大きく後ろに投げ捨てるのです」

 アサシンが視線と顎で投げ捨てるべき方向を指し示す。キャスターはアサシンの意図を理解したが、敢えてそれに逆らわずアサシンの命令に従う。キャスターは背後へと、自らの頭上越しに剣を投げ捨てた。

 一方、セイバーはシンジの身体を串刺しにすべく刃を下に向けた長剣を振り上げている。そしてその長剣が突き下ろされた。だが長剣は大地を深い穴を穿っただけだ。シンジは身体を転がしてセイバーの股を潜り抜けていた。セイバーの背後に回り込んだシンジが手を伸ばし、キャスターが投げ捨てた剣を掴み取る。シンジはそのまま剣をセイバーの首の後ろに突き付けていた。

「……お前の負けだ、セイバー」

 シンジは肩で息をしながら、必死の思いでそう通告する。

「それで勝ったつもりか? 私はまだ生きているぞ」

 シンジは唇を噛み締めながら剣を持つ手に力を入れた。剣の先端がわずかに首の後ろに沈み、血が流れる。

「せ、セイバー」

 アスカの震える声がセイバーの耳朶を打った。セイバーはため息をつき、肩をすくめる。

「……判った、私の負けだ。認めよう、アサシンのマスター」

「良かった」

 途端にシンジが剣を下ろす。と言うよりは剣を持ち上げているのも限界だったのだ。気力体力が底をついたシンジの身体がその場に崩れ落ちる。

「シンジ!」

 アスカが泣きそうな声で名を呼ぶのをどこか遠くのことのように思いながら、シンジの意識は急速に闇の底へと沈み込んでいった。

 


 



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