『剣製少女 第一話 1-4』
凛が作った中華を昼食に食べながら話題は、あたしの訓練成果のことになった。
ちなみに、セイバーは言峰からもらっている服に着替えてもらったんだけど、清楚な印象が大変似合っている。
そういえば、二人の体系は結構似ている。
これがあたしだったら、セイバーには入らないだろうな。
「で、アーチャー、詩露のほうはどう?」
「ふむ、最初に言ったように魔術師相手ならそこそこの戦いになるだろう」
「サーヴァント相手は無理なの?」
「お前な……」
「詩露~、私がしたサーヴァントの説明覚えてないのかしら?」
うわ……、お師匠様、その笑顔怖いです。
と、いうか、こういう時の凛はきちんと釈明しておかないと,後で何をされるかわかったものじゃない。
足裏マッサージとか、足裏マッサージとか、具体的には、足裏マッサージとか。
「あ、ち、違う違う! だって、アーチャ-はあたしより魔力が少ないのにサーヴァントに勝ったって言ってたから、勝てないまでも牽制ぐらいはって!」
そう、彼は自身がマスターとして参加した聖杯戦争で、ギルガメッシュというサーヴァントに勝っているのだ。
なら、その彼より魔力量の多いあたしは、いきなり勝てるとは言わないまでも牽制ぐらいはと思ったのだが、きっぱりと否定されてしまった。
「まず、お前の勘違いを訂正しておいてやる。
お前のほうが魔力が高いのは、二十七ある魔術回路をきちんと使いこなしているからだ。
当時の私は普段二本しか使えなかったからな」
「あ」
「そういえば、詩露も修行始めたばかりの時は二本しか使えてなかったわね」
そうだった。 自分では二本しか意識できていなかったが、凛の検査で二十七もあると聞かされて、喜んだんだった。
なんだか、懐かしいな。
「それと、魔力量はお前のほうが高いが、回路の強度は私のほうが上だった。
いくら凛の指導があるといっても、三年という年月の差を埋めるほどではない」
「つまり……」
「年齢と回路の数の割には優秀だが、総合評価では当時の私よりも劣る」
そんな……、せっかく女になって衰えた肉体的なハンデを覆せると思ってたのに。
それでも何とかならないかとアーチャーに詰め寄るが、
「で、でも、魔力を多く込めた矢でブロークン・ファンタズム使えば……」
「無駄だ、宝具でも投影できれば別だが貴様程度の魔力が篭っただけの矢でサーヴァントの対魔力を突破できると思うな」
「なら、宝具を投影すれば……」
「シロ……」
なんとか、なんとかならないのか?
このままじゃ、俺はまた……・。
「無駄だ。 今宝具を投影できたとしても粗悪品を作った挙句神経が損傷するだけだ。
回復はするだろうが、戦闘では足手まといになるだけだ」
「くっ……」
顔を上げていられなかった。
またか。
また俺はなにもできないのか……。
せっかくアーチャーという自身の完成系を知り、そこから技を学ぶこともできるようになったっていうのに。
「な、……なら、神経が全て損傷してもいいからまともな投影ができるようになれば、なんとかなるじゃないかっ! そうすれば俺は……!」
「詩露っ!! アンタまだそんなこと言ってんの!
アンタのそれは間違ってる。 魔術師である以上命をかける覚悟は必要だけど、覚悟と捨て鉢を一緒にすんじゃないの!
そんな考えしかできないっていうんだったら、聖杯戦争が終わるまで倉庫に閉じ込めておくわよ!」
「あ、……ごめん凛。 そういうつもりじゃ……」
アーチャーに食って掛かったあたしに凛の叱責が飛ぶ。
頭に上っていた血が一気に引いた。
そうだった。 この一年で凛に叩き込まれた教えだっていうのにあたしは……。
「シロ。 貴方はまだ子供だ。 向上心はいいですが焦っては元も子もない。
初めての実戦ということで焦る気持ちもわかりますが、今は自身にできることを考えてください」
「セイバー……」
「それに、戦闘というのは単純な力比べではない。
それを活かす方法を考えればいいのだからな」
「へ~、フォローするなんて優しいのね、アーチャー」
にやにやと意地の悪い笑いをする凛。
それに対してアーチャーが、苦虫を噛み潰したような表情で答える。
「いざという時無茶をして足を引っ張られては適わんからな。
戦闘者として当然のことを言ったまでだ。
それから、私は貴様にサーヴァントの牽制が出来ないとは一言も言ってはいないが?」
「「へ?」」
そういって、今度はアーチャーが意地の悪い笑みを浮かべる。
アーチャーと凛ってこういうとこ、似てるなぁ。
……と、いうことは、あたしも将来こうなるのか?
「お前は魔術師なのだから、なければ他所から持ってくればいい。 そうだろ?」
「ふ~ん、なるほどね」
「そうですね。 確かに、それなら実用性はともかく牽制ぐらいなら」
遠坂とセイバーにはもう答えがわかったようだが、あたしにはわからない。
持ってくるって何を? 何処から?
「え? どういうこと?」
「つまり、アーチャーが投影したものを詩露が射てばいいってこと。
魔力の篭っただけの矢じゃ避けることもしないでしょうけど、宝具だったら避けないわけには行かない。
でしょ?」
凛があたしの疑問に答え、アーチャーに確認するように微笑みかける。
「あぁ、宝具の恐ろしさはダメージの大きさだけでなく、宝具が持つ固有の能力にある。
掠り傷が致命傷に繋がる場合もあるからな。
まぁ、固有の能力は強力なものほど扱いが難しいから小娘には使えんだろうが、相手はそんなこと知りようもない。
牽制としてはそれでも十分だろう」
「そ、そっか」
「はいはい、良かったわね」
あたしの力でも役に立つとわかって、思わず頬が緩む。
そんなあたしに凛は呆れたのか、頭を撫でながら溜息をついている。
「ところで、詩露」
「ん? 何? って、いたたたたたたたたた、何? 何? 何で!?」
「アンタは魔術師の癖に、あの程度で動揺してんじゃない! 地が出てたわよ!」
「ご、ごめ、ごめん! だって、また何もできないと思ったらつい……い、いたたたたた!」
だから、なんで足裏マッサージ!?
「むっ」
「どうしました、アーチャー?」
「あぁ、いや、それよりお前たち二人は夜まで休んでおけ」
普段の五割り増しで念入りにマッサージされたあたしに、「何やってんだ」と呆れた表情のアーチャーが命令してくる。
「そうですね、特にシロは疲れを残していてはせっかくの特訓が逆に仇となってしまう」
「ぜぇ、ぜぇ、そ、そうだね。 悪いけどそうさせてもらおうかな?」
「じゃ、行きましょうか、詩露?」
「ちょっと待て」
手を繋いで出て行こうとするあたし達を、アーチャーが怪訝そうに呼び止める。
「なによ?」
「なぜ一緒に行く?
君の部屋は、二階といっていなかったか?」
「あぁ、あたし達寝るときは一緒だから」
「は?」
「詩露は私の抱き枕だから」
「な! き、貴様は、それでいいのか!?」
「あたしに……拒否権なんてない…………」
もう慣れたといっても、こうして改めて誰かに指摘されると恥ずかしい。
とはいっても、同居初日からこうだったから今更部屋を別々にするっていうのも、なんか違和感あるんだよね。
……拒否しようものなら「つわり」で強要されるし。
「アーチャー、なにを動揺しているのです?
マスターが一緒にいるほうが、いざという時の守りも容易くなるのでは?」
「そ、それはそうなのだが……倫理的に……いや、奴も女だからいいのか?
いや、しかし……」
「じゃ、お休み~」
何故か虐めっ子モードでアーチャーを挑発する凛。
なんで、貴方はこういう時だけ生き生きとしてますか?
~幕間~
(あたし、使い物になりそう?)
(何もできないと思ったらつい)
「はぁ……」
「どうしたんです、アーチャー?」
「いや、奴の言葉を思い出してな」
「奴? シロのことですか?」
「あぁ。 酷い言い方だが、奴にとって今夜の桜救出はあそこまで思いつめなければいけない理由はない。
師の妹で、境遇に同情したとはいえ奴にとっては見ず知らずの他人なのだからな。
私自身、遠坂との長い年月で答えを得たわけだから、あの小娘がまだその答えを得ていないとしても責められるものではないのだが、あまりに未熟で歯痒くてな」
「ふふ」
「何か?」
「いえ、シロもそうでしたが、貴方もなかなかせっかちなようですね。
確かに危ういところはありましたが、あの子達はまだ幼い。
未熟なのは当然でしょう」
「わかってはいるつもりなのだがな……。
凛の教育の成果か私の時よりましとは言え、あの火災での罪悪感と切嗣に救われたときの彼の笑顔が呪縛となっているのだ。
早く気づいてくれればいいのだが……」
「……すみません。 あの火災の責は、私にも……」
「ん? あぁ、別に君を責めたわけではなかったのだ、気にしないでほしい。
それに、私は君に責任はなかったと思っているし、アイツもそう思っているだろう」
「そうでしょうか……」