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[21011] 【チラ裏より】ラ・ヴァリエール家の不破(転生とらハオリ主 ) 十話追加
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:51b53872
Date: 2010/09/19 13:49
始めまして。

数々の作者様方の二次小説に刺激を受け
『駄文でも良いからもう一度書いてみよう』
と一念発起し
今回の『ラ・ヴァリエール家の不破』
を投稿させて戴きました。

くどく、無駄に長い文
となっていますが、
どうか暖かく長い目で
見守って頂ければ幸いです。

×諸注意×
 
×転生オり主ものです
『オり主なんて』と言う方
『転生系は好かない』
と言う方はご遠慮下さい

 
×作者はオり主と同じく『とらハ』(特に3)大好き野郎です。ですので とらハ贔屓な作品になります

 
×更新は不定期
で、出来るだけ早く出来るようにします(汗

 
×勢いで書いてるので、時たまハッチャケます!

 
×誤字 脱字等 出来るだけ確認してから投稿するようにしますが、どうしても解釈を間違えたり、見落としたらしますので、見つけた際はご連絡して頂ければと思います。
 
×かなりの独自解釈が見受けられます。そういった点が嫌いな方は遠慮下さい。
 
×複数の原作キャラ改変が存在します。
それでも良い方はどうぞ
 
10/8/14
小説家になろう様にも投稿させて戴きました。
 
10/09/19
ゼロ魔板に移行



[21011] プロローグ (改)
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:d8185a60
Date: 2010/09/12 21:28
…‥とある時代
‥…とある場所
【最強】を義務付けられた、剣術流派が存在した……
 
 戦えば勝ち、大切な“モノ”を護る時にこそ真価を発揮する……
 
 永全不動八門一派 御神真刀流 小太刀二刀術
 
 今宵 その御神の歴史に名を残し、御神を正統とし【最強】を守護する【無敵】たる分家にして流派を創始した男が、息をひきとろうとしていた……
 
 その男、名を『不破』斗真といい、
本家たる御神の次男に生まれ、幼い頃から類い希なる剣才を発揮。
 
 学問にも優れ、正に『一を聞いて十を知る』という有り様。
 
 周囲の者達の
『長男たる兄より、当主に相応しいのでは?』
と言う無責任な期待を掛けられ続けていたが、本人は至って無関心。
 
 公の場のみならず、ありとあらゆる場にて兄を立て、
『次代の当主は兄である』
と暗に示し、周囲の期待もどこ吹く風と、夢物語のような自らの将来を嬉々として語っていた。
 
 御神史上最も早い、齢17の頃に皆伝を受けると
 
『武者修行の為、諸国漫遊の旅に出ます。』
 
 という内容の書き置きだけ残し、日も明けぬ内に本家を出奔。
 
 その後は本人曰く
 
『大うつけ殿と友となった』
 
『猿顔の手助けをした』
 
『神咲とか言う方と共に研鑽を積んだ』
 
『伊賀の里で求婚されたが逃げた』
 
 等と嘘か真か、真偽が定かではない経験を積み、十数年の時を経て帰還。
 
 その後 当主となった兄の補佐の傍ら、知り合った
『大うつけ殿』や『猿顔』に助力し続け、齢30の頃に始祖に続き 史上二人目となる奥義の極の会得を成し、長老衆一致により、
『主家たる御神を守護する分家』
 
 並びに
 
『盾たる【最強】に対なす剣たる【無敵】』
として『不破』の名を賜った。
 
その後も波乱万丈な生をまっとうし続けていたが…
 
 
如何に【無敵】と称されようと、所詮人の身。
 
 病を得て、余命幾ばくも無く…
 
 然りとてその生に後悔は無く…
 
 心残りを強いて言えば、後少しで達成されるであろう
『大うつけ殿』の天下統一への助力……
 
 まぁそれは 何時までも半人前だが『不破』に相応しい、自慢の馬鹿息子に任せれば良いかと折り合いを付け……
 
 後は逝くばかりと床にて横たわっていた…
 
「…振り返ってみると、俺の人生 なかなか悪くなかった」
 
 目を瞑り呟く。
それを最期の言葉として、最期を看取られるのを嫌い、一流派の先代当主の住まう家とは思えぬ荒ら屋にて、息を引き取った。
 
 何もない真っ白な空間
 上下左右の判断もつかず、途方にくれそうになった。
 
「……此処は?」
 
 自分は死んだ筈では と、自問自答してみる。
 
 最期の言葉を呟き意識が遠くなり、気がつけば此処にいた。
 
「ふむ……此処があの世か?」
 
 自分は死んだのだから、死んだ者が行く場所はあの世しかない、と一応の納得を示す。
 だが……
 
「…………ふむ」
 
 生前 考えていたあの世とは、似ても似つかない。
 
 仏教等でよく云われる三途の川なども無く、ただただ真っ白な空間が続くだけ……
 
「…考えていても仕方ない。取り敢えず進むか」
 
 取り敢えず判断の付く前方を目指し、一歩踏み出そうとした。
 
「ちょぉぉぉと待ったぁぁぁぁ!!」
 
 突然響くかん高いアニメ声
 
「…アニメ声?」
 
 知らぬ筈の知識が頭に浮かんだ為、首を傾げる。
 
「やぁぁっと見つけたぁ。探したんだからね!」
 
 声がする後方を振り向いて見る。
 
「…………うわぁ」
 
 それしか言う台詞が浮かばなかった。
 
 長く伸ばした髪。
 それだけを聞けば普通だが、それを七色に染め、頭頂部に猫耳。
 
 少々露出の目立つ、所謂『魔法少女』のいでたち。
 
 顔立ちが絶世と言っても良い程に整っている分、残念さが引き立つ。
 総評『痛い娘』
 
「…うわぁ?」
 
 半眼で睨んでくる 斗真評『痛い娘』
 
「…ナンデモアリマセン」
 
 障らぬ神に祟り無し
 こういった輩には逆らわない方が良いと、知り得ぬ筈の『知識』のまま行動。
 
「むぅぅ、納得出来ないけど、時間も無いし良いや!!」
 
 取り敢えず危地は脱した様で、斗真は深々と溜め息を吐いた。
 
 しかし、 と斗真は考える。
 
先程から頭に“浮かぶ”知識。
 
これは一体何だ?
 痛い娘が何やら言っている様だが耳に入らず、しばし沈思黙考。
 
 そうしていると、朧気だった知識は鮮明に。
 
 それに関連した記憶という情景が浮かんできた。
 
「あ‥ああぁぁぁぁ!?」
 
 自分が此処に来たのは二回目で、その前の生では只の少しばかりオタク知識豊富な会社員として過ごしており、二次小説でお馴染みの暴走トラックにて亡くなり、此処に来ていた事を思い出した。
 
 その時にもこの『痛い娘』とも会っていた事(本人曰く『三千世界に並ぶ者無しの女神』らしいが)も思い出し、更に
 
「って、あそこ『とらハ』だったのかよ!!」
 
 またも二次小説にてお馴染み『転生』で渡った世界が、大好きだったとらハ
『とらいあんぐるハート』
の世界だったと知り、今更興奮が隠せない様子。
 
 尤も、時代はかなり違うのだが…
 
「しまったぁ。そうだと知っていれば、もっと楽しんだ……「……と言う訳で、アナタには今度こそ私が用意した世界に転生していただきます!」……のに……はぁ!?」
 
 聞いて無いよ!某ダチョウ並のリアクション。
 
 もし渡る世界がお笑い系でも、彼ならばやっていけると信じれる!
 
「ふざけんな!!」
 
 地のにまで突っ込める彼に幸あれ!!
 
「じゃあ、逝ってらっしゃぁぁぁい!!」
 
 悪ふざけも程がある地の文と、喜色満面の笑顔にて手を振る“自称”女神に見送られ
 
「それ、誤字だよなあぁぁぁぁ!!?」
 
 突然足下に開いた黒い穴になすすべ無く墜落していく、希代の御神流真伝初代継承者。
 
 最後の最後まで突っ込みを忘れない、そんな彼の明日はどっちだ!?










[21011] 転生先は如何に?
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:4f872113
Date: 2010/09/12 21:40
 御神流真伝初代継承者を経て、
自称女神により
『ゼロの使い魔』
の世界に『落とされた』転生者。
 
前回の転生とは違い、前世の記憶等を残しての転生となった。
 
side ???
 
あの自称女神に見送られ意識を失い、気がつけば知らない天井が目に入った。
 
(ってお約束の展開か)
 
それとも それだけ運命が偉大なのか……
 
そんな事を考えながらも前世での癖か、周囲の状況の把握に勤めようとした。
 
(……視界がぼやける……生まれ変わって、乳幼児に戻ったなら当たり前か)
 
前世にて鍛えに鍛えた肉体や、感覚との齟齬に内心溜め息を吐く。
 
とはいえ 嘆いた所で現状は変わらないので、諦めて今の自分の肉体で出来る、最善を成そうとする事にした。
 
ぼやける視界でも理解出来る情報で判断すると、時代背景は中世のヨーロッパ辺り。
 
部屋の内装からかなり裕福な家に産まれたのだろうと思われた。
 
「うぅ~~……」
 
更に情報を得ようと顔を右横に向ける。
 
自分が居るのはベビーベッドである事が分かり、ベビーベッドの造りや、微細で派手すぎず、上品な彫り等から やはり裕福な家庭、──しかも名家である事が理解出来た。
 
顔を逆の左横に向ける。
 
瞬間 目を見開いてしまった。
 
自分の右横でさえ
広々とした空間のあったベビーベッド。
 
その逆、左横には更に広々とした空間があり、そこにピンクブロンドの髪をもった天使がいた。
 
「………………」
 
柔らかそうな頬に、将来性バツグンの整った顔立ち。
 
寝顔だけでも一幅の絵画のよう。
 
(──って、ルイズかよ!)
 
特徴的な髪色で分かった。
 
彼女は かの
『ゼロの使い魔』
のヒロイン
『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』だと……
 
(て事は何か?状況から判断して 俺はルイズの双子の兄妹ってことになるのかな?)
 
もう一度 落ち着いてルイズと思わしき赤ん坊を見やる。
 
冷静になって見ても、可愛らしいと思える。
 
(──この子が十五年の時を経て、サモン・サーヴァントの魔法で『ガンダールヴ』となる少年 主人公『平賀 才人』を呼び出し、彼や仲間達と共に数々の困難に 失われし系統『虚無』の担い手として立ち向かっていくのか……)
 
と他人事の様に考えていると……
 
(……ん?)
 
右の手の平が、何か暖かいものに包まれている事に気付き、視線を向ける。
 
前世の鍛錬につぐ鍛錬の末 剣だこで岩の様だった手の平。
 
それに比べると頼りないと言わざるをえない、柔らかそうな小さな手。
 
その手を包み込む様にルイズの左手が握っていた。
 
(…………あぁ)
 
……それは何の意味も無い、赤ん坊故の反射行動だったのかも知れない。
 
それでも俺の心には愛おしさが溢れ、言い知れない幸福感で胸が一杯だった。
 
(あぁそうだ。この子、ルイズが何者でその人生がどれほどの困難にまみれていようと関係無い。ルイズは俺の大切な妹。そして俺は御神であり不破だ。大切なモノを護る為ならば、 御神 不破に負けは無い)
 
肉体では無く、魂の根底に刻み込まれた御神、そして不破の剣理。
 
絶対に護ると その意志を込め、ルイズを起こさない様、細心の注意で手を握り返す。
 
「あら。目が覚めてしまったのですか レイ」
 
レイと言うのが自分の名かと考えながら、優しく慈愛のこもった、鈴の音の様な声が聞こえた頭上に目を向ける。
 
朧気な視界でも色鮮やかに映る、自然に下ろしたピンクブロンドのロングへヤー。
 
顔立ちははっきりしないが、声音の優しさからカトレアかと思ったが、体格やルイズとの年齢差から考えて 、カトレアの線は消える。
 
他に誰かいたかと原作キャラを思い浮かべるが、ピンとくる人物に思い当たらない。
 
いや、一人 該当しそうな女性はいるが……原作から考えて 有り得ないと除外。
 
「ふふふ、貴方達は本当に仲が良いわね」
 
握り合わされた俺とルイズの手を見て、微笑ましいと微笑みを浮かべる女性。
 
その微笑みに更に混乱を深める。
 
そうすると 微笑みを浮かべたままに、こちらに両手を差し伸べてきた。
 
抱き上げるつもりだったのだろう。
 
浮遊感と共に、手から滑り落ちる 暖かな感触。
 
同時に感じた、大きな喪失感。
 
まだルイズと自分が兄妹であると認識してわずかな時間しか経っていないのに、かなり依存している自分に気付き、内心にて軽く苦笑い。
 
それもわずか一瞬の事で、次にはとても暖かい安心感に包み込まれた。
 
此処にいれば恐怖など感じる事は無く、自分は愛されていると思え、自然に微笑みを浮かべる。
 
俺の微笑みに触発されたのか、俺を胸に抱いた女性も更に微笑みを深めた。
 
そうして、顔が近づいた事で気付いた。
 
俺を抱き上げているこの女性が『烈風カリン』ことラ・ヴァリエール公爵夫人カリーヌだと…
 
あまりに優しげな声だったので除外していた人物だったが、冷静に考えて、産まれたばかりの我が子に原作の厳しさは発揮しないかと、内心で納得と苦笑いをする。
 
そうして母の胸に抱かれていると、母は真剣な表情を浮かべ俺と目を合わせた。
 
「──レイ、貴方はこのラ・ヴァリエール公爵家の嫡男。その事実を胸に留め、立派な貴族になりなさい」
 
先程までの優しさはなりを潜め、獅子の如き覇気を発散させる母。
 
乳幼児に言う台詞かと思いながらも、これこそが『烈風カリン』なのだと、 内心感嘆を禁じ得なかった。
 
母 いや、『烈風』の覇気に対抗せず受け流し、真っ直ぐに見つめ返した。
 
母と子の 微笑ましいとはとても言えない一コマ。
 
感じる雰囲気はまるで戦場である。
 
長くも無く 然りとて短くも無い時間 そうしていると……
 
不意に 母の顔が穏やかになった。
 
「そして貴方の妹のルイズを、守ってあげて下さいね」
 
お眼鏡に適ったのか 、またも乳幼児に言うべきでは無いと思える台詞をこちらに投げかける母。
 
だが 俺としては言われるまでも無く至極当然の内容だったので、了承と誓いの意を込めて微笑みを返した。
 
と同時に空腹を示す音が鳴る。
 
自分が目を覚ましたのは、空腹の為だったのかとぼんやり思いながら母に目を向ける。
 
その視線を受け、にっこりと笑みを浮かべ 母は徐に シャツをはだけた──
 
……って 普通 乳母呼ばね!?
 
ああ 原作の公爵夫妻の子供の溺愛ぶりから考えれば、乳母任せにしませんよね。わかりまrt
 
原作時より豊かと思われる母の胸に目を奪われながら……
 
(転生させるなら、恥辱免除のサービスぐらい付けろ 馬鹿女神)
 
所詮自称の女神に悪態を付き、前代未聞と思える程の羞恥に身を包んで乳を口に含んだ。







[21011] 三年目に思う事
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:c4ad9fb0
Date: 2010/09/12 21:52
side カリーヌ
 
レイとルイズの双子が産まれて、早くも三年の年月が経ちました。
 
双子と言う事でエレオノールやカトレアの時と比べ、単純に考えて大変さは二倍になると思っていました。
 
ですが実際にはそんな事も無く、手間の掛かる様な事は最小限で、むしろ余りに手が掛からない為に心配してまうほどでした。
 
こうやって思い起こしていると、手が掛からなかったのは──双子の兄レイのおかげだったのではと考えます。
 
通常ならば、赤ん坊の空腹等を知らせる方法は『泣く』しか有りませんが、レイは違いました。
 
伝えたい事があるとムクリと起き出し、ジッと此方を見てくる。
 
その視線に明確な意志を感じられ、伝えたい事が解るのです。
 
しかもそれは自分自身の事だけで無く──妹のルイズの時でも同様に伝えてくるのです。
 
尤も、この方法で意志が伝わるのは私だけで、他の者達にこの事を伝えても首を傾げられるだけでしたが……
 
夫などは──母である私には解って、父である自分には解らないのか!── などと嘆いていましたが。
 
ほんの少し優越感を感じたのは秘密です。
 
そろそろあの子達の三歳の誕生日。
 
夫が張り切って、準備を行っています。  

余り派手になりすぎない様、注意を払っておかねば……
side out
 
side レイ
 
このハルケギニアに
『レイ・フォルス・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』として生を受け早三年。
 
その間何のトラブルも無く すくすくと……
本当にすくすくと成長した俺とルイズ。
 
いやルイズの成長は普通なのだが、俺の成長率は少々異常である。
 
何しろ 数えで三歳なのに、見た目は四、五歳児並……
有りえなく無い?
 
それだけで無く自然回復力も高く──少々無理な鍛錬をした所で休息を取れば全快と言う有り様。
 
時間が無い身には有り難い事だが、周りに変な目で見られやしないかビクビクものである。
 
自称女神の恩恵かもしれないが……
 
どうせなら 目に見えない形で欲しかったものだ。
 
……まあ、それはそれとして。
 
俺とルイズの部屋で腕組み考える。
 
本編開始までに自分は何をすべきだろうと……
 
自らを鍛え上げるは当然だ。
 
そうしなければ護れないから。
 
剣については、『魔法衛士隊』の例を突破口とし、自らの想いを『母』に伝え説得する。
 
そう 『両親』では無く『母』にである。
 
父のヴァリエール公爵も頑固ではあるが、母の決定に異を唱えない。
 
原作ではどうだったかうろ覚えだが、ここのラ・ヴァリエール家ではそうである。
 
なので説得すべきは母なのだが……
 
その点は、余り懸念していない。
 
何故なら この三年で解った事だが、彼女には真の戦闘者同士にしか通じない『目での意志疎通』が通用する 所謂『戦闘種族』だからである。
 
故に強くなりたいと想いは、理解出来そうである。
 
それに、彼女は筋さえ通せば認めてくれるのでは無いか、と考えている。
 
尤も楽観的に過ぎるかもしれないが……
 
まぁ 認めてくれさえすれば此方のもので、勉強や礼儀作法等 時間をとられそうな習い事の数々は、前とその前の知識でかなり短縮できるので問題ない。
 
こんな所で意外に名家だった御神家と、貪る様にありとあらゆる知識を収集していた前前世の自分に感謝するとは思えなかった。
 
前前世の俺はもしかしたら、この事を予期していのか?
 
と有りえない考えに軽く笑みを浮かべる。
 
ふとルイズの事が頭によぎり、考える。
 
双子の兄だからか、ルイズは俺にかなり懐いていた。
 
カトレア姉さんは 余りのルイズの懐きように『嫉妬しちゃうわ』などとよく言っている。
 
エレオノール姉さんは表面上は無関心を装っていたが、たまにこちらを羨ましそう見ていた事が多々あった。
 
尤も その視線を向けていた先は、何故か八割方ルイズだったのだが……
 
ルイズの懐きようから考えて、俺のやる事を真似するのではと思われてならない。
 
母が許すのなら、教えるのも吝かでは無いのだが……
 
「にいさま~~~!!」
 
突然開くドア。
 
何事か!?と振り返る俺。
 
視界に写る ピンクの暴走超特急。
 
避ける間も無く『それ』は、俺の鳩尾に突っ込んで来た。
 
「ぐえっ!!」
 
鳩尾を痛打した激しい痛み。
 
咽奥から嘔吐感が感じられる。
 
吐く訳にもいかない俺の苦しみなど知ったこっちゃ無いと、ピンクの暴走超特急こと我が愛妹のルイズは……
 
「にいさまにいさま~、エへへにいさま~♪」
 
これ以上の至福は無いとばかりに、満面の笑顔で俺の胸に頬ずりしていた。
 
何とか嘔吐感を嚥下し、ルイズの頭を優しく撫で 微笑む。
 
「どうしたルイズ。兄に何か用か?」
 
「うん!」
 
「そうか。で、用件は?」
 
「これ~」
 
言ってルイズは体を更に密着させ頬ずりを続けた。
 
「……それが、用か?」
 
「うん!」
 
……まったく、ルイズの甘えん坊ぶりに苦笑を禁じ得ない。
 
まぁ悪い事でも無いので、しばらくルイズにされるがままにする。
 
このルイズ、原作ではどうか知らないが、半端では無い剣才の持ち主である。
 
前世と同様の剣才の俺と比べても遜色も無く、むしろ優っていると思える。
 
まさに剣の神に愛されし御子とは──ルイズの為にある言葉だろう。
 
だがそうなると…
 
御神の虚無剣士の誕生か?
 
「兄様?」
 
少し青くなった俺の顔色を心配してか、心配に見上げてくるルイズ。
 
「ああ、すまないルイズ。何でも無いんだ」
 
不安が払われるよう再度ルイズの頭を撫で、笑顔を見せる。
 
「何時までもこうしていても仕方がない。遊びに行こうか、ルイズ」
 
まだ納得していなさそうなルイズに下手くそなウィンク。
 
「あ…うん!にいさま、おままごとしよ~」
 
「む、おままごとか……」
 
まぁ考えても仕方無いか。
 
護るべき者が、肩を並べ背中を預けれる者になるだけだ。
 
尤も 知識や経験、そして精神のアドバンテージでそれほど簡単に並ばせないがな──
 
そんな事を考えながらルイズに手を引かれ、庭に向かった。
 
~あとがき~
どうにかこうにか三話も書き終えました。
水無月です。
二次創作は大変だなぁ…と脳内村人と談笑する日々です。
さて三話ですが…
大して進んでいません!
私の文才の無さがいけないのでしょうか…
こんな駄文を皆さんに見せているとは…
恥ずかしくてたまりませね!
これが見られる快感?
と冗談はこれぐらいにして
とらハ編 つまり『御神(不破)斗真』の物語が見たいと言われる方が数人いたようで…
インスピレーションが湧いて、ちょっと書いてます。
載せる場合、番外編で良いのかな?
尤もそんな可能性は低いのですが
まあそんなとこで
この駄文を読んでくれて有り難う御座いました。
それではまた、縁があれば



[21011] 主人公設定
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:c4ad9fb0
Date: 2010/09/12 22:00
レイ・フォルス・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
《容姿》
 金色の髪に左前髪の辺りにピンクの髪が一筋入っている。
妹ルイズ同様天使を彷彿させる愛らしさ。
 意志の強さが現れている目元が特徴で、母親譲りなのだろう。
 奥に黒曜石の黒を垣間見せる、アメジストを彷彿させる紫の目。
 現在五歳であるが、体格は十歳児と見紛う程
《性格》
護る事に対しては頑固
一見生真面目だが生真面目過ぎず、少し意地悪でからかい好き
《特技》
永全不動八門一派 御神真刀流小太刀二刀術(技能的には六の奥芸と正統奥義並びに極伝も使えるが、体がついてこない)
 
 奥義之歩法 神速
 
神速の世界(視界が全てモノクロな世界)に入れはするが 身動きはでず、持続も一秒弱。
はっきり言って、使い物になっていない代物
 
霊力使用
霊力量
神咲某=神咲薫=レイ
〈技能〉
肉体強化
〈身体能力の強化(+10%程)並びに、肉体強度の強化〉
小規模の霊力放射
打ち身程度なら治せる癒し
前前世の通信教育
記憶拡張術
速読
探偵入門
琉球空手
太極拳(健康体操程度
ひよこの雌雄判別
以下 判明する度に記入します












[21011] 護りたいから
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:c4ad9fb0
Date: 2010/09/12 22:13
side レイ
 
腹の底に力を込めないと、思わず屈してしまう威圧感。
 
「……もう一度聞きます。……レイ、貴方はこヴァリエール公爵家の嫡男で有りながら、剣を手にしたいと……そう言いましたか?」
 
余りにも違う母の声音に、知っている事と実際に感じる事はやはり違うものだな──と、内心での驚嘆を隠し頷く。
 
「はい。母上」
 
剣を持たぬ自分など自分では無いと裂帛の意志を込め、母の目を見つめ返す。
 
──三歳の誕生日のその日
 俺とルイズの誕生日会が開かれた。
 
盛大なものを開きたがった父であったが、母の鶴の一声にて内々のものに変更を余儀無くされた。
 
尤も俺としては有り難い事だったが……
 
それでも誕生日会は盛況に進み、皆が祝ってくれるのが嬉しいのか、ルイズは終始ニコニコ顔であった。
 
普段は仏頂面の多いエレオノール姉さんも、優しさの溢れた表情で楽しそうにしていたし、日頃から体調の芳しくないカトレア姉さんも体調が良いようで──体調を考慮して控え目にしていたが──それでも楽しそうに笑っていた。
 
父は言わずもがなである。
 
母も機嫌が良さそうだったので、この場を借りて剣を始めたい旨を両親に伝える事にした。
 
その結果──今の状況である。
 
見つめた母の目には覇気が宿っていたが、怒気らしきものは皆目見当たらなかった為 自分の予想は間違いでは無いと確証を得る。
 
「……何故 剣を持ちたいのです?」
 
少々 視線を転じてみる。
 
父は威厳を見せ厳しい表情でこちらを見てくるが、母が怖いのか若干腰が引けている。
 
エレオノール姉さんは顔色を青くして 多分俺に発言の撤回をさせようとしているのか、心配そうな視線を向け 口をパクパクと開閉させていた。
 
カトレア姉さんは……
ニコニコと微笑んでいた。
 
やっぱりこの人は大物である。
 
そしてルイズは……
 
「にいさま……かあさま……ケンカ……してるの?」
 
俺の隣で泣きそうに顔を歪め、俺と母の間でオロオロと視線を転じつづけた。
 
ソッと微笑みルイズの髪を撫でる。
 
「ケンカなんてしてないよ ルイズ」
 
「本当……?」
 
返事の代わりに更に笑みを深め頷く。
 
そしてまたも視線を母に転じて……
 
「……護りたいからです。自分の大切なもの……全てを」
 
負けじと覇気を込め 、真の戦闘者同士にだけ通じる技法『目で伝える』を発動。
 
この程度の覇気なら、もっと強大だった『大うつけ』殿で慣れたもの。
 
況や俺にも出来ぬ事でも無い事だ。
 
「……護りたいと言いますが……それは魔法でも出来るのでは? むしろ魔法の方が色々な状況に対処出来る筈……」
 
やはりか……と思えてならない質問だった。
 
母が悪いのでは無い。
 
これがこの『ハルケギニア』での常識だ。
 
魔法衛士隊の様に剣を使うメイジもいるにはいるが、彼らは魔法の『補助』に剣を使うのであって、俺とは間逆だ。
 
俺のしようとしている事は、常識破りの異端である。
 
「確かに魔法ならば色々な状況に対応出来るでしょう。」
 
「なら……「ですが」……」
 
「……魔法は精神力が源と聞きました。ならば精神力が切れれば使えない。」
 
違いますか?と視線を投げかける。
 
「…………」
 
「……魔法が無ければ戦えないでは話にならない。それでは護れない──だから魔法が使えくても五体満足であれば戦える、護れる手段が欲しいのです!」
 
静寂が続く。
ついつい熱くなって、子供らしからぬ発言になってしまったかと内心冷や汗をかく。
 
せっかくルイズと二人きりである時以外は、稚拙な演技力を駆使して三歳児らしくしていたのに……
 
だがここは畳み掛けるべき場面。
 
好機を逃す真似はしたくないので、このまま発言を続ける。
 
「……それとも 母上の仰られる立派な貴族とは、魔法を使い切ったら護りたいものを見捨てるか、共に犬死にする者なのですか?」
 
「ッ、言葉が過ぎるぞ!レイ!」
 
沈黙する母の代わりに激昂する父。
 
予想通り、予定通りの行動に内心ほくそ笑み……
 
「申し訳ありません。言い過ぎました。ですがこれは私の正直な気持ちです。常々考えていたのです。誇りとは『過程』に該当させるだけで無く、むしろ『結果』にさせるべきでは無いかと……」
 
「「…………」」
 
「故により良い『結果』を、何者に対しても誇れる『結果』を得る為に──剣を、より多くの手段が欲しいのです」
 
ルイズの頭の上の手を下ろし、頭を垂れる。
 
「成すべき事もしっかりやります。その上で剣を握らせてください。お願いします」
 
またも静寂の帳が落ちた。
 
静かに時が進む中、 意外な人物が沈黙を破った。
 
「宜しいでは無いですか、お母様」
 
俺の右手横側、ルイズの隣に居るカトレア姉さんの声だった。
 
「……ですが」
 
「レイちゃんなら大丈夫ですよ。レイちゃんを信じてあげて下さい」
 
あまりの事に、呆然とした阿呆面でカトレア姉さんに視線を向ける。
 
こちらに気付いたカトレア姉さんは、悪戯げにクスリと笑みを零した。
 
「……解りました。レイ、剣を握るのを許可します」
 
予想では一度ぐらいの説得では無理だろうと考えていた為、 急転直下の展開に頭がついていかなかったが、自分の利となる事柄はしっかりと耳に入っていたので──バッと音がする程の俊敏さで視線を母に向けた。
 
「ですが自分で言った通り、成すべき事を成した上でですよ」
 
約束ですよ、と母は優しげに微笑んだ。
 
「はい!」
 
「レイ……」
 
「はい 父上」
 
若干空気と化していた父に目を向ける。  
「……やるのなら中途半端にするな。そんな者は、立派な貴族と言えんぞ」
 
先程の立派な貴族云々の意趣返しだろう。
 
不敵に笑う父に苦笑い気味に……
 
「はい、肝に命じて置きます。」
 
~おまけ~
 
「しかし…随分と大人びた発言をするのだな、レイ」
 
「あ…こ、これはその…」
「兄様、二人きりの時はもっと違うよ!」
 
「こ、こらルイズ!」
 
「あらあら」
「へぇー、どう違うの?教えてみなさい ルイズ」
 
「う~んとね、え~とね…何だか格好好いの」
 
「ほう」
 
「へぇーー(ニヤニヤ)」
 
「あらあらあら(ニコニコ)」
 
「む、むぅ……」
 
~おまけ2~
 
「むぅぅぅぅぅ」
 
「あら、どうしたのルイズ」
 
「──ルイズもやる」
 
「えっ?」
 
「兄様がやるならルイズもやる!」
 
「「「えっ!?」」」 

 
「あらあら」
 
「……やっぱりですか」
 
「何馬鹿な事言ってるの、このおチビは」
 
「やる!」
 
「ル、ルイズは女の子だから他の事を…」
 
「やるったらやるの!!」
 
「……(顰めっ面)」
 
「やるったらやるったらやるの!!!」
 
「……パンツが丸見えで、はしたないぞ 妹よ」
 
「 そこ!?(by父」
 
「あらあらあらあら」
 
~あとがき~

カトレアさんのイメージは琴絵さんです
こんにちは水無月です
第四話『護りたいから』をお送りしました。
少し両親の物分かりが良過ぎと思われるかもしれませんが、
私の中でのヴァリエール夫妻は前話の考察と合わせて こんな感じです。
違和感を感じる方をいらっしゃると思いますが、見逃して戴けると幸いです。
それでは 今回はこの辺で
また縁があれば








[21011] 剣術事始
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:c4ad9fb0
Date: 2010/09/12 22:27
side レイ
 
母の許しを得た次の日。
 
俺は早速 早朝明るくなる前に、同じ部屋だが違うベッドに寝ている筈なのに、朝には俺のベッドに潜り込んでいるルイズを起こさないように起き出し、庭に鍛錬に向かった。
 
許しを貰って一晩と言う事で、まだ剣は用意出来ていない。
 
だが、剣が無ければ戦えないでは剣術とは言えないし、そもそも御神は700年近い歴史を持っていて──元々は無手だったらしく、小太刀を持ちだしたの200年程前からだったのだ。
 
故に御神は、体術においても超一流なのである。
 
なので御神独自の身体制御に身体を慣れさせる為、無手での型稽古と相成った。
 
まだ目覚めていない身体を覚醒させるための軽い走り込みから始まり、無手での御神の基本斬撃となる
『斬』 『徹』 『貫』
を行う。
 
剣が無いので、『斬』は良く解らなかったが、技術重視の 『貫』は問題無く行えた。
 
懸念があるとすれば『徹』で……
 
『徹』に必要なのが技術よりも、細かな肉体制御に必要とする筋力である為、 出来はするのだが少々威力に不安が残ると言った有り様だった。
 
まあ筋力云々は日々の鍛錬で地道に上げていくしか無いので、焦らず気長に考える事にした。
 
基本の後は少しの休息を挟み、型稽古。
 
基本の型から猿落としや立木挫きなど、応用に類する型もゆっくり思い起こしながら行っていく。
 
「あ~、にいさまいた~!」
 
「あら、綺麗ね~」  
そうしていると、屋敷の方からルイズとカトレア姉さんの声が聞こえた。
 
気配は感じていたので驚きもせず振り返る。
 
「おはよう、ルイズ、カと……「兄様~!!」……むっ?」
 
挨拶しようとした所に迫り来るルイズの突進。
 
避けてルイズを転がしてしまってはいけないので、咄嗟に身体が動いてしまう。
 
迫り来るルイズの頭部に手を添え、突進で生じた運動エネルギーのベクトルを変えるべく軽く下に押す。
 
そのままでは前のめりに転がすだけなので、もう一方の手を腹部に添え、足元を掬う様に払う。
 
そうするとルイズは ──
 
「うにゃ?」
 
──と間抜けな声を上げ、俺を起点にした前方宙返り。
 
着地の瞬間にも衝撃を殺すべく軽く引いてやって、見事着地。
 
「うにゃ?うにゃ?うにゃにゃにゃ~?」
 
「あらあらあらあら」
 
何が起こったのか理解出来ず、猫の様な奇声を上げるルイズ。
 
そして目は軽く開かれているがいつもの如く、あらあらまあまあとホンワカしたままのカトレア姉さん。
 
カトレア姉さんにとって あれが驚きの表情なのだろうか?
 
……理解に苦しむ。
 
「ルイズ、大丈夫?けがなかった?」
 
「あ…う、うん」
 
先日の件があるので 今更手遅れかもしれないが、一応と言う事で子供らしいと思われる言動でルイズを諭す。
 
「ルイズ、いきなり飛びかかったりしちゃ、危ないわよ?」
 
「カトレアねえさまの言うとおりだよ、ルイズ。」
 
「……ごめんなさい。にいさま、ちぃねえさま」
 
──シュンとしたルイズも可愛いな── などと不穏な考えが頭に浮かんだが軽く無視し、ルイズの頭を撫でようとしたら視線を感じた。
 
(じーーーーー)
 
「うっ……な、なに?カトレアねえさま?」
 
いつものニコニコ顔の中で、それだけが笑っていない目で見つめてくるカトレア姉さん。
 
その様子が恐怖感を駆り立て、額に冷や汗が流れる。
 
「……口調……」
 
「……えっ?」
 
「レイちゃん……口調……戻ってる」
 
「えっ?えっ?」
 
止まらない冷や汗。
動揺し続ける心。
オロオロするしか出来ない俺。
 
そうしていると不意にカトレア姉さんの目元に雫が見え……
 
「ルイズには特別な話し方して、お姉ちゃんにはしてくれないのね!レイちゃん、お姉ちゃんには心を開きたく無いんだわ!!」
 
「ちぃねえさま!にいさま、ちぃねえさまいじめちゃだめ!」
 
地面に跪き、泣き出すカトレア姉さん。
 
釣られて泣き出し、俺を怒るルイズ。
 
……カオスだ。
どうすれば良いか検討も付かず、途方にくれそうになる。
 
だからといって、唯一解決出来る俺が放り出す訳にもいかない。
 
「あー……悪かった。これから改めるから、許してくれないか カトレア姉さん」
 
「よろしい」
 
言った瞬間涙が消え、スッと立ち上がったカトレア姉さん。
 
……いやまぁ、嘘泣きだろうなと思っていましたよ?
 
でも、これはいくら何でも……
 
ほら、ルイズなんて突然過ぎてキョトンとしてるし。
 
「うふふ…これがレイちゃんの本来の口調なのね」
 
勘の鋭いこの人にはいずれバレるだろうと覚悟していたが… …
 
その原因が自らの墓穴であるため、 酷く憂鬱でならない。
 
「でも……」
 
「……えっ?」
 
「どこそんな言葉使いを覚えたのかしら?」
 
周りにもそんな口調のいない筈よね? と、言い逃れ先を一つ潰し、少し意地悪そうに笑うカトレア姉さん。
 
まぁこの人ならば聞いてくるだろうと思っていたので、用意していた回答を提示する。
 
「図書室の本でね。偶然見つけた本の登場人物の口調を、少し参考にさせて貰って……先に言っておくけど、本の題名は覚えて無いのであしからず」
 
と同時に下手くそなウィンク。
 
「そう……本を参考に……」
 
完全に納得はしていない様子だが、嘘とは言え質問にはちゃんと答えているので俺からこれ以上言う事は無い。
 
「それで?良ければ続きを始めたいんだが……」
 
「そうそう、それ」
 
「ん?……それ?」
 
「そう、それ。続きって、さっきの踊りみたいなのかしら? とても綺麗な動きだったけれど……」
 
なるほど、そう言う事か。
 
より完成された無駄の無い動きは、舞いを思わせる。
 
更に言えば、それで型を舞っていたのだからよりそう思わせたのだろう。
 
「ああ、あれは型と言って、武術や剣術などはあれを身体に覚え込ませる必要があるらしいんだ。」
 
──これも偶然見つけた、東方の剣術や武術関連の本で読んだんだ──と聞かれる前に機先を制し告げる。
 
言い訳臭いが、まさか前世の知識とも言えないので仕方ない。
 
そう言うわけで と話の終わりを促し、型の続きに戻る俺。
 
見学するカトレア姉さんとルイズの前で、型を舞いながら ふと思った。
 
(前前世で覚えた太極拳はカトレア姉さんの身体に効果は無いだろうか?)と
 
太極拳で内功を鍛え、その上で前世にて『神咲某』から習い覚えた、魔法とはまた違った『癒し』の術を施せば……或いは?
 
と詮無い事を考えていると一通りの型を終えたので、今朝の鍛錬を終えるためクールダウンに入る。
 
「あら?もうお終い?」
「ああ。それに、そろそろ朝食の時間だろうしね」
 
持ってきていたタオルで汗を拭き、着替えの為 部屋に向かう。
 
向かう道すがらルイズが
 
「にいさま~ルイズも、けんやりたい~」
 
と言って来たので着替えながら考える。
 
御神の剣は、不破で無くとも裏の面の目立つ剣だ。
 
故にルイズに教えるべきでは無いと考えるが……
 
まあ御神に拘る必要も無いし、小太刀一刀の剣技を教えても良い。
 
それにルイズの剣才なら或いは……
 
と考え、着替え終わるのを待ってくれていたルイズとカトレア姉さんを伴い、食堂に向かった。






[21011] その名は『霊力』【副題 虚無少女の更なるチート】
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:c4ad9fb0
Date: 2010/09/12 22:40
朝食が済み少々時間が過ぎて──
 
ラ・ヴァリエール家の広大な庭の片隅に、レイ・フォルス・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの姿があった。
 
誰にも見られたく無いのかキョロキョロと周囲を見渡し、更に一定周囲の気配を探ると言った些か臆病とも取れる慎重な行動の後……
 
フゥと息を吐き、徐にその場に腰を下ろした。
 
貴族にあるまじき『地べたに直接座る』と言う行動を見咎められるのを嫌っての慎重さかと思われたが、そうでは無さそうだ。
 
「見られる心配は無い……か。後は気を抜きさえしなければ……」
 
ポツリと呟き、足を所謂『座禅』の形にする。
 
そしてもう一度周囲を見渡し、徐に目を瞑った。
 
レイが何故このような事をしているのかには理由がある。
 
朝食前に考えた事 姉カトレアに、ある『力』に依る治療が効果が無いだろうかと考えたのだ。
 
レイが御神 斗真であった時、修行の旅の最中に『神咲某』と言う一剣士に出会った。
 
彼は少々変わっていて、とある一流派の皆伝者を名乗ったくせに斗真の扱う小太刀の取り回しの良さや守りに適した特性にいたく感心して興味を示し、斗真に扱い方の教示を要請したのだ。
 
渋った斗真に彼は、その代償としてと言う事で『人の内に眠る人ならざる存在を討つ力』すなわち『霊力』を教えると提示した。
 
そうまで言われては斗真も断れず、時に小太刀の扱い──御神を教える訳にはいかないので、一刀に依る扱い方だが──を教え、時に『霊力』の扱いを教わる と言う形で共に研鑽を積んだ。
 
この『神咲某』この後更に小太刀での研鑽を積み、そこに符術を加味して『神咲楓月流』を興すのだが……斗真には預かり知らぬ事である。
閑話休題
 
その後斗真であった時の老齢の砌に、衰えた体力を補う形で使っていた。
 
その『霊力』の利用法の一つである『癒し』に着目し、扱い方を思いだそうと相成ったのである。
 
真っ暗な視界の更に、更に、更に奥の、内の、内の、深遠と言える内側を、斗真では無くレイとして意識し、探査し、感知する。
 
身体の奥底に眠るマグマの如き熱、生命力の輝き。
 
それを斗真であった時の事を思い出し、表面に具現させる。
 
ドクンと一際大きな心音の音をきっかけに、身体に纏われたのを感じ目を開く。
 
煌びやかな生命力の輝き──黄金の光が身体から立ち上っている。 
 
この黄金の光が『霊力』であるのだが……
 
見られない様に慎重になっていたレイなのだが『霊力』は本来先天的、後天的を問わず『霊視』能力のある者にしか視確出来ないものである。
 
即ち、彼の慎重な行動は少々無意味に該当するかもしれない。
 
「ふむ……量は神咲氏に匹敵しそうか……」
 
レイとしての霊力量は、斗真であった時より増大している。
 
これはメイジという超常の力を扱う血が関係したのだろう。 
だが、今の所それは関係無い。
 
今知りたいのは……
 
「……俺の『癒し』でどれほどの効果を期待出来るか……」
 
である。
 
斗真の時にも数度『癒し』を行使した事があったが、それほど効果のあるものでは無かった。
 
尤も、いくら『神咲』直伝とは言え 少々習い、磨き上げた事実も無い上で『体に纏って少々の肉体強化及び耐久力強化』『小規模の霊力放射』『打ち身程度の癒し』と使えたのだから異常ともいえるが ──
 
少し時間を遡り
 
ルイズは朝食後に姿を消した兄を探していた。
 
兄と遊びたいからでもあるのだが、それだけでは無かった。
 
朝食前にルイズは言ったのだ。
 
自分も剣をやりたいと。 
 
その為に兄を探していた。 
 
話は少々変わるのだが、ルイズはレイにとって『特別』な存在である。 
 
それは大切な妹だから──では無く、彼の『天敵』になれる可能性故の『特別』
 
ルイズは気配を消せる訳では無い。
 
訓練をした訳でも無く、レイのような特殊な子供では無いのだから当然だが……
 
だがルイズが隠れようとした時、その気配はレイには感知し辛くなるのだ。
 
これをレイは『敵意が無く、自らの修行が足りない』所為だと考えているが、そうでは無い。
 
この先どれほど修行しようと、レイはルイズに気付けず、ルイズはレイの不意をつける。
 
故に『特別』なのである。
 
そのために気づけなかった。
 
座禅を組む自分に近寄ってくるルイズの気配を……
 
「あ、にいさ……」 
庭の片隅で遂に兄を見つけるルイズ。
 
いつものごとく声を掛けようとして、動きが止まる。
 
見たことも無い座り方で座っている兄。
 
その体から立ち上る黄金の光。
 
しっかり存在し、儚く揺れる。
 
それはまるで黄金の炎であった。
 
「……きれい……」
 
あんな光、あんな炎は見たことが無かった。
 
魔法かと思ったが無意識に違うと断じた。 
 
あれは違う。
 
あれはそんなものでは無い。
 
あれは命。
 
命そのものの光。
 
人に許された、存在無き存在を討つ力。
 
故に美しく、故に儚い。
 
茫然と眺め続けるルイズ。
 
不意にルイズは身体の内側に熱を感じた。
 
「……ふへっ?」
 
熱は始めは微かなもので、ただの違和感に感じられ ルイズは小首を傾げた。
 
だが次の瞬間……
 
「えっ……きゃ、きゃぁぁぁぁぁ!!」
 
熱は一気に燃え上がり、間欠泉の如く湧き上がった。
 
side レイ
 
「えっ……きゃ、きゃぁぁぁぁぁ!!」
 
「む!?ル、ルイズ!?」
 
突然背後から聞こえたルイズの叫び声。
 
何事かと思い、背後を振り返った。
 
「な!?……何だこの厖大な霊力は……」
 
そこには確かにルイズの姿があった。
 
だがそのルイズから途轍もない量の霊力が立ち上っていて、愕然としてしまう。
 
「はっ!馬鹿か俺!まずはルイズを助けるのが先決。呆けている暇など有りはしないだろうが!」
 
ルイズを護るのが俺の存在意義。 
 
故に霊力だろうと何だろうと、邪魔はさせん!
 
俺とルイズの間はこちらで言う10メイル程。
 
立ち上がる際の反作用の勢いを得て一気に駆け出す。
 
「……ぐっ」
 
距離が近付くにつれ圧力が増す。
 
本来無意識な霊力に物理的な力は無い。
 
だがルイズの霊力量が厖大な為か、そんな常識をねじ曲げている。
 
「ちぃ、系統は虚無で剣才は破格、霊力量も人外って、なんてチートだ!!」
 
つい叫んでしまうが、聞かれる心配は無いだろう。
 
ちゃんと気配は確認済みである。
 
残り2メイル程に来た時更に圧力が増し止まる。
 
今の身体能力的にこれ以上は限界かも知れない。
 
だが……
 
「……霊力が」
 
どれほどの障害だろうと……
 
「……霊力風情が」
 
例え神であろうと……
 
「御神不破を舐めるな!!」
 
『護る』御神に負けは無い!
 
無茶を承知で霊力で身体能力を強化。
 
今使える霊力の全てを使用した強化が切れる前に距離を詰め、ルイズに辿り着き、喉も破けよとばかりに叫んだ。
 
「目を、覚ませ!!ルイズゥゥゥゥゥ!!」
 
すると……
 
「はにゃ!?」
 
纏った霊力で浮遊--と言っても数サント程ーーし、夢現な表情をしていたルイズは何とも気の抜ける声を上げ正気を取り戻した。
 
「はにゃ?うにゃ?……あ、にいさま」
 
何事も無かったかのような様子のルイズ。 
 
そして俺はと言うと……
 
「……はにゃって」
 
気が抜けて後ろに倒れ込み意識を失った。
 
その後、意識を取り戻した時は大変だった。
 
ルイズとカトレア姉さんはわんわん泣き、エレオノール姉さんと父上は涙目で怒りと困惑で半々と言った様子。
 
母上は……目を向けられなかった。
 
そして罰として三日間の謹慎を言いつけられ、何とも遺憾な一日は幕を閉じた。





[21011] 外伝 ゼロの○○
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:c4ad9fb0
Date: 2010/08/18 21:23
:注:
ノリで書きました。 かなり悪ふざけが過ぎる内容となっておりますが、批判、苦情はJAROにお願いします。
 
~~~~~~~~~~~
 
むかしむかし
ハルケギニア大陸のトりステインと言う国に、『ゼロのルイズ』と言う魔法が使えない、可哀想な女の子がいました。
 
貴族なら、魔法が使えて当たり前。
 
でも、ルイズは使えない。
 
故に『ゼロのルイズ』
 
そんな彼女に、人生の転機が訪れました。
 
トりステイン魔法学院の、二年への進級試験を兼ねた特別な儀式
 
『使い魔召喚』
 
そこで同学年の少年少女達は様々な動物を召喚しました。
 
ある者はカエルを喚び、またある者は火蜥蜴。
 
竜なんてのを召喚した者もいました。
 
皆が召喚を成功させる中、遂にルイズの番が訪れます。
 
何度も失敗し、何度も繰り返しました。
 
何度も何度も繰り返し、ルイズの心が折れかけた…その時。
 
遂にルイズも召喚に成功したのです。
 
彼女が喚び出したもの、それは…
 
とても愛らしい、子ぎつねでした。
 
『あなた名前は?』
 
『くぅ?…くおんはくおん』
 
彼女が喚び出した、愛玩系マスコット子ぎつね『久遠』
 
その愛らしさに、ハルケギニア中はメロメロに!
 
微熱少女
「ねぇヴァリエール。もうゼロと呼ばないから、子ぎつねちゃんに触れさせてはくれない?」
 
復讐に囚われた眼鏡っ子&韻竜
「……久遠と韻竜、交換希望」
「おねえさま酷いのね!!きゅいきゅい」
 
ぽっちゃり風邪っぴき
「やいゼロのルイズ、お願いですから久遠を撫でさせては下さい!」

虚無の一角、似非教皇
「ガンダールヴは虚無の使い魔。故に久遠は私にこそ相応しいのです。決して愛でたいからと言う訳ではありえませんよ」
 
忍び寄る大量の魔の手。
 
ルイズは無事に久遠を守り通す事が出来るか!?
 
「久遠は私の!!誰にも渡さないんだから!」
 
「くぅ、くおん、ものじゃない」
 
久遠が一番大人だ!?
 
『ゼロのく~ちゃん』
 
カミングス~ン
 
~あとがき~
…………一言だけ
反省はしている!
だが後悔はしていない!
続かない



[21011] 剣を捧げるべきか否か 前編
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:c4ad9fb0
Date: 2010/09/12 22:53
ヴァリエール公爵には悩みがあった。
 
その悩みとは、いやに気位が高く 少々傲慢の気のある長女エレオノールの嫁ぎ先……では無く、
 
理由は分からないが、最近快方に向かっているが予断の無い次女カトレアの体調……でも無く、
 
今年四歳になる双子の兄妹、レイとルイズのある学び事である……
 
~~~~~~~~~
 
その日もヴァリエール公爵は悩み、妻たるカリーヌ・テジレに相談を投げかけた。
 
「ルイズに、剣を辞めさせるべきでは無いか?」
 
ヴァリエール公爵の三女たる双子の妹ルイズ。
 
愛らしい容姿とピンクブロンドの髪を持つ、将来が楽しみな女の子なのだが……
 
庭に目を向ける公爵。
そこにはルイズがいて、活発に動き回っていた。
 
片刃の少々短い剣のような物を手にして──
 
「それはそうなのですが……あの子にレイの真似をするなと言えますか?」
 
溜め息混じりに言うカリーヌ。
 
公爵は少し考えた。
 
ルイズは兄のレイに大変懐いている。
 
その懐きようは、父たる自分を蔑ろにしているように思われ、嫉妬しそうになった事は一度や二度では無い。
 
そのルイズにレイの真似をするなと言う…… 
考えずとも泣き叫んで拒否されるのは目に見えている。
 
ルイズを止めるのは無理、ならば……
 
「なら レイに剣を辞めさせれば……」
 
公爵の嫡男にして双子の兄レイ。
 
彼は非常に優れていて、頭脳明晰にして礼儀正しく、自分譲りの金の髪と、彼だけに許されたかのような一筋のピンクブロンドの髪を持つ、年不相応な少々年嵩の子供の体格の、公爵自慢の息子であった。
 
だがレイは少々『変わった』子供であった。
 
「あなた……あなたは私に約束を破れと……そう言いたいのですか?」
 
瞬間、カリーヌから冷気が感じられ、竦んでしまう。
 
レイが変わっている証とも言える最たるもの──それがこの約束である。
 
三歳を数えたその日、レイはカリーヌと約束を交わした。
 
『成すべき事は成す。代わりに剣を振るう許可を出す』と。
 
約束から一年程経ったが、約束は破られず守られている。
 
その結果の自慢出来る程の息子なのだが……
 
「そ、そそそ、そう言う訳じゃない!だ、だだ、だからそう怒らんでくれ」
 
青ざめ、必死に言う公爵。
 
「……そうですか」
 
カリーヌはフゥと息を吐き続けた。
 
「そう言う訳で、ルイズを止める事は諦めるしかありません。なるようにしかなりませんわ」
 
あの親にしてこの子あり、蛙の子は蛙と言うが、この場合あの兄にしてあの妹ありと言えば適切だろうか、ルイズもレイと同じく成すべき事を成し、こちらも贔屓目抜きに自慢出来る程に育っている。
そして…
 
「良いではありませんか。見た限り真剣の様ですし……」
 
それは公爵も考えた事だ。
 
中途半端にやっているのでは無く、些か心配になる程に真剣にとりくんでいる。
 
それは良い。
それは良いのだが……
 
「しかしな、剣ばかりで他のものに目を向ける素振りも見せないのが心配でな……」
 
「……それは……確かに……」
 
カリーヌも思う。
一心不乱に騎士を目指していた自分が言える事では無いが、他の事に目を向ける事も確かに必要な事である。
 
何故ならそれは、自らを豊かにしてくれるから。
 
「ですが……どうやって……」
 
「……それは……」
 
悩み沈黙する二人。
何だかんだ言って仲の良い夫婦である。
 
「おぉ、これはどうだ?」
 
こうしてヴァリエール夫妻の一日は、何やら画策して時間が過ぎていった……
 
side レイ
 
煌びやかな装飾品だらけの廊下が目に入る。
 
場違いだなと思いソッと溜め息を吐いた。
 
トりスタニアの王城、今俺はそこにいた。
 
振り返る事数日前、朝から嫌に上機嫌な父上に告げられた。
 
色々と小難しい事を並べられたが、簡単に言えば『陛下に挨拶を賜りに行く』言う事であった。
 
俺としては剣の鍛錬──剣は一応手に入った。 尤も質は刀の概念の無いこの世界の事情を考慮した上で、無いよりマシのレベルであったが──の時間を潰されるのが不満だった。
 
ルイズも最近剣を振るう事に慣れてきていたので、尚更だったのだが……
 
これは言うなれば強制イベントだろう。
 
即ち、アンリエッタ王女との出会い。
 
俺と言う異分子がいるがルイズには必要な過程と思われたので異論を挟まず、トりスタニア来訪と相成った。
 
廊下を暫く進んだ先の待合室で待たされ、不安そうなルイズを撫でて宥めていると呼び出され、謁見の間へ。
 
父上に続き俺とルイズが中に進む。
 
まず廊下の例にもれず『うつけ殿』に比べると装飾過多な室内が目に入った。
 
そして近衛兵と思われる騎士達が目に入り、真正面、玉座に三人の人影が見受けられたら。
 
正面立派な玉座に座る壮年の男性がトりステイン王ヘンリー陛下だろうか。
 
マリアンヌ王妃、そして件のアンリエッタ王女と思われる姿もあった。
 
一定の距離に来ると父上が徐に恭しく片膝を付いた。
 
「おお、これはラ・ヴァリエール公爵。健勝そうだな」
 
鷹揚な陛下の言葉に父上も──
 
「陛下こそ、御健勝の御様子、何より」
 
と厳かに返す。
 
家では母上に尻に敷かれていようと、その威厳溢れる様に──腐っても公爵家当主──と、失礼な事を考えたのは秘密である。
 
俺がそんな事を考えているとはいざ知らず、父上と陛下の話は進む。
 
「時に公爵、本日は一体どのような要件で参内かな?」
 
「要件と言う程でもありませぬが……次代ラ・ヴァリエール公爵、並びに我が三女の顔見せに」
 
「ほう……噂の嫡男か……」
 
そろそろかと居住まいを正す。……って、噂?
 
「レイ」
 
……ま、事の真偽は後に回す事にし、父上の声に応えた。
 
「はい父上」
 
side out
 
周囲の視線を集める中、その子供は颯爽と父たるラ・ヴァリエール公爵の前に出た。
 
数えで四つと聞いていたが、一見すると七つ程に思われた。
 
父譲りの金糸の如き金髪に前髪の一部に母譲りの桃髪が一筋流れている。
 
幼くも端正な美貌の面は毅然と凛々しい表情を浮かべていて、『幼子の初謁見』と言うより『騎士の拝謁』を注視する全ての者に思わせた。
 
淀み無く、父ラ・ヴァリエール公爵に遜色無い恭しさで片膝を附き頭を垂れ……
 
「お初に御目にかかり、恐悦至極に御座います。陛下、王妃様並びに王女殿下……私はラ・ヴァリエール公爵嫡男、レイ・ フォルス・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。以後お見知り置きを」
 
と厳かに述べた……





[21011] 剣を捧げるべきか否か 中編
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:c4ad9fb0
Date: 2010/09/12 23:28
ヴァリエール公爵は御満悦であった。
 
何故なら常日頃言っていた事の真偽を、衆目の中披露する事が出来たからである。
 
自分の子供達のレイとルイズの事を、公爵は常々会う人会う人に語っていた。
 
やれ『家の長男は徒者では無い』だの、
やれ『家の三女の可愛さは国宝級だ』だの、
次から次からに、有らん限りの美辞麗句を用いる公爵に、話を聞いた諸侯は些か親馬鹿が過ぎるのではと、顔を顰めていた。
 
それは流石に言い過ぎだと、笑い話として話していた輩もいた事も公爵の耳に入っている。
 
だがそれも今日まで。
 
初めての謁見で、そうは見えぬ程威風堂々としていたレイ。
 
そしてたどたどしくも、終始愛らしさを感じさせたルイズ。
 
傍らで控えていた公爵には、諸侯等がルイとルイズの双子を褒め称える台詞がなんともなしに耳に心地良く聞こえてきた。
 
曰く『あれほどなら、公爵の言にも納得がいく』
 
『傑物とは、あの子の事を言うのだろな』
 
『確かに将来が楽しみな子達だ』
 
『あれほど可愛い子なら、自慢して当たり前か』
 
『お持ち帰りしたい!』等々。
 
現在陛下のお茶会の誘いにより、テラスにて陛下や王妃と共に紅茶を飲みながら公爵はその時の事を思い出し、内心歓喜の情でいっぱいだった。
 
今現在 双子の姿は無く、双子に感嘆した陛下の意向により、アンリエッタ王女と行動を共にしている。
 
公爵は陛下達と談笑を続けながら、ふと思い出す。
 
レイが挨拶の弁を述べた時、アンリエッタ王女は惚けた表情でレイを注視していた。
 
後に対峙した際も、もじもじと恥じらっていた。
 
その点をふまえて──もしかすると、もしかするかもしれない。
 
だがそうなると、跡取りを王家に奪われるかも知れんな……などと考えながらも、公爵はほくほくの恵比寿顔。
 
が、ある事に思い至り、顔中を蒼白に染める。
 
もしそうなった場合、あのレイにべったりのルイズがいかほどの癇癪を起こすか……知れたものでは無い。
 
そう考え、公爵の突然の豹変具合に訝しげな視線を送ってくる陛下達を気にする事も出来ず、公爵はブリミルに祈りを捧げた。
 
~~~~~~~~~
 
一方アンリエッタの部屋で、レイは困惑の表情を浮かべていた。
 
謁見後、アンリエッタと交友する事になったルイとルイズは、はにかむアンリエッタに案内され彼女の部屋を訪れた。
 
部屋でお茶に舌鼓を打ち、暫く談笑を続けていると突然アンリエッタが俯いて黙った 。
 
「どうかなさいましたか?姫殿下」
 
「おなかでもいたいの?」
 
レイは労りげに言い、ルイズは泣きそうになりながら心配する。
 
「大丈夫ですよルイズ。あの……レイ様──呼び方に関して対峙早々一悶着あったのだが、意外に頑固なアンリエッタと、否定的とは言えない陛下と王妃に押し切られ、レイは渋々了承していた。── 」
 
アンリエッタは顔を上げやんわりとルイズに応え、何かを決意し、それでもビクビクとレイに話し掛けた。
 
「はい何でしょう?」
 
柔らかく頬を緩め、レイが言うが、言い出しにくい事なのかアンリエッタは何度も口を開こうとした。
 
なんとも言えぬ空気の中、アンリエッタは今度こそとばかりに口を開いた。
 
「お兄様と読んでも宜しいですか?」
 
「…………はっ?」
 
と言うわけで現在、王女の私室では困惑満載なレイ。
 
言えた事ばかりに気を取られ、笑顔で話し続けようとするアンリエッタ。
 
そして俯き黙る様子が、なんとも恐ろしいルイズ。
 
といった、カオスな状況が展開されていた。
 
「顔を合わせた時から思っていたのです。レイ様のようなお兄様がいれば、どれほど幸せかと」
 
「はぁ……しかしお気持ちは嬉しい……「だめっ!!」……ルイズ?」
 
詰め寄るアンリエッタに、レイがしどろもどろに答えていると、突然ルイズが叫んだ。
 
そしてルイズはべそをかきながら、レイの左半身に抱きつき
 
「兄様はルイズの兄様なんだから!姫様にだって、渡さないもん!」
 
「まぁルイズ。別にあなたからお兄様をとるんじゃないわ。ただお兄様と呼びたいだけ」
 
どさくさに紛れ、レイをお兄様呼ばわりするアンリエッタ。
 
幼くとも女はしたたかだ。
 
「それでもだめ!!!」
 
「まぁ!ルイズのわからずや!」
 
「姫様のワガママ女!」
 
「ルイズのべそっかき!」
 
「姫様のあんぽんたん!」
 
段々と関係のない罵り合いに移行した二人を、レイは物憂げに見て嘆息。
 
「姫様の……姫様の……うぅー」
 
普通の子供でしかないルイズには一歳の年の差は大きいらしく、並び立てる語彙に苦しみ、唸る事しか出来なくなった。
 
「どうしたのかしらルイズ・フランソワーズ。続きを聞かせていただけないかしら?」
 
それにアンリエッタは、皮肉げな笑みを浮かべ続きを促す。
 
なんともはや、幼くとも女とは恐ろしいものである。
 
「うぅーうぅーうぅー……」
 
目に涙を溜め、ルイズは遂に黙り込んだ。
 
決着か……と、レイが口を開きかけた……その時
 
「姫様なんてきらい!大きらい!!」
 
叫び声を上げたルイズが、背中に手をやり握り取った木刀──鍛錬に必要な為レイが手作りした。──を振りかざし、アンリエッタに襲いかかった。
 
「ルイズ!」
 
だがその直前にレイがルイズを止め、木刀を奪い取った。
 
「返して兄様!」
 
「ルイズ…」
 
「っ!!」
 
ルイズが奪い返そうとするが、レイの能面のような表情と、抑えられた声の冷たさにハッと息を飲み、黙り込んだ。
 
「……俺は常々言い聞かせた筈だな?俺達の剣は護る為のもの……」
 
「でも!」
 
淡々と告げるレイにルイズは言い募ろうとするが、レイが一睨みし黙らせ、話を続ける。
 
「故に悪戯に振るうものでは無い、と……」
 
「……うん」
 
「覚えているなら、それをちゃんと理解して実践しろ。俺はお前に我を通す手段として、剣を教えているのでは無いぞ。どれほど大層な御題目を並べようと、俺達のやっている事は所詮は人を害する行為の取得で決して誉められたものじゃない。だからこそ常々自制を心がけなければならないんだ」
 
「……うん……ごめんなさい兄様」
 
「……謝る相手が違うが、反省してるならそれで良いさ」
 
俯くルイズの頭に、すり抜けざまにぽんと手を置き軽く撫でて、レイはアンリエッタに向き直った。
 
「愚妹が失礼をしました姫殿下。全ての責任は俺が取ります。ですので、愚妹の無礼をお許し下さい」
 
そのように告げ、レイは恭しく片膝をついて俯く。
 
「そんな、兄様!」
 
「お前は黙っていろルイズ」
 
「でも!」
 
「……二度は言わんぞ」
 
「うっ……うぅー」
 
ルイズが驚いて止めようとするが、レイは聞く耳も持たず拒絶。
 
黙り込むルイズ。
 
アンリエッタの沙汰を毅然と待つレイ。
 
そして……何を思っているのか、些か判断のつかない様子のアンリエッタ。
 
三者三様それぞれの思惑が絡む中、アンリエッタが口を開いた。
 
「……レイ様が責任を取る、と言う事でよろしいのですね?」
 
「……御意。私にであればどのような事でも……」
 
「どのような事でも……ですか」
 
虚空に目をやり、呟くアンリエッタ。
 
そしてアンリエッタは微笑んで、口を開いた。
 
「それなら、お兄様と呼ぶ事を許可して下さい。」
 
「……致し方ありませんね。承知しま……「そ、れ、と」……」
 
苦笑いして了承しようとしたところでアンリエッタに遮られ、レイは些か憮然とする。
 
それに悪戯心を刺激されたのか、アンリエッタはクスクスと不穏な笑みを浮かべて言う。
 
「私に対しても、ルイズと同じように対応して下さい」
 
「なっ!?」
 
驚愕するレイに、アンリエッタは満面の笑みを返す。
 
「……それは……勘弁戴きたく」
 
「どうしてですか?お兄様は先ほど『どのような事でも』と仰ったのに……」
 
「確かにそう申しました……が、姫殿下が私をどう呼ぼうと咎められる事は無い無いのに比べ、公爵子息とは言え、臣下の身でしかない私がそのような真似をするのは不敬に当たります。故にそれだけはご容赦を」
 
口を開く暇も与えずに、レイは切々と懇切丁寧に告げた。
 
「それは少々いただけませんわね……それなら他に誰もおらず、私達だけの時だけでもいけませんか?」
 
頬に手を当て、妥協案を提示するアンリエッタ。
 
どうしても自分に雑な態度を取らせたいのか……と、レイは嘆息して思う。
 
だがこれ以上は平行線にしかならないだろうと考え、苦笑いして口を開いた。
 
「分かりました。周りに私達以外誰もいない時に限り、態度を改めさせて戴きます」
 
喜びを湛えて莞爾するアンリエッタと、頬を膨らまし不満そうなルイズの様子に、今回の事が後々の頭痛の種になるとを感じ、レイは深々と溜め息をついた。
 
~あとがき~
…あれ?アンリエッタとの邂逅は一話で終わる筈だっのに…
ぐだぐだと長文が伸びに伸びて、結局は前中後の三部作…下手だな俺。
まぁ兎に角、何とか二部作に収めようとした結果、今までで一番の長文になりました(汗
そのせいで 次回は短くなるかもしれません…
そう言う事で
また 縁があれば



[21011] 剣を捧げるべきか否か 後編(改)
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:c4ad9fb0
Date: 2010/09/01 01:09
書き方を少し変えてみました。
好評であれば、これからもこうします。
 
~~~~~~~~~~
 
Side レイ
 
「こちらですお兄様、ルイズ」
 
「兄様早く!!」
 
愉しげに先を行く、アンリエッタの微笑み顔
 
俺の手を掴み見上げてくる、ルイズの期待に輝かした目
 
それらを視界に入れ--俺は、今の状況に至った経緯を思い出していた
 
姫殿下の私室にて、一波乱あって……一応は一件落着--尤も俺には甚だ、そうは言えないが--した後の事……
 
アンリエッタと約束した--させられたが正しい--一つでも厄介極まりない数々の事柄に頭を痛めていた俺に、ルイズが話しかけてきた 
「兄様……ごめんなさい」 
 
ルイズは沈痛な表情で、目に涙を溜めて俯いた。
 
「気にするなルイズ……そもそも、俺がルイズがあれを隠し持っている事に気付いていれば、状況はあそこまでいかなった。故に責任は俺にある」
 
ルイズを撫でて、微笑む俺に、ルイズは--泣き笑いじみていたが--何とか笑い返してくれた
 
「麗しい兄妹愛ですが……なんだか私、悪役みたいですわ」
 
「そ、そんな事ありません姫殿下」
 
突然拗ねだす姫殿下に、慌てて声をかけるが……
 
「………………」
 
姫殿下は口を開かず--頬をプクーっと膨らませ--更に不機嫌なようす 。
 
「姫殿下……?」
 
俺が困惑気味に声をかけると、姫殿下は漸く口を開き、ポツリと呟いた。
 
「…………約束」
 
「あ、……ああ」
 
納得がいった--確かにこれは俺の落ち度だ--故に

 
「すまん」
 
普段ルイズにするような態度で、謝罪を告げる。
 
そうすると姫殿下は、漸く機嫌が戻ったようで、笑顔で口を開いた。
 
「宜しいですわ……それと私の事はアンと、愛称でお呼び下さい」
 
お父様とお母様以外でこう呼ぶのは、お兄様が初めてですわ--と嬉しげに宣う姫でんもといアンに、毒喰わば皿までと言った心境で……
『アン』
と、呼びかけた。
 
そして脳内の奥深くにある、『知られては拙い事手帳』に--新しい項目を書き足した……
 
「ルイズも、アンと呼んで良いわよ?」
 
「ホント!?姫様」
 
「ええ--「それはやめておいた方が良い」--どうしてですの?」
 
不満そうな二人に、溜め息混じりに応える。
 
「言っては悪いが……ルイズには状況を見て、呼び方を変える判断など--まだまだ出来はしないさ」
 
本来なら俺にも言える事なのだが--言うなれば、異常に当たる俺にはそれは当てはまらない。
 
「できるもん!!」
 
「そうですわ!ルイズなら大丈夫ですわ!!」
 
「……事が起こった後では遅いんだ……忠告は聞いておけ……」
 
「「…………はぁい」」
 
少々高圧的に言う俺に、二人は左右鏡会わせに口を尖らせ、返事をした。
 
「意地悪なお兄様は放っておいて、あちらでお話しましょルイズ」
 
「うん!姫様!……兄様の意地悪!!」
 
アンに促されたルイズは--俺にあっかんべえと舌を出し--アンの手を握り、歩いていった。
 
先程の、下手すれば傷害沙汰と言える状況と比べ、和やかと言えるルイズとアンの様子に、軽く苦笑いする。
 
そしていつの間にやら--もしかすると俺が一役買ったのかもしれない--仲直りして、まるで姉妹のような二人を見やり、椅子に腰掛けた。
 
そうしてなんとなく、二人の話に耳を傾けていると--何とも聞き捨てならない内容が聞こえてきた。
 
「所でルイズ……先程の棒は?」
 
「棒?……あ、これのこと?」
 
ルイズは背中に携えている木刀を、見えやすいように前に出した。
 
「木剣……ですか?」
 
「うーん……兄様は『ボクトウ』って言ってた」
 
聞かれるままにポンポン答えるルイズに、顔を顰める--
尤も素直な事は美点なので窘める事も出来ない--
 
そんな事を考えている、とアンに声をかけられたら……
 
「お兄様……私これに似たものを見た事があります」
 
「……何?」
 
内心の驚きをおくびに出さず--冷静に聞き返す。
 
「……鉄と木と言う違いはありますが……この反りと片刃、それに短さは見覚えがあります」
 
確かに、アンの上げた点は日本刀、しかも小太刀の特徴と言える。
 
尤も、深窓暮らしのアンに、武器の見分けが可能かと言えば--甚だ疑問であるが
 
そう考えていると、アンが言った。
--見に行ってみましょう--と。
 
そして今--眼前に見えるのは立派な門
 
「こちらです」
 
……確かに見に行く事に賛成した。
 
「これが我がトりステイン王家が誇る」
 
……だがそれのある場所が……
 
「宝物庫ですわ!」
 
宝物庫だなどと……聞きもしなかった。
 
何とも言えない不条理に、内心嘆息するが、そうも言ってられず、俺は話を進める事にした。
 
「……この中にあるんだろうが……鍵は?」
 
「鍵……ですか?」
 
ゴソゴソと、服の内側を探るアン
 
「はい」
 
差し出される鍵--
何故持っている!?
 
「これは複製ですわ。本物はお父様が保管しております」
 
「複製?--そんなものどうやって……?」
 
「……土メイジって便利ですわね」
 
つまり勝手に拝借して、土メイジに複製させたって事か……
 
深々と溜め息を吐く俺に、アンはニコニコと笑顔を向ける。
 
その姿に--小悪魔の羽根と尻尾を幻視した
 
「兎に角、鍵があるなら問題無い。気付かれ無い内に、中に入るか」
 
アンが鍵を開け、俺が門を押し開いて俺達は宝物庫に踏み入った……
 
Side out
 
目の毒と言える金銀財宝には目もくれず、アンリエッタはズンズンと先に進む。 
その後をレイとルイズが、少々警戒して追う。
 
「--これですわ」
 
追いつくと、アンリエッタは既に目的の物を見つけており、重そうにそれを両手で支えていた。
 
アンリエッタの両手の上には擦り切れた袋が乗っており、それを受け取ったレイは袋の中の物--二本の小太刀を目にして驚愕した。
 
普段の有り様からは、信じられいほど驚愕したレイだが……無理も無い。
 
その飾り気の一切無い、黒塗りの無骨な鞘に収められた小太刀は、レイの前世での愛刀『無明』であったのだから……
 
レイは落ち着きを取り戻し--アンリエッタに抜いても良いか、確認を取る。
 
頷いたアンリエッタに頷き返し、レイはハンカチを口にくわえ--懐紙代わりと思われる--静かに無明を抜きはなった……
 
「……………」
 
刀身は記憶のままの--黒く焼き入れされた波紋の無い実直なもの--だったが、以前には無かった見る者に感じさせる冷え冷えとした刀身の冴えと、言い知れない美しさが加味されていた。
 
「……なる程--九十九……か」
 
『器物百年にして魂を得る』
 
即ち--新造刀として『不破斗真』と四十数年を共にしたのち、紆余曲折あって九十九となった。
 
そして『魂の宿る器物は主を選ぶ』とも言い--魂を得たこの二刀は何とも稀な運命を背負った主を追って--ゲートを渡り、ハルキゲニア各所で稀に見られる
『場違いな工芸品』
として--この宝物庫に紛れ込んでいたのだろう。
 
刀たる彼等を存分に振るえる主、斗真--レイにあいまみえるために……
 
刀身の、冷え冷えと湛えられた光に見惚れいたルイズとアンリエッタの傍らで、それが理解出来たからこそレイは抜いた無明を見据え……
 
「俺などを選ぶとはな……まぁ良いせいぜいこき使ったやるぞ……相棒」
 
言い捨て、不敵な笑みを浮かべた。
 
それに無明の刀身が--望む所--と言った感じにキラリと光った。
 
余りにも似合って魅力的なレイの不敵な笑みを見てしまったルイズとアンリエッタは、またもや見惚れいた
 
「む……?どうした?二人共」
 
「は、はい!」

「顔が赤いが……」
 
慌てだす二人。
だがそれも、次のレイの言葉で鎮静されてしまう。
 
「熱でもあるのか?」
 
呆気に取られる二人に、レイは小首を傾げた。
 
その後の無明の譲渡を願い出るため、宝物庫を後にした。
 
~~~~~~~~~~
 
「「お父様!」」
 
背後から聞こえる愛娘の声に、国王と公爵は振り返った。
 
二人が振り返った先には子供達がおり、アンリエッタとルイズは仲良く手を繋ぎ、その後ろでレイが恭しく一礼していた。
 
「ただ今戻りました父上」
 
「うむ」
 
鷹揚に頷きながら、公爵は上機嫌であった。
 
ルイズとアンリエッタの仲睦まじい様子から--一抹の不安が杞憂に終わった為と--画策していた事の一つが上手くいったのだから、当然だろうか。
 
「何をして遊んでいたのだ?」
 
国王の膝上に座ったアンリエッタが顔に満面の笑みを浮かべ国王に聞かれるまま応えたが、返しの一言に場の空気が凍った。
 
「お部屋でお話したり、宝物庫……あ」
 
自らの発言の不用意さに気づき--アンリエッタは顔を真っ青にした。
 
国王がアンリエッタを叱る為に口を開く--寸前、レイがスッと前に出て、国王に話しかけた。
 
「陛下……」
 
「何だ公爵令息殿、話なら後--「宝物庫の件についてお話があります」--……何?」
 
国王に鋭い視線を向けられたらレイは恭しく臣下の礼を取り、口を開いた。
 
「私共は初め、姫殿下の私室にて歓談に興じていたのですが……話が私とルイズが扱う剣の特徴などになりまして……それに姫殿下が宝物庫で似た物を見たと言う事になり、興味を持った私が、見たいと姫殿下に頼み込んだのです」
 
目を見開くアンリエッタ。
 
「そんな! 違います--「アンリエッタ」--お母様……」
 
「淑女が殿方のお話に--口を挟むものではありません」
 
王妃に窘められ、アンリエッタは沈痛な面持ちで俯いた。
 
レイは王妃に一礼して感謝を示し、国王に目を向けた。
 
「……ふむ、状況は解った--時に、その剣はどのような物だ?」
 
「それに関して願い もありますが、まずは--実物を御覧下さい」
 
そう言って、レイは携えていた袋から小太刀を一刀取り出し、国王に抜く許可を貰って、小太刀--無明を鞘から抜きはなった。
 
「--ふむ それか ……確かに私も宝物庫で見た覚えがある--だが、それほど美しい物では無かった筈だが……」
 
「……この剣には意思があるようです」
 
「……インテリジェンス・ソードか?」
 
「意思と言っても、そこまではっきりしたものでは無いようです」
 
「ふむ」
 
「……手に取った者が、剣に--相応しい者で無いと判断されれば、真の姿は顕現しないと、愚考します」
 
暫く場を静寂が包み込んだ。
 
国王が徐に口を開いた。
 
「そなたは--剣を振るうそうだな?」
 
「……はい」
 
「大貴族たる公爵家の嫡男である君が……何故剣を手に取った?」
 
引き締められた空気の中、レイが凛と答えた。
 
「私の大切なものを--護る為です」
 
それに国王は怪訝な顔をした。
 
「護る為?……それは魔法でも出来るだろう?いや、魔法の方が--効率が良い筈」
 
そうするとレイは、苦笑気味に微笑んだ。
 
「欲張り何ですよ、私は。剣で護れるもの……魔法で護れるもの……そのどちらも護りたいんです」
 
その微笑みに--場にいた者全てが見惚れてしまった。
 
「欲張り……か。確かに欲張りだ。……一つ聞きたい」
 
「……はい」
 
「その護りたい大切な者に--アンリエッタは含まれているのか?」
 
「「へ、陛下!?」」
 
「お父様!?」
 
 国王の言葉に、場は騒然となった。
 
さもありなん、聞きようによっては
 
『王家は護るに価するか?』
 
と詰問しているように聞こえるのだから……
 
王妃、公爵、アンリエッタが慌てる中--ルイズはただじっと、レイの後ろ姿を見つめていた……
 
レイは直ぐに口を開くような事をせず、場が静まるのを待った
 
国王の咳払いで場が静まると--レイは徐に口をひらいた。
 
「……その対象が姫殿下であるのなら--判断はまだ保留にしたいと思います」
 
「「なっ!!?」」
 
余りにも不躾な発言に、王妃と公爵が激昂しかけるが--国王が右手を前に出す事で、二人を制した。
 
「--まだ、レイ殿の話は済んでおらぬぞ」
 
そしてレイを見据え、続きを促した。

 
「……ですが、アンリエッタ様個人にであるならば--是非もありません。護る為に、全力を尽くしましょう」
 
俯いていた顔を勢い良く上げたアンリエッタは--驚きに目を見張らせていた。
 
一度は兄と慕ったレイに
『護りたくない』
と言われたと思っていたので、当然と言えた。
 
そのアンリエッタ--未だ国王の膝に腰掛けている--の頭を慈しむよう撫で、国王はレイに声をかけた……
 
「つまりレイ殿は--王家と言う『権威』の為で無く、アンリエッタと言う個人の為なら……剣を振るうのに否応は無い……と?」
 
「御意……されども、私の信念に抵触しない限り--ですが」
 
その言葉に王妃が顔を顰めるが、国王は……
 
「……は、ははははは!!」
 
莞爾と笑い声を上げた。
 
国王は盲目的に従い、王家の言うがままの臣よりも、よっぽど良いと考えた。
 
今のトリステインに多くいるそう言った--自らで考えない愚鈍な貴族--に頭を痛めていた国王には、当然と言える考えであろう……
 
「面白い! 公爵、そなたの息子殿は大器であるぞ!!」
 
「光栄です--ですが陛下、それは私めが常々申しておった筈ですぞ?」
 
「はは、違いない!許せよ、公爵!ははははははは!!」
 
上機嫌に国王は笑い続けた。
 
「気に入った!褒美だ--その剣そなたに下賜しよう!何、その剣にとっても、宝物庫に死蔵されるよりもそなたに振るわれる方が何倍も有意義だろうて!!」
 
「有り難き幸せ--ラ・ヴァリエール公爵が嫡男、レイ・フォルス……この剣、確かに拝領致します」
 
「涼しい顔をしおって!少しは子供らしく喜んでみんか!!」
 
「…………これが地ですので……」
 
「そうか! 地か!!」
 
呵々大笑する国王につられ--周りの者も笑い声を上げた。
 
この日--王城のテラスでは笑い声が絶えなかった……
 
~おまけ~
 
「……レイよ、どうして剣を隠す?」
 
「いえ……その」
 
「じーーーーー」
 
「……むぅ?」
 
「じーーーー」
 
「……ルイズに剣を狙われていますので……」
 
「何と……はは、陛下に対しても、毅然な態度を崩さなかったレイも--妹には弱いか!!」
 
~あとがき~
……やっと終わったぁ!アンリエッタ邂逅編、長かったです!
これだけで三話…グダグダですな(汗
 
さて、次回の話ですが…アルビオン旅行編と予定しております。原作の時間軸と違うかもしれませんが…このSSではそうだと言う事にしておいて下さい。
アルビオン旅行編は短くなる予定です。
……でも……レイを胸革命の幼少期と出会わすと言うよからぬ考えが(汗
そうなると また長くなる……
と、兎に角、読んでくれて、ありがとう御座いました!
また、縁があれば



[21011] 天高き国にて縁を紡ぐ 前編
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:c4ad9fb0
Date: 2010/09/01 00:42
今回はご都合展開が過ぎるかもしれません。(汗
 
~~~~~~~~~~
 
レイとルイズがアンリエッタとの邂逅を果たして数ヶ月経ったある日、父ヴァリエール公爵より、アルビオンへ旅行に行く旨を伝えられた。
 
これはかねてより両親が計画していたレイとルイズに、剣意外のものに目を向けさせる方策の一つである。
 
計画立案時、何故旅行なのかと疑念を持った母カリーヌにより、公爵の『最近忙しくて、子供達と交流を取れなかった。なのでここらで旅行などして気兼ねせず子供達と遊びたい!!』と言う真意が発覚。
カリーヌによる『六時間耐久説教』の刑に処された--などと言う経緯があったり無かったりしたとか……
公爵の名誉の為にも、無かった事にしておこう。
 
尤もルイズは兎も角、レイの前世『不破 斗真』は月夜に月見に洒落込むなどと、風流を解する面もあったので、両親の心配は杞憂に過ぎないと言えるが--レイとしてそれを表に出した事は無いので強ち見当違いとは言えないのである。
閑話休題
 
旅行の旨を伝えられルイズは、予想以上と言う程の喜びを見せた。
 
レイ相手程では無いが、一般並に好いている家族との旅行なのだから、当然と言えるだろう。
 
意外だったのはレイである。
剣の鍛錬があるため忌避すると思われたレイであったが、ルイズ程では無いにしろ、控えめながら喜びを見せていた。
 
アンリエッタと出会ってから数ヶ月……
その間はレイにとって苦難の連続であった。
 
原作ではどうだったか見当がつかないが、この世界のアンリエッタは小悪魔であった。
 
どれぐらいかと言うと……将来的には知る人ぞ知る『さざなみ寮の小悪魔』の異名を持つ妖精に並ぶと思われるほど。
 
先に述べておくが--決して『大魔王』では無い。
 
もし『大魔王』であれば、すでにこの国に存在する『スカロン』なる自称妖精との『二大天災』の揃い踏みと言う悪夢が展開される事になる……
 
その悪夢の被害者最有力候補のレイとしては、その点に胸を撫で下ろしたのだが……
 
結局『小悪魔』だろうと、『大魔王』だろうと、レイに被害が及ばないわけも無いので、出来る限り被害を抑えるため、アンリエッタとスカロンを邂逅させない事を人知れず誓った 。
 
そんなアンリエッタと日々を--流石に毎日では無いが--過ごすのだから、レイの心労は計り知れない。
 
かと言って……家でもレイには心休まる時間などありはしなかった。
 
家にいればルイズが、レイの愛刀・無明を奪おうと狙っている為、片時も油断は出来ない。
 
であるからして--レイにとっても旅行の知らせは僥倖であり、どの様な思惑であってもこの旅行を立案した父に感謝を禁じ得なかった。
 
そう言った悲喜こもごもの状況の中始まったアルビオン旅行だが--ちなみヴァリエール公爵家一同六名、従者五名、侍女五名、総勢十六名でのアルビオン行きとなった--詳細は少々省かせて戴こう。
 
とは言っても、記せる事など限られていて……
 
--船から見えるアルビオン大陸の偉容に、レイでさえ感嘆の声上げたり
 
旅先の開放感から、宿では姉弟四人で同じ部屋で寝たり--レイはカトレアの、ルイズはエレオノールの抱き枕になっていた--
 
ルイズは旅行に気を取られ……アンリエッタはいる筈も無い……と言う事で一時的とは言え安寧を味わえたレイの
 
「そうか……これが平穏だったな」
 
と言う哀愁漂う呟きを聞いた従者が、涙を誘われたりと--
 
概ね、そのような感じであった。
 
そして今--ここシティオブサウスゴーダの街に、レイの姿があった。
 
旅行の行程も残す所あと数日となり、最後はシティオブサウスゴーダで過ごそうと相成ったのである。
 
そこでレイは、かねてより探している『ある物』をここでも探す事にし、従者を一人連れ--ルイズは流石に疲れたようで、お昼寝中である。--街に出たのである。
 
「しかし旅先でまで探すハメになるとは……レイ様も大変ですね」
 
「仕方ないさ……一つでも、心労の種を排除出来るんだ。苦労は惜しまんさ」
 
アンリエッタを訪問する際など、王都トリスタニアを訪れる度、レイはルイズ用の小太刀を探していた。
 
「しかし……わざわざアルビオンで探さなくとも、トリスタニアでもあるのでは?」
 
従者の疑問も尤もである。
 
小太刀は場違いな工芸品である物の、所詮ハルケギニアでは重要視されない剣でしかない。
 
故に、骨董屋や武器屋の片隅で見つける事が出来るのだが……
 
「……それでルイズが満足出来るのなら、苦労は無いさ……」
 
見つかる物の大多数が数打ちの量産品であるし、偶にそれなりの品も見つかるのだが……
 
レイの愛刀・無明に比べると数段落ちる為、ルイズに気に入られる事も無く--無明の魅力を再認識して更に狙う--と言う悪循環に陥っていた。
 
「はぁ……それはまた大変な事で」
 
「……人事のように言うな。お前も手伝ってくれさえすれば、多少なりとも苦労は減るんだぞ?」
 
「手伝うのは構わないんですが……私に剣の良し悪しの判別は無理ですよ?」
 
「何、なら俺が教え--「覚える頃には私はいませんよ?」--……」
 
このレイに付き添い、気さくに話す従者--名をエルヌス・ファヌージュと言い、父が公爵家の家臣である為従者に抜擢された。
 
年の頃は十四、五で茶色の髪に青い瞳、魔法の腕は土のライン--とは言っても、後少しもすればトライアングルになるだろう--さほどパッとしない少年であるが、トリステイン貴族とは思えぬ程気さくで、平民に対しても分け隔て無く接する。--尤もそれは例外を除き、ヴァリエール公爵家全体に言える事だが--珍しい貴族子息であった。
 
年も比較的近い為、レイは彼を連れる事が多く、こういった軽口を叩く事が出来る仲であった。
 
「お忘れですか?後数ヶ月もすれば、私は学院に入学するのですよ?」
 
「数ヶ月あれば充分だ。刀の判別法を叩き込んでやる」
 
なおも諦めの悪いレイに、エルヌスはにっこり笑い……
 
「嫌です。」
 
と宣った。
静寂の一時が場を支配した。
 
そしてレイは不敵に笑い言った……
 
「問答無用!」
 
「断固として、お断りします!」
 
逃げるエルヌスを追いかけ、レイはその場を後にした。
 
数刻後……
シティオブサウスゴーダの裏街に当たる通りの片隅の骨董屋に、レイとエルヌスの姿があった。
 
「お目が高いね若旦那、それは一押しの品だよ」
 
裏に属する店の店主の代名詞のような店主のニヤニヤ笑いと共に発せられた言葉に、エルヌスは顔を顰めたが、レイは見向きもせず眼前の木製の箱を注視していた。
 
「……レイ様。余りにも胡散臭過ぎます! 店も、店主も!!」
 
こういった店では胡散臭い事が決まりのようなものであるが、そんな事を知る由も無いエルヌスは、レイの為を思ってか、このように声をかけた。
 
「否定はしないが……こういうものだと理解してくれ」
 
苦笑混じりに発せられたレイの言葉に、エルヌスは渋々納得し、黙り込んだ。
 
レイはもう一度苦笑いを浮かべ、またも木製の箱を注視した。
 
木製の箱--使われている木は桐のようであり、前世で良く見受けられた、刀を納める桐箱と思われた。
 
それだけなら注視する程でも無い。
 
レイが特に注視している箇所は--桐箱の上部、そこに刻印されている家紋であった。
 
(この家紋……間違い無い。これは……神咲の家紋だ)
 
そう。
この桐箱には……神咲の家紋と、霊力での封印らしきものが為されているのである。
 
長さからも中に納められてる刀は小太刀と思われ、レイは自らの幸運を祝しそうになった。
 
だが一つ懸念事項があった。
それは……
 
(何故封印されているか……か)
 
そうである。
如何に退魔の大家たる神咲と言えども、ある刀ある刀全てに封印を施す訳もなく……
 
(霊刀か……はたまた妖刀か?)
 
と言う訳である。
 
かと言って、捨て置くにも勿体無い。
 
とある人物のように、分の悪い賭は嫌いじゃない……などと言えれば簡単なのだがそうもいかず、何とも足踏みしてしまうレイであった。
 
結果から言えば買ったのだが--店主の態度が癇に障り、エルヌスが激怒したりしたが--これは割愛しよう。
 
宿に戻る途上、レイが突然立ち止まった。
 
「……どうしたのですか?宿はまだ先では……?」
 
エルヌスが怪訝な表情で尋ねるが、レイは応えず……
どうしたものかと、エルヌスが首を傾げると、突然レイが踵を返し走り出した。
 
「へっ?レ、レイ様!?」
 
「逃げるぞ!!」
 
突然の主の言葉にエルヌスも走りだすが--頭の中は疑問符で一杯である。
 
「に、逃げるって……何から?」

 
当然の疑問だが……その解答は後ろから聞こえた。
 
「気付かれたぞ!逃がすな!」
 
男性のものと思われる声に、エルヌスは振り返る。
 
そこには破落戸(ごろつき)と思われる服装の男達が八人、こちらを睨み付け駆けていた。
 
「な、 何なんですかあいつらは!?」
 
「知らん。まぁ推測するに、俺か桐箱を狙ったチンピラだろう。」
 
走りながら答えるレイ。
四歳児とは思えぬ--体格は十歳児相当だが--落ち着きぶりに、以前から知っていたとは言え驚きを隠せないエルヌス。
 
「な、何でそんなに落ち着いてるんですか!?」
 
「そう言われてもな……自分でも良く分からんさ」
 
初めのダッシュが効いているのだろう。
 
話しながらでありながら--二人と八人の破落戸の距離は、徐々に離れて行った。
 
「なかなか早いじゃ無いかエルヌス。体もそれなりに鍛えているようだな」
 
関心関心と走りながら頷くレイ。
 
だがエルヌスに言わせれば--レイの方が異常とも言える。
 
(こ、これだけ走って、しかも喋ってもいるのに息切れもしないなんて……レイ様は化け物か!?)
 
さもありなん、元々の身体能力が高く、御神流の鍛錬を毎日しているレイである。
 
この程度出来て当然と言えよう。
 
暫く走り続けると、破落戸共を振り切ったらしく、背後に気配を感じなかった。
 
「……ひとまず逃げ切れたか」
 
「ゼー、ハー、ゼー、ハー……」
 
距離にして1リーグ程を全力疾走したにも関わらず、レイの息は乱れる事も無く……
 
息も絶え絶えなエルヌスを置き去りに、周囲を警戒しだした。
 
「……な、何者でしょう、あいつら?」
 
漸く息が整ったエルヌスが疑問を投げかける。
 
「先程も言ったが知らん。まぁ目的が箱か俺か……判断する方法は無くは無いが……」
 
「えっ?ど、どうやって!?」
 
とある店に視線を向けるレイの視線を追い、とある店に目を向けるエルヌス。
 
「……雑貨屋?」
何故と問う間も無く、レイは雑貨屋に向かう。
 
「ま、待ってください!」
 
エルヌスが後を追い店に入るが、レイはすでにある物を買い終えていた。
 
買った物それは……
 
「布が二枚に……木箱?」
 
そうである。
レイの手には桐箱の同程度の木箱と、それを包み込める大きさの布が、二枚あった。
 
どうするのか問おうとするがレイの行動は早く、あっと言う間に桐箱と木箱2つの箱を布で包み込み、木箱を包んだ包みの方をエルヌスに差し出した。
 
「……あ、あのこれは一体--「別れるぞ」……へっ?」
 
「目的が俺であるなら--追っ手は全て俺に向かうだろう。だが箱であれば--追っ手は分散し、どちらも追われる……そう言う事だ」
 
エルヌスは--なるほど理にはかなっている--と考えたがそれも一瞬で、次の瞬間には叫んでいた。
 
「そんな!危険です!!もし奴らの狙いがレイ様だったらどうするんですか!?」
 
「そうなれば、そうなればだ。お前が先に戻り、父上達に報せてくれれば良い。その間、俺は逃げ回るさ」 
 
「そんな簡単に--」
 
「そら、言い合っている暇は無いぞ。……来るぞ」
 
更にエルヌスが言い募ろうとするが、時間は待ってはくれない。
 
四つ辻の向こう側--北側に先程の男達の姿が見えた。
 
「いたぞ!!」
 
「お前は西、俺は南だ」
 
言うやいなや、レイは四つ辻の反対側--南に向かって走り出した。
 
「あーもう!直ぐに応援を連れて来ます!絶対に逃げ切って下さいよ!!」
 
そしてエルヌスも西側に向かい、足を早めた。
 
シティオブサウスゴーダ近くの森の中--レイはその森の樹の上で、息を整えていた。
 
分散策は上手くいき--男達は二組に別れ、レイとエルヌスを追い続けた。
 
街中を逃げるにも、地元民であるあちらが有利と考え、レイは街を離れ森に逃げ込んだ。
 
森は言わば、御神の剣士のフィールドである為、レイは問題無く逃げ切った。
 
どころか、わざわざ樹上から追っ手を観察する余裕まであった。
 
無駄とも思える行為だが、それでも収穫はあった。
 
(……破落戸にしては歩き方が洗練されている……貴族の変装か?)
 
追っ手の男達--彼等は格好通りの破落戸では無く、貴族の変装であるらしかった。
 
(……わざわざ貴族が変装する必要性--公に出来ぬ事情がある……と言う事か)
 
そう考えていると、男達の気配が森から遠ざかり始めた……
 
(……諦めたか?……兎に角判断は降りてからにしよう。)
 
樹から飛び降りるレイ。
地上4メイル程の高さから躊躇無く飛び降りるが……
 
「きゃっ!?」
 
(何!?)
 
突然聞こえる声。
 
気配はしなかった筈なのに、誰かがいたようだ。
 
警戒を忘れずに、声のした場所に目を向ける。
 
そこには金の髪に耳の尖った--可愛らしい少女がいた……




[21011] 天高き国にて縁を紡ぐ 後編
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:c4ad9fb0
Date: 2010/09/05 20:40
ある国では不意の沈黙を、妖精が横切ったと言う。
 
だがこの場合、横切ったの妖精なんて可愛いものでは無いかもしれない--
 
白の国と名高いアルビオンの、とある森の中、レイは意図せず邂逅してしまったハーフエルフの幼女と、目を合わせたまま立ち尽くしていた。
 
どちらも動き出すきっかけを掴めず、ただただ見つめ合う二人。
 
これがどこぞのラブロマンスなら、これが二人の恋の始まりなどと表する事も出来るが、生憎とこの物語はラブロマンスとは程遠いものであるからして、そんな事は有り得ない。
 
暫く見つめ合っていると、レイは気付いた。
 
眼前の幼女の眼に、そろそろ決壊しそうな雫が一つ。
 
“マズい”と思うが一足遅く、幼女は涙と共に叫びを上げる。
 
この機にこの場を逃れるのも一つの手だが、そこは『属性兄』を持つレイである。
 
幼女を宥め、すかし、時には撫で、ありとあらゆる手管を使い、幼女を泣き止ませたのである。
 
その結果……
 
「……離してくれないか?」
 
「イヤ」
 
幼女に懐かれ、腰元を抱きすくめられていた。
 
追われる身であるため、こんな事をしている暇など無い。
 
どうしたものかと考えていると、状況は動いた。
 
「ティファニア?」
 
「お~い、ティファ?」
 
……悪い方に。
 
先程ティファニアがいた方向から、男と女の声がした。
 
親しげな口調からして両親、つまりモード大公とエルフの母親と推測された。
 
ティファニアどころか、モード大公とエルフの母親とも邂逅など、冗談では無いと逃げようとするレイだが、それを敏感に察知したティファニアにより遮られた。
 
「いっちゃヤ!」
 
幼女の懇願を振り切る人でなしな真似など、レイに出来る訳も無く、そうこうしてる内に茂みから現れる、モード大公と思われる男性。
 
「ここにいたのかティファ……誰だ?」
 
訝しげな視線を向ける男性に、レイはアンリエッタのせいで最近慣れた、乾いた笑みを返した。
 
「……つまり君に他意は無く、ただ逃げて来ただけ……と?」
「…………はい」
 
あの後レイは否応なく大公に拘束され、連行される事となった。
 
その際、エルフであるティファニアの母親とまみえる事となったのだが、少しの驚きどころか困惑も見せないレイに、逆に大公が驚いていた。
 
「……嘘は言って無いようだね」
 
そして現在、連行された邸宅の一室にて、質問と言う名の尋問を受けていたのである。
 
室内にはレイと大公のふたりきり--レイを知る者からすれば、この行為は自殺行為とも言えるが、見た目はただの子供としか見えないレイな為、大公の行為は当然の処置と言えるだろう。尤もレイに大公を害する意思など有りはしないので、一概に間違いとは言えないが--。
 
大公の溜め息混じりの言葉にレイは申し訳無さそうに話しかけた。
 
「すいません。まさかこんな所に人がいるとは思わなかったので……」
 
「ああ、ああ、もうそれは良い。気にしないでくれたまえ」
 
鷹揚に頷き、兄であるトリステイン国王に似た笑顔を見せる大公。
 
「……ところで」
 
大公が表情を真剣な物とし、レイに話しかけた……その時、突然ドアがバタン!と押し開けられた。
 
「おにいちゃんイジメちゃだめ!」
 
ドアが押し開けられると同時、レイの視界に写った金色超特急。
 
“あ、デジャヴ”とレイが思う間も無く、それはレイに特攻を敢行。
 
哀れレイはそれに特攻され、見事に鳩尾を強打されるのであった。
 
「げふっ!?」
 
突然の襲撃事件に、驚愕するしか出来なかった大公だが、聞こえてきた声に目を向ける。
 
「すいません旦那様。ティファニアが……あらまぁ」
 
エルフ女性の物と思われる、おっとりした声を耳に、レイは意識を失った。
 
「いや~すまないね ぇ」
 
「いえ……お気になさらずに」
 
あれからほどなくして、レイは意識を取り戻し、ティファニアの暴挙と言える行いの謝罪を受けていた。
 
現在レイの正面には、大公、エルフ女性が--レイの隣にティファニアが--といった配置でソファーに座っていた。
 
「うちのティファニアも、お転婆が過ぎてね」
 
言って苦笑いする大公だが、そのティファニアを見つめる目には慈愛が感じられ、娘のティファニアが可愛くて仕方ないのだろうと、感じさせた。
 
それに何も言わず頷き返し、レイはエルフ女性に目を向け、頭を下げた。
 
「挨拶が遅れました。レイと申します」
 
礼儀正しく述べるレイに、驚いて目を見張るエルフ女性と大公。
 
そしてエルフ女性は微笑みを浮かべ、言葉を返す。
 
「ご丁寧な挨拶、いたみいります。私はシャジャルと申します」
 
そしてレイは頭を上げ、今なお驚いている大公に目を向けた。
 
「……先程も思ったが……君はエルフが怖くないのか?」
 
「ええ」
 
「っ--何故だい?」
 
このハルケギニアに生きる者なら、大公の疑問には頷けるものだろう。
 
エルフは貴族、引いては人類の大敵で、その力はメイジ十人に匹敵する。
 
だがしかし……
 
「怖がる必要を感じませんから」
 
レイにそれは適用されなかった。
 
「言葉が通じます。であれば、分かり合う事も出来るかと……それに」
 
隣でこちらを見上げていたティファニアに目を向け、レイは優しく微笑んでティファニアの頭を撫でた。
 
「その証が存在しますから」
 
撫でられた事に喜び、目を細めている愛娘を目にして、大公は内心大層驚いていた。
 
そして……
 
「……そうだな。私達は、分かり合える」
 
莞爾しシャジャルに目を向けた。
 
シャジャルも大公を見つめ返し、優しげな微笑みを浮かべていた。
 
その後大公一家--といって支障は無かろう--に気にいられたレイは、すぐに退くのも憚られ、お茶を共に戴く事になった。
 
歓談などをし、和やかな空気が流れる中、不意に大公が疑問を投げかけた。
 
「そう言えば、君は追われる理由に心当たりは?」
 
森に逃げ込む事になった原因の逃走劇、その大まかな部分しか話していなかったので、気になったのだろう。
 
「ええ。十中八九」
 
「良ければ話してくれないか?」
 
大公としては、気に召した少年の身を案じての提案である。
 
それが解るので、レイは話す事を躊躇する。
 
「話してくれ。これはお詫びも兼ねているのだよ?」
 
そんなレイの内心の葛藤を感じとり、大公は更に続けた。
 
大公ほどの者にそうまで言われ、レイは苦笑いし口を開いた。
 
--自分が貴族子弟である事--
 
--骨董屋である品物を買った事--
 
--追跡者の目的が自分か品物かと考え、一計を案じ、狙いが品物であると判断した事--
 
などを事細かに話した。
 
「なるほど……その品物とは?」
 
尤もと言える大公の疑問に、レイは苦笑いし、手に携えていた品物をテーブルに置く。
 
「これです」
 
そして包みに使用した布を取り去り、桐箱を露わにした。
 
「あらそれは……」 
するとシャジャルが軽く驚いた。
--尤も口調は変わらずにおっとりしたものであった為気づけなかったが--
 
大公も少し驚き、
そして--突然笑い出した。
 
「そうかなるほど。それは君が持っていたのか!」
 
突然笑い出した大公に、レイは困惑し首を傾げた。
 
大公は暫く笑い続け、そして徐に口を開いた。
 
「君を追っていた者達……それは私の手のものだよ」
 
「…………は?」
 
大公の言葉に呆然とするレイ。
 
さもありなん。無事逃げ込んだと思った先が、虎の巣穴であったのだから当然である。
 
そんなレイを笑い続ける大公に代わり、シャジャルが口を開いた。
 
「それは私が、サハラから持って来た物なんですよ」
 
そして邸宅で保管していたが盗賊が入り--精霊魔法で防げたのでは?と訪ねたが、シャジャルはただ曖昧に微笑んでいた。--盗まれたとの事。
 
……それで公に出来なかったのか…とレイは考え、そしてシャジャルに目を向けた。
 
「ではお返ししなければなりませんね」
 
レイがそう言うと、シャジャルは首を横に振った。
 
「いいえ、あなたが持って行って下さい」
 
「しかし……」
 
「あなたの元に有る事が、大いなる意思の思惑なのでしょう」
 
レイには、大いなる意思の思惑など解りはしないが、シャジャルが前言を覆す気配は無さそうなので、渋々返す事を諦めた。
 
そしてそろそろお暇しないと、家族に心配--尤も今更の話であるが--をかける時間になり、レイが帰ろうとするのだが……
 
「……かえっちゃうの?」
 
隣から、レイの膝上に移動していたティファニアに、泣きそうな顔で見上げられた。
 
「ああ。そろそろ帰らないと、父上や母上が心配するからね」
 
レイがそう言うが、ティファニアは納得していないようで、向きを変え、レイの胸元にすがりついた。
 
「かえっちゃイヤ!!」
 
「ティファニア、我が儘言っちゃ、お兄さんが困っちゃうわよ」
 
「イヤ!!」
 
シャジャルの言葉も頑な拒み、ティファニアはイヤイヤと駄々をこねる。
 
ここまで懐かれた事を嬉しく感じながらも、レイは内心複雑であった。
 
そしてティファニアの肩に手をかけ、身を離し、目を見つめた。
 
「ティファニア……もう会えないと言う訳でも無いんだ。だから笑って、見送ってくれないか?」
 
微笑んで言うレイに、漸く泣き止んだティファニアだが--更に次の一言が、大公とシャジャルを困らせる。
 
「じゃあ、いつあえるの?」
 
話を聞く限り、レイは旅行でここに訪れた他国者なのだから、そう気軽に会いに来れないのだ。
 
それを知るからこそ、二人は困ってしまう。
 
「それは解らない。でも俺とティファニアに縁があれば--」
 
「……えん?」
 
だがレイに困った様子は見られず、ティファニアと話を続けた。
 
「ああ。東方の言葉でな、人知の及ばぬ目に見えぬ絆を、そう言うらしい」
 
それがあればまた会えるさ。今日のようにな-と微笑むレイに、ティファニアも涙を拭い、笑顔を返した。
 
「わかった。またえんがあるように、ブリミルさまにいのる」
 
そしてティファニアの頭を撫でたレイは、その後送ってくれると言う大公の馬車にて、邸宅を後にした。
 
馬車の中--レイは大公に……
 
「縁か……私も君に縁がある事を、始祖に祈る事にするよ」
 
と話しかけられたが、曖昧に笑みを返すに留めた。
 
未来の知識と言える原作知識を持っている事を、この時ほど重く感じた事は無かった……
 
~おまけ~
 
「マチルダおねえちゃん」
 
「ん?どうしたんだい?ティファ」
 
「ティファとマチルダおねえちゃんにも、えんはあるよね?」
 
「えん?なんだいそりゃ?」
 
「え~っと……じんちのおよ…およ…なんだっけ?」
 
「なんだそりゃ」







[21011] 閑話 剣の行く先
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:51b53872
Date: 2010/09/10 21:12
アルビオン旅行を、何の問題も無く終わらせると思っていた、ヴァリエール公爵一行。
 
だが、最後の最後で嫡男レイがやらかした。
 
アルビオン最終日のその日、レイは従者一人を伴い、サウスゴーダの街に出ていた。
 
公爵も、一息入れてから街に出るかと考えていたのだが……状況がそれを許さなかった。
 
レイに着けていた筈の従者の、ただならぬ帰還。
 
従者の姿はあれど、レイの姿は無く--
 
それにカリーヌが疑問に感じ、尋ねてみれば……
 
『突然、破落戸共に追いかけられた』
 
『レイの機転により二手に別れ、自分は助けを呼びに来た』
 
『レイは囮になり、今も逃げ回っている』
 
等と、公爵にとって憤懣やらかたない事実が判明。
 
冷静な状況判断も出来ない従者に、訓練を施す事を心で決め、他の従者達に指示を飛ばし、すわ飛び出んとした所で件のレイから報せが入った。
 
曰く
『無事であるが、直ぐに帰れる状況では無いので帰還は少々手間取る。が、心配しなくて良い』
との事。
 
その言葉の通り、その頃には大公一家とのんびりお茶をしていたレイであるので嘘では無いが、突然見知らぬ貴族--しかも大公縁の者に告げられ、何が何やら解らぬ公爵達。
 
とは言え、わざわざ大公縁の人物が嘘を伝えるとも思えず、カリーヌの判断により待つ事に決める。
 
待つ事数時間--その間、待ちそびれて騒ぐ公爵をカリーヌが折檻する事数回--漸く現れた先触れの使者。
 
話を聞けば、驚くをえない。
 
大公直々にレイを送ってくれている。
 
驚いてばかりもいられず、わざわざ息子を送ってくれる大公に、感謝と歓迎を示す為の準備に取りかかり、どうにか体裁が整った所で大公来訪。
 
腐っても大貴族とはレイの言だが、実際には腐りなどしてはいない公爵の歓迎に、大公も大層機嫌を良くし、最後に社交辞令も忘れずに帰っていった。
 
その後、急遽行われた家族会議。
 
大公に失礼は無かったか、不躾な態度はとってないか、と聞きながらも誰一人として、レイがそんなヘマをするとは考えないのはお約束。
 
どういった話をしたのかはレイがはぐらかした為聞くに聞けず、帰還の船の時間もそろそろとなり、お開きと相成った。
 
そしてヴァリエール邸に帰還となって、【その時レイが思わず、『やはり家が一番だ』と少々年寄り臭い事を述べ、皆が苦笑したりした】一息つく暇もあらず、やれ土産だ、やれ旅行中に貯まった書類だだの、皆が皆、それぞれの理由で忙しく動きまわり、疲れも限界と言う事で皆早めの床についた。
 
そんな日の夜の事……
 
誰もが寝静まり、夜の帳が落ちる中……
 
レイとルイズ双子の部屋で、ムクリと起き出す影一つ。
 
影--レイは上半身を起こすと、隣で寝息を立てるルイズを見やり、フッと微笑み頬を撫でた。
 
くすぐったそうにむずがるルイズに優しい目を向け、物思いに耽りだす。
 
(これから俺はどうするべき、どうあるべきかな)
 
考えるのは自分のこれから。
 
ルイズを護るのは言わずもがな。
 
だがそれ意外はどうすべきか……
 
まず思い浮かぶのはティファニア、モード大公、シャジャルの顔。
 
(……モード大公の粛正)
 
原作に連なる大きな事柄。
 
図らずとも邂逅を果たしたレイとしては、放っておけない事でもあるが……
 
(未熟者の俺に何が出来る?御神としても、メイジとしても、半人前どころか羽も生え揃っていないヒヨッコの出る幕など有りはしない……)
 
そもそも粛正の正確な日時も知りもしないし、遠く離れたアルビオンの物事をどうにか出来る程、御神も魔法も万能では無い。
 
とは言え力が無いのが問題なのか--と言えば、そうでも無い。
 
本気で横槍を入れる気なら、力の有る無しは問題にならない。
 
それでも何もしない事を、レイは選んだ。
 
--後にレイは、この選択を後悔する事になる--
 
何故なら、その立場にありもしないし、自分が介入すべきでは無いと考えたからである。
 
知っているからといって、あれもこれもと手を出すのは人の領分を過ぎる行為であり、いずれ時を待たずして破綻する。
 
それを理解しながら行うなぞ、どごぞ正義の味方では無いレイには、天地がひっくり返ろうと取れぬ行動だ。
 
その点から考えて、ガリアの継承問題も同様である。
 
そもそもが、言っては悪いが他人事であるし、ジョゼフについて思わぬ所が無いでも無い……
 
同じ虚無として、ルイズの有り得た未来の一つと考えると、二の足を踏む。
 
かと言って、彼の所業は許せるものでは無いが--許す、許さないは当事者が決める事で、神ならざるレイにどうこう言えず、原作通りの流れに任せるしかとりようは無い。
 
火の粉が降りかかってくるなら、定かでは無いが……
 
(甘くなったものだ)
 
自らの甘さに苦笑する。
 
とは言え、生粋の不破とは言えないレイであるので、それは仕方ない事。
 
産まれながらの不破である斗真の息子であれば、考えるまでも無い事柄ばかりであるが--まぁあれこれと理由を付けたが、下手に介入する事で原作から大きく乖離する物事を避けたと言う、打算的な面が無いでも無い。
それは言わずが花であろう。
 
尤も、この世界が真実原作通りに進むかは、情報が不足しているレイには判断出来ぬ事なのであながちそうとも言えないが……
 
ふぅと息をつき、傍らで眠るルイズに目を向ける。
 
世界情勢ばかりに目を向けるのを悪いとは言わないが、少し憚られて、ルイズの事--即ち現状、身の回りの物事に焦点を当てる。
 
剣については現状維持で構わない。
 
今でさえギリギリのラインを維持しているので、それ以上は無理とも言えるが……
 
魔法についてはまだ判断はつかないが、才能はあるだろうと考える。
 
何しろこの身は王家縁の公爵家と、烈風カリンの血を継いでいるのだから--それだけで無く、彼の精神力は破格の物で、そんじょそこらのスクウェアは軽く凌駕する。尤もレイ自身は気付いていないが--こうして鍛えていけば、原作の始まる数年前、十四、五の頃には完成されたとまで言わないが、その半歩手前程にはなっているだろう。
 
その後の原作までの時間は、裏づけの無い『知識』を、地に足の着いた『経験』に変える為に利用する。
 
それまでは、『なるようになれ』である。
 
寝返りに伴い布団がはだけたルイズに布団を被せ、次にとルイズの事を考える。
 
成り行きで剣を教える事になったルイズだが、剣才に加え本人の意欲により、四歳児にしてはなかなかの剣腕を持つに至った。
 
このまま剣が魔法に代わる、彼女を支えるものになれば……とも考えたが、それは些か楽観に過ぎるだろう。
 
ハルゲギニアの貴族にとって、魔法とは『絶対』のものであるのだから、今でさえ剣に拘泥しているルイズであるが、魔法が使えない事実によりどう変わっていくのか解ったものでは無い。
 
とは言え、どうにか出来るものでも無いし、出来る事は先日手に入れた桐箱の中身が、ルイズの意識を左右出来る品である事を、祈るだけである。
 
「……はぁ」
 
思わず溜め息が漏れるが、止める気力も無く、憂鬱な気分に陥りそうになる。
 
(起こってもしない物事に一喜一憂するとは……俺も器用になったものだ)
 
内心で自嘲気味な皮肉を零し、軽く苦笑いする。
 
とは言え何時までも暗くなっていても仕方ないので、気を取り直そうとするのだが……
 
「うにゃ……姫様ぁ」
 
ルイズの寝言に遮られた。
 
忘れていた。
いや、忘れる事が出来ていた アンリエッタの事を思いだし、今までとは比較にならないほど盛大に溜め息をつくレイ。
 
レイがこの世界が『ゼロの使い魔とは違うのではないか』と考えるに至った最大の要因、アンリエッタの事を考える。
 
彼女程、原作とかけ離れた存在はレイは今の所知りもしない。
 
それ程までに違うのだ。
 
まぁ原作の彼女の子供時代はああであったかも知れないが、知りもしないレイに判断は出来ない。
 
ふと疑問が思い浮かぶ。
 
(……アンの魔法はどうだったか)
 
王家に連なる者とは言え、彼女も五歳--そろそろ六歳--であるのだし、全く使えないなんて事は無いだろう。
 
まぁ使わないなら、使わないにこした事は無いのだが……
 
彼女の普段の行いから考えるに、とんでもない魔法を使いそうで、酷く恐怖を駆られる。
 
その被害は必ずレイに向かうと言っても過言では無いので、更に恐怖は増すばかりだ。
 
これ以上考えるのも怖くなり、レイは早々に布団に潜り込み、考えるのを放棄した。
 
その後、件のアンリエッタにとんでもないとしか形容しようがない魔法で追い立てられる夢を見るのだが……まぁそれは本筋とは関係無い事である。



 
~あとがき~
そろそろゼロ魔版に移っても良いかなと不遜な考えを持ちました。
叩かれて終わりか(笑)



[21011] 手段は変われど想いは変わらず 前編
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:4f872113
Date: 2010/09/15 22:36
 とある秋晴れの日、誰かが言った──
 
『今日は魔法日和だ』と。
 
 それにレイは、内心でこう返した──
 
『寝言は寝て言え』
 
 
 
 なんて事実は無い、とある秋晴れの日、
 レイとルイズの双子は庭に並んで立っていた。
 
「さて、今日から貴方達に魔法を教えます」
 
 二人の前に立つカリーヌが厳粛に述べる。
 
 どうやら二人の教師役をカリーヌがやるようで、暗に厳しくなるだろうと思われた。
 
 が、レイにはそれは望む所であるし、ルイズとて、レイの課す訓練についてきている実績があるので、問題は無いだろう。
 
 問題があるとすれば……
 
「頑張って、ルイズ、レイちゃん」
 
 庭をのぞむテラスから、見学するカトレア──折りを見てレイが癒しをかけているが、まだ全快には程遠い。レイが癒しが苦手なせいであるが、かと言ってルイズに霊力修行を施すのも憚られた。彼女の霊力量、特性であれば病気の克服など軽いものであるのだが──が声をかけた。
 
 余談だが、カトレアはレイを『ちゃん付け』で呼ぶ。
 
 そう呼ぶとレイは、微妙に、親しい者しか解らない程微妙に照れ臭そうにするから──との事だが、ただそう呼びたいのが本当の理由だろう。
 
 ちなみにルイズは『ちゃん付け』されないが、彼女に不満は一切無いようだ。
 閑話休題
 
「まず杖を持ちなさい」
 
 カリーヌの言に従い、二人は杖を手に持った。
 
 魔法と言う未知の技術には興味はあるが、二刀を扱うレイにとって、使う際には片手が常に杖で塞がるのが問題である。
 
(代用は出来ないものか……)
 
 指輪や腕輪などといった、身に着ける品が希望なのだが……
 
 今考える事とは言えないので、首を左右に振り、考えるのを止める。
 
「……レイ、前に出なさい」
 
 そうしているとカリーヌに促されたので、従って前に出る。
 
「貴方にはまず、コモンマジックの初歩《浮遊》を行って貰います。初めての行いです。失敗しようと構いませんから、落ち着いておやりなさい」
 
 魔法の目標物となる石──重さは、レイの体重を基準した物と思われる──を指し示しながら、軽く笑みを浮かべ そう口にするカリーヌであったが、内心レイならば失敗は有り得ないだろうと考えていた。
 
 魔法は精神力で使う物で、その点レイの精神力はかなりの物。
 
 自分のレイと同い年当時と比べても、数段、下手すれば数倍上と思わせる。
 
 そんなレイであるから、彼の失敗を想像する事が出来ないのだ。
 
「はい」
 
 ハキハキと返事したレイが、魔法を詠唱しだす。
 
 目を瞑り詠唱する様にたどたどしいものは無く、ちゃんと課された予習をなしていた事を感じさせる。
 
 集中力もしっかりしていて、彼の集中力を乱すのは至難の業だろうと思わせた。
 
(……剣術のおかげでしょうか)
 
 二年前から彼ら双子が傾倒している剣術。
 
 貴族の、メイジの子が剣術などに執着するのは良いとは言えないが、剣術の賜物故のこの集中力であるならば、そう悪いものでも無いとも言える。
 
「《浮遊》」
 
 しっかりとで有りながら、ポツリと呟かれたレイの言葉に伴い、目標物の石は呆気ない程に宙に浮いた。
 
(有り得んだろこれは……)
 
 この結果にレイは内心でこう零し、溜め息をついた。
 
 才能は無く無いと考えていたが、この結果は慮外である。
 
 これは少々不味く無いだろうかとカリーヌに目を向けるが、カリーヌに驚いた様子は無い。
 
 どころか、この結果を予想していたかのように頷いているだけ。
 
 どういう事だろうかと思いもするが、この場で問い詰める事など出来る筈も無く、ソッと息を吐いて魔法を解き、石を地面に降ろした。
 
「問題は無いようですね。予習もちゃんとしていたようですし、良い結果でしたよ。ですがこの結果に満足せず、精進を続けなさい」
 
 結果は結果として誉め、然れども注意を忘れないカリーヌ。
 
 基本に忠実な教師振りは評価出来るものであり、レイとしても満足のゆくものであった。
 
「下がって良いですよレイ。続いて、ルイズ 前に出なさい」
 
「は、はい!」
 
 緊張でどもりながらも、元気いっぱいに答えるルイズに微笑ましさを感じながらも、レイは……
 
(……ついにこの時が来たか)
 
 と考えていた。
 
 確かにレイ自身 、ここが『ゼロの使い魔の世界』だろうと『仮定』した。
 
 だが『仮定』は『仮定』でしかなく、
 
『もしかしたら』ルイズは系統魔法が使えるかもしれない──
 
『もしかしたら』虚無は伝説のまま あの様な争いは起こらないかもしれない──
 
『もしかしたら』 『もしかしたら』 『もしかしたら』……
 
  そんな『If』の物語。
 
 そうであれば、ルイズに剣を教えていた事は、少々無駄になるかもしれないが……
 
 それならそれで、構いはしない。
 
 この世界で、自分のような剣に傾倒するメイジなんて異端は 、一人で充分である。
 
『剣も扱えるメイジ』と言う 軍人向けとは言え、一般的と言える存在であって構わないのだ。
 
『虚無』として有る事で起こる、様々な試練が彼女を成長させる事は充分承知しているが、それはそれ。
 
 そもそも 人間生きていくだけでも苦難からは逃れられ無いのだ。
 
 故に『虚無』で無かろうと、彼女の成長はいずれは望めるものである。
 
 そう思っていたからこそ、ルイズに課す鍛錬は遠慮気味で、霊力の手解きも施さなかった。
 
 そして何であろうと、レイにとってルイズは『護るべき存在』であり『大切な妹』に変わりはしないのだ。
 
 だが運命は残酷なもので──レイの切なる願いは、嘲笑うかのように裏切られるのであった。
 
「《浮遊》」
 
 レイと同じく ポツリと呟かれたルイズの言葉に伴わない、レイとは、いや、このハルゲギニアに存在するメイジの誰とも違う結果が具現化した。
 
 石のあった場所に発生した光と爆発音。
 
 基はコモン=マジックでありがら その衝撃は凄まじく、レイをして『気を抜いていたら、気を失ってところ』と言わしめる程のものであった。
 
『If』は『If』でしかなく、ルイズの魔法の結果はやはり『爆発』でしかなかった……
 
「………………」
 
 茫然と、自らの魔法の結果を見つめていたルイズは、その結果の異常さに息をのんだ。
 
「…………失敗……ですか……?」
 
 魔法は『正常』に発動しなかったのだから『失敗』であるのだが、前例の無い『失敗』である為 カリーヌにも判断がつかず、どちらともとれる微妙な物言いとなっていた。
 
「──っ!」
 
 だがルイズには『失敗』と言う言葉しか耳に入らず、今度こそとばかりに杖を振り上げた。
 
 結果は言わずもがな『爆発』であったが、ルイズは諦めず何度も杖を降った……
 何度も何度も何度も何度も……
 
 幾十回振られようと、結果は変わらなかった。
 
 変えようの無い無情な結果に杖を取り落としたルイズは、ダッとその場から走り去った……
 
「っ、ルイズ!」
 
「……母上」
 
 咄嗟に追いかけようとするカリーヌに、レイが冷静に待ったをかけた。
 
「何ですか!?」
 
 こんな状況の中でも冷静なレイに苛立ちを感じ、苛立ち混じりに言ってレイを見たカリーヌだが──目に映ったレイの顔に、ハッと息をのんだ。
 
 レイの顔は決意に彩られ、その目には 言いようも無い光が宿っていた。
 
「私に……いや、俺に任せて下さい」
 
 片時もこちらの目を離さないレイの眼差しに、『任せても良いだろう』とも思えるが……
 
「……ですが」
 
「大丈夫ですよ」
 
 不意にレイは表情を和らげ、微笑みをこぼした。
 
「………………」
 
「俺はルイズの兄、ルイズに最も近く、最も遠い存在です。故に俺の声はルイズに届き得る……そう 思えませんか?」
 
 双子であるからこそ、結果の違いに含むものが有り得はしないかとも考えはするが、
 自信の現れともとれる、柔らかな表情を浮かべるレイに安堵を覚え、カリーヌはふぅと息をついた。
 
「分かりましたレイ……貴方に任せます」
 
「はい!」
 
 レイが珍しく語気を強めて言い 走り去る様を、カリーヌは心配そうに、それでいて心強そうに見送った……



[21011] 手段は変われど想いは変わらず 後編
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:6106b45e
Date: 2010/09/15 22:44
ルイズを追いかけて庭を走り去ったレイであったが……
 
そこから数百メイル離れた場所で、途方にくれていたりした。
 
カリーヌを説得する為にあの様に言ったが……正直、レイ自身にも不安は無いでも無い。
 
確かに双子としてルイズに最も近い存在であるだろう。
 
だが、そうであるから余計に疎ましく感じるかもしれないのだ。
 
同じ存在──尤も、今現在ではそうとも言えないが──と言える程近しい双子が、片や魔法が滞りなく使え、片や異質な失敗魔法ばかり……
 
 故に腹立たしく
 故に疎ましい
 
「……ふぅ」
 
とは言え諭さない訳にもいかず、兎にも角にも当たって砕けろである。
 
ちなみに、レイはどちらかと言うと肉体言語の方が得意である為 我慢の限界がくれば『徹込めデコピン』が飛んだりするのだが……転生者故の精神年齢の高さのおかげで、そう言った事態には陥った事は無い。
 閑話休題
 
そう言う訳で、ルイズを探す為に気配を探るのだが……
 
一向にルイズの気配は感じられない。
 
これは 先日アルビオンで『虚無』の者と邂逅した事と、先程、ルイズが真に『虚無』であると判明した事で気づいた事なのだが──
 
何故かはレイにも解らないが、『虚無』の系統の者の気配は、レイには少々捕らえにくい傾向にあるのだ。
 
それ故、樹の下にいたティファニアの気配に気付かず驚く──等という愚行を犯したのである。
 
まぁ捕らえにくいとは言え、集中しさえすれば問題無い程度の事であるが……ルイズは違う。
 
以前、レイはルイズに不意を突かれた事があり それを恥じ、気配探知の鍛錬に力を注いだ事があった。
 
それとは逆に、ルイズは悪戯じみた感覚でありながらも気配遮断の技能を磨いていて……
 
結局はいたちごっこの様相を呈する事となった。
 
と、長々と語ったが何を言いたいかと言えば……レイにルイズの気配を捕らえる事は、不可能に近いと言う事だ。
 
尤も、ルイズの気配遮断はレイ以外の人物──カリーヌどころかカトレアでさえ──はただのかくれんぼレベルでしかなく、それを知ったレイはショックを受けたとか受けなかったとか……
閑話休題
 
それならばとレイはルイズの好む場所、こういう場合に行きそうな場所を考慮した。
 
(もしかすると……あそこか……?)
 
一つの場所に思い当たり、レイは即座に駆け出した……
 
~~~~~~~~~~
 
ヴァリエール公爵邸の広大な庭にある 湖の湖畔に佇む小さな人影──ルイズは俗に言う体育座りをして俯いていた。
 
その眼にもう涙は見えないが、充血していたため先刻まで泣いたのだろうとさっせられた。
 
(どうして……わたしは兄様みたいに何でも上手く出来ないんだろう)
 
ルイズの内部は負の感情で渦巻いていたが。
 
だがそれは、レイの懸念とは裏腹に自分自身に向かう、自己嫌悪と言うものだった。
 
ルイズは双子の兄レイをとても尊敬していた。
 
幼い頃から周囲の期待以上の結果を残し、それでいて驕り高ぶらず自らに厳しい兄。
 
ルイズにとって、周囲が言う『立派な貴族』とはレイであった。
 
故にルイズは、レイの後を追い続けた。
 
レイが剣を始めると言えば、自分もやり、
 
母と約束した事を兄が厳守すれば、自分も──とは言え、ルイズはカリーヌと約束を交わした訳では無いが──厳守した。
 
そして今回、魔法でもそうしよう、そうすべきと考えていたルイズであったが……
 
(魔法は失敗……剣でも兄様の相手になれない……それにあの『黄金の炎』の事も教えてくれない……)
 
剣についても『霊力』についても、レイなりに思惑があったのだが それをルイズが知る由も無く、ただ自分が駄目だからと考え、更に自己嫌悪を深めていった……
 
「やはりここだったか」
 
ルイズのいるであろう場所を思い当たったレイは、その場所──原作ルイズのお気に入りの場所── 湖に向かいルイズを見つけだした。
 
「……ルイズ」
 
俯くルイズを出来るだけ怖がらせないように、優しく声をかけるレイ。
 
「っ──兄……様」
 
ルイズは ビクッと肩を震わせ、恐る恐るレイを見上げた。
 
ルイズを優しい眼差しで見やり続けるレイに、ルイズはつっかえつっかえながらも口を開いた。
 
「ごめん、なさい、兄、様」
 
「何を謝る?ルイズ」
 
「いつ、も、兄様に、迷惑、かけて。せっかく、兄様が教えてくれてる、剣も、才能、無いし、魔法も、失敗して、兄様だけじゃ無く、お母様にまで、迷惑かけて、ごめん、なさい」
 
口にする事で感情が高ぶったのか、ルイズの涙混じりの言葉に、レイは頭をハンマーで叩かれたような衝撃を感じていた。
 
自分の勝手な判断のせいで、ルイズは傷付いていた。
 
確かに 魔法が失敗したせいでもあった。
 
だが、レイがあの様な事を考えず、ルイズに真剣に剣を教えていたら……『この』ルイズであれば、あんな事態にはならなかったのでは?
 
そう考え、レイも自己嫌悪に陥りそうになるがそうもいかず、まだ間にあう筈と考えもするが……
 
(それでも……聞かねばならない……)
 
「……なぁルイズ」
 
内心を余所に紡がれたレイの言葉に、ルイズは泣くのを止め視線を向けた。
 
「どうして魔法……使いたいんだ?」
 
淡々と聞くレイに、ルイズは少し考え口を開く。
 
「魔法が使えれば、兄様みたいに『立派な貴族』として、みんなの為に色々出来るから」
 
ルイズの答えはレイの望んだ通りと言っても過言ではなかった。
 
尤も、自分みたいになどとは少々買いかぶりが過ぎると思ったが。
故に……
 
「そうか……その『みんなのため』の手段は……他では駄目か?」
 
「他……?」
 
レイは頷くと続けて口を開いた。
 
「言ってなかったが──ルイズ、お前には剣の才能がある」
 
「えっ?でも……」
 
信頼する兄の言葉とはいえ、ルイズは信じられなかった。
 
「信じられないのも無理は無いが……今まで少々訳ありでな、余り真剣に教えていなかったんだ」
 
絶句するルイズ。
無理もない。
そのせいで自分には才能が無いと思い込んでしまったのだから……
 
「そう言う事でだ、お前には、剣の才能が、俺よりも高みに登れる 剣の才能があり、そして……以前見た『黄金の炎』覚えているか?」
 
「えっ?う、うん」  
 
素直に頷くルイズを、レイは軽く笑う。
 
「あれは『霊力』と言ってな、この世ならざるものを討つ力であり、『癒し』にも効果のある力だ」
 
兄が突然教えてくれた知りたかったものの正体にルイズは感心したが、兄の言葉の中に気になる言葉があった事に気付き口を開く。
 
「じゃあ、ちいねえさまにも……」
 
「無論効果はある。そしてこの力の才能も、お前にはある」
 
慕う姉の回復の可能性に喜びが浮かぶが、間髪入れずに告げられた自分の可能性にルイズは、何がなにやら理解が追い付かず、 頭がこんがらがってしまいそうだった。
 
ルイズの内心が手に取るように解り、レイは苦笑いを浮かべるが、不意に表情を改めた。
 
「剣も霊力も、そして魔法も、どれもが極端に言えば『力』でしかない」
 
「……………」
 
「だが、このハルケギニアでは魔法が尤も評価され、剣は蔑ろにされ、霊力は下手をすれば先住とみなされるだろう……」
 
確かに……とルイズも思った。
 
「だがな本来なら、剣だから魔法だから霊力だからと、そこに込められる想いを比較出来る物では無い……しかしこのハルケギニアでは、貴族の魔法以外での想いの成就は忌み嫌われるだろう。それでも……」
 
レイは口を閉ざし、徐にルイズに手を差し伸べた。
 
「ルイズ、お前が望むのなら、俺が剣と霊力の 魔法では見る事の出来ない頂をお前に見せてやる」
 
後にルイズはこの時の事を思い、こう思った。
 
これが自分の転機だったのだと……
 
~~~~~~~~~
 
これにより、また1度『本来の世界』より乖離する世界。
 
それをほくそ笑んでいた者がいた……いやあったが、誰もそれに気付く事が出来なかった……
 
~あとがき~
 
今回、かなりの難産でした。
何とか書き上げましたが…少々違和感を感じます(汗
でも違和感の正体が分からないので、これで良いかなと…
 
題名変えました。
次回投稿時にゼロ魔板に移行するつもりですので、次回はゼロ魔板にてお会いしましょう。
ではまた、縁があれば



[21011] 日記 ①
Name: 水無月◆b60bbd75 ID:51b53872
Date: 2010/09/19 13:46
今回はレイの日記形式で、一話にする程でも無い日常を記載していきます。
 
 
●●の月 ○○の曜日
 
ルイズが本格的に剣術を始める事となったので、母上への報告と、ルイズ用の小太刀と言うことで シャジャルさんから譲り受けた桐箱を開封する事にした。
 母上への報告はすんなりとはいかなったが、魔法も練習させると言う事が効いたのか、最終的には快諾して貰う事が出来た。
 桐箱の開封は母上の監視──と言えば良いだろうか?──の元に行う事にした。
 万が一封印された小太刀が妖刀、あるいは魔剣の類の危険な品であった場合の事前策であるが……まぁ心配は無いだろう。
 さて、桐箱の開封であるが……俺に封印を解除する技法など心得が無いので、勿体無いが、本当に勿体無いが桐箱を破壊する事にした。
 華美過ぎず、品や作りの良い桐箱であったので、出来れば残しておきたかったが……話を戻そう。
 桐箱を霊力で破壊し、中の物品を取り出し息を呑んだ。
 間違い無く小太刀であったのだが……一級品と言って差し支えの無いで、柄糸は薄紅と金、鞘は黒塗りで所々に桜の文様が彫られている。
 鍔の拵えも桜の小透かしで、刃は薄紅色の反りの浅い直刀と言う、全体的に桜をイメージさせる見事な小太刀だった。
 『桜花』と言う銘である事も確認した。
 あまりの美しさに妖刀かと一瞬考えたが、妖刀特有の禍々しさも感じられず、どちらかというと涼しげな清涼感、並びに神聖さを感じさせた。
 問題のある品では無かったので母上に預け、ルイズにこの小太刀を渡すべきかどうかを一任することにした。
 『桜花』を見つめる母上の目が少々心配であったが……ま、まぁ大丈夫だろう。
 
●●の月 ○☆の曜日
母上が先日預けた小太刀『桜花』をルイズに渡した。
 渡す際に一悶着あったが……まぁ問題は無い。
 それよりも、『桜花』を手渡されたルイズの様子がおかしかったのが心配だ。
 『桜花』に魅入って、奇妙な笑みを浮かべてるし……あれ、本当は妖刀だったんじゃ?
 とは言え 取り上げる訳にもいかない。
 ま、まぁルイズなら大丈夫だろう……多分
 
●●の月 ★●の曜日
 
 たまには読者も良いかと テラスにて本を読んでいると、何やら大量の荷物を携えた従者数人を引き連れて父上が現れた。
 何の用かと訪ねて、耳を疑った。
 み、見合いって、まだ俺には早いんじゃ?……ああ、貴族なら当たり前……なのか?
 
 従者達の持ってきた肖像画──現代の見合い写真に当たると思われる──を何ともなしに眺めていると、あまりの衝撃的な人物の肖像画に、つい口に含んだ紅茶を吹き出してしまった。
 モ、モンモンのまであるのか!?
 他にも、ケティやベアトリスと思われる肖像画も……てか、同年代は手当たり次第のような……
 兎に角、俺にはまだ早いと断る事にしたが、友人なら良いと言う事で会う事には承諾した。
 ルイズに同年代の友人は必要だしな。
 
●☆の月 ●○の曜日
 
 ルイズの暫定的な婚約者として、ワルド子爵を紹介された。
 あまり原作を変えようとも考えていないので反対はしないが……少々脅すぐらいなら良いだろう。
 ルイズを裏切ったら云々、ルイズを利用しようとしたら云々と少々感情的に殺気を当てると、ワルド子爵は気の毒な程に顔を青くしていた。はて?あの程度で青くなる程 気骨の感じられ無い人物とは思えなかったが……
 
●☆の月 ○☆の曜日
 
 王城にてアンとお茶会。
 珍しくアンに振り回される事の無い 穏やかな時間だった。
 尤も、辞去の際のアンの眼差しに不穏な物を感じたりもしたが……気のせいと言う事にしておこう。
 
●☆の月 ◎●の曜日
 
 最近カトレア姉さんの体調がかなり良いらしい。
 意図した事とは言え、成果が見られるのはやはり良い事だ。
 ルイズも自分の力『霊力』がカトレア姉さんの為になったのが嬉しいのだろうか、大層喜んでいた。
 俺としても嬉しい事なのだが……予想外な事が一つ。
 健康の為に教えた太極拳との相性が良かったのか、それなりの上達が見られた。
 とは言え カトレア姉さんの性格的に防御法だけなのだが──
 まぁちょっとした護身術と考えれば、問題は無さそうだ。
 
○○の月 ●○の曜日
 
 モンモランシ伯爵家を訪れた。
 ルイズを伴った来訪の為、先方は少々不満げであったが 俺の知る事では無い。
 顔を赤らめてモジモジと自己紹介しあモンモンには好感が持てた。
 ルイズも彼女を気に入ったようで、早速庭で遊びだしていた。
 俺も混じって遊ぶと言うかお目付役をしていたのだが……俺達の様子を見るモンモランシ伯爵と伯爵夫人の眼差しが不穏に感じたりした。
 ……まぁ問題無かろう
 
○○の月 ☆☆の曜日
 
 何故かグランドプレ伯爵家に訪れた。
 挨拶もそこそこに、マリコルヌと遊んだのだが……ルイズをわざと怒らせ、罵倒させようとするのは健全な遊びなのだろか?
 幼いながらも、変態と言う名の紳士の片鱗を感じさせるマルコリヌに戦慄した。
 
○○の月 ◎☆の曜日 
 クンデルホルフ大公家を訪れた。
 続けざまに他家を訪れる事に疑問を感じたが、俺が前言を覆す可能性を考慮したと言われたので納得せざるをえなかった。
 幼い容姿で居丈高に挨拶するベアトリスは可愛らしく感じられた。
 俺が微笑んでみせると顔を真っ赤にして黙り込んでいた。
 風邪でも引いていたのだろうか?
 
 遊んでいると懐いてくれたのか、こちらに笑顔を良く向けてくれた。
 ルイズとは少々相性が悪いのか、数度いざこざが見られたが……
 
 
霊剣『桜花』について
 
今回登場したルイズの愛刀になる『桜花』ですが、妖刀では無く霊剣です。
とは言え、芸術品としても超一流の品である『桜花』ですので、ルイズが魅入られるのも無理は無いかと……
ちなみに、ネタばれになりますが このせいでルイズにとある二つ名がつきますが……どんな名かは後ほどに
 
それでは、また縁があれば


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