全て世は事も無しな第24話
ギャリギャリギャリ・・・・・・!!!!!!!!
ディルムッドの投げた槍が、目玉を穿とうと触手を切り裂きながら突き進む。
そして、現在、槍は目玉の表面まで到達し、それを貫こうとなおも前進している。
ピシ・・・・、ピシピシ・・・・・。
表面にヒビが入り、このまま突き進めば、貫通できるか否か。
しかし、目玉の方も黙ってはおらず、突き進む槍に触手を巻きつけだし、引っ張り戻そうと足掻いている。
だが、俺達もそれをさせまいと触手を斬り、撃ち、或いは魔法で吹き飛ばす。
だが、問題は触手の量と太さ。人の髪の様に細く、黒々とし蠢いている。
たぶん、人の頭皮がそのまま目玉にくっついたらこれが出来上がるのだろう。
そして、ディルムッドの投げた槍が全て触手に巻きつかれ引き抜かれる。
「ちっ、貫通せんか!第2射準備!!」
「了解!!」
貫通しない様を見て、ディルムッドに2回目の投擲準備をさせる。
そんな中でも触手をエクスキューショナー・ソードで斬り飛ばしていく。
だが、触手の所存で中々上手く行かない。
そんな中、ドクロの悲鳴が上がる。
ーsideキールー
多勢に無勢とはまさにこの事ですね。
質、量共に迫り来る触手は事欠きません、全く持って料理のしがいがあります。
そう思い、両の手の指にナイフを3本ずつ挟んで、戦いの旋律で体を強化して戦いますが、正直、分が悪いですね。
ピシピシ・・・、パキン。
「ちっ。」
今砕けたナイフですでに10本目。
いくら私がナイフを大量に持ってきているからと言って、限度があります。
それに、破せる焔に魔力をつぎ込んだので、強化もはっきり言って気休め態度。
あたりを見れば、エヴァンジェリン嬢はチャチャゼロさんに投擲をさせるために、
チャチャゼロさんの前で、迫り来る触手に大立ち回り。
あの方は不思議な方ですね。
いくら魔力が多いからと言って、ここにくるまでに相当な量の魔力を使ってらっしゃるでしょうに、
それでも、魔力切が無いかのように魔法を使われるのですから、頼もしい限りです。
それに、存外に身体能力も高い。
ですが、どこか自身の体を気にせず、いつもギリギリの行動を取られるから、危なっかしくて仕方が無いですね。
と、危なっかしいと言えばドクロもですか。
エヴァンジェリン嬢に銃を借りて撃っていますが、どうも銃に振り回せれている感がありますね。
バヒューーーーン
「チクショ!また外れた。女狐め、よくこんなもん振り回してたねぇ!!」
今撃った弾もはずれ・・・。
扱った事はありませんが、いったいどういった物なんでしょうね。
まぁ、彼女も銃は使い慣れていないから、その所為もあるのでしょうが。
しかし、その所為で余計目が話せませんね。
チャチャゼロさんとエヴァンジェリン嬢は、二人でどうにかなるでしょう。
なら、私はドクロから目を離さないようにしないといけませんね。
私のなけなしの魔力でも、それぐらいは出来るでしょうから。
「ドクロ、背中は守りますよ。」
「好きにしな!アタイは手一杯だよ!あぁ、もう、また外れた!」
見たところ、ランタンもつけて、エヴァンジェリン嬢と同じように撃っているはずなのですが、
そんなにこの銃は命中率が悪いのでしょうか?彼女が使うなら、そんな事はないと思うのですが。
多分、ドクロの錬度が足りないのでしょうね。
と、そうでは無かったですね。そうしている間にも、体中に傷が増えていっているのですから。
流石は前人未到の最終階層といった所ですか。
ーsideドクロー
あぁ、もう!!
弾が当たらないねぇ!
全く、撃つたび撃つたび銃口がぶれて仕方ないし、撃ったら撃ったで反動が激しくて、
狙いもなんもあったモンじゃないよ。
女狐め、いったいあの細腕のどこにそんな力があるんだか。
あの女狐を真似してランタンもつけてるけど、気休めもいい所だよ全く。
魔法かなんかで銃を押さえつけでもしてたのかねぇ。
あの部屋で、樽を撃った時も結構な距離があったのに、あの体制で中てるんだから、たいしたもんだよ全く。
それに、エクスカリバーンは振るたびに避けて触手がくるから、振っても意味が無いしねぇ。
でも、今はそれじゃないんだよねぇ。
触手が細くてアタイのエクスカリバーンじゃ、下手に殴ると巻き取られちまうし、
キールから借りたナイフはとおの昔に砕けて、使い物になりゃしない。
キールが背中を守ってくれるって言うから、安心感はあるけど、それでもきびしねぇ。
でも、こうやって、誰かに背中を預けて戦ったのも何年ぶりかねぇ。
たぶん、アタイだけが生き残った時以来かねぇ。
あの時は酷い戦いだったねぇ。
未熟なやつらの発掘に付き合って、そして、アタイだけが生き残った。
傷だらけのボロボロならまだ諦めもつく。全力を出して、守れなかったのなら、まだ納得も出来る。
でも、あれはそうじゃない。むしろ、アタイは何も出来ずに守られる側になっちまったんだから。
魔中との戦いが始まって、無傷で勝利した時にトラップが発動して。
そんな中で、アタイの背中を未熟なやつらの一人が押した。
最初は何事かと思ったけど、振り返ってみれば、後ろにはぽっかりと開いた大きな穴。
そして、その穴に降り注ぐ岩。
助けるのは絶望的、いくら魔法使いがいたからといって、あの状況じゃぁ対処のしようも無い。
現に、あのパーティーはアタイを残して全滅。死体の一つも出て気やしない。
あの時、誰がアタイを押したのか、トラップに気づいて押したのか、それともたまたまだったのか。
答えは出ないけどねぇ、それでも、あの時は荒れたね。あの時あの場での熟達者はアタイだった。
今も、発掘での熟達者はやっぱりアタイだった。戦闘や頭の回転なんかは、女狐達の方が上で、
正直、アタイが考えるよりはるかにマシな道を導き出す。
でも、今はそうじゃないねぇ。
こちとら4人に対して、相手は1人。
でも、その1人が100人にも、200人にも見えるねぇ。
女狐も、アタイらが万全なら、大型の魔法で一気に消し飛ばしてるかもしれないけど、
今の乱戦状態で一ヶ所にまとまるのは危険だからねぇ。
多分、相当歯がゆいんだろう、魔法の矢なんかをばら撒いたり、剣なんかで斬ってるけど、
それでも歯がゆそうだねぇ。・・・・、そういえば、魔法って両手で使えたのかねぇ?
剣で斬りながら、魔法の矢を撃ってるけど。
バヒューーーン
「あぁ、もう、また外れた!」
外れた所で、他の所に弾が当たるから問題かと言えば問題ではないんだけど、
でも、狙い通り中らないのは歯痒いねぇ!
「あぁもう!こうなりゃ乱射だよ、キール、ちゃんとよけな!」
「元から乱射しているじゃないですか!弾切れ注意ですよ!!」
キールが何か言っているけど、今はそれど頃じゃないねぇ!
バヒューーーン
バヒューーーン
バヒューーーン・・・・・・。
カチン!
「んなぁ!!」
あぁ、アタイも終わりかねぇ。
目の前には触手が迫ってるっていうのに、弾切れ。
エクスカリバーンを振りぬこうにも、避けてから突っ込んでくるから無理かねぇ。
はん、ここまで生きてきたけど、年貢の納め時かねぇ。
そう思い、静かに目を閉じる。
ドカッ
「いっつぅ。」
死んだはずのアタイが痛みを感じている。
そして、アタイの顔に暖かいものが降り注ぐ。
不思議に思っていると、頭上から声が降りかかる。
「ドクロ、貴女はもっと諦めの悪い人だと思っていたんですがね。
まぁ、あの状況なら仕方ないですか。・・・・、ぐっ・・・。」
目を開けると、アタイの居た位置にあるのはキールの足。
多分、アタイはキールに蹴っ飛ばされたんだろう。そして、アタイの顔にかかったのは・・・・?
そう思っていると、キールの足がぽとりと落ちる。
これも、お決まりの幻覚かい?
でも、顔をぬぐった手には血がついている。
赤い赤い血が・・・。
「貴女が無事でよかった。」
そう言いながら、アタイの目の前で崩れるキール。
あぁ、これは幻覚じゃない、これは現実なんだ。
これは真実なんだ。キールの足が斬り飛ばされたのも、アタイの顔にキールの血がついているのも!
「キール・・・・・?キーーーーーールーーーーーー!!!!」
ーsideキールー
良かった、ドクロが無事で本当に良かった。
ドクロの命の変わりに差し出したのは私の足1本。
代価としては安い限りですね。・・・・、生き残れればですが、まぁ、今はそれは考えないでおきましょう。
「キール、キール、無事なのかい?生きてるか!?」
そういって私を抱き起こすのはドクロ。
ふふ、ここがベッドで立場が逆なら嬉しい限りなのですがね。
「なん・・・、とかですね。とりあえず、エヴァンジェリン嬢の所まで行きましょう。
ここでは不利・・・・、です。」
そういうと、ドクロは私をお姫様抱っこで抱えて駆け出します。
男の夢をドクロに先に越されていますが、今は仕方ないですね。
「そのままでお願いします。」
切断された断面は・・・・、酷いですが、まぁ、これからの事を考えれば・・・・。
「アンタなにやろうってんだいナイフなんか傷口に当てて!!」
「走りながら・・・・、喋らない方がいい。舌をかみますよ。・・・・、後、悪臭がしますから口で息をしてください。」
戦いの旋律は使えないですが、初歩の初歩なら、そう、火よ灯もれぐらいなら、まだ出来ます。
ジュウゥゥゥゥゥゥ・・・・・
「・・・・・、うぐっ!」
心配させないため声を出さないようにしたのですが、さすがに無理ですか。
ーside俺ー
クソッ!
キールがやられた!
死んではいないが、足をやられた!
「チャチャゼロ、一旦投擲は中止だ!2人を援護して、体制を立て直す!」
「分かった!!俺が前にでる、エヴァはキールの治療を!」
そう言って、ディルムッドが走ってくるドクロとキールの代わりに前に出る。
「エメト・メト・メメント・モリ 来れ氷精 闇の精!! 闇を従え吹雪け常夜の氷雪 闇の吹雪!!!」
流石にディルムッドといえど、あの量の触手が襲い掛かるのを1人では止められない。
なので、援護に闇の吹雪をぶっぱななす。この状況ではもう、真祖を隠すとかそういう考えは無い。
今は生き残る事だけで、てい一杯だ。そう思っていると、キールとドクロが到着。
ドクロはいい。傷が体中にあるが、致命傷は無い。
だが、問題はキール。片方の足が斬り飛ばされて、そこを焼いて止血したのであろう。
まだ真新しい火傷がみえる。それに、結構な量で出血したのだろう。顔が土気色になってきている。
「エヴァンジェリン・・・・・、助けておくれよぉ、キールが死んじまうよぉ・・・・。」
そういって、ドクロが顔をグシャグシャニして泣いている。
キールの方は、
「ドクロ・・・・、まだこれでくたばるほど・・・・、やわじゃないですよ・・・・・。」
強がりは言っているが、しかし、あまり時間は無い。
「少し待ってろ!エメト・メト・メメント・モリ 氷楯最強防護壁!!」
ちっ、練習したとはいえ、まだ使い慣れない・
使ったのは、最強防護の氷楯版。
氷楯を多重展開し、対物理と対魔法反射を強化した現在俺が出せる最強の楯。
ネギまのただの障壁は意外と脆い所がある。だが、詠唱による障壁は10tトラックの衝突を防ぐ程の強度になる。
そして、今のは最強防壁の進化権アレンジ版。簡単に突破される事は無いが、氷を作る関係上、
今の俺ではまだ7~8秒ほど時間がかかる。
それを、俺、ドクロ、キールを囲むように出現させ影から薬と増血剤を取り出す。
「ドクロ、これを使え。」
そう言って、渡すと、ドクロは急いでキールに薬と増血剤を飲ませる。
一応は、これで死ぬ事は無い。が、足はダメだろう。原作ほどまで時が進めば再生できたかもしれないが、
今の時点では再生できるほど技術が上がっていない。しかし、今の状況で足一本で済んだのは御の字か。
あの状況なら、2人のうちどちらかが死でもおかしくは無かった。
「きーる・・・・、何でアタイなんかを助けたんだ。」
「好きな人の死ぬ様など見たくないですからね。それに、これならもう早く歩く事もできないでしょ。」
そういって、キールは脂汗の浮かんだ顔でドクロに微笑みかける。
クソッ、現状で打開策は目玉をつぶす事。多分そうすれば連動して触手は止まる。
(チャチャゼロ、人形に戻すぞ。)
(分かった。)
念話でそう話をディルムッドに話をつけ、人の姿を消して人形に戻す。
そして、俺自身も今の姿を止める。今の姿のままでは、どう言う訳か、モウモリにもなれず、
真祖としての・・・・、吸血鬼としての力が使いづらい。
魔法の面では問題ないが、今は身体能力も欲しい。そう思い、自身を元の姿に戻す薬を影から取り出しあおる。
「ドクロ、キール。今から私はあれを潰す。必ずお前達を地上に戻す・・・、必ずだ。」
「ア、アンタその姿まさか!!」
そういって、ドクロが驚いている、同じく、キールも眼を丸くしている。
だが、それは関係ない。今する事はここを抜ける事だ。
そう思い、氷楯最強防護壁をその場に設置したままディルムッドの横に飛んでいく。
「状況は!」
「分が悪い、突いても斬っても触手が減らない!」
そう言いながら、襲い掛かってくる触手をきり飛ばす。
俺も、近付いて来る触手の真ん中まで行って魔力を込めただけの拳などを振るい攻撃する。
しかし、それでも触手が減らない。むしろ、更に量が増えているようにも感じる。
「ちっ、エメト・メト・メメント・モリ 来れ氷精 祖の切っ先は 全てを切り捨て凍て付かせる
我が前に現れるは 優美なる剣群 降り注ぐは 凍結の調べ 氷王の剣遊!」
迫り来る触手を斬り飛ばし凍て付かせる。
しかし、今度はその凍て付いた触手も使い攻撃してくる。
そんな中、俺達の後ろから壁の崩れる音と共にミークの声がする。
「準備完了しました。これより、警備システム中枢アイ イン ザ スカイを破壊します。
事後、設計上ここが崩落しますので、脱出してください。」
そういって出てきたミークの後ろには、巨大な大砲の様な物。
多分、あれで撃ち抜く気だろう。
「分かった、地上までの道を開いてくれ!!チャチャゼロ、先に戻れ、私はここの梅雨払いをしてから戻る!」
「分かった!無茶はしないでくれよ!」
そう言って、ディルムッドはドクロたちの方に飛んでいく。
俺も俺で、氷爆と、氷の剣を打ち出し、ミークの所まで届かないようにして後ろに下がる。
「チャージ完了、目標設定確認、シーケンスオールグリーン、現行を持ってここを破棄します。
エヴァンジェリン、私のために涙を流してくださいありがとうございました。」
聞こえて来たミークの声は、どこか晴れやかだった。
これが最後の任務で、それを全うできるから嬉しいのか、
それとも、人間を守れた事が嬉しいのか。
個人的な見解としては、自身のために涙を流し、ようやく解放される事が嬉しいのだと思う。
だが、彼女は自身をモノとして定義している。ならば、ようやく使いきってもらえて嬉しいのだろう。
道具の意義が使われる事に依存するなら、使われない道具はその意義をなくす。
それに、彼女は死んだわけではない。俺の影の中の賢者の石で無数の彼女と共に生きているのだから。
氷楯最強防護壁の後ろでは、ディルムッドがキールを抱えている。
それならば、早く俺がドクロを抱えるか。
「捕まれドクロ。」
「アンタが真祖だったとはね。でも、噂よりはずっといいやつじゃないかい。」
そう言って、差し出す手を力強くつかみ俺に抱えられる。
そして、ミークの、
「発射。」
その一言と共に当たりは光と、爆音に包まれる。
そして、その音が終わると同時に空を飛び、地上を目指す。
「チャチャゼロ、後れを取るなよ。遅れれば巻き込まれる!私の真後ろにぴったりつけ!!耳を狙う時のようにな!」
開かれた道はすでに崩れ始めている。
打ち抜かれたのが斜めに打ち抜かれたから、下手に飛べばもろに落下してくる岩が直撃する。
だから、俺が障壁を展開してそれから守る。
「分かった、外に出たらまた耳を触らせて貰おう!君の耳を触ると、俺の幸運のランクが上がるみたいだ!
何せ、ここから誰も死なずに出られるんだからなぁ!!!」
そういいながら、地上を目指し始めに見えたのは、燃えるような赤い空。
辺りは星の光がポツポツ見え出しているから、もう夜の灯りがおり始めているんだろう。
「アタイらは生き残ったんだねぇ。」
そう、ドクロがポツリともらす。
「そうですね、帰ったら一杯飲みましょう。」
そう、キールが返す。
長かった、本当に長かった。
どれくらいあの中に居たのかは分からないが、でも、長かった。
「そういえば、それがカラクリの本当の姿なんだねぇ、中々可愛いじゃないかい。
それに、その服もね」
そう言って、ドクロがディルムッドをからかっている。
「あぁ、そうかい?まぁ、エヴァのお気に入りだからな。もともとの俺の体は。」
そう言いながら、空を飛び、一旦近くの森に降りてディルムッドを人に戻し、
俺も年齢詐称薬と、獣人化薬を飲み姿を戻す。そして、キールに眠りの霧をかけ、
ヘカテスまで一気に夕闇を飛び帰る。一応、町の手前でばれない様に処置をしたから大丈夫だろう。
その後、ララスでキールに治療魔法を施す。ただ、本職じゃないので、できる事は少なく、
そもそも、増血剤と、体の抵抗力を上げるように作った薬を飲ませているので、今以上に俺にできる事は無い。
そして、次の日にキールを病院にほおりこみ、そのまま入院させ、ドクロも一旦検査などを受けると入院。
俺とディルムッドの方は、特に問題が無いので、そのままララスで休養。
ーそして月日は4年ほど流れるー
あの後は意外と大変だった。
キールの入院を聞きつけたゴロツキ達が、病院に駆けつけ押し合いへし合い。
そんな中で、ドクロが一番献身的だったと思う。
今思えば、あの空での会話もどこか強がりだったのかもしれないと思う。
そんな中で俺が何をやっていたかと言うと、義足の作成。
とりあえずの情報整理は後回しにして、これに着工。
出来上がった物は中々だったと思う。
人形作りスキルがいい感じに役立ち、更に錬金術を加えたので高価な一品になったが問題はない。
それと同時に、俺が義足を作っている事を聞いたドクロが俺に弟子入りした。
と、言うのもある時俺の部屋に来たドクロは、魔法薬を吸いながら作っている義足を指差し、
「なぁ、女狐。アタイもそれ扱えるようになるかい?」
そう聞いてきたので、
「使える使えないは問題ではない。必要なのは、使えるようになる努力だ。
使えないと言われて、そうですかと諦めるようなら手出ししない方がマシだ。」
そう言うと、ドクロは俺に頭を下げ、
「エヴァンジェリン、アタイに教えてくれ。やれる事はなんでもする。
しごかれても我慢する。だから、それの作り方とか、整備の仕方とかをアタイに教えておくれ。」
そう涙を流しながら懇願してくる。
これはドクロの贖罪なのだろう。キールの片足がなくなった事に対する。
「4年だ。」
そう返すと、ドクロはキョトンそして顔を上げた。
多分、俺が渋るとでも思ったのだろう。だが、これは俺の罪でもある。
こいつらの命を助けはしたが、その後の人生は多少違うように動いた。
だから、これは俺の罪でもある。それに、義足自体を作るのは問題ないが、
義足と足の切断面の接合部分が成長と共に具合が変わる。
なので、ドクロにはここをみっちり教えよう。
「キョトンとするな。私は、4年後にここを出る予定だ。
それまでの間に今作っている義足の事を叩き込む。泣いても笑っても4年、使いこなして見せろ。」
そういうと、ドクロはその時から義足に噛り付きになった。
来る日も来る日も、俺の部屋に来ては義足と錬金術を学んだ。
俺の方も、駆け出しではあるが、そこは知識量の差で何とかカバー。
ドクロは、生徒としては優秀だったと思う。必要な知識を的確に選択し、それ以外を見ない。
だからだろう、今では事義足の事に関しては俺と同じぐらいの知識を有している。
そんな事をしながらも、俺の方は俺の方の研究を進め、半年ほど前にダイオラマ魔法球の作成が完了した。
ただ、色々いじった所為で機能が追加されている。
まず、ダイオラマ魔法球からの出方だが、1日で出ると言う仕組みではなく、専用の魔法陣で出るように改造した。
これは、研究を中途半端放り出す可能性を潰すため。精密な実験だと1分1秒が命取りになる。
そして、他には、ダイオラマ魔法球に小さな球をつけた。これは錬金術の素材を確保するため。
その中で、植物なり、魔獣を飼育するための物。だから、ちょっとハリネズミっぽい形になっている。
後は、ダイオラマ魔法球の魔力がどこから流れ出てくるのか不思議に思っていたが、
一部は世界から流れてくる。だが、それではどうも腑に落ちないと思っていたら、
なんて事は無い、魔道書から更にあふれてきて、空間を満たしている。
実際、俺は魔道書を収集しているのでかなりの量があり、俺と同じとまでは行かないが、
それでも外よりは十分に濃い。
そして、それを作った後、ディルムッドへの魔力を送る方法の一つとして、
魔法球と契約してもらった。まぁ、契約といっても俺の血を媒体としているので、そんなに大掛かりな物はではないし、
できる事もディルムッドの任意での姿の変化ぐらい。まぁ、これの狙いはそこだから問題なし。
ついでに言えば、暴れない時は俺が魔力を送っているから緊急処置のようなものか。
それから、ディルムッドと言えば完全に気をマスターした模様。
突きでの気を飛ばす事や、瞬動や虚空瞬動もマスターして縮地のレベルになっている。
後は、本人曰く小回りが利くようになればOKと言っていた。
それと平行して咸卦法の練習にもいそしんでいる。
で、肝心の俺が知りたかった事だが、吸血鬼が嫌われている理由だが、
賢者の石を石から飛んでくる指示どおり直して、今はうちのダイオラマ魔法球の中でメイド長になっている。
黒髪に二つのお下げ、丸い眼鏡をかけて、ロングのメイド服。戦闘時の装備品はナイフと重火器。
骨格は急造だったのでチタン合金で作成。後、必要なものを付加して出来たのは擬似オドラデクエンジェル。
時間があれば、ちゃんとしたものを作成したい所だ。
ちなみに、名前はロベルタ。たまに目つきが悪くなったり、家事が下手だったりするけど問題なし。
これがロベルタと言うものだろう。・・・・・、魂降ろしてないはずなんだけどな?
まぁ、そうやって作ったロベルタから聞いた話によると、
昔、世界は旧世界だけだったらしい。
そこでみんな暮らしていた。それこそ、魔法使いも魔獣も神さえも。
しかし、ある時一つの問題が起こった、その問題と言うのが広域魔力消失。
この先でナギが関わる危機の一つ。それが旧世界の世界規模で起こった。
原因は不明。止め方も、起こっている場所が分からないので不明。
そこで、そこに住まう者はみんなで協議した。
さまざまな意見が出た結果、2つの意見に最終的に分かれた。
1つはこのまま全てを受け入れると言う案。そして、もう1つは新しく住む場所を探すと言う案。
これに分かれ、そして、ゲートが建造された。しかし、最初の問題はこのゲートがどこに通じているかと言う問題が生まれた。
そこで作られたのが、先遣隊としてのオドラデクエンジェル達。
そして、数多く送られた世界で、今の新世界を新たな住まう場所として定めた。
理由は分からない。たんに人が居なかったのか、なんなのか、そこらへんのデータは失われている。
そして、新しく住む場所に人が流れ込み、新世界と旧世界と言う認識が出来る。
それから、この人が流れ込む時に真祖達が作られる。世界に住まう者と世界の結晶として。
新たな場所で新たな場所の守護として。だが、1つの問題は、ベースを人にしてしまった事だろう。
これは、人が住めれば大抵の生物が住めると言う決議の元決定されたらしい。
新世界と旧世界が繋がり時が流れ、その間で起こり始めたのが1つの争い。
魔法を使える者と、使えない者戦争。
旧世界は、魔力消失の所存で魔力が一時的に薄くなり、
それから時がたったため魔法が使えないものと認識されていて、新世界も同じ認識だった。
そして、新世界が押していた戦争のさなか、旧世界の方も真祖を作成する。
それから戦況は泥沼化し、最終決議として世界は閉ざされる。
で、肝心の吸血鬼が悪いものと認識される話であるが、
世界が閉ざされて、時がたつ。その頃は、真祖も数こそ減ったがまだいたらしい。
人々から離れて静かに暮らしていたが、ある時人間が永遠の命を求めて、真祖に懇願したらしい。
だが、真祖はその問いにNOと答えたが、永遠を求める人間は増える一方。
そんな中、1人の真祖は人に捕まり、永遠の秘密を探るために殺される。
そこで真祖が出した結論が、人々に対する絶対の力による支配。
そして、ここから先は殺し殺されの争いが生まれ、世界を救う2人組みが生まれる。
真祖も殺されて、今ではいるのかいないのか、絶滅なのかどうなのかと言うところ。
そんな中、旧世界の真祖はと言うと、自身の霊格を落として人と交わる道を選んだらしい。
交わり続け、真祖はいなくなった。
で、エヴァが真祖になれた理由だが、先ずは、シーニアスが薬と降霊術や死霊術で魂の格を無理やり上げ、
さらに、血縁者の意思ある血で血の濃度を上げ半吸血鬼させて出来上がりだと思う。
そこから時を経て、神秘を付随され最強の吸血鬼の出来上がり。
だから、最初の頃は吸血鬼らしい弱点も残っていたのだろう。
で、俺が魂を交換できた訳なんかになると、俺の魂の格はどうも高いらしい。
と、言うのも俺は起きてすぐに日光に当たっても平気だったし、シャワーなんかも普通に浴びる。
吸血鬼らしい弱点という物は皆無だ。
そこで考え付いた事と言えば、俺が死んでいて、無に戻ろうとした事。
人が死ねば、仏になる。と、言うのも輪廻転生と言う思想は仏教のもである。
転生・・・、と言っていいかどうかは不明だが、復活とは違うので問題は無いだろう。
で、問題はその転生のプロセス。名前を覚えている状態の転生なら、霊格の問題でエヴァには転生できないだろう。
そこで、俺はと言うと、少なくとも、俺は俺の名前以外は覚えているが、自己が誰だかはしらない。
つまりは、消える一歩手前かそんな所。無に近い状態で出会えたから、エヴァとの魂の交換に成功したのだろう。
が、問題はここからまた起こる。何せ、俺は普通の人だった。体は吸血鬼でも、魂は吸血鬼ではない。
だから、一度この体で死んだ。つまりは、あの戦いの中で、俺は確かにシーニアスに殺されたのだろう。
でも、そこで矛盾が生じる。死なないはずの攻撃で俺が死後の世界に行ってしまった事。
そして、2度目のエヴァとの再会。ここできっちりと、俺はエヴァの魂から真祖と言うものを吸い、吸血鬼の真祖となった。
それから、この世界の習わしが如く世界の意思と繋がり、エヴァの本当の魂が俺の変わりに転生する。
もともとの真祖が、世界とそこに住まう者の結晶なのだから、当然そうなるのだろう。
まぁ、あの声が世界の意思だとすれば、かなり横暴な気もするが、今はまぁよし。
多少穴のある考察だが、多分こんな感じで今俺が生きているのだろう。
「エヴァ、そろそろ降りないと問題だぞ。」
そう言ってディルムッドが入ってくる。
着ているのは神父服。何でかと言うと、今日が結婚式だからである。
まぁ、誰とも言わずとも分かると思うがキールとドクロのである。
最初に、ドクロの相談された時は非常に困った。
「なぁ、エヴァンジェリン。アタイはこれからどうするのが正解だと思う?
キールから、『これで歩くのが早いとは言われませんね、私は貴女と共に時を歩みたい。』ってプロポーズされたんだけど。」
魔法薬を吸っている時に、いきなり言われたのでむせたのは未だに記憶に新しい。
まぁ、それに俺がどう返したのかと言うと、
「キサマしだいだろう。贖罪で嫌いなヤツと一緒になるか?」
そう言うと、ドクロは頬を染めながら、
「嫌いじゃないんだよ。でも、何だか踏ん切りがつかなくてねぇ。
いったいどうすりゃぁいいんだか。」
そう、俺の部屋で飲みながら聞いてくる。
はぁ、まったく。俺はそういう事を相談される柄じゃないんだがな。
「答えが出ないなら、とことん悩め。
キールの足を気にするぐらいなら、2人で二人三脚でもしろ。
ない足でも、キサマの足があれば、歩けるだろう。1人よりは2人で歩いた方が暗い道も怖くは無いと思うが?」
煙を吐きながら答えると、俺の顔を見ながら、
「それは、死なないアンタの事を言ってるのかい?
カラクリと歩むこの先の事を?」
「さてね、私も根無し草だから、先の事はわからんよ。
殺される事も、先にチャチャゼロが逝く事も、覚悟はしているが、死ぬ気はない。」
そう言うと、ドクロはグラスを見つめて一気にあおった後部屋を後にした。
その後の経緯はどうなのか、俺はあまり知らないが、でも、何らかの選択をして今の結婚言う事になったのだろう。
そして、そこで俺がどうなっているかと言うと、ディルムッドに尼僧服のデザインを渡して作らせそれを着込み、
片手に聖書を持ってシスターの出来上がり。イメージはカレンです。ちなみに、はいてないスーツじゃないんでそこんとこよろしく。
まぁ、何でこんな事になっているかと言うと、ドクロとキールに誓いの言葉を聞いてくれと言われました。
と、言うのも永遠を生きる予定の俺の前で、永遠の愛を誓えばお互い破りたくても破れないだろうと言う事らしい。
それに追加して、俺の2つ名である『血と契約の姫君』と言うのもあるので、契約をかわすなら俺の前以外考えられないと言われた。
「今行く。」
そう言って、吸っていたキセルを影になおし。
1階に降りる。式場はララス、この店でも色々な事があったものだ。
「遅いじゃないかい。もうは始まっちまうよ。」
そう言ったのはウエディングドレスに身を包むドクロ。
まぁ、作ったのは俺とディルムッドなのだが。
しかし、そう言う声もどこか嬉しそうな雰囲気があり、現に顔も笑顔である。
「まぁ、落ち着いてくださいドクロ。」
そう言って、諌めるキール片方の足には、俺とドクロが作った義足がはまっている。
これからこの足の整備はドクロがやるのだろう。
後は、式が始まるのを待つばかり。
と言っても身内だけの小さな式だが、それでも人は多い。
何せ、ララス常連客もキールが身内として呼んだのだから。
ドクロの方は、懐かしい顔でムクロに出会ったが、一瞬目があった後、
「よぉ、縁があるなぁ嬢ちゃん。
今日の良き日の誓いのみ届け人がてめぇじゃあ、あいつら怖くて浮気も出来やしねぇだろう。」
そう言って『ガハハハハハハ・・・』と、豪快に笑いながら俺の前を後にした。
ムクロは俺が真祖である事を見抜いたのだろう、そうじゃないと、あの言葉は出ない。
まぁ、それでも騒ぎ立てないなら問題は無い。むしろ、あいつの一族の人間はそれを知っても笑い飛ばしそうではあるが。
そんな中、式は始まり、
「汝、ドクロ。そなたはキールを病める時も健やかなる時も永遠に愛する事を誓うか?」
そう、問うと、ウエディングドレスのドクロが、
「永遠を誓います。」
と微笑みながら返し、
ディルムッドが
「汝、キール。そなたはドクロを病める時も健やかなる時も永遠に愛する事を誓うか?」
との問いに白いタキシード姿のキールが、
「永遠をここに誓う。」
と、返し。
「汝らの誓いを、エヴァンジェリンの名において聞き届ける。
長き旅、苦難の果て、優しき雨に、陽の光。祝福しよう。永遠の愛を誓うもの達を。」
そういうと、2人は誓いのキスを交わし式はつつがなく終了。
誓い合った2人の顔は本当に幸せそうで、一本足の足りない二人三脚も2人なら歩いていけると思う。
はてさて、これから俺はどうするか。
当面は新旧含めて世界を回ってみるかな。