モンスターハンター・・・待て、何故そうなるかな第10話
ジルとジャンヌを見物して、大金を巻き上げた後も学生生活は続いて三年目という所。
入学当初は人も多かったが、今ではだいぶ人が少なくなった。
それもそうだろう、いつ沈むともわからない船にいつまでも乗りたがる人はいない。
つまり、閉校の足跡がもうすぐそこまで聞こえてきているという状況である。
まぁ、だからこそ、学校の機材を貰ったり安くで買い叩いたり出来る。特に、図書館の書籍関連。
そこら辺は廃棄処分用の本なんかを片っ端から貰っている。ついでに、錬金術の材料に関しても片っ端から貰い材料を充実させている。
修行している魔法の方もだいぶ形になってきて、使えるものが増えた。
ただ、『闇の魔法』に関しては、まだ取っ掛かりの段階で、前に精神世界で修行していたら、自身に攻撃魔法を取り込んだ瞬間、
身体が爆発してなかなかにグロテスクな事になった。まぁ、それでもめげずに練習したおかげで何とか取っ掛かりと言う所。
ほかにも、エクスキューショナー・ソードを練習してみたが、長さが足りず、キセルの周りを覆うようにしか展開できず、
さながらソードでは無くナイフという有様。
まぁ、それでも三年目でこれだけやれれば御の字だろう。
ついでに言えば、こっちでは指輪もつけっぱなしなのだし。
ただ、ありがたい事と言えば重力系の魔法や操作がかなり上達した事。相手に触れさえすれば、
相手の対魔力にもよるが普通に操作できるようになった。これにより、アノマ何かをポンポン投げ飛ばしている。
ついでに、対悪魔用消滅呪文なんてものも練習中。これを闇の魔法にでもセットしたら、どうなるのだろうかなり楽しみだ。
ついでに、ディルムッドからルーンも習っているがそちらはまだまだだ。
ディルムッドの方に関しても、結構進展があり飛行術式の飛行速度が上がり、
最近ではまったく歩く事がなく羽をパタパタさせながら空を飛んでいる。多分これも日々の戦闘訓練の賜物だろう。
槍を両手に飛ぶさまは、チャチャゼロ人形の容姿なのでさながらワルキューレのようだ。
それに、気に関しても本人の努力が実ったのか、それとも、魔力供給無く動ける事が幸いしたのか少しずつだが使えるようになり、
今は虚空瞬動と攻撃を飛ばす方法なんかを練習中だとか。ただ、身体に纏うのがどうもシックリ来ないと言っていた。
そんなさなか授業が終わった後、教室で愛用のキセルで一服していた所をエルシアから俺と隣の席のアノマが呼び止められた。
そういえば、最近気づいたのだが魔力増強薬の所存か、学校で2番目までの魔力に上がっていた。
ただ、それが指輪装備中でその魔力だと言うのだからなんとも。ちなみに、依然1番はアノマだが、それでもだいぶ近接している。
これで指輪をはずせば間違いなく魔力だけなら一級品だろう。と、いうより少なくとも、元からエヴァは莫大な魔力を持っていたのだから、
それをさらに強化したらナギなんて目じゃ無くなるんじゃないだろうか?
「エヴァ、そろそろ無視しないで話を聞いてやらないか?そろそろエルが泣くぞ?」
「あぁ、思考の外だった。」
そういってエルシアのいる教壇の方に向かう。
「エヴァちゃん無視なんて酷い、いつか夜這いかけてやる。」
「鍵の複製及び、残存している合鍵も無駄だ。すでに対処はしてある。ついでに言えば、その先は俺の槍を越えてからだな。」
「エルシア、もうちょっとマシにならないか性格?」
「はぁ、そんな事より本題は何なんだエル?」
何とも教壇に着くなり疲れる会話だ。まぁ、それでも三年もやれば慣れるというもの。
ついでに言えば襲うのはいいが、襲われるのは性に合わない。そんな呆れとも、感慨ともいえる感想を抱く中エルシアが喋り出した。
「とりあえず、貴方たちを呼んだのはお願いがあるのよ。最近この町の郊外で何体かのモンスターが暴れているのは知っているでしょ?
それの討伐に参加して欲しいのよ。もちろん、私は引率に着くしモンスターのランクもそんなに高くない。
それに、ここを出れば実戦も行うだろうから悪い話ではないと思うんだけど、どうかしら?」
ふむ、モンスターハント自体はディルムッドをつれて小遣い稼ぎとともに、材料収集を行うと言う名目でよくやっていたが、
こういう風に正式なハントの依頼は初めてだ。ついでに言えば、今までこっそりやっていたものだから、
ほかの魔法使いや従者の実力を探るのもいいだろう。
「エル、モンスターの内容と報酬はどうなる?」
そういうと、エルシアは視線を逸らし、アノマはキョトンとしている。もしかしてこいつら・・・・、
「なぁエヴァンジェリン、ハントで報酬なんて出るのか?
今までエルシアに頼まれて何度かやったけど一回も貰ったこと無いぞ?」
そうアノマがいったので、エルシアに向かう視線が増える。
そして、耐えられなくなったのかやけに汗をダラダラ流しながら口を開いた。
「え~っとね、エヴァちゃん。何で報酬の事なんて知ってるのかな~?お姉さん不思議でたまらない~。
それとアノマ、お前が今までやったのは単位が足りない分の補習だ補習。」
そう、アノマに告げているがいつもの強気な態度は無く、どこかぎこちない。
おおかたエルシアはハントの報酬を自身の懐にでも入れていたのだろう。
アノマはバカだが、少なくとも真面目に授業も受けているし、魔法も戦闘も結構できる。
それを考えれば、補習というのもおかしな話だ。
はぁ、エルシアは本当に教師にしておいていいのだろうか?
3年目になるが、この疑問にもそろそろ終止符を打ちたいものだ。
そんな事を考える中、ディルムッドがアノマに説明しだした。
「アノマ、少なくともモンスターハントは危険な事が多いから無償では行われない。
少なくとも、こう言う物は町の自警団なり賞金稼ぎなりが受注してやるんだよ。」
「て、事はオレは今まで無料ご奉仕をエルシアにしていたと?そういう事かチャチャの字。」
「少なくとも、本当に補習なら・・・・、いや、補習でハントって一体何の補習になるんだ?
少なくとも、戦闘訓練なら毎度毎度やっているだろう?」
そうディルムッドが言ってやるとアノマは頭をガリガリ掻きながらエルシアに詰め寄っていった。
どうでもいいが、これだけアノマがエルシアに勝てる要素があるのに、勝てる気がしないな。
「エ~ル~シ~ア~、オレの金は?マネーは?いったい何処だーーーーー!!」
そう叫ぶアノマに対してエルシアは平然とした顔でシレっと
「まぁまて、魔法使いは無償で人々に尽くす事を使命としているはずよ。
それなら、このお金を持たざるものに奉仕するのもそれの一環だ!」
なんというか、むちゃくちゃな理屈である。
まぁ、個人的に魔法使いが『無私の心で世界の人々のために力を尽くす事を使命とする』というのが胡散臭い上に、
肌に合わないのでその辺りは適当に流している。少なくとも、この辺りの歴史も探るとしよう。
歴史発見ミステリーツアーを一人で行うのもなかなか乙なものだろう。道連れにする奴も居る事だし。
と、目の前のやり取りから現実逃避気味に考えこんでいると、どうやら決着がついたらしい。
「確かに、それはエルシアの言うとおりだな。オレがマギステル・マギを目指すためならしかたな・・・・い分けあるかボケ!」
「いいわよ、ならアノマはこのまま進級も卒業も出来なくする上、授業料ぼったくるから。」
あぁ、やっぱり胡散臭いぞ魔法使い。ここまで堂々とボッタクリ宣言するとか。いや、エルシアが特殊なのか?
まぁ、どちらにせよアノマが敗北してorzの姿勢をとり、それを見たディルムッドが優しく肩をたたいている。
人形に慰められる級友、なかなかにシュールだ。
「はぁ、バカばっか。で、目標と報酬は?無償なら他を当たってくれ。」
そういうと、エルシアは渋々と言った感じで話し出した。
「とりあえず、詳しい事は分かってないんだけど目標はドラゴンよ。
ワイバーンらしいんだけどそんなに強くないみたいだし、他のハンターもいるから大丈夫なはずよ。報酬は折半という事でお願いします。」
聞いた話ではかなり不確定要素が多いな。
ドラゴンハント事態はディルムッドと何度かやった事があるから問題はないんだが、さすがに、楽観は出来ない。
これが本当にただのワイバーンなら重力魔法で地面に縫い付けてやればいいんだが。
まぁ、三人だけじゃない事を考えればやれない事は無いか。
「それなら参加しよう。当然チャチャゼロの分の報酬も出るんだろうしな?なぁ、エル?」
「うわヒド、エヴァちゃんの超絶サド!守銭奴!愛が足りないよ愛が!」
「エル、俺が貰うのは当然の権利だろ?」
「今回はオレにもよこせよエルシア。」
今度はエルシアがorzになっているが、まぁ、今まで甘い汁を啜っていたんだし当然の報いだろ。
その体勢のままなにやらブツブツとマジックアイテムと洋服のブランド名を言っているが、大方報酬を独り占めして買うつもりだったのだろう。
そうして、魂が半分ぐらい抜けた状態のエルシアが話し出した。
「そういえば、アノマもエヴァちゃんも従者がまだ居ないわよね、この際どっちかが従者になっちゃえば?
アノマは接近戦得意だし、エヴァちゃんは普段は前に出ないけど、なんだかんだでオールマイティーに何でもこなすんだし。
アーティファクトも手に入るんだから、ぶちゅっと一発どうよ?二人とも中いいんでしょ?」
この馬鹿はいきなり何を言い出すのだろう。
確かに、アーティファクトという手札は有ると戦闘の幅が広がるからいいんだが、
今それをすると、間違いなく吸血鬼とばれた時に強制召喚されかねない。それに、相手がアノマというのも不味い。
少なくとも、アノマには家庭なり子供なりを作ってもらわないと困る。
じゃ無いと、大戦の最後に世界を破壊する魔法発動で、人類滅亡エンドなんてシャレにならない事態になる。
少なくとも、それは楽しくない。そんな事を考えていると、顔を赤くしたアノマがこちらを上から見てくる。
ちなみに、初めて会った時のアノマは俺よりちょっと背が高いぐらいだったが、最近は成長期か背が伸びまくって175cm位ある。
後は、髪を伸ばしだしたらいよいよと言った所。どちらにせよ、俺には男との恋愛フラグは無い。
「却下。私にはチャチャゼロが居るから不要だ。」
「エヴァちゃんって、たまに本当に鬼だよね。」
エルシアがジト目で俺を見てくるがスルー。アノマの方は本日2度目のorz敢行中。今度はディルムッドの慰めはなし。
むしろ、『ケケケ』と笑っている。まぁ、チャチャゼロ人形だから様になってるからいいんだが、コイツも楽しむ事を覚えだしたのだろう。
そんな事を思いながら本日は解散。狩の出発は明後日と言う事なので、準備には念を入れておこう。
本当に必要なものは鞄にしまっているので、部屋は閑散としているが、それでも、かさ張る物はある。
そう思いながら教室を後にした。
ーsideアノマー
はぁ~、ほんのちょっと期待したオレが馬鹿だったのか、それとも、あれがエヴァンジェリンの照れ隠し・・・・、いや、希望的観測はよそう。
いきなりエルシアに仮契約の事を言われた時はビビった。だって、仮契約っていったらその、キスしなきゃいけないだろ。
エルシアに言われた時、オレは真っ先に、彼女のピンクの小さく柔らかそうな唇を見てしまってドキドキした。
多分俺の赤い顔を見られてしまっただろう。
彼女が入学して3年。その3年間、オレはほとんどの授業をエヴァンジェリンと受けて、服を吹き飛ばして殴られたり、
間違ってそのまま押し倒したりして蹴り飛ばされたりもしたが、なんだかんだで彼女は許してくれて、一緒に授業を受けてくれている。
最初の頃はあまり笑わず、話さなかったエヴァンジェリンも、3年という月日の賜物か普通に話すし、俺の前でも笑うようになった。
そして、初めて見たエヴァンジェリンの笑顔はとても綺麗で、目が放せなかった。
多分、それからだろう、もともと俺は強さの中に危うさを抱えたエヴァンジェリンに惹かれていたが、その笑顔でさらに惹かれた。
俺はエヴァンジェリンの事が好きなんだと思う。あのすぐ人を殴る所も、強さを追い求め、探究心を前面に押し出して模索する所も、
そして、悔しいが彼女が騎士といって憚らないチャチャゼロとともに行動する姿も。すべてが一枚の絵になると思う。
それに、前に俺が戦闘訓練で武装解除に失敗して裸にした上に、彼女を押し倒した時に。
「裸は覚悟しているが、まさか押し倒されるとはな・・・・、クックックッ、だが、気を抜きすぎだバカが。」
そう言って、笑顔を浮かべた上で殴り飛ばされた。
多分、あの状況で俺の精神が万全じゃなかったら、そのままキスしてしまっていただろう。
だが、あの時は出来なかった・・・、多分俺の覚悟とか、強さとかそんなものが彼女には届いていないと思ったから。
俺にはまだ、彼女のように泥にまみれても前に進むだけの力が無い。チャチャゼロのように彼女の信頼を勝ち得てもいない。
だから、告白は俺からしたいと思う。
それに、最近思うのだが、彼女は入学当初からほとんど成長していないように思う。
よくウチのナンパ師が、『時よ止まれそなたは美しい』なんて言葉をいうが、彼女はそれを地で行っているんじゃないだろうか?
これに関しては、彼女の裸を一番間近でなおかつ数多く見た奴しか知らないだろう。
多分、それが彼女の秘密であり、同時に何かの拠り所なのだろう。だからこそ、いつか彼女を守れる存在になりたい。
ーside俺ー
物の準備等も終わり出発の日、朝から定番となった髪をリング状の髪留めで止めるのと、大きなリボンを装備してキセルで一服。
持ち物といっても、鞄一つで後は特に無い。と、言うよりもこの鞄さえあれば後は最悪捨ててもかまわない物ばかりだ。
これは、いつあのゲスに襲われてもいいようにとの措置で、今ではすっかり癖になっている。
無論、襲われるのを待つ出なく、襲いに行く事が出来ればいいのだが、生憎奴の居場所が分からない。
これは、奴をおびき出す餌も模索しないといけないかもしれない。
「エヴァちゃん、チャチャゼロ行くよ~。」
そのエルシアの掛け声で学校を出発。
行くとしても町の反対側の郊外なので、そこまで時間をとられるわけでもない。
ついでに言えば飛行魔法で全員空を飛んでいるんだし。
「エヴァンジェリンは怖くないのか?今回のハント。」
そういって俺の横を飛んでいるアノマが話しかけてくる。
アノマの装備はいつも通りのローブと杖。
後は、何やらネックレスなんかのマジックアイテムをつけているが、余りレアなものではなさそうだ。
「怖いかか、さ~てね、相手を過大評価する気も無ければ、過小評価する気も無い。
ただ、在るがままを受け入れ、それを粉砕するだけだ。」
「おっかねぇな~。流石はエヴァンジェリンって事か。」
「なに、少なからず恐怖を持っていた方が生存率は上がる。命知らずが突っ込んで死ぬように、臆病者はその死を見て震えながら死に学ぶ。
生き残りたいと思うならば、突っ込むでなく、まずは冷静さを失わん事だな。」
「うへ、オレには無理っぽいな。チャチャの字はいいな死なないし、壊れたらエヴァに直してもらうんだろ?」
そういいながら、首をすくめてディルムッドの方を見る。
「俺は・・・、どうだろうな、壊れたら直るとかは正直分からん。そもそも、俺もちょっと特殊なエヴァのお手製だからな。
正直な話、手足や、横真っ二つぐらいなら直ると思うが、粉砕やら丸焼けなら無理だろう。」
「ん、チャチャの字はエヴァンジェリンの魔力で動いてるんじゃないのか?」
この事に関しては、いろいろな魔道書を見て調べてみたが、どうしても完璧な答えというのが見当たらない。
そもそも、これは魂に関する術式。エヴァの真祖化との絡みもあるだろうから、調べておきたくはあるのだがどうとも。
それに、これらに該当する術式の最終点は悪魔やそれ以上の存在の消滅術式。
つまり、高次元な存在を攻撃しなおかつ消滅させる事の出来るもの。
この点だけを見ていけば、概念武装とは違うが、いわば概念魔法といった所か。
少なくとも、ネギまの世界の魔法は祝詞を捧げ事を成す儀式めいた魔法だ。
魂魄の重みというモノがあかは知らないが、何かを成すたびに精霊や妖精はては神に祈りを捧げ力を借りる。
有る事を成せば有ることが起こる。という定義の基それを行っている。ついでに言えば、魔力を集める場所が森羅万象。
つまり、世界から魔力を持ってきて、それを自身の身体で変換して使っているという事になる。
少なくとも、魔力の貯蔵量とは一度に変換できる魔力の事であり、
魔力が無くなったと言うのは逆に魔法の連続使用によるオーバーヒートした状態だろう。
しかし、不死者というのは自然的なのだろうか?
それとも、正義と悪という大きな枠組みの中で、悪と銘打たれるからこその恩恵なのだろうか?
少なくとも、俺はもともと人間でエヴァも人間から真祖になった。
そのあたりの情報はあのゲスしかもっていないが、何とも。
「いや、今は魔力なしで動いているよ。気の修行のためにね。」
「ふぅ~ん、なかなか不思議な事もあるものだ。っと、エヴァンジェリンえらく難しい顔してどうした?」
「いや、考え事だ。」
そう短く言葉を切って、キセルに薬を詰めて吸い出す。
「みんな~、もう着くよ~。」
先頭を飛んでいたエルシアが、高度を落とし出しそれに続くようにみんなで降りだす。
降りた辺りは特にこれと言った物も無く、住宅街なのだろう辺りは静けさに包まれている。
「あっれ~、おかしいな。ここで集まってから討伐するはずなのに。遅刻はしてない筈なんだけど。」
「間違えたんじゃないのか降りるとこ。」
そう、エルシアとアノマが辺りをきょろきょろしている。しかし、俺は当たり出を見るではなく、鼻を動かす。
どうも、さっきここに降り立ってから血の匂いと腐臭がする。
辺りは見た限りでは死体もないし、特におかしな所も無いがいったいなんだ?
「チャチャゼロ、余りいい予感がしない。戦闘に備え、獲物を出しておけ。」
「了解、確かにこの静けさは不気味だ。」
そういいながら、二本の槍を取り出す。
「ん~、どうしようかな。流石にこんな事態なら。帰った方がいいかな。」
そんな事をエルシアが言った瞬間
グギャォーーーーーー!!!!!
と、現在地より先から雄叫びが聞こえた。
「ど、どうするエルシアなんかヤバそうだぞこの声。」
「撤退したいけど、このままじゃこの町が危ない。私が見てくるから二人はここにいて!」
そういって、エルシアは空を飛び、行ってしまった。さてと、どうするべきか。少なくとも、この先にいるものは真っ当な物じゃない。
それは、先ほどから強くなる血と腐臭が教えてくれる。少なくとも封印の指輪が無ければもっとよく分かるんだが。
「エヴァ行こう!なんか知らないけど、このままじゃエルシアが危ない気がする。」
アノマは真剣な表情で俺を見てくる。
ふぅ、何の因果か楽なハントのはずが結構ヤバげな雰囲気だ。
だが、なかなか面白そうじゃないか。
「あぁ、行こうか。チャチャゼロ、アノマ私に続け!」
そして空を飛び、匂いを頼りに飛んでいくと、程なくして巨大な竜が見えた。
それもワイバーンなんて可愛い物じゃないし、生きてもいない。
「ドラゴンゾンビ!?何でそんなもんがこんな所にいるんだよ!」
「チャチャゼロ、あれをどう見る?」
「撃破するには中々骨が折れるが、無理ではない。」
「って、二人とも狩気満々!?あっ!」
そういって、アノマの視線を追い先を見るとエルシアが一人でドラゴンゾンビと激戦を繰り広げていた。
ーsideエルシアー
あ~もう!ドジった。盛大にドジった!簡単なハントって事で一番有望な二人を連れてきて、経験積ませようと思ったけど、これは不味い。
いくらなんでもドラゴンゾンビは不味い。ただでさえ、毒の瘴気で接近戦は出来ず、その上でモンスターとしても破格の強さ。
それに、私だけが見に着てよかった。あのドラゴンゾンビにやられたのであろう、ほかのハンターの死体が転がっていた。
中には動ける奴が居たかもしれないけど、少なくとも、助けに行けば彼らの二の前になる。
エヴァちゃんはそれを見ても、助ける事なく冷静にドラゴンゾンビを狩る事を選択するだろうけど、アノマは別だ。
あいつは間違いなく助けに飛び込む。この状況でそんな事をやられたら助けきれるとも思えない。
ただ、疑問なのは普通、ドラゴンゾンビは自然に発生しない。少なくとも、龍は誇り高い生物なので死んだ後の醜態をさらす事などしない。
となれば誰かが何かの目的で操っているのだろう。まったく、めんどうをふやしてくれちゃって。
「あ~もう!プテ・ビギナ・ナル・ユエ 来たれ雷精、風の精。雷を纏いて吹きすさべ南洋の風 雷の暴風!!」
ーside俺ー
おぉ、エルシアが雷の暴風を使ってドラゴンゾンビを粉砕しようとしてる。
しかし、いかんせん魔力が足りないのか、片方の羽の一部を壊すにとどまった。
だが、これで奴の飛行能力は抑えられた上、後ろに後退してくれた。
そう思い、いったん距離を置いたエルシアの横に行き肩を叩く。
「中々楽しそうだなエル。」
「うひゃ!?って、エヴァちゃん!?何で、どうしてここに居るの!?それにほかの奴も!」
「加勢に着たんだよエルシア。な、チャチャの字」
「俺はどちらかと言うとエヴァの前衛としてだな。」
そう口にエルシアに向かい言葉を放つ。エルシアは一瞬驚いたような顔をしながら、すぐさま真剣な顔で口を開いた。
俺の方も、これを見ればシャレで済まないのは分かっている。でも、先ずは作戦会議だな。そう思い薬を吸いだす。
「危ないって事、分かってるんでしょうね?少なくとも、ここで甘えは通用しないわよ。」
「ふぅーっ、少なくとも、甘える気は無いよエル。」
「帰れとは言わないんだなエルシア。それに、真面目なエルシアなんて初めて見た。」
「能ある鷹は爪を隠すという奴か。」
「みんなが酷い事に関する件。ってそんな場合じゃない。はっきり言って教師としては帰って欲しいわ。
大事な生徒を危険な目に合わせる訳には行かないから。でも、今はそうも言ってられない。少なくとも、貴方たち二人は魔力量が高いし、
エヴァちゃんの属性は相手を行動不能にする魔法が多い。アノマは高い魔力量で相手を粉砕する魔法が使える。
チャチャゼロは、人形だから毒が効かないおかげで囮になれる。以上の点を踏まえて、あの腐れ龍を狩るわよ!」
それから一気に作戦会議にもって行き。
前衛兼囮はチャチャゼロ、拘束若しくは凍結して行動不能にするための俺、そして、最後に龍を粉砕するアノマとエルシアという事になった。
しかし、エルシアはなんだかんだでいい指揮官なのだろう。少ない時間で的確に人を配置し、なおかつそれを運用できる。
勝てる見込みがあるなら、それ向かって動く。その上で、士気を下げないため討伐隊の壊滅を知らせない。
少なくとも俺は到着直後、血の臭いで討伐隊が無事ではないと思ったが、まさか自分たちが敵わないからと言って、
人柱が如く魔力障壁であのゾンビを抑えているとは思わなかった。
今の所、まだ息のある奴の方が多いが、いつまで持つか。
さて、とっととこの腐乱死体を始末しよう。
「いい?たぶん今もてる最大の魔力をあれにはぶつけないと如何する事も出来ない。だから、出し惜しみ無し、全力で行くのよ。
でも、気絶はしないで、助ける事の出来る人員がチャチャゼロしか居ないから。」
そういって、みんなを見回しニヤリとする。
「何とも厳しいオーダーだなエル。だが、嫌いじゃない。」
そういってのどを低く鳴らしニヤリと笑う。
「はぁ、ちゃんと報酬はよこせよエルシア。」
そういって、アノマもやれやれと言った感じで笑う。
「俺はエヴァしか助けんけどな。」
そういって、口を三日月にして笑う。
「「ひど!!」」
っと、二人が突っ込んで、みんなでもう一度ニヤリと笑う。さて、戦闘開始だ。
「チャチャゼロ、あれの攻撃をそらせ。私に欠片一つ、塵一つ届かせるな。」
「オーダーを承りました我が主。」
そういってディルムッドは微笑むとドラゴンゾンビに向かい飛んでいった。
昔は、槍を羽のように構えていたが、今の身体になってからは槍をクルクル回しながら遠心力を加え攻撃をするようになった。
と言っても、ディルムッドとドラゴンゾンビの体格差は像と人間といった所。
しかし、それでも囮として、若しくは前衛としては優秀で、ついでに言えば最近鍛えている虚空瞬動を使い翻弄している。
「先ずは エメト・メト・メメント・モリ 万物に等しき恩恵を与える優しき王よ 我が呼びかけに答え この場に威信を示せ 王の玉座!」
これは、俺が使える重力魔法で威力は中程度。
出来る事も、範囲内の任意の物体への重力制御で今はドラゴンゾンビを丸まる地面に縫い付けている。
「追加だ エメト・メト・メメント・モリ 来たれ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を こおる大地!」
使える術式が増えてきて、連携で使えるモノを模索していた所で出来たモノ。
実戦では初めて使ったが、ここまではまるとは思わなかった。
グギャォーーーーーーー!!!!!!
龍の方も上からの圧力と、地面からの凍結で完全に身動きをとれず、後はエルシアとアノマが止めを刺すだろう。
ブレスを吐き散らしているが、出る直後から凍っていっている。
「アノマ、同一点に魔法を叩き込め! プテ・ビギナ・ナル・ユエ 来たれ雷精、風の精。雷を纏いて吹きすさべ南洋の風 雷の暴風!!!」
「分かってるよ ラス・ララ グ・スキス クロテル 来れ、虚空の雷、薙ぎ払え 雷の斧!!」
二人の魔法が同時弾着したおかげで、あたりが霧と氷の破片に包まれる。やれやれ、これで終わったか。
魔力の方はもともと封印されているため、無くなればその封印された分が出てくるから減った感じはしない。
そんなことを思い、霧が晴れるのを待っていると、
ヒュン!
カシャン!
何かが飛んできたので、キセルで叩き落したが、中身の大半の液体が身体にかかった。一体なんだこの液体は。
そう思い臭いや色を見てみるが、特に変な所は無い。色も透明だから水か何かだろうか?
そうして、液体を手で拭いていると辺りが晴れ、下には先ほどまでドラゴンゾンビだったものがある。
幸い、人柱の人々はエルシアの最初の一撃のおかげで逃げ出す事に成功したらしい。
「お~い、下に降りよ~。もう疲れたよ。」
と、エルシアの号令で下に降りる。
「いや~、なんというかエヴァちゃん、よくあんな大きいの2つもぶっ放したね。」
「足止めとのオーダーだったんでな、満足行っただろ?」
「チャチャの字、あのエヴァンジェリンに勝てると思うか?」
「出来れば戦いたくない相手だな、戦う気も無いが。」
そんな事を言いながら、俺はドラゴンゾンビの鱗やら骨やら錬金術の材料を収穫中。
エルシアはお金を貰いに行くと言って出かけ、ディルムッドは俺とは反対の方から収穫中。
手持ち無沙汰だったアノマは俺の横で一緒に収穫中。
「なぁ、エヴァンジェリン。これっているか?」
そういって見せてくるのは何だかよく分からないモノ。
「とりあえずは集めておいてくれ。」
「りょ~か~い。」
そう言って、アノマは集積場所にもって行き、俺の方もひと段落ついたので立ち上がった時。
「っつぅ、何だ今のは?」
立ち上がった瞬間立ちくらみが俺を襲った。今まではそんな事は無かったが、一体なんだろう?
そんな事を考えているとアノマが戻ってきた。
「エヴァンジェリン、エルシアが撤収するってってうわ!」
「あぁん?」
俺が振り返った瞬間、アノマ降って来た。そしてそのまま、
ガチッ
えぇ~、歯と歯が当たりました。はっきり言って今折れそうなぐらい痛いです。
って、ちょっと待て歯と歯が当たっただと?それって事はつまり・・・・・・、やっちまったな。
とりあえず、未来を気にせず殺しておくか黒歴史の根源。
アノマに押し倒されたままそんな事を考えて、キセルを振ろうかどうか考えていると。
アノマが押し倒したまま腕だけで身体を起こした。アノマの瞳には俺が映っている。
そして、俺の瞳にはアノマが映っている。
「・・・、ごめん。でも、もう止まれない。」
そういって、顔を近づけてきた。待て、これはヤバイこれはヤバ過ぎる。
そう思い、手を振ろうとしたが、先ほどの眩暈がまた襲い動けない。
距離は詰まるばかり。人生最大の危機はここに。
「アノマ、悪いが続きは俺を倒してからにして貰おうか。」
そういって、ディルムッドがアノマを横から蹴っ飛ばす。
気のせいか足にルーンを纏っていたような気もするが、たぶん見間違いだろ。
ゴロゴロ転がったアノマは、しかし、その衝撃を利用して立ち上がった。
「チャチャの字・・・、俺たちは相容れないのか?」
「貴様が不貞を働く限り、相容れる事は無い。」
そう言って二人が無言になり、拳で語りだした。
俺も、身体を起こしそれを眺める。
なんだか出遅れた気分だ。
「お~い、何してんのあんたら。帰るよ~。」
そう言ってエルシアがこちらに来る。空にはもう星がポツポツ見え始め、月ももうじき出るだろう。
先ほどの眩暈はもう無く、身体にも問題ない。たぶん魔力の使いすぎでの一時的なものだろうから、大丈夫だろう。
そう思い、その時は気にしなかった。
彼はまだ知らない、この日々が終わる事を。
闇の中、男は笑う。自らの狂気を胸に。