疑うな第47話
雨が降り、ぬかるんで道路状況最悪な道を、文字通り飛ぶように走る。
襲ってきた賊を捌くのに手間取ったわけではないが、それでもディルムッド達との距離は離れた。
実際問題、こうして走るより、空を飛んでいった方が数段早いのだろうが、
下手に空を飛んで木の陰に誰か隠れでもして、見落としましたじゃ話にならない。
だから、泥が跳ね返るのもいとわず走っているのだが、一向に姿が見えない。
「チッ、ロベルタ何か見えるか?」
そう問えば、スカートの裾をつまんで横を併走するロベルタは、
道の奥を睨むように見るが、首を横に振り、
「お嬢様の眼でも捉えられないものを、私の目で捉えるのは至難の業です。」
その会話の後、暫く走り吸血鬼の本能とでも言うのだろうか、
雨のせいで血の匂いも薄れ、残り香程度だったが、それでも間違いなく、
「ロベルタ、血の匂いがする。
・・・、近いぞ!」
そう言うと、ロベルタはさらに遠くを見ようと目を細め、
「賊・・・、と、言うより人影が捕らえられませんね。」
そう言うロベルタを横に、心の中で今度は自身に舌打ちをする。
こんな事なら、千里眼の魔法をもっと練習しておくべきだった。
新世界では見つかっては襲われる事が主体で、自身から打って出る事は少なかったし、
俺自身も戦闘用の魔法を主体として、補助系は自身の身体能力にかまけて余り練習しなかった。
まぁ、それでも一応は学校で習ったので、それを使い辺りを見ると、
足を引きずる馬を連れた人影・・・・、あの髪の色は、
「ロレンスがいる!
・・・、ホロもチャチャゼロも辺りに居ない!?
ロベルタ、急ぐぞ!!」
「はい、お嬢様!!」
そのロベルタの掛け声から久しく走り、ようやくロレンスに追いついた頃には、
いつの間にか雨が止み、辺りには不気味な蟲の鳴き声などが木霊していた。
本当なら、声を上げて呼び止めるのが正解なんだろうが、そうして、
森にまだ、潜んでいるかもしれない賊を、おびき寄せるのもいささか面倒だし、
一応は、精霊を召還してあたりをクリアにしてはいるが、それでも下手なリスクは避けたい。
まぁ、それも、こうして無事にロレンスに会えたのだから杞憂だったのだろう。
「ロレンス無事・・・、そうだな。」
そう、ロレンスに言うと、ロレンスは1度こちらを向いた後、
森の出口の方を向き、足を動かしながら、
「無事ですよエヴァさん。
それに、ロベルタ・・・、さんはどうしたんです、その格好?」
そう聞くロレンスの横を歩きながら、ロベルタは何でもないかのように、
「戦装束です。それよりも、チャチャゼロさんと、ホロさんは?
ノーラさんとリーベルトさんも見当たりませんが。」
そう問うロベルタにロレンスは馬を連れながら、
「私達は襲撃を受け、ホロとチャチャゼロはノーラとリーベルトを追って行きました。
私は・・・、戦場には立てないのでこうして、後を追っている所です。」
そう、奥歯をギリッと噛み締めながら返してきた。
だが、それはロレンスにとって賢明な判断だ。
行った先に賊がどれくらいいるかも不明だし、俺たちを襲撃したヤツから血を飲んだ時に出た、
隊長と言うやつもまだ出てきていない。
そして、俺達がこうして空ではなく、地上を走って来たのはその隊長を探すためだ。
血を飲んだヤツから出た隊長の知識だが、そん所そこらの雑兵とは違い、
なかなかに一癖二癖ありそうなヤツだった。
越えた戦場は優に百を超え、その戦で失った腕に鉤爪を付け、更に戦場を駆け巡る。
この時代、戦がしたければ好きなだけできるできるが、だからこそ英雄崩れ、
つまる所、英雄のように華やかな功績を立てるのではなく、その華の影で礎のように散っていった者が腐るほどいる。
と、言うより戦で大多数を占めるのはその英雄崩れで、歴史に名を残すものなぞ一握り以下だ。
そして、更に隊長の質が悪いのは、信念を通り越して、妄執とも執念とも付かぬ信仰心。
技術に技量、戦略に戦術、気に魔力。
少なくとも、俺達が相手にした賊は未熟ながらも気を使っていた。
自身で切り捨てたヤツは、エクスキューショナーソードを一瞬とは言え受け止めた。
だからこそ、力をいれ足しか残らないまでエクスキューショナーソードを振り抜く事になったのだから。
クッ、早く隊長とやらを仕留めないと、何やらヤバイ気がすると勘が言っている。
余り中った試しは無いが、悪い予感ほどこういう時は中るものである。
ディルムッドに限って早々敗れる事はないはずだが、何がどう螺子くれ曲がるかもわからないし、
ノーラとホロも心配だ。
「ロレンス、その馬は走れないのか?」
そうロレンスに問うと、
ロレンスは馬の後ろ足の方を指差しながら、
「多分最初の一本です。
その矢が後ろ足に刺さって、今の所無理に走らせるのは厳しいですね。」
そう言うので、傷口を見れば、
矢に返しが付いていたのか、肉の一部がえぐれ血は止まっているものの、
動くたびにカサブタがはがれそうになっている。
が、逆を言えばこれさえ治れば、ロレンスを含め俺達は手っ取り早くホロ達に追いつく事ができる。
「ロレンス、今から馬の傷を治す。
ロベルタ、馬を抑えてくれ。」
そう言うと、ロベルタは手早く馬の目を布で覆い、
ロレンスから手綱を奪って馬を跪かせた。
「エヴァさん、いくらなんでも無理です!
そんなに短時間でこの傷が言えるわけが無いです!」
そう、ロレンスが声を荒げてくるが、
こちらとて、無理を無理で済ませるつもりも無い。
原作エヴァは治療系魔法は苦手だと言っていたが、それは単に練習しなかっただけで、
ちゃんと練習をすればそれこそ、普通並には使えるようになる。
「ちょっと黙ってろロレンス。
・・・・、忘れたか、私は魔法使いだぞ?
エメト・メト・メメント・モリ 汝が為にユピテル王の恩寵あれ 治療。」
そう魔法を詠唱し、馬の傷を治していく。
流石に見る見るうちとは行かないが、それでも確実に治っていく。
そして、最後の一押しとして、影から前に作った薬を傷口に振りかけて治療完了。
「もういいぞロベルタ。
ロレンス、これでこの馬は普通に走れるはずだ、ノーラ達を追うぞ!!」
そう言うと、ロレンスは馬の後ろ足をなでた後、こちらを向いて1つうなずいて、
馬の背に飛び乗り、俺とロベルタはその馬の横を突っ走る。
ーsideディルムッドー
「クッ!」
ホロの背に飛び乗った後はまさに、自身が風どころか、稲妻になったような感覚だった。
肌に当たる雨は何かの拍子で、そのまま肌を貫き、頭を低くホロの背に顔を埋めた状態で薄目を開けてあたりを見れば、
夜のせいか、あたりは黒一色で塗りつぶされ、今が何処なのかも分からない。
ただ、1つ確信があるとすれば、この速さなら間違いなく、
そう間違いなく、ノーラの明暗分かつ前に彼女の所にたどり着ける!
「ホロ、後どれくらいだ!!」
そう、ホロに大声で背中から聞けば、
ホロは駆ける速度を緩める事無く、
「もうじきじゃ、もうじき森が切れる。
それに、地には羊と馬の足跡が見えておる!」
そのホロの声に、気持ちが逸り顔を少し上げて前を見る。
しかし、顔に中る雨粒の気配は無く、代わりに耳元では轟々と風が轟く音が聞こえる。
だが、それさえ無視してホロの毛につかまりながら見えた光景は、草原に集まる羊の群れと、
それを指揮するノーラ、そして、そのノーラに背後から近付く死神のようにボロのマントを頭から羽織った誰か。
そして、その死神が自身の腕を大鎌のように掲げ振り下ろそうとする。
多分、その手にはナイフか何かが握られたいるのだろう。
「チッ!ホロ見えるか!」
そう問えば、ホロも何処か歯噛みするように、
「見えておる!!
あやつが腕を振るうのと、わっちの足。
羊飼いは気に食わんが、それでも死なれれば、
わっちがロレンスともう旅ができん!!」
そう言って、ホロは更に地を駆ける速度を上げ、もはや、走るのではなく跳ぶように地を駆ける。
そして、俺もホロの背で紅槍を取り出して、その槍に気を込める。
既に死神の鎌は振り下ろされるのを、待ちわびるかのように天に掲げられ、
刻一刻とノーラの命を刈り取ろうとしている。
だからこそ、俺はその死神の鎌を横合いから弾き飛ばす!!!
「ホロ、大きく跳躍してくれ!!」
そうホロの背に立てるように姿勢を変えながら言うと、ホロは憎々しげに、
「わっちの背を蹴るからには、勝算はあるのじゃろうな?」
そう聞いてくるが、そんなものは無い。
ただただあるのは、必ずどうにかすると言う気持ち。
それ以外のモノは持ち合わせず、今この場ではそれ以外必要は無い!
「知らない!!だが、何もしないよりは、何かして足掻いた方がいい!
行動も起こさず、たた見護るだけだなんて・・・・、クソくらえだ!!」
そう言うと、ホロは喉を低く笑わせ、
「今じゃ!!」
そう一言、短く言葉を発して大きく跳躍し、
俺もその背を足場に更に大きく跳躍して、その死神めがけて槍を投げつける!
そうすれば、死神は後ろに軽く身を引いて槍をかわし、俺も俺で、
槍が地上に着弾する前に自身の手に取り寄せ、虚空瞬動で天を駆けてノーラと、死神の間に体を割り込ませ槍を振るう!
そうすれば、槍の切先は死神の顔ではなく、その頭の部分の布を穿つに留まり、その死神の方も、
姿勢を低くして後ろに下がりながら、右手でスラリと剣を抜き、
「キサマは、この森を抜けたか異端者!!」
「チャ、チャチャゼロさん!?」
そう、背後からはノーラの声が、前方からは顔に傷のある男が顔を歪めながら、
左眼のみでこちらを睨みつけてくる。
そして、その男と対峙しながら、背後のノーラに、
「リーベルトはどうした?」
そう、目の前の男を睨みながらノーラに聞けば、
ノーラはペタンと尻餅をついた状態のまま、
「み、皆さんが心配だからと森に・・・。」
そうノーラが言うと、目の前の男は顔を歪め、
目の前に映る者が滑稽だ、と言わんばかりの嘲笑を投げかけ、
「ハハハ・・・、アレが森の戻った?
馬鹿を言うな、アレは町に戻り、今頃別の羊飼いを連れて来ているのだろう。」
そういった後、今度はその片方しかない目をジロリと動かし、
俺の槍を見ながら、今度は見下したように、
「それに、ここの森を抜けたキサマも馬鹿な異端者だ。
そんな目立つ色の得物を使っていては、私の片方しかない目でも易々と捉えられる!」
そう言いながら、地面を舐めるように低い姿勢で、こちらに切りかかってくる。
「チッ、キサマ等は一体なんだ!
レメリオ商会に金で雇われたか!?」
そう男に聞きながら、もう1本黄の槍を取り出しながら、
紅の槍で剣を弾けば、男の方も距離を取り、すっくと真っ直ぐに立ち、こちらを見下しながら、
「くだらん!確かに金は貰う約束はした。
だが、今はそれよりもこうして、異端者が跋扈する様に出会えた事を商会に感謝し、
それを、こうして修道騎士団の長としてキサマ等を狩れる事を神に感謝する。
聞け、異端者共!!私の名は修道騎士団団長アレクサンドロ・ディアール!
キサマ等のそっ首を刎ね、地獄へと送る者だ!!!」
そう言いながら、ディアールは姿勢を低く、右手の剣をいつでも振れるようにと、
首の前に右ひじを置き、ディアールの後頭部近くまで振り上げられている。
しかし、俺もその男の言葉が気に食わない、
「キサマは何を持って異端とする!!!
婦女子を殺そうと牙を剥き、森で影より人を狙い・・・・、
キサマに、騎士を名乗るキサマに騎士の誉れは無いのか!!!」
そう言い、ディアールの位置をこちらも走りながら突けば、
ディアールは予想どおり、ディアールは右の剣で紅の槍をいなした。
だが、まだ、黄の槍が残っている。
そう思い、黄の槍で男の胸を突こうと鋭く放てば、
「異端者なんぞに、騎士の誉れをとやかく言われる筋合いは無い!!
私の体は神の一振りの剣、我が剣の前に立つ者は我が神にあだなす者!!!」
そう、叫びながら、槍の切先を左手で持ち上げ・・・、いや、違う。
そこにあったのは、歪な形の鉤爪。
その鉤爪で、切先を掬い上げるように槍を横に逸らし、
そのまま、鉤爪を槍の柄の部分を滑らせながら近付いて来る。
「そんな人を殺す神なんぞ知らん!!
俺は俺の主のためにキサマを倒し、彼女を護る!!」
そう言って、距離を取ろうと後ろに下がれば、
ディアールは紅い槍を弾いた剣を、鋭く前に突き出し、
凶悪に笑いながら、
「下がらせるかよ、離れるかよ、間合いを切らせるかよ!
いくら派手だろうが、なんだろうが、槍はただの槍!!
間合いを詰め、切先より内に入れば、それは振るえまい!!」
そう言って、突き出されるディアールの剣を右足で蹴り上げ、
黄の槍を使い鉤爪をねじ切ろうかと思えば、鉤爪はL字型のため捻じ切る事は出来ない。
そうやって間合いを離せば、ディアール自身も踏み込んだ足に力を加え、
後ろに大きく跳び完全に間合いを離し、姿勢を正してこちらを睨みながら、
「・・・、キサマの名を聞こう。
キサマが息絶えるまでの刹那だが、その時まで名を呼んでやる。」
そういうディアールに、こちらも姿勢を正して自身が主と定めたものより承った名を叫ぶ。
「我が名はチャチャゼロ、チャチャゼロ・カラクリだ!」
そう言うと、ディアールは顔を歪めながら、
こちらの隙をうかがうように、その距離のまま円を描くように歩く。
それに合わせるように、俺もディアールとは逆に動き、
紅い槍の上下を逆さまに持ちかえる。
「チャチャゼロか・・・、キサマが騎士の誉れ云々を何故問うかは知らぬが、
私は私が信じる神のために私はここに立ち、キサマを殺す。
それ以上の理由も無く、それ以下の理由もない。
ただ・・・、それでも理由を問うと言うのなら、それはキサマが異・端・者だからだ!!!」
そう言って、ディアールは獣・・・、しなやかな肉体を持つ豹のように地を駆け、
右手に握る剣を突き出してくる。
が、それより俺が面食らったのは、今のディアールの速度。
あの森で襲ってきた者で、確かに足の速い者はいたが、それもここまでではない。
そこで思いつくのは、気を使った移動術の瞬動。
それをこの男は、間違いなく使っている。
が、その移動術の弱点もまた、同じくそれを使う俺は知っている。
「これで終わりだ!」
そう言って、特攻するように突っ込んできたディアールをかわし、
振り向き様に黄の槍を放とうとすれば、
「それは私の台詞だ!!」
そう言って、すぐに俺の背後から蹴りを首めがけて放ってくる。
『チッ』心の中でそう、舌打ちをしながら、紅い槍で蹴りを防げば、
ディアールは地に刺してあった剣を右手で抜き、逆手で顎から脳天を貫こうと縦に突き出してくる。
今、俺の頭を貫こうとした剣を地に刺し、その持ち手の部分に鉤爪を引っ掛けて、
さっきの速度を利用した蹴りを放ったのだろう、今けりを受け止めた手が多少しびれる。
が、そんな事にかまっている暇は無い!
突き出された剣を頭を振りかわし、相手の背骨を蹴り砕こうと蹴りを放てば、
ディアールは俺の上からガンと踏んで、足を上げさせるのを一瞬遅らせる。
だが、それをしても、俺の蹴りは止められない!
「我が忠義のため、砕けろ!!」
そう、膝を腰よりもなお上げた前足蹴りを放てば、ディアールは1度足を踏んだ事で、
その蹴りの狙う位置がわかったのだろう、上から鉤爪を振り下ろし蹴りを叩き落そうとする。
だが、それでも蹴りをとめられないと悟ったのか、ディアールは体を大きく横に開いて
蹴りそのものをかわす。
「死ねぇぇぇっ!!」
ディアールはその体を開いた無理な体制から、先ほど頭を貫こうと突き上げた剣を、
逆手のまま振り下ろし体を切り裂こうとする、しかし、今度は俺がそのディアールの胸に槍を刺そうと、
体を前に詰める、このまま前に出れば、剣を振り下ろされても肩に中るのは剣の柄で、刀身は中らない!!
だが、それは体を開いた男も知っている事実、だから、ディアールは素早く鉤爪を
自身の体の中央に持ってきて、槍の切先を掬うように逸らす。
そして、そのまま近付きガンと、俺とディアールの額が合わさる。
そして、その状況から放たれる言葉は呪詛とも取れる怨念の叫び。
それを額をつき合わせた状況で淡々と話す。
「キサマはどこかの騎士かぁ?」
そう言われ、俺は胸を張りディアールの目を見ながら自らを誇り、
「俺はとある人の騎士だ。
キサマのような人殺しとは訳が違う!!」
そう叫べば、男は口元をニタリと吊り上げながら、
「何も変わらん。騎士とほざくなら覚えて置け。
騎士の誉れなぞ存在しない。忠義なぞ人に仕えれば裏切られる。
我等が信じるは天におわす神ただ一人。キサマもいずれ裏切られ捨てられゴミの様に捨て去られる。
故に、私はこの世にいる人ではなく、神のみを信じ剣を振るう。」
そう、言うディアールの顔は、
何処までも悲痛で何処までも醜悪。
この男に一体何があったのか俺は知らないし、知りたいとも思えない。
だが、この男は何処か・・・、そう何処か俺に似ている。
だが、俺とこの男は違う!
「キサマがどう吠えるかなんて知らないし、知りたくもない。
騎士の誉れはある!忠義だって存在する!」
そう言いながら、額を再度打ち付けディアールとの距離を離せば、
ディアールは後ろにたたらを踏みながら下がり、
それでも、ギラついた眼で俺を睨みながら、
鉤爪を自身の顔の前に持ってきて、絶叫するように口を開く。
先ほどの攻防のせいだろう、鉤爪の付け根からは血が流れ出し、
しかし、それさえも気にせず口を開く男の口からは呪詛が流れ出す。
「この腕はその主の為と戦い切り落とされた!!」
そう、叫びながら男はまたもや瞬動を使い、体を十字架のように開きながら急速に接近してくる。
だが、今回は俺もそれを避けず、真正面から受けて立つ!
「ならば、何故それを誇らない!!」
そう叫びながら、紅の槍を回転させディアールの頭を切ろうと、
槍の切先をディアールの開かれないであろう、右の方から縦に振るえば、
ディアールは槍を剣で受け止めよう腕を掲げたが、剣は砕け、だが距離が詰まっていたため、
ディアールの頭を槍の切先が切り飛ばす事無く、槍の柄の部分がディアールの肩を打ちつける。
中った感触からして肩が砕けたかもしれない、だが、ディアールはそれを歯を食いしばって耐え、
「この右目は主を護るため、自身を楯にした時に失った!!」
そう叫ぶディアールに黄の槍を振るおうと、
踏み込みながら槍を突き出せば、ディアールはまた鉤爪で弾こうとする。
が、それは今回は叶わなかった。
ディアールの鉤爪は確かに槍を捕らえた。
だが、捕らえて横に逸らそうとした時に、鉤爪は腕からもげ、振りぬかれたのは血が噴出す腕のみ。
そして、ディアールの胸には深々と黄の槍が刺さる。
だが、ディアールはなおも前進し続け、
「その仕えた主が私に言った言葉を知っているか!!
その主を救うために傷ついた顔を醜いと言い!!この手足を見て身の毛がよだつといった!!
行く先のない我等修道騎士団は神のみを信じ、それに仕える司祭の声を信託として戦った!!
だが、この様は何だ!!人なぞ信じん!!騎士の誉れなど、人の心にあるわけはない!!!
忠義のなぞ、使い潰され捨てられるためのみに存在する体のい言葉だ!!!
私はぁ!!!・・・、私の騎士団は神のみを今もなお信じ戦っている!!!
戦場を見ろ!!!今もなお怨念が渦巻き、地獄の亡者共が雁首そろえて笑いながら眺めているぞ!!!」
そう、叫びながら前進するディアールに目も放せず、
槍を握ったまま棒立ちになる。
そして、その今もなおディアールは前進し、カチャンと剣を手放した音で、
ビクリと自身の体が動くようになる、だがその時にはディアールは俺の顔に右手を這わせ、顔を固定して、
その閉じられた右目を無理やり開き、そのせいで細められた、凍て付いた様な左眼で俺の目を見ながら、
「この虚空なる穴にキサマは何を見る!!!」
そう言いながら、口の両端から血を流す男から目が離せず、
その男の声からも耳を塞げない。
「この世のすべての異端者に災いを!!!
この世のすでての騎士に疑心と疑念を!!!
そして、神居らず、異端者や魔獣が跋扈し闊歩するこの世に呪いを!!!」
そう、絶叫した男は、俺に倒れ掛かるように持たれかかり、
「キサマもいずれ狂い死ね!!」
そう、俺の耳元で叫び息絶えた。
・・・、胸に苦く思い何かがのしかかる。
自身が欲し、今手に入れていたモノを真正面から、
否定するだけの材料をその身に宿した男が今もなお、俺の体に重くのしかかり息絶えている。
今まで、俺が欲していたモノ、今自身が手に入れたモノ、忠義に騎士の誉れ、
それを考えた時、たまらなく主の顔が見たくなった。
そして、ただ一言欲しい、その質問にただ一言答えて欲しい。
そう思った時、背後から俺を呼ぶ、今最も会いたい人の声が聞こえる。
そして、振り返ってみれば、そこにはやはりエヴァがいた。
そして、エヴァはこちらをジロジロ見ながら、
「ふぅ、無事でよかった。
森の切れ間が見えたから、ロレンスにロベルタを預けて一足先に来た。
しかし、どうした?」
そういうエヴァに、俺はそのまま今聞いてきたい事を口にした。
エヴァなら今の俺の気持ちを必ずこうだと、肯定してくれるような気がしたから。
「・・・・、なぁ、エヴァ。」
そう言うと、それまであたりをキョロキョロしていたエヴァは、
こともなげに草原を見ながら、
「どうかしたか?」
そう聞いてきたので、
そのまま俺の質問を口にする。
「俺は、忠義の騎士か?」
そう聞くと、エヴァはキョロキョロしていた首をピタリと止め、
俺の顔を見る事無く、
「何でそんな質問をする?」
そう聞いてくるが、何故かと聞かれれば、
今、あの男を見て俺は自身の欲していたモノが、
本当に手に入ったのか心細くなった。
それに、俺は過去に裏切り者と罵られ殺された。
だから、今とても心細くてならない、だからこそ、彼女に肯定して欲しい。
「俺が本当に忠義の騎士なのか・・・、
俺は本当にそうなれたのか疑問だったから。」
そう言うと、こちらを見ないエヴァは体を小刻みに震わせて、
だが、声だけは無理やりに明るく、
「ディル・ムッ・ド・・・・、歯ぁ食いしばれ!!!」
そう言って、彼女は振り向き様に俺の頬を思いっきり殴りつけてきた。