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[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記(チラ裏から)【完結】
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2013/06/15 16:36
初めまして、ニョニュムと申します。この作品は『ゼロの使い魔』と『Fateシリーズ』のクロスオーバーにオリ主を放り込んだモノとなっています。
元々、一発ネタとして書いた作品なので世界観のすり合わせが大雑把になっています。双方の作品に敬意を払い、注意しているつもりですが設定にそぐわない状況が出てくる事もあると思いますが決定的なもの以外はノリと展開を優先していくつもりです。明らかに限度を超えている原作設定の矛盾はなるべく取り除くよう努力していくつもりなので御協力をお願いします。

この作品はハーメルン様でも投稿させてもらっています。



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記①
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2013/06/09 14:39
○月×日◇曜日
今日はトリステイン魔法学院に入学した。
新しい生活の始まりに日記なんてものを書いてみようかと思ってペンを執った次第である。とりあえず、書きたい事が色々ある訳なのだがこれだけは宣言しておこう。
俺は転生者である。
前世は日本人でまあ何処にでもいるサラリーマンをしていた。死んだ時の記憶もしっかりと覚えている。交通事故で死んだ。別にトラックに轢かれたりはしていない、結論から言ってしまえば居眠り運転による単身事故だ。
幸いな事に俺は家族がいない。所謂、過去ポとかに使える『施設』の子と呼ばれる存在だった。まあ、事故でぶっ壊してしまったガードレールや電柱は国民の皆様からの税金で支払われただろう。
話が逸れてしまったが話題を戻そう。
俺は転生者である。
とりあえず、大事な事なので二回繰り返してみた。
これでわかってくれた人はいいがわからない人の為に正直に書こう。言ってしまえば俺はオタクと呼ばれる存在だった。わざわざ日本語で日記を書いているので、どんな事を書いてもこの世界の誰にもバレないから好き勝手な内容の日記を書く事が出来る。前世と合わせた通算年齢だけで見れば四十過ぎのおっさんだけど誰にも読めない日記ならストレス発散で好きな事が書けるんだぜ。そんな事を言っている時点で精神年齢は四十に程遠いのは分かってるから突っ込むのはよしてくれ。
そうそう冒頭に書いてあるように俺は今日、トリステイン魔法学院に入学した。
そう『魔法』学院だ。この世界に著作権があるかどうか知らないが額に傷を持つ少年が通う魔法学院を思い浮かべて貰えばいいと思う。
この世界で魔法を使える者を貴族、それ以外を平民と言う。
つまり、魔法学院に入学した俺は貴族として生まれ変わった。
ぶっちゃけた話、勝ち組に転生したので特に生活で支障は無かった。電気が無かったのは痛かったが無いなら無いでなんとかなった。
幼少期の俺はよくある転生チートに憧れて色々やった。
・牛糞ぶちまけ豊作作戦
タイトル通りな作戦だったけど失敗した。やっぱり畑に牛糞ぶちまけただけじゃ駄目だった、むしろその畑の作物が全滅した。牛糞をなにかで加工すればいいんだと思ったがそんな知識は無いので諦めた。

・最強三権分立作戦
思い付いたけどわざわざ旨い汁を吸っている側の俺が損な事をする必要無いと思ってやめた。この世界、貴族様様な世界だ。昔の武士もこんな感じだったんだろうか?

・計算知識チート作戦
これは成功した。どうやらこの世界は中世のヨーロッパぐらいの生活水準なので計算方式が確立されていなかった。

他にも色々やった訳だが成功したり失敗したりで家族の中ではいつのまにか奇人変人扱いされていた。家に与えた損失も大きいが与えた利益も大きい、まことに扱いづらい評価を両親から受けた俺は厄介払い兼貴族の嗜みとしてこの魔法学院にぶち込まれたのだ。
それは別にいいのだが残念な事が一つだけある。
実家だからこそ出来た平民のメイドさんに対するおっぱいおっぱいな事が出来なくなる事だ。知ってるか、この世界の貴族と平民の間にはセクハラなんて言葉は無いんだぜ。勿論、俺付きのメイドさんの衣装はミニスカだ。一日、一回。メイドさんのスカートの奥を覗けるかどうかが楽しみでした。まあ、やりすぎて出来の良い妹には軽蔑の目で見られたけど。
実家では目を瞑っていた両親も学院内では控えるようにと言われたのでおとなしくする事にした。




○月×日◇曜日
入学してから既に半年、学園の生活にも慣れた。え? 時間が飛び過ぎ? 三日坊主にもなりませんでした。この日記だって机片付けてたら出てきたから書いている。
とりあえず、近状報告でもしておこう。
ぶっちゃけ結構、モテモテです。学園で自重している俺は自分で言うのもなんだが成績優秀・運動神経抜群・品行方正・上流家系・性格良しの有料物件で通している。
誰か特定の人と付き合っていないのでなんかアイドルみたいになってる。同じようにモテて友人であるギーシュは不特定多数の女の子と付き合っているが俺には真似出来ない。そうそう、友達と言えば面白い奴が何人かいる。一人はキュルケと言う女の子、通称爆裂おっぱい。一人はタバサと言う女の子、ハシバミサラダをめっちゃ喰う通称ちっぱい。一人はルイズと言う女の子、皆から魔法が使えないゼロと馬鹿にされている。でも、爆発って十分魔法じゃね? 的な事を落ち込むルイズに言ったらいつのまにか仲良くなってた。俺としては仕事で失敗した後輩を励ますつもりで声をかけたのでビックリした。仲良くなったらスゲーツンデレだった。お互いに恋愛感情は無いのでルイズがデレた事は無いがオタクである俺には分かるのだ!




○月×日◇曜日(日記から抜粋)
明日は春の使い魔召喚の儀式だ。え? また時間が飛んでるって? 大丈夫、今回は抜粋なので時間が飛んでるだけだ。ちゃんと毎日書いてるよ。
春の使い魔召喚の儀式とはつまり二年生になる時に自分の使い魔を召喚しましょうって儀式の事だ。二年生の進級試験も兼ねているので落ちる事は許されない。
やっぱり使い魔と言えばフクロウとかがいいな、黒猫とかフェレットでもいいけど俺は魔法少女じゃないのでフクロウに憧れる。




○月×日◇曜日
今日は春の使い魔召喚の儀式だ。皆それぞれ色んな使い魔を召喚している。

「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」

そんな声が聞こえてきて他の友達と話していた俺は何度も爆発していた爆心地に現れた人物に視線を送ると思いっきり吹き出す。

『やれやれ、随分手荒い召喚だと思ったがこれはどういう事なのかな?』

そこには赤い外套を纏った弓兵(アーチャー)が居た。
確かにサーヴァントだが英霊(サーヴァント)違いだ。てか、どう見ても平民には見えんだろ。誰だよ、平民とか言った奴。馬鹿か。
現実逃避している間にルイズが弓兵(アーチャー)と契約していた。

「後は君で最後だ、時間も押している事だし、よろしく頼むよ」

コルベール先生の言葉に頷いて心の中でフクロウと願いながら杖を振る。ルイズのトラブルがあったせいで皆が注目している。

ドカン、とルイズが弓兵(アーチャー)を召喚した時と同じぐらいの土煙が立って人影が見える。

『ちょっとルビー! どうなってるの!』

『アハー、私にだってわからない事はあるんですよー!』

『イリヤ、少し落ち着いた方がいい。周りに人の気配がたくさんある……』

『それより事情を知っていそうな方が一名ほどいますが?』

「イリヤ……だと」

うん、もう何も突っ込まない。

さっさと『コントラクト・サーヴァント』しよう。

俺は現れた二人の魔法少女にキスしようとした所でマジカルなステッキでぶん殴られて気絶した。




[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記②
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/06/13 20:47
○月×日◇曜日
一応、言っておくが春の使い魔召喚の儀式は無事に終了したらしい。
らしいというのは俺がマジカルなステッキでぶん殴られて気絶してしまった後、色々と揉めていた所をオスマン学院長が現れて、後で俺が目を覚ましてから色々と決め事をするという鶴の一言で決定した。
保健室のベットで目を覚ました俺は保険医の先生にその事を教えてもらい、召喚したイリヤ達が保護兼交渉をしているという学院長室を訪れた。
学院長室にはイリヤ達の他にルイズと弓兵がいたがイリヤ達と弓兵がなにかしらの打ち合わせをしている様子はなく、ただ単に『人間』を呼び出したルイズと俺にお呼びがかかっただけらしい。
俺が学院長室に到着した頃には主にオスマン学院長と弓兵の交渉でそれなりに話が煮詰まっていたらしく、召喚した使い魔の衣食住とある程度の自由を保障するかわりにメイドや執事としてイリヤ達が雇われる事で話が着いていた。
ルイズは明らかに不満そうな表情を浮かべていたがオスマン学院長の決定なので我慢していた。俺としてはまあお互いの立場からしてその辺りが妥協点だと思っていたので特に異論は無かった。マジカルなステッキがメイド、メイドと連呼して大喜びしてイリヤを苛めていたがイリヤによって物理的に黙らされていた。壁に叩きつけるだけで壁に罅が入るとかどんな力だ。




○月×日◇曜日
やはり元々、一人で生活していた部屋で複数の人数が生活するのは無理があった。昨日は仕方ないので一応シーツやらなにやらを入れ替えた俺のベットで二人に寝て貰って俺が椅子で寝る事にしてなんとかなった。しかし、そんな生活をずっと続ける訳にもいかないのでオスマン学院長にお願いしてメイドとして学院の仕事を手伝う事を条件にイリヤ達専用の部屋を用意して貰った。流石に俺の使い魔という体裁があるので部屋自体は隣の部屋だ。男子寮なので色々と不便な所があるだろうがそこは妥協して貰った。衣食住の住はこれで一応確保した。衣と食に関してはオスマン学院長が手配してくれたメイド服とシエスタというメイドに頼んで適当な肌着をお金を渡して用意して貰った。食堂の使用も許可を得ておいた。今日は授業とイリヤ達の身の周りを整えるのに時間を費やしたので使い魔としての詳しい取り決めは後日という事で終わった。




○月×日◇曜日
お互いに距離感が掴めないちぐはぐな主従関係にようやく慣れてきた頃、頭の痛くなる出来事が俺の耳に届いた。ヴェストリの広場で弓兵とイリヤと美遊対ギーシュの決闘騒ぎが起きていた。慌てて広場に駆けつけた俺は事の発端を知る生徒を捕まえて事情を聞いた。
なんでもギーシュが落とした香水をイリヤが拾って渡そうとしたのだがギーシュは香水を受け取らず、押し問答している内に香水を作ったのがミス・モンモランシーと判明してギーシュと一緒にお茶をしていたケティという一年生の子にバレて、ふられた腹いせにイリヤへ突っかかり、揉めていた所をイリヤ関係で頭に血が上っていた美遊と通りかかった弓兵が割り込んで今の状況へ至るらしい。
イリヤと美遊はメイド服姿で変身こそしていないがルビーとサファイヤを手に持っていて戦闘準備万端だった。
色んな意味で(特にギーシュの身の安全)慌てて止めに入った俺はギーシュに貴族とは~から始まり、平民とはいえ女性に手を上げるのはギーシュのような紳士のやることではないと説得して、使い魔の起こした事は主人がけじめをつけると頭を下げてギーシュに退いてもらった。その時にイリヤ達を許した方がギーシュの貴族としての器が大きい印象を受ける話の展開に持っていったのが正解だった。イリヤは不満そうに地団駄を踏んでいたがこの頃には冷静になっていた美遊に説得されていた。弓兵はそんな俺を見て感心した様に頷いて笑っていた。




○月×日◇曜日
今日は虚無の曜日である。
簡単に言ってしまえば学院が休みの日でルイズと打ち合わせをして街へ出かける事にしていた。イリヤ達に最低限の衣食住を確保しておいたが言ってしまえば本当に最低限の衣食住しか用意出来ていない。ルイズはそれだけ用意すれば十分だとごねていたが弓兵やイリヤ達が持つ力の存在を知る者として敵意がこちらに向かないくらいの娯楽を用意するべきだと思ってルイズを説得した。ルイズを説得した理由はもう一つ有り、イリヤ達ではこの世界のレートがよく分からないだろう。しかし、イリヤ達は幼いと言っても女の子だ、買い物の中には男子禁制の様な店も多少はある。その時にイリヤ達では不安なので保険としてルイズをつけておくことにした。本当はキュルケやタバサをつけたかったがある程度情報交換をしておきたかったのでルイズにしておいた。
イリヤ達が女の子としての必需品を集めている時、俺は弓兵と一緒に武器屋を見て回っていた。目利きという訳ではないがある程度なら剣の良し悪しが分かる俺はルイズに頼まれて弓兵の武器を探していた。
俺としてはものすごく不毛な行為だと心の中で思ったのだが弓兵の魔術を知らないルイズとしてはなにか武器を持たせておきたいのだろう。
弓兵の魔術がこのハルケギニアで発動するのか分からない。勿論、弓兵の事なので既に試しているだろうが結果を知る術を俺は持っていない。直接尋ねるなどもってのほかだ。弓兵に私はアナタの事を知っていますと言っているようなものである。もしそうなったらややこしい所の騒ぎでは済まない。
そんな事を考えながら新しい武器屋に入った時、ソイツと出会った。
インテリジェンスソードの『デルフリンガー』、俺には錆びたボロボロの剣にしか思えなかったが弓兵自身が他のどの剣にも目もくれず選んだ一本を信じてルイズから預かっていたお金を払った。弓兵は黙ってお金を払った俺に驚いた表情をしていたが目利きに関しては弓兵の方が上なのは理解しているとだけ伝えておいた。
張り合う事自体が無意味なのは理解しているつもりだ。本当は『デルフリンガー』がボロボロの剣にしか見えなかった事が悔しかった。




○月×日◇曜日
最近、『土くれのフーケ』なる盗賊メイジが大暴れしているという話を耳にした。だからという訳では無いが最近全然やっていなかった朝練を再開した。朝練と言ってもそんな大したものでなく、魔法を使う為に精神を鍛える瞑想や杖なしでの格闘術、杖を剣代わりにするブレイドという魔法での剣術程度だ。どちらかと言うと身体を動かす事を目的にしているので向上心はあまりない。杖が無い時でも逃げ切る程度の体力が欲しいからやっている事だ。そんな事をしていたらいつのまにか見ていたらしい弓兵に声を掛けられた。一言で言えばアドバイスを貰った。動きに無駄があるとか瞑想にムラがあるだとか。
指導者がいないのでそんな事は充分承知しているがその指摘に少しだけイラっときた。それを減らす為に訓練しているのだ。ちっぽけなプライドだが今まで積み重ねてきた努力の成果が今の自分だ。知識として弓兵の強さを理解しているが今は俺も戦う為の力を持っている。今の自分が何処まで通じるのか、試してみたかった。勿論、一蹴されたけどな。
それから朝練に弓兵との手合わせが追加された。三分間、弓兵の攻撃を杖なしでしのぐというものだ。訓練の目的も逃げる事と明確にしているので弓兵も指導しやすいらしい。




○月×日◇曜日
大変な事が起きた。この前、日記に書いたばかりの『土くれのフーケ』が魔法学院を襲ったのだ。学院中大騒ぎの中、俺は何故か学院長室へ呼び出された。
何事かと学院長室を訪れた俺を待っていたのはルイズにキュルケ、タバサに弓兵、そして俺の使い魔であるイリヤ達だった。
なんでもイリヤ達は『何故か』フーケ襲撃の現場に居合わせており、犯人を目撃した人間として捜索隊に参加するらしい。いくらなんでもある程度の自由を超えていると思ってイリヤ達の方に視線を送るとサッと目を逸らされた。彼女達なりの事情がある事を察した俺は嫌味の一つに聞こえる様な大きさで溜息を吐くと捜索隊へ参加を希望した。
それからミス・ロングビルが見つけたというフーケのアジトへ向かう。そこは深い森のそのまた奥にある廃屋だった。作戦会議の結果、タバサが提案した偵察兼囮役を向かわせて廃屋から出てきた所を全員で強襲する事になった。偵察役には弓兵とイリヤ達が名乗りを上げたがそれは俺が却下した。弓兵はともかく俺はイリヤ達の実力を『知らない』事になっているのだ。どちらにせよ、年下の女の子に危険な事をさせる訳にはいかない。
そんな不必要な男のプライドに弓兵は笑った。
そして偵察に向かった廃屋は無人状態で『土くれのフーケ』に盗まれた『破壊の杖』を見つけた俺と弓兵は動揺した。なぜ、これが……。そんな時だった、外から悲鳴が聞こえたのは。
外へ飛び出た俺と弓兵が見たのは巨大なゴーレム…………だったモノ。巨大なゴーレムだったモノをただの土へ変えた犯人は悠然とソコに構えていた。

――――その正体は黒い獣。




ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの記憶


本能が刺激する。
アレは関わっていけないモノだと。
アレは認識してはいけないモノだと。
アレは出会った瞬間、命を刈る災禍だと。


「ハルケギニア組は全員逃げろっ!」

アイツの叫びを聞くまでもなく、身体は既にあの黒いもやを纏った女性から逃げ出していた。

「イリヤと美遊は俺達を安全圏内へ運べ! その間はアーチャーがライダーを止めろ!」

『あはー、色々と聞きたい事がありますがまずは指示通りに動いた方が良さそうですねー』

「それはこっちの台詞だ! なんでこっちの世界に黒化した英霊(サーヴァント)がいる! ここには聖杯もクラスカードも無いんだぞ!」

インテリジェンスステッキ? とでも呼べばいいのだろうか。いつのまにかメイド服から見慣れない格好へ変わっているアイツの使い魔であるイリヤと美遊に担がれてもの凄いスピードで移動する私達を他所にアイツと喋る杖が揉めていた。

『いや~、そこまで知っている事には驚きですがクラスカード自体はこの世界にも存在するじゃないですかー』

「まさかっ、お前等っ!」

『はい~、召喚された拍子に飛び散った様ですー』

喋る杖とアイツが話している内容は全く理解出来ていない。ただ、アレの存在に関わる何かである事は理解出来た。

「馬鹿野郎!? こっちの世界なら神秘補正や知名度補正を受けないだろうがそれでも化け物だぞ! なんで鏡面界じゃなくて現実なんだ!」

『ええ、ですから私達が回収に来ているんじゃないですかー』

「ああ、もうっ! イリヤ、美遊、ここでいい! ライダーの正体はわかってるか?」

『いやー、ライダーの宝具が使われる前にぶっ飛ばしましたから詳しい正体はあまり……』

「メデューサだ。宝具や魔眼の効果はアーチャーに聞け! アイツは並行世界の第5次聖杯戦争を経験した英霊(サーヴァント)だ!」

『まあ、ここまで具体的な情報が出てくるとは正直驚きですが今はリリカルでマジカルにがんばりましょうか、イリヤさん』

そう言って二人の少女は遠くからでも分かる戦場へ向かっていった。


「…………」

戦場をジッと眺めるアイツに声をかける事は出来なかった。ただ分かる事はアイツがアレについて知っている事。

「……、ああ、安心していい。ライダーぐらいならあの三人で相手をすれば余裕だ」

私の視線にアイツはそう答えてソレを証明するかのように少し時間が経ってから、ボロボロの姿だけど三人と弓兵の肩に担がれたロングビルが姿を現した。




後書き
チラシの裏だからこそ出来る超展開と大風呂敷。多重クロスを綺麗に収める自信はありません。初投稿でしたが感想を頂いてありがとうございました。



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記③
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/06/13 20:55

○月×日◇曜日
初めに言っておくが『土くれのフーケ』による『破壊の杖』強奪事件は一応、解決した。黒化したライダーを弓兵とイリヤと美遊の三人で協力して撃破した所で『破壊の杖』を持ち出そうとしていたミス・ロングビルを発見、普通に声をかけたイリヤに対して黒化したライダーとの次元が違う戦いを見せ付けられて錯乱していたミス・ロングビルは自棄になって『土くれのフーケ』として本性を見せてしまい、突然の不意打ちに大騒ぎしているイリヤを放っておいて、弓兵が音もなく手刀で一撃、気絶して拘束した所で連れてきた。
フーケをオスマン学院長に引き渡した後、『シュヴァリエ』の爵位を拝借した。棚から牡丹餅的な展開ではあったがくれると言うのだから大人しく貰っておいた。その日の夜にあった『フリッグの舞踏会』では俺の周りから人が消える事は無かった。少しばかり過激なアプローチをしてくる女生徒が数名程現れた時には流石に頭が痛かった。ごめん、正直に言うと腕に胸を押し付けられて鼻が伸びないようにするので精一杯だった。




○月×日◇曜日
俺はイリヤと美遊が住む隣の部屋に呼び出されていた。まあ、あの時は黒化したライダーに動揺して『知っている』筈の無い知識をペラペラと垂れ流しにしてルビーと口論をしたのだ。イリヤ達にとって俺が『何者』なのかを明確にするのは最優先で行わなければならない事である。イリヤ達の部屋を訪れた俺を待っていたのはイリヤ達だけでは無かった。
弓兵は勿論、ルイズやキュルケ、タバサと捜索隊に志願した全員がいた。いくらなんでも誤魔化す事が出来ないと判断した俺は用意しておいた説明を話した。
『電子虚構世界(セラフ)』――――聖杯が作り出した別世界。そこで行われていた聖杯戦争。キャスターの英霊(サーヴァント)である玉藻の前と共に駆け抜けた戦場。地球の事象を観察し続けた聖杯を手に入れて根源の一部に触れた事。そしてバグとして消去され、気が付いたらこの世界で生を受けていた事。
ハルケギニア組は全然理解している様には見えなかったが型月組はイリヤ以外の二人と二本は納得がいった様に頷いていた。
勿論、真っ赤な嘘なのだが嘘のポイントを抑えた説明だったのでとりあえずは納得してくれたようだ。人間、嘘に嘘を重ねるといずれ矛盾した点が出来てくる。それは話が大きくなればなるほど致命的な矛盾になる。だが、逆に言ってしまえば聖杯クラスまでの話題を出して矛盾なく説明を終える事が出来ればそれは限りなく真実に近い嘘となる。
とりあえず、俺の前世が魔術師だったと言う事でこの話題に関しては決着した。勿論、他にも大陸に散らばったクラスカードの回収する事に関しては最大限の協力を約束するのと共にこの事は被害が出るまで秘密にする事で合意した。説明した所で信じてくれるかどうか不明であり、いらない不安を煽るだけだ。




○月×日◇曜日
朝練の成果というやつだろうか、今日は初めて弓兵から三分間無傷で逃げ回る事が出来た。勿論、他人から見れば無様に地面を転がって逃げ惑っているだけなのだが毎回詰め将棋の様に誘導されて一撃を貰った俺としては大きな進歩だった。弓兵も満足そうにしていて逃げる事だけに専念していたおかげで予想以上の成長スピードだと褒められた。もっとも、弓兵の本気ではなく、限りなく手を抜いてくれた上での事なのであんまり喜べない。
弓兵曰く、今のままでも一対一に限ればその辺にいる傭兵相手なら充分に逃げる事が出来るらしい。弓兵の剣術は独特であるが剣術の基本くらいは教える事が出来ると提案されたのでお願いする事にした。黒化した英霊(サーヴァント)の戦いで足手まといな事は理解している。それでもせめて自分の身を守れる程度、友達を守れる程度の力は欲しかった。




○月×日◇曜日
なんか朝練のメンバーが一人増えた。イリヤ達と揉めて犬猿の中である筈のギーシュである。なんでも俺の一対多数の逃走訓練用に弓兵が誘ってきた。なぜ、ギーシュがゴーレムを使える事を知っているのか疑問に思って視線を送ったが身体を震わせながら視線を逸らすギーシュに納得した。最近、また俺の知らない所で決闘騒ぎがあったと噂で聞いていた。なにをやったんだとギーシュに呆れながらも大人気無い弓兵に溜息を吐いた。




○月×日◇曜日
ギーシュのゴーレムがマジでやばい。一体一体の動きだけなら全然付いていく事が出来るのだが、それが複数になってしまうともうどうにもならない。弓兵曰く、一体一体の動きのパターンは全て同じなのだから後はタイミングを取るだけだと言っているが無理なものは無理である。別に俺は剣による戦いの訓練をしている訳じゃない。魔法をメインにおいてサポートぐらいで剣が使えればいいと思っているぐらいだ。弓兵やイリヤ達の様な魔法剣士を目指している訳では無いのだ。魔法使いに四方からの同時攻撃をどうやって避けろというんだ。
しかも最近はギーシュも手馴れてきたのかゴーレムの形状を少し変えてきたり、間合いの違う得物をゴーレムに持たせてみたりと工夫してきている。それがかなり効果的な運用の仕方だから余計に逃げ切るのはむずかしい。少し得意げなギーシュに腹が立つ。その内ゴーレムを華麗に翻弄する様になってやる。




○月×日◇曜日
なんだか最近、俺の朝練が学院の間で噂になっているらしい。誇り高い貴族が平民に教えを請い、地面を転げまわる。貴族としての誇りがうんたらかんたら。その事をキュルケに教えて貰った時は鼻で笑ってしまった。誇りを持っているだけで強くなれるなら誰も努力しない。努力する姿なんて基本的には無様な光景で当たり前だ、自分に足りない物を手に入れようとするのだから無様にもなる。だけど、努力も出来ない人間よりはずっとマシだと俺は思っている。




○月×日◇曜日
どの世界にも嫌われる先生というのは存在する。『疾風』のギトー、そう名乗るギトー先生が俺の知っている学院の先生で一番嫌われている。授業の初めに毎回風最強説を生徒に説いてから授業を始める嫌味ったらしい性格だ。と言うか、この世界の魔法使いは基本的に自分の得意な属性が一番であると考える風習がある。自分の得意な属性に誇りを持つ事はいいがそれを他人に強要するな。生徒に物を教える先生が自分の属性最強とか言い出すんだから手に終えない。朝から土遊びしている貴族で悪かったな、腹立つわ。嫌味の一つでも先生に言い返してやろうかと思ったけど魔法使いとしての実力は確かに先生の方が上なので黙っておいた。




○月×日◇曜日
今日は急なイベントがあった。ギトー先生の授業中、金髪のカツラを被ったコルベール先生がいきなり現れて授業を中断してトリステインが誇る王女、トリステインの美貌とも言われるアンリエッタ王女がゲルマニア訪問の帰りに魔法学院を訪れるという知らせを連絡した。勿論、授業は中止されて学院全体で出迎える事になった。初めてアンリエッタ王女を拝見したのだが、トリステインの美貌と言われるだけの事はあり、物凄い美人だった。




○月×日◇曜日
今日は朝練にギーシュも弓兵も来なかった。少し不思議に思ったけどまあこんな日もあるかと思って特に気にせず朝練を開始した。二人がいなくなって初めて気付いた事なのだが一人で訓練するのとでは効率が段違いだ。今日は仕方ないので瞑想をメインにした。朝練が終了して学院での授業が始まった。その時にルイズやキュルケ、タバサにギーシュといったなんだかんだ言いながらよく一緒にいる友人がいない事に気が付いた。なんというか、皆で何かをやっている事は簡単に予測出来たけど俺だけ蚊帳の外にされてちょっと寂しかった。
そしてその日の夕方、イリヤ達に呼び出された俺はクラスカードの発見と存在する地点を教えてもらった俺は頭を抱えた。

『白の国』――――浮遊大陸アルビオン、噂では内乱が勃発していると言う危険地帯である。




弓兵(アーチャー)の記憶

初めて、彼に対して懐いた印象は不信感だった。イリヤ達に対する態度はとても模範的で紳士的な態度であったがそれが逆に不自然だった。この世界で平民と貴族の間には深い溝が存在する。それこそこの世界では平民でしかないイリヤ達に気を使う彼は不自然だった。これがもっと傲慢で高圧的ならよくある貴族の有り方だと呆れるだけだった。しかし、ちょっとした事で仲良くなったメイドのシエスタに尋ねてみた所、学院に勤める平民達の間でも彼の人気は高かった。立場上の言葉使いはどうしようもないが基本的に気さくに声をかけてきて楽しそうに雑談したり、使用人と生徒の間でトラブルがあった場合も立場関係なく、非があった方を咎める公平さ、頼みごとをした時は必ずお礼を言う。当たり前の事だが貴族と平民の壁によってなされていなかった事を当たり前の様に行う。それが彼の人気の秘密だった。
彼の本質を見抜く機会は思ったより早くやってきた。ルイズから頼まれた仕事の帰り道、中庭の隅で彼が杖を振り回しているのが見えた。昔を思い出す拙い剣術に思わず声をかけてしまい、指摘に対してムッと表情をしかめると手合わせを要求してきた。聞いていた噂と少し違う負けず嫌いに驚きながら軽くひねると言い訳もせずに素直に態度が悪かったと謝罪してきた。平民に負けたにも関わらず、だ。不審な点もあるが好感の持てる少年、それが彼に対する評価だった。
そして黒化した英霊(サーヴァント)、ライダーとの戦闘を経て、彼に対する疑念の謎は解決した。
語られたのは前世の記憶、月で行われた聖杯戦争、最弱のマスターと最弱と呼ばれるキャスターの英霊(サーヴァント)、駆け抜けた戦場と戦ったマスター達、その中には間桐慎二や遠坂凛、葛木と言った聞き覚えのある名前もいくつかあった。

そして彼は最後に言ったのだ。この世界で生きる意味を。

前世で奪い背負った命がある、乗り越え踏み潰した願いがあると。そしてこの世界で生まれ、生きる間に繋がっていく絆があると。だからそれを守るだけの力が欲しいと。

彼はこの話でこちらが納得したと思っているだろう、彼が嘘をついている事は分かっている。それでも絆があると断言した彼の瞳には一点の曇りも無かった。彼はまだ何かを隠している。だが、信頼出来る人間である事は理解出来た。



「アーチャー、彼は連れてこなくてよかったのか?」

馬に揺られながらギーシュが言った。

「君が自分で選択してここにいるように彼には彼の選択がある」

「それもそうだね」

ギーシュは納得した様に頷いた。

『白の国』浮遊大陸アルビオン、嫌な予感しかしないこの旅に深い溜息を吐いた。




後書き
完結宣言しておきながら応援してくれる人が多かったので身勝手ながら再開しました。もう少しキリの良い所までがんばっていこうと思います。
イリヤ達に対する説明は結構適当です。プリヤのノリでこまかい事は気にするな、でお願いします。



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記④
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/06/16 22:22

○月×日◇曜日
『白の国』――――浮遊大陸アルビオン。内乱が勃発していると噂の危険地帯。その事をイリヤ達に説明してもよく理解しているようには見えなかった。まあ、こちらの世界とは違い、日本に住んでいたイリヤ達に戦争のイメージが沸かないのは無理もない。イリヤ達に説明している俺だって正直に言うとそこまで戦争のイメージがある訳ではない。この世界に生まれて、生活していく上で戦争を経験した人の話を聞く機会が何度かあったので漠然と戦争が前世の世界より身近に感じた気がしただけだ。どちらにせよ、そう簡単に向かえる場所ではない。浮遊大陸の名の通り、アルビオンという国はトリステインと同等の国土を持ちながら空中に浮いている。一言で言えば巨神兵がいない天空の城的なものだ。空中に浮いているので大陸自体が常に移動していてハルケギニアの上に訪れるのは月に何度か、ラ・ローシェルと言う港町から飛行船が出ている。丁度今頃ハルケギニアの上を移動している頃だと思うが少し遅い。ここからだとラ・ローシェルに着くまで馬を飛ばしても二日程かかる。むしろ、内乱状態と噂されているアルビオンへ飛行船が出ているかどうかすら分からない。

そんな風に思っている時もありました。俺は今、ラ・ローシェルにある宿で日記を書いている。今でも思い出したくない。俺がイリヤ達にアルビオンへ行く危険性を伝えていた時、ルビーがどうせ黒化した英霊(サーヴァント)と戦うから危険には変わりない的な事を言って、更に馬なんか無くても魔法使いなんだから飛べばいいんですよ的な展開で移動開始、戦闘では役に立たない俺だが治療ぐらいは出来る様にと治療用の魔法薬をいくつか揃えておいた。一応、フライという魔法があるのだが精神力を消耗する以上、ずっと飛び続けている訳にはいかない。イリヤと美遊に運んでもらったのだがその時にルビーとサファイアにぶら下がりながら移動という絶叫マシーンも真っ青な移動方法だった。実際、何度か手の握力が無くなって落っこちた。その度にフライで慌てて体勢を立て直していた。それでもイリヤ達のような年下の女の子に背負われるのだけは嫌だった。もはや男の意地である。

予算の都合からあまり上等な宿ではないが最低限扉に鍵がかかるくらいの宿にしておいた。飛行船が町を出るのはアルビオンが近付く関係上、明日出るらしく、夜が遅いのでイリヤと美遊には部屋から出ないように言い聞かせた後、『金の酒樽亭』と書かれた薄汚れた居酒屋でアルビオンの内戦に参加していた傭兵に一杯奢ってから情報を集めた。なんでも王党派はかなりやばい状態であるらしく雇われていた彼等は王党派に見切りをつけて帰ってきたらしい。それと考え過ぎだと思うのだが昼頃に貴族派と思われる緑色の髪をした美人の土系メイジが傭兵を集めていたという話を聞いた。土系メイジで緑髪の美人と言えば一人だけ思い当たる節があるのだがフーケがこんな場所にいる筈がない。それと店の客の一人にイリヤ達と行動していた所を見られていたらしく、イリヤ達の値段を聞かれた。

ロリか、ロリなのか、そちらの道は業が深いぞと心の中で呟きながら、貴族派へのお土産で純潔だからこそ価値があるとか適当な事を言って流しておいた。日記で書いて思い出すと相手に合わせる為とはいえ、我ながら最低な会話をしたもんだ。内戦状態で働き口が無いのでどこどこの女は安かったとかなんとか。お節介焼きの傭兵が何人かいて噂の土系メイジに口利きしてやろうかと言ってきたので危険を承知でお願いした。ドンパチやっている張本人達なら戦火の届いていない街や村を知っているだろう。そこを拠点にしてアルビオンを捜索すればいい。べ、別に美人メイジって言葉に惹かれた訳じゃないんだからな。




○月×日◇曜日
ねーよ、本当にねーよ。なにやってんだよ、トリステイン。死ね、祖国だけど死ね。なんで緑髪の美人メイジがフーケなんだよ。ありえんわ。まだ、一月も経ってないのに脱走とか職務怠慢もいいとこだ。居酒屋で顔合わせした瞬間に杖を差し出して降伏したわ。あんなゴーレムを作るメイジと戦争帰りの傭兵複数人とか抵抗する気も起きんわ。




○月×日◇曜日
昨日は感情の赴くままに日記を書いたが順を追って説明した方がいいんだろうか。ぶっちゃけ、俺自身よく状況が整理出来ていないので落ち着いて書きながら状況を纏めていこう。

昨日、傭兵に口利きしてもらった貴族派の美人メイジは捕まっている筈のフーケだった。美人メイジなんて言葉に反応しなければ良かった。

そうそう、フーケと居酒屋で顔を合わせた瞬間に降伏した俺はとりあえず敵意が無い事をアピールしたおかげで杖を没収されて椅子に両手両足を固定された状態でフーケが身を隠していたアジトへ連行された。そこでフーケと二人きりになるとどうしてここにいるんだとか、奴等と行動を一緒にしているのかとよく分からない事を延々と尋ねられて、全く意味の分からない俺が首を傾げているのを見て、溜息を吐きながら俺の目的を尋ねてきた。
フーケなら一度アレを見ているので正直にアレと同じような存在がアルビオンにいる事とそれを封印する為にやってきた事を伝えたらフーケの表情に凄い動揺が見えた。

確かにアレが戦場で暴れた時には味方も敵も、勝利も敗北もあったもんじゃない。後に残るのは圧倒的暴力の傷跡だけだ。戦争の結果がどうあれアルビオンという国がめちゃくちゃになっては意味が無い。
これをチャンスと判断した俺は一気に畳み掛けた。
アレはイリヤ達の世界から来たものである事。アレは無差別破壊をもたらす存在である事。アレを倒すにはイリヤ達の世界の人間にしか倒せない事。俺が死んだら契約が解除されてまだ六体も残るアレを置いてイリヤ達の世界へ帰ってしまう事。アレはまだ戦闘タイプでは無かった事。
アレに対する知識が無い割にアレの暴力を目撃してその危険性を認識している事を良い事に嘘を織り交ぜながら俺を殺さないような展開へ持っていった。伝説の『烈風』や一個師団を用意すれば英霊(サーヴァント)とやり合えるだろうがそんな事をフーケに教えてやる義理は無い。

それから数刻経った後、苦悶の表情を浮かべたフーケは椅子に縛り付けられた拘束を解くとお互いに干渉しない事を条件に一枚の手紙と戦火の届いていない村の名前を教えてくれた。サウスゴータ地方にあるウエストウッド村。ただし、その村に住む住人の一人でもアレの被害を受けたなら学院に乗り込んででもお前を殺すと宣言された。逆に言ってしまえばそれがフーケの弱点と教えているようなものだがそれでも守りたいものなのだろう。結局、杖は返してもらえなかったが他の物は返して貰えた。

どうやらフーケは誰かを襲撃した様で今日の飛行船に乗る事は諦めた。ごめん、正直に言うと杖が無い丸腰の状態で外を歩く怖さを思い知らされた。トラブルが起きてもよっぽど使わないが魔法という存在がどれだけ俺の中にある自信の基礎になっているか理解出来た。
これはもう魔法があるから他の剣術訓練はやらなくていいとか言ってる場合じゃない。
自分を守る力を持っている事に『慣れてしまった』俺は本当の意味で丸腰になる恐怖を思い知らされた。




マチルダ・オブ・サウスゴータの記憶
私が女売りに会おうと思ったのは本当に偶然だった。傭兵というのは基本的に血の気の多い奴が多い。同じ女としては胸糞悪いが傭兵達の欲望を向ける『犠牲』が必要である事は理解している。なんでも連れていた二人の少女は目が覚めるくらいの美人であるらしい。
本当は年端もいかない少女を売るその女売りをぶっ殺してやりたかったがそれほどの少女を純潔のまま確保する程ならば広い情報網を持っている筈。色々な情報を目当てに私は女売りに会う事にした。

傭兵が騒いでいる居酒屋でアイツと顔合わせした時、お互い呆気に取られていた。

アイツは捕まっている筈の私がここにいる事に対して。

私はあの餓鬼どもと別行動で私の事を追いかけてきたと思って。

それからアイツが杖を差し出して降伏するのは早かった。それと同時に上手いと思った。もし、この状況で抵抗したらアイツの実力から見れば傭兵の内、何人か犠牲が出ただろう。そうなればもう傭兵達も後に引けなくなる。だが、すぐさま降伏して命乞いをする事で傭兵達にアイツは数で脅せばどうにでもなる雑魚と認識するようになる。その刷り込みはなにか異常事態が発生した時に効果を発揮する。アイツが身のこなしだけならある程度の実力を持っている事を知っている。私を出し抜き逃げ出した場合、アイツを舐めている傭兵はアイツの事を捕まえられないだろう。

拘束して部屋まで運んで持っている情報を吐くように言うとアイツはなんの抵抗もせずに答えた。所詮、学生。命まで奪うつもりは無いがこちらが主導権を握っている限り命を脅しに使っていくらでも情報を奪える。そう思っていた。

アイツから伝えられた情報は私にとって衝撃の一言だった。

アレと同じ存在がアルビオンにある事。アレはアイツが呼んだ少女達の世界から来たものである事。アレは無差別破壊をもたらす存在である事。アレを倒すには少女達の世界の人間にしか倒せない事。アイツが死んだら契約が解除されてまだ六体も残るアレを置いて少女達の世界へ帰ってしまう事。アレはまだ戦闘タイプでは無かった事。

私の特製ゴーレムを一撃で鎮めたアレがまだ六体もいる。しかも、あの戦闘能力で戦闘タイプで無いと言う事実。アレよりもっと強い存在がいる。私が思い浮かべたのは村に住むあの子達の事。
アレの扱いを間違えればその被害は凄惨なものになる。私はアレとアレを討伐した少女達の人ならざる力を目の前で見ていた。

駄目だ、アレと同じ存在がアルビオンにある事自体が私には我慢出来なかった。アレの力が村へ向いたら。そう考えるだけで寒気がした。

だから私はアイツにかけて拘束を解いた。元々、私とアイツに敵対する理由が存在しないからだ。アイツがアルビオンへ向かう目的はアレを討伐する為。白仮面の計画の邪魔をする訳じゃない。


「アイツはどうなったんですかい?」

居酒屋に戻ると私にアイツの口利きをしてきた傭兵の一人が聞いてきた。

「スパイを引き入れそうになった事、主人には黙っておいてやるよ。感謝しな」

貴族の証でもあるアイツの持っていた杖を無造作に放り投げて踏みつけてへし折る。

「っ!?」

アイツの存在を知る傭兵全員が息を呑む。それだけの動作でアイツの末路を勝手に想像したのだろう。

それでいい。アイツにはアレをどうにかして貰わなければならない。これで白仮面に対する傭兵の口封じも完了した。

私は溜息を吐くと馬鹿な学生を襲撃する為に居酒屋を後にした。




後書き
主人公の失態+力を持ち慣れていた事の自覚回。魔法の使えない主人公は無力です。



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記4.5
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/06/19 20:46

○月×日◇曜日
いいかげん日記を書く事が日課になってきている事を実感する。だって他国で戦火が届いていないとは言え内戦状態が続く他国にある村で呑気に日記なんて書いているんだ。本来ならすぐにでも逃げ出したいけどそうもいかない。アルビオンの地に潜む黒化した英霊(サーヴァント)を捕らえるまではこの国を出る訳にはいかない。そうしなければフーケが捕まるの覚悟で俺を殺しに学院へやってくる。

イリヤ達にフーケに捕まっていた事を正直に白状した後、どうやら飛行船が当分出ないと宣言された俺達は結局、ルビーが一番最初に言っていた自分で飛んでアルビオンまで行くという無謀行進となった。イリヤ達に杖を奪われて魔法が使えない事を白状するとルビーに深い溜息を吐かれて無力だなんだと言われて新しい杖を用意すればいいじゃないですかと気軽に言われた。確かに魔法が使えない俺は足手まといでしかないがルビーの提案だけは却下した。
貴族にとって杖とは命を預ける半身のようなもの。間に合わせで用意するようなものでは無い。その半身を奪われておいてどの口がそんな事を言うんだと自分自身に心の中で突っ込みながら宣言した。今回の旅が終わってからじっくり吟味して選ぶつもりだ。アルビオンへ向かう時の事は思い出したくない。絵的にも美しくない、男の意地がボロボロになったとだけ記しておく。

フーケに紹介されて訪れたウエストウッド村は一言で言ってしまえば田舎だった。森の中のそのまた奥、隠れ住むようにあった村には大人がいなかった。この村を訪れた俺達は子供達ばかりで泊まる施設が無い事に気付いて途方にくれていたが帽子を耳が隠れるくらい深く被ったティファニアと名乗るこの村で一番年上らしい少女が向こうから話しかけていた。そこでフーケから渡された手紙を渡すと納得した様子で村へ招いてくれた。色々あった事は確かなのだが大事な事を書き記しておこう。ティファニアさんは美人おっぱいだった。それはもう、トリステインの美貌と謳われたアンリエッタ姫と同等ぐらいに。




○月×日◇曜日
『貴族とは杖がなければただの人』、確かそんな言葉で始まる著書をまだ魔法が使いこなせない子供の頃に読んだ事がある。杖がなければ――――つまり魔法が使えない貴族はただの人、魔法とは貴族にのみ許された特権であり、誇るべき資質であり、弱者である民を守る剣となり、盾となる。貴族として忘れていけない根幹にあるべき誇り、民を守るからこその貴族であり、その為の力が魔法。民の為に戦い、民の為に傷付く。その姿こそ貴族の正しき姿で名誉ある姿。
いつのまにか、絶版となっていたその著書は実家のどこかに眠っているだろう。

そろそろ現実逃避をやめて本題へ移ろう。
『貴族とは杖がなければただの人』、この言葉通りフーケに杖を奪われた俺は無力な人間となり、アルビオンに潜む黒化した英霊(サーヴァント)の捜索は完全にイリヤ達へ丸投げした。ルビー達に足手まといとはっきり宣言されてしまった。イリヤ達といい、ルイズ達といい、最近はなんだか疎外感を感じてしまう。まあ、杖が無い状態で内戦状態の国を歩く度胸は一切ないので別にいいのだが。
もっと言ってしまえばウエストウッド村に来てからやる事が全くない。黒化した英霊(サーヴァント)の捜索は出来ず、ティファニアさんの好意で宿泊する事になった孤児院ではティファニアさんにお客さん扱いされて家事を手伝わせてもらえない。必然的に孤児院の子供の遊び相手を勤めていた。鬼ごっこやかくれんぼ、木の上にのぼったり、おままごとに付き合ったり、木の枝を杖に見立てて貴族ごっこしてみたり、この世界の童話を読み聞かせたりして今日一日を過ごした。ティファニアさんは恐縮しっぱなしだったがむしろこっちの方が癒された。前世の環境があれだったので子供の世話は慣れているし、好きなのだ。特にクソガキと呼ばれる種類の子供と暴れている時が一番好きだ。イリヤ達の方はあまり進展が無かったらしい。ルビーいわく、偶然にもこの辺りに眠っているらしい。正直、洒落になってない。それこそこの村の様に戦う力を持たない場所で覚醒してみろ。全滅の未来しか存在しない。




○月×日◇曜日
それは本当に突然の事だった。日課である朝練を外でやっていた俺は水汲みをしていたらしいティファニアさんとばったり出くわしてしまった。別にそれ自体は問題じゃない、問題はティファニアさんが帽子を被っていなかった事、そして帽子に隠されていた特徴的な耳。
『エルフ』――――子供の頃から常に教えられてきた。大昔から人間と敵対してきた野蛮な種族。見つけたらとりあえず殺しておけと言い聞かされた吸血鬼と似たような存在。物心付く頃から教えられてきた事であるが前世の記憶がある俺はそれが不思議でしょうがなかった。だからと言ってエルフを良い種族だとは思っていない。よくもわるくもエルフによる事件が起きていない訳じゃない。そんなのは一人一人の問題である事は頭で理解しているがどうにもしっくりこない。子供達に心配かけまいと表面上は普通に接する事が出来たがお互いに距離を測り損ねていた。




○月×日◇曜日
目を覚ました時、ティファニアさんが杖を構えて目の前にいた。命の危機を感じた俺は思いっきりティファニアさんを突き飛ばして押し倒すと杖を奪って何をするつもりだったのか尋ねた。あまりに無抵抗だったので気になったのだ。ティファニアさんは正直に答えてくれた。記憶を消す魔法があるのだと、その魔法でティファニアさんがエルフだった事を忘れさせようとしたのだと。俺は溜息を吐いて拘束を解くと杖を返した。本当に悪い事をしたと謝るティファニアさんの表情が真剣そのもので怒る気力も無くなった。美人が涙目とか卑怯です。

アレが現れたのは本当に突然の事だった。昼食を済ませ、再び遊び始めた子供の一人がアレを見つけた。黒いもやを纏った男性、その手には一本の紅い槍。
ランサーの英霊(サーヴァント)。
俺は子供達に向けて全力で逃げろと叫んだ。俺の真剣な表情に子供達は慌ててランサーから逃げ出した。そして俺は失態を犯した。俺が慌てさせたせいで子供の一人が地面に転んだ。ランサーは最初の目標をその子供に絞っていた。恐怖で足が竦んでしまった。イリヤ達は捜索に出かけていてこの場にいない。気付いて戻ってきているだろうがあの男の子を守るには間に合わない。気が付いた時には俺の横を黒い影が横切っていた。ティファニアさんだった。男の子を守るよう胸に抱いてランサーに視線を向けるティファニアさんを見た時、俺の身体は動いていた。心が震えた。自分の未熟さに、自分の無様さに、ティファニアさんの強さに。

それからの事は全く覚えていない。目を覚ました俺は右肩を怪我して重傷状態で、イリヤ達がランサーのクラスカードを手に入れていた。

記憶を消す魔法の話を聞いて考えていた事がある。

これをもし俺が読み返しているならこの日記を手渡したティファニアさんを信じろ。
彼女はエルフとか関係なく、素晴らしい人物だ。本人である俺が保障する。




ティファニアの記憶
あの人と出会ったのはいつもの様に平和な時間が流れている時だった。皆に指示を出して家事をしている時に私を探している子供達がいて、話を聞いてみたらマントを纏った貴族がメイドの女の子を二人ほど連れて村の入り口で立ち往生しているという話だった。『貴族』という言葉に反応した私はマチルダ姉さんに教えられた通り、自宅に戻って耳が隠れるまで帽子を深く被るとこの村を訪れた貴族さん達に声をかけた。
あの人達はそんな私に助かった表情を浮かべると宿泊する宿が無いか、尋ねてきた。勿論、孤児院であるこの場所に宿は無い。宿泊する場所なら孤児院があるけど貴族の方が泊まるような場所では無い。その事をあの人達に伝えると困った表情を浮かべてマチルダ姉さんの文字で書かれた手紙を手渡してきた。
手紙の内容は危険な魔獣がアルビオンに存在してその退治の為にあの人達は姉さんの紹介でこの村に拠点を置きに来た。色々書いてあったけど簡単に纏めるとそんな内容の手紙だった。姉さんの紹介なら警戒する必要も無いと考えた私は自宅にあの人達を泊める事にした。

貴族であるあの人がこの村に馴染むのは早かった。イリヤさん達が危険な魔獣を捜索している間、あの人は子供達の相手を率先してくれた。貴族の方とは思えない無邪気さで子供達と鬼ごっこやかくれんぼをして森を走り回るあの人の表情が本当に楽しそうで私はあの人が貴族である事を忘れかけていた。

だからこそ、あの人に自分がエルフの血を引いている事がばれてしまった時にどう対応していいのかわからなかった。あの時の騎士の方と違ってあの人は動揺して困った表情を浮かべえるだけだった。表面上は普通に接してくれていたけど、あの人との間に深い溝みたいなものが出来ていた。私はその事がなぜだか悲しくて、あの人に魔法を使おうとした。その結果は散々で突き飛ばされて押し倒されて杖を奪われた私は息の荒いあの人の質問に正直に答えた。私がエルフの血を引いている事を忘れれば前と同じように接してくれると思った事。あの人は溜息を吐いて私の拘束を解くと謝罪してきた。私のせいとはいえ乱暴した事、エルフというだけで動揺してしまった事、まだ割り切れていない事。それでも私はあの人の本音が聞けて嬉しかった。



「全員逃げろ!?」

あの人の切羽詰った声が村に響いたのは昼食を済ませて少ししてからだった。視線の先には黒いもやを纏った男性、その手には紅い槍が握られていた。その時に理屈ではなく、本能で理解した。アレがあの人達が捜索していた魔獣なんだと。そしてアレの前で転んだ子がいる事に気付いた私は逃げろと命令する本能を押しのけてアレから子供を守るように抱きしめた。視線の先にあるアレは既に手に持った槍を振り上げていた。

「っ!」

――――来る筈の痛みは無かった。だた、苦悶する声と右肩を突かれた温かいあの人の血が少しだけかかった。

「――――っ!」

「逃がすか、馬鹿。イリヤ!」

あの人は自分の右肩を貫いている槍を両手で握るとイリヤさんの名前を叫んだ。

『アハー、お互いに忌み嫌う異種族の異性を身体を張って助けるとかどこの主人公ですか~。あ、イリヤさん、物理全力ですよ』

「わかってるよ! 美遊!」

突然現れたイリヤさんはメイド服姿ではなく、見た事の無い姿であの人が槍を握っているせいで動けない黒いもやを纏った男性を持っていた杖で思いっきり空中へ吹っ飛ばす。

『騎英の――っ!』

「勘違いするなよ、俺はエルフを守った訳じゃない。アンタとアンタが守ろうとした子供を守っただけだ」

私が見えたのは空に光が奔った事と血を流したあの人が倒れてきた事だけだった。


目を覚ましたあの人から告げられた言葉に私はショックを受けた。私の魔法でこの村での出来事を忘れさせてほしい。イリヤさんがなぜそんな事をするのか尋ねて、あの人は答えた。あの人がまだ未熟である事、エルフである私の存在を隠し通す自信が無い事、弱いあの人は何かの取引で私を売ってしまう可能性がある事、この村に貴族や争い事が必要無い事。
色々な理由を並べたあの人の言葉に共通しているのは自分が弱い人間である事とこの村を思っての事だった。あの人の瞳を見るとその決意が本物だった。

あの人は持っていた荷物の中から見た事無い文字が書かれた本を取り出すとその内の何枚かを破いて私に渡してきた。

「今度、ティファニアさんと会えた時、その紙を俺に見せてくれないかな? 俺がもっともっと強くなって種族なんて関係ないって言えるようになったら会いにくるから」

「ティファニアでいいですよ。そっちの方が私も嬉しいです」

「それじゃ、今度からはそう呼ぶよ。ティファニア」

慌てて用意した長い杖のような木に身体を預けて優しい笑みを浮かべるあの人に向けて胸が締め付けられる思いで杖を振る。

『記憶の方は私達が適当に補強しておきますから、安心してください。でも、よかったんですか? 本当は少しぐらい好きだったんじゃないですか?』

「ちょっとルビー!」

喋る杖のルビーさんと慌てるイリヤさんに苦笑しながら頷く。

「今度はティファニアって呼んでくれるそうですから」

『せっかく立ったフラグを自分でへし折るとは男は馬鹿ですね~』

あの人を抱えながら去っていくイリヤさん達を見届けながらあの人に渡された紙束をぎゅっと握り締めた。



後書き
主人公は全部忘れています。日記もティファニアに渡しました。イリヤ達は覚えてますが。主人公はエルフの所在という価値の有る知識に責任を負う自信が無くて忘れました。特に原作にもあったようにティファニアは美人ですし。情報売ったらかなりの価値じゃね的なノリです。



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記⑤
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/06/24 15:52

○月×日◇曜日
目が覚めて、気が付いた時には魔法学院の病室で横になっていた。しかも、右肩辺りを包帯でグルグル巻きにされた状態で。本当に気が付いたらの事で新手のスタンド使いでも出現したのかと疑ったぐらいだ。俺の記憶ではアルビオンで反応があったクラスカードを回収する為にアルビオンへ向かう飛行船がある港町ラ・ロシェールを訪れて情報収集をしていた時に腹立たしいが脱走していたフーケと出会ってしまい、命乞いという名の交渉の結果としてウエストウッド村という戦火の届かない村を紹介して貰った所までは覚えている。
俺が目を覚ました事を保険医の先生から聞いてきたイリヤ達が病室に姿を現して、俺は正直に港町ラ・ロシェールにいた時以降の記憶が思い出せないと告げた所、イリヤが動揺した表情を浮かべて、ルビーが溜息交じりに説明してくれた。
なんでもウエストウッド村に到着した俺達はそこで何日か宿泊していて、フーケに杖を奪われて魔法が使えない俺は村の宿で留守番していた所、村の付近に黒化したランサーの英霊(サーヴァント)が出現して村の人々を守る為に身体を張った結果、ランサーの一撃を右肩に受けてしまい、あまりの激痛に気絶してしまったらしい。ウエストウッド村では満足に治療が出来ないのでイリヤと美遊がルビー達の能力をフル稼働させて魔法学院まで運んでくれた。記憶の一部が抜け落ちているのはその時に出血をし過ぎた所為だと教えられた。なんだか妙に気になったベッドの横に立掛けてあった大きな木の枝は荷物を引っ掛けた物らしい。
傷跡については既に治療が終わっていて、俺がたくさん持っていた回復薬のおかげでスムーズに行ったと保険医の先生に教えられた。なんで大量の回復薬を持っていたのか尋ねられた時は話を濁しておいた。黒化した英霊(サーヴァント)と戦って消耗したイリヤ達を治療する為だったけど結局自分に使う事になるとは恥ずかしすぎる。

他にも色々、世の中ではあったようだったけど疲れ切っている俺は適当に世間話を聞き流して早く寝る事にする。明日からは杖も良い物を探さなければいけない。





○月×日◇曜日
昨日、聞き流していた世間話の中に凄い重大な内容の物があった。なんでもアルビオン王家が貴族派で組織された『レコン・キスタ』と名乗る集団に革命を許した。アルビオン王家の要であるウェールズ皇太子の生存確認はされていないが王家の象徴であるニューカッスル城を陥落させてアルビオン王家崩壊をハルケギニア中に宣言した。まだ、ウェールズ皇太子の生存の可能性という最大の障害を残した物のこの革命は各国にとって激しく動揺をさせる出来事だった。世の中の大きな流れとしてはこんな感じなのだがもっと小さな、学院内でも変化があった。

なんでも俺を除け者にして何か行動をしていたルイズ達が内容は不明だが大きな功績を残したと噂が流れている。それと同時に遊びに出かけた俺が貴族にとって命に等しい杖を失ってきたと嗤われる噂があった。まあ、正直、こんな目にあっておきながらこんな扱いにかなりイラついたので怪我の心配して声を掛けてくれたルイズ達に八つ当たりしてしまった。冷静になってみるとかなり恥ずかしい。
自分の行いが評価されないからって拗ねて、心配してくれた人に八つ当たりとか何処の餓鬼だよ。自分で自分を張っ倒したくなる。俺は別に評価される為にクラスカードを回収している訳じゃない。その事を忘れていた。代わりの杖も探さないといけないが明日は許してくれるまでルイズ達に謝罪しよう。




○月×日◇曜日
今日は昨日のルイズ達への態度を謝罪し続けた。ギーシュは結構簡単に許してくれたが三人の女性陣がやばかった。とりあえず、女性に対する態度うんぬんから始まり、怪我をした事や杖を失った事、本当に心配したのだと説教を長々と受けた。説教を終えて満足したルイズ達は俺に何があったのか尋ねてきたのでクラスカードの存在を知るルイズ達にアルビオンへ行って、クラスカードを回収してきたと正直に答えた。港町ラ・ロシェールで何処かの貴族が傭兵相手に大暴れして大変だったんだぜ的な話をした時はルイズ達が激しく動揺していた。ルイズが弓兵に対してなんで教えなかったと噛み付いていて、肩を竦めた弓兵が彼等には彼等の役割がある的な事を言っていた。なに、もしかして近くにいたの? そう思うと再び嫉妬しそうになるので考えるのは止めた。人に対して嫉妬するとか結構疲れる。

それと今日の授業でコルベール先生がエンジンもどきを披露していた。正直、どう反応していいのか分からない。今まで転生知識で成功したりヘマしたりと経験したから判断が出来ない。この世界で産業革命とか大丈夫なんだろうか、良くも悪くも貴族による統治で上手く回っているのが現状だ。実際、絵に描いたような貴族なんてそんなにいない。逆に言ってしまえば多少は鼻持ちならない貴族がいる事を事実なんだけど。もし、協力を頼まれたら手を貸すぐらいでいいだろう。エンジンもどきを見た時に反応したのは俺以外には地球出身組くらいだった。




○月×日◇曜日
俺はタバサに長い杖の長所を尋ねてみた。勿論、携帯性は前回の杖と比べれば大きく劣る事ぐらい理解している。タバサはそんな俺に不可解そうな表情を浮かべたけど色々教えてくれた。その中でも魅力的だったのは杖がそのまま武器になる事、ブレイドを使えば杖がそのまま剣として扱える。短い杖の時は補助程度にしか思っていなかったが接近戦という意味では確かに便利だ。なぜそんな事をしているのかと言うと俺がアルビオンから帰ってくる時に持ち帰った大きな木の枝がどうしても捨てる事が出来ないからだ。邪魔だから処分する必要があると理解しているがどうにも処分する気が起きない。勉強しようとして気が付いたら部屋の掃除をしているようなノリだ。その事をイリヤ達に話したらルビーが教えてくれた。イリヤ達がウエストウッド村に現れるまでこの木の枝でランサーと戦っていたとか、この前は荷物を引っ掛けるのに使ったと聞いた覚えがあったのでどっちが本当なんだ。とりあえず、俺にとって大切な物である事は事実らしい。確かにルビーの言っている事を信用するとしたらランサー相手に命を預けた相棒だ。これからも命を預ける半身としては相応しいかもしれない。まあ、材質は良さそうなのでこれを加工してもらって杖を作ろう。




○月×日◇曜日
なんだか最近、弓兵達との朝練が激しさを増してきた。精神力を高める瞑想から始まり、弓兵の剣術指南、アルビオンから帰ってきてから実戦形式となったギーシュとの手合わせ、他にも集中力が途切れない様にいくつかのメニューを順番に回しながら行っている。特にギーシュとの手合わせが激しくなってきた。ギーシュのゴーレムは組織的な動きをする様になってきたし、マンティコアをイメージした獣型のゴーレムも登場してゴーレムの種類も増えた。俺も俺で魔法は使わないと言っても逃げるだけの訓練からギーシュが作ってくれる青銅の剣で反撃するより実戦に近い手合わせに変化してきた。いつだったかキュルケになんでそんなに強くなろうとするのかと尋ねられて二人してお互いに負けたくないからと即答していた。俺にとってギーシュはライバルで、ギーシュにとっても俺がライバル、お互いに負けたくない。キュルケには呆れられたがこれは男にしか分からない感覚である。
ゴーレムの動きが組織的になってきた事をギーシュに尋ねてみたらなんでも最近、実家に頼んで参考になりそうな本を送ってもらって兵法の勉強をしているとか。卑怯だ、と心の中で突っ込んだがギーシュの実家であるグラモン家と言えば戦いで名前を挙げた貴族、ギーシュもなんだかんだでその血を受け継いでいた訳だ。





○月×日◇曜日
加工に出していた杖が帰ってきた。お値段的にはまあアレだったのだが固定化の重ねがけした杖は前の杖に比べて格段に丈夫である。正直、魔法を使う為の杖というよりも木剣と言った方がいいかもしれない。両手で持てるグリップ部分とブレイドを使用する事を前提とした刀身のような形、新しい杖を受け取った時はテンションが上がったが周りの評価は不評だった。カッコイイと思うんだけどな、ガンブレードならぬステッキブレード。ルビーいわく俺の美的センスは前衛的だと笑われた。やかましいわ。




○月×日◇曜日
最近、キュルケが宝探しを始めた。今度は仲間外れにされる事は無かった。しかし、今回はルイズが他にやる事があると言って参加していない。信じられるか、最近、弓兵のサポートがあったとは言え、オーク鬼と真っ向から斬り合える様になった。オーク鬼と言えば一般的な剣士を五人程度なら相手に出来る猛者である。少し前までの俺からしたら考えられない成長だ。オーク鬼といえど弓兵の剣速には遠く及ばず、ギーシュのような戦術がある訳でもない、冷静になって考えてみればその二人と毎日訓練しているんだからオーク鬼が恐れるような相手でない事を理解した。
キュルケやギーシュにどこの『メイジ殺し』になるつもりだと突っ込まれた。言われてみれば魔法使いなのに弓兵やギーシュのゴーレムに混じって前衛部隊にいる事が多かった気がする。うん、なんだか進むべき道を間違えた気がしないでもないが将来はトリステインの王宮で魔法衛士隊に入隊しようと考えていたので問題ないと自分に言い聞かせる。最近はこの国で自分の力がどこまで通用するのか、挑戦したいと考えている。実家の方は迷惑をかける事になるが当分は妹に任せるつもりだ。
明日はメイドであるシエスタから聞いたタルブ村にある『竜の羽衣』を見学しに行く事になった。なんでも空が飛べる様になるマジックアイテムらしい。らしいというのは誰も飛んでいる姿を見た事はなく、よくある真偽の分からない噂だ。今回はメイドのシエスタも里帰りついでに弓兵もいるのでついてくるとか。最近、朝練の後にちょくちょく見ると思ったらそういう事か、ギーシュと二人でニヤニヤしながら弓兵の方を見ていたら弓兵は肩を竦めた。



後書き
今回は思いつかなかったので記憶はなし。そしてちゃかりウェールズ皇太子生存。正直、弓兵が死を覚悟したウェールズ皇太子を助けるかどうか迷ってけど原作との差異をつける為に生存させてみました。



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記⑥
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/07/11 21:20

○月×日◇曜日
今日はタルブ村を訪れて、村のちょっとしたシンボルになっているらしい『竜の羽衣』なる魔法を使わずに空が飛べる様になると言い伝えが残っているお宝を見学に来た。メイドのシエスタの故郷であるらしいタルブ村はまさに田舎と言う言葉がふさわしいのんびりと時間が流れている村で故郷に帰ってきた事が嬉しいのか、ニコニコと笑みを浮かべて村を案内するシエスタに連れられて噂の『竜の羽衣』を見せてもらった。

『竜の羽衣』――――その正体を目撃した時、俺と地球組は動揺して、キュルケ達は空を飛ぶなんてただの噂だったと肩を落としていた。別にミリタリーなどの軍事知識に詳しくない俺でも知っている。『竜の羽衣』――正式名称、零式艦上戦闘機。略してゼロ戦。第二次世界大戦から活躍してゼロファイターと呼ばれたこの世界にはありえない科学の結晶。

案内してくれたシエスタの話によるとこのゼロ戦の持ち主はシエスタの曽祖父であり、どこからともなく現れてタルブ村に住み着き、稼いだお金でゼロ戦に固定化の魔法をかけると亡くなる間際に墓石に彫った記号を読めた人物に『竜の羽衣』を譲ると言い残したそうだ。

シエスタに案内されて向かった曽祖父の墓石には日本語で『海軍少尉佐々木武雄、異界ニ眠ル』と刻まれていた。シエスタの風貌にほんの少しだけ感じていた違和感や懐かしさ、その正体は彼女に流れるその血であった。




○月×日◇曜日
曽祖父の墓石に刻まれたハルケギニアでは異国の文字とされる日本語をスラスラと読む事が出来た弓兵はシエスタの家族に『竜の羽衣』であるゼロ戦を貰ってほしいと頼まれていた。価値の分からない自分達よりも価値の分かる弓兵に。正直に言って、弓兵がゼロ戦を持っていてもあまり意味は無いがシエスタの父親があまりに真剣な表情で言ってきたので弓兵もその圧力に負けて頷いてしまった。『竜の羽衣』をトリステイン魔法学院まで運ぶには結構なお金がかかってしまい、なんと偶然通りかかったコルベール先生が瞳を輝かせて弓兵にゼロ戦の構造などを教わる事を条件に代金を支払っていた。
正直、まずいんじゃないだろうか。独自にエンジンもどきを作り上げたコルベール先生がゼロ戦の構造を理解する。このままだと産業革命が起きてしまう可能性がある。もしそうなればこの世界は荒れる。
弓兵もその事はわきまえているのか、少しだけ視線を向けたらそれぐらいわきまえていると言った表情で頷いていた。




○月×日◇曜日
とりあえず、わかっている事だけを書こう。タルブ村にあった『竜の羽衣』、ゼロ戦を見て、『破壊の杖』を見た俺はこのハルケギニアと日本――もしくは地球は確実にどこかで繋がっているんじゃないかと言う考えを確信に変える事が出来た。それがどうしたといってしまえばそれまでなのだがもし繋がっているなら一度だけ日本に戻ってみたい。イリヤや美遊を送り届けるのは勿論だが、並行世界の概念が存在するならもしかしたら俺が生きていた前世の世界に繋がっているかもしれない。もしそうなら会いたい人達がいる。ハルケギニアで生きていく事はもう決めているが前世でお世話になった施設の院長先生や会社の人々、急に死んでしまって謝りたい人は沢山いる。
まあ、実際問題日本に帰る事が出来たとしても会って話をする事は出来そうにないし、輪廻転生して魔法使いになりましたと言っても信じてくれるような人はいないと思うので自己満足で影から会いに行く程度の事しか出来ないんだけど。




○月×日◇曜日
コルベール先生が固定化されていた燃料の塊からガソリンを精製する事に成功した。大きな樽が二つほど必要な量である。いや、色々な意味で不味いだろ。『竜の羽衣』が魔法も使わずに飛んだと知れたらその先にある兵器としての運用も容易に想像がつく。元々、ハルケギニアだからこそただの珍しいお宝になっていたが『竜の羽衣』の本質はどこまで行っても兵器だ。それに危険な爆発物のガソリンをその辺の樽に入れて保管するなんて好きな時に爆発してくださいと言っているようなもんである。特にコルベール先生の小屋なんて危険な物が集まっている。爆発しなくてよかったわ。弓兵が慌てて『竜の羽衣』にガソリンを入れている所を見た時は思わず笑ってしまった。動かすには後三つほど樽が必要と言っていたが弓兵はガソリンの扱いをコルベール先生に何度も注意していた。
ガソリンの危険性を説明すればするほど瞳を子供のように輝かせていくコルベール先生を見ながら逆効果じゃないかと思ったがとりあえず自分にはあんまり関係ないので気にしない事にした。弓兵の責任だし、どうにかするだろ。




○月×日◇曜日
トリステインの美貌であるアンリエッタ姫がゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世と結婚式を挙げる。魔法学院は基本的にキュルケの様に様々な国から生徒が集まってくる性質上、政治的な出来事から切り離されているのだが今回の結婚式がアルビオンを滅ぼした『レコン・キスタ』に対する牽制である事ぐらいは容易に想像がつく。トリステインの戦力は『レコン・キスタ』に比べれば圧倒的に劣っている。この辺は実力主義のゲルマニアと伝統を重んじるトリステインの違いだ。伝統を大事にする事はとても大切だが、その所為で進歩が無いのならそれは変えていくべき悪しき風習だ。まあ、色々と書いたがぶっちゃけた話、ショックである。アンリエッタ姫はお世辞抜きでトリステインの美貌と言っても過言ではないのでファンだった俺に結婚の話はダメージが大きい。邪かもしれないが魔法衛士隊を目指す理由の一つが姫様と知り合えるかもと淡い期待もあったので本当に残念だ。




○月×日◇曜日
これは日記というより状況報告なのだがルビーからクラスカードの反応があった事が伝えられた。クラスカードが現れた場所は少し前に訪れたタルブの草原。因みに今朝オスマン学院長から『レコン・キスタ』と戦争が勃発して、両軍がぶつかる戦場となっている場所はタルブの草原だと聞かされていた。ルビーから話を聞いた時は正直、めまいがした。今までクラスカードが現れた所は黒化した英霊『以外』にも危険な場所が多かった。ルビー曰く、そういう人の悪意が多い場所に現れる確立が高いのは充分にありえる事らしい。色々と理論を説明してくれたが簡潔に言ってしまえば、『危ない場所ほどクラスカードが現れやすい』。正直、泣きたくなったのは秘密である。




シエスタの記憶
その光景は地獄。他に例えが見つからず、思い付かないほど凄惨な光景でした。私が幼い頃に走り回った美しく綺麗で弓兵さんに見せたかった自慢の草原は全てを灰に帰す煉獄の炎に焼かれて黒い煙を立ち上らせ、武装していたメイジの方々が全身の苦痛に嘆き、助けを求めながら炎に包まれた草原の地に伏していて、その光景を作り出した弓兵さんに似た姿をした黒いもやを纏っている男性は燃え盛る煉獄の炎の中で次の獲物を探しながら佇んでいる。

最初の異変はラ・ロシェールの方から聞こえてきた爆発音だった。空から燃え盛る船が何隻も落ちてきて、それを追う様に大きな船が草原に碇を下ろして停泊した。そしてその船から何匹ものドラゴンが空へ舞い上がり、村へ飛んできて騎士を乗せたドラゴンは村の家に対して炎を吹きかけた。

戦争――――その言葉が頭を過ぎった時、新たな異変が起きました。黒いもやを纏った弓兵さんに似た男性がどこからともなく姿を現して、手にした弓を村に破壊を撒き散らすドラゴンに向けると多分、『錬金』で作り出した矢を放ちました。ドラゴンに乗った騎士がその事に気付いて回避しようとした瞬間、圧倒的な爆発音と共に放った矢が爆発して騎士が乗ったドラゴンを撃墜しました。

最初は助けが来たと思いました。ですが、違いました。自分に向かってくるアルビオンの艦隊から出てきたドラゴンを駆る騎士の方々を悉く撃墜した男性はその矛先をアルビオンの艦隊、タルブの村へ向けました。

そして全てを破壊して、悲劇を撒き散らした男性は新たに現れた集団――――救援に来たトリステイン軍に目掛けて向かっていきました。

『っ! 魔法衛士隊は応戦! 他の部隊はまだ息の有る人の保護を! 敵も味方も関係ありません! 恥知らずのアルビオンにトリステインの気高さを見せてやりなさい!』

その先には以前、魔法学院へ訪れた時に拝見する事が出来たアンリエッタ様がユニコーンへ跨り、指示を出している。しかし、それでもあの男性は止まりません。男性へ向かっていった騎士の方々を全て切り伏せるとその両手に持った白と黒の剣をアンリエッタ様へ向けました。

『殿下! お下がりください! どこのどいつか知らぬが殿下に刃を向けるならこのマザリーニがお相手する!』

『アハー、それは私達の台詞ですよー。あ、私達はアレの相手がありますので説明よろしくお願いしますよ。今回は被害の規模が大き過ぎます。説明の裁量はおまかせしますよ。イリヤさん、今回は最初から全力全開でいきます!』

『ちょっ、俺に丸投げかよ!』

アンリエッタ様の危機に男性の相手をしようとした初老の男性の前を見覚えのある二人の少女とあの人が現れて、イリヤさんと美遊さんが黒いもやを纏った男性の相手をする。

『貴方は確か……』

『失礼を承知で言いますが今のうちに避難を。彼女達が本気で戦う為に軍を退けてください。説明は後でいくらでもしますからお願いします。この場にいる人間でアレの相手を出来るのは彼女達だけなんです!』

『…………、分かりました。全軍、生存者を回収しながら撤退しなさい!』

『殿下! それはっ!』

『黙りなさい! 貴方が殿下と呼ぶ私の指示です!』

『っ! 全軍撤退! トリステインの誇りにかけて生存者を見捨てるな!』

『『『おおー!』』』

怒号が鳴り響き、見る見る内にトリステイン軍が戦っているイリヤさん達の近くから遠ざかっていく。

『これでいいんですね?』

『はい』

『ですが、これ以上は退きません。彼女達もまた、本来は私達が守るべき民なのですから。それと貴方には城へ出向き、今回の件について説明を命じます。魔法学院にはこちらから連絡しておきますのでそのつもりで』

『……、分かりました』

そして、信じられないほど高次元にある戦闘は美遊さんが取り出した紅い槍で黒いもやを纏った男性の心臓を穿つ事で決着が着きました。

『っ! 黒き悪魔はトリステインの誇る二人の聖女が討ち滅ぼした! 全軍、消化作業に当たれ!』

『『『おおー!』』』

そして残ったのは燃え尽きて黒くなった草原と手厚く保護されたイリヤさん達、アンリエッタ様の慈悲で惨敗してボロボロとなったアルビオンの艦隊が『見逃されて』逃げ帰っていく光景だけだった。




後書き
正直、ここまで続くと思っていなくてプロットも用意してなかったのでエタリそうでしたが少しずつでも更新していきたいと思います。それと一発ネタのつもりだったので主人公に名前を付けてないんですがこのままでいいんだろうか。まあ、日記に自分の名前を書く人間はあんまり居ないと思いますが……。



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記⑦
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/07/11 21:33

○月×日◇曜日
今日は正式にトリステインの王宮から魔法学院に対してあの時の説明をする為に呼ばれているとオスマン学院長を通してコルベール先生から内密に教えて貰った。あの時から既に数日経っているがあの時以降、アンリエッタ姫殿下は正式にトリステインの女王となってしまったので様々な相手から訪問を受けてその相手をしていた為に自分と面会する時間を作る暇がなかったらしい。そこまで重要度の高い案件でなければあの場所にいらしたマザリーニ枢機卿にでも説明してアンリエッタ様に話を通してもらえばそれまでなのだがアンリエッタ様が直接会って説明を聞きたいと言っているのだ。重要度は俺が思っていたよりも遥かに高いらしい。トリステインの王宮を訪れる時に嫌な予感と最悪の事態を避ける為、ルビーにだけ話をしておいてイリヤ達を連れて行かず単身でトリステインの王宮を訪れた。

コルベール先生から城の人に見せればいいと言われて手渡された書類を城を守る門番の兵士に手渡すと確認作業の後、丁寧に城へ招かれた。予想通り、応接間へ案内された俺はそこにいた人に心底驚いた。自分を呼んだアンリエッタ様は勿論、その右腕と呼べるマザリーニ枢機卿、そして実家で領地を治めている筈の父親がいた。

これだけの応接間にたった三人。何をしたんだと心配と責める感情が入り混じった父親から突き刺さる視線に申し訳なくなりながら説明した。説明自体はもう何度もしているので慣れたもんである。イリヤ達の事、黒化した英霊の事、異世界の事。俺の父親だけ何の事か分かっていないようだったけど黒化した英霊を目撃したアンリエッタ様達は納得した様子だった。他にも簡単な説明では説明しきれなかった所の受け答えをした後、お互いに牽制していた『本題』の話となった。

――――イリヤと美遊の話だ。予想通りの展開と彼女達をこの世界に呼んでしまった者として退いてはならない一線だけは断固として拒否した。気付いた時には手汗が滝のように滲み出ていて実戦投入に元々反対であったらしいアンリエッタ様の一言で決着が着いた。身元を明かさない事と必要以上に干渉して来ない事を条件にプロパガンダとしての役割程度までは認めた。実際、マザリーニ枢機卿もいずれ自分達の世界に帰る予定であるイリヤ達を本気で戦力として使うつもりはなく、協力してくれるなら程度に考えていたらしいので助かった。国の頭脳と呼ばれる人と本気で交渉なんてしたらボコボコにされるに決まっている。クラスカードがハルケギニア全土に出現する事からアンリエッタ様の計らいで王宮を含む国内外の移動と公的機関の使用を許された花押の押された許可証を受け取ると久しぶりにあった父親と食事をする為に王宮を後にした。

街を歩いていた時にある『衣服』を見つけてしまい、衝動買いした結果、そのままのテンションで魔法学院に帰ってイリヤ達に見せるとドン引きされた後で月に変わっておしおきされてしまった。冷静になってみるとイリヤ達に水兵服を着せた所で何も面白くない事に気が付いた。仕方ないのでギャグを狙って帰ってきていたシエスタにこれを着て弓兵に迫るといいよと渡しておいた。動揺する弓兵が面白かったとだけ書いておこう。




○月×日◇曜日
なんか最近、ルイズの様子が変である。変と言うか、異常である。はっきり言ってしまえば他人の前では絶対にデレない筈のルイズが他人の目もお構いなしに弓兵に対してデレている。朝練の終了後、弓兵に何かあったのかとなんとなしに尋ねてみると弓兵とついでにギーシュが激しく動揺していた。何かあった事は確定なのだが放っておいた方がいいと自分の勘が働いたので放っておく事にする。そういえばタバサとキュルケがまた授業をサボって何処かへ出かけたみたいだったけど何をしてるんだろうか。『竜の羽衣』で宝探しは止めた筈だし、気にならないと言えば嘘になる。




○月×日◇曜日
とうとうと言うべきか、ようやくと言うべきか、判断に迷ってしまうのだがついにオスマン学院長に呼び出されてしまった。理由は勿論、数日前にただの学生相手にトリステインの王宮から呼び出しを受けて、なのかつ俺が要望すれば授業の出席を休学として扱うようにとお達しが来た件についてだ。オスマン学院長は信頼出来る人であるが何処で密偵が目を光らせているか分かったものでは無い、説明は本人から直接尋ねろと言った内容の手紙が届いたので呼び出したとか。何度もして慣れた説明を終えるとオスマン学院長に今は完治しているが右肩を負傷して帰ってきた時も同じ用件であったか聞かれて正直に頷くとその時の分もサボりでなく、休学扱いにしてくれると言ってくれた。正直、助かった。




○月×日◇曜日
本当に珍しい事なんだが、弓兵がお金を貸して欲しいと頼んできた。弓兵の性格なら踏み倒したりするような心配は無いのでかまわないと答えたけど弓兵が必要と言っていた金額を聞いて思いっきり噴出してしまった。別に用意しきれない額では無いのだが最近はイリヤ達の身の周りを整えたり、杖を新しくしたりと出費が激しい。聞かされた額を事情も聞かずに出せる程の余裕はあまりない。その意図に気付いた弓兵は全てを話さなかったが何がどうなっているのかぐらいの事は教えてくれた。簡単に言ってしまえば『香水』のモンモランシーが作った惚れ薬をルイズが飲んでしまい、結果として弓兵にデレデレのルイズが出来てしまったとか。豚箱に放り込まれるモンモランシーを一瞬だけイメージした後、溜息を吐いてお金を貸してやった。
今更気付いたのだが、ギーシュにはモンモランシー、弓兵はその他大勢、対する俺は……。
最近、イリヤ達に見つかるかもとちょっと気にして書いてたけどもう知らん。氏ね、リア充は死んでしまえ。そういえば最近は猫かぶりの真剣モードが続いていた。たまには生き抜きするかと久しぶりに酒を浴びるように呑んだ。起きた時は椅子の上で寝ていたらしく身体と頭が激しく痛かった。




○月×日◇曜日
ラグドリアン湖――――ガリアとトリステインの国境沿いに広がるハルケギニアでも有名な湖である。それと同時に『水の精霊』が住まう湖とされていて貴族の間でも美しく神秘的な場所とされている。

なぜ、こんな事を書いているかと言うとそのハルケギニアにその名を轟かせるラグドリアン湖を訪れているからだ。なんで、そんな場所にいるのかって? 俺が逆に聞きたいわ。本来なら普通に魔法学院で授業を受けている筈なのになんでこんな所にいるんだよ。いや、本当の事を言うと惚れ薬の件で話があると弓兵から呼び出されてルイズの部屋を訪れたら部屋の主であるルイズと弓兵の他にギーシュとモンモランシーが待ち構えていて、ラグドリアン湖へ行くのについてきて欲しいとの事だった。なんでだよ、と露骨に面倒そうな表情を浮かべたらギーシュがモンモランシーにバレない様に頭を下げながら教えてくれた。一言で言ってしまえばモンモランシーは俺が信用出来ないらしい。告げ口されたら困るので一緒に連れて行くと言い出したらしい。そんな面倒な事するかよ、と思いながらギーシュの顔を立ててついていく事にした。まあ、ルイズ達と違ってモンモランシーとは殆ど交流が無く、お互いによく人柄を知らないので仕方ないと言ってしまえばそれまでなんだけど。

まあ、水の精霊を拝見する事が出来ただけでもこの旅についてきた価値はあったのでいいとしよう。水の精霊は美しさと神秘を兼ね備えていて、不思議な存在だった。少しは見聞が広がった。水の精霊からの願いを聞いて戦う事になった襲撃者がタバサとキュルケだった時には驚いたがな! 弓兵が二人で捕まえてみろと言って、あれだけ朝練を積んだのにギーシュと二人で捕まえようとして互角、いや、若干押され気味だったのはちょっとショックだった。




○月×日◇曜日
アンドバリの指輪――――水系統の伝説のマジックアイテムでその効力は死者に命を与えると言われている代物である。水の精霊はタバサ達との遭遇と事情説明による和解の功績を認めてくれて、『水の精霊の涙』をわけてくれる代わりに奪われた宝物を取り返して欲しいと頼んできた。その宝物こそアンドバリの指輪である指輪を取り返す事を約束してラグドリアン湖を後にしようとしたら水の精霊が弓兵とイリヤ達、そして俺とルイズを呼び止めて嫌な気配がするからこれを持って行けと言ってアサシンの絵が描かれたクラスカードを渡してきた。なんでもいきなり湖の中に現れて汚い魔力を撒き散らすので隔離して確保していたらしい。いや、とっても助かるんだけどなんか呆気無くね? もっとこうバトル的な展開をしないとクラスカードを封印出来ないと思っていた。そんな俺達をよそにルビーとサファイアは平常運転でクラスカードを受け取っていた。ルビー曰く、クラスカードは封印されたままの状態だとクラスカードにその魔力が秘められてしまうので感知しにくく、クラスカードが開放されて黒化した英霊が現れたら感知しやすいんだとか。とりあえず、アハハーと笑うルビーを地面に叩きつけて踏みつけているイリヤに加わる事にした。ねーよ、そういう貴重な情報は早く言え。




アンリエッタ・ド・トリステインの記憶
トリステイン魔法学院から正式に呼び出した彼の話はとても衝撃的なものでした。この世界とは異なる法則が存在する異世界、春の使い魔の儀式によってハルケギニアへ呼ばれた二人の少女、ばら撒かれたクラスカードと呼ばれる異界のマジックアイテム。彼は慣れた様子で説明を終えるとマザリーニが出した『本題』に険しい表情を浮かべていました。それは二人の少女を戦争に使えるかというもの。彼はなんの躊躇いも無く、首を横に振りました。彼女達は自分の使い魔であると同時に保護するべき民である。その主張だけでマザリーニの交渉を跳ね除けていましたが私は彼の手が汗に濡れている事に気付いていました。それもその筈、まだ未熟な私に代わってマザリーニはトリステインの政治を行っている人物、そのマザリーニの提案を跳ね除ける。言ってしまえばたかが学生程度にそんな英断が出来るかどうか。実際、嘘をつかせない保険として呼んだ彼の父親はマザリーニの提案を跳ね除ける彼の姿を見て顔を青くしていました。それでも貴族の誇り、民を守ると心に決めていた彼にマザリーニは折れて、最低限の協力だけを取り付けていました。『民を慈しむ貴族の誇りは確かに受け継がれている』。彼が去った後、地面に頭をこすり付けそうなほど頭を下げる彼の父親にマザリーニが嬉しそうに言っていました。若い世代に正しき貴族の誇りが受け継がれていて嬉しい。おべっかでもなんでもなく、純粋に笑うマザリーニを見たのは久しぶりでした。


「ふう……」

お飾りの王とはいえ、仕事が終わり、一息ついた時に思い浮かべるのはクラスカードの説明に来た彼の事。彼は友人を売る事を嫌がって意図的に誤魔化していたが春の使い魔の儀式でこのハルケギニアに現れたのが二人の少女だけではない事をこちらは知っている。親友のルイズとその使い魔である弓兵さん、そして弓兵さんがルイズと契約して刻まれたルーンが伝説の『ガンダールヴ』。『ガンダールヴ』は虚無に関係する伝説の使い魔だ。それはつまり、ルイズ同様、異世界から人間を呼び寄せた彼もまた――――。

そこまで考えた所で扉がノックされました。

「ラ・ポルト? それとも枢機卿かしら? こんな夜中にどうしたの?」

しかし、返事は返ってきません。その代わりにもう耳にする事は無いと思っていた人の声が聞こえてきました。

「ぼくだ」

「嘘よ、なんで貴方が……」

「……」

とまどう私に扉の向こうにいる『誰か』は少し考えるような沈黙をすると再び口を開きます。

「……風吹くよるに」

「水の誓いをっ!」

無防備である事は自覚しています。それでも二人だけの合言葉に我慢できず、扉を開いてしまいました。

そこに立っていたのは確かにウェールズさまでした。

「っ!」

ですが、ウェールズさまの身体は健全なものではありませんでした。左肩から先が存在しない隻腕。国を落とされたウェールズさまが殺されずに私の目の前に立っている。それだけでも奇跡と呼べるのにウェールズさまの姿を見て私の心は痛みました。

「本当はこんな姿で君と会うつもりはなかったんだけどね。弓兵君だったかな、彼にはお礼を言っておいて欲しい。こんな姿になっても生きていられたのか彼のおかげさ」

私の動揺が伝わってしまったのか、ウェールズさまは曖昧な困った表情を浮かべながら微笑んでいます。

「『死んで守る貴族の誇りと受け継いでいかなければならないアルビオンの誇り、どちらが大切なのか』恥ずかしながら弓兵君に指摘されるまで残された中立の貴族や民の事を忘れていてね。自分が簡単に死ねない事に気付いたら道は一つしかなかったんだ」

「…………」

ウェールズさまが何を考えているか、なんとなくですが分かりました。

「ぼくはぼくの国――いや、ぼくの所為で滅んでしまった国を取り戻す。ぼくは君を利用する為にここに来た」

「っ!」

分かっていても目の前で告げられると心が痛かった。ウェールズさまの目的は分かっている。捕虜として捕らえているタルブ戦でのアルビオン軍。

「彼らと会わせてほしい、ぼくは敗北者で君には逆立ちしたって釣り合わないどん底の人間だ」

自分で自分を否定するその言葉を聞きたくなかった。でもウェールズさまの瞳には自虐的なものを感じなかった。

「――――だから、ぼくは這い上がる。失いかけて気付いた本当の気持ちを、ごまかし続けた君への気持ちを、君と対等な状態で、誰にも文句が出ないくらいの力と地位を手に入れて」

むしろ、昔では見る事の出来なかった獰猛なそれでいてずっと先を見ている力強い瞳だった。

「だから待っていてくれないか、ぼくは君を利用する。そしてぼくは――――君を手に入れる」

「はい、いつまでも待っています」

力強いウェールズさまの宣言に気付かない内に頷いていた。




後書き
クラスカードの回収に戦闘が必要だといつから錯覚していた? いや、ぶっちゃけアサシンだけは手に余るので戦闘止めました。英霊の軍団とかイリヤ達が居ても普通に誰か死ぬだろ的な。ウェールズさまに関しては国を奪われた王子へ、王道主人公を意識してみました

感想で指摘された部分を少しアレンジしてみました。ご指摘ありがとうございました。



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記⑧
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/07/16 23:43
○月×日◇曜日
今日からトリステイン魔法学院は夏季休暇である。日本基準で言えば学生には嬉しい夏休みだ。しかも、期間は日本より長い二ヶ月半、これだけ休みがあれば充分に他のクラスカードを集められる。いや、まあ、先に里帰りしないといけないけどな。父さんとはこの前会ったからそんな懐かしい気もしなかったけど母さんと妹に会った時は懐かしかった。特に妹なんて成長していて一瞬誰だか分かんなかった。

え? 春の使い魔の儀式で呼んだ使い魔を見せてくれ? 目の前でメイド服を着ているこの娘達がそうです。

――――家族会議です。父さんも巻き込んだ家族会議だった。勿論、異世界出身などは余計な混乱を避ける為に説明していない。その事は父さんとも話し合って決めた事なので特に問題ない。母さんと妹がイリヤ達を物凄く労わっていた。それはもう、イリヤ達が引いてしまうぐらいに。

なんでそんなに労わってんの? 少し疑問に思ったけど特に気にせず自分の部屋に戻った時に俺付きのメイドさんの衣装を見て思い出した。この世界ではあり得ないミニスカートのメイドさん達。トリステイン魔法学院ではそれなりに真面目キャラで過ごして、もうこの性格に慣れていたけど学院に入る前、実家で過ごしていた性格は変態である。勿論、母さんも妹もメイドさん達も当然その様な目線で俺を見ていた筈。言っておくがロリの趣味は無い。

くっ! まさかこんな所で黒歴史が発見されるとはっ! ルビーは爆笑してるし、イリヤ達の視線は薄汚いものを見るようで痛い。とりあえず、メイドさんの衣装を本来の姿に戻して一人一人謝罪していった。小さい頃から面倒を見てもらっていたメイドさんには「よく成長されました」とか涙ながらに褒められた。恥ずかし過ぎて顔が真っ赤になっていたと思う。ミニスカートのメイド服を気に入っていた人もいたらしく、今後もこの格好でいいかと聴かれた時は笑うしかなかった。黒歴史によって刻まれた傷は思ったより深刻だった。

……いつもよりテンションが高いがそれは黒歴史露見のせいという事でもう不貞寝する。




○月×日◇曜日
つい、いつもの癖で早起きをしてしまった。朝練をするにしても弓兵やギーシュがいないので効率が悪い。昔は無邪気に走り回っていた実家の周りを走ってトレーニングしていると朝早くから働いている平民の人達がいたので元気に挨拶しておいた。目を丸くしてこっちを見ている平民の視線にはもう慣れました。実家での評価は変人奇人だったしね。人は過ちを犯して成長するもんだ。瞑想中に父さんが訪ねて来た。なんでも使用人に俺の居場所を聞いたらしい。久しぶりに父さんから魔法を教わった気がする。そろそろ親越えの時期じゃないかと父さんに実戦訓練を挑んだら良い所までいくんだけど一度も勝てなかった。つえーよ、現役軍人。もう少し経験を積むんだなと得意げに言われた。すげー悔しかった。けど『親の壁』っていう大きな障害に心が歓喜に震えていた。いつか絶対に超えてみせる。




○月×日◇曜日
久しぶりに領内にある孤児院を訪れた。少しだけ頭痛がしたけど元気に走り回る子供達の姿に癒された。この孤児院は江戸時代で言う寺子屋的な役割を与えていて、転生知識で成功した計算知識チート作戦で学んだ大人が孤児院の子供や近所の子供を集めて授業を行うように指導していた。その成果は少しずつではあるが実ってきていて、孤児院にいる子供全員が既に掛け算割り算くらいなら出来るようになっていた。これからもしっかり指導していけば俺が大人になる頃には結構優秀な人材が出てくるんじゃないかと予想している。理解力の乏しい子供に説明するって事は大人もなるべく簡単に教える事を整理するので復習に丁度いいとか。さすがにそこまでは考えていなかったけど嬉しい誤算である。内政チートじゃね? そう思ってウキウキしていたけどやっぱり駄目だった所もあった。ネジやクギ、マスケット銃などの部品の規格化である。やはりベテランの職人でも同じものを作るのは難しいらしく、難航しているとか。俺だってそんなに工業的な知識は持っていないのでアドバイス出来る事はあんまり無かった。パイプを作って川から水を引いて作った簡易式公衆水洗トイレはかなり人気のようだったけど。




○月×日◇曜日
父さんから学院で良い人は見つかったかと尋ねられた。それを俺に聞くとかアンタは鬼か! いや、魔法学院はそういう場でもある事は確かなんだけど。俺だって学院ではそれなりにアピールをされたりするが一歩踏み込んだ関係になった人は誰もいない。あれ、もしかしなくても俺のせい? ヘタレて一歩踏み出せない俺が悪いのか? いいんだ、俺には魔法衛士隊で名を上げるって目標があるんだからな!

……もう寝よう。




○月×日◇曜日
そろそろ里帰りによる休息も取った事だし、クラスカードの回収に専念するかと言う話になった。今までに集めたクラスカードは四枚。騎乗兵(ライダー)、槍兵(ランサー)、弓兵(アーチャー)、暗殺者(アサシン)の四つ。残っているのは騎士(セイバー)、魔術師(キャスター)、狂戦士(バーサーカー)の三つ。残っている中でも魔術師は大丈夫だと思うが他の二つはかなりやばい。もし発見したとしても万全を期す為に弓兵に手伝ってもらった方が確実だろう。弓兵の事なら頼めば協力してくれるに違いない。そういえばあまり突っ込まないようにしていたけどルビーとサファイア『は』弓兵の正体に気付いてるっぽい。イリヤと美遊が知らないのはどうなんだろうか、戦闘中に驚愕の事実みたいに露見したら大変な事になるぞ。まあ、俺が首を突っ込んだ所でどうにかなる話でも無いし、傍観するしかないんだが。




○月×日◇曜日
トリスタニアの王宮で何かあったらしい。詳しい話はまだ伝わってこないのだがアンリエッタ女王陛下を攫おうとした反逆者が現れたとか。詳しい内容が伝わらない内は色々な噂が流れていたけどルビー達の報告で王宮付近に反応があった事を伝えられた。噂とルビー達の報告を合わせてみれば王宮に大変な事が起きている事は確実だと急いで王宮に向かうつもりだったが既に反応は消えているとか。近くに弓兵さんの反応がありましたし、大丈夫でしょうと言ったルビーの言葉を信じて、装備を整えてからイリヤ達に引っ張られながら王宮まで訪れるとルビーの案内で地下水路へ向かう。地下水路の奥にいたのはぶっ倒れているルイズとボロボロの姿の弓兵、アンリエッタ女王と見覚えの無い女性と隻腕の男性、そして見るも無残な姿で死んでいた男性がいた。




とある妹の記憶
私のお兄様はメイジとしても人間としても貴族としてもあまり褒められた人物ではありませんでした。ですが、トリステイン魔法学院から夏季休暇で帰ってきたお兄様はとても成長されていました。年端もいかないイリヤさんと美遊さんを使い魔として召喚してメイドとして雇っていると聞いた時は変態的な行動をするお兄様が思い浮かんでイリヤさん達に気を使ってしまいましたがお二人の話からお兄様の変態的な趣味はどうやら治ったようでした。むしろ、心を入れ替えた様子でメイドの使用人に一人一人丁寧に謝罪をする姿はとても真面目で好感の持てるものでした。家族会議の席でどうやらお父様と二人で何か隠し事をしているようでしたが二人とも隠し事をする事が下手なのでお母様も私も気付いていました。

お兄様の成長は人間的なだけではありません。実家に帰ってきてからいつも早起きして朝から魔法の鍛錬を行っている事は知っていました。学院へ行く前のお兄様の実力ははっきりと言ってしまえば私より下。今でも『魔法』だけなら私より下のようですがお父様を相手にした実戦形式の訓練では目を見張るものがありました。スクウェアクラスのメイジであるお父様を相手に一歩も引かず、対等の動きをしていました。何度やっても勝てない事を認めたのか、訓練を終えてこちらに歩いてきているお父様と目が合いました。

「どうした、こんな朝早くに」

「お父様達がここにいると聞いて。お兄様はどうでしたか?」

私の質問にお父様は嬉しそうに笑いました。

「以前とはまるで別人だ。今のアイツならいつか私を超えるメイジになるだろうな」

そう言って笑うお父様はお兄様の前では平然な表情を浮かべていましたが私の前では大量の汗を流して、何度もブレイドで打ち合った右手は痙攣していました。

それに比べて、遠目で見えるお兄様は特に疲労した様子も無く、訓練を再開していました。

それから何日か過ごしている内に成長――いえ、昔のお兄様に戻っている事を実感出来ました。奇人変人と言われる前、まだ魔法がろくに使えない、けれど強い心と勇気を持っていた小さい頃のお兄様に。私が悲しい時は何も言わずそばにいてくれて、私が怖かった時は優しく抱きしめてくれた――――私が大好きだった頃のお兄様に。

「お兄様? お出かけになるのですか?」

「ああ、ちょっと遊びに行ってくる」

にっこりと笑って鼻を啜るお兄様を見て、ああ、嘘なんだなと思いました。お父様とお兄様が嘘をつく時の癖は鼻を啜る事。王宮の方で何か事件があったと聞きました。もしかしたらお兄様はその件に関して一枚噛んでいるのか。お父様と二人で何を隠しているのか分かりません。

ただ、お兄様を見送る私の目にはお兄様の背中が大きく見えた事が嬉しくて無事に帰ってくる事を祈るだけでした。



後書き
感想に背中を押されて本板へ移動しました。これからよろしくお願いします。
内容としては黒歴史の扉が開き、物語が加速する的な感じです。



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記⑨
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/08/02 20:59
○月×日◇曜日
満身創痍という言葉が相応しいボロボロの格好をした弓兵(アーチャー)が溜息を吐いて疲れた身体に鞭を打って手渡してきたモノはクラスカード。しかも、クラスカードに描かれていたのはもっとも警戒するべき狂戦士(バーサーカー)のイラスト。弓兵(アーチャー)一人で最強の一角である狂戦士(バーサーカー)を討ち滅ぼした事に内心で驚きながら、弓兵(アーチャー)の格好がボロボロである事に納得がいく。そんな時、弓兵(アーチャー)から諌める様な視線が飛んできて少しだけ首を傾げた後、顔を青くしているイリヤと美遊が視線に入って納得すると羽織っていた貴族の証であるマントを脱いで、おそらく狂戦士(バーサーカー)に殺されたであろう凄惨な死に様の男性にマントを被せてイリヤ達の視界に入らない様に立ち位置を変える。この世界はイリヤ達が過ごした日本に比べて死の感覚がとても身近にある。そんな世界で過ごした自分でも少し怯んでしまった死に様だ。イリヤ達にとってソレはとても衝撃的なモノだったに違いない。アンリエッタ様の指示で詳しい説明は後日となり、ぶっ倒れたままのルイズやボロボロの弓兵(アーチャー)を気遣いながら地下水路を後にした。

地下水路で別れた隻腕の美男子とアンリエッタ様が凄く良い雰囲気を出していたのは勘違いという事にしておいた。隻腕の美男子が『何者』なのか、予想だけならいくらでも出来るがそれを確信に変える一歩を踏み込む覚悟は無かった。アニエスと名乗る銃士隊に所属するらしい女性に耳元で余計な検索はするなと囁かれた時は正直、心臓が飛び跳ねた。

クラスカードの件で感覚が可笑しくなっていたが元々、ただの学生である俺が一国の王たるアンリエッタ様と個人的な面識がある事自体が異常な状況なのだ。


○月×日◇曜日
詳しい説明は後日という事で解散となった昨日、何処に宿泊するか悩んでいたらアンリエッタ様が気を使ってくれて王宮に泊めてくれた。朝食を済ませた後、メイドの方が部屋を訪ねてきて、アンリエッタ様が呼んでいると案内されたのは一度来た事のある応接間だった。そこにはアンリエッタ様とマザリーニ枢機卿、少しは回復したのか顔色が戻っている弓兵(アーチャー)の三人とイリヤ達だった。昨日ぶっ倒れていたルイズがいない事に気付いた俺が怪訝な表情を浮かべると弓兵(アーチャー)から身体に別状は無いが膨大な魔力を放出した影響でぐっすり寝ていると教えてもらった。なるほどとなんとなく納得しかけた俺だったが言い表せない違和感に首を傾げた。

膨大な魔力を放出すれば誰だって疲弊する。『魔法』を使うには負担が掛かるのだ。それはこの世界に住むメイジなら避けられない。たとえそれが魔法が使えない『ゼロ』のルイズでも。

そこまで考えてその違和感の正体に気が付いた。

――――魔法が使えないルイズがぶっ倒れるくらい強力な魔法を使う。

違和感の正体に気付いた俺が事情を知るアンリエッタ様から受けた説明は驚愕のモノだった。

俺が珍しいな程度に思っていた弓兵(アーチャー)の左手に刻まれたルーンはハルケギニアに伝わる伝説の使い魔『ガンダールヴ』と同様の物であるらしく、弓兵に『ガンダールヴ』のルーンを刻んだルイズは火・水・風・土の四系統に属さない伝説の系統『虚無』の担い手だったらしい。込み入った事情までは教えてくれなかったがあの地下水路を訪れていた弓兵(アーチャー)達の前に狂戦士(バーサーカー)が姿を現して、弓兵(アーチャー)と交戦を開始、亡くなっていた男性はその戦闘に巻き込まれたらしく、押され始めた弓兵(アーチャー)が『無限の剣製』を展開、塗り替えられた『セカイ』の中で弓兵(アーチャー)を助ける為にルイズが唱えた魔法がルイズを『虚無』として覚醒させて放たれた魔法が複数の命を残した狂戦士(バーサーカー)を殺し尽くした。狂戦士(バーサーカー)を殺し尽くして呆然となっている時に俺達が地下水路を訪れたとか。

そんな世界を揺るがせかねない秘密を俺に説明した理由はただ一つ。俺もルイズほどでは無いが系統魔法は苦手な部類で、春の使い魔の儀式でルイズと同じ『人間』を呼び出したのは俺だけである。

使い魔のルーンを見れば一番早いと言われてアンリエッタ様がイリヤ達の方を見ていたけどルビー達を構えて戦闘態勢になっている二人に溜息を吐いていた。いや、別に今更契約をどうこうするつもりは無いけどそんなに俺とするのが嫌なのか? ちょっと悲しくなったけど女の子の初めてのキスが大切な物である事は理解しているつもりなので別にいいんだけど。

アンリエッタ様から宝石の付いた指輪とボロボロの本を手渡されて中身が読めるかと尋ねられたがパラパラと目を通したが何も書かれていない白紙にしか見えなかった。その事を伝えるとアンリエッタ様は少しだけ残念そうな表情を浮かべた後、ここで見聞きした事は口外しない様に言って説明が終了した。まだ、寝ているルイズを置いていく訳にもいかず、弓兵(アーチャー)と別れて新学期が始まろうとしている魔法学院に帰る事にした。


○月×日◇曜日
夏休みが終わり、魔法学院が通常通り授業が始まって日常生活が戻ってきた頃、世界を揺るがす大事件が起きた。既に殺されたと噂が流れているアルビオン王国のウェールズ様が反神聖アルビオン共和国の軍隊を設立してアルビオン国内で武装蜂起を始めたらしい。魔法学院という土地柄、政治的な詳しい話が入ってくる事は無いがウェールズ皇太子が率いる『反乱軍』にはタルブ戦でトリステインが捕らえた筈の軍人が紛れているとかいないとか。色々な憶測が学院を飛び交う中、俺は地下水路で会った隻腕の男性を思い出しながら、ウェールズ皇太子が指揮する軍隊が『反乱軍』として扱われている事に少しだけ寂しさを覚えた。ここまで生き延びたウェールズ皇太子はきっとかなりの苦労と挫折を味わった筈だ。それでも再び立ち上がったその闘志と不屈の信念に感嘆した。なれるモノならウェールズ皇太子の様な男性になってみたい。


○月×日◇曜日
夏休みが終わってからも朝練は続けているのだが、夏休み前に比べてギーシュの指揮能力が拍車を掛けて向上していた。夏休み中に特訓した事は簡単に予想が出来たがなんとなく理由を尋ねたら想像の斜め上を往く答えが返ってきた。

訓練はしていた。ただし、戦上手と有名なグラモン元帥が行う兵の調練に参加して『本物』の軍隊を指揮して何度も模擬戦を行ったとか。全てギーシュの思い通りに動くゴーレムとは違い、指揮するのは意志の有る人間、それも軍隊同士のぶつかり合いだ。ゴーレムを操るのに比べれば必要とされる指揮能力は雲泥の差であり、現役軍人である家族相手に一蹴されてボコボコになったらしいがその経験は何物にも変えられないものだと嬉しそうに語っていた。

俺だってスクウェアクラスのメイジである父さん相手に何度も挑んでボコボコにされたと自慢した。うん、隣の芝生は青く見えるってのは本当なんだな。お互いに実家の自慢話をした後、笑いあって杯を交わした。次の日に酔いつぶれた俺とギーシュが朝練に遅刻して弓兵(アーチャー)にこってり絞られたのはここだけの秘密である。


○月×日◇曜日
ウェールズ皇太子が神聖アルビオン共和国討伐に立ってから既に一ヶ月。最初は不利な状況から開かれた戦局は日が経つ事に均衡を保つようになっているらしい。最大の原因は神聖アルビオン共和国から続々と個人単位で離反者が現れているらしい。『レコン・キスタ』に敗れて成りを潜めていたアルビオン王国の誇りと魂は着実に受け継がれていた訳だ。これはウェールズ皇太子という圧倒的な求心力とカリスマを持つ人物を前回の戦争で殺せなかった『レコン・キスタ』の失態である。サウスゴータ地方から始まった戦争は戦火を広げながら、それでも着実にウェールズ皇太子に状況が傾いていた。


○月×日◇曜日
均衡する戦火を打破する為にウェールズ皇太子が『正式』にトリステインに対して同盟を結ぶ条約を持ちかけてきた。既にタルブ戦で神聖アルビオン共和国とは決定的な亀裂があるトリステインは昔から友好関係にあるアルビオン王国の要請に応えて、同盟は成立、勝ち馬に乗るべく多くの男子学生が王軍募集に参加する中、俺は迷っていた。確かにこの戦力差なら勝利を得る事が出来るだろう。ただ、俺が軍に参加するという事はイリヤ達を戦場へ連れて行く事と同義である。

考えた末に王軍に参加しない事を決めた俺は周囲から影で臆病者と罵られている事を知りながら戦火の拡大によりウェールズ皇太子の依頼で戦争難民を受け入れ始めた学院の仕事を手伝っていた。食料の配布や仮設住居の設置、戦況が段々と有利になっていく報告を聞きながら暇を持て余す子供達の世話をしていた時、俺は深い帽子をかぶった『彼女』と出会った。




ウェールズ・テューダーの記憶
「ようやくここまで来たね」

「いえ、まだまだですよ、ウェールズ様。奴等を殲滅し、このアルビオンを以前より良き国へ変える。皆、ウェールズ様の言葉を信じてここにいるのです。その言葉はアルビオン王国を再建し、トリステインに避難している難民がこの国で笑顔で過ごせるようになってからにしてください」

「……それもそうだね」

僕の横に立つ『レコン・キスタ』を抜けてこちらについてくれた軍人、サー・ヘンリ・ボーウッドの言葉に苦笑を浮かべる。僕の仕事は奪われてしまったアルビオン王国を取り戻す事では無い。アルビオン王国の再建は僕が成さなければならない事の通過点に過ぎない。この国に住む全ての人が笑顔を浮かべて笑い合える日、その時まで僕は止まる事も諦める事も許されない。いや、僕自身がそれを許さない。僕の為に傷付いた人が沢山いる。僕が無理すれば心配してくれる人がいる。けど、僕は僕を大切に思ってくれる人達に報いる為、無理をしてでも強い『ウェールズ・テューダー』でなければならない。

「なぜ、そこまでお急ぎなのですか?」

アルビオン軍人とトリステインから来た援軍が仲良く杯を交わす様子を見ながら尋ねてくるボーウッドの言葉に頬を掻く。

「僕には好きな女性がいる。失ってから初めて気付いたんだ、僕は彼女をどんな事をしても欲しかったんだと。だけど、彼女は今の僕では手が届かない存在だ。だから、僕はこの国を取り戻す。不謹慎かな?」

異性の為に国を奪還する。呆れられる事は承知の上だ。それでも僕を信じて付いてきてくれた人に嘘を付きたくなかった。

そんな僕の言葉にボーウッドは目を丸くした後、愉快そうに大声で笑った。その様子に他の兵士達もこちらを見ていた。

「不謹慎? 大いに結構! 誇りの為、民の為、綺麗事ならいくらでも並べる事が出来ます。好きな女性の為? これほど身勝手な国取りなど聞いた事ありません」

「っ」

言葉が胸に突き刺さる。

「……ですが、『好きな女性を手に入れる為』。これほど分かりやすく簡潔で完結、男が男に協力する言葉は無いんじゃないんですかね」

喉を鳴らして笑うボーウッドはシニカルな笑みを浮かべると大声で全軍にその事を伝えた。

良い酒の肴として使われた僕の恋心は後に引けなくなった状況にほんの少し高揚していた。

――――そんな時、僕は瀕死の重傷を負った僕を助けてくれた彼女を思い出す。大きめの帽子をいつも被っていた彼女の正体はなんとなく分かっている。けど、それをどうこうするつもりは無い。彼女には彼女の想い人がいる。周りの子供達に聞いてみるとそれは二人の幼いメイドを連れたトリステインの貴族らしい。そして僕は丁度そんな条件に当てはまるトリステインの学生と地下水路で出会っている。

今頃、彼女と彼は出会えたんだろうか。

そんな事を思いながら僕はわいわいと騒いでいる仲間の中に紛れていった。



後書き
ルイズの虚無でバーサーカーを殺し切った所は少し強引だった気もしましたがルイズ覚醒フラグの回収完了です。今更だけどアサシン戦を起こして覚醒の方が良かった気もしますがそれはそれで。
記憶はウェールズ皇太子です。ひたすら王道主人公として頑張ってもらっています。
次回、ついに主人公が恋をする!? 主人公が出会った『彼女』の正体とは!



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記⑩
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/08/13 15:45

○月×日◇曜日
魔法学院へ避難してきているアルビオンの戦争難民の一人にとんでもない美人がいた。深く被った帽子のせいでしっかりと目に焼き付ける事が出来なかったけどその美貌はアンリエッタ様に負けず劣らずのモノであり、男の性として不躾と分かっていながらも向けてしまった女性の母性を現す二つの果実はルイズが目撃したら卒倒するんじゃないかと本気で心配になってしまう程に立派な物だった。あのキュルケでさえ、彼女の前では霞んで見える。気が付いた時には纏わり付いていた子供達を引っぺがし、彼女に声を掛けていた。いつも異性を口説いているギーシュと違い、年頃の異性に自分から声を掛けた事が無い俺は背中が痒くなるような台詞を思い付く筈も無く、ストレートに名前を尋ねていた。今更だが、色々とバレバレだろ。

彼女は俺の顔を見ると少しだけ驚いた表情を浮かべた後、にっこりと微笑んで自分の名前は『ティファニア』だと名乗った。ティファニアさんが自分の名前を名乗って俺に向けて微笑んできた時、その瞳の奥に悲しみの色が含まれていた。多分、早く住み慣れたアルビオンの土地へ帰りたいのだろう。その事に気付いていながら何も出来ない俺はこの時ばかりは王軍へ参加しなかった自分を呪った。それと最近、頭痛がするようになってきた。特にティファニアさんの事を考えている時によく多発する。『恋の病』とはよく言うが今の所、ティファニアさんの事が好きとか特別な感情を持っている訳でもない。もっと別の大切な何かを忘れている気がした。


○月×日◇曜日
アルビオンから避難してきた人々の相手をしながら今までは忙しくて周りを見る状況が無かったけど、そろそろ学院に残った女生徒達も慣れてきたのか、食事の配布などが上手く回るようになってきて余裕が出来てから気が付いた。戦える男が全然いない。男子生徒は勿論、男性職員もほとんど戦争に参加していて学院にいない。分かるだけでもオスマン学院長とコルベール先生、それに自分と弓兵(アーチャー)の四人くらいだ。オスマン学院長とコルベール先生はなんと言うか頼りない。メイジとして遥か高みに居る事は充分承知しているが『戦闘』となった場合、正直に言って戦力は足りない気がする。今の神聖アルビオン共和国に魔法学院を奇襲するだけの余裕があるかどうか知らないがもしそんな自体に陥った場合、戦いの矢面に立てる男性が最低自分と弓兵(アーチャー)の二人とか洒落になっていない。

しかし、そんな俺の不安を余所にアンリエッタ様がアルビオンの難民を守る為に銃士隊を派遣した時は俺が心配するような事など既に対応済みなんだと感心した。余談であるが魔法学院へ来た銃士隊の中には地下水路で出会ったアニエスさんもいた。


○月×日◇曜日
ギーシュがアルビオンへ行っていて参加していないが弓兵(アーチャー)と二人で朝練は続けている。メイジである俺が杖ではなく鉄製の長剣を振り回して訓練しているのが珍しいのか、遠巻きにこっちを眺めているギャラリーが多くなってきた頃、銃士隊の一人が俺に声を掛けてきた。その内容は弓兵(アーチャー)と行っている模擬戦の相手に弓兵(アーヤー)ではなく、自分とやらないかと言う物だった。弓兵(アーチャー)と俺は顔を見合わせた。表面上はとても丁寧な提案だったがその瞳の奥にはメイジが剣を振るった所で銃士隊には勝てないと語っていた。規律に厳しいアニエスさんの部下にもこういう人間がいる事に内心で驚きながらその申し出に頷いた。

結果だけ言ってしまえば俺の圧勝だった。向こうは貴族のお遊び程度だと思っていたようだがこれでもサシでオーク鬼と切りあえるくらいの実力はあるのだ。こちらを遠巻きに見ているギャラリーの中にティファニアさんの姿を確認した俺は少し調子に乗ってしまい、敵討ちとばかりに挑んでくる銃士隊の面々を下していくと怒り心頭のアニエスさんが現れた。俺が倒した銃士隊の面々に早く警備に戻れと声を上げた後、散っていった銃士隊の人を見届けるとアニエスさんが勝負を挑んできた。先に喧嘩を売った非はこちらにあるが銃士隊の誇りとしてメイジ相手に『剣』で負ける事は認められないとかなんとか。そろそろ連戦の疲労が出てくるから止めた方が良いと止める弓兵(アーチャー)の話を聞かず、調子に乗っていた俺はアニエスさんと対決して一進一退の攻防を繰り広げた後、連戦の疲れを見せた一瞬の隙を突かれて持っていた剣を弾き飛ばされて敗北した。調子に乗って墓穴を掘るとか恥かし過ぎる。しかも、広場の片隅で落ち込んでた俺をティファニアさんが嬉しそうに慰めてくれたのは致命的だった。約束通り強くなっていてくれて嬉しいとか。俺を慰める冗談としても変わった言葉だった。


○月×日◇曜日
今日はルイズが金髪の女性に攫われていった。いや、正確に記すなら王立魔法研究所『アカデミー』に所属しているルイズの姉、エレオノールさんが魔法学院をいきなり尋ねてきて、見事なブロンドの髪ときつそうな顔立ちの美人であるエレオノールさんは第一印象通りきつい性格で止める魔法学院の先生をかたっぱしから黙らせるとメイドのシエスタを連れて強引に実家へ帰ってしまった。朝練に顔を出した俺は事の顛末を弓兵(アーチャー)から説明されて帰ってくるまで指導が出来なくなる事を告げられた。朝早くに尋ねてきて今も支度の途中に抜け出して俺に謝罪を言いに来たとか。下手に首を突っ込んで面倒に巻き込まれるのが嫌だった俺は深く溜息を吐いて肩を落としている弓兵(アーチャー)へ御疲れ様と声を掛けておいた。


○月×日◇曜日
ルイズ達が実家に帰省してから既に数日、生活リズムが安定してきて自由時間が多くなってきた俺は嬉しそうに表情を輝かせながら整備と言ってゼロ戦を弄繰り回しているコルベール先生を遠巻きに眺めているとコルベール先生と目が合って会釈した。そうしたら何を勘違いしたのか、コルベール先生がこっちに歩いて来て、少し大きめの試験管を嬉しそうに見せびらかしてきた。なんでも蓋をした試験管にガソリンを入れて試験管を『固定化』する事でガソリンの気化を防ぎ、持ち運び出来るようにしたんだとか。その言葉に俺は思い切り吹き出した。弓兵(アーチャー)がガソリンの危険性を教えたんじゃないのか? そんな事を思った俺の思考を察したのか、コルベール先生は嬉しそうに話し出した。これで破壊だけが火の骨頂でない事が証明で出来ると。なんでそんな事を俺に言うのか聞いたら自分で作った試作品に反応してくれる生徒は少なく、俺はよく反応する生徒なので驚く反応が見たかったとか。

そんな事の為にガソリンを持ち出すなよ。心の中で突っ込みながら弓兵(アーチャー)にもっと言い含めてもらおうと心に決めた。


○月×日◇曜日
ルイズが実家から帰ってきた。そんな話を耳にした俺はルイズ達の様子を拝見しようとルイズの部屋を訪れたら、ルイズは慌しく旅の支度をしていた。帰ってきたばかりでもう他の場所に出掛ける準備をしているルイズに目を丸くした俺は準備の手伝いをしている弓兵(アーチャー)に視線を向けた。弓兵(アーチャー)は大きな溜息を吐いてから肩を竦めると事情を掻い摘んで説明してくれた。俺達が回収しているクラスカードのように口外していけない任務をアンリエッタ様から承っているルイズは今回の戦争に参加しようとしていた所を実家に却下されて連れ戻されたのだが、口論の末に実力を見せる事となり、ルイズを守る使い魔である弓兵(アーチャー)がルイズの両親と戦闘となり、かなりやばい所まで押されたもののなんとか撃破して戦争参加を許してもらったとか。いや、弓兵(アーチャー)を二人がかりとはいえ追い詰めるとかどんな化け物だよ、ラ・ヴァリエール家。

そしてルイズ達は戦場へ向かっていった。




ギーシュ・ド・グラモンの記憶
『て、敵襲ッ!』

怒号とガンガンと鐘を鳴らす音が聞こえてきた僕は慌てて杖を手に取ると宿舎を飛び出して二つの月に照らされて薄暗い外へ目を凝らす。

「なッ!」

補給部隊であるこの隊から遥か前方、前線で戦う大隊が野営地としている場所の付近が風に揺らめきながら赤く染まって空を明るく赤色に染めている。

「どうしたッ! 何があった!」

『わ、分かりません! 黒い光が奔ったと思ったら前線部隊の野営地が火の海に! 敵は単騎! 黒い剣を持って凄い速度でこちらへ接近しています!』

何が起きたのか分からず、動揺している兵士に対して叫んだ僕の言葉に兵士は不可解な報告をする。単騎で部隊に突撃を仕掛ける。それがどれだけ無謀な事なのか、本来なら論じるまでもない。しかし、何かが違う。そう思った僕の勘はすぐさまソレが正解である事を理解した。

『クククッ、ハハハハハッ! 素晴らしい、素晴らしいぞ、このチカラはッ!』

僕の目の前に現れたのは夜中であっても暗く見える漆黒の鎧と長剣を片手に持った初老の男性だった。肌がピリピリと痛む。存在するだけで相手を恐怖へ引きずり込もうとするこの雰囲気、僕は何処かでこの雰囲気を知っている。

『奴が妙な魔法道具(マジックアイテム)を持ってきたと思えばただのカードが剣になるとはなッ!』

狂気を含んだ笑みを浮かべる男性の瞳は濁り狂っていて、正気の気配を見る事は出来ない。

『そして剣から伝わるこのチカラ、このチカラがあれば私一人でこのセカイを統べる事が出来る! こんな指輪などただの玩具ではないか!』

誰かに向けて話しているのか、ただの独り言なのか、判断が付かないにせよ、突然の襲撃者は『何か』に呑まれている。理性ではなく、本能が理解した。

「あ……」

あの襲撃者から溢れ出る雰囲気は本気の弓兵(アーチャー)が出す雰囲気に似ている。

そんな時、襲撃者と視線が合った。襲撃者はニヤリと笑い、漆黒の長剣を握る。漆黒の長剣が鈍い光を放っていた。

自然と恐怖が湧いてこなかった。ただ漆黒の長剣から感じる圧倒的な暴力の前でどんなに足掻いた所で無意味だと本能が知っていた。

『約束された――――』

『全軍集中砲火!』

襲撃者の腕が振り下ろされるよりも早く、辺りに響いた声と共に火が、水が、土が、風が、無数の魔法が襲撃者目掛けて殺到する。

「や、やったか?」

魔法を放ったメイジの一人が魔法が殺到して土煙を立てている場所を見る。

『止めるな! 精神力がカラになってもいい、あれはタルブに現れた黒き悪魔と同じ存在だ!』

この補給部隊を指揮しているウェールズ皇太子の怒号が戦場に響き、部隊に所属するメイジが放った魔法が次々に殺到する。

魔法を放ったメイジの誰もが過剰攻撃だと思った。

ただアレの存在を知っている僕と攻撃を続けろと命令を出し続けているウェールズ皇太子だけがアレを倒すにはまだまだ足りない事を知っていた。

『――――勝利の剣』

――――世界が闇の光に覆われる。

『やれやれ、到着早々クライマックスとはな……』

そんな世界の中で一筋の光が見えた。

『――――熾天覆う七つの円環』

目の前に広がる花弁のような光が音を立てて割れながら闇の光を受け止める。その赤い外套を纏った背中は大きく見えた。

『この魔力とその宝具――――、貴様が何者であるか知らないが『彼女』で無いなら相手にならんな』

白と黒の剣を構えた彼は呆れながら溜息を吐いた。




?????
「あら? せっかく渡した玩具をみすみす敵に渡すなんてもったいない事をしたかしら」

黒いローブを纏った誰かは黒い鎧を纏った男性と赤い外套を纏った男性の戦いを水晶を覗き込んで遠くから見ていた。

「まあ、いいわ。これでようやくこのカードの使い方が分かったから。とてもいい道化でしたよ、クロムウェル」

黒いローブを纏った誰かは水晶から見える映像の中で勝ち鬨を上げているウェールズ達を見ながら笑った。

「私以外にこのカードの使い方を知っている人間は二人、トリステインの誇る『聖女』だったかしら。確か居場所は…………そう、トリステイン魔法学院」


――――闇が動き出す。




後書き
色々ツッコミたい事があると思いますが一言だけ、ラブコメ期待した人はごめんなさい。



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記⑪
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/08/22 22:44

○月×日◇曜日
アルビオンの戦争で何か動きがあったらしい。アニエスさんが俺達にも関係があるかも知れないと言う事で詳しい話を教えてくれた。このまま行けば勝てると思っていた神聖アルビオン共和国とアルビオン・トリステイン連合軍の戦力比が大きく変化しているらしい。深夜の時間帯に黒いもやを纏った剣と鎧を装備して男性の単騎敵襲に遭い、前線で戦っていた軍は壊滅状態に追い込まれて、一時は連合軍を指揮するウェールズ皇太子が駐留している補給部隊まで食い込まれたとか。赤い外套を纏った男性が単騎突撃してきた男性を打ち倒して何とか事なきを得たらしい。そして単騎突撃してきて連合軍を総崩れにした人物の正体は『死霊使い(ネクロマンサー)』と異名を持ち、死者を操る『虚無』であると噂の神聖アルビオン共和国の初代皇帝オリヴァー・クロムウェル本人だった。連合軍はクロムウェルが放った闇の閃光を伝説の『虚無』として『虚無』の恐ろしさを思い知り、クロムウェルが打ち倒された今でも連合軍内部で足並みが揃っていないらしい。それと同時に神聖アルビオン共和国でも皇帝であり、『虚無』という切り札だったクロムウェルが死んだ事で軍内部が荒れていて、アルビオンの戦場は妙な硬直状態を向かえているとか。

ここでアニエスさんが俺達に関係あるかもしれないと推測したのはオリヴァー・クロムウェルが『黒いもや』を纏っていた事。アニエスさん自身、地下水路で『黒いもや』を纏った狂戦士(バーサーカー)と対峙している。『黒いもや』から連想しても可笑しくは無い。ただ、何故オリヴァー・クロムウェルがクラスカードの『正しい使い方』を知っているのか、それも『虚無』が成せる業なのかどうか、俺にもイリヤ達にもわからなかった。


○月×日◇曜日
今日は勇気を出してティファニアさんをお茶に誘ってみた。正直、ティファニアさんはアルビオンの民間人で家柄とかそういう意味では両親に反対されるかもしれないが、俺が初めて異性としての好意を持った人である。なんで惚れたのか、自分でもよくわからない。恥ずかしい話、美人である事も勿論あるがそれ以外に自然と目で追う様になっていて、子供達と遊んでいる時に浮かべる笑顔が一番綺麗に見えた。

たぶん、顔が真っ赤になっていただろう俺の申し出をティファニアさんは少し頬を赤らめて、はにかみながら頷いてくれた。それから先の事はテンションが上がりすぎてあんまり覚えていない。ルビー曰く、物凄い滑稽だったらしい。明日はキュルケにでも頼んで恋のいろはでも教えてもらおう。


○月×日◇曜日
即断即決という事でキュルケに相談してみた。結果、鼻で笑われた。俺の様子を見ていれば誰でも分かる様な態度だったし、ちょっとずつアプローチもしているので大丈夫とか。むしろ、何を教えればいいんだと尋ねられて答えに困った。貴族の女性と違い、ティファニアさんへ女性が喜びそうな言葉を並べた所であまり響かないだろうし、高い贈り物をプレゼントしても恐縮するだけだ。キュルケに指摘されてその事を気付かされた。立場が違えば口説き方だって変わってくる。流石キュルケ、なんだかんだで人の事をよく見ている。ティファニアさんの場合はただそばに居て、ゆっくり絆を深めていけばいい。呆れた様に苦笑しながら、キュルケにそうアドバイスを貰った。これから師匠と呼ばせてもらおうと思ったがキュルケ本人から却下された。俺はなんだかんだいいながら良い友人を持てたかもしれない。


○月×日◇曜日
キュルケに相談してからというもの、訓練と勉強と手伝いを終えて空いた時間は可能な限りティファニアさんの隣に居る事にした。一緒に過ごしていく内にティファニアさんの優しさや強さを見る事が出来て、ますます好きになった。それと同時に一時期収まっていた偏頭痛が再発した。特に子供達と一緒に遊んでいる時が一番酷い。デジャヴというかなんというか、頭の中を全然知らない森の中でティファニアさんも交えて子供達と遊んでいる光景が過ぎる。幻覚か何なのか、頭痛を堪えながらティファニアさんの隣に居た時、その答えを真剣な表情を浮かべたティファニアさん本人から手渡された紙切れ――――俺が書いた日記が教えてくれた。ティファニアさんがいつも帽子を被っている理由、そんな事は関係無いと言えるくらいに強くなると約束した事、弱い自分から目を背けて逃げ出した事。

たかが好きになった相手が『エルフ』だったくらいで俺は動揺してしまった。

だからあの時、俺は大事な場面で動く事が出来なかった。




ジャン・コルベールの記憶
その日の朝は何かが可笑しかった。朝早くからわたしの研究室にも聞こえてくるアルビオンから来た戦争難民の生活音、元気な子供達の挨拶、何があっても守らなければならない命の営みの音が聞こえてこなかった。恐ろしさを感じるほどの静寂が学院を包み込んでいた。わたしは長年培ってきた自慢出来ない勘を信じて杖を腕に忍ばせながら慎重に研究室の外に出た。そして研究室の外に出た時、その空気に触れて嫌な勘を確信へ変化させた。

――――ビリビリとした戦場の空気。

息を忍ばせ、学院に進入してきた襲撃者の数人を声も上げる暇すら与えず、一切の躊躇いを持たず速やかに焼き殺して移動していたわたしはアルビオンから避難してきている民間人が集まる広場へ続く入り口の近くで集まっている見慣れた顔を見つけた。優秀な『火』の使い手であるキュルケ君に優秀な『風』の使い手であるタバサ君、銃士隊の隊長であるアニエス君と数人の銃士だった。

「いったい、何事だ?」

「あんたは捕まらなかったのか。見ての通りだ、襲撃者によってあんたの生徒とアルビオンからの避難民が捕らえられた」

白々しい、そう自分に思いながら尋ねた言葉にアニエス君が忌々しそうに答えてくれた。それはそうだ、アルビオンからの避難民が敵の襲撃を受けて犠牲になる。下手に処理を誤るとアルビオン王国とトリステインの同盟に大きな亀裂を産む事になる。

「一人、孤軍奮闘した生徒がいたようだが多勢に無勢だったようだな」

無言で瞳の奥に怒りを燃やしているキュルケ君とタバサ君の視線の先には広場で生活していたアルビオンの避難民と捕らえられた女学生、無用な殺生が起きないようにわざと捕まったであろうオスマン学院長に対して見せ付けるようにボロボロの姿の彼が襲撃者二人掛かりで組み伏せられて、見慣れた顔の男にその頭を足で踏み付けられていた。メンヌヴィル、わたしの拭いきれぬ過去を知る人物。アニエス君も一見、平気な表情を浮かべているように見えたがよく見ると悔しそうに唇を噛み締めていた。

『よく聞け、人質ども! この餓鬼は恐怖に震えて動けなかった貴様等を守る為に戦い、敗れた敗北者だ! 貴様等もこんな風になりたくなければ大人しくこちらの指示に従え!』

聞こえてきた台詞で大体把握できた。いくら襲撃者でもアルビオンからの避難民全てを監視するのは難しい。それなら分かりやすい『イケニエ』を見せてやればいいだけの話だ。実際、彼に対する殴る蹴るの惨状を見ていた避難民と女学生の瞳からは絶望の色しか見えない。

「…………実際、アイツはいい活躍してるわ。少なくとも人質を取られるまでに襲撃者を七人は倒したようだし、イリヤと美遊が避難民に紛れ込めた。襲撃者のボスはアイツをいたぶる事に夢中で他には手を出していない」

この状況で良いと無理矢理言い聞かせている事が簡単に分かるキュルケ君の言葉通り、襲撃者の興味は仲間を倒した彼を痛めつける事に向いている為に他への被害は皆無である。

『あー、きみたち』

『なんだね?』

『暴力はいかんよ、暴力は。人質が死んだとあってはお互いに退けない所にまで来てしまう』

オスマン学院長の言葉は的を得ていた。もし彼の身に不幸が訪れたならお互いに彼の誇りと名誉にかけて全力の殺し合いに発展するだろう。人質が欲しい彼等にとってもそれは望む物では無い。

『そうとも、殺しはしない。だが、こいつを捕らえるのに部下が七人も犠牲になった。その鬱憤を晴らすのに少しばかり付き合ってもらっているだけだ』

傭兵たちは大声で笑っていた。仲間が死んだ所で動揺するような人間ではない。ただ楽しいから彼に対して暴力を振るっているのだ。

「先生、そろそろ我慢の限界が近いんですけど協力してもらっても?」

「……同意」

彼と親しい友人である二人にとってこれ以上の侮辱は我慢出来る物では無かった。

『もう、止めてください!』

そんな時、中庭の広場全体に声が響き渡る。その場にいた全員の視線が声を上げた帽子を被っている女性に集まる。

『何のようかね? こうなりたくなければ大人しくしていろと言った筈だが?』

メンヌヴィルは面白い物を見つけたと笑う。

『脅迫ですか? 私達を守ろうとして傷付いたあの人の姿を見た所で私は怖くありません』

『だめ……だ。おと、なしくして……』

瞳に強い輝きを宿し、ズンズンとメンヌヴィルに向かって歩いていく女性に向けて彼が首を振って否定する。

『安心してください。今度は私が貴方を守ります』

『面白い、それはどうやって?』

彼に向けて微笑む女性は自分に杖を向けるメンヌヴィルを睨み付ける。メンヌヴィルは笑いながら顔がしっかり見えるように杖で帽子を弾く。

その時、固唾を呑んで見守っていた周囲が別の意味で固まった。

弾かれた帽子に隠されていたどんな宝石よりも美しい風貌、鮮やかな金色の髪、そしてなにより特徴的なツンととがった耳。

『…………エルフ』

誰かが呟いた瞬間、こんな状況にも関わらず周囲が向ける興味の大半を彼女が受け止めた。

「……いまがチャンス」

「ええ、そうね」

『エルフ』、その存在に敵味方関係無く意識を奪われる中でタバサ君が動き、それに追随する形でキュルケ君が仕掛ける。

タバサ君の風が、キュルケ君の炎が、彼を拘束していた二人の傭兵を吹き飛ばす。それに呼応する様に避難民の中に紛れていたイリヤ君と美遊君が飛び出して避難民を囲っていた残りの傭兵を目にも留まらない速度で気絶させる。

「勝敗は決した。無駄な抵抗は止めて大人しくしたまえ」

決定的な好機を作り出してくれた彼女をメンヌヴィルから守る様に立ち塞がる。本来ならこの役目は彼が相応しい。しかし、このメンヌヴィルだけはわたしが戦わなければならない。

「なん……だと……」

メンヌヴィルの表情が驚愕と狂気に歪む。

「この声音、捜し求めた温度、お前は! お前はコルベールか!」

狂気染みたメンヌヴィルの叫びを聞きながら、ボロボロの彼を助けて起こしているキュルケ君とタバサ君の視線を感じた。仕方ない、これはわたしが犯した罪なのだから逃げる訳にはいかない。いつのまにか、生徒達の視線も集まっていた。

「今は教師をやっているのか? かつて『炎蛇』と呼ばれ、任務の為なら女だろうが、子供だろうがかまわず焼き尽くした貴様が!」

メンヌヴィルの言葉に生徒達の間から動揺が感じられた。それでいい。わたしは罪人なのだ。いくら相手が賊とはいえ、人殺しをした人間を英雄視してはいけない。

「ミス・ツェルプストー。『火』系統の特徴をこのわたしに開帳してくれないかね?」

「……情熱と破壊が、火の本領ですわ」

「情熱はともかく『火』が司るものが破壊だけでは寂しい。そう思う。二十年間、ずっとそう思っていた」

だが、大切な生徒を守る為に杖を取ったわたしには破壊する道しか知らなかった。

「だが、きみの言う通りだ」

杖を構えて巨大な炎の玉を生み出す。

「――先生、それは違う」

そんな時、キュルケ君達に支えられた彼から声が聞こえてきた。

「水が命を生み、風が命を運ぶ、火が命を輝かせ、土が命を受け止めて水へ還す。先生の火は命を輝かせる炎だろ。だからっ!」

彼の身体がぐらりと傾いた。いや、違う。支えている二人を自分から引き剥がし、彼はわたしに集中していたメンヌヴィルの背後に踏み込んだ。

「邪魔をするな! 死に損ないがっ!」

「死に損ない? 俺は毎朝もっと地獄を見てんだよっ!」

激昂し、振り返ったメンヌヴィルが放った炎が彼の顔面に襲い掛かる。しかし、迫り来る炎を恐れずに目を開き、首を捻って回避した彼はメンヌヴィルの懐に潜り込む。

「魔法や剣術だけで自分や好きな相手の身が守れると思ってねえよ! 」

渾身の肘鉄がメンヌヴィルの鳩尾に直撃する。下手をすれば死亡クラスの攻撃にメンヌヴィルは狂気の笑みを浮かべて、地面に倒れた。確認すると息はしていた。

「……無手の訓練だってずっと積んできた。オーク鬼や英霊やらと相手が相手で使う機会は無かったけどな」

そう言って彼は地面に腰を下ろすとそのままバタンと倒れる。

「ティファニアさん、いや、『ティファニア』。日記を見たからじゃない、よくわかんないけどティファニアが危ないって思った時、全部思い出したみたいだ」

「っ!」

心配して駆け寄ってきたティファニアと呼ばれたエルフの彼女に彼は笑いかける。

「俺はまだ、強い人間になれたとは思わない。けど、君が好きだってことは理解出来た」

彼の言葉に彼女は涙を溜めて頷いた。その光景を全員が見守っていた。

『これは丁度良い。彼女は人質として連れて行かせてもらうよ』

「え?」

誰も声を出さない静寂の中、男性の声が聞こえた。わたしが気配を感じて杖を構えた時には手刀を受けて気絶したティファニア君の隣に見覚えのある男性が立っていた。

「貴方はワルドッ!」

キュルケ君が叫び、杖を構えたわたしたちに囲まれながらワルド子爵は笑っていた。

「君達の魔法を本当に私へ向けていいのかな?」

その言葉の意味はすぐに分かった。大きな岩の雨が広場の空を覆った。学院の外には巨大なゴーレムとミス・ロングビル――――フーケがいた。岩の迎撃に出なければ避難民に被害が出る。

「君に伝言を伝えておこう。『彼女を助けたければ『カード』を持ってアルビオンへ来い』」

「なッ!」

彼は息を呑みながらワルド子爵を睨み付ける。

「イリヤ! 美遊!」

「はい!」

「いつでもいけます!」

動けない彼の叫びに二人の少女が持っていた杖を輝かせた。

「『みんな』を助けろ!」

『イリヤさん、今回ばかりは真面目にやりますよ』

「当たり前でしょ!」

『私達のどちらかをティファニアさんの救出に向かわせればティファニアさんは助けられたでしょうがその場合、避難民に被害が出たでしょうね…………、良い判断です』

「うん、守ろう。『みんな』を」

学院の空を閃光が包み込む。岩の雨は消し飛んで、青空が見えていた。

しかし、彼だけは悔しそうに地面を何度も殴っていた。



後書き
はい、急展開です。なんとなく察していると思いますが後、数話で完結です。ネタも思いつかないし、ダラダラ続けてもアレなので。完結まで双方の作品に敬意を払いながら頑張っていくつもりなので応援よろしくお願いします。



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記⑫
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/09/01 21:32
○月×日◇曜日
ティファニアに渡された手紙にも書いてあったけど習慣とは本当に恐ろしいものだ。こんな状態になっても日記なんて書いているんだから。身体は傭兵達によってボロボロになっていて、保健室に放り込まれた俺は水系統のメイジから治療を受けて大体の傷を治したのだが、大事をとって一晩だけ保健室で休む事になった。

神聖アルビオン共和国からトリステイン魔法学院へ向けられた刺客の傭兵達による襲撃の被害はこちらがアルビオンから避難してきた民間人を護衛する為に派遣された銃士隊の隊員が数名、学院へ襲撃してきた傭兵達は壊滅状態だった。結果だけ見れば充分に勝利していると言えるものだったがそんな事、俺にとってどうでもいい事だ。ようやく思い出せて好きだと伝える事が出来たティファニアがトリステインを裏切って神聖アルビオン共和国へ寝返ったワルド子爵に攫われた。自分が昔、子供だった頃に読んだ事のある本『イーヴァルディの勇者』の様に攫われたお姫様を颯爽と助けに行く。そんな事が出来たらどんなに良い事だろう。しかし、現実の俺は呑気に保健室で休んでいる。ボロボロの状態でアルビオンへ行った所で何も出来ない。休んで体調を整える事が重要な事は分かっている。それでも落ち着かなかった俺は何度も皆に隠れて外に出ようとしたがその度にキュルケやタバサ、それにコルベール先生、果てにはイリヤと美遊、色んな人が俺を心配してくれて抜け出そうとする俺に対して本気で怒ってくれた。その優しさが本当に嬉しかった。

なんとなく、書く事が恥ずかしいけど俺がどんな状況になっても日記を書き続けるのは習慣だけじゃないんだと理解した。それは些細な事だ。誰かと喧嘩した、誰かと仲直りした、誰かの優しさに触れた、自分の弱さを知った、自分の成長を感じた。日々、気付かない内に起きて身に付いていた俺の弱さや強さ、俺が色んな人に支えられて生きている。そんな当たり前の事を自分で自覚出来る。そんな大切な事を記録しておけるから。だから、俺は日記を書き続けているのかも知れない。


○月×日◇曜日
今更ながら魔法って凄い。あれだけボロボロだった身体の傷を一晩で癒し、万全の状態になってるんだから。一番最初、俺は一人でアルビオンへ行くつもりだった。無謀だって事は分かっている。ワルド子爵は俺に伝言だと言っていた。それはつまりワルド子爵の背後に居る人物はクラスカードの存在を知っている。最悪の場合、神聖アルビオン共和国のクロムウェルの様にクラスカードの『正しい使い方』を知っているかもしれない。『カードを持って来い』と言っている以上、罠が仕掛けてあるアルビオンにイリヤ達を連れて行く事は出来ない。そう考えて、イリヤ達には秘密で出て行こうと思っていたが学院の外へ出たらルビーとサファイアを輝かせていた二人が青筋を浮かべて立っていた。一悶着有った後、黒焦げの俺を正座させてお説教、色々怒られた後で自分達は使い魔だから頼って欲しいと言われた時は正直、ウルッとした。それと同時にルビーの貴方はメイドさんのスカートをミニスカにしてチラリズムを楽しむ変態なんですからシリアスなんか似合いませんよと言われた。うるさい、死ね、過去の失態を掘り起こすな。上げて落とすな、結構良い話で纏まりそうだったのに。

当たり前と言えばそれまでなのだが学院の外でガヤガヤ騒いでいた俺達は学院の皆に見つかった。そして丁度良いとばかりに襲撃者である傭兵達を護送するアニエスさんに捕まった。正確に言えば王宮へ連れて行かれて、アンリエッタ様と面会した。学院を襲撃者から守った功績を評価された事とトリステインにとって裏切り者であるワルド子爵と会話した証人として。行くのですかと尋ねてくるアンリエッタ様に俺はしっかりと頷いた。そんな俺にアンリエッタ様は満足した様子で頷くと規定が変わって受け取る事が出来なかったシュヴァリエの称号を俺に与えてくれた。目を白黒させる俺にアンリエッタ様は歳相応の子供っぽい笑みを浮かべて、たとえ勇者ではなくともお姫様を守るのは騎士の役目ですと言ってくれた。やっぱり俺はこの国に生まれて良かったと心から思う。

なにより、誰もティファニアが『エルフ』である事を触れずに絶対に取り戻してこいと激励してくれる事が嬉しかった。


○月×日◇曜日
『特殊任務』を遂行する魔法衛士隊の隊員としてアルビオンへ援軍に向かう軍艦にアンリエッタ様の好意で乗せてもらった俺は凄いあっさり自分の夢が叶ってしまった事に拍子抜けしてしまった。シュヴァリエの称号もこの為に頂いたようなものだ。勿論、正式に入隊した訳では無い。だから、夢が叶った訳では無いがこうなんと言うか、言い表せない感情がある。

順調にアルビオンへ向かっている俺は『特殊任務』がある隊員な訳で軍艦の中では手持ち無沙汰である。考える事と考える時間はたくさん余っていたので気付いた事が有る。

それはフーケの事だ。フーケは俺にウエストウッド村の人間に何かあったら殺すと言っていた。それほど大切にしていた子供達を、そしてティファニアを、学院に避難していた彼女達を何故自分のゴーレムで危険に晒したのか、もしかしたらフーケは学院にティファニア達が避難している事を知らなかったんじゃないかと思う。もし、この予想が正しければこれはチャンスと見ていいだろう。捕らえられたティファニアに協力してくれる人がいる。それにフーケの正体も意外な所から知る事が出来た。ティファニアに言い聞かせられて俺と初対面を装っていたウエストウッド村の子供達、フーケの事は隠して緑色の髪をした女性について尋ねたらマチルダ姉さんと教えてくれた。サウスゴータ地方に住むマチルダと言う名のメイジ、ウェールズ皇太子に心当たりが無いかと伝書鳩を送った返事は驚くべき内容だった。

――――マチルダ・オブ・サウスゴータ。テューダー王家の血縁者であるモード大公の直臣であり、サウスゴータ地方を治めていた貴族。しかし、モード大公の愛妾であるエルフの母子を庇った為に取り潰されてしまった貴族である。そのマチルダと一緒に過ごしていたハーフエルフがティファニア。

それがつまりどういう事なのか、俺にだって分かっている。身分違いの恋、確かにその通りだ。ただし、それは俺が思っていた立場と違う、ティファニアが上で俺が下。まあ、だからと言って俺がティファニアを諦める理由にはならないので別に関係ない。どちらかといえば両親を黙らせる良い条件だ。


○月×日◇曜日
アルビオンへ到着した俺達はまず最初にルイズ達を探す事にした。ワルドの『アルビオンへ来い』との伝言以外、何も聞いていないのだ。これだけの情報では動きようが無い。ティファニアの事は心配だが、弓兵(アーチャー)が倒したであろうセイバーのクラスカードを受け取る事の方が先決だ。ルイズ達の所在は補給部隊の人間に尋ねたら一発で分かった。ルイズ達が休憩しているらしいヴュセンタール号を尋ねたらすぐに再開出来た。その船にはギーシュも乗っていて、ギーシュが学院を離れてからの近況を話した後、ルイズ達に俺達がアルビオンへ来た理由を説明した。クラスカードを『正しく使う事が出来る何者か』、弓兵(アーチャー)は眉間に皺を寄せて溜息を吐いていたがそこまで気にする必要は無いだろうと言っていた。元々、黒化した英霊(サーヴァント)は巨大な力の塊である。本能の赴くままにチカラを解放するので危ないのだが、そこにわざわざ武器の心得を持たない人間がクラスカードを使うのは逆に圧倒的暴力に知性と言う手綱が加わる事を意味する。

――――『思考する敵』、確かに恐ろしい相手ではある。しかし、『得たチカラを使いこなせない敵』ほど楽な敵はいないだろう。弓兵自身、クロムウェルとの戦闘は楽だったと言っている。だが、懸念するべき所は確かにある。最後に残ったクラスカードの種類は『魔術師(キャスター)』だ。最弱の英霊(サーヴァント)として特に苦戦する事もなく、回収出来ると思っていたがその認識は改めた方がいいだろう。このハルケギニアの地において、魔術師(キャスター)のクラスカードほどメイジがチカラを十全に使いこなせる物は無い。メイジが『正しい使い方』をした時、他のクラスカードより魔術師(キャスター)のクラスカードの方がよっぽど恐ろしいカードなのだ。


○月×日◇曜日
動きがあった。ワルド子爵の偏在が敵陣の真っ只中に現れて、俺に手紙を渡すと姿を消した。それはつまり俺の行動がワルド達に筒抜けだった訳だ。一応、ワルド子爵の偏在が現れた事を近くのアルビオン軍人に伝えたら、ウェールズ皇太子が俺を訪ねて来た。ウェールズ皇太子の片腕を切り落とした男であるウェールズ皇太子にとってワルド子爵は因縁の相手なのだ。いくつか質問の受け答えをして、その場はお開きとなった。ただ、ウェールズ皇太子もフーケの正体を知る為に伝書鳩を出した関係上、俺が何をしようとしているのか知っている筈である。それでもティファニアの事を触れてこなかった事が嬉しかった。

手紙で来る様に指定された場所は神聖アルビオン共和国と連合軍がぶつかり合う最前線だった。


とある主人公の記憶
最前線へ移動した俺達を待っていたのは本当に草原のど真ん中で両手両足を縛られて身動きが取れなくなっているティファニアと同じ様に拘束されているフーケの姿だった。その横にはローブを被って顔が見えない人物とワルド子爵がいた。

「カードは?」

「……ここにある」

ローブを被った人物の声が女性の声だった事に驚きながら懐に入れておいたクラスカードを取り出す。いつでも飛んでこれる位置で待機しているイリヤ達から預かった大切な物だ。

「フーケと貴方は組んでいた筈では?」

「彼女がどうしてもハーフエルフの味方をすると言うのでね」

俺の問い掛けにワルド子爵は肩を竦めながら答えた。声が出せない様に猿轡を噛ませられているフーケはワルド子爵の事を睨んでいた。

「無駄話はいい。要件を済ませましょう」

その言葉に頷いて、持っていたクラスカードの一枚を自分の足下に置く。相手が交換方法を言い出す前にこちらから行動する。他のカードも同じ様に自分の近くにランダムに見える様にして放り投げる。

「俺がティファニアを助ける間にあんた達はクラスカードを拾う。それでいいだろ?」

「……まあ、いいわ」

少し不満そうな声音だったがローブの女性は承諾した。

「罠です。逃げてください!」

「大丈夫だよ」

こっちを見て叫ぶティファニアに安心する様に笑いかける。罠なんて事は充分承知している。だから、弓兵は既に遠くで弓を構えているし、イリヤ達も備えている。最悪、罠があったとしてもイリヤと美遊が好んで使うアーチャーとセイバーのクラスカードは相手から遠い位置に置いておいた。本気を出せばその二枚ぐらいはイリヤ達が確保出来る筈だ。

「ああ、そういえば一つ言っておくのを忘れたな。彼女は良い声で泣いてくれたよ」

ワルド子爵が愉しそうに笑う。俺の沸点が簡単に越える。

「てめぇ!」

皆が見守ってくれている。感情に身を任せてワルド子爵に向けて一歩踏み出す。

「え……」

その瞬間、地面が揺れた。視線を向けると俺を囲う様に『黒いもや』が地面から溢れていた。

「クスッ、地下に眠っていた途方も無い風石の魔力を吸い尽くし、限界寸前だったあのカードに最後の悪意を注ぎ込んだ気分はどうかしら?」

ローブの女性が愉しそうに笑っていた。いつだったか、ルビーが言っていた。『悪意が集まりやすい場所の方が見つけやすい』、俺のワルド子爵に対する悪意で黒化した英霊が出現する。つまり相手の狙いはクラスカードなんかでは無く、最初から俺を狙った罠。

――――しまった。そう思うよりも早く俺は『黒いもや』に包まれた。

『何か』が俺の中に入ってくる。ソレは暗くて黒い感情を持っていた。

――――敵意、悪意、殺意、悲しみ、憎しみ、怒り、色々な感情が入り混じった『何か』を俺は曖昧な思考の中で眺めている。

クラスカードが吸収した人を傷つける為の感情。けど、俺には『何か』の中身に小さな優しさが感じられた。

仲間や友達を傷つけられた怒り――――それは仲間や友達を想う優しさ。

なんだ、別に普通の事じゃないか。『黒いもや』の正体は悪意とか殺意とかそれっぽい事を言っていたけど結局、何てこと無い。人が生きていく中で心に抱えている感情じゃないか。

ただ、黒い感情が大きくなってしまっただけ。

『何か』は生まれたがっていた。セカイに生まれて、この感情を誰かにぶつけたがっている。

――――だから、俺は油断してしまった。『何か』の正体が人間が持つ当たり前の感情だったから。

『何か』は俺の知識から自分がなるべき形を見つけた。

「ッ!」

『何か』が俺の中から出ていき、セカイに生まれる。

――――魔術師(キャスター)の英霊(サーヴァント)。

ただ、それは誰もが予想していた裏切りの魔女と呼ばれたメディアでは無かった。

――――特徴的な獣耳に大きな尻尾、九尾の狐『玉藻の前』。

その出現をきっかけに睨み合いを続けていた筈の神聖アルビオン共和国軍の部隊が動いた。

けど、『彼女』の一撃ですべてが消えた。千を超える人がたった一撃で消え去った。

――――そうか。

理解が追いつかない状況の中でこれだけは理解する。

今の『彼女』は英霊(サーヴァント)として呼び出された『彼女』では無い。ただのチカラとして呼び出された『彼女』なのだ。



後書き
主人公が日記を書く理由と仕込んでおいた参戦フラグ回収。この為だけにキャスターのクラスカードを残しておきました。ハルケギニアでは他のカードよりキャスターのカードの方が重宝される筈……多分。



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記⑬
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/09/02 01:08
とある主人公の記憶
ただ他者を傷つけて殺す圧倒的な力の前にローブの女性は魅了された様子で笑っていた。魔術師(キャスター)の一撃で強い風が吹き、ローブで隠したその顔が露になる。目が覚めるくらいの黒髪美人、けど驚くべき所はそこでは無く、その額に刻まれたルーンだった。

確かあのルーンは見た事がある。それも最近では無くてもっと昔、弓兵(アーチャー)が伝説の使い魔『ガンダールヴ』だと教えてもらった頃、コルベール先生に興味本位で教えてもらった『ガンダールヴ』以外の伝説の使い魔に刻まれるルーン。あらゆる魔道具(マジック・アイテム)を操り、使いこなすと言われた神の頭脳『ミョズニトニルン』。そのルーンをローブの女性は持っていた。だからこそ、彼女は魔道具(マジック・アイテム)の一種であるクラスカードの『正しい使い方』を知っていたのだ。

「凄い……、凄いじゃないか! 私はこのチカラを待っていた! 無造作に振るわれる圧倒的な暴力! あぁ、見ていますか、ご主人様。私はとうとう世界を壊すモノを作り上げた!」

そう言って笑う彼女の瞳には目の前にある圧倒的なチカラ以外、何も見えていなかった。だからこそ、隙だらけだった彼女の胸に弓兵(アーチャー)の放った矢が直撃した。

「えっ…………」

「ぐっ!」

彼女が驚いた様子で自分の胸を寸分違わず射ち抜いた矢を見下ろす。それとほぼ同時にとても冷徹な表情を貼り付けた弓兵(アーチャー)がクラスカードを拾おうとしていたワルドの前に現れて寸前の所で反応したワルドと剣を交える。その間にイリヤ達も現れて巻かれたクラスカードを回収している。

「何を呆けている! 早く彼女達を保護して安全な所まで非難させろ!」

魔術師(キャスター)の相手で忙しいこの時に他の相手などしていられない。すぐさま他の敵を排除した弓兵(アーチャー)の冷徹で冷静な判断にハッとなり、慌ててティファニア達に駆け寄るとその拘束を解く。

「二人ともっ!」

俺の叫びにイリヤと美遊の二人は頷いて、俺達三人を抱えて魔術師(キャスター)がいる場所から物凄い速度で遠ざかっていく。

『私達が戦った魔術師(キャスター)の英霊(サーヴァント)はあんな姿ではなかったですし、あの魔術師(キャスター)に心当たりは?』

移動中、いつもと違い余裕の無いルビーの言葉に頷いて答える。

「『玉藻の前』、あれは彼女が黒化した英霊(サーヴァント)だ!」

『はー、確か本来なら神霊クラスだったのを英霊(サーヴァント)になる為に限りなく弱体化させて英霊(サーヴァント)となったパートナーでしたよね。あれほどのチカラを持っているとなると今の彼女は『英霊(サーヴァント)では無い力の塊』って事でいいんですかね?』

事情を知らない二人が首を傾げてこちらを見ているが一々説明している状況では無い。

「たぶんそうだ。いくらなんでもあんなチカラは持ってなかった!」

『いやー、参りましたね~。『玉藻の前』と言えばアマテラスの一部じゃないですか、最後の敵が神様とか何処のRPGですか~。まあ一応、相手の正体が分かっているのでしたら少しはやりようがありますけど、元々の地力が違いすぎますからどうしたものか』

彼女の真名を聞いたルビーの声音に少しだけ余裕が戻っていた。何かしらの秘策がルビーにはあるのだろう。

『秘策も何も彼女の真名が判明しているならひたすらそれを攻めるだけじゃないですか』

ルビーの言う彼女の弱点、そんなもの考えるまでもない。『破魔の矢』、彼女がどんな姿になろうが彼女にとって弓兵(アーチャー)の英霊(サーヴァント)が天敵である事には変わりない。そしてこの場に弓兵(アーチャー)のチカラを持つ人間は二人いて、魔法が主体の戦争といえど戦場なのだから弓矢の量が足らないなんて事は無いだろう。最悪、伝説にあった通り三日三晩、矢を放ち続ければ弓兵(アーチャー)達のチカラを借りずとも倒す事が出来る。『破魔の矢』を受けた時の彼女は英霊(サーヴァント)ではなく、本来のチカラを持っていた彼女なのだから。

『その為の協力はそちらで取り付けてください。私達は弓兵さんの援軍へ行ってきますので』

ルイズやウェールズ皇太子達がいる後方まで避難して、お荷物であった俺達を置いたイリヤと美遊が休む暇も無く、弓兵(アーチャー)を助ける為に戦場のど真ん中へ向かう。弓兵(アーチャー)はワルドの相手をしながら他へ被害が行かない様に魔術師(キャスター)の注意を引いている。その表情に余裕は無い。

「ちょっとあんた達、大丈夫なの!」

「状況を説明してくれるとありがたいんだけどね」

幸いと言うべきか、こちらの様子を見ていたらしいルイズ達が慌ててこちらに駆け寄ってくる。その中には会いたいと思っていたウェールズ皇太子の姿もあった。

「ウェールズ様、あれは『黒い悪魔』の一人です。イリヤ達も応戦していますがこちらも矢で支援をお願いします」

「わかった。しかし、あれだけのチカラを持った『黒い悪魔』に矢程度が通用するのかい?」

確かにこの世界では矢より魔法の方がよっぽど強い。しかし、そんなものを放ったところで彼女に届く事は無いだろう。弱点である矢だからこそ届くのだ。しっかりと頷く俺の姿にウェールズ皇太子は隣にいた軍人へ指示を出す。

「全軍に通達、弓矢で弓兵(アーチャー)君達の援護を」

「わかりました。ですが……」

「彼等か……」

全軍へ指示を飛ばす軍人さんの視線はまだ連合軍と戦おうとしている神聖アルビオン共和国の軍隊がいた。もし彼等が協力してくれればとても心強い。この状況でも敵対してくるなら邪魔な存在である。

「よければ停戦の使者を送りますが……」

「いや、僕が直に行く」

「で、ですがそれでは!」

ウェールズ皇太子の言葉に軍人さんが戸惑う。それもそうだろう。この非常時に大将が敵陣のど真ん中へ行く。どう考えても無謀である。

「違う! 君も見ただろう、アレのチカラを。もしこれ以上アレがこの国で暴れてみろ、民への被害は広がるばかりだ。この非常事態に国が分裂している暇は無いんだ。僕が自ら乗り込んで彼等を指揮する!」

そう宣言したウェールズ皇太子の瞳はただ真っ直ぐにアルビオンの未来を思い、守りたいと思う気持ちに溢れていた。神々しさすら感じるそのカリスマに周囲の人間全員が息を呑んだ。

アルビオンを統べる王、誰もがその存在に心を奪われていた。

「僕が貴方達に言える事は無い。謝罪した所で無駄だと分かっている。けど、これだけは言わせて欲しい。この戦争が終わったら会いに来てくれないかな? その時は全力で君達を歓迎する」

ティファニア達の方を見て、そう告げたウェールズ皇太子は少しの護衛だけ付けて、神聖アルビオン共和国の軍へ向かっていった。それから数刻後、魔術師(キャスター)への攻撃に神聖アルビオン共和国の攻撃も加わっていた。

それでも彼女が倒れる事は無かった。ワルドを下し、弓兵(アーチャー)達と三対一の状況でも五分五分か、それ以上の戦いを見せていた。

だからこそ、俺はその違和感に気が付いた。

『何故、一国を簡単に滅ぼす程のチカラを持った彼女と戦力が拮抗しているのか?』

考え出したら止まらない。思考の海へ溺れていく。

弓矢の援護が効いている? 確かに少しは効いている筈だ。しかし、戦力が拮抗するまで絶大な効果を発揮するものなのか。

天敵である弓兵(アーチャー)クラスが二人もいる。確かにそれもあるかも知れない。しかし、天敵の弓兵(アーチャー)クラスとは言え、簡単に英霊(サーヴァント)の一人や二人、片付けられる彼女なのだ。それだけでは説明がつかない。

そして最後に一つ、彼女が一番最初に放った一撃。大勢の人間を消滅させた『大規模』な攻撃があれから一度も起きていない。攻撃と言えば弓兵(アーチャー)達の攻撃をあしらう為に使用されるのが殆どである。

――――そう、魔術師(キャスター)自ら行った攻撃が最初の攻撃以外、全くと言っていいほど無いのだ。

一方的な人間の攻撃…………それはまるで伝説の再現、彼女はただ俺達人間の攻撃をじっと『耐えていた』のだ。

「っ!」

気が付いた瞬間、雷が落ちたような衝撃が俺の中を奔る。どうやら俺は最後の最後まで大馬鹿野郎だった。俺は自分がぶん殴りたくなるほどの勘違いをしていた。

――――魔術師(キャスター)の英霊(サーヴァント)、『玉藻の前』。

その生涯は神霊として、悪霊としてカテゴライズされるモノだった。悪霊として扱われた『玉藻の前』はそれでも人間の事が好きだったのだ。化け物として扱われた。それでも人間が好きだった。

そんな彼女の生き様をたかが『悪意を切欠にした程度』で変える事が出来るだろうか。

なにより彼女を生み出した俺が敵だと認識していた相手にしか彼女は攻撃していない。今現在、俺が敵だと思っていたのは『彼女自身』。だから彼女は俺達の攻撃を甘んじて受けていた。

「いかなきゃ……」

身体が自然と動いていた。

「ちょっとあんた! 何処に行くのよ」

ルイズの心配する声が聞こえた。

「何考えている! 戻ってこい!」

色んな人が俺を呼び戻そうと叫んでいる。だけど、その中で俺の心に響いたのはティファニアの言葉だった。ただ一言。

「いってらっしゃい」

――――行ってきます。心の中で呟きながらただ叫ぶ。

「イリヤ! 俺を彼女の所まで連れて行け!」

その叫びが聞こえたのか、イリヤが驚いた様子でこちらを見た後、すごい速度で俺の下へ来る。

『もしかして解決方法でも見つかりましたか?』

ルビーの言葉に頷く。

「分かったんだ。彼女は俺が生み出した。だから、俺が受け止めてやらなきゃ駄目だったんだ」

化け物だから彼女は殺された。そして今、化け物だから殺されようとしている。けど、本当にそれでいいのか? 良い筈が無い。『玉藻の前』を人間では無い化け物として見捨てるなら俺はティファニアに顔向けが出来ない。

『人間じゃない化け物程度』の事で俺は自分が生み出した『玉藻の前』を見捨てる事は出来ない。

「ごめん、本当にごめん。俺が勝手に呼び出したのに。俺が勝手に君を傷つけた……」

イリヤに連れて行かれた戦場のど真ん中でじっと俺を見ていた『玉藻の前』を抱きしめる。

矢が降り注ぐその場所はいつのまにか剣の突き刺さる荒野へ変化していた。『玉藻の前』を説得するのに攻撃など必要無い。弓兵(アーチャー)は無粋なものを排除したとばかりに肩を竦めた。

「……え?」

気が付いたら、大人しく抱きしめられていた『玉藻の前』に押し倒されていた。そして口付けが交わされていた。

唖然とする俺を余所に表情の見えない『玉藻の前』はそれでも確かに笑っていた。その右手には使い魔の証であるルーンが刻まれていた。そして『玉藻の前』は満足そうに頷くとカードとなって消えた。

「え? どういう……」

『アハ~、貴方一体、人外からどれだけモテるんですか~』

思考が追いついていない俺はルビーのからかいに反応出来なかった。

『――――さてと、クラスカードも回収した事ですし、私達も元の世界へ帰りますか』

「え?」

「ルビー! それってどういう事!」

ルビーの何気無い台詞にイリヤが叫んだ。

『いやいや、そんな驚かなくてもいいじゃないですか。私達がこっちの世界に来てからどれだけ時間が経ってると思ってるんですか。帰る方法ぐらい、きちんと見つけてますよ。膨大な量の魔力を必要としますが元の世界へ転移する事は可能です。魔力は丁度、このクラスカードへ残ってますしね。私としてはクラスカードに集まった魔力が四散する前に向こうへ帰りたいのですが……』

「それにしたって急過ぎるよ!」

「そう思う」

イリヤと美遊の言う通りだった。いくらなんでもこれでお別れは寂しすぎる。イリヤ達にお別れを言いたい人だって沢山いる筈だ。

「いや、イリヤ達はこのまま帰った方が良い」

そんな中、弓兵(アーチャー)だけがルビーの味方をした。

「言い方が悪いが我々のような戦力が自由に動けたのはクラスカードという我々しか対応出来ないものがあったからこそだ。そのクラスカードが全て集められた今、我々と言う戦力は圧倒的なチカラだ。あまり言いたくないがルイズと違い、君の家柄はあまりよくないだろう?」

それはそうだ。公爵家と比べればかなり見劣りする。何代も前の当主が王家の血縁者だったらしいが今では月とすっぽんだ。

それで弓兵(アーチャー)の言いたい事が分かった。ルイズくらいの家柄なら弓兵(アーチャー)を軍事的な戦力として利用したいと言って来ても跳ね除ける事が出来る。だが、俺の家柄ではそれは難しい筈だ。今でさえ、プロパガンダとして使っていいと許可しているくらいだ。トリステインの軍事力から察するにイリヤ達のチカラは喉から手が出るほど欲しいだろう。そうなると断りきれない。

イリヤ達が戦場へ向かうぐらいなら今ここで帰った方がマシだ。

「ねえ、ルビー。今すぐじゃなきゃ駄目なの?」

『はい、今現在でもクラスカードに集まっていた魔力がどんどん四散していますから』

ルビーの台詞は珍しく真面目な雰囲気だった。

「イリヤ……」

「…………うん、わかった」

不満そうなイリヤにどこかで割り切っていたのか冷静な美遊が声をかけるとイリヤが頷いた。

「御疲れ様、君達と出会ってから俺の人生は変わったよ。いままでありがとう」

彼女達をこの世界へ呼び寄せた事。事故だとしても謝るのは違う気がする。だからこそ、ありがとうが相応しい。

「私、この世界の事を一生忘れません!」

『まあ、世界を超えた訳ですからそうそう忘れるものでもないと思いますけどね』

「……ありがとうございました」

『こちらでの出来事は記憶しておきます』

みんながみんな、心の中で寂しさを感じていた。それでも浮かべた表情は笑顔だった。

ルビーを中心に魔法陣が浮かび上がる。

「イリヤ、さようなら…………。幸せそうに生きてる姿が見れて『俺』は嬉しかったよ」

弓兵(アーチャー)の言葉が呟きが聞こえたのか、イリヤは満面の笑みを浮かべてこちらに手を振りながら姿を消した。

「………………さて、君はどこまで知っていたのかな?」

イリヤ達を見送った後、不思議な沈黙が漂う空間で弓兵(アーチャー)が呟いた。

「…………とりあえず、イリヤの『弟』だった事くらいかな」

「……そうか、君にも礼を言っておこう。君がイリヤを呼んでくれたおかげで『俺』は救われた気がしたよ」

「そりゃどうも、俺達もそろそろ帰ろうか」

「あぁ、外は矢の雨あられだ。気をつけるんだぞ」

「――了解」

荒野が草原に変わっていくのと同時に矢の雨を掻い潜りながら全力で二人して避難する。

「ちょっと、二人とも大丈夫! イリヤ達はどうしたのよ!」

クタクタの俺達にルイズ達が駆け寄ってきた。

「二人はクラスカードを回収して『自分達の世界』へ帰ったよ……」

「アンタはそれでいいわけ?」

ルイズの言葉に肩を竦める。いいも何も俺は元々フクロウの使い魔が欲しかった。

「とりあえず、また使い魔召喚の儀式をしないとな」

そう言いながら俺は笑う。

イリヤ達の来訪とクラスカードを巡る戦いは終わったのだから。




後書き
はい、特に言う事はありません。キャス狐さんなら黒化した状態でも人間大好きだと信じています。あまり言いたくないですがあえて言います。前書きにもありますが『この小説はノリと展開を優先します』。だしておいてなんですが黒化キャス狐さんとガチバトルしても勝てる展開が思いつかなかったのでこのような展開となりました。主人公の役得があったけどこれぐらいなら大丈夫だよね?



[33392] 【ネタ】ゼロ魔日記⑭
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/09/02 13:52

こじんまりして落ち着いた雰囲気を醸し出している部屋の中には沢山の本棚と同じく沢山の書物が並べられていた。

「…………また、ソレを読んでいたんですか?」

備え付けの小さな机と椅子に腰掛けて『とある書物』を読み耽っていた男性に美しい金色の髪を持った美女が声をかける。その声音は呆れを含んでいた。

「あぁ、ティファか……」

何度も何度も読み返したのであろう、男性の持っていた『とある書物』は手垢が付き、薄汚れていて用紙自体もボロボロの状態だった。

愛しい愛妻の声に『とある書物』に意識を向けていた男性はパタンと閉じると美女へ視線を向ける。その顔は何かを懐かしむ表情だった。

「そう言うな。未熟だった頃の自分を見つめ直し、昔の自分より今の自分がしっかりしなければと戒めているんだよ」

「もう、それだけじゃあないんでしょ?」

愛妻の浮かべる呆れた表情。でも、懐かしそうに笑っているのは愛妻も同じだった。

「あぁ、学生の頃は本当に色々と有ったが今までの人生で一番楽しくて一番大変だったからな。今じゃあ皆、簡単に会える立場じゃなくなったからな。一国の王に虚無の魔法使い、軍の総司令に魔法衛士隊の総長、今思えばとんでもない学院生活だな」

そう言って笑う男性は『とある書物』――――男性が書き綴った日記を丁寧に本棚へしまうと部屋の外で待っている愛妻の下へ向かう。

「今日は家族でピクニックの約束ですよ」

部屋から見える窓の外には愛妻の血を受け継いだ特長的な耳を持つ娘と自分の血を受け継いだ息子がこちらに向けて手を振っていた。その横には青いノースリーブの和服に狐耳、大きな尻尾が特徴である自分の使い魔が立っていた。

「だ、駄目です。子供達が見ています」

愛しい愛妻を抱き寄せると愛妻は幼い少女の様に顔を赤らめる。外を見ると自慢の使い魔が子供達に手を添えて目隠ししていた。

「大好きだよ、ティファニア」

「んっ……」

俺は――――手に入れた幸せに口付けした。




イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの記憶
あのハルケギニアと言う世界での出来事は私達だけの秘密である。本当は秘密にする必要も無いのだけれど世界を移動したなんて事が『あの二人』にバレたら私と美遊がどんな目に遭うか、考えただけでも恐ろしい。

私達の世界に帰ってきた後、ルビーが教えてくれた。私達があの世界へ呼ばれてしまった理由。あの世界は元々、何処か別の地球と繋がっているんだとか。世界を繋げる、それはとても珍しい魔法であの世界でも私達を呼び寄せたあの人以外に使いこなせる人は殆どいないような魔法らしい。私達を呼び寄せたあの人自身、自分が世界を繋げる魔法が使える事を知らず、使い魔召喚の儀式で『無自覚』で世界を繋げる魔法を発動させて、『無自覚』だったからこそ未完成だった世界を繋げる魔法は本来繋がる筈の地球ではなく、その場にいた弓兵さんと同じチカラのクラスカードを持つ私達の世界へ繋がり、私達を呼び寄せたらしい。勿論、これはルビーの考察であり、事実かどうか確かめる術はもう無い。あの世界と私達の世界が繋がる事はもう無いから。

あの世界で過ごした数ヶ月間は多分、これからもずっと忘れる事は無いだろう。私達をハルケギニアへ呼び寄せたあの人を筆頭にルイズさんやキュルケさん、タバサさんやシエスタさん、あと一応ギーシュさん。他にも色んな人にお世話になって色んな人に助けてもらった。

なにより一番助けてもらったのは弓兵さんだ。召喚された当初、混乱状態だった私達の代わりに衣食住を確保してくれて、世界にばら撒かれたクラスカードを回収するのにも協力してくれた。

…………何か私達に隠し事していたようだけどソレも私達の世界に帰ってきてから気が付いた。

「イリヤ、そろそろご飯だぞ!」

「わかった!」

お兄ちゃんの声が聞こえてきて、私は返事をすると自分の部屋を出てリビングへ向かい、美味しそうな料理が並ぶテーブルを見る。

「今日は俺が全部作ったんだ。料理の感想を聞かせてくれよ」

「シロウ、私達の仕事を取らないでください」

「料理が好きなんだ。俺の趣味を奪わないでくれよ、セラ」

セラのジト目にお兄ちゃんは困ったような曖昧な笑みを浮かべる。

「いただきます!」

皆で手を合わせて一礼。

「どう、かな?」

美味しそうな料理を一口、お兄ちゃんが首を傾げて尋ねてきた。

「う~ん、美味しいけどお兄ちゃんならもっと美味しく出来ると思うな」

「そ、そうか?」

私の言葉にお兄ちゃんは面食らった表情を浮かべる。珍しい私の辛口評価に驚いた様子だった。けど、私は知っている。もっと美味しいお兄ちゃんの料理を。

――――あの世界で何度も食べさせてもらった料理。


だってこの味は弓兵さんおにいちゃんの味だから。





後書き
最後はやはりイリヤによる身元バレです。
ありがたい事に後日談などの続きを望む声がある様ですが、これでゼロ魔日記は完結とさせていただきます。元々、一発ネタとして掲載した作品でしたので世界観のすり合わせが大雑把になっていたので両作品のファンの方には面白くない場面などもあったと思いますが最後まで応援ありがとうございました。

自分なりに思うところがあって感想返しをしませんでしたが皆さんの感想を糧に完結まで持ち込む事が出来ました。本当に応援ありがとうございます。また、いつか、チラシの裏か何処かにひょっこり出てくる事があると思いますので見かけた時はまた応援していただけると嬉しいです。



[33392] Q&Aコーナー
Name: ニョニュム◆89bba7f2 ID:f5996ad4
Date: 2012/09/03 12:10
【Q&Aコーナー】
Q 結局、主人公の名前って何?

A ありません。名無しです。本当は原作を見習い、主人公なんだからダルタニャンか、ラウルにしようと思いましたが戯言シリーズのいーくんやハルヒのキョンを見習い、名前不明で。

Q主人公って『虚無』なの?

A『虚無』です。「移動」を司っています。

Qじゃあ、ヴィットーリオはどうしたの?

Aさあ、普通に教皇をやってるんじゃないんでしょうか。

Qジョゼットとジュリオはどうなった?

A多分、幸せに暮らしてるんじゃないんでしょうか。

Qジョゼフはどうなったの?

Aさあ、シェフィールドが死んだし、やる気無くなって引退したと思います。

Q主人公、結局魔法衛士隊に入れたの?

Aはい、エンディングの時点でワルドが抜けたグリフォン隊と魔法衛士隊の総長を任されています。

Qなんでイリヤ達が召喚されたの?

A主人公が無意識の内に『世界扉』を使ったからです。その際、近くに弓兵(アーチャー)がいた為に弓兵(アーチャー)のクラスカードを持つイリヤ達が呼ばれました。と、無理矢理こじつけてみました。勿論、士郎や遠坂が出てくる可能性もありました。

Q主人公って転生者なの?

A正確には違います。意識の無い赤ん坊の時に『記録』を使ってオタクの記憶を覗いていて、前世の記憶だと勘違いしています。と、無理矢理こじつけてみました。

Qそのオタクって誰?

Aそれは貴方の事です。いや、冗談ですけど。

Qタバサの母親どうなった?

A主人公が一人で行動している時にイリヤと言うよりルビーが助けています。

Q大陸って、引っくり返るの?

A作中にあった通り、キャスターのクラスカードが風石の魔力を根こそぎ吸い取ったので引っくり返りません。

Q主人公ってスケベなの?

Aはい、スケベです。ティファニアに惚れてからは彼女に一直線ですが。

Q一夫多妻とか不味くない? 使い魔的に

A主人公はティファニア一筋です。キャス狐さんはあくまで使い魔として仕えています。……今の所は。




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