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[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨◆b329da98
Date: 2007/11/06 00:43

ゼロの最強の使い魔Servant of The Zero



この作品はアーチャー(英霊エミヤ)の異界召喚モノです。
他世界Inモノです。答えを得ている為性格をやや円くして有ります。
その類の作品を受け付けない方には、まったくお勧めできません。
劇物であり毒物の最低踏み台系でもあります。
要注意してお読みください。
TYPE-MOON作品、ゼロの使い魔の設定など尊重はしますが、遵守はしていません。

――――――――――――――――――――――――

放たれる英霊



 また呼び出されるのか。
 己のものとも定まらぬ朧な意識の中、エミヤシロウはそう思った。これが幾度目の召喚となるのだろうと。
 答えは得た。あの時、自分のルーツと違う【衛宮士郎】との戦いは、自らの内に答えを再び与えてくれた。
 それでも【守護者】となった自分には影響は無い。
 解りきっていた事だった。彼自身、あれがただの八つ当たりでしかないことなど。

 だが、それでも。
 それでも磨耗した心は、あの遠き日の答えを。養父の笑顔を。
 己が貫くと決めた【答え】を得た。
 人を守る事。あの笑顔を守る事。
 それだけは間違っていなかったのだから。

 英霊の座から意識の一つが剥離する。それはいつもの事。
 座にあるのは集合体。複製を創り、成すべき事のある世界にいくのだ。
 聖杯戦争におけるサーヴァントの召喚もこれに似たようなものだ。
 今回は何者かに引き寄せられるかのような魔力が感じられる。
 おそらくはまた聖杯戦争に呼ばれるのだろう。
 抑止が守護者として派遣するのでなければ、それ以外に英霊を呼び出す手段は無いとされている。

○●○●○


 
「…むっ…」

 意識と身体が形作られる。現界が近いのだ。
 だが突如として横からの凄まじい魔力が身体を、意識を引き寄せる。
 何がおきようとしているのか理解が及ばない。この身でさえも始めて経験する現象だ。

「召喚事故っ!? これほど、強引な召喚は……凛かっ? いや、違う……これはっ!」

 彼女の失敗癖には生前もこうなった身の上でも存分に味わった事がある。
 だが、それとは違う。
 この魔力流はそんな事では片付けられない。何かしらの干渉が起きたのは確実なのだ。
 そうして、私はまったく見覚えの無い光景の中に降り立つ事になった。

「あんた、誰?」

 抜けるような青空を背景にした少女がそう言い放つ。
 いつかも聴いた事のある同じような言葉を。
 目の前の少女は彼女ではなかった。見覚えない場所に見覚えの無い少女。
 だが、この身は英霊。如何なる不測の事態にも応対できねばその身が泣こう。
 だから落ち着きを持ってこう返す。いつかの日の出来事と同じように。

「開口一番にそれかね? これはまた随分な召喚者に引きあてられたものだ」

 年の頃はおそらく十七歳ほどだろう。
 黒の外套の下に白色のブラウス、灰色のプリーツスカートで身を装った少女は
 その顔に困惑と疑惑を浮かべている。
 顔立ちはおそらく美少女の部類になるだろう。桃色がかったブロンドのロングヘアー。
 透き通るかの白い肌。その目の色は鳶色。
 髪の色さえ違えば記憶の彼方にある白の少女を彷彿とさせる。そんな少女だ。
 最も身長はこの少女のほうがあるだろう。
 身体的なプロポーションは平均化。それより劣るかと言ったところだが。

「ルイズ。『サモン・サーヴァント』で人間を。しかも平民を召喚してどうするの?」

 お互いを見合う少女と私に、周りにいた人間の誰かが声をかけた。
 声を受けて周囲を見遣ってみれば、黒の外套を身につけた人間達が物珍しそうにこちらを見ている。
 その背景は草原の緑と青空。いくばくかの中世欧州風の建物が見受けられた。
 だが何よりも特殊なのはこのありえないほど空気に満ちた濃密なマナだろう。

 目の前の少女、ルイズというらしいのだが。その少女の顔が見る見るうちに朱に染まる。

「なっ!ちょっと間違えただけよ!」

 少女が鈴のような響きのある声で反論した。

「間違いって、ルイズのそれはいつもの事だしなぁ」
「さすがは『ゼロ』のルイズ。はずすべき所は抑えてるか」

 そんな周囲の喧騒を他所に、私は現状の分析を開始する。
 この状況。状態。ありとあらゆる事に疑問がある。
 『守護者』としての降臨ではここまで確固たる自我意志を併せ持つことは稀だ。
 そして、先の言葉に聴き慣れた文言があった。確かにサーヴァントと言った。
 だが、聖杯からの情報が今現在でも引き落とすことが出来ない。
 つまりはこの召喚には聖杯戦争の図式が関与していない事にもなる。
 本来、守護者としてもサーヴァントとしても召喚されたのならば必要な知識と情報は世界なり聖杯なりから与えられるものだ。
 それが出来ない。
 そして、開口一番の彼女の言葉。
 あの言葉は全く意図していなかった存在が召喚されたが故の言葉だろう。
 意図して英霊を召喚するなど、余程の魔術儀式の後ろざさえが無い限り不可能。
 そう。聖杯戦争のような魔術儀式が必要となる。
 そもそも、私と彼女には、結ぶ縁すらない。
 英霊を召喚するのならば、その英霊にちなんだ物品などによる物理的な縁や生い立ちや性質的な類似、英霊側に召喚者との縁ある物品。
 そのような条件付けが無ければ、何が現れるかわかったものではないのだ。

 つまりは察するにこの召喚は完全なイレギュラー。
 双方どちらにとっても不測の事態なのだ。
 そうなった場合、こちらに思い当たる節が一切無いのならば、召喚者を問い質してその真意を知る必要がある。

「ああ、取り込み中のところ、すまないのだが……」

 私は目の前の少女に語りかける。声を発した事が契機となり再び場が沈黙する。
 訊ねるべきは一つ。

「君が私の召喚者で間違いないのかね?」

 少女は私に向き直る。
 先ほどまでの舌戦でやや頬が紅潮してはいるが、それでもしっかりと私を見据えてその問いに応える。

「あんたを呼び出す【サモン・サーヴァント】を使ったメイジが誰かと聞くのなら私…ね」

 強い少女だ。私をこれほどまっすぐに見返すその様はますます誰かを彷彿とさせる。

「想定外な召喚をされたものでね。私としても正直、状況が掴めないのだが」
「……こっちだって、アンタみたいな人間、引っ張ってくるなんて予想外よ!」

 人間? どうやら彼女は本当にこの身を人間としか知覚出来ていないようだ。
 この身は理想に挫けたりとか摩耗したりとか色々あったが。それでも神秘によってその身を成す英霊だ。
 それを人間としてしか知覚できないらしい。最悪、英霊という存在ですら理解の範疇外かもしれない。
 つまり、全くの異世界である可能性が色濃くなる。
 魔術知識や神秘に対する造詣。それらの観念が異なる世界は異世界といって相違あるまい。
 物理法則が同じであったとしてもだ。
 だが召喚技法が確立されているのは事実のようだ。つまりそれだけの神秘が存在している。

「ふむ? では、君は召喚の意図も無く私を呼び寄せた事になるのか?」
「そうだって言ってるじゃない! 何度も組み直した【サモン・サーヴァント】の術式で出て来たのがアンタだって!」

 何度か組み直した魔術形式。
 恐らくはこれが鍵になったのだろう、蓄積する形となった魔力が本来の通り道に横穴を作り上げた。
 推測できる原因としたらこれしかあるまい。
 だが。完全なるイレギュラーによる召喚、そこに介在する理由など、この身に推測できるものですらないのかも知れん。

 しかし、魔術概念が違うと思しき世界に異なる魔術法則の存在が召喚される。
 並列平行世界の運用たる【第二魔法】に類するのではないだろうか?
 あくまで推測でしかない。真実は別にある可能性も捨てきれない。

「ミスタ・コルベール!」

 ルイズと呼ばれていた少女が私から視線をはずし怒鳴る。
 その声に応えるかのように人垣が割れる。そしてその中から壮年の男性が現れる。
 格好は大して若い者達と変わるまい。だが、立ち振る舞いとその身の放つ魔力は比べるべくも無い。

「ほぅ。察するに君の師匠(マスター)かね?」
(あんたは黙っていて。私、先生にお話があるんだから)

 口にさえしていないがそんな意志の込められた視線で彼女は私を見遣った。いや、睨みつけたと言うべきか。
 私は肩をやや竦ませる事でそれに応える。

「何だね? ミス・ヴァリエール」
「あの! もう一回召喚をさせてください!!」

 むっ。それは少々聞き捨てならない発言だ。
 つまりは私を召喚した事を失敗と判断している。
 だが、ミスタ・コルベールと呼ばれた壮年の魔術師は、それに否と言って首を振る。

「それは不許可だ。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!?」
「決まりだよ。君達は二年生に進級するにあたり、例外なく【使い魔】を召喚する。今、執り行われている魔術儀式がそれだ」

 二年生に進級? つまりはこの儀式は学校のような組織が執り行っているのか?
 だとすれば、かなりの大規模な組織だろう。
 私の知る世界ではあり得ないこの濃密なマナを下支えとしての召喚儀式。
 それを制御しうる魔術形態。ますます謎が増える。
 下手に自我意識をもって現界するとこういった疑問が矢継ぎ早に浮かぶものなのだ。

「それにより現れた【使い魔】によって今後の属性を決定し、その専門課程へと進む。一度呼び出した【使い魔】の変更は認められん。なぜならば。この春の使い魔召喚の儀は神聖なるモノであるからだ。これに異を唱える事は許されない。好むと好まざるとこの儀式は完遂する必要があるのだよ」
「だ、だったら、なおの事です! 人間、それも見るからに【平民】な空気を醸し出した者を使い魔にしたら、私の進路となる属性が…っ」

 それほどに不服なのだろうか? しつこく食い下がる姿に私は少々憤りを感じた。
 この身を如何なる存在だと思っているのだろうか?
 それでも、この身はセイバーを初めとする他の英霊たちに比べれば……平民だな。
 うむ。平民に違いあるまい。

 ふと、意識を思考ではなく、身体の方に振り向けてみる。
 今回の身体を構成する因子に魂が馴染んできたらしい。
 英霊と呼ばれる存在は、基本的に霊体である為に、肉を持たず魔力によってその身を形作る。
 その仮初めの肉体をかたどる器に、改めて『己自身の魔力』を奔らせる。
 本来ならば周囲に影響は出ないはずだった。
 だが、それを行なった瞬間、今も脳裏に刻まれて消えぬ彼女の。【セイバー】の行なった魔力放出のように
 私の身体から赤に色づいた魔力がジェット噴射のように吹き出た。

 ……なんでさ?

 意図せずもかつての口癖が思考展開された。

「-----ッ!?」

 コルベールがそれをどう感じ取ったのか。私を驚愕の目で見る。
 いや、それどころか周囲の目は全て私に向けられている。私もこれほどの現象になるとは思わなかったのだが。
 気を取り直そう。ここで自分がこの現象に取り乱しては何事も始まらない。
 恐らくはこの世界の大気中に満ちる濃密なマナが関わっているのだろうが。

「さて?召喚者。つまり君は私が使い魔である事が不服だと。それは何よりだ。ならば早急に送還の儀式を執り行ってくれ。こちらは本来な召喚ですらない上に、正式な召喚術式に横槍をいれられて呼ばれた存在だ。ほぼ受肉した肉体を与えられた事は驚きではあるがな」

 私は自分が不本意な召喚の上の存在である事を告げる。
 そも、召喚する意図なく私を引きあてた事自体が驚愕であると言うのに
 守護者たるこの身をただの人間扱いされるこの侮辱。
 英霊と人間では圧倒的な存在の格の差があると言うのにだ。

「できない」
「何? …ちょ、もう一度、しっかりと言ってもらえないか? できるのなら、空耳であってほしい答えなのだが」
「できないって言ったの! 私、サモン・サーヴァントだってようやく成功したのにリターン・サモニングなんて上位術式使えないもん!!」

 唖然。彼女はこの身を戻す術を使えないと言い切った
 無論、私にその術があるはずも無い。
 如何に英霊に成ったとはいえ私の使える魔術などは平行次元の移動など論外。
 第二の領域など私には扱えよう筈が無いのだ。
 その触媒たる宝石剣は投影できたとしても。
 守護者としてならば掃除が終われば還れよう。聖杯戦争ならばマスター不在や敗北する事で座に戻されるのだが。

「ま、待て。戻す術式が使えないとはどう言う意味だ? 本来、如何なる召喚技法においても召喚者とそれに応じるものは契約が成らないのならば、元来よりの世界に戻るが当然だろう?」

 私の疑問に少女では無くコルベールが応える。

「…いや、何と言うか、どう答えればいいのかわかりませんが、本来、この召喚で人間が召喚されるとは想定されていないのですよ。それも使い魔契約を結ぶ事を拒否出来る自我と高度の知能を併せ持った存在を、この初期の段階で召喚できるものがいるとは思わなかったもので……いや、居るには居るんですが…まさか、彼女がそんな存在を召還を召喚できるなんて予測外も予測外だというのに
「…先に事例が無いから対応手段が無い…と言う事か?」
「そう言う事になりますかな。 ついでに加えて言うと……召還、リターン・サモニングを行う条件付けも少々厳しいので、今のこの段階ではなんとも…」

 私は正直、頭が痛くなってきた。
 最悪、召喚者を殺せば恐らくはこの世界との繋がりは消えよう。
 だが、彼女は災悪でもない。滅びでもないのだ。
 一を切り捨て九を救う。だが、彼女を殺しても救われるものなどいない。
 そも、この身を再び座に戻す為のみにそのような愚行をする訳にもいくまい。

「はぁ…仕方がない。正直なところ、不本意ではあるのだがね。召喚者?」
「な、何よ」

 私は少女を改めて見据える。
 やはり気丈だ。それでも私からは目を決して逸らしていない。
 だからこそ、私は最も大事な最初の『言葉』を告げる。

「君の名を。あらゆる召喚において最も重要なことだ」


―――――――――――――――――――――――――

後書き

加筆・改定を行いました。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨◆cee728bf
Date: 2009/01/02 19:21

「君の名を。あらゆる召喚において最も重要なことだ」




私が行なった召喚儀式【サモン・サーヴァント】によって現れたのは私が考えていた『使い魔』とはかけ離れていた。
目の前に現れた赤い外套の騎士は、その鷹のような眼差しで私を見ながらそう言った。
ああ、今なら理解出来る。
きっと、このヒトは人間なんかじゃない。
だって、私はこんな瞳をした人を知らない。
こんな見る者全てを射貫くような鉄みたいな瞳を。
でも、それでも『何かを貫く』と言う意思に彩られた瞳を。
そんな気高い瞳をしたひとを。
私は知らなかった。





―――――――――――――――――――――――――――――――

名を交わす事。それも契約


「・・・よろしいのですか?察するに貴方は・・・」

少女に名を問う私にコルベールが問いかける。
彼は先ほどの魔力放射で私が人間とは明らかに違う存在である事を認識出来た様だ。
まかりなりにも師匠であると言ったところか。

「構わんさ。現状、手段が無いのならば最も無難な手を打つだけの事だ」

「・・・わかりました。では、ミス・ヴァリエール。召喚の儀に続く、契約の儀を」

「あの、本当に彼と?」

少女は何かを躊躇している。
契約の儀に進むことが何らかの不利益をもたらすのだろうか?
確かに『使い魔』を使役するには注意しなければならない事はあろう。
ましてや、令呪のような絶対命令権も無しに高位存在と契約を行なう行為。
考えてみれば躊躇して然るべき事柄は山ほど浮かぶ。
聡明な少女だ。単純に物事を考えている訳ではないと言う事か。

「・・・わかりました」

少女はそう呟くように言うとまるで親の仇を見るような目で私をにらんだ。
・・・私が何をしたのだ?

「ねぇ」
「なにかね?」

彼女は私の目の前に立ち、顔に向けて両の手を伸ばす。

「む・・・少ししゃがんで。私の顔と同じくらい」

手が思う位置に届かなかったのか。そんな事を言う。
儀式に必要な行為があるのだろう。
それを行なうに私の身の丈が高い事が難儀するようだ。

「・・・感謝しなさいよ。貴族である私の大切な物をあげるんだから」
「・・・はっ?」

そんな事を言うと彼女は小さなロッドを私の眼前で振るい呪を紡いだ。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。
かの者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

浪々と力ある言葉が意味を成し一種の力場を形成する。
彼女が自らの名を告げた瞬間に不可思議な感覚が身体を貫いた。
だが、それよりも私を驚愕せしめるのは
眼前数ミリの所まで迫った彼女の顔・・・・・・ッ!!

「なっ、まちたまぇ・・・むぅ・・・・・・・・・・・」

静止の言葉は届かず彼女の唇は私の唇に重ねられた。
これかっ!?彼女が言った「大切なもの」とはこれの事なのか?!

私も英霊だ。多種多様な魔術儀式も知っている。
かつてはラインをつなぐ為、特定の女性と肉体関係を結んだ事もある。
だが少なくとも、それらの行為はお互いの意思の疎通が確認できた上での事だ。
これは不意打ち。あらゆる戦場を駆け洗練された心眼をもってしても読みきれなかった・・・ッ!
だが意味の無い行為ではない。こうしている現状、私と彼女の間に明確な霊脈が形成されていく。
魂の情報が身体に直結していく感覚が奔る。
そう、今までこの世界においてあやふやだった「英霊エミヤ」が確たる者とされていく。
「英霊エミヤ」が装うべく身体を世界が補強していく感覚すらある。
それは瞬時にして永遠の出来事だった。

そうして彼女は触れ合っていた唇を離す。

「終わりました」

彼女はその顔を熟れた林檎みたいに真っ赤にしている。
私は鉄の自制心で動揺を顔にだすまいとする。
そう。身体は剣で出来ているのだ。心は硝子だが。

「確かに。レイラインの繋がりを完全な形で確認した。君も魔術師の端くれであるのならば理解出来る筈だ。
私と君との間に築かれたラインが」
「・・・よくわからない・・・何か引っ張られている感じがするけど・・・」

引っ張られている感じ。こればかりはどうしようもあるまい。
霊的存在としての格が違うのだ。下位が上位に引き寄せられるのは道理でもある。

「それが理解出来れば上等だ。ここに契約は成った。これより我が身は君の為の剣となる。
君の意の元に動き、君の為の道を切り開こう」

誓約の言葉を送る。そう。この言葉をもって契約が締結される。その筈だった。

「・・・貴方の名前は?名前が最も重要だって言ったわ。私、貴方の名前を聞いてない」

・・・確かに私は彼女に真名も偽りの名も述べてはいない。
最も重要だと言った手前、名乗らないわけにもいくまい。
ましてやこの世界には「衛宮士郎」はいない。
知られて不利に働く要因はあるにはあるが些細なものだろう。
聖杯戦争で無いのならば当てはめられたクラスを偽名とする事も無い。

「私の名は・・・」

エミヤシロウ。それが私の名。英霊たる真名は『エミヤ』
かつて弓兵の英霊として現界したあのときには、決して名乗る事はすまいとした名だ。
凛に召喚されかけ抜けたいくつもの聖杯戦争の中で
私が答えを得たときの名は弓兵の英霊(アーチャー)を名乗っていた。
そう。この身がアーチャーでなければ恐らくはあの答えは得られなかったはずだ。
だが、この身は答えを再び得た身。貫き通すことが間違いでないと思い出した身だ。
衛宮切嗣から譲り受けた姓を。衛宮である事の意味を。
あの笑顔に憧れた訳を。人々を守るという事を。
だから。だから、私はこう名乗ろう。

「私の英霊たる真名はエミヤ。在りし日の名をエミヤシロウ。呼ばれ慣れ親しんだ名はアーチャー」

笑おう。この全ての名に誇りを持つのならば。
この名を名乗る事が間違いでないのならば
あの時、あの別れの間際、凛に笑いかけたように。

「好きに呼べばいい。どれもオレの名だ」

一拍置いて後、ルイズが呟くように私の名を反覆する。

「エミヤ・・・シロウ」

瞬間、私の左の手の甲にルーンのような文字が刻まれた。ルーンで無い事は明らかだ。
だがこの場においておきる現象。もはや意味の無い事などとは思うまい。

確かに名前は重要だった。彼女が私の名を呟く事でこれが刻まれた。
ルイズがエミヤシロウと言う存在を言葉として自らの中に取り入れた。
その意味と価値がこの私の左手に刻まれた紋章なのだろう。


そう。この瞬間に私は

ルイズの使い魔となったのだ


――――――――――――――――――――――――――――――――

後書き

なんていうかすっごい重圧の中の第二話目です。
期待して裏切られても責任持てませんよ。私は(爆)
基本的に進行はエミヤの一人称です。
いつもは冷静ですが、たまにヌけた思考もします。
独自の解釈とか設定とかが多いので受け入れられない時は
受け入れられない類となっております。

いやぁ・・・原作の出来事からするとほとんど進んでない(汗)
この後のプロットは二種類あるんですよねぇ・・・
原作に則した展開か、エミヤが召喚された事で予測外の展開となるか。
まぁ、原作のほのシリバトルに則すのが無難ですかね。
エミヤのおかげで全く違う展開ですが。


ちなみに原作ではサモン・サーヴァントは一方通行。
送還の術式は炸裂した独自設定だったりします。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2005/05/05 19:34

「好きに呼べばいい。どれもオレの名だ」


赤い外套の騎士はその名前を問うた私に飾ることの無い笑顔を見せた。
暖かな日の光のような。やさしさに満ちた笑顔を。
だから、彼の名を。この私の使い魔になることを契約した赤の騎士の名を。
私のファーストキスの相手になってしまったこの人の名前を。
心の中に仕舞いこむ様に呟いてみる。

「エミヤ…シロウ」


それはきっと。欠けていたパズルのピース。
それが自然の様に私の中に仕舞い込まれていく


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


お嬢様。人外なお姫様抱っこを経験す




「じゃあ・・・エミヤ。貴方の事はエミヤと呼ぶわ」

彼女は私の英霊としての名を呼ぶ事にしたようだ。
それが自然だろう。使い魔を弓兵などと呼んではその用途を邪推されてしまう。
あの称号は聖杯戦争の駒であったが故に許されたものだ。
私個人としては気にいっているだが。

真名を明らかにする行為。
対魔力の低い身の上としては、実は致命的な事ではあるのだが・・・
気にすまい。いまさら偽名で呼ぶ事など強制も出来ん。

「契約の儀の終了を認める。ミス・ヴァリエール?幾度も【サモン・サーヴァント】は失敗したが
【コントラクト・サーヴァント】は確実に成功したようだね」

ルイズと私との契約儀の終了を見定めたコルベールが声をかける。
なるほど。確かにアレは契約の形としては申し分ない。

「ハッ。相手が人間だから契約できたんだろうさ」
「そいつが高位の幻獣なら契約なんてできっこないさ。ゼロのルイズなんかに」

幾人かの者たちが囃し立てる。
・・・どうも、未熟な者たちが多いようだ。先ほど魔力放出でさえもそれを理解するに及んでいない。
一々反応するのも莫迦らしい。だが、我が主はそうはいかないようだ。
嘲笑に耐えられないのだろう。あの言葉の中に彼女が看過出来ない事があったようだ。

「バカにしないで!この人が人間だと勘違いしてる人達には言われたくない!」

ここで私を引き合いにだすか。
だが、彼女の言葉は真理だ。見た目の外見に捕らわれない事。これは如何なる事においても重要だ。
ルイズは私との契約によってこの身が人間で無い事を理解出来ているのだろう。
最も。英霊であるという事は理解出来ていないだろうが。

「・・ルイズ。言いたい者には好きなだけ言わせておけ。理解出来ない者に理解させる必要もない。
君が招聘した存在が如何なる存在であるかを。君がおぼろげでもそれを理解していれば十分だ」

無為な事は止めさせる。
ルイズがそれでも何か言いたげな視線で私を見上げる。
それに応える事はせず、傍らに立ち私の左手の甲を注視しているコルベールに声をかける。
・・・この契約の証が何かしたのだろうか?現状では推測も出来ないが。

「・・・さて?メイガス。これで召喚の儀は全員終了しているのだろう。次になす事があるのではないかね?」

状況を動かすには、その場において最も影響力のある存在に行動を促す。

「っ!ああ、そうでした。次の授業の時間までに戻らなければならないのです。皆、教室に戻るぞ」

周囲を見渡し集まっている者達に帰還を指示した。
コルベールは踵を返すと空に浮かぶ。
・・・待て。空中に浮かぶ?重力制御の領域を何も詠唱無しで行なうだと?
私は自分の目が信じられなかった。
コルベールの他にも生徒達までもがそれを行なったのだ。
・・・認めよう。今おきた現象すらも理解しきらねば、現象の抱える神秘に押し潰される。
恐らくは重力制御に見えるようで別の方法だろう。
魔力の働く瞬間にその働きを解析しておけば如何なる原理かも推測できたのだが。

彼らは西洋建築の建物に向い飛んでいく。
その中には私の主は含まれていない・・・何故だ?
飛び去る中にルイズを卑下する言葉を放つものがいる。

「お前は歩いて来いよ?どーせ、【レビテーション】も使えないんだからさ」
「ま、ゼロのルイズだしな」

・・・そんな言葉をかけて彼らは遠ざかる。
察するに、私の主はこの飛行を可能とする魔術行使が出来ない。
恐らくは先ほどの言葉の中にあるゼロとは「能無し」の意味で使われた言葉なのだろう。
だが、だが。そんな事は毛ほどにも気にすまい。
この英霊たる私を独力で引き寄せた少女だ。たとえそれが偶然や事故の類であったとしてもだ。
結果が敢然としてここにある。

「ルイズ。君は飛ばないのかね?」
「・・・飛べるものなら飛んでいるわ」
「やれやれ。なら素直にできないと言った方が良い。出来ない事を出来ないと認める事は消して恥などではない」

遠くにはまだ飛び行く者の影が見える。
ふむ。身体の慣らし運転にはちょうど良いかも知れんな。
戦闘行動とまではいくまいが肉体能力の診断は必要だろう。

「なら、仕方があるまいな。君が自らの力で移動できないのならば私がやろう」
「・・・へっ?な、なにを?っきゃあっ!」

私は彼女を抱き上げる。背負う方が安定するが手っ取り早いのはこちらだろう。
俗に言うお姫様抱っこだ。

「しっかり掴まれ。振り落とさないように極力、気をつけるがな」
「ちょ・・・ちょっと?なにする気?」
「何。少しばかり運動につきあってもらうだけだ」

踏み出す一歩に魔力を込める。一歩、二歩、三歩っ・・・!!
走る。魔力が奔る。風景が流れていく。風が引き割かれていく。
早過ぎる。今まで感じたことの無い魔力の猛り。この身体性能。
・・・おかしい。おかしいのだ。私は英霊となり守護者となってもこれほどまで身体が動いた事は無い。

「きゃあああああぁっぁぁぁぁぁっぁぁああきゃあああああああぁぁっぁぁぁあああぁあああぁあああ!!!!」

召喚直後から感じていたものがここに来て確実なものになる。
この身を形成する因子が「魔力放出」を可能としている。
恐らくはこの世界に満ちる濃厚なマナを能動的に取り込み私の力に変換しているのだ。
かの騎士王の魔術炉心が息をするように魔力を生むのならば
こちらは取り入れる空気そのものが魔力といって相違あるまい。
その運用効率も全く今までの世界とは比較にならない。
そう。恐らくは英霊に類するのならば、全ての存在がこの恩恵を受けよう。

「ぁぁぁぁっぁあああああああぁっぁぁっぁぁああああああああああっぁっぁぁぁっぁああああぁぁっ!!!」

マナを取り入れ変換し余剰となった魔力がジェット噴射のように吐き出されていく。
赤の霞のような魔力が。セイバーの魔力は蒼くもあり碧のようでもあったな。
かの英雄王ならば、間違うことなき黄金。あの大英雄ならば黒金色。
あのいけ好かない槍兵ならば深き蒼。
魔力と言うものは本来無色だ。
だがこのような形で可視可能であるとするなら恐らくはその魂の色を示すのではなかろうか。

私の視界が、先行したコルベール達の姿を映す。だが一瞬の事。
それは瞬く間に背後に流れ小さくなる。
そうして私は目的の場所であろう施設の前に着いた。

「さて?ルイズ。目的の場所に着いたようだが」
「・・・ぅみゅぅ・・・・・・」

・・・しまった。いささか思考展開に没頭し過ぎた。
過度の速度加速にブラックアウトを引き起こしているようだ。私の首にしがみついたまま気を失っている。
だが、これほどの事になるとは私も予測出来なかったのだが。
これは修正しておくべき事だ。この身の元来よりの能力を遥かに上回る能力を得ているようだ。
これも自らのものとして織り込まねば不測の事態に対応出来まい。
しかし・・・この次の指示を仰ぐべく必要な主が気絶した状況。

「・・・まいったな。どうしたものか」


●○●○●




あれ・・・?わたし、どうしたんだっけ?
ああ、そっか。私の使い魔になったあの掴み所の無い赤い外套の騎士に抱き上げられて・・・
どうしたんだっけ?すっごいかぜがふいていたのはおぼえているんだけど・・・
ああ、なんかすごくあたまがくらくらする。ふわふわしていてよくわかんない。
でもこれって、とってもつかれておふとんでねているときとおなじ。
ああ、ごごのじゅぎょうがまだのこっているのに・・・
・・・起きなくちゃ。
そうしてゆっくりめをあけてみる。

「む。目を覚ましたようだな。気分はどうだね?マイ・マスター?」

思い出した。はっきり思い出した。
この男は、洒落にもならない正しい意味で人外な速度で私を運んだのだっ・・・!
顔が再び青くなるのがわかる。でも頭に血が上ってくるのもわかる。
ああ、今の私の顔色。とっても不思議な色をしている。
だって。その証拠に。

「・・・面妖な。青くするのか、赤くするのか。ハッキリした方がいいぞ?毛細血管に負荷がいく」

あろう事かそんな口の効き方をするのだ。この使い魔は!
すごい存在なのはなんとなくだけどわかるつもり。でも。でもっ!
それでもっ!私のファ、ふぁーすときすを奪った挙句に使い魔になったのに。
もう少し口の効き方と言うのがあってしかるべきでしょう・・・っ!

「・・・ああ、あなたねぇ・・・自分がどんな速度で移動したのかっ!理解してる?解ってる?承知してる?」
「落ち着きたまえ。問いの意味が重複してるぞ」
「いいえ。私は落ち着いてます。貴族たるもの、いつも毅然として優雅でなくてはならないの!だ・か・ら!私は落ち着いてるっ!」
「・・・ふぅ。解った。君は落ち着いている。これでいいかね?」

ぅ。話の論点をすりかえられたぁ・・・むぅ・・・

「もぉいいわ。それより聞きたいんだけど」

・・・私はこの人と口でやりあっても絶対に勝てない。たぶんだけど。
だから当面の疑問を解消する事を優先しよう。

「ふむ。答えられる範囲で良いなら答えるが?」
「何で、私、部屋で寝てるの?というか、午後の授業は?」

そう。午後の授業があったはず。それをどうしたのだろう?
私は出かける前に部屋に鍵をかけていったのにどうやってここまで連れて来たのだろう?
気になる点は山ほどある。

「なるほど。では起きた出来事の順に説明する事にしよう。まず学舎の前に連れてきた時に、君が気を失っている事を確認した私は、無理に起こすわけにもいかずとりあえず呼吸の有無と心拍数の安定を確認し、異常が無い事に安堵した。然る後に周囲にいた教員と思しき人物に君の宿舎の所在を確かめた。この身が君の使い魔であると説明したが不審気な瞳で見られ、君の名を告げたら不思議な納得をされ、その後に宿舎まで案内された。この部屋の前まで来たのだが鍵がかかっていたので仕方が無いのでこれを破壊。ああ、もちろん修復はしておいたから安心するように。そしてとりあえずベットに寝かせようと思ったが流石に外套を着けた外着のままという訳にもいかないので着替えを探す為に家捜しを敢行。ついでに部屋の整理整頓もしておいた。そしてその後に君の参加予定の授業場まで向かい、君が気を失った為、参加できない旨を通達。その理由に事実を告げる事は君に不利になると思い召喚の儀による負荷としておいた。その後に部屋に戻り君が目覚めるまで待機。さて、何か問題は?」

・・・一息に説明されるとは思わなかったんだけど・・・でも穴が無い。とりあえず文句がでない対応だ。
何で、こんなに手慣れているのだろう?不思議だ。

「無いわ。とりあえずはね。ねぇ、どうしてそんなに手慣れているの?」

「・・・これでも英霊となる前は執事で生計を立てた時代もある。もっとも全盛期のような執事としてのキレは失ったがな」

英霊?そんな単語、私は知らない。そうだ。彼が自分の名前を告げた時もそんな事を言った。
そう。聞かなくてはならない。彼の主人を務めるなら使い魔の事を知る義務がある。

「・・・ねぇ。エミヤ。あなたが何処から来たのか。それを教えて。それだけじゃないわ。聞きたい事がいっぱいあるの」

「ふむ。奇遇だな。私も知るべき事があるからな。信頼関係を醸成するのにお互いの疑問を解消することも大切だろう」

日はまだ沈んではいない。
語る事も聞く事もたくさんあるはず。
時間はまだまだある。さぁ、語り合いましょう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


後書き

ええっと。第三話です。
つーか無理やり感が全体に(汗)
ルイズの一人称で語る部分が不自然だ(汗)
って言うか性格が全く別人になってる(汗)
どうもうまく掴めていないようだなぁ・・・精進せねば。

次回は独自解釈と独自展開を見せます。
エミヤによる【ゼロのルイズ】の魔法系統推論です。
彼は何処までその本質に迫れるのか。
私の解釈と主観(型月世界魔術観にしてもゼロのルイズ世界魔術観にしても)がでると思うので
次回は結構読む人を選びます。ご注意を。

ああ、早くフーケとのバトルが書きたい。
UBWとガンダルーヴの力が絡み合うのを描く最初の場面なんですよ
頭の中ではバリバリと妄想が。
でも間を抜くと繋がり悪くなるし、何話後になるやら(汗)



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2005/05/08 10:32




「・・・ねぇ。エミヤ。あなたが何処から来たのか。それを教えて。それだけじゃないわ。聞きたい事がいっぱいあるの」


そう。訊かなくてはならない。
この人はどんな存在であるかを。
本来、ハルケギニアの生物を召喚するはずの【サモン・サーヴァント】
それに応じて現れたこの赤い騎士の事を。
そう。訊ねなくてはならない。
ハルケギニアの住人でないのならば
一体どんな場所からやってきたのか。
わたしは。ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは。
彼の主たらんとするならば。知らなくてはならない。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――

英霊・魔法・虚無


ルイズのその言葉に私はこう応える。
ベッドの渕に腰をおろし見上げる形で私を見るルイズに相対する。

「ふむ。奇遇だな。私も知るべき事があるからな。信頼関係を醸成するのにお互いの疑問を解消することも大切だろう」

そう。知らねばならない事はたくさんある。
正式な形での召喚で無い以上、この身は『世界』に接続し情報を得る事はかなわない。
ならば、私をこの場に引き込んだマスターにその義務を負ってもらう。
これぐらいはしてもらっても問題あるまい。

「では、マスター。そちらからの提案だ。まずはこちらが君の疑問に応える事にしよう」
「・・・なら、エミヤは何者なの?あなたは自分を指して『英霊』と言っていたわ。【サモン・サーヴァント】はね。元来は
この世界の生物しか召喚できないはずなの。私、この世界に英霊なんて種族の生物がいるなんて聞いた事が無い」

ふむ。そこが疑問か。
聡明な少女だ。その一つの問いで『英霊エミヤ』を知る事が出来よう。
だが、しかし。この世界にはこの世界のルールがあろう。
したがって、私の知る世界法則での説明をしてもこの少女には理解出来まい。
ならば、異なる法則を翻訳して彼女にわかる形で説明せねば。

「ふむ。英霊とは・・・実体無き魂のみの存在。そうだな。人が辿り着き得る結果の可能性の一つとでもしておこうか。この世界にも『伝説に語られる存在』がいるだろう?それと同じ者だと理解するのが一番早い」
「伝説に語られる存在?始祖の魔法使いブリミルの事?」
「まぁ、解り易い例が浮かんだのならそれで良い。そういった存在が人の信仰を得て上り詰めた現象。それが英霊だ。最もこれは一般的な例だ。中には亜種もいる。私はその後者に分類され「守護者」とも言われるな」
「しゅごしゃ?なにかを守る人の事よね?」
「そうだ。人を滅ぼすあらゆる災厄に立ち向かいその災厄の打破を担うもの。それが守護者だ」

そう。私の有り方がそれだ。
人々を守る為ならば世界すらも敵に廻す。アラヤの尖兵たる者の有り方。

「私が守護者になった理由は・・・やりたい事があったから生前、死ぬ間際に【世界】と契約したから。その命を対価として【世界】に対して奇跡の執行を願ったのだよ。今、君の前にいるのはそのなれの果てだ」
「・・・【世界】と契約?」
「私の知る世界ではな。選ばれた資格を持つものがそれを許される。その命を対価に、その死後を譲る代わりに成し得ぬ奇跡をなすことが許される。こちらの世界にはその図式は無いようだがな」
「・・・こちらの世界にその図式がない?どうしてそう思うの?」
「簡単だ。この世界に【世界】の意思が明確に存在しているのならばその尖兵たる私はそれを知覚できるから。だが知覚出来ない。おそらくは【世界】に意思があっても人に積極的な関与をするのではないのだろうな」

あるいは。英霊とは違った形での抑止の存在を所有するか。

「・・・よくわからないけど、人間とは違う存在なのね?」
「ああ。そのとおりだ。人の上位存在程度の認識で構わんよ。神秘に対する造詣が全く違うからな。下手に理解しようとすると君の理性を破壊する事になりかねん」
「疑問は残るんだけど・・・じゃあどこから来たの?」

そうだ。英霊を語るのであれば座の説明もしなければならない。
さすがに神秘に対する造詣が根底から異なる世界だ。
あちらの世界では説明せずに済む事を、理解出来るようにそれでいて侵食しないように教える必要がある。
ルイズはこの世界の住人である以上、この世界の神秘に従わねばならないのだから。

「英霊は『座』と呼ばれるところにその意識の集合体がある。君の前にいるのはその複製体だ。我ら英霊は成すべき任を負い現界する際に座にてその複製を作り送り出すのだ」
「『座』?そこがあなたのいた場所・・・?」
「そう。ありとあらゆる次元から切り離され時間すらも有り得ない場所。それが『英霊の座』だ」

・・・その答えを聞いたルイズの顔が青くなる。
何故だ?この座の説明に何か彼女に関係することがあるのか?

「ルイズ?どうした。気分が優れないようだが・・・?」
「…違うの。契約する前に思い出すべき事を思い出したの・・・」
「何をだね?」
「ごめんなさい・・・多分、あなたをそこに帰してあげることが出来ない」

…座に帰還できない?ああ、別にたいした事でもないが・・・何故だ?
彼女はその青ざめた表情で俯きながら言った。その理由を。

「【リターン・サモニング】。送還の術式なんだけど・・・これにはある条件があるの」
「ある条件?何かね」
「・・・『執り行なう者が対象となる存在のいた場所を知覚し理解している事』。あなたがいた場所の事を理解し知覚している人なんて・・・貴方しかいない。執行者と送還対象が同じ存在ではこの術式は成立しないの」

なるほど。確かにそれでは私は戻れまい。だが・・・
その程度の事で彼女が気に病む事などあるだろうか。

「・・・なるほどな。それでは私は確かにもどれんだろうさ。だが問題は無い」
「どうして?戻れないのよ?」
「別に大きな問題は無い。守護者としての任からも解放された自我意識有りの現界だ。原因こそはわからぬがほぼ実体に近い器も与えられた。ならば精々楽しむ事にするさ」

そう。問題は無い。だから私は軽い口調で言ってやる。
この複製体である身の上を座に戻す為に彼女が気に病む必要などどこにも無い。

「・・・ほんとに?」
「ああ。この身は本来肉体無き魂で構成される霊的存在だ。肉体と言う唯一のモノに縛られる事が無い。故にありとあらゆる時間にあらゆる世界に呼ばれうる。こうしている今でも、『別の私が別の世界』での任に就いている事もある。この場に受肉した肉体で存在している私にはそれを知覚出来ないが、座にある本体には記録されているだろうよ」
「本当に人間じゃないのね・・・」
「・・・こわくなったかね?」

それも仕方あるまい。この身は英霊。
如何に受肉した肉体を与えられたとは言え、人間とは根本が異なる。
異なるモノに恐怖を抱くのは当然の事だろう。未知の恐怖は踏破するには厳しいものだ。

「・・・違う。怖いなんて思わないわ」
「ほぅ。何故。私は人間とも違う異能の存在。それが怖く無いと?」
「当然よ。だって、何より契約を結んだ以上は貴方はわたしの使い魔。その使い魔を恐れるなんて事は御主人様として有り得ないことだもの」

クッ。何たる事。彼女は強い。
自らの使い魔であるなら、それが如何なる存在でも恐れる必要が無いとまで言い切った。
凛。君を見ているようだ。
君と同じように、彼女もまたこの身を御するに相応しかろう。

「・・・良い答えだ。ならせいぜい期待を裏切らないでくれよ。マイ・マスター」

○●○●○



「さて・・・すこし話し疲れたな。紅茶でも淹れてくる。ここらで一息入れるとしよう」

私は話を切り場を立つ。
これ以上は私の生前の事になるからだ。英霊となり長きを経た私はかつての記憶を鮮明には思い出せない。
場面場面の重大事が記録として残る程度。あとは人名。そこにあった筈の過ごした日常は朧げだ。
そして、愚かだった頃の自分。だがそれでも間違っていなかった自分。
確かに答えは得たが・・・これを人に語り聞かせる事が出来るほど誇れるわけでもない。
そう。衛宮士郎が愚かであった事実は変わらない。

私の存在は大まかではあるが理解出来ただろう。
次は此方の疑問に答えてもらわねばなるまい。
推測出来る事はある。
一般常識含む社会通念等は大きく剥離してはいまい。恐らくは文明レベルとして中世欧州。
この世界に溢れる膨大なるマナがある故に『神秘』が普通となった世界。
魔術があるが故に科学や文明が発達しない稀有な例。
だが、魔術観を含めた神秘の造詣は大きく異なっているようだ。これを自らの知識とすり合わせねばならない。

ルイズは元からこの世界の神秘に属する者である。故に私の知る神秘の観念を押し付ける必要はない。
英霊エミヤは別の世界の神秘に因る存在。故にこの世界の神秘を僅かなりとも理解せねば力を振るう事が出来ない。

「さて。ルイズ。受け取りたまえ。君の分だ」

思考展開しながら淹れた紅茶を彼女に渡す。
もはやこの手の作業は、知識で理解するのではなく魂が覚えている。

「・・・っん。ありがとう・・・あ、おいしい。これ部屋にあった紅茶の茶葉?」
「ああ。すまんな。勝手に使わせてもらったが・・・気にいって貰えたようで安心したよ」

不思議なものだ。この手の嗜好品の種別は大して違わない。
恐らくは名称が少し違う程度なのだろう。

さて、これからは私が訊かねばならぬ。
この身を彼女の使い魔として契約したのであればその責務を果たす為にも。

「・・・次は私の疑問に応えてもらおうと思うのだが」
「うーん・・・正直聞きたい事とかはまだあるんだけど・・・まぁ、良いわ。わたしに答えられる程度ならね」
「まず一つ目。場所の名称等だ。異世界と言う区切りは私から見たものだからな。正しき名称を刻む事で僅かなりとも理解の内に取り入れる必要がある」
「場所の名称?・・・ハルケギニアよ。ここはハルケギニア大陸。トリステイン王国のトリステイン魔法学院。その宿舎が今、わたし達が居る場所よ」

ハルケギニア。やはり知らない名だ。大陸としての名か。正しくして伝承より伝わる『世界』の名か。
トリステイン。・・・セイバーの円卓の騎士団に似た名前の者がいたが・・・似ているだけで関連はあるまい。

「ふむ。やはり知らない名だな。では次だ。この世界にも魔術があるのだろう?それを君の知る範囲で教えてもらいたい」
「・・・?魔術?魔法でなくて?」
「・・・まて。『魔法』と言ったか?つまり、この世界おいて使われるものは魔術ではなく魔法だと?」
「そうよ。尊ぶべき貴族の血を持つ者が使う事が許される。それが魔法」

・・・その時点で違うのか。つまり魔法が普通。術などではないのだ。
私の知る世界では五つしか存在が確認されなかった魔法。
それがこの世界の通常。だが、真に『魔法』たるものなのだろうか?
次元干渉や魂への干渉。それらも内包し得るのであろうか?
だが、共通している事項がある。貴族の血を継承した者がこれを行使する事が出来ると言う。
これは私の世界の魔術回路を持つ人間の事だ。

「・・・詳しくはどのように力を成すものだ?法則であるなら形式が決まっているはずだが」
「基本的に四大元素に干渉するのよ。火、風、水、土。世界に満ちるこの四つを作る粒を利用するの」
「・・・自然現象に対する干渉か?それを術者の思うように使うと?」
「思うようにって訳にはいかないけどね。得意属性を持ちスクウェアになれば大体の事は出来るわ。それに自然現象に限定された訳でも無いしね。怪我とかの治癒の魔法は水の属性よ。これって人の身体の仕組みにかかわってくるでしょう?」

私の世界の魔術では【定められた形式に接続する事】で魔術は成立した。
こちらの世界は術者の能力でその引き起こす現象を作り上げる事が出来るようだ。
だが、四大元素では魂や次元などの領域には到達してはいまい。
それでも四大元素をもって物質を構成している因子には干渉可能と言うことか。
目に見えない形で存在する四大元素への干渉で物質、自然、その双方に影響を及ぼす力。
その影響効果範囲は定められたものではなく術者の能力に依存する。
それがこの世界における魔法の定義なのだろう。
等価交換の基本すらなく魔力を持って魔法を織り成す。
我が世界の普通の魔術師が知ればなんと思うだろうか。

私の固有結界はこの法則には左右されまい。
固有結界は術者の心象を現実世界に侵食させるものだ。
つまり、私自身がそれを理解出来ていれば如何なる世界にも侵食可能。
投影もそれに順ずる。私の投影は名義上投影と名付けられただけのものだ。

「ふむ・・・そうなるとやはり実例を見せてもらうのが一番か。ルイズ。君の得意なもので構わない。何か魔法を使って貰えないか?実際に目で確認し魔力の働きを解析すれば具体的な事がわかるのだが」

私のこの言葉にルイズの表情が固まる。
何故だ?私はただ魔法を使って欲しいだけなのだが・・・

「・・・何か問題でもあるのかね?」
「・・・わたしつかえない」
「は?」
「・・・わたし、よんだいげんそのまほう、つかえない」

ルイズは乾ききった口調でそう切り返す。
・・・使えない?四大元素に干渉できないと言う事か?
だが、それでは・・・

「ルイズ。それは妙な話になるぞ。君は貴族であるなら魔法を使えると言ったな?そして君は自らが貴族であるとした。ならば魔法は使えねばならないはずだ」
「・・・分かっている。おかしいってことくらいは。でも・・・使えないのも事実」

彼女の声には先ほどまでの会話の力が無い。
・・・どうやら順番を間違えたな。もう少しちがう方向でアプローチすべきだったか。
しかし、妙なことだ。彼女は確かに魔力がある。それは確実だ。
契約を結んだこの身にはレイラインを通す事でそれが知覚できる。
だが、その魔力を正しく四大元素に干渉させる事が出来ない。
・・・もう少し踏みいる必要があるな。彼女に道筋を見つけるためにも。

「ふむ。どの時点で魔法が成立しないのだ?マナを体内に取り込みオドに変換する。これは出来ているな。オドを外界に接触させる為の魔力変換もできていよう」
「・・・一番最後。魔力を四大元素に干渉させ、書き変える瞬間に、どうしても爆発現象がおきるの」

彼女はそう言うとフルフルと肩を振るわせわななく口調で次を続ける。

「・・・魔法成功確立ゼロ。人はこれを揶揄して私をゼロのルイズと呼ぶわ・・・っ」
「あー・・・すまない。触れるべきではなかったな。だが・・・」
「何よ?!使えないものは使えないんだからしょうがないじゃない!!」
「いや、そうではなくてな。ふと思ったんだが・・・」

そう。ルイズは魔力を使う段階までは出来る。結果が想定とは異なるが。
ならば、彼女は魔法を使えなければならない。だが四大元素の運用は出来ない。
ここで仮定をしよう。
もし、この世界の属性系統がもう一つあったとしたらどうなるだろうか?
四大元素以外の構成因子に働くものがあるとするならば。
彼女がそれに特化している故に他の属性が使えないと言う仮説が成り立たないだろうか。

「君は魔法が使えるのは確かだ。だが四大元素に働きかけるものではないとしたらどうなる?」
「・・・四大元素に働きかけない?」
「そう。四大元素以外の属性であるが故に四大元素に干渉出来ない。なおそれに特化しているが為に」
「・・・一つだけ。四大元素に含まれない伝説にしか伝わらない系統があるの」

彼女は目を瞑りそれを告げる。

「虚無。名前しか伝わっていない。どのような力であるかさえ不明。始祖ブリミルが行使したとされる力よ」
「・・・なるほどな。四つの系統が使えないのであれば消去法だ。残るのはその系統になる」
「これは伝説よ?こんなもの使えるわけが・・・」
「マスター。一つ警告を。自らでそれが出来ないと思うのは早計だ。出来ないと決めた時点でその物事は絶対に成し得なくなる。出来ると盲信するのも悪いが、頭から使えないと否定するも悪しだ」

そこで私は言葉を区切る。
思い出す。かつての未熟だった頃を。
正しい魔術の使い方も知らず、使う魔術の本質も知らなかった頃を。

「後は知る事だ。それが如何なるものであるかを。それが正しくして君の知るべきものであるならば、一度理解してしまえば後は真綿に水が吸い込む様に。パズルのピース。その全てが当てはまるように上手くいく筈だ」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――


後書き

第四話です。
ツッコミどころ満載です。訳ワカリマセン。

私の構築した世界ではルイズは『知識があるが実践がまるでだめな娘』です。
まともに魔法が使えないからそれを知識で無理やりに補っていると言う感じですね。
作中でも魔法が使えないだけで知識は十分にあると見受けられたので。

このおはなしをやっておかないと次が続かないんですよね。
英霊エミヤをこちらの世界に取り込む為に通過せねばならない事をここで消化したつもりです。
かなり独自の解釈が入り混じってる事は痛感しています。
自分なりに上手くすり合わせたつもりですが見過ごせない点があったら容赦無く。

まぁ、原作の祖筋に沿って展開していくと原作のキャラ置換ものにしかならないのでここで独自展開を加えてみました。
『エミヤ、ルイズの属性を推測する』です。
ここで彼女に属性を理解させる事で物語りは微妙に変化を見せ始めます。
今はまだ小さなうねりですが・・・?

まぁ、一番大きく変化するのは人物相関図でしょうが。
次回は一気に登場人物が増えます。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2005/05/14 19:42

「月が二つ・・・か。やれやれ、本当に違うのか」


屋根の上。そこに私は立つ。
空を見上げると二つの月。
私の主は眠っている。
話しつかれたのだろう。
時間の経過も忘れて語り合ったのだから。
夜空の静かさはどこも変わらない。
昔も今も、あの時も。
別の世界だろうと静かだ。
人が眠りにつく時間であるならなおさらだ。
私の主は眠っている。
明日をその道しるべにして私の主は眠っている。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


日常の始まり



朝が来る。
私がこちらの世界に召喚され一夜が明けようとしている。
昨夜は有意義だった。
こちらの世界観を身につけねば何がおきるかわからん。
今回のような事故召喚では、『世界』からの支援は期待出来まい。
然るに情報は自らの耳と足で仕入れなければならないのだ。
幸運なのは今回の召喚者ルイズが博識の部類にあたることか。
こちらの質問に対して必要な部分を的確に答えてくれた。
もっとも、自身の専攻する魔法の分野での質問だったことにも起因するだろうが。

さて、時間になるか。
ルイズを起こさねばならない。
眠りに就く前に、明日の朝起こすようにとも言われていた事もあるし。
彼女は学生の身分であるために基本的に日中は学院内で過ごす事になる。
そのためには規則正しい起床時間が必要になるだろう。

「ルイズ。朝だ。起きるように」
「すぅ・・・すぅ・・・---すぅ・・・」

・・・起きんな。優しく語り掛ける程度では起きないのか?
仕方あるまいな。できればかような手段は使いたくないのだが。

「・・・てぃ!!」

彼女の包まる布団を一瞬にして引き剥がす!
布団と言う防壁を力任せに除去し、身体に対し直接、外気を当てる。
いきなり布団を剥がされる事で身を包んでいた感触が急に無くなるショックと外気との温度差。
二重の衝撃がルイズを襲う。
基本的にこれで起きない者はいない。

「ぅきゃ?!な、なにごと?!」

案の定、彼女は目を覚ました。
まぁ、これで起きなければそれなりの対応手段に出るしかなかったが。

「朝だ。一声かけても起きなかったのでな。それなりの対処をした」
「・・・って、あなただれ?」
「・・・君な。自分の召喚した使い魔の顔くらいしっかり覚えておくように」

・・・朝一番の主の声がこれか。正直不安になってきたのだが。
朝が致命的に弱い人種は他にもいる。深くは気にすまい。

「あ、思い出した。そう言えば、昨日の召喚の儀で現れたのがあなただったのよね」
「そうだ。自身の成した事くらいはしっかり記憶しておくように」
「・・・あ、そうだ。ねぇ、エミヤ?」
「何かね?」

む?聞きたい事でもあるのだろうか。

「着替え」
「何?着替えがどうしたのか?」
「着替え用意して」
「・・・誰が?」

・・・そこで私を指差すのか?君は!
まぁ、一応昨日の家捜しでこの部屋のどこに何があるか位は把握しているが・・・

「・・・はぁ、仕方がない。少し待て。着ていく服は昨日と同じ外套に着合わせる形で良いんだな?」
「ん。お願い」

全く。なんて召喚者だ。
まさか英霊となった身で年のころ17,8の少女の服装を用意するハメになろうとは。

「・・・これでいいのかね?全く。自分の身支度くらいは自分で・・・」

不承不承ながらも着替えを用意して、彼女の前に置く。
そして、その次に彼女が放った言葉は今までの如何の様な命令よりも困難な言葉だった。
そう、かの大英雄と対峙した時と同じくらいには。

「着替えさせて」
「ハイ?」

・・・着替えさせてと言わなかったか?
聞き違いだろう。いやそうあるべきだ。むしろそうあって欲しい。

「あー、すまない。マスター。私の聞き違いだと思うのだが・・・もう一度言ってくれ」
「着替えさせてって言ったの」
「ちょ・・・ちょっと待て!ルイズ。君な。使い魔を何だと思っているんだ?」
「え?使い魔ってご主人様の命令には服従するものでしょう?主人に役立つ事をするのが定義なんだし」

いや。間違ってはいない。いないのだが。
それも内容次第によるとは思わんのか?彼女は。

「・・・あのな。君は男に着替えさせると言う事をどう思っているんだ?英霊とは言っても私は男だぞ?」
「別に使い魔に男なんて感じないわよ?」

くっ・・・そうきたか。
よかろう。その言、言わなければよかったと後悔させてくれる。
この手の発言にはこう切り返すに限る。

「・・・それは残念だな。君が私に男を感じずとも、私は君に女性を感じているのだがね」
「なっ・・・!なにをいって・・・っ!!」

この台詞、言う為にはけして相手から目をそらしてはならない。
真正面に向い立ち、臆する事無く言ってのけねばならぬ。
そう。表情もけして軽薄な笑みを浮かべてはならないのだ。
肝要なのは如何に台詞に引き込むか、如何にその意味を解釈させるかにある。

・・・まぁ、もっともこの場合は大きな意味を含ませていないのだがな。
比較対比によって、互いの認識の差による受け止め方を理解させるのだ。
この台詞には説得力が必要だ。少しでも揺るぎがあっては効果がない。

案の定、彼女の顔が赤く熟し切ったリンゴの様に朱に染まる。
やはり、この手の手合いにはこういった不意打ちが効く。

「あぅぁあうあうあう・・・」
「さて?では、ルイズ。大人しくしていてくれよ?ご希望通りに君を着替えさせてもらうとしよう」
「えぅ?!」

一歩踏み込む。彼女が二歩下がる。二歩目を踏み込む。また下がる。
・・・上手くいったか。彼女に自らと対象の性の差を理解させ、この行為の危険性を理解させるが本意。
無論、他意は無い。
じっくりと追い詰めるようにしながらとどめを放つ。
やや皮肉気に笑みを浮かべて。

「そう逃げられては着替えさせてやる事も出来ないのだがね?」

その一言に一瞬身を振るわせると泡食ったように答えが返る。

「ああ、あのやっぱり遠慮するわ!!じ、自分で着替える!」
「そうか?なら、早くするように。時間がかなり無駄になったからな」

さらに肝要なのは次の台詞。前の出来事を一切として尾を引かないようにする事。
ここで未練がましくしては相手を増長させる。
そも、それが目的ではないのだから。

「私は外にでている。ラインが繋がっているから、着替え終わったら思念波でそう語りかければ良い」
「う、うん。わ、わかった」

そうして、彼女に背を向け部屋のドアを開け廊下に出る寸前に置き土産をくれてやる。

「ああ。言い忘れたが・・・」
「な、なに?!」
「さっきのアレな。ほとんど冗談だ。深く気にしないように」
「ーーーーーーっな!!」

ふん。使い魔に着替えをさせようとするからいかんのだ。

○●○●○



「さっきのアレな。ほとんど冗談だ。深く気にしないように」
「ーーーーーーっな!!」

とんでもない事を言って私ににじり寄ったかと思ったらそう来るの?!
な、なんて使い魔なの!
むぅ・・・確信犯だ。こう言う結果を見越していたんだ。

むぅ・・・使い魔として扱おうとしたらあんな切り返しをしてくるとは。
一度、それを意識させられた所為でどうもおかしくなってしまった。
真っ直ぐに見つめらながら、あんな事を平気で言ってくるとわ・・・
冗談とは言ってもその意味が深い事くらい私にだってわかってしまう。

でも・・・考えてみれば、確かに彼の行動は正しいのだ。
貴族たるもの、むやみに人にその肌を晒してはならない。特に嫁入り前であるならなおさらの事。

・・・まぁ、確かにこれはわたしの落ち度だろう。
だが、貴族たるもの、従僕がいるのならば従僕に出来る事はそれにやらせる事もある。
ああ、二律背反。どちらも貴族としてのあり方なのだ。

あれ?でも、わたしを着替えさせる事は、昨日、エミヤは経験しているんじゃあ・・・?
そう思い当たると急に顔の温度があがってきた。

・・・本当によくわからない。
知識や存在は圧倒的に優れているはずなのに妙に人間臭いし。
なんと言うか・・・ああ、自分でもモヤモヤしてよくわかんない。

むぅ・・・気にしないようにしよう。
答えの出ない事を考えるよりも早く着替えて朝食を採らねば。
朝の食堂は他の時間帯と違い時間制限があるし。

○●○●○



私は廊下でルイズの着替えが終わるのを待つ事にした。
あのまま部屋に残って着替える様を見届けるのは、それを手伝う行為より背徳的に思えたからだ。
区分はしっかりさせねばならない。
百歩譲って着替えの準備までは良い。だが、それを着替えさせるとなると話は別物だ。

「・・・あら?あなただれ?」

廊下で黙想している私に声がかかる。聞き慣れない声だ。
恐らくはこの宿舎の住人の一人だろう。
無視を決め込んでも良いのだが・・・ルイズの使い魔としてある以上はそう言う訳にもいくまい。
それに今回の器は霊体化の能力が無いらしい。受肉に近い器である事からそんな気はしていたのだが。
霊体化が不能で消える事が出来ないとなるとそれに見合った行動を採る必要があるだろう。

「・・・質問を質問で返すようで悪いが。君は?ルイズの知り合いかね?」
「そう言うあなたはルイズの何よ?あの子にあなたみたいな男の知り合いがいるなんて始めて知ったんだけど」
「む。それもそうか。私と君はこれが初見だからな。お互いを知らぬとも無理はあるまい」

そんな会話をしていると後ろの部屋の気配が動く。
ルイズが着替え終わり部屋から出て来るのだろう。
・・・着替え終わったら思念波で呼べと言っておいたのだが・・・
しまった。思念波による会話の仕方を詳しく教えていなかったか。

私はドアの前から少し身を動かし横に移動する。
そうしてそのドアからルイズが出てくる。

「・・・お待たせ。エミヤ・・・って、キュルケ?」
「あら、ルイズ」

二人はお互いを確認すると
方や笑みを浮かべて挑発的に。方や忌々しげに眉根を顰めながら。

「おはよう。ルイズ」
「おはよう。キュルケ」

・・・何故だ。何故、朝の挨拶がこれほどまでに刺々しいのだ?

キュルケと呼ばれた少女を視てみる。
髪の毛は朱に燃える赤。肌の色は赤が強い褐色。
体型は・・・服の着こなしが示す様に胸が強調された感じが強い。
ブラウスのボタンを全て留めるのではなく一番上と二番目をわざと外している。
いや。外さざるを得ないのだろう。ルイズとは正反対のスタイルということか。

決して観察している事を気取られずに二人を見る。
二人はさながら目をそらしたほうが負けとでも言わんばかりの視線の応酬。
睨む訳でもなく、ただ互いの出方を見ている。
そんな感じすら見受けられる。
・・・だから、なぜこんなに刺々しい雰囲気になっている?
そして口火を切ったのはキュルケのほうだった。

「ねぇ?ルイズ。この人、誰よ?あなたの部屋の前で門番してたけど」
「・・・わたしの使い魔」
「へっ?・・・使い魔って・・・使い魔よね?」

その答えが意外だったのか表情が呆けたものになる。
そして、爆笑。
・・・どうにも良い気分がせんな。私を唯の人間と捉えての事らしいが。

「ははははははっはははっははははっ!まっさか、本当に人間を召喚したとはねぇ・・・」
「・・・勝手にそう思っていれば?」
「強がり言っちゃって。いいわ。教えてあげる。普通、使い魔って言うのはね?この子みたいなのを言うの。おいで。フレイム」

その呼び声に応じて彼女の後ろからのっそりとした動きで大きなモノが動いた。
・・・オオトカゲ?いや、この魔力の質は!!
私は咄嗟の動きでルイズを後ろに庇いやる。

二人がその動きを見て呆然とした表情を浮かべる。
・・・何か、おかしな反応をしたのか?私は。

「っちょ、っちょっと。エミヤ?急にどうしたのよ?」
「・・・さがれ。よもや、この手の幻想種と対峙する事になろうとはな」

そう。この目の前の存在は幻想種。
体躯は虎ほどもあろうか。赤に彩られた巨体。そしてその尾は炎。
口蓋よりは火が舌の代わりに姿を見せる。その存在があるだけで周囲に熱を撒き散らす。
通常の生態系では在り得ないその造形。

その存在も私と言う存在を看破したのか身を低くし警戒の態勢を採る。
熱気がさらに高まる。それに応じて私も魔力を解放せんとする。

「・・・ちょ、っちょ、ちょっと?!エミヤ、落ちつきなさい!!」

そして、両の手に使い慣れた二振りの短剣を投影しようとした瞬間に
ルイズが飛び上がりながら私の頭を小突いた。

「・・・何をする」
「何をするじゃないでしょ!キュルケの使い魔と本気の睨み合いと言うか、何してるのよ?!」

・・・使い魔?この幻想種が?
む・・・確かにキュルケと言う少女がフレイムと呼んだら動き出したな。
と言うことは・・・だ。この世界では幻想種すら使い魔として使役できると?

「意外な展開だったわね・・・まさかフレイムと一戦しそうになるとは思わなかったわ」
「・・・ごめん。キュルケ。こいつってばまだこの世界のこと良く知らないから。幻獣の事、知らないのよ」

幻獣?幻想種の事を指すのか・・・?確かにその呼び名はある。
だが、どうも根本からその認識が違うようだ。

「・・・待て、つまり、あのオオトカゲの形状の存在は普通にこの世界にいるものなのか?ルイズ」
「あれは火竜山脈に棲息している火蜥蜴。サラマンダーよ。火の属性の代表格」
「なるほど・・・な。つまりは棲息地域こそは選ぶが、すでに生態系として組み込まれた存在と言うことか」

大幅に認識を変える必要がある。
この世界は幻想種に類する生物が幻獣と言うカテゴリーで生態系のひとつに組み込まれているようだ。
なるほど、良く考えれば頷ける話でもある。
この世界は私の知る世界で言えばマナが濃い神秘の時代に等しい。
ゆえにこのマナの濃さがその存在を支えているのだろう。
幻想種が地上より姿を消したのはマナが激減した事も要因のひとつであるのだから。
ならば、マナが濃いのであれば逆にその存在が確定するのも道理だろう。

情報が得られんと言うのは痛いな。
どうしても判断基準が前の世界の知識に準拠してしまう。

・・・視線を感じるな。
興味深そうにキュルケが私を見ていた。フレイムと呼ばれた火蜥蜴は今は敵意を霧散化させている。
おそらくはあれは防御本能に近いものだったのだろう。

「・・・ねぇ?あなたのお名前は?」
「私か?それを聞いてどうする?」
「・・・興味が出てきたの。あなたに。ルイズの使い魔のあなたに」

キュルケは物怖じすることなく私に名を問う。
私の・・・名か。秘すべき事はこの世界においては無い。
よかろう。この世界にあるのならば我が真名。秘する事無くいこうではないか。

「・・・エミヤだ。他にも呼び名はあるが・・・エミヤで構わん」
「エミヤ・・・ね。またあいましょう?じゃ」

彼女はそう言うとフレイムと呼ばれた使い魔と共に歩き去った。
ルイズはそれを一瞥した後、私に向き直る。その顔は仏頂面だ。

「・・・行きましょ?朝の食堂は混むから」

何か言いたい事はあるようだ。
だが、とりあえずは食堂に向かう事にしたらしい。
食堂か・・・果たして、食生活はどれほどの差異を見せるのやら。

――――――――――――――――――――――――――――――――
後書き

第五話です。
予定より話が展開しなかったです。

まぁのらりくらりと進めていきますので。
見捨てずに読んでやってください。

では。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2005/05/22 21:47

「・・・行きましょ?朝の食堂は混むから」








わたしは気を取り直してエミヤに告げる。
とっさに私を庇ってくれたあの時の顔は
今までに見たことの無いほどに鋭かった。
でもそれと同時に解かった。
彼は負けないって事も。
わたしを守るためにああいった行動に出たのだ。
行き過ぎな感じもしたけれど。
ああ、確かに彼は使い魔として申し分ない。
なぜなら、一番大事な『主人を守る』と言う事は確実にこなすのだろうから。






――――――――――――――――――――――――――――――――

朝の食事と昼間の授業・図書館での一幕








「・・・了解だ。それについては異論は無い」

なにやら朝から消耗する出来事ではあったが。
収穫はあった。幻獣の存在。これは軽視出来る事ではない。
使い魔という形で使役されているならば良し。だが、そうでない場合は?
屋外を旅をする等と言う事態に陥ったならば憂慮すべきことだ。

「エミヤ?聞きたいんだけど・・・」

歩きながら、ルイズが私に問いを放つ。

「なにか?」
「どうしてキュルケの使い魔と睨み合ったの?」
「・・・それか。何、簡単な事だ。私の世界では在り得ない生物だったからだ」
「在り得ない?どうして?」
「ああ、私の世界ではな。あれは幻想種と言われ普通に遭遇する事の無い『幻想』の生物なんだ。その大半の存在が人間にはとても使役出来る存在ではない。故に危険だと思っただけの事だ」
「・・・そっか。知らないからああいった対応になったのね。最初に教えておくべきだったわ。ごめん」

・・・別段、彼女が謝る事でもないのだがな。
こちらの手落ちでもあった事だし。

「気にするな。知らなければその都度、知れば良い」

その後、何を話すでもなくただ歩く。
訊きたい事はあるのだがさほど重要でもあるまい。
あのキュルケという少女との関係など主の交友関係等を洗い流しておきたいのだが。
察するにあまり良好とも言えない者の事を訊き、機嫌を損ねるのも莫迦らしい。
訊くにはちょうど良い時期を見計らうべきだろう。

食堂は学園の敷地内で一番背の高い中央の塔の中だった。
その内部構成は、シンプルではあるが纏まりを見せていた。
長大のテーブルが三つ。この一つのテーブルに優に百人は座れよう。
一階の上にはロフト仕様の中階が見受けられる。

テーブルに着く者達にも統一性がある。
それはローブの色だ。
正面より左隣のテーブルに座る者達は紫色のローブ。落ち着きを感じさせる雰囲気がある。
中央のテーブルは黒い外套の者達が集う。ルイズはここに分類されているらしい。
そして左隣。茶色のローブを身に纏うやや幼さを残す表情の者達が座る。最年少だろうか。
ロフトに座る者たちは其々が違う色の外套を身に着けている。おそらくは教師クラスだろう。

「・・・しかし、これはまた・・・」

思わず声が出る。
そう、テーブルの飾りつけなどシャンデリアなどそれらの外観が無駄に派手なのだ。
豪華絢爛とはこの事だろう。

「ふふ。凄いでしょ?トリステイン魔法学院は貴族の為の学院でもあるのよ。メイジに成る者はほとんどが貴族。『貴族は魔法を持ってその精神となす』をモットーに貴族たるべき教育を受けるの」

ルイズが得意げに指を立て言う。
それに私は幾許かの反発を込めて返す。

「・・・それがこの食堂の派手さとどう繋がるのかね?」
「貴族にふさわしい食卓でしょ?そうは思わない?」
「いや、別にいいのだがな。ここまで無駄に華美にせずともよいのではと思うが」

周りを見渡す。調度品には若干ながらも魔力が感じられる。
解析するに状態保存、強度補正の呪をかけられているようだ。
中でも目を引くのは小人をかたどった人形だろう。あれは自動人形に類するものだ。
おそらくは特定の時間になったら動くように時間限定の起動式を組み込まれているのだろう。

「ん?あの人形が気になるの?ちなみにあれはこの食堂の名前をとって『アルヴィーズ』と言うの。」
「ほぅ。あれは魔力によって起動するものだな。それだけじゃなくこの部屋の設備のほぼ全てが魔力を帯びている」
「・・・そんなことまで解かるの?」
「まぁな。余程の神秘に装われてない限り大抵の物は解析出来る自信がある」

会話をしながら、私はルイズが着席できるように椅子を引く。
自然と身に着いた行為だ。・・・すでにこの手の行動は魂に刻まれている。
ルイズは目を瞬きさせたが、すぐに気を取り直して着席する。
そして思いついたかのように声を出した。

「・・・そう言えば。訊くの忘れていたけど・・・」
「む?何かね?」
「あなたって食事とかはどうするの?」
「ああ。言っていなかったか。英霊は基本的に食事等が必要な存在ではないんだ」

そう。英霊には人間のように体を構成の維持の為の行動は基本的に必要無い。
だが、不思議な事に食欲等の欲求は全て失せた訳でもないのだ。
ただ採っても身にならないから食べないだけである。
欲求が直結して体の行動を左右する事も無い。
空腹感が身を苛む訳でもなく、睡眠不足が体を壊す事も無いのだ。
一部例外も存在していたが。私が知る騎士王とか。

ざわつきを見せていた食堂内が静まる。
時間なのだろう。誰が発したかは知らないが一人の言い始めた祈りの声に皆が併せて唱和する。

『偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうた事を感謝いたします』

そして食卓に並ぶ料理。
私はそれを見て呻かざるを得なかった。

「・・・待て。これが朝の食卓に並ぶ料理か?」
「何か問題でもあるの?貴族の食事と言えばこういうものよ」

・・・貴族の食事?いや、そんなものは関係が無い。
朝一番の食事と言うものは人間の活動を支える重要なものだ。
体型にもよるがこれは・・・ルイズが朝の食事とするには重すぎる。
料理の内容はローストチキン。鱒の切り身のパイ。レッドワイン等多種多様。

「・・・夕食にするのならば全く問題ない。だが・・・」
「なによ?」
「これだけ朝から食べて体調とかは大丈夫なのか?」
「・・・まぁ、せっかくの用意されたものだもの。食べない訳にもいかないし」

そうは言うがその食の進みは速い。
だが、それも良くない。朝の食事というものはゆっくり行う必要がある。
特にこの場に並ぶものは消化が良いものとは言えない。
消化に優れたものや一膳飯のみだというのならば、早く食べることも許容できるのだが・・・

私はルイズの食べようとしたローストチキンを取り上げる。

「ふぇ?ちょ、ちょっと?エミヤ?」
「そこまでだ。君の体型で、朝からこの食事は賛成できん」
「なんで?」
「加えて言うと食事の速度も悪いな。食べるものに対して箸の進みが速すぎる」
「へ?」

そう。重い食事を早食いするなどは言語道断。
ゆっくり味わう事にこそ食事の真価があるのだ。
ふむ・・・そうだな。この世界において特にやることも無い。
ならば、少しばかり好きに振舞うとするか。

「・・・そうだな。明日からは君の食事は私が手掛けよう」
「ハイ?」

○●○●○



食事の時間が終わった。
先の発言から、ルイズが恨みがましい目で私を見ている。
それほど食事を途中で取り上げたことが気に食わないのだろうか。
こうして廊下を歩いてる現状でもその目は抗議の色を醸し出している。

「あのさ・・・一つ聞きたいんだけど?あなたが食事を手掛けるって言ったけど・・・作れるの?」
「・・・これでも生前から料理の腕には自信があるつもりなのだがね?まぁ、その辺はお楽しみと言ったところだ」

そうして他愛無い話をする。
懐かしい感じすらある。こうして誰かとくだらないことを話せる事に素直に喜びを覚える。
磨耗していた心にも、この感情があることが嬉しかった。

辿り着いた先は教室らしき場所。
ガラス張りの扉から内部が確認できる。
その造りはかつて数えるほどしか見たことの無い時計塔の講義室と同じ。
いわゆる大学校の講義室と同じ構造をしていた。
階段状に設置された石造りの机。その最下部に教卓と黒板。
ルイズの背後につきその教室の扉をくぐる。

瞬間、先に教室の中に居た者達の視線が私とルイズに集中する。
・・・まぁ、恐らくは私の存在が気になるのだろう。
ある者は忍び笑い、ある者は声を出しての嘲笑、ある者は畏怖の視線。その反応は多種多様。
昨日の召喚の儀に参加し私の魔力放出の異常さが理解できた者も居る事に僅かながらに満足した。
ここに居る者達の全てがあれを理解していなかったら、正直、認識を大幅に過小修正していた所だ。

だがそこに集う者達よりも私の目を引くのは各々が連れている使い魔の方だ。
流石に私と同じ人間形態の存在こそいないが・・・

「ふむ・・・いやはや、幻想種もこれだけいると何とも言い難いものがあるな」
「・・・そんなに珍しいの?幻獣が」

まぁ、彼女にはこれが普通なのだろうな。
先ほど遭遇したサラマンダー以外にも猛毒の化身ともいって差し支えないバシリスク。
石化の視線を持つコカトリス。グリフォンまで居ようなどとは想像もしていなかった。
奇異の姿を持つ幻獣のほかにも巨体を示す蛇や梟や鴉、猫などといったごく普通の生物もいるのだが。

「しかし、よくこの手の存在を使役出来得るな?触れる事すら危険な種類もいるというのに。正直、感嘆するぞ」
「ほとんどが不意打ち。此方から敵意を出さなければ攻撃反応は滅多にないし。召喚したら有無を言わさずに即行契約して使い魔にしちゃうのよ」
「・・・一方通行でそこまでできるとはな」

使い魔の契約の儀。簡単な術式ではあったが簡易でありながらも強制力は十分と言うことか。

周囲のざわつきが静まる。耳を澄ませば廊下から足音が響いてくる。
各々が座席に着く。おそらくは授業開始の刻限になるのだろう。

教師が来たようだ。
扉を開け教室内に入ってきたのは中年の女性。
年のころは・・・おそらく、三十後半。
体型的にはふくよかと言う印象を受ける。

「皆さん、おはよう。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、この春の新学期にさまざまな使い魔を見ることが楽しみなのですよ」

シュヴルーズを名乗った女性は周囲を見渡しながら微笑を浮かべそんなことを言う。
そしてその視線がルイズの後ろに立つ私のところで止まる。

「ミス・ヴァリエール?こちらの方は?」
「・・・わたしの使い魔です。ミセス・シュヴルーズ」
「?・・・使い魔・・・ってっ!?」

その目が見開かれる。それと同時に私の体に何らかの魔力が働いたことが知覚できた。
おそらくは、解析系の魔術に類するもので、我が身を調べたのだろう。
声に出さずにやや皮肉気な笑みを顔に刻む事でそれに応じる。

「・・・こ、これはずいぶん変わった使い魔ですね?」
「含む所があるようですが・・・一応、褒め言葉として受け取っておきます」

高密度の魔力で構成されたであろう我が身を人外であるとまでは判断したようだ。
だが、このやり取りを見てもまだはやし立てる者がいる。
どこにでもいる者なのだろうな。自分の実力以上の存在を理解したがらない者は。

「ゼロのルイズ!ちゃんとした召喚が出来なかったからって、実家から執事を連れてくること無いだろ!」

ルイズはそんな声にも律儀に反応する。
見た目によらず感情の起伏が激しいようだ。わが主は。

「うるさいわね!あんたみたいな万年風引き男に私の使い魔を理解出来る訳無いでしょ!」
「ハッ!どうせ【サモン・サーヴァント】が失敗したんだろ?でなきゃ人間なんか召喚出来る訳ないしな!」

教室の内部は雑然としている。
昨日の私の召喚の場に立ち会っていない者は笑い、立会い、なおあの魔力を理解した者は顔を引きつらせる。
おおよそ、反応は二種類に分類できるようだ。

しかし・・・どうやら、ここに居るものたちの半数が人間形態の存在を使い魔とする利点に気づいていないようだ。
さて、諭してやっても良いが・・・どうしたものかな。

「ルイズ。あの小僧の名は?」
「・・・マリコルヌよ。かぜっぴきのマリコルヌ。事あるごとに私を侮辱するサイテー男」
「何だと!俺の二つ名は風上だ!!風邪引きなんかじゃない!!」
「フン!あんたの声がしわがれているから風邪引きとしか思えないのよ!」

二人はにらみ合う。
どちらも譲らない。退けばそれが負けを意味するのだろう。
まぁ、ここはルイズを諭して治めておくか。

「ルイズ。吠えたい者には勝手に吠えさせておけ。表層でしか物事を判断できぬ未熟者に君が付き合う必要もなかろう」
「で、でも……」

ルイズが私を見上げる。
やれやれ、これではどちらが主人なのか、わかったものではないな。

「それとも何か?君の程度はあれと同レベルか?だとしたら君への認識も改めさせてもらうが?」
「むっ…嫌な言い方するのね。あなたって。わかった…やめるわよ」
「ハッ!平民の使い魔にさとされて・・・ひゅ?!」

まだ何か言おうとした小僧を若干の殺気を込めた視線で睨みつけてやる。
言外に「私の主をこれ以上侮辱するなら覚悟を決めろ」と意思を込めて。
少々、大人気ないかもしれんが、契約した主が侮辱されるのは良い気分ではない。

事故召喚と言えど、この身を引き当ててなお契約までした少女がそれほど軽い存在な筈が無い。
そう。我が世界の魔法使いでも英霊を召喚し使い魔として使役する事は不可能なのだ。
魔術儀式のバックアップをなしにそれを行えるならばそれは完成された奇跡だ。
ルイズはそれを成した。つまり彼女にはそれを成すだけの素養がある。
それがどれ程の事か。その意味を理解し得るのは現状では私のみだ。

「・・・はいっ!皆さん。お静かに!いろいろありますがとりあえず授業を開始します!」

シュヴルーズが手を叩きながら注目を寄せる。
やれやれ。これでようやく静かになろう。

○●○●○



授業の内容は此方の世界の魔法に馴染みの無い私に有益であった。
属性の単位は【ドット・ライン・トライアングル・スクウェア】と称するらしい。
一系統をドット。二系統でライン。このように増えるもので、同一属性の相乗もこれで表現するらしい。

この単位はその魔法使いのレベルにも直結するとの事。
最大でスクウェアの魔法を行使する者をスクウェア・メイジ。
トライアングル行使者をトライアングル・メイジ。
なお、話を聞けば、魔法使いのことは【メイジ】と呼称するのが通例らしい。
メイガスでは魔術師の意になるのでこれは混同しないように気をつけるべき事柄だ。

今回の授業で講義しているのは【錬金】。物質の組成を組み替えて、違う物質に変質させる魔法。
これは元になる物質は特に関係が無いらしい。等価交換の原則が有る訳ではなく単純に書き換えてしまうのだ。
しかも、書き換える際に必要なのはイメージ。変質された結果を想定。その結果が【錬金】として確定される。
ふむ。これならば私の投影をカモフラージュさせる事も出来よう。

「…という訳です。では、誰か【錬金】を試みてもらいましょう…そうですね。ミス・ヴァリエール。貴女にお願いしましょうか」

シュヴルーズがその言を告げた瞬間、室内の空気が凍った。
…待て。なぜ空気が凍るなどという比喩表現が可能な事態がおきるのだ?
それほどまでにルイズが魔法を使う事態が問題だと…?

「ミス・シュヴルーズ。あのもしかしてルイズの事……知らないんですか?」

金髪の巻き髪をした少女が挙手をし発言する。
見たことがあるな・・・昨日の召喚の場でルイズと言い争っていた少女か。

「何をですか?ミス・モンモランシ」
「…危険です。ルイズに魔法を使わせるのは賛成できかねます」

…ふむ。確かに昨日、ルイズ自身が言っていたな。四大元素の干渉に失敗すると爆発が起きると。
少し調べる必要とあるな。

「ルイズ、ちょうど良い。やってくれ。私も君の魔法がどの様に作用するか知りたい」
「………わかりました。ミス・シュヴルーズ。やります」

私の声をきっかけにしてルイズが席を立ち教壇に向かう。
周囲が騒然とする。それほどまでに恐れられているのか?彼女の失敗が。

「よろしい。では、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属のイメージを強く心に浮べてください」

その言に応じてルイズが呪文の詠唱を開始する。
私も彼女の内に働く魔力に解析を試みる。

…ふむ。やはり、マナのオドへの変換。オドから外界接触させるための魔力変換も問題なしか。
呪文は紡がれている。
…さて、何故、彼女の魔法は爆発をするのか?
この世界において四大元素干渉の魔法の失敗は全て爆発するのだろうか?
もし、爆発現象が彼女に特有だとしたらそれは失敗と断ずる事は出来まい。

そして最後の呪言が放たれた瞬間。
私の体は咄嗟に動いていた。最後まで解析しようとは思ったがそれすら破棄する。
理由など語るべくもあるまい。
この呪が完成した瞬間に膨れ上がったのはまさしく爆発光だった。
ならば、この光は誰に向かう?書き換えられた金属がその光を放っているのだ。
光が真っ先に襲うのはその場で呪を紡いだルイズに他ならない……っ!

○●○●○



ああ、失敗した。
それだけはしっかりとわかった。
いつもの事だ。四大元素の魔法に失敗したときのいつもの結果。
わたしは目をつむり、次の瞬間に来る衝撃に備える。

でも、いつまで経っても衝撃は来なかった。
それどころか、誰かがわたしの体を抱きかかえているのだ。
恐る恐る目を開く。

「…ふむ。なるほどな。これが君の魔法の結果か」

そんなことを言ってのける私の使い魔が私の体を抱きかかえていたのだ。
予想できなかったわけじゃないけど…

「…ああ、とりあえず訊くが。怪我は無いな?」
「う、うん。それは大丈夫だけど…あなたは?わたしを庇ったんでしょ?」
「この程度で損傷を負うほどやわな造りはしていないつもりだが?」

ああ、安心した。わたしを庇って怪我をさせるのも何か良い気分はしない。
そう。これはわたしの失敗の招いた事。使い魔にはその責は無いのだし。

エミヤはわたしから視線を外すと周囲を一瞥した。
さっきの爆発は、他の使い魔たちを驚かしたらしく周囲が混乱していた。

「…ごめん」
「何故、わたしに謝る?意味の無い謝罪は受け入れられんのだが」

キュルケやモンモランシー達がわたしの失敗を糾弾する。
これもいつもの事。気にしてはいられない。
でも…主人のこんな姿を見てエミヤはどう思うのだろうか…?

○●○●○



良かった。間一髪間に合ったか。
爆発が彼女の身を焼く前に、我が身をその楯とする事に成功し安堵した。

「…だから!ルイズに魔法を使わせるなって言ったのよ!」
「ゼロのルイズに魔法が使える訳ないのに!」

周りの者たちの声は雑音に過ぎない。
そも、貴様らにはこの現象を再現する事が出来るのか?
私は少しの苛立ちを込めて言う。

「…ゼロか。ならば聞くが。彼女の魔法の何が失敗しているのか理解できる者がいるのか?」

周囲の騒ぎ立てるものたちを睥睨しながら次を続ける。

「彼女の魔法は決して失敗はしていない。錬金と言う魔法が爆発という現象に帰結しただけだ。この世界における魔法の失敗とは全て爆発現象に結びつくのか?百居るメイジのその全てが魔法の失敗の結果は爆発だと答えられるのか?」

周囲の喧騒が静まる。
私の言わんとする事に気がついた僅かの者達は目を見開く。その事実に今、気が付いたかのように。

「言えまい。恐らくは魔法の失敗は本来ならば魔力の霧散化によって何も起きないのだろうから。ならば彼女の成した現象は何を意味する?上辺の結果のみでは真実には辿り着けまい」

そう。成功確率をもってゼロと蔑称するのは大きな間違いだ。
彼女は魔法そのものには成功している。その正しい道筋を掴めていないだけだ。

「…エミヤ…」
「…以上だ。成功率をもってゼロとするならば主の魔法が失敗であると言う完全な証明をしてみせろ」

●○●○●



教室がそんな騒ぎに包まれていた頃。
コルベールは昨夜から図書館に詰めていた。
図書館は食堂と同じく本塔にある施設。その構成は圧巻。
高さ三十メイル(m.)もある本棚が壁沿いに並び立つ様は壮観以外に表す言葉が無い。

ここには始祖ブリミルがハルケギニアを新天地を築きあげてよりのあらゆる歴史が詰め込まれている。
彼は教師のみが閲覧できる【フェニアのライブラリー】で古文書、禁書を読み漁っていた。
そう。疑問となるのはあのヴァリエールが召喚した使い魔の事。
あの圧倒的な存在感と魔力。
【ディテクト・マジック】が示すのはその存在が幻獣と同格かそれ以上であると言う事。
そしてその手に刻まれた契印【シール】は見覚えあるものでもあった。
が。
それはけして普通に見覚えがあるのではなく。
古文書に刻まれていた事に覚えがあったのだ。
そして彼は一つ目の正解に辿り着いた。

「なっ!…ガンダールヴの契印……!?」

ミスタ・コルベール。火の系統のスペシャリスト。
『炎蛇のコルベール』の二つ名を持つ彼はこのトリステイン学院でも古参の部類に入る。
その容貌に似合わず彼は博識でもあり実力もある。
その彼をしてそれは驚かざるを得ないものだった。
それは伝説だからだ。その使い魔の契印も伝説であるならば、それを使役した者も。

彼は、古文書を手にしたまま、自らの持てる最大速度で学院長室へ走り出した。

――――――――――――――――――――――――――――――――
後書き

第六話です。
展開を端折ってこの程度。
だめぽいなぁ・・・

次回こそバトルに移れそうな予感。とはいえアッサリ風味ですが。

ちなみに、本作中じゃ恐らく戦闘による活躍はしませんが
『炎蛇のコルベール』、私の構築した世界じゃかなりの強キャラです。
召喚の儀式に付き添うくらいだから
使役不可能なヤバイ幻獣が召喚された場合に処理できる程度には強くしておかないと。

では。
次回は突貫工事で今日中に。
間に合わなかったら六月の中頃になる可能性も。
ま、あくまで可能性ですが。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2005/06/18 01:31


「なっ!・・・ガンダールヴの契印……!?」




それは衝撃。
それは疑惑。
ありえないものだった。
始祖の使い魔と同じ契印。
始祖の伝説において欠かせないその傍らにあった存在。
その名こそがガンダールヴ。
今もってなおそれを超える使い魔は無いとされる最強の使い魔の証である。
始祖ブリミルの使い魔の証が何故。
何故、あの少女の使い魔に刻まれるのか。
そして、その紋章をもつあの存在は一体何者なのか。
コルベールの疑問に答えるものは今はまだいない。


――――――――――――――――――――――――


メイドと赤マント




コルベールが向かった先は本塔の最上階にある学院長室。
そこには今現在二人の人物がいる。
この学院の最高指導者であると同時に最強の魔法使いでもある『オールド・オスマン』
その秘書を務める『ミス・ロングビル』である。

オスマン老。二つ名は知られていない。
その理由は二つ名を知り生還できた者が居ない事に起因する。
かの大老が二つ名を名乗るのはその存在を必滅する時のみだと言う。

だが、ミス・ロングビルは彼以上に謎が多い。
この学院に来る前の経歴は一切不明。
本人の曖昧に逸らすだけで決して語ろうとしないからだ。

そんな二人の関係は……

「…のう。モートソグニル。やはりミス・ロングビルの下穿きの色は黒が良いと思わんか?」
「…オールド・オスマン。使い魔に私の下着についての考察を述べるのはやめてください」
「じゃがのぅ・・・その身体つきで白はギャップがあるんじゃよ。もしやそれを狙って?」
「…狙っている筈ないです。何故そんなことしなければならないんですか!というより何故、私の下着の色を知っているんですか?!」

エロじじいとセクハラされる秘書にしか見えなかった。

そんな二人の情事に割ってはいる闖入者がいる。
コルベールである。

「オールド・オスマン!!」

けたたましい足音は寸分狂い無くけたたましい音を立てドアを開け放った。

「何じゃね?騒々しい」

先ほどまでの痴態はどこにいったのか。
そこには威厳あふれる大魔法使いとその有能な秘書がいた。

「はぁはぁ…し、至急報告したい事があり、参上しました」
「…くだらん事ではないじゃろうな?」
「まずはこれを」

コルベールはその手にした古文書を差し出した。
そして一言。

「…伝説が再臨しました」
「…詳しい報告を聞こう。ミス・ロングビル。以降の発言は第三者による見聞きは許されん。退室を」

オスマン老はその手に渡された古文書と彼の発言から言わんとする事を察した。
そしてその目に鋭い光を宿して自らの秘書に命を下した。
彼女も反意を見せることなく退室をする。
あの目をした老オスマンに異を唱えれるほど彼女は自信家ではない。
そして、部屋には二人の魔法使いが残された。

●○●○●



「…ありがと」

ルイズは教室を出るなり私にそんなことを言った。
礼を言われるような事をした覚えはないのだが。

「意味の無い謝罪も受けられんが、謂れの無い礼もされる覚えは無いぞ」
「…でも、わたしのゼロの二つ名に反論してくれたし」
「む。あれは反論するまでも無く当然の事だろう。少し考え方を変えればすぐにでも気付く事だ」

ああ、気が付いていないようだからこれも言っておかねばならないか。

「それに」
「それに?」
「私を事故とはいえ引き寄せた挙句、契約できた君が能無しな訳が無いだろう?」
「…それって自画自賛?自分は凄いって事を暗喩した」

…嫌な受け取り方をされたな。仕方が無い。
もう少し噛み砕いて説明してやるか。

「…この辺は説明していなかったな。そういえば」
「なにを?」
「本来なら私の様な英霊はな。使い魔として召喚し尚、使役する事は常動型の大規模な魔術儀式でも下支えにしない限り不可能だ。普通には召喚すら出来ない者を引き寄せ、契約しただけで契約者の魔力を根こそぎ奪う英霊と契約する。此方の世界には英霊という概念が無いからこの異常さが解からんだろうがな? 普通なら君は契約した直後に魔力の枯渇で一生眼を覚まさない眠りに就く所だ。だが…」

そう。それが普通の筈だった。
聖杯戦争も大聖杯が無ければサーヴァントを呼ぶなどと言うことは成し得ない。

「だが、君はそれすら起きず、尚、自身の魔力で魔法を使う事も出来る。世界のマナが濃いとは言え、私からすればこれは完成された奇跡だよ。だから、それが出来る君が能無しな訳が無い」

ルイズが目を見張る。
それもその筈だ。最初の契約時点で下手をすれば死んでいたかも知れないと言う事を知らされたのだから。

「まぁ、深くは気にするな。君がそれを成し得た事実が目の前にあるのだからな」

私は気を紛らわせる為、隣を歩く彼女の頭に軽く手を置いた。
途端に何かを言おうとした彼女の顔が紅くなる。

「ーーーーーーーっ!」

気にすまい。彼女の背格好だとちょうど良い位置なのだし。

○●○●○



私はルイズと共に食堂に来ていた。
先程からどうにも彼女の様子がおかしい。
理由は思い当たらない訳でもないが…此方から問い質す必要は無いな。

食堂の中は相変わらずの喧騒の中にある。
朝とは違い昼は一斉に食事を採るようなことはしないのだろう。
各々が勝手に食べるという形のようだ。

「さて、ルイズ。私は少し席を外させてもらう。明日の為にも厨房の方に顔を出しておく必要があるからな」
「…ん。解かった…っていうか、朝のあの言葉、本気だったの?」
「何を今更。一度決めたなら最後まで貫くぞ。私は」

私はルイズの傍から離れて厨房に向かう。
給仕係と思しき何人かの少女が人の間を動き回る。
紅茶等の飲み物を注いでまわっているのだろう。
ちょうど良い。その中の一人に案内をして貰う事にしよう。

「ああ、すまない。ちょっといいかな?」
「はい?」

私は無造作に一人の少女の後ろに近寄って声をかける。
ここで重要なのは無造作に近寄ること。
声を掛ける人間が気配を消しながら近寄ったのでは心象を悪くする事この上ない。
あからさまに背後から近寄っている事をアピールする必要がある。

振り返った少女の姿は…

「…サクラ?」
「…ハイ?」

かつての記憶の中の少女の一人に似ていた。

●○●○●



振り返った少女の容貌は、サクラには似てはいなかった。
カチューシャで纏め上げられた黒髪。
小さなそばかすが頬にある思春期に特有で何も手を加えていない健康的な顔つき。
その身を包む装いはいわゆるメイド服だ。給仕係にこれ程相応しい服もあるまいが。

似ていないはずなのに似ていた。
これはこの少女の持つ雰囲気がそれを錯覚させたのだ。
ああ…健康的な身体の肉付きも似ている要因の一つか。

「…あ、いや、すまない。見知った人に似ていたもので」
「…はぁ。あの…貴方は?ここの学生さんには見えないんですが?」

む。確かに私のことは学生には見えんな。
なんと説明すべきか。
少しばかり思索していると彼女が唐突に言い放った。

「ああ、ひょっとして貴方が噂の使い魔さんですか?」
「…噂の使い魔?」
「ええ、ミス・ヴァリエールが召喚した正体不明の赤マントって」

…正体不明の赤マント?
確かに私の外見で特徴のある物といえばこの聖骸布を加工した赤の外套だろう。
それは認めよう。
正体不明もしかたあるまい。
私のことを詳しく知る人物なぞ、私以外にはマスターのルイズ以外にいないのだし。

「…まぁ、彼女に召喚された事は事実だが…赤マントというのはやめてくれ」
「あ、ごめんなさい。本人に向かって言う事じゃないですね」

いや、本人が目の前に居なければ良いというものでもないと思うが。
赤マントで覚えられては堪ったものではないな。
私はそう思い彼女に自らの名を告げる。

「…エミヤだ。エミヤと呼んでくれ」
「エミヤさん?」
「私にも名前はあるのでな。出来れば正体不明の赤マントなどいう不快な覚え方はされたくは無い」
「あ、す、すいません! あの……私、シエスタと言います」

彼女は慌てたように自らの名を名乗るとぺこりと私に向かって頭を下げた。
ふむ。礼儀正しい少女のようだ。

「いや、かまわんよ。私も君のことを知人と間違えて呼び止めてしまったしな」

間違えて呼び止めたわけではないのだがそうしておく。
詳しく説明出来るほどにサクラの記憶が残っているわけでもない。
そう。日常としてのサクラは僅かな記憶でしか残っていない。

「ああ、本来の目的を忘れる所だったな。すまないが厨房に案内してもらえないか?」
「…厨房ですか? あの…ご用件の方は?」
「いや何。マスターの食事を明日から私が手掛けようと思ってな。そのために厨房の使用許可がほしいのだが」
「あ、あのぉ…料理に何か至らない点でも?」

シエスタが顔色伺うように私に問う。

「いや、特に問題があった訳ではないがな。単に私がそうしたいだけだ」

ここで面と向かって否定をしてはならない。
誰であれ自分達が手掛けたものを否定されるのは良い気分はしないものだ。
だから、ここでは自分の要望を告げるだけにとどめる。

「あ、あの失礼ですけど…お料理なされるんですか?」

私の装いを見て恐る恐るといった感じにそんな事を言う。
まぁ、確かに私の服装で料理が出来るとおもわないだろうな。

「これでも料理は得意な部類だが…やはり見た目が不味いかね?」
「…まぁ、いいですけど…でもどうしましょうか?」
「どうしましょうかとは?」

シエスタは何か思案するような顔つきをしてこんなことを言う。

「いえ、厨房に案内することは構いませんけど…料理長が気難しい方なんです」
「…それが問題なのかね?」
「はい。一見で料理するには向いてない服装の方が厨房使わせてくれなんて言っても聞いてもらえないと思います」
「む…確かにそれは問題だ」

ふむ…そうなると代わりに服を見繕う必要があるが…まいったな。
英霊の装飾具は基本的には魔力で編まれる。
よって英霊としての装備を整える事は簡単なのだがそれ以外となると別の手段で入手する必要がある。

「それに料理長の事、御存知無いですよね?紹介するきっかけも欲しい所ですし」
「確かに君の言うとおりだな。厨房を預かる人間にいきなり初対面の人間が厨房を貸せと言っても聞き入れてはもらえまい」

周囲の喧騒を余所に話し込む。
このシエスタと言う少女。見た目以上に話し易い性質のようだ。
そんな事を感じているとシエスタが思い付いた事を口にした。

「…そうだ。いきなりであれですけど…私の仕事を手伝いませんか?そうすればそれをきっかけに出来ますし」
「君の仕事かね? 何をするかにもよるのだが…?」
「簡単ですよ。今、デザートとしてケーキをお配りしているところなんです。ですから、私が配っていきますからトレイを取りやすい位置で持って一緒に歩いてもらえますか?」
「それで良いのかね?・・・ふむ。ならば問題も無いな。よろしく頼む」
「ハイ。じゃあ、お願いしますね」

そう言うとシエスタは私に向けて微笑みかけた。
屈託の無い笑顔。キレイな笑顔だった。

●○●○●



私が腰だめにトレイを持つとシエスタにとってちょうどの高さになるようだ。
そのトレイに乗ったケーキを彼女がはさみで掴み取り配膳していく。
そんな事をしながら席と席の間を縫うように歩く。

ふと目に留まる小僧が居る。
…誰かに似た雰囲気があるのだが…誰だ?
思い出せん。サクラに関係があったのは覚えているんだが…?

金色の巻き髪にフリルつきのシャツ。
シャツのポケットには薔薇が挿してある。
友人達の歓談の最中のようだ。
女性関係の事で盛り上がっているようだ。…若いな。

「ギーシュ。君は本命をいい加減に決めた方がいいんじゃないか?」
「ああ。お前は顔だけで女選ぶ傾向あるしな。特定に絞っとかないといつか刺されるぜ?」

どうも話題の中心はギーシュと呼ばれる小僧らしい。
私の目に留まった小僧だ。
ギーシュが髪をかきあげながらこんな事をのたまう。

「何を。僕は薔薇だ。特定の人の為ではなく多くの人の為の花だ。その僕が特定の女性と付き合うはずが無いだろう」

…正気で言っているのか?
自らを薔薇にたとえるとは…深い意味を持って薔薇の花に喩えたのだろうか?
不特定の女性と付き合う身の上を薔薇と表するのは言いえて妙だが真に迫っているとも言えるのだが。

ふと見ればその足元に小瓶が落ちている。
察するに落し物だろうが…仕方あるまい。気づいていないのならば、教えてやるのも道理か。
私はシエスタにトレイを渡すとギーシュにその事を指摘する。

「歓談中すまないが…そこに落ちている小瓶は、落し物ではないか?」

その場に居た全員の視線がギーシュの足元の小瓶に集まる。

「…知らないな。僕の落としたものじゃない」

ギーシュが目を逸らすようにそんな事を言う。
これを自分の物だというと何らかの不利に働くと判断しての言葉だろう。
さて…ではどうしたものか。

「…ふむ。これは自分のものではないと。ならば、本来の持ち主に返しても問題ないのかね?」
「へ?」
「ああ、心配するな。この程度の小瓶なら来歴くらい簡単に遡れる。誰の手元にあったかくらいは簡単に判ろうものだ」

私は手を伸ばしギーシュの足元の小瓶を拾う。
鮮やかな紫色の液体。それから立ち上る特有の香り。
この液体は香水か。物品は判った。
後はこの瓶の持ち主を調べる為の解析を行うだけだ。

それを行おうとした矢先にギーシュの友人と思しきもの達が声を出す。

「む。その色合い、この芳香。これはモンモランシーのものじゃないのか?」
「お、言われりゃそうだな。彼女のハンドメイドオリジナルだ」
「…つまりはギーシュ。これが君の落し物だとするなら、この香水は彼女からの…?」

それに慌てた様に反論するギーシュ。
…いや、ここで反論するくらいなら開き直った方が後々のことを予測した場合に有益だと思うが。

「違う。何を言うかね。君らは。彼女の名誉のために言うが…」

だが、その言葉は続かなかった。
闖入者が現れたからだ。
後ろのテーブルに座っていた少女が立ち上がるとギーシュの目の前までつかつかと歩み寄ったからだ。

茶色のローブに身を包んだ栗色のショートカットの少女だ。
ローブの色から推測するに一年生だろう。
そしてその少女は臆面もなくボロボロとその眼から涙を流す。

「…ギーシュ様…やっぱりなんですね…?」
「な…ケ、ケティ…」
「やっぱり、モンモランシー先輩と付き合っていたんですね?…酷い、私だけだってあの時言ったのに…」
「いや、彼らは誤解しているんだ。ケティ。僕の心には今でも君の…」
「ねぇ?知っていましたか?私、モンモランシー先輩と仲良いんです。先輩が言ってました。私はオリジナルの香水は好きな人にしか渡さないって。女性でも男性でも」

ケティは涙を目に溜めながらも口調だけはしっかりとしていた。
…この少女の掻き集めたプライドなんだろう。

「…それがどんな形であれギーシュ様の手元にあるんです。それが答えですね…」

そして俯く。
次の刹那、パンッ!と乾いた音が廻りに響いた。
突如として訪れた修羅場に周囲が静まっていた事もそれに加味されたのだろう。
生々しい音だった。

「さようなら!」

その言葉と共に彼女が思い切り手を振り抜いたのだ。
ギーシュの頬をめがけて。
…見事な一撃だ。腕力でもなく速度を乗せただけ。
精神を殴打する意味ではこれ以上にないタイミングだったな。

だが、事はこれだけでは終わる訳ではないようだ。
そう。ここにはもう一人の当事者が居ない。
だが、先ほどの騒ぎをもし聞く事ができる場所にその当事者が居たとするならば?

遠くの席で立ち上がる少女が居る。
見た事があるな。…確か、ルイズと同じ教室に居た少女だ。
モンモランシーと言ったな。
ふむ。他人事ではあるが…如何したものか。

モンモランシーの表情は厳めしいものだった。
正しくして苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
なるほど。全ての成り行きを知ってしまったと言うわけか。

「そう。そういうこと。あの子が彼氏が出来たって聞いたけど貴方だったのね?ギーシュ」
「誤解だよ。モンモランシー。僕とあの娘は君の思うような関係じゃあ……」

うむ。見事な言い訳だ。
だが、事の展開を全て外部から聞いていた当の本人には白々しい事この上ないだろうが。

「…誤解?いいえ、誤解している訳じゃないわ。単にね?」

ニコリと哂うモンモランシー。
…ああ、覚えている。凛やイリヤ、サクラもあの手の笑顔を浮べる事があったな。
あれは『コロス笑み』だ。

「単に愛想が尽きただけよ!!」

香水の瓶を引っ手繰ると抜栓しその中身をギーシュの頭からドボドボと降り掛ける。
空になった瓶を床に叩きつけ粉々にすると夜叉の如き形相でギーシュを睨みやる。
そして先ほどのケティの張り手の逆頬に一閃。
唾棄すべき者を見る目でギーシュを見た後、踵を返しその場を去っていった。

●○●○●



後に残ったのは痛々しいまでの沈黙。
…いや、私もここまでの展開になるとは読めなかったんだが。
ギーシュは胸元のポケットからハンカチーフを取り出し香水をふき取る。
そうして一言。

「どうやらあのレディ達は薔薇の花の意味を理解していないようだね」

見事な強がりと言うべきか。
だが、思わずそれに突っ込みをいれてしまう。

「…正しくして薔薇の意味どおりの結果になっただけではないのか?」
「…どういう意味だ?」
「どういうもこういうもあるまい。薔薇は綺麗な花をつけるがその身には棘がある。彼女達は携えようとした薔薇に傷をつけられただけの事だ。自分の事を薔薇と表したのはいずれ女性を傷つけることを暗喩していたのだろう?」

ギーシュの顔色が朱に染まる。
…怒りか?羞恥か?いずれにしてもあまり良い傾向ではないが…

「…貴族である僕にこのように無礼な物言い…ああ、お前があのあれか。正体不明の赤マントか」

…明らかに蔑称として呼んだか。
やれやれ。解かり易い性格だ。
自らを侮辱されたりすることが我慢ならないのだろうな。

「フン…ゼロのルイズの召喚に応えるだけあって礼も無い存在だな。平民にも劣る。僕の前から消えたまえ」
「私の事を悪く言うのはかまわんがな?小僧。マスターは関係ない。彼女を引き合いに出す時点でお前の器が知れるぞ」

少しばかりの嘲りの視線を向けギーシュに背を向ける。
…ああ、思い出した。この小僧は間桐慎二に似通った性格をしているのか。
外見も若干、似通っているし。

「…いいだろう。確かに彼女を引き合いに出したのは間違いだった。僕に対する非礼は君自身に贖って貰おう。赤マント」

ギーシュが敵意に満ちた声で私を呼び止める。
そして手袋を私の足元に向かって投げつけた。
…はて?私の知識に間違いが無ければこれは中世貴族社会の…

「君に貴族に対しての礼儀の執り方を教えてやろう。無知な使い魔にな」

見事なまでの決闘の売り言葉だった。




――――――――――――――――――――――――――――――――

後書き。

洒落にならない難産でした。
シエスタとギーシュが思うように動かない(汗)

とりあえず、シエスタとの邂逅。

次回、初バトル。
圧倒的な戦力差。
大きな実力の差がある相手にどう対処するエミヤ?

跡形も無く殲滅するのは簡単だけど
手加減するのはそれはそれで高等技術。

次回はそう遅くならないうちに。

突っ込みあるなら遠慮なく。

では。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2005/07/06 18:23


「…ふむ。つまり、私に挑戦したいと言う事か? 小僧」




私は振り返る。
ギーシュが私に対して行ったのはこの世界における敵対宣言。
こんな瑣末事にかかわりあいたくは無いのだが。
無視を決め込んでも良いが恐らくは何の解決にもなるまい。
さて、どうしたものか。




――――――――――――――――――――――――――――――――

本気と全力の違い




辺りは雑然としている。
ギーシュは敵意に満ちながらも自信を持った瞳で私を見据える。
…ほぅ。良い目だ。自身の力に自負があればこそできる目だ。

「…へぇ。これの意味が解ったのか。ならば話は早い。…ヴェストリの広場だ。この貴族の食卓をお前のような訳の解らない者の血で汚す訳にもいかないからな」

ギーシュはそう言うと身を翻し歩き去っていく。
その周囲にいた何人かの友人達とともに。
そのうちの二人がこの場に残った。
恐らくは監視役だろう。
悪くは無い手段だ。逃亡阻止の為の常套手と言えよう。
逃げる必要も必然性も全く無いが。

「…私が決闘を申し込まれる必然が見当たらないが……シエスタ? どうしたのかね?」

シエスタの顔色は蒼白だ。
先程までは健康的な色つやだったのだが。

「あ…あ…え、エミヤさん…? こ、殺されちゃいます!」
「…む?それは聞き捨てならないな。誰が?」
「貴族を本気で怒らせたりなんかしたら!」
「あぁ。私の事か? まぁ…心配は不要だ。どんな形であれ戦うとなればな」
「…え?」
「この身には、ただの一度も敗走は無い」

顔色を蒼くしたシエスタに向けて、そう断言する。
この身は英霊。
世界が違えども、身に刻まれたものはなんら変わりが無い。

「まぁ、我が身を案じてくれるのならば君も見届ければ良い」
「き、貴族ですよ? メイジですよ? 勝てる訳が…っ!」
「…それがどうしたというのかね? 人である事に違いは無い」

シエスタは何か見てはいけないモノを見るような目で私を注視する。
恐らくはこの世界は、貴族が特権階級であり、尚、魔法という力を有するが為に力の無い一般階級は面と向かって
刃向うような事は無いのだろう。
身分などと言うものは飾りでしかないというのに。

「…ちょっと、エミヤ?」
「む。ルイズ」

シエスタと話していた私の背に聞き慣れた声が掛けられる。
ルイズがこちらまで来ていた。
そういえば、厨房に行くと伝えて、そのままだったか。

「…なんで、ギーシュと決闘する事になっているのよ?」
「何故もあるまい。あのギーシュとか言う小僧が勝手に吹っかけてきた因縁だ」

ルイズは目に見えて大きな嘆息をする。

「…ねぇ…やめる気は無い?あなたの身体能力が凄いのとかはわかっているけど…」
「む。それは問題発言だ。私が身体能力が高いだけだとでも?」
「だって、人間以上だって言っても…メイジ以上とは限らないでしょ?」

む、そんな認識を持っているのか? 我がマスターよ。

「…君は昨日の話しを全く理解していないようだな」
「…だって、メイジが強いのは事実よ。ギーシュって、あれでも魔法戦闘の成績上位者だもの」
「はぁ…仕方が無い。尚の事、退けなくなったな」

私はルイズとシエスタに背を向ける。

「…よく見ておけ。ルイズ。君が召喚した存在が如何なる者であるか。今一度、君の前に示そう。それから、シエスタ。メイジであろうが貴族であろうが敵わない者には敵わない。その事実を君に教えよう」

そして、監視役として残っていた者に声を掛ける。

「…そこの小僧。ヴェストリの広場まではどう行く?」
「…こっちだ」

●○●○●



私が案内されるままに辿り着いたのは学園の敷地内の二つの塔『風』と『火』の間にある中庭だった。
立地条件は悪し。西側にある為か季節柄、日中においても日差しが多くない。
それでもこの場には多くの生徒達が集まっていた。
享楽がよほど少ないのだろうか?

「諸君!!決闘だ!!」

ギーシュが造花の薔薇…いや、あれは魔術具か。
それを掲げあげて宣誓するかの如くの大声をあげた。
いや…本気の決闘ならばこの時点で百回は殺せている予測が出来ているのだが。

「…正直な所、やる気が全く無いのだが…」
「なんだと?」
「だが、あまり軽く見られるのにも、辟易してきたな。マスターですら疑っているし」
「…フン、当然だろう?お前のような奴がメイジたる貴族に敵うわけが無いんだからな」

…やれやれ。知らぬが仏とは良く出来た諺だな。
さて、ならばどうしたものか。
この小僧に差を理解させたうえで、尚、周囲に説得力のある終局を導かねば。

「一撃だ。私からの攻撃は一発。それで決着しなければ負けで構わん」
「僕を馬鹿にしているのか…?いや、ひいてはメイジそのものに対する侮辱だ…っ!」
「…はぁ。良いか? 小僧。これは正当な評価と分析の上のハンデだ。これでも大幅に譲歩してやっているんだがな?」

ギーシュの顔色が朱に染まる。
存外に激昂し易い性格のようだ。
いや、違うな。恐らくは貴族でありメイジである事に対しての自負が強いのだろう。
…この世界の貴族にはこの傾向が強いな。
ルイズにしてもそうだった。

「…良いだろう。その身にメイジたるこの僕の…『青銅』のギーシュの名を刻み込んでやる!」

ギーシュがその手にした造花の薔薇を振り下ろした。
その魔術具と思しき薔薇は一枚の花弁を剥離させる。
そしてそれが徐々に人型に形成されていく。

解析開始……解析結果。
錬金の魔法による物質構成…青銅製の人形か。

それが底な筈があるまい。
その先を打破してこそ、証明できるものがある。

「ああ、待て待て。やるなら最初から全力で来い。こちらは一撃しか攻撃せんのだ。初撃で呆気無く吹き飛ばされた後で、実は余力を残してましたなどと言うくだらん言い訳をされてはたまらんからな」

●○●○●



場所は変わって学院長室である。
二人の魔法使いが深刻な面持ちで向かい合っていた。

「…以上です。学院長」

コルベールは自らの見解と昨日の出来事を差し向かったオスマン老に告げた。
二人の間の空気は緊迫している。
それほどまでの出来事なのだ。
ただ紋章が表れただけならばオスマン老もここまで深刻にはなるまい。
その紋章を与えられた存在が、この学院の教師をして人以上と認知する事が問題に拍車を掛けているのだ。

「ガンダールヴか…訊くが。本当にその存在は人間でないのかね?」
「間違いありません。あの魔力の奔流を眼前で見れば納得できます。あれはスクウェア級でも出し得ぬものです」
「…人外に宿る最強の使い魔の証か」
「学院長。何故、その紋章が現れたのでしょう?」
「…時に聞くが。ミスタ・コルベール?」
「何でしょう?」

オスマン老は言葉を切り、件の件に置いて秘するべきある一つの事柄を口にする。

「…火のエキスパートたる君ならば、解る様に爆発という現象は火が引き起こす場合は、まず火が発生し結果として爆発が起きるものじゃ」
「ええ。それがどうしたのでしょうか?」
「ならば、ミス・ヴァリエールの引き起こす『失敗』を君は再現できるかね?」
「…あれをですか?」
「そう。…出来まい。ワシですらあれは出来んのだよ。そも失敗などという形ではな」

オスマン老の眼光が厳しさを増す。

「わかるかね?火の粒に干渉しない光を生じる爆発。これは四大属性では再現不可能じゃ」
「…まさか…虚無?」
「…あくまで、これはその可能性があるという事じゃ。だが……」

コルベールは息を呑む。
学院長の言わんとする事を察しれぬほど腑抜けた覚えは無い。

「だが、もし、仮にその使い手であったとするならば…その使い魔にあの紋章が現れるのは必然かもしれん」

オスマン老は小さく嘆息する。
沈黙が部屋を支配しようとしていた矢先。
部屋の扉をノックする音が響く。

「…誰かね?」
「私です。オールド・オスマン」
「ミス・ロングビルか。口頭で済む用件かね?」
「はい。ヴェストリの広場で生徒達が決闘をしているようです。教員達で止めようとしましたが生徒達に阻まれ止められない模様です」

オスマン老はこめかみを軽く押さえた。
頭痛の種がまた飛び込んできたのだ。

「…騒動の発端は? 誰が中心じゃ?」
「一人はギーシュ・ド・グラモンです」
「…グラモンのバカ息子か…事の発端は女性関係かのぉ…要らん所の血が濃いな…で、相手は?」

一瞬、躊躇うかのような間があった。
そして、その後に告げられた言葉は室内の二人を驚愕させるに足るものだった。

「…それがメイジではなく…ミス・ヴァリエールの召喚した使い魔だそうです」

●○●○●



私の言葉に、さらに顔色を赤く染めていくギーシュ。
あからさまな挑発は事実を含んだ時に最高の効果を発揮する。
相手がこちらを軽く見ていることは既にして明白。
恐らくは余力を残し余裕を持って勝利しようと思っていたのだろう。

だが、それでは意味が無い。
相手に対して敗北を与えるには幾つかの選択肢がある。
その中の一つが自らの全力を容易に打破される事にある。

これでも心が折れぬものは当然にして存在する。
聖杯戦争でのサーヴァント達はこの良い例だ。
だが、本当の生死をかける戦いの意味を知らぬ小僧相手には、過分な決着を与えてやる事が出来よう。

「フン。ルイズには悪いが…折角の使い魔も一日で消える事になったな!!」

ギーシュは憤怒の形相のまま、再度、薔薇を振るう。
六枚の花弁が舞い散り、それらもまた青銅製の人形となる。
…しかし、良い趣味だな。全員、女性形態とは。

「…僕の最大の魔法行使…【セブンス・ゴーレム=ロンド・ワルキューレ】だ。お前が悪いんだぞ? 僕をここまで怒らせたんだからな」

戦乙女の円舞曲か。ネーミングセンスは安直ではあるが悪くは無いな。
七体のゴーレムが周囲に展開する。
円形陣によって中央の敵対象を殲滅する構えか。
悪くは無い手法だ。

七体の指揮を担うギーシュが自らに絶対の自信を持ってその執行を宣言する。
再び掲げられ振り下ろされた薔薇に従うが如く、七体のゴーレムが動きを見せる。

さぁ、ここよりは余計な思索は不要。
自らに課した枷に従い、一撃によって終着させる事にしよう。

●○●○●



その戦いは周囲の観戦者達にすら容易に分かるものだった。
既にして決着していると。
自信を持って繰り出した七体のゴーレムによる同時・時間差・連続、さまざまな手法を織り交ぜた筈のギーシュの攻撃はわずかに身を逸らす程度のエミヤの動きでほとんどが回避されているのだ。

エミヤには磨き抜かれた心眼があった。
自らに攻撃しやすい隙をわざと生じさせ其処に攻撃を殺到させる。
戦闘行動において深い戦術眼を持たない人間でなくては、そう仕向けられている事に、なかなか気が付かない。
エミヤは自らが回避しやすい状況を自ら生み出しているに過ぎない。

ギーシュに僅かなりとも実戦経験があり正しい形での指揮知識があれば結果は変わっていたかもしれない。

だが、要因はそれだけではない。
エミヤの身体からは紅い魔力が放出されていた。
その放出された魔力が障壁となる形で当たった攻撃をほぼ無力化しているのだ。

当たらない攻撃、効果の無い攻撃では決着はつかない。
だが、エミヤは今にして尚、一撃たりとも放っていない。

●○●○●



「…ウソ」

わたしは目の前の光景が俄かに信じられなかった。
ギーシュの繰り出したのは確かに彼の二つ名の象徴たる青銅の戦闘人形 『ワルキューレ』。
そのゴーレムによる同時攻撃は学院内でも屈指のもの。
それをわたしの使い魔は苦無く回避をしてみせているのだ。
あれは身体能力のみでは説明がつかない。
あらゆる方向から来る攻撃を瞬時に見極める動体視力も優れていなくてはならない。

そして、エミヤの身体からは赤い霞のような魔力が立ち昇っている。
いや、あれは吹き上がるという表現の方が正しいのかもしれない。
当たる軌道の攻撃は、それに阻まれる形で威力をほとんど殺されているのだ。

攻撃を完全に見切る目と攻撃を防ぎきる魔力障壁。
これ程に戦闘に特化しているとは思っていなかった。
人間以上なんてものじゃない。
スクウェア級のメイジでも彼に真っ当に立ち向かえる人なんて居るのだろうか…?

周囲の人達はは信じられないものを見るかのようにそれを見ている。
わたしだって信じられないのだし。

唐突にエミヤが口を開く。そして宣言。

「…さて、死にたくなければ全力で防御に集中しろ。従わずに死んでも責任は取れん」

その手にはいつの間にか黒塗りの弓と捻じれた妙な剣が握られていた。
…弓に剣?
あれ? 弓って矢を放つものじゃ…?

●○●○●



違和感。
使い慣れたはずの弓と偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)。
左手の紋章がそれを心象世界より握り取った瞬間に光を放つ。
強烈なまでの一体感が身体を貫く。
マナが濃密なゆえの余波だろうか?
この偽螺旋剣は、完全投影した訳でないと言うのに。

偽・螺旋剣のような基本骨子を改変させたが為に、成長経験等が私に属する宝具。
これを使用するが為に、この世界における能力の上昇による加算が発生したのだろうか?

頭の中に最適な使用方法が再現されていく。
偽・螺旋剣は弓での射撃や刺突において威力を発揮する剣だ。
それは基本骨子を改変させた私自身が良く知る事実。
だが、違和感はここにもあった。
左手の紋章からその情報がリークされてくるのだ。
この紋章はこちらの世界に来てルイズと契約した際に浮き上がったもの筈。

情報が不足している。
この紋章についてはもっと詳しく調べねばなるまい。

だが、今はこの決闘もどきに完全な形での勝利での決着をもたらす事が肝要。
故に紡ぐ言葉も成すべき事も決まっている……っ!
ゴーレムが殺到する。だが、遅い。
その僅かな差が勝敗を分ける大きな差となる。

『―――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)』

そう。この言葉こそがこの場における闘争の終着を告げる鐘となる。

●○●○●



ギーシュは震えが止まらなかった。
自らの最大の攻撃は意味を成さず、その一撃を持って終わりにすると宣言した相手の攻撃がどれ程に尋常ならざるか。
あれは暴悪なまでの魔力の集合体だ。それだけしかギーシュには解からなかった。
あの弓と剣だけで、スクウェア級のメイジに匹敵している。いや、おそらくはそれ以上。

相対して脅威を感じる事が出来る。
この感覚を持つ意味では彼は幸運だったのだろう。
惜しむべきは戦闘状態に入る前にそれを自覚出来なかった事だ。
だが、それも仕方無いことだろう。
明確な脅威を感じたのは相手が捻じれた剣を弓につがえ引き絞った瞬間からなのだから。
それまでは単に攻撃がかわされ続けるが為の焦りが中心だった。
今は恐怖や驚愕といった感情がこの身を支配していた。

だが、彼にも自負はある。
自らは貴族でありメイジであると。
その矜持にしたがって無様な敗北はさらせない。

「…僕は負けない!誇りあるグラモン家の名に賭けても!!誇りあるトリステイン貴族として!」

だから、彼は対峙する事を選ぶ。
その結果が敗北であったとしても。
恐怖がその身を苛んだとしても。

●○●○●



「…僕は負けない!誇りあるグラモン家の名に賭けても!!誇りあるトリステイン貴族として!」

…なるほど。
これを前にしても尚、その志を掲げうるか。
少しばかり評価を変えてやる必要があるな。
形ばかりではなく、信念として貴族である事を掲げている。

だから、本来の形ではなく違う形で偽・螺旋剣を解き放つことにする。

『―――――― 偽・螺旋剣(カラド・ボルグ)』

放たれる剣の指し示すのは地面。

地に向けての直射。大地との接地。
激しい衝突音。大地を抉り砕き、響く砕石音。
粉塵が巻き上がる。抉られ砕かれた地表は砂塵と化す。

本来ならば『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』による爆破で終局とするが…

『―――――― 投影破棄(トレース・カット)』

大地を抉り砕きながらも威力が衰えぬ偽螺旋剣。
刀身が見えなくなり地表面に柄が見えるのみとなる。
その時点で投影を強制的に霧散化させる。
霧散化する投影は痕跡すら残さずに世界から消える。

まだ砂塵が視界を埋め尽くしている。
この状況では普通の人間は動けないものだ。
だが、この身は違う。この程度はまだ悪条件には入らない。
だから、最後の一手を打つ為の行動を起こす。

●○●○●



砂塵がこの場に居る全ての者の視界を埋め尽くしていた。
この状況下では何が起こっているかさえも定かではない。
誰もがこの砂塵が収まるのを待つのみの筈だった。

そう一人を除いて。

砂塵が収まりその中心となった場所には赤い騎士の姿は無かった。
ゴーレムも指揮者たるギーシュの視界が奪われると同時に動きを止めていた事が災いしたのだろう。

その姿は僅かに離れていたギーシュの目前にあった。
赤の外套の騎士は、その両の手に黒と白の短刀を携え、ギーシュの首元に突きつけていた。
そして、この戦闘の終結を告げる厳正なる一言を宣言した。

「…チェックメイトだ」




――――――――――――――――――――――――

後書き

躍動感が全然無い…(汗)
ちょっと、今回は読みづらいかもしれないですね。
ころころ場面が変わっていますから。
つーか、戦闘描写がほんとにダメですねぇ…
修行せねば。

エミヤには10の内の2くらいの力を出してもらいました。
圧倒的な力で捻じ伏せる必要があったけど殺しちゃうわけにもいかなかったんで。
全開の偽・螺旋剣を使用するには、もう一つキーワードを組み込む必要があるのです。
だって、『同調開始』はしてないですから。
後は無意識にセーブが掛かっている状況です。
ルイズの命令も無い事ですし。

では、グダグダ加減を引きずりながら、次回の執筆に入ります。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2005/07/04 03:09


「…チェックメイトだ」




私は勝利宣言をする。
これ以上の抵抗は無意味。
突きつけた陰剣莫耶は最後通牒。
殺意も無く。
闘志も無く。
唯、これからの選択をこの刃の先にある者に託した。




――――――――――――――――――――――――――――――――

紋章の意味




その光景の一部始終は、離れた場所の学院長室からも観察されていた。
【遠見の鏡】と呼ばれる魔法具の効能である。

「…圧倒的じゃな」

オスマン老はそうとしか言えなかった。
あの赤い騎士の成した現象を再現するには、属性特化タイプのメイジが集団でなくては出来まい。
それどころか、離れた場所に在る筈のこの場所からでも魔力行使が強い形で感知できたのだ。
その魔力が一段と高まったのが、弓と剣を構え赤の騎士が何かしらを呟いた瞬間だった。

赤の騎士の手に握られていた弓。そして剣と思しき物。
あのような破壊力を生み出す弓も剣もオスマン老は知らない。
そも、この世界において弓矢や剣などと言った物はメイジに対抗する為に平民達が作り上げたものだ。
だが、あれほどの威力があるものなどは存在しないはず。
そう、弓より放たれ、大地を抉り砕く剣などという法外なものが存在してる筈が無い。

「君の所見を聞こうか?コルベール君」
「…ギーシュは単一系統技能者 『ドット』メイジであり、未熟ながらも魔法戦闘は優秀な部類です」
「ふむ」
「ですが、明らかに相手はそれ以上です。その成したる術も。私はあれほどの存在をいまだかつて存じておりません」

オスマン老は頷く。
そして二人は同じ結論を出す。

「「……ガンダールヴ」」

オスマン老の目は、より深刻さを増す。
コルベールもまた面持ちを改める。

「…では、学院長? どうなさいますか? 王室に報告いたしますか?」
「…不要じゃ」
「何故ですか? 彼が本当に【ガンダールヴ】であるならば…」
「だからじゃよ」

オスマン老は重々しく口述する。

「君も古文書や禁書を読み漁る身だ。件の【ガンダールヴ】については解かっているな?」
「…始祖ブリミルが使役したる最強の使い魔。姿形についての伝承は無く、語り継がれる一文にはこうあります。その存在は主人の呪文詠唱時間を守る為にこそ在ると」
「そう。始祖ブリミルは強大なる魔法を使った。それゆえに詠唱時間は大きな隙となる。強大であればあるほど詠唱時間は延びる。詠唱に移ったメイジは基本的に無力じゃ。その身を守らせるが為、始祖ブリミルが用いたのが【ガンダールヴ】じゃ」

コルベールが頷き、その後を繋げる。

「伝承の通りであるならば、その力は一騎当千、メイジであろうとも敵対したのであらば、その前からの生存は許されなかったと」
「そう。伝承にあるのはその通りじゃ。…だが、君も見ての通り、ミス・ヴァリエールの使い魔は…」
「…ええ。あれは上位精霊と同格か、それ以上の魔力を持っていました」
「然るにじゃ。伝承の使い魔の証を持つ人間形態の上位存在と伝説の虚無の系統者やも知れぬ少女。これは秘匿せねばなるまい」

オスマン老の目は、重さを灯したままだ。

「王室の体質は今も昔も変わらん。メイジである事よりも貴族である事が本位となった者達に、それほどの存在を受け渡せば戦の発端になるのは明白じゃ。何しろ、切り札二枚が確定するのじゃからな」

オスマン老は座していた椅子より立ち上がると窓に向かう。
窓から見える空には先ほどの一件の影響か、砂塵がいまだに残留している。
そして振り向き、決定事項を告げる。

「この事は他言無用じゃ。折を見て、件の少女を招聘し、直接この件を説明しよう」
「…了解しました」

この話題はこれで終わりだと言わんばかりに、オスマン老は再び背を向ける。
それを見て取ったコルベールもまた、一度頭を下げると音も無く部屋を辞した。

オスマン老は誰も近くに居ない事を確認すると自らの執務机の中よりある一つの書物を取り出した。
そして呟く。

「…始祖の祈祷書、その外典の一。我が手にこれがある意味は、この為やも知れんな」

●○●○●



「…チェックメイトだ」

エミヤがギーシュに短剣を突きつけ、そう宣言した。
砂塵が視界を埋め尽くし、それが治まった時、わたしの、いや、この決闘を観戦していた者達が見たのがその光景だった。
あの砂塵を見事に隠れ蓑にまでしたのだ。
つまり、あれはあくまで布石に過ぎないという事なんだろう。
本命は、あの両の手に握られている黒白二対の短剣。
あの凄まじい魔力を放っていた弓と剣は、気がついてみれば、彼の手元にもどこにも無かった。

でも、今もその手にある短刀もまた明らかに魔力を帯びている事が分かる。
本来、魔力感知や魔法具の鑑定などは【ディテクト・マジック】の魔法によって調べるものだ。
でも、エミヤが手にしていた武器は、それをせずとも分かってしまう。
それほどまでの物品なのだ。
それほどのアーティファクトを所有できるのは、王室関係者かスクウェア級メイジの中の一握りだろう。

でも、でも、それでも疑問がたくさんでてくるのだ。
あんな法外な武器をいったいどこから取り出したのか?
何故、そんな武器をもてるのか?
そもそも、メイジの利用する魔法具は、ああいった武器の形状をする事はほとんど無い。
剣は言うに及ばず、弓など以ての外。
剣は、貴族にとっては装飾品以外の価値が無いのだ。
メイジでもある貴族にとっては剣よりもロッドが重要なのだから。
弓もまた、狩猟を生業とするか趣味として嗜む者しか持つことは稀だ。
戦闘弓と言って軍隊で使用するものもあるにはあるのだが。
だが、あの剣も弓もそんな言葉では説明できない。
感知するまでも無く、圧倒的な魔力を放つアーティファクト。

…正直、わかんない事だらけだ。
これは今夜も問い詰めねばなるまい。
いや、善は急げだ。
今夜と言わず今からでも遅くは無い。

わたしは、人ごみを掻き分け、自らの使い魔の元に走り出した。

●○●○●



ギーシュはそれを甘受するしかなかった。
いや、甘受などではない。
甘んじて受け入れるどころではなく、いっそ、清々しいまでの敗北感だった。
自身の最大魔法たる人形躁術は、全く通用せず。
一撃を持って決着させると言った攻撃は、この身には当たる事も無く。
これほどまでの差を見せ付けられたのは、生まれて初めての事だった。

もし、あの一撃がこの身に直接、放たれていたのならば自分はこの世の住人ではなくなっていただろう。
あんな武器があるなんて予想もしていなかった。
弓より放たれ大地を抉る剣。あの時、感じたのは暴悪なまでに密集した魔力の塊であるということだけ。
今も首元に突きつけられた短剣。これもまた魔力の塊だ。金属でありながらもメイジに匹敵する魔力を佩びる物。
既にそれは、恐怖を大きく通り越してしまっている。
もはや、笑うしかない。そんな心境だ。

「あ、ははははっはは…」

エミヤはそれを見ると眉根を顰めた。
彼の心境を一言で表すならこうだ。

即ち、―――――――― やりすぎたか…?

●○●○●



ギーシュが突きつけた莫耶の先で笑い出す。
それも唐突にだ。
…精神に衝撃を与えすぎたか?
恐慌状態になって錯乱して無いだけマシとするべきだろうか…?

この程度で腑抜けられても、正直、困るのだが。
先の偽螺旋剣。あれには殺気と言う明確な衝動を付与させていない。
手にした武装に敵対の意思、必滅の意思、必殺の決意。
それらの感情や意思を振るう一撃に込める。
そうした攻撃こそが本来のものだ。

偽螺旋剣は、そもそも螺旋の形状をしているものの、あのような使い方をするものではない。
だがしかし、予想以上に使える事が判明したな。
視界を頼りに戦う存在なら良い目くらましになるな。
直接、叩き込んだり、壊れた幻想による開放など使用すれば、周囲に大きな被害がでるが故の妥協策としての選択。
フム。この世界における攻撃手段のバリエーションとして登録しておこう。
連続投影による多段攻撃に織り交ぜれば良い牽制になるだろう。

いや、だがまて。良く考えろ。エミヤシロウ。
偽螺旋剣は……大地に向けて放ったとして、それを砂塵に変えるほどの威力を保持していたか?
岩塊となり吹き上がる事もなく大地を抉る。これならば想定の結果の一つにもある。
だが、今回の結果は岩塊ですらなく砂塵。砂塵を吹き上げるほどの高速回転を伴っていた。

恐らく、鍵の一つは…この左手の紋章。
これはいったいなんだ?
単なる使い魔としての契印だと思っていたのだが…
偽螺旋剣を投影した際の違和感。あれは何だったのだろうか。
干将莫耶を手にしている今も尚、その違和感は続いている。
光を放つ左手の紋章はこの干将莫耶の特性をも理解し、その最適な使用方法を提示する。
それどころか、能動的に我が身の魔術回路に同調し、戦闘状態に移行させる節もある。
大地に向けての偽螺旋剣投射による目晦ましは、紋章からの情報の一つを無意識に参照していなかったか?

だが、ここには欠けた情報がある。
これが投影品であるという特性を理解しきっていない。
壊れた幻想が可能である事は紋章からの情報からも参照できた。
だが、それだけ。それを使用した手段を提示しては来ない。

つまり、この英霊エミヤの知識とは別物。
私の知識を基にしたのであれば投影品であることを最大の利点とする。
連続投影や壊れた幻想は、投影品ゆえに実現可能かつ有効な手段。
この左手の紋章からの情報はそれが欠けていた。

だが、それ以上に考えなければならないのはこの世界における投影の力。
偽螺旋剣があれ程の威力である理由は…いや、我が心象世界よりの宝具。全てに共通するかもしれない。
この世界には…『原典』が存在していないのではないのか?
武器は在ろう。だが、我が心象世界の剣群と同じ宝具は?
世界からの情報が無い以上、断定は出来ないが…
同じ宝具が、この世界に無いのならば、我が心象世界より投影された宝具。
贋物しか存在していなければ、それが世界にとっての唯一となる。
原典が無ければ贋物をそれとして断定するのは私のみだ。
だが、それは世界に零れ落ちた瞬間に世界に認められる。
オリジナルが無い以上は、贋物でありながらも、それが唯一であると。
私の創る贋物が、この世界にとってのオリジナル。
故に世界からの強化補正が起こり得たのやも知れぬ。

…これは迂闊に宝具は投影できんな。
真偽は別にしても、私の想定以上に強力な可能性がある。
慎重に使い所を見極めねばなるまい。

「…ヤ!…ちょ…ちょっと!! エミヤ!?」
「…む? ルイズか」

思索に籠もる私の背に声がかけられる。
ルイズだ。
即座に投影を破棄する。
事、ここに至っては最早、武器を構える必要もあるまい。

「?…エミヤ、武器は? ついさっきまで、短剣持っていたのに…?」

ルイズが怪訝そうに眉を顰める。
まぁ、それも当然か。この世界の魔法論でも私の投影の特性など理解できまい。
彼女の目にはいつの間にか武器が消えたようにしか見えないだろう。

「何。ただの手品だ。深くは気にするな」

私は茶化して答える。
マスターとはいえ、私の魔術の本意たる固有結界『無限の剣製』については今のところ、説明する気はない。
それに伴う投影もだ。
何せ、理解出来ない時はどう説明しても理解できないのだし。

この世界における魔法は、術者のイメージが大きくそれに関わる。
この基本は、私の投影にも通じるものがある。
だから、こう誤魔化す事にした。

「答えるとするならば、君達の魔法で言う【錬金】とでもしておこう。私の特技だ」
「…錬金の魔法?」

何故、そこでさらにいぶかしげな表情をする。マスターよ。

「…怪しい。だって、あんなもの錬金で作れるメイジなんていないもの」
「私にはそれが出来る。それだけの事さ」

私はそれ以上答えるつもりはないと暗にその意を匂わせる。
と、そんな会話をしている私達の背後で気配が立ち上る。
…ギーシュか?
呆けていた状態から復帰したのだろうか。

すると、唐突にその口を開く。
そこより出た言葉は、私の予測にも上らぬ想定外のものだった。

「…弟子にしてくださいっ!!」

●○●○●



…はぁ?
突如として起き上がったギーシュは、わたしの思いもつかない事を口にした。
…エミヤに向けてだ。
当然、エミヤも驚いたような顔をしている。
目を見開き、訊いてはならぬ事を訊いたかのような顔をしている。
…あ、エミヤって結構、表情豊かなんだ。
最初のときは、硬い感じとかしたけど…こういった感じが彼の地なのかな?

「…マテ。何故、急にそんな言葉が出てくる? 私は先ほどお前を殺す直前まで追い詰めたんだぞ?」

エミヤがいわゆる冷や汗と思しきものを浮べながらそんな事を問う。
うん。面白いから事の成り行きを見てみよう。

「…先ほどの会話を聞きました。あの砂塵を引き起こした物は【錬金】によって作られたものだと。このギーシュ・ド・グラモン…あれほど物を錬金できるメイジなど一人として知りません!! グラモン家は歴代よりの血脈のものとして土の属性をその身に宿します」

ギーシュの言葉は止まらない。
まぁ…頷けない事もないかな?
土の属性を持つ者にとって、あれ程の魔力を放つ物を【錬金】で造ったみたいな事を聞かされては堪らないだろう。

「然るにっ! 【錬金】の魔法こそは基本であり、かつ秘奥に近いもの。この身の二つ名である『青銅』も、僕が錬金にて青銅を造る事が得意だったが為のものです。ですがっ!そんな価値観などは先のあれで露と消えました。いわんや、あれが錬金で造られたとあれば、尚の事……僕は…僕は、その領域まで上ってみたいっ!!」

うわぁ…ギーシュの目が爛々と光を放っている…
あ、そっか。きっと『子供が憧れる英雄』を見る気分なのね。
エミヤの顔が目に見えて引き攣っている。
頬の辺りがピクピクと痙攣気味なのがミソ。

「…ああ…言わんとする事は解からんでもないが…」
「でわっ!?」

ギーシュの顔は喜色満面。
反対にエミヤの顔は青い。
そしてエミヤは面持ちを正すと重そうに口を開いた。

「…私に誰かを教えるなどと言う事は出来ん」
「何故ですか?! あれほどの錬金を成せるのであれば…っ」
「私に出来るのは、作る事。あれは私以外の者では、同じ手順であっても作れない」

エミヤはギーシュに背を向ける。
そしてゆっくりと歩き出す。それでも語る言葉は止まらない。
その語りかける言葉には、わたしにも重さが感じられた。

「それでも。それでも、その領域まで辿り着きたいというのならば」

●○●○●



「作る事だ。自分で出来る事で、その領域にたどり着く方法を」

私らしくも無い。
こんな事を誰かに諭すなど。
誰かに教授出来るほどの人間ではなかったと言うのに。
自身の持つ価値観を捨て去るほどの衝撃を私の投影から受けたと言う。
ならば、これ以上、追いすがられてもその答えを与えてやる事など出来ない。

「お前は『青銅』と二つ名を名乗リ、それを示す青銅の人形を作った。ならば、お前は作る者なのだろう」

そう。ギーシュが私に正対した時に選んだ手法。
それは自らの身で戦うのではなく青銅のゴーレムを作リ戦わせることだった。

「ならば、青銅を持って作ればいい。その領域に届き得る『青銅』を。勝てる青銅を」

我ながら、言っていて笑える。
偽螺旋剣に届く青銅を作れば良いとは、よく言えたものだ。
それは不可能だ。青銅ではあの領域まで上ることなど到底不可能。
だが、それが勝てない道理はどこにもない。
そう。それのみで届かなければ、勝てる状況を作ればいい。
それだけの事に過ぎない。
言うは簡単。行うは難し。
それを貫く事で届かない筈の領域に上れる。

「私と同じものは作れない。ならば、お前の作れる物で成せばいい。それだけだ」

話は終わりだ。
私にこれ以上言える事など無い。
私の投影と同じものを作れるとするならば、それは衛宮士郎以外にはいない。

●○●○●



ギーシュは、その自らに向けられた言葉に震撼した。
勝てる青銅を作れ。その言葉の意味は深い。
自らに与えられた能力を、最大限に生かしていない事を痛感させられる言葉だ。

自分は青銅を錬金する事が得意だ。
ならば、その青銅を使って何が出来た?
七体のゴーレムによる半自動化された戦闘。
あれが自らの持てる全てだったのか?

いや、否。
青銅を錬金するならば、様々な手法があったはずだ。
ゴーレムを作るだけではなくてだ。
青銅は金属。その基本を忘れていたのだ。
僅かな欠片であってもその質量は十分なものがある。
その使い方を忘れていたのだ。

何たることか。
自らの血脈たるグラモンの名が泣こう。
土の属性を色濃く伝えるこの身が抱えなければならぬ基本を、今にして思い出した。

ならば、ならばこそ。
あの赤い騎士は、尚の事、仰ぐに相応しい。

同じものは作れずとも、勝てるものを見出せば良い。
貴族たるこの身には思いもつかぬものだ。
貴族たる者は、背を向けない。
背を向けぬ為に、勝たねばならぬのならば。
勝てる手段を作り出せば良い。

ギーシュは決めていた。
歩き去っていく赤の騎士の後姿を見ながら。
あの赤い外套の騎士の正体が、何であろうとも。
錬金の魔法などは関係なく、その教えを受ける事を。

●○●○●



わたしは歩き去るエミヤの背中を見ていた。
彼がギーシュに語りかけた言葉に、私も聞き入ってしまったのだ。

「…ルイズ。あの御方は何者なんだ?」

ギーシュが振り向きもせずに、わたしに問いかける。
あの御方?
…エミヤの事を言ってるのかしら?

「…わたしの使い魔よ。それがどうしたの?」
「…高位幻獣以上だ。あの力は」
「そうかもね」

彼の事を話していいものか。正直言って、迷う。
なんと言っても私ですらまだ理解出来ない事が多いのだ。

「…英霊って知ってる?」
「…エイレイ?」
「彼は、その分類の中の一つで守護者って言うらしいの」

ギーシュの顔が疑問を浮べる。

「わかんないでしょ?…わたしも正直、よくわかんないし」

わたしはエミヤの後を追う事にした。
というか…あの男は、使い魔のくせにわたしの傍に控えるという事を知らないのかしら?
爆風から身を挺してわたしを守ったりとか、幻獣を見て過剰に反応したりとかするくせに。

「…深くは気にするなって言っていたわ。あまりに知り過ぎると理性を壊しかねないんだって」

わたしはギーシュに向けてそれだけを伝えると小走りでエミヤの後を追った。

●○●○●



私はこの衆人環視の場から早く立ち去りたかった。
この世界において魔法というものが一般的であって助かったとしか言いようが無いからな。
今回の出来事は。
魔法が一般的であるが故に、私の成した事も誤魔化しが効くというものだ。
これを私が本来の世界でやろうものなら、大変な騒ぎになるだろう。
……後で地表面を修復しておく必要があるか。

「…エミヤ!!」

ルイズが私の後を小走りで追ってきた。
そして横に並び立つ。その顔は、不服の色合いが強い。
半目で私を睨みあげながら、その口からは文句が飛び出す。

「何で、私をおいて行っちゃうのよ」
「む。それはすまなかった。早く、あの場から去りたかったものでな」
「…どうして? エミヤは決闘の末に勝利したのよ? 勝者は誇り高く勝ち名乗りを上げても良いくらいなのに」
「あれは決闘などではない」

私は身長の関係からルイズを横目で見おろす形で見る。
彼女の表情はころころ変わる。感情の起伏が豊かなのだろうな。
先ほどの不服の面持ちは、今度は疑問に変わっている。
…目は口ほどにものを言うとはよく言ったものだ。
良い。マスター。君の内に浮かんだであろう疑問に答えてやろう。

「互いの実力差が均衡しているならば、そういっても良いがな」
「…メイジが、貴族が誇りを胸に挑んだ戦いなのよ?それが決闘では無いと言うの?」

ルイズの顔が今度は怒りに歪む。
やれやれ。貴族である事に過大なまでの誇りがあるようだな。
悪いとは言わんが…それがいつか足元をすくう事にも繋がりかねんのに。
まぁ…他人の事であれ、貴族として共通しているだけで、怒りを表現できる君は好ましいがな。

「言っただろう? それは実力伯仲した者同士ならばの事だ。私とあの小僧では比肩するまでもない差がある」

そう。それは既にして明白な事。

「然るにだ。あの小僧が決闘の心算であっても、私にとっては路傍の石に躓いたのと同じだ」

この身は英霊だ。
対峙し脅威を感じぬ相手には、臆する必要もない。
まぁ、路傍の石に躓いたと喩えたにしては、やりすぎた気もしないでもないが。

「…じゃあ、あれはあなたにとってお遊び感覚だったとでも言う気?」
「それこそ、まさか。闘いにおいて遊び心を持ち出せるような性格はしてなくてな」

そう。あれは遊びなどではない。
いかに実力の差があったとしても、そこに遊び心を持ち出すような者は二流以下だ。
そんな事をすれば油断死をするに決まっている。……あの英雄王のように。

「私はな。どんな敵が相手でも常に本気だ。全力か、そうでないか。余裕が有るか、無いかの差だ」
「じゃあ、さっきの闘いは全力を出したからギーシュは手も足もでなかったのね?」

む。マスターよ。それは問題発言だ。
あれで全力などと思われては流石に心外だ。

「…言っておくが。私があの場で全力戦闘なぞしたら、周囲一帯から生命反応が消え失せるぞ」
「……ほんと?」
「虚言を言ってどうする。そもそも、偽螺旋剣を使ってあの程度ですんだのが幸いと思ってもらいたいのだがな」
「…カラドボルグ?…あの捻じり曲がった剣の事?」
「ああ。あれは本来なら、もっと破壊力を生む方法がある。それをせずともあれだけの威力だ」

ルイズの顔が引き攣る。
まぁ、仕方なかろう。あれの更に上があると言われてはな。

「まぁ、つまりはそう言う事だ。全力戦闘なぞすれば、公開殺戮ショーだ。観客諸共のな」
「…本気で戦ったって言ったわよね? どうして? 実力の差があれば本気でなくとも楽に勝てる筈でしょう?」
「本気で戦う必要があったから。殺さぬ闘いで下手に実力伯仲な闘いを演じては、勝った所で相手は易々と敗北を認めまい。故に本気を出し、歴然たる差を理解させただけの事だ」

そう。相手を殺さずに屈服させるには、勝てない事を認識させねばならない。
実力の差があるのであれば尚の事だ。
それでも、挑むというのであれば、その時こそ命を賭けての闘いとなる。

「それにだ。あまりにも苦戦を演じた場合、あの小僧に向けられる敗北後の中傷にもかかわるだろうよ。あの程度に貴族が負けたみたいな感じでな」
「…そっか。ギーシュの事も考えていたのね」
「負けても仕方が無いと言う状況を印象付ける必要があったからな。それに…」
「それに?」

ああ、忘れないうちに言っておこうか。
そもそも、君のあの言葉が無ければこうまでしようとも思わなかったのだし。

「言っただろう? 君が召喚した存在が如何なる者であるかを見せるとな」




――――――――――――――――――――――――――――――――


あとがき

こんなもんですかね。
エミヤに違和感でてなければ幸いです。

エミヤは誇りを抱いている人の事、嫌いではないですよ。
誇り? そんなものは犬にでも食わせてしまえって感じですし。
でも、誇り高かったアルトリアの事は好きなのさ。

エミヤは自分の力は教えられないけど、方向性を指し示すって感じを出させてみました。
しかし、勝てる青銅を作れば良いなんて言わせてどうするんだろうか…(汗)
今後、ギーシュが思わぬ活躍するかもしれません(爆)
というか、させるのですが。
ギーシュファンの方、ご期待ください(謎)

枷の一つは『投影した宝具が強力すぎるから滅多に使えない』
まぁ、これは心理的なものですから、ある条件が重なると、さくっと無視できますが。

では。グダグダしながらも次回の執筆にはいろうかと。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2006/01/26 01:10

「言っただろう? 君が召喚した存在が如何なる者であるかを見せるとな」




エミヤはそんな事を言った。
なんてこと。
彼はただ、わたしの一言に異を唱えるために。
メイジ以上とは限らないと言ったあの言葉に。
それに反発しただけだったのだ。
笑えてくる。
思わず口に笑みが浮かんでしまう。
この人はこう見えて、結構負けず嫌いなんだ。
どれ程の力を持っていたとしても。

――――――――――――――――――――――――――――――――

疑問・紋章の謎



ルイズが私の言葉を聞くと驚いたような顔をした。
そして、含み笑いをする。
…何か可笑しな事を言ったのか?

「…む、ルイズ。何を笑う? 何か可笑しな事を言ったか? 私は」
「やれ、強いの、やれ、人間以上だって言っても結構子供ぽいんだ。エミヤって」
「…それは問題発言だ。後でじっくりと追及させてもらおう」

そうして、学舎の前の広場に着く。
ふと左手の紋章に目を落とす。
そうだな。この紋章の件。召喚者たるルイズに問いただす必要がある。

「…フム。ちょうど良い。君に訊いておくべき事があったな」
「何よ? わたし、午後の授業があるんだけど?」
「…場合によってはそれにも優先する事なのだがね」

ルイズが端整な顔を顰める。
私の言わんとする事に疑問があるようだ。

「…授業に優先するかもしれないって何の事よ?」
「これだ。…先の中庭の件にも関連するのだが」
「…どういう事よ。それって使い魔の契印よ。それがあの騒ぎにどう結び付くのよ」

そう。この紋章が彼女との使い魔契約によって顕現した以上、使役者たる彼女はこれを知っているべきだ。
ルイズに、左手の紋章が見えるようにし、問いを放つ。
まずは現状の問題点を浮き彫りにする為の対比点の作成。
即ち、通常の使い魔契約において与えられる恩寵の詳細だ。

「まず一つ目だ…む、ルイズ? どうした」
「…立ち話もあれでしょ? どうも長話になりそうだし」

ルイズは肩越しにベンチを指差す。
…それもそうだな。
私から話をするのであれば、その辺を気遣うべきだったか。

「…それもそうだな。いや、すまない。私のほうが気遣うべき事だったな」
「…何言ってんのよ。使い魔がご主人様に質問があるって言うんだから、しっかりと答えてあげないとね?」

ルイズは、小指を立てて胸を偉そうに反らす。
思わず、苦笑が顔に刻まれる。

「…そうだな。せいぜい答えてもらう事にしよう。マイ・マスター」

●○●○●



私は、ルイズと共に噴水脇のベンチに腰掛ける。
これが私の世界ならば、気でも効かせて缶ジュースでも用意するのだが…
無いものねだりか。

「…で? 何よ。その紋章について訊きたい事って」

ルイズが私を見上げるようにして言う。
ベンチに腰掛けても私と彼女の身長の対比は比肩すべくも無い。

フム。ではまずは、基本から。
基本を明確にし、この紋章の異常さを浮き彫りとしよう。

「…一つ目。この世界における通常の使い魔契約の恩寵。使役者と使い魔、その双方についてだ」
「…使い魔契約の恩寵? 要するに使い魔にすると、どんな事がさせられるかって事?」
「まぁ、そういう解釈でもかまわん」

ルイズは人差し指を額に当て眉根を顰める。
言うべき事が纏まったのか、額にあていた指を離し面持ちも改まる。

「そうね。まずは一つ。メイジとの間の意思疎通が可能になる事」
「意思疎通か。つまりはラインを経由した念話等だな」
「ん? 別にそれだけじゃないわよ。キュルケの使い魔は覚えているわよね?」

あの火蜥蜴の事か。
キュルケという少女とあの火蜥蜴は明らかに異種族だ。
メイジと使い魔が異種族の場合の思考翻訳を行なわねば、意思の疎通など出来まい。

「なるほど。異種族間の思考翻訳すら可能とすると言った所か」
「そ。メイジの言っている事を理解して、その通りの行動が出来る様になるのよ」
「ふむ。少なくとも、私と君の間では意味が無いものだな。それは」

そう。私とルイズは広義の意味で人間に括る事が出来る。
故に思考翻訳、言語翻訳は必要ない。
そもそも、言語関係は此方の世界に来たときから普通に理解しているのだ。
メイジと使い魔が異種族である場合には有益だろうが。

ルイズが細目で私を睨みやる。

「…あのね。自分から聞いたんだから、余計な口を挟まない事。反論その他は、後で聞くわ」
「……了解。次を続けてくれ」
「ん。宜しい。で、補足なんだけど、使い魔の思考は契約したメイジ本人にしか分からないけど、使い魔の方は他の人間の言葉とかを理解出来る様になるの。つまり、メイジが何らかの事でその場を離れられない時の情報収集とかが出来るのよ」

ふむ。その辺の使い魔の使い方は同じなのか。
言語関係を完全に移行出来ない点は、メッセンジャーとしての利用を想定していないからだろうか。

「後は、使い魔の視覚等の感覚神経への接続かな?使い魔の見てるものとかをメイジも見れるようになるのよ」

む。それはあまり勧められんな。
相互交感ならばまだ良いが、霊的存在として格が違う場合に下手に接触すると感覚を引っ張りすぎて戻れなくなる恐れがあるな。

「まぁ、与える特殊能力としてはこんなところかしらね」

…む。つまり、使い魔契約においては身体能力の強化等は行われない事になるな。
妙な事になった。
使い魔契約によって現れたこの紋章は、確かに私の投影した宝具を理解していたのだ。
しかし、ルイズの言うには、使い魔契約によって与えられる能力は、思考と感覚の共有と借受が主との事。
考えられる要因は幾つかあるが…

「で、後は使い魔がメイジに対して行うべき事なんだけど、霊薬、秘薬の原材料の採取。これは習性的にそれを理解できてるのよ。幻獣って言うのは自然界の薬草、毒草をメイジ以上に本能で知っているからね」

いや、私は幻獣ではないんだが。
となると、これについてはどうしようもないな。
この世界の薬草学など皆無なのだし。

「…で、後は、主人たるメイジを護る為に戦う事よ。使い魔はその能力を持って主を護る事。これが一番基本にして重要な事なの」

そうしてルイズは言葉を締めくくった。
…主人たるメイジを護る為に戦う事か。

「なるほどな。主の為に戦うのが使い魔の役目か」

思わず苦笑が浮かぶ。
もちろん、それはルイズに見咎められる。

「…何よ。何か不服なの? あれだけの力が有るくせに」

半目で私を睨みあげるルイズ。
不服などあろう筈も無い。
なんであれ、誰かを護れるという事は尊い事なのだから。

「…いや、何。それならば全く問題あるまいよ。先に誓っただろう? この身は君のための剣だと」

私はルイズに向き直る。
そう。先の契約の言葉は絶対だ。
あの時に言った言葉こそがこの身を律するもの。

「故にあらゆる困難を切り捨て、君の前の道を拓く。これは絶対さ。何しろ、私がそう決めたのだからな」

●○●○●



臆面もなくエミヤはそんな事を言ってのけた。
その言葉は重みは無い。だが決して軽くは無い。
ああ、なんて事なの。
彼がそう言うという事はきっと。
それはもう決定事項だ。
あの最初の邂逅の時の何かを貫き通すような瞳は、誓ったものを最後まで守り抜くからこそなのだと。
思わず、顔が朱を佩びてしまう。

「む…? ルイズ。顔が赤いぞ。体調でも悪くなったか?」
「な、なんでもないわよっ!」

わたしは顔を無理に横に背ける。
これ以上、彼の顔を直視出来なかったからだ。
…こういった言葉を飾りっ気無しで言うんだもん…
不意打ちもいい所だ。

だから、私はそれを隠すようにして次を促す。

「で? エミヤの疑問は解消できた?」
「…フム。ではまず、この身に対しての使い魔の付与能力についての差異を明らかにしておくか」

エミヤはそういうとわたしに向き直っていた顔を正面に戻す。
横顔もまた真剣なものだ。
彼には遊びという部分が驚くほど少ない気がする。
でも、たまに凄く子供みたいな事をする。
そう、今朝方のやり取りのような事を。

ああぁ…駄目だ。駄目だ。
使い魔が真面目に話しているのに余計な事を考えてちゃ駄目だ。
ただでさえ、エミヤは勘が鋭い節がある。
余分な事を考えていたら、感づかれて呆れられてしまう。
さぁ、気を取り直そう。
私はご主人様として、使い魔の疑問にはしっかりと答えねばならないのだから。

●○●○●



いまいち、ルイズの挙動が不審なのだが…気にすまい。
大方、私のさっきの発言に感じ入る部分でもあったのだろう。
そんな事を突っ込んだら、押し問答になりかねんからな。
ここは敢えて無視をして、本題を進める事にしよう。

「さて、まずは一つ目の意思疎通。これは全く問題ない。そもそも、私は英霊だからな。思考や言語関係が人間寄りになるのは当然だ。最も、本来の抑止の守護者として現界した場合は別だがな」

そう。抑止の守護者としての現界ならば、余分な思索が出来る思考回路は与えられる事は稀だ。
守護者に必要なのは最も手早く事態を収拾する手段を模索する事。
そこには余分は無い。
言葉などは必要ない。交わす言葉無く、敵を手早く殲滅するのが守護者なのだ。

「…まぁ、この辺は蛇足だな。気にするな。で、次の感覚の借受だが…これは可能だろうがやめておけ」
「…どうしてよ? 普通の使い魔なら基本よ」
「私は良くも悪くも普通の使い魔のカテゴリーではないしな。霊的存在としての格の差が悪影響を及ぼす」

ルイズが怪訝そうな表情を浮かべる。
察しが付く事ではないだろうしな。

「つまりだ。私の感覚を借り受けるとそのまま戻れなくなる可能性があるという事だ。最初に感じただろう? 私に引き寄せられる感覚を」
「…うぁ…使い魔としては三流よ。それって」

…言うに事欠いて使い魔として三流?
失敬な。この身は英霊だぞ。
そもそも、英霊を使い魔のカテゴリーに当て嵌める事が無茶だというのに。
…ここにきて異世界の壁を高く感じたな。

「…悪かったな。使い魔として三流で。ふん。いいさ。いつかその発言を後悔させてやるからな」

思わず、半目になってその発言に噛み付く。
ルイズは物珍しい事を聞いたかのような顔をして私を見遣った。
…何か変な事でも言ったか?
そうして、彼女は笑みを作った。
…かつて、私の言葉に同じような笑みをした凛の様に。

「…良いわよ。やって魅せてよ。出来るならね?」
「…良いだろう。証明するさ。そんな事が出来ずとも使い魔の責は十二分に果たすとな」
「あ、でも三流発言は取り消すわ」

む。いまさら取り消しても遅いぞ。ルイズ。
だが、彼女の口から出た言葉は私の予測を斜め上に超えていた。

「わたしが召喚したんだもの。それが三流な筈無いじゃない。三流なんて認めたら、わたしまで三流になるわ」

…そう来たか。マイ・マスター。
その言葉に思わず苦笑が刻まれた。
ああ。そうだとも。
その自負こそが、私のマスターとしては相応しい。

「…まぁ、良いさ。次の霊薬・秘薬の原材料採取だが…」

ルイズがその言葉を聞くと指を立て言い聞かせるように言う。
勝ち誇ったようでもあるが。

「あ、それは期待してないから。だって、エミヤってこの世界の存在じゃないんでしょ? この世界の薬草とかの知識を自前で持っているとは思えないもの」
「…否定できる要素が無いな。その通り。この世界の薬草学などは皆無だからな。共通のものなら判別できるが独自のものは理解不能だろう」

だが、ここで一つ突っ込んでおこうか。
言われるだけは癪に触る事だし。
…さて、前提条件が問題ではあるがな。

「まぁ、採集してきたところで、君に霊薬作りの才能があるかどうかは別問題だろうしな」

ピシッ。っと表現可能な感じでルイズの動きが止まる。
うむ。成功したようだな。
っと、いかん。いかん。
ルイズをからかう事が目的ではないだろう。

さて、これからが本命の疑問だ。
即ち。この左手の紋章の所有する能力についてだ。
彼女の言う使い魔の契約は、このような能力が与えられる事は無いらしい。

「…さて。気を取り直してだ。ルイズ。ここからが本題なのだがね?」
「…流したわね? 後でじっくりさっきの発言を詫びさせるんだから」

…む。少々旨い所を突き過ぎたか。
ルイズが不機嫌な目のまま睨んでくる。
気にすまい。この程度で揺らぐほど緩い心は持ち合わせてはいない。
硝子ではあるが。

「さて、君の説明からするに使い魔契約においては肉体能力の強化は成されないようだが…」
「そうね。基本的に使い魔になる幻獣って身体能力とかは人間より上の場合が殆どだもの。必要が無いのよ」

…成る程な。これでこの紋章の異常さが際立ってきたな。

「ルイズ。恐らくは君との契約で浮かんだこの紋章。通常の使い魔の契印とは違う筈だ」
「へ?」
「…この紋章は身体能力の上昇や戦闘技能等の付与を行う力があるらしい」
「…どういうことよ?」

私のその言葉に、ルイズは不機嫌だった様相を改め、今度は怪訝さをうかがわせる表情を作る。
その表情に対しては私は自らの身に起きた現象を説明する。
武器を持ったときの感覚。紋章から流れてきた知識。
あのときの感覚を説明できる範囲で説明した。

「…つまり、エミヤの知っている事と同じ情報がその紋章から流れてきたって事?」
「ああ。それだけでなく、私でも思い浮かばぬ使用法とかも提示してきた」
「…人間を使い魔にした事が無いから、今の時点じゃ何とも言えないわね…」
「前例が無いから比較も出来ないという事か」

ふむ。手詰まりか。
ルイズはなにやら考え込むような仕草をする。
いや、事実として何かを考えているのだろう。
そうして顔を上げるとルイズはこんな事を言い放った。

「…市街地へ行きましょう。エミヤの持っている武器じゃなくて、この世界の武器でも同じ事がおきるのか調べてみる必要があるわ」
「…成る程。確かにそれは比較対比の上での基本だな」

確かに。私の心象世界よりの投影品ではなく、この世界由来の武器であるならば私にその知識は無い。
この使い魔の紋章に異能がある事を調べるにはうってつけか。

「…善は急げね。ちょうど、午後の講義はサボる形になっちゃったし。行くわよ? エミヤ」

ルイズは立ち上がる。
この決断の速さは美徳だ。
決めたのなら即行動。
ならば、従僕たるこの身はその決断に従おう。

「了解だ。マスター」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

後書き

おかしい。今回の話はシエスタがでてくるはずだったのに(汗)
つーわけで。
エミヤ、ルイズに紋章の事を問いただす。
でした。
説明を端折っているのは前回前回と書いた内容の焼き増しになるからです。

次回は街中に買い物に行きます。
原作とはイベントの順番が既に入れ替わっております。
そのお蔭で割を食う人が何人か発生。
運が良かったな。ギーシュ。君はクローズアップが早くて。

次回は独自イベントと魔剣の登場です。
ではグダグダしながら次回の執筆に入ります。

さぁ。誰か独自イベントに直撃できる人はいるのか?
ヒント。今回登場予定だったシエスタがらみ。
    街道沿いは危険がいっぱい。
当たっても何も有りませんが。



[2213] アナザーストーリー・IF・全開・偽螺旋剣編。
Name: 愁雨
Date: 2005/07/06 20:36

注意


以下のストーリは本編には関係あって関係無い話です。
時間軸とは切り離されています。
ネタの世界ですので整合性を突っ込まないように。
偽螺旋剣が弱いと指摘を受けたので
外伝の作成です。

――――――――――――――――――――――――

目標選定…終了。敵対象・メイジ一人青銅人形七体。
敵の殲滅を決定。予断無く油断無く決行。
使用武器を心象世界『Unlimited blade works』より検索。
殲滅するに十分な武装、多数該当。該当より抽出。
選択武装………偽・螺旋剣。
投影を開始 ―――――――― 完全投影・成功。

エミヤの手には黒塗りの弓と捻じり曲がった剣と思しきもの。
それを番えるその目は、まさしく狩人。
言いえて妙だがそれは真実だろう。
彼と目の前の標的との力の差は、正しくして獲物と狩る者なのだから。

そして、彼の口より言霊が紡がれる。
そう。それは文字通り、力ある言葉なのだから。

『――――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)』

瞬間、彼の左手の紋章が凄まじい光を放つ。
紅い光は左手から放たれると全身を覆い尽くす。
それは立ち昇るかの如くの濃密な魔力。

敵を見据える目。
彼の放つ射は、既にして当たる軌跡を描く。

これだけでは足りない。
この一段上に上る必要がある。

『同調開始(トレース・オン)』

全身の魔術回路の活性化。
戦闘状態への完全移行である。

最早、その身を覆う魔力は立ち昇るのではない。
吹き上がるその暴悪なまでの魔力に、周囲の空気すらも歪むほどだ。

これを前にして正気で居られる者は、同質の存在ぐらいだろうか。

そして、彼の口より破滅の言葉が紡がれた。

『――――― 偽・螺旋剣(カラドボルグ)』

そうして、稲妻が放たれた。
それは空を切り裂く。
捻じれ狂う稲妻は、見えぬ筈の空気を確かに切り裂いている。
切り裂かれた空気は、真空状態を生む。
欠けたものを埋めるべく空気が密集する。
轟音。絶えぬ轟音が世界に響く。

空間は捻じり裂かれる。
捻じられた稲妻は術者を守るゴーレムを無き者が如くに進む。
事実、それは意味を成さない。
その先端が触れた瞬間にゴーレムは飛散する。
剣に裂かれ、剣の切り裂く空気に裂かれて。

「――――――― っ!ダメッ!!やめて! エミヤッ!!」

身を伏せながらも、少女は叫んだ。
確かにギーシュはいけ好かない。
だが、だが。これ程の暴威によって死ぬ事は無い。
何よりこれで死ぬのは、人としての死ではない。
これを止める術など最早無いのだろうが。
それでも、ルイズは止めずには、いられなかった。

「ッ!チッ!! 投影、強制廃棄!」

それでも彼女の臣は、その言に従った。
だが、間に合うかどうかは微妙だ。
彼の意思により生み出されたものは、彼の意思でその存在を無に帰す。

朽ちていく幻想。
それでも、その残滓は世界を侵食する。

ありえない。
エミヤはそう思った。
私の生み出した投影は、所詮は贋物にすぎない。
破棄した瞬間に世界に押しつぶされ何事も無く消えるはずだ。
それが何故?
理解の範疇外だ。

崩れ落ちながらも、捻じれた稲妻は飛来していく。
誰も惨劇を予感していた。

……僅かの差だった。
ギーシュに当たると思われたそれは。
最後の一体のゴーレムを塵としたところで
何事も無かったように消えうせた。

いや。何事も無かったなどとは言えまい。
事実、ギーシュはその余波の煽りをもの見事に食らっていた。
ぼろきれの様に揉みくちゃにされたその身体。
無事な箇所を見つけるほうが困難なほどだ。
これは単に真空状態から生み出された
ソニックブームの直撃を受けただけの事。
その剣の切り裂いた空気流は彼に転倒を許さなかった。
それは、もし、剣が消える事が無ければ確実に彼を射抜いた証明。

誰もが声を出せなかった。
先ほどまでの中庭の風景は一変していた。
正しくしてその場は嵐の過ぎた後だった。
木々は根こそぎ倒れ、空気が切り裂かれた余波は大地も抉っていた。

「…壊れた幻想無しでこれか?…」

エミヤの顔は蒼白だった。
自分でもその光景を疑うような面持ちで、呟いたのだった。
そう。かつて在りし日の言葉で。

「……なんでさ?」

誰もその疑問に答える者はなかったと言う。

――――――――――――――――――――――――

以上。
私の描写ではこの程度ですかね。

ちなみに相対距離はどうなっていたのかは突っ込まないでください。
そんな事は無視して書いたものですから。

いや、壊れた幻想までやると
ルイズも一緒に逝く事になるんで
さすがにそこまでの描写が出来ませんでした。
よって、壊れた幻想編はまた別の機会に。

―――――――― だから突っ込まないで(汗)



[2213] アナザーストーリー・そうして魔剣は主と出会う。
Name: 愁雨
Date: 2005/07/17 22:52
今回の外伝は本編前のちょっとしたお話。
流れの中ではさして重要ではありませんが
開放のときを待つ一振りの剣のお話。
…独自の設定が炸裂してますのでお気をつけて。

――――――――――――――――――――――――

ここに一振りの剣がある。
剣の銘は『消し去るもの』
古き言葉でその名は刻まれている。

デルフリンガー。
この時代ではそう呼ばれる伝説の使い手が剣。
彼は古い時代から存在している。
即ち、伝承の闘いより時を渡るものでもある。

インテリジェンスソード。
意思と知性を持つ剣。
だが、それ故に彼らは自ら所有者を選ぶ。
持つに値せぬ者は、この剣を手にする事は適わない。

デルフリンガーもそうして主を選んできた。
彼を最初に手にした存在。
それこそは伝説の存在だった。
いや、今でこそ伝説と言えるのだろう。

デルフリンガーにしてみれば伝説などではなく必然の事実。

震えた。これほどまでに自らを使える者がいた事実に。
叫んだ。共に戦場を駆ける喜びに。

彼は真実伝説の使い手だった。
ガンダールヴ。
始祖ブリミルが使役せし最強の使い魔。
武器を使役する知性ある者に、その刻印は刻まれる。

幾度もの戦場を駆けた。
彼の手の中にあり振るわれる時が
自らの存在意義を確かめる時だった。

使い手は感情の起伏の激しい人物だった。
笑い、泣き、怒った。
その感情は心地よかった。
意思を汲み上げ力とする魔力がデルフリンガーにはあった。
主の心の震えのままに力を振るった。

そうした時間はそう長くは続かなかった。
有機質と無機質。
意思持つ魔剣であるデルフリンガーには寿命という死はない。
だが、主は違った。
幾たびの戦野を駆けた主は一先ずの平和の訪れとともに
その身を永遠に休めた。

嘆いた。これ程の使い手には二度と会えまいと。
悲しんだ。人と違う我が身を。
朽ちぬ体である事を始めて惜しんだ。

そして彼は自らの身体を作り変えた。
あれ程の使い手には二度と会えまい。
詰まらぬ凡百の者に扱われる位なら自らを自らで貶めようと。

彼は時をわたる。
幾たびの国々の興亡。
それほどの揺らぎがあっても彼の望む主は現れなかった。

そうして、六千年もの長きを経た。
彼は転々と人の手を渡った。
誰もが扱うに値せぬ者ばかり。
彼の不幸は最初に上等すぎる使い手に出会った事。
どうしても最初の持ち主『ガンダールヴ』がよぎるのだ。

今、彼がその身を置くのは、普通の武器屋にすぎない。
メイジたちは剣などは握らない。
彼はその身を心から腐らせようとしていた。
…あの赤い外套の騎士に出会うまでは。

『…ふむ。これは…店主。この剣は幾らだ?』

突如、自らを手にした男は唐突にそんな事を言った。
その手に握られた瞬間、彼の身に衝撃が走った。
忘れていた何かがその身を突き抜けた。

『…おもしれぇ。おめ、使い手か』

思わずそんな事を口に出していた。
赤い騎士は驚いた顔をした後、皮肉気に顔を歪めて答えた。

『…ほぉ、解析しきれんと思ったら、インテリジェンスソードか』

デルフリンガー。
魔剣・消し去るもの。
六千年という時を朽ちぬままに在った魔剣。

エミヤ。
英霊にして守護者にして虚無【ゼロ】の使い魔。
時という概念すらなく戦う錬鉄の英霊。

こうして、魔剣と英霊は出会う事になった。

――――――――――――――――――――――――

あとがき

本編前の軽いお話です。
原作と違う部分があるのは二次創作だからって事で。

デルフリンガーって六千年もの間を超えているんですよね。
型月魔術観で解釈すると有史以前から存在している事に。
つまり時間経過という神秘なら、そこらの宝具じゃ敵わない訳ですよ。
この辺は本編で詳しく説明します。

突っ込み上等です。
脳内設定でよければ幾らでもお答えします。
でわ。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2005/07/24 18:43


「…善は急げね。ちょうど、午後の講義はサボる形になっちゃったし。行くわよ? エミヤ」




エミヤの疑問に答えるにはそれが一番早いと思った。
彼自身の武器では彼の無意識が働いているのかもしれない。
武器を使いこなせるようになる効果なんて使い魔の紋章には無い。
そもそも、人間のような存在を使い魔とした場合の効果なんて、わたしは知らない。
だから、一つ一つその疑問は解消していくしかない。


――――――――――――――――――――――――――――――――

邂逅・魔剣




「了解だ。マスター」

私は、その命を受けて腰をあげる。
成る程、それは至極真っ当、理に叶ったものだ。
私の心象世界に由来しないものならば、無意識下の情報の検出といった事は無い。
最も目にした時点で、剣であるなら問答無用の剣の丘行きなのだが。
だから、この世界特有の特殊武器であるのが理想だが…

「ところで。移動方法は確保してあるのか?」

先行く形のルイズの背に問うた。
よもや、考えも無しに市街地に行く等と言った訳でもなかろう。
昨夜、寄宿舎の屋根より見渡した限りでは、この学園は生活圏からは離れたところにあるようだ。
民家などが見受けられなかった事がそれを印象付ける。

その問いにルイズの動きが凍る。
…マテ。よもやとは思うが…

「…もしかして、徒歩で行くつもりだったのか?いや、そもそも、歩いていける範囲には市街地など見られなかったのだが」
「…って、エミヤ? どうして、市街地が近くじゃないなんてわかるの?」

動きを取り戻したルイズが、私にそんな事を聞く。
私の【保有スキル】の千里眼は説明していなかったか。

「ああ、これは私の特技でな。かつてはこの目の良さを持って弓兵を務めた事もある。遠方の目的捕捉と動体視力には自信があってな。昨夜、寄宿舎の屋上から周囲一帯の地形は把握したつもりだが」
「…ふぇ…いったいどんな視力してるのよ」

いや、それに驚いてもらうのはかまわんがな。
君は肝心な事を答えてないのだが。

「…ルイズ。残念だが。話をそらそうとしても無駄だぞ」
「…虚無の曜日なら、馬の貸し出しがあるんだけど」
「虚無の曜日?…フム。要するに休日の類かね?」

成る程。此方の世界も曜日による区切りで休日を作っているのか。

「…で、今日は、その虚無の曜日ではないだろう?」
「うぐ…」

まさか、考えていなかったとでも言う気だろうか?

「い、良いのよ! 途中で乗り合いの馬車を拾えば!!」
「…それは運良く通りかかった場合だな。で、距離にして、徒歩でどれくらいだ?」
「二日間…」
「…やれやれ。君が行くと決めたなら従うがね」

…それだけの行程を思いつきで行こうと言ったのか? 彼女は。
武器を試すという着眼点は良かったが、その前の段階が御粗末だぞ。マスターよ。

●○●○●



学園の敷地外は広大な平原だ。
近隣に民家が無いのは魔法の修練の上で予測を超えた被害を未然に防ぐ為だろう。

「さて、ルイズ。市街地はどちらの方角かね?」

私はルイズに目的地の方角を確かめる。

「うん? 東に行くの。街道沿いにね」

彼女は指差す。東の方角には確かに街道が見受けられる。
成る程、生活の拠点とは違うものの、こういった街道の整備は欠かせまい。
フム。障害物も無し、視界は良好。
これならば、特に問題無しか。

「…では、逝くか」
「へ? ちょ…っちょっと?」

私はルイズを抱えあげる。抵抗等は無意味。
そう。何時ぞやと同じようにお姫様抱っこだ。
ルイズの顔が朱に染まる。
以前もした事があるのだから、そう気にしないでもらいたいのだが。

「む。どうしたかね?」
「…なんで当然のようにわたしを抱きかかえるのよ…?」
「馬も無く、徒歩で行くには時間が掛かる。馬車は拾えるかどうかは運しだい。ならば、採れる選択肢などそうは多くないと思うが」
「いや…だからね? それがどうして…」

フム。これまでしてわからんのか?
聡いようで鈍いな。マスター。

「…簡単な事だ。少なくとも馬よりは早い自信がある」

最早、問答は無用。
行くべき方角は街道沿い。
後はこの身を持って踏破するのみ。

「しっかり首にしがみついておく事。振り落とさんように注意はするが」
「ちょ…ちょっとぉおおおおおぉおおおおっ!!」

そして、私は赤い疾風となる。

●○●○●



「…あのね…エミヤ。あなたの身体能力も魔力を使った上での状態も認めるわ。素直に凄いって」

市街地。トリステインの城下町。
ここはブルドンネ街。
この町で最も活気が在り、その路地を道なりに歩けば其処は王宮が待ち受ける。

其処に二人の主従の姿があった。

「…でもね? これだけは言わせて…もう少し人に配慮した速度には出来ないの?」

少女は猛っていた。
自らの従者に対して。
赤い外套を着込んだ従者は非難など何処吹く風といった様相だ。

「む。何を言う。十分に配慮したから、短時間で目的地に到着したのでは?」
「…わたしが言いたいのは安全性の方…利便性じゃなくて」

少女の顔色は青い。
どのような交通手段の結果かは窺い知れない。
当の本人達にしか理解できないだろう。
いわんや、赤の従者が、この少女を抱え上げ草原を有り得ぬ速度で疾走して来たなど誰が想像し得よう。

そんな会話などは町行く人の耳にも止まらない。
雑踏は途切れることなく。老若男女の区別無く。
交わされる会話は日常の一端として。

「前回と違って気絶はさせないように配慮したんだがね」
「…あのね。徒歩で二日間、遠乗り用の馬で三時間の距離をね」

少女は溜める様に言葉を切って、有らん限りの声を上げた。

「どうして、一時間弱で到着できちゃうのよ!! はっちゃけ過ぎも良い所じゃないの!!」
「心外な。マスターの為を思ってやった事を攻めるのか? そんな距離を歩くよりは良いだろうに」
「ーーーーーーーッ!!…ああ、もういい…なんか疲れちゃった」

少女は嘆息する。
この従者には、真っ当に舌戦を挑んでも無意味だと悟ったかのように。

従者の目は、始めて来る土地であればこそ予断が無い。
何せ、町の門を潜る時に、主人より財布を預けられたのだ。
いわば、彼の手には、主人の現状の全財がある。

「…っと、ここね」

狭い路地を幾度か曲がるとそこに目的の場所はあった。
掲げられた看板は剣の意匠をしていた。
武器屋である。

●○●○●



ルイズに案内されるままに武器屋の門戸を潜る。
店内は昼間であるのに薄暗い。
…これはあまり期待できんかも知れんな。
武器というものは蔵に仕舞い置くのみでは朽ちてしまう。
適度な日の光を当てる事も重要なのだ。
そう。武具もまた生きているのだ。

ああ、それに乱雑すぎる。
もう少しウィンドウディスプレイを考えるべきだろうに。
これでは目的に叶ったものを探すのに時間が掛かるだけだ。

フム…武器の精度は…あまり良いのが無いな。
剣であるなら問答無用で取り込むが…価値あるものとなると…
武器の造りは、さほど私の世界と変わっていない。
これでは、この世界の武器を持つ事でも、紋章が発動するかを調べるにはあまり適当でないかも知れん。
明らかに、この世界特有の武器を期待していたのだが…
ままならんものだな。

「…これは、貴族のお嬢様。うちは真っ当な商いを手懸けておりますが…」
「客よ。私の従者に剣を見繕って頂戴」

…フム。陳列された武具に対して解析を試みてみるか。
何しろ、我が固有結界。視認したのであれば即座にその複製を作る。
何かしら、掘り出し物があれば、これで十分に解るだろう。

「…お嬢様?お連れさんは何をしてらっしゃるんで?まじまじと剣を眺めているようですが」
「…エミヤ? 何をしているの? 武器を試すんじゃないの?」

両手持ちのクレイモア。これは私の知るところの両手剣と大差無し。該当類似多数。登録。
次。重鎗。騎乗の際に効果を発揮するランス。騎乗は得意でないから射出用の剣弾にて使用。類似武装多数。登録。
次。レイピア。刺突に効果を発揮する剣。元来は戦闘用には不向き。骨子強化にて使用。類似武装多数。登録。

「っちょっと、エミヤ!! 人の話を聞きなさい!!」
「む? ルイズか。どうした」
「あのね。武器を試すって話はどうなったのよ」

ああ、その事か。だが…

「…正直、この店の武器では役に立たん。そもそも買う意味が無い」

私の言に店主の顔色が変わる。
…当然だろうな。だが、これは交渉術の一つ。
貶める事で秘めたる物を引き出す。

「言いますね。ダンナ。アンタがどれ程、武器を使えるか存じませんがうちの秘蔵品を見ても言えますかね?」
「ほぉ…構わんさ。私の眼に適う武器があるなら出してもらいたいところだが」

そう。既にしてここは戦場。
贋作者の誇りにかけて出されるもの全てを解析し贋作しきって見せよう。
我が心象世界に、類似すら在り得ぬ武装。
在ると言うのなら、示して魅せろ。

次々と店の奥から引っ張り出されてくる秘蔵と謳った品の数々。

…フム。意匠は煌びやかだが…それだけだな。
一応、シュペーとの銘が刻まれているところから察するに刀工の作品ではあるが…
人の扱う分には十分だが、私の魔力を通せばそれには耐えられないだろう。
却下。使用に耐えうる武器で無ければ意味が無い。
心象世界には登録するが、使用の際は構成材質の強化の必要があるな。

物足りない。比べる基準が宝具である事が問題ではあるとは思うが。

「…これが最後でさぁ。曰く付きなんで誰も買いやしねぇ流れモノの一品でさぁね」

そうして主が持ち出したのは一振りの古刀。
解析を試みる。
…エラー・警告発生。内包する概念神秘が想定を大幅に逸脱。
…リロード。エラー・構成材質不明。金属構成が理解の範疇を逸脱。
…再試行。エラー・基本骨子に解析不能な特殊カテゴリーを確認。
結論。心象世界に登録は不可能。投影不可。

…なんだと?これは…乖離剣に匹敵するのか?
剣であるなら確実に心象世界に登録するというのに…ありえん。
私が投影できないとするならば、これには相当の神秘があるはずだ。
乖離剣はあの強烈なまでの神聖。剣と言う範疇ですら括れない剣。
それに匹敵するほどの神秘…可能性としては…

「…ふむ。これは…確かに秘蔵品と称する価値はありそうだな」

これには価値がある。
解析による解析で中に取り込むもよし。
投影できないのであれば、旨味は無いのだが。

『…おもしれぇ。おめ、使い手か』

店主より手渡された古刀を鞘より抜き放った瞬間。
左手の紋章が光を放つ。

それと同時に古刀より言葉が放たれた。
発声器官無しに言葉を放ち、意味ある言葉を紡ぐ。

成る程、合点がいった。
これならば、確かに解析も投影も出来まい。

「…ほぉ、解析しきれんと思ったら、インテリジェンスソードか」

インテリジェンスソード。
私が投影できないものの一つ。理由は簡単だ。
この類の武装には知性と意思が存在している。
投影ではこの知性と意思を再現しきれない。
これを再現するという事は、一つの命を投影することに他ならないのだ。
投影の難度からすれば実に宝石剣に匹敵か、それ以上。
この一振りを投影するのに、全てを賭けて届くかの領域だ。

神秘ゆえに投影できないのではなく、命そのものを再現できない。
独自の意思を持ち、考え思考する知性。言葉を解し、話す知能。
無機質といえこれを内包するのは一つの生命体といって過言は無い。
即ち、これを投影することは第三魔法たる魂の運用に極限まで近づく事になる。

『…気に入った。おめ、俺を買っていけ』

…左手の紋章からは、やはり戦闘技能と戦闘方法が情報として転送されるな。
武器を握りとるだけでこの現象が起きるか。
この剣は解析すら弾き、投影など論外だった。
つまり、英霊エミヤにとって未知なる武装。
それを左手の紋章は理解している。

これで確実か。
この紋章は触れた武装を理解し使いこなす異能を内包している。
…使いこなすとはどの領域まで上るのか。
担い手レベルの到達であるのならば…我が心象世界の剣群との有用性は計り知れない。
そも私は、作る者であって使う者ではなかったのだ。
故に、私は持てる技術を磨きに磨いたのだから。

「…ふむ。悪くはない提案だな。…我が内に取り込めぬのならば、それも選択の一つか」

剣を手にする私に声がかけられる。

「…エミヤ? さっきから何をブツクサ言っているの?」
「ルイズ。この剣ならば、私の知らない武装だ。真の意味で未知なる武装。他の武器では、意味が無かったがこれならば、紋章を知るにちょうど良い。これを買う」
「へ? なんでそんな古臭い剣を? もっと綺麗な造りの剣があるじゃない」
「…意匠が綺麗な剣なら、私に再現可能な剣の方が見事なのだが」

そう。星の聖剣や選王の黄金剣。
あのふた振り以上の美しい剣なぞ認めん。断じて認めん。
ましてや何の神秘も内包してない剣などは比べるべくも無い。

「それから、古臭いと言ったな? それは武器とっては重要な事だ。それだけで時間を内包した神秘となるのだからな」
「時間を内包した神秘?」
「そう。器物百年を過ぎて魂魄を宿すと言う。朽ちぬままに在った武器はそれだけで価値ある武器となる」
「…それってどういう意味? 古いものって壊れやすかったりするじゃない。それなのに価値があるの?」

ふむ。此方の世界では武器は、あまり重要視されていないのだろうな。
だが、事実は事実だ。世界が違おうとも、時間という概念は共通する。
その共通事項たる時間を積み重ねた武器であるならば、そこらの概念武装では敵うまい。

『…嬢ちゃん。言っておくがな。俺はこれでも六千年は存在してる。軽く見てもらっちゃ困るぜ』

…六千年? …事実だとするなら、それは洒落にもならないのだが。
それ程の長きを経たのならば、それは一級品の概念武装だ。
これに人々の幻想が集まれば、正しくして『貴い幻想』になるだろう。
いや、六千年もの時間ならば、既にして宝具と同格だ。

「…ふむ。となると銘無しの剣でもあるまい…刀身に刻まれているのは…」
『…消し去るもの。かつてはその名で呼ばれてたな』

店主は我が意を得たりという面持ちで此方を見やっている。

「…そいつは、デルフリンガーって剣でさぁ。ウソかホントか伝説の時代からの剣でしてね。魔剣と呼ばれるそうです」
『おめぇに目がねぇから、それをホントとも言えねぇんだろうがよ』
「…とまぁ、このようにインテリジェンスって言う割にゃ、口が悪くて買い手が付かなかったんですぁね」

成る程な。武器が喋る事というのは余り良い点は無いが、悪いとばかりも言えまい。
無駄にしゃべらせる意味は無いが、警告や情報などの提供に悪い意味は無い。
自らで把握しきれなかった僅かな情報の取りこぼしをフォローさせるのにはうってつけだ。

私はこの剣を振るってみたい衝動に駆られていた。
何より、この紋章は武器を握ると自動的に発動する。
身体の熱を放出したい気分に等しい。

「…すまんが、店主。試し斬りをしたいのだが?」

私のその言葉に店主の顔が職人の顔付きになる。
今までは、商人の顔。あわよくば高値で売りさばこうとする顔付きだった。

「ほぉ、アンタは良くわかっているねぇ。ここに武器を買いに来る奴は、そこを抜かす奴が大半だってぇのに」

店主は腰をあげ、顔だけで方向を指し示す。

「着いて来な。裏口から出りゃ、試剣場だ」

●○●○●



裏口から出た先は、こじんまりとした空間。
そこには、幾度も斬り付けられた等身大の全身鎧があった。

わたしはそこに在った丁度良い高さの岩に腰を下ろす。
少しごわごわして痛いけど。
というか、貴族の腰掛けるようなものじゃないのは確実。
文句の一言も言いたいのだが…

今、この空間を占める空気はそんな余分を許してはくれないだろう。
この場を支配しているのは純粋なものだ。
わたしは、これを表する事の出来る言葉を知らない。
味わった事が無いのだ。こんな身を切るような慄然とした空気を。

店主も同じなのだろう。
全身鎧と何気なく向き合ったエミヤから目を逸らす事が無い。
いや、逸らせない。

それほどまでに空気は張り詰めている。
後、僅かなきっかけでこの場は動きを見せるはずだ。

●○●○●


そして、風が吹いた。


それは正しくして風だった。
紅い疾風だ。僅かに離れたところにある標的に向かって風が奔った。
下段から、振り抜く形の逆袈裟。逆風の太刀とでも言うべきか。
金属音などはしない。振り抜かれたと言う事実のみだ。
その剣の辿った軌跡には間違いなく金属質の鎧があったのに。

片手で降りぬいた剣。その剣閃を翻し上段にて両の手を添える。
両手持ちの形となった魔剣は、鈍い輝きのままに振り下ろされた。
瞬閃。轟閃。風を切る音は正しくして風を切った音。
降りぬいた体勢を瞬時に立て直し、剣を鞘に収める。
そして、斬られたと言う事実を思い出したかのように鎧が刃を辿った軌跡のままに解体された。

それは僅かに一瞬きの間の出来事。
だが、これを見ているものは、確かにこの光景を見たのだ。

●○●○●



私は紋章の促すままに身体を奔らせたにすぎない。
だが、違和感の立ち昇る事も無く私の身体は、その動きを澱み無く遂行した。

今回は魔術回路も魔力放出も使用してはいない。
意図的にそれをセーブした。
紋章に連動する魔術回路は意思で抑え込む。
つまり、純粋に紋章の力のみを使用する形を採った。

紋章は最適な形で最高の威力を武装に発揮させた。
私とて加算される事の無い素の能力でも、斬鉄は出来る。
だが、これほどまでに見事な斬鉄が出来るかと言われれば、否。

そうして、私は店の主人に向き直る。
この剣、現状、投影出来ないならば、購入すべきだ。
六千年もの長きを経たのならば、そうするだけの価値はある。

「…主人。この剣。如何ほどの値段だ?」

呆けた顔を改めると、彼は予想もしない言葉を放った。

「…いらねぇ。御代は結構でさ」
「む…何故だ? 言い値を払えるとは限らんが…商売をしている身の上だろう?」

店主は、その面持ちを真面目なものに変えると言葉を続ける。

「…親父から店を継いで四十と数年。おれぁ、アンタほどに使える達人を見たことぁねぇ。武器って奴は使える人間が使って始めて価値と意味がある。貴族のお飾りでぶら下げておくようなもんじゃねぇんだ」
「…良いのか?これは秘蔵品なのだろう?」
「なおの事さ。鳴り物入りで引き取ったのは良いが、使いこなせる奴には恵まれなかった剣だ。…そいつを気に入ったんなら、持っていってくんな」
「…すまない。言葉に甘えさせてもらう」

っと、視線を感じるな。
この咎める様な視線は…ルイズか。

「…何か、問題でもあるかね? マスター」
「なんで、ご主人様抜きで商談まとめちゃうのよ」
「いや、君が使うわけでもなし、金を支払う訳じゃないから、かまわんだろう」
「…なんか、凄く納得いかない」

だから、その恨みがましい目はやめてくれ。
金銭を浪費せずに済んだのだから良い事だろうに。

●○●○●



そうして、私達は武器屋を離れる事にした。
去り際に店主は気になる事を言っていた。
最近は、この近辺の治安は悪いらしい。
その理由は、ある一人の盗賊が近隣を荒らしまわっているとの事。
ただの盗賊ではなく、その手法には魔法が使用され、通常の警備隊では意も無く蹴散らされるらしい。
貴族達は、その隠匿している財宝をもの見事に暴かれ盗まれていく。
『土くれ』のフーケ。名をそう名乗るらしい。
実際に遭遇する可能性は無いだろうが…何処にでも居る者なのだな。その手の輩は。

私達は再び大通りに足を運ぶ。

「…さて、帰りましょ? で、疑問は解決できた?」
「ああ。とりあえずはな。この紋章は武装を理解し使いこなす異能がある。それは確実だ」
「…そう。…でも良かった。これで解らないってなったら王室アカデミーに直行するつもりだったし」

む?王室アカデミー?
…魔法研究の専門機関だろうか?

「ちなみに。直行した場合は?」
「ん? 解剖されて隅々から調べられるわ。これ以上無い位に確実に問題を解決するためにね」
「…それは、ぜひとも遠慮したいな」

道なりに歩く中、衣料品店が見受けられた。
ふむ…丁度良い。
例の一件の為の布石を打つか。

「ルイズ。すまないが、ここで少し小用があるのだが」
「何よ?服屋に何の用があるのよ?」

ふむ。ならば、その問いにはこう応じよう。

「何。明日の為の準備、その一だ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

毎度毎度、物議を醸し出しております。
内容には手を抜かずに全力投球していきます。

ネタにも手を抜かないのが方針です。
今回は、魔剣との邂逅。エミヤ編。
武器屋の主人は、職人気質な良い人に。
後は、紋章に対する疑問を解決させました。
さすがにぶっつけ本番で紋章の訳の解らない力【注・エミヤにとって】を使わせるのもあれだったので。

後は、服を買わせて帰らせるだけです。
つーか、最新刊で王都トリスタニアまで徒歩二日の距離って書いてあったからそれに合わせて内容修正。

では、いろいろとお騒がせしてますが、それでもお読みくださる方は続きをお待ちください。
次回の更新も本編の方で。

でわ。



[2213] アナザーストーリー・そして世界は歪む。
Name: 愁雨
Date: 2005/07/19 00:07
これは英霊侵食編のプレビュー版。本編とは似て非なる物語の一部。
煮詰めなおす前の租組段階。
何故、異界に彼らが侵食したのか。
その発端のお話。ただし正式採用は未定。
突っ込みどころは満載ですが…取り敢えずの番外編。

――――――――――――――――――――――――

「…成る程。クロムウェル司教。私の身の上は理解できた」

面白い話だ。ここは明らかに平行世界。
まさか自分が第二の極限たる次元移動を経験しようとは。
そもそも、この世界には既にしてその壁を越えたものが何人も来ている。
笑える話だ。それを目指し辛酸をなめる魔術師達の苦労をこの世界は容易く嘲笑ったのだ。

「…ほぅ、それはそれは。では、神の御使いとして共に?」
「いや、何。祝福は何処にあっても等しくあるべきだろう? それが自分の見知らぬ世界であっても」

そうして、黒いカッソクに身を包んだ男は低く笑った。

その笑みは暗く、そして深い。

男がここに存在している理由。それは定かではない。
彼が覚えているのは焼け落ちる城で槍兵に胸を貫かれ死に掛けていた胡乱気な意識の中、胸に埋め込んだ欠片が激しく胎動した事。
彼は知っている。この欠片は根源への扉の一部分であった事を。
黒く汚染された無色の力の欠片。
十年前に彼を死の淵より救い上げたそれは、再び彼を救い上げた。
これを福音と言わずして何と言おう。

男の名は言峰綺礼。
神に仕える使徒。悪を悪と知り、それを求める正しきユダである。

「…で、コトミネ。君はあの赤い騎士を知っていると?」
「無論。あれは、私の世界の亡霊」
「…で、あの理不尽に対抗する手段は? 主は虚無の使い手。その使い魔は私たちの想定を超える武器の使い手だ」

言峰は意を得たように笑みを浮かべ、その問いに神託を告げた。

「簡単な事。同じ存在を呼び寄せるまでの事。起きてしまった事ならば、それは奇跡でもない。事実に成り下がったのならば再現は可能」

そう。これ程にマナの濃い世界。
聖杯戦争の図式を引かずとも魔力は存分に集められる。
幸いにして自らの心臓は、その聖杯の欠片に他ならない。
祝福を、この見知らぬ地にて与えるのも一興。
人は何処でも生きているのだから。

「私はその準備に入ろう。何者も地下室には近づけぬように」

背を向け歩き去る言峰。
その表情には愉悦が浮かんでいた。

●○●○●



「…ここは?…っ!テメェは…コトミネ!!」
「ほぉ、私を私として認識できたのか? ランサー」

彼が最初に呼び寄せたのは槍兵だった。
簡単な事だ。彼はいつでも闘いを求めている。
聖杯なぞ関係無く戦う事が望みだったのだから。

「…そう殺気を撒き散らすな。もう一度、貫かれるのは流石に遠慮したいのでな」
「…テメェ、どうやって俺を引っ張り出した? いや、そもそもなんで生きてやがる?!」
「何。神の奇跡の恩寵だろうよ」

彼は虚言は言わない。だが真実は語らない。
アンリマユは拝火教の魔王。
それは神と言っても相違あるまい。
何しろ彼の心臓は、その欠片なのだし。

「…食えねぇ野郎だな」
「フム。ほめ言葉として受けておこう」
「…聖杯戦争でもないのに俺を呼び出せるとはな…何が目的だ?」

その目は次に虚言を言わば、心の像を抉り出す。
それを暗に語っていた。

「…お前に命を賭けた闘いを提供してやると言ったら?」
「…正気か?サーヴァントもいねぇのに?」

言峰は槍兵の目的に沿うべく一人の存在を提示した。

「何。一人心当たりがあってな。お前も良く知っているだろう? 記憶でなくとも記録で。…赤い弓兵を」

●○●○●



エミヤは先の艦隊戦の被害の修復作業を担っていた。
ルイズの虚無は正しくして発現した。
その虚無の光は、人を焼くことなく飛空挺を沈めたのだ。

あとは言うべくも無い。
それでも戦いを捨てなかった者達を、エミヤは速やかに排除した。
追い詰められた人間は獣となり、暴徒となる。
ルイズが護ると決めた人々を護る。
それがこの世界でエミヤが救うべき9だった。

「とはいえ…あまり慣れたい感覚でもない…か」

彼は、空を仰いだ。

そして、その目に映るはず無い人物を。
それに気がついてしまった事に。
いや、気がついた事ではなく、それがそこに居るという事実に。
彼は愕然とした。

そこにあった壊れた飛空船の残骸の上に。
見紛う事の無い…あの槍兵が立っていたのだから。

槍兵はその豹の様な目に獰猛な喜色を浮かべ立っていた。

「はっ…まさか、ほんとにテメェが居るとはな」
「…ランサー…ッ?! バカな。お前が…何故!!」
「さて…な。んな事はどうでもいいだろう? さぁ、はじめようぜ。あの時の続きを」

そして、槍兵はその手に赤い死の槍を具象化させた。

●○●○●



なかなか戻らないエミヤを心配し様子を見に来たルイズが見たのはありえない光景だった。
少なくとも、今までは。

赤と青の暴風。立ち上る魔力は既に周囲を揺るがすほどだ。
その中心に立つのはエミヤと見慣れない青い軽装鎧の騎士。

だが、彼らが行っているのは戦闘。
青の騎士が繰り出す槍をデルフリンガーで弾き反らす。
反らした直後に切り返す。槍がそれを弾く。
一進一退の攻防。刃と槍が競り合う形となる。

「…テメェ、いつの間に戦い方を変えた?あの黒白の宝具はどうした」
「さて…な。別に二刀のみが術ではないしな」
「はっ! セイバーの真似事かよ! アーチャー!!」

競り合っていた得物同士を弾けさせ再び間合いを取る。
それは刹那の出来事。

『…相棒、こいつやべぇぞ…今までとは別格だ』
「…解っているから、少し黙っていろ。余分な事が出来る相手じゃない。紋章があって初めて同格な相手だ」

エミヤは過小評価も過大評価もしない。ただ冷静に判断した。
即ち。ガンダールヴの紋章の力が無ければ、こうまでは渡り合えない事を。
デルフリンガーで渡り合えたのがその証拠だ。
かつては投影に次ぐ投影で渡り合うしかなかった。

「ほぉ…暢気に独り言かよ…舐められたもんだな」

獣相とでも言うべきだろうか。その顔に獣の如き怒りが滲む。
殺気が辺りを支配する。

その殺意の空間に当てられたように少女がその場に迷い出た。
ルイズだ。
何故、彼女が居る?エミヤの表情が凍る。

「…何よ。貴方、わたしの使い魔に…何してるのよ…」

ルイズは顔を蒼白にしながらも青の騎士に相対した。
あろう事か二人の騎士が相対するその中央で。

「ルイズ!!」

エミヤはとっさに彼女を背に庇いやる。
迂闊だった。彼女が来るかもしれない事を予測もしていなかった。
この間合いはあの槍兵にとって必死の間合いだ。
真の名を持って槍を繰り出されればそれで終結してしまう。
だが、彼女を護れなくてはこの身の価値が無くなる。
そう。この場においての絶対の敗北は自身の死ではなく。
他ならぬ彼女の死だ。

「はっ…その嬢ちゃんがお前の寄り代かよ…お前はよくよく女に恵まれるな」

槍兵はそれを見て取った途端に、その殺気を霧散化させた。

「…興が削がれた。今日はその嬢ちゃんの勇気に免じてやる」

槍を何処かに仕舞いやると彼は再び瓦礫の上に跳びわたる。

「…ああ、一つだけ教えておいてやる。俺だけだと思わんほうが身のためだ…アイツは他にも呼ぼうとしていたからな」

肩越しにエミヤを見やる槍兵。
そしてその目に再び獣を宿して一言。

「ま、いずれにせよ…次はその心臓を貰い受ける」

●○●○●



そして、その場に残ったのは主従の二人。
ルイズの顔はいまだに蒼白。
あの殺気に当てられて、言葉を発する事が出来ただけでも賞賛に値するのだ。
彼女は震える声に自らの従僕に問うた。

「…エミヤ…何、あれは」
「…私と同じ英霊。何故、彼がこの世界に居るのかはわからないが」

エミヤはそうして槍兵の去っていた方角を見やった。

奴は言った。他にも呼び出そうとしていると。
即ち…英霊の召喚を成した者が居る。

「…ルイズ。これからの闘いは予想を超えたものになる」
「…エミヤ?」
「だから選べ。君が。退くのか、戦うのかを」

――――――――――――――――――――――――

あとがき

先に言っておきます。
これはあくまでプレビュー版。
まともに組み込むならもっと伸びます。

まぁ、突っ込みどころは山ほどなんですがね。
あ、あくまで外伝ですから。
本編とは関係ナッシング。
こういった導入の仕方を考えていると。
そういう見本でした。

まぁ、パターンとしては人類を滅ぼしたバットエンドサクラが
根源の渦からセンパイ探して世界に破滅をもたらし歩く。
抑止は後手に回る。彼女は呪いを残すだけ。
人は徐々に滅びを辿る。
そして彼女はエミヤと出会う。
彼の主の少女には守りたい人々が居た。
それはかなしいかなしいえいゆうのお話の再現。

見たいなのもあるんですがね。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2005/08/07 20:12

「…成る程。これは普通の手段では無理か」



場所は変わる。
ここに居るの一人の女だ。
学院の宝物庫の前に、何気なく立つその女の目は鋭く厳しい。
女の名は『土くれのフーケ』
稀代の大盗賊であり、怪盗でもあり。…強盗でもある。
女の目的は一つ。
この封印された宝物庫に眠ると言う【破壊の杖】の強奪である。


――――――――――――――――――――――――――――――――


雪風と赤い騎士




「となると、どうしたものかねぇ…『開錠』も効果無し、『変質』による突破も出来ないか」

女はその顔を歪める。
上等だ。このあたしの手に掛かって盗めなかったものは無い。
普通の手法が効かぬのであれば、搦め手だ。

土のスクウェアメイジ。
表向きはトライアングルとしたが、本来は四大元素同時行使者だ。
その力は伊達ではない。

貴族がメイジであるのは当然とされる。だが、メイジが貴族である必要などはない。
彼女は前者であり、後者でもある。
故に、彼女には貴族の余分が無い。無用な誇りなどに煩わされず使える手段を模索し現状を打破する。
それが、彼女を大盗賊と呼ばしめたものだった。

「…ふむ、この辺は、博識なあの男を誑し込んで聞き出すとしようかね…」

彼女はその面持ちに邪笑を浮かべると何事かを呟いた。
そして、その一瞬後にはその人影は土となり崩れて消えていた。

○●○●○



エミヤは明日の為の準備だと言って服飾屋に買い物に行き。
出て来た彼の手提げ袋には、服が買い込まれていた。

「…エミヤ、何それは」
「見てわからんのか? これは服というものだが」
「…そう言う意味じゃなくて」
「何。下手に受肉に近い身体なのでな。普段の装備で日常を過ごす訳にもいくまいよ」

そんな事を言って彼は、その顔を皮肉気に歪めた。
受肉? 前もそんな事を言っていたけど…それはどんな意味なのかしら?

「ねぇ? 受肉ってどういう事?」
「…む? 前も言っただろう? 英霊は本来、実体無き魂のみの存在だと」
「…? つまり、本当は体が無いってことなのかしら?」
「そう。故に本来は霊体化といって通常可視不可能な魔力のみの状態になれる。だが、此方の世界に引っ張られた時どんな理由かは伺い知れんが器が与えられてな」

エミヤはそんな事を言うと一度、嘆息をした。
そして次を続ける。

「これが実に厄介な事でな。武装は魔力で編めるが、それ以外の服装は別に用意する必要がでてくる。まぁ、創り出せない訳ではないが、戦闘に関わらん物を創るのは非常に疲れる。従って、こういった店で買う方が楽と言う訳だ」
「…良くわからないけど、大変なのね。エミヤも」

わたし達はそんな会話をしながら歩く。
エミヤは訊いた事にはしっかりと答えてくれる。
無駄な事を話す事は無いけど、話し相手にはなってくれる。
聞き上手とでも言うのだろうか。

「…さて、ルイズ。帰りはどうするかね? 馬車でも借りてゆくか?」
「…それも良く考えたら、借りた場合って返しに来なければならないのよね…」
「それは当然だな。で、どうする?」

うう…順当に考えれば、馬を借りて行きたいが…
エミヤはニヤニヤと笑っている。
…多分、私が次に言うだろう言葉を予想しているからだ。

「…これはね。仕方が無いからよ。いい? それはわかっているわよね?」
「ふむ。確かに仕方なかろうな。流石に歩くわけにもいくまい?」
「乗合馬車も学院までは直通便はないし。…正直、あれをまた味わうかと思うと、ぞっとしないけど…エミヤに任せるわ」

エミヤは皮肉気に笑って答える。
それを待っていたと言わんばかりに。

「では。任される事にしよう」

○●○●○



私はルイズを背中に背負った。
行きには両手が空いていたが、今は手に荷物がある為に抱きかかえる事が出来ない。
正直、言えば俗称お姫様抱っこの方がバランスが取りやすい。
背負う形のほうは後ろを気にする必要がでてくるからだ。
しかも、今回は手で支えてやる事も出来ない。

「行きと違って荷物があるから、速度は少しばかり遅くなるが…」
「…それの方が安全。かまわないから、早くしなさいよ…恥ずかしいんだから」
「了解だ。マスター」

私は苦笑を浮かべる。

足並みは緩やかに。されど淀みなく。
疾走ではなく、軽走で。
風を切るのではなく、風を流すように。

「…ふぅん…普通の速度でも十分速いじゃない」
「まぁ、意識して速度は落としているがね。君を背負った状態は不測の事態に対応し辛い」

私は走りながら、ルイズと会話する。
というか、話しかけられたら、それに答える程度ではあるが。

○●○●○



雪風のタバサ。
彼女はその名で呼ばれる。
この学園に在籍するメイジの中で唯一姓を名乗る事の無い少女。

誰も彼女の姓は知らない。
例外は彼女とそれを知りその上で彼女を迎え入れた学院長の二人のみだ。
だが、学院長は無償でこれを受け入れた訳ではない。
史上最年少での騎士勲章たる『シュヴァリエ』を持つ少女。
シュヴァリエは他の勲章と違い、その功績のみで受勲されるものだ。

彼女は本来ならば学院に在籍する必要はない。
それだけの実力は既にあるのだ。

特定技能特化タイプ。
彼女は戦闘に特化したメイジである。

彼女はその特性ゆえに他のメイジ達と馴染む事は少ない。
物静かな性格と無口な性質も手伝っているのだが。
彼女に進んで話しかけるのはキュルケだろうか。
話しかければ答えはするが一言、二言で会話が終わってしまう。

その彼女は今、学園の上空にいた。
学院長からの依頼。
曰く。ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールとその使い魔の確保である。
ルイズが午後の授業に来ていない事を聞き入れた学院長が厳命を下したのだ。

タバサはその命を非常に疑問に思った。
その命を下された者は全て戦闘特化のメイジであったのだ。
何故、【ゼロ】のルイズとその使い魔を確保するのにそれほどの人材が必要なのか。

彼女は先の一件を見てはいなかった。
くだらない事だと思い、昼食が終わると自室で何時もの様に食後の読書を楽しんでいたのだ。

彼女には悪癖がある。
読書時には【静音・サイレント】の魔法を使い、完全に自己の世界に没頭してしまうのだ。
よって、あの時に感じられたであろう魔力等を感知すらしなかったのだ。

「…何か、いた?」

風竜の幼生、名をシルフィード。タバサの使い魔である。
竜種を使い魔に出来る事からも彼女の実力は推し量れる。
メイジを力量を知るには使い魔をもって知るべし。

竜種は、幼年期こそ御する事も可能だが、青年期、老年期と時間を重ねる事で強大な力を得る。
幼年期のうちに使い魔とすれば、メイジの成長と共に竜種も成長する。

飛竜や風竜といった翼有竜を乗騎とする騎団において、使用されているのはこの幼年期の竜種に過ぎない。
青年期の竜種を捕獲するのはメイジの一師団が必要になるのだ。
老年期の竜種を捕獲しようなどとはまさに天に唾棄する行為に他ならない。

幼年期こそは知能も動物的であるが非常に高く、青年期となれば契約無しに人語を解する。
老年期ともなれば、会話すら可能なのだ。
竜種はそれほどまでに優れた幻獣種である。

シルフィードの目は得物を狩るかのように地に向けられている。
そして、その目は赤い一つの姿を見た。その速さは加速状態の馬を超えるものだ。
タバサに与えられていた情報は、ルイズの使い魔は赤い外套を身に纏った存在との事。
思考連結された情報から、それを感じ取る。恐らくアレが目的に違いない。
主もそれを感じ取ったのか。小さく肯く。
シルフィードはその影に向けて急降下した。

●○●○●



瞬間、エミヤが急停止した。

「ちょっと!! 急に止まんないでよ!!」

当然、私は抗議をするのだが…

「…エミヤ?」

彼の目は上空を見やったまま、わたしの声にも反応しない。
私の問いかけにも答えず、エミヤはをその背からわたしを降ろす。

「ど、どうしたのよ。急に」
「…訊くが。君の知り合いに竜種の使役者はいるか?」
「へ? い、いるにはいるけど…」
「それに狙われる覚えは?」
「はぁ?」

何を言っているのだろうか?
何故、私が狙われなければならないのだろうか。意味がわからない。

「…ふむ。心当たり無しか。さりとて座する訳にもいかないか」
「ねぇ。どうしたのよ。訳わかんないんだけど」
「簡単な事だ。言ったとおり、今、上空から竜種が急降下して此方に突撃してくる」

エミヤは荷物を地面に降ろすと淀み無い仕種で上空を見やった。
空気が変わる。張り詰めたような空気。
これを味わうのは二度目だ。
背中しか見えないけど、彼は、きっとあの目をしている。
出会った時の鷹のような目を。

●○●○●



状況不明。視覚情報のみによる事態の把握。
竜種と思しき飛行物体の確認。
速度は加速度的に上昇。
急降下による突撃と推測。

…しかし、何が起きている?
竜種が通常に存在しているのは、あれ程の使い魔を見た後だから納得はできるが…
竜種に狙われる理由までは見当がつかん。
ともあれ、迎撃の必要はある…か。

心象世界に対し接続開始。
上空より飛来する対象への迎撃武装を検索。
…状況が不明である点を加味。殺意及び敵意の不検出。
対象がメッセンジャーである可能性も否定は出来ない。
初弾は牽制の一撃。反撃があれば以降は戦闘対象として認証。

まずは試しだ。
この一連の攻撃…どう捌く?

●○●○●



タバサは目を見張った。
シルフィードが加速してその場に急降下する最中。
あろう事か、その影は立ち止まり、振り返って此方を見やっているのだ。

ありえない。
此方は上空から、その後姿を確認したのだ。
つまり背後から見たに過ぎず、尚、その距離は相手が豆粒ほどにしか見えない上空。
竜種の優れた索敵視覚で始めて相手を確認できる位置関係の筈。

それが此方を見やっているのだ。
立ち止まってこちらを見ているのならば、それは明らかに気が付いている証拠。

この距離で有効なものなど、大規模攻撃魔法か、集束型突破魔法ぐらいだ。
ルイズは、その系統の魔法は習得していない筈だ。

そも、此方を見やったのは使い魔と思しき存在。
人型の使い魔が、それほど強力とは思えない。
そもそも、それが使い魔として有益なのかも不明なのに。
人を使い魔としたなんて聞いたこともない。

それがタバサの油断だった。

身体に悪寒が奔った。
それは正しい感覚だ。
彼女はシュヴァリエの勲章を手にする経緯で、この齢十五にして命の遣り取りを経験している。
それはつまり、この状況下において、命の危険を感じる何かが起きたという事だ。

風切り音。
僅かに聞こえるその音で、タバサは此方に何かが飛来している事を察した。
彼女は風の属性の使い手。
それがここに来てその特異性を発揮している。
意識を風に乗せる。
風を知覚感覚に同化させる。広域探査魔法・【センス・ウィンド】

…武器? 剣が此方に高速で飛来している?
この距離を?

「シルフィード!! 急旋回!! 左っ!」

事のあり得る、あり得ないの前に反応した。
起きているのならば受け入れなくてはならない。
この距離を速度も落とさずに飛来してくるのならば、その威力は推して知れよう。

自らの使い魔は、忠実に命に従う。
身体に横殴りの重力が掛かる。
風の魔法で身体を固定させていなければ、軽く振り落とされていた事だろう。

だが、相手はそれを予測していたのか。
弧を描く形で左右双方から飛来する物体が確認できる。
短剣だ。黒の短剣が左、白の短剣が右。
速度は先ほどよりも遅いが、全く同速で飛来する。
つまり、このタイミングの回避運動を見切っていた事。

急降下中の急激な旋回運動。
それの描く軌道を見切られていた。

「…っ!」

この状況で打てる手などは少ない。
彼女はそのうちの一つを選んだ。

「風よ! 我が手に宿れ。全てを払う風の鎚となれ!! 【エア・ハンマー】!」

単純な事。
飛来する攻撃を相殺するまで。
幸いにして空と言う空間は風の属性が最大限に力を発揮する。
自分のトライアングルの頂点もまた風だ。

合成式は【風と風と土】トライアングル・スペル。
この魔法は風の基本の魔法に過ぎない。
だが、魔法と言うものは、使用者の能力でその力をいくらでも跳ね上げる。

ロッドに風が収束していく感覚。感じるのは確かな重み。
風には本来質量を感じさせるものは存在しない。
俗に空気と呼ばれるものは物質としての固体を持つ訳ではない。
ドット・スペルでのエア・ハンマーは突風で吹き飛ばす。
ライン・スペルによるエア・ハンマー。この時点から正しくして風の鎚を形成させる事が出来る。
風に土の属性を組み込む事でありえざる質感を生み出す。
質量を伴った風は威力を倍化させるのだ。

見えない槌を。僅かなる一瞬で生成し。
飛来する双剣に対して、全力で叩きつける。
横から飛来するのであれば、その運動方向に相対する。
これは攻撃相殺の基本だ。
だが、ここで採るべき選択肢は他にもある。
幸いにして、ここは空中だ。
遮蔽物も無い。ならば!

叩き落す。上方向からの質量を伴う空気の鎚。
真横から相殺するよりよほど可能性は高かろう。

見極める。双方から飛来するのであれば同時に叩き落さねば意味が無い。
感覚を更に深く空気に同調させる。

瞬間、空間が揺れた。
空気の鎚が飛剣とぶつかり合う音。
轟音。
飛来する双剣は、その顎を閉じる前に少女の振り下ろした空気の鎚に叩き落された。

●○●○●



ふむ…成る程。
黒鍵の高速投射に続けての干将莫耶の投擲に反応しきったか。
全力投擲ではないとは言え、干将莫耶を見事に叩き落したか。

正直、侮っていた。
この世界のメイジは、本当に千差万別のようだな。
どうやら、相手はギーシュなどとは比肩出来ない程の使い手であるらしい。

「…エ、エミヤ? 何やったの? 何かすごい音したけど…?」
「いや、何。私の攻撃をもの見事に防がれただけの事だ」

さて、どうしたものかな?
敵意を持つ【追跡者・チェイサー】であるのならば反撃が来ても可笑しくないが…
どうやら、違うらしい。それともこの距離を反撃できる術を持たない?
いや、否。
まかりなりにも、宝具たる干将莫耶を叩き落すほどの魔法の使い手。
それが遠距離戦を不得手するはずも無い。楽観は禁物だ。

む?動きが目に見えて鈍ったが…速度を落としたようだな。
緩やかに下降してくる。
ふむ。今なら不意を撃つ形の高速投射を行えば、簡単に仕留められる気がするが。
どうしたものかな。

●○●○●



どうやら、あの攻撃で、一連の攻撃は終わりらしい。
タバサはまず安堵の溜め息を吐いた。
あの攻撃が、連続可能なものだとするのならば防ぐ術等は無かった。
どうも、察するに急ぐあまりの急降下に過敏に反応されたようだ。

どうやら、ルイズの使い魔は優秀らしい。
遠距離に対する鋭敏な感覚。そして従来の武器の観念を逸脱した武器の投擲。
メイジの実力を知るには使い魔を持って推し量るべきとも言う。
ならば、それほどの使い魔を使役する彼女はいったい何者だろうか。
タバサの知るかぎりではルイズは『ゼロのルイズ』でしかない。
その彼女の使役する使い魔は、恐らくは自分のシルフィードを苦無く一蹴する存在。

学院長が血相を変えて、ルイズとその使い魔の確保を命じたのも、ここに理由があるかもしれない。
どうにも、理解が及ばないが。

シルフィードを緩やかに下降させていく。
先程の例もある。普段の三倍近い密度で空気の鎧を編む。
警戒範囲は先程の倍以上に設定しなおす。
不意を撃たれては、今度は防ぐ自信が無い。

だが、それは杞憂に終わった。
魔法による視覚強化が必要でない距離に到達する。
その眼に移るのは、赤い外套に身を包む長身の騎士とその後ろに庇われるように立つ見知った姿…ルイズだ。
赤い外套の騎士は此方から目を外さない。
此方が敵対するような行動を見せれば即座に反応できるのだろう。
それはこの場に漂う殺気が物語っている。
曰く、『下手な手出しは死を持って相応とする』

ますます持って怪しい。
ルイズは、何故これ程の存在を使役している?
近くによって魔力を察知すれば、異常なまでの高密度。
それでいてその形態は人間と同じ。
精霊種も人に近しい形態をする事はあるが、ここまで確たる姿となる事はない。

胸には山積する疑問。

ルイズの目が見開かれた。
ようやく此方に気がついたのだろう。
言いたい事も訊きたい事も山ほどあるのだが。
まずは、当面の目的を果たさねば。

シルフィードを緩やかに着地させるとその背から飛び降りる。
赤い外套の騎士はいまだに此方を警戒している。
でもそれは関係ない。こちらも用事があるのだ。

赤い外套の騎士の影にいるルイズに差し向かうように立つとその一言を告げた。

「…ルイズ…学校。学院長が探してる」
「へっ? タバサ?」

まぁ、何にせよ。
雪風のタバサと言う少女と赤い外套の騎士のエミヤの最初の邂逅はこんなものだとだけ記しておこう。
彼女が彼の正体を知った時に一悶着があったのだが、それはまた別の話。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


後書き

どうも、久方ぶりの更新です。
後半がグダついていますが見逃してやってください。

タバサ登場の声が大きかったので彼女に登場してもらいました。
彼女はトライアングルなので簡単には負けません。
風の使い手なので風を十分に利用する実戦型に。

独自の魔法感が炸裂してます。既に原形は留めてねぇ(核爆

それでもよかったら次回以降もお楽しみを。

スパロボクリアするまでは、更新は遅くなります。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2005/11/07 02:10

「…では、説明を願おう。ヴァリエール嬢」



ええ…私こと、ルイズ・フランソワーズは。
今現在、学園長室にいる。
わたしたちを迎えに来たタバサとは一悶着あったものの。
さしたる問題は無く。いや正直に言えばあったが。
タバサがエミヤの正体【英霊】って事の詳細を知って卒倒したりとか。
まぁ、そんなちょっとした事はあったが。

今、わたしの居るのは学院長室。
…タバサの言っていた学院長のお呼び出しはホントだったわけで。
こうして、わたしはその学院長の前に居る。

なせか、その目が真剣な眼差しで事の経緯の説明を促がす。
やっぱり…エミヤが中庭吹き飛ばしたのが問題だったのかしら?


――――――――――――――――――――――――――――――――


語られる伝承の一端




正直に言えば。
このような事態になるかも知れないと予測をしていたにも拘らず。
中庭の修復をする事を失念していた私の落ち度だろう。

先んじてやっておくべきだったか。

学院長と思しき者は,老体だった。
だが。見た目に惑わされてはならない。
この者の持つ気配は剣呑。
見た目が老いているからと言って軽んじる事だけはすまい。

「…では。説明を願おう。ヴァリエール嬢」

その眼光はルイズと私を推し量るように射抜く。
なるほど。頷ける話だ。
恐らくは、あの現状を監視、及び、何者かの報告があがったものと推測できる。
偽螺旋剣の魔力余波をここで察知でもしたか。
もしくは、遠隔視を可能とする何らかの手法を用いたのだろう。

その上で、当事者を召喚しての審問。
事態の把握には不可欠といったところだが。

…ふん、魔力の行使も隠さないか。
恐らくは探知系の魔法と見たが…
読みきれるとは思えんのだがな。
神秘法則の違う存在をどこまで理解しきれるか。
この老体のお手並み拝見と言った所か。

○●○●○



【ディテクト・マジック】 探知の魔法。
この魔法は広義の能力としては【魔力】の感知を主とする。
これを細かく分類する事で、生命や金属などの探査も行う事が出来る。
これは属性付与させる事で、その探知させる事象を確定させるものだ。
たとえば、水を付与させた場合は、その司る特性から生命探知。
土を付与させた場合は、金属。
などと、四大属性の付与によって探知させるものを変更する事が出来る。
さらに細分化させることで様々探知を可能とする基本魔法【コモン・マジック】の一つである。

何も付与させていない状態であるのなら大源や小源に反応する。
そう、魔力を持つあらゆる存在。その最大保有量等を探知するのだ。
当然、魔力を持たないものには反応をする事はない。
だが、裏を返すのならば。
魔力で構成された存在であるのなら、構成などをあらゆる情報を探知し得る。
基本魔法の中でも一般的かつ有益な魔法である。

○●○●○



目の前の老人の顔色が、見て取れるように青褪める。
当然だ。
私のような英霊という存在は、今現在、この世界において私以外には確認されていない。
それは何を意味するかといえば。
英霊という枠組みを理解し得る情報視野が存在しない事を示す。
つまり、何らかの探知系の能力を使った所で、私の正体を探り当てるには至らない。
魔力で身体を構成した高次存在。これ以上の情報は理解の範疇を越えるはずだろう。
能力が高いメイジなら、さらに深く踏み入る事も可能だろうが…

「…其処までにしておけ。老人。探知系の魔法を使った所で読み取れる情報には限りがある」

さりとて、この老体を廃人に追い込んでも仕方がない。
適当な所で静止を促がす。

「…ハテ? 何の事かね?」

一瞬、顔がギョッとするが、それでも止めずに探知を続行する。

「自分に働きかける魔力ぐらいは、解るつもりだ。これ以上踏み込むのなら、それ相応の抵抗も辞さないのだが」

私は自慢じゃないが、対魔力が低い。
故に外部から影響のある魔術効果には容易に絡み捕られる。
だが、裏を返して言えば。
相手が自分に対して魔術効果を及ぼした事を瞬時に知覚できる。
それに低いとしたものの、それは英雄、英霊でのカテゴリーの上での事だ。
聖骸布の抗魔力と合わせる事で、外部干渉の魔力には強くなっている。

「…抵抗とな? 穏やかでは無いの…君はヴァリエール嬢の使い魔と聴いたが? その使い魔がメイジに叛意を持つのかね?」

目つきがさらに険しくなる。
が、その程度だ。視殺戦程度で揺らぐような心は持ち合わせてもいない。

「だからだよ。私と契約したのはルイズだ。然るにルイズ以外のメイジに尾を振る必要がどこにある」

そもそもだ、魔力を通して私を知ろうとするそのやり方が気に喰わん。
生前は、この手の外部干渉にどれ程悩まされた事か。
率直に言わせてもらうのならば、この手の対応をする者を信用できない。

「…学院長。説明するのは構いませんが。一体どこから、何を説明すれば良いのでしょうか?」

ルイズがその流れを断ち切るかのように発言する。
私と老体の間に流れた殺伐としたものを読み取ったのだろう。

「…それから。わたしの使い魔についての詮索は無用にお願いします。彼はわたしの使い魔。それ以上の者ではありませんから」
「ほぉ…つまり、知られたくないと?」
「いえ。わたしは自分の使い魔に信をおいてます。ですから、何者であったとしても、彼がわたしの使い魔である以上は、それ以外の事は必要ないと思うだけです」
「知るべき事ではないと? 使い魔が如何なる者かを」
「少なくとも、わたし以外のメイジに知らせる必要は無いと思います」

取って代わったようにルイズは学院長と問答を取り交わす。
彼女は聡明だ。世間一般の交渉事は苦手のようだが、こういったメイジ同士のやり取りには向いているのかもしれない。

「何故、そう思うのかね?」
「他のメイジに知られては良くない事も在りますから。対抗策や排除方法を練られては堪りませんので」
「…なるほど。これは失礼したの。ヴァリエール嬢はメイジとしての心構えは充分という訳じゃな」

ルイズのとの問答に集中した結果だろうか。
先程まで私に働いていた魔力の流れが霧散化する。
そして、老体の纏っていた雰囲気も一変する。

「いや、すまなかったの。ヴァリエール嬢の考えがそうであるのなら、これ以上は不要じゃな」
「学院長?」
「メイジとして秘するべき事を秘する。使い魔の特性を隠すのもメイジとしては正解の選択じゃ。特に特質の使い魔であるならな」

○●○●○



そう言うとオスマンは席を立つ。
言うべき事は決まっている。
自覚を早いうちに促がさねばならない。
この少女とその使い魔がどれ程のありえざる存在なのか。

部屋に唯一ある窓の際に立ち、言うべき事を纏める。
そして。

「…先の中庭の一件。見事というべきかの?アレほどの魔力行使は久しく感じられなかったものじゃ」

そう切り出した。

「そう。アレほどの魔力行使は広域殲滅魔法と同じレベルじゃ。さて、それを為したは間違いないかの?」
「今更、聴く必要も無いと思いますが。わたしを使い魔と共に呼び出したという事はそれをしたのがどちらか知った上での事だと思います」
「…その通りじゃ。…ヴァリエール嬢。君の使い魔の為したことである事は理解しているのじゃ」
「では、改めて問い質す意味は?」
「…ふむ。回り道は不要…じゃな。単刀直入に訊こう。その使い魔に普通とは違う【紋章】が浮かんでいる筈じゃ」

その言にルイズは身を凍らせ、エミヤは僅かに眉根を顰める。
それはこの二人が知りたい懸案の一つだった。
この主従が学園を抜け出して調べようとした事をこの老人が知っている可能性があるのだ。

「ふむ。わかりやすい反応じゃな。ヴァリエール嬢。…ワシが君たちを呼んだのはそれに絡んでの事じゃよ」
「…それはい「ふむ。成る程な。だが、それを私達に教えてどうする気だ?」…エミヤ?」

ルイズを制する様に赤い外套の騎士が前に歩み出る。

「簡単じゃよ。自らの立ち位置を自覚してもらうだけの事じゃ。如何なる使い魔を持つのか、自身が如何なるメイジであるかをな」

オスマンの目は険しい。
先達たるメイジとして。学院の長として。
この決断が正しいかどうかはわからない。
再来した二つの伝説。
六千年の永きの間にもその後継は現れなかった【虚無】の使い手たる少女。
そして伝承に名を刻んだ最強の使い魔の一角【ガンダールブ】の紋章をもつ規格外の武装の使い手。
何も知らぬままにして置く訳にもいくまい。
後手に回れば、この少女は容易く渦に巻き込まれてしまう。

「ヴァリエール嬢。御伽噺を知っているかね? 始祖ブリミルとその使い魔の話じゃ」
「始祖ブリミルの伝承ですか? まぁ…寝物語程度には」
「その中に出て来る使い魔の一つの紋章じゃ。見たまえ」

オスマンがそう言うと空に火花が弾ける。
火花は火線となり、空間に文様を描く。
そして、其処に描かれた文様は。

「…ふぇ?」

ルイズの目を奪うには十分だった。
そう。其処に刻まれた文様は、自分の使い魔であるこの赤い外套の騎士の左手に刻まれたものと寸分違わずだったのだ。
当然のようにエミヤは、学院長には左手をかざして見せるような事もしていないし、意図的にそれをつかって見せたわけではない。
つまり、オスマンは見るまでも無く、その紋章の形状を知っていると言う事。
それが何を意味するかと言えば。

「この紋章を持った使い魔の名を【ガンダールブ】と言う。かつて始祖ブリミルが使役した使い魔じゃ」
「【ガンダールブ】…?」
「数多の武器を使いこなし、幾千のメイジたちと立ち向かい,なお無敵とされた最強の使い魔。それが【ガンダールブ】じゃ」

エミヤもルイズも動きはない。
自らの知る良しの無かった神秘の一部が明らかにされる。

「始祖ブリミル以外に、この使い魔の契印を使い魔に刻む事の出来た者は無い…さて。では何故、その使い魔の契印がヴァリエール嬢の使い魔に刻まれたのか」

オスマンは歩を進め再び椅子に座り直す。
椅子を軋ませて、向き直るその様は、大魔法使いの貫禄を示していた。

「偶然などで刻まれるほど安い契印ではないのじゃ。故に六千年の長きの間、御伽噺の中にしか記されなかったのじゃからな」
「…偶然で刻まれるもので無いと言ったな。ならば、何故、この身にその伝説の使い魔の契印が刻まれる」
「簡単な話じゃ。ヴァリエール嬢の使い魔なら、恐らくどのような生体であっても、その契印が刻まれるはずじゃ」

オスマンは書卓の中から古びた一冊の書物を取り出した。

○●○●○



始祖の祈祷書について触れておこう。
始祖ブリミルが記したとされる魔道書。
始祖が記した事から、あらゆる魔道書の原本ともされる。
魔法使いの始祖である彼女は、後の世に続く者の為にその自らの秘儀を書物の形にして封印したとされている。
正式な祈祷書は世界に数多に散らばった王家に今でも伝えられている。
だが、それと同時に数多くの偽書や外典も存在する事になった。
王家のみにその失われた秘儀が伝えられる事を良しとしなかった者や市井に追い落とされた王族など、その発端は様々だ。

外典や偽書は、明らかに贋物と判別できるものや様々にある。
だが、その中で異彩を放つ偽書も存在する。
それが正式外典と呼ばれる物だ。
ブリミルが記したわけではないが、その記述はブリミルに近しいものが記したとされる。
王家から祈祷書が失伝された場合を踏まえての予防措置であるとされたその書物は、今現在を持って解読されていない。

●○●○●



「さて、ヴァリエール嬢。唐突ですまんが、その本を読めるかの?」

老体の取り出した書物は明らかに古書。
されど、この状況下で取り出し、なお、ルイズにその本を読めるかを問うその真意。
恐らくは、この本がルイズの何らかの秘密に係わり合いの在る物。
推測するには…この私に刻まれたとされる【ガンダールブ】の紋章に絡んでの事。

魔力を通し、その書物に対して解析を試みる。

……推測結果。恐らくは一級品に位置するアーティファクトに近いもの。内包する経過年月は六千年と推定。
以降の情報はエラー判定。その創造に至る経過や理念などは読み取れない。ただ、解ったのは。
――――――――この書物は、『読む事が出来る者を選ぶ』と言う事だ。

そして、我がマスターは、震える手でその書物を手に取った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

後書きらしいもの

ええ…リハビリチックなので内容には突っ込まないでください。
この際だから、独自路線全開でいきます。

長らくの更新停滞中でも続きを希望された方々に感謝を。
更新速度はやや遅めになりますが、少しづつでも書いていこうと思います。

リアルが忙しいと言うよりは、単純に身体から疲れが抜けない(汗

独自路線全開。この時点でルイズに虚無を理解させてどうするんだろうなぁ…
一巻の内容も終わって無いこの作品、生温かい目で見守ってください。

以上。



[2213] アナザーストーリー・雪風と微熱
Name: 愁雨
Date: 2005/11/11 23:51
これは原作五巻の内容を知らないとついていけない突破バトルです。
私に書かせれば、こんなもんになるといういい見本。
だから、唐突なのは仕様ですから、本編とは切り離してお楽しみください。
――――――――――――――――――――――――――――――――

雪風と微熱



二人の少女は互いの顔を見据える。
その胸中に去来するのは、何であるか。
当事者たる彼女たち以外にはわかるまい。

決定している事項はただ一つ。
この二人は、馴れ合う為にこの場に並び立った訳ではない。

長身の浅黒の肌。赤い癖のある髪。『微熱』の名を冠する少女。キュルケ・フォン・ツェルプストー。
対する少女は、真逆の容姿。
短身の身長に雪の様な白肌。短く刈り込まれた透き通るような青い髪。『雪風』の名を冠する少女。タバサ。

発端は些細なものだったが。
それがいまや膨れ上がり互いの敵意は完全なものとなった。

二人の纏う気は同質にして異質。
赤く滾る炎のような殺気は、相手の全てを灰燼とせしめんとし。
冷徹で鋭利な殺気は、研ぎ澄まされた氷の矢の如く相手を貫かんとする。

音もなく空間が揺らいだ。
瞬間、二人の間で爆発が起きた。

簡単な話、この二人はただ睨み合っているのではなくて。
単純詠唱によって既に闘い始めていたのだ。
その証拠に二人の手には既にメイジたる者の証のロッドが握られている。

上位のメイジは呼吸するように魔法を扱う事ができる。
トライアングルメイジ級からがそのレベルに相当する。
動作自体が次の魔法への布石。

若くしてトライアングルメイジを表する二人の少女が。
ここに激突する。

○●○●○



キュルケは爆発の間に既に次の一手を用意していた。
戦場において全てを焼き砕くツェルプストーの戦は、息も吐かせぬ一気呵成の攻撃にこそその真価がある。
小さな火球が一つ二つとその数を増やし、キュルケの周りを飛び交う。
主の命を待つ『火の妖精』(ファイアーフェアリー)である。
一度、敵に向けて放たれれば、自動追尾をする不可避の火弾である。

その火弾を意思を持って解き放つ。
その数は十を超え、弧を描くもの、直線軌道を描くもの,様々な動きを見せる。
統制の取れない群れはその実一つの標的に向かう事実で束ねられた兵団。

本来ならば、多数に向かって使用する目標選別広域魔法である。
それを一人の相手に向かい放つことは即ち。
不可避の領域にし、相手を打ち倒す策の一手と為す事になる。

●○●○●



タバサはこの学院に来る前に既に実戦を経験している。
それこそ命のやり取りのある領域の戦いだ。
経験。それは何にも勝る。

飛び向かう火弾を回避する事は出来ない。
数もさる事ながら、無秩序ながら、相手に飛来する火弾は、恐らくは自動追尾も行うだろう。
そもそも、運動能力は自分はそう高くはない。
火弾を回避するような真似が出来るのなら、最初の睨み合いの時点で既に決着はついていようものだ。

だから、彼女は自らの二つ名の一つを解放した。

風。それはあらゆるものに影響する。
着弾するかと思われた火の妖精は、タバサの周りに吹き上がる不可視の風に阻まれそれを遂行する事は出来ない。
風の流れは渦を巻く一つの竜巻。
タバサを中心とした暴風が火の妖精たちを一切として寄せ付けない。

だが、この竜巻は大きくはならない。
何の事は無い。タバサはこれを『ただの防御魔法』としてしか使っていないのだ。
これを然るべき形で敵に叩き込むのならば、それだけで相手を打倒し得るほど魔風。
その魔風の前に火の妖精たちは翻弄されているのだ。

○●○●○



「…面白くなってきたじゃない」

思わずキュルケの顔に笑みが浮かぶ。
久しくなかった手ごたえだ。
ツェルプストーの家は武名を持って貴族の座についた家。
故に。
その血を引く者は、須らく傭兵として戦場に立つ事もある。
キュルケもまたそうした経験をした一人だ。

風が最強。そんな事は言われ慣れた言葉だ。
確かに風は炎を寄せ付けぬだろう。
吹き飛ばされるのは自明の理。
だが。それは『炎が風の影響を受ける状態』にあるのが最前提だ。
ならば、簡単な話だ。
風を遮る場所に炎を作れば良い。
――――――――幸いにして自分たちの足元には豊富な壁があるでは無いか。

にやりと笑うとキュルケはその意思をその広大な『障壁』に飛ばした。

●○●○●



瞬間。
タバサの身に悪寒が奔った。
それは直感とでも言うべきものか、それとも、経験に裏打ちされたものだろうか。

にやりと笑った相手の目は確かに自分を見据えている。
つまり、何らかの形で自分に攻撃が可能だと言う事。
この風の防壁を突破する手段など数ある手段ではないはずだ。

――――――――その過信が彼女の足元を。文字通りに掬った。

トライアングルメイジは得意とする属性以外に最大二つの属性を行使できる。
即ち、三つの属性を扱いこなすからこそのトライアングルであると。

爆発。
自らの足元が炸裂したのだ。
僅かな一瞬で。タバサは相手の為した手法を理解した。
つまり、相手は土の元素と火の元素を合成させ、地中に火種を形成させたのだ。

周囲の魔風を即座にカットする。
この魔法の最大の欠点は、同時に二つ以上を発生させる事が出来ない事。
そして。地面に接している限りその下方向には風が及ばない事。

致命的な傷を負う事を避けるため、護るべき部位を選択し風を纏う。
それでも吹き上がった石等の破片が、自らの身を叩く。

タバサは相手を軽く見ていた事を悟った。
だが。
この一撃で止めをさせれなかった事は甘い。

そして、何よりも甘いと思ったのは。
『これほどの使い手があのような姑息な手段で私に敵対する』と言う事実だ。
――――――――そう。彼女ならば、『本を焼く』様な真似をせずに直接自分を焼き捨てに来る。順序が逆なのだと。

●○●○●



タバサはそれでもロッドを手放さない。
メイジ同士の戦いは相手が杖を手放すまでが勝負だ。
ロッドを握る相手には如何なる隙も見せてはならない。
これが戦いの場で出会ったメイジの共通原則。

返礼と言わんばかりにタバサのロッドが振り上げられる。
杖に宿るは、冷気と風。見て取る事が出来るほどの具象化された風は三つの属性の合わさる姿。
『雪風の鉄鎚』(アイシクルエア・ハンマー)
彼女の二つ名を冠する魔法の一つ。
物理攻撃に特化させた質量と冷気の二重構造。
それは単純明快な原則を生む。
即ち、重さを伴う攻撃はそれだけで脅威となると言う事だ。

避けても避けなくても結果は同じ。
彼女がこの魔法を切り札の一つとするのは、回避後の対応すらこの魔法には折り込んであるからだ。

そして、その魔鎚が横薙ぎに振り抜かれた。

○●○●○



キュルケは全力を持って回避を試みる。
当然だ。アレほどの質量を伴う氷鎚を瞬時に溶解させる熱量を生むような力は、まだ自らの内には無い。
ならば、回避しか選択は無い。アレを甘んじて食らうなど選択を出来るほど自惚れた覚えは無い。

足元に火の元素を収束させる。
それを一気に発火させ、爆発的な推進力を得る。火の元素の魔法を使った接近戦闘技術の応用。
それを使い氷鎚の上に飛び去り、反撃を試みようとして。

その真下で氷鎚が弾けるのを知覚した。

二段構え。
即ち、それは任意のタイミングでその形状を解き放ち、正しくして『雪風』と為す事にある。

キュルケは真下から吹きすさぶ猛烈な寒波に身を切られながら失敗したと思った。
『あの時自らの装いを引き裂いた風とこれを比べたならば、あれはそよ風にも満たないではないか』と。
――――――――詰る所、全く魔法としての次元が違う。この少女なら、あのような手間はかけないのだと。

●○●○●



二人は満身創痍となったが、まだその手にはロッドが握られていた。
そして長身の少女が呟くように一言。

「…失敗したなぁ」

それに首肯する短身の少女。

「で、えらく手酷い反撃だったけど?」
「…おあいこ」
「それもそっか。で納得したから、お返しってわけか」

二人は頷きあう。
何の事は無い。
お互いのうちにお互いの力を知らしめれば、引き金となった原因との差を比較させる事が出来る。
強者にしかわかりえぬ判断基準がそこにはあった。

「ま、そーとなるとどの辺が手間こいてくれたか自明の理って奴ね」

そう言うとキュルケは振り向き、歩き出す。

「…どうするの?」
「簡単よ。大体の見当はついたから、落とし前つけにいって来るの」

手をヒラヒラさてそれに答えるキュルケに並び立つタバサ。

「…どうしたのよ?まだやりたんない?」

一言の間をおいて青い髪の少女が答える。

「…正直に言えば。私もちょっとムカついた」

キュルケはその答えを聞くと眼をぱちくりとさせたあと、朗らかに笑った。
誰がこの少女が氷みたいだと言ったのだろうか。
存分にわかり易い人間ではないかと。
そして、その頭を撫でる様にしながら言うのだった。

「良いじゃない。貴女と私が組むなら、とても愉快な事になりそうだわ。……そうね。貴女の焼けちゃった本の位の退屈凌ぎになりそうね」

●○●○●



あとは語るべき事も無い。
然るべき報復を受けた者たちがいて。
それを執行した二人の魔女は、それを契機につるむようになった。その程度だ。

エミヤとルイズは王都の酒場でそんな二人の馴れ初めを聞いて嘆息するのだった。

「…それだけの力があるなら、何で学院に来てるのかしら?」
「さてな。魔力の大小、攻撃魔法の強大さのみではメイジ足りえんと言う事だろうよ。…さて、仕事に戻るぞ。ルイズ」
「…毎回思うんだけど。どーして、エミヤはこういう食堂とか、酒場にいる姿に違和感無いのかしら…?」

それはほんの些細な日常の一幕。
二人はバイトに戻って、話の主役は夢の中に。
王都の夜は長い。まだまだ静まらぬ町。
時計の歯車は止まらずに回っていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

後書きのようなもの

整合性一切皆無。
順当に行っても、五巻の内容まで本編は続かないと思う次第です。
前後のイベントは一切無視。

本当なら、前後にもっと過去があるんですけどね。
それは原作『ゼロの使い魔』五巻をお読みくださいw

魔法は最早オリジナル路線全開w
…この魔法とかって、別のSSのネタにもストックされてるんだよなぁ…

魔法戦闘らしさが出てれば幸いです。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2005/11/20 13:40

「さて、ヴァリエール嬢。唐突ですまんが、その本を読めるかの?」



わたしはその言葉に促がされるままに。
古びた本を手に取る。
この本の持つ意味は解らない。
ただ、この本が『理解できる』
そんな気がした。

――――――――――――――――――――――――――――――――

虚無の継承者



正式外典。
それは始祖の祈祷書の陰とされる。
王家に伝わり、血筋とアーティファクトによって封印される正典。
その対になる書である。
コレは、来るべき者が王家に縁らぬ者である可能性を予見した始祖ブリミルの使い魔の一人が記したとされる。
現在までソレであるとされたにも拘らず解読できた者が居ない理由。
それは至極簡単な事柄に由来する。
誰一人としてその書に記された文字を文字として理解する事が出来ない。
読める人物が六千年もの長きの間、誰一人として現われなかった。

それは当然の事だとも言える。
この書は正典の陰。
正典と同じく封印されていなければ、要らぬ者までもがその知識を得てしまう。
故にこの書に施された封印は、血筋でもなく、アーティファクトでも無いモノ。
即ち、純粋なる『虚無の継承者』である。

○●○●○



わたしはその古書を手に取り逡巡する。
学院長はコレがわたしに読めるかと。そう問い質した。
わたしは自慢じゃないが、魔道書とかの類は良く読むほうだ。
何しろ、まともに魔法が使えないものだから、その解決方法を探る為にとにかく読み漁ったのだ。
それが役にたったかと言えば、知識としては会得できるだけで、肝心な解決方法には至らなかった。

だから、それを読み始めるまでは軽い気持ちだったのだ。
また、大して変わる事の無いモノだろうと。

●○●○●



一ページ目を読み出したルイズの眼が、一瞬見開くと食い入るようにその本を読み出す。
まるで吸い込まれるかのようにだ。
…精神に対する干渉か?
否。ラインには何も影響は無い。
魔術的、いや、魔法的な干渉が介在している様子は見受けられない。
となると…原因を知っていそうな者を問い質してみるに限るか。

「老体。マスターに何を仕掛けた?」
「…剣呑じゃのぉ…ワシは何もしとらんよ。ただ、あの本は、『読める人間』しか読めんだけじゃ」
「…それぐらいは私でも察しがついている…だが、私が知りたいのは。『何故、ルイズがそれを読める』のかだ」
「…ふむ。おまえさんのほうにその辺りの知識は用意されとらんのかの?…伝説の使い魔なのじゃから、其れ位の事は出来るのでなかろうかの?」

私は嘆息してその疑問に答える。

「知識やその他の引継ぎが可能であるなら、苦労はしていないのだがな…残念ながらその手の情報は引き落とされてはいない」
「…今、ヴァリエール嬢の読んでいる書物の名は【始祖の祈祷書・外典】。通称、いや、此方が一般的な名称なのじゃが【正式外典】と呼ぶ物じゃ」

老体の眼はルイズに注がれている。
その目は眩しい者を見るかのようだ。

「…その本の封印は単純なものじゃ。誰もがそれは理解できた。が。それ故に誰も読む事が出来なかった…そう。【虚無】を使えるメイジしか読めぬ仕掛けだったのじゃよ」

○●○●○



最初の一ページ目に書かれた言葉は苦も無く理解できる共通の言葉だった。
其処に記される言葉は、単純なものだった。

【是より先は読めぬ者には読めぬ。手に取り知を欲さんとする者よ。汝が虚無【ゼロ】で有らん事を】

読めぬ者には読めない。
その一文と虚無の文字がわたしを揺さ振った。
エミヤが言っていた言葉でもある。
わたしが四大元素の魔法を使えないのは、虚無に接触する事に特化しているかもしれないからだと。
絵空事が俄然現実味を帯びてきた。
その試金石がこの本だろう。
この文から察するに、虚無を扱える者でなくては読む事が出来ない。
そういった施しが為されているのだろう。
だから、もし。この先を読む事が出来たのならば。
それはわたしが伝説の系統の使い手である証明の一つになる。

だから、一瞬のみだった。それを知ろうとする事に対しての逡巡は。

ページを捲ったわたしの目に映ったのは、理解できることが理解できない文字。
始めて見る文字形態であるにも拘らず、それが文として成立し、意味ある物だと解かってしまう異常。
つまり、これが【読めぬ者には読めない】という事なのだろう。
それを文として意味あるものと知覚できなければ、それは文章として成立しないのだから。

わたしはその内容に引き寄せられていく。
そこには知りえない事実と真実が眠っていたのだから。

●○●○●



「…なるほどの。結構。ヴァリエール嬢がその本を読めると言う事実が解れば、充分じゃ」

老体はそんな事言うと私に向き直る。

「…ふむ。自己紹介がまだじゃったな。ワシはこの学院の長を務める者。オスマンと言う者じゃ。【ガンダールヴ】殿の名は何と申される?」
「…さて、あまり名を告げるような真似はしたくないのだがね? 私にとって名をメイジに告げるのは非常に大きな意味を持つのでな」

そう。私は常々言うが対魔力が低い。
故に真名を名乗る事はリスクが高い。
名前を持って働きかける行動呪縛系の魔術には生前幾度も悩まされたものだ。
うむ。やはり英雄になど成るものではないな。
世に名前を知られた所為でどれ程苦労した事か。

「…簡単には名は明かせぬと言う事かね? ならば、その名乗るというリスクの天秤に吊り合うようにワシもメイジとしての名を賭けよう。誓って、その名に呪を紡ぐ様な真似はせぬと」
「…其処までして私の名を知りたいのかね? やれやれ…エミヤだ。彼女の使い魔としてはそう名乗る事にしている」
「ウム。では、エミヤ殿と呼ばせてもらおう。…ヴァリエール嬢がなかなか戻って来んのでな。エミヤ殿のほうに申し送りをしておこうと思う」

なかなか戻って来ないとは、良い得て妙だが芯を得た言だな。
事実、ルイズは正式外典を食い入るように魅入っている。
仕方が無い。…少々手荒いが現実復帰させるとするか。

「ああ…それは構わんが…少し待って貰えないか?」

私は、ルイズの後ろに廻り込む。元より背後に控えてはいたが位置取りを改める。
そして。

「…何をする気かね?」
「何。大した事ではないさ。―― 生前から、このような時にはこうして対応してるだけだ」

●○●○●



我が手には一振りのハリセン。
正直に言えば、これも投影宝具の一つなのだが、細かい事は割愛させてもらう。
というか、これを心象世界に登録した経緯をよく覚えていないのだ。
ハリセン状態の他にも、刃の形にも展開できる剣…確か,ハマノツルギと言ったか?
何せ、投影は出来るのだが、重装の際に担い手の成長経験が読み込み出来ないのだ。何故か。
恐らくは、別の世界に何らかの形で現出した時に記憶したのだろう。
それが後なのか先なのかは解からないが。

まぁ、蛇足だ。

肝要なるはこの剣がハリセンという形状をしている。これが最も重要な事柄なのだから。
―――――――― そう。ツッコムと言う概念において、この形状に勝るものなど在り得ない。

「てぃ!」

勢いよくそのハリセンをルイズの頭に叩き込む。
スパァン!と見事な音が室内に響く。ウム。会心の振りであった。
そして、ツッコミを終えたそのハリセンは用を為した事で霧散化する。

「ーーーッ!? いったぁ…」
「正気に戻ったかね? マスター。物事に没頭するのは構わんが限度がある。程々にな」
「エ、エ、エ、エ、エ、エミヤ!? ご、ご、ご主人様に向かって何てことすんのよ!」
「何も可にもあるまい。マスターが本に捕り込まれていたから、それを正気に立ち戻したまでだが?」
「だからって、そんなモノで頭を叩く事は無いでしょーが! 普通に呼びかければ良いじゃないの!!」

ああ。親愛なる我がマスターよ。
周りの話し声さえ放逐して平然と本を読み続けていたのは君なのだが。
マスターが周りの状況を鑑みれる状態であったなら、こんな事はしていないのだがね。

「私のコレは人に合わせてのものだ。今回は偶々、突っ込みがいのあるマスターと契約したものでな」
「突っ込みがいがあるってどーゆー意味よ!!」

何を言うかと思えば…気がついていないのかね?
君の一挙一動、反応がそれであると言う事に。

「そのままの意味だが? ―――― ああ。誇っていいぞ。ルイズ。君は実に、からかい甲斐がある」
「あ、あ、貴方ねぇ!?使い魔の癖に、ご主人様に対する礼儀とかそーゆーのは持ってないの!?」
「何を言う。主人と認めるからこそ遠慮なく突っ込みをいれたまでの事だ。どうとも思わない者にこのような事をする筈も無いだろう」

それこそが真実。
僅かな時間しか過ごしては居ないが、彼女の人なりは理解できた。
メイジという魔法を扱う存在が、どう言った信念の上に成り立つ者かは知らぬが。
少なくともルイズが、『良い人』なのは間違い無い。

「…ああ、すまんが…夫婦漫才はその辺にして貰えんかの?」

そんなやり取りを見かねたのか、横合いより声が掛けられる。
少々ばかり、羽目を外しすぎたか。
…気持ちを切り替えよう。少なくとも、ルイズを正気には立ち戻したのだから。

●○●○●



ルイズは真っ赤になりながらその言葉に反駁する。
それもそうだろう。
見咎められるはずの行為をこのように揶揄されるなど露とも思わなかったのだから。

「がっががががががっがが、学院長!? めめめめ夫婦漫才ってどーゆー意味ですかぁ!?」
「いや…のぉ。君らの掛け合いを見ていて的確に評する言葉がそれしかなかったんじゃが?」

オスマンは飄々とした風体を崩しては無い。
むしろ、そのやり取りを見て、逆に安心したといった風情すら感じられる。

「さて、ヴァリエール嬢が話を少しでも聴ける状態の内に申し送りをしておくかの」

しかしながら、彼の纏う空気に遊びは無い。
それは目つきや、切り替わった物腰にも感じさせるものだ。
それは先ほどまでに醸成された空気を一瞬で切り替えた。

「…ヴァリエール嬢が正式外典を読む事が出来た…これに相違無いの?」

その問いにルイズは首肯する事で答える。

「うむ。ならば、これで確定じゃ…つまり、ヴァリエール嬢。君は伝説の再来となる。……虚無の継承者じゃ」
「!?」

ルイズの顔が驚愕に染まる。
そうかも知れないと思う事とそうであるとする事実。
そして、それを肯定する言。
その三つがそろったのだ。

「その書は虚無の系統を使える者にしか読めぬ。それだけの封印しか施されてなかった。…が、それゆえに今日まで読むものはいなかった。…ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。君は六千年の長きの封を破った事になるのじゃ」

老人は、淡々と事実を語り、言葉を紡ぐ。

「…今日より、君は正しくして【虚無(ゼロ)のルイズ】となる。…以後はメイジとして自らの業に研鑽を積む事」
「…でも、わたしは…四大元素の基本や、基礎魔法も…」
「何。気にする事はあるまい。メイジとして自らの方向性が見えたのじゃ。ならば後はそれに進むがよかろう」

●○●○●



私は思案気な表情を浮かべるマスターに声を掛ける。

「ルイズ。先ずはそれとして受けとめてみる事だ。結果は事を為した後でしか見えぬものだ。何もやらずして、何も知らずしてそれを拒否するのも面白くは無いだろう?」
「…エミヤ?」
「何。君が如何なるメイジであっても、私が君の使い魔である事には変わらんのだ。ならば、君が宿す力が何だろうと大差は無い」

そう。彼女が伝説の系統の使い手であろうとも、そんな事は瑣末事だ。
私は、彼女に召喚されたのだ。事実はここに。
真実が虚無の魔法の使い手の使い魔としての召喚だとしても。
私はルイズと言う少女に召喚された事実こそを重んじる。

顔に皮肉気な笑みを浮かべルイズの背を押す。
私は彼女の使い魔を務めるのだ。
ならばこそ、主の不安を取り除き、その道を切り開く手伝いをするのも役務と言えよう。

「…では、ヴァリエール嬢。正式外典は君に進呈しよう。読めぬ者の元に有るよりは使える者に渡すべきじゃろう」
「え!? で、でもこれは貴重な古書では…」
「うむ。貴重じゃな。何せ、まともに意味のある始祖の祈祷書の外典なんぞ、現存する書物でワシが知るのはそれだけじゃし」

何事でも無い様に諳んじる老体。
だが、その言葉は事実であるが故に重い。
一級品とも言える神秘を内包した書。
それは永の時を経て携えるべき主の手に。

「じゃがの? それがワシの手元にあった意味は。きっと。今日この日の為じゃろうて。――― 誇るがよかろう。自らが虚無の使い手であると。だが、努々驕る無かれじゃ」
「では…ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの名において、この正式外典を承ります。学院長」
「うむ。結構。…じゃが、無用な問題を引き起こさん為にも、しばらくはその書にある力は使わんようにな。ただでさえ、使い魔の方が派手にやらかしたんじゃ。主共々,吊るし上げと言う惨めな結果は避けてもらいたいのじゃよ」

ク…飄々としているようで押さえるべきところを押さえてきたか。
私もルイズもその言葉には反駁できない。
何せ、あれはする必要も無い本当にただの余分。

「さて。長くなったの…ワシからはそれだけじゃ。メイジたる者。力の置き場所は誤らぬように。以上じゃ」

●○●○●



バタンと学院長室の扉が閉まる。
わたしは溜め息を一閃する。

「…はぁ…」
「…いきなりなんだね? 君の根差す力が解ったのだから、もう少し明るい顔をしたらどうだ」
「…現実感無い。いきなり、わたしが虚無の使い手だって事になっても…」

エミヤはそれに困ったように眉根を顰める。

「…何よ。言いたい事があるなら言いなさいよ」
「別に。ただ、前も言ったと思うがね? それが知るべきものなら、パズルをやるように当然に修まるものだと」
「…そうだけど…だって、伝説の系統よ? その使い手も失伝し、御伽噺ですら、その力の詳細を語ってはいないのに…」

わたしの中には不安が渦巻く。
まともに魔法を使えるようにはなりたかった。
でも、…伝説の系統を扱うとは思ってもいなかった。

「なら、これから知ると良い」
「え?」
「私にも似たような経験がある。自分の根差す力の本質が解らなかった時期がな。…その力の鍵は既に君の元にある。なら、後は鍛錬と研鑽あるのみだ。ああ、もちろん、これは君がメイジとして生きるという前提だが。無論、その道を選ばない選択もあるだろう。…全ては君次第だ。マイ・マスター。君がどのような決断をしても私が使い魔である事実は変わらない。それは忘れないで欲しい」

エミヤはそんな事を言う。
わたしがどうあっても、エミヤは変わらずに使い魔であるとそんな事を伝えてくれた。
なら、その主であるわたしのするべきは決まった。
この使い魔に相応しい主になる。
この未知なる使い魔をも従えるに相応しいメイジになろう。

「…ん…って、どこに行くのよ? エミヤ」

エミヤは唐突に歩き出す。
歩き出す使い魔において行かれまいとその背に声をかける。
その問いに呆れた様な答えが返って来る。

「君な。大切な事を忘れているぞ」
「…何よ? 何か他に重大事でもあった?」
「…決まっているだろう。知的作業を行うにも、肉体労働をするにも欠かせぬ人間としての基本だ」

エミヤの目は真っ直ぐにわたしを見る。
そして、その口から出た言葉は、わたしの予測を斜め上に超えていた。

「即ち―――――――― 食事だ」

いや、訳解らないんだけど?

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

後書きらしきもの

「ルイズ・覚醒第一段階」です。
正しくして【ゼロのルイズ】となる為の一歩。

途中で某魔法先生からのアーティファクト投影してますけど
深く気にしないように。
ただのネタですから。
この程度のネタも許せない人は、わたしのこれからの作品は読めなくなるので悪しからず。
え? 釣具投影出来るんだから、普通にハリセン投影すれば良い?
ま、それはそれということで。

次回はアナザーの方で料理編?
本編は本編で進行する予定なので悪しからず。

料理編があまりにもギャグに傾きすぎるので。

では、次回の更新にて。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2005/12/02 00:34

「…かれこれ一週間近くか」



わたしはベットの中で身動ぎをする。
エミヤは着替えだけ用意したら、日課となった朝食作りに向かった。
私は、後もう少しだけ、このまどろみの中にいることにしよう

――――――――――――――――――――――――――――――――

仲が悪いの、伝統ですから



エミヤがわたしの使い魔として召喚されて一週間近くが過ぎようとしている。
最初の二日間は兎にも角にも密度が濃かった。
アレだけで三日も四日も過ごしたような気分になった程だ。
それだけ。
この『ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール』の日常に大きな変換期が訪れたと言う事だろう。

わたしの何時もの日課も変わった。
食事は、わたしの使い魔がわたしの為に食事を作る。うん。ここは優越感を覚えても良いところだろう。
何せ、今までとは違った食事であり、かつ、美味な食事なのだ。
あれは一種の衝撃だった。

それから、日中の授業はともかくとして、夜は【正式外典】を読む毎日だ。
これは基本的な【虚無】の知識と魔法そのものの運用法を中心に記してある。
具体的な魔法の呪文は正典とされる始祖の祈祷書のほうに記載されているのだそうだ。
ただし、あくまでそれは【始祖ブリミル】が書き残したものとの事。
真に虚無の継承者と成る者は、きっかけさえあれば、始祖の祈祷書が無くとも【虚無】の形式の魔法を扱えるようになるらしい。
他にもこの本には、重要事が沢山書かれていた。
曰く、虚無とは【万物に干渉する始まりと終わりの粒】。
魔力を持ってすれば、その性質上あらゆるものに干渉する力らしい。
ただし、その万能さゆえに四大元素のように合成相乗させる事は出来ない単一で完成された【究極の一】。
うん。奥が深い。
後はこれに対して、術者のイメージとセンス。内包する魔力量が全てを決める。
これはメイジ一般の共通事であり、イメージとセンス次第で、成し得る魔法の幅が決まると言っても過言では無いだろう。
尤も、学院長に【この書の力の使用は基本的に禁止】と止められている以上、これを試すわけにもいかないのだけれど。

しかし、夜と言えば、あの女。キュルケ・フォン・ツェルプストーだ。
アイツは…人の使い魔をなんだと思っているのだろうか。
あ、なんか、思い出したら、胸がムカムカして来た。

●○●○●



時間は、先日の夜にまで遡る。

英霊に分類されるエミヤは基本的に睡眠を摂る様な事は無い。
深夜と言う刻限において、平時の彼が行う行動は基本的にそう多くは無い。

パターン1・屋根の上で夜景を眺めつつ、無駄に周囲の警戒。
パターン2・廊下で来るはずも無いルイズに対する不埒者への警戒。
パターン3・厨房にて明日の朝食の為の仕込み。
パターン4・部屋で英霊となった身の上では意味の無い魔術鍛錬を兼ねた瞑想。
パターン5・図書館から、ルイズの名前で借り受けた本の数々の読破。
パターン6・常在戦場の心構えを忘れぬ為、武術鍛錬。具体的には弓を使った精神修練。

以上の六つを基本として組み立てているらしい。。
もちろん、これは彼が此方に召喚された数日間で観測されたものであるが。

そして先日の彼は、パターン2。
廊下における警戒待機である。
ルイズは、意味が無いからやめろと言ったのだが、やる事も無いのでこうしているのが実状とも言える。

事の起こりは単純な事であった。

「…む?」

浅く眼を閉じながら、廊下に意識を張り巡らせていたエミヤを興味深げに見つめる影。
キュルケ・フォン・ツェルプストーの使い魔・火竜山脈を根城とする火蜥蜴サラマンダーの『フレイム』である。
フレイムは、その凶悪な姿と違って性質は穏和だ。
主とも違う辺りがなんとも言えぬ所だ。

『…キュルゥ』

その目は何をするでもなく、ただエミヤを見る。
そして、のそのそと近づいて、無造作にその足元に近寄る。

ここで一つある情報を提示しよう。
使い魔と使い魔はその『使い魔』と言う分類において一種の共感を得る事が出来る。
言葉の通じない全くの異種生命であったとしてもだ。
互いに明確な敵意が無い場合に限り、この共感は発生する。
これは、伝承の時代の頃からの名残で、かつては戦場においてメイジを守る為に互いが協力し合う為に運用されていた。

エミヤは、召喚された当初は、幻想種に類すると判断したフレイムに敵意を放っていたが。
今では、その共通の存在のあり方である『使い魔』として受け入れていた。
相手が明確な害意を持たない限り、此方からは仕掛けない。
主の命無しに、力を交し合うことは無いだろう。

「…何か用か?」
『キュルゥ』
「いや、そうは言うが。私は君の主人に用は無い。そう言った場合は、そちらから来るのが普通だろう?」
『キュルゥ…』
「…何? 連れて来ないと食事抜きとかそう言った罰を受ける? む、いや、しかしだな…」
『…キュルゥ…』
「…ッ…そんなつぶらな瞳で見るんじゃない…っ…仕方ない。私が行かない事でお前が不利益を被るのも後味が悪い。直接出向いて即時に辞去させてもらう。それで良いな?」

傍から見れば、異様な光景とも言えただろう。
赤い外套の騎士と火蜥蜴サラマンダーは、交わす言葉も違うのに会話をしていたのだから。

●○●○●



「…でだ。呼び出された訳だが…何か、私に用でもあるのかね?キュルケ・フォン・ツェルプストー」

招かれた部屋はキュルケの部屋だった。
それは当然だろう。案内をしてきたのが、その使い魔であったのだから。
部屋の中は単純な造りである。
学生と言う身分もあるのだろうが、あまり着飾った調度品は見受けられない。
ルイズの部屋とは対照的な佇まいであった。
だが、けして貧租では無い。
置かれた各種調度品は華美でないだけであって、作りも由来もしっかりとした高級品である。
彼女とてゲルマニアの新興傭兵貴族の家の出とは言え、飾るべき見栄は保持していると言う事だろう。

「…フルネームで呼ばなくてもいいじゃない。キュルケで良いわ」
「さてな。君と私のマスターの仲が余り良くない様に見受けたからな。…君と必要以上に会話をすると、マスターに何か言われかねん」

エミヤは招かれた部屋の壁に寄りかかる。
ここが敵地でないからこその態度とも言えよう。
キュルケはベットに腰掛けて、エミヤを上目遣いで見やる。その目は何処となく熱を帯びたもののように。

「…あら、つれないのね。…私はあの中庭の一件から貴方を見ていたのに」

エミヤが訝しげな表情を浮かべる。
キュルケはそれを見やると口元に薄く笑みを浮かべて歩み寄る。
…その歩く最中に衣服の胸元のボタンを外しながら。
その様は、少女の実年齢に似合わぬほどに、妖艶だった。

が。

「…何がしたいのかね? 君は」

エミヤはそれを冷ややかな目で見つめて、平然と告げる。
キュルケの歩みが凍りついたように停まる。

「…な、何って、こんな時間に女が男を誘ったのよ? わからないの?」
「ああ、わからん。と言うか、解りたくないと言うのが実情だな」
「…どういう意味よ」
「別に。…君がそういった行為をしなければならない体質や欠損を抱えているであるのなら、頷けるのだがね…みたところ、そういった特殊な体質でもなさそうだが」

エミヤの眼は冷たい眼。鉄のような眼差しをしていた。

●○●○●



ルイズは意識を元に戻す。
本の中に没頭していたのだ。
ふと、感じてみれば、廊下に立っている筈のエミヤの気配が感じられない。
魔力の辿り方は、正式外典を読んでから、理解できるようになった。
今のルイズは属性に拠らない基礎魔法コモンマジックなら扱える。
魔力を辿り使い魔の探知を行うのも、この基礎魔法に分類される。

「…おかしい…廊下にいると思ったんだけど」

彼女は意識をさらに魔力のラインに接触させる。
彼の使い魔の左手の紋章とのラインは明確にして強固なもの。
それを辿れば、その居場所は容易に知れようものだ。

そして、その居場所がわかると。
端整だった顔が歪められる。

「……どーして?」

それだけ、呟くと彼女は立ち上がった。
ゆらりと儚げな幽鬼のように。

●○●○●



エミヤとキュルケの立ち位置は変わっていない。
エミヤは諭す様に言葉を告げる。

「…そう。君が魔力の補給などの為に人と身体を重ねねばならない特質者であるなら。その行為も容認できるが」
「……」
「違うのだろう? ならば、やめておけ。容易に身体を許すようでは、自分の価値を下げるだけだ。…何より、私は君に興味はない。それから、君と私の間にはラインがない。意味も無い行為だ」

彼は相手に二の句を告げさせない。
そのまま振り返る。もう用はないとばかりに。
そして、部屋から出ようとした矢先に。

廊下側から勢い良くドアが開かれた。
扉を開けて外に出ようとした矢先の事だった。

●○●○●



開かれたドアに顔面を強打するエミヤ。

「…っ…何か「ツェルプストー!!!!」…ルイズ?」

ドアを開け放ったのは、彼の主だった。
その形相は怒りに歪んでる。
自分の使い魔を一瞥すると、キュルケに向かい立つ。
よもや、彼女の目はキュルケしか捉えて居ない。

「…人の使い魔、部屋に連れ込んで何しようって言うのよ」
「…別に。貴女も忘れたわけじゃないと思うけど? ツェルプストーの女の生き様は」
「だからよ。…わたしのエミヤをどーする気というか、何かしたんじゃないでしょうね?」

勝ち誇ったような笑みを浮かべながら相対するキュルケ。
何をしていなくとも。ルイズと相対した彼女は、こんな顔をする。
場合によりきりではあるが、ルイズと彼女は互いを認めようとはしない。
嫌いと言うわけではないのだが。

「…さぁ?それは貴女のご想像にお任せするわ…けど」
「…なによ」
「ツェルプストーの女の恋は、身を焦がすほどの情熱的で。何より、その恋の炎は相手を焼き尽くすまで治まらないから」
「…どういう意味よ」
「簡単よ。貴女の使い魔もいずれ私のものにするってことよ。…因縁通りにね」

二人の睨みあいは正しく視殺戦だろう。

そのにらみ合いの緊張感を壊すように。

「……戻るぞ。ルイズ。私を呼び戻しに来たんだろう?」

やれやれと言いたげな風体の赤い騎士が,自らのマスターの首根っこをネコを持ち上げるように掴んでいた。

「…なっ!? ちょ、ちょっと? エミヤ?」
「細かい話は後でするし、後で聞く。…とにかくだ。ここは部屋に戻るぞ」

有無を言わさぬまま、その状態で踵を返し、部屋を出ていく。
後には、その展開に見事において行かれた半裸に成りかけの少女が残された。

(……エミヤって言ったのよね…確か。…私のモーション受けて、あんな反応するなんて…もしかして…不能なのかしら?)

等と、考えていたのはここだけの話ではあるが。

――――――――――――――――――――――――――――――――

後書きもどき。

時間軸を正しく追って居ないので良くわからない最新話です。
ルイズとキュルケの仲の詳細は次回ですね。
ついでに言うとまだ回想シーンです。
次回も回想シーンからは始まるのでご注意。

ちょっと、展開が速くなります。
抜け落ちた重要イベントはアナザーでゆっくりと公開します。
本編とは違い補足的な部分が多いので。

でわ、次回更新で。
エミヤの活躍は次々回の予定。



[2213] アナザーストーリー・メイドさんと赤い外套・接触編
Name: 愁雨
Date: 2005/12/14 07:09
アナザーストーリー・ミッシングエピソード。
本編に吹く隙間風を埋めるお話。
時間軸は守られてないので、どこら辺に挿入されるかは本編と照らし合わせましょう。
今回は前後編の前編。
メイドさんとの再会です。

――――――――――――――――――――――――――――――――

メイドさんと赤い外套・接触編



赤い外套は纏うべき時は決まっている。
少なくとも、厨房に立つと決めた私はこれを着る事は無い。

厨房は確かに戦場だ。
その道に生涯をかける者も居れば、料理をただ食べてもらいたいその信念のみで立つ者も居る。
故に纏うは、赤き外套にあらず。
そう、赤き前掛こそを纏い立たねばならぬ。
この身の今ひとつの戦場。

…どうも、生前、騎士王とか冬木の虎とかの餌付けに難儀したのが魂に刻まれたようだな。
要らん情報が座に刻まれてる。
磯釣りの概要とか。
…どんなエミヤシロウが座に辿り着いたのだろうか? 激しく疑問だ。
答えを得る前はこんな情報は参照できなかったんだがな。

思考を戻そう。

アルヴィーズの食堂。
ここはトリスティン魔法学院の食の中枢とも言える場所だ。
学年も年齢も教師さえも関係なく、この学院に所属する全てのメイジたちはここで食事を摂る。
そう。その厨房こそが、私の目指す理想郷。

ん? やはり激しく思考がオカシイ

ルイズを伴い食堂内を歩く。
昼の一件の所為か,夕食前の歓談の人込みの視線が此方に注がれる。
だが。それだけの事だ。この身がなさんとする事には関わりが無い。

「エミヤさん…?」

確認するかのような声で呼びかけられる。
確か、この声はシエスタと名乗った少女。
その目にはやや怯えとかの感情も見受けられる。

「む。シエスタか」
「…えっと…色々、訊きたい事とか、確かめたい事あるんですけど。…取り敢えず…その格好は?」
「なに。あの外套を着用で、厨房を借りたいなどとは言えまい。よって、代わりにこの前掛けを身につけて臨む事にしたまでの事だ」

私はルイズを近場の席に着席させながら受け答えをする。
ルイズは上目遣いの半目。
いわゆるジト目で私を見あげながら問う。

「…エミヤ? 本気でエミヤが料理するの?」
「無論だ。主の食生活の管理も、この使い魔たる身の責務と言えよう」
「…なんか。エミヤが料理してる姿を思い浮かべると、激しく違和感が漂ってくるんだけど…」

いや、無理もあるまい。
我が身の来歴を語り聴かせた事は無いのだ。
この身が駆け抜けたのは戦場のみでない事など想像も出来ていないだろう。

「ふむ。その疑問は頷けるものだな。だが…その認識は直ぐにでも改まる事になろう」
「へ?」
「論より実。口で答えるのは容易い。が。それ以上に実際の料理を食べればよく解る事だ」

私は身を翻し、食堂と厨房を隔てる扉に向かう。

●○●○●



「…あの!」

このアルヴィーズの食堂は、見た目に寸分違わず広い造りをしている。
厨房へ向かうにも、直ぐに迎えるという造りではない。

私の後を追随するようにシエスタが歩み寄り、声を掛ける。

「む…何か?」
「…一つ、訊いても良いですか?」
「答えられる疑問なら、答えるが? ・・・何か、問い質したい事でもあるのかね?」

この身に対する疑惑など、浮かべようと思えばいくらでも浮かぼうものだ。
この厨房を利用する事になるのであれば、そこで働く者達とは円滑な人間関係を醸成せねばなるまい。

「…メイジなんですか? エミヤさんは」

なるほど。疑問の一つはそこか。
確かに、あの中庭の一件を見ていたとするなら、その疑問は正当だ。
だが、その問いにはこう答えよう。

「いや、違う」
「で、でも、中庭で…」
「あんなものは、ただの大道芸さ。そもそも、私は【魔法】なぞ使えん」

尊ぶべき血筋を継承し、その上で魔法を行使する者がこの世界の一般的なメイジ像だと聞く。
私は、それには当て嵌まらない。

「アレはただの技術にしか過ぎない。料理やその他の技術と立ち位置は対して変わらん。身につけた当の本人からすればな」

そう。魔術などこの身からすれば技術の一端に過ぎない。
武器や武術に誇りを持って戦うような上等で綺麗な戦い方をした身ではないのだ。
殊更に貶めるような事もしないが、持ち上げるべきような事でも無い。

「シエスタ。君だって、この食堂で、料理の配膳を行う際、料理の皿、一枚たりとも落とさずに行えるだろう? それと同じ事だ」
「へ? …料理の配膳と同じ?」
「そう。身につけた技術と言う事に変わりは無いだろう? 魔法が使える、使えないも。極論から言えば、それと同じだ」

まぁ、尤も、身につけるのには、血を吐くような努力を伴ったが。

●○●○●



シエスタにとって見れば、その人は。
まったく未知の存在と言っても過言で無かった。

中庭での一件は彼女も見ていたのだ。
メイジだと思っていたその人は、自分の口でそれを否定した。
確かに、この人の立ち振る舞いは、この学園に通ういわゆる【メイジ】となる貴族達とは異なっていた。

自らを使い魔だと表し,そうである事に異論を挟まない。
自らというものを確立させて居ない限り、そんな事は言えないだろう。

中庭で見たときは、まるで硬い鋼のような冷たい感じだった。
でも、今。
今、見るこの人は、そんな雰囲気は纏っていない。

どこか。祖父と似ている異邦人。
…正直に言えば。シエスタと言う少女は。

このエミヤと名乗った使い魔に。
興味を抱いているのが本音なのだ。

思えば、この感情こそが、彼女の慕情の始まりとも言えるものだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――

後書きのようなもの。

短いですが。
シエスタはおっかなびっくりながらも興味津々。
乙女は知るほどに暴走していきます。



[2213] アナザーストーリー・メイドさんと赤い外套・接触編
Name: 愁雨
Date: 2005/12/22 01:37
ミッシングエピソード・メイドさん接触編
前後編の後編。
前回のアナザーと連結してます。
では。異界の厨房でのエミヤをお楽しみください?
――――――――――――――――――――――――――――――――

メイドさんと赤い外套・抵触編



シエスタが目を見張って私を見やる。
さて? 先の発言になにやら、不自然な点でもあったのだろうか。

「…何かね? 先の発言に対して、意見でも有るのかな?」
「…いえっ! そうじゃなくて…」

シエスタはそこで言葉を切ると面持ちを改めて言葉を繋げる。

「…そんな風に言う方なんて、そうはいませんから」
「そんなに不思議な考えかね?」
「はい。魔法を唯の技術でしかないなんて、プライドの高いメイジの方は絶対に言わないです」

その顔には苦笑が刻まれる。
存外、この少女には苦笑いと言う表情も似合うようだ。

「…でも、メイジで無いなら、エミヤさんはなんなんですか? …普通の平民にはどうしても思えないんですけど」
「む? 君には言っていなかったか? …今の私を律する身分は使い魔だと」

そう。今のこの身は。
異界において、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールと言う少女に召喚されてしまった存在。
自我意思を持つ事が許され、その身を律する確たる概念は、己自身と使い魔である事実のみ。

言わせてもらうのならば。
守護者としての任を受け、その役務としての掃除屋稼業等をやるよりは余程良い。

だから、今の私は、『使い魔』で充分なのだ。

「ふむ。まぁ、正直な話、話せる事にも限りがあってな。無為に私の正体は知らない方が良い」
「…え? どうしてですか?」
「いや。大した事じゃない。――― 男であれ、女であれ。多少の秘密が有った方がカッコいいだろう?」

真実を隠して、お茶に濁す。
これも誤魔化しの常套手段。

さぁ、後は余分な思索は不要。
目の前には厨房へ繋がる扉がある。
今は、ただ、主を唸らせる為、ここの厨房の利用権を拝借する事だ。

●○●○●



そして、厨房への扉は開かれる。
その中で忙しなく動いていた人の視線が一気に集中する。

その中で恰幅の良いがっしりとした男がいる。
壮年のその男がこの厨房の支配者。
マルトー親方と呼ばれるその人である。

エミヤは、その視線を受けてもなんら怯む事は無い。
この程度で萎縮するようであるのなら、英雄なんぞには成れないとばかりに。

「…ふむ、シエスタ。時に聞くのだが」

何でもない風に、その後から、入室したシエスタに問いかける。

「…ハイ? 何ですか?」
「この厨房の管理責任者と、実務運営担当者は誰かね?」
「…ええと、小難しい言い方ですけど。要するに厨房長の事ですよね?」

シエスタの顔が一人の男に向き直る。
それを確認したエミヤは、得たりとばかりに首肯する。
二人の位置は大して遠くはなかった。

●○●○●



二人の男の視線が交わされあった。
互いに互いを見据える目。
その目の浮かぶ感情は幾許かの興味。
目指す興味の根本は違えども、互いを見やる目の質は同じだ。

「…おめぇさん、中庭で一悶着起こした片割れだな」

口火を切ったのはマルトーだった。

「む。確かにその通りだが。それが何か問題でもあるのかね?」
「…面白い返し方するな。その言い方だと、何も問題ないように聞こえるぞ?」
「少なくとも、私がここの厨房を使わせて貰うにあたっては、大きな問題は無いと思うが」

何も気負うものが無く淡々として問答が続けられる。
だが、それは当の本人同士の話だ。
ここは既にして別空間。

「…ここを使いたいって?」
「ああ、私のマスターに、私の料理を食べてもらおうと思うのだがね。それから、その食事の管理も行うつもりだ」

マルトーの顔が一瞬、険しく歪む。が、直ぐにその面持ちが改まる。
品定めするような視線は、事実、この闖入者を品定めしているものだ。
そして、その鑑定が終わったのか。

「…良いぜ。勝手に使いな」
「ふむ? それは素直にありがたいが…構わんのかね?」
「ああ。アンタが中庭で暴れた時の服装のままで、んな事言ったら叩き出していたがな。場所を弁えて着替えてきたってことは、そう言う事だろう?」

そう。身なりは重要な要素だ。
もし、厨房を借りたいと申し出る時に、件の赤い外套のままであったのなら、恐らくはこのような快諾は得られなかっただろう。

○●○●○



エミヤは、その答えを聞くと思案顔となった。
が、それも一瞬の事だ。
即座に面持ちを柔らかなものに変えると感謝の意を示す。

「では、厚意を有り難く受けさせていただく」

そして、二、三言、シエスタに話しかけると、食糧貯蔵庫の方に共に歩き去った。

その背を見つめる者は多い。
その視線はあまり好意的なものではない。
それもその筈だ。
ここで働くものは、貴族メイジを好ましくは思っていない。
無論のこと、自らの生活を支えているのが、その貴族メイジの為にある学び舎の食堂である事も熟知してるのだが。

だが、マルトーは、その意見を大きく改める事にした。

対峙してみればわかる。
アレは突き抜けた者だ。
何がどう突き抜けたかはわからないが、アレは、メイジなどではない。
そもそもの体つきが違う。
あれは、少なくとも貴族メイジではない事は明白だ。
メイジであるのなら、魔法が使える。それゆえに肉体を鍛える者など稀だ。
魔法というものは、筋力も使わずに、簡単に弓矢を超える威力と射程を誇る。
近接攻撃にしてもそうだ。形の無い空気の鎚や接触するだけで体内の水分を蒸発させる魔手。
それらの魔法を行使可能なメイジが、肉体を鍛える事は、余程の事がなければ無い。
そもそも、騎士階級のメイジからして、魔法を使う前提の戦闘技術を磨くのだ。

そして。何よりも目だ。
マルトーの知る限り、あの目ができるメイジは、少なくとも二人、いや、三人くらいだ。
そもそも、そのうちの一人は、その可能性に到達しうる少女に過ぎない。
一人は、この学院の長、オールド・オスマン。今一人は、二十年前、この学院に来た当初のコルベールだ。

目は何よりも全てを物語る。
料理人たるマルトーの目利きは、人物評価にも優れている。
当然だ。材料の良し悪しを見極め、食卓につく人間の顔を見て、どのような料理を作るべきか。
それこそは料理人の基本だ。
そう、料理人とは料理の腕もさることながら、それを食べる者を見る目が必要となるのだ。
体調を推し量ったり、顔色や機嫌から精神状態を推測してみたり。
その上で作るべき料理を作る。
医食同源とは、このような食を作る側の細かい心配りの基本に根ざす言葉なのだ。

その上で。
主の為に食事を作り、なお食生活の管理を行うなどと言ってのけたあの男。
面白いではないか。
あれほど、突き抜けた目と身体を持ち、その上で、自分は料理を作る等と言う。
物珍しいにも程がある。
確か、聞く話にはあの男は、貴族メイジの少女の使い魔とのこと。

そんな男が、どんな料理を作るというのか。
マルトーの興味は、自らのフィールドグラウンドである料理に移っていた。

○●○●○



「…で、エミヤさん。具体的に、どんな料理を作るおつもりなんですか?」

食糧貯蔵庫の中で、シエスタが私に問う。

作る料理か。
レシピは心の丘に。
丘の上より、マスターを唸らせる料理を引き摺り下ろす ――――!

検索検出開始。
料理に気をてらった趣向を施す必要は皆無。 基本且つ単純な料理で十分。雑でなければ良い。
地域や風土による食文化の差異を考慮。 米食は日本米が無ければ、百パーセントこの身の技術を生かせない可能性あり。
時代的風潮や調理器具による調理方法の差異を熟慮。 電子レンジ等の電気機具の使用前提の料理を除外。
この世界においても食の基本は変わらない模様。 自分の料理経験とマッチングを開始。
材料や調味料によって許される選択肢の絞込み。 先述の電気器具使用でないのならば、殆どの料理を再現可能。

「…ふむ。基本スタンダード単純シンプルでいく事にする」

そうして、選び取る材料は決まった。
後は語るべき言も無い。
その材料は正しく調理されるのみだ。

○●○●○



食糧貯蔵庫から出て来たエミヤの動きは、その厨房にいる者の目を奪った。
手早く、且つ無駄が無いその調理方法はまるで一連の舞台劇のようだ。
都合が良いのか、シエスタに細かい手伝いをさせながら、進められていくその手際の良さには、マルトーも目を奪われた。

そして作られていく料理。
焼き物、和え物、煮物で構成される三品。
即ち、単純基本の【ひき肉とジャガイモの重ね焼き】・【緑黄色野菜のグリーンサラダ(ビネガーオイルのガーリックあえ)】・【ビーフシチュー】である。

主食としてパン食が多いと見受けたエミヤが選んだのは、パンの代わりにジャガイモをベースとした食事だ。
ジャガイモというのは、地域によっては正しく主食となるほど空腹を満たすものだ。
それをただ蒸すのでは味気が無い。いや、それはそれで一つの完成された形だが。
エミヤがそのジャガイモを生かす手法として選択したのが、ひき肉と合わせた重ね焼きである。
これは歯応えを重視した焼き物というよりは一種の揚げ物でもあるが、見た目以上にボリュームがあるものだ。

グリーンサラダはその性質上からの汎用性の良さが決め手だ。
そう。サラダは余程の組み合わせで無い限り、破綻する事はない。
エミヤは、このサラダを作るのにこの世界ならでは食材を取りいれた。ハシバミ草と呼ばれる物である。
その歯応えは、生食でこそ生かされると断じたエミヤは即座にそれを組み込む事を決断した。

ビーフシチュー。これについては多くは語る事もあるまい。
幸いにしてこの世界には仕込みに使うワイン等にも事を欠かぬ。
それでいてシチューというものは、実にパン食と相性が良い。それで無くとも先述の重ね焼きとも問題なく馴染む一品だ。
エミヤが気をつけたことは一点のみ。野菜の型崩れを引き起こさぬ事だった。
これは僅かな工夫で済む。炊き合わせと呼ばれる手法で、尤も崩れやすいジャガイモを別茹でを行い、後にあわせて煮込むのだ。

調理に掛かる時間は都合二時間三十分。
ビーフシチューが二時間必要とし、その過程でサラダと重ね焼きのを並列調理した上での所要時間であった。

「全工程調理終了――――是、基本的な夕食也」

そして、エミヤはその盛り付けを完了させその括りの言葉を告げた。

○●○●○



マルトーは素直に感心した。
あれは確かに基本的な料理でしかない。
だが、それゆえにその行程に一つたりともミスが許されないものだ。
単純な料理は誤魔化しを効かせ難いのだ。
そう。その料理を一つのミスをする事なく仕上げる手順とその手際のよさ。
あそこの領域に上るには、相当の修練と天賦の才が必要だ。
――――― あの男は、ともすれば何処かで名を馳せた料理人なのかもしれない。

あとは特筆すべき事も無い。
その仕上がった料理をルイズが食し驚きに言葉を失った事も。
料理過程を見た厨房のコック達が、料理人としてエミヤを迎え入れる事に満場一致であったり。
たまたま、食堂にいた青髪の少女がグリーンサラダを食べ、その味に取り付かれてしまったりなど。
以降に続く日常の一幕になったに過ぎないのだから。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

後書きらしきもの

以上。料理に対する薀蓄は専門家から見るとハァ?の世界です。悪しからず。

感想をくれた皆様、ありがとうございます。
感想が増えると作者のテンションが上昇して書く気が増加するので忌憚無い感想を。

原作より、面白いとか言われるのはかなり微妙です(汗
何せ、純正ゼロの使い魔の設定を思い切り改変してる作品ですので。

この作品はFate/stay nightと Fate/hollow ataraxia。ゼロの使い魔。
この三作品のネタは容赦なく使われます。
ネタバレの可能性もでるので悪しからず。
まぁ、ネタというのなら、古今東西あらゆる作品がネタの対象ですが。

では。次回は本編を進めます。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2006/01/15 16:20

「細かい話は後でするし、後で聞く。…とにかくだ。ここは部屋に戻るぞ」



三十六計、逃げるにしかず。
この状況は非常に良くない。
直感など無くとも、経験則で判ろうものだ。
ルイズとキュルケ。この二人の相性は致命的に悪い。
僅かな言の葉のやり取りに相手に対する感情が見え隠れする。
正直に言えば、記憶とも記録とも言い難い生前の残香に、似たような場面を見た事に由来するのだが。

――――――――――――――――――――――――――――――――

家系に伝わるエトセトラ



エミヤは、その主をネコ持ちに持ち上げると即座にキュルケの部屋を辞した。
部屋の主のキュルケが止める暇も無く。
その後、彼女の部屋から、幾人かの男の悲鳴が、断続的に聞こえたらしいのだが、それはまた別の話。

○●○●○



「…御主人様に対して、この扱いはあんまりだと思うの」
「ならば訊くが。先の状況で、君が大人しく引き下がる可能性は?」
「…先ず有り得ないわね」

部屋に辿り着いた主従は、向かい立つ形で言葉を交わす。
赤い従者は、その主の答えを聞くと短く嘆息した。

「まぁ、そんな予感は薄々とはしていたんだが。君、あのキュルケと言う少女と絶望的に仲が悪いだろう?」
「…そうね。エミヤの言うとおりよ。私、あの子は嫌い」
「理由を聞いても構わんかね? それによっては、私も彼女を始めとした周囲の人間に対する接し方を改めなくてはならないのだが」

ルイズの表情がやや苦々しげなものになる。
あまり彼女にとっては、話したくない事なのだろうか。
それを見て取ったエミヤは、区切りを置くように言を翻した。

「そうだな。君が話しやすいように、先ずは私があの部屋にいた事情を説明しておくか」
「…それは気になるところよね」
「その目はなんだ。マスター。君がジト目で見なければならない様な艶やかな出来事は無かったから、安心したまえ」
「じゃあ、何で、エミヤがキュルケの部屋にいて、キュルケが半裸でにじり寄っていたのよ?」

む~っ。と言わんばかりに顔を膨れさせるルイズ。
呆れたような口調でエミヤはそれに応える。

「私があの部屋に居たのは、使い魔を通して呼ばれたからだ。彼女自身が誘いを掛けていたのならば、断っていたさ。そもそも、行かなければ、その言伝を頼まれた使い魔が、罰を受けるらしくてな。流石にそれは寝覚めが悪いから、使い魔の顔を立てたまでの事だ」
「…なんか、不思議な事を聞いた気がするんだけど…エミヤ。あの火蜥蜴と会話が出来るの?」
「これがまた、実に不思議な事でな。恐らくは、使い魔契約の恩寵だとは思うが。細かい内容は難しいが、主語と感情を共感し読み取るくらいの事は出来る」

それだけ言うとエミヤは意識を切り替える。
こちらも問い質す必要がある。とばかりに。

「で。あの少女が私に半裸で迫っていた理由だが。…あの時の台詞の断片から察するに、君とあの少女の関係も関わってくると思うが」

打って変わって、顔を顰めるルイズ。
彼女にも、思う所があるようだ。

「…因縁があるのよ。あいつの家とは」

吐き捨てるように言う。
その言葉には実に情感が溢れていた。

「因縁とは、穏やかじゃない表現だな。…説明できる類のものかね?」
「一言には言えないわね。何せ、隣国ゲルマニアとの境界にあるヴァリエール家にとって、領地を隣接させるツェルプストーの家は。父祖伝来よりの領土争いの相手だもの」

それを聞くと、エミヤは何とも微妙な表情をした。

「…父祖伝来で、君らの仲まで悪いと。…余程の因縁だな。具体的には、正しく、殺し殺されと言ったところか」
「男の系統はね。…女の系統は…」

そこで言葉を区切るルイズ。
その面持ちは、怒りと言うべきだろう。
憤激に彩られた口調でその後を続ける。

「…寝盗られているのよ。好きになった男とか、恋仲だった相手とか、婚約者とかを」

エミヤの顔は更に微妙なものになる。

「…それはまた、随分と業が深い間柄だな。…それが歴代脈々と続いてると。そういう事でいいのかね?」
「そう。…だから、私は、キュルケが嫌いなの。家がツェルプストーなのも、そうだけど、個人的な部分でも気に喰わないし」
「まぁ、マスターがそういった立場であるのならば、使い魔たる私も、彼女に対する付き合い方は、今後、多少考慮はするが…」

その従者は、あからさまに嘆息をした。
やれやれ。と言葉にせずとも空気がそれを物語っていた。
それを半目で見咎めるその主。

「…なによ。言いたい事でもあるの?」
「いや、まぁ…その負の連鎖を君らの代で終わりにしよう。とか、そういった方向には考えられないのかと。正直な本音を少し」
「…無理ね。多分、恐らく、きっと」

そう、力強くルイズは断言したのであった。

○●○●○



そんな微妙なところで、わたしはまどろみの中から、目を覚ました。

「ふむ。漸く起きたようだな」

そして、枕元に立つ、わたしの使い魔の姿があった。
…というか、何時からそこにいたのだろうか。

「…一つ、質問いい?」
「む、起き抜けに唐突だな」
「…何時から、そこに立っていたのよ…?」

その問いにエミヤは思案顔になる。
何と言うか、答えて良いのか。どうやらと言う顔だ。

「ふむ。では素直に答えるとしよう。五分ほど前からだな。…いや、正直、寝顔が面白かったんでな。そのまま見物させて貰っただけの事だ」

その言葉にわたしは、顔を朱に染めるのを自覚した。
…コ、コイツ。絶対趣味悪い!!

「…起こしにきたのなら、普通に起こしなさいよ…女の子の寝顔見続けるなんて…趣味悪いわよ!」
「それは心外な言葉だな。…今日は休日なのだろう? ゆっくり寝かせておこうと思った、この使い魔の心遣いを無駄にするのかね? 君は」
「そ~ゆー問題じゃないッ!」
「では、どういった問題かね? ああ、それとも、何か? 君の寝顔は見苦しいから見ないで欲しいとか、そう言った乙女の切なる懇願かな?」

嗚呼…解かった。コイツ。このやり取り楽しんでる。
それだけは、なんとなく解かった。
だって、ニヤニヤと笑いながら、ご主人様にこんな事する使い魔なんて居る筈無いもの。

「まぁ、それはさて置くとしてもだ。起きたのなら、食堂に来ること。朝食には丁度良い頃合いだからな」

何事もなかったように、それを告げるとエミヤは背を向けて部屋を出て行こうとする。

「それから、着替えは机の上に用意してある。気持ちが落ち着いて人前に平気に出てこれるようになってから来るがいい」

それだけ言って、エミヤは部屋を去っていった。
…というか、この顔が紅潮してるのは全てあの使い魔の所為なんだけど…
ええい! アイツがわたしの気持ちを自分で揺るがしたと自覚してる辺りが、尚更性質悪い!

●○●○●



「…で、ナニよ。この光景は…」

食堂にやってきたルイズは、自分の定位置に見慣れた人間を幾人か見受けた。
キュルケ、タバサ、ギーシュ。後、メイド。

タバサは、黙々と無言でサラダを食べている。それしか食事は無いとばかりに。
キュルケは、それを見ている。時折、料理を運ぶエミヤに熱を込めた目線を投げかけながら。
ギーシュは、繁々と何かの剣を眺めている。眉根を訝しげに顰めながら。
メイドはエミヤを手伝っている。他の仕事も併用しつつ。

ルイズは、頭に幾許かの頭痛を感じながらも、着席した。
何しろ、席に着かない事には食事は始められないのだし。

「あら。遅いご起床ね?」
「五月蝿いわよ。…こっちは起き抜けの夢が最悪だったの。只でさえ、気分悪いんだから話しかけないでくれない?」

先ずは牽制の一撃の応酬。
ルイズとキュルケの何時もの日課とも言える。
この二人のコレは、既に定例のものとも言えるだろう。

だから、他の面子は気にする事無く、自分の事をしているのだ。

「…待て待て。朝から、そう剣呑な雰囲気を振りまくな。食事の時間くらいは落ち着いていられないのかね。君らは」

呆れたように仲裁に入るエミヤ。
コレも既に予定調和だ。
これでこの二人が止まった試しも無いのだが。

「…ところで先生。やはり、この剣は、いくら見ても唯の剣にしか見えないのですが」
「それが唯の剣に見えている間は、次のステップには進めんぞ。ギーシュ。モノを鍛ち成すという事は、然るにその内包されたものを全て写し取る事に同意だ。ディテクトマジックを物質の解析の方向に強く働かせてみろ。次回までの課題だ」

その遣り取りを食事を中座して眺めるタバサ。
物珍しいのだろうか。不思議そうな目線を投掛ける。
その目線に気がついたエミヤが、問い掛ける。

「…何かね?」
「…その剣はギーシュの魔法にどう関わるの?」
「簡単な事だと思うがね。この小僧の魔法特性は【錬金】、つまり、物質変換や物質練成に近いものがある。そういった技巧を再現するに必要なのは、想定イメージを強く持つ事だ。然るに、物品の構成を知識でしっかり理解できるようにする。そうすれば、想定イメージに綻びは少なくなるからな。…まぁ、もっとも青銅しか鍛ち成せない内は,あまり意味を持たないが、長期的な視野で見れば役に立つだろうよ」

ギーシュは、あの敗北以来、エミヤに日参して頼み込んだ。
夜討ち朝駆け上等の他人の迷惑顧みずで、である。
即ち、指導を仰ぐ事を。
エミヤが根負けした形でもあるのだろう。
自ら、指導の為の時間を採る様な真似はしないが、ギーシュに一定の課題を与え自主的な成長を促がす形でそれに応える事にしたのだ。

そんな遣り取りとは別にしてルイズとキュルケの遣り取りは徐々にヒートアップしていく。

「…あら?まぁ、体つきの方が貧相だから、頭の方も貧相になっているのね。それで朝の覚醒も遅いと。哀れよねぇ…」
「そんな事は関係ないでしょう? そもそも、俗説として言うのなら、胸の大きい女の方が、頭はバカだって聞くけど? 実際、キュルケの場合、魔法は使えるけど、一般教養の成績はあんまり良くない事を実証してるじゃない」

空間が軋む。比喩ではなく、本当に『ギシイィ』とか音を立てそうなぐらいに。
二人が椅子に手をかける。

「言うじゃない。魔法云々で言うのなら、【ゼロ】のルイズにそんな事を言われる筋合いは無いと思うけど? まったく魔法を使えない人間には、その比較は許されないんじゃない?」
「言ってなさい。キュルケにわたしの魔法特性なんて理解出来る筈無いんだし。真実を見せつけられて落胆でもしたいのかしら?」
「あら。面白い事、言うじゃない。…誰が落胆するの? 貴女?」

二人の空気は更に歪む。
既に一触即発は超えている。
そう、触れて爆発するのではなく、後は切っ掛けが与えられた瞬間に事は動くのだろう。

周りの人間は既に退避している。
そう、ここに残されたのは離脱のタイミングを見失った数人。
ギーシュは没頭している為に、その周囲変化に気がついていない。ある意味正解の選択。
タバサは知らない間にその場を離れている。機を見るに敏。

「エミヤさん。止めなくてよろしいんですか?」

冷や汗をかきながら、シエスタがお盆を胸に抱え小刻みに震えつつ、隣に立ったエミヤに聞く。
エミヤもまた苦味しばった顔でそれに応じる。

「無理…だな。単純に制圧するのは簡単だが。それでは後に尾を引く。それとあの手合いの間に入るのはタイミングが重要だ。ああなる前なら、まだ手の打ちようはあったんだが」

ガタッ と椅子を蹴飛ばし立ち上がる二人。
そのタイミングは、ほぼ同時。
ここまでくると、実は逆に仲が良いんじゃないかと思えるほどにピッタリだった。

「…うふふふふうふふうう…いい、いいじゃない、ああああ、貴女に教えて上げるわ…わたしの魔法特性の真実を」
「あら? 自分で自覚したいのかしら? 自分が無能だって事を」

決定的な開幕だった。
同時に立ち上がった二人は、踵を返すように食堂を出て行く。
それこそ、周りの人間の止める間も無く。

「…まぁ、被害が回りに及ばないだけ良しとしておけ。この後がどうなるかは解からんが」

エミヤは、シエスタにそれだけ言うと歩き出す。
その足取りは重たいが。

「? どこに行かれるんですか?」
「面倒だがな。区切りの良い所だから、マスターを止めてくる」

やる気なさげに言うとエミヤもまた食堂から姿を消した。
そして、食堂は安堵の空気に包まれた。
事が起きたのが休日たる虚無の曜日であったのが災いしたのだろう。
本来ならば、教員達がコレを止めていたのだろうから。

 ―――尤も、居た所でコレを煙を立たせる事無く終息させるなぞは至難の業だったのだろうが。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

後書きらしきもの。

微妙なタイミングで斬り。
短いですよ。
只、これ以上は展開からすると詰め込みすぎなんで。

更新のタイミングは、年明けと言う。
しかし、私の仕事には、年末年始がありえない仕事なので、こう言った事に生活の起伏が無かったり。

次回から、第一部の山場の始まりです。
虚無の使い手を守る者。その真価の一端が語られれば良いな。
と言ったところで。

次回はそのまま本編の更新です。

まぁ、ゼロの最強の使い魔以外のネタが止まらないんで某所で一作何かしらの連載を始めるかもしれません。更新速度に影響はないですよ。只でさえ不定期ですから



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2006/01/28 23:06

「面倒だがな。区切りの良い所だから、マスターを止めてくる」



正直な話。この二人の姿にかつての在りし日を重ねてしまった。
過ぎ去った時間の中でも色濃い記録がある。
いがみ合う二人の少女の仲介役は、何時もオレだった。
らしくも無い感傷が胸をよぎる。
さぁ、ならば、やるべき事も同じだろう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

策を弄する者



「…物理攻撃であるなら突破可能? よく言ったものね…」

忌々しげに宝物庫を見上げる人影。
土くれのフーケ。
彼女は、ある男から寝物語に聞きだしたこの宝物庫の弱点を突くべく其処に居た。

だが、結果は燦々たるモノだった。

魔法による変質等をほぼ完璧に弾く強固な魔法障壁と物質の状態を固定化させる魔法。
この二つによって、魔法による強奪などは不可能となっている。
だが、固定化はその物質の持つ構造上の限界以上の強さにはならない。
それは違う魔法の領域となり、固定化の魔法とは異なる。
故に、宝物庫の壁は物理攻撃に弱いとしたのだ。

だが、この構成材質が問題なのだ。
黒曜石の巨大な岩塊を錬金で精製、魔法によってその形を削り整え作り上げた繋ぎ目の存在しない外観。
そして、それを固定化によって固着化。
魔法障壁を上掛けする事で、変質による材質の弱体化や攻撃系魔法による突破を防ぐ。

それは一つの城壁に等しい。
これを作り上げたのが一人の魔法使いだと言うから始末に負えない。
この学院の長が作り上げたのだ。
老いて尚、強し。と言われたその実力の片鱗を示すものだった。

無論、これは通常物理攻撃であるなら突破は可能だろう。
物理に対する障壁は、その材質のみしか持ちえていないのだ。
魔法障壁の種類は、対魔法に特化したものだからだ。

当然、スクウェアクラスのメイジであるフーケには、それを行なう手段はある。
彼女はゴーレムマスターでもある。
自分の力で為せないのならば、ゴーレムにやらせればいいのだ。
魔法によって生成されたゴーレムの攻撃そのものは、魔法ではなく単純物理に他ならないのだから。

だが、しかし。
普段の彼女が生成するゴーレムの体躯では、この宝物庫の壁を打ち破る事が出来なかった。

「…どうも、普通のゴーレムじゃどうしようもないか。これは」

手段はあるのだ。
だが、それを行なうにはリスクが高い。
彼女の信条にもそぐわない。
強奪も確かに手段の一つだ。
だが、目立つのは良くない。強奪は結果としての手段なのだ。

宝物庫の壁を容易に粉砕する巨大なゴーレムを作って壊させる。
あまりにスマートな選択ではないのだ。

「…しかし、それも止む無しって所かしらね?」

だが、それでも彼女は『土くれのフーケ』とまで言われた盗賊だ。
盗むと決めたものを前に引き下がる無様は晒せない。

そして、彼女がその為の言霊を紡ごうと意識を集中した矢先の事。
彼女はその場にとっさに身を隠した。
土の属性の広域探査魔法【センス・アース】が、この場に近寄る人間を察知したからである。

広域探査魔法の類は、一度、発動すれば、維持に精神の集中は必要なく魔力の消費も無い。
発動時の魔力の消費、その後は初期消費魔力に応じた範囲を網羅し、時間の経過で停止する。
つまり、自動的に網を張り、時間が来れば消失する。
特定の作業を行う際には必須とも言える魔法であり、高位のメイジはほぼ無意識にこれを張り巡らしているものだ。

○●○●○



キュルケとルイズは一定の距離を保ちながら、それでいて同時にこの宝物庫の前に来た。

「…ここ? ふん・・・派手好みのツェルプストーにしては、人目の無い所を選ぶじゃない」
「あら? 別に私は人前でも良いのよ? 衆人環視の中であなたが恥ずかしい目に会うだけなんだし」

ギシッ!と、比喩ではなく空間が軋む。
感情に伴なう魔力の昂ぶりが周囲に影響を及ぼしているのだろう。

魔力の高い低いは、魔法の使える使えないには左右されない。
魔力が高くても扱う術が無ければ、意味が無く。
魔力が低くても扱う術を心得ているのなら、意味はあるのだ。

「い、言ってくれるわね…ま、まぁ? キュルケが私に人前で膝をつきたくないって気持ちは解からなくは無いけど?」
「誰がそんな事言ったのよ。最近、妙に自身有り気じゃない? ま、どうせ何時ものように見栄で装ったものだろうけど」

緊張感は最大限だ。
睨みやる目に敵意は隠せない。
憎しみは無い。ただ、気に喰わないだけだ。
だが、その気に食わないのも、溜め続ければこうなる。

その均衡を破ったのはキュルケだった。

「…ま、このまま、魔法勝負と行きたいけど…貴女と私じゃ、只の弱い者苛めね。さっき、面白い事言っていたわね?『わたしの魔法特性の真実』って。それを見せてもらおうじゃないのよ」

ルイズの顔が『しまった』と言う顔になる。
それもそうだろう。
彼女のソレは、学院長に『暫くは使わないように』と釘を刺されたモノだ。
頭に血が上りすぎたのだろう。
あの時は、自分がそんな事を言った事を気にかけていなかったが,こうして指摘されると気が付くものだ。

だが、後には引けない。
良くも悪くも、ルイズは貴族だ。
一度、言った言を翻すのはともかく、それを出汁にして、相手に背を向けるような真似だけは出来ない。

「…いいわ。…見せてあげる」

だから、それは売り言葉に買い言葉になる。
そして、それを言い放つ彼女の目からも、覚悟が窺えた。

○●○●○



エミヤは主の後を追っていた。
ラインを辿る事でその行く先を推測。
後は、その姿を捉えるだけだった。

しかし、彼はこの学園全てを網羅しているわけではない。
宝物庫の在る区画には、用向きが無い為、近寄る事が無かったのだ。
始めて踏み入れる場所ゆえに、その環境の把握もしなければならない。

ワンクッション置くかと思ったら、彼女たちは即座に行動に移したらしい。
区切りが良い所の話ではない。
そのまま、状況が連続してしまったのだ。

「…見通しが甘かったか」

愚痴は洩らしても歩みは止まらない。
走るような真似をせずとも、その必要も無い。
早足でも常人の数倍の速度なのだ。

そして、彼の目は千里眼とも言われるほどに遠くを見通す。
その目は、遠距離であっても鮮明に目的を捉える。

そして、眉根を顰める。
ラインの脈動を感じたからだ。
そして、その目に捉えた主の姿が『何かしらの魔法行使』の真っ最中だったからだ。

○●○●○



「し、正気か? 彼女は!」

私の目が捉えたのは、まさにルイズが呪文を成立させようとするその瞬間だった。
使うなと釘を刺されていたはずなのに。
どうにも、私のマスターは挑発に弱いらしい。
キュルケに何らかの誘いを受けて、物見事に引っかかったか。
もしくは、自身の自尊心に耐えかねたか。

彼女は貴族である事を自らの誇りの一部としている。
故に、彼女の思う貴族の矜持を虚仮にされるのを非常に嫌う。
恐らくは、その辺が複雑に絡み合ったのだろう。

数日前のギーシュとのじゃれあいの時にも、彼女は『貴族』と言うフレーズを強調したのだ。
多分に推測ではあるが、彼女が貴族と言うものを深く思っていることに相違あるまい。

私は歩みの速度を切り替え、駆け出す。
少なくとも、アレの矛先をどうにかしなければなるまい。
彼女の属性たる【虚無】の及ぼす効果など、私にも推測は出来ないのだ。

○●○●○



わたしは意識を深く杖に集中させる。
『正式外典』に刻まれた知識を頭に浮かべる。

―――――― 虚無は全てに干渉する ――――――
―――――― 始まりと終わりの粒。究極の一 ――――――

ならば、その粒そのものを固めて打ち出す。

原理そのものの知識はある。

炎の魔法の【火球弾ファイア・ボルト
水の魔法の【水蒼弾アクア・ボール
風の魔法の【空風弾エアロ・キャノン
土の魔法の【土硫弾アース・ブレット

これらは基本元素を固めて撃ち放つ射撃系攻撃魔法。

この原理を応用して【虚無】の形式に当てはめる。
…イメージする。全てはそのイメージから創り出されるものだ。

過ぎる形は。【粒子の集束・加速・圧縮】
わたしの知識ではない『何か』がそれを補っていく。
更に強固に結び成す。

そして、わたしの掲げる杖の先に『ソレ』が顕在した。

○●○●○



キュルケは自らの眼を疑った。
あの『無能(ゼロ)のルイズ』が魔法を成立させているのだ。
しかも、トライアングルである自分よりも高精度のレベルで。
それでいて、ソレを成立させている元素も解からない。

「…な、何よ。それ…?」

呆然とするしかない。
それは四大元素ではないのだ。
自身が三属性を行使するメイジだからこそ解かる。
あれは、四属性の範疇ではない。

純正なる光の収束体。
光は、炎の魔法の範疇に思われがちだが否。
あくまで、炎の魔法の生み出す光は副次的なものでしかない。
光そのものを扱う属性ではないのだ。

○●○●○



魔法により土中に身を隠したフーケも、また驚愕した。
彼女は土中であっても、その地上で起きた事を視認可能だ。

声が洩れそうになる程の驚きを受けた。
アレは、成し得ない。
スクウェアスペルの四属性同時行使、単属性四乗行使、それでも再現不可能。
その上とされるペンタグラムやヘキサグラムでも、届くかどうか解からない。
純度で言えば、それほどのものだ。

彼女は、盗賊に身を落としてもメイジであり、その最高峰の一角たるスクウェアを冠する。
知識は、充分過ぎるほどに詰め込んである。
いや、そもそも、盗賊と言う身の上でもある以上、官憲行為を行なうメイジに対抗する手段の一環として
自身の及ぶ範囲であらゆる魔法で調べているのだ。
その知識は、この学院に潜り込む際も重宝した。
経験や実務に裏づけされた彼女の知識にも、あのヴァリエール家の三女が行使している魔法は理の範疇外だった。

だが、これは使えるかもしれない。
あの防壁は、従来の魔法は通用しなかった。
そう、従来の魔法。四属性の魔法は、弾かれた。
…あの理解不能なアレを弾く事が出来るか、試してみる価値はある。

そして、フーケは、その考えを実行に移すべく呪文を諳んじた。

――――――――――――――――――――――――――――――――

後書きらしきもの

事態停滞中。
回りくどいですねぇ…
ま、私の芸風ですので、気にしないように。

次回更新も本編です。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2006/02/14 23:06

「ルイズ!!」



私の制止は僅かに届かない。
既にその魔法は形になっている。
光。
その光こそが、彼女が自らの意思で紡ぎあげた『魔法』
そう、彼女は。今、始めて、虚無を自らの意思で紡いだのだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――

障壁は【虚無】に還る



その光は、何にも因らぬもの。
光というのは、空より万象に降り注ぐもの。
太陽という天体が、人と言う種が認知し得る最初の光を生み出した。

そう。光の発生の最初は、今となっては解明する事は出来ないのだ。
既にして世界に存在し、万象に干渉する可能性の一つ。
それが【光】。全てに干渉するとされる【虚無】の一端である。

少女はそれを紡ぐ。
その掲げる杖の先に、光を集束させる。
天より降る光を、加速させ、一点に圧縮させる。

それは、六千年の時を越えた奇跡の、神話の再現。
唯一、始祖たる魔法使い【ブリミル】が扱ったとされる【虚無】。
その正しき継承者がここに居る。

●○●○●



フーケは、その光景を遠隔視覚で確認した上で。
自らも呪文を諳んじた。

地中にあり、尚、呪文を紡ぐ。
本来ならば、魔力行使を感知されるような状況だ。
だが、現状は彼女に天秤を傾けている。

ルイズの魔法は、それほどの異質だ。
恐らく魔法使いという魔法使いは、あの光景とその残香に引き寄せられてしまう。
スクウェアメイジのフーケですらそう感じているのだから。

イメージを浮かべる。
土と土と水。三属性。
一定範囲の地表面を軟化。
軟化させた地面を揺らぎ動かす。

威力は最小。本来より揺らぎは少なく。
範囲指定も最小。本来の広域殲滅には遠く届かない範囲で充分。

地震アース・クエイク

フーケは、スクウェアではあるが、特能型のメイジだ。
ある事柄に関してその能力を遺憾なく発揮するタイプ。
彼女は、四属性を扱えるが、広域殲滅系魔法などの、高威力の魔法は、さほど得意ではない。
扱えたとしても、威力は微々たるものだ。
彼女の本質は別の所にあるのだ。

だが、それでも、今の彼女の意図を遂行するには充分。

何の事は無い。
この上で、魔法を紡ぐ少女の足元を揺らす。
あそこまで形になったモノは、霧散化して消える事はない。
少女が向かい立つ位置は、宝物庫に相対している。
少しのトラブルで、あの光は宝物庫に向かって飛ぶ。

その結果こそは、わからないが、それ故に試す価値もあろうものだ。

そして、フーケの魔法が完成した。

●○●○●



「ルイズ!」

エミヤは遅いと知りつつも静止の為の声を掛ける。
その声は、主に届いた。
…が。

「…エミヤ?」
「…ッ! その物騒な魔法を掲げたまま、私に振り向くんじゃない!」
「っていうか、どーしてここに? それよりもこれ、どーしよ?」

過度に自分の理解を超えた現象に遭遇した時、人は普段と変わりない対応をする時がある。
今のルイズの状況がそれである。

「なっ!? ちょ、ちょっと待て! 君、自分で生み出した魔法を扱いかねていると言うんじゃないだろうな?」
「って言うか、私でも良く解かんないのよ! 魔法を使おうって意識を集中させてみたら、こんな結果になったんだし!」
「か、考え無しかね!? 君は!! 少しは後先というものを…!」

それが災いした。
気を抜きすぎていたのだろう。
エミヤに直感があるのならば、これを予期できたかもしれない。
だが、彼にあるのは、心眼(真)。
類似状況を参照し、推測する事ならば可能であるが、未知の出来事にはこれは当て嵌まらない。

そう。このような会話の真っ最中に。

「って…あれ?と、と、ちょっと、何か揺れてない? って…うわわッわ!!」

局地的な振動を伴う地震が発生するなど経験外だったのだから。

●○●○●



「地震か!? チ、このタイミングでか!」

作為的なタイミングですらある。
私は、そう感じた。
もしもの場合に備え、意識を瞬時に切り替える。

揺れる足場というものは、慣れた者でないと姿勢や集中を危うくする。

ルイズの魔法が暴発して此方に飛んだ場合に備える。
目の端に、キュルケを捉える。彼女もその範囲内に納めるようにして。
剣の丘から楯を引きずり出せるようにする。

案の定、ルイズはワタワタとバランスを失う。
見ていて滑稽ではあるのだが、問題は、その彼女の抱えあげた杖に宿る光だ。
アレの矛先すらも定まらない状況は楽観視できるものではない。

そして、それは見事にすっぽ抜けた。
私の見ている目前で。
その【光】は轟音を立てて、建築物に着弾した。

●○●○●



バランスを失ったルイズの抱え揚げた魔法は、意図せずも杖の先より振り下ろされた。
この初期型魔法の欠点は、集束した魔弾を術者自身が、振り下ろすという動作を持って発射する事に他ならない。

故に、発動後、発射前に下手にバランスを失えば、どのような結果になるか。
言うまでも無い。
単純にすっぽ抜けてあらぬ方向に飛来するのだ。
魔法の失敗よりも性質が悪いのである。

幸か災いか。
人的被害が無いと言う事であるのならば、幸。
すっぽ抜けたルイズの魔法【光】は、エミヤの危惧していた方向には飛ばなかったのだから。

不幸だったのは。
キュルケもルイズもエミヤも。
その【光】が着弾してしまった宝物庫に起きた影響を理解出来なかった事だ。
仕方の無い事でもある。
彼らは、そもそもこの宝物庫に魔法障壁が存在している事実を知らなかったのだから。

そう。土中にて、事を仕掛けた土くれのフーケこそが驚愕した。
通常のメイジでは為しえぬあの【光】の魔法は。
同じく通常のメイジでは突破できぬ魔法障壁そのものを焼き尽くしていたのだから。

――――――――――――――――――――――――

後書きらしきもの

とりあえず、今回はこの辺で。
事態は深刻にゆっくりと進行。

あれ? スピード展開はどうしたんだろう?
ま、いっか。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2006/04/16 17:32

「…な…!?」



フーケは声を押し殺しながらも、その異常に驚愕した。
理解不能だったあの【光】は、如何なる力か。
自分の持ち札の魔法を全て無効化していた魔法障壁を消失させた。
確かに、理解不能なアレを魔法障壁に当てたらどうなるか? とは考えた。
その結果が、自分の思惑に添った出来事になろうとは。
魔法障壁が除去されたのであれば、如何様な手段も採れる。
理由などは二の次だ。それは目的を果たした上で余裕があったときに考えれば良い。
彼女は驚きと共に、次なる一手を打つべく、呪を紡いだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

瞬間の間隙



それを知らなかった事が、失態の一つだとも言えた。
魔法障壁の有無。
その宝物庫には強固な魔法障壁が存在していた。
それは、魔力を持って看過する事もできない領域の高純度の魔法障壁。
そこに魔法障壁が形成されていると言う事は、対象に向けての攻撃魔法や状態干渉魔法を仕掛けて、初めて解かるのだ。
自らの放った魔法が弾かれる様を己が眼で見て理解できる。
そう言った類の魔法障壁が存在していた。
そう。その一刻前までは、確かに存在していたのだ。

●○●○●



「…何よ。あれは…」

キュルケは、呆然とその光景を見ていた。
それが為した事に呆然としたのではなく。
ルイズが魔法を。
それも自分の知る限り四大元素に当て嵌まる事の無い純粋なる光。
それを魔法として扱ったのだ。
その異常さは、トライアングルメイジであるが故に解かろうものだ。
ましてや彼女の主属性は【火】である。
副次的効果として光を操る事も出来るが、あくまでそれは副産物。

「…ルイズ。貴女、一体、どんな魔法使ったのよ!?」

当然の疑問。
キュルケは形相を険しくして、ルイズを問い詰めるべく近寄る。
だが、それは叶わず。
その目前に彼女の使い魔が立ち塞がった。

●○●○●



赤い騎士は、その顔を困ったように顰めながらキュルケの前に立ち塞がる。

「…何よ。私はルイズに話しがあるんだけど」
「…ああ、君の言わんとしてる事も、訊きたい事も解かる。だが、それでも」

そこまで言った瞬間、彼の纏う雰囲気が変わった。
先ほどまでのやる気の感じられない雰囲気では無くなっていた。

「それでも、見なかった事には出来ないかね? キュルケ・フォン・ツェルプストー」

キュルケは敏感にそれを感じ取った。
だが、それでも、彼女もまたメイジだ。
ルイズの使い魔などに臆するわけにもいかない。
無論のこと、あの中庭の光景も覚えてはいる。
それでも、メイジであるのならばその言に食って掛かるのは当然の事だ。

「どういう意味よ」
「いや、そのままの意味だが。訊くなと言ってるだけの事だ」
「…だから、どうしてよ」
「言わねば解からんかね? それくらいは察してもらいたいんだがな」

やれやれと言いたげな口調ながらも、そこには遊びは無かった。
見据える目は、冷たい鉄のような眼差しに変わっていた。
その目は見下ろすように下を向いている。

「…この世界の使い魔の責務の一つとして【主の身を守る】と言うのがあると思ったが?」
「それが…如何したのよ」
「現状、君にルイズの魔法の本質を知られるのは、不利益なのでな。不本意ながら、使い魔としての責を果たす必要がある」

その言葉の意味が解からないほどキュルケは鈍くはない。
だが、それは裏を返せば。

「へぇ…って事は、ルイズの魔法属性は知られちゃ不味い類のものって事かしら」

キュルケは臆さない。
それは彼女自身の性格もあるのだろうが、一番の理由は、生死の瀬戸際に立つと言った経験をしていない事に起因する。
もし、同じ台詞をタバサが聞いていたなら、違う反応だっただろう。

「…御明察。それ故にそれ以上の詮索は不要と言ってるのだよ。それに」
「何よ」
「そんな問答をしてる場合ではなさそうなので…な!」

●○●○●



言うが早いか、動くが先か。
私は、両の手を其々にルイズとキュルケに伸ばす。
そして、無理矢理に首根っこを引っ掴むと、その場から一足で跳躍し、頭上目前の木に飛び乗る。
自重制御程度の魔術は普通に使える。

忘れられがちではあるのだが、私は基本魔術は普通に扱える。
前身たる衛宮士郎は、固有結界とそれからの派生しか使えないのだが。
この身、英霊エミヤは保有スキルとして【魔術・C-】を持つ。
完全なる重力制御は使えないが、自重を制御する程度は可能だ。
高所からの飛び降りの際の一切の負荷無しの着地などを可能にしている。
生前、高所には嫌と言うほどに縁があったが故に身に付いた魔術だ。

地面の突如の隆起。
その蠢く地表は、浮き上がり徐々に造形を成す。
地面に違和感があると思い、気を向けていた矢先にこれか。

周囲に意識と視線を飛ばす。
目視できる位置にメイジの姿は確認できない。
視認可能範囲にその存在が確認できないとなれば…

「な、何よ!エミヤ! 急に…て、何アレ」
「は、放しなさいよ! いきなり何するのよ!」
「ふむ。騒ぐのは結構だが、もう少し安定した場所に立ってからにしたほうが良いと思うのだがね。まぁ、暴れて落ちるのはそちらの勝手だが」

二人の抗議を意の外に置き、状況を推測する。
隆起した地表は人型を象る。
こちらを無視したかのように建築物に対しての破壊活動を開始する。
現状ではその攻撃に成果があるとは認められない。

土を主構成に組み上げたゴーレム。
その体躯としては、三メートル強。
腕回り、足回りともに、重厚な造り。
恐らくは、格闘戦においての攻撃力を重視したものと思われる。
いや、現状の光景から察するに対物破壊が主目的なのだろう。

となると、このゴーレムを作り上げるべく術を紡いだ存在が居るはずだが…

私の魔力感知は、視認可能である事が大前提。
目視した後から、その対象の魔力の流れを解析して把握する。
つまり、メイジ本人を目視出来なければ、意味が無い。

正直、状況が掴めん。
ゴーレムが此方に対しての襲撃であるのならば、話は早いのだが…

「…何アレ? て言うか、何で、こんなところにゴーレムが居て、それが宝物庫を殴りつけてるのよ?」
「さてな。破壊活動を行なうからには目的があるのだろう。…にしても豪快なやり口だな」

さて、如何したものか。
このゴーレムを駆逐するのは簡単なのだが、現状ではいたちごっこに成りかねない。
撃破、再度構成、撃破、再度構成…流石にこの繰り返しは面倒だな。
となると、やはり術者を見つけるのが先決なのだが…
目視できないとなると、超遠距離か何らかの手段での陰行と言う事になる。
だが、前者はありえまい。私の目視可能範囲外となるとそれこそ、超遠距離などと言う言葉で括って良い距離ではなくなる。
それだけの距離を持つAポイントとBポイントで魔力行使を行い術として成立させるなど、どんな大魔法使いだと言うのだ。
まぁ、それがやれるバケモノも居るには居るが。
少なくとも、あの往年のあかいあくまのような領域の存在はここには居まい。いや、居て欲しくない。
後者の場合であるのが妥当か。
…ふむ、ならば、一計を案じるか。

「良し…方策は決まったな。退くぞ。ルイズ」
「へ? って、またあなたはこの猫持ちで…また、こういうことをうぉぉっぉおぉっぉ?!」
「ちょ、いい加減におろしぃてっぇええええぇぇぇぇぇぇっ?!」

二人を猫持ちにしたまま、木々の上を飛び渡る。
木から木へと跳躍する。
無論、手持ちの二人の悲鳴や抗議の声は、黙殺して。

●○●○●



フーケは土中で笑みを濃くした。
あの良く解からない使い魔が立ち去ったのは幸いだ。
あの中庭で放った弓を撃たれては、このゴーレムでは耐え切れなかっただろう。
それが何も無しに立ち去った。
何らかの抵抗があるかとも思ったのだが、此方に攻撃を仕掛けてこなかった。
理由は窺い知れないが、此方には好都合だ。

最も、あれが破壊されても次から次へとゴーレムを作るつもりではあったが。
同時に何体も造るよりは、一体一体別個に作り上げた方が消耗自体も少ない。
此方の目的は、この宝物庫の中身【破壊の杖】だ。
それが奪えるのであれば、そこに至る過程などは二の次、三の次。
ましてやその為の障害が労せずに減った。
それを喜ばずして何を喜ぶというのだ。

フーケは頭上の気配が遥かに遠く、少なくともメイジの魔法が届くような範囲でない所にまで離れた事を知覚した。
それを感じて取ると身を潜めていた土中より姿を現す。
土中にあっても魔法を併用するれば窒息などはしないが、圧迫感などはどうしようもない。
解き放たれた開放感から、一度身体を伸ばすと改めて宝物庫を見やる。
やはり、あの魔法障壁が綺麗に消え去っている。

「…あのお譲ちゃんも使い魔同様に不可解って事かしら…ま、此方としてはありがたいけど」

顔に凶笑を刻むと術を紡ぐ。
一度は弾かれた【変質】の魔法とゴーレムの単純物理攻撃の併用。
魔法障壁さえなければ、無機質物体が彼女の扱う物質構成変質弱体化を免れる方法などは無い。
そして、脆くなった宝物庫の壁など、このゴーレムの一撃に耐えれる筈がない。
これで詰みだ。

彼女のその確信は、もの見事に期待を裏切らなかった。
ゴーレムの豪腕が壁を打ち崩したのだ。
無論のこと、全てを打ち崩す等と言う雅の無い真似はしない。
彼女の変質の魔法が弱体化させた範囲は人がひとり潜り抜けられる穴を穿つ程度だ。
円状の穴が宝物庫に穿たれた。

フーケは、その中に身を滑り込ませる。
事は迅速に行なわなければならない。
手早く、目的の物に近づく。
親切な事に、いや、そもそも見学用にと、配置されている宝物庫の内部は整理されている。
ありがたいことにネームプレートなどで置かれたモノの名が解かる仕組みになっている。
だから、彼女は一切迷う事無く【破壊の杖】を探り当てる事が出来た。

「…これが【破壊の杖】か…なんか、名前負けした外見ねぇ…」

手に取るその感触は金属質で冷たい。
金属製の魔法の杖とは珍しいが、これで殴打した所で破壊というには、物足りないにも程がある。

「…なんか特殊能力でもあるのかしら…? ま、いいわ。とにかくここからてっ…!?」

【破壊の杖】を引っさげ脱出しようとした瞬間、宝物庫全体が激しく揺れる。
轟音が響く。
フーケは咄嗟に宝物庫から飛び出る。
状況を確認せねばならない。
そう思い、飛び出した彼女の目に映ったのは。
上半身が綺麗に消し飛ばされたゴーレムの姿だった。
いや、それのみならず、その背後の光景もまたもの凄まじいものだった。
一直線上になぎ倒された木々。
地面は螺旋状に抉られた傷を刻んでいる。

「…な?! 何が一体?」

驚愕のみが彼女を支配した。

――――――――――――――――――――――――――――――――

後書きらしきもの

さて、ゴーレムに何が起きたのかは次回の方向で。

のらりくらりと書き進めて行きます。
次回は久しぶりの弓兵さんの出番です。

でわ、次回の更新にて。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2006/04/05 22:25

「…な?! 何が一体?」



 フーケの目に映ったのは、自らの従僕たるゴーレムの惨状。
 咄嗟に脳裏に過ぎったのは、例の中庭の一件。
 あの小娘の使い魔が、なにかしらを仕出かしたのだろうか?
 いや、だからと言って、姿も見えなくなったそれが何をしたと言うのだろうか。
 理解の及ばぬ事の連続。
 だが、彼女の不幸は。
 この瞬間に身を晒してしまった事に他ならない。

 鷹の目は、遥かに離れて藪を越え、その姿を捉えていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――

呼ばれ慣れた名は弓兵アーチャー



 時間は僅かに遡る。

 エミヤは頭に思い描いた想定の元に、その場を即時に離脱した。
 木々の上を飛び渡りながら、お荷物・・・ 二つをその両の手に引っさげて。

 宝物庫のある区域は、学院の中でも奥まった所である。
 その周囲を木々に囲まれ、一番近い教員棟からもかなりの距離がある。
 ゆえに滅多な事では生徒たちは近寄らない。
 人目に付かないのは、単に遠い事と樹木等の障害が多く視界が悪いがゆえの事だ。
 ルイズとキュルケは気が昂ぶりすぎて、その辺を一切合財無視して突き進んでいった。
 往々にして、人間、テンションの高い時には気がつけないものである。

「ちょッ…! いい加減に降ろしなさいよ!」

 猫持ちにされた彼の主が抗議の声をあげる。
 柳が受ける風のように、その声を黙殺する従者。
 その目は、ある一点を後ろ目で捉えたままだ。

「…ふむ、まぁ、これだけ離れれば問題無しか」

 ある程度の距離を稼いだ事を確認すると、エミヤは跳び渡っていた木々の上から木の葉が地に舞い落ちるように軽やかに地面に降りた。
 それと同時に両手のお荷物から手を離す。

「イタッ!」
「つぅ…何するのよ!」

 当然のように突然吊り上げられた状態から、手を放されれば、後は重力に従うだけ。
 受身も取れずに尻餅をつく二人の少女。
 当然のように文句が口から出る。

「ハテ? 降ろしてくれと言われたから降ろしたまでの事だが?」
「いきなりやられたら受身も取れないでしょうが!」
「それは私だけの責任でもないだろう。地に足の着く高さで手を放したのだから、後は君らの運動神経の問題だと思うが?」

 抗議の声もどこ吹く風。
 エミヤは軽口を叩きながらも、その視線はある一点から動いてはいない。
 それに気が付かない彼の主は、抗議の声を挙げ続ける。
 キュルケは、自分が口を挟む余地がなさそうだと見て取ると二人を興味深そうに眺めはじめた。

「っ! アンタ、使い魔でしょう?! 少しは主人を敬いなさいよ!」
「ふむ。では一つ聞くが。あの状況、他にどのような選択肢があったかね? マイ・マスター」
「え?」

 やれやれと言わんばかりに肩を竦める従者は、自らの言に回答をするかのように言葉を繋げた。

「現状、この身を律するのは、君の使い魔であると言う事だ。そして、この世界の使い魔の責務の一つは主の身を護る事があったと思うが? よもや、忘れてはいまいな」
「…それが如何したって言うのよ。そんなのは使い魔として当然でしょ」
「では、それを踏まえて上で、私の先の状況での判断に間違いがあると思うかね?」

 ルイズが考えるように黙り込む。
 そして、従者の言わんとする事に気が付いて顔をしまったとばかりに顰める。
 エミヤは目の端にそれを捉えて、顔に苦笑を刻む。

「つまりはそう言う事だ。あの場でゴーレムを殲滅するのは容易いが、それ以前に君ら二人の身の安全を確保しただけの事だ」
「それは解かったわ。でも、戻らないと」

 従者の主の身を案じての行為だったと告げる言葉に、主自身が戻れと否定を促がす。
 エミヤの表情が訝しげなものになる。

「…それは別に構わないが。理由を教えてもらえないか?」
「あのゴーレムが何か解からないけど、宝物庫への襲撃なら、それを何とかしないといけないでしょう?」

 ルイズは自らの従者を見据えてそう諭す。
 あの場に居合わせたのなら、それを如何にかするべきだったのだと。
 赤の従者はその主の物言いを受けても尚、平然。
 そして、何事でもないかのように言い放った。

「さて、別にこの場で居ても、それぐらいなら如何にでも出来るのだがね?」

 ルイズはその従者の言に、表情を訝しげに歪めた。
 そして、即座にその言葉に反意を示した。

「何言ってるの! これだけ木が生い茂っていて良く見えない上に、どれだけ離れたと思ってるのよ!」

 彼女にとっては、最早、この位置からでは打つ手が無いと思われた。
 自らが虚無の使い手であったとしても視認出来ない標的に有効な手段など思いつかない。
 無論、これは『今』の彼女の事なのだが。

 エミヤはその鷹のような眼差しを更に一際鋭くする。
 見据える先は先ほどから揺るがぬ一点。
 そして、揺るがぬ断定の一言で主の言を切り捨てた。

「クッ――― このたわけ。この身を君らと同じ尺度で測るな。この場を以って尚、宝物庫の位置は存分に私の射程内だ」
 
 瞬間、世界の空気が動いた。
 

●○●○●


 
 さぁ、これよりは余分な思索は不要。
 想定の元に組み立てた事柄を実行に移すのみ。

 遠方の標的の捕捉。
 障害遮蔽物による標的捕捉の難度…通常状態ではやや難有り。
 魔術により視覚視認能力の向上を図る。
 
「――― 同調 開始トレース・オン

 眼球に強化の魔術を叩き込む。
 所有スキル・千里眼:Cを強化……成功。
 標的捕捉に対するマイナス修正をクリア。
 ――――― 標的の捕捉に成功。
 
 本目標・宝物庫への襲撃を行なったゴーレムを確認。
 副目標・それを操るメイジの姿は現状では確認できず。
 宝物庫壁面に内部侵入可能な損傷を確認。

 状況から推測。
 副目標は恐らくその内部に侵入し、目的を達成する為に物色を行なっているものと思われる。

「…エミヤ?」

 ルイズが私に声を掛ける。

「なんだね? 目的の捕捉が終わったから次の段階に移りたいのだが」
「さっきの言葉、どう言う意味?…ここからでも宝物庫が射程内だって…」
「そのままの意味だ。最初に君に名を告げた時にも言ったと思うが?」
「……?」
 
 言葉を交わしながらも思考は一つに専心する。
 自己の内界に潜り、弓と矢をこの世界に引き出す用意をする。

 心象世界【無限の剣製】より、武装を選択。
 今回の目的を鑑みた上で必要な武装を算出。
 
「私の呼ばれ慣れた名は、弓兵アーチャーだと」

 かつて在りし日の姿を形容するかの如くの洋弓。
 番える鏃の名は【偽・螺旋剣カラドボルグ
 心象世界より、一息で武装を取り出す。

 手に宿る紋章が光を放ちだす。
 武器を握る事での自発発動確認。
 あらゆる武器を扱いこなす紋章の異能。
 されど、現状の武器に対しては不要。
 この弓も矢も慣れ親しんだ我が身、英霊・エミヤの武装。

 鏃を弓に番える。
 鏃に込める魔力と共に引き絞る。
 そして、魔弾に言霊を込める。

「――――― I am the bone of my sword.我が骨子は捻じれ狂う

●○●○●



 茂る木々の中、その弓兵の為した行為を目撃したのは二人だけだった。
 ルイズとキュルケ。
 この二人の少女は、改めてこの目の前に立つ存在の恐ろしさを実感させられた。

 それは僅かに時間にしてみれば、一秒にも満たない時間の出来事だった。
 だが、目撃した当人たちにしてみれば、その光景が一瞬のものであるかどうかなど二の次だ。

 呼ばれ慣れた名が弓兵。アーチャーであるとその騎士は言った。
 先の中庭での一件でも、同じ弓と鏃を番えたその赤い騎士の真価はここにおいて明かされたのだろうか。

「――――― 偽・螺旋剣カラドボルグ
 
 呟く言葉は確かに世界に響いた。
 真なる名を解き放つ。真名解放。
 『硬き稲妻の剣』とも称された剣。カラドボルグ。
 捻じれたこの剣の名もまたカラドボルグ。
 英霊エミヤが正しき形のカラドボルグの骨子を捻じ曲げ作り挙げた同一にして歪なる剣。
 その形状は剣などという形容に当て嵌まらない。
 斬る等と言う概念はこの螺旋の剣にはありえない。

 正しく捻じれ狂った剣。

 その捻じれた稲妻が弓より放たれた。
 瞬間が永遠に引き伸ばされるかのような感覚。
 少なくとも、それを見ている二人の少女はそう感じた。

 語られぬ別の物語で、この弓兵は四キロ弱離れた目標を一秒弱に満たぬ時間で射抜いた事がある。
 それはこの弓兵が基本で為す事が出来る技巧だ。
 そう。この世界において英霊エミヤがその主との契約で得た紋章の異能など無くとも。
 この錬鉄の英霊に十全なる戦闘手段が存在していると言う証明に他ならない。

 世界が啼く。
 大気が捻じり裂かれる。
 空気が捻じられ切裂かれる際に放つ轟音は世界の泣き声とも言えるだろう。
 少なくとも自然に発生し得る現象の中で、弓より放たれる鏃が大気を捻じり裂くなどという事は無い。
 だが、今、この世界はソレを知った。弓より放つ魔弾が空気を裂くと言う事を。
 ゆえに世界は悲鳴を、いや、歓声を挙げている。

 螺旋の形状の剣は、放たれると同時に高速の回転を伴った。
 抉られる空気は真空を生み出す。
 その剣は纏う魔力の余波を雷光に変えるかの如くに帯電し。
 標的を射ぬかんが為に疾走する。
 その標的との間にあるあらゆるものを捻じり裂き、貫き砕き、薙ぎ倒して。
 時間などは計測するまでもない。
 
 そして、正しく魔弾が宝物庫の前に鎮座するゴーレムすら抉らんとするその刹那。
 その魔弾の射手がもう一つの引鉄を弾いた。

「――――― 壊れた幻想ブロークン・ファンタズム

 魔弾が内より弾けた。
 それは容赦無く他愛無くゴーレムの上半身を消し飛ばした。
 それのみならず空気がその余波で振動する。
 爆音が響いた。

 時間にすれば一秒にも数えられぬ時間。
 その時間の中で起きた出来事だった。

●○●○●



 そして時間は戻る。
 
 フーケは目を疑った。
 ゴーレムを容易に粉砕された事もそうだが、何よりも彼女の目を惹いたのは、その背後の燦々たる情景だ。
 頭の脳裏に過ぎったのは、あの中庭の一件。
 だが、しかし。
 姿も見えないこの距離で。
 一体何をしたと言うのだろうか。

 そう。彼女・・の目からは何も見えないのだ。
 あくまで視認可能範囲でなくては魔法による物体透化なども効果が無い。
 遠隔視は風の属性に卓越した者の領域。
 攻撃魔法はよほど特殊な例を除き、目視による視認可能が効果範囲の基本だ。
 つまり、一般的なメイジでは、スクウェアクラスと言えど、姿すら見えない場所から攻撃を加えるなどと言う事は、ほぼ有りえない。

 だが。フーケは知らない。
 そう、知らない。
 ゼロのルイズの使い魔が如何なる存在で。
 どれ程の能力を秘めた存在であるのかを。

 遠く離れたこの位置を。
 その鷹の如き眼が逃さずに捉えていた。

――――――――――――――――――――――――
後書きらしきもの

 サイト登場の番外編を現在構想中。
 構想だけで書ける見込みは全くありませんが。
 ネタは考えている時が一番楽しいと思う今日この頃でした。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2006/06/19 01:24

「…捉えたぞ。メイジ」



 その弓兵は、眼に標的を捉える。
 目視した標的であるのなら、この弓兵には、無限に近しい必殺の手がある。
 それを行うのは非常に容易い事だ。
 見据える標的。
 次の一手こそは、『必ず至る』
 至る先こそは、いまだ見えぬが。

――――――――――――――――――――――――――――――――

策の一矢



 わたしの目の前で起きた出来事は,自分の使い魔の異常さを際立たせるに足るものだった。
 現に、わたしの隣に居るキュルケも目を見開いたままだ。
 茫然自失、唖然と言う言葉はこういった時のモノなのだと実感してしまった。
 この場に在っても、存分に射程内だと言った言に間違いがない事を証明して見せたのだ。
 それは、わたしが知る弓を扱う技術とは、大きくかけ離れたものだった。
 …いや、真実、彼をわたしたちの尺度で推し量る事、それ自体が間違っているのだろう。
 
 わたしの頭の片隅が冷めた思考でその事を想い考える。

 英霊。
 彼は言った。ある一つの世界で伝承を為し、語り継がれる英雄が昇格する霊的存在がそれだと。
 彼はその中の亜種であるとは言った。
 だが、それはこの光景の前では霞む言葉だろう。
 弓を番え、そこより放たれた一矢は、捻れた剣。
 確か、その剣の名をエミヤは呟くように告げた。
 偽・螺旋剣カラドボルグと。

 いや、それだけではなかった。
 『I am the bone of my sword.我が骨子は捻れ狂う』。
 そう、そんな言葉だ。
 今ならば解る。アレは詠唱だ。
 魔法を扱う際に必要とされる詠唱。
 彼は魔法は扱えないと言った。
 ならば、あのすさまじい威力の剣矢を作り上げるのは、いかなるモノなのだろうか。
 敢えて言うなれば、錬金の魔法と同義だとエミヤは誤魔化すように言った。
 …心のイメージ。錬金は,変換する物質を頭に思い描かねばならない。
 魔法には術者のイメージが大きく関わる。
 心の中で想定する結果を。考え、導き、形を成す。そして、詠唱をもって世界に引き出す。
 虚無の形式であっても変わらぬ共通原理。
 …そう。あの剣を心の中で作り上げ、それをこちらの世界に引き出す為の詠唱。
 それがあの言葉なのだろう。
 
「…さて、ルイズ。時に聞くが,あの操っていたメイジは普通に処理してもかまわんのだな?」

 …アレ? わたし、何を考えていたんだろう…?
 エミヤの声が耳に届いた瞬間、頭の中で考えていた何かが消えていってしまった様な気分がする。
 よく、わからない。わたしは一体何を考えていたのだろうか。
 駄目、駄目! よく解かりもしない事を思い返そうとしても重い出せるわけがないのだから。
 必要なら、またいつかきっと思い出せるし、その考えに至れるはずだ。そう信じよう。
 ともかく、今の状況に刺し向かわなければ。

「…見えてるの? 操っていたメイジの姿まで」
「当然、捕捉しているさ。爆発の余波で,宝物庫内にも相当な空気振動や爆砕音が感知されたのだろう。あわてて状況確認のために飛び出してきたさ」

 エミヤは軽くそんな事を口に出す。
 その表情には相手の失策を笑うかのように嘲笑が浮かんでいる。

「いやな笑いを浮かべるのね…何が可笑しいのよ?」
「なに。簡単な事さ…あそこで姿を現すくらいなら、身を潜めきっておくべきだったと哀れに思ってな」

 その手には再び矢が握られている。

「って、待ちなさい! またそんな物騒なもの取り出して、何をする気よ!?」
「何をするも何も……君の言う、宝物庫への襲撃者に的確な対応をするまでだが?」
「…先に聞くけど、手加減は出来るんでしょうね? 死んじゃったら、いろいろ大変なんだからね?」
「それは難しいな。遠距離射撃用に使える武装の殆どは致死性の高い武装だ。【殺さない剣】や【殺せない剣】も使えない訳ではないが、それらは射撃用には骨子を曲げてないからな」
「なに言ってるかよくわかんないけど、生け捕りには出来ないのね?」
「可能、不可能で言えば,可能なのだが…この位置からでは難しいと言うところだな」

 エミヤは、やる気を無くした様に構えを解く。
 どうしたのだろうか…?

○●○●○


 やれやれ…生け捕りにしろと来たか。
 全く面倒な事を言う。
 ここでさくっと射抜きさっておけば、後腐れが無いと言うのに。
 現に相手も早々安い相手ではないようだ。
 懐からロッドを取り出したようにも見える。
 魔法による退却を試みるのだろう。
 この位置からでは,射抜いて射殺する以外に止めようが無いか。

「ちっ…全く、ここで射抜いておけば、面倒は無かったんだがな」
「どう言う事よ」

 全く、視界内に収めているのならば、無数の手があったのだがな。
 どういった術理かは,解らないがロッドを地に突き立てると同時にその姿が砂埃を巻き上げ視界内から消え失せた。
 空間転移とは違い、姿を隠蔽し逃げ失せる類の魔法だろうが、目視外に逃げられては採るべき手段が無い。
 原則、私の持つ追撃系の宝具は相手を視認しているか、知覚している事が前提だ。
 必ず当たる必中の魔弾は,当てる相手がいるからこそのモノだ。
 心臓を穿つ呪いの魔槍も同じ事。
 アレは投擲に使用した際に絶対命中の因果を紡ぐのが本意であるが、相手を知覚していなければ呪を紡ぐ事が無い。
 放つ前に姿を隠されては、当てる事すら間々ならないのだ。
 そもそも、あの手の武器は問答無用の必殺系であり、手加減などと言う言葉とは大きくかけ離れたものだ。
 
「ああ、君の目では目視出来てないから、わからんだろうが…君と問答してる間に逃げられたぞ」
「ぇええ!? だ、駄目じゃない! 逃げられたら、この惨状の言い訳にも使えないのよ!?」

 言わんとしている事は充分に解かる。
 解かるのだが…致し方あるまい。
 解かりやすく噛み砕いて問題点を列挙して説明するとしよう。

「むぅ…しかしだな? 手加減して捕えるにしてもだ。先も言ったように遠距離用の武器で手加減の効く武装に持ち合わせは殆ど無いし、影縫いのような特殊術式を付加させた武器が使えないわけでも無いが、それは、射程の問題で不可能だ。普通の武器をこの距離からの投射で威力を保ったまま射撃に使えば,剣弾が崩壊するか着弾時の衝撃で対象がショック死しかねん。実際の話、手加減の効く威力で遠距離の相手を射抜く。と言うのは、私にも困難な技巧でな」

 実際のところ、生前もそんなレベルの手加減を試みた事はあったが。
 実践できた記憶は無い。結果として『生きている』程度であって、理想的な『無力化』状態にせしめた事など殆ど無い。
 いや、真実、理想的な無力化と言うのは、反撃等も試みる事が出来無い状態にしてしまう事ではあるが。
 それは【セイギノミカタ】の目指す『無力化』では無い。
 だが、反撃可能な余力を残すような手加減をしては、いずれ手痛い反撃を見る事になる。
 背後から斬りかかられる、自分がその地を離れた後に再び相手が暴威を振るう。
 誰も彼も殺さないで,誰もが平和であるように,相手を殺さずに刃を振るった結果の一つ。

 っ!…カット,思考停止。これは余分だ。今ここに居る英霊・エミヤが思い返すべき事柄では無い。
 ここに必要とされるのは、虚無のルイズの使い魔である存在だ。
 間違っても、守護者や『セイギノミカタの残滓』ではない。

 思考の波を元に戻す。
 当面の問題は、そこにある事ではないはずだ。
 
「…まぁ。逃がすなと言うのであれば、それこそ大出力の一撃を持って穿てば,真実、空間転移か次元剥離による防壁クラスでも無い限り、確実に逃がさずに屠れるのだが」
「屠るなって言ってるでしょ!?」
「なら、仕方あるまいな。ここでは見逃すしかない。次があるかは別にしてもだ」

 結論は出た。
 現状、殺さずに相手を逃さぬ手段に持ち合わせがない以上は致し方ない。
 ふむ、この事を反省し,遠距離用射撃非致死性宝具を骨子改変で鍛ちあげておくか。
 孔周の三宝剣ならば、足止め的な意味合いには充分だろう。
 アレこそは殺せぬ剣の代名詞なのだし。

○●○●○


「ところでだ…マスター。いつまで彼女を放置しとくのかね?」

 横目でルイズを見遣り、更にその横で放心してるキュルケを一瞥する。
 思考を戦いに置くべき身から、平時の自分へ切り替える。
 キュルケには、もう一押ししておく必要がある。
 丁度良い実例をを目前で見せつける事が出来たのだ。
 ここでもう一度先の問いを重ねて置くべきだろう。

「…って、キュルケ? 正気に戻りなさいよ!?」
「……はっ!? いや、あんまりにも、現実感に欠けた光景を見たと言うか…何よ、アレは!」

 正気に返りたるや、即座にルイズの方を引っつかみ問い詰めるキュルケ。
 うむ、自然な反応だ。
 従来の自分の持ちえる知識で解決できないなら,少しでもそれを知ってるであろう人物にその疑問の解消を促す。
 足りない知識を他で埋めると言うのは実に正統な行為だ。
 それが正解を得るに足る相手であるかはともかくとして。

「ちょ、っちょっと、放しなさいよ! 痛いってば!」
「話しなさいよ。ルイズ!…何よ,貴女の使い魔は!あんな馬鹿げた力の持ち主だって言うの!」
「そんなのわたしが知りたいわよ! エミヤの力がどの位凄いのかなんて,わたしが推量出来る事じゃないもの!」

 うむ。かしましいとは、女が三人寄った状態を揶揄した言葉だが。
 二人でも存分に通用するのだな。
 それはさておき、私の要件を済ませて置くべきだな。
 キュルケに向かい直し、言うべき言葉を告げる。
 
「まぁ、それはともかくとしてだが。キュルケ・フォン・ツェルプストー。先にした質問をもう一度重ねようと思うのだが」
「…な、何よ…? 先にした質問って」
「思い当たらないか。なら、改めて問おう。…我が主人であるルイズが正しく魔法を使った事を他言無用に願いたいのだが」

 キュルケの顔が引きつる。
 先に言った言葉、その真意とこの眼前の光景を照らし合わせれば,言うまでも無い事だが。
 そして、彼女の口から漏れ出でるような本音が呟かれる。

「……それって、かんっぺきな脅迫よね」

 失敬な事を言う。
 手札が揃ったから、それを提示しただけに過ぎんのに。
 さて、逃がした相手がどう出るやら。
 こんな騒ぎを起こしてまで手に入れたかった宝物とはいかなる代物か。
 急ぎ調べる必要があるな。
 後始末や事後報告を含め、オスマン老の所に向かうべきだな。即急に。

――――――――――――――――――――――――――――――――

後書きらしきもの

 そんなわけで、ゆっくりと事態進行。
 全く場面が動いていない真実に気がつけ私。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2007/01/10 01:32

「…なるほど…の」



 オスマンは、その報告を聞くと表情を曇らせた。
 この学園の宝物庫には、それと言った価値のある物はない。
 価値があるものとは、その利用方法を含めて言うものだ。
 そう、あの宝物庫に飾られたもので、それ程の価値のある物は少ない。
 あの『破壊の杖』も、その利用方法が解らないからこそ死蔵されたものだ。
 被害報告を聞いて、それが賊の盗みあげたものと知り。
 オスマンはその脳裏にかつてを回顧したのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――

『破壊の杖』



 被害報告は、どちらかと言えば副次被害の方が多かったと言うべきだろう。
 宝物庫から、消えた物品はただ一点のみ。
 その物品の名こそを『破壊の杖』
 オールド・オスマンが数十年前に手に入れたとされる曰く付きの品。
 
 オスマンはそれを『破壊の杖』と名づけ、自らの治める魔法学園の宝物庫に封じた。
 その真実を。その眼に収めたのはオスマンのみである。

 その名称の由来は、オスマンの知るどのような杖とも違っていたことにあるのだろう。
 メイジとして名を馳せたその彼ですら知りえぬ『それ』は、立ち向かったワイヴァーンの顔を一撃の爆炎で吹き飛ばしたのだ。 
 可能、不可能で論ずるのならば、それはオスマンにも充分に可能な領域ではある。
 だが。
 その行為を一切の詠唱なし、完全無詠唱で行えるかといえば、否。
 オスマンの知る限り、魔法は呪文詠唱を行う事で、世界に満ちる数多の『粒』に干渉するものだ。
 呟く程度の言葉でも詠唱は必要となるもの。
 『鍵開けアンロック』のような基礎魔法であっても変わらない大前提だ。

 故に。
 オスマンは、あれを魔法ではなく杖の持つ力だと認識した。
 敵に差し向かい肩に背負い持ち、呪文を必要とせずに爆炎を放つ杖。
 その二振りのうちの一つが盗み出されたものだった。
 もう一振りを盗み出されなかったことが幸いだとオスマンは心の中で安堵した。

 残された一振りは、その主と供に眠っているのだから。

○●○●○

「…それで、何が盗まれた物かは把握できたのか?」

 私は、ルイズと一応の当事者でもあるキュルケを連れて、あの後、即座にオスマン老のところに向かった。
 賊をあそこで屠りさって置けば苦労は無かったのだが、生かしておけとの命を受けた以上は、射抜くことも出来ず。
 結果、相手を取り逃がす事になった。

 状況を鑑みてみれば、恐らくは内部に大きな係わりを持つ者だと思われる。
 先ず、その場所を知っている者であるという事。
 学園の敷地内を知っていなければ、あの位置に宝物庫があると言う事は解かるまい。
 内部情報、建築物の立地を知る事が出来、かつ、宝物庫に納められた物品を知る事が出来る者でなければならない。
 
「ふむ、一品のみじゃな」
「一品? 賊の狙いは、それのみだった。と言う事か?」
「じゃろうな。……ワシが所有する、つまりはこの学園の宝物庫に納められた逸品、かつ、人の噂やかつての喧伝を踏まえた上で目ぼしい物といったら一つしかないのじゃよ」

 オスマン老は逡巡を交えた溜め息の後、その名を告げた。

「破壊の杖」
「ずいぶん大それた名だな。それほどのマジックアイテムなのか?」
「さてのぉ…その名をつけたのは、若いころのワシじゃし。今の価値観で見直せば、違う名になるかも知れん。が、それでも、その杖の名は【破壊の杖】じゃ」

 そう言うオスマン老の目には、遠い何かを思い浮かべる色が浮かんだ。
 つまりは、そう名づけるに至る何かがあったという事だ。
 しかし、今は、それはさほど重要な事柄ではない。
 
「しかし、アレを盗むとは、土くれのフーケもよくわからん趣向をしとるのぉ……」
「待て。オールドオスマン。……聞き慣れない固有名詞が出たが。下手人が解かってると言う事か?」
「現場、宝物庫内部に足を踏み入れたのならば、よく解かろうもんじゃ。噂に違わぬ。と言う奴でな」

 やれやれと言わんばかりに溜め息を吐いたオスマン老は、懐から小さなロッドを取り出す。
 それを手首の返しのみで振るう。

「『映せ。遠見の鏡』」

 それは詠唱。
 ある一つのマジックアイテムの始動を促す言葉だった。
 姿見であった筈の鏡に、通常映らざる風景が映し出される。

「ふむ、遠隔視を可能とした魔道具か。察するに、この場に居ても学園内であるのなら……」
「さよう。我が目の届かざるところは無い。と言う所じゃな……これがどういうことを意味するか解かるかね?」

 眼光鋭く、オスマン老の目は此方を見据える。
 その目が既に語っている。
 お前ら、何をしでかした? というか下手人じゃろうが。 と。

「ワシャ、君ら二人に、申し含めといたと思ったんじゃがなぁ?」

 言うまでも無い。ルイズと私に向けての言葉だ。
 巻き込まれた形となるキュルケの顔には、不可解の表情が刻まれている。

「ま、その件については後じゃ。内部に問題の箇所があってな。見るが良い」
「なるほど。こう言う事か」

 一見は百聞に勝る。
 その鏡に映しだす光景に答えがあった。
 鏡が映すのは宝物庫の内部。

「【破壊の杖、確かに頂戴いたしました。土くれのフーケ】…犯行を行ったことを刻んでいったんですか?」

 ルイズがその目に留まった文字を読み上げた。
 それはいわゆる犯行声明というものだ。自身がこれを行ったとする示威行為。

「いわゆる強迫観念行動という奴だろうな。自己顕示を行う事で自らがいるということを喧伝したいのだろうよ。犯行を示す証拠をわざわざ刻むのでは盗人としては三流以下だな」
「じゃが、土くれのフーケは一貫してこれを犯行現場に犯行声明としてきざんどる。ワシらには理解できん思惑があるのだろうて」

○●○●○



 オスマンはこの件について、説教を行うつもりではあった。
 だが、好ましくない状況と言うものは確かに存在している。
 キュルケ・フォン・ツェルプストー。
 彼女が居るのでは、おそらくは宝物庫外壁破壊の主犯とおぼしき騎士にも、その主についても踏み込んだことを言う事が出来ない。
 それでいて、彼女はこの件の重要参考人の一人。
 この場から外す事もできない。

 オスマンはとりあえずは当面の目的を片付けることにした。

「……とにかくじゃ。君らがあの現場を目撃したには違いない。改めて問うが、襲撃してきたゴーレムを操るメイジは確かに見たのじゃな?」
「私たちの目には全く見えませんでしたが……私の使い魔の言を信じるのであれば…って、本当に見たのよね? エミヤ?」
「それは間違いなく。遠距離の標的捕捉と把握は弓を扱い力と為す者の基本だ。壊れた壁の内部から飛び出し、土中に消失するまでしっかりと確認したが」

 オスマンの目が咎める様にエミヤを見据える。

「……確認まで出来ていたのなら打つ手はあったんじゃないのかのぉ?」
「いや、マスターが殺すな と厳命したのでな。処分してよかったのなら後腐れなく瞬時に屠っておいたのだが」

 オスマンの表情も浮かない。
 それもそうだろう。
 この【破壊の杖】が盗まれた事が問題ではない。いや、問題ではあるのだが、他に比べたらという事においてだ。
 そう、オスマンが問題視するのは【土くれのフーケ】の犯行であるということ。
 その罪状から、フーケは王国政府からも捕縛の令が出るほどだ。
 後ろめたいことがあるわけではないが、オスマンは王国に属するメイジ、貴族メイジがさほど好きではない。
 然るに、彼らが関与する余地をなるべくであるのなら減らしたいのがオスマンの本音だ。

「面倒じゃのぉ……」
「何、そうは言うが犯人の絞込みは簡単だろう? 内部の者の犯行以外に考えられんのだからな」
「……どういうこと? 犯人が内部の者って……」

 少女たち二人の視線がやや怯えを窺わせるかのようなものとなる。
 その視線を受ける赤い外套の騎士は何事でも無いように続きを述べる。

「この学園の宝物庫は外部の者に簡単にわかる位置でもあるまい。何も下調べも無しに外部から侵入してピンポイントと言う訳にはいかんだろう。前もって何らかの形でこの学園の建築物の立地の詳細を手に入れることが出来る立場となると学園の関係者が一番の容疑者候補となろう」
「…確かに理に適うのぉ。外部には宝物庫の正確な所在などは公開しとらん……ふむ、そうなると確かに絞れてくるのぉ」
「加えて言うのならば、高レベルの術者から該当者を絞るよりは。逆に表向きは能力が低いもの、もしくは魔法が使えない者の方が濃厚だな」
「何故、そう思うのかね? ゴーレムを自在に操るのならば、術者としては優れた存在じゃ。それを何故、逆としてみる」
「自己顕示欲が強くとも、秘すべき時は秘すべきものだろう。内部情報を集めるのであればなおのことだ。自らの名を示すのは盗みに成功した時だけ。と考えるのが妥当なのだがね」

 オスマンの顔が思案顔になる。
 幾人かの候補に絞り込む事が出来る。
 彼の脳にはこの学園に籍を置く者、そのほぼ全ての経歴が叩き込まれている。
 そうして彼の脳裏には一つの解が導き出されていた。

「……心当たりはある。キュルケ・フォン・ツェルプストー、ルイズ・フランソワーズ・ヴァリエール。両名は以降の会話を聞くのであれば、これを絶対に秘する様に。約束出来ないのであれば、退出したまえ」
「「…ハイ?」」
「私はいいのかね?」
「……言うまでもなかろう。君には、ヴァリエール嬢の使い魔としての責務を果たしてもらおう。ワシが造ったあの宝物庫の壁を壊すのには、どうしても【それ】が関わってそうじゃからな。敢えて言うのならば、フーケが【それ】を見たということならば…と言う事じゃよ」

 オスマンの眼が陰鬱な色を帯びて瞬かれた。
 そうして、その口から最も疑うべき濃厚な容疑者の名が告げられた。
 

――――――――――――――――

後書きらしきもの

私は生きてます。
駄作の駄文で超スランプ。
それでも後もう少しで第一部が終わるので血を吐きながら頑張ろうと思います

いや、いろんなところで私を呼ぶ声がありました(汗
生きてます。但し、他が死にましたが(ぇ
てか、一度PCがぶっ壊れてそのときにSSデータがぶっ飛びまして。
やる気などその他諸々が壊滅的になりました。

それでも、それでもまだ見捨てられてないのなら、もう少し頑張ってみようと思う次第です。
では、次回更新でお会いしましょう。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨
Date: 2007/01/23 18:30

「…ミス・ロングビルじゃ」



 そして告げられた名は。
 ルイズにとっても、エミヤにとっても接点の無い人物の名だった。
 それを幸いとするかどうかは定かではない。
 名を知るという事は。
 そこから因果が紡がれる事でもあるのだから。

――――――――――――――――――――――――

贋作者



「そのフーケと思しき容疑者だが……何故、そうだと思うのだ?」
「まぁ、それは壁に耳ありという奴でな。そこに至る経緯は、査問の場で言う事になるじゃろう」

 オスマンの顔は苦虫を噛み潰したような表情を刻む。
 それもその筈だ。
 最有力の容疑者に当てはまるのが自らがその傍らに置いた職務を代行する役割すら与えた秘書であるのだから。
 だが、逆に頷くしかないほどに、怪しむべき札が揃いすぎているのだ。
 そして、それは状況証拠や推測にしか過ぎない。
 故に。直接問い質す以外にそれを確たるものとする事は出来ない。
 オスマンの胸に侘しさが募り、それが呟きとなり洩れ出でる。
 
「……やはり、尻を触った程度を脅しに使って秘書職の斡旋を願うのではなぁ…イイ身体しとったのに残念じゃ

 エミヤの目が一瞬、そう一瞬、見開かれる。
 そう、それは聴いてはいけない事を聞き知ってしまった咎人の如く。
 オスマンの呟きこそは聞こえなかったものの、ルイズは使い魔の微妙な表情の変化には気がついた。

「どうしたの? なんか気にかかることでもあったの?」
「いや、なんでもない。何でも無かった事にしておいてくれ……」
「……まぁ、良いけど。で、学院長、如何なさるのですか? やはり、呼び出して犯行の有無を?」
「それじゃがな。呼び立てる事は出来よう。このタイミングで呼び出しに応じん事の不利益は、犯行を行った本人が理解しとるじゃろうし」

 そう応えるオスマンの顔はやはり険しい皺が刻まれている。
 幾度かの思考実験を頭で重ねたのか、少しの間を挟んで次を続ける。

「じゃが、それでは【破壊の杖】の所在を聞き出すにまではいたらんよ。おいそれと自分が犯行を行ったと認める筈も無いしの」

 それに同意するかのように後を繋げて発言をするエミヤ。
 だが、彼の頭の中にはある一つの策謀が展開されていた。

「犯行を否定されたらそれまでの上に、現状は最も怪しいと言う事だけでしかないからな。完全な物的証拠や遺留品があればいいのだろうが……いや、逆の発想で行ってみるというのも一つの手だな…」
「ん? 何か良い方法でも思い浮かんだの?」
「ああ。一つ策を打ってみようと思う。オスマン老。一つ訊ねるのだが……」

○●○●○



「フム。召集した者は全員揃ったようじゃな」

 オスマンはその場に集まった面々を見遣り、重い空気を纏ったままに口を開く。
 あの後、エミヤと幾許かの打ち合わせや企み事を申し合わせた彼は、教師等の学園関係者、特定レベルに達している学生メイジを召集した。
 件の人物のみではなく、他の人間を呼ぶことにも充分な意味があるからだ。
 何より、オスマンが行うのは糾弾ではなく確認。
 もしもの可能性を踏まえるのならば、怪しい人間は全て呼ばねばならない。
 この学院に集う力あるメイジ、その全てを。
 
「それで、学院長。急な召集ということは、何か問題でも……?」

 皆を代表するかのようにコルベールが発言する。
 その視線は若干ながらも、赤い外套を着込んだ騎士を見遣るようでもある。
 否。ここに集まった面々の幾名かの視線は、その騎士とその主に向けられている。
 雪風と称された少女もまた同じだ。
 彼女にしてみれば、この二人がまた何かをしでかしたのだろうか? という面持ちですらある。
 幾許かの間をおいた後、オスマンがその問いに対して応えた。

「うむ。隠す様な事でも無いし、起きた事実から公表しようと思う。この学園に賊が侵入した」
「「「「「「「「「賊!?」」」」」」」」

 その言葉に多数の反応を見せるメイジたち。
 それもその筈だ。
 この学院には、数多くのメイジが居る。
 その中には、戦闘に特化したものも居れば、探査・捜索系に富んだメイジも居るのだ。
 教師クラスは言うに及ばず、その才能を秘めた者も数多い。
 その上で、侵入する賊 となれば、如何なる存在なのか。

「諸君らも学院から離れる事が少ないとはいえ、噂ぐらいは聞いておろう。昨今、トリスタニアを騒がす怪盗の事を」
「……【土くれ】」
 
 オスマンが告げるよりも早く、雪風の名を持つ少女、タバサがそれに答えた。
 満足そうに首肯するオスマン。
 二の句を遮られた事等、気にもせず先を進める。

「うむ。そのとおりじゃ。シャル……もとい、タバサ嬢。【土くれ】のフーケ。それが賊の名じゃ」

 言うが早いが、その言葉を起動の鍵としたのか。
 姿見の鏡が輝くと、宝物庫の惨状とその内部の刻印を映し示す。
 それを見て、コルベールが顔を青くする。

「……なんじゃ、コルベール君。何か、気に掛かる点でもあったのかね?」
「い、いえっ! 何でもありませんっ!……アレを破る方法を知る人間となると……
「まぁ、よい。君もなんか知っとるようじゃからな。後で事情は聞かせてもらうぞい。だが、安心するが良い。幸いにして被害は無かったからの」

 その答えに安堵する溜め息を洩らすものもいれば、訝しげな表情を浮かべるものもいる。
 被害は無かった。
 その言葉には矛盾がある。
 そう、土くれのフーケが現場に名を残した時は、確実に犯行が成功した証に他ならない。

「……犯人こそは取り逃がしたが、第一目撃者でもあるヴァリエール嬢の使い魔が、犯人が逃走し、一時の身を隠す場所としたであろう小屋を発見し、その内部より【破壊の杖】を取り戻してきたのじゃ」

 その言葉の証明として、オスマンは自らの座る執務机の影より【破壊の杖】を取り出す。
 そう、確かにそれは【破壊の杖】。
 故に。これを見て表情を一瞬、激変した者が居た。

「ふむ。如何したかね? ミス・ロングビル。顔色が悪いようじゃが」
「い、え……な、何でもありません。確かに【破壊の杖】ですね。学院長が若かりし頃に手に入れたと言う」
「うむ。無事に取り返す事が出来て幸いじゃ。……じゃが、フーケはこれの保管場所が何故解かったのじゃろうなぁ? 盗むにはこれの保管場所を知っておらねばならんが、ワシが持っているとの世に知られていても、宝物庫の中にあると知るには学院の関係者ぐらいで無ければ難しいんじゃがの」
「い、いえ? 世の中には、外のお客さまで宝物庫を見られた方もいらっしゃいます。人の口に戸は立てられぬモノですから、そこから洩れてしまったのでは?」
「……そう言う可能性もあるかも知れんのぉ。ところで、ロングビル君や。ワシは、君から宝物庫内部の閲覧許可申請は受け取らんのじゃが。何故、君はこれを見て『確かに・・・』と同意できたのかの? その言い分ではどこかで見たことがなければならんのじゃが?」
「……っ!? それは……」

 流石に周りの人間も二人の空気が明らかに変わった事を感じ取る。
 オスマンの目が一際険しく、ロングビルを射抜いた後。

「よいじゃろ。人目のあるのでは言えん類の事情もある。後でじっくりと話を聞かせてもらうとするかの」
「……はい」
「……とにもかくにもじゃ。【破壊の杖】を取り戻したとは言え、土くれのフーケの足取りは不明じゃ。各々はもしもに備えておく様に。以上じゃ」

○●○●○



 退出していくメイジたちをそのまま止めもせずに見送る。
 そう、怪しげな反応を見せた二名も止めはしない。
 部屋に残るのは、私とルイズとオスマン老の三名となった。
 
 騒々しさが消え、静けさが戻る。
 オスマンが溜め息を吐いた後、【破壊の杖】を放り投げる。
 それが床に落ちた瞬間、まるで幻であったかのように粉となり消える。
 ―――――― そう。この【破壊の杖】は形のみを似せて投影した複製フェイク
 無論のこと、外見のみであり、形のみの空虚なガラクタ。
 だが、形が真であれば、目で見る者はこれに騙される。

「さて、こんな所かの。にしても、ワシですら、あれが錬金による贋物と知らねば騙されるやも知れんの」
「うまくいって何よりと言った所だな。案の定、伏せた札の通りと言う事だが……マスター。後は私たちの仕事だぞ? 解かっているな」

 私はマスターに成さねばならん事を確認する。
 ルイズは一瞬、間の抜けた声を出し、返答する。

「へ……? なんでよ? 後は学院長が、直接話をつけるんじゃないの?」
「たわけ。あのミス・ロングビルが件の襲撃犯であり、土くれのフーケならば、君があの宝物庫に【魔法】を当てた後にどんな効果があったか理解してると言う事だ」
「まぁ、ワシが君らの申告した状況から察するに、ヴァリエール嬢の【虚無の魔法】が、ワシの宝物庫に仕掛けていた魔法障壁等の一切を【ゼロ】の状態にしたのじゃろうな。つまるところじゃ……」

 ルイズの顔がオスマン老の言わんとすることに思い当たり、ハッとしたものに変わる。

「……私が【虚無の系統者】であることに辿りつかれてしまう?」
「そう言うことだ。この場で取り押さえても良かったが、追い詰められた獣は何をするかわからんからな。あえて逃がし、その後に追撃する。包囲陣形に、わざと抜け穴を作るというのは、背水の覚悟を背負わせぬ為のものだ。もしもの場合の被害は少ない方が良い」
「でも、前回みたいに魔法で逃げられたらそれまでじゃないの?」

 その疑問は尤もな話だ。
 だが、大きな問題ではない。
 オスマン老がその疑問を埋めるかのように答える。

「その辺に問題は無い。ミス・ロングビルである以上は、魔法は使えん、使わんよ。今の状況、完全に人目が消えるまでは彼女は魔法は使えん。呼んだ全てのメイジたちの目線から、逃れきった上で孤りにならねば、公開の上で最有力容疑者に仕立てた現状ではおいそれとは使えんよ」

 そう言うとオスマンは手鏡をルイズに渡す。
 見るからに魔道具のようではあるのだが……

「これは【遠見の手鏡】と言うてな? ある程度の距離なら、これで遠隔視できる。ミス・ロングビルがフーケであるのなら、今は必死に逃亡の算段を整えとるじゃろう。学院長としてこの学園に在籍する【虚無ゼロのルイズ】に命ずる。己が秘匿するべき事を秘する為に為すべき事を成すのじゃ」

――――――――――――――――――――――――――――――――

後書きらしきもの。
 
 どうやら、妙な勘違いをされそうなので変更(謎
 とにかく書かねば、力量は落ちるものと痛感。
 
 終盤あたりでグダつくのは仕様です。
 次回から、第一部の山場です。
 それでは次回で。

 爺キャラは有能であるべきだと思うマイポリシー。
 例え、それが原作から逸脱しても、それが美しいと思ったから(何

 指摘を受け微妙な修正。



[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨◆c96b7bb0 ID:43576b4e
Date: 2009/01/02 21:35

「……さて、マスター。余分なおまけが付いて来てる様だが如何するね?」



 エミヤがそんなことを半目で後ろを振り返りながら問いかける。
 言うだけ無駄だとは思うけど。
 わたしとエミヤは、【土くれのフーケ】を捕らえねばならない。
 いや、もしかしたら捕らえるだけではすまないのかもしれないけれど。
 それでも、彼女をどうにかしなければならないのは確実だ。
 そんな私たちを追うようにして、見慣れた何人かが後からついてくる。

「……いいわ。何時かばれるなら早いうちのほうが良いし。それに もしもの場合の口封じは お手のものでしょ?」

 そんな冷たい思考が頭によぎった。
 自分がそんな思考をしている事を疑問にすら思わず。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

捩れ狂っていた世界。その断片



 もしもの場合の口封じ……と来たか。
 いや、それに叛意は無い。彼女の決断はおおよそ、魔の道を志す者としては当然の事だ。
 それが正しいかどうかは別にして。
 神秘の秘匿。これは、私の知るの魔術師の基本でもある。
 彼女は、おそらくはこの世界においてのレアスキル保有者。
 特異に過ぎる力は他者に知られて得をする事は少ない。

 生前、欠片のような記憶の中にある私は、己が魔術を極めた結果、大禁術たる【固有結界】に辿り着いた。
 これを会得し、人々を救うために行使した私は、いつしか神秘を秘匿する側の魔術師に狙われる事となった。

 封印指定。
 常人から見比べて異端たる魔術師。その中でも更に異端なるモノは、排斥されるか利用される。もしくは封印される。
 神秘の秘匿は後者の封印。その神秘を失伝しないように封印し後世に伝えるのだ。
 その封印の形は、術者の脳髄を生きたまま引きずり出し、生きたままホルマリン漬けにするなど、常人の倫理からかけ離れたものを是とする。
 だが、魔術師はその血に刻まれる神秘、魔術刻印に歴代の魔術師たちの研鑽した技術、知識を重ねて【根源】へ至る道を探す求道者である。
 封印指定はその道を閉ざす処置でもある。
 指定が執行されればそこで根源に至る道は断絶されるとみていいだろう。
 矛盾したことだ。
 根源に至るのが魔術師であるのに、根源に辿り着く術を見出すに足る者を封印する。
 突きぬけた存在である『魔法使い』ともなれば別なのだろうが。

 ルイズの属性【虚無】。
 これを隠匿する為に、発動を目撃し、その効果を推測するに足る情報をもつ者を処分せねばならない。
 処分の内容こそは状況次第だ。オスマン老もこの一件は公にするべきではないとの示唆をしている。
 然るに後ろからついてくる者達にも同じ事が言える。
 最終的な決断こそは、マスターに預けるべきなのだろうが……
 ふむ。それはともかくとしても、斬り捨てるものは少ない方が良いな。

「……」
「どうしたの? 急に立ち止まって…遠見の手鏡で追跡できるからと言っても、本格的に逃げに回られたらどうしようもないんだけど?」
「いや、この際だから、後ろのオマケも手駒として利用させてもらおうか。それの方が手間が減る」

 私は足を止め、改めて後ろを向き直る。

○●○●○


 唐突に止まり振り返る騎士の表情は、呆れたとでも言うかの面持ちだった。
 それに応じるかのようにその主である少女も歩みを止める。
 振り返る少女の目は半目。
 不快げな溜め息を吐いた後でぼやく。

「……おまけって言うから、誰かと思えば…何よ? キュルケ。それにタバサ」
「何よ?とは、ご大層な言葉ね? 無能(ゼロ)の貴女を心配してあげたって言うのに」

 ギシィ と比喩表現では無い音が空間に響く。
 一触即発の空気が場を支配する。
 だが、その空気すらも無視して、一人の少女が口を開く。

「……貴方に興味がある」

 少女の目は紅い騎士に向けられていた。
 その目は真直ぐに揺らぐ事無く。
 
「私にかね? 取り立てて君に何かをしたとは思えないのだが? 一度は君に矢を射掛けたかも知れんが」
「…だから、気になる。私の使い魔も貴方に……興味を覚えたようだったし」

 彼女は言ったように、この紅い騎士に並々ならぬ興味があった。
 自身の使い魔が、ただ一度の邂逅で
『あれは怖い人ですよ! お姉様! その気になればきっと 竜種を一刀両断する剣とか投げてくるに決まってるです! きゅい!』
 等と涙目で訴えかけてきたのだ。
 こうしている今でも僅かに後方に控えたシルフィードからその感情は伝わってくる。
 韻竜。古き力を脈々と繋げる強大な幻獣。幼生体とは言え、その力は抜きん出たものがある。
 その韻竜たるシルフィードが本能で知覚したのだ。
 この紅い騎士が危険であると。
 
 それだけでは無い。タバサ自身も思うところがある。
 あのとき、投げ放った刀剣、黒と白の双剣と装飾の無い直剣。
 それらを上空高く威力を保ったまま投擲する技法。
 投擲、弓による投射、様々に考えられる要素がある。
 トリスタニア、アルビオン、ガリア、ゲルマニア。
 それらの王国の歴史書を紐解いても、それほどの武技を持つ者はいない。
 そもそも、武器をあそこまで扱いこなすと言う事、その事自体も異質。
 いや、一つだけ、例外がある。
 イーヴァルディの勇者の原型とも目される御伽噺の中の使い魔ぐらいだろう。

 武器は、魔法を持たざる平民が貴族に抗いうる手段の一つでもある。
 だが、アレは。
 そんな領域を大きく超えていた。
 対処の手段は魔法を使う前提であるのなら無数にある。
 だが、重要なのは、対処の手段ではなく、それを成す技巧。
 
 錬金の魔法を扱う と見えるがそれともどうも違う。
 そもそも、錬金の魔法で武器をあそこまで精密に鍛ちあげる事の出来る者はいないだろう。
 その【魔法】の本質を知りたいと思った。
 彼女が他者に興味を持った稀な事例でもあった。
 
 タバサ。二つ名として雪風。
 彼女自身がその本来の姓と名をかたる事は現状では有り得ないだろう。
 個人に固有の様々な事象があるように。
 彼女もまたその生きてきた道程に覆さねばならぬものを抱える身である。
 その心の底に眠るものは 渇望 と言っても良いものだった。
 伏したるその願いは、心に根付き、力を求めていた。無意識の内に。

 遅かれ遠かれ、彼女はこの紅い騎士に何らかの形で接触をしていた。
 いや、接触と言うのならば、既に。
 彼女が望むのは、おそらくはその先の事なのだろう。
 だが、彼女自身、この紅い騎士を"まだ"知り得てはいない。
 故に【興味がある】
 知り得る価値があると判断したのだ。本以外のこの存在に。

「……ところで、ルイズ。貴方の使い魔とタバサ。何やら、見つめ合っているんだけど、一体どういう関係なのよ?」
「わたしが知るわけないじゃない」

 タバサが二人の少女が口論をやめ、自分を見ていたのに気がつくまで数瞬を要したと言う。

○●○●○



 土くれのフーケこと、ロングビルは激しく狼狽していた。
 よもや、よもや、まさか、まさか。
 その類の思考の連続である。
 
 山野を駆ける足は魔力を帯びている。
 樹木、草木、それらは自然の結界とも言える。
 人の手の入らぬ森の中は、気位高い貴族などが好んで踏み入るような場所でもない。
 正式な軍や警邏組織が動けば話は別だろうが、オスマンはその介入を望まない。
 それが、フーケにとっての利点。
 組織的な捜査網、包囲網を学院を中心に展開さえされなければ、幾らでも逃げ遂せる事が出来る。

 だが、その追っ手となるものが自己の理解を超えた存在であるならば、話は違う。
 そう。
 狩る者と狩られる者。彼女は、正しくして 狩られる側の存在となってしまった。
 頭に過ぎるのは、残念。
 念を残すとはつまり、悔いがあるという事だ。
 フーケは。彼女はここでつかまるわけにはいかない。
 そうするだけの理由があった。

「……しくじったっ…! けど…まだ、こんなところで捕まる訳には…っ!」

 口からは誰に言うのではなく自身に言い聞かせるかのような言霊が。
 フーケの脳裏に、懐かしい光景が過ぎる。
 妹のように思っている少女。
 その少女が召喚した三人の異世界人。
 そして、少女の元に集まった身寄りのない子供達。
 
 そう。家族の元に。あの子の元に戻る。
 ここでは立ち止まれない。
 褒めれるような事をしてきたわけではない。
 義賊のようなものでもない。
 自身は罪を犯す側の存在であることも理解している。
 それでも。
 それでも、ここでは終われない。止まれない。
 その意志を強く思ったとき、胸のペンダントが薄く、鈍く光を放った。

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後書きらしきモノ
 私は生きています(何
 さて、今年中に後もう一回更新できたら御の字という事で(何



[2213] アナザーストーリー:胸革命と称された少女の出自
Name: 愁雨◆cee728bf ID:a885922b
Date: 2009/01/02 21:30
 

少しばかり場面は変わる


 浮遊大陸にその王都を持つ白の国・アルビオン。
 そのアルビオンには秘事が有る。
 それはある少女の存在。

 その少女は王族、貴族の血をその身に受けながらも先住種族【エルフ】の血を引くのだ。
 名をティファニア・ウェストウッド。

 少女が生まれるに至った経緯に様々な異説がある。
 今も昔も、何処でも此処でもあそこでも王家の人間のスキャンダラスな私情と言うものは、人の噂を集めるものだ。
 その中でも『とある少女と王子の恋物語』として知られるものは、貴族の間でこそは日の目を見ぬものであったが庶民の間においては名を変え形を変えて語られる物語にもなったほどである。
 その中のヒロインがエルフの少女であったとしてもだ。
 そのエルフの少女に向ける想い。その少女の為に手段を尽くす王子の姿。
 自身の持てる立場を使い、自身の立場を危うくするとしても、エルフの少女に安堵の日々を与えようとする王子。
 そのままにしておけば、死の危険が普通である。
 見目が麗しいエルフの迷い人ともなれば、下卑たる者の下卑なる欲望に穢される事も少なくもない。
 エルフ。先住魔法の使い手であり人に害為す者と言う心象が強いものではある。
 しかし、それは戦闘者としての訓練がなされたエルフであって始めて該当する事象だ。
 
 
 ティファニアは王弟たる財務監督官を父とし、その妾であるエルフを母とする。
 エルフは、始祖ブリミルが目指した聖地への道に立ち塞がるモノとして知られる。
 それゆえに妾として扱うことですら、凝り固まった貴族主義者やブリミル信仰の強い者には捨て置く事の出来ないものだった。
 ましてや、妾腹とはいえ王家の血族として存在しよう等、許されるものではなかった。
 王は、自国の安寧の為、自らの弟を排斥。
 王家の継承者たるを禁じ、その妾、娘を処分する決断を下した。

 それを良しとせぬとしたのが時のサウスゴータ太守である。
 彼の家は王家への忠誠ではなく、大公家へ忠を奉げるものであった。
 王家よりの命を伝えるべく記された密書を一目通すと鼻で笑い破り捨てた太守は堂々たる言葉で王家よりの使者にこう述べた。

『我が忠義は王家に奉げたものではなく、王弟たる彼の御仁ゆえに奉げたものだ。エルフであろうと平民であろうと誰隔てなく、隣に在ろう事を許すその度量こそが忠をささげるに足るとしたものだ。故にその庶子が先住種族の血を継承しようが関係ない。大公閣下が自らの子であるとしたその愛児を処刑するなどという事を許せようものか』

 だが、それゆえにサウスゴータの家は没落する事になる。
 王への叛旗とも見られるその意思は領地の没収、家督の断絶など厳しい沙汰を下す事となった。
 
 だが、太守はそれを嘆く事はなかった。
 心残りを残す結果ではあるものの、違えることなく貫く忠義故の結末。
 此処に異を唱える事、愚かな散り際はあるまい。と

 太守は王軍の接収時期を見切り、とある晩に自らの一人娘に策を授けた。
 この王軍による領土接収こそが千載一遇の好機であると。
 王軍が動く事態ともなれば、少なからず領内は混乱する事となる。
 その機に市井に紛れ逐電せよと。
 

 少女はこれが今生の父との最期の会話となる事を知り、涙ながらにも気丈に頷いた。
 
 接収が行なわれたその当日。
 太守の率いる私軍はさしたる抵抗も見せることなく、降伏。
 王軍の接収が行なわれる事となったが、邸宅には太守が一人座して待つのみであった。
 邸宅の捜索を行なうが、大公の妾子の姿はなく
 王軍が逐電の事実に気がついた時には、既に時遅く、太守自身もまたその口を永遠に閉ざすべく自ら命を断った。

 その時点で王軍に逃げた三人組を追う手立てはなかった。
 メイジである太守の一人娘。その卓越した土属性に対する才が地表に残るであろう痕跡の合切を消し去ったが為だ。
 以後、その行方は公式な記録からは伺う事が出来なくなった。

 それは昔の事である。

 時代は変遷し、赤子だったハーフエルフの子供は少女と呼ばれる年齢となる。
 
 エルフは先住魔法と呼称される力を扱う事が出来る。
 それは、四の元素を操るものではなく、空間に働く力でもあり、その空間に存在する精霊より力を引き出す術でもある。
 儀式契約により場にある力の合切を支配する魔技すらも可能とする。
 それほどの力を扱う資質。
 そして、始祖ブリミルよりの血脈であるがゆえに継承する【虚無】の資質。

 二種の異なる魔法資質を併せ持ち、かつそれを扱う才を秘める少女。
 それがティファニア・ウェストウッド。
 アルビオン・テューダー朝が秘事と成し、その存在を系譜の上からも消し去らんとした少女である。

 皮肉な事ではあるが
 王家が消し去らんとしたこの少女が、テューダー朝の有力後継者になろうとはこの時点では誰にも予見できなかっただろう。
 
 だが、王家の落日が近づいたその際となりウェールズ・テューダーは手記にこう記している。

「先見の明の無さが此度の没落にも繋がったのだろう。 もし、叔父上の系譜が存命であったのならば。 と悔やむ事がある。誰隔てなく手をさしのべた優しさと共に成そうとする事に対しての実行力。……何よりも旗印としての力があった。 落ち行かんとするこの国に活力を与える事が出来るとするなら、それは全くの新しい風だろう」

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 一年だか、二年ぶりに動いた。
 時間と暇とその他諸々に追われている。
 まぁ、とりあえず、布団の中で寝られる生活である幸福に感謝。

 インターミッションな感じの独自な胸エルフの生まれ設定。
 スペックは、胸無い桃色娘の倍スペック。
 と言うか、全てにおいて勝っている

 これを踏まえて次の展開に繋ぐ予定。

 原作の展開について行けないから、オチを付ける部分は決めたんだ。
 最終回だけは決まっているが、其処にどうやって着陸させるかが問題。

 一月一回でも良いから、更新できたらいいな…(願望と希望と切望。そして絶望


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