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[6058] 悪役エミヤ ― ダンボールの魔術師【士郎崩壊モノ】
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/12/14 01:00
プロローグ『トリーズナーシロウ』





煉獄……





そこはまさに煉獄だった。











でも、ぶっちゃけ原作通りなので略することとする。てへっ☆













俺の目が覚めたとき、そこにいたのはうさんくさいおっさんだった。


「やあ、目が覚めたね」


……知っている。見たことがある。

それは、あの地獄から俺を救い出してくれた笑顔であり、『助かってよかった』と、漆黒の太陽の照る中で、唯一白い太陽のように輝いていたモノであった。


「君の名前は?」

「シロウ」

覚えているのはそれだけだ。兄弟? 親? そんな記憶は無いが、その名前だけが脳のメモリーの奥底に、今にも削り取れそうなぎりぎりの状態で焼きついている。



「シロウ君か…」

と、そいつはうんうん、と頷いたあとで、

「シロウ君は、このまま丘の上の協会に保護されるのと、見知らぬおじさんと一緒に暮らすのだったら、どちらがいい?」

そう問いかけた。

「俺は……」

きっと、同じだろう。どちらに行ってももはや、何も残っていない自分にして見れは違いなど無い、と本能的に理解している。

なら、このおっさんが誰なのかを聞いてからでも遅くはあるまい…。

「…、おっさん、あんたは、誰だ?」

「んー、難しい質問だね、それは」

と、そいつは苦笑して見せた

「正義の味方…にはなれなかったし、そうだなぁ……」

しばらく答えを求めるように視線を中空に彷徨わせたあと、ぽんと手を打ち、笑った。

「通りすがりの、ただの魔法使いさ」

その笑顔は何かを吹っ切ったような顔で、そして喜びに満ちていて…

「シロウくん、僕の家に来るかい?」

その笑顔は、命を祝福する笑顔。―――心からの本音であることなど疑いようも無い。



俺は、その全てに慈悲を与えんと言わんばかりの笑顔をじっくりと認識した上で―――その感情が脳裏に染み渡り、純粋な喜びを知り……。





「チェンジ!」


ムカついたので断った。












「…そうか。なぜだい?」

当たり前だ。こいつは今、上から善意を俺に押し付けようとしている。

本当に善意だけなのか否かだなんて関係ない、何が慈悲だ、何が生きててくれてよかっただ、俺は俺だ。

何が起きたって、たとえ今まで生きていた全ての証拠が焼き尽くされようが腐り落ちようが、俺は俺以外のナニモノでもなく、俺自体は自立したひとつのモノだ。

「慈悲だぁ? 希望だぁ? そんなものはどうでもいい! 俺は俺であり続ける限り、俺の身内以外に頼るなんてこたぁしねぇ!」

「しかし……、君のご家族は既に…」

「なら、俺一人が責任負ゃーいい話だろうが」

唖然としたおっさんの顔がたまらねぇ!

「家族だなんだ、そんなものに支えられなくたって、俺にゃぁ足がある! なら立って、生きていけねえ筈ねぇだろうが!」

「いや、しかし……、それでは教会も……?」

「おうよ!」

くっくっく、あんだけ吹っ切った顔してたおっさんが慌てふためいているのを見るのは、またカクベツな思いだ。


それだけ言い捨てて、俺は走り出した。そう、走り出した先は自由―――、焼け落ち、ボロボロになった更地。



いうなれば、そこは期間限定の、冬樹に突如出現した無法地帯―――ロストグラウンドであった。






















つづく。できれば固有結界を書くまでは。














あとがき

今日、気がついたら友人に対して段ボールの素晴らしさについて熱弁していました。
そして私は言いました。「さあ、どれだけ段ボールが素晴らしいかわかったか~ぁ? わぁかっったら段ボールを崇めぇろぉ! 祭壇とか作って、毎日三回、生贄とか捧げて崇めろ!」「段ボールでローアイアス作ればきっと最強になれる!」と。

そんな中で受信した電波がこれです。三話ぐらいで完結するでしょう、恐らくは。たぶん。運がよければ。
途中かなり端折るとは思いますが、気にしないでください。

 ※嫌に適当な几帳面さ故に、あんまり飛ばせない性分なことに気づきました。適当に続きますので、どうかごにゅるり(粘性)とお楽しみください。


あと、書いてる途中で士郎くんの脳内声優が保志さんに変わってしまいました。不思議ですね。



[6058] プロローグ二話 『覚醒する初代・変態エミヤ』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/01/28 03:28




そこは、だんだんと狭まっている荒野の最後の場所だった。


そこに、御殿がひとつ、建っていた。

繰り返される風雨に腐り、死ぬ直前の肌色のような土気色の外壁は、それでもなお壁としての機能を残し、まだ肌寒い雨風を立派に遮断して、内部にぬくもりを与えていた。


しかし、その様はまるで……。

「まるで、己の状態も省みず、我が子を守ることだけに執着し続けた…、不器用な、父親のようだ…」

「衛宮サン、そうしたんスか? 早く崩しましょうよ」

あははなんでもないよ、と手をひらりひらりと振る衛宮なる男は、一言で言えば、枯れていた。

体つきは絞り込まれていてまだまだ現役と言った風なのだが、その雰囲気は、己の死期を悟った上でなお、周りに恵みを与え続ける老木にも似ていた。


青い、『冬平建設』と胸元にプリントされた作業着を着た衛宮切嗣が立っているのは、段ボールハウスの前である。


半年前の大火、その跡に残った更地に建てられた、もはやダンボール『ハウス』を超えてダンボール『御殿』と言ったほうが良いほどの巨大なダンボールの家―――外装は風雨によって痛んでいるものの、定期的に修復されているのか、半年も使いっぱなしという風には見えない。

あちこちに修復不能な建築物が乱立する中、復興が進み、区画整理がなされる中で最後に残った未整理区画……、ごくごく少数のものは『ファイナル・ロストグラウンド』と呼んだ、その場所―――その象徴がこのダンボール御殿であり、この御殿の排除によってようやく、深山町は復興の開始を高らかに宣言することとなるだろう。



「んじゃあ、さっさと片付けやすね? …ふんっ!」

ガタイの良い作業員が、気合を入れてダンボールの外壁を蹴りつける。


ぼふっ!


…しかし、音がするだけで、何の変化も無い。

そう、凹みすらしなかったのだ。

作業員は辟易した顔で、無駄に頑丈に作りやがって、などと愚痴をはく。

「これは、一旦中に入ってから崩したほうが、楽なんじゃないかな?」

「はぁ、確かにそーかもしれやせんね…」

と、ドーム状のダンボール御殿をぐるりと周ってみると、まるですだれのようにめくり上げられるようになっている、片方の紙面を外したダンボールでふたのされているトンネルが見つかった。



それでは、と、切嗣は中へとお邪魔することとした。

すだれをぺらりとめくると、トンネル状の道の先にこれまた更にすだれがある。それをめくれば、これまたすだれ。

またまためくる、すだれ。またまたまた、すだれ。すだれ。すだれ。

「すだれすだれすだれスダレスダレスダレスダレスダレスダレスダレ……」

「ちょ…衛宮サン!? そんなうわごとみたいにスダレスダレ言いながら一心不乱にめくらないでくださいよ!?」

「切って繋げるとか馬鹿らしいよね? これからはめくる時代だよ…」

「ちょ!? 何意味わかんないこと言っちゃってるんスか!? 衛宮さん? 衛宮サァァァァァァァァァァン!!??」

「ぐへ、ぐへへへへへへ……」







なお、これ以降衛宮切嗣はスカートめくりに目覚め、捕まってしばらくの間ムショの中で生活することになる。





そのときの犯人・衛宮切嗣の証言は、「ムシャクシャしてやった、めくれるなら何でも良かった。今は反省している」だったそうな…。









つづく




























あとがき

あれ? おっかしいですねぇ、士郎を拾うはずが、爺さんが新たな趣味に目覚めただけですかよ?
もともとかなり捨て鉢なので、まさにノリだけで書いております。トラハ板のもたいがいですが、こっちはもっとヒドいです。あちらは丁寧にカオス率を高めるようにしていますが、こっちは本当に捨て鉢、勢いだけです。
一応結末と、全く変わった士郎くんの心象風景くらいは根幹にありますけど…。



[6058] プロローグ三話『キャラとして軸がぶれている』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/01/28 15:37






もうどれほどめくっただろうか、もはや100を越えたところから数えていない……




ダンボールで作られた暗黒の繭……それを掻き分け、掻き分け、掻き分けて……。―――なお、このとき相棒だった作業員Aは既に呆れて帰っていた。

気も遠くなるほどめくったときに、ダンボールによって形成された暗黒の世界の中、急に光が灯った。



「よぉ……、お前も俺を笑いに来たのか……?」



そこにいたのは、少年だった。ガリガリにやせ細った、骨と黒ずんだ皮に、くすんだ赤毛の少年。

切嗣は、それを見て三重に驚いた。



「笑えよ……、この俺の、無様さをよぉ……」



ひとつは、この広大なダンボールの宮殿の主が、こんな年端も行かない子供であったこと。


ふたつめは、このダンボール御殿の主の顔に見覚えがあったこと。――そう、あのとき、大火災から拾い上げた命だ。そして、保護を嫌って一人、町へ飛び出していった少年……。



みっつめは、その変わりようだ。


別に肌そのものは黒ずんでいるわけではあるまい、あれは垢だ。


やせ細っているのも、冬という食べられるものの少ない状況であれば、別に異常は無かろう。


しかし、何よりも特徴的なのは―――眼だ。

その少年の瞳には以前のような、烈火のごとく燃え盛るヘリオスの輝きは無かった。
あるのは、摺りガラスのようににごった空虚な、光とも呼べないような、光……。

それは切嗣を、カットされたきらめくダイアモンドだったはずのものが気がついたら全て黒鉛に変わっていたかのような気分にさせた。



「笑いに来たんだろう? この無様な俺をよぅ……」

「僕は、笑いになんて来ていないよ」

返す切嗣の瞳は真摯な色を湛えていた。

「やあ、久しぶりだね、シロウくん?」

「あん? なんでアンタ、唯一残った俺の……」

と、しばらく黙考して、

「ああ、あの魔法使いサンかよ」

得心が行ったとばかりに皮肉げに哂った。

「そうかい。あんたは、あのとき自分の慈悲を受けていればよかったのに、と哂いに来たって寸法か」

「違う」

フンッ、とシロウは切嗣を笑い飛ばした。

「ああ、さぞかし気持ちがいいだろうな? 自分の着せようとした恩を蹴った相手を、上から見下ろすのはよう……」

「違う」

シロウの瞳が、囲炉裏のように中央に掘られた穴に立てられた蝋燭の炎に像を結ぶ。

「見下ろして、馬鹿なヤツだと蔑んで……」

「違う」

「笑えよ。同情なんて邪魔なんだよ! 同情なんて要らない、受ける価値も無い。これが俺の望んだ結末なんだからよぉ……」

「違う!」

と、切嗣は怒鳴りながら立ち上がった。低すぎるダンボールの天井に後頭部をぶつけてまた地面に倒れた。


中腰になりながら、微笑みを浮かべて、切嗣は言った。

「さあ、帰ろう? 僕らの家へ」

「……もう一度、慈悲を与えるってか?」

まだ、あの太陽の輝きに達したとはいえないものの、瞳という炉心に火を灯し、シロウは差し伸べられた手を睨みつけた。

「俺はいかねえ、慈悲なんていらねえ、情けなんていらねえんだよ…」

「慈悲でも情けでもない」

衛宮切嗣はきっぱりと、撥ね付けるシロウの言葉を切り捨てた。

「僕がやりたいから、助けたいから、あの煉獄を作り出した一人として、生きていることに感謝したから、きみを家に連れて帰って育てたいだけだ」

そう、それこそが究極の魔法。

助けたいという願いを、強引にでも押し通すための魔法、その名も…………



 開き直り、だ。



「もし、俺が断るって言ったら、どうするよ?」

「首に縄をつけてでも連れて行く」

と、挑戦的な瞳が切嗣を射抜くものの、飄々と受け流す。

「ついていってすぐ、家出してやったら、最初に逆戻りだ。そうしたらどうする?」

「地の果てまで追いかけてでも連れ戻す」

そこに、迷いなど無かった。

「もしてめえが俺を育てても、恩なんざ感じねえぜ? いくらでもてめえに背くし、いくらでも反逆する」

「ああ、かまわない。だって僕が言い出したことなんだから」

何なら、背中からグッサリといってもかまわないよ? とおどけてみせた。

「本気か?」

「本気だ」

「俺は、本気でてめえを背後から襲うぞ?」

「それで僕を倒せるものなら、やってみるといい」

「………」

シロウは沈黙した。
恩と思わないでいい、ただの自分勝手だと断言し、背中を刺すとまで宣言されてなお実行しようとするこの男に言うべき言葉が、もはや何も見つからなかったからだ。

「……わーったよ、着いていってやろうじゃないか」

ふふ、と、そんな悪態をつきながらも立ちあがろうとするシロウを優しい瞳で見つめながら、その右手を取って引き上げる。

「……、まずは、こいつから逃れられたらなぁッ!!」

と、立ち上がる寸前にシロウは蝋燭を地面から引き抜き、ダンボールのすだれで作られた入り口向けて放り投げた。


乾燥しがちだったこのところの空気でそのすだれは、ぱりっぱりに乾いた状況だった。
そしてダンボールとはそれ自体が、多量の空気を含む物体である。それは本来なら衝撃吸収性や保温性の元となっているのだが……


今回は、それが災いした。


ひとたびダンボールに触れた蝋燭という名の火種は、あっという間に燃え広がり、火炎となり、まるで大蛇のように踊りくねった。

近隣住人が後に『災いの断末魔』と呼ぶことになるその、大火災半年後の大火は、そうして始まりを告げたのだった………。





















「ハッハッハァ、どうしたジジイ! これを切り抜けねば、お前は家に帰り着くことはできんぞ!?」

大声で哄笑を上げるのは、ガリガリとやせ細った子供……、シロウ。まだ、ただのシロウであった。

「俺が焼け死ねば、貴様は俺を家に連れ帰ることはできない! お前が自己犠牲で俺だけ生かして焼け死んでも、俺を家に連れ帰ることはできない!」

どうする!? と高らかに切嗣を、己を、世界の全てを嘲笑する……。



「なに、カンタンなことだよ」

と、そんな中でも切嗣は微笑んだままだった。

「言ったはずだよ? 僕は魔法使いなんだって」

と、引き金を下ろし、魔術回路を起動させた切嗣は人差し指を立てた。


「それにさ、僕は…」


まだそんなことを言ってるのか、と馬鹿を見るような胡乱げな目つきでこちらを見るシロウに、ちっちっちと指をふり…


「火属性の魔術師なんだ。だから、こういうものは僕の領分に含まれているのさ」



次の瞬間に起きた現象に、シロウは眼を見張ることとなる。


















こうしてこの日ようやく、ただのシロウは衛宮士郎となり、衛宮切嗣の養子として迎えられたのだった。




本来辿るはずだった歴史からすれば、半年も遅い養子入りであった………。










































あとがき

士郎くんのジョブチェンジの軌跡
衛宮士郎→シェルブリットの士郎→地獄兄弟(矢車)士郎→基地で自爆して高笑いする三流悪の総帥士郎
次はどうなるのでしょうか、士郎くんは。佐山士郎とかなったら最悪ですね、主にタイガーの生活が…。

ようやくプロローグの終わりです。
次回から、血と魔術とダンボールに塗れた本編時間軸のお話の始まりですよ?



[6058] ゆめのはなし 『悪役の生まれた日』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/03/12 01:21
「僕はね、士郎…」


まさに三日月、という風な夜の中、その静けさに溶け込むように、やつれた、まるで死病にかかった大樹のような雰囲気を持った男が、ぽつりと呟いた。


「僕は、正義の味方になりたかったんだ……」

「おい、爺さん。あんた、馬鹿だろう?」


何の遠慮も容赦もなくばっさりと、保護者がかつて持っていた夢をにべもなく斬り捨てたのは、日本に珍しい赤毛の少年。

目つきは悪く、その粗野を通り越して凶暴な雰囲気は、悪ガキというよりもクソガキといった風情だ。


「はは……、手厳しいね、士郎」


だよね…、と言わんばかりに枯れた苦笑を漏らした男―――衛宮切嗣は、番茶を口に含みながらも、欠けた月に自嘲気味に微笑んだ。


「その通り、馬鹿な話だったんだ。正義の味方なんてものは、子供の頃限定で見られる夢さ……」

「…じゃあ爺さん、その夢は、子供の頃だったら見れるのかよ」


凶暴なクソガキも、今夜ばかりは暴れる気もないらしい。

決して静かに言葉を聴いているようなタマではない―――現に、今もそれなりに茶々を入れている。 ――ないが、少なくとも、横暴を通り越して凶暴にも、相手の話の腰を蹴り折ろうとするいつもの臨戦体勢は見られない。



「ああ。子供の頃なら、ただ善悪の区別がつかなくて、悪いことをしているヤツを倒せば、それでいいんだ。そのあとみんなで仲直りして、笑い合って……正義の味方になれるんだ。だけど――」

はぁとひとつ、まるで木枯しのように乾いた溜め息を吐いて、切嗣は続けた。

「大人になってからじゃ、そうはいかない。悪いことは悪いって、わかってる。わかっていながら、それが楽しいからってやったり、何か譲れないもののためにやったり、守るべきもののために仕方なくやったり……」


そこまで吐き出して、切嗣はぼふっと後ろに倒れた。


「そもそも、悪というのがあるのかも疑わしい。そんな中で正義の味方の志望者にできることは、10の中から切り捨てるべき1を見つけて、それがどんなに大切であろうと私情も挟まず、ただ、天秤の目を読むかのように最小を切り捨てることだけなんだ………」


大の字になって縁側から足を投げ出しながら、切嗣は薄目で月を見る。

細い、満月の面積を10として比べたら、ちょうど1になろうかという程度の大きさの月……。
それを見つめ、ふくろうの鳴く声を聞きながら、ただただ、黙る。



「そういやよぉ、爺さん……」

沈黙に溶け込むようで、抗う響きを持ったのは、音ではなく、少年の声。

「俺、お前に、借りがあんだよなぁ……」

ぽそり。

「士郎を僕が引き取るとき、恩を恩とは思わないって言ったはずだけど?」

ふふっ、と笑う切嗣の目には、自嘲の色はない。ただ、ヘンで、面白くて出たと言わんばかりな笑みだ。


「はっ! ありゃあ、テメエが俺を養うことについてだ。馬鹿姉やら、魔術やら、スキルやらをくれたこと……、そっち側への『借り』は、別バラなんだよ。」

「魔術に関しては魔術回路の生成しか教えてないんだけどね…、これじゃ、教えたとも言えないよ」

ふん、とそっぽを向く衛宮士郎は、このときばかりはただのワルガキに見えた。


「だからよ、テメェにはひとつ、恩返しをしてやる」

にやり、と口端を釣り上げる士郎の瞳には………


「俺が、爺さんの夢をカタチにしてやるよ」


彼が言った内容とは裏腹に、悪意と悪戯、それと反逆の炎が宿っていた。


「士郎が正義の味方…? すごく…、似合わないね」

「誰が正義の味方になるって言った?」

ぷっっと思わず噴出した切嗣に、士郎の悪戯の炎は止まらない。




「テメェが9を助けて1を切り捨てる『正義の味方』になるんだったら、俺は、9を切り捨て1を守り通す『悪役』になってやる」




「は………?」

思わず切嗣は、呆気にとられて口をぽかんと開いた。




「正義が9を助ける、悪が1を助ける。協力すれば、みんな助かる。『悪役』が居れば、正義の味方は存在できる。どうだ? 悪い話じゃないだろう?」




静寂。


ふくろうが、今宵もただただ鳴きつづける……






「ふふふ……、あーっはっはっはっははっはっはっはっはっはっはっ!」



切嗣はついに、決壊したかのように笑い出した。



「あっはっは、士郎! それは面白い話だ! けど、それだったら、正義の味方がその1を殺そうとしたら、どうするんだい?





「そりゃ、『悪役』らしくぶっ飛ばすに決まってんだろ」





「それじゃあ、正義の味方が負けてしまったらどうするんだい?」




「悪に負けるようなやつぁ、正義の味方なんかじゃねえ。そんときゃぁ、そいつが役者不足だったってことだ」






その後も狂ったように、衛宮切嗣は笑い続けた。

























………そして、どれだけ笑ったのかもわからなくなったころに切嗣は、ぜんまいが切れたかのようにぷつりと、笑いを止めた。







「任せとけよ、爺さん。あんたの夢は、俺が形にしてやるからよォ………」






士郎は黙って、縁側を後にした。









そして切嗣は、二度と動き出すことは無かった………。























衛宮切嗣はこうして、世にも珍しい『死因:笑死』を冠する男となったのであった。













★あとがき?
今回やりたかったのは悪役エミヤの誕生だったはずなのに、いつの間にか最後のオチを目指していました。
笑死って、幸せに人生を終えられそうでいいですよね。
僕は死ぬときは、大量の火薬で一瞬で、苦しみも感じる間もなく爆死したいです。

あと、結論から言うと佐山は無理です。相当頭が回らないと書けませんよ、あれ。
キャラとしては壊れてるのに、人としては原作士郎よりも壊れてない! ふしぎ!



[6058] 第1話 『我を知りえぬ』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/08/19 06:13
―――夢を見ていた。


―――正義の味方なんて馬鹿なものを目指した、あの爺さん。


―――その最期は、いろんな意味で幸せなものだった。




―――約束は破りたくない


―――それに、あの爺さんに借りっぱなしってぇのもシャクだ。






―――――だから俺は……っ!













******* 悪役エミヤ 第1話 我を知りえぬ




古風な日本建築のその家の中に、その家はあった。

家の中に家がある――こう表現すれば誤解を招くのも仕方あるまいが、正確に言うところでは、家の敷地内に家がある。


「先輩、起きて下さい。朝ですよ、ご飯の用意ができてますよ」


その家の中に、赤毛の少年はいた。

寝顔は実に穏やかで、知り合いの人間から見れば、まるでそいつでないかのようにすら見える。
だが、それを名残惜しそうな表情で揺り動かす少女、間桐桜にとっては見慣れたものだった。


「む……むぅ……」


赤銅色にくすんだ頭をぼりばりと掻き毟りながら、彼――悪役を自認する男、衛宮士郎は、今日も今日とて絶好調で動き出す。



「ふははははは………、よくぞここまで辿り着いたな間桐桜よ! …おはよう、ふぁ~ぁ……」

目覚めて一言目が高笑い、突っ込みどころしかない男である。

「おはようございます、先輩。今日は笑い声のトーンが若干高いですね、何かいい夢でも見られましたか?」

が、桜にとっては、これは毎日の朝の日課だ。
あまりに日常的過ぎて、今日の機嫌をこの笑い声だけで察せられるほどになっている。

「ん? ああ。久々に頭ワンダフル親父の夢を見てな。……あいつも、随分と愉快な最期だった」

薄笑いを浮かべながら、何かを思い出すように軽く温かみのある薄茶色をした天井を見上げる。


――愛媛みかん


その文字が気に入らなかったのか、目線をそらす。


――ポカリスエット


だが、それも気に食わないのか、さらに情報へと視線を移した。


――冬木給食センター


うむ、これだ、とばかりに軽く頷くと、軽く身体についた土ぼこりをはたいて立ち上がった。



「昨日も遅くまで作業をなさっていたようですが、何をしていたんですか?」

桜の問いに、士郎はニカリと笑った。

「喜べ桜! もうすぐダークグレートジャイアントアルティメットブラック衛宮城 ver1.847の地下室が完成する!」

「わぁ、それは素敵な竪穴式住居ですね!」

「ああ、今度のダークグレートジャイアントアルティメットブラック衛宮城 ver1.847は建材のダンボールに鉄板やカーボンタイルを混ぜて仕込んでいる。理論上、現在のままでもトラックの正面衝突に耐えるぞ」

「まあここって衛宮邸の敷地の中ですし、塀があるのでトラックなんて侵入しませんけどね」

「はっはっは、そうだろうそうだろう! このフォートレス衛宮邸の堅牢さはジェリコ並だ!」

「ええ。先輩が補強と称して塀という塀にダンボールを貼り付けたおかげで、あんまりの外観のみすぼらしさにご近所さんみんな退いて、人っ子一人近づかない脅威のブロック力を誇りますもんね。素晴らしいです」

「うん、流石は我が一番弟子桜だ。よくわかってるな」

「うふふ、弟子だなんて……、別に料理しか習っていませんし、そんな風に呼ばないでくださいよ……」

「フフフ…、そう謙遜するな。桜は紛れもなく、俺のかわいい一番弟子だ」

「わぁい、あんまり嬉しくない称号をありがとうございます」



噛み合っているようで噛み合っていない会話をしながら、その家を出る。

―――ダンボールハウス。

そう、この純日本家屋――フォートレス衛宮邸の敷地内には、ダンボールハウスがみっつほど建っているのだ。


純和風の建築物の脇に、いっそ荘厳にそびえるダンボールハウス。


だからといって別に、この家にホームレスが住み着いているわけではない。
これは、厳然なる家主の趣味だ。
悪役を自認し目指す士郎は、幼少時の体験からかダンボールをやたらと好む傾向にあった。

そういうテキトーな理由でダンボールハウスを建造し、もはやバージョンアップできないと判断したら別のダンボールハウスを建てる。

それによって、どこの狂った芸術家のオブジェかと見紛うほどの巨大な紙の塊が三つほど建つに至る。


なお、この建造スペースを確保するためだけにわざわざ業者を呼び、もともとあった土蔵を潰した。
その際、中にあった親父の遺品は完全焼却と相成ったが、そんなことはこの男、爪の先ほども気に留めていない。







昨夜地下室を作らんと穴を掘っていたために泥だらけになった身体(どこかぶつけたのか、手の甲にあざが出来ていた)にシャワーを浴び、居間へと入るとすでに桜は食事の準備を完了させていた。

「和洋折衷というが、やっぱり朝は米に限ることを考えるとこれがベストだよな」

「私は洋食の方が得意ですし、これが一番作りやすくておいしく出来ます」

桜は、最近成長著しいその胸を張る。
士郎、一瞬凝視、即脳内永久複写、通常状態へ帰還。

完全に凝視するあたりオープンなのか、一瞬で完全に記憶してそっけない態度に戻るあたりムッツリなのか、イマイチよくわからない。


「あとは、大河姐を待つだけか」

「うーん、いいにおいも、わざと換気扇を強くして外に出してますし、そろそろ来るんじゃないでしょうか」


藤村大河、士郎にとっては高校の担任でもある英語教師であり、自らの慕う存在、藤村雷牙の孫娘でもある。

そのため、敬意を込めてこう呼ぶのだ。――大河姐さん、と。


そして同時に、野生動物じみた、一種の第六感を持っている人物でもあると、士郎と桜の二人には認識されていた。

そして、それは事実でもあった。



どたどたどたどた



「おはよーっ! 士郎、桜ちゃん!」

「おはようございます、藤村先生」

「うっす、おはようございやす、大河の姐さん!」

けたたましい足音に続き、ばんっと爆音を立てながら現れるテンションのやたら高い女性に、二人は……その内一人はやたらかしこまって挨拶する。


「もう、士郎ったらぁ、毎朝のことだけどそんなにかしこまらなくってもいいって言ってるのに……」

「いや、別に大河姐自体に敬意を払ってるわけじゃないんだけどな。あくまで雷牙さんへの敬意だ。それに、こうやって挨拶するのは朝の一回だけだろう? 気にするなよ、大河姐」

「なんか、こう、どーもお姉ちゃん納得できないんだけどなぁ…?」

微妙に思案げに首をかしげた大河だったが、

「……うん、まあ、いっか! それよりごはんごはん! あ、洋風ってことは、今日は桜ちゃんの番だったの?」

「ええ、先輩はお疲れだったようですので、起こすのも忍びないかと思いまして」

「別に起こしてくれてもかまわなかったんだがな。なにせここは俺の城だ、食事くらいは俺が自分で……」

「いいんですよ、好きでやってるんですから。「ねえねえ、早く食べようよぉ! お姉ちゃんもうお腹ペコペコ~」……じゃあ、いただきますしましょうか」


待ちきれなくなってきたのか貧乏ゆすりすら始めた大河に、桜は苦笑しながら促した。

「そうだな。冷めるとまずいとは言わないが、味が落ちることには変わりないんだ。もったいない。 じゃあ、せーので」


と、三人が三人とも両手を合わせて、今日も(主に一名の声が特に)高らかに声が鳴り響く。




『いただきます』




今日も今日とて、平和な朝が始まった。





















   あとがき

なにか書いてるうちにいろんな設定が生えてきました。
いつの間にか藤村組の構成員になってたり、土蔵壊して召喚フラグ叩き折ってたり、桜と仲が良好なのか何なのかよくわからなくなっていたり……。
これ、本当にこのまま進めて何とかなるのでしょうか?


誤字、修正しました



[6058] 第2話 『弓道部は極めすぎでつまらなくなって引退しました』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/08/16 20:26


朝の弓道場――いくらか私語があるとはいえ、朝練でにぎわいつつもどこか静謐な雰囲気を保つ、弓の聖地。


そこで弓を射るのは、弓道着に胸当ての桜。

腕前はそこそこで、まだまだ精進が必要といったところか。


そんな妹の姿を見て密かに胸の内で応援する少年に、声をかける部外者が一人。



「よう、間桐ワカメ。今日も朝っぱらから元気に弓道少年してるな!」

「だ・か・ら、僕をワカメと呼ぶなっ!」



高校生にもなって未だ悪ガキの雰囲気を纏う士郎に、その呼ばれる名の通り、ワカメのような髪型をした少年――間桐慎二が叫ぶ。


「だから何度も言ってるだろ? お前が俺に勝てたら名前で呼んでやるって」

「第一、なんで僕がワカメなんだ! もっとこう、エレガンティック慎二様とか、あるだろう? なぁ?」

「スタイリッシュワカメ」


ぬぉぉぉぉ! と己の頭蓋を左右の掌で挟み潰しながらうなり声を上げるワカメ――否、慎二。


「むしろお前の名前が慎二であることのほうがおかしいと思わないか?」

「なんでだよ!?」


そんな慎二に追い討ちをかけることを欠片もためらう気がない士郎。
もっとも、養父の死に目を笑うような人物であるこの男にとって見れば、これくらいは常識である。


「桜とお前って、兄妹だろ? 桜は木の名、花の名だ。それに比べてお前は何だ。慎二ってなんだシンジって。碇か? だったらお前、ワカメにしたほうが兄妹のバランスがとれていいだろうが!」

「どんな理論だそれはこんのダンボール狂! それにそれなら、僕は海産物になるから結局桜とは合わないだろ!? ……ついでに言うと、桜は養子だから、僕と名前の繋がりはなくて当然なんだよ」

慎二は怒号に紛れてポロリと、寂しそうに一言本音のようなものを漏らした。が、


「なん…だと……? それは初耳だぞ。かれこれ数年ほど家族のように暮らしているというのに、知らなかった……」

この男そんな弱音など気にしない。ただ自分が知らなかったことに愕然としているだけだ。

「ふんっ! その程度も知らなかったのか、クソ衛宮ぁ? やっぱりお前なんかに桜は任せておけない、お前みたいなダンボール教崇拝者にウチのあらゆる意味で自慢の桜をやるなんて、認められるわけがない!」

「何を言うかクソワカメ、ぬるぬるぬるぬる貼り付いてんじゃねーよ! 桜は既に俺の子分だ、弟子だ、将来の幹部の一号だ! 手前みたいなワカメヘアーの粘着ワカメに定められる筋合いなんざねーんだよ!」

「うるさいっ! 兄が自分の妹を、駄目野郎の魔の手から守って何が悪い!」

「クッハッハッハ! 守ってみろよ、守れるもんならなぁ! 力づくで、この悪の手から救い出して見せろ! そしたら名前で呼んでやってもいいぞ、クソワカメ!」

「上ぉ等だぁぁぁ! 表へ出ろクソ衛宮ぁ! 今日こそ吠え面かかせてやるわあぁ!」


慎二が肩を怒らせ士郎の襟首を捕まえようとして、士郎がその手首を捕る。
そのままギリギリと締め上げ、だんだんと周りの空気すらギシギシと軋みを上げ始め………。




―――ひゅごっ!




二人の顔と顔の隙間を風切り音を上げながら矢が駆け抜けた。


さっきとは別の部位からギシギシと軋みを上げながら――主に二名の首あたりから――ゆっくりと、矢の射線から想定した主へ振り向くと、そこには花のような笑顔があった。


「先輩、兄さん、喧嘩はやめてくださいね?」


「「はい」」

花は花でも、そのすぐ下には地獄の針山が待ち受けている悪魔の赤薔薇のような笑みだが。


「ああ、ああいうところだけどんどん姉に似てきてしまって……、兄は悲しいぞ、桜よ」

桜に見えない角度でほろりと涙を流す慎二。

「ん? お前、姉がいたのか? 全く知らないぞ」

「いやな、あいつの旧姓、遠坂なんだよ。遠坂桜……」

それは嫌なことを聞いたとばかりに顔をしかめる悪ガキ士郎は、確実に『猫の皮』を見破っていた。

「うへぇ、あの優等生という名のあくまが姉か……。ああは育って欲しくないな、今のまま、少なくとも俺には素直でいて欲しい」

うむうむ、と一人頷く士郎に、慎二は訝しげな顔をした。


「……お前には素直なのか? 少なくとも僕には、なんか笑顔でナチュラルに嫌味発言してくるんだが」

「ああ、素直だぞ? 今朝方もフォートレス衛宮邸の堅牢さを誇ったら、素直に褒めていた」

「……前々からシアワセなやつだと思っていたが、ホント、お前って幸せなやつだよなぁ、衛宮」


「あの、兄さん、先輩、もう朝練終わってますし、掃除をする一年生組の邪魔なので、とりあえず出て行ってくれません? あと、全部聞こえてるんですけど……」

このような会話を桜の目の前で本人を無視して二人で行うあたり、けっこう仲はいいのかもしれない。











   あとがき

ワカメって、素直に自分を誇る存在とだと、変に謙虚なより嫉妬に歪まずに喧嘩友達できそうな気がするんですよね。



微妙に気になった部分のコメントを返してみます。


>桜もなんかいい感じに(微妙に)病んでるなぁ…
…こんなつもりじゃなかったんですが、あっれー?

>士郎と桜の会話がそれ散るの小町との会話に見えて仕方が無いw
それ散る、とやらはわからないのですが、馬鹿と皮肉さんの会話ではよくあることです。

>土蔵撤去は別にどうでもいいかも知れん。そもそもあの魔方陣、召喚用じゃないし。
初耳なんですが。めがっさ初耳なんですが。つまり、まだまだ召喚は可能である、と。良かったね士郎くん、サーヴァントなしで突撃とかにならなくて済みそうだよ?

>しかし、ダンボールっていうと自分の中ではネウロの本城二三男が思い浮かんでしまいます。
これも知らないのですよねぇ。とりあえずダンボールガンダムにはなるのではないかと。

>久しぶりの更新で驚きました。
とらハ板の方に気をとられていました。あとセイバー+エクスカリバー(ソウルイーターのウザ剣)とか書いていたらこうなりました。しかもウザ剣は父に消されたりしました。



ちょっぴり修正しました



[6058] 第3話 『紅き彗星』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/08/18 16:00
――嗚呼、すっかり遅くなってしまった。



日はすっかり傾き、空は茜色を通り過ぎて藍色になっている。

そんな中で、衛宮士郎は作業をしていた手を止めた。


「ふう、完成だ」


士郎が作業をしていたのは放送室前の扉だ。
その扉には、一見何の問題も無いように見える。


だがしかし


だがしかし、この扉は開かないのだ。

何故かと問う人がいたら、このクソガキ衛宮士郎は、爽やかな笑みでこう答えただろう。

―――俺の努力の結晶さ!

……と。
阿呆である。
もう一度言うが、もはや辺りは暗く、空には星が瞬いているような時間だ。
そんな放課後遅くまで学校に残ってやっていたことが、放送室の封鎖である。

……しかも、それだけには留まらない。

この封鎖法だが、内側にダンボールの壁を作り、しかも一般には口に出来ない方法でインチキを行い、扉を塞いだのだ。
そして、明日の朝一で全校放送で『悪の組織ダークダンボール団のうた』(作詞作曲演奏ボーカルすべて衛宮士郎)が大音量で流れるよう細工済みだ。

つまり、明日の朝は登校してきたと思えばいきなり、ダンボォォール♪ 嗚呼ダンボォォール♪と高らかに変声機を通した歪な男声で謳いあげられ、放送を止めようとすれば放送室の扉は開かないという事態に発展しているのである。

まず間違いなく、『生徒会衛宮士郎対策執行部エミヤバスターズ』の出動となる。

本来はこんな部署は存在しないのだが、この馬鹿はそれが必要なほど頻繁にやっかいごとを引き起こし、事を起こすたびにそれを間桐慎二が全力で治めにかかり、そしてそれを慎二の容姿と生徒達の為に必死に働くその態度(ただの衛宮士郎への対抗心であるが)に惹かれて手伝うようになった一部女子が現れ、彼ら彼女らを指して『エミヤバスターズ』と呼ばれ始めたのが始まりである。

衛宮士郎の悪戯(全部ダンボール使用)がエスカレートする度に、やがて撤去に予算すら必要としはじめ、拡大する被害の中で生徒会長 柳洞一成が通称エミヤバスターズを生徒会に組み込み、『生徒会衛宮士郎対策執行部』と名称を変えて予算を与えるようになった、それがこの謎の部署の正体である。


……本来なら停学などを喰らっていてもおかしくないのだが、そこはこの男、無駄に高スペックであり、体育館をたった一夜にしてダンボールによる巨大迷路にしておきながらも一切自分がやったという証拠を残さないのだ。

もはや人間業でない。常識で出来る範囲のことでない。



そんなわけで放送室にて明日の、学校侵略プロジェクト第317弾『有明に染み入る麗しの団歌計画』の準備を終えた士郎は揚々と、早く帰還して楽しい晩餐の始まりだぁ! と言わんばかりに窓から校舎を後にしたわけだが………。






―――金属音。


―――金属音。


―――金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音!


―――金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音金属音!!


まるで静音装置のついたチェーンソー同士で、どちらの歯が先に駄目になるか押し付けあっているかのように繋がって聞こえる甲高い金属音がいつの間にか完全に、闇に沈む学校の支配者となっていた。


「なんだ、この音……」


どうやらその音源は校庭にあるらしい。ここは裏庭なので、校舎を回り込めば、すぐそこだ。




校舎をぐるりと廻りこんだとき、いい年したクソガキにしてこの世の理を外れた『魔術師』でもあるその男は見た。


――夜の闇すら蹴散らさんと乱舞する、火花の嵐を

――この世のものとも思えない、双剣と長槍の逢瀬を






……永遠に続くかと思われた金属音も、いつしか止んだ。


だが、その場に充満した殺気は衰えなどしていない。
―――否、むしろ増し、街すら飲み込まんと膨れ上がってすらいる。

槍兵の構える紅の槍の穂先が、殺気に滾り時空すら歪めんと血色に輝く。


――圧力。

知らずのうちに、衛宮士郎は拳を握り締めた。



……が、それこそが失敗だった。



「――誰だッ!」

「嘘っ! 一般生徒がなぜここに!?」


ごきりと衛宮士郎の拳が立てた音、それが、殺気を溢れさせていた槍兵の耳に届いたのだ。


――間違いない、こいつは、俺を狙ってくる!


本能的に悟った士郎は、一目散に弓道場脇の林めがけて駆け出した。




この本能的な判断は、長物である槍が扱いにくくなるという意味では正解だったといえるだろう。
ご立派な判断だ、落ち度はほぼないと見ても良い。


―――しかし、最大の誤算は、この槍兵が、そんなことなど欠片も問題にしないほどの実力であったということだった。





















「アーチャー、追って! 私も後から行くから!」


――何故、何故このような夜更けに一般生徒がいるのだ!

魔術師にしてこの冬木の霊地の管理者、遠坂凛は歯噛みした。
確かに、しっかりと無人であると確認したわけではない。
だからと言って、何故によりにもよってこのような日に、生徒が残っているというのだ!

悔いながらも凛は林に入り、サーヴァントたちが風のように駆けていったことでできたであろう、草のなぎ倒されたにわかな獣道を走る。


どれほど入ったろうか、そこに、紅い背中が黙して立っていた。


「ランサーには逃げられた。私がついたときにはもう、槍を放った後だったよ、凛」


黒い肌にくすんだ白の短髪の長身の男――アーチャーは、無表情に報告した。

「そう。左胸を一突き、ね……」


暗くて視界はよくない。
が、学校指定のカーキ色の詰襟と、その左胸に空いた穴に広がる漆黒の違いくらいは見分けられる自信があった。



……謝罪はしない。


これは私の責任だから、と、ただその命を背負ってこれから先を生きてゆく。




あなたの死を忘れない。

その顔を目に焼き付けんと、凛はその顔を覗き込んだ……。








―――それは、妹の思い人の顔




―――そんな!



生き別れた大切な妹の、その精神を数年前から支え続けている男子。

妹―――いや、間桐桜に問えば否定されるだろう。
だが、彼と話しているときほど桜が楽しそうにしている瞬間というものはない。
縁はとっくに切れているとはいえ、腐っても血を分けた姉妹なのだ、その程度はわかる。



―――ごめん、桜。


呆然と立ち上がり、背を向け、校舎へと歩き出す。



―――彼がいなくなったあとのあの子はどうなるだろう。

――― 一時期のような、人形の染みた桜に戻ってしまうのか。

―――はてまた、吐き出していた毒を飲み込み、飲み込んでいた親愛を与えられず、弾けて消えてしまうのだろうか。




……………


「……っだぁぁ! お父様、ごめんなさい! こんな序盤に、いきなり私は切り札を使います! 使ってしまいます! ああもうっ、こんなことは心の贅肉だってわかってるのにっ!」


やっぱり、駄目だ!

振り向き、首元の鎖を引っ張り、大粒のルビーの宝石を引きずり出す。


そして、よろよろと立ち上がった彼へとずかずかと歩み寄り………………?






――――よろよろと立ち上がった彼………………?


「うぅ……」

士郎はふらつき、うめき声を上げながら詰襟のボタンを外した。




「ダンボールがなければ即死だった……」




開けた襟元から、どこにどうやって持っていたのかわからない穴の開いたダンボール板がぼとりぼとりと、十数枚ほどこぼれ落ちる。




うー、あーとうめきながらふらふらと歩み去っていく士郎を、凛はただ、唖然として見送っていた。











「ところで、いいのか、凛? 口を封じようとして殺し損ねたのだから、奴はまた、あの男を殺そうとするぞ」



「ああっ!?」










































   あとがき
豈<ヘルメットが無ければ即死だった

なんかまた全力でオチをつけたくなってしまい、無駄に描写をシリアスに。
まさかの連続更新に、書いてる本人もビックリです。

そしてまた思いつくままに書いてるうちに『生徒会衛宮四郎対策執行部』とか生まれてますし、ワカメがその部長に就任したりしてますし、どうなってるんでしょう。その納得できる説明を書こうとまた思いつくまま打ち込んだら、もっとヒドい設立経緯ができてましたし。

あと、アニメうたわれEDを歌いながら書いていたら「うるさい」と怒られました。くっりかっえしっ♪



 返答です

>あぁ、Fate/Zero準拠のエピソードです。
>zeroの設定に準拠するなら、アイリの回復用の魔方陣だったはず
おぅあっ! ZEROは買ってないので、さっぱりでした。……回復用なのに何故に召喚できてるんですか、士郎くん。まあこのSSのワルガキならテキトーに召喚しても違和感無いので問題ないですが。

>ワカメと話があう。しかもこのワカメは原作と違っていい奴そう?!
>きっとここのワカメは悪役のせいで悪人になれなかったんだろうなぁ
>慎二が思いの外いい奴くさくなっててびっくりです。こんなヘタレなのに裏で桜に陵辱の限りを尽くしてるのかと思うとアレですね。でも性格が微妙に違うので、陵辱は回避されたんでしょうか?
漫画版の、過去ワカメを見てみましょう。ただちょっと卑怯なだけの、友達思いで妹思いなツンデレヘタレ野郎がそこにいます。
……そもそも、ワカメがあそこまで劣等感MAXになったのって、桜にしても士郎にしても何一つワカメを傷つけることを言わなかったことが原因のひとつだと思ってるんですよねぇ。逆にこれだけ正面切ってけなされれば疑心暗鬼にもなりようが無いでしょう。
桜の病も、毒を吐く相手がいないのが拍車をかけていたと思うんですよ。
その点、士郎が毒だらけのこのSSなら、この兄妹との関係は円滑に進む気がしまして、こういう関係になりました。

>それ散るは某PCゲーなんですが
ググりました。把握したのは結局内容ではなく、くいだおれだけでした。なむなむ…。

>けど、知ってますか、ダンボールってゴキブリとかが卵をうみます。気をつけないと大変なことになります。
……よし、士郎は定期的にダンボールハウス内でバルサンを焚いていることにしよう! そうしよう!



誤字、修正しました
そして更に見落としていたので再修正しました。kenさん、どうもありがとうございます。

更新はなるべく急ぎます



[6058] 第4話 『隠なる蛇尾』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/08/19 21:01


伝説の槍によるハートブレイクショット(本来そんなものでは済まなかったのだが、十数枚のダンボールによってこの程度に弱まった)を受けて気絶しながらも、何とか家に帰ったワルガキ士郎は、今、まさに危機に瀕していた。




『シンニュウシャハッケン! シンニュウシャハッケン!』

家中に隠された紅のランプが壁からせり出して回りだし、びーびーとサイレンが鳴り響く。


養父の張った結界―――その、敵意を持った相手が接近してきたときに感知する機能が、それを告げている。


即ち―――目撃者を消そうとし、その本人が生きているとわかったとき…、再び殺しに来るという道理だ。

なお、この結界の元々の機能は、警報として鈴の音を鳴らすことであり、このびーびーとうるさい警戒音は士郎自身が「こっちのほうが悪役っぽい」という理由で改変したものである。



―――殺される



あの槍兵の力は、直接見た己自身がよくわかっている。
あれと正面切って打ち合う? ……冗談じゃない、馬鹿げている!

不意を打とうが何をしようが、あの槍兵を殺そうなどと無理が過ぎる。

逃げる? 対抗するのにも増して無理だ。我が家が現在保有している足はオーダーメイドのママチャリのみ、(荷物積載量はママチャリだが、変速機は48段変則でサスペンションつきであるとはいえ)
槍兵から逃げるのには荷が勝ちすぎる。






確実に、衛宮士郎は窮地に立たされていた……。





































「衛宮君、無事っ!?」



遠坂凛が衛宮邸に乗り込んだとき、その庭は、まさに惨状と言ってよかった。

庭の景観自体はまあ、ダンボール御殿が三軒ほど聳え立っているあたり、いつも通りの衛宮邸だ。しかし、その庭の中心に、それは存在した。




―――ぎらぎらと殺気をたぎらせながら周囲を見回し気配を探る槍兵。



―――そして、その目の前に逆さまに置かれた、あからさまに怪しいダンボール箱。





―――――そう、いろんな意味で大惨事だった。


「くそっ、何処に隠れやがった、魔術師!」

そう、段ボール箱の目の前で歯噛みする槍兵――人類の守護者とされ、この聖杯戦争にサーヴァントとして呼び出された英霊、ランサー。


「む、何たる隠行だ……。いることまではわかるが、そこまでしか掴めん」

そして脇に立つアーチャー。彼はどこか訝しげな顔をしている。


凛は問い詰めたい。お前ら、本気で言っているのかと、それはひょっとしてギャグで言ってるのかと小一時間問い詰めたい。


「おかしい……、どういうことだ……。いや、そういう『可能性』というのもあるのか……?」

「どうしたの? アーチャー」

「いやなに…」

その呟きから、何となく不自然さを感じたため問うたのだが、


「ただの人間が、英霊を騙し通すほどの隠行を使えることを不審に思っただけだ」

その言葉に、何処か、何かを埋め隠すような響きがあった気がしたが、何に対してこうも引っかかっているのか凛も自分自身で理解できていなかったため、追及することもなかった。




そんな間にも、目の前で行われる大惨事系のコントはまだまだ進行中だ。


「くそっ、出てきやがれ! …そこか!」

思いついたように、その魔槍を庭の植え込みに突き入れたかと思えば、

「こっちか!」

そのまま薙いで苔生した岩を叩き割る。


「畜生が……!」




すぐ足元にあるダンボールに見向きもせずに槍を振るうランサーを見る凛の目は、ただひたすらに冷えていた。


「ねえ、アーチャー。あなた弓兵でしょ? 今のランサー、狙撃できないかしら」

「承知した」


一旦衛宮邸を出ると、三軒隣の醍醐さん(仮)宅の屋根の上へと飛び乗り、虚空へと手を翳す。

すると瞬く間に黒塗りの洋弓がその手に握られ、漆黒の矢が番えられた。



「先に言っておくが、凛、奴も英霊だ。この程度の不意打ちでくたばるとも思えんぞ」


そういえばそうだった。

今さっきの行動から芸人の一種かと誤認していたが、あれでも、学校で人間離れした立ち合いをこのアーチャーと演じたのだ。すっかり失念していた。


でもまぁ……。


「構わないわ。あんまり槍を振り回されると、アホらしいけれど衛宮くんに当たってしまいそうだもの」

「ほう……、凛、君はそいつが何処にいるのか察知できるのか?」


「………」


それはそうだろうと思わざる負えない。何せ、その足元すぐにいてわからないほうが異常であるのだ。

「……凛、何故に君は、私を馬鹿を見るような目で見るのかね?」


どうやら、こいつらには本気であの不審なダンボール箱が目に入っていないらしい。

凛は溜め息をつく。何だか頭痛がしてきた。



「……まあ、納得できんがとりあえず始める」



十六連射。

流石は英霊と言わざる負えない、一瞬のうちの妙技だ。


だが敵も然る者、その程度防げずに何が英霊か、と言わんばかりに軽く、その紅の魔槍で弾き飛ばす。


――これは失策だったろうか。この槍兵にこの距離では、こちらに分が悪いか?

凛が見て取れる程度の実力でも、彼の実力ならば、この矢の雨の中であろうとこちらへ軽々と接近できるように思えた。



「チッ、弓兵、貴様の見極めはもう済んだというのに……、あ? わぁったよ、はいはい了解だマスター」

が、槍兵はそれをせず、主の命と思しきものに従い撤退してゆく。




「深追いはしないでいいわ。私はちょっと、衛宮くんに、そう、ちょっと尋ねたいことがあるから――」


「了解した、凛」



醍醐さん(仮)宅の屋根から主従揃って飛び降りると、もう一度陸を歩いて衛宮邸へと向かう。

そして正門から入ると―――そこは、ついさっきまでとは別世界であった。



「ふははははは………、よくぞここまで辿り着いたな遠坂凛よ!」



―――ダンボール。


風も無いのに、その中ではダンボールが舞い踊っていた。

虚空から出でて、その人物の周りに纏わりつくは、温かみのある土色のダンボールたち。



――― 一体なんだというのだ、これは。



召喚魔術? 否、そうではない。空間に歪みが見られる訳でもない。

だというのなら―――




「クックック……ようこそ、フォートレス衛宮邸へ……」

轟然。

覇気に溢れて立ち尽くすのは、この家―――否、要塞の主たる衛宮士郎。


「そして……、今宵はどのような御用向きだ、ご客人?」




―――投影魔術!





アーチャーに庇われるように後ろに立つ遠坂凛の戦慄に、衛宮士郎はギラリと笑みを浮かべた。











   あとがき
はい、意味が分かりません。
我ながら前々から何が書きたいのか分かりませんでしたが、今回は更に不明です。
隠密の概念武装、隠なる蛇尾ソリッド・スネークとか我ながらトチ狂ってます。
一応設定はあるんですヨ? 型月厨の方に説明したらキレられるかも知れませんけど、一応は。



気になるコメントへの返答です

>ダークダンボール団の活動内容がえらく楽しそうで気になります。構成員は士郎と桜だけなのでしょうか?
桜は士郎が勝手に言ってるだけの員です。士郎が認めた人間しか入れないせいで、団員は団長エミヤと最高幹部桜の二人だけです。

>次回はいよいよサーバント召還ですかね?悪役になった士郎はアルトリアと相性悪そうですし、ギスギスした会話が繰り広げられそうで楽しみです。
そんな予想をマッハでぶっちぎりまさかの召喚無し! もはやいつ召喚すればいいのか、完璧に時期を逸しました。どうしろと?

>サーヴァント相手でもなんともないぜ
なんともないぜ!

>設定的なことで言えば「召喚自体は大聖杯が行っている」で問題ないかと思われ。
なんか適当に気合入れたら召喚できました、でおkなのですね。把握しました。

>ダンボール最強伝説すぐるwwwwwww
>ダンボールがあっても即死だよww
>このダンボールならきっとエヌマ・エリシュも防いでくれるwww
>バ・・・カ・・・な?!ダンボールで防いだだとぉ?!段ボール万歳ww
>なんというかスゲーな段ボール。
>流石段ボールwww俺たちに出来ないことを平然とやってのけるwwwそくに呆れるwww屁土がでるwww
>自慢の槍が段ボールによって防がれたと知った時、ランサーの兄貴はどんな顔するんだろう。
>宝具の攻撃を防げるダンボールって既に概念武装の領域に達してるんじゃねーの?wwwバーサーカーの斧剣直撃しても「ダンボールがなければ(ry」言いそうで怖いわwwww
>アイアス以上の盾だ。防御は完璧。
ダンボールは遮断と内部への防護の概念を持ちます。日本全国のみなさんならそれは容易く理解できるでしょう。

>エミヤバスターズ・・・御苦労さま。これ、胃薬だからあげるよ。
慎二はなんだかんだとダンボールに対抗するのに情熱を燃やしてますし、女の子は何か起こるたびに公然と慎二の傍らに居られる。なので……
>赤い悪魔もいるのに士郎の相手までしてたら胃痛で死ねそうですねw
と、被害を受けるのは一成ただ一人です。

>とある天才はダンボールで東京タワーを作ってやるとおっしゃいました。エミヤも作れるのでしょうか?w
投影魔術もあるので、固有結界使えばいけるのではないかと

>>ヘルメットが無ければ即死だった  待てそれは死亡フラグだ!
とりあえず倫敦までは生きてそうですし、いいのではないかと。

>一成ルートがない…だと…
代わりにワカメルートが解禁してますので、そっちでご勘弁を

>というか、死亡確認くらいはしてるはずだよね、兄貴。
数十枚のダンボールを打ち抜いた手ごたえは肉を刺す感覚によぉーく似ていたようです。

>しかし、校内で騒動が起こるたびに全力で治めにかかり、その姿に惹かれた女子生徒が手伝いを買って出て、やがて生徒会に認められた活動となり……。まるで学園モノのギャルゲーかラノベの主人公のようではないか、慎二。なんか一成とも良さそうだよなぁ。
スーパー慎二、略してスパシンです。主人公補正くらいつきますよ、それは。


誤字、修正しました。

キャラの方針が大体固まってきたので、次回辺り型月板へ進出しようかと思っています。



[6058] 第5話 『聞かぬは一生の』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/12/15 05:34
「クククク……」


ダンボールを従えた衛宮士郎の右腕に、炎のような模様をした三画の令呪が輝く。


―――英霊であるランサーから隠れきった(見た目はアホだったが)手並み

―――あの魔槍を受けて防いだその装甲

見た目は確かにアホだ。なにせダンボールだ。
だが、そのアホらしい物体は確かに、衛宮士郎に人の身には過ぎるほどの力を与えていたことは確かなのだ。



『アーチャー、ひょっとしてこのダンボール、サーヴァントの力だったりしないかしら?』

『……気配は感じない。だが、力だけを貸し与えるサーヴァントというものが存在する可能性を否定することはできんな』

ラインを通して語る己がサーヴァントの声色は硬い。
まったくもって油断ならない相手だ、仕方あるまい。



「ククク……、もう一度問おう。何のようだ、御客人」

がしりがしりと、衛宮士郎と凛の間に、顔が見える程度の高さの防壁が築き上げられていく。

――それも、幾重も…幾重も……。

―――ただし、ダンボールで。



「ふんっ、狙いはこの首、というところか?」

とん、とんっと自分の首筋を叩いて哂ってみせる衛宮士郎。


―――間違いない。

こいつは――衛宮士郎は、聖杯戦争の参加者だ。


「そうね、そこまでわかっているのなら話は早いわ、衛宮くん。降伏してはくれないかしら? 降伏するのならば、命まではとらないわよ。その右腕の"それ"だけで済ませてあげる」

―――今のうちに魔力を生み出し、魔術刻印を回転させておく。

確かに、あのダンボールの力は脅威だ。だが、たかが一介の魔術師には過ぎた力である以上、何らかの抜け道程度は存在するだろう。


「ハッ、お断りだな女狐! いつまでもンな不気味な皮なんざ被ってないで、地で俺を殺すと言やどうなんだ?」

そこで言葉を切ってちらり、とアーチャーを見て、

「それに、待ちに待った正義の味方サマの登場だぜ? のこのこ逃げ……っぶねぇな」

――刹那、今まで目の前に庇うように立っていた己がサーヴァントは、空中で、双剣を停止させながら留まっていた。


「貴様、一体どこまで知っている!」

否、双剣を静止させているのではない。虚空に留まるダンボール板に叩きつけ、それを突破できず、その持ち主ともども宙に留まっているだけなのだ。

―――何だというのだ。

この冷静かつ皮肉屋なサーヴァントがここまで感情を表に出す理由、それが凛にはとんとわからなかった。


「どこまで? ハッ! まったくその意図がわからんな。意図がわからねー質問ってのはタチが悪い。何せ、答えようってモンが無いんだからよぉ!」

衛宮士郎の足元から無数のダンボールがせりあがり、そのまま全身を覆った。

アーチャーは舌打ちしながらそのまま身体を捻り、ダンボールを蹴りつけてこちらまで戻ってきた。


「アーチャー、アンタ一体どうしたって言うのよ」

「さあな、すまん。記憶が無いからわからん」

にべもなく、無表情でだ。

「記憶がないならあんな反応しないでしょうに」

「記憶はないが、何かに引っかかっただけだ」

またもや無表情。こんなでは、疑ってくれと言っているようなものだろうに。


「それにしてもあんた、何者よ。一体アーチャーの何を知っているというの……!」

が、衛宮士郎はそんなものに、真面目に取り合う気など無かった。


「ハッ、デカルトは言ったらしいぜ? 『我思う、故に我在り』ってな。俺は衛宮士郎で、そう認識するが故に衛宮士郎だ。それで不満かぁ?」



―――そうか。


―――そちらがその気ならば、仕方あるまい。







「アーチャー、行くわよ! あの馬鹿を殴ッ血KIって、ふんじばってから暗示でも何でもして聞き出せばいいんだからねっ!」

「承知した、マスター!」












   あとがき
遠坂「OHANASHIしようよ、衛宮くん!」
弓兵「貴様ァァァ! 言えぇぇ! この虫野郎!」
士郎「んなぁことよりとっとと始めようぜぇぇ……ケンカをよぉぉぉぉ! シェルブリットォォォォォォ!」
だいたいこんな感じです。



気になったコメントへの返信(ネタバレ情報規制につきけっこうスルーします)


>(変態紳士)切嗣が飛んでくる事を妄想してましたw
ぶっちゃけケリー再登場はあり得ません、あなたはこのSSの適当さをなめています。
具体的な理由を言うと、キリツグで変換してIMEで出てこないからです。
そんな手間すら面倒がって、このSSはテンションにより作られています。

>ところで、この作品では聖剣の鞘って士郎の中にあるのかな?
>このダンボール使いの体に鞘は入ってるのかがまず問題dddd
入ってないと、まず最初のケリトゥグとの会話が成立してませんので、入ってますよー。

>ダンボールすげぇ!!
最初のあとがきの通り、ダンボールtueeeee!のためだけに書いてますからね。

>あれですよね、聖杯に世界一のダンボールを願うために、ダークダンボール団として桜を相棒に冬木市征服を目指すっていうサクセスストーリーがこれからはじまるんですよね!
それだったら最初から聖杯に世界征服願ったほうが早いと思います。まぁ、仮定を楽しむ士郎なのでやらないでしょうから、その可能性も無きにしも非ずですが。

>もう、さっさとセイバーでも何でも召喚してダンボールアーマーでも着せてしまえ。それだけでもう勝ち抜けるさw
ダンボールガンダム装備ですね。さらにセイバーに装備なのでセイバーガンダムですね、わかり……あれ? なんか四肢落とされてダルマフラグが立ったんですけど……?


では、既に召喚サーヴァントが決まったりしたので、今回を以って型月板に移動させていただきます。
……ノリに任せたら変わりそうだったりしますが。



[6058] 第6話 『話せばわかる』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/09/05 06:14



「だぁ~、もう! 何だってのよ!?」


紅き悪魔が呪いの弾丸を掃射し、


「城壁…、まさに城壁だな、これは」


その紅き従者が巨大な斧のような、何かの柱石から強引に削り出したかのような無骨な斧剣を叩きつけるダンボールの砦は……まさに鉄壁!

英霊の一撃にも、凛の宝石魔術―――いくら多少ケチって翡翠など安価な石を使ったとはいえ―――にも、いくらか身を削り落とされたとはいえいくらでも自己修復してその新が揺らがない。

そのあんまりな様に、凛は顔を引きつらせた。

「なんで、この遠坂家当主にしてセカンドオーナーの私の魔術がこんな……、こんなダンボールなんかに防がれなきゃいけないわけ…!?」


別に、戦いの世界に肩書きが何ら意味を持たないことくらいは知っている。
しかし、凛はそれに相応しいだけの力を持っていると自負していたし、実際にそれが役不足になるほどの実力がある。

だがそれでも、この”たかがダンボールの群れ”はその魔術をことごとく弾き飛ばしているのだ。
それも、こちらを馬鹿にしているかのように危害を加えず………、



―――危害を加えず?

―――専守防衛?



「マズイ、アーチャー! 時間を稼がれすぎたわ!」


この一言に弓兵のどこか――精巧な歯車の部分が即座に頭を冷やし、現在の状況を分析する。

ついぞさっきの、こちらの急所を的確に抉り取るような挑発………人間には分不相応な――否、■■■■■■に不相応な力を振るい防御に徹する………そしてセイバーの姿はなく、既にぎらりと浮かび上がっている令呪………。


もともとアーチャーはあまり勘の良い方ではない。そのような天に恵まれた才能など、■■■■■■には存在しない。

―――しかし、このような事例を知っているだろう。視覚の不自由な人間は、それを補うかのように聴覚が異常に発達し、自らの足音の反響だけで目の前に壁があるか否かを知ることが出来る、と。

故にアーチャーが身につけたものは心眼スキル。
己の手にした情報すべてを利用し、分析し、現在過去未来の真実を浮き彫りにせんとする、高度に発展した観察技能――――それが、頭の冷えたまさに今、火花を上げてアーチャーに警告した。



増援はすぐに到着する―――と。




「撤退するわ。目くらまし、できる?」

「了解した」


そこまで思い至ると己がマスターに従い、ダンボール塊めがけてその斧剣を投擲した。


―――ブロークンファンタズム。


幻想が膨張し、現世に存在する実体の許容量を超過し――爆裂。



「フン、逃げンのかよ……、正義の味方?」

嘲る声が聞こえ――否、アーチャーは完全に黙殺した。この声は弓兵を狂わせる。
泥のような紛争の中培った、硝子のようにぶれず揺るがぬ心を、狂わせる。

だから、黙殺した。

逃げ出した。






そうして土ぼこりを舞い上げて紅い主従が去って行った後に、取り残された士郎はぽつりと呟いた。




「……この庭、どうするんだ?」


クレーターやら、戦闘に使った城の強化の為に解体したダークグレートジャイアントアルティメットブラック衛宮城 ver1.847を始めとする三軒の衛宮城の残骸やらが転がり、舞い上がった土ぼこりによって土だらけになった縁側そのほかを前に立ち尽くす衛宮士郎なのだった………。













   あとがき
スランプ(?)です。前回何も考えないでノリで書きすぎたせいで続け方がわからなくなった結果とも言います。でも反省しません。
なにせノリをなくしてヤケクソじゃなくなったらこんなもの書けるわけないじゃないですか。何ですか壊れ士郎ダンボール最強モノですって、自分が読み手でも作者頭沸いてると思いますもん。たぶん『いいぞもっとやれ』と言いますけど。


 ☆☆ただしい悪役ダンボールエミヤの書き方☆☆
1.徹夜します。
2.テンションがおかしくなります。
3.そのままキーボードに向かいます。
4.テキストファイルとかでなく、直に投稿フォームに、おかしいテンションのままノリで文章を書き連ねます。
5.一眠りしてから修正します。(このとき、いくらやっちゃった感があっても誤字以外は修正しません)
    以上で完成します。




コメントありがとうございます。返せる内容への返信です。

>タイトルから内容予測できね〜よ(挨拶)
>士郎崩壊だと聞いて来たら腹筋崩壊だったでござる
チラ裏のネタ作品でしたから、本気で全力全壊ネタに走りますからね。

>士郎の中身がサスケからカズマに変わるとこんだけ変わるのか。得意料理は地獄マーボーで言峰とはダチですね、わかります。
……なんか言峰との接点が消失したのがすごく悔やまれます。何で撤退したのさ遠坂凛……。

>どいつもこいつも救えねえなぁ・・・
ある意味とっても幸せだと思いますよ?こいつら。

>もう意味が分からないwww
激しく同意しますです。

>固有結界は「アンリミテッド・ダンボール・ワークス」ですね、わかりません
なななななななんのことなんだぜ!!!!????

>悪役には三下な下っ端が必要だよね!アリアン〇ッドリプレイの三下犬娘ベネ〇トなんかどうでしょう。
捨てがたい…っ!? いっそ変更してでも…いえ、どうでしょうか。……ひょっとしたらテンションでベネット召喚になりかねない気がしてきました。いえ、マジで。

>全ては勘違いによって進んでるんだろうけど、段ボールの加護を受けた団長エミヤならもしかしたら……の可能性が出てくるから怖いw
ニ ヤ リ

>しかしランサーに火のルーン使われたらタイガー道場行きだったな
そういえばUBWルートで使ってたなとガクブルです。
一応遮熱効果は持っているので少しは耐えられる設定にはできますが、長時間は燃えるゴミの宿命が……。

>シリアスとジョークがごちゃまぜでw
……あれ? シリアスしましたっけ?
と、むしろジョークをするためだけにシリアスするせいで本気で忘れてました。



[6058] 第7話 『二日目の朝』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/12/14 01:05

「……ふむ」


暗闇の中、言峰綺礼は思考する。


―――未だ英霊は七騎揃わず。

が、その内五騎の威力偵察は終了した。……ランサーを用いての、だ。


だが視覚を共有し、目撃者を消しにかかったときの内容は、二重の意味で言峰を驚かせた。


即ち――あの小童が、かの殺人機械衛宮切嗣の息子であったということ。そしてその衛宮士郎が、世界の抑止すら騙し切る高度な隠遁の使い手であったということ。


「ふむ、此度の聖杯戦争……」


荒れそうだ、と呟く言峰綺礼の顔は、紛れもなく笑みの形に歪んでいたのだった……。









   第7話 『二日目の朝』










「ふっはっはっはっは、よくぞここまで辿り着いたな間桐桜よ! ……おはよう!」

今日も朝からいつも通りに衛宮士郎の高笑いが響くのは日本家屋、フォートレス衛宮邸だ。


「おはようございます、先輩。今日はどこか上機嫌……いえ、何だか投げやりな感じ? ですね」

その高笑いは、これもまた日課として毎日ここに顔を出す間桐桜のための朝の挨拶だ。

「そんなことはないぞ桜! あとお前の仕事はない、家事なら全てこの俺が終わらせた!」

台所で和風の朝食を作り上げ、エプロン姿で高笑いする衛宮士郎……、異質であると見せかけて、この家ではいつものことだ。

「……全部終わらせたんですか?」

「ああ、全部だ。そう、全部だとも」

「……来る途中見たら、離れの廊下他、外にむき出しになっていた部分が、まるで黄砂が降り注いだかのように一夜にして土ぼこり塗れになっていたんですが。本当に、家事することないんですか?」

「もういいんだ。あんな離れ、解体してダンボールハウスを建てる」

「わぁい、流石は先輩です! 由緒ありそうな古き良き日本家屋の離れを破壊して、みすぼらしいとご近所様にドン引きされてるのに未だ堂々と改築を続けているもはや狂気としか言いようがないダンボールハウスをさらに増やそうだなんて、流石は先輩! イカしてるの"し"を"レ"に変えて言った感じとしか言いようがないですね!」

「はっはっは、そう褒めるなよ。当然過ぎて欠伸が出る」

相変わらずの幸せな男、衛宮士郎だった。




















「よぅ、美綴。今日はワカメはどうした?」

「お前が仕掛けた全校放送のせいで呼び出されて今も放送室だよ、この馬鹿! ウチの副部長を拘束してくれるな、不良元部員。」

あいつの有無で女子のやる気が違うんだ、とぶつぶつ文句を言う少女……というよりは女傑といった存在は、美綴綾子という、この弓道部の部長である。

本来静謐であるはずの弓道場には、大音量で『嗚呼素晴らしきダンボール♪ 崇め奉れダンボール♪ 蹂躙せしめよダンボール♪』と、ボイスチェンジャーを通してフルコーラスを作り出された狂気の合唱曲がやかましく鳴り響いている。


「はん、知らねえなぁ……、俺が何をしたと……ん?」

とぼけて見せている途中で、不意に何かに気づいたように首を傾げる士郎に、綾子はどうしたのかと疑問を発したが、

「……おお、そういえば昨日そんなことをしたよーな気もしないでもないな」

「って弓ゴルゴ、お前、とぼけていたんじゃなくて本気で忘れてたのかこのデューク衛宮!」


突っ込む綾子であったが、その士郎を呼ぶ愛称はどう考えても異様であった。


―――弓ゴルゴ


衛宮士郎の在部中、一度たりとも的の中心から外さなかった伝説から付けられた、某殺し屋にちなんだ衛宮士郎の二つ名である。

あんまり罵倒になっていない罵倒を繰り出しつつも、その顔は疲労の色が濃い。
この馬鹿が次々とさまざまなことを引き起こしてくれたお陰であろう。


「とにかくもう、頼むから副部長に迷惑をかけないでくれよ……。女子が何か全員ダルそうだし、桜までいないせいか男子まで元気がないし、私自身心労がマッハなのか身体がダルい……」

はぁ…と、似合わぬ溜め息まで吐いてみせる。


が、衛宮士郎は何か引っかかりを覚えた。

「いや、その割には何か、運動部全般に気力が足りてないと思うんだが
……」


桜の所在については全力で無視していた。


だが、登校途中のグラウンド、テニスコート、果ては体育館の屋根の上から飛び降りることを至上とするバンジージャンプ部……、今朝はすべての部の活動者がダルそうにしていた記憶があったのだから仕方ないともいえる。
それに士郎自身も何処となく、登校してから身体がダルい。


「どうも、俺のせいであるとはイマイチ思えないんだがな……」

「いや、お前のせいだからどう考えても。こんなわけのわからん歌を朝っぱらから大音量で聞かされ続ければ、生気を吸われてもおかしくないから」

「む、失礼だな美綴。誰が作詞作曲演奏ボーカルしたのかはこれっっっぽっちも知らないが、これほど素晴らしい団歌は世にふたつと無いのではないかと、俺は思うぞ」

「いや、そこまで言った上に団歌とか、自分がやりましたって宣言してるようなもんだろそれ」

綾子は額に手を当ててこめかみを揉みつつうめいた。
と言うか、ここまで自賛されると逆に気分がよくなってすらくる。


「もういい、どうでもいいから、頼むからこれ以上私らの精神を汚染しないでくれ………。というか最近の深山朝形跡なしガス漏れ事件すら、実はお前の団歌が原因だったりしないか……?」

「俺のじゃないぞ。あれは崇高なるダークダンボール団総帥を崇めるための歌で、俺は全く知らない。カケラも関与してない。そう見えたとしたらそれは他人のそら似だぞ」

「いや、もういいよ……」

会話しているうちにどんどんぐったりしてきた綾子の言葉に流石に悪いと思ったのか、衛宮士郎は無言で後手に手を振って立ち去った。



「とりあえず大河姐が来る前に、もう一陣用意しておくか」


―――否、こいつの辞書に遠慮の二文字は無かった。












一方、遠坂凛は屋上で渋面を作っていた。

「やっぱり回復してるわね……」

昨日ある程度弱めたはずの結界の基点―――それも、発動すれば内部の人間をどろどろに消化して吸収する、悪質極まりないものだ―――が、一夜にしてある程度復活していた。

「……やっぱり、校舎内に隠されたサブの基点を探して無力化しないとダメみたいね」

見つけるにはきっと、多大な労力を使うだろう。しかし、この地のセカンドオーナーとしてこのような暴虐を見過ごすことなどできはしない。

だがまあ、もう時間がない。『優等生である遠坂凛』としては、この上での探索での遅刻は許容できない。
魔術師から優等生へと意識を切り替えると、しずしずと優等生らしく屋上を立ち去ることにする。



―――と、扉を開けて校舎の中に踏み込むと……


「あら、間桐さんじゃありませんか」

「あらあら、遠坂先輩ですか。おはようございます」


壁に刻まれた―――少なくとも、ここに来る前までは隠蔽されていた幾何学模様に手を翳している、桜の姿を見た。











   あとがき
ブラッドフォートアンドロメダかと思ったら別にそんなことはなかったぜ!
マーボーとフラグ立ててみました。ヒロイン:マーボー(Mr.ブシドー的意味で)とかちょっとステキだと思いませんか? 僕は思いません。だが惹かれる。

このSSのワカメはちょっと姑息だけどいい人な上、桜至上主義でそこまで女子に粉かけてないので、美綴からの評価もうなぎのぼりです。まさにスパシン!





   返答です

>こういうスタンスで書いたものをチラ裏から出そうという無謀とか蛮勇を如何にして持ちえたのか、卑屈な私としては知りたいと純粋に思いました。
読み返すと最初はチラ裏で暴れ回るだけのつもりだったんですけど……
あれ? いつの間にか設定固めたら出てくる気になってました。いつから狂った!? いつからぁ!! ……投稿に時間を空けたときからっぽいですけど。
まあ、やっちゃったものを翻すのも何ですし、本当に続けられなくなったら引っ込むかもしれません。

>秘訣を教われたのなら「おいおい、ギルガメッシュさんよお。悪いことはいわねえ、ダチのエルキドゥも呼んで来な。でねえと県下じゃなくて虐めになっちますぜ」なSHUJINKOU-SSを投稿する勇気がもてるかもしれません
テンションを上げましょう。あなたのスーパーやりたい放題SSを待ち望みます。むしろ「サーヴァント七騎? ハッ、生ぬるいぜ! 俺とケンカしたきゃ最低でもこの4444倍は用意しな!」くらい言わせればいいのではないかと。

>段ボールには世の中のホームレスの『願い』が込もってるんですね。
>以上のことをまとめて考えるに、概念武装化したダンボールに勝てるものなしwwww
>ダンボールを相手にしているはずなのに、粘っこい海草とでも戦っているかのようなしぶとさ!そこにしびれる憧れる!
>概念武装化した段ボール、マジでtueeeee!
結局型月の魔術は、人々の信仰があれば力を増すわけですから、信じれば信じるほど、メタギアが普及すればするほど能力は上昇しますからね。

> 作者さんてっきりノリノリで書いてるのかと思いきや、なかなか無理してんのね。
>徹夜明けにしか書けないみたいですが、体は御大事にwwww
正確に言えば、ウワッホーィ!とテンションが変に上がってさえいれば書けます。何か発売日を心待ちにしていたものが発売されて一気に読み進めた後とかなら書けそうな気がします。成年すれば飲酒によって安定して書ける気がします。

>あと桜の再登場を熱望w
出現してはそこそこに黒い桜、断続的に黒いお陰で、黒桜よりも黒くないでいられます。

>っていうか間桐の2人が救われすぎだろww
性格変更にするに当たって、身近な人間関係はどうしても微妙に崩れますからね。漫画版のきれいなワカメとか大好きです。

>ダーク段ボール団が略してDDDになるのはわざとなんですか?型月的な意味で
気づきませんでした……。将来トマトさんとかに入ってほしくなってきました。悪役には丁度いい気がするんですよね、トマトさん。人の下につかなそうなのが困りモノですけど。

>これに加えて文章が読みやすいだけに、ネタの酷さ(きっとホメ言葉)が際立つぜ!w
読みやすいと言っていただけて嬉しいです。酷いと言っていただけて更に狂喜乱舞です(ホメ言葉として)

>ちなみに前回ベネットを推した理由・・・先に謝っておきます、ベネットごめん。
彼女の場合はそれがアイデンティティなので謝らなくていいのではないかと。
>ベネットのクラスはアーチャーかアサシン、またはイレギュラーかと
弓→埋まる アサシン……。士郎じゃなくてメディアの下に既についてそうな気がしてならないのですが。

>ネウロのダンボールハウスは見たほうがいいですよw
ブコフで探してみることにします。



あー、何やらチラ裏に帰れ的な発言があったようですが、擁護してくださった方、どうもありがとうございました。
ですがぶっちゃけこんな状態ではもっともでもあるといわざる負えない気がしますので、仕方ないものと割り切ってもいきます。
ですが勢いが完全に止まらない限りはたぶん退きません、と断りを入れておきます。

修正しました。もうnさん、¥ffさん、ありがとうございます。

オールハイルダンボォール!



[6058] 第8話 『ルラギッタンディスカー?』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/12/13 23:53




「あ、ほら、あそこです。校舎内の基点はたぶん、あそこで最後ですよ」

桜が階段の手摺を指差して促した。


「桜、あんた本当に大したものね……」

「お褒めに預かり光栄ですよ、遠坂さん」

ふむ、と感心した様子で凛はツインテールを揺らす。


夕暮れに沈む放課後の校舎に残った二人の少女は現在、術印求めて彷徨っていた。



―――縁が切れた妹と二人、放課後の校舎で隣を歩いてるだなんて、不思議な気分。


例えこれが、凛が桜のその結界の基点を発見、解除した手並みを見込んでの、桜がその効率を上げるために凜を利用しようとした結果であったとしてもだ。

とてもではないが、姉妹で中睦まじく散策をしているような雰囲気では無い。無いが、貴重な時間であることには変わりはない。


―――まったく、心の贅肉よね……。

幾何学模様に適度に魔力を叩き付けながら、凛は内心一人ごちた。




………沈黙。




少しでもやることがなくなると、途端に気になりだすのが気まずい空気というものなのだ。

もともとの関係性は姉妹であっても、今現在では相互不干渉を取り決めた家同士の間柄でしかない。


……しかし、少しでも話を振ってやるのが姉のせめてもの責任というものではなかろうか。


「最近、桜はどう?」

「とても楽しい毎日ですよ。兄さんと楽しく生活してます。やっぱり『家族』と一緒に暮らすと楽しいですよねぇ、遠・坂・先・輩? うふふふふふ……」

「あ、あら…、そう……」




………沈黙。




凜へ向けられたにこやかに微笑む桜の笑顔は本当にきれいで、いっそ攻撃的でもあった。
否、それは常ならば、凛こそが日常的に学校で使う笑顔であったはずだ。仮面ですらない、攻撃行動としての笑み。
それをいざ自身へと向けられた凛は、見事に押されてしまっていた。

まったくもって姉妹である。


「あ、次は外です。場所自体は間桐の家の魔術で探知できたのですが、解除はちょっと難しいので、引き続きお願いしますね」

凛は昔はこんなではなかったのに、と、前を歩く桜のあとを追いながら思わずにはいられなかった。

果たしていつも後ろを歩いていた桜がたくましくなったのか、完全に姉妹の縁が切れたものとして扱っているからこそ前を往く桜の後を凛が歩いているのか。




夕日に染まりあかね色になった校庭のサッカーゴール、東に面しているため夕方には陽の当たらぬ場所となる薄暗い体育用具倉庫、部活も終わり、的も仕舞われた弓道場の射場と学園の敷地内を周ると、桜は「これで最後です」と弓道場脇の林へ案内した。


「うわ、これ、結界の基点も基点、核じゃない……」

こうして見ると改めて、宝具であると断言できる。
現代の魔術師には到底できようもないほどの規模に、神秘の濃さ。

その強度は、今代最高クラスの魔術師である凛ですら容易に干渉することはできない。


「すみません、遠坂先輩。核だったのなら、最初からここに案内すべきでした」

「いいえ、他から先に潰して正解だったわよ、桜…。他の基点が生きていた状態で干渉するのは絶対に不可能だわ、この核」


そう、基点という基点すべてを潰し尽くした現在であればそれが可能だ。

自前の魔力だけでは流石に難しいが、いくつかランクの低い宝石を使えば多少手こずる程度で弱める―――少なくとも一ヶ月は発動できないであろう状態へ持って行ける。


早速外套のポケットから軽く翡翠、ラピスラズリ、タイガーアイなどを取り出して、核を中心に三角形を描くように置く。



―――心臓にナイフを突き立てる



魔術回路を起動し、幻想に幻想をぶつけ、相殺させる。

……それも十数秒で終了し、結界の核と思しき血色の呪印は魔術的な目で見てもほとんど存在が探知できないほどに、隠蔽ではなく衰弱した魔力を放っていた。



「これでよし、と」


もはや学校内を包み込んでいた倦怠感を感じさせる空気はない。いつも通りの閑散とした、放課後の学校が戻ってきていた。


「お疲れ様、桜。協力感謝するわ」

もはやすっかり日も沈み、西の空で雲が紫色にたなびいている頃だ。未だ英霊は七騎揃わぬとは言え、『戦争』の時間もすぐそこまで忍び寄っている。

「いえ、私としても渡りに舟でした。あまり『表』の人に迷惑をかけたくありませんしね」

桜も、どこか柔らかに微笑んだ。


―――まだ、姉妹はやり直せるのかも知れない。


なんとなく生まれた独特の連帯感の中、ぼんやりと凛はそんなことを思ったりした。

















「おっと、こいつはいけないなぁ、遠坂。そして……僕の妹、桜ぁ?」



「凛、構えろ!」

刹那、白髪の弓兵が中華双剣を振るい、空中でやかましい金属音を響かせて火花を起こした。



竹林の奥の闇から歩み出てきたのは、細身の少年。

間桐桜の現在の家族であり、遠坂凛の同級生。


「慎二……っ!?」

三画で構成された記号が記された分厚い書を片手ににやり、と笑う姿は悪意に満ちていた。


「まったく、裏切ったのかい? 桜。僕は悲しいよ。いやいや、それとも……」

と、そのまま揶揄するような目を桜に向けた。

「もともとお前は遠坂の妹、間桐に聖杯を渡すつもりなんてなかったのか……なッと!!」


まだ自分自身が台詞を言い終わっていないその内に、書を持たぬ右腕を、フォルティッシモをかけた指揮者のように振り下ろした。

その腕から闇色の刃が顕現し、桜目がけて襲いかかる。


「アー…、八番開放!」

刹那の間、己がサーヴァントに命令を下そうか逡巡した凛だったが、周りの竹と竹の隙間から絶え間なく襲いかかる鎖のついた釘剣を打ち払う姿を見て、すぐさま己が宝石で迎え撃った。


「おやおや、遠坂なんかに庇われるところをみると、本格的にそういうことなのかなぁ……?」

桜は顔を俯け、強ばらせるだけで何も言わない。








「なぁ……? 元・遠坂桜ぁぁぁっ!?」










  あとがき
※今回のダンボールはおやすみです。
いえ、一応次だけは考えてますが、次以降どうしたらいいのかさっぱり考えてません。次もまたダンボールに出番がなさそうですが。
いや、投稿に時間を空けると、だいぶどんなものだったか忘れますね。一応練り続けてはいたんですが、正直なところこのSSにおけるワカメの口調とか微妙に忘れてます。
なお、更新が一気に切れた一番大きな理由は『遠坂と桜の会話が動かない』です。何も考えずに書けたものが書けないのですから、遅くなるのも仕方ないといえばないような気がします。
この問題は『動かないなら気まずい状態を書けば良いんじゃね?』という逆転の発想で克服しました。




   返答です

>桜は相変わらず黒くて素敵ですね!
>やはり此処の桜は、素晴らしいな本当にww
原作黒桜から考えるとグレー桜です。自分はグレーが大好きです。と言うか無邪気っぽく酷い発言がびしびし来るのが大好きです。一種のMかも知れません。

>”カ”じゃなくて”し”じゃないかしら
>イレしてる……
すみませんでした。

>マジであの歌が流れたのかよw
たまに放送部員って、昼に放送を悪用しませんか? そんな感じです。

>そのダンボールで作られた家ならキャスターの神殿構築のスキル何かに負けはしないぜww
ったりめえよ! 原則ダンボール最強です。

>何が面白いって、あとがきのスランプ発言に一番フイタwwww
スランプ中に書けるのはこんなもんだけですよ。

>ごめん真面目な感想書けねぇwww
本文が真面目に書いてないので仕方ないです。

>くそっ地雷だと思って回避し続けてきた自分が憎いwww
地雷って巨大すぎると逆に笑えてきますよね?


待っていてくださった方もおられるようで、恐縮です。

ハーイルダンボォール!



[6058] 第9話 『The gray cherry blossom』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/12/14 23:06



闇を引き裂くような金属音。



幾度も、幾方向から聞こえてくるそれは、凛たち三人を防戦一方の状況へと着実に追い込んでいた。


―――陽が暮れて闇に落ちた竹林という環境、間桐慎二のサーヴァントの使用する鎖のついた剣という武器、凛のサーヴァントが本質的には弓兵であるという点、そして極めつけは時折飛んでくる黄金の剣。


全てが彼女らに牙を向き、防戦へと追いやったのだ。

闇の中より、竹の隙間を縫うように現れる釘剣や黄金の剣はすべてが凛か桜を狙い撃ち、それをアーチャーが防ぐ。


だが防戦に追いやられてはいるものの、切羽詰って危険な状態ではない。
結局のところ慎二のサーヴァントには攻撃力がないし、強力な決め手もないのだ。


「でも、アサシンってホント厄介よね…」

冷や汗を流しながら凛は吐き捨てた。

マスターだけを執拗に、長物も振るえなければ遠距離武装も当てづらい空間の中へ誘い込んで狙い続ける。
嗚呼、実に魔術師らしい陰湿なやり口だ。

内部の一般人を溶かして餌とするようなさっきの結界といいどうやら間桐慎二は、こんなところばかりが魔術師として正しくできているようだ。


それにこんな場所に結界の核を置いたのも罠の一環に相違あるまい。
竹林の中の一箇所だけ開けた場所などという暗殺者にとって絶好の地形、もともと探り当てられることを見越して設置したとしか思えない。


弾幕を張るように確実に桜や凜を狙う、少しだけ開けた広場の奥から飛んでくる影の刃は、闇に紛れて視認は難しく、魔術的な視界で捉えて避けるか、避け切れなければ相殺するかの二択を強要してくる。

先程より凛の背筋を流れる冷や汗は、実はこの魔術弾幕に起因していた。


先程の結界の相殺に相当の魔力を既に削られており、その上に闇の中視認が難しい影の刃を発見するのに神経を使い、そして避け切れなければ相殺するためにまた魔力を浪費する。

桜の方は先程の結界の基点の探知から見た通りに魔力の探知に長けているためか、影の刃の位置、タイミングを読んでその殆どを危なげながらも避けている。

「遠坂先輩、右へ!」

時折余裕のある時はこ凛へと指示まで飛ばすのだから、その索敵力は明らかに姉である凜を越えていた。


しかしこのままではジリ貧だ。釘剣と黄金の剣を防ぐためにアーチャーは手一杯であり、凛の魔力は残り3割を切っている。

「アーチャーさん、絶対に私たちを守り切ることができますか?」

だが、息をやや弾ませながら避け続ける桜の声には、思いのほか自信に満ちていた。

「容易い。その程度も成し遂げられずして何が英霊か」

アーチャーはにやりと、自身に満ちた笑みを浮かべた。

「遠坂先輩、今から私があっちに出て、影の刃への囮になります。刃ごと兄さんを沈める大魔術、撃てますよね?」

その状況を打開すべき策を言い放った桜の姿は、まるで姉である凛の生き写しだ。
どんな悪路も踏破してみせると言わんばかりの瞳に、笑み。作戦が失敗するなどと考えていない、同時に背中を任せるものへの信頼の笑み。

「……誰にもの言ってるのよ。できないだなんて、言うとでも思った?」

その笑みに答えるように凛も獰猛な笑みを浮かべた。

「じゃあ、あとは頼みますよ」

桜が前に出た。ある程度刃を避けることに慣れてきたのか、絶え間なく舞い散る火花の中、危なげなく影と影の隙間を避けて駆けてゆく。

凛も宝石を取り出す。8年ものの、凛が所持する宝石の中でもとりわけ多量の魔力が込められたサファイア。


集中する影の刃を避ける桜の腕からはいつしか血が流れ落ちていたが、桜の自信に満ちた笑みは消えない。

宝石を持ち、さらに幾音節か詠唱すると、凛はそいつを拳に握りしめた。


「下がりなさい、桜! 一発でかいのお見舞いしてやるんだから……っ!」



今ここに、かつての姉妹の絆が復活する……!?












―――第9話 『The gray cherry blossom』















その刹那、サファイアは宙を舞う。
だが次の瞬間には膨大な冷気の津波となり、進行方向に存在する竹と言う竹をシベリアのごとき凍土へと叩き込んだ。……そう、竹たちを。


そして、舞うものがもうひとつ。



―――腕


―――右腕


―――誰の右腕?


―――見覚えのある、二画しか残ってない令呪のついた、右腕




―――わたしのだ







「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あああああああ!?」

「凛!?」


いつしか影の刃は止んでいて、それでも釘剣は襲いかかってアーチャーを縫いとめ、左手で出血面を抑えてうずくまる凜を助けに行かせない。





そして、その右腕を何気なく、まるでペンが落ちたから拾うと言うように日常的な動作で拾い上げる。


「あら、遠坂先輩。そんなに悲鳴を上げて、どうしたのですか?」


桜が。

腕から血液を滴らせ、それを刃にして保持している。――桜が。





そしてそのまま切り離された、令呪の付いた凛右腕に、その右腕から流れた血をもって術式を描く。


残り二画の令呪を囲うように、円を基礎とした簡単な陣。

そしてそのまま、桜の傷口から湧き出た”ナニカ”が、その陣の中をなめるように這い廻り終えたとき、そこに既に令呪はなく、桜の右腕には新たに二画の令呪が纏わりついていた。


「すみませんでした、遠坂先輩。これはお返しします」


ひょい、と投げられた己の右腕を掴むと、凛はすぐさま後退った。


「魔術回路まるごとと言うわけでもありませんから、治療すればそこそこ動くようにはなると思います。多少はリハビリが必要かも知れませんが……」


その笑みは、先程とは少し変わっていた。

計画が上手くいくと信じた笑顔ではなく、上手く行ったと笑う陰謀家の笑み。


「これで良かったのかい、桜」

さらにその隣に並ぶのは、少し複雑そうな顔をした慎二だ。その手に、あの分厚い書物はない。

「ええ、兄さん。演技は完璧でしたし、お陰さまで遠坂先輩ったらしっかりと隙を晒してくれましたよ」

慎二はそうか、とだけ答えて黙り込んだ。









―――ことの次第はこうだった。


桜は、ライダーを召喚した。

だが予てより桜は、己の最大の脅威は実の姉である遠坂凛であると判断していたため、間桐の制御魔術によって令呪を己の体から切り離した。そしてその令呪――偽臣の書をデコイとして兄、慎二に持たせる。

学校の結界は、そもそもが凛を陥れるための罠だ。自分で仕掛ける場所を決めた、特に念入りに隠蔽した基点を消す素振りをして凛の気を惹く。
そしてそのまま協力関係に持ち込み、己が探知能力に長けるものの解除が苦手だと錯覚させ、一通り学内を引き回して魔力をある程度消耗させたところで、さらに強力な核に魔力を使わせて大きく消耗させる。

その後待ち伏せしてもらっていた慎二に、あえて敵として印象づけるよう自分もろとも凛を襲わせ、釘剣と、ライダーの召喚獣である黄金剣(クリュサオル)でサーヴァントを釘付けにし、さらに慎二に竹林の奥へ偽臣の書を置かせ、その書を媒介に桜自身が、自分と凛に向けて魔術を放ち、またもや探知に優れると見せかけつつ膠着状態を作る。――己が制御するのだから、影の刃の起動を見極めるなど容易い。

あとは賭けに出んとばかりに凛に最大の攻撃を仕掛けさせ、その最大の隙を桜自身が後ろから突く。


ただ、それだけなのだ。


聖杯戦争という全てが敵に回る状況を過去の絆を利用して凛に忘れさせ、その隙を突いて確実に令呪を奪い取る。


ただ、それだけ。












くすくすと笑った桜はそのまま、忘れていましたと呟き、新しい痣の現れた右腕を高く掲げた。


「アーチャーさん、マスター代えを了解してください」


赤く令呪が輝き、アーチャーの体を紫電が縛るとともに釘剣と黄金の剣の舞踏が止む。


「まぁ、待ちたまえ。交換条件を飲んでもらおう」

だが、そんな状態でもなお、アーチャーは凄絶に笑う。

「おい、アーチャー。そんなことが言える立場だとでも思っているのか?」

慎二が困ったように眉を寄せた。


「できるさ。私がこのまま自害して見せれば、君は目的を達成できなくなる。凛の令呪は既に使われて二画だ、もはや自害を止める分の令呪など残されてはいまい」

令呪に抗い、身を焼かれる苦痛を味わっているだろうに、アーチャーはそのような素振りも見せない。

「……いいでしょう、要求はなんですか?」

ため息をついて促した。



「そこのマスター……いや、元・マスターになるのか? 凜を殺さず、見逃せ」

「それなら問題ありませんよ。もとから遠坂先輩を殺すつもりなんてありませんでしたし」

さすがに気が咎めます、と桜が肩をすくめる。



「……了承した、マスター。凛、君は早い所、あの教会まで逃げろ。そして保護を受けるんだ」

アーチャーが桜の方へ一歩踏み出すと、それは凛から背を向けて遠ざかる形になる。


「アーチャー……」


遠坂凛は、この屈辱を忘れない。

そしてもう、油断をしない。

これは戦争――そう、魔術師と魔術師の戦争なのだから、この程度は起きて当然の事態だったのだ。


「忘れない……。私はアンタを、忘れないわよ……っ!」











右腕から血を滴らせながらも、遠坂凛は妹とその羲兄に背を向け、走り出した











「姉さんは、こんな馬鹿げたものに参加する必要なんて、ないんですよ……?」




ぽつりと、桜はつぶやいた。
















   あとがき
とてつもない悪夢を見ました。我が家が蟲だらけ、Gにムカデにカミキリムシで溢れる夢なんてイヤです。

ここまでやっても黒桜じゃありません、まだグレーです。
ほら、なんだかんだ言っても原作と違って遠坂殺そうとも苦しみの中に叩き込もうともしてませんしね?
原作だろうと二次であろうと大抵まず脱落しない遠坂を脱落させ、大抵脱落やヘタレ具合がマッハになるワカメを生存させると言うのをやってみたかったというのもあります。
これから先の展開? わかりません。ですがこうなれば適当に若妻さんやらイリヤさんやらマーボー神父やら蟲爺やらが引っ掻き回すでしょうし、膠着だけはしないでしょう。


   返答
>なんか慎二がキャラ変わった感じがする
>?展開にちょっとした違和感。ここのワカメはいい人だった気がするんだが…
ビンゴです。とりあえず人を驚かせたくなる症候群発病しました。

>しかし今回、ダンボールがない……だと!?
>ダンボール分が枯渇してます!早めの補給をお願いします!!
>最新話はダンボール成分が足りませんでしたが次回に期待したいと思いますw
>ダ、ダンボールが、ダンボール成分が足りないぃぃ
誠に申し訳ありません、桜が猛威をふるっております。次回からはダンボール士郎回ですので、しばしお待ちください。

>桜はもっと姉にかみついてもいいと思うんだ!
その結果がこれだよ! 噛み付くどころか背中刺す刃です。でも殺しません。

>段ボールは無敵だと思ったら水に弱かったんですね・・・w
表面にラッカーをかけるか、濡れた後、日に当てて乾かせば使えます。その後日曇るとどうしようもありませんが。
でも温かさは保証できますよ?


さて、次回からは徹夜明けで書けるような状態に戻ります。
―――いざ、あの遠い日のダンボールの彼方へ!


 P・S
説明を忘れていたためオリ武装をば。

黄金剣クリュサオル ランクD
正確には武装ではなく、ペガサスと同じく召喚される幻想種。
黄金の剣に化身する程度の能力持ち。
自らの意思を持っているため自分で飛びかかりつつ化身することができる。
魔力消費がペガサスと同レベルでありながら、知名度の低さからの弱体化も相まりその攻撃力も機動力もペガサスに及ばず、非常に扱いづらい。と言うか使い道が無い。そのため一応使えはしたが原作では使われていなかったという設定。
今回は釘剣のみでは弓さんを止められるかどうか怪しかったので導入



[6058] 第10話 『灼熱の解逅』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2009/12/15 19:39

丁度桜と凛が、学校に仕掛けた結界の基点を解除して回っている頃、衛宮士郎は既に帰宅していた。


「さて、早い所修繕かけるか」

桜や慎二は、たまにこのフォートレス衛宮邸に宿泊する。
たまにとはいえもう数年の付き合いなため、回数としてはなかなか凄まじいことになっている。そのため二人揃って離れに、自分専用の寝室などを用意していたりもするのだ。

そして、昨夜は庭にてランサーが暴れまわったりしていたせいで土は舞い上がり庭石は飛び、という大惨事となっている。


……ここで問題となるのは、庭石乱舞だ。

一度舞い上げられた庭石は無論、万有引力の法則に導かれ落下する。
その中でも砕かれずにそのまま舞い上がった庭石――岩の持つ破壊力は、日本家屋の屋根を破壊して余りある威力を持っている。


士郎ががちゃりと普段は滅多に立ち入ることの無い、離れのとある部屋の扉を開けると、そこにはまっぷたつに割れた床板と、その中央に鎮座する割合小振りな岩。周囲に散らばっているのは屋根瓦に、屋根を構成していた木材の群。極めつけに部屋中が泥だらけになっている。



―――そう、昨夜の遭遇戦。その結果が、桜の寝室の惨状だ。


いくらなんでもこのような状態をダークダンボール団幹部――つまりは身内、それも女子に使わせるなどと、正義の味方の切り捨てた1を救う悪役、それもラスボスクラスを自認し実行する所存である衛宮士郎に耐えられることではなかった。


「まずは庭石を外に出して、掃除だな」


こんなときこそ己の魔術が役に立つ。
そうして躊躇なく魔術回路を生成、筋力を強化する衛宮士郎は、あまり魔術の秘匿を念頭において行動する人間ではなかった。











   第10話 『灼熱の解逅』











一通り岩やらゴミやらを運び出し、泥や土や砂を掃き捨て、天井の穴をダンボールで塞ぎ、床の穴もダンボールで塞ぎ、しかし床をダンボールで塞いだだけでは一箇所だけ目立ってしまうので部屋の床板を剥がして全てダンボールに張替え、しかし桜の部屋だけダンボールの床となっては目立つので、これまた離れの床板すべてを剥がしてダンボールへと張り替える作業を、日がまだまだ沈まぬ内に済ませてしまう士郎の有能さは疑うべくもない。まさしく化物の領域である。
――ただし結果にその有能さが反映されているかどうかは別問題ではあるが。


太陽の日差しもまだまだ強く、張り替えたばかりの床ダンボール板が照らされて黄金色に輝く。
あまりに美しく床がダンボールだらけになったため、一息つくため士郎は床に寝転んだ。――このダンボールに入れていたものはスイカだろう。さわやかな香りが鼻腔をくすぐる。


ごろりと寝返りを打ちもう一度鼻を鳴らせると、今度はどこか暖かな芳香に包まれた。――半紙かなにかだろうか、紙のもつ、どこか人をリラックスさせるような香りだ。

柑橘、炭、塗料、プラスチック。ごろごろと士郎が転がる度に色とりどりの香りが出迎える。
そんな香りの花畑を士郎は、夢中になって探検し始めた。






そのような素晴らしい新・床板をごろごろと一心不乱に転げまわっていると、いつの間にか辺りは漆黒の帳に包まれていた。


「嗚呼くそ、少し夢中になりすぎたな……」

客観的に見ると、日が暮れるまでごろごろとダンボールの床を転がってはすんすんと鼻を鳴らし幸せに浸る男が一人。(この物語の登場人物は全員18歳以上です)極めつけに危険人物である。
こいつがこんなことをしている内に遠坂凛は腕を飛ばされ、その後右腕を持ったまま教会に駆け込み終わっているという現状。自分が苦労している間に士郎が何をしていたかを聞けば、きっと凛は怒り狂うに違いない。


―――しかし、このまま一人で飯を作るというのもつまらないな。


桜は用事があって今日は家に帰る。
大河は教師仲間との付き合い。

そう留守番電話に連絡が入っていた。必然、こいつは鳴る電話にも気付かず一心不乱にダンボールの香りをあじわっていたことになるわけだ。


そこを踏まえたところ、あっさりと外食するという結論へ至る衛宮士郎。

万札を一枚滑り込ませた財布を手に衛宮士郎は家を出る。


―――夜の街へと、家を出る。




















「よぉ、神父じゃねーか」

が、夜の街を歩こうと何事もなく泰山なる中華料理店まで辿り着くのが衛宮士郎だ。

「む、衛宮の小僧か」

扉を開けてまず目に入ったのが、真っ赤な豆腐料理を咀嚼する神父の姿。

聖杯戦争も一応形式上は未だ始まっていないとはいえ魔術師たちが最も活発に動き出す夜に外出、煮え滾る麻婆豆腐を掻き込むという職務怠慢振りに言及する資格を有する人物は居ない。

「あん? おい神父、俺はてめーに名乗った覚えなんて無いんだがな?」

「なに、昔、少しばかり貴様の父に縁があってな、最近貴様がその養子であると知っただけだ」

ほう、と衛宮士郎はひとまず納得した。なにせあの、初対面で魔法使いを自称した爺さんのことだ、このような神の僕と名乗りながら人の不幸を嬉々として求めるような変態神父と面識があったとしても、何ら不自然な要素は無い。

適当に麻婆豆腐と白飯を注文し、神父の目の前の席に座る。
滾る灼熱を平らげ、お代わりを頼むその神父の姿は何処か生き生きとしていて、その吹き出す油汗が違和感を生じさせていた。


「……おい、どうしたよ。えらく上機嫌じゃねえか」

しかしなんだかんだとそれなりに顔を合わせた仲、その日の神父の気分くらいは顔色から読める。

「いや、前に恩師の娘の話はしただろう?」

ああ、と士郎は相槌を打つ。

「その娘が今日、教会まで駆け込んできたのだが」

「なんだ? てめーの性格の悪さを知ってる人間が告解に来るとも思えねぇが」

神父は一応、厳かであろうととしているようだ。特にその声色に喜色は見えない。

「少しばかり要件があってな。その要件が済んだ後、相談事に絡んだ、師父の形見とも言えるものをその娘に渡してやっただけだ。…良いことをすると実に気分が良い。神に仕える身はかくあるべきだな」

それでも衛宮士郎がここに来店したときに見た神父の姿に、この時ほどに饒舌なものはなかった。

「はん、どうせてめーのことだ、そのオヤジの形見のトランクスでも渡したんだろーが」

「ふむ、貴様は何故、師父のトランクスを渡すと私が喜ぶと思ったのかね?」

「年頃の娘が男物のトランクス持っててもおかしいだろうし、かと言って親父の形見だ、捨てるに捨てられないだろうしな。その葛藤する姿なんてお前の大好物じゃねーのか?」


士郎の言に神父は感心したように頷きそのまま瞑目。

「師父のトランクス……? 面白い、実に面白そうだ。その発想はなかった。どこにやった、どこにしまった? 遺産管理は凛でなく私が行い、遺品は基本的に捨てない方針だったはずだ……。ならあるのは地下か? それとも……」

恩師の下着をどこにやったかという案件を、無意識に口から出るほどに深く思案する神父の姿は滑稽に過ぎた。

しばしの間、瞑目したままぶつぶつと何事か呟いていたようだったが、突如カッと目を開けると、そのまま席を立ち、


「今日という日は実に充実した一日だった、神に感謝する。小僧、私は急用を思い出したので帰る。お代わりした麻婆豆腐は貴様に進呈しよう、存分に食すがいい」

「いや待てありがたく食わせてもらうが手前は本当にそれでいいのか…?」


神父はそう、早口でまくし立て、士郎の返事も聞かずに悠々と急ぐという離れ業を見せつけて帰っていった。






結局衛宮士郎の前に残ったのは煮え滾るマグマのような二皿の麻婆豆腐とライスだけ。


その皿を前にして士郎のすべき事は、


「いただきます」


ただ食すことだけだった。
















   あとがき
―それは骸だった。
岡山の実家から送られてきた蜜柑、その骸でしかなかった。――否、そのはずだった。
しかし、その骸が私を掻き立て、血を滾らせた。
―――ダンボール
その後の行動に否はない。底に残っていたひとつ、ふたつの蜜柑をこたつの上に放り投げ、すぐさま逆さに持ち上げ、天へと掲げる。
―――ダンボォォル!
紙への祈りにも似た喜びの舞、そして、沈むように座り込み………!
―――絶望
そう、それはまさしく絶望であった。それ以外の形容など考えられぬほどの破滅的な挫折であった。
即ち―――体が大きすぎてダンボールに入らない
「絶望したッ!」
私に許されたことなど、焦げたような色をした板張りの床を転げまわる程度でしかなかった……。

こんな経緯と、これ以上ダンボールが無いとそろそろ作者も読者も禁断症状が出てくるようなので、もう9話裏とかやめて進めることに。
まだまだ遠坂は終わりはしません。


   返答
>くっ、やられた!!(某「新世紀の神」の顔を想像して下さい)
>おお、釣られた。うっかり遠坂だけでなく自分も釣られました。
ドッキリ大成功!(にっこり)

>限りなく真っ黒に近い、灰色桜だったか!
>黒桜カッコいい!
>灰色?いいえ黒です。
>この桜、確かにしたことのランクとしては原作ほどではないが、腹の中は間違いなく原作よりも黒だと思われる。
灰というには黒すぎ、黒桜というには原作黒桜に劣る上思い入れが強く、どうにも上手く形容できないんですよね。何か考えて下さいませんか?

>影の刃がでてきた時点である程度展開が読めた
バレ……た……?
一応、ワカメがセイバールートで士郎に放った(あっさり避けられて強化モップでやられましたが)ものをイメージしていたのですが、影といえば桜という印象が強かったようで……。

>黄金剣っていったい誰の武装なんでしょうか?
正直説明入れようと思って忘れていました。すみません。

>もう凛にはこの後見せ場が無さそうなんですが!こうなったらダンボール団に入団か!?
凛がサーヴァントを失っても復活できるのはUBWシナリオ通りです。無意味に。貴重な原作通りな常識人を失うわけにはいきません。

>家の壁などに吹き付けるだけで超強力(ガスバーナーで焦げ目程度)な耐火性を待たせる事が出来るスプレーってのがありますよ?
あっさり燃えた方が逆に悪役っぽくないですか?

>なぜか、頭の中で一昔前の悪の親玉の格好している士郎と露出度高い悪の女幹部
だいたいあってます

>ダンボール欠乏症の皆様
その結果がこれだよ!


ダンボールイズフォーエヴァー!



[6058] 第11話 『巨漢と城塞』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b
Date: 2010/08/11 01:42

「こんばんは、お兄ちゃん」

衛宮士郎が初めてその少女――雪の妖精ような少女に出会ったのは、泰山からの帰りであった。


「……誰だ、てめー。俺に妹がいるだなんて聞いてねーぞ。あのエセ住所不定爺だから否定はできないが」


「イリヤスフィール=フォン=アインツベルン、って言ってわかりませんこと?」

「知らん」

坂の上から見下ろすように士郎を見つめる赤い瞳。


「爺さんの愛人の娘か何かか? けっこうよく不審者として捕まったりとか海外に高飛びしたりとかしてたから、心当たりはそれくらいだぜ?」

「失礼ね。私のお母さんはむしろ、キリツグの正妻よ」

「疑わしいな。あいつが生きてた頃に結婚したなんて話は聞いてねえぞ」

士郎はにべもなく切り捨てた。


「ふーん……」

が、それはある種の侮辱でもあり、イリヤスフィールの目が剣呑に細められた刹那、いっそ破滅的とまで言えるほどの圧力が空気を満たした。


「今日は、早く呼ばないと死んじゃうよって警告しておくだけにしようかとも思ってたんだけど……」

嫌な予感に従い咄嗟に飛び退いた士郎の目の前で、巨大な剣が大地を断ち割った。


「おいおい……昨日に引き続いて、マジかよ……」

冷や汗をかく士郎の前では既に圧力が収束し人の形をとり、より凶悪な威圧感を周囲に振りまいている。

金剛力士像もかくやというような強大な腕、巌のような顔、まさしく鋼とでも称すべき肉体に纏うのは腰布のみ。
腕には剣と呼ぶのもはばかられるような、剣の形をとった大岩。

否、もはや人間の姿に収まる範疇に無い。人間とはここまで屈強かつ強靭になれるような生物ではない。


―――まさしく、半神

―――まさしく、英雄


尋常なる生物には到底到達しえない、強大すぎる存在がそこにあった。


「よく避けたね、お兄ちゃん」

対するイリヤの声はひたすら冷徹であった。

「でも……、死んじゃえ」


―――轟音。

衛宮士郎とてたかが人間。災害そのものとしか言いようの無い破壊の一薙ぎに、まるで木の葉のように吹き飛んだ。

「クッ……てめー、ダンボールがなかったら今頃スプラッタだぞ……?」

そんなものがあっても普通は即死である。

だが吹き飛ばされてなお、土埃の中で衛宮士郎は健在だった。
いつ刺されてもいいように腹と背中に仕込んでおいたダンボールを強化し防御できたのは、まさしく奇跡的と言っていいだろう。

「ふん、まだ生きてるみたいね……、やっちゃえ、バーサーカー!」


「■■■■■■■■■■ッ!」

巨人――バーサーカーが咆哮し、闇を照らす街灯の明かりすらなお遮る粉塵に猛進する。

「くそ、こいつっ! 隠れさせてもくれないのかよ」

粉塵に紛れて隠れようとした士郎はたまらず飛び出した。暴風が追随し、再び士郎へ極大の衝撃を叩きつける。


塵屑のように吹き飛んだ士郎が塀にぶつかり、まるで砂の城のように崩壊させた。

生成された魔術回路は軋みを上げ、強化された肉体ですらダンボール越しの衝撃に悲鳴を上げて衛宮士郎の呼吸を乱す。


―――全く、最近の暴漢ってヤツぁ桁違いだ!


昨夜の槍を持った青タイツ不審者、それに遠坂凛と付き合いのあるようだったあの双剣のガングロ男、そして今日に至ってはこのような岩山巨漢だ。
まったく悪人が言及できたことではないが、近頃の冬木市の治安はどうなっている、と、士郎は毒づかずに居られなかった。

というか未だに悪役は聖杯戦争という儀式を一欠片も知らない。

「まだ死なないの……? しつこいなあ、お兄ちゃん」

闇の中にあってなお映える雪のような長髪を持った紅眼の少女は、ひたすらに無慈悲だった。


「じゃあ、これで死んじゃえ」


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!」

巨漢の咆哮が一際高まり、全身が一回り巨大化した。

そう、これこそがバーサーカーのクラススキルにして真骨頂、『狂化』。
技でなく、その膂力と速度のみで相手をすり潰す、実にシンプルかつ効率的な戦闘技能――!


その土石流がごとき一撃が体勢を崩した士郎めがけて振り下ろされる。
もはや避けようもなく、懐に仕込んだ常備用のダンボールも種切れ。もはや万策尽きたと―――

否。

――衛宮士郎が衛宮切嗣より教授された魔術、その中でも原初のモノ。

――効率が悪いと否定され、強化を教わる前に行った、恐らくは衛宮士郎の歩む魔導の中、最も深淵に位置する秘奥の一歩手前


「――投影開始」


刹那、その比較的低い背丈を城壁が覆った。猛り狂う岩塊を受け止め、返す刃をそのまま数を増やしたダンボールで防ぎ、そして翻す斧剣にダンボールが盾となる。
人間は自然災害に勝つことは出来ないのは自明の理――しかし、ダムや補強工事などで土砂崩れを防ぐことは可能だ。
それは狂戦士と悪役の一騎打ちにも当てはまる。

次々と削れ、吹き飛んでゆくものの、吹き飛ばせば吹き飛ばしただけ中から湧き出すダンボールの壁、壁、壁……。
湧き上がる無限のダンボールを一心不乱に、猛り狂いながら破砕してゆくバーサーカーの姿はどこか、果て無き世界の理を探求し続ける求道者にも似ていた。

「いつまでも虫けらみたいに丸くなっててもバーサーカーは止まらないよ、お兄ちゃん!」

暴力が侵蝕し、ダンボールが氾濫する。ほんの数分前までただの平和な街角があった場所には破壊の旋風とダンボールの骸のみ。
裏の常識で考えて、神代最高位の暴力と現代の野に下った魔術師の子孫のどちらが勝つかなどといえば、酒が入っていてすら賭けが成立しないであろうほどに明確な戦力差がある。

―――だが、どうしたことだろう。

「ウソ……、バーサーカーが押されてる……?」

少女がその紅眼を見開く。
常に攻めつづけるは狂戦士、しかし徐々に押し出しているのはダンボールの山だ。
並の物量などその身ひとつで粉砕するバーサーカーが、あろうことか単なる紙束に押されているというのだ。

「まさか……ダンボールの耐衝撃性!?」

そう、神代には存在しなかった現代の衝撃吸収素材――全世界で木箱に代わり使用されてきた新たなる輸送手段、民が信じる耐ショック材の概念最高位―――
この場合斧剣が剣としての切れ味を一切持たず、打撃武器として石柱から削り出されたモノであったこともダンボールへ有利に働いた。

剣を以て攻めているのはバーサーカー、しかし徐々に一歩、また一歩と後退してゆき、ついにはイリヤスフィールの傍らまで追い詰められる。
その様はさながら、崩落した土砂が津波で吹き飛ばされるかのよう。

「ふん、今日のところは引いてあげるけど――次に会ったら、絶対に殺してやるんだから。せいぜいそれまで死なないように待っててね、お兄ちゃん」

巨大な天災はより強大な天災によって覆される――津波のようなダンボールにさしものイリヤスフィールも退く他に手がない。
バーサーカーの肩にちょこんと乗ると、そのままどこへやら跳び去っていった。

























それは、とある冬の日の出来事……。

「うぃー、ひっく!」

虎柄のシャツの襟元をよだれで濡らしながら歩く。
普段の快活なイメージは見る影もなく、ただふらふらと酔いどれながら、吠えもせずに虎が歩く。

「タイガーって言うなー」

教師仲間の田所先生(35歳独身)と共に軽く深山町の小さな飲み屋で飲み、共に日頃の自分たちが職場で女扱いされてないことやら生徒たちに名物扱いされていることやら愚痴りつつも和やかかつ適度にアルコールを摂取。
そのまま学校にスクーターも置いて(飲酒運転は法律で禁止されています)徒歩で帰宅する最中。

そんなやや駄目かつ平穏な一日を終えたところに、彼女は怪異と遭遇した。


「あいたっ!?」

ごく普通の帰り道、歩き慣れた我が家への道で、何がしかにつまづいたのだ!

「ひぃっ!?」


そこに展開されていた光景―――


ダンボール、ダンボール、ダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボール
ダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボール
ダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボール
ダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールカリバーンダンボールダンボール
ダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボールダンボール!

電柱は折れ、塀は砕け、アスファルトには罅が入っていることすらどうでもよくなるほどのダンボールの山!



「あ、なんだ士郎か」

もー、お姉ちゃんびっくりしちゃったよーなどと軽く流しながら、埋まって交通が不能になった道路を渡る。
山になったダンボールを越える作業はまさしくダンボールクイライミング、これだけでひとつのスポーツとして成立してしまいそうなほどの重労働だ。
かつ適度に崩れやすく、例え崩れてしまってもダンボールがクッションとなって安全。わんぱくなお子様にも安心なニュースポーツ。来年の夏はコレが流行る!
…などと益体もない思考を寄った頭で回しながら、「お姉ちゃんこれでも士郎が引き取られてきたときからずっとやってるベテランだからー、流行ったら一気にヒーロー? ヒロイン? 尊敬されちゃう? 流行の最先端? きゃー!」などと皮算用。

が、そんな思考も中断させざるを得なくなった。

ダンボールの山の中、一箇所だけが窪んでいたのだ。
もはや熟練のダンボールクライマーである大河はその周辺を踏めば崩れ落ち、足を取られてしまうであろうことをいち早く察知した。ただし酔った頭で。

「ふっ……、この流行の最先端に立つグレートダンボールクライマー・ザ・タイガをその程度で謀ろうなんて…、三年早いわね!」

慎重に踏み抜く場所を定めつつ、安全確認も兼ねて穴の底を覗き込む。
切れかけた街灯の点滅する蛍光灯がそれを映し出したとき、思わず笑みがこぼれた。

「士郎ったら、こんな場所にダンボールでお城なんて作ったまま寝ちゃって……」

どれ、やんちゃな弟分を家に連れ帰ってやるかとゆっくりと縦穴を滑り降り、弟分の傍らへと駆けつける――と、ふと違和感を覚える。
そこにいるのはいつも通りの衛宮士郎、暖かい体からして前のようにダンボールでできた精巧な偽物を掴まされたわけでもない。うめき声は上げるしこのような高温をダンボール体が発することなど―――高温?


「そんな…士郎、酷い熱!」

その瞬間も赤熱した魔術回路が身体を抉り続けていることなど一般人たる大河にわかろうはずもない。
だがパニックになっている暇などない。

――なぜなら、士郎を今すぐ家に連れて帰らねばならないのだ!

慌てて小柄ながらも引き締まり、見た目よりもずっしりと重い弟分を抱え上げると、ダンボールを登り始め―――


「あ」


ここはダンボールの山の奇跡的な空白地帯――いわばダンボールの目、少しでも踏み外せば崩壊すると宣言したのは誰であったか。

「わあああああああああぁぁぁぁぁぁぁん!」

崩れ落ちるダンボールが、藤村大河と衛宮士郎に降り注いだ。


























   あとがき
このままDEAD END…とか考えてみたものの、完結すればなんでもいいってもんじゃねーぞと思い直しました。

某ダンボールSS様が完結してて対抗心が湧いてきたので、黒鍵風投擲練習とかして型月ポイント(型月二次を書くために必要な精神エネルギー。相手は死ぬ)を貯めて書いたわけです。
凛→戦闘不能 桜→蟲爺といっしょ★アーチャー作戦練り直し編 若妻→一般魔術師が襲われてる?宗一郎さん以外興味ないです 言峰→師父のトランクスはどこだ!?
救援来ないのでどうしよーもなく、思い切りいろんな意味で詰んでいたわけです。でも詰んでいても仕方ない、どうにかして突破するのが人情!
さてこの作品、詰まったら最後に頼るものはなんでしょうか? 己の手腕? 否。原作の流れ? 否! ――ダンボールに頼る以外に何があろう!
そんなわけでSHIROUがSAIKYOUになっても仕方ないのです。許されて然るべきです。

そして何よりも一番痛かったのは、引越しが終わって片付き、周囲からダンボールが消えたことです。私は一体これからどうやってダンボール士郎を書けばいいのでしょう。
もうダンボールを抱いて温もりを得ることによってダンボールエナジー(以下D・E)を補給し、D・Eオーバードライブを発動させればいいのでしょう。また絶望です。



[6058] 第12話 『――斯くして、聖杯戦争は始まる』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:282a4703
Date: 2013/04/06 06:53


「う……ん……?」

ダンボールの投影し過ぎで倒れていた士郎は、ふと自分の意識が浮き上がってくることを感じた。底の見えない壺から脱するように、意識が戻り、思考が始まるのを自覚する。
――恐らく朝だろう。

瞼越しに知覚する周囲は恐らく、薄暗い。
これなら日光に目を焼かれる心配もなかろうと、士郎は目を開いた。


「おはよう」


濃い顔の神父がいた。
今日も元気な死んだ目をしたクサレ外道の顔だ。男臭い鼻息が士郎の顔を撫でて、そのまま抜けてゆく。

「キモいわ」

士郎は全力で頭突きした。








さて、言峰綺礼とはどんな人間と定義すればいいであろうか。
――嫌がらせ大好き、ネクラ、一般感性での『愉悦』が感じられない性格破綻者。
どれも間違っていないが、どちらにせよ何の意味もなく知り合いを訪ねてくるようなみんな仲良くしようマンでないことだけは確かだ。

「で、要件は何だ――?」

その士郎の言葉にふむと一つ頷くと。

「それが、大変なのだ。――実は我が師父がFUNDOSHI派だったので、師父の娘にトランクスを渡せなくなってしまった!」
「死ぬほどどうでもいいわその娘の下着を全部フンドシに入れ変えとけクソ野郎」

おお、と神父が手を叩いた。なお言峰綺礼の脳裏には赤フン一丁で上品にワインのティスティングをしてる時臣が描かれている。筋肉が足りていない。

「――とまあ、それ以外にもあるのだがな」

昨日の状況説明だ。ダンボールの山を片付けたのは言峰であること、一緒にいた一般人は教会であずかっていること、そして――裏側の事情もだ。

――曰く、ここしばらくの魔術戦の後処理は神父が受け持っているらしいこと。
――曰く、聖杯戦争なるものが存在すること。




魔術師による、万能の願望器を賭けたバトルロイヤル。その片鱗に、既に悪役は踏み込んでしまっている。
――故に、もはや参加しないなどという選択肢はないと言って良い。特にバーサーカーは既に標的を定めている。

己が生命は既に、ベットに賭けられているのだ。

「――サーヴァントを召喚しろ。それが小僧、お前の義務だ」
「OK、わかった」

……言峰綺礼は硬直した。言って聞くとは思わなかったのだ。

「あー、要は英霊の触媒になりそうなモンがありゃあいいんだろ……? あと、ご当地ならご当地であるほど強いと。たしかあそこに……」

士郎はそのままおもむろに立ち上がり、土蔵というかダンボール蔵へ向かう。
言峰は少し意外に思いつつも後を追った。――真っ先に反発しそうなものを、意外にも素直に召喚を行おうとする士郎に不自然さを覚えた言峰は正しい。

「あったあった」

――なにせ、取り出したるは虎のストラップのついた竹刀なのだから。

「む、少し待――」

「閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ――繰り返すつどに五度……」

虎竹刀で地面に魔法陣を書きながらの詠唱に流石の言峰も止めようと動き出すが、突然床の一部がぱかりと開いて地下へと落下する。

「ぬんォォォォ――ッ!」
「告げる――汝が身は我がもとへ……」

落下中に懐から投擲用の剣――黒鍵を取り出してダンボールの壁に突き立て、そのままザクザクと刺しながら登る言峰。
しかし――衛宮士郎の詠唱に間に合わない。

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」

言峰が再び地上に姿を表した時には、既に身体に悪そうな輝きと共にエーテルが編まれ、人外のナニカが実体化を始めていた。

――栗色の髪に、白と黒の装束。
――召喚に使われし宝具そのものを携えしその者は、猛虎。

「――これが俺のサーヴァント、英霊冬木の虎ッ!」

「トラトラ言うな飯をくれーーーーーっ!」

王たる咆哮とともに、かつて聖杯戦争で呼び出された中で最もどうしようもない英霊が降臨した。








「うむ。――とりあえずはセイバーの召喚を確認したのでこれより聖杯戦争を始める」

「おう、これで俺を殺しに正義の味方どもが大挙してやってくるってワケだ。――腕が鳴る」

この戦争がこの衛宮切嗣の養子に何を与えるのか――興味を惹かれる。
この戦争で、俺を殺しに来てくれる運命の相手セイギノミカタが現れるのか――興味を惹かれる。

傲慢な笑みを浮かべた二人の男が、お互いに愉悦を覚える中、「おいしーおいしー! やっぱ士郎のご飯は最高よねー! 道場じゃお腹すかないけどご飯もその分出てこなかったものー♪」などと背後で食事をがっついているサーヴァント――セイバーがいた。なんて嫌なセイバーだ。


ではな、と言峰が去って行った後で、士郎は気づく。

そろそろいつもならば起床しているであろう時間が、近づいて来ていることに。




――現在、居間には大河のようなものがいる。


――これより桜と大河がやってくる。





「……クックック、ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ――ッ!!」

悪役として解決しなければならない、聖杯戦争最初の問題が浮き上がったのであった。


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