旅の途中だな第50話
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リュビンハイゲンを出て数日。
狼と香辛料のテーマソングをハミングしながら、リアルに旅の途中と言う所。
まぁ、歌詞まで覚えておらず、うる覚えの所はあるが、それに突っ込めるヤツがいないので、
今もハミングが合っているのか、それともまったく違うモノなのかは不明な所。
取り敢えずは、中らずも遠からずと言ったところだろう。
「うぅ・・・、ぬしよ・・・・、リ、リンゴを・・・。」
まぁ、その旅の途中でホロがロレンスから、くりゃれくりゃれとリンゴを毟り取っていたが、
そろそろ、ロレンスも堪忍袋の緒が切れたか・・・。
「ホロ。最初に何個積んで、今何個残ってる?
数の数えられない賢狼様じゃないよな?」
そう、地獄の底からロレンスの声が聞こえてくる。
まぁ、一応売り物として買ったリンゴを、片っ端からホロが食べているのだからそうなるも仕方ないだろう。
「ロベルタ、最初にリンゴは何個あった?」
そう聞くと、ロベルタはメガネをクィッと上げながら、
「初期数は256個ほどでしたが、現在数は37個ですね。
個人的な感想ですが、あの細い体のどこに入っていくのでしょう?」
そう俺に聞かれても困るのだが、強いて言うなら、
「私もホロも成長しないから、結局すべては体に維持にあたるんじゃないか?
私も割と食べる方だとは思うが、それでも体型は一行に変わらないし。
まぁ、ただ食べ過ぎて今困っているヤツは、道を歩いているわけだが。」
そう、キセルから立ち上る煙の向こうには、
この数日で、多少ふっくらしたかもしれないノーラとエネクに、
体が鈍ると言って歩くディルムッド。
まぁ、何がふっくらした要因かといえばジンギスカンとアイスクリームだろう。
町を出てすぐの頃に羊が一頭、天寿を全うしたのでそれを解体して食肉とした。
まぁ、その羊を解体したのはロベルタではなくノーラで、
最初は、羊の解体を覚えたロベルタにお願いしようとしたが、
『肉斬らせろ』とか言いながら、S子さんファミリーが憑いてそうな紅い剣を取り出すと、
それを横で見ていたノーラが、
「その、宜しければ私にやらせてもらえませんか?
今回の事で、色々とお世話になったんで、その恩返しがしたいんです。
駄目・・・・、ですか?」
と、そう言ってきたので、ロベルタではなく、手馴れているノーラに解体してもらった。
その事に、ロベルタが異議を唱えるかとも思ってロベルタの顔を見ると、
「私も覚えたてです。
熟達した方がいれば、その方に解体していただき、その手際を覚えたほうが得策です。
では・・・・。」
そう言って、ノーラが行う羊の解体を一緒に見ていた訳だが、
なんと言うか、少女が笑顔で鼻歌交じりに、血のドパドパ出る羊の死体に、
ナイフを突き立てて肉を解体するというのは、中々に猟奇的だろう。
ちなみに、その解体の途中、頬に飛び散った血をぬぐいもせずに顔に付けたまま笑顔で、
「あ♪エヴァさんは血を吸う方ですから、この羊の血も吸いますか?」
そう言いながら、鮮血滴る生肉をこちらに差し出して来るのだからなんとも。
まぁ、それは彼女なりの好意だろうし、この時代なら肉の解体やらなんやらもすべて人の手作業。
ついでに言えば、彼女は羊飼いで羊の死に目に立ち会う機会が多く、しかも、
それが町から離れた場所で、森でないならばこうして羊を解体して、町に食肉を持って帰っていたのかもしれない。
ただまぁ、解体しているノーラから楽しそうな雰囲気が出ているのは、きっと気のせいだろう。
と、そんな解体劇を見た後に、平然とジンギスカンにして食べる俺達もどうかと思うが、
まぁ、このまま腐らせても勿体無いだけなので、結局は食べるしかないし、
肉の鮮度は折り紙つきなので、羊の肉特有の癖もあまり気にならずに食べれた。
ついでに言えば、アイスクリームは自作したが、こちらの方はボチボチ甘く、
むしろ、ラム酒を目分量で入れたため、少し固まりが遅かったが、それでも十分に食べれる品だった。
まぁ、ここで言えるのは氷系の魔法万歳と言うところか。
そして、食べては裁縫食べては裁縫で、一向に動かなかったノーラはふっくらとなり今に至る。
ただ、ふっと考えてみると、この世界に来て初めて何の肉か明確に解る肉を食べたような気がする。
と、言うのも十数年、新世界を旅していて思ったのだが、
その新世界で、普通の牛や豚なんかを見た記憶がない。
だが、少なくともその旅の最中には肉を食ったし魚っぽい物も食べた。
しかし、それの原型がなんなのかと言われると・・・?
まぁ、食べたにしても龍の肉なんかだろうし、他のヤツも食べていたから大丈夫だとは思うが、
今更ながらに考えると、中々に珍しい物を食べていたのかもしれない。
「うぅ・・・、医者様・・・、薬をくりゃれ・・・。」
そう言いながら、禁断症状(?)の出ているホロが、俺の服の袖をクイクイと引っ張ってくるが、さてどうするか。
そう思い、煙を吐きながらロレンスに視線を向けると、
ロレンスの方は笑いを込めて、好きにしていいと言う視線を向けてくる。
「取り敢えずホロ、代金を。」
そう言って、手を差し出すと、その手の平に手を載せながら、
「ぬしの騎士に、背中を蹴られた古傷がうずくであり・・・、
そうじゃ!!チャチャゼロ、わっちに間に合った代価をくりゃれ!!」
そう言いながら、ホロが俺の手をこれでもかと言うほどに握り締めてきて痛い。
が、それよりも気になるのはディルムッドが、一体どんな代価を払ったのかと言うところ。
勇壮なる賢狼の背に乗る駄賃、これは中々に興味がある。
ついでに言えば、ディルムッドのヤツはホロの背中を蹴ったのか。
そう思っていると、ノーラと一緒に道を歩いていたディルムッドがホロの方を見ながら、
「あぁ、かまわないよ。だが、そんなに詳しく知っているわけじゃないし、
もしかしたら、俺よりエヴァの方がよく知っているかもしれないよ。」
そう言いながら俺の方を見ているが、さて何の話やら。
知っていると言うからには、何かしらの知識関連の報酬だろうか?
そう思っていると、俺の横にいるホロが俺の目を見ながら、
「うむ・・・、まぁ、どちらでもよいから、熊の神について知っている事を話してくりゃれ。」
「・・・、は?」
はて・・・、ホロはいったい今なんと言った?
いや、耳が悪くなる訳がない俺の耳は確かに、
『熊の神について話せ。』と、そう、ホロが話したのを聞いた。
だが、どうも時間軸がおかしい。
ホロが熊の神の事を・・・、更に言うなら、月を狩る熊について知るのはもう少し先になるはず。
だが、ホロは何故それを俺に・・・、いや、更に言うなら俺はそんな熊神の事なんて知らないのだが・・・?
そう思って思い悩んでいると、横のホロが擦り寄るように体を近付けて来ながら、
「ぬしよ、もったいぶるでない。」
そう急かして来るが、心当たりがないものはなんともいえない。
事の発端はディルムッドだから、こいつに聞いてみるか。
「おいチャチャゼロ、私は熊の神の事なんて知らないし、
そんな者と出会った覚えもないぞ?」
そう言うと、ディルムッドは首をすくめながら、
「オスティアで戦ったじゃないか。
あのずんぐりとした体に短い手足。俺を殴ろうかとする時も、
熊が鮭をとるみたいに、手を上から下に振り下ろす。
まぁ、月までとどくほどの巨大な躯体に、白くピカピカ光る体、口から吐かれる魔力砲と、
普通の熊とはだいぶ違うが、それでもアレは獲物を倒すために立ち上がった熊に見えたが?」
そう、言ってディルムッドは俺の方を見てくる。
が、さてアレは熊・・・、何だろうか?
個人的にはそうとも思えるし、違うとも思える。
ん~、アレが実体とならどうとでもいえるのだろうが、ホロと同系統の神様だと言うと、
肉体がなくても、1つの意思とでも言うのだろうか、麦に潜るようにあれも何かに潜っていたかもしれないし、
魔法使いと戦って、とっ捕まえられたのかもしれない。
まぁ、少なくとも、この世界だと神と人は同等だったり、
一定レベルの強さがあれば、神ともまともに渡り合える。
まぁ、それは型月の世界でも同じ事か、ただあの世界だと個人精製の体内魔力を使うから、
ピンきりだが魔力量だけ見るなら、ネギまの世界にはどうしても届かない。
多分、仮に届くとすれば、ゼルレッチの様に宝石剣で外部から魔力を持ってくるか、
キャスターのように神殿を築いて、そこから持ってくるようにするしかない。
ついでに言えば、うっかり魔術師曰く、神秘も大切だが、それに見合う魔力があれば神秘が絶対ではないと説くし、
実例として、凛はバーサーカーに宝石でダメージを与えている。
と、それはまぁいいとして、今は熊神の事か。
「ロベルタはどう思う?
あの時、一番離れて見ていたのはロベルタだ。
私はアレとの距離が近すぎるし、チャチャゼロの方はボロボロ、
まぁ、お前の方も魔力がなくて上手く動けなかっただろうが、どう思う?」
そう聞くと、ロベルタは視線を空にさまよわせ、
頬を指でトントンと叩きながら、
「そうですね・・・、私からはなんとも。
今いる熊が一体どう言ったものか知らない私では、
アレを熊と言われれば熊ですし、違うと言われれば違います。
強いて言うなら、推定熊と言った所でしょうか?
まぁ、アレがエヴァさんが言うように神を利用した兵器なら、
手っ取り早く、何かの神と言うのも吝かではありませんが。」
そう、ロベルタは返してくる。
うぅ・・む、さてはてどうしたものか。
情報不足が否めないのは仕方ないし、そもそもアレと戦ったのは偶然の一言に尽きる。
なにせ、この時代に鬼神兵が、正確にはそれのプロトタイプがいるとも、
むしろ、目の前にホロがいるのも、驚きとしか言いようがない。
まぁ、居てくれた方が面白そうだから問題はないのだが・・・、
さてはてどうしたものか。
「取り敢えず、ホロ。
聞いていたと思うが、一応は推定熊の神と言う事で決定した。
まぁ、決定はしたのだが、知っている事はないし、言葉も交わしていない。
地道に自身の足跡をたどるのをお勧めするよ。」
「そう・・・、かや。
わっちの故郷の事が、何かわかるかと思ったんじゃが・・・。」
そう言うと、ホロは何処か思い悩むかのように俺の方に背を預け、空を見ている。
さて、ホロの故郷ね・・・、昔小説を読んでいた頃に考えたことがあったが、
ヨイツと言う地名とホロが狼と言う事から北欧神話と絡めて、ヨイツをヨツンヘイムの言葉遊びだと思ったり、
実は、ホロはフェンリルが元になったんじゃないかと、考えたりもしたが、真実は闇の中。
まぁ、北欧南欧西欧東欧と、ヨーロッパ地方を広い目で見てもこれだけの神話があるが、
それでも、早々動物の神は出てこない。
個人的に知っているのは、フェンリルの他はヨルムンガンドと、後はファフニールぐらいか。
それと、温泉がある辺りといえば、フィンランド方面で北欧神話あたりになるが、
流石にそこまでは詳しくない。
まぁ、ただ言えるのは、イギリス方面まで足をすすめれば、そこから神話をたどる事もできるだろう言う事。
少なくとも、魔法の国とまで言われているイギリスなら神話には事欠かず、
ついでに言えば、ディルムッドの謳われているケルト神話が方面の物語なので、
水が合うのかディルムッドがイギリスに近付くたびに力強く、更にかっこ良くなっている気がしないでもないがなんとも。
もし、ここにアルトリアをつれてきたら更に愛らしくなるか、もしくはアホ毛が伸びるのだろうか?
いや、一応は男装したからかっこ良くなるのだろう・・・、多分だが。
「ロレンス、リンゴをいくつか売ってくれ。」
そう言うと、横にホロがおらず少し寂しい感じで、手綱を操っていたロレンスが肩越しにこちらを向き、
「いいですよ、何個買います?」
「そうだな・・・、6個貰おうか。
お代はイギリスで渡す残りの代金の中に入れておくよ。」
そう言って、リンゴを6個買い取り作るのはリンゴ飴。
旅をしてすぐの頃に、リュビンハイゲンでロベルタを使い手に入れた桃の蜂蜜漬けを、
ホロに振舞った事があったが、その時のホロの悦びっぷりはなんと言うか凄かった。
むしろ、影の中からそれの入った小瓶を取り出した次点でソワソワしていたが、
それを一口、口に入れた後はもう、くぅ~~っといった感じに手を握り締め、
「エ、エヴァよ!甘い!!甘いでありんす!!!
なるほどの、この甘さと美味さなら教会が禁止令をしくか話し合うのも解るでありんす!」
そう言って、俺の肩を、バシバシ叩いて来る始末。
まぁ、それも皆で食べればすぐになくなると言う物。
そもそも、今は6人で旅をしているのだから、小瓶1つなんてすぐになくなる。
そして、そのなくなった後のホロは喜びとは打って変わり、意気消沈しながら俺の影を見つめ、
片膝をつき俺の影にそっと手で触れながら、
「エヴァよ・・・、ここにあるぬしの影、これに潜る事が出来たなら、
わっちは更に、甘味の高みを目指す事ができるのじゃろうか?
いや・・・、この影の持ち主であるエヴァを丸呑みにした方が・・・、影の中身毎わっちの口に入って甘い?」
そう言いながら、据わった目で俺の方も見てくるのには、流石に俺も肝を冷やした。
と、そんな事を考えながら、ロベルタに手伝ってもらいチャっチャとリンゴを木の串にさし、
鍋に氷と砂糖を入れ、火よと灯れで火を起こして砂糖水を作り、そのまま熱して茶色くなるのをまって、
茶色くなったら火を止め、リンゴを鍋の中に数度くぐらせる。
ふむ、割と量があるから、余ったら飴とカラメル焼にでもするか。
そして、ホロの横でそんな事をしていれば当然と言えば当然だが、
「エヴァよ、何を作っておる?
もしや、これがぬしの出す薬の正体かや?」
そう言いながら、こちらの作っている物を見ている。
「あぁ、そうだ。
・・・、言っておくが、熱いから指とか突っ込まないでくれよ。
食べるなら、木の棒を突っ込んでそれを舐めてくて。」
そう言って、木の棒を渡すと、すぐに鍋に棒を突っ込んで、クルクルかき混ぜては取り出して口に運んでいる。
「ロベルタ、鍋の方はいいから、ロレンスに渡してやれ。
後、ノーラもいるか?」
そう、馬車の横を歩くノーラに聞くと、
恨めしそうな視線をこちらに向けながら、
「エヴァさんとホロさんはずるいです。
なんで、あんなに食べても細いままなんですか?
私なんて・・・、私なんて・・・、うぅ・・・。」
そうは言うものの、ノーラは見た目的には変わらない。
まぁ、質素に暮らしていたのだから無駄なお肉はないし、
元々栄養状態の悪いこの時代、早々太っているやつはいないし、
太っているとすれば、それは貴族なんかの金持ち連中だろう。
ちなみに、あの騎士達が人の事を豚といっていたのは、
その宗教の教祖が、悪魔を豚に取り付かせて焼き殺したせいで、
異端者なんかを侮蔑の意味を込めて、そう呼んでいるのだろう。
と、話がそれた。
「じゃあ、ノーラの分は私が食べる・・・。」
そう言い終わろうとする前に、ノーラは俺に顔を背けているものの、
手だけをこちらに差し出している。
ふむ、時代は変われども女性は甘い物に目がないという事か。
そう思いながら、出来立てでまだ暖かいリンゴ飴をノーラに手渡しながら、
「私としては、ノーラは細い方だと思うよ。
それに、今まで苦労してたんだから、多少の贅沢ぐらい大丈夫だろう?」
そう言うと、ノーラは手に持ったリンゴ飴を見つめながら、
「多少・・・、ですか・・・。
今の私は、毎日が贅沢すぎる贅沢の連続ですよ。
人と言葉交わす事少なく、日に雨にと草原で羊を繰る。
それに、夢見るだけで終わると思っていた儚い夢も、それに通ずる道が開かれました。
言ってみれば、今のこの旅が私にとっての最高の贅沢なんです。」
そう言いながら、足元に擦り寄るエネクの頭をなでている。
その姿は、見ているだけで心が穏やかになり、絵描きでもないのに、
その姿を、一枚の絵に興してみたいと思うほど満ち足りている。
だがまぁ、それでもまだ足りてはいない、そう思いながら、魔法薬の煙を吐きながら口を開く。
「なに、まだ贅沢し足りていないさ。
なにせ、お前は・・・、いや、ここにいる皆が旅の途中。
それぞれの道を歩いていて、たまたま出会うことが出来、その出会いの中でどうするかを自身で選択した。
だが、まだ結果がでていないだろ、夢を見たなら、その夢が褪めるまできっちりと見ないとな。」
そう言うと、ノーラは静かに微笑みながら、
「はい・・、でも、できれば褪めない夢であって欲しいです。」
そう言って、ノーラと笑いあっていると、手綱を操っていたロレンスが、
そう言えば・・・、と言った感じでロレンス自身が持っていただろう疑問をこちらに投げかけてきた。
「エヴァさん、今回の事で1つだけどうしても分からない事があるのですがいいですか?」
そう1つ前置きをして、こちらの方を肩越しに見ながら、
「結局、エヴァさんの本名って何なんですか?
チャチャゼロさんやロベルタさんは、エヴァさん自身が名乗らないなら聞かない方がいいと言いましたが、
でも、どうしても気になるんですよ。
・・・、まぁ、今聞いても危ないと思うなら、話されなくてもいい大丈夫すけど。」
さて、今更と言った感じのこの質問だが、どうするかな。
少なくとも、行商人のロレンスなら、俺の名前を聞いてピンと来る物があるかもしれないし、
逆に、年齢的にまだ商人に足を突っ込んでいない可能性もある。
まぁ、でも今更名乗らないのもなんだか据わりが悪いし、それを聞いても今更どうすることも出来ない。
「いいよ。改めて名乗ろうか、私の本名はエヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル。
まぁ、呼ぶなら今までどうりでいいよ。」
そう言いながらリンゴ飴を差し出すと、
ロレンスはそれを受け取りながら、口の中で含むように、
「マクダウェル・・・・?」
そう言いながら考え込んでいるようだが、中々でてこないようだ。
まぁ、出ないならでない方がいいだろう、どうせ、没落貴族なら俺でなくともこの先出会う事になるのだし。
「まぁ、私の過去なんて聞いても詮索しても面白くないさ。
どうせ、今の私を知っているヤツもほとんどいない。」
そう言うと、ロレンスは何処か歯切れ悪く、
「そんなものですか・・・、どこかで聞いたのかもしれませんが、
それでも今はのんびりと旅をしましょう。
それに、甘いお菓子もある事ですし。」
そう言いながら、ロレンスはリンゴ飴を眺め、
「そういえばエヴァさん達は、今までどのあたりを旅されていてんです?
先ほどオスティアと言う、聞いた事のない地名が聞こえましたが。」
ん~、どう説明・・・、いや教えていいのだろうか?
仮にロレンスに『魔法使いの世界だ。』とか、『別世界だ。』と言った所で何処まで信じてもらえるか。
と、言うよりそれを知った次点で、なんだかロレンスが更に危ない道を突っ走るような気がする。
たたでさえ、今の時点で知らなくてもいい魔法使いがいる事を知り、
その魔法使いが、文字通り魔法のように、自身たちが理解できないものを使っている事を知ってしまった。
まぁ、そこはホロがいるからある程度大丈夫だと思うが、
それでも、いらない知識は要らない答えを導き出す事もある。
「海の向こうの町さ。
遠く遠く、ここよりもはるかに遠く。
魔法を使える者しか・・・、いや、魔法を使えても行き道を知っている者しか行けない所。
だから、忘れた方がいいし、御伽噺の物語だとでも思えばいい。」
そう言うと、ロレンスは笑いながら、
「行き道も分からないのでは、行き様もありませんし、
貿易商でもない私では、どうしようもありませんよ。」
そう言いながら、笑っている。
そして、そのロレンスを見ながらホロが欠伸を1つ、
「さて、こうもぬくいと眠くなるでありんす、
わっちはわっちの寝床に戻るよ・・・、医者様、薬は残しておいてくりゃれ。」
そう言って、荷台からロレンスの横に移動して、寄り添うように据わり暫くすると眠りだした。
しかし、もうじき冬が来ようかと言うのに、今日は暖かくホロじゃないが眠くなる。
「ロベルタ、私も少し眠るよ。
元々、昼間は私の寝る時間、日の出と共に眠り、日の入りと共に目覚める。
そういう体なのでね、膝を貸してくれ。」
そう言って私の膝に頭を預け、お嬢様は目を閉じて暫くするとスースーと穏やかな寝息を立て始めました。
日は高く、天高く舞う鳥は気持ちよさ気に羽を羽ばたかせ、あまりにも穏やかな世界。
そして、寝ているお嬢様の髪にスッと指を通せば絹の様に細い髪の滑る様な手触り。
「チャチャゼロさん・・・、この穏やかな日々はいつまで続きますか?」
そう荷台に並走チャチャゼロさんに問えば、彼は何でもないかのように、
「我等が主が死する時まで・・・、それ即ち永遠なり。
彼女と共に歩むということは、死に嫌われながら生きて行くと言う事に等しい。」
そう答えます。
今のこの時は、たぶん、嵐の中翼はためかせ飛ぶ鳥が一時羽を休めるために止まり木に止まる様なものでしょう。
ただ、それは有限であり、休息が終われば、また天高く舞い上がり羽はためかせる。
ただできれば、お嬢様の行く先に幸多く穏やかであらん事を。
そして、多少欲張りで、初めての"私"の願いが叶うなら、
終焉を知らせる7つ角笛の音が永久に鳴らん事を。
死を恐れない私達でしたが、今はその死と言うものを恐れるように感じます。
多分、それはこの満ち足りた時間を得て、感受する術を手に入れたからでしょう。
作者より一言
仕事に忙殺されました。