プロローグ
あぁ、案外人ってよく飛ぶんだな~。
現在進行形で飛んでいる自分の体を見ながらの素直な感想・・・。
いや、夜にコーヒー買いに来て大型トラックに轢かれて死ぬってどうよ?
そんなことを考えていると、飛んでいた自分の体が頭から地面に着地。
グジャ、とかバキッとか激しい音がするかと思ったが、体が突っ込んで割れた店のガラスの音の方が派手で、そんな音は聞こえなかった。
ただ衝撃は激しかったらしく、近くに行って見てみると、体のあちこちが変な感じに曲がっているわ血は出るわで、結構グロイ感じになってる。
でも、それを見ても悲しいって言う感想は無い。
そもそも俺の場合いきなりの衝撃の後は、殆ど感覚が無かったのだから、今転がってる俺自身の死体を見てもなんとも言いようが無い。
一応殺したヤツの顔を見ようと運転席を見ても、もぬけの殻。
何がなにやらと思って周りを見れば、坂の上から走ってくるおっさん・・・。
あぁ、サイド引き忘れか、故障に気づかず止めて作業していたらトラックが下りだして、俺にヒットしたと。
これで、トラックのライトがついてなかった謎が解けた。
解けたのはいいが、もう死んでいるのでいまさらだが、嬉しさはこみ上げてこない。
ただ、小さな心残りがあるとすれば、
「そういえば、走馬灯見忘れたな。」
と、出た感想もその程度。いまさら、走馬灯といっても俺の人生はとことん普通だ。
普通に小中高校と卒業して就職。
小中学校では合気道をやって腕はそこそこだったが、特に大会に出たり活躍したりという事は無く引退。
高校では中華料理屋と居酒屋でのバイトで料理スキルを鍛えてみたり、
何故か生徒会に入れられ気がついたら副会長になっていたりもしたが、そこまで凄い事とは思わなかった。
なにせ、気がついたらなってるってどれだけよ・・・。
そんな感じで高校までを終了。
だが、その頃には余りにもの普通さ加減にいい加減嫌気がさしていた。
だから、仕事ぐらいは面白い事がしたいと考えて、入ったのは自衛隊。
銃を撃つのは面白かったし、訓練もきつかったが、それなりに面白かった。
でもさすがに、繰り返しているとその楽しさも半減していく。
そして、俺は自衛隊を辞め一般企業に就職。
高校は工業系だったので特に問題なく入れた。
だが、その時点で諦めていたのかもしれない。
どんなにがんばっても魔法は手に入らないし、アニメのような刺激的な日常は起こらない。
魔法やなんかの事を考えたのは、オタク的な生活をしていたからそんな事を思ったのか、
それとも、単にし非日常の投影として魔法を選んだのかは不明。
もしかしたら、遅れて来た中二病かも知れない。
どちらにせよそんなことが起こってくれれば、多少の心残りはあったかもしれないが、
諦めていた俺にとってはいまさら生きている事も億劫なぐらいで、事故死でもしないかななどと馬鹿な事をよく考えていた。
そして、今俺は死んでしまった。
目の前の死体は確かに俺だし、それを見ている俺は今空に浮いている。
世に言う幽体離脱的な状態な俺だが、どうやらお迎えが来たらしい。
享年23歳、あっけない。
が、それも普通の人生だろう。
そう思い、もう、感覚も無く体があるのか、魂と呼ばれるものだけなのかは不明な状態で天を仰ぐ。
そこには、とても黄色くだがどこか浮世離れしすぎて、まるで張りぼての様な満月が輝いていた。
「こんな時に言うセリフは・・・、今夜はこんなにも月が綺麗だ・・・否、これは違う。」
もっと月の色が紅や蒼ならこのセリフでしっくり来るのだろうが、今ある月は違う。
それなら・・・、いくつかの漫画やアニメの記憶を呼び出すがなかなかシックリ来るものが無い。
そして口をついて出たセリフは、
「こんな夜だ血も吸いたくなるさ・・・。しっくり来るが来世は吸血鬼にでもなれと?」
出たセリフは某有名な吸血鬼のセリフ。
個人的な思いだが型月キャラよりも、黄色い月はこの人に似合う。
しかし最後の最後のセリフがこれだとすると、行き着く先は地獄かね~。
そう思うと俺の感覚は薄れていった。