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[787] Fate/into game 第二部 聖杯戦争開始
Name: 遼月
Date: 2006/03/07 01:02
Fate/into game


1月23日(水) 聖杯戦争1日目 午前

「兄さん、起きてください」
 俺を呼びかける声にしぶしぶ目を開けると、予想通り目の前には桜がいた。
 寝たのは夜明けだったため、寝不足になっていてもおかしくはないが、メディアが疲労回復でもしてくれたのかそれほど体は重くなかった。
「おう、おはよう桜。もう朝飯か?」
「そうですよ。早く起きてリビングまで来てください」
「分かった。ちょっと待ってくれ」
 桜が出て行った後、俺は慌てて着替えるとリビングへ向かった。
 リビングには、桜、メディア、メデューサ、セイバーと、あと柳洞寺に置き去りにしてきた弓塚までいたのだが、なぜか衛宮だけいなかった。
「桜、衛宮はどうした?」
「先輩は一度目を覚ましたんですけど、体調が悪いらしくてそのまま寝ています。
 病気じゃなければいいんですけど……」
「ご安心ください、桜。サーヴァントを召喚したばかりのマスターは満足に活動できない。
 昨夜もかなり疲労を感じていましたが、まだそれが残っているのでしょう。
 おそらくは、今日中には回復するはずです」
 お茶をすすりながらそこまで一息で答えた後、セイバーはあることに気づき桜に尋ねた。
「桜もマスターですから、召喚した次の日は今のシロウと同じ状態だったのではないですか?」
 あ~、本来はそうだったんだろうな。
 実際はあの行為で魔力をたっぷり回復したから翌日も元気だったけど、それを言うわけにはいかないようなぁ。
 桜の方を見ると、俺の予想通り、何と答えるべきか困っている様子だった。
「桜は衛宮よりずっと魔力量が多いからな。
 そのおかげで次の日も元気だったから知らなかったんだよ」
「そうなのですか?」
「ああ、確か衛宮の倍以上の魔力量があるんじゃないか?
 今は空っぽに近いから分からないのも無理は無いけど」
 それを聞いたセイバーは、驚いて桜を見つめた。
「あっ、はい、そうなんです。
 私、まともな魔術はまだ使えないんですけど、魔力だけは多いみたいです」
「そうでしたか。それなら、次の日から元気でもおかしくありませんね。
 ……それにしても、シロウでも十分魔力が多いと思っていたのですが、その倍以上とは驚きました。
 この時代の魔術師にも優秀な人は多いのですね」
 それは比較対象が悪すぎ。
 衛宮も桜も、そして遠坂も一般的な魔術師から見ると完全な規格外。
 一般的な魔術師ってのは、……俺みたいな奴の事を言うんだよな、やっぱし。
 いかん、改めて考えると自分の無力さが悲しくなってくる。このことは置いておこう。
「そのことはともかく、衛宮はただの魔力切れだから、おそらく午後には回復すると思う。
 セイバーは、「シロウの側にいます」……だそうだけど、桜はどうする?」
「そうですね。やっぱり先輩が心配だから学校を休みます」
 まあ、そうだろうな。となると、
「ライダーも?」
「はい、私も桜の側にいます」
 聞くまでもなかったな。ライダーはマスターである桜の幸せの実現が第一の目的だからな。
「となると、残るは弓塚だけだけど……」
 一応聞いたのだが、聞く前から俺には弓塚がどう答えるか分かっていた。
「では、私もここにいます」
「だろうな。んじゃ、今日登校するのは俺とキャスターだけってことか。
 ここで留守番するのは問題ないけど、勝手に出歩くなよ。
 聖杯戦争はもう始まっているんだ。
 戦いの時間は夜がメインだろうけど、昼に戦闘吹っ掛けられる可能性はゼロじゃないからな」
 俺の念押しに桜は素直に承諾した。
「分かってます、兄さんが帰ってくるまでは出かけません」
「ん、ならいい。
 後は衛宮が勝手に、そう『食材を買いに行く』とか言って抜け出さないように常に監視しとけよ。
 そういう点であいつはおおぼけかますからな」
 セイバールートでも、勝手に一人で出歩いていたからなぁ。
 俺は何度『いい加減にしろ』と思ったことか。
「分かりました。その仕事は私がやりましょう」
「ライダー、そのようなことはシロウのサーヴァントである私がやります。
 勝手にマスターを監視などしないでもらいたい」
 ライダーが引き受けてくれて一安心、と思ったら、いきなりライダーにセイバーが噛み付いてきた。
「何をむきになっているのですか? 
 別に士郎を監視する人が何人いようと構わないではありませんか。
 私も監視するし、貴女も監視する。
 何か問題でもありますか?」
「あるに決まっている。確かに私は、桜に対してはある程度信頼している。
 しかし、貴女達は信頼していない。
 シロウに対して何もしないなど無条件に信じられるはずがないでしょう」
 俺が口を挟む余裕などなく、あっという間にライダーとセイバーの睨みあいになってしまった。
 よく考えてみれば、このメンバーの性格が合うわけはなかった。
 正統派英霊と反英霊の要素が濃いもの、女であることを捨てた存在と女であることを誇りにする存在。
 ああどう考えたって相性が悪いに決まっている。
 属性から言っても、メデューサとセイバーとの相性は最悪だったな。
 何せメデューサの属性はギルガメッシュと全く同じなのだ。
 セイバーとギルガメッシュのことを考えれば、仲良くできるはずがない。 
 ……ん、つーことは、メデューサとギルガメッシュってものすごく相性がいいってことになるのか? 
 ないとは思うが、ライダーが金ピカの王様に奪われないように注意しとこう。
 っと、そんなことを考えている場合ではなかった。
 なんとか二人をなだめないと、ここで戦闘が始まってしまう。
「おいおい、そんなむきになる必要ないだろう。
 セイバーがマスターである衛宮と一緒にいるのは当たり前だ。
 だったら、衛宮の側で護衛兼監視をするのはセイバーにまかせて、ライダーはいつも通り屋根の上から周辺の監視してもらって、衛宮が外出しようとしたら止めるようにすればいいんじゃないか?」
 それを聞いたセイバーとライダーはしばらく睨みあった後、同時に目を逸らした。
「それなら構いません。
 くれぐれもシロウに余計な手出しをしないように、ライダー」
「了解しました、慎二。
 それから、あなたが余計なことをしなければ、何もするつもりはありませんよ、セイバー」
 ふ~、なんとか戦闘は避けられたが一発触発の事態は変わらないなぁ。
 こりゃ、今後も油断できなさそうだ、気をつけないと。

 セイバーはシロウと一緒に食事を取ると言って、お盆を持って衛宮の寝室へ向かった。
 昨日はまともに二人で話し合う時間もなかったし、ちょうどいい機会だということで二人きりにした。
 桜は少々むくれ気味ではあったが、しぶしぶ納得したようだった。
 そういうわけで、残った俺、桜、メディア、メデューサ、弓塚で朝食を取る事になった。
「ところでなんで弓塚がここにいるんだ?
 確か柳洞寺で留守番していたはずじゃ?」
 朝食を食べつつ、俺はさっきから疑問だったことについて尋ねた。
「兄さん、それは私が今朝呼んだんですよ。
 セイバーさんが召喚された以上、事情の説明やセイバーさんとの顔合わせが必要だと思ったので」
「それから出迎えとここまでの移動は、私が瞬間移動で行いました。
 もう、いつサーヴァントに襲われるか分かりませんからね」
 あ~、それなら完璧だな。俺が文句をいうべきところも必要もないな。
 メディアの瞬間移動は、柳洞寺の近辺なら双方向で可能だからなぁ。
 とんでもなく使えるよな。
「で、セイバーとの顔合わせは済んでるみたいだけど、どの辺まで話したんだ?」
「私が話したのは簡単な自己紹介ぐらいよ。それ以上は時間もなくて話せなかったの」
「そっか、まあセイバーは死徒という存在に対して警戒していると思う。
 だから、きちんと吸血鬼としての衝動を抑えきっていることは説明しといたほうがいいぞ」
 自分が忌避される吸血鬼であることを再確認したのか、弓塚は顔を強張らせた。
 それを見た桜は俺に対して何か言いたそうだったが、俺は気にしなかった。
 これは弓塚が奇跡的に人間に戻れない限り、一生付きまとう問題だ。
 いつか自覚することなら、早めに慣れさせたほうがいい。
 今までは、シエルを除いて弓塚を忌避する存在はいなかったが、それは少数の例外が揃っていたためだ。
 そろそろ、一般的な自分の立場を知るべき時期だろう。
「うん、分かったわ。セイバーさんにちゃんと説明するわ」
 弓塚は硬い表情ながらも、了承した。

「それから、現在の状況についてはアルに説明し、帰宅していたバゼットには衛宮邸にいることを伝えました。
 バゼットの方も特に進展はないとのことです。
 どこまでが本当かはわかったものではありませんが……」
 さすがメディア。俺なんぞと違って配慮は完璧だな。
 俺の出る幕がないのは悲しいけど……。
 そ~いや、俺も桜達に根回しが必要なことがあったな。
『そうそう、昨日、いや今日か、それはともかく寝る前にセイバーの写真を撮ったぞ』
 弓塚には話せない内容だったので、俺はライン経由で桜、メディア、メデューサに話しかけた。
『セイバーさんの写真ですか?
 確かに彼女も美人ですから、兄さんが撮影対象にしたがるのはわかりますけど、それがどうかしましたか?』
『それでだな。俺の持っている情報を一部提供する代わりに、セイバーのヌード写真の許可をもらったんだ』
 俺の言葉が予想外だったのだろう。桜は驚愕の声を上げた。
『え、ええ~! 兄さん、一体何を考えているんですか!!』
『いや、普通の服装での撮影許可はもらえたんでね。
 調子に乗って、ヌード写真もだめか聞いてみたんだ。
 そしたら、意外とあっさりと許可をもらえてね。
 そのまま撮影したまでだ』
『本当ですか?』
 桜の声はものすごく冷たかった。
 俺ってそんなに信用ないのか?
『おう、(気合入れて説得したことは省いたが)一切嘘は言ってないぞ。
 メディアも証人だ』
『慎二の言葉に嘘はありません。
 慎二が依頼したところ、セイバーが承諾したのは事実です』
 幸いメディアは俺の言葉を肯定してくれた。
 言葉がみょ~に白々しかったのは気のせいだと思いたい。
 うん、きっと気のせいだ。
『そうですか。……ちょっと引っかかりますけど、セイバーさんが承諾したのならば、私がとやかく言うことではないですね。
 でも、それがどうしたんですか?』
『ああ、通常の写真撮影についてはともかく、ヌード撮影については桜達以外には話さないほうがいい、って話したんだが、どうも俺って信用がないのか、あまり信じてもらえていないようなんだ。
 この件については、桜からもしっかり念を押しといてくれないか?』
『それは構いません。だけど、そもそも他人に話されては困るようなことは、最初からやらなければよかったんじゃないですか?』
 俺の頼みを聞いて、桜は戸惑いながらも承諾してくれたが、痛いところを突いてきた。
 承諾してくれたのは、メディアとメデューサも援護射撃をしてくれたのが効いたようだが、さてどう答えるべきか……
 本音を言えば、『俺の欲望のなせるわざです』となるのだが、さすがにそれは言えないし、そうなると……
『すまん、『許可してくれたら儲けもの』程度の考えで頼んだら、あっさりOKもらって舞い上がっていた。
 事後処理については何にも考えてなかった』
 これはほとんど事実だ。
 事後処理でここまで手こずるとは想像していなかった。
 というか、セイバーが写真撮影に同意しといて、ここまで俺のことを警戒するとは思わなかったなぁ。
 セイバーの観察力を俺が舐めていたと言うべきか、セイバーの観察力を褒めるべきか。
 俺の予想通りなどいくはずもなかったか。
 やれやれ、俺もまだまだ甘すぎたか。
『仕方ありませんね、兄さん。
 もうこういうことは避けてくださいよ』
『ありがとう、助かるよ』
 うん、セイバーに余計なちょっかいをかけるのは控えておこう。
 これ以上やると裏目に出まくりそうな気がする。
 あくまでもこれ以上は控えるだけで、ヌード写真撮影は継続するがな。
 もちろん、セイバー相手ならともかく、それ以外の人には遠慮するつもりはないぞ。
 くっくっく、俺は引くべきときは引くが、それ以外は遠慮するつもりはないのだ。
 俺のモットーは『反省すれども後悔せず』、時には『自覚すれども反省せず』ということもあるが、まあ限界を見極めるのはそれなりに得意なのだ。
 ぎりぎりのラインを見極めた上でやりたい放題やってみせよう。
 まっ、どうせ俺のことだから、ぎりぎりのラインの見極めをしくじって何かトラブルになるかもしれんが、それはそれで面白い。
『ただし、確認したいことがあります』
 ぎくっ!
 好き勝手なことを考えていると、桜は厳しい声で言ってきた。
『な、何だ?』
『その撮ったヌード写真はどうするつもりなですか?』
『どうするって、桜の写真同様、俺のコレクションにするだけだ。
 ……ああ、部外者には一切見せるつもりはないぞ。
 見せるとしても、桜、メディア、メデューサ、あとはアルクェイドさんぐらいかな?
 もちろん、セイバーの許可をもらったら、だぞ』
 桜の奴、これをばら撒くことを心配したのか?
 ああ! 衛宮に見せることで、衛宮がセイバーを意識させるのを避けたかったのか!!
『それならいいです。
 くれぐれも、他の方に見せないでくださいね。
 もし、見せるようなら、……』
 怖かった。桜は具体的には何も言わなかったが、ものすごく怖かった。
 俺は当然ながら、命に代えてもセイバーの許可をとらずに他人に見せることがないことを確約し、何とかその場は収まった。


「おはよ~。いや~、寝坊しちゃった寝坊しちゃった」
 静かに朝食を食べていると、すっかり存在を忘れていたタイガーがいきなりやってきた。
「桜ちゃん、ごはんっ、お願い!」
 タイガーはそう言うと、いつもの場所に正座した。
「おはようございます、藤村先生。
 今ごはんをよそいますから、ちょっと待っててくださいね」
「おはよう、藤村先生」
「おはよう、タイガ」
「おはようございます、大河」
 タイガーは俺達の挨拶を聞きつつも、すでに心は朝食へ飛んでいるようだった。
「はい、どうぞ先生。大したものではありませんけど、召し上がってください」
 桜もそんなタイガーは慣れているので、笑顔でご飯をよそったお茶碗を渡した。
 タイガーは桜から茶碗を受け取ると、首を傾げてた後、初めて衛宮の不在に気づいたらしく質問してきた。
「あれ~、士郎はどうしたの?
 寝坊なんて珍しいわね」
「ああ、あいつ今日は体調が悪いらしいぞ。
 学校は休むことになるんじゃないか?」
「あ、そうなの。士郎にしては珍しいわね」
 ふむ、あいつはめったに病気にならなかったのか?
 まさか、『馬鹿は風邪を引かない』とかそういうわけじゃあるまいし。
「そっか~、士郎は病気なのか~」
 なるほど、と納得してご飯をほおばるタイガー。
「って、士郎は大丈夫なの!!」
 一瞬びびったが、タイガーは大声で言っただけで、ちゃぶ台返しをするなどのタイガー暴走状態にはならなかった。
「大丈夫だろ。おそらくは午後まで寝てれば回復するんじゃないか?」
 俺はメディアに視線を飛ばすと、メディアも頷いて答えた。
「そうですね。ご安心を、大河。
 私が見たところ、遅くとも夕方には完治しているでしょう」
「そ、そう? キャスターさんがそう言うのなら大丈夫ね。
 全く、士郎のくせに、心配かけるんじゃないわよ」
 メディアの言葉には信頼があったらしく、タイガーはあっさりと納得した。
 その後は特にトラブルもなかったが、そろそろタイガーをどうするか本気で考えないとなぁ。
 というか、セイバーがすでに下宿していると教えたら、間違いなくまた大騒ぎになるよな。
 まっいいや、衛宮のお手並み拝見といこう。
 なお、タイガーは「遅刻しちゃう~」とか言って、衛宮の部屋へ顔を出さずにそのままダッシュで去っていった。
 まあ、おかげでセイバーの存在に気づくことは無かったので助かったのだが、やっぱりあいつの思考パターンは謎だ。
 さすがの俺も、タイガーにはちょっかいをかける気にもならんな。

 朝食を食べ終え、俺と桜は衛宮の状況を見に寝室へ向かった。
 そこには、上半身を起こしセイバーと笑顔で話している衛宮がいた。
 どうやら、セイバーと楽しく会話しながら食事を取ったらしい。うらやましい奴だ。
 それを見た桜は、眉が危険な角度を形成している。
「二人っきりの食事をお楽しみのところ邪魔して悪いが、具合はどうだ?」
 俺の多分にからかいを込めた台詞に、衛宮は見事に顔が真っ赤になった。
「なっ、お楽しみって何だ?!」
「何に言ってやがる。笑顔で楽しげに話していただろうが。
 まっ、その追求は後でじっくりたっぷりするとして、具合はどうなんだ?」
「後でって何だよ。……体調は体がだるいだけだ。
 さっきキャスターにも聞いたけど、セイバーを召喚した後遺症なんだってな。
 魔力の結構回復しているし、そのうち体調も良くなると思う」
「そうか。まあ、桜ほどじゃないがお前の魔力も多いからな。
 遅くとも今日中には回復するだろうな。
 ただし、体調が回復しても勝手に出歩くなよ」
「なんでさ?」
 俺の忠告に対し、衛宮はものすごく不思議そうな顔をして質問した。
「おいおい、分かってるのか?
 お前が最後のサーヴァントを召喚した時点で正式に聖杯戦争は始まったんだ。
 そして、お前は魔力を隠しているとはいえ令呪を持っている。
 他のマスターに会ったならすぐに殺されるぞ」
「そんなことは大丈夫です。
 私が同行すれば、そのようなことは絶対にありえない」
 俺の意見に対し、セイバーは速攻で否定したが、その認識は甘すぎる。
 やはりセイバーは、自信がありすぎて過信になりかけている。
 『コーンウォールの猪』と呼ばれるのは伊達じゃないんだなぁ。
「あ~、セイバーだけなら大丈夫かもしれないな。
 だけど、まだ衛宮の能力と性格を把握したわけじゃないだろ?
 衛宮はセイバーの力を、セイバーは衛宮の力を知らない以上、せめて今日一日ぐらいはお互いの戦力、戦闘パターン、特技などの情報交換をするべきだと俺は思う。
 パートナーの戦力、能力、性格をある程度把握してから戦闘に望む。
 これは戦術の基本だろ?」
「むっ!」
 俺の正論に対して反論の内容が思いつかなかったのか、セイバーは悔しげに黙りこんだ。
「おまけに衛宮は聖杯戦争について、俺達が教えたことしか知らない。
 もちろん、裏の情報はかなりのレベルだと思うが、表向きの情報は欠けてるところが多いと思う。
 監視役なり関係者なりと渡りをつけて、最低限情報収集することも必要だろう?」
「そうだな。慎二を信用しないわけじゃないけど、確かに他の人からも情報を教えてもらった方がいいな。
 それに慎二の言うことが正しいなら、今回の聖杯戦争は無意味だ。
 相手が納得して戦わなくて済むかどうかはわからないけど、他のマスターとも話してみたい」
 まあ、衛宮ならそう考えるか。
 となると、証明するのはアンリマユ入りの大聖杯を見せるのが早いんだが、……セイバー、衛宮、遠坂、アーチャーなら見せても良いか。
 当然、遠坂には教える代わりに魔術協会にも口外無用という契約を結ぶ必要があるが。
 イリヤは話してみる価値はあると思うが、衛宮が説得したとしても納得してくれるかなぁ?
 言峰じゃないが、魔術協会に大聖杯を調査されると色々と面倒だから、バゼットはパス。
 言峰、ギルガメッシュ、臓硯は存在も知っているし、どうやっても敵にしかならないから抹殺は変わらない。
「オーケー。じゃあ、俺が遠坂と話す機会を作ってやる。
 ただし、俺と桜、キャスターとライダーに関する全情報、ならびに俺が教えたということは内緒にしろよ。
 あっ、もちろん橙子さんや式たちの情報も一切内緒だからな」
 念を押しておかないと、こいつはいともあっさりと遠坂に俺達のことをばらしかねんからな。
「分かった。それ以外の情報は遠坂に話してもいいんだな?」
「それは構わない。
 ただし、信用してくれるかどうかはかなり疑問だぞ?
 まあ、お前にも見せる予定の大聖杯を見せれば、ある程度は納得するかもしれないが」
 ただ、あいつの目標は聖杯ではなく聖杯戦争に勝つことだからなぁ。
 アンリマユのことについて納得しても、停戦に同意するかはものすごく疑問なんだよなぁ。
「遠坂、というのは、昨日聞いたマスターの一人のことですか?」
 今まで黙り込んでいたセイバーが、ここで質問してきた。
「ああ、そうだ。遠坂はサーヴァントを召喚したと考えて間違いないと思う」
「ついでに言うと、遠坂凛は俺と衛宮と同じ学校の同級生だ。
 衛宮と遠坂はそれほど親しいわけじゃないが、顔見知りではある。
 ただし、魔術師としてではなく、同級生として、だけどな」
 桜の実の姉であることは、言う必要はないだろう。
 これは、桜か遠坂が言うべきことで、俺が関与するべきことではない。
「『魔術師としてではなく』とは、まさかお互い魔術師だということを知らなかったのですか?」
 セイバーが驚いて質問してきた。
「ああ、そうだ。
 俺は魔力感知能力が低くてさ、慎二に教わるまでは遠坂が魔術師だって事、全く気づかなかったんだ」
「ついでに言えば、俺達の師匠である橙子さんが魔術回路を開くまで、衛宮は魔術回路を1本しか開いていなかったからな。
 魔力量が微弱すぎて、遠坂は衛宮が魔術師だと気づかなかった。
 魔術回路を全開にした後は、魔力殺しのおかげでばれなかったみたいだな」
「なるほど。そのような状態でしたら、お互い魔術師だと気づかないことはありえますね。
 では、慎二達はどうなのですか?」
「そっちはもっと簡単。お互い、聖杯戦争御三家だからな。
 ある程度の関わりはあったが、何せ間桐家は衰退の一途。
 桜は例外だが、それでもつい最近まではとある事情でまともな魔力を持っていなかったし、俺にいたっては魔術回路が一本も開いていなかった。
 師匠のおかげでこれらの問題を解決した後は、魔力蓄積のブレスレットに魔力を溜めるか、サーヴァントにほとんどの魔力を送っていた。
 そのおかげで、遠坂は桜を見習い魔術師、俺のことは唯の一般人だと思っているはずだ」
 うん、そのはずだ。遠坂はドジ属性があるから、おそらくはしばらく気づかないだろう。
 問題は、アーチャーがどこまで気づくか、だな。
「そうでしたか。……分かりました。シロウがそう言うのでしたら、遠坂というマスターと会いましょう。
 しかし、敵対するようなら容赦しませんし、もし慎二が罠に掛けようとするならば!」
「分かっている。そんな自殺行為をするつもりはないが、そのときは好きにすればいい」
 こうして、セイバーも納得してくれたようだ。
「そういうわけで、衛宮。お前は今日、外出禁止だ。
 おそらく遠坂は、今日サーヴァントを連れて冬木市の偵察&戦場調査をするはずだからな。
 ばったり顔を会わせて、そのまま戦闘突入ってのはいやだろう?」
「ああ、確かにそれは避けたいな」
「もちろん、俺や桜と同様、人工皮膚と魔術で令呪を隠せばお前がマスターであることは隠せるが、キャスターを信用していないセイバーが許可するはずもないし……」
 そう言ってセイバーを見ると、『当然です』と言わんばかりの表情で頷いた。
「さらに言えば、セイバーが霊体になってもサーヴァントの気配を隠せないと、他のサーヴァントに存在がばれちまう」
「そうなのか?」
 衛宮は俺の言葉を確認するため、セイバーに尋ねた。
「その通りです。残念ながら私は、サーヴァントの気配を隠せるような能力や魔術は身に付けていません。
 また、他のサーヴァントと異なり、私は霊体化することもできません」
 おお、セイバーが自分から霊体化できないことを白状したぞ。
 もっとも、俺達を信用したから話したわけではなく、長時間一緒に行動していれば嫌でもばれると判断したから教えただけなんだろうな。
「そうなんだ。分かった、今日は大人しく家にいるさ」
「そうしてろ。桜、ライダー、弓塚がいるから攻め込まれても大丈夫だろう。
 体調が回復したら、セイバーと模擬戦闘でもしてお互いの実力を試して、ついでに鍛えてもらえ」
「もちろんだ。俺は足手まといになるつもりはないからな」

 そういうわけで、桜とメデューサと弓塚、そしてセイバーと衛宮を残し、俺とメディアは登校した。
 衛宮の奴、ハーレム状態だな。
 まあ、そんなこと考える間もなく、セイバーにしごかれる羽目になるだろう。
 俺が帰ってきたときに、無事に生きていろよ~。
 セイバーは、ライダーやキャスターが衛宮の師匠だと知って、ライバル心持ってるみたいだからな~。
 やり過ぎないといいけど。
 ――まっ、衛宮なら死ぬことだけはないか。
 生ける屍になってるかもしれないけど……。
 桜がいるから、フルアーマーダブルセイバーが召喚されることだけはないだろうし。

 よく晴れて日差しは強いが肌を刺す冷たい空気の中、俺とメディアは久々に二人きりで歩いた。
 例によってメディアは、気配を消す結界を張っているので存在はばれないし、例えメディアの存在を知っているランサーが襲ってきても瞬間移動で戻れば良いので敵襲の心配はあまりない。
 いや、ルーン魔術を使って気配遮断できるランサーと気配遮断のスキルを持つ真アサシン相手だと危険だが、その場合でもメディアが張ってくれたらしい防御用の結界があるので、時間稼ぎ程度ならできるらしい。
 防御結界が時間稼ぎをしている間に、瞬間移動で逃げれば何とかなるだろう。
 俺もメディアも自分達の実力は把握している。
 今サーヴァントに襲われたら逃げる以外の選択肢はないことは理解しているので、逃げる事に躊躇いはない。
 問題は、宝具の真名解放だが、これを気にしていたらきりが無い。
 まあ、ランサーも真アサシンも宝具の真名解放は距離があると効果がなくなる(と思われる)ので、姿を見つけた瞬間にできるだけ距離を取るしかないだろうなぁ。
 つ~か、まさか真アサシンは霊体化したまま宝具の真名解放ができるとか言わないよな。
 それをされると、半端でなく厄介だぞ。
 ギルガメッシュに関しては、……宝具を駆使されれば何でもありのやつだからな。
 目撃した瞬間にダッシュで逃げるしか手はないから、考えてもしかたないな。

『メディア、セイバーのことどう思う?』
 昨日は結局写真撮影のことしか話さなかったので、ちょうどいい機会だとメディアに聞いてみた。
『そうですね。慎二の記憶から大体は把握していたつもりでしたが、予想以上でした。
 可愛い外見と外見からは想像もできないとてつもない力を併せ持つ、まさに最強のサーヴァントですね。
 もっとも、自信が過ぎて過信まで行ってる部分がありますので、間違いなく搦め手には弱いでしょう。
 今の私が本気になれば、まな板の鯉、といったところですね』
 そう言ったメディアの言葉は自信満々だった。
 それにしても、やっぱりセイバーってメディアの好みなのな。
 世間知らずのセイバー騙して、ゴスロリの格好をさせるんだろうか?
 いや、撮影対象としては、そういう格好もぜひ撮りたいとは思うけど。
『それって、マスターである衛宮を狙えばってことか?』
『それが一番簡単ですが、一対一でセイバーと戦っても勝つ自信はあります。
 もっとも、衛宮の投影宝具を駆使すれば、の話ですからフェアではありませんけどね』
 なるほどな、投影ルールブレイカーやら、投影ハルペーとかを大量に使えば、メディアでも勝ち目があるわけか。
 『ずるい、卑怯は敗者のたわ言』というのが俺のモットーである以上、フェアでなくても勝てればそれで十分だ。
『そういえば、使い魔の鷹はどうしたんだ?
 家にはいなかったみたいだけど』
『はい、あの子はまだ生まれたばかりですので、魔力が大量に満ちている柳洞寺でアルと一緒にお留守番です。
 もう少し成長したら、柳洞寺の外でも問題なく行動できるようになるでしょう』
 なるほど。いくら幻想種とはいえ生まれたばかりだったな。そういえば。
 早く実力をつけ、俺達の助けとなる日を楽しみに待っていよう。

 途中のポストに、恒例の橙子へ提出する報告書を投函した後、俺達は学校に到着した。
 ちなみに今日の朝練はさぼった。
 やっぱし色々と考えたいこともあるからな。

 俺はぼ~っと、授業の内容を聞き流しながら、サーヴァントのパラメータデータのイメージを呼び出した。
 そこには今までに俺が出会った、キャスター、ライダー、セイバー、ランサー、真アサシン、のデータ(の一部)が表示されている。
 セイバーのパラメータは、筋力:A、耐久:B、敏捷:B、魔力:A、幸運:A、宝具:A++、対魔力:A、騎乗:B。
 保有スキルは、直感:A、魔力放出:A、カリスマ:B、か。
 パラメータシートには載っていないが、蘇生魔術が使える、と。
 今回衛宮はきちんとした手順で召喚したので、ラインも通じているし、幸運以外のパラメータも凛がマスターの時のセイバーと同じランクになっている。
 これに対抗できるのは、ギルガメッシュかバーサーカーだけだなぁ。
 さらに、投影カリバーンとアヴァロンまで加わったらまさに最強。
 もっとも、衛宮の体内からアヴァロンを出すと不死身の体じゃなくなるから、アヴァロンを衛宮の体内に残しつつ投影アヴァロンをセイバーに渡すのが理想だな。
 おお、そうだ。衛宮の奴がセイバーの夢を見ていれば、アーサー王伝説にある名槍ロンや短剣カルンウェナンを投影させるのも可能か。
 セイバーは騎士王なんだから、剣術に匹敵するぐらい槍術も得意だろう。
 まあ、得意なのは馬上槍術かもしれないが、通常の槍術もそれなりには使えるとは思う。
 弓も当然扱っていただろうけど、伝説に名を残すような弓は使っていなかったようだし、あまり意味ないか。
 聖母マリアの姿が描かれているという盾プライウェンも欲しいところだが、防具だから投影するのは無理だろうなぁ。
 残念だ、結構強力そうな盾なのに。
 う~む、衛宮の投影魔術があれば、フル装備セイバーが誕生するな、こりゃ。
 エクスカリバーほど威力はなくても、戦闘において複数の武器が使えれば、色々と便利だろう。
 ないのは、盾プライウェンと名馬ドゥン・スタリオンぐらいか。
 そうだ。夢に『湖の騎士』ランスロットが登場していれば、アロンダイトも投影できるかもしれんな。
 親友の弟を切った剣だが、優れた剣であり刃こぼれもしないらしいから、それなりにランクの高い剣なのだろうし、何かに使えるかもしれない。

 んで、こっちの戦力は、と。
 メディアのパラメータは、筋力:D、耐久:C、敏捷:B、魔力:A++、幸運:B、宝具:C、陣地作成:A、道具作成:A。
 保有スキルは、高速神言:A、金羊の皮:EX。
 あとは、多種多様な魔術が使用でき、ランクA(おそらくはランクA+)の魔術さえ吸収可能、と。
 メディアの能力が、Fateより向上したのは嬉しい誤算だったよな。
 もっとも、魔術師でないオリジナル間桐慎二がマスターだったメデューサや、衛宮士郎とまともなラインが繋がっていなかったセイバーが能力ダウンしていたのだから、魔術師でない葛木宗一郎がマスターのメディアも能力がダウンしている可能性を、最初から考えておくべきだった。
 いや、妙にメディアの能力が低い気はしたんだが、『魔力が高いかわりに後の能力値は低いのか』と思考停止してたんだよな。
 さて、対魔力:Aのセイバーに対し、魔力:A+の魔術は無効だったわけだが、魔力:A++ならどうなんだろうな?
 まあ、セイバーについては、いざとなればルールブレイカーがあるからいいんだけど、問題はギルガメッシュだよなぁ。
 金色の鎧まで装着していた時は、イリヤの魔術を完全に反射させる鏡のような盾が自動的に発動したみたいだし、遠坂がランクAの宝石で発動した破壊の衝撃も私服姿のまま何もしない状態でキャンセルしたしなぁ。
 いくらA++とはいえ、メディアの魔術は通用するのだろうか?
 あ~、無理だと思った方が賢明か。
 メデューサや、(味方なら)セイバーのフォローをする方が無難だな。

 よし、次。
 メデューサのパラメータは、筋力:B(短時間ならA)、耐久:D、敏捷:A、魔力:B、幸運:C、宝具:A+、対魔力:B、騎乗A+。
 保有スキルは、魔眼:A+、単独行動:C、怪力:B、神性:E-。
 あとは、多少の結界魔術が使えるのと、ランクA(対魔力はA+)のペガサスがいる、と。
 マスターが桜だからパラメータは本来のものだろうが、幸運だけはEからCへ高くなっている。
 おそらくは、マスターである桜がマキリの後継者という呪縛から解放された影響だな。
 マスターの変化が、サーヴァントのパラメータにも現れているのだろう。
 なんというか、セイバーといい、メディアといい、幸運のパラメータだけはマスターによって大きく変動するのな。
 ……ふ~む、やはり耐久さえ強ければ、セイバーとガチンコ勝負もできるよなぁ。
 とはいえ、いくらメディアでもライダーの体を強化するのは無理だろうから、今のライダーが装備している戦闘服と同等以上の動きやすさで、より防御力の強い戦闘服が作れないものか相談してみよう。
 メデューサの売りは変幻自在な動きだから、余計な部分鎧なんて付けてしまうと逆に戦闘力がダウンしかねないしなぁ。
 後はどこでペガサスを使うかだが、周りの被害を考えると、川辺、柳洞寺、アインツベルンの森しかないか。
 対セイバー戦のように屋上で使うってのもありだが、宝具の真名解放をした日にはビルごと破壊しかねない。
 エクスカリバー以上に使う場所を選ぶなぁ、これ。
 いや、存在がばれた時点で移動手段と割り切って使えばいいか。速い、強い、カッコいいと三拍子揃った素晴らしい存在だし。

 さて、問題は彼女達のエネルギー源である魔力だよな。
 メディアとメデューサは俺との性行為、ならびに俺と桜の魔力を溜め込んでいるし、さらには柳洞寺に溜めている魔力もあるからよっぽどのことがない限り魔力切れはないだろう。
 問題は衛宮だよな。メディアに聞いたところ、現時点ですでにあいつの魔力量は270MPぐらいあるらしい。(一般的な魔術師:25MP)
 普通の魔術師と比較すれば十分以上に魔力はあるのだが、セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)のマスターとして考えるとこれでは全然足りない。
 いや、魔力の生成量が多ければ、セイバーに魔力を溜め込んでもらえば何とかなるか?
 確か遠坂は、翌日の朝の時点で魔力の半分以上をアーチャーに持っていかれたと言っていた。
 衛宮曰く、普段の遠坂も魔力量は400MP程度とか言っていたから、いやサーヴァント召喚のため魔力をそれなりに貯めていたに違いないから、500MPの半分以上、つまり約300MPということだろう。
 ん、ちょっと待て、その後『魔力が戻るまで一日』とか言っていなかったか?
 ってことは、一日で300MP、つまり最大出力の3割を一日で回復できるってことか。こりゃすごい。
 そういえば、俺はメディアから使い切れないほどの魔力をもらってるし、桜は俺から性行為で大量の魔力を供給しているせいもあって、あんまり生成量について考えていなかったなぁ。
『メディア、ちょっといいか?』
『何ですか、慎二?』
 メディアは暇だったのか、すぐに回答が来た。
『ああ、桜と衛宮だけどさ、二人の一日当たりの魔力生成量を知っているか?』
『ええ、もちろんです。
 その件については、すでに調査済みです。
 もっとも、桜に関してはライン経由で調べましたので詳細なデータがありますが、衛宮は外部から観察した結果ですので、大体のところしか分かりませんが……』
『それで構わないから教えてくれ』
 う~む、最近俺が依頼→メディアが遂行、ではなく、俺が聞く→メディアが答える、というパターンが出来つつあるなぁ。
 あ~、もしかして俺って要らなくなりつつある?
 そんな俺の考えをメディアの一言が吹き飛ばした。
『それでは、桜は一日で8割近く、士郎は大体9割ぐらい回復しますね。
 あっ、ちなみに慎二は1割弱です』
『何だそりゃ~!!』
 何で二人ともそんなに!
 いや、それ以前に俺の魔力生成量の少なさは何なんだ!!
『何だ、と言われても、今までの経験の差としか言えませんね』
 俺の驚きに対し、メディアはどこまでクールな対応だった。
『経験の差?』
『はい、魔術回路を鍛えていけば魔力量が多くなるのと同じく、魔力生成量もまた鍛えることでその量は多くなります』
 なるほど。それなら、桜の魔力生成量が多い理由は簡単に説明が付く。
 魔力が切れた瞬間、体内の刻印虫が暴走してしまうため、桜の魔術回路は常に限界ぎりぎりまで魔力を作り出していた。
 それは魔力の最大量のみならず、生成量までも向上させていたわけか。
 最初に予想した桜の生成量は少なすぎたわけだ。
 いや、もの凄い量の魔力を蟲が喰っていたわけか。
 で、自殺行為にも等しい、衛宮の魔術回路を毎日作り直す訓練も同様だった、と。
 その結果、遠坂をも上回る魔力生成量を手に入れたわけ、か。
 今まで積み重ねた経験と苦痛の成果が、今の状況なんだから当然といえば当然だと言えるが、やっぱりものすごく悔しい。
 まあいい。これなら衛宮の魔力量でも結構セイバーは戦えそうだ。
 しかし、それはイコールで『セイバーが魔力不足で俺達に頼る可能性が減る』ということになるが……、仕方ないか。
 元々その確率は低かったわけだし、それほど期待していたわけではない。

 後はマスター自身の能力だが、俺と桜が戦力外なのはもうはっきりと認識している。
 俺は既に、対マスター戦ですら時間稼ぎ程度しかできないとはっきり悟っている。
 いや、確かにメディアによって強化された体、投影宝具、メディア製魔術具はあるが、所詮戦闘は素人。
 いくら橙子の教育を受けたといっても、所詮は付け刃。
 他のマスターに勝つのは難しいだろう。
 おそらくは、桜も似たようなものだと思う。
 勝てる可能性がある相手は、……ランクAの宝石を使い果たした遠坂、だけか!?
 あのクソジジイ相手でも、蟲の数に物を言わせて攻め込まれたら対抗できるか疑問だしなぁ。
 衛宮だけはサーヴァント相手に勝つことは難しくても、時間稼ぎレベルは何とかなるだろう。

 さて、問題は衛宮と遠坂の関係だが、……桜の体内にいた刻印虫は完全に殲滅したから、桜ルートになることはありえない。
 ……となると俺達が余計な干渉をしなければ、当然セイバールートか凛ルートのどっちか、あるいはどっちかに近い展開、ということになる。
 そして、衛宮はセイバーと一緒でも危なっかしいところがある。
 となると、遠坂が衛宮邸に泊まるセイバールートの流れの方がいいかな?
 セイバールートの流れに持ち込むためには、衛宮と遠坂が出会ったときに、セイバーにアーチャーを重傷にしつつ、止めは刺さない程度負傷させれば良いだろう。
 といっても、思いっきり余計な干渉をしまくった挙句、ここまでシナリオを俺でも予想できないぐらいぐちゃぐちゃにしてしまったので、いまさらセイバールートか凛ルートに準拠した展開になるか、ものすごく不安である。
 まあいいさ。未来は分からない方が面白い。
 明日、衛宮を遠坂に会わせて何が起きるか、特等席で見物させてもらおう。

 思いついたことがあったので、メディアに頼んで監視網に引っかかった遠坂の姿をライン経由で見せてもらった。
 というか、メディアは俺からこういう要求が来るのが分かっていたのか、メディアのライン経由ながら、俺の意志で俺がオーバーフローしないように監視網を利用できるように改造してくれたらしい。
 俺は自由自在に、好きな方向、好きな場所から遠坂を監視することが出来た。
 一瞬、下側から遠坂のスカートの内側を見ようかとも思ったが、『これだけ強大な魔術を使ってやっているのは覗き』というのがさすがに悲しかったので、結局辞めた。
 まあ、下側から見ても俺の感覚としては絵的につまらなかったと言うのは否定しない。
 やっぱり見るなら、下着姿とか、入浴シーンとか、ヌードだよなぁ。
 Fateと同じく、時々独り言を言いながら、町中を歩き回る遠坂の姿が見えた。
 どうやら、アーチャーに街を案内しているようだ。
 さすがのメディアンの監視網でも、霊体化したサーヴァントを見ることはできない。
 いや、特別な処理を施せば簡単に見えるのかもしれないが、今は必要ないのでこのままで十分だ。
 そして俺の見る限り、メディアが監視していることに遠坂は気づいていないように見える。
 メディアの監視網って、完璧なストーキングにも利用できるんだな。
 さすがに、どんなに微弱でも結界が張られていると侵入できないが、それでも十分だ。
 昔、ザンヤルマの剣の探査能力を欲しいとか思っていたけど、まさかこうやって叶う日が来るとは、感動だ。
 遠坂の散歩をずっと見ているのも飽きたので、メディアに後の遠坂の監視を頼み、俺は他の景色を見ることにした。
 その後、適当に街を色々な場所を見回った後、監視網との接続を切り、俺は授業に意識を戻した。


 1月23日(水) 午前 終


設定

・セイバーの状況
 into gameにおいては、セイバーと衛宮のレイラインはしっかりと結ばれており、そのためセイバーは食事も睡眠も特に必要ない。
 セイバーが食事をとるのは、純粋にセイバーの趣味。

・魔術の糸による探査網 構築者:メディア 利用可能者:メディア、間桐慎二、間桐桜
 町中に張った魔力の糸による目で戦況を把握する。
 魔力やサーヴァントの気配を完全の隠せる相手の場合、効果が無い。そのため、気配遮断が使えるアサシンとか、魔力を隠蔽できる一流の魔術師の位置は分からない。
 ただし一度会った相手の場合、魔術で光学的に隠蔽するか、霊体化していなければ、発見可能。
 Fateのプロローグにおいて、遠坂凛が自分を監視するマスターを探すため、短時間だが魔術の糸による探査網を公園内に展開している。その際、監視者は公園外にいたらしく発見することはできなかった。町中、かつ継続して魔術の糸を展開できるのは、メディアの魔術レベルの高さによる。
 監視網に改良を加え、メディアとラインが繋がっている間桐慎二、間桐桜もライン経由でオーバーフローしないレベルで監視網を利用することが可能。


後書き
 え~と、セイバーが慎二の毒牙にかけられないか心配されている方が多いようですね。
 本編を読んだ通りです、ご安心ください。と言っていいのかな?
 現時点でセイバーは自分を女だと認めていませんから、魔力供給のためとはいえ慎二とそういうことをする気は皆無ですし、いずれ自分のことを女だと認めるようになっても、慎二がセイバーにとって『そういう関係になってもいい相手』だと考えない限り、そういう行為には及びません。
 慎二がセイバーにとって、そういう存在になるかについては……、まあ言わなくても結果は目に見えてますね。
 勝ち目のないライバルもいますし。
 可能性があるとすれば、セイバーが敵対しルールブレイカーで令呪を奪われてメディアのサーヴァントになった時、メディアと桜が許可した場合のみになります。
 まあ、メディアはともかく、桜がそんなことを許可する可能性は絶対にないでしょう。

 というわけで、聖杯戦争開始。ですが、当然遠坂凛はアーチャーと偵察に行っていますし、慎二による状況再確認、という感じですね。
 本編にも書きましたけど、見習い魔術師である慎二とレイラインが繋がっていることにより、メディアが本来の能力を発揮できていることにしています。
 設定とパラメータ的にはそれほど無茶じゃないとは思いますけど、どうですかね?
 この考察は、「聖杯(大聖杯)とサーヴァント」に追加しました。
 あ~あ、設定集がどんどん増えていくなぁ。(2005/1/10)
 
P.S.聖杯戦争も始まったので、新しいスレッドを作りました。



[787] Fate/into game 1月23日(水)午後 聖杯戦争1日目
Name: 遼月
Date: 2006/03/07 01:03
Fate/into game


 1月23日(水) 聖杯戦争1日目 午後

 俺は昼休みになると屋上へ行き、とある所へ携帯で連絡を取った。
「もしも~し。慎二、いきなりかけてくるなんて、何かあったの?」
 電話に出たアルクェイドからの第一声はそれだった。
「ああ、昨日の深夜六人目のサーヴァントが召喚され、今朝衛宮が七人目のサーヴァントのセイバーを召喚した。
 そういうわけで、今日から聖杯戦争の開始だ」
「あ~、そうなんだ。
 実はね、私も近いうちにそっちへ行く予定だったのよ。
 そのときにセイバーを紹介してね」
 近いうちに来る? 例の週一で来る状況把握のことか?
「別に構わないけど、いつ頃の予定なんだ?」
「え~とね、シエルの準備が整い次第行く予定だから、シエルに聞かないと分からないわ」
 ちょっと待て、シエルと一緒に来るだと?
 一体俺の知らないところで何が起きたんだ!!
 俺は感情のまま思わず叫びそうになったが、ぎりぎりのところで抑えると、深呼吸一つしてから静かに尋ねた。
「すまないが、どういう事情でシエルさんと一緒に来ることになったのか、教えてもらえないか?」
「別にいいわよ。シエルの奴、教会から命令されて、暫定的な聖杯戦争の監視役に任命されたのよ。
 で、それを志貴に話して、シエルのことを心配した志貴に私も同行するように頼まれたのよ。
 シエルが嫌がると思ってたんだけど、意外にもシエルからも頼まれちゃってね。
 まあ、志貴に頼まれたことだから、断るつもりはなかったけどね」
 ……ああ、そういうことか。
 シエルが来るかもしれない、ってことは予想ができていたが、まさかアルクェイドも一緒に来るとはね。
 アルクェイドは、既にランサーと戦い、メデューサとも模擬戦闘を行っている。
 その身で感じたサーヴァントの実力について、志貴に教えていたのだろう。
 そして、シエルといえども苦戦、あるいは危険な状況になることを察して、志貴がアルクェイドに頼んだわけか。
 本来は自分が行きたいんだろうが、ネロ退治のときとは違って、さすがに二週間も家を出るわけにはいかないよな。
 ……そんなことをしたら、秋葉にどんな目に合わされるか分からないという恐怖が、ここに来れない原因の一つなのも簡単に予想できる。
「了解した。じゃあ、シエルさんと冬木市に来たら、最初に柳洞寺へ来てくれ。
 くれぐれも、いきなり教会へ向かわないように。
 その理由は、柳洞寺で状況を説明するんで」
「了~解。それじゃ、またね~」
 緊張感が欠片も感じられない挨拶の後、アルクェイドは電話で切った。
 アルクェイドらしいといえばらしいか。
 一応俺達のことを信用してくれているみたいだし、こっちに来てくれるのは心強いな。
 アルクェイドの怒りを買うのは恐ろしいから、アルクェイドに対して下手な策を仕掛けるつもりは毛頭ないが、ギルガメッシュを退治してくれれば楽だよなぁ。
 アルクェイドの戦闘力はサーヴァントの4倍、と言われている。
 ギルガメッシュが規格外だと言っても、全力空想具現化能力の前には勝てないだろう。
 いや、乖離剣エアを喰らったらさすがにやばいか?
 まあ、その辺はそれとなく警告しとけばよかろう。

 さて、これで月姫メンバーへの連絡は終わったわけだが、橙子への連絡は……う~ん、やっぱり止めといた方がいいだろうなぁ。
 冬木市に他の魔術師がいるとは思わないが、通話記録からばれる可能性もある。
 今朝、橙子に急ぎで相談する必要も特に無いし、緊急でない限り電話で連絡するなとも言われているし、……報告書も速達で送っておいたから問題なかろう。

 午後の授業が開始し、先生の講義を聞き流しながら俺は再びメディアと秘密会議に入った。
『メディア、後でメデューサに来てもらって、学園にブラットフォート・アンドロメダ(他者封印・鮮血神殿)を展開してもらおうと思うんだがどうかな?』
 俺の言葉を聞き、メディアはすぐに回答しなかった。
 それどころか、なぜか絶句した雰囲気が伝わってきた。
『一応尋ねますが、一体どういうつもりですか?』
『どういうつもりって言われても、Fateと同じ展開にするためだぞ。
 そうすれば、多分ランサーが来るだろうから、ランサーを捕獲するのも不可能じゃないだろう?』
 学園で待ち構えて、ランサーとアーチャーが戦闘に入った後、メディアが作った影でランサーをおびき寄せ、メディアとメデューサで袋叩きにすれば十分勝てる。
 しかし、それを聞いたメディアからは、何故か呆れたような気配が伝わってきた。
『慎二、あなたは凛と完全に敵対するつもりなのですか?』
『何でだ? さすがに発動させるつもりはないぞ。
 結界は張るけど、ランサー用の罠として使ったら解除すれば問題ないだろ?』
『……いいですか、慎二、よく考えてください。
 自分には無害でも、自分のクラスメートが皆殺しにされるような結界を張られ、結果として発動しなかったからといって、『囮で発動するつもりはなかったから許してくれ』と言われたら、凛がどういう対応を取ると思いますか?』
 ……あ~、俺だったら絶対許さないなぁ。
 そんなことした相手を簡単に許したら、間違いなく大馬鹿だろう。
 ああああ、俺のプランが根本から崩壊していく。
 ランサーを追い詰めて、石化して、メディアのサーヴァントにしようと思っていたのに……。
 ん、待てよ? 皆殺しにするような結界を張るからいけない訳であって、
『例えば、監視用、は敵対していると言わんばかりだし、防御用、は学園内にマスターがいるってばらしているようなものだけど、とにかく、それほど過激じゃない結界をメディアが張るってのはどうだ?
 もちろん、わざと手を抜いて遠坂にも存在に気付くような、いやブラットフォート・アンドロメダ(他者封印・鮮血神殿)と同レベルの、内に入れば一発で分かる隠蔽度のやつをな』
『……そうですね。それなら、凛は調査するでしょうし、興味を持ってランサーが来る可能性は高いでしょう。
 そして、結界の種類によっては、凛に必要以上の敵対心を呼び起こす恐れは少なくなるでしょう。
 学園に結界を張った時点で、凛に喧嘩を売ったと認識されるのは間違いないでしょうが。
 まあ、今更ですが……』
 ん、今最後に不穏なことを言わなかったか?
『今更ってどういうことだ?』
『慎二もご存知のはずです。
 現在冬木市に張っている結界内によって、犯罪者に対してかなり多量の生命エネルギーを吸収しています。
 現在は、衰弱するレベルに抑えていますが、初日は少々やりすぎて犯罪者が昏倒するレベルでした。
 当然、セカンドオーナーたる遠坂凛は、このことに気付き怒り心頭のはずです。
 なぜなら、自分のテリトリーで魂エネルギーの収集などと言う、勝手なことをされたわけですからね』
 あ~、そうだった。
 メディアの魔力集めばっかり考えてたし、犯罪者なんてどうなってもいいと思ってたからなぁ。
 一応次の日から魂エネルギーの吸収レベルを下げたけど、一日でもそんな派手なことをやってしまえば、遠坂にばれるのは当然か。
『そうだな、確かに今更だなぁ。
 でも可能ならこれ以上遠坂を刺激するようなことは避けたいし……。
 そうだ! 遠坂が学校を去った後に結界を張ればどうだ?
 そうすれば、偵察に来たランサーしか気付かないだろ?
 ランサーを捕獲した後、結界は痕跡を残さずに消去すればいいし』
 うん、我ながらいい考えだ。
『それは構いませんが、イリヤの方はどうするのですか?』
『あっ!!』
 いかん、そっちをどうするか考えてなかった。
 セイバールートに近づけるなら、アーチャーがいない状態で遠坂と衛宮&セイバーが一緒にいるときに、イリヤ&バーサーカーが襲ってくるのが理想的なんだよな。
『イリヤの動きはどうなっている?』
『現在のところ、アインツベルンの森から一度も出てきていません。
 おそらくは城で聖杯戦争の準備をしているのではないでしょうか?』
『実は、3人で城の大掃除をしてるだけだったりしてな。
 まあ、それはともかく、今朝イリヤが襲撃してこなかったのは準備不足だったせいか?』
『多分、その通りでしょう。
 イリヤスフィールは聖杯そのものですから、サーヴァントが7人召喚されたことは感覚で分かるはずです。
 Fateにおいては、7人目が召喚された時点で城を出て、教会から戻る途中の士郎と遭遇したものを思われます。
 この世界線では、イリヤの準備が整ったその日の夜に、士郎を襲う可能性が高いでしょう』
 おそらくは、メディアの言うとおりだろう。
 となると、俺達の取るべき道は、どうなるか?

 Fateのスケジュールでは、アーチャーが召喚された日に結界が張られ、次の日に結界の消去に来た遠坂&アーチャーと偵察に着たランサーが戦闘になる。
 で、それを見てしまった衛宮が殺され、遠坂によって生き返り、帰宅後ランサー襲撃&セイバー召喚。
 セイバーとランサーの戦闘は、セイバーがゲイボルクの一撃喰らった後、ランサーが逃亡し、そこへ遠坂&アーチャー到着。
 ルートによって、アーチャーの扱いは異なるが、その後遠坂、セイバー、衛宮で教会へ行き、言峰から説明を受け、帰宅時にイリヤ&バーサーカーの襲撃があるわけだ。

『イリヤがアインツベルンの森を出たらすぐに分かるんだよな?』
『ええ、もちろんです』
『ならイリヤについては、森から出た時点でどうするか判断する。
 いくらバーサーカーと一緒とはいえ、森からここまではかなり時間がかかるだろう?』
『そうですね。 
 この時代の魔術師は瞬間移動ができないようですし。
 ……詳細な時間は分かりませんが、イリヤスフィールの位置は確実に特定できます。
 冬木市に到着する時間もだいたい分かるでしょう』
 イリヤが位置は常に把握できる以上、バーサーカーにいきなり襲撃される可能性は大幅に減ったと見ていいだろうな。
『よし、じゃあ学校の結界については、基点を複数設定した監視用の結界を今日メディアに張って貰う。
 そして、明日遠坂に衛宮へ聖杯戦争の説明を依頼して、教会へ行く前に結界の調査するように提案。
 アーチャーの対応はセイバーに任せる。
 (凛がマスター時の)セイバーには、アーチャーは固有結界を展開しなければ対抗できなかったし、アーチャーもこの時点でそれをするほど馬鹿じゃないだろう。
 となれば、最悪力づくでも遠坂とアーチャーに納得させることは可能なはずだ。
 ランサーが来たら、倒すか、撃退か、可能なら捕獲。
 来なければ、結界の調査を切り上げて教会へ行く。
 タイミングが合えば、帰り道でイリヤ達と遭遇するようにする、というのはどうだ?』
 遠坂に喧嘩を売ることになるが、魂エネルギーの収集がばれている以上、今更だしな。
 メディアは、しばらく検討した後答えた。
『そうですね。それでしたら、それなりに妥当な作戦だと思います。
 まあ、そんなにうまく行く筈もありませんが、そのときは臨機応変に動くしかないでしょう』
『だな、できる限り準備は整えて、ある程度策を練って、あとはでたとこまかせでいこう』
 こうして、とりあえずの行動予定は決まった。

 監視網で遠坂を探し出すと、公園で固有結界についてアーチャーと話していた。
 なお、俺が見ていた限りでは遠坂がマスターの監視に気付き、監視網の魔術を使うというイベントは発生しなかった。
 となると、やはりあの時遠坂を監視していたのは、メディアだったのだろうか?
 メディアはサーヴァントであるが、アサシンのマスターであり令呪を持っていたのは間違いない。
 油断したのか、侮っていたのか、それとも監視していることがばれるのを気にしていなかったのかは分からないが、いずれかが原因で監視していたことが悟られたのだと思う。
 ああ、遠坂を試すために、わざと気づかれるようにしたって可能性もあるか。
 もっとも今のメディアは、俺みたいな見習い魔術師相手ならともかく、バゼットや遠坂といった一流魔術師相手に油断することなどありえず、監視していることをばらすつもりもないため、監視網の存在には全く気づかれていないようだ。

 遠坂とアーチャーは話が一段落すると、再び歩き出した。
 固有結界といえば、やっぱりアーチャーの固有結界とそこに存在する宝具は魅力的だよなぁ。
 今の衛宮も、メディアとメデューサの記憶からかなりの宝具を投影できているが、守護者として時を過ごすことで多くの宝具を投影できる英霊エミヤには遠く及ばない。
 もちろん、ありとあらゆる宝具の原典を持つと言うギルガメッシュにも全く敵わない。
 となると、アーチャーの宝具の中で、最低でも干将・莫耶、カラドボラク、ロー・アイアスは衛宮にゲットさせたい。
 できれば、デュランダルも欲しいところだが、まあ贅沢は言うまい。
 アーチャーが対衛宮戦、対ランサー戦で遠慮するはずもないから、エクスカリバーとアヴァロンを除けばこれらがアーチャーに投影できる最強クラスの宝具なのだろう。
 まあ、最強の宝具ではなく、アーチャーにとって使いやすい宝具か、使い慣れた宝具という可能性もないわけではないが、使うのは衛宮だから問題あるまい。
 当然だが、固有結界『無限の剣製』も衛宮に見せてやりたい。
 そうすれば、今の衛宮ならすぐにでも展開することが可能かもしれない。
 しかし、どうすれば固有結界を衛宮に見せることができるかなぁ。
 Fateに従えば、衛宮を殺そうとしたところでセイバーと対立させればいいし、ギルガメッシュとタイマンで戦わせて固有結界を発動しなければいけない状況に追い込む、というのもありだろう。
 どうやって、そういう状況に追い込むかが一番の問題なんだが……。
 
 そんなことを考えていると、いつの間にか授業が終わっていた。
 俺は鞄に荷物を詰めながら、メディアに監視用結界の構築を頼んだ。
『そうそう、結界の刻印の一つは屋上に置くけど、起点は校庭にしといてくれよ』
『なぜですか?』
『俺達も遠坂と一緒にいるのに、屋上でランサーと戦闘になったら色々と面倒だろ?
 校庭なら移動しやすいし、逃げ道も多いからな』
 ランサーは最初の一撃を遠坂に向けて放った。
 俺も一緒にいた場合、ランサーは俺がキャスターのマスターだと知っているわけだし、最初に俺に対して攻撃してくる可能性は否定しきれない。
 まあ、その場合はメディアが助けてくれるだろうが、当然遠坂に俺がマスターだということがばれてしまう。
 それは困る。そうなると、遠坂の近くにいることができなくなるので、出来る限り俺がマスターだということは隠しておきたい。
『慎二、あなたの考察にはいくつか見落としがあります。
 まず、屋上における逃げ道についてですが、慎二の体は私の魔術で強化されています。
 金網を簡単に飛び越せるのはもちろん、これぐらいの高さでしたら問題なく着地できます』
 あっ、しまった。そのことをすっかり忘れていた。
 そうだよな。メディアの強化魔術が掛かっているんだから、それぐらい簡単だったか。
 まだまだ一般人の常識に縛られているようだな。
『お分かりになったようですね。
 凛が不審がっても、間桐家に伝わる魔術具で体を強化している、とでもいえば納得するでしょう。
 次に、屋上を起点にしないと、凛がどのような行動を取るかが全く予想できなくなります。
 Fateのシナリオ通りランサーとぶつけたいのであれば、校内に6ヶ所、屋上に起点を持つ結界を張るのが一番かと。
 襲撃されることが分かっているのですから、何らかの理由をつけて屋上に遅れていくのもいいでしょう。
 もちろん、神ならぬこの身では、未来がどうなるかなど分かるはずもありませんが……』
 ふむ、さすがはメディア。いい考えだ。
 これを基本にして、後は臨機応変にやっていこう。
 そういうわけで、メディアは屋上に起点、校内に六箇所の刻印を設定し、校内の監視用結界(当然、遠坂が気付くレベル)を構築した。
 さあて、この策がどういう結果になるか、明日が楽しみだ。

 時間も遅くなり人影も少なく、ランサーが襲ってくる可能性も高そうだったので、俺とメディアは瞬間移動で柳洞寺へ戻った。
 予想通りバゼットは留守だった。
 俺たちはアルに引き続き留守番を頼み、再び瞬間移動を使用し、今度は衛宮邸へ移動した。
 メディアにも確認したのだが、これだけ高度な魔術を使っても、少し離れていれば探知されないというのだから、メディアの魔術レベルの高さには恐れ入るしかない。
「ただいま~」
 玄関に出現して言ったのだが、なぜか誰からも反応がない。
 おかしいと思ってリビングに向かうとやっぱり誰もいない。
 もしやと思って、道場へ向かうと戦っている音が聞こえてきた。
 道場に入ると、予想通りセイバーと衛宮が竹刀で戦っていた。
 意外にも、というべきか、あるいはさすが、というべきか、結構衛宮は粘っていた。
 圧倒されていることには変わりないが、そう簡単には攻撃を喰らっていない。
 衛宮は式の弟子だし、何よりカリバーンからセイバーの剣術の記憶を読み込んでいる。
 その辺もあって、セイバーに対しても善戦しているのだろう。
 俺も多少は剣術の訓練をしたが、式はもちろん、衛宮にも全く歯が立たなかった。
 反則ともいえるメディアの強化魔術が掛けられているとはいえ、剣の腕前は俺自身の技量なので、やっぱし勝てない。
 そんなことを考えつつ辺りを見回すと、予想通り桜、ライダーが見学、弓塚は桜が膝枕をしていた。
 うらやましい、と思ったのは一瞬。
 良く見ると、弓塚は気絶しているようだ。
 いや、桜もかなりへばっているように見える。
 どうやら、セイバーは衛宮だけでなく、桜や弓塚の相手もしていたらしい。
 強化したとはいえ所詮見習い魔術師である桜はともかく、死徒27祖クラスの実力を付けつつある弓塚がグロッキー状態とは!!
 セイバーは本当に容赦なくしごいたみたいだな。
 バシッ!!
 鋭い音が響き、慌てて衛宮の方を見ると衛宮はすでに倒れていた。
 どうやら、強烈な一撃を頭に受けて、脳震盪を起こしたらしい。
「ふうっ、さすがはセイバーだな。俺なんかじゃ全然敵わない」
 頭を振りつつ、胡坐をかくと衛宮はセイバーを見上げて言った。
「そんなことはない。正直言って、シロウの技量がここまでとは思いませんでした」
「まあ、強化魔術は一番長く使っているし、何より式にしごかれたからな」
「式、ですか? その方がシロウの剣を教えたのですか?」
「ああ、そうだ。といっても、戦闘訓練の相手をしてくれるだけで、剣術を教えてもらったわけじゃないけどな」
 そう、俺も衛宮も式から剣術は教わっていない。
 衛宮はカリバーンから読み込んだ情報を元に剣術の技量を向上させていたし、俺は剣術の真似事をしていただけだ。
 一応頼んでみたのだが、「俺は教えるのは苦手だ。自分で考えろ」と取り付くしまがなかった。
「その式という方は強いのですか?」
「ああ、強い。今の俺じゃ全く歯が立たなかった」
「ほう、そうですか。シロウでは歯が立たないとは、かなりの腕前ですね。
 機会があれば、一度手合わせしたいものです」
 セイバー vs 式、か。魔力放出を使えばセイバーの勝利は決まったようなものだが、『魔力放出無し』ならいい勝負になるかもしれないな。
 聖杯戦争を無事終わらせて、この好カードの戦いを見たいものだ。
 セイバーは何かその後考え込んでいたが、おそらくは衛宮の剣術がセイバーのそれに近かったことを不審がっているのだろう。
「よう、衛宮。ずいぶん扱かれたみたいだな。
 セイバーの実力はよく分かったか?」
「いや、分からなかった。……いや、ちょっと違うか。
 俺程度じゃ実力が全然分からないぐらい強いってことが、よく分かった」
「なるほど。で、セイバーの方はどうなんだ?」
 セイバーはじろっと俺の方を見た後、淡々と言った。
 どうも、まだ俺のことは警戒しているらしい。
「そうですね。サーヴァント相手に戦うのは無謀でしょうが、かなりのレベルといえます。
 勝つのは不可能でも、防御に徹すれば時間を稼ぐのなら十分可能でしょう」
 ほ~、初日にしてその評価とは大した物だ。
 伊達にメデューサや式達と戦闘訓練をしたわけじゃないな。
「兄さん、おかえりなさい」
「あっ、慎二君、おかえり」
 桜の声に目が覚めたのか、弓塚も体を起こすと俺に挨拶をしてきた。
「ただいま、桜。学校の方は特に何もなく平穏だったぞ」
 俺が結界を張ったぐらいで……。
 一応後で皆に説明しておく必要があるかな。
「そうですか。兄さんが無事で何よりです。
 あっ、すいません。食事の支度がまだでした。
 今から準備しますから、ちょっと待っててくださいね」
「桜さん、私も手伝うわ」
「ありがとうございます、弓塚さん。
 お願いしますね」
 夕食の支度のため、桜と弓塚は道場を去り、メディアとメデューサも何か用事があるのかどこかへ言ってしまった。
 こうして、残っているのは俺とセイバーと衛宮になった。
 なお、衛宮はいまだに座ったままその場から動いていない。
 もう立ち上がる気力すらなさそうだ。
「剣の訓練はやったようだが、魔術の腕前の方はセイバーに教えたのか?」
「いや、まだだ。まずは、剣の特訓をしてもらおうと思ったからな」
「はい。投影、強化、解析といった魔術を使えると言うことは伺いましたが、魔術を行使するところはまだ見ていません」
 ふ~ん、そうなのか。
 それじゃあ、これから衛宮の魔術を見せればセイバーが驚くのは間違いないだろうな。
 おっと、その前に確認しとくことがあった。
「んじゃ、ちょうどいい。
 おい、衛宮。ちょっとここで投影を見せてみろ」
「おいっ、慎二、本気か?
 俺はこの通り疲労困憊状態なんだぞ!!」
「だからどうした。
 実戦で投影するとき、疲労困憊状態なんてざらにあるだろうが。
 それぐらいで投影魔術が使えなければお前は死ぬだけだろ?」
 衛宮の泣き言を一蹴し、俺は冷徹な現実を教えてやった。
「……ああ、分かった。やるよ。やればいいんだろう?」
 俺の説得に快く納得してくれた衛宮は、なぜか思いっきり投げやりに答えた。
「じゃ、頼むぞ。そうそう、一つずつ投影するのは面倒だから、お前が投影できる宝具、改造版を含めてまとめて投影頼むぞ。
 橙子さんの元でいつも訓練していたことだから簡単だろ?」
 衛宮の投影魔術の特性として、一度に投影をすれば必要な魔力は投影一回分でいいという、とてつもなくふざけたものがある。
 まあ、この特性がなければ、魔力回路が一本か二本しか開いておらず貧弱な魔力量だった衛宮が、アーチャーやギルガメッシュの宝具の群れに対抗して投影できたはずもないのだが……。
 もちろん、一度に投影対象のイメージの構築、あるいは投影の待機状態にしておく必要がある。
 さらに、当然ながらその投影イメージ容量には限界が存在するのだが、その辺は橙子が徹底的に鍛えてある。
 おそらくは、この時点ですでにアーチャーに準ずるところまでレベルアップしているのではないかと、俺は考えている。
「全く、他人がやることこだからって勝手なことを言う奴だ」
「悪いな、それが俺の個性なんでね」
 いわゆる、『自覚すれども反省せず』という奴だ。
 そう言い切った俺を見て、衛宮は何か言うのを諦め、投影を開始した。
「トレース(投影)、オン(開始)!」
 衛宮が呪文を唱えた瞬間、広い道場の床一面に宝具が現れた。
 衛宮が投影したのは、ハルペー、カリバーン、カリバーンⅡ、カリバーンⅢ、ナインライブズ、ルールブレイカー、ゲイボルク、ゲイボルクⅡ、+それぞれの短剣バージョンという、いずれも強力極まりない宝具である。
 俺が提案しといてなんだが、これだけの宝具をまとめて投影できる衛宮は、本当に化け物じみているよな。
 さすが、投影に特化した魔術回路は伊達じゃない。
「こ、これは、カリバーン!!
 この剣は折れたままだったはず。
 それなのに、なぜこの剣が完全な形で、ここにあるのですか!?」
 俺の予想通り、さすがのセイバーも驚きを隠せなかった。
 もっとも、多くの宝具が出現したことではなく、完全なカリバーンがあったことに驚いているようだな。
「セイバー、これが俺の投影魔術だ。
 俺は自分の目で見るか、あるいは入手したイメージを元に解析した武器を投影できる。
 そのカリバーンは、俺が昔から持っていたイメージを元に投影した。
 なんでカリバーンのイメージを持っていたかは、俺にも分からないけど」
 驚愕のセイバーは、衛宮の説明も耳に入らない様子だったが、最後の言葉だけは認識したようだ。
「シロウ、貴方がカリバーンのイメージを持っていたのですか?」
「ああ、俺自身いつからこれを夢で見ていたかは覚えていないんだけど、かなり昔からなのは確かだ」
 どう考えてもそれは、衛宮の体に融合しているアヴァロンが原因だろう。
 もっとも、なぜアヴァロンやエクスカリバーのイメージではなく、カリバーンのイメージを衛宮に与えたのかは不明なのだが……。
 まあいい、分かったところで、それほどメリットがあるわけでもないし、余計なことを考えても時間の無駄だな。
「ふ~ん、カリバーンを知ってるってことは、アーサー王の関係者ってことか。
 というか、もしかするとアーサー王本人?」
「えっ!?」
 少々わざとらしかったかも知れない俺の言葉に、衛宮の奴は盛大に驚いた。
「慎二、白々しい真似はよしなさい。
 貴方はとっくに私の真名を知っているのでしょう?」
 一方、セイバーはきつい言葉と、言葉以上に鋭い目つきで俺を睨んでいた。
 やはりセイバーには、俺が真名を知っていることがバレバレだったらしい。
「まあな、衛宮の奴がカリバーンを投影した時点で、アーサー王と何らかのつながりがあるとは思っていた。
 となると、十中八九サーヴァントとしてアーサー王を呼ぶんじゃないかと思ってはいた。
 まさか、アーサー王が女性だとは思わなかったけどな」
 大嘘である。が、すでにセイバーに疑われているのだから、今更嘘がばれたってどうってことはない。
「そうですか。まだ何か隠しているようですが、……まあいいでしょう。
 私達に敵対する行動をしない限り、特に気にするつもりはありません。
 とはいえ、敵対行動を取ったと判断した瞬間、その行為に応じた対処を取ります。
 そのことをお忘れなく」
「ああ、分かっている。
 セイバーを敵に回すようなことは極力避けるさ。
 ……そういえばお前、セイバーを召喚して、ラインをつないだわけだからセイバーの夢を見たりしなかったか?」
 セイバーが真名を公開したので、ちょうど良い機会だったので、俺は衛宮に質問した。
 Fateでは、セイバーがカリバーンを手に持った姿などを夢に見ていたが、この世界でも同じだろうか?
「あ~、え~と、その……」
 しかし、衛宮はいまだ、セイバーの真名がアーサー王だったショックから立ち直れていない様子だったが、それ以外の要因でも動揺しているように見えた。
「何をためらっとるのか知らんが、俺はキャスターの記憶を夢として見ているし、今更誤魔化そうとしても無駄だぞ」
 そういや、桜もメデューサの過去を夢として見ているんだろうか?
「すまん、セイバー。
 俺はお前の記憶の一部を夢として見ていたんだ」
 なるほど、こいつはセイバーの記憶を勝手に見たことに罪悪感を覚えていたのか。
「別に構いません。
 私の真名を教えた以上、特に隠すものではありません。
 それでシロウが私の過去見たことに、何か意味があるのですか?」
「セイバーの記憶を見たのなら、セイバーが生前戦ったときの姿も見たはずだ。
 生前に使っていた武器を全部セイバーに渡せば、有利になると思うが違うか?
 普通なら生前使っていた武器を再現するなんてことは不可能に近いだろうが、お前には投影魔術があるしな」
「言われてみれば、そうだな……。うん、確かにセイバーが戦っている姿は確かに見た」
「よし、となると残る問題は、……」
 俺と衛宮はそろってセイバーを見た。
 何を言いたいのか分かったセイバーは、即座に頷いた。
「シロウ、ぜひお願いします。
 私には宝具としてエクスカリバーが、そしてここにカリバーンがありますが、他にも武器があるというのは確かに便利です。
 武器の種類が多いというのは、戦術の幅を広げます。
 戦闘においていざという時に役立つでしょう。
 それが使い慣れた愛用の武器ならばより効果はあります」
 うむ、歴戦の騎士の言葉にはさすがに重みがある。俺とは大違いだ。
「分かった。……トレース(投影)、オン(開始)!!」
 次の瞬間、『騎士が出現したのか?』と俺は錯覚した。
 それは、武器だけでなく、胸当て、鎖帷子、鎧、ドラゴンの彫刻が施された兜、聖母マリアの絵姿のある盾などが、まるで誰かが装備しているかのような配置で出現したものだった。
 しかし、それらの多くは重力に引かれて床に落ちる前に消滅し、床の上に残っていたのはカリバーン(鞘付)、名槍ロンゴミアントや短剣カルンウェナン(鞘付)、そしてセクエンス(鞘付)だった。
 どうやら衛宮の奴、セイバー戦闘時の武装一式をまとめて投影したらしい。
 そして、継続して魔力を注がなかったため、防具の類は消滅し武器だけが残ったのだろう。
 武器ではないが鞘が残ったのは、多分剣の付属品扱いで残ったものだと思われる。
 まあ、アーチャーも弓矢を一緒に投影していたみたいだし、同じような理屈なんだろう。
 驚くべきことに、それだけの投影をこなしていながら、衛宮はそれほど苦痛もないらしい。
 俺がやらせておいてなんだが、こいつの投影能力は近いうちにアーチャーに匹敵するところまで行きかねないな。
「こ、これは!!」
 セイバーは驚きと感激を隠すことなく投影武器に近づき、さっそくそれらを振り回し、感触を確かめていた。
 俺の知っている限りでは、ロンゴミアント、カルンウェナン、セクエンスは、エクスカリバーやカリバーンほどの伝説はもっておらず、宝具クラスの概念武装とはいえランクはそれほど高くはないだろう。
 となると、ゲイボルクのクラスBには届かないだろうから、オリジナルでも高くて莫耶・干将に匹敵するクラスCだと思う。
 もっとも、投影すると(相性がいい武器を除くと)1ランク下がるわけだから、これらはランクDとなるわけか。
 ないよりはましだが、ものすごく強力、というわけにはいかないか。
 よ~く見てみたが、やはり今回衛宮が投影したものには、エクスカリバーとアヴァロンはなかった。
 おおかた、エクスカリバーを手に入れる前までの記憶しか見ていないのだろう。
 一瞬で消えてしまった防具のうち、プライウェンだけはアーサー王を守った聖母マリアの絵姿のある盾として、それなりの防御力を発揮してくれそうな気がする。
 しかし、衛宮は防具を永続的に投影することはできないからなぁ……。
 いや、ちょっと試してみるか。
「おい、衛宮。セイバーの防具は一瞬で消滅したように見えたけど、どうなったんだ?」
 考えてみれば、俺は今まで衛宮が防具の投影を試したところを見たこともなかったし、その話をしたこともなかった。
 それなのに、防具を一瞬だけ投影できるなんてピンポイントで説明してしまえば、俺が思いっきり疑われてしまう。
「ああ、お前が言ったとおり俺の属性は『剣』らしくてな、武器ならともかく防具は投影しても一瞬で消えるんだ。
 橙子さんのところでも同じだった」
「そうか、じゃあ、継続して魔力を注ぎ込めば具現化をし続けることはできないか?」
 俺の提案が予想外だったのか、いきなり衛宮は考え込んでしまった。
「……それは、やってみないとわからないな。ちょっと試してみるか。
 トレース(投影)、オン(開始)!」
 衛宮の呪文と共に、衛宮の手にマリアの絵姿を持つ盾が出現した。
「ヒャド!!」
 とりあえず俺が盾に向かって氷の呪文を放つと、それは盾に跳ね返されてしまった。
「おい、いきなり何するんだ!!」
 魔術に驚いたらしく、衛宮は驚きの声をあげ、同時に盾は消滅してしまった。
「気にするな、単にどれくらいの防御力があるのか試していただけだ。
 それより、今の投影は武器の投影と比べてどうだったんだ?」
「そうだな。この投影には武器の数倍以上の魔力が必要だったし、具現化を継続させるためにはずっと魔力を継続して注ぎ込む必要があった。
 おそらくは他の防具も同じだとと思う」
 なるほど。その辺は元々の設定どおりか。
「よし、じゃあその盾を具現化&装備しながら戦えるように訓練しろ。
 結構強力そうだし、守備力アップにちょうどいいだろう?」
「ちょ、ちょっと待て、それはいくらなんでも無茶だろ!?」
 衛宮が泣き言を言ってくるが、俺は綺麗に無視してセイバーの方へ向き直った。
 セイバーは、一通り武器を振り終わり、改めてそれぞれの武器を詳細に鑑定していた。
 どうやら、俺達のやっていたこと、話していたことは全く見聞きしていなかったようだ。
「ご覧の通り、イメージさえあれば武器を投影できる、ってのが衛宮の能力だ。
 そして一度投影した武器は、破損するか、衛宮が消滅させない限り存在しつづけるわけだ」
 それを聞くと、セイバーは衛宮に向き直った。
「シロウ、貴方を侮っていたことを許して欲しい。
 貴方がこれほど優れた魔術師であるとは、全く分かっていませんでした」
「いや、俺も説明を後回しにしていたんだから、知らなくて当然だ。
 というか、投影以外は強化と解析ぐらいしかできないし、それはまだまだ未熟だ。
 セイバーが謝る必要はないさ」
「……わかりました。改めてよろしくお願いします、シロウ。
 貴方のような優れた魔術師を、マスターとして戦うことが出来て、私はとても嬉しい」
 セイバーの率直かつ、まっすぐな言葉に衛宮は顔を赤らめて何も言えなくなってしまった。
 衛宮の奴、照れるあまりセイバーがアーサー王だと知って驚いていたことなど、完全に忘れてしまったようだ。
 あいかわらず、単細胞な奴だ。
 セイバーはそんな衛宮を不思議そうに見つめ、衛宮はますます赤くなってしまっていた。

 俺は、いつまでもそんなシーンを見ている事に耐えられなかったので、口を挟んだ。
「いい雰囲気のところを邪魔してすまないが、ちょっといいか?
 衛宮が投影した武器なんだが、どうやって持ち運ぶ?
 セイバーが元々持っている宝具と同じように、必要に応じて出したり消したりできないだろう?」
「その必要はありません」
 セイバーはそう言うと、手に持っていた投影カリバーンを消滅させ、再び出現させてみせた。
「ご覧の通り、私がかつて使っていた武器であれば自由に出し入れすることが可能なようです。
 生前はこのような能力を持っていませんでしたが、おそらくはサーヴァントとして召喚されたときにこのような能力を身に付けたのでしょう」
 あ~、なるほど。そういえばFateでも、セイバーがアヴァロンをいきなり出現させてたもんな。
 他人のものならともかく、自分の愛用の武器などならそういうこともありえるか。
 一応、さっき投影したゲイボルクもセイバーに使ってもらったが、やはり使いなれたロンゴミアントの方がいいようだ。
 まあ、ゲイボルクの真名解放はセイバーにはできないし、ゲイボルクの呪いも発動できないと思う(できたら怖い)。
 試してもらったが、ゲイボルクを自由に出し入れすることもできなかったし、それなら使い慣れた槍のほうがいいだろう。
 もっとも、ロンゴミアントとカルンウェナンの真名解放の威力を俺は知らないのだが、まあ期待しないほうがいいだろうな。
 ちなみに、ゲイボルクはランサーの武器を投影したものと聞いて、セイバーは驚いていた。
 同じケルト神話に出てくる英雄だし、Fateでも『アイルランドの光の御子』と呼んで驚いていたから当然か。
 あと、ハルペーとナインライブズについては衛宮から、『ライダーとキャスターに送ってもらったイメージから投影した』と説明を受け、二人の真名をすでに聞いていたセイバーはすぐに納得して頷いていた。
 さらに、セイバーは衛宮から、それぞれの宝具について詳細な説明を聞いていた。
 これで、セイバーがランサーと戦うときにゲイボルクの真名解放の攻撃を受ける可能性は大幅に減っただろう。
 いくら『コーンウォールの猪』でも、敵の能力を分かっていて突撃するほど馬鹿じゃあるまい。
 相当失礼なことを考えつつ、俺はセイバーの質問に答えていた。
「それでは、シロウが見たか、シロウにイメージを渡すことが出来れば、あらゆる宝具を投影できるというのですか?」
「いや、それは無理なんだ」
「何故ですか?」
「さっきも衛宮が言っていたが、こいつの属性は『剣』だ。
 武器一般は投影できるみたいだが、防具は継続して魔力を注いでいる間だけしか具現化できないみたいだ」
「そうなんですか?」
 セイバーの残念そうな声に対して、申し訳なさそうに衛宮は答えた。
「ああ、橙子さんが所蔵している年代物の盾とか鎧とか投影してみたけど、すぐに消滅した。
 さっき試したように投影した防具に魔力を継続して注げば、何とか消滅を避けることもできるみたいだけど、魔力の消耗が激しいから効率はかなり悪いぞ」
 逆に言えば、継続的に魔力を注ぎ込めるほど魔力に余裕があればずっと具現化し続ける、ということだ。
 まあ、一度作ればそれで終わりの武器投影と違って、継続的に魔力を注ぎ込む防具投影の負担は、衛宮にとってきつい可能性は高い。
 となると、衛宮のメモリを大量に消費してしまい、衛宮の戦闘力が落ちるかもしれない。
 アーチャーも、対ランサー戦でゲイボルク(突き穿つ死翔の槍)に対抗するためのロー・アイアスの真名発動だけで手一杯で、魔力を注ぎ込むことしかできてなかったからなぁ。
 魔力の問題もあるし、現実的にはあまり使えそうも無いか。
「……では、シロウが見たか、シロウにイメージを渡すことができた武器については投影が可能であると?」
「ああ、そうだ」
「正確に言えば、『衛宮が解析できた武器』という条件が付くけどな。
 もっとも、今のところ解析できなかった宝具はないらしいが」
 Fateにおいて衛宮が解析できなかった乖離剣エアは、古代メソポタミアにおいて天地を切り裂き世界を創造したとされるモノである。
 つまり、武器としても使用できるだけで、本来武器の範疇に入るかすら怪しいし、解析できるほうがおかしいだろう。
 あと、エクスカリバーも今の衛宮が投影できるかどうか不明だ。
 何せ、アレを投影したのはアーチャーの腕を移植した衛宮士郎のみ。
 アーチャーですら、エクスカリバーを投影するために固有結界「無限の剣製」を発動していたしなぁ。
「そうですか。その結果がこれなのですね」
 そう言ってセイバーは、衛宮が投影した武器群、特に鞘とセットで存在するカリバーンを感慨深げに見つめた。
「……それでは、シロウの投影魔術なら、私の鞘も作り出すことは可能なのでしょうか?」
 おっ、とうとうアヴァロンの質問が来たか。
「セイバーの鞘って……、あっ、もしかして、盗まれたエクスカリバーの鞘のことか?」
「その通りです。
 生前、私のミスでエクスカリバーの鞘を盗まれてしまいました。
 今の世にも伝承が伝わっているようですが、あの鞘には強力な治癒能力が備わっています。
 もし、シロウが鞘を作り出すことができれば、間違いなく聖杯戦争を有利に戦うことができるでしょう」
「そうだな、さっき衛宮が投影したカリバーンの鞘はしっかりと存在しているから、可能だとは思うが……、どうだ?」
 セイバーと俺に見つめられ、衛宮は困った顔で答えた。
「作ってやりたいのはやまやまなんだけど、俺はまだエクスカリバーを受け取ったセイバーの姿は見ていないんだ。
 さっきも言ったとおり、見てないものは投影できない」
「となると、セイバーから衛宮へ鞘のイメージを送ればいいんだが……」
「それは無理です。私は魔術師ではありませんので、イメージの伝達などはできません」
 ふむ、やはりセイバーは蘇生魔術と鎧構成だけできるわけで、魔術師ではなかったよな。だが、
「セイバーと衛宮はラインが通じているんだろ?
 それを通じて会話が可能なはずだ。一緒にイメージは送れないのか?
 実際に俺とキャスター、桜とライダーはラインを通じて会話をしているぞ」
「そうだったのか? 知らなかったぞ」
「こらこら、サーヴァントシステムは英霊を呼ぶなんてとんでもない代物だが、基本はマスターと使い魔の関係なんだ。
 マスターと使い魔はラインを通じて会話をするのは基本だろ?
 まあ、イメージの伝達はそれなりの技術がいるとは思うけどな」
「シンジの言うとおりですね。
 ラインを通じて会話をすることは特に問題ないでしょう。
 問題はシロウが投影を行えるだけのイメージを私が送れるか、ですね」
 セイバーの言い方だと、今の時点ではアヴァロンのイメージを送ることはできないみたいだな。
「本当だ。今のセイバーの言葉、ラインを通じても聞こえてきた」
 この世界線では正式な方法でセイバーを召喚したから、セイバーと正常なラインが繋がっているのは当然だ。
「これで、セイバーが霊体になっているときの会話が楽になるぞ。
 小声で話すとか、つながっていない携帯持って誤魔化す必要がなくなる。
 まあ、セイバーとの会話に集中しすぎて実際に声にも出さないようにな。
 それが面倒だったら、携帯に話しかけているふりをすれば大丈夫だぞ」
「わかった、気をつける」
 ほ~、そういう反応をするってことは、まだセイバーから霊体化できないことを聞いてないんだな。
 セイバーの方を見ると、何か言いたそうだったが結局何も言わなかった。
 俺に弱みを見せるのが嫌なのだろうか?
「そういうわけで、ライン経由でイメージを送ってもらうか、衛宮が夢でエクスカリバーの鞘を見ることがあればおそらくは投影できるだろうさ。
 投影できればセイバーがとんでもなくパワーアップするわけだからな。
 まあ、がんばれ」
「ああ、ありがとうな、シンジ」
「安心しろ、この借りはきっちり返してもらう」
「お前らしいな」
 俺の答えに衛宮は苦笑いで答えた。
 そうはいっても、俺は衛宮が夢でエクスカリバーとアヴァロンの夢を見れるかどうかはかなり怪しいと思っている。
 マスターとサーヴァントの波長が合うとお互いの記憶を夢として見てしまうのだが、Fateにおいて衛宮は一度もエクスカリバーとアヴァロンを見ることがなかった。
 見たのはカリバーンを持った姿ばかりだった。
 はてさて、どうなることやら。

「そういえば、お前って投影するときに、投影対象の歴史も読み取れるんだっけ?」
「ああ、そうだ。おかげで剣術を我流でやっていた俺も、結構戦えるようになった」
「そりゃそうだな。カリバーンからアーサー王の剣術を、ゲイボルクからクーフーリンの槍術を学んでいるわけだ。
 それで強くならなきゃ嘘だろうな」
 とはいえ、鎖付き短剣からメデューサのトリッキーな戦闘技術を取り込んでもあまり意味はないだろう。
 衛宮が壁を自由に動けるようになれるなら話は別だが、それはさすがに無理だろうしな。
 いずれは、干将・莫耶からアーチャーの剣術を学ぶことになるのだろう。
「ん、そういえばお前、ナインライブズからヘラクレスの弓術を学んでいるのか?」
「いや、ナインライブズを扱うこつとかは読み込んだけど、やっぱり俺は弓道をやってきたからな。
 そっちの方をメインで使っている」
「ちょっと待ってください。
 シロウは私の戦闘経験を読み込んだとでも?」
「最初はカリバーンを持っているときだけだったけどな。
 今では竹刀を持っているときでも、それなりに再現できているつもりだ」
 セイバーが驚愕しているのに対して、自分がとんでもないことをしているという自覚が全くない衛宮は、拍子抜けするほど簡単に答えた。
「なるほど、先ほどの訓練の際、シロウの剣筋が私に似ていたのはそういう理由だったのですね。
 ……それにしても、シロウはどこまでも規格外の魔術師ですね。
 まさかカリバーンを投影しただけでなく、私の戦闘経験を読み取るとは驚きました。
 しかし読み取っただけで、まだ使いこなすレベルには達していないようですね。
 この後はもっと厳しく指導することにしましょう」
「お、お手柔らかに……」
 セイバーの宣言に、衛宮は引きつった顔で答えるのが精一杯だった。

「これでセイバーに対する衛宮の説明は十分だよな。
 お次はセイバーの方だが、……」
「シンジ、一応停戦しているとはいえ、私があなたに自分の能力について教えるとでも考えているのですか?」
「いや、それは無理だろう。
 まあ、真名がアーサー王で宝具がエクスカリバーだと分かれば十分だしな。
 んで、衛宮。お前、サーヴァントの能力を判別できてるか?」
「能力の判別?! なんのことだ?」
「あ~、え~と、うん、俺から言うのは筋違いだよな。セイバー、説明頼む」
 説明するのが面倒だったので、俺はセイバーに振った。
「貴方の命令を受ける筋合いはありません、と言いたい所ですが……。
 確かに、この件に関しては私が説明するべきなのでしょうね」
 そう言うと、セイバーは真剣な面持ちで衛宮に向き直った。
「シロウ。少し目を閉じて貰えますか?」
「……? 目を閉じるって、何で?」
「貴方にサーヴァントの能力を判別させるためです。
 いいですから、目を閉じて呼吸を整えてください」
 セイバーに強く言われ、衛宮は慌てて目を閉じた。
 そして、セイバーは指を伸ばすと衛宮の額に微かに触れさせた。
「――――セイバー? ちょっと待て、なんか変な事をしてないか、お前?」
「……。マスター、黙って私の指先に意識を集中してください。
 貴方は優れた魔術師ですから、それですぐにこちらの魔力を感じ取れるでしょう」
「――――む」
 何をされているのか分からず動揺していた衛宮も、セイバーのアドバイスに落ち着きを取り戻し、精神集中を始めた。
「セイバー、今の、何だ?」
「何だ、ではありません。
 貴方と私は契約によって繋がっているのですから、私の状態は把握できて当然です」
「――――把握って、今のが?」
「どのような形で把握したのかは知りません。
 サーヴァントの能力を測るのは、あくまでもシロウが見る基準です。
 単純に色で識別するマスターもいれば、獣に喩えて見分けるマスターもいます」
 だな、実際桜は(メディアがイメージに干渉するまでは)虫関係に喩えて見極めていた。
 メデューサは「蜂」、メディアは「蜘蛛」というように。
 さしずめセイバーなら、……小さくても力持ちということで「カブトムシ」かな?
 俺の貧弱な想像力ではそれぐらいしか思いつかん。
「つまり、個人差はあれど本人にとって最も判別しやすい捉え方をする、という事です。
 これはマスターとしての基本ですから、今後は頻繁に確かめてください。
 私と同様、一度見た相手ならばその詳細が理解出来ている筈ですから」
「ああ、ありがとう。
 ――――それにしても、……」
「シロウ、どうかしましたか?」
「ああ、セイバーの能力はすごいな。
 能力は全部ランクAかランクBじゃないか。
 今の俺に分かるのは、他はキャスター、ライダー、ランサーの能力だけだけど、それと比較してもダントツでトップだ」
 衛宮は改めてセイバーの強さを知り、感嘆を隠せないみたいだ。
 感謝しろよ、衛宮。俺が干渉しなければ、そのパラメータはランクBかランクCになっていたんだからな。
「はい、私はセイバーとして呼ばれましたが、こと剣に関して私の右に出る者はいない、と自負しております。
 また、基礎能力でも私を上回る者はそうはいないでしょう」
 セイバーは自信たっぷりに言い切ったが、その自信が過信となり自滅した結果をよく知っている俺にとっては、笑いそうになってしまった。
 もちろん、ここで笑ったりしたらセイバーに半殺しにされかねないので、精神力に限りを尽くしてなんとか笑いを顔に出さなかったが。
「もっとも、それがセイバーの欠点でもある。
 私は魔術師ではありませんから、マスターの剣となって敵を討つ事しかできない」
「権謀術数には向かないって事だな。
 いや、それは欠点じゃないと思うけど。
 セイバーはあんなに強いんだからもうそれだけで十分だろ?」
 衛宮の間抜けな発言に、セイバーは厳しい目つきで衛宮をたしなめた。
「シロウ、戦闘で強いだけではこの戦いは勝てません。
 例えば、敵が自身より白兵戦で優れている場合、貴方ならどうしますか?」
「え? いや、そうだな……正面から戦っても勝てないって判ってるなら、戦わずに何とかするしかな――――」
 そこまで言って、衛宮はやっと納得したようだ。
「そういう事です。
 白兵戦で優れている、と相手に知られた場合、相手はまず白兵戦など仕掛けてこないでしょう。
 ……そういった意味で言うと、能力に劣ったサーヴァントはあらゆる手を尽くしてくる」
 そう言って、セイバーは俺の方をチラッと見ると、衛宮に対し説明を続けた。
「アサシンのサーヴァント能力こそ低いですが、気配を隠すという特殊能力がありますし、キャスターのサーヴァントはこの時代にない魔術に精通している。
 単純な戦力差だけで楽観はできません。
 そのことは、実際にキャスターやライダーと接しているシロウがよく知っているのではないですか?
 加えて、私たちには『宝具』がある。
 どのようなサーヴァントであれ、英霊である以上は必殺の機会を持っているのです。
 まあ、『宝具』については、シロウはすでに理解しているとは思いますが」
「ああ、そうだな。
 宝具の恐ろしい威力については俺もよく知っている。
 カリバーンの真名解放は使い魔を一撃で吹き飛ばしたし、ゲイボルクの真名解放はどれほど攻撃対象が回避行動をとっても、命中するまで追いかけたもんな」
 衛宮が感慨に耽って感想を漏らすと、セイバーの表情が目に見えて変わった。
「シロウ、今何と言いましたか?」
「えっ、だからカリバーンの真名解放は「ちょっと待ってください!!」
 セイバーは、悲鳴に近い声で衛宮の発言を遮った。
「まさか、シロウは、投影した宝具の真名解放が可能なのですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?
 俺が投影した宝具なら、全部真名解放できるぞ。
 さすがに俺以外だと真名解放はできないぞ。
 宝具の本来の持ち主なら真名解放もできるかもしれないけどな」
 このことを全然知らず、予想すらしていなかったセイバーは、愕然として顎が落ちような様子だった。
 しかし、数秒で精神的に立ち直ると、頭を振りつつ呆れたように呟いた。
「……参りましたね。シロウが優れた魔術師であることはわかっていたつもりでしたが、そこまでとは思いませんでした」
 まあ、それが正常な反応だろうな。
 宝具を投影するだけでも十分以上に封印指定クラスなのに、真名解放すらできるなんてもしかすると魔法使いクラスだからなぁ。
 予想外のセイバーの反応に戸惑う衛宮と、呆れるセイバーの二人がお見合い状態になってしまったため、俺は口を挟んだ。
「話を戻すが、セイバーの能力は、ライダー、キャスターよりはるかに勝る。
 もっとも、キャスターには強力な魔術、ライダーには強力な宝具と乗り物という切り札があるし、何より二人は手を組んでいるから、万が一戦うことになっても一方的な戦いにはならないとは思うけど」
 ただしこれは、キャスターの魔術が通用すれば、という前提付きなのが悲しいところではあるが。
「で、お互いの能力の確認も済んだところで聞きたいことがあるんだが……」
「ん、なんだ?」
「聖杯戦争のセオリーは、サーヴァントが前衛、マスターが後衛で戦うってのが基本なんだが……」
「冗談じゃない。俺はセイバーと一緒に戦う」
 できる限り真面目に聞いた質問の答えは即座に来た。
 ふん、さすがに今のこいつは『セイバーは女の子だから戦わせない』なんて言わないようだな。
 まあ、橙子や式、そしてメディア、メデューサといった女でありながらかなりの実力を持つ存在を、嫌と言うほど思い知らされてきたんだから当然といえば当然だな。
 とはいえ、セイバーに戦闘を任せて高みの見物なんてことは絶対にしないようだな。
 それに今の衛宮はアヴァロンが、最大限活性化している状態だ。
 頭か心臓を一撃でつぶされない限り、しぶとく再生するに違いない。
 なにせ、Fateにおいて遠坂が「吸血鬼並みの生命力」とまで言っていたぐらいだからな。
 しかし、そのことを知らないセイバーは当然ながら抗議した。
「シロウ、確かに一緒に戦うとは言いましたし、貴方の投影魔術が極めて優れていることは認めます。
 しかし、多少技量が優れている程度では、サーヴァントが相手では勝ち目はありません」
「そんなことは、セイバーやライダーと戦っているから分かっている。
 でも、俺はセイバー一人に戦わせて、後ろで見ているだけなんてできない」
 衛宮は一歩も引かずにセイバーに相対した。
 しばらく二人で睨み合っていたが、意外なことに先に視線を逸らしたのはセイバーだった。
「出会ってから一日も経っていませんが、シロウの性格では何を言っても無駄なことは理解しました。
 いいでしょう。技量は劣っても、あの投影魔術を駆使すればサーヴァントの攻撃を少しは耐えることも可能でしょう」
「本当か!!」
 セイバーが許可してくれたのに喜んだ衛宮だったが、間髪入れずにセイバーは念を押した。
「ただし! 私と毎日剣術の訓練をするのが条件です。よろしいですか?」
「もちろんだ。よろしく頼む、セイバー」
 お互い納得し説明も終わり、セイバーとの特訓で汗だくになっていた衛宮は風呂へ向かった。
 セイバーはというと、さすがというべきか、ほとんど疲れていないようだ。
 ちょうどいいので、セイバーに離れまで来てもらい、ノートPCを使って写真撮影の契約書を作成することにした。
 俺だけではセイバーが信用してくれないだろうから、桜にも契約書作成の監視役をしてもらうつもりだったが、セイバーは必要ないと言う。
 理由を尋ねた俺に返ってきたのは、強烈な内容だった。
「あなたが契約を破るようなら、その愚かさを自分の体で思い知らせてあげましょう。
 そして、相手でどんなものだろうと、私が契約を破ることなどはありません」
 すがすがしいまでにセイバーはきっぱりと断言してくれた。
 しかし、俺の記憶が確かなら、カリバーンが折れたのは不名誉な真似をしたからじゃなかったか?
 それも何かの契約を破ったからだったような……。
 まっ、いいか。余計なことをいって怒りを買うのも馬鹿だしな。
 それにあのときのセイバーは王様だったが、今のセイバーは衛宮に忠誠を誓う一人の騎士。
 立場も違えば状況も違うか。
 俺は余計なことを考えるのをやめ、セイバーと相談しながら契約書の内容をノートPCに作成していった。

契約書に記載した内容は以下の通り。

--------------------------------

 聖杯戦争に関する情報提供の代価として、セイバーは間桐慎二の写真撮影のモデルを勤める。
 詳細な条件は下記の通り。

1.重要な用件(戦闘含む)がない限り、セイバーは間桐慎二の依頼に応じて、最低一日に一回、一回につき一時間以上の写真撮影のモデルをする。
2.写真撮影の際のポーズ、服装、撮影場所は、特別な問題がない限り、最大限間桐慎二の希望を受け入れる。
3.写真撮影のモデルをしているとき以外も、基本的に間桐慎二に写真を撮られることを許可する。
4.撮影した写真とデータの所有権は、全て間桐慎二が保持し、移譲は認めない。
5.撮影した写真とデータの閲覧権は、セイバー、間桐慎二、間桐桜、キャスター、ライダーが保持し、それ以外の人に見せる場合はセイバーの許可をとるものとする。
6.セイバーが写真撮影のモデルをしていることは話しても良いが、ヌード写真撮影のモデルをしていることは、写真とデータの閲覧権所持者のみ話すものとする。
7.写真撮影のモデルを辞めたい場合は、セイバーが間桐慎二に対して、双方が写真撮影の代価と認めるものを支払うものとする。
8.写真撮影中のセイバーの便宜については、できる限り慎二が協力するものとする。
9.その他の細かい条件は必要に応じて、間桐慎二とセイバーの両者が話し合って決める。

--------------------------------

 契約書を2部用意し、俺とセイバーが所有。
 契約書は俺がパソコンで作った文面を、メディアが紙に魔術で焼き写したものを作成した。
 プリンターがなかったから仕方がないとはいえ、メディアみたいな超一流の魔術師にこんなことを頼むのは、ものすごく罰当たりな気がするが仕方ない。
 契約書に細かく罰則規定を作らなかったのは、セイバーが契約を重視することが分かっていたためだ。
 こういう場合、相手を信頼しているところを見せて精神的に縛った方が色々と便利だ。
 セイバーも「破らない」と宣言したし、余計なことを言い出して不興を買うよりはよっぽどいいだろう。
 なお、ヌード撮影について口外無用としたのは、遠坂が怖いためである。
 色々考えたのだが、いくら正式な契約書があったとしても、遠坂にばれた瞬間に完全論破されて契約破棄に繋がりそうな嫌な予感がするのだ。
 いや、遠坂なら論破する以前に俺を殲滅しかねない。
 用は、気休め程度だが契約書にでも入れておこうと思っただけだ。
 セイバーは契約書の内容をじっくりと読み、今朝俺と話した内容と大差ないことを確認した後、押印した。
 さすがに元王様だけあって、契約締結には慎重なようだ。
 最初はサインを書けば良いかとも思ったが、『アーサー王』と書くわけにはいかないし、『セイバー』はクラス名であって名前ではない。当然ながら、『アルトリア』と書く気もないらしい。
 セイバーと相談した結果、指先をちょっと切って血で指紋を押印することにしたのだ。
 一番これが無難だと思ったわけだ。
 ともかく、これで無事写真撮影に関する契約が締結されたわけだ。
 後は、セイバーが羞恥心に目覚めたときにどういう反応を示すかだなぁ。
 俺自身に被害がなければ楽しみなのだが、絶対にそういうわけにはいかないだろうしな。
 とりあえず、契約も無事に締結できたわけだし、無くしても取られても面倒なので、管理はメディアに頼んでおいた。

 その後、衛宮が風呂から上がってきたので、続いてセイバーが風呂に入った。
 俺は離れに行くと、そこにはメディアがいた。
「前から疑問だったんだけど、なんで弓塚に衛宮の血を飲ませないんだ?
 セイバー召喚の魔法陣作成に使えるぐらいあるなら、ちょっとは残っているんだろ?」
 暇だった俺はちょうどいい機会だったので、疑問に思っていたことをメディアに聞いてみた。
「はい、確かにさつきに飲ませる分は十分に残っています。
 が、何と言っても固有結界持ちの魔術師の血液です。
 万が一のことを考えてさつきには飲ませていません」
「ん? それって、もしかして、衛宮の血を飲むことで弓塚の固有結界が発動するとかいうことか?」
「はい、固有結界が発動するだけなら問題ありませんが、暴走されればかなり面倒な事態になりかねません。
 それゆえに、士郎の血はまだ飲ませていないのです」
 なるほど。枯渇庭園が暴走するようなことがあれば、最悪メディアやメデューサの魔力を全部奪われて消滅しかねない。
 今の弓塚にそこまでできるとは思わないが、まあリスクは減らしといたほうがいいのは確かだ。
「そういや、固有結界はともかく魔術回路は開放するとか言ってたけど、いつやるんだ?」
「ええ、それは夜にでもここで行う予定です。
 ですが、慎二。貴方は見ては駄目ですよ」
「なんでさ?」
 何で俺が見ていてはいけないんだ?
「慎二、貴方も経験したから分かるでしょうが、魔術回路開放には苦痛が伴います。
 無論、私の力の及ぶ限り苦痛を抑えるつもりではありますが、ある程度は苦痛があるでしょう。
 貴方は苦痛に悶えるさつきの姿を見たいのですか?」
 う~ん、色っぽく悶えるところなら、ちょっとは見てみたいとも思わないでもない。
 が、俺は純粋に苦痛を感じるところを見て興奮するようなサドじゃないぞ。
「分かった。じゃあ、そのことはメディアに任せる。
 後で成果を教えてくれ」
「了解しました。
 すでに魔術の基礎知識は教えています。
 もっとも、通常は慎二と同じく、補助具を使ってなんとか魔術を使えるレベルでしょう。
 士郎の投影と同じく、固有結界の影響が強ければ、いきなり強力な魔術が使える可能性もありますが……」
 期待したいところだけど、可能性は低そうだな。
 メディアもそのことは分かっているようで、過度な期待はしていないようだ。
 まあ、弓塚は死徒としての能力があれば十分か。

 桜と弓塚が用意した料理を皆で食べ終えると、俺達は歩いて柳洞寺へ移動した。
 幸いにも今日はタイガーが来なかったから良いが、そろそろタイガーに対する対応を決めとく必要があるだろうな。
 セイバーが拒絶したためメディアの瞬間移動は使えず、全員歩きで移動である。
 というわけで、俺、桜、メディア、メデューサ、弓塚、セイバー、衛宮という大集団で歩いている。
 もちろん、メディアとメデューサは霊体化し、さらにサーヴァントの気配を遮断する結界を二人の周りに張っている。
 セイバーは、自分が霊体化できないことを告白しており、俺達全員の説得もあり弓塚と同じく桜のお古を着ている。
 メディアなどはかわいい服を着せようとしたのだが、セイバーが動きやすい服を希望したため、結果としてFateで着ていた遠坂のお古に近い格好になっている。
 やっぱり、メディアって女の子にかわいい服を着せるのが好きなんだな。
 もしかすると、セイバーにゴスロリとか着せたいのかもしれない。
 確かにドレス姿の囚われのセイバーは美しかったが、ゴスロリ姿は見たいような見たくないような……。
 なお、その姿のセイバーを見て衛宮が照れながらも「似合っている」と言った為、セイバーは少しだが喜んでいるように見え、桜は少々、いやかなり嫉妬していた。
 それに全く気付いていない衛宮の朴念仁ぶりも大したものだとは思うが。

 そんなわけで、魔術師、サーヴァント、吸血鬼という人外御一行様は歩いて移動した。
 幸いなことに、今も偵察活動中であろうランサーには合わなかった。
 遠坂やイリヤは俺達の近くにはいないということはすでに確認済みである。
 まあ、このメンバーならギルガメッシュ以外なら倒せはしなくても、撃退なら可能だとは思うが。

 そういうわけで、特にトラブルもなく偽装された入り口から柳洞寺地下にある大洞窟に入り、俺達は大聖堂の前に到着した。
 相変わらず大聖杯は、というか大聖杯の中にいるアンリマユは、俺でも分かるほど凶悪な意識を放っている。
 衛宮もそれが分かっているらしく緊張した雰囲気だ。
 直感が優れるセイバーなど思いっきり顔をしかめている。
「なるほど、これが大聖杯ですか。
 ……アンリマユかどうかは分かりませんが、確かに激しい呪いの塊があの中にはありますね」
 しばらく黙って観察してセイバーも納得したらしく、そんなことを呟いた。
「これでは、確かに私の願いを叶えることなど不可能ですか……。
 半信半疑でしたが、シンジの言葉に嘘はなかったようですね」
「そうだな。今のところ聖杯が叶える望みはアンリマユが独占している。
 もしセイバーの願いを叶えてくれたとしても、強制的に破壊と殺戮に満ちた結果になるだろうな。
 ……前回の聖杯戦争の結末と同じく」
「それを止めさせるためには、大聖杯を残したままアンリマユを滅ぼすか、大聖杯からアンリマユ追い出すしかない。
 そして私ではその方法は知らない。知っているとすれば……」
 セイバーはそう言ってメディアを見たが、メディアは肩をすくめて答えた。
「私の実力を買ってくれるのは嬉しいけど、私にもアンリマユを排除するのは不可能よ。
 私にできるのは、せいぜいあれを魔力の供給源に利用することぐらいかしら」
 それだけでも大したものだとは思うが、それではメディアの魔術の助けにはなっても、セイバーの願いを叶えることには繋がらないからな。
 もっとも、アンリマユを排除したとしても、正常な聖杯の機能はあらゆることを可能にするぐらいの大量の魔力を提供、あるいは根源への道を開く第三魔法への最初の一歩でしかない。
 まあ、魔法の一つと言われている時間移動の魔法があれば、セイバーの望みを叶えることも何とか可能だろうけどな。
「いいでしょう。今の状態で聖杯を手に入れても何の意味はありません。
 シンジの言うアンリマユだけを滅ぼす手段が事実ならば、まずはこの聖杯戦争を終わらせる必要があります。
 例えシンジの言葉が嘘だとしても、私はシロウの剣となり戦うことを誓った以上、シロウのために戦います。
 シロウが犠牲者を最小限で聖杯戦争を終わらせたいというのならば、それを手伝いましょう。
 そして、我々の味方としてシロウの方針に沿った行動を取る限り、あなた方と共に戦うことも同意しましょう」
 すでに俺の話からある程度の予測はしていたのだろう。セイバーは落ち着いているように聞こえた。
「セイバー、本当か?」
 セイバーの言葉は予想外だったのか、衛宮は驚きの声を上げた。
 いや、俺も驚いたのだが先に衛宮に驚かれたので、逆に落ち着けたのだ。
「はい、セイバーの名に掛けて誓いましょう」
「そうか、ありがとうな、セイバー」
 セイバーの宣言、いや宣誓に対して、衛宮は満面の笑みで答えた。
 その笑顔を見たセイバーも微笑み、桜は嫉妬の炎がぼおぼおと燃え盛らせている。
 このまま放って置くと桜が爆発しかねないと判断し、俺は慌てて外に出ることを提案し、俺達は洞窟の入り口へ戻った。
 帰り道で、このとんでもなく広大な洞窟を見つつ、俺はあることを思いついた。
 それは、『対城宝具の真名発動以外なら、ここで戦闘訓練しても全く問題ない、ということである。
 Fateにおいて、ここが崩れたのは宝石剣連発したせいだからな。
 メディアに地盤強化の魔術でも掛けてもらえば、対軍宝具の真名解放程度ならば全くほとんど影響はなかろう。
 うん、そのうち利用してみることにするか。

 洞窟から出ると、時間も遅くなったこともありそのまま衛宮邸に戻ることにした。
 時間があれば、竹刀を持ったセイバーに葛木と戦ってもらうのも面白いと思ったんだが残念だ。
 魔術具で強化した葛木と竹刀を装備した本気セイバーならいい勝負になると思ったんだけど、まあいずれ機会もあるだろう。
 帰りも特に問題なく、俺達は無事に衛宮邸へ帰宅した。

 衛宮は投影魔術の訓練のため蔵に行き、セイバー、桜、さらにメデューサまでもが見学のため衛宮について行き、メディアは弓塚に対して魔術回路開放の作業を行った。
 残された俺は一人寂しく魔術の訓練をしていると、意外にも短時間でメディアが戻ってきた。
 悲鳴は聞こえなかったので、メディアが苦痛を最小限にして、かつ短時間で魔術回路を開いたのだろう。
 俺や衛宮と比較すると、待遇が月とすっぽんだな。
 弓塚のほうはもう放っておいて大丈夫、というかもう寝ているらしいので、俺とメディアで毎度の状況確認をすることにした。

 まず、現時点の問題は、臓硯が網に掛からないこと。
 ほとんど忘れかかっていたが、臓硯一人ならともかく、真アサシンと一緒というのは放置するわけにはいかない。
 いかないのだが、完全に姿を消されてしまうと、俺達には何もできない。
「いちいち探して退治するのは面倒だから、マキリの蟲、ならびに臓硯が監視網に引っかかったら、自動的に魂エネルギーを全部吸い取るようにできないか?」
「すでにマキリの蟲は、発見次第エネルギーを吸収して消滅させています。
 もっとも、相手もそれを理解しているのか、消滅できた数はそれほどではありませんが」
 やはりと言うべきか、メディアは俺程度が考えることなど、とっくにやっていたらしい。
「臓硯については発見後慎二に報告し対応策を決める予定でしたが、今後は見つけ次第魂エネルギーを吸収しましょう。
 もちろん、吸収開始後にでも報告します。
 しかし、使い魔の蟲程度ならともかく、臓硯の対魔力が強ければ魂エネルギーを吸収するのは難しいことは認識しておいてください」
 ふ~む、いくらメディアでも対魔力を持つ相手からエネルギーを吸収するのは難しいか。
「クソジジイがどっかの秘密基地、おそらくは地下室かなんかに隠れているのは想像がつくが、探し出すことはできないのか?」
「残念ながら無理です。
 現在私が冬木市一帯に展開している監視網は、魔術師にすら感知されない高度な隠蔽技術を使っています。
 それゆえに監視網に使っている魔力の糸の力は弱く、普通の家ならともかく、遠坂邸、そして衛宮邸の微弱な結界ですら突破できません。
 土も透過できませんので、地下の監視も難しいですね」
「何とかならないのか?」
 往生際の悪い俺の質問に対して、メディアから返ってきた答えは情け容赦ないものだった。
「完全密閉した地下室でないかぎり、隙間や空気の取り入れ口から魔力の糸を通して探し出すのも不可能ではありません。
 しかし、それを行うためには多くの時間と手間が必要になるため、聖杯戦争が終わるまでに探し出すのは難しいでしょう。
 もちろん、他のマスターやサーヴァントの監視をやめてもいい、というのなら話は別ですが……」
「とんでもない。わかった。それはやらなくていい」
 う~む、やはり臓硯&真アサシンの居場所は分からないか。
 え~と、現在メディアが居場所を確認できるメンバーとできないメンバーは、と、

常時監視可能なメンバー(ただし、結界外に限る)
 桜&ライダー(ライン経由の監視も可能)
 衛宮&セイバー
 遠坂&アーチャー
 弓塚(ライン経由の監視も可能)
 イリヤ&バーサーカー
 言峰
 バゼット

監視できていないメンバー
 ランサー(ルーン魔術の気配遮断で隠れている)
 ギルガメッシュ(宝具を使って隠れている)
 臓硯&アサシン(臓硯はどこかに隠れており、アサシンは気配遮断のスキルで隠れている)

と言ったところか。
 どうせギルガメッシュは宝具でも使って存在を隠しているとみて間違いない。
 そうでなければ、セイバールートにしろ、遠坂ルートにしろ、監視網を構築していたメディアが存在に気付かないはずはないからな。
 ギルが自分から出てくるのを待つしかなさそうだな。
 どうせ、終盤になればいやでもご登場となるだろう。

 監視網へリンクし、再び遠坂とアーチャーの行動をチェックすると、二人はまだ街を歩いていた。
 そして、ビルの屋上に上がると二人で街を眺めだした。
 残念ながら衛宮はここにいるから、ビルの上の下から衛宮と遠坂が見つめ合うシーンはなしだな。
 実は、今夜ランサーとアーチャーが戦闘になることを少し期待していたのだが、やっぱりだめだったか。
 アーチャーの戦闘シーンを衛宮に見せれば、あいつの宝具(干将・莫耶)を投影できるし、さらに剣術のレベル向上に繋がると思ったんだけどなぁ。
 仕方ない、それは明日以降に期待しよう。

 その後はメディアに魔術具に関する事を話した。
 一つ目は、耐久力に劣るメデューサのためにより強靭でしなやかな戦闘服の作成について、二つ目はメデューサ用に作成したカリバーンⅢの持ち運びについてだ。
 残念ながらさすがのメディアもすぐには解決策が思いつかないらしく、「少し考えてみる」とのことだ。
 カリバーンⅢはメデューサが本来持っていた武器じゃないから、セイバーのカリバーンのように、自由に出し入れできないのは残念だ。
 やはり武器と防具は常に持ち歩き、必要に応じてすぐに出し入れできるのがベストだよなぁ。
 そういう意味で、セイバーの鎧と宝具(投影宝具含む)はベストだと思う。
 (絶対に無理だとは思うが)俺もああいう魔術を身に付けたいなぁ。
 あっ、見かけはちゃちいけど、氷の武器や盾を作るのと同様に、鎧や兜を作れば良いだけか。
 今の俺の魔力じゃ、唯の氷と比較しても大して防御力はアップしてないし、第一俺が冷たいから作る気は全くないけど。

 とりあえず、今日やることも終わったので、俺の趣味の時間突入と言うことになった。
 簡単に言えば、メディアの写真撮影開始である。
 屋内の色々なところで私服姿のメディアを撮影していると、投影の訓練が終わったのか衛宮達が蔵から戻ってきた。
 疲労の限界に達した衛宮はそのまま寝室へ直行、すぐに寝たようだ。
「シンジ、また写真撮影をしているのですか?」
「ああ、そうだ。これは俺の趣味だからな。
 よっぽど忙しくなければ時間のある限りするぞ。
 そうだ、桜やセイバーも一緒に撮るか?」
「いいですよ」
「お断りします」
 セイバーの質問に対し、思いつきで提案したところ、返ってきたのは全く異なる反応だった。
 言うまでもなく、承諾したのは桜で、拒絶したのはセイバーである。
「なんでだ?」
 確かに契約では一日に一回だから、今は断る権利があるのは確かだけど、そこまで拒絶するか?
「桜は信用していますし、桜を裏切る行為をしないであろうライダーはある程度信用しています。
 が、あなた方はまだ完全には信用していない。
 共に戦うことは約束をしましたし、写真撮影のモデルになることも契約しましたが、今の段階で必要以上に馴れ合うつもりはありません」
 つれないお言葉である。
 とはいえ、俺の信用の無さは骨身にしみて認識しているので、全く反論できなかった。
「分かった。じゃあ明日頼むよ」
「それでしたら構いません。
 ですが、シロウを一人にするわけにもいきませんので、写真撮影中はライダーにシロウの護衛を頼みます」
 わざわざメデューサに頼むってことは、本当にメディアのことも信用してないんだなぁ。
「ああ、撮影中の便宜を図るってのも契約にあるしな。
 ライダー、悪いけど頼むよ」
「ライダー、よろしくお願いしますね」
「了解しました、桜、慎二」
 はあ、しかしそうなると、メディア、メデューサ、セイバーのサーヴァント三美人が一緒に写った写真を撮りたかったけど、それができるのは聖杯戦争後ってことになるのか。
 これは何としても聖杯戦争を無事に勝ち残らなくては!
 サーヴァント三美人の(ヌード)写真を撮る前に死んでたまるか!!
 こうして、あまり(というか女性には絶対に)言えない理由により、俺の勝利への意欲は一気に高まった。
 まあ、俺らしいといえば俺らしいかな?

 セイバーが護衛のため衛宮の寝室前に移動した後、俺は桜、メディア、メデューサの写真を短時間撮ると、さっさと寝ることにした。
 さすがに、明日から聖杯戦争が実質的に開始する、という状況で夜更かしして写真を撮るような気にはならなかった。
 早く寝たため、ヌード写真までは撮れなかったのが残念だったことは否定するつもりはないが……。

 言うまでもないが、当然ながら今日もまた魔力補給と言う名の例の行為をメディアと行った。
 最近忙しかったから、メディアとするのも久しぶり(といっても4日ぶり)である。
 最近鍛えた肉体による体力の限界に挑戦すると、後は夢も見ない深い眠りに突入した。

 さあて、明日はどんなことになるやら、ものすごく楽しみだ。


 1月23日(水) 終


設定
・投影ロンゴミニアド ランクD 種別:対人宝具  レンジ:2~3 最大捕捉:1人
 生前セイバーが使っていた名槍。長くて幅の広い槍。『ロン』とも呼ばれる
 ロンゴミニアドとは『打ち手の槍』の意味を持つ。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。

・投影カルンウェナン ランクD 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 生前セイバーが使っていた短剣。投擲に使用可能。
 カルンウェナンとは『小さな白い柄手』の意味を持つ。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。

・投影セクエンス ランクD 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 生前セイバーが使っていた剣の一振り。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。

・投影プライウェン ランクC 種別:防御宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 生前セイバーが使っていた盾
 聖母マリアの姿を描いた盾プライウェン(もともとは船の名でプリドウェン)
 ウェ-ルズの伝承によると、魔法の船としても使用可能。
 具現化し続けるためには、武器を投影する数倍の魔力を継続して注ぎ込む必要がある。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。
後書き
 セイバーの武装が一気にパワーアップ、という話でした。
 オリジナルの名槍ロンゴミニアドと短剣カルンウェナン、セクエンスがランクC、盾プライウェンがランクBとし、投影したからそれぞれ1ランクダウンとしましたが、どうですかね。
 アーサー王が使っていた武器と防具だから、それくらいの神秘を持っているとは思うんですが……。
 というわけで、セイバーによる衛宮の戦闘訓練、セイバーに対する衛宮の投影魔術の説明、そして衛宮とセイバーの大聖杯の見学でした。
 記憶があやふやだったため、セイバールートをやり直していたら遅くなってしまいました。
 さて次は凛ルートもやらないと。
 桜ルートはどうしようかなぁ……。



[787] Fate/into game 1月24日(木) 聖杯戦争2日目 その1
Name: 遼月
Date: 2006/03/07 01:04
Fate/into game


1月24日(木) 聖杯戦争2日目 その1


 目を覚ますと、腕の中には安らかに眠っているメディア。
 起こさないように静かに布団から抜け出すと、廊下でメデューサに遭遇した。
「おはようございます、シンジ」
「ああ、おはよう、ライダー」
 笑顔で朝の挨拶をした瞬間、いきなり近くの空き部屋へ俺は引きずり込まれた。
「シンジ、最近ご無沙汰でした。
 そういうわけで、いきなりですいませんが、いただきます」
 何だ何だ何だ~! っと考えているといきなり首をカプッと噛まれた。
 あ~そういえば、確かにメデューサの吸血行為はご無沙汰だったなぁ。
 そんなことを考えつつ、血を吸われるというか、首筋を舐められるくすぐったさに耐えつつ、メデューサのサラッとした髪を心ゆくまで撫で続けた。
 しばらく、血を舐めて満足したらしく、メデューサはまともな男なら一撃で撃墜されそうな笑みを見せてお礼を言ってきた。
「ありがとうございます、慎二。
 あなたの血はあいかわらずおいしいです。
 ……私の顔をじっと見つめていますが、何か付いていますか?」
「い、いや、何でもない。気にしないでくれ。
 うん、メデューサにとってもおいしいなら何よりだ」
「そうですか、それならいいのですが……」
 メデューサは首を傾げながらも、それ以上は突っ込んでこなかった。
 う~む、メデューサと会ってからもう3週間経つのだから、少しは慣れてもいいとは思うのだが、ああいう笑顔を見せられると動揺してしまうなぁ。

 例によって、朝食を食べにタイガーが襲来してきたが、朝食をとる前に速攻で『聖杯戦争の間は衛宮邸に近づかない』とする暗示を、メディアに掛けてもらった。
 これで、聖杯戦争中に衛宮邸に来ることはなかろう。
 さらば、タイガー。君の出番は当分これで終わりだ。
 出番があったら、タイガーが事件に巻き込まれることを意味するから、聖杯戦争終了後にまともな出番があることを祈っていてくれ。
 俺がそんなことを考えていたと知る由もなく、朝食を食べ終わったタイガーは勢いよく出勤していった。

 その後、桜と衛宮が作った朝食を食べ終えると、全員で登校した。
 もちろん、遠坂と登校時に遭遇しないことを確認してである。
 といっても、霊体化したメディアとメデューサを除いても、俺、桜、セイバー、弓塚、衛宮と大所帯である。
 これは、俺達の説得の結果だ。
 衛宮の奴は、当然と言うべきか、霊体化できないセイバーを自宅に置いて行くことを主張した。
 が、衛宮のうかつさというか、無謀さは俺とメディアが良く理解しているし、桜は衛宮のことを心配し、セイバーは当然衛宮の側にいることを主張した。
 お互いの主張をぶつけ合った結果、セイバーも一緒に学園へ登校し、授業中はメデューサや弓塚と一緒に弓道場の裏の林で待機することになった。
 あそこなら、メディアの高度な隠蔽が施された結界があるので、セイバーの気配を十分に隠せる。
 そういうわけで、セイバーも登校に同行することになった。
 もちろん、俺が主張した『衛宮の暴走を止めるためと、魔術師としての基本が分かっていない衛宮のサポート』というのは建前で、本音はアヴァロン活性化によって衛宮が死亡する確率を低下させるためである。
 セイバーが近くにいなければ、吸血鬼以上とまで言われた再生能力は発現しないようだし、あいつが死んでしまうと桜が悲しんでしまうからな。
 それ以上にセイバーに消滅されるのが嫌なのは、俺とメディアだけの秘密である。

 しかし、弓塚は桜の予備の制服を着ているからいいが、セイバーは完全な(桜の昔の)私服姿である。
 やっぱり、ちらほらいる生徒から注目を集めている。
 まあ、いまさらこいつらを隠すつもりはないからいいんだけどな。
 下手に隠蔽の魔術をメディアが掛けると、後で遠坂を誤魔化すのが面倒になるのは間違いないしな。

 通学途中で毎度の橙子への報告書をポストに放り込み、遠坂に出くわすこともなく無事に俺達は学園に辿り着いた。
 例によって、弓道場の裏の林にメデューサと弓塚が待機するのだが、今日はそこにセイバーが加わっている。
 セイバーも加わって弓塚の戦闘訓練をしてくれる、とのことだ。
 俺と桜は弓道部の朝練に参加していたが、監視網で遠坂がもうすぐ学園に到着する距離に来た時点で、俺は弓道場から出て遠坂を待ち構えた。
 一応、俺の後ろには(結界でサーヴァントの気配を遮断した)メディアが待機している。

「おはよう、遠坂。ちょっといいか?」
 校門に入ったところで立ち止まって独り言を言っている(ように見える)遠坂を発見したので、歩き出したのを見計らって俺は話しかけた。
「おはようございます、間桐君。
 私に何か御用ですか?」
 おおう。何故か寒気を感じる優等生のお嬢様モードだ。
「そのとおりだ。間桐家当主として冬木のセカンドオーナーに依頼したいことがある。
 俺と桜の命に代えて、お前に危害を加えるようなことをするつもりは絶対にしない。
 放課後に弓道場裏の雑木林で依頼内容を話したいが、都合はいいか?」
 俺は遠坂に近づくと、逃げる隙を与えずにそう囁いた。
 遠坂は一瞬ぎょっとした後、すぐに精神的に立て直すと、魔術師らしいクールで知的な口調で答えてきた。
「分かったわ。放課後に弓道場裏、ね。
 調べ物があるから時間は遅くなるけど、それでいいかしら?」
「ああ、別に構わない。時間を潰して待っているから、いつでもいい。
 まあ、それほど遅くないほうが助かるけどな」
「それならいいわ。
 それから言うまでも無いけど、変なことをしようとしたら……」
 意味ありげに言葉を切った遠坂はまさに『あかいあくま』だった。
 俺は慌てて頷いて答えた。
「分かっている。遠坂におかしなことをしようとは毛頭考えていない。
 桜に確認したっていいぞ」
「分かりました。それではまた後で」
 最後は、再びお嬢様モードに戻って回答すると、遠坂は校舎へ向かった。
 おそらくは、アーチャーが霊体化して遠坂の後ろを着いて来ているはずなのだが、当然というべきか、俺の能力では何も感知することはできなかった。

 放課後、遠坂とどういう風に話し合うか、そればかり考えていたため、俺は全く授業の内容が頭に入らなかった。
 とりあえず、アーチャーだと弓塚が吸血鬼だと気づき次第、問答無用で殲滅しかねないため、最初は同席させないほうがいいだろう。
 となると、遠坂とアーチャーと会うのは、俺、桜、(気配を隠した)メディア、衛宮、そしてセイバーがいいだろう。
 後は、セイバーを見た瞬間、遠坂が宣戦布告して攻撃してこないことを祈ろう。
 最悪の事態では総力戦となるが、桜を遠坂と戦う羽目にはさせたくないものだ。

 そんなことを考えていると、何時の間には授業は終わっており、俺と桜、メディア、メデューサ、セイバー、弓塚は林で待機、衛宮は遠坂が来たら携帯で教えてくれとか言って、生徒会の手伝いへ行った。
 それぞれ雑談して時間を潰している中、俺は遠坂の行動を監視していた。
 どうやら校舎内にある結界の基点を探しているようだ。
 一階から順に探しており、この調子だと最後は屋上を調べることになるだろうな。
 そんなことを考えつつ、遠坂が独り言を言っているように見えるのを監視していると、ついに二人は屋上に辿り着いた。
 そして、メディアの結界の基点に辿り着き、魔術刻印に魔力を流して結界を消そうとした瞬間、アイツが登場した。
「なんだよ。消しちまうのか、もったいねえ」
 唐突に。
 結界消去を阻むように、第三者の声が響き渡った。
「――――!」
 遠坂は即座に立ち上がり、振り返った。
 給水塔の上。
 十メートルの距離を隔てた上空で、ランサーが遠坂を見下ろしていた。
 ランサーは、相変わらず変わらない涼やかな視線で見つめていた。
「――――これ、貴方の仕業?」
「いいや。小細工を弄するのは魔術師の役割だ。
 オレ達はただ命じられたまま戦うのみ。だろう、そこの兄さんよ」
「――――!」
 ランサーの言葉に、遠坂は驚きを隠せていない。
「やっぱり、サーヴァント……!」
「そうとも。で、それが分かるお嬢ちゃんは、オレの敵ってコトでいいのかな?」
「――――」
 それを聞いても遠坂は動けない。いや、動かない。
 遠坂は魔術師として冷静に状況を判断しているのだ。
「……ほう。大したもんだ、何も分からなねえようで要点を押さえてやがる。 あ~あ、失敗したなこりゃあ。
 面白がって声をかけるんじゃなかったぜ」
 そう言って、ランサーは腕を上げた。
 その瞬間、何も持っていなかったランサーの腕には、紅い、二メートルもの凶器があった。
「は、っ――――――――!」
 次の瞬間、遠坂は真横へ跳んだ。
 それにより、遠坂はぎりぎりでランサーの斬り払いを避けた。
「は、いい脚しているなお嬢ちゃん……!」
 しかし、ランサーはさらに迫ってくる。
 屋上で逃げられないことを一瞬で判断し、遠坂は魔術刻印を使用して一小節で魔術を組み上げて一気に跳び上がった。
 その判断力と動作の素早さはさすがだ。
 今の俺には絶対に真似できないレベルだ。
「凛……!」
「分かってる。任せて……!」
 遠坂はそのままフェンスを飛び越え、屋上から落下した。
「アーチャー、着地任せた……!」」
 さらに呪文を唱え、着地の衝撃をアーチャーに殺されて、地面に足がついたと同時に走り出す。
「はっ、は――――!」
 遠坂は屋上から校庭まで、7秒かからず走り抜けた。
 距離にして百メートル以上、まじで遠坂の残像しか見えないかと思った。
 だが、そんなものは、
「いや、本気でいい脚だ。ここで仕留めるのは、いささか勿体なさすぎるか」
 サーヴァント相手には、何の意味もなかった。

「アーチャー――――!」
 遠坂が後ろに引くのと同時に、アーチャーが遠坂の前に実体化した。
 アーチャーの手には、微かな月光を反射させる一振りの短剣があった。
 おお、こいつが英霊エミヤ、そして手に持つのは干将か!!
「――――へえ」
 ランサーは、口元を不気味に歪めて答えた。
「……いいねぇ、そうこなくっちゃ。話が早いヤツは嫌いじゃあない」
「ランサーの、サーヴァント――――」
 遠坂の呟きにランサーが答える。
「如何にも。そう言うアンタのサーヴァントはセイバー……って感じじゃねえな。
 何者だ、テメエ」
 その瞬間、殺気の固まりとなったランサーに対して、アーチャーはあくまでも無言だった。
「……ふん。真っ当な一騎打ちをするタイプじゃねえな、テメエは。
 って事はアーチャーか」
 ランサーの質問にも、アーチャーは反応を示さない。
「……いいぜ、好みじゃねえが出会ったからにはやるだけだ。
 そら、得物を出せよアーチャー
 これでも礼はわきまえているからな、それぐらいは待ってやる」
「――――――――」
 それでもアーチャーは答えなかった。
 遠坂が感じたのと同様、傍から見ているだけの俺にも、『倒すべき敵に語るべきことなどない』という雰囲気が確かに感じ取れた。
「アーチャー」
 遠坂は近寄らずに、アーチャーの背中に語りかけた。
「手助けはしないわ。貴方の力、ここで見せて」
「――――ク」
 遠坂の全面的な信頼の言葉に、アーチャーは口元をつり上げて疾走した。

 短剣を片手に、ランサーに向かってアーチャーが走る。
「――――バカが!」
 それをランサーは高速の槍の一撃で迎いうち、アーチャーはぎりぎりで短剣を使って受け流す。
 そしてそのままランサーは、アーチャーの接近を許させなかった。
 ランサーは自ら距離を詰めつつ、アーチャーに前進さえ許さない。
「たわけ、弓兵風情が接近戦を挑んだな――――!」
 ランサーは一撃ごとに間合いを詰めていく。
「――――うそ」
 ランサーの定石外しの戦いに遠坂は驚きの声を漏らす。
「ふ――――!」
 しかし、アーチャーも一歩も引かず、ランサーに対抗する。
「――――」
「ぬっ―――――!?」
 しかし、ランサーはその槍捌きのスピードを上げ、アーチャーはそれに対応できない。
「ぐ、っ――――!」
 アーチャーは後退しつつ、かろうじて防ぐがランサーはその間合いを詰めてさらなる攻撃を加える。
 その光景を遠坂は見とれていた。
 それを責めるつもりは毛頭ない。なぜなら、俺もまた二人の戦いに見とれていたのだ。
 今まで何度かサーヴァントの戦いは見てきたが、ここまで高度な技量の応酬は初めて見る。
 そしてそれは、俺の想像以上の光景だった。
 一際高い剣戟が響く。
 ランサーのなぎ払いを受けたアーチャーは、勢いを殺しきれず短剣を手放す。
「――――間抜け」
 ランサーは罵倒すると、閃光のごとき一撃を放つ。
 だが、視る事さえできない閃光の一撃を、アーチャーの短剣二本が弾き返す。
「チィ、二刀使いか……!」
 アーチャーは本気を出し、干将・莫耶を握っていた。
「ハ、弓兵風情が剣士の真似事とはな――――!」
 ランサーはさらに槍の速度を上げて、アーチャーを攻撃する。
 しかし、その攻撃全てを烈火の気勢でアーチャーは弾く。
 それが延々と繰り返され、そしてアーチャーは武器を失うたびに投影を行い再び短剣で攻撃をしかける。
 ついに、耐え切れなくなったのかランサーは大きく間合いを離す。
「……二十七。それだけ弾き飛ばしてもまだ有るとはな」
 苛立ちと困惑からそう呟くランサー。
「どうしたランサー、様子見とは君らしくないな。先ほどの勢いは何処にいった」
「……チィ、狸が。減らず口を叩きやがるか」
 アーチャーの皮肉に対し、ランサーは苛立ちを抑えきれないようだ。
「……いいぜ、訊いてやるよ。テメエ、何処の英雄だ。
 二刀使いの弓兵なんぞ聞いた事がない」
「そういう君は分かりやすいな。
 槍兵には最速の英霊が選ばれると言うが、君はその中でも選りすぐりだ。
 これほどの槍手は世界に三人といまい。
 加えて、獣の如き敏捷さと言えば恐らく一人」
「――――ほう。よく言ったアーチャー」
 途端、ものすごい殺気がランサーより放たれた。
 そして、ランサーは一分の侮りもない構えを見せた。
 槍の穂先は地上を穿つかのように下がっているが、ランサーの双眸はアーチャーを貫いている。
「――――ならば食らうか、我が必殺の一撃を」
「止めをしない。いずれ超えねばならぬ敵だ」
 ランサーの体が沈むと、辺り一体の空気が凍った。
「――――まずい」
 遠坂が呟きをもらす。
 確かにここでアーチャーが殺されるのはまずい。
 我に返って、慌てて自分の周りを確認すると、すでにセイバーを含めた全員が息を、そして気配を殺しつつ校庭の戦いを見ている。
 いや、メディアは俺と同じく監視網で状況を把握しつつも、必要に応じて飛び出せる状態のようだ。
 とりあえず、誰も二人の決闘を邪魔するつもりはなさそうだ。
 ここは、メディアに影でも飛ばしてもらい、メディアとメデューサでランサーを倒してもらうか?
「――――、あ」
 遠坂は一歩も動くことができない。しかし、
「――――――――誰だ…………!!!!」
「……え?」
 ランサーは校舎に向けて走っていった。
 Fateなら衛宮がランサーに殺されるシーンにつながっていたが、……ってまさか!!
 そのまさかだった。監視網で確認すると校舎へ逃げたのは衛宮だった。
 くそっ、あまりにもタイミングが悪すぎる。
 ちょうど今、用事が終わったのか?
「キャスターは衛宮の保護を、ライダーは迂回して挟み撃ちを、っておい、セイバー!!」
 俺が止めるより早く、マスターである衛宮の危機を悟ったセイバーは校舎に向かって突撃した。
 続いて、メディアは瞬間移動で、メデューサは霊体化して(おそらくはアーチャーを大きく迂回して)衛宮の援護へ向かった。
 セイバーは走りながら鎧を着込んで突撃したが、当然それには遠坂も気づいていた。
「セイバー!? アーチャー、セイバーを撃退しな……」
 そこまで言った時点で、アーチャーはセイバーに一撃で切り伏せられた。
 どうやら、アーチャーは抵抗する間もなく、セイバーにやられた。
 いや、Fateと同じく、セイバーを見て一瞬動きを止めてしまったのだろうか?
「――――アーチャー、消えて……!」
 令呪を使ってアーチャーを霊体に戻した遠坂だが、セイバーは遠坂には目もくれずそのまま校舎へ突進した。
 一瞬、あっけにとられた遠坂も、くそ度胸ぶりを発揮してセイバーの後を追った。
 続いて、桜、弓塚も校舎へ向かい、俺も慌てて後を追った。
 走りながら中の様子を見ると、意外なことに(と言っては可哀想だが)衛宮はまだ生きていた。
 傷だらけになりながらもカリバーンを必死で振るって防戦したらしく、何とか致命傷は避けているようだ。
 そして、致命傷でなければセイバーが側にいる今、活性化アヴァロンによって、自動的にそしてあっという間に傷は治っていく。
 とはいえ、いつ致命傷を喰らってもおかしくはなかったが、メディア(の影)が現れたため、警戒してランサーは攻撃を止めたようだ。
「そこをどけ、ランサー!!」
 そこへ、ものすごい勢いでインビジブル・エアを構えたセイバーが駆けつけた。
「ちっ、二対一じゃ分が悪いか。勝負は次の機会に預けておくぜ、セイバー!!」
 ランサーは瞬時に不利だと判断し、次の瞬間には窓を破って脱出した。
 ランサーが去った瞬間、メディアの影も消滅し、セイバーは慌てて衛宮の状態を確認した。
「シロウ! 大丈夫ですか?」
「ああ、なんとか……」
 アヴァロンによってすでにかなりの傷は塞がっており、セイバーが接近することで回復速度はさらに向上し、血だらけだが傷一つない状態に回復した。
 そこへ遠坂が到着し、続いて桜、弓塚、俺が辿り着いた。
「……で? 衛宮君。怪我しているところ悪いけど、これはどういうことか教えてくれないかしら?
 というか、間桐君。もしかして、あなたが私に用があるって言ったのはこのことかしら?」
 ああ、予定が完全に狂ってしまった。
 ここまで俺が聖杯戦争をぐちゃぐちゃにしたのに、何でこういうところはFateと同じなんだ。
 誰だ、「日頃の行いが悪いからだ」、「自業自得」とか言ったのは!!
 何を言うか悩んでいると、『あかいあくま』モード全開の遠坂が再び問いただしてきた。
「間・桐・君? いい加減、答えてもらいたんだけど?」
「ああ、俺達はただの仲介役だ。
 お前に聞きたいことがあるのは、こっちだ。
 ……それじゃあ、紹介しよう。
 魔術師、じゃなかった魔術使いの衛宮士郎だ」
 これを聞いた瞬間、遠坂は一瞬で爆発してしまった。
「何ですって!! 衛宮君が魔術師だっていうの?」
 俺はこれを聞いてにやりとした。
 もしかして、俺か桜がセイバーのマスターだと思っていたのか?
「おや、遠坂は衛宮のことを知っていたのか?
 もしかして、お前の片想いの相手?」
「なっ、そっ、そんなことあるわけないでしょ。
 桜が通っていたから知ってただけよ。
 それよりこれはどういうこと!!」
 そんなに顔を赤くして叫んでも逆効果だと思うが……。
 まあいい、これ以上からかうと、俺の命が危なそうだ。
「だから、衛宮家はセカンドオーナーである遠坂家に黙って冬木に住んでいた魔術使いの家系で、その現当主は衛宮士郎。
 そして、その衛宮がお前に聞きたいことがあるそうだ」
「ふん、私に黙ってここに住んでいたっていうのに、私が質問に答えるとでも思っているの?」
「この件に関してはな。
 ほら、衛宮。後はお前が話せ。
 俺の役目は果たしたからな」
「ああ、ありがとう、慎二」
 そう言うと衛宮は遠坂の方へ向き直った。
 自分の知っている優等生の遠坂と、本性が180度違ったことにショックを受けていたようだが、なんとか見かけだけでも落ち着いたようだ。
「初めまして、はおかしいかな。
 そういうわけで、俺は魔術使いの衛宮士郎だ。
 聖杯戦争について、遠坂に聞きたいことがあるんだけど、教えてくれないか?
 慎二に聞いたら、遠坂の方が聖杯戦争の事情に詳しいって聞いたんだけど?」
 『聖杯戦争』という言葉に反応し、再び遠坂の表情は一変した。
 これは、おそらくは魔術師モードの顔だな。
「一体どういうことか説明してもらえるかしら、衛宮君」
 怖い、遠坂の口調は静かで、そして丁寧で微笑んでさえいるのだが、感じるのは恐ろしいまでの恐怖だ。
 なんで女ってのはこういう器用な真似ができるんだ。
 しかし、鈍感な衛宮はその怖さを感じてないようで、いともあっさりと爆弾発言をした。
「ああ、俺もサーヴァントを召喚して、聖杯戦争に参加することになったんだが、まだよく分からないことがあるんだ。
 だから、遠坂に教えてもらおうと「ちょっと待って!」
 遠坂はいきなり衛宮の言葉を遮ると、ぶつぶつ呟きだした。
 何か嫌な予感がしてきた。
「ちょっと確認していいかしら、衛宮君?」
「ああいいぞ。なんだ、遠坂?」
 遠坂の言葉に対して衛宮は即答した。
 が、横にいた俺は鳥肌がぶつぶつと出てきて、寒気が襲ってきた。
 やばい、間違いなく本気の「あかいあくま」モードに入ったぞ。
 俺は桜の手をひっぱり、少しずつ衛宮から離れた。
「色々聞きたいことはあるんだけど……。
 そうね。まず一番に聞きたいのは、間桐君に私のことは何て聞いているのか、ってことなんだけど?」
「ああ、それか?
 遠坂家は聖杯戦争御三家の一つで、毎回聖杯戦争に参戦している。
 だから、遠坂もサーヴァントを呼び出した可能性は高いって聞いてるぞ。
 それで、聖杯戦争について聞こうと思ったんだけど?」
 それを聞いて耐え切れなくなったのか、遠坂はついに爆発した。
「あんたは、私がサーヴァントを呼び出していることを知っていて、聖杯戦争に聞こうっていうの!
 舐めんじゃないわよ!!」
 遠坂の叫びと共に、容赦なくガンドを連射したが、その全てを素早く衛宮の前に移動したセイバーが全て無効化した。
「アーチャーのマスター、これ以上マスターを攻撃するというのなら、私は貴女を攻撃する。
 先程シロウが言ったように、私達は今は戦うつもりはない。
 できれば、大人しくして欲しい」
 遠坂は予想外の事態に動揺していたのか、それともセイバーに見とれていたのかはしらないが、すぐに正気に戻った。
 さすがに一流の魔術師だけのことはあるな。
 すぐに状況を把握すると開き直ってセイバーに言った。
「良いわ。話を聞こうじゃないの、一体どういうつもりかさっさと言いなさい!
 ……もう、アーチャーもここにいないだから、どうせ私は抵抗できないわよ!!」
 あっ、遠坂が逆切れしてる。まあ無理もないか。
 頼りにしていた、仮にもランサーと互角に戦っていたアーチャーが、セイバーに瞬殺されたんだからな。
 ショックを受けるのは当然だろう。
 一方衛宮は、再び本性をあらわにした遠坂にショックを受けつつ、何とか話し始めた。
「あ~、まずは彼女が俺のサーヴァントのセイバーだ。
 で、セイバーを呼び出したし、聖杯戦争の事情については大まかなことは慎二に聞いたんだが、監督役の人が誰だか知らないらしい。
 それを遠坂に聞きたいと思ったんだ」
 遠坂は衛宮の答えを聞いて、今度は俺達に矛先を向けてきた。
「間桐君、一体どういうつもりかしら?」
「どういうつもりって言われても、この件に関して俺は単なる仲介役だ。
 俺は聖杯に興味もない、サーヴァントを呼び出すこともできないし、試してもいない。
 だけど、衛宮に聖杯戦争の詳しい情報を教えてやろうと思って、冬木のセカンドオーナーである遠坂のことを紹介しただけだ」
 うん、嘘は言ってないぞ。
 今の聖杯に興味ないのは事実だし、俺はサーヴァントを呼び出す魔力もなければ、呼び出してもいない。
 はぐれサーヴァントのキャスターと契約しただけなしな。
 それに、言峰も監督役じゃなくてマスターだからな。
 シエルもとりあえず暫定の監視役であって、言峰の代わりに誰が正式な監督役になるか知らないのは事実だし、うん全く嘘は言ってないぞ。
「何でよ。マキリも衰退したとはいえ聖杯戦争の御三家の一つ。
 それくらい知らないはずはないでしょ」
「ああ、クソジジイなら知っていると思う。
 だけど、俺も桜もクソジジイとは決別しているし、何より魔術や聖杯戦争についてまともに教えてもらったことはない」
 桜にも確認したが、やはり聖杯戦争の概要しか教わっていなかったらしい。
 メディアにも確認したが、オリジナル慎二の記憶の中でも教わってもいないし、知らなかったとのことだ。
「ふ~ん、で、私に聞きに来たってわけね」
「そうだ。アインツベルンに知り合いはいないし、消去法で遠坂しかいなかった」
 それを聞くと遠坂は忌々しげに言い放った。
「いいわよ、それぐらい教えてあげるわよ。
 というか、アーチャーがいない今、選択の余地なんてないじゃない!」
 ……自棄になってるな、あれは。
 どうしたもんかと困っていると、桜がとりなしてくれた。
「ありがとうございます、姉さん。
 すいませんが、お願いしますね」
「桜に感謝されることじゃないわよ。私は聖杯戦争に参加したけど、アーチャーを倒された。
 ここで殺されても文句無いのに、殺されずに監督役を教えろっていう依頼を受けた。
 だから、私は借りを返すために依頼を受ける。
 それだけのことよ」
 桜に答えることで、精神的に立て直したのか遠坂は魔術師モードに戻ると、衛宮に質問した。
「それで、衛宮君。あなたはどこまで聖杯戦争について知っているのかしら?」
「え~と、期間は約二週間、7人のマスターと7人のサーヴァントが争い、最後の一組になるまで戦うこと。
 最後に残った一組は、何でも願いを叶えることができるという聖杯を手に入れることができること。
 サーヴァントは、過去の英霊を呼び出して使役すること。
 サーヴァントに対して、令呪で3回まで命令権を持つこと。
 今回の聖杯戦争が5回目で、前回は10年前にあったこと。
 ぐらいか?」
 ふう、何度も念を押しといたおかげで、聖杯戦争の表の事情しか衛宮は話さなかった。
 よかったよかった。
「その通りよ。確かにそれぐらい分かっていれば十分かもしれないけど、いざという時に監督役を知らないというのは面倒ね。
 良いわ、これから監督役に会わせてあげる。それでいいかしら?」
「ありがとう、遠坂」
「感謝します、メイガス」
 衛宮、そしてセイバーにもお礼を言われると、遠坂は照れたように答えた。
「いいわよ、それくらい。
 っと、衛宮君の傷は大丈夫なの?」
「ああ、魔術具で治したからもう大丈夫だ」
「そう、便利でいいわね、それ。
 ならいいわ、かばんを取ってくるから待ってなさい」
 そう言って、遠坂は去っていった。
「ああ、弓道場の裏で待ってるぞ」
 俺はそう言うと、皆で弓道場の裏へ戻った。
 う~む、時間と場所こそ違うが、この展開はセイバールートの流れだな。
 となると、いずれは廃墟で衛宮とセイバーと遠坂の3Pか?
 そんなうらやましいことは許せん、と言いたいがそうなるかどうかは不明だ。
 まあ、臨機応変に対応していこう。
 最悪でも3Pを録画して、色々と(主に俺の観賞用に)使わせてもらうとしよう。
 脅迫に使えば俺が即座に完膚なきまでに殲滅されるのは火を見るより明らかだし、そんな恐ろしい真似をする気は欠片もない。

 あっ、ランサーを追いかけたメディアとメデューサのことを忘れてた。
『お~い、こっちは何とか遠坂が承諾してくれけど、そっちはどうなった?』
『あっ、報告が遅れてすいません、慎二。
 ご安心ください。メデューサの石化の魔眼で動きを止めた後、私のルール・ブレイカーで私の支配下に置くことに成功しました。
 もちろん令呪を一つ使用し、『主変えに同意しろ』と命令したので、今は大人しく私に従っています。
 最初は嫌がっていましたが、こちらの関係者には本気の模擬戦闘を、敵対者には自由に戦っていい、と言ったら大人しく従ってくれました』
『おいおい、まじか? いや、それはめでたいんだけど。
 それより、メディアもメデューサも怪我してないか?』
『大丈夫です、シンジ。
 ランサーが校舎から出た時点で魔眼を発動し、その後私の魔術で捕獲しましたので、傷一つ負うことなく無力化できました』
『ちょっと待て、石化の魔眼だけじゃ捕獲できなかったのか?』
『ええ、恐らくはルーンの守りでしょうが、能力を1ランクダウンすることはできても、石化することはできませんでした』
 なんと、ルーンの守りはそんなことまでできるのか?
 さすがに全ルーンの守りで、上級宝具の一撃すら耐える、と言うだけはあるのか。
 しかし、1ランクダウンすることは避けられず、動きが鈍ったところでキャスターの魔術を喰らえば逃げ切れなかったわけか。
 本当に、石化の魔眼って使い勝手がいいよな。
 これで、両儀式に続いてランサーまで石化の魔眼を使って捕獲してしまった。
 次に真アサシンが出てきたら、メディアが時間を稼いだ隙に問答無用で石化させてしまおう。
 あんなものを配下の置くような趣味は俺にはないし、あいつまで石化の魔眼を防御できるなんてことはあるまい。
『そうですか。お疲れまでした、メデューサ。
 この後、姉さんと一緒に教会へ向かいますから、メディアさんと一緒に護衛をお願いしますね。
 あっ、メデューサは気配を隠せないんでしたっけ?』
 ライン経由で話を聞いていた桜も会話に参加してきた。
『大丈夫ですよ、桜。
 私が張る結界内にメデューサも入れば問題ありません。
 勝手なことをされても問題ですし、ランサーも連れて行きましょう』
 おいおい、そうなるとセイバー、キャスター、ライダー、ランサーの四人が揃って教会へ行くのか。
 無事に済めば良いけどな……。絶対無理に決まってるけど。
『ランサーは何て言ってる?』
『今確認をとります。
 ランサー、これからマスター達が教会に向かうので、私たちもサーヴァントの気配を遮断した上で同行します。よろしいですか?』
 俺にはランサーの答えは聞けなかったが、すぐにメディアがランサーの答えを教えてくれた。
『戦えるならどこでもいいぜ、とのことです。これからそちらへ向かいます』
『了解。おっと、ランサーからフェルグスと光の神ルーのイメージをもらっといてくれないか?
 必要な令呪を使って奪ってもいい。至急頼む』
 それを聞いたメディアは一瞬沈黙すると、笑いを含んだ回答をしてきた。
『分かりました。ランサーから受け取ったイメージを、一切手を加えることなく保存し、衛宮に渡せばよろしいのですね。
 確かにフェルグスはカラドボラク、光の神ルーはブリューナグ(轟く五星)、フラガラックなどの強力な宝具の担い手です。
 それらを衛宮が投影できれば、強力な武器になることは間違いありません。
 少しお待ちください』
 そう、メディアが見抜いたとおりである。
 俺はランサーことクーフーリンが持つ強力な宝具のイメージを、衛宮に渡すことで投影させようと考えている。
 メディア経由でも大丈夫だとは思うが、駄目なら令呪を使ってランサーから直接衛宮へイメージを伝達させればよかろう。
 仮にもルーン魔術の使い手なんだし、イメージの伝達ぐらいできるだろう。
 できないようなら、メディアに手伝わせてやればいいし。
 しかし、メディア経由のイメージ伝達で武器の投影が成功すれば、それはメディアが相手の記憶から読み出した武器を全て衛宮が投影可能になる、ということである。
 さて、乖離剣エアは絶対に無理だとしても、今の衛宮に宝石剣は投影できるのだろうか?
 Fateにおける宝石剣の投影は、アーチャーの腕を移植して、半英霊とでもいうべき存在になった衛宮士郎が命を削って投影していたからなぁ。
 さすがにそんな無茶はできないかなぁ。
 というか、桜とセイバーが絶対に止めるのは目に見えている。
 遠坂の場合、……う~ん、俺では予想が出来ん。
 プライドの高さから「そんなものはいらない」と言うか、遠坂家の悲願達成のため「絶対にやんなさい」と言うか、……どっちもありそうだな。
 おそらくは状況に左右されそうだ。
 いや、投影時の衛宮の負担について教えなければ、桜ルートみたいに簡単に投影させるかもしれんな。
 死なない限り、アヴァロンが回復させるだろうし、精神的に壊れない限りなんとかなるだろう。
 うん、その方向性でやってみるか。

 視線を感じたのでそっちを向くと、桜が驚きと尊敬のまなざしで見ていた。
 『ランサーの記憶を衛宮に渡して強力な宝具を投影させる』というアイデアに対して驚いているのか、『衛宮にさらに強力な宝具を与える』という行為に対して尊敬しているのかは分からんが、まあどっちでもいいか。
 桜みたいなかわいい妹にそういう視線で見られるというのはなかなか気分がいいものだ。
『慎二、今戻りました』
『おかえり、無事で何よりだ。
 で、メデューサとランサーも一緒なんだよな。
 イメージ取得の件はどうなった?』
『何に使うのか不信がられましたが、ランサーの主義は『どんなマスターであろうと忠誠を尽くす』だそうで、特に文句もなくフェルグスのイメージを貰い受けました。
 私が衛宮に提供したヘラクレスと同等以上の精度を持つイメージなので、衛宮が投影するのには問題ないでしょう。
 残念ながら光の神ルーと会ったことがないため、そちらのイメージを受け取ることはできませんでした』
『そうか、じゃ、さっそく。って、もう遠坂が来たか。
 仕方ない。後で頼むぞ』
『了解しました』
 う~む、俺はケルト神話に詳しくなかったけど、クーフーリンは実の父親に会ったことが無かったのか。
 あ~あ、光槍ブリューナク、光剣フラガラックはとつてもなく強そうだったし、対バーサーカーで有効な武器になってくれそうだったのに。
 畜生、悔しいなぁ。

 荷物を持って戻って来た瞬間、遠坂は魔術師モードの口調で話し始めた。
「待たせたわね。それで衛宮君の事情は分かったけど、桜と間桐君と、それから初対面だと思うけど、その子はどうして一緒にいるのか教えてもらえないかしら?
 まあ、桜だけは聞かなくても大体想像が付くけど」
 衛宮に対する感情をストレートに表現した言葉を聞いて、桜は真っ赤になってしまった。
「さっきも言ったが、俺と桜はお前の衛宮の仲介役だ。
 俺は聖杯には興味ないが、聖杯戦争には興味があるんでね。
 代価に応じて衛宮の手伝いをしているわけだ」
「私は、その、先輩と姉さんが心配だったので……」
「あら、桜が心配しているのは衛宮君で、私はついでじゃないの?」
「そんなことはありません。私にとって、先輩も姉さんも同じぐらい大切です」
 遠坂の多分にからかいの混じった質問に、桜はむきになって答えた。
「わかったわよ。そんなにむきにならなくていいわよ。
 で、二人の事情は分かったけど、そっちの人はどうしてかしら?」
 そう言って遠坂は鋭い目つきで弓塚を睨んだ。
「ひっ」
 その凶悪な眼差しに、弓塚も怯んでしまったようだ。
 吸血鬼を脅えさせるとは、遠坂恐るべし。
「あっ、彼女はとある事情があって、今は間桐家の保護下にあるんだ。
 彼女も結構強力な力を持っていてね。
 今は、……そうだな。俺達の仲間と言うか、ボディガードと言うか、まあそんな関係だ」
 いつかはばれるだろうが、吸血鬼とは言えんよなぁ。
 それも、俺が拾ったはぐれサーヴァントの使い魔状態とは。
「何だ、貴方の恋人じゃないんだ?」
「ち、ち、違います。私には遠野君が!」
 思わず、と言った感じで、見事に弓塚は自爆した。
 言った後で何を言ったか自覚したらしく、弓塚は真っ赤になって俯いてしまった。
「そういうわけだ。弓塚さんは確かに可愛いけどな。
 想い人がすでにいるのは分かっているから、ちょっかいは掛けてない」
「ふ~ん、間桐君がそんなに他人に気遣うなんて知らなかったわ。
 ……そういう事情なら一緒にいるのも当然か。
 魔力はほとんど感じられないし、身のこなしも普通ね。
 ということは、特殊能力保持者かしら?」
 そう言うと遠坂はさらに鋭い目つきで弓塚をじろじろと観察した。
 当然というべきか、弓塚はその視線に脅え、さらに身を縮こませるようにしている。
 って、確か弓塚の魔力回路開放は昨日メディアがしたんじゃなかったか?
 となると、弓塚もメディアに全魔力を提供しているのか?
 魔術回路の訓練には良さそうだけど……。
 まあ、そんなことは遠坂には言えるはずもない。
「まあ、そんなものだ。
 詳しいことは教えられないぞ。
 お前には言うまでもないと思うが」
「もちろん、分かっているわよ。
 特殊能力者は能力がばれた瞬間、優位性のほとんどを失ってしまう。
 他人に教えるとしたら相応の代価か、あるいはその能力を使うとき。
 ……そっか~、そんなに使える能力を持っているんだ。
 どんな能力を持っているのか、興味はあるわね」
 その言葉に、弓塚はビクッと震えたが、それを見た遠坂は笑って続けた。
「冗談よ。普段ならともかく、今は聖杯戦争の最中なんだから、敵でもない人について調べている暇は無いわ。
 もちろん、貴方がサーヴァントを召喚しているマスターだ、っていうなら話は別だけどね」
「ち、違います。
 私はサーヴァントを召喚したりなんかしていません。
 何なら令呪がないことを確認してください。
 ……あっ、もちろん男性のいないところでですよ」
 俺の表情に気づいたのだろう。弓塚は即座に発言の訂正をしてきた。
 ちっ、さすがにそこまでは甘くはないか。
「そこまでしなくても良いわよ。
 あなたがマスターじゃないのは、令呪が反応しないことからも分かっているし。
 ……とはいえ、いくら貴方達が聖杯戦争に参加していなくても、ここはもう戦場。
 魔術師や特殊能力者は、マスターと疑われるか、あるいは危険性を排除する、という目的で攻撃されかねないわ。
 ましてや、落ちぶれたとは間桐家は聖杯御三家の一つ。
 それだけでも狙われる理由としては充分。
 ……そうね、ばらばらで行動するよりは、一緒にいた方が少しはましよね。
 あっ、そういえば挨拶していなかったわね。
 私の名前は遠坂凛。
 知ってると思うけど魔術師で、ここのセカンドオーナーよ」
 遠坂は凛々しい顔つきで弓塚に挨拶した。
「あっ、はい。
 私の名前は弓塚さつきです。
 間桐君の説明の通り、間桐家のお世話になっています。
 色々と事情はありますけど、よろしくお願いします」
「ええ、よろしくね」
 そう言って遠坂はそれ以上の追求は止めた。
 ふう、弓塚が吸血鬼だとは気づかなかったようだな。
 カラーコンタクトにメディアの魔術具で吸血鬼の気配を隠しているとはいえ、牙だけは隠しようがないからな。
 さすがは、一番重要なところでポカミスをする遠坂だ。
 しかし、アーチャーは気づくだろうから、アーチャーが復帰してくるまでに遠坂の信頼を得ることが出来るかが鍵だな。
 まあ、アーチャーが弓塚を殺そうとしたら、セイバーの信頼と、桜の感情論をもって遠坂を説得させるだけだがな。
 それでも駄目なら、そのとき対策を考えよう。

 さて、おそらくはこれからみんなで教会へ向かうことになるだろうが……。
 言峰は代わりの監視役が来ていないことをいいことに、まだ教会にいるな。
 ギルガメッシュは存在がつかめないから考えても仕方ない。
 臓硯と真アサシンも同様。
 イリヤは……、まだ森を出ていないか。
 仕方ない、このまま教会へ向かうしかないだろうな。

 しかし、このまま行くと早く着きすぎる。
 ここで、どこかで時間を潰した方がいいだろうな。
 というか、元々遠坂は結界を消すために屋上に上がったんだから、それをやれば良いか。
「そういえば遠坂。
 ずいぶん待たされてけど、さっきから何をやっていたんだ?」
「……いけないっ、忘れてた。
 学園に張っていた結界を消去しようとしたのよ。
 今からでも遅くはないわ。すぐに消すわ」
 そう言うが早いか、遠坂は尋常でないスピードで校舎に向かって走っていった。
 あ~あ、今は人影がないからいいが、見つかったら間違いなく怪談か都市伝説になるぞ。
 動揺すると、本当に後先分からなくなるんだな。
 おっとちょうどいい機会だ。
 遠坂がこちらを見えない場所に移動したのを確認し、俺は声を出した。
「キャスター」
「何でしょうか、慎二?」
 呼びかけた瞬間、キャスターは俺の目の前に現れた。
「衛宮に例のイメージを伝達してくれ。今すぐにだ」
「了解しました。
 士郎、新しいイメージを渡しますので、じっとしていてください」
 メディアはそういうと、問答無用で衛宮を押さえつけておでこをくっつけた。
 その早業には、セイバーが止める間もなかったぐらいだ。
「ちょ、ちょっと、一体いきなり何だって……、えっ、これって、まさか?」
「はい、ランサーの記憶にあったイメージを士郎に移しました。
 どうですか? このイメージを元に投影できますか?」
 それを聞いた衛宮は、目を閉じた。
 どうやら、メディアからもらったイメージの確認をしているらしい。
「ああ、きちんと詳細部分まで解析できる。
 おそらくは投影可能だ。……それにしても、すごい武器だな。
 これが、魔剣カラドボルク、か」
「その通りです。カリバーンを投影すれば、セイバーの真名がばれかねません。
 よほどのことがない限り、こちらの武器を使用してください」
「お待ちください。
 一体どういうことですか?
 カラドボルクはフェルグスの武器だったはずです。
 なぜ、そのようなイメージをキャスターが? まさか!!」
「そのまさかだ。
 あの後、逃げ出したランサーをキャスターとライダーが捕獲して、キャスターと再契約させた。
 つまり、今ランサーは、キャスターのサーヴァントってわけだ。
 というか、その辺にいるんだろ、ランサー。
 ちょうどいいから挨拶頼む。
 もちろん、遠坂が戻ってくる前までにな」
 俺がそう言った瞬間、俺の横にランサーが出現した。
 セイバーは衛宮とランサーの間に立つと、即座にインビジブル・エアを構えた。
 即座に攻撃しなかったのは、俺の言葉を少しは信じてくれているからだと思いたい。
「おっと、攻撃するのは勘弁してくれ。
 今の俺はキャスターのサーヴァントでな。
 マスターであるキャスターの命令で、お前とは戦えないのさ。
 俺の個人的希望としては、お前さんと勝負をしたいのはやまやまなんだけどな」
「貴様、どういうつもりだ?」
「どうもこうも、どうやってかは知らないが、俺の令呪をキャスターが持っている上、『主変えに同意しろ』なんて令呪で命令されちまったからな。
 こうして仕方なく従っている、というわけだ。
 ……おお、坊主、さっきは悪かったな。
 目撃者は消せってのが、前のマスターの命令だったんでな。
 それにしても、手加減してたとはいえ、俺の攻撃にあれだけ耐えたとは大したもんだ。
 十分誇って良いぞ」
 ランサーは衛宮に気づくと、さっき殺そうとした相手に気安く話しかけた。
 一方の衛宮は、予想外の状況にどう答えて良いか分からないらしい。
 セイバーは、キャスターがランサーの令呪を奪ったという事を知り、今まで以上に警戒しているように見える。
「慎二、一体どういうつもりですか?」
 ランサー相手では埒が明かないと判断したのか、セイバーは俺に詰め寄ってきた。
「どういうつもりも、キャスターとライダーに頼んでランサーを捕獲して、キャスターの支配下に置いただけだ。
 あいつも聖杯に興味はなくて、興味があるのは英雄らしい戦いみたいだからな。
 後でセイバーも模擬戦闘でいいから相手をしてくれると助かる」
「話を誤魔化さないで欲しい。
 私が聞いているのはそういうことではない!!」
 俺が答えようとした瞬間、メディアが張っていた結界が消えたのが俺にも分かった。
 どうやら遠坂が魔術刻印を使用して消したらしい。
「俺としても答えてやりたいんだが、どうやら時間切れだ。
 もうすぐ遠坂が戻ってくるから、教会から戻ってからちゃんと説明する。
 ああ、もちろん遠坂には、キャスター、ライダー、ランサーが一緒にいるのは内緒に頼むぞ」
 次の瞬間、メディアとランサーは霊体化し見えなくなった。
 セイバーは目に見えないだけでなく、3人の気配すら感じ取れないことに気づき、顔をしかめている。
 俺の方を見て、何か言いたそうな顔をしたが、遠坂が戻ってくるまでに時間が無いことは分かっていたのか、声に出したのは消極的賛成だった。
「仕方ありません。事情は後で聞きましょう。
 しかし、ランサーがシロウか私に危害を加えようとした場合、容赦しませんよ」
「分かっている。そのことはランサーにも命令してある。
 そんなつもりは欠片も無いから安心してくれ」
「貴方の言動のどこが信用できると……」
 遠坂が校舎から出てくるのが見えたセイバーは、それ以上言葉にするのを諦めた。

「待たせたわね。さあ、行きましょう」
 遠坂は不機嫌なセイバーに気づくことなく、そう言って先に歩いていった。
「? 行くって何処へ?」
「聖杯戦争の監督役の所よ。
 それにそいつは『聖杯戦争』についてもよく知っているわ。
 衛宮君も、聖杯戦争についてもっと詳しく知りたいでしょう?」
「―――それは当然だ。けどそれって何処なんだ?
 明日も学校があるし、あんまり遠いのは」
「大丈夫、隣町だから急げば今日中に帰ってこれるわ」
「……わかった。で、それって何処なんだ、遠坂。
 ちゃんと帰ってこれる場所なんだろうな」
「もちろん。行き先は隣町の言峰教会。
 そこがこの戦いを監督してる、えせ神父の居所よ」
 にやり、と意地の悪い笑みをこぼす遠坂。
 それを見て衛宮は表情を暗くしている。
 遠坂の本性「あかいあくま」を理解しつつあるようだな。

「それにしても抜かったわね。
 まさかこの土地に、私の知らない魔術師が、それも同じ学園の同じ学年にいたのに気づかなかったなんて……」
「それはお互い様だ。
 俺だって、慎二に教えてもらうまで遠坂が魔術師だって知らなかったぞ」
「それ、どういうこと?」
「ん? どういうことって、そのままだぞ。
 俺はつい最近までは親父にしか教わった事がないから、魔力感知なんてできないんだ」
 だな。橙子のところで衛宮は、投影、強化、戦闘訓練メインでやったから、そういう魔術の基礎は知識以外全てすっとばしている。
「――――はあ?」
 ピタリ、と動きを止める遠坂。
「……ちょっと待って。じゃあなに、衛宮君は自分の工房の管理もできない半人前ってこと?」
「……? いや、工房なんて持ってないぞ俺」
「……まさかとは思うけど、確認しとく。
 もしかして貴方、五大要素の扱いとか、パスの作り方もしらない?」
「基礎知識だけならあるぞ。パスは作ったことないけど」
 遠坂は黙り込み、ものすごい迫力を醸し出した。
「なに。じゃあ貴方、素人?」
「そんな事はないぞ。一応、強化、投影、解析の魔術は使える」
 投影については、一応どころじゃないんだろうけどな。
 はっきり言わないところを見ると、さすがの衛宮も、自分の投影魔術が封印指定クラスというのはちゃんと自覚しているらしいな。
「強化、投影って、……また、半端なものと効率が悪いものを扱うわね。
 で、それ以外はからっきしってワケ?」
 じろり、と衛宮を睨む遠坂。
「……まあ、端的に言えば、その通り」
 遠坂の質問に対して、衛宮はなんとも煮え切らない返答をした。
「――――はあ。何だってこんなヤツにセイバーが呼び出されるのよ、まったく」
 遠坂は、がっかり、とため息をつく。
「…………む」
 さすがの衛宮もその態度には腹が立ったようだ。
「ま、いいわ。もう決まった事に不平をこぼしても始まらない」
 ふう、と一息をつく遠坂。

「ところで、今衛宮君は『最近までは』って言ったわよね。
 今は誰かの弟子になっているの?」
 遠坂は興味津々といった感じで尋ねてきた。
 まあ、堂々と姿を現した以上、それぐらい聞くのは普通だよな。
「ああ、慎二の紹介でちょっと前にとある魔術師に弟子入りしたんだ。
 といっても今のところは、強化、投影、解析を鍛えてもらって、魔術の基礎知識を教わってるぐらいだけどな」
 そう、1月に弟子入りしたというのに、すでに解析と投影は完璧なまでのレベルであり、強化もかなりのレベルなのである。
 遠坂がそれを知れば、驚くどころの騒ぎじゃないだろうなぁ。
「そうなんだ。で、師匠って誰なの?」
「桜と慎二の師匠と同じだ」
 衛宮は約束を覚えていたらしく、橙子の名は出さなかった。
 しかし、遠坂の追求は厳しかった。
「へ~、そうなの。そういえば、桜が誰に弟子入りしたかは聞いていなかったわね。
 で、誰に弟子入りしたの?」
「内緒だ。『部外者には名前を教えない』って師匠と約束したからな」
「ふ~ん、まさかとは思うけど、『封印指定だから』なんて言わないわでね?」
 遠坂は間違いなく冗談半分で言ったのだろうが、それを聞いた衛宮は俺でも分かるぐらい、あからさまに表情を強張らせた。
 おまえなぁ、少しはポーカーフェースとかを覚えろよ。
 それじゃあ、白状しているも同然だろうが。
「ちょ、ちょっと、その反応は何よ?
 まさか、本当に?」
「あ~、遠坂。悪いことは言わない。それ以上聞くな」
「何よ。それ!?」
 衛宮に任せていても埒が明かないと判断し、俺が口を挟んだ。
 その結果、当然というべきか、遠坂は俺につっかかってきた。
「あのな、俺達の師匠が封印指定だろうが、師匠に口外無用と言われていようが、どちらにせよお前に教えられないのは明白だろう。
 『師匠の命令には絶対服従』が普通かどうかは知らんが、少なくとも俺達の師匠は怒らせると怖い人だからな。
 寝た子を起こすような真似は絶対にしたくない」
 それを聞いて遠坂はやっと気づいたらしい。
「あ~、まあ、そうよね。
 一応師匠は敬うべき存在だから、師匠にそう言われていていたら守るのは当然か」
 そういうお前こそ、実の父親でもある遠坂時臣はともかく、言峰綺礼は全く敬ってないだろうが。
「あれ、でも、桜と間桐君が弟子入りしたのって最近じゃなかったっけ?」
「ああ、そうだ。
 俺達3人が弟子入りしたのは、1月に入ってからだからな。
 スパルタで鍛えられたとはいえ、まだ一ヶ月も経ってない」
 俺の言葉に、遠坂は肩をすくめて言った。
「呆れた。よくそんな付け刃で聖杯戦争に参戦する気になったわね」
「当然だろう?
 ここで聖杯戦争なんてふざけた戦いをやられるんだ。
 無視することなんてできるもんか」
 それを聞いた遠坂は衛宮をじっと見つめた。
「何だよ、何か文句あるのか?」
「いえ、衛宮君は聖杯戦争について本当に分かっていないのね。
 聖杯戦争について、詳しく事情を知ったらもう一度よく考えた方がいいわよ」
 遠坂はそう言って、この話を打ち切った。
 もっとも、俺からの情報提供によって、衛宮は裏の事情についてはかなりのレベルを知っているからそう答えたんだけどな。
 表向きの事情しか知らない遠坂じゃ、そう考えてしまうのも無理はないか。

 そして、遠坂はセイバーへ視線を向けた。
「さて。衛宮君と間桐君から話を聞いた限りじゃ、貴方は不完全な状態みたいね、セイバー。
 マスターとしての心得がほとんどない魔術師見習いに呼び出されたんだから」
「……ええ。貴方の言う通り、私は万全ではありません。
 とはいえ、霊体に戻ることもできないだけで、それ以外には特に問題ありません」
「……驚いたわ。貴女が正直に話してくれるなんて思わなかった。
 どうやって弱みを聞き出そうかなって程度だったのに」
「敵に弱点を見抜かれるのは不本意ですが、貴女の目は欺けそうにない。
 こちらの手札を隠しても意味はないでしょう」
「正解。風格も十分、と。……ああもう、ますます惜しいっ。
 私がセイバーのマスターだったら、こんな戦い勝ったも同然だったのに!」
 悔しそうに拳を握る遠坂。
「む。遠坂、それ俺が相応しくないって事か?」
「当然でしょ、へっぽこ」
 さすがの衛宮も、この発言には傷ついたらしい。
「何? まだ何か質問があるの?」
 そして、衛宮を傷つけたことを遠坂は全く自覚していない。
 衛宮のヤツ、信じてきたものが崩れ去ったような顔をしている。
 いや、実際遠坂の優等生としてのイメージは完璧に崩壊しているんだろうな。

「あれ? どっちに行くのよ衛宮君。
 そっち、道が違うんじゃない?」
「橋に出ればいいんだろ。ならこっちのが近道だ」
 そう言って衛宮は早足で横道に入った。
 桜、セイバー、遠坂、弓塚といずれ劣らぬ美少女に囲まれているのに少々照れているのだろう。

 すぐに俺達は川縁の公園に出た。
 目の前の橋を渡れば、隣町である新都に行けるはずだ。
「へえ、こんな道あったんだ。
 そっか、橋には公園からでも行けるんだから、公園を目指せばいいのね」
 声を弾ませて橋を見上げる遠坂。
 年相応の可愛らしさを振りまく遠坂に、衛宮も視線が釘付けだな。
 俺も人のことは言えんけど。
「いいから行くぞ。別に遊びに来たわけじゃないんだから」
 立ち止まっている遠坂を促して、衛宮は先に階段を上がった。
 歩道橋には人影は無かった。
 衛宮を先頭に俺達は黙って歩き続けた。
 橋を渡ると、遠坂は郊外へ案内しだした。
 坂道を上がっていく程に建物の棟は減っていき、丘の斜面に建てられた外人墓地が目に入ってくる。
「この上が教会よ。衛宮君も一度ぐらいは行った事があるんじゃない?」
「いや、ない。
 あそこが孤児院だったって事ぐらいは知ってるけど」
「そう、なら今日が初めてか。じゃ、少し気を引き締めた方がいいわ。
 あそこの神父は一筋縄じゃいかないから」
 遠坂は先立って坂を上がっていく。
「桜はあそこの神父に会ったことあるか?」
「いえ、ありません。私もここの教会に来るのは初めてです」
 まあ、そうか。あの神父は臓硯のことをものすごく毛嫌いしていたからな。
 桜の状態を把握したら、臓硯の企みを潰すために何らかの行動を取っていた可能性は高い。
 それは臓硯も分かっていただろうから、桜を教会に近づかせなかった可能性は高そうだ。
 って、よく考えたら言峰は俺達がマスターだってことをランサーの目を通して見ているんだよな。
 あ~、教会の中に入らないほうがいいか?
 いや、そんなことを言ってきたらどうしてそんなことを言うんだってとぼけてやる。
 まさか、ランサーを偵察に使ったって言うはずが……、言ってたな、そういえば。
 Fateの桜ルートでランサーが真アサシンに殺された後、いともあっさりと衛宮にばらした。
 ぬぬぬぬぬ、遠坂に俺と桜がマスターだとばれる可能性を減らすためには言峰に会わないのが一番だ。
 しかし、言峰に直接聞きたいことは色々とある。
 え~い、くそ。こうなったら当たって砕けろだ。
 遠坂もアーチャーを同行させてないし、何とでもなるさ。
 俺がやけくそ気味に決意を決めたとき、教会が見えた。
「うわ――――すごいな、これ」
「本当ですね。こんなすごい教会だなんて、全く知りませんでした」
 教会を見た衛宮と桜は、感嘆の声を漏らした。
 確かに教会はとんでもない豪勢さだった。
 高台のほとんどを敷地にしているらしく、坂を上がりきった途端、まったいらな広場が広がっていた。
 その奥に建てられた教会は、そう大きくはないというのに、かなりの威圧感があった。
「シロウ、私はここに残ります」
「え? 何でだよ、ここまで来たのにセイバーだけ置いてけぼりなんて出来ないだろ」
「私は教会に来たのではなく、シロウを守る為に着いてきたのです。
 シロウの目的地が教会であるのなら、これ以上遠くには行かないでしょう。
 ですから、ここで帰りを待つ事にします」
 きっぱりと言うセイバー。
 ん? セイバーはランサーを配下にしたことに不信感ばりばりだった。
 てっきり、一緒に教会に入ると思ったのだが、俺への不信感以上に教会へ入るのが嫌なのだろうか?
 言峰が生きていることは知らないはずだから、教会そのものが嫌なのか?
 前回の聖杯戦争で何かあったのだろうか?
 衛宮もセイバーの意志の強さを感じ取ったのか、説得することを諦めて言った。
「分かった。それじゃ行ってくる」
「はい。誰であろうと気を許さないように、マスター。
 そして慎二、マスターにおかしな真似をしないように。そのような気配を感じれば……」
「分かってるって。まあ、仮にそんなことをしようとしても、桜に遠坂が止めるから大丈夫だ」
「そうですね。では、桜。くれぐれも、慎二がおかしな真似をしないよう監視をお願いします」
「はい、まかせてください。兄さんの暴走は私がしっかり止めます」
 お~い、俺が暴走するのはすでに確定事項なのか?
 いや、オリジナル慎二はもちろん、俺がこの数週間好き勝手にやってきたことを考えれば、何も言い返せないのは自覚してるんだけど……。
「では、シロウ。なにかあれば、令呪ですぐに私を呼んでください。
 私を呼ぶ程度の時間は、桜と一緒に対処すれば十分に稼げるはずです」
「分かった。ないとは思うけど、気をつける」
 あ~、なるほど。セイバーは桜と桜のサーヴァントであるライダーをある程度信用しているから、教会の中へ行かなかったのか。
 いや、もしかすると、教会外から攻め込んでくるサーヴァントを撃退するつもりなのかもしれないか。
 さすがは元王様。人を見る目と、戦略眼はなかなか大した物だ。

 一方、俺の方もライン経由で相談していた。
『ギルガメッシュがどこにいるかはメディアでもつかめないからな。
 ないとは思うけど、教会で襲われる可能性もある。
 となると、メディアたちにも教会内までついて来たもらった方がいいよな』
『慎二の意見に賛成します。
 私がいれば、一瞬で全員を瞬間移動で脱出させることが可能です。
 ギルガメッシュが襲ってきたとしても、隙があれば無事に逃げれるでしょう。
 セイバーは置き去りになりますが、まあ衛宮がライン経由で警告して全力で脱出させればなんとかなるでしょう。
 最悪、令呪で呼べば問題ありませんし。
 ランサーも戦いたがっていますし、時間稼ぎに彼を使うのもいいですね』
 さすがはメディア、冷徹かつ非情な意見である。
『兄さんに聞いた限りでは、ギルガメッシュって人はかなり強いみたいですし、私もその方がいいと思います。
 ただ、ランサーさんを見捨てるような真似はちょっと……』
『ご安心ください。
 ランサーを使い捨てるわけではありません。
 あくまでも脱出する時間を稼がせるためで、脱出するのはランサーも一緒ですよ』
 それを聞いた桜は、明らかにほっとした感情を込めて答えた。
『それなら問題ありません。
 メデューサはどうですか?』
『私は桜に意志に従います。
 ギルガメッシュが襲ってこようとも、必ず桜を守って見せます』
『ありがとう、メデューサ』
 メデューサの声は静かだったが間違いなく本気だ。
 あいつなら、自分の命と引き換えになっても必ず桜を守るだろう。
『んじゃ、そういうことで、ランサーにはサーヴァントなり言峰なり襲ってきたら戦闘していい、と言っといてくれ。
 ああ、もちろん、サーヴァントの気配を隠したまま俺達と一緒に行動した上で、だけどな』
『了解しました、慎二』
 こうして、セイバーを残し、俺達は教会へ入った。
追記(2005/4/4)
 ケルト神話を確認したところ、クーフーリンは光の神ルーと会っていないというのが主流だったため、光槍ブリューナク、光剣フラガラックは投影できないことにしました。
 どっかのHPで、『クーフーリンは光の神ルーの助力を得て』とかいう記述があったから、てっきり二人が会っていたと思ってたんですけどねぇ。
 強力そうな武器だから、ぜひ衛宮、そしてランサーに使わせたかった。



[787] Fate/into game 1月24日(木) 聖杯戦争2日目 その2
Name: 遼月
Date: 2006/03/07 01:04
Fate/into game


1月24日(木) 聖杯戦争2日目 その2


 扉を開けると、そこは広い、荘厳な礼拝堂だった。
「遠坂。ここの神父さんっていうのはどんな人なんだ?」
「どんな人かって、説明するのは難しいわね。
 十年来の知人だけど、私だって未だにアイツの性格は掴めないもの」
 う~ん、俺なら『恐ろしく性質の悪い謀略家』、『詭弁使い』って説明するぞ。
 まあ、実際に会ったことはないけどな。
「十年来の知人……?
 それはまた、随分と年期が入った関係だな。
 もしかして親戚か何かか?」
「親戚じゃないけど、私の後見人よ。
 ついでに言うと、兄弟子にして第二の師っていうところ」
「え……兄弟子って、魔術師としての兄弟子!?」
「そうだけど。なんで驚くのよ、そこで」
「だって神父さんなんだろ!?
 神父さんが魔術なんて、そんなの御法度じゃないか!」
 衛宮は驚きの余り大声で言うが、それほどのことか?
 何時の世でも異端は存在するものだと思うけどな。
「……いや。そもそもここの神父さんってこっち側の人だったのか」
「ええ。聖杯戦争の監督役を任されたヤツだもの、バリバリの代行者よ。
 ……ま、もっとも神のご加護があるかどうかは疑問だけど」
 かつん、かつん、と足音を立てて祭壇へと歩いていく遠坂。
「……ふうん。で、その神父さんは何ていうんだ?
 さっきは言峰とか何とか言ってたけど」
「名前は言峰綺礼。父さんの教え子でね、もう十年以上顔を合わせている腐れ縁よ。
 ……ま、できれば知り合いたくはなかったけど」
「――――同感だ。私も、師を敬わぬ弟子など持ちたくはなかった」
 そう言って、言峰は祭壇の裏側からゆっくりと現れた。
 もしかしたら逃げ出すかとも思ったが、本当に出てきやがった。
 俺たちにランサーを奪われた上、バゼットを殺しかけたのは魔術師協会、聖堂教会、そして当然ながら(遠坂と衛宮を除く)俺たちにもばれている。
 それなのに、堂々と出てくるとはいい度胸してやがる。
「再三の呼び出しにも応じぬと思えば、変わった客達を連れてきたな。
 ……ふむ、それで彼らがマスターなのか、凛」
 弓塚が吸血鬼だともばれなかったようだし、問題なさそうだ。
 それにしても、遠坂が素直に呼び出しに応じたら、バゼットと同じく不意打ち+令呪&サーヴァント奪取されていたような気がするのは気のせいだろうか?
 まあ、そんなことをしても、ルールブレイカーで令呪を解除してアーチャーが反撃するのもまた、間違えようのない未来だったろうけどな。
「何言ってるのよ。マスターなのは、そいつだけよ。
 後はそいつの付き添い。
 一応魔術師だし、ある程度の知識は持っているみたいだけど、ほとんど素人に近いから見てられなくって」
 『嘘付け、アーチャーが戦闘不能になり、命を助けてもらった代価として俺の依頼を受けただけだろうが!』と心の中だけで突っ込む。
 もちろん、あかいあくま相手に口に出すなんて、怖くてできません。
 いや、まあ、衛宮と桜がいる以上、遠坂が死ぬことは絶対になかったとは思うけどな。
 それにしても、遠坂は俺たちがマスターだがそれを隠している、という可能性は全く考えてなかったようだな。
 この場合、遠坂のうっかりに助けられたことになるな。
「……たしかマスターになった者はここに届けを出すのが決まりだったわよね。
 アンタたちが勝手に決めたルールだけど、今回は守ってあげる」
 俺と桜は守るつもりは毛頭ないし、今もマスターとして来たわけじゃないけどな。
「それは結構。なるほど、ではその少年には感謝しなくてはな」
 言峰は、俺たちをちらっと見た後、衛宮に視線を向ける。
 ……衛宮は言峰の威圧感に気圧されて、わずかに退いていた。
「私はこの教会を任されている言峰綺礼という者だが。
 君の名は何と言うのかな、七人目のマスターよ」
「――――衛宮士郎」
 衛宮はぶっきらぼうに言うと、神父を睨みつけた。
「衛宮――――――――士郎」
「え――――」
 言峰は、その言葉を聞くと、何か喜ばしいモノに出会ったように笑った。
「礼を言う、衛宮。よく凛を連れてきてくれた。
 君がいなければ、アレは最後までここには訪れなかったろう」
 言峰は祭壇へと歩み寄る。
 遠坂は退屈そうな顔つきで祭壇から離れ、衛宮の横まで下がってきた。
「では、始めよう。
 衛宮士郎、君はセイバーのマスターで間違いないか?」
「ああ、そうだ。
 ただし、俺は聖杯になんて興味はない」
「……なるほど、これは重症だ。
 彼は一体何を知っているのか、凛」
「だから、素人に近いって言ったじゃない。
 その辺り、一からしつけてあげて。
 ……そういう追い込み得意でしょ、アンタ」
 遠坂は気が乗らない素振りで言峰を促す。
 まさか衛宮が表の事情ではなく、裏の事情を知っているとは分かっていない二人は、俺たちからすると的外れな感想を持ったが、当然衛宮を含めた俺たちは何も言わなかった。
「――――ほう。これはこれは、そういう事か。
 よかろう、お前が私を頼ったのはこれが初めてだ。
 衛宮士郎には感謝をしても、し足りないな」
 くくく、と愉快そうに笑う言峰。
 二人の会話を聞いて、さすがに衛宮もちょっと不安そうな顔つきになっているな。
「まず、最初に言っておこう。
 聖杯を手に入れれば、お前の望み、その裡に溜まった泥を全て掻き出すこともできる。
 ――――そうだ、初めからやり直す事とて可能だろうよ」
 故に望むがいい。
 もしその時が来るのなら、君はマスターに選ばれた幸運に感謝するのだからな。
 その、目に見えぬ火傷の跡を消したいのならば、聖痕を受け入れるだけでいい」
「な――――」
 言峰の言葉を聞いて、衛宮は混乱しているようだ。
「綺礼、回りくどい真似はしないで。
 私は彼にルールを説明してあげてって言ったのよ。
 誰も傷を開けてなんて言ってない」
 言峰の言葉を遮る遠坂の声。
「――――と、遠坂?」
 その声で、やっと衛宮は正気に戻った。
「そうか。こういった手合いには何を言っても無駄だからな、せめて勘違いしたまま道徳をぬぐい去ってやろうと思ったのだが。
 ……ふん、情けは人のため為らず、とはよく言ったものだ。
 つい、私自身も楽しんでしまったか」
「何よ。彼を助けるといい事あるっていうの、アンタに」
「あるとも。人を助けるという事は、いずれ自身を救うという事だからな。
 ……と、今更お前に説いても始まるまい。
 では本題に戻ろうか、衛宮士郎。
 君も知っての通り、この戦いは『聖杯戦争』と呼ばれるものだ。
 七人のマスターが七人のサーヴァントを用いて繰り広げる争奪戦――――という事ぐらいは知っているか?」
「……知ってる。七人のマスターで殺しあうっていう、ふざけた話だろ」
「そうだ。だが我等とて好きでこのような非道を行っている訳ではない。
 全ては聖杯を得るに相応しい者を選抜する為の儀式だ。
 何しろ物が物だからな、所有者の選定には幾つかの試練が必要だ」
 ふん、裏事情を知っているものにとっては、あほらしいことをほざいてるな。
「待てよ。さっきから聖杯聖杯って繰り返しているけど、お前は本当に聖杯だって信じているのか?」
 言峰が聖杯についてどういう認識を持っているか知りたかったのか、衛宮が質問をぶつけた。
「勿論だとも。この町に現れる聖杯は本物だ。
 その証拠の一つとして、サーヴァントなどという法外な奇跡が起きているだろう」
 ここの理論がおかしいよな。
 英霊をサーヴァントとして呼べるのは、確かに奇跡だ。
 しかし、だからと言って、聖杯が願いをかなえるかどうかは別問題だと思うんだが、誰も疑問に思わなかったのだろうか?
 ……まあ、英霊召喚を可能とする聖杯を手に入れることが出来るだけでも、魔術師にとっては十分な報酬と言えるか。
「過去の英霊を呼び出し、使役する。
 否、既に死者の蘇生に近いこの奇跡は魔法と言える。
 これだけの力を持つ聖杯ならば、持ち主に無限の力を与えよう。
 物の真贋など、その事実の前には無価値だ」
「――――――――」
 それを聞いた衛宮は、複雑な表情を見せた。
 俺から裏の事情を知っている衛宮にとっては、それが戯言だと分かっているから当然だな。
「……わかった。聖杯のことはいい。
 けど、ならなんだって聖杯戦争なんてものをさせるんだ。
 聖杯があるんなら殺し合う事なんてない。
 それだけ凄い物なら、みんなで分ければいいだろう」
「もっともな意見だが、そんな自由は我々にはない。
 聖杯を手にする者はただ一人。
 それは私たちが決めたのではなく、聖杯自体が決めた事だ」
 大嘘つくんじゃねえぞ!! ……いや、言峰には責任はないか。
 責任があるのは、聖杯戦争を構築した御三家だもんな。
 となると、やっぱり責任の一端は俺にもあるのか?
 いや、間桐家の場合は臓硯一人だけが悪い。
 桜も、そしてオリジナル慎二も聖杯戦争について何も聞いてなかったんだしな。
「七人のマスターを選ぶのも、七人のサーヴァントを呼び出すのも、全ては聖杯自体が行う事。
 これは儀式だと言っただろう。
 聖杯は自らを持つに相応しい人間を選び、彼らを競わせてただ一人の持ち主を選定する。
 それが聖杯戦争――――聖杯に選ばれ、手に入れる為に殺し合う降霊儀式という訳だ」
 衛宮は何も言わず、自分の左手の令呪を見つめた。
「納得がいったか。ならばルールの説明はここまでだ。
 ――――さて、それでは始めに戻ろう、衛宮士郎。
 君は聖杯に興味はないと言ったが、それは今でも同じなのか?
 マスターであることを放棄するというのなら、それもよかろう。
 令呪を使い切って、セイバーとの契約を断てばよい。
 その場合、聖杯戦争が終わるまで君の安全は私が保証する」
 嘘付け。この言葉、100%信用できないのは言うまでもないが、どういう詭弁なんだろうな?
 聖杯戦争が終わるまではぎりぎりで殺さない、という意味なのか、それとも他に何か企んでいるのか?
「……? ちょっと待った。なんだってアンタに安全を保証されなくちゃいけないんだ。
 自分の身ぐらい自分で守る」
「私とてお前に構うほど暇ではない。
 だが、これも決まりでな。
 私は繰り返される聖杯戦争を監督する為に派遣された。
 故に、聖杯戦争による犠牲は最小限に留めなくてはならないのだ。
 マスターでなくなった魔術師を保護するのは、監督役として最優先事項なのだよ」
「なんで、神父のあんたがそんなことを、って、そうだったな。
 確か聖杯戦争ってのはずっと前からあったんだ。
 聖杯戦争のことを知って、教会が介入するのは当たり前か」
「無論だ。でなければ、監督役、などという者が派遣されると思うか?
 この教会は聖遺物を回収する任を帯びる、特務局の末端でな。
 本来は正十字の調査、回収を旨とするが、ここでは“聖杯”の査定の任を帯びている。
 極東の地に観測された第七百二十六聖杯を調査し、これが正しいモノであるのなら回収し、そうでなければ否定しろ、とな」
 その言葉に、衛宮は呆れて呟いた。
「七百二十六って、……聖杯ってのは、そんなに沢山あるものなのかよ」
「さあ? 少なくとも、らしき物ならばそれだけの数があったという事だろう
 そしてその中の一つがこの町で観測される聖杯であり、聖杯戦争だ。
 記録では二百年ほど前が一度目の戦いになっている。
 以降、約六十年周期でマスターたちの戦いは繰り返されている。
 聖杯戦争はこれで五度目。
 前回が十年前であるから、今までで最短のサイクルという事になるが」
 やはり、十年で済んだのは切嗣が聖杯を破壊したせいなのだろうか?
 となると、今回はイリヤを殺さないと、次の聖杯戦争は六十年後になるのか?
 イリヤを殺すのはできれば避けたいよなぁ。
「……本当にこんな事を今まで四度も続けてきたのか……」
「そうだ。お前の言うとおり、連中はこんな事を何度も繰り返してきたのだよ。
 ――――そう。
 過去、繰り返された聖杯戦争はことごとく苛烈を極めてきた。
 マスターたちは己が欲望に突き動かされ、魔術師としての教えを忘れ、ただ無差別に殺し合いを行った。
 君も知っていると思うが、魔術師にとって魔術を一般社会で使用する事は第一の罪悪だ。
 魔術師は己が正体を人々に知られてはならないのだからな
 だが、過去のマスターたちはそれを破った。
 魔術協会は彼らを戒める為に監督役を派遣したが、それが間に合ったのは三度目の聖杯戦争でな。
 その時に派遣されたのが私の父という訳だが、納得がいったか少年」
「……ああ、監督役が必要な理由は分かった。
 けど今の話からすると、この聖杯戦争ってのはとんでもなく性質が悪いモノなんじゃないのか?」
「ほう。性質が悪いとはどのあたりだ?」
「だって、以前のマスターたちは魔術師のルールを破るような奴らだったんだろ?
 なら、仮に聖杯があるとして、最後まで勝ち残ったヤツが、聖杯を私利私欲で使うようなヤツだったらどうする。
 平気で人を殺すようなヤツにそんなモノが渡ったらまずいだろう?
 魔術師を監視するのが協会の仕事なら、アンタはそういうヤツを罰するべきじゃないのか?」
 衛宮は、おそらく期待を込めて聞いたのだろう。
 しかし、言峰は慇懃な仕草でおかしそうに笑って言った。
「まさか。私利私欲で動かぬ魔術師などおるまい。
 我々が管理するのは聖杯戦争の決まりだけだ。
 その後の事など知らん。
 どのような人格が聖杯を手に入れようが、協会は関与しない」
「そんなバカな……!
 じゃあ、聖杯を手に入れたマスターが最悪なヤツだったらどうするんだよ!」
 例えば言峰や臓硯が手に入れた場合はそれに当たるだろうなぁ。
「困るな。だが私たちではどうしようもない。
 持ち主を選ぶのは聖杯だ。
 そして聖杯に選ばれたマスターを止める力など私たちにはない。
 何しろ望みを叶える杯だ。
 手に入れた者はやりたい放題だろうさ」
 実際は『何でも望みを叶えることが可能なくらいの莫大な魔力を手に入れる』だが、大差はない。
「――――しかし、それが嫌だというのならお前が勝ち残ればいい。
 他人を当てにするよりは、その方が何よりも確実だろう?」
 言峰は笑いをかみ殺している。
「どうした少年。今のはいいアイデアだと思うのだが、参考にする気はないのかな?」
「……そんなの余計なお世話だ。
 さっきも言ったが、聖杯なんて物に興味はない」
「ほう。では、聖杯を手に入れた人間が何をするか、それによって災厄が起きたとしても興味はないのだな」
「それは――――」
 衛宮はその言葉には反論できなかった。
「理由がないのならばそれも結構。
 ならば、十年前の出来事にお前は関心を持たないのだな?」
「……あの大火災の原因が聖杯戦争だって事だろ?
 それなら慎二に聞いた」
 衛宮は、多少は動揺しただろうが、表情に出さずに答えた。
「そうだ。前回の聖杯戦争の最後にな、相応しくないマスターが聖杯に触れた。
 そのマスターが何を望んでいたかは知らん。
 我々に分かるのは、その時に残された災害の爪痕だけだ」
 ん? 火災を引き起こしたのは言峰だろ。
 どういう詭弁を言えば、そういうことになるんだ?
 まさか、言峰が火災を起こした後、切嗣が聖杯を破壊させたことを「聖杯に触れた」と表現しているのか?
「慎二の言ったとおりだったのか……」
「そのとおりだ。死傷者五百名、焼け落ちた建物は実に百三十四棟。
 未だ以って原因不明とされるあの火災こそが、聖杯戦争による爪痕だ」
 それを聞いた衛宮は、今度は顔色が少し悪くなったが、何とか自力で立ち直った。
「それはもういい。
 アンタ、聖杯戦争は今回が五回目だって言ったよな。
 なら、今まで聖杯を手に入れたヤツはいるのか?」
「当然だろう。そう毎回全滅などという憂き目は起きん」
「じゃあ――――」
「早まるな。
 手に入れるだけならば簡単だ。
 なにしろ聖杯自体はこの教会で管理している。
 手に取るだけならば私は毎日触れているぞ」
「え――――?」
 その言葉に衛宮は驚愕した。
 しかし、これってどういう意味があるんだろう?
 以前聖杯の器としてつかったもの、あるいはその一部を保管している、ということなのか?
「もっとも、それは器だけだ。
 中身が空なのだよ。先ほど凛が言っただろう、聖杯は霊体だと。
 この教会に保管してあるのは、極めて精巧に作られた聖杯のレプリカだ。
 これを触媒にして本物の聖杯を降霊させ、願いを叶える杯にする。
 そうだな、マスターとサーヴァントの関係に近いか。
 ……ああ。そうやって一時的に本物になった聖杯を手にした男は、確かにいた」
 前回の聖杯戦争の聖杯、そして衛宮切嗣のことだな。
「じゃあ聖杯は本物だったんだな。
 いや、手にしたっていうそいつは一体どうなったんだ?」
「どうにもならん。その聖杯は完成には至らなかった。
 馬鹿な男が、つまらぬ感傷に流された結果だよ」
 言峰はいきなり態度を変え、悔いるように視線を細めている。
「……どういう事だ? 聖杯は現れたんじゃないのか?」
「聖杯を現すだけならば簡単だ。
 七人のサーヴァントが揃い、時間が経てば聖杯は現れる。
 凛の言う通り、確かに他のマスターを殺める必要などないのだ。
 だが、それでは聖杯は完成しない。
 アレは自らを得るに相応しい持ち主を選ぶ。
 故に、戦いを回避した男には、聖杯など手に入らなかった」
 もっともらしいことを言峰は言ったが、すでに裏事情を知っている俺たちには通用しない。
「ふん。ようするに、他のマスターと決着を付けずに聖杯を手に入れても無意味って事でしょ。
 前回、一番始めに聖杯を手に入れたマスターは甘ちゃんだったのよ。
 敵のマスターとは戦いたくない、なんて言って聖杯から逃げたんだから」
 遠坂は吐き捨ているように言って、言峰から視線を逸らせた。
「――――うそ」
 衛宮は、言峰がマスターの一人だったことなどの驚愕の事実に驚きを隠せなかった。
「……言峰。あんた、戦わなかったのか?」
「途中までは戦いはした。だが判断を間違えた。
 結果として私はカラの聖杯を手にしただけだ。
 もっとも、私ではそれが限界だったろう。
 なにしろ他のマスターたちはどいつもこいつも化け物揃いだったからな。
 わたしは真っ先にサーヴァントを失い、そのまま父に保護されたよ」
 相変わらずの大嘘だ。どういう詭弁を使えば、ギルガメッシュを失ったと表現できるんだ?
 いや、まて。もしかして本当にサーヴァントを失っていたのか?
 そういや、いの一番に切嗣に狙われ、マスターを放棄した後に撃たれたが一命を取りとめたとか言っていたな。
 で、その後言峰の父親に保護されていたが、偶然か陰謀か(十中八九陰謀だろうが)マスターを失いはぐれサーヴァントとなったギルガメッシュと再契約したとか。
 監督役の息子という立場があれば、言峰ならそれくらい容易くやってみせるだろう。
 いや、切嗣はマスターを殺すことを優先したらしいから、間違いなくはぐれサーヴァントは発生していただろう。
 無論、マスターを殺した後、サーヴァントを殺そうとしただろうが、中には逃げることに成功したサーヴァントもいるだろう。
 それが、単独行動のスキルを持つアーチャーである可能性も高いと言えよう。
 なるほど、この推測が正しければ嘘は言っていないな。
「……思えば、監督役の息子がマスターに選ばれることなど、その時点であってはならぬ事だったのだ。
 父はその折に亡くなった。
 以後、私は監督役を引き継ぎ、この教会で聖杯を守っている」
 そう言って、言峰は背中を向けた。
「話はここまでだ。
 聖杯を手にする資格がある者はサーヴァントを従えたマスターのみ。
 君たち七人が最後の一人となった時、聖杯は自ずと勝者の下に現れよう。
 その戦い――――聖杯戦争に参加するかの意思をここで決めよ」
 高みから見下ろして、言峰は決断を問う。
 しかし、その問いは今更だ。
 衛宮は同じ俺の問いに対し、すでに答えを出している。
「――――俺は聖杯戦争に参加する。
 慎二の言葉に嘘がないと分かった以上、俺が戦わない理由はない」
 衛宮の答えが気に入ったのか、言峰は満足そうに笑みを浮かべる。
「それでは君をセイバーのマスターと認めよう。
 この瞬間に今回の聖杯戦争は受理された。
 ――――これよりマスターが残り一人になるまで、この街における魔術戦を許可する。
 各々が自身の誇りに従い、存分に競い合え」
 重苦しく、言峰の言葉が礼拝堂に響いた。
「決まりね。それじゃ帰るけど、私も一つぐらい質問していい、綺礼?」
 遠坂は皮肉気に笑って言った。
「構わんよ。これが最後かもしれんのだ、大抵の疑問には答えよう」
「それじゃ遠慮なく。
 綺礼、あんた見届け役なんだから、他のマスターの情報ぐらい知ってるんでしょ。
 こっちは協会のルールに従ってあげたんだから、それぐらい教えなさい」
 え~と、もしかしてここで言峰にばらされるとものすごくやばいか?
 まあ、そうなったら、さっさとメディアに二人を捕らえてもらえば良いか。
 しかし、幸いにも言峰は俺たちのことは話さなかった。
「それは困ったな。教えてやりたいのは山々だが、私も詳しくは知らんのだ。
 衛宮士郎も含め、今回は正規の魔術師が少ない。
 私が知りうるマスターは二人だけだ。
 衛宮士郎を加えれば三人か」
 後は遠坂凛とイリヤか?
 いや、この場合、言峰本人を指しているのかも。
 俺と桜は言峰に届け出たわけではないからな。
 言峰が知っている人数にはカウントされなかったようだ。
「あ、そう。なら呼び出された順番なら分かるでしょう。
 仮にも監視役なんだから」
「……ふむ、一番手はバーサーカー。
 二番手はライダー。
 三番手はキャスターとアサシンがほぼ同時期に。
 次にランサー。そして先日、アーチャーとセイバーが呼び出された」
「――――そう。それじゃこれで」
「正式に聖杯戦争が開始されたという事だ。
 凛。聖杯戦争が終わるまで、この教会に足を運ぶことは許されない。
 許されるとしたら、それは」
「自分のサーヴァントを失って保護を願う場合のみ、でしょ。
 それ以外にアンタを頼ったら減点ってことね」
 遠坂は皮肉な笑みとともに言った。
 しかし、本当に言峰に保護を願ったらよくてオリジナル慎二のように利用され、下手すれば抹殺されるのは簡単に予想できるな。
「そうだ。おそらくは君が勝者になるだろうが、減点が付いては教会が黙っていない。
 連中はつまらない論議の末、君から聖杯を奪い取るだろう。
 私としては最悪の展開だ」
「エセ神父。教会の人間が魔術協会の肩を持つのね」
「私は神に仕える身だ。教会に仕えている訳ではない」
「よく言うわ。だからエセなのよ、アンタは」
 そうして、遠坂は言峰に背を向ける。
 しかし、今はまだ早い。
 ちょっと前にチェックしたときも、イリヤはまだ冬木市から遠い場所にいた。
 ……イリヤが、一人でメルセデスを運転していたときには目を疑ったが……。
 それはともかく、このままだとバーサーカーと戦闘になるのは遠坂と分かれた後になりかねない。
 それでは、衛宮と遠坂が同盟を結ばない。それは面倒だ。
 ベストは、バーサーカーと墓場の近くで戦闘。
 それが無理なら後はどこで戦っても同じだ。
 しかし、遠坂と分かれた後にイリヤと会うことだけはしてはいけない。
 それだと遠坂とは決定的に敵対する道しか残らない。
 最終的には対立するとしても、できる限り対立しない方向で進めないと、何より桜から怒られてしまう。
「ちょっと待てよ、遠坂。
 俺はまだ言峰神父に聞きたいことがあるんだ。
 もうちょっとくらい、時間を使ってくれても良いだろ?」
 俺の言葉に、振り向かないままで遠坂は答えた。
「何よ、アンタ聖杯戦争には参加しないんでしょ?
 それが何をそいつに聞きたいって言うのよ」
「まあ、色々と。おそらくは遠坂にとっても興味深い内容のはずだぜ?
 それに、遠坂にとって本当にくだらない内容なら、それが分かった時点でさっさと帰れば良いだろう?
 ただし、間違いなく後で後悔することになるとは思うけどな」
 これは思いっきり俺の本音。
 この話で騙そうとか、遠坂を利用しようとかはまるっきり考えていない。
 それが伝わったのか、遠坂は俺の方に振り返った。
「良いわよ。さっさとアンタの質問とやらを言ってみなさい」
「ああ、そういうわけなんだが、俺から質問してもいいか?」
 俺の質問に対し、言峰は静かに頷いた。
「構わんよ。教会はいかなる者に対しても門を開いている。
 私が知ることであれば答えよう」
 そう言った後、言峰は俺をじろっと見下ろした。
「しかし、お前たちは何のためにここに来たのだ?
 まさか、本当に私に質問があるだけなのか?」
 ふん、ランサーの視覚を通じて俺たちがマスターであることなど分かっているだろうに、言峰の奴はしらばっくれて俺たちに質問してきた。
 当然、俺の回答も白々しいものになった。
「ああ、俺たちは衛宮のつきそいだ。
 俺は聖杯には興味ないし、サーヴァントも呼び出せなかったんでね」
 桜と弓塚は言峰の迫力に飲まれたらしく、何も答えられなかった。
「ほう、マキリの末裔も衰えたものだな」
「うるさいな。そんなことは俺が一番よく分かっている」
「そうか、それは悪いことを言ったな。
 では、お前たちは聖杯戦争には関わらないのだな?」
「いや、聖杯には興味はないが、現代に呼び出された英雄であるサーヴァントには興味がある。
 可能性は低いが、はぐれサーヴァントと出会い、そいつが聖杯を求めず、聖杯戦争後も俺との契約を続けて現界してくれるなんて奇特なサーヴァントがいれば、ぜひ契約したいな」
 俺のこの発言に、桜、遠坂、衛宮はあからさまに呆れた顔をして、ついでにメディアからも呆れたような感情が伝わってきた。
 遠坂は俺の発言が実現する可能性があまりに低いことに、それ以外のメンバーは白々しすぎる俺の発言に呆れたのだろうが、遠坂はそれには気づいていないようだ。
「慎二、あんた正気?
 サーヴァントは元々聖杯を求めて召喚に答えるのよ。
 それだけじゃないわ。
 あんたはろくに魔力を持っていない魔術師見習いじゃない。
 そんなのをマスターに選ぶサーヴァントなんているわけないじゃない。
 少なくとも、私ならあんたをマスターに選ぶくらいなら、潔く消滅するわ」
 す、好き放題、思いっきり言いやがったな。
 この遠坂の発言には、桜、弓塚、衛宮も苦笑している。
『こら、メディアも笑ってるんじゃない。
 間接的にはお前も馬鹿にされてるだろうが』
『いえ、慎二だけを笑ったんじゃありませんよ。
 一理はありますけど、凛の『肝心なところでポカミスをする』というのは、こういう発想の固さにも健在なのだと思い知らされまして、つい……」
 『だけ』とか『一理はある』とかは気に食わないが、まあメディアの言うとおりではある。
「だいたい、あんた令呪持ってないじゃない。
 確かに仮にも魔術師なら、サーヴァントとレイラインを通すことは不可能じゃないでしょうけど、令呪なしでサーヴァントが従うわけ無いわ。
 ましてやあんたじゃ、さっさと逆に支配されて操り人形よ」
 くっ、どこまでも口の減らないヤツだ。
 しかし、考えが甘い。
 確かに俺がキャスターを支配下に置こうとすれば、そういう目に会う可能性は高かっただろう。
 しかし俺は、対等なパートナー、そして目上の存在である魔術師の師匠としてメディアを扱うことで、その問題を無事にクリアしたのだ。
 確かに俺は、この世界線の暫定的な未来と知識、それに桜とメデューサという協力者がいて、さらに心身ともに最も弱ったところでメディアを助けるという、俺にとって最高の状況ではぐれサーヴァントと出会ったが……、あ~、ここまでお膳立てされれば、失敗するほうがおかしいか?
 いや、一応メディアの説得は俺一人でやったんだから、まぁ、その辺ぐらいは自慢したいところだなぁ。
「確かに遠坂の言うとおりか。
 その辺は、出会うサーヴァントが変わり者であることを祈るだけさ」
 すでにその希望は叶っているけどな。
 それを聞いた遠坂は、呆れたような目つきで俺を見た。
「ふん、確かにあんたが身の程知らずな妄想を持つのは自由よね。
 せいぜい、叶いもしない妄想を大切に持ってなさい」
 そう言って、遠坂は俺を馬鹿にした。
 ふん、真実を知って痛い目を見るのはそっちだぞ。
「え~と、脇道に逸れたが、話を戻すぞ。
 俺が聞きたいのは、前回の聖杯戦争の詳細についてだ。
 まずは、アンタは前回の聖杯戦争でどのクラスのサーヴァントを呼んだんだ?」
「キャスターだ。
 そして、先程話したように私はすぐにサーヴァントを失い、父に保護された」
 なるほど、この答えが嘘を言っていなければ俺の推測は当たっていたわけか。
「じゃあ、次だ。
 あんたは、父親に保護された後、はぐれサーヴァントと再契約しなかったか?
 したとすれば、どのクラスのサーヴァントと再契約したんだ?」
 それを聞いた言峰は、俺を見下ろしてきた。
「なぜそのようなことを聞く?」
「ふん、俺も一応聖杯戦争御三家の一員だからな。
 サーヴァントを失ったマスターとマスターを失ったサーヴァントが再契約できることぐらい知っている。
 さっき遠坂が言ったように、例え令呪を失っていたとしても、魔術師ならサーヴァントとレイラインを通すことも可能だしな。
 もしかしたら、と思っただけだ」
「そっか、確かに可能性はあるわね。
 で、綺礼。あなたはどうしたの?」
 遠坂はその可能性を全く考えていなかったらしく、俺の質問に興味を持ったようだ。
「ふむ、聞かれたならば答えねばなるまいな。
 確かに私ははぐれサーヴァントと再契約をした。
 その者のクラスはアーチャーだ」
 おお、あっさりと白状した。
 その言葉には、遠坂も驚いている。
「そっか、じゃ、そいつの真名は?」
「なぜそんなことを聞く?」
「いや、うちの記録にも前回の聖杯戦争におけるアーチャーの真名は記録されていなかったんでね。
 後学のために聞きたいと思っただけだ。」
 例によって白々しい俺の言葉に対しても、言峰はきちんと答えてきた。
「ふむ、そうか。では、教えよう。
 私が召喚したアーチャーのサーヴァントの真名はギルガメッシュという」
「ギルガメッシュですって!! まさか、あの人類最古の英雄王?」
「そうだ」
 まさか、ここまで話すとは思わなかったな。
 詭弁で言い逃れできないように追い詰めて質問すれば、正直に白状するというわけか。
 よし、この調子でどんどん聞いてみるぞ。
「じゃあ、さっきのあんたの話だとアンタは誰も倒せなかったように聞こえたが、ギルガメッシュと組んだ後、アンタは本当に誰も倒せなかったのか?」
「前回の聖杯戦争に参加したものたちは、どいつもこいつも化け物ぞろいだと言ったはずだが?」
 顔色一つ変えず、言峰は言い返してきた。
 しかし、事情をある程度知っている俺にそんなものは通用しない。
「ああ、そう言っていたな。
 だが、化け物ぞろいだと言っても、倒せないわけじゃないだろ?
 おまけにあんたのサーヴァントはギルガメッシュだ。
 詳しい能力は知らんが、かなり強そうだからな。
 最低でも一組ぐらいは倒したんじゃないか?」
「その通りだ。私とアーチャーは二組倒した。
 一組は私がマスターを殺し、もう一組はアーチャーがサーヴァントを倒した。
 もっとも、そのサーヴァントのマスターは他のヤツに殺されたから、正確には一組半というべきかな?」
 え~と、聖杯戦争は7組参加するわけだから、言峰が2組(一人のマスター除く)を倒して、切嗣が5組(言峰ともう一人のマスターを含む)を倒したわけか。
「えっ、それホント!?」
「そうだったのか!?」
 それを聞いて、遠坂と衛宮は同時に驚愕の声を上げた。
 が、俺と言峰はそれを無視して話を続けた。
「アンタたちが倒した二組のサーヴァントとマスターの名前は?」
「そこまで詳しく聞いてどうする。
 今更昔話など聞いても、意味はあるまい?
 それにお前はとうに知っているのではないか?」
「言ったろ。俺の知る聖杯戦争の記録は完全じゃない。
 完全にするために当事者に聞きたいだけだ」
「いいだろう。アーチャーが倒したのは、征服王イスカンダルだ。
 クラスは知らん。
 おそらくは、ランサーかライダーだとは思うがな」
 おや、残念。言峰もイスカンダルのクラスを知らなかったのか。
 しかし、それだけで収まらなかったのは遠坂だった。
「ちょっと待ちなさい!!
 イスカンダルって、アレキサンダーのことでしょ。
 アレキサンダー対ギルガメッシュって、本当にそんなとんでもない戦いがあったの?」
 悲鳴に近い遠坂の言葉に、言峰は淡々と答えた。
「ああ、そうだ。
 イスカンダルも強かったが、直前に他のサーヴァントと戦って疲労していてな。
 おかげで、ギルガメッシュが勝つことが出来た」
 ふ~ん、やっぱりその辺の歴史は俺の知るFateと同じなんだな。
「イスカンダルを消耗させた奴って誰よ。
 ……やっぱり、最優と言われているセイバー?」
「その通りだ。イスカンダルと引き分けたのはセイバーだ。
 そのセイバーの真名はアーサー王という。
 凛も知っているだろう?」
「知ってるどころじゃないわよ。何よそれ。
 ギルガメッシュにアレキサンダーに、アーサー王。
 世界に伝わる伝説でも知名度と強さでトップクラスの連中じゃない!!」
 あ~あ、セイバーことアーサー王まで呼ばれたことがばれてちまった。
 まっ、いいか。話したのは俺じゃなくて言峰だからな。
 セイバーがこのことを知っても俺に責任はない。
 ちなみに、アーサー王の名を聞いた衛宮はしっかりと動揺しているが、遠坂はそれに気づいていないようだ。
「落ち着け、凛。
 これは前回の聖杯戦争の話だ。
 今更お前が怒ることではあるまい?」
「うっ、それはそうだけど。……確かにその通りね。
 今更羨ましがっても仕方ないわ。
 私はもうサーヴァントを呼び出したんだし、アイツと一緒に戦うしか道はないんだから」
「その通りだ。さて、質問はこれで終わりか?」
 さりげなく、話を終わらせようとする言峰を当然ながら俺は許さなかった。
「ちょっとまて、話はまだ終わっていないぞ。
 一つは、あんたが倒したと言うマスターの話。
 もう一つは、アンタとアーチャーのその後についてだ」
「ああ、そうだったな。
 その後の決着はすぐに着いた。
 セイバーとアーチャーが戦ったが、決着が付く前に私がセイバーのマスターに倒されてしまった。
 それにより、聖杯戦争の勝者はセイバーのマスターとなり、聖杯戦争は終わった」
「ふ~ん、ギルガメッシュなんて大物呼んでおいて、結局勝てなかったんだ」
 遠坂はさっきの動揺の跡は欠片も見せずに、言峰を皮肉った。
「その通りだ。残念ながら、聖杯は私の器には大きすぎたのだろうよ」
 言峰はその言葉をいつもあっさりと受け流した。
 遠坂は、自分の皮肉が通じなかったため、ちょっとムカついているようだ。
「で、アンタが倒したもう一組っては誰なんだ?」
 ここまで来ても、ひたすらさりげなく話題を逸らそうとする言峰に対して、俺は逃げようのない質問を叩きつけた。
「すまんな、それを言い忘れていた。
 私自身が倒したのは遠坂時臣、ただ一人だ」
「綺礼、あんた!!」
「凛、いったい何を怒る?
 魔術師たるもの敵対すれば親兄弟であろうとも、容赦しないものだ。
 例え師であろうとも、それから外れるはずがなかろう?」
「…………そう。殺したのは、アンタだったんだ」
 言峰の言葉に激昂したのも一瞬、次の瞬間には冷静に遠坂は問いただした。
 一方、桜はショックが大きすぎて、言葉が出ないようだった。
 しまった! このことを桜に教えるのを忘れていた。
「当然だろう。恩師であったからな。
 騙し討ちは容易かった」
「………………」
 遠坂は、顔を伏せ何も言わなかった。
 そして、遠坂は言峰に背を向ける。
 あとはそのまま、ズカズカと出口へと歩き出した。
「お、おい、遠坂……」
 衛宮も、遠坂の父親が言峰に殺されたことを知って、衝撃を隠せない様子だった。
「何してるよ。貴方達もさっさと外に出なさい。
 もうこの教会には用はないから」
 遠坂は感情を殺した声で言うと、そのまま礼拝堂を横切って出て行った。
 さて、これで遠坂は言峰が父であり師でもあった時臣の敵だと知ったわけだ。
 これで、言峰に対し油断することだけはありえないだろう。
 衛宮は慌てて後に続いたが、いきなり背後に来た言峰の気配に気づき、振り返った。
 言峰は、何を言うのでもなく、衛宮を見下ろしていた。
「何だよ。まだ何かあるっていうのか?」
 衛宮はそれほど動揺することなく言った。
 そろそろ言峰のプレッシャーにも慣れてきたらしい。
 まあ、橙子やら式やらで強烈なプレッシャーを発する人とはそれなりに付き合ってるからな。
 慣れてしまえば、どうということはなかろう。
「話がないみたいだな。俺は帰る」
 衛宮はそう言うと出口へ向かった。
 その途中、
「――――喜べ少年。君の願いは、ようやく叶う」
 そう、神託を下すように言峰は言った。
「――――なにを、いきなり」
「判っていた筈だ。明確な悪がいなければ君の望みは叶わない。
 例えそれが君にとって容認しえぬモノであろうと、正義の味方には倒すべき悪が必要だ」
「そんなことは判っている」
 言峰の言葉に対して、衛宮は即座に言い返した。
「なに?」
「ああ、そのことなら俺が衛宮にちゃんと話してある。
 衛宮を動揺させようとしても無駄だ」
 衛宮の答えが予想外だったらしい言峰に、親切にも俺が解説してやった。
 まあ、人によってはいやがらせをしている、と言うかもしれんが、俺の知ったこっちゃない。
「そうか。ならば私から言うことはない。
 さらばだ、衛宮士郎。
 最後の忠告になるが、帰り道には気をつけたまえ。
 これより、君の世界は一変する。
 君は殺し、殺される側の人間になった。
 その身は既にマスターなのだからな」
 その言葉を聞きながら、衛宮は教会から出た。
 俺たちも衛宮に続いて外に出た。
 桜はぼうっと立ったままだったため、俺は抱きかかえるようにして外に連れ出した。
 と、出た瞬間、メディアからライン経由で話しかけられた。
『慎二、ここで綺礼を殺さないでいいのですか?』
『それは前にも話しただろう?
 魔力を供給する言峰を殺すことで、ギルガメッシュを本気、かつ無差別に人を襲う状態にさせたくない。
 言峰を殺すのは、ギルガメッシュの後だ』
『……それは分かっています。
 ですが、直接会ってみると、言い様のない嫌悪感に駆られまして』
『ああ、あいつは間違いなくトップクラスに危険な存在だ。
 俺も油断するつもりはない。常に監視しておかないとな。
 殺すよりも、生かしておく事のデメリットが大きくなれば、そのときは即座に殺していい』
『……分かりました。綺礼に対しては、常に監視をしておきましょう』
『そうそう、孤児たちがいる地下牢獄に言峰が入ろうとしたら邪魔してくれ。
 どうせ、孤児たちに止めを刺して証拠隠滅を図るだろうからな。
 おお、そうだ。ついでに、影を使って言峰コレクションを奪っといてくれ。
 確か、アーチャーの腕を封印した聖骸布があったはずだ』
 他にも何かあるかもしれないしな。
 うん、メディアの研究にでも使ってもらうことにしよう。
『了解しました。
 それで、邪魔をするとは、力づく、ということですか?』
『最悪はそれだな。
 まあ、この時点でギルガメッシュを使う可能性は低いだろうし、言峰には『今後は私のエネルギー源に使う』とでも言えば納得するんじゃないか?』
 言峰相手なら嘘もついても詐欺もしても全く心が痛まない。
『そうですね。わかりました、そのように対処しましょう』
 メディアも納得してくれた時、俺は遠坂、セイバー、衛宮が立っているところに着いた。
「行きましょう。町に戻るまでは一緒でしょ、私たち」
 言うだけ言って、さっさと歩き出す遠坂。
 その後に続いて、俺たちも教会を後にした。

 皆で坂を下りていく。
 聖杯戦争が始まった以上、衛宮と遠坂はお互い了承した敵同士だ。
 それゆえに、遠坂も衛宮も何も話さなかったが、俺、桜、弓塚は(一応)部外者ということになっている。
 桜はさっきなら何か言いたそうな態度を見せるが、
 そこで、俺は桜が言いたいことを変わって聞いてみた。
「なあ、遠坂。さっき、言峰が言っていたことなんだけど……」
「ええ、あいつの言うことに間違いなさそうね。
 うかつだったわ。今までアイツに聖杯戦争の詳細を聞いていなかったなんてね」
「姉さん、それじゃ、やっぱり……」
「あなたの考えている通りよ、桜。
 私たちの父であり、私の師でもあった遠坂時臣は言峰綺礼に殺された、そういうことよ」
「そ、そんな」
 遠坂の非情な台詞に、桜はかなり動揺していた。
 衛宮も弓塚も、そんな二人を気遣ってか何も言わなかった。
 しかし、事情を知らないセイバーは小声で衛宮に尋ねてきた。
「一体教会で何を話したのですか?」
「ああ、教会の神父の言峰綺礼って奴が、前回の聖杯戦争でアーチャー、ギルガメッシュのマスターで、おまけに桜と遠坂の父親を殺したって聞いたんだ」
「なっ!? ギルガメッシュ!!」
 セイバーは驚きの余り、声が大きくなり、それを聞いた遠坂はセイバーを振り返って言った。
「そうよ。あいつは、よりにもよって英雄王ギルガメッシュを自分のサーヴァントにし、征服王イスカンダルを倒し、さらに自らの手で遠坂時臣を殺した。
 ただ、最後の最後に騎士王アーサーとそのマスターに敗れたらしいわ。
 全く、アイツも聖杯戦争に参加したのに、父を殺した可能性を全く考えていなかったなんて、私もドジよね」
 自嘲気味に笑う遠坂に対して、「そりゃ、遠坂家の遺伝的呪いだからな」なんて言える雰囲気ではなかったので、俺は心の中で言うに留めた。
 ちなみに、セイバーは『アーサー』の名が出た時びくっと反応したが、次の瞬間普段の表情に戻った。
 うん、さすがは元王様、ポーカーフェースも中々のものだ。
 桜も幼い頃の記憶の父親を思い出しているのか、黙り込んでしまった。
 衛宮はもう動揺が治まったのか、特に反応しなかった。
「……あの、遠坂。部外者の俺が言っていいことじゃないかもしれないが、……言峰は罰せられないのか?
 事情は詳しくは知らないけど、仮にも自分の師匠を殺したんだろ?」
「無理ね。あいつも言っていたように、聖杯戦争に参戦したものは親兄弟、師匠であろうと関係ない。
 自分以外は全て敵。そういうルールだと分かっていて参加した以上、全ての責任は自分に帰す。
 これが聖杯戦争中じゃなければ、『師匠殺し』のことで少しは罰することはできるけどね」
 遠坂は感情を現さず、魔術師らしく冷静に言い切った。
 とはいえ、おそらくは心の中では激情が渦巻いているんだろうなぁ。
 桜もそれを聞いて悲しそうではあるが、何も言わなかった。
 俺もなぁ、何か言うべきなんだろうけど、今まで桜に言うのを忘れていた身だし、ここで話すと遠坂や衛宮に余計なことをばらしかねないので黙っていた。

 衛宮も対照的な姉妹の反応を見て、この件について話すことを諦め、別の話題を話し始めた。
「遠坂。お前のサーヴァント、大丈夫なのか?」
「え……? あ、うん。アーチャーなら無事よ。
 ……ま、貴方のセイバーにやられたダメージは簡単に消えそうにないから、しばらく実体化はさせられないだろうけど」
「じゃあ側にはいないのか?」
「ええ、私の家で匿ってる状態。
 今他のサーヴァントに襲われたら不利だから、傷が治るまでは有利な場所で敵に備えさせてるの」
「そういえば遠坂。
 さっきの言峰神父が聖杯戦争の監督役らしいけど、アイツ、お前のサーヴァントを知ってるのか?」
「知らない筈よ。わたし、教えてないもの」
「そうなのか。まあ、父親の敵なら当然だけど、おまえとアイツ、それなりに仲がいいからそうだと思ってたけど」
「……あのね衛宮君。忠告しておくけど、自分のサーヴァントの正体は誰にも教えちゃ駄目よ。
 例え信用できる相手でも黙っておきなさい。
 そうでないと早々に消えることになるから」 
 はっはっは、本来ならその台詞は正論なのだが、この世界の暫定的な未来を知っている俺の存在が、その言葉の意味をほとんど失わせているぞ。
「……? セイバーの正体って、名前のことか?」
「そうよ、サーヴァントが何処の英雄かって言う事よ。
 いくら強いからって戦力を明かしてちゃ、いつか寝首をかかれるに決まっているでしょ。
 ……いいから、後でセイバーから真名を教えてもらいなさい
 そうすれば、私の言ってる事が分かる……けど、ちょっとたんま。
 衛宮君はアレだから、いっそ教えてもらわない方がいいわね。
 って、何よその顔は!
 もしかして、もう聞いちゃったの?」
 あ~あ、衛宮のヤツ、表情に思いっきり出ていやがる。
 これじゃ、遠坂が気づくのは当然だな。
「ああ、実はすでに聞いてる。
 でも、なんでそんなこと言うのさ?」
「だって、衛宮君、隠し事できないもの。
 なら知らないほうが秘密にできるじゃない。
 もっとも、いまさら言っても意味はなかったみたいだけどね」
「……あのな、人を何だと思ってるんだ。
 それぐらいの駆け引きはできるぞ、俺」
「そう? じゃあ、セイバーの真名以外で私に隠している事とかある?」
「え……遠坂に隠している事って、それは」
 そう口にした衛宮は動揺して、ぼっと顔が熱くなった。
 まあ、動揺して当然だよなあ。
 封印指定の師匠やら、聖杯戦争の裏側やら、俺と桜がマスターであることやら、アルクェイドのことやら、隠し事にはことかかない。
「ほら見なさい。何を隠しているか知らないけど、動揺が顔に出るようじゃ向いてないわ。
 貴方は他にいいところがあるんだから、駆け引きなんか考えるのは止めなさい」
「そうです。先輩には駆け引きなんか向いてません。
 先輩は先輩らしくしてください」
 それまで黙っていた桜まで遠坂の意見に賛成し、衛宮はかなり怯んだ。
「……むむむむむ。それじゃ、遠坂はどうなんだよ。
 父親の敵だと知る前でもあの神父にも黙っていたって事は、アイツを信用していなかったって事か?」
「綺礼? そうよ。そのことを知るまでだって、私、アイツを信用するほどおめでたくないわ。
 アイツはね、教会から魔術協会に鞍替えしたくせに、まだ教会に在籍している食わせ者なのよ。
 人の情報を他のマスターに売るぐらい、いえ10年前に師匠を殺しているぐらいだから、自分にとって都合の悪いマスターを不意打ちで殺すぐらいはやりかねないわ」
 大正解。言峰の正体を知ったせいか、より正確な予想をしてくるな。
 まあ、バゼットは死ぬ寸前にメディア達によって助け出されているんだがな。
 もっとも、言峰はさらにその斜め上、前回の聖杯戦争のサーヴァントを10年限界し続けたうえ、ランサーを奪っている状態なんだけど、これは予想しろというほうが無理だろうな
 ふんだ、と忌々しげに言い捨てる遠坂。
 当然ながら、遠坂は欠片もあの神父を信用するつもりはないようだ。

 ――――そうして橋を渡る。
 全員会話もなく、黙って歩く中、誰も言葉を発しなかった。
 もちろん、俺とメディアはこちらに近づくイリヤとバーサーカーの姿を確認しようとしたところ、かなり微妙な距離だった。
 このままだと、イリヤが襲撃をかけて来たときが、遠坂と別れる後になる可能性が高い。
 となると、
『セイバーとバーサーカーが戦闘に入った後、セイバーの味方をしてセイバー、イリヤ、衛宮を傷つけないという条件で、ランサーに戦闘許可を出そうと思うがどうだ?』
『……ずいぶんいきなりですね。ですが、提案自体の内容は妥当かと。
 いまさら言うまでもありませんが、ランサーの望みは英雄らしい戦いをすること。
 当然、バーサーカーと戦いたがるでしょうが、一応確認してみます』
 メディアからの回答を待つこと数秒後、
『予想通り、二つ返事でOKでした。
 あと、私とライダーは参戦しなくてよろしいのですか?』
『ああ、二人の存在はできるだけ隠したい。
 何が原因で、マスターが俺と桜だとばれるかわからないからな。
 そういうわけで、俺たちの誰かの生命に危険がない限り、キャスターとライダーの参戦はなしっていう考えなんだが、桜はそれでいいか?』
 ラインを通じて話を聞いていた桜やライダーからも文句もなく、こうして俺たちの戦闘方針が決まった。

 ついに、あの交差点に着いた。
「ここでお別れね。義理は果たしたし、これ以上一緒にいると何かと面倒でしょ。
 きっぱり分かれて、明日からは敵同士にならないと」
 遠坂は何の前置きもなく喋りだして、唐突に話を切った。
「……む?」
 その言葉を聞いて衛宮は不思議そうな顔になった。
 俺はいまさらだったし、事情をある程度知っている桜に弓塚は何か言いたそうではあったが、結局何も言わなかった。
「なんだ。遠坂っていいヤツなんだな」
「は? 何よ突然。おだてたって手は抜かないわよ」
「知ってる。けど出来れば敵同士にはなりたくない。
 俺、お前みたいなヤツは好きだ」
 その衛宮の言葉の効果は劇的だった。
 遠坂は黙り込んでしまい、桜は思いっきり膨れている。
 が、さすがは朴念仁というべきか。衛宮はそんな桜の表情に全く気づいていない。
「と、とにかく、サーヴァントがやられたら迷わずさっきの教会に逃げ込みなさいよ。
 そうすれば命だけは助かるんだから」
 照れ隠しで遠坂は言ったので、俺は当然ながら突っ込んだ。
「遠坂、あのさあ、さっきの神父は不意打ちでお前の父親を殺してるんだろ?
 そんなヤツのところに逃げ込んでも、助けてくれる保証はない、っていうか、殺されそうな気がするのは気のせいか?」
「うっ、確かにそうね。じゃあ、せめて聖杯戦争が終わるまでこの街から逃げてなさい。
 聖杯戦争が終わってしまえば、狙う人もいなくなるわ」
「それは気が引けるけど、一応聞いておく。
 けどそんな事にはならないだろ。
 どう考えてもセイバーより俺の方が短命だ」
 衛宮は冷静に答えた。
「――――ふう」
 それを聞いた遠坂は、呆れた風にため息をこぼした後、ちらり、とセイバーを流し見た。
「いいわ、これ以上の忠告は本当に感情移入になっちゃうから言わない。
 せいぜい気をつけなさい。いくらセイバーが優れているからって、マスターである貴方がやられちゃったらそれまでなんだから」
 くるり、と背を向けて歩き出す遠坂。
「――――」
 だが。
 幽霊でも見たかのような唐突さで、遠坂の足はピタリと止まった。
「遠坂?」
 そう衛宮が声をかけたとき、俺の左手がズキリと痛んだ。

「――――ねえ、お話は終わり?」
 幼い声が夜に響く。
 歌うようなそれは、紛れもなく少女の物だ。
 全員の視線が坂の上に引き寄せられる。
 空には煌々と輝く月。
 ――――そこには、白い少女と異形の巨人がいた。
「――――バーサーカー」
 思わず言葉を漏らす遠坂。
『あれがヘラクレスですか……。久しぶりに会いましたが、随分顔立ちが変わりましたね』
 対照的に、クールな感想をラインで伝えてくるメディア。
 そう、ついにイリヤとバーサーカーの登場である。
 ふう、いつお二人が到着するか冷や冷やしたが、なんとかぎりぎりで間に合ったか。
 と、バーサーカーのあまりの迫力に、現実逃避気味の思考に陥った俺をイリヤの声が呼び戻した。
「こんばんは、お兄ちゃん。会ったのは初めてだよね」
 イリヤは微笑みながら言った。
 それに対して、誰もすぐには回答できなかった。
 全員、バーサーカーの重圧を受け、飲まれるか、衝撃のあまり動けないらしい。
「――――やば。あいつ、桁違いだ」
 しかし、遠坂には身構えるだけの余裕があったらしい。
 もっとも、背中越しでも遠坂が抱えている絶望が俺にも感じ取れたのだから、それも僅かなものだろう。
「あれ? なんだ、あなたのサーヴァントはお休みなんだ。
 つまんないなぁ、みんなまとめて一緒に潰してあげようって思ったのに」
 イリヤは、坂の上から俺たちを見下ろしながら、不満そうに言った。
 おい、ちょっと待て。今なんて言った?
 まさか、イリヤはキャスターたちの存在にも気づいているのか?
『……これは予想しておくべきでしたね。
 イリヤはマスターであると同時に聖杯でもあります。
 ゆえに、魔力やサーヴァントの気配を隠していても、何らかの手段、おそらくは大聖杯に繋がっているサーヴァントのラインから私たちの存在にも気づいていると思われます』
『あ~、なるほど、その手があったか。
 とりあえず、イリヤが詳細に話すか、遠坂がそのことに気づくまでは待機してくれ。
 ばれたらばれたで一気に攻勢かけるぞ』
『了解しました、慎二』
『桜、よろしいですか?』
『……姉さんとは敵対したくありませんけど、そうなっては仕方ありませんよね。
 兄さんの言うとおり、姉さんが貴方達の存在に気づいたら、バーサーカーと戦ってください』
『了解しました、桜』
 ――――と。
 少女は行儀正しくスカートの裾を持ち上げて、とんでもなくこの場に不釣合いなお辞儀をした。
「初めまして、リン、そしてサクラ。わたしはイリヤ。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えば、分かるでしょ?」
「アインツベルン――――」
 当然知っていた遠坂は、驚いたのか体がかすかに揺れた。
 しかし、何気に俺の名前はスルーですか?
 いや、確かにマキリの当主は臓硯で、マキリの魔術師は桜だったのは事実だけど、今は俺と桜が間桐の魔術師なんだぞ!!
 と、心の中だけで叫んだ俺だった。
 いや、口に出すと色々と不幸になる気がしたんで。
 そんな遠坂の反応が気に入ったのか、イリヤは嬉しそうに笑みをこぼし、
「じゃあ、殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」
 歌うように、背後の異形に命令した。

 巨体が跳ぶ。
 バーサーカーが、坂の上からここまで、一息で落下してくる――――
「――――シロウ、下がって……!」
 一瞬で鎧をまとい、セイバーが駆ける。
 バーサーカーの落下地点まで駆けるセイバーと、旋風を伴って落下してきたバーサーカーとは、全くの同時だった。

 バーサーカーの岩の斧剣を、セイバーはインビジブル・エアで完全に受け止めたが、その衝撃で空気が震えた。
「なっ……! あのバーサーカーと互角に戦ってるの!?」
 遠坂は予想外の光景に絶句しているが、驚くことではない。
 ラインが完全に繋がったセイバーと、狂化していないバーサーカーなら、パラメータ(筋力:A、耐久:B、敏捷:B)が全く同じ。
 魔力、幸運、宝具に至っては、セイバーが上回っている。
 残念ながらここは墓場ではないため、セイバーの小柄な体格を活かした戦いはできない。
 ゆえに、共に全力で武器のぶつけ合いとなり、たかが魔術師では近寄っただけで殺されることが確信できてしまう、おそるべき戦場が形成された。
 セイバーは正面からバーサーカーの斧剣を受け止めるだけでなく、すぐに斧剣を弾き飛ばし、逆に切りかかる。
 が、バーサーカーもすぐに切りかかり、二人の剣はお互いを弾き飛ばす。
 動く必要が無いのか、動くだけの隙がないのか、二人は延々とその場で剣戟を続ける。
 どうやら、俺の予想通り、セイバーはバーサーカーと互角に戦っているように見える。
 しかし、狂化されれば筋力、耐久、敏捷はバーサーカーが1ランク上回ってしまう。
 セイバーが互角に戦えるかどうかは、全てはイリヤの意志に掛かっている。
 いや、あのときのセイバーは、ゲイボルクによる胸の傷が完治していない状態だったから、それを考えれば狂化されても何とか戦えるかもしれないな。
 っと、そんなことを考えている間に、セイバーとバーサーカーの人知を超えた戦いが恐ろしいスピードで展開される。
 これではきりがない、いや魔力量の多いイリヤの方が有利だ。
 よって、俺はアイツの投入を決意した。
『メディア、ランサーを参戦させろ!』
『了解しました。……ランサー、許可します。好きに戦いなさい!』
 メディアがそう言った瞬間、青い閃光が視界を横切った。
「楽しそうな戦いをしてるじゃねぇか。俺も混ぜやがれ!!」
「なっ、ランサー!!」
 いち早くランサーの突入に気づいたセイバーは、一瞬でバーサーカーから距離を取る。
 すかさず追撃を掛けようとしたバーサーカーだが、横からランサーの攻撃を受け、斧剣で槍を弾き返した。
 ランサーのスピード、そしてすさまじい技量による攻撃は、バーサーカーを以ってしても、全て捌ききることはできない。
 ……だが、相手はバーサーカー、ヘラクレス。
 宝具も腕力もランクBであるランサーの攻撃は、たとえ皮膚に当たったとしてもダメージを与えることはできない。
 無論、その恐るべきスピードを活かし、バーサーカーの攻撃を完全にかわすことでランサーもまた無傷である。
 何度か攻撃を繰り返し、それでもノーダメージだと判断したランサーもまた、バーサーカーとの距離を取った。
「おい、俺の槍が全く刺さらないなんて、どんなトリックを使ってやがる?」
「あは、そんな槍が刺さるわけないじゃない。
 私のバーサーカーはね、ギリシャ最大の英雄なんだから」
 ランサーの疑問に対し、親切にもイリヤが答えた。
「……!? ギリシャ最大の英雄って、まさか――――」
「そうよ。そこにいるのはヘラクレスっていう魔物。
 貴方達程度が使役できる英雄とは違う、最凶の怪物なんだから」
 イリヤは、愉しげに瞳を細める。
 あれは、多分弱者をいたぶる愉悦の目だ。
「っち、そういうことかよ。セイバー、ここは一時休戦だ。
 オマエさんも、こいつに苦戦してただろう。
 ここは一つ手を組まないか?」
「何を愚かななことを言っている。何故私がお前と組まなければならない」
 セイバーは一言で切って捨てたが、イリヤの反応は違った。
「別にいいわよ。貴方達が何人手を組んだって、私のバーサーカーには傷一つ付けられないもの。
 好きにすればいいわ」
「ほれ、この小さい嬢ちゃんも言ってることだし、どうだ?
 何だったら、俺の真名に掛けて誓ってやっても良いぞ。
 もちろん、この戦いに限ってだけどな。……俺の真名は知っているんだろ?」
 無論、セイバーはランサーの真名がクーフーリンだと言うことを知っている。
「いいでしょう。この戦いに限り、共闘することを認めます。
 しかし、もしその誓いを破るようなことがあれば、私は決して貴方を許さない」
 セイバーはやっと了承したが、その言葉は横で聞いている俺ですら鳥肌が立つほど迫力に満ち満ちていた。
「しかし、貴方の槍が効かないことはすでに証明された。
 一体何をもって戦うというのですか?」
「それは見てのお楽しみだ。
 とりあえず、時間稼ぎを頼むぜ、セイバー!!」
 そう言って、ランサーはゲイボルクを構えた。
 槍の穂先は地上を穿つように下がり、ただ、ランサーの双眸だけがバーサーカーを貫いている。
 セイバーはとりあえずランサーの言葉を信じたのか、バーサーカーに対し攻撃を開始し、バーサーカーもまたそれを迎撃した。
 クッ、とランサーの体が沈む。
 同時に巻き起こる冷気。
 俺にも、ゲイボルクを中心に、魔力が渦となっているのがわかる。
 しかし、バーサーカーは気づかないのか、対処する余裕が無いのか、セイバーとの戦闘を継続している。
 セイバーも本気で攻撃しているようだが、まだバーサーカーに一撃を喰らわせることができていない。
 てっきり、カリバーンを使って戦うかと思ったのだが、なぜかインビジブル・エアで戦っていた。
 いや、元々エクスカリバーを使っていたのはあまりに有名なその剣から真名がばれることを恐れてだし、カリバーンもエクスカリバーに匹敵するほど有名だから仕方ないか。
 それに、インビジブル・エアはランクCだが、セイバーの筋力はランクAのため、セイバーの攻撃はバーサーカーに着実にダメージを与えている。
 いくらヘラクレスといえども、狂化もせず理性を奪われてしまっている今は、セイバーでも互角以上に戦えるのだろう。
「……じゃあな。その心臓、貰い受ける――――!」
 青い獣が地を蹴る。
 まるでコマ飛び、ランサーはそれこそ瞬間移動のようにバーサーカーの横に現れ、その槍を、バーサーカーの足元めがけて繰り出した。
 バーサーカーはそれを一顧だにせず、セイバーへの攻撃を続ける。
 セイバーも、ランサーの攻撃には気づいていたが、自分へ攻撃されていないことを判断し、バーサーカーへの攻撃を続けている。
 その、瞬間。
「――――ゲイボルク(刺し穿つ死棘の槍)――――!」
 下段に放たれた槍は、バーサーカーの心臓を目指して迸っていた。
「何だって!!」
 俺は驚きの余り、声を上げた。
 そう、ランサーのゲイボルクの真名解放でも、バーサーカーには傷一つ付かなかったのだ。
 いや、所詮ランクBであるから、そうなる可能性が高いことは知っていた。
 いたが、アレだけの魔力をもってしても、バーサーカーに全くダメージを与えられなかったことが俺には信じられなかった。
「信じられないわ。
 アレは間違いなくランクBの宝具による真名を解放した攻撃。
 それすらも無傷なんて、一体!?」
 隣の遠坂もショックを受けているようだ。
 そういえば、今回は魔術攻撃をしていなかったら、いきなりあんなものを見せられれば衝撃が大きいのも当然か。
 一方、一番衝撃が大きいはずのランサーは、笑みをこぼしていた。
「おもしれえ。
 まさかゲイボルクが全く効かなぇとはな。
 はっ、これだからこの世は愉しいよな」
「何よ、大口を叩いておいてそれだけ?
 クーフーリンの名が泣くわよ」
 ランサーの名前がわかったイリヤが罵倒するが、それをランサーは笑いとばした。
 俺は二人の会話を聞きながら、メディアにとあることを依頼し即座に了承を得た。
「期待はずれで悪かったな。
 だが、次こそは期待をはずさない自信があるぜ、小さいお嬢ちゃん。
 その目でじっくり見やがれ!!」
 大きく後退するランサー。
 槍を突き出す、どころの間合いではない。
 一瞬にして離された距離は百メートル以上。
 それだけの距離を跳び退き、そこで、獣のように大地に四肢をつく。
「――――俺の槍の能力は今見たな」
 地面に四肢をついたランサーの腰が上がる。
 その姿は、号砲を待つスプリンターのようだった。
「――――いくぞ。この一撃、俺の本気を受け取るがいい……!」
 青い豹が走る。
 残像さえ遥か、ランサーは突風となってバーサーカーへ疾駆する。
 青い姿が沈む。
 五十メートルもの距離を一息で走りぬけた槍兵は、あろうことか、そのまま大きく跳躍した。
 宙に舞い、大きく振りかぶる。
 ぎしり、と空間が軋みを上げる。

と、ランサーの行動と同時に隣から気合が篭った声が響き渡った。
「トレース・オン(投影開始)!」
 慌てて横を見ると、衛宮が弓とゲイボルクⅡを構えて
「ゲイボルク(突き穿つ死翔の槍)!!」
 今まさに放ったところだった。
 そして、本家本元も弓を引き絞るように状態を反らし
「――――ゲイボルク(突き穿つ死翔の槍)――――!!」
 裂ぱくの気迫が篭った声と共に、その一撃を叩きおろした――――

 衛宮が放った偽の魔弾と、ランサーが放った本物の魔弾がバーサーカーへ迫る。
 っと、いつのまにかセイバーが、バーサーカーから距離を取ろうと跳び退いている。
 どうやら、ランサーの攻撃をフォローするため、衛宮とセイバーの二人で相談していたらしい。
 さすがのセイバーも、次の攻撃に巻き込まれることの危険性を察知したのか!?
 バーサーカーはセイバーを追撃しようとしたが、
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
 その矢の脅威を悟ったのか、全力で迫り来る一つ目の矢を迎撃し、
 ――――瞬間。
 あらゆる音が、失われた。
 予想していた俺は桜と弓塚を、衛宮は遠坂を地面に組み伏せ、その衝撃に耐えた。
 次の瞬間、何か硬いものにモノがぶつかる凄まじい衝撃音が二つ続けて聞こえた。
 慌てて顔を上げると、炎上した道路の中、ゲイボルクが心臓に突き刺さり、セイバーのインビジブル・エアによって首を切り落とされたバーサーカーの姿があった。
 だが、
「――――うそ」
 衛宮に押し倒されたままの遠坂の声が聞こえた。
 遠坂は呆然と、バーサーカーを眺めている。
 そう、首を繰り落とされたバーサーカーの頭が、すでに再生を始めていたからだ。
「……ふふ。うふふ、あはははははははは!」
 笑い声が響く。
 道路の向こうからバーサーカーを操っていた、イリヤが笑っている。
「見直したわ、セイバー、そしてランサー。まさか三回だけでもバーサーカーを殺せるなんてね。
 でも残念でした~。バーサーカーはそれぐらいじゃ消えないんだ。
 だってね、ソイツは十二回殺されなくちゃ死ねない体なんだから」
「……十二回、殺される……?」
 さすがは遠坂、それだけでイリヤが何を言ったのか理解したらしい。
 しかし、令呪を使った甲斐があり、ゲイボルクの真名解放はかなり効果が合ったらしいな。
 そう、俺はメディアに頼み、ゲイボルク(突き穿つ死翔の槍)の真名解放による攻撃の際、令呪で『バーサーカーにダメージを与える攻撃をしろ』と命令させたのだ。
 ゲイボルク(突き穿つ死翔の槍)はランクB+、もしかしたらそのままでもバーサーカーにダメージを与えたかもしれないが、俺はその可能性は低いと考えていた。
 しかし、令呪はマスターとサーヴァントの魔力を合わせて可能なことならば、サーヴァントの限界さえを超えて実現させる。
 さらに、今のランサーのマスターは、サーヴァントであり最強の魔術師であるメディアなのだから、その令呪の効力は絶大だったらしい。
 元々ゲイボルク(突き穿つ死翔の槍)でダメージを与えられたのか、令呪の後押しでダメージを与えることができたのかは確認しようはないが、バーサーカーを1~2回殺せたのは間違いない。
 今はそれだけで満足するしかない。
 もっとも、そんな無茶をしたランサーは荒い息をして膝を突いており、魔力も体力も消耗しきっているように見える。
「……そう、か。
 ヘラクレスだって判った時点で、それに思い当たるべきだった。
 ヘラクレスっていったらヒドラの弓なのに、持っているのはただの岩だった。
 ……だから、コイツの宝具はモノじゃないんだ。
 英雄ヘラクレスのシンボルは、その――――」
「そう、肉体そのものがヘラクレスの宝具なのよ。
 あなたも知っているでしょう、ヘラクレスの十二の難行を。
 ギリシャの英雄ヘラクレスは、己が罪を償う為に十二もの冒険を乗り越え、その褒美として『不死』になった。
 この意味、あなたなら判るでしょう?」
「……命のストック……蘇生魔術の重ねがけ、ね」
「ええ。だからソイツは簡単には死ねないの。
 かつて自分が乗り越えた分の死は生き延びてしまう、神々にかけられた不死の呪い。
 それが私のバーサーカーの宝具、『ゴッドハンド(十二の試練)』なんだから」
「わかった?
 バーサーカーは今ので死んでしまったけど、あと九つの命があるの」
「ふん、たとえ十二の命があったって、十二回殺しちまえば同じだろうが」
 ランサーの冷静な反応に対し、イリヤの回答は無情だった。
「残念だけど、それは無理ね。
 バーサーカーは一度殺された攻撃は、次からは完全に無効化する。
 貴方が放った二回目の真名の解放がバーサーカーの命を奪ったのは確かよ。
 だけど、次からはバーサーカーには全く効かないわ。
 セイバーは腕力にものを言わせてバーサーカーを殺したみたいだけど、そんな無茶はいつまで続くかしら?」
 さすがはイリヤ、すでにセイバーの武器であるインビジブル・エアがランクCであることを見抜いていたらしい。
 しかし、イリヤの台詞からすると、筋力ランクAの奴がそれなりの強度を持つ武器で攻撃するなら、バーサーカーを何度か殺すことが可能みたいだな。
 もっとも、イリヤが言ったように、こちらは一度でも殺されれば終わりなのに、相手を腕力だけで12回殺さなければいけないというのは半端でなく不利である。
「何言っているのよ。だったら、マスターを狙えば良いだけじゃない。
 こっちはセイバーだけでもバーサーカーと互角に戦えるのよ。
 その隙にランサーがあんたを攻撃すれば、誰もあんたを守れないわ」
 遠坂の意見は正しい。正しいのだが……
「悪いな、嬢ちゃん。その方針に従うつもりはねえぜ」
「何でよ!!」
「何で、って言われてもなぁ。
 アーチャーのマスターである嬢ちゃんに従ういわれはないし、第一俺のマスターにそれは禁止されているんだぜ」
 そう言ってランサーは肩をすくめた。
「はっ? アンタのマスターが、敵のマスターを殺すのを禁止しているの?」
「ああ、そうだ。
 俺はここで攻撃を許可されているのはバーサーカーだけでな。
 まっ、その代わり自由に戦って良いと言われているし、英雄らしい戦いをしたい俺としては、願ったり叶ったりだけどな」
 そう言って苦笑したランサーに対し、遠坂はいきなり激昂していた。
「ちょっと待って!!
 一体、アンタのマスターは何を考えているのよ。
 聖杯戦争でマスターを狙わないなんて、絶対に正気じゃないわ」
 えらい言われようだな。まあ、我ながら酔狂だとは自覚しているが。
「おいおい、その条件がなければ、オマエさんだって俺のターゲットなんだぜ?
 まっ、坊主と違って歯ごたえのなさそうな、しかも良い女になる素質がある嬢ちゃんを殺したいとは思わないけどな」
「な、何を言ってるのよ。
 第一アンタ、魔力が尽き掛けているじゃない。
 そんな状態でよく大口が叩けるわね。
 通常のコンディションならともかく、今の貴方なら私でも倒すすべはあるわ」
 遠坂はそう断言したが、残念ながらそれは大間違いである。
「はっ、それはこれを見ても言えるのか?」
 ランサーがそう言った瞬間、誰が見ても魔力が尽きかけといった状態のランサーが、一瞬で凄まじい魔力を取り戻した。
 どうやらメディアがランサーの魔力を補充したらしい。
「なっ?」
 その事実に遠坂は絶句して声が出なかった。
「ご覧のとおりだ。俺のマスターは、俺の魔力を一瞬で回復させることが可能なんだぜ」
「そんなの不可能よ。
 あんたが回復した魔力は、魔術師何十人分にも値するわ。
 それを一気に回復できるなんて、一体どんな奴よ!!」
「いや、そういう意味じゃ、本当にいいマスターに巡り合えたもんだぜ。
 魔力の心配はないし、強敵と全力で戦わせてくれる。
 俺にとって、これ以上のマスターは存在しないな」
 メディアから、ランサーの言葉に苦笑しているイメージが伝わってくる。
 確かに、戦闘相手に多少制限を掛ける以外は、どう戦うのかは自由に任せているし、魔力の補給は一切心配いらない。
 そういう意味では、戦闘だけを求めるランサーにとって、メディアは最高のマスターと言えるだろう。
 それはそうと、戦場でそんな暢気なことを話していて良いのか?
「ちょっと、何時までじゃれあってるのよ。
 ……まあ、ランサーの攻撃が効かなくなったとはいえ、確かにセイバーはバーサーカーと互角に戦えるみたいね。
 まっ、いいわ。それなら、本気で殺してあげる」
 その言葉と同時に、イリヤの体中に令呪が浮かぶ。
「――――遊びは終わりよ。狂いなさい、ヘラクレス」
 暗い声。
 それに呼応するように、巨人が吠えた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
 地を揺るがす絶叫。
 巨人は正気を失ったように叫び悶え――――そのありとあらゆる能力が、奇形の瘤となって増大していく。
「――――そんな。今までは理性を奪っていただけで、狂化させていなかったいうのか……!?」
 セイバーの声に恐れが混じる。
「行け……! ここにいるサーヴァントをみんな殺しちゃえ、バーサーカー……!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
 それは爆音だった。
 もはや啼き声ですらない咆哮をあげ、黒い巨人が突進する。
「っ、――――、セイバー……!」
 応じて駆け抜ける、銀の光。

 ――――それは、神話の再現だった。
 闇の中、二つの影は絶え間なく交差する。
 バーサーカーはただ圧倒的だった。
 薙ぎ払う一撃が旋風なら、振り下ろす一撃は瀑布のそれだ。
 まともに受ければ今のセイバーとて致命傷に成り得るだろう。
 それを正面から、怯む事なく最大の力で弾き返すセイバー。
 セイバーに許されるのは、避けきれない剣風に剣をうち立て、威力を相殺する事で、鎧ごと両断されないようにするだけだった。
「――――ゲイボルク(突き穿つ死翔の槍)――――!!」
 ランサーが再び放ったゲイボルクの真名解放も、イリヤの言葉どおりバーサーカーに対して全く意味がなく、むなしく弾かれただけだった。
 まあ、今度は令呪も使っていなかったし、予想通りといえば予想通りか。
「畜生、本当にこれが効かないだと!
 いい加減にしやがれ!!」
 しかし、当然ながらバーサーカーはランサーを無視して、セイバーに攻撃を続ける。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
 雄叫びが大地を揺らす。
 バーサーカーの旋風は道路を切り裂き、受け流すセイバーを弾き飛ばす。
 捌ききれず後退したセイバーに、今度こそ防ぎきれぬ一撃が繰り出された。
 セイバーの体が浮く。
 バーサーカーの斧剣を、無理な体勢ながらもセイバーは防ぎきる。
 ――――大きく弧を描いて落ちていく。
 背中から地面に叩きつけられる前に、セイバーは身を翻して着地する。
「……ぅ、っ……!」
 なんとか持ち直すセイバー。
 しかし、浅いとはいえ、セイバーは体の数ヶ所から出血をしている。
「――――Vier Stil ErschieBung……!」
 遠坂の呪文と共にバーサーカーの体が弾ける。
 同時に、ランサーも魔術で攻撃を開始した。
 そう、ランサーもまた、俺には全く理解できない様々なルーン魔術を発動してバーサーカーへの攻撃を開始したのだ。
 唯一俺に分かったのは、攻撃の一つとして凄まじいガンド撃ちをランサーがしたことぐらいだ。
 だがそれも無意味。
 バーサーカーの体には傷一つ付かない。
 残念ながら、ランサーの魔力はランクC、そしてルーン魔術はランクB。
 これでは、バーサーカーに効くわけがない。
 ちらっと横を見ると、桜と弓塚はただ初めて見るサーヴァント同士の殺し合いを呆然と見つめるだけで、援護するなどということはできそうもない。
 これは、メディアとメデューサにも参戦してもらわないとやばいか?
 当然、俺が参戦するなどという意見は即却下である。
 一瞬で殺されるのはご免だし、まかり間違って俺がもらった短剣タイプの投影カリバーンの耐性をバーサーカーが持ってしまえば、逆効果だ。
「っ……!? くっ、なんてデタラメな体してんのよ、こいつ……!」
 それでも遠坂もランサーも手を緩めず、バーサーカーも二人の魔術を意に介さずセイバーへ突進する。
「こ――――のぉlll…………!!」
 いきなり、衛宮が全力で駆け出していた。
 手にしているのは、カラドボルグ。
 って、いつのまに投影しやがった!
 俺のアドバイスを聞き、カリバーンを使うのをやめたんだろうが、なぜそれを使う!!
 牽制するなら、ゲイボルクでも投げればいいだろうが。
 いや、もしかすると相性がいいカラドボルグを無意識に選んでしまったのだろうか?
 そんなことを考えているうちに、衛宮はバーサーカーに切りかかろうとして、……一撃でカラドボルグを弾き飛ばされ、そのままの勢いでバーサーカーに胴を切り裂かれ、どたん、と倒れた。
「――――え?」
 衛宮自身も自分の身に何が起きたのか理解していないようだ。
「が――――は」
「!?」
 その光景に、桜、セイバー、弓塚、遠坂、そしてイリヤが驚きの声を上げた。
「……あ、れ」
 衛宮は見事に腹を吹き飛ばされていた。
 アスファルトに、血液とか柔らかそうな臓物とか焚き木のように折れた無数の骨とかそういったものがこぼれている。
 残念ながら、強化した服も、強化した体もバーサーカーの前には全く意味がなかったらしい。
 いや、胴体がかろうじてつながっているだけでも、意味はあったか?
「……そうか。なんて、間抜け」
 衛宮はそう呟くと
「――――こふっ」
 大量の血を吐いた。
「――――なんで?」
 ぼんやりと、イリヤが呟く。
 イリヤはしばらく呆然とした後、
「……もういい。こんなの、つまんない」
 そのまま、バーサーカーを呼び戻した。
 って、おい。狂化したバーサーカーすら簡単に呼び戻せるのか?
 俺はそんな荒業をいとも容易く行ったイリヤの底知れない魔力に恐怖した。
「――――リン、サクラ。次に会ったら殺すから」
 そう言って、立ち去っていくイリヤ。
 おいおい、その言葉を聞いたらいくら遠坂でも、桜がマスターだと気づいてしまうじゃないか!!
「……あ、あんた何考えてるのよ!」
 遠坂は衛宮に対して本気で怒ったが、衛宮はそこでついに意識を失った。
 どうやら、遠坂は衛宮のことで頭がいっぱいで、イリヤの台詞は気に止めていないようだ。
 ふう、……助かったぁ。いや、今はそれどころではない。
「先輩、先輩!!」
 桜は泣きながら衛宮にすがりついた。
「安心しな、お嬢ちゃん。
 良く見てみろよ、そいつ、自力で再生しているぜ。
 この分なら、すぐに全快するんじゃねえか?」
 ランサーの言うとおり、衛宮の傷は目に見える速さで再生していた。
 はっきり言って気持ち悪いぐらいの再生速度である。
 藤井八雲並みといえばその凄さが分かるだろうか?
「生きてるなら魔術で治療してやろうかとも思ったがな、これならその必要もなさそうだ」
 ランサーはそう言って、しげしげと衛宮の再生シーンを見つめた。
「いや、大した回復力だな。
 さすが、手加減したとはいえ俺と渡り合っただけのことはある」
「何余裕かましてんのよ。
 あんたの真名は、クーフーリンだって分かったし、おまけに全力で宝具を使った後だから、ろくに魔力も残ってないじゃない。
 いえ、あなたはどうやってかは知らないけど、さっきはその状態から魔力を全回復したわ。
 だけど、さすがに連続では無理なはず。そんな状態で私たちから逃げれると思っているかしら?
「ああ、嬢ちゃんの言う通りだ。
 確かに普通ならそうなんだろうな。
 だが、これを見てもそう言えるかな?」
 次の瞬間、俺でもはっきりわかるほど弱っていたランサーの魔力が、再び回復した。
 当然、メディアが再び魔力を回復させたらしい。
 さすがはメディア。莫大な魔力容量のなせる業だな。
 人間ではシエルぐらいでないと不可能だろうなぁ。
「な、何よそれ。ついさっきまで、あんた、間違いなく魔力は空っぽだったのに。
 それなのに、なんですぐに回復してるのよ」
「それは内緒だ。
 俺のマスターはかなり融通が利くが、秘密をばらすのを許可するほどじゃないぜ。
 そういうわけで、嬢ちゃん。
 今日のところはこれで退かせてもらうが、アーチャーが回復したらぜひ俺と戦わせてくれ」
「はあっ?」
「おいおい、さっきも言ったろ?
 俺の望みは聖杯じゃなくて、強敵と戦って英雄らしい戦いをすることでな、マスターもそれを認めてくれてるんだな、これが。
 だから、アーチャーを連れていないあんたにも、マスターが瀕死のセイバーにも興味はない。
 お互い本気が出せる状況で戦いを挑ませてもらう。
 それじゃ、俺と戦う前に勝手に死ぬんじゃねえぞ」
 そう言って、ランサーはあっという間に姿を消した。
 もちろん、遠坂の視界範囲外に出た後霊体化し、サーヴァントの気配と魔力を消して俺たちの側まで戻ってきている。

 遠坂は、勝手なことを言ってさっさと逃げてしまったランサーに対する怒りが納まらない様子だったが、すぐに衛宮の容態の確認に取り掛かった。
 もっとも、衛宮の傷はものすごいスピードで再生しており、5分足らずで完全に傷跡は消滅してしまい、これには遠坂も驚きを隠せなかった。
 セイバーと完全にラインが繋がっていることもあり、アヴァロンはこれ以上ないぐらい活性化しているようだな。
 なお、セイバーの傷もすぐに完治していた。
 セイバーは、たしか蘇生魔術が掛かっていたんだよな。
 だから、ゲイ・ボルクみたいな呪いが掛かっていない限り、魔力さえあればすぐに完治する。
 かなり動揺していた桜も、衛宮の傷が完治したので何とか落ち着いたが、衛宮は意識を取り戻さなかった。
 そこで俺は衛宮邸に移動することを提案し、全員に了承された。
 一応、「俺が衛宮を運ぼうか」と言ったのだが、「マスターであるシロウは私が運びます」の一言で、セイバーが衛宮を背負い、全員で衛宮邸へ移動した。

 家に辿り着くと、桜とセイバーはすぐに衛宮を布団に寝かせた。
 遠坂が診察して「特に異常はない」という結果が出たことで、やっと桜達もほっとしたようだった。
 桜が用意した夕食を残りのみんなで食べた後、こればかりは断固として譲らず桜とセイバーは衛宮の横でずっと見守り、遠坂と弓塚は適当な部屋で寝ることになり、残った俺は離れに移動した。

 当然、これからメディアたちと今後の予定を話そうと思っていた。
 ……いたのだが、部屋に入ったとたん俺はへたり込んでしまい、動ける体力、気力が全くなかった。
 どうやら、セイバーとバーサーカーの戦いの迫力により、予想以上に精神的に疲労していたらしい。
 そのまま意識を失いそうになるのを必死でこらえ、俺は呼びかけた。
「みんな、姿を現してくれ。
 ああ、言うまでもないとは思うが、魔力やサーヴァントの気配は隠したままな」
 次の瞬間、俺の前にメディアとランサーが現れた。
「あれ、ライダーはどうした?」
「ライダーは、桜の護衛をしています。
 私の結界から出るためサーヴァントの気配は隠せませんが、セイバーには隠す必要もありませんし、アーチャーも今は遠坂邸ですから問題はありません。
 無論、アーチャーが衛宮邸に近づき次第、ライダーには私の結界内に入るように指示をします」
 さすがはメディアだ。抜かりはない。
「なら、いい。
 ランサーも俺たちの陣営に加わってくれたことだし、色々と自己紹介や状況説明をしようと思ったんだけどな。
 悪いけど、俺はもう限界だ。
 詳しいことは、明日、は、な、す……」
 そのまま俺は、夢も見ないほど深い眠りへ突入した。

 1月24日(木)  終


設定

投影カラドボルグ ランクA+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人 
 クーフーリンの記憶を元に衛宮が投影した剣。
 衛宮が投影して作り出したもの。衛宮との相性がいいので、本物と同じランク。
 Fateにおいて、アーチャーはカラドボルグを改造したカラドボルグⅡ(偽・螺旋剣)でバーサーカーを攻撃した。
 バーサーカーに迎撃されて剣は折れたものの、墓場を一瞬で炎上させた。
 なお、セイバーはこのカラドボルグⅡをランクAだと判断した。


後書き
 どうも、おひさしぶりです。
 2月後半より、鬼のように仕事が忙しくなり更新が遅れました。

 さて、とある場所では、性行為で大量の魔力が回復することに非難されることが多いんですけど、客観的に考えるとこれぐらい回復すると思いますし、お互い同意があれば、簡単かつ強力な回復手段だから使わない手はないと思うんですけどねぇ。
 性行為による魔力回復の計算、どっか間違ってますかね?
 まあ、性行為による魔力回復を理由として、慎二がメディアたちとの性行為を正当化している、ということは事実ですけどね。
 こいつもオリジナル慎二と近しい魂を持っていたがために、慎二に憑依したことをお忘れなく。

 あと、ヌード写真撮影。皆さんから非難轟々ですね。
 ですが、慎二に似たタイプのヤツで、この状況でちょっとばかり状況判断が甘いと言うか、自分に都合よく考えてしまうやつならば、こういう行動に出てもおかしくないのでは?
 当然、後で何らかのトラブルが起きるのは決定済みです。
 さてさて、慎二にきちんと対処できるでしょうか?
 ……どう考えても無理そうだなぁ。


追記(05/05/29)
 イリヤスフィールがアインツベルン城から冬木市に移動した手段は、不明(メディアの予想では擬似的な瞬間移動)ということに変更しました。
 これは、メディアが言っているようにFateのセイバールートにおいて、イリヤは一人で商店街に現れ、「バーサーカーが起きたから帰る」と言って帰ったことについて、『バーサーカーに運んでもらう』という方法では説明がつかなかったためです。
 まさか、『バーサーカーに運んでもらった後、冬木市近辺でバーサーカーに寝てもらっていた』ということはなさそうですし、そうなると『バーサーカーはアインツベルン城で寝てて置き去りにされていた』となると考えまして。
 さらに言えば、イリヤスフィールが一人で冬木市にいることから、セラやリズに車で送ってもらったということも可能性は低いと判断しました。

追記2(06/01/21)
 イリヤスフィールがアインツベルン城から冬木市に移動した手段は、メルセデスに変更しました。
 まさか、イリヤが一人でメルセデスをかっ飛ばして冬木市に来ていたとは……。
 外見はロリでも、実年齢は衛宮より上なんだから、そういうことも考えておくべきでした。



[787] Fate/into game 1月25日(金) 聖杯戦争3日目 午前
Name: 遼月
Date: 2006/03/07 01:05
Fate/into game


1月25日(金) 聖杯戦争3日目 午前


 目を覚ますと、周りには……誰もいなかった。
 え~と、思い出してみよう。
 昨日は聖杯戦争が開始されて、ランサーやらバーサーカーやらと戦闘があって、衛宮が倒れて、遠坂を含めた全員で衛宮邸に帰ってきた、と。
 そうだったな、この状態では添い寝してくれる奴がいないのは当然か。
 多分、桜は衛宮の介護、メデューサは桜の護衛、メディアは……、また研究か、魔術具の作成でもやっているのだろう。
 メディアなら、遠坂から存在を隠蔽することなど簡単にできるだろうしな。
 うん、これなら誰もこの部屋にいるはずがないな。
 残りのメンバーは、衛宮は気絶、弓塚と遠坂は睡眠、アーチャーは遠坂邸で回復中、といったところか。
 監視網で確認したいところだけど、仮にも結界が張ってある衛宮邸や遠坂邸の内部までは監視できてないからなぁ。

 それにしても、セイバーのヌード写真撮影すら忘れて寝てしまうとは、俺もよっぽど疲れていたらしいな。
 まあ、衛宮の介護をほっといてセイバーがそんなことをするはずもないから、結果論からいえば問題はないか。
 ただ、それだけで済ませてはもったいないから、昨日ヌード撮影するのを諦めたかわりに、なんか代価がもらえないか交渉してみる余地はあるかな?
 まあ、セイバーを怒らせないことが前提だから、それほどとんでもない要求をするつもりはないけどさ。
 おっと、セイバーにランサーの件について説明するのも忘れてたな。
 昨日は、ランサーがセイバーの味方をしたから過剰に警戒はしないとは思うが、早めに説明しないとセイバーが切れて俺が半殺しにされかねない。

『おはよう、メディア』
『おはようございます、慎二。具合はいかがですか?』
 ラインを通じて挨拶を送ると、すぐにメディアから返事が来た。
『ああ、一晩寝たら回復した。まあ、精神的疲労で倒れただけだからな。
 それより、メディアは今何をやってるんだ?』
『はい、先ほどまでは聖杯戦争の準備をしておりましたが、現在は撤収準備をしております』
 その予想外の回答に、俺は頭を傾げた。
『え~と、撤収ってのは遠坂が離れに住むことになりそうだからか?
 確かにある程度の隠蔽は必要だろうけど、撤収まではしなくても大丈夫じゃないか?』
 俺の素朴な疑問に返ってきたのは呆れ帰ったイメージだった。
『慎二、確かに凛だけでしたら完全な隠蔽を行うのは十分可能です。
 しかし、彼女のサーヴァントを忘れていませんか?』
 ん、アーチャーのことか?
 しかし、所詮は衛宮の成れの果て。
 魔術のランクはC-。メディアの魔術に対抗できるとは思えんのだが?
『慎二、考えていることが全部流れてきてますよ。
 確かに、英霊エミヤ自身の魔術のランクは低いでしょう。
 しかし、彼もまたサーヴァント。
 完全に存在を隠し通すことは難しく、気づかれてしまえば確実に隠蔽魔術を解除されてしまします』
『ん、え~と、ああ、そういえばあいつもルールブレイカーを持ってるからか』
『その通りです。英霊エミヤもかつて聖杯戦争を戦ったことに間違いありません。
 そこでその世界の私と戦い、ルールブレイカーを見た可能性は高いと考えています。
 もっとも、今の私にその知識や記憶は存在していませんが』
『あ~、ルールブレイカーは宝具以外の魔術はオールマイティで破戒するからなぁ。
 確かにメディアの言うとおりだ。
 アーチャーが来る前に撤収した方がいいな。
 分かった、メディアは一切証拠を残さない撤収を頼む。
 それから、アーチャーが接近したらメデューサにすぐに警告を頼むぞ』
『了解しました、慎二』
 英霊エミヤがセイバールートの成れの果てだとしたら、メディアやメデューサ相手に容赦するとは思えないしなぁ。
 まあ、メディアが対応してくれれば間違いはなかろう。

 部屋を出ると、リビングには弓塚と遠坂に二人がいた。
「おはよう、慎二」
「おはようございます、慎二さん」
「おはよう。衛宮の具合は大丈夫だったか?」
 二人に朝の挨拶をして、気になっていたことを質問すると、弓塚が答えてくれた。
「ええ、さっき、衛宮君の部屋に行ってきましたけど、桜さんもセイバーさんももう大丈夫、って言ってましたよ。
 衛宮君はまだ目が覚めないみたいでしたけど」
「そうか、それはよかった。
 じゃあ、桜達はまだ衛宮の部屋か?」
「桜さんはそうです。
 セイバーさんは、さっき道場の方へ向かいました」
 むっ、となるとセイバーは精神集中しているのか?
 できればそのシーンを写真にとりたいところだが……、やめとこう。
 どうもセイバーにかなり警戒されているようだし。
 ……そうだな、写真を撮るのは衛宮と一緒に道場へ行ったときにしよう。
 それなら、精神集中を乱したということで悪意を持たれる危険性は減らせるだろう。
 っと、そんなことを考えていると衛宮と、衛宮を支えて歩く桜がリビングに現れた。
 桜が起きるのを許可したということは、ある程度回復したということだろう。
「おはよう。勝手に上がらせてもらってるわ、衛宮君」
「な、え――――!?」
 うむ、ものすごく動揺しているな。
 何で説明しなかったのか、と桜の方を見ると、桜も『しまった』という顔をしていた。
 どうやら、桜にとっては遠坂が泊まっていたことを衛宮が知らないことを忘れていたのか、説明し忘れたようだ。
 まあ、『衛宮のことが心配で、遠坂の存在を完全に忘れていた』と言う可能性も高そうだが。
 家族愛より愛する人への感情が上回っていたわけか。
 あ~、やっぱり桜は衛宮に取られてしまうのかなぁ。
 俺が一人落ち込んでいる中、衛宮は動揺したまま座布団に座り、深呼吸をして一言言った。
「遠坂、お前どうして「待った。その前に謝ってくれない?
 昨夜の一件についての謝罪を聞かないと落ち着けないわ」
 衛宮が全部話させることなく、怒りの言葉で遮る遠坂。
 遠坂は、そのまま衛宮を睨みつけている。
 衛宮は一瞬、何を言われていたのか分からなかったようだが、
「――――待て」
 次の瞬間、鋭い表情に変わった。
「……う」
「大丈夫ですか、先輩?」
 顔色を悪くした衛宮に気づき、すぐに体を支えていた桜が心配した。
「大丈夫だ、桜。ちょっと気分が悪くなっただけだ。
 って、変だぞ。なんだって生きてるんだ、俺」
「思い出した? 昨夜、自分がどんなバカをしでかしたかって。
 なら少しは反省しなさい」
 遠坂の無情なことばに、桜が反論してきた。
「姉さん、そんな言い方はないんじゃないですか?」
「いいよの、そこのバカにはこれくらい言ってちょうどいいのよ。
 桜だって、同じことされて今度こそ本当に死なれるなんて嫌でしょ」
「そ、それはそうですけど……」
 弱っ、一瞬で桜は遠坂に言い負かされてしまった。
 こうして、桜をさっさと黙らせると、遠坂は本格的に衛宮に対する攻撃を開始しようとしたが、その前に衛宮が反撃をしてきた。
「何言ってんだ、あの時はあれ以外する事なんてなかっただろ!
 あ……いや、そりゃあ結果だけみればバカだったけど、本当はもっと上手くやるつもりだったんだ。
 だから、アレは間違いなんかじゃない」
 そう言って、衛宮は視線でも遠坂に抗議した。
 遠坂はそれを聞いて、はあ、なんてこれ見よがしに疲れた溜息をこぼした。
「……む」
 衛宮は、遠坂のただそれだけの行為にすでに怯んでいる。
 弱い、弱すぎるぞ、貴様!!
「マスターが死んだらサーヴァントは消えるって言ったでしょう?
 だっていうのにサーヴァントを庇うなんてどうかしてるわ」
 衛宮は腕を組み、目つきを鋭くして、容赦なく言葉を紡いだ。
「いい、貴方が死んでしまえばセイバーだって消えてしまう。
 セイバーを救いたかったのなら、もっと安全な場所からできる手段を考えなさい。
 ……まったく、身を挺してサーヴァントを守る、なんて行為は無駄以外の何物でもないって解ってるの?」
 その意見には俺も同感。
 牽制したいのならば、ゲイボルクなり、ナインライブスを使えばよかった。
 倒したいと思ってカラドボルグを使ったのだとしたら、その認識は絶望的に甘すぎる。
 まあ、実際のところは『セイバーを助ける』ことだけしか考えていなかったんだろうけどな。
 ちなみに、隣にいる桜も力強く頷いている。
 桜にとっても、セイバーを助けることはともかく、その手段として特攻したことは認められないらしい。
 俺にとっては、衛宮という優秀な手駒が消えるのはいたいが、『衛宮が死んだらセイバーはキャスターの支配下に置いてしまえばいい』なんて考えているので、『死にたいのなら一人で他人に迷惑かけずにやれ』程度の感想しか持っていない。
 まあ、今の衛宮は滅多なことじゃ死なないので、そういうことはありえないとは分かっているが……。
「庇った訳じゃない。少しでもセイバーへの負担を減らそうとしたらああなっちまっただけだ。
 俺だってあんな目に会うなんて思わなかった」
 う~む、俺も色々干渉したと思うんだけどなあ。
 こいつのこういう発想そのものはほとんど変えられなかったなあ。
 まあ、一ヶ月程度で影響を与えられると思うほうが甘すぎたか。
「……そう。勘違いしているみたいね、貴方」
 遠坂は、当然と言うべきか、衛宮の答えを聞いてますます不機嫌になった。
「あのね衛宮くん。きっちりと言っておくけど、教会まで連れて行ったのは冬木のセカンドオーナーとして依頼されたことを果たしただけであって、貴方に勝たせる為じゃないわ。
 聖杯戦争についてほとんど知らない貴方も、あの説明を聞けば一人でも生き残れるかなって思ってたのに、どうもそのあたりを解ってなかったみたいね」
「俺が生き残れる……?」
「そうよ。負ける事がそのまま死に繋がるって知れば、そう簡単に博打は打たなくなる。
 衛宮くん、こういう状況でも一人で夜出歩きそうだから。
 脅しをかけておけば火中の栗を拾うこともなし、上手くいけば最後までやり過ごせるかもって思ったの」
「そうか。それは気づかなかった」
 そう言って頷いた後、衛宮は不思議そうに尋ねた。
「……? けどどうして遠坂が怒るんだよ。
 俺がヘマをやらかしたのは遠坂には関係ないだろ」
「関係あるわよ、このわたしを一晩も心配させたんだから!」
 ああもう、と癇癪を起こす遠坂。
「そうか。遠坂には世話になったんだな。ありがとう」
 衛宮はそう言って頭を下げた。
「――――」
 それを聞いた遠坂は、難しい顔をした後
「ふん、分かればいいのよ。これに懲りたら、次はもっと頭のいい行動をしてよね」
 ぷち、と視線を逸らした。
 俺から見ても、多少機嫌が良くなったように見える。
 なお、衛宮はその後、俺の隣から険しい視線を送る桜に気づき、慌てて桜にも謝っていた。
「じゃあこれで昨日の事はおしまいね。
 本題に入るけど、真面目な話を昨日の話、どっちにする?」
「「「?」」」
 いきなり、優等生モード、いや魔術師モードに入った遠坂に俺たちは戸惑いを隠せなかった。
「それじゃ真面目な方の話を。
 遠坂がここに残った理由が知りたい」
「――――そ。じゃあ先に結論から訊くわ」
 一瞬呆れた顔をすると、遠坂は話した。
「……?」
「じゃあ率直に訊くけど。
 衛宮くん、貴方これからどうするつもり?」
「ああ、俺は聖杯には興味ない。
 俺は聖杯戦争を止めたいと思っている」
「言うと思った。貴方ね、そんなこと言ったらサーヴァントに殺されるわよ」
「それは大丈夫だぞ。確かに俺は聖杯には興味ないけど、セイバーには必要だ。
 だから聖杯戦争は止めるし、聖杯も手に入れる」
「……貴方らしいわね。
 サーヴァントの目的は聖杯だから、どんな理由であれ貴方が聖杯を求めるというのなら問題はないわね。
 まあ、『マスターは要らないけど、サーヴァントが聖杯を求めるから聖杯を手に入れようとする』ってのは珍しいとは思うけどね。
 とにかく。いい、サーヴァントにとって最も重要なのは聖杯なの。
 彼等は聖杯を手に入れる可能性があるからマスターに従い、時にマスターの為に命を落とす。
 だっていうのに、聖杯なんていらないよ、なんて言ってみなさい。
 裏切り者、と斬り殺される羽目になるわよ」
「ああ、その辺は確かに慎二からも説明受けた」
「そう、なら話が早くて良いわ。
 慎二がどの程度話したかは知らないけど、聖杯を手に入れる為にマスターがサーヴァントを呼び出すんじゃない。
 聖杯が手に入るからサーヴァントはマスターの呼び出しに応じるのよ。
 その事を肝に銘じておきなさい」
 いや、それは違う。
 クーフーリンみたいに戦いを求めるやつもいれば、メデューサみたいに一人の少女を守りたいと召喚に答えたやつもいる。
 メディアにしても第二の人生を送る手段の一つとして聖杯を求めたのであって、絶対に聖杯が必要なわけではない。
 この辺の発想の硬さが、遠坂なんだろうな。
 まあ、こんなことを考えられるのも、『俺がFateを知っているから』なのは否定しない、
 ……しかし、前から不思議だったのは、遠坂の聖杯戦争についての情報量が質、量ともにかなり少ないことだ。
 アインツベルンもマキリも聖杯戦争の裏技を駆使してかなり無茶なコトをやっているのに、遠坂はそういったものの情報すら持っていないように見える。
 遠坂家には聖杯戦争に関する伝承や詳細な情報は存在しないのだろうか?
 まさか、後継者に伝えたと思っていたが、うっかり伝えるのを忘れたまま聖杯戦争に参戦して死んでしまい、失伝してしまったとか……。
 ……ありえる。
 冗談で考えたのだが、遺伝子レベルで肝心なところでポカをする遠坂家ならば、やりかねんな、これは。
 当然ながら、そんな俺の考えを知ることもなく、遠坂は衛宮への説明を続けていた。
「だからサーヴァントは、いえ昨日の話が本当ならランサーは別みたいだけど、普通のサーヴァントはマスターが命令しなくても他のマスターを消しにかかる。
 聖杯を手に入れるのは一人だけ。
 自分のマスター以外に聖杯が渡るのは彼らだって承知できないのよ。
 マスターと違って、サーヴァントには令呪を奪う、なんてコトはできない。
 彼らが他のマスターを無力化するためには殺す以外に方法がない」
 ん? それは違うんじゃないか?
 令呪は基本的には腕にある。
 ならば言峰がバゼットにしたように、腕を切り落としてしまえばそれで終わりだろう。
 まあ、切り落とした腕から令呪を奪うためには、言峰クラスの霊媒手術の技量は必要だとは思うけどな。
 ああ、俺がメディアと契約したみたいに、令呪なしのただの魔術師でもサーヴァントと契約できるから、それを知っていればマスターを生かしておく可能性は確かにないな。
「だからね、本来ならたとえマスター本人に戦う意思がないとしても戦いは避けられないのよ。
 サーヴァントに襲われたマスターは、自分のサーヴァントでこれを撃退する。
 それが聖杯戦争なんだって、綺礼から嫌っていうほど聞かされたでしょう?」
「――――ああ。それは昨日の夜教えられた。
 そうなると――――」
 衛宮は少しの間考え込むと、思わずといった感じで言葉を漏らした。
「そうか、やっぱりセイバーに戦ってもらわないといけないのか……」
「そうよ、人間じゃサーヴァントには敵わない。
 それは貴方自身が身をもって分かったでしょ」
「だけど、セイバーが英霊なのは知っているけど、同時に人間だ。
 昨日だって、血を流していた」
「あ、その点は安心して。
 サーヴァントに生死はないから。
 サーヴァントは絶命しても本来の場所に帰るだけだもの。
 英霊っていうのはもう死んでも死なない現象だからね。
 戦いに敗れて殺されるのは、当事者であるマスターだけよ」
「いや、だから。それは」
 やっぱり、衛宮はそう簡単には割り切れないらしい。
 そして、俺はその意見には同意だ。
 男のサーヴァントならともかく、美人、美女のサーヴァントが絶命することなど、男として許せるものではない。
「なに、人殺しだっていうの?
 魔術師のクセにまだそんな正義感振り回しているわけ、貴方?」
「――――――――」
 衛宮は何も言えずに黙ってしまった。
 が、俺としては『そういうお前は実際に人を殺したことがあるのか?』と言ってみたい。
 殺すだけの覚悟は決めているみたいだが、実際に殺した事がないやつにそんなことを言われても、説得力に欠ける事夥しい。
 いや、聞いて「殺した事がある」と答えられても怖いし、そうでなかったとしても俺に災いが来るような気がするんで、やっぱり黙っているんだが。
 まあ、俺も人を殺したことはないから、偉そうなことを言える立場ではないんだけどな。
 ついでに、桜にも余計なことは言わないよう、ラインを通じてしっかり釘をさしているため、結果としてこの場は遠坂の独断場と化している。
 なお、釘をさす必要もなく、事情を良く知らないため、弓塚は全く口を挟めないでいる。
「――――当然だろう。相手を殺すための戦いなんて、俺は付き合わない」
「へえ。それじゃあみすみす殺されるのを待つだけなんだ。
 で、勝ちを他のマスターに譲るのね」
「そうじゃない。自分から殺し合いをする気はないけど、一般人に害を為す行為を止めるつもりだ。
 戦いが長引くほど、一般人に被害を与える可能性は高いだろう。
 だから、できるだけ早くマスターやサーヴァントと接触して、聖杯を諦めさせる。
 どうしても説得できないなら、サーヴァントを倒すまでだ」
「それ、とんでもなく難しいことだって分かってるの、って言いたいところだけど……。
 マスター相手なら、セイバーが捕らえるのも可能でしょうし、捕まえてしまえば無力化するのは簡単。
 問題はサーヴァントだけど、セイバーなら何とかしちゃうかもね。
 一応言っておくけど、サーヴァントを殺さずに捕まえるなんて、セイバーでもほとんど不可能に近いわよ」
 ふっふっふ、遠坂は知る由も無いが、それはメディアなら十分に可能なのだ。
 ランサーにやったように、ルールブレイカーで令呪を奪って、令呪で命令すればいい。
 といっても、すでに敵対しているのは真アサシンとギルガメッシュ、バーサーカーに、将来的にはアーチャー。
 バーサーカーにはルールブレイカーが刺さらないが、それ以外のメンバーには十分可能だ。
 おっと、ギルガメッシュの場合、ルールブレイカーに近い能力をもっている宝具を持っていない方がおかしいから、こいつも無理か。
 まあ、どいつもこいつも素直に従うような奴等じゃないから、抹殺した方が後腐れないと俺は考えている。
 衛宮&セイバーとの同盟は、聖杯戦争をなるべく少ない犠牲者で終わらせて、次の聖杯戦争で聖杯をセイバーに渡す事が望み。
 ならば、隙を見て他のサーヴァントはメディアに抹殺してもらうか?
 ……まあ、できれば、の話ではあるのだが。
「ああ、難しいのは分かっている。
 でも、セイバーと一緒に何とかしてみせる」
 セイバーのみならず、メディア、メデューサ、ランサーといったサーヴァントを知っているからそう思うかもしれないけど、こいつらは例外だぞ~!
 バーサーカー、ギルガメッシュに真アサシンに説得なんてできるはずないよな~。
 ああ、口に出して説明したい。
「ふ~ん、まあがんばりなさい。
 ……でも、そうね。確かに貴方の意見は正しいところもあるわ。
 あなたも知ってるでしょうけど、サーヴァントっていうのは霊なの。
 彼等はもう完成したものだから、今以上の成長はない。
 けど、燃料である魔力だけは別よ。
 蓄えた魔力が多ければ多いほど、サーヴァントは生前の特殊能力を自由に行使できるわ」
 そうか?
 『彼等はもう完成したものだから、今以上の成長はない。』っていうのは微妙に違うんじゃないか?
 もちろん、彼等はもう成長も老化もしない、固定化した存在だ。
 しかし、召喚された後に、その世界で新しい情報を記憶することは可能だ。
 まあ、召喚されたときの記憶は消滅し、英霊の座には情報しか送られないらしいが、それは消滅後の話なので置いておく。
 つまり、召喚された時点ですでに魔術回路が開いており、かつ魔術を使いこなす能力がある英霊ならば、新しい魔術などを覚えることは可能だと思う。
 というか、すでにメディアは桜の記憶から読み出した記憶から初歩的な宝石魔術なら使えるらしいし、現在はバゼットの記憶から読み出したルーン魔術を修得しようとしているらしい。
 となると、魔力で編んだ鎧の具現化や、魔力を用いて自己治癒が可能なセイバーも、自分の適性に合う魔術なら修得できそうだな。
 セイバーがそれを望むかは、かなり疑問ではあるが……。
 戦闘技術については、まあ新しい戦闘経験は間違いなく積めるよな。
 後は、召喚された時点の体で行使できる戦闘技術を、新しく身に付けることは可能かな?
 まあ、今更英霊達が今までと異なる戦闘技術を学ぶとは思えないけど。
「その辺りは私たち魔術師と一緒なんだけど……。貴方、この意味解る?」
「解る。魔術を連発できるってことだろ」
「そうよ。けどサーヴァント達は私たちみたいに自然からマナ(魔力)を提供されてる訳じゃない。
 基本的に、彼等は自分の中だけの魔力で活動する。
 それを補助するのが私たちマスターで、サーヴァントは自分の魔力プラス、主であるマスターの魔力分しか生前の力を発揮できないの。
 けど、それだと貴方みたいに半人前のマスターじゃ優れたマスターには敵わないって事になるでしょ?
 その抜け道っていうか、当たり前って言えば当たり前の方法なんだけど、サーヴァントは他から魔力を補充できる。
 サーヴァントは霊体だから。
 同じモノを食べてしまえば栄養が取れるってこと」
「――――む?」
 衛宮は遠坂の言葉に考え込んでいる。
 そういや、このことは衛宮には説明してなかったな。
 メディアが精神エネルギーを集め、犯罪者から魂エネルギーの一部を柳洞寺に収集していることは説明した。
 が、簡単で、かつ最低最悪の手段として、サーヴァントに人を食わせる方法があることの説明するのを忘れていたわい。
「同じモノって、精神や魂のエネルギーじゃなくて、霊体のコトか?
 けど何の霊を食べるっていうんだよ」
「簡単でしょ。自然霊は自然そのものから力を汲み取る。
 なら人間霊であるサーヴァントは、一体何から力を汲み取ると思う?」
「――――あ」
 それを聞いてやっと衛宮は分かったらしい。
「ご名答。まあ魔力の補充なんて、聖杯の補助されたマスターからの提供だけで、大抵は事足りる。
 けど一人より大勢の方が大量摂取できるのは当然でしょ?」
 その通り、実際メディアもその理論の実践者である。
「はっきり言ってしまえばね、実力のないマスターは、サーヴァントに人を食わせるのよ」
「――――」
「サーヴァントは人間の原感情や魂を魔力に変換する。
 自分のサーヴァントを強くしたいのならそれが一番効率いい。
 人間を殺してサーヴァントへの贄にするマスターは、決して少なくないわ」
「贄にするって……それじゃ手段を選ばないヤツがマスターなら、サーヴァントを強くする為に人を殺しまくるってコトなのか?」
「そうね。けど頭のいいヤツならそんな無駄なことはしないんじゃないかな」
 はい、その通りです。しかし、おバカさんなオリジナル慎二は、ライダーにその無駄なことを思いっきりさせようとしました。
「いい、サーヴァントがいくら強力でも、魔力の器そのものには限界がある。
 能力値以上の魔力の貯蔵はできないもんだから、殺して回るにしても限度があるわ。
 それにあからさまに殺人を犯せば協会が黙ってないし、何よりその死因からサーヴァントの能力と正体が、他のマスターたちにバレかねない。
 もちろんマスター自身の正体もね。
 聖杯戦争は自分の正体を隠していた方が圧倒的に有利だから、普通のマスターならサーヴァントを出し惜しみする筈よ」
 遠坂の言葉が正しいなら、初日に意識不明者を出しただけのメディアの行為は見逃してくれるかな?
 遠坂が許してくれるかどうかは、頭が痛い問題だからなぁ。
「……良かった。なら問題はないじゃないか。
 マスターが命令しなければ、サーヴァントは無差別に人を襲わないんだから」
「でしょうね。仮にも英雄だもの、自分から人を殺してまわるイカレ野郎は、そもそも英雄だなんて呼ばれないだろうけど――――ま、断言はできないか。
 殺戮者だからこそ英雄になった例なんて幾らでもあるんだし」
「――――――――」
 さらりと不吉なコトを言う遠坂。
「とりあえず、確認しておきたかった事はそういうコト。
 サーヴァントがどんなモノかは判ったでしょ?
 聖杯戦争に勝ち残ろうとしているのはマスターだけじゃない。
 この戦いに参加した以上、衛宮くんは自分のサーヴァントを律する義務がある」
「――――――――」
 う~ん、まあ、メディアは人を殺していないわけだし、Fateみたいに男を不能にしているわけでもないから、律しているうちに入るよな。
 しかし、こうして遠坂の解説を聞くと、多くの人から精神エネルギーと魂エネルギーの一部を収集し、柳洞寺に保管して必要なときに利用できるメディアがいかに優秀なのかよく理解できる。
「少しは自分の立場が理解できた?
 なら次は貴方の体の事ね。
 衛宮くん、あれから自分に何が起きたのか覚えている?」
「――――いや、覚えているも何も、俺は」
 そう言って、衛宮は顔色を悪くした。
 どうやら、やっと自分が死に掛けたことを思い出したらしいな。
「……ふん、そんなコトだろうと思ったわ。
 本題の続きに入る前に、そこんところだけ説明してあげる」
 不愉快げに溜息をこぼして、遠坂は手短に昨夜の事を説明しだした。

 説明の内容は、
・衛宮が気絶した後、バーサーカーが立ち去った事
・衛宮の体の外見は、5分足らずで完治したこと
・傷は治っても意識が戻らない衛宮をここまで運んだ事
といったことだ。

「ここで重要なのは、貴方は貴方一人で生ききったっていう事実よ。
 確かに私は手助けしたけど、あの傷を完治させたのは貴方自身の力だった。
 そこ、勘違いしないでよね」
「話を聞くとそうみたいだけど。
 ……なんだ、遠坂が治してくれたんじゃないのか?」
「まあ、一回きりなら、死に掛けている人間を蘇生させる、なんて芸当もできなくもないけどね。
 確かに衛宮士郎は、自分でぶっ飛んだ中身をどうにかしたのよ」
「――――あっ、もしかして治療用の魔術具が発動したのか?
 確かに強力だとは思ってたけど、そこまで効果があるとは思わなかったな」
 そういえば、アヴァロンの回復力について『たいていの怪我は治る』としか説明して無かったから、致命傷まで治るとは思ってなかったわけか。
 実際、Fateにおいて、ランサーに心臓を破壊されてもぎりぎりで生きてたからな。
 衛宮を即死させたかったら、脳を全部吹き飛ばすか、あるいは頭以外を全部消滅させるぐらいしないと無理そうだな。
「ちょっと待ってよ!
 確かにランサーとの戦闘の傷はすぐに治ってたけど、あれは腹を完全に吹き飛ばされたのよ。
 というか、胴体が千切れかかったのよ。
 それを5分足らずで回復させる魔術具って一体?
 いえ、それ以前に貴方はそんな魔術具は持っていなかったじゃない!!」
 遠坂の言葉はまるで悲鳴のようだった。
「ああ、俺もよく知らないんだけど、10年前の火事で死に掛けた俺を助けるために、親父が体内に埋め込んだらしい。
 といっても、使い始めたのは最近だし、いままでは精々打撲とか、擦り傷とか、体力回復にしか使ったことなかったけど」
 それを聞いて遠坂は何か納得したようだった。
「なんだ、そうだったんだ。
 ……となると、元々あった魔術具による回復力に他の力が加わることで、あのとんでもない回復力になった可能性はあるわね。
 そうなると、ありそうなのはサーヴァントが原因かしら?
 貴方のサーヴァントはよっぽど強力なのか、それとも召喚の時に何か手違いが生じたのか。
 ……ま、両方だと思うけど、何らかのラインが繋がったんでしょうね」
「ラインって、使い魔と魔術師を結ぶ因果線の事か?」
「そうよ、要するに衛宮くんとセイバーの関係は、普通の主人と使い魔の関係じゃないってコト。
 見たところセイバーには自然治癒の力もあるみたいだからそれが貴方に流れてるんじゃないかな?
 普通は魔術師の能力が使い魔に付与されるんだけど、貴方の場合は使い魔の特殊能力が主人を助けてるってワケ」
 ほ~、なるほど、普通の魔術師ならそういう考え方をするわけか。
「……む。簡単に言って、川の水が下から上に流れているようなもんか?」
「上手い喩えね。本来ならあり得ないだろうけど、セイバーの魔力ってのは川の流れを変えるほど膨大なんでしょう。
 そうでなければ、あの体格でバーサーカーとまともに打ち合うなんて考えられない」
「本来ならあり得ない……じゃあ遠坂とアーチャーは普通の魔術師と使い魔の関係なのか?」
「そうよ。人の言うこと全っ然聞かないヤツだけど、一応そういう関係。
マスターとサーヴァントの繋がりなんて、ガソリンとエンジンみたいなものだもの。
 こっちが魔力を提供して、あっちがそれを食べるだけ。
 ……まあ中には肉体面でもサーヴァントと共融して擬似的な"不死"を得たマスターもいたそうよ。
 サーヴァントが死なない限り自分も死なない、なんていうヤツなんだけど……衛宮くん、人の話聞いてる?」
 結果として、アヴァロンがばれなくて、俺としては幸いなんだが、それって、俺とメディア、桜とメデューサの間にはできないのかなぁ?
 ってもしかして、擬似的な不死を得たマスターって、『セイバーのマスターであり、アヴァロンを所有していた切嗣のこと』だったりするのか?
 なんか、色々と納得してしまう回答ではあるな。
 あ~、その辺も含めてメディアに聞いてみるか。
 そんなことを俺が考えていると、衛宮と遠坂は二人の世界を作って話し続けていた。
「え……? ああ、聞いてる。
 じゃあ遠坂、俺の体って多少の傷はほっといても治るって事か?」
「貴方のサーヴァントの魔力を消費してね。
 理屈が解らないけど、原因がセイバーの実体化にある事は間違いないわ。
 貴方の体内にあるという魔術具と、セイバーの自然治癒の力。
 それが合わされば、あれぐらいの効果は発揮するかもね」
 ふむ、さすがは遠坂。
 少ない情報ながら、かなり的確な判断だ。
 微妙に違うところもあるが、まあこれはFateを知らない以上分かるはずもない。
 大筋では合ってるし、さすがは遠坂というところか。
「なるほど、そうだったんだ」
「そういうことよ。とにかくあまり無茶はしない事。
 今回は助かったからいいけど、次にあんな傷を負ったらまず助からない筈だから。
 多少の傷なら治る、なんていう甘い考えは捨てた方がいいでしょうね」
「分かってる。俺が勝手に怪我をして、それでセイバーから何かを貰ってる、なんていうのは申し訳ない」
「バカね、そんな理由じゃないわよ。
 断言してもいいけど、貴方の傷を治すと減るのはセイバーと貴方の魔力だけじゃない。
 ――――貴方、それ絶対なんか使ってるわ。
 寿命とか勝負運とか預金残高とか、ともかく何かが減りまくってるに違いないんだから」
 そう言って、遠坂はふん、と鼻を鳴らした。
 最後にお金が出てくるところで、守銭奴遠坂の本性が透けて見える。
 この反応を見る限り、『もうすぐ遠坂時臣の遺産が尽きそうだからかなり危機感を持っている』っていう話は本当みたいだな。
「遠坂。預金残高は関係ないんじゃないか?」
「あの~、姉さん。私も関係ないと思います」
「うん、関係ないな」
「私も関係ないと思います」
「関係あるわよ! 魔術ってのは金食い虫なんだから、使っていればどんどんどんどんお金は減っていくものなの!
 そうでなければ許さないんだから、特に私が!」
 4人がかりで反論されてもへこたれることなく反論し、ガアー! と私怨の炎を吹き上げる遠坂。
 しかしそうなると、衛宮は遠坂に抹殺される未来しかないのか?
 アヴァロン回復に必要なのは、衛宮とセイバーの魔力だけだからなぁ。
 ちなみに、その台詞を聞いた桜、弓塚、衛宮は呆れ顔をしているが、猛り狂う遠坂は気づいていないようだ。

「話を戻しましょうか。で、どうするの。
 人殺しをしないっていう衛宮くんは、他のマスターの一般人に害を為す行為を止めるつもりでしたっけ?
 じゃあ、他のマスターが一般人を害したらどうするのかしら?」
 さすが遠坂、衛宮の言葉の矛盾点を突いて容赦なく笑顔で攻撃をしてきた。
「俺は他のマスターが一般人に危害をくわえないように全力を尽くす。
 でも、もしそれが間に合わなかった場合はそのマスターを捕まえて、絶対に償いをさせる」
「呆れた。それ、本気で言ってるの?」
「ああ、都合がいいのは分かってる。
 けど、それ以外の方針は考え付かない。
 こればっかりはどんなに論破されても変えないからな」
「ふ~ん。問題点が一つあるけど、言って良いかしら?」
 遠坂のその顔は、明らかに何か企んでいるものだった。
「い、いいけど、なんだよ」
「昨日のマスターを覚えてる?
 衛宮くんと私を簡単に殺せ、とか言ってた子だけど」
「――――」
「あの子、必ず私たちを殺しに来る。
 それは衛宮くんにも判ってると思うけど」
「あの子のサーヴァント、バーサーカーのヘラクレスは桁違いよ。
 マスターとして未熟な貴方にアレは撃退できない。
 他のマスターに聖杯を諦めさせるって言うけど、貴方は身を守る事さえ出来ないわ」
 まあ、当然だな。
 衛宮がかろうじて対抗できるサーヴァントは(油断した)ギルガメッシュのみ。
 セイバーも狂化したバーサーカー相手には苦戦してたもんなぁ。
 まあ、使った武器はインビジブル・エアだけだから、カリバーンやエクスカリバーを使えば話は別だろうけどさ。
「――――悪かったな。けど、そういう遠坂ってアイツには勝てないんじゃないのか?」
「そうね。正面からじゃ、いえ十二の命を持ってる以上、どんな戦い方をしても勝てる可能性はかなり低いでしょうね。
 白兵戦ならアレは最強のサーヴァントよ。
 セイバーも最初は互角以上に戦ってたけど、バーサーカーが狂化されてからは押されてたし、ランサーも最後はまるで歯が立たなかったでしょ?
 きっと歴代のサーヴァントの中でも、アレと並ぶヤツはいないと思う。
 私もバーサーカーに襲われたら逃げ延びる手段はないわ」
 遠坂の言葉を聞いて、この辺に霊体化して漂っているであろうランサーの怒りの波動が伝わってきた、ような気がした。
 誇り高いあいつには、悔しいだろうなぁ。
 しかし、そのバーサーカーに圧勝できるギルガメッシュがいるから、とんでもないんだよなあ。
 いや、それでもバーサーカーでもイリヤをかばっていなければ、結構互角に戦えたかもしれないけど……。
「……それは俺だって同じだ。
 今度襲われたら、きっと次はないと思う」
 衛宮はそう言って腹に手を当てた。
「そういうこと。解った?
 他のマスターを説得する、なんて考えてる自分の認識が甘すぎるってコトが」
「……ああ、それは解った。
 けど、遠坂。
 お前、さっきから何を言いたいんだよ。
 ちょっと理解不能だぞ?
 死刑宣告された俺を見るのが楽しいってワケでもないだろ……って、もしかして楽しいのか?」
「そんな、姉さん。悪趣味ですよ!!」
 二人からそんなことを言われた遠坂は、顔をしかめると即座に反論した。
「そこまで悪趣味じゃないっ!
 もう、ここまで言ってるのに分からない?
 ようするに、私と手を組まないかって言ってるの」
「?」
「――――て、手を組むって、俺と遠坂が!?」
 衛宮が驚きの余り叫ぶが、遠坂は気にせずに話を続ける。
「そう。私のアーチャーは致命傷を受けて目下治療中。
 完全に回復するまで時間がかかるけど、それでも半人前ぐらいの活躍はできる筈よ。
 で、そっちのサーヴァントは申し分ないけど、マスターが足をひっぱってやっぱり半人前。
 ほら、合わせれば丁度いいわ」
「むっ。俺、そこまで半人前なんかじゃないぞ」
 そう反論する衛宮に、遠坂は呆れたような、見下したような視線をした。
「私が知る限りでもう二回も死にそうになったっていうのに?
 一日で二回も殺されかける人間なんて初めて見たけど?」
「ぐ――――けど、それは」
 衛宮はぐうの音も出なかった。
 確かにそれだけ過酷な状態になっていれば、『一人前の魔術師だ』とは言い返せないよなぁ。
「同盟の代価ぐらいは払うわ。
 アーチャーを倒されたコトはチャラにしてあげて、マスターとしての知識も教えてあげる。
 ああ、あと暇があれば衛宮くんの魔術の腕を見てあげてもいいけど、どう?」
 衛宮は思いっきり動揺し、黙って悩み続けた。
 桜は不安そうな顔で、衛宮と遠坂を交互に見つめている。
「衛宮くん? 答え、聞かせてほしいんだけど?」
 しかし、遠坂はすぐに返答を急かしてきた。
 と、衛宮が俺と桜の方を向いて、何か言いたげな視線を向けてきた。
 ん? え~と、この状態で衛宮が俺たちに聞きたいこととなると?
 おっ、あ~、そうか!!
 衛宮は俺たちと既に協定を結んでいる、そのことを気にしたのか?
 確かに衛宮たちが俺たちと同盟を組んでいたら色々と面倒だったろう。
 しかし、今はセイバーの強い反対により、衛宮&セイバーと俺たちは同盟を組んでおらず、ただの一時停戦でしかない。
「もしかして、俺の意見を聞きたいのか?
 そうだとしても、俺はただの仲介役だから気にしなくて良いぞ。
 まあ、衛宮に協力することを約束しているから、今後も遠坂がそれを認めてくれるなら問題ない。
 そういうわけで、後はお前の意志次第だ」
「私だって、わざわざ慎二と敵対するつもりもないわ。
 衛宮くんと慎二がどういう約束をしているか知らないけど、慎二が私に敵対あるいは不利益をもたらさない限り、衛宮くんが今の約束を維持しても全然構わないわ」
 幸いにも遠坂も俺の存在を排除するつもりはなかったらしい。
「おっと、一つ言い忘れていた。
 遠坂も気づいているとは思うが、俺たちは遠坂に秘密にしていることがある。
 衛宮も一部は知っているが、俺たちから口止めしている。
 それだけは、それ相応の対価とかない限り、遠坂には教えられないけどそれでいいか?」
「ええ、構わないわ。
 どうせ、貴方達の封印指定の師匠に関連する情報とかでしょう?
 私も好き好んで封印指定を敵に回したくはないし、別に構わないわ。
 どうせ、聖杯戦争が終わるまでそんなことに関わる余裕はないしね」
 はっ、相変わらず遠坂は思い込みが激しいな。
 確かに橙子のこともそうだが、俺たちがマスターであるなんて欠片も想像してないらしいな。
「分かった。それならいい。ただし、後でその秘密を知ったときに怒るなよ」
「ふん、アンタなんかが隠している秘密程度で私が怒るはずないでしょ。
 そうね。私が怒るようなことがあれば、何でも言う事を上げてもいいわよ」
 遠坂は明らかに見下したような視線で、嘲るように言い切った。
「その言葉、忘れるなよ」
「アンタこそ、私をがっかりさせないでよね」
 何か知らんが、何時の間にかそういう約束が成立していた。
 いやいや、『肝心なときにポカする』のが遠坂家の遺伝とはいえ、ここまですごい約束してくれるとは思わなかったなぁ。
 なお、話から置き去りにされた桜は、不安そうな顔で俺と遠坂を見ている。
 しかし、これは遠坂から言ったことだ。
 俺が勝てばどんなことを命令しても遠坂に断る権利はない。
 ……まあ、桜に嫌われるのはイヤだから、桜がぎりぎり認めてくれるレベル程度しか命令するつもりはないけどな。
 俺の辞書に、『寛大』という文字など存在しない。
「そうそう。とりあえず、衛宮と遠坂が一時同盟状態になった以上、遠坂にも協力するのもやぶさかじゃないぜ」
「ふん、マスターでもないあんたが何を協力できるっていうのよ」
「まっ、俺が魔術師見習いなのは確かだからな。
 俺にできるのは、精々情報提供ぐらいだな。
 魔術師の基本は等価交換。
 対価に応じた情報を提供するぜ?」
 さて、今俺がマスターであることを否定しなかったが、どういう反応を示すかな?
「あんたに情報をもらうほど落ちぶれてないわよ。
 まあ、万が一にも、ありえないとは思うけど、どうしようもないほど追い詰められたら、もしかしたらあんたに情報をもらうかもね」
 そう言いつつも、遠坂が俺を見る目はものすごく冷ややかで、そんなことは万に一つもない、と言い切っているに等しかった。
 こ、こいつ、そこまで馬鹿にするか?
 いや、俺の実力から言えば正当な評価なんだが、それでももうちょっと配慮とかしないか、普通。
 まあいいさ。もし遠坂が下手に出れば、バゼットのこととか、臓硯のこととか教えてやろうかと思ったが、もう教えてやらん。
 今、俺から情報をもらわなかったことを思う存分後悔するがいい!!

 それまで黙っていた衛宮も、俺と遠坂の会話を聞いて、やっと踏ん切りがついたらしい。
「――――分かった。その話に乗るよ、遠坂。
 正直、そうして貰えれば助かる」
 遠坂はかすかに微笑んで言った。
「決まりね。それじゃ握手しましょ。
 とりあえず、バーサーカーを倒すまでは味方同士ってことで」
「あ……そっか。やっぱりそういう事だよな。
 仕方ないけど、その方が判りやすいか」
 衛宮は差し出された遠坂の手を握った。
 そして、顔を赤らめて手を慌てて引いた。
 それを見た桜はあからさまに嫉妬しており、弓塚は興味津々でその三者を見ている。
「なに、どうしたの? やっぱり私と協力するのはイヤ?」
 遠坂は衛宮が握手に照れたことに気づかなかったようだ。
 一方、恋する乙女の直感でそれに気づいてしまった桜は、思いっきり膨れている。
「――――いや、そんなんじゃない。遠坂と協力しあえるのは助かる。
 今のはそんなんじゃないから、気にするな」
 遠坂は不思議そうに衛宮を見た後、
「ははーん」
 なんて、とんでもなく意地の悪い顔をした。
「な、なんだよ。つまらないコトを言ったら契約破棄するからな。
 するぞ。絶対するからな!」
「貴方、女の子の手を握るの初めてだったんでしょ?
 なんだ、顔が広いように見えて士郎ってば奥手で、桜とは何もなかったんだ」
 そう言って、遠坂はちらっと桜の方を見た。
 桜は、それを聞いて怒りか恥ずかしさか分からないが、顔が真っ赤になってしまった。
「ち、違うっ! そんなんじゃなくて、ただ」
 そこで言葉が止まってしまった衛宮だが
「――――って、む?」
 次の瞬間、顔中『?』マークで埋まってしまった。
「あはは、聞いてた通りほんと顔にでるのね。
 ま、今のは追求しないであげましょう。
 ヘンにつっついて意地を張られても困るし。
 じゃ、まずは手付金。これあげるから、協力の証と思って」
 そう言って、遠坂はテーブルに一冊の本を持ち出した。
 一見すると、表紙はワインレッド、タイトルなしの日記帳にしか見えない。
「私の父さんの持ち物だけど、もう要らないからあげる。
 一人前のマスターには必要ないものだけど、貴方には必要だと思って」
 遠坂の催促の視線を受け、衛宮は
「……じゃ、ちょっと失礼して」
 と言って、適当に頁をめくった。
「あっ! これ、サーヴァントの能力のイメージじゃないか?」
「えっ、確かにこれは各サーヴァントの能力表だけど、……もしかして、貴方がサーヴァントを見たときに受け取るイメージって、これそのままなの?」
「ああ、俺がサーヴァントを見たときに受け取るイメージのまんまだ」
「う~ん、イメージで受け取る時は、普通動物とか色とかになるから、客観的なデータで見れれば便利だと思ったんだけど……、これとほとんど同じイメージを受け取っているのなら、意味ないわね」
 遠坂は、せっかく手付金として渡した『サーヴァントのイメージを能力表として認識させる本』が衛宮には必要がないと知ってがっかりしているようだ。
 なるほどな、あの本はマスターなら誰が見ても能力表としてのイメージを与える魔術具だったわけか。
 俺がメディアに頼んでやってもらったイメージを操作できる能力の本があるとは、なかなか便利なものだな。
 マスターである俺が横から見てもサーヴァントの能力表が見えたが、当然何も言わなかった。
「あ~、まあ、それは置いといて、サーヴァントの能力表がどうかしたのか?」
「ええ、聖杯戦争には決められたルールがあるのはもう判ってるでしょ?
 それはサーヴァントにも当てはまるの。
 もしかしてもう知ってるかしら?」
「いや、その辺は簡単にしか慎二に教わってない。それで?」
 そう、俺は裏事情を詳細に教えたが、表の事情は面倒だったので本当に簡単にしか教えなかった。
「じゃあ、知ってこともあるかもしれないけど、一から説明するわ。
 まず、呼び出される英霊は七人だけ。
 その七人も聖杯が予め作っておいた"クラス"になる事で召喚が可能となる。
 英霊そのものをひっぱってくるより、その英霊に近い役割を作っておいて、そこに本体を呼び出すっていうやり方ね」
「口寄せとか降霊術は、呼び出した霊を術者の体に入れて、何らかの助言をさせるでしょ? それと同じ。
 時代の違う霊を呼び出すには、予め"筐"を用意しておいた方がいいのよ」
「役割――――ああ、それでセイバーなのか!」
「そういう事。英霊たちは正体を隠すものだって言ったでしょ?
 だから本名は絶対に口にしない。
 自然、彼らを現す名称は呼び出されたクラス名になる」
 そうだよな。俺も意識して味方しかいない場所とそれ以外で呼び方を変えている。
 油断すると、すぐに本名を呼んでしまいそうになるから、気が抜けないのが難点ではあるが、24時間クラス名しか呼ばないという無味乾燥な日々を送るつもりも毛頭ない。
「で、その用意されたクラスは
 セイバー、
 ランサー、
 アーチャー、
 ライダー、
 キャスター、
 アサシン、
 バーサーカー、の七つ」
 しかし、そのルールを破って8番目のアヴェンジャーを召喚した大馬鹿者がいたから、ここまで厄介な事態になったんだよなぁ。
「聖杯戦争のたびに一つや二つはクラスの変更はあるみたいだけど、今回は基本的なラインナップね。
 通説によると、最も優れたサーヴァントはセイバーだとか。
 これらのクラスはそれぞれ特長があるんだけど、サーヴァント自体の能力は呼び出された英霊の格によって変わるから注意して」
 だな。前回の聖杯戦争では、騎士王、英雄王、征服王の三人が召喚されたわけで、ここまでくるとクラスなんてほとんど関係ない世界へ突入してしまう。
「英霊の格……つまり生前、どれくらい強かったってコトか?」
「それもあるけど、彼らの能力を支えるのは知名度よ。
 生前何をしたか、どんな武器を持っていたか、ってのは不変のものだけど、彼らの基本能力はその時代でどのくらい有名なのかで変わってくるわ。
 英霊は神様みたいなモノだから、人間に崇められれば崇められるほど強さが増すの」
 う~ん、話を聞けば聞くほど、人に利用され、最後には裏切られて殺されたエミヤが、パワーアップしているはずがないと想像できる。
「存在が濃くなる、とでも言うのかしらね。
 信仰を失った神霊が精霊に落ちるのと一緒で、人々に忘れ去られた英雄にはそう大きな力はない。
 もっとも、忘れられていようが知られていなかろうが、元が強力な英雄だったらある程度の能力は維持できると思うけど」
 この説明こそが、まさに英霊エミヤのことだな。
 あいつ自身の能力はそれほど高くない。
 ないが、英霊になった後、様々な武器の登録数を増やしていったと思われる固有結界『無限の剣製』の存在が、とてつもなく強力なのは間違いない。
「……じゃあ多くの人が知っている英雄で、かつその武勇伝も並外れていたら――――」
「間違いなくAランクのサーヴァントでしょうね。
 そういった意味でもバーサーカーは最強かもしれない。
 何しろギリシャ神話における最も有名な英雄だもの。
 神代の英雄たちはそれだけで特殊な宝具を持つっていうのに英雄自体が強いんじゃ手の打ちようがない」
 じゃあ、同じギリシャ神話の英雄……じゃないけど、知名度(悪名)はそれなりに高く、強力な特殊能力を持つメディアとメデューサなら対抗できるってことになるけど……、結構対抗できるかな?
 メディアの場合、バーサーカーの攻撃範囲外から毎回種類の異なるランクAの魔術をぶつければ殺しきれるのも不可能じゃなさそうだし、メデューサも12回殺すのは無理でも石化の魔眼と併用すればベルレフォーンで7回以上殺すのも可能だろう。
 なにせ、Fateのセイバールートでは、ランクA+と思われるカリバーンでバーサーカーが7回死んでるからな。
「……遠坂。その、宝具のことなんだが……」
「その英霊が生前使っていたシンボル。
 英雄と魔剣、聖剣の類はセットでしょ?
 ようするに彼らの武装の事よ」
「やっぱりそうか。そういえば、セイバーも持ってたな」
「セイバーの視えない剣のことでしょ?
 あれがどんな曰くを持っているか知らないけど、セイバーのアレは間違いなく宝具でしょう」
 言うまでもないと思うけど、英雄ってのは人名だけじゃ伝説には残れない。
 彼らにはそれぞれトレードマークとなった武器がある。
 それが奇跡を願う人々の想いの結晶、『ノーブル・ファンタズム』とされる最上級の武装なワケ」
「む……ようするに強力な魔術具って事か?」
「そうそう。ぶっちゃけた話、英霊だけでは強力な魔術、神秘には太刀打ちできないわ。
 けれどそこに宝具が絡んでくると話は別よ。
 宝具を操る英霊は数段格上の精霊さえ打ち滅ぼす。
 なにしろ伝説上に現れる聖剣、魔剣は、ほとんど魔法の域に近いんだもの」
 この遠坂の説明が事実なら、数段格上の平均的なサーヴァントより4倍強い、肉体を持った精霊である真祖の吸血鬼に勝つのも不可能じゃないんだろうなぁ。
 まあ、アルクェイド一人ならともかく、メディアとメデューサ、そしてランサーがフォローするのは確定しているから、ギルガメッシュが相手でもそう簡単には負けないとは思うが。
 いや、反則技である衛宮の投影魔術によって、アルクェイドが使いこなせる宝具を提供すれば、まさに鬼に金棒だよな。
 ナイフ型のハルペーとカリバーンを所持している遠野志貴とシエルは、すでに鬼に金棒状態だしなぁ。
「最強の幻想種である竜を殺す剣だの、万里を駆ける靴だの、はては神殺しの魔剣まで。
 ……ともかくこれで無敵じゃない筈がないっていうぐらい、英霊たちが持つ武装は桁が違う。
 サーヴァントの戦いは、この宝具のぶつかり合いにあると言っても過言じゃないわ」
「……つまり、英霊であるサーヴァントは必ず一つ、その宝具を持っているってコトだな」
「ええ。原則として、一人の英霊が持てるのは一つの宝具だけとされるわ。
 大抵は剣とか槍ね。
 ほら、中国に破山剣ってあるじゃない。
 一振りしかできないけど、その一振りで山をも断つっていう魔術品。
 それと似たようなモノだと思う。
 もっとも、宝具はその真名を呪文にして発動する奇跡だから、そうおいそれと使えるモノじゃないんだけど」
「? 武器の名前を口にするだけで発動するんだろ?
 なんだってそれでおいそれと使えない、なんてコトになるんだ?」
「あのね。武器の名前を言えば、そのサーヴァントがどこの英雄か判っちゃうじゃない。
 英雄と魔剣はセットなんだから、武器の名前が判れば、持ち主の名前も自ずと知れてしまう。
 そうなったら長所も短所も丸判りでしょ?」
「なるほど。そりゃあ、確かに。
 セイバーの剣も有名だったもんなぁ」
 衛宮はポロッとやばい言葉を漏らしたが、幸いそれ以上は言わなかった。
 遠坂もその一言に気づいていないはずはないが、何も言わなかった。
「以上でサーヴァントについての講義は終わり。
 詳しい事はその本を見れば判るから、って衛宮くんには意味がなかったわね。
 まあ、サーヴァントの詳しい情報をしっかり認識しときなさい。
 戦場では、ちょっとしたことが命取りになるから」
 それだけ言って、遠坂は座布団から立ち上がった。
「さて、それじゃあ私は戻るけど」
「え? ああ、お疲れ様」
 衛宮は座布団に座ったまま、遠坂を見上げて言った。
「協力関係になったからって間違わないでね。
 私と貴方はいずれ戦う関係にある。
 最後の日になって他のマスターたちが倒れているにしろ、全員健在であるにしろ、これだけは変わらない。
 だから――――わたしを人間と見ないほうが楽よ、衛宮くん」
 そんなことを言われると、『じゃあ未来の俺の奴隷かペットとして見ればいいんでしょうか?』なんて真っ先に考えてしまう俺は、やっぱ色々とやばいかなぁ? ……やばいだろうなぁ。
 遠坂は、衛宮にそう言葉を投げかけると、遠坂はあっという間に衛宮邸を去っていった。

「まるで、嵐が去ったみたいだな」
 遠坂が帰った後、ポケーとしていた衛宮に俺が呼びかけると、やっと正気に戻ってきたようだった。
「ああ、遠坂のおかげで聖杯戦争のことについてよく分かった」
「そうだな。表事情についてはアレがほとんどだろうな。
 で、裏事情は俺が教えたとおりだから、これで全部だな」
「そっか、って、そういえばセイバーは?」
 遠坂ショックからやっと回復できたらしい衛宮は、やっとセイバーがいないことに気づいたらしい。
「セイバーさんは道場に行かれましたよ」
「そうだったのか。……っと、セイバーの傷は?」
「安心しろ。昨日の戦闘直後に完治してるぞ。
 まあ、俺の言葉じゃ信用できないだろうから、会いに行って自分の目で確かめればいいだろ」
 言うが早いが衛宮は立ち上がるとそのまま道場へ向かおうとした。
 が、すぐにふらついてしまい、慌てて桜が支え、二人で道場へ向かった。 
 俺も慌てて置いてあったデジカメを手に持って、衛宮の後を追った。
 二人がゆっくり歩くのをのんびりと追いかけ、淡い陽射しが差し込む道場へ入ると、そこにはセイバーが静かに瞑想をしていた。
 セイバーが着ていたのは桜があげたものではなく、Fateでセイバーが着ていた青いスカートと白いシャツだった。
 何時の間に遠坂は持ってきたんだろうか?
 まあ、そんなことはともかく、絶好のシャッターチャンスを逃すわけもなく、俺はファインダーから除くと、セイバーの姿をデジカメで撮った。
 その姿は一筋の乱れもなく凛としており、俺はただシャッターを切り続けた。
 なお、満足がいくだけ撮った後、すっかり忘れていた衛宮を確認すると、こいつも魂が抜けたようにセイバーに見入っており、毎度のごとく桜が頬を膨らませて嫉妬している。
 と、俺たちのことに気づいたのか、瞑想が終わったのか、セイバーは目蓋を開いた。
「――――あ」
 それを見て、思わずこぼしたらしい衛宮の声は、やけに大きく道場に響いた。
 セイバーは音もなく立ち上がり、桜から離れ衛宮はセイバーの方へ歩いていった。
「目が覚めたのですね、シロウ」
 セイバーの落ち着いた声に、衛宮も静かに答える。
「あ――――ああ。ついさっき、目が覚めた」
「シロウ? 顔色が優れないようですが、やはり体調は悪いのですか?」
 ずい、と衛宮に近づいて言うセイバー。
「あ、ち、違う……! 体調はいい、すごくいい……!」
 セイバーに照れたのか、衛宮は慌てて身を引いて、セイバーから離れる。
 ここまで桜に支えられて来たくせに精一杯虚勢を張る衛宮に対し、桜は白い目で見ているがこいつは全く気づいていない。
「?」
 そんな衛宮を見て、セイバーは不思議そうに首をかしげる。
「シロウ」
「セイバー、体は大丈夫なのか?
 昨日、バーサーカーにやられた傷、深かっただろ?」
「……? 私の体は見ての通りですが。
 確かに多少傷を負いましたが、それほど深かったわけではありません。
 バーサーカーが立ち去った後、すぐに治療を済ませました。
 それよりも、昨夜の件について言っておきたい事があります」
 さっきまでの穏やかさが嘘みたいな不機嫌さで、衛宮の言葉を遮った。
「――――? いいけど、なんだよ話って」
 そして、衛宮はなぜセイバーが不機嫌なのか、全く分かっていなかった。
「ですから昨夜の件です。
 シロウは私のマスターでしょう。
 その貴方があのような行動をしては困る。
 確かに共に戦うことは認めましたが、まだまだシロウは未熟です。
 そのことをしっかり自覚して戦ってください。
 自分から無駄死をされては、私でも守りようがない」
 きっぱり、はっきりと言うセイバー。
「な、なんだよそれ! あの時はああでもしなけりゃセイバーが斬られていただろ?」
「その時は私が死ぬだけでしょう。
 シロウが傷つく事ではなかった。
 繰り返しますが、今後あのような行動はしないように。
 マスターである貴方が私を庇う必要はありませんし、そんな理由もないでしょう」
 淡々と語るセイバー。
 その態度に我慢しきれず
「な――――バカ言ってんな、女の子を助けるのに理由なんているもんか……!」
 衛宮は思わずといった感じで言い返していた。
 セイバーは意表を突かれたように固まった後、まじまじと何も言えない威厳で衛宮を見つめている。
「うっ……」
 セイバーに見つめられ、衛宮は僅かに後退する。
 やっと自分が場違いなことを言ったと悟ったらしい。
 まあ、(女の)サーヴァントに対してそういう事言うのは魔術師としては失格だが、男としては合格だと俺も考えるけどな。
「と、ともかく家まで運んでくれてありがとうな。
 って、セイバーが俺を運んでくれたんだよな?」
「ああ、そうだ。俺が運ぼうかって提案したんだが、セイバーが運びたいって言うから、セイバーにまかせたんだ」
 衛宮は途中で俺たちに質問してきたので、俺は嘘を必要もなく正直に答えた。
「それはどうも。
 サーヴァントがマスターを守護するのは当たり前ですが、感謝をされるのは嬉しい。
 シロウは礼儀正しいのですね」
「いや。別に礼儀正しくなんかないぞ、俺」
 その後、衛宮は少し黙り込んだ後、真面目な口調でセイバーに言った。
「まあ、昨日みたいな無茶をするかもしれないけど、俺は俺なりに全力で、もちろんセイバーと一緒に戦うつもりだ。
 改めて、よろしくな」
「はい。サーヴァントとして契約を交わした以上、私はシロウの剣です。
 その命に従い、敵を討ち、貴方を守る」
 セイバーはわずかな躊躇いもなく口にする。
 しかし、セイバーは続けて
「ですが、あのような真似を二度とされては困る。
 あのような無茶を止められないというのならば、あのような無茶をしても確実に生き残れるように私が訓練します。
 よろしいですね!」
 と厳しい口調で衛宮に断言した。
「ああ、わかった。
 俺もがんばるから、よろしくな。
 俺たちが出来る範囲で何とかしていこう」
「はい、分かりました」
 衛宮の宣言に対し、セイバーは微笑んで答えた。
 しかし、今気づいたんだが、セイバー、というかアルトリア・ペンドラゴンって、本来一回しか呼び出されない聖杯戦争において、何回でも呼び出すことが可能でしかも記憶が連続している存在だよな。
 ということは、今消滅しちゃっても、次の聖杯戦争の時にアヴァロン(入りの衛宮)なり、投影カリバーンなり用意して召喚すれば、全く問題なく英霊アルトリアを再召喚して再会できるよな。
 まあ、セイバーがやり直しを望んでいる限り、って条件は着くけど。
 あ~、最悪の場合、投影カリバーンだけ持って逃亡して、聖杯戦争の時に令呪の兆しがある(できればセイバーと性格が似ている)魔術師を確保すれば、またセイバーには会える可能性は高いわけだな。
 そんなことになる可能性は低いが、まあ頭の片隅にでも覚えておこう。
「……っと、言い忘れていた。
 出来る範囲で何とかするって言っただろ。
 その一環として、しばらく遠坂と協力する事になったんだ。
 ほら、昨日一緒にいた、アーチャーのマスター」
「凛ですか? ……そうですね、確かにそれは賢明な判断です。
 シロウがマスターとして成熟するまで、彼女には教わるものがあるでしょう。
 身近にいるサクラやシンジでは、マスターの見本にはなりませんからね」
 ぐさっ。
 ……い、いや、確かに俺はメディアにおんぶに抱っこ状態だし、桜もメデューサに守ってもらっている状態だからな。
 その言葉は正しいんだが、やっぱりセイバーみたいな可愛い娘に冷静にきっぱり言われるとダメージでかいぞ。
 なお、隣にいる桜は自覚あるのか、気にしてないのか、特に何の反応も示さなかった。

「ところでセイバー。一つ聞きたい事があるんだけど」
「はい、何か?」
「その服はどうしたんだ。
 やっぱり、それも桜からもらったやつなのか?
 前に着てたのとは随分雰囲気が違うみたいだけど」
 ナイスだ、衛宮。
 それは俺も気になってたことなんだ。
「凛が用意してくれた物です。
 霊体に戻ることができないと言ったら、せめて人目につかないようにと」
「――――そうか。そうだったのか」
「はい、桜にも服をいただいたと言ったのですが、どうせもう着れないし、多い分には問題ないでしょう、と押し付けられまして……」
 ふむ、確かに胸の大きさはセイバーより遠坂の方が大きいからな。その差がもう着れなくしてしまったのだろうか?
「その通りですよ、セイバーさん。
 着る服が多い分には問題ありません。
 それに、私のお古も似合ってましたけど、その服も似合ってますよ」
「うん、確かに似合ってるぞ」
 衛宮は少々照れながらも、さらっとセイバーの服装を褒めた。
 それを聞いてセイバーも少し嬉しそうに微笑んだ。
「そ、そういえば、セイバーの鎧ってどうしてるんだ?
 昨日は一瞬で着込んでたけど、武器みたいに出し入れしているのか?」
「それに近いですね。
 武装の有無は自由なので、このような服でいる時は外しているのです。
 そして、あの鎧は私の魔力で編まれたもの。
 必要に応じて呼び出せます」
 それを聞いた衛宮は、へえ、と感心していた。
 確かに便利だよなぁ。いずれ、メディアに頼んで似たようなものを作ってもらおうかなぁ。
 いや、さすがに鎧は目立つから、戦闘用のライダースーツ(に似せた防具、決して『ライダーが着ている服』ではない)を一瞬で着込むようなヤツがいいかな。

 と。
 入り口の方で、何か重い荷物が落ちる音がした。
「どすん?」
 全員で振り返ると、そこには大きなボストンバッグを足元に置いた私服姿の遠坂の姿があった。
「はい――――?」
 衛宮は驚きの余り、固まってしまった。
「……むむむ? 何しにきたんだ遠坂?」
「何って、家に戻って荷物取ってきたんじゃない。
 今日からこの家に住むんだから当然でしょ」
「なっ……!!!!?
 す、住むって遠坂が俺の家に…………!!!?」
 今更ながら驚く衛宮に、遠坂は呆れたように返答した。
「協力するってそういう事じゃない。
 ……貴方ね、さっきの話って一体何だったと思ったわけ?」
「あ――――――――う」
 衛宮は驚きのあまり声が出ないようだ。
「私の部屋、どこ?
 用意してないんなら自分で選ぶけど」
 そんな衛宮を無視しているのか、気づいていないのか、マイペースに話を進めるインベーダー遠坂。
「あ――――いや、待った、それは――――」
 動揺する衛宮に、遠坂はきっちり止めを刺してきた。
「今更、何言ってるのよ。
 昨日聞いたけど、セイバーはもちろん、桜だってこの家に泊まってるんでしょ?
 それに私が加わっても問題ないでしょ。
 そういえば、セイバーはどこで寝ている?
 私のアーチャーと違って、士郎のサーヴァントはかさばるんだから、ちゃんと寝る場所を与えておかないといけないしね。
 まあ、同衾しているっていうなら、別に問題ないけど」
「す、するかバカッ!
 人が黙ってると思って何言い出すんだお前!
 んなコトするわけないだろう、セイバーは女の子じゃないかっ……!」
「そうですよ。そんなこと許すわけ無いじゃないですか!
 私ですら、そんなことしたことないのにっ!!」
 怒りの余り、本音ばりばりの台詞を言ってしまい、桜は顔を真っ赤にしたが、衛宮は興奮の余りそれを聞いていなかったらしい。
 遠坂は二人の言葉を聞いて、呆れたように答えた。
「――――論点が違うけど、ま、いっか。
 ですってセイバー。
 士郎は女の子と同じ部屋は嫌だってさ」
「別に構いません。
 この二日間、シロウの睡眠中はシロウ部屋の前で護衛をしていました。
 もちろん、一番良いのは同じ部屋で護衛をすることですが、部屋の前でも大差はありません」
「な、何を言ってるんだ。
 セイバーだって寝なきゃだめだろ?
 ずっと護衛するなんて何をやってるんだ!」
「………………」
「………………」
 衛宮の言葉を聞いて、セイバーも遠坂も黙って衛宮を見つめた。
「……ふうん。サーヴァントはサーヴァント、人間扱いする必要はないけどね。
 士郎にそんなこと言っても無駄か」
「――――」
 衛宮はそれを聞いて反論しようとしたらしいが、口を開いた時点で止まってしまった。
 まっ、これに関しては遠坂の意見が正しいな。
 限界を超えないレベル、かつサーヴァント自身が望むのなら、わざわざ寝る必要はない。
 まあ、肉体的にはともかく精神的には限界はあるみたいだし、俺と桜からの勧めもあって、メディアとメデューサは毎日とはいかないが寝る事は多いけどな。
「……ちょっと待て遠坂。
 お前、何時の間に俺を名前で呼び捨てるようになってんだよ」
「あれ、そうだった?
 意識してなかったから、わりと前からそうなってたんじゃない?」
 意外なコトを言われた、という感じで遠坂は言った。
「……なってた。結構前から、そんな気がする」
「そう。嫌なら気をつけるけど、士郎は嫌なの?」
 ちなみに、隣の桜は思いっきり嫌な顔をしている。
 これで何度目になるかは忘れたが、やっぱり衛宮は気づかない。
「……いい、好きにしろ。
 遠坂の呼びやすい方で構わない」
「そ? ならそういうコトで。
 さ~て、それじゃ私の部屋はどこにしよっかな~」
 そう言って遠坂は、荷物を持って屋敷へ歩いていった。
 その背中は随分楽しげに見える。
 セイバーと衛宮はその姿を呆然と見送り、桜はじと~っと嫉妬の視線を向けている。
 ん? いつの間にかセイバーの睡眠についての話がどっか行っちゃったか?
 ……まあいいか。今のセイバーの魔力量は特に心配ないし、精神的に疲労してそうなら睡眠を勧めればいいだけだしな。

 全員、道場から出て屋敷に戻った後、衛宮はセイバーに話があると言って自分の部屋に二人だけで行った。
 う~ん、この時点で衛宮がセイバーに聞きたいこととなると、セイバーに切嗣のことを聞いてるのかなぁ?
 『前回の聖杯戦争で衛宮切嗣とセイバーが参戦したこと』はすでに話したし、昨日言峰が『前回の聖杯戦争のセイバーはアーサー王だ』と衛宮に教えた。
 となると、『衛宮切嗣のサーヴァント:セイバー=アーサー王=衛宮が召喚したセイバー』という公式が成り立つからなぁ。
 まっ、後でどんなことを聞いたか、衛宮に確認しておくか。

 桜と弓塚は朝食を作るため台所へ行ったため、俺は遠坂の様子を見るため、離れに向かった。
 行ってみると、Fateで遠坂が使っていた部屋に
『ただいま改装中につき、立ち入り禁止』
という札が掛かっていた。
 こんなもんまでわざわざ持ってくるとは、案外しゃれの分かるヤツなのか?
 そんなことはおもかく、万が一にも何か痕跡が残らないように、あの部屋を使わなかったのは正解だったな。
 魔術関連ももちろんだが、桜達との関係がばれたらとんでもない騒ぎになるだろうしな。
 と、そんなことを考えていると、扉が開いて遠坂が顔を出した。
「なによ、私に何か用?」
「え~と、そういえば、遠坂。
 今日の予定はどうするんだ、学校は休むのか?」
「そうね、優等生の私としては休みたくはないけど、ここを私の部屋にしなくちゃいけなし、う~ん、いや学校から戻ってからでもなんとかなるわね。
 というわけで、今日は学校へ行くわ。
 士郎も昨日あれだけ大怪我したから学校へ行くのはきついでしょうし、桜も当然その介護をするわよね。
 まあ、アンタは好きにすればいいんじゃない?」
 ……あ~、やっぱり、俺って眼中にないのな。
 ナチュラルにスルーされてます。
 いや、この程度でくじけていてはダメだ。
「そうか、じゃあ、俺もさぼることにする。
 それにセイバーにまだこの街のことよく分かっていないからな。
 衛宮の調子がよくなれば、皆でこの街を案内することにしようかと思ってるから、帰ってくるのは遅くなるかもしれない」
「そうね、そのほうがいいわね。
 用はそれだけ?
 私は忙しいから、用事が無いならさっさとどいてよね」
と、遠坂はそのまま去っていってしまった。
 自覚はしていたが、やっぱり完璧にアウト・オブ・眼中なのは悲しいものがある。

 朝食ができるまでもう少し時間が掛かるとのコトなので、俺用に確保していた本邸のある部屋に入り扉を閉めた。
 そして、外部から見れない状態になったのを確認した上で、俺は言った。
「それじゃ、姿を現してくれ。
 ああ、言うまでもないとは思うが、魔力や気配は隠したままな」
 次の瞬間、俺の前にメディアとランサーが現れた。
 メデューサは、姿を消したまま桜の側についているようだ。
 アーチャーがここにいたら、サーヴァントの気配を隠せないメデューサでは存在がばれてしまうが、今は存在を知っていて了承しているヤツか、ライダーを感知できない遠坂しかいないから問題はない。
「よっ、昨日はお疲れ様、ランサー。
 バーサーカーとの戦闘はどうだった?」
「まあな、正気を奪われているとはいえ、パワーとスピードは大したものだし、戦うのはなかなか楽しかったぜ。
 さすがはギリシャ神話最強のヘラクレスだな。
 だが、俺の槍が全く通用しないんじゃ話にならねえ。
 おまけに、ゲイボルクの真名開放すらも二回目からは通用しなかった。
 あれでも俺にできる限りルーン魔術で強化したんだがな。
 ……なあ、アンタの魔術で何とかならないのか?」
 俺の質問に対し、最初は笑顔で答えたが、後半はさすがに悔しそうだった。
 しかしルーン魔術でゲイボルクを強化できるとは初耳だった。
 そのおかげでゲイボルクのランクがAに上がってバーサーカーにダメージを与えたのだろうか?
 ゲイボルク(突き穿つ死翔の槍)+ルーン魔術+メディアの令呪までやって、やっと二回殺せたわけか。
 しかし、そうなると……。
「残念ながら難しいですね。
 バーサーカーの宝具であるゴッドハンド(十二の試練)は、宝具であるがゆえに私の魔術や宝具で解除することはできません。
 昨日やったように令呪を使用することで後押しをするのが精一杯ですね。
 しかし、二回目のゲイボルクの真名解放が完全に無効化されたところを見ると、令呪で後押しをしても効果がない可能性が高いでしょう」
 俺が予想したことをメディアも理解していたようで、淡々とランサーに説明した。
 そう、『バーサーカーには同じ攻撃は効かない』という反則的な効果のことだ。
 令呪を使って威力を増すことは可能だが、それだけで宝具の威力を突破するのは、……やっぱり不可能だろうなぁ。
「ちっ。……となると、ゲイボルクもルーン魔術も全く効果がなかった以上……「もう、あなたでは絶対にバーサーカーには勝てない、ということです」
 ランサーが言いよどんだことを、メディアはきっちり抉りぬいた、
「くそっ、人が気にしていることをはっきり言いやがって」
「そういうわけで、バーサーカーと戦うとき、前衛ではあなたはただの役立たずです。
 ルーンの結界を張って援護するなり、治療のルーンを怪我人に使用するなり、後衛のサポート役としてがんばってください」
 容赦なくメディアは止めを刺した。
 精神的にずたぼろになったランサーは、床に膝を付いて項垂れてしまったぐらいだ。
 まあ、対バーサーカー戦において、自分がサポート役しかできないという事実は誇り高いランサーにとっては衝撃だろう。
 確かに、ランサーも哀れなやつだよなぁ。
 いや、本来なら、というかFateでなら偵察役としてだが結構活躍している。
 セイバールートではギルガメッシュと対決してセイバーと衛宮を逃がしたり、凛ルートではアーチャーと決闘して遠坂凛を助けたり、自決させられた後言峰を倒したり、……桜ルートのことは忘れとこう。
 しかし、この世界ではというと

戦闘済み
 対ライダー:引き分け
 対アルクェイド:引き分け
 対言峰綺礼:バゼットは重傷を負い令呪も奪われ、自身は令呪によって言峰綺礼の支配下に置かれる
 対アーチャー:引き分け(学園の戦闘)
 対衛宮士郎:圧倒的に優勢で傷を負わせるも、衛宮の粘りによってセイバーが到着するまでの時間を稼がれる。
 対ライダー&キャスター:ライダーの石化の魔眼で能力を1ランクダウン&キャスターの魔術で捕獲後、ルールブレイカーを刺されて令呪の奪取&使用によって強制的に部下にされる
 対バーサーカー:二回殺したけど、今後はゲイボルクが(真名解放して令呪で後押しされても)通用しない可能性が高く、勝てる可能性は全くない

未戦闘
 対セイバー:ラインがつながってない不完全なセイバー相手で互角。
       つまり、ラインが完全につながった今のセイバーに勝てる見込みなし
 対真アサシン:宝具を使わせる前なら勝てるか?
 対ギルガメッシュ:勝ち目なし

 ランサーがサーヴァント相手で確実に勝てそうなのは、(宝具さえ使わせなければ)真アサシンぐらいか。
 その次に分がありそうな、アーチャーも多少有利とはいえほぼ互角の相手だしなぁ。
 それ以外のメンバーに対しては、英雄らしい戦いはできるかもしれんが、勝率は余りにも低いとしか言いようがないな。
 とりあえず、落ち込んだままのランサーはほっといて、俺は疑問に思っていたことをメディアに尋ねた。
「そういや、メディアは昨日、ランサーに対して令呪を使用してゲイボルクの真名開放させたけど、メディア自身には何も問題なかったか?」
「はい、特に問題ありません。
 あえていえば、令呪の後押しとランサーの魔力フル回復を二回行ったので、かなり魔力が減っています。
 そのため、柳洞寺で補給をする必要があったぐらいです」
「その言い方だと、もしかして?」
「ええ、昨日の段階で柳洞寺へ戻り、必要な魔力は回復済みです」
 さすがはメディア、実に頼もしい。
 メディアに関しては、油断も隙もありえないな。
 油断や隙があるとすれば、俺の方か。
 メディアの足を引っ張らないようにしないとな。
「しかし、「主変えの同意」と「宝具の真名開放の後押し」で二回、ランサーの令呪を使用したため、すでに残り一つです。
 まあ、現状はランサーの願いに近い状態ですので、ランサーが私と戦いたいと考えるか、私がランサーを使い捨てようとしない限り、令呪を使い切っても裏切る可能性は低いと考えていますが……」
 そこまで言ったところで、ランサーがいきなり復活して発言してきた。
「あんたの言うとおりだぜ。
 今の俺のマスターは残念ながらあんただが、言峰より比較にならないほど扱いはいいし、純粋な魔術師であるあんたとはそれほど戦いたいとは思わないからな。
 今の条件を守ってくれる限り裏切るつもりはない」
「そうですか、それを聞いて安心しました」
 そう言って、メディアはごく自然にルールブレイカーを手に持つと、そのまま無造作にランサーを刺した。
 ランサーが動けなかったのは、「動くな」とでも令呪を使ってメディアが命令したのだろうか?
「「えっ!?」」
 思わず、俺とランサーの合唱になってしまったが、メディアがルールブレイカーをすぐに抜きさった。
 すでにルールブレイカーの傷跡はなく、俺の見たところ何も変化はなかった。
「あんた、今何をやった?
 今、一瞬だがラインが切れて、すぐにまた繋がったぞ?」
「ええ、そのとおりです。令呪には色々と使い道がありますからね。
 ランサーとの契約を一度破棄し、すぐに再契約することで、令呪の回数を3回に戻しました」
 その言葉に驚いてメディアの手に眼をやると、確かにそこには元の三画に戻ったランサーの令呪があった。
「あ~、なるほど。令呪の命令じゃなくても、ランサー自身が主変えに同意している以上、再契約して令呪を回復させたほうが得か」
「ええ、令呪はサーヴァントの限界を超えさせるだけでなく、マスターの後押しも同時に行います。
 バーサーカーにはもう通用しませんが、他のサーヴァント相手なら十分有効ですから」
「……なるほどな、その宝具を使うことでサーヴァントの契約を破棄させ、即座に自分と再契約させることができるのか。
 キャスターは聖杯戦争で最弱といわれているが、なかなかどうして、あんたなら十分勝てるじゃねえか?」
 前回、ルールブレイカーを背後からでも刺されたのか、ランサーがこれを見たのは初めてだったらしい。
「ええ、あなたの言うとおりよ、ランサー。
 この宝具を使えば、これが刺さるサーヴァントは全て私の配下になる。
 私をキャスターだと油断さえしてくれれば、セイバーですら配下に置くことは可能よ」
「そいつは、すげえな。最弱のキャスターが最優といわれるセイバーを支配下に置くのか。
 そういう光景を一度は見てみたいもんだな」
 ランサーは、ルールブレイカーに対して素直に感心している。
 ランサーもまた、系統は違えど優れた魔術師だからこそ、その技が単なる宝具の効果でないことに気づいているのだろう。
 確かにマスターとサーヴァントの契約を解除するのはルールブレイカーだが、解除した後強制的に契約を結ぶのは、メディアの魔術の技量があってこそだからな。
 しかし、それってほとんど反則だな。
 魔法ではないが、英霊相手に強制的な命令権を持つという恐るべき令呪が、何度でも使い放題なんてものすごく有利じゃないか。
 まあ、さっきメディア自身が言ったように、継続的な命令はルールブレイカー使用時に解除されてしまうが、瞬間あるいは短時間だけ効果があればよい命令なら何度でも使えるというのは、かなり便利だ。
 ランサーのように、マスターに協力的なサーヴァント相手に使えば、半端でない威力を発揮するだろう。

「さて、説明はこんなところでいいか?」
「ああ、構わねえぜ。で、これからはどうするんだ?」
 そうだなぁ。こいつはいつも誰かと戦いたがっている性格だし、そうなると。
「この後、柳洞寺へ向かう予定だけど、そのときに可能ならセイバーと、拒絶されればライダーと模擬戦ってのはどうだ?
 ああ、よければ衛宮の相手もしてもらえると助かるけど」
「ああ、そりゃ嬉しいな。
 本当の殺し合いができないのは残念だが、それでも本気で模擬戦ができるなら我慢するぜ」
 ニヤリと、ランサーは肉食獣の迫力をかもし出す笑いを見せた。
「じゃ、そういうわけで、これからも気配を消して護衛を頼む。
 攻撃してくるやつがいたら、問答無用で倒していい。
 ああ、可愛い女の子や美女は例外だ。
 キャスターが治療可能な程度負傷させて戦闘不能状態にして、ちゃんと捕虜にしろよ」
「ははは、了解。その意見には俺も賛成だぜ。
 俺にまかせときな」
 そう言ってランサーは笑いながら姿を消した。
 いい女を殺すことを惜しむランサーも、俺の意見には賛同してくれるらしいな。
 じと~っとこっちを見るメディアの視線はちょっぴり痛いのではあるが……。

 朝食の用意ができたと呼びかけがあり、メディアとランサーは霊体化し、俺はリビングに向かった。
 時々にやりとしながら食べていた遠坂は不気味なので無視して、桜達が用意してくれた朝食を(メディア、メデューサ、ランサー以外の)全員で食べた後、全員の今日の予定について相談した。
「当然、私は学校へ行くわ。
 士郎はどうするつもり?」
「俺は休む。学校へ行きたいとは思うけど、俺がまだまだ未熟だってコトは良く分かったから、セイバーに訓練してもらいたい。
 まあ、それ以前にまだ体調が良くないのもあるけどな」
「そうですよ、先輩。
 まだ完全に回復してないんですから、無理しちゃだめです」
「じゃあ、士郎は休みっと。
 当然、士郎の介護をする桜も休みね」
 衛宮のことを甲斐甲斐しく介護する桜を微笑ましげに見ながら、遠坂は確認事項のように言った。
「で、アンタもついでに休む、と。
 聞くまでもないとは思うけど、セイバーも士郎と一緒よね」
「当然です。サーヴァントがマスターを放って一人で行動するはずなどありません。
 もちろん、マスターの命令があれば話は別ですが」
「ま、そうよね。じゃ、私はこれから学校に行くけど、アーチャーもまだ回復してないんだし、バーサーカーに会わないように気を付けてね」
 そう言って遠坂は立ち上げって、……と思ったらまた座って真面目な顔で話し出した。
「そうそう、一ついい事を教えてあげるわ。
 以前、町で原因不明の連続昏睡事件って起きたでしょ。
 それはマスターの仕業の可能性があるよ」
 それを聞いた衛宮が驚いて何か言おうとしたが、何を言っても俺が不利になる情報だと直感した俺は、衛宮の言葉を遮って言った。
「え~と、それって以前電車内で連続して起きたヤツだっけ?
 けど、あの事件って一日で終息してなかったか?」
「……ええ、そうなのよね。
 それ以降も続いていれば間違いなくマスターが魔力を蓄えるためにやったと言えるんだけどね。
 一回限りでやめたら集めた魔力の量だって高がしれているし、ウイルスや毒ガスって可能性も捨てきれないし、魔術師が関わっていたとしても聖杯戦争とは関係ない魔術師が魔力を集めただけかもしれない。
 昼にも起きたから、吸血鬼が血を吸ったってことだけはないとは思うけど……」
 ふう、二日目から絶対に昏倒者を出さないようにしたのが功を奏したみたいだな。
 さすがの遠坂も、Fateより吸収量を減らし隠蔽に力を注いだ今回の地脈操作の詳細をつかむことはできなかったみたいだな。
 いやいや、油断は禁物。
 聖杯戦争の記憶が残っているらしいアーチャーが助言すればすぐにばれてしまう。
 気をつけないとな。
「もし、私に気づかないように魔力を集めていたら、日に日に強くなっているのは確かね。
 ま、どんなに魔力を蓄えたところで、一度に使える魔力の最大値なんて高が知れてるから、焦る必要なんてないけどね。
 まあ、街を見回ることがあればちょっと気にしておきなさい」
 そう言って、今度こそ遠坂は学校へ向かった。
 ふっ、遠坂らしい判断ミスだな。
 メディアは高速神言によりハイレベルの魔術を連射できるという、ある意味反則な攻撃が可能なのだ。
 これのウィークポイントはエネルギー源である魔力量のみ。
 それを目いっぱい溜め込んだメディアは恐るべき存在と化しているのだ。
 ふはははは、そのことに気づいたとき、恐怖に慄くがいいわ!!

 と、遠坂が家から離れたのを確認したかのように、セイバーはいきなり武装すると、静かだが迫力のある声で話し始めた。
「さて、リンが去ったところで、昨日何があったのか教えてもらいましょうか?」
「ああ、分かってる。
 皆、姿を現してくれ」
 次の瞬間、俺の後ろにメディアが、桜の後ろにメデューサが、そしてなぜかランサーが弓塚の後ろに現れた。
「何でそこにいたんだ?」
「ここしか空いてなかったからさ。
 坊主の後ろになんぞ立ったらセイバーに斬られるし、お前さんとそっちのお嬢ちゃんの後ろにはキャスターとライダーがいるだろ。
 消去法でここしかなかったってわけさ」
 俺の素朴な疑問に対し、返ってきたのは人を食ったような答えだったが、追及するのは諦めた。
「さて、すでに俺のことを知っているやつも多いが、自己紹介をしたことは無かったな。
 俺はランサーのクーフーリン。昨日の戦いで令呪を奪われて、キャスターのサーヴァントになったわけだ。
 まっ、今後ともよろしく頼む」
 すでにばれていると悟っていたのか、隠しもせずに堂々と真名を公言している。
 まあ、このメンバーにはそれは隠すつもりはなかったから別にいいんだけどな。
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします」
「あの、よろしくお願いします」
「これからもよろしくな」
 それぞれ挨拶をしたが、セイバーは一人ランサーを睨みつけていた。
「ランサー、令呪を奪われたとはどういうことですか?」
「どういうことも何も、ライダーの魔眼で動きを止められて、何か刺さった感触がしたと思ったら、どういうわけか俺の令呪をキャスターが持っていたてわけさ。
 んで、次の瞬間キャスターに「主変えに賛同しろ」なんて令呪で命令されちまったんだよ。
 ……ったく、なんでこんな命令を二回もされなきゃいけねえんだ」
 セイバーの尋問に対し、ランサーは素直に白状した。
 確かに俺が指示したとはいえ、そんな命令を二回もされるなんて、確かに哀れなやつかもしれんな。
「キャスター、一体何をしたのですか?」
「ランサーの言ったとおりですよ。
 私は破戒の宝具をランサーに突き刺し契約を破棄させ、さらに魔術で強制的に私と契約させ令呪を手に入れたまでです」
 ここまで来たら隠す必要はないと判断したのか、嘘偽り一切なしでメディアは答えた。
「なっ、貴女はそのような真似ができるのですか?」
「ええ、宝具が刺さらないバーサーカーは例外ですが、それ以外のサーヴァントに対し全て有効ですよ。
 ……安心なさい。これは私が手に持って刺さなければ、令呪を奪い取るなどということはできません。
 サーヴァントであるとはいえ、所詮私は魔術師。
 セイバーである貴女が警戒していれば、そのような真似は絶対にできませんよ」
 今にも斬りかかってきそうな殺気を発するセイバーに対し、キャスターはその殺気を受け流し、涼しい顔で対応している。
「そのような言葉を信じられるとでも!!」
「信じる信じないは貴女の自由ですよ。
 ただ、私が説明できるのは今言ったことだけです」
 セイバーの迫力に飲まれ、俺、桜、弓塚は何も言えなかったが、セイバーの横にいたおかげで唯一平気だった衛宮がセイバーをなだめようとした。
「セイバー、キャスターの言うことを素直に信じられないかもしれない。
 けど、さすがのキャスターも、セイバーに触らないで令呪を奪うことができるなんて思わないだろ?
 セイバーが俺のためを思って警戒するのは分かるけど、もうちょっと落ち着いてくれ」
「――――シロウ。ですが、キャスターは油断できません。
 残念ながら私は魔術に疎いため、どこまで事実を言っているものか分かりません」
「それなら安心していい。
 キャスターの宝具は俺も見せてもらったし、その能力も解析済みだ。
 キャスターの言っていることに嘘は無いよ」
「……それは本当なのですか?」
「ああ、そうだ。そうだな、論より証拠を見せたほうがいいか。
 トレース(投影)、オン(開始)!!」
 そう言った衛宮の手の上には、投影ルールブレイカーが出現した。
「これは、破戒の宝具ルールブレイカー。
 キャスターが説明したとおり、これは対象に刺さないと効果を発揮しないし、これだけではマスターとサーヴァントの契約を強制的に破棄させるだけ。
 令呪を奪うには、さらにキャスターの魔術が必要なのは間違いないぞ」
「そうなのですか?」
 セイバーにとって予想外だったのだろう。
 衛宮が説明しても、すぐには把握できないようだった。
「ええ、私の宝具はこのルールブレイカー。
 性能は、士郎の言うとおりですよ」
 そう言ってメディアはルールブレイカーを取り出してセイバーに見せた。
 衛宮が投影したそれと全く同じコトを確認すると、やっとセイバーは納得してくれた。
 その後は、ランサーを支配下においたのは純粋に戦力強化のためであること、ランサーの気配遮断は彼のルーン魔術で行った事を教えると、やっとセイバーからの質問は終わった。

 と、それまで大人しくセイバーの質問に答えていたランサーが、今度は質問をしてきた。
「ところで、今度は俺からの質問なんだが、いいか?」
「どうぞ。私が答えられることならば答えましょう」
 メディアが見も蓋も無い回答をすると、苦笑しながら言葉を続けた。
「昨日、坊主がバーサーカーに斬りかかった時、手に持っていたのは紛れもなくカラドボルグ。
 それから俺と同時に攻撃したのはゲイボルクだ。
 ちっと形や大きさは違ったがな。
 一体どうやってアレを手に入れたんだ?
 まさかとは思うが、そのルールブレイカーとやらを作り出したように、ゲイボルクやカラドボルグを坊主が作り出したのか?」
「ああ、そうだ。
 カラドボルグのイメージはあんたの記憶をキャスターからもらった。
 それから俺は、宝具であろうと一度見た武器は投影魔術で作り出すことができるんだ」
「……まじか? そいつぁすげえな。
 普通なら信じられねぇところだが、実際にゲイボルクとカラドボルグを作り出したんだから信じるしかねぇな」
 こりゃたまげた、というポーズをとるランサーだが、あいつなりに感心しているようだ。
「キャスターにカラドボルグのイメージを渡させたのは、そういうワケだ。
 事後承諾で悪いが、カラドボルグやゲイボルクを衛宮に使わせてもいいか?」
 俺の依頼に対して、ランサーは苦笑しながら答えた。
「まっ、本物を渡せっていうんなら絶対に断るがな。
 坊主が自分の力で作り出した複製については、俺がとやかくいうことじゃねえな。
 まあ、そうだな。代価として、カラドボルグの複製を一本、俺にくれれば構わないぜ?」
「それでいいのか?
 分かった。今、用意する。
 トレース(投影)、オン(開始)!!」
 即座に投影を実行し、衛宮の手にはカラドボルグが出現した。
「ランサー、代価としてこれを渡す。
 これが投影できたのも、ランサーがくれたイメージのおかげだ。
 ありがとうな」
「ふん、俺が渡したのはイメージだけだ。
 それだけで、複製を作っちまうなんてとんでもないことをしたのはお前さんの力だぜ。
 それに代価をもらったし、後は好きに使いな。
 ……言わなくても分かっていると思うが、複製とはいえ俺と親友の愛用の武器たちだ。
 そいつらの名を貶めるような使い方をするんじゃねえぞ」
 ランサーは、投影カラドボルグをしっかりと受け取ると、そう衛宮に言った。
「ああ、分かった。肝に銘じておく」
 本当は、光の神ルーの宝具が欲しかったんだけど。
 まあ、ぐじぐじ言っても、ランサーが見たこと無いんじゃさすがの衛宮の投影できない。
 あとは、ギルガメッシュが原典を持っているのを祈るぐらいしかないかなぁ。

「それでは、次に私からランサーに説明することがあります。
 私、ライダー、セイバー。そして、私のマスターである慎二、ライダーのマスターである桜、セイバーのマスターである士郎についてはもうご存知ですね」
「ああ、そうだ」
「それでは、最後に紹介しましょう。
 立場は貴方と同じ、私の使い魔扱いの死徒の弓塚さつきです。
 吸血鬼の狂気を完全に制御していますので、勝手に先走った行動を取らないよう気をつけなさい」
「何だって! こいつが吸血鬼なのか?」
 ランサーは驚いて自分の前に座っている弓塚を凝視した。
「あ、あの、初めまして、私、死徒の弓塚さつきっていいます」
「ちょっと待て、こいつ吸血鬼なのか?
 キャスターがどうにかして隠しているにしろ、迫力というか、匂いというか、何処からどう見ても吸血鬼には見えねえぞ?」
 ……この台詞は弓塚にとっては嬉しいだろうか?
 吸血鬼としては未熟だと言われているに等しいが、まだ人としての意識を強く残している弓塚には逆に褒め言葉になるかもしれない。
「貴方がそう思うのは当然ですね。
 彼女は数ヶ月前まで普通の少女でしたが、吸血鬼に血を吸われた後一晩で吸血鬼に成り上がり、その後一人も人を殺していないという異色の死徒です。
 まあ、肉体維持のため最低限の吸血行為は続けていたようですが」
「ほう、そりゃ確かに異色の存在だな。
 了解。俺に危害を加えない限りお嬢ちゃんには手を出さないぜ。
 俺に言いたかったのはそれだけかい?」
 ランサーはいともあっさりとメディアの提案を受け入れた。
 良くも悪くも思い切りがいいヤツだ。
「いえ、もう一つあります。
 さつきはまだ未熟ですので、簡単なパワーアップの方法として私たちの血を与えているのですが、ランサーの血を与えてもいいか、確認を取っておこうと思いまして」
「……昨日俺から血を採ったのはそのためか。
 血を採ることに同意した以上、どう利用するかはあんたの自由だが、吸血鬼にサーヴァントの血なんか与えて大丈夫なのか?」
「それは大丈夫でしょう。
 すでにさつきは、真祖の吸血鬼、私、ライダー、そして慎二と桜の血を飲んでいますが、理性を失ったことも、吸血衝動が暴走したこともありません。
 まあ、そのような気配があった時点で、私が抑えてしまいますが……。
 それでは、さつき。ランサーの許可も出たので、これを飲みなさい」
 そう言ってメディアは、血液パックを取り出した。
 弓塚はそれを受け取ると、全員の目があるためか、ちょっと緊張気味ではあったが、血液パックにストローを差し込むと素直に血を飲み始めた。
「あっ、すごい。
 メディアさんの血を飲んだときもすごいと思ったけど、これは桁が違う。
 まるで、体の中で無限に魔力が生まれているような気さえするわ」
 弓塚がそういった瞬間、凄まじい魔力と、そして何か血の匂いを感じさせる強力な気配が、一瞬だけ弓塚から発散された。
 慌てて見渡すと、全員多かれ少なかれ驚きの表情を見せていた。
 ……いや、メディアだけは全く表情を変えていないか。
「えっ、何、どうかしたの?」
 そのことに気づいていないのは、皮肉にも弓塚だけらしい。
「大丈夫ですよ、サツキ。
 先ほどランサーが言ったとおり、今までは全く吸血鬼の気配を感じ取れませんでした。
 しかし、今血液を飲んだサツキからは、強力な死徒の気配が感じ取れただけです」
 弓塚の疑問に答えたのは、意外にもセイバーだった。
「まあ、そうですね。
 さつきに与えた魔術具は、平常時の吸血鬼の気配を隠すもの、戦闘時や今みたいな強い力を放出した時には隠しきれませんからね」
 それを聞いて、弓塚は上目遣いでセイバーを伺うが、セイバーは意外にも笑顔で答えた。
「ご安心ください、サツキ。
 確かに貴女は強力な死徒ではありますが、死徒が持つ狂気は一切感じられない。
 貴女がシロウや私に害を及ぼさない限り、敵対するつもりはありません。」
「ありがとうございます」
 弓塚は、セイバーが受け入れてくれたことが嬉しかったらしく、少し涙ぐんで答えていた。
「これでさらにパワーアップした上、魔術回路は開放してあるし、こりゃすぐにでも魔術が使えるかもな?」
「そうですね。
 さつきの素質は吸血鬼としても、魔術師としてもなかなかのものです。
 慎二が油断すればすぐに追い抜かれてしまうでしょう。
 さつき、全ては貴女の努力次第ですよ」
「はい。私、がんばります」
 うわ~、やる気満々だ。
 あ~、こりゃ下手に対抗するよりも、弓塚という新しい戦力をいかにして有効に使いこなすかを考えた方がいいかなぁ、なんて、早くも弱気になってしまった俺であった。

「さて、と。話す内容はこんなものか?
 午後にでも柳洞寺へ行きたいが、衛宮の体調次第か?
 ほれ、まだ気分悪いんだろ。もうちょっと寝てろ」
「そうですよ、先輩。
 私が介護してあげますから、寝ててください」
 衛宮はちょっと反論したそうだったが、何か言おうとした瞬間にふらついてしまい、桜に支えられながら寝室へ戻っていった。
「アイツが回復したら全員で柳洞寺へ行きたいが、最悪俺とキャスターとランサーで行けばいいか……」
「一体何をするつもりですか?」
 相変わらず、俺はセイバーから信用されていない。
 そのため、俺の行動に対する突っ込み役はセイバーに固定されてきた気がする。
 まあ、どんな理由であろうと、セイバーが俺を気にしてくれるというのは嬉しい事なので俺は別に構わない。
 好意を持ってくれるのが一番ではあるが、完全に無視、あるいは路傍の石ごとき扱いをされるのが最悪だからな。
「ああ、そういえばセイバーには言ってなかったな。
 まず、言っておくことがある。
 今はキャスターがランサーのマスターになったわけだが、実はランサーにとってキャスターは三人目のマスターなんだよ」
「……! それは、まさか。ランサーは今まで、他のサーヴァントの支配下にあったとでも?」
 なるほど。キャスターがランサーの令呪を奪ったコトを知っているセイバーだと、そういう結論に達するか。しかし、
「それも違う。ランサーのマスターを襲った魔術師が、令呪を奪ってそれで命令して、ランサーを支配下に置くことに成功したのさ」
「まさか!! キャスターならともかく、この時代の魔術師にそのようなことができるなど」
「それをいとも簡単にやっちまうから、この時代の魔術師も侮れねぇよなぁ。
 正直俺もむかついてはいたんだが、令呪も使われちまったし、どんな主であろうと主が求める結果を出すのが、俺のポリシーだからな。
 そういうわけで、令呪を奪った二人目のマスターに従っていたってわけだ」
 ランサーはあっけらかんとした言葉に、セイバーは絶句して言葉が出ないようだった。
「そういうわけで、キャスターがランサーの三人目のマスターなわけだが、最初のマスターは令呪を奪った奴に殺されかけたところを俺たちが保護していてね。
 彼女は今、柳洞寺に居候しているわけだ。
 で、彼女もランサーに会いたがっていたし、ランサーも会いたいだろうから二人を会わせるのと一緒に、情報交換でもしようかと」
「……ちょっと待ってください。
 シンジの話が正しいとすれば、彼女は元マスターだ。
 彼女は敵ではないのですか?」
 ふむ、それはもっともな質問だな。
「ああ、いずれはそうなる可能性もがあるが、今は停戦中だ。
 それ以前にランサーを奪ったやつに借りを返したいみたいだし、そいつを倒すまでという条件で停戦中でもある。
 まあ当分は大丈夫だろうさ」
 ただ、さらに俺たちがランサーを奪ってしまったわけで、そういう意味でバゼットがどういう反応を示すかは不明である。
「そうですか。
 あなたの言う事は信用できませんが、シロウが行くというのなら一緒に行きましょう。
 それでは、失礼します」
 そう言って、セイバーはリビングから出て行った。
 おそらくは衛宮の具合を見に行ったのか、あるいは瞑想するため道場に向かったのだろう。
「ライダーは、桜の護衛をしなくていいのか?」
「お二人の邪魔をしたくないと考えて残っていましたが……、シロウはもう眠りについたとのことですので、桜の護衛をしていましょう」
 そう言って、ライダーは霊体化した。
 どうやら桜は、眠りについた衛宮の側にいるつもりらしいな。
 ちょっと、いや、かなり悔しいのは事実だが、邪魔をするのも野暮だな。
 実の父親が言峰に殺されていたことを知らされて、桜がショックを受けているとは思うのだが、衛宮のことに比べれば大したことないのか?
 まあ、10年前のことだし、(桜が知っているかは知らないが)マキリの胎盤として譲られた、つまり捨てられたに等しい相手だしなぁ。
 これで、遠坂は学校、衛宮は寝室、桜は衛宮の看護、メデューサは桜の護衛、セイバーは衛宮の看護 or 瞑想、っと。
 で、残っているのは、俺、キャスター、弓塚、ランサーとなっている。
「さて、偶然ですが、ちょうどこれから話す内容にふさわしいメンバーですね」
 メデューサが去った後、静かにメディアが話してきた。
「ん、このメンバーで何か話すことあったか?」
「はい、まずはランサーに依頼というか、命令なのですが、あなたが持つルーン魔術の記憶を全て私にいただけますか?」
「ふざけんな、俺の魔術は俺のものだ」
 メディアのいきなりの発言に、ランサーは即座に切って捨てた。
「確かに、俺の希望通り戦わせてくれるあんたには感謝している。
 が、例えあんたの命令でもそれは聞けねえな」
「嫌だというのなら、令呪を使って奪ってもいいのよ。
 私なら、いくらでも令呪を使うことが可能なのは、あなたもさっき知ったでしょう?」
 殺気が迸るランサー相手に、涼しい表情を崩さすに対応するメディア。
 ちなみに俺と弓塚は、ランサーの殺気の余波で、全く動けずに固まっている。
「ふん、やりたいならやりな。
 ただし、常に俺から殺されないように気をつけるんだな」
 ランサーの決定的な一言に対して、メディアの反応はかなり意外なものだった。
「ふふふ。マスターであり、キャスターでもある私にそれだけ言えるプライドと度胸。
 さすがはアイルランドの大英雄、ね。
 まあ、いいわ。すでに私はルーン魔術の基礎は身に付けているし、ルーン魔術のほとんどは昨日見せてもらいましたからね」
「まさか、テメエ?」
「ええ、一度見た以上、ある程度の知識と経験さえあれば、再現するのはそれほど難しいことではない。
 あなたも魔術師でもあるのなら、人目のあるところで使った魔術を調査、研究、そして再現されたからと言って、怒る筋合いじゃないのは知っているはず。
 違いますか?」
 メディアとランサーの睨みあいは、今度はランサーの方がにやりと笑って終わりを告げた。
「はっ、確かにアンタの言うとおりだ。
 俺が使った魔術を見て、それを再現するのはアンタの自由だ。
 いいぜ。俺は俺の好きなように戦う。
 その時使った魔術を盗もうが、再現しようが、それについて俺は文句を言うつもりはねえ」
「それなら結構よ。
 本気の殺し合いと、模擬戦闘の場を与えるから、その中で貴方は自由に好きなだけ戦いなさい。
 ただし、無駄死にだけは絶対に許さないからそれを覚えておきなさい」
「ああ、分かった。
 せいぜい、アンタのお気に召すように戦うぜ」
 それが、結論だった。
 どうやら、メディアとランサーは合意に達したようだ。
 まあ、俺としては余計なトラブルが起きなくてほっとしたのだが、いきなりこういうことをされると、ちょっと心臓に悪い。

「さて、ランサーについてはこれで終わりです。
 次は、さつき。あなたのことです」
「私?」
「はい、今まで魔術の基礎知識について講義を行い、一昨日あなたの全魔術回路を開放しました」
「うん、キャスターさんのおかげで、それほど痛くなかったわ。
 それから、自覚できるぐらい魔力の量がアップしたわ」
「そして、昨日魔術の発動を試させたところ、いとも簡単に魔術を行使できました」
「まじか!?」 
「ええ、私も驚きましたが事実です。
 まあ確かに、私も吸血鬼、それもわずか一晩で人間から吸血鬼になりあがるほどの素質の持ち主に、魔術を教えたのは初めてですからね。
 このようなこともある、と予想しておくべきでした。
 いえ、この結果はある意味当然だったかもしれません。
 よく考えてみれば、吸血鬼は魔力を大量に消費して自らの体を維持、強化している存在です。
 つまり、こつさえ覚えれば魔術を使うのも簡単なようですね」
 そういえば、幻のさつきルート「プラネタリウム(仮)」では、シエルを手こずらせるほどの強さを誇り、固有結界「枯渇庭園」を発動できるほどの能力の持ち主になっていたんだよな。
 弓塚が行方不明になってから、シエルと戦うまでそれほど時間が経っていたとは思えない。
 となれば、魔術師とサーヴァント達の血を飲み、メディアから講義を受けて全魔術回路を開放した弓塚が、魔術を使えるようになってもそれほどおかしくないか。
 というか、もしかして弓塚って、吸血鬼のみならず、魔術師としてもかなり素質があったんじゃないか?
 そういえば、シエルも元吸血鬼(先代ロア)にして、グランドクラスの魔術師らしいしなぁ。
 ん、ってことは、弓塚って桜レベルどころか、衛宮レベルまであっという間に強くなっちまうのか?
 それは困る。俺の立場が……、ってそんなものは元から無かったな。
 俺の武器は、(現時点では)小賢しい悪知恵とこの世界の情報、そして後は頼もしい仲間達だ。
 聖杯戦争中は、俺の魔術のことなど忘れてしまった方が、いいかもしれないな。
 俺の魔術が通用するような相手は、相手は、……マキリの蟲ぐらいか?
 不意打ちできれば、魔術師相手ならダメージを与えることぐらいはできると思うが、そんなことを許してくれる甘い相手なんていないしなぁ。
「……というわけで、現在さつきが使える魔術は風のみですが、初心者にしてはかなり強力です。
 幸い私が得意とする魔術の属性は、風と影。さつきと桜に色々と教えることが可能ですので、即戦力になる魔術を今後も教えましょう」
「ありがとう、キャスターさん。
 私、がんばるわ」
 素質と実力があるなんて、うらやましいねぇ、おい。
 盛り上がる美女と美少女の魔術師師弟を横目で見ながら、俺は横でちょっといじけていた。

 こうして、午前はメディアによる魔術講義を受け、その後はランサーに頼み、弓塚の戦闘訓練をしてもらうこととなった。
 俺はランサーと弓塚の戦闘訓練を見学していたのだが、携帯が鳴ったので取ってみると、驚いたことにそれはシエルからだった。
「もしもし、間桐です」
「こんにちは、間桐君。今、話しても大丈夫ですか?」
「ええ、学校サボって衛宮の家にいるんで、大丈夫です。
 で、今日は何の御用ですか?」
「はい、先日あのあ~ぱ~吸血鬼、コホン、アルクェイドに伝言してもらいましたが、私が暫定的に聖杯戦争の審判役を務める事になりました。
 今、冬木市に来たところですが、すぐに柳洞寺へ向かっても良いか、確認したいと思いまして」
「……あ~、なるほど。了解しました。
 今、キャスターの影をそっちに送ってもらいますので、柳洞寺へ向かってください。
 キャスター、「はい、すでに影をシエルさんのところへ送りました」……だそうです。
 そちらから、キャスターの影を確認できますか?」
 さすがはメディア。素早い対応だな。
「はい、見つけるも何も目の前にいます。では、一緒に柳洞寺へ向かいます」
「お願いします。俺たちも午後には柳洞寺へ行きます」
「わかりました。それでは」
 そして、携帯は切れた。
 元々バゼットに会うために柳洞寺へ行く予定だったが、これでシエルとアルクェイドとも会うことになったか。
 情けないことだが、すでに俺が流れを制御できたのはすでに遥か昔の話だ。
 今の俺にできることといえば、小細工と情報の小出しが精々だ。
 もっとも、情報の全てはメディアも知っているし、かなりの部分を桜達にも教えている。
 蚊帳の外なのは敵と遠坂ぐらいか。
 さてさて、これからどういう展開になるやら。
 もう完全に、俺の予想をぶっちぎって物事が展開しているから、これからどんなことが起きるか楽しみだな。
 ……もちろん、俺に災いが降ってこない限りは、なんだけど……。
 なんか嫌な予感がするんだよなぁ。


 1月25日(金)午前  終


後書き
 新しい体験系のSSもいくつか投稿され、皆さんから絶賛されているのもありますが、羨ましい限りですねぇ。
 まあ、『情報と優れた能力は持っているが、中身はただの一般人』というギャップがうまく表現されていてしかも面白いから、当然かもしれませんけど。
 こっちは賛否両論というか、とある掲示板じゃ非難轟々だからなぁ。
 まっ、こっちは元々万人受けする内容を書くつもりなんて全く考えていませんから、当然の結果なんですが。
 今後も主人公の陰謀は、あちこちから叩かれまくるんだろうなぁ。
 しかしそれが、主人公の『俺の知恵の及ぶ限り俺と俺の大事な人たちを守るため、そして隙あらば許される範囲で可能な限り、己の欲望を満たそうとする』生き方ですからね。
 よっぽど痛い目を見ない限り止るはずがありません。
 本人はこれでも一線は守っているつもりですが、一般常識から考えれば完全に悪役ですな、これは。
 ただ、言峰といい、臓硯といい、極悪非道な奴等がいるから今はいいですが、全てが終わった後どうなることやら。

 やっぱり、袋叩きにあって抹殺されるのかなぁ。(ぼそっ)



[787] Fate/into game 1月25日(金) 聖杯戦争3日目 昼~夕方
Name: 遼月
Date: 2006/03/07 01:06
Fate/into game


1月25日(金) 聖杯戦争3日目 昼~夕方

 衛宮の介護をセイバーに任せ、桜が昼食を作り終えた頃、やっと体調が元に戻ったらしい衛宮が起きてきた。
 そのまま、桜が衛宮のことを気にしながらも、和やかな昼食が終わり当初の予定通り全員で柳洞寺へ向かうことになった。

 そのまま直行する予定であったのだが、柳洞寺にアルクェイドやシエルがいるコトを知った衛宮が差し入れを購入したいと言い出し、俺たちはマウント深山商店街に寄って、おやつを買ってから柳洞寺へ向かうことになった。
 まあ、急いで行く必要はないし、特にトラブルは起きないだろう、と俺は考えていたのだが、それはとんでもなく甘い考えだったとすぐに思い知らされた。

『あ~、メディア。
 前方に銀髪の少女が見えるんだが、俺の錯覚か?』
『いえ、私にもはっきりと、イリヤスフィールが歩いているのが見えます』
 抜かった。まさか、衛宮を殺しかけた次の日からここをうろついていたとは。
 と、イリヤも俺たちに気づいたのか、すごい勢いで衛宮に向かって駆け寄ってきたが、当然そんなことを許さない人物が存在した。
「待ちなさい、イリヤスフィール。
 こんな昼間からシロウに攻撃をしかけるつもりなのか!!」
「な、お前は――――!」
 セイバーはイリヤの前に立ちふさがり、衛宮は自分を殺しかけた少女に気づき思いっきり動揺している。
 桜、弓塚も驚いているが、驚きすぎて何も行動ができなかったようだ。
 当然ながら、メディアとメデューサは姿を消したままでいる。
 完全に臨戦態勢のセイバーに、慌てて身構える衛宮に対し、イリヤは対照的にこやかに衛宮を見つめている。
「よかった。生きてたんだね、お兄ちゃん」
 あまつさえ、嬉しげな笑みを浮かべて挨拶をしてきたので、衛宮はどう反応していいか分からないようだ。
「まさか――――ここで、やる気か?」
「? おかしなことを言うんだね。
 お日さまが出てるうちに戦っちゃダメなんだから」
 むー、とイリヤは不満そうに口を尖らせた。
 それは、どう見ても年相応の、幼い少女の仕草にしか見えない。
 なお、どうやらイリヤは目の前で殺気立っているセイバーも、衛宮の横にいる俺たちも完璧に無視している。
 セイバーはイリヤの一挙一動を監視し、おかしな行動をとればすぐさま切りかかるといわんばかりの雰囲気であり、桜と弓塚は相変わらず状況が掴めていない。
「お、おまえ――――たしか、えっと」
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
 長いからイリヤでいいよ。
 それで、お兄ちゃんはなんて名前?」
「俺……?
 俺は衛宮士郎だけど」
「エミヤシロ? なんか言いにくい名前だね、それ」
 イリヤは、とんでもなく変な発音で衛宮のことを呼んだ。
「……俺もそんな発音で言われたのは初めてだ。
 いいよ、覚えにくかったら士郎でいい。
 そっちが名前だ」
「シロウ? なんだ、思ってたよりカンタンな名前なんだね。
 そっか、シロウか。……うん、響きは合格ね。
 単純だけど、孤高な感じがするわ」
 そう言って、イリヤは思わせぶりな視線を衛宮に投げかけた。
「っ……!」
 その視線は、衛宮は体を反応させ、同時にさすがに我慢しきれなくなったらしいセイバーが、二人の間に割り込んできた。
「バーサーカーのマスター! 一体何のつもりだ?」
「何のつもりって、ただ私はシロウと話したいことがあっただけよ。
 だから、今日はバーサーカーを置いてきたのに。
 シロウ、自分だけ連れてくるなんてずるいじゃない」
「……いや。ずるいって、おまえ」
「ね、お話しよ。うるさいセイバーなんてほっといて、ね。
 わたしね、話したいこといっぱいあったんだから」
「な――――!」
 イリヤはそう言うと同時に、ふいをつかれたセイバーが止めることができないぐらい、自然な動作で衛宮の腕に抱きついた。
「何を考えている、イリヤスフィール。
 さっさと、シロウから離れなさい」
「嫌よ。それにたかがサーヴァントであるあなたに、そんなこと言う権利なんてないのよ」
 いきなり一発触発の事態に突入したが、慌てて衛宮がとりなした。
「ま、待て待て待て待て……!
 いきなり、喧嘩はよせ!
 っていうか、いきなり何しやがるお前!
 あ、ああ新手の策略か、こいつは!」
「なにって、だからお話だよ。
 フツウの子供って、仲良くお話するものなんでしょ?」
 そういって、まさしく天使の笑顔を見せるイリヤ。
「いや、それはそうなんだが俺とお前は違うだろ!
 マスター同士だし、一度戦った仲じゃないか!
 むしろ、敵だ、敵!」
「シロウの言うとおりです。
 イリヤスフィール、ふざけるのもいい加減にしなさい」
「ふざけてなんかいないわよ。わたしに敵なんていないもん。
 他のマスターはただの害虫。
 けど、いい子にしてたらシロウは見逃してあげてもいいよ?」
 可愛い顔で、とんでもない毒を吐くイリヤ。
 つまり、それは俺と桜の死刑宣告だよな。
 というか、ここでサーヴァントの集中攻撃喰らえば、さすがのイリヤもバーサーカー呼ぶ前に終わりだろ?
 サーヴァント連れで歩いている俺たちに対していい度胸だよ、ほんと。
 セイバーは、それこそ敵を見る厳しい目つきだし、衛宮もさすがに混乱気味の様子だった。
「ああもう、とにかく離れろ!
 おまえメチャクチャだぞ、なんか!」
 そう言って衛宮は、ぶん、と手をふってイリヤをはがした。
「きゃ……!
 それは体重の軽い少女がバランスを崩すには十分な勢いであり、そのまま地面に倒れるかと思ったが……。
「しま、イリヤ――――!」
 衛宮が咄嗟にイリヤの腰に手を伸ばして、倒れないように体を支えていた。
 そのまま、衛宮はイリヤを地面に下ろしたが、イリヤは何も言わなかった。
 衛宮も何も言わず、いや何も言えずか? とにかく、立ち往生してイリヤの姿を見下ろしていた。
「――――なに。お兄ちゃん、わたしのこと嫌いなの?」
 少女らしからぬ、(いやイリヤが衛宮の姉であるのならば、歳相応かもしれない)凍り付くような笑顔と共に、紅い瞳を灯らせてイリヤは言った。
「――――っ」
 その迫力に、ひたすら傍観していた俺たちまでもが動きを止められてしまった。
 セイバーはますます殺気立ち、イリヤがおかしな行動を取った瞬間、間違いなく斬りかかることがなぜか確信できた。
 この状態なら、バーサーカーを呼び出されない限り、十中八九はセイバーが勝つ。
 しかし、それを避けるためか、あるいは天然か、衛宮はイリヤの要求に大人しく従った。
「……分かった。話をすればいいんだろ。
 大人しくするから、それでいいかイリヤ」
「うん! それじゃあっちの公園に行こっ。
 さっき見たきたんだけどね、ちょうど誰もいなかったんだ」
 たん、と弾むようなステップで、イリヤは走り出した。
「ほら、早く早く!
 急がないと置いていっちゃうからね、シロウ――――!」
 くるくる回りながら、イリヤは商店街を駆けていく。
「……あいつ。ホントに行っちまったぞ」
 イリヤの余りの純真さに衛宮は呆然とそれを見ていた。
「…………なんなんだ、あいつ」
「なんなんだ、じゃないだろ。お前はどうするつもりなんだ?」
「そうです、シロウ。まさかと思いますが、公園に行くつもりではないでしょうね」
「えっ、だって、イリヤのヤツ、俺が来るコトを完全に信じきってるんだぞ。
 その信頼を裏切るわけにはいかないだろう?」
 衛宮のその言葉に、女性陣は全員呆れ顔だった。
 まあ、俺はこう答えることが分かっていたからショックは少ないが、やはりこいつの能天気さには呆れてしまった。
「先輩、あの子昨日会ったバーサーカーのマスターなんですよね。
 公園まで着いていくなんて、危険すぎです」
 桜もまた、本当に衛宮を心配して発言してきたが、逆に衛宮は困惑顔だった。
「大丈夫だって。イリヤも言ってただろ?
 昼間のうちは戦っちゃいけないって。 
 バーサーカーも置いてきたって言ってたしな。実際、近くにはいないんだろ?」
「……ええ、確かに私が感知できる範囲内にはいないようです」
「そうですね。私が探知できる限りでは、この近辺には間違いなくいません。
 まあ、霊体化して魔力を完全に隠蔽されれば見つけられませんが……」
 衛宮の質問に対して、セイバーは悔しそうに、霊体化したままのメディアから小声でクールな回答が来た。
「じゃ、問題ないだろ。
 イリヤが待っているからな、早く公園へ行かないと」
 おいおい、令呪を使えばすぐに召喚できるってことはお前にも以前説明しただろうが!
 それ以前に、イリヤの魔眼を喰らえば、あっという間に捕虜になってしまうんだよなぁ、こいつ。
 だが、まあ、セイバーもそばにいるし、今この時点でイリヤが無茶をする可能性は低いか。
 となると……。
「分かった。まあ、襲われない様にせいぜい気をつけてイリヤと好きなだけ話して来い。
 俺は完全無欠に無視されているようだし、用事もあるから先に柳洞寺へ行ってるぞ」
 俺は無視されているのに、ついていくような酔狂な趣味の持ち主ではない。
 まあ、無視されるなら、一緒にいても遠くからでも覗き見しても同じだ、と考えていたのもあるが。
「それから、セイバーは衛宮と一緒だよな」「当然です」
 俺の言葉が終わった瞬間、セイバーからは即答された。
「後、桜と弓塚だけど、どうする?」
「あの、兄さん。私は、その先輩が心配なので、……」
「分かった。じゃあ、桜はライダーと一緒に衛宮と行動してろ」
「私はちょっと怖いから、間桐君と一緒に柳洞寺へ向かいます」
 昨日の記憶が鮮明に残っているのか、顔色を悪くしながら弓塚は答えた。
「じゃ、そういうことで決まりだな。
 桜、何かトラブルが起きたらすぐにラインで連絡しろよ」
 そう言って、俺と弓塚、そして霊体化したメディアとランサーは柳洞寺へ向かい、残りはイリヤの待つ公園へ向かった。
 さてさて、早くからイリヤと接触できるのは、将来イリヤを味方に引き入れるためには役立つが、セイバーと桜が側にいる状況で仲良くなれるものかねぇ。
 俺はそんなことを考えながら、柳洞寺へ向かって歩いた。
 監視網を使って、公園の状況を覗き見てみると、どういう経緯かは良く分からんが、衛宮、イリヤ、そしてセイバーに桜の四人が仲良くどら焼きを食べていた。
 桜がちょっと不機嫌そうだったが、後の三人は笑顔で食べていて、まあこれなら問題ないかと、俺は覗き見を打ち切った。

「そういえば、弓塚。
 昨日の戦いを見て、どう思った?」
「う~ん、もう何度かサーヴァントの戦いは見てきたけど、その中でもバーサーカーがトップクラスの強さだってことはすぐ分かったわ。
 正直あそこまで行くと、私じゃ誰が強いって分からないわ。
 ただ、私程度じゃ絶対に勝てないのは理解できたわ」
 そう言いつつも、弓塚はそれほど恐れていないように見える。
 不思議そうな俺の視線に気づいたのか、弓塚はさらに説明を続けた。
「もちろん、サーヴァントと戦うことになったら怖いわ。
 でも、私の仕事はマスターや使い魔と戦うことなんでしょ。
 だったら、サーヴァントに襲われたら全力で逃げるか、キャスターさん達が助けに来るまで時間を稼げばいい。
 それだったら、私でも何とかできると思うの。
 そのために、ライダーさんやランサーさんに鍛えてもらっているし、……何より生きて帰らないと、遠野君に会えないし」
 なるほど、最後の本音が弓塚の戦う理由の根幹、か。
 さすが、恋する(吸血鬼の)乙女は最強だな。
「そうだな。サーヴァントとタイマンで戦う必要性なんて(今のところ)ないし、無茶しなきゃ弓塚の能力なら何とかなるかもな」
 俺なら瞬殺なのは悲しいところだが、だからといって吸血鬼になる気など毛頭ないし。
 そんなことを考えながら柳洞寺へ向かっていると、俺たちがのんびりしていたのか、それとも向こうが急いできたのか、ともかく衛宮たちと合流し、結局は全員で柳洞寺へ向かうことになった。
 

 柳洞寺に到着し、俺たちが借りている離れに行くと、(金羊の精霊の)アルが、アルクェイド、シエル、そしてセブンの対応をしていた。
 「ななこ」と呼ばないのは、この時点で「ななこ」と呼ばれるイベントが起きたか知らないし、面倒なことは避けたかっただけだ。
 ちなみに、パッと見た感じでは、同じ精霊同士で話が合うのか、かなりアルとセブンの話が盛り上がっているようだった。

「こんにちは、アルクェイドさん、シエルさん。
 わざわざここまで来ていただいてありがとうございます」
「別に構わないわよ。
 どうせ、私はシエルの護衛であって、私は特に行かなきゃいけないところなんてないし」
 俺はその発言に驚いてシエルを見ると、シエルは残念ながら、と言わんばかりの態度で回答した。
「ええ、不本意ながらその通りです。
 このあーぱー吸血鬼など必要ない、と言いたいところなんですが、サーヴァントの強さはキャスターでよく分かっているつもりですし、何より遠野君に言い負かされてしまいまして……」
 なるほど、シエルがよりにもよって聖杯戦争の審判役をすることを聞いた志貴の差し金か。
 俺が依頼したのはアンリ・マユ退治だけだが、シエルの護衛という役目がついたのなら、アルクェイドは聖杯戦争中ずっとここにいることになる。
 さて、これは心強いのは間違いないが、とんでもない不確定要素にならなきゃいいんだがな。
 っと、それまで和やかに話していたのだが、いきなりシエルの目つきは一気に鋭くなった。
 次の瞬間、背後から何かものを弾いたような音と共に、ものすごい魔力の放出を感じ、俺は慌てて振り返った。
 そこには、頭を庇うように両腕を掲げた弓塚と、その前にゲイボルクを構えるランサーがいた。
 そして、視線を下げると、そこには黒鍵が転がっていた。
 なるほど、シエルが弓塚に向かって投げつけた黒鍵をランサーが叩き落したのか、じゃなく!
「ちょっと、シエルさん。いきなり何をするんだ!」
 俺の非難の声に対し、シエルはそれ以上の迫力で言い返してきた。
「何をするじゃありません。
 何でここにその吸血鬼がいるんですか!
 おまけに何ですか! そのとんでもない力は。
 三咲町にいたときとは比較になりません!!」
 魔術具で吸血鬼の気配を隠していたのに、見た瞬間に気づくとはさすがはシエル。
「ああ、それは俺のせい」
「貴方のせい、ですか?」
 シエルはじろりと俺を睨んだ。
「ああ、会ったときは弱ってたし、日光にも耐えられない体だったからな。
 可哀想に思って、俺たちの血を提供したんだ」
「『俺たち』ですか? ……まさか!!」
「はい、正解。
 俺と桜に加えて、キャスター、ライダー、アルクェイドが血を提供したんだ。
 ああ、さっきランサーの血も上げたか」
「――なんてことを……」
 シエルはそう呻いた後、言葉を続けることができなかった。
 もしかして、今の弓塚はすでに27祖クラスの力をつけているのかもな。
 ……技量は、まだまだ素人に毛が生えたレベルだろうけど。
 吸血鬼を退治する立場からすれば、それはとんでもないことなのは分かるけど。
 だが、まあ、運が悪かったと思って諦めてもらおう。
 しばらく落ち込んでいるかと思いきや、シエルはすぐに立ち直ると、今度はアルクェイドに食って掛った。
「アルクェイド、貴女は死徒を狩るのが仕事でしょう。
 死徒である彼女を狩らずに、あまつさえ血を提供し、パワーアップさせるとは何事ですか!?」
 シエルはすごい剣幕だったが、アルクェイドはそれに気づいていないのか、あるいは気にしていないのか、あっけらかんと答えた。
「え~、だってさっちんはまだ誰も殺してないのよ。
 ここに来るまでは通り魔的に血を吸っていたみたいだけど、今は慎二たちの血しか飲んでないわ。
 ついでに言えば、キャスターの使い魔になって魔力を供給されてるから吸血量は必要最低限でいいし、暴走したらキャスター自身が処理するから安心でしょ?」
「……うっ、そ、それは」
 さすがのシエルも、暴走後の処理まで検討済みであるため、突っ込むことができないようだ。
「第一、人に害をなさない吸血鬼を利用しているのは埋葬機関も同じじゃない。
 27祖の一人を埋葬機関に入れといて、そんなこと言っても説得力が全くないわよ」
「メ、メレムはいいんです。
 彼はたしかに死徒であり、油断できない存在ですが、人に害をなす吸血鬼を滅ぼしていますから」
「じゃあ、さっちんも問題ないわね。
 一人も人間を殺してないし、今はキャスターの使い魔なんだから抹殺対象から外れるわよね」
「それです。なぜ彼女がキャスターの使い魔などになっているのですか!?
 おそらくは、私たちと会った日の帰る途中に出会ったのでしょうが、キャスターなら吸血鬼についてよく知っているはずですし、何より一瞬で滅ぼすことが可能なはず。それがなぜ!!?」
 なまじキャスターの実力を分かっているが故に、シエルは現状が理解できないようだ。
「それは、シエル。あなたが今言ったことが答えですよ」
 メディアは姿を現すと、静かにシエルの質問に答えた。
「あなた方と交渉を行った後、帰る途中で吸血鬼の存在に気づいたところまでは正解です。
 そして、私の魔術によって身動きが取れないように捕獲した後、さつきより事情を聞きました。
 もっとも、わずか一晩で吸血鬼に成り上がったと聞いたときには、さすがに驚きましたが……
 さらに詳しい話を聞き、吸血はしていても人は殺していないこと、少なくともその時点では人としての理性が吸血鬼としての本能を上回り、吸血衝動を制御していることを私自身が確認し、このまま滅ぼすのは惜しいと判断し、使い魔にしただけです。
 もちろん、私がこの世界に存在する限りさつきが暴走しないように制御しますし、万が一制御下から離れて暴走した場合、他に手段がなければ全力で滅ぼします」
 シエルはその言葉を聞いてしばらく悩んでいたが、実力的にも理論的にもキャスターに勝つのは難しいと悟ったのか、しぶしぶという感じで了承した。
「うっ……、し、仕方ありませんね。
 しかし、弓塚さんの方はどうなのですか?
 キャスターの使い魔として生きることに本当に同意したのですか?」
 シエルは少し落ち着いて弓塚に質問をしてきたが、弓塚は返事をしなかった、いやできなかった。
 どうやら、いきなり黒鍵を投げつけられたショックから未だ立ち直っていなかったらしい。
 う~む、まだ不意打ちなどの精神的ショックの耐性は弱いみたいだな。
「ほれ、吸血鬼の嬢ちゃん。お前さんに質問だぞ。
 いきなり攻撃されたのがショックだったのは分かるが、とりあえず今は大丈夫だ。
 いいかげん、正気に戻ったほうがいいぞ」
 ランサーが弓塚の頭に手をおいて呼びかけると、やっと正気に戻ったらしく、今度は慌てて答えた。
「あ、あの、その、私、吸血鬼になっちゃったけど、遠野君に会いたいし、……でも、絶対に人は殺したくなかったからキャスターさんに拾われて本当に救われたんです。
 ですから、使い魔としてお手伝いすることぐらい、全然構いません」
 あっちの世界に精神を飛ばしかけていても、どんな会話をしていたかは聞いていたらしい。
「あっ、なんだ! さっちんって、志貴の友達だったんだ。
 それならそうと早く言ってよ。
 うん、じゃあ、今からさっちんはキャスターの使い魔であると同時に私の配下の死徒、ってことにするわ。
 もちろん、名目上ね。そうしておけば、さっちんに手を出す愚か者はそうはいないはずよ。
 ねぇ、シエル~?」
 アルクェイドは、前半は弓塚に、後半はシエルに向かって笑顔で言った。
 それを聞いた苦汁に満ちた表情で答えた。
「……え、ええ。そうですね。
 キャスター、というかこの世界で最高クラスの魔術師の使い魔であり、同時に真祖の付き人ともなれば間違いなく、少なくとも表向きには手を出すような組織はいないでしょう。
 裏でちょっかいを掛ける存在がゼロとはいえませんが、まあその程度の存在なら弓塚さん一人で十分に撃退可能でしょう」
「そうなんだ!
 ありがとう、アルクェイドさん!!」
「いいのいいの。志貴の友達なら、手助けしてあげるのは当然よ」
「それでも嬉しいの。この恩はいつか、絶対返すわ」
「そんなに気にしないでいいのに。
 でも、そうね。ないとは思うけど、もし私が困ることばあれば何か手伝ってね」
「はい、もちろんです」
 アルクェイドと弓塚の微笑ましい会話を横から眺めていると、いきなり冷たい第三者の声が聞こえてきた。

「久しぶりですね、シエル」
 振り向くと、予想通りそこにはバゼットがいた。
 一休みするために戻ってきたのか、それとも何か用事があったのかはしらないが、ちょうどいいタイミングだったな。
「バゼット。
 ……話には聞いていましたが、ずいぶん情けない姿ですね」
「……確かに、今の私は負け犬と言われても仕方ない。
 ですが、これで逃げ帰るつもりなど毛頭ありません。
 ……とはいえ、奪われたランサーを取り返し、聖杯戦争に復帰するつもりではいましたが」
 そう言うと、バゼットはランサーの方へ視線を向けて、言葉を続けて。
「答えろ。なぜ、貴方がこんなところにいる?」
「こりゃまたずいぶんな台詞だねぇ。
 敵味方に分かれていたパートナーが、ついに敵対しない立場で再会したのに、開口一番それか?」
「くだらない戯言など聞く気はありません。
 一体、なぜ、綺礼に従った貴方がここにいるのか答えなさい!!」
「おいおい、そんなことは聞かなくてもマスターだって分かってるんだろ?
 偵察中にセイバーのマスターと戦闘になって、セイバーたちに囲まれそうになったんで逃げ出したんだがな。
 その後、キャスターとライダーに襲われて捕獲され、何とキャスターの宝具で支配下に置かれちまったのさ」
「……それでは、貴方は?」
「ああ、今の俺のマスターはキャスターだ。
 俺に偵察任務を押し付けた言峰に比べれば、全力で戦わせてくれるキャスターの方がよっぽどましだがな」
 それを聞いたバゼットは、俺を睨みつけてきた。
「慎二、一体どういうつもりですか?」
 あ~、ランサーのヤツ、あっけにとられて俺が止められない隙に、好き放題話しやがって。
 ここまで来たら下手な言い逃れはできないなぁ。
「どういうつもりも何も、強く、しかも元バゼットのサーヴァントなんだから、味方にすれば得かなって考えてな。
 幸い、キャスターとライダーの協力して無傷で捕まえられたし、本人も英雄らしい戦い方ができればいい、って言ってるし、お互いの利害が一致したから一緒に戦うことになったわけだ。
 ……ああ、そういうわけで、アルクェイドさん。
 後で、ランサーと模擬戦やってくれないかな?
 もちろん、殺し合いじゃない。
 できれば本気で戦ってもらえると嬉しいんだけど」
「う~ん、そうね。
 聖杯戦争の状況が把握できて、ランサーと戦う余裕があると判断できれば構わないわよ。
 私の力は確かに強いけど、サーヴァント相手だと圧倒的とまではいかないからね。
 ランサーと戦ったせいでシエルを守れませんでした、なんてこと志貴に報告するわけにはいかないしね」
「私も、『貴女なんかに守られる必要はありません』、と言いたいところなんですけどね。
 キャスターは以前にも会いましたが、貴方がランサーですか?
 サーヴァント相手となると、このあーぱー吸血鬼の力を借りなければ対抗するのは難しそうですね」
 シエルの言葉に対して、反論したのは以外にもランサーだった。
「謙遜することなんかねぇぜ、エクソシストの嬢ちゃん。
 あんたの魔力は対したもんだ。
 ここにいる魔術師の中では、というか俺が知る限り人間としてはとんでも無い量だ。
 おまけにさっきの投擲の威力には俺も驚いたぐらいだぜ?」
「いともあっさりと撃墜したあなたに言われても、全然説得力がありません」
「そりゃ、俺には『矢避けの加護』があるからな。
 それで撃墜できなきゃ、そりゃ嘘だ。
 だが、他のサーヴァント相手なら牽制には十分使えるだろうし、俺としてはあんたとも全力で戦ってみたいところなんだがな?」
 そう言って、ランサーはシエルに対し視線を向けた。
 ランサーの挑戦的な視線と台詞に対し、シエルは対照的にクールに答えた。
「そうですね。
 実際に戦うことで、サーヴァントの実力を確認するのもいいでしょう。
 それでは、いつ戦いますか?」
「おっ、話が早いな。
 確かにいつ余計なお邪魔虫が来るかわからないからな。
 これからやらないか?」
 シエルの回答に対し、いっきに乗り気になったランサーであったが、この状態でそんなことを許すはずがない人がいることを完全に忘れていたようだ。
「ランサー、私を無視して他の女を誘うとはいい度胸ですね」
 言葉は優しく、顔を微笑んでいるように見えるのだが、眼光と雰囲気が全く洒落にならないほど殺気に満ち満ちている。
「お、おちつけ、マスター、じょ、冗談だ。
 本気で怒るなよ」
「ほう~? 冗談ですか。……そうですか、それならいいんですが、でしたら貴方はこれからどうするつもりなのか、教えて欲しいものですが?」
 爆発数秒前、ピンを抜いた手榴弾、といった雰囲気を醸し出すバゼットに、ランサーは完全にびびりつつ答えた。
「落ちつけ、マスター。さっきも言ったが、俺は今キャスターの配下だ。
 戦いそのものは俺の自由だが、いつ、どこで戦うかは全てキャスターの命令に従っているだけだ。
 そういうことは、キャスターに聞いてくれ」
 ランサーの言い訳を聞いたバゼットを、そのまま静かにキャスターへ振り向いた。
「ランサーの言うとおりなら、貴女に決定権があるようですが?」
 あの~、一応キャスターのマスターである俺のことは無視なのか?
「ええ、そうです。ランサーへの決定権は私が持っています」
 バゼットの質問に対し、メディアは即座に肯定した。
 ……まあ、確かに事実上、いや誰がどう見てもランサーへの決定権を持っているのはメディアだな。
 俺が命令しても、メディアが納得しなければ、ランサーも、そしてメディア自身にも何かをやらせることはできないんだしな。
「そうか、それでは聞きますが、これからランサーをどうするつもりですか?」
「そうですね。昨日はセイバーと共にバーサーカーと戦ってくれましたし、私としても戦力として頼りにしています。
 ……が、あなたがどうしてもというのなら、貸し出すのもやぶさかではありませんよ」
 お~い、俺の意見は無視なのか?
 いや、確かにバゼットとは言峰を倒すまでは同盟を組んでいるし、バゼットとランサーはいいコンビみたいだから二人を組ませること事態には俺は異論ないけどなぁ。
 ランサーの方を見ると、自分をモノ扱いされているのは気に食わないが、バゼットと一緒に戦えるのも嬉しいというような複雑な表情をしていた。
「代価は何ですか? いや、そんなことはどうでもいい。
 私が再びランサーと組めるのならば、私にできることならば何であろうと代価を払いましょう。
 ランサー、私と再び組み、絶対に言峰を倒します!!」
「その気迫。さすがは俺のマスターだ。
 ……ああ、いいぜ。キャスターの許可さえもらえれば、何だってやってやるぜ。
 で、どうなんだ、キャスター?」
 そこで、初めてメディアは俺の方を向いた。
「いかがしますか、慎二?
 元々バゼットとは同盟を組んでいますし、私としては慎二の意志に従います」
 おいおい、ここまでお膳立てしといて、最後は俺に回すのか?
 ……確かに、バゼットとは同盟を組んでいるし、借りを作っておけば後で何かと役立つだろうし、何より『(バゼットに)できることなら何であろうと代価を支払う』というのは魅力的だ。
 こりゃ、断る理由が存在しないか。
「OK。ただし、言峰を倒した後に、俺たちに敵対する、あるいは不利益な行動をとることがあればランサーは返してもらうことになるけど、それでもいいのか?
 もちろん、その場合でもさっきの約束は有効だ」
 俺としては『敵対したらランサーを取り返す』というのは、譲れない線であり、これが原因でバゼットに拒絶されることも覚悟していのだが、返ってきたのは意外なものだった。
「構いません。綺礼が私を襲いランサーを奪っただけでも、すでに異常事態なのは明白です。
 それに加えて、埋葬機関のシエルだけでなく真祖の姫君までここに来るなどという前代未聞の事態と言えるでしょう。
 ということは、私の知らない何かとんでもないことがこの聖杯戦争で起きているのでしょう?
 そう考えれば、貴方がここまで過剰な戦力を集めようとする理由も分かるし、私を助けたのにも納得できる。
 この状況で、聖杯を手に入れることなど、夢のまた夢。
 魔術協会に対しての言い訳も十分に立ちます。
 となれば、貴方が私に対して敵対行為を取らない限り、対立する理由など存在しません。
 綺礼を倒し、あいつが何を企んでいるかを暴いてみせます」
 バゼットは、そう言って不敵な笑みを見せた。
 なんというか、得物を前に舌なめずりする虎、というイメージがなぜか浮かんできた。
 虎はタイガーだけで十分なんだけどなぁ。
「わかった。それなら文句ない。
 キャスター、令呪を使って偽臣の書を……、って、キャスターはどうしたい?
 このままキャスターが魔力供給を続けるか、それとも偽臣の書を作るのと、どっちがいい?」
「私が選んでいいのですか?」
「ああ、魔力を供給しているのはキャスターだからな。
 俺が決めるのは筋違いだろ?」
 俺とキャスターが話していると、蚊帳の外に置かれるのは我慢できなかったのかバゼットが割り込んできた。
「二人で勝手に決めないでほしい。
 なんですか、その、偽臣の書とやらは?
 話の流れからすると、令呪の代わりみたいなものだと推測できますが……」
 バゼットは、そう言って俺とメディアの会話に割り込んできた。
「ええ、まさにその通りです。
 令呪を使って仮初の令呪、令呪の代替品となる偽臣の書を作成することで、これの持ち主はサーヴァントのマスターになることができます。
 そして、偽臣の書が消滅しないかぎり、持ち主つまりマスターが変わることすらできます。
 つまり、これを手に入れたものは魔力を持っていなくてもマスターになることが可能なのです。
 もっとも、そんなことになれば、サーヴァントのパワーダウンに加え、魔力補給のため人食いをする羽目になるのは間違いありませんが」
 そう言って、メディアは意味ありげに俺を見た。
 こら、オリジナルはともかく、今の俺はそんなことをするつもりは、欠片も、いや欠片しかないんだからな。
 うん、犯罪者から死なない程度生命力を奪うのは人食いに比べたら、大したことないよな。
「つまり、偽臣の書を作ればランサーの魔力供給源は私になり、そうでなければキャスターから魔力が供給されるわけですか」
「まさにその通りですよ、バゼット。
 もちろん、私から魔力供給を受けるということは、それだけさらなる代価をいただくことになりますが……」
「いや、いいです。もうすでに、かなりの借りがある以上、これ以上借りを作るような真似はしたくありません。
 さっさと、偽臣の書を作ってください」
「了解しました。
 慎二もよろしいですか?」
 う~ん、バゼットにこれ以上の借りを作れないのは残念だが、まあ、これ以上欲張ってもしかたないし、恩を押し売りするわけにもいかないか。
 というか、ランサーを貸し出した借りだけでも十分すぎると言えるか。

 どんな願いをかなえてもらうかは、あとでじっくり考えよう。
 となれば、あっ、しまった。
「ええと、今思い出したんだが、偽臣の書って結構大型の本の形をしてるんだ。
 まあ、令呪の代用なんだがら、かなりの魔力を持っているわけだし、それなりの大きさになるのは当然なんだが」
「……まあ、そうでしょうね。
 それがどうかしたのですか?」
 バゼットはまだ気づいていないようだ。
 これだけの説明で分かれというのが無理か。
「偽臣の書の持ち主ってのは、偽臣の書に触れている奴のことを指すんだ。
 多分、魔力補給も本を持ってないと無理だろうな」
「なっ、それでは!!」
「ああ、戦闘中も常に持っているか、あるいは体に触れさせてないといけない。
 小さいならともかく、多くて分厚い本だから結構邪魔だ。
 おまけにバゼットは片手だろ?
 偽臣の書を持つにはきついんじゃないか?」
 それを聞いたバゼットは、愕然とした。
「確かにそれでは、私が持つのはデメリットが大きすぎますね。
 ……仕方ありません。
 偽臣の書を作る必要はありません。
 現在の状態のままで、ランサーを貸し出してもらいましょう。
 よろしいですか、ランサー?」
「ああ、アンタの魔力がもらえないのは残念だが、……まあ量なら底なしに持っているキャスターの方が好きなだけ戦えるのは事実だな。
 まっ、そんなわけで改めてよろしくな、バゼット」
 こうして、ランサーはやっとというべきか、本来のマスターであったバゼットの元へと戻った。
 さて、このコンビがどれほど活躍してくれるか、実に楽しみである。
 さらに言えば、ランサーが魔力をたくさん消耗するほど俺への借りが増えるのだから、なお嬉しい。
 と、そこへ桜とライダー、衛宮にセイバーも到着し、これで関係者は全員勢ぞろいした。
 え~と、今ここにいるのは、っと。

Fate関係者
 ・間桐慎二(俺)
 ・メディア(俺のサーヴァント:キャスター)
 ・アル(メディア所有の金羊の皮の精霊)
 ・間桐桜(俺の妹)
 ・メデューサ(桜のサーヴァント:ライダー)
 ・衛宮士郎(桜の想い人)
 ・アルトリア(衛宮のサーヴァント:セイバー)
 ・バゼット(魔術協会所属の封印指定ハンター)
 ・クー・フーリン(バゼットのサーヴァント(仮):ランサー)

月姫関係者
 ・アルクェイド(真祖の姫)
 ・弓塚さつき(死徒、キャスターの使い魔、アルクェイドの付き人(に今なった))
 ・シエル(埋葬機関第七位、聖杯戦争の監督役(仮))
 ・セブン(シエル所有の第七聖典の精霊)

 
 う~む、改めて考えると、とんでもないメンバーが勢ぞろいしているな。
 初対面同士も多いのでそれぞれ自己紹介をしたが、セイバーはバゼットを思いっきり警戒しているし、シエルもまだ弓塚のことを警戒しているなど、あっちこっちでぴりぴりとした雰囲気が発生していた。
 バゼットも、衛宮がセイバーを召喚したことを初めて知ったわけだし、今こうしてセイバーと対面しているから驚いてもおかしくないんだが、……なぜか全く動揺していなかった。
 ポーカーフェイスなのか、あるいは予想外の出来事に慣れすぎたのか、あるいはもしかすると、衛宮がマスターになることを予想していたりするのか?
 ……まあいいか。トラブルの種が少ないのはいいことだ。

 とりあえず、まずはセイバーの疑問を晴らすこととアルクェイドとシエルに情報提供をするため、この3人+俺と衛宮が残り、他のメンバーには席を外してもらうことで、秘密の会合を開始した。

「それで、貴方なら本当に、大聖杯の中のアンリ・マユだけを滅ぼせるのですか?」
 さすがは、『コーンウォールの猪』。
 セイバーは単刀直入に、もっとも気にしていることから質問してきた。
「私じゃないわよ。滅ぼすのは志貴。
 ちょっと、そんなに疑いのまなざしで見ないでよ。
 志貴はね、直死の魔眼の持ち主なんだから。
 貴方にはバロールの魔眼の持ち主といった方が分かるかしら?
 まあ、志貴の目は、睨むだけじゃ効果はないから刺さないといけないけどね」
 この回答は予想外だったらしく、セイバーは驚きを隠せなかった。
「なっ、あの、幻の魔眼の持ち主がこの世に存在するのですか?」
「そうよ~。なにせ、ただのナイフで私を傷つけるどころか、殺すことすらできたんだから。
 大聖杯から出てきた後ならともかく、今の状態なら多分大聖杯の中にいるアンリ・マユだけ殺すことも十分可能なはずよ。」
「し、真祖の吸血鬼をただのナイフで!!
 そのようなことが本当に可能なのですか?」
「可能だから、直死の魔眼なんじゃない。
 まあ、私もただの御伽噺だと思ってたから、そう思うのは無理ないとは思うけどね」
 アルクェイドのあっけらかんと回答したが、逆に説得力を感じたのか、セイバーは黙り込んだ。
「このあーぱー吸血鬼の言う事を肯定するのは私としても不本意ですが、確かに遠野君は直死の魔眼の持ち主ですよ。
 それは私も保証しましょう。
 もちろん、これはこのメンバー以外は口外無用です。
 もらすようなことがあれば、私たちが許しませんよ」
 シエルアルクェイドの言葉を肯定した。
 それを聞いたセイバーは、うつむかせていた顔を上げた。
「あなたがたがそう言うのでしたら、私も直死の魔眼の存在を信じましょう。

 しかし、そうなると、疑問が二つあります。
 殺されたといっても、今あなたはここに存在して生きている。
 つまり、一度殺された後に蘇生できたということでしょう。
 それではアンリ・マユを滅ぼせる確証がありません。
 何より、なぜあなたはかつて自分を殺した相手を殺さないのです?」
 なるほど、確かにこれだけの説明じゃ不審がるのは当然だな。
「一つ目の答えは簡単なことよ。
 私は死の線を切られて殺されたけど、死の点を突かれて滅ぼされなかった。
 もし、死の点を突かれて滅ぼされてたら、いくら私でも復活できなかったと思うわ。
 二つ目の答えはね、えへへ~!」
 そこまでシリアスに話していたアルクェイドだったが、いきなり表情を崩し、頬を染め、照れくさそうな仕草を見せた。
 セイバーは、身を乗り出して聞いていたが、アルクェイドのあまりの変化についていきずにバランスを崩しそうになった。
 が、何とか持ちこたえた。
 しかし、自分の世界に入ってしまったアルクェイドがそんなことに気づくわけもなく、一人照れながら説明を続けた。
「そのね、志貴には初めて出会ったときに殺されたわけだけど、その後私を殺した責任を取ってもらったのよ。
 で、ネロを倒したり、ロアを倒したりといろいろ会ったけど、私たちは恋人同士になったわけなの」
 それはもう、見ているこっちまで幸せになりそうな満面の笑みを浮かべて話したアルクェイドに対し、予想外の言葉を聴いてしまったセイバーは瞬間冷凍状態だった。
「へ~、それはまた、すごい出会いだな」
 衛宮の驚きと呆れが入り混じった感想に、アルクェイドは満面の笑みで答えた。
「そうよ~。私だって私を殺した人を好きになるなんて、予想できなかったわ。
 でもね、蘇生した後志貴が現れるのを待って、どうやって仕返ししてやろうかずっと考えていたらいつ間にかそれが楽しくなってね。
 で、そこに志貴が現れて、「いつまでのろけ話をするつもりですか!! 誰も遠野君とあなたの出会いの話など聞きたくありません」
 まだまだ話す気満々だったアルクェイドだったが、いい加減むかついてきたのか、シエルが一喝した。
「え~、いいじゃない」
「よくありません。
 いま、ここは戦場なんです。
 そんな暢気な事など聞いている暇などありません」
「……」
 アルクェイドは不満たらたらの様子ではあったが、シエルの正論に反論できず、渋々ながら黙り込んだ。
「さて、セイバー。
 余計なコトもありましたが、とりあえず遠野君とこのあ~ぱ~吸血鬼との経緯はそんなところです。
 さらに、遠野君は死徒二十七祖に属する『混沌』ネロ・カオスと『無限転生者』ロアを滅ぼしています。
 この二人は、このあ~ぱ~吸血鬼が戦っても滅ぼすのは難しい存在でしたが、遠野君によって完全に滅ぼされました」
 さすがにロアの部分ではわずかだが感情を見せたが、後は完全にポーカーフェイスでシエルは説明を続けた。
 アルクェイドの恋人発言に凍り付いていたセイバーはやっと復活して答えてきた。
「死徒二十七祖のことは知らないが、言葉から察するに死徒の中でトップクラスの強さを誇る者達のことですね。。
 それを二人も滅ぼしたのというのが事実なら、……そうですね。
 直死の魔眼を持ってすれば、アンリ・マユを滅ぼせる可能性は高いでしょう。
 ……ですが、アンリ・マユを滅ぼせても、聖杯まで壊れてしまえば意味はない。
 それは大丈夫なのですか?」
「そこまでは私にも分かりません。
 しかし私の知る限り、遠野君の直死の魔眼でなければ聖杯をそのままにしてアンリ・マユを滅ぼす、などという芸当は不可能でしょう。
 ならば、後は聖杯戦争を終え、遠野君が結果を出すのを信じるしかないのでは?」
 シエルの正論に、セイバーもまた何も言えなくなった。
 確かに、遠野志貴が直死の魔眼(劣化版バロールの魔眼)を持っていたとしても、本人がここにおらず間接的に話を聞いている状況で、これ以上聞いていてもあまり意味はない。
「では、いつその魔眼所持者が来るのですか?」
「それは聖杯戦争が終了し、この地から(アンリ・マユを除く)危険な要素が消滅したことを確認してからになります。
 遠野君は直死の魔眼こそ強力ですが、戦闘能力そのものはそれほど高くはありませんからね」
 シエルは、限定解除状態(殺人貴モード)の志貴がネロ・カオスを滅ぼすところを見ているだろうに、そのことは説明しなかった。
 まあ、すでに志貴のことを話しすぎている状態だし、そのことを秘密にするのはある意味当然だな。
 それに、空想具現化能力みたいな『広範囲殲滅系能力』相手だと志貴では対抗できない可能性は高いしな。
「言うまでもないと思いますが、今ここで話したことは、このメンバー以外の一人にでも漏らせば容赦しませんよ」
「ええ、分かっています。
 マスターがシンジの友であり、協力体制であるというだけで、私たちにここまで話してくれたことには感謝しています。
 セイバーの名に掛けて、口外しないことを誓いましょう」
「あなたにそこまで言っていただけると安心できますね。
 いつの時代のどなたかは知りませんが、あなたほどの騎士の誓いならば信用できます」
 おやおや、セイバーの高潔さは百戦錬磨のシエルさえ信用させるレベルであったらしい。さすがは、アーサー王だな。
 確かシエルはフランス出身だったから、アーサー王やクー・フーリンのことはよく知っているだろう。
 二人の真名を知ったらものすごく驚くかな?
 いや、すでにメディアの真名は知っているわけだから、意外とそれほど驚かないかもしれないか。
 そんなことを考えている俺を置き去りに、どんどん話はまとまっていった。
「となると、我々は『聖杯戦争をさっさと終わらせてアンリ・マユを退治すること』を目的として協力する、ということになりますか?」
「う~ん、悪いんだけど、シエルは聖杯戦争の監督役で、私はその護衛だからね。
 アンリ・マユが暴走でもしない限りは中立の立場よ。
 もちろん、聖杯戦争が終了次第、志貴を呼んでアンリ・マユを退治してもらうけどね」
「それで結構です。
 つまりは、私とシロウで聖杯戦争を終わらせればいいだけのことですね」
「あ~、忘れてるかもしれないが、俺とキャスター、桜とライダーも同じ目的だぞ。
 それにさっきの話し振りだと、うまくいけばバゼットとランサーも手伝ってくれそうだな」
「それは心強いですね。
 隻腕とはいえ彼女はかなりの実力者です。
 敵に回すと手ごわいが、味方にすれば頼りになるでしょう」

 こうして話がまとまった俺たちが離れから出ると、メデューサとランサー、弓塚とバゼットが戦っていた。
 よくよく見なくても模擬戦闘だと分かったが、それでもかなりの迫力だった。
「おっ、やっと話は終わったのか?
 待ちくたびれて暇つぶしを始めちまったぜ」
「何を勝手なコトを。
 家を出た瞬間に、問答無用で襲い掛かってきたのはあなたでしょうが?
 まあ、『暇だし模擬戦闘でもやろうぜ!』との宣言通り、私を殺そうとはしていませんでしたが……」
「別にいいじゃねぇか。
 以前本気で戦ったときは互角というか、俺が押されてたからな。
 技量なら俺が上だろうが、俺とほぼ互角なスピードに俺を上回る力を併せ持つ相手なんて久しぶりだったからな。
 ぜひ、もう一度手合わせしたかったんだよ。
 まあ、本命と戦う前にウォーミングアップをしたかったというのもあるがな」
 そう言ってランサーはセイバーに視線を向けた。
 当然というべきか、セイバーはその視線に対し、まっこうから見返した。
 一方、メデューサは、ランサーの戦いぶりからそれが分かっていたのか、特に感情を見せていなかった。
「本命は私、ということですか。
 いいでしょう。模擬戦闘をするだけで、あなたが味方につくというのなら安いものです。
 さっさと終わらせてしまいましょう」
 そう言って、セイバーは一瞬で武装化しランサーの方へ歩き始めたが、俺は慌ててセイバーを止めた。
「ちょっと待ってくれ。今日の用事は終わってないんだ。
 戦うのはそれが終わってから余力があったらにしてくれ」
 幸いにもそれを聞いたセイバーは立ち止まってくれた。
「ふむ、その用事とやらにも興味は湧きますが、まずは貴方達がどんな協定を結んだが知りたいところですね。
 この件については私に教えてくれるのですか?」
 バゼットがあまり警戒していないのは、ランサーの借用というある意味とんでもない借りを作ってしまったため、今更借りを作ることを気にしていないためだろう。
 俺としても、隠すつもりはなかったのですぐにばらした。
「ああ、いいぜ。
 まずは、バゼットさんが予想している通り、言峰の代わりに聖杯戦争の監督役としてシエルさんが就任。
 アルクェイドさんに聖杯戦争後の後処理を引き受けてもらったのは前にも言ったが、それまではシエルさんの護衛をするらしい」
 俺の言葉は、シエルは『不本意ながら』という表情をありありと浮かべて頷き、アルクェイドは屈託なく肯定した。
「シエル、正気ですか?
 聖杯戦争の監督役の護衛などという任務を、よりにもよって真祖に頼むのですか?」
 予想の斜め上をも越える回答に、バゼットは驚愕した。
「不本意ながらその通りです。
 ……正確に言えば、アルクェイドの自発的な行為であり私や埋葬機関が依頼したわけではありません。
 いわば、アルクェイドが間桐君から引き受けた仕事のついで、ですね。
 それゆえ、私や埋葬機関が借りを作ることにはなりませんし、何とかなるでしょう。
 ……色々と後で面倒な事態になるのは目に見えてますが、背に腹は変えられません」
 シエルは苦虫を噛み潰したような顔で答えたがしっかりと志貴のことは隠していた。
 さすがに、アルクェイドに頼みごとができる恋人の存在など話せるはずはないか。
 いや、単なる嫉妬という可能性も捨てきれないけど……。
「なるほど、お互い苦労しますね。
 で、残りの一組とはどうなったのですか?」
「そっちは分かりやすいぞ。
 手を組んで、俺たちと同じ目的を目指すことになった」
 それを聞いたバゼットは再び怒髪天を突くような怒りを見せるかと思ったが、なぜか呆れたような溜息を漏らしただけだった。
「それでは、セイバーもまた、聖杯には興味は無いのですか?」
「……いえ、私は聖杯を求めて召喚に答えた存在であることには変わりありません。
 しかし、あなたが知らない事情により、現状では私の願いが叶わないと判断しています。
 ……確証があるわけではありませんが、その可能性は高いと言えるでしょう。
 ゆえに、願いが叶わないこの聖杯戦争を早く終わらせ、その後もこの世界に現界しつづけ、次の聖杯戦争が始まるまでに聖杯を本来あるべき姿に戻します。
 そして、次の聖杯戦争で聖杯を手に入れて見せましょう」
「そうですか、それは予想外の回答ですね。
 貴方たちが裏でこそこそやっていた理由はそれですか。
 確かに願いを叶えない聖杯を求めて戦うなどバカらしいですね。
 言葉だけなら単なる戯言ですが、貴方たちはそれが戯言でない証拠すら持っているに見えます。
 ……しかし、そのことについて他の連中、そう、例えば貴方たちが手を組んだ、遠坂凛は知っているのですか?」
 何でバゼットがそのことを知っているんだ?
 思わずぎょっとした表情を見せてしまった俺たちの顔を見て、バゼットは呆れたように言った。
「私が今まで何をしていたと思っていたのですか?
 もちろん、綺礼の動きを探ることに時間をかけていたのは事実ですが、他のマスターたちの同行を調べないはずがないでしょう?」
 言われてみれば、ってことは、遠坂が衛宮邸に泊まった事は知っていたのか、……って一体どうやって?
 その辺は、メディアがきっちり対策しているはずだが?
 考えが表情に出てしまったのか、バゼットは俺の疑問に答えてくれた。
「どうやって調べたのか不思議ですか?
 答えは簡単です。
 教会や貴方たちの家を監視できるように超望遠ビデオカメラを設置しただけのことです。
 簡単なことでしょう?」
 それを聞いて、俺たちは納得した。
 なるほど、一般人に疑念を持たれないため、(特に家の周辺を)光学的に見えないような対策は施していないからな。
 それを遠くから科学的な手段で監視されれば、そりゃ監視してもばれにくいか。
 しかし、それについてメディアが気づいていないなんてことがありえるのか?
 俺は思わずメディアの方を見つめると、メディアが珍しく、というか俺が覚えている限りでは初めてばつの悪そうな顔を見せた。
「申し訳ありません、慎二。
 監視できる場所に誰もいないこと、魔術具がないことは確認していたのですが、まさか監視機器を置いていたとは……」
「まあ、普通の魔術師が魔術具を使わずに監視機器を使うなんて、普通は考えないから気づかなかったとしても無理はありません。
 しかもそれが、神代の時代の魔術師ならなおさらです。
 いくら聖杯から知識を得ているとはいえ、限界はあります」
 バゼットはそう言ったが、メディアは聖杯からの知識に加え、俺や桜、ついでにバゼットの記憶すらデータとして入手している。
 それで監視機器の存在を見落としていたのだから、余計悔しいだろう。
 というか、バゼットが言峰に殺されかけるまでに、冬木市で何をしていきたか、記憶を読むように頼んでおけばよかったなぁ。
「でも、冬木に存在する二つの魔術師の家を監視していたのは分かりますが、どうして先輩の家も監視していたんですか?」
「何、簡単なことです。
 間桐家の者が衛宮邸に頻繁に出入りしていたのは調査済みでした。
 保険のつもりで監視機器を設置しておいただけのことです。
 ついでにいえば、特殊な暗号化を施した電波で映像を送っていました。
 設置に気づかず、電波にも気づかなければほとんど探し出すのは不可能だったでしょう」
 それは、確かに。今の科学技術を駆使してお金をかければ高性能、かつ小型な監視機器など簡単に作れる。
 それを設置されれば、そこに『監視機器がある』という前提で探さない限り、見つけることはかなり困難だろう。
 ちっ、甘く見ていたつもりはないが、さすがは封印指定ハンター。
 きっちりと文明の利器も使いこなしていたのか。
「それで話を戻しますが、このことを遠坂凛は知っているのですか?」
「そこまで分かっている以上、誤魔化しても無駄か。
 ……いや、遠坂は何も知らないよ。
 あいつが知ってるのは、衛宮とセイバーのことぐらいだ。
 俺と桜が衛宮に協力していることは知ってるが、まさか俺たちが二人ともマスターであるとは欠片も思ってないだろうな」
 もっとも、アーチャーが生前の記憶を持っているだろうから、俺がライダーのマスターだとは思っている可能性は高いな。
 もしかすると、アーチャーがそれとなく遠坂に警告している可能性もあるか。
 ……一応注意しておくか。
 それを聞いたバゼットは呆れたような顔を見せた。
「いいのですか?
 多分、貴方たちは遠坂の当主と同盟を結んでいるのでしょう?
 それでは同盟を破ることにならないのですか?」
「ああ、それは遠坂も了承済みだ。
 何せ、遠坂本人に『俺たちが秘密を持っているが内緒だ』と言ってあるし、それを遠坂は認めているからな。
 それから、同盟を組んだのは衛宮と遠坂だけで、俺たちは衛宮の協力者という立場でしかないからな。
 例え俺たちがマスターだとばれても、契約違反にはならないさ」
 伊達に策を練っていたわけではない。
 遠坂の思い込みと性格を把握して仕掛けた策は、今のところ有効に動いている。
 もちろん、最後まで俺の思惑通り行くとは思わないが、色々な意味で俺に有利に働くことを全く疑っていない。
 それを聞いたバゼットは呆れたように溜息をつきつつ返答した。
「それが通るとは思えませんが、……まあいいです、それが貴方の選択なら私がとやかく言う事ではありません。
 では、衛宮とセイバーは私と慎二たちが同盟を組んでいることを知っていたのですか?」
「ええ、その話でしたら、私が召喚された当日に伺いました。
 最終的にどうするかはシロウが決めることですが、私としては聖杯戦争を終わらせるのを邪魔しないのならば敵対しようとは思いません。
 無論、貴女があくまでも攻撃を仕掛けてくるというのならば、話は別ですが?」
 セイバーは、バゼットを試すように言ったが、バゼットは軽く流すとあっさりと答えた。
「安心してください。今の私の目的は、令呪を奪いランサーを奪った綺礼に借りを返すことだけです。
 私は元々魔術協会の命令で聖杯戦争に参加しただけで、私自身は聖杯に興味などありません」
「そうか、それなら俺としても嬉しい。
 この意味のない聖杯戦争をさっさと終わらせるため、手伝ってくれないか?」
 相変わらずこいつは、駆け引きというものを知らないらしい。
 今まで衛宮と会話する機会がほとんどなかったバゼットは、衛宮を興味深そうな表情で眺めていた。
 反応のないバゼットに衛宮は言葉が足りなかったと思ったのか、さらに言葉を重ねた。
「もし、遠坂のことを心配しているなら、俺が何としても説得する。
 それでも駄目かな?」
「……ふむ、私としては綺礼に借りを返すのを邪魔しなければ別に構いませんが、それで遠坂の当主は納得してくれるのですか?」
「絶対とは言えない。だけど、俺のできる限り説得はするつもりだ、……って、バゼットさんの腕を切り落としたのってあの神父だったのか?」
 衛宮は予想外の言葉に、驚きを露にしていた。
 あっ、そういえば、こいつにバゼットの襲撃の犯人を教えるのを忘れていたか?
「そういえば、貴方には言っていませんでしたね。
 貴方が言ったとおりです。私の左腕を切り落とし、令呪とランサーを奪ったのは綺礼です。
 それゆえに、聖杯戦争の審判役に不適格であると判断され、代理としてシエルが派遣されたわけです」
 感情を見せずバゼットがクール言った答えに、衛宮はやっと事態が飲み込めたようだった。
「怪しい奴だとは思っていたけど、本当にそんなことをしていたのか。
 審判役のクセに、サーヴァントを奪うなんてとんでもない奴だな」
 衛宮が納得している横で、セイバーは表情に現れるほど動揺していたが、結局何も言わなかった。
 おそらくは、切嗣が言峰を警戒していたことを思い出したのだろう。
 切嗣が一番警戒していたのが、遠坂時臣ではなく言峰綺礼だったという時点でその恐ろしさは容易に想像できるよな。
「そういうわけだ。で、どうなんだ?」
 話が逸れていたので、俺が軌道修正を行うと衛宮は慌てて答えた。
「あ、ああ。問題ないと思う。
 言峰がサーヴァントを奪った時点で聖杯戦争に参加したわけだから、遠坂としても文句は無いと思う。
 それに遠坂が言峰と組む可能性もないから、邪魔をする可能性もないんじゃないかな」
 それは、言峰が遠坂の父親を殺したことを知っているからだろうな。
 そうじゃなきゃ、遠坂のかつての兄弟子、今の実質的な師匠である言峰を守る可能性もあっただろうなぁ。
 いや、あいつは魔術師として厳しい部分もあるから、バゼットを襲撃した時点でかばう可能性はないか。
「それならばいい。で、貴方たちはこれからどうするつもりですか?」
「ああ、とりあえずシエルさんたちと、俺たちで言峰の拠点となっている教会へ向かう。
 で、言峰がいるなら捕獲。
 いないなら、家捜しした後にシエルさんとアルクェイドさんの拠点になるのかな?」
 そう言いながらシエルの方を向くと、シエルも頷いた。
「ええ、私もその方針です。
 たしかに言峰綺礼も代行者としてはそれなりの実力者ですが、よほどのことがない限り罠などは私だけで発見、解除が可能です。
 今回はキャスターも捜索や結界展開を手伝ってくれますし、問題は少ないでしょう」
「私はシエルの護衛だから、シエルが教会に行くというなら着いていくだけよ」
「そういうことです。え~と、桜と衛宮はどうする?」
 シエル達の同意を得たところで、俺は一応確認を取った。
「ああ、俺も言峰が何を考えてこんな行動をとったか、できれば聞いてみたい。
 セイバーが反対しないなら行くつもりだ」
「ええ、私も反対するつもりはありません。
 審判役であったはずの神父が裏でサーヴァントを手にして何をするつもりなのか、私も興味があります。
 もっとも、ランサーを失った以上すでに逃げ出している可能性が高いとは思いますが」
「わ、私も行きます。私だけ置いていかないでください」
 衛宮の意見に、即答したセイバーに負けじと桜もすぐに賛成した。
「後は弓塚さんだけど、当然同行でいいかな?」
「ええ、一応私はキャスターさんの使い魔で、アルクェイドさんの付き人だからね。
 二人が行くというのなら、私も一緒に行くわ」
 というわけで、結局留守番役の精霊アル以外は全員行くことが決定した。
「ご覧の通り、こっちのメンバーは全員行くことになりました。
 バゼットさんとランサーが一緒に行くかどうかは自由ですけど、どうしますか?」
「もちろん行きます。
 私も言峰がいるとは考えていませんが、それでも何か手がかりが残っている可能性があります」
「そうだな。俺を好き勝手使われたからな。その理由が分かるならぜひ行きたいぜ」
 バゼット、ランサーも即答だった。
「了解しました。それでは準備が整い次第教会へ行きます」
 こうして、留守番にアルを残して、全員で教会へ行くことになった。
 俺はこれだけのメンバーで行けば、アイツはかなりの確率で逃げ出すと思っていた。
 そう、まさかアイツと出くわすことになろうとは、全く予想だにしていなかったのだ。


 それなりの緊張感を保ちつつも雑談しながら歩いていき、やっと教会が見えたとき、そいつは姿を現した。
「ふん、言峰の後釜に来た神父がどの程度か見ようと思っただけなのだがな。
 まさか、このような出会いがあろうとはな」
 そう言うと、ライダースーツの金髪男は視線を動かし、セイバーと、そしてアルクェイドをじろじろと見た。
 って、こいつはギルガメッシュか?
 おい、ギルガメッシュが出てくるのは終わり間近だろ?
 何でこんな序盤で登場してくるんだ!!
 畜生、運命の女神は俺のことを嫌いまくっているのか?
 ……あっ、よく考えてみれば、メデューサの味方をしている時点で、アテナは敵に回していることになるのか。
 アテナって、戦の女神だもんなぁ。俺にとって最悪の事態が起きても不思議ではないな。
 って、今思い出したが、ギルガメッシュって謎の金髪青年としては時々出現していたか。
 ここにいるメンバーもいきなりの登場に呆然としている中、最初に反応したのはやはりセイバーだった。
「貴様、アーチャー……!? いや、ギルガメッシュか?」
 自分の名を呼ばれ、ギルガメッシュは一瞬不審気な顔をしたが、すぐにセイバーに答えた。
「ああ、そういえば、言峰が我の真名を話したとか言っていたか。
 お前もそれを聞いていたのだな。
 そうだ、我が真の王たるギルガメッシュだ」
 英雄王の名に相応しい傲慢さと横柄さを併せ持つ回答をするギルガメッシュに、すでに事情を知っている俺、桜、メディア、メデューサ以外は驚きを隠せなかった。
「なぜここにいるギルガメッシュ。
 御身は前回の聖杯戦争で呼ばれたサーヴァント。
 その貴方が、なぜ今回も現界している?」
「何故も何もあるまい。
 前回の戦いが終わった後、我は消えずにこの世に留まっただけだ」
「なっ、――――そんな馬鹿な。サーヴァントは聖杯が消えた時点で……、いや、そうだったな。
 サーヴァントの寄り代は聖杯ではなくマスター。
 つまり……」
 一瞬動揺したが、セイバーもまた聖杯戦争後にこの世に留まるため、ある程度の説明を俺たちから受けている。
 すぐにその内容を思い出し、納得したようだ。
「そう、お前の予想通りだ。
 聖杯が消えた後も、魔術師が魔力を供給し続ければこの世には留まれる。
 尤も、聖杯の助力なしでサーヴァントを維持できるマスターなどそうはいないがな。
 その点で言えば、我の寄り代は魔力不足ではあった」
「寄り代とは、貴方のマスターである言峰綺礼のことだな。
 しかし、どちらにせよ、貴方が留まれる筈がない。
 貴方という使い魔を持つ事にマスターが耐えられないのなら、貴方は召喚者ともども枯渇している筈だ」
 セイバーの質問に対し、あくまでもギルガメッシュは鷹揚に答えた。
「それもやりようであろう。
 魔術回路が少なければ知識で補うのが魔術師という輩だ。
 その点で言えば、言峰はなかなかに筋金の入った男であった」
「……では。貴方のマスターは?」
「ああ、自己で補えなければ他人から奪うのは当然だろう。
 だが、実を言えばそのような手間も要らなかったのだがな。
 我は聖杯を浴びた唯一人のサーヴァントだ。
 この時代における受肉など、十年前に済ませている」
 愕然と男を見つめるセイバー。
 十年前という言葉に、セイバーは痛ましげに目を伏せ、衛宮は目を見張った。
「そう、お前のおかげだぞ、セイバー。
 アレが何であるか、我は誰よりも熟知している。
 何しろそのハラワタをぶちまけられ、中に『在る』ものを見たのだからな」
「――――では。あの時、貴方は」
「ああ、聖杯の正体を理解したのだ。
 ――――その時に決めた。アレは、我だけが扱うとな」
 セイバー。
 いや、ここにいる俺たち全員に対して、ギルガメッシュはサーヴァントにあるまじき宣言をした。
「聖杯を――――貴方が、使うだと?」
「そうだ。マスターなどという寄生動物に分け与えてやる義理もあるまい。
 我は我の目的の為に聖杯を使おう」
 ギルガメッシュの傲慢な宣言に対し、セイバーは静かに答えた。
「そうか、貴方は聖杯について全てを理解しているのだな?」
 セイバーはすでにかなりの事情を知っていたが、ギルガメッシュはそうは受け取らなかったらしい。
 ご丁寧にもわざわざ詳しく説明を始めてきた。
 アルクェイド、シエル、バゼット達にも裏事情がばれてしまうが、ここで止めてしまうとギルガメッシュの怒りを買うのは目に見えていたので、俺は結局止めることができなかった。
「ほう、お前もすでに聖杯戦争に裏に気づいていたか。
 お前も気づいたとおり、全ては下らぬ戯言だ。
 七人のマスターによる聖杯の奪い合い?
 最後の一人となったマスターのみが聖杯を得る儀式だと?
 そんなものはただの隠れ蓑にすぎん。
 もとより聖杯の降霊など済んでいる。
 連中は毎回、聖杯を用意してから七人のサーヴァントを呼ぶ。
 解るか、騎士王。連中が必要としたのは聖杯ではなく、その中に入るモノだ。
 マスターなど、元は我等を呼ぶ為だけの回路にすぎん。
 魔術師どもはな、聖杯を造りはしたがその中身を用意できなかった。
 先ほども言ったろう?
 自己で補えないなら、余所から奪ってくるのが奴等だと。
 聖杯を満たす最高純度の魔力。
 守護者とも言える、"霊長最強の魂"こそが、奴等が求めたものだ。
 七人のサーヴァントとはな、元々聖杯にくべられる生贄の事らしいぞ?」
 すでにそのコトを知っていた俺たち以外、すなわちバゼット、ランサー、そしてシエルは愕然とギルガメッシュを見つめた。
 ちなみにアルクェイドは興味が無いのか、それとも理解していないのか、静かにその場に佇んでいる。
「そういうわけだ、騎士王。
 聖杯は魂という、本人でなければ制御できぬ力を純粋な魔力に帰す濾過器だ。
 ああ、確かにそれならば願いは叶おう。
 魔術師どもにとっては、永遠に使い切れぬ魔力量だろうからな。
 故に、生贄は多ければ多いほどよい。
 六人ものサーヴァントをくべれば、それは万能と言えるだろう」
 ここまで聞いたセイバーは、初めて表情を変えてギルガメッシュに答えた。
「――――それでは。それでは、聖杯はマスターにしか使えない。
 聖杯が純粋な魔力の貯蔵庫だというのなら扱えるのは魔術師だけだ。
 ……いや、そうだ。持ち主となるマスターさえ優れた術者なら、きっと――――」
 セイバーの最後の望みといわんばかりの言葉だった。
「あらゆる願いを叶えられる、か?
 たわけ、人間風情にそのような奇跡は与えられん。
 どれほど強大な力を持とうと、自滅するのが人間というものだ。
 だが、――――安心しろ、セイバー。
 この聖杯は本物だ。きちんと七人分の英霊を組み込めば、必ず原初に到達する」
「「なっ、原初だと!?」」
 ギルガメッシュの答えに驚いたのは、やはりバゼットとシエルの二人だった。
 いずれもトップクラスの魔術師。
 その事実は、見過ごせるものではないだろう。
 って、全て計算外だ。なんで、ここで全部ばらされる羽目になるんだ。
 下手すると、仲間割れが発生しかねないじゃないか!!
「何者かは知らんが、最初にルールを敷いた者は間違いなく神域の天才だろうよ。
 まあしかし我には関係のない話ではある。
 我はそんなモノに興味はない。
 あるのは聖杯の"孔"としての能力だけだ」
「それは、アンリ・マユのことか?」
「知っていたか。その通りだ。
 我は10年前にそのことを知った。
 ――――実に下らぬ。下らぬが、使い道はある。
 数ある兵器の中でもアレほど殺人に特化したモノはあるまい。
 アレはあのままでいい。万能の釜になどする必要はない」
「――――では。貴方の目的は人間の」
「そう、一掃だ。我は言峰のように、人間を愛でようと努める気はない。
 愛でるべきは美しいモノだけだ。
 この世界は楽しいがな、同様に度し難い。
 凡百の雑種が生を謳歌するなど、王に対する冒涜だ。
 それでは治める気にもなれん」
「貴様、正気か? 人間が一人もいなくなれば、王の意味などあるまい?」
「そうですね。何が王に対する冒涜ですか。
 たった一人、王だけ残って一体何をするつもりなんですか?」
 バゼットとシエルが問いかけるも、ギルガメッシュは全く揺らぐことなく傲慢な答えを返した。
「死に絶えるならそれでよい。
 自らの罪で消え去るのなら、生きる価値などあるまい。
 我が欲しいものは雑種ではない。
 地獄の中ですら生き延びられるモノにこそ、支配される価値がある。
 その点で言えば、前回のは落第だったな。
 あの程度の火で死に絶えるなど、今の人間は弱すぎる」
 ふざけるな、あんな火の中で生き延びられるものなど、それほど混血、異能力者、あるいは魔術師でなければ不可能だ。
 いや、こいつはそれしか価値がないと思っているのか!?
 ギルガメッシュは口元を吊り上げ、初めて衛宮を見た。
「アンリ・マユとやらが何者であるかは知らん。
 だが都合が良いだろう?
 全ての人間に等しく落ちる死の咎。
 人より生まれた、人だけを殺す底なしの闇。
 本来我がすべき仕事を任せるには相応しい猟犬だ」
 とそこまで己が意志を語っていたギルガメッシュは、再びセイバー、そしてアルクェイドに目を向けた。
「しかし、セイバーのみならず、お前のようなものまでいるとはな。
 生前は会うことは叶わなかったが、お前がかの真祖なのだろう?」
「そうよ、私の名はアルクェイド・ブリュンスタッド。
 詳しい事情は分からないけど、貴方は前回の聖杯戦争で召喚されたアーチャーのサーヴァントってこと?」
「ブリュンスタッドだと?
 ……そうか、そなたは真祖の姫なのか。これは失礼した。
 そなたの推測どおりだ。
 我は前回の聖杯戦争において、言峰のサーヴァントとして戦ったギルガメッシュだ。
 そこにいる雑種どもと違い、そなたとセイバーだけは我の妃となる権利がある。
 光栄に思え、セイバーと一緒に我のモノにしてやろう」
「ふざけるな、私はお前の元になど行かん」
「そうよ、何言ってるのよ。
 私には愛する人がいるの。あんたなんかお呼びじゃないわ」
「このあーぱー吸血鬼。彼はあなたの恋人なんかじゃありません」
 シエルの余計な一言が入ったものの、セイバーとアルクェイドの断固たる拒絶をした。
 しかし、ギルガメッシュは全く気に止めていないようだった。
「そう憤るな。我は奪うだけではない。等しく快楽も与えよう。
 我の物になるというのならば、文字通りこの世の全てを与えてやる。
 そうだな。お前たち二人が我の物になるのなら、人間を一掃するのをやめてやってもいいぞ。
 誇るがいい、お前たちにはそれだけの価値があると認めたのだ」
 ギルガメッシュは両手を広げ、セイバーとアルクェイドを迎えるように歩き出す。
「そう、守護者になどなる事もなく、死に逝く運命に戻ることもない。
 もう一度だけ言うぞセイバー。このまま我の物になれ。
 この世界で、共に二度目の生を謳歌しようではないか。
 そして、真祖の姫よ。我とセイバーと共に快楽と悦楽に満ちた日々を楽しもうではないか」
 ギルガメッシュは、二人に命令、いや断言をした。
 それにしても、セイバーとアルクェイドの二人をこの状況で口説き落とそうとするとは、ある意味尊敬には値するかもしれない。
 というか、貴様。王に対する冒涜だから人を一掃するとか言っていたのは一体なんだったんだ。
 ああ、さすがは王様。世界は自分を中心に回っているということを全く疑いもしないんだろう。
 なお、さっきとは全く、それこそ180度違う展開に、こっちのメンバーは呆れる、怒る、驚くの3パターンに分かれている。
 むろん、一番怒っているであろう二人は承諾するはずも、そのまま黙っていることもありえなかった。
「――――断る。
 そのような事に興味はないし、なにより――――貴様と共に生きるなど、気が違ってもありえません」
「私も同じよ。
 というか、さっきも言ったけど私はもう売約済みなのよ。
 あんたのものなんかになるわけないじゃない」
 セイバーとアルクェイドは、正面からギルガメッシュを見据え、きっぱりと断った。
「く――――ふ、はは、ははははははははは!」
 ギルガメッシュは歩みと止めると、何が楽しいのか、腹を抱えて笑い出した。
「いいぞ、それでこそ我の見込んだ女よ!
 ああ、この世にいくつかは、我に従わぬモノがいなければな……!」
 そう言って、笑いを治めると、一転して傲慢で冷酷な表情を見せ、宣言した。
「よし、では力づくだ。
 二人とも我の偉大さを知り、反抗したことを後悔するがいい」
 ――――セイバーの体が霞む。
 一瞬の閃光の後、セイバーは銀の鎧に包まれていた。
「ほう――――」
 武装したセイバーを見ても、ギルガメッシュは微動だにしなかった。
 予想外なのは、アルクェイドもまた全く動かず、それどころか構えようともしなかったのだ。
「どうした、真祖の姫よ。そなたは抵抗しないのか?」
「そうね~、私が戦ってもいいんだけどね。
 私よりももっと怒っている人がいるみたいだから、戦うのはそっちに譲るわ」
 ギルガメッシュも俺と同じ疑問を持ったらしいが、返ってきたのは意外な答えだった。
「それは、セイバーの「いいや、俺のことだ!!」
 次の瞬間、今まで一言も発していなかった存在が、いきなり赤い槍を構えてギルガメッシュに突撃した。
 同時に、セイバーの体が奔った。
 共にわずか一息の合間に男へと踏み込み、必殺の速度で各々の武器を叩き込む――――!
「ちっ――――!」
「っ――――!」
 弾かれ、大きく後方に跳ぶセイバー、そしてランサー。
 ギルガメッシュは、一瞬で鎧を装備し、二人の攻撃を跳ね返した。
「いきなり何をする。お前のような無能な犬などその辺で大人しくしていればいいのだ。
 王に向かってそのようなことをするなど、許されぬ行為だとわからんのか?」
 ギルガメッシュは傲慢かつ見下した言葉を不思議そうに投げかけたが、しかしランサーは己の怒りを叩き返した。
「うるせえ。それはこっちの台詞だ。
 俺は英雄として相応しい戦いをするために召喚されたってのに、俺を偵察役にしやがって。
 へっ、なるほどな。言峰にはあんたみたいな切り札がいたから、あんな命令をしたってわけか。
 ……全く、俺をバカにするのもいい加減にしやがれ!!」
 一方、セイバーは構えたまま冷静にギルガメッシュを見据える。
 ギルガメッシュはセイバーの方へ向き直ると厳かに告げた。
「――――よいぞ。刃向かう事を許す、セイバー」
 敵は、楽しげに死闘の開幕を告げたが、完全に無視された誇り高い男は黙ってはいなかった。
「手前、どこまで俺を舐めやがる!
 ああ、事後承諾になるが、マスター。
 こいつをぶちのめしていいか?」
 怒りが臨界点を超えたのか、逆に冷静な声でランサーは問いかけた。
 しかし、それが声だけであり、目が、そして気配が明らかに殺気に満ち満ちていたのは俺ですら分かるぐらいの状態だった。
「もちろんです、ランサー。
 貴方の全ての力を使って、この愚か者をさっさと倒しなさい」
 バゼットの言葉と共に、青い閃光と銀色の閃光がギルガメッシュに襲い掛かった。
 セイバーはパワーと有り余る魔力を持って、ランサーはその早さを持って共に否妻のごとき攻撃を繰り出している。
 剣と槍が鎧にぶつかる音が響く。
 ギルガメッシュは、セイバーの剣とランサーの槍を前にしても、帯剣せずに両手で頭を庇い、ダメージを受けるのを防いでいる。
 とはいえ、今のセイバーはフルパワーであるし、さらにランサーと同時攻撃をされている状態ではそれほど余裕はなかったらしい。
 セイバーたちが数回攻撃した時点で、ギルガメッシュは動きを見せた。
「……ふん。さすがにこれ以上はまずいか。
 相変わらず底なしの魔力よな。
 我の鎧が軋みを上げるなど、そうあり得る事ではないのだが――――」
 相変わらずランサーのことは一切無視したまま、防戦一方だったギルガメッシュが片腕を上げる。
「戯れは終わりだ。その肢体、ここで我に捧げるがいい」
 ギルガメッシュはそう宣言した。
 ランサーは、……ギルガメッシュの謎の行動を警戒しているのか攻撃せずに様子を見ている。
 あるいは、自分の攻撃が通用していないため、弱点を見極めようと思ったのかもしれない。
 そして、次の瞬間。
 無数の剣がギルガメッシュの背後に出現した。
 って、ちょっと待て~!!
 その鎧を装備して初めてセイバーと対決している場面なら、宝具を一本ずつ出して攻撃する展開だろうが。
 その防御力で、宝具乱舞されたら反則的強さだろうが!!
 そんな俺の心の絶叫とは関係なく、ギルガメッシュはそのまま宝具の嵐を繰り出す。
 ランサーは一瞬動揺したがすぐに宝具の群れを槍で弾き返し、セイバーは欠片も動揺せずに向かってきた宝具を叩き落した。
 流れ弾が俺たちの方にもいくつか飛んできたが、それらは全てアルクェイド、メデューサが撃墜している。
 その後ろで、メディアは念のために防御壁を展開しているようだが、宝具相手ではどれだけ耐えられるか怪しいものである。
 視界の隅で、撃墜された宝具をシエルが何本か拾っているのが気になるが、……ギルガメッシュがその気になれば回収されないかなぁ?
 ……ああ、そうだな。ギルガメッシュにとって、エアのみが本来の宝具。
 となれば、ギルガメッシュが消滅しない限り、いやもしかするとギルガメッシュが消滅してもそれらの宝具(の原型)は残るかもしれない。
 まあ、こっちは衛宮が見ているか、衛宮に記憶を渡せるメンバーが視認さえしていれば、投影で贋作を投影してもらえるからな。
 それほど拘る必要もあるまい。
 そんなことを考えている間に、ギルガメッシュはその圧倒的な物量を持ってセイバー達を圧倒する。
 正確に言えば、セイバーは無傷ではあるが、宝具をはじき返すだけで攻撃に回ることができていない。
 ……そういえば、ギルガメッシュが魔弾の射手として戦った時にランサーはもちろん、セイバーが勝ったことは無かったな。
 セイバーが勝ったのはエヌマ・エリシュの一撃をアヴァロンとエクスカリバーの連携で跳ね返した時のみ。
 アヴァロンがない今のセイバーでは、本気のランサーが加勢していても、あいつの相手はきついのか。
 宝具の嵐が一時的に止み、ギルガメッシュがこちらを見下した視線で見下ろす中、セイバーとランサーは明らかに消耗していた。
「下らぬな。
 我に勝てぬことは既に分かっておろう。
 そこにいるライダーやキャスターが加勢しても同じこと。
 無駄なことはせずに、邪魔者どもはさっさとこの世から退場するがよい」
 この男に相応しい傲岸不遜な台詞に、それが事実だと俺の記憶から分かっているせいか、メディアとメデューサは二人ともギルガメッシュに対して何も言い返さなかった。
 しかし、それでもマスターである俺たちは守るという気迫は、後ろにいる俺たちにも感じることができた。
 セイバーとランサーは、このままだと切りがないと分かっているのか、動かずにギルガメッシュの様子を伺っている。
 ……さて、どうする?
 こっちの切り札である衛宮を投入すれば、魔力切れにならない限りギルガメッシュに対抗可能だ。
 エヌマ・エリシュで攻撃しようとしてきた場合は、エクスカリバーとベルレフォーン(+メディアの魔術障壁)、おまけにゲイボルクの真名開放攻撃を掛ければさすがに勝てるだろう。
 しかし、俺が迷っている間に、動き出した人がいた。
「確かに、サーヴァントじゃ貴方の相手をするのはきつそうね。
 でも、私ならどうかしら?」
 そう言って前に出たのはアルクェイドだった。
「ふん、確かにこれから添い遂げるものの強さを知らぬというのは問題だな。
 よかろう、我の力を思う存分、その体で味わうが良い」
 そう言って、ギルガメッシュはパチンと指を鳴らすと、今度はアルクェイドに向かって宝具の嵐をぶちまけた。
 しかし、さすがは完全状態の真祖の吸血鬼。
 サーヴァントの4倍強いとの言葉に偽り無く、全ての宝具をかすり傷一つつかずにかわしきった。
 ギルガメッシュもそれを見て、2倍、4倍と攻撃する宝具の数を増やしてきた。
 そこまで増えると、さすがにアルクェイドも交わしきれなくなったが、それすらも伸ばした爪で全て弾き返した。
「ほう、さすがだな。
 この程度ではかすり傷一つ付けられんか。
 確かに、真祖の姫君に二流の剣では失礼だったな。
 それでは、我がコレクションの中でも特に優れたものでお相手しよう」
 そう言って手を上げたギルガメッシュの背後に浮かぶ剣は……、ちょっと待て!!
 あれは、ゲイボルク、カラドボルグ、それにグラム。デュランダル、ダインスレフ、……それにハルペーか?
 もちろん、いずれもそれぞれの宝具の原型なんだろうが、その迫力は本物には劣らない。
 それだけでなく、それ以外にも俺には名は分からないが一目で超一級と分かる宝具が多数展開されている。
「さあ、巧く避けろ。
 なに、運が良ければ手足を串刺す程度であろう――――!」
 号令一下、神速を以って放たれる剣の雨。
 それぞれが必殺の威力を秘めるそれを、アルクェイドは両手に持った短剣で弾き返した。
 はっきり言って、俺の目には何も見えなかった。
 ただ、凄まじい音が連続して響き渡り、移動したアルクェイドの手には短剣があったため、それを使ったと推測したのみだ。
 さすがはアルクェイド。あれだけの質と量の攻撃を跳ね返すとは、って、あれはもしかして!?
 ……間違いない、アレは投影ナイフ型カリバーンとハルペー。
 なるほど、志貴から預かっていたのか。
 確かにアレなら、宝具を投げつけてきただけの攻撃なんぞ簡単に弾き返せる。
 ギルガメッシュが魔力を込めた一撃だったら、一度も攻撃を受け止められずに砕けてしまっただろうなぁ。
「ほう、さすがは真祖の姫。
 これでも歯が立たんとはさすがよな。
 が、これならどうだ?」
 そう言ってギルガメッシュの右手に出現したのは、……っておい、あれはエア!!
 その宝具の恐るべき力を感じたのか、二人の戦いの見物人と化していたサーヴァント全員の緊張感も一気に跳ね上がった。
 動揺しまくる俺とは対照的に、アルクェイドは至って平静だった。
「確かに強力そうな宝具だけど、私を倒すには足りないわね」
「ほう、かの空想具現化能力とやらは、これすらも防ぐというのか?」
「ええ、そうよ。まあ、それだけ強力な攻撃を防げば私もかなり力を消耗するのは確かだけどね。
 でも、貴方も相当魔力を消耗するんじゃない?
 それで、後ろに控えているメンバーに勝てるのかしら?」
 ギルガメッシュがアルクェイドの視線に引きずられて視線をずらすと、完全武装のセイバーに、ランサーはすぐに攻撃できる体勢だった。
 当然、メディアとメデューサもいつでも攻撃できる状態である。
「ふむ、確かにサーヴァントどもだけなら、我一人で十分倒せるが、お前がいたのではそれは難しいか。
 よかろう、ここは我が引くとしよう。
 そして、今度こそそなた達を我の妃にしてくれよう。
 よいな、我が妃になるまで勝手に死ぬでないぞ」
 そう言うとギルガメッシュは堂々と歩いて去っていった。
 アルクェイドにアイツを追う気はなく、他のメンバーもギルガメッシュの強さが分かっているためか、アイツが消えるまで誰も動かなかった。

 ギルガメッシュの姿が視界から消えた瞬間、張り詰めていた空気がやっと弛緩した。
 俺などは気が抜ける余り、座り込んでしまった。
 一応、監視網を使ってギルガメッシュの追跡をしようと思い立ったが、やはり宝具を使って妨害しているのか、そこにいるはずなのに監視網で見ることができなかった。
 やはり、あいつは肉眼で捕らえるしか見つけられないらしいな。
 おまけに受肉化しているせいで、サーヴァントとしての気配も持っていないし、……やはり一番面倒な奴だな。

「聞くまでもないとは思いますが、一応確認します。
 セイバー、彼はギルガメッシュで間違いありませんか?」
 全員が黙り込む中、最初に発言したのは、相変わらず冷静なメディアだった。
「ええ、間違いないでしょう。
 あの無数の宝具を投射してくる攻撃は、間違いなく私が戦ったアーチャーの戦闘方法です。
 私のことを覚えていましたし、10年前の聖杯戦争以降もずっと現界しつづけていたのでしょう」
 俺たちにとってはとっくに知っていたことだが、それ以外のメンバーにとってはやはり衝撃的な事実だったようだ。
「そうですか。
 詳しい事情を聞きたいところですが、……今ここで話すことではありませんね。
 とりあえず、教会の中に入り、言峰がいないか、そして遺留物やトラップがないか調査してからギルガメッシュについて話すことにしませんか?」
 メディアの先送りの提案に、とりあえず積極的な反論もなく、全員教会の中へ入っていった。
 教会をざっと捜索したがすでにもぬけの空で、言峰がいないだけではなく、魔術具に関してもろくなものは残っていなかった。
 当然、アーチャーの腕を封印していたマルティーンの聖骸布も持ち去られていた。
 そして調査中に偶然見つけたことにして、地下室内の孤児たちの存在を知らせた。
 覚悟はしていたが、それでも想像以上にひどい状態だった。
 一応、桜と弓塚は見ない方がいいと伝え、弓塚は素直に頷き、桜(とメデューサ)は弓塚を一人ぼっちにしないため地下室には入らなかった。
「なるほど。これがギルガメッシュの魔力供給源だったのですね。
 もっとも、彼の話では、魔力を取らなくても存在できたようですが……」
 バゼットは一通り見て回ると、感情を交えない声で言った。
 地下室において冷静だったのは、メディア、バゼット、アルクェイド、シエル、そしてランサーの5人だった。
 それぞれ、裏の世界、魔術に関わる者としてかなり経験を積んでいるわけだから当然だろう。
 ランサーはすでにここのことを知っていたらしいが、それでも顔をしかめている。
 セイバーは怒りを隠しきれないし、衛宮に至っては余りの惨状に言葉が出ない様子だった。
 ちなみに俺も、想像以上に凄惨な光景に、吐き気を抑えるのが精一杯である。
「そうですね。
 彼らから生命力を吸い出していたようですが、それゆえに彼らはまだ生きています。
 私の魔術ならば、彼らを死なせずにある程度回復させることができます。
 後は腕のいい人形師に頼み、彼らの欠けた体を補完し、後はここにいた記憶を消去すれば日常生活に戻れるでしょう」
 それを聞いて、衛宮はほっとしたようだ。
 まあ、普通の神経を持っている奴なら誰でも安心するか。
「とはいえ、聖杯戦争中にそのようなことをする時間と魔力の余裕はありません。
 とりあえず、彼らを眠りにつかせ、現状を維持させるだけの魔術を掛けておきます。
 全ては聖杯戦争が終わった後、ですね。
 ……では、シエル。
 彼らの管理は、貴女に任せます」
 メディアがシエルの方を向いてそう言うと、シエルは静かに頷いた。
「分かりました。
 これを作ったのは、間違いなく言峰綺礼でしょう。
 彼が、代行者の一員であることは間違いありません。
 教会を代表して、私が彼らを治療、保護を行います」
 シエルはそう宣言した。
 よしっ、これでこいつらは大丈夫だろう。
 考えたくもないが(しかし残念ながら可能性が結構高いが)、聖杯戦争終了時に俺とメディアが死亡している可能性は結構ある。
 しかし、聖堂教会が責任を持って対応してくれるなら、治療はもちろん、人形師に話をつけるのも簡単だろう。
 まあ、シエル自身がトップクラスの魔術師でもあるわけだから、治療の大部分は彼女自身でやってしまえるだろう。
 ……いくら俺が自称『悪の敵』で利己主義者とはいえ、さすがに罪のない子供たちが死ぬのは可哀相だからな。
 その中にいる女の子がすっごい美人に成長する可能性だってあるわけだしな。
 うん、今ここで死なせるにはもったいない。
 その後、メディアたちが入念に施設をチェックし、子供たちが死なないように魔術で保護した後、苦痛を取り除いて眠りに付かせた。
 一応言っておくが、永遠の眠りじゃないからな。
 当然、ギルガメッシュに繋がっていた魔力供給ラインは完膚なきまでに破壊された。
 後は多種多様な防御結界、警報結界を張っていたから、サーヴァントでもそう簡単には侵入できないだろう。
 そう判断して地下室から出ようとしたが、衛宮は呆然と立ち尽くしたままだった。
「シロウ、どうかしたのですか?
 確かにこの光景はひどいものですが、彼らはもう大丈夫です。
 後はシエルに任せましょう」
 セイバーが心配して声を掛けたが、衛宮は反応を示さなかった。
 今度は衛宮の腕に手を掛けたとき、初めて衛宮は言葉を発した。
「みんな、知っている」
「「「えっ!?」」」
 衛宮の声に驚きの声が上がった。
「みんな、知っている。
 俺と同じだ。
 10年前のあの日、火事を生き残った孤児だ」
「それでは!」
「ああ、俺を切嗣が拾ってくれなければ、俺もここにいたはずなんだ」
 その声は力が無く、俺たちにかろうじて聞こえるぐらいだった。
 それを聞いて、ほとんどのメンバーが痛々しげな表情を見せた。
 セイバーも当事者であるという意識があるせいか、何も言わずに黙ってしまった。
 こういうときこそ、魔術師として冷静な意見を言える遠坂か、家族として慰められる桜の出番なんだが、二人ともここにはいない。
 セイバーも慰められる状況ではなさそうだし、他のメンバーも衛宮との関係は浅い。
 ……となると俺しか残っとらんのか?
 あ~、面倒だな。ちゃっちゃとここから出して、桜に押し付けるか?
 桜は俺のものだが、一時的に貸してやろう。
 感謝するがよい、なんて考えつつ、俺は衛宮に話しかけた。
「こらっ、ショックを受けるのは分かるが、シエルさんたちがいる限り日常生活に復帰できることは確定してるんだ。
 だったら、正義の味方を目指すお前がすることは何だ?」
 とりあえず、思い付きで衛宮が一番の拠り所にしている『正義の味方』という言葉を使ったのだが、その効果は劇的だった。
 焦点が合っていなかった衛宮の目に強い意志が現れると同時に、力強く発言した。
「俺がやることは決まっている。
 もう、あいつらみたいな存在を作らないために、できるだけ速やかに聖杯戦争を終わらせる。
 セイバー、そのために力を貸してくれ!」
「ええ、私は貴方の剣です。
 聖杯戦争を終わらせるために全力を尽くすことを誓いましょう」
 いきなり立ち直った衛宮はセイバーと見つめあい、あっという間に二人の世界を作り上げてしまった。
 こらこら、慰めた俺の立場をちっとは考えなさい。
 そんなことを思ったが、口出しするのも野暮だったので、俺はさっさと地下室から出て行った。
 俺の意見に同感だったのか、衛宮とセイバーを残し他のメンバーも続々と地下室から出てきた。

 そんなこんなで結構時間が経ったので、戦闘で疲れているのものいるし、見物していただけだが俺も思いっきり消耗したこともあり、気を利かせて作ってくれた桜と弓塚の夕食をみんなで食べることにした。
 ああ、いつ食べても桜のご飯はおいしいなぁ。
 そんな、この後の騒動を予想し、少々現実逃避気味の俺であった。
後書き
 お久しぶりの更新です。
 Fate/hollow ataraxiaをやって、特にバゼットさんの設定が『into game』と大幅に違うことに愕然としました。
 が、元々私は修正しまくっている身ですから、今更遠慮する必要などありません。
 ……というわけで、色々と修正加えました。
 まあ、主にバゼットさんの口調とかですけどね。
 あの人、口調は結構女性っぽかったんですな。
 日程だけは変更かけるのが不可能でしたので、そこは独自設定ということで。
 でも、おかげでバゼットを活躍させることができそうです。
 それが、彼女にとって幸福かどうかは知りませんが(邪笑)

 あと話は変わりますが、この小説で「主人公の記憶を元に、キャスターがイメージを構築し、衛宮に伝達する」というシーンは確かにあります。
 そして、「そのイメージを元に衛宮に投影させようとした」シーンもあります。
 しかし、その結果は『完全な失敗』です。
 さすがの私も、『Fateのゲーム映像を元にメディアが再構築したイメージで投影を成功』させるほど無茶な設定をするつもりはないですよ。
 ……あ~、もしどっかでそんな記述があれば、即座に修正かけますので、ご指摘お願いします。
 あくまでも、私が書いた(つもり)なのは、『Fateのゲーム映像を元にメディアが再構築したコンビネーションの伝授』です。
 つまり、『干将・莫耶の連続投影乱舞』や『干将・莫耶の投擲→カラドボルクⅡの真名解放』のコンビネーションを教えただけです。
 成功したのは、『メディアの記憶やランサーの記憶を衛宮に見させての武器の投影』です。
 何で、そんな誤ったイメージが広がったのかなぁ。(2006/2/4)
 



[787] 設定集(1月23日時点)
Name: 遼月
Date: 2006/02/05 02:18
設定集(1月23日時点)

武器
・投影ハルペー ランクC 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人 特殊能力:屈折延命(ハルペーによって付けられた傷は自然治癒以外では直せない)
 メデューサの記憶を元に衛宮が投影した剣(宝具クラスの概念武装)。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。

・投影カリバーン(勝利すべき黄金の剣) ランクA+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 衛宮士郎が夢で見ていたイメージを元に衛宮が投影した剣(宝具クラスの概念武装)。
 Fateにおいて、セイバーと衛宮の攻撃により、バーサーカーを7回殺すダメージを与えた。
 (7回殺せたのは、アーチャーによる6回殺した致命傷が完治していなかった可能性が高い)
 衛宮がギルガメッシュと戦った際、投影カリバーンはグラム(の原型であるメロダック)の前に砕け散った。
 本来宝具とは「固定化した『神秘』であり、真名と共に魔力を注ぎ込むことによって能力を発揮する」ものである。
 セイバーが生前使用していた宝具クラスの概念武装を衛宮が投影したものであるため、セイバーか衛宮士郎が魔力を注ぎ込むだけで(真名を呼ばなくとも)宝具の真名解放クラスの威力を発揮する。
 これは、Fateにおけるアヴァロン(オリジナル、投影の両方)の使用においても同様。
 しかし、下記の条件がある。
   1.魔力を注ぎ込むことで真の力を発揮すると確認されているのは、セイバーと衛宮のみ
   2.衛宮が使用した場合、セイバーの時より威力は落ちる可能性は高い。
 衛宮が投影して作り出したもの。衛宮との相性がいいので、本物と同じランク。

・投影カリバーンⅡ(偽・勝利すべき黄金の剣) ランクA+ 種別:対軍宝具 レンジ:10~60 最大捕捉:10人
 衛宮と橙子で改良したカリバーン(宝具クラスの概念武装)。
 カラドボルグⅡと同様、投射しやすい螺旋状の刀身に改造されている。
 カリバーンと同様に、魔力を注ぎ込めば真名解放クラスの威力を発揮する
 対象に突き刺さればそれを消滅させ、地面などに突き刺されば周辺部分を全て吹き飛ばす。

・投影カリバーンⅢ(偽・勝利すべき黄金の剣) ランクA+ 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:1人
 衛宮と橙子で改良したカリバーン(宝具クラスの概念武装)。
 ライダーの武器である鎖付き短剣をモデルにして作成した武器。
 オリジナルと同様、短剣(巨大な釘)の形に改造され、2本の短剣部分の間は鎖がつながれている。
 鎖部分はオリジナルをそのまま投影したため、持ち主の意志に従い自由に動かすことができる。
 当然ではあるが、カリバーンの改造版であるため、ライダーでは魔力を注ぎ込んでも宝具の真名解放クラスの威力は発揮できない。つまり、セイバーと衛宮士郎なら可能。
 衛宮が投影して作り出したもの。衛宮との相性がいいので、オリジナルと同じランク。

・投影ロンゴミニアド ランクD 種別:対人宝具  レンジ:2~3 最大捕捉:1人
 セイバーの記憶を元に衛宮が投影した槍(宝具クラスの概念武装)。
 生前セイバーが使っていた名槍。長くて幅の広い槍。『ロン』とも呼ばれる
 ロンゴミニアドとは『打ち手の槍』の意味を持つ。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。

・投影カルンウェナン ランクD 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 セイバーの記憶を元に衛宮が投影した短剣(宝具クラスの概念武装)。
 生前セイバーが使っていた短剣。投擲に使用可能。
 カルンウェナンとは『小さな白い柄手』の意味を持つ。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。

・投影セクエンス ランクD 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 セイバーの記憶を元に衛宮が投影した剣(宝具クラスの概念武装)。
 生前セイバーが使っていた剣の一振り。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。

・投影ナインライブズ(射殺す百頭) ランクB 種別:対軍宝具 レンジ:10~60 最大捕捉:9人
 メディアの記憶を元に衛宮が投影した弓(宝具クラスの概念武装)。
 十二の難行で得たヘラクレスが所持する中でも最高の武器。
 同時に9本の矢を放ち攻撃することも可能。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。
 ヘラクレスが生前使用していた宝具クラスの概念武装を衛宮が投影したものであるため、バーサーカーか衛宮士郎が魔力を注ぎ込むだけで(真名を呼ばなくとも)宝具の真名解放クラスの威力を発揮する。

・投影ルールブレイカー(破戒すべき全ての符) ランクD 種別:対魔術宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 メディアの宝具を衛宮が投影したもの。
 あらゆる魔術を破戒する短刀。サーヴァントのマスターとの契約さえ破棄する。
 宝具クラスのものは破戒できない。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。

・投影ゲイボルク(刺し穿つ死棘の槍) ランクC 種別:対人宝具 レンジ:2~3 最大捕捉:1人
 ランサーの宝具を衛宮が投影したもの。
 突けば必ず相手の心臓を貫く呪いの槍。
 宝具発動に必要な魔力量が少なく(2桁)、しかも一撃一殺という最も効率のいい宝具
 オリジナルのサイズでは衛宮の腕力で扱えなかった。そのため、オリジナルが2m程度の長さに対し、衛宮が使用するものは1.5m程度の長さの縮小版になっている。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。

・投影ゲイボルクⅡ(突き穿つ死翔の槍) ランクC+ 種別:対軍宝具 レンジ:5~40 最大捕捉:50人
 ランサーの宝具を衛宮が投影したもの。
 本来は、ゲイボルクの呪いを最大限に解放し、渾身の力を以って投擲する特殊使用宝具。
 弓(ナインライブズ)から撃つ為、矢のサイズまで縮小したサイズになっている。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。

投影カラドボルグ ランクA+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人 
 クー・フーリンの記憶を元に衛宮が投影した剣。
 Fateにおいて、アーチャーはカラドボルグを改造したカラドボルグⅡ(偽・螺旋剣)でバーサーカーを攻撃した。バーサーカーに迎撃されて剣は折れたものの、墓場を一瞬で炎上させた。
 なお、このカラドボルグⅡを見てセイバーは、ランクAだとした。
 衛宮が投影して作り出したもの。衛宮との相性がいいので、本物と同じランク。
 フェルグスが生前使用していた宝具クラスの概念武装を衛宮が投影したものであるため、衛宮士郎が魔力を注ぎ込むだけで(真名を呼ばなくとも)宝具の真名解放クラスの威力を発揮する。

・強化BB弾 種別:対人武器 レンジ:1~20 最大補足:1人
 エアガンのBB弾に魔術をかけたもの。
 対象にぶつかると爆発する弾丸と硬度を高め貫通力を上げた弾丸の二種類を作成。
 通常のエアガンから発射可能。
 メリットは外見がただのエアガンに見えるため、警察に捕まる恐れは少ない。(試射されれば一発でばれる)
 威力は普通の銃弾やライフル弾よりも強力。


防具
・アヴァロン
 エクスカリバーの鞘。
 アヴァロンは二つの能力を持っている。
 一つ目の能力は、所有者の傷を癒し、老化を停滞させる。二つ目の能力は、鞘を展開することであらゆる物理干渉をシャットダウンする。
 アヴァロンは、セイバー(アルトリア)が所有し、魔力を注がなければ「宝具」として能力を発揮しない。ただし、衛宮士郎が投影したアヴァロンは、存在するだけで聖杯の泥(呪い)を霧散させる効果がある。
 治癒の能力も、セイバー(アルトリア)というサーヴァントと契約しなければ、鞘の所有者もその不死身性を得られない。魔力さえ注げば多少は持ち主の命を保護するが、本来の能力に比べれば微弱なもの。死に掛けた人間を救うには、鞘そのものと同化させるしかない。
 セイバーが生前使用していた宝具クラスの概念武装を衛宮が投影したものであるため、セイバーか衛宮士郎が魔力を注ぎ込むだけで(真名を呼ばなくとも)真の力を発揮する。

・投影プライウェン ランクC 種別:防御宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 セイバーの記憶を元に衛宮が投影した盾。
 生前セイバーが使っていた盾。
 聖母マリアの姿を描いた盾プライウェン(元々は船の名でプリドウェン)
 ウェ-ルズの伝承によると、魔法の船としても使用可能。
 具現化し続けるためには、武器を投影する数倍の魔力を継続して注ぎ込む必要がある。
 衛宮が投影して作り出したもののため、本物より1ランクダウン。
 セイバーが生前使用していた宝具クラスの概念武装を衛宮が投影したものであるため、セイバーか衛宮士郎が魔力を注ぎ込むだけで(真名を呼ばなくとも)宝具の真名解放クラス真の力を発揮する。

・聖骸布製の黒マント 所有者:間桐慎二
 一級品の概念武装。
 臓硯の昔の愛用品を慎二がもらったもの。


魔術
・投影魔術 ランクA+~E 術者:衛宮士郎
 一度実物か、投影ができるだけのレベルのイメージを見た武器を投影可能。
 複数同時に運動エネルギーを持たせた上で投影することもできる。
 Fateにおいて、イメージから投影したのは、セイバーの記憶からカリバーン、イリヤの記憶から宝石剣がある。
 英霊の生前のイメージから投影した武器は、真の力を発揮する際に真名を呼ぶ必要はない。


・強化魔術 ランクC→B 術者:衛宮士郎
 魔力を通し、対象の存在を高める全ての魔術の基本。
 衛宮士郎の場合、武器関連について強化が得意。
 武器ならば攻撃力を、防具ならば防御力を向上させる。
 慎二のアドバイスをもらう前までやっていた強化は、単なる硬度強化。
 メディアに教わることで、自分自身の肉体強化も行い、筋力、敏捷、耐久、持久力、五感を向上させている。(ランクBへレベルアップ)

・アイス・ブレイド・ワークス(氷の剣製) ランクE 術者:間桐慎二
 氷に大量の魔力を込めて、武器の形で作成する。
 運動エネルギーなし、大きさは武器実寸大で具現化、という条件が付く代わりに、威力が多少向上する
 矢:メドローア(出展:「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」の極大消滅呪文の魔法の矢)
 剣:ザンヤルマ(出展:「ザンヤルマの剣士」の古代文明の遺産の剣)

・アクア(水の呪文) ランクE 術者:間桐慎二
 水に運動エネルギーを持たせ、攻撃する。
 水の動きをコントロールすることはできない。
 ヒャドなどの慎二の魔力を込めた氷をぶつける事で、アクアの呪文で呼び出した水を凍らせることも可能。

・ウォーター(水の呪文) ランクE 術者:間桐慎二
 水を手の形に変化させ、それをコントロールして、敵を攻撃する
 水の敏捷度はランクD。敏捷度は、術者の技量に比例して速くなる。
 コントロールできる手の数は、術者の力量に比例して増える。
 (操作可能な数 1/13時点:1本)

・ヒャド(氷の呪文) ランクE 術者:間桐慎二
 氷に運動エネルギーを持たせ、攻撃する。
 (出展:「ドラゴンクエスト」)

・Schatten(影の呪文) ランクE 術者:間桐桜
 影をコントロールし、敵を攻撃する。(影のドイツ語)
 影の敏捷度はランクB。
 コントロールできる影の数は、術者の力量に比例して増える。
 (操作可能な数 1/7時点:2個、1/13時点:4個)

・アンリミテッド・ブレイド・ワルツ(無限の剣舞) ランクE 術者:間桐桜
 影の手に武器を持たせて攻撃する。
 衛宮が投影した小型宝具を持たせることで、攻撃力が飛躍的に向上。宝具の真名解放はできない。

・結界魔術 ランクC 術者:メデューサ
 一定範囲に結界をはることができる。
 結界に持たせる効力は、使用時に随時変更可能。

・強化魔術 ランクA 術者:メディア
 ラインでつながった相手の肉体を強化する。
 メディアが強化しているのは、慎二と慎二経由でラインが通じている桜の二人。
 この魔術により、筋力、敏捷、耐久、持久力。五感を大幅に向上させる。
 ただし、敏捷に関しては、自分がコントロールできるレベルまでしか向上しない。

・結界魔術(気配遮断用) ランクA 術者:メディア
 メディアの魔力や(サーヴァントとしての)気配を完全に遮断する結界。
 結界を張ったまま移動することも可能。

・治療魔術 ランクA 術者:メディア
 死んでいない限り、ほとんどの傷を治療することができる。
 ただし、治療に使用するエネルギーは治療対象の体力、魔力と術者の魔力の両方を使用する。
 そのため、重傷の場合は一気に完治させることはできない。

・束縛魔術 ランクB 術者:メディア
 対象を動けないように束縛する魔術。
 対魔力の弱い対象なら遠隔で、対魔力の強い対象の場合は至近距離で使用可能。
 束縛のレベルは対象の対魔力と距離によって異なる。
 バゼットの場合、重傷で気絶している状態のため、全く動けない状態に束縛できた。

・空間転移魔術 ランクA 術者:メディア
 空間を一瞬で移動する魔術。
 純粋な空間移動は、現代においても魔法と言われている。
 柳洞寺から冬木市周辺への空間転移は双方向で可能。冬木市周辺以外の場合、柳洞寺外への空間転移が可能

・蘇生魔術 ランクB 術者:セイバー
 自分の体のみに使用可能な治療魔術。
 単純な傷の場合、重傷でも1時間もあれば完治可能。
 呪いによる傷の場合、完治までかなりの時間が必要

・隠蔽のルーン ランクB 術者:クーフーリン
 サーヴァントの気配を完全に隠すことが可能。
 気配を隠したまま移動することが可能。

・回復のルーン ランクB 術者:クーフーリン
 重傷レベルなら(致命傷でなければ)治療することができる。
 治療に利用するエネルギーは、術者の魔力のみ。

・回復のルーン ランクC 術者:バゼット
 それなりの傷なら治療することができる。
 治療に利用するエネルギーは、術者の魔力のみ。

・全ルーンの結界(守り)ランクA 術者:クーフーリン
 上級宝具の一撃さえ凌ぐ全ルーンの守り。
 ランサーが所有する全てのルーンを刻むことで一瞬で発動可能。
 真アサシンとの戦闘中、襲ってきた影から防御するために使用したが、足止めにすらならなかった。


魔術具
・魔眼殺しの眼鏡 所有者:メデューサ
 魔眼の効力を無効化させる眼鏡。
 元々は、両儀式用に作ったが死蔵されていたものを、メデューサ用に調整した。

・魔力蓄積のブレスレット 所有者:間桐桜
 魔力を必要に応じて、宝石部分に蓄積したり引き出したりすることが可能。
 宝石部分を接触させることで、他人に魔力を渡すことも可能。
 最大魔力容量は1000MP

・魔力殺しのペンダント 所有者:衛宮士郎
 魔力の気配を遮断する。

・魔術制御のブレスレット 所有者:間桐慎二
 魔術に関して完全な素人である慎二が魔術を使えるようになった最大の理由。橙子からもらったもの。
 このブレスレットが魔術の構成をほとんどやってくれているため、慎二自身は魔力発生と構成が終わった魔術の発動だけやっている。
 当然であるが、このブレスレットなしでは慎二は魔術を使えない。

・対魔力のブレスレット 所有者:間桐慎二、間桐桜、衛宮士郎
 対魔力が特に弱い慎二と衛宮、そして桜のためにメディアが作成した対魔力用の魔術具。
 所有者にランクCの対魔力を与える。
 通常の魔力避けのアミュレットの対魔力はランクD。キャスターであるメディアが作ったため、効果が1ランクアップしている。

・肉体強化のブレスレット 所有者:葛木
 メディアが作成した肉体強化用の魔術具。
 これをつけることで、肉体強度、力、素早さ、持久力を大幅に向上させる。
 ただし、素早さに関しては、自分がコントロールできるレベルまでしか向上しない。
 メディアが慎二と桜にかけている強化の魔術より、1ランク威力は落ちる。
 元退魔師である葛木は、この魔術具の能力を極限まで引き出すことが可能。
 オプションとして、対魔力はランクDの効果もある。

・気配殺しのペンダント 所有者:弓塚さつき
 弓塚の死徒としての気配を隠すためにメディアが作成したもの。
 これをつけていれば、普段なら死徒の気配を隠すことが可能。
 ただし、戦闘時の気配は隠すことはできない。


使い魔
・使い魔(雄鷹) マスター:メディア 作成者:メディア
 マキリの蟲のコントロールを叩き込まれた桜の魔術を活かすため、慎二がメディアに作成を依頼した使い魔の試作版。
 鷹、ペガサスの血と肉、竜の牙を使用し、マキリの蟲の要素も含んで作成した幻想種の使い魔。
 封印状態では、普通の鷹(雄)の外見で魔力も一切感じない。
 封印解除状態で、どういう外見なのかは秘密。(1月22日時点)

・使い魔(雌鷹) マスター:間桐桜 作成者:メディア
 マキリの蟲のコントロールを叩き込まれた桜の魔術を活かすため、慎二がメディアに作成を依頼した使い魔。
 鷹、ペガサスの血と肉、竜の牙と特殊な材料を使用し、マキリの蟲の要素も含んで作成する予定の幻想種の使い魔。
 特殊な材料が手に入っていないため、まだ作成準備段階(1月22日時点)
 封印状態では、普通の鷹(雌)の外見で魔力も一切感じないようにする予定


幻想種
・概念(セイバー談)
 文字通り、幻想の中にのみ生存するモノを指す。伝説・神話で登場する生物の総称。
 妖精や巨人と言われる亜人、鬼や竜と言われる魔獣。外的要因により生態系が変貌したモノ、ヒトの想念より生み出されたモノ、長寿により上の段階にあがったモノとがいる。
 その在り方そのものが『神秘』である彼らはそれだけで魔術を凌駕する存在とされる。
 魔術が知識として力を蓄えてきたように、幻想種はその長い寿命で力を蓄えている。
 人と幻想種が同じ世界にいたのは、過去の話。長く生きた幻想種であればあるほど、この世界から遠ざかっていく。
 現在、世界に留まっている幻想種など百年単位のモノでしかない。

・分類
 伝説・神話で登場する生物の総称。
 野獣、魔獣、幻獣、聖獣という分類が存在する。
 外的要因により生態系が変貌したモノ、ヒトの想念より生み出されたモノ、長寿により上の段階にあがったモノとがいる。
 「竜種」は、幻想種の中でも頂点と言われている。
 普通のペガサスは成長したところで魔獣クラスにしかならない。
 ちなみに通常使い魔として扱えるのは魔獣までとされている。
 千年クラスの幻獣・聖獣のたぐいには魔術程度の神秘では太刀打ちできず、その神秘性から魔法と同格とされている。

・ペガサス(通常)
 通常の成長したペガサスは、幻想種の魔獣に分類される。
 風王結界(ランクC)だけで打倒しうる相手(セイバー談)。
 ランクCの宝具で倒せることから、能力はランクC以下だと考えれる。

・ペガサス(メデューサ召喚) 
 切断されたメデューサの首の血から生じた純白のペガサス。海神ポセイドンの息子と言う説もある。
 このペガサスは、幻獣の域に達している。
 さらに、幻想種の中でも頂点と言われる「竜種」に近づきつつあり、護りに関しては既に竜種に達している。
 膨大な魔力を放出しながらの滑空は、巨大な城壁が突進してくるようなもの。
 最高の対魔力を誇るセイバーを上回る加護が、このペガサスには備わっている(セイバー談)。
 セイバーの対魔力がランクAであることから、このペガサスの対魔力はランクA+、それ以外の能力はランクAだと考えられる。
 魔術師数百人分(衛宮談)
 一般的な魔術師の平均魔力量は25MP。
 よって、25MP×(300~500)=7500MP~12500MP。

・ユニコーン(一角馬)
 幻想種の聖獣である「一角馬」が臨終を迎え、それを埋葬する際に角だけを加工して、武器にしたものが第七聖典。
 シエルによって、銃剣だったものがパイルバンカーに改造された。


特殊
・性行為による魔力供給 実施者:男性→女性
 魔術師の精は魔力の塊。魔術師には劣るが一般人の精にもある程度魔力が存在する。
 精により、男性から女性に対して魔力供給を行うことが可能。この場合、男性側は魔力を消耗しないと思われる。
 なお、魔術回路が増えるごとに供給できる魔力量も増えると思われる。

・吸血による魔力補給 実施者:メデューサ
 吸血種であるメデューサにとって、最も効率がよく甘美な魔力補給手段。
 メデューサは淫夢を通じて、吸精することで魔力補給も可能。当然だが、直に精を吸収して魔力補給も可能。

・地脈操作 実施者:メディア
 堕ちた霊脈である柳洞寺において、地脈操作を行うことで冬木市周辺の精神エネルギー、魂エネルギーの吸収を行う。
 本来は、人柱(いけにえ)を用いた地脈の操作を行うが、慎二の意向によりメディアの魔術で代用しているため、エネルギー収集の効率は少し落ちている。
 精神エネルギーについては、冬木市周辺で発散済みのものを吸収。
 魂エネルギーについては、本編とは違い無差別吸収ではなく差別吸収を行っている。具体的には、実施寸前の犯罪に応じた魂エネルギーを犯罪者から吸収している。

・魔術の糸による探査網 構築者:メディア 利用可能者:メディア、間桐慎二、間桐桜
 町中に張った魔力の糸による目で戦況を把握する。
 魔力やサーヴァントの気配を完全の隠せる相手の場合、効果が無い。そのため、気配遮断が使えるアサシンとか、魔力を隠蔽できる一流の魔術師の位置は分からない。
 ただし一度会った相手の場合、魔術で光学的に隠蔽するか、霊体化していなければ、発見可能。
 Fateのプロローグにおいて、遠坂凛が自分を監視するマスターを探すため、短時間だが魔術の糸による探査網を公園内に展開している。その際、監視者は公園外にいたらしく発見することはできなかった。町中、かつ継続して魔術の糸を展開できるのは、メディアの魔術レベルの高さによる。(1月15日時点)
 監視網に改良を加え、メディアとラインが繋がっている間桐慎二、間桐桜もライン経由でオーバーフローしないレベルで監視網を利用することが可能。(1月23日時点)

・柳洞寺に張った結界
 元々柳洞寺には、正門以外から侵入するとサーヴァントが大幅に魔力を消耗する結界が張ってある。
 これに追加して、侵入者に対して、光学的、魔力感知、サーヴァント感知の3種類の方法で探知する結界をメディアが張った。
 これにより、例え気配遮断や魔力遮断を使えたとしても、必ず侵入者を探知可能になった。

・大聖杯の洞窟に張った結界
 メディアが大聖杯がある洞窟全体にも強力な結界を展開。サーヴァント以外の存在は入れず、入ったとしてもすぐにメディアが察知可能

・セイバーの状況
 into gameにおいては、セイバーと衛宮のレイラインはしっかりと結ばれており、そのためセイバーは食事も睡眠も特に必要ない。
 セイバーが食事をとるのは、純粋にセイバーの趣味。

・宝具の真名開放について
 英霊のシンボルである宝具の真の力を発揮させるためには、真名を呼び魔力を注がなければならない。(自動的に発動する能力を除く)
 しかし、英霊が生前使用していたもの、あるいは生前使用していたものを投影したものならば、魔力を注ぎ込むだけで真の力を発揮する。
 (Fateにおける例:投影カリバーン、アヴァロン)


コンボ(慎二がFateの知識を元に教えたもの)

・干将・莫耶を投擲→カリバーンⅡ発射 実施者:衛宮士郎
 干将・莫耶をブーメランのように投げつけ、それを避ける隙にカリバーンⅡを弓で射る攻撃
 アーチャーが凛ルートの対キャスター戦において使用。なお、この戦闘において発射されたのはカラドボルグⅡ。
 魔力全開のキャスターですら、かすっただけで瀕死の状態だった。ただし、宝具の発射に魔力を大量に(アーチャーの魔力量の大半を)必要とする。

・干将・莫耶の連続投影乱舞攻撃 実施者:衛宮士郎
 干将・莫耶をブーメランのように投げつけ、さらに投影二回による、合計3組の干将・莫耶を使った攻撃。投影3回分しか魔力を必要としない。
 桜ルートの衛宮 vs 黒セイバーにおいて使用。
 黒セイバーに正面から戦って勝利した。

・石化の魔眼→ペガサス召喚→防御壁展開→ベルレフォーン発動 実施者:メデューサ&メディア
 石化の魔眼の発動後、ペガサスを召喚してベルレフォーンを発動。
 さらに、メデューサの前方に魔術により防御壁を複数枚展開し、威力を増加
 桜ルートのライダー&衛宮 vs 黒セイバー戦において使用したもののレプリカ。本来ならロー・アイアスを展開するが、その代わりにメディアの魔術による防御壁を使う。
 ロー・アイアスを使った場合は、黒セイバーのエクスカリバーの真名解放より威力がわずかに勝った。


必殺技
・ナインライブズ・ブレイド・ワークス 実施者:衛宮士郎(予定)
 ヘラクレスが得意とする、ナインライブズの能力を模した攻撃方法。
 衛宮は、ナインライブズの憑依経験からこの必殺技を読み取ることには失敗。
 バーサーカーの斧剣の憑依経験からでないと、この必殺技を読み取れないと思われる。



[787] 「Fate/into game」における聖杯戦争の流れ
Name: 遼月
Date: 2006/02/05 02:37
「Fate/into game」における聖杯戦争の流れ

12月中旬
・イリヤスフィール・フォン・アインツベルンがバーサーカーを召喚

1月1日(火)
・間桐桜がライダーを召喚
・間桐慎二と間桐桜が同盟締結

1月2日(水)
・間桐慎二と衛宮士郎が同盟締結

1月3日(木)
・ライダー vs 両儀式(ライダーの勝利)
  ライダーの手加減した石化の魔眼により、両儀式を失神させる
・両儀式の直死の魔眼により、桜の体内にいた臓硯の本体と刻印虫を全て排除後、橙子によって桜の治療を実施
・間桐慎二、間桐桜、衛宮士郎が蒼崎橙子に弟子入り
・衛宮士郎の魔術回路を全部開放
・間桐慎二の魔術回路を一部開放

1月4日(金)
・間桐慎二と間桐桜、メデューサがライン接続
・間桐慎二、間桐桜、衛宮士郎が伽藍の堂で修行
・衛宮士郎がハルペーの投影に成功

1月5日(土)
・間桐慎二、間桐桜、衛宮士郎が伽藍の堂で修行

1月6日(日)
・間桐慎二、間桐桜、衛宮士郎が伽藍の堂で修行

1月上旬
・魔術教会から派遣された男(氏名不明)がキャスターを召喚
・間桐臓硯が真アサシンを召喚

1月7日(月)
・学園の三学期開始
・衛宮士郎がカリバーンの投影に成功

1月12日(土)
・間桐慎二、間桐桜、衛宮士郎が伽藍の堂で修行
・間桐慎二の提案により、衛宮士郎と蒼崎橙子がカリバーンⅡを設計
・衛宮士郎がカリバーンⅡの投影に成功

1月13日(日) 新月
・間桐慎二、間桐桜、衛宮士郎が伽藍の堂で修行
・間桐慎二の提案により、衛宮士郎と蒼崎橙子がカリバーンⅢを設計
・衛宮士郎がカリバーンⅢの投影に成功
・キャスターがマスターを抹殺し、令呪を奪う
・葛木宗一郎が行き倒れのキャスターを発見
・ライダー vs 真アサシン(ライダーの勝利)
  ライダーが優勢に戦い、真アサシン撤退
・間桐慎二、間桐桜、葛木宗一郎、ライダー vs マキリの蟲(間桐慎二達の勝利)
  4人で蟲を全て撃退
・間桐慎二がキャスターと契約

1月14日(月)
・キャスターと蒼崎橙子が情報交換
  対価として、竜牙兵の情報&サンプル提供、伽藍の堂の結界展開、ルール・ブレイカーのコピー提供
・バゼットがランサーを召喚

1月15日(火)
・キャスターが柳洞寺に神殿構築
・キャスターが地脈操作による魔力収集開始
・キャスターが魔力の糸による冬木市一帯の探査網を構築
・間桐慎二、間桐桜、キャスター、ライダーによる大聖杯の調査(見学?)

1月16日(水)
・間桐慎二&キャスター、間桐桜&ライダー vs バゼット&ランサー(引き分け)
  ランサーの攻撃で間桐慎二が負傷後、間桐桜がライダーに令呪を使用し「兄さんを助けて」と命令
  令呪の力と「怪力」の能力使用により、ライダーはランサー相手に有利に戦いを進める
  キャスターの提案により、バゼットとランサーは撤退
・バゼット vs 言峰綺礼(言峰の勝利)
  言峰綺礼による背後からの不意打ちの一撃、ならびに左腕切断により、バゼットは令呪を奪われ瀕死の状態になる
・ライダーとキャスターが瀕死のバゼットを捕獲後、治療
・言峰綺礼がランサーと契約
  言峰綺礼がランサーに令呪を使用し「主変えに賛同しろ」と命令
・間桐慎二達とバゼットが一時同盟締結(期限は言峰綺礼を倒すまで)

1月17日(木)
・衛宮士郎がナインライブズとルールブレイカーの投影に成功
・間桐慎二とメディアが、衛宮士郎に「干将・莫耶を投擲→カリバーンⅡ発射」、「干将・莫耶の連続投影乱舞攻撃」のコンボを伝授
・間桐慎二が、メディアとメデューサに「石化の魔眼→ペガサス召喚→防御壁展開→ベルレフォーン発動」のコンボを伝授

1月19日(土)
・間桐慎二が、遠野志貴、アルクェイド、シエルにアンリマユ退治を依頼。代価として、ナイフ型投影カリバーン、ナイフ型投影ハルペーを二本ずつ提供
・キャスター vs 弓塚さつき(キャスターの勝利)
  キャスターが魔術で弓塚を捕獲
・弓塚さつきが、キャスターと間桐慎二の血を飲んでパワーアップ

1月20日(日)
・間桐慎二とキャスターが伽藍の堂を訪問。キャスターと蒼崎橙子の情報交換(2回目)
・アルクェイド vs ランサー(アルクェイドの勝利)
  アルクェイドが優勢に戦い、ランサー撤退
・キャスターと弓塚さつきがラインを接続
・弓塚さつきが、アルクェイドとメデューサと間桐桜の血を飲んでパワーアップし、日光を克服

1月21日(月)
・間桐慎二、間桐桜、キャスター、ライダー、アルクェイド、弓塚さつきによる大聖杯の見学
・衛宮士郎がゲイボルクの投影に成功
・言峰綺礼から遠坂凛へ「サーヴァントが残り二席」という連絡
・遠坂凛が遠坂時臣の遺言を解読し、形見の宝石をゲット

1月22日(火)
・キャスターが幻想種の使い魔を作成

1月23日(水) 聖杯戦争1日目
・遠坂凛がアーチャーを召喚(午前1時)
・衛宮士郎がセイバーを召喚
・間桐慎二たちとセイバーが一時停戦締結
・審判役としてシエル、その護衛としてアルクェイドが冬木市に来るという連絡を受ける。
・衛宮士郎が、名槍ロンゴミニアド、短剣カルンウェナンの投影、盾プライウェンの一時投影に成功
・衛宮士郎、セイバー、他慎二達による大聖杯の見学
・弓塚さつきの魔術回路を全部開放

1月24日(木) 聖杯戦争2日目
・間桐慎二から遠坂凛に魔術師としての相談を放課後にすることを依頼し承諾される。
・遠坂凛&アーチャー vs ランサー(引き分け)
  アーチャーとランサーが互角の戦いをするが、目撃者抹殺のためランサーが戦場から離脱。
・セイバー vs アーチャー(セイバーの勝利)
  衛宮士郎を助けるため、校舎に向かったセイバーに、アーチャーは一撃で切り伏せられる。
・衛宮士郎 vs ランサー(引き分け)
  殺そうと襲い掛かってくるランサー相手に、衛宮士郎は満身創痍になりつつも投影カリバーンを使って何とか耐える。
  セイバーが衛宮士郎を助けに来た時点で、ランサーは逃走。
・キャスター&ライダー vs ランサー(キャスター&ライダーの勝利)
  校舎から脱出したランサーは、ライダーの石化の魔眼で動きを止められ、キャスターのルールブレイカーの一撃により令呪を奪われてキャスターの支配下に入る。
・衛宮士郎&セイバー、間桐桜&ライダー、間桐慎二&キャスター、遠坂凛、弓塚さつき、ランサーの9名が教会へ向かい、セイバー以外が言峰綺礼に会って聖杯戦争の説明を受ける。
 (ライダー、キャスター、ランサーは姿を消し、ランサーはルーン魔術で、残り二人はキャスターの魔術でサーヴァントの気配と魔力を隠して移動)
・衛宮士郎&セイバー、遠坂凛、ランサー vs イリヤスフィール&バーサーカー(引き分け)
  イリヤスフィール&バーサーカーが衛宮士郎たちを襲撃する。
  そこに、衛宮士郎達の味方としてランサーが参戦。
  ランサーがゲイボルク(刺し穿つ死棘の槍)の真名解放で攻撃するが、バーサーカーには効果なし。
  次に、衛宮士郎の投影ゲイボルク(突き穿つ死翔の槍)の真名解放とランサーのゲイボルク(突き穿つ死翔の槍)の真名解放の時間差攻撃、さらにセイバーのインビジブル・エアの一撃がバーサーカーに命中した。
  これにより、バーサーカーは3回死んだものの、狂化によってパワーアップして攻撃開始。
  ランサーのゲイボルク(突き穿つ死翔の槍)の真名解放も効果もなく、傷を負ったセイバーを守ろうとして、投影カラドボルグを手にバーサーカーへ攻撃をしかけた衛宮士郎が、腹の大半を吹き飛ばされる。
  それを見たイリヤは撤退し、その後わずかな時間で衛宮士郎は自動的に完治した。

1月25日(金) 聖杯戦争3日目
・衛宮士郎&セイバーと遠坂凛&アーチャーが、バーサーカーを倒すまでの同盟締結
・アルクェイドとシエルが冬木市に到着したという連絡あり
・イリヤと遭遇し、衛宮士郎とイリヤが公園で会話をする
・シエル vs 弓塚さつき(引き分け)
  弓塚さつきの存在に気づいたシエルが黒鍵を投げつけるも、ランサーが撃墜して水入り。
・セイバー、ランサー vs ギルガメッシュ(引き分け)
  宝具の嵐をセイバーとランサーは全て撃墜。
  膠着状態の時にアルクェイドが介入。
・アルクェイド vs ギルガメッシュ(引き分け)
  宝具の嵐(第一波)を一人で全て回避。
  一流の宝具(の原型)による宝具の嵐(第二波)を遠野志貴から借りてきた投影ナイフ型カリバーンとハルペーを使って撃墜。
  ギルガメッシュがエアを使おうとするも、アルクェイドの警告に従って撤退。
・教会の探索
  言峰綺礼は既に逃走。めぼしい魔術具も残っておらず。
  地下室において、ギルガメッシュの魔力の供給源になっていた孤児たちを保護。


現状(1月25日(夕方)時点)
・教会にいる聖杯戦争関係者
  衛宮士郎&セイバー
  間桐慎二&キャスター
  間桐桜&ライダー
  弓塚さつき(死徒)
  バゼット&ランサー
  シエル(新しい監督者)
  アルクェイド(シエルの護衛)

・柳洞寺にいる聖杯戦争関係者
  アル(精霊)
  葛木宗一郎(元暗殺者)

・マスターとサーヴァント
  間桐慎二&キャスター
  間桐桜&ライダー
  間桐臓硯&真アサシン
  言峰綺礼&ギルガメッシュ
  イリヤ&バーサーカー
  遠坂凛&アーチャー
  衛宮士郎&セイバー
  バゼット&ランサー(ランサーの令呪はメディアが保有)



[787] キャラクター設定(サーヴァント以外)
Name: 遼月
Date: 2005/04/03 19:05
キャラクター設定(サーヴァント以外)

 注 下記の記述は「Fate/stay night」、「月姫」、「空の境界」、ならびに「Fate/into game」に基づいて記載しています。
   明らかに間違っている内容がありましたらお知らせください。

○聖杯戦争関係者

間桐慎二
 武器:投影ナイフ型カリバーン ランクA+
    投影ナイフ型ハルペー ランクC
    エアガンと強化BB弾
 防具:防弾防刃耐熱のシャツ(キャスターによる強化済み)
    防弾防刃耐熱のズボン(キャスターによる強化済み)
    聖骸布製の黒マント
 道具:魔術制御のブレスレット(これを付けてランクEの魔術が使用可能)
    対魔力のブレスレット(対魔力ランクDの効果)
    道具袋(メディア製の四次元ポケットみたいなもの)
     衛宮が投影した宝具を片っ端から放り込んである
     エアガンとBB弾と黒マントはここに入れている
 魔術:アイス・ブレイド・ワークス(氷の剣製) ランクE
    アクア(水の呪文) ランクE
    ウォーター(水の呪文) ランクE
    ヒャド(氷の呪文) ランクE
 魔力:蓄積量(聖杯戦争中) 0MP(聖杯戦争中は全てキャスターに送っている)
    蓄積量(通常) 少量 
    最大出力不明(多分二桁)
    魔力回復量 
    大量の魔力を保有しているキャスター、ライダーとラインが結ばれているため、ライン経由でいくらでも魔力補給が可能
    魔術師であることを隠すため、ライン経由でキャスターに全魔力を供給しているので、普段の魔力量はゼロ
 技量:剣術(師匠:両儀式)
     素人に毛が生えたレベル
    魔術(師匠:蒼崎橙子、キャスター)
     魔術制御補助の魔術具を使って、ランクEの魔術が使えるレベル
    弓術
     弓術部の副部長。ただし、オリジナル慎二の記憶はないため、現在は弓術部で練習中。
 情報:「Fate/stay night」、「月姫」、「空の境界」の情報全般
 特殊:肉体
     キャスターにより、肉体に強力な強化魔術が掛けられている
     筋力、敏捷、耐久、持久力、五感がUP(ただし、敏捷は自分で制御可能なレベルまで)
    ライン
     間桐桜、キャスター、ライダーと接続済み
    魔術回路
     魔術回路は蒼崎橙子によって一部(メイン4本、サブ8本)開放(1月21日時点)
     間桐慎二の持つ魔術回路は全て閉じていたものなので、これから徐々に開放する予定。
    魔術刻印
     間桐家(マキリ)の家系が伝える”魔道書”である魔術刻印は継承していない
 立場:キャスター(メディア)のマスター


間桐桜
 武器:投影ナイフ型カリバーン ランクA+
    投影ナイフ型ハルペー ランクC
    投影ルールブレイカー ランクD
 防具:防弾防刃耐熱のシャツ(キャスターによる強化済み)
    防弾防刃耐熱のズボン(キャスターによる強化済み)
 道具:魔力蓄積のブレスレット(最大魔力容量は1000MP)
    対魔力のブレスレット(対魔力ランクDの効果)
 魔術:シャドウ(影の呪文) ランクE
    アンリミテッド・ブレイド・ワルツ(無限の剣舞) ランクE
 魔力:蓄積量(聖杯戦争中) 0MP(聖杯戦争中は全てライダーに送っている)
    蓄積量(通常) 1000MP(間桐慎二との性行為でほぼ満タン状態) 
    最大出力 1000MP
    魔力回復量 約800MP/日
    大量の魔力を保有しているキャスター、ライダーとラインが結ばれているため、ライン経由でいくらでも魔力補給が可能
    魔術師であることを隠すため、魔術具に魔力を貯めるか、ライン経由でライダーに全魔力を供給しているため、普段の魔力量はゼロ
 技量:剣術(師匠:両儀式)
     素人に毛が生えたレベル
    魔術(師匠:蒼崎橙子、キャスター)
     魔力量は多く、制御もハイレベルだが、魔術の威力がない
    弓術
     弓術部でもトップクラスの存在
 情報:間桐慎二より予知夢として、聖杯戦争の情報(裏事情を含む)を教わる
    ただし、衛宮士郎の恋愛関係の情報はなし(1月21日時点)
 特殊:肉体
     キャスターにより、肉体に強力な強化魔術が掛けられている
     筋力、敏捷、耐久、持久力、五感がUP(ただし、敏捷は自分で制御可能なレベルまで)
     伽藍の堂で、体内の蟲は全て排除済み
     現在、キャスターによる遺伝子治療を実施中
    ライン
     ライダー、間桐慎二、キャスターと接続済み
    魔術回路
     魔術回路は全開(メイン40本、サブ30本×2)
    魔術刻印
     間桐家(マキリ)の家系が伝える”魔道書”である魔術刻印は継承していない
 立場:間桐慎二と同盟中
    ライダー(メデューサ)のマスター


衛宮士郎
 武器:投影カリバーン ランクA+
    投影カリバーンⅡ(矢型) ランクA+
    投影カリバーンⅡ(鎖付き短剣型) ランクA+
    投影ナインライブズ ランクB
    投影ゲイボルク ランクC(C+)
    投影ルールブレイカー ランクD
 防具:アヴァロン ランクEX
    (衛宮士郎は、「体内にある衛宮切嗣の遺産である回復用の魔術具」と認識)
    防弾防刃耐熱のシャツ(衛宮士郎による強化済み)
    防弾防刃耐熱のズボン(衛宮士郎による強化済み)
 道具:魔力殺しのペンダント
    対魔力のブレスレット
 魔術:投影魔術 ランクE~A+ 消費魔力:5MP(武器限定)、10~15MP(防具限定、効果は瞬間的)
     投影可能な武器一覧(1月21日時点)
      ハルペー(イメージ元:ライダーが記憶するペルセウス)
      カリバーン(イメージ元:衛宮士郎の夢)
      カリバーンⅡ(設計:蒼崎橙子&衛宮士郎)
      カリバーンⅢ(ライダーの武器を参考にした鎖付き短剣)(設計:蒼崎橙子&衛宮士郎)
      ナインライブズ(イメージ元:キャスター記憶するヘラクレス)
      ルールブレイカー
      ゲイボルク
      ゲイボルクⅡ(矢のサイズに縮小したゲイボルク)
      上記の武器のナイフ版、縮小版
      蒼崎橙子秘蔵の魔剣
    強化魔術 ランクD→C 消費魔力:2MP
    解析魔術 ランクD
 魔力:蓄積量(聖杯戦争中) ?(聖杯戦争中は必要に応じてセイバーに送っている)
    蓄積量(通常) 270MP(魔力回復力が高いため、ほぼ満タン状態)
    最大出力 不明
    魔力回復量 約250MP/日
    魔術具で魔力を隠しているため、魔力量はゼロに見える
 技量:剣術(師匠:両儀式)
     カリバーンに蓄積された経験から読み込んだ剣術を習得中
    弓術
     かつて弓術部で一番の腕前。
     現在ナインライブズを使いこなす練習中。
    槍術
     ゲイボルクに蓄積された経験から読み込んだ槍術を習得中
    魔術(師匠:蒼崎橙子、キャスター)
     投影魔術:ランクE~A+
        可能なこと
        ・ランクA+までの宝具の投影(投影すると1ランク低下、相性のいい武器はランク低下なし)
        ・宝具のサイズを変更して投影
        ・橙子と一緒に設計した宝具の投影
        ・投影した物は目視できれば衛宮の意志で消滅可能
        ・投影した武器の憑依経験の読み取り
        訓練中
        ・同時投影が可能な数の増加
        ・投影物の運動エネルギー付加
        修得予定
        ・ブロークン・ファンタズム(壊れた幻想)(1月21日時点)
     強化魔術:ランクD→C
        可能なこと(硬度、存在意義、能力の強化)
        ・武器関連の強化(得意)
        ・防具関連の強化(そこそこ)
        ・自分の肉体の強化(まだまだ:キャスターに教わって初めてできた)
        訓練中
        ・強化レベルの向上
        ・強化できる対象を増やす訓練中
     解析魔術:ランクD(武器、防具限定でランクA)
        可能なこと
        ・物の構造、設計図を連想できる
        ・魔力の通りやすい箇所が分かる
        ・機械の場合、壊れている場所が分かる
        ・一度見るだけで(夢、他人の記憶を含む)、投影に必要な情報を解析できる(武器、防具限定)
 情報:間桐慎二より、聖杯戦争の表向きの情報を教わる(1月21日時点)
    間桐慎二からセイバーとの停戦の代価として、聖杯戦争の情報(裏事情を含む)を教わる(1月23日時点)
 特殊:肉体
     自分で、肉体に強化魔術を掛けている(キャスターに教わって強化範囲とレベル向上)
     筋力、敏捷、耐久、持久力、五感がUP
     強化魔術を掛ける前までは、魔力で肉体(確認できているのは腕力と視力のみ)を強化していた
     (地上からビルの屋上にいた遠坂凛がはっきり見えている。逆に遠坂凛は衛宮士郎だとは分かったが、はっきりは見えなかった)
    治癒力
     セイバー召喚前
      アヴァロンと融合しているため、アヴァロンに魔力を注ぐだけで大抵の傷は完治する(致命傷は無理)。
     セイバー召喚後
      セイバーと契約しセイバーが近くにいると回復力は向上し、自動的に呪いを含むあらゆる傷(致命傷を含む)を完治させる
      セイバーがアヴァロンに魔力を注ぐと、回復力はさらに向上する。
      それだけの治癒力を持っているのは、吸血鬼ぐらいのもの(遠坂凛談)
   コンボ(間桐慎二がFateの知識を元に、メディアの予知夢の一部として教えたもの)
     干将・莫耶を投擲→カリバーンⅡ発射
     干将・莫耶の連続投影乱舞攻撃:Fateの桜ルートで、黒セイバーとの一騎打ちの際に使用して勝利
    必殺技(習得予定)
     ナインライブズ・ブレイド・ワークス:ナインライブズの憑依経験からの読み込みは失敗し、まだ身に付けていない。
     ブロークン・ファンタズム(壊れた幻想):慎二のアドバイスでは、投影宝具を消滅させることはできても、爆発は起こせなかった。
     固有結界「アンリミテッド・ブレイド・ワークス(無限の剣製)」:凛ルートのラストで習得。この世界では習得できるか?
    魔術刻印
     衛宮家の家系が伝える”魔道書”である魔術刻印は継承していない
     もっとも、魔術刻印は血の繋がっていない人間には拒絶反応がでるため、養子である衛宮士郎では魔術刻印を受け継ぐことは不可能だった
    魔術回路
     魔術回路は蒼崎橙子により全開(メイン27本)
 立場:間桐慎二と同盟中
    セイバー(アルトリア)のマスター


バゼット・フラガ・マクレミッツ
 魔術:回復のルーン ランクC
 技量:魔術
     一流のルーン魔術
    格闘
     超一流
 情報:聖杯戦争の表向きの情報
    魔術協会による間桐家、遠坂家、アインツベルン家の調査結果
 特殊:肉体
     言峰綺礼によって、左腕と令呪を奪われている
    魔術回路
     魔術回路の数は不明
 立場:封印指定ハンター。魔術協会から派遣されて聖杯戦争に参加。元ランサーのマスター。
    「言峰綺礼を倒すまで」という条件で一時同盟中
    当初の目的は聖杯戦争に勝ち、聖杯を魔術協会の管理下に置くこと
    現在の第一の目的は「ランサーを取り戻すこと」か?


弓塚さつき
 武器:投影ナイフ型カリバーン ランクA+
    投影ナイフ型ハルペー ランクC
 防具:防弾防刃耐熱のシャツ(キャスターによる強化済み)
    防弾防刃耐熱のズボン(キャスターによる強化済み)
 道具:血液パック(キャスター精製) 複数個
    特製血液パック(キャスター精製) 一個
 魔術:不明
 技量:格闘
     素人に毛が生えたレベル
    魔術
     これから魔術回路を開いて勉強開始
 情報:聖杯戦争の表向きの情報
    アルクェイドと遠野志貴の関係について聞いたのか?
 特殊:肉体
     死徒(27祖クラスの素質あり)
     キャスター、ライダー、アルクェイド、間桐慎二、間桐桜の血液を採取することでパワーアップし、日光を克服済み
     「魅了の魔眼」保持者
    必殺技(未修得)
     固有結界「枯渇庭園」:幻の弓塚ルートで習得したらしい。この世界では習得できるか?
    ライン
     キャスターと接続済み
    魔術回路
     魔術回路の数は20本(1月22日時点では一本も開放していない)
 立場:助けてもらった(生存権、衣食住の提供)の恩返しに間桐慎二に協力
    キャスターとラインを繋ぎ、魔力供給を受けることで吸血衝動をほとんど抑えている
    対外的には、キャスターの使い魔ということで聖堂教会の殲滅対象からはずしてもらう予定


葛木宗一郎
 武器:(魔術具で強化した)拳
 防具:なし
 道具:肉体強化のブレスレット(対魔力Dの効果付き)
 技量:格闘
     一流の退魔師(引退したが実力は現役と同等?)
     メディアが強化魔術を掛けた場合、タイマンでセイバーに勝利(凛ルートの対セイバー戦)
     強化魔術なしの場合、アーチャーに敗北(凛ルートの対アーチャー戦)
 情報:間桐慎二より、聖杯戦争の表向きの情報を教わる(1月21日時点)
 特殊:肉体
     魔術具による力、敏捷、耐久力、五感の向上
 立場:自分と柳洞寺の関係者を守る(1月21日時点)


遠坂凛
 武器:形見の宝石1個(ランクA++?):(17歳時点の)遠坂凛の10年分の魔力
    宝石10個(ランクA):17年間かけて遠坂凛が魔力を込めたもの。1個1000万円クラス)
    宝石?個(ランクB以下):使い捨ての安い宝石でも、1個10万円クラス
 魔術:ルーン魔術
     ガンド(フィンの一撃レベルで拳銃並みの連射が可能、呪文を唱えることで機関銃並みの連射が可能)
     遠坂家の魔術刻印に記録された魔術の一つ。
    宝石魔術
     ランクAの宝石一つで、キャスターの一回の魔術と相殺可能。
     風塊:ランクAの宝石1つで発動。
        対魔力クラスAのセイバーには無効。
     重力制御:ランクB以下の黒曜石をばらまいて発動。
          対バーサーカー戦で、アーチャーの矢の威力を向上させるために掛けた。
     氷塊の槍:ランクAの宝石3つで発動。
          対バーサーカー戦で使用したが、氷塊の槍を三つともバーサーカーに撃墜されるも、片腕を凍りつかせる。
     光弾:ランクAの宝石5つで発動。
        対バーサーカー戦で使用し、バーサーカーの頭を吹き飛ばし、一回殺すことに成功
        (衛宮士郎は4個だと思っていたが、遠坂凛によると5個使用していた)
     防御膜:ランクAの宝石1つで発動
        対バーサーカー戦で使用し、服の下で発動させることで、バーサーカーの腕力に短時間耐える防御力を発揮
        キャスターの魔術に対しても、三回耐える威力を持つ。(遠坂凛の予想)
     炎の剣(相乗):ランクAの宝石3つで発動。遠坂凛の限界を超えた魔術。
             虎の子の4番(の宝石)を使用し、禁呪である相乗を重ねて発動。
             対キャスター戦で使用したが、キャスターに防がれるだけでなく魔力を吸収される。
     強化:ランクAの宝石1つで発動。効果時間は数秒。キャスターの防御壁を突破し、キャスターを倒す寸前まで追い詰めた。
     使い魔(梟):ランクB以下のアメジストで作成。単純ながらも監視役として優れている(キャスター談)
     破壊の衝撃:ランクAの宝石1つで発動。ギルガメッシュには全く効果が無かった。
    結界消去魔術:
     遠坂家の魔術刻印に記録された魔術の一つ。
     ライダーの宝具の結界撤去はできないが、一時的に結界から魔力を消すことが可能。
     Fateにおいて、ライダーの宝具の結界から一時的に魔力を消すために使用するつもりだった。
    重力制御魔術
     遠坂家の魔術刻印に記録された魔術の一つ。
     重力調整を行う。
     Fateにおいて、ランサーから離れるため屋上から脱出するときに使用。
    重量制御魔術
     遠坂家の魔術刻印に記録された魔術の一つ。
     体の軽量化を行う。
     Fateにおいて、ランサーから離れるため屋上から脱出するときに使用。
    治療魔術
     プロローグ参照
     Fateにおいて、完全に破壊された衛宮士郎の心臓を再生のため、形見の宝石のほとんどの魔力で使用。
    神経手術
     Fateにおいて、肉塊の聖杯から間桐慎二を引き離すために使用。
 魔力:蓄積量 400MP
    (聖杯戦争中は必要に応じてアーチャーに送っている、召喚直後は何割かの魔力がアーチャーへ流れた)
    最大出力 1000MP
    魔力回復量 300MP/日
 技量:格闘(師匠:言峰綺礼)
     護身術の空手もどき
    魔術(師匠:遠坂時臣、言峰綺礼)
     一流の宝石魔術師
     ルーン魔術 ランクC
     宝石魔術 ランクA
 情報:間桐桜が臓硯の弟子をやめ、他の魔術師の弟子になったことを聞いた(1月15日)
    間桐慎二、間桐桜の二人に令呪がないことを(誤)確認(1月15日)
 特殊:肉体
     強化魔術ではないが、魔力で肉体を強化していると思われる
     確認できるだけで敏捷、視力はUPしている
     (100M以上を7秒で走り、ビルの屋上から地上にいた衛宮を見つけている)
    魔術回路
     魔術回路は全開(メイン40本、サブ30本×2)
    魔術刻印
     遠坂家の家系が伝える”魔道書”である魔術刻印を所有
     魔術刻印に登録されている魔術は、魔力を通し、読み込み、発動するだけで使用可能
     所有者の自動治癒能力あり
 立場:聖杯戦争に参加予定
    間桐桜のことは、姉として守りたいと思っている


間桐臓硯
 武器:蟲
 防具:不明
 道具:蟲
 魔術:蟲の制御?
     様々な蟲を制御する
 技量:不明
 情報:聖杯戦争の情報(裏事情、裏技を含む)
    間桐慎二が予知夢を見た結果、自分を裏切ったと思っている
 特殊:肉体
     間桐桜の心臓内にいた本体の蟲はすでに消滅
     現在は分身の方に意識を移して活動中
     齢500才を数える
     日光には耐えられない
    聖杯
     間桐桜の体をベースにしたマキリ製の聖杯作成を行っていた
     両儀式と蒼崎橙子により間桐桜の体内にいる虫を全滅させられ無に返した(間桐臓硯はまだ分かっていない)
 立場:間桐慎二、間桐桜の自分の支配下に置くべく画策中
    聖杯戦争の構築者の一人
    不老不死になることを目指している

蒼崎橙子
 技量:魔術
     ルーン魔術(一流)
 情報:間桐慎二より予知夢として、聖杯戦争の情報(裏事情を含む)を教わる
 特殊:超一流の人形師
 立場:封印指定の魔術師
    間桐慎二、間桐桜、衛宮士郎の魔術の師匠
    メディアのパートナー(?)


両儀式
 武器:ナイフ
    日本刀
    投影カリバーン ランクA+
 技量:剣術
     両儀家の戦闘術?
 情報:慎二より予知夢として、聖杯戦争の情報(裏事情を含む)を教わる
 特殊:「直死の魔眼」保持者
 立場:間桐慎二に協力
    間桐慎二、間桐桜、衛宮士郎の剣術の師匠


遠野志貴
 武器:七夜の短刀
    ナイフ型投影ハルペー ランクC
    ナイフ型投影カリバーン ランクA+
 防具:魔眼殺しの眼鏡
 技量:格闘
     七夜の暗殺術?
 情報:間桐慎二より、聖杯戦争の情報(裏事情を含む)を教わる
 特殊:「直死の魔眼」保持者
 立場:間桐慎二に協力
    可能なら聖杯戦争終了後に大聖杯の中にいるアンリマユを退治する予定


アルクェイド・ブリュンスタッド
 技量:格闘
     地上最強クラス
 情報:間桐慎二より、聖杯戦争の情報(裏事情を含む)を教わる
 特殊:空想具現化能力を保有
    「魅了の魔眼」を保有
 立場:間桐慎二に協力
    毎週週末に柳洞寺へ訪問する予定


シエル
 武器:黒鍵
    第七聖典 ランクC(『転生批判』の概念武装で『魂を散らす』効果を持つ)
    ナイフ型投影ハルペー ランクC(間桐慎二のプレゼント)
    ナイフ型投影カリバーン ランクA+(間桐慎二のプレゼント)
 魔術:変化魔術?
     火葬式典(投剣に付属した魔術効果。刺さった箇所を燃やす)
     土葬式典(投剣に付属した魔術効果。刺さった箇所を石化する)
     風葬式典(投剣に付属した魔術効果。刺さった箇所を乾燥させる)
     鳥葬式典(投剣に付属した魔術効果。刺さった対象に烏が寄ってくる)
    死霊魔術
     ゾンビを操って設定した対象を攻撃させる
     月姫本編で、ロアの手下のゾンビを使用してアルクェイドを攻撃対象として使用。
    治癒魔術
     月姫本編で、ネロ・カオスとの戦いで傷ついた遠野志貴に対して使用。
    自己保存魔術
     肉体に掛けることで再生力や耐久性を向上させる?
 魔力:蓄積量 4000MP
        ランクAの魔術師よりさらに上。魔力保存の上限がとてつもなく高い。
    最大出力 ?
    魔力回復量 ?
 技量:格闘
     超一流(埋葬機関の戦闘技術)
    投擲術
     鉄甲作用(埋葬機関秘伝の投擲技法)
    魔術
     魔術協会のグランド(最上位)クラス
     ロアが使えた魔術を全て使うことが可能
     ただし、ロアの記憶を引き出すのがいやで通常は使わない
 情報:間桐慎二より、聖杯戦争の情報(裏事情を含む)を教わる
    聖堂教会から提供された聖杯戦争の情報を持っている
 特殊:肉体
     ロアが消滅した時点で、シエルの不死性は失われている。
     自己保存魔術をかけることで、現時点でも肉体はかなり頑丈。
    地位
     埋葬機関第7位
     ロアの娘
    魔眼
     視線を合わせることで簡単な暗示をかけることが可能(遠野秋葉には効かなかった)
 立場:惜しげもなくハイレベルの宝具(ナイフ型投影カリバーン&ハルペー)を提供した間桐慎二のことを疑っている



[787] キャラクター設定(サーヴァント)
Name: 遼月
Date: 2005/04/03 19:05
キャラクター設定(サーヴァント)

 注 下記の記述は「Fate/stay night」、「月姫」、「空の境界」、ならびに「Fate/into game」に基づいて記載しています。
   明らかに間違っている内容がありましたらお知らせください。


○サーヴァント

キャスター(メディア)
 武器:ルールブレイカー ランクC
    投影ナイフ型カリバーン ランクA+
    投影カリバーン ランクA+
    投影ナイフ型ハルペー ランクC
    投影ハルペー ランクC
    投影ゲイボルク ランクC(C+)
 魔術:強化魔術 ランクA
     Fateにおいて、マスターである葛木宗一郎に対して使用
     最高難易度である他人の肉体を強化可能(ラインが接続している必要あり)
    結界魔術 ランクA
     メディアの魔力や(サーヴァントとしての)気配を遮断する結界。結界を張ったまま移動可能。
    読心魔術 ランクA
     他人の記憶を詳細に読み出すことが可能。
     対象の対魔力が高い場合、気絶しているか睡眠中に接触していないと読むことはできない。
     治療魔術 ランクA
    束縛魔術 ランクB
    空間転移魔術 ランクA
     Fateにおいて、対セイバー戦の退却時と柳洞寺の罠に使用。
     マスターである葛木宗一郎と一緒に瞬間移動で柳洞寺へ戻った。
     存在を三次元から引き上げて、多次元を経由して、元の次元に戻すことで空間転移を行う。
     柳洞寺から冬木市周辺への空間転移は双方向で可能。冬木市周辺以外の場合、柳洞寺外への空間転移が可能。
     設定した場所から、他の場所へ強制的に空間転移させることも可能。ただし、この場合対魔力が強い対象には無効(衛宮士郎に有効。セイバーに無効)
    宝石魔術 ランクE
     間桐桜が過去に遠坂時臣から教わった記憶を読み込んで身に付けた。桜は初級レベルしか教わっていないため、現時点では初級レベルしか使えない。
    ルーン魔術 ランクE
     バゼットの記憶を読み込んで身に付けた。バゼットはハイレベルのルーン魔術が使えるが、メディアは覚え始めたばかりのため、現時点では初級レベルしか使えない。
    圧迫魔術 ランクA
     Fateにおいて、対セイバー戦で使用
     『圧迫(アトラス)』の概念を持つ攻撃。
     高密度の空気を攻撃対象を中心に作成することで、空間に縫い付ける。
     高密度の空気は、透明なゼラチンのようになる。
     セイバーには一瞬でキャンセルされた。
    防御魔術 ランクA
     Fateにおいて、対ギルガメッシュ戦で使用
     『盾(アルゴス)』の概念を持つ防御。
     ガラスのような膜を張る。
     衛宮士郎曰く、「バーサーカーの肉体のそれ(耐久?)に匹敵するだろう」
     ギルガメッシュの宝具に対し一撃すら防げずに砕け散った。
    影魔術? ランクB
     人そっくりの影を操作する。外見は自由に設定可能。
     Fateにおいて、対ギルガメッシュ戦で使用して身代わりの術を使って逃げ出そうとしたが、即座に見抜かれた。
    蘇生魔術 ランクA
     Fateにおいて、対ギルガメッシュ戦で発動
     自分の体の傷を魔力を用いて自動的に修復する。
     ギルガメッシュの宝具の雨に対しては、苦しみを長引かせるだけの効果しかなく、それも10秒足らずしか持たなかった。
    遠隔操作魔術 ランクA
     Fateにおいて、衛宮士郎を衛宮邸から柳洞寺まで誘導させることに成功。
    空間固定魔術 ランクB
     Fateにおいて、対アーチャー戦で使用。アーチャーを一時的に固定することには成功。
    光弾 ランクA
     Fateにおいて、対アーチャー戦、対遠坂戦、対セイバー戦で使用
     光弾(100MP?)を10個同時、かつ連射可能(凛ルートの対アーチャー戦)
     光弾(100M?)を5個の場合、5個とも詠唱開始から1秒未満に打ち出すことが可能。ただし、セイバーには無効(凛ルートの対セイバー戦)
    重力魔術 ランクA
     Fateにおいて、対アーチャー戦で使用
     重力を制御することで、自由に空間を飛びまわる
    風魔術 ランクA
     Fateにおいて、対遠坂凛戦で使用(使用したのは「アエロー(病風)」)
    魔力吸収魔術? ランクA
     Fateにおいて、対遠坂凛戦で使用
     遠坂凛が保有するランクAの宝石3つによる魔術を、防ぐだけでなく魔力を全て吸収した。
 魔力:蓄積量:?(間桐慎二との性行為によって大量の魔力を保有。必要に応じて柳洞寺に蓄積した魔力を使用可能)
    最大出力:1000MP
 技量:格闘 ランクE
     宝石(ランクA)で強化された遠坂凛にぼこぼこにされるぐらい(ただし、不意打ちを食らった場合)
    魔術 ランクA
     高速神言を使用可能(シングルアクション並の速さで高度な魔術を展開可能)
 情報:聖杯より与えられた情報(現在社会の一般常識レベルの情報、日本語全般)
    間桐慎二の記憶を夢として見ることで、「Fate/stay night」、「月姫」、「空の境界」+αの全情報を得る
    オリジナル慎二と桜の記憶から抽出した情報(一般常識、魔術関連の情報)
    前マスターとバゼットの記憶から抽出した情報(裏の世界の情報、魔術関連の情報)
 特殊:パラメータ
     筋力:D、耐久:C、敏捷:B、魔力:A++、幸運:B、宝具:C
     間桐慎二からの魔力供給がきちんと行われているため、Fateより高いパラメータ
     Fateにおいて、マスターの葛木宗一郎は魔術師でなかったため、一部のパラメータがダウンしていた。
    魔力吸収
     地脈操作により、莫大な魔力を柳洞寺に蓄積
    監視網
     魔術の糸による探査網により、町中の状況を監視中
    精霊
     金羊の毛皮(アルゴンコイン)に取り付いた精霊。アルという愛称が付けられている。
    使い魔(竜牙兵)
     竜の牙から作成し、同時に複数操作することが可能
    使い魔(鷹)
     鷹、ペガサスの血と肉、竜の牙を使用し、マキリの蟲の要素をも含んで作成した使い魔。
     封印状態では、鷹の外見。
     封印解除状態で、どういう外見なのかは秘密。(1月22日時点)
    ライン
     間桐桜、間桐慎二、弓塚さつきとライン接続済み
 立場:間桐慎二のサーヴァント
    間桐慎二、間桐桜、衛宮士郎の魔術の先生


ライダー(メデューサ)
 武器:鎖付き短剣 ランクD
    投影カリバーンⅢ(ライダーの武器を参考にした鎖付き短剣型カリバーン) ランクA+
    投影ナイフ型カリバーン ランクA+
 道具:道具袋(メディア製の四次元ポケットみたいなもの)
     投影カリバーンⅢを入れてある
     霊体化しているときは間桐桜か間桐慎二に預けている。
 魔術:影魔術 ランクC
     Fateにおいて、セイバールートの学園において衛宮士郎に対して展開。
     衛宮士郎の強化したモップに粉砕された。
    結界魔術 ランクC
     簡単な結界を展開可能。
    召還魔術 ランクA(ペガサス限定)
     Fateにおいて、対セイバー戦で使用。
     緊急時は、自分の首を切り裂いて噴出した血を媒介にして召喚する。
     通常時は、魔法陣から召喚する。
 技量:剣術? ランクB
     素早さとトリッキーな動きを主体にした戦闘を得意とする
    魔術 ランクC
 情報:聖杯より与えられた情報(現在社会の一般常識レベルの情報、日本語全般)
    間桐慎二より予知夢として、聖杯戦争の情報(裏事情を含む)を教わる
    衛宮士郎の恋愛関係の情報も後に教わる(マスターである間桐桜にも内緒)
 特殊:パラメータ
     筋力:B、耐久:D、敏捷:A、魔力:B、幸運:C、宝具:A+
     マキリの呪縛から解放された間桐桜がマスターのため、、幸運だけはFateより高いパラメータになっている。
    魔力補給
     吸血や淫夢を通じた吸精による魔力補給が可能
    移動能力
     垂直で足がかりのない壁ですら自由に移動できるという能力を持つ
    召還獣(ペガサス)
     セイバー曰く、『貴方たち風に言うのなら(ランクは)A+と言ったところでしょうか』。対魔力はランクA++に達すると考えられる。
     魔力量は、7500MP~12500MP:魔力は魔術師数百人分(衛宮士郎談)
    ライン
     間桐桜、間桐慎二とライン接続済み
 立場:間桐桜のサーヴァント


セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)
 武器:インビジブル・エア ランクC
    エクスカリバー ランクA++
    投影カリバーン ランクA+
    投影ロンゴミニアド ランクD
    投影カルンウェナン ランクD
    投影セクエンス ランクD
 防具:鎧(魔力で編んだ鎧) ランクB
 魔術:鎧構成 ランクC~A
     魔力で編んだ鎧を具現化する。
     鎧が破損した場合、魔力によって修復可能。
     この能力により、魔力ランクが向上すると耐久ランクも比例して向上する。
     (魔力ランクBのとき耐久ランクC、魔力ランクAのとき耐久ランクB、魔力ランクA++のとき耐久ランクA)
    蘇生魔術 ランクB
     自分の体の傷を魔力を用いて自動的に修復する。セイバーの治癒能力の正体。
     単純な傷の場合、重傷でも1時間もあれば完治可能。
     呪いによる傷の場合、完治までかなりの時間が必要。外傷を
 技量:剣術 ランクA
     魔力で強化した力、技、直感で戦う剣術
    魔術 ランクA?
 情報:聖杯より与えられた情報(現在社会の一般常識レベルの情報、日本語全般)
    前回の聖杯戦争に参戦した際の情報
    間桐慎二から停戦の代価として、聖杯戦争の情報(裏事情を含む)を教わる
    大聖杯を直接見ることで、この聖杯戦争で自分の願いが叶わないことを悟る
 特殊:パラメータ
     筋力:A、耐久:B、敏捷:B、魔力:A、幸運:A、宝具:A++
     衛宮士郎からの魔力供給がきちんと行われているため、幸運以外はFateにおける凛がマスター時のパラメータになっている
    肉体
     魔力放出により、剣戟、防御、移動などの能力を強化する。
    鎧
     セイバーの鎧は、サーヴァント、宝具、魔法、神域に棲む幻想種、といったレベル以上の攻撃でないと突破できない
 立場:衛宮士郎のサーヴァント


アーチャー(衛宮士郎)
 武器:(投影)干将・莫耶 ランクC-
    (投影)カラドボルグⅡ ランクA+(セイバー談「ランクAに該当する宝具」)
    (投影)デュランダル ランクB?
    (投影)弓矢 ランクB以下
 防具:軽装の鎧
    聖骸布の外套
    (投影)ロー・アイアス ランクB+
 魔術:投影魔術 ランクE~A+ 消費魔力:5MP(武器限定)、10~15MP(防具限定、効果は瞬間的)
     投影可能な武器、防具一覧 
      干将・莫耶
      カラドボルグⅡ
      デュランダル
      弓矢
      ロー・アイアス
     投影が可能だと思われる武器、防具一覧
      カリバーン
      ゲイボルク
      ルールブレイカー
      エクスカリバー
      アヴァロン
     武器と防具以外を投影した場合、外見だけの張りぼてを投影可能(破壊しない限り存在し続ける)
    強化魔術 ランクC 消費魔力:2MP
    解析魔術 ランクC
    施錠魔術 ランクC?
    修復魔術 ランクC?
    魔力感知 ランクE
    魔術抵抗 ランクE
 技量:剣術 ランクB(B+?) 師匠:セイバー、?
     干将・莫耶を使用した二刀流剣術を得意とする
     デュランダルを使用した剣術や、カラドボルクⅡを使用した突きを主体とする剣術も使える。
    弓術 ランク?
     正確無比な狙い、機関銃めいた掃射(8連射)、岩盤を穿つような攻撃が可能(衛宮士郎談)
     カラドボルグⅡを弓から真名解放をして打ち出すことが可能
    魔術 ランクC- 師匠:遠坂凛、?
     投影:ランクE~A+
        可能なこと
        ・ランクA+までの宝具の投影(投影すると1ランク低下、ただし相性の良い宝具はランクはそのまま)
        ・複数個の同時投影
        ・投影物の運動エネルギー付加
        ・ブロークン・ファンタズム(壊れた幻想)
        ・投影宝具の改良
        可能かどうか不明なこと
        ・宝具のサイズを変更して投影
        ・投影した物は、目視できれば消滅可能
     強化:ランクC
        可能なこと(硬度、存在意義の強化)
        ・武器関連の強化
        ・防具関連の強化
     解析:ランクC(武器、防具限定でランクA)
        可能なこと
        ・物の構造、設計図を連想できる
        ・魔力の通りやすい箇所が分かる
        ・機械の場合、壊れている場所が分かる
        ・一度見るだけで(夢、他人の記憶を含む)投影に必要な情報を解析できる(武器、防具限定)
     施錠:ランクC?
        ・扉に魔力を込めて鍵をかける?
     修復:ランクC?
        ・破損した物の修復
          アーチャー召喚時に廃墟のように破壊されたリビングを一晩で完璧に修復した
     魔力感知:ランクE
     魔術抵抗:ランクE
     自然干渉からなる攻撃魔術はからっきし駄目
 情報:聖杯より与えられた情報(現在社会の一般常識レベルの情報、日本語全般)
    衛宮士郎として聖杯戦争に参加したときの記憶(セイバールート?)
 特殊:パラメータ
     筋力:D、耐久:C、敏捷:C、魔力:B、幸運:E、宝具:E~A++
    肉体
     生前は魔力で肉体を強化していた(少なくとも視力と腕力はUP)
     あのパラメータ(筋力、耐久、敏捷)からすると、魔力による肉体強化はしていない(できない)?
    コンボ
     干将・莫耶を投擲→カラドボルグⅡ発射(真名解放)
     干将・莫耶の連続投影乱舞攻撃
    必殺技
     ブロークン・ファンタズム(壊れた幻想):投影宝具を爆発させる
     固有結界「アンリミテッド・ブレイド・ワークス(無限の剣製)」
    魔術刻印
     衛宮家の家系が伝える”魔道書”である魔術刻印は継承していない
     もっとも、魔術刻印は血の繋がっていない人間には拒絶反応がでるため、養子である衛宮士郎では魔術刻印を受け継ぐことは不可能だった
    魔術回路
     魔術回路は全開(メイン27本)
 特殊:(セイバールートなら)令呪で「マスターの命令には絶対服従」という命令を受けている。マスターの意見に異を唱えると、ランクが1つ落ちる(アーチャー談)
 立場:遠坂凛のサーヴァント


ランサー(クーフーリン)
 武器:ゲイボルク ランクB(B+)
 技量:槍術 ランクA
    魔術 ランクB
     影の国で十八の原初の呪刻(ルーン)を学んだ一流の魔術師
     全ルーンの守りは、上級宝具の一撃さえ凌ぐ
     隠蔽のルーン ランクB
      ランサーの魔力や(サーヴァントとしての)気配を遮断する結界。結界を張ったまま移動可能。
     回復のルーン ランクB
     追跡のルーン ランクC
      Fateの凛ルートにおいて、人質の遠坂凛を探すために使用
     炎のルーン ランクC
      Fateの凛ルートにおいて、言峰の死体を焼くために使用
 情報:聖杯より与えられた情報(現在社会の一般常識レベルの情報、日本語全般)
 特殊:パラメータ
     筋力:B、耐久:C、敏捷:A、魔力:C、幸運:E、宝具:B
    令呪で「主変えに賛同しろ」「おまえは全員と戦え。だが殺すな。一度目は必ず生還しろ」という命令を受けている。
 立場:言峰綺礼のサーヴァント


真アサシン(ハサン)
 武器:ダーク(使用数に限りあり)
     すでに3本はライダーに拾われたため回収できず
 技量:格闘 ランクC
 情報:聖杯より与えられた情報(現在社会の一般常識レベルの情報、日本語全般)
 特殊:パラメータ
     筋力:B、耐久:C、敏捷:A、魔力:C、幸運:E、宝具:C
 立場:間桐臓硯のサーヴァント



[787] 聖杯(大聖杯)とサーヴァント
Name: 遼月
Date: 2005/05/23 00:27
聖杯(大聖杯)とサーヴァント

・サーヴァント召喚のサポート
  サーヴァントは聖杯によって招かれるもの。聖杯はマスターによるサーヴァント召喚のサポートを行う。ただし、召喚できる英霊の条件は下記の通り。
  条件1:七つのクラスに該当する英霊(例外として、一回ごとに一つのイレギュラークラスの英霊が召喚されることがある)
  条件2:他のマスターによって召喚されていないクラスのサーヴァント
  条件3:召喚用の触媒に関係のある英霊(触媒なしで召還すると何が起きるかは不明)
  条件4:通常、一度召還された英霊はそれ以降の聖杯戦争で再び呼び出すことができない。 
      もう一度、召喚されることが会っても、前回の記憶は持っていない(セイバー談)
      (但し、アルトリア・ペンドラゴンは例外)
  条件5:本来、召還されるサーヴァントは英霊のみ。反英霊は含まない
      (アンリマユが大聖杯に入ったため、英霊の要素を持つ反英霊も召還可能になった。例:メデューサ、メディア)

  計算内容
   ・聖杯戦争終了後のセイバーの現界、肉体維持に「遠坂凛の魔力の大部分が必要」とある。
    これは、「遠坂凛が一日で回復する魔力量のほとんどが必要」であると解釈できる。
    そうでないと、衛宮士郎の助力があろうとも、遠坂凛がセイバーを現界し続けるのは難しい状態になる。例外として、衛宮士郎との性行為における魔力回復を計算にいれれば不可能ではないが、さすがにそれは現実的でないと考える。
   ・遠坂凛の場合、アーチャーを召喚した翌朝に「魔力(500MP)の半分以上を失っており、それを回復するのに一日必要」と言っている。
    以上のことから、遠坂凛の魔力回復量は300MP/日程度、聖杯戦争後のセイバーが現界&肉体維持に必要な魔力量は250MP/日程度であると考えられる。

・サーヴァントの現界の助力
  マスターはサーヴァントをつなぎとめ、実体化に必要な魔力を提供する。
  下記の数値より、聖杯戦争中のサーヴァントの現界&肉体維持に必要な魔力のほとんどを聖杯が肩代わりしていると考えられる。
   聖杯戦争中
    セイバーが現界&肉体維持に必要な魔力量:6MP/日
   聖杯戦争後
    セイバーが現界&肉体維持に必要な魔力量:250MP/日(予想)

・サーヴァント再契約時の魔力供給
  はぐれサーヴァントが新しいマスターと契約した際、魔力ランクに応じた魔力が自動的に大聖杯からサーヴァントへ供給される

・サーヴァントのパラメータの変動
  現在確認されているのは、下記の3例。
  ・セイバー
    マスター:衛宮士郎(セイバーのパラメータ 筋力:B、耐久:C、敏捷:C、魔力:B、幸運:B、宝具:C)
         →遠坂凛(セイバーのパラメータ 筋力:A、耐久:B、敏捷:B、魔力:A、幸運:A、宝具:A++)
    マスター:衛宮士郎(セイバーのパラメータ 筋力:B、耐久:C、敏捷:C、魔力:B、幸運:B、宝具:C)
         →間桐桜(セイバーのパラメータ 筋力:A、耐久:A、敏捷:D、魔力:A++、幸運:C、宝具:A++)
  ・ライダー
    マスター:間桐慎二(ライダーのパラメータ 筋力:C、耐久:E、敏捷:B、魔力:B、幸運:D、宝具:A+)
         →間桐桜(ライダーのパラメータ 筋力:B、耐久:D、敏捷:A、魔力:B、幸運:E、宝具:A+)
  上記の通り、衛宮士郎がマスターの時と、間桐慎二がマスターの時、サーヴァントのパラメータが低下している。
  理由として、衛宮士郎はラインがまともに接続していなかったし、間桐慎二は魔術師ではなかった。
  これにより、マスターからサーヴァントに対して魔力が供給されないと、(サーヴァント自身が魔力補給をしたとしても)パラメータが低下する、と予想できる。
  この予想が正しいとすると、元退魔師である葛木宗一郎をマスターとしたキャスターのパラメータも低下していたと予想できる。
サーヴァント 引用:「TECH GIAN/2003-12 TGPREMIUM」、「Fate/stay night」

・セイバー
 魔力以外の全ての能力値が最高ランクの者のみがセイバーとして選ばれる。
 (最高ランクとは、B以上を指すと考えられる)

・アーチャー
 能力値が比較的低い者でも、射撃武装に関する特殊能力を持っていればアーチャーとして該当する可能性もある。
 (射撃武装が宝具の宝物庫、投影魔術でも可)

・ランサー
 全ての能力値にセカンドランクを求められる。その中でも敏捷が特に高いものが該当に値する。
 (セカンドランクとは、C以上を指すと考えられる)

・ライダー
 なんらかの乗り物に騎乗し、騎乗槍を使いこなす。ライダー自身の能力はのきなみ低く設定され、サーヴァント自身よりも、所有する武器が強力なクラスだといえる。
 (この場合の武器とは、メデューサにおける「竜種に匹敵する力を持つペガサス」を指す)

・バーサーカー
 とある条件さえ満たしていれば、全ての能力値がランクE(最低ランク)の者でも該当するクラス。
 (条件は「狂ったという過去」を持っていることか? 詳細情報希望)

・キャスター
 魔術の能力値がランクAに達していることが該当条件。

・アサシン
 アサシンとして選ばれるために必要な該当条件は、気配遮断のスキルを持つことのみという正体不明のクラス。
 (本来は、歴代の「ハサン」の誰かが召喚される特殊クラス。本編で佐々木小次郎が呼ばれたのは、サーヴァントであるキャスターが召喚したための例外)


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