時間は勝手に進むものだな第31話
シュヴァルと別れた後、俺は待機室に1人でいた。
そこで思い浮かぶのは自身が指揮して引き起こした結果。
自身の仲間を、隊長を自らの手で殺し、討伐目標であった真祖を取り逃がし、今をのうのうと生きている自分。
だが、それももうすぐ終わる。
シュヴァルの甘言に乗り、鬼神兵と言う訳の分からない物を扱い、戻ってくるか分からない真祖を討とうとしている。
いや、今の俺がやっている事はやつあたりなのだろう。
どんなに言葉で塗り固めても自身が引き起こした事実はかわらない。
しかし、そんな事はとうの昔に分かっている事だ。
生き恥をさらし生きている自分は更に恥をかき、滑稽と嘲笑われる、誰でもない自分自身に。
俺の家系は父さんも爺さんも、その前もその前もずっとこの国に仕えてきた。
そんな家で育った俺も将来はこの国に仕えるものと思い育ち、そして大人になりこの国に仕えた。
仕え始めて知ったのは、国に仕えるという事が実はそんなに綺麗なものではないと言う事だ。
仕えて出会う人間はそれぞれ自分の意思と言うものを持ち、こうしたいから、
ああしたいから国に仕えるというやつばかりだった。
しかし、別にそれが悪い事とは思わない。
生きていく上で仕事をしなければ食事にはありつけないし、服も買えない。
しかし、それを自分自身に当てはめると実は俺は何も持たずにただ、
国に仕えるという目標を持って国に仕えているという事実に愕然とした。
つまりは、俺は国に仕えた瞬間におれ自身の目標と言うものを達成してしまった。
そして、目標を達成した俺にはなにもなくなってしまった。
そんななか出合ったのがサーヤ隊長だった。
初めて隊長と出合った時、彼女は俺に、
「お前が新しい副隊長か。今度はどれくらい持つか分からんがまぁ宜しく頼む。」
そう隊長室の机に両肘を付いて、口の前で手を組んで話して来た。
実は、サーヤ隊長には悪い噂があった。
曰く、彼女は何を考えているか分からない。
曰く、彼女は常に死に急いでいる。
そんな噂のある彼女の副隊長に抜擢された時、俺はもうここには居られない物と思った。
そして、今目の前にいる女性を見てもそう感じた。
彼女は間違いなくどこか壊れていると。
そう思っていると、サーヤ隊長は一瞬何かを考えたようにして口を開いた。
「上からのお達しで、もうこれ以上新しい副隊長は俺の下には来ないそうだ。
まぁ、残念だったと思って諦めてくれ。
・・・・、そうだ、お前が最後ならそのお前にいい事を教えてやろう。
今、私の座っているイスが欲しいならすぐにでもくれてやる。
ただし、それには条件がある、俺の所に真祖の情報をもってこい。
条件はそれだけだ。無論、その真祖が何処にいるかまではっきりとした情報だがな。」
そう言って自虐的な笑みを顔に浮かべて低く笑った。
そして、それから俺は何かに取り付かれたかのように真祖の情報を探し出した。
しかし、出てくる情報はどれも同じようなものばかり、賞金稼ぎのギルドに顔を出してもそれは一緒だった。
むしろ、そこから出てくる情報は自身の名前に箔を付けようとするホラ吹きな連中の根も葉もない情報ばかりで、
酷いものになると、
「俺は真祖と1人で戦って真祖を殺した。何、あんなガキ一人殺すのは俺にとっては造作もないことだ。
剣を振り上げた俺に真祖は恐れをなして、命乞いをして靴まで舐めたんだからなぁ、ガハハハハ・・・・。」
それを聴いた瞬間、もしこの場に真祖がいても目の前の男が同じ事をいえるのかと言う疑問を抱いたが、
それがホラだと分かって聞いたので何も言わなかった。
・・・・・、真祖。
隊長が探し、今は俺も探している存在。
アリアドネーで騒ぎを起こし、今もなお逃走し続ける怪物。
隊長と真祖にどんな因縁があるのか俺は知らないが、それでも、今の地位を捨ててもいいというのだから、
深い因縁があるのだろう・・・、いや、あったのだろうか。
そんな事を考えていると、待機室にシュヴァルが現れた。
「準備が整ったよクライツ君。着いてきたまえ。」
そう言ってシュヴァルは白衣を翻し歩いていく。
そして、俺も鉛のように重い自身の体を引きずるよう動かし後を追う。
持って行くものは特にない。強いてあげるなら、自身の指にはまっている魔法発動媒体の指輪ぐらいか。
そして、程なくして着いたのは艦隊のドッグ。
舟がズラリ並ぶその一番奥にシュヴァルと俺のお目当ての品があった。
「光栄に思いたまえクライツ君、君がこれから行おうとしている事は今までに誰もが成し遂げ得なかった偉業だよ。
かつて人は神と言う存在に祈りを捧げる事しかできなかった。
しかし、神は気まぐれで、祈りを捧げ、供物を捧げ、更には贄を捧げたとしてもお構いなしなエゴイストだった。
でもね、これからは違うんだよ。この鬼神兵が完成すれば立場は逆転するんだよ。
今まで好き勝手振舞っていた神を今度は僕達が好き勝手使い、使い潰す事ができるんだよ。」
鬼神兵を目の前にしたシュヴァルは、何時ものニタニタ顔で目を爛々と輝かせながら喋っている。
俺の前にある鬼神兵は、ずんぐりとした熊のような体で、顔つきもそれに酷似していて、その体は絶えずほのかに白く光っている。
そして、その体のあちこちに紅い魔法術式が打ち込まれ心臓の鼓動のように脈打っている。
「これに入っている神は何の神だ?」
そう俺が聞くとシュヴァルは、
「さぁ?僕はあくまで鬼神兵してこれを扱ったからね。
これがいったい何の神なのか、荒神か、破壊神か、或いは豊穣の女神か。
僕にとってはそれは酷く些細な事なんだよ。僕にとって大切なのは、今目の前にあるこれをいかに上手く扱えるか、
いかにこれが命令に忠実か、そして、これがいかに僕の興味を引くかしかないよ。」
そう言って顔を歪ませてシュヴァルは笑っている。
こいつのこの薄気味悪い笑いを俺は後どれだけ見ればいいのだろうか。
目の前の鬼神兵がどうこうよりそちらの方に俺は興味が引かれた。
しかし、そんな事を考えていてもシュヴァルに伝わるわけもなく、シュヴァルは自身のうんちくを披露し続ける。
「ここまでこぎつけるのは大変だったよ。
石化封印されたこれの封印を解いたはいいけど、解いた直後に酷く暴れてね。
そこから試行錯誤の末ここまでたどり着いた。でも、そこからも問題は山積み。
人口精霊を核にすれば動作は緩慢で小さな作業には不向き。
魂を定着させようかと思えば、霊格の問題で定着できず、逆に飲み込まれる始末。
実際今回サーヤの艦隊を借りたのも、実験が失敗した際にこれを止める為の抑止力が必要だったからだよ。」
今回の実験内容がなんなのか俺は知らないし、知る必要性もない。
兵器は兵器として運用されて初めて価値が出る。
そして、シュヴァルの言う事を聞けばこれはその兵器としての価値すらもない。
そんなものを使おうとする俺が滑稽なのか、それとも、
それをさぞ素晴らしいもののように話すシュヴァルが滑稽なのか、答えは出ない。
「シュヴァル、御託はいい。」
そう言うと、シュヴァルは首をすくめながら、
「折角の苦労話なのにつれないなクライツ君は。」
「馴れ合う気はない。扱い方を知れればそれで満足だ。」
そう言って、俺はジロリとシュヴァルを睨んだ後、目の前の鬼神兵を見上げる。
「分かったよ、こっちにきたまえ。」
そう言ってシュヴァルに連れて行かれたのはイスのある小さな部屋だった。
「クライツ君はそのイスに備え付けられているバイザーを被ってくれればいいよ。
この部屋自体にすでに術式が仕込んであってね、クライツ君の精神だけをこの鬼神兵の核と融合させて、
操作してもらおうってわけさ。でも、先に言って置くけど、融合している関係上鬼神兵が傷を追えば、
その傷がクライツ君の体にフィールドバックする。どれくらいの割合でフィールドバックするかは分からないよ。
何せ、今回の挑戦は初めての試みなんだからね。」
そういいながら、シュヴァルはテキパキと俺に鬼神兵の操作法をレクチャーしていく。
操作事態はそんなに難しくはない。ただ、それに伴うリスクは大きいがそれはもう今更だ。
隊長に槍の男の情報を持っていったのが自分なら、隊長を撃ったのも自分。
結局今回の騒動を始めたのは自分で、終わらせようとしているのも自分。
シュヴァルの話を片手間に聞きながらそんな事が頭をよぎった。
そして、
「操作法は今言った通りだよ。質問は?」
「この部屋はどれくらい頑丈なんだ?
後、これが起動した際には何処に出る?」
そう聞くと、シュヴァルは怪訝そうに、
「君も変な事を聞くね、頑丈さは折り紙つきだよ。
いざ暴走した際にここを潰されると、どうなるか分からないからね。
起動した場合は君が砲撃来た地点の少し手前に出るよ、あの辺りなら、まだ非常事態宣言中で人もいないしね。」
そうか、そうな、それなら安心した。
なら、もうシュヴァルに用はない。
「なぁシュヴァル、今回の件でお前は何か失ったか?」
そう聞くと、シュヴァルは口を二ィっと歪めながら、
「失ったものはないね。むしろ貴重なデータが手に入って小躍りしそうなぐらいだよ。
それに、今から君の分も追加されるしね。」
そう言って、シュバルは嬉しそうに笑っている。
そんなシュバルの横をすり抜けるように前に出て振り返りざまに、
「そうか、なら、何の憂いもない。」
そう言って、魔力を乗せた裏拳を振るう。
「は?」
そういったのが、シュヴァルが生きているうえで最後に残した言葉だった。
何せ、そう言った後には俺が文字通りシュヴァルの下顎を文字通り殴り飛ばしていたのだから。
下顎を殴り飛ばした時、シュヴァルの頬の肉がブチリと切れ、そこから血が噴出す。
その後、声にならない叫び声を上げようとしたので、人差し指と中指で喉を突いて潰す。
その痛みで顎と喉を庇う様に交差させた指を全て焼き炭化させる。
これでシュヴァルはもう喋る事も声を発する事も文字を書く事も出来ない。
俺の胸にあるモヤモヤは晴れる事はないが、それでも、幾分かはマシになったと思う。
「・・・!!・・・・!!」
未だに声にならない悲鳴を上げながら、のた打ち回っている。
「シュヴァル、お前は1つ勘違いをしたんだよ。
お前はゲームを楽しむ感覚でここまで来て、そして常にそのゲームに勝続けた。
だが、それがお前の失敗だ。ゲームに勝続けたがために、プレイヤーでしかないはずの自分をいつの間にかそのゲームのルールブックだと思った。
普段のお前なら、俺と二人でここには来なかっただろうし、くるにしても保険をかけていただろう。
が、お前は自分が常に安全な所にいると驕った。それが今のお前の代償だ。」
のた打ち回るシュヴァルを尻目に俺はバイザーを被り、イスに腰掛ける。
扱い方は今そこで血を流しているシュヴァルに教わった。
いや、むしろこのまま暴走しても特には問題ないか。
「全てを終わらせよう。始まりと終わりが一緒なら、今が丁度その時だ。
シュヴァル、お前は神をエゴイストといったが、そのエゴイストを使役しようとしているキサマの方がはるかにエゴイストだ。
そして、今ここに腰掛けている俺も同じ穴の狢だ。」
そして鬼神兵と精神をリンクさせ目覚めさせる。
ーside空飛ぶ2人ー
後ろにサーヤを乗っけてオスティアを目指し空を飛ぶ。
ふぅ、オスティアに着いたら箒ごとサーヤを空に置いてけぼりにして、とっととおさらばしよう。
じゃないと、下手にオスティアにいればまた騒ぎに巻き込まれる。
個人的にはもう騒ぎはお腹いっぱいと言うところだ。
そう思いながら空を全速力で飛んでいると、後ろから声がする。
「お前はこの後どうする。」
「悪いが逃げさせてもらうよ。
少なくとも、私がこれ以上ここにいても得する事なぞない。」
そう言うと、サーヤは黙り込んだ。
天空のオスティアまではもう鼻と目の先。
辺りは暗いが、雲がないため下手に飛ぶと巡洋艇なんかが警戒していれば見つかりかねない。
そう思い、島の真下から回り込む。
何処に出るかは分からないが、川と月を目印にしておおよそのめぼしをつけ、オスティアの地表に飛び出る。
そして、
「サーヤ、私は少々目を悪くしたか?
気のせいかオスティアが燃えている様に見えるんだが、これは祭りか何かか?」
そう聞くと、サーヤの方もまさかこんな事態になっているとは思わなかったのだろう、
呆然としたように、
「俺もここに住んで長いとは言わないが、それでもこんな奇抜な祭りは聞いたことがない。
少なくとも、自分の国を煉獄にするような祭りがあってたまるか。」
なるほど、空を天国、地上を地獄ならその中間にあるのが煉獄とは、中々にパンチの効いた切り替えしだ。
ふと、そんな事を思っていると、町の中心から煌く閃光が天を突いた。
どうやら自体は芳しくない、俺がいない間にどう進展したかは知らないが、好転したようではない、むしろ悪化している。
が、流石にこの事態まで俺のせいにされては困る。
自身で蒔いた種ならまぁ、対処しようかとも思うが、流石にこれは身に覚えがない。
そう思いながら光のした方を眺めていると、何かが出てきた。
ずんぐりとした躯体は淡く輝き、その表面に見える模様は血脈のように鼓動している。
そして、そのずんぐりとした物体が再度閃光を天空に向け迸らせる。
それは雄叫びか、歓喜か或いはただ光らせているだけか。
流石にこれは俺の理解の範疇外だ。
そう思っていると、サーヤがポツリと、
「鬼神兵・・・。」
と呟いた。
鬼神兵・・・、確か原作では過去の大戦に投入され、学園祭では超の尖兵として運用された兵器。
実際の所、アレの強さはよく分からない。
何せ本では戦闘描写も少なく、口から魔力砲を撃っていたぐらいしか覚えていない。
だが、それでも鬼神兵は兵器なのだろう、鬼神と言う神を使った神造兵器ならぬ神様兵器そして、目の前に見えるのはそれのプロトタイプ。
迸る魔力砲はでたらめで、制御できているのかと問われれば多分答えはNO。
制御できて運用しているのなら自国を焼くような事はまずしないだろう。
そう思っていると、国の中心から空に何十隻かの戦艦が飛び出してくる。
見た感じではサーヤと戦っている時に見た物とは別のタイプ。
その戦艦群が鬼神兵に攻撃を仕掛けているがダメージらしいダメージは見て取れない。
そう思っていると、鬼神兵の口から迸る魔力砲で戦艦が一隻落とされた。
流石にこんなデタラメに付き合うほど俺もお人よしじゃない。
自国の事は自国でまかなってもらおう。
「さて、私はもう行くが後は好きにしろ。」
そう言って、真祖は箒の柄の先に立った。
「待て、お前はこの光景を見て何も思わないのか?」
そう問うと真祖は、眉をひそめながら、
「人の話はちゃんと聞け、私は元よりここから逃げるのが目的だ。
キサマの国でキサマの国の兵器がキサマの国を壊す。
結局の所の引き金がなんなのかは知らないが、少なくともこれに関しては私はノータッチだ。
それに、キサマは私に矛盾していると言ったが、今のキサマも矛盾している。
本来なら、キサマがこの光景を見ても何も思わなかったはずだ。
なぜなら、キサマは死ぬために私に挑んだ。つまりは、私に挑んだ後の事なぞ知った事ではないのだ。
それでもなお、キサマに思う所があるのなら好きにしてみろ。
一度は捨てた命だろ、なら自分自身で使い潰してみるのも一興だぞ。」
そう言ってニヤリと笑った後、真祖は空を飛んでいった。
その背を見送り、目の前の鬼神兵を見る。
鬼神兵の攻撃を魔力シールドで防御するも、また1つ戦艦が落ちた。
傍目から見ても今空に浮いている戦艦群と、鬼神兵の戦力差は歴然。
浮いている戦艦が半旧式化しているとはいえ、それをほぼ一撃で落としているのだから攻撃力も半端なものではない。
アレと拮抗する手段、アレを倒す可能性のあるもの。
そこで思い浮かぶのは、自身が国から預かっている艦隊。
新造船艦群ならアレと渡り合える可能性がある。
しかし・・・・、今の俺にそれを指揮する権利があるのだろうか?
いや、その前に何故俺は真祖の背を見送ったのだろうか?
俺の願いは真祖に殺してもらう事だった。
だが、その願いは真祖自身に握りつぶされた。
アレと話をして、最後の最後まで俺は吠えぬく事が、自身の思いを持ち続けることが出来なかった。
死を望む俺と、生を望む真祖。自身の血肉を差し出し、その上で引く事を訴える真祖。
俺に向かい足掻けと叫んだ少女。
・・・・・、俺はまだ、足掻けるのだろうか?
追い縋る物もなく、虚勢を張る事も出来ず、自身をメッキで覆い隠す事もできない俺にいったい何が出来る?
そう思っている間にまた一隻落とされた。
そして、その光景を見かねたのか新造戦艦群が空に展開を始めている。
しかし陣形はデタラメで、下手に鬼神兵を包囲しているため、味方の弾で味方が落ちる可能性がある。
俺は・・・・、まだ・・・・、いや、俺はもう仲間を失いたくない・・・・・・。
そう思った瞬間、かつての絶望が胸を支配する。
仲間を失い、居場所を失い、世界でただ独りになったかと錯覚して、死を望んでいた。
復讐して真祖を討ち取ってもその後に残るのは自分ひとり、それなら死んだほうがマシだと思っていた。
だが、そんな絶望していた俺でも今は、そう今は、
「失うものがあり、失いたくないものが俺にもできたのか・・・・。
この思いが正解なのか失敗なのか分からない。でも・・・・。」
今の居場所を失いたくはない。
隊の隊員の声を失いたくない。
そして、過去の仲間に花束を贈りたい。
今思えば、俺はあいつらが死んだ後、一度もあいつらに酒の1つも花の1つも贈っていない。
そうだな、俺が死んだらあいつらにそれを振舞うやつがいなくなるんだな。
「すまないみんな、生き残った俺を恨んでいるかもしれないが、その恨み言を聞くのはもう少し先になりそうだ。」
言葉を吐き、自身を奮い立たせて今展開している新造戦艦隊群に向かう。
あのまま攻撃を仕掛ければ間違いなく同士討ちが起こる、今の指揮官はいったい誰だ?
クライツなら、少なくともあんな布陣は敷かない。
あんなデタラメな布陣を敷くのは卓上理論がお好きなインテリか、さもなくば、卒業したての若い士官か。
そう思うと、箒を握る手に力が篭り、それの呼応するかのように速度が上がる。
頼む、攻撃開始前に間に合ってくれ。
そう思いながら艦隊に念話お送り続ける。
(新造戦艦隊隊長サーヤ・フライスだ、今すぐ攻撃態勢を解き一時離脱せよ。
現指揮官に告ぐ、攻撃姿勢を解き一時離脱せよ。繰り返す・・・・。)
幾度とない呼びかけ、何時帰ってくるとも分からない返答。
だが、1つ確実な事は、俺は空を飛び艦隊群の方に向かっているという事。
頼む、間に合ってくれ!
(新造戦艦隊隊長サーヤ・フライスだ!頼む聞こえてくれ返答してくれ!)
(隊長!?ご無事だったのですか!)
そう、返された返答に一瞬泣きそうになる。
間に合った事に、そして、まだ俺を隊長といってくれる部下に。
だが、今はまだその時ではない、今は歯を食いしばり足掻く時だ。
(無事だ!今から艦隊の指揮を取る、ハッチを開き入れるようにしろ!)
それに答えるようにハッチが開き船へと帰還を果たす。
「ふぅ、サーヤは飛んで行ったか。」
あそこまで言って動かないなら、それもまたよしと思ったが、どうやらサーヤは動いたようだ。
さて、ならあとの処理は彼女達に任せて俺はこの燃え盛る町から自らの仲間を見つけるとしよう。
「チャチャゼローーーー!!ロベルターーーーーー!!念話でも返事でもいいから返答しろーーーー!!」
そう叫びながら空を飛ぶ。
まぁ、元々いそうな位置は分かってるんだけどねこんな事に出くわしたくなかったが、
その事も想定して集合場所を決めたわけだし。
(エヴァ!戻ってきたか!)
そう返したのはディルムッド。
どれくらい離れていたか分からないが、こうしてまた出会えたことをうれしく思う。
(あぁ、もどってきた。そちらの状況は?)
(今の所特に被害は無い、強いて言うならロベルタが動けないぐらいだ。)
(分かった、魔力をたどってそちらに向かう。見つけやすい場所に出ておいてくれ。)
そういって空を飛ぶと程なくしてディルムッド達の姿が見えた。
「大丈夫だったか、心配したんだぞエヴァ!!」
そう言ってくるのは人形姿のディルムッド、
「ご無事で何よりですお嬢様。」
そう言うのはディルムッドに持たれているロベルタ。
動けないだろうが、先ずは無事で何よりだ。
そう思っているとディルムッドが口を開いた。
「いったい何が起こってるんだエヴァ?
まるでオスティアが地獄じゃないか。」
「私もそれに関してはしりたいです。私達が隠れている間に何をなさったのですか?」
そこはかとなく俺が何かして、こんな風になったと思われているような気がしないでもないんだが、
残念な事に本当に鬼神兵に関しては俺も見に覚えがない。
「悪いが私も全容を知っているわけじゃない。
何せ、私も少し前まで地上にいたんだからな、流石にこの国に手の出しようもないし、
少なくとも私は鬼神兵なんていう兵器を作った覚えも無いよ。」
そう言うと2人は、
「「鬼神兵?」」
と、きいてきた。
まぁ当然だろう。言わば今俺達が目にしているのはこの時代の最新兵器にして、
神と言うものを使用して動かしている兵器。
まぁ、それが暴走していようが、プロトタイプだろうが、そこから開く未来と言うのもあるだろう。
そんな事を考えながらロベルタと切れた糸を繋ぎ、口を開く。
「詳しくはしらんが、アレは神を使った兵器だ。
強さにしろ魔力量にしろ馬鹿と冗談を投げ売りしているような物だろ?」
そう言っている間にも、鬼神兵は魔力を垂れ流し、
町の外に向かい町を壊しながら進んでいる。
アレの目的は知らないが、暴走しているなら目的もないだろう。
「なぁ、エヴァあれは神なのか?」
そう口を開いたのはディルムッド。
まぁ、その疑問は当然だろう、
「多分間違いない。少なくともあれの霊格は人なんかでは足元にも及ばん。
それに、この世界は普通に龍がいて妖精がいて、精霊を使役できる。
その事を考えれば今更神がいても驚きはせんだろう?」
「いや、俺はかなり驚いてるんだが・・・・。
しかも、それを兵器として使おう何て。」
「お嬢様、あれの目的はなんなのか推測は付きますか?」
糸を繋ぎ、自身の体を動かせるようになったロベルタが振り返りながら俺に聞いてくる。
「流石に私も知らんよ。まぁ、あれが兵器なら暴走していて制御不能といった所だろ。」
そう言った時に上空の戦艦群が一斉に鬼神兵に射撃を始める。