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[5505] おまたせ18話更新 ゼロの使い魔 -KING OF VAMPIRE- (ゼロの使い魔×仮面ライダーキバ)
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2010/08/11 14:01
初めまして。私は『ゼロの使い魔 -KING OF VAMPIRE-』の作者『ORATORIO』です。

これは『ゼロの使い魔』と『仮面ライダーキバ』のクロスオーバーです。

『仮面ライダーキバ』は平成ライダー9作目の作品で、平成ライダーの中でもダークヒーローの部類に入るライダーです。

原作と違うところは本編とは違い主人公・紅 渡はバットエンドを迎えています。

主だった部分は

・最愛の人を自分で殺してしまい、母は兄に殺され、渡は兄を自分の手で殺している。

・『渡の世界』のファンガイア全てを自らの手で絶滅させている。

・人間に『魔皇』として追われている。


何もかもなくした渡がルイズに喚ばれてハルケギニアにやってきます。

ハルケギニアで渡がどう変わっていくのか、ルイズが彼をどう支えるのかがキーワードです。

それではお楽しみください。それではWake Up!



[5505] 序章/夢の中の王
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2010/01/12 10:21
序章/夢の中の王

私は、暗い回廊を歩いている。

そこがどこかはわからない。

ただ、壁に施された装飾や回廊の長さから、貴族の屋敷などではなく、もっと位の高い…そう、『城』だと思う。

どれだけ歩いただろう…やがて、大きな扉の前に私はたどり着いた。

大きな扉…しかし、その扉にも細やかな装飾が、隙なく施されている。

(ここが『城』だとしたら…これは『王の間』ね…)

私が扉の前に立つと、扉はひとりでに開いていく。

そして扉の向こうには玉座が…

「…!?」

私は『ごくりっ』と息を呑んだ。

『王の間』の玉座に座っていたのは、眩いばかりの輝きを持つ『黄金の王』だった。

そこで私は射し込む朝日によって目を覚ました。






そして、随分先にわかることなんだけど…

今日、私は悲しいくらい優しくて、

本当は闘う事も嫌いなクセに自分ばかりが傷つく、

泣き虫な『王様』を呼び出した。



[5505] 第1話/竜の城
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2008/12/26 19:53
第1話/竜の城

空は蒼く、何処までも高く。
白い雲は風に乗って流れ。
一つの太陽は豊かな緑が生い茂る草原を温かく照らしていた。

その中心には黒いマントを着けた集団がいた。
1人を除いてその全てが10代の少年少女である。
その傍らには様々な生物がいた。

その中で1人の少女が杖を持って呪文を唱えていた。
ピンク色で緩やかなウェーブが掛かった長い髪を持った可愛らしい少女である。
だが、その顔は必死の形相だった。
余裕が無く、懇親の願いをもって呪文を唱え続ける。

今日は大切な日。生涯のパートナーとなる使い魔を召喚し、メイジとしての新たな第一歩を踏み出す日だ。

しかし、クラスの者達が使い魔を呼び出す中、彼女は使い魔の召喚に成功していない。

「早くしろよな~、ゼロのルイズ!」

「もう何回目だよ、いい加減成功させろよな」

「早くしないよ日が暮れちまうぞ~~」

周りからそんな野次が飛んでくる。

(うるさい!黙れ!)

だが、少女…ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに構わず、呪文…ルーンを唱え続ける。

「ミス・ヴァリエール。心を落ち着かせてゆっくりルーンを唱えなさい。力が入りすぎですよ」

(うるさい!うるさい!うるさい!)

 ルイズはその忠告をまったく聞かず、力強く杖を振り上げた。

(絶対に喚んでみせるんだから!誰よりも美しくて!誰よりも気高くて!誰よりも…!)

そこでルイズは昨日の夢を思い出す。あの『黄金の王』を…

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 宇宙の果ての何所かに居る私のシモベよ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに答えなさい!!」

 ルイズは杖を勢い良く振り下ろした、その瞬間…

ドガゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!
 

今まで自分が出した中でも一際大きな爆発音が草原に響き渡った。

「なんだ~、また失敗か?」

「いい加減にしろよな~」

「さすがはゼロのルイズだ!」

その爆発音を聞いて、周りからそんな中傷が飛んでくるがルイズは無視した。ただ、煙が晴れるのをじっと待った。

(ドラゴンとかグリフォンとかユニコーンとか贅沢は言いいません。始祖ブリミルよ、私に立派な使い魔をお与え下さい!!)

しかし、現れたのは大きく予想を外れていた。

『ギャオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォンッ!』

咆哮が辺りを支配する。その咆哮だけで全てを支配してしまいそうなほどだ。

その咆哮は煙を一気に吹き飛ばす。

「あ、ああ、はは…」

その咆哮の主にルイズすらも腰を抜かす。

周りの生徒もその姿を見て腰を抜かしたり、逃げ出しそうになるものもいる。



ルイズの前に現れたのは巨大な竜。

タバサの呼び出した風竜よりも何倍も大きい。

奇妙な事は、その竜の体が城でできていることだったが、感じた事も無い…いや、こんな魔力を発する存在がいるということも信じられないくらいだった。

「ふふ、ふふふふっ!やったわぁぁぁぁ!」

しかし、そんな事ルイズにとっては関係ない。

この強大な魔力に満ちた竜を自分は呼び出したのだ!

もう誰にも自分を『ゼロ』とは呼ばせない。

「見なさい!これが私の使い魔!」

バッサッサッ…

「もう誰も私を馬鹿になんかさせないわ!この私の…」

バッサッサッ…ヒュー

「使い…魔…?」

竜はその場からアッサリ飛んでいってしまった。

あの巨体には似合わないほどの速さで。

「逃げた…?」

竜の去っていった所を見て呆然となっているルイズの後ろで、一人の生徒がそう呟いた。

「こ、こら~!戻りなさい!あんたのご主人様はここよ~!」

「バカヤロー!勝手に人のモン取り上げてんじゃねぇ!」

「えっ?」

先程竜のいた場所から声がした。

「渡!しっかりしろ渡!なんか知らんがこのペタンコネーチャン、キャッスルドランを自分のモンにしようとしてたぞ!早く起きろ!」

そこに一人の男が倒れている。線の細そうな男手自分より結構年上だろう。

その周りに一匹、鳥のようなものが飛んでいる。それは…

「こ、蝙蝠?」

「むむっ!おいペタンコネーチャン!俺に向かって蝙蝠とはなんという言い草だ!」

「な、何よ!言葉を喋る蝙蝠なんて聞いた事無いわよ!あんた何者!」

「ふん、よくぞ聞いた!我が名は『キバットバットⅢ世』!誇り高き名門『キバット家』の系譜を継ぐ者だ!」

エッヘン!

「『名門』…あんた貴族なの?蝙蝠の癖に?」

「なにおう!この伯爵家であるキバット家の当主に向かってなんて事を!」

「…私の実家、公爵家…」

「へへ~!大変ご無礼…じゃなかった!渡!起きろ渡!」

「う、ううん…」

『ワタル』と呼ばれた男が眼を覚ます。

「お~、生きてたか、渡」

「うん、あれ…」

渡は辺りを見回す。

「キバット…ここは?」

「さあ…でも、『あの場所』とは全然違うみたいだぜ。しかも…」

キバットは渡の肩に止まってルイズを指す。

「俺達をここにつれて来たのはあのネーチャンらしい」

キバットに言われて初めて渡はルイズに気付いた。

「あんた、誰?」




[5505] 第2話/契約
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/06/29 10:52
第2話/契約

「ぼ、僕は…紅…『紅 渡(くれない わたる』…」

「なんであんたみたいなのがここにいるのよ!」

「えっ、そんな…僕は、確か…」

ルイズは渡に大声で詰め寄る。小柄なルイズにいとも簡単に圧倒される渡。

「おいおいペタンコネーチャン!そりゃないだろ!渡を喚び出したのはアンタだろ!」

「えっ!」

「このキバットバットⅢ世様をなめんなよ!魔力の流れ方からわかるぜ!どんな術式を使ったか知らんが渡をここに呼び寄せたのは間違いなくペタンコネーチャンだ!」

キバットの言葉にルイズは目の前が真っ白になる。

キバットはその隙に渡の耳元による。

「おい、気をつけろよ渡」

「何を?」

「ここは、俺達のいた『世界』じゃない。まったく別次元の世界だ」

「ええっ!なんでわかるの!?」

「伊達に『魔皇力』を操作してないって。世界から感じる『魔力』でわかる。この世界は魔力に満ちている。多くの人間が『魔法』を使える位にな」

渡は以前キバットに聞いた事を思い出した。

人間が魔法を使うには『儀式』をする必要がある。

それこそ大量の物質、時には生け贄を用意しなければならない。

だから、人間の魔法は廃れ、錬金術を経て、科学技術に頼るようになったのだと。

「それに、このペタンコネーチャンは『お前』を喚んだんだぜ。しかも次元を超えてだ」

「………」

「ははっ!おかしいと思ったんだ!ルイズがあんな竜を召喚できるわけが無い!」

「たまたまあの竜は通りかかったんだろうよ!」

「しかも平民と変な蝙蝠を召喚してどうするんだ?」

「なっ!こ、これは何かの間違えただけよ!」

ルイズは反論する。自分には確信があった。絶対に『最高の使い魔』を喚び出せる確信が。

それは理屈じゃない。あの、『王』を思い出したからだ。

「間違いって、ルイズのそれはいつもの事だしなぁ」

「さすがは『ゼロ』のルイズ。はずすべき所は抑えてるか」

「しかもそいつ全然役に立ちそうに無いじゃないか」

周りから雑踏が聞こえる。

「…本当に、彼女が僕を?」

「ちょっと、自信ないな」

ルイズはコルベールに嘆願する。

「!…ミスタ・コルベール! あの、もう一回で良いんです。もう一度だけ召喚させて下さい」

「それは駄目だ。許可できないよ。ミス・ヴァリエール」

「そんなっ。どうしてですか!」

「決まりなんだよ。二年生に進級する際に君たちは『使い魔』を召喚する。それによって現れた『使い魔』で今後の属性を固定して専門課程に進むんだ。そして、現れた『使い魔』を変更することは出来ない。変更するというのは神聖な儀式に対する冒涜だ。好む好まざる『彼』を使い魔にするしかないんだよ」

「どういう事、キバット」

「どうやら、渡を『使い魔』にするつもりらしい。なんて贅沢な」

「でも…でもですよ。平民を使い魔にするなんて訊いたことがありません!?」

「平民?」

「ああ、話した感じじゃこの世界『王制』か明確な『貴族階級』があるみたいだぞ」

「…キバットは頭いいね」

「えっへん!」

「そうはそうだが…しかしだね、ミス・ヴァリエール。彼は確かにただの平民かもしれない。だがね、君が彼を召喚(よ)んだ以上は、君の使い魔にしなければならない。それに君も識ってるだろう?春の使い魔召喚の儀式のルールは、あらゆるルールに優先されるんだ」

「…だけど!」

「ミス・ヴァリエール、早く儀式を続けなさい。君は召喚に時間を掛けすぎた。次の授業が始まってしまう。何回も失敗してようやく呼び出せたんだ」

「…はい」

少女は渡に振り返り、睨みつける。

「アナタ、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、普通は一生ないんだから」

「おいおい!何すんだペタンコネーチャン」

「うるさい!」

ベシッ!

「あてっ!」

ルイズはキバットを杖で叩いてから、膝を曲げて地面に座ると目を瞑った。

そして渡の頭上で杖を振るう。

「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与えて、我の使い魔とせよ」

「えっ、え、え…」

少しずつ近づいいて来た彼女の唇と、渡の唇が重なった。

「ああっ!お前なんて事!」

キバットの絶叫が聞こえる!

当たった唇は、とても柔らかい。

その柔らかい唇が重なっている時間は数秒だった。

だけどその数秒が渡にはとても長い時間に感じられた。

「…終わりました。ミスタ・コルベール」

「うむ。『サモン・サーヴァント』は失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』は成功したようだな」

「あ、ああ…」

「こら~!いきなり何してんだ!俺が蝶よ花よと育てた渡になんて事を!首と胸が育ってからおとといきやがれ!」

「うっさいわね!あんたこそさっきから貴族に対して無礼な口を聞いてるんじゃないわよ!」

ルイズとキバットが言い合いを始める中、周りからまた聞こえる。

「相手がただの平民だから簡単に『契約』出来たんだよ」

「はは。ゼロのルイズには平民がお似合いだ」

それを聞いて渡は顔を顰める。

(なんか、やだな…!?)

全身に熱い感覚が襲う。痛みと熱が渡を襲ってくる。

「が、あ、あぁぁぁ…」

「渡!どうした渡!おいペタンコネーチャン!渡に何をした!」

「ペタンコペタンコってさっきからうるさいのよ!直ぐに終わるわよ。『使い魔のルーン』が刻まれてるだけだから…え?」

ルイズは顔を驚かせる。それはコルベールも一緒だった。

「う、う、うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

渡の顔にステンドグラスのような紋様が現れる。

ドゴンッ!

「ガァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

渡の体から強力な魔力…『魔皇力』が噴出す。

「やべえっ!」

(暴走してやがる!クソッ!ホントに何しやがった!)

キバットはすばやく近づき、渡の手を

『ガブッ!』

と噛んだ。

「アアアアアァァァァァァ…ああ、ああっ…」

すると渡の体から魔皇力の暴走が静まってゆく。

「大丈夫か、渡?」

「キバット…ゴメン。ちょっと…」

「ああ、休め。お前は俺が守っててやる」

「うん…」

バサッ

そのまま渡は倒れてしまった。


「あ、ちょっと大丈夫…」

「大丈夫なわけあるか!とっとと渡を休める所まで連れて行け!」

「むっ!何で私が平民なんかの為に…」

「それ以上言ったら俺はお前を貴族だとは認めねぇ!」

「……!?」

「不本意だが渡はお前の『使い魔』になった!つまりお前は主だ!従者の一人守れない者を、ましてや自己の虚栄の為に見捨てる者を、同じ貴族として俺は認めない!」

「うっ…」

「ミス・ヴァリエール、彼の言うとおりだ。今日の授業はもう出なくていいから、彼を休める所に連れて行ってあげなさい」

「…わかりました」

「うん」

コルベールは渡の手を見る。使い魔の紋章が刻まれているが…

「この紋章…どこかで…」

それは、蝙蝠の形に似た紋章だった。

-----------------------------------------------------------------

「…ん、んん…」

「デタラメ言ってんじゃないわよ!」

「なんだと!人が正直に話してんのにその口はなんだ!」

「キバット?」

「おお!気がついたか渡!」

起きた渡にキバットが近づく。

「なんともないか?」

「うん…気のせいか調子がいいくらい」

「そうか、よかった~!」

「ちょっと!私を無視しないでよ!」

「キミは…ルイズ、ちゃん?だっけ」

「そうよ。あんたのご主人様よ」

「あ、はい。どうも」

渡はペコリと頭を下げる。

「コラ渡!素直に頭下げんな!」

「ちょっと聞きたいんだけど。あんたの使い魔…まあ、使い魔が使い魔を使うなんて聞いたことないんだけと…変なこといってんのよ。自分達は別の世界から来たなんて…」

「キバットがそういうなら、そうだと思うよ」

「…なんですって?」

「だから言ってるだろ!さっきからアンタに話していたのは、俺達の世界の国や、言語だよ。ここは間違いなく俺達とは別の世界だ」

「私はアンタに聞いてるんじゃないの!自分の使い魔に聞いてんのよ!」

「ああっ!このペタンコネーチャンは!渡!コレを見てから答えてみろ!」

キバットは窓のカーテンを開けた。辺りはもう夜になっている。

自分はかなり長く寝ていたみたいだ。そして渡は確信して答えた。

「うん、間違いないよルイズちゃん。僕達は違う世界から来たんだ」

その夜は月が『ふたつ』存在した。



「なに~!元の世界に戻る方法はない~!フザケルナ~!」

「仕方ないじゃない!メイジと使い魔との契約は絶対だもの…一生のパートナーを、送り返す魔法なんて、無いわ」

「そんなのコッチには…」

キバットが更に言い返そうとすると

「やめよう、キバット」

「渡?」

「いいじゃないか。元の世界に戻れなくても」

(僕には…もう、居場所はないんだから…)

渡は手を握り締める。

「それにコッチでもバイオリンは作れるよ」

「でもな、『ブラッティ・ローズ』が…」

「うん、大丈夫。多分『キャッスル・ドラン』にある」

「ホントか!?」

「うん。だって…」

(感じるから…)

「ちょっと、無視して話を進めるんじゃないわよ」

ルイズが仏頂面でコッチをみている。

「ごめんなさい」

「ふん、このバカ蝙蝠とは違って素直ね。いいわ、私は寛大なの。使い魔には優しくしなくっちゃね」

「そういえば、僕はルイズちゃんの『使い魔』になったみたいだけど、その『使い魔』って何をすればいいの?」

それを聞いてルイズは渡に『使い魔』の説明をし始めた。

「まず使い魔は主人の目となり耳となる能力が与えられるわ」

「どういうこと?」

「つまり、アンタが見たものが、私にも見えるのよ」

「へぇ~、スゴイね」

「そうよ。でも…わたしは何にも見えないわ。どうやらそれは無理みたい」

「そうなんだ…次は?」

「使い魔は主人の望むものを見付けてくるの。例えば秘薬に宝石とかね」

「秘薬に宝石…?」

「特定の魔法を使うときに使用する触媒の事よ。ルビーとか、硫黄とか、コケとか…」

「僕には無理かな?キバットは?」

「まあ、多少は知ってるが持ってくるとなるとな~」

「む~…残念ね。そして最後に…ああ、これはアンタ役に立ちそうにないから言っても仕方が無いか。まったく役立たずね」

「むっ!おいペタンコ!渡を何にもしらねぇくせに何勝手に決め付けてるんだよ!このペタンコ!」

「とうとうペタンコって直接言ったわね!使い魔は、主人を護る存在でもあるの。その能力で敵から護るのが一番の役目なの。どうみったってそんなの無理そうじゃない」

それを言った時、渡の雰囲気が変わったのがルイズにもわかった。

(き、傷ついたかな?)

「僕が…キミを…?」

「そ、そうよ」

(何も護れなかった…僕が?)

『友達も、母も、兄も…最愛の人でさえ、護れなかった僕が…』


「…わかったよ」

「え?」

「渡?」

「僕は何があってもキミを護る。それが、僕とキミとの約束だ」



[5505] 外伝 第1話/迷い込んだメイド
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2008/12/26 19:56
第1話/迷い込んだメイド

「ここは…どこでしょう…?」

トリステイン学園で働くメイド・シエスタは迷っていた。

普段なら学園内で迷う事は無い。しかしここは…

「こんな所、学園になかったのに…」

そうここは学園とはまったく違った空間だった。

使われている材質から装飾まで何もかも。

「あっ…」

そこで初めて灯りが漏れている扉を見つける。

シエスタはそこで道を聞く事にした。中にいるのが貴族である生徒でない事を祈って…

キィィィィ…

「すいません…」

扉を開けて入ると、自分に三組の視線が向かった。

部屋の中央に3人の男性が座っている。

一人はタキシードを着た男性。

一人は燕尾服を着た男性。

一人はセーラー服を着た少年だ。

三人はどうやらカードゲームをいそしんでいたようだ。

「あー、珍しいお客さんだ」

少年が自分に近づいてくる。

「こんばんわ、お姉さん」

「や、夜分遅くに申し訳ありません」

「いいのいいの。ほら次狼、リキ。お客さんだよ」

「んあ、メイドか?」

「メ、イドだな」

「うん、可愛いメイドさんだよ」

シエスタでもわかるくらい、彼らはどこか独特の存在感を出している。

(もしかして、貴族の方々なのかしら?)

「メイド」

「は、はい!」

「そこの給仕室にコーヒー豆がある。淹れてくれ」

「は、はい!」

「次狼も好きだね。あっ、僕オレンジジュース」

「こ、うちゃ」

「は、はい!ただいま!」

言われるまま、シエスタは給仕室に向かった。

-----------------------------------------------------------------

「お、お待たせいたしました」

三人にそれぞれのカップがいきわたる。

「わぁい♪」

「いただき、もす」

「ふん…ん?」

クンクン

「ん、んん、うんん?」

クンクンクンクンクン…

「あ、あの、何か…」

次郎が執拗に匂いを嗅いでいるのを見て、自分に粗相があったのかと思ってしまう。

カッ!

眼を見開く次狼そのまま一気に、

ゴクゴクゴクゴク…

「ハァ~…」

次狼の顔には確かな満足感が浮かんでいた。

バッ!

次狼は勢い良く席を立ち、

バァンッ!

強く扉を開けて、部屋を出た。

「あ、あの!私何か粗相を……!?」

「ちがう、ちがう」

「スゴイねお姉さん。次狼をあんなにするなんて」

バァンッ!

強い扉が開く音を聞いて、シエスタはまたビクッと驚く。

入ってきたのは次狼だ。手には…

「釣りはいらねぇ」

ズシッ!

「えっ?」

確かな重みを手に感じる。シエスタの手に渡されたのは、純金の延べ棒だった。

「『こっち』の金はまだ用意できてねぇ。これで我慢しろ」

「こ、こんなものもい、いただけません!」

「もう、次狼。宝石の方がいいって。エメラルドのいいのあったじゃん」

「いや、サファイアの方が、に、にあう」

「そうではなくて!只のメイドである私がこんなにいただけません。給金もちゃんといただいております!」

それを聞いて三人は顔を合わせる。

(どうする?いい人だよ、この娘)

(どう、する?)

(決まっている)

「おい、メイド。名前は?」

「は、はい。シエスタと申します」

「ここはお前が働いている所と別の場所だ。明日からコーヒーを淹れに来い。それは給金の前渡だ」

「え、ええ?でも…?」

「ねぇ、来てよシエスタお姉さん」

「きて、くれ」

シエスタは暫く考えて、答えをだした。

「わかりました。明日からよろしくお願いします」

先程の自分のコーヒーをがぶ飲みした次狼を思い出して、決めた。

「よし」

次狼はシエスタの手をとる。シエスタは少しドキッとするが、気付くと自分の手に腕輪が嵌められていた。

「それがあればここに入れる。楽しみにしているからな」

「明日も来てね」

「また、ね」

「はい、わかりました…あれ?」

いつの間にかシエスタは学園の廊下にいた。辺りを見ても確かに学園の廊下だ。

さっきのは夢だと思ったが、手に持った金塊と腕輪が夢じゃない事を告げていた。



「よかったね、次狼。美味しいコーヒーを淹れられる人が見つかって」

「そうだな。ふん、あの娘の淹れるのはマスター以来のものだ」

「ごきげ、ん、だな」

三人はカードゲーム…トランプを再開している。

部屋の灯りが彼らの影を映す。

シエスタは気付かなかった。

灯りに照らされた3人の影が、人間のモノではない事に…



[5505] 第3話/人は誰でも心に音楽を…
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/06/29 10:59
第3話/人は誰でも心に音楽を…

「ん……はぁ~、朝か…」

この世界での初めての朝がやってきて、渡は目を覚ます。

基本的に規則正しい生活をしていた渡は体内時計もちゃんとしている。

「よう、起きたか」

「おはようキバット…ルイズちゃんは?」

「ペタンコならまだ寝てるぜ」

「ねぇ、そのペタンコって何?」

「あん?見ろよあの胸、無いに等しいぜ」

キバットの発言にとりあえず黙っておく渡。

「確か、学校なんだよねココ」

「おう、朝の散歩に回ってきたが、中々立派な学校だったぜ」

「じゃあ、授業があるだろうから、ルイズちゃんを起こさなきゃ」

昨日説明を受けた通り、クローゼットからルイズの衣類を取り出す。

「まったく、渡に床で寝かせるとは、一度ガツンといわなきゃな」

「僕は大丈夫だよキバット」

「なー、渡。キャッスルドランの方へ行こうぜ。あそこの天守ならフカフカのベットもあるし」

「ルイズちゃんがいいって言ったらね」

「か~、渡!何でこのペタンコに従ってんだよ!」

「だって僕ルイズちゃんの使い魔だし」

「……渡、お前は嫌がるかもしれないんだけどな。曲がりなりにもお前は『王』なんだぜ」

「…………」

渡はキバットの言葉に困った顔をして、ルイズのベットに近づいた。

「ルイズちゃん、朝だよ。起きて」

「う~……」

「コラッ!」

ゲシッ(キバットキック)

「キャンッ!」

ドスンッ……(ちょっと威力があったのか、ベットに落ちるルイズ)

「起きろペタンコ!学校があるんだろ!」

「こ、この蝙蝠…いい加減にしなさいよ、あんた!伯爵の分際で公爵に歯向かうき!」

「へへ~んだ!公爵本人ならともかく、半人前のペタンコにはコレでいいんだよ」

「き~!いったわね~!」

昨日と同じく口論を始める二人。

「二人とも仲がいいね」

『どこが!』

「はい、ルイズちゃん。着替え」

渡にニッコリ笑われて、渋々ルイズは従う。

「着替えさせて」

「ブッ!」

驚いたのはキバットだった。渡は言われたとおりルイズの服を脱がし始めている。

「テメェ!年頃の娘が男に着替えさせるなんて何考えてんだ、尻軽ペタンコ!」

「何言ってんのよ!使い魔は役に立つのが仕事じゃない!それに使い魔を『男』と認識する分けないじゃない!」

「渡!お前もなんか言ってやれ!」

「いいじゃないか。ルイズちゃんはまだ『女の子』なんだし」

そう、手際良く着替えさせていく渡。

「…なるほど」

「ちょっと。どういう意味よ」

「渡もお前の事を『女』と認識してないんだよ」

「はい、できたよ。ルイズちゃん」

理不尽なパンチが渡を襲った。



「いたた…もう、いきなり何するんだか」

渡とキバットは一足先に部屋を出ていた。ルイズは軽く化粧をするらしい。

「女の子も大変だね」

「ああ、ペタンコの前であまりそれいうなよ。案外凶暴なんだから」

「……あら?あなた誰?」

一人と一匹が話していると誰かが声をかけてきた。

声の先には

「おお、ペタンコとは違って、グラマラスで首がいい感じのネーチャン!」

髪の毛は朱に燃えているような赤。

肌の色は赤が強い褐色。

体型は…服の着こなしが示す様に胸が強調された感じが強い。

そして…

(『音』も結構激しいな…健吾さんに似てるけどちょっと違うな)

「僕はワタル・クレナイ。こっちは…」

「キバットバット三世です。美しき女(ヒト)よ、良ければお名前を」

「あら、お上手な蝙蝠さんね。私はキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。よろしくね」

「こちらこそ」

「ルイズの部屋の前にいるって事は、あなたがもしかしてルイズの使い魔?話とは違うわね」

「違う。強いていうなら、私めはこちらの渡の使い魔です。ルイズ嬢の使い魔は……不本意ながら我が主人でございます」

「あら、へぇ~」

キュルケは渡をマジマジ見る。

「な、なんですか?」

「本当にルイズは人間を召喚したのね。ふふ、でも中々いい男じゃない」

キュルケはマジマジ見る。

「それにしても、使い魔が使い魔を持っているなんて不思議ね」

「キミの使い魔はその赤いの?」

「ふふ、そうよ。おいでフレイム」

キュルケの後ろから歩いてきたのは、虎みたいに大きなトカゲ。

赤に彩られた巨体。そしてその尾は炎。

口蓋よりは火が舌の代わりに姿を見せる。

その存在があるだけで周囲に熱を撒き散らしていた。

「私の使い魔、サラマンダーのフレイムよ」

「おお、サラマンダー。俺達の世界にいたのとは結構違うな」

キュルケは自慢げに胸を張っている。

渡はフレイムに

「よろしく、フレイム」

と触れようとした瞬間、

『きゅ、きゅ~!』

フレイムは恐れるようにキュルケの後ろに回った。

「…………」

「ど、どうしたのフレイム」

フレイムは小刻みに震えている。

それを見つめる渡は

(そうか…僕がどういった存在かわかるんだ)

渡は少し悲しそうな顔をする。それをみたキュルケは…

(あら…本当にいい男じゃない。なんていうか…なんだろ?初めて見るタイプだわ)

ガチャッ…

「……お待たせ。ワタル、蝙蝠……って、キュルケ?」
「あら、ルイズ」

二人はお互いを確認すると
方や笑みを浮かべて挑発的に。方や忌々しげに眉根を顰めながら。

「おはよう。ルイズ」

「おはよう、キュルケ。私の使い魔に何してんのよ」

「別に~。ただ挨拶しただけよ。それじゃまたね、ワタル、キバット」

「うん、またね」

「まったね~♪」

挨拶を済ませた渡はルイズを見ると後ずさりをした。その顔が凄まじい仏頂面だったからだ。

「……行きましょ?朝の食堂は混むから」

「う、うん」

☆★☆★☆★

「……豪華な食堂だね」

「ああ、無駄に豪華だな」

「ふふ。凄いでしょ?トリステイン魔法学院は貴族の為の学院でもあるのよ。メイジに成る者はほとんどが貴族。『貴族は魔法を持ってその精神となす』をモットーに貴族たるべき教育を受けるの」

だからといってココまで華美にする必要は無いと思う。

さらに驚いたのが、食事が出てきた時だ。


「大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうた事を感謝いたします」

「なにこれ?」

「?何って、朝食じゃない」

「なんだよ!朝からコレステロールたっぷりじゃねぇか!横に肥んぞペタンコ!」

「い、いきなり何を…」

「いや、キバットの言うとおりだと思う」

毎日の食事を作っていた渡はいつもより確信を持って断言した。

「ワ、ワタルまで」

「それに周りの皆、早く食べてる。あれじゃ消化によくないよ。ルイズちゃんだってきついでしょ。かして」

渡はそういうとパンをナイフで切り、そこに野菜やハムを挟む。

手際よく自分とルイズとキバットの分のサンドイッチを完成させる。

「さ、ルイズちゃんぐらいの歳ならコレを全部食べれば大丈夫。牛乳とこの…ジュースとあわせて食べて」

「う、うん……なんか手馴れてるわね」

「向こうの世界では自分の分の食事は全部自分で作ってたからね。コレぐらいはできるよ。余った分は…キバット。『みんな』に差し入れしておいて」

「あいよ。まあ、『あいつら』ならゲームのつまみに全部食べんだろ」

「さっ、食べて授業に行こう」

「う、うん」

そこで三人は食事を再開した。


渡達は食事の後、教室に移動した。

その造りは渡が知っている『高校』の教室とは違ったが、キバットに『大学はこんなかんじだ』と教えられて成程と頷いた。

階段状に設置された石造りの机。その最下部に教卓と黒板。

渡はルイズの背後につき、教室の扉をくぐった。

瞬間、先に教室の中に居た者達の視線が渡とルイズ、キバットに集中する。

忍び笑い、嘲笑が聞こえる。

ただ、中には警戒の目を向けるものもいた。

自分の使い魔の反応を見て、警戒する者もいた。

ここにいる使い魔達は、本能的に察知しているようだ。

…渡という存在が自分達など簡単に絶滅させてしまう存在だという事を…

「変わった動物がいっぱいいるね」

「…そんなに珍しいの?幻獣が」

「うん。僕の世界では滅多に見ないね。キャッスルドランぐらいしか僕見たことないし」

「ねえ、気になってたんだけど…昨日そのこうも「キバットだよ。そろそろそう呼んであげて」…キバットが言ってる『きゃっするどらん』ってなに?」

「あれ?ルイズちゃんも見てなかった?僕の今の家みたいなものかな」

「…!まさかあの…!!」

「あっ、先生かな?来たよルイズちゃん」

扉を開け教室内に入ってきたのは中年の女性。

体型的にはふくよかと言う印象を受ける。

「ポテパラ先生と呼ぼう…(ボソ)」

「失礼だよ(ボソ)」

「皆さん、おはよう。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、この春の新学期にさまざまな使い魔を見ることが楽しみなのですよ」

シュヴルーズを名乗った先生は周囲を見渡しながら微笑を浮かべそんなことを言った。

そしてその視線がルイズの後ろに立つ渡に止まる。

「ミス・ヴァリエール?こちらの方は?」

「…わたしの使い魔です。ミセス・シュヴルーズ」

(チョイ、カプ…)

「?…使い魔…って!?」

その目が見開かれる。

キバットが軽く渡を噛んだ直後、渡の体にほんの一瞬だけ、『魔皇力』が漲る。

ほんの一瞬であったが、とてつもない強大な魔力をみたシュヴルーズは声を震わせながら

「…こ、これはずいぶん変わった使い魔ですね?」

「含む所があるようですが…一応、褒め言葉として受け取っておきます」

(キバット…!何するんだよ!)

(いいんだよ!またペタンコ…ルイズがバカにされるとこ見たいのか?)

(それはそうだけど…でも)

渡とキバットが周りを見る。使い魔達が少し騒ぎ出していて、それを各主人達は諌めていた。

(みんな怖がってるじゃないか)

(…すまんね、諸君)

「…はいっ!皆さん。使い魔達が落ち着いたら授業を開始しますよ!」



ミセス・シュヴルーズの授業を渡は結構真剣に聞いたが、結構わからないところもある。

元々、普通の現代人の生活をしていた渡には少し理解できないところもあった。

(兄さんなら…理解できたのかな)

「キバット、面白い?」

「ああ、面白いぜ。そうかスクウェアクラスになれば金が作れるのか。昔サンジェルマンのおっちゃんに作ってる所見せてもらったけど、俺もこっちで真剣に勉強しようかな」

それは渡にもわかった。
属性の単位は【ドット・ライン・トライアングル・スクウェア】と言うものらしい。

一系統をドット。二系統でライン。このように増えるもので、同一属性の相乗もこれで表現するらしい

つまり『たくさん使えるほど強い』ということだ。

「渡…それは何でも端折り過ぎだ」

「大丈夫だよ。ノートとってるから後で読み返そう」

「…という訳です。では、誰か【錬金】を試みてもらいましょう…そうですね。ミス・ヴァリエール。貴女にお願いしましょうか」

シュヴルーズがその言を告げた瞬間、室内の空気が凍った。

「ミス・シュヴルーズ。あのもしかしてルイズの事……知らないんですか?」

金髪の巻き髪をした少女が挙手をし発言する。

「何をですか?ミス・モンモランシ」

「…危険です。ルイズに魔法を使わせるのは賛成できかねます」

それを見た渡とキバットは

「どういうことだろうね」

「わかるのはとんでもなくヤバイって事だ」

「…わかりました。ミス・シュヴルーズ。やります」

私の声をきっかけにしてルイズが席を立ち教壇に向かう。

周囲が騒然とする。

「よろしい。では、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属のイメージを強く心に浮べてください」

その言に応じてルイズが呪文の詠唱を開始する。

「キバット、行って」

「あいよ!」

そして最後の呪言が放たれた瞬間。

ドガァァァァァァァァァァァァンッ!

(ああ、失敗した…)

それだけはしっかりとわかった。

いつもの事だ。四大元素の魔法に失敗したときのいつもの結果。

ルイズは目をつむり、次の瞬間に来る衝撃に備える。

でも、いつまで経っても衝撃は来なかった。

ルイズは恐る恐る眼を開ける。

「ふぃ~、間一髪…」

「き、キバット?」

「おう、大丈夫かルイズ」

見ると自分の周りにガラスのようなモノが光っている。

それが自分を守ったようだ。

「これ…あんたが?」

「おうよ、コレでも俺、結構優秀なのよ」

ウインクで返事をするキバット。

「あっ、ありがとう…」

「ま、でもこりゃ…」

キバットは周りの惨劇を見て…

「片づけが大変だな」




「ふぃ~、なんとか目処がつきそうだね」

「おーい、直りそうにねーもんは捨てて来たぞ。それと、持って来たぞ」

「ご苦労様」

キバットが扉から戻って来たキバットは口に何かを咥えていた。

渡は箒を置いて、それを受け取る。

「ルイズちゃん、終ったよ」

「…………」

「ルイズちゃん?」

「……これでわかったでしょ。私がゼロって呼ばれてる理由が」

魔法成功率ゼロ…それが彼女の名前の由来だということ。

「次があるじゃないか。次はきっと成功するよ」

「うるさい!あんたに何がわかるのよ!」

ルイズは渡を睨みつけて叫ぶ。

「こんなに失敗続きで落ち込まない人間の方がどうかしてるわ!私だって……私だって頑張ってるわよ!努力してるわよ!授業だって誰よりも真面目に聞いてるし、筆記試験じゃトップクラスなんだから!でも、でも……!」

涙目になりながらルイズは俯く。魔法が使えない…それはルイズの心を傷つけていた。

未だに自分の属性が分からない。

火、水、風、土、どれも全てがダメだった。

基本的なコモンマジックすらもできない。

「私だって…私だって…」

『♪~♪♪~♪』

突然音色が聞こえた。

ルイズが顔を上げると、渡がバイオリンを弾いていた。

先程キバットが持ってきたものはアレなのだろう。

紡がれる旋律…ルイズの心はその旋律に奪われていく。

(なんて…なんて素敵な音なの…)

ルイズも公爵家の令嬢だ。本当に素晴らしい楽団の音楽も聞いた事がある。

でも、そんなものすらを凌駕する音を、目の前の自分の使い魔は奏でていた。

『ポロンッ♪』

「落ち着いた?」

「あ……あ、うん」

「ルイズちゃん。これはね、父さんの言葉…まあ、僕も父さんからの直接じゃなくて、違う人から聞いた言葉なんだけれど…」

渡は諭すようにルイズに話す。

「人はね、みんなそれぞれ音楽を奏でているんだ。知らず知らずの内にね。その音楽は、人それぞれもちろん違うんだけど…」

渡はニッコリ笑って

「安心して。ルイズちゃんはとても素敵な音楽を奏でているから。今僕が引いた音なんかよりね。ルイズちゃんはルイズちゃんの音楽を奏でるんだ。誰にも真似出来きない、キミにしか奏でられない音楽をね」

その時ルイズは気付く。渡の顔がとても悲しい表情をしていることに。

まるでそれは…

「…ふん。いいわ、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!見てなさい!あんたが聞いた事がないような最高の音楽を奏でてみせるわ!」

「その意気だよ、ルイズちゃん。じゃっ、僕はコレを片付けてくるから」

「おっ、待てよ渡」

そういって渡とキバットは外に出てしまった。

ルイズはその後ろ姿を見て

「なによ。あんな素敵な音楽が出せるアンタが何であんな顔するのよ」


「ルイズちゃん、落ち込まなくて良かったね」

「そうだな、渡にしちゃよくやったな。こんなに渡が立派になるなんて…ヨヨヨッ!」

「泣かないでよ、キバット。あっ、さっきのメイドさんがいたよ」

「おーう、愛しのシエスタちゃん」

渡とキバットが箒を貸してくれたメイドに近づくと、

「ん?」

「どうしたんだろ?」

「大変だ渡。シエスタちゃんがいじめられてるぞ!」



「君が軽率に瓶なんかを拾い上げるおかげで、二人のレディの名誉が傷ついたじゃないか。どうしてくれるんだね?」

「え……も、申し訳ありませんっ!」

「まったく!コレだから平民は…」

「やいやいやい!何シエスタちゃん苛めてんだ!このヒョロ男!」

「な、なんだこいつ!」

突然飛んできたキバットに金髪の少年は驚く。

「どうしたのシエスタさん」

「あ、ワタルさん。実は…」

「そのメイドが二人のレディの名誉が傷けたんだよ!」

「どういうこと?」

「おい!僕が喋ってるのに何を無視してるんだ!君は誰だ!」

「僕は…」

「やいやい!伯爵に向かってなんて口を聞いてるんだ!」

「は、伯爵!?」

途端に金髪の少年は大人しくなる。それを隙にワタルはシエスタに理由を聞いてみる。

事の起こりは、シエスタがこの金髪の少年・ギーシュの落とした小瓶を拾った事らしい。

それはある女性が恋人に送る香水のビンだった。

それをギーシュに渡そうとするとギーシュが拒んだらしい。

すると一人の女性が現れて、口論になった後、ギーシュはビンタを食らい、痛みを感じている時に、もう一人の女性が現れ、ギーシュを怒鳴って去って行ったらしい。

「…つまり!二股かけたのがばれて修羅場に巻き込まれた…完璧オメェが悪いじゃないか、このイロガキ!」

「な、何を言うんだ!僕は彼女が香水の瓶を拾った時に、知らないフリをしたんだ。話を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」

「それでも、シエスタちゃんを責める事にならないよ。シエスタちゃんは小瓶を拾って君に渡そうとしただけなんだから」

「は、伯爵まで!そんな平民をかばうんですか!」

「僕は伯爵じゃないよ。伯爵はキバット」

「へっ?」

「エッヘン!」

「僕はルイズちゃんの使い魔だよ」

それを聴いた瞬間ギーシュの顔つきが変わった。

「成程、『ゼロ』のルイズが呼びだした人間か。そうか、平民だったわけか。ならば、貴族の機転など分かるはずもないな」

渡が貴族でもメイジでもないと知るや否や、ギーシュの態度が一転する。

明らかに安堵し、強気になっている。

「そんな事は関係ないよ。シエスタちゃんに謝って」

「貴族が平民に謝れだって?……どうやら、君は貴族に対する礼を知らないようだな」

「人に悪いことしたら謝らなきゃならないこと位は知ってるよ。シエスタちゃんに謝って…」

「ふん、礼儀知らずめ。そうだ、ちょうどいい腹ごなしに君に礼儀を教えてやろう」

ギーシュは持っていた造花の薔薇を渡に向けて、言い放った。

「おっ、もしかして決闘か!?」

「ふん、蝙蝠も偽りとはいえ伯爵を名乗ってるから話は早い。後でヴェストリの広場に来たまえ!逃げたらお前のご主人ごと侮辱してやろう!」

そういってギーシュはその場を離れていった。

「大変な事になったね」

「ふん、大丈夫だ。お前なら勝てる」

「そうかもしれないけど…」

「あ…あ…わ、ワタルさん…?こ、殺されちゃいます!」

『…なんで?』

「貴族を本気で怒らせたりなんかしたら!」

顔色を蒼くしたシエスタに向けて、そう断言する。

この少女は本気で自分を心配してくれている。

そう感じた渡は

「許せないね、キバット」

「ああ、シエスタちゃんをこんなに不安にさせたあのギーシュとかって言う小僧っ子!渡!ケチョンケチョンにしてやるぞ!あっ、シエスタちゃんも渡と俺のカッコいいとこ見に来てね」

「き、貴族ですよ? メイジですよ? 勝てる訳が…っ!」

「…う~ん多分、大丈夫」

「おうよ!相手が貴族なら渡はおお…フグッ!」

「だから心配しないで」

キバットの口を押さえつけながら渡はシエスタにニッコリ笑った。

「ところでヴェストリ広場ってどこだろ?」



「諸君!!決闘だ!!」

渡が後からやってきたギーシュの仲間に案内されるままに辿り着いたのは学園の敷地内の二つの塔『風』と『火』の間にある中庭だった。

立地条件はあまりよくないらしく、西側にある為か季節柄か日中においても日差しが多くない。

それでもこの場には多くの生徒達が集まっていた。

「おお、ギャラリーがたくさん!燃えるね!」

「……僕は恥ずかしいよ」

辺りを見渡すと、人が集まってきている。その中で近づいてくる人影、それは。

「ちょっと!!なにしてんのよアンタ!!」

いわずと知れた主人、ルイズだった。

「なんでアンタがギーシュと決闘する事になってんのよ!?」

「ん~、なんていうんだろ」

「成り行き?だな」

「アンタみたいな平民がギーシュに勝てるわけ無いじゃない!ギーシュはメイジなのよ!あんた殺されるじゃない!」

(キバット…)

(ああ、よっぽど、支配階級が明白してるんだな)

平民は貴族(メイジ)に勝てない。それが当たり前のようであった。

でも、渡は引くわけには行かない。

一つはシエスタに悪いことをしたのに謝らせること。

もう一つは…

「僕が逃げちゃうとルイズちゃんまでバカにされるみたいだから、僕頑張るね」

「~!」

話にならないと感じたルイズはギーシュに言い放つ。

「ギーシュ!決闘は禁止されてるじゃない!やめなさいよ!」

「禁止されているのは貴族同士の決闘だ!平民相手の決闘は禁止されていない!」

「そんな屁理屈…」

そこでギーシュは薔薇を振るう。

薔薇の花弁が地面に落ちると、突然人影が現れる。現れたのは女性型の青銅人形だった。

「もちろん僕はメイジだ。魔法を使わしてもらう」

「あんた…」

「ルイズちゃん下がってて」

「ワタル!」

渡は青銅人形の前に立つ。

「僕は大丈夫だよ」

「おうよ!まあ見てなルイズ!」

渡はギーシュに相対するようにたった。

「とりあえず、逃げずに来たその勇気は、褒めてやろうじゃないか」

「ありがとう、じゃあ僕も準備するね」

「…ん?」

「キバット!」

「おう!キバッていくぜ!」

渡はキバットを右手で掴む!

そのままキバットを自分の左手に近づけると

「ガブッ!」

今度は先程の『甘噛み』なんてものじゃなく、しっかりと噛んだ!

『!?』

その瞬間、ルイズやギーシュ、それどころか周りの生徒も驚きを隠せない。

渡の体から信じられない程の魔力…『魔皇力』が溢れ出す!

そして、渡の腰に鎖(カテナ)が何重にも巻きつく。巻きついた鎖は止まり木『キバットベルト』に変化する。

「変身!」

そう叫ぶと同時に、キバットを腰の止まり木に吊るすと同時に、渡は光に包まれる。

そして何かが弾け飛んだ瞬間、渡は変身していた。

「な、なんなの、あいつ…」

ルイズは声をこぼす。

渡の姿は異形だった。

黄金の眼を持つ兜。赤と黒と銀を纏わせた鎧。そしてその溢れんばかりの『魔皇力』…

それはとある種族の王となる資格がある者だけが身に付ける事を許される『鎧』。

周りが許すのではなく『鎧』自体が選ぶ為、確実なる選別を行う『キバの鎧』。

それを身に纏うのは『大逆の王』、『仮面ライダーキバ』。

それが渡のもう一つの姿だった。



[5505] 第4話/Break the Chain -魔皇の紋章-
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/06/29 11:00
第4話/Break the Chain -魔皇の紋章-

渡とギーシュの決闘騒ぎが起きる少し前の図書館。

コルベールは昨夜から図書館に詰めていた。

ここには始祖ブリミルがハルケギニアを新天地に築きあげてよりのあらゆる歴史が詰め込まれている。

彼は教師のみが閲覧できる『フェニアのライブラリー』で古文書、禁書を読み漁っていた。

昨日からずっと気になっているのは、あのヴァリエールが召喚した使い魔の事だ。
あの圧倒的で我々メイジとは比べ物にはならない…そう、『純粋』とも言っていい強力な魔力。

そして、何より気になった、その手に刻まれた契印(シール)は見覚えあるものでもあった。

それはけして普通に見覚えがあるのではなく。

古文書に刻まれていた事に覚えがあったのだ。

そして彼は一つ目の正解に辿り着いた。

「なっ!…キ、『キバの紋章』……!?」

ミスタ・コルベール。火の系統のスペシャリスト。

『炎蛇のコルベール』の二つ名を持つ彼はこのトリステイン学院でも古参の部類に入る。

その容貌に似合わず彼は博識でもあり実力もある。

その彼をしてそれは驚かざるを得ないものだった。

それは伝説だからだ。この紋章はある伝説の存在を示す紋章であり、伝説通りならば、あの使い魔は…

彼は、古文書を手にしたまま、自らの持てる最大速度で学院長室へ走り出した。


コルベールが向かった先は本塔の最上階にある学院長室。

そこには今現在二人の人物がいる。

この学院の最高指導者であると同時に最強の魔法使いでもある『オールド・オスマン』

その秘書を務める『ミス・ロングビル』である。

オスマン老。二つ名は知られていない。

その理由は二つ名を知り生還できた者が居ない事に起因する。

かの大老が二つ名を名乗るのはその存在を必滅する時のみだと言う。

だが、ミス・ロングビルは彼以上に謎が多い。

この学院に来る前の経歴は一切不明。

本人も曖昧に逸らすだけで決して語ろうとしないからだ。

そんな二人の関係は……

「…のう。モートソグニル。やはりミス・ロングビルの下穿きの色は黒が良いと思わんか?」

「…オールド・オスマン。使い魔に私の下着についての考察を述べるのはやめてください」

「じゃがのぅ…その身体つきで白はギャップがあるんじゃよ。もしやそれを狙って?」

「…狙っている筈ないです。何故そんなことしなければならないんですか!というより何故、私の下着の色を知っているんですか?!」

エロじじいとセクハラされる秘書にしか見えなかった。

そんな二人の情事に割ってはいる闖入者がいる。コルベールである。

「オールド・オスマン!!」

けたたましい足音は寸分狂い無くけたたましい音を立てドアを開け放った。

「何じゃね?騒々しい」

先ほどまでの痴態はどこにいったのか。

そこには威厳あふれる大魔法使いとその有能な秘書がいた。

「はぁはぁ…し、至急報告したい事があり、参上しました」

「…くだらん事ではないじゃろうな?」

「まずはこれを」

コルベールはその手にした古文書を差し出した。

そして一言。

「…『魔皇』が再臨しました」

「…詳しい報告を聞こう。ミス・ロングビル。以降の発言は第三者による見聞きは許されん。退室を」

オスマン老はその手に渡された古文書と彼の発言から言わんとする事を察した。

そしてその目に鋭い光を宿して自らの秘書に命を下した。

彼女も反意を見せることなく退室をする。

あの目をした老オスマンに異を唱えれるほど彼女は自信家ではない。

そして、部屋には二人の魔法使いが残され、コルベールはオスマン老に話し始めた。


「…以上です。学院長」

コルベールは自らの見解と昨日の出来事を差し向かったオスマン老に告げた。

二人の間の空気は緊迫している。それほどまでの出来事なのだ。

この紋章が現れたという事は…世界が滅びるかも知れないということなのだ。

「『キバの紋章』か…訊くが。本当にこの紋章だったのかね?」

「間違いありません。そして一瞬とは言え、あの魔力の奔流を眼前で見れば納得できます。あの…」

コルベールは息を呑んで…

「あの魔力を自在に使えるのなら…伝説通りになります」

「…伝説の魔皇、『キバ』…か」

「学院長。何故、『キバ』が現れたのでしょう?伝説ではキバは世界を『一度』滅ぼした後、消滅したと聞きます」

そう、キバは何らかの方法で『一度』世界を滅ぼしたと伝えられている。
しかし、伝説には続きがあり、始祖・ブリミルが世界を滅ぼすチカラから人々を護り、新天地をハルケギニアに築いた。

「…時に聞くが。ミスタ・コルベール?」

「何でしょう?」

オスマン老は言葉を切り、件の件に置いて秘するべきある一つの事柄を口にする。

「…火のエキスパートたる君ならば、解る様に爆発という現象は火が引き起こす場合は、まず火が発生し結果として爆発が起きるものじゃ」

「ええ。それがどうしたのでしょうか?」

「ならば、ミス・ヴァリエールの引き起こす『失敗』を君は再現できるかね?」

「…あれをですか?」

「そう…出来まい。ワシですらあれは出来んのだよ。そも失敗などという形ではな」

オスマン老の眼光が厳しさを増す。

「わかるかね?火の粒に干渉しない光を生じる爆発。これは四大属性では再現不可能じゃ」

「…まさか…虚無?」

「…あくまで、これはその可能性があるという事じゃ。だが……」

コルベールは息を呑む。学院長の言わんとする事を察しれぬほど腑抜けた覚えは無い。

もし、その可能性が通ると、彼女と『キバ』は何かしらの因縁がある。

「だが、もし、その使い魔が『キバ』なら、紋章が浮かんでも不思議ではない」


オスマン老は小さく嘆息する。

沈黙が部屋を支配しようとしていた矢先。

部屋の扉をノックする音が響く。

「…誰かね?」

「私です。オールド・オスマン」

「ミス・ロングビルか。口頭で済む用件かね?」

「はい。ヴェストリの広場で生徒達が決闘をしているようです。教員達で止めようとしましたが生徒達に阻まれ止められない模様です」

オスマン老はこめかみを軽く押さえた。

頭痛の種がまた飛び込んできたのだ。

「…騒動の発端は? 誰が中心じゃ?」

「一人はギーシュ・ド・グラモンです」

「…グラモンのバカ息子か…事の発端は女性関係かのぉ…要らん所の血が濃いな…で、相手は?」

一瞬、躊躇うかのような間があった。

そして、その後に告げられた言葉は室内の二人を驚愕させ、目の前を一瞬真っ暗にしてしまうものだった。

「…それがメイジではなく…ミス・ヴァリエールの召喚した使い魔だそうです」


『キバ』に変身した渡はワルキューレに向かって走り出した。

超人的なスピードで間合いを詰める。

(まずは様子見…パンチで牽制しよう)

『キバ』は拳をワルキューレに叩き込む。

ワルキューレの体に亀裂が入り、砕けながら吹っ飛ぶ。

破片の一つがギーシュの顔をかすり、一筋の血を垂らす。

「……あれ?」

「おい、渡。大人気ないぞ。決闘なんだから相手にも少しは見せ場をだな」

「いや、ちょっと待って。今すっごく手加減したんだけど」

当の渡本人も驚いている。

確かに手加減した。向こうで全力で叩き込んだ時の10分の1くらいの力で。

(まさか…こっちに来て力が上がってるのかな?)

渡は自分の拳を見ながら、そう思った。

「なっ、なっ、なっ…」

そして、この場で一番冷静になれないのがギーシュだ。

いきなり平民が感じた事が無いような強力な魔力を放出したと思ったら、異形の姿に変身し、あまつさえ、自分の自慢のワルキューレを一撃で粉々にしてしまったのだから。

「こ、ここここ、こい!僕のワルキューレ!」

ギーシュが花弁を振ると、七枚の花弁が落ち、それが新たなワルキューレ七体となる。

「おい、不味いぞ。あの坊ちゃんテンパッてやがる」

「どうやら、ああやって何回でも呼べるらしいね」

「でも、最高七体までらしいぞ」

「なんで?」

「俺があの坊ちゃんの立場なら全力で向かうからな」

「でも、追加されていったら面倒だよ」

「よし、それじゃあな、ゴニョゴニョ…」


「……な、なんなのよ、あいつ……?」

ルイズは我が目を疑っていた。自分の使い魔である渡がキバットに噛まれた瞬間、恐ろしい程の魔力を放出して、異形の存在になった。

そして異形の存在となった渡は今、ギーシュのワルキューレ達を一撃で粉砕していく。

ギーシュは自分のもてる力を全て使って、ワルキューレを量産していく。それでも力の差は歴然だった。

しかし、渡の戦い方はなんと猛々しい戦いぶりだろう。

周りのギャラリーも息を呑んでいる。そう、まるで…

そしてワルキューレを何体か破壊した後、渡は間合いを離した。

(どうして!?どんどんギーシュを追い詰めてったはずなのに?)

すると渡は腰のベルトから何かを取り出した。


『いいか渡。これは『決闘』なんだ。手加減は一切するな。あの坊ちゃん狙えとは言わないが、あの人形を何体か徹底的にはぶっ壊した後は…』

『キバ』はベルトの右側から一本の『笛』を取り出す。

「キバット!」

「おう!『Wake Up』!」

キバットが飛び、その『笛』で魔性の音色を奏でる。

『キバ』の体から魔力が溢れる。

『な、なんだこれ!?』

『嘘だろ!?』


「私…夢でもみてるの…」

キバットがあの『笛』を吹いた瞬間、渡の魔力があがった事がわかった。

でも、世界の絶対の理を曲げる魔法なんて聞いた事が無い!

周りのみんなも騒いでいる。

そう、今は昼なのだ。だが、今は『夜』が世界を支配していた。

さらにルイズを驚愕させたのは天上の月だった。

「これが…渡の世界の夜…」

そう空に輝く三日月が一つしかなかったのだ。


世界が夜になった時、学園にも異変が起きる。

突然学園校舎から強大な竜の首が生えた。

竜の首が吼えると、校舎の一部が怪しく光る。

すると、校舎の一部がペーパーのようにクルクル巻かれ、まったく別の建物が出現した。

そう、それはサモン・サーヴァントを騒がせた原因…キバの居城『キャッスルドラン』だった。

咆哮と共に翼を羽ばたかせて飛ぶキャッスルドラン。すると校舎が魔法のように繋がる。

さあ、主の所に向かおう。我が主の無事と誇り高き勝利を祝福しに……



「へやっ!」

『キバ』は右脚を天に上げる。後ろに映る月は、完全な三日月となる。

キバットが右足の脛の部分に舞う。すると、鎖が飛び散り、力が解放される。

蝙蝠の翼を象った扉、『ヘルズゲート』が完全に開放される。

そして、片足だけで、空に飛び上がった。

『キバ』は一瞬逆さになるように回転すると、強大な力を纏わせて、右足をワルキューレに向け突進していくような蹴り、『DARKNESS MOON BREAK』を喰らわせた。

ドゴォォォォォォォォン!

その衝撃波はワルキューレ数体を粉砕して、砂煙を上げる。暴虐な程の魔力の余波が辺りに満ちる。

ギーシュは完全に腰を抜かして倒れてしまう。

ギャォォォォォォォォォォッ!

竜の咆哮が響く。空から現れたのは巨大な竜。この竜も奇妙な姿をしていた。胴体の部分が見事な城となっているのだ。

この竜も強大な魔力を宿らせている。

ギャオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!

さらなる咆哮が響く。

誰もが認める。この竜はこの異形の存在を祝福しているのだと。

ギーシュはそれを見る事しかできない。

まるで、何かを取り憑かれるように見つめている。

(なんなんだ、こいつ…コイツはまるで…)

異形の姿、圧倒的な力、月夜の闇に空を飛ぶ竜…

まるでコイツは、

(伝説の魔王じゃないか!?)

「ギーシュ君」

「は、は、はい!」

「シエスタちゃんにちゃんと謝ってくれるかい?」

「は、はい!申し訳ありませんでした!」

「…よかった」

その瞬間、『キバ』の右足に再び鎖が巻かれる。その瞬間、夜が終った。

そして大地には、『キバの紋章』が刻まれていた。



その光景の一部始終は、離れた場所の学院長室からも観察されていた。

『遠見の鏡』と呼ばれる魔法具の効能である。

「…圧倒的じゃったな。しかし、信じられん力じゃ」

オスマン老はそうとしか言えなかった。

『キバ』のあの姿は伝説とは少し違うが、酷似していることはわかる。

そしてあの圧倒的な魔力。多分、オスマン老自身でも相手にならないだろう。

そして魔力が一段と高まった時、『キバ』は世界の絶対の理を破った。

そしてあの巨大な竜の城…

「あれは報告にあった…」

「はい、サモン・サーヴァントの時に現れた竜です。今思えば、『キバ』の使い魔…いえ、『居城』なのでしょう」

「君の所見を聞こうか?コルベール君」

「みてもわかる通り、彼は最初魔力の放出といった形の戦闘をしておりませんでした。つまり、身体的能力も信じられないほどのものです。そして…昼を夜…しかも月が一つの世界を作るなど…今見るまで考えたこともありません」

オスマン老は頷く。

そして二人は同じ結論を出した。

『…キバ』

オスマン老の目は、より深刻さを増す。

コルベールもまた面持ちを改める。

「…では、学院長? どうなさいますか? 王室に報告いたしますか?」

「…不要じゃ」

「何故ですか? 彼が本当に『キバ』であるならば…」

「だからじゃよ」

オスマン老は重々しく口述する。

「君も古文書や禁書を読み漁る身だ。『キバの伝説』の不明解さは知っているな?」

「…はい。確かに古文書には『世界を滅ぼした』となっておりますが、『一体どういった力で』世界を滅ぼしたかがまったくの不明です」

「そう。始祖ブリミルと同等にその存在を認められている。しかし、その力はまったくの不明じゃ」

コルベールが頷き、その後を繋げる。

「王室に報告すれば、軍がでるかもしれん。もし、その時に『キバの力』を完全に解放されたらどうなる?」

「そ、それは…」

過去には始祖ブリミルがいた。しかし今は…

「伝説の魔皇と伝説の虚無の系統者やも知れぬ少女。これは秘匿し、こちらで調査しなければなるまい。見る限りでは、まだ『キバ』はまだ件の少女に従っておるみたいじゃしな」

オスマン老の目は、重さを灯したままだ。

オスマン老は座していた椅子より立ち上がると窓に向かう。

窓から見える空には先ほどの一件の影響か、魔力がいまだに残留している。

そして振り向き、決定事項を告げる。

「この事は他言無用じゃ。折を見て、件の少女を招聘し、直接この件を説明しよう」

「…了解しました」

この話題はこれで終わりだと言わんばかりに、オスマン老は再び背を向ける。

それを見て取ったコルベールもまた、一度頭を下げると音も無く部屋を辞した。

オスマン老は誰も近くに居ない事を確認すると自らの執務机の中よりある一つの書物を取り出した。

そして呟く。

「…始祖の祈祷書、その外典の一。我が手にこれがある意味は、この為やも知れんな。しかし、『キバ』か…」




[5505] 第5話/三魔騎士との出会い
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2010/01/12 10:37
第5話/三魔騎士との出会い

私は自分でも呆れるくらいボーとしていた。

原因はこの眼の前で起きた決闘だ。

自分の使い魔がいきなり妙な姿に変身して、ギーシュのワルキューレをまるで紙屑のように屠り、勝利した。

今、ギーシュに何かを言った自分の使い魔はそのまま私の所に歩いてくる。

一体…

(こいつは何者なの…!?)

「ルイズちゃん、お待たせ」

「待たせたなルイズ」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ん、んん、た、たた…」

変身したままのワタルとキバットに正体を問おうとしたが、呂律が回らない。

何かわかったように二人は互いにうなずくと、

「じゃあ、ちょっとゴメンね」

「へっ…?きゃぁあっ!」

いきなりワタルは私を担ぎ上げた。世間的に言う、『お姫様抱っこ』だ。

「ちょ、ちょっと!何するのよ!」

「話はあそこでするから」

「あそこって…まさか!」

空を悠然と飛んでいる目の前の竜の城を私は見て。

「あ、あれに入るの!?」

「うん。じゃあ、いくよ」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

信じられないジャンプで城の中に私は拉致られた。


「こ、ここがあの竜の中…」

中に入ってみると、想像していた内臓的なものじゃなくて、立派な城だった。

材質・細工・調度品は人目で一流とわかる。

そしてこの城は…

「うん、キャッスルドランっていうんだ」

「そう!ドラン族最強の竜、『グレートワイバーン』を元に作り上げた『キバ』の居城!」

変身を解いたワタルとキバットが説明してくれた。今はそれよりも聞きたいことがある。

「…ねぇ、あんたら何者なの?」

私は真っ直ぐに一人と一匹に向いて、問いただす。

「はっきり言って、あんたら普通じゃない。変身したのもそうだけど、何よりもあの魔力。それにこの城…もしかしてあんた、異世界から来たのってのは嘘で、ホントは何処かの国の王様なんじゃないの?」

「…僕達は本当に異世界から来たよ。さっきの『夜』をみたよね」

それは信じるしかなかった。あの『夜』はワタルが作り出した。

月が一つしかない、ワタルの世界の夜なのだろう。

「僕が変身したのは『キバ』っていうんだ」

「キバ…?」

「その通り!ある種族の王…」

「キバですって!?」

私は驚きを隠せない。

だってワタルが自分で変身した姿を『キバ』といったからだ。その名前は…


「伝説の…」

「魔皇?」

「そうよ!『キバ』っていうのは遥か昔、始祖ブリミルの時代に存在した『世界を滅ぼした魔皇』と同じ名前じゃない!」

それを聞いたワタルとキバットは驚いた顔をする。

「御伽噺程度なら誰でも知ってるわ!始祖ブリミルの時代『暗黒の世界より現れ、暗黒の力を使って世界を滅ぼした魔皇』よ!あんたがもしかして『魔皇』なの!」

それならば私は恐ろしいモノを喚んでしまった事になる。

世界を滅ぼす『魔皇』を呼び出すなんて…

「おいおい、渡は違うぞ。確かに『キバ』はもう一人いたがそいつは…」

「…大丈夫だよルイズちゃん」

私は一瞬ドキッとする。ワタルが物凄く悲しそうな顔をしていたからだ。

「ルイズちゃんの言う『キバ』が例え僕の知るもう一人のキバだとしても…安心して。僕が…」

なんでこんな…

「僕が殺したから…」

なんでこんな悲しい顔をするのよ。

「そうだ。渡の持っている『キバの鎧』はまったく違うものだ。それは俺が保障する」

「…信じていいの?」

「ああ。それに考えてみろ。渡が世界を滅ぼすように見えるか?」

私はそれを聞いて、ワタルを見る。ああ、そうだ。出会って少ししか立ってないけど…

「そうね。それもそうだわ。心配して損しちゃったわね」

コイツが世界を滅ぼすなんて事できるわけないじゃない。

「で、そのあんたらの『キバ』ってなんなの?」

「よく聞いてくれた。さっきも言ったように、あれは『キバの鎧』。とある種族の王の鎧だ」

「王の鎧?」

「おう、しかも只の鎧じゃないぜ。あの鎧自体が選定の役割も持っていて、資格を持たない奴が纏うと、その命を奪う『完璧な選定』ができる鎧だ!」

へぇ~、継承者争いが楽そうだけど、怖いわね。あれ?

「どうしたの?そんな真っ青な顔して」

「…初めて聞いた」

「へ?」

「命を奪うなんて初めて聞いたよ、キバット」

「ありゃ、そうだっけ!」

「そうだよ!」

結構大事な事説明してなかったんだ。ん?ちょっと待って。じゃあ…

「わ、ワタルって王様なの!」

「その通り!渡は現在本当の王様だ!ひかぇい!」

「キバットやめなよ。なりたくて…なったんじゃないんだから…」

ワタルの悲しそうな顔。一体…

(何があったんだろう)

そして私は思い出す。

「ねぇ、ワタルって本当に王様なの?」

「おいおい、疑うのかよ?」

「うん。でも僕は今ルイズちゃんの使い魔だから気にする事ないよ」

「違うの。私ワタルを呼び出す前に、夢を見たの。金の鎧を着た王様…確かにワタルの変身した姿は似ていたけど、あんな感じじゃなかったわ。もしかして、あいつが魔皇なの?」

それを聞いた一人と一匹は少し目を合わせて、

「あ~」

「え~と…まあ、おいおい話すわ」

「それよりもこのキャッスルドラン。今は学園に擬態してるんだよ。前はビルだったのにね」

「大きな建物がここしかなかったからな」

なんかはぐらかそうとしている。でも聞きたい。あの夢の中の王の正体を…

『ゾクゥッ!』

背筋に悪寒が走る。後ろを振り向くとさっきまで何も無かった所に彫像があった。

青・緑・紫の像だ。

只の彫像…でも、何でこんなに怖いの!

「ルイズちゃん、紹介するね」

「おい、お前らもからかってないで戻れ」

『ふんっ』

すると信じられない事が起こった。

彫像がどんどん人間になっていく。

タキシードを着た男、燕尾服を着た大男、あと変わった服を着た同い年ぐらいの少年だ。

「こいつか?俺達をこんな所に呼び寄せた張本人は」

「まったく、いい迷惑だよね!せっかく自由になれると思ったのにさ!」

「まだ、ちっちゃい、子供、だな?」

「まあいい…おい、キバットバット三世」

「なんだアホ狼」

「『契約』は暫く続けてやる。そのかわり、ある程度の自由は貰うぞ」

「そうだそうだ!じゃないとストライキ起こすよ」

「ストライキ…」

「あ~!わかってるよ!でも基本的にはここにいて、遠くまで行ったりするなよ!戻れる時に留守だったら知らないからな!」

「僕もあの約束を守ってくれるならかまいません」

「そうか、じゃあまず…」

それだけワタルとキバットに言うと三人は私を取り囲む。

「な、なによ、あんたら」

「俺は次狼だ。よろしくな」

「僕はラモン。よろしく」

「リキ、だ。よ、よろしく」

「さてと、ご主人。明日からこちらに食事が届くように手配しろ。運ぶのはシエスタに運ばせればいい」

「なっ!何言ってんのよ!」

「そうだ!なんでお前らシエスタちゃんの事知ってるんだ!」

「バカなこと言わないで!何で私がそんな…こ…と…」

今度こそ私は腰を抜かした。

3人の姿が変わったからだ。

今度は彫像じゃない…

「わかったな?」

「お願い」

「た、頼む…」

「は、はい…」

私はガタガタ震えながらいった。

ジロウは青い化け物、ラモンは緑の化け物、リキが紫の化け物にだ。

しかも強烈な魔力を纏わしている。

三人は元に戻って

「判ればいい。それじゃ今夜からな」

「僕、お魚がいいな」

「肉、だ」

と三人は部屋から出て行ってしまった。

部屋を出て行くのを確認すると私はワタルに詰め寄る。

「な、ナンなのよアイツラ!化け物じゃない!」

「お、落ち着いてルイズちゃん。皆いい人達だから」

「信用できないわよ!」

そう、あいつ等は信用できない。あいつ等の感じからわかる。アレは人間の…敵だ。

「じ、次狼さんが『ウルフェン族』、ラモン君が『マーマン族』、力さんが『フランケン族』なんだ。皆僕を手伝ってくれてたんだ」

「まあ、アイツ等もこの世界に来てまさか勝手に出て行くわけにもいかないから。もしもの時は協力してくれるだろ」

「どうすんのよ!今日からアイツラの食事を用意しなくちゃならなくなったじゃないの!」

「ぼ、僕に言われても…」

「き~!あんたが飼い主でしょ!責任取りなさい!」

「うるさい!それぐらい気前見せろ!」

「うっさいバカ蝙蝠!干物にしてやる!」

「言ったなこの大平原!」

キャッスルドランに再び学校に擬態する暫くの間、賑やかな声が響いた。



[5505] 第6話/火の誘い、街への出発
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/06/29 11:03
第6話/火の誘い、街への出発

「あ~、今日は疲れたね」

「そうだな…疲れたな…」

「キバットはずっと喧嘩してたからね」

「うるせい」

キャッスルドランから降りるまでキバットとルイズは口喧嘩をし続けていた。渡はキャッスルドランから一通り自分の荷物を持って来る為に残ったが、ルイズはさっさと行ってしまった。さっそく食堂に次狼達の食事を頼みに行ったらしい。

「もう夜じゃないか。結構時間かかったね」

「ああ、擬態するのに結構かかったな。まったく、周りに大きな建物がないと困りものだ」

「仕方ないよ…あれ?」

「ん、どした?」

「あれ、フレイム君だ」

曲がり角を利用して隠れながらチラチラこちらを見ているのは、今朝会ったメイジ、キュルケ・フォン・ツェルプストーの使い魔、火竜山脈を根城とする火蜥蜴(サラマンダー)の『フレイム』だった。

まだ渡の事を怖がっているみたいで、こちらに近づいてこない。

「まったく、使い魔達は渡の本質を見抜いているのにここのメイジどもは現実みるをまで動きもしなかったな」

「まあ、仕方ないよ。ねぇフレイム君。僕の言ってる事わかる?」

『……キュルゥ』

と頷く。

「よかった。大丈夫。僕は何もしないよ。信じて」

そういうとフレイムは恐る恐る渡に近づいてきた。

そして渡はフレイムの頭に手を載せて、

「よろしくね」

『キュル♪』

と一瞬笑顔を見せる。するとフレイムは…

『キュルルゥ』

「え?ツェルプストーさんが僕を?」

「おいおい、渡、コイツの言ってる事わかるの?」

「うん、僕も一応『使い魔』だからかな。なんとなくね」

「で、なんて?」

「うん、ツェルプストーさんが僕に何か用があるみたいなんだ」

「おお、あのグラマラスなネーチャンが!渡とっとと行って来い!紳士は女性を待たせるもんじゃないぞ」

「う~ん、なんだろう」

『キュルゥ…』

「うん、いいよ。じゃあ、キバット。ルイズちゃんに少し遅れるって言っておいて」

「アイアイサー。渡、ファイト!」



「こんばんわ。僕に何か用ですか?」

「扉を閉めて?」

 暗がりから、キュルケの声がした。渡は素直にドアを閉める。

「ようこそ、こちらにいらして」

「ちょっと暗くて、どこにいるのかわからないんだけど?」

すると指を弾く音が聞こえた。すると、部屋に立てられた蝋燭に一つずつ火が灯り、部屋が明るくなる。室内は淡い灯の光によって、幻想的で、どこか妖艶な雰囲気を醸し出す。

そして、部屋の奥を見ると、キュルケは誘惑する為の下着のみを身につけた姿でベッドに足を組んで座っていた。

「そんなに離れてたら、ちゃんとお話出来ないわ。もっとこちらにいらして」

「その格好…風引くよ?」

渡は動じず、そう答える。キュルケは少し顔をひくつかせて

「座って?」

 キュルケは自分のすぐ隣を進めると、渡は普通に近づいてきて座った。

「ところで、僕に何の用ですか?」

この自分のプロポーションとこの姿を見せてるのにまったく動揺もしない渡に少しキュルケのプライドが傷つく。

しかし、それにめげずに燃えるような赤い髪を優雅にかきあげ、キュルケは渡を見つめ、大きく溜め息を吐き、悩ましげに首を振った。

「あなたは、あたしをはしたない女だと思うでしょうね」

「……?」

キュルケは声色を変え、誘惑の言葉を吐く。。

「思われても、しかたがないの。わかる? あたしの二つ名は『微熱』」

「…?」

ピト…

「…あの~、なにしてるの?」

急に自分の額に手を当てた渡にキュルケは驚きながら聞く。

「え?だって微熱って…そんなかっこうするからだよ」

渡はキュルケの体を持ち上げた。




「このバカ蝙蝠!何で止めないのよ!よりにもよってキュルケの部屋に!」

「ふっ、それは男と女の問題だ。お子様にはまだはや…」

「うるさい!こんのヘンテ蝙蝠!ああ最悪!よりにもよってキュルケなんて!」

「なあ、なんでそう毛嫌いしてるんだ?」

「…因縁があるのよ。あいつの家とは」

ルイズは実に情感が溢れた言葉を出す。

「因縁とは、穏やかじゃねーな…どんなだ?」

まさか昔から殺し合いの決闘や戦争をしているのだろうか?

「一言には言えないわね。何せ、隣国ゲルマニアとの境界にあるヴァリエール家にとって、領地を隣接させるツェルプストーの家は。父祖伝来よりの領土争いの相手だもの…」

そこで言葉を区切るルイズ。怒りを露わにし、憤激に彩られた口調でその後を続ける。

「…寝盗られているのよ。好きになった人とか、恋仲だった相手とか、婚約者とかを」

「……そりゃ深刻だ」

(…ああ、渡が取られないかと心配なんだな)

そうしてキュルケの部屋の前に到着すると…

「すいません。ツェルプストーさんは体調が悪いみたいなんで今日は無理です」

「き、君は昼の…!おい、なんでキュルケの…」

「お引き取りください」

渡はキュルケの部屋の前で男と話し、完全に拒絶すると、一方的にキュルケの部屋に入ってしまった。

「…!?」

「あ~、やるな渡」

ゴンッ!べチャッ!

地面に叩きつけられるキバット。

「いくわよ!キバット!」

「へ、へい」

ルイズはキュルケの部屋の前まで走り、

ドゲシッ!

「ギャンッ!」

項垂れてた男を蹴飛ばして、

ドバンッ!

「ちょっとツェルプストー!人の使い魔にな…にやって?」

部屋の中の光景をみて、ルイズは声のトーンを落としていった。

「あれ?ルイズちゃんとキバットもきたんだ。ダメだよ。扉は静かに開けなきゃ」

「あの~、渡。なにしてんだ?」

部屋の光景は…ベットで寝ているキュルケの姿だった。しかし、頭に濡れタオルを載せている。

その横で椅子に座った渡が林檎をナイフで剥いていた。

「なにって、看病だよ。どうりでフレイム君が僕を呼んだかわかったよ」

『看病?』

ルイズとキバットは同時に喋る。

「うん、微熱があるんだって。ツェルプストーさんが林檎を食べたら僕も一度部屋に戻るよ。はい、ツェルプストーさん。あ~ん」

ルイズとキバットは流石に呆れかえって、呆然としている。

その間に渡はキュルケに林檎を食べさせた。


(な、何なのよ、この男)

自分に林檎を食べさせている男を睨む。

(私がこんなにまでしてるのに鈍すぎるったりゃありゃしない!)

最後の林檎が口に入るとそれを噛み砕く。

(まったく、とんだ的外れだったわ…ちょっと、戦い方が派手だっただけね。まったくなんでこんな男に少しでも『恋』を感じたのかしら)

「ツェルプストーさん、大丈夫?」

「あっ、ええ。大丈夫よ」

「そう?」

ピトッ

『!?』

当のキュルケも、ルイズとキバットも停止する。

渡が自分の額とキュルケの額をくっつけたのだ。

「うん…」

渡は心底安心したような顔をして

「もう大丈夫だよ」

『本当の優しさ』を含んだ、優しい笑顔を見せた。


キュンッ


「え、え、え、ちょっ、」

(い、今の何!?)

かつて何人もの男と交わったことがある。誰もが自分を求めて、誰もが自分に満足した。

しかし、こんな優しい顔をしてくれた男は…

「今夜はゆっくり寝てね。明日の朝、また様子見にくるから」

「う、…うん」

「さ、寝るのに邪魔になるから行こ、ルイズちゃん、キバット」

「わ、わかったわ」

「じゃっ、ツェルプストーさん。おやすみなさい」

「お、おやすみなさい」

と二人と一匹はキュルケの部屋を出て行った。

部屋に一人残ったキュルケ自身はただ事ではなかった。

「え、え、ちょ、ちょっと待って。ナンなのこれ。これ…なんなの!?」

渡の顔を思い出すと、胸がカーって熱くなり、顔が真っ赤になる。

微熱なんてものじゃない。まるで灼熱だ。

「まっ、まさか私…え、ええっ!」

物凄い衝動が襲う。

彼の傍にいたい。彼を独り占めしたい。彼に自分を独占されたい。そして何より…彼に笑って欲しい。

その衝動は今まで感じたことがない、がそれが何なのかは知っていた。それは…

「こ、これが…『恋』!?」



「ツェルプストーさん、大丈夫かな?元気になるといいんだけど」

「アンタ本当に看病してたの?」

「うん。だって微熱があるっていってたから。風邪は引き始めが怖いんだよ」

「………」

「…俺の教育、間違ったか。許せ真夜」

「?」

ルイズは安堵と呆れの溜息を吐いてから渡に声をかけた。

「明日街に行くわよ」

「街に?何しに?」

「あんたの買い物よ。ほら、アンタも色々揃えなきゃいけないでしょ」

「ああ、そうか。うん、色々欲しいな。こっちの服とか」

「感謝しなさい。私がお金出してあげるんだから」

「うん、ありがとう」

と、渡は満面の笑みを浮かべる。

「うっ…」

「どうしたの?」

「な、なんでもない!」

(アレは使い魔アレは使い魔…)

そうココロの中で唱えながらルイズは寝る準備を始めた。



「まったく、ワタルったら何してるのかしら」

今日は虚無の日。それを利用して街に行くという予定を立てた。

しかし、今朝方…

「え、馬でいくの?」

「何いってんのよ。当たり前でしょ」

「僕、馬に乗った事ないよ」

「えっ、そうなの?」

「うん」

「困ったわね。どうしよう」

「あっ、それじゃあ、僕が乗り物を出すよ」

「乗り物…まさか、キャッスルドラン」

すぐに竜の城の名前が浮かぶ。

「ううん。キャッスルドランだと大騒ぎになっちゃうから、もっと小さいの。そうだ、先に行ってて」

コレが今朝の会話。

「まったく乗り物ってナンなのかしら…うん?」

ブォォォォォォォ…

妙な音が聞こえる。聞いたことも無い音だ。ルイズが音がする方に振り向くと

「なっ!?」

「お待たせルイズちゃん」

「待たせたな!」

なんと鋼鉄の塊が走ってきて、自分の前に止まった。そしてそれに乗って赤い兜かぶっていたのは渡だった。

「な、何これ!?」

「ん?バイク。『マシンキバー』っていうんだ」

「て、鉄の馬…」

「そう!キバット族の工芸の匠・モトバット16世の手による、最強の鉄馬!ふふん!驚いたか!」

「こ、これもしかして、ガーゴイルみたいなものなの?」

「ああ、馬の脳を使ってるから自立行動はできるし、燃料もガソリンじゃなくて自然エネルギーを変換しているからこの世界でも動くから助かったぜ」

「でも、ガソリンでも動くからね」

「ふ~ん、鉄の馬が動くなんて凄いわね」

「ほら乗って。あっ、はいヘルメット」

「何で兜をかぶるの?」

「もし扱けたら危ないから。ちゃんとかぶってね」

「む~、かぶらなきゃダメ?」

「ダメ」

ルイズは渋々とハーフヘルメットをかぶる。

「あっ、ちょっと待って」

「え?」

パチンっ

ヘルメットのベルトを止め具に嵌める。

「はい、コレで大丈夫だよ」

「あ、ありがと」

「じゃあ、いくよ」

ブロロロロロロ~!

「わ、す、すごいすごい!きゃ~、はやい」

「気に入ってもらえて何よりだよ」

渡はスピードを上げた。



[5505] 第7話/剣との出会い、風のデットスピード
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/06/29 11:05
第7話/剣との出会い、風のデットスピード

渡がキャッスルドランにマシンキバーを取りにいき、ルイズが待ち合わせ場所で待っている時、キュルケはルイズの部屋に立っていた。

「…きちゃった」

昨日の夜は結局眠れなかった。あの渡の笑った顔を忘れられなかったのだ。

朝になってようやく『これは滅多に無い笑顔を見たからちょっとうろたえている』という事でなんとか落ち着かせたが、



コンコン

「はい、誰…」

「あっ、ツェルプストーさん?僕です、ワタル・クレナイです」

「えぇ!は、はははははい!?」

突然の訪問者にキュルケは驚く。

「入ってもいいかな?」

「ど、どどどどどうぞ!」

完全にどもりながら渡を部屋に入れる。

「どう、昨日は眠れた?」

「え、ええ」

嘘だ。実は一睡もしていない。

(ダメ、なんでドキドキするのよ。そうよ!こんな男にドキドキする必要ないのよ)

「で、何しにいらしたのかしら?」

落ち着いた口調(何とか出せた)でキュルケは渡に問う。

「えっ、昨日言わなかったっけ。様子見に来るって?迷惑だった?」

「そ、そんなこと無いわ!」

「そう、じゃあ…」

ピト…

「!!!!!!!??????」

昨日のようにおでこをくっ付けて熱を測る渡。

「うん、少し熱いけど、熱は無いみたいだ」

「ちょ、ちょちょちょ…」

「うん、もうあんなカッコで寝ちゃダメだよ。でも、」

ここで再び昨日と同じ笑顔。

「すぐに治って良かった」

ぼしゅぅっ!

「じゃっ、僕はいくね。ぶり返さないように気をつけて」

と渡はキュルケの部屋を出て行った。



「こ、こんな時どうしたらいいのかしら」

もう認めるしかない。自分はあの男に『恋』をしている。

なんてことだろう。今までいろんな男との『恋』がちっぽけに見えてきた。

これが真実の『恋』なのか、ただの大恋愛の『恋』なのかはしらない。

でも、『恋』がここまで凄いものだとは知らなかった。

「ああっ、どうすればいいの…」

いつもなら扉を開けた瞬間、ワタルだったら、抱きついてキスとでも考えていただろう。

でも、そんなことできない。というか、今までどうやってしていたのだ。

ただ、今思うのは

「会いたい…」

そう、『ただ会いたいだけ』だ。それがコレほどまで難しいとは…!

キュルケは思考を働かせ、結局『昨日の看病のお礼をしにきた』という当たり障りの無いものを選んだ。

コンコンコンッ…

勇気を出して、ノックを三回…いつまで経っても中から返事が来なかった。

キュルケは、躊躇いなくキュルケは、躊躇いなくドアに『アンロック』の魔法をかけた。軽く音がして、鍵が開く。

「…なんだ、出かけてるんだ」

溜息を吐きながら、今の自分の状態に気付く。

「わ、私ただ会えなかっただけなのに、どうしてこんな溜息吐くの!?」

あまりにも自分らしくいない行動にその場で頭を抱える。

ブロロロロロ~!

「ん?」

キュルケは窓を覗く。

「にゃっ!?」

すると渡が妙な鉄の塊に乗って、楽しそうに(キュルケにはそう見える)話し、自分の持っていた兜をルイズに被せ、信じられないスピードで学園を出て行った。

「…ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエェェルゥゥ…ハッ!?」

キュルケは今自分がありえない事を感じた。

自分がルイズに『嫉妬の炎』を燃やしていた事に…

「ふ、ふん。この私があのお子様に嫉妬なんてありえないわ。そうよ、この私でもダメだったのに、彼がルイズなんかになびくはずはないわ。そういえばアッチは城下町の方ね」

誰もいないのに余裕を見せて、キュルケはルイズの部屋から出た。




タバサは一人、部屋で読書に勤しんでいた。静かに本を読みながら、日がな一日静寂に包まれているのが、彼女の至高の休日の過ごし方だ。

ドンドンドンドンッ!!!

突然に激しくノックに、その休日が破られる。

「………」

彼女は無言で、脇に立てかけておいた杖を取り、消音の魔法『サイレント』の呪文を唱える。すると室内の音が消え、静寂が戻る。彼女は満足して、本に目を戻した。

しかし、ドアが勢い良く(無音)開き、一人の女性が飛び込んでくる。タバサの数少ない友人のキュルケだ。

キュルケはタバサに何かを必死に訴えているが、『サイレント』の効果がある為、全く聞こえない…が、いつもと様子の違うキュルケを見て、タバサは『サイレント』を解く。

「タバサっ!今から出かけるわよ!すぐに支度をして!」

「虚無の曜日」

表情をまったく変えずにそういうタバサに、キュルケは口を尖らせる。

「わかってる。あなたにとって虚無の曜日がどんな日だか、あたしは痛いほどよく知ってるわよ。でも、今はそんなこと言ってられないの。恋なのよ! 恋! あたしね、恋をしたの! でもいつものちっぽっけな恋…いや、もうあんなもの『恋』なんて呼べないわ!私ね、生まれて初めて!『恋』をしたの!」

タバサは首を少しかしげる。いつもあんなに恋を語っていたのに、それを全部否定するなんて、キュルケの言葉とは思えなかった。

「でも、その人が今日、あのにっくいヴァリエールと出かけたの!城下町の方に!あたしはそれを追って、何しに行くのか突き止めなくちゃいけないの!わかるでしょ?」

物凄い形相のキュルケに対して、タバサは首を横に振る。

「そうね。あなたは説明しないと動かないのよね。出かけたのよ!多分彼のだと思うんだけど、妙な鉄の馬に乗って!しかもありえない速度で!あなたの使い魔じゃないと追いつかないのよ!ねえ助けて!」

キュルケはタバサに泣きつく。タバサは、そこまで説明されて、読んでいた本を閉じる。

「その人って、あの『竜の王』?」

あのギーシュとの戦いの後、生徒達は渡の事を『竜の王』と呼んでいる。

あのキャッスルドランを従える彼の姿を見て、誰もが『王』を意識し、噂が一人歩きし始めている。

「そう!あの『竜の王』!」

「わかった…」

「ホント!ありがとう!じゃ、追いかけてくれるのね!」

タバサは窓を開け、口笛を吹く。すると、青空の向こうから、翼を羽ばたかせて彼女の使い魔、風竜のシルフィードが飛んできた。

シルフィードの背に乗り、キュルケとタバサは魔法学院の外に出た。

「いつ見ても、あなたのシルフィードは惚れ惚れするわね」

キュルケはシルフィードの背に乗りながら、感嘆の声を上げる。シルフィードは、二人を乗せると上空に抜ける上昇気流を器用に捕らえ、あっという間に二百メイルの上空に駆け上った。

「城下町の方?」

タバサに方向を尋ねられ、キュルケは一番肝心なことを失念していたことを思い出し、引きつった笑みを浮かべる。

「そう、妙な鉄の馬に二人で乗って!」

 タバサは別に文句を言うこともなく、自分の使い魔に命じる。

「鉄の馬。二人乗ってる」

 シルフィードは「きゅい?」と短く鳴いて了解の意を示す。そして、その優れた視力で周囲を見渡し、城下町に進路を向けた。

(『竜の王』…)

タバサは彼の事で口を少し強めた。



トリステインの城下町…マシンキバーを町の外れに止めて、渡達は並んで歩いていた。

ここは『ブルドンネ街』と呼ばれるトリステインで最も大きな通りである。

白石造りの街の通りは大勢の人で賑わっていた。

果実や肉、籠などを売る商人達の姿があり、露店などで溢れている。

渡は現代日本の街並みしかしらないので、新鮮な気分で街を見ていた。

そして、時折ルイズが目に付いた店に入り、彼女の買い物に付き合っていた。

「渡。次行くわよ」

「あっ、待ってよ」

渡はルイズを追いかける。

「財布、大丈夫でしょうね? スリが多いから気をつけてよ?」

「ちゃんと持っている。でも、僕に財布を持たせなくても」

「だって重いもん」

「ルイズ!さっきから俺と渡に荷物持たせといて自分はそれか!第一こんな重い財布がそうそう簡単にスられるか!」

「魔法を使われたら、一発よ」

「え?貴族が泥棒するの?」

「貴族は全員がメイジだけど、メイジの全てが貴族ってわけじゃないわ。いろんな事情で、勘当されたり家を捨てたりした貴族の次男坊や三男坊なんかが、身をやつして傭兵になったり犯罪者になったりすることもあるのよ」

「……没落貴族、って奴だな」

「ふ~ん。ところでルイズちゃん。買い物はまだあるの?」

「うーんと…次で終わりよ」

「……」


「ここって?」

「ん?武器屋よ」

渡は元いた世界には無い店『武器屋』に中をキョロキョロ見回す。

「何で武器屋に?」

「だって、せっかくあんな姿になれるんだから剣を持った方がもっと強くなれるでしょ」

「僕、剣持って…」

「まあ、いいじゃねえか。こっちの世界の剣も見ておきたいし。まあ、『あの剣』よりいいのはないだろうが…」

「何か言った?」

『いえいえ』

渡とキバットは同時に首を振る。

渡達が武器屋に入ると、店主が話しかけてくる。

「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をちけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」

「客よ」

ルイズは腕を組んで言った。

「こりゃおったまげた。貴族が剣を!おったまげた!」

「どうして?」

「いえ、若奥様方。坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーからお手をおふりになる。と相場はきまっておりますんで」

「使うのは私じゃないわ。使い魔よ」

「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣をふるようで」

主人は、商売っ気たっぷりにお愛想を言った。

それから、渡に視線を向けて、じろじろと眺めた。

「剣をお使いになるのは、この方で?」

主人は、剣を使う人物を言い当てた。

「私は、剣のことなんかわからないから。適当に選んで頂戴」

主人はいそいそと奥の倉庫に消えた。彼は聞こえないように呟いた。

「…こりゃ、鴨がネギしょってやってきたわい。せいぜい、高く売りつけるとしよう」

店主は1メイルほどの長さの、細身の剣を持って現れた。

「そういや、昨今は宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たすのがはやっておりましてね。その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」

「貴族の間で、下僕に剣を持たすのがはやってる?」

ルイズが尋ね、主人はもっともらしく頷いた。

「へえ、なんでも、最近このトリステインの城下町を、盗賊が荒らしておりまして…」

「盗賊?」

「そうでさ。なんでも、『土くれ』のフーケとかいう、メイジの盗賊が、貴族のお宝を散々盗みまくってるって噂で。貴族の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせる始末で。へえ」

ルイズは盗賊には興味がなかったので、じろじろと剣を眺めた。

しかし、すぐに折れてしまいそうなほどに細い。

変身した渡はギーシュのワルキューレを素手で砕いていた。渡の力で振るったらすぐに折れてしまいそうだ。

「もっと大きくて太いのがいいわ」

「お言葉ですが、剣と人には相性ってもんがございます。男と女のように。見たところ、若奥様の使い魔とやらには、この程度が無難なようで」

「渡…変身しなさい」

「ええ!?こんなことで…」

流石に渡は呆れた声を出す。

「ええい!ご主人様のいう事が聞けないの!?」

「ま、待って!それなら…」

渡は近くにあった、大きなウォーアックスを手に持ち、

「ほら、これでどう?」

ビュンビュン

『………』

ルイズと店主は口をあんぐりとあける。

渡は確かに細腕だが、度重なる戦いのお陰で、生身でも最強種族であった者達とそこそこ戦える。

力も見た目より遥かについていた。

「み、見たでしょ。ほら、持ってきなさい!」

「へ、へい!」

今度は立派な剣を油布で拭きながら、主人は現れた。

「これなんかいかがです?」

見た目は見事な剣だった。1.5メイルはあろうかという大剣だった。

柄は両手で扱えるように長く、立派な拵えである。

ところどころに宝石が散りばめられ、鏡のように諸刃の剣が光っている。

見るからに切れそうな、頑丈そうな剣であった。

「店一番の業物でさ。貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げて欲しいものですな。と言っても、こいつを腰から下げるのはよほどの大男でないと無理ですが、旦那なら大丈夫でしょう」

渡も近寄って、その剣を見つめた。

「キンキラのピカピカだね」

「すばらしい剣だわ」

ルイズも満足しているみたいだ。だが、

「ダメだ!こんなものダメ!」

キバットが猛烈に反対した。

「え?」

「なんでよ!いいじゃないこの剣」

店主も誇るように話し出す。

「コイツを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿で。魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。ごらんなさい、ここにその名が刻まれているでしょう?」

「どこのドイツが造った剣だかしらねーが鈍じゃねぇか!見てみろこんなにゴテゴテ彩色しやがって!これじゃあ戦いに邪魔なだけだ!」

「な、この蝙蝠!いちゃもんつけ…」

「渡ちょっと手に持って感じてみろ!」

「う、うん」

渡は剣を手に持ってみる。

「?」

そしてルイズ達から少し離れて、二、三度振ってみた…

「…うん、なんかダメだ。よくわからないけど、ダメだよコレ」

「わ、渡まで!?」

『おでれーた、おでれーた。小僧と蝙蝠!おめーら、見る目あるな』

いきなり男の低い声がして、店主は頭を抱えた。

渡達は声がした方に顔を向けるが、そこには乱雑に剣が積み上げられているだけだ。

『ここだ、ここ』

その声は剣の中から聞こえた。

渡は一本の剣を取り出した。

「剣が喋ってる?」

「それって、インテリジェンスソード?」

そう言ったのはルイズ。

持ち上げてみると、ちょっと重い。

「やいデル公!商売の邪魔すんじゃねえ!」

店主が剣に向かって怒鳴る。

『けけけ…商売の邪魔って、この小僧と蝙蝠はそのなまくらを見破ってたじゃねえか…ほ~う。小僧、おめ、何度も修羅場を潜って来たみてえだな。感じるぜ』

「渡、ちょっとそいつ振ってみろ」

「うん」

渡はその『剣』を振るう。『魔剣』を振る要領で振ってみると、コレが結構しっくりきた。

「…ルイズちゃん。僕、その剣よりこっちの方がいい」

「え~~?! そんなのを買うの? 買うならもっと綺麗でしゃべらないのにしなさいよ」

「いいじゃねぇか。使いのは渡なんだし」

渡達が話していると、

『おい、蝙蝠。おめぇ、どっかで会った事ネーか?』

「うん?会った事無いけど?」

『…そうか』

「しょうがないわね…あれ、おいくら?」

渋々ながら、ルイズは店主に値段を聞く。

「へ、へえ…まあ、あれなら、エキュー金貨で六十、新金貨なら九十で結構でさ」

「随分安いじゃない」

「こっちとしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ」

ルイズは渡から財布を受け取ると、中身をカウンターの上にぶちまけた。店主は慎重に金貨の枚数を確かめ、頷く。

そして、剣を鞘に収めると渡に手渡した。

「毎度。どうしても煩いと思ったら、こうやって鞘に入れれば大人しくなりまさあ」

「ありがとうございます」

渡は頷いて、剣を受け取る。すると、早速剣が喋り出した。

『よろしくな、相棒。俺は『デルフリンガー』だ』

「僕はワタル、ワタル・クレナイ。よろしく、デルフリンガー」

「俺はキバットバット三世!気軽に『センパイ』でいいぜ!」

こうして、渡は正確ではないかもしれないが自身にしては『三本目の剣』を手に入れ、二人は店を出た。


武器屋から出てきた二人を、二つの影が隠れて見ていた。

それは、後を追ってきたキュルケとタバサの二人であった。

路地の陰で、タバサはちらっと渡の姿を見た後、警戒の目を強める。

キュルケはというと、渡が腰にさげていた剣を見て唇をギリギリと噛んでいる。

「ゼロのルイズったら…剣なんか買ってあの人の気を引こうとしちゃって…!あたしが狙ってるってわかったら、早速プレゼント攻撃?なんなのよ~~~ッ!」

キュルケは地団駄を踏んだ。ハッキリ言って勘違いだが、ルイズがワタルに贈り物をしたと思った様だ。

そして、二人の姿が見えなくなると、自分も負けじと武器屋に足を踏み入れた。

「おや! 今日はどうかしてる! また貴族だ!」

「ねえご主人?今の貴族が、何を買っていったかご存知?」

「へ、へえ。剣でさ」

だらしのない顔で店主が答える。

「どんな剣を買っていったの?」

「へえ、ボロボロの大剣を一振り」

店主の言葉に、キュルケは怪訝な表情を浮かべる。

「ボロボロ?どうして?」

「さあ?お供の旦那が、何故かえらく気に入ったようで。へえ」

店主も訳が分からないという表情を浮かべて説明する。普通、見栄えなどを気にする貴族や騎士が、ボロボロの剣を気に入るなど、まずあり得ないことだ。

それは、トリステインもゲルマニアも大差ない。キュルケも同様の表情で考え込んだが、渡がルイズに遠慮したんだろうと考えた。

(ああ、なんて奥ゆかしい人なの。優しいだけじゃないのね。はっ!これはチャンス!)

「若奥様も、剣をお買い求めで?」

キュルケはニヤリと笑った。

…数分後、ご機嫌な顔で先程の渡達が見た剣を持ってキュルケは武器屋から出てきた。

「さぁ、追いかけるわよタバサ!」

「わかった」



「ねぇ、ホントにその剣でよかったの?」

「うん、結構使いやすいし、喋る剣なんて僕の世界じゃなかったか新鮮で結構いいよ」

「ふぅん。でもスゴイわねこの鉄の馬。『ばいく』っていうんだっけ?」

『おれっちも初めて乗るぜ』

「うん、本当はガソリンで動くんだ」

「がそりん?なにそれ?」

「ゴホン、ガソリンってのは石油製品のひとつである。沸点が摂氏30度から220度の範囲にある石油製品の総称であり、この名称は、gas(ガス)とアルコールやフェノール類の接尾辞であるolと不飽和炭化水素の接尾辞であるineに由来する。米国では、ガス(gas)と呼ばれることが多く、ガス欠という用語はこれに由来する。日本語では揮発油(きはつゆ)という」

「ふ~ん、つまり油?」

「まあ、ちょっと違うけどそうかな」

「油入れると動くの?」

「無理無理。油は油でも、それを精製するのはこの世界じゃ無理だ」

そんな事を喋りながら渡達が帰路についていると、空からなにか妙な音がした。

「ん?アレって…」

「んあ?教室にいた竜じゃないのか?」

「…タバサの使い魔、風竜のシルフィードね。今回呼び出された使い魔の中でもぶっちぎりトップの使い魔よ」

「すごいんだ」

「おいおい、今回のトップはどう考えても渡だろ」

「タバサも街で買い物していたのかし…」

「ルイズちゃん!捕まって!」

「へっ…ひゃおぁっ!」

ガクン!ドガンッ!

「な、なななななんなの!」

「多分」

ドガンッ!

「あの竜からの」

ドガンッ!

「攻撃だとおもう」

ドガンッ!

渡は空から飛来する攻撃を直感で感じ、かわしていく。

「ありゃあ風を固まりにして撃ちだしてんな。おいルイズ、お前タバサちゃんに何かした?」

「何もしてないわよ!ってなんであんたタバサのこと知ってんのよ!」

「ふふん、俺のチェックは完璧だぜ。あれほどの美少女見逃すわけ無いだろ」

「原因はあんたじゃないのっ!?」

「失礼な!まだ食事にも誘ってない!」

ドガンッ!

そして更なる一撃もマシンキバーはかわした。



「ちょっとタバサ!なんであの人を攻撃するのよ」

「………」

「タバサ!」

「あれは…危険」

「え?」

タバサは普段ださない雰囲気を出して

「あれは…危険」

そして何度目かの『エア・ハンマー』を打ち出した。


「ど、どうするのよ!?」

「どうしようか?」

「何とかしなさいよ!」

渡は再びタバサの『エア・ハンマー』をかわす。

「おい、渡。学園に着いちまえば、タバサちゃんも攻撃できないんじゃないのか?学園で騒ぐのはまずいだろうし」

「でも、タバサのシルフィードの方が速いわよ!何回か追い抜かれたじゃない」

そう、シルフィードは何度かマシンキバーを追い抜かし、旋回している。

「それなら、追いつけないくらいのスピードを出して学園へ帰ろう。そのタバサちゃんって子が、なんで攻撃してきたのかは学園できけばいいしね」

「どうやって風竜以上のスピード出すのよ!風竜は軍でも使われるほどなのよ!」

「大丈夫、キバット!」

「おう!キバッていくぜ!」

ガブッ!

渡の全身から魔皇力が迸り、腰にカテナが巻きつきキバットベルトが出現する!

「変身ッ!」

渡がキバットをキバットベルトに吊るすと、渡はキバに変身した。ルイズは変身に驚いたが、バランスは崩していない。

キバはキバットベルトの右側のフエッスロットからフエッスルを一つ取り出し、キバットに咥えさせる。

「見てなルイズ。スゴイのが来るぜ!『BUROON BOOSTER』!」

依然とは別の音色が辺りに木霊した。



~キャッスルドラン内~

「シエスタの持ってきたクッキー、おいしい~」

「うま、い」

「まだありますからね。力様、そんなにがっつかれては服についちゃいますよ。ラモン様、ほっぺについてます」

今の三人はコーヒーブレイク&ティータイムの途中である。

ラモンと力はシエスタの持ってきたクッキーにご満悦だ。

「今日も満点だ。うまいぞ」

「ありがとうございます」

次狼もシエスタの珈琲にご満悦の様子だ。


…ゴオン…ゴオン…ゴオン…


「…何の音でしょう?」

「ああ、ブロンだ」

「ぶろん、ですか?」

「後で見てみる?黄金のゴーレムだよ」

「お、黄金でゴーレムを!?渡様って本当にお金持ちなんですね」

「シエスタ」

「あっ、はい。おかわりですね。お待ちください」

今日のキャッスルドランは平和だった。




「…ん?タバサ、あれ何?」

「え…!?」

なんと何かが超高速で突進してくる!

「シルフィード!回避!」

「きゅい!」

その物体は凄まじいスピードだったが難なくかわした。どうやら攻撃が目的ではなかったみたいだ。その物体は…

「お、黄金の…ゴーレム…」

「…!?」



「な、何よコレ…ゴーレム…?」

『なんって豪勢なんだ。こりゃあ黄金だぜ』

ルイズが呆気に取られていると、黄金のゴーレム…魔像ブロンは二つに割れ…


ドガァァァァァァンッ!


マシンキバーと合体した。

「く、くっついた…?へっ?きゃっ!」

突然、ブロンの形態が変わり、まるでルイズを保護するかの用に包み込む。本来、『クイーン』を守るための装置だ。内部は見た目に比べて快適に造られている。

「いくよ!」

「おう!」

『フルスロットル!』

ブォンッ!

キバは思いっきりアクセルを廻す。

先程とは比べ物にならないくらいにスピードが加速していく。

「タバサちゃん、また後でね~」

定置最高速度1550kmを誇るスピードにシルフィードはあっという間に追いつけなくなる。信じられないスピードで走り、途中の岩などを砕くキバ達を、タバサとキュルケは呆然と見ていた。



「おかえり、二人とも」

「ちょっと!なんでさっき攻撃してきたのよ!?」

キュルケとタバサが学園の上空に到着すると、下に渡とルイズが見えた。

キュルケの言葉もあって、タバサはシルフィードを下降させて、地面に降りた。

「キュルケ!もしかして昨日振られた腹いせなの!?」

「そ、そんなわけ、そんなわけないじゃない!あれはタバサが…」

「タバサちゃん」

「………」

渡は少し屈んで、タバサに話しかける?

「どうして僕を攻撃したの?」

「…あなたが、危険だから」

「僕が?」

「そう…」

「ちょっと人の使い魔に何言ってるのよ!それに今日のあんたの行動の方が…」

「まあまあ、ルイズちゃん」

渡はルイズを宥めて、再びタバサと向き合う。

「ねぇ、今度からルイズが離れている時に攻撃してきてくれないかな」

『え?』

その言葉に三人は驚く。

「ルイズちゃんが怪我するといけないから、お願い」

「…私、あなたを攻撃した」

「僕が危険だと思ったのは仕方ないよ。でも、ルイズちゃんは大丈夫。全然危険じゃないから」

「危険だろ渡」

それを聞いて渡は苦笑いをし、ルイズが怒り狂う。

「それと…もっと自分を大切にして」

「な、なにを…」

「そんな悲しい『音楽』を奏で続けないで。ココロまで悲しくしちゃダメだ」

「!?」

(この男、やっぱり…!)

その言葉を聞いた瞬間、タバサは意味を解したらしく、渡にあからさまな敵意を向けて、その場を去っていった。

「ちょ、ちょっとタバサ」

「ツェルプストーさん」

「あ、は、はい」

「タバサちゃんを怒らないであげてね」

「え?」

「ちょっと怒ってるみたいだったから。僕は大丈夫だからね」

「わ、わかったわ」

とキュルケはタバサを追いかけていった。

「ちょっと、勝手に帰さないでよ!」

「まあ、渡が良いって言ったんだしいいじゃないか。ルイズもそうカッカすんなって」

「う~!」

「さっ、部屋に戻って買ったモノを片付けよう。終ったら丁度ご飯時だよ」

と、渡は荷物を持って、部屋に向かう。それをルイズは『ご主人様を置いて行くな~!』といいながら渡を追いかけた。



[5505] 外伝 第2話/三魔騎士、大暴れ
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2010/01/12 10:46
外伝 第2話/三魔騎士、大暴れ



チェス盤の上に載っている駒が動き、狼のような口を開け、目の前にある駒に齧り付き、飲み込む。

「やった!僕の勝ち!」

「むっ!」

「また、負、けた」

「二人とも頭脳プレーがなってないよ」

三人はいつも通りゲームを興じて、時間を潰している。

今回のチェスの勝利者は、幼い顔をしているが、3人の中でも一番の頭脳派のラモンだ。

こういったゲームでは二人はなかなかラモンには勝てない。

「そろそろだな」

「うん、シエスタがそろそろご飯持って来る時間だね」

三人は別の小さなテーブルの上に置いてある、箱を見る。

「気に、入ると、いいな」

「でもいいのかな?キャッスルドランの宝物庫から勝手に持ち出して」

そう、実はキャッスルドランにも宝物庫があり、その中には美術品・宝石・金塊・魔宝具・高額紙幣が詰まっている。

そのどれもが売れば一財産になるモノばかりだ。

これが渡とキバットがずっと暮らしていけた理由でもあった。

なんでも母のヘソクリだったそうだ。

「渡の許可は貰っている。どうせ放りっ放しのまんまだ。今度街に買い物に行く時に宝物庫のモノを2、3個売ろう。そこそこの金にはなるだろ」

完璧にキャッスルドランの宝物庫のモノを私物化している三人はそろそろ食事を配膳するシエスタを待っている。

ガチャッ…

「あ、シエスタ。いら…あれ?」

「あの、ジロウ様、リキ様、ラモン様のお部屋はこちらでよろしいでしょうか?」

やってきたのはシエスタではなく、知らないメイドだった。

腕にはなんとシエスタに渡した鍵代わりの腕輪をつけている。

「…シエスタはどうした」

次狼がメイドに尋ねる。

その威圧的な視線にメイドはビクッとなる。

「あ、あの私今日からシエスタの変わりに…」

「シエスタはどうしたの」

「で、ですから…」

「シエスタ、どう、した」

「あ、あの実は…」

3人の圧倒的な威圧にメイドは耐え切れず、シエスタに口止めされていた事を話し始めた。




コンコンコンコンッ…

「はい、どちら様ですか?」

「ワタル様という方はこちらにいらっしゃいますか?」

「ぼく?どうしたんだろ」

渡は扉を開けてみる。

いたのは一人のメイドさんだった。

「あ、あのワタル様ですか?」

「そうだけど」

「じ、実はジロウ様達からの伝言で『ちょっと出かけてくる』だそうです」

「次狼さん達が?どこにいったのかわかる?」

「じ、実は…」

メイドは次狼達に話した事を渡に話した。

すると渡は珍しく血相を変えて、

「ルイズ!僕も出かけてくる!キバットいくよ!」

「おうよ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!モット伯の屋敷の道わかるの!?」

と渡達も城の外に停めていたマシンキバーで次狼達の目的地へ向かった。





モット領の屋敷の地下に存在する豪奢な浴槽。

平民では決して浸かることが出来ないであろう湯船の中にいながら、しかしシエスタの顔には曇りがあった。

モット伯が自分を屋敷に来るように名指しでしたのか、その理由の検討くらいついている。

そしてこれから、自分が何をすることになるのかも。それを思うと、自然とシエスタの瞳には涙が溢れ、身を閉じる。

平民とは、貴族の下に位置する者だ。平民は貴族に逆らえない。

その真理をシエスタは強く自覚している。

その最大の要因となっているのは、言うまでもなく魔法。

平民は貴族に従う…その認識が、このハルゲギニアでの正しき法だ。

シエスタは湯船から上がり、体を拭いて、モット伯の寝室に向かう。

(そういえば、あの方達はどうしてるかしら…?)

いつも笑顔で迎えてくれる少年。

自分が重い物を運ぶ時にわざわざ手伝ってくれる片言の男性。

少し怖いが、自分の煎れたコーヒーを美味いといってくれる男性。

陽気な蝙蝠さん。

そして彼等がいる部屋の主である笑顔が優しい男性。

(きっと、私の事なんてすぐに忘れる。私なんて、所詮は平民なんだし…)

何も言わなかったが、きっと彼等は貴族なのだろう。

雰囲気が平民なんかとはまったく違った。

(でも…)

いつも自分を気遣ってくれていた。

いつも断っていたが、給金を与えようとしてくれた。

一度だけ私が作った『ヨシェナヴェ』を三人とも『美味い美味い』といって喧嘩になるくらい食べてくれた。

(楽しかったな…)

寝室に入ると、モット伯が待っていた。

自分の体をじっとりと見ながら何か言っている。

シエスタはモット伯に呼ばれ寝台に近づく。

この後、自分が自由の身になっても彼等とは会いたくなかった。

今日、自分はどんな理由であれ汚される。

汚された自分を彼等に見られたくはなかった。

だから自分がいなくなっても大丈夫なように同僚のメイドにメモを渡している。

あの人達が好きなクッキーの焼き方、好きな料理、コーヒーの淹れ方…そして頂いた腕輪も渡している。

そう、彼等の事は忘れるんだ…忘れなきゃ、ツライだけだ…そうシエスタが決心した瞬間…


ドガァァァァァァァァァァッ!


屋敷が地震のように揺れた。






魔法学院から徒歩一時間ほどの距離にあるモット領の屋敷。

二人の門番が退屈そうにしていると、三つの人影が現れた。

徒歩で来ているが、その立派な服装から、門番達はモット伯への客人の貴族だろうと当たりをつけた。

「お停まりください。ここはジュール・ド・モット伯爵の屋敷です。例え貴族の方といえど、無断での立ち入りは認められません」

門番が、近づく三人にそう声をかける。

「モット伯への面会をご希望ですか?これより話を通してまいりますので、失礼ですがお名前を…」

「邪魔だ。退け」


ドガッ!…ドサッ!


と一人の男が近づいてきた門番を蹴り飛ばす。門番はそのまま吹っ飛び、起き上がらない。

「なっ!?貴様なにを…」

「うるさい!」

少年がもう一人の門番を殴る。

信じられないことに体格のいい男が少年のパンチで吹っ飛んだ。

三人は邪魔者がいなくなった事を確認すると、

「リッキー、容赦するな」

「思いっきり、派手にね!?」

「ま、かせ、ろ」

門の前に立った男…力は全身に力を込め、

「うおあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

頭を抱えて叫ぶ!

バチッ!バチチッ!

力の体に紫の電撃が迸る!

バチンッ!

電撃の光が収まった時、恐ろしい異形の存在がいた。

力の姿は深厚な闇の色である暗い紫を纏わせ、人間の何倍もある豪腕はそれだけで力の塊だと認識できる。

リキのこの異形の姿・『ドッガ』…かの名高き『フランケンシュタインの人造人間』を祖とする『フランケン族』最後の一人である。

その力は…

「ふん、がぁぁぁぁぁぁっ!」


ドゴンッ!ドガァァァァァァァァァァッ!


ドッガは力任せに強固な門を殴る。

普通なら何を馬鹿な事を思うが、ドッガの力は尋常なものではなく、吹っ飛んだ門の残骸はそのまま屋敷に直撃した。

「よし」

「ナイス!」

「ふん!」

流石にその轟音に何事かと衛兵達が集まる。

「な、なんだありゃあ!?」

「オーク鬼か!?」

「なんでオーク鬼がこんなところに!?」

数は結構なものだ。

しかし、次狼達は落ち着いている。

「やれやれ、おいラモン。お前シエスタを探しておけ。ここは俺とリッキーで片付ける」

「うん、わかった」

「さあて、殺さないように加減しなきゃな…リッキー、お前は特に気をつけろよ」

「わ、かっている」

突如次狼の体から青い気が噴出す。

「アオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!」

次狼は狼のように吠える。

すると次狼の体が見る見るうちに変わり、青い狼男・ガルルに変体を終えた。

「シャァァァァァッ!」

ガルルは狼男の種族の中で、最も誇り高く、最も戦士として特化していた『ウルフェン族』最後の生き残りであり、種族一の戦士。

ガルルはありえないスピードで衛兵に駆け寄り、次々襲っていく。

二人が衛兵達をなぎ倒してる中、ラモンは屋敷の中に入っていった。





その襲撃は、あまりに突然だった。

魔法学院より気に入った侍女の娘を見繕い、さあお楽しみの時間だと息巻いていた矢先、屋敷が揺れ、モットは窓から門へと目を向けた。

二匹の化け物が衛兵達を次々となぎ倒している。

このままでは屋敷に侵入される。

すぐさま護身用の杖を手にして、モットは寝室より出ようとしたが、


ドンッ!


扉が乱暴に開く。

「見つけた!シエスタ、大丈夫?」

「ラ、ラモン様!?」

「大丈夫?」

「は、はい」

ラモンはモット伯の事を無視してシエスタに声をかける。

「貴様か!?外の化け物を操っているのは!私が誰だか分かっているのか!?トリステイン王宮に仕えるこのジュール・ド・モット伯爵にこのような真似をして、タダで済むと思っているのかっ!!」

「うん」

ラモンは笑って返す。

あまりの簡単な物言いにモット伯は一瞬呆気に取られたが、すぐに我を返して

「ななななんっだと!!このクソガキ!死ね!」

モットが再び杖を振るう。

瞬間、備え付けられていた部屋中の花瓶の水が、まるで意思を得たかのようにうねり、ラモンの身体を飲み込んだ。

「ラモン様!?」

「ハハハァッ!油断したな。私は『波濤』のモット。水のトライアングルメイジだ」

高笑いして、モットは杖を片手に勝利を確信する。

「このまま水圧で、押し潰してくれるわぁ!!私に逆らったことを後…か、い?」

ラモンを包む水の檻に向けて、モット伯の声が落ちていく。

それは信じられない光景をみたからだ。

自分が魔法で操った水は量の割りにかなりの水圧をかけている。

普通なら骨も肉もぐしゃぐしゃになっていく。

なのに…

「わ~、気持ちいい!やっぱ水は良いな~」

ラモンは快適に泳いでいるのだ。

「水を操る勝負だね。負けないぞ~」

『!?』

なんとラモンの姿が変わっていく。

モット伯もシエスタも驚愕する。

今のラモンは緑の化け物・バッシャーとなっていた。

バッシャーは『マーマン族』の生き残り。

マーマン族は『水の支配者』といわれ、水を自在に操った。

バッシャーは簡単に水の中から出てきて、水を一掴みする。

その水は球体となり、そのままモット伯に投げつける。

ドゴッ!

「フゴッ!」

見事、胴体にヒット!

モット伯は吹っ飛ばされる。

そのまま水のコントロールも失い、地面に叩き落ちる。

「もうお終い?」

「な、なめるな!」

モット伯は再び杖を振ろうとしたが、

ぷく~、シュッ!バキッ!

「なっ!?」

「杖がないと何もできないんだよね」

バッシャーはフーセンガムようなもの膨らませ、そのまま炸裂水弾を発射し、杖だけを叩き折った。

「ここか!匂いがする!」

入口からいきなりガルルが現れ、


ドゴォォォンッ!


「シエ、スタ~!」

分厚い壁を破壊して、ドッガが現れた。

「もしかして…ジロウ様とリキ様ですか…?」

シエスタは呆然と二人を見た。

「あっ、二人とも。こいつが元凶だよ!」

モット伯はバッシャーに指を指されてビクッとなる。

「こいつか!」

「グゥゥゥッ!」

三匹の迫力と殺気にモット伯は震える。

しかし、すでに自分にはあがなう力が無い。

いや、杖を持っていたとしても勝てる姿が思い浮かばず、真の恐怖が襲っていた。

「た、助けてくれ!命だけは!な、何か欲しい物があるのでしょうか!?な、なんでも渡します!?だ、だから命だけは~!」

モット伯は必死に命乞いをする。

自分の命は完全に目の前の三匹に握られている。

だから必死だった。

三人は顔を見合わせ、人間体に戻った。

それにもモット伯は驚いたが、震えが勝っている。

「今回だけは命を助けてやる。条件付だがな」

「は、はい、ななななんでしょうか!?」

「一つ、今日の事は全力で揉み消せ。失敗したら殺す」

「はい!」

「二つ目、僕等を追っかけない事。軍なんか呼んだら少なくもとオジサンの命は奪うよ」

「肝に銘じます!」

「み、みっつ、シエスタ、貰う」

「そ、そこの平民ですね!?どうぞどうぞ!」

「最後に、他の女にこんなふざけたマネしてみろ。殺してやる」

「は、はい~…」

『返事がぬるい!』

「はい!仰せのままに!」

「よし…帰るか」

次狼がシエスタをお得意のお姫様抱っこでシエスタを抱え、三人は去っていき、モット伯だけは残された。

余談だが、この日を境にモット伯は女遊びをやめ、慎ましやかな人生を歩んだ。





「あの…このコートいいんでしょうか」

学園への帰りの途中、シエスタはふと呟いた。

随分と豪華そうなコートを着ている。裸同然の姿だったので、モット伯のところから拝借したものだ。

「慰謝料と思えばいい」

「でも、ちょっと取りすぎかと」

見るとラモンと力が風呂敷を担いでいる。

モット伯の屋敷にあった金貨と財宝を持てるだけ持った。

はっきり言って軍隊を呼ばれてもおかしくない盗賊ぶりである。

ただ、モット伯はこの三人に怯えて、本当に今回の事は『なかった事』になる。

「あ、ありがとうございました皆様」

「…怖くないのか?」

「え、えっと、はい。普通なら私も命乞いをしちゃいそうですけど、大丈夫です」

「そうか…」

次狼は拍子抜けした。このメイドは案外貴重なのかもしれない。

「えへへ、僕かっこよかった?」

「はいラモン様。お魚さんみたいでしたよ」

「む~」

その感想にラモンはちょっとムクれる。

「俺、は?」

「たくましかったです」

「むふふ」

力はご満悦だ。

力は懐に手をいれて箱を出す。

「持ってきてたの?」

「おう、これ、俺達、から」

「まあ、うちのメイドの証だ」

シエスタは手渡された箱を開けてみる。

「まあ…」

入っていたのは依然とは違った腕輪だ。

一番の違いは大きなルビー(キバ)、サファイア(ガルル)、エメラルド(バッシャー)、アメジスト(ドッガ)がはめ込まれている。

「明日からまたコーヒー煎れにこい」

「ご、飯も」

「クッキーもね」

「…はい!」

ブロロロロロッ…

目の前からバイクの音がする。

「みなさん!」

「お前らこんな所にいやがったのか!」

「ちょっとあんた等!モット伯の所に行ってなにしたのよ!?」

と、渡達と合流して、暫くルイズの怒りの声をあげ、渡がそれを宥めていた。

それをシエスタは楽しそうにみて、明るく笑った。






[5505] 閑話/闇のゲーム
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2010/01/12 10:51
閑話/闇のゲーム


「で、なんのようだ。ご主人」

「ほんっっっっとに、わかんないの?」

突然やってきたルイズは次狼達に向かってそう言った。

コメカミをピクピクさせ、口を吊り上げている。

眼も凶悪だ。

三人は顔を見合わせて、

「ああ」

「うん」

「おう」

「よくそんな事いえるわねぇぇぇぇぇぇ!このアホンダラドモワァァァァ!」

「落ち着いてください、ミス・ヴァリエール!」

怒りが完全に爆発して杖を振ろうとしたルイズをシエスタは押さえる。

「あんたらモット伯の所で何大暴れしてんのよ!怪我人大量発生!モット伯に尋ねてみても震えて怯えて妙な事言ってたわァァァ!」

あの後ルイズと渡がモット伯の屋敷に訪ねてみると屋敷自体が凄惨なことになっていた。

半壊した屋敷、呻く大量の怪我人達。

主であるモット伯に尋ねてみると

「ヒィィィィ!何もありません!何もありません!ゴメンナサイゴメンナサイ!もうしませんから聞かないでくださいぃぃぃぃ!」

といった状態である。

「よかったな。貴族が一人改心したぞ。トリステインの明日は明るいな」

「なに納得してのよ!」

「で、ご主人は何をしたいんだ?」

「もちろん罰を与えにきたのよ!」

「なんで?僕達悪い事してないじゃん」

「うん」

「キィィィィ!」

もうルイズの怒りメーターは限界だ。

いつ色んな意味で爆発してもおかしくない。

「まあ、部屋を汚されても困るしな。よし、ゲームで決めよう」

「…ゲーム?」

ルイズは一瞬キョトンとなる。

次狼はトランプを出し、力に渡す。

力はトランプをシャッフルし始める。

「するのは『闇のババ抜き』だ」

「闇の、ババ抜き?」

聞いてみると簡単なゲームだった。

同じ数字絵札を揃えるとそれを棄てる事ができ、最後までジョーカーというカードを持っているものの負けだそうだ。

「敗者には恐ろしい罰ゲームが待っている。どうだ?平和的で合法的に物凄い罰を与えることができるぞ」

「…いいわ、やってやるわよ!見てなさいよ!このワンコロ!魚類!筋肉バカ!」

そうして恐ろしいゲームは始まった。





「ルイズおねえちゃん。2のカード持ってるでしょ」

カードを配り終え、揃っている手札を捨て終えると、ラモンはそうルイズに話しかけた。

「な、なんで知ってんのよ!?」

「ごめん、さっきちょっと見えちゃったんだ。僕も2を持ってるんだけど、あげようか?」

「ほんと?」

「うん、これだよ」

ラモンは2のカードを見せる。

「一応ゲームの最中だから、ちゃんと引いてね。はい」

ラモンは2のカードを差込み、カードをルイズの前に出した。

(ふ、ふん。この子、少しは礼節を弁まえてるみたいじゃない)

ルイズはそう思いながらカードを掴む。

(まあ、これなら私の従者にしてやってもいいわね)

考えていて気付いていない。

ラモンが怪しく笑っている事に…

「さーて捨てなきゃ…って、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

ルイズは叫び上げる。

なんと引いたカードは『ジョーカー』だった。

恐る恐るラモンをみる。

「もー、お姉ちゃん何やってるの?ちゃんと引いてよ」

笑いながらそうおっしゃっりやがった。

(こ、こいつ!すりかえやがった!)

ルイズは数秒前の自分を責めながらラモンへの恨みが上昇させた。

(絶対このオコチャマをコロして…ん?)

ふと、自分の気分がリラックスされている事に気付く。

(あら、このカード。それぞれ素敵な匂いが出てる)

そう、カードからそれぞれリラックス効果のある匂いが出てきている。

「へぇ~、いいカードね。私も欲しいわ」

「そうかそうか(ひょい)(ぱん)」

次狼がルイズからカードを引き、素早く捨てる。

(ちょっと待て、今なんかおかしい。今、一切迷いがなかった?)

こういったゲームでは普通、どのカードを引くか迷って、そして引いたカードのセットがあるかどうかの時間がいるはずだ。

それが一切なかった。

(どういう事…何かしてるのこのバカ…『狼』!?)

そう目の前にいるのは狼…鼻が効きやがる!

(こ、こいつ『匂い』で選んでやがる!)

この芳香が香しいカードはコイツの罠なのだろう。

匂いでカードの種類を解かってやがる。

次狼の嗅覚、ラモンの頭脳。物凄い強敵だ。

(くぅぅ…こうなったら、バカから突破しなきゃ…)

そう、もう参加者にはもう一人、力がいる。

そいつがビリになれば…

(ふん、こういったバカな奴は顔に出んのよ。これで勝率が…)

「………」

「………そんなのアリィィィィィッ!」

力は究極のポーカーフェイスをしていた。




ガチャッ


「あっ、ルイズ。おかえり」

「おかえり~」

「遅くなって申し訳ありませんワタル様」

『へ?』

二人が振りむいて見ると、顔を真っ赤にして、フリフリミニスカメイド服を着たルイズが立っていた。

目に涙を溜めながら

「ご主人様~、今日もルイズを可愛がってくださいませ」

「る、ルイズ…?」

「やったな?闇のババ抜き」

「なおるかな?」

「明日にはな」



[5505] 第8話/Shout in the Moonlight ‐ 第一楽章=キュルケの奮闘と見つめる男 ‐
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2010/04/27 18:17
第8話/Shout in the Moonlight ‐第一楽章=キュルケの奮闘と見つめる男 ‐




一人の女性が森の中を隠れるように進んでゆく。

決して姿を、いや対象に自分の事を悟らせないように動いているのは燃えるような真っ赤な髪を持つ女性…キュルケだった。

キュルケは先日買ったゲルマニア製の剣を布に包んで持っている。それを見ながら溜息を吐いて、『尾行』の対象を見て再び溜息を吐いた。

その対象とは…

「ありがとうギーシュ君。森の中を案内してもらって」

「構いませんワタル閣下。先日の無礼の詫びだとおもってくれればいい」

「ふ~ん、随分な心がけじゃないギーシュ」

「ふふん、ルイズにはわからんだろうが、友情ってのはこうやって生まれるものだ」

お邪魔虫が3匹ほどついているが、彼女の目的は渡だった。

先日購入した剣をキュルケはずっと渡せずじまいだ。

あの時はタバサの暴走とも取れる行動で台無しになっていた。

(…でも、なんでタバサはあんなことしたのかしら…)

いくらなんでも渡本人だけは無く、ルイズまで巻き込むのはタバサの行動とは思えない。

あんなのでも公爵家の令嬢、下手をすれば戦争までなりかねない。

それに…

(最初はなんだか判らなかったけど、タバサはあの時…)

シルフィードに乗っている時のタバサの感情は読み取れなかったが、渡がタバサに向かって何かを話した時感じた彼女の感情は…

(憎悪と、もしかしたら殺意…)

自分も貴族の家柄だ。憎悪など何度も浴びた事があるからわかる。

でも、殺意の方は自信が無い。流石に殺意を直接的に受けた事が無いからだ。

でも、

(タバサがあんな感情を出すなんて…彼に何があるのかしら…)

キュルケは渡を見る。

そして胸が痛くなる。

あれから何度か話したが、そのたびに胸が痛くなり、泣きたくなる。

そのたびに認めさせられるのだ。

彼に『恋』していると…

「うぅぅ…情けない」

剣を抱えてしゃがみこむ。

どうやってこの剣を渡せばいいのだろう。

自分からの贈り物に彼は喜んでくれるだろうか。

(いらないといわれたらどうしよう。ああ、その時私、耐えれるのかしら…)

「あれ、ツェルプストーさん?どうしてここにいるの?」

キュルケは口から心臓が飛び出す錯覚を感じた。

「!×◎?@#!?」

「ちょっと!なんでキュルケがここにいるのよ!?」

「えっ、あの、その…あ、あなた達こそなんでこんな森に…?」

「僕達はバイオリンのニスの材料になるものを探しに来たんだよ」

「バイオリンのニス?」

「うん。バイオリンを作る時に一番大事だからね」

「バイオリンが名器になるかどうかの決め手はニスにかかってるんだよ。ニスは見た目を綺麗にするだけじゃなく、音の波動を伝えやすくする役割も果たしているんだ」

「博識ですねキバット伯爵」

「まぁーなー!」

ギーシュのおだてにキバットは気分を良くする。ギーシュはこの間からキバットの事を爵位をつけて呼んでいる。一時なんてワタルの事を異国の王と勘違いし、『陛下』と呼んでいたくらいだ。それほどまでにキャッスルドランの威が凄かったらしい。

「そうなんだ。でも何で自分で作るの?買えば良いじゃない。それにそのバイオリンだって」

ルイズは渡の持っているバイオリンケース、『ブラッティ・ローズ』を見る。

「これは僕の父さんが作ったものなんだ」

「へぇ~…」

「いつか、これよりも素敵なバイオリンを作る…それが僕の夢なんだ」

渡は自分の夢を語る。

その時の顔を見て、ルイズとキュルケはドキッとした。

「どうしたの?」

「な、なんでもない!それよりも!忘れるところだったわ!キュルケ!あんたなんでここにいるのよ!」

「わ、私はその…」

キュルケは持っていた剣を渡に向けて、

「こ、これ…あ、あなたに…」

「おや、キュルケもワタル閣下に剣をプレゼントかい」

渡は剣を受け取り、布を解いてみる。

「これ、武器屋にあったピカピカの剣だ」

「おお~、あの鈍ら」

「ダメだよキバット。そんなこと言っちゃ」

「でもワタルだって『なんかダメ』っていってたじゃない」

それを聞いたキュルケは顔色を絶望に染める。が、

「大丈夫だよ。コレには今、ツェルプストーさんの想いが篭ってるから」

「え?」

キュルケは顔を輝かせる。自分の想いが届い…

「でも、ちょっと悪い気がするな。看病しただけなのにこんな高価な物」

希望が急転直下した。どうやら自分の『恋のキモチ』の篭った贈り物は以前の看病の礼と感違いされてしまったらしい。

「そうだ!」

渡は思いついたようにバイオリンケースから『ブラッティ・ローズ』を取り出す。

「お礼になるかどうか判らないけど、演奏するよ。腕はあまり自信ないけど」

「演奏?」

「ワタル閣下もやりますね。自分の演奏をプレゼントだなんて」

「ちょっとワタル!あんたご主人様の許可無く演奏するんじゃないわよ!」

「バッカヤロー!音楽ってのは誰にでも聞く権利があるんだ!それがわからないからペチャンコなんだよ」

「いったわね!このバカ蝙蝠!」

「まあまあ、それじゃ弾くよ」

渡は少し三人と一匹から少し離れて、演奏を始めた。

渡の演奏を聴いてキュルケとギーシュは息を呑んだ。ルイズも一度聞いた事があるとはいえ、心が震えてくる。

(なんて…素敵なの…)

キュルケは初めて『音楽』に感動した。音楽など、パーティーを盛り上げる為だけの裏方だと思っていた。

ただその時のムードに合わせる道具…だが、自分の認識を完璧に覆される。

『音』が自分の心を鷲掴みにする。

それはギーシュも同じらしくキュルケと同じように聞いている。

しばらく、その場は渡の音楽に支配された。



「あれが『皇帝』ですか…なんと素晴らしい」

渡達から少し離れた場所で一人の男が気配を消して渡達…いや、正確には渡だけを見て、渡のバイオリンを聞いている。

「今まさにあの場を支配しているのは『皇帝』。うふふ、私の心すらも支配されてしまいそうです!」

男は恍惚の表情で身悶える。

「ああ、『資格を持ちし者』の一人『皇帝』。私的にはもう、1ポイントリードォォォォ!ですが!ですが!!」

体を意味不明な事を言いながらクネクネくねらせる。

「ああ、なんということでしょう!なんと美しい演奏!ビュリホー!ワンダホー!ああ、『あの人達』にも聴いていただきたいくらいです!」

男はさらに意味不明な事を言いながらクネクネして、地面に転がっている『ソレ』を掴む。

「しかし、試さなければいけないのです。あなた様が更に素晴らしいかどうかを!」

男は『ソレ』…先程不相応にも自分を襲ってきた血塗れの『ソレ』の頭を掴みながら呪文のように言葉を編む。

「さあ、力を与えましょう。悪魔が人間に打算で力を与えるように…貴方みたいな屑で、クズで、くずみたいなクズに勿体無いくらいの力を…うふ、うふふふふふふふふふふふっ!」

男の体からはどす黒い魔力が漏れ始めた。



「…どうだった?」

「あ、その、えっと…凄く、よかった」

パチパチパチパチッ…

キュルケとギーシュは力なく拍手する。

それしか思いつかないからだ。あの演奏を評価する事を自分は躊躇う。下手な評価じゃこの音楽の素晴らしさに泥を塗ってしまうからだ。

「ありがとう。拍手は最高の栄誉だよ」

渡は微笑、またルイズとキュルケをドキッとさせた。

ギーシュは「ほほう、あの二人」

キバットは「そうなんだよ」

と言っていた。

その時、

『グォォォォォォォォォォォォォォォォォッ』

重い雄叫びが聞こえる。

「ルイズちゃん!ツェルプストーさん!」

『へっ、きゃっ!』

渡は二人を担いでに飛ぶ。

「テリャァッ!」

「ギャンッ!?」

キバットがギーシュを思いっきり蹴飛ばす。

ドガァァァァァァンッ!

渡達のいた場所で爆発したような轟音が鳴り響く。

「なに、あれ?」

「お、オーク鬼?」

そう、突如現れたのはオーク鬼だった。

身の丈2メイル。体重は人間の約5倍。醜く太った体を、獣から剥いだ皮に包んでいる。

突き出た鼻を持つ顔は、豚のそれにそっくりだ。2本足で立った豚、という形容がしっくりくる体をいからせている。

「なんでこんな所にオーク鬼が…?」

「ルイズちゃん、持ってて。それとツェルプストーさんとギーシュ君と一緒に離れていて」

渡はブラッティ・ローズをケースに入れて、ルイズに渡す。

「う、うん」

「キバット!」

「おう!キバっていくぜ!ガブッ!」

「変身!」

渡は即座にキバに変身する。

『グウッ!?』

圧倒的な威圧を感じて、オーク鬼は一瞬たじろぐ。その隙に渡はキュルケから貰った剣を鞘から抜いて左手で持ち、右手を上げて、

「デルフリンガー!」

と唱えると、どこからともなくデルフリンガーが飛んできて、見事にキャッチした。

『相棒!先輩!俺の出番か!?』

「うん!いくよ!」

キバはオーク鬼に斬りかかる!『魔皇剣』を使う要領で二本の剣を振り、捕らえたと思った瞬間

シュバッ!

「えっ!?」

オーク鬼が消える。しかし、すぐ後ろに気配を感じて

『グォォォッ!』

「くッッ!?」

バキンッ!

剣を交差させてその一撃を受けきる。みるとオーク鬼の拳が鋼鉄のように硬化していた。

「ハァッ!」

ガキンッ!

『グェァッ!』

キバはオーク鬼を弾き飛ばして、距離をとる。

ボロッ…

「なっ!」

なんと交差の前にしていたキュルケから貰った剣が折れた。

これには少しキバとキバット、そしてデルフリンガーも驚く。鈍らと判断したとはいえ、そう簡単に折れるものじゃないはず。

それほどこのオーク鬼は力が強い。

この世界に来てから絶好調の調子であるキバは今の一撃を苦にしないが、さすがに驚く。

「こ、この世界ってこんな強いモンスターがいるの!?これじゃまるで…」

「違うわワタル!そのオーク鬼は異常よ!」

少し離れたところからルイズの声が聞こえる。感覚も上がっているキバはルイズの声を拾う。

「オーク鬼はもっと愚鈍だし、そんな手を硬化させる能力なんて無いわ!?」

「じゃあ、このブタバラはナンなんだよ!?」

「え~と…突然変異?」

ギャリンッ!ギャリンッ、ギャンッ!

「ふっ!」

オーク鬼が超高速で動く。渡はそれに反応してデルフリンガーで捌く。

「大丈夫デルフッ!?」

『ああ、でも受け止めるのはカンベンな』

渡は再びオーク鬼の拳を捌いた。



キュルケは目の前の戦いに驚愕する。

あの信じられないスピードで動くオーク鬼にも驚いたが、それに反応している渡…キバにも驚いている。

(やっぱり、あの人は凄い)

でも、あのオーク鬼のスピードに反応するだけでせいいっぱいみたいだ。力負けしていないとはいえ、このままではジリ貧になるかもしれない。

(…そうだ!)

自分が援護しよう。ルイズは魔法は使えないし、ギーシュのワルキューレはこの場では役立たずだ。

ならば自分には何ができる。

(あの人が次にオーク鬼の攻撃を受け止めたら、その背後から魔法を叩き込む!)

そう、これは今この場にいる自分にしかできないこと。彼の役に立てる。

その想いがキュルケを奮い立たせた。

「ちょ、ちょっとキュルケ!?どこに…」

ルイズの制止を聞かずに、キュルケはオーク鬼の背後の位置に回る。

そして、まさに最高の場所で、最高のタイミングが来た!

「今よ!」

キュルケは自分の得意な魔法、『フレイム・ボール』を最大の威力で放った。

その『フレイム・ボール』は見事オーク鬼に直撃した。

「やった!」

キュルケは興奮する。自分は彼を助ける事ができた。そう、それはあの『ゼロ』のルイズでもできないことだ。

彼の役に立った。ああ、それがコレほどまでに嬉しいことだなんて…

「えっ…?」

『グオォッ…』

しかし、その興奮はすぐに覚める。あの直撃を喰らったオーク鬼が無傷だったからだ。

「うそ…」

『グエギャァァァァァァァァッ!』

オーク鬼は興奮と怒りでキュルケに向かっていく。

(そんな…)

キュルケは『死』を感じる。

(まだ、役に立ってない。まだ彼に…)

オーク鬼の拳がキュルケに向かっていく。

(好き…ていって…)

ドガンッ!?

衝撃がキュルケを…襲わない。

「……あれ?」

キュルケは恐る恐る前を見る。

「あ、あぁ…」

キバがクロスガードでオーク鬼の一撃を防いでいた。

「ハァァァァァァッ!ゼヤァッ!」

ドガンッ!

『グエギャッ!?』

今度はオーク鬼がキバのキックを喰らって吹っ飛ぶ。

「大丈夫ツェルプストーさん!?」

「は、はい…」

「よかった」

(ああ、彼は本当に私の心配をしてくれている…)

結局自分は足を引っ張っただけで、逆に彼に助けられてしまった。

自分の情けなさを恥じ、俯きかけてしまう。しかし…

「援護ありがとう」

と、曇りのない感謝の言葉と共に自分の頭をなでられる。

それがとても嬉しいことに不甲斐無さを感じるが、どこか安心してしまう。

「大丈夫、僕がやっつけるから。デルフ」

キバはキュルケにデルフリンガーを持たせる。

「ツェルプストーさんを守ってあげて」

『いいけど相棒、大丈夫なのか?』

「うん、戦ってて気付いたんだけど…」

蹴飛ばされてもがいているオーク鬼を見ながら

「スピード以外は僕の方が勝ってるんだ。だから…」

キバはフエスロットルから青い狼を象った召還笛『フエッスル』を取り出す。

「おう!スピード勝負だ!」

キバットはそれをキバから受け取り、

「『GARULU SABER』!」

辺りに笛の音が響いた。



「ふぅ…」

次狼はトランプのカードを見ながら、コーヒーカップをテーブルに置いて、息を漏らす。

珈琲を味わった後の至福の息だ。

シエスタはすかさず『おかわり』の準備をするが、

『♪~♪~♪♪』

「…?この音は?」

シエスタは突然の音色に少し驚く。

「あっ、久しぶりだね。呼び出しだ」

「次狼だな」

「ああ、そうだな」

次狼はカードをテーブルに叩きつけ、椅子から立ち上がる。

「次狼様?」

「出かけてくる。渡が呼んでるからな」

シエスタは次狼の雰囲気から感じる。それは以前モット伯の屋敷で見せた雰囲気だ。

(ああ、戦いに…渡様を助けにいくんだ)

どんな理由かはわからないが、あの自分がほのかに恋焦がれている優しい『主』が今戦っているのだろう。

(それが次狼様…いや、この方達の役目)

ならば自分も…

「いってらっしゃいませガルル様」

向かおうとする次狼に深々と頭を下げる。

(ならば私も使命を果たそう。私ももうこの城の従者なのだから)

「最高の珈琲を用意してお帰りをおまちしております。どうかご武運を」

そのシエスタの姿はどこか誇り高かった。

それを見て三人は一瞬パチクリとして、そして笑みを浮かべる。

「ああ、飛び切り熱いのを頼む」

次狼はそういうと床を引っかく。

『ギギギギギギギギギッ!』

蒼い光塵が音を立てる。

「ハァァァァァッ…!」

次狼の体が元の姿、戦い続ける戦士『ガルル』に戻る。

『アオォォォォォンッ!』

ビカッ!

その瞬間、ガルルは一つの彫像となり、キャッスルドランを飛び立つ。



『グォォォォォォォォォッ!』

オーク鬼は起き上がり、キバに再び突進していく。が、

『アォォォォォンッ!』

ドガッ!

『ギャウッ!』

突如現れた光に吹き飛ばされてしまう。

光の正体はガルルの彫像。『王』のいる場所まで駆けつけた戦士。

キバは左手を伸ばしガルルの彫像を掴む。するとガルルの彫像は形を変えていき、最後には魔獣剣『ガルルセイバー』に変化した。

『アオォォォォォォォォォォッ!』

ガラララララララララァッ!

ガルルセイバーの遠吠えと同時に、キバの腕に鎖(カテナ)が巻きついていく。左腕全てを覆うと、鎖は砕け、弾け飛ぶ。

現れたキバの左腕は先程までとは違い、変質していた。蒼き装甲・ガルルシールドで覆われた左腕。剣を扱うことに最も適した筋肉構造に変質している。

そして次に胸が鎖で覆われ、同じように弾け飛んだ時には同じように蒼く変質していた。

キバットの目も青く変色し、最後に一瞬だけガルルの幻影が現れ、キバに吸い込まれるように消えると、キバの目も蒼く変色した。

「ウゥゥゥ…ワァァァァァァァァォォォォォンッ!」

キバの野生が目を覚ます。大地を揺るがすような雄叫びを上げ、右手を地面に触れ、戦う本能に従う獣…狼の如く、オーク鬼に向かっていった。



「あ、アホ狼が…取り憑いた…」

ルイズは以前渡から聞いた言葉を思い出す。

『皆僕を手伝ってくれてたんだ』

(違う!アレは手伝うなんてもんじゃない!)

渡の主人だから伝わってくる波動をルイズは感じている。

あのキバの姿は確かに融合だが、明確な使役…そう、渡とキバットが次狼を従わせているのを感じる。

しかし、それとは別に次狼からも積極的に力を流しているのも感じている。

そう、主人と従者の関係でありながら、互いを信頼しきっている。

そう、ルイズは感じている。渡の今の状態を。

(そうでなければあんな『命知らずな姿』になる事なんかできない。まるで、本当の『王』と『騎士』…でも…)

『騎士』は『王』に忠誠を近い、その力を振るう。

それならばトリステイン王国にもある。

しかし、目の前の『王』は…

(『騎士』と共に戦っている…)

目の前で戦っている『王』はただ信頼しているわけではない、一人で戦っているわけでもない。

『共に…戦って』いるのだ。

誰かに言ったらバカにされるかもしれない。

戦っているのは一人だと言われる。

でも、バカにされてもいい。自分にはわかる。彼等は『共に戦って』いる。

渡の話の感じから、渡はずっと『ナニ』かと戦ってきたようだ。

でも、もしこのような戦いを続けてきたというなら…

(私の使い魔は…とんでもなく立派な『王(キング)』なんじゃないのか?)

今の時代、そんな王が本当にいるのだろうか。

騎士と共に戦う王…それは誰もが憧れる英雄譚の中でしか今は存在しない。

英雄譚の王が目の前にいるのだ。

「渡…あんた本当に何者なのよ…」


オーク鬼は逃げていた。

何故逃げているのか判らない。

先程までは時間をかければ獲物を狩れると思っていた…本能が『ナニカ』にそう思わされていた。

でも、その『ナニカ』も吹っ飛んだ。

『逃げ出せ…!』

本能が叫ぶ!

『逃げ出す…!逃げ…』

「ハァァァァ…」

超高速でオーク鬼が振り向くと、目の前にはキバを剥いた狼がいた。

「ガァァァァァァッ!」

ザザザザシュッ!

「グギャ…!」

オーク鬼の体に無数の斬り傷が現れる。

オーク鬼は方向を変え、再び逃げ出そうとするが、

「ガァァァァッ!」

またもや前にいた狼に斬り刻まれる。

狼が何体もいるのではない。神速のスピードでオーク鬼の目の前に回りこみ、斬り刻んでいるのだ。

キバの最速形態・ガルルフォーム。

ウルフェン族一の戦士であるガルルの力を得て変身する魔獣形態。

ガルルセイバーからのエレメントの影響を受け、この形態となる。

しかし、この姿は普通では考えられない形態なのだ。

ガルルの力は原則キバの制御下にあるが、時として意識に反して左腕が暴走する危険性もはらんでいる。

キバの今の状態は下手をすると全身をガルルに乗っ取られる。

この姿でいること自体がすでに危険なのだ。

その危険性を緩和し、全身をガルルに取り込まれずガルルフォームとしての形態を保持していられるのは…

「いっけー渡!」

ひとえにキバットが魔皇力の制御を完璧にしている恩恵であるのだ。

「ガウァァァァァッ!」

ザシュッ!

「グエギャァァァァァァァァッ!」

オーク鬼の両足をキバは斬り裂く。オーク鬼は地面に倒れこむ。

オーク鬼にとって全て遅かったのだ…本当に命が欲しかったなら、もっと早く逃げ出さなければならなかったのだ。

この牙を剥いて立ち構える狼の姿を見る前に…!

「チャンスだ渡!」

「グゥゥゥッ…」

キバはガルルセイバーをキバットに近づけると、

「『GARULU BYTE』!」

ガルルセイバーの刃に噛み付く。キバットはガルルセイバーに流れる魔皇力を最高まで高める。

この瞬間、ガルルセイバーの斬れ味は、数十倍にも増幅される。

「ハァァァァッ…」

ガチャッ…

『ワオォォォォォォォォンッ!』

キバがガルルセイバーを構えると、ガルルセイバーは雄叫びをあげる。

雄叫びと同時に世界は再び支配され、『夜』が来る!

空に輝くはこの世界ではあり得ない、たった一つの満月!

その光がスポットライトのようにキバを照らしていた。

ガチャン…ガキィィィンッ!

キバのマスクの口の部分が開き、ガルルセイバーの柄に噛み付く。

まさに今のキバは『満月の狼』だった。

オーク鬼は戦闘を放棄して再び逃げ出す。

もう、自分にやってくるのが深き『夜』であっても、相対する勇気が本能には無かった。

キバはオーク鬼を追いかける。

そして勢い良く飛び上がり、満月を背にし、そのままオーク鬼に斬りかかった。

迫り来る刃はオーク鬼に恐怖を与え、

ザシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!

『GARULU HOWLING SLASH』は見事に一刀両断する。この一撃…たとえ絡みついた糸のような運命の交錯であろうと…道を斬り開く。

その時、狼の幻影が浮かび、遠吠えと共にオーク鬼は消え去った。

戦闘が終わり、キバは渡へと戻る。

そして、ガルルセイバーは彫像に戻るが、彫像は光と共に次狼へとなる。

次狼は渡を、渡は次狼を見つめる。

すると、次狼は渡に対して頭を垂れる。

それこそ、王に仕える騎士のように…

その風景にルイズ・キュルケ・ギーシュはしばらく言葉を失っていた。

貴族として、この時を邪魔する事ができなかった。



戦いを見ていた男がプルプル震えている。

「なんと多種族すらも平伏せさせるとは…しかもあの狼、我等と同等、いや、もしかすると私と戦っても私が苦戦してしまいそうなくらいに強い。うふ、ウふフふフ…」

男は両手を天に向け、

「スンバラシー!ワンダホー!ビュリホー!コングラチュエ~ショ~ン!」

男は狂喜乱舞する。

「ああ!ああ!なんと素晴らしき方!なんと美しき方!なんと強き方!もうもうたまりません!他の『お二人』と勝るとも劣らぬ方!いや!もう私的には貴方様が断然一押し!」

男はハァハァいいながら叫ぶ。

「さてと…もしかすると他の『お二人』を見ている『彼等』も私と同じように興奮しているかもしれません。だから、もう少し…」

男は舌なめずりをして、

「もう少しこの『●●●●●』、貴方様の傍にいましょう…」



「ごめんね、ツェルプストーさん。剣おっちゃって…」

「いえ、あの、気にしないで。こっちこそ邪魔しちゃってごめんなさい」

「そうよキュルケ!ワタルの邪魔してどういうつもりだったのよ」

「ルイズちゃん、ツェルプストーさんを責めないで。僕が苦戦したのが悪かったんだよ」

渡はキュルケをかばう。膨れたルイズを渡は宥める。

「そうだ。剣のお詫びに僕にできることないかな?」

「えっ…」

「なんでも言って。僕にできる事ならするから」

ルイズがまたギャイギャイ言い始めるが、それをキバットが何とか押さえつける。

(こ、これは一気に攻められるチャンス!でも、なにを言えば…何を…)

しばらく熟考の後、キュルケは顔を赤らめて、

「あの、私も、名前で呼んでくれない?」



その後、キュルケは部屋で小躍りしていた。



[5505] 第9話/Innocent Trap -第一楽章=タバサの復讐-
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/06/29 11:08
第9話/Innocent Trap -第一楽章=タバサの復讐-


「まったく…あのバカは!なんでキュルケになれなれしいのよ!」

ルイズは怒りながら自分の部屋に戻る途中である。

怒っている理由は数分前の食堂での出来事だ。

授業を終えると、自分が注文していた荷物が届き、渡に運ばせようとして、食堂で渡を見つけた時、渡はキュルケと楽しそうに話をしていた。

(実際はキュルケが何かを話す度に真っ赤になって、それを渡が受け答えしていただけ)

それにルイズは怒り狂い、食堂を爆破させて部屋に戻っている途中だ。

「キュルケもキュルケよ!なんでワタルを誘惑すんのよ!ワタルのどこが良いわけ!?」

ルイズはもはや知っていた。キュルケが渡に近づこうとしているのはキュルケが本当に渡に『恋』をしているからだ。

あの姿はいくら自分でもわかる。

キュルケが時々スゴク可愛く見えるのが嫌で嫌で仕方ない。

「あんないつもニコニコ笑ってて!いつも的外れなこと思いつくあの泣き虫…」

そこでルイズは足を止める。

(なんで…私、ワタルの事泣き虫って思うんだろ)

ルイズは渡がキバに変身するのを3回見ている。

最初はギーシュとの決闘。

2度目はタバサのシルフィードに追いかけられた時。

3度目は突然変異のオーク鬼に襲われた時だ。

最初の時から段違い…いや桁違いの強さを見せ付けられた。

でも、次々にあいつに驚かされる。

2度目の時の黄金のゴーレム『ブロン』。

3度目の時のバカ狼との融合。

アレだけ強力な存在を従えさせている。

渡が本当に『王』であっても自分は簡単に受け入れるだろう。

もし、敬意を払えといわれたらそうしてしまうかもしれない。

でも…何故か時々見せる悲しい顔…それをルイズは忘れられなかった。

「いったい…ワタルに何があったんだろう…」

(ご主人様である私にも言えないことなの…そんなに…私は頼りないの…)

そう思った時、

「…動かないで」

「!?」

いきなり杖を向けられて、ルイズは驚き止る。

「タ、タバサ…!?」

自分に杖を向けているのは先日自分達を襲ったタバサだった。

「喋らないで、一緒に来てもらう…」

表情こそいつものように無表情だが、目には憎悪の光だけが見えていた。




ガチャッ

「ただいま。ルイズちゃん、まだ怒って…あれ?」

「なんだいねぇのか?」

渡とキバットは食堂での片付けを終えて部屋に戻ってきた。

「まだ怒ってるのかな?でも、なんで怒ったんだろ」

「さあな~」

キバットはルイズが起こった原因を理解しているがあえて言わない。

(できれば渡自身がルイズ達の事に気付かなきゃな。その時、渡の『呪縛』が解ければいいんだが…)

そう、思いながらキバットが部屋を飛んでいると

「渡、なんかベットに手紙があんぜ。ふむふむ、『ワタル・クレナイへ』って書いてる」

キバットはこっちの言語をすでに覚えている。

「なんて書いてあるの?」

「ちょっと待てよ…ふむふむ…って!?大変だぞ渡!」



学園から馬で一時間くらい離れた森の中にある広場に囚われたルイズとタバサはいた。

「ちょっとタバサ!こんな事をしてもいいと思ってんの!?」

「………」

先程からタバサはいつもの無表情でルイズを見ている。そしてルイズを見張るように、タバサの使い魔・シルフィードもルイズを見ている。

「私はヴァリエール家の者よ!留学生のあんたがこんな事をしたら戦争…」

「かまわない」

「えっ?」

「戦争になっても…かまわない。それより答えて」

(まただ…)

ルイズはタバサの目を見る。

(私を見る…怖い眼…なんでこんな眼をするの…)

「あなたはあの男と契約して何を得たの。何を代償としたの」

「え?」

「答えて。あの男をこの学園に呼び寄せて何をするきなの?」

「…そんなの決まってるじゃない。あいつは私がサモン・サーヴァントで呼び寄せた…」

「嘘」

明らかな拒絶。

「まあいい…あの男から聞き出す」



『あなたの母親は私の仲間の『毒』で狂わせております』

『あなたの母親はその者の意思で解くか、その者を殺さぬ限りあの狂った心は治りませぬ』

『何故教えるかですって?そうですね。戯れですよ。長き時を生きる我等、家畜のもがく姿を見て楽しむのも一興』

『覚えておきなさい。母親を治すにはある者を一人殺せばいい。ああ、その者は自分で見つけてください。私は手出ししませんので』

『ああ、ヒントは出しておきましょう。ヒントはこの『紋章』をどこかに模ってる事と…』



「きた…」

タバサは森の方へと向く。

すると森の方から

「ルイズちゃん!タバサちゃん!」

「おいおい、本当かよ…」

渡とキバットがやってきた。

「タバサちゃん!なんでこんな事を…」

ヒュバッ!

近づこうとする渡に一刃の鎌鼬が襲い、渡の頬を掠めた。掠めた頬から血が流れる。

「うっ!?」

「ワ、ワタル!?」

「動かないで。動いたら…」

タバサはルイズに杖を向ける。

「次はあなたの主人を斬る」

「…わかったよ」

渡はその場で立ち止まる。

「ねえ、なんでこんな事をするの。タバサちゃん」

「………」

渡はタバサの『音楽』を聴く。聞こえてくるメロディは

(なんて…なんて『悲しい音色』なんだ)

以前にも増して悲しく奏でる彼女の音色…何故彼女のような幼い少女がこんな音楽を奏でるのだろう。

「質問に答えて」

「その前にお願いだから教えて。なんでルイズちゃんを攫ったの?」

タバサは渡を睨んで

「あなたと契約しているから」

「僕が…何かしたの?」

「それはこれから聞きたい…あなたが…」

タバサはその無表情とは真逆とも言える憎悪で、

「あなたが、『ビショップ』なの」

最も憎い名前を言った。

「ビ、ビショップ…?」

(何故…)

渡の脳裏に眼鏡をかけた狂信者が映る。

「何故タバサちゃんがその名前を…」

「…!?」

ヒュパパパパッ!

「ぐぁっ…!?」

タバサが杖を振ると、今度は無数の鎌鼬が渡を襲い、体を切り裂いた。

血が強く流れ、渡はその場に膝を突く。

「渡!」

「ワ、ワタル!?タバサ!あんたなんてことするのよ!」

「うるさい。黙ってて。あなたは後…」

タバサの凍りつくような冷酷な声は異様に辺りに響いた。使い魔であるシルフィードも驚いている。

タバサは渡に近づいていく。

「あなたが『ビショップ』なの?」

「…ちがう。僕は『ビショップ』じゃない」

「じゃあ『ルーク』?」

「!?」

その名にまた渡は凍りつく。その反応を見たタバサは杖を振る。

ドガンッ!

「グガッ!」

渡に強烈な衝撃、『エア・ハンマー』が襲う。

「答えて。『ビショップ』はどこにいるの」

渡はタバサの問いに

「ぼ、僕が…僕が殺した…」

真実を答えた。

「嘘」

ドガンッ!

再び『エア・ハンマー』が渡を襲う。

「どこにいるの…」

ドガンッ!

再びタバサは『エア・ハンマー』を落とす。

「どこにいるの…」

ドガンッ!

「渡!?」

「キ、キバ…ット…来ちゃダメ…タ…バサちゃ…んを傷つけちゃ…」

ドガンッ!

「や、やめてタバサ!やめてよ!」

ドガンッ!

タバサは容赦なく渡を責める。

(やっと見つけた…やっと見つけた…ずっとずっと探していた…手掛かり…)

「『ビショップ』は…!どこにいるの!?」

一瞬だけ、タバサは感情を露わにし、再び渡に『エア・ハンマー』を叩きつけた。



『男』は今日も『皇帝』を見ていた。

いつも通り学園にいる『皇帝』を覗き見ていたのだが、顔色を変えて森に入っていくのを見て、つけてきたのだ。

そして、今、男は怒り狂っていた。

「あの人形…!人形の分際で…!麗しきあのお方に…!なんて事を…!なんたる無礼…!母親共々狂わしておけば…!…殺してやる…殺して、犯して、切り刻んで、ミンチにして…」

『男』は手から光を出す。地面に触れた光は、どんどん形を変え、そこに丸く黒い体に無数の触手。そして丸い体の中心に一つ目の大きな眼を持った化け物をだした。怒り狂っているとはいえ、自分や同士をまだ『皇帝』に謁見する事をよしとしない事を『男』は理解している。

「あの人形をつれて来い!お前の手で嬲りながら!泣き叫ばしてつれて来い!私直々の手で!!殺して!殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して!コ・ろ・シ・て・ヤ・る!」



「タ、タバサ…ちゃん」

何度目かの『エア・ハンマー』を受けても、渡はまだ意識を失っていなかった。

「どうして…『ビショップ』を探しているの…」

「………」

タバサは憎悪の眼を渡に向け続ける。

「僕の事は…殺してもいい」

「おい、渡!」

「ワタルッ!」

「それで、君の『音楽』が少しでも泣きやむのなら…」

「…『ビショップ』は、どこ?」

「僕の知っている…『ビショップ』は…確かに、僕の手で殺した…」

『!?』

渡はボロボロの体で立ち上がった。

「君が、なぜそこまで『ビショップ』を恨んでいるのか僕にはわからない。でも…僕でよければ…」

渡はタバサの瞳を真っ直ぐ見て、

「君を助ける事はできないかな」

渡の瞳と言葉を聞いてタバサは一瞬たじろいだ。

その時!

『キィィィィィィィィッ!』

バキャバキャバキャッ!

突如、鳴き声ともいえない金きり音が響いた。

木々をなぎ倒しながら黒い一つ目の化け物が現れた。

「なによ…あれ…」

「くっ…」

タバサはすぐに杖を構え、化け物に魔法を向けるが、

『キィィィィィィィィィッ!』

化け物から無数の触手が襲う。

「ん!?」

タバサは『エア・カッター』で触手を切り裂くが切った触手は一瞬で再生し、タバサに巻きつく。

『きゅいっ!』

シルフィードも化け物に向かうが、同じように触手がシルフィードの体を巻きつけ、締め付ける。

『きゅいぃぃぃぃぃっ!』

完全にシルフィードを捕らえると、化け物は主人の命令通り、タバサを嬲る為触手の力を強めようとしたが、

「タァッ!」

タバサを捕らえていた触手が全て斬り落とされる。

『相棒!相変わらず派手な敵相手にしてんな!』

斬り落としたのはデルフリンガーを持った渡だった。

「タバサちゃん!大丈夫!?」

渡はタバサにケガが無いか調べる。

「よかった…ゴメン。ルイズちゃんの縄を斬ってたから…」

「…なんで…」

「タバサちゃん!速く離れて!あそこにいるルイズちゃんの所に!キバット!」

「渡~、大丈夫なのか?」

「うん…簡単にやられない事くらい、知ってるよねキバット」

「…………」

「いくよ!」

「おう!」

ガブッ!

「変身!」

渡はキバに変身する。変身するとすぐにフエスロットルに手を伸ばし、緑色のフエッスルを取り出す。

「こういう変則的な動きをする奴にはこいつだ」

キバットは緑のフエッスルを咥え、

「『BASSHAA MAGNUM』!」



『♪~♪~♪~』

「ええ~!」

ラモンは笛の音を聞いて持っていたフォークとナイフをテーブルに置いて叫ぶ。

「呼び出しだな」

「そう、だな」

「なんでご飯の時に!」

「安心しろ」

「俺達が、食っといて、やる」

「そんな~!」

ラモンが嘆く。

「大丈夫ですよ。ちゃんと取っておきますから」

シェスタがラモンを優しく宥めた。

「ホント?ホントだよシェスタ」

「はい。ほら、ほっぺにソースがついてますよ」

シェスタはハンカチでラモンの頬についていたソースを拭いた。

「へへ、じゃあ行って来るね」

そこでシェスタの雰囲気が少し変わる。

「いってらっしゃいませバッシャー様。御夕食を温めてお待ちしておりますので、どうか御武運を」

ラモンはご機嫌に鼻歌を歌いながら緑の半漁人・バッシャーに姿を戻し、

ビカッ!

緑の彫像となり、『王』の元へ向かった。



「てや!」

『きゅいっ!』

キバはシルフィードに絡んでた触手を切り落とし、シルフィードを開放する。

そこにタイミングよく光の塊がやってきた。

ドガッ!

『キィィッ!?』

光は一度化け物を殴ってからキバに近づく。

光が解け、緑の彫像が姿を現す。

キバはそれを右手で掴むと、彫像は形を変え、魔海銃・バッシャーマグナムとなる。

バッシャーマグナムが変形を終えると、ガルルセイバーと同じように鎖(カテナ)が巻きついていく。

鎖が弾け飛ぶと、装甲板・バッシャースケイルで覆われた右腕が現れる。

強靱なバッシャーの鱗が変質した装甲は、通常武器では歯が立たぬほどに硬質へと化している。

胸に鎖が覆われていき、同じように弾け飛んだ時には同じように緑に変質していた。

キバットの目も緑色に変色し、最後に一瞬だけバッシャーのの幻影が現れ、キバに吸い込まれるように消えると、キバの目も緑に変色した。

キバの遠距離・水中戦形態バッシャーフォーム。

キバはバッシャーマグナムの引き金を弾いた。



「今度はオコチャマと…」

どうやらあの3人の悪魔はただ戦うだけじゃなく、全てがキバをサポートする『武器』のようだ。

しかし、今回のあのオコチャマが変形した武器はこの世界にないものだった。

銃のようだが、銃にあんな連射機能はないし、水を撃ち出すこともできない。

そもそも、あの水はどこから…

いや、今はそれよりも

バシッ!

「タバサ!あんたワタルになんてことしてくれたのよ!?」

「…………」

タバサは何もせずに黙っている。

「いい!貴方が一体何を勘違いしたのかは聞かない!でもコレだけは覚えておきなさい!」

ルイズはワタルを助けられなかった不甲斐無さも含めて言う。

「ワタルは決して誰かを不幸にしようとはしない!ワタルは誰も自分から傷つけようとしない!」

自分の使い魔は誰かを不幸にするくらいなら、自分が不幸になる。誰かを傷つけるくらいなら自分が傷つく。

あのお人よしは…

「あいつはバカみたいに『優しい』の!だから覚悟しなさい!ワタルを傷つけるなら…アンタがどれだけスゴイ魔法が仕えようと!私はアンタと戦うわ!」

(そう、私はあいつの『ご主人様』なんだから!)



ドンドンドンドンッ!

キバはバッシャーマグナムで不規則な動きの襲ってくる無数の触手を射ち落としていく。

この間、一度も水弾・アクアバレットを外していない。アクアバレットはアクアインテークから大気中に存在する水素酸素を強制吸入して精製される為、無尽蔵に撃てる。

なぜキバがこの遠距離・水中戦を得意とする形態になったのはバッシャーの『能力』が必要だったからだ。

キバは研ぎ澄まし、スペシャルな感覚を呼び覚ましている。

このバッシャーフォームの形態が得るのは何も水中戦の能力だけは無い。

この形態に変化する事でキバは恐ろしい程の超感覚と水のようにしなやかな知性を得る。

その能力を合わせればどうなるか?

キバは耳を澄まして聞き取っている。

一秒後に起きる未来を!

ドンッ!バシュッ!

『キィィィィィッ!』

目玉の中心にアクアバレットが撃ち込まれ、化け物がひるむ。

キバはバッシャーマグナムをキバットに近づける。

「いまだ!『BASSHAA BYTE』!」

ガルルセイバーの時のように、キバットが噛み、魔皇力を最高まで高める。

「ハァァァァァッ!」

周りの森の木々が揺れる。

キバがバッシャーマグナムを構えなおすと世界に夜が訪れる。

たった一つの半月の世界。

みるとキバの足元が湖のようになっていく。

湖は広がり、半月を怪しく反射させる。

これはバッシャーフォームの能力。水のない空間にも疑似水中環境・アクアフィールドを生成し、自身の能力を最大限にまで高める。

その気なら本当に湖を造ってしまい、水中戦をする事もできる。

湖の上に立ち、半月の光を浴びるキバの存在感は絶対だった。

キバの眼が一瞬光ると、トルネードフィンを高速回転させる。

周囲に生成したアクアフィールドに竜巻を起こる。

キバはその竜巻の中で化け物をロックオンすると、バッシャーマグナムの発射口から禍々しい銃弾が膨張する。

そしてキバは、

ドキュゥゥンッ!

引き金を引いた。

『キィィィィィィィィィッ!』

ドバンッ!

意思を持ったように追い詰める銃弾『BASSHAA AQUA TORNADO』が化け物に直撃する。

撃ち抜かれた直後、バッシャーの顔の輪郭が光った。

化け物の動きが止まる。

キバはそれに優々と近づいていき。

「ふん」

チョンッ…バキィィィィィンッ!

化け物が砕け散った。

戦闘が終わり、キバは渡へと戻る。

バッシャーマグナムも彫像に戻るが、彫像は光と共にラモンへとなる。

ラモンも以前次狼のように渡に対して頭を垂れたれた。

そして頭を上げると

「お兄ちゃんボロボロだね」

「はは、そうだね」

「もー気をつけてよね。お兄ちゃんが死んじゃうと多分僕達元の世界に戻れないんだから。それと…」

ラモンはタバサを見る。

「あの子もやっつける?」

「ううん。多分理由があると思う。それと…」

「なに?」

「僕ちょっと倒れるから、追撃が来ないかどうかの見張りと、タバサちゃんの質問に答えてあげて」

「仰せのままに」

ドサッ

渡は膝をついてそのまま倒れた。

「ワタル!」

「大丈夫。お兄ちゃんならすぐ直るから。とりあえず次狼達も呼んでお兄ちゃんを運ぼう」

ラモンはルイズにそういうと、タバサに近づく。

「お兄ちゃんの命令だから君の命は取らないで上げる」

ラモンの怪しい笑みにタバサは少しだけ身構える。

「それと、僕等の知ってる事ならなんでも話してあげるよ。それで誤解を解いてくれるとうれしいな」



その後、次狼と力が駆けつけ、渡はキャッスルドランの天守に運ばれた。

ルイズとキバットが看病についている。

タバサとシルフィードは広間に案内される。シルフィードが興味深そうにきょろきょろしている中、タバサは次狼達に説明を聞いた。

「これで俺達の説明は以上だ。渡が知っているビショップは向こうで戦った奴等だ。こっちの世界ではそんな奴等にはあっていない」

「そう…ごめんなさい」

「それは渡に言え。しかし、『ビショップ』に『ルーク』か…」

「まるで『チェックメイト・フォー』みたいだね」

「それ、誰から、聞いた?」

力の問いにタバサは俯き、

「『ナイト』…って男から」

「ナイト、か。まぁ気にはなるが、渡がどう動くかだな」

「渡様が、ですか?」

次狼は苦笑する。

「渡の奴はこの小娘を助ける気でいるみたいだがな…まあ、考えても仕方ない。飯の続きといくか」

「あ、シェスタ!ご飯は!?」

「はい、新しいのをご用意しております」

「さっきのは?」

「えっと、後で持っていこうと給仕室においてますが」

「勿体無いよ。お客さんも来たし食べちゃおう」

「おう」

「ねえタバサちゃん。何か食べたいものある?あっ、シルフィードちゃんって何食べるの」

ラモンはタバサにたずねる。

ラモンはシルフィードに興味津々らしい。

「シルフィードはお肉。私はいい。あの人を見てくる」

そういってタバサは天守に向かった。



[5505] 第10話/Silent Shout -第一楽章=それぞれの『音楽』、『土くれのフーケ』の襲撃-
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/06/29 11:09
第10話/Silent Shout -第一楽章=それぞれの『音楽』、『土くれのフーケ』の襲撃-




最近トリステイン国内の貴族達に恐怖に陥れている『盗賊』が噂になっている。

『土くれ』のフーケ。

土系統の魔法を駆使し、トリステイン国内の貴族の屋敷から、次々と高価な品を奪い取っている。

かなり強力なメイジらしく、貴族達が己の屋敷の防備を整えても、あっさり突破され宝物を盗み出さる。

発見して魔法衛士が取り囲んでも、身の丈およそ三十メイルという巨大なゴーレムを造り出し、あっさり蹴散らされてしまう程である。

そんな土くれのフーケの正体は、未だ不明のまま。

性別すらわかっていない。その力から、恐らくは土のトライアングルメイジであろうと推察されている。

ハッキリしている事は、犯行現場に犯行声明と馬鹿にしたようなサインを残すこと。

そして、強力なマジックアイテムの類を好んで強奪していることである。



月の照らす夜、魔法学院の本塔…ちょうど、宝物庫がある五階部分の外壁に怪しげな人影。

「さてと…どうやって…を…」

「何をしている?」

「きゃっ!?」

人影は新たに現れた男性の声に驚く。

「あ、あの、あなたは…?」

人影…ミス・ロングビルは学園で見かけた事のない男性を見て、そう尋ねた。

男はロングビルを少し見て、

「俺は次狼。よろしくなお嬢さん」

これ以上ない、といいった位の自分の魅力を100%引き出した笑みをロングビルに向ける。

「いや、その、あなたは、誰ですか?学園関係者の方にしてはお見掛けした事は…」

「あぁ、俺か?俺は…ミス・ヴァリエールの使い魔、渡の従者だ」

「あのミス・ヴァリエールの?」

「ああ。ところで何をしている?ここは宝物庫だぞ?美人が来るには場違いなところだ」

次狼の質問にロングビルは少しうろたえたが、

「それは…見回りですよ。ほら最近『土くれのフーケ』って盗賊が騒ぎを起こしてるじゃないです」

「成程…でもこの宝物庫は大丈夫だろう。欠点さえわからなければまず盗まれないな」

「えっ、知ってるんですか?」

次狼の言葉にロングビルは驚く。すぐに頭の中で計算し、これをチャンスとばかりに…

「ねぇ、教えてくださらないかしら?」

次狼に枝垂れかかる。

「ああ、俺の見立てじゃ…」

ここで次狼はいらん事をベラベラ喋り始めた。その後、しつこくロングビルを食事に誘ったが全てスルーされ、ロングビルの目的を達成させてしまった。



「う~ん、いい天気だね」

中庭に出た渡は大きく伸びをする。

「洗濯物も干したし、のんびり日に当たるのも悪くないね」

「…………」

「どうしたのルイズちゃん?」

「なんであのケガがこんなに早く治るのよ」

ほんの数日前、タバサの魔法で渡は大怪我をした。

しかしだ。ずっと寝ていたが、一日でだいぶ傷は塞がり、二日目には目覚めて動いていた。

その回復力にルイズは呆れていたが、

「まあ、無事でよかったわ」

「ゴメンね心配かけて」

渡は少し反省する。

「でも、タバサはなんでアンタを狙ったの?」

「うん、次狼さん達も聞いたみたいなんだけど…」

渡は自分の使い魔のルーン…蝙蝠を象った不思議な印を見せる。

「なんでもこの紋章に似たモノをつけてる人を探してるんだって」

「だからって、ワタルをあそこまで傷つけるなんて…ねぇ、学園長に抗議しに…」

「ルイズちゃん。前にも言ったけど、この事は黙っててあげて」

「でもワタル…!?」

渡はルイズに頭を下げる。

「お願いします」

流石にルイズも少し気が引け、

「わかったわよ。今回は黙っててあげるわ」

「ありがとう」

「お~い渡~、ルイズ~」

「あっ…」

「げっ…!」

キバットが飛んでやってくる。後ろにはキュルケとタバサがいた。

「キュルケちゃんにタバサちゃん。こんにちわ」

「こんにちわ。ダ、ダーリン」

「こんにちわ」

渡は二人に会釈を交わす。

「ちょっと、キュルケとタバサがなんのようなのよ」

「い、いいでしょ。今日は用があってきたのよ」

「用?」

「ほら、タバサ」

キュルケはタバサを渡の前に出す。

「タバサちゃん?」

「…この間はゴメンナサイ」

タバサは渡に頭を下げて謝った。ルイズも眼をパチクリする。

「うん。誤解が解けたならいいんだ。気にしないで」

「でも…」

「それじゃあルイズちゃんと仲良くしてあげて。結構寂しがり屋さんだから」

「こら~!使い魔が余計な事いってんじゃないわよ!」

その発言には黙っていられなかった。

「まあまあ」

キバットがルイズを宥める。

「それと…ゴメンね」

「?」

「僕も勝手に君の『音楽』を聴いちゃって」

「あ…」

タバサは次狼達から聞いていた。渡には人間の心が奏でる音楽を聴き取る能力があると。

それのせいでタバサは渡を『ビショップ』本人かその仲間と勘違いしてしまった。

「ねぇ、僕にできる事があったら言って」

渡はタバサを真っ直ぐな瞳で見る。

「タバサちゃん。人は知らず知らずの内に心の中で音楽を奏でてるんだ。それは誰にも真似出来ない、その人だけの音楽…」

そう、激しいロックビートな人もいれば、クールでオルゴールな人もいる。

「でも、君は悲しい音楽を奏でている。それもずっと」

そう、それは本当に悲しい音楽。普通の人生を歩いている人間も時には悲しい音楽を奏でる。

しかし、渡は感じている。目の前にいる少女は悲しい音楽をずっと弾き続けている。

寂しさと孤独、憎悪と殺意、復讐…それらが絶妙なハーモニーを生み出し、悲しい『名曲』を創りあげている。

この曲は少しずつ少女の心を壊していくだろう。

少女の無表情はその現われだ。

その少女を支えているのは、少女の奥底から聞こえてくるもう一つ小さな『音楽』。

それはこの少女の『思い出』だろう。とても優しい、とても楽しい、とても温かくなる。それはまるで家族でピアノを笑いながら弾いているような音楽…それがこの少女の本来の…

「僕は、君の本当の『音楽』を聴きたい。僕に、助けられる事はできないかな」



ルイズは渡の言葉を黙って聞いていた。

いつもなら、使い魔が勝手を咎める所だ。

だが、ルイズは咎める事ができない。

ルイズは少し前から感じている事がある。

渡の近くにいる度に感じる『何か』だ。

それを感じると、とても悲しくなる。胸が締め付けられるようで、とても辛い。

それは今でも感じている。

(もしかすると、これがワタルの『音楽』…)

だとすると、彼はなんでこんな『音楽』を奏でているんだろう。

こんなにも、優しい自分の使い魔が…

(もしかしてワタル…いつも泣いてるの?)

以前、自分は彼の事を『泣き虫』と評した。もし彼の心が『涙の音楽』を奏でているとしたら、なんで自分に言ってくれないのだろう。

(私って…そんなに頼りない?)

ルイズが胸を締め付ける。

(私は…自分の使い魔の涙さえ拭えないほどの『ゼロ』なの)




キュルケは渡を見つめていて、改めて渡との恋が確かなものだと確信する。

(無理よ。この人を好きになるなって。自分はこの人の心に『一目惚れ』した…)

強くて、優しくて、誰かの為に戦う…

(歴代のツェルプストーの当主にだって堂々と誇ってみせるわ。こんなにも素敵な人に『恋』をできたんですもの!)





タバサは渡の言葉に戸惑っていた。

渡の言葉に一つ一つが自分の心に響いてくる。

自分の心に立ち入られていく。自分の心を揺さぶっていく。

この人は自分の全てを話しても、同じ事を言うのだろう。

自分でもそれ位はわかる。

(なんで…こんな事が言えるの?)

ほんの数日前、自分の勘違いで自分は彼に大怪我を負わせた。

普通なら怖がられたり、恨まれたりする。

(なんで…)

タバサは目の前の男性に何もかも喋ってしまいたい衝動に駆られた。

自分の本当の名前。母の事。今までの事。そして…『助けて』と叫んでしまいたかった。

(そんな資格…私に…)


ドガァァァァァァァァァッ!


『!?』

そんな彼等の邪魔をしたのは、とてつもない破壊音だった。





渡達が破壊音のする現場へと向かうと、巨大なゴーレムが塔を拳で殴っていた。身の丈およそ三十メイル。

「な、何あれ?」

「あれはゴーレムよワタル!でもなんて大きいの!あんな大きな土ゴーレムを操れるなんて、最低でもトライアングルクラスのメイジに違いないわ」

「えっと…みっつ以上仕える魔法使いが操ってるの?」

渡は初めて見る巨大なゴーレムに少しアタフタしている。

「盗賊」

 タバサが呟いた。

「最近、トリステインを騒がしているわね。確か『土くれのフーケ』…」

キュルケも心当たりがあった。

「おお~、武器屋のおっちゃんが言ってた奴か。もしかしてあいつか?」

『えっ?』

キバットの羽が指したゴーレムの肩をみると、確かに誰かが乗っていた。

「ちょっと!早く止めないとヤバイわよ!」

「バカ!どうやって止めるのよ!私達じゃ相手に…」

ルイズとキュルケはそこまで言って渡とキバットを見る。タバサの方はすでに渡をみていた。

「うん。やってみるよルイズちゃん。キバット!」

「おう!キバッていくぜ!」

ガブッ!

「変身!」

渡はキバへと姿を変える。初めて身近でみたキュルケとタバサは興味深くみて、

「でもダーリン。あんな大きなゴーレムをどうやって相手にするの」

「大丈夫!でも物凄く危ないから三人とも下がってて!できればできるだけ遠く。それも速く!」

三人は走り出す。渡が急かせたのはゴーレムが塔に大穴を開け、『土くれのフーケ』らしき人物が塔の中に入り、ゴーレムがこちらを向いたからだ。

渡は落ち着いて、フエスロットルから紫の拳を象ったフエッスルを手に取る。

「さーて、派手にぶっ壊しますか!『DOGGA HAMMER』!」

キバットはフエッスルを奏でた。



グララ…

「きゃっ」

突然の揺れにシエスタが足を取られる。

ガシッ

こけそうになったシエスタを力はしっかりと受け止めた。

「あ、ありがとうございます、リキ様」

「どう、いたし、まして」

力はニッコリと微笑む。

(リキ様はいつも寡黙ですけど、とても優しい方だな)

学園内でもいつも自分が重たい物を運んでいる時に現れて、運んでくれる。

『♪~♪~♪~♪~』

「あれ、この音は?初めて聞きます…ね」

シエスタは力の顔を見た。『待ってました』といわんばかりの顔を。

「今回はリッキーか…」

「チェッ…まあ、いっか。向こうの世界の時とは違って他に楽しめるし」

ポイッ

次狼は力にテーブルの上のチェスの駒を投げる。力はそれをキャッチすると力強く握る。

次に掌を開いた時にはチェスの駒はなく、

(チェ、チェスの駒を握りつぶした!?)

これには流石にシエスタも驚いた。

「い、ってく、る」

力は歩き出す。それを聞いたシエスタはいつものように

「いってらっしゃいませドッガ様。その無双の力、存分に振舞いください。どうか御武運を」

力はシエスタの激励を満足そうに受け取り、腕組をしてドッガに変身。そして彫像に変化して『王』の下に向かった。



ルイズはやってきた光を見る。

「あれは…筋肉バカ」

光…ドッガの彫像はキバの元にやってくる。ドッガの彫像は宙でどんどん姿を変え、ドッガの拳を象ったハンマー・魔鉄槌ドッガハンマーへと変わる。

キバがそれを力強く両手で掴むと、紫の電撃と共に鎖(カテナ)が厳重に両腕に巻きついていき、両腕が紫のキバの筋肉が通常の10倍に強化した『グレードアーム』となる。

(あれ?なんか他の二人の時より厳重に鎖が…?)

そう、純粋な力では他の二人を遥かに凌駕するドッガを制御するには他の二人より厳重な鎖(カテナ)を強いられる。ドッガハンマー本体に出さえウインチタイプのカテナをしている程だ。

次に鎖が胸を多い、ドッガの拳が変質して出来たルシファーメタル胸部装甲・アイアンラングに覆われる。

これで下部装甲との二重の守りとなり、戦車砲を至近距離で直撃しても吹っ飛ぶどころか立ち止まらず進む絶対無敵の強度を誇る。

最後にキバットの眼が紫色になり、ドッガの幻影がキバに吸い込まれると、キバの眼も紫色に変色した。

キバの全身を覆う紫は深厚な闇の色を連想させる。

キバはドッガハンマーを引きずり、無防備にゴーレムに近づいた。

「な、なにやってんのよ!バカ!」

案の定、ゴーレムは足を上げ、

ズゥゥゥゥゥゥゥンッ!

そのままキバを踏み潰した。

「ワタル!」

「ダーリン!」

「!」

三人が叫ぶ。土煙が辺りに充満している。

(あのバカ!ちゃんと避けてるでしょうね!)

自分の…自分の最強の使い魔があんなに簡単にやられるはずがない。ちゃんとかわしているはずだ。

土煙が晴れていく。そして土煙が晴れた時、三人はもっと信じられないものを見た。

『う、嘘…』

ルイズとキュルケはハモり、タバサも絶句している。

「グゥゥ…」

なんとキバはゴーレムの一撃を受け止めていた…しかも左腕一本で!

「グゥ…」

キバはドッガハンマーを手放す。みると少しずつ地面に沈んでいっている。

キバは空いた右腕でゴーレムを掴み、

「グゥゥ…グガァァァァァァァァッ!」

ふわぁ…ドゴォォォォォォォッ!

『………』

もう開いた口が塞がらなかった。

あの巨大なゴーレムを、『投げ飛ばした』のだ。

(な、なんてデタラメ!?)

ゴーレムはその大きさにそぐわぬ速さで立ち上がる。

キバはドッガハンマー掴み、持ち上げて、キバットに近づける。

「よぉーし!一気に決めるぜ!『DOGGA BYTE』!」

キバットがドッガハンマーに噛み付き、魔皇力を伝達させる。

「グゥ…ハァァァァ…」

そしてキバを中心に世界が夜に覆われる。

雷鳴轟き、そらに朧月が浮かぶ。

キバはドッガハンマーの柄の先を地面に叩きつける。

そう、拳の握り目がゴーレムに向かうように。

ドッガハンマーの拳が少しずつ開く。そしてドッガハンマーの掌には大きな一つ目が存在した。

巨大な眼球『真実の瞳(トゥルーアイ)』。このトゥルーアイの中央には巨大魔皇石・『真実の石』がはめ込まれており、ここから放出する魔皇力によって相手の弱点や記憶などを解析するだけではなく…見つめられたモノの全てが偽りと断じる事もできる!

真実の瞳に見つめられた時、『偽り』は全て動けない。

ゴーレムの動きが時が止まった様に止まる。

キバはドッガハンマーを持ち上げる。

(あれ?どんどん大きく…って!?)

なんとドッガハンマーから更に巨大な拳が雷を纏って現れる。

キバがドッガハンマーを振り回すと、それに呼応して、巨大な拳も動く。

ドゴンッ!

巨大な拳がゴーレムを砕く。

ドゴンッ!ドゴンッ!ドゴンッ!

拳の竜巻はゴーレムを粉々に破壊していき、

「ウガァァァァッ!」

止めの一撃といわんばかりに振り下ろされた『DOGGA THUNDER SLAP』により、ゴーレムはこの世から消滅した。

力には力を…それをまさに体現するキバ。

(強い…)

ルイズの胸が更に締め付けられる…

キバ…渡は強い。

メイジの実力を測るのは使い魔を見ろ。

そう考えれば自分は一流のメイジと評価されるかもしれない。

しかしルイズの心中は

(私は…ワタルのご主人様の資格があるの?)

『ゼロのルイズ』…なにもできない、魔法の仕えない貴族…

(私は…私は…)

ルイズはその小さな手を強く握った。




「ハァハァッ…」

『土くれのフーケ』はあの派手な戦闘をドサクサに逃げていた。

「まったく、なんて化け物だい!?なんて方法であたしのゴーレムをぶっ壊すのさ!」

流石に単なる『力』でゴーレムが投げ飛ばされるとは思わなかった。

「まっ、でも…」

『土くれのフーケ』は自分の手の中にある物を見る。

「『鋼の鞭剣』は手に入れた…けど、これどこが鞭?」





[5505] 第11話/Break the Chain -Quartetto!魔のスクウェア!-
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/06/29 11:11
第11話/Break the Chain -Quartetto!魔のスクウェア!-


フーケの襲撃から、調査などに時間を使い、一夜明けたトリステイン魔法学院では大騒ぎになっていた。

秘宝である『鋼の鞭剣』が盗まれたからだ。

「それで、犯行現場を見ていたのは誰だね?」

「この3人です」

オスマンのコルベールが自分の後ろに控えていた4人と1匹を指差した。

ルイズ・キュルケ・タバサの3人だ。

(むっ…)

渡とキバットも傍にいたが、使い魔なので数には入っていない。

それに対して3人は少しだけムカッときた。

「ふむ…君達か」

オスマンは興味深そうに渡とキバットを見つめた。

「詳しく説明したまえ」

ルイズが進み出て、説明を始める。

「あの、私達が中庭で話をしていると、大きな破壊音が聞こえてきました。音のする方に駆けつけてみると大きなゴーレムが宝物庫の壁を殴りつけていたんです。私達は何とかくい止めようとして、使い魔がゴーレムを倒すことには成功しました。ですが、その、あまりにもちょっと派手にゴーレムを破壊した隙に犯人は逃げ出したみたいです」

(ちょっとやりすぎたね)

(そうだな~)

ドッガハンマーでゴーレムを破壊している時、強烈な破壊音と雷鳴の轟き、しかもゴーレムの瓦礫が落ちる音で犯人の足取りを完璧に見失ってしまった。

「ふむ…」

オスマンは髭を撫でた。

「後を追おうにも、手がかり無しというわけか…」

それから、オスマンは、気付いたようにコルベールに尋ねた。

「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」

「それがその…朝から姿が見えませんで」

「この非常時に、何処に行ったのじゃ?」

「どこなんでしょう?」

そんな風に噂していると、ロングビルが現れた。

「ミス・ロングビル!何処に行っていたんですか!?大変ですぞ!事件ですぞ!」

コルベールが興奮してまくし立てているが、ロングビルは落ち着いた態度だ。

「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしておりましたの」

「調査?」

「そうですわ。昨日から大騒ぎじゃありませんか。宝物庫の壁にフーケのサインを見つけたので、これが国中を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査をいたしました」

「仕事が早いの。ミス・ロングビル」

そして、コルベールが慌てた調子で促した。

「で、結果は?」

「はい。フーケの居所が分かりました」

「な、なんですと!?」

コルベールは素っ頓狂な声を上げた。

「誰に聞いたんじゃね?ミス・ロングビル」

「はい。近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。おそらく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」

「黒ずくめのローブ?ああ、それならそのフーケって奴だな。黒いローブ着てたし」

一番最初にキバットゴーレムの肩に乗っていたフーケを見つけたキバットが言う。

オスマンは目を鋭くして、ロングビルに尋ねた。

「そこは、近いのかね?」

「はい。徒歩で半日。馬で4時間といったところでしょうか」

「すぐに王室に報告しましょう!王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」

コルベールが叫んだ。

だが、オスマンは首を振ると怒鳴った。

「馬鹿者!!王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ!その上、身にかかる火の粉を己で振り払えぬようで、何が貴族じゃ!魔法学院の宝が盗まれた!これは、魔法学院の問題じゃ!当然我らで解決する!」

オスマンのいう事ももっともでコルベールは黙ってしまう。

「では、捜索隊を編成する。我と思うものは、杖を掲げよ」

しかし、誰も杖を掲げようとはしない。

「おらんのか?おや?どうした!フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!?」

オスマンは更に言うが、誰も杖を掲げない。

すると、そんな中、一人が杖を掲げた。それは…

「ミス・ヴァリエール! 何をしているのです! 君は生徒ではありませんか! ここは教師に任せて…」

杖を上げたのはルイズだった。

コルベールがルイズを説得しようとしていると、また一人杖を掲げた。

「ミス・ツェルプストー! 君まで!」

「ヴァリエールには負けられませんわ」

(名誉も、恋もね)

そして、キュルケが杖を掲げるのを見て、タバサも掲げた。

「二人が心配…それと、ワタルへのお詫び」

そのタバサの言葉に、キュルケは感動した面持ちで、タバサを見つめた。

「ありがとう…」

ルイズも唇をかみ締めて、礼の言葉をタバサに言った。

その様子をオスマン氏は笑いながら、3人を見ていた。

「では、頼むとしようかの。彼女達は、フーケの目撃者である」

オスマン氏は、部屋にいる全員に言うように言った。

「その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士でもある」

それを聞いた教師たちは、返事をせずに立っているだけのタバサに驚きの視線を送る。

「本当なの?タバサ」

どうやらキュルケも知らなかったらしく、驚いている。

『シュヴァリエ』は王室から与えられる爵位の中でも最下級の称号である。

しかし、男爵や子爵の爵位ならば、領地を買うことで手に入れることもできるが、『シュヴァリエ』は純粋に業績に対してのみ与えられる爵位、つまり実力の称号なのである。

それ故に、タバサの年でそれを与えられるというのが驚きなのである。

「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いておるが?」

キュルケは得意げに、髪をかきあげる。

「そして…」

最後にルイズのことを言おうとするが、こほん、と咳をすると、オスマン氏は目を逸らした。

「その…ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを排出したヴァリエール侯爵家の息女で、その…うむ…なんだ、将来有望な」

オスマン氏は滝のように汗を流しながら、褒めるところを探しているようであり、ルイズの方を見ようとしないでいる。

そこでチラッと渡を見て、

「おぉそうであった。その使い魔は、平民ながらあのグラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったと聞いておるぞ」

突然指されて渡は驚く。ルイズは少し唇をかみ締める。

「そうでした!彼は伝説のキ…」

コルベールは、慌てて自分の口を押さえた。一通り、言い終えるとオスマン氏は、4人に向き直った。

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」

ルイズにキュルケ、タバサは真顔になって直立する。『杖にかけて!』と同時に唱和した。



フーケ捜索に当たって馬車を用意してもらった渡達4人は、オスマン氏に命じられ、案内役としてミス・ロングビルを加えて、直ぐにフーケを追い、森に向かって出発した。

「それにしても、そのフーケさんって人は何を盗んだの?」

「そうそう、そういえば俺と渡は聞いてないな」

「そういえば、どんな宝物を盗んだのかしら」

「何でも『鋼の鞭剣』といわれるマジックアイテムだそうです」

馬車の手綱を握っているミス・ロングビルが会話に混ざってきた

「なんでも一振りで様々なモノを薙ぎ払える特殊なモノだそうです」

「へぇ」

「ったく…何が悲しくて、泥棒退治なんか…」

ぼやき始めたキュルケをルイズが睨んだ。

「だったら来なきゃよかったでしょ」

「あんた1人じゃ、ダーリンが危険じゃないの」

キュルケは立ち上がると渡の横に座り、体をくっつける。

「どうしてよ?」

「いざ、あの大きなゴーレムがまた現れたら、あんたはどうせ逃げ出して後ろから見ているだけでしょう?ダーリンを戦わせて自分は高みの見物。そうでしょう?」

その言葉にルイズは衝撃を受けるが、

「誰が逃げるもんですか。私の魔法でなんとかしてみせるわ」

何とかいつもの勝気な台詞をだす。

「魔法?誰が?笑わせないで!ゼロのルイズ」

二人が口喧嘩を始めると渡とキバットは逃げるように席を立ち、最初にキュルケが座って場所に移った。

隣には、タバサが座っている。

渡が来ると本から顔を上げて渡を見ている。

「ねぇ、なんの本を読んでるのタバサちゃん?」

「…古い物語…『黒い勇者』」

「『黒い勇者』?」

「そう、昔、始祖ブリミルと共に『魔皇キバ』を倒して消えた勇者」

「へぇ~、この世界にもキバがいるのは本当なんだねキバット」

「おお」

「…この世界?」

「あ、いや、僕も『キバ』なんだ」

「?」

「僕も変身するでしょ。あれが『キバ』」

「…うそつき」

「ええ!?嘘じゃないよ!」

「あなたは…優しい」

タバサは少し顔を赤くして、そっぽ向く。

「だから、魔皇なんかじゃない」

渡もその言葉には少し驚いた。

「………」

タバサは横目で渡の表情を驚く。渡がとても悲しそうな顔をしていたからだ。

渡はタバサの頭に手を置いて

「…ありがとう」

その声は、自分を責め続けている者の声だった。



そんなことを考えながらいると、どうやら目的の森に着いたらしく、馬車が止まった。

ミス・ロングビルの提案で森に着くと、馬車を折り、フーケが潜んでいるという廃屋に徒歩で向かうことになった。

森は思っていたよりも広かったが、昼間だというのに薄暗く、気味の悪い場所だった。

森の奥に進んでいくと、しばらく進むと開けた場所に出て、目的の廃屋を見つけた。

「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」

ミス・ロングビルは廃屋を指差しながらそう言った。

5人と一匹は小屋の中から見えないように、森の茂みに隠れたまま廃屋を見つめ、相談を始めた。

ルイズ達が相談した結果、最初に偵察兼囮役が小屋の傍に赴き、中の様子を確認する。

次に、中にフーケがいれば、何かして外に誘き出す。小屋の中では、ゴーレムを作り出すほどの土が無いので、乗ってくる筈との事である。

そして、フーケが外に出たら、魔法で一気に攻撃し、ゴーレムを作り出す暇を与えず、集中砲火でフーケを静めるという。

ちなみに、偵察兼囮役は渡に確定している。

「じゃあ、いくよ。キバット」

「おう!ガブッ!」

渡はキバに変身する。キバは警戒しながら小屋に近づいて中を覗うが、

「誰もいないよ」

それを聞くと、次に、タバサがドアに向けて杖を振った。

「ワナはないみたい」

そう呟いて、タバサはドアを開け、中に入っていった。

キバとキュルケはその後に続き、ルイズは外で見張りをするといって、ドアの所に残った。

ロングビルは辺りを偵察してきますと言って、森の中に消えた。

小屋に入ったキバたちは、フーケの残した手がかりがないか調べ始めた。

しかし、中は埃が溜まっていて、短期間だとしても人が隠れていたような気配はまるでない。

「こりゃあガセネタっぽい「あった」…は?」

タバサが呟いた。

「鋼の鞭剣」

タバサはそれを無造作に持ち、キバ達に見せる。

「あっけないわね!」

キュルケが叫んだ。

キバとキバットは『鋼の鞭剣』を見て、目を丸くした

「ねぇ、キバット。これ確か…」

「ああ、バカ狼ならちゃんと確認できるかな」

「後で次狼さんに聞いてみよう」

ちょうどその時、

「きゃぁああああああ!」

外で見張りをしているルイズの悲鳴が聞こえた。

「ルイズちゃん!」

ドアの方を振り向いた時、突然小屋の屋根が吹き飛んだ。

屋根がなくなった所為で、そこに昨日キバが破壊したフーケの巨大ゴーレムが見えた。

「ゴーレム!」

キュルケは大声で叫ぶ。

タバサすぐに反応すると、自分の身長より大きな杖を振るい、呪文を唱えた。

すると、杖の先から巨大な竜巻が舞い上がり、ゴーレムにぶつかるが、びくともしない。

今度は、キュルケが胸にさした杖を引き抜き、呪文を唱える。

杖から炎が伸び、ゴーレムを火炎に包むが、ゴーレムにはまったくの無意味のようだった。

キバも飛び上がって、何度かパンチとキックで破壊を試みるが、すぐに再生する。

「無理よこんなの!」

「キュルケちゃん、タバサちゃん!逃げよう!」

「昨日みたいにやっつけないの?」

「あれで壊すと瓦礫が落ちてくる!渡もそこんとこわかってるからできないんだ!」

「わかった。退却」

タバサはそう言うと指笛を鳴らし、使い魔のシルフィードを呼んだ。

キバはの姿を探す。すると、ゴーレムの背後でルーンを呟き、ゴーレムに杖を振りかざすルイズの姿を見つけた。

ルイズが杖を振りかざすと、ゴーレムの表面で、何かが弾け、ゴーレムがルイズに気づき振り向いた。

「ルイズちゃん!」

キバはルイズの元に走る。

ゴーレムはルイズを敵と認識すると、踏み潰そうと巨大な足を持ち上げた。

ルイズが、それに反応して杖を振りかざすが、呪文の詠唱が間に合わない。

「アァァァァァァァッ!」

キバは力の限りは知り、ルイズを抱えて、飛び下がり、何とかゴーレムの足を交わした。

「ちぃ、なにやってるんだ!このペタンコ!!」

「………」

「大丈夫?ルイズちゃん…でも、なんで逃げなかったの」

キバットだけではなく、いつも優しい声をかけるキバも真剣な声をかける。

「……あんたの言ってることくらい、私だって分かってるわよ。魔法の使えない貴族。最初っから、私にできることなんてなかったの」

「だったら!」

「…私は貴族よ。魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ。敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」

「でも!…でも!」

キバの声が震えている。

「死んじゃったら!何もならないんだよ!」

(あっ…)

ルイズは胸が痛む。

「死んじゃったら笑えない!大事な人と話すこともできない!死んだら…君がいなくなるんだよ!」

(私が…ワタルを泣かせちゃったんだ…)

ただでさえ泣いている人を、さらに泣かしてしまった。でも…

「…フーケを捕まえれば、誰ももう、私をゼロのルイズとは呼ばないでしょ…」

ルイズは杖をグッと握り締めながら言った。

「だって…だって私、魔法が使えないの…私だって貴族なの。いつもゼロのルイズって言われて…バカにされて…悔しくて…それに…」

ルイズの声に涙声が混ざってくる。

「今の…今の私じゃ、いつも泣いているあんたを涙すら…拭く事ができない…これで、誇りまでなくしたら…あんたのご主人様でいる資格すらない…本当に…『ゼロ』になっちゃう…」

泣き出しそうなルイズを余所に起き上がったゴーレムが、今度は振り上げた拳を振り下ろしてきた。が、

ブァァァァァッ!ドゴンッ!

キバの体からとてつもない魔皇力が放たれる。ゴーレムは魔皇力の衝撃でゴーレムは倒れる。

「大丈夫」

キバは渡に戻る。

「ルイズちゃん。君はとても強い『音楽(こころ)』を持っている。君は、『ゼロ』なんかじゃない」

渡はルイズを優しく抱きしめる。

小さな体に大きな誇り。そして苦悩しながらも前を歩く音楽(こころ)。

(なんて美しいんだろう…)

渡は心の底からそう思う。自分なんかとは比べ物にならない…

「君は強くなる。僕なんかより遥かに強く…だから、その時まで…」

渡はルイズに背を向け、ゴーレムと相対する。

「僕が君を守り抜く!」

「おう!ガブッ!」

「変身!」

渡は再びキバに変身する。

キバはフエスロットルからフエッスルを…3つ抜き取る。

「わ、渡!?あれで行くのか!」

「うん。砂粒一つ、僕のご主人様に当たらせない」

「ふっ。いいぜ!こんな熱い渡は久しぶりだ!俺もキバっていくぜ!」

キバットは一つ目の笛を咥える。

「『GARULU SABER』!」

『♪~♪~♪♪』

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キャッスルドラン内…どのカードを捨てようか迷っていた次狼が音色の聴こえた方へ顔を向ける。

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次に二つ目、

「さらに!『BASSHAA MAGNUM』!」

『♪~♪~♪~』

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二つ目に自分の音色が奏でられ、ラモンはカードから目を外す。

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そして最後に、

「そして!『DOGGA HAMMER』!」

『♪~♪~♪~♪~』

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決め手のストレートを二人に見せた瞬間に奏でられた音色に力も振り向く。

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魔性の音を奏でる三つの笛の音色はルイズの耳に力強く残った。



三つの音色を聞いて、3人はトランプの手札を止める。飲み物の準備をしていたシエスタの腕も止まっている。

「…いくか」

「うん」

「ふぅぅぅぅ…」

3人はそれぞれの手札をテーブルの上に叩きつけ、立ち上がる。

シエスタも3人の後ろにつき、

「皆様、いってらっしゃいませ。どうか、我等の優しき主人をお守りください」

次狼は床を引っかき、体を蒼い炎に包み、吠える。

ラモンは陽気なポーズをとって笑う。

力は頭を抱えて叫び、体を稲妻で迸らせた。



そして、三つの彫像は王の下へと向かった。








三つの彫像がキバの下へやってきた。彫像はそれぞれキバに吸収される。

ガルルは左腕に。バッシャーは右腕に。ドッガは胸に。

キバの両手に鎖(カテナ)が巻きついていく。以前のように弾け飛んだ後、現れたのはアンシンメトリーの両手。

左腕はガルルシールド。右腕はバッシャースケイル。

次に胸に鎖が巻かれ、弾け飛んだ。現れたのはアイアンラング。

キバの魔皇力が更に上昇する。

キバの奥の手の一つ、『ドッガ・ガルル・バッシャー・キバフォーム』…『DOGABAKI FORM』。

「ワ、ワタル…あんたなんて事…きゃ!?」

「いいか渡!五分間だけだぞ!」

「うん!」

ルイズを担ぎ上げたキバの右腕と額の魔皇石が光る。

すると地面からどんどん水が湧き出し、ちょっとした湖になる。キバはその上に乗り、スケートのように滑り、超感覚でゴーレムの気配を察しながら、ゴーレムより少し上の空で、キュルケとタバサが乗ったシルフィードを発見する。

「ダーリン!」

「こっち」

「キュルケちゃん!タバサちゃん!」

次に左腕と額の魔皇石が光る。キバは水の上を超スピードで滑走する。

「キャアァァッ!?」

ダンッ!

そのスピードを利用して、シルフィードが飛んでいる高さまで飛び上がる。

「ルイズちゃんをお願い!」

少し乱暴だったが、二人にルイズを手渡し、そのまま大地に戻る。

「ワタル!お願い!今すぐ変身を解いて!」

「どうしたのルイズ?そんなに慌てて。ダーリンなら大丈夫よ」

「違うの!なんだか解かる…今のワタルの姿…ものすごく危険なの!」

ルイズの言っている事は正しかった。

ドガバキフォーム…全てのフォームの能力を重ねそろえた姿。

しかし、非常に強力な反面、キバという一つの器に3体ものモンスターの力を付与しているため、キバやキバットはもちろん、ガルル達への肉体的負担もかなり大きい。

しかも最悪の場合、全身に装着されている魔皇石があり余るパワーを抑えきれずキバの鎧もろとも自壊し、渡とキバットを含めた4体のモンスター全員の生命を脅かす危険性を持つ。

活動限界時間はキバットが魔皇力を制御できる約5分間…!

キバはアイアンラングに力を送る。すると、ドッガハンマーがキバの手に出現した。

「キバット!お願い!」

「おう!魔皇力!最大出力!」

キバの全身が光る!

キバはそのまま、捉えられない『ガルル』のスピードで走り!

ドガンドガンドガンッ!

『バッシャー』のテクニックと超感覚で全てを見極め!

ドガンドガンドガンッ!

『ドッガ』の力でゴーレムを細かく砕いていく!

再生する暇は与えない!自分の姿を捉えさせない!

ピクッ…

キバの超感覚が何かに反応する。

(あれは…ロングビルさん?でも…この魔力の流れって…)

キバは瓦解寸前のゴーレムの真上に跳び、

「『Wake up』!」

禁断の笛の音をキバットは奏でる。

右足のヘルズゲートが開放され、強大な魔皇力が放出される。

「ハァァァァァァァッ!」

ドガァァァァァァァッン!

そのままキバはゴーレムに『DARKNESS MOON BREAK』をぶちかました。

完全にゴーレムは破壊され、瓦礫一つすら残らなかった。

「ふぅ…」

キバは変身を解除し、渡へと戻った。三つの彫像はそのままどこかに跳んでいく。

「ワタルゥゥゥゥゥゥッ!」

「へ?…うわぁ!?」

ドゴッ!

「ヘブッ!」

空からルイズの声が聞こえたと思ったら、ルイズの『らいだ~きっく』が胴体に炸裂した。

「わ、渡!大丈夫か!?」

「うう、痛い…」

渡はヒットした場所である胸を摩りながら起き上がる。

「こらルイズ!渡になんて事すんだ!」

ルイズはプリプリ怒って、

「うるさい!ご主人様の許可なくあんな危険な事したからよ!」

ポカポカ。

ルイズは渡を叩く。

ポカポカポカ…

ルイズが叩くのを止めて…

「ご苦労様…」

「…どういたしまして」

流石にいい雰囲気になったのでキュルケとタバサが割って入ろうとすると、

「キャァァァァァッ!」

森の向こうから悲鳴が聞こえた。



[5505] 第12話/舞踏会 ~王の来訪~
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/06/29 11:13
第12話/舞踏会 ~王の来訪~

「キャァァァァァッ!」

森の向こうから悲鳴が聞こえた。

「あれはミス・ロングビルの声!?」

「大変」

「安心して…みんな」

「何言ってんのよワタル!ミス・ロングビルがフーケに襲われてるかも…」

「その心配はない」

「やっほー、お姉ちゃん達~」

「………」

森の向こうから現れたのはミス・ロングビルを捕まえた次狼・ラモン・力だった。

「ちょ、放してください!」

「すいません。少しおとなしくしててください、『フーケさん』」

『…え?』

渡はミス・ロングビルに近づき、

「もう言い逃れはできないと思います」

「だろ?ミス・フーケ」

次狼も問い詰める。

「…いつから気づいてたんだい?」

その言葉にルイズ・キュルケ・タバサは驚いたが渡は続ける。

「さっきの戦いの時、あなたの魔力がゴーレムとつながっている事を確認しました」

「…そうかい。まったく、あんたはとんでもない化け物だね」

フーケはふてくされたように言う。

「あんたが…伝説の『キバ』かい?」

「…はい。少なくとも現在『キバ』は僕一人しかいません」

その言葉に渡が『キバ』だと聞いた事がないキュルケだけが驚く。

「おいおい!渡もそう簡単にバラすな…ってなんで知ってんだねーちゃん」

「あんたの事を学園長(セクハラ爺)とコルベール(ハゲ教師)が話してたのさ」

それを聞いてルイズは驚く。

(ど、どうしよう。ワタルの正体がばれてたなんて…)

「ねぇ、なんであんたあんな小娘にしたがってんのさ」

フーケはルイズを見て渡に話を続ける。

「魔法が使えないのを別にしても、この小娘は『貴族』だろ。『キバ』は『王』なんじゃないのかい?」

「…大切な人だから…じゃ、駄目ですか」

その言葉でルイズは顔を真っ赤にし、キュルケの顔が真っ青になり、タバサは杖に少し力をこめる。

「そうかい…じゃあ、仕方ないね。まったく散々だね。『鋼の鞭剣』の使い方はわからないわ。捕まるわで…」

「これはこう使うんだ」

次狼は『鋼の鞭剣』の柄の部分にあるスイッチを押しながら、

シュバッ!

振ると鞭のような刃が伸びてそこ辺りの木を切り倒し、

シュンッ

スイッチを離すと元のナイフ型に戻った。

「まさかこんなものもこっちの世界にきているとはな…」

「な、なんてマジックアイテムなの!そんなもの使われてたら…!」

「大丈夫だよ。僕なら見切れる。フーケさん。これ本当に宝物庫から持ってきたものですか?」

「…えっ!?あ、ああ、そうだよ。マジックアイテム『鋼の鞭剣』…」

「これは『ファンガイア・スレイヤー』といってマジックアイテムじゃない。科学技術は豊富だが、ただのリーチの長い剣…まあ、それだけでも、兵士一人でも持てばこの世界じゃ貴族以外には脅威だな」

(ゆりが使っていたな…)

次狼は昔惚れていた女を思いながら説明をする。

「ワタル…もしかしてそれ…」

「うん、僕の世界から来た物だよ。学園長さんに後できかなきゃ取りあえず…」

渡はフーケに近づく。

(あれ…この人…)

「ごめんなさい。ちょっと窮屈な思いをさせて…キバット」

「おう」

キバットが手錠をひとつ出す。

それをガチャっとフーケの手にはめると

「はにゃ」

フーケは力が抜けたように倒れかける。

「な、なに、これ…」

「カテナを改造した手錠です。力が奪われます」

こうしてフーケは捕まえられた。





渡達は学園に帰ると、学園長室でオスマンに報告をしていた。

「ふむ…ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな…美人なので、何の疑いもせず秘書に採用してしまった」

「一体何処で採用されたんですか?」

コルベールが尋ねる。

「街の居酒屋じゃ。私は客で、彼女は給仕をしておった。しかし、ついついこの手が魅惑の魔法を放つお尻を撫でてしまってな」

「それで?」

コルベールが続きを促す。

オスマンは、照れたように告白した。

「おほん。それでも怒らないどころか、わしの事を『学園長って素敵』とか『お髭が素敵』とか言ってきての…秘書にならないかと、言ってしまった。魔法も使えたし」

「…なんで?」

理解できないと言った口調でコルベールが尋ねる。

「だって…」

「一度くたばった方がいいのでは?」

コルベールは、ぼそっと言った。

オスマンは、軽く咳払いをすると、コルベールに向き直り、重々しい口調で言った。

「今思えば、あれこそが学院に潜り込むためのフーケの手じゃったに違いない。褒めてくれた上に尻を撫でても怒らない。惚れてる?とか思うじゃろ?なあ?ねえ?」

その言葉を聞き、コルベールは冷たい目で見ていたが

「そうだな、爺さん」

渡達の後ろにいた3人の内、次狼だけがオスマンに近づき、

「美人はそれだけで、いけない魔法使いだ。男が叶う筈ない」

「そのとおりじゃ!何処の誰かはしらんが君は上手いことを言うな!」

そんな2人を、渡達は呆れた目で見る。

そんな冷たい視線にオスマンと次狼は気付き、咳払いをすると、厳しい顔つきをして見せた。

「さてと、君達はよくぞフーケを捕まえ、『鋼の鞭剣』を取り返してきた」

渡とキバット、三魔人を除いた3人がオスマンに礼をする。

「ミス・ヴァリエールとミス・ツェルプストーの『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。と言っても、ミス・タバサはすでに『シュヴァリエ』の爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」

ルイズ、キュルケの顔が、ぱあっと輝いた。タバサだけはいつもの無表情。

「本当ですか?」

キュルケが表情を輝かせて言った。

「本当じゃ。君達は、そのぐらいの事をしたんじゃから」

「三人ともおめでとう」

「ひゅーひゅー」

渡とキバットは拍手を交えながら祝福する。それを見て3人はそろってオスマンに詰め寄る。

「学園長!」

「ダーリンには!」

「なにもないの?」

「ざ、残念ながら、彼は貴族ではない」

三人は内心苛立ちを覚える。

フーケのゴーレムを倒し、フーケの正体を見破ったのは全部渡だ。

自分達は結局の所ついていっただけ…

(…ワタル…)

ルイズは渡が『王』である事を言ってしまおうかと思った。

そうすれば自分の使い魔は正当な評価を…

「ありがとう3人とも。僕はいいよ。みんなが無事だったんだから」

渡がそういって初めてオスマンは3人から解放される。オスマンはホッと一息ついて

「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り、『鋼の鞭剣』も戻ってきたし、予定通り執り行う。「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」

『舞踏会!』

3人はそれに反応する。

(舞踏会…)

(ダーリンと…)

(踊る…)

『それでは失礼します』

3人は礼をして超スピードで部屋を出て行った。

己の戦闘服(ドレス)を用意する為に。

しかし、渡とキバット、そして三魔騎士は残っていた。

「さてと、どうやら君達は、私に聞きたいことがあるそうじゃな」

渡は頷く。

「言ってごらんなさい。出来るだけ力になろう。君らに爵位を授けることは出来んが、せめてものお礼じゃ」

コルベールが渡が何を話のかとワクワクとオッカナビックリが絶妙に混ざってしているようだ

「あの…」

「その前にだ、オールド・オスマン殿」

渡が言う前にキバットが口を挟む。

「な、なんじゃね、ええと…キバット君」

「最初に言っておく。王の御前だ。無礼は許さん」

『ふぇっ?』

(ちょ、ちょっとキバット)

渡は使い魔達と会話する時のようなテレパシーでキバットに問いかける。

(どうしたの急に)

(こいつらはお前の正体に気づいている。だからちょっとした芝居をするんだよ)

「これから『王』が問う事に嘘偽りは許さん」

後ろから次狼が歩いてくる。

「先程の『爵位を授けられん』といった暴言すら耐え難い言葉」

ラモンも普段とは違った雰囲気で問いかける。

「これ、以上の、無礼、死に、つながる」

最大級の人外の殺気を投げかけられ、オスマンとコルベールの本能が震える。

そう…確かに今ここにいる者達は人間に友好的だが、元は人間に原初の恐怖を与える存在達だ。

「わ、わかり申した。わ、ワタル王。先程のご無礼お許しください」

「い、いえ、その…」

(おっ、この彼からこの状況を打開…)

「…無礼を許そうオールド・オスマン」

(ヒィィィィ~)

渡の突然の変化にオスマンとコルベールはさらに震えた。

「まずはこちらから言おう。お前達が『鋼の鞭剣』と呼ぶもの…元は僕達がいた世界にあったものだ」

オスマンの目が光った。

「元いた世界とは?」

「…僕達はこの世界とは別の世界からやってきた」

「ほ、本当なのですか!?それではなぜあなたはキ…」

「それは後でこちらから話そう。それで、あの『鋼の鞭剣』はどこで手に入れた?」

「あの『鋼の鞭剣』は私の命の恩人の形見じゃ」

オスマンはため息をついて答えた。

「形見?」

「死んでしまった。今から、20年も昔の話じゃ。20年前、森を散策していた私は、ワイバーンに襲われた。そこを救ってくれたのが、あの『鋼の鞭剣』の持ち主じゃ。彼は鋼の鞭剣で、ワイバーンの首を薙ぎ払うと、ばったりと倒れおった。怪我をしていたのじゃ。私は彼を学院に運び込み、手厚く看護した。しかし、看護の甲斐なく…」

「死んでしまったのか?」

キバットが確認するように、オスマンの言葉を続けた。

オスマンは頷く。

「私はこれを『鋼の鞭剣』と名づけ、宝物庫にしまいこんだ。恩人の形見としてな…」

オスマンは遠い目になる。

「彼はベッドの上で、死ぬまでうわごとのように繰り返しておった。『ここは何処だ。元の世界に帰らなければ。奴等を倒さなければ』とな。きっと、彼は君と同じ世界から来たんじゃろうな」

おそらくその人は『会』の戦士だったのだろう。それが何故かこの世界にやってきてしまった。

「誰がこっちにその人を呼んだ?」

「それはわからん。どんな方法で彼がこっちの世界にやってきたのか、最後までわからんかった」

「そうか…」

「あ、あのワタル王。よろしければお聞きしたい事があるのですが…」

コルベールは四人の人外に睨みつけられながら恐る恐る尋ねる。

「よい。許す」

「あ、あなたはあの…『キバ』ではないのですか?」

コルベールは最大の疑問を問う。

「いかにも。僕こそが『キバ』だ。『キバ』とは我が種族の支配者の証。僕が…」

渡は一瞬だけ息を呑み。

「僕が、キングだ」

「しかしその左手の紋章は…!?」

「これは『キバの紋章』。この世界にも『キバ』がいたようだな」

「そ、それではあなたは元の世界を滅ぼしたのですか?」

ワタルがコルベールのその言葉を聞くとギロリッと睨みつける。

「あ、いえ、その…」

「安心しろ。この世界では僕はルイズちゃんの使い魔だ。この世界を滅ぼすつもりはない。もっとも…」

渡はオスマンを睨みつけ、

「この事を理由にルイズちゃんやキュルケちゃん、タバサちゃんに何かすれば僕がそれを滅ぼす」

絶対の宣告。二人はそう感じた。これだけは渡の本心でもあり、芝居ではなかった。

「逆に言えばルイズちゃん達に被害がなければ手出しはしません」

渡が元の口調に戻る。

「わ、わかりもうした。肝に銘じておこう」

「それでは、これからもよろしくお願いします」

そうして渡達は学園長室から出て行った。

「…どう思うコルベール君」

「…し、死ぬかと思いました。私でもあの中の誰にも勝てる気がしません」

「そうじゃの。しかし、これはある意味救いかもしれん」

「どういうことです」

「いいか、彼はミス・ヴァリエールの使い魔だといった。だから彼女には従う気じゃし…おそらく彼は優しいのじゃろう」

「彼が…ですか?」

「そう、つまり彼は自分より周りの人間に手を出すなといいいたかったのじゃろう。彼は大切な者を護りたいだけなんじゃ」

だから自分の正体に気づいている自分達に釘を刺したのだろう。

変に誤解される前に…

「まあ、なんとも暫くは大丈夫そうじゃな」



「ふぅ~、やっぱり、ああいうのは苦手だね」

渡は息を吐いて、そういった。

「中々だったぞ渡。さてと、キャッスルドランにいこうぜ」

「え?なんで?」

元々ルイズの部屋に帰ろうとしていたので、ちょっと首をかしげる。

「舞踏会だぞ、渡」

「そうだな。我等の王の初の社交デビューだ」

「そうそう。こういったのは大事だよ。僕達も着替えなきゃ」

「王は、着飾る」

「ええ!まさか『アレ』!?」

渡は三魔人に引きずられながら、キャッスルドランへと向かった。



その夜…アルヴィーズの食堂の上の階にあるホールでは『フリッグの舞踏会』が催され、着飾った生徒達や教師達で賑わっている。

会場には、豪華に盛り付けられた料理がテーブルに並べられ、高級なワインが何本も用意されていた。

参加している者達は、一様に楽しげである。

その中に…

「まったく!ワタルはどこいったのよ!」

白に近い薄い桃色の清楚なパーティドレスを身に纏うルイズは舞踏会場で渡を探していた。

「せっかくご主人様がダンスを一緒に踊ってあげようと思ってたのにもう!」

同じく

「邪魔よ!あなた達とは終ったの!どきなさい!ダーリンはどこなの!?」

綺麗で胸を強調したドレスを着たキュルケも

「…どこ?」

黒を基調としたパーティドレスを着たタバサも渡を探していた。

そして3人はお約束通り会ってしまった。

「あんた達、誰を探してるのよ?」

「ふん、決まってるじゃない」

「(コクコク)」

ルイズの怒りメーターが振り切る。

「あいつは私の使い魔なのよ!人の使い魔に手ェ出すんじゃないわよ!」

「あ~ら、主人としての力を使わなきゃ男一人誘えないのかしら」

「踊るのは自由」

「何ですって!どーせ渡の前じゃいつも『あぅあぅ』言ってるだけの癖に!」

「言ったわね!」

「タバサ!あんたなんでワタルと踊ろうとしてんのよ!」

「別に」

3人が言い争っていると

『あれ?』

3人は同時に見つけた。

衛兵を寄せて門の前に立つ、シエスタ・次狼・ラモン・力。

すると力がメガホンを取り出す。石焼きイモのバイトの時に使っていたものだ。

力はす~、っと息を吸い込んで

『ワタル・クレナイのおな~~~~り~~~~!』

そしてすぐに四人は跪いた。

ギギギ~~…

ホールの扉が開き、足音が聞こえる。

「ワタル?まった勝手に…」

「ダーリンたら、結構演出家ね」

「うん」

そして現れた渡が現れる。その姿を見て3人は…いや、会場の人間すべてが息を呑む。

渡の服はいつもと違ってた。

黒と赤を基調とした上質な革の服。闇の色を纏わせた服に鎖が巻きついている。

そして、腰には『二本の剣』…デルフリンガーの他にもう一本…携えている。

そして表情は整った顔に威厳と同時に優しさを含ませた表情をしている。

時に威圧し、時に慈悲を与える存在感。

それはまさに…

(キ、キング…)

渡は会場の目線を釘付けにしながら3人に近づいていく。

「皆お待たせ。似合ってるよドレス」

3人はホッと息を吐く。

一瞬、渡が物凄く自分達とは遠い存在と感じてしまったからだ。

(やっぱり、ワタルはワタルなんだ…)

ルイズは内心ドキマギしながら渡に手を出す。

「ちょっとワタル。そんな似合わないカッコしてるんだから、何か言うことないの?」

キュルケとタバサはしまったと思い、急いで自分達も手を向ける。

それを見た渡はニッコリ笑って、

「僕と踊っていただけますか?」






結局、一騒動した後、踊る順番はルイズ・キュルケ・タバサ・シエスタの順に決まった。

「どうしたのその服?」

「キャッスルドランにおいてあったんだ。王の服みたいだよ」

踊りながら

「その服着ていると、本当に魔皇見たいね」

「…そうだね」

渡の表情が少し陰る。

(し、しまった!ええっと、他の話題を…)

「そ、そんな剣持ってたんだ」

「あ、うん。これもキバの鎧と一緒で、持ち主を選ぶ剣なんだ」

「ふ~ん。ねぇ、なんで渡は王様になれたの?」

「え?」

「だって、王族はこの世でもっとも誇り高き存在じゃない。王様になれるなんて渡はよっぽど頑張ったのね」

「…うん」

(まただ…また私…)

ルイズは少し耳を澄ます。すると、自分に『音楽』が聞こえてくる。

(なんでよ…)

ルイズは疑問に思う。

(なんでこんなに強い王様が…こんなに泣いているのよ)

ルイズは渡の顔を見てさらに傷つく。

こんなにも強く、

こんなにも頼もしく、

(こんなにも優しい人が…なんで泣き続けているの…?)

そしてルイズは決意する。

(いつか…ううん、絶対こいつの涙を拭って、泣き止ませて見せる)

それは今までのように強くなりたいじゃ駄目だ。

(強くなるんだ…あなたの主人にふさわしいくらい)

「もう、ステップ間違えてるわよ」

「あれ?」

ルイズの左掌が少し、熱くなった



「今日は大活躍だったわね。ダーリン」

「ありがとう。キュルケちゃんもおめでとう。『シュヴァリエ』だっけ?よかったね」

「あんなもの…」

今回の功績は全て目の前にいる人の力だ。自分は…何もできなかった。

そして今日初めて知った彼の正体…『キバ(伝説の魔皇)』…

「ねぇ、私強くなれるの?」

(あなたの…手助けができるくらい…)

「大丈夫。キュルケちゃんは素敵な『音楽』を奏でているよ。君は強くなる。ほら、目を閉じて、耳を澄ましてごらん」

キュルケは言われたとおりにしてみる。すると何かが聞こえてくる。何か暖かい、音…

(これが、私の音楽…私はこんな音楽を奏でられてるんだ)

それを聞くことができて、キュルケは少し自信が持てた。

(そうだ。ダーリンはどんな音楽を…)

キュルケは再び耳を澄まし、渡の音楽を…

(な、なによ…これ…)

渡の音楽を聴いた瞬間、キュルケは愕然とする。心が凍え、体すら止まりそうになる。

「だ、だーりん」

「どうしたの?」

(どうして、こんな…)

キュルケは信じられなかった。

(こんなにも優しい人がなぜこんな…今までの優しさは決して偽りなんかじゃない…じゃあ、なぜ!?)

キュルケは渡の言葉を思い出す。

『人は知らず知らずの内に心の中で音楽を奏でてるんだ』

(じゃあ、ダーリンは…ずっと悲しい思いをしてきたってこと?)

こんなにも心が辛くなってしまうほど目にあってきて、それでも優しさを忘れない。

(ダーリン…)

キュルケは渡の胸に身を預ける。

「ど、どうしたのキュルケちゃん?」

(決めた。私は強くなる。今は『微熱』かもしれないけど…いつか『太陽』のようにあなたの心を暖めてあげる)

キュルケは左掌が少し熱くなった。




「タバサちゃん何処行くの?」

「少し…話したい事がある」

二人は踊らずにバルコニーに出る。

「話って何?」

「…私が、ビショップを探す理由」

タバサは自分の今までの生い立ちを話し始めた。

自分の素性、母親の事、そしてナイトの言葉…

「だから私はビショップを倒したい…お願い…力を貸して…」

それは少女の願い。

(厚かましいのはわかっている)

自分はホンの数日前、渡に重傷を負わしていた。

殺すつもりでもいた。

「いいよ」

「えっ?」

渡はタバサを抱きしめる。

「今まで寂しかったよね。ずっと頑張ってたんだね」

「ワ、ワタル…」

「僕でよければいくらでも力を貸すよ。ううん。僕の力を使って…まだ、君にはチャンスがある。僕には…もう何もないから、君だけでも…」

抱きしめられているタバサは気づいた。

(ワタルの心…とても冷たい)

自分が渡を気になる訳のひとつをタバサは気づいた。

自分と同じなのだ。

でも

(私より…冷たいかもしれない…もしかして…ワタルは…)

「…私も力を貸す」

「え?」

「私もあなたに力を貸す。これで…お互い様」

タバサの左掌が少し熱くなった。




「ありがとうございますワタル様。私などと踊っていただいて」

「ううん。シエスタにはいつも頑張ってもらってるし…でも、いいの?僕なんかと踊るだけで」

(結構贅沢だと思ったんですけど…)

シエスタは内心そう思う。

「ワタル様は何故この世界に?」

シエスタは次狼達から渡が別の世界から来た事を聞いていた。

「ルイズちゃんに呼ばれたからかな…向こうの世界じゃ僕の居場所はなかったから…」

「王様…なのにですか?」

渡はとても悲しい笑顔で答える。

(ああ、この人は孤独だったんだ。なら…)

「ワタル様、ご命令を」

「え?」

「『いつも傍にいろ』と…それだけで、私があなたの居場所になります」

シエスタの左掌が少し熱くなった。


そうして、舞踏会は過ぎていった。








城下町のとある一角。チェルノボーグの監獄。

「こんばんわ」

「はいっ!?」

『し~…』

フーケは突然の来訪客に驚く。

突如自分の監獄にやってきたのは、自分を捕まえた『キバ』とその従者、力だった。

「看守さん達は全員眠っています。力さん。お願い」

「ふん!」

力は鉄格子をひん曲げて人が通れるようにする。

「こっちです」

渡はフーケを出口へといざなった。


「いったい何のつもりだい?あたしを捕まえた張本人が」

「実はあなたを…ええっと…『裏の社会』の人間だと見込んで頼みたい事があります」

「あたしに…?」

「はい」

渡はいくつかフーケに頼み毎を言って

「これが報酬です」

「うぉ!?」

大きな箱にギッシリ詰まった金銀財宝。

「キャッスルドランの宝物庫にあった物と、この世界のお金です…いったいいつ手に入れたんです、力さん?」

「(ぷい)」

力はそっぽ向く。

「あなたにも…護りたい人がいるはずです。お願いできますか?」

フーケは暫く考えて、口を開いた。





[5505] 第13話/ステンドグラスの破壊者
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:c52ddbc0
Date: 2009/07/11 11:35
第13話/ステンドグラスの破壊者



暗い空間の中に私はいた。

その空間はまさに闇で、光は差していなかった。

しかし、その闇の中で光もなく怪しく輝く無数の『存在』があった。

それは『ステンドグラス』。

その一つ一つが物凄く精巧で、魅入ってしまうほど美しく、また圧倒されそうなほどに怖かった。

蜘蛛・馬・熊・蟹・蟷螂…その他にも様々な動植物のステンドグラスだ。

ガシャンッ!

突如、何かが砕ける音が聞こえる。

砕ける音のする場所に振り向いてみると、ステンドグラスが破壊されている。

ガシャンッ!ガシャンッ!ガシャンッ!

ステンドグラスが次々に破壊されていく。

それを破壊しているのは

「ワ、ワタル…」

そう、ステンドグラスを破壊しているのは、自分の使い魔であるワタル…キバだった。

キバは次々にそのステンドグラスを破壊していく。

しかし、それは破壊を楽しんでいるのはなく

「ワタル…つらいの…?」

まるで辛い心を抑えて破壊しているようだった。

そして最後に一際大きく、美しい五枚のステンドグラスが残る。

『獅子』・『揚羽蝶』・『蝙蝠』・『真珠貝』…そして、『大蛇』だった。

キバはまず『獅子』に向かって殴りつける。

しかし、『獅子』のステンドグラスは壊れない。

しかし、キバは何度も拳を打ちつけ、とうとう破壊してしまった。

次に『揚羽蝶』。『揚羽蝶』のステンドグラスは不思議にも消えたり現れたり攪乱するが、最後には壊されてしまう。

『蝙蝠』は圧倒的だった。そこにあるだけでキバも怯んでおり、不思議な光でキバを傷つけた。

「ワタル!」

しかし、キバは光に怯まず、まるで怒り狂ったように『蝙蝠』に襲い掛かり、とうとう破壊してしまった。

残るは二つ、『真珠貝』と『大蛇』。

しかし、キバはその二つに襲い掛からない。

その場で立ち尽くしている。

しかし、『大蛇』に襲い掛かる。

キバの強力な一撃が『大蛇』に当たる…が、何故か『大蛇』と『真珠貝』が入れ替わっていた。

『真珠貝』が音を立てて崩れる。

キバは動揺を隠し切れずにうろたえる。

そこに怒り狂った『大蛇』がキバに襲い掛かる。

キバを瀕死の状態まで追い込んでいく。

そして…キバに止めをと襲い掛かったとき、キバのカウンター気味の一撃が、『大蛇』を破壊した。

キバは呆然と立ち尽くす。

『ウァ…ァァァ』

「ワ、ワタル」

『ウワァァァァァァァァァァンッ!』

子供のようにキバは泣き続けた。



ルイズはベットから跳ね起きる。

もう夜は明けていて、早朝の光が淡くさしていた。

辺りを見るとワタルとキバットがいない。どうやらもう昨日頼んだ洗濯にいったようだ。

「ワタル…」

ルイズは先日の舞踏会から時々熱くなる左手を握り締めた。




その日、ルイズ・キュルケは不機嫌だった。

タバサも少し納得いかないといった顔をしている。

「み、みんな少し落ち着いて…」

「そうそう、渡も気にしてないんだし…」

「でも、ダーリン!あいつら!特にギドーの奴…!」



3人の不機嫌の理由は今日行われた使い魔の品評会だった。

学園の2年生の全員参加行事で、使い魔を披露し、何かをやらせるといった行事だった。

今年はゲルマニア訪問の帰りに学園に行幸する事になったトリステイン王国の王女・アンリエッタ姫が来るとあって、皆気合が入っていた。

それぞれの使い魔が様々な事を披露している。

そして最後に渡の出番になった。

キバの力を隠すように学園長に言われている為、渡はブラッティ・ローズで演奏をする事にした。

最初はモンモラシーの二番煎じだといわれたが、渡が演奏を始めた瞬間、その場は渡に支配された。

渡の奏でるブラッティ・ローズから溢れ出す『音楽』…それはその場にいた者全てが聞き込んでいた。

渡が演奏を終え、一礼すると、その場に拍手が上がりそうになったが、それはギドーを中心とする教師陣にとめられた。

そして品評会の結果は1位がタバサのシルフィード、渡は…『論外』だった。

その評価にルイズだけではなく、キュルケとタバサも抗議した。

しかし、ギドーは

「我々貴族が、平民の引いた稚拙なヴァイオリンに感動するわけがありません。君の使い魔の平民はあろう事か貴族の楽器であるヴァイオリンを弾くなんて図々しい。マイナスを出さなかっただけでも温情だったと思いなさい」

ギドーはそういって、三人を追い返してしまった。

この通りギドーは渡を眼の敵にしている。

その原因は数日前の授業だ。

その日ギドーは自らの属性『風』こそが最強と説き、キュルケをダシにしてまで系統自慢をした。

渡の前で恥を掻いたと感じたキュルケが辛く落ち込んでいると、

「アホらし」

「馬鹿みたい」

「おろか、もの」

本当にタイミングがいいのか悪いのか…いやこの場合激烈に悪い事に、暇だった3人が見学に来ていた。

「そんなものに関係なく力の強い者が勝つに決まってるだろうが」

「それを自分の生徒相手に大人気ないね」

「バカ、だ。バカ」

3人、次狼・ラモン・力の言葉にギドーは激怒する。

「何を言うか!『風』全てを吹き飛ばす最強の系統だ!」

「じゃあ、リッキー。挑戦させてもらえ」

「リッキー、ガンバ」

「まか、せろ」

生徒がハラハラ見ている中、力は悠々と前に出た。

何かを叫んでいるルイズは次狼とラモンに抑えられている。

「じゃあ、いく、ぞ」

「ふん、死んでも知らんぞ!そら」

キュルケの時と同じように烈風が飛ぶ。

誰もが力が吹っ飛び、壁にたたきつけられる。

「なっ!」

しかしそれはならなかった。

力は悠々とその疾風をものともせずギドーに近寄ってくる。

ギドーがさらに風の強さを上げても変わらなかった。

とうとう、力はギドーの目の前に来て、

「ふん」

ゴンッ…ベシャッ!

力の軽い拳骨…しかし、それはギドーを地面に叩きつけるには十分だった。

ピクピクして動かないギドー。それを見て力は、

「フンガー」

とガッツポーズ。

人気のない先生を倒した者に、生徒達から歓声があがった。





それからというもの、ギドーは3人の主人である(教師陣には友人と認識されている)渡を眼の敵にしている。

今や渡の事を心よく思っていない者達の筆頭だ。

「トリステインの貴族の質は本当に最低ね!本当に素晴らしいモノに正当な評価を渡さないなんて!」

その言葉にルイズは何も言えなかった。

ルイズの落ち込みにはそれも入っている。自分達は貴族だ。貴族の義務の中に『真の評価する』のもあると思っている。

渡の演奏は本物だ。全てを魅了する事ができる。それを…

「ワタル…」

「うん?」

「ゴメンナサイ…」

ルイズはそういって渡達の制止も聞かず、部屋に戻ってしまった。




「どうすればいいの…」

ルイズは悩んでいた。今日見た夢のこともあり、ルイズは今日の出来事に酷く落ち込んでいた。

(どうしれば、渡の『涙』を拭えるの…)

何もできない自分にルイズは腹を立てていた。

(キュルケはあっちこっちにワタルを遊びに連れて行ったり、自分と一緒に特訓をしてもらっている。タバサは何かワタルと約束したみたいで、あの三人も何かで動いてる…)

さらに苛立ちが募る。

(一体私は…何ができるの!?)

コンコンコン…

ドアからノック音がする。

「…ワタル?開いてるわよ」

ガチャ…

扉が開き、ノックの主が入ってくる。しかしその人物は渡ではなかった。

「…!?」

「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」

黒頭巾を被り、それと同じ漆黒のマントを羽織ってはいたが、そこから覗かれる面貌は紛れもなくトリステイン王女アンリエッタその人であった。



[5505] 第14話/王女の心、ルイズの願い
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/07/12 01:18
第14話/王女の心、ルイズの願い








「ルイズちゃん…まだ、怒ってるのかな?」

「さあな…ありゃ怒ってるというより、落ち込んでたからな。はやく立ち直ればいいんだが…」

「僕もちゃんと言うべきだったんだよ、キバット」

渡はルイズのしょげている顔を思い出しながら、

「僕は…ヴァイオリンを演奏するだけで…人に聞いてもらえるだけで、とても嬉しかったって」

「渡…ん?」

見るとルイズの部屋の前に壁にピタッと耳をくっ付けている人物がいた。

「ていっ!」

「ぎゃん!」

キバットはそいつを蹴る。

「なにしてるの?ギーシュ君」

「ワ、ワタル陛下にキバット伯爵!?こ、これはその…」

「誰!?」

ルイズの声がする。渡はそのまま部屋の扉を開けて入った。

ギーシュはキバットに尋問されている。

「僕だよ」

「なんだ、ワタルか…」

「お客様?」

黒頭巾に黒いマントの女性を見て、渡はルイズに訪ねた。

「そ、そうなの。とっても大事なお客様なの」

「あ、あのルイズ。こちらの方は?」

「わ、私の使い魔の…」

「ワタル=クレナイです」

「その渡の使い魔のキバットバット三世です。伯爵の位についております」

キバットが突如部屋に入ってきて、目をキランと光らせた。

女性はちょっと呆然となり、

「つ、使い魔?人間にしかみえませんが…」

「人間です」

(実際は…ちょっと違うんだがな)

キバットは内心そう思った。

女性はちょっと驚いたが、すぐにクスッと笑い、

「そうよね。はぁ、ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」

納得したように微笑むアンリエッタに、ルイズは僅かに顔を赤くする。

「そうですね…」

ルイズは少し俯く。

(いったい…私にどんな資格があるんだろう)

泣き叫んでいる自分の使い魔を抱きしめる事もできない主人など…

「あなたはどこから来たのですか?」

「僕は遥か東の…」

「一国の主流の御座にいる、さるやんごとなきお方です」

『!?』

これには流石にワタルとルイズも驚いた。

「ちょ、ちょっとキバット」

「な、何いってんのよ!」

「貴殿がここにいるのもご内密、そしてその理由も更なる極秘。そうでございましょう、アンリエッタ王女殿下」

それに渡は驚いた。アンリエッタ王女といえば、この国のお姫様のはずだ。

『何でわかったの?』

『ふっ…俺は女性の顔を忘れない、それと極秘はそこのエロガキに。いいか、ここで王族に自分の事を売っておくんだよ。あのジジイに正体ばれてんだ。こうなったら、裏でちょちょいとコネを造っておくべきだろ。その為には立場が同じだとバラシとくんだよ。『キバ』の事は伏せてな。あのエロガキは結構な部分まで聞いてやがった。俺は…お前を護る為なら、一国の美しい王女であろうと…脅すぜ』

『キバット…』

「主と共にこの遠き異国に来ました。以後よしなにお願いいたす」

「ま、まさか遥か東方の王族…」

「はい。所でルイズ殿。姫殿下のご依頼、引き受けるおつもりか?」

「う…」

ルイズは少し目を伏せる。キバットの瞳は『断れ』と言っているようだった。

「…受ける」

「どういうことかわかっているのか?」

「わかってるわよ」

「そうか…ならば、俺からは何も言わん」

キバットの言葉にルイズは暗くなる。

「申し訳ございませんアンリエッタ殿下。どうか僕達がここにいる事はご内密に。今の僕はルイズ=フランソワーズの使い魔としています。彼女を守る為にここにいる事は誓います。どうか、信じていただけませんか?」

渡はアンリエッタの瞳を真っ直ぐ見る。

「…わかりました。貴方を信じます。貴方はとても強い眼をしていますね。私なんかとは…ちがって…」

そうしてアンリエッタはルイズの部屋を去っていった。











ルイズはキバットに睨まれながら、アンリエッタ王女の依頼を話し始めた。

依頼の内容は、内戦が続くアルビオンの地に潜入し、アンリエッタがアルビオン王国王子に宛てたある手紙を極秘裏に回収する、というものだった。

アルビオンは現在、国内の貴族が『貴族派』『王党派』の二つの派閥に分かれて、内戦状態にある。

『聖地』といわれる場所の奪還を掲げ、アルビオン王族に代わり、有能な貴族による共和制をうち立てようと者達が『貴族派』で、アルビオン王族を中心にその古い臣下の貴族達で構成されているのが『王党派』。

アンリエッタはゲルマニアとの同盟を結ぶ為、ゲルマニア皇帝に嫁ぐことが決まった。

アルビオンの内戦は、近い将来、貴族派の勝利で終結する事はもはや眼に見えている。

そうなれば、その後のアルビオンがトリステインに侵攻してくることは火を見るより明らか。

それに対抗するため、大国であるゲルマニアと同盟を結ぶことになったのだ。

無論、アルビオンの貴族達にとって、それは不利なことだ。


その為、奴等はその婚姻を妨げる材料を血眼になって捜しているらしい。

悪い事に、それは確かに存在していたのだ。

アンリエッタが、以前アルビオン王国皇太子プリンス・オブ・ウェールズに宛てた一通の手紙…一通の恋文である。

そんなものがゲルマニア皇室の目に触れれば、婚姻もそれに伴う同盟も全て反故にされてしまう。

その手紙は現在アルビオンのウェールズ王子が持っており、背水の陣に追い込まれている王党派が敗れれば、その手紙も明るみに出てしまう。

こんなことを信用のおけない周囲の貴族達に話すわけにもいかず悩んでいた所へ、土くれのフーケ捕縛の件でルイズの事を耳にし、悩み抜いた末、無二の親友であるルイズを頼ってきた、という訳だったのだ。

「本当にどういう意味かわかってんのか、ルイズ」

「………」

キバットはいつもと違い真剣で、強い言葉でルイズに問いかける。

「今度ばかりは言わせて貰うぜ。俺はお前の使い魔じゃないからな。俺の守るべき人物は渡だ。お前がそんな内戦状態の国に行くって事は、渡も行くって事だ」

それはそうだ。使い魔は主人と死が分かつまでいるものだし、もし行かなかったらそれは渡の身が危険になる。

「もしそんな国で渡がその内戦状態の敵と戦ってみろ。いっとくがな、変身するなって無茶な命令は無しだぜ。その時は俺が渡を無理矢理変身させる」

「………」

「もし渡が『キバ』ってバレれば俺や渡だけじゃない。魔皇を召喚した魔女って事でお前や、お前の一族すら処刑される所まで行くかもしれないんだ。それを…」

「キバット。もう辞めてあげて」

「しかしな渡!」

「ルイズちゃん。なんでその話を引き受けたの?」

渡はルイズの瞳を見つめる。ルイズは瞳を潤ませて、

「王女殿下…泣いてたの…」

「………」

「私、最近貴方のように人の心の音楽が聞こえるの。王女殿下から聞こえた心の音…とても、悲しく泣いてたの」

ルイズは自分も泣きそうな声で続ける。

「私…王女殿下の事が大好きなの…子供の頃、一緒に遊んで、一緒に笑って、とても楽しかった。太陽のようにキラキラ笑ってた王女殿下が、泣いていたの…」

ギュッ、と手を握る。

「私…あの人の涙を止めたい。あの人の悲しい音楽を元の太陽のような音楽に戻したい」

ルイズの瞳から涙がこぼれる…

今のルイズは知っている。心の涙の音楽が、どれだけ辛いのかを…

「だから…だから…」

「わかったよ。ルイズちゃん。出発はいつ?」

「ワ、ワタル…」

「ケッ!しゃーねーな!おいエロガキ!」

「は、はい!伯爵様!」

「ギーシュ!?」

突如扉が開いてキバットに敬礼をしたギーシュにルイズが驚く。

「お前を案内係に任命する。渡と俺はよく地理をしらんからな!」

「こ、光栄です!」

「じゃ、ルイズちゃん」

渡はルイズに優しく笑って、

「出発の準備をしようか」

後で『不覚』と暴れ叫ぶが、ルイズは泣きながらワタルに抱きついた。


明朝…

ルイズ・渡・キバット・ギーシュは旅支度を終えて集合していた。

因みに、オールド・オスマンに外出の旨を伝える時、『かなり』の強引な交渉があったらしい。

ルイズはあえてそれを聞かないことにした。

「バイクに3人乗りか…不良だね」

「はっはっはっ、人生ルールを破るのもスパイスさ」

結局はマシンキバーに乗って行く事になった。

このマシンキバーなら安全運転でもすぐに馬の何倍もの速さで到着する。


「お願いがあるんですが…」

「なに?」

「僕の使い魔を連れて行きたいんだ」

渡とルイズがキョトンとする。

「別に構わないけど……ギーシュ君の使い魔って?」

「この子さ」

ギーシュは足で地面を叩く。すると、地面が盛り上がり、そこから人程もある巨大モグラが出現した。

ギーシュはさっと膝を着くと、そのモグラを抱きしめ頬擦りし始める。

「ヴェルダンデ! ああ! 僕の可愛いヴェルダンデ!」

目の前で抱き合うモグラとギーシュ

「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの?」

ルイズがそのモグラ…ヴェルダンデを指差してギーシュに尋ねた。

「そうだ。ああ、ヴェルダンデ、君はいつ見ても可愛いね。困ってしまうね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」

「…朝っぱらからそんな事いうなよ」

キバットはげんなりする。

「あのね、ギーシュ。私達が向かうのは、あのアルビオンよ?地面を掘って進む生き物を連れて行くなんて無理よ。ダメ、却下」

ギーシュが愕然とした顔をする。

それに渡とキバットは首を傾げる。

「どうして?船でも使うの?」

「…ああ、そうか。渡はアルビオンの事を知らなかったわね。ならさぞビックリ…キャァァァァア!」

突如、ルイズがヴェルダンデに押し倒された。

モグラは鼻をルイズの身体をつつき回す。

渡はいそいでヴェルダンデをルイズから引き離す。

解放されたルイズは乱れた服装を整え、渡の後ろに隠れる。

「まったく! 主人に似て、なんて破廉恥なモグラなのかしらっ!!」

「人聞きの悪いことを言わないでくれたまえ。ヴェルダンデは宝石が好きだから、ルイズのしている指輪に興味を持っただけさ」

「ん?ルイズ。その指輪どうしたんだ?」

「こ、これは王女殿下らから守護としてお預かりした『水のルビー』よ」

「すんげぇな、これ。ものゴッツイ魔力秘めてんぞ」

「へぇ…そんな宝石がこの世界には…ん?」

「どうしたの?渡」

「何か…来る」

渡は警戒して空を見る。

すると空から鷲の頭と上半身に、獅子の下半身、翼の生えた巨大生物が降りてきた。

「ありゃあ、『グリフォン』か。俺達の世界じゃとっくの昔に絶滅した生き物だぜ」

グリフォンは地面に降り立つ。すると背に人が乗ってるのがわかる。

大きな羽帽子を被り、口元に髭を生やした若い男だ。

「おはよう、諸君」

男は帽子を取り、一礼する

「僕は姫殿下より、君達に同行することを命じられた、王宮魔法衛士隊グリフォン隊隊長のワルド子爵だ。此度の任務は極めて重要であるが故、君達だけでは心許ないが極秘任務故である為、一部隊を付ける訳にもいかぬ。そこで僕が指名されたって訳だ」

と自分が来た経緯を説明した。

魔法衛士隊の隊長という事で、ギーシュはある種の尊敬の眼差しを向けている。そして、ルイズは彼を見ると、震える声でその名を呼んだ。

「ワルド様……」

それを聞いた瞬間、ワルドは人懐こい笑みを浮かべて、

「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」

ルイズに駆け寄り、その身体を抱き上げる。

「お久しぶりでございます」

「相変わらず軽いな君は! まるで羽のようだね!」

「……お恥ずかしいですわ」

ルイズは、照れたようにそう言う。

ワルドは、ルイズを地面に下ろすと、再び帽子をかぶり直し、渡達に顔を向ける。

「ルイズ。彼らを、紹介してくれたまえ」

「あ、あの…ギーシュ・ド・グラモンと、私の使い魔のワタルです」

 ルイズは交互に指差して紹介した。ギーシュは深々と頭を下げ、渡も会釈する。

「君がルイズの使い魔かい?人とは思わなかったな」

ワルドは友好的な笑みを浮かべる。

「僕の婚約者がお世話になっているよ」

「…いえ、それが僕の役目ですから」

「こ、婚約者だって!?…って渡?」

キバットはこの目の前にいる男を見て『ロリコンか!?』とまで思ったが、渡が警戒心…それも他の3人には気付かれないくらい研ぎ澄ませた警戒心だ。

長い付き合いのキバットでなければ気付かなかっただろう。

渡のそんな様子をワルドは勘違いしたのか、ワルドはにっこりと笑うと、ぽんぽんと肩を叩いた。

「どうした?もしかして、アルビオンに行くのが怖いのかい?なあに!何も怖いことなんてあるもんか。君はあの『土くれ』のフーケを捕まえたのだろう?その勇気があれば、なんだってできるさ!」

「…そうですね。頑張りましょう」

「その意気だ」

ワルドは、グリフォンに跨ると、ルイズに手招きする。

「おいで、ルイズ」

その誘いにルイズは僅かに躊躇い、俯き、チラッと渡の方を窺う。見れば渡は、何か怖い顔をしている。

(もしかして…嫉妬してくれてるのかしら…)

ルイズはそれに妙なキモチを持つ。

「では諸君! 出撃だ!」

ワルドの声にグリフォンが急に駆け出し、翼を羽ばたかせて空に昇り、飛び立っていった。

「陛下!僕達もいきましょう!」

「おうキバっていこうぜ!さあ、マシンキバーも二人乗りになって楽に…」

「二人とも、予定変更」

『え?』

渡はそういって学園の校舎に戻っていった。



渡は急ぎ足で廊下を走っている。

「あら?ダーリン」

「ワタル」

キュルケとタバサだ。

「キュルケちゃんに、タバサちゃん」

「何を急いでるの?」

「なんでもないよ。ゴメン、急いでるんだ」

渡が再び歩き始めると、キュルケとタバサもついてくる。

「…どうしてついて来るの?」

「だって、ダーリンが…とっても怖い顔してるから」

「ワタル…戦いに行くの?」

二人はもうすでに何かを悟っていた。そんな二人に渡は

「危険だから、来ちゃダメ」

その渡の言葉に

「なら、絶対について行く」

「きゅ、キュルケちゃん?」

「ワタルを助けるの…約束」

「た、タバサちゃんまで!?」

(もう貴方に…)

(『ステンドグラス』を…)

(『割らせない!』)

この二人も、ルイズと同じ『あの夢』を見ていた。

「ワタル~!この際だ。ついて来てもらおうぜ」

「キバット!?」

「この二人なら大丈夫さ。それに、何かあるんだろ?」

「…うん」

キバットの了承を得て、二人はワタルについていった。

ギーシュは後ろからヴェルダンデを担いでノロノロついてきた。


渡は大きな扉を開ける。

するとその扉の先は学園とはまったく造りが違う建物だった。

知らないキュルケとギーシュはキョロキョロする。

するとちょっとした広さの部屋に入る。

そこにはトランプに勤しんでいた3人と給仕をしていた一人のメイドがいた。

「皆さん…『城』で出発する事にしました。皆さんの力も必要かもしれません。ついてきてください」

3人はそれを聞くと、椅子から立ち、頭を垂れ、傅いた。

『仰せのままに…』

そして…

「それでは皆様お席にどうぞ。先日一級の茶葉が入りましたので、ただいまそれをお煎れします」

シエスタの一流ともいえるメイドの風格に全員席についた。






 出発する一行を、アンリエッタは学院長室から見送っていた。そして目を閉じ、胸の前で手を組んで祈る。

「始祖ブリミルよ…彼らの旅路を、どうかお守りください…」

「なに、心配には及びますまい。彼が付いております。彼ならば、道中どんな困難があろうとも、必ずやってくれるでしょうて」

オスマンの言葉に、アンリエッタは首を傾げる。

「彼…とは?あのギーシュ殿のことですか?それとも、ワルド子爵?」

オスマンは首を振った。

「では、あのルイズの使い魔さん…ワタル殿が?」

 オスマンは頷く。

「オールド・オスマン。それはどういう…」

『ギャオォォォォォォォォォォォォッ!』

大地を震わす咆哮が聴こえる。

そして翼を羽ばたかせる大きな羽音。アンリエッタの目の前で巨大な竜の城が空を飛んでいった。

「…ほ、本当に、ど、どういう、ことですか?お、オールド・オスマン」

(あのマオォォォォォォォォォォォォォォッ!?)

その後、オールド・オスマンはアンリエッタに苦しい説明を続けるハメとなった。



「な、なんなんだ!?あの巨大な竜は!?城でできている!」

「わ、ワタルゥゥゥ…」

流石にワルドは慌てふためき、ルイズはワタルの行動に米神と拳をプルプル奮わせた。



[5505] 第15話/空の港での騒動
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:c52ddbc0
Date: 2009/07/24 12:10
第15話/空の港での騒動



「ふぇ~」

「お~」

キュルケとギーシュはキャッスルドランから見える景色を簡単の声を上げた。

「すんごく高く飛べるのね、この城」

「城が飛んでるって、信じられないけどね」

キュルケとギーシュは城内を見渡す。

最初からいた3人は相変わらずカードゲームに勤しんでおり、タバサはシエスタの出した紅茶とクッキーを堪能している。

「竜の中なんて信じられないわね」

「そもそも竜を城に改造しようなんて発想自体が信じられないよ」

「…普通、こんなすごい竜を捕まえるなんて無理よね。それにそれを従わすのも…」

キュルケは改めて自分の想い人の凄さを実感した。

「そういえば最初ダーリンは鉄の馬で行くつもりだったのよね」

「あ、ああ。キバット伯爵に聞いたんだけども、あれって、『機械』なんだ…」

「うそっ!」

キュルケ達の知識では『機械』とは風車や水車、滑車の事だ。

「なんでも、ワタル陛下の国では機械技術が発達しているらしい。その機械にさらに魔法の手を加えたのがあの鉄の馬らしいよ」

「ふ~ん…それも気になるけど、なんでダーリンは…」

「おい、そこの2人とチビッ子」

『は、はい』

急に次狼に呼ばれて二人は緊張し、タバサも振り向く。

「暇なら付き合え。たまには人数の多い方が暇潰しになる」

『あ、はい』

6人はラ・ロシェールの街までトランプに勤しんだ。









「渡…なんでキャッスルドランを出したんだ?はっきり言って隠密には向いてないぞ?」

「…すごく…すごく嫌な予感がするんだ?」

渡はワルドを思い出す。

彼の心から聞こえたのは…

「そんな訳ない…そんな訳ないんだ…」

「渡?」

彼はルイズの婚約者。ルイズを幸せにする人…だから、ルイズを…はずがない…







「あれがラ・ロシェールの街か」

「凄いよね。空飛ぶ船があるなんて」

「そう、だな」

次狼・ラモン・力の3人は考え事をしている渡とキバットのお喋り相手をしているシエスタ、呆気にとられている3人無視して街を見ていた。

何故港町が山の中にあると言うと、この世界には空を行く船と海を行く船の二種類があり、今回彼らが乗るのは、空の船旅。

「で?」

「こいつら?」

「どうする?」

3人はロープでグルグル巻きになっている男達を見る。

全員気絶していた。

流石にキャッスルドランで直接街にいくわけにはいかず、キャッスルドランは山間に隠した。

それでも呼べばすぐにやってくる。

ここまでシルフィードとマシンキバーできたのだが、途中でこの連中が襲ってきたのだ。

ただ…一分もしない間にこの3人にボコボコにされた(しかも人間体で)。

「渡」

「どうしました?」

「あまり好みじゃないんだが、食っちまうか?」

次狼犬歯を見せて笑う。

ゾクゥッ!

その時、事情をよく知らないキュルケ・タバサ・ギーシュは底知れぬ恐怖に怯えた。

「ダメです」

「次狼様。私のご飯に不満でも?」

渡の制止とシエスタの威圧感のある笑顔…

(こ、こら次狼!)

(ご、飯、抜きに、されたら、どうする!)

「す、すまん。聞いただけだ」

素直に謝った。

実はこの3人。こちらに来てからライフエナジーを欲する衝動には駆られていない。

たまに食べたいという気持ちにはなるが、『飢え』は襲わない。

理由は二つ。

この世界は魔力に満ち溢れていて、呼吸をするだけで、その代用ができること。

そして…ルイズだ。

ルイズの内なる強大な魔力が渡を通して、準使い魔でもある次狼達に魔力を供給している。

その為、『飢え』は襲わない。

「仕方ない。街の衛兵にでも引き…」

「その必要はない」

突如、空からワルドとルイズの乗るグリフォンがやってきた。

「こらワタル!なんであんな目立つモンで来るのよ!」

「ご、ごめん。ほら、極秘任務でも次狼さん達がいた方が安全だからね」

「も~、事前に許可取りなさいよね」

ワルドは次狼・ラモン・力に笑顔で挨拶をする。しかし、威圧感を出している。

「初めまして。私はワルド子爵。貴族の方々のようだが…」

「次狼だ」

「ラモンです」

「力、だ」

3人もにっこり笑って挨拶をする。

ワルドの何倍もの威圧感を出して、

「こ、これからよろしく…どうやら、彼の従者のようだね」

「そうだ。で、この物盗りどもも衛兵に引き渡すをやめろとはどういう事だ」

「僕達は、大事な任務の途中だ。野盗などに構っている暇はないよ」

次狼の眼が釣りあがる。

「これはこれは、騎士様の言葉とは思えんな。こいつらを捕まえるだけで安心する民衆がいるだろう」

ワルドはこれにカチンときたのか、

「君に『騎士道』の何たるかがわかるとは思えないが?」

「ご立派な『騎士道』なんて俺にはわからん。だが…」

次狼はいつになく強力で、誇り高く、圧倒的な眼と『牙』を見せて、

「『戦士の誇り』は知っている」

「ぐっ…」

ワルドは言い返せなかった。

自分の目の前にいるタキシードの男は、自分にはない何かを持っている。

しかし、『今のワルド』にはそれが理解できなかった。が、決して言い返せるものではなかった。

二人から離れてルイズはラモンをちょいちょいと呼ぶ。

(なんでバカ狼の奴ワルド様と張り合ってんの?)

(張り合ってるんじゃなくて、許せないんだと思うよ)

(ナニが?)

ラモンはニンマリ可愛く笑って、

(それは気づかなきゃダメな所だから教えない)

(ケチッ!)

「この連中は衛兵に引き渡す。文句はないな」

「…わかった。僕も手伝おう」

ワルドはそういって、次狼達の手伝いをし始めた。






「今日は俺達の奢りだ。どんどん喰え」

「おじさ~ん。メニューを上から順番に持ってきて」

「2人前、ずつ、な」

ラ・ロシェール一の高級宿『女神の杵』亭。ここは一階に食堂兼酒場、二階に宿泊部屋があり、内装も豪華な貴族御用達の大きな宿である。

その食堂兼酒場で3人の太っ腹な言葉が轟く。

衛兵に物盗り達を渡した次狼達はそこそこの金額を礼金として貰い、大金というほどでもないのでパッと使う事にした。

それがこの夕食である。

「ほれチビッ子。お前は魚喰え、魚」

「タバサちゃん、はいお肉」

「いっぱい食べて、大きく、なれ」

「シエスタもいつも働いているんだ」

「今日はゆっくり、いっぱい食べてね」

「食べろ、食べろ」

以前この3人はタバサの仕事を手伝った事があり、それから何かと3人はタバサを気にしている。

タバサは目の前に出された料理をどうしようかと思いながら、まんざらでもなかった。

シエスタも喜んで食べている。

「はぁ~、急ぎの任務なのに…こんな所で足止めなんて…」

料理を口に運びながら、ぶつぶつと呟くルイズに、ワルドが嗜めるように言う。

「仕方がないさ、ルイズ。船乗り達にも都合があるのだから」

この宿に入る前に、ワルドは桟橋で乗船の交渉をした…だが、船乗り達に明後日までは船を出すことができないと言われた。

「浮遊大陸か…本当にこの世界は神話のような国があるな」

「僕達の世界にも昔あったのかな?」

「さあ、な」

3人は話しながら料理を食べる。

「あたしはアルビオンに行ったことないからわかんないけど、どうして明日は船が出ないの?」

キュルケが不思議そうに尋ねると、ワルドがそちらに顔を向ける。

「明日の夜は月が重なるだろう?『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づく」

空を漂う浮遊大陸であるアルビオンとラ・ロシェールとの距離は日によって異なり、船はアルビオンが最も近づく時でなければ出ない。

空を行く船には、『風石』という燃料鉱石が必要で、最短距離分の量で航行しないと、船乗り達が赤字になる。

「まあ、商売は大事だしな。お忍びだから強権を突きつける事もできない。おい、騎士様のポケットマネーで赤字分だせねぇのか?」

「ぽ、ぽけっとまねー…ああもしかして、自費ってことかい?そ、それはちょっと…」

「ふん、貴族でも金持ってないんだな」

どうやら次狼はとことんワルドの事が嫌いらしい。

ワルドもワルドで決闘を突きつけたいところだが、その気配を出す度に次狼から発する威圧感によってとめられてしまう。

(もうすぐだ…もう少し待てば『力』が手に入る。その時に…)

ワルドは内心そう思いながら、辺りを見る。

(そういえばあの使い魔がいない…)

ワルドは渡の事も気になっていた。

あの穏やかな顔の青年…どうみても彼が自分より優れているとは思えない。

『情報』でも単なる『魔獣使い』と聞いている。

だが、彼の事がつかめない。ワルドは渡に決闘を申し込むつもりだった。しかし、攻撃を仕掛けるイメージを出すと、途端に自分の視界がブラックアウトする。

まるで…

(ふっ、考えすぎか…まあ、アルビオンに着けば全てが決まる。それまで必要以上に波風を立てなくてもいいか)

「お~い、酒とジュースが足りんぞ」

「あっ、僕はこのワインを」

「私も」

「こら、君達子供でしょ。アルコールはダメ」

「アンタだってそうじゃない!」

「僕128歳」

『えっ!?』

ちなみに、跡で結構な値段を請求されて、礼金から大幅に飛び出た為、結構財布が軽くなった。

まだ城には沢山あるが…




渡とキバットは少し暗い演出をしている部屋で一人の女性といた。

「ふふっ、あなたのような素敵な殿方と過ごせるなんて…」

女性は渡にゆっくりと抱きつく。

「最高の夜にな…」

「遅くにすいません。フーケさん」

「…ちょっとはノッとくれよ」

女性…フーケは口調を戻して、渡から離れた。

「危険な事を調べてもらってすいません。大丈夫でしたか」

「まあ、アンタからはタンマリ貰ってるからね。ヘタな仕事はしないさ。ほら」

フーケは分厚い紙束を渡す。

「これがここ数年、トリステイン、アルビオン、ガリア、ゲルマニアで起こった目の前で消えた人間の情報だよ。ちゃんとアンタのつけた条件、『空飛ぶ牙』の目撃証言もある」

「こ、こんなに?」

「ああ、昔から噂や子供の躾話があって、私も聞いた事があったからね。悪い子は空飛ぶ牙に食べられるって」

「渡。こりゃ『あいつら』か、似た奴らがこの世界にもいるってのは決まったようなもんじゃないか」

「そうだね…」

渡は少し、悲しそうに俯く。

「フーケさん。態々こんな所までありがとうございました」

「いや、いいさ。こっちとしても好都合だったし」

「好都合か?どうして」

「蝙蝠ちゃんは突っ込むね。実はアルビオンに私の住んでるところがあるのさ」

「フーケさんの…護りたい人達もですか?」

「…ああ、ホントに不思議な奴だね。そんなことまで分かっちまうなんて。私の妹と家族がいるんだよ」

フーケはちょっと照れくさそうに笑う。

「…フーケさん。僕はあなたの音楽を聴いた時、家族を護りたいと思う心と、復讐の音色を聞きました」

「………」

「復讐はできるだけなら、やめてください。何も…何もなりませんから…」

渡の言葉と表情にフーケはバツの悪そうな顔をして

「考えとくよ。これからはノンビリ暮らせそうだしね。またご贔屓に」

「はい」

「ああ、それと…」

フーケは渡に近づく。顔を近づけるとその綺麗な顔に渡は少し顔を赤くする。

「あのワルドって男、気をつけなよ。あんまりいい噂聞かないからさ」

「そ、それはどういう…」

むちゅう

「!!??」

「これはこの間牢屋にいれられた仕返しさ。じゃあ、またねご主人様♪」

「わ、渡!しっかりしろ渡!」

フーケは真っ赤になって固まっている渡をほっぽって、部屋から出て行った。





翌朝、本日は完全な自由行動である。

渡達はこの際だから観光する事にした。

異世界の街は中々楽しかった。

知らない果物を食べたし、見たこともない屋台料理も食べた。

キュルケとシエスタが服屋でタバサを着飾っていたし、力が力自慢の船乗り達がやっていたアームレスリング勝負に飛び入り参加して圧勝。

次狼を興味深そうに見ていたギーシュが、次狼から『戦士の心得』を聞いて感嘆していたし、ラモンの『作戦』を深く聞いていた。

ルイズはワルドと一緒に回っていた。しかし、

(ワタル…)

その瞳はよくワタルを映した。それがワルドにはあまり心地よくない。

そして一行が宿に帰ってくると、

「みんな、ちょっとこっちに」

ワルドは皆を『女神の杵』亭の中庭に案内した。

「ここはかつての練兵場であった場所でね」

練兵場…つまり、兵士の訓練所だ。

現在では宿の物置場となっており、端の方に樽や木箱が積まれている。

だが、それでも十分な広さがあった。

「昔、かのフィリップ三世の治下には、ここでよく貴族が決闘したものさ」

「ほう」

「へえ」

「ふむ」

一番に反応したのは三魔騎士だった。

「古き良き時代、王がまだ力を持ち、貴族達がそれに従った時代…貴族が貴族らしかった時代…名誉と誇りをかけて僕達貴族は魔法を唱え合った。でも、実際はくだらないことで杖を抜き合ったものさ。そう、例えば女を取り合ったりね」

ここでワルドは渡に決闘を突きつけようとした。

この邪魔な『魔獣使い』本人はあまり強くないという情報だ。

貴族の強さを見せ付けるチャンス…

「あれ?次狼さん、力さん。どうしたの?」

「えっ?」

みると広場の真ん中で次狼と力が対峙している。

ラモンはその真ん中だ。

「ここ、で、長き、戦いに、決着をつけ、る」

「ふん。おもしろい」

「ルールは相手がまいった。または気絶したら負け。あと『戻ったら』負け。それでは~」

「ちょ、ちょっとあんた達!何しようと…」

いつの間にかキュルケとシエスタが何かを持たされている。

何か白い板で、『1R』と書かれている。どこから出したんだろう。

「レディ~、ファイ!」

カ~ン。

タバサが持たされたゴングを鳴らし、戦いが始まった。


「ふん」

力が次狼を力任せに殴りかかる。

次狼はそれを持ち前のスピードで交わす。

力の拳は勢い余って、

ドゴンッ!

地面を殴りつける。地面がクレーターのようにへこんだ。

次狼はそのまま、人間を遥かに超えたスピードで攪乱し、

「ハァッ!」

ドガッ、ザシュッ、バシッ!

拳打撃・切り裂き・蹴りを加えるが、力は平然と

「き、くか!」

そのまま力はダブルラリアット。それは一瞬風を呼び、

「くっ」

次狼に一瞬の隙を作らせる。

そのまま力は次狼にダブルラリアットを喰らわせる。

「グガァッ!」

しかし、次狼はそれに逆らわず、吹き飛ばされた。

そしてそのまま壁に激突…

トスッ

なんと壁に着地。

「ゼリャァ!」

ボコンッ

そのまま強靭な脚力を利用して、壁に穴が開くほどの勢いで力に向かって飛ぶ。

途中で蹴りの構えを取り、

ゴスッ!

見事に力にヒット。

力は踏ん張って耐えたが、少し地面を削ってバック。

次狼は華麗に着地。

「少し、効い、たぞ」

「ふん」

二人はニヤリと笑って、同時に地面の石を拾って、

バシュッ!ドゴン!ガンッ!

『邪魔をするな!』

魔法で二人を止めようとしたワルドにぶん投げた。

威嚇だったので当たりはしなかったが、力の石は当たったら体に穴が開いていたし、次狼の石はワルドの頬を掠めて血を垂らした。

ワルドは口をパクパクさせているのを見て二人は仕切りなおしとばかりに構えると、

「あ・ん・た・た・ち…」

プルプル震えていたルイズがどん底のような声を上げる。

(まずい!)

そこにいるワルド以外の全員が感じ取り、一斉に逃げ出す。

ただ、互いに標的に集中していた次狼と力だけが逃げ遅れ、

「いい加減にしろ~!」

ドッガ~ンッ!

ここ最近一番の爆発が、次狼と力、ついでにルイズの極大爆発を感じ取れなかったワルドも吹っ飛んだ。

後で迷惑量を渡が宿に払うハメになった

こうして、ラ・ロシェールでの時は過ぎていった。



[5505] 第16話/優しい魔皇は闇に堕ちる。
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/10/11 02:54
第16話/優しい魔皇は闇に堕ちる。


次狼と力の決闘騒動の後の夜…

渡は自分の個室で静かに父の形見であるヴァイオリン『ブラッティーローズ』を眺めていた。

「………」

そんな渡の姿を見て耐えかねたキバットは尋ねる。

「渡…どうしたんだ?任務が始まってから変だぜ」

「…僕が?」

渡は苦笑する。

「やっぱりキバットにはわかっちゃうね」

「当たり前だ。いったい何年お前といると思ってるんだ?23年だぞ」

「…そうだね」

渡は沈黙の後、静かに口を開く。

「ねぇ、キバット。父さんと母さんは…お互いの事を大好きだったよね」

「ん?まー、そーじゃねーか」

「…兄さんだって深央さんを愛していたし…深央さんだって、最後には兄さんを愛してた」

「渡?」

キバットは渡が考えている以上に深刻な事がわかった。

禁句(タブー)になっている兄とある女性の名前まで出てきたのだから。

「そう…大丈夫だよね…僕の勘違いの筈なんだ…」

自分のご主人様と人生を共に奏でると決意した人から、あんな音楽が流れるはずがない。

渡はそう強く思いこむ。

その時、一階から騒音が聞こえた。









「なんだこいつら!」

一階で大勢の傭兵達がルイズ達を囲んでいた。

次狼は傭兵の一人を蹴り飛ばし、踏みつけて周りを見回す。

「大勢、いる、な」

力が一人を持ち上げて、固まっている所に思いっきり投げつける。

「外にも結構いるよ。どうやら街中に潜んでいた傭兵が全員ここに来ているみたい」

ラモンはルイズ達を守りながら、部屋にちょっとした水のフィールドを張っている。

こうすることにより、水の波紋を感じ取り、敵の数と行動を感じ取っている。

「やっぱり、この前の連中はただの物盗りじゃなかったようだ。アルビオンの貴族が後ろにいるという事だな」

キュルケが、杖をいじりながら呟く。

「…奴らは、こちらにちびちびと魔法を使わせて、精神力が切れたところを見計らい、一斉に突撃してくるわよ。そしたら、どうすんの?」

「僕のゴーレムで防いでやる」

ギーシュがちょっと青ざめながら言った。

キュルケは、淡々と戦力を分析しながら言った。

「ギーシュ、アンタの『ワルキューレ』じゃあ、一個小隊ぐらいが関の山ね。相手は手誰の傭兵達よ」

「やってみなくちゃわからないだろ!」

「あのねギーシュ。あたしは戦のことなら、あなたよりちょっとばっか専門なの」

「僕はグラモン元帥の息子だぞ。卑しき傭兵如きに…」

「ストップだ。ギーシュ、勇んで向かっていくのもいいが、矜持と虚栄が違うように、無謀と勇気も違う」

「お、お師様」

次狼はギーシュを諫める。

「いいか、お前のワルキューレは筋は悪くない。錬磨すればさらに強くなれるだろう。だがな、まだ操り方が雑すぎる」

次狼の指摘にギーシュは沈黙する。

「いいか、お前は様々な戦い方をこれから見続けろ。それを参考にして作戦を練れ。自分を鍛えて強くなれ」

次狼は全員の一歩前にでる。

「強くなる事を望む事は、『戦士』の第一歩だ。それを忘れるな」

「…は、はい!」

次狼の言葉と真剣な眼差しに、ギーシュは心を打たれた。

こんなにも、己に真剣に向き合ってくれた人は初めてだったからだ。

(いつか…いつか僕もこの人のように…)

ギーシュと次狼の遣り取りにワルドは口元を歪める。

(…この男…気にくわない)

ワルドは憎悪の視線を次狼に向ける。

「みんな!」

渡が二階から駆けつけてきた。

「丁度よかった。渡、少し力を出すぞ」

「じ、次狼さん」

「俺とリッキーが突破口を開く。このまま一気に港に迎え。俺達はドランで行く。シエスタが準備しているからな」

「ふん」

「…わかりました。でも…」

「ああ、極力殺さん。安心しろ」

それを聞いたルイズは、

「ちょっとバカ狼と筋肉ダルマ」

「あん?」

「な、んだ?」

「…死ぬんじゃないわよ」

それを聞いたワルド以外の全員は目をパチクリさせて、笑い始めた。

「な、何よ!人がせっかく心配してんのに!」

「いやいや、ご主人様の有り難きお言葉に感動しているのさ。さてと…」

次狼が牙を見せ、笑う。

「はじ、める、か」

力の体から紫の雷気が迸る。

「アオォォォォォォォォォォッ!」

「ウガァァァァァァァァァァッ!」

次狼は青い炎に体を包み、ガルルの姿に!

力は紫の稲妻を浴び、ドッガの姿に戻る!

その変身にワルドは少し怯む。

(こ、こいつら…奴らと同じ『化け物』!?)

「ハァッ!」

次狼の姿が消える。すると、周りの傭兵が見えない攻撃を受けて倒れていく。

「ふん、がー!」

力が大理石で出来たテーブルを持ち上げて、それを投げた!

傭兵達に大混乱が起きる。

突如現れた化け物のその強さに!

「みんな、行くよ!」

全員走り出した。






桟橋に向かった一行は、アルビオン行きの船を何とか出港させることに成功する。

船長は最初ごねていたが、ワルドが貴族だと分かると、料金を上乗せすることを条件に出港を承諾。

話では、明日の昼過ぎにアルビオンの港スカボローに到着するだろうとのことだ。

「さてと出港するぞ!」

船が動き出す。

「何とか間に合ったね」

「そうでもないよ、お兄ちゃん」

「え?」

ラモンが指を指した方をみると、傭兵達が向かってくる。別働隊だろうか結構な人数だ。

このままでは船に乗られてしまう。

「どうするダーリン」

「戦う?」

「ワタル…」

「仕方ないなぁ~。とう」

ラモンが船から降りる。

「僕がやっつけとくから先に行ってて。僕もドランで行くから」

「ラモン君。一人で大丈夫?」

「大丈夫だよ。僕だって強いんだから…」

ラモンは妖しく笑い、

「あいつらを死なない程度に溺れさせるよ」

元の姿、バッシャーにと姿を変えた。

「…気をつけてね」

「うん。お兄ちゃんこそね」

バッシャーはアクアフィールドを張る。

船が出航し、一同は敵を罠にはめるバッシャーを見て、アルビオンへと向かった。








船で一夜を明かした後、ルイズは甲板でラ・ローシェルの方角を見ている。

「大丈夫かしら、あいつら…」

「大丈夫だよルイズちゃん」

「ワタル?」

「次狼さん達が強い事は僕が一番よく知ってる。だから大丈夫だよ」

「そうそう。ドンとまっときゃいいさ」

「うん…そうね」

そんなワタルとルイズの会話をワルドは耳を澄まして聞いていた。

(あの3匹があの『魔獣使い』の下僕という事か…あの竜の城や三匹には驚いたが今の奴は裸も同然…たやすいな。『奴』の言ったとおりだ」

ワルドは心の闇を押し隠しながら二人から離れ、後甲板に指揮を執りに向かった。

「だ~り~ん!」

「ん?キュルケちゃん?」

「…来たかお邪魔虫(ボソッ)」

声のするほうを見ると反対側からキュルケが手を振っている。

「ほら、こっちきて見て!絶景よ!」

渡は少し魅かれて反対側に向かう。渡が来るとキュルケは目的地のアルビオン大陸を指差して言う。

アルビオン大陸の大河から溢れた水が空に落ち、その時にできたできた白い霧が大陸の下半分を包んでいた。

正に絶景であった。

「綺麗だ…」

「ああ、渡。俺達これからもこういう景色を目に焼き付けていこうな」

「うん、キバット」

感動する渡とキバット。

しかし!鐘楼に登った見張りの船員が、大声を上げた。

「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!!」

全員が見ると、この船より一回り大きい船が一隻近付いてきている。

舷側に開いた穴からは大砲が突き出ている。

「大きな大砲がついてるね」

渡はひょいっと言い、ルイズが眉をひそめた。

「いやだわ。反乱勢…貴族派の軍艦かしら」

後甲板で、ワルドと並んで操船の指揮を取っていた船長は、見張りが指差した方角を確認する。

黒くタールが塗られた船体は、まさに戦船。

こちらに、数十個もの砲門を向けている。

「アルビオンの貴族派か?お前たちのために荷を運んでいる船だと、教えてやれ」

見張り員は、船長の指示通りに手旗を振った。

しかし、黒い船からは何の返信も無い。

副長が駆け寄ってきて、青ざめた顔で船長に告げる。

「あの船は旗を掲げておりません!」

船長の顔も青ざめる。

「してみると、く、空賊か!?」

「間違いありません!内乱の混乱に乗じて、活動が活発になっていると聞き及びますから…」

「逃げろ!取り舵いっぱい!!」

船長は船を空賊から遠ざけようとしが、

ぼごん!

鈍い音がした。

どうやら威嚇射撃に大砲をぶっ放したようだ。

砲弾が雲の彼方へ消えていく。

黒船のマストに、四色の旗流信号がするすると登る。

「停船命令です、船長」

船長は苦渋の決断を強いられた。

どう見ても火力の差は圧倒的…助けを求めるように、隣に立ったワルドを見つめる。

「魔法はこの船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」

ワルドは落ち着き払った声で言った。

船長は項垂れながら命令した。

「裏帆を打て。停船だ」




貴族という事でルイズ、ワルド、キュルケ、タバサ、ギーシュは空賊に捕らえられてしまった。

渡とキバットも捕まった。

渡を引っ張っていった船員は後の述懐にで

『あの男を見ると、何故か連れていけって言われたみたいになって連れて来たんだ』

と訳のわからない事を話していた。

牢屋に暫くぶち込まれていると、

船員がやってきた。

「おらぁ!貴族様方よ!お頭が面見たいって呼んでっから、来い!」

(あれ?)

渡はその言葉を言った船員に疑問を浮かべた?





「あまり、殺しはしたくない。だからお前らを救助した、そこまではいいな?」

空賊の頭領の部屋は、質素な造りではあったが、置いてある道具は全て一級品だった。

そう…『空賊の頭領』にしては立派過ぎるほどに。

「と、トリステインの大使として言うわ!!即刻、私達を解放しなさい!!」

ルイズ大きな声で頭領に向かって言う。

「ほほぅ?大使、ねぇ?お前さん達、貴族派かい?」

空賊のお頭がニヤリと笑って机の上の足を組み直した。

「あぁ、僕達…」

「王党派よっ!!誰が、あんな貴族の風上にもおけない薄汚い連中になんか!」

「る、ルイズ!?」

流石の渡もビックリした。

いくらルイズでもこんな時に挑発するとは思っていなかった。

(キバット…)

(おう)

渡とキバットはいつでも変身できるように身構える。

「ハハハ!正直はいいことだがね、お嬢さん!命が惜しいならそんなことは言うもんじゃねぇな!俺達が貴族派ならどうするつもりなんだ?」

「反乱軍に名乗るぐらいなら、舌を噛み切って死んでやるわよ!」

「ルイズ!!」

部屋に緊張が走る。が…

(あれ?この人…)

渡が何かに気付いた。そう、頭領の『心』から、

「…最後のチャンスだ。貴族派につかねぇか?お前らをもってけばそれなりの金になるし、お前らも勝ち馬に乗りゃ稼げるぜ?」

「お断りだわ!死んでも、最低の連中になんか与するものですか!!」

その言葉に空賊の頭領が机から足を降ろして立ち上がろうとする。

「ハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

突然、頭領は笑い始める。

「ハハハハハ…いやいや、突然笑いだして失礼。その気概がある貴族があと5人でもいれば、こんなことをしなくても良かったのだがね」

そう言いながら頭領はボサボサの髪の毛に手を伸ばして、それを取り払う。

どうやら鬘だった様だ。

ついでに髭もベリッと取る、

付け髭だ。

「ほぅ――」

ワルドは何かに気づいき、ニヤリと口の端っこをもたげた。

「自己紹介がまだだったね。アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。アルビオンへようこそ!気の強い、可愛い大使殿とそのご一行!」

「えっ…えええええええぇぇぇぇぇっ!」

ルイズがスットンキョな声を上げる。

(やっぱり)

(わかってたのか渡!?)

(うん…この人から聞こえて来る音楽でね。でも…)

渡は少し悲しい瞳をして、

(もしかしてこの人…)

「あ、あの、失礼ですが、あなたがウェールズ殿下であられる証は――」

「ハハハ、確かに空賊じゃない証拠が必要だったね、可愛い大使殿!ちょっと失礼を…」

ウェールズはルイズの左手を右手で持ち上げて、自分の左手をそっと添える。

すると、ルイズのつけていた『水のルビー』から、虹が伸びる…

「ほら、『風のルビー』と反応している。君の『水のルビー』も本物のようだね!これが王家の間にかかる虹の橋で本物の証っていうわけさ。納得、いただけたかな?」

2つの指輪でできた虹の橋は色彩を変えながら輝いている。

「た、大変、失礼をばいたしました!」

ルイズがさっと頭を下げる。

「いや、気にすることは無いさ。僕だって、君達を疑ったわけだしね!それで、用とは何かな?大使殿」

ルイズは事のあらましをウェールズに伝えた。

「なんと!姫は結婚するのか?あのアンリエッタが?私の可愛い従姉妹が?」

ルイズが、アンリエッタから預かった手紙を渡す。

それを見たウェールズは…

「そうか…そういう事情ならば、あの手紙はお返しせねばなるまいな」

『………』

「ウェールズ殿下…」

ウェールズの心の内をなんとなく渡とルイズ、そしてキュルケとタバサは気付く。

「…それで、ウェールズ殿下。件の手紙はまさかこの船に?」

ワルドがウェールズに尋ねる。

「ハハハ、まさか!多少面倒だが、ニューカッスルの城までご足労願いたわねばね」



空賊船もといイーグル号がニューカッスルに到着すると、キュルケ・タバサ・ギーシュを残して、渡・キバット・ルイズ・ワルドは王子の部屋に案内された。

ルイズとワルドは元より、渡とキバットが同行を許されたのは当のウェールズもわからなかったが許してしまった。

ウェールズの部屋は、イーグル号の船長室以上に質素な部屋であり、無駄な飾りがまったくなかった。

ウェールズは部屋に入るとすぐに机の引き出しを開き、この部屋には不似合いな宝石がちりばめられた小箱を取り出す。

鍵を使い蓋を開けると、そこにはアンリエッタ姫の肖像が描かれていたのが見えた。

「…宝箱、でね」

ウェールズの『心の音』はアンリエッタの手紙を読み終わった時のように寂しい音を奏でる。

その後、箱の中からボロボロに擦り切れた手紙を取り出し、ゆっくりと読み返し始めた。

笑顔に隠された寂しさの音が、どんどん強くなるのを渡とルイズは感じる。

読み終わると、ウェールズは手紙を丁寧に…丁寧にたたんで、封筒に入れてルイズに手渡す。

「ありがとうございます」

ルイズは深々と頭を下げて、手紙を受け取る。

「…殿下、失礼をお許しください。恐れながら、お聞きしたいことがございます」

「ん?何だい?」

「ただいまお預かりいたしました手紙の内容、これは、もしや――」

「ルイズ!」

ワルドはルイズが言葉を続けようとするのを止めようとする。

でも、王子様はほんの少し悩んだ表情を見せた後、はっきりと…

「ハハハ、お察しの通り、恋文だよ。ゲルマニアの皇帝と婚約するとなれば、邪魔になる類のものさ」

「こいつぁ驚いた。まるで芝居だな」

…キバットはいつもの憎まれ口をいうが、どこか寂しそうだ。

「姫様は、殿下と恋仲であらせられたのですね?」

「昔の話だ」

ワルドがルイズを止めようとするが、

ゾクゥッ!

「ぐ…」

突如襲った悪寒に体が止まる。

それは渡からの威圧だったが、ワルドは気がつかなかった。

「殿下、亡命なされませ!トリステインに亡命なされませ!」

「それはできんよ」

寂しい笑顔でルイズの言葉をすぐに否定するウェールズ。

「明日の朝、非戦闘員を乗せて出航する『イーグル号』に乗ってお帰りなさい。君達の乗っていた貨物船の乗組員も同乗するよ」

「そんな!殿下と姫は!殿下と姫は…」

「…そろそろパーティーの時間だ。我が王国最後の客として、君達には是非出席して欲しい」

そんなウェールズの姿を渡は悲しそうに見ていた。




最後のパーティーは王の言葉の後、盛り上がり始めた。

贅を尽した料理がテーブルに所狭しと並び、上質の酒が振る舞われ、これでもかと言う程に着飾ったアルビオン貴族達が、ダンスに興じている。

彼らの顔には、悲壮感など欠片もありはしない。ただ、最後の晩餐を心から楽しんでいる。

「………」

「ダーリン…」

「ワタル…」

そのパーティーを険しい顔で渡は見ていた。

キュルケとタバサ、そしてギーシュはそんな渡の姿を見ている。

渡は今、心から悲しんでいることがわかっていた。

「ねぇ…」

「なに?ダーリン」

「ルイズちゃんは?」

ルイズが雰囲気に耐えきれず、ホールを後にした事をキュルケは伝える。

「僕もいくよ。行こキバット」

「お、おう」

「ま、待ってダーリン」

「私達も行く」

「ぼ、僕も…」

「あんたはダメ。さすがに全員いなくなるのは不味いでしょ」

と、ギーシュは置いていかれた。


3人は部屋に戻ると、ルイズを見つけた。

「…………」

ルイズは、涙を湛えた瞳で双月を眺めていた。

頬には涙の跡が残っていて、目も赤い。

ホールを飛び出してから、恐らくずっと泣き続けていたのだろう。

その様はあまりにも儚く、小さい…

ルイズがこちらに振り向いた。

「……!」

ルイズは、渡達に気付くと目元を服の裾でゴシゴシと拭う。

だけど涙は止まらない。

次第にルイズは顔をくしゃりと歪め、抑えきれない涙を隠すように渡の胸に飛び、泣き続ける。

泣きながらルイズは呟く。

「…どうして? どうして、ウェールズ皇太子は死を選ぶの…? 姫様が逃げてって…自分を頼ってって言ってるのに…どうして聞き入れないの?」

「………」

「…あんなにも心は姫様を求めているのに…どうして…どうしてよ…?」

キバットも、キュルケも、タバサも何もいえなかった。

「…早くトリステインに帰りたい。もう嫌よ、こんな国…誰も彼も自分勝手で…他の人の気持ちなんて、これっぽっちも考えてない。貴族派の恥知らずな奴らも…あの王子様もそうよ…残される人の気持ちなんて、どうでもいいんだわ…」

「ならさ…僕等も他人の気持ちを考えるのをやめようか」

『え?』

渡の突然の言葉に3人と1匹は驚く。

「だからさ、僕達も他人の気持ちを考えるの止めようよ」

「ど、どういうこと」

渡はルイズに笑顔で答える。

「明日ここの人達を全員眠らせてイーグル号に乗せて、亡命させて、戦争をできなくしちゃおう」

『!?』

渡の発言は驚きだった。

「乗るのに足りなかったらドランに乗ってもらおう。それから…」

「ちょ、ダーリン!ちょっと待って!」

「そんなことしたらワタルが大変なことになる」

「それがどうしたの?」

渡は首を傾げる。まるで自分に迷惑をかかるのはかまわないといったかんじだ。

「きっとそれをしたら僕はウェールズさん達に恨まれる。でも、アンリエッタさんもウェールズさんと再び会う事ができる。彼女も喜ぶし、彼も時間が経てば再び笑顔を取り戻す事ができる」

渡はルイズの瞳を真っ直ぐ見る。

「死んでしまったら、全てを失う。でも、生きていればいくらでも取り戻せるんだ。だから…」

「…ワタル…」

「トリステインがダメなら『僕の国』に…キャッスルドランに亡命すればいい。いつでもアンリエッタさんに会えるように…」

「…ダメよ…ワタル…それだとワタルが…」

一国の決定を阻止する為に、王族を無理矢理誘拐し、亡命させる。

そんな事をすると渡は…

「大丈夫」

渡は優しい笑顔で…

「僕は『魔皇』だよ。人に恨まれたり嫌われたりするのは慣れてるから」

優しい魔皇はそういった。

その言葉に3人の心が辛くなる。

(どうして…)

(この人は…)

(こんなにも…

(『優しいのに…』)




ルイズが眠った後、渡とキバットは『明日の準備』をする為に部屋を出た。

すると、待ち伏せていたかのようにそこには、

「やあ、使い魔君。こんな遅くにどこにいくんだい?」

「ワルドさん」

「あん、騎士の旦那か?」

渡はワルドを見る。

「あなたこそ、どうしたんですか?」

「いやぁね。君に伝えたい事があってきたんだ」

「僕に?」

ワルドは渡の瞳を見て、

「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」

「え?」

その言葉に渡は固まった。

「こんな時に、こんな所でか?」

「是非とも、僕達の婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。皇太子も快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕達は式を上げる」

「その事は、ルイズちゃんには言ってあるんですか?」

「いや、まだ言ってはいない。だが、彼女が僕の求婚を断るはずがないだろう?」

「そうですね…」

ワルドはルイズの婚約者…婚約者の求婚を断るわけがない。

「一つだけ、約束してください」

「何をだい?」

「ルイズちゃんを幸せにしてあげてください」

その言葉にワルドは一瞬眼をキョトンとするが、

「アッハッハッ!当たり前じゃないか!まかしておきたまえ!」

その言葉を、渡は『信じた』







翌日、礼拝堂。

駆けつけた渡が見たものは、ワルドに体を貫かれたウェールズの姿と、ルイズの驚愕と絶望の顔だった。

「ふん、来たか使い魔」

ワルドはウェールズの体を渡に向かって投げつける。

風の魔法がかかっていて、かなりの勢いだが、渡はウェールズの体を難なく受け止める。

ワタルの手の中で体温がなくなっていくウェールズ。

「どうして…どうしてこんな事を…!?」

「ふん…僕が全てを手に入れる為さ。ウェールズの命を取る。それが契約だったからね」

「そんな…ワルド…」

ルイズの眼には絶望の色が映る。

「さてと、どうするんだい、使い魔君?頼みの魔獣共もいない。命が惜しければ一緒に付いて来たまえ。虚無の使い魔の力を見せ…」

「黙れ!」

ゾクッ!

渡の怒声が礼拝堂に響く。

その声に礼拝堂にいる者全てが恐怖を感じる。

ワルドへの憎しみ、呪いがこもった声だった。

「キバット…」

「おう…ガブッ…」

渡がウェールズを抱えたままキバに変身する。

「そ、その姿は…!?」

「…この人には、愛する人がいた…」

キバの両肩の拘束具から黒い闇が溢れる。

「…愛する人の為に、頑張っていた。守りたいモノの為に、頑張っていた…それを…それを…」

全身の拘束具から黒い闇が溢れ、キバの体を包む。

「許さない…」

全身を包んだ闇が…

「許さない!」

吹き飛ぶ!

闇の中から現れたキバは姿を変えていた。

闇の鎧、闇の爪、そして常闇の色…

歴代の『黄金のキバの鎧』を着た者の殆どが成り下がってしまった呪われた姿。

心が闇に堕ちた者の姿…

仮面ライダーキバの闇の姿、『ヴラドフォーム』。

闇は…全てを滅する。



[5505] 閑話/力を求めるメイドと封印されしモノ
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:66a1d193
Date: 2010/04/23 16:58
閑話/力を求めるメイドと封印されしモノ

「ここでいいかな」


シエスタは『宝物庫』にラ・ローシェで買った次狼達曰く『珍しい物』を置いた。

ここはキャッスルドランの中の宝物庫。

様々な宝石や絵画、果ては魔導具まで存在していた。

それ一つ一つが平民が十年以上働かないで暮らしていける価値がある。

シエスタの『主』の話だと、これらは『主』の母親の『ヘソクリ』だったそうだ。

「はぁ…ジロウ様達はワタル様と一緒…」

シエスタは溜息を吐く。

今ワタル達は極秘任務でアルビオンに向かう途中である。

キャッスルドランでアルビオンに向かう事も可能だが、極秘任務なのでラローシェの街で待機だ。

自分も昼にラ・ローシェにいたが、買った物を持ってきて、4人の荷物を取りに来た所だ。

アルビオンに向かうのはまだ先になる。

船が出せないらしいが、キャッスルドランで行く事を一緒にいる騎士が『秘密裏に行動できない』として拒否した。

まあ、このキャッスルドランが飛ぶとどうしても目立ってしまうから仕方ないだろう。

しかし…

「ワタル様…大丈夫かな…?」

学園を出てからの渡はどこかおかしかった。

「私は…あの方の力になれないのかな…」

自分も渡達の力になりたいと最近のシエスタはそう思うようになっていた。

しかし、それは度台無理な話だ。

自分は人間の平民…3魔騎士とは違うのだ。

「でも…それでも…」

自分を救ってくれた人達…自分を必要としてくれている人達の為に…

「私は…」

『力が欲しいんですか?』

「きゃっ!?」

突然、部屋に声が響いた。

「だ、誰です!?ここはワタル様の…」

『落ち着いてください。私もキャッスルドランに住んでいるモノです』

「え?」

『まあ、住んでいるというより、『封印』されているモノですが』

「封印…ですか?」

シエスタは首をかしげる。

「何故封印されているのですか?ワタル様に仇なすことでも?」

『いえいえ、私は渡さんの味方ですよ。立位置的にはキバット先輩と同じ位置です』

「キバット様と?」

『はい…私は渡さんの心に答える存在。今の渡さんの心は悲しみで溢れ、私が引き出す事の出来る『力』を制御できません。だからこの城に封印させていただいているのです』

「ワタル様の心…」

(やっぱり…ワタル様は…)

次狼達からシエスタは聞いていた。

渡が人間とは違う事…

人間との共存を望んでいた事…

その為、裏切り者の烙印を押された事…

人間に裏切られた事…

そして…『一人ぼっちの王様』になった事…

「お聞きしたい事があります」

『…なんでしょう』

「私がワタル様を護れる力を手に入れるにはどうしたらいいのですか?」

『シエスタさん?』

「如何なる戦場でも、あの方の側に立ち、あの方に奉仕する為に…どうか教えてください」

シエスタのその眼は覚悟と決意に溢れ、光り輝いていた。

それを感じ、封印されしモノは…

『この宝物庫手前の方に…手甲のようなモノがあります』

シエスタは素早く移動する。

そこにあったのは銀と赤の美しく光る重厚な右手用の手甲で、シエスタの手よりかなり大きかった。

『それは次狼さん達が人間の組織から奪い取った新品です。その手甲を腕に装着すると、あなた専用のツールになります』

シエスタは息を呑んで…覚悟を胸に手甲を持ち、右手にはめた。

シュンッ!

「!?」

シエスタが手を入れると、手甲は伸縮し、シエスタにジャストフィットする。

暫くガシャガシャと音がなり続けると、

『使い方は…』

「だ、大丈夫です…『解り』ます」

シエスタは恐る恐る、右拳を握り、

『G・E・T・R・E・A・D・Y』

その右拳を左掌に乗せる。

『F・I・S・T・O・N』

シエスタは祈るように、両手同士を握り…

「変身…」

『HE・N・SHI・N IXS 2ed SERIES FATIMA』



[5505] 第17話/ヒカリ 前編 ~闇の中でも響く声は~
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:c52ddbc0
Date: 2010/01/17 14:08
キャッスルドランでいざという時の為の準備をしていたシエスタの体に『何か』が急激に襲った。

「な、なに…まさか…」

シエスタは大急ぎで大広間に向かった。

「皆様!」

「シエスタ…やはりお前も感じたか」

大広間にいた三魔騎士と自分達に渡の伝言を伝えに来たキュルケ・タバサ・ギーシュがいた。

それぞれカードを持っており、次狼がシエスタにも一枚投げる。

それを受け取り、シエスタはカードを見る。

そこには…

「わ、ワタル様…?」

「そうだ。『闇に堕ちたキバ』…『ヴラド』だ」

「ヴラド…?」

「昔、ある種族の中に初めて人間を信じ、共存しようとした『皇』がいた」

シエスタはそれを沈黙して聞く。

「しかし、その『皇』は人間に裏切られ、人間の醜さを目の当たりにして『闇』に堕ちた。その時に誕生したのがあの『ヴラド』だ」

シエスタは深く沈む。

一体彼はどれほどの絶望を味わったのだろう。

誰よりも優しくて、誰よりも強くて、誰よりもまっすぐ歩こうとしていたのに…

「ワタル様…」

シエスタはキュッとカードを持つ手を強める。

「いつでも『城』へお帰りください。私はあなたを裏切りません…永遠(とわ)に…」










第17話/ヒカリ 前編 ~闇の中でも響く声は~




ワルドは眼の前の存在に自分の命を奪われた感覚に襲われ、自分の全身がバラバラになる錯覚を感じた。

後退りしたワルドは、慌てて自分の体を手で触る。

自分の体はなんの異常もない。

ちゃんと五体満足の状態だ。

しかし、それでも生きた心地がしない。

目の前にいる『闇』の存在に…闇の鎧・闇の外套・闇の爪…その全てが恐怖の存在だった。

(な、何なんだこいつは!?『奴』は只の魔獣使いだとしか言ってなかったぞ!)

ワルドは渡の事を『魔獣使い』だと聞いていた。

それは渡に会ってから確信することにもなる。

巨大な龍の城。

蒼き人狼。

深紫の巨人。

水緑の魚人。

人語を解する蝙蝠。

だから魔獣全てを切り離せば只の平民だと思っていた。

それが…

「お前を…許さない…」

『闇』はゆっくりと自分に近づいてくる。

その一歩一歩にワルドは恐怖する。

今までの自分の歴史も、最強の属性である風のスクウェアであることも、眼の前の『闇』の存在の前では紙切れにも等しい支えだった。

しかし、このままでは殺されると感じたワルドは歯を噛み締め、再び後退りした後、素早くある呪文を詠唱する。

詠唱はすぐに終わり、その結果も現れた。

ワルドの周りに現れたのは5人のワルドだった。

現れた5人のワルドは素早く展開し、円を描くように『闇』を包囲する。

「くく、はははっ!これが風のスクウェアスペル『遍在』だ。風は何処からでも吹き、何処からでも現れる。どれが本物かわかるまい!そして」

ワルドは再び素早く詠唱し、『偏在』を維持したまま、

「ライトニング・クラウド!!」

杖から雷を放つ。

雷鳴が礼拝堂内に轟き、大量の粉塵が上がる。

ライトニング・クラウド…風のメイジが最強といわれるもう一つの理由。

それがこのライトニング・クラウドだ。

この防御不可能な上に、体の自由を奪う事から蒸発までできる必殺の魔法の前には、どんな者でも敵う筈が無い。

今の威力は完全に丸焦げだ。

「どうだ!はははっ!やはり僕の勝ちだ!僕は全てを手に入れる。地位も名誉も誇りも…いや!いずれはハルケギニア全てを!」

高笑いをあげるワルド。

しかし、恐怖が拭えない。

在り得ない筈だ。

今のを喰らって生きている存在は…そう、在り得ない筈だった。

「は、はは…」

ワルドは粉塵の中から現れる存在にワルドは再び恐怖に支配される。

そこには無傷で悠々と歩く『闇』がいた。

「う、うそ…だ」

ワルドは恐怖に眼を開く。

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」

再び『偏在』で『闇』を取り囲もうとしたが、

「…ふん」

『闇』は手を少しずつあげ、手を横に振った。

たったそれだけ…それだけで…

バシュゥッ!

「ぐぎゃぁ!?」

闇色の衝撃波がワルド達を襲う。

偏在は掻き消され、ワルド本人は衝撃波で吹っ飛び、

グシャッ!ベチャッ!

「げふっ!?」

壁に叩きつけられ、地面に落ちる。

『闇』はもがき苦しんでいるワルドに左腕を向ける。

すると『闇』の左腕が伸び、ワルドの頭を掴む。

ワルドはそのまま『闇』の元へと来る。

ワルドは恐怖と絶望で顔を染めている。

『闇』は右腕を上げ、闇の炎を纏わせ、ワルドを『処刑』しようと…

『ダメェェェェェェェェェッ!』







暗い闇の中、渡は憎悪に心を支配されていた。

目の前のワルドを見てさらに憎悪の炎を燃やす。

『なんで…なんで…』

渡は右腕を上げる。

『なんで人を苦しめるんだ…!』

人間は『弱い』…しかし、その『弱さ』こそが最高の力を生み出す。

人は自分達のような『化け物』に向かって生き残ってきた。

『団結』し支え合い、時にぶつかりあうが『信頼』して分かり合い、そして『愛』や『友情』を育んでいく。

それこそが人間の『力』…人間の『美しさ』。

『でも…目の前のコイツは…!』

渡は憎悪に任せ、右腕を振り下ろそうとした時、

『ダメェェェェェェェェェッ!』

その声は聞こえた。





気づくとルイズは大きく声を上げていた。

それは自分の心からの願いを強く叫んだ言葉。

ルイズは『キバ』をまっすぐ見る。

(ワタル…ワタルが怒ってる。ワタルが憎んでいる。ウェールズ様を殺したワルドを…)

そう、今のワルドは憎むべき敵…でも…

「お願いワタル。やめて…」

ルイズは『キバ』に近づいていく。

「ワタルに…ワタルにそんな『音楽』は似合わないわよ…」

『いつも優しかったワタル』

『自分の悩みや苦しみを正面から受け止めてくれたワタル』

『自分を…自分を守ってくれるといったワタル』

「お願い。そんな『音楽』をやめて…」

(全部を憎まないで…人間を…)

ルイズは感じている。今ここで『キバ』が憎しみのままワルドを殺してしまったら…二度と『渡』が帰ってこない気がした。

「ワタル…」

『うぁ…うぅ…』

『キバ』はワルドを手放し、頭を抱え、後ずさる。

『うぅ…うぅぅぅぅ…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』

キュゴアァァァァァァァァァァァァァァァッ!

『キバ』は黒い『闇』を地面に叩きつける。

黒い闇は大地を走る。

その瞬間、『キバ』は渡へと戻った。

「ワタル!」

ルイズは駆け寄る。

「ワタルッ!ワタルッ!(グララッ!)…きゃっ!?」

突如大地が揺れ始める。

それと同時に礼拝堂の扉が開く。

「早くここから出ろ!」

現れたのは次狼とタバサだった。

「他の城の者は全てイーグル号に乗せて出した。後はお前達だけだ!」

タバサはシルフィードを呼び寄せる。

「ワタルは!ワタルは大丈夫なの!?」

次狼は渡を見る。

「体は大丈夫だ。力を使い過ぎただけのようだしな。それよりも急ぐぞ。もうすぐ…」

次狼は重い声で、

「この大地は崩壊する」

「え?」

その言葉と同時に大地に亀裂が入る。

「ど、どうして!?」

「渡が最後に自分の力を全て大地に流しただろう。その為大地が耐え切れず崩壊するだけだ。それに…ここは空の大陸だ。力の逃げ場がない」

「そ、そんな…どうにかならないの!?」

「『キバ』の力を止められるのは…『キバ』だけだ」

そこまで言うと次狼は渡とルイズを担いでタバサと共にシルフィードに乗った。

シルフィードはそのままキャッスルドランへと向かった。









崩壊寸前の礼拝堂に取り残されたワルドは苦しみにもがいていた。

「く、くそ…どうして…こんな…」

「いやいや、善くやってくださりましたよ。あなたは」

声が聞こえた。

「き、貴様は…!?」

「いや~、まさかここまでやってくださるとは!?人間如きがと思って貴方を舐めきっていた私としてはビックリ満開ですよ!」

ワルドが見たのは一人の男。

黒を基調とした神父服のような服を着ているが、神父服にしては豪奢すぎる彩色と装飾。

髪はオールバックに纏めており、身長も高く、顔も整っている。

しかし…

「流石は『王』!あれ程の力をお持ちとは!あれこそが我らの王の力!ん~ワンダフリャ~!」

言動と行動は異常だった。

「『ビショップ』!?貴様…何故ここに!?」

「ン~、実は結構最初から監視していましたよ。『王』の観察もかねて。それにしても…ほん~と~に、貴方は咬ませ犬としては最高でした!素晴らしいまさか『王』を覚醒していただけるとは!」

「か、咬ま…せ…犬だ…と?」

「んん~おや~、まさかあなた?自分が特別だとお思いでしたか?それはなんと大それた…」

神父服の男はワルドに顔を近づけて、その混沌の瞳を向けて、

「妄想をしたものですね」

「…!?」

「まあ、『王』を覚醒してくれたお礼に、無視しようとしていた『契約』は守りましょう。ささっ」

ドゴッ!

「ぐふぅっ!」

神父服の男はワルドの横隔膜を爪先で蹴り、気絶させた。

「しばらく寝て置いてください。おや…」

なんと大地の震動が収まっていく。

どんどん揺れはなくなり、最後には収まった。

「もう一人の『王』ですか…こちらも素晴らしそうだ」







「………」

黒い鎧に闇色のマントを纏った『キバ』が大地から手を離す。

「タイガ…大丈夫?」

「ああ、もう安心していいぞテファ」

「しかし…この力は…」

「ああ…あいつもこの世界に来ているらしい」

『キバ』は手を見る。

「しかし…」

ゆっくりとそれを握り…

「弱くなったな。渡」



[5505] 第18話/ヒカリ 後編 ~光満ち溢れる時~
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:f9ccdd74
Date: 2010/08/11 13:57
第18話/ヒカリ 後編 ~光満ち溢れる時~



「『ポーン』!『ポーン』はいるかい!?」

「うるせぇな。そんなに叫ばなくても聞こえてるよ変態」

突如、自分の部屋に乱入してきた『ビショップ』に『ポーン』は答える。

ゆっくりと紅茶を飲んでいた彼の所に『ビショップ』は『持っていたモノ』をポイッっとほって、ズカズカと来て、空いている椅子に勝手に座り、飽きているティーカップに紅茶を勝手に淹れ、優雅に飲み始めた。

「うん。美味しい」

「コロサレテェのか」

「まあまあ、同じ『四公爵』の仲じゃないか。それに私は変態じゃない。変態だったとしても変態という名の紳士だよ」

「それ、余計酷くないか?で…」

『ポーン』は紅茶を一口飲んでから、

「なんのようだ?」

「そうそう、用事だよ。実はね、君の『軍団(レギオン)』が欲しいんだ。何体かでいいから」

それを聞いて、クッキーを取ろうとした『ポーン』の手が止まった。

「どうしてだ。『騎士』や『守護番』ならいざ知らず、『管理人』のお前が珍しいじゃないか」

「う~ん実はね、『王』を迎えに行きたいんだ」

「『王』を?」

「うん。一人の『王』が覚醒したんだ。だから迎えにいきたんだけど、王を迎えるのに一人って失礼だろ?『ナイト』はガリアで『失格者』を使って『聖王』を監視しているし、『ルーク』はああ見えて各国境で目を睨ませて、『戦争』を勝手に起こさないよう目を光らせてるから」

「俺が直接行けばいいだろ?お前と一緒に…」

そこで『ビショップ』は首を振る。

「何言ってるんだい。こんな『戦争』が起こりそうな状態なのに、君には『兵団』を監理してもらわなきゃ!確かに『貴族』クラスの監理は僕だけど、『兵団』達は君の命しか殆ど従わないんだから」

「で、今一番暇なお前に、兵団ではなく『軍団(レギオン)』を貸せと」

「そ!頼むよ『四公爵(チェックメイト=フォー)』最強の男!僕は絶対に君には敵わないから、こうして頭を下げているんだよ!」

「…わかったよ。10人でいいか?」

すると、『ポーン』の影が盛り上がり、そのまま人の形となる。

『ポーン』の言ったとおり、10人の存在が現れる。

「何度見ても凄いよね、君の能力は。自分と同じ『四公爵』級の『存在』を好きなだけつくれるんだから」

「好きなだけ…ってのは無理だけどよ」

「それとそれと!」

「なんだよ。まだあんのか?」

「あれ?」

自分がさっき『ポイ捨て』したモノをさす。

「実はさ、成功するとは思わなかった『王の覚醒』には彼の力を借りたんだ。約束に力を与えるだけど…お願い」

「まっ、いいよ。減るけど大した事じゃねぇしな」

ポーンの影から一本の影が現れ、

シュッ、ドシュッ!

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

『ポイ捨て』されたモノ…ワルドは苦しみのた打ち回る。

「…死ななきゃ、一刻位で馴染むだろ」

「ふむ、じゃあそれまでティータイムだ」







崩壊寸前のアルビオンから脱出したルイズ達を乗せたキャッスルドランは信じられない速さでトリステインに到着した。

渡やキバット3魔騎士、シエスタを抜いたルイズ達四人はは、アンリエッタに報告すべく、トリステイン王宮へ向かう。


トリスタニアの街は、数日前からアルビオンの内戦の噂で持ち切りだった。

その為か、王宮は厳戒態勢が敷かれ、出入りする者は、身分を問わず、厳しく調べられるようになり、更に王宮の上空一帯は飛行禁止令が出されている。

城のあちこちでも、魔法衛士隊のグリフォンやマンティコアが闊歩し、緊迫した雰囲気が広がっている状態だった。

その為、ルイズ達は目立たない所でキャッスルドランを降り、シルフィードで王宮に向かい、正規の手段でアンリエッタに取り次いだ。

そんな経緯を経て、キュルケ達は別室で待機し、ルイズはトリステイン王宮の一室…アンリエッタの私室に通された。

「姫様、こちらがご依頼の手紙にございます。それと…こちらはウェールズ皇太子様よりお預かりした品にございます…」

ルイズが跪いて、手紙とウェールズから預かった『風のルビー』を恭しく差し出した。

指輪を見せられた時、アンリエッタは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに微笑みを浮かべてそれらを受け取る。

「…ありがとう、ルイズ・フランソワーズ。やはり、あなたは一番のお友達だわ」

そう言うアンリエッタは確かに微笑んではいたが、心では『嘆きの音』を奏でている。

「…あの方は…もういないのですね…」

「…姫様」

「…ねえ、ルイズ。ウェールズ様は、わたくしの手紙を最後まで読んで下さったのかしら?」

「は、はい…確かに、最後までお目を通されておりました」

それを聞くと、アンリエッタの目に涙が浮かべ、ぽつりと呟くように言う。

「…そう。ならば、あの方は…わたくしを、愛しておられなかったのね…」

「それは違います!」

「…?」

「ウェールズ様の心は、ずっとあなたを求めていました!ワルドに殺される寸前まで…最後の最後まで姫様を求めていました!」

「私を…?」

「はい…姫様がウェールズ様を求めるように…ウェールズ様も…」

「あ、あぁぁ…ウェールズ様…ごめんなさい…あなたは…そんなにまで、私を想ってくださっていたのに…私は…う、うぅ…!」

「姫様…今はお泣きください…」

自身も涙を流しながら、アンリエッタを抱きしめるルイズ。

アンリエッタもルイズの背中に手を回す。

「泣きたい時に泣いて…再び奏でましょう…私達の音楽を…」

「…ルイズ…あなたは強くなったのですね。でも…私はあなたの身を案じてワルドを護衛に付けたつもりだったのに、逆にあなたを脅かしてしまった…」

「いいえ…それこそ、姫様がお気になさることではありません…憎むべきは、貴族の…いえ、心の誇りを忘れてトリステインを裏切ったワルドであり、レコン=キスタです。姫様が私如きの身を案じて下さったことを、心から嬉しく思っておりますわ」

「ルイズ……」

ルイズの一言一言が運命に裏切られ続けてきたアンリエッタの心を少しずつ救っていく。

(ワタル…あなたが教えてくれたのよ)

再びアンリエッタを強く抱きしめるルイズ。

(『心』の大切さを…)




「キバット…」

渡はキャッスルドランの『王の間』の王座に座りながら、つぶやく。

「どうして…皆、仲良く出来ないのか…」

「渡…」

「どうして人は…人の大切なモノを奪うんだろう…」

その答えをキバットも3魔騎士も答えなかった。

渡は人が人を傷つけ、殺す理由を痛いほどわかってる上で呟いているからだ。

「どうしたら…分かり合えるんだろう」




「お引取りください。『王』は今誰とも謁見を望んでおりません」

ルイズ・キュルケ・タバサがキャッスルドランの『王の間』の扉の前にはシエスタが立ちふさがっていそた。

「そ、そんな…」

シエスタの目には恐ろしいほど、意思がこもっていた。

「あの方は深く傷付いております。あの方を護る為に、私はここで番をしております」

「シエスタ、ワタルに会わせて」

「ダーリンは…どうしてるの」

「ワタルは…大丈夫なの?」

「………」

シエスタはまっすぐ3人を見る。

「あの方は…私達人間を信じておりました。人間は素晴らしいと…人間は優しいと…」

シエスタは右拳を握る。

『G・E・T・R・E・A・D・Y』

「それを裏切ったのはあなた方『人間の貴族』…」

その右拳を左掌に乗せる。

『F・I・S・T・O・N』

シエスタは祈るように、両手同士を握り…

「変身…」

『HE・N・SHI・N IXS 2ed SERIES 『FATIMA』』

黄金の十字架がシエスタの上空に現れ、シエスタを包んでいく。

光が収まった先にいたのは…

「し、シエスタ…そ、それは…」

過去、キバと戦い、共闘した『IXS』の2倍はある重厚な装甲。

手に持っているのは巨大な戦斧。

「この姿は『ファティマ』…あの方を護る力…」

ヒュバッ!

『ファティマ』は目にも止まらぬ速さでルイズの眼前に斧を向けた。

「…あなたに…あの方をお救いする事ができますか?」






結局、渡には会えずにキャッスルドランからでたが、入り口に座り込んでいた。

「こうなれば持久戦よ。私は絶対にワタルに会うわ」

「もちろん」

「うん」

三人は腹をくくって、座り込む。

「ふふっ…あのシエスタが変身したのはビックリしたけど、全く歯が立たなくて、猫掴みで放り出されたけど、その程度で諦める私達じゃないわ!」

『お~!』

「窓から忍び込もうとしたら、ハタキで落とされたのも、裏口から入ろうとしたら、水をぶっ掛けられた程度で私達は諦めない!」

「でも…どうするの?」

「…八方塞?」

「それはいわないで」

「ほう、王はココにいらっしゃるのですね」

『!?』

突如聞こえた声に三人は振り向く。

そこには後ろに十数人の『兵』を従えた一人の男がいた。

黒を基調とした神父服のような服を着ているが、神父服にしては豪奢すぎる彩色と装飾。

髪はオールバックに纏めており、身長も高く、顔も整っている。


「あ、あんただれ!」

「何者!?」

「まさか…レコン=キスタ?」

「いえいえ、まさか」

男は芝居がかった動きで頭を下げる。

「私はこの城にいらっしゃる『王』をお迎えに上がったものですよ、お嬢様方。よろしければお名前を」

「…人に名前を聞く時は自分から名乗るものよ、ミスタ」

それを聞くと男は更に笑って、

「これはこれは失礼しました。私は偉大なる王に仕える『四公爵』の一人…」

ニッコリ笑って

「『ビショップ』と申します」

「!?」

その名前を聞いて、タバサの心が…

「以後お見知りおき…」

「ビショップ!」

『タバサ!』

タバサが感情をむき出しにして、ビショップの名を叫ぶ。

「やっと見つけた…やっと…」

「んん?おや、これはこれは『シャルロット』!お元気そうで実に何より!」

タバサの感情とはまったく気にせず、

「時にお母様はお元気かな?」

もっとも言ってはいけない事を簡単にいった。

「ビショップッ!あなたを…殺す!」

感情をむき出しにしたタバサは自身の最大の魔法をイメージして、

「『ウィンディ=アイシクル!』

ビショップに解き放った。





「みんな!?」

闘いの気配を渡は玉座から立ち上がる。

「行くのか?」

次狼の言葉に渡は止まる。

「また…『人間』の醜さをみるかもしれんぞ」

渡は思いつめて…そのまま部屋から出て行った。

「いいのですか、ジロウ様」

「決めるのはあいつだ。俺達はあいつが決めた事に着いていって、護ってやればいい」





「おやおや、はしたない」

「くっ!」

「レディーはもう少しお淑やかに」

ビショップはタバサの渾身の魔法を『火』の魔法で消してしまった。

「タバサッ!」

すぐにキュルケは『火』の魔法を放つ、が!

「そちらの魅惑のレディーもです」

今度は『水』の魔法でかき消した。

「しかし、シャルロットもそちらのレディもやりますね。共に『トライアングル=スペル』を放つなんて。しかし…」

ビショップの右手に『火』、左手に『水』が現れる。

「せ、先住魔法!?」

「はっはっはっ、ついでに申しますと、先程あなた達の魔法を消すのに使ったのはそれぞれ『スクウェア=スペル』です。私はビショップ!『四公爵』一の魔法使い!」

ルークは踊るように歩き出し、ルイズに近づく

「と、止まりなさい!」

「おおっっと、ごめんなさい。お願いですからあなた様の魔法だけは勘弁してください。『虚無』の魔法は流石に私でも使えませんので」

「え?」

「おや、その様子じゃ知らなかったようですね。あなたの魔法は『虚無』。『王』を呼び出せたのが何よりの証拠です」

「わ、私が…『虚無』…」

「ですが…」

両手の『水』と『火』が凶悪に滾る。

「もう用済みです。死んでください」

「マテッ!」

突如、空から誰かが降ってきた。闇の鎧に闇のマント…

『ワタル(ダーリン)!?』

「ルイズちゃん達を傷つけるな…」

キバは黒い声で命令する。

「こ、これはこれは…」

ビショップはすぐに傅く。

「『王』の命とあらば従います」

「お前は?」

「はっ、私の名は『ビショップ』。『四公爵(チェックメイト=フォー)』の一人であり、『貴族』達の統括をおこなっております」

ビショップは自分の素性を名乗る。

「何をしにきた」

「それはもちろん、我等『ファンガイア』の『王』を迎えに」

そこでビショップの姿が変る。

まるでステンドグラスを使ったような輝く体。

「どうか我等の王に…そしてこの世を統べましょう。見たでしょう人間の醜さを」

その言葉にキバの心は揺らぐ。

憎悪の鎧が更に重厚を増した。

「人間は醜い。然したる理由もなく、掟を破った訳でもなく『同族』を虐殺する最も愚かで弱い『種族』。家畜程度の価値が無い者達が増えております」

ビショップはさぞ当たり前のように話す。

「さあ、我々の元へ…世界を支配してください」

その言葉を聴いて…キバは…

「そうだな…」

闇の腕をビショップに向ける。

(支配してから…)

「まって!」

キバはその声に止まる。

「ルイズ…」

「駄目。その男の言葉を聞いちゃ駄目」

「貴様…」

そこで初めてビショップの声に『憎悪』が宿る。

「ワタル…あなたはどうしたいの?」

「………」

「あなたが優しいのは知っている。そして人間が…ううん。この世に生きているもの全てが好きな事をもちゃんと知っている」

「ダーリンが優しいのは…」

「ちゃんと知ってる」

「だけど…人間はすぐに裏切る。人を傷つけるんだよ」

3人の言葉にキバの泣きそうな声が響く。

「だから…僕が世界を支配して…人に説くんだ。自分達の素晴らしさを…」

「駄目。そんなんじゃ駄目」

ルイズは首を振る。

「人の『音楽』を押えつけるやり方じゃ駄目。もっと人の心は酷くなるわ」

「じゃあ、如何すればいいんだ!僕は…僕はただ…」

泣きじゃくる声に…

「『王様』になればいいのよ」

「え?」

ルイズの言葉にキバは驚く。

キュルケとタバサはルイズが何をいいたいか気づき、

「そう、それも最高の王様に」

「物語に出てくる、誰もが憧れて、尊敬する王様…」

「人の『音楽』を踏みつけない…あなたの『音楽』を皆に響かせて、伝えるの。心の素晴らしさを」

ルイズは笑う。その笑みには誇り・想い・強さが詰まった笑顔で、

「それぐらいできるでしょ。だってあなたは…」

(あなたは…)

「私の『使い魔』なんだから!」

その言葉は何よりも強きヒカリとなり、キバの闇の鎧を砕いた。

キバは元に戻り、渡へと戻っていく。

「る、ルイズちゃん」

「まったく、泣き虫ねワタルは…」

ルイズは笑顔でワタルを迎えた。

「やってくれたな…貴様ら…」

ビショップから憎悪の怒りを燃やしながら、元の人間の姿へとなる。

「『王』よ。せっかくお迎えできると思ったのに残念でありません。伝承にある『真の王』の力が消えた今、あなた様には何の価値もない。ワルド」

「はい」

『!?』

兵の一人が前に出る。

それは確かに自分達を裏切ったワルドだった。

「そろそろ馴染んだでしょう。手伝いなさい」

「はっ」

するとワルドの体がステンドグラスの化物になる。その姿はまるで鳥のような意匠を象った姿…イーグルファンガイアの姿へと…

「みんな、下がって」

「で、でもダーリン…」

「僕が皆を護る」

「王よ…いくら貴方でも私と眷属となったワルド、そして…」

兵達が歩み寄る。

そして後ろにいた残りの兵達も様々な意匠のファンガイアとなった。

「『ポーンの軍団(レギオン)』相手にどこまで持ちますか?」

ビショップが前に立つ。

「力こそが我等の絶対の法。力なき王などいりません」

「…憎んで…恨んで…悲しみを広げなきゃ力が手に入るのなら…僕は強くなりたくない」

「渡!キバッていこうぜ!」

キバットが飛んでくる。

「でも…それでも強くならなきゃいけないなら」

キバットを右手で掴む渡。

「憎まず、恨まず、皆を護って強くなってみせる!」

「ガブッ!」

キバットが渡の左手を噛む。

「変身!」

キバットベルトにキバットを吊るし、渡はキバに変身する。

「だって…それが、『本当の強さ』なんだから!」

キィィィィィィィィンッ…

キバの目の前に輝く光が降りてくる。

キバがそれを掴むと光は一本の笛となった。

「キバット!」

「おう!見てろ!真の王の登場だ!」

キバットが笛…『タツロットフエッスル』を加え、

「『TATSU LOT』!』

『♪♪♪♪♪♪』





キャッスルドランが今までに無いくらい揺れる。

「ようやく…腹を据えたようだな」

「タツ…ロット…」

「お兄ちゃん。やっと戻ったね」

「ワタル様…」

バゴンッ!

「おまたせしました~!私、復活!です!」

突如、天井をぶち破り小さな黄金の竜が現れた。

「シエスタさん。天井を破ってすいません!」

「いいえ、片付けておきます」

「すいません!それではいってまいります。ぴゅんぴゅーん!テンション!フォルテッシモ!」

「いってらっしゃいませタツロット様。我等の主に黄金の道を示し、光を齎してください」





「ん?」

超高速で迫り来る物体にビショップは気づく、しかし、

ザシュッ!ガシュッ!

「ぐっ!」

「がっ!」

黄金の物体はビショップとワルド、『ポーンの軍団』に攻撃して、キバの眼前に舞い降りた。

「渡さん!やっと私を呼んでくださいましたね!先輩もお元気そうで!」

「ごめんね、タツロット」

「久しぶりだからって手を抜くなよ!」

「わ、ワタル。その喋ってる竜…もしかして韻竜?」

「おや、これはお嬢様方!初めましてタツロットです」

「こ、こんにちわ。可愛い竜ちゃん」

「よろしく」

「ではいきますよ!」

タツロットが口のキバを光らせる!

「ロマンチックに!」

今!

「キバっていくぜ!」

『最後の覚醒(ファイナル=ウェイクアップ)』の時!

タツロットが『キバの鎧』の拘束(カテナ)をすべて噛み砕く。

『キバの鎧』の肩の部分が開き、大きな黄金の翼を広げる。

数え切れぬほどの光の蝙蝠が黄金の翼から現れ、ルイズやビショップ達は目を閉じてしまった。

光が収まり、ルイズ達が目を開くと…

「嘘…でしょ…」

「………」

「わ、ワタルが…」

ルイズ・キュルケ・タバサの目の前にいる存在は、炎を出して、それをなぎ払うと、その炎は真っ赤なマントとなった。

その姿にビショップとワルド達も目を見開いている。

そう、目の前にいる存在が、現実にいる事が信じられないのだ。

神話や御伽噺でしか存在しない究極なる存在…

神々しき黄金の鎧、圧倒的な存在感、滾り迸る魔皇力…

その存在には二つの意味がある。

一つは『帝政』を敷く者…

そしてもう一つは…『王を超える者』…

「黄金の…皇帝…」

仮面ライダーキバ=エンペラーフォーム…

この姿こそ、この世の真なる支配者の本当の姿だった。



[5505] 第EX話/スピンオフ(っていうか外伝)予告
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/03/15 19:08
最近仕事が忙しいので、本編の方はもう少し待ってください。

そこで、初のスピンオフ予告です。

興味がない、今は知りたくないといった方はちょっと間を開けますので、このまま戻ってください。














































































それでは、スピンオフ予告スタート。


「お願い…死なないで…死なないで…!」

ハーフエルフの少女が呼び出したのは、重症を負った瀕死の青年。





「何故俺を喚び出した!どうしてあのまま死なせてくれなかった!」

少女を…自分を拒絶する青年。




「気を悪くしないでやってくれ。あいつにも色々あった」

『♪♯жゝкΞШ』

青年をかばう貫禄たっぷりな蝙蝠と奇妙な物体。




「なんで皆『僕』から去っていくの…僕は王様なのに…」

子供のように一人泣きじゃくる青年。それを見てしまう少女。



「私が傍にいます。もう貴方は一人ぼっちじゃない。だから泣かないで、寂しがり屋の使い魔さん」

少女は青年を支える事を決めた。




そしてその少女の身に危機が迫った時!

圧倒的な力と誇り高き意思と共に青年は立ち上がる!

「ありがたく思え!」

「貴様に王の判決を言い渡す!」

右手には『魔皇の証』…

左手には『闇王の証』…

漆黒の鎧を身に纏い、判決を下す。

「絶滅タイムだ!」

「死だ!」

これは少女の光に救われた純血なる闇の継承者の物語。

世界を滅ぼす『力(シハイ)』が、少女を護る『力(キバ)』となる。

『ゼロの使い魔 -Roots of the King-』

お楽しみに!



[5505] EX-000/ゼロの使い魔 ‐Roots of the King‐ 000
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/05/29 14:59
EX-1/ゼロの使い魔 ‐Roots of the King‐

序章/召喚

「お願い…」

少女は懇願する。

「お願い…」

それは虚しく響く。

「お願い…!死なないで!」

目の前の血塗れの青年は今にも命を失いそうだった。


少女は願っただけだった。

自分の話を聞いてくれる人が欲しい。

優しくて、頼りになって、強くて、子供に優しい人…そんな物語に出てくる騎士や王子様みたいな人がいたらいいなと思っただけだった。

しかし、その願いが叶ってしまった。

突然、自分の目の前に血塗れの青年が現れたのだ。

「私の…私のせいで…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

自分のせいでこの青年は死に掛けていると少女は思った。

自分が、自分なんかが、人から恐れられている自分なんかが大それた事を願ったせいだ。

「私の…私のせいで…」

「お前のせいじゃない。気にするな」

「え!?」

突然の背後からの声に少女は驚いて振り向く。するとそこには

「きゃっ!?」

「…驚かしてすまない。しかし、少し時間がなかったのでな」

『〇"гゞΞ』

喋る黒い蝙蝠と奇妙な物体だった。

「娘よ。こいつを助ける為の手助けをしてくれないか?」

「え?」

「お前の魔力を少しくれるだけでいい」

「わ、私の魔力でよければ、好きなだけ!だから、助けてあげてください」

「…ふっ、ありがたい。それでは手を出してくれ」

「は、はい」

黒い蝙蝠は差し出された少女の手に近づき、

「ガブリッ!」

「きゃっ…!あっ…」

蝙蝠が少女の手から魔力を吸い取る。

「ふむ…随分と芳醇な魔力だな。お陰でこいつを助ける事ができる」

蝙蝠は瀕死の青年に近づき、

「ガブリッ!」

「ぐっ…」

今度は青年に噛み付いた。蝙蝠はどんどん、少女から貰った魔力を青年に流す。すると、青年の傷がたちどころに治っていった。

「これでよし…すまない、どこかでコイツを休ませてくれぬか?」

「は、はい!」

これが、少女と『闇の皇』との出会いだった。



[5505] EX-001/ゼロの使い魔 ‐Roots of the King‐ 001
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:c52ddbc0
Date: 2009/05/29 21:54
第1章/契約 ~黒き皇の復活~

「ん…うう…」

青年は体から感じる軽い痛みを感じながら眼を開く。

青年は辺りを見回す。簡素ながら清潔な部屋…しかし、造りが現代日本の家屋ではない。

自分の知識にある限りではまるで中世代の家屋のようだ。

「ここは…俺はいったい…」

ガチャ…

不意に扉が開く。

「あっ!?」

現れたのは見たことも無いような、とても美しい顔立ちの金髪の少女。

(…天使?)

天使はこちらに近づいてくる。

「よかった。目を覚ましてくれたんですね」

「起きたか?」

『☆♪♪†♪♪☆』

天使の後ろから自分の従者でもある『キバットバットⅡ世』と『サガーク』が飛んでくる。

「Ⅱ世…サガーク…」

「礼をいうぞティファニア殿。おかげでこいつを死なせずにすんだ」

『#†$$$г』

「そんな気にしないでください。この方が目覚めてくれてなによりです」

少女…ティファニアとⅡ世とサガークの会話から自分が生きている事がわかる。

そして、自分の左手を見て、つらい現実を叩きつけられる。

(『紋章』が…『王の証』が…ない…)

絶望が青年を襲う。

「あの、これ…お口に合うかどうかわからないのですが…」

「何故だ…」

「え?」

「何故俺がここにいる!?何故俺は生きているんだ!?」

「そ、それは…」

「それは俺が説明しよう」

Ⅱ世は青年が眠っている間にティファニアに聞いた事と、量は少ないが本からの情報、そして世界に充満している魔力と二つの月の話を簡潔に纏めて話した…今いる自分達の場所が異世界だということに。

「本当にごめんなさい。こんなところに…呼び出してしまって…」

「何故…何故俺を生かした…!?」

青年の声が暗く、そして激しくなる。

「何故だ!何故俺を呼び出した!どうしてあのまま死なせてくれなかった!?」

青年が絶望に染まった顔でティファニアを責める。

「わ、私は…」

「俺は…俺は…」

「落ち着け」

Ⅱ世は二人の間に割って入る。

「ティファニア殿。少しこいつを一人にしてやってくれないか。おい、少し頭を冷やしておけ」

そういってティファニア達は部屋の外に出た。




「すまない」

「え?」

部屋を出てからのⅡ世の最初の言葉は謝罪だった。

「気を悪くしないでやってくれ。あいつにも色々あった」

『♪♯жゝкΞШ』

サガークもティファニアに頭を下げるような動きをする。

それを見てティファニアは笑って

「大丈夫です。今はあの方が眼を覚ました事を喜びましょう」

それを聞いた一匹と一体は

(できすぎた娘だ)

と思った。

「あの方は…何かとてもつらい事があったのですか?」

ティファニアが見た青年の瞳は、本当に悲しい色をしていた。

それがティファニアの心を離さなかった。

「…あいつは自分の道を歩んだ。だが、その結果全てをなくした…皮肉な話だ」

「Ⅱ世さんとサガークさんは何故あの方と?」

「俺は『ある者』との約束でアイツを護る立場にある。その為にあいつと一緒にこの世界に呼ばれたのだろう。サガークは元々アイツのモノだ」

『*@~|¥*』

「よければ…あいつを助けてやってほしい。俺にはできないことだ…」

(俺は…止められなかったのだから…)

とⅡ世は空を飛んでいった。

残されたティファニアは青年の事を考えていた。

(あの人は…今、とっても寂しいのね)

2世は青年は全てを失くしたといっていた。

もし、自分が姉や子供達を失くしたらどうなるだろう。

考えただけで絶望のようなものが襲った。

青年は今、こんな気持ちを味わい続けているかと思うと…

「晩御飯も持っていってあげなくっちゃ」



どれくらい時間が経ったかわからない。

数分しか経っていないのか、それとも数時間経ったのか。

しかし、今の青年にはどうでもいいことだった。

自分にはもう何もないのだ。何かを考えるなんて無駄だった。

(俺は…何かを間違っていたのか?俺は…何処で間違った)

実際に青年は懸命に生きていた。

種族の『王』として選ばれ、その期待に『力』と『証』で答えようと研鑽を積み、種族の繁栄に貢献した。

そして、自分の『女王』となる人を愛し、『弟』と共に歩み、そして…許されなら『母』を迎えにいこうと思っていた。

しかし、全てを失くしてしまった。

種族から用無しの烙印を押され、『王の証』は消えた。

そして、『女王』を亡くし、『弟』と争い、そして…『母』を…

「どうして…」

青年の瞳から涙が溢れる。今までずっと…ずっと堪えていた…

「どうして皆『僕』の前からいなくなるの…『僕』は王様なのに…」

青年は泣きじゃくる。
「『深央』…母さん…『渡』…どうして…僕から…」

最愛の人達の名を呼んでも誰もいない。

自分は…一人だった。



夕食を持ってきたティファニアは青年の部屋の前で、偶然にも聞いてしまった。

青年の泣き声、そして、本心を…

(私は…)

『あんたには私がいる。だから大丈夫だよ』

ふと、昔の姉の言葉を思い出した。

(そうだ…今度は)

ティファニアが青年の部屋の扉を開ける。

青年は流している涙を拭こうともせずに、ティファニアを見る。

「晩御飯を持ってきました」

ティファニアは青年に近づく。

「…聞いていたのか?」

青年の言葉にドキッとしたがティファニアは

「はい」

と答えた。

「…お前から見たらどう見える。こんな無様な姿を…」

青年は堪えきれない思いを言葉にする。

「『僕』はもう何も持っていない!何も手に入れる事ができない!全て!全て失ったんだ!僕は…一人ぼっちだ…」

ぐいっ、ぎゅっ

「あ?」

ティファニアは青年を少し無理矢理な感じで引き寄せて、青年を抱きしめた。

子供をあやすように青年の頭を撫でてあげる。

「安心して。あなたは一人じゃない」

彼をゆっくりと優しさで包み込む。

「私が傍にいます。これで貴方はもう一人ぼっちじゃない」


-この人の涙は私が拭おう-
-この人の悲しみは私が包もう-
-私が…この人を助けよう-


「だから泣かないで、寂しがり屋の使い魔さん」

その時のティファニアの笑顔は本当の天使のようだった。

「あなたのお名前は?」

彼女の声に青年は恐る恐る…

「太牙…『登 太牙』…」

「タイガ…素敵な名前ですね。私はティファニア。テファって呼んでね」

ふと、ティファニア…テファの頭に呪文が浮かんでくる。

「我が名は、ティファニア。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与えて、我の使い魔とせよ」

そして『契約』を交わす。

青年…太牙の右手に蝙蝠を象った紋章が現れた。




翌日

起きた太牙はベットから立ち上がり、外に出た。

外に出ると数人の子供と、

「であるから、これは1と1を足すと2なる。こうやって数を足していくのが足し算だ」

『は~い、キバット先生』

「じゃあ、この調子でもっと難しい足し算から憶えていこう。計算を憶えれば世の中少しらくになるぞ」

『は~い』

「ナニをしている」

「お、起きたか。見てわからんか?青空教室だ。食事の代価をこうして払っている。お前も手伝え」

子供達は太牙を好奇な目で見ている。

そんな子供達を見て、太牙は

「そうだな。でも先にテファに礼をいいたい。それと…」

太牙はⅡ世に右手の紋章を見せる。

「これは何だと思う」

「…『キバの紋章』だな。たぶん『使い魔のルーン』だろう」

「…使い魔か…」

「『KING』が使い魔になるのは前代未聞だな」

「俺はもう『KING』じゃない。使い魔も悪くないな」

「…やけに効いているな。お前まさか…」

Ⅱ世は眼を細める。

「ち、違うぞⅡ世。た、ただ俺は…」

「なに、お前が下界の言葉で言う『おっぱい星人』でも俺はお前に従うぞ。確かにあれは大きさ・形全てが凄いからな」

「変な言葉を何故知っている!誤解するな!」

ザワ…

『!?』

太牙とⅡ世は感じた事のある気配を感じる。

「Ⅱ世。ここは確かに異世界なのだな?」

「ああ。それは間違いない…そして、俺は過去にこの世界に来た事がある」

「なんだと?」

「長生きすると色々あるものだ。帰る方法も知っている…が、ティファニア殿では無理かもしれん。どうする」

「それは後に考えよう。この世界にも『同族』がいるのか…」

そこで太牙は辺りを見回す。

「ところでテファは?」

そこでⅡ世は思い出す。

「森だ!何でも栄養のある果物を取りにいくと言っていた!」

「!?いくぞ!サガーク!」

『♯♪△□●』

「サガの鎧は?」

『(シュン)』

「修復は不能か」

王の鎧の一つ・『サガの鎧』は以前弟に破壊された。

「マザーは呼べるか?」

『(コクン)』

「この子供達をマザーで護っていてくれ。テファの家族だ。重大だぞ」

『○♯♪*@+*!』

「よし!」

そして太牙とⅡ世は森に入っていった。



「まさかこんなところでエルフに会えるとはな」

「まったくだ。俺達はついている」

「あ、ああ…」

二人の下卑た男達に追い詰められるテファ。

「エルフを喰えば一気に力が上がる。『男爵(バロネージ)』になるのも夢じゃねぇぜ」

「それにしても上玉だな。喰う前に…」

テファの服をつかみ

ビリリリッ!

「キャアァァァァァ!」

服を破かれ、テファの胸があらわになり、それを手で隠し、地面にへたり込む。

「楽しむとしようぜ!」

「そうだな!」

男達の顔が本能に呼応して、ステンドグラスのような模様が浮かぶ。

そしてテファに再び手を掛けようとした時、

「おい」

「な、なんだよ」

「お前…なんでふるえてんだ?」

「お前こそ…」

そのふるえは更に強くなり、冷や汗も出てくる。

そして生きた心地もしなくなる。

そして、二人はその原因に気づく。

悠々と歩いてくる一人の男に…

「この下衆どもが…」

その声にさらに恐怖が襲う。

「誇り高き『ファンガイア』の面汚しめ…」



二人の男の恐怖の原因、太牙は怒りに震えていた。

テファに下衆な手で触れた事…テファを怖がらせた事…そしてテファの前にその者達がいる事…それ一つ一つに怒りがこみ上げる。

「貴様らに…」

太牙の左掌と左甲が熱くなる。そして浮かび上がるのは消えた筈の『KING』の紋章!

「貴様らに王の判決を言い渡す!」

キバットバットⅡ世が飛んでくる。

「ありがたく思え。絶滅タイムだ!」

「死だ!」

太牙はキバットバットⅡ世を掴み、自分の左手に近づけると、

「ガブリ!」

力強く噛み付く。

太牙の体から魔皇力が溢れる。顔にステンドグラスのような模様が現れる。

腰に鎖(カテナ)が巻きつき、『ダークキバットベルト』が現れる。

「変身!」

怪しく輝く光が太牙を包み、弾けた時、太牙は変身していた。

「タ、タイガ…?」

それは最強を誇る種族『ファンガイア』の王の究極にして最強の鎧。

魔皇力により紅く染め上げられた姿は全ての存在(モノ)に恐怖を与え、全てを支配する『支配する者(KING)』の証。

『死』か『選ばれるか』の二択しか存在しない鎧は『選ばれた者(KING)』に絶大なる力を与える。

その名も魔皇『仮面ライダーダークキバ』…それが今の太牙の姿だった。



[5505] 第EX話/スピンオフ(っていうか外伝)予告2
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:c52ddbc0
Date: 2009/05/29 13:43
またもやスピンオフ予告です。

今回も下の方にしますので嫌な方は引き返してください。

































































それではスピンオフ・スタート








このハルケギニアの最高の地位にいる若き教皇、聖エイジス32世…ヴィットーリオ・セレヴァレは目の前にいる一人の少年に傅く。

「我等が聖者よ。どうか我等を導きください」

「うん。ヴィーにぃも手伝ってね」

「はい」

ヴィットーリオは心の底から思う。

目の前の『聖者』の力こそが、信仰と磐石にし、世界に平和をもたらすことを…




ヴィットーリオと他の枢機卿達と共に少年は世界を見る。

「変わっていない…人はやはり変わらぬものか…」

ヴィットーリオは身を引き締める。

目の前の少年は先ほどとは違い、絶大なる存在感を出して目の前にたたずんでいる。

「ブリミルに○○○…やはり人は変わらなかった。6000年経っても変わらなかった。我が最高の友たちよ。我は『約束』を果たした。そして…今度は我が『約束』を果たしてもらう」

一匹の蝙蝠が飛んでくる。

「変身…」

少年の体から巨大な力が湧き出て、それが少しずつ実体化する。

ヴィットーリオと枢機卿達はそれを神々しそうに見ている。

「世界はこの『聖者(アーク)』と『伝説種族(レジェンドルガ)』が統べる…」

巨躯の聖王は断じた。

世界に真なる平和を齎す為に…

『ゼロの使い魔 ~LEGEND OF ARC~』

世界を伝説が支配する…



[5505] 第EX話/スピンオフ(っていうか外伝)予告3
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/06/10 23:25
第EX話/スピンオフ(っていうか外伝)予告3



懲りずにやスピンオフ予告です。

今回も下の方にしますので嫌な方は引き返してください。
















































































































































『グガガァァァァァァァァァッ!』

ジョゼフ1世の目の前に恐ろしき化け物が現れる。

強大な魔力を発し、周りの人間はその力と異形から慌てふためいている。

ジョセフ1世はそれを楽しそうに見ているが、後ろにいた『騎士』が溜息をついた。

「どうしたのだ、『ナイト』よ?」

「…ジョゼフ殿。どうやら貴殿はハズレを引いたようです」

『ナイト』と呼ばれた男はハルゲキニア一の大国の王に対して無礼な言葉を吐くが、ジョゼフはそれを気にもせず、

「ん?そなた達の言う『預言書の皇』ではないのか?」

「はい。『預言書』には『皇達』の他に一人『脱落者』が来ることも予言されております。目の前にいる者には今はもう自我などなさそうです。それに『証』も持っていないようですので、脱落者でしょう」

ナイトは銀の鎖を手に持ち、それを化け物に放り投げた。

ガシャンッ!

『グル!グルルガガァァァァァ!』

「『静まれ』」

『グ、グゥゥゥッ…』

化け物が大人しくなってゆく。

「おおっ!あの凶暴そうな化け物が貴殿に従ったぞ!」

「あれは『操りの鎖(カテナ)』。あれであの化け物は貴殿のモノです。ジョゼフ殿」

「なんと!あれをもしかして好きに使っていいのか!?」

「ええ。貴方様の遊び道具には持って来いですよ。まあ…」

ナイトは顔に似合わず、にんまり笑って

「あれは我が一族の『最強の姿』をとっております。おそらく『皇』だったのでしょう。その資格を奪われたとはいえ、その力は絶大です。切り札のようなものですから、扱いには御気をつけて」

「うんうん!あれはここぞという時に使おう!さぁって!いつ使おうかな!」

ジョゼフは子供のように喜ぶ。

なんだかんだいって、ジョゼフの事を『人間』にしては気に入っているナイトはまたも似合わず微笑んだ。



こうして蝙蝠の意匠を持つ『暁が眠る、素晴らしき物語の果て』は操り人形と化した。



[5505] 第EX話/スピンオフ(っていうか外伝)予告4
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/06/10 23:32
第EX話/スピンオフ(っていうか外伝)予告4

スピンオフ予告なんですが…これは少々皆様に『もうちょっと後で出すべきだろ!?』とか、『なんで今載せるんだよ!?』とか『はやく本編書きやがれボケ作者!サボってんのか!』だとか言われる位のものです。

もう、筆(キーボード)が進んじゃったんで書いたようなものです。

ですので、ここでお願い。読んで後悔なさった方にはここで頭を下げます。

『ごめんなさい』

もう下げていますので、皆様の罵倒だけはソフトにお願いします。

それでは嫌な方はバックで戻って、上の事を控えた上でソフトにしてくれる方は下へ…







































































































































































































































それではスピンオフ予告スタート…









「…できた」

世界を救った偉大なる英雄、ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリは書き終えた『物語』を見て満足そうに呟いた。

「さぁて、これを本にしなきゃ…」

ブリミルは立ち上がり、少しふらつく。どうやら根を詰めすぎたようだ。

「これで…これで『あいつ』との約束を守りながら破れる」

自分の大事な親友が残した無茶な『約束』。

それを聞いた時、泣きそうになった。

人の事をまったく考えない『あいつ』らしい約束…

「ブリミル…本当にいいのかい?」

「サーシャ…」

「約束を守ってるとはいえ…あんた『あのバカ』の約束を破るんだよ」

「うん…でも、僕と君が今ここにいるのは、『アイツ』のお陰なんだ。だから…」

「わかったわよ。好きにしなさい。で、タイトルはなんていうの?」

「うん…タイトルは…」

(僕は約束を守りながら破るよ…)

「あいつの戦う時の姿からとって…」

(世界を滅ぼした魔皇で、世界を救った勇者である…僕の四番目の使い魔…)

「『黒の勇者』」

ブリミルはその物語をサーシャに誇らしげに見せた。




[5505] ゼロの使い魔 -Root of the King- 主題歌/Fate of the king
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:c52ddbc0
Date: 2009/07/13 10:47
Fate of the king



その手に浮かび上がる 紋章が絆(アカシ)

光の中微笑む 天使のように

Fate of the king…×3


守るべきものは その『笑顔(ヒカリ)』だけ

牙を剥けた瞬間 裁かれて


世界を滅ぼすという 力を変え

召喚(あら)われた純血の継承者


Judge it,King 求め焦がれた 運命のSaga

その彼女(ヒカリ)に 与えられた

牙を剥いた者は 永遠に奈落を彷徨う

What is real?圧倒的な

支配を今 守護(マモル)ために変えていく

揺るぎない絆は Fate of the King…




その隣に座るのは 唯一人だけ

彼女(ヒカリ)の 言葉で癒されゆく

Fate of the king…×3


笑顔(ヒカリ)の祝福の中 歩(あゆ)んでゆく

新しき世界(ステージ) 進んで行く



想いはまだ気付かずに 回り続け…

救われた純血の継承者


Judge it,King 受け継がれた 運命のSaga

彼女(ヒカリ)と共に歩んでゆく

牙を剥いた者は 永遠の死を知るのだろう

What is real?始まったのは

絶望じゃなく 希望と微笑(わら)っている

揺るぎない絆は Fate of the King…



光射せば 共に 前を向いて進める

それは決して消せない Destny of blood



Judge it,King 求め焦がれた 運命のSaga

その彼女(ヒカリ)に 与えられた


牙を剥いた者は 永遠に奈落を彷徨う

What is real?圧倒的な

支配を今 守護(マモル)ために変えていく。

風が巻き起こって その姿あらわすFate of the King…






[5505] キャラクター紹介
Name: ORATORIO◆64b313bb ID:357d39a9
Date: 2009/06/11 00:13
キャラクター紹介


紅 渡/仮面ライダーキバ


言わずと知れた本編の正主人公。召喚者はルイズ。
人間の父親とファンガイアの母親を持つハーフ。
元の世界で人間を守る為に全てのファンガイアを根絶やしにした後、人間側から『魔皇』と恐れられ、『最後のファンガイア』として刃を向けられる。
自分のした事に疑問と悲しみを持ちながらルイズに召喚された。
これから彼は『新たなる音楽(ちから)』を手に入れることはできるのだろうか?


仮面ライダーキバは渡が『キバの鎧』を纏った姿。
渡が持つのは三着目の『皇の鎧』である。
多彩なフォームに変身して戦う事が特徴である。
この鎧は、潜在能力を高める強化服であるとともに、増幅した魔皇力による自滅を防ぐ拘束具としての役割を果たす。
『真の姿』は迷いのある今の渡ではなる事ができない。
右足・ヘルズゲートにはファンガイアの秘宝でもある『宙』『水』『地』の巨大魔皇石がはめ込まれている。




登 太牙/仮面ライダーダークキバ


渡の異父兄。ファンガイアの純血なる闇の継承者。召喚者はテファ。
元の世界で渡に敗れ、瀕死の所をテファに召喚される。
様々ないきさつで全てを失った彼はこの世界で何を手に入れるのか…

ファンガイア族が最後に造り出した『最強の鎧』。
渡が所持する『鎧』より以前に開発されたものであり、『闇のキバ』と呼称されている。
魔皇力を活性化させることにより変身する。

胸部の三つの巨大魔皇石はキバのものより純度が高く、恐ろしい程の戦闘能力を持つ。
単純な力のみでなく、自身の魔皇力を緑色の波動として放出し、黒いキバの紋章のように集中し自在に操ることで対象を攻撃・拘束するなど、魔術めいた技も備える。
だが、資質のない者がこれを装着して変身した場合は、瞬時に装着者の死を招く。

Ⅱ世との力を合わせ、『禁断の笛』を複数回鳴らすことができ、その力は世界を滅ぼすことができる。















ネタバレですので、嫌な人は引き返してください。
今は上の二人だけで本編を楽しめると思います。

















???/仮面ライダーアーク

3人目の『資格者』。召喚者は聖エイジス32世であるヴィットーリオ=セレヴァレ。
6000年前、その強大な力と配下に自分の一族『レジェンドルガ』を従え、世界を支配しようとしていた。
ファンガイアとは質と量の対比で大戦争を繰り広げており、人間など『支配しなければ害にしかならないモノ』としか見ていなかったが、ブリミルと『黒の勇者』に諭され、友となった二人と約束をして一族と共に深き眠りについた。

そして召喚により目覚めたが、その世界を見て絶望し、人間を想って自分と約束したブリミルと『黒の勇者』の想いを侮辱されたと感じ、世界中の人間を完全に支配管理しようとしている。






暁が眠る、素晴らしき物語の果て/???

ガリア王・ジョゼフ1世が召喚した『脱落者』。
かつてキバと戦い倒された。







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ここから先、読まない方がお勧めかもしれない。






































読まない方がいいや。
































ウザイかも知れないけど読まない方がいいって。


































書いといてなんだけど、物語がもうちょっとすすんでから…





















別に最初からこの設定は考えてたとかじゃないんだ。




























この先を見て、絶対怒らない人だけ読んでください。




















































































じゃあ、『黒の勇者』の紹介











???/黒の勇者(第四の使い魔)


ブリミルが呼び出してしまった第四の使い魔。

召喚されてから一日中遊び倒して、楽器を奏でているか、女性を口説いているか、子供相手に本気になって関節技をかけたり(後で結託した子供達に集団でかけ返される)していて、ガンダールヴ(サーシャ)やミョズニトニルンに怒られたり、ブリミルとヴィンダールヴに『やれやれ』といわれていた。

しかし、良くも悪くも凄い奴で、ブリミルの無二の親友となったり、『聖魔皇』を説得したりした。

戦闘力も絶大でその強さは『世の中間違ってる』がサーシャ談。

彼が紡ぐ物語が、世界を引っ掻き回している、死んでもはた迷惑な奴。





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