「・・・行きましょ?朝の食堂は混むから」
わたしは気を取り直してエミヤに告げる。
とっさに私を庇ってくれたあの時の顔は
今までに見たことの無いほどに鋭かった。
でもそれと同時に解かった。
彼は負けないって事も。
わたしを守るためにああいった行動に出たのだ。
行き過ぎな感じもしたけれど。
ああ、確かに彼は使い魔として申し分ない。
なぜなら、一番大事な『主人を守る』と言う事は確実にこなすのだろうから。
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朝の食事と昼間の授業・図書館での一幕
「・・・了解だ。それについては異論は無い」
なにやら朝から消耗する出来事ではあったが。
収穫はあった。幻獣の存在。これは軽視出来る事ではない。
使い魔という形で使役されているならば良し。だが、そうでない場合は?
屋外を旅をする等と言う事態に陥ったならば憂慮すべきことだ。
「エミヤ?聞きたいんだけど・・・」
歩きながら、ルイズが私に問いを放つ。
「なにか?」
「どうしてキュルケの使い魔と睨み合ったの?」
「・・・それか。何、簡単な事だ。私の世界では在り得ない生物だったからだ」
「在り得ない?どうして?」
「ああ、私の世界ではな。あれは幻想種と言われ普通に遭遇する事の無い『幻想』の生物なんだ。その大半の存在が人間にはとても使役出来る存在ではない。故に危険だと思っただけの事だ」
「・・・そっか。知らないからああいった対応になったのね。最初に教えておくべきだったわ。ごめん」
・・・別段、彼女が謝る事でもないのだがな。
こちらの手落ちでもあった事だし。
「気にするな。知らなければその都度、知れば良い」
その後、何を話すでもなくただ歩く。
訊きたい事はあるのだがさほど重要でもあるまい。
あのキュルケという少女との関係など主の交友関係等を洗い流しておきたいのだが。
察するにあまり良好とも言えない者の事を訊き、機嫌を損ねるのも莫迦らしい。
訊くにはちょうど良い時期を見計らうべきだろう。
食堂は学園の敷地内で一番背の高い中央の塔の中だった。
その内部構成は、シンプルではあるが纏まりを見せていた。
長大のテーブルが三つ。この一つのテーブルに優に百人は座れよう。
一階の上にはロフト仕様の中階が見受けられる。
テーブルに着く者達にも統一性がある。
それはローブの色だ。
正面より左隣のテーブルに座る者達は紫色のローブ。落ち着きを感じさせる雰囲気がある。
中央のテーブルは黒い外套の者達が集う。ルイズはここに分類されているらしい。
そして左隣。茶色のローブを身に纏うやや幼さを残す表情の者達が座る。最年少だろうか。
ロフトに座る者たちは其々が違う色の外套を身に着けている。おそらくは教師クラスだろう。
「・・・しかし、これはまた・・・」
思わず声が出る。
そう、テーブルの飾りつけなどシャンデリアなどそれらの外観が無駄に派手なのだ。
豪華絢爛とはこの事だろう。
「ふふ。凄いでしょ?トリステイン魔法学院は貴族の為の学院でもあるのよ。メイジに成る者はほとんどが貴族。『貴族は魔法を持ってその精神となす』をモットーに貴族たるべき教育を受けるの」
ルイズが得意げに指を立て言う。
それに私は幾許かの反発を込めて返す。
「・・・それがこの食堂の派手さとどう繋がるのかね?」
「貴族にふさわしい食卓でしょ?そうは思わない?」
「いや、別にいいのだがな。ここまで無駄に華美にせずともよいのではと思うが」
周りを見渡す。調度品には若干ながらも魔力が感じられる。
解析するに状態保存、強度補正の呪をかけられているようだ。
中でも目を引くのは小人をかたどった人形だろう。あれは自動人形に類するものだ。
おそらくは特定の時間になったら動くように時間限定の起動式を組み込まれているのだろう。
「ん?あの人形が気になるの?ちなみにあれはこの食堂の名前をとって『アルヴィーズ』と言うの。」
「ほぅ。あれは魔力によって起動するものだな。それだけじゃなくこの部屋の設備のほぼ全てが魔力を帯びている」
「・・・そんなことまで解かるの?」
「まぁな。余程の神秘に装われてない限り大抵の物は解析出来る自信がある」
会話をしながら、私はルイズが着席できるように椅子を引く。
自然と身に着いた行為だ。・・・すでにこの手の行動は魂に刻まれている。
ルイズは目を瞬きさせたが、すぐに気を取り直して着席する。
そして思いついたかのように声を出した。
「・・・そう言えば。訊くの忘れていたけど・・・」
「む?何かね?」
「あなたって食事とかはどうするの?」
「ああ。言っていなかったか。英霊は基本的に食事等が必要な存在ではないんだ」
そう。英霊には人間のように体を構成の維持の為の行動は基本的に必要無い。
だが、不思議な事に食欲等の欲求は全て失せた訳でもないのだ。
ただ採っても身にならないから食べないだけである。
欲求が直結して体の行動を左右する事も無い。
空腹感が身を苛む訳でもなく、睡眠不足が体を壊す事も無いのだ。
一部例外も存在していたが。私が知る騎士王とか。
ざわつきを見せていた食堂内が静まる。
時間なのだろう。誰が発したかは知らないが一人の言い始めた祈りの声に皆が併せて唱和する。
『偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうた事を感謝いたします』
そして食卓に並ぶ料理。
私はそれを見て呻かざるを得なかった。
「・・・待て。これが朝の食卓に並ぶ料理か?」
「何か問題でもあるの?貴族の食事と言えばこういうものよ」
・・・貴族の食事?いや、そんなものは関係が無い。
朝一番の食事と言うものは人間の活動を支える重要なものだ。
体型にもよるがこれは・・・ルイズが朝の食事とするには重すぎる。
料理の内容はローストチキン。鱒の切り身のパイ。レッドワイン等多種多様。
「・・・夕食にするのならば全く問題ない。だが・・・」
「なによ?」
「これだけ朝から食べて体調とかは大丈夫なのか?」
「・・・まぁ、せっかくの用意されたものだもの。食べない訳にもいかないし」
そうは言うがその食の進みは速い。
だが、それも良くない。朝の食事というものはゆっくり行う必要がある。
特にこの場に並ぶものは消化が良いものとは言えない。
消化に優れたものや一膳飯のみだというのならば、早く食べることも許容できるのだが・・・
私はルイズの食べようとしたローストチキンを取り上げる。
「ふぇ?ちょ、ちょっと?エミヤ?」
「そこまでだ。君の体型で、朝からこの食事は賛成できん」
「なんで?」
「加えて言うと食事の速度も悪いな。食べるものに対して箸の進みが速すぎる」
「へ?」
そう。重い食事を早食いするなどは言語道断。
ゆっくり味わう事にこそ食事の真価があるのだ。
ふむ・・・そうだな。この世界において特にやることも無い。
ならば、少しばかり好きに振舞うとするか。
「・・・そうだな。明日からは君の食事は私が手掛けよう」
「ハイ?」
○●○●○
食事の時間が終わった。
先の発言から、ルイズが恨みがましい目で私を見ている。
それほど食事を途中で取り上げたことが気に食わないのだろうか。
こうして廊下を歩いてる現状でもその目は抗議の色を醸し出している。
「あのさ・・・一つ聞きたいんだけど?あなたが食事を手掛けるって言ったけど・・・作れるの?」
「・・・これでも生前から料理の腕には自信があるつもりなのだがね?まぁ、その辺はお楽しみと言ったところだ」
そうして他愛無い話をする。
懐かしい感じすらある。こうして誰かとくだらないことを話せる事に素直に喜びを覚える。
磨耗していた心にも、この感情があることが嬉しかった。
辿り着いた先は教室らしき場所。
ガラス張りの扉から内部が確認できる。
その造りはかつて数えるほどしか見たことの無い時計塔の講義室と同じ。
いわゆる大学校の講義室と同じ構造をしていた。
階段状に設置された石造りの机。その最下部に教卓と黒板。
ルイズの背後につきその教室の扉をくぐる。
瞬間、先に教室の中に居た者達の視線が私とルイズに集中する。
・・・まぁ、恐らくは私の存在が気になるのだろう。
ある者は忍び笑い、ある者は声を出しての嘲笑、ある者は畏怖の視線。その反応は多種多様。
昨日の召喚の儀に参加し私の魔力放出の異常さが理解できた者も居る事に僅かながらに満足した。
ここに居る者達の全てがあれを理解していなかったら、正直、認識を大幅に過小修正していた所だ。
だがそこに集う者達よりも私の目を引くのは各々が連れている使い魔の方だ。
流石に私と同じ人間形態の存在こそいないが・・・
「ふむ・・・いやはや、幻想種もこれだけいると何とも言い難いものがあるな」
「・・・そんなに珍しいの?幻獣が」
まぁ、彼女にはこれが普通なのだろうな。
先ほど遭遇したサラマンダー以外にも猛毒の化身ともいって差し支えないバシリスク。
石化の視線を持つコカトリス。グリフォンまで居ようなどとは想像もしていなかった。
奇異の姿を持つ幻獣のほかにも巨体を示す蛇や梟や鴉、猫などといったごく普通の生物もいるのだが。
「しかし、よくこの手の存在を使役出来得るな?触れる事すら危険な種類もいるというのに。正直、感嘆するぞ」
「ほとんどが不意打ち。此方から敵意を出さなければ攻撃反応は滅多にないし。召喚したら有無を言わさずに即行契約して使い魔にしちゃうのよ」
「・・・一方通行でそこまでできるとはな」
使い魔の契約の儀。簡単な術式ではあったが簡易でありながらも強制力は十分と言うことか。
周囲のざわつきが静まる。耳を澄ませば廊下から足音が響いてくる。
各々が座席に着く。おそらくは授業開始の刻限になるのだろう。
教師が来たようだ。
扉を開け教室内に入ってきたのは中年の女性。
年のころは・・・おそらく、三十後半。
体型的にはふくよかと言う印象を受ける。
「皆さん、おはよう。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、この春の新学期にさまざまな使い魔を見ることが楽しみなのですよ」
シュヴルーズを名乗った女性は周囲を見渡しながら微笑を浮かべそんなことを言う。
そしてその視線がルイズの後ろに立つ私のところで止まる。
「ミス・ヴァリエール?こちらの方は?」
「・・・わたしの使い魔です。ミセス・シュヴルーズ」
「?・・・使い魔・・・ってっ!?」
その目が見開かれる。それと同時に私の体に何らかの魔力が働いたことが知覚できた。
おそらくは、解析系の魔術に類するもので、我が身を調べたのだろう。
声に出さずにやや皮肉気な笑みを顔に刻む事でそれに応じる。
「・・・こ、これはずいぶん変わった使い魔ですね?」
「含む所があるようですが・・・一応、褒め言葉として受け取っておきます」
高密度の魔力で構成されたであろう我が身を人外であるとまでは判断したようだ。
だが、このやり取りを見てもまだはやし立てる者がいる。
どこにでもいる者なのだろうな。自分の実力以上の存在を理解したがらない者は。
「ゼロのルイズ!ちゃんとした召喚が出来なかったからって、実家から執事を連れてくること無いだろ!」
ルイズはそんな声にも律儀に反応する。
見た目によらず感情の起伏が激しいようだ。わが主は。
「うるさいわね!あんたみたいな万年風引き男に私の使い魔を理解出来る訳無いでしょ!」
「ハッ!どうせ【サモン・サーヴァント】が失敗したんだろ?でなきゃ人間なんか召喚出来る訳ないしな!」
教室の内部は雑然としている。
昨日の私の召喚の場に立ち会っていない者は笑い、立会い、なおあの魔力を理解した者は顔を引きつらせる。
おおよそ、反応は二種類に分類できるようだ。
しかし・・・どうやら、ここに居るものたちの半数が人間形態の存在を使い魔とする利点に気づいていないようだ。
さて、諭してやっても良いが・・・どうしたものかな。
「ルイズ。あの小僧の名は?」
「・・・マリコルヌよ。かぜっぴきのマリコルヌ。事あるごとに私を侮辱するサイテー男」
「何だと!俺の二つ名は風上だ!!風邪引きなんかじゃない!!」
「フン!あんたの声がしわがれているから風邪引きとしか思えないのよ!」
二人はにらみ合う。
どちらも譲らない。退けばそれが負けを意味するのだろう。
まぁ、ここはルイズを諭して治めておくか。
「ルイズ。吠えたい者には勝手に吠えさせておけ。表層でしか物事を判断できぬ未熟者に君が付き合う必要もなかろう」
「で、でも……」
ルイズが私を見上げる。
やれやれ、これではどちらが主人なのか、わかったものではないな。
「それとも何か?君の程度はあれと同レベルか?だとしたら君への認識も改めさせてもらうが?」
「むっ…嫌な言い方するのね。あなたって。わかった…やめるわよ」
「ハッ!平民の使い魔にさとされて・・・ひゅ?!」
まだ何か言おうとした小僧を若干の殺気を込めた視線で睨みつけてやる。
言外に「私の主をこれ以上侮辱するなら覚悟を決めろ」と意思を込めて。
少々、大人気ないかもしれんが、契約した主が侮辱されるのは良い気分ではない。
事故召喚と言えど、この身を引き当ててなお契約までした少女がそれほど軽い存在な筈が無い。
そう。我が世界の魔法使いでも英霊を召喚し使い魔として使役する事は不可能なのだ。
魔術儀式のバックアップをなしにそれを行えるならばそれは完成された奇跡だ。
ルイズはそれを成した。つまり彼女にはそれを成すだけの素養がある。
それがどれ程の事か。その意味を理解し得るのは現状では私のみだ。
「・・・はいっ!皆さん。お静かに!いろいろありますがとりあえず授業を開始します!」
シュヴルーズが手を叩きながら注目を寄せる。
やれやれ。これでようやく静かになろう。
○●○●○
授業の内容は此方の世界の魔法に馴染みの無い私に有益であった。
属性の単位は【ドット・ライン・トライアングル・スクウェア】と称するらしい。
一系統をドット。二系統でライン。このように増えるもので、同一属性の相乗もこれで表現するらしい。
この単位はその魔法使いのレベルにも直結するとの事。
最大でスクウェアの魔法を行使する者をスクウェア・メイジ。
トライアングル行使者をトライアングル・メイジ。
なお、話を聞けば、魔法使いのことは【メイジ】と呼称するのが通例らしい。
メイガスでは魔術師の意になるのでこれは混同しないように気をつけるべき事柄だ。
今回の授業で講義しているのは【錬金】。物質の組成を組み替えて、違う物質に変質させる魔法。
これは元になる物質は特に関係が無いらしい。等価交換の原則が有る訳ではなく単純に書き換えてしまうのだ。
しかも、書き換える際に必要なのはイメージ。変質された結果を想定。その結果が【錬金】として確定される。
ふむ。これならば私の投影をカモフラージュさせる事も出来よう。
「…という訳です。では、誰か【錬金】を試みてもらいましょう…そうですね。ミス・ヴァリエール。貴女にお願いしましょうか」
シュヴルーズがその言を告げた瞬間、室内の空気が凍った。
…待て。なぜ空気が凍るなどという比喩表現が可能な事態がおきるのだ?
それほどまでにルイズが魔法を使う事態が問題だと…?
「ミス・シュヴルーズ。あのもしかしてルイズの事……知らないんですか?」
金髪の巻き髪をした少女が挙手をし発言する。
見たことがあるな・・・昨日の召喚の場でルイズと言い争っていた少女か。
「何をですか?ミス・モンモランシ」
「…危険です。ルイズに魔法を使わせるのは賛成できかねます」
…ふむ。確かに昨日、ルイズ自身が言っていたな。四大元素の干渉に失敗すると爆発が起きると。
少し調べる必要とあるな。
「ルイズ、ちょうど良い。やってくれ。私も君の魔法がどの様に作用するか知りたい」
「………わかりました。ミス・シュヴルーズ。やります」
私の声をきっかけにしてルイズが席を立ち教壇に向かう。
周囲が騒然とする。それほどまでに恐れられているのか?彼女の失敗が。
「よろしい。では、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属のイメージを強く心に浮べてください」
その言に応じてルイズが呪文の詠唱を開始する。
私も彼女の内に働く魔力に解析を試みる。
…ふむ。やはり、マナのオドへの変換。オドから外界接触させるための魔力変換も問題なしか。
呪文は紡がれている。
…さて、何故、彼女の魔法は爆発をするのか?
この世界において四大元素干渉の魔法の失敗は全て爆発するのだろうか?
もし、爆発現象が彼女に特有だとしたらそれは失敗と断ずる事は出来まい。
そして最後の呪言が放たれた瞬間。
私の体は咄嗟に動いていた。最後まで解析しようとは思ったがそれすら破棄する。
理由など語るべくもあるまい。
この呪が完成した瞬間に膨れ上がったのはまさしく爆発光だった。
ならば、この光は誰に向かう?書き換えられた金属がその光を放っているのだ。
光が真っ先に襲うのはその場で呪を紡いだルイズに他ならない……っ!
○●○●○
ああ、失敗した。
それだけはしっかりとわかった。
いつもの事だ。四大元素の魔法に失敗したときのいつもの結果。
わたしは目をつむり、次の瞬間に来る衝撃に備える。
でも、いつまで経っても衝撃は来なかった。
それどころか、誰かがわたしの体を抱きかかえているのだ。
恐る恐る目を開く。
「…ふむ。なるほどな。これが君の魔法の結果か」
そんなことを言ってのける私の使い魔が私の体を抱きかかえていたのだ。
予想できなかったわけじゃないけど…
「…ああ、とりあえず訊くが。怪我は無いな?」
「う、うん。それは大丈夫だけど…あなたは?わたしを庇ったんでしょ?」
「この程度で損傷を負うほどやわな造りはしていないつもりだが?」
ああ、安心した。わたしを庇って怪我をさせるのも何か良い気分はしない。
そう。これはわたしの失敗の招いた事。使い魔にはその責は無いのだし。
エミヤはわたしから視線を外すと周囲を一瞥した。
さっきの爆発は、他の使い魔たちを驚かしたらしく周囲が混乱していた。
「…ごめん」
「何故、わたしに謝る?意味の無い謝罪は受け入れられんのだが」
キュルケやモンモランシー達がわたしの失敗を糾弾する。
これもいつもの事。気にしてはいられない。
でも…主人のこんな姿を見てエミヤはどう思うのだろうか…?
○●○●○
良かった。間一髪間に合ったか。
爆発が彼女の身を焼く前に、我が身をその楯とする事に成功し安堵した。
「…だから!ルイズに魔法を使わせるなって言ったのよ!」
「ゼロのルイズに魔法が使える訳ないのに!」
周りの者たちの声は雑音に過ぎない。
そも、貴様らにはこの現象を再現する事が出来るのか?
私は少しの苛立ちを込めて言う。
「…ゼロか。ならば聞くが。彼女の魔法の何が失敗しているのか理解できる者がいるのか?」
周囲の騒ぎ立てるものたちを睥睨しながら次を続ける。
「彼女の魔法は決して失敗はしていない。錬金と言う魔法が爆発という現象に帰結しただけだ。この世界における魔法の失敗とは全て爆発現象に結びつくのか?百居るメイジのその全てが魔法の失敗の結果は爆発だと答えられるのか?」
周囲の喧騒が静まる。
私の言わんとする事に気がついた僅かの者達は目を見開く。その事実に今、気が付いたかのように。
「言えまい。恐らくは魔法の失敗は本来ならば魔力の霧散化によって何も起きないのだろうから。ならば彼女の成した現象は何を意味する?上辺の結果のみでは真実には辿り着けまい」
そう。成功確率をもってゼロと蔑称するのは大きな間違いだ。
彼女は魔法そのものには成功している。その正しい道筋を掴めていないだけだ。
「…エミヤ…」
「…以上だ。成功率をもってゼロとするならば主の魔法が失敗であると言う完全な証明をしてみせろ」
●○●○●
教室がそんな騒ぎに包まれていた頃。
コルベールは昨夜から図書館に詰めていた。
図書館は食堂と同じく本塔にある施設。その構成は圧巻。
高さ三十メイル(m.)もある本棚が壁沿いに並び立つ様は壮観以外に表す言葉が無い。
ここには始祖ブリミルがハルケギニアを新天地を築きあげてよりのあらゆる歴史が詰め込まれている。
彼は教師のみが閲覧できる【フェニアのライブラリー】で古文書、禁書を読み漁っていた。
そう。疑問となるのはあのヴァリエールが召喚した使い魔の事。
あの圧倒的な存在感と魔力。
【ディテクト・マジック】が示すのはその存在が幻獣と同格かそれ以上であると言う事。
そしてその手に刻まれた契印【シール】は見覚えあるものでもあった。
が。
それはけして普通に見覚えがあるのではなく。
古文書に刻まれていた事に覚えがあったのだ。
そして彼は一つ目の正解に辿り着いた。
「なっ!…ガンダールヴの契印……!?」
ミスタ・コルベール。火の系統のスペシャリスト。
『炎蛇のコルベール』の二つ名を持つ彼はこのトリステイン学院でも古参の部類に入る。
その容貌に似合わず彼は博識でもあり実力もある。
その彼をしてそれは驚かざるを得ないものだった。
それは伝説だからだ。その使い魔の契印も伝説であるならば、それを使役した者も。
彼は、古文書を手にしたまま、自らの持てる最大速度で学院長室へ走り出した。
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後書き
第六話です。
展開を端折ってこの程度。
だめぽいなぁ・・・
次回こそバトルに移れそうな予感。とはいえアッサリ風味ですが。
ちなみに、本作中じゃ恐らく戦闘による活躍はしませんが
『炎蛇のコルベール』、私の構築した世界じゃかなりの強キャラです。
召喚の儀式に付き添うくらいだから
使役不可能なヤバイ幻獣が召喚された場合に処理できる程度には強くしておかないと。
では。
次回は突貫工事で今日中に。
間に合わなかったら六月の中頃になる可能性も。
ま、あくまで可能性ですが。