発掘も楽じゃないよな第19話
翌朝、日も上がらないうちから宿を旅立ち、遺跡までもうすぐと言う所。
荷物は全て俺の影の中に突っ込んで、魔獣達との戦闘でも問題なし。
しかし、微妙にディルムッドのヤツが眠そうだが、本人が大丈夫と言っているのだから大丈夫なのだろう。
まぁ、眠いのは俺も同じか。昨日は綺麗な月夜で、それを見ながら一人でチビチビやってたし。
そんな事を思いながら周りを見る。辺りは森林地帯に入って薄暗く、さらに言えば魔力妨害岩が多いせいで、
妙に魔法が使い辛い。まぁ、使い辛いと言っても多少タイムラグが出るぐらいだが、油断は禁物だろう。
それに、ここに来るまでに既に魔獣の襲撃を3度ほど受けている。
そして現在、
「ドクロ、左へよけてください。」
ドクロが思いっきり魔獣の顎を棍棒で殴り上げ、胴体ががら空きになった所にキールの投げたナイフが3本突き刺さる。
そして、それを見たドクロが楽しそうに顔を歪めながら、
「よっしゃ、キールど派手にキメな!」
と、言った後キールが魔法を発動する。
すると、ナイフの刺さった場所が爆発し、
キシャーーーーーーー!!!!!
と言う雄叫びの後魔獣が絶命する。ちなみに、辺りには魔獣の死体がすでに7体ほど転がっているが、
それでもまだ、魔獣の方が群がると言う表現のように集まりだしている。
4度目の襲撃と言うべきか、間違って縄張りに入ったと言うべきか。
それとも、まったく別の要因か。
「エヴァ!そっちに行ってるぞ!」
肉食魔獣の巣窟ともいえる場所に俺達はいる。ちなみに、ここを抜けないと遺跡には辿り着けないとか、
まさに悪夢と言った所か。幸いな事と言えば、敵が強くない事とぐらい。
「わかった。」
目の前には、ディルムッドの攻撃ですでに体のあちこちから血を流し満身創痍の魔獣。
しかし、それでもなお俺を食おうと言うのだからたいした執着心だ。
そんな事を思いながら、右手にドア・ノッカーを持ち箒で加速する。
魔獣は、空を飛ぶ蛇の様なヤツなので、そのまま飛び込めば、ちょうど頭の真下に入り込める。
そして、そこから行なうは保身無きゼロ距離射撃。銃口を魔獣の肉にめり込む位押し付けて発砲する。
バヒューーーン
その一撃の元、魔獣の顎から脳天までを撃ち抜き絶命させる。
俺の作ったドア・ノッカーは魔力常時流式弾頭で作っているので弾の交換が要らない。ついでに言えば、障壁突破も施している。
だが、そのせいで魔力の充填に約2~3秒かかる。まぁ、それでも弾の交換と比べると速度が早いのでいいのだが、
それでも、この弾で何度も撃つと弾が壊れる。壊れる頻度は大体10回が目安と言ったところか。
その為、同じ形式の弾頭を50個ほど作っていて、ちなみに今使っている弾は10個目。ついでに言えば今ので10発目。
カチン、パシューーー・・・・
チャチッ、カチン
弾の交換を早くやり、次の弾を再装てん。実弾ではなく魔力弾なので、火傷する事は無いが、
しかし、このままここで魔獣とダンスし続けてもいい事は無い。
そう思っていると、ドクロから声がする。
「エヴァーーーー!なんかいい突破プランは無いかいぃぃぃぃ・・・・・・。」
突破プランか、あると言えばある。今の場所は辺りに仲間もいるので広域殲滅呪文をぶっ放すなんていうバカな選択はしない。
ついでに言えば、この場所を突破するのにエクスキューショナーソードでは長さが足りない。
そこで登場するのが、この魔法。
「チャチャゼロ、少し時間を稼げ!エメト・メト・メメント・モリ 来れ氷精 祖の切っ先は 全てを切り捨て凍て付かせる。」
詠唱している間も魔獣が攻めてくる。当然俺も動くが、
動かなくても俺には魔獣の攻撃は届かない。
「悪いな魔獣、ここから先は通行禁止だ!」
そう言いながら、ディルムッドが接近してくる魔獣の一匹目の頭を槍で貫き、
その体を足場にジャンプし、急降下してくる魔獣の腹を擦れ違い様に切り裂き、
最後に、槍を二本とも投擲して、俺に左右から迫る蛇型の魔獣の頭を貫き、槍を再度取り寄せる。
そうしている間にも、辺りではドクロが魔獣を殴り飛ばし、あるいはキールが炎で焼き爆破していく。
そんななか、俺は走りみんなの前に出る。でないと、この場を突破できないし、この場所でないと使えない。
「我が前に現れるは 優美なる剣 氷王の剣!」
箒の先に作りあげたのは、長さ約10メーターの透き通る氷で作られた剣。込められた術式は触れた物の凍結。
まぁ、剣と言ってもツバも持ち手も無く、しいて言うなら正八面体を平べったくして、片方の先っぽを引き伸ばした感じ。
この形になったのは、投擲と斬る事の両方に対応させた結果らしい。ついでに言えば、射出する際は量を増やせて、
氷槍弾雨の強化版と言った所。さらにいえば、これの弾道は俺の撃ちたい方に撃てる。まぁ、撃つ際は追加呪文が要る訳だが、
今はここを突破するために必要なのは剣なので問題ない。
「突破する!私に続けーーーーー!!!!!」
そう言いながら、氷の剣を振るい辺りを斬りながら駆ける。斬る度に剣の一部が砕けたりするが、
それをさらに魔力で作り直し、魔獣も木も触れたモノ全てを凍結させ切断しながら突っ走る。
「ドクロ、キール遺跡の入り口まではあとどれ位だ!」
そう、剣を振りながら聞く。今の一撃でまた魔獣が凍り剣の一部が砕けた。
魔力の残りは問題ない。むしろ、今までに魔力切れと言うモノを味わった事が無い。
「このまま突っ走りな、今まで運動不足だろ?」
きっとニヤニヤ笑っているドクロがいる。
うん、これは間違いない。続いてキールの声がする。
「ドクロ、答えになってませんよ。エヴァンジェリン嬢、このまま約900メーターほどまっすぐ走ってください。」
そう、キールから聞こえてくる。
ドクロにはお仕置きが必要だな。無論、殴って怪我をさせても仕方が無いし、
この状況で自ら足手まといを作る気も無い。よって、
「ドクロ!キサマは飯抜きだーーー!!!!」
「そんな!」
今にも泣きそうなドクロの声で胸がスッとした。
しかし、ここまできても締まらない会話のやり取りだな。
そう思っているとディルムッドが声を上げる。
「見えた!エヴァ、きっとあそこだ!!」
そう言った先には、暗い洞窟の入り口が一つ。
辺りを見れば、骨組みだけが残った遺跡後が転々としている。
と、言っても走りながら見ているので詳しくは見れない。
「おい、キサマ等、後はどうなってるーーー?」
そう聞くと、キールが答えた。
「安売りに集まったご婦人方と言った所ですか、大入りですよ。そのまま穴に入ってください。」
そのキールの声の下、俺は氷の剣を振り上げ、
「殿を勤める!先に入れ、じゃないと邪魔だ!!」
そういい、他の面子を中に入れる。擦れ違い様にディルムッドから念話が届く。
(一人で大丈夫か?)
(かまわん、むしろ、この程度では肩慣らしにもならん!キサマは洞窟内の安全確保を優先しろ!)
そう念話を返して、目の前の魔獣達を見る。
やれやれ、あれだけ凍結させたのに一体どこから湧いて出て来るのやら。
そう思いながら、剣を振るい凍り漬けの魔獣を増やす。ついでに、詠唱を開始する。
「エメト・メト・メメント・モリ 来れ氷精 祖の切っ先は 全てを切り捨て凍て付かせる
我が前に現れるは 優美なる剣群 降り注ぐは 凍結の調べ 氷王の剣遊!」
自身の持つ剣と、さらにその上空に同じ大きさの氷の剣の群れを出現させ、迫り来る魔獣に撃ちだす。
当然、この剣も今持っている剣と同じ効果がある。なので、魔獣たちは片っ端から凍り、自身の達の死骸で進路を塞いで行く。
そして最後に、洞窟の入り口を囲むように撃ちだした剣群を地面に突き刺し俺も中に入る。
一応、この防柵があればそう簡単には中には入って来れないだろう。
そう思って、キセルで魔法薬を吸いながら箒を担ぎ遺跡の中に歩を進める。
「お疲れ様エヴァ、怪我は無いか?」
そういって、奥から顔を出すのはディルムッド。
こいつが一番に顔を出すという事は中の安全は確かと言う事か。
辺りを見ると、キールとドクロが座って休憩を取っている
「いやぁ、頑張ったねぇ。」
そう言いながら、ドクロがこっちを見てくる。
まったく、人の気も知らないで。
はぁ・・・・、まぁ、全員無事なら問題は無いか。
「取り敢えずはよしとしよう。で、ここから先がどうなってるのか分かってるのか?」
そう聞くと、ドクロがニヤリと笑い。
「こっから先の情報は有料だよ。料金は昼飯だ。」
そういって、ニヤニヤしている。
ふっ、交渉で俺に勝とうなんぞ百年早いと言うのに。
「なら、ドクロはそのままでいい。キール、先はどうなってる。」
そう聞くと、座っていたキールが答えだす。
「第一階層はそこまで大変ではありません。大変なのは大体3階層からです。
ついでに言えば、エヴァンジェリン嬢が外からの魔獣達の進入を防ぐようにして頂いたおかげで、
これ以上魔獣が増える事はありません。道筋は私が覚えていますのであしからず。」
そういって、自身の持ってきたナイフを整理しだす。
「そうか、ならドクロ以外の面子で昼食をとって出発と行こう。
なに、ドクロからは情報を貰っていないから支払う代価も無い。」
そういって、ドクロを見てニヤリとする。
その横にいるディルムッドは呆れた様な顔で俺を見てくる。
キールは我関せずと言って感じでナイフ整理を続行。
そして、御預けを食らったドクロが悔しそうに俺を見てくる。
「女狐、あれだけ魔獣を相手して動き回ったから報酬を要求するよ。」
「報酬か、ならば金貨でいいか?
なに、あれだけ働いたんだ、それなにりは出すさ。」
そう返すと、今度は地団駄を踏み出した。
横にいるキールは相変わらず我関せずと言ったところか、
ナイフを整理し続けちらりとドクロを見た後顔を背けた。
多分、キールはニヤニヤしてるんだろうな。
そしてドクロはキールに目もくれず、泣きそうな顔をしてディルムッドをみる。
しかし、とうのディルムッドも苦笑しながら、
「諦めろ、こうなったエヴァを言い負かすのは至難の業だ。
下手に言い合いするより、完結に要求した方が楽だぞ?」
そう、言われドクロが傲慢に口を開く。
「飯を要求する!」
だいぶ腹が空いて気が立っているのだろう、
目がギラギラし出している。しかし、それだけでは飯はやれんな~。
なにせ、魔獣達を突破する時に飯抜きだって言ったんだし。
「プリーズが抜けてるぞドクロ?」
そういって、ニヤリと見てやる。
ドクロが俺を睨んで来るが、今の俺をどうこうす事は出来ない。
なにせ、飯は俺の影の中にあるんだから。
「ぐぬぬぬ・・・・、性悪め、プリーズ飯を要求する!これでいいだろ?」
人を殺せそうな視線と言うが、多分今のドクロの視線がそうなんだろう。
そんな事を思いながら、影からそれぞれの荷物を取り出す。
「よく言えました。さて、ならば手っ取り早く食事をとって先に進むとしよう。」
そういって、それぞれで飯をを食べだす。
ちなみに俺は保存食の固いパンとチーズ後は干し肉。
ディルムッドも同じモノを食べ、ドクロはなにやら色々食べている。
と、言うかチーズの丸いヤツを丸々1つ食べる昼食って何だ?他にも食べてるが。
キールの方は俺達よりも質素で、保存食用のパンを千切って食べている。
そんな食事風景をみながら、食後に白湯を飲み、魔法薬を吸う。
「さて、腹が落ち着いたなら進もうか。」
俺のかけ声の下、遺跡を知っているキールとドクロが先頭に立ち歩き出す。
いくばくか歩いただろうか、辺りはだいぶ狭い。こんな所だと使える魔法も制限されるし、
この遺跡その物が魔力妨害岩で作られているのか、どうも変な感じがする。
そんな事を思っていると、先頭を歩くキールが口を開いた。
「トラップ関連は今の所どれくらい生きているかは不明です。
一応、私が最後に入った時に1階層は殆ど解除されたと言う結論が出ていますが、
その後の調査でどうなったかは不明です。ついでに言えば、魔族も生息していたので気をつけてください。」
そう言いながら、キールはナイフの先に火を灯して先頭を進む。
しかし、魔族か・・・、一応、普通の魔法で殺す事も出来る連中だから楽でいいが、
手強いのは手強いな。それに、悪魔と魔族は見た目が余り変わらんのが問題だ。
だから、下手に魔族だと思って攻撃すると痛い目を見る。
はてさて、遺跡の奥に巣食うは魔族か或いは悪魔か。
霊格の違いと言われても困るんだがな、まぁ、俺も霊格が高い事にはなるのか真祖だし。
そう思いながら、遺跡の奥を目指す。
地面は石畳で、ぎっちり敷き詰められていて特に道が荒れていると言う印象は無い。
壁は、草木の蔦のせいで多少不気味な印象を受けるが、そこまで酷いと言う事は無い。
ただ、問題なのは道の狭さと天井の低さ。一応四人が横一列で通る事の出来る広さはあるが、それでぎゅうぎゅうと言った所。
天井の高さに関して言えば、大体3メートルと言った所か、無駄に圧迫感を与える造りだ。
ちなみに現在の人員配置は前にドクロとキール、後に俺とディルムッドと言う体制。
こうなったのは、この中で一番俺が体術が使えないからである。代わりに背後からの銃撃で援護と言う形になった。
それに、この遺跡のせいか魔力障壁を展開していても硬さが失われたように思う。
まぁ、それでも全員を守るように展開はしているのだが。
そう思い、自信の腰にぶら下がるブルースチールのランタンとドア・ノッカーに手が伸びる。
現状では武器はコイツらが頼りだ。こんな狭い所で下手に魔法を使えば同士討ちないし、遺跡の倒壊を引き起こしかねない。
それを考えると、この面子の中ではどうしても俺の取れる選択肢は減る。
最悪を考えるなら、いつでもここにいる全員を俺の影にでも投げ込んで、俺一人で魔物と戦った方がましかも知れない。
そんな事を考えていると、ディルムッドから念話がとんでくる。
(エヴァ、また良からぬ事を考えているだろう?)
ちっ、地味に良く見ている。
こいつを頼りにしない事は無いが、こいつに死んで貰うつもりも無い。
(まさか、私が良からぬ事を考えるのは何時もの事だ。
ついでにオーダーだ、帰ったらまた服を作ってくれ。)
そう、俺の内心を悟られぬようにおどけて返す。
しかし、コイツがそう言い出すって事は少なくともそういう素振りを見せたと言う事か。
まだまだ俺も精進が足りんな。
そんな事を思いながら進み現在は2階層目。
1階層では殆ど敵が出て来なかったから楽でよかったが、同時に発見も無かった。
これで、2階層でも同じ結果なら色々と考える事になる。
そう思っていると、ドクロから声が上がる。
「お宝はっけ~ん、さて、女狐仕事だよ。」
そういって、俺を見る。
基本的に宝箱を開けるのは俺の役目だった。
理由としては、対物理対魔法用の障壁が張れるからと言うのが大きい。
それに関しては、ディルムッドも納得している。
キールも、魔力量の関係から俺が開けるのを当然だと思ったのだろう、特に口を挟む事は無い。
「さて、障壁は張っているが、中身は何だと思うドクロ?
一応調べたんだろ?」
そう聞くと、ドクロの方は両手の手の平を上に向け、首をすくめて見せた。
「場所が悪いのか何なのか、調べ様にも調べられないって言うのが現状だねぇ。
どうする、ここを出てから開けるかい?」
フム、どうするべきか。そう思いながら、銃口で箱を突付く。
中身が分からない以上、ここは安全を考えて外に持って出るべきだな。
「今は開けん。外に出てからだな。」
そういって、宝箱に手を伸ばそうとした時、一瞬チクリとした、
しかし、俺が声を上げるよりも先に他の所を調べる為に離れたドクロが声をあげる。
「あたっ!」
一応、俺も自身のチクリとした位置を見るが特にどうともなってはいない。
しかし、ドクロのヤツもなんだと言うのだろう?
いきなり声を上げるだなんて。
そう思って、後ろを振り向くと、ディルムッドとキールも首筋をさすっている。
「どうした?虫にでもかまれたか?」
そう聞くと、各々が口を開く。
「そう言う訳じゃないんだが、今一瞬チクッとしたんだ。」
「私もです。首筋ですかね、特に虫がいたと言う事は無いのですが。」
そういって、向こうに立つドクロの方を見ると、
ポトリ・・・・、ドサ・・・・。
ドクロの首が落ちて、時間差で体が崩れ落ちた。
誰も話さない、ただ、ドクロの体と首から流れ出る血が床を汚し広がっていく。
そして、
「ドクロ・・・・・?・・・・・、ドクロ!!!!!!」
キールが大声を上げドクロに駆け寄る。
しかし、このままでは危ない、一体何が起きたのか現状が把握できない状況で下手に動けば、
ドクロの二の舞になる。それだけは避けたい、ドクロがは既に助かる見込みは無い。
何せ、頭と胴体がお別れしてしまったのだから。
「待て!下手に動くなキール!」
そう言って、俺が手を伸ばすがギリギリの所でキールには手が届かず、俺の手をすり抜けてしまう。
「待てエヴァ!何かがおかしい!」
そういって、ディルムッドが俺を後から羽交い絞めにする。
えぇい、今はそんな事を言っている場合ではないというのに!
「黙れ!先ずはキールを止める!」
そう言って、キールの方を向けば、薄っすらとだがキールの首筋に巻き付くような黒い糸のようなものが見える。
そして、それが一気にキールの首を刎ね飛ばし、さらに縦横無尽に動き頭と体を細切れにする。
何だ、一体何なんだこれは?さっきの糸といい、今の現状といい、一体何が起きている!?
クソ、これで2人目だ。すでに、この遺跡に二人食われた。
「チャチャゼロ、今のあれが見えたか?」
そういって、俺を羽交い絞めにしていたディルムッドに問いかける。
「あぁ、見えた。何かは分からないが、確かに見えた。」
「そうか、なら先ず放せ。背中合わせで2人を殺した化け物を狩るぞ。」
そう言うと、ディルムッドが俺を放し、背中を合わせる。
クソ!コイツを叱り飛ばすのは後だ。守りたかった・・・・、
俺の頼り無い背中でも、どうにか守れると思ったが世の中甘くは無いらしい。
2人は死んでしまった、なら、ここからは俺達2人だけだ。
そう思い、辺りを見回す。人よりも優れた五感で、さらに第六感までつぎ込んで、
目で辺りを見回し、肌で気配を探り、耳で音を聞き、鼻で臭いを嗅ぎ、空気の味で流れを読む。
そして、第六感で敵を視る。どこだ、どこに潜んでいる。
「何か見えたか?」
「いや、見えない。気配が無さ過ぎる。」
そういって、静かでランタンの明かりだけが頼りの道の真ん中で辺りを探る。
銃は何時でも撃てる、見つかればすぐさま殺せる。
そう思っていると、背中をヌルリとしたものが滴る。
この状況でこんな事が起こればいい予感なんてしない。
むしろ、最悪しか想像出来ない。そして、案の定。
ポトリ・・・・、ドサ・・・・。
その音を聞くより早く、ディルムッドの方を視る。
もしかすれば、敵の糸の一部でも掴めるかも知れない。
しかし、ディルムッドの体の何処にも糸は無い。
だが、首は刎ね飛び体の後こちから血が噴出して、両足も斬り飛ばされている。
クソ!一体何なんだ、ここに一体なにがいる?
そう思いながら、銃を右手で構え、キセルをもう一方の左手で持つ。
こうなれば、大規模魔法でも使って遺跡ごと化け物を葬るか?
そう思いながら、辺りを見回す。しかし、
パシャ!
自身の顔に暖かい何かがかかる。キセルを持っている方の手の甲で拭おうと手を上げた時に、
ポトリと手首から先が落ちる。そして、ズルリと肩が落ちる。
待て、何時だ、何時斬られた?斬られて感触は無い。
痛みも無い。そう思っていると、急に地面が近づいてくる。
そこで気付いたのが、どうも俺も首を飛ばされたらしいと言う事。
そうか・・・・、俺はこのまま死ぬのか・・・・・。
まて、あぁ、大いに待て。俺がこの程度で死ぬ?
バカを言うな。俺はこの程度では死なない。死ぬ事が出来ない。死ぬ訳には行かない。
ならばこの状況は何だ。自身の首が飛んで、文字通り頭から血が抜けたらしい。
ならば思考しろ、この状況を。このろくでもない状況をとっとと抜け出せる手がかりを探せ。
そう思い、辺りをもう一度良く見る。
辺りには死体が転がっている・・・、いや、死体はいい、死体は。
なら、なぜこの順番で死んだ?思い出せ、死ぬ前に全員に起きた事を。
そう、何かしらに刺されたんだ俺達は。なら、怪しいのはその刺したやつだ。
ついでに言えば、俺達は死ぬ時に痛みを感じたのか?一番最初のドクロは首を飛ばされ死んだ。
これなら痛みを感じる暇も無いだろう。次のキールも同様に首を飛ばされた。そして、ディルムッドも首が飛ばされた。
そして、最後の俺もだ。ならば、なぜ首を飛ばす事に拘るのか。
いや・・・・、違う。よく考えろ、これは首を飛ばす事が目的じゃない。
痛みを伝えない事が目的だ。俺は手首を斬られ、肩も切り飛ばされたが痛みを感じていない。
ついでに言えば、体も再生していない。それはつまり、五体満足なら、それ以上付け加える五体も、
再生する五体も無い。つまりは・・・・・、
「俺の五体はいまだに健在と言う事か。さらに言えば、他のやつも一緒だろう。」
普通の人間なら、自身の体が気付かないうちに刻まれればパニックを起こすだろうし、
首が刎ねられれば死を覚悟して自覚する。しかし、俺は違う。手足をもがれようが首を刎ねられようが関係ない。
だからこそ気付けるトラップ。だからこそ攻略できる罠。
精神系の魔法か、空間系の魔法かは知らないが、取り敢えずここから起きよう。
目覚ましにしては痛いが、しかし、痛みを感じさせないと言う事は逆に痛みを感じれば起きられる可能性がある。
「え~っと、この辺りかな。これなら、キールからナイフでも借りるんだった。」
銃を自身の体の中心に持ってきて、無いはずの左手を掲げる。
狙うは自身の左手の甲。目には見えないが、多分そこに存在はしているのだろう。
これで撃って何も起きなければ、また違う策を考える。逆に、これで目が覚めれば手を即座に再生させて、
他の面子を叩き起こして、化け物を狩る。なに、化け物の目星はもうついてる。
そして、
バヒューーーン
パシャ!
発砲音とともに、自身の顔に温かい雨と、焼けるような痛みが襲ってくる。
ヤバイ、自分で作った銃だけどこんなに痛いとは。
「ぐっ!つぅぅぅう・・・・あぁぁああもう!!」
無理やり傷口に魔力を流し込んで再生する。
これで一応痛みは消えるが、再生したすぐはどうも感覚が鈍る気がする。
っと、そんな場合ではない。辺りを見回せば、五体満足のドクロやキール、ディルムッドがいる。
そして、今一番の問題はドクロが宝箱に喰われそうな事。くっ、やっぱりミミックだったか。
俺に気付いたミミックも、細い針のようなものを箱から出ている触手から打ち出してくる。
多分、この針に幻覚を見せる成分か何かが入っているのだろう。
そう思い、針を無詠唱で出せる氷盾で弾きながら一気に走りより、宝箱の中のに銃口を突っ込んで、
「有象無象の区別なく、私の弾頭は許しはしない。
キサマはもっと風と日に当たるべきだろう、風穴を開けてやる。」
そういって、引き金を引く。
グジャアァアァアァァァア・・・・・
獣とも何ともつかない叫び声の後、宝箱は動かなくなった。
多分、これで死んだのだろう。そう思い、あたりの面子を蹴って起こす。
「っつぅ・・・・、エヴァ、頭を蹴らないでくれクラクラする。」
そう言いながら起きたのはディルムッド。
そして、次がキールで、
「してやられましたね。もっと早くに気付くべきでした。」
そう言いながら、腹を押さえている。
最後にドクロなんだが、
「ぐ~~~っ、ぐ~~~っ。」
豪胆と言うかなんと言うか、自身が死んだ幻覚を見せられて、
その状況でいびきをかきながら寝るなんて、『これが本当の永眠(笑)』なんていうつもりか?
はぁ、洒落のセンスにしても、ボケのセンスにしても、俺にはハードルが高すぎて突っ込めない。
そう思っていると、笑いの神が舞い降りたらし。
ヒューーーーーっ・・・・ごん!!!!
「あいた!!!!誰だ、どいつだ、アタイの美貌を傷つけるヤツはどいつだ!!!!」
ドクロを起こしたのは天井からの落石。その辺りを見ると、
弾痕があるので、多分俺が手を打ち抜いた時に着弾したものだろう。
「起き抜けからうるさい!キサマの顔なんぞ、石に当たろうが腫れようがかわらんだろ。」
「変わる、大いに変わる!って、アタイなんで生きてんの?」
そう言いながら、自身の首を触っている。
そういえば、コイツが一番に殺されたんだっけか。
そう思っていると、キールがドクロに説明をしだし、ディルムッドが俺の方を見てくる。
そんなディルムッドに念話の送る。
(すまん、取り乱して醜態をさらした。)
そう言うと、ディルムッドは多少驚いた顔をして念話を返してくる。
(いいさ、俺は君だけの騎士なんだから。しかしエヴァが謝ってくれるとは思わなかった。)
む、俺が謝るのはそんなに驚く事だろうか?
そんな事を考えていると、キールのドクロへの説明も終わり、こちらと合流する。
「さて、楽しい楽しい発掘も、潜って帰って始めて完了だ。気合入れるぞ。」
そういい、俺達はさらに地下を目指す。