復讐は我にありな第11話
闇の中男が笑う・・・・
ひたすらの狂気を込めて・・・・・
闇の中男がさらに笑う・・・・
自らに群がるモノ達を見ながら・・・・
「クハハハハハハ・・・・・・、ようやく見つけましたよ。
三年半前、あの時屋敷を燃やし私の腕を奪った、私の成果を全て詰め込んだ貴女を!
全てを取り戻しましょう。そう、全てを取り戻し、あの暗い地下室でまた楽しい実験と、享楽の日々を過ごしましょう!あぁ、キティ。
アタナシア・キティ!急いて、急いて!急いて!!早く貴女に触れて今の全てを破壊して、貴女の絶望にゆがむ顔を見せて!!!
くふ・・・、 クハハハ・・・・、あぁ、楽しみだ、まったく持って楽しみだ!すでに賽は投げられた。
私が真祖になる準備も整った。後は貴女さえ手に入れば全てが元通り。そう、全てが元通りになる。
さぁ、私の下僕たち、楽しい楽しいパーティーの幕開けだ。老いも若きも男も女も、一切全てを引き連れて開演と行こう!
さて、まずは・・・・。」
ドラゴンゾンビの一件から半年。
はっきり言って、この半年が一番辛かった。何が辛いって、いつ襲うとも分からない目眩。体調不良。
それに熱っぽさ。最初の頃は、等々俺にも女の子の日が!と慌てもしたが、よくよく考えれば成長しないのだから、そんなものが来るはずが無い。
いかん、だいぶ参ってる。そんな調子な物だから、この半年ほとんどと言って良いほど何もかもがはかどっていない。
ただ、表面上は何時もと同じように取り繕っている。そうしなければ、下手に医者なんぞに連れて行かれれば、一発で吸血鬼とばれるだろう。
だから取り繕ってはいるが、戦闘訓練なんて地獄と同じ。ただ、そのおかげか、ディルムッドが結構気を形にしてきた。
ただ、まだ飛ばす事は出来ない。だが、槍なんかの強化はできるようになってきている。
それを聞いて、コイツの技を一緒に考えてみたが、どうも俺の言う技は難しいらしい。
だが、無理ではないと練習しだした。
もともとコイツはランサーと言う特性上俊敏さには事欠かない。
それを軸に技を考えたから割りとシックリ来ると思ったのだが、なかなか甘くは無いらしい。
俺がディルムッドに提案したのは、チャチャゼロボディになってから癖になりつつある槍を回してからの一撃と言うもの。
簡単に原理だけ言うなら、視認限界以上の速度で槍を高速回転させてからの一撃。
当然、視認限界以上の速度からの一撃なので交わすのが困難なのと、槍が二本在るので、片方を体の前で高速回転させ、
その回転する隙間をもう一本の槍で縫うように突きを放つと言うもの。
これなら攻防一体の攻撃となるだろう。
後は、身体に柔軟さがあるなら槍を高速振動させ蛇のように曲がる一撃と言うのも良いかもしれないと言ってやった。
ディルムッドが槍を持っている特性上どうしても居合い拳は使えない。
簡単な話し、居合いを行うために必要な滑らせて加速する物が無いのだ。
それ以外の方法で速さを求めるなら、回転させるか振動させるかと言う二択になるだろうと思い提案したのだが何とも。
後は、槍を投擲しても問題ないように手の部分にアポーツの術式を施してやろうかとも検討中。
これができれば、戦闘の幅が増える。
気で強化した真名開放状態の宝具を投げ付けるとか、はっきり言って反則としかいいようが無い。
しかも、ディルムッドの宝具の特性上、投げる槍によるが、ゲイ・ジャルグの場合、
魔法で打ち落とすのは先ず無理な上に、魔法障壁なんかも簡単に貫く。
これはセイバーの王風結界を消したり、ランスロットの疑似宝具を無効化した事から分かる。
そんな槍が何度でも飛んでくるのだから相当厄介だろう。
ゲイ・ボウの場合は、もっと簡単で、どこかにさえ当たってくれればいい。
それだけで、治らない傷ができ身体に刻まれていく。ある意味これは夢広がる戦い方だ。
まぁ、これを行うにしてもなんにしても、先ず俺の体が治らない事には始まらない。ディルムッド自身は、俺の言った業を目下練習中。
俺も、早く身体を直して色々とやりたいのだが、治る気配が無い。しかし、こんな病気まがいの状態に置かれた理由なら推測がつく。
あのドラゴンゾンビとの一戦の後に浴びた液体。あれが何かしらの毒なのだろう。そして、そんな毒を作れる人間を俺は一人しか知らない。
俺が復讐を誓い、最も殺したい相手、シーニアスだ。あいつならば、そう、エヴァを真祖にしたあいつならば俺に効く毒薬を作る事ができる。
つまりは、復讐の終焉が近い事がわかる。あいつに先手を取られたのは痛いが、争い事なんぞ準備不足の連続の上で起こるもの。
そう割り切って考え、自身にできる最善では無く、最も選択肢の多い答えを探す事が必要だ。
最善を選べば、確かにその時はいいかもしれないが、後を考えると続か無い事が多い。
そんな選択肢をとるぐらいなら、最初から選択肢の多い選択を続けたほうがマシだ。
「なぁ、最近エヴァンジェリンおかしくないかチャチャの字。」
「まぁ、少しピリピリしてるかな。で、お前は何でここにいる?」
今俺がいるのはクレータ寮の自室。三年半暮らしてみたが、やはり人を住ませていい環境とは思えない。
まぁ、住んでいる俺が言うのもなんだがな。で、今俺の部屋には珍しく客が来ている。
ここ最近というより、俺がここに住みだしてこの部屋を尋ねて来たのは、わずかに二人。
一人目は少し時を遡るが、販売部の店主である骸骨、名はムクロという。
こいつが尋ねてきた理由は簡単で、販売部を閉めるからと言うもの。
それで、店を一番利用していた俺の顔を見に来て、魔法薬のレシピと遺跡発掘都市で暮らす娘からの贈り物を俺にくれると言ってやって来た。
コンコン
「誰かは知らんが開いてるぞ。」
「よぉ、嬢ちゃん。よくもまぁこんな所に住んでるな。」
そういいながら、入ってきたのはムクロ。
こいつにとってこの寮は天敵だろう。骸骨ならすぐにカビそうだし。
「で、何の用なんだ?まさか、冷やかしを言うためにわざわざこんな所に来たわけではあるまい?」
そういうと、ムクロは笑いながら話し出した。
「いやな、おめぇさんに渡そうと思うものがあってな。少しはえぇが販売部を閉める事にしたんだわ。だからホレ。」
そういって投げて寄越したのは、一冊の本とやたら年季の入ってそうなカギ。
「これがいったい何なんだムクロ?」
「あぁ、いやな、嬢ちゃんが色々本をもらってるって聞いたからよぅ、俺からも一冊と思ってな。
その本をよみゃあお前さんが買ってる魔法薬のレシピやら、ほかにもいろんな道具の作りかが乗ってらぁ。」
そう言われて、中に目を通すと錬金術に関する書籍である事が読み取れた。しかも、この書籍には別荘の作り方が記載されていた。
はっきり言ってこれはかなりありがたい。今までは巻物を使っての精神修行がメインだったが、これが作れれば色々とできる。
ただ、今まで吸っていた魔法薬の項目を読むと、成分だけ見るなら年単位で寿命が削れる毒薬のような素材が元になっていた。
もしかして、ムクロは仲間を増やそうと俺にこの薬を寄越したんじゃなかろうかと、一瞬頭をよぎったが、まぁ、あえて突っ込まないでおこう。
しかし、もう一方のこのカギはなんだろう?
「おい、これはどこのカギだ?」
「あぁ、そいつぁな俺の娘、名はドクロっつてな、ちょっと前まで遺跡が腐るほどあるヘカテスってぇ町にいたんだが、そこの土産だとさ。
どうせなら酒とかの方が嬉しいんだが、返すのもなんだし貰っておいたんだが、使い道がねぇ。それで、嬢ちゃんにやろうかとな。」
「ようは、ゴミを押し付けに来たと?」
そういうと、ムクロは豪快に笑いだし、
「いや、そいつぁあドクロ曰くどこぞの遺跡のカギなんだとさ。つっても一体何処に在るやらでな。暇だったら探してみるといいぜ。」
フム、遺跡発掘か・・・・、一応未来のビジョンの一つではあるな。少なくとも、この世界は色々と不可思議な事が多すぎる。
それを調べるための文字通りカギになってくれるとありがたい。
「それならありがたく頂いておこう。」
「そうしとけ。ついでに暇ならドクロに会って話を聞いてみるといい。
何時もぴぴるぴる何チャラってって言ってるから分かりやすいだろうよ。」
そういって、ムクロは俺の部屋を後にした。
しかし、ドクロって名前でぴぴるぴる何チャラが口癖とは・・・・、
下手に会うとエクス何チャラが飛んできそうな気がするから止めておこう。
そうして、次の日にはもうムクロは学園を去っていた。なんというか、簡単でもいいから贈り物でもしておくんだったな。
そして、目の前にいるのが二人目の来訪者であるアノマ。
こいつはドラゴンゾンビの一件以来、どうも俺にいい所を見せようと奮闘しているようだ。
この前も、俺の体調が悪い事に気付いたのか、色々と薬やら魔法やらを調べていた。
ただ、どうして俺にレモンやらミカンやら酸っぱそうな物を送ってくる?
これは何かの嫌がらせなのか?
「はぁ、酸っぱい物なら間に合ってるが、何のようだ?」
そう言って、キセルから煙を吸いながら話す。
体はだるいが、こればかりは止められない。
「あ、あぁ。そのな、今度町でお祭りをやるんだけど、一緒に行かないか?
それに、サーカスも来るらしいから一緒に見に行こうかと思って。ほら、チケットもあるし。」
そういって差し出されたのは、ピエロの絵がプリントされたチケット。ホーント・リッチサーカス団と名うってある。
はぁ、どうしたものか。個人的には、祭りやサーカスなんぞそっちのけでダラダラしていたいのだが、それをするとこのバカはまた世話を焼いてくる。しかも、間違った方向で。ここはおとなしく着いて行くとするか。
「チャチャゼロも勿論一緒で良いんだろうな?」
そう言うと、一瞬眉をしかめたがそれでもOKといってきた。
それならば、せいぜい楽しむとしよう。
ーsideアノマー
最近元気がなくて心配していたが、エヴァンジェリンはオレの誘いに乗ってくれた。
まぁ、チャチャゼロが着いて来るのは、半ば予想の範疇だったとしても少し悔しい。
やはりエヴァンジェリンは俺の事をまだ信頼してくれていないのだろうか?悔しいが、チャチャゼロは強い。
飛び始めた頃はそんなでも無かったが、飛行に慣れると本当に強くなった。オレもそれに必死に喰らい付こうと頑張ってはいるが難しい。
それに、ドラゴン退治以来エヴァンジェリンが変だ。表面上はなんとも無い様に装っているが、それでも行動の節々に違和感を覚える。
原因が何かは分からないし、もしかして、あの時のキスで子供が出来ちゃったのかと思って、酸っぱい物とかを大量に送ったら逆に怒られた。
さすがにオレもそこで冷静になって考えてみたが、キスで子供が出来る訳が無い。
そうすると、単に体調が悪いのかと思って色々魔法を調べたが、そもそも、彼女のどこが悪いのか分からず、空回りもいい所だった。
そして無い頭で考え付いたのが、今のサーカスの誘い。
簡単な話、珍しいものでも見てもらって、気晴らしをすれば少しはマシかと思い誘ったのだ。
もしこれで誘いに乗ってくれなかったら、折角ドラゴンゾンビ退治で手に入った報酬をはたいて買ったチケットが無駄になってしまう所だった。
しかし、このチケットを見た時どうして、このサーカスの公演にエヴァンジェリンを連れて行かなければと思ったのだろう?
それに、オレにこのチケットを売ってくれた男はどうして、腕に包帯なんてぐるぐる巻きにしていたのだろう?
それもサーカスの演出のひとつなのだろうか?
まぁ、そんな事はどうでも良いか。せっかくのエヴァンジェリンとのデートだ。
お邪魔虫のチャチャゼロはいるが、それでも楽しまないと損だろう。祭りの日の公演が楽しみだ。
ーside俺ー
公演の日までそう日は無い。しかし、別段俺に準備するものは無い。
服にしてもなんにしても、もともと普段着はエヴァの持ち物を使っているので品質に関しては問題ない。
それに、むやみやたらと宝石なんてものも着けたくは無い。基が良いのだからシンプルイズベストが最適だろう。
ついでに暇だから、ディルムッドのチャチャゼロボディ用の服でも作るか。人間の時なら適当に買って着せれば良いが今は人形。
それに、屋敷から持ってきた服も何着かはあったが、戦闘訓練やら何やらで大分ボロボロになってしまっている。
「と、言うわけで服を作ってみた。」
「何が『と、言うわけ』かは、分からないが、折角作ってくれたのなら着るとしよう。」
そういって、俺から服の入った袋を受け取る。ちなみに、中身はディルムッドだとしても、容姿はチャチャゼロ人形。
つまる所、可愛らしいのだ。ならばそれに見合う服が良いだろう。
そう考えてデザインしてちまちまと縫い上げたのが、
「なぁ、エヴァ。たまに思うんだが、エヴァの愛情表現って歪んでないか?」
そう言いながら出て来たのは、メイド服姿のディルムッド。
ちなみに、なんちゃってメイドが着ているようなミニスカタイプではなく、由緒正しいロングスカートのメイド服。
デザインの基は屋敷を出る前に会ったエマの服をイメージして、ディルムッドのために作ったので、濃紺の生地と白いエプロンが似合っている。
ちなみに、背中の羽が出るように作るのが一番苦労した。
「クックックッ・・・、えらい言われようだな。折角似合う服を作ったというのに。実際に似合ってるぞ。」
「いや、しかしだな・・・・。」
そういいながら、スカートをいじったり、新しく新調したヘッドドレスを弄ったりしている。
と、そう言えば忘れる所だった。
「そのヘッドドレスは大事にしろ。念話補助用の術式が仕込んである。」
「そうか、それは助かるな。」
もともと、俺がこいつを召還に使った魔法陣はサーバント召還ではなく、魂を人形に込めての動くオートマーダーのような物を作る術式なので、
サーバント契約とは違い、こちらの意思を魔力に乗せて送る事は出来ても、相手からの意思は感じ取れない。
もともとが、自身を守るためだけにつかう人形のだから、人形の意思何ぞ知った事かと言う所なのだろう。しかし、今の俺としては困る。
簡単な話し、声に出しての会話によるタイムラグや、お互いの別行動時の会話手段として必要だったのだ。
それを考えて作ったのがこのヘッドドレス。後、服も普通の服よりも頑丈になるように術式をこめて作ってある。
防御力は大体、鉄の軽鎧程度。しかし、それをエプロンと重ねて着ているのだから結構頑丈だろう。しかも、元が布だけに軽い。
そんなこんなで、祭りの日の当日。空は快晴で月齢では今晩満月になるらしい。
そのせいか、少しは体調がいい。
コンコン
「あぁ、待て今行く。チャチャゼロ準備は良いか?」
「あぁ、問題ない。」
そういって鏡を見てから外に出る。今俺が着ているのは、エヴァの家から持って来た黒いゴスロリ服。
全体的に黒くフリルで豪華な感じになっていて、胴の部分にまく布が深紅の生地で出来ていて、後ろの部分でリボン結びをしている。
髪はいつも同様リング状の髪留めで留めて、リングの上から黒い大きなリボンで覆っている。ついでに、キセルに薬を詰めて吸えば準備完了。
ちなみに、ディルムッドはこの前渡したメイド服を着込んでいる。
「おはよさんっと、エヴァンジェリンの私服って毎度可愛いよな。チャチャの字はなんと言うか・・・・・、ご愁傷様?」
「褒めても何もではせんぞ。ついでに言えば、チャチャゼロの服は私のお手製だ。」
「ケケケ・・・・、アノマ、やはりお前とは分かりあ合えないようだな。」
そんな馬鹿話をしながら学校を出て市内へ向かう。
しかし、ディルムッドは割り切ったのかどうなのか、割と渡したメイド服を気に入ったようだ。
渡した後、どこかにフラフラ出て行ったので、興味本位で見に行ったら鏡の前で一回転していたので、生暖かく見守り退散した。
「今日のサーカスの公演は、夕方からやるらしいから、それまで色々見て回ろうぜ。」
「あぁ、かまわんよ。」
そう言って、祭りを見物して回る。しかし、いろいろな人種を見たと思ったが、今日はさらに色々な人種がいる。
それについて思った事なのだが、少なくとも、公式設定では原作開始より約一世紀前まで両世界の事は互いに知られていない。
しかし、遺跡にしろ道にしろは、そこに確かにあるのだ。それに、御伽噺に成ると言う事は、
少なくとも、両世界を偶然にでも行き来出来ていたかもしれないという事。それに、旧世界には妖精やドラゴンと言った物の伝説には事欠かない。
少なくとも俺の場合は、ゲートの存在を知っていた事と、あのゲスが少なくともそのゲートを使った事があるという事で、
こちらの世界に来ることが出来た。
ただ、ゲート自体がまだ機械整備されていないので、行き来できる周期はちくじ観測する必要性があった。
「エヴァンジェリン楽しんでるか?」
「楽しんでるさ。それにしても、人も出店も多いな。」
キセルから煙をユラユラさせながら答える。
少し思考に走りすぎたか・・・。
「そろそろ小腹も空いてきた、何か食おうじゃないか。」
そういうとアノマはきょろきょろと辺りを見回して一軒の店に目をつけた。
「そうか、あれなんてどうだ?」
そういって指差したのはオープンカフェテラスのある店。
はて、どこかで見た事があるが、まぁ良いだろう。
そう思って、その店に入る。
「注文は適当にしておいてくれ。ちょっとお花を摘みに行ってくる。」
そういって席にアノマとチャチャゼロだけを残してトイレに立つ。
ーside残された二人ー
「なぁ、チャチャの字、エヴァンジェリンの好きなものって何だ?」
そういってチャチャゼロに聞く。
悔しいが、こいつなら間違いなくエヴァンジェリンの好きな物を知っているだろう。
本当ならこいつに聞かずに注文しておきたかったが、知らないものは仕方が無い。
「なんだろうな。
何時もサンドウィッチやら、保存食やら食べれれば良いとか、機能的なモノを食べているが・・・、はて、好物言うと・・・。」
アノマに聞かれて考えるが、何なのだろう。
ココで生き血なんて馬鹿な事も返せないし、俺が知っている限りではサンドウィッチや、こっちの世界の保存食や携行食料何かをよく食べていた。
一度、なにか他の物でも食べないかと提案したら、その時は偉く豪華な料理が出てきた。
しかし、それが好物かと聞かれればなんとも。まぁ、飲み物ならコーヒーでいいんだかな。
「なら、これで良いか。機能的で栄養あるし。」
そういって、アノマが何か頼んでしまった。
ーside俺ー
席を外して、裏口から外に出てコウモリを飛ばす。これは保険だが、不特定多数の人間が今はこの町にいる。
今まで外に出る時はこんな事をしていなかったが、あの薬を浴びたからにはこれ位して置かないと気が休まらない。
しかし、今の体調では飛ばせる量も質もガタガタで、本当に気休めと言った所だろう。
「ただいま。」
「あぁ、お帰りエヴァ。」
「帰り、もう料理は頼んどいたから。」
そう言われて、料理が来るまでキセルで薬を吸いながら雑談をしてすごす。
どうでも言い話だが、この薬は拡散性が強くキセルなんかで吸った奴は影響を受けるが、キセルから立ち上る煙には有害性は無い。
代わりに、シナモンのような甘い香りを振りまくだけだ。と、どうやら料理が来たようだ。店員が料理を並べ終えて席を離れる。
「ありがとさ~んっと、じゃあ食べようぜ。」
そういって、アノマが運ばれてきた料理をぱくつく。
しかし、俺は手が出ない。どうしてかって?
それは、
「チャチャゼロ、これは私に対する嫌がらせか?」
「すまない、料理を確認するんだった。まさか、ニンニク入りの料理だとは。」
今、俺の前に出されているのはここに来た当初に食べたニンニクタコス。
ただでさえ具合が悪いのに今これを食べたら確実に死ねる。
「ん?何かあったのかエヴァンジェリン。」
「あぁ、私の大嫌いなものが入ってるだけだ。それ以外気にする事は無い。」
そういうと、アノマの顔色が悪くなる。
まぁ、好意を持っている女性に、その女性の嫌いな物を出したのだから仕方ないだろう。
「わ、悪いエヴァンジェリン!今から何か頼みなおすから。」
そういってカウンターに走って行った。俺の方は料理をディルムッドに全て渡し、コーヒーを啜りキセルで薬を吸う。
そして、程なくしてフルーツの盛り合わせを持って、アノマが帰ってきた。
「まったく、チャチャの字も知ってるなら教えてくれれば良いのに。これなら食べれるか?」
「あぁ、上出来だ。これなら問題ないよ。」
「すまんアノマ、先にエヴァの嫌いな物を教えておけばよかった。」
「なに、かまわんさ。」
そう言って、三人で食事をした後、また祭りを見て回り日も暮れだしてボチボチ星が見え出した頃、俺たちはサーカスのテントの前にいた。
しかし、俺はサーカスと言うものを見た事が無いが、こんなにもお香やら何やらの臭いがするものだろうか?
その臭いのせいで、逆に身体能力を落とすハメになるとは何とも。
そんなこんなでサーカスのテントの中に入り開演を待つばかりという状況。
しかし、最前列の席を取ってくるとは、なかなか金のかかっている事だ。
コウモリは闇に紛らわせて、もう体に返しているし、今の所問題は無い。せいぜい楽しめるなら楽しむとしよう。
「もうじき開演みたいだな。」
そうアノマが俺に囁いて来て、真っ暗だった舞台の中央が明るくなり、ローブで全身を隠した男が一人出てきた。
男は枯れ木のように細く。そのほかにも、闇で蠢く何人か感じ取れる。
「今宵は我がホーント・リッチサーカス団の公演にお出でくださいましてありがとうございます。
と、言っても私どもは貴方方に興味がありません。 私が興味があるのはただ一人、そう、ただ一人だけ!」
男が舞台上で叫んでいる。舞台演出にしてもこれは少々おかしな気がする。
(チャチャゼロ、もし有事の際は私ではなく、アノマを優先して逃がせ。)
そう、念話を送るとすぐに返答が帰ってきた。
(何か理由があるのか?)
(ある、これは決定事項だ。確実にこなせ。最悪秘密をばらしてもかまわん。)
そうやり取りをしている間に、男の言葉は終わろうとしている。
「さぁ、今宵は満月。すべての闇の眷属よ!すべての闇の王たるものよ!そして、我が愛憎の対象よ。その名と姿をすべての前に知らしめよう。
食事なら腐るほどある!それが終われば、あの懐かしの地下室に帰ろうか。
なぁ、真祖の吸血鬼エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダ ウェルゥ!!!!!!」
そういった瞬間、一瞬枯れ木のような男と眼があったと思ったら、辺りから悲鳴と、
ドスッ
ジュパッ
「ぐがぁっ!!」
俺の胸から剣が生え光が消えた。痛い・・・・、イタイイタイイタイイタイ・・・・。思考が燃える。再生が遅れる。力が出ない。
口は息をするだけで精一杯。そんな仲でも、隣から俺を呼ぶ声がする。
ーsideアノマー
舞台公演が始まり、舞台上の男が何か喚いていて、最初の方はオレもこれがサーカスの演出なのかと思っていたが、なんだか雲行きが怪しい。
そして、男が、
「真祖の吸血鬼エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルゥ!!!!!!」
待て、何で男エヴァンジェリンの事を知っている?
混乱しながら、エヴァンジェリンに話かけようと思ったら、
「ぐがぁっ!!」
エヴァンジェリンの声が聞こえた後、顔に暖かいものが付いた。
そして、オレの目に飛び込んできたのは、
「なっ!」
串刺しにされ、目から血を流すエヴァンジェリンと、辺りでは人が人を襲っている光景。と舞台上で笑う男。
いったいどういう事だ、何が起こっている。しかし、そんな事はどうでもいい。
「エヴァンジェリン!放せばか!!早く病院に連れて行かないと!!」
そういって、エヴァンジェリンを串刺しにしているローブの大男に挑みかかろうとするが、男はその場からジャンプして舞台の上に上る。
オレがエヴァンジェリンを追いかけようとした瞬間、エヴァンジェリンの声と、オレの首根っこを力任せに引っ張るやつがいる。
「がぁ、ちゃ・・・、ちゃz・・・、ゼロ。やれ・・・。」
どうしてその声が聞こえたのか分からない。
距離もある、回りは悲鳴と逃げ惑う人間でごった返している。そんなさなか彼女の声が聞こえた。
そう、オレではなく彼女が騎士と言ってはばからない彼を呼ぶ声が。
そして、それを聴いた瞬間、オレは天高く舞い上がっていた。
「放せチャチャゼロ!俺をあそこに戻せ!」
「だまれ!これはエヴァの意思だ、キサマを自身より優先して逃がせとな。」
そういって、チャチャゼロは虚空瞬動を使いサーカスから急激に遠ざかっていく。
「それでも放せ!このままじゃエヴァンジェリンが死んじまう!今ならまだ間に合うかもしれない!!」
それを聞いてもチャチャゼロは無言で飛び、サーカスの会場からすでに何キロとも言えない所まで来て、オレを地面に投げ付けるように下ろした。
「チャチャゼロ、お前何しやがる!何でオレなんだよ!何でお前はオレじゃなくてエヴァンジェリンを助けないんだよ!!」
そう言うと、チャチャゼロも苛立たしそうに口を開いた。
「だまれ!!俺だって彼女を一番に助けたいさ!だが、それは出来ない!キサマを逃がす事が彼女からの最優先任務だからだ!
もし、キサマを逃がさずエヴァの元に残ればそれだけでオレは俺としての資格を失う!!」
「それでも、何でオレなんだよ!それに、真祖とか吸血鬼とか言ってたし、わけわかんねぇーよ!」
「本当の事だ。エヴァは吸血鬼の真祖。あの状況でも死なない。では、俺は行くぞ!」
そういって、今にも飛び立とうとするチャチャゼロと一緒に俺も飛ぼうとするが。
「ぐはぁっ!てぇめぇ・・・・なに・・・・しやが・・・・る!」
「オレの任務の邪魔をしないでもらおうか。」
飛んできたのは腹への強烈な蹴り。今にも吐きそうな位の衝撃で吹っ飛ばされ意識が持たない。
オレの目の前でチャチャゼロは飛んでいった。クソ!俺では彼女をエヴァンジェリンを守れないのか・・・・。
ーsideディルムッドー
苛立つ・・・・、苛立つ!・・・・、苛立つ!!
何で俺はあの時気付けなかった!それに、どうしてアノマを優先させた!
少なくとも、旧世界に行った時に話して、エヴァが色々と先の事を知っているとは聞いた。
しかし、彼女はその先の事を教えようとはしない。理由は未来なんぞ変わってなんぼだと言う事からだ。
しかし、それでも彼女が傷つくのは我慢ならない!なぜ彼女なんだ!どうしてなんだ!彼女がいったい何をした!
「えぇいクソ!」
短くそう毒づきアノマを逃がした道を急速に戻る。
彼女からの魔力は弱々しくだが感じる。彼女はまだ生きている。それならば急ぐしかない。
過去のオレは飛べなかった。しかし、今の俺は飛べる!それに更なる速さを手に入れている!
「必ず間に合わせて見せる!我が忠義に誓って!!」
ーside俺ー
「クハハハ・・・・、いいザマだなキティ?どうだ、俺の所に戻ってくる気になったか?」
「戻るか・・・・、キサマわ・・・・、コロ・・・ス。」
痛いイタイイタイ・・・、串刺しにされたままのせいで再生できない、目は戻ったが、それでも魔力が抜けて完全回復しない。
もともと、自然治癒力も半端ではないが、それでも魔力のあるなしでは速度が違う。それにこの痛みは、身体だけの痛みではない。
精神が魂がギチギチと軋みをあげる。痛いイタイイタイ・・・・。
それでも、まだだ、まだ俺は死ねない!死なない!死んでやるものか!目の前のゲスを殺すまでは絶対にだ!
「そうか・・・・、ならこれはどうだ・・・、ヤレ、キメラ。」
シーニアスがいった瞬間、両肩から感覚が消える。
変わりに、身体の中が急速に冷たくなる。
「ぐあぁぁぁぁああぁぁ・・・・・。」
「あぁ、いい悲鳴だ・・・・。どうだ、戻ってくるなら早くしたほうがいいぞぅ?
じゃないと、芋虫になってしまうぞ。ククク。」
「ころす・・・・・、キサマだけは殺す・・・・、確実に・・・・。ぐっ。」
俺の喉を熱い線が走る。そのせいで、口も利けなる。
「口の悪い娘は嫌いだといったのに。はぁまったく・・・・、必要な物はそろったし、キミ以外でも良いかな。
多少面倒はあるが、人間なんぞ腐るほどいる。それならば君を殺すのもいいか。計算上なら、今の君なら灰にすれば死ぬはずだ。」
喉は使えない、腕は切り落とされたままで、胴体は串刺し。しかし、まだだ。これ位ではまだ終わらん。
少なくとも、エヴァの知識ではこれでもまだ序の口。それならば、彼女より長く生きている俺がここで挫ける訳には行かない!
彼女を殺してしまった俺が、こいつを殺し復讐を果たさないと気がすまない。それがいくら満身創痍だとしてもだ。
それに、俺の騎士が帰ってくる。あの忠義を重んじるあいつが。
「ふん、その反抗的な目つきも気に入らんな。折角俺たちの世界で見た時は笑っていたのに、今は醜い。」
そういって、睨んでいた俺の目をキメラが切り裂く。
「・・・・・」
「ふん、口をパクパクさせてもなにもでんよ。」
そうだ、喉が切り裂かれているのだから声が出ないのは道理だな。
しかし、念話なら別だ。
(我が騎士よ、後どれくらいで来る?)
(今はもう、御前に。)
そう頭に響いた瞬間、斬撃音とともに俺の身体がドサリと地上に落ちる。
ーsideディルムッドー
オレがサーカスの会場に戻った時にはすでに、エヴァの身体はボロボロだった。
あの綺麗だった顔は血で赤く染まり、白かった髪と肌はどす黒く汚れ、両腕は切り落とされている。
そんな中、オレに彼女からの念話が届く、どこにいるのかと。とても静かな声で。しかし、声は静かでも怒りは伝わってくる、深い深い怒りが!
その声で悟った、彼女は諦めていない。彼女はいまだにあの男を殺す気でいる。それならば、彼女の騎士として誓った事を果たそう。
彼女からもらった飛行能力で、天高く舞い上がり槍を構えて急降下する。狙いは、彼女を貫いている大男。
そして
斬!!
急降下による加速と、気による強化で斬撃速度を上げてきり飛ばす。
「下がれ下郎!俺が相手をしてやる。」
そういいながら双槍を構え威嚇する。
「あの時見かけた人形か。やれ我が下僕ども!叩き潰してしまえ。」
そういって。周囲で人を襲っていた化け物や、目の前のローブを着込んだ男がオレに殺到してくる。
「雑兵なんぞで俺が止められると思うなよ!」
そういって、戦闘を来た奴から首を飛ばし、喉を突き、心臓を穿ち、或いは、頭を叩き割り、あたりに死体の山を作っていく。
エヴァはまだ身体が治っていない。切られた腕は生えてこず血を流し、後の部分もいまだに再生していない。
「ふん、人形の割にはと言う所か。キメラ、やれ。」
そういった瞬間、男の横にいた大男が動き出す。
「いくら数が増えようと問題ではない!」
そういって、大男との戦闘に入る。しかし、この男は不気味だ。
エヴァを串刺しにしたままの姿勢で、俺が帰ってくるまでをすごし、それでもなお疲れを見せない。
だが、それでも俺が止まる理由にはなりえない。
「ふっ、誰であろう何であろうと、俺を止める事なんぞ出来はしない。俺を止める事が出来るのはただ一人。我が主のみと知れ!!」
そういって、大男との戦闘に入る。が、
「止まらなくても結構。すでに欲しい者は手に入った。」
そういわれて、男の方を見ると、男の目の前にエヴァが倒れていた。
「クソッ、転送魔法か!えぇいどけ!!」
そういって、大男を飛んで交わそうとするが、
パンパン
銃声が響く、男の方を見れば。
纏っていたローブが外れ、そこから出て来たのは腕が六本あり、それぞれの手に双剣、双銃、双槍という井出達の継ぎ接ぎだらけの男。
腰のベルトには数多くの銃弾と刃物がぶら下がっている。下手に飛べば銃を撃ち、接近戦なら槍と剣を使い攻撃をする。
それに、切り落とした筈の腕が生えている。少なくとも、切り落とした腕は転がっている分があり、切り落とした断面には新しい腕がある。
再生力が高いのだろう、俺の槍が昔通りなら問題ないが、今は開放型のため、普通の槍と変わらない。
そうして、大男と対峙している間に声が聞こえてきた。
「知っているか人形。言う事を聞かない物、必要なくなった物の末路というものを。知らないだろうなぁ、キミは人形なのだから。
ククク・・・、 優しい私が教えてあげよう人形君。答えは簡単焼き捨てるのさ!」
そういって、男がエヴァの身体に火を放つ。
「エヴァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」