1月23日
裏路地の最奥、場末の酒場で加持はグラスを傾けていた。
熱帯の暑さが店に澱んでおり、空調はあまり効いていない。店は広くなく、数少ない客の柄は非常に悪かった。客は一様に地下の住人が発する特有の雰囲気を身にしている。世界のどこだろうと、チンピラが放つ下劣な空気は変わらないようだった。
褐色の肌のチンピラ達は敵意に濁った目で加持の姿をちらちらと盗み見ている。どうやら自分達の縄張りに迷い込んだ東洋人が邪魔で仕方ないらしい。加持はもちろんその視線も敵意も肌で感じ取っているが、一切構わずバーボンを味わい続けていた。そして、店の中央に設置されているピアノを眺める。ピアノを弾き唄う歌姫を眺める。
歌姫は蝶の柄を大胆にあしらったドレスを身にまとい、艶やかな褐色の肌を惜しげもなく晒していた。加持はしばしの間、歌姫の美しい歌声にただ酔いしれる。
やがて歌姫の歌が終わり、加持はバーテンに頼んでグラスの一つを歌姫へと渡した。歌姫は加持へと妖艶な微笑みを示しながら、それを飲み干す。歌姫はカウンターに肘を付いて、加持の側に立った。
「熱心なのね。もう来ないかと思っていたわ」
「まだ時間はあるからな」
加持は歌姫と顔を寄せ合い、睦言のように言葉を交わす。チンピラ達の敵意がますます強くなるが、そんなものは無視である。
やがて歌姫がてをひらひらと動かしながら、店の奥へと下がっていく。加持はそれを追うように店を出た。さらにチンピラ達がそれを追って店を飛び出す。
加持は素早く店の裏手へと回った。そこには蝶のドレスの歌姫が待っており、彼女は加持の腕に寄り添う。
「あの連中に捕まったら面倒だわ。早く行きましょう」
「判った」
(……帰国が予定より1日遅れるが、構うもんか)
加持は頭の片隅で囁く懸念を振り払い、歌姫とともに夜の闇の中を歩いていく。歌姫が歩く度に、豊満な肢体を包む蝶が羽ばたくかのように揺れていた。
「”運命”の子供達 ~7日間の黙示録」まえがき
行(ゆき)と言います。「”運命”の子供達」第2弾を投稿させていただきます。
このSSは拙作
「”運命”の子供達」の第2弾、別ルートになっております。前作とは全く違う経緯、違う経過を辿った「エヴァっぽい聖杯戦争」を描いたものです。
前作を読んでないと訳が判らないと思いますので、読んでおられない方はまずはそちらにお目をお通しください。
それでは「7日間の黙示録」、しばしの間お楽しみいただければ幸いです。