緊急指令死亡フラグを撃破せよ・・・な第2話
「知らない天井だ・・・・っと、鉄板をやってる場合じゃないな。」
とりあえず現状把握だ。そう思って身体を起こす。体を起こすのもいつ振りだろう・・・、死んだ後ぶりか。
先ずはと思い自らの手を見る。そこには、23年なれ親しんだ無骨な手ではなく、白く小さな手があった。
指などは前の指の長さの半分ぐらいしかなく白く細い。俗に白魚のような指という表現があるが、まさか自分かそんな指を持つとは思わなかった。
しかし、これではっきりした。俺は本当に『エヴァンジェリン』になってしまったのだろう。
鏡を見ていないから、容姿は分からないが、少なくとも男ではなくなっている。
慣れ親しんだ物がある感覚もないし、見ても無い。神というモノがいるならばここで愚痴のひとつ、怨みの言霊でも贈る・・・、事は無いな。
贈るのはむしろ感謝だ。あの少女がエヴァだと分かっていれば、俺も少しは考えたが・・・・・、考えるだけだな。
腹もくくっていたし、何よりあそこまで頑なな意思を持っての願いなら、間違いなく俺はその願いを叶えただろう。
たとえそれが一人の少女と入れ替わり、すべてを奪い殺してしまうと言う事態でもだ。
と、そこまで考えて、
「このままでは俺が殺され続ける羽目になるのか・・・。」
それはダメだ、いただけない。
現状を打開しなくては少なくともネギまが始まらない。
いや、それ以前の問題だろう。少なくとも、俺はネギまを知っている。
知っているが、アレはネギが主人公なのであって、エヴァが主人公ではない。
それにエヴァの話を元にするなら、吸血鬼化してエヴァはまだ間もない。
つまりそれは、少なくとも600年は生きなければならないし、その間に最強と称されるほどの実力をつけないといけない。
原作には無い600年間の行動は間違いなくエヴァと違う事になる。
これは原作ブレイクとか言ってる場合ではなく、完全にブレイクするしかないと言う事だ。
それならそれで、こっちとしても動きやすい。
俺が居る時点で原作は原典に変換するしかないだろう。
原作開始後に入れ替わるなら、それに添って最善を行なえばいいが、現状では添うものが無く、完全にフリーだ。
それならば原作でのエヴァ自身が語っているフラグは回収するとして、それ以外は好きにさせてもらおう。
となると、先ずは今の死亡フラグの排除からだ。
いくら死なないとは言え、そう何度も殺されるのは勘弁願いたい。
それに、殺すからといって服も着せずに素っ裸なのも嫌だ。
そう思っていると扉の開く音がする。
「もう再生したか。私自身が真祖にしたとは言え、恐ろしいものがあるな。
まさか灰にした状態からの再生がその速度とは。」
扉を開けた男が何か言いながら近づいてくるが、俺はそれどころではない。
今の俺は怒りと情報を制御するだけで精一杯だ。この怒りは多分、
(エヴァ自身の怒りか。それにこの情報も・・・、これは弔いにこの男を殺さんと収まらんな。)
そう考えると、相手と自分の戦力差を考えないといけない。
怒りに任せての攻撃などエヴァの二の舞になりかねない。
頭に流れ込んできた情報からすると、男は魔法使いで間違いない。
どの程度の使い手かは不明であるが、人を真祖にできるのだから、それだけの腕前はあるのだろう。
それと対峙して勝つためには、何かしらの策が必要になる。現状で言えば、耐久力は間違いなく折り紙付だ。
流れてきた情報をあさると、その殆どが実験と証する拷問の記憶。そして目の前の男の・・・、シーニアスのニヤ付いた顔。
これは俺が見ても腹が立つ。と、そうではない。俺の今使える札は吸血鬼の身体能力。
これは目の前の男の顔を狙えるぐらいだから、相当に上がっている。
その上、エヴァの感覚からすると、まだまだ全力ではない。次に膨大な魔力。
これについてはシーニアスの最後の発言と、原作知識からして、あるのだろうが、少なくとも今はなんとも言えない。
流石にこの短時間で魔法を使う事はできない・・・、多分。それに、不確定要素に頼るという賭けも、今回ばかりはしたくない。
最悪この2度目の反抗で失敗すると、意識を奪われるという事になりかねない。
となると身体能力で攻めるしかないが、不安があるとすればエヴァと俺とのリーチ感覚の差。
これについては体を起こして、手を見ただけだが、問題はない。
今の所、死ぬ前の体とまったく同じ感覚で今の体も動かせた。
しかし、激しい運動などをしていないので不安といえば不安だ。
現状で幸いな事と言えば、シーニアスが無造作に近づいて来ている事だろう。
杖は持っているが幸い、そのまま近づいてくれば俺の近くに杖が来る。
とりあえずは、すぐに攻撃ができるよう姿勢を変えるか。
「ほぅ、いつもはその石のベッドに寝てばかりなのに体を起こすとは。
とうとう私に付き従う決心が付いたかい?ならば先ずは隷属の言葉でも紡いでもらいたいねエヴァ。」
苛立つ。その粘りつくような声と薄笑いの顔、自身の力を絶対と信じ、目の前の人をまるでムシケラと見下げるような視線。
苛立ちが爆発しそうになる。頭の中でカチリと俺とエヴァが本当の意味でシンクロしたような気がする。
だがまだだ、今の姿勢ではまだ遠い。
情報と経験では違う。
カチリとはまったお陰で、経験その物も自身の物として扱える。
だからこそこの距離ではダメだ。
それならば癪で仕方ないが。
「・・・・」
俺は無言で立ち上がり男に近づく。
頭を下げたまま、けして顔を見られないように。もし、今顔を見られれば間違いなく攻撃される。
それほどの怒りの表情をしているのが分かる。前の俺は、普段はポーカーフェイスだが、今ばかりはそんな事にかまっていられない。
一歩一歩確実に歩を進める、確実に仕留められる距離まであと3歩・・・、
2歩
1歩
「エヴァ、そこで跪き私に誓え。私の元に歩を進めたという事は、その意思があるのだろ?
さぁ、そうすればもう痛みを与えることは無い。 私にすべてを捧げれば福音をもたらそう!」
シーニアスが腕を広げ叫んでいる。
最初はろうろうとした感じだったが、最後の方には絶叫している。
この男が俺に福音をもたらす?ふざけるのも大概にしてほしい。距離は詰めた、杖を持つほうの腕も確かめた。
この状況なら確実に仕留められる。さらに嬉しい誤算とすれば、1歩1歩近づく度に身体に力がみなぎる。
そして、身体に何かまとわり付く感じがする。多分これが魔力なのだろう。
原作でも、膨大な魔力を持つこのかは、無意識に魔力を扱っていた。
そして、俺は膨大な魔力を持っている。
さらに言えば呪文などとは別として『魔法』が在る事を知っているし、この体にも魔法によるダメージを受けている。
ならば、魔力というものが少しは制御できてもおかしくは無い。
さぁ、ここまでくれば後は自身と言う弾丸を放つだけ。
狙いは杖を持っている左手から左胸。
本来は頭を狙いたいが、この場合少しでも時間を短縮したい。
武器を持った人間は敵が飛び掛ればその武器を振るおうとする。
ゆえにこの範囲を狙えば、最悪杖を落とさせる事が出来る。
さぁ、すべての条件はそろった。
放つべき弾丸もある、中に込めるべき怒りもある。
ならば、自身の殺意を持って幕を下ろそう。
姿勢を低くし一気に飛び掛る。
「キサマが福音?ふざけるなよゲスが!」
あえて声を上げる事によって、攻撃の意思を示したおかげで、予想通りシーニアスは腕を振るった。
まぁ、そんな人間の反応速度などに、今の俺が負ける訳は無い。
そして、グチャリとした生肉の感覚、次にベニア板を打ち抜いたぐらいの感覚、最後にまた生肉の感覚というコラボレーション。
最初は掌手を放つ予定だったが、途中で手刀に変えた。理由としては飛び掛った時の感覚としか言えない。
しかし、それが功を奏してシーニアスの肩と腕の繋ぎ目を貫く事ができた。
こうなってしまえばもう、左腕そのものが使い物にならない。
そう思っていると、男が無理やり俺を引きはがそうと、残った右手で俺の米神を殴ろうとするが、
それより早く男の腹を蹴り、その反動で貫いていた腕を引き抜く。
もちろん左腕を代価に貰って行くのも忘れない。
貰って行く為に残っていた肩の上下の肉を引き千切る事になったが気にしない。
腹を蹴った時に肋骨が何本か折れた感触がしたが、これも気にしない。
「グぎゃやああアアああ・・・・、う、俺の腕が・・・、この小娘が甘くしていれば付け上がりやがって。」
ゲスが何かをまだ叫んでいる。俺としてはとっとと死んでほしいんだがね。
杖はすでに男の届く位置にはない、その上あの出血量だ、正直言ってショック死しなかった方にある意味驚きだ。
しかし、もう終わりにしよう。
「見苦しいな、ゲスが。その汚い口をもう開くな、最後の慈悲だ。
私が闇の福音としてキサマを殺してやるよ・・・。もっとも残酷な方法でな。」
多分今、俺は凄惨な笑みを浮かべているだろう。
多分、この喜びはエヴァの身体が覚えているエヴァ自身の喜びとしての感情なのだろう。
このままこの男を殺せば本当の意味でエヴァのすべてが終わる。
憎しみも、悲しみも、痛みも、怒りも。
そう、この身体が今も覚えている記憶が終わる。そしてエヴァとしての俺が始まる。
それは素敵な事だ、とてもとても素敵な事だ。これで、エヴァとの約束も果たせるだろう。
そう思い、男に歩み寄っていく。一歩また一歩と。
しかし、シーニアスはすっくといきなり立ち上がった。
「エヴァ、覚えていろ今は引く。 引いてやるさ、だが覚えていろ。
消して忘れるな・・・、私はいずれキサマを迎えに来る。」
やばいと思ったが遅かった。
シーニアスは残った右手で小さな杖を取り出し詠唱も無く転送術式を発動させ姿を消す。
「くそっ、離れる時に無理にでも心臓に蹴りをいれるんだった!そうすれば少なくともヤツはその時点で終わっていたのに。くそっ!」
八つ当たり気味に奴から奪い取った左腕を投げ捨て、顔に付いた帰り血をぬぐう。
その際口に入った奴の血の味は最悪だった。