Fate/into game
1月23日(水) 聖杯戦争1日目 午前
「兄さん、起きてください」
俺を呼びかける声にしぶしぶ目を開けると、予想通り目の前には桜がいた。
寝たのは夜明けだったため、寝不足になっていてもおかしくはないが、メディアが疲労回復でもしてくれたのかそれほど体は重くなかった。
「おう、おはよう桜。もう朝飯か?」
「そうですよ。早く起きてリビングまで来てください」
「分かった。ちょっと待ってくれ」
桜が出て行った後、俺は慌てて着替えるとリビングへ向かった。
リビングには、桜、メディア、メデューサ、セイバーと、あと柳洞寺に置き去りにしてきた弓塚までいたのだが、なぜか衛宮だけいなかった。
「桜、衛宮はどうした?」
「先輩は一度目を覚ましたんですけど、体調が悪いらしくてそのまま寝ています。
病気じゃなければいいんですけど……」
「ご安心ください、桜。サーヴァントを召喚したばかりのマスターは満足に活動できない。
昨夜もかなり疲労を感じていましたが、まだそれが残っているのでしょう。
おそらくは、今日中には回復するはずです」
お茶をすすりながらそこまで一息で答えた後、セイバーはあることに気づき桜に尋ねた。
「桜もマスターですから、召喚した次の日は今のシロウと同じ状態だったのではないですか?」
あ~、本来はそうだったんだろうな。
実際はあの行為で魔力をたっぷり回復したから翌日も元気だったけど、それを言うわけにはいかないようなぁ。
桜の方を見ると、俺の予想通り、何と答えるべきか困っている様子だった。
「桜は衛宮よりずっと魔力量が多いからな。
そのおかげで次の日も元気だったから知らなかったんだよ」
「そうなのですか?」
「ああ、確か衛宮の倍以上の魔力量があるんじゃないか?
今は空っぽに近いから分からないのも無理は無いけど」
それを聞いたセイバーは、驚いて桜を見つめた。
「あっ、はい、そうなんです。
私、まともな魔術はまだ使えないんですけど、魔力だけは多いみたいです」
「そうでしたか。それなら、次の日から元気でもおかしくありませんね。
……それにしても、シロウでも十分魔力が多いと思っていたのですが、その倍以上とは驚きました。
この時代の魔術師にも優秀な人は多いのですね」
それは比較対象が悪すぎ。
衛宮も桜も、そして遠坂も一般的な魔術師から見ると完全な規格外。
一般的な魔術師ってのは、……俺みたいな奴の事を言うんだよな、やっぱし。
いかん、改めて考えると自分の無力さが悲しくなってくる。このことは置いておこう。
「そのことはともかく、衛宮はただの魔力切れだから、おそらく午後には回復すると思う。
セイバーは、「シロウの側にいます」……だそうだけど、桜はどうする?」
「そうですね。やっぱり先輩が心配だから学校を休みます」
まあ、そうだろうな。となると、
「ライダーも?」
「はい、私も桜の側にいます」
聞くまでもなかったな。ライダーはマスターである桜の幸せの実現が第一の目的だからな。
「となると、残るは弓塚だけだけど……」
一応聞いたのだが、聞く前から俺には弓塚がどう答えるか分かっていた。
「では、私もここにいます」
「だろうな。んじゃ、今日登校するのは俺とキャスターだけってことか。
ここで留守番するのは問題ないけど、勝手に出歩くなよ。
聖杯戦争はもう始まっているんだ。
戦いの時間は夜がメインだろうけど、昼に戦闘吹っ掛けられる可能性はゼロじゃないからな」
俺の念押しに桜は素直に承諾した。
「分かってます、兄さんが帰ってくるまでは出かけません」
「ん、ならいい。
後は衛宮が勝手に、そう『食材を買いに行く』とか言って抜け出さないように常に監視しとけよ。
そういう点であいつはおおぼけかますからな」
セイバールートでも、勝手に一人で出歩いていたからなぁ。
俺は何度『いい加減にしろ』と思ったことか。
「分かりました。その仕事は私がやりましょう」
「ライダー、そのようなことはシロウのサーヴァントである私がやります。
勝手にマスターを監視などしないでもらいたい」
ライダーが引き受けてくれて一安心、と思ったら、いきなりライダーにセイバーが噛み付いてきた。
「何をむきになっているのですか?
別に士郎を監視する人が何人いようと構わないではありませんか。
私も監視するし、貴女も監視する。
何か問題でもありますか?」
「あるに決まっている。確かに私は、桜に対してはある程度信頼している。
しかし、貴女達は信頼していない。
シロウに対して何もしないなど無条件に信じられるはずがないでしょう」
俺が口を挟む余裕などなく、あっという間にライダーとセイバーの睨みあいになってしまった。
よく考えてみれば、このメンバーの性格が合うわけはなかった。
正統派英霊と反英霊の要素が濃いもの、女であることを捨てた存在と女であることを誇りにする存在。
ああどう考えたって相性が悪いに決まっている。
属性から言っても、メデューサとセイバーとの相性は最悪だったな。
何せメデューサの属性はギルガメッシュと全く同じなのだ。
セイバーとギルガメッシュのことを考えれば、仲良くできるはずがない。
……ん、つーことは、メデューサとギルガメッシュってものすごく相性がいいってことになるのか?
ないとは思うが、ライダーが金ピカの王様に奪われないように注意しとこう。
っと、そんなことを考えている場合ではなかった。
なんとか二人をなだめないと、ここで戦闘が始まってしまう。
「おいおい、そんなむきになる必要ないだろう。
セイバーがマスターである衛宮と一緒にいるのは当たり前だ。
だったら、衛宮の側で護衛兼監視をするのはセイバーにまかせて、ライダーはいつも通り屋根の上から周辺の監視してもらって、衛宮が外出しようとしたら止めるようにすればいいんじゃないか?」
それを聞いたセイバーとライダーはしばらく睨みあった後、同時に目を逸らした。
「それなら構いません。
くれぐれもシロウに余計な手出しをしないように、ライダー」
「了解しました、慎二。
それから、あなたが余計なことをしなければ、何もするつもりはありませんよ、セイバー」
ふ~、なんとか戦闘は避けられたが一発触発の事態は変わらないなぁ。
こりゃ、今後も油断できなさそうだ、気をつけないと。
セイバーはシロウと一緒に食事を取ると言って、お盆を持って衛宮の寝室へ向かった。
昨日はまともに二人で話し合う時間もなかったし、ちょうどいい機会だということで二人きりにした。
桜は少々むくれ気味ではあったが、しぶしぶ納得したようだった。
そういうわけで、残った俺、桜、メディア、メデューサ、弓塚で朝食を取る事になった。
「ところでなんで弓塚がここにいるんだ?
確か柳洞寺で留守番していたはずじゃ?」
朝食を食べつつ、俺はさっきから疑問だったことについて尋ねた。
「兄さん、それは私が今朝呼んだんですよ。
セイバーさんが召喚された以上、事情の説明やセイバーさんとの顔合わせが必要だと思ったので」
「それから出迎えとここまでの移動は、私が瞬間移動で行いました。
もう、いつサーヴァントに襲われるか分かりませんからね」
あ~、それなら完璧だな。俺が文句をいうべきところも必要もないな。
メディアの瞬間移動は、柳洞寺の近辺なら双方向で可能だからなぁ。
とんでもなく使えるよな。
「で、セイバーとの顔合わせは済んでるみたいだけど、どの辺まで話したんだ?」
「私が話したのは簡単な自己紹介ぐらいよ。それ以上は時間もなくて話せなかったの」
「そっか、まあセイバーは死徒という存在に対して警戒していると思う。
だから、きちんと吸血鬼としての衝動を抑えきっていることは説明しといたほうがいいぞ」
自分が忌避される吸血鬼であることを再確認したのか、弓塚は顔を強張らせた。
それを見た桜は俺に対して何か言いたそうだったが、俺は気にしなかった。
これは弓塚が奇跡的に人間に戻れない限り、一生付きまとう問題だ。
いつか自覚することなら、早めに慣れさせたほうがいい。
今までは、シエルを除いて弓塚を忌避する存在はいなかったが、それは少数の例外が揃っていたためだ。
そろそろ、一般的な自分の立場を知るべき時期だろう。
「うん、分かったわ。セイバーさんにちゃんと説明するわ」
弓塚は硬い表情ながらも、了承した。
「それから、現在の状況についてはアルに説明し、帰宅していたバゼットには衛宮邸にいることを伝えました。
バゼットの方も特に進展はないとのことです。
どこまでが本当かはわかったものではありませんが……」
さすがメディア。俺なんぞと違って配慮は完璧だな。
俺の出る幕がないのは悲しいけど……。
そ~いや、俺も桜達に根回しが必要なことがあったな。
『そうそう、昨日、いや今日か、それはともかく寝る前にセイバーの写真を撮ったぞ』
弓塚には話せない内容だったので、俺はライン経由で桜、メディア、メデューサに話しかけた。
『セイバーさんの写真ですか?
確かに彼女も美人ですから、兄さんが撮影対象にしたがるのはわかりますけど、それがどうかしましたか?』
『それでだな。俺の持っている情報を一部提供する代わりに、セイバーのヌード写真の許可をもらったんだ』
俺の言葉が予想外だったのだろう。桜は驚愕の声を上げた。
『え、ええ~! 兄さん、一体何を考えているんですか!!』
『いや、普通の服装での撮影許可はもらえたんでね。
調子に乗って、ヌード写真もだめか聞いてみたんだ。
そしたら、意外とあっさりと許可をもらえてね。
そのまま撮影したまでだ』
『本当ですか?』
桜の声はものすごく冷たかった。
俺ってそんなに信用ないのか?
『おう、(気合入れて説得したことは省いたが)一切嘘は言ってないぞ。
メディアも証人だ』
『慎二の言葉に嘘はありません。
慎二が依頼したところ、セイバーが承諾したのは事実です』
幸いメディアは俺の言葉を肯定してくれた。
言葉がみょ~に白々しかったのは気のせいだと思いたい。
うん、きっと気のせいだ。
『そうですか。……ちょっと引っかかりますけど、セイバーさんが承諾したのならば、私がとやかく言うことではないですね。
でも、それがどうしたんですか?』
『ああ、通常の写真撮影についてはともかく、ヌード撮影については桜達以外には話さないほうがいい、って話したんだが、どうも俺って信用がないのか、あまり信じてもらえていないようなんだ。
この件については、桜からもしっかり念を押しといてくれないか?』
『それは構いません。だけど、そもそも他人に話されては困るようなことは、最初からやらなければよかったんじゃないですか?』
俺の頼みを聞いて、桜は戸惑いながらも承諾してくれたが、痛いところを突いてきた。
承諾してくれたのは、メディアとメデューサも援護射撃をしてくれたのが効いたようだが、さてどう答えるべきか……
本音を言えば、『俺の欲望のなせるわざです』となるのだが、さすがにそれは言えないし、そうなると……
『すまん、『許可してくれたら儲けもの』程度の考えで頼んだら、あっさりOKもらって舞い上がっていた。
事後処理については何にも考えてなかった』
これはほとんど事実だ。
事後処理でここまで手こずるとは想像していなかった。
というか、セイバーが写真撮影に同意しといて、ここまで俺のことを警戒するとは思わなかったなぁ。
セイバーの観察力を俺が舐めていたと言うべきか、セイバーの観察力を褒めるべきか。
俺の予想通りなどいくはずもなかったか。
やれやれ、俺もまだまだ甘すぎたか。
『仕方ありませんね、兄さん。
もうこういうことは避けてくださいよ』
『ありがとう、助かるよ』
うん、セイバーに余計なちょっかいをかけるのは控えておこう。
これ以上やると裏目に出まくりそうな気がする。
あくまでもこれ以上は控えるだけで、ヌード写真撮影は継続するがな。
もちろん、セイバー相手ならともかく、それ以外の人には遠慮するつもりはないぞ。
くっくっく、俺は引くべきときは引くが、それ以外は遠慮するつもりはないのだ。
俺のモットーは『反省すれども後悔せず』、時には『自覚すれども反省せず』ということもあるが、まあ限界を見極めるのはそれなりに得意なのだ。
ぎりぎりのラインを見極めた上でやりたい放題やってみせよう。
まっ、どうせ俺のことだから、ぎりぎりのラインの見極めをしくじって何かトラブルになるかもしれんが、それはそれで面白い。
『ただし、確認したいことがあります』
ぎくっ!
好き勝手なことを考えていると、桜は厳しい声で言ってきた。
『な、何だ?』
『その撮ったヌード写真はどうするつもりなですか?』
『どうするって、桜の写真同様、俺のコレクションにするだけだ。
……ああ、部外者には一切見せるつもりはないぞ。
見せるとしても、桜、メディア、メデューサ、あとはアルクェイドさんぐらいかな?
もちろん、セイバーの許可をもらったら、だぞ』
桜の奴、これをばら撒くことを心配したのか?
ああ! 衛宮に見せることで、衛宮がセイバーを意識させるのを避けたかったのか!!
『それならいいです。
くれぐれも、他の方に見せないでくださいね。
もし、見せるようなら、……』
怖かった。桜は具体的には何も言わなかったが、ものすごく怖かった。
俺は当然ながら、命に代えてもセイバーの許可をとらずに他人に見せることがないことを確約し、何とかその場は収まった。
「おはよ~。いや~、寝坊しちゃった寝坊しちゃった」
静かに朝食を食べていると、すっかり存在を忘れていたタイガーがいきなりやってきた。
「桜ちゃん、ごはんっ、お願い!」
タイガーはそう言うと、いつもの場所に正座した。
「おはようございます、藤村先生。
今ごはんをよそいますから、ちょっと待っててくださいね」
「おはよう、藤村先生」
「おはよう、タイガ」
「おはようございます、大河」
タイガーは俺達の挨拶を聞きつつも、すでに心は朝食へ飛んでいるようだった。
「はい、どうぞ先生。大したものではありませんけど、召し上がってください」
桜もそんなタイガーは慣れているので、笑顔でご飯をよそったお茶碗を渡した。
タイガーは桜から茶碗を受け取ると、首を傾げてた後、初めて衛宮の不在に気づいたらしく質問してきた。
「あれ~、士郎はどうしたの?
寝坊なんて珍しいわね」
「ああ、あいつ今日は体調が悪いらしいぞ。
学校は休むことになるんじゃないか?」
「あ、そうなの。士郎にしては珍しいわね」
ふむ、あいつはめったに病気にならなかったのか?
まさか、『馬鹿は風邪を引かない』とかそういうわけじゃあるまいし。
「そっか~、士郎は病気なのか~」
なるほど、と納得してご飯をほおばるタイガー。
「って、士郎は大丈夫なの!!」
一瞬びびったが、タイガーは大声で言っただけで、ちゃぶ台返しをするなどのタイガー暴走状態にはならなかった。
「大丈夫だろ。おそらくは午後まで寝てれば回復するんじゃないか?」
俺はメディアに視線を飛ばすと、メディアも頷いて答えた。
「そうですね。ご安心を、大河。
私が見たところ、遅くとも夕方には完治しているでしょう」
「そ、そう? キャスターさんがそう言うのなら大丈夫ね。
全く、士郎のくせに、心配かけるんじゃないわよ」
メディアの言葉には信頼があったらしく、タイガーはあっさりと納得した。
その後は特にトラブルもなかったが、そろそろタイガーをどうするか本気で考えないとなぁ。
というか、セイバーがすでに下宿していると教えたら、間違いなくまた大騒ぎになるよな。
まっいいや、衛宮のお手並み拝見といこう。
なお、タイガーは「遅刻しちゃう~」とか言って、衛宮の部屋へ顔を出さずにそのままダッシュで去っていった。
まあ、おかげでセイバーの存在に気づくことは無かったので助かったのだが、やっぱりあいつの思考パターンは謎だ。
さすがの俺も、タイガーにはちょっかいをかける気にもならんな。
朝食を食べ終え、俺と桜は衛宮の状況を見に寝室へ向かった。
そこには、上半身を起こしセイバーと笑顔で話している衛宮がいた。
どうやら、セイバーと楽しく会話しながら食事を取ったらしい。うらやましい奴だ。
それを見た桜は、眉が危険な角度を形成している。
「二人っきりの食事をお楽しみのところ邪魔して悪いが、具合はどうだ?」
俺の多分にからかいを込めた台詞に、衛宮は見事に顔が真っ赤になった。
「なっ、お楽しみって何だ?!」
「何に言ってやがる。笑顔で楽しげに話していただろうが。
まっ、その追求は後でじっくりたっぷりするとして、具合はどうなんだ?」
「後でって何だよ。……体調は体がだるいだけだ。
さっきキャスターにも聞いたけど、セイバーを召喚した後遺症なんだってな。
魔力の結構回復しているし、そのうち体調も良くなると思う」
「そうか。まあ、桜ほどじゃないがお前の魔力も多いからな。
遅くとも今日中には回復するだろうな。
ただし、体調が回復しても勝手に出歩くなよ」
「なんでさ?」
俺の忠告に対し、衛宮はものすごく不思議そうな顔をして質問した。
「おいおい、分かってるのか?
お前が最後のサーヴァントを召喚した時点で正式に聖杯戦争は始まったんだ。
そして、お前は魔力を隠しているとはいえ令呪を持っている。
他のマスターに会ったならすぐに殺されるぞ」
「そんなことは大丈夫です。
私が同行すれば、そのようなことは絶対にありえない」
俺の意見に対し、セイバーは速攻で否定したが、その認識は甘すぎる。
やはりセイバーは、自信がありすぎて過信になりかけている。
『コーンウォールの猪』と呼ばれるのは伊達じゃないんだなぁ。
「あ~、セイバーだけなら大丈夫かもしれないな。
だけど、まだ衛宮の能力と性格を把握したわけじゃないだろ?
衛宮はセイバーの力を、セイバーは衛宮の力を知らない以上、せめて今日一日ぐらいはお互いの戦力、戦闘パターン、特技などの情報交換をするべきだと俺は思う。
パートナーの戦力、能力、性格をある程度把握してから戦闘に望む。
これは戦術の基本だろ?」
「むっ!」
俺の正論に対して反論の内容が思いつかなかったのか、セイバーは悔しげに黙りこんだ。
「おまけに衛宮は聖杯戦争について、俺達が教えたことしか知らない。
もちろん、裏の情報はかなりのレベルだと思うが、表向きの情報は欠けてるところが多いと思う。
監視役なり関係者なりと渡りをつけて、最低限情報収集することも必要だろう?」
「そうだな。慎二を信用しないわけじゃないけど、確かに他の人からも情報を教えてもらった方がいいな。
それに慎二の言うことが正しいなら、今回の聖杯戦争は無意味だ。
相手が納得して戦わなくて済むかどうかはわからないけど、他のマスターとも話してみたい」
まあ、衛宮ならそう考えるか。
となると、証明するのはアンリマユ入りの大聖杯を見せるのが早いんだが、……セイバー、衛宮、遠坂、アーチャーなら見せても良いか。
当然、遠坂には教える代わりに魔術協会にも口外無用という契約を結ぶ必要があるが。
イリヤは話してみる価値はあると思うが、衛宮が説得したとしても納得してくれるかなぁ?
言峰じゃないが、魔術協会に大聖杯を調査されると色々と面倒だから、バゼットはパス。
言峰、ギルガメッシュ、臓硯は存在も知っているし、どうやっても敵にしかならないから抹殺は変わらない。
「オーケー。じゃあ、俺が遠坂と話す機会を作ってやる。
ただし、俺と桜、キャスターとライダーに関する全情報、ならびに俺が教えたということは内緒にしろよ。
あっ、もちろん橙子さんや式たちの情報も一切内緒だからな」
念を押しておかないと、こいつはいともあっさりと遠坂に俺達のことをばらしかねんからな。
「分かった。それ以外の情報は遠坂に話してもいいんだな?」
「それは構わない。
ただし、信用してくれるかどうかはかなり疑問だぞ?
まあ、お前にも見せる予定の大聖杯を見せれば、ある程度は納得するかもしれないが」
ただ、あいつの目標は聖杯ではなく聖杯戦争に勝つことだからなぁ。
アンリマユのことについて納得しても、停戦に同意するかはものすごく疑問なんだよなぁ。
「遠坂、というのは、昨日聞いたマスターの一人のことですか?」
今まで黙り込んでいたセイバーが、ここで質問してきた。
「ああ、そうだ。遠坂はサーヴァントを召喚したと考えて間違いないと思う」
「ついでに言うと、遠坂凛は俺と衛宮と同じ学校の同級生だ。
衛宮と遠坂はそれほど親しいわけじゃないが、顔見知りではある。
ただし、魔術師としてではなく、同級生として、だけどな」
桜の実の姉であることは、言う必要はないだろう。
これは、桜か遠坂が言うべきことで、俺が関与するべきことではない。
「『魔術師としてではなく』とは、まさかお互い魔術師だということを知らなかったのですか?」
セイバーが驚いて質問してきた。
「ああ、そうだ。
俺は魔力感知能力が低くてさ、慎二に教わるまでは遠坂が魔術師だって事、全く気づかなかったんだ」
「ついでに言えば、俺達の師匠である橙子さんが魔術回路を開くまで、衛宮は魔術回路を1本しか開いていなかったからな。
魔力量が微弱すぎて、遠坂は衛宮が魔術師だと気づかなかった。
魔術回路を全開にした後は、魔力殺しのおかげでばれなかったみたいだな」
「なるほど。そのような状態でしたら、お互い魔術師だと気づかないことはありえますね。
では、慎二達はどうなのですか?」
「そっちはもっと簡単。お互い、聖杯戦争御三家だからな。
ある程度の関わりはあったが、何せ間桐家は衰退の一途。
桜は例外だが、それでもつい最近まではとある事情でまともな魔力を持っていなかったし、俺にいたっては魔術回路が一本も開いていなかった。
師匠のおかげでこれらの問題を解決した後は、魔力蓄積のブレスレットに魔力を溜めるか、サーヴァントにほとんどの魔力を送っていた。
そのおかげで、遠坂は桜を見習い魔術師、俺のことは唯の一般人だと思っているはずだ」
うん、そのはずだ。遠坂はドジ属性があるから、おそらくはしばらく気づかないだろう。
問題は、アーチャーがどこまで気づくか、だな。
「そうでしたか。……分かりました。シロウがそう言うのでしたら、遠坂というマスターと会いましょう。
しかし、敵対するようなら容赦しませんし、もし慎二が罠に掛けようとするならば!」
「分かっている。そんな自殺行為をするつもりはないが、そのときは好きにすればいい」
こうして、セイバーも納得してくれたようだ。
「そういうわけで、衛宮。お前は今日、外出禁止だ。
おそらく遠坂は、今日サーヴァントを連れて冬木市の偵察&戦場調査をするはずだからな。
ばったり顔を会わせて、そのまま戦闘突入ってのはいやだろう?」
「ああ、確かにそれは避けたいな」
「もちろん、俺や桜と同様、人工皮膚と魔術で令呪を隠せばお前がマスターであることは隠せるが、キャスターを信用していないセイバーが許可するはずもないし……」
そう言ってセイバーを見ると、『当然です』と言わんばかりの表情で頷いた。
「さらに言えば、セイバーが霊体になってもサーヴァントの気配を隠せないと、他のサーヴァントに存在がばれちまう」
「そうなのか?」
衛宮は俺の言葉を確認するため、セイバーに尋ねた。
「その通りです。残念ながら私は、サーヴァントの気配を隠せるような能力や魔術は身に付けていません。
また、他のサーヴァントと異なり、私は霊体化することもできません」
おお、セイバーが自分から霊体化できないことを白状したぞ。
もっとも、俺達を信用したから話したわけではなく、長時間一緒に行動していれば嫌でもばれると判断したから教えただけなんだろうな。
「そうなんだ。分かった、今日は大人しく家にいるさ」
「そうしてろ。桜、ライダー、弓塚がいるから攻め込まれても大丈夫だろう。
体調が回復したら、セイバーと模擬戦闘でもしてお互いの実力を試して、ついでに鍛えてもらえ」
「もちろんだ。俺は足手まといになるつもりはないからな」
そういうわけで、桜とメデューサと弓塚、そしてセイバーと衛宮を残し、俺とメディアは登校した。
衛宮の奴、ハーレム状態だな。
まあ、そんなこと考える間もなく、セイバーにしごかれる羽目になるだろう。
俺が帰ってきたときに、無事に生きていろよ~。
セイバーは、ライダーやキャスターが衛宮の師匠だと知って、ライバル心持ってるみたいだからな~。
やり過ぎないといいけど。
――まっ、衛宮なら死ぬことだけはないか。
生ける屍になってるかもしれないけど……。
桜がいるから、フルアーマーダブルセイバーが召喚されることだけはないだろうし。
よく晴れて日差しは強いが肌を刺す冷たい空気の中、俺とメディアは久々に二人きりで歩いた。
例によってメディアは、気配を消す結界を張っているので存在はばれないし、例えメディアの存在を知っているランサーが襲ってきても瞬間移動で戻れば良いので敵襲の心配はあまりない。
いや、ルーン魔術を使って気配遮断できるランサーと気配遮断のスキルを持つ真アサシン相手だと危険だが、その場合でもメディアが張ってくれたらしい防御用の結界があるので、時間稼ぎ程度ならできるらしい。
防御結界が時間稼ぎをしている間に、瞬間移動で逃げれば何とかなるだろう。
俺もメディアも自分達の実力は把握している。
今サーヴァントに襲われたら逃げる以外の選択肢はないことは理解しているので、逃げる事に躊躇いはない。
問題は、宝具の真名解放だが、これを気にしていたらきりが無い。
まあ、ランサーも真アサシンも宝具の真名解放は距離があると効果がなくなる(と思われる)ので、姿を見つけた瞬間にできるだけ距離を取るしかないだろうなぁ。
つ~か、まさか真アサシンは霊体化したまま宝具の真名解放ができるとか言わないよな。
それをされると、半端でなく厄介だぞ。
ギルガメッシュに関しては、……宝具を駆使されれば何でもありのやつだからな。
目撃した瞬間にダッシュで逃げるしか手はないから、考えてもしかたないな。
『メディア、セイバーのことどう思う?』
昨日は結局写真撮影のことしか話さなかったので、ちょうどいい機会だとメディアに聞いてみた。
『そうですね。慎二の記憶から大体は把握していたつもりでしたが、予想以上でした。
可愛い外見と外見からは想像もできないとてつもない力を併せ持つ、まさに最強のサーヴァントですね。
もっとも、自信が過ぎて過信まで行ってる部分がありますので、間違いなく搦め手には弱いでしょう。
今の私が本気になれば、まな板の鯉、といったところですね』
そう言ったメディアの言葉は自信満々だった。
それにしても、やっぱりセイバーってメディアの好みなのな。
世間知らずのセイバー騙して、ゴスロリの格好をさせるんだろうか?
いや、撮影対象としては、そういう格好もぜひ撮りたいとは思うけど。
『それって、マスターである衛宮を狙えばってことか?』
『それが一番簡単ですが、一対一でセイバーと戦っても勝つ自信はあります。
もっとも、衛宮の投影宝具を駆使すれば、の話ですからフェアではありませんけどね』
なるほどな、投影ルールブレイカーやら、投影ハルペーとかを大量に使えば、メディアでも勝ち目があるわけか。
『ずるい、卑怯は敗者のたわ言』というのが俺のモットーである以上、フェアでなくても勝てればそれで十分だ。
『そういえば、使い魔の鷹はどうしたんだ?
家にはいなかったみたいだけど』
『はい、あの子はまだ生まれたばかりですので、魔力が大量に満ちている柳洞寺でアルと一緒にお留守番です。
もう少し成長したら、柳洞寺の外でも問題なく行動できるようになるでしょう』
なるほど。いくら幻想種とはいえ生まれたばかりだったな。そういえば。
早く実力をつけ、俺達の助けとなる日を楽しみに待っていよう。
途中のポストに、恒例の橙子へ提出する報告書を投函した後、俺達は学校に到着した。
ちなみに今日の朝練はさぼった。
やっぱし色々と考えたいこともあるからな。
俺はぼ~っと、授業の内容を聞き流しながら、サーヴァントのパラメータデータのイメージを呼び出した。
そこには今までに俺が出会った、キャスター、ライダー、セイバー、ランサー、真アサシン、のデータ(の一部)が表示されている。
セイバーのパラメータは、筋力:A、耐久:B、敏捷:B、魔力:A、幸運:A、宝具:A++、対魔力:A、騎乗:B。
保有スキルは、直感:A、魔力放出:A、カリスマ:B、か。
パラメータシートには載っていないが、蘇生魔術が使える、と。
今回衛宮はきちんとした手順で召喚したので、ラインも通じているし、幸運以外のパラメータも凛がマスターの時のセイバーと同じランクになっている。
これに対抗できるのは、ギルガメッシュかバーサーカーだけだなぁ。
さらに、投影カリバーンとアヴァロンまで加わったらまさに最強。
もっとも、衛宮の体内からアヴァロンを出すと不死身の体じゃなくなるから、アヴァロンを衛宮の体内に残しつつ投影アヴァロンをセイバーに渡すのが理想だな。
おお、そうだ。衛宮の奴がセイバーの夢を見ていれば、アーサー王伝説にある名槍ロンや短剣カルンウェナンを投影させるのも可能か。
セイバーは騎士王なんだから、剣術に匹敵するぐらい槍術も得意だろう。
まあ、得意なのは馬上槍術かもしれないが、通常の槍術もそれなりには使えるとは思う。
弓も当然扱っていただろうけど、伝説に名を残すような弓は使っていなかったようだし、あまり意味ないか。
聖母マリアの姿が描かれているという盾プライウェンも欲しいところだが、防具だから投影するのは無理だろうなぁ。
残念だ、結構強力そうな盾なのに。
う~む、衛宮の投影魔術があれば、フル装備セイバーが誕生するな、こりゃ。
エクスカリバーほど威力はなくても、戦闘において複数の武器が使えれば、色々と便利だろう。
ないのは、盾プライウェンと名馬ドゥン・スタリオンぐらいか。
そうだ。夢に『湖の騎士』ランスロットが登場していれば、アロンダイトも投影できるかもしれんな。
親友の弟を切った剣だが、優れた剣であり刃こぼれもしないらしいから、それなりにランクの高い剣なのだろうし、何かに使えるかもしれない。
んで、こっちの戦力は、と。
メディアのパラメータは、筋力:D、耐久:C、敏捷:B、魔力:A++、幸運:B、宝具:C、陣地作成:A、道具作成:A。
保有スキルは、高速神言:A、金羊の皮:EX。
あとは、多種多様な魔術が使用でき、ランクA(おそらくはランクA+)の魔術さえ吸収可能、と。
メディアの能力が、Fateより向上したのは嬉しい誤算だったよな。
もっとも、魔術師でないオリジナル間桐慎二がマスターだったメデューサや、衛宮士郎とまともなラインが繋がっていなかったセイバーが能力ダウンしていたのだから、魔術師でない葛木宗一郎がマスターのメディアも能力がダウンしている可能性を、最初から考えておくべきだった。
いや、妙にメディアの能力が低い気はしたんだが、『魔力が高いかわりに後の能力値は低いのか』と思考停止してたんだよな。
さて、対魔力:Aのセイバーに対し、魔力:A+の魔術は無効だったわけだが、魔力:A++ならどうなんだろうな?
まあ、セイバーについては、いざとなればルールブレイカーがあるからいいんだけど、問題はギルガメッシュだよなぁ。
金色の鎧まで装着していた時は、イリヤの魔術を完全に反射させる鏡のような盾が自動的に発動したみたいだし、遠坂がランクAの宝石で発動した破壊の衝撃も私服姿のまま何もしない状態でキャンセルしたしなぁ。
いくらA++とはいえ、メディアの魔術は通用するのだろうか?
あ~、無理だと思った方が賢明か。
メデューサや、(味方なら)セイバーのフォローをする方が無難だな。
よし、次。
メデューサのパラメータは、筋力:B(短時間ならA)、耐久:D、敏捷:A、魔力:B、幸運:C、宝具:A+、対魔力:B、騎乗A+。
保有スキルは、魔眼:A+、単独行動:C、怪力:B、神性:E-。
あとは、多少の結界魔術が使えるのと、ランクA(対魔力はA+)のペガサスがいる、と。
マスターが桜だからパラメータは本来のものだろうが、幸運だけはEからCへ高くなっている。
おそらくは、マスターである桜がマキリの後継者という呪縛から解放された影響だな。
マスターの変化が、サーヴァントのパラメータにも現れているのだろう。
なんというか、セイバーといい、メディアといい、幸運のパラメータだけはマスターによって大きく変動するのな。
……ふ~む、やはり耐久さえ強ければ、セイバーとガチンコ勝負もできるよなぁ。
とはいえ、いくらメディアでもライダーの体を強化するのは無理だろうから、今のライダーが装備している戦闘服と同等以上の動きやすさで、より防御力の強い戦闘服が作れないものか相談してみよう。
メデューサの売りは変幻自在な動きだから、余計な部分鎧なんて付けてしまうと逆に戦闘力がダウンしかねないしなぁ。
後はどこでペガサスを使うかだが、周りの被害を考えると、川辺、柳洞寺、アインツベルンの森しかないか。
対セイバー戦のように屋上で使うってのもありだが、宝具の真名解放をした日にはビルごと破壊しかねない。
エクスカリバー以上に使う場所を選ぶなぁ、これ。
いや、存在がばれた時点で移動手段と割り切って使えばいいか。速い、強い、カッコいいと三拍子揃った素晴らしい存在だし。
さて、問題は彼女達のエネルギー源である魔力だよな。
メディアとメデューサは俺との性行為、ならびに俺と桜の魔力を溜め込んでいるし、さらには柳洞寺に溜めている魔力もあるからよっぽどのことがない限り魔力切れはないだろう。
問題は衛宮だよな。メディアに聞いたところ、現時点ですでにあいつの魔力量は270MPぐらいあるらしい。(一般的な魔術師:25MP)
普通の魔術師と比較すれば十分以上に魔力はあるのだが、セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)のマスターとして考えるとこれでは全然足りない。
いや、魔力の生成量が多ければ、セイバーに魔力を溜め込んでもらえば何とかなるか?
確か遠坂は、翌日の朝の時点で魔力の半分以上をアーチャーに持っていかれたと言っていた。
衛宮曰く、普段の遠坂も魔力量は400MP程度とか言っていたから、いやサーヴァント召喚のため魔力をそれなりに貯めていたに違いないから、500MPの半分以上、つまり約300MPということだろう。
ん、ちょっと待て、その後『魔力が戻るまで一日』とか言っていなかったか?
ってことは、一日で300MP、つまり最大出力の3割を一日で回復できるってことか。こりゃすごい。
そういえば、俺はメディアから使い切れないほどの魔力をもらってるし、桜は俺から性行為で大量の魔力を供給しているせいもあって、あんまり生成量について考えていなかったなぁ。
『メディア、ちょっといいか?』
『何ですか、慎二?』
メディアは暇だったのか、すぐに回答が来た。
『ああ、桜と衛宮だけどさ、二人の一日当たりの魔力生成量を知っているか?』
『ええ、もちろんです。
その件については、すでに調査済みです。
もっとも、桜に関してはライン経由で調べましたので詳細なデータがありますが、衛宮は外部から観察した結果ですので、大体のところしか分かりませんが……』
『それで構わないから教えてくれ』
う~む、最近俺が依頼→メディアが遂行、ではなく、俺が聞く→メディアが答える、というパターンが出来つつあるなぁ。
あ~、もしかして俺って要らなくなりつつある?
そんな俺の考えをメディアの一言が吹き飛ばした。
『それでは、桜は一日で8割近く、士郎は大体9割ぐらい回復しますね。
あっ、ちなみに慎二は1割弱です』
『何だそりゃ~!!』
何で二人ともそんなに!
いや、それ以前に俺の魔力生成量の少なさは何なんだ!!
『何だ、と言われても、今までの経験の差としか言えませんね』
俺の驚きに対し、メディアはどこまでクールな対応だった。
『経験の差?』
『はい、魔術回路を鍛えていけば魔力量が多くなるのと同じく、魔力生成量もまた鍛えることでその量は多くなります』
なるほど。それなら、桜の魔力生成量が多い理由は簡単に説明が付く。
魔力が切れた瞬間、体内の刻印虫が暴走してしまうため、桜の魔術回路は常に限界ぎりぎりまで魔力を作り出していた。
それは魔力の最大量のみならず、生成量までも向上させていたわけか。
最初に予想した桜の生成量は少なすぎたわけだ。
いや、もの凄い量の魔力を蟲が喰っていたわけか。
で、自殺行為にも等しい、衛宮の魔術回路を毎日作り直す訓練も同様だった、と。
その結果、遠坂をも上回る魔力生成量を手に入れたわけ、か。
今まで積み重ねた経験と苦痛の成果が、今の状況なんだから当然といえば当然だと言えるが、やっぱりものすごく悔しい。
まあいい。これなら衛宮の魔力量でも結構セイバーは戦えそうだ。
しかし、それはイコールで『セイバーが魔力不足で俺達に頼る可能性が減る』ということになるが……、仕方ないか。
元々その確率は低かったわけだし、それほど期待していたわけではない。
後はマスター自身の能力だが、俺と桜が戦力外なのはもうはっきりと認識している。
俺は既に、対マスター戦ですら時間稼ぎ程度しかできないとはっきり悟っている。
いや、確かにメディアによって強化された体、投影宝具、メディア製魔術具はあるが、所詮戦闘は素人。
いくら橙子の教育を受けたといっても、所詮は付け刃。
他のマスターに勝つのは難しいだろう。
おそらくは、桜も似たようなものだと思う。
勝てる可能性がある相手は、……ランクAの宝石を使い果たした遠坂、だけか!?
あのクソジジイ相手でも、蟲の数に物を言わせて攻め込まれたら対抗できるか疑問だしなぁ。
衛宮だけはサーヴァント相手に勝つことは難しくても、時間稼ぎレベルは何とかなるだろう。
さて、問題は衛宮と遠坂の関係だが、……桜の体内にいた刻印虫は完全に殲滅したから、桜ルートになることはありえない。
……となると俺達が余計な干渉をしなければ、当然セイバールートか凛ルートのどっちか、あるいはどっちかに近い展開、ということになる。
そして、衛宮はセイバーと一緒でも危なっかしいところがある。
となると、遠坂が衛宮邸に泊まるセイバールートの流れの方がいいかな?
セイバールートの流れに持ち込むためには、衛宮と遠坂が出会ったときに、セイバーにアーチャーを重傷にしつつ、止めは刺さない程度負傷させれば良いだろう。
といっても、思いっきり余計な干渉をしまくった挙句、ここまでシナリオを俺でも予想できないぐらいぐちゃぐちゃにしてしまったので、いまさらセイバールートか凛ルートに準拠した展開になるか、ものすごく不安である。
まあいいさ。未来は分からない方が面白い。
明日、衛宮を遠坂に会わせて何が起きるか、特等席で見物させてもらおう。
思いついたことがあったので、メディアに頼んで監視網に引っかかった遠坂の姿をライン経由で見せてもらった。
というか、メディアは俺からこういう要求が来るのが分かっていたのか、メディアのライン経由ながら、俺の意志で俺がオーバーフローしないように監視網を利用できるように改造してくれたらしい。
俺は自由自在に、好きな方向、好きな場所から遠坂を監視することが出来た。
一瞬、下側から遠坂のスカートの内側を見ようかとも思ったが、『これだけ強大な魔術を使ってやっているのは覗き』というのがさすがに悲しかったので、結局辞めた。
まあ、下側から見ても俺の感覚としては絵的につまらなかったと言うのは否定しない。
やっぱり見るなら、下着姿とか、入浴シーンとか、ヌードだよなぁ。
Fateと同じく、時々独り言を言いながら、町中を歩き回る遠坂の姿が見えた。
どうやら、アーチャーに街を案内しているようだ。
さすがのメディアンの監視網でも、霊体化したサーヴァントを見ることはできない。
いや、特別な処理を施せば簡単に見えるのかもしれないが、今は必要ないのでこのままで十分だ。
そして俺の見る限り、メディアが監視していることに遠坂は気づいていないように見える。
メディアの監視網って、完璧なストーキングにも利用できるんだな。
さすがに、どんなに微弱でも結界が張られていると侵入できないが、それでも十分だ。
昔、ザンヤルマの剣の探査能力を欲しいとか思っていたけど、まさかこうやって叶う日が来るとは、感動だ。
遠坂の散歩をずっと見ているのも飽きたので、メディアに後の遠坂の監視を頼み、俺は他の景色を見ることにした。
その後、適当に街を色々な場所を見回った後、監視網との接続を切り、俺は授業に意識を戻した。
1月23日(水) 午前 終
設定
・セイバーの状況
into gameにおいては、セイバーと衛宮のレイラインはしっかりと結ばれており、そのためセイバーは食事も睡眠も特に必要ない。
セイバーが食事をとるのは、純粋にセイバーの趣味。
・魔術の糸による探査網 構築者:メディア 利用可能者:メディア、間桐慎二、間桐桜
町中に張った魔力の糸による目で戦況を把握する。
魔力やサーヴァントの気配を完全の隠せる相手の場合、効果が無い。そのため、気配遮断が使えるアサシンとか、魔力を隠蔽できる一流の魔術師の位置は分からない。
ただし一度会った相手の場合、魔術で光学的に隠蔽するか、霊体化していなければ、発見可能。
Fateのプロローグにおいて、遠坂凛が自分を監視するマスターを探すため、短時間だが魔術の糸による探査網を公園内に展開している。その際、監視者は公園外にいたらしく発見することはできなかった。町中、かつ継続して魔術の糸を展開できるのは、メディアの魔術レベルの高さによる。
監視網に改良を加え、メディアとラインが繋がっている間桐慎二、間桐桜もライン経由でオーバーフローしないレベルで監視網を利用することが可能。
後書き
え~と、セイバーが慎二の毒牙にかけられないか心配されている方が多いようですね。
本編を読んだ通りです、ご安心ください。と言っていいのかな?
現時点でセイバーは自分を女だと認めていませんから、魔力供給のためとはいえ慎二とそういうことをする気は皆無ですし、いずれ自分のことを女だと認めるようになっても、慎二がセイバーにとって『そういう関係になってもいい相手』だと考えない限り、そういう行為には及びません。
慎二がセイバーにとって、そういう存在になるかについては……、まあ言わなくても結果は目に見えてますね。
勝ち目のないライバルもいますし。
可能性があるとすれば、セイバーが敵対しルールブレイカーで令呪を奪われてメディアのサーヴァントになった時、メディアと桜が許可した場合のみになります。
まあ、メディアはともかく、桜がそんなことを許可する可能性は絶対にないでしょう。
というわけで、聖杯戦争開始。ですが、当然遠坂凛はアーチャーと偵察に行っていますし、慎二による状況再確認、という感じですね。
本編にも書きましたけど、見習い魔術師である慎二とレイラインが繋がっていることにより、メディアが本来の能力を発揮できていることにしています。
設定とパラメータ的にはそれほど無茶じゃないとは思いますけど、どうですかね?
この考察は、「聖杯(大聖杯)とサーヴァント」に追加しました。
あ~あ、設定集がどんどん増えていくなぁ。(2005/1/10)
P.S.聖杯戦争も始まったので、新しいスレッドを作りました。