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No.10094の一覧
[0] 萌え?・・・いや、むりっしょ?《ネギまエウ゛ァ憑依》[フィノ](2010/04/03 23:13)
[1] プロローグ[フィノ](2009/11/11 08:53)
[2] プロローグ 2[フィノ](2009/11/11 08:53)
[3] え・・・マジ?な第1話[フィノ](2009/08/01 22:15)
[4] 緊急指令死亡フラグを撃破せよ・・・な第2話[フィノ](2010/02/26 12:17)
[5] 現状の思考と考察・・・な第3話[フィノ](2010/02/26 12:20)
[6] チャチャゼロ・・・・ゼロ?な第4話[フィノ](2010/02/26 12:26)
[7] 良い日旅立ち・・・炎上な第5話[フィノ](2009/08/01 22:19)
[8] 学校とはとにも奇妙なところだな第06話[フィノ](2010/04/13 21:43)
[9] 人間交差点・・・・な第7話[フィノ](2009/08/28 15:17)
[10] 頭痛がおさまらないな第08話[フィノ](2009/08/01 22:21)
[11] 真実は小説よりも奇なり・・・俺のせいだがな第09話[フィノ](2010/04/13 21:44)
[12] モンスターハンター・・・待て、何故そうなるかな第10話[フィノ](2010/02/26 12:29)
[13] 復讐は我にありな第11話[フィノ](2010/02/26 12:31)
[14] 新たな一歩なのかな第12話[フィノ](2010/04/13 21:46)
[15] 肉体とは魂の牢獄なんだろうな第13話[フィノ](2010/02/26 12:36)
[16] 絶賛逃亡中?な第14話[フィノ](2010/02/26 12:37)
[17] 幕間その1 残された者、追うことを誓った者[フィノ](2010/04/13 21:48)
[18] ラオプラナな第15話[フィノ](2009/08/01 22:28)
[19] 思い交差点な第16話[フィノ](2009/08/01 22:28)
[20] 色々とな第17話[フィノ](2009/08/01 22:29)
[21] おいでませな第18話[フィノ](2009/08/01 22:30)
[22] 幕間その2 騎士と主と在り方と[フィノ](2009/08/01 22:30)
[23] 発掘も楽じゃないよな第19話[フィノ](2009/08/01 22:31)
[24] 嫌な確信が出来たな第20話[フィノ](2010/04/13 21:50)
[25] 予想しておくべきだったな第21話[フィノ](2010/04/13 21:59)
[26] あいつらも大変だったようだな第22話[フィノ](2010/04/13 22:14)
[27] 目玉だな第23話[フィノ](2010/04/13 22:35)
[28] 全て世は事も無しな第24話[フィノ](2010/04/13 22:37)
[29] 知らぬが仏、つまりは知らないと死ぬ事だな第25話[フィノ](2009/08/09 13:34)
[30] タヌキとキツネとだな第26話[フィノ](2010/04/13 22:38)
[31] 失態だな第27話[フィノ](2010/04/13 22:39)
[32] さて、どうしようかな第28話[フィノ](2009/08/24 18:15)
[33] 中々にヒドイ事をするな29話[フィノ](2009/08/28 14:04)
[34] 1と0の差かな第30話[フィノ](2009/09/07 12:08)
[35] 時間は勝手に進むものだな第31話[フィノ](2009/09/21 17:04)
[36] 英雄の横顔かな第32話[フィノ](2009/09/28 22:28)
[37] ボロボロだな第33話[フィノ](2009/10/07 00:20)
[38] 夜ももう終わりだな第34話[フィノ](2009/10/16 01:21)
[39] 事故だと思いたいな第35話[フィノ](2009/10/21 19:47)
[40] 幕間その3 曰く、チョーカッコいい男[フィノ](2009/10/29 02:12)
[41] 戦闘or日常さてどっちが疲れるかな第36話[フィノ](2009/11/04 14:11)
[42] 取り合えず叫ぼうかな第37話[フィノ](2009/11/11 13:22)
[43] 気のせいだと思っておきたかったな第38話[フィノ](2009/11/15 20:58)
[44] それぞれの思惑だな第39話[フィノ](2009/11/25 09:56)
[45] 美味しそうだな第40話[フィノ](2009/12/01 16:19)
[46] 互いの牙の間合いだな第41話[フィノ](2009/12/08 01:32)
[47] 幕間その4 仲良くなろう[フィノ](2009/12/08 20:14)
[48] 出発は明朝かな第42話[フィノ](2009/12/18 17:37)
[49] 強い訳だよな第43話[フィノ](2009/12/26 14:10)
[50] 商人・・・、なのかな第44話[フィノ](2010/01/22 01:29)
[51] ケダモノの群れだな第45話[フィノ](2010/01/08 19:08)
[52] 見たかったな第46話[フィノ](2010/01/19 00:19)
[53] 疑うな第47話[フィノ](2010/01/20 01:44)
[54] 無形の有形だな第48話[フィノ](2010/02/03 06:37)
[55] そして歩き出すだな第49話[フィノ](2010/02/03 15:55)
[56] 旅の途中だな第50話[フィノ](2010/02/17 19:39)
[57] 地味に変わってるな第51話[フィノ](2010/02/24 00:17)
[58] 到着、出会いと別れだな第52話[フィノ](2010/02/26 12:10)
[59] 幕間その5 爪痕[フィノ](2010/03/04 23:18)
[60] 難しいな第53話[フィノ](2010/03/06 23:40)
[61] 日常だな第54話[フィノ](2010/03/13 12:39)
[62] その後の半年だな第55話[フィノ](2010/03/22 14:24)
[63] 研究の日々だな第56話[フィノ](2010/04/04 18:01)
[64] すれ違う人々だな第57話[フィノ](2010/04/13 22:55)
[65] 花畑の出会いだな第58話[フィノ](2010/04/25 22:56)
[66] 幕間その6 メイド達の憂鬱[フィノ](2010/05/02 06:47)
[67] 幕間その6 メイド達の憂鬱 中篇[フィノ](2010/05/05 06:13)
[68] 幕間その6 メイド達の憂鬱 後篇[フィノ](2010/05/23 22:37)
[69] ありふれた悲劇だな第59話[フィノ](2010/06/24 21:58)
[70] それぞれの思いだな第60話[フィノ](2010/11/12 06:04)
[71] 強く・・・、なりたいな第61話[フィノ](2010/10/25 22:54)
[72] ブリーフィングだな第62話[フィノ](2010/11/12 14:41)
[73] 彼女達の戦場だな第63話[フィノ](2010/12/01 23:14)
[74] 彼の戦場だな第64話[フィノ](2011/01/26 13:43)
[75] 自身の戦いだな第65話[フィノ](2011/04/18 03:53)
[76] 狗の本分だな第66話[フィノ](2011/04/23 03:32)
[77] 対峙だな第67話[フィノ](2011/05/02 03:37)
[78] 懐かしいな第68話[フィノ](2011/07/07 22:33)
[79] 風の行方だな第69話[フィノ](2011/09/23 23:39)
[80] 彼に会いに行こうかな第70話[フィノ](2011/10/01 03:42)
[81] そんな彼との別れだな第71話[フィノ](2011/10/15 07:37)
[82] 小ネタ集 パート1[フィノ](2009/08/11 22:17)
[83] 小ネタ集 パート2[フィノ](2009/09/21 17:03)
[84] 小ネタ集 パート3[フィノ](2010/02/03 15:53)
[85] 小ネタ集 パート4[フィノ](2010/02/04 03:28)
[86] 作者のぼやき。[フィノ](2010/01/08 00:21)
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[10094] その後の半年だな第55話
Name: フィノ◆a5d9856f ID:9e0e11ed 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/22 14:24
その後の半年だな第55話






エマの元に身を寄せて約1年。
ノーラは洋裁の腕をメキメキと上達させ、今ではエマと共に様々の商品に手を出している。
そして、俺達の元にも待ち人来ると言うことで、黄金の羊ことハスキンズ氏がとうとう現れてくれたのである。
ただ、その羊は案外と言うより、ご他聞に漏れず神なので交渉と言うより、利害の一致の上での交渉となった。
そもそも、俺は神と悪魔とは同一存在だと思っているし、某宗教の言う悪魔とは、そのほとんどが他宗教の神である。

ついでに言えば、俺は神の方がより悪魔より悪魔的だとも思う。
と、言うのも神は絶対の発言を持ち神の発言=ジャスティスと言うことで、神託の騎士は人を殺しまわり、
神を盲信するものは自身の行いに疑問も抱かず人に襲い掛かり、神に選ばれた聖人は、何だかんだで悲惨な人生を送る。
もっとも、それは傍目から見た見解であって、文字どおり渦中の人々にとっては『信じる者は救われる。』を地でいく。
個人的には、一体誰に何が救われたのか、皆目見当もつかないわけだがなんとも。
ついでに言えば、神にはなれないが、処女受胎ぐらいなら多分できると思う。
まぁ、試す気も無ければ試される気も無いが、多分再生するだろう、
色々なものが、いろいろな時に。

それから考えると、案外悪魔は良心的だったりする。
なにせ、代価さえ払えば、その悪魔の叶えられる願いを叶えてくれる。
ある意味非常にビジネスライクでドライな関係だが、それでも宅配ピザよろしく、呼んで、払って、その後の結果を残す。
それに、悪魔の最大の武器はあくまで魔力云々ではなく、人よりより人を知り、最高のタイミングで契約を持ってくることだろう。
だからこそ、人は悪魔の甘言に耳を貸し、貸した料金を持っていかれる。
そんな悪魔と戦う方法は、某宗教曰く文字通り耳を貸さない事なのだから、なんとも皮肉である。
個人的には、悪魔の場合は代価さえ払えば必ず救ってくれるから、神よりは良心的だと思う。

まぁ、なんでそんな事を考えているかと言うと、ハスキンズ氏との交渉を・・・、
いやアレは交渉と言うモノではなく、警官と泥棒がメンチきりあったようなものだろう。
今でもそう思う、何せあの時は何時ものように、ディルムッドとロベルタをつれライアの店を訪れ、

「おぉ、春謳う花よ。
 そなたは間違う事無く美しく・・・、とにかく美しい!」

そう、何時ものようにライアから贈られる麗句。
しかし、流石に1年も言葉を贈ればその言葉も尽きるというもの、
流石に最近は早々面白い美辞麗句は贈られないものの、
あいも変わらずライアは、醜い俺を美しいといってくる。

「ふふ、無限に美辞麗句は生まれないみたいですね?」

そう、顔に淡い笑み・・・、いや、嘲笑に近いのかもしれないそれを貼り付け、
ライアに言葉を返すと、横のロベルタは、

「エヴァさん、でも、結局は美しいで締めくくる所が、可愛いでわありませんか。
 それに、商人さんの口から言葉が消えると言う事は、文字通り死を意味します。」

そう、なんとも人を食った切り替えしを放つ。
まぁしかし、ロベルタの言う事ももっともだと言える、
なにせ、言葉が消えれば商人は商売が出来ず、むしろ、言葉を失った商人は滑稽としか言いようがない。
そんなろくでもない事を考えていると、これまた何時ものように、

「羊飼いは来ているか?」

そうディルムッドが聞くと、大体は『まだですね~。』か、
『恋しい人ほど来ないもんですよ。』などと言う言葉が返ってくるはずなのだが、
この日のライアは少々違っていた、ニィッとデカイ図体に合わせた口を開き、
俺の指よりない太い歯を見せながら、

「我がローエン商会にそろえられない物はありませんぜ、旦那。
 もっとも、それが向こうからお出ましだとしても、ウチにいる以上はウチの客。
 どうぞ、検分くださいなまし。」

そう言い、慇懃無礼に一礼し俺たちを店の中に通し、つれられた先は商館の客室。
ライアが『どうぞごゆっくり。』そう言って嬉しそうにしながら俺たちの元を離れる。
まぁ、当然か。羊飼いが到着して一泊したなら、その時は宿泊料を金貨10枚払うという、
他人からすれば、『何て馬鹿な契約、商館は高級娼館ではないですよ。』などと言われかねない契約を結んでいる。

もっとも、これは俺たちと羊飼いが、この後どうなろうと一切の詮索をしない事と、
その羊飼いについて、一切詮索しない事を盛り込んだ額なわけだが。
その事を考えながら、ノックもせずに部屋に防音魔法をかけながらドアを開けると、
そこに居たのは暗い灰色の瞳に、ツララのような口髭。
暗鬱とした顔には、多少の疲労が見れる。

まぁ、それももっともだろう、何せ俺に会うためには船旅もしないといけないのだから。
そんな事をつらつらと入り口で考えていると、ロベルタとディルムッドがこちらを見てくる。
・・・、あぁ、そうか。これの合否は俺にしか解らないんだったな。
そう思っていると、そのツララ髭が先に座っていたイスから立ち口を開いた。

「狼から聞いた、神すら殺す魔は貴女か。」

そう、暗鬱とした口調で声をかけて来た。
それに対し、俺は目を細めディルムッドとロベルタに念話で間違いない。
と、送り羊の対面のイスに座りながら口を開く。

「間違いないよ、迷える羊。
 さて、望みは何かなハスキンズ氏?」

そう聞くと、ハスキンズはスッと目を閉じ。
それと同時に頭の両脇から渦巻いた角を出し、
そして、程なくして現れたのは、文字通りの黄金の羊。

「先に聞こう、私に何が望みだ。見てのとおり、私はただの羊。
 この蹄で地を踏みしめ、歯で草を磨り潰すぐらいしか能がない。
 それでもなお、私を呼び寄せようとしたのは何故だ。」

そう聞いてくるが、はて?
ロレンスとホロは一体どう、この迷える羊に話をしたのか・・・。
まぁ、それは俺が知るべきところではないか。

「さて、なら私も問おう。
 羊よ、お前は何を聞き、何を求めてこの魔性の化生の前に姿を見せた?
 お前がいたのは、海の向こうの修道院だろ?
 おっと、何故それを知るかは聞かないでもらおう。」

そう言うと、ハスキンズは一時の沈黙の後。
静かに口を開き、

「私は・・・、長くを人と生きた。
 最初は人と共に歩む事に恐れ、その群れの中に溶け込めるか心配だった。
 だが、それは杞憂に終わり、多くの時を安寧と羊達と過ごし、私に出会った商人たちは、
 『おかわりなく。』と言葉を残し、私の前を通り過ぎ行きかった。
 だが、その安寧も、もう途切れる。

 修道院は結果として、狼と優しき商人に助けられた。
 だが、私達が変わらずとも、人と時代は変わる。
 今回、人の作ったルールが私達の安寧を奪い、人の使う金が私達を悩ませた。
 私の蹄ではもう、太刀打ちできず金貨を数える事の苦手な私では、
 既に人のなかで生きるには限界だと悟った。
 ・・・、人と共に生きる魔よ、世界を1つ買い付けたい。」

そう、静かに真情を吐露したハスキンズは、
多分自身の顔を見られたくないがために羊に戻ったのだろう。
誰にだって、見られたくない顔はある。
それが、泣き顔だったり、怒った顔だったり、今の俺の顔だったり。
ディルムッドとロベルタが背後にいて、今ほど助かったと思うときもない。

「同属を食らう事で、人の輪に入ったのに、ずいぶんな言い草だな羊よ。
 まぁ、私も人の血を食らう魔だから、その事を弾劾しても仕方がないし、したところで意味も無い。」

そう言うと、静かだった羊がザワリと、毛を震わせて目の錯覚かその角が鋭くなったようなきがする。
まぁ、それも当然だろう、ハスキンズは群れの安寧を求めるために旅をし、人の輪の中に安寧を見つけた。
例え、それが・・・、同属を食らう事で得た安寧だとしても。

「魔の幼き娘よ。
 仕方ない事を何故口に出した。」

「なに、たんに塩を塗ってみたくなっただけさ。
 それ以上に意味は無いし、他意もまたないし、何百年も前の事だろ。
 過ぎた事は既に"今更"だ。さて、では羊の神よお前は私に何をくれる?
 買い付けるからには代価が要り、契約をするにも、また代価を要求する。
 お前が私を魔と呼ぶように、私は人ではない。
 さて、お前の提示する代価は、私の首を縦に振らせる事が出来るかな?」

そう言うと、羊はただその灰色の瞳で俺を見据え、
表情も読めないまま黙り込んだ。

(エヴァ、質が悪いぞさっきの弁は。
 いくら交渉や契約でも、いって言い事と悪いことがある。)

そう、念話を送るのはディルムッド。
そして、それに続くように、

(最大限の利益を得るためには、相手の提示した物に上乗せするのが手っ取り早いですよ、チャチャゼロさん。
 それに、さっきの弁も必要だからこそ、お嬢様は口を開かれたのでしょう。)

そう、2人の念話を聞きながら目の前の羊の目を覗き込んでいると、

「富と繁栄・・・、それが私がもたらせる物であり、それ以外は持ち合わせていない。
 証明できるものはないが、古い昔、私がこの姿で訪れた国はもうないが、
 それでも物語り程度にはなっているかもしれない。」

そう言って黙り込むが、
俺はそれだけでは首を縦に振る気もなければ、
そもそも、アレをこの羊が明確に扱えるとも思っていない。
それに、神と吸血鬼が交渉しているんだ、しかも吸血鬼有利で。
それならば、貰える物はすべてもらい、必要な事はすべてするしかない。
なにせ、これは悪魔の契約と同義なのだから。

「それは付属品でしかない。
 富も一時なら私は欲しいと思わないし、繁栄など、間違っても私は欲しない。
 お前とて困るだろ?私の様な者がうようよと地を闊歩し跋扈したら。」

そう言うと、羊はただ静かに目で『なら何を?』と、
そう視線を送ってくるので、スッと指を挙げ羊の眉間を指差しながら、

「私が欲しいのは死なず疲れず、飽きもせずに羊の世話をする者だ。
 ・・・、早い話しお前の身柄が欲しい。」

そう言うと、羊は渋い声を出しながら、

「群れ1つのみ安寧の地に置くと言うことか・・・。
 私を飼いならす気でいるなら、高慢だと思え魔よ。
 神殺す術を持つとて、その力に私は傅かない。」

そう言って、羊から険呑な雰囲気が漂ってくる。
神殺す術か・・・、どうせなら、神すら救う術か・・・。
それが高慢だと言うなら、人救う術が俺の手に欲しかった・・・。
チッ、いらん感傷だ。

「誰が、群れ1つといった?
 金貨を数えるのが下手でも、それが多いか少ないかはわかる。
 なら、その多い金貨で羊を多く買えばいい。
 世界1つ、それを満たせるだけの羊一体どれくらいの数になるか・・・。
 それこそ、"たくさん"だろ?
 
 それに、お前はまだ世界を見ていない。
 その世界を見ない事には、話が始まらない。
 私は、席に着いたがまだ商品を出しすらいないのだぞ?
 そんな状態で、結論を急ぐのは早計と言うものだ。」

そう言いながら、影からハリネズミのような魔法球を取り出し、テーブルの上に置く。
それを静かに見守る羊を尻目に、さっさと部屋の扉と窓に認識阻害の魔法をかけ、一時的な密室を作り魔法球へ。
俺の作った魔法球の関係上、一旦本体に行きそこから分布する小型魔法球へ行く事になるが、

「お帰りなさいませお嬢様、あら、そちらの羊さんは新しい客人ですか?」

そう、出迎えてくれたメイドを尻目にハスキンズは、

「自身の作る世界で王を気取るか幼き魔よ。
 私は安寧の地を求め彷徨ったが、ここにもそれはないと見える。」

そう、毒を吐いてくるが、それを軽く受け流しながら、

「彼女たちは私の家族だ。
 私をお嬢様と呼ぶのは、彼女達の母も兼任しているので、彼女達の意思で私をそう呼んでいる。
 流石に、私の本来の容姿を母と呼ぶには無理があるのでね。」

そういって、大人から子供の姿へ姿を変え、
そのままハスキンズを引き連れて、小型魔法球行きの転送陣へ。
そして、着いた先は柔らかな日差しに頬なでる柔風、地は緑を称え流れる水は清水がごとく澄みわたる。
ただ、そこにはそれしかない静止の時を刻む退屈な空間。

だが、確かにそこは彼の求めた安寧の地だろう。
なにせ、繁殖した羊が所かまわず、モコモコとした毛を刈られる事なく、
草を食みながら人の登場にも警戒する事無く、のんびりと過ごしているのだから。

「これが・・・、お前が売ろうとしている世界か・・・。」

そう、静かに呟いたハスキンズを横目で見ながら、
目を細める、彼に価値があっても、今の俺には価値がない。
一日過ごすとしても飽きるこの空間で、やる事とすれば羊の毛を刈るか、
文字通り、羊を数えて寝るしかない。

「買い付ける相手のいない不良債権だ。
 あっても邪魔ではないが、羊飼いが居ないと活用も出来ない。
 ついでに言えば、獣は生きた羊を襲うが、私は天寿を全うした者しか口にしないし、羊ばかりでは飽きる。
 さて、羊の神よ。どうする?」

そう聞くと、ハスキンズは黙ったまま、この世界を見て自身の蹄で地を踏み鳴らし、
一言、獣としての鳴き声を上げると、そのまま羊の群れに向かい走り出した。
そんな姿を、ボンヤリと見ていると、

「よかったのか、放っておいて?
 曲がりなりにも神なら、何かしらの奇跡を起こすんじゃないか?」

そう、ディルムッドが言葉を口にし、
横で佇んでいたロベルタも、

「彼の能力が不明なため、このまま放置するのは不味いかと。
 それに、彼が羊の神なら、あの群れを操る事もできるでしょう。」

そう、2人が言ってくるが、

「私はそうは考えないよ。
 むしろ、彼はここだけでは暴れる事はできない。
 自身が安寧の地を求めていて、その安寧の地に暮らす同胞を操って、戦を起こしてヤツに何の得がある?
 今、ヤツができるのは、ただむせび泣く事ぐらいだろう、それこそ生まれたての赤子が、
 母親のかいなに抱かれ、安らぎの涙を流すように。」

そう、言葉を吐いている間にも、ハスキンズは緑の大地を黄金の毛皮を纏い颯爽と駆ける。
まるで、その地を踏みしめるように。
まるで、その場所を自身の足で踏み固め、新たなる居場所を作るかのように。
そんな黄金の羊は、程なくして俺たちの前に戻り、人の姿に成ると。
腰を深く折り、

「この世界・・・、言い値で買い付けたい。
 ただ、羊を・・・、私の同胞を少しでも多く救い上げるだけの金貨も頂きたい。」

そう、ハスキンズがこうべを垂れる姿を見て、
なぜか物悲しい気持ちになったが、それは今は要らない。

「私の望みは、ここで羊の番をする者の身柄と毛。
 それと、羊達の毛が伸び放題で見苦しいので、それを定期的に刈る者。
 ちなみに、その毛をメイドに届ける度に金貨ではなく、羊を買い付けに行こう。
 さて、どうする羊の神。私に富と繁栄をもたらす限り、この契約は執行される。
 もっとも、外で羊が絶滅すれば、ここよりほかに羊はいなくなるが。」

そう言うと、ハスキンズは下げていた頭を上げ、
相変わらず、その凍えそうな灰色の瞳で俺を見て、

「利害が一致した。その契約を飲もう幼き魔、真祖エヴァンジェリンよ。」

そう言いながら、スッと手を差し出し俺に合わせるように俺も手を出し、
互いの手を握り、握手しながら。

「あぁ、利害が一致した羊の神ハスキンズよ。
 契約はこの時この場、お前の数多くの同胞が見守る中、正式に執行した。
 では、手始めにここに家でも建てようか。」

そう言うと、ハスキンズは首を横に振り、

「土のベッドと草の敷物、日の天蓋がすでにここにはある。
 私はそれ以外を必要としない・・・。」

そう言って、ハスキンズは羊の姿に戻り、
羊の群れに歩もうとする。

「私が来た時に茶ぐらい出せ、イスとテーブル後、
 食器ぐらいはおかせてもらう。」

そう、言葉を投げかけると、
ハスキンズは人の言葉ではなく、羊の鳴き声で一鳴きし答えた。
それがいいと言っているのか、それとも悪いと言っているのかは分からないが、
人にわかる言葉で話さないハスキンズが悪い。
そう思い、勝手にイスやら食器やら日傘なんかを運び込んだ。


ーロベルタの1年ー


お嬢様がエマさんの家に身を寄せて1年。
ハスキンズさんと言う、羊の神を魔法球に呼び込み、
そのご利益か、エマさんのお店は繁盛しています。
ですが、最近思うのです。人はお金があれば幸福なのか、
それとも、親しい人が側にいれば幸せなのか・・・、と。

エマさんと出会い、お嬢様は昔の自由奔放さを封じ込め、
良き妻であり、美しい淑女の見本のような何処か作り物めいた方になられ、
更に、エマさんと2人でいる時は私達が知るお嬢様とは、まるで別人ではないかと思うようになります。
その事を、チャチャゼロさんに聞いてみると、彼もやはり何処かおかしいと思っていたのでしょう、

「エヴァがおかしいのは解っている。
 だが、悔しい事に俺は、そのおかしくなった理由が解らない。
 心当たりはエマさんだが、彼女はエヴァの乳母・・・。
 エヴァも彼女を労わっているし、原因らしい原因がないのが一番の悩みだ。」

そう、言ってお嬢様に頼まれた紙を買いに町へ出て行かれ、
今この家にいるのは私とエマさん、それとタイプライターで書き物をしているお嬢様。
ノーラさんはライアさんの所に、布の買い付けにと朝早くに出かけていかれました。
なので、この際色々と話を聞こうとエマさんの所にいけば、

「エマさん、少々宜しいですか?」

そう言って部屋に入ると、彼女はなにやら白い布で服を作っているご様子。
お邪魔かと思いましたが、エマさんは快く私を迎え、

「ロベルタさん、どうぞおかけください。
 若い方が私のような老婆と話しても、面白い事はないでしょうが。」

そう言いながら、私の前にお茶を置き、対面のイスに座り。
一口お茶を口に含み、唇を湿らせた時に気付いたのです、何を話せばいいのかと。
そう思い、黙っているとエマさんは顔に柔和な笑みを浮かべ、

「お嬢様の事ですか?」

そう聞かれ、私はふと思ったことがあるのです。

「エマさん、何故エヴァさんの事を未だにお嬢様と呼ぶのですか?
 私も、エヴァさんが高貴な生まれの方だとは伺っていますが、
 それでも、乳母であった貴方なら、エヴァさんの事を名前で呼ばれても宜しいのでは?
 むしろ、エヴァさんもそれを望まれていると思いますが・・・。」

そう言うと、エマさんは相変わらす柔和な笑顔で、
ただ、その瞳に少しばかりの寂しさと、意志の強さを見せながら、

「それは・・・、私も解っています。
 ですが、それは出来ないのですよ・・・、例え時が経とうとも、
 例え、お嬢様が変わられたとしても、例え・・・、地位や、名誉がなくとも。
 私はあの方を名ではなく、お嬢様と呼びます。」

「何故です?
 何故・・・、そこまで頑なにお嬢様と呼ぶ事にこだわるのです?」

そう聞くと、エマさんはスッと目を閉じ、
両の親指でこめかみを押さえ、顔が見えないように指を組んで、

「守りたい者のために剣を振るい、愛しき者のために楯を構える。
 大火を消すは影のうち、夕餉の毒は罪の味。
 闇夜の花は紅く散り、煌く光は狗の牙。」

そう、感情も抑揚も人の持つ物の一切を斬り捨てたような声で、
エマさんは言葉を紡ぎ、

「この意味が解れば、私がお嬢様としか、
 あの子を呼ばない理由がわかります。」

そう、何時開いたのか、何時から見られていたのか、
組んだ指の隙間から、ガラス球のような無機質な瞳が私を見据えています。
その瞳を見ながら、先ほどの言葉を考えて出る答えは・・・。

「エマさん、なお問います。
 それをおいても、名を呼ぶことは罪ではありません。」

そう言うと、エマさんはまるで兜の顔隠しのような手の隙間から、
私のことを見据え、

「貴族の娘・・・、とりわけ名門と呼ばれ、王や有力貴族との繋がりが濃い親を持つ娘の生存率はいくらだと思います?
 お嬢様は3つの時、既に食事に毒を盛られ始めました。5つの時は、寝室の前まで賊が侵入しました。
 7つでは死ぬほどの高熱で苦しまれ、10で独り立ちされました。
 もっとも、あのまま成長されても、政略ではなく略奪結婚の的だったでしょうが。」

そう、お嬢様の私の知らない過去を朗々と述べ、

「そんな中で、もっとも悲惨なのは10までの間に開かれた各舞踏会。
 自身の地位を向上するために、あらゆる手管で旦那様に近づき、その先にいるお嬢様に近付こうと、
 各貴族達はお嬢様の名を聞いただけで頭を垂れ、旦那様と話を始める。

 広い広い舞踏会の会場で、お嬢様個人を見る貴族はおらず、マクダウェル家の名にのみ反応する。
 旦那様は、お嬢様を大事にしておいででしたが、戦に出れば長く帰ってこず、
 奥様も自身の家の事情で中々一緒に居られない。

 そんななか、お嬢様がとある舞踏会で一言私に心情を吐露しました。
 『エマ・・・、私は本当にここに居るの・・・。』と。
 『私の見る世界は、人のつむじか顎しかない。でも、それが世界なのね。』と。
 10にも満たない少女が言うには、あまりにも達観しすぎているでしょう。
 それでも、お嬢様は聡明でした。声を掛けられれば微笑を浮かべ、
 奥様旦那様が居る際はお2人に任せると。」

語られる過去は仄暗く、人の業の深さはヘドロのよう。
エマさんの静かな声に乗り聞いた言葉は、私のなかにこびり付く。
それでも、私は・・・。

「貴女に名前で・・・!」

そう言って、腰を浮かせた瞬間、自身の首筋に突きつけられた2振りのナイフ。
一体何時突きつけられたのか、鈍く輝くナイフは妖しく輝き、
普通の武器では早々ダメージを追わないはずの私が、
そのナイフの一撃を受けたなら、絶命しそうな程の威圧感を首にひしひしと感じながら、
顔を下げ、髪で表情の見えない彼女に向かい、言葉を紡ぎます。

「何故・・・、私にそれを話したのです。
 貴女の十年は貴女のモノでしょう。」

そう言うと、エマさんはそのままの姿でかすかに頭を上げ、
髪の間からこちらを見ながら、

「何処か似ている・・・、と。
 そう、私の中の狗が囁くのですよ。
 おかしなもので狗を見分けるのは、狗が一番得意なんです。
 だからでしょうか。貴女もまた、お嬢様のために狗になりえる者だと。
 そう、感じ取ったから話しました。」

無機質な言葉は、最後の最後で仮面がはがれ、テーブルには小さな水溜りが出来ています。
それは・・・、彼女の苦悩なのでしょうか?
メイド服を自身の仮面とし、その仮面を顔から剥がすことが出来ず、
何時しかその仮面が自身の顔となった。

きっと、エマさんもお嬢様を名前で呼びたいのでしょう。
ですが、それをしてしまえば、彼女もまた、彼女ではいられなくなる。
そう思うと、私の体はあまりにも自然に動き、気がついた時にはエマさんを背中から抱きしめていました。
そして、その背中の小ささと細い腕。
この細腕で、彼女は一体どれほどの時を陰で生きたのでしょう。

「私が・・・、お嬢様を護ります。
 私が、あの方と共に歩みます。」

そう言うと、エマさんは片手で私の腕に手を添えながら、

「ありがとうございます・・・、ロベルタさん。
 私はあの子の事をお嬢様としか呼べず、老いさらばえた身では重荷になります。
 ですから、これを持って行って下さい。
 旦那様から頂いた、東の国より伝わった業物です。」

そう言って、鞘に収められたナイフをテーブルに置き、
それをエマさんの正面に回って手に取り、1本を鞘から出してその刃を見ていると。

「勝手ながら、刀身にライラックの花を彫っています。
 お嬢様の・・・、好きな花でしたから。」

「宜しいのですか?
 私がこれを頂いても。」

そう言うと、エマさんは静かに優しく微笑み、
もう1本のナイフを懐かしそうに眺めながら、

「私が今お嬢様と居れるのは、小さな神の奇跡なんです。
 いずれ罪問われ冥府に落ちようとも、その奇跡だけは忘れるなと。
 私は私が胸の張れる生き方をし、受け継ぐ者を見つけることが出来たと。」

そう言って、手に持っていたナイフをテーブルに置かれ、
『ノーラさんが帰ってきます。では、次は楽しいお茶をしましょう。』
そういわれ、部屋を後にされました。


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