1と0の差かな第30話
「ロベルタ、大丈夫か?」
そう声をかけるのは動けないロベルタ。
辛うじて声は出せるがエヴァとの糸が切れたので今は動けない。
「文字通り糸の切れたマリオネットですねチャチャゼロさん。
しかし、私の事よりお嬢様の事です。念話は最後の時から聞こえてきませんか?」
そう、心配そうな声を出すも顔は無表情。
現在、俺達はエヴァの指示に従い逃走を成功させ決めいていた集合場所の1つに隠れている。
エヴァと別れた後の戦闘は、面倒だが歯ごたえのある敵はいなかった。
何せ、ロベルタが魔法銃で敵の頭を抑えその隙に俺が小さな躯体を利用して接近して敵をなぎ倒すというもの。
当然敵は殺さず気絶させるにとどめてある。
これは、殺せば捨てておかれるが、生きているのなら救出しようとする人の心理と言うものを利用したものらしい。
まぁ、らしいというのはエヴァが言っていたからだが、俺自身もこれには納得できる。
殺して死体にしてしまえば見向きもしないが、気絶や負傷ならば助けようとする。
俺が騎士団にいた時もそういう場面には良く出くわした。
そうやって、退路を確保しながら戦闘をしていたときに急に背後が明るくなったかと思うと爆音が轟いた。
最初は、エヴァが殲滅魔法でも使ったのかと思ったが、どうも毛色が違うらしい。
そう思っていると、急にロベルタが膝から崩れ落ち、エヴァから念話で外に出るな逃走しろ。
振り返ってみれば、空からは数多の閃光が瞬きエヴァが行ったであろう道を破壊していた。
そして、その後は天井を破壊してロベルタの背中をつかんで逃走。
体の大きさの差はあるが、気を使えば特に問題なくロベルタをつれて逃げる事ができた。
「エヴァからの念話は聞こえてこない。多分地上にいるんだろう。
元々、あの川から地上に逃走する予定だったんだしな。」
「そうですか。しかし、意外ですね。もっとあわてるものかと思いましたよ。」
そう私が言うとチャチャゼロさんは、
「いまさらと言う感じもあるし、心配していないといえば嘘になる。
ただ、今の俺が落ち着いて見えるというのならば、それはたぶん、エヴァといったいどれだけ一緒にいたかの差なんだろうな。
そのうちロベルタにも分かるさ。俺達が共に生きると言った主がいったいどれだけ無茶をする人か。」
そういうと、チャチャゼロさんはとても楽しそうに笑います。
しかし、一緒にいた時間ですか。私は少なくとも、あの地下から出るまでの間はずっと眠りについていました。
それは次第に少なくなっていく私達を傍観するという、自身が壊れて朽ちる様を無数に体験すつと言う作業でした。
それが悲しいと言う感情はありませんでした。
ただ、そこにある体験していない事実が私の中に流れてきて、それが私の事実になる。
1つ違う事といえば、それを体験して事実とする物が私以外にも数多くいた事でしょう。
しかし、私の中に私は無数にいますが、今の体を動かしている私は私しかいません。
それでも今の私少し変ですね。
今の状況を不快に思います。
少なくとも、楽しいという感情ではありませんねこれは。
多分、この感情をカテゴリーに納めるなら寂しさでしょうか?
あの地下にいたミークとい存在から新しく作られた私は、破損したもの以外ミークと同じものを持っていますが、
それでもお嬢様は私の体を作って私が目覚めた時に、
「え~っと、始めましてかな?いや、うん。初めてと言うわけではないんだがなんと言うかな。
まぁ、これから宜しくたのむ。」
「はい、私の事はミークとお呼びください。」
そう言うと、お嬢様は困ったような顔をしながら、
「ミークか・・・・、いや、その名前はやめよう。お前はもうあの地下にいたヤツとは違う。
少なくともお前は私の従者だ、ならば、別の名前をやろう。まぁ、嫌ならそれでもかまわんが、どうする?」
そして、私はお嬢様から今の名前をいただきました。
多分、今の私は母鳥の帰ってこない巣にいる雛のようなものでしょう。
それはチャチャゼロさんも一緒でしょうが、何が違うかと言えばチャチャゼロさんが私の兄だからと言うことでしょう。
そんな事を考えていると、チャチャゼロさんが、
「エヴァが帰ってきたら怒らないとな。俺とロベルタを心配させるなってさ。」
そう言って、チャチャゼロさんは私に向かいニヤリと笑ってきます。
「フフ、私はいいです。お嬢様に嫌われたくは無いですからね。
そういう役目はに・・・、チャチャゼロさんにまかせます。」
そう言うと、チャチャゼロさんは首をすくめながら、
「あぁ、少なくとも君より付き合いの長い俺だ、苦言を言うのもだいぶなれたよ。」
そういいながら、仕方ないなぁと言う感じで苦笑されています。
お嬢様、早く帰ってきてくださいね、私達は待っているのですから
ーside地上の2人ー
ざー、ざー、ざー。
外は相変わらず雨が降っている。
今俺は地上のとある洞窟に非難している。
サーヤは相変わらず絶賛気絶中。
すでに数時間以上意識が戻っていないからもしかしたら、脳の方がイっているかもしれない。
まぁ、そうは言っても外傷は無い。
無論俺が薬を頭にぶっかけたおかげだが、中までは流石に保障できない。
ついでに言えば、魔法発動媒体であろう指輪は奪い、剣は何処にあるか分からない。
鎧はすでに砕けているので、下は別として上はノンスリーブの黒いピッタリしたインナーだけを着ている状態だ。
まぁ、女でも鍛えたのだろう。豹のようなしなやかさのある筋肉がついている。
ふぅ、本当に何の因果かな。
天空の都市で命の取り合いをしていたかと思えば、地上で共に焚き火にあたる。
まぁ、片一方は意識が無いから目覚めたら殺し合い再開・・・・、いや、殺し合いじゃないか。
そんな事を思いながら石に座り壁に背を預け、焚き火に小枝を投げ込みキセルで魔法薬を吸う。
「さて、どうしたものかな。復讐者ならまだあしらい方もある。
賞金稼ぎなら適当に金でもばら撒けばいいし、名誉が欲しいなら適当に腕の一本でもくれてやって、
後でコウモリにでも変換して呼び戻せばいい。まぁ、痛いのは嫌だから男ならブチ殺す可能性が無きにしもあらずだが・・・・。」
目の前の女は本当に何なのだろう?
復讐でも無く、正義でも無く、名誉が欲しい訳でも無く。
絶望に打ちひしがれるに足りえる理由があるのだろうか?
少なくとも俺の事を呼び、そして、俺に殺してくれと叫んだこの女には、少なからず因縁があるのだろう。
人を呪わば穴2つ、いや、この場合自業自得・・・・なのか?
なんにせよ、無意識の恨みでここまで歪んだ事を言うヤツも早々いないだろう。
あえて言うなら、それは何処までも突き抜けた馬鹿か、或いは袋小路に迷った迷子か、
それとも、俺のように絶望に食われた末に希望を飲み込んだ者か。
少なくとも、エヴァを殺した俺はもう、女性を殺したくは無い。
ついでに言えば、人を殺して喜ぶ趣味も、必要以上に血を吸う趣味も持っていない。
俺の吸血は趣向か、或いは必要な物を作る時に血を採血するぐらいだ。
と、綺麗事を言っても殺すものは殺す。この事実は初めの一人を殺した時から変わらない。
少なくとも、俺の中の行動原理を自身で下げるなら、楽しいか楽しくないかの2択しかないが、
それでいくと少なくとも、力を使うのは楽しいがそれで誰かを傷つけたいとか、物を壊したいとか、
そういった自虐的な破滅願望は無い。
「ふぅ、いかん、なんか思考がループしだした気がする。」
そう思っていると、
「うッ・・・・・・・、うん・・・・・。」
そう声がしたかと思うと、パチリとサーヤの目が開き、体を起こしたサーヤと目が合う。
お互いに声は発さない。ただ、互いの目を見る。
そして、サーヤが口をひらいた。
「何故俺は目覚めた・・・・。」
そうポツリと口から言葉が漏れた。
「少なくとも、治療はした。意識が無かったから頭がイったかと思ったが生きてるなら良かったな。」
そう、目の前の真祖は俺に向かって口をひらいた。
「何故俺を殺さない。」
そう俺が聞くと真祖はげんなりした様に口から煙を吐いた後、
「必要性が無い。そもそも、何故私好き好んで人を殺す必要性がある?」
瞬間、頭に血が上る。
目の前の少女の姿をした怪物は人の仲間を殺したくせに、
俺だけを1人のけものにし、俺以外の仲間を皆殺しにしたくせに!
軋む体を無理やり奮い立たせて、真祖の襟首をつかむ。
「キサマはぁ!!俺の仲間を殺したくせに!!!俺だけを残し復讐の種をまき、
その復讐者が望むたった一つの殺してくれと言う願いさえ踏みにじって楽しいか!!」
そう額と額がぶつかり唾が顔にかかるほどの距離で叫ぶ。
そう叫ぶと真祖は逆に俺の首を掴み、睨みながら静かに口を開く。
「何故私を狙った?何が目的で私を狙った?
警告はした、慈悲はくれてやった。それ以上に私は私の血と肉をくれてやった。
それでもなお引かずに剣を向けたのは誰だ?私を殺そうと牙を向いたのは何処のどいつだ!?」
最後の最後のみ語尾を強め苦虫を噛み潰したような表情で喋る。
しかし、それは俺には偽善としか思えない。
「ならば何故俺を殺さない!俺はキサマに剣を向け牙をむいた!!それでもなお俺はお前が殺すにあたいしないか!?」
「あぁ、あたいしないな。絶望したならば勝手に首を括ってくれ。生きるために戦うでもなく、
戦いを趣向するでもなく、死ぬために戦うならどっか私の知らない所でのたれ死んでくれ。」
そう言って、真祖は俺の首から手を放し、襟首をつかんでいる俺の手を払った。
そして、俺に背を向け、
「ちっ、拾った命、拾えた命。救うことができた命、救った後の命。
キサマが生きている限り何をしようとかまわないが、それでも私を頼ろうとするな。
キサマ自身ができる事はキサマ自身でカタを付けろ。自身の生き死になど自身が選択できる最大の権利にして、
最も重い権利の1つだというのに、それを人に委ねるとは、私には理解できんよ。」
そう言って、真祖は石の上に座り何かを吸い煙を吐いた。
今俺の手には指輪は無い、愛刀はあの攻撃で消し炭になったか、或いはこの地上のどこかに刺さっているか。
それでもなお俺は目の前の存在に・・・・・、死と言う希望を見る。
「なぁ、真祖。何故キサマは女を殺さない?あの時あの場なら、俺の仲間を皆殺しにしたあの場なら俺が男なら殺していたはずだ。」
そう言うと、真祖は俺の方を向いて煙を吸って吐きながら、
「さぁーな。あの時あの場、その時その場、そんな仮定の話に意味は無い。
今あるがままを受け入れ、そして先の未来を選択する。生きている人間に出来るのはそれだけだよ。
・・・・・、死人にくちなし、しかし、その死者に花束を送る事ができるのは生きているヤツだけだ。
それに、女性を殺さないのは、子供が産めるからさ。」
ハン、そんな事だろうと思ったさ。
女を殺さない理由なんて、真祖自身の食事を提供する家畜を生かすような感覚なのだろう。
真祖からすれば女はみんな、
「血と骨の詰まった肉袋生産機と言うわけか。」
そう言うと、真祖はキョトンとした後、喉を低く鳴らして笑いながら、
「なるほど、そういう見解も出来るか。が、残念ながらはずれだ。
私は少なくとも人の血を啜らなくても生きていけるからな。私は自己の体で自己が完結している。
その時点で、他者と関わらずとも生きていける。」
そう、片足を立ててその膝に腕を置いて語っている真祖の瞳には多少の物悲しさがある。
しかし、ならば何故、そう何故、
「何故人を襲う?何故人を殺す?何故人に牙を向く?自身が自己完結しているなら、そのまま1人で消えていけ!
お前のような怪物なぞ人の前に現れなければいいものを!」
そう言うと、真祖は俯き髪で表情が見えないまま喋りだした。
「怪物か・・・、いい事を教えてやろう。怪物の定義とは、1つ言葉を喋ってはいけない。
1つ正体不明でなければならない。そして最後に、人を理解する心を持ってはいけない。
少なくともこれらにうち1つでも外せばそれはもう怪物とは言えない。さて、それではキサマの前にいるモノはなんだ?
怪物か、少女か或いは別の何かか?まぁ、人ではないのは確かだがな。」
そう言って喉を低く鳴らし笑う。
目の前の存在は何か?俺達が襲ったモノは何か?
俺の仲間を殺したモノは何か?そんなもの決まっている真祖だ。
自身で人では無いと言った目の前の存在だ。
しかし、何故真祖は俺に問う?
そもそも、真祖とはなんだ?
自己完結しているこれは何故・・・・・、人の前に現れる?
現れれば襲われるという事を知りながら何故?
そう考えていると、真祖が顔の見えないまままた口を開いた。
「キサマは何故人の前に現れたかと聞いたな?ならば答えてやろう。
それはな・・・・、そう、他のどんな生物よりも寂しがり屋だからさ。
人は死ねば終わるが、死ねない私は結局人の中で生きていく。しかし、どんなに心を通わそうと、
どんなに愛を囁かれようと、結局囁いた者も通わせた者もいなくなる。後に残るのは悲しさと寂しさ。
人の血を啜り半吸血鬼化させようと、どんなに人形を作ろうと、それはあくまで人の形をしているが、
最終的には私に文句1つも言わない、子供の人形遊びとかわらん。もう、私はもとよりそんな子供だましは沢山なんだよ。
だから、人を生める女性は殺さない。未来のある子供は殺さない。
虐げられようと、嫌われようと、これだけは覆さない。それが私の誇りだ。」
そう、俯いていた顔を上げ俺の瞳を射抜くように見て言い放った後口をつぐんだ。
何だ。何だ!!何だ!!!何なんだ!!!!
俺達は・・・・、俺はいったい・・・・、何なんだ!
目の前のものは何だ!俺達が仕留め様としたものは何だ!
「いったいお前は何だ!人でなく怪物でなく!自身を自己完結していると言うお前は何なんだ!!
いったいこれは何の冗談だ!お前は・・・・!お前は何だ!!」
分からない、今真祖が言った事が本当かどうかさえ分からない。
俺達はただ賞金が欲しいがために、名を上げたいがために真祖に挑んだ。
怪物と言われ、悪と言われ、恐怖の対称にしかなりえない目の前の存在は、今なんと言った!?
寂しがり屋?誇り?矛盾の塊でしかない目の前の存在は何なんだ!?
あの時俺も死んでいればこんな事にはならなかった!
あの時あの場にあった死を甘受できれば俺は・・・・・!
「人を殺し人を愛でて人と歩むというのか真祖!」
そう言いながら、真祖の細い首につかみかかる。
その拍子に髪が流れ目と目があう。
真祖の瞳に移る自身の顔は、鏡で見る自身の顔ではなく畜生の様だ。
そう考えた俺の思考を読んだのか、それとも、真祖にも俺の感じたように思えたのか、
「そのまま同じ所を死ぬまで回っていろ。何、犬畜生にはお似合だろう。
先を見れば自身の尻尾、しかし、自身ではそれが自身の物とは気付かない。
ゆえに結局同じ所をグルグルとループする。固着するものが違えば、或いは別のモノが見えたかもしれないが、
命あるものが他者より与えられる死に希望を持って生きているという時点でキサマは破綻している。」
そう言った後、俺の頭に手を廻し頭突きをするように額をあわせ、
「生きているなら足掻いて見せろ!!私は私の生き方を貫く!!キサマがなんと言おうとだ!!
キサマがなんと言おうと、私は私の抱える矛盾と共に生き抜くさ!!むしろ、その矛盾がなければ私は私たり得ない!!
思考を持った者が矛盾を抱えないなんてありえない!!」
そうサーヤに言い放ち手を放すと、彼女は膝から崩れ落ちてペタンと座り込んだ。
チッ、起きて早々こんな不毛な言い合いか。
普通、死ねない者が死を望み、死ぬ者が生を望むというのが本来の形なんだろうが、
今の俺とサーヤに限っては立場が完全に逆転している。
ゆえに破綻した答えか、或いは平行線をたどるかどちらかが自我を通すか。
これらにしか行き着く場所は無い。
せめて、サーヤが真っ当な復讐者なら或いは救いがあったのかも知れないが、
そうでない以上、あるのは破滅と救いの二択のみ、今の事で多少変われればまぁ、望みが少しは出るか。
そう思いながら、魔法薬を吸いながら洞窟の外に出る。
落ちた時からの正確な時間は分からないが、少なくともとも体感時間で一日は過ぎたと思う。
そして、洞窟をチラリと見ればいまだに座り込んでいるサーヤがいる。
さて、どうするか・・・・・。
いや、もう答えは出ているか。
「サーヤ、私は上に戻る。残してきた者たちがいるのでな。キサマはキサマの好きにしろ。」
そう言って投げて渡すのは指輪と、影から出した箒。
少なくとも、この二つがあれば早々死ぬ事はないし、空も飛べる。
そう思っていると、サーヤが口を開いた。
「もし、あの時俺達がお前に剣ではなく背を向けていたなら、別の結果が手に入ったのか?」
そう、ボンヤリとした顔で聞いてきた。
まったく、こいつは人の話を聞いているのだろうか?
「仮定の話に意味は無いと言った。だがまぁ、それでもすると言うのならば、答えはイエスだ。
私は逃げる者、背を向ける者に手を出す気が無い。その先の結果がキサマの望むモノかは知らないがな。」
そう言うと、サーヤは顔を俯かせて考え込んだ後、
「俺も上に連れて行け。今ここでお前を見失いたくは無い。
その先に別の答えがあるかは知らないが、それでも今はそれ以外に道は無い。
今のままでは、自身で自身の首を括る事なんてできない。」
はぁ、何が悲しくて今まで言い合いをしていたヤツをつれて上にもどらにゃならんのだ?
そう思い、額に手を当てて首を振っていると、
「嫌ならかまわない。今この場で頭を吹き飛ばす。」
そう言って指輪をはめた手で拳を作り米神に押し当て魔力をタメながら、
「上で俺が死んだ事になっているかどうかは知らないが、少なくとも俺はお前の見ている前で死ぬ。」
はっきり言おう、面倒この上ない。
勝手にしろとは言ったが、何も俺の前で死ねとは言っていない。
何でこう話がこじれるかなぁ?
「あぁもう!!連れて行ってやる。しかし、その後は保証せんし助けもせん。
それこそ、自身の頭を吹っ飛ばそうと知った事か!今回だけだ、今回だけキサマを上に取れて行ってやる!」
そう言って、サーヤとつれて洞窟から出て箒に2人で跨り、
天空に浮くオスティアを目指し空を飛ぶ。
ーsideクライツ&シュヴァルー
砲撃を行った後、急いで基地に着艦させて砲撃箇所を調べたけど、
見つかったのはサーヤの剣だけ。
あ~あ、真祖蒸発しちゃったなかな~?
アレで死ぬはず無いんだけどな~。
そう思ってたら、真祖の連れていた人形がどこかに逃げたって情報がはいってきたんだよね。
それを聞いて一安心、人形が動いてるって事は少なくとも、どこかから人形に魔力が流れてるって事だから、
真祖は生きてるね、多分だけど。
となれば、その人形達を回収しようと動くと思うから今のうちに鬼神兵の準備をしなきゃ。
そう思いながら、着艦した舟から鬼神兵を降ろそうと思って、向かっていた時にでくわしたのが青白い顔のクライツ君。
多分、自分の指揮した砲撃でサーヤを殺したと思ってるんだね。
まぁ、それは事実なんだけどね、うん、僕はあくまで案は出したけど指揮したのも、号令を出したのもクライツ君。
つまりは彼の判断の結果だね。
一応、今上の方では真祖討伐の功労者って事になるようにしてるみたいだけどね。
そう思っていると、青白い顔のクライツ君と目が合って、
「貴様が・・・・、貴様があんな案を出さなければ!!
貴様があの時あの場にいなければ!!!」
そう言って、僕の胸倉をつかんで一発殴った後、
廊下の壁に叩き付けられた。
鍛えてないひ弱な僕じゃ、いくら魔力障壁を張っていても痛いものは痛いね。
唇が切れてしまったよ。それを治癒魔法で治しながら、
「ひどいじゃないかクライツ君、いきなり殴るなんて。
それに、今のは逆恨みだよ。今上の方では君を昇進させるか、除隊させるかで意見割れてるんだよ。
そんな時に僕を殴るし叩き付けるし、はっきり言って、かなり分の悪い事をしたよ?」
そう言うと、クライツ君は
「知るか!俺は貴様を許さない!」
ふぅ、逆恨みは怖いねぇ。
自分で指揮した事なのにそれに責任持とうよ。
まぁ、今の状態なら、鬼神兵のテスト被験体に使っても問題ないかな?
彼が蒸発するにしても、仕方の無いような状態だし。
鬼神兵自体は人を使わず魔力で操作するつもりだったけど、
人の精神を中に流し込んでも面白いかもしれないな。
命の保障は無いけどね。
「クライツ君、君がそう言うなら、君に敵討ちのチャンスをあげるけど要るかい?」
そう言って、シュヴァルはニタニタ笑いながら口を開く。
「何、せめてものお詫びだよ、真祖はあの攻撃では死んでいない。
むしろ、アレぐらいじゃ死ねないんだよ今までの情報を統合するとね。
それに、真祖の連れていた人形はいまだに稼動しているらしい。となると、真祖はまだ死んでいない事になるよ。
サーヤの事は僕だって悲しく思っているんだよ?何せ、彼女を面接してからと言うのも彼女に眼をかけてきたからね。
だから、僕もそれの敵は討ちたい。幸いな事に、僕はその敵討ちが出来るかもしれないものを持ってる。
何だか分かるかい?鬼神兵だよ。アレなら真祖を討てる可能性がある。
神を封入したあの兵器なら、まだ神と等しき化け物の真祖を討伐できるよ。」
そう言ってくる。
敵討ち・・・・。自身がシュヴァルを殴ったのも逆恨みだとは分かっている。
だが、それでも目の前の人を弄ぶ存在が許せない。隊長が死んで生き残った真祖が許せない。
そして、何より指揮をした自分自身が許せない。
いいだろう、いいだろうさシュヴァル!
「貴様の甘言に乗ってやる。」
そう言うと、シュヴァルはニタニタ笑いながら、
「色よい返事だねクライツ副隊長殿。いいだろう、準備には今から取り掛かるから出来たら通達するよ。」
そう言うと、シュヴァルは肩を叩いて奥に進んでいった。
いいだろう、全ての事の始まりが真祖と隊長の出会いなら・・・・、
いや、その前の俺がした報告だというのなら、
「消せない事実を全て消去してやる。こい真祖。貴様を殺しシュヴァルを殺し。
自分自身を殺してこのくだらない物語に終止符を打ってやる。」
そう、シュヴァルの過ぎ去った廊下を見ながら呟きその場を後にした。
作者より一言
難産でした。