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[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4
Date: 2009/06/15 19:24
これこそ我が銃
銃は数あれど我がものは一つ
これぞ我が最良の友
我が命
我、銃を制すなり、我が命を制す如く
我なくて、銃は役立たず
銃なくて、我は役立たず
我的確に銃を撃つなり
我を殺さんとする敵よりも、勇猛に撃つなり
撃たれる前に必ず撃つなり
神にかけて我これを誓う
我と我が銃は祖国を守護する者なり
我らは敵には征服者
我が命には救世主
敵が滅び――――平和が来るその日までかくあるべし、Amen(エイメン)


FullMetalJacketより抜粋





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第一話 下手に人助けなんてするもんじゃない







俺からしたら親父はどうしようもない奴だった。
酒呑んで、女を抱いて、頭の中はすっからかんだ。
しかし、母さんだけには優しかったからそこだけは認めてやる。
……どちらかと言うと尻に敷かれてただけのような気もするけど。

親父は兵士だった。
時に人を殺して金を貰う、時に人を助けて金を貰う。
そんな兵士だった。

親父がどうしたかったのかは知らないけど、何故か親父は俺を鍛えた。
唯単に強い息子に育って欲しかったのかもしれないし。
弱い男が、弱い息子が嫌いだったのかもしれない。
人の命が如何に軽いものか、知っていたからだったかもしれない。
俺は喧嘩とか怖くて嫌いなんだけどな。
親父はそのビビリさえなければ才能あるって言ってたが。

まぁ、親父が如何思っていたかなんて如何でも良い。
その答えを知る術はもう何処にも無い。
親父は、あんなに強かった親父は死んだ。
実にあっけなく、少年兵に撃たれて。

俺が十六歳の時の事だ。

母さんは泣いていた。
何だかんだで、やはり好きだったのだろう。
その姿を見て、少しだけ安心した。
それを伝えたら無言で抱締められた。
とても温かかった、どうしようもなく、涙が出るほどに。

……胸に開いた穴はきっと塞がらないのだろう。

親父はアメリカ人、しかし、母さんは日本人だ。

元々身寄りも無かった親父の祖国に留まっている事は出来そうにも無く。
残された俺達親子は日本へと帰化した。

日本の学校。
ハーフと言うことで最初は少々戸惑われたが、割と直に仲良くなれた。
日本語は母さんから習っていたので問題はなかったし。
目立った行動はせず、しかしやるべき事はやる。
軍隊の中ではそれが重要であると教わった。
集団生活の中での基本はそのまま軍隊に通用するのだ。
つまり逆も然り。

高校の三年間は特に部活もせず。
親父に教わった事を反復したり、新たに関連性のあることを覚えたりした。
軍人に必要な事は全て出来る様になった積りだ。
あくまで、積りでしかないのだろうけれど。

勉強にも、力を入れた。
元々頭の良いほうではなかったのだけれど、人間必死になれば割と何でも出来るものだ。
そう、人間に出来ない事は予想以上に少ない。

高校生活を無事に過した俺はそのまま大学へ進学。
割りと偏差値の高い難関と言われる場所へ入れたのだから御の字だ。

俺に、そこで運命を変える出会いがあった。

高校の時から何となく付き合っている友人。
最近アニメに嵌ったと言う。
程々にしておけよと言う俺はその時そのアニメに然して注意を払わなかった。
実際、その時に見たら俺の運命が大きく変わることは無かっただろう。
唯何となく眺めて、流していただけだったであろう事は想像に難くない。

大学に入って暫く経った頃の俺には、ある嫌な出来事が毎日目に入ってきていた。
虐めだ。

一人の男子生徒を複数人の男子生徒が虐めていた。
虐めている方は見るからに柄の悪そうな奴等だった。

俺は無視を決め込んだ。

助ける必要など、何処にもないのだから。
……それに、基本的に俺はビビリだし。

ただ、虐められている生徒の縋るような瞳が、気に食わなかった。

次の日も、その次の日も、恐らくは偶々なのだろうが、その光景は目に入った。
それだけ頻繁に虐められているという事だろう。

どうにも気持ち悪い。
お前は人間だろ?、と、言ってやりたかった。
……人間ほど、怖い生き物はきっと居ない。

何となく憂鬱とした日々を過していた俺に、例の友人が声をかけてきた。

彼はどうしても俺に例のアニメを見せたいらしい。

しょうがなく彼について行った見たアニメは、リリカルなのは。
タイトルを聞いた時にはやはり一気に見る気が失せた。
やけに押しの強い友人に薦められて結局は見たのだが。

魔法と言う時点で何となく嫌な感じだった。
自分では現実は見る方だと思っている。
……まぁ何が現実かと聞かれれば全ては幻想だと答える事も出来るのだが。

内容は、高町なのはと言う少女が突如得た魔法の力で困難に立ち向かっていくというもの。
……まぁ、彼女が良い意味でも悪い意味でも常人の思考をしていない事は認めよう。
後、魔法が障壁と砲撃と言う時点で友人の魔砲少女と言う言葉に納得した。
アンチマテリアルライフルが可愛く見える。

気が付けば、酷く嵌っている自分が居る事に気が付いた。
なんて事は無い、こんな無茶苦茶なやり方を通せる彼女に憧れたのだ。
生まれて初めてまともに見るアニメだったというのもかなり影響していると思う。
友人にそれを伝えたらお前は人生の半分以上を損していると言われた。
……それは言いすぎだろうが、と、一発頭を殴っておく事を忘れない。

彼女に憧れる一方で、ライバル役のフェイトと言う少女にどうしようもない程腹が立った。
人間ほど、多種多様な生き物は居ない。
環境によって様々な変化を遂げる人間。
その中で彼女ほどどうしようもない存在が、アニメの中とは言え居るというのが気に入らなかった。
現実においてそれ以上の最悪な環境があるということが気に入らなかった所為もある。

……ま、可愛いのは認めるけどな、と、考えている俺はかなり染まっていると思う。
アニメ恐るべし。

見ていくうちに時空管理局とやらが出てきた。
軍隊と政府が合わさっているなんて悪夢のような組織だ。
良い意味でも悪い意味でも高町なのはの在り方に似ている。
ただ、それが個人の力か集団の力かだけの違いだ。

……手口がどこぞの国に似ているのは果たして気のせいだろうか。
何れにせよ普通に九歳児を戦場に送り出す時点でまともじゃない。
いや、少年兵は決して珍しくは無いんだが。

…………あらゆる意味でプレシアも管理局も似たようなもんだなと言う俺の考えは変かな?
自由の度合いはあるだろうけれどな、そこに善意があるというのも事実な様ではあるし。
現実と理想のすりあわせが実に上手い組織と言う事で納得しておく。

そんなこんなで何時の間にやらなのはファンになっていた俺。
なのはに限らず様々なアニメや漫画を見た。
それから暫くは、友人とは良く一緒に色んなアニメを見たり酒飲んだりと、そんな感じだったな。
その時までは。

……高町なのはに憧れたのが良かったのか悪かったのか分からない。

言える事と言えば現実はそんなに甘くないとかそこら辺だ。

一年ぶりくらいだろうか、何時ぞやの虐められていた彼を見た俺は、彼を助け、叱った。
他の人間に助けられるという事は自分自身を貶める恥ずべき行為の一つであると。
助けた人間は助けられた人間以上に辛い思いをする時があるのだと(実際喧嘩怖かった)。
他人を助けられる人間は本来ほんの一握り、普通の人間は家族を助けるだけでも精一杯だと。
お前が分かっていても分かっていなくても俺はもう関わらんと。
無責任といわれようと関わらんと。
悔しかったら俺が生きてる間に強くなって一発殴りに来い、と。

人を助けた人間は助けられた人間に殺されても恩知らずとは言えまい。
人助けとは、ある種美徳であり、ある種害悪である。
少なくとも俺はそう思っている、そう思いたい。
まぁ、真正面から来たのなら、と付け加えるべきかもしれないが。

ただ、後になって俺が生きてる間にとは卑怯だったな、と、回想した。
俺はこれより一ヶ月後。
不良どもの仕返しにあって死亡した。
正確には、不良どもは纏めて追い払ってやったのだが、逃げ遅れた不良を倒れて来た鉄パイプから助けて、な。
つくづく、人助けは難しいと思ったよ。

んで。




「おぎゃーー!おぎゃーー!おぎゃーーーーーーーー!?」

こうなってた訳だ。

正に、劇的な運命。
…………案外珍しくは無いか?





一先ず分かった事を報告するとしましょうか。

俺の名前はどうやらマリア=エルンストと言うらしい。
自分が女の子になっているという現状にはびびった、序でに泣いた。

父親の名前はカサエル、母親はアリーセ。
……正確には分からないが俺は現在一歳と言った所か。
こちら側のマリアと言う女の子に意識が移ったきっかけなのかなんか知らんがこの子は一度意識不明になったそうだ。
いや、こんなん入ってて正直すんません。

例の友達と転生したら面白そうだよな、なんて言いあってたが現在は暇でしょうがない。
ただ、最初は訳が分からなかった言葉を、そうだと認識した端から覚えていったのは面白かった。
赤ん坊の成長途中の脳みそは非常に具合が宜しい。
……じゃぁ何で俺の意識はこんなにはっきりしているのかと聞かれたら困るんだが。
はっきりしているもんははっきりしているんだからしょうがない。

「マリアは大人しい子ね……。
 夜泣きも全くしないし。」

ああ、現在母上殿に抱きかかえられている状態だ。
まぁ、何だ、胸が当たって非常に困る状況であります。
…………俺も女だけどな。







<二年後>

現在俺三歳。
大体一歳ぐらいだというのは当たっていた模様。

ここで重大発表があるんだ。
うん、どうやらね、この世界には魔法とやらがあるようなんだよ。
俺は驚いて声も出ないさ。

あれ?リリカルなのは?とも思ったんだけど今の所微妙なんだ。
明らかにストレージデバイスっぽい奴もバリアジャケットっぽい奴もあるんだけど管理局のかの字も出ない。
一応リリカルなのはの内容を忘れないようにとノートも取ったけど如何だか……。
近いうちにストレージデバイスかなんかの中にデータを入れられれば良いなぁ……。

まぁそれはおいといて、俺にも魔法は使えるようなので現在特訓中なんだ。
もう既に習慣とも言って良い訓練はこの体では如何にも難しいのでバランス感覚や手先の器用さ等の神経系を鍛えている。
いやぁ、この体の良く動く事動く事。
前の体の神経とか受け継いでるみたいなんだよな。
お陰で凄い敏感で……痛みにな?、くすぐりにも弱いけどさ。
まぁ、あれだ、あっちの方は怖くて試せたものじゃぁないぜ。

しかし、何故か表情には全くでないんだよな。
転生、と言うか憑依した時の影響なのか表情が殆ど変わらん。
基本的に声の方も意識している半分ほども出ない。
にこやかに話しかけている積りでも無表情、若しくは嘲笑といった具合にしか変化しないようだ。
それで一度同年代の友人を泣かせてしまった。
どうやら妙な威圧感も出ているらしい。

不良相手に大立ち回りとかしたけど基本的に俺はビビリだ。
あの時も不良が振る鉄パイプが頭上を掠めるたんびに情けない声を出してた。
寂しいのも嫌いだ。
転生する前は例の友人以外にも友人は多く居て交友関係は広かった。

どうにかならんかと奮闘中だが現状如何にもならんようだ。
いや、ホント勘弁してつかぁさい(注意 俺は広島人ではありません。……え?知ってる?ですよね~。)







<アリーセ>

私の娘は可笑しな子だ。
とても大人しくて、つい私が落っことしてしまっても全く泣かなかった。
お人形みたいに可愛いのだけれど、無表情を貫くゆえにどうしても愛想と言うものが無い。
……可愛いけどね?

無口だけど言葉を覚えるのも早かったし、三歳児とは思えないほどに手先が器用。
魔法に関しても教えた先から実行していく。

魔法に関しては簡単なのしか教えていないし。
最初は補助もしたからもう幾つか上の年齢の子なら可笑しくは無いのだけれど……。
少なくとも三歳児の理解力ではないと思う。
……可愛いから良いけどね?

目を瞑ったまま歩いたり変なポーズをしたりと変な行動も多いけれどそんな行動も非常に可愛くてそれで(以下略)

カサエルもマリアの事をとても可愛がっている。
一度は死んでしまったかと思った我が子だ、可愛がらないわけが無い。

と、言うわけで私は今日も眼を閉じて片足立ちをしているマリアをお茶を飲みながら眺めているのだ。

…………あ、倒れた。







<一年後・マリア>

俺が魔法の練習をしていると話しかけてくる少女が居た。
彼女の名前はアンナ、アンナ=クレメント。
俺の一つ上で、今の所俺唯一の友達。
……あれ?心が痛いよ?

「マリアちゃん、あそぼ。」

「…………(コクリ)。」

うっわ、口動かねぇ~。

「えへへ。」

しかし、彼女は無口無表情を貫く俺に笑いかけてくれる。
いやぁ、ええ子や、可愛いし。
…………俺はロリコンかもしれない……現在俺もロリータだけどな!(泣)
彼女は栗色の髪を真っ直ぐ伸ばしていて、ふっくらした顔にくりくりした瞳が可愛らしい。
将来は美人になるだろう。

彼女と友達になったきっかけは、そう、虐められている彼女を助けた時だ。
俺、懲りてねぇ……。

魔法が上手く使えないと虐められていた彼女。
そこに颯爽と現れる俺。
文句をつけてくる相手方三人に『肉弾戦』を挑みこれを打ち倒した。
いや~、魔力による身体強化を覚えたばかりだったんすよ。
後で両親にこっぴどく叱られたんだけどな。
その時も表情筋は全くといって良いほど動かなかったけど。

……魔法があるとは言え人助けなんてするもんじゃぁないな。

ああ、魔法と言えば、俺はどうにも他の連中とは大分違うらしい。
先ず、冷気の魔法が得意……リリカル風に氷結の魔力変換資質といった方が良いだろうか。
次いでレアスキル持ち。

……ああ、この事実を知った時、キミはきっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないでほ…痛っ!?石投げないで!?

いや、ほんまにすんません。
代わりと言っちゃ何なんですが魔力は並……より少し上かなぁと…その石投げないで!?

「マリアちゃん?」

「……考え事をしていた。」

「そっか!……それでね。」

いや、うん、アンナちゃんは可愛いね本当にさ。







<アンナ>

私は今、マリアちゃんとお話しているの。

マリアちゃんはとっても無口で無表情。
でもね、とっても優しいんだ。

マリアちゃんと会ったのは一年以上前の事。

魔法が使えない事で虐められている私を助けてくれたの。
しかも、魔法を使わないでも凄いんだって事を教える為に魔法を使わないで。
……助けてもらった後でお母さんに教えてもらったんだけどね、えへへ。

マリアちゃんは凄いの。
運動が出来て、魔法が出来て、大人の人と同じくらい頭が良いんだよ。
マリアちゃんにその事を言ったら頭に関しては先が見えているとか言ってたけど……?

「あのねあのね!それでこの前お空を少し飛べたんだよ!」

「……凄いな。」

マリアちゃんは頭を撫でながら褒めてくれます。
私の方がお姉さんなのに……嬉しいから良いかな?

「うん!……あ、そうだ!何点ぐらい凄いかな?」

学校では百点満点が一番良いんだって!

「百点。」

「わーい!」

百点!やった!

「TOEICで……(ボソッ)」

?????

「ふぇ?」

「……何でもない。」

マリアちゃんは時々良く分からない言葉を使います。







<一年後・マリア>

やっとと言うか何と言うか五歳になりました、マリアです、はい。
最近寂しすぎて脳内がハッピーになってきたマリアです、はい。
アンナちゃんは相変わらず可愛いぞ?

この世界、四年間見てきたけど随分と可笑しな世界だ。
所々に明らかに文明レベル以上のものが点在している。

何でも昔流れの魔道師がやってきて魔法技術その他を渡した所為でこうなったとか何とか。
中には車みたいなものまであるのだから全く……。
ミッドほどじゃないがかなり魔法技術も進んでいるようだし。

……まぁ、それは置いといて。
何と、俺専用デバイスが完成したのだ。

いや、半年ほど前からかな?
デバイスの造り方を学びながらコツコツと丁寧に作ってきたのだよ、うん。
ストレージだけどね、此処の世界インテリジェンスデバイスないし。
それでもかなりのものだよ?
何せ前世の知識とこの世界で得た知識をフル活用して作ったんだから。
あ、リリカルなのはの内容を書いたデータもこっちに移し変えといたよ。

デバイス名はガーディアン!……ダサいって言うなよ。
いや、同じ意味のカールフリートとかでも良かったんだけどさ。
やっぱりアメリカ暮らし長かったからな…………関係ない?そんな事無い。
ちなみに、俺のデバイス全てにガーディアンとつける積り。

機能は簡単!
普通のストレージデバイスと同じく魔法補助及び魔法の記憶。
そして!俺のレアスキルに合わせた特殊機能が付いております!
管理局に見つかったら質量兵器として没収される事間違い無しの代物でもありますのですよ?

……ああ、本当にね、寂しいんだよ最近。
両親以外ではアンナちゃんだけが心の安らぎかな。

まぁ、とりあえず俺のレアスキルだけでも言っておこうかな?
名前を魔法維持と言う。
その名の通り魔法を維持し続けることが出来る能力だ。
……察しの良い人も悪い人も俺のデバイスがどんなものかは想像が付くだろうな。

余談なのだが最近はデバイスの知識を更に学んでいる。
何時かインテリジェントデバイスを造りたいと思っているのだ。
話し相手に丁度良いしな……情けないと言うな!!

「マリアちゃん、遊ぼ。」

はいよ~。

「……(コクリ)。」

まぁ、こんな感じで現在は過しているんだ。
平和な日常は、そう長く続かなかったけれどな。





後書き

先ずは作品を急に削除した事に対するお詫びを。
真に申し訳御座いませんでした。
リアルの事情が絡んでいるため理由をお話しすることは出来ませんが、引き続き執筆を続けていきたいと思います。
尚、Fucking Great!オリジナル版も執筆予定ですのでもし宜しければそちらもご覧下さい。



[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第二話
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4
Date: 2009/06/15 19:26
俺、現在九歳。
非常に唐突なのだが、戦争が始まった。





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第二話 戦争







戦争、糞忌々しいものだ。
戦争がどうしようもないものである事は分かっているし、そこに様々な利益が生ずる事があるのも認めよう。
始まる理由は様々だが、今回のは敵方が此方の所有物に確かな利益を見出した為起きたものだそうだ。
理由、それは俺たちの一族、否、国が持っている秘宝。
連中はそれをロストロギアと呼んでいた。
ま、今更なのかもしれないが、俺は此処がリリカルなのはの世界であるとの確証をある程度だが得たわけだ。
相手方は十中八九次元犯罪者なのだろう。
いや、次元犯罪者と手を組んだ他国と言った方が良いかもしれない。
……敵国の名前がサクソン帝国ってどうよ。
俺の名前ドイツのものなんだけど?言語は英語だけど。

ちなみに、秘宝の名前はエクスキャリバーとその鞘だとか。
最初名前を聞いた時は噴いたな……心の中で。
あくまでも俺の表情筋は動かない積りらしいぜ!

……この世界の親父は戦争へ行く積りらしい。
母上殿……母さんも行くそうだ。

俺も行くと言ったのだが、二人に止められてしまった。
過信でも何でもなく、俺の魔道師としての力量はそんじょそこらの奴等では敵わない様なレベルだ。
何せ、修練だけは人一倍どころか二倍も三倍も行ってきた。
……いざと言う時に無力感を味わうのは一度死んで懲りた。
それに、折角魔法と言う不思議パワーがあるんだから鍛えなければ損だろ?

まぁ、何処かほっとしている自分も存在する。
やはり、基本的に俺は争いごとと言うか、危険な事が嫌いなのだ。
両親が死ぬかもしれない時にそんな事を考えた自分が、ただ、少し情けなかった。

……悪いことでは、無い筈だ。






<アリーセ>

戦争が始まった。
ここ数十年平和だったこの国はかなり平和ボケしきっている状態。
相手方も同じなのだけれども強力な協力者が居る模様。
この国は強力な軍事国家なのだけれども、分の悪い戦いになる事はほぼ間違いないと言って良いのでしょうね。

カサエルが、あの人が戦争に行くと言った時に、私もすぐさま一緒に行くと言った。
マリアを一人にするのは心苦しいけれども、敵は大軍ゆえに、この国にそんな余裕は無いだろうから。

……マリアも行くといった時は驚いた。
でも、同時に納得もしていた。
無口無表情無愛想と三拍子揃っている子だけれども、根は優しい子だから。
私とカサエルの二人で説得すると、何とか納得してくれた。
ただ、その瞳の中に見えた悲しみが何を指しているのかが分からず、少しだけ不安に思ったのだけれど。

私とカサエルは、実戦経験こそ少ないがかなりの腕を持つ魔道師。
その娘のマリアはその才能も手伝って軍からは期待されていたりする。
魔道師ならば年齢に関係なく強力な力を持っている故に、この戦争でマリアが戦場へと出る可能性は少なくない。

それだけは、何としても阻止しなければならない。
例えそれが叶わぬ事だとしても。







<一ヵ月後・マリア>

やはり、戦争と言うものは熾烈を極めるものだ。
戦死者の数もどんどん増えていく。

俺は、両親にはああ言ったし、自分でも戦争になんか行きたくはないのだが。
準備だけはしている。
いざと言う時に何の準備も出来ていないなんてお笑い草だ。
訓練にも、何時も以上に力を注いで真剣に取り組んでいる。
俺の両親は俺の想像以上に強いらしく、その活躍は国に居る俺の所にも届くほど。
安心する一方でどうしても不安を感じる。

アンナの両親も戦争へと行っている。
この二人も中々に強いらしいのだが、アンナを見ているとどうにも信じられない。
アンナが虐められていた原因の一つはそれだったのかもしれない。
最近では彼女もその頭角を現してきてそう言う虐めは無いのだそうだが。

……ああ、戦争は怖い!ああ怖い!
敵さんは当然の如く非殺傷設定なんざ使っちゃくれない!
そんな所に行くのが怖い!そんな所に両親が居るのがどうしようもなく怖い!!

怖い!敵に襲われるのも。
敵を……殺してしまうのも!

ああ、俺に殺される覚悟なんてどうにも無理そうだ。
でも、敵を殺す覚悟と、何が何でも生き抜く覚悟ならば、どうにか出来そうだ。

その時が来るかは分からないけれど、でも、出来るだけの準備はしておこう。

そうして、俺は訓練や、その他準備に励んだ。







<アンナ>

最近、マリアちゃんが怖い。

その身に纏う雰囲気が、無表情と相まって大きな恐怖を感じさせる。
見ている此方が気圧されるような必死さなのだ。
行っている訓練の内容は最近同年代の中でも群を抜いている私でも着いていけないような高レベルのもの。

何が彼女をそこまで追い詰めているのか。
やはり、両親が戦っている中で何も出来ない自分が不甲斐無いのだろう。

私は何かを振り払うが如く訓練を行うマリアちゃんを見て、誇り高い人だと思った。
彼女が怯える所なんて想像もつかない。

「私も頑張らなくちゃ。」

そう一言呟いて、私は自宅へ訓練を行うために帰っていった。







<一ヵ月後・マリア>

戦争の激しさは未だ衰える事を知らず。
親しいとは言えなかった同年代の連中の親の中にも戦死者が多数出てきていた。

そんな時だ、時空管理局の連中が出てきたのは。
やってきた戦艦の中には俺の未来を示唆するかのようにアースラの姿もあった。

何でも敵国の次元犯罪者集団は時空管理局が追っていた連中でもあったらしく、共闘を、と言う訳だ。

戦力増強のみならば願っても居ない事ではあるが、国の上層部にとって相手方は全くの不透明。
分かっている事と言えば相手方が強大な軍事力を誇り、アースラのような戦艦を造るほどの技術力を持っている事。
手を結ぶ事にはしたようだが内心様々な葛藤があっただろう。
外交を行えばこの国の技術力が更に上がる事は昔この世界にもたらされたデバイス技術や今来ている戦艦を見れば分かる


しかし、少なからず内政に干渉される恐れもある。
今のところは技術提供その他が管理局の協力内容らしいが。

現に、非殺傷設定を使えなんて事も既に言われているようだ。
ふざけるなと突っ返したようだがどうなるか。

更に、あからさまな勧誘行為なども行っているようだ。
名目上は現地協力者みたいな感じ。

管理局の人員不足は余程深刻らしかった。
俺の所へ来た奴は即行で追い返したがな。

だが、管理局の連中も狙っていたのであろう。
彼等は来る時に危機的状況にあった中隊をあっさり救ったのだ。
それを知った連中の中には彼等に着いて行こうとするようなのも居る。
まぁ、気持ちは分からんでもないけどな。
戦争に出れない連中の中で自分も戦いたい者や両親を失った連中にとっては渡りに船と言うか何と言うか。

上の方でも問題になっているらしいが現状如何にもならないようだ。

まぁ、戦争が終わってくれるのならばそれも構わないのだが如何にもやり方が気に入らない。

そんな事を思っている時だ。
俺の所へ軍の将校(尉官以上の軍人)が直々にやってきたのは。
ちなみに男だ。

「…………私を、軍に?」

砂糖を大量に入れた紅茶を飲みながら言う。
入れた時の大尉殿の生暖かい目は無視した。
この体になってからは本当に甘いものが美味い。

「……そうだ、我々は君のその才能に目をつけた。
 何でもその年で既に優秀な魔道師であるとか。
 一個小隊を率いる中尉として我が軍に来て欲しいのだ。」

わぁお、要は客寄せパンダとかそんな感じかい?これ以上貴重な人材を持っていかれて堪るかと。
一応敬語っつぅか私とか使ってるけどふざけんなと言ってやりたいぜ。
俺の顔を真剣に見つめる将校の階級は大尉、態々ご苦労様。
……確か名前はベリエス、ベリエス大尉だったかな?
てか小隊長が中尉?……ああ、先任将校いるから?

とても私如きに務まるものでは御座いません、どうかお引取り下さいと言う為に口を開こうとした時、大尉殿が口を開い

た。

「ご両親は軍属のようだね。」

ん?

「君のご両親も前線で素晴らしい活躍をしているよ。
 ……ご両親の負担を減らしたいとは思わないかい?」

九歳児相手になんつぅ悪質な手を使ってくるか。
……いや、理解できるのならば脅しと言う形で、と言う事か?てか試されてたり?

思わず大尉殿をまじまじと見てしまった。

ああ、しまった。
大尉殿の目は既に子供相手のものじゃないぜい
……ぜいとかウザイかなぁ。

「……どうかな?」

むむ、戦争は怖い!
しかしなぁ、両親が人質みたいなもんだぜこりゃ。
まぁ、実際には貴重な戦力を使い潰す積りなんざ無いだろうから断っても……大丈夫だよな?

そんな考えは次の大尉殿の言葉で全て消し飛んだ。

「……君のお友達にアンナちゃんと言う子がいたね?
 彼女は既に同じ内容で了承してくれたよ。
 彼女は君ならば一緒に戦ってくれるだろうと言っていた。
 優秀な君に彼女のサポートもお願いしたいと思っているのだが。」

……オーノー。
そういやアンナちゃんもそれなりの腕になってるんだったな。

将(俺)を落とす為に馬(アンナ)は既に陥落済みと。

暫し目を瞑って黙考。

そして、俺は大尉殿を睨めつけながら口を開いた。
まぁ、ぶっちゃけ八つ当たりです。
こんな子供に睨まれても怖くは無いでしょ。

「……分かりました、お引き受け致します。
 ……祖国の平和の為、この命尽きるまで死力を尽くす所存であります。」

序でに冗談めかして付け加えておいた。
はっはっはっ、こやつめまでは期待しないが笑ってくれればこれ幸い。

「……そ、そうか。」

何故どもる?







<ベリエス大尉>

最初は上層部の正気を疑ってしまった。
僅か十歳と九歳の少女を戦場に送り込むなど。
幾ら管理局とか言う連中に人材が流れているとは言え酷い判断だ。
論理的にも、戦場の常識的にもだ。
少年兵自体は決して珍しくは無いが、幼い二人に兵士たちを率いれる訳が無い。
まぁ、恐らくは先任将校が命令を下すことになるのだろうが……。

……悩んでいても仕方が無い、命令は遂行しなければならないのが軍属の悲しい所か。

そう言った感じでこの任務にはかなり乗り気で無かった私。
まぁ、客寄せの見世物ぐらいにしか成らないだろうと思っていた。

しかし、少なくとも目の前にいる少女は明らかに普通の九歳児ではなかった。

先ず雰囲気からして違っていたのだ。
軍の将校が突然現れても眉一つ動かさない。
軍属を要求された時も動揺の欠片すら見えなかった。
……紅茶に砂糖を大量に入れた時は思わず生暖かい視線を送ってしまったが。
ともすればその雰囲気は歴戦の兵士のようだという冗談めかした己の考えに思わず内心笑ってしまった。
波打った金髪に白磁の肌をして、人形のような外見に人形のような冷たさを含んだ青い瞳。
何処が歴戦の兵士だ。

……殺人人形と言う単語も浮かんだが、正直怖すぎたので頭の隅へ追いやった。

少し興味が出てきた私は、ちょっと試してやろうかと彼女の両親の事を言ってみたのだが。
これが正解だったのか間違いだったのか。
途端此方を観察するかのような冷たい視線が向かってきた。

動揺を押し殺す為になるべく静かにどうかな?と聞いてみても彼女は全く動かない。

これはヤバイ、機嫌を損ねたかと思ってもう一人の少女の事を出してみたのだが。
これもまた正解だったのかどうか私には分からない。
黙考する少女の雰囲気に欠片の乱れも無い事から考えは既に決まっていたのかもしれないからだ。
余計な事を言ったか?

やがて彼女は目を開くと私に向かってこう言った。

「……分かりました、お引き受け致します。
 ……祖国の平和の為、この命尽きるまで死力を尽くす所存であります。」

私の見間違いでなければ、その瞳には己の死さえ辞さない覚悟の色があった。

「……そ、そうか。」

九歳児相手に思わず気圧されたしまったのだが、私は決して悪くないのだと言いたい。

……上層部の判断は、思わぬ形で正解だったのかもしれないな。



<マリア>

ん?その畏怖の目は何ですか?







<先任将校アントニウス少尉>

最初、本当に何の冗談だと思った。
前線から連れて戻されたと思ったらこれだ。
小隊長解任の辞令と共に僅か九歳のマリア=エルンスト『中尉』がやってくると言うのだ。
どうやら最近問題になっている管理局とやらへの人材流入を如何にかする為らしいが、全く、ふざけるなと。
上手くサポートしろ?無茶を言うなと。

恩もあるあのエルンスト夫妻の娘ゆえにあまり酷い事はしたくないのだが、しょうがない。
彼女の為にもなるし、何よりお荷物を抱えて戦闘を出来るほど戦場は甘くない。
軍の上の連中にはそれが分かっていないのか。
早いうちに適度に嫌がらせでもして追い出そうと思った。
俺にはなんらかしらの罰が下るだろうが、どうせ家族もいない身。
部下たちや彼女を死なせるわけにもいくまい。
もう一人別に送られてくるというベルンハルト小隊に送られてくるというが、まぁ奴も同じ考えだろう。
クレメント夫妻もかなりの人間を戦場で救っている。
そしてあいつは恩を仇で返すような奴ではない。
全く以って我々は軍人として劣悪な存在だ。

……まぁ、マリア=エルンストの噂は俺も聞いたことがある。
普段から魔法の訓練に励む天才少女だとか。
戦争が始まってからは更に高度な訓練を休む事無く行っているとか。
嘘かホントか既に佐官クラスの高ランク魔道師であるとか。
だが、所詮ただの小娘だ。

そう、この時の俺はそう思っていたのだ。







<三日後・マリア>

正式に軍属になってしまった俺。
なんつぅかまぁ、ふざけんなよと。

「……エルンスト中尉、小隊の整列が終了いたしました。
 (この嬢ちゃんがマリア=エルンストか。)」

目を瞑って頭の中で悪態をついていると先任将校のアントニウス少尉がそう言ってきた。

「……そうか。」

もう少し愛想良くしたいんだけどな~。
返事しつつ移動する事に。
つぅか緊張の所為か敬語すら話せない。

「ふぅ、そんなんで小隊長が務まるんですかね?中尉殿。
 (なんつぅか所詮噂と思ってたんだが存在感はすげぇな。
  本当に九歳か?いや、背は小せぇけどよ。)」

「……。」

何か嫌味言われ始めた。
まぁ、しょうがないっちゃしょうがないだろうけど勘弁してくださいよホント。
相手をしていたら神経が磨り減るだけなので流す事にした、春うららの隅田川の如く。

「まぁ、中尉殿ならうちの兵卒ぐらい簡単に纏められるんでしょうけど?
 出来ますよね?何せ一気に中尉殿にまでなった天才少女なんですから?」

「…………。」

「……聞いてますか中尉殿?(……全く動じねぇなぁ、言い方が温いか。)」

俺なんか嫌われてる?幾らなんでも行き成り酷くねぇ?もしかして俺の両親なんか嫌われ者だったり?
……一先ず此処は何か適当に言っておくべきか。

「中尉殿?(何考えてんだ?)」

「少尉。」

「(おっ)……何でありましょうか?(やっとなんか反論してくるのかね。
  それにしてもなんつぅ感情の無い声だ。)」

こえぇ~!
何か睨まれてるよ!?
目を逸らしたら負けか!?
つぅか、幾ら名ばかりの上官に対してとは言え軍隊でそんな態度とって良くやってこれたな。
寿命足りなくなるよ?

「……寿命を縮めたいか?」

!?やっべ声に出た!割と最悪な言い方で!!

「っ!……申し訳ありません中尉殿。(……なんて目ぇしやがる、こいつぁ普通じゃねぇな。)」

うっわ、怒ってないかな少尉。
……なんか黙ってるし、怒ってるよ絶対。

こ、此処は何かフォローを!
冗談を交えつつ出来るだけフレンドリーに!!

「ふっ、冗談だ少尉。
 あの世に行くまで精々仲良くやろう。」

「……はっ(何なんだこの嬢ちゃん。)」

よし、完璧だ。
クールな台詞で少尉のハートをがっちりキャッチ!……調子に乗りすぎかな……。







<アントニウス少尉>

エルンスト中尉が小隊全員の前に立つ。
俺は彼女の斜め後ろに控えている状態だ。

予め言っておいたので兵士たちは皆やる気なさげ。
……ヤバイか?中尉は明らかに普通じゃないんだが……まぁ、これだけの前に立てばきっと緊張……の欠片もねぇ。
幾らエルンスト夫妻の娘だからって九歳でこんなに落ち着けるもんか?
勘の良い奴は俺の態度と中尉の態度から何かを察しているようでだらけつつも目は真剣だ。

「全員!新しい小隊長殿からの挨拶がある!」

中尉は然して緊張した様子も無く一歩前へ出て口を開く。

「……マリア=エルンスト中尉だ、宜しく頼む。」

「それだけかよ!もうちっとマシな挨拶をしろや!」

中尉が挨拶をすると一番前にいる奴から野次が飛んでそれに釣られるよう笑い声が周囲から響く、まぁ予定通りなんだが


中尉は眉一つ動かさない。
つまらないものを見るかのように一度小隊全員を見回した。
俺たち第十六小隊の人数は中尉を入れれば41名。
現在中尉は39名の兵士と相対しているわけだが、微塵も揺るいでない。

「ブルーノ軍曹。」

「!……何だいお嬢ちゃん、小便洩らしそうか?もう洩らしちまったか?」

最初は名前を行き成り言われてピクリと動いた軍曹だが、直にニヤニヤ笑って中尉を馬鹿にする。

ブルーノ軍曹、先程野次を飛ばした奴だ。
厳つい面してやがるが基本的に気の良い奴。
……もしかして全員の名前を覚えているのか?
普通の小隊長なら覚えていても全く可笑しくは無いのだが……。
既に全員が小揺るぎもしない中尉を見て普通じゃないと思い始めているようだ。

「……将校にその態度とは良い度胸だな、気に入った。
 私は恐ろしい敵が大好きで、上官に従わない部下は有能な敵より恐ろしい。
 そんな素敵な貴様こそをその戦場の最前線に送ってやろう、感謝しろ。
 サクソンのお嬢さん方を好きなだけファックしてくると良い。」

「…………。」

無表情で淡々と言う中尉に唖然とするブルーノ軍曹。
気持ちは分かる、他の連中も同じような顔してるぜ。
かく言う俺もな。

「何だ軍曹、行き成り大人しくなったじゃぁないか。
 感動で声も出ないか?股座に粗チンつけて敵をファックしに行くのが兵士じゃないか。
 存分にカマ掘って来い、貴様の杖は使い物になるんだろう?
 ……おっと、私にはついてないか、これは軍曹が憤るのも無理は無いか?
 何、安心したまえ、私のフィストファックなら不感症のふにゃマラ野郎でも昇天できる。」

エルンストさん、一体どんな教育してんすか。
無表情を貫き通してその口から九歳児とは思えない言葉を吐き出していた中尉。
少し間を置くとチョーカーに付いている宝石に手を当てた。
……デバイスか。

中尉殿がガーディアンと呟くと機械的なSetupの声とともにその右手に可笑しな形の(……)デバイスが握られた。
服も軍将校のバリアジャケットに変わる。

「……試してみるか、軍曹。」

そして静かにそう告げた。
同じく静かにそのデバイスをブルーノ軍曹に向けた中尉の口元には酷薄な笑みが浮かんでいる。

「っ!中尉!」

思わず叫んでしまった俺。
ブルーノ軍曹も額に汗を浮かべている。
つぅか俺の方を見て話が違うと念話で訴えかけてきている。
いや、それは俺が言いたい。
こんな九歳児居て堪るか。

そんな感じで俺たちが慌てていると急に中尉がフッと笑みの種類を変えてデバイスとバリアジャケットを元に戻した。

「……冗談だ。
 ……少尉!第十六小隊の今日のスケジュールを言え!
 さっさとこなして前線へ行くぞ。
 戦争中に平和ボケしている上層部関連の予定なんぞ糞食らえだ!」

「えっ……あ、はっ!」

急に振られて慌てる俺、何とか答えたがどうにも締まらない。

何だかなぁ、これはこれで良かったのか?
まぁ、何れにせよ暫くの間は様子見だろ。
只者じゃないってのは十二分に見せ付けられたからなぁ。







<マリア>

ふ、ふふ、ふははははははは!
超怖かった!

ありえねぇ!何だよあの軍曹!思いっきり睨みつけてきやがって!
顔怖いし!ハートマン!?

だが相手が悪かったな!
あんたが歴戦の兵士でもこちとら何十年も戦争してないお国に生まれたんじゃねぇんだよ!
罵倒のレパートリーも並じゃねぇぜ!
加えて俺は表情に全く出ないからな、幾らビビってても問題無い!
口も普段からは想像も付かないほど回ったし!……極度の緊張の所為ってのが情けないけど。

更にジョークと共に好意的な笑みを浮かべておいたからハートはバッチリ掴んだだろ!

いや、己の才能が恐ろしい。
尚、文句の受付は行っておりませんのでどうかご了承ください!!

……前線なんて行きたくねぇ。




[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第三話
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4
Date: 2009/06/15 19:27
いやぁ、お久しぶり?
あれから一週間が経ちましたよ。

小隊の連中とも中々仲良くやれているのが現状。

書類作成とかは割りと得意だし……シールズの標語パクッてつけたのは不味かったかな。
しかしあれだ、そんなの急に思いつかんでしょ?

後、存在をアピールする為に変てこな式に出たりとか変な事やらされたけど。
割と効果はあったようだ。
俺よりも少し上くらいの年齢の連中がちらほらと。

まぁ、今の所俺には何の関係も無いけどな。





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第三話 初任務及び初邂逅







<ミーティングルーム>

此処は第十六小隊が使うミーティングルームだ。
大規模な作戦以外は此処で会議が行われる。
現在、アントニウス少尉が次の任務について説明を行っている。
ちなみに、戦闘が想定される任務はこれが初めてだ。
何か戦争被害が会った所へ救援活動へ行ったりと。

「今回の任務はブリテン王国内部に侵入したと思われる小隊を叩くというものだ。
 恐らく奴等は我が軍の武器庫を狙うと思われる。
 小隊長が入れ替わってから初の任務だ、心して当たれ。」

恐らく態と進入させたのだろうと思われる。
敵の規模及び位置、敵の狙いまで分かっているなんてありえん。
余程良い指揮官が行動したのかはたまた偶然が重なってたまたまこうなったのか。

「中尉、何かお言葉を。」

うぇ!?
……まぁ、それが普通か。

う~ん、まぁ皮肉気なキャラが定着してそうだし、それでいくか。
唯でさえ俺は子供なんだから舐められたら不味いし。

「……今回の任務は過保護なご老人方が態々用意してくれたものだ。
 まぁ、多少の被害を考えれば小隊規模を確実に仕留められるゆえにそこまで酷いものではないがな。
 ……この任務をしくじれば間違いなく笑われ者だぞ?連中を一匹残らず踏み潰してやれ。」

はっはっは、無表情故にか何か貫禄と言うか何と言うか、そう言うのが出てるみたい。
加えて口から出てくる声は自分でもビックリな無感情さ。

『了解!!』

気合の入った返答に俺は一つ頷いた後、付け足す。

「後、私よりも仕留めた数が少なかったものは覚悟しろ。
 連中は糞重い質量兵器なんぞ持ちこんどらんからな。
 処女の私に負けるようなお嬢様はいないだろう?」

『死力を尽くします中尉殿!』

よっしゃ決まったぜ!……決まったよな?

「では、少尉。」

私が言うと少尉は頷いて解散を命じる。
時間はあまり無いゆえにさっさと準備するとしようかな。







<アントニウス少尉>

今日は中尉の初任務とも言って良い日なのだが、やはりと言うか何と言うか中尉は全くの自然体。

今日までの一週間で中尉の人柄や能力などは大体分かった。
基本的に中尉は自分に厳しい人物のよう。
軍隊の基本は完璧に守っている。
普通の軍人なら当たり前だが中尉が九歳である事を考えると思わず苦笑してしまう。
初日でイメージを払拭し、次の日からも厳格な態度を取り続ける。
良くもまぁあんなに無表情でいられるものだ。
……今の所分かっている唯一の欠点と言えば必要ないことを喋るのが苦手と言うことか。
後、他人に少し甘い所もあるようで、案の定泣きついてきたアンナ中尉にアドバイスをしたりしていた。
お陰で彼女も何とかやっていけてしまっている様子。
先ず、当初の軍から追い出すと言う目的は達成不可能だろう。
何だかんだで個人の意見を尊重するタイプでもあるようだ。

能力の方も今の所申し分ないと言って良い。
今までのは簡単な任務だったが、何か不測の事態が起こっても的確に対処していた。
これも確り勉強しているものならば出来る事だろうが、中尉の年齢を考えれば十二分に及第点以上と言える。
あの『抜き撃ち』とやらを見る限りでは戦闘の方も期待して良いだろう。
相手を攻撃するのを躊躇う性格とも思えない。
頭の方も大変宜しいようで、書類は流れるように片付けてしまうし、冗談で頼んだ小隊の標語まで作ってしまった。

【唯一安らかなる日は、過ぎ去った昨日のみ】

現実を見て皮肉も効いているこの標語は人気である。
中尉がどのような気持ちを持ってこれを考えたのかは分からないが…………中尉は本当に九歳か?……今更か。
冷静に作戦の内容を検討したりと、まぁなんとも末恐ろしい、つぅか現状でも恐ろしい人である。

「小隊整列!これより作戦行動に移る!!」

『了解!』

中尉が命令をすると全員が声を張り上げる。
中尉の声は九歳児とは思えない張りのある声だ。
しかし、そこに感情は無い。

「デバイス起動!
 ポイントC2へ移動開始!」

小隊全員が一つの生き物の様に動き出した。







<マリア>

うわ~初の実戦、こえぇなぁ。

俺達は今、作戦区域である王国周辺の森林地帯にきている。
木漏れ日がある故にまだましなのだが、周囲の影の存在も手伝って如何にも緊張感が拭えない。

「……流石中尉はこれから初の実戦でもうろたえませんな。」

うっせぇ馬鹿!お前の目は節穴か!……と言いたい所だけれどこの表情筋が悪いんだよね、はい。
アントニウス少尉、頼むぜ?

「……そうでもないさ。
 頼りにしている。」

「ははっ、中尉にそんな可愛げがあるわけ無いでしょう。
 ま、中尉のような美少女に頼られるのに悪い気はしませんがね。」

うっわ、こいつ最悪。
……まぁ、ホントに頼りになるんだけどな?
この前も建物が崩れて慌てて適当に指示を出したのを良いように解釈してくれたし。
ま、戦場に関しては少尉以上に詳しいんだけどな。
あくまで知識だけだけど。

「そろそろ見えてきますぜ。
 敵さんは此方を補足してはいないでしょうが。」

「……だろうな。」

サーチャーなんかも見当たらないし。
発見されるのを恐れているのか。
何にせよ奇襲には最適だ。
防がれる心配も無い。
何せ相手方は罠にかかった獲物なのだから。

「……よし、私が先ず狙撃する。
 私の射撃ならば気づかれる前に何人かやれるだろう。
 銃撃と同時に出られるように他の連中を待機させておけ。」

「了解、頼みましたぜ。」

デバイスは既に俺の手の中にある。
既にお気づきだろうが俺のデバイスは『銃』だ
魔法維持で作成した弾丸を吐き出す為の銃。
火薬の代わりに魔力を爆発させ、鉛玉の代わりに氷の弾丸を吐き出し、空薬莢の代わりに圧縮魔力の残滓を排出する。
威力は通常の状態でも恐ろしいもので、ライフルを超える1000m/sと言う弾速をはじき出す。

装填されているマガジンは40発入るロングマガジン。
他にも通常サイズの20発マガジンや、機関銃のように次々に弾薬が配給されるベルトリンク(弾帯)もある。

カートリッジシステムと違って使用者に負担がかからないと言う利点があり、非常に便利。
正し、デメリットも存在する。
一つは俺以外には弾丸を生成することが出来ない為、弾丸の生成に時間と魔力を取られる事。
もう一つは管理局連中にほぼ間違いなく質量兵器だと難癖付けられるだろう事だ。
後者は俺としては知ったこっちゃないんだがな。
……余談だがこの世界にはカートリッジシステムは無いらしい。
まぁつまり、低ランク魔道師が高ランク魔道師に勝つ方法が無い、と。
氷弾に追加で魔力を込めても俺の魔力保有量では破れないだろうなぁ……。

銃のデザインはベレッタM93R。
イタリア政府が対テロ目的でピエトロ・ベレッタ社に製作を依頼したM92の改良版。
もっとも、俺のは三点バーストは勿論フルオートも付いているから完璧に外見だけだけどな。
ちなみに二挺ある。
二挺拳銃はロマンだぜ?…使わないけどさ。

「…………。」

静かに狙いを定める。
この弾丸は速度の所為で誘導性があまり宜しくない。
……まぁ、普通の銃に比べたら遥かに良いんだけど。

狙撃を申し出たのはより安全に任務を遂行する目的もある。
しかし、それ以上に人を殺すと言う事に対して耐性を得る為と言うのも大きい。
殺す覚悟をよりスムーズに行うためと言う訳だ。
客観的に見れば全く以って俺と言う奴はどうしようもないが、これも生きる為だ。

ある意味熱心なキリスト教徒でもある俺では神を恨めなんて言えない。
故に。

恨む時間は

「与えない。」

定まった照準、俺は引き金を引いた。

連続した火薬の炸裂音、銃腔内の空気と音が打ち出された破裂音。
銃口が一気に無数の弾丸を吐き出し、弾丸が空を切裂く。
音速を遥かに超えた弾丸は、勿論殺傷設定で敵兵に食らいついた。
俺の殺意を以って吐き出された弾丸は、しかし無感情に唯敵を殲滅する。

肉が潰れる音と同時に兵士たちの体に穴が開き、或いは千切れ飛ぶ。
遠めに見る光景でも俺は吐き気が込み上げて来るのを我慢するのに必死だ。
この動かない表情とまともに言葉を発しない口が今はありがたい。

皮肉にも銃弾と俺の外面のあり方は似ているのだ。

「突撃!敵はそんなに残っちゃいねぇぞ!
 ……中尉、大丈夫ですかい?」

「……ああ、問題ない、行こうか。
 …………上官が後ろでのんびりしている訳にも行くまい。」

はは、こういう時こそフレンドリーに話しかけられないものかね?
お堅い言葉じゃ気分が滅入っちまう。

「お供しますぜ、行きやしょう。」

「……ああ……中々、良い男じゃないか少尉。」

少尉の豆鉄砲食らったような顔が可笑しくて、少しだけ気が晴れた。







<アントニウス少尉>

作戦は無事に終わった。
初任務は見事に成功、しかし、中尉は今此処には居ない。
あの後、無理にでも下がらせておくべきだったか。
あの年で狙撃とは言え多数の命を奪った後に、更に戦闘で命を奪えば当然の如く心に酷く傷を負う。
まぁ、お陰と言うか、小隊の被害は非常に軽微であり、死傷者は出なかった。

中尉の戦いはまるで機械の様に正確で、的確で、強かった。
戦闘中は眉一つ動かしていなかった。
心強く感じると共に、どうしても寂しさが胸に去来した。
あの年で、少女が人を殺す。
しかも、鋼の意思を持って氷の殺意を抱き、だ。

彼女のような優秀な軍人が現れたという事は、軍人として喜ぶべき事だ。
彼女のような優秀な軍人が現れたという事は、大人として恥ずべき事だ。
勝手な言い草かもしれないがこれはそうであるだろう。
戦争が起こるのはしょうがない事かもしれないが、それを長引かせるのはしょうもない愚行だ。

「……中尉、大丈夫かね。」

面倒見の良いブルーノ軍曹が心配そうに言う。
口は開かないが他の連中も似たような気持ちだろう。

「……中尉なら、きっと大丈夫なんだろうさ。
 残念な事だが、中尉が此処にいない理由は負傷じゃないんだからな。
 非常に残念な事だが、中尉はとても強いからな。」

中尉は作戦中一切弱音を吐かず弱みも見せなかった。
しかし、作戦終了と共に便所へ駆け込んで吐いた。
まだ短い付き合いだが、あの中尉が嘔吐が理由とは言え眼を濡らした事はある種の衝撃を俺たちに与えた。
そして、休むように言われすまないと言って自室へ戻っていった中尉に更に衝撃を受けた。
まぁ、当然と言えば当然なのかもしれない、初陣と言う奴だ。
ただ、その当然さを彼女のような存在が経験しているという事実が、どうしようもなく堪らなかった。

「なぁ、中尉の様子見にいかねぇか?」

「……ブルーノ、心配なのは分かるが幾らなんでもそれは失礼だろ?
 中尉も女の子だぜ?」

「女の子だから、心配なんじゃねぇか。」

ブルーノの言葉に、俺は溜息を吐いた。
ああ、だが確かに……。

「少し、様子を見に行ってみるとするか。」







<マリア>

ああ、まだ吐き気がする。
書類作成は少尉が代行してくれるというので、まぁそれは安心なんだが。

いや~、やっぱ人殺しは精神的にきついわ。
はははっ、思い出したら……うぇっぷ、また吐き気が。
緊張の所為で、任務中は吐き気とか大丈夫だったんだけどなぁ。

まぁ、その緊張の所為で戦闘中は慌てながら目に付いた敵を撃ってただけだったけどな。
何度味方誤射をしそうになった事か。
つぅか味方を撃ちそうになって慌てて逸らした先に敵がいたとか俺ってラッキー?

……ま、まぁ今回は無事生き残れた事だし、良しとするべきか。
べ、別にうっかり味方の頭撃ち抜きそうになったの誤魔化してんじゃないからな!?

……でも、やっぱきついわ。
何か精神的支えっつぅか何か無いかなぁ……。

…………ああ、あれは自己暗示に良いかもしれない。

一つ息を落ち着けて、デバイスを起動。
バリアジャケットは着ず、二挺の拳銃を眼前に構え、詠唱する。

「…………これこそ我が銃

 銃は数あれど我がものは一つ

 これぞ我が最良の友

 我が命

 我、銃を制すなり、我が命を制す如く

 我なくて、銃は役立たず

 銃なくて、我は役立たず

 我的確に銃を撃つなり

 我を殺さんとする敵よりも、勇猛に撃つなり

 撃たれる前に必ず撃つなり

 神にかけて我これを誓う

 我と我が銃は祖国を守護する者なり

 我らは敵には征服者

 我が命には救世主

 敵が滅び――――平和が来るその日までかくあるべし、Amen(エイメン)」

…………。

…………ふぅ、流石はハートマン軍曹流石は海兵隊ってとこか。
歴戦の勇士の勇気を少し分けてもらえたかな。
……吐き気はまだ残るけど。

……もう、休むか。
明日も早い。

それでは。

「おやすみ、お嬢様。」







<アントニウス少尉>

俺達は中尉の部屋の前から元いた場所へ戻る途中だ。

「……心配、要らなかったな。」

「……ああ、誇り高い人だ。」

俺達となんて、きっと比べるべくも無いくらいに誇り高い。

初めは九歳児の中尉なんてと思ったが……。

「あの人になら、着いて行っても良いな。
 普通の新任将校よりもあらゆる意味で、優秀だ。」

「ああ、そうだな。」







<一ヵ月後・マリア・戦闘中>

あの作戦で実力が評価されたのか、俺達の小隊はあれから忙しい毎日を送っていた。
もっとも、消耗の激しい前線には送られてないけどな。

連日連夜の任務は鍛えているとは言えこのちっこい体にはきついものがある。
アンナも、先任将校の人に助けられて何とかやっているらしい。
ただ、彼女は人を殺してから数日間眠れぬ夜を過したそうだ。
……俺は思いっきり爆睡したんだがな!
流石だぜハートマン軍曹、寝る前には何時もお世話になっている。

まぁ、実際はそんなに余裕があるわけじゃない。
この前も血塗れのまま基地内を歩いて思いっきり嫌な顔されたし。
少し年が上の女の子にひっ!?とか悲鳴を上げられた時は思わず顔が引きつりましたよ。
余程怖かったのかその子はその場で気絶した…………涙が出そう、(体だけは)女の子だもん。

下らない事を考えてる間にも戦闘は行われている。
かく言う俺も少々疲れで現実逃避気味だが確り動いている。
訓練の賜物か。

魔法を撃とうとしていた奴に向かって銃を撃つ。

魔力が生み出す衝撃と炸裂音を後に飛び出した氷弾は、敵兵の頭蓋を砕く。
自分の身にかかる衝撃は、通常かなりのものになる筈だが、そこは魔法、衝撃を吸収する術式を組んである。
……最近では人を殺しても何も思わなくなったなぁ。

うぅ、汚れちまったよ。

てな感じで冗談も言えるようになったし。

何て事考えていたら敵の一斉射撃だ。
本来ならヤバイ、が。

俺の周りを飛んでいた氷弾が突如飛び出して敵の魔法を全て打ち落とした。

空対空迎撃用攻性魔法イージスだ。
この魔法はイージス艦からヒントを得て製作した俺のオリジナル……名前は攻性防壁からもとってるけど。
腰についている専用デバイスが自動的に氷弾を排出、ある程度操作補助をしてくれる為、非常に便利だ。
……俺の家って結構金持ちだからなぁ、材料さえあれば自分でデバイス組めるし。

この魔法がある故に、この小隊では未だに負傷者が出ていない。
……勿論うちの小隊の連中がかなり優秀であるというのもあるんだけどな。
お偉いさん方も簡単に俺に死んでもらっちゃ困るって訳か。

逃げ出そうとしていた敵兵を背後から撃って殺す。
逃がしたら殺されるのはこっちの方だ。

「中尉!敵の小隊が全滅致しました!」

アントニウス少尉が報告してくる。
彼、ホントに頼りになるんだよなぁ。
前の時と同じく適当に指示を出したら良いように解釈してくれるしな!

後、例のゲロ吐き事件も小隊に口止めして黙っててくれたし。
嫌だよ?ゲボ子なんて渾名。
いや、意味違うけどさ。

「此方の被害は?」

「カール上等兵が右腕を負傷いたしましたが大事ありません!
 現在フランク伍長が応急処置をしています!」

む、カール上等兵が?
あいつも良い奴だ、この前砂糖が切れた時にダッシュで買ってきてくれた。

「……そうか、ご苦労。
 各自警戒だけは怠らぬようにしておけ。
 ……私は暫く此処にいる。」

敵さんが何処に居るとも限らないからな。
さっさと帰りたいよ、ホント。
……少し休も。

「はっ!失礼します。」

そう言って駆けていく少尉。
戦闘があった初任務の頃からかな、やけに俺の事を敬ってくるんだよ、皆。
もっとフレンドリーな方が俺としては嬉しいんだが……ああ、俺の顔じゃ無理か。
何ともまぁ憎らしいこの表情筋と口!これで顔が不細工だったらやってけねぇよホント。

一時此方側が押されていた戦場は管理局の登場で此方側が押し返している。
流石と言うか何と言うか管理局の連中は強い。
戦場でちらりと見かけた執務官、クロノ=ハラオウン。
これが余裕のある時だったら飛び上がって原作キャラに会えた事を喜んだんだけど、戦場だったしな。
まぁ、とにかく強いのなんのって。
慌てながら目に付いた先から銃で撃ってるだけの俺と違って魔法を自在に操って一人も殺さずに勝っちまうんですぜ?あ

りえん。
……精神年齢三十路近くの俺ってかなりへたれ?いや、何かこの体になってから成長する気配あんまないけどさ。

おろ?思わず涙が……。

俺は慌てて涙を拭って周囲を見た。

よし、誰も見てない!

突然泣き出すなんてきしょい真似したくないしな、しちゃったけど!
……ああ、一度クロノとかと話してみたいなぁ~。
お喋りなんて俺の柄じゃないけど。
潤いが無いよ、潤いが。
ほら、このくらいの年だったら外で元気に駆け回って鬼ごっことかかくれんぼとか……。

「ふ………………。
 この年で、かくれんぼか……。」

ああ、思わず笑っちまうぜ。
アンナちゃんとしたかくれんぼは楽しかったけどな。
あの笑顔に癒される俺!!

……あ~かくれんぼして~~~。

「……すまないな、見る積りは無かったんだが。」

うぇ!?
誰ですか!?

突如聞こえた声の先、そこにいたのは。
……少し涙の所為で見えにくいけど。

「……管理局執務官、クロノ=ハラオウン。」

わぁお、奇遇だね?噂をすれば影?原作キャラにとうとう遭遇?てか見たな?
パニクって思わず何時もより不機嫌な声になっちまったぜ。

「っ……。」

俺の声を聞くと同時にクロノの顔が引きつった。
そんなに怖いか?幼女だぜ、俺。

……まぁ、これだけは言っておいてやろうじゃないか。
涙を拭って言い放つ。

「…………変態。」

クロノの顔が見事に歪んだ。
蛆虫を見るかのような目で言うのがポイントだ!







<クロノ=ハラオウン>

…………見てはいけないものを見てしまったか?

僕は今、木の陰に隠れている。

王国で噂のマリア中尉が率いる小隊が此処に居ると聞いたので挨拶でもしにいこうと思ったんだが。
そこで見たのは目の前にある死体に目を落として涙を浮かべている彼女。

やばいと思って直に隠れたから、恐らくは見つかってはいないと思う。
僅か九歳、指揮の時のみ僅かに開く口から的確な指示を飛ばし、自らも恐るべき強さで敵を討ち次々に戦果を上げていく

天才少女。
彼女は眉一つ動かさず敵を撃ち殺し、唯の一度の動揺もした事がないという。

僕より三歳も下の少女がこんな風に言われているのを気にならないわけが無い。
そんな子を戦争に借り出す国に憤りを覚えそうになったが、管理局も人の事を言えたわけじゃないと思い直す。
無論、管理局は非殺傷設定を使用しているし、行き成りこんな戦場を経験させたりはしないのだが。

と、少し混乱している脳で現状の解決にほぼ関係ないそんな事を考えていると。

「ふ………………。」

ん?笑ったのか?

「この年で、かくれんぼか……。」

!気づかれた!?
っ……噂はあながち嘘でもないようだ。
此方の位置が分かっているかどうかは分からないが人が居る気配を感じ取ったのだろう。

僕は、観念して出て行く事にした。

僕が出て行くと彼女は、まだ涙に濡れている瞳を細めて口を開いた。
…………顔立ちが整っているだけに涙目で睨まれるのは怖い。

「……管理局執務官、クロノ=ハラオウン。」

彼女の眼光に不機嫌そうな声色をプラスされれば思わず顔も引きつるというものだ。
しかも此方の名前を知っていらっしゃる、洒落にならん。

そして、涙を拭った彼女の次の一言で止めを刺された。

「…………変態。」

その言葉と蔑む様な視線に思わず泣きそうになった僕を誰が責められようか。







<主人公、クロノ、第三者の複合視点・{}=主人公 【】=クロノ 何もなし=地の文>

「……で、何のようだ、変態。」

未だ不機嫌な様子のマリア。
端から見たその姿は一見隙だらけに見えるが。
その鋭い眼光がそれを否定している。
思わず気圧されてしまうクロノ。

{あれか?また勧誘か?人の情けないところ見といてんな事言ったらしばくぞ!
 ……嘘ですごめんなさい、つぅか管理局の執務官に勝てるわけねぇ。
 …………ちょっと噂に聞いたけど十一歳で管理局の執務官になったとかありえねぇよ。}

「い、いや、貴女が此処にいると聞いて是非一度会ってみたいと。
 あの、本当に覗く気はなくてだな。」

しどろもどろの弁解に、マリアの目が細められた。
その何もかも見通しそうな感情の無い機械のような瞳。
それを向けられているクロノは先程から背中に嫌な汗が流れている。

【怒ってる?……よな。
 っ!……一見隙だらけだがあの目、攻撃の意思ありと見れば恐らく即座に迎撃してくる。】

「……態々私に?管理局は実に暇なようだな。
 羨ましい限りだ。」

クロノに鋭さを増した眼光と共に辛辣な言葉を吐きかけるマリア。
感情は表に出ていない、しかしその様子は不機嫌な心情を雄弁に語っていた。
誇り高い兵士に対して物見遊山できた等とは失言であったようだ。

{こちとら死ぬ気で戦場駆け回ってるってのにマジで羨ましいぞこんチッキショウ!
 今日だけで何回死にかけたと思ってやがる!蹴躓いたり偶々しゃがんだりして助かったけど!?
 戦争終わったら絶対管理局行ってやる!!}

「っ!いや、任務で偶々此処の近くにきていたんだ。
 先程も言ったが貴女がいるとブリテン王国の兵士から聞いてな。
 ……有名な貴女に会いに来たと言う訳だ。」

一瞬の動揺を悟らせないように直に捲し立てるクロノ、ここら辺は流石である。

【……管理局にあまり良い感情を持っていない?
 ……使用するデバイスは異質なれど彼女は戦士である事に誇りを持っていると聞いたな。
 非殺傷設定を使う管理局は良く思わないと言うことか。
 …………艦長からは出来るのなら管理局へ引き抜くように言われたが……無理そうだな。
 一先ず礼儀を重んじるこの国の兵士を相手にする時と同じ要領で接するべきか。】

「既に知っているようだが僕は管理局執務官クロノ=ハラオウン。
 お会い出来て光栄だ、マリア=エルンスト中尉。」

クロノは、マリアの機嫌を取る為に自分から一度名乗りなおし、続けて礼をしながら言う。

「…………。
 ……此方こそお会いできて光栄だな……クロノ=ハラオウン執務官。」

管理局の執務官を試そうというのか、マリアはゆっくりと口を開いた。
その様子は彼女が頭脳面においても優秀である事を悟らせる。

{えっ!?何?俺ってそんなに有名なわけ?
 いや~照れるなぁ、クロノも何か礼儀正しいし……第一印象悪いけど結構良い奴かな?
 まぁ、原作見る限りかなりのお人よしではあるみたいだが。
 こっちも褒めておいてやろ。}

「……弱冠十一歳にして執務官の試験を合格、現在十二歳にしてアースラの切り札と呼ばれるほどだとか…?
 艦の提督も執務官殿の母親だそうだな………味覚が壊滅的らしいが。」

ゆっくりとクロノについての情報を語るマリア。
事前に管理局についての情報を調べていたのか。

「……―光栄だな、中尉のような有名な魔道師に知っていただけているとは。」

数瞬返事が遅れたが然したる動揺もせずに返すクロノ。
じっとマリアを観察する。

【これだけ知っているという事は多少の興味はもたれているのか?
 まぁ、今此処に来ている管理局員の中で一番年下なのは僕だが。
 ……それにしても母さんの味覚障害(僕は言い過ぎとは思わない)まで知っているとは。】

しかし、それきりマリアは何かを考えているのか何も答えず動きもしない。

「………………。」
{いや、褒められると嬉しいな、原作キャラにだと尚更。
 ははははは、それにしても俺が有名か…………有名?……(戦時中有名=敵に狙われる)……駄目じゃん!?
 やばいやばいやばいやばい!どうする!?}

寡黙なその姿は美しい容姿と厳格な雰囲気が相まって、立っているだけでも一つの絵画の様に見える。
落ち着き払った雰囲気は年不相応に、しかし、目を引き付ける何かがある様にも見える。

「…………。」
【……少し落ち着いて見てみると綺麗な子だな。】

と、そんな感じでしばらく時間が過ぎて行ったのだが。

「中尉!」

アントニウス少尉の登場でそれは終わりを告げた。

「カール上等兵の応急処置が終了いたしました!
 何時でも移動できます!」

「…………。」
{やべぇよ、マジでどうしよう?
 ……いや、待てよ?態々俺みたいなの狙うか?
 いや、でも、士気の低下を狙うのなら倒しやすそうな俺を狙いそう!
 まじやべぇ……鬱だ……。}

「中尉?……っ、涙…?」

マリアが何も言わずに涙を流したのを見た少尉。

【……ん?何か不味くないか!?】

「おいコラてめぇ!中尉に何しやがった!?」

「い、いや誤解!……お、おい!中尉も彼に何か言ってくれ!!」

そのクロノの要請に考え込んでいる(自身の死活問題に悩む)マリアは。

{ああ゛!?今それどころじゃねぇンだよアホ!
 ……ちっ、ああ~クロノが何かだっけ?
 う~んクロノは……あっ変態だ。}

「……そいつは、変態だ。」

不機嫌そうに涙を拭いながら言うマリアを見て、神は死んだと言うような表情をするクロノ。

【まだ、怒っていたのか!?
 …くっ、女性は扱いが難しいとエイミィは言っていたが……!
 見かけによらず根に持つタイプか?】

「おぉい!小隊集合!!
 中尉を泣かせた変態野郎がいるぞぉ!!」

周囲に響く少尉の怒号。

「ええ!?」

「何だって!?」「中尉に悪戯した変態野郎!?」「何ぃ!?中尉に悪戯!?」「くそっ!野郎許さねぇ!!」

クロノの耳に次々と物騒な言葉が聞こえてくる。
しかも途中で情報に乱れが生じたようで悪化していた。

【や、やばい!途轍もなくやばい状況だ!!
 ……逃げよう!】

暫し考え込んだ後身を翻して逃げるクロノ。
アントニウス少尉が一瞬硬直するほど見事な逃げだ。

「あ!変態が逃げやがったぞ!!」

「逃がすなぁ!!」「捕まえてぶっ殺してやる!!」「タマ切り取ってグズの家系を絶ってやる!」

【今日は!厄日だ!!間違いなく厄日だ!!一体僕が何をした!?】

{何か周りが五月蝿いような……。
 ま、良いか…そう、それよりも少しでも生き残る可能性を上げなければ!!}

こんな感じで二人の邂逅は終わりを告げた。







<ブリテン王国第十六小隊宿舎談話室・第三者視点>

「……中尉、本当に何も無かったんですかい?
 (中尉はこう言ってるがあの涙はただ事じゃなかったぜ!)」

「ああ、何も問題は無かった(心配性だな、少尉は。
 いや、本当に良い人だなぁ。)。」

お互い微妙に勘違いをしている二人。

「そうですかい……(あの野郎今度会ったらとっちめてやる!)。」

「…………(腹減った。)。」

クロノの受難は暫く続きそうである。







<アースラ艦内・ブリッジ>

王国のそれとは比べ物にならない技術力によって造られた船、アースラ。
その様相は内外共に洗練されていて美しささえ感じられるものであるが、今は如何でも良い。

「クロノ、ちょっと。」

「……何ですか、艦長。」

何処か疲れた風のクロノにアースラ艦長リンディが声をかけた。
普段の彼であったのならば嫌な予感を感じて少々身構えるくらいはしたであろうが、現在はそんな余裕も無いらしい。
……まぁ、どちらにしろ避けえぬ運命ではあるようだが。

「クロノが王国のマリア=エルンスト中尉にセクハラしたって報告が来てるんだけど?」

「!?」

思わずびくりとしてしまうクロノ。
屈強な兵士たちに追いかけられた経験はどうやら一生の思い出(トラウマ)と化しているらしい。

「えぇ~!?クロノ君サイテー。」

モニターを見つめながらキーボードで操作をしていたエイミィ。
後ろを振り向きながらクロノを罵倒した。
先程の出来事で精神ライフがゼロに近かったクロノにはきつそうである。

「ちょっ、エイミィ!?」

「少し、お話しましょうか?……お茶を飲みながら(ボソッ)。」

追い討ちをかけるようにリンディの死刑宣告……止めか。

「ち、違っ!…ってお茶!?」

「育て方間違ったのかしら……。」

「クロノのへんた~い。」

ブリッジにいる全員の視線がクロノに集中。

『ひそひそ…クロノ執務官が…ひそひそ…むっつりすけべ…。』

「話を聞けぇーーーーーーーーーーーーーー!!」

彼の受難は既に続きが始まっていたようである。
引きずられていった彼がどうなったかは言うまでもなく分かる事である。




[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第四話
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4
Date: 2009/06/15 19:28
<ブリテン王国第十六小隊所属上等兵カール上等兵>

俺達の隊長、マリア中尉。
最初小隊長配属されると聞いた時はふざけた餓鬼。
初めて見た時は無愛想で生意気そうな餓鬼。
その印象はブルーノ軍曹に銃口を向けた時にイカレた餓鬼に変わって。
戦争被害者を救援に向かった任務にて的確な指示を出す所を見て中々凄い餓鬼に変わった。
そして最初の任務、ビビるかと思いきや行き成り狙撃で敵兵をなぎ倒した時には流石に普通じゃないと思った。
その後平然と戦闘に参加してきた時に頼もしさと畏怖を覚え、宿舎に戻ってから吐いた時に愛しくも思った。
……俺が最初に人を殺した時は恥ずかしながらその場で吐いた。
その時に誰も笑わなかったのを覚えているし、当然の如く今回の中尉の事も誰も笑わなかった。
任務中はあくまで無表情を貫くその姿勢には敬意を表するべきである。

正直に言おう、俺は行き成り中尉になって、憧れの少尉を追い抜き小隊長になったマリア小隊長に嫉妬していた。
が、それはもう過去の話。
今はもうある意味少尉に勝るとも劣らない敬意を抱いている。

何より……。

「おはよう御座います、中尉!」

寝ぼけ眼、目を手の甲で擦りながら歩いてきた中尉に挨拶する。

「……むぅ……おはようかーるじょうとーへい……。」

可愛いし。





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第四話 日常的な非日常







普段はクール且つ厳格な中尉、しかし、可愛い部分が多々存在している。
小隊の皆はそんな中尉を見る事が、この殺伐とした戦場での何よりの楽しみだ。

先程の寝起きの姿が先ずそうであるし。
中尉は極度の甘党という事実についてもそうだ。

中尉曰く。

「……此処では砂糖が無ければ生きていけない。」

との事だったので一度小隊全員で砂糖を全部隠してみた時がある。
砂糖が無いと聞いた中尉は無表情を少しだけ崩し、悲しそうにして涙を溜めていた。
その姿に悶えつつ暫く鑑賞した後。
急いで買ってきたといって大量の砂糖を差し出した。
その時の花開くような笑顔は忘れられない。
中尉の表情が見える放射線状にいた連中は皆被弾した。
かく言う俺もその一人であった。

……あのギャップは反則だ。

それからであろうか、小隊でちょくちょく砂糖が切れるようになったのは。
そのたびに俺はダッシュで砂糖を『買いに』行っている。

そのたびに中尉は微笑み、俺達は中毒度を増していく。
あ、だけどあまりやりすぎると中尉が笑ってくれなくなるから注意が必要だ。
…………ジョークじゃないけどある意味正しい。





此処の基地の連中は大抵食堂で飯を食う。
前線でもなく、比較的平和な此処故にこういう事になるのだろう。
前線の兵士ではこうは行かない。
もっとも、別に食料がなくなった故に始まった戦争ではない為、補給物資は結構多くあるのだが。
……ああ、サクソンの連中はそうでもないらしいけど。

マリア中尉は謙虚な方だ。
自分にも他人にも厳しい方だが驕り等は決してせず、事実こういった食堂等では借りてきた猫の様に大人しい。
ただ、弾丸を二つほど片手に保持しながら食べているが。
これは常在戦場と言う意味なのだろう、流石だ。

……最近では軍の上級将校を親に持つ連中が軍に入ってきたりして問題になっているらしい。
此処にもそいつ等のお守りの為に此処には明らかな余剰兵力が存在していたりする。
もっとも、第十六小隊の様に、態々前線から優秀な部隊を連れてくるような真似は自重しているらしいけど……。
現在、戦力的には勝っている王国。
それでも何時までも帝国に勝てないのはそう言ったふざけているとしか言えない理由の所為もある。
戦争を長引かせるとは全く以ってどうしようもない。

中尉曰く窮鼠猫を噛む、じわじわと追い詰められた敵兵によって何時被害が出るか分からないとの事。
……中尉は頭脳面においても本当に優秀だ。
まぁ、兵士の側面から見れば九歳児にしては、と、頭に付くが。
それでも下手な兵士よりも戦場を理解している節がある。
単純な学力においてもかなりのものを誇っている様子。
士官学校卒業生よりも優秀であると聞いた時は流石に苦笑が漏れた。

何にしてもあれだ。
僅か九歳にして優秀な小隊長であるマリア中尉の活躍で、管理局への人材の流失は一応の所治まったらしいが。
自分で新たな問題を増やしていれば世話無いと言う事だ。
しかも、新たに入ってきた連中は何を勘違いしているのか……。

「あら、これはこれはマリア中尉じゃありませんか。」

ほぅら、早速来た。
コイツは……アルステーデ=ダンゲルマイヤーだな。
中将を父親に持っている為に大尉として軍に入った奴だ。
士官学校の訓練期間を何ヶ月か繰上げて卒業したようだ。
士官学校ではかなり優秀だったらしいが……。
確か中尉よりも何歳か年上だったな。

彼女は我侭で、悪い事に厳格で有名な中将は娘に甘いと来ている。
自分の方が階級が上と言うことでマリア中尉を見下しているんだろう。
自分一人じゃ何も出来ないのか前線でもないのに護衛を二人もつけていやがる。
お前は将軍かっつぅの。

そう、こういう輩が出てくるのだ。

マリア中尉の実力を信じておらず、馬鹿にする。
自分の方が階級は上だと、見下す。
もっとも中尉は。

「…………。」

こういう輩はまるで見えていないかのように完全に無視するのだが。
現に今も黙々と飯を食い続けている。

「っ、中尉は言葉が分からないのかしら?」

忌々しげに顔を歪めたアルステーデお嬢さんは尚も嫌味を言う。
戦争のせの字も知らないお嬢さんに中尉の相手が務まるわけが無いのだが。

「…………。」

やはりただ黙々と食い続ける中尉。
…………もしかして本当に聞いていないのじゃ?……まさかね。

「ふ、ん。
 ……そう言えば貴女、ストレージデバイスを使ってるんですって?
 そんなものを使っていたらあっと言うまに死んでしまいますわよ?
 私はインテリジェンスデバイトを持ってますの。」

そう一旦区切ると緑色の宝石を取り出し。

「ヴァルキュリヤ、起動。」

≪Anfang≫

宝石から女性的な声が聞こえたと思うと、お嬢さんの服が軍のバリアジャケットに変わり、杖が握られる。
デバイスは剣の形をしたもので、剣身の根元、柄の部分に緑色の宝石が付いている。
……まぁ、見たところ高級・高性能且つ実用的そうな良いデバイスではあるんだが……。

つぅか将校だからって管理局からインテリジェントデバイスなんて買えねぇよ普通。
こんな所でデバイスを起動すんな!

「ふふふ、どう?
 貴女のデバイス、自作なんですってね?
 私のヴァルキュリヤはそんなオンボロとは比べ物にならなくてよ。」

……!自作デバイス?中尉は戦闘者としてだけでなく技術者としての知識と技も持っているのか。
うーむ、流石だ。
あのデバイスは少なくとも九歳児の理解力や応用力では造れない……今更だが。
なるほど、俺はまだ中尉を侮っていたようだ。

戦い抜けるだけの実力。
自身も動かし、部隊を的確に指揮するだけの知識。
任務遂行の為に、生き残る為に必要なだけの技術力。
そして如何なる状況にも無表情で対処できるほどの精神力。

中尉は軍人として求められるものを全てそろえているのだ。

見れば周りの、お嬢さんの護衛二人すらも驚いている。
唯一驚いていないのは発言した世間知らずのお嬢さんだけだ。
そのお嬢さんも周りの反応には驚いている。

「な、何ですの?」

驚くお嬢さんに対し護衛のうちの一人が口を開いた。

「……大尉、中尉が扱っているような特殊なデバイスを組むにはそれなりの知識と技量が必要ですぜ。
 ……最低でも軍にいるデバイスマイスタークラスの実力が。」

「っ!…………ま、まぁ貧乏人の知恵と言うことかしらね。」

そんなあからさまな誤魔化しを言うお嬢さんに、中尉はちらりとだけ視線を向けて言った。

「……良いデバイスだな。」

直に視線を戻した中尉の口からはそんな意外な言葉が出てきた。
……いや。

「!…ふ、ふん、分かりまして?
 管理局の最新技術を詰め込んだデバイスですのよ。
 これ程の良いデバイスは王国には御座いませんわ。
 貴女なんてもう用済みですのよ。」

調子付くお嬢さん……うん、何となく次の展開が読めるよな。

「……ああ、良いデバイスだ。
 貴様には、到底使いこなせない程のな。
 私も、その分野を多少修めている故に分かる。」

「な、なんですって!?」

ほら来た。
中尉は口元をハンカチで拭ってから言葉を続けた。

「……それ程高級品ならば、さぞかし優秀なのだろう。
 唯握っているだけで魔法を組み、制御も勝手に行ってくれるだろう。」

中尉は淡々と、しかし、恐ろしいほどの存在感を放ちながら中尉が言う。
その様子に、お嬢さんも口を噤む。
……これは、怒っている?……いや。

「されど、戦場に立つのは常に兵士で、その手に握り締めているのは唯の兵器だ。
 故に、それに扱われている君は唯の兵器であり、戦場に担い手もおらず勝手に動く兵器は要らない。」

お嬢さんを見つめる中尉の瞳はまるで氷のようで。
お嬢さんはその瞳を見つめて一歩も動けない。

「ならば、その杖はせめて汚れぬように額の中にでも飾っておきたまえ。
 そして、君もドレスで着飾っているのが良いだろう。
 どちらも、戦場で散れば出来ない事だ。」

「っ!!」

そう言いながらも瞳の中に微塵の憂いも無い中尉は……

「……それでももし君が、戦場に立ちたいのならば……」

きっと、兵士なのだろう。

「兵士になれ。」

ああ、中尉は優しい人だ。
良く誤解されがちだけど、自分を馬鹿にした相手を心配して、態々忠告までしている。
語る中尉は無表情で、しかし、此処にいる連中にはそうは見えていないだろう。

「自らの明確なる殺意で殺し、自らの意思で守れ。
 その杖は君の為に造られた、その杖は君の為に在るのだ。」

中尉はお嬢さんに歩み寄る。
恐らくはお嬢さんも気づいたのだろう、自分が相手にしていた人物がどういう人物なのかを。
どれほど誇り高い人物なのかを。

「……額に飾るのも良いだろう、ドレスに身を包むのも良いだろう。
 されど君自身が、君の杖と同じ様に望むのならば。
 祖国と、自身が守りたいものの為に望むのならば。
 ……兵士になれ。」

半ば呆然と、畏怖の色が見え隠れする瞳で中尉を見つめるお嬢さん。
気のせいか、彼女が持つデバイスすらも中尉を呆然と見詰めているような気がする。

「君のデバイスは良いデバイスだ。
 故に、望んで君と一緒にいてくれるだろう…………――最期まで。」

そう言って出口へ向かっていく中尉。
俺も後を追った。

「…………大尉、アルステーデ大尉。」

中尉が出口付近で急に立ち止まってお嬢さんに声をかけた。

「な、なにかしら。」

びくりと震えた後、かろうじて返事を返したお嬢さん。
中尉は彼女を振り向き、無表情……を口端を少し持ち上げるという行為で崩して言った。

「……戦場で待っている。」

そう、言った。
その目は無表情ながらもどこか穏やかで……。

……この後、中尉の口から小隊の前線への移動が伝えられた。
中尉の表情は、何時も通りの無表情だった。







<アルステーデ大尉>

私は知っている、彼女達が前線へと赴く事を。
私は知っている、軍の高官達が自分達の子息子女の名前を売る為にそうしたのだと。
彼女での成功を見て、それならばと行なったのだ。
唯それには、優秀な彼女の存在が邪魔だったのだ。

ああ、全く以って反吐の出る行為ですわ。
幼い少女の命を散らすなんて馬鹿馬鹿しい。

ですが、何処か安堵していた自分がいたのも確か。

正直に言って、自分よりも小さな女の子が兵士として活躍しているなんて悪夢だと思った。
それは倫理面の問題であり、私自身のプライドの問題でもあった。
私は過信でも何でもなくただただ優秀だった。
理論に関しても実技に関しても誰にも負けたことが無かった。

私もある意味彼女が邪魔だったのだ。
ただ、彼女を死地に送るという事だけは賛同しかねた。

私は、彼女に軍を辞めさせるという目的の為に彼女について幾らか調べていた。
故に分かった。
彼女が優秀である事は、悔しかったが事実であったのだ。

最初の簡単な任務でさえ的確な指示で状況に対処していた。
更に、初の実戦で、初撃を担ったとは言え一番多く『殺して』いる。
その後も冷静な判断で任務終了まで的確に部隊を動かしたそうだ。
人を殺しても、眉一つ動かさなかったとか。
あの部隊のある意味真面目で有名な少尉の報告書故に間違いは無いだろうと判断した。

それでも、何時死ぬとも分からない前線へ送られるのは怖いだろうと考えていた。

初め彼女に会う時、恐らくは不安で押し潰されそうになっているであろうと思っていた。
お父様の命令で護衛が二人付いたけれど……まぁ、威圧には丁度良いと思っていた。
自分よりも上の階級、私の父親は有名な中将。
私の階級を大尉にしたように私にだけは甘いけれど、それ以外は厳格な軍人。
中尉を前線へ送る事も反対していた。
まぁそれを伝えたり適当に揺さぶってやれば彼女は泣きついてくるだろうと思っていた。
所詮は全て、思っていただけだったのだけれど。

先ず、階級や私の背景にいる人物などお構いなしに無視。
別に心此処にあらずと言う様にも見えず。
唯淡々と食事をしていた。
この時点で、ああ、彼女に前線へ行く事に対しての恐れなど無いのだと悟った。
此処で止めておけば良かったのか如何なのか。
……いや、ある意味では止めなくて正解であったのだろう。
目的の半分、彼女を貶めて自分に縋りつけさせるなんてほぼ不可能。
馬鹿だと分かっていても自分の優秀さを示したかった。

……結局の所、彼女と比べての自分に自信が持てていなかった私はデバイスを自慢した。

その結果、この様。
私の能力不足については反論したかったが、馬鹿丸出しでは説得力皆無。
……まぁ、事実彼女の前では私の優秀さなんてあってない様なものだったのかもしれない。
中尉のデバイスについて何も知りませんでしたし……。
予想と違っていて少々戸惑っていたとは言えあれは酷いミスですわ。

自分の意思で殺し、自分の意思で守る。
なるほど確かに私では杖に扱われてしまうだろう。
きっと戦場では杖に頼ってしまう。
一兵卒ならば問題ないかもしれないが、私は大尉。
今更ヴァルキュリヤを手放す積りは無い、お父様からのプレゼントであるのだ。
それに、上手く扱えば私も私の部下も生き残る事が出来る。
中尉が言ったようにこの杖は私のために造られた私の杖。
最期まで共にあるパートナー。

だがしかし、今の私には過ぎたものであるのも確か。

「……貴方達。」

中尉が去った後、少々騒がしい辺りを無視して護衛二人に声をかける。

「……!はっ!」

二人は半ば呆然と中尉の去って言った後を見詰めていたが、流石と言うか返事は確り返してきた。
彼等も元々此処にいた兵士ではないので彼女には驚いているのだろう。

「訓練に行きますわよ、付き合いなさい。」

故に、使いこなせるように今のうちに訓練をしておこう。

彼女は最後に待っていると言った。
何れ私も貴女の待つ戦場へ……。

その時は、本来の……いいえ、今よりも成長した私でお会いしますわ。







<マリア>

俺は食事の時には何時も弾丸を二つ手に持っている。
正直に言って戦場に出てからは毎日怖くてたまらない。
戦場でたまたま持っていた弾丸を咄嗟に放って助かってからは半ば癖になっている。
今日は特にその存在が必要に感じてしまう。

何故なら、俺達の小隊が前線への移動を命ぜられたからだ。
洒落にならん。
食事も唯淡々と、半ば意識しないで食べているのが現状だ。
周りから見たら、何時も通りなのかも知れんけどな。
ああ、何時も周りにいる屈強なお兄さん方に絡まれやしないかとびくびくしてるぜ!

……この無表情ってホントに良いのか悪いのか分からんね。

…………ん?
何か周りが騒がしいような気がするんだけどな……。

「……大尉、中尉が扱っているような特殊なデバイスを組むにはそれなりの知識と技量が必要ですぜ。
 ……最低でも軍にいるデバイスマイスタークラスの実力が。」

おぉ……何か知らんが褒められてるのかな?
……デバイスか。
まぁ前の俺の銃器に関する記憶とか使ってっから褒められても何かねぇ。

「っ!…………ま、まぁ貧乏人の知恵と言うことかしらね。」

はぁ!?喧嘩撃ってんのか!最近こういった輩増えたなおい!
幾ら反則使ってっからってデバイス技術はちゃんと一から学んだんだぜ!?
それにうちは程ほど金も持ってるしな!
元大学生舐めんな!!

俺はそいつの顔を拝んでやろうとそちらを見て……直逸らした。

「……良いデバイスだな。」

畜生……インテリジェントとかマジでありえねぇ。
うぅ……どうせ金持ち連中からしたら俺の家ですら貧乏ですよ……。

正直な感想しか出てこねぇよクソッタレ!

「!…ふ、ふん、分かりまして?
 管理局の最新技術を詰め込んだデバイスですのよ。
 これ程の良いデバイスは王国には御座いませんわ。
 貴女なんてもう用済みですのよ。」

用済みだと!?用済みだったらどんなに良いか!!
……いや、用済みだから前線へ送られるんでしたねそうですね。

……嫌味の一つや二つくらい良いだろう?
かっこ悪いと言う事無かれ!

「……ああ、良いデバイスだ。
 貴様には、到底使いこなせない程のな。
 私も、その分野を多少修めている故に分かる。」

実際は見ただけじゃ殆ど分からんけどね。
ま、バランスも取れてて使い易そうってのは分かるけどな。
演算能力も並じゃないだろ、レイハさんに並ぶかは分からないけどさ。

「な、なんですって!?」

おぉおぉ、そんな簡単にぶち切れてちゃ生き残れないぞ?
なんつぅかあれだ、偉そうに言えたもんじゃないんだろうが冷静さってのは大切だぜ?
何度この無表情に助けられた事か。

…………何か心配になってきたな。
こいつも実際は俺よりも大分年下な訳で、女の子な訳で。
俺は外見少女でも心は男な訳で、な?

第一こいつが死んだら巻き込まれるのは部下達だ。

「……それ程高級品ならば、さぞかし優秀なのだろう。
 唯握っているだけで魔法を組み、制御も勝手に行ってくれるだろう。」

俺は少々気合を入れて言う。
どうやら俺が気合を入れると変なオーラが出るらしい。
あれだ、偽・カリスマって感じの奴なのかな。
多分無表情と幾らかの運の良さのお陰なんだろう。

なるべく格好よく言うべきだろうな。
…………笑われないよな?

「されど、戦場に立つのは常に兵士で、その手に握り締めているのは唯の兵器だ。
 故に、それに扱われている君は唯の兵器であり、戦場に担い手もおらず勝手に動く兵器は要らない。」

なるべく気を静めて冷静に言葉を紡ぐ。
此処で噛んだら恥かしい!!
普段喋らないくせに噛まないのはこの体の仕様なのだろうか……如何でも良い?
……まぁ、何が言いたいかっつぅと自分で戦えないような奴は要りませんよと。

「ならば、その杖はせめて汚れぬように額の中にでも飾っておきたまえ。
 そして、君もドレスで着飾っているのが良いだろう。
 どちらも、戦場で散れば出来ない事だ。」

「っ!!」

息を呑む……げっ大尉だこいつ。
……ま、いっか!いっまさらぁ!!…………はい、少し(かなり)動揺しました。
まぁ、今の俺には大尉なんて怖くは無いけどな!!
ドレス何ざ俺は着たくないけどなぁ……まぁ、こういう言い方のほうが分かりやすくね?
ほら、危険な状況でもないのに態々戦場に来る奴なんて大抵可笑しいし。
このお嬢さん大尉が戦場に出る覚悟を持ってる何ざ思えないんだよな。
態々デバイス自慢するような奴だし。

「……それでももし君が、戦場に立ちたいのならば……」

まぁ、もしそんな変人なら。

「兵士になれ。」

そう、任務を忠実にこなせるような兵士になるのが一番生き残りやすい。
……如何にもねぇ、前に殺した新兵の姿とこのお嬢さん大尉の姿が重なるんだよな。
敵前でパニくったあいつ。
あいつのお陰で此方は大分楽だったんだけどな!

とにかく、この大尉油断した所をあっさり殺されそうで…優秀なデバイスが守ってくれるかな?
…………べ、別にインテリジェントデバイスが羨ましいんじゃないからな!?

真面目に巻き添えで部隊が全滅しそう……。

「自らの明確なる殺意で殺し、自らの意思で守れ。
 その杖は君の為に造られた、その杖は君の為に在るのだ。」

俺はお嬢さん大尉にゆっくり歩み寄る……良し!怒ってない!確認完了!
最近良く向けられるようになった畏怖の瞳が気になるけど気にしないで置こう!俺の精神の平穏の為に。

ああ、近くで見ると良いデバイスだって分かるな……。
俺とこ来ないかい?……来ませんかそうですか。
今俺が言った事覆したら駄目だろうって?羨ましいんだもん!!

「……額に飾るのも良いだろう、ドレスに身を包むのも良いだろう。
 されど君自身が、君の杖と同じ様に望むのならば。
 祖国と、自身が守りたいものの為に望むのならば。
 ……兵士になれ。」

念を押す、丁度良い感じに俺の雰囲気に飲まれてくれてるらしいし。
……死んでほしくないからなぁ……。

……!!べ、別に心配なんてしてないんだからな!!
人助けなんてこりごりだ!

「君のデバイスは良いデバイスだ。
 故に、望んで君と一緒にいてくれるだろう…………――最期まで。」

最期に締めくくってさっさと出て行くことにする俺。
決して恥かしくなったからじゃないぞ?

……ん、まぁ少しくらいなら、激励くらいしてやるか。
一応俺とは親子ほどって訳でもないにしろかなり歳はなれてるしなぁ…………内面は。

「…………大尉、アルステーデ大尉。」

「な、なにかしら。」

ビクッと震えて、序でに声の方も少々震えさせて答える大尉。
俺は、思わず苦笑する。
表情が表に出ているかは分からないけどな。

「……戦場で待っている。」

俺なんかに言われても嬉しくないかもしれないが、期待してるぜ、大尉。

……この後、俺の口から小隊全員に前線への移動を伝えた。
小隊の連中に、動揺は一切無かった。

頼もしいね、全く。

……それにしても今日付けで大尉とかマジ笑えん。
冥土の土産ってか?
…………階級章変えとかなきゃなぁ。




[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第五話
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4
Date: 2009/06/15 19:29
<フィーネ=アイゼルネマオアー=ブルーメ中佐>
王国から小隊が送られてくるらしいと言うのはこのサウスハンプトンで最近噂になっている事だ。
増援が二個小隊と言うのはまた何とも微妙なことだ。
珍しくは無いがまだ十分に戦力がある此処に送られるのはやはり微妙。
消耗が最も激しいゆえの予備とでも取れば良いのだろうか。
補給線はしっかりしている為物資の方は十分にあるけれど……。

しかし、送られてきたのが何ヶ月か前に此処から王国へ去って行った小隊と言うのはまた何とも。
あの時、優秀な彼等が抜けた穴は大きく非常に辛い時期だった。
恨みは無いが何とも言えない気持ちになるのは仕方の無い事だろう。

更に、率いているのは歴戦のベルンハルト少尉やアントニウス少尉ではなく弱冠十歳と九歳の少女だとか。
これには我々も同情とも憤りともつかない気持ちにさせられたものだ。
少尉達も何故さっさと追い出してしまわなかったのか。
新小隊長二人も優秀だとは聞いているが何れこのように厄介払いされることを考えなかったのか。
死ぬ確率は低くない、彼等に限ってそれは考え辛いと思うのだけれど。
特にアントニウス少尉はそういうのがお嫌いだからそんな事を許さない筈……。





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第五話 最前線へ







<アンナ中尉>

とうとう私達も前線へ移動です。
毎日頑張ったから他の人にも認められたのかな。
少し怖いけれど、頑張らなくちゃ。

私はマリアちゃん……ええっとマリア中……大尉になったんだっけ?
……みたいに確りとは出来なかったけど皆に助けられて一生懸命頑張った。
皆も最初は怖かったけど頑張ってたら優しくなってくれたよ。
マリアちゃん…大尉が言っていた通り認められたんだと分かった時は涙が出ちゃった。

実はマリアちゃ…大尉は私が前線へ行くのに反対していたのです。
でも、私はマリアち……大尉に認められたかった。
少し喧嘩しちゃったけれどマリア…大尉も最後には認めてくれたんだよ。

「マリア…大尉、サウスハンプトンってどんな所なの?」

私達は今、前線へと向かう車の中に居ます。
本当はいけないんだけど皆がマリア…大尉と一緒の車に乗せてくれたの。

「…………帝国と隣接する激戦区。
 ……この戦争第二の目的……否、帝国が真に求めている地下資源が豊富にある最重要戦略空域B7R……
 円形の山脈に囲まれている為に、円卓とも呼ばれるそれが近くに存在している重要拠点。」

マリア…大尉は暫くの沈黙の後詳しくそう答えてくれました。
難しい話だけれど何とか理解できました。
ぶっきら棒だけどちゃんと答えてくれるのがマリア…大尉です。

「……後、マリアちゃんで構わない。」

小さな声で言ってくるマリア大尉。
周りの人に聞こえないようにかな?

「良いの?」

私がそう言うとマリアちゃんはコクンと頷いてくれました。
軍内でのけじめとして確り階級で呼ぶように皆に言われているのです。
普段はマリアちゃんって呼んでたんだけどこれからはそう言うのはいけないって。

「……大尉、甘やかしちゃいけやせんぜ。」

不意に聞こえてきた深みのある声にマリアちゃ…大尉がびくりと震えました。
そうだった、私は唯でさえ皆に迷惑をかけているんだから気をつけなきゃ。

「はぁ……マリア大尉はアンナ中尉にだけは甘いですな。」

ゆっくりと視線を逸らすマリア大尉は無表情、でも、微妙に居心地悪気と言うか照れていると言うか。
そう言う状態にあるのはその様子を見ていた全員に分かった。
マリア大尉のこういう所も私は好きです。

「でも、そこが欲しいなら何でそう言わないの?
 聖剣が欲しいから戦争を始めたって聞いたよ?」

「……王国の聖剣は強い意味を持っている。」

私が再度質問すると、マリアちゃんは窓の外を見ながら呟きます。
何処か悲しげなのは私の気のせいでしょうか。

「聖剣を所持している国がこの世界を支配するといわれているのだ……。
 事実…とまでは行かないが少なくとも王国はこの世界で一番の国だ。
 ……現在では帝国も力をつけてきているが、それでもまだまだ。
 次元犯罪者共の協力あって何とか拮抗といった所だ。」

語るその横顔はやっぱり物憂げな雰囲気を醸し出していて、私まで少し悲しくなってしまいます。

「……まぁ要は、敵国に攻め入る理由が地下資源確保であるよりは聖剣の獲得の方が民衆受けが良いのさ。
 帝国の教育はお世辞にも行き届いているとは言えない……寧ろ洗脳教育が行き届いている。
 分かるものだけが分かり、分かるものならば文句も言うまいと言う訳だ……例外はあるだろうがな、所詮少数だ。」

むぅ、成る程。
よく分からないけれど一応分かりました。
私ではまだマリア大尉みたいに大人の人と同じ様に考えるのは無理のようです。
……それにしても。

「……有難う……ねぇ、マリア大尉。
 何か調子が悪そうだけど大丈夫なの?」

私がそう言うとマリア大尉は少し俯いてから答えました。

「……何でもない……。
 …………ただ、少し悲しいだけだ……。」

マリアちゃんは、一体何を思ってその言葉を紡いだのでしょうか。
私には、それが分からず。
それがたまらなく……悲しかったです。







<アントニウス少尉>

中尉から大尉に昇進……まるでクソッタレだ。
マリア大尉が昇進したからと言って喜ぶたまか?
昇進させてやるから死地へ行け何ざふざけてる。

先程、語るマリア大尉の横顔はとても言い表せないような憂いを秘めていた。
思い当たる節は腐るほどに存在する。

聖剣の誇りを利用する帝国に対して、そして、それに気づかぬ民衆に対しての悲しみ。
……大尉殿のご両親、エルンスト夫妻もサウスハンプトンに居た筈だ。
何の連絡も寄越していない事から恐らくは大尉が従軍している事をご存知ではない筈。
事実を知ったエルンスト夫妻は恐らく悲しむだろう。
そのことに対する、悲しみ。
最後はアンナ中尉に対しての悲しみ。
アンナ中尉は前線に行く事を喜んでいた。
しかし、マリア大尉ならばともかくアンナ中尉の腕で前線を生き残るのは難しいだろう。
アンナ中尉も優秀な人ではあるが如何せん経験が足りない……マリア大尉は別格だが。
マリア大尉はアンナ中尉を守りきる積りだろう……ああ、そう言えばアンナ中尉のご両親もサウスハンプトンだ。
全く以って糞食らえだ。
もしかしたら大尉を前線へ送る為の人質の意味もあったのかも知れない。

大尉ならば心配は要らないと思うのだが……。
やはり、な。

大尉はこの年齢にして恐るべき魔道師だ。
弱兵はその銃弾の前になぎ倒される……いや。
正確に言えば弱兵しかなぎ倒す事は出来ないと言った所か。

大尉の強みはその少ない実戦経験を覆す冷静な頭脳と銃型デバイスと言う特異な武器だ。
恐るべき即射性と速射性を誇るそれは防御の暇すら与えない。
この世界の質量兵器に此処まで洗練されたものは無いだろう。
大砲や爆弾等はあるが、それよりもコストが少なく強力な魔法の方が圧倒的に良いからだ。
が、相手が佐官将官クラスの高ランク魔道師ともなれば話は別だ。

この国の、いや、この世界の佐官以上の魔道師は皆魔力保有量が一定以上なのだ。
尉官も一定以上の魔力が無ければ上へは行く事が出来ない。
その所為で優秀な尉官の将校が佐官に上がれない事も……いや、今は関係ないか。
この間倒した部隊の高ランク魔道師の防御はやはり堅牢で、雑魚を一掃した後全員で一斉に狙い撃った。
銃弾に魔力を込めても高ランク魔道師の堅牢なプロテクションやバリアジャケットは破れない。
大尉もイージスと言う特殊な防御魔法のお陰で、防御面では寧ろ勝ってすらいるのだが、やはりじり貧だ。
弾丸は無限ではなく、無駄遣いは死に繋がる。

大尉は、特別魔力保有量が多いと言う訳ではない……。
もしも破れるだけの魔力を込めようとしてもその前に大尉が撃たれてしまうだろう。
大尉の魔力収束技能は大したものだが、魔力保有量の差は如何ともしがたいのだ。
この世界で高ランク魔道師と低ランク魔道師には非常に高い壁がある。

大尉は同レベル以下の魔道師には果てしなく強い。
しかし、尉官クラスの上位、或いは佐官将官クラスともなると勝利は難しくなると言う訳だ。
普段の大尉が大尉だけにアルステーデ大尉の様な輩に負けるところは想像し辛いが……。
やはりと言うか何と言うか恐らくは初撃で片付けなければ苦戦するだろう。
現実は非情である。

マリア大尉は俺とこの事を話した時に、弱いもの虐めは得意なのだと皮肉気に笑いながら言った。
まぁ大尉の事だ、恐らくは何か考えの一つもあるのだろう。

……確かカートリッジとか言ってたか?
ボソッと呟いたのを聞いただけだから分からんがな。







<マリア大尉>

あ゛あ゛~~~やばい事実に気づいてしまった今日この頃~~~。
いやね、前線送りも十二分にやばいんだけどさ。
うん、気づいてる人は気づいてると思うけど何かエースコンバット・ゼロの設定が見え隠れする訳よ。
しかもこっちにB7Rがあってエクスキャリバーもこっちにある。
こっち負けんの!?化け物コンビとか登場する訳ですか!?
……ああ~そういやガルム小隊とか言うのちらほら聞いたことあるよなぁ……。
……あれ?うちのインシグニア(部隊章)って何だったけか?
はっはっは、自分の部隊の看板を知らない部隊長って如何よ。
恥かしいから今更聞けん、つぅか今までコールサイン使ってねぇのか。
…………はぁ、マジで悲しいよ。

この世界って佐官クラス以上の連中が確実に化け物なんだよなぁ……。
なんつぅか前線に出たら一体どんなやつらに出くわす事か。
一応簡単なデバイス一つ組んでおいたけどさ……マルチタスクって便利なんだよなこういう作業の時。
ああ~~でも氷弾のカートリッジ化はちょっと躊躇するよなぁ。
一度少し試したけどめちゃ体に負担かかるし。
専用デバイス造ればそうでもないのかも知れないけどな。

……ああ、考えれば考えるほど鬱になる内容だ…………。
アンナちゃんの事でも考えるかな。
もうむさい連中に囲まれる中ではアンナちゃんだけが心のオアシス。
何時かこんな可愛い子が嫁に行くと思うと涙が出てくるぜ!
…………やべ、欝だ。



ん?おぉ、考え事してる間に到着したみたいだな。
仮設の宿舎やらもちらほら見えていて如何にも戦場って感じ。
何か知らんが俺たち専用の宿舎もあるらしい…………何かこの車注目されてね?







<サウスハンプトン駐屯基地・フィーネ=ブルーメ中佐>

ああ、やはり何の冗談でもなかったようだ。
二個小隊をそれぞれ率いているのは歴戦の少尉達ではなく幼い少女達。
……これは先任将校の私が確りしなければいけないのかしら。
個人での動きはともかく指揮技能その他は少尉達には敵わないけど……。
私はともかく他の皆は納得してくれるかしら。
優しいアルベルトさんはともかくローザとハロルドさんはちょっと難しいかも。
ハロルドさんはある程度割り切るけどローザはプライドが高いから一番心配ね……。
何より、見掛けに似合わず基本的に子供好きだから……。
戦場に彼女達のような子がいるのは許せないと思う。
……何よりマリア大尉についている蔑称と言うか二つ名と言うか、それが酷い。
アンナ中尉はそれ程でもないみたいだけれど……。

「初めまして、マリア大尉、アンナ中尉。
 フィーネ=ブルーメ中佐です。
 これから宜しくね。」

私がなるべく優しく挨拶をすると、二人の少女から返事が帰ってくる。
非常に対照的な感じのする返事だった。

「……マリア=エルンスト大尉であります。
 …宜しくお願いいたします中佐殿。」

マリア大尉は噂通りと言うか何と言うか、非常に子供らしさを欠いた印象を受ける。
全くの無表情でその瞳も無機質極まりない。
……何ていうかその……怖…いやいやいや何を言っているの私!
確りしなくちゃいけないのに年下の女の子に飲まれてどうするの……。

「あ、あ、アンナ=クレメント中尉です。
 あ、あの宜しくお願いしますフィーネ中佐。」

アンナ中尉も噂通り、ほんわかした感じの優しげな女の子。
緊張でかちこちになっている所が何とも微笑ましい……惜しくらむは此処が学校ではなく戦場である事か。
確か治療魔法のエキスパートとして有名だった筈。
戦場に彼女のような子供が出るのは如何にもいただけないが死傷者の数が激減するだろう事は事実だ。
恨めしきは私の無力……。
……まぁ、兵士としては貴重な戦力として数に入れなければ。
そういうのが得意なハロルドさんには感謝してもしきれない。

「あ、あのぅ……。」

考え込んでいると不安そうな声色のアンナ中尉の声が。
ちょっと不安げとも取れる緊張した顔が何とも可愛らしい。

「フィーネ中佐って、あの鉄壁のフィーネ中佐ですよね。
 フィーネ=アイゼルネマオアー(鉄壁)=ブルーメ中佐!」

少女の口から出たのは自身に付けられた何とも厳つい二つ名。
思わず歪みそうになる顔を堪えて笑顔で返事を返す。
……こら!そこの少尉二人!にやけているのがばればれですよ!!

「え、ええ、そうよ。」

私がそう返事を返すとアンナ中尉の顔が花咲くように輝いた。
…うっ、笑顔が眩しい。
マリア大尉は…………無表情。
悪いという訳ではないが、綺麗な顔立ちなのにとことん可愛げが欠如している子だ。

全く、勿体無いわ……。

「すっごぉい!マリアちゃ!……大尉!マリア大尉!」

マリアちゃんと言いそうになって慌てて言い直したアンナ中尉。
マリア大尉は……お、激しく分かり難いけど苦笑いしてる?

「フィーネ中佐ってね!結界魔法の達人なんだよ!!
 おっきなワイドエリアプロテクションで一個中隊全部を包んだ事もあるんだって!」

そう、別にそれ自体は良かったんだけど、あの後皆が面白がって鉄壁なんて二つ名を広めるから……。
あ、何かむかむかしてきた。

「…………そうか。」

恐らく苦笑していたであろうマリア大尉は、しかし無表情でアンナ中尉に答えた。
…………まあ無反応と言うのもなんか悲しい気分に……。

アンナ中尉はそれを気にしていないのかニコニコ笑った後、皆に見られているのを理解し慌てて居住いを正した。

うん、微笑ましい。

「え~、マリア大尉は本来中隊規模を指揮する立場にあるわけですが……。
 急な移動の所為で再編成の問題もあります、少なくとも暫くの間は現第十六小隊を指揮してください。
 第十六小隊はハロルド=ネアリンガー大佐率いる第二連隊の第三大隊所属第三中隊の第四小隊となります。
 第三大隊の大隊長は私だから宜しくね?」

うん、と言うよりマリア大尉には悪いけど多分ずっとそのまま。
能力があるといっても佐官以上の働きは出来ないだろうし昇進方法も出鱈目だからね。
中隊任せるのも偏見かもしれないけど不安。
佐官は少ないから中隊規模なら任せたい所だけど……。
……いや、出来れば小隊長はアントニウス少尉に戻って欲しいんだけどなぁ。
寧ろアントニウス少尉に私の大隊を指揮して欲しい!……冗談ですよ?
……まぁ、少尉が任せてるんだからある程度は期待して良いんだろうけど。

「了解。」

此方の事情を察しているのかいないのか……察してそうだなぁ。
無表情及び無感情な声色で答えてくれたマリア大尉。

「現第十四小隊を率いているアンナ中尉もそのままの人員で。
 同じく第二連隊の第一大隊所属第三中隊の第四小隊長として配属されます。
 第一大隊の大隊長はアルベルト=レオンハート中佐です。
 優しい人だから安心して良いよ?」

「あ、はい!了解しました!」

私が微笑みながら言うとアンナ中尉は少し安心したように言ってきた。

癒されるわね~。

まぁ、実の所魔力保有量で言えばアンナ中尉の方がマリア大尉よりもかなり優秀なんだけどね。
アンナ中尉は大器晩成型なのかも知れない。
逆にマリア大尉は早熟と言うか何と言うか、もしかしたらあまり伸びないかもしれないわ。
大尉まで駆け足で来たのだけれど、魔力保有量の問題で大尉以上になれない人って多いらしいから。

……まぁ、私のこの感想は、その日の内に打ち消される事になったんだけどね。







<マリア大尉>

此処、サウスハンプトンには王国の第三連隊が駐留している。
そもそもからして補給線の確保が難しい此処には、そんなに多くの兵士は送り込めないのだ。
そしてそれは敵側にも言える事。
転移魔法を使おうにも強力な結界やジャミングで座標をずらされてしまう。
何とも面倒な土地だ。
……王都の防衛力を下げたくない上の連中の意向もあるのだそうだが。

此処で、王国の軍の規模について教えておこうか。
王国がこの世界において力を持っているといっても人口の問題などもあり、あまり多くは無い。
先ず軍の総兵数、これが約30000人、軍長は大将又は元帥。
軍は三つの軍団に分かれてそれぞれは約10000人、軍団長は中将
それぞれの下に師団が、これもまた三つ、それぞれが約3300人、師団長は少将。
その更に下が連隊、これは二つでそれぞれが約1600人、連隊長は大佐。
いい加減疲れてきたけどその下は三つの大隊、それぞれが500人程で大隊長は中佐。
中隊は100~200人規模で三つ、中隊長は大尉又は少佐。
やっと小隊……これは五つ、だいたい20~40人規模で、小隊長は少尉か中尉。
その下の分隊も五つ、これは7・8人くらいで、分隊長は兵隊長から軍曹。
一番下は班!これで終わり!人数は3人か4人で、班長は上等兵から伍長。

ぶっちゃけた話部隊の数はともかく人数は変動が大きくて当てにならん。
まぁ、こんな感じだ。
つまり此処のトップはさっきチラッと出てた……え~っと……あ、ハロルドだ!ハロルド大佐なわけ!うん。
先程から優しげな雰囲気を醸し出している中佐も此処では滅茶苦茶偉い人だな……中佐は元から偉いけど。

ちなみに、管理局の連中は前線へなど出てこない。
寧ろ王国側にしても管理局の連中に前線へは出てきて欲しくないだろう。
ここら辺は難しい。

……にしてもフィーネ中佐はスタイルが良いなぁ。
優しげな雰囲気に似合わず鉄壁とか言う二つ名を持っているらしい。
すげぇなぁ、俺の二つ名とか無いのかな?
あるのかも知れないけど聞いたことないし……。
変なのだったら嫌だよなぁ。

此処、サウスハンプトンの町は非常に大きな町だ。
ヨーロッパ調の建物が建ち並ぶ此処はとてもじゃないが戦場の最前線とは思えない様相。
まぁ、実際はもう少し先の地点が最前線なんだけどな、野営テントとかあって。
此処に来る途中には元気に遊ぶ子供の姿も見えた。
流石にあれは緊張感が無いように思えるが、町周辺を覆う強力な結界と駐屯軍のお陰なのだそうだ。
連隊長のハロルド大佐は優秀な人物であるらしい。
上層部の一部有能な軍人が、此処の兵力が少ないのならばせめて優秀な者達をとの事。
いや、良くバランスが取れていて結構結構、生存確率が高まった。

しかしこの穏やかな町も、もし帝国軍の侵略があったりすれば一転して地獄と化すと思うと何とも……。
無論、帝国軍の連中も同じ様な事を考えているだろうけどな。

人間ってのは全く以って狂気の生き物だ。
理性と本能の狭間にって奴かね。

「あら、フィーネ中佐じゃない。」

そんな事を考えながら辺りを見回していると、何やら甲高い女性の声が聞こえてきた。
フィーネ中佐に気軽に声をかけられるという事は左官以上か……うん、中佐っぽい。
フィーネ中佐は金髪碧眼を持つ穏やかそうな顔立ちの持ち主だが
此方の中佐は同じ金髪碧眼でもきつそうな印象を受ける。
両者に共通している事はその色と性別、かなりの美人であるという事実くらい。
もっとも、此方の中佐はフィーネ中佐と違って非常に残念なボディだが。

「あっ、ロ、ローザ。」

フィーネ中佐は何やら焦ったご様子。
もしかして苦手な人とか?

「ふふ、駄目じゃない。
 今はちゃんと中佐を付けてくれなきゃ。」

ローザと呼ばれた女性は親しげにフィーネ中佐に話しかける。
はて、もしやあっちの趣味の人とかなのか?
……いや、何か思考が飛躍しすぎているな。

「……で、貴女が今日此方に移動してきたマリア大尉かしら?」

と、先程の朗らかな雰囲気とは打って変わってこちらへ。
何ともまぁ秋の空ってレベルじゃねぇぞって変わり身だ。
フィーネ中佐が特別なのか何故か俺が特別嫌われているのか。
……アンナ中尉や副官二名を見事にスルーして俺に話しかけて来た所をみると後者か。

いや、美人さんにこうも睨まれるとマジで怖いね。

「……そうですが。」

「成る程、貴女がマリア=ブルートベフレックト(血塗れ)=エルンスト、ね。
 ……その優秀さ故に蔑称が二つ名になった天才魔道師。」

はい?
思わず内心聞き返してしまう俺。
悲しい事に、無論と頭につけて顔の表情は動かない。

俺のTACネームつぅか二つ名ってそんな物騒なの!?愛称じゃなくて蔑称!?
……そんなに嫌われてんのかよ、落ち込むぜ。

「っ!ローザ中佐!」

慌ててローザ中佐に注意をしてくれるフィーネ中佐、ええ子や。
如何にも前の年齢から考えると年下にしか見えないんだよなぁ。

しかし、ローザ中佐はそんなフィーネ中佐の制止を無視し、続けた。

「でもね、貴女の様な子供がこの前線で大尉なんてやっていけるのかしら?」

う~ん、怖い!
何でこんなに嫌われてるんだろうか。
嫉妬?……何かそんな感じには見えないようなそうでないような。
それも理由の一つにありそうだけれど、何だかね。
根本までは分からないけど駆け足昇進した俺に対しての嫉妬だけじゃないような気がする。

う~ん、もしかして純粋に心配してくれてるだけなんじゃ?

「……ご心配には及びません、ローザ中佐。」

こう答えておくのが無難ってとこかな。
つぅかさっきから威圧が強すぎて目を開けているのも一苦労!







<ローザ中佐>

「……ご心配には及びません、ローザ中佐。」

そう目を細めながら答えた少女。
身に纏う空気は成る程微塵の乱れも無い。
魔力を高めて威圧してもこの程度ならば問題ないということか。

……気に入らないわ。

彼女のような子供が当たり前の様に戦場に出る。
そういう意味では私は管理局のような組織が嫌い。
それに意図は違えど追従するような王国にも嫌気がさしてくる。

目の前の彼女は優秀なのだろう。
身に纏う空気からして、アンナ中尉とは比べ物にならない。

まるで自分の至らなさの証明のような存在ね。

いや、そう考えるのは高慢な事なのだろう。
しかし、彼女のような存在が生まれてしまった事は人として嘆くべきだ。
兵士としては……喜ばざるを、得ない事だ。
少なくとも彼女の登場で兵士の損害は格段に減る。
彼女は魔力保有量こそ少ないが、対集団戦闘のスペシャリストである。
私の様に巨大な氷塊で敵を押し潰したりは出来ないだろうが、それを補って余りあるレアスキルとデバイス。
そしてそれを応用した、限定的ながらフィーネにも並ぶ防御力。

優秀だろう、優秀すぎる。
そして優秀故にこんな最前線まで飛ばされた。

ふぅ、如何したものかしらね。
…………彼女一人を戦わせないだけならば出来ない事も無いけれど。
それをしたならば、彼女のお陰で助かった筈の兵士が死ぬはめになる。

「中佐。」

急に聞こえた声に思わずびくりとしてしまった。
そこにいた声の主は相変わらずの無表情、しかし、何処か困ったようにも見えるマリア大尉。

「ご心配には、及びません。」

……生意気な。

思わず苦笑が漏れてしまう。
しかし、そんな生意気な言葉を吐かせてしまったのは私の所為か。

「まぁ、少しは期待しておいてあげるわ。」

やっぱり貴女は気に入らないけどね。
可愛い顔して可愛げが全くないし。







<マリア>

フィーネ中佐に案内されて入った基地の中。
何気に綺麗に清掃されているのが分かる。
基地指令兼連隊長殿は几帳面な人かもしれない。
黒縁眼鏡とかかけてたらマジ笑う。

あの後結局付いてきたローザ中佐がちょっと怖いが、こうして見てみると大変子供好きのご様子。
緊張するアンナちゃんを見ては和んでいてちょっと危ない人にも見える。

「ハロルド大佐は一見怖そうに見えるけど、優しい人だから安心してね。」

フィーネ中佐がアンナ中尉に向けてそう言った。
…………俺は?

「は、はい!」

アンナちゃんは安心とか以前に緊張でがちがちだ。
……大丈夫かなぁ。

なんて感じで歩いていると、どうやら基地司令室に到着した模様。
途中歩いている時にやけにじろじろと見られた以外には特に気になる事は無かった。
……やっぱり俺の事とか噂になってんのかなぁ。
何せ血塗れだし……マジ欝。

基地司令室の中に入って最初に目に飛び込んできたのは……。

見事な黒縁眼鏡。

表情が殆ど動かない事は分かっているのだが、思わず顔を背けてしまう。

想像通りの黒縁眼鏡だよ大佐殿!!

が、そこで俺は予想外の光景を目にした。

それは、今にも俺に向かって抱きつこうとしている親父の面!

鈍い打撃音が室内に響いた。

突っ込んでくる親父を目の当たりにした俺は、咄嗟のステップで右方向に回避。
親父の面に渾身の右ストレートを叩き込んだ。

「あごぉ!?」

「えっ!?」

しまった!

親父の吹っ飛んだ先には部屋に入ってこようとしていたアンナちゃん!
させねぇ!!

左の踏み込みと同時に、今度は思い切り体を捻った左フックを放った俺。
打撲音と共に親父の体は弾かれたように逆方向へ飛んでいく。
そこにはフィーネ中佐がいて―――。

「きゃあ!!」

親父の体は障壁にびゃちゃっと張り付いた。

「…………お見事、流石ね。」

何処か感嘆の色が入り混じったローザ中佐の賞賛に。

「……フィーネ中佐、俺の親父にこんな酷い事を。」

俺が続いた。
いや、流石とか言われても気づいたのは偶然ですよ?
えぇ!?っと驚いているフィーネ中佐は無視だ。

「…………おじさんを殴ったのはマリアちゃんだよ…。
 後、俺って言うの止めようよ……。」

「……いや、俺のは唯の正当防衛で、止めを刺したのはフィーネ中佐だ。
 なぁ?アントニウス少尉。」

じと目で見てくるアンナちゃんも無視してアントニウス少尉にふる。
アントニウス少尉はニヤリと笑って。

「ええ、この目でしかと見ましたぜ。」

「ちょ!酷いですよ!?」

フィーネ中佐が障壁を解除。
親父の体が地面に倒れる。

哀れな。

「駄目じゃない、フィーネ中佐ったら。」

ローザ中佐も乗ってきた。
目に嗜虐的な光が見えた事から彼女はドSと判断する。
……案外Mっ気もあるかもしれないけどな。

この状況にオロオロしだすフィーネ中佐。
突然の事態が起こると弱いタイプかもしれない。

「……諸君、そのくらいにしておきたまえよ。」

と、此処で黒縁眼鏡のハロルド大佐が疲れた様子で止めに入った。
また変な奴が来たとかほざいてるが無視。
横をちらりと見るとフィーネ中佐がほっとしているのが見える。
……恐らくは良くからかわれているんだろうな。

「……マリア大尉がそんな子だとは思わなかったわ。」

おぉっと、此処でフィーネ中佐のじと目攻撃だぁ!
…………可愛いなぁ。
でもね、そういう事するからからかわれるんだよ、小学生みたいなノリで。

と、そこで俺に話しかけてくる人物がいた。

「マリア、元気そうね。」

うん、まぁあれだ。
親父が此処にいる時点で母さんが此処にいることも分かってたんだ、うん。

「マリア、本当に元気そうね……今日貴女が従軍しているという事を聞いて、私達がどれ程心配したか。」

そう言ってコツコツと歩いてくる母さん。
ちょ!?いや、あのね?俺には俺の事情が色々あってだね。

そんな俺の思考は母さんの次の行動で止められた。

「無事でよかった……!」

俺の目の前まで来た母さんにぎゅっと抱締められたのだ。

………母さん。

俺を抱締めながら涙を流す母さんを見て、俺は何も言えなくなる。

…………そっか、母さん達には俺の事は知らされてなかったんだ。
まぁ、当然だわな。
二人とも軍内部ではかなりの信用を勝ち得ている少佐だし。

「…………。」

俺は暫くの間そうして抱締められていた。







「さて、ではこれからの事を話させてもらおうか。」

母が泣き止み、父が母とアンナちゃんの治癒魔法で復活してからハロルド大佐が話し始めた。
どうやら俺の母さんも治癒魔道師の模様。
…………何気に俺って王国帝国問わず軍の連中の事知らなくないか?
自分の事すら知らなかったしなぁ…………後で聞いとこ。

「マリア小隊は11:00時付けでイリーナ=ヘルツォーク大尉率いる第三大隊所属第三中隊の第四小隊となる。」

「了解致しました。」

うん、さっきフィーネ中佐が先に教えてくれたけどな。
……でも、イリーナ大尉ってどんな人だろうね?

「アンナ小隊も11:00時付けでアリーセ=エルンスト少佐率いる第一大隊所属第三中隊の第四小隊だ。」

「りょ、了解致しました。」

一度既に聞いているってのにアンナちゃんは……大丈夫かなぁ?
ま、母さんが中隊長なら一安心かな。
しかし、これで第一大隊は優秀な治癒魔道師が最低二人もいることに……。
バランスが微妙に可笑しくないか?
作戦時の役割による編成の違いはあるだろうけど……。

「既に知っているとは思うが第三大隊はフィーネ中佐、第一大隊はアルベルト中佐が指揮をしている。
 ……何か質問はあるか?」

「あ、はい!」

アンナちゃんがハロルド大佐の言葉に元気良く手を……学校じゃないんだからさ。
ハロルド大佐は頭痛を堪えるようにした後、何かな、と返した。

「あの、私治癒魔道師で、その、アリーセおば…少佐も治癒魔道師で、可笑しくないですか?
 治癒魔道師って結構珍しいと思うんですけど……。」

おぉ、俺が正に聞きたかった事だ。
でもアンナちゃん、母さんの事何時も通りアリーセおばさんって言いそうになったろ?

アンナちゃんに微妙に生暖かい視線が集中する。
ハロルド大佐はそんな微妙な空気を払拭する為か一度咳払いをしてから説明を始めた。

「第一大隊は接近戦の得意な連中が集まっている所為で他の二個大隊と比べても損耗が激しくてな。
 君のような治癒魔道師が一人居るだけでもかなり兵士の生き死にに関わるんだ。
 まぁ、心配する事は無い、君の率いている小隊員は非常に優秀だ。
 それに、別に本当の最前線へ行って戦えといっているわけじゃない。
 少し下がった位置で負傷兵の治療をしてくれれば良いんだ。
 そもそも第三中隊はそれぞれの小隊に優秀な治癒魔道師がいる隊でもある故に重要だからな。
 そこにいる兵士達も必然的に皆非常に優秀だ。」

「は、はい、分かりました。」

成る程ねぇ、危なそうだけどベルンハルト少尉達もかなり優秀だからな、大丈夫だろう……。

「ちなみに、第二大隊は遠距離攻撃が特に得意な隊。
 第三大隊はその堅い防御力で定評がある。
 もっとも、第三大隊の防御力はフィーネ中佐の力によるところが大きいんだがな。
 ……マリア大尉が加わる事でその防御力には磨きがかかるだろう。
 戦闘においても先程の察知能力と動きを見る限りかなり期待出来そうだしな。」

買いかぶりだ!とは言えないんだよなぁこの雰囲気は。
何でアンナちゃん自慢げなんだい?

「以上、もう質問は無いな?」

俺もアンナちゃんも黙って頷く。

ハロルド大佐は満足そうに頷くと退出を命じた。
母さん達に案内を命じる辺り中々良い奴なのだろう。







色々な場所を見て回った後、母さん達は自分たちの仕事に戻っていった。
本来少佐がうろうろしている事など出来ないだろうから、礼を言えど文句は無い。

時計を見ればもう一時、昼食に丁度良い時間帯だ。
一度兵士達の下へ戻った後、二個小隊全員で食堂への移動となった。
食堂はかなりの広さを誇っており、全員余裕では入れるのだ。
食堂自体はかなり賑わっていてこれなのだから此処にはかなりの金を使っているらしい。
皆まるでハイスクールのようなノリだったので思わず少尉達と笑い合ってしまった。
俺の笑顔は普段の無表情を見慣れたものにしか分からんようだけどな。

食堂に着き、談笑をしながら食事を取る。

……にしても目立つなぁ。
俺達が目立つのは勿論、何か少尉二人がかなり有名な人物らしいのだ。
いや、ただの少尉にしちゃぁ優秀すぎるんじゃ?とは思ってたんだけどな。

「ねぇ、マリアちゃん!」

「…………?」

何だ?
何やら憤っている様子のアンナちゃん。
何か聞き逃した事でもあったのか?

「マリアちゃんは佐官になれるよね!」

え゛!?

……いや、無理じゃないかな。
俺って魔力保有量自体はあんま多くないし。
まぁ、増えてる量も普通の人よりは多いけれど、佐官クラスになるまで何年かかる事やら。

「……少なくとも今は無理だ。」

「えぇ!?どうして!?マリアちゃんすっごく凄いのに!」

……すっごく凄いって。
気持ちは嬉しいんだけど流石にきついぜアンナちゃん。
それに、呼称がマリアちゃんになっちゃってるぞ?

何か皆俺の事過大評価してる部分があるんだよなぁ……。
今では大分経験も積めてある程度の自信はあるけど、最初の頃なんて珍しい武器と魔法、そして運のお陰だ。
実戦の実力何ざ殆ど無かったんだ。

…………ん~贅沢な悩みか?
実力に見合わない任務とか作戦に投入されなきゃ良いんだけど。
後はいらぬ誤解による争い事とか……。

「お嬢ちゃん面白いこと言ってるじゃねぇか。」

はっはっは、考えた傍からこれかよ。




[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第六話
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4
Date: 2009/06/15 19:32
<フレディ=ヒュエーネ(ハイエナ)=ロズゴニー少佐 Fredi=Hyäne=Rozgonyi>

死体漁りのフレディ。
それが俺の名前だ。

戦場で死体を漁って金目の物を盗り、その金を使って出世したって噂から付いた。

ちなみに事実だぜ、へへ。
火のないとこから煙は、ってのは少し古いがな。

今はエスケープキラー(脱走兵狩り)を主な任務にしている。
最近じゃ数は少ないがな。

趣味は死体漁りに強姦に、ギャンブル酒盛り弱いもの虐めときたもんだ。
ちなみにギャンブルで負けたことはないぜ?

全く以って俺って奴はしょうがねぇ、なぁ?
まぁ、あれだ。
俺は別に罵られたってかまわねぇんだよ。

寧ろ罵ってくれた方がそいつをどん底に突き落とした時楽しいってもんだ。
そんな事してたら賄賂と戦果の所為で何時の間にか少佐殿。
人殺しの才能はあったって事なのかねぇ、お陰で皆俺に寄り付きやしないぜ。
たまに入ってくる何も知らない馬鹿で遊ぶくらいしか出来なくなっちまったって訳よ。

まぁ、勿論俺だって馬鹿じゃねぇ、相手は選ぶぜ?
予めある程度そいつについての情報は集めとくのさ。
たまぁに、極たまに何だがな。
化けもん見たいな奴が出てくる時があるからな。
焦ったり、情報収集を怠ったら終わりって事よ。
まぁそんな奴ぁホント滅多に現れねぇから心配しなさんな。

とは言え最近は碌な奴がいやしねぇ。
弱いもの虐めっつってもよ、唯本当に立場も実力も弱い奴にばかりしてたら飽きるのよ。

ああ、昔は良かった。
何せ俺は実力をある程度隠しておくだけで餌がかかった。
  ・・・・
勿論普段通りの生活をしながらな?

最近じゃぁある奴の弱み握ったのが一番だったか。
そいつのお陰で俺は部隊内でかなり幅を利かせられる。

……にしてもあいつも何で帝国のスパイなんてやってんのかねぇ。
ま、如何でも良いか。
あいつがマジ切れして俺の事ぶっ殺しに来ない程度に好き勝手やってりゃ。

「ねぇ、マリアちゃん!」

おや?やけにわけぇ声だな。
ん~そういやちびっこい奴を無理やりってのはやったことがなかったな、俺自身でも意外だぜ。
あんま機会に恵まれなかったんかね。

「マリアちゃんは佐官になれるよね!」

んん?マリア?

何処か引っ掛かって視線を向けた先、しゃべっているお嬢ちゃんの向かい側。
やけに無表情で、人形のような雰囲気と容姿を持つ少女がいた。

…………マリア=ブルートベフレックト=エルンスト!
血塗れのマリアか!!

噂には聞いている。
成る程確かに並じゃねぇ。

……いやぁ、良いねぇ。
あの澄ました顔が苦痛と屈辱に歪む様は見てみたい!
はは、餓鬼とは思えねぇ貫禄だぜ。

だが、んん?残念だな。
流石にエルンスト夫妻を敵に回すのはきつい。

エルンスト夫妻。
あの二人はこの基地内でも有数の魔道師だしな。

…………いや、だがしかし、決闘なら…………。

今ならあいつのお陰で殺しさえしなけりゃある程度は融通が利く。
決闘のルールに乗っ取ったならいける、か?
いや、今なら、いやいや、今しかいけない!
それに、確かマリア大尉は今の所魔力保有量が少ない筈!
しかもエルンスト夫妻の中隊は今任務中だ。
確か明日までは帰って来ない予定だった!
今日来る娘の為に少し予定をずらしたんだったな……くくく。

娘の為に態々予定をずらしたのが今回は仇になったな……。
こいつは久々のご馳走って奴だぜ。

俺は頭の中でそう結論付けるとマリア大尉の向かいに座るお嬢さんに声をかけた。

「お嬢ちゃん面白いこと言ってるじゃねぇか。」





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第六話 血塗れのマリア







<マリア大尉>

突然だが、この世界には決闘と言うものがある。
王国にも帝国にも古くから伝わる風習で、一対一の真剣勝負なのだ。
勝者はその場での敗者の生殺与奪権を手に入れ、また、決闘には何かしら物がかかっている場合が多い。

まぁ、少なくとも戦時中にやる馬鹿は普通いない……筈なんだが。

俺が周りを見渡すと……。

「おい!死体漁りのフレディと血塗れのマリアの決闘だってよ!」
「マジかよ!?……ああ、他の奴も呼んでくるぜ!」

噂を広める奴、仲間を呼び集める奴。

「どっちが勝つと思う?」
「そりゃフレディ少佐じゃね?」
「マリア大尉だってつえぇらしいぜ?」
「ん~でも佐官相手じゃぁな……。」

結果を予想している奴等。

「……ああ、マリア大尉も着任早々可哀想になぁ(ヒソヒソ)」
「ああ、相手がフレディ少佐じゃぁ……まだあんなに小さいのに(ヒソヒソ)」
「そういやフレディ少佐は小さい奴が好きって噂も……(ヒソヒソ)」

不吉なヒソヒソ話をしている奴等。

「はいは~い!死体漁りのフレディ少佐VS血塗れのマリア!
 オッズは3:1とフレディ少佐のほうが優勢だよ!」
「マリア大尉に10000!」
「毎度あり!」

賭け事をしている奴等、と、様々な連中の様子が目に入ってくる。

野郎共、好き勝手にやってやがる!
後ヒソヒソ話は本人に聞こえないようにやれ!!

此処はサウスハンプトンの訓練場。
目の前にはニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべているフレディ少佐。

全く、何だってこんな事になったんだか。

……そうあの後、あの食堂でフレディ少佐に話しかけられた後が問題だったんだ。
少佐は初めからこれが狙いで話しかけたんだろうが……。







<一時間前・食堂>

「お嬢ちゃん面白いこと言ってるじゃねぇか。」

はっはっは、考えた傍からこれかよ。
ホント嫌になるぜ。

声の主はニヤニヤと笑いながら近づいてくる男。
階級は…………少佐かよ……。
これじゃ階級に物を言わす事も出来やしねぇ。

「フレディ少佐……。」

ベルンハルト少尉が忌々しそうに男の名を口にする。
……有名な人物なのか?勿論悪い意味で。
しかし、フレディ少佐はそれを無視してアンナちゃんに話しかけた。

「お嬢ちゃん、マリア大尉が佐官になるなんて無理だぜ。」

「な、何でですか!?」

おいおい、上官侮辱罪とられるぞアンナちゃん!

しかし、フレディ少佐はニヤリと笑うだけに止めた。
思わず内心眉を顰めてしまう俺。
一体何が目的だ?

「先ずマリア大尉はあれだ、魔力保有量がすくねぇ。
 それじゃぁとんでもなくでかい戦果でも立てなきゃ佐官にはなれねぇよ。」

フレディ少佐は嫌みったらしい笑みを維持しながら話している。
如何にも人の神経を逆なでする笑みだ。

「マリアちゃんならきっと出来るもん!」

アンナちゃんはその嫌らしさに耐え切れない様子。
珍しく怒っている。
こういう感情を余り表に出さない子故に良いことなのだが、今は不味い。
それに呼称がマリアちゃんのままだし。

「おぉおぉ、言うねぇ。
 いや、俺もマリア大尉の活躍は聞いているぜ?
 だがよ、魔力保有量の問題をすっとばして佐官になるにはただ数を殺すだけじゃぁ無理だ。
 仮にその方法でなるにしても何万と殺さなきゃならねぇ。
 それに、だ、そもそもマリア大尉は所謂軍の広告塔として利用されたんだぜ?
 要らなくなってお払い箱にした奴をどうして昇進させるよ。
 大尉になったのだって最前線に送られたからだぜ?」

ほんっとに嫌らしい言い方をする奴だなこいつは。
言っている事は事実だから性質が悪い。
アンナちゃんは何万と殺すの所で嫌悪感を感じたようだが。
……まぁ、俺も感じたけどな、表に出んけど。

「…………なら、どうしたらマリアちゃんは佐官になれるの?」

アンナちゃんのこの質問に、フレディ少佐は嫌らしい笑みを一層深めた。

うっわ、やな予感。

「要は佐官クラスの奴をぶっころしゃぁ良いのよ。」

アンナちゃんの息を呑む音が聞こえた。
結局は人を殺さなきゃならないのだ。

「でも、そいつは無理だ。」

「何で!?」

そして、続いたフレディ少佐の言葉にアンナちゃんは驚いたように問うた。

ああ~~さっきから嫌な予感が止まらない。

「さっきも言った通りマリア大尉は魔力保有量がすくねぇからよ。
 一対一じゃぁ佐官には勝てねぇのよ。」

集団戦じゃ勝った事あるんだけどな。
一人で倒さなきゃ撃墜記録にはならんらしい。
まぁ、小隊としての戦果には加わるんだけどな。
デバイスに戦闘記録が残っているから誤魔化しも効かないし。

「でも、でも!」

「何ならやってみるかい?
 まぁ、俺が相手をしてやらない事も無いぜ?」

んん?意図が分からん。
見かけによらずバトルマニアとか?

見てみれば少尉達も頭を捻っている。

「やる!やるよねマリアちゃん!」

こらこらアンナちゃん、勝手に決めてくれるなよ。

「正し、条件がある。」

ほぅら来た。
何かあんだろ、俺は絶対やらんぞ。

「それは勝負を正式な決闘にする事だ。」

「決闘だと!?」

アントニウス少尉が食って掛かった。
確かに戦時中に決闘をするような馬鹿はいない。

「そうだなぁ、俺が勝ったらあんたを一晩好きにさせてもらおうか?」

「???」

アンナちゃんは何の事やら分かっていない様子。

にしてもなんつぅふざけた奴だ、誰がそんなのに乗るかこのペドフェリア!
しかも自分で言ってて悲しくなってくるじゃねぇか!!
最近の幼女を舐めんなよ!

と、そこでアントニウス少尉から念話が送られてきた。

「(乗っちゃいけませんぜ大尉。
  決闘はフレディ少佐が昔から事の正当性を訴える時に使っている方法です。
  しかも、こんな小悪党風の奴ですが、悪い事に腕は確かですぜ。)」

情報をくれたアントニウス少尉に無論その積りは無いと返そうとした時。

「(こっちはそのお嬢ちゃんを上官侮辱罪で好きにする事も出来るんだぜ?)」

フレディ少佐から念話が送られてきた。
見ればアントニウス少尉も思い切り顔を顰めている。
恐らくはそっちの方にも念話を送ったのだろう。

こいつ最悪!最初からその積りかよ!
……ちっ!
そっちがその積りなら……。

「…………良いだろう。」

「大尉!?」

少尉達二人の制止の声が聞こえるが今は無視。

「おぉ、話が分かるね。
 で、マリア大尉殿は何を俺に望むんだ?」

自分が負けるとは微塵も思っていない顔。
その面歪ませてやるぜ!

「……お前の、命で良い。」

俺はなるべく不敵に見えるよう、努力して口端を持ち上げながらそう言ってやった。
…………何で表情を意識的に変えるだけで疲れるんだ……?




<再び一時間後>

やれやれ、全く、アンナちゃんにも困ったもんだなぁ。
これが終わったら今度こそきつく言っておこう!(何度目かの決意)
でも、ま、何も負けても殺されるわけじゃなし、と思っておくか。
実戦以外で佐官相手に真剣勝負出来るだけでも幸運と思っておこう。

……いや、でも…………つぅかやっぱり男になんか抱かれたくねぇ!!

俺は決死の覚悟をした。







<死体漁りのフレディ>

いやぁ、まさか此処まで上手くいくとはなぁ。
目の前で飄々としてやがるお嬢ちゃんの顔が歪む所を早く見たいぜ。

「フレディ少佐!貴方何をやっているの!?」

ちっ、五月蝿い奴が来ちまったぜ。

「決闘ですよフィーネ中佐。」

こいつも俺好みの良い女なんだけどな、如何せん中佐殿。
その上優秀と来てる。

「戦時中に決闘だなんて!賭けの内容にも問題があるわよ!?」

「ハッ、マリア大尉が承諾してるんだから良いじゃぁありませんか。
 それに、戦時中に決闘をしてはいけないという決まりはありませんよ?」

鼻で笑って返してやる。
一応上官だから敬語は使わなきゃならんがな。

「……フィーネ中佐、構わない。」

と、此処で意外なところから援護射撃が来た。

「マリア大尉!?構わないって……。」

「ああ、構わない。」

そう言って先程俺に命を賭けろと言ってきた時と同じ笑いを浮かべる大尉。
はっ、直にその顔を歪めてやるぜ。

だが、俺はこの時。
このマリア大尉の笑い方に何処か見覚えがあるような気がしてならなかった。







<マリア大尉>

「じゃぁ、始めようか大尉殿?」

そう言ってニヤリと笑うフレディ少佐。
TACネームが死体漁りなんだっけ?

「…………ああ。」

俺がそう答えると同時に、二人ともデバイスを起動してバリアジャケットを着込む。
二人とも黒の軍服に黒の軍用コートを羽織ったスタイルだ。
もっとも、フレディ少佐は全体的にかなり改造してあるし。
俺もコートは袖を通さず、肩の留め具だけで固定している状態。

バリアジャケット展開と同時に、強固な結界が張られた訓練場に静けさが満ちた。
……佐官だけあってフレディ少佐のデバイスとバリアジャケットは高価そうだ。
そのオーソドックスな杖型のデバイスは、恐らく見た目に違わず高性能なのだろう。
…………そう言えば以前デバイス雑誌に載っていた最新型があれだった様な気がする。
インテリジェントデバイスではないが基本の機能的には俺のデバイスよりも向こうの方が優秀だろう。

まぁ何にしてもあれだ。
全力で当たるしか選択肢は無いのだから。
……少なくともこの場合先制攻撃は重要かな。

せめて審判をと買って出てくれたフィーネ中佐が声をかけてきた。

「マリア大尉、本当に良いのね?」

フィーネ中佐、良い人だなぁ。
俺がもし助けてくれと言えばこの人は助けてくれるだろう。
だがしかし、アンナちゃんが人質にとられている様な現状ゆえに俺は引けない。
中佐に言えばその件についても如何にかしてくれるだろう。
でも、その後フレディ少佐がどのように動くかは分からない。
こいつは今此処で潰すべきなんだ。
此処は戦場故に常に動く、後の憂いを残しておくべきではない。

……これは人助けなのだろうか。

いや、違う。
俺のやりたい事なんだ、人助けとかは関係ない。
賢いかどうかは、別問題だけどな。

……先程聞いたが、アンナちゃんの中では俺は無敵なんだそうだ。
俺自身はそんな積りはさらさらない。
しかし、今この時くらいは無敵のマリア大尉でも良いだろう。
外見は女の子でも中身は男なんだからな。

「では、杖構え!」

フィーネ中佐の掛け声で、俺とフレディ少佐は杖を構える。
もっとも、俺のデバイスは明らかに杖じゃぁ無いがな。
構えにしても、狙いを最初から読ませない為にガーディアンを背中に隠す形だ。

「始め!!」

開始の合図と同時に、俺は即座に狙いを定め引き金を引いた。

勝算は、ある!







<フレディ少佐>

…………正直、少し侮っていたとしか言い様が無い。

開始の合図と共に、マリア大尉は恐ろしい速度で攻撃をしてきた。
プロテクションが間に合わなかったらと思うとぞっとする。

初っ端からやる気満々、血塗れのマリアの二つ名に偽り無しってか。

靡くコートと共に構えられたデバイス。
そこから周囲に轟く連続した炸裂音。
それに伴って次々と吐き出される弾丸。

一瞬で、戦場の空気が殺意の風に乗りやってきたのだ。

迫り来る氷の弾丸は、藍色の火線を伴いまるで流星雨の様に。
その光景は圧巻の一言。
誘導機能も付いているのだろう。
出鱈目な方向に行った弾丸すらも曲線を描き迫ってくる為、尚の事美しかった。
ともすれば死を目の前にして見惚れるほどだったと言っておこうか。

くそっ、冗談じゃねぇぜ。
成る程あのお嬢ちゃんがあそこまで憧れるのも頷ける。
プロテクションに罅が入った時はマジで冷や汗掻いたぜ。
まぁ、咄嗟の防御で魔力の供給が上手くいかなかったのもあるんだけどな。

……だが、それまでだ。
マリア大尉の攻撃では俺の防御は破れない。
仮に破られてもバリアジャケットで暫くは耐えられる。

もう油断はしないぜ。
マリア大尉じゃぁ佐官である俺は倒せない!

「残念だったなぁマリア大尉?
 今のが俺を倒す唯一のチャンスだったぜ?」

「…………。」

ちっ、直にそのスカした面歪ませてやんよ。

「連射はお前だけの特権じゃねぇぜ!!」

《Gatling Beschiesung》

俺の周囲に一気に五十近くの魔力球が出現する。
周囲からどよめきの声が聞こえた。
佐官様を舐めんなよ?

《Feuer》

魔力球が次々とマリア大尉に襲い掛かる。
観衆の女性兵士から悲鳴が漏れた。
へっ、安心しろよ。
殺しちゃ意味ねぇからなぁ、非殺傷設定だ………ぜ……?

マリア大尉を戦闘不能に追い込むかと思われた魔力球。
しかし、次の瞬間にはそれは幻想と消えていた。

マリア大尉が腰に着けているベルト型のデバイスから弾丸が飛び出し、放たれた魔力球を全て撃ち落したのだ。
腰の左右についているそれから飛び出した弾丸は、恐ろしいほどの精度を誇っていた。

っ、ああ、忘れてたぜ。
マリア大尉は対集団戦闘のスペシャリストで、対集団攻撃防御のスペシャリストでもあるってな!

確かイージスとか言う魔法だったな。
最優の盾とか呼ばれてる魔法だった筈。
成る程、看板に偽り無し。
厄介な魔法だ。

……ちっ、これじゃぁお互いにじり貧だぜ。
決着なんか付きやしない。

…………どうしたもんか。
攻撃力では勝ってるが、こうなってくると持久力の面が心配だぜ。
何せ相手は弾丸の続く限り攻撃を防げるようなもんだ。

…………いやぁ、待てよ俺、そいつぁ違うぜ。
マリア大尉の弾丸も無限にあるわけじゃぁない。
こんな所で無駄に消費したくはない筈だ。

俺は隙無くマガジンを交換する大尉を見ながら思案する。
……例え今撃ったとしても防がれ反撃されるだけだろう。
下手すりゃあっと言う間に穴あきチーズだ。

……なら、一計案じてみるか?

……俺には隠し玉が一つあるからな。
前にぶっ殺した奴が持っていた特殊なデバイス。
名前も作った奴も分からねぇが、一度だけデバイス内に保管された魔力で障壁を張れるって奴だ。
持ち前のプロテクションとバリアジャケットで防げなくてもこいつがあれば大丈夫。
先手を取られてでかい攻撃を受けても防ぎきれるはずだ!
……これを作った奴は間違いなく天才だろうな。

まぁ、今それは良い。

先ず、そうだな……。

「なぁ、血塗れ大尉?」

「何だ、死体漁り少佐。」

はは、普通に返してくるか。
ま、こいつならそうだろうな。

「このままじゃぁ何時まで経っても決着はつかねぇ。
 万が一、いや、億が一あんたが勝てても弾丸は大分消費されるよなぁ?」

「…………。」

……ふん、眉一つ動かさねぇか。
いやいやそうじゃなくちゃぁこっちも面白くない。

「此処はお互いにでかいのを一発ずつ撃ち合って行くってのは如何だ?
 これなら時間はかからねぇし弾丸は無駄にならねぇ。
 なぁに、こっちはさっさとあんたで楽しみたいんでね。
 さっきみてぇにそっちのデバイスに込められた弾丸の続く限り撃って良い。
 勿論そっちが先手で良いぜ?」

最後の一言は本当だ。
ルールも本当、こっちに強力な隠し玉があるだけさ。
攻撃に関しては俺の性格で分かるだろ?大得意さ。
あのイージスとか言う厄介な魔法も強力な一点集中型魔法には効き目が薄い筈。
さぁ、如何出る?

「……ほぅ。」

マリア大尉は面白いと言わんばかりの声を小さく上げた。
……表情は相変わらず変わってねぇが……表情筋死んでるんじゃねぇのかこいつ。
若しくはあの顔実は作り物だとか。

何て下らない事を考えていたらマリア大尉は答えを返してきた。

「良いだろう。」

マリア大尉の答えに俺はニヤリと笑った。
言質は取ったぜ?

「マリア大尉罠だ!!」

と、此処でアントニウス少尉が実に迷惑な忠言をしやがった。

「っるっせぇ!外野は黙ってろ!!」

ったく、あの糞少尉め。

「外野はああ言ってるがどうするんだ?ん?」

馬鹿にするようにマリア大尉に言ってやる。

「……構わん。」

だが、マリア大尉はその一言だけを言った。

ふぅん、自信アリってか?
何か隠し玉があるのかもしれねぇが、所詮尉官が手に入れられる程度のものだろうぜ。
例えかなり強力だったとしても俺の防御を破れるほどじゃぁ……。
俺は限定的な防御力ならフィーネ中佐にも劣っていない自信があるね。

「では、行くぞ?」

「ああ、どう、ぞ……?」

何だぁありゃぁ……。

俺は半ば呆然としながら内心で呟いた。

その『デバイス』は見るからに凶悪なフォルムだった。
でかさ自体は一メートル弱程度だ。
それだけでもさっきの銃よりもやばそうだってのに。
上部から見ても分かる程の、先程使っていた銃とは一線を駕す程にでかい口径。

俺は慌ててプロテクションを張る。
俺に可能な限り強固に…!

あれはヤバイか!?
いや、いいや!俺は佐官だ!あんな奴に負けるわけ―――……

轟音が響き、俺の思考は強制的に中断させられた。

その銃口から吐き出された弾丸は途中で拡散しながら俺に迫り来る。
しかもその一つ一つに僅かながらも誘導性が付いているようだ。
洒落にならん!!

プロテクションが軋み、衝撃は俺にまで届いた。

…………しかし。

「は、はは、耐え切ったぜ!」

はっ、びびらせやがって、プロテクションに罅すら入れてねぇじゃねぇか!
今度はこっちの……!

しかし、俺の考えはどうしようもないほどに浅はかだったようだ。
             ・・・・・・・・・
「何を言っている、私はまだ銃弾を撃ちつくしてはいない。」

轟音が轟き、気の緩みかけた所に先程と同じ衝撃が奔る。

「ぐっ、っっぁ!」

先程罅すら入れていないと言ったが。
たった二発、たった二発で佐官である俺のプロテクションに罅が入りやがった!
冗談じゃねぇ!尉官の攻撃力じゃねぇぞ!
佐官クラスの魔道師ってのは眉唾じゃなかったのか!?

再び轟音、今度こそプロテクションが砕け散り、俺の体を幾つかの弾丸が掠めていった。

まだ、だぁ!

俺は気合を入れなおして隠し玉のデバイスを起動。
先程よりも更に強固なプロテクションが展開される。
これなら大丈夫だろう!あんな攻撃何度も続くはずはねぇ!

しかし、俺の希望的観測が入ったこの考えは、ものの見事に打ち砕かれた。

「ずっと、俺のターン。」

随分素敵な台詞付きで。

轟音が、五連続で鳴り響いた。
圧縮魔力が排莢口から次々に吐き出される。

先程のが流星雨ならば、これはまるで荒れ狂う嵐。
短い時間だが動く事すら敵わない。

あっと言う間に砕け散ってしまった俺の隠し玉。
オマケにバリアジャケットまで損傷してしまった。
これで防御力はがた落ちになる。

「私の、勝ちのようだな?」

ゆっくりと此方に近づいてくるマリア大尉…………馬鹿め!!

命あってのものだねだ!
こんな所で死んでやる積りはさらさら無い!

俺は即座にマリア大尉に向けて攻撃魔法を……放とうとする前に俺の四肢を弾丸が撃ち抜いていた。

「がっ!?」

一瞬痛みで意識を持っていかれて、痛みで直に現実に引き戻された。
ご丁寧にバインドの効果まで付属されているらしい。
ものの見事に空中に磔にされてしまった俺。

畜生!……っ!……成る程、早撃ちはあんたのお家芸だったよな……。
…………っこれじゃぁまるで道化、しかも噛ませ犬兼業だぜ……。

内心とは言え、軽口を言える余裕があるのは幸いか。

死と言うものに対しての覚悟だけは出来ているのだが、多くの未練は残る。
特にこの大尉殿は俺が今まで狙ってきた獲物の中で、紛う事無く極上の獲物だ。

っだが、だがしかし。
……惜しくらむはこいつが俺の手の届かぬ、そうきっと。

「……あんたが、この戦場の、っ!…化け物かよ……。
 …………最後の、最後で大外れだぜ。」

これが最後だってのに、思わず愚痴が漏れてしまう。
この素敵な大尉殿は、俺の命を見逃しなんかしないだろう。
唯でさえ無茶な賭けを強制したってのに、あのお嬢ちゃん、アンナ中尉はマリア大尉の鬼門らしいからな……。

マリア大尉はすっかり諦めた俺にあの笑みを浮かべて一言。

「Jackpot(大当たり)。」

その言葉に思わず顔が喜びとも悲しみとも、驚愕ともつかないであろう表情に歪んでしまう。

ああ、俺はこいつを――っ!

その時、俺の頭にある事実が浮かび上がってきた。

―お前の、命で良い―

あの時の、先程の、今のこの笑みは……。
…………ああ、何て間抜け……。

………――そうかこの笑みは、俺が獲物を見つけた時の―……

この戦い最後の轟音が鳴り響き、俺の体に衝撃が走り抜けた。
恐らくは、俺は体を四散させて死んだのだろう。

最後に見えた光景は、俺の血に塗れたマリア大尉―――――………




「ふにゃマラ野郎が、シーツの染みからやり直して来い。」

こいつぁ、てきびし、い。

その言葉を冥土の土産に俺の体は地に落ちて、俺の魂はきっと地獄へ落ちるのだろう。





<フィーネ中佐>

……………………………………………。
訓練場は始まりの時の様に静まり返っている。

余りと言えば余りな決着だ。
思わず審判の役目も忘れて呆然としてしまう。

確かにフレディ少佐は佐官の中でも特別魔力保有量が多いというわけで無し。
プロテクションは多少得意のようだがバリアジャケットは佐官の中では並くらいの強度。
だが、最後に彼が張ったプロテクションは私でも驚く程に強固で……。

しかしそれをマリア大尉はいとも簡単に破ってしまった。

眼前には血塗れのまま立っているマリア大尉。
黒の軍服に身を包み、袖を通していないコートが風に靡いている。
威風堂々と佇むその姿に、或いは私も圧倒されたか。

…………マリア=ブルートベフレックト=エルンスト。
……血塗れのマリア。

自分でも嫌悪してしまう事だが、思わずその二つ名に納得してしまっていた。

この少女は恐ろしい。
思わずそんな気持ちすら湧いてきてしまった。

「…………審判?」

マリア大尉の声で私ははっとする。

自分で買って出た審判ではないか。
思わず少し恥かしくなってしまった。

「しょ、勝者、マリア=エルンスト大尉!」

少しどもりながらも自分の役目を果たした私………。
やっぱり恥かしい……。

数瞬間を置いて、歓声が一気に爆発した。
中空を舞う外れ券。
皆誰もが彼女に驚愕し、皆誰もが彼女に畏怖を抱き、皆誰もが彼女の勝利を喜んでいた。
まぁ、最後のはそれだけフレディ少佐が嫌われていたって事だけど。
女性兵士の中には酷いセクハラを受けてた人もいたみたい。

…………それにしても、誰かしらマリア大尉にあんな言葉を教えたのは。

ふ、ふ、ふにゃ…………っっ!!絶対に見つけ出して叱らなきゃ!!







<ローザ中佐>

可愛げの無い子供、マリア=エルンスト。

成る程成る程可愛げが無いわけよね。

あの力は正に化け物。
最後にフレディ少佐が言っていたこの戦場の化け物って言うのにもある意味納得。

あの初撃だけでも防御の薄い佐官なら撃墜できる……まぁ、当たればだけど。
少佐の攻撃を軽々と防ぎ、反撃の隙すら与えない。
堅牢な防御を暴威を持って破り、非情の意思で敵を封ず。
そして、僅かながらの軽口と共に相手を冥土へ送ってやる。

見ているこっちを呆れさせるほどの強さ。
見ている全てを恐怖させ、味方に頼もしさを感じさせるその立ち振る舞い。

血を頭から被ったその姿は、血塗れのマリアの名に相応しい。

彼女は可愛げの無い子供、気に入らない子供、私達の罪の象徴。
彼女は非情なる戦士、恐るべき死の担い手、冷徹なる王国の守護者。
そして彼女は……きっと私達の戦友となるでしょう。

認めてあげようじゃないの。
この戦場で、私は貴方の軌跡を見届ける。

……―最期まで。


……でもやっぱり最後の台詞はいただけないわよね?
教えたそいつ、殺すわ。







<マリア大尉>

いやぁ、あの少佐の提案は俺にとって渡りに船だったぜ。
余程自分の防御に自信があったのか、避けずに真正面から挑んできたしな。
まぁ、確かにあの障壁はかなり堅かったが。
つぅか魔力をかなり込めた特製弾丸を五発も防ぐってどうよ?

歓声が飛び交う中、俺はそんな事を考えていた。

ん~フレディ少佐見事にバラバラだなぁ……。
流石フランキスパス12、偽でも洒落にならん威力だ。

……んん?これは?

俺は足元に光るものを見つけた。
気になった俺は、足元に落ちていた光るそれを拾う。
あまり大きくは無いアクセサリーだ。

これは…………変わった形だけどデバイスだな。
フレディ少佐のデバイスとも違うようだが…………!ああ。
もしかして最後のあの障壁ってこれか?

…………ん~~~~………貰っとこ。

暫く考え込んだが、役に立ちそうなので貰う事に決定した俺。

俺は盾の形をしたアクセサリ型のデバイスをポケットに仕舞った。

死体漁りの死体で死体漁りをするのは変か?
…………………死体ばっか。

「マリアちゃん!凄いね!凄いね!!」

と、馬鹿な事を考えていたらアンナちゃんがやってきた。

うん、人の死体がバラバラ状態で近くにあるのにそんなに騒げる君が凄い。
テンション上がりすぎて気にならないのか大分壊れてるのか。
…………前者だと良いなぁ。

「……アンナ中尉、これからはもう少し発言に気を付けろ。
 下手をすれば、今回の様に面倒な事になる。」

一応注意しておく。
またこんな騒ぎに発展したら正直やってられん。
少佐のガトリングベシースングとか言う魔法めちゃ怖かったし。

「うん!分かった!」

アンナちゃんは朗らかに笑いながら了承したが……ホントかなぁ?
まぁ、アンナちゃんは良い子だから大丈夫だと思うけど……。
後でベルンハルト少尉にお願いしておくか。

そこで俺は、俺に向けられている一際強い視線に、何となくだが気づけた。

ちらりとその方向に目を向けてみると、ローザ中佐が目に入った。

ふぅむ、仕方なしとは言え行き成りこんな騒ぎを起こしていれば、怒るのもしょうがないか?
…………いやホント、美人だけに睨まれると怖いんだけど。
ほら、あれじゃん?あんなの残しておいたあんたも悪いじゃん?

俺の視線に気づいたローザ中佐はニッコリと綺麗に微笑みなさった。

うん、怖い。

皆のアイドルマリア大尉は華麗に無視することに決めた。

視線が強くなったのなんて感じてない!
か、かか感じてなんかないんだからね!

…………うん、正直すまん。

ちなみに、次の日の朝帰ってきた両親にこってり絞られました。







<眼光(Falkenauge)のハロルド大佐>

…………はぁ。

着任早々の決闘騒ぎ。
元々問題があった人物とは言えフレディ少佐の四割をミンチに。
何でもアンナ中尉を半ば人質にとられた状況だったらしいが…………。

エルンスト夫妻の娘は彼等以上に無茶苦茶らしい。

相手が大尉とは言え佐官が尉官に瞬殺されてどうするのだフレディ少佐。
……まぁ、彼が勝ったら勝ったでまたこれ以上の問題が出たのだろうが…………。
最後の最後まで私の頭を痛める存在だったな、彼は。

「はは、随分と頭を痛めているようだね、ハロルド大佐。」

悩む私に部屋の中にいた人物から声がかかった。
声の主は、短く多少癖のある金髪を持つ引き締まった体型の男。
ともすれば皮肉るような言葉も彼が言えば何処か爽やかに聞こえるから不思議なものだ。

「アルベルト中佐、頭を痛めるのは当然だ。
 将官の次に力の象徴である佐官が僅か九歳の子供に負けたんだぞ?
 ……まぁ、マリア大尉は特別だろうが。」

「そんなのは皆分かってるさ、問題ないよ。
 俺としては寧ろ将来有望と言うより現状での即戦力が入った事の方が重要だと思うよ?
 彼女は明らかに噂以上の使い手だ。」

眉間に手を当てて言う私に対して、アルベルト中佐はあくまで朗らかに返してくる。

確かに彼が言っている事ももっともなのだが、彼女が優秀ならば再編成の事も考えなければならない。
…………いっそのことあの少数精鋭の特別部隊として活躍してもらうか?
佐官のプロテクションすら破る彼女の攻撃力は正直言って魅力的だ。
集団戦になってもあの防御力がものを言うだろう。

「…………お前は決闘を見てきたんだろう?
 彼女はお前から見て如何だ?」

私の質問に、アルベルト中佐は少し考えてから答えた。
その顔は非常に真剣味を感じさせる。

「……ん、そうだな。
 接近戦は分からないけど遠距離戦なら強いだろうね。
 彼女の武器は魔力の少ない連中には恐ろしいものだ。」

成る程、適当に思いついた案だが中々良いかもしれないな。
アントニウス少尉の部隊は元々有名だった故に、彼女が加わればネームバリューも十分だ。

「佐官を相手取っても戦える事は今回の事で証明済み。
 正直言って俺も彼女とはやりたくないね。」

「…………一つ教えておくと彼女は接近戦もかなりのものだ。
 部屋に入ってくるなり死角から気配も無く飛び掛ってきたカサエル少佐を察知し、迎撃したからな。
 あれは見事だった。」

私がそう言うと、アルベルト中佐は暫く目を瞬かせた後、口端を歪めお手上げだと言う様に手を上げた。
…………随分と機嫌が良いな、フレディ少佐がいなくなったからか?
だが、それをなしたのはマリア大尉だ。
果たして彼は子供が戦うと言う現実を此処まで割り切れる人物だったか?
マリア大尉よりも少し上くらいの妹がいると言っていた筈だが。

…………単純に、そこまでマリア大尉の戦いぶりが凄まじかったのもあるかも知れんな。

思考の片隅で私も見に行くべきだったかなどと言う世迷いごとを考えたが、直に打ち消した。
基地指令が率先して道楽を行いどうすると言うのか。
如何にも最近疲れがたまっているようだ。

まぁ、フレディ少佐が死んで、優秀なマリア大尉が入ってきたと考えれば良いか。

「じゃぁハロルド大佐、俺はもうそろそろ仕事に戻るよ。
 ……あまり無理をするなよ?」

「ああ、そっちもな。」

アルベルト中佐は最後にそう言って部屋を出て行った。

さぁ、溜まっている書類を片付けなければな。
…………報告書も、作らなければなるまい。




[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第七話
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4
Date: 2009/06/15 19:33
おぉあぁぁぁぁ、今朝方帰ってきた両親に朝一で怒られてしまった。
あれなんだよね、無表情だから反省の色とか見せらん無いんだよね。

「マリア大尉、大丈夫?」

俺を心配そうに見つめながら言ってくるアンナちゃん。

「(コクリ)」

俺が大丈夫だという意味を込めて頷くと、安心したように笑った。

アンナちゃんも上官侮辱罪についてベルンハルト少尉に怒られてたはずなのに、ええ子やぁ。
マリア大尉と言い間違えないように何度も練習させられている様は(笑い)涙を誘った。

……ベルンハルト少尉にアンナちゃんの事を頼んだのは俺だけどな!!

外道と言うこと無かれ、これもアンナちゃんの為であるのだ!
…………決して仕返しじゃぁありませんよ?

「あのねあのねマリア大尉!」

「?」

そんな内心の考えが微塵も表に出ない俺!
間違いなく俺の表情筋は死んでるな、こういう時は便利だけど。

それはそうとアンナちゃん、一体どうしたのかな?

「今日ね!私のお父さんとお母さんが帰ってくるんだって!」

「…………。」

へぇぇーーーーぇぇえええええええええええええええ!?

マジかよ!あの人達苦手なんだよ俺!つぅかあの人達も此処にいたの!?
ごめん神様!ベルンハルト少尉にちくった時ほんの少しだけ悪意がありましたぁ!!
だから俺の平穏を持ってかないで!

「?」

アンナちゃん、そんな澄んだ瞳で俺の事を見ないでくれぇ!





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第七話 ガルム小隊







アンナちゃんの両親、クレメント夫妻はエルンスト一家にとってある意味鬼門である。
アンナちゃんも既に俺に対して一定以上の被害をもたらしている故に、彼女もある意味ではそうかも知れないが。
……まぁ、それは今は置いておこうか。
決して最後のオアシスが消えそうになったからじゃぁない。
無いったら無いのだ。

ムキムキのおっさん方若しくはお兄さん方がいる中で彼女みたいな存在は貴重なのである。
……あ、お姉さん方も非常に貴重だけどな!

いや、もぉ此処に来てから暇潰しの方法が更に限定されてきた所為でな。
これから更に精神的余裕が少なくなりそうなんだよ。

昨日もコツコツと弾丸作りの内職と新デバイス作りの内職をこなしましたよ。
後、始末書を書く内職もな!!

やっぱりと言うか何と言うかフレディ少佐は問題があった人物らしく、始末書の枚数は予想よりも少なかった。
…………あのハロルドって大佐はあれだな、生真面目なワーカーホリックのようだな。
縁の下の力持ちって奴だ。
良い奴、なんだろうな。

ああいう輩は良く誤解されがちだが大抵信用できるぜ。
無論、非常に徹する所はきっちりそうするだろうから、兵士としても信用できる人物だ。
……見捨てられないように精々頑張るとしようか。

…………ああ、何時の間にか話を脱線させつつ現実逃避をしていたようだ。

「マリアちゃんはホントに可愛いわねぇ、こんなに照れちゃって!」

何で無表情の俺からそんな感情が読み取れるんですかアンナママさん。
いい加減に膝の上に乗せて抱締めるの止めませんか?
ほら、小隊の連中が笑いを堪えて……てめぇら後で覚えてろ!?

あの後、結局神に願いは届かずに、クレメント夫妻は態々小隊の宿舎までやってきた。
ちなみに、お二人の階級は大尉だそうです。
はは、一緒ですね?笑えません。

「ホントになぁ、マリアちゃん今度一緒にお風呂入らなぐはっ!?」

「てめぇ!最近俺だって一緒に入って貰えなくなったんだぞ!?
 そんな羨ましい真似させてたまるかぁ!!」

悪意や他意が無いのは分かりますがそれは犯罪の台詞だぜアンナパパ。
あんたもホントに可愛いもの好きな。
しかも俺の感情読み取る技能持ってるし。
後、親父、ウザイ。

「貴方……黙れ。」

怖いよママン!
……いや、ホントに怖いっすよ母さん。
アンナママさんに俺を盗られてる状況だからって苛立たないで下さい!(切実

……何でも自分にも良く分からない俺の感情を当てられるのが悔しいらしい。

「もう、アリーセちゃん!マリアちゃんが怖がっているわよ?」

「っ!え、エリザ!適当なこと言わないでよ!
 ……ね?マリア、ママの事怖くなんて無いもんねー?」

俺には何も言わずに目を逸らす事しか出来なかった。

……流石にあの殺気ばら撒いて怖くないってのは無理っすよ母さん。
貴女前世はベルセルク?

ガーンとショックを受けるように後退る母さん。

「そ、そんな!……貴方の所為よ!!」

だから怖いっす。
ほら、パパさんズも怖がってるし、小隊連中にまで余波が及んでますから!!
…………貴女は本当に治癒魔道師なのですか?

「よーしよし、マリアちゃん怖くないよー」

アンナママさん、それは火に油を注ぐ行為ですから!
ほら、母さんもBe Cool Be Cool。

そう、この二人は何故か無表情な俺の顔から感情を読み取れるのだ。
それ故に、昔から少々苦手としている。
……ただそれだけなら少々苦手で済むのだが、うちの両親が対抗しようとするから大変。
少なくとも、俺が生まれてからはエルンスト一家にとってクレメント夫妻はあらゆる意味で鬼門となった。

まぁ、あれだ。
昔から相手の感情を読み取る事に長けていた二人には、内の両親も大分世話になったそうで。
持ちつ持たれつで今まで親友としてやってきたそうな。
女性同士男性同士でそれぞれ部隊の指揮官と副官をやっていたとか。
ちなみに、俺の両親の方が当時も階級は上だ。
部隊は違えど同じ様な状態のアンナちゃんとは運命のようなものを感じる。
もっとも今はそれぞれが自分の中隊をもっているんだがな

…………そう言えば俺の中隊の指揮官とはまだ会ってないんだよなぁ。
確かイリーナ大尉とか言ったっけな?
今日の昼ごろに基地司令室で会う予定だったんだけど。
……もうそろそろだな。

……そうだ!

「……エリザ大尉。」

「あら、別にアンナママで良いわよ?」

瞬間噴出す小隊連中。
悪いか!?悪いのか俺がアンナママって言ったら!!
分かってるよイメージに合わないことくらい!

……やべぇよ、この殺意を乗せて君達に銃弾食らわせたいよ。
寧ろ奴等を高く吊るせ!
それからアンナママ、お願いですからあらあら怒っちゃった?とか言いながら頭を撫でないで下さい。
小隊連中の腹筋耐久力がエンプティです。
ちなみに俺の精神はお願い死なせて状態。
やめねぇか、死んで花実は咲かんぜよ。
誰だ貴様。

「これから私の部隊の中隊長殿に会いに行かなければならないので……。」

「あら、なら私達も一緒に行くわね。」

Oh、神は死んだ。

「…………はい。」

俺は神の復活を願いつつ、未だ笑い続ける小隊連中に顔を向けた。

「小隊諸君。」

俺がそう言うと、全員が笑いを堪えながら此方を向き。

「ソーセージの皮を剥がれたくなければ黙りたまえ。」

続く俺の言葉で股間を押さえながら頷いた。

うむ、動きも綺麗に揃っていて大変宜しい。

…………この後、言葉遣いで両親に怒られたのは余談だ。







<エリザ=クレメント大尉>

マリアちゃんはね、不思議な子なのよ?
良い子なんだけど何処か変わってるの。
初めのうちは何を考えてるのかも分からなかったわぁ。
まぁ、考えが分かるって言っても簡単なのしか分からないけどね。
とにかく不思議な子なの!

でもね、とっても可愛いのよ!
あ、でもカッコイイマリアちゃんも素敵で捨てがたいのよね~
将来アンナの旦那様になってくれないかしら……なぁんてね。

……あら、何の話をしていたんだったかしら?
あ、私は天然じゃないわよぉ?
唯少し忘れっぽくて空気を読めない時がたまにあるだけなんだから!
え?それが天然だ?

ん~~~~。

あ、そうそう、マリアちゃんが変わっているって話だったわね!
え?その前の会話?…………何だったかしら?……まあ良いじゃない、きっと昔の事だわ。
それでね、あの子を見ているとまるで少し大人の男の子みたいに見えるのよね!
……あら、言い方が変?でも、こんな感じなのよ?、少し子供っぽい大人の男性って言い方もあるけど。
まるで女の子の中に男の子が入っているみたい!……ま、そんなわけないわよね。

これはアリーセちゃんの口癖でもあるんだけど、可愛いから良いと思うの。
…………駄目かしら?私は良いと思うんだけど。

さ、マリアちゃんとお話をしましょ!
あら、何でそんなに嫌そうな顔をするのかしら、悲しいわ。
……うん、お話してくれる?嬉しいわぁ。
こう言う所はアリーセちゃんにそっくりよね!

……あら、何で溜息を吐くの?







<サウスハンプトン基地司令室内>

「………………―で、クレメント大尉達と一緒に来たのかね?」

目の前にはやけに疲れた様子のハロルド大佐、そして、その正面右側にはイリーナ大尉と思しき人物。
イリーナ大尉も俺達の微妙な空気を感じ取ったのか戸惑っている様子。

ちなみに、俺の両親は用事があるらしくて来れなかった。
つぅかマジで悔しがってたなあの二人。
アンナちゃんも母さんの中隊なので一緒に行ってしまった。
付いてきたのはクレメント夫妻とアントニウス少尉のみ。

…………それにしても、そうか、ハロルド大佐、君も俺と同じ被害者か。
そうだよなぁ、クールで参謀系の眼鏡キャラが内心読み取られちゃかなわんよなぁ。

「何かねマリア大尉、その同類を哀れむかのような目は。」

はは、同類さ。
……あんたももう、分かっているんだろ?

「ふふふ、二人は仲良しさんなのね。」

「……いや、エリザ大尉?」

諦めろよハロルド(既に呼び捨て)。
知らないのか?天然からは逃げられない。

「…………はぁ、いや、何でもありませんよエリザ大尉。
 マリア大尉、此方が君達の小隊が所属する事になる第三中隊長イリーナ大尉だ。」

強引に話題転換を図ったハロルド大佐。
うん、それが正解だ。

「よ、よよよ宜しく、お願いしまつ!…す。
 ま、マリア大尉!」

…………ハロルド大佐とアントニウス少尉が溜息を吐き、クレメント夫妻が優しい視線を向けている。
うん、表面上クレメント夫妻にしか分からないだろうけど、俺は呆れてる状態。
大丈夫?お兄さんは心配だよ?切実に。

「あ…ぅ……。」

……可愛いなぁ!
クレメント夫妻の気持ちも少し分かってしまう……って言うかアンナママさんあらあらとか言ってるし。
うん、良く観察してみるとイリーナ大尉は美人さんだ。
恐らくはフィーネ中佐達と同年代くらい。
……まぁ、かなりの童顔故にそれよりも若い可能性も年食ってる可能性もあるが。
短めの明るい金髪で、何処か庇護欲を誘われる…………マジで中隊長!?
本気か!?

今更ながら少し絶望を感じてしまった。
……き、きっと副官の人が優秀なんだよな!

ちなみに、フィーネ中佐達は同い年で19歳なんだそうだ。
若いのに大変だなって感じ。

ハロルド大佐は何歳ぐらいなんだろうな……。

「ハロルド大佐は23歳よ?
 ちなみにアルベルト中佐は21歳。」

何で分かるん!?何処まで読まれとんの!?アルベルト中佐って……ああ、アンナちゃんのとこの大隊指揮官かぁ。

……思わず内心とは言え関西弁になってしまった。
明るい口調でさらっと人の心読み取るの止めてください、マジで、いや、あらあらじゃなくて。
アンナパパも笑ってないでこの人如何にかして……いや、やっぱり黙っててくれるだけで良いや、被害が広がるから。
まぁ、あんたはアンナママに比べて被害が少ないからまだ良いけどな!、あくまでまだ!
…………ハロルド、貴様も俺に同情の眼差しを向けてるじゃぁないか。
イリーナ大尉は舌大丈夫?多分舌出しただけじゃぁ痛みは取れないぞ?
……まぁ、全部脳内だから聞こえないだろうけどね。

…………今考えてた事一言一句違わず分かってたら流石に怖いぞ!?

そんな思いを込めてアンナママを見つめると――。

「それは無いから大丈夫よぉ。」

マジくそ信用できねぇ。

「ゴホン!」

おおっと、ハロルド大佐の催促だ。
急がないとストレスで大佐の頭皮がやられるな。
ハゲ眼鏡のハロルド大佐とか笑いを通り越して哀れみしか湧いてこねぇ。
若しくは頭光のハロルド大佐とか。

「……宜しく、イリーナ大尉。」

「あ、ひゃ、ひゃい。」

あーー舌が痛いのな。
無理しなくて良いよ?
口には出さないけど……つぅか口を動かすのが億劫なんだ。

「で、だ。
 君達の小隊には、もう一つ特殊部隊の名を名乗ってもらう。」

お互い挨拶を終了したのを確認したハロルド大佐は、そのまま言葉を続けた。

はい?
特殊部隊っすか?

「……まぁ、君も既に知っているようだがな。
 君が使っている防御魔法の名前が良い証拠だ……全く、良い性格をしているよ。」

防御魔法……イージスの事か?

「ほら、これが部隊章だ。
 バリアジャケット用のデータはアントニウス少尉が持っている。」

「ええ、後で大尉にもお渡しします。」

???

俺は内心何の事やらと疑問に思いつつ、渡された小隊分の部隊章を受け取った。
もっとも、四十一人分という結構な数の為、箱に入れられているから中身は見えないが。
ちなみに、箱の大きさは大人の手の平二つ分くらい。
…………恐らくクレメント夫妻は俺の内面見透かしてんだろうなぁ。

「ご存知の通り、アントニウス少尉達は元々この特殊部隊だったのだよ。」

いや、知りませんよ?

俺の内心何ざ無視してハロルド大佐は続ける。

「軍の無茶な命令で一時的に外されていたのだ。
 まぁかなりのネームバリューを誇るから当然か。
 彼等がそうだと知れれば民衆の目は君ではなく彼等に向くと考えられたのだろう。
 ……もっとも、君ならばその心配もなかったかも知れんがな。」

出たな買いかぶり!貴様も過大評価組みか!!…………怖いから言わないけど、つぅか言えないけど。
……つぅかアントニウス少尉達ってそんなに凄かったのか?……あのさっき股間押さえてた連中が?
まぁ、今まで殆ど負傷とか無かったから優秀だなぁとは思ってたけど。

「本来なら帰ってきたら直に君を小隊長から解任して、アントニウス少尉に任せようとしてたんだが……。」

今からでもそうしてくれよ!…いや、切実に!
……さっきからイリーナ大尉が発言してないなぁ……何か固まってる?

そこでハロルド大佐は一度溜息を吐き、そして続けた。

「今までの君の戦果と昨日の決闘騒ぎで変更した。」

フレディ少佐ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!
奴か!くそっ!葉緑素使って光合成でもしてろってんだ!

「頼んだぞ、これより君は王国特殊攻性防御部隊ガルム小隊小隊長だ。」

……………………は?

思わず時が止まった俺を誰が責められようか。

…………俺に円卓の鬼神になれと!?あの化け物コンビのやばい方っすか!?
……操縦技能が高くなるとメビウス1も楽勝で落とせるようになるんだよなぁあいつって、つぅかプレイヤー。
俺がやった時はSu37に乗ってたんだが……うん、黄色中隊カラーで。

貰った箱を開けたそこには鎖を噛んだ赤い犬の描かれた部隊章。

……うっわ、マジでガルムの部隊章だし。

最大級の死亡フラグが一つ減ったと喜ぶべきか、或いは扱き使われるだろう事を嘆くべきか。

……はは、どっちにしろやばい任務に就くなら死亡フラグ満載だ。
っくしょう!この黒縁め!
ストレスで禿げろ!頭光のハロルドと呼ばれてしまえ!

「……あ、え、やっぱりガルム小隊なんですか!?
 凄いですよマリア大尉!ガルム小隊の隊長になれるなんて!」

どうやら再起動を果たしたイリーナ大尉。
彼女は話を聞いて直にガルム小隊だと分かっていたようだ。

…………あ~~一応言っていくかな?
うん、こっちの苦悩も知らずに喜ぶ姿はムカつくし。
八つ当たり格好悪い?なら、山ほどの死亡フラグを抱え込んでみろ!

「……中隊長は、貴様だ。」

んん、少しキツイ言い方になっちゃったけど……。
うん、イリーナ大尉は大丈夫な方の天然だなぁ。

「……あ、ああああああああ!
 マリア大尉のガルム小隊が私の指揮下に入るんですかぁ!?
 むむむむむ無理ですよぉ!」

イリーナ大尉の魂の叫びを聞いたハロルド大佐は……。

「では、早速だが君達の小隊に任務を言い渡そう。」

華麗に無視した。
イリーナ大尉、俺を涙目で睨んでも事態は変わらんぞ、寧ろざまぁ。
そんな思いを込めて見つめ返したら、何故か青い顔で顔を背けられてしまった。
…………いや、無表情だけどそんな顔するほど怖いか?
……うん、着任初日で少佐を一人ミンチにしたのは怖いな。

表には出ないが落ち込んで……ああ、アンナママ&パパ心配してくれて有難う御座います。
……ただ頭を撫でるのは止めろやコラァ!

ええ、払いのけました。
しかし二人は笑ってます。
この二人やっぱ苦手……。

恐らくは努めてこちらの様子をスルーしたであろうハロルド大佐は、米神をひくつかせながら任務の内容を言う。

「サウスハンプトン北部の円卓に接近してくる中隊がいる。
 これを撃破してきたまえ。」

マジすか?
内心でも禿げろって言ってごめんなさい。
同じく内心で謝るから変更とかは……無理だよなぁ。

「ちょっ!?幾らガルム小隊でも……」

「行けますよ、ねぇ大尉。」

異議を申し立てようとしたイリーナ大尉を制し、アントニウス少尉が俺に問いかけてきた。

おいコラアントニウス!
てめぇ俺にだって限界はあるんだぜ?
幾ら集団戦が得意でも一個中隊はきついって!
イージスを二つに増やしたからって言ってもギリギリいっぱいで死傷者もきっと出るし!
…………んん?そういや小隊の防御は何時も俺がやってたから各自の防御を入れれば大丈夫なのか?

「……貴様等しだいだ。」

そんな事を考えていた為か、思わず口が勝手に動いたようだ。

ありえん、何でこんな時にこんな誤解を招きそうな台詞を…!

「へっ、流石ですぜ大尉。
 ガルム小隊にそんな事を言ったのはマリア大尉だけですぜ?」

「ま、マリア大尉ぃ!?大丈夫なんですか!?」

いや、大丈夫じゃねぇ!
……大丈夫じゃねぇけど、今更引けそうにもねぇ。

にしてもこのタイミングで中隊を円卓へって事は……。

「陽動、か……。」

今日は良く勝手に口が動く日だなぁ。
まぁ、立場は微妙に違うがエースコンバットでも似たような任務があったし。

「ふっ、ああ、流石だマリア大尉。
 この中隊は敵の陽動部隊、本隊は別ルートから二個大隊を率いて此方に進軍中だ。
 君達の移動開始と共に敵に一個大隊を向かわせたと情報を流す。」

なるほどねぇ、情報はばっちり掴んでるって訳か。
そして俺はまた要らん誤解を得たって訳な。
……いや、誤解でもないのか?今回は、だけど。

「では、今回の作戦が新生ガルム隊の初任務だ。
 心してかかれ。」

『了解!』

俺とアントニウス少尉は揃って返事をした。

正直不安でしょうがないんだが、まぁアントニウス少尉達を信じてみますか。
…………やっぱ不安だなぁ…………ん?

ふと、見てみればクレメント夫妻が珍しく悲しそうな顔をしていたが……直に笑顔になった。
優しい笑顔で、任務への不安が少し消えたような気がする。

……ホント、この二人はどうにも苦手だなぁ。
あっさりこっちの心に踏み込んできやがる。

俺は愚痴りながらも、その存在に多少以上の感謝の念を覚えざるを得なかった。







<イリーナ=ヘルツォーク大尉>

うぅ~、どうしよ~。

何で私の中隊指揮下にガルム小隊が……。
……それだけならまだ良いけど、小隊長があのマリア大尉!
きっと途中で指揮官交代すると思ってたのにぃ……。

血塗れのマリアなんて言われてるんだからきっと怖い人なんですよ~。
さっきも騒いでたら目を細めて睨まれちゃいましたもん!

え?そんな事無いって?
……な、何で私の考えてる事分かったんですかエリザ大尉!?
い、今口に出してませんでしたよね?

……うぅ、でも、フレディ少佐がバラバラにされるとこ見ちゃいましたし。
あの人嫌いでしたけど、あんな風に殺されちゃったら流石に怖いですよぉ。

大丈夫?……本当ですかぁ?
確かに大尉たちのお子さんのアンナちゃんは良い子ですし…。
皆さんが良い子だって言うならマリア大尉だって良い子かもしれませんけど。

……へぇ、アンナちゃんを助ける為に……。

なら良い子なのかなぁ……。
う~ん、それならそれで今度はマリア大尉達が心配になってきちゃいましたよ~。

うん?それも大丈夫ですか?
マリア大尉がいるから?

……え、違う?
アントニウス少尉達が付いてるからなんですか?

まぁ、ガルム小隊は今まで戦死者を一人も出した事ありませんけど……。
……相性が良い?マリア大尉とアントニウス少尉達がですか?

それって【Sir! No, sir!】わ!?何々!?







<マリア大尉>

う~ん、俺の準備は出来たが前線での初任務。
しかも難易度ACEだぜ?作戦前に何か気合の入る奴やっといた方が良くね?

「マリア大尉!小隊準備完了致しました!」

「……そうか、ご苦労。」

ん~~何かあったかなぁ……。

「マリア大尉。」

「…………何だ。」

今考え事してんだから話しかけるなよアントニウス少尉。

「ほら、この前大尉が教えてくださった奴やりましょうや。」

…………この前教えた奴?
……………………ああ!あれか!

「……そうするか。」

「ええ、じゃぁ、いきやしょう。」

俺達は小隊連中が待っている場所へと移動した。


「……全員、揃っているようだな。」

「ええ、マリア大尉をお待たせするような奴ぁいませんぜ。」

俺がそう言うとアントニウス少尉は軽口を叩いて返してきた。
ニヤリと笑うおじ様は、いかにも歴戦の将校と言った感じ。

俺は小さく息を吐いて心を落ち着かせてから言う事にする。
戦意を高揚させる為の言葉なんだ。
噛んだり詰まったりする訳にはいかない。

俺はゆっくりと口を開いて喋り始めた。

「今、サクソンのおフェラ豚共が陽動なんて生意気な事の為に円卓へ進入しようとしている。」

【…………。】

俺が静かに語り始めると、小隊連中は真剣に耳を傾け始める。
思わず気圧されてしまいそうになるが、大丈夫。
……少なくとも、表には出ない。

「円卓は我等の誇りだ。
 それを奴等は醜い豚足で踏み荒らそうとしているのだ。
 ……許せるか?」

【Sir! No, sir!】

俺の問いに、小隊連中は怒声を以って答えた。
びりびりと空間に響く声だ。
ピンと背筋を伸ばした彼等は実に頼もしく見える。
……思わず俺まで熱くなりそうなほどに。

「宜しい、ならば貴様等に問う。」

俺はそこで一度大きく息を吸い、有らん限りの声で言う。

「貴様等は王国を愛しているか!?」

【Semper fi! Do or die!(生涯忠誠!命を懸けて!)
 Gung ho!Gung ho!Gung ho!Gung ho!(闘魂!闘魂!闘魂!)】

「草木を育てるものは何だ!?」

【Blood! Blood! Blood!(熱い血だ!赤い血だ!敵の血だ!)】

「俺達の商売は!?」

【Kill! Kill! Kill!(殺せ!殺せ!殺せ!)】

「ならば貴様等は豚共を如何する!?」

【Kill! Kill! Kill!(殺せ!殺せ!殺せ!)】

「そうだ殺せ!」

【Kill! Kill! Kill!(殺せ!殺せ!殺せ!)】

「我々はマナーのなってない豚共を許しはしない!
 その肉の一片も残さず食らい尽せぇ!!!」

【Aye!aye!!sir!!!】

「宜しい!では奴等の血を以って円卓を清める!」

俺は小隊に背中を見せ、そして言う。
この声こそを最も大きく張り上げるのだ。

「ガルム小隊!出撃!!」

【Yhaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!】

最後に飛び切りでかい掛け声が木霊する。
勇壮で勇猛で、最高にノリの良い奴等。
こいつらとなら、どんな戦場でも生き残れるかもな。
……戦意は十分、いっちょやってやるか!

俺の小さな足音に、心強い大きな足音が続く。
こうして、俺達は出撃した。

……何か見てた人が呆然としたり目を輝かせたりしてたけど、無視だな。







<呆然と見てた人組み代表・フィーネ中佐>

い、い、一体何者なのマリア大尉は!?

私は今あの光景を見て思わずそう思った。
いや、そう思わざるをえなかった。
あの光景を見てそう思わない人は逆に可笑しい。

本当に九歳!?ホントにホントに私の半分も生きてないの!?
………実は年上の歴戦将校ですと言われても今なら信じられる、絶対信じられる。
ガルム小隊の人達の空気に飲まれず、あんな見事な戦意高揚の言葉を紡げるんですもの。
只者じゃない事は分かっていたけれど、底が知れない人ね、マリア大尉は。

……彼女ならきっと。

「……マリア大尉なら、ガルム隊を率いてやっていけるんでしょうね……。」

と、私が半ば呆れながら呟いていると私の副官の人がやってきた。
何処か困惑している様に見える。
う~ん、普段は冷静沈着な人なんだけどなぁ。

「中佐、彼女は何者ですか?」

それは私が聞きたいわ。
……エルンスト少佐達は、一体どんな教育をしたのかしらね。
知りたいような、知りたくないような……。

と、言うよりもエルンスト少佐達の教育でああなったならまだ良いとすら思えてしまう。
何時の間にかああなっていたなんて怖すぎ……

「何時の間にかああなっていたのよね~。」

突然現れて希望を打ち砕かないで下さいアリーセ少佐!!
皆も笑わないの!
……ああ!もう!







<目を輝かせながら見てた人組み代表・イリーナ大尉>

「す、す、す、凄いですよ!
 マリア大尉カッコイイです!」

「そうねぇ~カッコ良いわねぇ。」

私の発言に、エリザ大尉は微笑みながら間延びした声で答えました。
それにしても、マリア大尉は凄く格好良かったです!

「えへへ、私もあんな風になれるかな。」

「無理ね。」

「そんな!?」

ガーン!エリザ大尉に斬って捨てられちゃいました。
この人時々容赦ないです。

「地獄みたいな辛い思いをしたらなれるかも。」

「それは嫌です、それなら無理で良いです。」

うぅ、酷い。
こんなにズバリと本当の事を言うなんて!…………あれ?

「さぁ、お見送りは終わり。
 お仕事に戻りましょ。」

「えぇ~、見えなくなるまで見送りましょうよ~。」

エリザ大尉はケチですね!

「確か、未処理の書類が山の様にあった筈…」

「急いで戻りましょうエリザ大尉!」

エリザ大尉は良い人なんですよね!
手伝ってくれますよね!

「駄目よ~一人でやらなきゃ。」

はぅ!?

「そんなぁ~……。」

やっぱりエリザ大尉はケチです。

エリザ大尉は私が睨んでも、ニコニコと微笑んでいるだけでした。

……そう言えば、何時の間にかマリア大尉達に対する不安、なくなってますね。







<円卓・堅実なるインゴベルト少佐>

目の前には広大な荒野、その先に見える山脈……。
いや、この光景は此処に居る限り全方位に広がっている。
此処が、円卓だ。
王国の誇り、此処には上座も下座もなく……生き残れ、それが唯一の交戦規定だ。


ふむ、無事円卓まで辿り着けたな。
もっとも、これからが我々の仕事の本番な訳だが。

「少佐、現在予定到着時間-3分です。」

「……そうか。
 では、低速飛行で移動を開始する。」

我々の任務は本隊がサウスハンプトンへ辿り着く為の陽動。

この任務に必要な情報は事前にスパイより渡されたものだ。
……あのスパイも中々役に立つものだな。
確か、身内が人質にとられているのだったか。
まぁ正直な話、人質などは好かないのだが……。

ふ、そんな事を言っているから陽動などと言う死傷率の高い任務に就かされるのか。

確かに、機動力と守備力の高い我々を此処へ持ってくるのは正しいが。
一個中隊等と言う中途半端な数では敵に見破ってくれと言っている様なものだ。
先程入った情報では、一個大隊が此方へ向かっていると言うが果たして……。
……せめてもの救いはどちらに転んでも私達にはある程度の利があると言うことか。
陽動に掛かったならば無事帝国の為に死ね、引っ掛からなければ我々は生き残れる確率が高い。

それにしても無様なものだ。
高が犯罪集団に惑わされて戦争とは……。
まだ帝国にも利があるから良いものの、されど、利用されている事には変わりが無い。
しかも相手方に聖剣を渡す事になるとは……。
帝国民には偽物の聖剣を崇めさせると言う事か?
ふん、笑わせてくれる。
最早誇りも何も無いな。

王国の馬鹿共がずるずると戦争を長引かせているのも、果たして良いのか悪いのか。
向こうの背後には管理局とか言う巨大な組織がついていた筈だ。
首都の防衛をある程度任せられるだけでも大分違うと言うのに。

……戦争を否定はしないが、民衆とその後の事を考えぬ愚を犯す事は我慢ならん。
私は一体何の為に戦場へ戻ってきたと言うのか。

…………いや、あえて言うのならば私自身の為か、それ以外の答えは出ないな。

「あの、インゴベルト少佐。
 如何したんですか?」

私が思考に耽っていると、ふいに、まだ幼いと言って良い年若い女性の声が聞こえた。
……クリスティーナ少尉か。

彼女はまだ十二歳だったな……。
その才能を文字通り買われ、軍に入ったのだと聞く。
……魔法の才能には年齢は関係ない、それが生み出す歪みだな。
…………そういえば。
王国にも血塗れなどと言う物騒な二つ名を持つ、九歳の少女兵士が居たな。
ただ、聞こえてくるその少女の戦果は正直眉唾物としか思えない。
集団戦とは言え、何処の世界に歴戦の佐官を落とす九歳児が居ると言うのか。

…………王国にしろ帝国にしろ何を考えているのか……。
ああ、彼女をこの戦場へは連れてきたくなかった……。

「あの!インゴベルト少佐!」

どうやらまた思考の海に沈んでいたらしく、再びクリスティーナ少尉の声が聞こえた。
今度の声は少々大きめで、心配の色も含まれていた。

「ん、ああ、すまないな、クリスティーナ少尉。
 考え事をしていたのだ。」

いや全く、こんな少女に心配されてしまうとは。
成る程私も年をとったか。

「はは、クリスティーナ少尉は少佐殿に懐いておりますからな!
 こりゃぁまだ暫くの間は休めませんぞ、少佐殿!」

我々の様子を見て、私の副官が場を和ませる軽口を叩いてくる。

全く、こいつも随分と言うようになったものだ。

「む、私そこまで子供じゃありませんよ中尉!」

クリスティーナ少尉が反論すると、彼は問題ない程度にまで距離をとって逃げた。
周りの連中から笑い声を上げた。

まぁ、納得いかない事ではあるが、クリスティーナ少尉も新兵と言えるレベルは抜け出している。
いや、戦場において或いはそれは幸運か。
……こうしてみていれば、何処にでも居る普通の少女なのだがな……。

「少佐!少佐も何か言って下さ「少佐!レーダーに高速で接近中の敵影を捕捉しました!」…っっ!」

クリスティーナ少尉の言葉に覆いかぶさるように通信班長より報告が入った。

来たか。
レーダーの限界は確か5マイル程だったな……。

「数は?」

「…………一。」

ん?如何した?……それほどまでに多いのか?

「如何した!聞こえないぞ!」

「敵影は一つ!…っ!し、信じられない速度です!!これは……音速を超えている!?」

「何だと!?」

馬鹿な!?一人だと!
しかもその移動速度は何だ!?
……いや、今はそれよりも…!

「各員!戦闘態勢を取れ!」

一人とは言え敵が来る!
……くっ、何だこの胸騒ぎは。
私は何時からこんなに臆病になった!

私は自分に喝を入れた。
指揮官の動揺は部下にも伝わってしまうのだ。
最良の指揮官とは、勇猛で、聡明で、冷静沈着。

……そんな指揮官が何人も居るとは思えないがな。

「敵騎のエンゲージまで後3マイル!」

「よぉし!敵の目的は不明だが、何であろうと高々一騎だ!
 敵エースの可能性もある!油断せず確実に行くぞ!」

「了解!」

と、次の瞬間。

鈍い弾ける様な音と共に、私の僅か横、一直線上に居た兵士たちの内十数人が吹き飛んだ。
いずれも体の何処かが千切れ飛んでいる。
高低差の所為で足が吹っ飛んだだけで済んだ者も居れば、首から上が弾け飛んだ者も居た。

運良く……果たしてそう言って良いものかどうか。
生き残った彼等の悲鳴が耳に届いた。

「っ!」

何事だ!?
いや、これは……馬鹿な!

「敵の長距離射撃です!」

っっ!ありえん!敵は一体どんな攻撃方法を……!?

「……敵騎2.5マイルの地点で停止しました!!」

止まっただと!嬲り殺しにする積りか!?

と、思わず思考が停止しかけている間にもう二発撃たれてしまった。
既に50人近くの兵士が討ち取られてしまったのだ。
この距離で一度の攻撃で十数人もの命を奪っていく正にありえざる威力。

「っ!…全隊!散開して全速で後退しろぉ!!」

こうなってはもう、討ち取る事など叶わない。
前進してもあの異常な速度で逃げられるだろう。
作戦の成否など最早問題ではなかった。

私の号令と共に全員が素早く散開する。
素晴らしい動き、だからこそ指示が遅れたことが悔やまれる。
戦場では一瞬の判断の遅れが文字通り命取りだ。

「少佐!敵が後方より追撃してきます!!」

「っく!あくまでも此方を殲滅する積りか!?」

兵士としては当たり前、だがしかし、当事者にとっては忌々しい事この上なし。
思わず敵に悪態の一つも吐きたくなるものだ。
敵はまだ射撃を続けている。
一度の射撃で多い時は三人以上も討ち取られているのだ。
その異常な射程と威力は推して知るべし。

……しかし……何故敵は私を狙わん?
普通ならば指揮官を真っ先に狙うはず……。
はっきりとは見えていない?正確な狙いがつかない……?

「しょ、少佐ぁ!皆、皆やられちゃいますよ!」

と、そこで私の直隣から話しかけてくるクリスティーナ少尉……。

…………まさか?

いや、思えばあの初撃もクリスティーナ少尉が居た反対側を狙ったもの。

「……敵は、一体何者なのだ…!」

冷徹に此方の兵士を殺したと思えば、女子供に情けをかける情もある。
恐ろしい攻撃はともすれば今までの常識を覆してしまうほど。

くっ、また、数人の命が失われ………………………。
……………射撃が止んだ?

「少佐!」

話しかけてきたのは先程の通信班長では、ない。
恐らくは戦死したのだろう、まだ年若い通信班の兵士だ。
……ああ、200人居た中隊は、見れば既にその半数以上が殺されてしまっている。

だが、真の絶望はこれからだった。

「敵、小隊規模が中隊正面200mより出現!
 後方の敵騎も高速で此方に接近しています!」

……考えるまでもない!
此処で、迎撃する!

「…………全隊!生き残った人員で八人の分隊を編成しろぉ!!
 ……ドリス中尉!エドガル少尉にそれぞれ五個分隊!
 残りは私の指揮下に入れ!敵エースを迎撃するぞ!!
 諸君!決して怒りに飲まれて暴走するなよ!!」

『了解!!』

私の指示に、しかし殆どの者が怒りに燃えた瞳で答えた。
……戦場で怒りや憎しみに飲まれる事は死を招くが、この状況では無理もないか。
冷静な人間が何人か居るだけでも上等だ。

「クリスティーナ少尉、君も私について来なさい。」

「りょ、了解!」

震えながら答えるクリスティーナ少尉。
敵がもし、予想通り情のある人物ならば或いは彼女だけでも生き残れるかもしれない。

……いや、何を弱気になっている!
私達で敵を撃墜し、残り全員で生きて帰るのだ!!
それ以外に、道はない。

此処は円卓、戦場なのだから。




[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第八話
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4
Date: 2009/06/15 19:34
<インゴベルト少佐>

音を超えた世界より、戦場へ舞い降りたるは一人の少女。

「神の御前にて我誓いを立てん。」

その口に紡がれるのは誓いの言葉。

「誠の誓いを、重大なる誓いを、恐ろしき誓いを。」

その手に紡がれるのは敵対者の死。

「神の御前にて我恐ろしき誓いを立てん。」

その瞳はまるで氷の如く。

「王国の主に犬の如く仕えん。」

手に持つ鋼が三度吼えるたびに。

「街も城下も一掃し、敵の悪人どもを悉く噛み殺さん。」

また一人一人と我等は撃ち落されていく。

「勅命ならば我が命を捧げん。」

此方の攻撃は走る流星に撃ち落され。

「民の偉大なる王国のためならば――――」

既に残るは私と彼女と少女のみ。

「―――Amen.」

金色の髪を煌かせ、羽織った黒衣を翻す。
まるで舞台の役者のようで、しかしその眼光が否定する。
今この時この円卓で、きっとこの化け物は生誕の産声を上げたのだ。

――嗚呼、この場恐ろしきかなTerribilis est locus iste。

主よ、我等を憐れみ給えMiserere nobis Domine。





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第八話 円卓







<マリア大尉>

五倍と言う戦力比を覆す。
これはお互いの数が多くなればなるほどに難しくなる。
単位が万ならば、一人の英雄が百人殺しても焼け石に水だ。
しかし、今回はその限りではなく数は高々百の単位。
俺は対集団戦が大の得意であり、小隊連中はガルムの名に冠する者達なのだ。

……とは言え、まぁ馬鹿正直に相手をしてやることも無いだろう。
質の差で補えど数の差と言う脅威は消え去っては居ないのだから。

「……超長距離狙撃、ですかい?」

「……そうだ。」

俺の言葉にアントニウス少尉が多少訝しげな顔をしたが、直にニヤリと笑った。

「了解しやした、大尉が出来ると仰るのなら出来るんでしょう。」

ちっ、男前め……頼りになるぜ。

「先ず、私が超高速飛行で接近、2~3マイル程の距離で狙撃を開始する。」

俺の言った距離の非常識さに全員が一瞬固まるが、直に再び耳を傾けてくる。
まぁ、最低でも三kmスナイパーに挑戦な訳だから当然か。
だが、可能だ。

「先ず、長距離攻撃の手段だが……これを使う。」

そう言って俺はSPAS12とは逆方向の腕のブレスレットに手を伸ばした。
ちなみに、スパスは右、今回のは左側だ。

一瞬光に包まれ……現れたそのデバイスに皆一様に息を呑む。

「ま、マリア大尉、何すかそれ……。」

「アンチマテリアルライフル(対物狙撃銃)。」

「…………。」

質問したカール上等兵はそれが聞きたいんじゃねぇよと言った顔をした。
うん、その気持ちはとても分かるがそんな顔しなくても良いじゃん。

対物狙撃銃ステアーIWS2000。
全長1800mm、重量約18kg、口径15.2mm、総弾数5+1。
正に現代現実版馬鹿と冗談が総動員。

つぅかぶっちゃけ俺の身長よりでけぇ。

「試作品だが、使用に耐えうるだけの威力と安全性はある。」

こいつの威力を想像したのだろう、小隊連中の喉がごくりと鳴った。
命中率の面で言えばまだまだ不安が残るんだがな。
今回の相手は数が多い、恐らくは大丈夫だろう。

「そしてもう一つ。」

今度はアンクレットが光を放ち始めた。

……このデバイスは足がふっ飛びゃ使えんからな。

光が収まると、そこには膝の部分まである鋼鉄製のブーツ。

「……こいつの名前はAL-37FUだ。」

「……そいつぁ飛行補助用デバイスで?」

今度はブルーノ軍曹がそう質問してきた。

「……ああ、燃料はギリギリまで魔力を圧縮して作った特製弾丸。
 一応予備の専用マガジンも持ってきたが……まぁ今回は使わんだろう。
 超音速での飛行が可能になるが……当然の如く急制動を行えば体に負担が掛かる。
 こいつもまだ試作段階を抜け出してはいない。」

つぅか超音速飛行中にブラックアウトとかしたら洒落になんないから、バラバラになるから。
……当然の事だが実際のAL-37FU程の性能は有していない。
その設計は参考にさせてもらったけどな。

「私に関しては以上だ、貴様等には敵中隊の背後に回ってもらう。」

「!……なるほど、こいつぁ随分贅沢で、攻撃的な囮ですねぇ。」

アントニウス少尉が再びニヤリと笑って言った。
俺も努めてニヤリと笑いながら返す。

「しかも唯の囮ではないぞ。
 そのまま私も背後から強襲して、豚共を一匹残らず食らい尽くす。」

「狙撃、囮、隠密強襲、仕舞いにゃ挟撃ときた。
 なるほど、こりゃぁ少人数故に可能な作戦だ。
 ……まぁ、3マイルスナイプや音速飛行何ざマリア大尉にしか出来やせんがね。」

そう、少人数故の行軍速度と隠密性あっての作戦だ。
俺のスキルにかなり頼ってはいるが、現状で一番の作戦だろう。
敵がとち狂って突っ込んできたら?まぁこいつの速度を見てそうは思わないだろうが……。
ケツ捲くって逃げるさ、どうせ追い付けやしないんだから。

俺は一つ頷いて、作戦の開始を合図する。

「ガルム小隊の指揮は一時的に副官のアントニウス少尉に任せる。
 元祖ガルム小隊の実力を私に見せてくれ。
 では、作戦開始!」

【Aye!aye!!sir!!!】

さてさて、敵さんを天国までぶっ飛ばしてやりますかね。







ブリテン絶対防衛戦略空域B7R。
唯上空から眺めるだけならば中々に壮大な景色だ。
だが、此処では昔から多くの血が流されてきた。
この円卓の戦いで生き残る事は強さの証明であると言う。
……此処は何時でも戦いの最前線であるのだ。


……風が強いな。

雲の流れるスピードは一見緩やかだが、その実中々速い。
吹き抜ける風は何処か戦場の装いで、お世辞にも爽やかとは言えなかった。

「……行くか。」

作戦開始時刻だ。
此方は既に長距離スコープで敵を補足している。
…………レーダーに頼りすぎるのもある意味問題だな。

俺は少し浮かび上がって対物狙撃銃型デバイスとAL-37FUを起動。
……筋力を強化してもIWS2000は重く、だがそれが逆に大きな安心感となる。

「Who dares wins…….」

先ずは自分の限界に挑んでやろうじゃぁないか。

……痛いのはやなんだけどな。

これから戦場へ行くと言うのに随分と気楽な事を考えながら、俺は空へと上がった。
我ながら随分と図太くなったものである。

………それにしてもなのはとか、良くスカートで空を飛べるよなぁ。

うん、馬鹿になった訳じゃないと思いたい。



狙撃とは本来もっと厳しい条件下で行われる。
無論、何事にも例外は付き物であるのだが、大方それで間違ってはいない筈だ。
まぁ、戦場である此処ならば今のような状況下での狙撃も少なくないかもしれないが。
……いや、どちらかと言えばこれはただの射撃なのか。
狙撃は狙撃だが、狙撃と言うにはスマートではないかも知れない。

……一応狙い撃つが、余りにも大雑把過ぎる。
射線に入ったもの全てを薙ぎ倒すのはやはり、なぁ?

超音速で飛行を続けた俺は、あっと言う間に射程圏内までやってきた。
此処からなら彼等の顔も良く見える。
……見えてしまう。

俺はスコープを覗き込み、体を地と平行にした状態で飛行を続け―――

「Huic ergo parce Deus.(願わくは主よ、彼の者を憐れみ給え。)」

――撃った。

ショットガンのそれすら比べ物にならないほどの轟音が響き渡り、弾丸が空を駆ける。
2000m/sOverで駆け抜ける氷の死神は、迷わず敵兵に食らいついた。
当たったその場から彼ら若しくは彼女らはミンチになる。

……うん、あと少しで敵中隊まで2マイル半と言った所で俺は、超長距離『射撃』を開始したんだよ?

……何故結局射撃なのか?………当たらねぇからだよ!!
全く狙い撃ててねぇよ俺!

先ず指揮官っぽいおっさんを仕留めようとしたんだが、見事に左に逸れて外れ。
続けてもう二発程撃ったんだが、それもかなりの距離を逸れてしまった、畜生。
いや、敵兵に食らいついただけでもマシか……途中で曲がったから真っ直ぐにとは言えないが。
何か近くに居た俺より少し年上くらいの女の子ごと殺っちまおうと思ったのに。
近くで顔見る前に殺したほうが罪悪感が少ないのになぁ……。

そうこうしている内に連中はあっと言う間に散開。
恐らく彼は優秀な指揮官であり、彼等は優秀な歴戦の兵士達なのだろう。
真正面から行っていたら危なかったかもしれない。

ちっ!優秀な敵は二番目に嫌いな存在だぜ。

予想通り全速力で後退し始めた敵中隊。
彼等には悪いが逃がす訳には行かない。
此処で彼等を逃がすような事をすれば、俺はハロルド大佐等にとっての一番厄介な敵になる。

絶対的優位な状況で銃を突きつけてチェック、相手を殺してチェックメイトだ。
チェックで済ませる奴は戦場じゃぁ大抵死ぬ。
……寧ろ後ろから撃たれてもきっと文句は言えないんだろう。
少なくとも、俺はそう思っている。
……人間性に憧れる俺は、しかし何処までも人間性を恐れている。
人間とは正に狂気の生き物であり、人間性とは正に狂気の産物であるからだ。
理性と本能の狭間に狂気と言うものは生まれるのだろう。

……いや、今は関係ないか。

俺の体は既に追撃を始めており、既に敵を攻撃し始めている。
長年の訓練と戦場での経験の賜物だ。
……誇っても、良いのだろう。

撃つ度に轟音が走り、反動による衝撃が襲い掛かって来る。
銃底が当たっている部分は恐らく既に内出血している事だろう。
試作段階の為もあるが、この銃の反動は魔法でも殺しきれない。
……まぁ、AL-37FUによるバリアジャケット強化効果が完璧でないのもあるだろうが。
音速で飛ぶ際に、自前の防御力では心許ないのだ。
そういう意味で言えばこのデバイスは今の俺には過ぎたものだな。
…………開発したのも扱えるのも今の所俺しか居ないんだが。

「…………ん?」

引き金を引いても弾が出ず、予備のマガジンも既に無い。

……げっ!バカスカ撃ち過ぎて弾切れちまった!
やっべぇ、こいつの弾作るのにかなり魔力使うからなぁ……。
新しく作るにしても多少の時間と大量の弾丸が……。

内面の悩みや考えを、表に微塵も出さないと言う特技をデフォルトで身につけてしまっている俺は。
無表情で飛行を続けながら悩み、しかし時間が無いとさっさと行動する事にした。
弾丸は後で作れば良いのだ。

新たな弾丸を作ろうとイージスに手を伸ばした所で……。
狙い澄ましたかのように小隊の連中がレーダーに出現した。
高度な隠密魔法を使って隠れていたのだろう。
その存在は敵の中隊にも欠片も伝わらなかったに違いない。
ガルム小隊にはそういった魔法のスペシャリストが多く居るようだ。

「……頼もしい限りだ。」

全くな。
精々、あいつ等の足を引っ張らないように頑張るとしますか。

仮にも連中の小隊長である俺が、遅れをとる訳にはいかない。
俺はIWS2000を待機状態に戻し、ガーディアンを構えながら加速した。
まぁ、どちらもガーディアンシリーズではあるのだが。

……そうだな、景気良く誓いの言葉でも謡って行くかな?
別名罪悪感誤魔化しの歌だけど。


そんな感じで突っ込んでいった俺なのだが、やはり少女は殺せなかった。
指揮官が生き残っているのは俺の攻撃を防いだからなんだけどな。

……彼女の階級は…少尉、か







<インゴベルト少佐>

やってきた化け物は、人形めいた美しさを持つ少女だった。

その余りに異質な存在に圧倒されると共に、私は何処か物悲しかった。
……一体何が彼女を化け物へと変えたのか。
或いは、彼女を化け物と見るこの目と脳が化け物なのか。
……少なくとも彼女はクリスティーナ少尉を殺してはいない。

……―しかし、その目は氷の様に冷たく殺意を秘め、その顔は人形の様に完全な無表情だ。
それに、彼女が私の中隊に大打撃を与えた事は紛れも無い事実。

……やはり、私は悲しかった。
これもまた、戦争……っ!

そんな感慨に耽る間もなく、敵対者である彼女は襲い掛かってきた。
デバイスから、彼女の魔力光であろう私と同じ藍色と共に弾丸が走ってくる。
彼女の攻撃は人間の可視速度の範囲を超えていた。

……成る程、一撃一撃は高位魔導師にとって軽くとも、数を撃てば障壁は削れる。
反撃のし様も無いほどに撃てば、或いは何もさせずに殺すことも出来るだろう。
……そして低位魔導師にとって、その弾丸は三連射でも致死に足る。
彼女は恐らくこの戦争において、最も多くを殺せる人間だ。

豪雨の如き攻撃を、障壁を張って防ぐ私。

……だが、まだ甘い。
彼女が生まれたての化け物ならば、私でも殺せるはずだ。

私はより強固な障壁を更に一枚追加して、少女に向かって突撃した。
私の行動が少々予想外だったのか、少し目を見開く彼女が居て――何処か私は安心した。

此処で仕留めて見せよう、この幼い化け物を。

嘗て呼ばれた移動要塞の名に懸けて。

「雄雄おおおおおーーーーーーーーーーー!!」

進む進む弾丸の豪雨を防ぎつつ。
破られた障壁の下には新たな障壁、その下にも更に障壁を作り出す。

一枚一枚は並だが、重ねる事でこれを鉄壁の守りとする!

これこそが移動要塞と言われた私の守りである。
……もっとも、もう錆び付きかけて久しい名であるのだが。

少女は接近の不利を悟ったか後退しようとする―――

――逃がさん!!

少女の行動を読み取り、彼女の足をバインドで拘束した。

このまま接近して叩き斬る!

私は手に持つ両刃剣型デバイスを握り締めた。
長年に渡って使ってきたそれは、既に己の手足の様に感じることが出来る。

しかし、彼女は相変わらずの無表情で即座に反撃に移ってきた。
……まるで長年良く訓練された歴戦の兵士のような判断力だ。

彼我の距離は後、五メートル。

彼女の右手に似合わぬ大きさのデバイスが出現した。

それを見た私は、障壁を更に張り腕を顔の前に持ってきて攻撃に備える。

無骨なデザインのそれは、轟音と共に凶悪な弾丸を吐き出した。

「っぐぁ!」

轟音は九度続き、衝撃もまた九度続いた。
僅かに見えたその光景と、障壁全体が軋む事から散弾である事が伺える。
恐るべきはその威力、何よりその速射性。

凶悪な外見を裏切らない攻撃方法だ。
未だ嘗てこのような攻撃は受けた事が無い。
やはり彼女は此処で討ち取らねばならぬ。

障壁を超えて伝わってくる衝撃が、私にその感想を抱かせた。

――だがしかし、伝わってくるのはその衝撃のみである。

最後少々障壁を抜けてきた散弾もあったが、私の比較的強固なバリアジャケットに阻まれた。
傷は無く、痛みも無い。

勝った!

私はそう思い、腕をどけ彼女を見―――その手に握られた巨大な氷の大剣に目を剥いた。

既にバインドは断ち切られている。

っ!だが!
どんなに巨大な武器も扱いきれなければ意味の無い事!!

「雄雄ぉ!!!」

私は渾身の力を込めて切りかかり、しかし、彼女はそれを受け止めた。

「破ぁ!!」

連続して、切りかかる。
されど彼女は捌く捌く、私の様に流れるような動きではない。
無骨に、されど的確にその大剣を振るってきた。

っ!なるほど、彼女はかなりの経験を積んでいる戦士である。
武器に大剣を選んだのはリーチの差をカバーする為。
氷で出来たそれは鋼よりも遥かに軽く振るうに易い。
攻撃に転じないのは隙を生じさせない為。
技量の差があったとしても防ぐだけならば行うに易い。

そして彼女の目的は――。

「足止めと時間稼ぎか!!」

彼女は自分達の仲間が此処へ来るのを待っているだろう。
成る程その方法ならば危険は少ない、だがしかし、うちの連中はそう簡単にはやられはしな……っ!?

その時私の眼に入ってきたのは彼女のバリアジャケットについている部隊章。
赤い犬が鎖を噛み千切らんとしているデザイン。

ガルム小隊だと!?
くそっ!彼等が相手ならば連中には荷が重い!!
ガルムの隊長が代わったと言うのは本当だったのか!?

しかも、見たところ上手く機能しているようだ。
成る程彼女ならば彼等を率いる事が出来ても不思議ではない。

彼女が彼等のサポートに、彼等が彼女のサポートに回ったとすれば、恐ろしい。
彼女の多彩な攻撃能力に私の攻撃を紙一重で避ける機動性、ともすれば音を超え逃げる事も簡単なのだろう。
更に現れたときに使い、今も先程から彼女を補助している防御魔法。
今の様に二手に分かれていてもそれぞれがこの威力、同時に行動すれば一体どうなるのか。

「っ――!」

思わず背筋が粟立った。
彼等一個小隊は、損害を考えねば一個大隊であろうと殲滅できる。
そんな冗談ともつかない考えが浮かび上がってきたのだ。

何れにせよ、彼女に時間稼ぎをさせる訳にはいかず。
私は此処で足止めされているわけにはいかない。

彼女は相変わらずの無表情、私の攻撃を防ぎつつ氷の様な眼差しを向けてきている。
そこには何の動揺の欠片も無い

果たして私はこれに勝ち、ドリス中尉達を救う事が出来るのか。
いや、勝たねばならぬ、救わねばならぬ。
例え彼女が非情でなくともクリスティーナ少尉の安全が確定された訳でもない。

私は剣撃に、更なる力と思いを込めた。







<ドリス中尉>

此方は急造なれど歴戦兵の二個小隊、敵は一個小隊此方の半分の戦力だ。

……普通ならば負ける筈が無い、私もそう思っていた。

だが、蓋を開けてみれば…。

「へへ、大尉も随分派手にやっているようだな。
 小隊の場所も見切ってた見たいだし、流石だぜ。」

「ちげぇねぇ!
 隠密魔法には自信があったんだがなぁ……自信なくしそうだぜ!」

「はははは、見たか?大尉の登場シーン。
 思わずおったちまいそうだったぜ。」

【ドぐされ変態!地獄へ落ちろ!】

「おぉおお!?タンマタンマ!援護プリーズ!!」

相手は軽口を叩き、あまつさえ遊ぶ余裕があるほどだ……。
……否、遊びに見えてあれは罠か。
現に今も、討ち取れると孤立した彼に飛び掛った兵士が三人、遠距離攻撃で殺されてしまった。
他を相手していると見せてその実何人かに余裕を持たせていたのだ。
普段ならば引っ掛からなかったかもしれないが……皆怒りに飲まれていた。

敵の統制は恐ろしいほどに取れている、まるで彼等で一つの強大な生物の様に。
行動の一つ一つが罠である可能性など恐ろしすぎる。
……私には、攻撃しながら注意を呼びかけるぐらいしか出来なかった。

これが、ガルム小隊。

彼等が着ているバリアジャケットには、鎖を噛んだ真紅の犬が描かれた部隊章。
王国の番犬、帝国で最も恐れられている小隊……。

曰く、一斉攻撃を最低限の人数で防ぎ、統制の取れた動きで敵を討ち取る。
曰く、状況を読み取り、その場で最良の動きをする。
曰く、彼等はガルム小隊と呼ばれるようになってから一度も戦死者を出していない。

正に言うに易し行うに難し、彼等の非常識さは実際に体験してみなければ分からなかった。
あんな動きが出来る部隊が存在するとは。

くっ!王国の馬鹿共が後方へ下げたんじゃなかったのか!?

そう言う情報は以前から聞いていた。
何でも連中に新たな小隊長が来るとか来ないとか。
あの時は思わず北部基地全体が沸いたものだ。
…………しかし………。

っ!……彼等の指揮官は……あの更に非常識な存在か!!

超音速で空を駆け、3マイルスナイプで敵を攻撃する……幼女。
ちらりと見れば件の幼女、中隊長と接近戦まで繰り広げている。
一体何処まで化け物だ。
私がもし、何も知らずに他人からあれの事を聞けば、私はそいつが薬でもキメてると判断する。

……ああ、生き残ってもあれの事を報告すれば私も薬中か…。
母さん達が持ってくる縁談、受けとけば良かったかなぁ……っていやいや、そんな事を考えている場合ではない。
三十路前でも心は二十歳……だから違う!

ゴホン!……この部隊の指揮官を潰せばまだは事態は好転するかもしれない。
無論あの化け物ではない
先程囮をしていた彼……。

「少尉、少尉の指揮下で行動するのも随分久しぶりですねぇ、衰えちゃ居ませんか?」

「ばっきゃろう、俺がそう簡単に衰えるかってんだ。
 しかも、此処は俺達の庭(円卓)だぜ?」

「はは、ちげぇねぇや。」

確か、名前はアントニウス少尉だった筈。
下級将校だと言うのにその名前は敵味方問わず広まっていて。
敵からは恐れられ、味方からは尊敬されている。

これは実戦だと言うのに、未だ軽口を叩きながら戦い続けている彼と彼等。
成る程確かに並ではない。
忌々しい事に、恐ろしい事に、彼等は未だ一人も落とされていないのだ。
情報は紛う事無く真実である事が証明された。

……………ああ、本当に、畏敬の念を覚えざるを得ないな。
だがしかし、ただで負けてやる訳にも行かないのだ。

「…………エドガル少尉。」

「……中尉?」

戦闘中に突然呼ばれ、彼は怪訝な顔をした。

「お前の方が、指揮は得意だったな?」

私がそう言うと、私が何をするつもりなのか分かったのだろう。
エドガル少尉の顔が歪んだ。

「――中尉!」

「後は、頼んだ。
 生き残ったら、母と妹にすまないと伝えておいてくれ。」

そう言って、私は彼のアントニウス少尉に向かって突撃した。
指揮官としてはある意味下策かも知れない、しかし、現状ではこれが最良であると判断したのだ。
無論唯で殺せるなどとは思っていない、刺し違えてでも仕留めてみせる!

私は僅かな隙を見つけて一気に加速。
接近戦ならば、そうそうと遅れを取りはしない。

音速、までとは流石に行かないが。
空を切る速度で駆け抜けた。

後僅か、剣を振りかぶりつつアントニウス少尉目掛けて私は迫る。
この一撃は間違いなく私の生涯で最高の一撃だった。

アントニウス少尉が僅かに目を見開き、私が殺ったと確信して―――

――しかし、私の剣撃は三重の障壁に遮られ、私の体は彼の放った魔法に貫かれた。

恐らくは……障壁は味方の援護、私を撃ち抜いた魔法に関しては恐るべき早業としか良い様がない。

……遠距離プロテクションを、こんなに素早く展開できるとは。

鈍い水気を含んだ咳と共に、口から血が流れ出すのが分かる。
エドガル少尉と、皆の私を呼ぶ声が聞こえた。

…………そんなに大声で呼ぶな、恥かしいじゃないか。
……ああ、視界が、だんだんと暗くなってきた。

ああ、死ぬんだと何となく実感できた。
何処か他人事のような思考に思わず苦笑が漏れる。
無論、悔しくない筈が無い。
中隊の連中は恐らく皆地獄で再会することになる。

「……じゃぁな、次生まれ変わったら戦場以外で会おうぜ。
 今のは久々に肝が冷えた。」

……何処か、同じく苦笑したような声が聞こえた。
彼の声なのだろう……味方を信じて反撃に転じた男が良く言う。
良い男だ、こんな男と戦場以外で出会えていれば……。

……いや、成る程強い訳だ、私には此処まで信頼している仲間は居なかった。
友好な関係は築けていたと思うが、最後は今の様に自分の力に頼っていた。
……ガルム小隊はそれ一個で、文字通り一つの大きな個体なのだろう。
そして、彼等の新たな指揮官は恐らくそれに加わってはいない……。
一個小隊を形作って入るが、その実彼等はツーマンセルと同じ状態。
……最後だというのに何を考えているんだか。
まるでこの世の真理に気づいたような思考をして……。

空中から落ちていく最中、何処か遠く轟音が聞こえた。
何となく、悔しいが、少佐の死を感じた。
彼には妹共々世話になった故に、弔いを出来ない事がどうしようもなく悲しい。

……ああ、ジルヴィア、こんな至らない姉で済まなかった……な。

私の記憶は此処で永遠に途絶えてしまった。







<マリア大尉>

ありえん!このおっさんショットガンの九連射を防ぎやがった!!
行き成りバインドされた時もマジびびったし!
今も一撃防ぐたびに動揺し捲くりよ!
俺初めてだよ!?こんな高速接近戦闘!
本来の使い方じゃないとは言え、AL-37FUのスピードについてくるとかこのおっさん何!?

俺は今、件のおっさんの剣撃を防ぎながら心の中で絶叫していた。

ショットガン連射中にイージスから出した弾丸で作った大剣。
偽・フォースエッジを振るいながらおっさんの動きを見極める。
おっさんの攻撃は重く、だがしかし、超圧縮した魔力で出来た氷の大剣は壊れない。

うん、前に冗談で考えてた奴なんだけど役に立ったな。
…………弾丸の消費量が半端なかったけどなぁ!!

つぅかこのおっさん速い硬い上手いと三拍子揃ってやがる!

うん、こんなおっさんとのタイマン何てマジありえんと現在絶賛時間稼ぎ&足止め中であります。

AL-37FUを使えば逃げれん事無いと思うんだが、それだと小隊連中が危ない。
いっそ合流しようかとも考えたけど、下手すりゃダメージがでかすぎる。

多分連中なら大丈夫だと思うけど、心配だなぁ……。
全滅とかしてないよなぁ。

「破!!」

と、そんな事を考えている間にもおっさんは鬼の形相で剣撃を繰り出してくる。

こえぇ!おっさんこえぇ!!
何幼女に本気で掛かって来てんの!?
いや、ここ戦場だけどさ!

イージスと大剣併用してやっとやっとって如何よ!?
……さっきみたいに離れれば……いやぁ、それこそさっきみたいに接近されるのが落ちか。

それに先ず弾がなぁ~ショットガンの方は自動的に既に装填されてるけど、うん、唯消費して終わりだろ。
何度も繰り返せば抜けるかも知んないけど、弾丸を消費しすぎるのは正直不味い。

さてはて、如何したものか。

マルチタスクを使用しながら考える。

う~ん、IWS2000の弾丸さえ作れればななぁ……。
でも、そんな事してる間に確実にやられちまう。
イージス一個減らして凌ぎきれるかが問題。

弾丸、弾丸がなぁ。
さっき他の弾丸イージスから取り出して作っときゃ良かったか。
……うん?ああ、イージスを改良してマガジン突っ込めば弾が補充されるようにしたんだ。
まぁ、散弾とかは撃ち出せないけどな。
処理が半端ないから下手に使用領域増やせんのよ。

……ああ、そうだ、弾丸。
う~ん、そんなでっかい弾丸突然作れるわけ…な……い?

その時、俺の目に入ったのは俺が振るっている大剣。
使用弾丸数凡そ100発、追加でかなりの魔力も込めてある。

おぉ!あるじゃん!

ええっと、15.2mm弾丸は通常弾丸50発分の魔力で出来てるから半分以上いらんな。
……あの時弾丸生成してぶっ放せば良かったか?……いや、避けられただろうなぁ。
逆に言えば、半分以上は敵の足止めに使えるわけだ。

と、くれば……ん~無理に弾丸にしなくともいいんじゃ……?

何れにせよ少し時間が必要だな。







<インゴベルト少佐>

私は剣を振るい続けた、だが、未だ彼女はそれを完璧に防ぎ続けている。
武器の差はあれどこの年齢にしてみれば正に異常。
此処まで来ると彼女は王国の魔道兵器であるとしたほうが寧ろ納得できる。

と、そこで突如彼女が動いた。

足に履いている飛行補助用デバイスであろうブーツを使い、煌く圧縮魔力を噴射しながら後退したのだ。

「っ!」

逃がしてなるものかと剣を振るうが、紙一重で空を斬った。

一瞬の隙を衝かれてしまったか!

逃げられると思いきや、彼女は私の前方十メートルで制止していた。
ただ、静かに氷の大剣を右手に持ちながら。

「王国、ガルム小隊隊長マリア=エルンスト大尉だ。」

なんと、まさか名乗りとは。
何かの罠……?
いや、此処は名乗り返さねばなるまい。
何れにせよ、私は未だ攻めきれずにいる。

「帝国、インディゴ中隊隊長インゴベルト=シュトックハウゼン少佐。」

インディゴ中隊と言うところで彼女の眉が少々動いた。
私の事を知っているのか。

「藍鷺……か。」

これはまた、古い呼び名を持ってきたものだ。

私は驚きと共に思わず苦笑してしまった。

彼女がどうやってその呼び名を知ったのかは分からない。
帝国がまだ、誇りに満ち満ちていた頃、優雅に空を舞えた私はそう呼ばれていた。
だがしかし、帝国が誇りを失ってからはその優雅さを捨てざるおえなかったのだ
今ではもう、その呼び名を知っているのは極僅かな人間のみ。

「そういう君はエルンスト夫妻の子供、か。
 成る程、その強さも少しは納得がいったよ。」

少しは、な。
エルンスト夫妻の子供と言うだけで、彼女の強さを全て説明しきれるとは思えない。

……彼女の強さには何処か拭いきれない泥臭さを感じる。

「…………次で、勝負を決めよう。」

ほぅ……成る程、だが悪くは無い。

だが当然の如く、彼女は何かを仕掛けてくるだろう……正々堂々の決闘ではないのだから。
この類の勝負は所謂彼女にとってのホームグラウンド的なものになる。
一体どんな隠し玉が飛び出してくるか分からない。
今までの戦闘で彼女の異質さは十分に分かっている。

だがその隠し玉を食い破れれば、或いはまだ中隊を助ける時間があるやも知れん。
……そう、賭けに出るのも悪くは無い。

「良いだろう。」

「ふっ……まるで昨日の……。」

「何?」

突如何事かを呟いた彼女、私の問いかけに唯いいやと返した。
昨日何かあったのか。

お互いに持ち手の位置は米神辺り。
私は剣を天に向けるように構え、彼女は大剣を私に向けるように構えた。
……何となくだが、お互いの在り方を表した構えのような気がした。

……一際強い、風が吹いた。
これが合図となる。

瞬間、お互い弾けるように前へと出た。

面白い、真正面から来るか!!

彼我の距離はあっと言う間に縮まるだろう。
私はリーチで負けている。

故に一撃を防ぎ、二撃目で決める!

障壁は三重に張ってある。
並大抵の一撃ではこれを破る事は叶わない。
……彼女の持つであろう、長距離射撃用のデバイスならば破れるかもしれない。
が、彼女はそれらしきものを持っては居らず。

後、五メートル。
彼女の間合いまであと少しのところ――

――だがしかし、此処でありえざる筈の轟音が響いた。

…………な、に?

ゴフッと音を立てて口から血が溢れてくる。
私の三重の障壁は抜かれ、体は傷つけられたのだ。

ありえない、何故?

やっとやっとで飛行魔法を維持し続け、見る。

彼女は大剣を突き出した格好のまま、しかし、その手に大剣は存在しておらず。
私の胸から生えているのは彼女が持っていた大剣の刀身。
……更に良く見てみれば彼女の手は酷く傷ついている。

…………成る程、刀身を弾丸に見立てたか。

銃弾もどきとは言え、まさか剣で死ねるとは思っても見なかった。
……随分と、皮肉なものだ

すまない、ドリス君、ジルヴィア君、そして中隊諸君。
私はクリスティーナ少尉を守りきれなかったようだ……あの世で会おう。
願わくは彼等と彼女が非情の人でない事を……少尉の無事を。

氷の眼差しを感じながら、私の思考はそこで終わった。







<マリア大尉>

手ぇいっつぅ~。

俺は氷の大剣を撃ち出した両手を見ながら悪態をついた。
まぁ、元々はデバイス無しでも扱える魔法だったんだ。
扱えるとは思ったけど、まさか此処まで反動が酷いとは。
爆散した氷の破片で体も幾らか傷ついたし。

う~ん、改造しただけとは言え急造の魔法は使うもんじゃないなぁ。

珠のお肌が傷ついたってな。
治癒魔法使えば簡単に後も残らず治るだろうけど。

「少佐ぁ!」

突如声が響いた。
先程殺し損ねた少女の声だろう。

彼女は既に死んでいるインゴベルト少佐の体を懸命に支えている。
……この高度から落ちればバラバラだろうからある意味少佐は助かったか、死んでるけど。

ゆっくりと高度を下げて行く彼女。
俺も後を追おうかと考えて、そこで小隊連中の事を思い出した。

≪マリア大尉~こっちは終わりましたぜ。≫

ん?おぉ、無事だったか。

ナイスタイミングでアントニウス少尉からの念話だった。
ん~何故か念話でも声に感情が宿り難い。

≪此方も……まぁ、終わったようなものだ
 被害は?≫

≪ダメージゼロっす。
 ……ああ、カール上等兵がケツにへろへろの魔法食らった以外は。≫

思わず笑った。
戦場に笑いを提供してくれるとは。

≪流石だな、カール上等兵は。≫

≪いや全く。≫

アントニウス少尉も笑いを堪え切れない様子。
だが俺は、そこで笑いを止めて言った。

≪……敵指揮官のインゴベルト少佐は仕留めた。
 だが、遺体に縋り付いている奴が一人居る。
 俺はそいつを始末してからそちらへ向かう、暫く待機していろ、警戒は怠るな。≫

≪……インゴベルト少佐だったんですか…流石……。
 いや、それよりも大尉お一人で大丈夫で?≫

≪ケツ捲くって逃げるぐらいは私でも出来るぞ、少尉。≫

まぁ、そういう事を言ってるんじゃない事は分かるんだが。

≪……そうですかい、じゃぁお気をつけて。≫

≪ああ。≫

念話を切り、俺は彼女を追って行った。







<クリスティーナ少尉>

少佐が!少佐が死んじゃった!殺されちゃった!

私は少佐の遺体に縋り付いて泣き叫ぶ事しか出来ない。

「何時も何時も優しくしてくれて、あんなに良い人だったのに何で!」

「戦争だからだ。」

私の叫びに、帰ってくるはずの無い返事が返ってきた。

そこには、私にとってとても怖くてとても憎い人が居た。

「貴女は…!」

「マリアだ、マリア=エルンスト。」

静かに名乗る彼女は、私に手に持つデバイスの銃口を静かに向けていた。
嘗て魔法が存在していなかった頃に使用されていた銃。
それを更に洗練したもの。

「ひっ!?」

その銃と氷のような眼差しを見て、私も殺されてしまうのかと悟ってしまった。
思わず、悲鳴が漏れてしまう。
私よりも幼い彼女が人間ではない何かに思えた。

「っ!これが、戦争だって言うの!?」

それでも、気を確り持って睨み返しながら言った。

だが、私は何を言っている、とも同時に思う。
私も既に殺人者なのだ。
それでも言ってしまったのは私の弱さなのだろう。
彼女はきっと、唯短く一言そうだと……

「違う。」

だがしかし、響いた声は予想と違って更に短く。

「え?」

「これもまた、戦争だ。」

氷の眼差しの彼女、しかし良く見れば銃を持つ手は小刻みに震え……。

「貴女は……。」

初めと同じ言葉、しかしそこに込められた思いも意味も違う。
瞬間、彼女の瞳に光がともったような気がして―――彼女の指に力が込められた。

何処か遠い発砲音。

ああ、彼女もまた人間だったのだ。
そんな当たり前の事に漸く気づく。
必死に覚悟をして人を殺し、戦争を終わらせる為に戦争へと身を投じる。

……私はきっと、この人に最後の覚悟を決めさせてしまったのだ。

薄れ行く意識の中、私はそう思った。

「Kyrie eleison.(主よ、この魂を憐れみ給え。)」

そして最後に聞いた声は、そんな優しい声だった。







<アントニウス少尉>

マリア大尉が戻ってきた。
恐らく殺してきたのは、スコープで確認した時に見つけた少女。
インゴベルト少佐の直隣に居たから間違いないだろう。
此方の死体に彼女は居なかった。

大尉は相変わらずの無表情、しかし、何処か悲しげな影が見え隠れする。

「大尉、大丈夫ですかい?
 随分時間がかかったようですが……。」

「……問題ない。
 ……彼等を弔ってきただけだ。」

弔い、か。
戦場で態々そんな事をするなんて、如何にも大尉はお優しすぎるぜ。
危ういが、小隊の皆は大尉のそんな所にも惹かれている。

「基地へ帰るぞ、戻りが遅かったら怒られてしまう。」

大尉が、冗談めかしてそう言った。

「そうですねぇ、ハロルド大佐のお叱りは怖そうだ。」

俺もそれに乗る事にした。

全く、大尉に気を使われて如何すると言うのだ。

大尉は小隊を引き連れて空へと浮かび上がり、唯一度、戦場を振り返って詠った。

「Requiem aeternam dona eis,Domine:(主よ、永遠の休息を彼等に与え、)

 et lux perpetua luceat eis.(絶えざる光を彼等の上に照らし給え。)

 Te decet hymnus,Deus,in Sion,(神よ、主への称讃を相応しく詠うのは、シオンに置いてである。)

 et tibi redetur votum in jerusalem:(エルサレムでは、主に生贄を捧げる。)

 exaudi orationem meam,ad te omnis caro veniet.(全ての肉体の向うべき主よ。我等の祈りを聞き給え。)

 Requiem aeternam dona eis,Domine:(主よ、永遠の休息をかれらに与え、)

 et lux perpetua luceat eis.(絶えざる光を彼等の上に照らし給え。)」

聞いた事も無い歌、何処の言葉かも分からない歌だ。
しかし、意味は分かる。
何処か皮肉気に、何処か優し気に、何処までも悲し気に。
鎮魂の歌は円卓の空に響いていった。







<ハロルド大佐>

「大佐、ガルム小隊敵中隊を殲滅したそうです。」

「…そうか、連絡ご苦労。」

何処か興奮した様子の通信班長にそう告げて戦場に目を戻す。
此方の戦闘ももう少しで終わるだろう。
敵大隊は我々の数を見誤り、愚かにも唯突っ込んできた。
事前に情報を掴んでいた我々は伏兵を置き、タイミングを計って突撃させるだけで事足りた。
無論、不確定要素があったときの為に戦力はある程度待機させてあったが。

「あ、あの。」

「ん?まだ何かあるのか?」

先程の通信班長はまだ居た。
小隊で中隊を殲滅した事は、まぁ確かに恐るべき戦果ではあるが。
状況は違えど前ガルム小隊でも同じ様な戦果は上げていただろうに。

「いえ、ガルム小隊が撃破した中隊はインディゴ中隊でした。」

「……インディゴ中隊、だと?」

インディゴ中隊。
率いているのは藍鷺、移動要塞、堅実なると言った様々な二つ名を持っている歴戦兵士、インゴベルト少佐だ。
私は彼と戦った事もあるし、偶然入手した彼の戦闘記録も見た事がある。
移動要塞の戦い方は何処までも凄まじく、藍鷺の戦い方は何処までも優雅だった。
堅実なると言うのは上手く兵士を扱うようになってからの彼の呼び名だ。
自分にも兵士にも無理をさせずに戦うその姿は、多くの指揮官にとっての一つの目標だった。
その彼が落とされた。

その事実は私にとっても少なからぬ衝撃だった。

成る程、この通信班長が興奮するのも仕方が無い。
間違いなく両国を揺るがすニュースである。
ガルム僅か一個小隊がインディゴ一個中隊を撃破、か。

……全く、本当にマリア大尉はやってくれるな。

敵がインディゴを捨て駒にしたのにも呆れたが、それ以上だ。
此処まで来ると少しは自重しろと言いたくなる。

インディゴ一個中隊は二個中隊に匹敵すると言われていた。
ならばガルムは何なのか。

……まぁ良い、今日は彼等を精々盛大に祝ってやるとしようか。
此方での戦勝もあわせて祝えば盛大なものになるだろう。
無論、警戒を怠る訳にはいかないがな。




この日、基地の皆は盛大に騒いだ。
久々の大戦果だった故の戦勝祝い。
これで暫くの間大規模な戦闘は起きない筈だ。

……途中、マリア大尉が酔って脱ぎだすと言うハプニングがあったが置いておく。
同じく酔ったアンナ中尉がマリア大尉に襲い掛かったのも置いておく。
二人に酒を飲ませた馬鹿(イリーナ大尉)にはトイレ掃除三週間を命じておいた。
……最近胃薬の量が多くなっているような気がするな。







<五日後・????>

…………光が見える。

今まで暗い暗い闇の中を揺蕩って居た私。
そこに突然光が現れると言う変化が起きた。

……一体何が。

「………!………!」

誰かが呼ぶ声が聞こえる。

「……ス!…リ…!」

もう少し、寝かせて欲しいのになぁ。

「ジ……ア少……!駄………よ!」

「で…!ク…スが!」

良く聞いてみれば何処か心配そうな、それでいて聞き覚えの在る声だ。
私は気になって、光の方へ手を伸ばす。

「クリス!!」

瞬間、目に入ってきたのは白い白い天井。

「クリス!良かった!」

「ジルヴィア……?
 あれ、私……。」

「お前は生き残ったんだよ!
 敵が弔いの為か、お前の体を綺麗に凍らせていったお陰で!」

…………そっか。
……ふふ。
……そっかぁ……。

「クリス……?
 何で笑ってるんだ?」

「……ふふふ、意外と……うっかりさんなのかなぁ。」

「く、くくくクリス!?大丈夫か!?
 医者だ!脳の医者を呼べぇ!!」

ジルヴィア、私それは流石に失礼だと思うの。

先程から脳裏に、私が最期だと思った瞬間の光景が思い浮かぶ。

…………憎くて、怖いあの人。
それで居て、何処か優しいあの人。

「…………また、会えるかなぁ……。」

会えると、良いな。

「医者だぁ!!医者を呼べぇ!!」

「静かにして下さい、少佐!
 さっきから軍医の方が……あ、すみません、直に黙らせますので。」

「ジルヴィア、五月蝿い。」

台無しだから、ね?ガーンじゃなくて。

心配してくれるのは嬉しいけど、せめてもう少し静かにしてくれないかなぁ。
……まぁ、ジルヴィアの良い所でもあるんだけど……。

死の淵から戻ってきた私を向かえたのは、優秀だけど落ち着きの無い友人だった。
これもまた、運命と言うものなのかも知れない。

ただ、私が戦場に立つ事はきっともう……無いだろう。




[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第九話
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4
Date: 2009/06/15 19:36
<戦闘より二日後・帝国帝都・美しき騎士のジルヴィア=シュトラウス少佐>

インディゴ中隊が全滅した、その情報が私の所に入ったのは先程だ。
私の恩師が、私の姉が、私の友人が皆殺しにされた。
……いや、戦争に人死は付きもの。
しょうがない事は分かっている。
だが、恨まざるをえない。

私の兄もまた、嘗て王国の佐官に汚らしい手で打ち倒された。
その時は遺品の一つも、帰って来なかった。

「ジルヴィア少佐。」

私の副官であるコリーナ中尉がやってきた。
恐らく私が知っている情報と同じだろう。

「……ああ、話は聞いている。
 全滅、だそうだな。」

「いえ、一人生存者が。」

「何だと!?」

生存者!?

「だ、誰だ!?」

思わずコリーナ中尉に詰め寄ってしまう。

「落ち着いてください、少佐。」

「落ち着いていられるか!早く教えろ!!」

「少佐!!」

っ!……いや、そうだな。
こういう時こそ落ち着かなければ。

「すまない、コリーナ中尉。」

「……いえ。
 ……生存者は、クリスティーナ少尉です。」

「クリス、クリスティーナか!」

生存者が一人でも居た。
しかもそれが自分の友人となればやはり喜ばざるをえない。

……自分は果たして薄情者なのだろうか。

「少尉は重傷ですが、敵が死体を腐らせない為か魔法による完全氷結を行ったようで。
 それのお陰で命長らえたようです。
 同じ処置がしてあったインゴベルト少佐はお亡くなりになっていましたので恐らく間違いないかと…。」

「……弔いの積りだったのか。
 何とも皮肉……いや、敵にも敬意を尽くしたその人物に感謝するべきだな。」

「交戦した部隊についてはご存知で?」

交戦した部隊……確かガルム小隊だったか。
隊長が代わったと聞いたが……今回の事で、よりその存在感を示しただろうな……。
……ああ、思えば情報は敵に漏れていたのだろうな。
例のスパイが裏切るとは思えない。
敵の指揮官が優秀なのか。

「ああ、例のガルム小隊だろう?
 ……まさかインディゴ中隊を撃破するほどだとは……。」

一個小隊でかのインディゴ中隊を撃破する。
恐ろしい戦果だ。

「その隊長についても分かりました。
 スパイからの情報です。
 名前は、マリア=エルンスト。
 彼のエルンスト夫妻の娘で弱冠……九歳。
 中隊の半分以上を撃破しインゴベルト少佐を討ち取ったのは彼女です。
 デバイスに残された戦闘記録と彼女が氷結魔法の使い手であることからも間違いないかと。」

「九歳だと!?」

信じられん!いや、クリスティーナは十二歳であるし私も十四歳だが。
同じ少佐である私でもインゴベルト少佐を討ち取るなどと……不可能だ。

それを九歳の女児が!?

「元々は軍の広告塔として利用されていたようですが、優秀すぎるが為に前線へ送られたそうです。
 前線では着任早々に絡まれたフレディ少佐を殺し、その次の日の戦果がインディゴ中隊撃破。
 その強さからついた蔑称が血塗れのマリア。」

一体何の冗談だ?
コリーナ中尉は薬でもキメているのか?

「今、不快な事を考えませんでしたか?」

「い、いや、考えてないぞ?」

私が弁明しても、尚疑わしそうに睨みつけてくるコリーナ中尉。

「そ、そそそそうだ!クリスティーナ少尉の見舞いに行こう!」

「現在面会謝絶中です。
 命に別状はないそうですが……と言うか貴女が行ったら間違いなく取り乱すでしょう。」

よし、矛先は逸らした。
……だが、取り乱す云々は気に入らないな。

「そんな事は無い。
 私は何時でも冷静だぞ?」

「…………そうですか。
 三日後には治癒魔道師と一緒に此方に搬送されてくるそうです。」

何だその疑わしそうな目は、一応私は上官……あ、いや、その、書類整理は手伝ってくれないか?
……ま、まぁ良いだろう、三日後にこの私の冷静さを証明してやる!
楽しみにしておけ!





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第九話 しかしきっと番外編







<戦闘の次の日・マリア大尉>

やぁこんにちわ、俺は絶賛二日酔い中だが皆さんは元気かな?
祝勝会でPTSDになりかけたマリア大尉だよ?
昨日はうっかり前世のノリで服を脱いじまったんだ。
てか、この体で前と同じノリで酒飲めば前後不覚になるよなって話。
あの時のアンナちゃんの女の目は忘れられないぜ!
俺、狙われてる!?
ふ、震えが止まらねぇ!

……まぁ、冗談はおいといて……冗談って事にしとこうぜ?
今日一日は完全に暇なんだ。
何せあれだけ大規模な戦闘をやったんだからな。

……まぁ昨日の戦闘はとことん後味が悪かった。
せめてもの弔いとして死体が腐らないように氷葬?しておいたけど、どうにもな。
…だが、後悔はしていない。
俺が殺したのは人間で、俺が殺したのは敵兵なんだから。

うん、辛気臭い話はこれで止めようか。
折角の休みだってのに気が滅入っちまう。

現在、俺は小隊連中とポーカーに興じている。

休みだからってぶらぶらするのも、なぁ?
それに小隊連中と一緒に居た方が安心できるし。
これも一種にPTSDなのか如何なのか……どっちでも良いか。

「ツーペア!」

「畜生!ワンペア……。」

「へへ、フルハウス、悪いな?」

「げぇ!?」

上から順番にカール上等兵、ブルーノ軍曹、アントニウス少尉で、またカール上等兵。
最近このメンバーはお決まりになってきたな。
他のメンバーとも仲が悪い訳じゃないけど、何故かこのメンバーが集まりやすい。
……いや、この連中とポーカーをするのは初めてだったか?

「お~い、マリア大尉はどうなんです?」

と、アントニウス少尉がニヤニヤ顔で言ってきた。
自分の手に自信があるんだろう。

ん?ああ、そういや観察しててカード出してねぇや。

「ストレートフラッシュ。」

「二回目!?」「マジかよ!」

「た、大尉、幾らなんでもありえねぇんじゃ!?」

カール上等兵とブルーノ軍曹が同時に叫び、アントニウス少尉が少々遅れて叫んだ。
アントニウス少尉本当に残念になぁ、はっはっは。

いやぁ、俺ってばこっちに来てからポーカーで負け越した事ないんだよなぁ。
……うん、何故か…な?

「イカサマじゃないっすよねマリア大尉。」

「…………。」

カール上等兵の疑惑の言葉に続いて他の二人も疑いの目を向けてくる。
しかし、俺は揺るがない。
……無表情マジ便利。

知らなかったのか?ばれなければイカサマじゃない。
前世の親父との対決で鍛えたイカサマを舐めるなよ?

「とっとと掛け金を出せ。」

俺の言葉に諦めた表情をする三人。

君達歴戦の兵士が、まさかイカサマ疑惑で少女の体をまさぐるなんて出来ないよなぁ?

「うぅ、給料日まだなのに。
 明日から何食って生きてきゃ良いん「マリアちゃ~~ん!」だ!?」

カール上等兵がぼやいた瞬間或いは神の采配か、鈍い衝突音が俺とぶつかってきた人物の間で響いた。
次いで俺の服から何かが落ちて地面で軽い音を立てる。
軽い音の正体は、使っているカードと同じ柄の様々なカード。
ぶつかってきた人物、アンナちゃん以外の視線がそれに集中した。

周囲に降りる、沈黙の帳。
間違いなく空気が凍った。

「…………。」

「…………。」

「…………。」

「…………。」

「えへへ~~」

訂正だ、これもアンナちゃん以外。

「大…」

「AL-37FU、起動。」

【大尉ーーーーーーーー!!!】

吼える連中逃げる俺。
腕に抱えたアンナちゃんは、キャーっと嬉しげな悲鳴を上げている。

超音速飛行用デバイスを全力で無駄使いして俺は見事逃げ切った。

あ~これで小遣い稼ぎはもう無理かぁ。
あ、巻き取った分はちゃんと置いてきたぜ?
イカサマはばれれば負けだからなぁ。



<残された人々・第三者視点>

「マリア大尉、油断も隙もねぇ。
 流石っつぅかやはりっつぅかなぁ……。
 ……ああ、だから他の連中はポーカーに参加してこなかったのか。」

と、取られた金を回収しながらアントニウス少尉。
怒りと言うよりも半ば以上呆れている。

「あれは本当に九歳児なのか?
 幼児の皮を被った歴戦将校じゃないのか?
 寧ろ鬼教官。」

ブルーノ軍曹、此方も同じく。
そして実に彼女の存在に対して疑わしげだ、然もありなん。

「うぅ、良かったぁ。
 パンの耳だけの生活はもう嫌だ。」

カール上等兵は普通に安堵していた。
涙を流しながら安堵するその姿は情けなく。
一体今の彼を見て何人がガルム小隊の一員と信じるだろうか。

【お前はギャンブル弱すぎ。】

一般の小隊よりも高給取りのガルム小隊。
二人の突っ込みも仕方が無いだろう。







<マリア大尉>

ちっ、今回も結構稼げてたのにな。
カール上等兵は最高のカモだったし。
やり慣れてる奴は用心深くて仕方がねぇ。

少尉達から逃げ切った俺は、基地の裏まで来ていた。
……一先ずアンナちゃんを降ろす俺。

「ま、マリアちゃん、まだ朝だよ?」

「………何がだ。」

最近アンナちゃんが加速度的に壊れてるような気がする……。
……いや、軍に入ってから俺への依存性が上がったからかなぁ。
だが、変な知識を入れているのは誰なんだ?

「アンナちゃん。」

「でも、その、あの、マリアちゃんがしたいなら良い、よ?」

うん、休日だからさ、マリアちゃんって呼ぶのは構わないよ?
だけどな?恥と外面は持とう?

「アンナ中尉!」

「は、はい!」

よし、こってり絞られたから大分染み付いてるようだな。

「……その可笑しな知識は何処から仕入れた?」

「え?…えっとね、お父さんとお母さんと……イリーナ大尉かな!
 昨日のはイリーナ大尉が教えてくれたんだよ!」

OK,中々良い度胸じゃぁないかイリーナ大尉……ん?アンナママとアンナパパ?
あれ俺達一家の天敵よ?つぅか俺の。
今度是非イリーナ大尉と格闘訓練をしよう。
なぁに一時間ほどで解放するさぁ、ぶっ通しだけど。

「……アンナちゃん、その知識はアンナちゃんにはまだ早すぎる。」

「?そうなの?」

そうなの、しかもかなり間違っているのだよ。

「あ、そうだ!」

ん?

アンナちゃんが突如何かを何かを思い出したかのように手を叩いた。
いや、何か思い出したんだろうけれど。

「あのね、イリーナ大尉が一緒にお買い物しようって!」

……へぇ、ほぅ、成る程。
まぁ純粋に善意からだろうなぁ。
だが、実に良い度胸をしているなイリーナ大尉は。

「マリアちゃん?」

顔をアンナちゃんの方へ向けると、彼女は少しだけ不安そうな顔をしていた。
そう言えば、昔と比べれば一緒に居る時間は遥かに短くなっている。
もしかしなくとも彼女は不安なのかも知れない。

…………まぁ良いか、休暇くらいはゆっくりと休みたい。
その件については格闘訓練の時にじっくりと……な。

「行こうか。」

「うん!」

一先ずはアンナちゃんの眩しい笑顔が見られたからよしとしようか。







で、だ。
イリーナ大尉と合流した俺達は買い物へと出かけたんだが……。

「ねぇねぇ、アンナちゃんさ!これ可愛くない?」

「あ、可愛い!何処にあったの?」

嬉々として買ったペンダントをアンナちゃんに見せるイリーナ大尉。
それを見て少し羨ましそうにするアンナちゃん。

「えへへ、そこの露天商のおじさんとこで売ってたんだよ。」

「良いなぁ~。」

何時の間にそんなに仲良くなった、つぅか、イリーナ大尉マジアンナちゃんと同レベル。
……いや、別にアンナちゃんを馬鹿にしてる訳じゃないぞ?
アンナちゃんは子供だし……俺も今は子供だけど。

「あ!イリーナさん、あれ可愛い!」

「ホントだぁ~!」

ああ、うん、元気だな二人とも。
なんつぅか俺がついてけないほどに。

「マリアちゃん早く~!
 猫さん可愛いよ?」

「そうですよマリアさん!」

正に彼女の買い物に付き合わされる男の図。
いや、つき合わされているのが無表情の幼女ってのは微妙だが。

……ああ、周りの微笑ましげな視線がうっとおしい。
甘く見てたぜ天然二人の女の子パワーを!
買い物始めてから既に三時間経過してやがる!
奴等のエネルギーは無限か!?
……あ、おっちゃんその串焼き一本ちょうだい。

「串焼き、一本。」

「へ、へい!」

どもんなよおっちゃん、目つき悪いのは自覚してるけどさ、無表情だし疲れてるし。

俺は串焼きをなるべく男らしく食らいながら二人の後を付いて行く。
うん、奇異の視線も加わって更にうっとおしい、普通に食べよ。

「あー!マリアちゃん歩きながら食べ物食べてる!いけないんだぁ!」

「あ、ホントだ!駄目ですよマリアさん!」

二人が俺に向かって発言すると、再び微笑ましげな視線が周囲に充満した。

あ~分かった分かった、つぅかイリーナ大尉は俺の呼び名マリアさんで固定なのな。

俺がその事をイリーナ大尉に伝えると。

「ん~だって何か年上のお兄さんみたいな雰囲気しますもん。」

この天然も侮れねぇ。

「あ、そうだよね!
 えへへ、一緒に居て安心するって言う感じがするよ。」

と、少なからぬ脅威を感じていると、イリーナ大尉に続いてアンナちゃんもそう言ってきた。
心なしか嬉しそうな声と表情はとても微笑ましい。

にしてもこっちもか、まぁアンナちゃんとは付き合い長いからそう感じ取っててもおかしかないか。
中々嬉しい事も言ってくれてるし。

「……そうか。」

表情は動かない、が、きっと彼女達には俺が微笑んでるように見えているのだろう。
二人は随分と嬉しげな表情をしている。

こう言った連中は、戦場に限らず貴重だな。

「じゃ!ご飯にしませんか?」

「うん、私お腹ぺこぺこ!」

「無論イリーナ大尉の奢りで。」

「ええ!?」

はっはっは、当然じゃぁないか最年長。

……ん?俺の精神の年齢?ヨウジョニホンゴワカリマセ~ン。







うん、と言うわけでやって来たのは近場にあった定食屋。
何でもイリーナ大尉は良く此処へ食べに来るそうな。
最初はごく普通に高級レストランへ入ろうとしたんだが大尉に泣いて止められた。

定食屋は程ほどの大きさでほのぼのとした雰囲気が漂っている。
いかにも町のお食事所と言った風情だ…………何故店名が猫飯?
まぁ、当然の如く和式ではないんだがな……醤油飲みてぇ。
うぅん?これが噂のワールドシック?

「マリアちゃん、如何したの?入ろうよ。」

店の前で立ちながら思案しているとアンナちゃんが訝しげに言ってきた。
どうやらイリーナ大尉は既に店内の模様。

「……ああ。」

俺は短く答えてアンナちゃんに続いた。

ドアベルが鳴り、俺達を歓迎してくれる。
音色が優しげだったのはドアを開いたアンナちゃんの所為もあるのだろう。

店内を見回す……までもなくイリーナ大尉の俺達を呼ぶ声。
店内ではお静かにと言いたくなるほど元気が良い。

イリーナ大尉の声が聞こえた方を向くと……。

「あら、マリア大尉とアンナ中尉もお食事かしら?」

「はい!」

「……ええ。」

此処はお食事ってほど丁寧じゃないと思うが、まあ良い。
あんたも庶民派なんだな、ローザ中佐。
正直こういう場所に居るとしたらフィーネ中佐が思い浮かぶんだが。
……あの人は何ていうか、主婦ってオーラが出てる。
失礼?一応褒めてる積りなんだけどなぁ。
…………あ、あの人もこの人も十九歳だったか、そりゃ失礼。

「……フィーネ中佐はご一緒では無いんですか?」

何となく気になったから聞いてみた。
席に座りながら聞いたんだがローザ中佐は然して気にしてない模様。

「たまには外食もするけど、あの子は何時もお手製のお弁当なのよ。
 食費が勿体無いって。」

訂正、奴は主婦だ。
……まぁ、将校は個室だし、共同キッチンも一応あるから弁当くらい作っても可笑しくは無いが。
だが、つい口に出てしまう。

「……主婦ですね。
 ローザ中佐は……まぁ聞かないで措きましょうか。」

要らん事まで。

「い、言ってくれるわね。
 ……そりゃぁフィーネみたいには上手くは無いけれど、料理くらい出来るわよ?」

「Sandwich?」

えーローザ中佐の額に青筋入りましたぁ。

「…………やけに突っかかるわね。
 何か気に入らない事でもあったのかしら?」

ニッコリと微笑みながらお聞きになるローザ中佐。
いやぁ、何となくからかえそうだったから。
……とは流石に言わず無難に答えておくことに。

「……いや、母性が足りないかなと。」

「何処を見ながら言っているのかしら!?」

しまった、ついつい胸に目が行ってたらそんな言葉が。
……うん、小さいんだ。
少なくともフィーネ中佐やイリーナ大尉と比べたら圧倒的に。
……大らかさと比例してでかくなるのかなぁ。

「あわわ!ろ、ろローザ中佐落ち着いて!」

「お、落ち着いてるわよ!」

いや、落ち着いてないよ、原因俺だけど。
……あ~ごめんなアンナちゃん、ローザ中佐怖いよねぇ~。

かく言う俺も少し怖くなってまいりました。
どうやら調子に乗りすぎた模様。

「申し訳ない、ついストレスの良い捌け口が見つかったもので。」

「それ謝ってる積り!?」

無言で頷く俺に、何処か草臥れたオーラを纏い突っ伏すローザ中佐。
周りの人間の好奇の目が俺達に突き刺さる……うん、自業自得なんだ。

つい面白そうだからやった。
反省はしているが後悔はしていない。

「ふ、ふふ、フィーネの苦労が少し分かったわ。」

どうやらローザ中佐は人間として一回り大きくなった模様。
キレて本気で怒鳴らない辺りこの人はかなりのお人よし若しくは子供好き。
サウスハンプトン基地は、例外あれど人としてもかなり優秀な佐官が集まっている模様。

「なぁ~~~。」

「?」

突如聞こえた鳴き声。
猫?、と思ってそちらを見ると、何処か困った様子の小さな女の子が一人。
先程からちらほらと同じ服を来た女の子が見えたから、恐らくはウエイトレスなのだろう。
手には『店内ではお静かに』と書かれた看板が掲げられている。
ちなみに、この少女も含め、見かけた子は皆金髪碧眼で可愛らしい顔立ちをしていた。

「……了解した。」

悪かったという思いを込めて短くそう言う俺。

「なぁ!」

それに対して少女が一鳴きすると同時に看板が一回転、今度はそこに『頼むぜ!』と書かれていた。
…………僅かながら魔力を感じたので間違いなく魔法だろう。
定食屋に魔法の使い手が居るとはこの町中々侮れん。
……それが幼女なのは果たしてデフォルトなのだろうか、うん、侮れん。

「なぁなぁ。」

『ご注文は?』と書かれた看板が出されたので俺達は皆メニューを見ながら注文する。
悩みそうなイリーナ大尉とアンナちゃんも。
前者は予め決めていたと言う理由で、後者は俺と同じものをと言う理由で滞りなく答えていた。

「なぁー!」

最後に、『任せろよ!』と言う看板を見せてから、少女は可愛らしく小走りに奥へと引っ込んでいった。
見ていて中々に和む光景だ。
何時の間にやら復活したローザ中佐なんか特に微笑ましげに眺めている。
イリーナ大尉も可愛いなぁと言いながら和んでいて、アンナちゃんはお友達になれないかな等と言っている。

綺麗に纏まった良い店の雰囲気に可愛らしい店員。
これで後は料理が美味しかったら万々歳だな。
ちなみに、全員結局日替わり定食を頼んでいる。

「良い所でしょう?」

ローザ中佐が何処か楽し気な声で聞いてきた。
それはお気に入りの場所を誇る様であり、その場所を守れていることを誇っている様でもあった。
見ればイリーナ大尉も同じ様な表情をしている。
分からないでもない。
何処か子供っぽい理由だが、小さな事でも戦う意義が増えることは大切だ。
多くを背負いすぎなければ、戦場ではそれが生き残る事にも繋がる。

「……ああ、良い場所だ。」

「うん!」

俺に続いてアンナちゃんの元気の良い声が響いた。
ここら一体がほんわかした雰囲気になる。
この様子だと町の人達とも結構良好な関係が築けていそうだ。

……この一箇所を見ただけでも分かる事がある。
此処は、実に護り甲斐のある町である事だ

ちなみに、期待を裏切らず此処の食事はとても美味しく。
俺達は食事開始から終始和やかに過したのだった。







穏やかな休暇はあっと言う間に過ぎていく。
楽しい時間とは須く速く流れ去るものだ。
そういう意味で、今日と言う日は実に良い日だったと言える。

まぁ、あの後ローザ中佐も加わっての買い物は少々疲れたが。
……未だ下着店などに入るのは抵抗を覚えるのだ。
皆、多少とは言え感情を表に出して嫌がる俺を面白がるから尚更だ。
ローザ中佐のあれは間違いなく意趣返しも入っていたな。

そんな休暇を過した俺は、夕刻辺りに司令室に来てくれと言われていた。
ハロルド大佐から話があるらしい。

基地司令室の前についた俺は二度ドアをノックし、名前を述べる。
部屋の主の了解を得て入ったそこには、ハロルド大佐ともう一人佐官が居た。

「マリア=エルンスト大尉只今参りました。」

「ご苦労、楽にして良い。」

敬礼と共に挨拶をすればハロルド大佐からそんな言葉が返ってきた。

ご苦労……いや、お疲れ様なのは彼の方だろうに。

流石の俺もこれには少々呆れてしまった。
部屋の中にいたもう一人の…中佐殿も同じ様な感情を表に出している。
まぁ、俺の場合は表には出ていないのだろうが。

ハロルド大佐は彼をスルーする事に決めた様子。
俺のほうに向かって続けて口を開いてきた。

「おめでとう、マリア大尉。」

「……?」

唐突にハロルド大佐から唐突に祝言が送られた。
訳の分からぬそれに俺は内心のみで首を傾げる。
そんな俺を見て、ハロルド大佐は何が可笑しかったのか、何処か皮肉気な笑いを浮かべた。
中佐殿は何処か苛立たしげな雰囲気を発し始めた。
優しげな雰囲気を醸し出していた彼がそんな空気を発し始めるとはかなりの厄介ごとらしい。

「予想はしていたか、覚悟は出来ているようだな。」

どちらもNOだが口は噤んでおく。
何処へ転がるか分からないのだから、下手な発言は極力控えた方が良いだろう。

少し間を置いて、大佐は言ってきた。
その目は眼光鋭く真剣味を帯びている。

「マリア=エルンスト大尉。
 本日17:00時を以って少佐への昇進を通達する。
 まぁ、異例中の異例だ。
 所属も今のまま変わらん。」

…………なるほど、厄介だ。
ある程度の覚悟はしていたのだが、やはり軍の上層部は俺を英雄へと祭り上げる積りらしい。
ただ、その行動が予想よりも遥かに早かった。
恐らく今朝の時点ではこの基地にその通達は届いていなかったのだろう。
インゴベルト中隊を撃破したのは彼等にそれだけの衝撃を与えたのか。

「了解致しました。」

たった二日で二階級昇進。
貴様何処の激戦区出身だと言いたくなるようなスピードだ。
いや、それでも尚言い足らないか。

「……君は……それで良いのかい?」

これまた唐突に、ずっと押し黙っていた中佐殿が口を開いた。
……この基地に中佐は三人、とすると……。

「ああ、彼はアルベルト=レオンハート中佐だ。」

「初めまして、マリア少佐。」

彼は自分が名乗っていない事に気づき、一旦雰囲気を元に戻して困った様に言ってきた。

「初めましてアルベルト中佐。」

俺も普通に返しておく。
少し観察するような視線になったのは仕方がないと言いたい。
何せ彼は爽やか系のイケメンである。
元男として少々気になったのだ。
それに、アルベルト大隊はアンナ中尉が所属している中隊の大隊だ。

「はは、俺の顔に何か付いてるかい?」

少々困ったような表情を浮かべるアルベルト中佐。
うむ、イケメン死すべし、かな。

「目と鼻と口が。
 綺麗なお顔ですね、少々見惚れてしまいました。」

アルベルト中佐の顔が引きつり、ハロルド大佐は笑いを堪えている。
まぁ、あれだ、無表情に淡々とこんな事を言われても、褒められている気がするわけが無い。
無論、狙ってやってる。

「は、はは、噂に聞いていた人とは少し違うみたいだな。
 失礼だがもっとこう、固い感じのする人だと思っていたよ。
 ……うん、面白い子だ。」

アルベルト中佐の声には少しの嘲りや悪意もなく、ただ今知った事実に驚いているようだ。
最後に付け加えるように呟いた言葉には何処か複雑な意思が感じられたが。

「……それで、何か私に聞きたい事でも?」

一応丁寧に聞いておく。
最近小隊連中とかには俺と言っているが上官に言う訳にもいくまい。

「……いや、良いよ、忘れてくれ。」

中佐は何処か無理をしているような表情で言った。

「ではマリア少佐、これが新しい階級章だ。
 君の更なる活躍を期待している。」

俺は階級章を受け取り、退出許可を得て部屋を去って行った。
自分の未来には確かに不安を抱かざるをえないが、やってやれない事も少ないだろう。
少なくとも俺には、頼りになる連中が沢山いるからな。

……本来なら、敵かそうでないかだけで判断するべきだろう。
だが、それでは余りにも寂しすぎるじゃないか。
仲間と言う奴がいても良いんじゃないかと俺は思う。
きっとそれは、狂気の中でも美しいものだから。



……まぁ一先ず、腹いせ紛れにいちゃもんつけて、イリーナ大尉と格闘訓練をしたんだ。
かっとなってやった、意外とすっきりしたので今度もまたお願いする事にする。







<戦いから七日後・帝国帝都中央病院クリスティーナ少尉の病室・第三者視点>

夕日の映える病室で、三人の少女が会話をしているようだ。
一人はこの病室の主であるクリスティーナ少尉。
長い金色の髪と穏やかな青い眼を持つ少女。

一人はその友人であるジルヴィア少佐。
こちらは長い銀色の髪に青い瞳を持っている少女。

そして、その副官であり、二人の友人であるコリーナ中尉だ。
彼女は、セミロングの茶色がかった黒い髪に黒い瞳を持っている少女である。

三者三様……少しコリーナ中尉が浮いているか。
しかし、三人とも顔立ちは整っていて絵になった。
年齢は上から順に十二、十四、十五である。
身長も上から順に高くなっていくが、ジルヴィア少佐は少しだけ低めだ。

「ほぅ……成る程、そんな恐ろしい攻撃手段を持っているのか、彼女は。」

「うん……あっと言う間に、半分以上の人が居なくなっちゃった。」

「恐ろしいですね、タイミングと位置が分かっていても避けようが無い。」

ごく普通に学校へ通っているような少女たちではあるが、話している内容は実に殺伐としていた。
彼女は軍の関係者であり、事実一人は患者服だが、二人は軍服を着ている。

「その上インゴベルト少佐相手に接近戦までこなせるのか。」

ジルヴィア少佐はどうやら相手の事で頭を痛めている模様。
彼女にとってその敵はそれほどに厄介なのである。

「……私が生き残ったのは、きっと偶然なんだと思う。
 あの人は、私を殺す覚悟をきっと決めていたから。」

何処か遠い目で語るクリスティーナ少尉。
その目には憎しみは無いが溢れるほどの悲しみがあった。
彼女は傷を、心を蝕み続ける傷を負っているのだ。
体の傷と違ってそれは治りにくいものである。
ただ、その傷はほんの少しだけではあるが、癒されていた。
その証拠に、悲しみ以外の色も見える。

「だ、大丈夫!私がクリスを守るから!」

ジルヴィア少佐がクリスティーナ少尉を懸命に励まそうとする。
ジルヴィアにとって、年の近い彼女は親友であり守るべき対象だった。
幼い頃から大人の間で軍人としての訓練を受けてきた彼女にとって。
少尉の存在はそれほどまでに掛け替えの無いものだったのだ。

故に、少尉と恩師と自分の姉を奪ったかの敵を憎み。
同時に偶然とは言え少尉を生かして帰してくれた敵に感謝していた。
コリーナ中尉にとってもそれは同じである。

彼女達三人にとってその敵、マリア=エルンストと言う存在は何とも複雑な人物だったのだ。
当事者たちの中で、知らぬはマリアのみである。

「ジルヴィアは、あの人と戦うんだよね……。」

「……多分。
 しかも今戦えば十中八九負けるだろう。」

三人とも思いは複雑である。
先程も述べたように、相手は仲間の仇であり恩人でもあるのだ。
態々敵を弔おうとするのだから戦場には似つかわしくない人物と言えるかも知れないし。
情け容赦なく敵を殺すのだから戦場こそ似合う人物とも言えるかも知れない。

しかも対峙すれば高確率で殺されてしまう。
止めは相手が九歳の少女である事か。
戦う理由は十二分に存在するが、様々な意味で戦いたくは無い敵だ。

「加えてガルム、かぁ~。」

「…………逃げてね?」

「……少なくとも私はそうしたいです。」

三人の苦悩は続く。




[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第十話
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4
Date: 2009/06/15 19:37
<一ヵ月後・アースラブリッジ・クロノ=ハラオウン>

血塗れのマリア、その凄まじい活躍に心が躍る前に寒気がする。
思わず仕事を忘れ、彼女の事を調べつくした。
……お陰で母さん……艦長やエイミィに変態扱いされてブリッジまで呼び出されたのだが、今は静かだ。
無理も無い、こんな記録を見てしまえば普通言葉を失くす。

個人の記録だけでも撃墜記録約500、内将校16人、中には佐官も含まれている。
それに小隊全員の記録も入れると一気に数は倍以上に膨れ上がる始末。
彼等の戦力は一個大隊に匹敵するとも言われているのだ。

全く笑えないが、記録を見てしまうと信じざるをえない。

この世界の佐官はミッドチルダの魔道師ランクで言えばAAAランク以上だ。
少佐がAAA、中佐がAAA+程度、大佐がS以上。
まぁ、魔力保有量重視の評価の為、それが正しい実力とは限らないが、そうである。

その中にいて、魔力保有量AAランクにして佐官を打ち倒し少佐になっている人物がいる。
それが彼女、マリア=エルンスト少佐だ。

……そう、以前僕が酷い誤解を受けた彼女である。
あの時の事は余り思い出したくない。

……管理局内では長距離戦闘に関して言えばSSランクに届くとも言われる彼女。
冗談でも何でもなく、対称面の狭い一直線状のみとは言えAAAクラスの攻撃を連射する彼女は最低でもSランク。
今や敵味方両方から恐れられる存在だ。
初めに僕もそう呼んだが、彼女の呼び名は血塗れ。
気に入った相手を殺した後は氷漬けにして弔う事から氷葬のマリアとも呼ばれている。

まぁ、その二つ名からも分かる通りにあまり好かれてはいない様子。
もっとも、彼女がいる前線にある町、サウスハンプトンではそんなに嫌われてはいないようだが。

この情報から彼女が人格者である事が伺える。
無表情と無愛想で有名な彼女を容姿だけで誤認するとは思えない。
……また、彼女が嫌われている理由も分かる。
彼女が嫌われているのはその異例の昇進速度と、その強さを嫌悪する故であろう。
要は妬みであり、軍の上層部が情報操作している影も見えた。
ブリテン王国軍上層部は彼女の存在を危惧し、戦後は管理局へ引き渡されるのだという噂まで流れている。
噂はあり得なくも無く、もし本当ならば管理局にとって願っても無い事だが……。
……果たして彼女が素直にいう事を聞くであろうか?
そこだけが、僕の疑問であり、危惧している所でもある。





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第十話 聖剣奪還







未だ沈黙の帳が降りているアースラブリッジ。
漸くといった感じでリンディ艦長が言葉を発した。

「……クロノ、この情報は確かなの?」

「はい、艦長。
 少々調べるのには時間がかかりましたが、確かです。」

僕の答えに、艦長は短くそう……とだけ言って再び情報に見入ってしまった。

「……酷いよ、子供にこんな事をさせるなんて……。」

同じくスクリーンの情報に見入ってしまったエイミィが言う。
気持ちは分からなくも無いのだが、実際に彼女を見ている此方としてはどうかと思う。
……少なくとも、彼女は周りに流されるような人物には見えなかった。

だが、訂正はしない。
エイミィにとってそういう現実は重過ぎる、と判断した。
今更ながら無理にでも彼女は置いてくるべきだったと後悔する。

「これが戦争だ。
 エイミィ、少なくとも終戦までは管理局が介入する事は出来ないぞ。」

下手に管理局が介入し続けると、終戦後のお互いの関係に亀裂が入る。
戦後に直戦争をするなど愚の骨頂だ。
……まぁ、戦力的に見ても疲弊した王国が戦争を決断するかは分からないが。
少なくとも管理局に対する感情は悪化するだろう。

「……私だってそのくらい言われなくても分かってるよ。」

何処か機嫌を損ねたように言うエイミィ。
だが、直に有難うと小さく言ってきた。

そう言ってもらえると、憎まれ役も悪くないと思えてくる。
様々な場面において理解ある人物は重要だ。

「クロノ、この子の詳しい魔道師ランクとか分かる?」

「いえ、残念ながら。
 やはり、正式な過程で軍に入った訳ではないようなので。」

「そう、まぁ当然よね。
 元々は軍の広告塔として利用されていたようだし……。」

顔を不愉快気に歪めながら言う艦長。
念の為に一応聞いてみただけと言う事か。
顔の歪みはきっと己のふがいなさを表している。

……エイミィの表情も先程よりも更に歪んだ。
此方が表しているのは悲しみと憤りか。
彼女の感情を否定する事を僕は出来ない。
その憤りもまた、少なからず自分自身へ向いているのだろうから。

艦長の言う通り彼女は元々軍の広告塔で、要らなくなったから前線へ送られた。
此処までなら悲劇のヒロインとでも言うべきだろうが、このヒロインは少々凶悪すぎた。
強さは先程言った通り、詳しい情報は分からなかったが前線基地で着任早々決闘騒ぎまで起こしている。
嘘か真か相手は佐官で、しかも彼女の圧勝だったと言う。

…………本当なんだろうなぁ。

多分間違いないだろう。
その証拠に彼女はその次の日には敵のエースを単独で撃破している。
何でも相手は歴戦の少佐で、彼が率いていたのはこれまた歴戦の中隊だったと言う。
彼女が隊長を勤めているのはガルム『小隊』だ、洒落にならん。

「彼女、アースラに引き抜けないかしらね……。」

「正気ですか艦長!?」

また母さ…艦長の悪い癖だ。
艦長は若くて優秀な人材を見ると無理やりにでも引っ張ってくる時がある。
無論、そこには打算も善意もある。
一概に悪いとも言えない行動だが……。

ただ今回は……。

「あら、勿論終戦後…」

「そういう問題ではなく、恐らく彼女は無理です。」

「………何故かしら。」

艦長が目を細めて真剣に聞いてくる。

……前会った時に感じた事なのだが。

「恐らく彼女は死と言う概念を受け入れています。
 また、戦士である事に誇りを持ち、そこに隙は無いでしょう。
 少なくとも、彼女は管理局とは相容れないと思います。
 ……寧ろ侮辱すれば此方が唯では済まないかも知れません。」

僕の答えに艦長は納得して、考え込みながら呟いた。

「……そう言えば、彼女は管理局には良い感情を持っていないんだったわね。」

「ええ。」

「……そんな。」

僕に遅れてエイミィが何故と言う顔でそう呟いた。
彼女の顔色は驚く程に悪く、信じられない事を聞いたかのようであった。
事実信じられないのだろう、そんな考えを持つ幼い子供がいる事を。

しまった!……先程エイミィには言わないでおこうと考えていたばかりじゃないか。

僕は思わず内心で舌打ちをする。
……艦長がするかも知れないが、後でフォローが必要だろう。

「……一先ず、この話はおいておきましょうか。」

艦長が複雑な声で言った。
子供を戦場へ送り出すと言う点で言えば管理局も同じ様なものである。
此方は非殺傷設定を使うが、相手が必ずしも使ってくれるとは限らない。
いや、当然の如く使わない事の方が多いだろう。
何せ相手は犯罪者である。
殺す覚悟はしなくて良いが、殺される覚悟は必要だ。
……いいや、時と場合が許さなければ殺す覚悟も必要か。

「艦長!緊急事態です!」

悪い空気が漂うアースラブリッジに、エイミィの声が響き渡った。
先程から落ち込んでいた彼女が突如張り上げた声、余程の事なのだろう。
ブリッジの陰鬱とした空気も一気に吹き飛んだ。

「何事ですか?」

艦長の冷静な声が周囲に響き渡った。
それはエイミィを含めた周囲の人間に少々の落ち着きを与える。
こういう時に落ち着いた艦長の雰囲気は流石だと思える。
……これで僕をからかったり変なお茶を飲んだり飲ませたりしなければ……。

「聖剣が、強奪されました!!」

「何ですって!?」「何だと!?」

どうやら、そんな下らない事を考えていられるほど事態は甘くないようだ。







<マリア少佐>

この一ヶ月で随分と俺も強くなったと思う。
まぁ命を懸けた戦いだ。
こう言う所でも程ほどのリターンが無ければ困る。

そう、此処で生活を続けてきて既に一ヶ月。
戦場の空気にもかなり慣れてきたと言って良いだろう。
俺が未だに生きている事を考えればまず間違いない。
殺人に対する抵抗感は薄くなり、生への執着心は尚強まっている。

あの戦闘が終わってから一ヶ月半経過した。
此処での生活にも大分慣れてきた感じだ。
悪くは無い。
訓練や任務、その他疲れる事も多々あるのだが、逆に言えば充実している。
余裕のある昼や、休日には猫飯へ料理を食べに行ったりもしている。
あそこのウエイトレスは非常に和むんだが存在が謎だな。
後、この前はフィーネ中佐が手料理を披露してくれたりもした。
美味しいと言って頑張って笑ったら母さんとアンナちゃんが対抗意識を燃やして大変だったが。
たまーにクレメント夫妻の来襲があったりするが、やはり問題ない。
何せ俺にはストレス発散に付き合ってくれるイリーナ大尉と言う心強い味方がいる。
……ん?ああ、勿論イリーナ大尉が何かしでかしてくれた時だけさ!
いや、ホント懲りずに何か問題を起こしてくれるからな。
まぁ、勿論加減もしてるし本当に嫌がったら止めるんだが…………。
……最近は何だか年下に負ける不甲斐ない自分に嫌気がさしたのか良く訓練をしてくれといってくる。
うん、本当に真面目だ、息を切らして顔を真っ赤にしてまで向かってくるんだから。

さて、行き成りだがお知らせがあるのだ。
俺にとっては非常に重要な内容の事。

俺のレアスキルは皆さんご存知の通り。
俺の戦闘方法の要にもなっている魔法維持だ。
このレアスキル、かなり優秀で維持する魔法の数は無制限。

……しかし、二週間ほど前か思わぬ限界を発見した。
このレアスキルは確かに数には限界が無いが、規模には限界があるようなのである。

どう言う事かはお分かりだろう。
スターライトブレイカークラスの魔法は維持出来ないと言えば更に分かりやすいか。
……分かり難くなった?……ああ、あの魔法めちゃくちゃだもんなぁ。

……うん、この前のインゴベルト少佐との戦いで作った大剣!
アレよりももう少し行った所が限界だ。
この前念の為にと大量の弾丸と渾身の魔力を込めて再度作ったんだが……。
途中で唐突に維持に限界が来たのが分かった。
あのままやっても爆発したりはしなかっただろうが、魔力の流出は抑え切れなかっただろう。
無論その大剣はとっておいてある。
どうやら使う時に維持分とは別に魔力を込めるのは大丈夫な模様。

やってみた感じ、どうやら俺の魔力保有量が関係している感じがする。
……いや、リンカーコアか?
まぁ、今はどちらでも良い。
維持限界と、その限界が上がる可能性があるだけで十分だ。

「マリア少佐、緊急出撃指令って何なんですかね?」

「……ろくな事じゃないのは確かだろう。」

うん、今の会話だけで十分だとは思うが、一応言う。
歩いている場所は基地指令の性格が現れている綺麗に磨かれた廊下。
俺達は今、緊急出撃指令の内容を聞くために司令室へ向かっている。
伝えに来たのがアルベルト中佐で、彼も内容は知らないとの事だから余程の事だろう。
ほぼ間違いなく王国側のなんらかしらの失態の尻拭い。

「殺した敵兵の数に合わせて褒章があるのは良いんすけどねぇ。
 こう忙しくっちゃぁ使う時間もねぇ。」

アントニウス少尉がそうぼやいた。
だが、その台詞は俺にとっては聞き捨てなら無いものだった。

「……この前小隊全員が色町に颯爽と繰り出していたようだが?」

「い!?……何でご存知で?」

こいつらこの前の休みに全員でその手の所回ってきやがった。
俺はもう既にそれをする為のものが無い。
ぶつけ所の無い憤りを感じずにいられるものか。

ちなみに、この情報は猫飯のウエイトレスから得たものだ。
やはりあいつら唯もんじゃねぇぜ。

「……いや全く、ご一緒できなくて残念だよ。」

本当にな。

「い、いや、あのですね少佐。
 俺達も男な訳で……。」

少々困ったような表情を浮かべる少尉。
そんな彼に向かって俺は理解の色を瞳に乗せながら言ってやる。
……まぁ顔は無表情だが。

「分かってるとも、男がケダモノだとも、な?」

何せ元男だもの。

「…………。」

少尉は少々項垂れながら黙ってしまった。
俺は目を瞑って、少し頷きながら彼の背中をポンポンと叩いて慰めてやる。

いや、しょうがない事も分かってはいるがな……口には出さんが。

アントニウス少尉、いや、おっさんは少し泣いた。

無表情に(性的な意味で)理解ある視線を向ける幼女。
無表情な幼女に(性的な意味で)理解ある視線を向けられるおっさん。
……ああ、シュールかも。

少々涙ぐんでいるおっさんと無表情の幼女。
司令室に訪れた俺達を、ハロルド大佐が何とも言えない顔をしたのはしょうがないかもしれない。







<ハロルド大佐>

私はやってきた二人に今回の緊急任務の内容を伝えた。
……最初二人が入ってきた時の様子の異様さに驚き、暫し思考が停止したが何とか復帰できた。
この連中は私を驚かす事がとことん好きらしい。

「……聖剣の奪還!?」

故にアントニウス少尉が驚いた事には過程は如何あれ少々溜飲を下げられた。
…………いや、私は最近少々疲れているのかも知れんな。
見れば内容を聞いたマリア少佐は普段の無表情を少々崩し、実に不愉快気な表情を浮かべている。
……彼女の表情は相変わらず分かり難いな。

まぁ、自分たちが必死に前線を守っている間に、平和ボケした後方の連中が致命的なミスをすれば当然か。
更に言えば彼女は聖剣などに誇りを持っている様子。
許容範囲内故に私も文句は言っていないが、今回の件ではかなり自身の矜持を傷つけられたのだろう。
誇るべき王国軍がこの体たらくでは、な。

「情報によれば盗み出したのは次元犯罪者集団の連中だそうだ。
 中には連中のリーダーの姿も見えたらしい。」

「はぁ、専門の連中が動き出したって事ですかい。
 ……痺れを切らしたんですかね、最近はマリア少佐のおかげで此処も楽ですし。」

そう、この前の作戦で帝国は大分疲弊している。
元々ここは量で攻めてきてもそう簡単には落とせないような戦力だった。
そこに対集団戦闘のスペシャリストが加われば、と言う訳だ。
その後攻めてきた連中も例外なくほぼ殲滅できている。
その中でガルム小隊と彼女の戦果は群を抜いて凄まじい。

「時空管理局の協力で敵の転送魔法は阻止できているようだ。
 しかし、敵は既に円卓へ逃げ込みそこから帝国へ向かう積りでいる。
 そこまで逃げられれば管理局も手の出しようが無い。
 最悪、聖剣は敵の手に渡って取り戻せなくなるかも知れん。」

「……転移魔法ってのはそんなに簡単に阻止し続けられるもんですかい?
 態々円卓まで逃がすのは管理局に手柄をやらん為でしょうが。」

「阻止のタイミング的には正に奇跡的……まぁ、十中八九罠と言う訳だ。
 聖剣が敵の手に渡っている以上それの使用の可能性もある。」

私の言葉を聞いた二人がげんなりした表情を浮かべる。
気持ちは分かるが、上官の前でそういう顔は止めてくれないものか……。
目の前の二人に言っても無駄だろうな。
実際は聖剣による一撃を貰って王城が半壊した所為もあるのだが……。
これを言ったらマリア少佐がクーデターでも起こしそうだ。
ガルムを如何にかするとなるとこの基地の三分の一の兵力が必要になる。
……まぁ、少佐ならばそこら辺も自制すると思うがな。

「まぁ、そう悲観する事もない。
 今回は管理局と王国軍の強力な援軍が来るそうだ。」

「……泣き付いて呼んだ管理局と点数稼ぎの王国軍か……。
 まぁある意味期待できるな……。」

相変わらずキツイ言い様だ。
だが、優秀で任務をきっちりとこなす彼女を私は嫌ってはいない。
彼女は交戦した敵を決して逃さず皆殺しにする。
彼等を逃がした時にそれが何時か報いとなって帰ってくることを確り知っているのだ。
味方に優しすぎる所は多少はあるが、唾棄すべき役立たずを容赦なく消す一面も見せている。
まぁこの前編成に文句を言いつつも書類を手伝われた時は、私も思わず苦笑してしまったがな。
現在のこの基地に、彼女は欠かせない存在だ。

「ではガルム小隊、頼んだぞ。
 王国の威信は文字通り君達に掛かってる。」

【了解!】

少々冗談めかした私の言葉に二人は真面目に、しかし不敵に笑いながら答えた。

全く以って頼もしい限りだ。
彼等がいれば、きっと大丈夫だろう。







<マリア少佐>

聖剣奪われるとかマジで洒落になってねぇ。
権威の象徴とか余り興味ないけど、敵勢力の戦意高揚と此方の戦意喪失が洒落にならん。
先ず避けえぬ事だろう。
仕舞いにはクーデターでも起こしてやろうか。

「王都の連中も何やってんですかねぇ。」

アントニウス少尉がぼやくように言う。
確かに王都の連中は如何にも平和ボケしすぎている。
前線にいる連中の苦労が全く分かっちゃいない。
戦後のクーデターとか起きなけりゃ良いけど……。
まあどっちにしろ……。

「……我々は任務を遂行するのみ。」

うん、そう言うこったな。
口がたまに勝手に動くのはどうにかならんか?
……如何にもならんな。
自分で言うのもなんだが、今の俺の声でこういう台詞を聞くと改めて変だな。
まぁ、そこまで甲高い声じゃないのが救いか?

「ま、そうですね。
 ……なんつぅか今回の作戦って十中八九少佐狙いの罠じゃぁないですか?」

「…………かもな。」

やべぇ、ありそう。
此処最近景気良く殺しまくってる所為でもう俺大人気!
……いや、何か此処以外の場所では味方にも嫌われてるらしいけど。
つぅか、此処にも俺を嫌ってる人間はいるけどな、数は少ないけど。
…………本格的に泣きたくなった。

「ハロルド大佐から貰ったデータによると……聖剣ってのはとんでもないもんですね。」

「……魔力生成装置兼高出力長距離レーザー発射装置、か。」

マジ半端ねぇ。
まんまエクスキャリバーじゃねぇかよ。
しかも無限に撃てる。

「まぁ、少佐を倒そうと思ったら聖剣でも持ち出さなくちゃぁ無理かも知れやせんが。」

「…………。」

流石に買いかぶりすぎだぜアントニウス少尉。
最近じゃぁ大分自信もついてきたけどな?
毎日毎日って訳じゃねぇが死と隣り合わせな訳で…………素直に喜べんよ。

「貧乏くじ引かされた事にゃ変わりやせんね。」

「……全くだ。」

アントニウス少尉の溜息が聞こえた。
俺も溜息を吐きたかったがそれより先に作戦を考える。
王国からの援軍は少々遅れるそうだ。
かと言って作戦開始時刻を遅らせる訳にもいかない。
この事態は非常に面倒くさい且つ陰謀臭くもあるが……。
さっきも言った通り俺達はやるしかない。
最近順風満帆だったってのになぁ……まぁ。

「敵がレーザーならこっちもレーザーで対抗してやろう。」

「…………また何か作ったんすか?」

アントニウス少尉が呆れ顔で言ってくるが気にしない。
インテリジェントデバイスにはまだ遠いが、ストレージデバイス作りにおいてはかなりの腕になったと自負する。
まぁ、俺のデバイスは特殊過ぎて他の連中には使えんし、レアスキル頼りの所も多いけどな。
……この前白衣でデバイス作りしてたらアンナちゃんにマッドみたいって言われたのはショックだった。
入れ知恵したイリーナ大尉には格闘訓練をみっちりしてやったが……。
う~ん、新しい御仕置きを考えねばならんか?

「……ケツバット?」

「は?」

「いや、何でもない。」

俺達は小隊の待つ会議室へと入っていった。







全く、本当に面倒だよな。
何で俺らが王都の阿呆どもの尻拭いを……いや、少なくとも今指揮官である俺が考えるべき内容じゃぁない。
さっさと作戦内容を伝えねばならん。

「今回の任務の目的は奪われた聖剣の奪還だ。」

小隊全員がざわめきだす。
まぁ当然。
こっちが前で必死で戦ってるってのに後ろで阿呆共が行き成り致命傷を負わされたのだ。

俺は彼等を無視して続きを言う。
内容はハロルド大佐に伝えられた内容そのまま、罠である確率が高い事も含めて言った。
聞き終わった小隊の反応は皆一様にうんざりと言った感じ。
しかし、直に立ち直って聞く姿勢をとった。
ここら辺は流石だ、俺も安心して続けられると言うものだ。

今回の作戦の内容は……まぁ、簡単だ。
大体はこの前とあまり変わっちゃいないさ。
ただ、今回は管理局の連中が加わっていて、先制攻撃は向こう側にくれてやると言うだけだ。

これが罠なら、十中八九聖剣のその攻撃力で最低でも俺を持っていく積りだろう。
いや、事実敵の援軍が迫っているという情報もあった、或いは既に配置されているのか。
纏まって行ったら即座に全員お陀仏する可能性が高い。
だが、ハロルド大佐から渡された資料にある通りの威力なら、防げない事も無い。

IWS2000で攻撃すると言う手もあるが、万が一にも聖剣に当たって壊れでもしたら目も当てられん。
対象には確実に当たるが、何処に中るかまでは予想がつかない。
聖剣もロストロギア故に簡単に壊れはしないだろうが……傷がつく可能性はある。
……面倒な。
IWS2000が一点突破型故に使えないとは。

小隊連中に作戦を伝え終わった頃には管理局の連中が到着していた。
武装局員の錬度は見たところ中々高そう。
ガルムまでとはいかないだろうが前に戦ったインディゴ中隊レベルはあるか?

指揮官は……クロノかよ。
何か小隊の連中が物凄い勢いでクロノを睨みつけております。
良く分からんがこの前の一件がまだ尾を引いているらしい。
クロノマジでビビってる。

俺は何だか疲れを感じつつ、小隊連中を手で制した。
クロノの感謝の瞳が正直ウザイ。
……まぁ、ガルムの連中に追いかけられれば当然か。

「……久しいな、クロノ=ハラオウン執務官。」

と、手を差し出しつつ俺。

「お久しぶりです、マリア=エルンスト少佐。」

差し出した手を握り返しつつクロノ。
お互いに基本無表情だから友好的には見えんかも。
まぁ、俺はこいつの事嫌いじゃないけどな。

「今回の作戦では、私の指揮下に入ってもらう事になるが……構わないか?
 無論、確り仕留めてさえくれれば非殺傷設定で構わん。」

「……ええ、宜しくお願いします。」

クロノは丁寧に返してくるのだが……う~ん。

「……人死にに慣れていない奴はいるか?」

俺の質問にクロノの表情が少々強張った。
……そうか、こいつ自身そこまで人死にに慣れている訳ではないか。

「……いえ、問題ないでしょう。」

気丈に振舞うクロノに、俺はそうかとだけ返す。
まぁ、こいつならば大丈夫だろう、強がりを通すだけの力はあると見た。
こいつも男、大丈夫だろう。

「すまんが、少し時間を貰う。」

「?ええ、構いません。」

でかい戦場へ行く前なんだ。
戦意を鼓舞する演説の一つもなければなぁ。
俺にとっては何とも締りの悪い事になる。
死ぬ覚悟ってのは相変わらず出来ていないんでな。

それにしても、こういった行為も今では大分慣れたのもだ。
俺は予め考えていた言葉を言う事にする。
この体になってから記憶力は上がった……魔法の訓練のお陰もあるだろうけどな。

俺は、管理局の連中から目を逸らして、小隊を向いて口を開いた。

「……今回の任務は自分の下の世話もまともに出来ん後方の阿呆共の尻拭い。
 要は連中がオムツを穿き忘れてしまったらしいと言う事だ……。」

俺の言葉に、管理局の連中が驚愕し、小隊の連中が大きく声を上げて笑った。
困難な任務の前でも彼等は余裕を失わない。
一見頼りなさそうなカール上等兵でもそうである。

「連中の締りの悪いケツから漏れた糞の滓を始末するなど私もしたくは無い。
 だがしかし、聖剣奪還は果たさねばならぬ事。」

失敗したら評価下がるし、つぅか俺死ぬし。

小隊の連中は笑い声を止め、管理局の連中は未だ停止している。

「……そう、我々が王国の兵士であり続ける限り、責務は果たさねばならぬ。
 先ずは帝国に組する、両生類の糞ほどの価値も無い次元犯罪者どもを皆殺しにしなければならない。」

俺はそこで一旦言葉を切り、小隊を見つめて言う。

「敵兵を皆殺しにし、敵国の戦意を奪わなければ平和は来ない。
 殺さなければ殺される、そんな当たり前を究極の形にしたのがこの戦場だ!
 我々の戦場だ!

 諸君、私は殺戮を、地獄の様な殺戮を望んでいる。
 諸君、私に付き従う小隊戦友諸君。
 君達は一体何を望んでいる?

 更なる殺戮を望むか?
 情け容赦のない糞の様な殺戮を望むか?
 鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様な殺戮を望むか?」

【Genocide!(殺戮)Genocide!(殺戮)Genocide!(殺戮)】

日常から見ればかなりいかれた熱気だ。
だが、戦場へ向かう前はこれぐらいで丁度良い。
日常のぬるま湯から戦場と言う極寒へ移行するのだから。

「宜しい!ならば殺戮だ!
 我々は渾身の力を込めて今まさに噛み砕かんとする番犬の顎門だ!
 ……だが、王国の権威を踏みにじられた我々に、唯の殺戮では最早足りない!

 大殺戮を!
 一心不乱の大殺戮を!!

 次元を跨ぐ糞共に我々の存在を教えてやろう。
 髪の毛を掴んで引きずり降ろし、眼を開けさせ思い知らせてやろう!
 連中に我々の生み出す恐怖の味を刻み込んでやる。
 連中が二度と忘れられぬように、我等の姿を目に焼きつかせてやろう。
 次元世界の狭間には、奴らが想像もしないような化け物がいる事を思い知らせてやる!」

俺は、右手を眼前で握り締めた後、解き放つように右へ振りながら言った。

「我等ガルム一個小隊で、糞蛆虫共を地獄へと叩き込んでやるぞ!!」

【YAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!】

周囲を飲み込む異常な熱気。
細まる視界。
自身の顔に笑みが浮かんでいるのを自覚した。
僅かな笑みだろう、しかしきっと、野獣のような笑みだろう。

…………大分過激だが言ってる事は可笑しくないだろ?
別に殺しつくさなきゃ平和はこない何ざ思ってないが……効率が良い事は確か。
まぁ、うん、これ以外思いつかなかった。

小隊連中の戦意は既に最高潮だ。
日常と戦場で雰囲気を切り替える技能に彼等は長けている。

「……マリア少佐、貴女は…」

「クロノ執務官、少々お待たせしたな。
 ……出撃しよう。」

クロノが何か言いかけるが、それを制して出撃を伝える。

「っ……了解。」

管理局の連中にとっちゃ許容できない内容であることは分かる。
しかし、これが俺達だって事は分かってもらわなきゃならん。
この演説は戦意高揚の演説であると共に、管理局連中の覚悟を決めさせる演説にもなっただろう。

そうして俺達は戦場へと向かった。







<クロノ=ハラオウン執務官>

可憐な容姿と、老成しているとは言え幼さを残す声の少女には到底似合わない演説だった。
しかし、何処か引き込まれてしまうような魅力があった。
或いはこれが彼女の彼女たる所以なのか。

マリア少佐は此方が想像していた人物よりも遥か上を行っている。
この演説の様子はアースラのブリッジでも見ていただろう。
普段ならば許されはしないが今回は特別だ。
恐らく、これで艦長も彼女を管理局へ入れたいとは思わない筈だ、思えない筈だ。
あの冷徹な意思を秘めた瞳、彼女は一人の人間として既に完成されている。
敵兵を殺しつくしてその血肉の上に平和を築き上げる。
そう、既にああある事が彼女にとっては正しい事なのだ。

≪クロノ君……。≫

≪エイミィか。≫

≪あの子は、あれで良いのかな。≫

エイミィは柔軟性のある思考の持ち主だ。
しかし、こういう事になると如何にも悩むのが悪い癖……。
いや、人間としては間違っていないが。

≪彼女は、あれで良いのだろう。
 残念ながら彼女と我々の思想は違う。≫

≪…………そっか。≫

やはり何処か寂しげな声を発するエイミィ。
……慰めるのは苦手なんだが。

≪……慰めにはならないかも知れないが。
 彼女は我々の思想をある程度認め、今回は矛先を揃えてくれている。
 それは救いにならないか?≫

僕がそういうと、暫くしてエイミィの念話から小さな笑い声が聞こえる。

≪クロノ君、ホント慰めるの下手だよね。≫

≪う、五月蝿い!念話はもう切るからな!≫

こっちが頑張ったってのに……。

≪クロノ君……有難う。≫

最後に聞こえた呟き、僕は聞こえなかったふりをして念話を切った。
…………慣れない事はするもんじゃないな。







<マリア少佐>

作戦成功率については程ほどの値を確保出来ている。
だが、聖剣なんて化け物相手と言うことが如何にも俺の精神を蝕んでいた。

≪大丈夫なのか?≫

クロノか?
心配性だな……今は有り難いが。
お前等にとっちゃロストロギア持ちを相手にして勝率がこれだけあれば十分だろうに。
……感謝の言葉よりも軽口で返すほうが俺らしいか。

≪……私の心配をする暇があったら自分のケツでも隠してろ。≫

≪ぐっ…了解。≫

真面目な奴め、軽口には軽口で返すのが礼儀だろ?
…………ありがとよ。
何、死にはしないさ。

既に小隊と管理局の連中の配置は終わっている。
後は俺が出て行くだけだ。

俺はAL-37FUを起動して空へと舞い上がった。

今日の円卓は何時も以上に風が強い。
……嘗て聖剣を持った王者が戦った場所は此処だという。
或いは王者の剣が戻ってきた事に歓喜しているのか。
だが、今この場この時王者は聖剣を携えたものであってはならない。
俺達ガルムであらねばならない。
偽りの王と呼ばれようとも関係ない。

誇りも糞も関係なく、生き残る為に俺はこの円卓の空を飛ぶ。

そして――

「ロンギヌス、起動。」

――最後まで戦い抜いてみせる。







<次元犯罪者集団・誇りを略奪する者・リーダー・踏み躙るグレゴール>

俺達は最大の注意を払いながら円卓の空を飛んでいた。
俺達が持っていた十km四方を探知できる高性能レーダーを使っている。

我々は、いや、帝国は常に聖剣周囲を観察していた。
流石国の宝だけはあって聖剣の警備は厳重。
相手が巨大な国だけに我々でも正攻法では盗めなかった。
よって今まで帝国に組する事でそれを奪い取ろうとしていたのだが……。
その警備に突如穴が出来た。

最初は罠かと疑ったのだが、警備が緩んだ原因は唯単純な怠惰。
戦争とその戦争が起きた理由を実感できず、緩んだ心に隙が生まれた。
ただ、それだけだった。

聖剣が盗みだせる、強力なロストロギアである聖剣は戦力になるだろう。
だが、我々の契約は聖剣を手に入れるまでだった。
聖剣さえ手に入れれば後は如何でも良いのだ。

だが、帝国にしれみればそれは困る内容だった。
よって連中はある条件を出してきた。
劣勢の今を変えられるのならば仕方がないと提示してきた妥協案。

一つは聖剣を盗み出す時に出来る限りの破壊工作と聖剣自体による破壊行為を行うこと。
これは既に完遂した。
お目付け役のジルヴィア少佐殿も満足の結果だった…………と言うか何かビビってた。
聖剣で王城を攻撃した時は流石の俺も興奮したものだ。
こいつの威力は目に焼きついている。
巨大な王城は、唯の一撃で半壊した。
自らが誇りとしている聖剣に焼き払われたのだからあいつらも満足だろう。

もう一つは……ガルム小隊とやらを潰す事。
俺も最初は高が小隊と思っていたが……連中の戦果には度肝を抜かれた。
噂には聞いていたが噂そのままの強さってのは中々無い。
奴等の頭に関してはロストロギアかと思わんほどの力を持っていた。
連中がこいつらさえと思っても仕方が無い……が、どっちみち帝国に勝ち目は無いだろうな。

警備に穴が開いていたとて普通の盗みよりも遥かに危険な事には変わりない。
だと言うのに半ば強行したのは帝国に勝ち目が無いからだ。
相手が王国だけなら、俺達が聖剣を携えてこのまま戦場を駆け巡る事で盛り返せるかも知れんが。
連中の背後には管理局だって存在しているのだ。
例え劣勢を盛り返したとしても王国が奴等を頼れば結局イーブン。
帝国の連中は管理局の脅威をまるで分かっちゃいない……教えなかったんだけどな。

負けと引き分けがあっても勝ちが無い勝負なんてしたくはないだろう?
結局逃げるのならなるべく早く確実な方が良いに決まってる。
……まぁ、そう言う訳だ。
連中が俺らから聖剣を奪い取る積りでも逃げる算段は十分に出来ている。

正直俺達も今回の盗みは失敗かと思っていた。
だが、諦めきれずにずるずるとやってきていた。
連中の俺達に対する待遇も悪くは無かったし、その他の事で収入もあったからな。
まぁ、それが功を奏して聖剣は今俺の手の中にあるのだから何れにせよ結果オーライだが。

それにしても……。

「それにしても、だ。
 本当に美しいものだな、聖剣というのは。」

思わず感想が声に出てしまったのは仕方が無いだろう。
剣としての性能は言うに及ばず魔力生成機能に高出力魔力レーザー発射機能。
間違いなく一級品のロストロギアで、その造形美は超一級品の芸術作品だ。
何よりこいつにはこの世界の連中の誇りが詰まっている。
ほら、今も俺の隣にいるジルヴィア少佐が恐ろしい目で睨んできている。

「持ってみるか?」

何となく意地悪気にそういってやると……。

「え!?良いのか!?」

…………予想外の反応。
こいつはきっと、かなりハイレベル(馬鹿)だ。

「…………ほれ。」

俺達の周りには既に強力なプロテクションが張ってある。
まぁ、一発ならばあの血塗れの出鱈目な一撃にも耐えられるだろう。
戦場の映像と解析データを見た時は開いた口が塞がらなかったが。
最悪カートリッジを使用すれば良い。
ジルヴィア少佐は、死ぬだろうがな。

「おぉ!?……おぉ~これが聖剣か。」

手に持っているのが聖剣と言う名の凶器でなければ、まるで珍しいものを見た普通の少女に見える。
……いや、監視を任されるくらいならば戦場を経験してない筈が無いが?
と、言うか今自分が如何に危険なことをしているのか分かっているのだろうか?

「うむ、有難う。
 結構良い奴だな!」

ジルヴィア少佐はそう言って剣を返してきた。
眩しい笑顔まで浮かべているしまつ。

「……………どういたしまして。」

こいつは予想を超えるハイレベル(馬鹿)さだ。
純朴な笑顔を見ていると俺の僅かな良心が締め付けられる。

「う~む、それにしても本当にあの血塗れを倒せるのか?」

「む…………盗賊風情は信用なら無いと言うことか?」

俺がそう言ってやるとジルヴィア少佐は目に見えて動揺した。

「ち、違うぞ!ホントだぞ!
 ほら!聖剣もこうして無事盗み出せたし!」

「くっくっく。」

その少佐の様子に俺も俺の仲間も皆笑っている。
最初見た時は堅物だと思っていたが中々どうして面白い。
何ともからかいがいのあるお嬢さんと言った所か。

……これで、凄腕の魔道師だというのだから世の中如何にかしている。
まぁ、それを言ったら敵の血塗れも外見と強さが一致していない。
…………結構二人は似ているのかも知れんな、ある意味正反対だが。
例の血塗れが陽気な性格をしているとは思えない。

「む、からかったな?
 私はからかわれる事が嫌いだぞ、グレゴール。」

「はは、すみませんお嬢様。」

「…………馬鹿にしているな?」

さてさて、俺達で血塗れに勝てるのか、か。
如何答えたものか。
単純に聖剣でふっ飛ばせば良いから勝てる?
いやいや、連中を舐めちゃいけない。
要は真正面から来なければ良いだけだ。
分散してくるかも知れんし、或いは超スピードで一気に接近してくるかも知れん。
そうだな…………。

「連中だってこれが罠だって事は分かっている。」

俺が話し始めるとジルヴィア少佐は真剣な顔になった。
真面目なのは良いが、誤魔化されているって言う自覚はあるのか?

「連中は俺達を逃がす訳には行かない。
 やはり、罠だと分かっていても来るだろう。
 だが、聖剣の威力は連中が良く知っている通り。
 迂闊に来ればあっと言う間に消し炭以下だ。」

「うむ。」

「俺が連中ならこう考える。
 要はさっさと一度聖剣をあいつらに使わせちまえば良い。
 チャージの時間は暫く掛かるだろ?
 そうだな……遠隔操作で遠距離から攻撃できるものを用意するのが一番か。
 まぁ、手が聖剣しかないならこっちの負けって事だ。」

俺が説明を終えるとジルヴィア少佐は呆れた顔をした。

「何かあるんだよな?」

「勿論。」

ほっとしたようなジルヴィア少佐の顔に思わず笑いが漏れる。
いやいや、中々良いリアクションをしてくれる………?
一瞬顔が曇ったようだが………。
まぁ、俺には関係の無い事か。

敵さんが真正面から来るなんて愚考を犯さなきゃ普通負けるわな。
ま、何れにせよ罠にかけているのはこっち。
俺達の罠は食い破れるほど甘くは無い………。

…………突如強い風が吹き始めた。
何かを迎え入れるかのような風だ。
戦場の空気が一気に場に満ちた。
勘が来ると告げてくる。

「…………?
 どうした?」

「…………来るぞ。」

俺がそう告げると、ジルヴィア少佐は何も言わずに両刃剣型デバイスを構えた。
構え方にも覇気にもまるで隙が見当たらない。

……なるほど、監視を任されるだけの力量はある、か。

俺達もプロテクションに魔力を注ぎ足し強化する。

「敵、レーダー圏内ギリギリに捕捉しました。
 容姿から恐らく、血塗れ。
 高速で接近中です。」

「………。」

正気か?捨て駒になる気か?

俺は少し信じられず、自分でもスコープを使って確認する。

…………間違いない、血塗れだ。
…………手に持っているのは、大型のデバイス………?まさか!

「撃ち合う積りなのか?
 まさか……正気か?
 聖剣と?一級品のロストロギアだぞ?」

俺は信じられないながらも聖剣を構える。

「エクスキャリバー発動準備。」

既に何時でも放てる状態になっている。
ただ、少し魔力を込めて撃ち放つ意思を込めれば聖剣は発動する。
こいつの威力はS+以上、それに込められた魔力は計り知れない。
防ぐにはSSランクの魔道師でもなければ無理だ。

「敵更に接近!残り五km!」

っっ!迷っている暇は無いか!

俺は魔力を聖剣へ込め、敵へ向けて撃ち放つ意思を込めながら掲げた。

「エクスキャリバー、発動!!」

そして、聖剣の輝きは違う事無く敵へ向かって放たれた。







<ジルヴィア少佐>

国を挙げて、唯の一人を完殺する。
仇の、恩人の最後を見るために私はこの作戦に志願した。
……だが。

「ああ、ああ、あああああああ!」

口から漏れ出す声が止められない。

聖剣の輝きは放たれた。
先程一度解放した時にも見た輝きだ。
何よりも美しい筈のそれ、全てを焼き尽くす白の極光である筈のそれは今。

「馬鹿な!馬鹿な!こんな馬鹿な事があって堪るものか!!」

血塗れのマリアから放たれた藍色の極光と衝突し、相殺されていた。

血塗れの名に相応しくない深い藍色は、まるで揺らがぬ彼女の心のあり方の様に。
そして、インゴベルト少佐を思い出させる色でもあった。

私の口は正確な言葉を紡ぐ事が出来ず。
グレゴールは目の前の光景を必死に否定していて。
他の人間はこの恐るべき光景に何も言えずに居た。

白と藍色の極光はぶつかり合い激しい衝撃波を生み出している。
紛う事無くこの世界の人間では紡げる筈の無い光景。
自らが誇りとしている筈の聖剣の威光を、しかしその手で否定する。

偽りの主ではその力を扱えないとでも言うつもりなのか!奴は、奴は!あの――

――化け物は!!

眩しい光で最早まともに目を開けることも出来ない。

プロテクションを必死に張って耐えるしか出来ない。
心なしか身を貫く衝撃が強くなってきているような……。

私にとってこの世の終わりのような光景は、しかし、やがて終わりを迎える事となる。

極光は消え去り、衝撃波は止んだ。
聖剣からも既に威圧感は感じず。

……しかし―――

「…………This is my gun.(これこそ我が銃)」

――代わりに三連続の轟音が鳴り響いた。
水気を含んだ、何かを粉砕する音が聞こえてきた。

この戦場の、王が来た。

「There many like it, but this one is mine.(銃は数あれど我がものは一つ)」

続く続く、轟音はまるで止まらない。
三度轟く度に命が一つずつ潰えていくのを感じてしまう。
頭を冷静に、震えを必死に押し殺す。

「My gun is my best friend.(これぞ我が最良の友)」

見えているのか、何故?……いや、魔力を感じ取っているのだ。

「It is my life.(我が命)」

ならば、私にもきっと感じる事が出来る筈だ。

「I must master it as I must master my life.(我、銃を制すなり、我が命を制す如く)
 Without me, my gun is useless.(我なくて、銃は役立たず)
 Without my gun, I am useless.(銃なくて、我は役立たず)」

轟音は収まらない。
九度撃つたびに一度止まり、また三回ずつ鳴り響く。
まるで機械の様に正確なリズムだ……まるで美しい詠声に合わせているかのよう。
詠を紡いでいる少女の声は年相応に、しかし、何処かやはり老成していた。

悲鳴が聞こえる。
また一人、撃ち抜かれた。
あたりに響く犠牲者の悲鳴は、皮肉なことにこの狂騒に更なる彩を与えていた。

「I must fire my gun true.(我的確に銃を撃つなり)
 I must shoot struggler than my enemy who is trying kill me.(我を殺さんとする敵よりも、勇猛に撃つなり)
 I must shoot him before he shoot me, I will.(撃たれる前に必ず撃つなり)」

反撃をしているものもいる。
しかし、混乱で状況をまるでつかめていない様子。
私には見えた、氷の弾丸が攻撃を打ち落としていく様子が。
頼りになるのは……グレゴールくらいか。
彼のみが佐官クラス。

「Before god, I swear this creed :(神にかけて我これを誓う)
 my rifle and myself are defenders of my country.(我と我が銃は祖国を守護する者なり)
 We are the masters of my enemy,(我らは敵には征服者)
 We are the saviors of my life.(我が命には救世主)」

悲鳴が続いた、肉の潰れる音が続いた。
死に切れなかったものは痛みに発狂して死ぬのだろう。
出来れば綺麗に殺して欲しいと願うのは過ちか。

どんどんどんどん少女の姿をした死神に命を潰されていく。
…………否、死神なものか。
死神は命を刈り取るのだ。
奴は唯、命を踏み潰すのみ。

「So be it, until there is no enemy, and peace――――(敵が滅び、平和が来るその日まで―――)」

見つけた!!

あの化け物の魔力は、自分と比べても脆弱だった。
発見が遅れたのはその為か。
しかし、それ故に、更なる恐怖を感じてしまう。
あれは自身の理解の及ばぬ何かだと。

己の守りをより強固に!
守りごと敵へとぶつかっていく!!

「―――Amen.(――――かくあるべし)」

しかし、期待していた肉を切裂く音と感触はなく、硬い何かに剣をぶつけた音が響き感触が伝わって来た。
奴を挟んだ反対側でも音が鳴り響いていたのが分かった。

まるで待ちわびていたかのように円卓に風が吹く。

私達三人以外の魔力反応は……もう無い。

粉塵の晴れたそこにあった光景は。

左手の逆手に持った藍色に煌く氷の大剣で、私の剣撃を防ぎ。
右手の指に挟んだ三本の透き通った氷のバイヨネット(銃剣)で聖剣の一撃を止めている少女。
聖剣を握り締めて憎悪の眼差しを少女に向けているのはグレゴールだ。
しかし、少女はその憎悪の視線を受けても平然と、その身を返り血で真っ赤に染めながら佇んでいた。

これが、これがあの――!

「血塗れのマリア!」

瞬間、血塗れのマリアが体を回転させて私達二人を弾き飛ばした。

次の瞬間には既に襲ってきている投擲されたであろう銃剣。
恐ろしい早業で私とグレゴールに三本ずつ。

私は剣とプロテクションで受け止めて―――爆発した銃剣にふっ飛ばされた。

守りを抜いて衝撃を与えてくるとは…!

「悪魔、いや、鬼神め!」

上手く防げたのだろう、グレゴールの叫び声が聞こえてきた。
逃げろ、と言いたいが既に意識が朦朧としてきている。

…………鬼神、か。
実に上手い事を言うな、グレゴールは。

恐ろしき鬼神、血塗れのマリアとその戦場。

ここで意識を失った私は或いは幸運だったのか。

最後に見えた光景は、大剣で体を貫かれたグレゴールと、それをなした血塗れだった。







<血塗れのマリア>

ああ~、小隊連中の出番無かったな。
撃ちながらの高速接近、粉塵と圧縮魔力に紛れての奇襲上手く行ったし。
イージスをサーチャー代わりにするのも成功したし。
魔力感知スキルも鍛えておいて良かったわ、全く。
銃剣投擲も銃剣爆破も綺麗に成功した。
言う事無しだな、男は上手く防いだけどバランス崩れてたから簡単に倒せたし。

俺は死んだであろう少女と男を見ながら思う。

一先ず、と、魔法を使い、己の腕から聖剣までの氷の柱を作り出して、男から聖剣を奪った。
念の為、と言う奴だ。

≪少佐~一人で全部食っちまったんですか?≫

≪聞いていたが、凄まじいな。≫

アントニウス少尉とクロノから念話で連絡が入る。
……クロノに凄まじいと言われると何か照れるな。
原作キャラだからってのもあるがこいつかなり優秀だし。

≪……ああ、だが、警戒は怠るな。
 罠自体は上手く潰せたと思うのだが……。≫

「ぐっうっ、ぐふっ……。」

おぉ!?まだ生きてやがったのかこいつ!
危ねぇ危ねぇ、下手すっと串刺しにされてたかも知れんな。
うん、こいつが俺の事を鬼神と呼ぶのは少し予想外……でも無いのか?

≪どうしやした、少佐。≫

≪……いや、唯死に損ないが一人居ただけだ。≫

普通に返しておく、聖剣も俺の手にあるし。
…………つぅか聖剣マジ半端じゃなかったなぁ。
何とか相殺できたから良いけれどさ。
圧縮魔力砲ロンギヌス……まぁ、新しく作ったデバイスは氷弾をカートリッジの代わりにするんだ。
IWS2000の弾丸を27個まで装填出来る……今回?勿論27個。
試作の段階は抜け出しているけれど、連続使用は何処まで耐えられるか分からんね。
デザインはアレだ、人間台風のアレ。

……ま、一応弾丸は自動装填されているけれど。

≪……大丈夫なのか?≫

クロノが心配そうな声で言ってきた。
慎重なのは良いが、慎重すぎるのはどうかと思うぞ?

≪心配性な奴だ……こんな死に損ないに出来る事など高が知れて……。≫

「転送、開始゛!!」

突如、俺と死に損ないの周囲に巨大な魔法陣が幾つも展開された。

≪≪少佐!≫≫

二人の声が重なった。
無理も無い、これは転送陣。

これだけ大きなものを、しかも円卓で展開できるなんて!!

不味いと思った俺は、即座に男を撃ち殺した。
死んだ男の最後の皮肉気な笑みが酷く気に障った。

展開された転送魔法陣から現れたのは、少なく見積もっても一個大隊規模はいる帝国兵達。

こいつらの切り札はこれか!こいつらの援軍の姿が見えなかったのはこれなのか!!

正しく、絶体絶命のピンチを迎えてしまった俺。

「見ていたぞ、こいつの持つ秘宝の中から。」

…………遠距離からの転送ではなく、人間を収容するロストロギアか。

「凄まじい強さだ。
 ……だが、これで終わりだ血塗れのマリア。
 いや――」

一斉に、杖が構えられた。

「――円卓の鬼神!」




[To be continued]




[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第十一話
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4
Date: 2009/06/15 19:39
<梟の目のヨーゼフ中佐>

我々に協力していた盗賊の連中が死に、同行していたジルヴィア少佐まで死に絶えた。
恐ろしき強さを誇る彼女、血塗れの、氷葬の、円卓の鬼神、マリア=エルンスト。

ああ、正直に言って私は彼女がとても憎い、私は彼女がとても怖い。
あらゆる意味で彼女が人とは思えない。
私の目に、彼女は人とは映らない。

「見ていたぞ、こいつの持つ秘宝の中から。」

果たして声は震えていなかったか。

彼女を囲んだ兵士の数は1200人、二個大隊分の戦力。
普通に考えてこの人数に勝てる筈もなく、また、如何に速く空を駆けようとも魔法からは逃げられまい。
だが、盗賊のリーダー、グレゴールが持っていた秘宝の中から見た彼女の強さは半端ではなかった。
今まで見てきたどのような生物よりも強かった。

「凄まじい強さだ。」

在り得ぬ強さだ。

「……だが、これで終わりだ血塗れのマリア。
 いや――」

故に、果たしてその言葉は宣告だったのだろうか。

「――円卓の鬼神!」

はたまた王に挑む愚者の宣言だったのだろうか。

私には分からない。
こんな事は、初めてだ。

ただ彼女は終始、千を超える敵に囲まれても、私が言葉を発しても。

円卓の鬼神は、その顔に如何なる色も見せる事はなかった。





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第十一話 THE DEMON OF THE ROUND TABLE







<マリア少佐>

俺の脳内で、分割思考による現状把握が行われていた。
可能な限りの速度で俺は思考を回転させる。

俺は眼前の存在がどうしようもないほどに気に入らなかった。

目の前の彼は俺に終わりだと言った。
今此処で貴様は終わるのだと言った。
俺を一千の兵士で囲んでそう言った。

卑怯だ等とは言わない、言えない、意味の無い事だ。

だが、俺が終わり?今此処で、終わり?
此処が俺の終着点?

……巫山戯るな!!

俺は心の中で絶叫を上げた。
俺の在らん限りで絶叫を上げた。
幾千幾万にも内在する俺が、絶叫を上げた。

目の前の存在は俺の存在を否定するという。
ああ、当然だ、俺と彼は敵同士。
敵は殺す、当然だ。
だが、また当然の如くそんな戯言を認められる筈がない。
そんな宣告を認められる筈がない。

此処で、俺が終わる?巫山戯るなよ!?
俺が、貴様等に狩られる者?ああ巫山戯るな!
貴様等の認識不足を正してやろう。
俺がどういう存在か教えてやる。
俺はガルム、円卓の鬼神。
そう、俺が狩る者。
貴様等が、狩られる者だ。

≪聞こ…ま……聞こえまして?≫

とそこで突如俺に念話が届いた。
この周波数に合わせられてマルチタスクの速度にも合わせられるという事は。
味方であり、かなりの使い手であるということでもある。

そして、聞き覚えのある声でもある。

≪……誰だ?≫

≪お久しぶり、と言っても分からないでしょうね。
 ただ援軍の中隊指揮官とでも言って置きましょうか。≫

援軍、援軍か、成る程。
そう言えば王国軍の援軍は遅れてやってくると言っていた。
随分と遅れたもんだな全く。

その声で、俺は少し冷静になれた。

≪……そうか。≫

≪あら、素っ気無いですわね。
 ……そちらの状況は少尉達から聞きましたわ。
 ……持たせられます?≫

ふざけた問いだ、普通なら一分も持たんぞ。
故に、こう言わせて貰おう。

≪来なくても良い。
 少尉達だけで十分だ。≫

≪……ふふ、五分で参ります。≫

≪来るなら三分で来い。
 連中を横合いから、思い切り殴りつけろ。≫

俺のその言葉に、何時か会ったであろう彼女は糞真面目に答えた。

≪Yes, sir!≫

何処か笑いを含んではいたけれどな。
全くあれから成長した様で何より。
……まぁ何にしても、これで面白くなった。

「クックックッ。」

…………笑い声?

「クックックックックッ!」

「っ!奴を囲め!そして殺せ!」

……ああ、俺の笑い声か。

まぁしょうがないさ、これだけ面白いんだから。
ああ、しょうがないさ。








<梟の目のヨーゼフ中佐>

突如笑い始めた鬼神。
私は恐怖を感じ、包囲と攻撃を命じた。

部隊は的確に動き、攻撃をしながら奴をドーム状に囲んだ。
魔法を選べば下手に同士討ちをする心配もない。
そして、逃げられぬようバインドで拘束し、瞬時に結界も張り巡らせた。
抜け出そうとしてもその隙に奴は封殺される。
逃げ場はない。

奴は動けず、故に静かに防御魔法を展開。
それは、無駄な足掻きにしか見えない行為だった。
勇猛な雄叫びを上げながら放たれる兵士達の魔法を全て遮れるとは思えない。

鬼神に殺到する攻撃魔法。
或いはこの場にいた誰もが、奴の事を恐ろしいと感じたのかも知れない。
千を超える砲撃で、暫くの間轟音が円卓を埋め尽くした。
魔力による粉塵と舞い上げられた土埃が視界を隠す。

私の目は、攻撃の約半数が奴の防御魔法に阻まれたのを確認した。
恐るべき防御力。
撃ち落された砲撃は全て小さな氷の花へと変わっていった。

だがしかし、少なくとも約半数は奴に届いたのだ。

化け物の散り際には相応しいのかも知れない。
私はそんな事も考えていた。

それは誰の目にも明らかなオーバーキル。
人一人殺すには必要ないであろう攻撃の量。
障壁が間に合っても奴のそれでは高が知れる。
鬼神の魔力保有量が少ないという事実は、此処にいる誰もが知っている事だ。

誰もが、鬼神の死を確信していた。
かく言う私も確信していた。
幾百もの戦場を見てきた私の眼が確信していたのだ。
     とき
――その瞬間までは。

その瞬間、体中の皮膚が粟立つような魔力を感じた。
次の瞬間、藍色の極光が上空を薙ぎ払うように駆け抜けた。

まるで竜の砲火のような極光だ。
あの聖剣の威光を否定した悪夢のような極光だ。
もう、二度と放たれる筈のなかった極光だ。
粉塵を切裂きながら放たれたそれは。
上空にいた兵士、約三百人を瞬く間に塵へ帰した。

「クックックックッ。」

響く、押し殺したような少女の笑い声。
その声には何処か感情を感じなく、何処までも現実味に欠けていた。

「……在り得ない。」

思わず出たその言葉は掠れていて、的確に私の心情を物語っていた。
晴れた煙の先に、非現実的な存在が存在していたのだ。

聖剣は地に突き刺し、自らは両手に銃型デバイスを携えている。
銃口の下には、資料にはなかった手の平大の刃が付いていた。

「終わり?終わりだと?
 この私が?王国の番犬ガルムのマリア=エルンストが?」

その在りえざる存在は、鬼神は嘲笑うかのように声を発した。
当然の如く、普通の少女が発する言葉ではない。

皆、皆震えている。
近くで小刻みな音がして、私自身も震えている事に気がついた。
誰も彼もが奴の、鬼神の発する空気に呑まれてしまっている。

「舐めるなよ豚共!
 私が貴様等の様な汚らわしい豚に後れを取るとでも思うのか!?」

鬼神の裂帛の怒声が辺りに響き渡った。
奴にとって、正しく我々は人でないのか。
或いは、奴自身が人では無いのか。

「う、うおおおおぉぉーーっ!!」

次の瞬間、奴の怒声に触発された兵士の一人が雄叫びを上げながら奴に向かって突撃する。
それは恐怖からかはたまた誇りを汚されたからか、動けた事は賞賛に値するが……。
止めろ、と言う声は既に遅く。
やかまし
「五月蝿い!!
 豚が吼えるな!!」

彼は剣の一撃をデバイスに付いたナイフで止められ、もう片方のデバイスで首を刎ねられた。
悲鳴を上げる事も出来ず、二箇所の首から血を噴出しながら彼は死ぬ。

「私の眼前を豚が歩き!屑肉が軍団を成し戦列を組み前進をする!!
 王国の理法を外れ外道の法理を以って世の支配を企てる者を!
 王国軍(我々)が!ガルム(我々)が!!この私が許して措けるものか!!!

 貴様等は震えながらではなく、藁の様に死ぬのだ……!」

そして奴はそう宣言した。
奴はそれが当然であると言う様に、詠う様に宣言した。
眼前で腕を十字にクロスし、背筋を伸ばして銃を掲げるその姿。
血に塗れた腕の間から、恐ろしい青い瞳が覗いていた。

それは鮮烈に、我々の眼と脳裏に刻み付けられた。
そして、この場にいる誰もが思ったのだ。
あれは恐ろしいものだと、この場にいる誰もが。

……馬鹿げている……正に、馬鹿げた存在だ!
その思想もその在り方もその力も!何もかもが明らかに常軌を逸している!
私達の戦争は、こんなものを生み出したというのか!?
この少女の姿をした化け物を生み出したというのか!?
鬼神を!円卓の鬼神を!!

皆、奴へ向かって一歩踏み出す事を躊躇った。
あれが常軌を逸した存在だという事を理解出来る故に。

≪ふっくっ、ふ、ふふふ、ふふふふふふふ。≫

と、その時。
この場に似合わぬ笑い声が響いた。
年若い女の声だ。

広域念話か!
何処から!?

≪あっはっはっはっは!あの姿をご覧になって?あの言葉をお聞きになって?
 言った通りでしょう聞いた通りでしょう、見た通りでしょう?
 あれがガルム!あれがマリア=エルンスト!あの方こそが円卓の王!!≫

「中隊規模の敵影捕捉!……っ!逆方向からも小隊規模が二つ来ます!!」

っ!援軍!幾らなんでも早過ぎる、予め伏せて置いた兵士がいたのか!?
いや――――まさか!
ただの、時間稼ぎか!?
あの、行動の一つ一つも!
攻勢に、出なかったのも!

……ああ、そうだ何を考えていたのだ私は!
防がれる筈のない攻撃が防がれた?一瞬で兵士三百を持っていかれた?
思想が常軌を逸している?存在感が凶悪だった?
成る程恐ろしい。
だが!
もう一度バインドで拘束し攻撃を放てば討ち取れた筈!
結界で拘束しそれごと吹き飛ばせば討ち取れた筈!
討ち取れなかったとしても、少なく無い手傷は負わせられた筈!

謀られた!

鬼神を見れば、奴は魔力がある程度充填された聖剣を引き抜き掲げていた。
鉄仮面の表情は堪えきれぬといわんばかりに口端が歪んでいる。
罠に掛かった獲物を嘲笑っているのか、はたまたこれから始まる闘争に歓喜しているのか。

あの、化け物め!

私の内心での悪態何ぞ知らんとでも言うように奴は聖剣を発動。
聖剣はこれこそが我が主とでも言う様に強い輝きを放っている。
それは忌々しくも美しい。

そして聖剣から極光が走り、上空にいた兵士ごと結界を持っていかれた。

奴は開いた穴から凄まじいスピードで上空へ、そして――

≪横合いから思い切り―――≫

≪≪≪殴りつけろ!!(ますわよ!!)≫≫≫

高速で迫ってきた敵から我々に向かって、一斉射撃が開始された。
上空からも、鬼神の攻撃が降り注ぐ。

「総員防御体勢!!」

私は叫ぶも反応できたのはごく僅か。
この不意打ちで何割か持っていかれただろう。
相手の熟練度と兵の動揺を考えれば勝ち目は限りなく薄い。

だが、せめて鬼神だけでも……!

私は兵士に指示を与え、上空へと躍り出た。
悪いが彼等は生き残れないだろう。
きっと鬼神からは、逃げる事も叶わない。







<赤い燕のレオナルト中佐>

今回の作戦は間違いなく失敗だ。
元々気に入らぬ作戦だった故に失敗した事自体に憤りは感じない。
しかし、しかしだ!

私は上空の鬼神を忌々しげに見つめていた。
隙を衝いて攻撃をせねば此方が落とされてしまう事実もまた忌々しい。
奴は上空から狙撃して次々に我々の兵士を討ち取っていく。
あれの所為で帝国兵は行動が鈍くなっているのだ。

おのれ鬼神!あの化け物め!
あれだけ殺してまだ食い足りないというのか!

「あああ!!…がっ!?」

近づいてきた王国兵の一人を切り飛ばす。
こんな雑兵幾ら落としても意味は無い。
あの鬼神を落とさねば。
しかし、どうやって?真正面から行って勝てる相手なのか。
あの聖剣の威光すらも否定するような化け物に。

いや、或いは私も奴の強さに呑まれているのか。
呑まれているのだろうな、真忌々しい事に!

と、思案していると鬼神の方へ向かって高速で飛来する影が一つ。
不思議と、奴に害なすものには見えなかった。

あれは……?

っ!聖剣の鞘!?

まさか、奴が選ばれたというのか!?
聖剣の主に!

停止していたのは如何程の時間か、気づいた時には私は既に飛び出していた。
長らく現れなかった聖剣の主があんな小娘だという事実に憤慨したのだ。

確かに力はあるかも知れぬ、それは認めよう。
しかし、あのような異端の武器を使って敵を食らうような輩に聖剣が相応しいとは思えない!
我々騎士が間違っていると言うのか!?強さだけが正しいとでもいうのか!?

「鬼神ーーーーー!!」

奴に渾身の一撃を叩きつけ、しかし、奴の手にある聖剣にそれを阻まれた。
我を忘れた状態で此処まで辿り着けたのはある種の幸運で、普段の鍛錬の賜物だろう。

「この化け物め恥を知れ!貴様のような奴が聖剣の主だと言うのか!?
 恥を知れ!!!」

激昂して叫ぶ私、しかし、鬼神は唯冷静に返してきた。

「此処は円卓、死人に口無し。」

此処で私は我に返り、屈辱に顔を歪めた。

戦いは生きる力と生きる力のぶつかり合い。
少し冷静になった私は、奴にもまた誇るべき道があるのだという事に気づかされたのだ。

「くっ!?」

聖剣の鞘の攻撃を受けて僅かに後退する。
障壁が間に合わなければ今の一撃で終わっていた。

だが、なればこそ余計にこの化け物の存在を肯定する訳には行かない!







<マリア少佐>

此処まで綺麗に決まると流石に清々しい気分になる。
正直フレディ少佐からのプレゼント(盗品)がなけりゃ死んでたな!
防御魔法を封じ込めた氷塊も上手く機能するのが確認できたし上々だ。
多少の損失は考えていたんだが、王国軍の援軍が来たから大丈夫そうだしな。
それに、管理局の連中も良くやっている。
特にクロノはあの年で執務官になるだけあって並じゃない。
マルチタスクを使っての魔法制御はいっそ芸術と言っても良いくらいだ。

俺は、近寄ってきた敵の首を聖剣で切り飛ばしながら、そんな事を考えていた。
ナイフ付きバージョンのガーディアンM93Rの方が良かったが、聖剣を放り出す訳にはいかない。
まぁ、切れ味良いし扱い難いって事もないけどな、それに……。

俺の周囲を飛び回っていた物体から光が放たれ、近くにいた兵士を綺麗に撃ち抜いた。
分離したのか五つあり高速で飛び回るそれ。
攻撃或いはシールドを張っての防御とイージス並みの活躍をしてくれる。

………フィン○ァンネル?

うん、何か聖剣握ってたら行き成り下の方から飛び出してきた。
これって確か鞘だよな?鞘も盗まれてたの?いや、セットなんだから当然と言えば当然か。
だが、例の次元犯罪者の奴が使ってなかったから分からなかった。

……そういや聖剣に認められたものにしか扱えないんだったか?
だとしたら聖剣も余り目が利かないな……いや、目は無いが。
担い手に選ばれたのか?
正気かこの聖剣。

だがまぁ、役に立つ事は確か。

鞘は近寄ってくる敵をレーザーで次々に焼き払っていく。
敵の攻撃も易々と防ぎ……。

流石ロストロギア、とんでもないチートっぷりを発揮してくれる!

「鬼神ーーーーー!!」

おぉっと!?

「!」

調子に乗ってたら突撃してくる人影に気づかなかった。

その人物の速度が普通よりも遥かに速かったってのもあるんだけどな。

甲高い金属音が聖剣と衝突した物体の間で起きた。
此方の隙を衝いた真っ直ぐな斬撃、繰り出してきたのは指揮官らしき男。

いや、指揮官っぽい奴はもう一人いたはずだが……?

「この化け物め恥を知れ!貴様のような奴が聖剣の主だと言うのか!?
 恥を知れ!!!」

相手の男は激昂している、言っている事はもっともだ。
俺の様な奴が聖剣の主と言うのは如何にも可笑しい。

しかし、恥を知れというのならば俺はこう返そう。

「此処は円卓、死人に口無し。」

俺の言葉に相手の男は屈辱だと言わんばかりに顔を歪めた。

聖剣を切り払い、相手との距離をとる。

相手は……中佐か、厄介な。
聖剣もそう簡単に扱えるもんじゃない。
下手に撃てば味方に中るし僅かながらも硬直はある。

……なら。

「……行け。」

俺は聖剣の鞘に命じて男を攻撃させた。
聖剣のそれ程ではないとは言え十分な威力の高出力レーザーで相手は防御で手一杯になる。

「くっ!?」

敵はこの男だけじゃないが、此方の防御はイージスだけで十分……。

……が、この考えはどうやら甘かったようだ。
聖剣を持っていると言うアドバンテージに胡坐をかいてしまったか。

恐るべき速度と精密さ、完全なタイミングで俺に魔法が放たれたのだ。
イージスが反応するが威力を減衰させることしか出来ず。
それは俺に直撃した。

「っ、がっ!?」

殴られたように、眩暈がする。

俺に向かってきたそれは、着弾と同時に爆発した。
とっさの防御魔法は間に合ったが、衝撃で聖剣が手から零れ落ちる。

やってくれる!







<梟の目のヨーゼフ中佐>

やったか!?

私は少々離れた所から鬼神の隙を窺い続けていた。
そして、奴が聖剣の鞘をレオナルト中佐に向けた瞬間を狙い撃った。
一点の防御力で言えば奴の魔法よりも鞘のほうが遥かに厄介……。
……いや、鞘のお陰で奴の心に隙が出来たか。

魔力粉塵で奴がどの程度のダメージを受けたかは分からないが。
それの中から落ちてこないのならば奴はまだ生きている。

レオナルト中佐は聖剣の確保へと向かった。
ならば私が鬼神の相手をするまでだ。

私は魔力弾を二十生成、それらで守るように中心にでかいのを一つ生成した。

「死ね!円卓の鬼神!!」

私の叫び声と共に一斉に放たれるそれら。
違わず鬼神のいる所へと向かっていき……。

突如咲いた七枚の花弁を持つ氷の花に行くてを阻まれた。

っ!あれか!我々の攻撃を防いだのは!!

氷の花は弾丸を全て飲み込むと共に散っていった。
戦場とは思えぬほど美しい光景だ

…………しかし、その美しい光景の向こうから悪魔は来た。
その手には死を吐き出す鉄の獣。

「有象無象の区別無く、私の弾頭は許しはしない。」

獣は三度吼えた。

奴の攻撃はその全てが流星の如く。
迫り来るそれの速度と威力は計り知れない。

だが、要は中らなければ良いのだ。

私は奴の姿が見えたと同時に空を駆けていた。
確かに奴の攻撃は速度も威力も在る。
しかし、誘導性は無い。
元よりあの速度で誘導性を持たせることは至難の業。
真正面から中る愚を冒さなければ勝機は在る!

そして、予想通り弾丸は私に命中せず何処かへ飛んで行った。
中らぬ弾丸に意味は無い、接近戦で討ち果たす。

勝てる!

私はそう確信し、鬼神の周囲を徐々に距離を詰めながら回っていく。
接近しさえすれば此方にも勝機は此方にも十分に在る。
だと言うのに鬼神は全く動かない。

「……まさか接近戦を挑んでくる積りなのか?」

思わずそう声が漏れる。

だとすれば私も相当に舐められたものだ。

「上等だ!」

私は十分に距離を詰めたと確信し、一気に鬼神へと接近する。
彼我の距離は5メートル。

この距離まで詰めてしまえば奴が照準を合わせるより早く避ける事が出来る!

しかし、私のそんな考えを他所に鬼神はただ此方を見。

「せいぃやぁ!」

「……!」

私の剣撃を唯冷静に銃に付いた刃で受け止めた。
刃は氷を纏っており、その強度とリーチを補っているようだ。
そして何故か、もう一つの資料には無いデバイスは手放さない。

だが、そんなものは関係ない。

「殺ったぞ!」

私は勝利を確信し――

「……殺っていない、殺られたんだ。」

「後ろだ!ヨーゼフ中佐!」

――頭と胸と腹部に衝撃を感じ、闇に落ちた。





<赤い燕のレオナルト中佐>

ヨーゼフ中佐が落ちたか!

鬼神の放った攻撃はヨーゼフ中佐に回避されたかに思われた。
しかし、その勢いのまま円卓を駆け巡り再びヨーゼフ中佐に襲い掛かったのだ。
恐らくあいつの持っているデバイスはそれぞれがその魔法専用のデバイス。
一撃目は弾かれたのではなく弾かせたのだ。
中佐は攻撃に転じる為に障壁への注意を緩めた為に防げなかった。
注意を呼びかける声も気づいた時には既に遅く………。

忌々しい鬼神め!

だが、聖剣は今、私の手の中にある。
残念ながら私に担い手の資格は無いようだが……いや、ただ聖剣を解放するだけならば私にも出来る!
これで鬼神を討ち取れる!

が、しかし私のその行動は第三者の手によって阻まれた。

≪Blaze Cannon≫

決して低くはない威力の爆発魔法が私に襲い掛かった。
とっさに障壁を張るも、防ぎきれない。
障壁を抜けてきた分の魔力が削られる、そしてこの世界では見たことの無い魔法。

「管理局か!?」

非殺傷設定などと言うもので戦場を汚す痴れ者共の一員か!?

≪Stinger Snipe≫

返事は新たな攻撃だった。
魔法の担い手は背の低い黒髪の少年。

小癪な!

「破!!」

私は放たれたそれへ向かってデバイスを振るった。

が。

≪Break≫

私のデバイスがそれを切裂く前にその魔力球は爆発した。
衝撃で僅かに後退させられる。

「ぐっ!?おのれ!!」

「聖剣を渡して大人しく投降しろ。
 我々管理局は命まではとらない。
 が、戦場で落とされれば命の補償は仕切れない。」

目の前の小僧は淡々とそう告げてきた。
戦士を侮辱する言葉を淡々とそう告げてきた。
この私を侮辱する言葉と淡々とそう告げてきた!

「巫山戯るな!
 戦士を!この私を舐めるな!!」

私は前進に走る怒りの感情のままに斬りかかった。
しかし、感情に流されてしまったその一撃は容易く避けられる。

っ!心を落ち着けなければ!先程と言い今と言い今日の私は心を乱しすぎている!

「そうか。」

私は剣を振り切った先で振り返り。

「残念だ。
 ……折角だから僕からも一言言わせて貰おうか。」

先程とは違い、この怒りは確実に己の敗北であったと悟った。

≪Stinger Blade Execution Shift≫

奴の周りには百を超える剣の群れが展開されていて。

「管理局を舐めるな。」

それらは一斉に私へと襲い掛かってきた。

その恐るべき光景は恐るべき威力を持っていた
障壁はあっと言う間に削られて、私の意識と魔力は刈り取られた。

この借りは、必ず返す!
           ・・
薄れ行く意識の中、私が最期に思ったのはそんな事だった。

戦場に、次は無い。







<援軍・アルステーデ大尉>

……甘いわね、管理局とやらは。

私は、聖剣を確保した彼の背中を見ながら思った。
敵に止めを刺さないなんて味方の損失を増やすだけの行為。
まぁ、大した力も無い兵士ならば生かしておいて治療の手間をかけさせるなんて方法もあるけれど。

無論、彼が撃墜したレオナルト中佐には止めを刺してあります。
彼はその卓越した剣技と豊富な魔力保有量で恐れられていた存在ですから。
生かしておく理由はありませんわ。

私は視線を外して、戦場へと目を戻した。

でも、その恐るべき中佐を軽々と落としたあの執務官は只者じゃないですわ。
敵に油断や動揺があったのは動きを見ていても間違いありません。
しかし、それでも恐るべき使い手であることには変わりなく。
あそこまで見事に落とすにはあの精密な魔法構成と魔法制御でなければ無理であったでしょう。
不意打ちとその後の攻撃も私が見る限りでは完璧なタイミングでした。

管理局は確かに甘い、しかし、決して侮って良い相手ではないですわね。
あの鮮やかな手並みは方向性は違えどマリア少佐をも髣髴とさせるものでしたもの。
魔力保有量だけでは測れない技術を彼等は持っています。
油断や動揺は彼等相手には致命的でしょう。

だけれど、考えてみれば当然ですわね。
彼等は今まで殺さずに相手を制圧してきたのですから。
非殺傷設定があっても、それが如何に恐ろしいことかは考えなくても分かりますわ。

時空を管理する組織。
成る程、とんでもない連中ですわね。

と、戦いながらマルチタスクの一部を使ってそんな事を考えていると戦場に変化が。

マリア少佐が空を切裂きながら上空から舞い降りてきたのだ。
凄まじい加速。
それは周囲にいた兵士達が吹き飛ばされるほど。
帝国兵の反応は鈍く、少佐の動きは速い。

少佐が構えたデバイスから銃弾が吐き出され、それは兵士達を次々となぎ倒していく。
突撃した兵士はデバイスの刃で切裂かれ、或いは逸らされた先で銃弾の洗礼を浴びる。
弾丸が切れても、即座にマガジンが排出され、コートから新たなマガジンがセットされる。
銃声は鳴り止まず、銃弾は止まらない。

「それでどうした!それで終わりか!?
 さぁ掛かって来い!貴様等は豚か!?それとも人間か!?」

血肉と悲鳴が空を舞い、地へと落ちる。
現れてから一分も立たない間にあの空はマリア少佐の独壇場と化した。

その強さと姿は兵士達を見惚れさせ、所々で戦場を停滞させるほど凄まじかった。

マリア少佐は王都の王国軍からは余り好かれてはいない。
王国の情報操作とその異例の昇進速度への妬みだ。
戦場を知らぬ連中には特にそれが顕著に現れている

しかし、この姿を見た兵士は皆彼女を恐れ、彼女に憧れ、彼女の虜になるだろう。
少なくとも、私の周りにいる兵士達は皆少佐に見惚れている。
それに事実、サウスハンプトン付近及び戦場へ出ている兵士達から少佐は絶大な信頼を得ているのだ。

「ふふ、やはり少佐が一番素敵ですわね。」

でも、見惚れていないで戦闘を行わないといけませんわ。

少佐一人に仕事を任せるわけには行きませんもの。
それに折角初めての大規模戦闘なのですから、もう少しは活躍しておかないと。

私はヴァルキュリアを振るって近づいてきた兵士を切り捨てた。
マリア少佐の防御魔法を真似た魔力球による攻性迎撃魔法のお陰で処理がとても楽。
肉を切裂く感触にももう慣れた。

まぁ、こういった真似が出来るのは高性能なインテリジェントデバイスのお陰ですけれど。
専用デバイスを作るだけの技量がまだ私にないのが残念ですわ……
………いえ、そう言えばあの執務官の方はストレージデバイスでしたわね。
デバイスに頼りすぎるのも問題ですわ、懲りてないのかしら、私は。

防御を兵士に任せ、砲撃魔法で薙ぎ払う。
混乱の為か敵の攻撃には統一性がなく、討ち取り易い。
故に、余程油断しない限りは防御魔法が間に合う状況。

まぁあれだけ素敵なお姿を見せつけられた後の奇襲だったら、こんなものでしょうね。
指揮官の方々も早々に討ち取られてしまいましたし。

見れば他の方々も大分奮戦しておられる模様。

マリア少佐やあの執務官……確かクロノ執務官と仰ったかしらね。
あの二人は言うに及ばず。

あの執務官以外の武装局員の方々もガルム小隊にサポートされて上手くやっている。
ガルム小隊の方々は方々で武装局員を上手く使って攻撃を。

やはり、ガルムは共闘している部隊の能力を極限まで上げる。
あの方々が中隊にいるだけで生存率が上昇するのも納得ですわ。
そして、そのガルム小隊の威力を最大限生かせる人物がマリア少佐。

いずれにしても。

「……この戦場は、余り長続きしそうにありませんわね。」

私は、そう呟きながらまた一人撃ち落した。

この戦場はこの言葉通りに三十分も掛からずにその幕を下ろす事となる。







クロノ執務官からマリア少佐に聖剣とその鞘が手渡された。

既に場所は移しており、周りには血も死体も御座いません。
あの場は正に地獄でありましたわ。
私達中隊は多少ですが被害が出てしまいましたが、ガルム小隊と管理局の方々は共に被害無し。
管理局勢に被害が無いのはガルム小隊のお陰もあるとは言え、少々へこみますわね。

「……協力を感謝する。」

「……いえ、共に戦えて光栄でした。」

マリア少佐は相も変わらず無表情、対してクロノ執務官の表情はやはり何処か硬かった。
言葉も完全に上っ面だけと言うことは無いでしょうけれど、少なくともやはり人死には嫌なのでしょう。

それにしても、やはり聖剣はマリア少佐に似合いますわね。
……何故かと聞かれると困るのですが……聖剣も少佐を主と認めているからでしょうか?
少佐の手に渡った瞬間、少し輝いたようにも見えましたし……陽光を反射しただけかもしれませんけれどね。

「では、我々はこれで。」

「……ああ、素晴らしい腕だったぞクロノ執務官。」

マリア少佐の言葉に少し面食らったような表情をするクロノ執務官。
まぁ、マリア少佐がこんな風に人を褒めるなんて余り想像できませんわよね。
……少し、羨ましいですわ。

クロノ執務官は最後に少し苦笑のような表情を見せながら転送されていきました。
一緒に転送されていった武装局員の方々は何処か誇らしげでしたわね。
人望はあると言う事なのでしょうか。

あの方々が単に慣れていただけかも知れませんが、管理局の方々もこの戦場で中々どうしてやるものですわ。
非殺傷設定を使っているからといって誇りが無い訳ではないのでしょう。
ただ、我々とは少し在り方が違うだけで。

「アルステーデ大尉。」

「!あ、はい。」

そう言えば、この前会ったときは私のほうが階級が上でしたけれど、もう抜かれてしまいましたわね。
一応私も魔力保有量だけなら少佐級ですから、なれない事も無いのですけれど。

「貴君等も援軍感謝する。
 貴君等のお陰で損失を出さずに済んだ。」

言外に負けはしなかったと言う辺り何ともらしいですわね。
そして、それを実行するだけの力があるのは何とも魅力的ですわね。

「いいえ、私も貴女と共に戦えた事を誇りに思いますわ。」

本当に。
今日一緒に戦えただけでもあの時から訓練を積んだ甲斐がありましたわ。
…………もっとも、随分と置いていかれてしまった様ではありますけれど。

「そうか………。
 ……大尉、アルステーデ大尉。」

?何かしら?

「はい。」

「戦場へ、ようこそ。」

何とも不器用に、口端を歪める様な笑みを浮かべて言ったマリア少佐。

「……はい!」

その何とも不器用な歓迎の言葉が嬉しくて。
不覚にも、少々目から涙が零れてしまいました。
これは、余りにも酷い不意打ちでしょう?

周りの皆さんも微笑を浮かべていて、きっと、私も微笑んでいられたのでしょう。







<クロノ=ハラオウン執務官>

今回のような大規模な戦場と言うものは初めてだった。
人が沢山死んで、僕自身も何回か死を感じる場面があった。
人が死ぬ様を見るのが如何にも苦しくて、自分の死が如何にも怖くて。
しかし、これからも管理局員としてやっていく中でこのような事は何度かあるだろう。
非殺傷設定を使っているからと言ってそれは絶対ではない。
敵の死にも、味方の死にもある程度慣れなければ(……)ならない。
まぁ最後、少し不意打ちだったがマリア少佐に賞賛されたのは嬉しかったがな。
あれで少し気が晴れた僕は現金なのだろうか。
厳格そうな人だったからな、マリア少佐は。
あの言葉に偽りは無いのだろう。

≪クロノ、大丈夫?≫

と、シャワーを浴びてベットに横になりながら考えていた僕に、念話が届いた。
艦長……母さんからだ。

≪……大丈夫です、リンディ艦長。≫

母さんは厳しいんだか優しいんだか。
少なくとも、僕の進む道を尊重してくれてはいる。

≪そう、今日は余り無理をしないで休みなさいね。≫

≪了解しました。≫

このごく短い会話で念話は切れた。
母さんも暇ではない。
心配して話しかけてくれただけでも、十分だ。

エイミィは……戦闘の映像を見てショックを受けているって所かな。
まぁ、彼女の柔軟な思考なら直に立ち直るだろうけれど。
今回の戦闘は僕にとっても彼女にとっても、他の戦場を経験していない武装局員にとっても良い経験だった。
そうきっと、とても貴重な経験だった。

今日はきっと悪夢に魘されるのだろう。
そんな事を考えながら、僕は何時もよりも大分速い眠りへついた。
明日からはまた、頑張らなくてはならない。







<マリア少佐>

へ、へへ、真っ白だぜ畜生。
あれだ、戦場でハイになると何やらかすか分からないってこったな。
思い返せば今日は良く生きていたな!
畜生ニートになってやる!幼女を舐めんなよ!?

俺は、自室のソファーで横になってだらけていた。
今回みたいな大規模戦闘は俺自身初めてだったのだ。
まぁ、似たような感覚の戦いはあったけどな。

…………でも千人VS一人はないわ

ロンギヌスにバイヨネットにM93Rのブレード、仕舞いにはUSSRドラグノフ。
随分と新兵器を持ち込んだもんだ。

……ああ、あの中佐を落としたのがドラグノフな。
うん、魔弾の射手。
ただその敵だけを追尾するものだから完全じゃないけどな。
その代わり、一度に三発撃てるけど。
ロックしてる敵以外に当てないようにするのが一番難しかった。
この速度で制御するのは無理があるか……いや!いずれリップヴァーン中尉を完全再現するのだ!!
……残りはトランプ……は要らないからジャッカルとハルコンネンか。
糸?無理無理、てか実用性が伴ってなけりゃ死ぬ。
でも、上手く糸の強度と細さを調整すれば……駄目だぁ!本当に最近マッド化してきてやがる!

もう寝よ!よし決定!本当に疲れたし!
一通り実戦で扱えたしクロノと共闘できたし、大活躍したアルステーデ大尉等も此処に残留するらしいし!

万事OK!

はい、おやす「マリアちゃんお帰り!」「少佐大丈夫だったんですか!?少し怪我したって聞きましたけど!」み……

(畜生)
Jesus!

この後、お子様二人に(貴重な休憩時間を)美味しく頂かれました。







<ジルヴィア少佐>

…………む、朝か?

「朝じゃないよ、もうお昼だよ。」

「…………クリス?」

「うん、おそようジルヴィア。
 今度は逆だね。」

…………そうか、うむ、血塗れにやられて気絶していたのか。
辺りを見回してみると此処が病室だという事が分かる。
成る程、今度は逆だ。

「運ばれてきた時のジルヴィア面白かったよ?足跡とか沢山付いてて。
 心配するより先に笑っちゃったもん。」

…………酷い。
何か血塗れにやられてから容赦がなくなったような……気のせいか?
……いや、と言うか私が地面に放置された状態で戦闘があったのか!?よく生きてるな私!

「おや、目覚めたようですね。
 二日間寝てましたよ、貴女。」

「む、コリーナ。」

と、そこで花の入った花瓶を持っているコリーナが病室に入ってきた。
うん、将校だから個室なんだ。
こういう時は将校で良かったと……思えない。
必然的に怪我をしている時だからプラマイゼロだな!
糠喜び!……何か違う?

「ええ、コリーナですよ?
 貴女に置いていかれたコリーナ中尉です。」

「うっ……。」

笑顔だがコリーナの目は全く笑っていない。

「いや、だって、危ないし。」

「軍人が危険を冒さないで如何するのですか?」

ごもっとも。
だから睨まないでくれると嬉しい。

「全く。
 ……今の所血塗れと交戦した人間で生きているのはあなた方二人だけですよ?」

「それは、何とも幸運な。」

……グレゴールの奴はやはり死んだのか。
意外と、良い奴だったんだけどな。

「今回の交戦で彼女に討ち取られた人数は約400人。
 実に450の1の生存確率ですね。」

……400人、どれだけ人間止めれば気が済むんだ?

思わずそんな感想を持ってしまった私を誰が責められようか。
たった一人で戦術兵器並の活躍をしているのだ、血塗れは、いや……。

「……鬼神、か。」

「はい?」「え?」

私の呟きに、二人が反応する。

「いや、何。
 グレゴール……あの例の盗賊のリーダーの奴がな。
 最後に血塗れの事をそう呼んだのだ。」

「鬼神……円卓の鬼神ですか?
 交戦記録の音声にもありましたね。」

「……何か格好良いね。」

クリス、格好良いと言うのは少し可笑しいと思わないか?
コリーナもクリスに向けて少し可哀想な目を向けている。

「……何か馬鹿にしてない?」

鋭い…じゃなくて。

「い、いや、やはり言い得て妙の呼び名だと思うな。
 うん、格好良いんじゃないか!?」

「そっか、そうだよね。」

ふぅ、誤魔化せた。

「……まぁ、今回の事でマリア=エルンスト少佐は晴れて600億マルクの賞金首ですしね。
 それくらいの呼び名が丁度良いかも知れません。」

…………は?

「600億ーーーーーー!?」

ケーキ何個食べられる!?

「発動した聖剣の単独阻止に約千人の殺害。
 まぁ、殺害に関しては戦場では当たり前ですが。
 しょうがないと言えばしょうがないでしょう。
 今や血塗れ、いえ、円卓の鬼神は帝国最大の敵ですよ。
 王国内部でも危険視されているくらいですし。」

…………そうか、とりあえず……。

「生き残れて、良かったなぁ。」

「そうだねぇ~。」

私は思わず遠い目をして窓の外を見てしまった。
クリスは多分、のほほんとしている。



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