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[6935] 魔法少女リリカルなのは 現実回帰 (現実→リリカルなのは) チラ裏より移転
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/20 15:07
皆さんはトリップというのをご存知でしょうか?麻薬を使って、精神が狂ったりするというあれではありません。
異世界に飛ぶというあれです。数多の二次創作であったでしょう?
車に跳ねられたら?寿命で死んでしまったら?神様にお願いして?
他にも例を挙げたらきりがありませんね。
そんなことを言っている俺も実はトリッパーです。
いつもどうり学校が終わり家に帰りテレビを見て飯を食って風呂に入り明日も早くに起きようと眠りについて
目が覚めて朝日が眩しいなと思いながら周りを見渡したら見知らぬ爺達だよ。



-魔法少女リリカルなのは 現実回帰-



「…え?」

目が覚めて周りを見たら爺達が喜んでいる。なんだこの状況?新手の拷問?
いやそれよりここ何処だよ!?

「完成した! ついに完成しましたね!」

「ああ! ついに完成したな…君!」

「…たちの研究がついに実を結びましたね!」

周りが騒がしいがまるで耳に入ってこない。自分が今どうなったのか、何故ここにいるのか?
わからないことだらけで泣きそうになる。母さんは!? 親父は!? 自分は今どうなっているのか、周りの奴らは一体誰なのか。頭が痛い。

「まさかあのレアスキルを持つクローンが出来るとは、先生にはかないませんね」

「偶々だよ、た・ま・た・ま!」

「ご謙遜を」

「いやいや照れるねえ」

俺は恐怖でそいつらの顔が歪んで化け物に見えた。

「プロジェクトFでレアスキルが消えてしまうかと思いましたがどうにかなって本当によかった!」

「魔力量は一般魔導師よりもかなり低いですが…」

「元々オリジナルが魔力量が少ないからな、これでも増えたほうだが…」

…プロジェクトF?
確かリリカルなのはのクローンを作る技術の名前だったよな。
俺は子供の頃からアニメが好きだった。
だからリリカルなのははアニメは全て見たし二次創作も結構読んだ。
ってことはここリリカルでマジ狩るな世界!?

「しかしここまできたんだ」

「そうだなオリジナルを上回るコピーがついに完成したんだ」

「これで管理局に目にもの見せてやれますね」

なんでこいつらこんな喜んでんだよ。
人が悲しんでる最中にありえねぇ…

知らず知らずのうちに俺は俺の入っていた入れ物?の割れた破片を掴んでいた。
手が痛いのも手から血が出るのも無視して。










<あとがき>
トリップした後、真面目に帰ろうとする人って少ないよな
とか考えて書いてしまった…
多分不定期更新です。



[6935] 第1話「それは衝撃的な出会い…なのか?」 
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 12:08
手から血を流す少年が一人。
そしてその周りに倒れてる三人の研究員。
これだけ聞けば殺人が起こったと思えるのだが
そこには明らかに常識では考えられないことが起きていた。



第1話「それは衝撃的な出会い…なのか?」



「なんで…」

誰もいない部屋に俺の声が響く。

「血が…出ない…?」

さっき自分がカッとなり、つい爺達の首を切り裂き爺達が倒れてから手が切れるよ痛みで冷静を取り戻し、何てことをしてしまったと後悔して
意味はないが謝罪しようと爺達を見て違和感に気づいた。

「こいつ等…人形なのか…?」

首を切り裂いてパックリ切れてるのに血が一滴も出ていない。
恐る恐る死体?をつついてみるが反応は全くない。だけど感触は人のものだと思う…
…どうしよう。
ていうかこれかなりのホラーだよな。首と体がはなれそうになってるなんて
俺、こういうの苦手なんだよ。

『まさか作品が創造主を殺してしまうとはね』

「へうっ!?」

『後ろにはいないよ。その壊れてる人形の指輪だよ』

声が何処からかしたと思ったらこの死体? からだったらしい。
…ビビってちょっと漏らしそうだったのは秘密だ。

「あんた誰だ…ていうか何だ」

『君が壊してしまった人形のデバイスさ』

デバイス? ていうことは、ここはやはりリリカルな世界で間違いないらしい。だが、俺がこの世界に来た理由は一体なんだろう?
車にひかれたりは、していないはずだ。まさか本当にやばい薬を飲んでトリップしてるのか?
それとも、この後にわけの分からない神様が登場でもするんだろうか?
いや、それはない。答えを出そうにも今は情報が少なすぎる。

『…なにか反応してくれないかい?』

「あっ悪い、ちょい考え中だった」

情報が聞けるのはこのデバイスしかないみたいだし、とりあえず仲良くしておくのがいいだろう。
今が無印ぐらいなのかstsぐらいなのか知りたいし、無印前でもstsでもあまり白い悪魔には関わりたくないけどね!

「えと…まず名前を教えてくれないか?あっ!もしかして名前付けてくださいとかか?」

それなら少し考えないとな。
いい名前をつけてやるぜ、へへへ…
エターナル・サンダーなんてどうだろう?名前を聞くだけでワクワクしてこないか?

『前の持ち主がいたのにそれはないだろう』

「…それもそうか」

『まぁいいだろう…私の名前は…』






『ジェイル・スカリエッティだ』

「…えっ」



[6935] 第2話「妄想と夢は紙一重」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 12:17
空を飛ぶ何千、何万もの魔導師。空は魔導師の影で覆い尽くされている。
それら全ての者がある一点を睨みつけている。

「どうやら俺も年貢の納め時らしいな…」

体中を赤に染めて地に膝をついている一人の魔導師。その顔には、苦笑いが浮んでいる。
どうやら、この魔導師を狙ってこんなにもの量の魔導師が集まってきているようだ。

「悪いなジェイル…お前を巻き込んじまって…」

魔導師は自分の相棒をやさしく撫でる。魔導師に撫でられたデバイスは点滅して主に応える。

『構わない、私は君のデバイスだ』

永遠の絆。固く誓い合った絆がそこにあった。

「そうか…そうだったな。だったら…」

魔導師は己の足に力を込める。

「あと少しつきあってくれよぉぉおぉお!!!」

魔導師の叫びが戦いの合図となり、再び戦闘が始まった!!



魔導武道記 マジ狩るなのは!?
第57話「鮮血、散る!?」










『…満足したかね?』

「夢は覚めるから夢なんだよな…」

断じて妄想ではないからな!!



第2話「妄想と夢は紙一重」



「話を戻すけれどさ、それってギャグか?」

デバイスがジェイル・スカリエッティなんて冗談にしては笑えなさ過ぎる。

『デバイスがツッコミを待ってるとでも?』

そんなデバイスがあってもいいと思うが。漫才をデバイスと組んでるとか面白そうじゃないか?
テレビとかでも特集にされるかもしれない。デバイスと人のお笑いコンビ! とかな。

「じゃあお前は本当にスカリエッティなのか? いや、お前のAIは」

『そうだね。確かに私は昔、無限の欲望と呼ばれていた存在だ』

なんというレアイベントに俺は遭遇してしまったんだろう。目が覚めて初めてまともに会話したのがスカさんって
ある意味宝くじ当たるより低いだろ。だが、これはチャンスだ。変態だがスカさんは天才だ。
俺の質問にも悩むことなく答えてくれるはず、変態だが。大事なことだから2回な。

「ちょっといくつか質問するぞ?」

『何だね?』

「まず俺は何だ?」

これも結構重要。俺が何に憑依したのか分からないからな。ここ鏡ないから分からないし。
もしかしたら定番のアリシアのクローンなんかに憑依している可能性もあるし。

『オリジナルより高い能力を持つように作られたクローンだ』

「誰の?」

『歴史の偉人とデータにはあるね』

歴史の偉人…原作キャラじゃないことは確かだな。
さて…次は…

「“高町なのは”この名前に聞き覚えは?」

一応、これは確認。こいつがsts後のスカさんのAIなのかsts前のスカさんのAIかを確かめるため。

『高町なのはかい? もちろん知ってるよ』

「何故?」

やっぱり知っていたか。なら、stsの可能性が大きいかな。

『管理局の英雄じゃないか』

「聞き方が悪かったな…」

そういう意味じゃなくて、自分を捕まえた奴らだー!! とか、いつか復讐してやるー!! とかさぁ…
まぁこれは後回しにしよう。次だ次。

「じゃあさ次はここ何処『しかし君は生まれたばかりだというのに高町なのはを知ってるなんておかしいな。そんなデータは、君の頭に存在していないはずだが…千年前の人物なんてデータいれた覚えはないんだが』



パードゥン?









<あとがき>
感想ありがとうございます!!
初SSなのでまだまだ至らないとこだらけなので
おかしいとこがあれば教えてください
では!!また次回!!



[6935] 第3話「デバスカ君と一緒!!」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 18:58
「せっ…千年前!? 何を言っているんですか! ジェイル・スコッティ君!」

『? …データには確かに千年前の人物だと記録してるが? あと、私はスカリエッティだ』

「あーーーー!! 終わった終わった!!はいはい終わりましたよーー!! バイバイ俺の人生!」

『終わったもなにも君は生まれたばかりだろう?』

「現世の母上、父上、そしてチョッピー(ハムスター)先に逝く俺を許してくれ…」

『とりあえず、落ち着きたまえ』



第3話「デバスカ君と一緒!!」



『高町なのは 出身:第97管理外世界「地球」極東地区日本・海鳴市 所属:時空管理局本局武装隊 階級:Data Delete 魔法術式:ミッドチルダ式・空戦S+ランク…』

正気に戻った俺はとりあえずスカさんになのはの情報とこの場所の情報を聞いているのだが、情報量がハンパじゃない。
正直頭痛いです。というかstsから千年後の世界とか、原作知識まったく意味がないじゃん。
とりあえずスカさんの話に区切りがつくまで、俺は首がちぎれかけてる人形?に座りながら話を聞いていた。
死体? に座るなんて罰当たりかもしれないが、ずっと立っとくのもしんどいし、ちょうどいい所にあったからついね。

『高町なのはの情報は以上だ、次にこの場所だったね。ここは、アルハザードだ』

「…もう驚かんから、続きを」

驚かんというかもう驚けないんだよ!! なのは世界憑依とか、デバスカ君とか! 千年後とか!! もうお腹いっぱいだよ!!
フェイトがレズに目覚めてなのはに求婚して子供が出来てました! って言われても驚かない自信あるよ!

『理解が早くて助かるよ。ここは管理局が偶然みつけた次元世界の狭間にあってね。これを見つけた管理局は即座にこの場所に行こうとしたんだが、やはり虚数空間が問題になってね。場所は確認しているのに行けない。この状態が続いていたんだ』

さすが千年後の管理局! アルハザードも見つけちゃってるよ!
あれ? でも脳みそ達はすでに確認してたような気が…

『その管理局の行動力のなさに呆れて自分で行動したのが君の下にいる彼だ』

「えっ?こいつが?」

椅子にしていたこいつがそうだったのか…

『彼は元管理局員でね。自分に賛同する他の局員を管理局に秘密裏に集め、ある計画を実行しようとしていた』

「ある計画?」

『ここに来ることだよ。まぁ科学的に行こうとは考えてなかったみたいだね。アルハザードの場所を確認してその上から虚数空間にとびこむ。あとは、飛行魔法も消去されるからね。重力に引かれ下に落ちていき、それで運がよければアルハザードに無事着地というわけだ。紐なしバンジーみたいなものだね』

科学者ってどいつもこいつも変態か頭おかしい奴しか居ないのか? 主に目の前のこいつとか。

『だが、秘密裏にしている情報が管理局にばれてね。管理局はすぐに逮捕しようと思ったが、今から死ぬかもしれない奴を逮捕するより、まずこの方法でアルハザードに行けるかどうかを彼らで試すことにした。そして、そのためにこちらに情報をくれる味方を彼に渡した。「君の研究は素晴らしい。これからも頑張ってくれ」と言いながらデバイスをね』

「デバイスって…まさか!?」

『そう…ジェイル・スカリエッティの人格をもつデバイスの私だ。私はJS事件後は特に脱走などの行動はとらず、死ぬまで目だった行動はしなかった。私の死後、私の頭脳が再び必要になりもう一度クローンを作成という話になったんだが、それは危険という意見が多く出てこの形に収まったというわけだよ』

「普通、警戒されないか? いきなり褒美だと言って得体も知れないデバイスを渡されたら」

俺だったらまずスカリエッティのAIだって部分で、そんなデバイス要らないんだけど…
レイジングハートとか、バルディッシュあたりのデバイスが褒美なら、喜んで使ってしまうと思うけどな。

『そうだね。はじめは警戒していてなかなか私を使用しなかったが、やはり人間は目先の欲には勝てないようでね。しばらくしたら普通に使用されてたよ』

「一応アンタ天才だもんなぁ…」

宿題が終わってないときに出木杉君が目の前に居たら聞いてしまうよな。うん

『私は彼らの計画やメンバーを管理局に伝える。そしてまた調べる、伝えるの繰り返しだった』

「管理局の仕事ちゃんとするなんて…偽者?」

『まあ彼らの行動にも興味があったし、いい暇つぶしになると思ってね』

「あっごめん、やっぱスカさんだわ」

『そして、彼らの準備も完了して人数も50人を超えてついに計画を実行する日がやって来た』











<あとがき>
感想でもはや何人か言ってますが過去にはもちろん行きます。
あと何話かした後、多分無印に飛びます。
ただ主人公はあまり強くないので従者?がつきます。
一人は決まってるんですが…もう一人出そうか悩んでます。
では!また!!



[6935] 第4話「衰える体」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 18:59
『作戦は決行され、50人以上の魔導師が虚数空間に飛び降りた。彼は何人か飛んだのを確認して飛び降りた。50人以上もいたんだが、成功したのは彼を含めて3人だ』

「…他の奴らは…」

『そのまま落ちていったね。虚数空間に底があるのかはわからないが、重力の続く限り落ち続けるだろうね。』

「そっか…」

『そして成功した3人だが、はじめは喜んでいたが、1日、2日と過ぎていくたびに自分たちの体に異変を感じた。』



第4話「衰える体」



「異変…?」

『そう、最初に気づいたのは、ウェール・ガヤルド…っと言ってもわからないか、名前を教えとこう』

ウェール・ガヤルド…原作にいないキャラか。ていうか、千年後の世界に俺の知っている奴なんていないか。
いや、もしかしたら同じ苗字の奴だっているかもしれないな。スクライアとか!

『ウェール・ガヤルド、そこに倒れている眼鏡をかけてる男だ。そして耳に緑のピアスをつけているのがファタ・マセラティ。最後に君の下にいるのがカステム・ベクター』

「ウェール、ファタ、カステムね」

明日になったら絶対に忘れている自信あるね。どうでもいいキャラっぽいし…

『年齢は全員30前後だね』

「はっ? ちょ…ちょっと待った!! 30前後?!」

それはおかしいだろ! こいつらはどう見たってかなりの年寄りだ。若く見ても60くらいだ。
いや、落ち着け俺! ここはリリカルの世界だ。リンディであれだし、ギリギリOKなのか? でもこいつ等、男キャラだし…

『そう。それが異変だよ』

「えっ? これが?」

年が異常に変化する異変? 若くなったり年老いたりする魔法的な感じなんだろうか?

『2日過ぎたときウェール・ガヤルドは、自分の体が以前に比べて急激に衰えてることに気づいた。これをおかしく思い、私を含め4人で調べてみた。するとおもしろい事がわかってね。彼らの体が来たときに比べて年をとっていたんだ』

「おもしろいって…お気の毒に」

『彼らはあせった。個人差は出るが1日で1年は年をとることがわかったからね。当初の計画を捨てて、アルハザードの不死になる魔法を血眼で探してたよ』

「ちなみにスカさんは?」

『手伝ってるふりをしながらアルハザードを研究してたよ』

「マジでお気の毒」

こいつらが、かなり必死に不死のデータを探している横で、ニヤニヤしながらアルハザードの研究しているスカさんが浮かぶよ。

『こんな症状がでたのは多分アルハザードのせいだね。アルハザードの空気が生物の体の成長を早める効力があったんだと思う』

「それと当初の計画って?」

『ああ、それかい? アルハザードで神になろうとしたんだ。管理局の全員分のデータを元にプロジェクトFで人を生み出してこの世界でね』

ここから人類をまた新たに始めて、それの創造主になろうとしたわけね。

『この話は今は、置いとこう。私がアルハザードの魔法を理解し始めたくらいに彼らは、不死になれる魔法を見つけた。彼らは喜び、すぐにその魔法を使った。リスクも考えずにね。その魔法を使った後、彼らは確かに不死になった。体中の血が抜け、誰かの言うことに従い続ける人形にね』

「…それって不死なのか?」

『可笑しなことを言うね、人形が死んだなんて言わないだろう? 人形は壊れるのさ。彼らは自分たちがだんだん衰えていくのに恐怖を感じ冷静さを失ってしまったのさ』

人間は衰えには勝てないという。その衰えが急激なスピードで迫ってくるのは確かに恐怖だったんだろう。

『彼らが死んだことを管理局に伝えたら「アルハザードは危険だ」ということになり管理局もここには手を出さずに終わり、私の仕事も終わり50年間ここで彼らを操り好きにしてるということさ』

「今更、気づいたんだが俺もやばくない?この体が年とったら…あれ?」

不安に思い自分の体を触ったときこれまた今更だがお約束に気づいた。

「体…縮んでる訳ね…」

さっきまで頭に血が上っていたり、衝撃の事実とかで気づいてなかったが、落ち着いてみると明らかに背が低い…
よくこの腕の長さであいつの首に切りかかれたな。

『君はこのアルハザードの空気に抵抗するように作ったから問題ないよ。』

「一応、安心した…」

ここでいて一気に爺とか、嫌だしね。

『さて…次は君のことを話してもらおうか?』

「俺のこと?」

『生まれたばかりなのに入れたはずのない記憶を持っていたり先ほどから不可思議な行動がありすぎる。君は何者なんだい?』

「俺は…」

このまま千年後に居たい訳じゃない。俺は元の日常に戻りたい。
戻れるなら、たとえ原作では敵だったスカリエッティでも頼る。
主人公のなのはを踏み台にしなくてはならなかったら俺は踏み台にする。現実に帰るために。

「俺は、異世界から来たんだ」





[6935] 第5話「コメテスアメテュス? 名前長くね?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/08/20 19:03
『つまり君は、千年前のこの世界が舞台の話がある第97管理外世界からやって来たと』

「ああ。理由はわからないけど」

『そうか…いやはや…クッ…』

「? …どうした」

『ククック…アーーハッハッハッハ!! ハハハハハハハ!!!』

「おーい」

…壊れたか?



第5話「コメテスアメテュス?名前長くね?」



いきなりスカさんが笑い出して3分ぐらいしてから、やっと落ち着いたのかようやくこちらに反応してくれた。
それまで、いくら話しかけても全く反応しない。寧ろもっと笑い出すから始末に終えない。

『いやいや、すまない。久しぶりに私の興味を引く話が出たのでね』

「おもしろいか? 俺は全然おもしろくないんですけど。むしろ最悪」

『おもしろいね。私たちがフィクションの存在の世界からやって来た一人の少年!! それに出会える確立なんて天文学的な数字だよ!! ああ、おもしろい! 長い間デバイスの身だったが、こんなにおもしろいことに出会ったのは初めてだ!』

「何でこんなことになったかな…」

今頃、普段の俺なら刺激も危険も少ない現実を生きてる筈だったのに、何が楽しくてスカさんと会話しているんだ。
いや、確かに原作キャラと会話できるのは嬉しいけれど、なんで敵キャラのスカさんなんだよ…

『ああ、それなら大体予想は出来てるよ』

「マジでか!」

がっかりしている俺に、いきなりの朗報! さっすがスカさん! 天才は違うね!

『憶測だがね、多分ファタ・マセラティが持っているロストロギアが原因だね。』

「ロストロギア? そんなの所持しててもよかったのか?」

『彼の先祖から代々受け継がれてきたロストロギアでね。管理局も危険な使い方はしないと約束させ、いつでも破壊できるように崩壊プログラムを組み込んでいたからね』

「なるほど…で? そのロストロギアは、何が出来るんだ?」

『ふむ…まあ簡単に言うとジュエルシードと似たようなことが出来るね。ジュエルシードは知っているだろう? 願いが叶う宝石だ。これは、思いが叶う宝石と言ったところだね。似ているようで違うね』

「この割れたハート型の宝石か?」

俺はその場に倒れている爺のポケットに手を突っ込み綺麗な宝石を引っ張り出す。
形は言ったとうりハート型だったが、何より目を引くのは毒々しいのに美しいと感じてしまう印象を受ける紫色だ。
宝石で言うならアメシストだ。ただ少し残念なのが真ん中に罅が入っていることだった。
だけど罅が入ってることをいれてもどこか惹かれる魅力がある宝石だと思った。
俺がしばらくその宝石を見つめていると、スカさんが話しかけてきた。

『ふむ…やはり魔力は空っぽのようだね』

「空っぽ?」

『そのロストロギア“コメテスアメテュス”は普段は紫色だが、魔力を蓄えるとその身を赤く染めていく、つまり今のそれは魔力がまったく入ってないね。最近見たときは血のように真っ赤だったのに』

「どのくらい蓄えられるんだ?」

『それがそのロストロギアのすごいところさ。詳しくは図れないほどの魔力を蓄えれるんだよ。ただ、思いによって魔力の減りは違うけどね。新しいデバイスがほしいとか、そういう思いならたいして消費しないが、世界を支配したいとか、ここに住んでる奴らを全員消し去りたいとか、そんな無茶な思いは、かなりの魔力を必要とするから普通は無理だけどね』

「この宝石にはどれくらいの魔力を蓄えていたんだ?」

どんな思いにしろ、思いを叶えたってことは、魔力はある程度溜まっていたはずだ。

『3代前、少なく見ても200年は蓄えていただろうね。ファタ・マセラティは人形になる前に魔法技術のない世界の実験体が欲しいと考えてたらしくてね。人形になったあとコメテスアメテュスが周りの微量の魔力を蓄えて、それで思い分の魔力が蓄え終わった今日に君を呼び込んだ。だが罅が入っていたせいで変に呼び込んでしまったんだろう』

「俺だった理由は?」

もしかして、俺の前世はとてつもなく凄い人物で、その俺の血にこのデバイスが反応して呼び寄せたんじゃ…

『…運が悪かったね』

…コメテスアメテュスーーーー!!!
なんで俺を選んだんだコメテスアメテュス! 平々凡々な生活を送っていたこの俺をなぜ選んだ!
たしかにリリカルは好きだ。だが、それはアニメとかそういうのだからだ。リアルでこんな目にあうのはノーサンキューだ!
それなら友達の平田君にしてくれたらよかった!
「あーリリカルの世界にマジで行きたいなー…フェイトたんとイチャイチャしたいんだけど、ちょっくらトラックにひかれてこようかなー」
とか言ってくるのに! なぜだコメテスアメテュス! ていうかコメテスアメテュスって言いにく!!

『次は君の体についてだ』

「あっはい」

かなりテンションが上ってそこら辺をのた打ち回ってたらスカさんに冷静に返された。

『君は歴史の偉人のクローン…名前を言ってもわからないだろうからとばすよ。彼は魔力変換資質の中でも特に珍しい魔力変換が出来てね。少ない魔力をそれで補って戦ったんだ。魔力変換資質“血液”を使ってね』

「血液?」

厨二臭い能力だな。

『自分の体の血で魔力を覆い強化する。それが彼の戦い方だった。彼は血を外に出せば増やしたり減らしたりできる特異体質だったからね』

「最強じゃないか!? ってことは俺も念願の最強キャラに…」

『確かに便利だが戦いが終われば貧血で倒れる確立が高いし、戦いが長引いたり、相手が強敵の場合使う血の量も増える。下手すれば死ぬね』

「争いはよくないよね。うん」

なんて微妙な能力だ…魔導師同士の戦いって基本は非殺傷なのに、俺だけ死ぬ確率ありとか。

『さて次は君が元の場所に帰る方法だが…』

「えっ、スカさん協力してくれるの!?」

『もちろんさ。私が困っている人を放っておけるわけないだろう?私はジェイル・スカリエッティだよ。フフフ…』

「ありがとう! スカさん!!」

なんか最後らへんに黒い笑いしてたけど気にしない方向でいこう。突然思い出し笑いしちゃっただけだよね。

『帰る方法だがまずは君の言う無印という時代に行こう』

「いけるのか?」

『ここはアルハザードだよ? それに私もいる。過去ぐらい戻って見せるさ』

さすがスカさん! そこに痺れる! けど憧れない!

『まず過去に戻りジュエルシードを10個手に入れる。それが一つ目』

「ジュエルシードを?なんで?」

ジュエルシードと言えば、白い悪魔さんが魔法に関わり始める切欠になった事件の要のはずだ。

『大量の魔力の確保のためだ。次に夜天の書。悪くて破片、よくて守護騎士を回収する。これが二つ目』

「それの理由は?」

さっきから話が難しくて話についていけませんスカ山先生!

『破片か守護騎士を研究して夜天の書が闇の書の時に使ったという幻覚魔法を使用するためさ。次にマセラティ一族が持っているコメテスアメテュスの入手。これが最後かな』

「えーと…つまり…」

『傷のない完璧のコメテスアメテュスを手に入れる。それにジュエルシード10個分の魔力を込める。それで私たちは君の世界に帰れると言う事さ』

「スカさん頭いい!! でもそれなら闇の書の幻覚魔法はなんで?」

ていうか、私たち?

『思いというのは、イメージが大事だ。宝が欲しいという曖昧なイメージではなく金剛石がほしいと明確なイメージがある方がいい。君は自分の家族周りの状況、自分の元の姿などを細かくイメージできるかい?』

「完璧には無理だけど…」

『ほら、曖昧なイメージになってしまうだろう。そんな状態でコメテスアメテュスが発動すれば何処に行くかは全くわからない。下手すれば君の世界によく似た別の世界に飛んでしまう。そこで闇の書の幻覚魔法をコメテスアメテュスに使う』

「なるほど…」

そろそろ頭から煙が出そうだな。

「それで、その作戦の要のコメテスアメテュスは、どこにあるの?」

『私が騒ぎを起こしている時…機動六課が出来た後にマセラティの者が管理局に入ったらしい。そいつから奪…いただこう』

「完璧じゃないかスカさん」

『ああ。じゃあ私は準備があるから少し研究室にいるから君は、B2と書いてる部屋で休みたまえ』

そう言ってスカさんが2・3回光ると奥の扉が開いて一人の人形? がスカさんを持っていってしまった。

「俺も休むか…」

今日はなんだか疲れた。俺は疲れた体を癒すため部屋に向かった。










sideスカリエッティ


フフフ…50年間つまらない日々を過ごしていたが、これほど愉快なのは久しぶりだ。異世界から来た?私たちの存在がお話になってる?
おもしろい! 興味深い! その場所に行ってみたい。彼の話を聞いたときそう感じた。

『まあ、とりあえずはこれを完成さして過去に行く方法を考えないとな…フフフ…アーーハッハッハッハ!! ハハハハハハハ!!! ハーーハッハッハッハッハ!!』



笑いながらデバイスは思い出した。彼の名前を聞いてなかったことに。





その笑っている不気味なデバイスの前に液体の入った容器の中に入っている少女がいた。黒い髪、黒い目、少し白い体、違いは少々あるが
管理局の英雄、高町なのはのにそっくりな少女が。










<あとがき>
書きながら思ったけどコメテスアメテュスって言いにく!!
ようやく無印編に行けそうです。
ちなみに名もない主人公君は無印編はマスコット的ポジションになります。
戦闘はFなのはさんが頑張ってくれます。
では!!次回!



[6935] 第6話「2P白い悪魔」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 12:46
誰かが俺の体を…触ってる…

「ここを…こうして…」

? なんかスースーする。

「これでいいかな。よし出来た」

誰だ…

「あっ、起きましたかマスター。初めまして、NF14と申します。汗をかいていたようでしたので、お着替えを持ってきたのですが、気持ちよく寝てるのを起こすのも悪いと思いまして、寝ている間に着替えさしておきました」

「いろいろ言いたいことあるけど、とりあえずスカさあぁぁあぁあん!!」

ズボンとパンツまで変えるなんて…もうお婿に行けない!!



第6話「2P白い悪魔」



『呼んだかい?』

俺はすぐさま部屋から飛び出し白い悪魔様そっくりの少女をおいて
そのままスカさんの所まで全速力で走っていった。スカさんは、人形に抱えられながら俺に話しかけている。
今日の人形は、昨日見た人形とタイプが違うな。昨日より若干華奢に見えるぞ…、ってそうじゃない!!

「あれ! いや、あの方はいったい!? ていうかマスターって?!」

『ああ、あの子かい? なかなか似ていると思わないかい。データによるとあんな感じだったと思うが…』

「確かに似てるけどなんか色が2Pカラー…じゃない!! あれは何!?」

『Fプロジェクトで作った高町なのはにフェイト・テスタロッサを混ぜたクローン…いや、オリジナルがいないね。オリジナル二つを混ぜた新しい人造魔導師だね。高町なのはを台にフェイト・テスタロッサを混ぜたら少々色が変わったが、まあ問題ないだろう』

なのは+フェイト=なのフェイですね。わかります。
ていうかそれなんというチート。そんなバカなことを考えてるうちにスカさんはどんどん話し続ける。

『平均魔力発揮値は164万、最大発揮値はその3倍以上だ。デバイスは高町なのはのデバイスのデザインでね。そして何よりすごいのが高町なのはとフェイト・テスタロッサの戦闘の遠距離戦闘と近距離戦闘が出来るというところさ。だが、劣化したところもあってね。遠距離型のとき高町なのはに比べて防御が薄いんだ。まあこれも然したる問題じゃないね。長い年月をただ過ごすだけじゃもったいないからね。人と人との合成理論、それをFプロジェクトで試していたんだが…。そもそも二人の人間を合わせるということ自体が難しいんだ。融合させた瞬間に拒絶反応が出てどんどん死んでってしまったんだが、この子だけは成功してね。体色が少々変化してしまっただけですんでよかったよ。まあ完成まであと僅かだったんだが、なんだか萎えてね。奥の倉庫にしまっておいたんだが、君との話で思い出して倉庫から出してきたんだ。』

…途中でとんでもないことが聞こえたような気がしたがスルーしとこう。
話し聞けば聞くほどチートだな。

「いや、そんなことよりマスターとは?」

俺に女の子にあんな呼び方される趣味はない筈だ…ない筈。
いや、そりゃあ俺も男だから。あんな可愛い子にマスターって呼ばれて嬉しくないわけじゃないよ?

『君は戦闘がない世界からやってきたんだろう? そんな君がいきなり戦闘してジュエルシードを奪うなんて無理だろう?』

「面目ないがそのとうりです…」

今の状態で白い悪魔や電気娘に挑むなんて、初期のティアナが2期のティアナに挑むくらい無謀だ。
がっくりと肩を落としてると奥の部屋からなのは(仮)が入ってきた。

『そんな君に私からのプレゼントというわけさ。君に服従するようにしてあるし、戦闘経験は私のお墨付きだ。これほど頼もしい従者はいないだろう? フフフ…』

「マスターのために頑張ります」

高町なのは(仮)はムンッと拳を握っている。
気合を入れてるようだが、その見た目でやっても可愛らしいだけだ。
夜の闇のように黒い髪にそれと同じくらい黒い目、そしてアルビノかと疑ってしまうほど透き通るように白い肌。
…かわいいじゃないか。

「よろしく。えー…っと名前は…」

「NF14です。マスター」

「NF14…なんかその呼び方嫌だな…」

「すみません…」

俺の言葉に自分が悪いかのように頭をうな垂れるNF14。

「いやっ! そうじゃなくて、なんかその番号みたいな名前が嫌だなって! そ…そうだ! 俺が名前考えよう! それがいい!」

まだ暗い顔をしているので強引に話を変えた。あの空気に耐えられない!
それより名前だ。なのはは菜の花からだから…この子は…
花つながりで…花…

「え…っと…そっそうだナズナ! ナズナちゃんなんてどう? かっ、可愛くない?」

ジーーーッと擬音がつきそうな視線が俺を見る。
見るな! 見ないでくれえ! そんな目で見ないでぇ!

「…マスターがくれた名前に文句なんてありません。私はこれからナズナと名乗ります。名前を考えていただき、ありがとうございます。」

「えっ? いいの? こんな適当に考えたっぽい名前で」

「はい」

返事が終わるとナズナは、また奥の部屋に戻っていった。
少し顔が赤くなっていたが…

「怒ったのか…?」

『照れ隠しだよ。』

「照れ隠し?」

『彼女は高町なのはの記憶やフェイト・テスタロッサの記憶を多少は持っているが、まだ生まれたばかりだ。赤ん坊が親にあやしてもらうと喜ぶだろう? それと一緒だよ。だけど喜んでる顔をあまり君に見られたくなかったんだろう』

「だといいけど…」

『それにしてもナズナとは、君もやるね』

「は? なにが?」

ナズナなんてけっこう何処にでも生えてるもんじゃないか。ていうかスカさんナズナ知ってるのね。

『…もしかしてわかってなかったのかい? 彼女が照れていた理由はそれも含めてなんだが…』

「だからなにが?」

『…まあいいよ。私は作業に戻るから君はナズナと一緒にあとで研究室に来てくれ』

そういうとスカさんは、人形で奥に行ってしまった。
…いったいなんなんだ?















『…ナズナの花言葉は“貴方にすべてを捧げます”だよ。それを理解してないであの名前を付けるなんて…天然か?』










<あとがき>
話が進まない?!
早く無印に行きたいんですが、うまくいきませんね。
感想で指摘されましたが、千年後の世界に主人公はいますが
あまり周りの環境は千年前と変わりありません。アルハザードの外に出れば
千年後ですが、ここに来た研究員たちは千年後の技術をほとんど持ってきてません。闇の書の幻覚魔法が必要なのは次回くらいにわかる…と思います。
原作時代に戻らなきゃいけない理由も一応あります。
文才がなくてすみません。
では!!また次回!!



[6935] 第7話「旅立ち」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 12:55
「ナズナー? 何処にいるんだー?」

「呼びましたかマスター」

「ああ、スカさんがあとで一緒に研究室に来いって言ってたから迎えに来た」

「ドクターが?わかりました」



第7話「旅立ち」



道がわからないのでナズナに案内をしてもらって進んでいるんだが
アルハザードは、電気があるんだが淡く光るだけで道が見えにくい。おかげで今が夜なのか朝なのかもわからない。
スカさんも作るならクローンとかじゃなくて、時計とか作って欲しい。
スカリーカンパニーの特性の目覚まし時計! あなたに快適の朝を迎えさせます! とかをキャッチフレーズに。

「どうしましたか?マスター?」

顔に出てたらしく、ナズナはわざわざ止まって俺の心配していた。
くだらないことを考えていたので、わざわざ止まってもらったのは申し訳なかったな。

「んー、スカさんも、時計とか作ればいいのにな、と思って」

「時計ですか?」

ナズナと歩きながらスカさんの話を続ける。
俺の話しにナズナは、首を傾けて不思議そうにしている。まあいきなりスカさんが時計作ればいいなんて話せばそうなるよな。 

「ドクターじゃなくてもいい気がします…」

「スカさんってさ、あれでもかなり天才だからさ。絶対起きれる目覚まし時計とか作れそうじゃない?」

魔法とか使ったら結構作れそうな物なんだけど…作れるんだろうか?

『おもしろい話をしてるね』

「あれ?ス…スカさん?」

「到着しました」

思いのほか研究室は近かったらしい。

『目覚まし時計か。確かにそういう平凡な発明はしたことがないね。今度作って君で試してみよう。まだ倉庫に火薬が残っていたと思うが…』

「スカさーーーん!! 過去に行く装置はできたんですかーーー!」

『…この話はいずれじっくり話そうか』

火薬とかマジでシャレになりません。朝起きていきなり頭がはじけ飛ぶとか、そういうのマジ勘弁。
ていうか火薬って質量兵器なんじゃないのか?

『一応は、過去に行けるようになったよ』

「一応…?」

『私も完璧にアルハザードの魔法を使いこなせるわけではないからね。時代の指定が出来ないんだよ』

「いつに飛ぶか分からない!? それって研究者たちと同じ紐なしバンジーじゃん!?」

こんにちは! 大人になったヴィヴィオ! とか嫌だよ! 何期だよそれ!? 6期ぐらいか!?
聖王戦記リリカル☆ヴィヴィオ! とか、原作知識やっぱ無駄になるよ!
あ!? そういえばリリカル4期見てないじゃん!?

「マスター、落ち着いてください」

『だからこれを使う』

慌てふためいてる俺を放って奥から一体の人形が青い宝石を5つ持ってきた。

「…ジュエルシード?何でこれがここに?」

『カステム・ベクターがここに来たときに複数発見してね。これを要に時間を越える』

虚数空間を漂ってここに来たのかな…それとも近くにプレシアの骨とかあったのか?
…自分で考えててなんだけど、ちびりそうになった。

「時間の越え方の方法はまだよくわからんが、ちょっと質問いい?」

『なんだね?』

「時間をも越えれる技術を持ったアルハザードなんだろ? だったら魔力や、それに闇の書の幻覚魔法なんて問題を解決する魔法くらいあるんじゃないか?」

『…アルハザードは、辿り着けばあらゆる望みが叶う理想郷として伝承されているのは知ってるかい?』

「確かそんな設定だったような…」

正直アルハザード自体には、アニメでもほとんど触れなかったし…
もしかしてまだ見ていない4期で触れたりするのかもしれないけど今それを知るのは不可能だしな。

『アルハザードはね、プロジェクトFとは別に時を研究してたんだ。今の世界でも時を完全に操作する魔法は存在しない。それをアルハザードは手にした。だが代償は大きかった。君も見ただろう? 研究者たちの最後を。自分の時が進むのを恐れ、自ら時を止めて人形になってしまった彼らを。アルハザードの人々も同じだ。最初の時間魔法を開発したのはいいが、それが暴走してアルハザードに充満してしまった。それで自らの時を止めて、時間魔法を作り続ける人形となった。そして、次元世界の狭間に引きずりこまれ、アルハザードの人々は虚数空間に落ちて行った。これが理想郷アルハザードの真実さ』

「じゃあ人を蘇らせるって魔法は嘘なのか?」

『もちろん嘘ではない、本当さ。それにも時が関係して来るんだ。時間を操りさえできれば、その人物が死んだという時をなかったことにして、新たな時を刻めばいい、それでその人は生き返る…いや、死んだことすらなかったことになるね。時というのは偉大だよ。時さえ操れれば寿命が続く限り、何回でもやり直しが効く。その点で言えばあらゆる望みが叶うというのも嘘ではないかもしれないね』

「ならそれを使ってコメテスアメテュスの傷をなかったことにして手元にあるジュエルシードで魔力を込めればいいんじゃないのか? 幻覚魔法は…スカさんが開発して…」

そっちのほうが安全だし確実だ。わざわざ過去に戻る必要もない。

『コメテスアメテュスが特殊…いや、ロストロギアというのは、厄介でね。それが何で出来ているのか? いつ誕生したのか? 傷がついたのはいつか? など細かく把握しとかなきゃならないんだ。理解してないまま、時間魔法を使うと私もコメテスアメテュスもどうなるかわからない。それに幻覚魔法は闇の書が一番いいんだよ。あれは人の心の負に反応する。君の帰りたいという邪悪…清廉な気持ちに闇の書もきっと応えてくれる。』

…邪悪とか聞こえたような気がするけどそんなことないよね? 俺、スカさん信じてて大丈夫だよね。
頭痛がして頭に手を置いてるとナズナが心配そうにこちらに目を向けていた。
正直、ナズナだけが俺の味方のような気がしてきた。
スカさんあれだし…

『さて、質問は終わったね、そろそろ時間旅行と行こうか。さあナズナ、セットアップしなさい』

「はいドクター」

ナズナがポケットからレイジングハートと同じ丸い宝石を出す。
色がかなり黒に近い、レイジングハートが紅ならこっちは、血のような赤だ。

「流星は夜に、光は闇に、闇を振るうはこの腕に、主の誓いはこの胸に! ミーティア、セットアップ!」

どこかで聞いた事のある起動用パスワードが終わるとナズナは黒い光に包まれた。
光が収まり出てきたナズナは黒いバリアジャケットを着ていた。
なのはの白いバリアジャケットが黒く染まり、初期のフェイトと色違いの紅いマントをしている。髪型はポニーだ。
…すごく、黒いです。
デバイスはレイジングハートのバスターモードの先が魔力刃になってる。
やはりデバイスも黒と赤に染まってる。

『さあ、次は君の出番だ。セットアップしたまえ』

「えっ? 俺デバイス貰ってすらないんですけど?」

『何を言ってるんだい? 君の目の前に立派なデバイスがあるじゃないか』

「マジで?」

『大真面目だよ』

すこし泣きそうな気分になりながら目の前のスカさんを指にはめる。

『じゃあ私の後に続いてくれ』

「あいあいさー」

口では文句を言うが、少し楽しみだ。やっぱ人間一回は変身ヒーローに憧れるだろ?
混沌の魔剣士とか漆黒の狂戦士とか…あれ?全部変身ヒーローっぽくないな。

『セットアップ』

「ええっ!! それだけ!? なんか喋ることないの!? ナズナみたいにさぁ、混沌の何々とかさぁ、漆黒のとか、なんかないの?」

『セットアップ』

「あれー? スカさーん。スルーですかー? 俺ちょっと泣きそうですよー」

『セットアップ』

「………セット!! アアァアップウゥウウゥ!!!!」

少し言葉に怒気を感じたのでおとなしくセットアップして光に包まれる。
アニメのように時間をかけて変身ではなく光は一瞬で収まる。光が収まり自分の姿を見てみると…

「…白衣?」

「マスター、こちらを」

ナズナが大きい鏡を持ってきてくれたので、改めて自分の姿を見る。
赤いラインが入った白衣を着て、その下にはエリオと色違いの黒い服を着ている。
靴の部分はガジェットに似ていた。
そしてデバイスは腕になってた。STSの最終戦でスカさんが装備してたのと似ているが赤いラインがないし、宝石も赤色だ。
肩まで装着されてる。しかも両腕に装備されてた。

「…スカさん」

『バリアジャケットのデザインは私が考えておいたよ。なかなか似合ってるじゃないか。まるで若いときの私のようだね。それで、何か不満があるのかい?』

「…スカさんと似てて…うれしいなぁ…」

あれ? おかしいな。目から汗が出てくるぞ?

『さて、緊急時用にバリアジャケットも着たし、時間旅行と行こうじゃないか』

「結局どうやって過去に戻るんだ?」

『この5つのジュエルシードをこの時間移動機に入れて暴走させる』

ナズナが人形からジュエルシードを受け取り
パンを焼くみたいなでかいメカにジュエルシードを入れてる。

『これを要にこのジュエルシードがもっとも活発に活動した時代に飛ぶ。幸いジュエルシードは、この千年間は活動していない。飛ぶ時代はおそらく、高町なのはがいる時代だ。』

「でもそれってやっぱり運じゃ…」

『そこでこれだ』

ジェエルシードをセットしている人形とは別の人形が淡く赤色に光っている宝石を持ってきた。

「コメテスアメテュス?!」

『ジュエルシード4個分の魔力を込めている。これを君が使ってくれ。君があの時代のことを出来るだけ細かく頭に思い浮かべるんだ』

「これに魔力を込めれたのか…じゃあ傷入ってるけど、これでいいんじゃないのか?」

『それをよく見てみたまえ』

人形の手にあるコメテスアメテュスは淡く赤色に光っているだけで別に変化は…

「罅が…大きくなってる?!」

喋ってる間にもコメテスアメテュスの罅はどんどん大きくなる。

『コメテスアメテュスはもうもたない。最後に君の思いをかなえて役目を終える』

「ドクター、セット完了しました」

ナズナが戻ってくると同時にアルハザードを揺れが襲った。

『準備は整った! 始めようじゃないか!』

俺はコメテスアメテュスを強く握り無印のなのは達のことを強く頭に思い浮かべる。

『舞台に新たな黒い人形を入れるとその物語はどうなるんだろうね! HappyEnd? BadEnd? それは天才の私にさえわからない!』

なのはにフェイト…レイジングハートにバルディっシュ…

『わからないからこそおもしろい! 先の読める物語ほどつまらないものはないからね!』

体が浮く感覚と同時にコメテスアメテュスを握る手が熱くなる。

『さあ! 始めよう! 君の物語を!!』










揺れと光がなくなった後、部屋には一つの割れたハートの宝石が紫色に淡く光っていた。
まるでこの先の不吉を知らせるように…










<あとがき>
やっとアルハザード編が終わりました。
アルハザードの時の魔法と闇の書の幻覚魔法はオリ設定です、すみません。
次回から無印編が始まると思います。
では!次回!!



[6935] 第8話「初戦は海の上で…なのか?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 13:22
平凡な現実世界の人間だったはずの、俺に訪れた突然の事態。
渡されたのは、無限の欲望。手にしたのはチートの従者。
出会いが導く偶然が、今、闇を纏って動き出していく。
断ち切る想いと、始まる物語。それは、現実へ帰るための鍵を手にする日々のスタート。

魔法少女リリカルなのは 現実回帰、始まってしまいます。










「がぼっ! あぼぼ!! あぼはぁ!!!」

「マスターーー!?」

『やれやれ…』

幸先わりぃ…



第8話「初戦は海の上で…なのか?」



「はあ…はあ…たっ…助かった…」

目の前がゆっくり暗くなり、体がどこかに飛ばされるような感覚が終わり、気づいたら海に落ちていた。
咄嗟に判断出来ず、呆気なく海に落ちてしまった俺。泳げないわけではないが、突然のことで体が反応できない。
ナズナがすぐに引っ張りあげてくれたから助かったが…

「スカさんは、助けてくれないんだなー」

一応は主というかデバイスとマスターの関係のはずなのに、全く助けてくれなかったな…

『ふむ、どうやら無事に過去に辿り着いたようだね。ここは…海のようだね』

俺の恨み言を華麗にスルーして場所の解析を始める我が優秀なデバイス。
お前のような優秀なデバイスを持てて俺はうれしいよ。

「マスター、お気を確かに」

「ありがとうナズナ…」

ナズナ…君は女神だ。

『ちなみに君は何を考えていたんだい?』

「何をってこの時代のことだけど」

この時代というより、1期のことを考えていたんだが…
なのは達を思い浮かべて、デバイスのこと考えて
無印のときの登場人物は全員覚えてたし、闇の書からこんにちはを避けるために
できるだけはやてのことは、考えてないし…
とらハのことはあんまり知らないから考えてもいなかったはずだ。最後に…海上決戦のことを思い浮かべて…
あ、もしかして最後に考えた海上決戦が原因で海の上から落ちてきたのか?

『まあいい。とりあえずここを離れようか。まず基地…住む場所を確保しなくてはね』

「スカさんから聞いてきたのに…」

せっかく思い出してたっていうのにこのデバイスは相変わらず…
というか主の言うことを聞かないで、自分で行動するデバイスってデバイスとしてどうなんだ?

『くだらないことを言ってないで行くよ』

「へいへい」

これ以上スカさんと話しても無駄だな…そう思い歩き出そうとしたんだが…

『master. here is magical power reaction backward.(マスター、後方に魔力反応あります)』

ナズナのデバイスが止めた。

「魔力反応? スカさん、管理局にいきなりばれた?」

『君が海に落ちた時に広域魔力遮断結界を張ったはずだから管理局には嗅ぎ付けられないはずだが…』

「俺の魔力でそんなことできるの?」

話し聞いた限りでは、俺の魔力ってそんなに高くないって話だったよな?

『君の魔力じゃ無理だよ。アルハザードで暇つぶしに作った結界プログラムさ。今は一個しかないから一回きりだけどね』

「じゃあ一体何が…」

後ろを振り向いて海を見回してみると、海から何かが出てきた。

「…魚にしてはでかいな…って」

目の前の巨大な生物? は大きな牙を持ち。鋭利な人を切り裂けそうなヒレ。
鋼のように硬そうな灰色な鱗を持ち。こちらを獲物を見るような目で見ていた。

「ギャラ○スだーーーーーーーーーーー!!!」

俺の叫びにギャ○ドスは反応したのか、呼応するように雄たけびをあげた。


----オォオオオォオオォオ!!!!


「マスター!下がって!」

「おぶす!!」

ナズナが俺を押す…というより殴って後ろに下がらせてくれた。

「マスターに手を出すのなら、お前はここで倒す!」





side--


竜はナズナの殺気を感じ、矛先をビビっている男よりナズナに向けた。
ビビッている男よりも数倍こちらの少女の方が厄介だと判断したのだ。己の命を脅かす者だと。
そんな竜の考えなど知らないかのようにナズナは足に黒い翼を展開し空に上った。

「ミーティア、Blade Form」

『All'right』

魔量消費を抑えるため時間移動のときに消していた魔力刃を形成する。
ナズナは遠距離で仕留めようか考えたが、離れすぎると己のマスターに危害が及ぶかもしれないことを考え近距離戦でいくことにした。

『master, the reckless driving body that took the jewel seed apparently. (マスター、どうやらジュエルシードを取り込んだ暴走体のようです)』

「…魚の願いを叶えたんでしょうか?」

竜は闇雲に体を振り回しナズナに攻撃を当てようとしているが
空中にいるナズナには、かすりさえしない。
ナズナはデバイスと余裕に会話しながら、どうやってこの竜を始末してやろうか考えていた。

「行動範囲が海だけなのは長所であり、短所ですね」

自分に当たらないのに必死に動いてる竜が滑稽なのか、ナズナの口の端がつりあがっている。
年相応の笑顔に見えるが、この状況で笑っている時点で全く年相応でないことは確かだった。
そんな態度に頭にきたのか、竜が大きな口をナズナに向ける。

「…? なにをして『I feel settling magic. Mastering. Please e …(魔力の収束を感じます!マスター!回避し…)』

ミーティアが言い終える前に閃光は発射された。巨大な閃光がナズナを飲み込み、空に消えていく。
竜は、相手が自分を馬鹿にしていることを理解し、同時に油断していることも見抜いた。
そこで、自分の一番攻撃力がある攻撃を放ち、相手が油断しているうちに倒してしまおうと考え、見事成功した。

「ナズナさーーーん!!!」

竜はナズナを始末したと思い、矛先を再び少年に向けた。
あの邪魔な少女は片付けた。しかし、その少女との戦闘で少し腹が空いたので、この男を食らおうと考えていた。

「きっききっきたーーー!!!スッ…スカさん!どうすんの?!ナズナさんやられっちゃったよ!?」

『少し落ち着きたまえ』

だが、食らおうと思った少年は、些かうるさい。面倒くさくなってきた竜は閃光をもう一度放とうと口に力を込める。――が


----オオッ!! オオォオッ!!!


「意外と頑丈ですね。その鱗」

背後に現れたナズナにその身を切り裂かれた。竜はすぐさま後ろを向きナズナに威嚇をし始めた。
頭の中では、何故先ほど吹き飛ばした少女が自分の背中を切り裂いているのか? という考えがグルグル回っている。

「何故? という顔をしてますね。少々油断して危なかったですが、回避できる距離でしたので回避しました」

マントの端にかすったけど…と小さな声で付け加えた。
確かにナズナのマントの端が少し焦げている。

「じゃあそろそろトドメさしときましょう」

ミーティアの魔力刃が研ぎ澄まされ、更に鋭くなる。
竜は口を大きく開け、もう一度ナズナを消し飛ばそうとするが、ナズナは同じ攻撃を再び放たせる気はなかった。

「さよなら」

懐に一瞬で詰め寄られ、その身に刃が振り下ろされた。


----オオォォォォ…


竜は海に沈んでいった。

終わった、とナズナは思ったが、不意に後ろに気配があることに気づいた。


----オォオオオォオオォオ!!!!


「二体目?!」

さっきの竜と同じ姿を持つ竜が現れた。竜は飛び跳ねナズナを食らおうとするが間一髪のところでかわされる。
二匹いたのは予想外だったが、倒すのがもう一匹増えるだけと考えた時にナズナは竜の尾を見た。

「…なるほど」

海から顔を出すのは二体。ナズナの顔に焦りが浮かんだ。
竜はナズナの表情を見て喜んだように低い唸りを上げ、ナズナに食らいついていった。





sideout


「スカさん、あれなんで二体なの? ジュエルシード二個あるの?」

『いや…ジュエルシードは一個だよ。奴らの尾に細い線が見えた。あれで繋がってるんだろう。伸縮自在だから二体いるのと同じだね。二体で食われそうなときに、二体とも同じことを考えたんじゃないかな?「食われたくない」ってね。だから身が硬くなった。相手を逆に食らうほどの力を得た、といったとこだね』

「ナズナ負けそう?」

『いや、時間をかければ勝てるだろう。どうやら二体同時に倒さなければ、もう一体は復活するみたいだね。だがこの結界がそんなに長くもたない。余りもたもたしていると管理局が来てしまう。ナズナはそれがわかってるから焦っているんだ』

「何か手がないのか…」

『あるよ。君が手を貸せばすぐに終わるよ』

「…それしか手段ないのか? というか俺にできるのか?」

俺、あんまり痛いの嫌なんです。

『ないこともないが、君にも魔法の練習は必要だ。だからこれはいい機会だよ』

「…よろしくお願いしまーす…」

確かにこの世界にいる限りは魔法の技能は必要だ。いきなりぶっつけ本番というのが、怖いがやるしかない。
もしかしたら、最強であんな竜なんて一発で倒せるかもしれないし。エターナルブリザードみたいな。

『指先に力を込める感じにして』

「こうか?」

人差し指に力を込める感じに力んでみたら、先っぽにビー球より少し大きい赤い玉が出た。
足元に赤く輝くミッド式の魔方陣も展開されていた。

「おわっ!? なんか出た!?」

『その要領で全ての指先にやってくれ』

スカ先生に言われたとうり全ての指にやって、全ての指先に玉が出来た。

「ここから先はどうするんだ?」

『赤いトマトがはじけるのを想像して』

なんで赤いトマト?
頭の片隅でそんな反論を考えながら、目を瞑りトマトがはじけ飛ぶのを想像する。うへぇ…汚い。
野菜とかを叩きつけたりすると、掃除のとき嫌なんだよね…

『よし。何とかできたね』

何かが体から抜けていく感じがして、目を開けてみると、赤い指先が血色になっていた。

「なんか脱力感があるような…」

『体から血が抜けたからね。このくらいなら大丈夫だよ』

「このくらいってあんた…」

いつか俺はスカさんに殺されるんじゃないだろうか?
だんだんとそんな気がしてきた。

『君の血で出来たそれはかなり頑丈だ。それを伸びるイメージを頭に浮かべて』

伸びる…? …紐なしバンジー…紐…?

海ではナズナが二対のギャラド○を相手に戦っているが、奴らはナズナを挟むように攻撃をしている。
やられることはないようだが、なかなかうっとおしい様子だ。

『今だ! 手を前に出して!』

「いきなりかよ!」

スカさんのいきなりの合図で手を前に出した瞬間


----オオッオ! オォオッ!! オオオォ!!!


俺の指先の玉が勢いよく伸びて紐のような形になり、奴ら二体を絡め捕った。
同時に俺の体も海に引きずられる。
当たり前だけど、俺にあんあ竜を二体も引っ張る力なんてない。平凡舐めるな!!

「ちょっ! スカさん!! 引っ張られる! 海に、また海に落ちる!!」 

『大丈夫だよ』

海に落ちる瞬間に肩の部分から赤い羽が生えた。

「おおっ!! さすがスカさんすげぇ」

このままじっとしてたら海に引きずりこまれるのは変わらないので
とりあえず上に行こうとするが。

「おっ重い…こいつら…重すぎだろ…」

紐は切れないし、奴らは暴れるし、紐より先に俺がだめになりそうだった。

『あと少しだよ。がんばりたまえ』

「あと少しって…」

『ナズナだよ』

捻じれそうな体でナズナの方を向くと、ナズナが魔力を集束していた。
…ここだと、当たりそうじゃない? えっマジ?

「うおおぉおぉおおぉお!!! 竜の一本釣りじゃああぁああぁあ!!」

千切れそうな腕に力を込めて出来るだけ上に行く。
当たる! 早く上に行かないとマジ当たる。頭冷やされる!!










「今度こそさよなら、ディバイン」

『Buster』

黒い閃光が竜を飲み込みその衝撃で津波が起きる。竜は二体とも黒い閃光に耐え切れずその身を消していく。
竜が消えた後、小さな魚が二匹、海に帰っていった。その海の上に浮かぶ宝石。
シリアルナンバー9のジュエルシード

「ジュエルシード、シリアル9、封印」

『sealing. receipt number Ⅸ』

ミーティアにジェエルシードが格納される。

「マスター! ご無事ですか!」

ナズナは海面ギリギリを飛んでる主に駆け寄った。

「な…なんとか」

ナズナは主の手を握り足のつく所まで誘導する。主は血が抜けたせいなのか、顔が少し青い。

『結界が消える前に片付けれたね。さあ時間を食ってしまった。当初の目的どうり住む場所を確保しにいこうか』

「あ…悪魔め…」

2人の魔導師は、陸についた後、そのまま夜の街に消えていった。













おまけ


俺たちは海から出て、住宅街を歩いていた。

「…今日は野宿だな」

『夜だからしかたないね』

「先ほどの公園に戻りましょう」

過去に来たのはいいが、時間が夜だったみたいで、家探しというわけにもいかなくなった。

『それよりさっきから魔力反応がしているんだ。近くに魔導師がいるみたいだね』

近くに魔導師…? なのはかフェイトか?

「まあ今日はいいや。公園に引き返そう」

「そうですね。じゃ「ごめんなさーーい!!」…なんです?」

奥の道から思いっきり聞き覚えのある…というより、現在進行形で聞こえてる声が
聞こえてきた。ついでにパトカーの音も。

「深夜に大きな声を出すなんて、近所の迷惑を考えて欲しいですね」

「…そうだね…」

『フフフ…』










<あとがき>
無印編突入と同時にジュエルシード一つ入手しました。
戦闘描写は難しいです…
というより主人公の名前どうしよう
ここまで出てないと逆に出しにくい…
普通の名前なのに…



[6935] 第9話「バーニングさん登場!?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 13:27
「あ~~…ベンチで寝るもんじゃないな~、体中痛いわ」

「マスター、おはようございます」

『おはよう。早速行動を始めよう。昨日のうちにこの町の地形を把握しといたよ』

「じゃあ行きますか」



第9話「バーニングさん登場!?」



「スカさんが行きたいアパートってここらへんだよな?」

『ああ、あそこの角を右に曲がってくれ』

朝早くおきて飯も食わずに行動しているのだがそろそろちらほらと、登校している子供が目立ってきた。
幸い、肉体的に俺たちも子供だから、目立つってことはなかった。

「このぐらいの時間だと子供が目立つな」

『夜だと警察に見つかったら補導だからね。おや、見えてきたよ』

角を曲がり奥を見てみるといかにもボロいアパートが建っていた。

「…これ?」

『これだよ、ここに今日から住もうと思う』

目の前のアパートは、お世辞にも綺麗とはいえない、なんとも言えないものがあった。
地震が来れば倒れるだろ、これ。

「レトロで素敵です」

「それ、かなり無理してない?」

ナズナのフォローも少し厳しい。

『ほら! 早く管理人に挨拶しに行きなさい』

「…なんか嫌なんだが…」

スカさんの方が頭もいいし、これもスカさんの考えがあっての行動なんだろう。
…信じていいんだよね?

「すいませーん」

「はい」

ドアをノックしてすぐに出てきたのは、リリカルワールドには登場できない
普通のおばちゃんだった。いや、リンディが特殊なだけかもしれないが…

「あのすみまs『ジェイルフラッシュ!!』へっ?」

挨拶しようと頭を下げようとした瞬間に右手の中指にはめていた指輪が光り
おばさんが光を見て、ばたりと倒れてしまった。

「スカさーーーーーーーーーーん!!!!! なにいきなり殺ってんの! おばさん大丈夫ですか!?」

倒れたおばさんに即座に近寄り介抱する。
おばさんは倒れたときに少し頭を打ったのか頭を押さえながら起き上がってくれた。

「大丈夫ですか? 頭いたくありませんか?」

ナズナがハンカチを出して渡していた。

「ああ…大丈夫、少し貧血でくらっとしただけだよ“ナズナちゃん”」

…………は?

「ようやく来たんだね、二人とも。さあ部屋に案内するから、ついておいで」

おばさんは少しふらふらしながらナズナの手を引いていった。
えーと、状況がよくつかめないんだが…スカさん…あんたまさか…

『洗脳魔法さ』

「とりあえず一言いっとくけどさ、やる前になんか言ってくれない?心臓に悪いんですけど」

『………考えとこう』

考えとこうということは、声かけることじゃないってことね。…泣いていい?





「何か用があればよんどくれ」

部屋の説明を終えておばさんは部屋を出て行く、なぜかおばさんは最後までニコニコして帰っていった。
あのニコニコ顔が俺の罪悪感をひしひしと感じさせたんだが。

『二人は少し散歩でもしてきたまえ。私は少しここでしたいことがあるからね』

机の上においてあるのをを持っていくといい、とスカさんは言って再び光り
虚ろな目をしたおばさんがまた部屋に入ってきて俺の指からスカさんを取り押入れの中に一緒に入ってしまった。

「おばさん…何もできない俺を許してくれ…」

「マスター、ドクターがこれを持って外に行けばいいといってました。行きましょう」

ナズナが財布らしきものを持って外に俺をひっぱてく
ナズナの財布らしきものがさっきおばさんのポケットに入っていた財布とよく似ていた。そっくりだ。偶然ってあるもんだよな。

「マスター、何処に行きますか?」

「腹すいてきたし、ご飯でも食べに行こう」

「はい、ついでに夕飯の買い物もしていきましょう」

「そうだな。時間は…もうお昼前か」

少し警察に補導されないか心配だが、何とかなるだろう。

「じゃあ蕎麦食いに行こう。蕎麦」

「蕎麦ですか?私はうどんのほうが…」










ご飯を食べて買い物をし終わったときにはすっかり辺りは夕暮れだった。

「遅くなる前に帰るか」

「はい」

「あっ荷物は俺が持つよ」

「いえ、私が…」

「戦闘はナズナに頼りっぱなしだし、こういうことぐらいは俺がやるよ」

「…わかりました」

ナズナから荷物を受け取り、帰ることにした。
軽く買い物するだけだったのに、食料や服を選んでるうちに時間がたってしまったな。
今のナズナは、頭に帽子を被っている。この町にはなのはを知る人が多くいるので一応のカモフラージュだ。
その帽子を深く被っていたせいか、目の前が見にくかったらしく、人とぶつかってしまった。

「すっすみません」

「お前どこに目つけてんだよぉ」

ぶつかってしまった相手は子供だが、見た目はジャイアンだった。
…あっ!隣にスネオもどきもいる。
そういえば、この世界にもドラえもんって放送してるのかな? してるとしたらどっちの声なんだろう…

「そんなに深く帽子被ってるからだよぉ」

「そうだぞぉーその帽子脱げば、ぶつかることもなかったんだぞぉー」

…うぜぇ
そんなにぶつかったこときにしてんのか?
ナズナの姉御。こんな奴らディバインバスターで吹き飛ばしちまいやしょう。

「えと…すみません」

「ごめんですんだらお巡りさんはいらないんたよぉ」

「そうだぞぉー」

ナズナは一般人に魔法を使うわけにはいかないので
かなり困っていた。第三者が見たら男子たちが女の子をいじめてるように見えるだろう。

「こらぁーーーーー!! あんたたちーー!!!」

「やべぇ! アリサだ!」

「待ってよ! 一人で逃げないでよ!!」

大きな怒声が聞こえるとともに、ジャイアンもどき達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
…あれ? アリサ?

「あいつら~!! あなた達大丈夫だった?!」

「あ…ああ、ありがとう」

「ありがっ!?」

即座にナズナの口を塞ぎ、後ろに下がる。

「ナズナ…今からお前は無口キャラで通すから、合わしてくれ」

「? わかりました」

「あなた達何してるの?」

「いやいやいや!! 何でもない!!」

「そう。あなたも大丈夫?」

「……はい」

「? …あなたの声…どこかで…」

一言しか喋ってないのに
気づくの早ええぇえぇ!! さすが親友だね! お兄さんびっくりだ!

「ああ! いっけな~い! 卵買い忘れちゃった! 今すぐ買いに戻ろう!」

「あっ! ちょっと!」

ナズナの手を掴み、全力で逃げる。

「助けていただいて、ありがとうさ~~ん!!!」





結局、店まで一回戻り、卵を買って帰ることになった。

「今度は気をつけてくれよ」

「はい、マスター」

まさかアリサに遭遇するとは…アリサ拉致イベントだったら絶対スルーしたのに
声を聞かれたのは、少しまずかったか…いや、アリサは魔法関連には
深く関与してこないし、そこまで考える必要はないか…しかし…

「おっと」

考え事をしてると風が強く吹いたらしく、少し体が前に押される。

「あっ」

ナズナの帽子も風に飛ばされていた様だ。荷物を置いて急いで帽子に駆け寄り、落ちてる帽子を拾った。

「ほいよ」

「ありがとうございます。マスター」

にっこりと笑って、俺から帽子を受け取るナズナを見て今日のこともなんとかなるかなって気分になってしまう。
まぁアリサには顔を見られてないし、大丈夫だろう。それよりアパートが要塞に変わってないかが心配だ。
それにしてもさっきから風が強いな。

「夕日が沈んでしまう前に今度こそ帰ろう」

「はい」

風は吹き続けていた。










sideアリサ・バニングス


…あの子の声…絶対どこかで聞いたことあるんだけど…

あたしは今、車に乗りながら先ほどの女の子のことを考えていた。
うちの学校の悪がきで有名な二人が誰かに絡んでいるのを見つけて、注意したのはいいんだけど…
男のほうはどうでもいいけどあの女の子…
顔は帽子を深く被ってるせいでよく見えなかったけれど、あの小さく聞こえた声…
絶対どこかで聞いたことあるんだけどな~~!!

「あ~~! 思い出せない!!」

思い出せそうで思い出せない。この気持ちがあたしの苛立ちを大きくしていた。

「…はあ。ちょっと風にでも当たろう」

車の窓を開けて少し風に当たる。すこし冷たい風があたしの頭を冷やしてきた。
そして車が信号で止まり、窓を閉めようとしたとき…

「きゃっ!?」

突然、風が強く吹いて髪の毛が乱れた。

「うあ~…最悪…」

せっかく収まってきた苛立ちがまた出てきたと思ったら、歩道に帽子が落ちていた。

「あれ? あの帽子…」

「よっと」

気づいたときには、先ほど会った男が帽子を拾って後ろの少女に渡していた。

「ほいよ」

「あ…がとうござ…ます。……ター」

風が強く吹き、少女の声はうまく聞きこれなかったが
顔は確認できた。あの顔は…

「なの…は…?」

もう一度よく確認しようとしたが、車が出てしまい、それは叶わなかった。
さっき、あたしが見たのは見間違いなの?
でも、あの笑顔は確かになのはだった。
ということは…

「そっくりさん? ああ! そういえば声もなのはそっくりね!」

聞いたことのある声はなのはの声だったんだ。
な~んだ、すっきりした。おかげで今夜はぐっすり眠れそうね。










おまけ

「ヘックシュ!」

「どした? 風邪か?」

「いえ、風邪ではないと思うんですが…ヘッ…ヘックシュ!!」










<あとがき>
次回はアニメ第3話に入ると思います。
早ければ今日更新できるかも…
感想のナズナの、イメージについてですが
確かにあんな感じですね。敵に冷たそうなとことか…
そして次回、ついに主人公の名前が!
感想の車の名前という意見をいただき車の名前関連にしました。
では!!次回!!










おまけ2
キャラ紹介

名前:本田 玉枝【ホンダ タマエ】
通称:おばちゃん
年齢:永遠の16才(48歳独身)
血液型:B型
出身:第97管理外世界「地球」極東地区日本・海鳴市
所属:しあわせ荘
階級:管理人
役職:パート
魔法術式:…スカ式?
所持資格:漢検準1級/家庭料理技能検定2級



[6935] 第10話「街には樹がいっぱいだよ」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 13:34
「スカさん…ここは?」

『生身の私…ジェイル・スカリエッティの隠れ家の一つさ。この時代では、まだ手をつけてないからね。私がいただいた』

「いや…そうじゃなくて…」

『外部からのサーチも完璧に遮断できるし、転移してきてもこの場所が絶対ばれないことを保障しよう』

「すごいけど…だからさ…」

『いや~いい仕事したね。ここなら思いっきり研究ができるし、君の魔法の練習もできるよ。おばちゃんに感謝だね』

「ならそこで泡吹いて倒れてるおばちゃんいますぐ助けろよ。つーか、押入れに変な次元世界作るなよ。ドラえもんか」

スカさん帝国…名前はサラーブ…





このあと図書館に行ってわかったことだが、サラーブとは、アラビア語で蜃気楼というらしい。



第10話「街には樹がいっぱいだよ」



スカさん帝国設立から数日…。結構いろいろな施設があるサラーブは割りと快適に過ごせれた。
そこで、俺はスカさん帝国…サラーブで考え事をしていた。

「マスター、お茶が入りました」

「ありがとう」

そろそろ原作介入していかねば…
俺たちのに持ってるジュエルシードは今のところ一つ。目標数には全然足らない。
スカさんの話ではすでに5個のジュエルシードの反応をキャッチしたらしい。この数日間、スカさんの手伝いでほとんどサラーブから出ていない。
スカさんはこの世界の金を手に入れるために、銀行にハッキングしたらしい。
翌日、おばちゃんの通帳にとんでもない額の金が入っていた。
なんだかスカさんのせいで何が何でも現実世界に帰らなきゃいけない気がしてきた…。
このままこの世界にいて、もしこれがばれるようなことがあれば…。まあスカさんに限ってそれはないけどな。

「とりあえずサラーブから出よう…」

『もう出るのかい?』

「ご一緒します」

俺たちは押入れにつながっている魔方陣にふれてとりあえず外に出ることにした。

「あら!? ナズナちゃんに鈴木くんおはよう」

「おはようございます。おばちゃん」

なんだか久々に名前を呼ばれた気が…気のせいか?

「そうだ! ナズナちゃん! 今日ね、翠屋JFCっていうサッカーチームの試合があるのよ。
ナズナちゃんたち暇でしょ? おばちゃんのかわりに見てきたらどうだい?」

翠屋JFC…確か一人ジュエルシード持ってたよな。見に行ってみる価値はあるか…

「そうするよ。ていうか、おばちゃんはなんで翠屋JFCを知ってるの?」

「そりゃあ翠屋のオーナーの高町士郎さんが美形だからに決まってるじゃな~い。息子の恭也くんもお父さんに似て美形なのよぉ~」

「そうですか…」

おばちゃん迷っちゃうわ~と、妙にくねっているおばちゃんを放って、翠屋JFCの場所に向かった。





「いけー! そのままいけー!!」

「がんばれー!」

アパートから出て少し歩き、ようやくついたときには、試合は始まっていた。

「ナズナはここで待っといて」

「はい」

ナズナをなのは達の目に入らない場所に待機させて、スカさんと一緒にどれがジュエルシードを持っているか探しに行くことにした。
ナズナは一応帽子を被ってるし、日傘をしているので顔は見えないはずだが念のためだ。



「あがれあがれー!」

…どいつがジュエルシード持ってるんだっけ? 正直俺には、リリカル世界の男なんてSTSの奴らしか記憶にない。
こんな使い捨てキャラなんて覚えてる人いるのだろうか?

「スカさん、どいつがもってるかわかる?」

『難しいね。発動していないジュエルシードを探すのは少ししんどいだ。私は探知に長けてるデバイスではない。魔導師ぐらいならわかるんだが、ジュエルシードとなるとね、せめて発動してくれればいいんだが。サラーブに帰れば特定できるけど、どうする?』

「…もう少し様子を見よう」

…今更だけどナズナ呼んでようかな? でも士郎パパに見つかったら厄介だしな~

「試合終了! 2-0で翠屋JFCの勝利!!」

「おっ?」

どうやら試合は終わったようだ。これから翠屋で飯を食いに行くはず…
ついて行ってもいいが、それだとナズナを置いていかなくては、少々危険だ。

「スカさん。街に出ておこう」

『ジュエルシードを盗らなくていいのかい?』

「誰が持ってるか、わかんないからな。わかれば一人になったときに闇討ちしたんだけどな~」

使い捨てキャラがどうなろうとどうでもいいから闇討ち予定だったんだが、そうもいかないらしい。

『全員洗脳して監禁しとくのはどうだい?』

「…そこまでしなくてもいいような」

人のことは言えないが、スカさんはやっぱり危険だと思う。
監禁って…。それジュエルシード回収した後、どうするんだよ…。とりあえずナズナと合流しよう。

「ナズナー! ちょっと街行ってご飯食べに行こう」

「はい」





どこかで見たことのあるファーストフード店で軽くご飯を済ませ
ナズナと少し街を散策することにした。

「マスター、ジュエルシードはいいんですか?」

「今はね、そろそろ始まると思うんだけど…あっ! また落ちた」

散策してるだけじゃ暇だったので、UFOキャッチャーで遊んでいるんだが、なかなか難しい。

「マスター、私はもういいですよ」

「いや! こうなったら男の意地だ! 何が何でもとってやる!」

このUFOキャッチャーをやり始めたのはナズナがメイド服を着たクマの人形をじっと見つめてたからだ。
あんな顔されちゃあ、黙って置けねえ! ということで

「あっ、落ちた」

『君センスないね』

「…言うな」

チャレンジしているのだが、難しい。こうなったら、この千円札も百円に変えて…
さよなら野口さん。ナズナのために百円に変身してもらおうか。

≪聞こえるかい?≫

「んっ? ナズナなんか言った?」

「いえ、私は何も」

≪私だよ≫

この声…スカさん!? ということはこれはあの…

≪念話なのか!!≫

≪…いきなり出来たね。説明が省けてよかったよ≫

≪スカさん一体なんなんだ? 初念話がこんなにいきなりなんて≫

≪君が下手すぎて見てられなくてね、やり方は分かったから私の言うとおりしてくれ≫

≪何故に念話?≫

≪さっき少し喋っただけだから気づかれなかったが、あんまり喋りすぎると周りにばれるだろう?≫

≪理由はわかったが、このUFOキャッチャーは甘くないぜ! いくらスカさんといっても、出来ることと出来ないことがあるんだ。だから俺に任しとけ!≫

≪まず1を私が声をかけるまで、押し続けて≫

≪………いいだろう≫

現実(UFOキャッチャー)の厳しさを思い知るがいい!! 吠え面かきやがれ !!!










「ありがとうございます。マスター」

「…ああ、うん。気にしないで…」

『フフフ…』

クマの人形を抱き、いつもの二倍の笑顔で俺にお礼を言うナズナ。その笑顔が俺には眩しすぎる…

『いつまでも暗い顔してないで元気を出しなよ』

お前が言うのかスカリエッティ、この天才め…

「まあ、だいぶ時間つぶせたしそろそろ始まるかな?」

街中を見渡すがまだ特に変わった様子はない。まだ時間があるってことか

「ジュースでも買ってのんびりしとくか」

ちょうど自販機があったので飲み物でも買おうと近寄ったのだが

「のわっ!!!」

目の前の自販機が樹の根に巻き込まれ飛んでいってしまった。
今このタイミングで始まるのかよ?!

「マスター!!」

『protection.』

ナズナはすでにセットアップを済ませていたらしい。俺の前に出て飛び石などから俺を守ってくれている。
瞬時にガードしてくれたおかげで、俺の体には傷一つない。俺には勿体無い従者だ。

『君も早くセットアップしたまえ』

「了解! セットアップ!」

光に包まれ、一瞬で白衣に変身する。

「ふふふ…じゃあおいしいとこ取りと行きましょうか」





「お~いたいた」

ジュエルシードの暴走体の攻撃を避けながら核になっている二人の場所までようやくたどり着けた。
ここに来るまでにナズナがいなければ何回か死んでたな。

「封印します。ジュエルシード シリアムグッ!!」

ミーティアを向けて容赦なく封印しようとしているナズナをとりあえず止めておく。

「むむぐむ?もむあー? (何故です?マスター?)」

「あ~、ちょっと待ってて」

ナズナが不思議そうな顔で俺のほうに振り向いたとき、遠くの空で桜色の花火が上った。

『エリアサーチ? これは…なるほど、目の前のジュエルシードが目当てな訳だね』

「これ俺たち見つかるかな?」

『多分大丈夫だよ。熟練の魔導師なら危ないけど、この魔法を行使している子は初心者だし、それに少し焦ってるみたいだ。術式が少し荒い』

「ならいいか、あっまた来た」

エリアサーチが終わったみたいで、今度は遠距離魔法がすっ飛んできた。

「…やっぱすげぇ威力だよな、あれ」

「……私にもできます…」

『ククク…』

桜色の閃光が止みジュエルシードが少年の手に収まっていた
…? ナズナの声に少し不満がこもっているが…なんで?

「ほらっナズナ、出番だ。頼むよ」

「……ジュエルシード シリアル10 封印…」

ナズナのブスッとした声にジュエルシードは反応し、ミーティアに吸い込まれてた。

『Receipt Number X』

「よし! 二つ目ゲット!」

自分の手を使わずにお宝ゲット。これこそが帰る一番の近道…だったらいいな。

「帰りましょうマスター」

「えっ? あっ!ちょっ待ってくれよ」

ナズナが手にメイドクマを持ってズンズンと歩いていってしまった。
そんなに家にクマの人形を早く置きたいのか…

『ププッ!! ククク!!』

…スカさんの笑いを抑えながらも地味に抑えれてない笑いが妙に感にさわった一日だった。










side高町なのは


「ええぇ!! ジュ…ジュエルシードが封印できてないの?!」

「うん、そうみたいなんだなのは」

今日は大変な失敗をしてしまって、決意を新たに明日からがんばろう、と思っていたら
寝る前にユーノ君からびっくりする報告を聞いたしまったの。

「で、でもでも! ジュエルシードの暴走は収まっていたよ!!」

「うん。けどレイジングハートの中には5個しか入ってなかったんだ」

『Sorry』

「レイジングハートのせいじゃないよ。私がちゃんと確認しなかったのがいけないんだ」

今日はすごく落ち込んじゃって、ちゃんと確認しとかなかったのがいけなかったんだ。

「じゃあジュエルシードはまだ…」

「いや、封印できてなかったなら、またあの後すぐに暴走するはずだよ」

「えっと…どういうことなの?」

「なのはの封印は完璧だった。ならもしかしたら、ほかの魔導師が…」

「私以外の…?」

「うん、可能性にすぎないけれど、それでも、もしこの仮説が本当ならこのジュエルシードを集めているうちにいずれ出会う確率が高いと思う」

「…そっか」

ならその人に会ったときに、どうしてジュエルシードを集ているのか、ちゃんとお話しなきゃね!










おまけ

「へくちっ!」

「どうしたんだいフェイト? 風邪かい?」

「ううん、大丈夫だよアルフ。少し風に当たりすぎただけだよ。それよりジュエルシードを探そう」

「そうかい? 無理はいけないよ」

「うん、ありがとうアルフ」











<あとがき>
主人公は、あんまり原作に関わりたくありません。…運命が許しませんが…
なのは達が自分達以外にも魔導師がいるかもしれないことを知ります。
フェイトの戦いのときおそらく的違いな質問をするでしょう。
では!!次回!!










おまけ2
キャラ紹介

名前:鈴木 嵐【スズキ ラン】
通称:ランちゃん(呼ばれると切れる)
年齢:肉体は9才(精神18歳)
血液型:?
出身:異世界「地球」
所属:しあわせ荘
階級:主
役職:ナズナの主
魔法術式:ミッドチルダ式
所持資格:なし



[6935] 第11話「桜+金=黒い魔法少女!?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 13:41
「で? どうなのスカさん?」

『君の話どうり、微弱な魔力の反応がある』

「動き出したか…」

『我々も、うかうかしてられないね』

「ちなみにアルハザードの“あれ”何回できるの?」

『3回だよ』



第11話「桜+金=黒い魔法少女!?」



樹木暴走事件で手に入れた、ジュエルシードはサラーブに保管しておくことになった。
もう一つのジュエルシードはナズナのミーティアに保管してある。
スカさんとの話し合いで、一つはナズナに持っといてもらうことに決まった。
大丈夫だとは思うが、一応の保険だ。

あの樹木騒動の時、あまりにもナズナに頼りすぎるのもよくないと思い。俺の魔法の技術を上げるためスカさんと魔法の練習をしたんだが
できるようになったのは、魔力変換を失敗なしにできるようになるくらいだった。
スカさんいわくかなりの進歩らしいが、あまり上達した気にはならなかったのが本音だ。
デバイスカの形は両腕に装着するタイプとSTSの片腕に装着するタイプがあり、身体能力の強化を自動でしてくれてるらしい。
詳しく自分の体を調べれたのはいいが、やはり今の時点では、ナズナの枷にしかなれないらしい。

「なんか…まさに紐だな…俺…」

『紐しかうまく使えないしね』

「マスターの代わりに、私が頑張ります!」

正直どうなんだ? 年下の増してや少女に守られる男って…





「今日は運命に接触しようと思う」

「運命ですか?」

場所は変わっておばちゃんの管理人室。ナズナとスカさんで今日の会議を行った。

『今日動くという保障はあるのかい?』

「ふふふ、抜かりはない」


---昨日


「? おばちゃん機嫌いいね? どしたの?」

「あら、鈴木君! 今日ね~、翠屋の近くを通ったときに恭也くんを見れてね~おばちゃんの胸がもうキュンキュンよ~~」

「そ…そう…よかったね…」

「そうよね~、あっ、よかったら今度ナズナちゃんと翠屋行ってきたらどうだい?」

「考えておきます」

「明日は恭也くん居ないって小耳に挟んだけど、別に鈴木君は恭也くんはどうでもいいでしょ?明日行ってみたら?」

「明日は居ないんですか…」


---現在


「という情報をおばちゃんからいただいたんだ!」

おばちゃんたちの情報は的確だからね。

『おばちゃん大活躍だね』

「でも、おばちゃんが翠屋を知ってるってやばいんじゃないか? ナズナとなのは似てるってレベルじゃねえよ」

おばちゃんと話をしながら、その話題が出たらどう言い訳しようって焦ったんだが。

『その点は大丈夫だ。私が保証しよう』

スカさんは自信たっぷりに俺に返事をしてくれた。やっぱりスカさんは凄いなぁ
あれ? ちょい待て…

「…改造とかしてないよね?」

『………シテナイ』

「……今日は少し遠く行くから、ナズナ準備して」

「はい」

改造したかと思ってちょっと焦っちゃった!ふふふ、仲間を疑うなんて駄目だなぁ俺。
今度おばちゃんに会ったら日頃の感謝を込めて肩でも揉んであげなきゃね!! うふふ!










「ここか…でかいな…」

「大きいですね」

『大きいね』

あの後、すぐに着替えて月村邸に来た俺達は想像を遥かに凌ぐ家?の大きさに驚き、道で固まっていた。
これ本当に日本なのか? と疑いたくなるでかさだ。

「門の前まで行くとナズナとか監視カメラに写ったら面倒だし、フェイトと同じく空から進入しよう」

人目のつかない場所まで移動してデバイスを起動する。
ナズナは今ばれるといろいろと面倒くさいことになるので、目に黒いマスクを足してもらった。
見えるのは髪と口だけだ。バリアジャケットが似ているのは、少しまずいが大丈夫だろう。

「じゃあ俺も…へんし~ん!!」

前回の戦いの教訓で、体が小さいほうが守りやすいと思ったので
スカさんに頼み込み変化魔法を作ってもらったのだ。

「…猫?」

「白銀の狩人と呼んでもらおうか」

この屋敷に潜入するのに、目立たない動物を考えたら猫しか思い浮かばなかったんだ…
だってここ猫屋敷だし…。アリサの家に侵入するんだったら犬か狼になってたかもな。

「じゃあ行きましょう。白銀の狩人」

「…ごめん、やっぱ恥ずかしいから、いつものでお願いします…」

「はい、マスター」

ナズナは俺を肩に乗せて空に羽ばたいた。



しばらく飛んでると首輪になっているスカさんがなにかに反応したらしく突然光った。

『これは…結界? …なるほど、なかなか腕が立つようだね』

屋敷に張られている結界に気づいたらしい。
そういえば、ユーノがなんか結界張ってたようなないような…

「マスター、あそこに魔導師2人が戦闘をしています」

「気づかれないように近づける?」

「はい」

ナズナは静かに空から降りて茂みに隠れながら、なのはたちに近づいてくれた。
近づくにつれて声と魔法のぶつかる音が大きくなってきた。

「申し訳ないけど…頂いていきます」

「あなたが私以外の魔導師なの?!」

…あれ? なのは、そんなにフェイトに驚いてなくない? 動揺が少ない気が…
俺の考察してる間に2人はお互いのデバイスを向け魔法を放とうとしていた。

『猫が起きたよ』

後ろの茂みが揺れたと思ったらどうやら猫があの巨体を動かしていたようだ。
俺と同様なのはも、猫に気を取られた隙を突かれてやられてしまった。

「そろそろ行動するんで、あの猫の近くの茂みに移動してくれ」

「はい」

フェイトが封印作業に入っているうちに、ナズナに移動を頼む。
自分でも動けないことはないんだが、俺が下手に動いてフェイトに感ずかれても困るしな。


----ニャアァアアァ!!


移動中に封印を開始したみたいで、猫に電流が走っていた。
猫好きの俺には心が痛い光景だ。
その巨大な猫の体からぼんやりと宝石、ジュエルシードが浮かび上がってきた。

『Order.』

「ロストロギア…ジュエルシード、シリアル14、封印」

『Yes sir.』

遠くからかすかに聞こえてくるフェイトの声とともに空から光が降ってきて…

『Sealing.』

さらに巨大な光が猫を覆いつくした。
…フェイトの封印ってなのはに比べるとずいぶんと派手だよな。

「来ました」

光が止み、小さくなった子猫と、ジュエルシードが浮かんでいる。そしてフェイトがこちらに近づいてくる。
今が好機!!

「ニャアァアアァ! (頂きぃいいぃい!)」

喋れるけど、なんとなく猫の声で叫びジュエルシードを口にくわえる。

「あっ! 駄目…」

フェイトは俺を本物の猫と勘違いしてるのか、本気を出さずに歩いて近づいてきている。
好都合なのでそのまま茂みに飛び入りナズナの肩に乗る。

「封印よろしく」

「はい、ジュエルシード、シリアル14、封印」

『Receipt Number XIV』

封印済みのジュエルシードがミーティアに格納された。

「それは危ないんだよ…!?」

遅れてフェイトも茂みの奥から登場するが、一足遅かったな。

「…!! あの子とは別の魔導師?!」

すぐにバルディっシュをこちらに向け戦闘体制に入るフェイト。
その眼差しだけでお兄さんはビビって漏らしそうです。

「悪いがこいつはもらっていくぜ! 残念だったな金髪のお嬢さん」

できるだけこちら(俺)がビビっているのを隠すために強気で喋る。
その態度がいけなかったのか、フェイトはさらに眼光を鋭くして俺たちを睨んだ。

「させない! バルディっシュ!」

『Scythe form』

≪来たーーー!!≫

≪マスター、まかせてください≫

さっすが頼もしい! ナズナさん! あんたがナンバー1だ!

「ミーティア」

『Blade Form』

ナズナは俺を肩に乗せたまま、切りかかってきたフェイトを押さえた。
その速度は俺には一瞬のはずだったが、ナズナはフェイトの細胞も組み合わされてる。
スカさんが言うには完璧には難しいが、ある程度の戦闘の考えは、読めるらしい。
何も知らないフェイトはこの距離で受け止められ、不安を覚え少したのか距離を開いた。

「これなら」

『Arc Saber』

フェイトは距離をとってこちらを倒す作戦にしたようだ。
アークセイバーを容赦なく放ったきた。

「マスター、つかまってください」

『Blade Shoot』

俺につかまるようにナズナが言うとナズナは、ミーティアをフェイトに向けると、刀身、魔力刃の部分がフェイトに向かい飛んだ。
そして魔力刃は、アークセイバーとぶつかり互いに相殺した。

「ジュエルシードを返して…」

お互いに戦力の測りあいで、本領を発揮していない。
フェイトは戦闘力ガ未知数の魔導師相手に本気を隠すように戦っているように見えるし
ナズナは俺という枷のせいで実力を発揮できていない。

「このままズルズル行って、ユーノの結界が解けると少し厄介だな…」

すでにユーノは、アリサ達のところに向かったんだろうか?なら結界を解いていないのは、解き忘れか?

「はああぁあぁああ!!」

俺の考えている最中にも2人は互いのデバイスをぶつけて、火花を散らす。
フェイトとこのまま戦い続ければ、いずれアルフが来てしまう…
ここは、俺の出番!!

「レッドワールド!」

「えっ? うわっ?!」

完全に俺の存在を忘れていたのか、奇襲をかけるのは、容易かった。
猫に変化している、小さな俺の手をフェイトに向けて少量の魔力をぶつける。もちろん血に変換してあてる部分は目だ。
この魔法?が当たった相手は目の前が真っ赤になってしまう。
魔力を変換してる血なので失明の心配もない。威力を出してやったら失明するかもしれないが…
聞くだけだと使える魔法に聞こえるが、実は弱点がありまくる。
初見の相手にしかできないし、水で洗えばすぐに復活するし、絶望的に命中率が低い。
弱点が多すぎて、スカさんに没をくらった魔法の一つだった。
だが…

「わわわ?! 目の前が真っ赤に!? しかもこれ…血!?」

9才児のお子様に血はかなり効くだろう。実際にフェイトはかなり動揺してる。

「うわわわ?! 母さん! アルフ! リニス!」

頭に両手を置いてくるくる回るフェイトは見ていておもしろかったが、このままだとアルフが来そうなので
お暇させてもらうことにした。

「失礼します」

「また会おう!!」

『フフフ…』










sideフェイト・テスタロッサ


「大丈夫かい? フェイト」

「うっ…うん、大丈夫…」

うぅ…ひどい目にあった…
今日はジュエルシードを見つけてそれを集めている探索者、多分私と同じくらいの女の子と戦って勝ったまではよかったんだけど…

「フェイトから逃げるなんて、その黒い魔導師、少しはやるみたいだね」

そう。アルフの言う、猫の使い魔を持った黒い魔導師
黒い魔導師の子も多分私と同じくらいだと思うけど、白い魔導師の子とは実力がかなり違った。
白い魔導師の子は、まだ未熟なところが多かったけれど
あの黒い魔導師の子は、かなりできる。少なくとも私と同等かそれ以上か
決着はあの子の使い魔の邪魔が入ってつかなかったけれど、あのまま続いてて勝てたか、正直わからない。

「まあ、フェイトを傷物にした猫の使い魔はあたしがボッコボコにしてやるけどね」

「傷物って…アルフ…」

…そういえば、あの白い魔導師の子と黒い魔導師の子…似てたな…
この世界の魔導師ってみんなあんな感じなのかな?










<あとがき>
主人公とうとうフェイトと出会ってしまいました。
次回、主人公がアルフさんから逃げれるのか?!
では!また次回!










おまけ
キャラ紹介

名前:ナズナ
通称:黒い女神(by嵐)
年齢:9才
血液型:O型
出身:古代世界 アルハザード
所属:しあわせ荘
階級:従者
役職:嵐の従者
魔法術式:ミッドチルダ式
所持資格:なし



[6935] 第12話「思いの理由」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 13:48
「明日からの連休におばちゃんが温泉に行こうって言ってるんだけど、行きたい?」

『…デバイスの私にどう答えろと?』

「いや、スカさんなら普通に答えてくれるかなと思って」

『…君、私の事なんだと思ってるんだい…』

「万能鬼畜デバイス」

『…』

この後、温泉でジュエルシードが見つかることを思い出し、行くことに決定した。



第12話「思いの理由」



「とりあえず旅行の準備は、これくらいでいいな」

明日の旅行の用意をするために、必要なものを買い物しに来たわけだが…

「初日に日常道具ほとんど買ったから、今更特に買うものないんだよな」

家が決まったときに、必要なものはほとんど買ったので
今回買ったのは、トランプやマグネットオセロなど娯楽系ばかりにした。
早く買い物を済ましてしまったので、家にまっすぐ帰ってもいいが、少し寄り道したい気分になった。
特に家に帰ってもやることはないし、ナズナと一緒にどこかによって帰るのも楽しいかもしれないな。

「少しぶらぶらして帰ろう」

「はい」

『帰る途中に公園があるからそこによって帰ろう』

…何故公園?
スカさんの指定した公園は確かに帰る途中にあるが、今寄る理由はとくにないはずだ。
それに、公園に行ってスカさんが楽しめるとは到底思えない。何かあるのか? 謎の隠しロボとか。

「マスター、行きましょう」

「んっ? ああ行こう」

考えていてもしかたない。ナズナを待たせても悪いし、俺はおとなしく公園に向かうことになった。





「よっと」

公園について近くのベンチに腰掛ける。
ナズナは大量にいる鳩が気になったのか、遠くでとてとてと鳩を追いかけていた。

「それにしてもスカさん、どうしていきなり公園なんかに?」

やっぱりどこかに隠しロボでもいるんだろうか? ボタン押したら、公園が開いて出てくるとか。

『少し君と話したいことがあってね。』

「俺と?」

スカさんが俺に話しかけるのは別段珍しいことじゃないが、今日のスカさんはいつもと雰囲気が違った。
どことなく真面目な感じに聞こえた。

「何?」

『気になってはいたんだ』

「だから何が?」

『君…』

今はお昼前、周りに人が多いわけではないが、何人かはいる。
だけど周りの騒ぎ声や遊んでいる声が遠くに聞こえる気がした。


『どうして帰りたいんだい?』










「……どういう意味だ?」

『君の話を聞いたときから思っていたんだが、君は何故もとの世界に帰りたいんだ?この世界も悪いわけではない。金には困らないし、将来に困らない。君が望むのなら、世界だってとれるかもしれない。』

「そう…だな…」

確かにスカさんの力を貸してもらえば、管理局ですら潰せるかもしれない。
何せこちらは未来の情報を持っている。スカさんだってついている。世界をとるのも夢物語ではおわらないだろう。
それに、アニメの世界なんてそう簡単に来れるもんじゃない。いや、普通は来れない。

『君の世界はこっちと違って魔法もない。それなのに君は戻りたいのかい?』

「……」

正直、確かにあちらの世界はこっちと違って刺激もないだろう。あるのは厳しい現実だけ
鬼畜デバイスや白い悪魔のコピー、魔法の力に極めつけはアニメの世界。
あちらの世界では絶対体験できないだろう。それに比べてあっちは、勉強・人間関係・差別。苦しいことのオンパレードだ。
厳しい現実を生き抜くよりこっちの世界の魔法の力で生きたほうが絶対に楽だ。
けれど…

「俺は帰りたい」

『…何故?』

「スカさんの言うとおり、俺は自分の世界の家が裕福なわけでもない。むしろ貧乏だ、それに俺自身将来なんて真剣に考えたことだってない」

特に将来のことを深く考えていたわけじゃない。ただ、漠然と将来について考えてただけ。

『ふむ…』

「家族とだって特別に仲がいいわけじゃない。だけどスカさん、俺がこの世界に来たときに最初に不安に思ったのは、家族ともう会えないかもしれないって恐怖だった。さっき言ったとうり仲がいいわけじゃない。けれど家族の顔が頭に浮かんだ」

スカさんというデバイスに会って自分の現状を理解したときに頭に自然と家族が浮かんだ。

「ナズナとおばちゃんと朝飯を食べてるときに、みんな笑ってただろ?あの顔見たときも、やっぱり家族を思い出した。」

当たり前に家族と朝飯を食べて、当たり前に話す。

「あっちにいた時は、どうでもよかった。こんなこと当たり前だと思ってた。けど、いざ無くしてみると自分があのどうでもいい瞬間が好きだったことに気づいた」

特に話なんかしないかもしれない。時には喧嘩して、不仲になることもあるかもしれない。
それでもあのどうでもいい瞬間が好きだった。

「あっちは厳しい現実しかないかもしれない。けど、その厳しい現実の中から楽しいことを見つけれるかもしれない」

厳しい現実の中、泣くこともあるだろう。
志望校から落ちて、大事なものを無くして、好きだった女の子に振られて、大怪我をしてしまって、家族を失って
けれどその中にだってもしかしたら幸せがあるかもしれない。

「だから俺は戻りたい。こっちの世界が嫌いなわけじゃない。俺があっちが好きなだけ」

自分のはめている指輪を見つめてそう告げた。

『……そうか、君の思いはしっかり聞かしてもらった。私は君が帰れるように及ばずながら助力しよう』

「スカさん…」

すまないスカさん…俺、今まで誤解していたよ。
スカさんは本当はすごくいい人(デバイス)だったんだね!!

『まあ私も君の世界には興味あるしね』

「ここで落ちつけるってどうよ?」

訂正、スカさんはスカさんだった。






「ナズナー! そろそろ帰るよ」

「…はい、マスター」

鳩を追いかけていたはずのナズナが近くに来ていてので帰ることにした。

「じゃあ帰ろうか」

「…はい」

なんだかナズナの元気がないような気がする…歩く姿もなんだかしょぼしょぼしている。

「ナズナ?」

ちょっと真剣に心配になったので体調を聞いてみることにした。
どっか痛いんだったら、明日の温泉は中止にしないといけないしね。

「大丈夫です」

体に異変はないらしいが、そうは見えない。いったいなにが…

「マスター」

「んっ? どうした?」

ナズナの体調を調べているとナズナからいきなり話しかけられた。

「私とドクターは…」

言いにくいことなのか、少し戸惑いながら口を開いた。

「マスターのことを家族だと思っています」

「…え?」

それだけ言うとナズナは先に道を歩いて行ってしまった。というか、聞かれていたのか。
…うわ…恥ず…

「ナズナ…ありがとう」

聞かれていたのは恥ずかしいけれど、ナズナが俺のことを心配していてくれると思うと心が温かくなった。
じっとしていたらナズナに置いていかれてしまう。俺も行こう。

「ナズナ! 走るとこけるぞ」

『ていうか私もかい?』



結論、スカさんはやはり超鬼畜










<あとがき>
主人公の思い
この作品のコンセプトは“思い”と“家族”です。
この作品が進んでいくと家族が増えていきます。
主人公の思いも鍵になってきます。
次回は、温泉編!! とうとう主人公達は白い悪魔と出会うのか?!
では!!また次回!!



[6935] 第13話「未来のエースとの出会い」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 13:55
「おばちゃん…運転荒すぎだろ…うっ…」

「目が…回り…ました…」

「久々に車乗ったから若いころ思い出しちゃってねぇ~」

「玉ちゃんもまだまだ衰えてないわね~」

吐きそう…うぇっぷ…



第13話「未来のエースとの出会い」



よく晴れた、旅行の日。
おばちゃんが友達の車でおばちゃんが運転して旅館まで向かったのだが…
おばちゃんの運転で早く旅館に着いたんだが、かなり荒かった。死ぬほど荒かった。いや、死ぬ。
着いた頃には自分が地面に立っているのか、ちょっとわからなくなるほどだ。

「帰りはゆっくりでお願いしよう…」

ちなみに俺たちの設定は路頭にさまよってる俺たちをおばちゃんが慈愛の女神のごとく
俺たちを保護したという、無理な設定があったらしい。
それを聞いたとき思わず、指輪を地面に叩きつけてしまった。しかし罅一つ入らない。

「いい湯だ…」

ここにいる間は猫モードでいようかと思ったが、ずっといると淫獣よろしく的な
展開になりそうなので風呂のときは、解除して一人で風呂を楽しんでいる。

『私は別に気持ちよくないけどね』

…“二人”で楽しんでいる





「あっ、マスター」

あまり長湯しているとなのは達が来てしまうので早めに上ると
頬をピンクに染めて浴衣を着ているナズナが俺を待っていた。
この様子を見ると、どうやら俺が出るのを待っていたっぽいな。なら、言ってくれればよかったのに…

「悪い、待たした?」

「いえ、私も今出たところです」

「おばちゃんたちは?」

「お土産を見てくるらしいです。これは部屋の鍵なので部屋に行くなら使って、とのことです」

「ん~…どうしようか」

そんなにうろつくとちょっとまずいけど
暇だし少しぐらいならうろついたって大丈夫だろ。まだ多分来てないだろうし…

「なのは~、すずか~、早く温泉行きましょうよ~」

「まってよアリサちゃん」

「そうだよ、急がなくても温泉はにげないよ」

「わかってるわよ! それでも早く行きたいの!!」

……OK、直ちに離脱する。

「部屋に戻ろう」

「はい」





「あら! 鈴木君達もう部屋に戻ってたみたいよ玉ちゃん」

「この子達かなり大人びているからねぇ~。角ちゃんのとこ確か今年で大学生だっけ?」

「そうなのよ~。いろいろと難しい年頃が終わって、やっと楽できるわ~。そういえば…」

おばちゃん達が帰ってきていきなりのマシンガントーク。正直部屋で喋らなくてもいいと思う。
俺たちは部屋に戻った後、スカさんが部屋に海上戦のときに張った結界を展開してくれた。
そしてマーキングポイントという転移魔法のポイントを設置してくれた。
この後は特にすることがなかったので、大量に持ってきておいたトランプなどで時間をつぶしていた。

≪王手≫

「…待った」

≪それ4回目だよ≫

無謀にも俺はスカさんにゲームで挑むという暴挙を行っていた。
UFOキャッチャーの雪辱が晴らせればいいとか、軽く考えてたときの俺を殴り飛ばしたい。
ナズナに念話で代打をしてもらい対戦しているのだが
頭を使うゲーム、オセロ、五目並べ、チェス、将棋、神経衰弱など全て惨敗した。
神経衰弱は自身があった分、ショックがデカかった。

「…UNOしよっか…」

いつかスカさんに地団駄踏ませたいな…
足ないけど…





『君もやるね』

「そうだろ…これさえ置けば…」

豪華な夕飯を食い終わり、皆が隣の部屋で寝静まっているときに俺は机でトランプをしていた。
正確にはトランプタワーを
飯が食い終わった後、どうにかしてスカさんを負かせようと考えた俺は
スカさんの体ではできないことをしようと思い今に至る。

『七段タワーだとさすがに大きいね』

「そしてこの二組で完成だ…」

さあスカさん! ない足で地団駄踏むがいい!
そしていま感動の瞬間が………!?

「マスターー!!」

訪れなかった。

「ジュエルシードの反応です! …マスター?」

「……キャアァアトオォオっフオオォオォムウゥウゥ!! (キャットフォーム!!)」

『クッ!』

涙目になりながら猫に変化しナズナの方に飛び乗った。

「いくぞ! ナズナアァ!!」

「はっ…はい!」

『クククっ!!』

俺たちが部屋を出た後に残ったのは
襖を開けた衝撃で倒れた七段トランプタワーの残骸だけだった。





「また随分と出遅れたな~」

急いで駆けつけたはずだったが、もうなのはとフェイトの戦いは終わっているようだ。
フェイトがなのはにバルディシュを突きつけている状況だった。
この場面でこんなに勝ってたのに、未来では互角なんだから分からないよなぁ。
それにしても今回介入は少し面倒だなぁ、とか考えてる矢先に

『よし、あれ打ち落とそう。ナズナ』

「はい」

『Shooting mode.Divine buster Stand by.』

スカさんとナズナは行動を開始していた。ナズナはどこか嬉しそうにしている気がする。
ど、どうしたんだナズナ!? もしかしてお前、トリガーハッピーだったのか!?

「えっ? ちょっとまt「ディバインバスター」待て! お願い!」

俺の悲願むなしく黒い砲撃は寸分の狂いもなくなのは達がいる場所に向かい二人を飲み込んだ。

『No Hit(当たっていません)』

「っち」

『気絶してくれればよかったのにね』

…ナズナさんが素の顔でする舌打ち…笑顔のスカさんより怖いよ。

「あなたは!?」

「一体なんだったの…」

攻撃をかわした二人の様子は
フェイトは攻撃した方向に俺たちがいるのに気づき、なのはを放ってこちらに注意を払ってきた。
なのはは急速に移動したからか、ふらふらしている。

「あんたたちだね! 前にフェイトからジュエルシードを盗ったてのは!」

狼状態のアルフさんがこれでもかというほど鋭い牙を見せ威嚇してくる。

「ふぇええぇえ!! また私以外の魔法使いなの!?」

「そんな! まだ他にもいたなんて?!」

ようやく周りの状況を把握したなのはさん。ユーノも三人目は予測してなかったらしく
慌てふためいてる。

「ジュエルシードは…回収されたか」

前回同様できるだけえらそうに喋ることを気にしながら会話した瞬間アルフが肩にいる俺に噛みかかってきた。

「ショット」

ビビりまくってる俺と違い焦りもせず俺に向けて来ると予想でもしていたのか
簡単だが高密度な魔法を放つナズナ。

「かはっ!!」

「アルフ!?」

顔面に食らいそこそこのダメージを食らったと思ったのだが、よろりと立ち上がる
しかし頭に食らったので少しふらふらしている。

「あなたも今から私と勝負して…あなたが負けたらあなたの持っているジュエルシードを渡して」

アルフの無事を確認し、こちらに勝負を挑んでくるフェイト

「断る。そのジュエルシードは預けとこう。俺たちは撤退させてもらおう」

何個かはプレシアさんにあげといた方が後々俺たちのためになりそうなので
今回の賭けはスルーしとくことにした。

≪ということで今日は引こうよナズ「させない!!」へっ?≫

早く帰ろうとナズナに念話で話しかけていると声が後ろから聞こえたと思うとフェイトが後ろに回りこんでいたらしい。
鈍い音をたててぶつかるデバイス。フェイトさん1個俺たちに取られているから焦ってますな?

「まって! あなたとその子はどういう関係なの!?」

混乱の極みにいるなのはがフェイトに質問しているが振り向いてさえあげないフェイト。
嫁が泣くいてるぞ。

≪あれ、利用しよう。スカさんは部屋へのマーキングポイントに転移準備して≫

≪はい≫

≪了解したよ≫

力任せにデバイスを振りフェイトを引き離したナズナは、すばやい速度でなのはに向かい移動した。
フェイトは逃げられると思ったのかすぐについてきた。
この子の悪い癖は目的だけに目がいっちゃうことだよね。

「へっ? えぇええ!!」

ナズナはなのはの場所まで移動しなのはの首根っこを掴み
思いっきりフェイトに投げつけた。
悪人ならそのまま払いのけて俺たちを追うだろうが、フェイトはいい子なので
減速しなのはを受け止めた。

≪転移準備完了。転移するよ≫

こちらに走ってくるアルフが見えたが残念ながら間に合わず
一瞬で風景が外から和室に変わった。

「フェイトに1個渡ったか」

『まあ計画には大した問題じゃないだろう』

「あの…マスター、何故賭けに乗らなかったのですか? 絶対とは言いませんが、それでもこちらの方が勝率は高かったです」

「んー、あんまりにもジュエルシードの集まりが悪かったら機嫌悪くなる人がいるからね~。交渉をうまくするためにまずあっちの機嫌が悪くて話も聞いてもらえないじゃ困るからね」

「…? よくわかりません」

『わからなくても別にいいと思うよ』










side高町なのは


「なのは大丈夫?」

「うん…フェイトちゃんが受け止めてくれたから大丈夫だよ」

私は今ユーノ君と一緒に旅館に帰っていた。
ユーノ君があの時、投げ飛ばされた私の心配してくれている。
確かにあのままだったら危なかったけど、フェイト…と名乗ったあの子に受け止められて怪我はなかった。

「それにしてもまだなのはとあの子の他にも魔導師がいたなんて」

「フェイトちゃんはジュエルシードは私ので2つ目だって言ってたから、街のジュエルシードを封印したのはあの子だったのかな?」

私を投げたフェイトちゃんとは別の黒い魔法使い。顔が隠れていてよくわからなかったけれど、
フェイトちゃんよりも、もっと真っ黒だった。
あの子も私と同じくらいでこの夜と同じくらい綺麗な黒い髪

「うん、あの子も理由はわからないけれどジュエルシードを集めているようだね」

「あの子ここに来てから一言も喋らなかったの」

「全部あの猫の使い魔が喋っていたね」

フェイトちゃんは狼の使い魔さんを連れていたけど、あの子はユーノ君より少し大きい猫を連れていた。

「あの子の名前…聞けなかったね…」

フェイトちゃんの瞳にはなんだか真剣な意思が見えてそれでいてなんだか寂しそうな思いが見えた。
けれどあの真っ黒な魔法使いさんは、瞳が隠れてて、見えなかったし
なんだか意思がないように見えた。
唯一、意思が見えたのはフェイトちゃんの使い魔さんが、あの猫の使い魔さんに飛び掛ったときだけだった。
あの時、あの子からすごい怒りのような感情を発するのを感じた。

「あの魔導師たちが味方同士ってわけじゃないみたいだけど、こっちの味方ってわけじゃないみたいだ」

「そうだね…次からはフェイトちゃんだけじゃなくてあの子とも戦わなきゃいけないんだね」

「なのは…」

「大丈夫だよユーノ君…私は大丈夫…」

フェイトちゃんとお話がしたいけどフェイトちゃんは私とお話してくれなくて
それにもう一人お話してみたい人ができて、私の頭の中はどうすればいいのかわからなくて混乱していた。





「それにしてもあの子のデバイスにバリアジャケット…どことなくなのはに似ていたような…」










<あとがき>
なのは第3勢力にさらに混乱する。
ていうか主人公がユーノ達の中では使い魔という括りになっています。
なのは達はナズナがジュエルシードを集めたいと思ってると勘違いしています。
肩に乗っているにゃんこの首輪が黒幕なのに気づきません。
……あれ? 黒幕ってジェイルだっけ? あれ?
…では!!また次回!!










おまけ
キャラ紹介

名前:松田 角代【マツダ カクヨ】
通称:角ちゃん
年齢:47歳
血液型:O型
出身:第97管理外世界「地球」極東地区日本・海鳴市
所属:自宅
階級:グレートマザー
役職:パート
魔法術式:なし
所持資格:英検3級/漢検2級/家庭料理技能検定2級



[6935] 第14話「わかりあえないんじゃなくて話し聞いてないだけ」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 14:01
「スカさん、場所特定できた?」

『こればかりは難しいね。そうそう簡単にはいかない』

「やっぱり直接聞くしかないか…」

『しかたないね。彼女も私と同等の知識と技術を持っているといっても過言じゃない』



第14話「わかりあえないんじゃなくて話し聞いてないだけ」



「のわあぁああぁっ!!」

『だからそこでプロテクションを張らなきゃ駄目だろう』

「無理無理無理無っ理!!!」

温泉旅行から帰宅した俺たちは、日課の魔法訓練をサラーブでナズナと行っている。
訓練といってもナズナのアクセルシューターをひたすた防ぐか避けるかをし続けるだけだ。
言葉にすれば簡単だが、実際俺には地獄だった。ナズナの黒い魔力の塊が1回に俺に向けて6発発射される。
防ぎたいんだが、俺はまだうまくプロテクションが出せない。成功確立がかなり低い。だから大抵6発全部命中してしまう。
プロテクションをスカさんの手助けなしで発動するのが今回の訓練の目的だ。
ナズナが操作しているので、致命傷になることは、まずないのだが…

「おぶっ!」

『はい減点』

スカさんの指示でたまに本気で当てに来る。これを防いだりしたら点数高いんだが
未だに防いだことはない。
だって、避けるのにでさえ必死になってるのに、防ぐのも同時にするなんて無理に決まってるだろ!? 一気に全部防ぐぐらいじゃないと。

「し…死ぬ…マジ、死ぬ」

『人は限界まで追い詰められることによって力を発揮するんだ』

そんなことを言われても、無理なものは無理。痛いの、マジ無理。
追い込まれて「クリ○ンのことかーーー!!!」とか出来たらいいけど、無理。

「すみませんマスター」

『Accel Shooter. 』

ナズナが容赦なく6発のアクセルシューターを再び飛ばしてきた。
やばい!また当たったらしばらく悶絶してしまう!!
そしてスカさんに点数が減点されてしまう! それだけは避けねば!!

「ああ! こうなったらやってやる! はっ! やってやんよ!!」

半分ヤケになってプロテクションを展開する。
ただのプロテクションではなく、もれなく俺の血をブレンドしていた。

「で…出来た!! 名づけてブラッディ・プロテクション!」

俺の張ったドロリとした紅いプロテクションに轟音をたててぶつかるアクセルシューター。
だが、俺のブラッディ・プロテクションには、傷ひとつつかない。

『まだ攻撃魔法がぜんぜん使えないが、防御魔法の方はなかなかだね。臆病だからかな?』

「…一言余計だぞ、スカさん」

ナズナの攻撃が止み、プロテクションを消した後、やはり少しだけ頭がクラっとする。

「でも最近この感覚に慣れてきたな…あれ? これ駄目な方向に進化してない?」

『慣れは大事だよ。さて次は攻撃魔法の練習だ』

ちょっと休みたいなぁ…俺…










「マスター? 何か考え事ですか?」

「えっ?いやこの前のこと思い出してて」

夜の街中を歩きながらあの訓練の辛さを思い出してたようだ。

「結局、攻撃魔法は一つしか出来るようにならなかったなーって」

『一つ出来れば上出来さ』

あの後、数日サラーブで訓練を続けたが、プロテクションは普通に使えるようになったが、攻撃魔法はなかなか上達しなかった。
スカさんは過去の偉人は防御と攻撃、両方できていたと言っているが
最近、本当に俺に出来るのか怪しくなってきた。

『ほらほら、考え事している場合じゃないだろう?今から高町なのはとフェイト・テスタロッサが動くんじゃないのかい?』

「正確に覚えてるわけじゃないけど…多分今日はデバイス大破の日だと思う」

温泉の日から時間は大分経ったがジュエルシードの反応は、なかったらしいし
そろそろ動き出すはずなんだが…

「こんな夜に戦うのですか?」

「多分そのはず。だから今回もお願いするよ」

「はい。まかせてください」

「じゃあ発動するまでどこかで……っ!!」

暇でもつぶしとこうと声をかけようとしたが、気配を感じ言葉を止めた。

「スカさん…これは…」

『君もだんだん魔法に鋭くなってきたね。これは魔力流だね。どうやらジュエルシードを強制発動しようとしているようだ』

予想どうりフェイトが動く日は今日だったらしい。

「キャットフォーム!」

「マスター! 飛びます!」

ナズナが猫に変化した俺を片腕で俺を抱き、もう片方で赤黒い宝石を掲げた。

「いきます! ミーティア!」





空に上るとジュエルシードの場所が特定できたから、ナズナに先に封印をたのんだのだが

『彼女らも封印を行うみたいだね』

「ああ、そういう展開だったな確か」

本当ならここでは、なのはとフェイトだけで封印を行う話だったな。
お構いなしに参加させてもらうけど
ナズナのミーティアから細い光がジュエルシードに走る。既にジュエルシードには桜色の光と金色の光が集っていた。

「リリカル・マジカル!!」

そして遠くから力強い声なのはの詠唱が聞こえてくる。

「ジュエルシード、シリアル19!」

「「「封印!!」」」

三人の掛け声が聞こえた瞬間、三方向から桜色、金色、黒色の砲撃が放たれた。
そんな情け容赦ない攻撃にジュエルシードはあえなく撃沈した。
そしてナズナはその場に空から降り立ち二人と向き合った。

「また会ったな金「させるかぁーー!!」へっ?!」

普通に話しかけようとしたのに、ジュエルシードを取ろうとしたと思われたのか
アルフが飛び掛ってきた。
今から戦闘するかもしれないナズナに助けてもらうのも悪いと思い、自分で対処することにしてみた。

「甘い!!」

一回言ってみたかった台詞を添えて、普通のプロテクションでガード
思いのほか威力が強くて、負けそうになったのは秘密。

「っうっとおしいね!」

俺のプロテクションを踏んづけて飛び。フェイトの隣に着地した。そしてフェイトと二人でこちらを睨みつけてくる。
…どうやら、完璧になのはは無視する方向に決定したようですね。
一挙即発の空気が流れ戦闘の火蓋が切られるとおもった瞬間…!!

「あのっ!!」

完璧に蚊帳の外だったなのはが大声を出しナズナとフェイトを呼び止めた。

「こないだは、自己紹介できなかったけど!私なのは、高町なのは。私立聖祥大付属小学校3年生。フェイトちゃんの名前は聞いたけどあなたの名前は聞いてなかったよね」

『Scythe Form.』

『Blade Form.』

お前ら二人ともスルーかよ。ナズナは名前教えないし…
いやあんまり喋っちゃだめって言ったの俺だけどさ

≪マスター、降りといてください≫

≪了解≫

そう念話で伝えナズナはフェイトと空に飛んでってしまった。
なのはは遅れて飛び出していた。





sideナズナ


この前の戦いから時間は経ったが、この…フェイト…かな?
フェイトとの戦いは二度目だ。この前の戦いでフェイトとの戦い方はわかっている。
私の中距離から近接戦を得意とする戦い方と同じはずだ。ドクターの話では、この人の細胞も私の中に入っているらしい。

「はっ!!」

「…っ!」

相手の出かたを見ていたらやはり近づいて鎌型になったデバイスを振り下ろしてきた。
このぐらいの速度なら回避する必要もないと思って受け止めると
予想以上に力が込められて、驚いた。

「あなたには、もう様子見はしない…!全力で行く!!」

…頭は悪くないようです。
この前の短い戦いで私同様お互いの力量をだいたい把握しているようですね。ならば私も!!

「ふっ」

「っ!!」

ミーティアを持つ手の力を抜き鎌を受け流した時、フェイトの体制が崩れた。
それを好機と思い一撃を叩き込もうと思った、その時に
もう一人の魔導師が現れると同時に切りかかろうとしていた私に向かって攻撃してきた。

「えと、ごめんなさい! でも私、」

すぐに砲撃してきた魔導師の方に方向転換し、先に倒そうとしたとき、後ろからチリチリした感覚を感じた。
私はそれを不振に思ったと同時に行動に移していた。

『Thunder Smasher.』

『Protection.』

振り向きながらプロテクションを展開し雷の一撃を何とか防いだ。
…不意打ちとは、やってくれる。

「あの、だから話を…!!」

自分の邪魔をされては困ると考えたのか、フェイトが彼女の後ろに回り込んでいた。

『Flash Move.』

白い魔導師の子…
マスターは…なのは?とか言っていたかな?
私の原型のはずなのに同じような戦法でやられてしまうなんて、本当に私の原型なのか?と考えていたんだけど
前回の戦いから彼女も学んでいたらしく、高速移動魔法を使いフェイトの後ろをとった。

『Divine Shooter.』

『Defenser.』

後ろをとり攻撃をしたようだが、先ほどの私と同じように防がれてしまったらしい。
そのまま私たちは全員が杖を構えて止まってしまった。
この空気を破ったのもやはり彼女だった。

「お願いだよ! 話を聞いてよフェイトちゃん! それにあなたも!」

彼女は場の空気を変える天才なんじゃないだろうか?
けれど彼女は私の原型だからもしかしたら私も空気を変える天才なのかも…なんかそれはいやだな…

「フェイトちゃんは話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ何も変わらないって言ってたけど、だけど話さないと、言葉にしないと伝わらないこともきっとあるよ!」

…今のうちにマスターとジュエルシードを回収して撤退しようかな? うん、そうしよう。話し長くなりそうですしマスターに念話で確認を…

「ぶつかり合ったり、競い合うことになるのは、それでしかたないのかもしれないけど」

マスター? …マスター? 聞こえないんですか? おかしいな…

「だけど何もわからないままぶつかり合うのは…、私、いやだ!」

…? さっきからマスターに念話が通じない?

「私がジュエルシードを集めるのは、それがユーノ君の探し物だから。ジュエルシードを見つけたのがユーノ君で、ユーノ君はそれを元通りに集めなおさないといけないから! 私は、そのお手伝いで…」

まさかマスターに何かあったんじゃ!? はっ!! まさかあの赤い狼がマスターを…

「だけど、…お手伝いをするようになったのは偶然だったけど、今は自分の意思でジュエルシードを集めてる。自分の暮らしている街や、自分の周りの人たちに危険が降りかかったらいやだから」

けどマスターにはドクターがついてくれてる。そう簡単にはやられないはず…ああっ! でもドクターが訓練だと言って見てるだけだったら!
いやでもいくらドクターだからって、やられそうになったら助ける…かな?

「これが! 私の理由!」

こうなったらマスターを探しに行くしかない。今すぐ行こう。

「私は…」

「フェイト! 答えなくていい!!」

この声はあの赤い狼の声!? マスターは!?

「優しくしてくれる人たちのとこで、ぬくぬく甘ったれて暮らしてるようなガキンチョになんか、何も教えなくていい!!」

マスターは? マスターは何処に!?
…あっ

「あたしたちの最優先事項は、ジュエルシードの捕獲だよ!」

あの少し遠いとこにいるのは…?

「はあっ、し、死ぬ、へっ、狼と、フル、はぁ、マラソっンは、死ねる」

ああ! マスター!! ご無事で!! 今すぐ駆けつけます!
他の二人も何だかどこかに駆けつけてたけど、あまり気にならなかった。
そして私がマスターの場所にたどり着いたとき。眩い光が私たちを埋め尽くした。
光が止みその光の発生した場所に近寄ると、フェイトが使い魔に抱えられどこかに飛んで行くのを
呆然と見ている二人が残っていた。

≪どうしますかマスター?彼女たちからジュエルシードを奪いますか?≫

≪…ごめん。今日はもう帰りたい…≫

≪はい≫

「あっ! 待って!!」

後ろから声が聞こえてきたけれど、興味がなかったのでそのまま無視して帰った。



その場に残ったのは白い魔導師だけだった










おまけ

ナズナが心配していた時の嵐の様子

「ちょっ! 待って!! なんで!? なんで重点的に俺!?」

「あんたがあたしのご主人様を傷物にしたからさ!」

「身に覚えがな~い!」

「おとなしくしてな! そしたらすぐ終わるから!」

「何が!?」

「あたしがあんたをボコボコにするのがさ!!」

「断る! スカさんヘルプ!」

『逃げる訓練だ…フフフ…』

「死ぬ! マジで死ぬ」

「わわ!? こっちにこないでよ!」

「それも断る! こうなったらお前も道連れだ~!!」

「ええぇ! そんな!!」

「あっ! マジで死ぬわ、ナズナの幻聴が聞こえる」

「何ごちゃごちゃ言ってんだい! じっとしてな!」

「「てっ撤退~~!!」」

『フフフフフ…』










<あとがき>
だんだんと無印の終わりに近づいていってます。
そして次回!とうとうあの男が!?
では!また次回!!



[6935] 第15話「小さなことからコツコツと」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 14:09
『夜が明けれる前に見つけれてよかったね』

「ほぼ徹夜に近いけれどな」

『ナズナに連絡して置こう』

「よろしく」



第15話「小さなことからコツコツと」



なのはたちとの戦いが終わった後、家に帰ってきたのだがこの後すぐに重要なイベントがあることを思い出し
徹夜であるものを探していた。そのあるものとは…

『こんな見つけやすいところに住んでるなんて思わなかったね。灯台下暗しとは、このことだ』

「隣町だけどな…」

フェイトの潜んでいるマンションを探していたのだ。

「さっきフェイト出っていったのが見えたから、多分土産かなんか買いにいったんだと思う」

今日を逃してしまうと、フェイトが時の庭園に行くのは、先になってしまう。
それを回避するために昨日は睡眠時間を潰して探していたのだ。
おかげで寝不足だ。今すぐ家に帰って布団に寝転がって7時間くらい寝続けたい気分だ。

『その内にこうやって屋上に盗聴器を潜ましておくなんて、もう君も引き返せないね』

「…あれ?これスカさんの提案じゃなかったっけ?あれ?」





sideナズナ


「ここにマーキングポイントをセットして…あれ?あっちだっけ?」

マスターたちの指示でマーキングポイントをセットしながら
海に来て、指示されたとうりに行動してるんだけど…

「何か意味があるんでしょうか?」

『Doctors will have some measures(ドクターたちになにか策があるんでしょう)』

「そうだね。あと少しで作業が終わるし、頑張ろう。次は…」

こんなに広い海に複数“これ”を設置するなんて意味あるんだろうか?





sideout


「スカさんあの金髪は…」

『フェイト・テスタロッサだね。何か手に持っているが、あれが君の言うお土産なんだろう』

屋上の遥か上空に俺たちは待機していた。
盗聴器をセットし終わった俺は、一回ナズナに連絡を取り、ナズナも終わったようなので
こっちに来るように指示したのだが、ナズナがこっちに来る前にフェイトが先に帰ってきた。
フェイトは、屋上にアルフと上がってきて、何かを呟いている。そして、その手にはお土産らしき物も持っていた。
そこで俺とスカさんは計画どうり息を殺し、フェイトの動向を探っていた。

『…60、779F3125、開け誘いの扉、時の庭園テスタロッサの主の下へ』

盗聴器から聞こえてくるフェイトの声。ややこしい数式が終わったとたん
光がフェイトたちを包み消えてしまった。

「出来た?」

『次元座標確認。飛ぼうと思えばいつでも飛べるよ』

何とか成功したようだ。これで、いつでも時の庭園に飛べることが出来る。

「パーフェクトだスカさん」

「お待たせしました」

遅れてナズナもやって来たようだ。

「ナズナお疲れ」

「いえマスターに言われたとおり設置してきました。しかし何故男性用の魔h『ご苦労だったねナズナ』…はい」

フフフ…計画は順調、奴の悶える姿が頭に浮ぶわ。





「そろそろ出ようナズナ」

「はいマスター」

サラーブに戻り次元座標を一応正確に確認していたのだが
スカさんが言うには確実に時の庭園に飛べるらしい。
確認を済ましたのですぐに飛ぼうと思ったんだけど、スカさんに止められたのだ。

『今日は、何も起きないのかい?』

次元座標が確認出来て舞い上がっていて今日の起こるイベントを忘れていた。
あの戦いのあと、すぐになのはたちはもう一戦するはず。
それを思い出し夕日が綺麗な空を飛んでいた。

「このネコ型って裸みたいでちょっと恥ずいよな…」

服を着ている感触がなくなってしまうので、裸になっている気分になってしまう。

『フフ…その内、快感に変わっていくさ』

「……」

「マスター見えてきました。あの暴れている木ですね」

「…あぁ…それそれ」

この呪われたデバイスの処理法を考えるのはあとにしよう。どうやら到着したみたいだし
ナズナが茂みに着地しそこから観察する。そこには枝? を振り回し暴れている木がいた。
その振り回してる枝? をフェイトのアークセイバーに切り裂かれているとこだった。

「撃ち抜いて! ディバイン!!」

『Buster.』

そこになのはのディバインバスターを食らい体を地面に沈下させている。

「貫け轟雷!」

『Thunder Smasher.』

追い討ちをかけるようにフェイトのサンダースマッシャーが木に襲い掛かった。
これって自然破壊じゃない?
まあ、あの木が自然と呼ぶのかどうかも怪しいが、確かに自然破壊ではないんだろうか?
木は攻撃に耐え切れず体が光り、その体からジュエルシードが排出された。

『Sealing Mode Set up.』

『Sealing Form Set up.』

「ジュエルシード、シリアル7!」

「封印!」

暴走が止まりおとなしくなるジュエルシード、というか…

「…リリカル・マジカルは?」

呪文言ってないじゃん…。などという俺の戯言を放って二人は空に上った。

「ジュエルシードには衝撃を与えたら行けないみたいだ」

「うん、夕べみたいなことになったら、私のレイジングハートもフェイトちゃんのバルディッシュもかわいそうだもんね」

今思ったけど、俺があの時にぶつかればよかったんじゃないか?
レイジングハートたちみたいに、スカさんもバキッと…
…いや、その後が怖すぎる。自爆とかして俺の体を半分ぐらい抉って行きそう。

「…だけど、譲れないから」

『Device Form.』

「わたしは…、あの子やフェイトちゃんと話をしたいだけなんだけど」

『Device Mode.』

「私が勝ったら…ただの甘ったれた子じゃないってわかってもらえたら……お話、聞いてくれる?」

「……」

無言は肯定なのか?

「彼女、かなりおせっかいですね。行き過ぎるとウザイと思われますよ」

「このぐらいならいいんじゃない?」

『君の原型なんだけどね』

主人公だからね。
二人がお互いに迫りデバイスを振り下ろそうとしたときに奴は来た。

「ストップだ!」

はい来ましたー! 真っ黒クロノすけ。ここで止めるとか仕事とは言え空気読めよ

「ここでの戦闘行動は危険すぎる!」

ここじゃなくても魔法の戦闘は危険だと思うんだが…
ジュエルシードが近くにあるからか?

「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ! 詳しい事情を聞かせてもらおうか」

フェイトは時空管理局が出てきたことに混乱しているのか、おとなしくクロノとともに
地面に降りてくる。

「まずは二人とも武器を引くんだ。このまま戦闘行為を続けるなら…」

クロノが二人に注意を払いながら、事情を聞こうとしていたとき、オレンジ色の魔法がクロノのいる場所に炸裂した。
だが執務官のクロノには不意打ちも意味がなく、防がれてしまった。

「フェイト! 撤退するよ、離れて!」

≪俺たちも行動開始!ナズナGO!!≫

≪はい≫

アルフが魔法を地面に当てて砂埃を立てて煙幕のようにしクロノの気をそらしている間に
フェイトはジュエルシードに飛んでいた。

「させるかっ!!」

クロノが即座にスティンガーレイを放ちフェイトに攻撃するが

≪マスター、お願いします≫

「ブラッティ・プロテクション!」

フェイトを庇うように出た俺たちによって攻撃はとどかなかった。
スティンガーレイは威力自体は弱く感じたがプロテクションを貫いてくる感じを受けた。
だけどこのブラッティ・プロテクションは貫けない。こいつの防御力はスカさんも評価している。
いきなり現れた俺とナズナにそこにいる者全員が驚愕の表情を浮かべていた。

「新手!?」

「えっ!なんで」

「えっ!ええぇえ!!」

クロノは俺たちのことを援軍と勘違いして焦り。
フェイトは敵対していたはずの俺たちが助けたことによりさらに混乱している。
なのはは純粋に俺たちがこの場にいることに驚いてるようだ。

「あんたたちなんで…」

「べっ別にあんたのために助けたんじゃないんだからね!」

『気持ち悪い』

「スカさんだけには言われたくねえ。それより早くジュエルシードを」

「えっ! あっ、はい」

ジュエルシードを格納してなかったことに気づき
いそいそとバルディッシュにジュエルシードを格納するフェイト。格納した後、フェイトは俺たちと地面に降りてきた。

「っ! 止まれ!」

そのまま立ち去ろうとした時、クロノが杖を突きつけてきたが
そこに一つの人影がその方向を遮った。

「駄目!!」

予定どうりなのはが壁になってくれます。

「やめて! 撃たないで!」

このままここにいたら、いつクロノがなのはを押しのけこっちに向かってくるかわからないので
ナズナに設置しておいてもらったマーキングポイントに向かった。

「ついて来い」

アルフに一声かけてると、少し迷ったようだが黙ってついてきた。
そして設置しておいたマーキングポイントに乗り旅館に転移し次に路地裏、最終的に最初に寝た公園に転移した。
公園についてようやく一息つけたとき、アルフがおずおずと話しかけてきた。

「あんたたち、なんであたしたちを…」

「管理局ってのが嫌いでね、つい手助けしちゃった」

≪本音一言も喋ってないね≫

≪管理局が嫌いってのは本当だ≫

こいつらにジュエルシードをいくら渡しても計画上、全く問題ないからな。

「一応、礼は言っとくよ、…ありがとう」

キューンと声を出し、耳をたらしてお礼を言ってくるアルフ
…かわいいじゃないか…

「この次に会ったら容赦しない」

この台詞といい、今の俺って最高にカッコよくないか? やべフェイトとアルフ惚れたんじゃない? メロメロじゃね?

「なんで猫のあんたが威張ってんだい」

…そういえば、まだ俺猫のままでしたね。そうですか、猫にはときめきませんか。
そうですね。俺はおとなしくメス猫にでも発情しときますね。

≪帰ろうナズナ≫

≪はい≫

≪家に帰ったらあの計画を実行に移すんだね≫

≪スカさん、頼りにしてるよ≫

「待って!」

「なんだよ、まだ何か? ジュエルシードは今ないぞ」

一個はナズナが持っているけどな!

「あなたの…名前は」

…やっぱ俺に惚れたんだな。そうだな! 絶対そうなんだな!
ふふ、俺も罪作りな男(猫)だぜ。いいだろうかわいい子猫ちゃん。俺の名前を教えてやろう。

「鈴k「きみじゃないよ。あなた」…ですよね」

まあわかってたから、別に悔しいとか悲しいとか全然感じないけどね。
…はぁ…

≪どうしますマスター?≫

≪名乗らないといけない雰囲気っぽいし、今だけ喋っていいよ≫

≪わかりました≫

念話を終え、ナズナがゆっくりとフェイトの方を向いた。

「…ナズナ」

「じゃあ、俺たち忙しいから、これで」

一言だけナズナが名乗った後、すぐに空を翔け、この後の計画を実行しに家へと向かった。




「ナズナ…」

「フェイト! 早く家に帰ろうよ」

「うん」










<あとがき>
ナズナちゃんとうとう名乗る。
今のところ、ナズナの名前を知っている敵はフェイトだけですね。
でもナズナは特にフェイトのことを思っていません。せいぜい腕がいい魔導師くらいです。
フェイトは…
では!また次回!!



[6935] 第16話「勧誘? 大魔導師!」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 14:17
「ここが…」

『そう。時の庭園だよ』

「不気味です」

「しあわせ荘と比べてもちょっとな…」



第16話「勧誘? 大魔導師!」



side高町なのは


「そうだ! あなたたち、この子について何か知らない?」

お話が終わってクロノ君が送ってくれることになった時
リンディさんが私たちを引きとめ、空中に映像を出して聞いてきた。

「あっ…」

「この子は…」

そこに写っていたのは、あの時の真っ黒な魔法使いでした。

「彼女たちの関係を何か知ってるのか?」

私が反応するとクロノ君がすごい勢いで私たちに尋ねてきた。

「えと…この子については特に何にも知らなくて…」

「名前…とかも、わからない?」

「はい。この子とは、あんまりお話できなくて」

何回か出会うことはあったんだけど、この子は、フェイトちゃんと違って
一言も口を聞いてくれなかった。

「この子の代わりにこの肩に乗っている猫さんが全部喋ってて…」

「本人とは一度も会話はしてないってことか…」

「けれど、この子とフェイトちゃんは協力していなかったはずなんです」

「どうゆうこと?」

「僕たちがこの魔導師に会ったとき、この子たち、いきなり戦い始めたんです」

「だから、今回フェイトちゃんを助けたのはすごい驚いちゃって…」

「そう…ごめんなさいね引き止めて。クロノ、お願い」

「はい艦長」

何だかあまり役に立てなかったかな…
この子とフェイトちゃんは一体どうゆう関係なんだろう…お友達なのかな…





sideout


「こんにちは、プレシア・テスタロッサ」

時の庭園を歩き回り、ようやくプレシアのいる場所までたどり着いたとき
プレシアは口から血を吐き出しながら、こっちを睨んできた。
怖い。怖すぎる。普段の顔も怖いのに、口から血を垂らしながら睨まないでください。お願い。

「魔力反応が感知できなかったけど、あなたはどうやってここに来たのかしら?」

言葉は丁寧に感じるけど、その裏に隠しきれないほどの殺意が見える。
多分この質問が済んだら殺すつもりなんだろう。
そして、いくらナズナが万能とは言え、さすがにプレシアに勝つのはキツイだろう。

「優秀な同志がいてね、その人に作ってもらった結界を使った」

スカさんが作ったのは移動型結界で、その中にいる限り、魔力関連で動いているものには、感知されないが欠点もある。
結界内では魔法が使えないこと、衝撃に弱く、外からの攻撃結界はが加わると破壊されてしまうこと。
魔法を使ってない普通の監視カメラなどには全く意味がないこと
スカさんが言うには、戦いようの結界じゃなく、潜入ようの結界らしい。

「そう、教えてくれてありがとう。それじゃあさようなら」

「っふ! それはどうかな!」

ナズナの肩から飛びながら体を猫から人に変える。
プレシアは慌てずに俺に向けて手に持つ杖を向けている。魔力が充足されていっている。
その予想どうりの反応に俺は

「これで何とぞお願いします~~~!!!」

ジャンピング土下座をくりだした。手に献上するようにスカさんを掲げて

「…はっ?」

『君ももう少しカッコつけれないのかい?』

プレシアさんの気の抜けた声とスカさんの呆れた声が上から聞こえるが
正直、プレシアさんに勝負とかそんな勇気は毛ほどもないから





「…にはかには信じれない話ね。未来のアルハザードから来たなんて」

『だが事実だ。私たちは実際に未来のアルハザードから来ている』

俺の代弁でスカさんが喋ってくれているがいまいちプレシアさんは、信用してくれない様子だ。
まあ普通は未来のアルハザードから来ました~って言われても信じないよな。
ここまで話をきいてくれたのはスカさんの存在が大きい。
スカさんがいなければ絶対に信じてくれず、話を聞く前に消し炭にされてしまっただろう。

「それを示す証拠はないでしょう?」

『そこは信じてくれと言うしかないね』

「…確かにジェイル・スカリエッティがデバイスになったなんて聞いてないわね」

『信じてくれたかい?』

「…その答えは保留にしましょう。それで、その未来のアルハザードの使者が私に何のようかしら?」

ここからが本題だ。この交渉が失敗すれば
俺は現実に帰れるより先にここでプレシアさんに消し炭にされるだろう。

『ここからは彼に代わろう』

「そう、で、なんのようなのかしら?」

プレシアさんはスカさんから視線を俺に向けた。
プレシアさんに見られるだけなのに背中にびっしりと汗をかいてるのがわかる。
俺はまるで蛇に睨まれた蛙の気分だった。
だけど、このまま固まっているだけでは前に進めない。動かなければ!

「プレシアさん…あなたには俺たちの部下になって欲しい」

「部下? なんの計画だかは知らないけれど、私が部下になるのにメリットがあるの?」

ここで俺は、いきなり切り札を切った。

「あなたの本当の娘、アリシア・テスタロッサ…彼女とあなたの病気を治しましょう」

「っ!?」

プレシアさんはさっきまでの余裕の表情を崩し、少し動揺したように見えた。

「何故それを、という顔をしてますね。俺たちは“未来”のアルハザードから来たんですよ」

「そう、確かにそれが本当なら知っているのはおかしくないわね。それで、それは本当に可能なのかしら」

『それは私が保証しよう』

「……」

プレシアさんはじっとこちらを見てなにかを考えている
俺は用意していたもう一つのカードを出した。

「信用の証拠としてこれを」

「ジュエルシード…」

今このジュエルシードを渡すのは危険かもしれないが
ここで渡しておかないと、信用を得るのも難しいと判断し渡すことにした。
時の庭園から音が消えている。正直生きた心地がしなかった

「…いいわ」

「じゃあ…」

「アリシアを生き返らせるためにはどうすればいいの」

まだ、完璧には信用していない様子だけど、少しは信用してくれた。
この時点で、俺たちの作戦は半分成功したようなものだった。

「俺たちの家に来てくれたら、すぐにでもスカさんが作業を開始してくれる」

「わかったわ、アリシアを連れてあなた達に研究室に行きましょう。だけどアリシアにもしものことがあれば、あなたたちは絶対に殺すわ。」

ちょ! 眼光が今までと比べてハンパねえ!
視線だけで人が殺せそうな目というのはこういう目のことを言うんだろう。

「肝に銘じときます」





「…これが?」

「はい、これです」

プレシアさんに許可をもらい時の庭園にマーキングポイントを設置さしてもらい
しあわせ荘の俺たちの部屋に飛んだ。
もっとやばそうな見た目を想像していたのか、部屋をキョロキョロと見渡している。

「マスター、プレシアさん早くこちらに」

「…そこが入り口かしら?」

『素晴らしいだろう?』

「はい。何か変でしょうか?」

「もういいわ。行きましょう」

これ以上はなしてると頭が痛くなりそうよ、とプレシアさんは愚痴りながら
押入れにの中に入っていった。
…押入れに入っていくプレシアさん…すごくシュールだ…
さっきまでのシリアスが押入れに入っていくプレシアさんで一気にコメディになった気分だ…





「中はかなりのものね」

『フフフ、私の力作だからね』

サラーブの景色は時の庭園と違って、明るい。
というより地球の時間に設定しているので、地球が夜になればサラーブも暗くなる。
今はお昼を少し過ぎたくらいの時間なので明るいのだ。

『じゃあナズナについて行ってくれ』

「はい、こちらにどうぞ」

ナズナはスカさんと一緒でサラーブの研究室を把握しているので
案内は基本的にナズナがしてくれる。
俺もできないことはないんだが、いまいち自信がないのでやっぱりナズナに頼んでいる。

『ここが私の研究室だ』

ナズナについて行ってしばらくすると、スカさんの研究室に着いた。
ここでスカさんは人形かおばちゃんを使い、結界などを発明している。
周りを見渡すと見たこともない魔法陣やわけのわからない数式が並んでたりする。

「ここです」

スカさんの研究室から入れる、ある魔方陣を保管している部屋やっとにたどり着いた。
そこには黒い床に白い魔方陣が書かれている。

『そこの3つある白い魔方陣の内の一つにアリシア・テスタロッサを置いてくれるかい』

「これでいいのね」

アリシアの体が入った容器を白い魔方陣にプレシアさんが慎重に置くと魔方陣が光りだした。

『マーディン・タグイール発動確認。あとはこのままで大丈夫だよ』

確かに死んでいるように白かったアリシアの体が、近くで見ると生気を帯びてきている。

「っよかった…本当に…アリシア…」

それを見てプレシアさんは滝のように涙を流している。

『彼女の体は長い間、止まっていた。回復するまで何週間かは掛かるだろう』

「うぅ…アリシア…」

「ドクター、この人聞いてません」

その後、ようやくプレシアさんが落ち着いて話ができる状況になるまで三十分かかった。

「じゃあ次はプレシアさん、あなたです」

「アリシアと一緒でこの魔方陣に乗ればいいのね」

アリシアの無事を確認できたからか、若干キツイ顔がやさしくなっている。
そして魔方陣に乗った瞬間、プレシアさんは床に倒れてしまった。

『これでいい。プレシア・テスタロッサは、アリシア。テスタロッサと違って遅くても一週間だろう』

「プレシアさんの病気って時間戻してもまた再発するんじゃないの?」

『多分大丈夫だね。彼女が体を壊したのは、体を無理に行使し続けたからだ。アリシア・テスタロッサが傍にいるなら、彼女もそんなに無茶はしないだろう』

「なんにせよ、第一関門突破だな」

そう考えた瞬間、ドッと疲れが沸いてきて地面に座ってしまった。

「あ~~、しんどかった」

「お疲れ様ですマスター」

『しかしマーディン・タグイールを使ってよかったのかい? あと一つだよ』

スカさんの言うとおり、このアルハザードの時戻しの魔法は3つしかない。
しかも新しく作れない。あのアルハザードの空気の中じゃないと、魔方陣を生成できないらしい。
かろうじで過去に持ち出せても、3つが限界だった。

「まあ帰るのにプレシアさんの力は絶対に役に立つはずだから、損したってわけじゃないから別にいいよ」

さてさて、そろそろこのPT事件の舞台を終わらせますかね。










<あとがき>
プレシアさんが現実回帰組に入隊!
そろそろ無印のゴールが見えてきました。
無印編では主人公組みはあまり目立ちません。
As後半ぐらいから本格的に動く…かな?
では!また次回!!



[6935] 第17話「偽善者大作戦!?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 14:23
「マスター、プレシアさんが目覚めました」

「ここに呼んでくれる?」

「はい」

『それじゃあ作戦会議といこうか』



第17話「偽善者大作戦!?」



プレシアさんは治療が終えて、アリシアのことも解決したからか、随分とすっきりした顔になっていた。
一週間くらい前の、修羅のような顔とは大違いだ。きれいに見える
元人妻…いいじゃないか…

「マスター、会議中です」

「わかった、わかったからつねらないで、お願い」

プレシアさんのことをチラ見していたら、ナズナに顔をつねられて
無理やり前方に顔を向けられた。少し…いや、かなり頬が痛い。

「それであなたたちの部下になるのはいいけど、何をすればいいの」

「このままあなたは、ジュエルシードを欲しているふりをし続けてください」

『必要なときは我々から連絡が入るよ』

プレシアさんはナズナが出した、紅茶を優雅に飲みながら、話を聞いてくれている。
…なんか本当にすっきりしてんな…

「わかったわ。このまま私は時の庭園に帰り、フェイトに今までどうり接しとけばいいのね」

「それでお願いします。あと、俺たちとも敵対していることでお願いします」

わかったわ、とティーカップを置き、頷いてくれるプレシアさん
本当に前より接しやすくなったな…

「アリシアはここに預けていくわ」

「はっ?!いいんですか!?」

あのプレシアさんがアリシアを置いていくだってぇ!!
まさかスカさん、あの魔法陣には実は洗脳魔法の効果もあったのか?!

「私をここまで治してくれたのに、今更信用しないなんてことは言わないわ。娘をよろしくお願い」

「はぁ…わかりました」

「お送りします」

プレシアさんはそのままナズナについて行ってしまった。
…人って変わるもんなんだねぇ。

『それで、私たちは一体どう動いていくんだい?』

「プレシアさんの協力が決まったときから考えていたんだけどさ、偽善者大作戦で行こうと思う」

『…偽善者?』

「うん。とりあえず、フェイトとかなのはにこの人いい人じゃね? って思われるぐらい」

管理局は…難しいか? あいつらは仕事だから少しキツイとこもあるからな。
その点なのはたちは、まだ純粋無垢。味方かなって思わせるくらいならちょろいと思う。

『それはそうと、プレシア・テスタロッサの回復を待っているうちに、もうジュエルシードの発動を3個、察知している』

「うん、多分あとは海で発動する奴だと思う」

過去に戻ったときに海で俺たちが戦った、暴走体のジュエルシードが、海の中の一つかはわからないけど
最低でも、海には5個ジュエルシードがある筈だろう。

『そうだったね。そのために“あれ”をセットしたんだったね、フフフ…』

「そう、そのためだよ、ふふふ…」

「『フフフフフ……』」

「マスター、プレシアさんを送って来まし…マスター?」





『それで、全部終われば私はフェイトと管理局を攻撃すればいいわけね』

「はい、それでお願いします」

『わかったわ』

プレシアさんが帰ってから二日、あの日からさらに2個のジュエルシードの
発動が確認され、残すところ海しかなくなった。
そこで俺たちはプレシアさんに連絡を取り、海上決戦の後始末を頼んだ。

「じゃあそろそろ始めますか」

正直プレシアさんが仲間になって時点でほぼ計画完了している。
あとはおまけみたいなものだ。ジュエルシードは大事だけどな

『そうだね偽z…正義といこうじゃないか!』

「そうそう! それじゃあ、正義の味方と行きましょうかね」

「ドクター…マスター、うそくさいです…」

スカさんはわかるけど俺もうそくさい?!
スカさんと一緒!? ナズナに言われるとショック倍増だよ畜生!
理想に溺れて溺死します。





side高町なのは


「フェイトちゃん!」

お食事中に突然、警報が鳴ったと思ったら
ジュエルシードが発動しただけじゃなくてフェイトちゃんも来ているらしい。
私は食事を置いてリンディさんたちのところに全速力で走った。
うぅ…やっぱり走ったりするのは苦手だよ

「あのっ! 私急いで現場に…」

「その必要はないよ。放っておけばあの子は自滅する」

「っ!?」

そんな!? それってフェイトちゃんを見捨てるってこと!
顔を上げて画面を見てみると迫り来る渦から必死に攻撃しようとしているフェイトちゃんが写ってる。

「仮に自滅しなかったとしても、力を使い果たしたところで叩けばいい」

「でもっ」

それじゃあフェイトちゃんは…

「今のうちに捕獲の準備を」

私は何かクロノ君に言いたいんだけれど何も言えなかった。
画面に映るフェイトちゃんは波をよけきれず、体を飛ばされていて
アルフさんは雷に邪魔をされてフェイトちゃんをうまくサポートできてない様子だった。

「私たちは、常に最善の選択をしないといけないわ。残酷に見えるかもしれないけどこれが現実」

「でもっ…」

私がリンディさんに何か言おうとしたとき、フェイトちゃんの体を
渦が貫こうとしているのが目に入った。

「フェイトちゃん!!」

思わず声をあげてしまったけれど、すぐに安心した。
だって…

「あの子は…!?

「艦長!! また新たな魔導師です!」

黒い閃光がフェイトちゃんを貫こうとしていた渦を打ち消したから





sideout


「あんたたち!? なんでまた」

「ナズナ…」

「ジュエルシードが欲しくてね、こんな状況だったら、協力したほうがいいだろう?」

海に来て見たら、ちょうどフェイトが詠唱している場面だったので
主人公のように乱入さしてもらった。
…ナズナが
もう人型になってもいいかな? …最近思ったんだけどさ、これもしアニメだったら俺のポジションはユーノより低くない?
魔法少女 リリカル★ナズナ!? とかなってない?
いや、痛いの嫌だから戦うのとか勘弁してほしいけどさ

「えと…ありがとう…」

「…別にお前のためじゃない」

…ナズナさん冷たいッス!
この時期のフェイトがお礼を言ってきたのに、お前って、せめて名前で呼んでやれよ!
まあ、あまり喋っちゃ駄目だけど…

「フェイトちゃーーん!!」

お互いに背を向けて、戦闘態勢に入っていたら、天より魔王様の声が聞こえてきた。
光が空からさしてきて、桜色のキラキラと一緒になのはが降りてきている。…天使気取り?
その瞬間、アルフがなのはに向かって襲い掛かろうとしていた。
俺たちは、前に助けたので微妙な感じだったが、なのはは別らしい

「フェイトの…邪魔を、するなあぁぁあぁ!!」

ものすごい力で体を縛っていた、雷で出来てるっぽい縄を噛み千切り
なのはに襲い掛かっていったが、その間に壁が生じた。

「っく!?」

「違う!僕たちは君たちと戦いに来たんじゃない!」

淫獣…もといユーノだった。そのユーノがなのはとの間に入りアルフを止めた。
あの魔法けっこう堅いよなぁ…
なのはは風に流されながらもこっちに向かってきていた。

「まずは、ジュエルシードを停止させないと、まずいことになる!」

ユーノがそう叫ぶと同時に少し空に上がり、魔法を発動させた。

「だから今は!封印のサポートを!」

チェーンバインド…だっけ?
あれって竜巻とかも縛れるんだ…実体なくてもいいのか、便利だな。
今度スカさんに頼んで練習してみよう。

「地味なあれ手伝おう。封印作業は二人で十分だろ」

≪はい、あの竜巻を消していけばいいんですね≫

「ミーティア、行くよ」

『Shooting Mode set up.』

少しフェイトたちから離れて、手伝う。あまり近いと雷に巻き込まれるからね

『Accel Shooter』

俺の訓練のときに一番よく使う魔法をナズナはユーノが縛っていない竜巻に6発放った。
竜巻に全弾直撃し、あっけなく一つの竜巻は消滅したが、
海から小さいがまた新たな竜巻が出現してきた。

『これは、ジュエルシードを叩かないとどうにもならないね』

「それもそろそろしてくれるんじゃない?」

ちらりと、フェイトたちの方を向いてみると封印準備は整っている様子だった。
桜色と金色の巨大な魔法陣が空に描かれている。

「せーのっ!」

そろそろ終わるな。ならば…

≪スカさん、“あれ”どんな感じ?≫

≪この海にかなりの数を集めておいたよ、覚悟しときなさい≫

≪うへぇ…≫

“あれ”おもしろいんだけどダメージがハンパないんだよなぁ…

「サンダーっ!!」

「ディバイーーン」

「っレイジッ!!」

フェイトの魔法が放たれた途端に竜巻たちを広い範囲で雷の魔法が襲った。
…これって魚とかに影響でないんだろうか?
電気ショック漁法 とか何とか言われて禁止されてたよな?そこは「凄いぜ魔法!!」なのか?

「バスターーーー!!!」

その竜巻になのはの恐ろしい威力の魔法が加わり竜巻は消滅した。
その衝撃で海に津波が起こり体がビチャビチャになった。

「海水でとか…ベトベト決定…」

海水で体中ビチャビチャになってかなり鬱になっている俺をおいて
なのはたちは、ジュエルシードを挟んでお互いに真剣な顔で向き合い話をしていた。

「友達になりたいんだ」

話も終局になり、場に沈黙の空気が流れているときにスカさんから念話が来た。

≪プレシア・テスタロッサから連絡が入った。くるよ≫

スカさんとの念話が終わった瞬間、海に紫色の雷が落ちた。
フェイトはその雷がプレシアさんからの攻撃だとわかり戸惑いを見せている。

「母さん!?」

フェイトが疑問の声をあげ、その問いに返事かのように雷が落ちた。

「うわあぁああぁああ!!」

「フェイトちゃん! っきゃ?!」

フェイトの叫び声で我に返ったなのはは、駆けつけようとするが雷の余波にとばされる。
俺はと言うと、雷の余波に飛ばされないように、ナズナにしっかり捕まっていた。

≪プレシアさんって本当に桁違いだな…≫

≪大魔導師を名乗るほどはあるってことだね≫

≪すごいです≫

その様子をのんきにバリアを張りながら俺たちは見ていた。攻撃が止んでフェイトが気を失い、海に落ちていったが
アルフが人型に戻り、ギリギリでフェイトを受け止めて、そのままジュエルシードに向かったが…

「っ?!」

いつのまにか転移してきていたクロノによってその手はジュエルシードには届かなかった。
ふふふ、来たな! 来てしまったなクロノ・ハラオウン!!
お前に地獄と言うのを見せてやる! 一緒に苦しもうぜ! なあ!!

「邪魔…するなあぁああぁあ!!!」

力押しでクロノを押し飛ばしたアルフ。
だが、ジュエルシードが2個しかないことに気づく。

≪ナズナ、ジュエルシードは頼んだ。スカさん“あれ”発動≫

≪了解、男性用魔法“サッド・ペイン”発動≫

スカさんの宣言とともに海の上に複数魔法陣が展開され、その全てがまとまり巨大な魔法陣となった。
それが展開された瞬間、クロノは持っていたジュエルシードを落とし腹を押さえだした。
すかさずナズナがそれを拾った。

「っく! こ…これ、っは…」

俺と同様に顔から物凄い量の汗をたらしながら
ジュエルシードを盗った俺たちのほうを睨んできている。

「っふふ、どう、よ、この魔法はっ! キン○マ殴られた、…ように、痛い、だろっ! あっ、や、ばい…吐きそ、う」

俺たちがこの日のために仕掛けといた罠
それがこのサッド・ペインだ。これが発動した瞬間に周りにいる男性に無差別にキンタ○が殴られたような痛みを
食らわせるという男にとってかなり恐ろしい魔法。
正直、俺は今も。下半身の鈍痛と戦っている。泣きそうだ。遠くを見ればユーノも苦しんでいた。

「な…何て、しょうも、ないっ、魔法だ…」

「何だかわからないけど、今のうちにっ!!」

アルフがクロノが動けないうちに海に向かって魔法を放ち、大きな波を起こした。

「た、…退散だ、ナズ、ナっ…」

「はい、マスター」

それに便乗し、転移して逃げることにした。
泣きそうとか思ってたけど、実際に目からは涙が出ていた。




今日学んだこと 海水と汗と涙でベトベトになると何もかもがどうでもよくなる。









<あとがき>
海上決戦が終わり、とうとう時の庭園に!
ナズナとフェイトが怪しい雰囲気が出てきたような気もするけど
気にしないでください(笑)
では!次回!!





おまけ


魔法紹介
サッド・ペイン(Sad Pain)
使用者:現実回帰組
未来の魔法研究者が、遠くから見てた(ストーカー)だけで女の子にあそこを蹴られふられたことの怒りで
自分以外の奴にも同じ目に遭わしてやるとくだらない執念で出来た魔法。
弱点があって、一週間設置しとかないと発動できない。
しかし彼が作る魔法は意外と人気があり、隠れファンが多くいた。
彼の執念・嫉妬・願望魔法シリーズは、他にも何個か確認している。



[6935] 第18話「魔砲幼女の意地」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 14:30
「ムチの音ってさ、聞いてると鳥肌たってくるよね?」

『そうかい?』

「マスターは鳥肌がたつんですか?」

『私は別に何も感じないけどね』

「えっ? 何この空気、俺が変みたいじゃない? あれ、俺が変?」



第18話「魔砲幼女の意地」



一旦、海から引いたあとすぐにサラーブから時の庭園に飛び
プレシアさんの荒れた胃みたいな部屋でフェイトのお仕置きが終わるのを
ナズナと一緒に待っていたんだが、ナズナが途中でお茶をいれてきます、と言って
サラーブに戻った時に、ちょうどプレシアさんが来てしまった。

「プレシアさんこんにちは」

『お疲れ様。次の指示を説明するよ』

「体が健康になったから、そこまでしんどいものじゃなかったわ」

戻ってきたプレシアさんは少々激しく動いて、疲れたみたいで汗をかいていた。
こちらにタオルで汗を拭きながら向かってきていた。

「これにでも座って」

プレシアさんが手を叩くと、地面から椅子とテーブルが突然現れた。
当然ビビリの俺は盛大に焦ったが、スカさんは冷静に魔法の分析していた。

『転移…それに圧縮の魔法も少々混ぜているね。中々おもしろい』

「一目でそこまでわかるなんて、さすがはジェイル・スカリエッティといったところね」

「…話戻っていいですか…」

このインテリ二人に囲まれてるの、俺嫌だよ…
会話が始まると7割が理解できない単語で構成されてるんだもん…

「時間にはまだ余裕があるから、大丈夫…!?」

会話の最中に突然の爆発音が部屋に響いた。
慌てて、枯れている木の後ろに隠れて様子を伺うと、鬼のような顔をしたアルフがいた。

「危なかった…アルフに見つかったらいろんな意味でアウトだった」

この段階でアルフに見つかると、管理局にいろいろ話すし…
そう思い、俺は隠れている木の陰で安心していた。
そしてプレシアさんは不快そうに視線を寄せたあと興味をなくしたのか
どうでもよさそうに視線を元に戻した。

「…っ」

そんな態度のプレシアさんにアルフはますます怒りだし
ズンズンとプレシアさんに向かい、大分近づいたところでプレシアさんに飛び掛った。

「っが!?」

アルフの方を見もせずに、アルフの攻撃をかなり硬そうなバリアで防いだプレシアさん
やっぱりプレシアさん仲間にしてよかった…
ガチでこの人と戦うことになるとか、かなり悪夢だ。

「くっそぉ…!!」

アルフは諦めず、再び攻撃を続けているが
残念ながらここにいるのは病弱プレシアさんではなく、健康プレシアさん
バリアに指がめり込むぐらいが限界でそれ以上は進まない様子だった。

「あんたは母親で! あの子はあんたの娘だろう!あんなに頑張ってる子に…あんなに一生懸命な子に、何であんなに酷いことが出来るんだよ!」

…すみません、俺たちが頼んだからです。
俺の心の中の謝罪中にプレシアさんは砲撃でアルフを吹き飛ばした。

「あの子は使い魔の作り方が下手ね…余分な感情が多すぎるわ」

「フェイトは…あんたの娘は、あんたに笑って欲しくて、優しいあんたに戻って欲しくてあんなに、…っぐ!」

アルフが痛みで顔を伏せていてプレシアさんの顔を見ていなかったが
アルフの言葉を聞いたプレシアさんは少し表情を暗くさせているのを俺は見てしまった。

「…ふっ」

しかしすぐに表情を戻し、手に杖を具象させてアルフに向けた。

「邪魔よ…消えなさい!」

本当ならここでアルフは逃げるはずなんだが
予想以上にダメージが大きいのかその場でうずくまっただけだった。

≪プレシアさんストップ≫

プレシアさんが魔力をため始めたところで一応止めておいた。
ここでアルフが死んでしまうと、管理局に話が伝わらない。そうなると少し困る。

「っくそ!」

プレシアさんが魔力のためを中断するのと同時にアルフも
足元に魔法陣を出現させ、それを爆破させそのまま落ちていった。

「あれ、放っといていいのかしら?」

「はい、この後の計画にいろいろと必要で」

偽善者大作戦パート2のためにも必要だしね。

「それでこの後、私はどうすればいいのかしら」

「この後、フェイトにもう一度、ジュエルシードのことについて頼みます。あの白い魔導師と戦うので勝ち負けはどうでもいいんで、その後またあの雷を放ってもらいます。ジュエルシードを負けたほうが出してると思うんでそれを物質転送でここに戻してもらいます。管理局と話す機会があると思うんで、いままでの鬱憤を晴らしてください」

ここまでが原作どうり、この後が重要

「そしてフェイトが手に入れたジュエルシード使って次元震を起こして、その後、俺たちのサラーブに退避してもらいます」

「それで管理局はどうするのかしら。物質転送なんかしたらここがばれるわよ」

「はい。多分、というか絶対管理局がここに攻め込んでくるので、ここでその局員たちを撃退してから退避してください。その後はこれを使います」

スカさんからの映像を空中に表示する。

「これは…?!」

『ここの説明は私がしよう。これは人間の人形だよ。Fプロジェクトで人間そっくりに生み出した人形。中身も完璧に複製してある』

時の庭園襲撃のためにスカさんに用意してもらった特殊人形
顔はのっぺらぼうで、体も男なのか女なのかはっきりしない形で気味が悪いのだが

『これはサラーブに設置してある専用の魔法陣を使うことでこの人形を本人そっくりに見立てることが出来るんだ。その魔方陣の上で動くと、時の庭園に置いとくこの人形も同じ動きをするんだ』

簡単に言えばパー○ンのコピーロボット。
あれみたいに便利じゃなく、操作しないといけないのが面倒だが。

「魔力をかなり使うんで気張ってください」

「そう、わかったわ」

魔力をかなり使うと聴いた瞬間かなり嫌そうな顔したけど気にしないどこう…
誰だってしんどいことを頼まれたら嫌なのはどの世界でも共通認識だよな。

「俺たちは明日、アルフと接触します」

問答無用で逮捕されないように秘策もあるし。

「すみません、お茶切れてて遅れました」

…会議終わったよ。





sideアルフ


昨日なのはの友達に助けられたのは、焦ったけど今思ったら
あの子に助けられて本当によかったと思えた。だって…

―――うん、大丈夫まかせて

フェイトのことをこんなに真剣に考えてくれる子に出会えたんだ。
あの子に助けられなきゃ、あたしは今頃どこかで消えてたかもしれない。だから本当によかった。
体を癒すのに集中していたら周りはもう夕暮れ。
なのはもどうやら家に帰ったみたいだ。あたしも明日は早い。もう一眠りしようとしているときに、あいつは現れた。

「プレシア・テスタロッサね…」

そのどこかで聞いたことのある声を聞こえたと思ったら
檻の上から何かが降りてきた音がした。

「はい! こんばんは!」

目を開けて目の前を見てみると、真っ白な猫がそこにいた。
あの子の周りには犬はたくさんいたけど、猫はいなかった。なにより喋るねこなんて
この世界にいるはずがない。だったらこいつは…

「…また、あんたかい」

「おいおい元気ないな? 腹下した?」

目の前の猫はうっとおしいくらい元気に話しかけてくる。
寝ようと思っていたけどこんな奴が来たんじゃ気になって寝られない。

「あんた、一体何のようだい?」

「ご主人様に偵察してこいって言われて偵察しに来てみたら、話聞いちゃって」

どうやらあの話をしている時にこいつもいたらしい。
管理局が見張っている中のに気づかれないなんた本当にいたんだろうか?
でも、あたしの出した名前知っていたし…

「それでさ、一つお願いがあるんだよ」

「…? なんだい」

「明日さ、俺も…」

この後こいつがしてきたお願いに
わたしはこいつ何がしたいか本当にわけがわからなくなった。





sideout


成功ーーー!!
何とか成功しました、決闘観戦許可。
昨日アルフと接触して、プライド捨ててまで嘘をついて話しながら少し無茶なお願いを
してみたんだけど、意外と何とかなった。
フェイトたちの邪魔をしないんだったら構わないらしい。
誰があんな人外対戦の邪魔するかよ、下手したら死ぬぞ。俺が。
そんなわけで俺は朝早くから、アルフの背中に乗せてもらってます。

「あんた自分では走りな!」

「走るの苦手なんだ」

苦手なのは嘘だ。本当は走るの嫌いなんだよ。
訓練とかだったらしかたなく走るけど、こういう時は誰かに乗るに限る。
そのまま背中で伸びをしていると、突然アルフが走っていた塀から飛び降りた。

「アルフさん! …あれ? その子…」

「昨日たずねて来たんだよ。なんか観戦したいとか何とか言って」

降りた理由はなのはとの合流のためだったらしい。
そして予想どうり鋭い視線でなのはとユーノから見られた。

「えと…あなたは…」

「走りながら会話するとばてるぞ? 事情は後にしよう」

「えっと、…わかったよ」

まあ事情話す気ないけどね。





しばらく走り続け、やっと海に到着した。
管理局が出てきてもすぐに逃げれる準備をしてあるし
何より奴らは今、プレシアさんのアジトを探るのに必死になっているはず、使い魔の俺を捕らえたところで、ナズナが来るとは限らない。
そう考えるとまずはプレシアを捕らえるほうを先決するだろう。
…使い魔じゃないけどね…

「ここなら、いいね」

そして、なのはは祈るかのように瞳を閉じた。

「出てきて…フェイトちゃん!」

なのはがそうつぶやいた瞬間ゆらりと風が吹き
海の香りがツンッと鼻を刺激し、それを感じると同時に後ろに気配があるのも感じた。
ゆっくりと振り返るとそこには予想どうりフェイトが電柱の上にいた。

『Scythe Form.』

こちらが気づくのと同時に戦闘体制に切り替えるフェイト
あまり話し合いで済まそうという気分ではないのが伺える。

「フェイト…もうやめよ、あんな女の言うこと、もう聞いちゃ駄目だよ!フェイト…このまんまじゃ不幸になるばっかりじゃないか、…だからフェイト!!」

アルフ必死の訴えにフェイトは悲しい顔をして首を振った。

「だけど…それでも、私はあの人の娘だから」

こいつ本当にお母さんっ子だったんだな…
いや、フェイトがお母さんっ子じゃなくて、アリシアがそうだったのか?

「ただ捨てればいいってわけじゃないよね?逃げればいいってわけじゃもっとない。切欠はきっとジュエルシード、だから賭けよう。お互いが持ってる全部のジュエルシードを!」

『Put out.』

『Put out.』

いつの間にかバリアジャケットを着ているなのはの宣言とともに
ジュエルシードがレイジングハートから8個、バルディっシュから7個浮んできた。

「それからだよ、全部それから」

なのはが杖を構え

「私たちの全ては、まだ始まってもいない…だから、本当の自分を始めるために」

フェイトもなのはを追う様に構えた。

「始めよう…最初で最後の本気の勝負!」





「本当に人間じゃないよなぁ…」

目の前のビュンビュン飛び回っている幼女を見ていると
俺の魔法少女の定義が崩れていく。

「魔法少女ってさ、こうパイパイポンポイ プワプワプー とか、テクマクマヤコンみたいな呪文とか欲しいよな」

「は?何言ってんだいあんた」

「…いや、なんでも」

魔法少女の呪文を言ってみたんだが、アルフはわかってくれないようだ
いないかなぁ…この世界にこんな感じに呪文唱える奴…

「まずい!フェイトは本気だ!」

どうやら戦いも終局に向かったらしい。なのはがバインドで縛られている。

「なのは!今サポートを!」

≪ナズナ来ていいよ≫

公園で待機してもらっていたナズナが、転移して俺の隣に現れたのを見て
アルフとユーノはこっちを見て驚いていた。

「だめぇーーーー!!」

≪ご無事ですかマスター≫

≪うん≫

なのはが叫んでいるのを無視してナズナは俺を肩に乗せている。
ナズナ…なのは嫌いなのか?

「アルフさんもユーノ君もあなたも、手出さないで、全力全開の一騎打ちだから! 私とフェイトちゃんの勝負だから!」

「でも、フェイトのそれは本当にまずいんだよ」

「平気!」

≪別にあなたを助けようとした訳じゃないんですけど≫

ナズナは念話で俺に不満を告げてくるが、俺に言われても
困るんですが…

「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ファランクスシフト。撃ち砕け、ファイア!」

長い詠唱を終えて、発射される無数のフォトンランサー。
この魔法ってかなり時間が掛かるし魔力かなり使うらしいから長期戦には向かないよな。

「なのは!」

「フェイト!」

お互い主を心配して声をかけるが、煙が晴れたとき無傷のなのはが現れた。

「撃ち終わると、バインドってのも解けちゃうんだね…今度はこっちの…」

『Divine』

「番だよ!」

『Buster』

ていうか、フェイトの決死の攻撃を
バリアジャケットに傷一つ入れないで無事とかどういうことだよ?おまえどんだけバリア硬いんだ?
必死にディバインバスターを防いでいるフェイトだが、あの魔法を放った後なので
もう体はヘロヘロで今にも倒れそうだった。
そしてそれに更に追い討ちをかけてくる魔王様。手加減してやれよ…

「受けてみて!ディバインバスターのバリエーション」

『Starlight Breaker』

本当にレイジングハートさんノリノリですね。
ここで新技出すとか、そりゃフェイトが魔王に惚れるわ。いや服従するわ。

「っ!? バインド!?」

徐々に収束されていく魔力を見てかわそうとするフェイトだが
残念ながら魔王からは逃げられない。

「これが私の全力全開!」

≪ナズナ、救出準備≫

≪はい≫

ここでもいい人フラグを立てておこうと思いナズナに指示を出しておく。

「スターライト…ブレイカーーー!!!」

…非殺傷設定って偉大だよな…
普通死ぬだろ、これ。魚が衝撃で浮んでくるんじゃないか?
処刑(砲撃)が終わりようやく海に静けさが戻ってきたとき、フェイトが気を失い海に落下して行った。

「あっ!」

なのはも体がヘトヘトなので駆け寄ろうとするが体がうまく動かないようだ
そこで…

≪これでいいんですか?≫

≪上出来だ≫

ナズナがフェイトが海に落ちる前に抱きとめていた。完璧だ! 完璧すぎる! これはいい人フラグ立つだろ!
むしろ俺にフラグ立てよ! 惚れてしまうだろう! 俺に!

「あなたは…」

「ほれ起きろ」

フェイトの頬をニクキュウでぺちぺちし、フェイトを無理やり起こす。

「んっ…ナズ、ナ…?」

…やっぱナズナですよね…

「気づいた?フェイトちゃん?」

うっすらと目を開き、周りを確認し自分の状況が飲み込めたフェイトは
少し顔を暗くしなのはの方を見た。

「ごめんね、大丈夫?」

「うん…」

「私の勝ちだよね?」

「そう…みたいだね…」

『Put out.』

バルディっシュから浮かび上がってくる8個のジュエルシード
そろそろプレシアさん来るかな?

「おい、飛べるか?」

フェイトの頭に乗りながら尋ねると、フェイトは黙って空に浮いた。
返事なし? 舐めてるのか? 俺が猫だからって舐めてるのか?

≪ごめん言うの忘れてた、もう来るよ≫

≪はっ?≫

スカさんからいきなりわけのわからない連絡を聞いて
なにが来るのかと思った瞬間、上から雷が降ってきた。

≪ちょ!? 言うの遅い!≫

≪離脱します!≫

すぐにその場から離れ、港に着地すると、予想どうりフェイトが雷の餌食になっていた。
鞭といい雷といいこの子本当にM要素あるよな…

『さて、人形の最終チェックにサラーブに戻ろう』

「そろそろゆっくりできる時期になるな」

なのはたちがフェイトを助けているうちに
俺とナズナはその場から転移しないで、飛んで退避していった。










おまけ

『こんどから私を起動する時に詠唱つけようか?』

帰っている途中に、スカさんがいきなり詠唱の話を持ち出してきた。

「は?なんで?」

『君が言ってたじゃないか、パイパイポンポイ プワプワプー とか、テクマクマヤコンとか欲しいって』

ああ、あれ聞いてたのね。でもそれ…

「いやそれ“少女”限定じゃない?」

『いやいや、そうとも限らないよ。意外と似合うかもしれない』

「……」

似合うねぇ…



~~~妄~~~☆~~~想~~~



「いくぜ! スカさん! テクマクマヤコンテクマクマヤコンセットアップ!」

『了解!』

詠唱が終わると同時に眩いばかりの光に包まれる俺

「なんだこの光景は!? 眩しいを通り越して痛い! 心が!」

「すっすごい力を感じるの! やばそうなの!」

「同じ男として軽b…尊敬するよ!」

「これがあんたの言っていた魔法少女の力…!?」

「マスター、神々しいです」

そして皆から注がれる尊敬の眼差し!
魔法少年!! エタナール鈴木! 始まります!



~~~終~~~★~~~了~~~



「…勘弁してくれ…」

『そうかい。フフフ…』

そこで笑うのやめてほしいなぁ…
この世界に来てから胃の調子が…










<あとがき>
多分次で無印編が終わります。
その後、しばらくは平穏編が続いてAs編に入っていきます。



[6935] 第19話「人形の意地と思い」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 14:55
「俺たちも時の庭園に行きますんでそのまま人形操作を頑張ってください」

『私はこの体が虚数空間から落ちるぐらいにジュエルシードをあなたたちの家に転送すればいいのね』

「はい、それでそのアリシアちゃん人形と共にその体には落ちてもらいます」

『わかったわ、それと…』

「何か問題ありました?」

『このアリシアちゃん人形、キーホルダーとかそういうのに出来ないかしら?』

「…ナズナに頼んでみます…」



第19話「人形の意地と思い」



あの決闘が終わったあとすぐにプレシアさん人形を起動させ管理局との通信に
ノイズが入っている隙に人形とプレシアさんを入れ替えた。なのでリンディと喋っているプレシアさんは、今はあの人形になっている。
プレシアさんには先にサラーブへ退避してもらい、俺たちはプレシア人形とジュエルシードの最後を確認しに
時の庭園の入り口に転移してきた。時の庭園は前に来たときと違って
不気味な雰囲気だった道は、なにやら慌しい雰囲気になってしまっている。

「この後、どうしようか…プレシアさんにはジュエルシードの他に時の庭園の駆動路まで暴走してもらったのはいいが…」

「どうしたんですかマスター?」

『早く確認しに行こうじゃないか』

「管理局に追われたりしないよな?」

『管理局も流石に私たちとプレシア、両方を一気に捕らえるのは、難しいだろう。アースラのエースのクロノ・ハラオウンも今はプレシア逮捕に向かっている。それに並の魔導師ではナズナに手も足も出ないさ、君と違って』

「マスターは後ろに隠れててくれればいいです」

「…ありがとう」

なんか、遠まわしに馬鹿にされたような気が…気のせいか?
まあ、このままうだうだしててもしょうがない。覚悟を決めて行きますかね。

「よっしゃ!! 行くz「ナズナ!?」…はいカット」

気合の掛け声をあげた瞬間、聞いたことのある声によって邪魔をされた。

「ナズナ…? どうして時の庭園に?」

…フェイトが何故こんなところに? えっ、こいつまだ復活してなかったの?
もうプレシア人形追い詰めてるぐらいだと思ったんだけど…
フェイトがここにいるってことは、まだなのはとも合流してないわけか…

「…仲間がここの次元座標を確認したから、ジュエルシードを盗りに来た…」

俺がどう言い訳しようか悩んでいる時に、ナズナが華麗に言い訳を述べていた。
ていうか盗りに来たって…

「そ…そうなんだ」

「おいナズナ! 早く行こう」

このまま話しているとぼろが出そうなので、早々に切り上げて
さっさと時の庭園に突入しようとしたんだが。

「あっ! あのっ!!」

時の庭園に突入しようとした俺たちをフェイトが呼び止めた。

「す…少し聞いて欲しいことがあるんだ」

顔に俯かせながら、フェイトはナズナに向かって大声で言った。
無視して行こうと思ったが、フェイトがナズナのマントの裾を掴み、放さなかったので
ナズナは思いっきり溜息をついてフェイトと向かい合った。

「あのね…」

フェイトの話は原作どうりだった。母さんに実は本当の娘のクローンだと言われてとか
私の記憶とかも全部偽者でとか、自分が捨てられてしまったとか
私のことが本当は大嫌いだったんだとか
まさしくプレシアさんは原作どうりのことを言ったらしい。素晴らしい演技だ、ナイス。
…ていうか、なんでこいつは俺…じゃない、ナズナにこれ話したんだ?結構深刻な話だろ?

≪話終わったっぽいし行こうナズナ≫

≪……≫

≪ナズナ?≫

あら? ナズナの反抗期?

「それで、あなたはどう言って欲しいんですか?」

「えっ?」

「うぇ? ナズナ?」

なんか声怒ってね? ちょっと声のトーン低いんですけど、黒梨花?

「母に騙されててかわいそうと同情して欲しいんですか? あなたは人形なんかじゃないと励まして欲しいんですか?」

「わ…私は」

「私があなたに言うことは特にありません」

私もあなたとある意味一緒だし…、と小さい呟きが俺にだけ聞こえた。

「というかあなたはなぜ黙って母の言うことを聞いていたんですか?」

「か…母さんに笑って欲しかったから」

「ならよかったじゃないですか」

「えっ?」

だんだんとフェイトの顔が暗くなった来てるし、ナズナはなんか怒ってるような気が…

「人形は主を笑顔にするために踊り続ければいい、私が人形で例え主に嫌われようと、私は主の隣に立ち続け、踊り続けます」

「……」

「壊れて動けなくなろうと、私が動いているときに、少しでも笑ってくれれば私は嬉しい」

「ナズナ…」

ナズナの肩に乗りながら感動に打ち震えているときに、周りの異変に気づいた。
傀儡兵が俺たちに向かって来ていたのが目に入った。

「お、おいナズナ!?」

肩から頬を叩いて知らせてみたんだが、ナズナは聞いてくれない。
ヤバイ! ヤバイ!! お、俺が何とかしないといけないのか!? 頑張れ俺!!

「それともあなたは母が嫌いになったんですか?」

「…いや」

傀儡兵の腕が振り上げられ、二人に叩きつけられそうなのを見て
抵抗しようと考えていたのに思わず顔を伏せたが、徒労に終わった。

「今でも私は母さんは大好きだよ」

「…無駄な時間でしたね。行きましょう」

「うん!!」

目を開けたときには傀儡兵はミーティアとバルディッシュに切り刻まれていた。
傀儡兵は、足もバラバラにされてたのでそのまま倒れてしまった。
…まあ、俺も頑張ったらこれくらいできると思う。うん。出来る出来る。

「…ビビってないよ」

『君だけしか焦ってなかったね』

いや、ビビってないから、本当だよ。



ナズナの後にフェイトが続き、二人で時の庭園の奥を目指し走り続けた。





sideフェイト・テスタロッサ


「…どけ」

ナズナと一緒に時の庭園を進んで言っているけれど、ナズナはやっぱり強い。
まるで、熟年の魔導師のように戦いのセンスがある。

「はあっ!」

あの白い魔導師の子を手伝いに、母さんにもう一度会いに行こうと思って
時の庭園に転移して、始めに目に入ったのはナズナだった。

「よっ! ナズナ! 日本一!」

『君ね…』

何でここにいるのとか、どうやってここに来たのとか考えるより先に
浮んできたのは、ナズナの前に出るのが少し怖いという感情だった。

「ブレードショット」

『Blade Shoot』

ナズナはあの場にいなかったんだから、私が人形だってことを知らない
だから、普通に会話できたんだけど

「バルディッシュ!」

『Arc Saber』

ナズナが普通に話してきて、そのまま母さんの所に行こうとしたのを見て思わず叫んでいた。

「フレ~~フレ~~ナ・ズ・ナ!!」

『…はぁ』

自分でも何で叫んだのかわからなかったけど、気づいたら
勝手に口が心の底の不安を全部ナズナに吐き出してしまった。
ナズナは私が話しているときには、何も言わず黙って話を聞いてくれていた。
話が終わった後、しばらく無言だったんだけど、ナズナが重たい口を開いて返事をくれた。

「…邪魔」

ナズナの返事はあまり優しいものじゃなかったけど
確かにナズナの言うとおりだった。私は確かに母さんの人形かもしれない。
けれどそれでも母さんが笑ってくれるなら、それでいい。
娘と認めてくれなくてもいい、母さんが笑ってくれるなら、私は母さんをどんなことからも守る。
だって…

「何をぼーっと突っ立ているんです。虚数空間に落としますよ」

「ご…こめん」

私は母さんが大好きなんだから、例え偽りの記憶しかなくても、それでもあの人のことを母さんだと思っているから

「ナズナさん素敵~~」

『もう何も言わないよ…』

そういえばこの子ってなんで主を戦わせてるんだろう?
サポート系の使い魔なのかな?





sideout


二人でお互いをカバーしながら時の庭園の奥までやってきたとき
ようやくなのはの姿が見えてきた。

「っ! あの子が危ない!」

なのはに傀儡兵が襲い掛かった来ているのを見えたフェイトが
ナズナより速度を上げて先に行ってしまった。そして、すぐさまバルディッシュを傀儡兵に向けた。

「バルディッシュ」

『Thunder Rage』

そのまますぐに雷を放ち、巨大な傀儡兵の動きを止め、さらに追撃を仕掛けた。

『Get set』

「サンダー…レイジっ!!」

巨大な傀儡兵の他にも周りにいる飛んでいるのや虫みたいなやつまで
その雷を食らい、破壊されてしまった。フェイトの雷の魔法って以外に広範囲まで届く攻撃多いよな。羨ましい。

「…フェイト?」

敵を葬った後、そのままなのはの前にゆったりと下りていくフェイト
すごく…主人公です…。感動の対面と思いきや、壁を突き破りさらに巨大な傀儡兵が現れた。
しかし、巨大化する敵ってのは、やられるのが王道だと俺は思う。

「大型だ…バリアが強い」

「うん、それにあの背中の…」

なのはの言ったとおり背中の大砲? がチャージを始めている。
俺はそれを呆然と眺めながら、俺の力でこいつを破壊できるようになるのか考えていた。

「だけど三人なら」

「……ふぇ? 三人?」

フェイトの言葉になのはが疑問をあげた瞬間ナズナがフェイトの横に並んだ。

「えぇぇえええぇええっ!!!」

突然の俺(ナズナ)の登場にびっくりしたのか、なのはは、敵前だというのに
大声をあげて驚いていた。

「どどっど、どうしてあなたたちがここに!?」

「話している暇はないだろう。ほら、敵さんのチャージ終わるぞ」

なのはがあきらかに動揺した感じでこちらを指を差してきたが、敵はお構いなしにチャージを続けている。
それを見たフェイトは空中でバルディッシュを構えなおし

「行くよ!バルディッシュ!」

『Get set』

なのははフェイトが構えたのを見て自分も慌てて構えなおし

「うぅ~、このあと絶対お話だからね!レイジングハート!」

『Stand by ready』

しぶしぶと文句を言いながら攻撃態勢に入った。

≪はぁ…行きますか…≫

なのはがいるので念話に切り替えたナズナもミーティアを
なのは同等にシューティングモードに切り替え構えた。
敵のチャージも終わりかけで俺の体から汗が出まくり、びしょびしょになっている。
ビビっているわけじゃないよ…

「サンダー…スマッシャー!!」

フェイトの放ったサンダースマッシャーで敵が少しだけ
よろけたようだが、バリアが硬く再びこちらに向かってくる。

「ディバイーーン! バスターーー!!」

その状況になのはのディバインバスターが加わった
本当ならここで十分なはずだが、ナズナも無言のままミーティアを向け攻撃を放つ。

「……」

「邪王炎殺黒龍破!!」

≪何言ってるんだ君は…≫

無言じゃ寂しいと思ってそれなりに絵的に似ている技を叫んでみたんだけど
スカさんは理解してくれないようだ。非常に残念。
そして二つの攻撃でいっぱいいっぱいだった敵はさらにもう一つ増え
こっちがタイミングを合わさないでもそのまま砲撃に負けて時の庭園を突き破っていった。
そして時の庭園を揺れが襲った。

「フェイトちゃん!」

「フェイト! フェイト! フェイト!」

ようやく周りの敵を一掃でき一息つけるようになり、なのはとアルフが
フェイトの登場を喜こび、駆け寄っていった。
本当にフェイトってこういう時だけは、男前だよな。顔はかなりの綺麗な部類に入るのに…

≪ややこしいことになる前にプレシア人形をさっさと確認して帰るぞ≫

≪それがいいね、ナズナ頼んだよ≫

その隙をついて、ナズナはフェイトたちを置いて、プレシアの場所に飛んだ。





「こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは、個人の自由だ!」

たどり着いたと思ったら、クロノの説教タイムだったようだ
ギリギリセーフだ。以前の時の庭園の構造とだいぶ変わっていたので少々道に迷ってしまった。

「だけど! 自分の勝手な悲しみに無関係な人間を巻き込んでいい権利は、何処の誰にもありはしない!」

クロノの話を聞きながらジュエルシードの行方を探ってみたが
何処にも見当たらない。あれ? 落としちゃった?

≪大丈夫よ、ジュエルシードは砕けたように見せかけてあなたの部屋に送ったわ≫

≪あっありがとうございます≫

≪今、この次元震を起こしているのは、時の庭園の駆動路とジュエルシードの残滓魔力だけよ≫

「なっ! お前たちが何故ここに!?」

クロノがプレシアの視線が違う方向に向いているのに気づき、俺たちも見つかってしまった。
突然現れた俺たちに警戒しながら、同時にプレシアも警戒している。忙しい奴だ。

「ジュエルシードを盗りに来たんだけど、なくなってるな」

「残念だったな…ジュエルシードは、負担が掛かりすぎたのか砕け散ってしまったよ」

「ふぅーーん」

どうやらリンディが止めているのはそれらしいな、なら確認が終わったし
帰ろうかなっと思ったら後ろにフェイトが来ていた。

「母さん!!」

プレシアさんは健康もうなので顔色が悪いことはないはずだが、長時間あの人形を
操作しているのもあって、少々顔色が悪いし、よろけている。
それを勘違いしたのかフェイトはプレシアさんに駆け寄ろうとしたが

「何をしに来たの…」

プレシアさんに睨まれ歩みが止まってしまった。

「消えなさい…もうあなたに用はないわ、何処にでも行って自由に生きなさい…」

…あれ? 顔がかなりやさしい表情になってない?

「あなたに言いたいことがあって来ました」

帰るに帰れない空気になってきた。
ナズナも俺からの指示がないので黙って俺からの指示を待っている。
ここで帰るのはちょっと…

「私はアリシア・テスタロッサじゃありません。あなたの作ったただの人形なのかもしれません。だけど私は…フェイト・テスタロッサは…あなたに生み出してもらって、育ててもらった…あなたの娘だと思っています!」

プレシアさんはフェイトから顔を背けて表情を見せないように聞いていた。

「…だから何? 今更あなたを娘と思えというの?」

「…あなたがそれを望むなら」

フェイトは一度目を瞑り、息を少し吸い込んだ。

「それを望むなら、私は世界中の誰からも、どんな出来事からもあなたを守る」

プレシアさんの方をしっかりと見据えフェイトは語った。

「私があなたの娘だからじゃない、あなたが…私の母さんだから! 私は偽者の思い出しかないけれど、それでも母さんが大好きだから!!」

フェイトが叫び、プレシアさんに再び駆け寄ったが、壁のような障壁に弾かれてしまった。

「そう…」

プレシアさんは少しだけ笑い、杖を地面に突き立てた。

『駆動路とジュエルシードの残滓魔力をさらに暴走させ、ここを崩壊させるようだね』

スカさんの説明を受けているうちにプレシアさん人形は虚数空間に落ちていった。

「よし! ナズナ、撤退しy「フェイトちゃん!」おぶぅっ!!」

撤退しようとした瞬間天井から桜色の閃光がちょうどナズナの肩を掠めた。
つまり俺に直撃した。

≪マスターーー!?≫

こんなときにも律儀に念話で叫ぶ君に乾杯…
美しい回転をしながら、虚数空間に落ちながら、飛びそうな意識の中、俺はそんなことを考えていた。

「死んでたまるかあぁああぁ!!!」

すぐに正気に戻り体中から色んな体液を出しながら、無我夢中で魔法を発動した。
得意中の得意な魔法、紐魔法だ。

「ブラッティ・ストリング!!」

体を紐でぐるぐるにして、先端をナズナに向けて飛ばした。
ナズナはすぐに意志を理解してくれて、紐を掴んでくれた。

「助かった…よかt「きゃっ!」ほぐぅ!」

一安心している俺に再び激痛が走った。上昇しようとしている、なのは達に
おもいっきりぶつかったのである。

≪クククク…≫

わざわざ念話で笑いを伝えてくるお前に死を…
またまた飛びそうな意識の中、そんなことを考えていると
なのはに思いっきり、体を掴まれた。っちょ!猫虐待!!

≪痛い! ちっ千切れる!!≫

「たっ助かったの、魔力が切れそうで今にも落ちるとこだったよ…」

「あっありがとうナズナ」

俺たちがこいつらを助けようとしているように見えているらしい
変な勘違いするなよ。そして、体離せよ

≪マスターを人質にするとは…卑怯だ!≫

≪もういいから引き上げてくれ、体がもたない…≫

ムスっとしながらナズナは俺+他大勢を引き上げた。

「はぁ…助かったよ」

「また、助けられちゃったね…」

お前ら俺にお礼はどうした?
百歩譲っても「使い魔さん! ありがとう!」は言うべきだろう。
周りを見ればクロノが遠くで早く逃げるように、呼びかけていた。

「…っち」

小さく、本当に小さく舌打ちをしたナズナは地面でへばっている俺を
掴んで、すぐにマーキングポイントに向かい逃げた。
マーキングポイントは崩壊寸前だったが、なんとか使えた。あと一歩遅かったら危なかったとスカさんは言っていたが
正直、体の痛みでそれどころじゃなかった。










<あとがき>
残すはエピローグだけですね。
As編では、主人公活躍させれたらいいな…



[6935] 第20話「マスコットキャラでは断じてない!! と思う」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 15:04
「これからよろしくお願いします」

「いやいや、こちらこそよろしくお願いしますセリアさん」

「よっ、よろしくお願いします!」

「あらあらかわいいお子さんね」

「自慢の娘です」

…なんだこの井戸端会議…



第20話「マスコットキャラでは断じてない!! と思う」



目の前のおばちゃんとプレシアさんとの会話を聞きながら
俺はアリシアが目を覚ましたときのことを思い出していた。

「あれ、結大変だったんだよな…」





『プレシア、アリシアが目を覚ましたよ』

あのときの庭園の戦いが終わって、数日。
予定よりだいぶ早いんだがアリシアが目を覚ましたようだ。プレシアさんは、ここサラーブでのんびりと紅茶を飲みながら本を
読んで、研究のヒントにしようと、資料などをまとめていたんだが、その知らせを聞いた瞬間、紅茶を噴出した。俺に。

「…まぁ、こういう扱いに慣れてるから、気にしてないよ、うん」

水も滴る…いや、紅茶も滴るいい男になった俺は
ナズナが持ってきてくれたタオルで顔を拭いた。紅茶だから非常にベタベタする。
いや、逆に考えろ俺。これはプレシアさんという美女が吐いた液体だ。ならば…いや、無理だわ。
さすがに 美女が吐いた液体とは言え、それを美化することは俺には出来ない…

「い、…今しゅぐに会えるかしら!!」

かなり慌てているのだろう、思いっきり台詞を噛んでる。
おれの中のプレシアさんのイメージが音を立てて崩れていくのがわかる。
まあ、もともとプレシアさんのイメージは親馬鹿的なもので構成されてきていたけどね。

『体はもう大丈夫だからね。話せる状態だよ』

「すぐに行くわ!!」

シュバッ!! っと前までのプレシアさんでは考えられないほどの速度で
スカさんの研究室に走っていった。早いといえば…

「プレシアさん版ソニックフォームか…」

「マスター、鼻血が…」

いかんいかん、ついやばいものを想像してしまった…
だってプレシアさんソニックフォームだよ? 足の部分とかやばくないか?





「ああ! アリシア! よかった! よかった!」

「母さん痛いよー」

「えと、何これ?」

そこにたどり着いたとき、そこは大洪水だった。プレシアさん的な意味で
もうアリシアなんか、プレシアさんの涙でびちょびちょだ。

「プレシアさんこれをどうぞ」

「あら、ありがとう」

ナズナから大きめのタオルを受け取り顔を拭いているが
アリシアのことは離さない。正直そろそろアリシアが苦しそうだ。

「母さん、とりあえず離してよぅ…」

前回同様プレシアさんが落ち着くのに三十分かかった。
決めは最終的にアリシアがダウンしたことによりプレシアさんが失神したことで終わった。
プレシアさんが気絶している間にとりあえず、場所をしあわせ荘に移し今までの経緯をアリシアに話しておくことにした。

「……というわけだけど、何か質問ある?」

「ううん、別にないよ、けど…そっか…」

正直に話さないのもどうかと思ったのでとりあえず
アリシアが死んでいたこと、プレシアも死にかけていたこと、アリシアにはフェイトという妹がいること
フェイトの誕生の理由と、無印の話の内容と、俺たちの状況、俺たちの協力体制のこと
生き返らせた方法と、俺が猫でなく人間であることを説明した。
最後の説明だけは頭にはてなを浮かべていたが

「私のせいで、母さんは壊れてしまったんだね…」

フェイトよりも一回り小さいが、精神的にしっかりした子のようで
かなりショックを受けていた。

「一気に話すのよくなかったかな?」

『しかしいずれ話さなくてはいけない事だよ』

「マスター、アリシアが」

スカさんとアリシアに聞こえないようにひそひそと話していると
ゆらりと、幽鬼のようにアリシアが立ち上がり玄関に向かっていった

「……?」

そのまま見ていると、玄関の扉を開けて外に走り出した…って!!

「待て待て待てえぇぇーーー!!!」

急いで追いかけて体を押さえながら部屋に押し込む
なにこの子!? いきなり裸足で外に駆け出して何処に行く気だったの!?

「放してぇーー! フェイトに謝りに行くぅーーー!!」

「ちょ! 待て! お前今まで築いてきたもの全部パーにする気か!」

「作るより壊すほうが楽しいぃーーー!」

『ふむ、同感だね』

「何意気投合しちゃってんの! ていうかお前壊すとか言うなよ!!」

何なのこの子!俺が今まで辛酸を舐めながら築いてきたものを崩すって
勘弁して欲しいんだけど!

「放して放して放してーーー!!!」

「ちょ! ほんとマジ勘弁して! 誰か! ナズナ助けてーー!」

なんだこの状況!? 俺がアリシアに痴漢したみたいじゃないか!? 誤解しないでくれナズナ!

「はい」

この後、ナズナと共に二人掛かりで押さえ込み、ようやく落ち着いたころに
プレシアさん復活して、またアリシア爆発

「あんなことする母さんは嫌いだよ!」

「そっ、そんな! アリシア!! 母さんが悪かったわ!」

「ふーんだ!」

5歳児に土下座しまくる大人ってのも珍しいよな…

「じゃあ今度もしフェイトに会ったら、ちゃんと謝らなきゃ駄目だよ!」

「…努力するわ」

ようやく二人の喧嘩が収まってきたころにはすっかり日が暮れていた。
一日中この二人の喧嘩に付き合っていたな…

「それで、母さんはそのお兄ちゃんに協力するのが目的なんだよね?」

「ええ、そうよ」

「…うん、ちゃんと恩は返さないといけないよね…」

少し考える素振りを見せた後アリシアはこっちに向き直り

「じゃあ、私も協力してあげる! でも、あんまりフェイトのこといじめちゃだめだよ!」

フンっと胸…ない胸をはり、俺に言ってくる幼女

「ああ、よろしく」

「よろしくお願いします」

『よろしく頼むよ』

とりあえず解決したかな、と思いあいさつを返し、この後の話に移ろうかと思った瞬間、アリシアの爆弾発言により
事態は再び混沌と化した。

「うん! これからはお姉ちゃんって呼んでね!」

…は? 何言ってんだこの幼女は?

「いや、お前一番年下だろ?」

「さっき言ってたじゃんか! アルハザードで最近生まれたばっかりなんでしょ!」

「いや、確かにそうだけど精神的に見て、なっ?」

「精神的に大人でも肉体的には生まれたばっかなんでしょ!」

「いやいや、お前も5才だろ?なら明らかに俺たちのほうが」

「でも生まれて一年も経ってないんでしょ?」

「いやいやいや、そうだよ、ナズナはわかるよ、けど俺はね」

「マスター、今のは聞き捨てなりません」

この状況でさらに時間が経ち気づいたころには真夜中になっていた。
そして…

『…zzz』

うわぁ…こいつ腹立つ…デバイスが寝るってどうなのよ










「じゃあサラちゃん、おばちゃんについてきて」

「はい!」

あの騒動から次の日、とりあえず家を決めることになり今に至る。
ちなみにさっきから呼ばれている名前はもちろん偽名だ。
セリア・テスタブルとサラ・テスタブル。
一応おばちゃんの前ではこの名前で通すことにしている。念のため

「じゃ、とりあえず俺たちは、買い物でも行くか、プレシアさんここのことあんまりわかんないだろうし」

「日用品を買いに行きましょう」

とりあえずプレシアさんには家、もしくはサラーブにいてもらうように指示して
買い物に行くことにした。





「こんぐらいでいいかな」

「はい、プレシアさんたちが待ってると思います。帰りましょう」

軽くご飯を済ませ、買い物をしたので、プレシアさんたちもお腹がすいてるかもしれない。
そう思い早めに帰ろうと急ぎ足で帰ったのだが

「おっ、あれは…」

目の前の草原にこしゃこしゃの毛がついた、草、ねこじゃらしが
目に入った瞬間、言いようのない感情が俺に芽生えた。

「……」

「マスター?」

この時期にねこじゃらし…珍しいよな、
なんだか、飛び掛りたい…いや、俺は人間! こんな誘惑には…

「? …っ!」

いや待て俺、ここでそんなことしてしまったら、俺は本当に人間扱いされなくなるんじゃないのか?
いや、しかし…

「マスター、先に帰ってますね」

真剣に考えている俺に向かいナズナが突然先に帰ると言い出し
そのまま俺から荷物を受け取り、先に帰ってしまった。なんだか、めちゃくちゃいい笑顔だったんだが…
こう…小動物を見て和んでる人的な…気のせいだよね!うん!

「いやっほ~~い!!」

周りに人がいないのを確認し即座にキャットフォーム
そして、小さな手であのもそもそしているねこじゃらしを叩く
それだけなのに何だか楽しい! 止められない!

「あっちにもある!」

たっ、楽しい! もう主人公とか悩んでた自分が馬鹿みたい!
人間の状態じゃ楽しめないことだね!
うふふ、楽しいなぁ
周りにあるねこじゃらしを順番に叩いていっているうちに
どんどん奥に進んでいっているが気にしない、スカさんが何か言っているような気がするけど気にしない。

「ああ! もう現実とかどうでm「なにしてるんだいあんた…」…はい?」

寝転びながら足でねこじゃらしを叩いているとき
突然、最近どこかで聞いたことのある声が聞こえてきた。

「え~っと、アルフサンデスカ」

「何変な喋りかたしてんだい」

目の前にいるのは犬耳の美人アルフだった。

「ちょ! なんで! まじkくぁwせdrftgyふじこlp!!」

「落ち着きな! 今はあたし一人だよ」

頭が真っ白になり、もう自分がなに喋っているのかわからなくなったが
アルフの自分は一人という言葉で冷静さを取り戻した。

「今、ちょっとトイレって言って抜けてきたしね、フェイトとなのはの再開を邪魔するのも野暮だろ」

「女の抜け方じゃねえな…トイレって、で? 何で抜けて来た?」

今日があの日だったのか、マジあり得ない。運悪すぎ

「少し遠くからあんたの馬鹿みたいな声が聞こえてきてね。ちょっと見に来た」

はい、俺のせいでしたね。スカさんがさっきから
俺のことを呼んでたのもこれが原因なんでしょうか?

≪まあ、そのとおりだけどね≫

≪マジですいませんでした≫

「用がないなら俺は帰るから」

「ちょっと待っておくれよ」

いそいそと帰ろうとしたら尻尾が掴まれた

「何だよ、ていうか尻尾に触るな。デリケートなんだよ尻尾は」

昨日アリシアにこの形態見せたとき尻尾ばっか触ってきたからかは、わからんが
なんだか尻尾に触られるのは嫌なんだよ、今日の朝にもねだってきやがったし…
プレシアさんが怖いから断れないんだよ!

「ああ、ごめんよ。聞きたいことがあってね。あんたのご主人様は、何であたしたちを何度も助けてくれたんだい?」

前から知ってたけど、ていうか俺が言ったんだけど、使い魔決定なんだね俺、ていうか尻尾放せ
助けたのは作戦のためっては言えないし…、どう言うか…

「さあね、主の言うことに黙って言うことを聞くのが使い魔だろ?」

「答える気はないってことかい?」

「…ああ」

「まあいいさ、あんたたちにも大分世話になったし、今回は見逃してやるよ」

「ありがとよ」

そう言ってアルフは尻尾を放しそのまま立ち去っていった。

「……」

見逃したことは後悔すると思うけどね

『まったくヒヤヒヤしたよ』

「俺も、汗びっしょり。さっさと帰ろう」

俺はねこじゃらしを2.3本持って家に帰った。





おまけ


「ほれほれ~、これでどうだ」

「くっ!!」

「我慢は体に悪いよ~」

「誰がっ!」

「口では拒んでても、体は正直だよ~」

「くそっ!!」

「ほらほら、我慢せずにいっちゃいなよ~」

「くやしいっ! でもっ!!」

「マスター、アリシア、何をしているんですか?」

「「ねこじゃらし」」

「……そうですか」

『ククク…』










<あとがき>
無印編終了!!
この後、少し平穏編が何話か入って、Asに行きます。
どの守護騎士が犠牲になるのか!?
楽しみにしといてください。
では!また次回!!



[6935] 登場人物 無印編
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/20 13:50
とりあえず無印編までの登場人物のおさらい




















鈴木 嵐


一応? 主人公…のはず。現実世界にいた時は平凡に学生をしていたが、ある朝目覚めると謎の異界に飛ばされていた。
スカさんという強力な協力者のおかげで元の世界に帰る手立ては見つかった。
元の世界に帰るためなら例えなのはと戦おうと構わない的な思考回路。そのくせ、原作変えたりするのはちょっと怖いかな、とか考えているビビリ
自分の存在価値に疑問を持ち始めている。ナズナさえいればよくない?我、要らない、とか考えている。
戦いの場所には進んで行くのに、行った後に後悔する。早く帰りたいとか言い出す。
体は結構ハイスペック。希少魔力変換資質『血液』を持っている。知る人が見たら驚く。
猫化にはまっている。アリシアとねこじゃらしで遊んでいると何もかもがどうでもよくなる。…洗脳?




「俺の戦闘力は53万…だったらいいな」




ナズナ


未来の世界で産まれたスーパー魔導師、並みの魔導師では歯が立たない。
なのはとフェイトの細胞で作られたハイブリット。潜在能力も計り知れない。ティアナが聞いたら壁に頭突きを連打するぐらい
スカリエッティがアルハザードで人と人の合成理論の研究の末、完成した奇跡の研究成果。同じものをもう一度作れといわれても、不可能に近い。
マスター命、それ以外のものがどうなろうと構わない。
マスター>壁>現実回帰組>越えられない壁>フェイトとか>見えない超えられない壁>なのは、である。
フェイトに関しては、友達くらいならなってもいいかな? くらいの感情。なのは? 誰それ?




「マスター、お茶が入りました」




D-スカリエッティ


未来の世界でデバイスになってしまった無限の欲望。しかし、彼自身はこれはこれでおもしろいと思っている。
毎日がつまらない日常のアルハザードで過ごしていたが、嵐がやって来てから劇的に世界が変わったらしい。
デバイスとしての性能は優秀だが、性格に難があるため、嵐とは大体いがみ合っている。
この時代にいる自分にはたいして興味はないらしい。サッド・ペインなど色々な魔法を研究するのが最近の趣味。
普段研究しているときは、嵐から放れて人形を操作して研究などをしている。
嵐の世界に帰れたあかつきには、とりあえずその世界の研究をして、世界征服でもしようかな的なノリ。




『さて、次の魔法のテーマは…』




ミーティア


高町なのはのデバイス、レイジングハートとフェイト・テスタロッサのデバイス、バルディッシュのデータを
参考にして作られている最新型のデバイス。クセが強すぎてナズナにしか扱えないじゃじゃ馬。
性格は冷静でありながらもマスターや家族や自分を馬鹿にされると熱くなるタイプ。
近距離戦闘と遠距離戦闘を得意とするが、普通の魔導師はどちらか一つなのでやはり普通の魔導師には使えない。
実は作るのにかなり時間をかけて作られた一品。作った後、ナズナと一緒に保管しておいた。




『Master. It was in one's own room if it was Ran.  (マスター。嵐なら自室にいましたよ)』




プレシア・テスタロッサ


最強の力を持っているらしい大魔導師。アリシアが生き返ったおかげで昔のように戻りつつある。
最近なんだか若返った。肉体が、病気になる前に戻ったのでだいぶ若くなってる。遠くで見るとわからないが近くで見ると一目瞭然。
本人は病気も治ったし若返れるなんてラッキーとか思っている。アリシアの前になると駄目駄目ママ。見ていて楽しいくらい弱々しくなる。
最近の楽しみはアリシアの服選び。次は裁縫にチャレンジしたいらしい。




「アリシア! そっちは危ないわ!!」




アリシア・テスタロッサ


26年前に死んだ筈の女の子。魔法で生き返った後、事情を知りフェイトに土下座しに行こうと本気で考えた。
少し子供っぽいところもあるが精神的にだいぶ大人。嵐たちの目的を知り、恩返ししなくちゃいけないと考え嵐たちに協力を決めたらしい。
嵐のことは友達的な感覚らしい。ナズナはお姉さん的な雰囲気らしい。スカリエッティは近所のおじさん
好奇心いっぱいで何をするかわからないのが彼女の一番怖いところ。




「アリシア! いっきまーーす!!」




フェイト・テスタロッサ


なのはの嫁のはずだったが、正直、なのはの別れのときナズナが頭に浮んできた。
なのはに悪いと思いすぐに頭から消したが、その後、アースラに戻り交換したリボンをつけて少し寝たら夢でナズナが出てきた。
内容はあの別れのシーン(ナズナ版)だった。すぐに起きた。その後自己嫌悪に陥った。




「なんでナズナのこと考えちゃうんだろう、私…」




アルフ


実は敵の中で一番、嵐と会話した人物。だからと言って別に正しく認識してるわけじゃない。
ヘンテコな使い魔程度の認識。




「フェイト? こんな夜中に何ぶつぶつ言ってるのさ」




高町 なのは


原作では主人公のはずなのに、無印でとことん出番がなかった人物。
フェイトと和解できたから、次はナズナとお話してみたいと思っているが、ナズナから嫌われてることは知らない。
嵐? そんな人物のことは認識すらしていない。




「フェイトちゃんだけお話したなんてずるいよ~~」




ユーノ・スクライア


ジュエルシード一人で回収しに来た困った君
密かに嵐が会話してみたいと思っている人物。小動物的な意味で




「そういえば、あの猫の使い魔の名前だけわかってないね」




クロノ・ハラオウン


実力が高い執務官。現実回帰組に回収されたジュエルシードを取り返そうと躍起になって探しているが
実は彼らのアジトがなのはと同じ世界にあるとは、夢にも思ってない。




「くそっ! 彼女は一体どこに潜んでいるんだ!」




本田 玉枝


通称おばちゃん。この世界の一番初めの犠牲者。
アパートは先祖代々受け継がれてきたものらしいが、誰も住んでなかったのでそろそろ潮時だと思ってた。
昔は結構悪だったらしく、車に乗ると性格が豹変するらしい。
犠牲者のはずだが、元々一人身で子供などいもしなかったので、ナズナたちが来てから少し楽しいらしい。
そして昔は美人だったらしい。




「鯛焼き買ってきたんだけど、食べる?」



[6935] 第21話「久々の休日?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 15:14
「最近気づいたんだけどさ」

『なんだい?』

「明らかにプレシアさん若返ってない?」

『……プレシアは健康状態の体まで戻ったっと言っておこう』

「あの人いつ病気に罹ったんだ?」

『…さあ』

……まあ深くは気にしないでおこう



第21話「久々の休日?」



6月の上旬、そろそろ日差しが強くなってきた今日この頃。俺は日課の拷問(訓練)が休みになったので散歩のついでに
少し気になることを外に見に行く、いや、探しに行くことにした。

「わったしも行くーー!」

なぜかアリシアのオプション付で、ていうかお前あんまりうろつかないでほしいんだけど。
もしここの場面をなのはに見られてみろよ、絶対あいつ叫ぶだろ。フェイトちゃーんとかなんとか。

「大丈夫! こう見えても忍ぶのは結構得意なんだよ!」

そういえばお前昨日俺の漫画勝手に読んでたな。確か忍者漫画だったはず。
それが原因か? 忍ぶとかお前そのブルーのワンピースでどうすんだべ?
それ汚したら俺がプレシアさんに殺されるんだけど。殺されはしないだろうけど、雷が俺に落ちてくるよ。二つの意味で。

「ジャジャーン!」

部屋に戻って何をとってくるのかと思ったら、ダンボールだった。

「残念だが、それを使いこなせるのは伝説の傭兵だけだ」

「伝説のよーへい?」

「…もういいから、行こう。それ戻してこいよ、逆に目立つ」

私結構得意なのに~、と文句を言いながらアリシアは部屋に戻り
ダンボールを元の場所に戻し、俺についてくる事になった。

「スカさん、この魔力リミッターかけてたら魔力ばれないよな?」

『大丈夫だよ。大体君たち二人はそんなに魔力が高くないだろう?』

「そうだよ! 嵐も私と一緒でヘッポコだからバレないよ!」

いや、そんなに元気満々にヘッポコとか言わないで欲しいんだけど
確かアリシアの魔力値はDかよくてCらしい。俺も似たようなもんだが、アリシアよりはまだ高い

『魔力変換資質が使えるようだが、その魔力値では少々きついね』

そう、アリシアは一応電気の魔力変換が出来るらしいのだ
あんまり魔力資質受け継がなかったって聞いてたから、できないと思ってたんだけど。

「そうだ!これで前買った、扇風機の電気に使えないかな!」

いきなり叫びだしキラキラした目で俺、じゃなくスカさんを見てくるアリシア
ていうか扇風機ってお前。
確かにかなり平和的な魔法の使い方だと思うけど、その使い方って普通の魔導師が見たら怒らないか?

『…出来ないこともないだろうけど、涼しいと感じる前にしんどいって感じるから、扇風機の意味がないんじゃないのかい』

「そっか~、残念」

「って、そんなの俺がさしたとかになったら、訓練にプレシアさんが混ざってくると思うから止めてくれ」

訓練のどさくさに紛れて俺の息の根を止めに来るだろう。





「なんで病院なんかに来るの?」

『そうだねおかしいね』

「確かめたいことがあるって言ったろスカさん」

『君が行くのは、人間が来る病院ではなく、犬猫病院だろう?』

「っははははは!スカリーそれおもしろいよ!」

…ナズナだけ連れてくればよかったかな…
でもナズナはプレシアさんと訓練のカリキュラムを組みなおすって言ってたし…
もうちょっと易しくなればいいな…

「とりあえず、病院だからお静かに」

「うん、わかった」

『了解したよ』

病院の中に入り、周りを見渡すが、目的の奴らはいない。
まあここで都合よく見つかったりはしないよな。

「もう少し奥に行ってみよう」

その後、いろんな病室を見回ってみたがやっぱり目的の人物たちは見つからなかった。
いつも病院に来ているわけじゃないと思うし、当然といえば当然か。

「お腹すいたよ~」

「ああ、見つからないみたいだし今日は諦めて飯でも食って適当にぶらつこう」

今日で見つかるなんて思ってないからな。それにちょうどいい時間帯だ。飯でも食おう。

「じゃあカレーでも食べよう!」

「カレーは一昨日食っただろ…」

さすがに連続でカレーを食おうと思うほどカレー好きではない。





「じゃあね、この水着はどうかな?」

「…それ、俺に聞かないと駄目なのか?」

飯はアリシアがどうしてもカレーが食いたいというので
しかたなくファミレスに行き、軽めに済ました。
その後、アリシアが前にテレビで見たプールに行きたいと言い出したのを
思い出し、水着を俺と一緒に選びに来たのだ。

「うん!スカリーに聞いても紫色とかそういう毒々しい色ばっか言ってくるんだもん」

『心外だね』

「いや、その判断は正しいと思う」

だからってさ、俺に聞くか俺に、一応男だよ? 最近なんかプライド捨ててアリシアとねこじゃらしで遊んだけどさ。
一応男、狼だよ? いや、さすがにこの体型には欲情しないけどさ

「さっきのもいいけどこれも捨てがたいな~」

そしてアリシアは、俺の意見など耳にも通さず、さっきの白いワンピの水着と
今持っている、薄い水色のワンピに犬の足跡のマークが付いてる水着とで
にらめっこをしていた。

「今度プレシアさんと来たときに買えばいいじゃん」

「今度来たらなくなってるかもしれないよ!」

いや、それはないだろう。多分。





「嵐は何を買うの?」

「え? いや、この世界にどれくれいあるのかな~って」

「何が?」

「ゲーム」

結局、あの後アリシアは二十分悩み続け、水色の方にした。
俺はアリシアが悩んでいる間に、猫化して時に着る服とかを探していた。

「ゲーム?」

そして次に俺が向かったのは、俺が前世? じゃないが
前の体のときから退屈な一日に必要だった物がある場所、おもちゃ屋に向かった。

「正直、一応少し前の時代設定だったから何があるかと思って」

「ふ~ん」

GCとかPS2くらいはあったらうれしいんだけどね





「それだけでよかったの?」

「ああうん、とりあえずはこれだけで」

あんまりゲームとかは、そろってないと思ったが
そうでもなかった、wiiもあったしPS3まであった。一体この時代設定はどうなってるんだ?
本屋にはジャンプやサンデーらしき雑誌もあったし。

「なんかやっぱり本当にこっちにいる方が、楽に暮らせそうだよなぁ…」

「へっ? 何か言った?」

「いや、何でもない」

買い物も終わったし、そろそろ帰りますかね。

「帰ろうか、あんまり遅くなったら、プレシアさんが心配する」

「そうだね、今日は久々にいっぱい歩いてヘトヘトだよ」

ふにゅ~、っと顔を緩ませて息を吐くアリシアえを見て
それがおかしくて少し笑ってしまった。

「むっ! 何笑ってるの!! 人の顔見て笑うのは失礼なんだよ!」

「いや、すまん。顔見て笑ったわけじゃないよ」

「嘘だ! その顔は嘘をついてる!」

あらら、このままだと機嫌が悪いままだな…

「そうだ! 笑ったお詫びに帰りに鯛焼き買ってやるよ!」

「本当!?」

鯛焼きと聞いた瞬間、目の色変えて俺のほうを睨んできた。
この間おばちゃんが差し入れといって鯛焼きを持ってきたくれたんだが
それをアリシアがいたく痛く気に入っていたのを俺は覚えてた。

「ああ、今なら2個サービスだ」

「し…しかたないな、笑ったのは許してあげる」

顔を俺のほうに合わさずに話すアリシア。
精神的にかなり大人だが、こういうとこはまだまだ子供だ。

「じゃあ買ってくるから、このベンチに座っとけよ」

「うん! なるべく早くね!」

「はいはい」





「へいよ! 鯛焼き6個ね」

「どうも」

鯛焼き屋で金を払い、急いで機嫌の悪いお姫様の場所に
戻ろうとしたときに、それは聞こえてきた。

「……やて! ……だ」

「…? この声は…」

どこかで聞いたことのある声が聞こえてきた。
しかしそんなことよくあることだし無視して行こうとしたとき
俺の後ろを車椅子と団体が通っていった。
魔力も抑えてあるし、俺の外見も日本人よりだから、別段気にしないで通り過ぎていったが
俺はその団体が通り過ぎていった方向をじっと見ていた。

「…あいつらも原作どうりっと」

『守護騎士プログラム、発見だね』

それじゃお互い短い気楽な日々を楽しもう。





おまけ

その頃のナズナさん

「なるほど、ここを重点的にやり攻撃魔法のヒントにすると…」

「ええ、あの子、防御はもう結構なものよ。そろそろ攻撃のほうを鍛えていかないと」

「そうですね。それは私も考えてました」

「オリジナルのデータを見せてもらったけど、なかなかの魔導師だったわ」

「はい、そのオリジナルより才能で言えばマスターは上のはずなんですが…」

「あの性格だからね…」

「はい…」

「じゃあやっぱり明日からこれで行くしかないわね」

「…そうですね。今までの倍しんどくなりますが、きっとマスターなら乗り越えれます」

「じゃあ、決まりね」

嵐が知らないうちに嵐強化計画は着実に進んでいっていた。










<あとがき>
この後、主人公は訓練が強化されていることに泣きます。
アリシアって魔力資質は、あんまりないらしいですが
実際はどれくらいなんでしょう?
では!また次回!!



[6935] 第22話「アリシア大冒険! そして嵐の憂鬱」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 15:20
「マスター! 今です!」

「今って、あの魔法まだ未完成だから、成功するかどうか…」

「当たって砕けろです!」

「砕けちゃ駄目だろ!!」

「…今のうちに…」



第22話「アリシア大冒険! そして嵐の憂鬱」



sideアリシア・テスタロッサ


「ふ~、どうにか脱出できた…」

嵐や母さんたちが訓練している隙を付いて、なんとかバレずに脱出できたかな?
一応、訓練の状況が慌しくなってきた時に抜け出してきたんだけど…

「誰も追いかけて来てないよね…」

こっそりと電柱に隠れながら周りを伺ってみたけど、誰もいないみたい。フフ、大成功!
追ってきていないということは、まだバレていないってことだもんね。

「よ~し、今日は思いっきり遊ぶぞ~」

今日の計画を行動に移したのは、最近母さんたちが忙しくて
誰も私に構ってくれなくなったから。みんなが忙しくて私に構ってられないのはわかるんだけど

「それにしたっていくらなんでも退屈すぎだよ!」

母さんは嵐とかスカリーに構ってばっかだし、ナズナは訓練の調整とかで構ってくれないし
唯一構ってくれるのは嵐だけど、ねこじゃらしがなくなったから面白くない!

「そうだ! ねこじゃらしを持って帰ればいいんだ!」

ねこじゃらしを持って帰れば嵐とまた遊べるし、たくさん持って帰って
嵐の体にセロテープでくっつけたら、昨日のテレビで見た民族みたいになるかも!

「そうと決まればしゅっぱ~~つ!!」

あっるっこ~、あっるっこ~、アリシアは元気~~♪





sideout


「っはあぁあぁあああぁあぁああああ!!!!」

『残念だが事実だ』

最近かなり厳しさがグレードアップした訓練を終えて、ようやく一息ついているときに
スカさんによるトンデモ発言により休憩してる場合じゃなくなった。

「はあっ!? それマジなのか!!」

『ああ、先ほどアリシアが外に出るのを確認した』

なんと俺たちが訓練で必死になっている間にアリシアが外に出て行ったというのだ

「何故知らしてくれなかったんだスカさん!?」

『おもしr…すまない、アリシアがかなりの使い手だったんだ』

なんと!? アリシアはスカさんに気づかせないほどの隠密性を持っていたのか!
この前言っていた、隠れるのが得意というのは嘘ではなかったんだな! なんということ!
例のごとくスカさんが何か言ったような気がするがスルーで

「ガッテム! まさか放っておいたのがこんなことになるなんて! こんなことならもっとねこじゃらしで遊んでやればよかった!」

『…遊ばれているの間違いではないか?』

「ああっ! どうしよう! あいつ何する気だよ!?」

『大丈夫だよ。彼女は賢い、我々に不利になることはしないだろう。…多分』

「そっそうだよな! アリシアは賢いもんな! 俺たちの計画を乱すことなんて…」

―――作るより壊すほうが楽しいぃーーー!

「あいつは優しいし、俺といつも遊んでるし…」

――――作るより壊すほうが楽しいぃーーー!!

「そうか。心配しすぎだよな、そうそう。それじゃあ今日はゆっくり休憩を…」

―――――作るより壊すほうが楽しいぃーーー!!!

「ああよかった。仲間を信じないなんて、今日の俺どうかしてたよな…」

――――――作るより壊すほうが楽しいぃーーー!!!!

「やっぱ、無理だろぉーーーー!!! 絶対アイツなんかする! 間違いない!!」

あんなこと大声で叫ぶ奴だもん。絶対なんかしでかしてくれるよ。
ほら、フェイトに土下座しにアースラに突っ込むとか。生身でダイビング土下座

「やばいやばいやばい!! 何かわからんがやばい!」

『すごい汗だ、とりあえず落ち着きたまえ』

「ナズナーー!! ナズナーーー!!!」

「はいマスター、呼びましたか?」

「少し任務が出来た!今すぐ公園に向かい待機しといてくれ」

「はい」

俺はまず先にナズナを公園に送り込んでおいた。
任務の集合場所にちょどいいし、もし公園にアリシアがいたら、そのまま連れて帰ってもらえばいい。
それに今から、ある人に言い訳するには、ナズナがいては困る。

「あら嵐、まだここにいたの。ちょうどいいわ、アリシア見なかったかしら?」

そう、アリシア命のプレシアさんである。この人に「アリシアなら外に行きましたよ、一人で」とかいった瞬間
オーバーキルだろう。骨すら残らず殲滅させられてしまう。

「あー、さっきナズナと一緒に買い物に行きましたよ」

「あら、そうなの。ありがとう」

「いえいえ、それじゃあ俺もちょっと外に出てきます」

「訓練が終わった後なんだから、もう少し休憩したほうが良いわよ?」

「大丈夫です! もうバリバリ元気なんで! それじゃ!」

話が長引いて不審に思われたらやばいので俺は逃げるようにサラーブを出た。



「…あんなに元気ならもう少しキツくしても大丈夫そうね…」





sideアリシア・テスタロッサ


「あれ? 前ここで見たような気がしたんだけど」

家を出てからまだあんまり時間は経っていない。

「むむ、ここか!」

まだ嵐たちの声とかは聞こえてこないから多分バレてないと思う。

「う~、見つからないなぁ…」

けれどぜんぜん成果なし
家から少し離れた場所にある林とかを探してみたんだけれど
ねこじゃらしはぜんぜん見つからない。なんでかなぁ?

「嵐、前にたくさん持って帰ってきたけどどこにあったんだろう?」

一番初めに持って帰ってきたときは2・3本だったんだけど
二人で遊んでいたらすぐに駄目になってしまったので嵐がどこかに行って
10本位いっきに持って帰ってきてくれたことがあったんだけど

「あの時、どこから取ってきたのか聞けばよかったな~」

あの時はまた嵐とねこじゃらしで遊べることに喜んでて、そんなの気にしなかったからなぁ…

「後悔しててもしかたないか、もっとよく探してみよう」

時間はまだお昼にもなってないし、まだまだある筈!
こうなったら見つかるまで探し続けてやる!それでたくさん持って帰って、嵐たちをビックリさせてやる!

「よし! ねこじゃらし探し再開!」

もしかしたら林とかにあるんじゃなくて川とかにあるのかも
それなら、あっちに川があったと思うし行ってみようかな…って、あれ?あの車に乗っているの…

「もしかして…」

川に行こうと角を曲がって坂の下のところに一台の車が見えた。
それ自体はどうでもよかったんだけど、その車の荷台に草のようなものが見えた。

「っんしょ! よいっしょ!」

考えるより先に行動を起こすのが私の性分!
ちょっと高い位置にあったんだけど、何とかよじ登ることが出来た。

「…はずれ」

必死で登った荷台にあったのはたしかにねこじゃらしだったんだけど

「もしょもしょの部分しか残ってない…」

千切れていて、枝の部分がなかった。

「せっかく上ったのに“ガコッ”…へ?」

ちょっぴりがっかりしていると、乗っていた車が動き出してしまった。
…ってのんびりしている場合じゃないっ!

「ちょ! えぇええぇえええ!!」

降りようとしたときにはすでに遅し、車はとっくに走り出してしまった。





sideout


「おっ! ナズナー!!」

「マスター、早かったんですね」

「ああ、プレシアさんは誤魔化せた」

誤魔化せたのはよかったのだが、ここでアリシアが先に帰ってきてでもしてしまえば
ナズナのことが嘘だとばれてしまう。そうなる前に何としてもアリシアを見つけねば

「まあ幸いなのはたちに見つかるなんてことはないだろう。ここかなり場所は慣れてるし」

「…なのはですか…」

…? 何かナズナさんの機嫌が一気に悪くなったような気が、なのはのこと嫌いなのか?
今度聞いてみようかな、やっぱオリジナルとかで苦手意識あるのかもしれないし

『そうだ、アリシアの持っているプレシアストラップがあるだろう?』

「ああ、あのプレシアさんがデフォルメされた感じのあれな」

プレシアさんが徹夜で作ったらしいな、あれ。
携帯を買ったらつければいいと思うんだが、母が作ってくれてうれしかったのか
肌身離さず持ち続けている。さすがにお風呂に持って行こうとしたとナズナに聞いたときは驚いた。

『あれを私は探知が出来るようになっているんだ。だから、それを探ればすぐに場所を特定できいるよ。他にもあのストラップにはいろいろな機能がついてるんだがね』

「徹夜しなきゃならないほど時間がかかった理由がわかったよ」

娘バカなのは、知っていたがここまで行くとある意味尊敬するよ。まあ今回はそれのおかげで助かったが。

「じゃあ早速、頼むわ」

『了解だよ』

「なんとかなりそうでよかったわ~、正直また胃がキリキリしてくると思った」

ほっ、なんとかプレシアさんにもバレずに、そして俺たちの計画にも支障が出ずに終わりそうだな。
アリシアには、一応きちっと言っておくか、今回みたいなことがあったら困るし
でも、それでアリシアが言うこと聞くかどうかだよな~。こうなったらたくさん遊んでやるしかないか…
おっ! そろそろ計算終わるかな…

『計算完了、…フム、前行った屋敷に近い場所にいるね』

「胃がキリキリしてきた」





sideアリシア・テスタロッサ


「よ…ようやく降りれた」

車が出ちゃったから止まったときにすぐ降りようと思っていたのに
こういう時に限って車は止まってくれなかった。
ようやく降りれたと思ったときには周りは見たことのない場所になっていた。

「ど、どうしよう…」

時間もそろそろお昼になってきたし、もし勝手にこんなとこまできたって
母さんが知ったら怒るよね…、嵐は…怒るかな?

「とりあえず、見たことがある景色を探そう」

じっとしていても何も進展しない。だったら行動すればいいんだ。
本当はちょっと心細さもあったんだけど、弱音とか吐いたら余計に心細くなるもんね!

「けど、どこに行けば…あれっ?…ああぁーーー!!」

ふと目をそらし雑木林に目をやると、そこには私が捜し求めていたねこじゃらしがあった。
一目散に駆け寄り、枝などが折れていないかを確認する。

「か…完璧のねこじゃらしだ! これなら嵐をこしょこしょ出来る!」

枝も曲がってすらいない、先のもしょもしょの部分もとても整っている。
これなら、嵐も大喜びで飛びついてくるはずだ!

「あっ! あっちにもある。ここらへんにいっぱいあるんだ」

私はうれしくてつい周りが見えてなかったから、人とぶつかってしまった。
すぐに謝ろうと思って顔を上げたらいかにも不機嫌そうな顔をした二人組がいた。

「俺たちの秘密の場所にいるなんていけないんだぞぉ」

「えっ!? でもここ外から丸見えじゃ…」

「うるさいんだぞぉー、ここは僕たちの基地なんだよぅ」

「きゃ!?」

少し疑問に思ったことを聞いてみたんだけどそれが悪かったのか
相手に押されてしまい、地面にたおれてしまった。

「っ痛た…、っ!? 母さんに選んでもらった服が!?」

「早く出て行けよぉ」

「そうだぉー」

「ひっひどい、母さんがっ選ん、で、くれった、のに」

母さんに選んでもらったお気に入りの服が汚れてしまい、そのせいで涙が止まらない。
何で自分がとか、何を自分が考えているかわからなくなったとき、その声は聞こえてきた。

「こらぁーーーーー!! またあんたたちかーー!!!」





sideout


「まさかまたここに来るとは…」

「はい、ジュエルシードのとき以来ですね」

場所が判別できた後、すぐにこの猫屋敷…じゃなく、月村邸に再びやって来た。
ここには、ナズナがマーキングポイントを仕掛けといてくれたので、すぐに来ることが出来た。
というか、もうここにはこないと思っていたのに、またきてしまうとは夢にも思わなかったぜ…

「で? アリシアは何処にいるんだスカさん」

『…あそこの雑木林の中にいるね』

雑木林? あのユーノが倒れていたっぽいところか? ここからそう遠くないな
ていうか、アリシアはどうやってここまで来たんだ? 金はないはずだし…

「考えていても仕方ない。行こう」

まあここまで来て、またイベントが起こるなんてほど俺は神様に嫌われてない。
いや、嫌われているからこそこの世界に来てしまったのかもしれないが、さすがにそこまで神もSではないだろう。
さっさとあのワガママお姫様を連れて帰ってお説教でもしてやるか。

「早…でて……ぉ…」

「そう……ぉー」

雑木林を進んでいくと子供の声が聞こえてきた。
しかし、この声はアリシア、女の子の声じゃなく男の子の声だな

「だれか他にいるのか? ここって結構人気なのかな?」

そんな感じに軽く考えているときその声は聞こえてきた。

「こらぁーーーーー!! またあんたたちかーー!!!」

…くぎゅううぅぅぅ
なんでここに聞こえてくるんだよ、うるさいうるさいうるさいよ
ていうか前にもこんな感じの怒声を聞いたことあるような気がするんだけど
唐突に嫌な予感がして、俺は急ぎその声の場所に急いだ。

「全く! あいつら女の子を泣かせるなんて相変わらず最低ね! そこのあなた、大丈夫?」

「は、はい。ありがとうございます」

「無事でよかったわ。私はアリサ、アリサ・バニングス、あなたは?」

「わっ、私はサラ・テスタブルです! よっ、よろしく」

「………」



そろそろ俺の我慢袋も限界だぜ? 神様よぉ…










<あとがき>
アリサ再登場!
…あれ?別に黒胃はそんなにアリサ好きじゃないんだけどな。
なんていうか、出しやすいんだよアリサさん!
次回でアリシアの暴走(冒険)と嵐の断腸(憂鬱)は終わると思います。
ちなみにフェイトのビデオレターはまだ見てないのでアリサはフェイトのこと全く知りません。
では!また次回!!










おまけ
アイテム紹介

プレシアさんストラップ
プレシアさんが可愛くデフォルメされたストラップ、いろいろな機能が詰まっているらしい。
ボタンを押すとプレシアさんの笑い声が聞こえてくる機能も入れたかったらしいが、無理だったらしい。よかった。
才能と努力の無駄使いかもしれない…





キャラ紹介

名前:硬太 猛【コウタ タケル】
通称:ジャイアンもどき(by嵐)
年齢:9才
血液型:B型
出身:第97管理外世界「地球」極東地区日本・海鳴市
所属:魚屋
階級:息子
役職:店の手伝い
魔法術式:なし
所持資格:なし



[6935] 第23話「人間諦めが大事だよね、でも諦めたらそこで試合終了」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 15:26
「オッス! オラ鈴木! 何だか知らねえけどわくわくしてきたぞ!」

「ああ、マスターが壊れてしまった…」

『まあ、現実逃避しているだけだろうけどね』

「俺は怒ったぞ! アリシアーーーー!!!」



第23話「人間諦めが大事だよね、でも諦めたらそこで試合終了」



「なんでまた厄介なイベントに足突っ込んでんだ! あのじゃじゃ馬娘は!!」

『これはおもs…厄介なことになってきたね』

「マジで今回は洒落にならんぞ!」

なんでよりにもよって出会っているのがアリサなんだよ! せめて他の奴にしろよ!
…石田先生とかそういうマイナーキャラとかに出くわしとけよ!
石田先生に怪我したから治療してもらうとか! 医者と患者の関係に留めとけよ!
アリサってお前、百歩譲ってはやてとか、いや、はやても駄目だ。

「くそっ、簡単な任務だと思っていたのに、一気に難易度アップじゃないか」

難易度やさしいから一気に修羅だよ。凡人ティアナから魔王なのはさんだよ。

『プレシアのストラップの機能に念話システムがある』

「っ! ならすぐに連絡をっ!」

『だが、まだ未調整だから起動するには、手に持っていてもらわないと駄目だね。ポケットから出してもらわないと』

なんだよその微妙な弱点は、徹夜したんだったらもうちょい気合入れろよ。
ていうか会話できないことに困ってるのにポケットから出すように言うとか不可能だろ。

「ああ、もうアリシア放って帰りたい!ものすごく帰りたい気分だ!」

「マスター、あんまり大きな声は…」

はい? 何で?

「…? あそこの木の陰から物音が聞こえたわね?」

『残念、聞こえてしまったようだよ』 

ナズナが注意してくれた理由はアリサが結構近くに来ていたからだったらしい。
確かに見てみればアリサは刻一刻とこちらに迫ってきている。

『君のせいで余計状況が悪化してきたね』

「うっ、うるさい! 自分のケツは自分で拭いてやんよ!」

スカさんの地味な嫌味が癇に障った俺はすぐさまキャットフォームに変化し
木の陰から堂々とアリサの前に躍り出た。

「何だ猫だったのね」

俺の姿を確認し、すぐに未だ倒れているアリシアの元に戻っていった。
そして、俺の姿を確認したアリシアは、ビックリして口をポカンと開けていた。
アリサがこっちを向いてないのをいいことに俺はアリシアにプレシアさん人形を放さず持っているように
ボディランゲージで必死に伝えようとした。

(すぐに家に帰るぞ! プレシアさん人形はずっと手に持ってろよ!)←手とか足をバタバタしている

(えっ? もう少し遊んでてもいい? やった! あっ! 母さんのストラップ汚れてないかな)

完璧だ! あの表情は確実に伝わっただろう、現にストラップをポケットから出している。
さすが俺とアリシア。伊達にねこじゃらしで遊んだ仲じゃないぜ。

『よし、今なら念話可能だ』

≪アリシア! 聞こえるか≫

≪あっ、嵐! 聞こえるよってあれ? どうしていきなり念話が?≫

≪そこはどうでもいい!! どうしてこんなとこにいるんだ!≫

≪えと…それはいろいろ事情がありまして…≫

いろいろ事情とかで来れる距離じゃないいんだけど、ここ。
ていうかお前はどうしてそんなに危ない地雷地帯を歩いてるんですか!





sideアリシア・テスタロッサ


うひゃ~~、嵐、結構怒ってるっぽいや
声になんだかいつも以上に怒気が感じられるよ~~…

≪とにかく! そいつt「えと…サラ、立てる?」っちょ!≫

念話に集中していて周りのことに意識を飛ばしていなかったら
目の前の相手…アリサさんが心配して私に手を差し伸べてくれてた。

「あっはい、ありがとうございます」

「いいのよ、困ったときはお互い様、それにしてもあなたの服装…ドロドロになっちゃったわね」

「はい…」

改めて服装を見てみるとッスカートは無事なのに真っ白だった服は土に塗れてドロドロだった。
手で払ってみたけどあんまり意味がないみたいで、汚れは取れなかった。

「うぅ…お気に入りが…」

「あなた…家は近くなの?」

「ええと≪言うな! とりあえず遠いところって言って誤魔化せ!≫…遠いところです」

話そうとした瞬間、突然頭に念話が割り込んできた。
なんだかかなり必死そうなのが伝わってきて、思わず息を呑んだ。

「遠いところ? …う~ん、その格好で帰ったらママに怒られそうね。…そうだ! あなた、ちょっとついてきて!」

「ふぇ?」

「鮫島! 大至急私の昔の服持ってきて」

私はあそのままアリサさんに手を握られ引っ張っていかれた。
そして大きな車がいきなり目の前に現れて、その中に私は引きずり込まれた。

≪アリシア~~~~!!!≫

嵐の叫び声がよく頭に響いてた。





「これでいいわ、よく似合ってる」

「なんか悪いような気がします」

「いいのよ、すずk…あたしの友達たちが今日遊べなくなったから、そのまま帰ろうかと思ってたからね」

「でもこんな服まで…」

「あたしのお下がりだし、別にいいわよ」

車の中で鮫島さんが持っていたのは、オレンジ色のかわいい服だった。
突然何をするのかと思ったら、アリサさんは私に服を持ってきてくれたみたいだった。

「それにしてもサラ…あんた一体いくつなの?あたしより年下よね?」

「えt≪詳しいことは話すな!≫そうです年下です」

「…? まあいいわ、サラ、今日暇かしら?」

「? はい一応」

私の返事を聞くとアリサさんはにっこりと笑いました。

「あたしと今日一日遊ばない?」





sideout


『あたしと今日一日遊ばない?』

な、何ですとぉーーー!?
なんだよこのアリサは! まさかアリシアの正体を知っているんじゃないのか!?
着替え貸したりとか普通しないだろ! そんで、いきなり遊ぼうとか!

『えと…何で?』

『あたしも暇だったし、あんた、何か寂しそうな表情してたからさ』

そんなはずはない! 俺といつもねこじゃらしで遊んでるもんね!
俺が遊ばれているとかふざけた意見も聞いたことあったけど、そんなことないもんね!
まあそんな誘いに家のアリシアは乗らないk『はい!』…えっ?

『私もアリサさんと遊びたいです!』

『よし、なら早速遊びにいくわよ! それとあたしのことはアリサでいいわ』

『はい、アリサ!』

…何いっちゃってんのこの子?
えっ? 今のは俺の耳がおかしくなったのかな? 遊ぶって聞こえたけど
この子、遊ぶって言ったよね?さっきジェスチャーで伝わったんじゃなかったのか?

『お昼は街で済ましょう。それで新しく出来たゲームセンターがあるの、そこに行きましょ』

『私ゲームセンターって初めてです』

俺の葛藤をおいて車は無慈悲にも発射した。

「マスター! 追いましょう」

「…ああ、うん…」

見ろよナズナ…雲が綺麗だぜ…





「なんていうかさ、差を感じるよな」

『我慢しなさい』

街に走る車の方向にあるマーキングポイントなどを利用しながら
アリサたちを追いかけようやく車が止まったと思えば、二人は車を降り、なんだかすこしオシャレな感じの店に入り食事をしていて
俺たちは追う途中にあったコンビニで買ったコンビニ弁当を貪っている。
なんだ、この差は…

「いいよなぁ…俺もこういう店入ってみてえなぁ」

『金はあるんだ。今度来てみたらどうだい?』

「いや、こういう店は緊張して入れないんだ」

『…貧乏性…』

うるさいな、しかたないだろ。元の世界じゃそんなに裕福じゃなかったんだ。
ビビリの俺がこんなとこに一人でこれるわけないだろうが

「コンビニ弁当もおいしいですよ?」

「まあ、そうだけどね」

そんな感じにくだらない会話をしながら飯を食い終えると
あっちも食べ終えたみたいで店から出てきた。今回は車を使わずに、歩いてどこかに遊びに行くようだ。

≪飯はうまかったか?≫

≪あっ、嵐! おいしかったよ!≫

≪そうか、よかったな。ていうかマジで遊ぶのか≫

≪何回も言ってるでしょ! 今日は遊ぶって≫

≪…18時までだぞ≫

飯を食っているときから、念話で帰るように伝えたのだが
今日はどうしても遊びたいらしく、しかたなく監視しながらということで許可した。
べっ別にプレシアさんに言いつけてやるとか言われたせいじゃないんだからね!本当だからね!





sideアリシア・テスタロッサ


「えいっ! やっ! とうっ!」

「ふふん、まだまだ甘いわね」

アリサに連れてきたもらって、始めてきたゲームセンターは、とても大きかった。
前にナズナから聞いたゲームセンターは、もう少し小さかったと思う。

『25点モグ~、モグラ研究員モグね、モグたちを捕まえようとしても無駄モグ』

「全然駄目だぁ~、このモグパニ難しいよ~」

初めて来たゲームセンターで、一番目をひいたのが、このモグラパニックだった。
穴から出てくるモグラを延々と叩き続けるだけのゲームだけど結構難しい。
この挑戦でもう3回目だけど、一向に記録は伸びない。

「ほら、あたしに貸してみて」

そう言うとアリサはハンマーを構えてモグラパニックの前に立った。

『逃げるモグ~』

「たっ! ていっ! とりゃっ!」

アリサは私とは全然違う速さでモグラを叩いていく、ポイントもどんどん上っている。
そして終了の合図がなったときにはかなりの高得点になっていた。

『80点モグ~、モグラキラーモグか! みんな巣に帰るモグ~』

「こんなものものね」

「すご~い、アリサ、こういうの得意なの?」

「ゲームは結構得意よ。次はあれやりましょう」

「うん、ゆーふぉーきゃっちゃー?」




『97点モグ~、モグラの天敵様モグか! 食べないでくれモグ~、許してモグ~』

「生贄を捧げたら許してやろう」

『何してるんだ君は…』

「マスター、上手です」





「これ何?」

「これはプリクラって言って、写真のシールが…まあ説明するよりやるほうが早いわね」

アリサはまた私の手を引いて、大きな箱?見たいな部屋に入っていった。

「中は結構狭いんだね」

「写真取るためだしね、フレームはこれで、よしっと」

きょろきょろと部屋?を見回していると突然アリサが引っ付いてきた。

「ほらっ、もうちょっとこっちよって」

「う、うん」

アリサの言うとおりアリサの方向によってみると、どこからか音が聞こえてきた。
突然の音に私はビックリしたんだけど、アリサは下から何かを取り出してきていた。

「うん、うまく撮れてるわ、もう一枚はサラ用に撮りましょう。好きなフレームとか選んで」

「えっと、ここで操作するんだよね」




「あのアリサの写真は」

『簡易の幻覚魔法でバッチリだよ』










時間はあっという間に過ぎて気づいたら時間はもう18時前だった。

「今日は楽しかった~、こんなに遊んだの久しぶりだよ!」

「久しぶりって、サラ、あたしより年下なのに毎日何してんのよ」

このこと話したら、嵐にまた念話で怒られちゃう、うまく誤魔化さないと
けど、私、嘘付くの下手だって母さん言ってたし、下手に嘘ついたらすぐバレるかな…

「私、あんまり遊べなかったんだ」

「どうして?」

うぅ…どうしよう、死んでましたなんて言ったら、頭おかしい子だって思われちゃうかもしれないし
それに、もし信じてくれてもそれはそれで嵐に怒られる…

「えとs「サっ…サラっ!?」えっ?」

どうやって言い訳をしようか考えていると突然アリサが
焦った声を出して、私のほうを見つめていた。一体どうしたんだろう?

「あ、あんた、う、腕が消えてってる!」

アリサの視線を辿り、腕を見てみると確かに腕が消えていっていた。
…あっ、時間切れなのかな?





sideout


俺たちは木の上から二人の様子を伺っていた。
どうやらアリシアも終わりの時間が来たことには気づいてるようだ。

「そろそろアリシアを転移させて終わりにしたいんだけど」

『なら転移魔法を発動するよ』

「ちょい待ち、すこし注文があるんだけど」

『なんだい?』

「地面の下に魔法陣を展開してさ、アリサの目に魔法陣が入らないようにしてほしいんだけど、出来る?」

今回は出来るだけ魔法的な要素はアリサには伏せておきたい。
どうせAs編では知るんだが、今知るのは早すぎる

『ふむ、出来ないことはないが、効果が半減する』

「どんな?」

『転移に時間がかかるし、何よりバグが生じて何が起こるかわからない』

…それは、無理だな。アリシアの体には傷一つでもつけたら殺される。

『人体に影響は出ないと思う、君のためだやってみよう』

「えっ? 中止でお願いしたいんだけど」

『転移開始』

「ちょっと待てーーー!!」

スカさん全然話し聞いてくれないんだけど! 確かに注文したけど
俺のためを強調するのやめてくれないかな! 責任全部俺が背負うみたいじゃん! あれ? 背負うのか?

「時間切れみたいだね」

「どっ、どういうことよ!」

下から突然アリサの叫び声が聞こえてきたかと思うと、アリシアの体が徐々に
消えていっていた。腕から消えているのが少しグロイ

「もともとここ(翠屋付近)には長くいられなかったんだ。あっち(しあわせ荘)に帰る時間みたい」

「ここ(この世)って、あんた幽霊なの!? それにあっち(あの世)って…」

どうやらアリシアとアリサの意見に食い違いが出てるような気がする…
まあ別に構わんが

「(幽霊って何だろ?)えと、そんな感じなのかな?」

「嘘…」

アリシアの返事を聞いた瞬間、アリサは信じられないようなものを
見る目でアリシアを見ていた。アリシア、嘘はいけないぞ嘘は。

「サラのママも、あっち(あの世)にいるの?」

「うん。あんまりここ(外)にいると母さんを心配させちゃう」

「そう…」

アリシアはアリサの言葉に笑顔で答えているのだが、アリサは何だが泣きそうだ。

「アリサ、今日は本当に楽しかったよ、ありがとう」

「あたしも楽しかったわ、サラ」

もうアリシアの体はかなり消えかかっている。そろそろアリシアの転移先に
待機しといたほうがよさそうだな。

「スカさん、しあわせ荘の入り口に転移よろしく」

『全く、人使い…いや、デバイス使いが荒いね』

「ナズナは鮫島さんが持っていると思うアリシアの服を転移しといて」

「わかりました」

そして俺は転移で先にしあわせ荘に飛んだ。無事に終わりそうでよかった。





sideアリサ・バニングス


あたしは今とても不思議な体験をしている。
寂しそうな表情をしていた女の子が、なんと幽霊と言ってきたのだ。

「そろそろお別れだね」

幽霊の女の子、サラ・テスタブルは、あたしの目の前で体を光の粒子に変え消えていってる。
その光はまるで蛍のようにきれいだった。

「…あの、一つお願いして良いかな?」

そして、体をほとんど消しながら、か細い声であたしに話しかけてきた。

「いいわよ」

「…こんなこと、あなたに頼むのはおかしいことなんだけど」

「気にしないの!あたしたち友達でしょ」

遊んだのはたった一日だけだったけれど、確かにサラとあたしは友達だ。
人間と幽霊とかそんなのは関係ない。

「えっと、私にそっくりな女の子がいると思うんですけど、もしですよ?もしそんな子を見かけたら伝えてほしいことがあるんです」

サラとそっくりな女の子?その子はサラと違って幽霊じゃないのかしら?

「お姉ちゃんは、フェイトの傍にいてあげられないけど、フェイトのことずっと応援してるよ、って伝えてください」

「フェイト? フェイトって言うの?そのサラの妹さん」

「はい、あっ!それと私の名前も実はサラってのが本名じゃないんです」

「? …じゃあサラの本当の名前は?」

もうサラの体は顔しか残っていない、少し不気味だけどそんなのあたしは気にならなかった。
サラは、私の目をしっかり見据えて声を出した。けれど少し間に間に合わなかった。

「私はアリシア、アリシア・テス……」

全部言い終わる前にサラが消えてしまい、残ったのはあたしがサラ、いや、アリシアに
あげた、夕焼けと同じ色のオレンジ色の服だけだった。

「See you.アリシア…」

家に帰って、アリシアと撮ったプリクラを確認してみると
アリシアの姿が透けていて奥が見えていた。アリシアの服も鮫島が言うには
洗濯が終わって確認してみるときれいさっぱりなくなっていたらしい。



後日、なのはに新しい友達からビデオレターが来てその差出人を見てあたしが驚いたのは、また別の話。










おまけ

「きゃーーーーー!!!」

「なぜスカート一丁!?」

「なんでもいいから服持ってきてよー!」

『バグ発生かな? ククク…』

「やばい!あんま大きな声出すな!?」

「マスター、アリシアの服を回収しt…」

「ナズナ!? これには深い訳が!いや俺のせいじゃないんだ!」

「明日の訓練は朝早くからしましょう。アリシアの服はここに置いときます」

「ナズナ! 信じてくれ!ナズナにそんな感じに接しられたら生きていけない!」

「服ーーー!!」

「アリシア? 帰ってきたの…ね…?」

「プレシアさん! 聞いてくれ!これには訳が!?」

「アリシア、こっちに来なさい。嵐、明日は一日中私が訓練を見てあげるわ」

「ちょ! 待って!? 信じて! お願いします! 土下座でも何でもするから話は聞いてくれ! 

「あっ、嵐、ねこじゃらしたくさん拾ったから後で遊ぼうね」

「えっ、マジ!? やったね! ………っじゃねぇえぇええええ!!!!!」

『フフフフフフ……』










<あとがき>
アリシアってリンカーコアなかったんですか…
すいません、情報不足でした。ここのアリシアは低いけど魔力資質があるでお願いします。
平穏編もあと2・3話ぐらいで、終わりと思います。
では!また次回!!










キャラ紹介

名前:骨乃 踝【コツノ クルブシ】
通称:スネ夫もどき(by嵐)
年齢:9才
血液型:B型
出身:第97管理外世界「地球」極東地区日本・海鳴市
所属:なし
階級:金持ちの息子
役職:なし
魔法術式:なし
所持資格:漢検7級



[6935] 第24話「恋に年の差って関係ない? いや あるだろ」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 22:22
「というわけで付き合ってくれませんか?」

「アリシアも世話になってるし、いいわよ」

「ありがとうございます。くれぐれもこのことはナズナに内緒で」

「わかってるわ」



第24話「恋に年の差って関係ない? いや あるだろ」



sideナズナ


「ナズナ、訓練のときずっと考え事してたけど、なんか悩みでもあるのか?」

「……いえ、別に」

訓練を終えたマスターに心配されてしまった。
こんなことでは、いけない。主に心配される従者など役に立たない同然だ。

「そっか、なんか悩みがあるなら相談してくれ」

「…お気遣いありがとうございます」

マスターは私にそう伝えると、ドクターを置いてプレシアさんの元へ行ってしまった。
…悩んでいるのはマスターのことですよ…

「どうしてマスターは私に…」



---三日前



「おばちゃん、セリアさんがどこにいるのか知りませんか?」

「セリアさんかい?セリアさんなら自分の部屋のいると思うよ」

「わかりました」

マスターの訓練のカリキュラムに新しい訓練を組み込んだ資料を作り
プレシアさんに見てもらおうとプレシアさんを探していたら、おばちゃんは部屋にいると言っていた。
部屋にはいないのにおばちゃんが部屋にいると言っているのなら
プレシアさんがいるのは、サラーブの研究室だろう。

『master. Alicia approaches(マスター、アリシアが近づいてきてます)』

「ナズナーー!」

「アリシア、どうしました?」

「嵐見なかった? ねこじゃらしで遊ぼうと思ったのに、いないんだよ~」

「マスターですか? 私も見てませんが」

そういえばさっきから全然マスターの姿を見ていない。
いつもならアリシアとねこじゃらしで遊んでいるのを見る時間なのに

「う~、どこいったのかな?」

「見つけたら、伝えます」

「うん、ありがとう!私ももっと探してみる!」

そう笑顔でアリシアは言うと、走ってマスターを探しにいってしまった。

「私もプレシアさんの所に急ぎましょう」

プレシアさんに資料を渡してアリシアに協力しようと思い
私は急いでプレシアさんの研究室に向かった。

「あれ?開いている…」

たどり着いたプレシアさんの研究室は扉が少し開いていて
中から話し声が聞こえてきたいた。少しだけ気になって、中をのぞくと
マスターとプレシアさんが何かを話していたのが見えた。

「マスター、こk「付き合ってくれませんか?」っ!?」

マスターに話しかけようと思って中に入ろうとした瞬間マスターから
とんでもない発言を聞いてしまった。ぷっ、プレシアさんには、子供もいるのに告白なんてっ!?
何を考えているんですかマスター!?

「アリシアも世話になってるし、いいわよ」

っ!?!? プレシアさん!? OKしちゃうんですか!?
確かにアリシアとマスターはとても仲がいいと思いますが、だからって!?

「ありがとうございます。くれぐれもこのことはナズナに内緒で」

その内緒でという言葉を聞いた瞬間、いてもたってもいられなくなって
私はその場から逃げ出してしまった。



---現在



「今思えば、もっとしっかり聞いとけばよかった…」

『It is late even if sorry now. master(今更後悔しても遅いですよ。マスター)』

「わかってるよ…」

今考えると、もしかしたら聞き間違いかもしれない。そうだ、きっと聞き間違えたんだ。
マスターとプレシアさんが付き合うなんて私の勘違いに違いない。

「今日は何だか疲れました。家でゆっくりしましょう」

『It is all right.(それがよろしいですね)』

ミーティアに相談して少しスッキリしたな。
今日は、もうマスターの訓練もないし、家でゆっくりさしてもらおう。
そう思い、私はサラーブを出て、しあわせ荘に戻ってきた。

「あ゛~~~~~~~~~」

部屋に戻るとなぜかアリシアがこの部屋にいた。扇風機で遊びながら
そろそろ9月も終わりのだし、扇風機も片付けないといけないな。

「アリシア、何故一人でこの部屋に?」

「あっ!ナズナ! 一人じゃないよ! スカリーも一緒!」

『ああ』

「いえ、何故この部屋に?」

「えっ? ああ。退屈だったんだよ~」

「退屈?」

この時間はマスターと遊んだりプレシアさんと遊んだりしている時間にはず
なのに退屈とはいったいどういうことなんだ?

「聞いてよナズナ~、母さんったら私を置いてどっかいっちゃったんだよ!」

「ああ、なるほど」

プレシアさんがいないから、この部屋でマスターが帰ってくるのを待っていたのか
あれ?でもそれなら、マスターと遊んでいるはずじゃ?

「嵐も母さんと一緒にどこかに行っちゃうし「その話詳しくお願いします」っ」

「ひっ!何か怖いよナズナ…」

「すみません。で?」

何だかアリシアが怖がっているような気がしたけれど
そんなことは気にしてられなかった。

「ええと…母さんたちがさっき一緒にどっか行っちゃうのがここから見えて…」

「どこに?」

「わっ、わかりません。ごめんなさい…」

「…」

さっき自分の中で解決したことが私の胸にまた大きくなって戻ってきた。
二人で? お出かけ?私に話さず? …デートか

「今すぐ追いましょう。ドクター」

『待っていたよ。我が最高傑作ナズナ。今の君はとてもいい表情をしている』

「どうでもいい。情報、早く」

『……私を連れて行けば、嵐の場所はすぐにわかる』

「行きますよ」

「私も行くよ!」

マスターにもしものことがあったら危ない、そう敵の襲撃があるかもしれない。
だから、私は影から護衛をしなくてはならないのだ。
これは、護衛。マスターを守るためには必要なことなんだ。



『doctor. Do not you know you truth?(ドクター。あなた本当は知っているんじゃありませんか?)』

『さて何のことかわからないな』

『It is angry at Ran(嵐に怒られますよ)』

『私を置いていった罰だということだ』





『ここ結構おいしいってアリシアが言ってたんですよ』

『本当、おいしいわね』

今私たちはドクターから、マスターたちの声を盗聴していた。
マスターたちは一ヶ月くらい前にアリシアと、アリスだっけ? そんな感じの名前の子が食べていた。
少しオシャレな店でマスターとプレシアさんがご飯を食べている。

「いいなぁ、私もここでまた食べたかったなぁ」

『彼は臆病だからプレシアとか大人と一緒じゃないとこんなとこに入れないんだよ』

「二人が出てきました。追いかけますよ」

『「Yes Ma'am」』

二人がおいしそうに食べているのを見ているとなんだかムカムカしてきたが
ここでマスターを見失うわけにはいけない。気を取り直し追跡…、じゃない。護衛を再開した。
追跡していると二人は、デパートに入り、服のコーナーに入っていった。

『……は、これとか…うかな』

『そう…黒…そ…ね』

…?さっきまできれいに聞こえていたマスターたちの声にいきなりノイズが入る。
マスターたちの声がうまく聞き取れなかった。

「ドクター?」

『…すまない、少し調子が悪くてね』

「そうですか」

ならしかたない。けれどあの二人あんなに仲がよかったなんて…
服…このまま行ったら…



~~~妄~~~☆~~~想~~~



「あなた! ネクタイが緩んでるわよ!」

朝日がまぶしい朝、マスターがプレシアさんが作ったご飯を食べ
仕事に向かおうとしているとき、プレシアさんに声をかけられる

「全く! あなたは本当に…」

「ああ、すまないプレシア」

怒り顔のプレシアさんに苦笑いを浮かべるマスター

「あなたがこんなのだからアリシアも真似するのよ、よし!出来た」

「ごめんごめん、それじゃあ行ってくるよ」

プレシアさんはネクタイを締めなおし、そのまま行こうとしたマスターの背中を叩く
そしてマスターが振り向いたとき、二人の口が一つに…



~~~終~~~★~~~了~~~



「だめだめ! 絶対だめ! 私は認めません!!」

「わっ!? どうしたのナズナ」

「いっ、いえ! 何でもありません!」

『何考えていたんだい? 二人はそのまま行ってしまったよ』

ドクターの言うとおり二人は、服のコーナーを出て違うところに行っていた。

「い、行きますよ!」

『「…Yes Ma'am」』





二人は服コーナーから出た後宝石店を見ていた

『いや、これは高いんじゃないんですか?』

『だけど女はこんなのがよろこぶものよ』

マスターたちはいかにも高そうな宝石を見ながら会話をしている
確かに私には宝石の値段はわからないけど、とても高くつきそうだ。
宝石…か…



~~~妄~~~☆~~~想~~~



「最近の宝石ってのはかなり高いんだな」

「そうね、だけどそれだけを払ってでも買う価値があるから買うものよ」

結婚した二人はある宝石店に来ていた。
宝石を眺めながらプレシアさんが背の高いマスターと腕を絡んでる。

「そんなものなのか? 俺はそこまでほしいと思わんが」

「そういうものなのよ」

プレシアさんの話を全く理解できないという表情をしているマスター
その態度にプレシアさんは少し頭にきたのか、顔をプイっと背けてしまった。

「おいおい機嫌直してくれよ」

「……」

突然不機嫌になってしまったプレシアさんにマスターは焦ったのか
取り繕ってみるが、まるで駄目だった。

「機嫌直してくれよプレシア。せっかくの美貌が台無しだぜ?」

「うるさい」

「宝石がきれいでほしいのはわかるけど、俺はもう宝石異常にほしいのが手に入ったからな。だからそう思うんだ」

突然マスターは真剣な顔になってプレシアさんを見つめ

「何よ?それ?」

「お前だよプレシア」

その言葉を聞いた瞬間二人の周りにピンクのオーラが…



~~~終~~~★~~~了~~~



「何ですかその台詞は!そんなのマスターは言いません!」

『またかい?何を考えているんだか…』

「それより二人を見失っちゃったよ!」

アリシアの言葉どおり、プレシアさんたちは何処のもいなかった。
いつの間に消えてしまったんだ!

「ドクター!」

『了解…? あれ、探知できない?』

「どういうことですか!?」

ドクターに探知してもらおうと考えたら、なぜかマスターたちの場所を探知できないらしい。

『原因は謎だが、これはつまり…』

『It is game over(ゲームオーバーですね)』

そっそんな!? マスターの追s…護衛失敗なんて!?
マスター…私たちを撒くなんて、腕を上げたんですね…うれしいような、かなしいような…

「任務失敗です…帰りましょう」

その後、夕飯の買い物をして帰り重い足取りで家に帰った。





「ごちそうさま」

夕食を食べ終わりマスターは食器を洗いに行った。
私は帰ってきたから全然元気が出なかった。プレシアさんとマスターの関係に
変化があるとは思えないけど、やっぱり変わってるんだろうか?

「ナズナ、後で私の研究室に来て」

ボーっとしながらご飯を食べていたら、プレシアさんから話しかけられた。
なんだろう?この前の訓練のカリキュラムのことかな?
待たすのは悪いと思い、急いで残り少ないご飯を食べ、プレシアさんの元に急いだ。





「入ります」

「おおっ!ナズナ、早いな」

「マスターっ!?」

プレシアさんの研究室にきてみると、なぜかマスターがいた。
もしかしてこっそり会っていたんだろうか?だったら出直したほうが…

「実はナズナに渡したいものがあるんだ」

「渡したいもの?」

マスターから私に?

「いや、最近ナズナにお世話になりっぱなしだからさ、何か恩返ししないとと思ったんだけど、女性が喜びそうなものってわからないなって思ってさちょっとプレシアさんに相談してみたんだ」

「ええ」

「それで今日プレシアさんと買い物に行ってさ、アクセサリーを買ってみたんだよ」

今日の買い物?デートじゃなかったんだ…

「んで、これなんだけど」

マスターは少し頬を赤くしながら、私に紙袋を渡してきた。
袋を開けて中から出してみると黒い十字架がついた首飾りが出てきた。

「俺の赤色のと色違いなんだけどさ」

そう言うとマスターもポケットから、色違いの赤い十字架を出した。

「プレシアさんに魔力加工してもらったから、いざって時に防御魔法とか発動してくれるらしい」

マスターは頭を掻きながら、私を見た。

「えと、よければ使ってくれ」

そう伝え耳まで真っ赤にして研究室から出て行った。その後姿を見ながら自然と顔が緩んでいくのを感じた。
すぐに追いかけようと研究室を出ようとしたとき、プレシアさんに肩を掴まれた。

「なっ何ですか!?」

「……」

ビックリしながらプレシアさんのほうに振り向くと
プレシアさんは不気味なほどの笑顔を浮かべていた。

「安心しなさい。私が嵐とデートなんて次元震が起こって世界が滅びようとありえないから、趣味の悪い盗聴もほどほどにね」

「はっ、はい」

…プレシアさんには全部お見通しだったらしい










<あとがき>
主人公の出番がかなり少ない話でした。
ナズナ書くのって楽しいんですよね。あんまりしゃべらないキャラだから
さて、次は10月の終わりくらい、12月までもう少しだな。
では!また次回!!



[6935] 第25話「戦いたくはない もう傷つけたくないから! ビビリ的な意味で」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 22:21
「そういえば、スカさん」

『なんだい?』

「守護騎士、動き出してるよな?」

「あまり大事にはなっていないが、ごく最近魔導師の襲撃が合ったらしいよ」

「そろそろ休憩も終わりか…」



第25話「戦いたくはない もう傷つけたくないから! ビビリ的な意味で」



「マスター、今日は、とうとう模擬戦をします」

「了解だけど、いったい誰が?」

サラーブの訓練用施設、通称・スカ式拷問部屋俺は今この部屋に立っていた。
この訓練施設はスカさんとプレシアさんの合作で、かなり性能がよくいつもここで訓練をしている。
STSのスバルたちが使っていて用に実際に廃墟なども用意できたりする。
他にもスカさんなりの天才(鬼畜)的なアイデアもたくさん組み込んでいる。

「その点は大丈夫です、ドクターたちが用意してくれているようです」

『安心してくれたまえ』

「…そう」

“スカさん”が用意してくれたのね。うれしくて涙でそうだよ。
最近ようやく体力的にも訓練が辛くなくなってきたと思った途端これか。
ナズナってなのはの遺伝子も入っているし、なのはと違って訓練のことを人に、プレシアさんに相談するから
かなり効率よく鍛えられてるのは、わかるんだけど…

「痛いのは苦手なのは変わらんよなぁ」

痛くない訓練、苦しくない訓練なんてないのはわかってるけれど、それでも嫌なことは嫌だよな…
実際、ナズナのおかげで強くなれている気はするんだけどなぁ…

『何くだらないことを言ってるんだい、準備しときなさい』

「了解了解。セットアップ」

いつも通りスカさんをセットアップし、医者っぽい姿になる。
いつ見ても今から戦いますって服装じゃないよなこれ…。今から診察しますよみたいな。

「それでは、マスター準備はいいですか?」

「ああ、いいよ」

なるべく軽めの相手がいいな…。というか相手を用意したって、どっかから怪物とか魔獣とか拾ってきたんだろうか?
それとも格安で魔導師を雇ったのか?

「わかりました。プレシアさん、よろしくお願いします」

「わかったわ」

ナズナは俺からの返事を聞くとプレシアさんのとこに行ってしまった。

「人物データ入力、魔力値決定、戦闘タイプ決定」

プレシアさんがわけのわからない単語を次々とボードに打ち込んでいく。
眼鏡をかけているので、いつもより知的で素敵!

「いいわ、再現完了。始めるわ」

プレシアさんが最後にボタンに触れると俺の目の前が光りだした。
そして周りの風景も少々変わり岩が並ぶ草原へと変わっていた。

「あれは?」

『魔導師再現システム。魔導師の詳しい情報を細かく打ち込むことによって、その魔導師にかなり近い力を持った幻影を生み出す』

「それ多用したらすごいんじゃない? 戦いで使えそう」

『残念。この訓練施設からでてしまったら幻影は消滅するよ』

「…それは残念」

そうこう話しているうちに目の前の光は収まり一匹の獣がいた。
体毛は炎のように赤い…いや、オレンジ? だった。

「…アルフ?」

声をかけようとした瞬間、何かいやな感じが頭によぎり
それを変に感じたとき思いっきりアルフに頭突きをされ岩に殴り飛ばされた。

「っかっは!」

『フローターフィールド』

スカさんが瞬時に展開してくれたフローターフィールドで
何とか致命傷を負わずに済んだが、少し眩暈がした。

『君は馬鹿か? 戦いが始まっているのに敵に話しかけるなんて』

「っ悪い、少し気を緩めてた」

『これからは気をつけたまえ。来るよ!』

スカさんの宣言どうり、アルフは俺に襲い掛かってきていた。





sideナズナ


「調子はどうでしょうか?」

「私たちが睨んだとおり、あの子攻撃への反応速度はあなたよりも高いわ。あの性格故にだけど」

「はい」

確かに画面に映っているマスターは敵の攻撃をかわし続けている。
だが…

「まだ恐怖感が抜けないし、反応ができても体がついていかない。あっ当たった」

「はい。致命傷だけは絶対にかわしているんですが、ほかの小技などが、あっ、また当たった」

マスターは、相手の攻撃を怖がり時々目を瞑ってしまうときがある。
それに、小技などの隙が少なく早い攻撃には当たってしまう。

「あの使い魔は近距離戦が得意なだからし、今度は中距離や遠距離も試してみないと。そろそろあの技使うかしら?」

マスターは必死に攻撃をかわし続け相手を睨んでいるだけだった。

「マスター、がんばってください」

私は首からかけている十字架を強く握った。





sideout


「っくそ! こいつっ!」

アルフの猛攻は依然続いている。こっちから攻撃しようにもそれより先に相手から攻撃がきてしまう。
こっちが肉体強化の魔法を使っているのに、かわしたりするので精一杯だ。
腕に攻撃が当たる、俺はそこからわざと血を噴出させた。

「よしっ! ならっ!」

俺は両手から魔力、血液で出来た小さな刀、赤いメスを出した。

「ドクターストップ!」

勢いよくアルフの両足に景気よくぶっ刺した。
アルフは突然の俺の行動に難色を浮かべたが、すぐに俺に襲い掛かろうとしたが

「--っ!?」

「残念動けないよな? それは攻撃力皆無な刀なんだ。攻撃系の魔法じゃなくて、捕縛系のバインドなんだ」

「--っ!!」

まあアルフの怪力ならすぐに解放されてしまうだろう。
だから、俺はそのアルフが拘束されているうちに、戦う舞台を用意をする。

「今日は、レバー食いたいな」

『戦いが終わってからだね』

スカさんと冗談を交わしながら、腕に魔力を込めるイメージを浮かべる。
そしてその間に腕から出した血を一箇所に撒き散らしておく。

「ブラッティ・クロウってとこだな」

俺の手は真っ赤に染まっていた、まるで誰かの腹を裂いたかのように
そしてその見た目は人の手ではない、まるで獣の爪だ。

「よっしゃ! 来い! 出来るだけ手加減してね!」

『君は本当に最後まで決めれないんだね』

俺の掛け声が合図かのように、アルフはメスを破壊し俺に向かってきた。
偽者だからだと思うが、無表情が逆に恐怖を煽る。

「文字どうりこれでも食らえ!」

俺は咄嗟に赤く染まっている拳を突き出し、アルフの大きく開いた口に
一撃を叩き込んだ。アルフは食いちぎろうとしているのか
牙をガジガジしている。だが、このブラッティ・クロウは強度だけは洒落にならないほど硬い。
別に他に特殊能力とかないんだけどね。まだまだ改善の余地あり。

「顎ががら空きだぜ! ヒャッハー!」

謎にテンションを上げ、残っているもう片方の爪でアルフの顎を殴りつける。
そのまますっ飛んでいき、岩にあたり粉塵が巻き上がった。

「やったか!?」

『その台詞は…』

あまり近づかないで、その場所を見ていると、粉塵からオレンジの光が浮び
それが魔法陣だと理解したときには、魔法の弾丸が発射されていた。

「どわぁああぁああ!!」

慌てて爪で直撃するものを瞬時に見極打ち落とそうとするが
そんな技量が俺にあるはずがない、10発中6発当たってしまった。
そして相手はさらに魔法陣の輝きを強くしさっきよりも多い数を放ってきた。
 
「嘘! 手加減してって言っただろ!?」

打ち落とすのは不可能、さっきの学習したことを活かし
草原を走り抜ける、途中当たりそうになったのは、爪ではじいていたが
8発目が当たったとき爪が崩れ中の魔力が散ってしまった。

「うわっ! 万事休す!?」

『これは今すぐ降伏のポーズをとらなくちゃね、ほら、仰向けになって』

「うっうるさい! まだそれは嫌だと思うプライドがあるんだ!」

俺の魔力変換資質“血液”は、少量の魔力で戦えることが特徴だ。
さっきのブラッティ・クロウだって、少量の魔力を俺の血でコーティングして戦っている。
つまりあの爪を使っているだけでは、魔力は消費しない。
だけど、その爪が破壊されると、新しく作り直さなきゃならない。

「魔力は心配ないんだけど、血がな…」

『さっき爪を作ったとき、少し血液をケチっただろ』

「…いや、ちょっとだけな」

煙がはれ、アルフが姿を現し、こちらにゆっくり近づいてくる。

「強者の余裕ってか?」

『冗談言っている場合かい? くるよ』

アルフは俺の爪がなくなったとわかると、間髪いれず、飛び掛ってくる。

『プロテクション』

障壁を張り、アルフの攻撃を盾で受け流す。

「くそっ! ここで覚醒とかしてみたい!」

『何言ってるんだい。来るよ!』

アルフは俺の盾に受け流されながらも、次の攻撃に移った。
盾をそのまま食い破り、俺に攻撃を加えるつもりらしい。

「やばいな。普通のプロテクションにしてのは、失敗だったかも」

『今更遅い』

アルフの作戦通り、俺のプロテクションを突き破り
またまた、俺の体に頭突きをくりだしてきた。

「げふっ!」

耐え切れるはずもなく、思いっきり吹き飛び地面に叩きつけられる。
バリアジャケットを着ているのでそこまで大きなダメージではないが、血が抜けている。
この体では、小さなダメージでも結構体に響く。

「っ痛い…」

倒れ付す俺にアルフが近づいてきている。俺の撒いた血が赤い絨毯に見えてきた。

「やっぱ勝つのはまだ無理か…」

『そうだね』

アルフが俺の目の前に立つ。

『けど…』

俺にトドメをささんと腕を振り上げる。もちろんこれは訓練なので
死ぬことなんてなく俺の負けで終わりなんだが。

『ここまでやれば上出来だ』

アルフが腕を振り下ろすのは不可能だった。
なぜなら、無数の赤い針がアルフを貫いたから。

『引き分けってとこだね』

「……」

俺が覚えてられるのはそこまでだった。





sideプレシア・テスタロッサ


「マスター!」

対戦結果は引き分けで終わった。あの使い魔程度に苦戦するのもどうかと思うけど
初心者が短期でここまで育ったと考えれば十分なのかもしれない。

『まあ、結構手を抜かしてただろう?』

「ええ。まだあの使い魔に人の形態をさせていないし」

あの子の使い魔は人の形状と狼の形状を変化させ戦うスタイルだ。
狼だけで突っ込んでいく戦い方が多いが、それでも人で戦うときもある。

「それよりまだあれ出来てなかったのね」

『血液魔法を使っているときに、さらに別の魔法を使うことかい?けっこう成功できているんだが、あの場面で失敗したらあの攻撃に全弾命中だよ?』

「そう、ならいいわ。最後のあれは考えたわね。まさか血が罠になっているなんて、あんなの聞いてないわよ」

最後のあの無数の赤い針。戦いの最中に撒き散らした、腕から出てた血だろう。
何を撒き散らしているのかと思っていたが、まさかあんな使い方があるなんて思いもしなかった。

『ああ、あれかい。初めて聞いたときは私も驚いたよ。なんせ怖いから罠を張っとく魔法を考えたとか言い出すんだよ』

「ふふ、彼らしいわ」

あの性格だ。戦うのは極力避けたいんだ。
今回の模擬戦だって死なないのがわかっているからこそあんなに余裕だったんだろう。

『さて、そろそろ彼の治療をしなくてわね、私の部屋から増血薬を持ってきてくれ』

「わかったわ」

今晩は、次の訓練のカリキュラムをナズナと相談しよう。










おまけ


「トリック・オア・トリート!」

目を覚ましたとき寝ている俺の体に馬乗りになって
黒い魔女の姿のアリシアが目の前にいた。

「…何してんの?ていうか、何故ここに?」

「トリック! オア・トリート!!」

どうやら答えを出す気は、全くないらしい。
トリック・オア・トリートか、つまりハロウィンと言うことだろう。

「今はお菓子持ってない」

「イタズラ決定!」

「ちょ! やめっ! 今動けないから!」

「水性マジック~♪」

「やめて! いやっ! アーーっ!!」





「マスターも仮装したんですか」

「…ああ」

ナズナの言ったとおり、今の俺は顔に骸骨が書かれている。
どっかのいたずら魔女によって

「ナズナは死神か」

「はい」

ナズナの姿は黒いローブを羽織り、ダンボールで出来た鎌を
持って、大量の骸骨を入れたリュックを背負っていた。

「んで、アリシアが魔女で、おばちゃんが…」

アリシアと遊んでいるおばちゃんを見ると、おばちゃんは仮装してない。
まあ、子供の仮装に大人がお菓子あげなきゃいけないよな。

「アリシア! こっち向いてー!」

全身黒の服を着て、頭にネコミミを付けている
カメラを構えている大人が見えるのは気のせいなんだろう。
きっとあの金髪の悪い魔女の使い魔的な存在なんだろう。言うことちゃんと聞くいい使い魔なんだな。うん。










<あとがき>
主人公の初戦闘の相手は、コピーアルフさんでした。
次で平穏編が終わり、As編が始まっていきます。
では!また次回!!










おまけ2


本編で名前が出なかった魔法の紹介

チャイルド・フィア(Child Fear)
使用者:鈴木 嵐
かなりの少量魔力と少量の血液で発動できる赤い針のような形状の魔法。
太さや大きさは使用する魔力・血液によって変わるが、一発の威力は低いので、大量に使用するのが基本的な戦術。
名前の由来は、注射のイメージらしい。


ブラッティ・マイン(Bloody Mine)
使用者:鈴木 嵐
血液を地面に撒き散らし、そこに罠を張る設置型魔法
相手がそこに入ると同時に発動し、相手をチャイルド・フィアが貫く。
そして術者が目標としたもの以外は発動しないので、味方を攻撃してしまうこともない。
地面だけでなく空中にも設置しておける



[6935] 第26話「前夜祭だぜ! 回帰組集合!!」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 16:40
「寒いな…」

『もう11月だからね』

「コタツって暖かいんだねぇ」

「アリシア、ちょっとリモコンとって」



第26話「前夜祭だぜ! 回帰組集合!!」



「今日は、ちょっとみんなに話したいことがある」

昼ごはんを食べ終わり、皆が自由にのんびりしている時間
俺はコタツに入りながら、みんなに声をかけた。

「何ですかマスター?」

昼ごはんの洗い物を終えエプロンで手を拭きながらナズナも
エプロンを取り、コタツの中に入ってくる。

「らっ、嵐のとっていたチョコプリン食べたのはわたしゅじゃないよ!」

レンタルビデオ屋で借りてきた、魔法少女戦隊“プリティジャー”を見ながら
俺に顔を向けてこないアリシア。ていうか、お前だったのか。俺のお楽しみを食らったのは。
後でお仕置き決定。しばらくねこじゃらしで遊んでやらないからな。…いや、それは俺がつまらんな。止めとこう。

「アリシアを疑うのは許せないわね、それで私のコーヒープリンは誰が食べたのかしら」

のそのそとコタツの中に入ってくるプレシアさん。そろそろコタツはいっぱいだ。
それとあなたのコーヒープリンを食べたのは俺じゃありません。多分ですが、同一犯だと思います。

「かっ、母しゃんのプリンも食べられてたんだっ! だっ誰だろう!?」

そのプレシアさんの発言に寒いのに滝のように汗を流すアリシア。
…お前、実は隠す気ないだろう。その態度は…

『さて、ここに昨日の冷蔵庫の様子を撮影したビデオがある』

「何を思ってそのビデオを撮ったかの理由が知りたい」

『暇つぶし』

「よく理解できた」

相変わらずスカさんの奇行は、俺には、いや、常人には理解でない。
自分が食べるものが入っているとかなら理解できるが、スカさんは食べない。
ただの冷蔵庫を一日中撮影しとくのに意味なんてあるのか?

『アリシア、これをビデオにセットしてくれ』

「今は私が見てるの! レッドジョマコが活躍してるから駄目!」

…人が困るとこを見て楽しんでいるだけだな、うん。

「まあ、プリンの証拠ビデオは、あとで見るとして、今日の話はそのことじゃない」

「そのことじゃないとしたら、嵐がネコ状態のときの耳に…あっ、なんでもない」

「会議が終わったらお前ちょっと来い」

どうやら俺の知らない間に、俺の体はアリシアにいろいろされてたみたいだ。
…体にいろいろって何か卑猥な響すんな…

「最近スカさんとプレシアさんの調査の結果、謎の魔導師襲撃が多々起きてるらしい」

「それが何かあるの?それを私たちで解決するとか?」

アリシアがきょとんとした顔で俺に尋ねてくる。
まあ、アリシアが考えている通り、ここはそんな善良な組織じゃないから
人助けになるようなことをするのかと疑問に思ったんだろう。

「まあ事件の犯人たちに接触するのは確かだ」

「接触…ですかマスター?」

「うん。スカさんとプレシアさんのおかげであいつらのいる場所は大体特定できる。誰がそこにいるのかも」

これは、前に鯛焼き屋で会ったので、そこら辺を散策しているとき
偶然、なんだか厳つそうな蒼い犬と散歩する、料理の下手そうな緑なお姉さんや
公園で爺たちとゲートボールをする紅い幼女やベンチで何故か眠っているニートな桃色な姉御を
偶然…というか、余裕で発見し、リンカーコアを登録しておいたのだ。
アリシアと無駄に探したあの日は、なんだったんだろう。

「それを捕らえるのが今回の目的なの」

「スカリーと母さんすご~い!」

「ええ、私ががんばればこんなものなのよ、アリシア」

『褒められて悪い気はしないね』

「あれ? 守護騎士一緒に探しましょうって言ったとき、スカさんとプレシアさん面倒くさいとか言って、手伝ってくれなかったよね?」

結局、俺一人で探しに行くようになったんだけど…
俺の被害妄想だったかな?

『話を戻そう。それで、そろそろ私たちも本格的に動き出そうと思うんだ』

「まあ、だからといって、そんなにすることなんてないんだけどね」

準備といっても、最早ほとんど準備は整っているみたいなものだ。
今更、焦って準備しようというわけじゃない。

『まあ、ナズナにはミーティアを貸してもらうけどね』

「何故ですか?ドクター」

『まだ、ミーティアにカードリッジシステムを搭載してなかったからね、嵐に言われて思い出したんだよ』

そう、スカさんに話してみたんだが、ナズナのミーティアには
明らかにカードリッジは搭載していない。場所が場所だけにしかたなかったが
ここはもうアルハザードではないし、ベルカ式が相手になってくると、こちらもカードリッジは必要不可欠だろう。

「わかりました。ミーティアを頼みます」

『Thanking you in advance.(よろしくお願いします)』

「ナズナのデバイスは特殊だから、慎重にしないといけないわ」

「ナズナのデバイスって特殊なんですか?」

確かに特別製ではあると思うが

「かなり特殊ね。まず形態が2種類あるとこよ。普通の魔導師は遠距離と近距離ってデバイスは大きく違うんだけど、彼女の場合二人分のスタイルを持っているから、デバイスもある意味二つの体があるみたいなものよ」

「なるほど」

つまりなのはの場合砲撃とか銃系の形状が多くあり
フェイトの場合近畿戦闘の剣系の形状が多くあるが、ナズナの場合、全く違うタイプの
形状があるわけだ。大砲を持っていると思ったら、突然剣に変わっている、なんて
改めて聞くと本当に魔導師殺しだな。

『フフ、さてさてどんな風に仕上げようかな』

『…Please don't be too hard.(…お手柔らかにお願いします)』

…そういえば

「スカさんあれ出来たの? 増血剤」

『戦闘のときに使うって言ってるのかい?まだ出来てないよ』

「そうか」

さすがに戦闘中に血がなくなったじゃ洒落にならないので、俺専用のカートリッジを頼んでおいたんだが、まだ完成してないか…

『ナズナもそうだが、君も特殊なんだ。君の血は存在する全ての血に当てはまる。そして全てに当てはまらない』

「どういう意味?」

『君の血を輸血しようと思うならAでもBでもOだってなんでもいいんだ。けれど輸血するなら2・3倍必要となる。体内に送ってもらった血を君の血が拒むからね』

…それ、死にそうになったときかなり困らないか?

『君が管理局に捕らわれたら、一生血を抜き取られ続ける生活だろうね。君の血は誰にでも輸血できるし、他の人に輸血する場合少量で済む。体外に出ると血が増幅するからね』

管理局に行かなくてよかった…
一生血抜き生活とか絶対にお断りだ。元の世界とかいってる場合じゃなくなるし。

『まあ、次の日に訓練がない日だったら定期的に血は抜いているから、君の血のストックは結構たまってるよ』

「……えっ?何そんなことしてたの?」

そんなの全然感じてなかったんだけど、血が抜けたらだるいって感じるはずじゃ
ていうか本人に了承なしでなんてことしてんだあんたは。

『訓練に一回は血液魔法を使ってるんだ。このぐらいでフラフラするはずないだろう』

「もういいよ…」

『まあ、君の…なんだっけ?ブラッド・カードリッジ計画?だっけ…それは順調ということだよ』

「じゃああのナズナの変装の件は?」

これが今回の計画の要だ。
これがあるかないかによって大きく計画が変わってしまう。

『ああ、マジックカラーの魔法かい?』

「名前知らないけど、多分それ」

『それくらいは簡単に出来るよ、未来ではオシャレとして使われてたんだ』

「ミーティアもお願いするわ」

『了解したよ』

どうやら、俺の計画は今回も順調に進みそうだ。あとはナズナの頑張り次第
前回みたいに今回はいい人では、貫き通せないだろう。
まあ、もともとなのはたちを混乱させるためにしていただけだし、構わないけどな。

「じゃあ難しい話はここで終わりにします」

「私には話さなくてよかったんじゃないかー」

いや、アリシアがここにいただけだし、そもそもアリシアが
戦いに加わることになったら下手するとプレシアさんまで参戦してくるから

「じゃあ、今日は鍋でもしようか」

「賛成ー!」

安らぎの日々もそろそろ終わってしまい、また戦いの時間が来る。
それまで短い平穏を楽しんでおきたい。

「じゃあプレシアさんたちは買い物をお願いします」

「アリシア、暖かくして行きましょうね」

「はーい」

プレシアさんたちは、コタツから出て自分の部屋に戻っていった。
あれ? 魔法少女戦隊のビデオ置きっぱなしなんだけど。

「じゃあ私は、部屋の掃除でもします」

ナズナもコタツから出て、掃除用具を取りに行ってしまった。
その場には、俺と魔法少女戦隊のビデオが残された。

「することはないよな」

『リンゴキャンディーブレイク!』

アニメの音声が空しく響いてた。










「おばちゃんも呼んでくれるなんて、サラちゃんは優しいねぇ」

「前にあやとり教えてくれたお礼! また教えてね」

「じゃあ、おばちゃんも、自分のとこから食材持って来るわ」

アリシアの声で目を覚まし周りを見渡してみると、全員が戻ってきていた。
外を見るともう真っ暗になっている。

「寝すぎたな…」

『そうだね、彼女たちはもう鍋の準備は終えたよ』

「あちゃ~、片付けは俺がやるよ」

『そうしたほうがいいだろうね』

コタツの暖かさでついのんびり眠ってしまったようだ。
手伝いをしようと思っていたのに、寧ろ邪魔になってしまった。

「嵐、寝すぎだよ~」

「起きたんですねマスター」

俺が起きたのに気づいた二人が話しかけてきた。
その手には鍋の用意が持たれている。アリシアさえ、食材を持ってきていた。

「ごめん、長く眠りすぎた」

「いえ、構いませんよ。訓練で疲れているのでしょう」

「ナズナはよかったよね!嵐の寝てるあいdムグっ!?」

「アリシア、プレシアを手伝いに行きますよ」

アリシアが何か言おうとした瞬間、目にも止まらぬ速さで
アリシアの口をナズナが塞いだ。ナズナがあんなことするのって珍しいな。

「何かあったのか?」

「…いえ、マスターは気にしないでください」

「ええっ、関係ないって、嘘はいけn「アリシア?」…何でもありません!」

ナズナがアリシアを見るとアリシアは顔を真っ青にして敬礼した。
ナズナの表情はこっちからは、見えないが、どんな表情をしているんだ?

「スカさん、何があったか知らないか?」

『フフ、ナズナが君にk「こんなとこに麺棒が」…何もしなかったんだ』

創造主のスカさんがナズナに負けるはずない。なら本当になにもなかったんだろう。
それより、ナズナはどこから、あのパンをこねる棒を取り出したんだろう?
ていうか、何故今それを取り出す必要があったんだ?
まあ、あとで聞いてみたらいいか…

「じゃあ俺も手伝うとしますかね」





手伝うとは言ったが、もう準備はほよんど完了していて、あとは、食器などを運ぶだけだった。
そこでおばちゃんも合流し、おばちゃんの食材も合わせ準備は完了した。

「じゃあ、いただきます」

全員で一気に箸を鍋によせる。これといったこだわりもないので
皆が自由に食べたい具を取る。

「サラ、野菜も食べなくちゃだめよ」

「えぇ~、野菜は苦手だよ~」

アリシアがプレシアさんに食の偏りを注意される。

「ナズナちゃんは少食らしいから、いっぱいたべなきゃね」

「はい」

おばちゃんがナズナにたくさん装う。

「いや~、平和だよな…」

≪君も肉食いすぎだよ。野菜を食いなさい≫



本物の家族ではないんだけど、確かに家族のような温もりを感じた。










<あとがき>
平穏編が終わってしまいましたね。次回からはAs編が始まります。始まるといっても時期は、12月じゃないんですが…
ナズナが寝ている間に何をしてたのかはご想像にお任せします。
感想で聞かれました血液の変換資質の凄さですが、実はあんまり凄くありません。
凄さといえば、低魔力でも戦えるところでしょうか?今回の話でも触れましたが、主人公の血は外に出るとある程度は増えます。
常人よりは血の気が多い奴です。そして、恐らく鈴木が大技を使うことはないと思います。大技はナズナです。
反則技はあるんですが…、それが出るのはラストぐらいでしょう。
鈴木の戦闘スタイルは、将来的にフェイトさんよりになるようにナズナは訓練しています。
そして最近は、「主人公はナズナだろ?えっ、違うの?」と黒胃も思い始めてます。
では!また次回!!



[6935] 第27話「はじまりは突然に…なのか?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 17:13
「作戦開始…なの」

「この作戦はナズナの頑張りにかかってるから、うまくやってくれ」

「マスター、まかせてください…なの」

「…なんか締まらないなぁ、それ…」



第27話「はじまりは突然に…なのか?」



11月28日、空に青い月が浮んでいる、地球とは違う別の世界
その下に俺たち回帰組は集っていた。

『この次元に、今回のターゲットがいるよ』

「それで、プレシアさんがリミッターを解除すれば、食いついてくるってわけね」

スカさんの話では、ここに守護騎士の一人“紅の鉄騎”がいるらしい。
サラーブで反応を昼に捕らえ、ここにやってきたのだが、この次元世界は、一日中夜が明けない世界らしい。
周りは一面砂だらけ、まるで地球の夜の砂漠のようだ。おかげで今、どれ位時間が経ったのか、全くわからない。

「ここに何で来たのかわかる?」

『ここにはリンカーコアを持つ人間の集落があるからね。そこを狙っているんだろう。実際に今はその集落にいる』

「それで、今俺はこんなとこで“水巻き”ってか?」

『フフ…確かに“水撒き”だね』

こんな場所にわざわざこんなことしているなんて、事情を知らない奴が見たら
俺は、さぞかし自虐趣味に見えただろうな。
俺が一般人でこんな場面見てしまったら即効病院に連れて行くか、救急車を呼ぶかだな。

「嵐! 母さんの準備も終わったよ!」

「この場所を囲む感じで仕掛けてきたわ」

『上出来だよアリシア』

「あんなもの普通は仕掛けないわよ、常人なら死に至るわ」

『彼らはプログラムだ。そんな簡単に死にはしないよ』

「そう、ならいいわ」

プレシアさんたちの準備も終わったらしい。
なら、あと準備が終わってないのは、俺ぐらいかな? けど、そろそろしんどい…

「嵐、これ、作っといたわ」

「ありがとうございます」

プレシアさんが渡してきたのは、真っ赤な錠剤。
プレシア印の増血丸だ。スカさんが採っといてくれた俺の血をプレシアさんが加工してくれた
夢のアイテムだ。まあ貧血になりにくい程度の感じなんだけど…

「あー、鉄臭っ!」

錠剤を水で飲みたいだが、残念ながらこんな場所に水はない。ペットボトルでも持ってこればよかった。
それでも飲まないわけにはいかず、我慢して錠剤を飲み込む。うへぇ…

『がまんしなさい。もう少し撒いといて欲しいんだ』

「はいはい」

スカさんに叱咤されながら、作業を続ける。そして、そこに今回の作戦の要がやってきた。

「マスター、終わりました…なの」

「おお! やっぱり完璧じゃないか! その口調は冗談のつもりだったんだが…」

そこに現れたのはナズナだが、明らかにイツのと違うナズナだった。
バリアジャケットは純白、デバイスはレイジングハートカラー、髪の毛は栗色
どう見ても白い悪魔です。本当にありがとうございました。

「この服装は、夜は目立ちます…なの」

この白い悪魔カラーのナズナさんは、スカさんのカラーコーティングという
魔法の使用をしている。デバイスは、今回だけスカさんに塗り替えてもらった。
そして、さらにナズナが耳につけているピアスもスカ印のマジックアイテム。魔力光を変えれるという優れものらしい。

「すまない、今回だけ我慢してくれ」

「マスターが言うなら、我慢します…なの」

ちなみに、さっきからナズナが言っているなのなのは、俺の一言が原因だ。
ナズナがここに来る前に一回あの姿になったときについ「なのはさんはこの時期は、なのなの言っているイメージある」と言ってしまったのだ。
それを真に受けたナズナが、この姿になるとわざわざなのをつけるようになってしまった。

『ミーティア・ナイトメアの調子はどうだい』

「万全です。いつでも出れます…なの」

ナズナの新デバイス、ミーティア・N。ミーティアにカードリッジを組み込んだ新生ミーティア
その力はこっちからすれば心強い限りなのだが、敵からすれば悪夢だろう。

「ナズナ今回は、なのはと同じくらいに魔力も調整し、遠距離スタイルでいってもらうけど、大丈夫なのか?」

「大丈夫です。闇の書なんてシュレッダーにでもかけてやります…なの」

「いや、相手にするのは守護騎士なんだけど」

まあ大丈夫かな?ある程度弱らしてほしいんだけど

「じゃあがんばってくれよナズナ! 成功したらご褒美やるから」

「ご褒美…」

ああ、好きなもの買ってやるとか、飯たくさん食わしてやるとかな
なのに何故顔を紅潮させるんですか? 俺、変なこと言った?

『なら、そろそろ始めようか、プレシア』

「わかったわ」

プレシアさんは、チョーカーをはずし、空に手をかざした。作戦は開始される。





sideヴィータ


「くそっ! 足しにもなんねえな…」

シャマルの情報どうり、この集落にはリンカーコアを持った奴らがわんさかいたんだけど…

「持ってるだけじゃねーか、くそっ」

最後の一人を蒐集したけど、全員でせいぜい2・3ページ
こんなんじゃ全然足りない。

「もっと、一気に集まるような大物が…」

早く、闇の書を完成しないとはやてが危ない。
絶対にはやてはあたしが守ってみせる。

「しかたねえ、ザフィーラと合っ!?」

しかたくザフィーラと合流しようと思ったとき、少し離れた空に紫色の光が空に伸びていくのが見えた。
それが見えると同時に一気に肌に感じる強烈な魔力。

「うそだろっ!? 下手したら20…いや、30ページは埋まるぞ!?」

何故いきなりこんな強力な魔力を持ったやつがでてきたのかはわからないけど
これはチャンスだった。こいつの魔力を蒐集すれば闇の書の魔力は一気に集まる。
あたしは、その魔力の持ち主の場所に急いだ。





sideナズナ


先ほどのマスターたちがいたところから、少し離れた場所に私はいた。
マスターの話が正しければ、ここに守護騎士がくるはずだが…

「おい、お前」

来た。槌の形をしたデバイスを持っている紅い騎士、見た感じの年は私と変わらない。

「ここにいた巨大な魔力の持ち主はどこだ、お前も相当だが、お前よりもでかい魔力の奴がいたはずだ」

「……」

プレシアさんはあの攻撃を放った後、すぐにチョーカーを付け直し、あの場で待機しているはず

「だんまりか? ボロボロの服装しやがって」

今の私の服装は確かにボロボロだろう。ここに来る前にマスターから
最初は着ておけと言われ、ボロボロのフードを着ているのだから

「まあいい、まずはお前からだ!!」

これ以上話すことはないとばかりに、私に襲い掛かってくる紅い騎士…紅チビでいいか。
紅チビは、その手に持つデバイスを私に振り下ろそうとしている。

「テートリヒ・シュラーク!」

「…っ!」

即座にバリアを展開、しかし、足場が砂のせいで思いのほか踏ん張れない。

「ちっ」

わざとバリアを爆散させ、相手を吹き飛ばす。
これには紅チビもビックリしたようで、引き下がった。

「お前…、意外に頭の回転はやいじゃねえか」

「……」

「ちょっとは、返事返せよなっ! だっせえ十字架しやがって」

…黙って空に逃げた私を予想通り追いかけてくる紅チビ。表情を見るよっぽど
切羽詰っている状況らしい。目の前の相手が逃げようと、紅チビは絶対に追ってくるだろう。

「ミーティア」

『Accel Shooter』

カートリッジをロードし、12発同時に発射する。さすがに操作が難しいが、問題はない。

「こんなに操作できるのか!?」

愚問ですね。出来ない攻撃をする馬鹿がどこにいるんでしょう。
頭の回転がはやいとかいいながら、あなたが一番悪いんじゃないですか?

「くそっ」

いつもと違う桃色の魔力が4つ、わざと全体的に遅かし、重ねたりしながら動かす。
相手はそれを見て、空を縦横無尽に駆け回っている。

「はっ! 操作できるみたいだけど、動きが遅いぜ」

すばやく動き続け、弾同士をぶつけたりし、アクセルシューターを確実に減らしていく紅チビ。
周りにアクセルシューターが見えなくなると私に再び向かってきた。

「くらえっ!」

アクセルフィンを発動し、紅チビから距離をとる。
ブレードフォームでいきたい相手だが、マスターの指示でそうもいかない。

「相性があまりよくない…なの」

だけど泣き言を言っている場合じゃない。マスターは私がこの作戦の要だといった。
それにこれに勝ったらご褒美までもらえる! 負けるわけにはいかない。

「ちょろちょろしやがって…、アイゼン!」

『Schwalbefliegen』

こっちの動きに我慢の限界を超えたのか、紅チビは球? みたい魔力弾を空中に
4つ放ち、デバイスで打ってきた。

「意外に早い…なの」

全部受け止めるわけと、こちらは確実にダメージを負ってしまう。
そうなるとさすがに紅チビに勝つのはキツイ。ならば…

「紅チビと同じように…」

アクセルフィンをそのままにし、高速で迫ってくる魔力弾をかわす。
誘導型のようだが、少し制御が甘い気がする?

「何かを狙っている?」

しかし、いくら甘いといっても数は4発。一瞬の油断が敗北につながってしまう。

「“あれ”は、そのままにしといて…」

残している策にも集中しながら、全弾何とかかわすが
紅チビの姿が見当たらない。

「…しまった」

逃げることはありえない、ならば何処からか狙ってくるはず
だが、暗いこの世界では、敵の姿を一度見失うとなかなか発見できない。
その時、声は上から聞こえた。

「ラケーテンハンマー!!」

声が聞こえた方向に即バリア。しかし、紅チビの攻撃力は凄まじかった。
完全に受け止めたはずなのに、すぐに破壊された。
そのまま地面に叩きつけられるが、幸い砂がクッションになり衝撃は小さい。

「この暗さを利用しない手はないぜ。もう一丁!」

紅チビが、さっきのロケットのような槌をもう一度回転させている。
あの一撃を食らえば、さすがにお陀仏だろう。

「そうですね、暗さを利用しない手はないですね」

「負け惜しみか! 今更おsがはっ!?」

紅チビが何か言おうとしていたみたいだが、言えなかった。
紅チビの背中から“黒い”魔力弾が4発直撃したから。

「さ、さっきの!?全部破壊したはず!?」

「何故でしょうね」

後ろから攻撃を食らったから、色を確認できなかったんだろう。
ドクターのこのピアス、戦闘では使えないと話していたけど、暗い場所では
黒の魔力光の方が目立たなくていいんじゃないんだろうか?

「くっ、そ…」

ロケットハンマーの効果も時間切れなのか、さっきの槌に戻る。
なら、次はこっちの番ですね。

『Divine Shooter』

「っ!? 危ねえ!」

一発目はかわしましたか。まあ当然ですよね。

『Divine Shooter』

「後ろ!? いつのまに、っが!」

「さあ、いつでしょう」

2発目、1発目撃つと同時に後ろに回りこみ攻撃
簡単だけど、一番効果的な攻撃。

「舐めやがって!」

紅チビは予想してるより早く復活し槌を振り回した。

「しまっ!?」

槌は私の横腹に命中し、なす術もなく私は、吹き飛ばされた。
紅チビの攻撃は、一撃を食らうだけでも体にダメージを確実に与える。

「さすがに…キツイ…」

ミーティアを杖にして起き上がるが、さっきの横腹のダメージが大きい。
体を動かすと横腹が痛む。
だいぶ距離が離れた。相手もダメージを食らっているからかこっちにゆっくりと飛んでくる。
だがそこは…

「バインド!?」

さっき私が墜落した場所、罠を仕掛けていた場所だ

「ミーティア…」

『Divine』

ミーティアを握る手に力がこもる。紅チビ。さっきの十字架の件を
忘れたわけじゃないからな。

「死…、倒れろ」

『Buster』

「ちくしょお! 壊れろ! 壊れろよ!」

紅チビの抵抗むなしく、私の砲撃が紅チビを飲み込んだ。

「ふぅ…」

思わず地面に膝をついてしまう。まだだ、まだ終わってないはずだ。
威力は通常よりも弱めている。この程度で倒れるはずはない。

「はあっ、はあっ、お前も限界みたいだな…」

予想通り、そこには紅チビは健在だった。しかし、さすがにダメージが大きいのか
デバイスを杖に立ち上がるのがやっとのようだ。

『master. Please escape.(マスター、逃げてください)』

「そうだね…」

「っ!! させるかっ!」

私は暗い空を飛び、そのまま逃走を図り、紅チビは予想通りついて来た。





sideヴィータ


「待ちやがれ!」

せっかく大物をここまで追い詰めたのに、ここで逃げられたら
さっきまでの戦いが無駄になる。
あたし自身もボロボロだけど、ここでこいつを逃がすほうがもったいない。

「くそー、こいつベルカの騎士に挑んどいて背中を向けるなんて、何て奴だ」

相手を見失いように、速度を出して追うがなかなか差は縮まらない。
こうなったらテートリヒ・シュラーク使うか?けどカードリッジはあんまり無駄遣いすんのはよくないし…

「あれ…あいつ止まっt“ザクッ”えっ?」

あいつが突然止まったと思って瞬間、あたしの体を何かが貫いた。
これは、魔法…か。

「くっ、これ…血?」

あたしの血じゃないけど、これは明らかに血だ。それもよく見てみると
周りには赤い小さな斑点のようなものがいっぱいだった。
地面にも、空にも、あたしが少し動くたびにあたしの体を貫いていく。

「ちくしょお…罠だったか…」

万全の状態なら、こんな攻撃食らったって動けるが、今のあたしは満身創痍
小さなダメージでもこんなに大量にこられるとキツイ。

「あいつは…」

あいつの姿を探してみるとあいつは、空に浮んでいた。魔法を放つ準備をしながら。
あのボロボロの服も脱いでいた。多分はやてと同じくらい
バリアジャケットが白い、はやてが前に読んでた本に出てきてた天使を思わせる服だけど
あたしには、鎌を持った死神に見えた。

「死神か…」

今すぐ動いて逃げたい。だけど足にも血の針が刺さってて動けない。
焦りはしなかった。ここであたしが倒れるのは、罠にかかったときにわかってた。
ただ…

「ごめん。はやて、みんな」

みんなにもう会えなくなるのが悲しくて涙が止まらなかった。

「ダークネスブレイカー」

『Darkness Breaker』

願わくば、はやてが悲しみませんように…



黒い濁流に紅の鉄騎は今度こそ飲み込まれた。










<あとがき>
いきなり、As編の目的が終わりましたね。
いや、終わりませんよ?
嵐の予定では最後はディバインバスターでした。しかし
戦闘開始⇒十字架を馬鹿にされる⇒頭どつこうか?⇒カードリッジ使用、ダークネスブレイカー的な流れに
ダークネスブレイカーは、スターライトブレイカーと同じ魔法です。色がどす黒いですが…
では!また次回!!



[6935] 第28話「俺の拳が真っ赤に染まるゥ!?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 17:22
「…あれ? なんか予定と違うんじゃない?」

『…予定より張り切ってしまったんだろう』

「…なんだか、殺意を感じたんだけど…気のせいかしら」

「ご褒美パワーだよ!絶対!」



第28話「俺の拳が真っ赤に染まるゥ!?」



「ナズナ! 大丈夫か!?」

「マスター…大、丈夫で、す…」

地面に今にも倒れそうなナズナに駆け寄り体を支えてやる。
本人は大丈夫だと言っているが、俺から見ると全然大丈夫に見えない。
いくらナズナが強いといえ、なのはの戦いしか出来ないのではきつかったんだろう。

「それにしても手ごわかったな…」

「はい…、遠距離型しか使わないとは言え、手ごわい相手でした…。万全の状態でも同じように行くかどうか」

「ロリでも守護騎士ってことか」

目の前に倒れている紅いバリアジャケットを俺のブラッティ・マインによって
更に紅くなって、倒れているヴィータ。赤ハリネズミだな。

「この子、私と同じくらい?」

『見た目はそう見えるが、実際は何年生きているかわかったもんじゃないよ。見た目は子供でも中身はおばあちゃんかもしれないよ』

「外側がロリで、中身が熟女…」

なんていう甘美な響き、一粒で二度おいしいということなのか
いや、今はそんなことを話している場合じゃないよな、うん。

「なんにせよ、よくやってくれたナズナ。どんなご褒美がいいんだ?」

「えと、…その」

「まー、まー、それは帰ってからでいいじゃん! ねっ! ナズナ!」

「そ、そうですね」

「…? ナズナがそう言うなら別に構わないが」

まあ冷静に考えてみたらこんなとこでしてほしいこと言われても何も出来んか。
とっても豪華なディナーが食べたいって今言われても絶対に用意できないし
だったら帰ってから、ゆっくりしたときにでも聞いてやったほうがナズナにとってはいいかもな。

「それにしてもこれが守護騎士…、意外と幼いのね…。昔のベルカの人々は何を思ってこの子を守護騎士にしたのかしら?」

プレシアさんが倒れているヴィータの様子を慎重に調べている。
確かになんでこんな幼い少女が守護騎士に選ばれたんだ?ベルカとか、昔のやつらってみんなロリコンだったのだろうか?
それとも、ヴィータが他の騎士よりも魔力で優れていたんだろうか? …真相はわからないな。

『この時代でもそうだが、やはり年齢に関係なく高い魔力を持った者が、選ばれるんじゃないかい』

「そうね、考えてみれば、今の管理局とあまり変わらないわね」

プレシアさんはヴィータを調べるのに飽きたのか、すぐに視線をアリシアに戻した。

『ミーティア、調子が変なところはなかったかい?』

『There was not a problem.(問題ありませんでした)』

確かにミーティア・Nは凄い脅威だったと思う。正直、並みの魔導師には扱えない代物だ。

『さてと、それじゃ…おや? 来たようだね』

スカさんがヴィータの体を調べようとしているとき
遠くから狼の遠吠えが聞こえてきた。

「貴様らーーー!!」

喋る狼は、俺たちの姿を確認し、足元に転がっているヴィータを
見た瞬間、血相を変えてこちらに向かってくる。
まるでフェイトを傷つけられたアルフのようだ。周りに気を配ってないし。

「アウト!」

ザフィーラがこちらにたどり着く前にザフィーラに足元に魔法陣が展開される。
さっきプレシアさんたちが、仕掛けていてくれた罠。

「これはっ!? っぐお゛お゛お゛お゛お゛!!!」

ザフィーラの体を電気を帯びた剣・鎌・槍・斧などの魔力で構成された武器が
一斉に貫き、さらにその体を電気により感電させた。

「お゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!!!」

うわ、かなり痛そう…。正直この魔法は今回以外絶対使わないと思う。
プレシアさんが言ったとおり威力が強すぎて非殺傷に出来ず、普通の人では死んでしまうし
本来はこんなにまとめてくるような魔法じゃなく、捕虜など
捕らえた魔導師に情報を吐かせるために使う拷問系の魔法なのだ。

「ぐっ…」

『さすが盾の守護獣だね。あれで死なないとは恐れ入る』

「当たる寸前に障壁を張ったのが見えたわ。それで威力を弱めたんでしょう。」

始めはヴィータにする予定だったんだけど、ザフィーラに変更してよかった…
一応盾の守護獣とか言ってたし、大丈夫かなと思ったんだけど
大丈夫でよかった~。死んだらどうしようかと思った。

『まあ、これで守護騎士を今度こそゲットだね』

「他の守護騎士が来ることは?」

『とりあえず、あと20分は大丈夫だよ。この空間に結界が張ってある。こっちの情報があっちには伝わってないはずだよ』

「なら安心か」

ここでシグナムとか来たら困るんだが、この次元で一緒に行動してたのは
ザフィーラだけだったらしいな。

「じゃあ、このワンちゃんを持って帰りますかね」

『プレシア、頼んだよ』

「ええ。アリシア、帰るわよ」

「はーい!」

プレシアさんたちは、ザフィーラを魔法で浮かし、転移してそのままサラーブへと帰っていった。
その場に残っているのは俺とスカさん、そしてナズナだけだった。

「じゃああれやるか…」

『ああ、ズブっとやってしまおう』

俺のテンションに反比例してスカさんのテンションが上っている。

「あれ、俺がやらなきゃだめか?」

『何言ってるんだい!か弱いナズナに自分がいやだからってやらせるのかい?』

「マスターがいやなら私がやります」

「…俺がやります」

ナズナは俺よりもか弱くないのは確実だけどさ…
確かにこんなことを女の子にやらすのもどうかと思うしなぁ

「やるしかないか。ナズナ守護騎士持ってきて…っておい!?」

ナズナに守護騎士を引きずってきてもらおうと思ったら
ナズナはあろうことか、ヴィータの髪の毛を鷲摑みにし、引きずろうとしていた。

「それ乱暴すぎ!もっとこう…やさしく!」

「…ちっ…」

ナズナは俺の言葉に従い、ちゃんと体を引きずってこっちに持ってきてくれた。
置くときに叩きつけたような気がするけど…
ていうか、なんでそんなに機嫌悪いんだよ。勝負には勝っただろ?
もしかして、ヴィータがナズナの癇に障るようなこと言ったんじゃないだろな。…あり得る。

『じゃあ早くやってしまおう』

「はいはい」

片方の腕にブラッティ・クロウを発動。今日は結構な量の血を使いしんどい。
貧血で倒れるほどではないが、だるいものはだるい。

『絶対に死なないから、思いっきりやりたまえ』

「ナズナ」

ナズナにバインドで宙に浮かしてもらい、固定してもらう。

「それじゃ…南無三!!」

非殺傷設定を解除したブラッティ・クロウでヴィータの体を
俺の真っ赤な腕が貫いた。

「う…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

気絶していたが急に体に強烈な痛みが入り目が覚めたのか
それとも半覚醒なのかはわからないが、ヴィータは叫び声をあげた。
いくらプログラムとは言え痛みを感じないわけじゃないし、自分の体が何者かに解析されてるんだ。体に響くのは仕方ないだろう。

「っぐあ゛あ゛あ゛!うああああ!!」

『データ確認開始…魔法術式確認…魔力値確認…血液タイプ…』

「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!が゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛あ゛!!」

…これは、本当に悪役だな。何処からどう見ても悪役だろこれ
ちいさい幼女の体を貫いている謎の少年少女。
どこの悪の組織だよ。これはやてとか他の守護騎士に見られたら、殺人沙汰だよ。

『…戦闘行動確認…闇の書のデータ確認…プログラム完全把握完了…』

「゛あ゛あ゛あ゛…゛あ゛…あ………」

だんだんと叫び声が小さくなってくヴィータ、そして冷静に情報を
コピーしていくスカさん。できればそろそろ終わって欲しい。

『いいよ、全部完了したよ』

「お疲れ」

スカさんの言葉を聞くと同時に、体から腕を引き抜いた。音が生々しい。
ヴィータは、バインドが解かれ地面に再び転がる。

「じゃあ次も頼む」

『ああ。私を外して、この守護騎士の体に乗せて』

「こうか?」

スカさんの指示の言うとおりデバイスを解除し、そして指からスカさんを外し、ヴィータの体の上にちょこんと置く。
すると、ヴィータを中心に魔法陣が展開され、ヴィータの体が徐々に修復されていく。
体に開いていた穴も塞がっていっている。

「すごいな。これなら怪我してもすぐに治せるんじゃないか?」

『残念。この魔法は、コンピュータのワクチンみたいなものだ。プログラムを改ざんしてるにすぎない』

「つまり?」

『普通の人間にやっても全く効果がないということさ』

つまり闇の書の守護騎士とかの体じゃないと無理ってことか
体が生身の人が無理ってことは、stsのヴィータたちも無理な確率高いな。

「ぐっ…」

『まあそれでも、無理やり治している。つまり荒療治だから、かなり治している間は苦痛だけどね。フフフ…』

「相変わらずドSだな…」

そこでテンション上るとこが、スカさんのいいとこだよね。きっと…

『記憶も少々弄っといて、これで完璧だね』

「そう言えばこいつ闇の書はどこにやったんだ?」

蒐集しに来たんだったら、絶対に持っているはずだろ?
なのにこいつナズナと対戦始めたときは、持っていなかったよな

『この次元にはないね。おそらくここに来る前に一旦家に戻したんだと思うよ』

「そりゃ残念だな」

まあ、闇の書は後回しでもいいか、最低いらないし

「マスター、そろそろ引きましょう」

「そうだな」

地面に、一応きれいになったヴィータを放置して、俺とナズナはそのまま帰っていった。





sideヴィータ


「…タ! …い! ヴィ…タ!!」

目の前が暗い…、それに誰かがあたしを呼んでる…

「ヴィー…ちゃん! 起…て!」

あたし一体どうしたんだっけ?なんでここにいるんだ?
ていうかここってどこなんだ…、ここは…

「ヴィータ!!!」

「っわ!? シ、シグナム!?」

意識が覚醒して目の前に飛び込んできたのは、シグナムだった。
いつもの冷静さがない。

「よかった! 本当によかったわ!」

あたしに泣きながら抱きついてくるシャマル。何だか様子が変だ。

「ど、どうしたんだよ。そんな顔して…」

「ヴィータちゃん!? 覚えがないの!?」

「何が?」

あたしの肩を持ちぐらぐらと揺さぶってくる。気持ち悪い…

「よせシャマル、私が話す」

そしてシグナムから聞いたのは、とんでもない事実だった。





「あたしとザフィーラが…やられた!?」

「ああ、我らがここに赴いたとき、もはや戦いは終わっていた」

「そっそんなはずねえだろ! あたしは負けて…負けて…」

言い返そうにもあたしがここで倒れていたのも事実だ。
一緒に行動していたザフィーラがいなくなっているのに、ここであたしがお眠りなんて
普通に考えてありえないはずだ。

「ヴィータ、お前は何か覚えてないのか?ここで何があったかを」

「全然…覚えてねえ…リンカーコアを持った奴らがいる集落を襲ったまでは覚えてるけど…そこから記憶が」

「途切れてるか…」

「すまねえ…」

「ヴィータちゃんが気にすることじゃないわよ」

シャマルはそう言って慰めてくれるけど、これはあたしの責任だ。
一緒に行動していたはずなのに、何があったかを覚えてないなんて…、あの白い魔導s…

「あれ…」

今、頭の中に何かが写った。ハッキリじゃないけど確かに人が
桃色の光、…あれ? 黒? いや、桃色…の白い魔導師が

「こんなやつ見たこともねえはず…」

もしかしてこいつがあたしの記憶が途切れている原因なんだろうか?

「くそっ、わけわかんねえよ…」

あと少し、あと少しで闇の書の完成ではやてと幸せに暮らせるのに
こんなとこで躓くなんて…

「主はやてに何と言えばいいか…」

「はやてちゃん、心配するでしょうね…」

「ああ、何としてもザフィーラを救出せねばな」

シグナムたちが何か話しているが、頭の中がぐちゃぐちゃで
全く入ってこない。頭の中に変なものでも入っている感じだ。

「くそっ…」

あたしは知らず知らずのうちに、胸に手を当てていた。
まるでそこが痛むかのように










おまけ


「マスター」

サラーブに戻りようやく休憩の時間が取れたと思うとナズナが話しかけてきた。

「んっ? 何か用か」

「いえ、その…」

ナズナは俺が、話しかけると言いにくいことなのか指と指を合わして
なにやら言うかどうか悩んでいる様子だった。

「なんだ?」

「だから、あの…」

俺がさらに追求すると、余計に顔を赤くし答える様子がない。
その状況に飛び込んできたのは、アリシアだった。

「もう! 嵐は鈍いな! ご褒美だよ! ごーほーうーび!!」

「ああ、それか」

アリシアの言葉でようやく合点がいった。つまりナズナは恥ずかしかったわけだ。
俺にご褒美をこんなすぐに求めることが恥ずかしかったわけだな!

「そうとわかればナズナ、何が欲しいんだ?」

「えっ!? そ、そうですね…」

ナズナは俺の問いにまたしても顔を赤く染める。そんなに恥ずかしいことなのか?
魔法少女のステッキとか?いや、もう魔法少女だし…
最高級の超豪華ディナーとかか?でも、それは恥ずかしくないし…

「じゃ、じゃあっ!」

ようやく決まったのか意を決して俺に伝えようとするナズナ
そんなに一生懸命にならなくても…

「マスター! キs「ハグーー-!」ふぇ!?」

ナズナの言葉は途中で割り込んできたアリシアに遮られてしまう。
アリシアの声のボリュームのせいでナズナの言葉が全く耳に入らなかった。

「こらアリシア、お前が決めてどうする」

「前にナズナには、イチゴメロンパンあげたからそのお礼!」

「勝手に決められたら、ナズナも迷惑だろ? なあナズナ」

そう思いナズナの方を向くとナズナは腕を広げスタンバってた。
ご丁寧に目まで閉じてある。

「まっ、マスター! 私は構いません!」

「…え?」

「あっ! アリシアがせっかく考えてくれたんです! さあ!」

ずいっと俺の前に迫ってくるナズナ。少し、というかかなり怖い。
それより、いくら子供といえど、今の俺の体型だって子供なわけで、いくらなんでもまずいし
何より俺もかなり恥ずかしい。今も顔が真っ赤だと思う。
助けを求めようとプレシアさんを見ると、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。

「アリシア!?」

「がんばれーナズナ! がんばれー嵐!」

次の希望のアリシアヲ見てみたが、どこから持ってきたのか
いろんな国の旗を、まるで応援旗のように振り回している。
アリシア! お前は何を俺たちにがんばれというんだ! ハグをがんばれってか! おかしいだろ!?

「スカさん!?」

『この連絡相手はただいま居留守を使っています。要件のある方は、自分の用事を済ましてから話しかけてください』

最初から期待してなかったけど、ここまで無視されると腹立つな!
せめてこの窮地を脱出できるような策のヒントくれよ!

「マスター…」

「……」




その日、俺は人生初めて女性とハグした。
やわらかかった…いや、どこがって…










<あとがき>
はい、ザフィーラさん一丁!!
手に入れましたね闇の書の守護騎士。ヴィータさんを捕らえてしまうと
いろいろと不都合な点が出るのを鈴木は恐れました。なのでヴィータを餌にしてザッフィーを釣りました。
スカさんはヴィータに微妙になのは?のことを記憶に残しておきました。
フェイトの時といい、ヴィータといい、ここのなのはは誤解したり誤解されたり大変だな…(他人事)
次回から少し更新が遅れるかもしれません
では!また次回!!










おまけ2


魔法紹介
トゥーチャー・マテリアル(Torture Material)
使用者:プレシア・テスタロッサ
一応、罠型に分類される魔法だが、プレシア本人の使い方としては、拷問用が正しいらしい。
普通は、口を割らない捕虜などに一つづつ武器を増やしていき、刺していくのが本来の使い方。電気を帯びているので、傷口が焼け治りにくい。
今回のような無茶な使い方は、魔力も無駄に使うし、一回発動してしまえば終わるまで発動し続ける。



[6935] 第29話「ブラッティ仮面」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 17:27
『プレシア、盾の守護獣の様子はどうだい』

「特に問題はないわ」

『目覚める様子はないんだね』

「ええ。絶対に目は覚まさないわ」

『それじゃあ続きを始めよう。フフフ…』

「そうね。ふふふ…」



第29話「ブラッティ仮面!」



ザフィーラを捕らえてから一日。
昨日からスカさんとプレシアさんはご飯のとき以外、研究室に篭りっぱなしだった。
スカさんの話では、早速闇の書の守護騎士から闇の書の解明を始めたらしい。
一応ザフィーラは殺さないらしいが、それも事実かどうかはあやしい。
何故なら昨日のプレシアさんたちの機嫌は最高潮によかったから。
あのプレシアさんが俺に笑顔で「ご飯のおかわりはどうかしら」って聞いて来るんだよ!! こう、ニヤって感じじゃなくてニコって感じで
やはり科学者たちにとっては、未知なる研究材料というのはうれしいものなんだろうか?
そして、今日の朝ごはんに二人は姿を現さなかった。
アリシアに聞いてみると、昨日は部屋にも戻ってこなかったらしく、ナズナの部屋で寝かせてもらったらしい。
さすがに一日篭りっぱなしじゃ心配なので俺は様子を見に行くことにした。

「ナズナ、プレシアさんたちの様子を見に行こうと思うんだけど、一緒に来てくれるか?」

「はい」

昨日は、スカさんたちに立ち入り禁止と厳重に注意されていたの様子を見にいけなかったが
今日はザフィーラの作業がだいぶ落ち着いたらしく、立ち入り禁止を解除されたので別に構わないだろう。

「確かスカさんとプレシアさんの共同研究室だったよな」

「はい、ジュエルシードの保管している部屋の隣です」

ナズナの案内なしでもさすがに地形は把握したので問題なく行けるのだが
スカさんたちの研究室に一人で行くのに、微妙に恐怖を感じるのでナズナにはついてきてもらうことにした。
あそこに一人で行ったら、なんの薬をお試しとか言って飲まされるかわかったもんじゃない。

「マスター、こっちです」

「あれ?ここ右じゃなかった?」





「プレシアさーん、入りますよー」

共同研究室と名前が書かれた部屋の扉をノックしナズナと入る。
ここはプレシアさんとスカさんが協力して研究する場合使う部屋なんだが
普段は二人とも自分の研究室に篭り、自分のしたい研究を自由にしているので
ここが使われることはめったに無い。その証拠に部屋には微妙に埃が残っている。
昨日プレシアさんが掃除用具を持っていくのが見えたが、あまり掃除は上手じゃないようだ。

「あらナズナ、嵐、何のようかしら」

プレシアさんがいつもの眼鏡をかけ、何故か額にハチマキを巻き、目にクマを作って出てきた。
プレシアさんは美人だと思うが、この姿を見ると自分の美的感覚に疑いを持つ。
いや冷静に考えている場合じゃない

「プ、プレシアさん!? 何ですかその姿! よろよろじゃないですか!」

足はしっかり地面に立っているが、上半身は振り子のように揺れている。
正直、かなり不気味だ。夢に出てきそう。

「気にしないで…。昨日スカリエッティと守護騎士についていろいろ調べていたらなんだか止まらなくなっちゃって、気づいたらこんな時間だったの…」

気づいたらって、いくら研究好きでもそれはヤバイだろ!
スカさんも一緒に居たんならプレシアさん寝かせてやれよ!

『いやいや、昨日はなかなか盛り上がったね。特に使い魔の強化理論との関係した話は面白かった』

「そう言ってもらえるとうれしいわ」

「なに和んでんだよ! スカさん! 一緒に居たなら止めてあげて!お願い!」

『いや、一人で研究していくのってさびしいものだよ』

「わかるわ、その気持ち」

「わかんなくていいから! とりあえずプレシアさんはベットで寝てください!」

プレシアさんの背中を押し、この部屋から出そうとするが
悲しいかな体の体型で大人と子供の差は大きく、あっさりと押し戻されてしまった。

「この部屋に仮眠用のベットがあるから、あなたたちを案内したあと寝るわ」

「あんまり無茶しないでくださいよ。アリシアが心配します」

「後でご飯を持ってきます」

「ありがとうナズナ、嵐」

無理やり押し込められたような気もするが、俺たちの案内が終われば
休憩してくれるという言葉を信じよう。
もし嘘なら強制的に休ませよう。力では勝てないから、アリシアを使って。

「こっちよ、ついてきて」

プレシアさんに案内され、少し歩いたとこにアリシアが入っていたような
生体ポッド? のような物が淡く緑色っぽく光っているのが目に入った。

「これは…」

近づいてよく見てみると、それはザフィーラだった。緑色の液体に浸り
まるで死んでいるかのように目を閉じ眠っている。

『この液体に浸っている間は、この守護騎士は、目を覚まさない。延々と眠り続ける』

「この状態で研究を続けているんだけど、以外にこの狼、情報を体に残しているの。本人が覚えていないだけで、かなり情報が体に蓄積されているわ」

確かザフィーラは原作で出番かなり少なかったけれど、寡黙な素敵キャラだったけ?
いや、出番がないし、みんなから犬扱いしかされていない可哀想なキャラだったか?
あれ?どっちも正解だっけ? …まあいいか

「それでスカさん、こいつだけでいけそう?」

『フム、それはこれから更に細かく調べてから考えるが、一つ君に頼みたいことがある』

「頼みたいこと?」

『別にこれはナズナでも構わないんだ。けれど私としては君のほうに頼みたい』

「私でもですか?」

ナズナでも構わないってことは、戦闘関連なのか?
もしそうだとしても何でそれを弱い俺に頼むんだ?

『難しいことでは…いや、難しいことかもしれないが…』

「とりあえず、何を頼みたいのか言ってくれ。話はそれからで」

話を聞いてみないことには、俺がその頼みをこなせるかどうかわからない。

『守護騎士、ヴォルケンリッターは確か他に二人いたはずだ』

「ああ、確か烈火の将と湖の騎士だっけ?」

おっぱい魔人のシグナム姐さんに、殺人クッキングのシャマルさんだったな。
俺的にはシグナムの方が好みだ。

『その二人のどちらでもいいんだ、戦闘しているとこを記録してきてほしい』

「えっ? 何でわざわざ危険を犯してそんなことを…」

あの戦闘狂の戦いなんてわざわざ見に行きたくないんですけど…
近くにいたら、叩き切られそうじゃん。問答無用!とか言って

『これもこの守護獣が関係してくるんだ』

「こいつが?」

「ええ、この狼、確かに色んな情報を体に持っていたわ。けど持っているだけ、あたりまえだけど私たち科学者はリアルの情報が欲しいの」

「えーと、簡単に言うと」

『この守護獣だけでなく、他の情報も確認したいんだ。出来れば前と同じことをしたいんだが』

前と同じことってあのヴィータにした拷問のことか?
あれをシグナムにやるのは時期的に考えても無理だ。もう原作が開始している。

『だから君には、戦闘に出て欲しい。戦闘をしなくても構わない、君が戦っている間、私が少しでも他の守護騎士のデータを解析する』

「そんなこと出来るのか? じゃあヴィータの時もそれをすればよかったんじゃないか」

あんな拷問まがいのことを俺にやらせなくてもいい方法があったなら
俺はそっちのほうがよかった。結構あれは精神的にキツイ。

『可能だ。しかし、とても時間がかかるんだよ、あの時やった方法だと早かっただろう?』

「確かに一分かかったかどうかだったな」

『だから私的にはあの方法でいきたいんだが、君が戦闘中に割り込んであれ出来るとは到底思えない』

「悪かったな」

どうせナズナと比べればウジムシ・ノミ的な存在だよ。

「じゃあ戦闘中じゃなくて、相手の場所はわかってるんだから、そこでじっくり観察すればいい」

『いや、戦闘中のデータが欲しいんだ。肉体的にも一番活性しているときのデータがね。だから前のときもナズナに戦闘してもらったんじゃないか』

穏やかに過ごしている日常的なデータじゃ駄目ってことか
それでいいなら、はやての家に監視カメラでも仕掛けようかと思ったんだが…

「それじゃあナズナに頼べばいいんじゃないのか?」

『この作戦は私をセットアップしておいて欲しいんだ』

「じゃあナズナがスカさんを」

『ナズナと私はかなり相性が悪くてね。下手すると君より弱くなるかもしれない』

「すみません…」

「俺より弱いっ! そりゃまずい!」

『君はプライドはないのかね…』

プライド? 何それおいしいの?
そんなことよりスカさんとナズナって相性悪かったのか…意外でもないか

『戦闘中に私をずっと持ってもらっとかなきゃいかなくなるし、それに…』

「それに?」

『ナズナが外に出ると目立つからね』

「管理局に知られてるもんなぁ…」

ナズナは無印の時にフェイトとかなのはにかなり触れ合ったからなぁ
外に出て戦闘するだけでクロノとか出てきそうだな。

「なら、今回も俺がやるしかないか…」

『しかし君が守護騎士に勝つなんて天変地異が起きない限り厳しい』

「…そうですね」

「マスター、元気を出してください」

『真正面からぶつかっていくのは、得策じゃないだろう』

確かにシグナムに真正面から勝負を挑むなんて自殺行為に等しい。
だからといって、意表をつこうにもそんなに簡単にいくとは思えない。
だったらいっそシャマルさんに狙いを絞るか?あの人接近戦弱そうな感じだし。

「サポート系の守護騎士、シャマルを狙うか…」

『しかし、いくらサポートと言っても守護騎士。簡単にいくはずはないよ』

「そうだよなー、何かいい方法はないものか…」

あの空間切り裂いてリンカーコア奪う攻撃なんて食らったら一発KOじゃないかな?
視線を逸らし、眠っているザフィーラに目が行く。

「ザフィーラ…」

ザフィーラと言えばアルフだよな!
Asの最後でなんかいい感じだったし、低燃費モードのアルフは好きだったよ。
けど残念ながら俺は猫派だ…アルフ?

「アルフ…」

『…? どうかしたのかい』

「……」

「マスター?」

「……っ! そうだっ!」

ザフィーラとアルフとネコを思い出したとき
俺の頭にまるで神が舞い降りたかのように名案が浮んだ。

「今回もあの作戦で行こう!」





『なるほど考えたね』

「完璧だろ」

「見た目は全く別人です」

あの名案を思いついたあと、俺はすぐにスカさんにその作戦を説明した。
スカさんは話を聞くと二つ返事で返してくれ、早速作業に取り掛かってくれた。
その時、プレシアさんも一緒に作業に向かおうとしたので
ナズナと一緒に別途に強制送還しといた。
そして、しばらく時間が経ち、プレシアさんの仮眠が終わり
仮眠室から出てくるのと同時に、スカさんの作業も終了した。

『それはいったい何がモデルなんだい?』

「謎の仮面」

俺がスカさんに頼んで新たに作ってもらった変身魔法、謎の仮面戦士。
身長もかなり高いし、仮面はスカさんの特別製でカメラ機能もついてるし
ちょっとくらいの衝撃じゃ傷一つつかない優れもの。

「姿は“ネコ”さんたちのパクリだけどね」

見た目はネコ姉妹が演じる謎の仮面の姿をしている。違いはカラーだけ。
頭髪は赤色、服も白と赤。なんとなく全体的に赤めにしてみた。
これだけそっくりな奴が戦闘に出ていたら、ネコ姉妹も俺に接触してくるだろう。
有無を言わさず拉致される可能性もあるが、ナズナは近くで警備さしてある。
この仮面には発信機もついてる。一応の備えも万全なはずだ。


「あなたがこの狼の代役を務めるわけね」

『確かに守護騎士たちを観察できるいい手段だ。だけど戦いの間、私はあんまりサポートできないよ』

「逃げ切ってみせる…多分」

今回の作戦はシンプル。
俺がザフィーラの役目をするだけ。つまり、アルフのお相手をする。
そこで多分ネコ姉妹が俺たちに干渉してきてくれれば御の字

「大丈夫ですマスター。まだ時間は少し残っています。私が特訓の手伝いをします」

「えっ、特訓するの」

「もちろんです。さあ一緒に」

「…お手柔らかに」





おまけ


出番がないアリシアちゃんのザフィーラ会合編

「うわ~」

共同研究室のザフィーラ保管室にのんきなこの部屋に似合わない声が響いた。

「アリシア、近づいちゃ危ないのもあるから気をつけて」

「わかってるよ! 母さん」

やってきたのはさっきまでおばちゃんとお手玉で遊んでいたアリシアだった。
アリシアは、あんまりここには近づかない、というよりプレシアさんが近づかせない。
危ない薬品や、危険な物を扱うのでお転婆なアリシアには危険だからだ。

「ならいいけど…本当に気をつけて」

「うん! でも本当にこのワンちゃん大きいね~」

『ああ。多分犬じゃないと思うけどね』

アリシアはプレシアさんの忠告を聞き流し、ザフィーラに目を向けている。
今思い出したけど、ザフィーラと幼女の組み合わせってstsでやるよな。

「背中に乗れそうだね~」

「危ないから却下よ」

「ワンちゃん可愛いな~」

相変わらずプレシアさんの忠告を左から右に流しスルーするアリシア。
昨日帰ってこなくて一緒に寝なかったことがおかんむりのようだ。

「…アリシア、犬が欲しいの?」

「う~ん、ワンちゃんがいたらかぁ…」



~~~アリシア・タイム~~~



「拾ってきて! ポチ!」

--ワンワン

「よしよしいい子いい子。ポチはいい子だね」

--ハッハッハッ!

「おやつが欲しいの? ならもう一回! とっておいで~!」

--ワンッ!

「お~、今回は一段と早かったね!」

--ヘッヘッヘッ

「そんなにおやつが欲しかったの? なら母さんが用意してくれてるはずだから、家に行っておいで」
 
--ワゥン!

「もうあんなに走っていちゃった。…あっ、棒役お疲れ嵐」



~~~アリシア・タイム終了~~~



「欲しいかも!」

「なんか知らんが寒気がしたんで却下」

何を考えていたのは聞きたくもないが、考えているときの俺を見る目が
いつものアリシアじゃなかった。










<あとがき>
よし、今日更新できた!
さて難しい具合に原作に介入しなくてはいけなくなりましたね。今回も嵐は変身して行動します。
Asでやっと嵐が表舞台に登場します! 謎の仮面扱いですが…
みんなからヒロインや使い魔や部下など言われ続けとうとう初陣!
見事に嵐は任務を果たせるのか!?
では!また次回!!



[6935] 第30話「当たらなければどうということはない(誰か助けて…)」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 17:31
「本番前みたいで緊張するわ…」

『確かに本番前みたいなものだがね…』

「練習はバッチリです。頑張ってください」

「ビビって失敗したらどうしよう…」



第30話「当たらなければどうということはない(誰か助けて…)」



『まだそんなに心配しているのかい? 大丈夫だ、君はやれば出来る子だって信じてるよ』

「どこのお母さん!?」

外に出るのが寒くていやになってきた12月
世間はクリスマス真っ只中だ。どこに行ってもケーキやプレゼントやといっぱい。
そんなみんなが楽しむイベントに、俺は一人汗をかき緊張していた。

「大丈夫ですマスター。特訓の成果を見せてください」

「そうだよ嵐! 大丈夫大丈夫!!」

「特訓ってせいぜい2・3日しかしてないじゃん…」

この計画が決まったあと、ナズナといつもより少し濃い訓練をしてもらったが
残念なことに時間はそんなになかった。

「スカさん、いざって時は、頼んだよ」

『それは難しい、君一人で頑張ってくれ』

「嘘でもいいから任せてくれって言ってくれよ」

『自分に正直でね』

やばいなぁ…本気で緊張してきた。何となくお腹痛いような気がする…
やっぱりナズナに頼んどけばよかったかなぁ…

「マスター」

「んっ?」

ナズナがこっちに呼びかけてきたので振り向いてみると
ナズナは、背伸びをしてこっちに手を伸ばしてきていた。…何してんだ?

「か…」

「か?」

「屈んでください」

背伸びをやめて、顔を真っ赤にしてナズナは下を向いてしまった。
何だかかなり罪悪感に狩られ、急いで体を屈ませた。
俺が屈んだのを確認するとナズナは一つ咳払いをして俺の頭を撫でた。

「大丈夫です。絶対に」

「ナズナ…」

全然根拠のない大丈夫なんだが、ナズナに優しくなでられてると
本当に大丈夫に思えてくる。これが主人公補正か…

「そうだな。ナズナがそう言うなら大丈夫だろ」

『大丈夫だよ。君の態度もあの魔法で何とかなる』

「本当に頼むよスカさん」

「せいぜい頑張ってきなさい」

「帰ってきたら、ねこじゃらしで遊んであげるね!」

「じゃあ、いってきます」

俺は結界の発生地点に急いだ。
自分にある魔法をかけて。





sideヴィータ

「シグナム!」

ザフィーラが誘拐されてから数日。
あたしたちはザフィーラを捜索しつつ、魔力を蒐集していた。
そんな中見つけたのが、この白い魔導師。こいつを見つけたときは驚いた。
あたしが気絶させられていたときに唯一覚えている記憶だったから
早々にぶっ飛ばして、話を聞こうと思ったら厄介な連中が出てきやがった。
そいつらに手こずっているときにやってきたのがシグナムだった。

「どうしたヴィータ、油断でもしたか?」

くそっ、いちいちこいつは痛いとこを…

「うるせーよ!こっから逆転するとこだったんだ!」

別にシグナムが来なくたって、あたし一人で片付けれたんだ!

「そうか、それは邪魔したな、すまなかった。」

シグナムはそう言うとあたしの拘束を解いてくれた。

「だがあんまり無茶はするな。お前が怪我でもしたら我らが主は心配する」

「…わかってる」

ザフィーラが修行しに居なくなったとはやてに話すとはやては
しかたないと笑っていたけれど、顔は笑ってなかった。
あたしたちのことで何かあるとはやては絶対に心配する。
そんな余計な心配をはやてにさせるわけにはいかない。

「お前らーー!!」

シグナムと話しているとき、赤い耳を生やした
どことなくザフィーラに似ている守護獣がシグナムに攻撃を仕掛けてきてた。

「シグナム!後ろだ!」

「くらっ、グアッ!?」

シグナムがすぐに後ろを向きガードしようとしたが無駄に終わった。
守護獣はいきなり現れた、仮面をつけた魔導師にぶっ飛ばされたから。
守護獣が遠くに行くのを確認すると仮面は、ゆっくりとこっちを向いてきた。

「貴様!何者だ!」

「君たちの味方、と言えばいいか」

「ふざけんな!てめーなんて知らねえし知りたくもねえ!」

仮面は芝居がかった動きで呆れた動きをする。
それがひどく癇に障る。なんだよこいつ、アイゼンの頑固な汚れにしてやるか。

「そうだな、こういえば言いかな? 君たちの主の味方だと」

「っ!? どういう意味だ」

「足が悪い主を助けたいんだろう?俺も協力してやろうと言ってるんだ」

こいつはやてのこと知ってる!?

「…いいだろう」

「シグナム!?」

何でこんな怪しい奴なんかの手を借りるんだ!

「落ち着けヴィータ。お前は私たちと敵対するつもりはないんだろう」

「ああ。君たちが俺に手を出してこなければね」

「ならば協力してもらおう。あの守護獣をお前が相手をしてくれ」

「構わんよ」

そう答えると、仮面は、あの守護獣に向かっていった。

「シグナム…何であんな奴を」

「…ザフィーラがいない時点で我らは数で負けている。それを防ぐためだ」

「けど…」

確かにザフィーラがいないからこっちは2であっちは3だけど
それだからって…

「案ずるなヴィータ。奴に不審な動きがあれば、私が切る。それに奴自身魔力量は私たちに遠く及ばない」

「…わかった」

納得いかないけど、今はしかたない。
まずはこの状況を何とかするのが先だ。考えるのは後にしよう。





sideアルフ


あの魔導師たちを攻撃しようとした時に現れた変な魔導師。
最初はあいつらの仲間かと思ったんだけど、
何だか様子がおかしかった。魔導師の一人にデバイスを突きつけられてたし、仲間じゃないのか?

「あんた、何者だい」

「何、ただの道化ですよ」

「そうかい! だったら道化は道化らしく踊っときな!」

あたしの問いに答えるつもりはないらしい。
そうとわかれば、こいつを即効で倒してフェイトの援護に向かおう。
話はクロノに任せておけばいい。

「ふっ」

「っ何!?」

一撃で倒せると思っていた相手だったが、そいつはあたしの蹴りを
きれいにかわした。まるでわかってたかのように。

「猪突猛進はいけませんよ」

「お前…」

そいつは余裕の態度を崩さないであたしに向かって手招きまでしてきた。
こいつ、遊んでいるのか!

「どうかしたか?」

「うるさい! 消えろ!!」

連打で拳を繰り出すが、こいつは表情はわからないが
余裕の雰囲気であたしの攻撃をかわし、当たりそうな攻撃はバリアで防いでる。
なのにあたしに隙が出来たときには攻撃してこない。
舐めやがって!

「ボッコボコにしてやる!」

「お手柔らかに」

絶対に捕まえて殴る! 絶対殴る!





sideout

「くそっ! 当たれよ」

「当たりませんよ(死ぬ! もうちょっと手加減プリーズ!)」

シグナムたちとの会合を済ませ、メインディッシュのアルフの相手
互角に戦えるかなと思ってたけど、かわすのが精一杯。

「うらうらうら!」

「残念(当たる当たる当たる!)」

アルフの顔の形相が怖すぎておしっこ漏らしそう。
もうかなりビビってるんだけど、俺の口から出る言葉はまるでビビってるように聞こえない。
振る舞いも全くビビリを感じさせず、寧ろ余裕を感じさせるだろう。
これがスカさんの新魔法、“キングパーソナリティ”

「ちっくしょお!」

「甘いな(ブレイク! ちょいブレイクしよう)」

この魔法の効果は体が強化されるとか、そういう効果はないが、そのかわり態度がでかくなってしまうのだ。
つまり偉そうになる。今、俺の顔は汗でぬれぬれだが、表情はどことなく偉そうなはずだし
弱気な言葉を出すと、自動的に偉そうな言葉に変換されてしまう。
実際なんだか強そうになった気分だ。気のせいだが

「ちっ」

アルフは姿を狼に変え、休みなく俺に攻撃を加えてくる。
しかし、動きが鈍い。多分俺と戦いながら結界の破壊方法を考えているんだろう。
攻撃もしてみたいんだけど、全然攻撃が出来ません。
ここで攻撃を弾きつつ、一撃を繰り出したらかっこいいんだが現実そこまで甘くない。

「どうしました? その程度ですか(そろそろ疲れたし、終わりましょ? ねっ?)」

「まだまだ!」

「いいでしょう(やだって言ってるだろ!)」

明らかに意思と違う動きをする口に苛立ちを感じながら
向かってくるアルフの攻撃をかわすことに専念しようとした瞬間――

「この魔力の動きは…!?」

「っ! なのは!!」

魔力の集束を感じた。
それもちょっとやそっとじゃない。かなりの大技だ。

「あれは…」

ビルの上に巨大な魔法陣が見える。なのはがスターライト・ブレイカーを放つ前の状態。
つまり、俺にとってはこの戦いの終わりの祝砲ってわけだ

「なのはに手は出させないよ!」

「げふっ!」

やっと終われるとよろこび油断してしまった。
アルフにきれいに頭突きをもらい、ビルに叩きつけられる。

「いつつ…」

『そろそろ終わりだね』

「スカさん、データはどう?」

『半分以上は集まったよ』

スカさんはこの結界内に入った途端、シグナムの戦闘を見るといって
喋らなくなったしまったが、今喋りかけてきたってことは、本当に終わりってことか。

「潔く引きますか、ナズナ聞こえるか?」

≪はい、聞こえます≫

「帰還するから、手当てお願い」

≪はい≫

念話を切り、意識をアルフに向ける。
アルフは俺が出てくるのを待っていたかのように構えていた。

「やっぱり無事だったね。さあかかってきな! ここは通さないよ」

「いや、もういい」

「はあ?」

アルフの疑問の声が上る前に、強い揺れがビルに起こった。

『結界破壊確認。多重転移発動』

「あっ!待て!」

聞く耳持ちません。










おまけ


「ただいま」

「おかえりなさいマスター。すぐに傷の手当てを」

多重転移をした後、公園からゆっくり歩いて帰ってきた。
玄関でナズナが待っていたということは、ずっと待たしていたんだろうか?

「もしかして待っていたのか?」

「いえ、私も今帰ってきたとこです」

「そうか、ならいい」

ナズナには、結界の外で待っておいてもらったので
もし俺より早く帰ってきたとしても5分くらいだな。

「嵐! おかえり!!」

「中々がんばったみたいね。見直したわ」

「当たり前のことを言わないで欲しいな」

あんなこともうやりたくないけど、最低あと1回はしなくちゃならんな。
しかも次は、ネコ姉妹が関わってくるはず。

「同じネコ同士、仲良くしたいものだな」

「嵐、偉そうだよ」

「アリシア、そういう効果なのよ」

「マスター、ワイルドです」

『なんだか見てるとイライラしてくるね』

作ったあんたが言うなよスカさん。
いい加減この魔法の効果切れないかな…










<あとがき>
As原作突入!
そろそろ原作に深く関わってきますね。
ヴィータたちは、はやてにザッフィーは修行の旅に出たと言い訳してます。
まあザッフィーだしね。別にいなくてもそうかわらないよ! (原作的な意味で)
アルフさんは鈴木に余裕があったと思ってますが、鈴木的には。いっぱいいっぱいです。
なんだかややこしい誤解をされています。
では!また次回!!










おまけ2


魔法紹介
キングパーソナリティ(King Personality)
使用者:現実回帰組
未来の魔法研究者が、付き合っていた(思い込み)女の子に性格がうざいと言われてふられた悲しみで
自分の性格が変われば、彼女も戻ってきてくれると無駄な希望で出来た魔法。
性格が劇的に変化するが、変わりすぎてもはや別人。



[6935] 第31話「それぞれの動き」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 17:36
「ナズナ、出かける準備してくれ」

「はい」

『どこに行くんだい?』

「図書館近く」



第31話「それぞれの動き」



sideD-スカリエッティ


嵐があの使い魔と戦闘をしてから一日が経過した。
私とプレシアは、昨日の私が計測したデータを使い、さらに研究を進めていた。

「へえ…」

『どうしたんだいプレシア』

「この剣型のデバイスを使っている…烈火の将だったかしら? 3体の中でも中々な者ね」

『確かに、一番バランスがとれている』

プレシアが着任した点は、烈火の将、シグナムだった。
私から見ても戦闘力はヴォルケンリッターの中でもトップだろう。
まだ湖の騎士を見ていないが、嵐の話ではサポート系と言っていた。
戦闘力はヴォルケンリッターの中では低いはずだろう。

『だからこの烈火の将のデータを多めに集めたんだ』

「この狼からのデータも粗方採取したわ。闇の書の復元率57%ってとこね」

57%か…、彼が聞いたら微妙だと怒るだろう。

『なら彼に怒られないように、作業を開始しようかね』

「ふふ、そうね」

プレシアは奥のテーブルに置いてあるデータ表を取り、作業を始めた。
私も人形を操作し、指定の席に座り作業を開始した。

「そういえばあの子達はどこにいったのかしら」

『図書館周辺を散歩してくると言っていたよ』

デートと言うわけじゃないだろう。ナズナはそう思っているかもしれないが…
彼のことだ、一応の保険をかけに行くんだろう。

「そう、ならいいわ。のど渇いたわね」

『そうかい?おばちゃん!紅茶を持ってきてくれ』





sideアリサ・バニングス


なのはの新しい友達、フェイト・テスタロッサ。
ビデオレターで何度も見ていた子があたしの目の前にいる。
そしてあたしの友達の大事な妹。
今日、なのはの家の近所のマンションに引っ越してくるって話を聞いて
すずかと一緒にマンションに遊びに行った。
それで話が進むうちになのはのお母さんに挨拶をするって話になり
今、翠屋でみんなで食事をとることになり、今に至る。

「アリサちゃん? どうかしたの」

「えっ!? な、何でもないわよすずか」

「そう?」

危ない危ない、顔に出ていたみたいだ。気をつけないと。
すずかやなのはたちにはアリシアについて話していない。
だってこの話を一番初めに聞くのは、アリシアの妹のフェイトだって思ったから。
だけど、このまま考えていてもしかたない!行くのよアリサ・バニングス!

「フェイト!」

「ひゃい!?」

「ちょっと来てくれるくれるかしら」

「えっ?」

「いいから!」

あたしはフェイトの手を掴み強引になのはたちから離れていった。



「すずかちゃん、アリサちゃんどうしたの?」

「わからないよ…ここに来る前から何か思いつめてたみたい」

「フェイトちゃんとなんかあったのかな?」

「けど会うのは今日が初めてのはずだよ」

「「う~ん…」」





「ア、アリサ? 何か私しちゃったかな?」

「…単刀直入に言うわ。フェイト、姉か妹いるかしら」

なのはたちから離れた場所でフェイトと向き合い話を出す
すると、フェイトは何かに怯えるような表情になり、足元にいるオレンジの犬が睨んできた。

「…どうしてそんなことを?」

「いるの? いないの?」

この表情で姉などいないと言うならば、あまり思い出したくない思い出なのかもしれない。
アリシアの存在を思い出したくないのなら、このまま黙っていた方がいいと思った。
足元の犬の唸りが大きくなっていく。

「…た」

「……」

「…いたと…思う」

フェイトの答えはハッキリしないものだった。
ふざけているなら、ここで張り倒すんだけど、フェイトの表情は真剣そのものだった。

「そう…」

「うん…アリサは何で…」

「アリシアって知ってる?」

「っ!!??」

この名前を出した途端、フェイトの目がこれでもかとばかりに開かれ
足元の犬の唸りが止んだ。

「どうして…」

「あたしの友達なの。その子から頼まれたことがあってね」

「頼まれたこと…」

フェイトは段々と息遣いが荒くなってきていた。
顔を見てみれば、汗も流していた。

「この子にね」

あたしはポケットから携帯を取り出し、裏に張ってあるプリクラを見せた。
そこには、あたしと体が薄いアリシアが写っている。

「っ!!」

フェイトはそのプリクラを見た瞬間、膝から崩れ地面にお尻をついてしまった。
犬が駆け寄りフェイトの顔を舐めてる。慰めているんだろうか?

「フェイト、あんたは聞かなきゃいけない」

「……」

フェイトは顔を俯けている。

「あんたの姉さんは、あたしに伝言を頼んで消えてしまった」

「……消えた?」

消えたという言葉にフェイトは反応し、あたしに顔を向けた。

「その話はあとでするわ。今はまずアリシアの頼まれたことを済ます」

フェイトに近づき、視線を合わせるように体を屈ませる。
アリシアと一緒のきれいな赤い瞳があたしの目に映る。

「“フェイトの傍にいてあげられないけど、フェイトのことずっと応援してるよ”…だってさ」

「…えっ」

フェイトはあたしの発した言葉が理解できなかったのか
あたしと犬に確認するように視線を交差させる。

「それだけ? 恨み言とか言われてないの?」

恨み言って、あんたは一体どういう家庭環境だったのよ。
ていうか、恨み言いわれると思っていたのね

「言ってないわ。アリシアは消える直前まであんたのことを考えていた」

「……」

そう聞くとフェイトは、フッと空を見つめた。
いまいち言われた言葉が理解できていないのかもしれない。
けどその考えが間違っていることに気づいた。フェイトは泣いていた。
顔を上に向けているから流れないけど、目元には涙が溜まっている。

「……うぅ…う……っく…」

「えっ?ちょっとフェイト…」

この雰囲気は…まずい!?
フェイトに声をかけるのが間に合わす、フェイトはその場で泣いてしまった。
泣くのは構わないけど、声を出して泣かれると…

「フェイトちゃん!?」

「アリサちゃん! 何したの!?」

こういう誤解を受けてしまう。

「フェイトちゃん! 落ち着いて! どうして泣いてるの!?」

「ア~リ~サ~ちゃ~ん」

「違うわ! 誤解よ!! フェイト説明して!」

結局フェイトが泣き止むまで、悪者扱いだった…
恨むわよアリシア…





sideシグナム


「シグナム、あなたに接触してきた正体不明の魔導師がいたわよね」

街灯の明かりがよくわかるビルの上。
主はやてがお休みになられたのを確認してやってきたとき
屋上でシャマルに突然質問をされた。

「ああ、そいつがどうかしたか」

「シャマルもあいつが気に食わねえんだろ!」

「やめろヴィータ。シャマル続きを」

シャマルに飛び掛り服を引っ張っているヴィータを引き離す。
こいつは、こういうとこでまだまだ子供だ

「そこまで深刻なことじゃないんだけど…どうだった?」

「どうとは?」

「魔力的に見て」

「そうだな…」

あそこに来た魔導師の中で目を引いたのはテスタロッサだろう。
私の甲冑を打ち抜き攻撃を加えてきたのは驚嘆に値する。
というか正直な話を言うと…

「すまない。戦いを見ていないからどうにも言えん」

「シグナム! あなた戦いを見てなかったの!? てっきりあなたが見てくれてるのとばかり」

「すまない」

想像以上の強者が相手だったからか
久しぶりに血が騒ぎ、他のやつを構っている場合じゃなかったからな

「じゃあ、あの魔導師の実力はわからないってこと?」

「心配すんなよシャマル! いざって時はあたしがぶっ潰してやる!」

「頼りにしてるぞヴィータ」

ヴィータの言う通り心配は要らないだろう。
やつ一人向かってこようが、私一人で返り討ちに出来る。

「あやしいと思えば即座に切るさ」





sideクロノ・ハラオウン


「そう言えばクロノ君」

「何だエイミィ?」

「この人も、闇の書関連の人なのかな」

エイミィがモニターに写したのは、赤い姿の仮面魔導師だった。
アルフの話では、こいつらは仲間じゃないらしい。

「こいつか…」

「いかにもあやしい感じだよね」

見た目で判断するのはよくないと思うけど
確かにこの姿で、事件の現場に出てきたらあやしいだろう。

「わからない…けれど協力体制にあるのは間違いないだろう」

敵対しているのかはわからないけど
僕たちに協力して攻撃を仕掛けてきたということは、少なくとも戦いあう関係じゃないってことだ。

「こういうやつが一番なに考えているかわからないんだ」

「あれあれ? クロノ君どうしたのかな」

「前のプレシア・テスタロッサの事件の時にいたナズナという魔導師。あいつもいきなり現場に現れて、フラっといなくなってたろ。それと似た手口だ」

「そっか。確かまだナズナちゃん見つかったなかったね」

フェイトから聞いたナズナという魔導師は、まだジュエルシードを所持している。
フェイトやアルフは、そんなに悪い人じゃないと言っているけど、油断は出来ない。
いつ爆発するかわからないものを持っている犯罪者なんて危険極まりない。
その件も片付いてないのに、またこんな厄介なやつらがでてくるなんて…

「くそっ! どいつもこいつも」

「怒らない怒らない」





sideout


「成果なし。ターゲット確認ならずと」

「残念です」

図書館の周りをうろついてみたんだがお目当ての相手は来なかった。
確か毎日ここの道を通るはずなんだが…運悪かったか?
図書館には毎日来ている思ったんだけどな…。時間は知らないから何とも言えないな…

「保険をかけときたかったんだけどな」

「ターゲットが見つからなければ不可能です」

時刻は夕方、もう今日は待ってもこないな。
しかたない。後日改めてくるか。シャマルとかに会っても困るし

「じゃあ、帰ろうか」

「はい…あっ!」

「どうした?」

ナズナが立ち止まり声をあげた。
滅多に声を大きくしないナズナが大きくするなんて何事?敵襲?

「今日はトイレットペーパーが安い日です!」

「…うん?」

今なんて言ったのかな?聞こえなかったよ

「マスター急ぎましょう!売切れてしまいます」

「あ、え、うん、了解」

呆然としながら走っていくナズナを後ろから追いかけた。
だが、急いだにもかかわらずトイレットペーパーは売り切れてた。
金はあるんだから、別に高くてもいいんじゃないかとナズナに聞いてみると

「安いほうがいいに決まってるじゃないですか」

と言われてしまった。
どうやらおばちゃんと買い物に行かせてたのが悪かったらしい。
いや、安いことはいいことだけどさ…










<あとがき>
アリサたちの誤解が半端じゃないレベルまで発展してしまった…
アリシア生きているのに幽霊扱い…別に構わんが
クロノの評価がさりげなく正しいですね。似た手口というか、同一犯だしね。
そしてシグナムたちの評価ひどすぎる。まあ確かに相手にならないけどね!
では!また次回!!



[6935] 第32話「仮面って結構息苦しい」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 17:40
「さて! 二回戦の始まりってとこだな」

「嵐、最近テンション高いね!」

「凛々しいです」

『単に自分が活躍しているのがうれしくてたまらないだけだと思うよ』



第32話「仮面って結構息苦しい」



sideヴィータ


「くそっ! 囲まれた」

はやてのところに帰ろうと思い、いつもの通路を
飛んでいるとき、突然強力な結界が張られたかと思うと、あたしの周りを
管理局の魔導師が囲みやがった。

「てめーらにやられるほど、ベルカの騎士は甘くねえぞ!」

囲まれたときは焦ったけど、よく見てみると
こいつら全員たいしたことのないやつばかり。力押しで行こうと考えたとき
全員が一斉に後ろに引いた。

「…?」

その動きに不信感を感じた瞬間、あたしのさらに上空から声が聞こえた。

「まさかっ!?」

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト」

敵の狙いに気づいたときには、無数の魔力の刃が
あたしを貫こうとしているのが目に入った。

「やばっ…!?」

回避をしようと思ったとき、頭に激痛が走りその場から動けなくなる。
…頭が痛い。胸が熱い…なんでだ…
この状況…前にどこかで…白い…白い魔導師

「ブラ……ィ……ション」

激痛と戦っているあたしの耳にどこかで聞いたことのある声が聞こえた。





sideout


2回目の決戦の日。
今日は手を貸さないで様子を見ておこうと思って二人で、結界が張られる前に
魔力反応遮断結界を結界内に張り待機していたんだが
クロノのスティンガーブレイド・エクスキューションシフトが結構きれいにヴィータに
当たりそうなのを見て、焦って戦いの場に飛び出してしまった。
そしてヴィータは、何か考えているのか頭に手を当てていた。せめて回避行動とかはとれよ。

「ブラッティ・プロテクション」

ブラッティ・プロテクションを上空に展開。
ヴィータを庇うように背中に隠す。轟音と爆音が響く。その音と同時に左足に痛みを感じた。
視線を足に向けてみると、防ぎそこなったのか、一本刺さってた。

「お、お前…」

ヴィータは俺の姿を見て唖然としている。
なんせ背中に青い魔力の刃が8本刺さっているのだから当たり前だろう

「お前、大丈夫なのかよ!」

「ああ…(背中はそんなに痛くないけど、左足が痛いです)」

ヴィータは敵とは言え、自分を庇ったくれた相手を心配してしまってる。
一応、仲間とは思ってないので、無事を確認すると、また興味なさげにクロノの方向を見た。
俺的には、もうすこし心配して欲しいんだが。

≪成功おめでとう≫

≪難しいから、多用できない技だけどな≫

スカさんの念話からの激励。ちょっぴりうれしいじゃないか…
今回使用した魔法はブラッティ・プロテクションと、それの応用。
バリアジャケットの下に、血を纏い、防御力を底上げする魔法だ
量加減など細かい操作が必要でなかなか使いにくい。今もミスって背中の中の2本は見事に刺さってる。

「この魔力反応は…」

ヴィータと一時的に背中合わせになっていたが
突然ヴィータが何かに気づいたのか、後ろを振り返った。
そこには二人の少女、なのはとフェイトがバリアジャケットを纏い立っていた。デバイスも新しい。

「あいつらのデバイス…あれってまさか!?」

ヴィータもデバイスが強化されていることに気づいたようだ。
そう言えばここから、ヴィータって結局なのはに一度も勝ってないような覚えが…





side八神 はやて


「あれ~、おかしいな?」

「どうしちゃたんだろ?」

今日はすずかちゃんが家に来てくれたんやけど
みんな用事で忙しかったみたいで、家にはあたし一人しかいなくて
そしたらすずかちゃんが家に招待してくれることになって、行っとう途中で少し困ったことが起きた。

「どこか壊れちゃったのかな?」

「おかしいな~、この前点検出したばっかやのに…」

すずかちゃんの家に行く途中で車椅子が動かなくなってしもうた。
道の真ん中で動かなくなってしもうたから、道を歩いてる皆さんに迷惑をかけてた。

「ごめんなぁすずかちゃん。迷惑かけてばっかで…」

「そんな! はやてちゃんのせいじゃないんだし、気にしないで」

「ありがとうな」

「気にしないで。そうだ! 私来るときは、車で送ってもらったんだ。だからお姉ちゃんに電話して車で迎えに来てもらうよ」

「何か悪いな」

すずかちゃんは笑顔であたしの手を握り励ましてくれている。
不覚にも涙が出そうになった。いけないいけない、友達の前で泣くなんて余計迷惑をかけてしまう。

「あれ、電波が悪い? ごめん、ちょっと待ってて」

すずかちゃんは携帯を上に掲げながら、道をうろうろし始めた。
うろうろしている内に、角を曲がっていき、そこでようやく電話がかかったのか話し声が聞こえてきた。

「何から何まで、ほんまに悪いわ」

友達に迷惑をかけてしまったことに、気分がブルーになっているとき
後ろから、女の人の声が聞こえてきた。

「どうかしたのかしら」

車椅子が動かないから、顔だけで後ろを見るとえらい別嬪さんがおった。
顔は周りが暗いのと、サングラスをかけてるのでよく見えなかったけど
黒い長髪をなびかせ、まるでお話に出てくる貴族のようなオーラを感じた。
そしておっぱいも大きかった。

「あっ、すみません。ちょっと車椅子が動かんようなってしもうて」

「車椅子? ちょっと見せてくれるかしら」

「ええですよ」

あたしがそう答えると、女の人は車椅子の車輪の部分を触りながら何かを考える表情になった。
ちょっと雰囲気が変わって、優しいイメージから厳しいイメージになった。

「あの…」

「……」

女の人は相変わらず車椅子の車輪を触り続けている。
少し気になって話しかけてみても、まるで反応がない。ちょっと怖い

「ええと…」

「……これでいいわ…」

もう一度勇気を振り絞って、声をかけてみようと思った途端
女の人はスクっと立ち上がり、あたしの方を向いてきた。

「な、何か…」

「あなたの車椅子、多分動くわよ」

「へっ?ほんまに?」

女の人を信じてレバーを動かしてみると、確かに車椅子は動いた。
さっきまで動かなかったのが嘘みたいだ。

「あ、ありがとうございます…ってあれ?」

女の人にお礼を言おうと思って振り向いてみると女の人はいなかった。
まるで初めからそこに誰もいなかったかのように

「はやてちゃーん! お姉ちゃんすぐに迎えに来てくれるって!」

すずかちゃんが走ってこっちに向かってきてた。

「すずかちゃん! 車椅子動くようになったで!」

「えっ本当!?」

すずかちゃんに証明するために、車椅子ですずかちゃんに駆け寄る。
すずかちゃんは、さっきまで動かなかったのが、動いたからか驚いた顔になった。

「すごーい。はやてちゃんどうやったの?」

「それやねんけどすずかちゃん、そっちに誰か歩いて行かんかった?」

「? 誰も来てないよ」

「そっか…」

なら一体あの女の人はどっちに行ったんだろう…
来た道を引き返して行ったんだろうか?










「母さんおかえり!」

「ただいまアリシア」





sideout


「あんたも戦えぇ~」

「お前と戦うのが目的ではない。足止めが目的だ(痛いのだめ!絶対!)」

戦いの幕が上って、俺は即刻でアルフの動きを封じた。
突っ込んでくる前にアルフにドクターストップを体に突き刺して。

「さっきから何回同じこと繰り返したるんだい!」

「少し黙れ(静かにしてください)」

5秒に一回は新たに作ったドクターストップをかけている。
かなり低コストで作っているので効果が短いが、作るのは早い。それを繰り返している。

「殴らせろ~」

「殴れたらな(動くなよ! お願い!)」

作業を続けながら、他の戦いを見てみるが、フェイトの戦いにはそう差は見られないが
なのはとヴィータ。この二人、いや、ヴィータが異常になのはを警戒している。
なのはの一つ一つの動作に目を鋭くさせる。…記憶改変してんだよな?

「…考えていてもしかたないな」

そう思った矢先、空に黒い魔導師が跳んでいるのが見えた。
俺は最後に特大サイズのドクターストップをアルフに突き刺しそれを追った。

「戦っていけーーー!!!」





「使用して減ったページはまた増やせばいい…仲間がやられてからじゃ遅かろう」

クロノを見つけた時、もう謎の仮面2は現れていた。
クロノはここに現れた俺とこいつを仲間と勘違いしたのか俺たちを交互に見ている。

「…貴様は…」

アリアかロッテか、どっちかはわからないが、俺の姿を確認すると
少し驚いた声になった。

「詮索はあとにしようか、猫姉妹(今は見逃してくれ)」

「っ!?」

近くにいるシャマルにも、聞こえないような小さな声で伝えると相手は
自分の正体が知られているの驚いたのか、少し焦りを感じた。

「…いいだろう」

「何者だ! こいつの仲間か!?」

何とか穏便に済ませたと思ったら、今度はクロノが噛み付いてきた。
どうやらクロノはシグナムたちの仲間という確立よりも、同じ姿の俺の仲間と思っているようだった。
ここで俺がやりあう必要はないので、ビルから飛び降り魔力遮断結界内に逃げ込んだ。
アースラでは、俺の反応が突然消えたように見えたはずだろう。





「お疲れ様です。マスター」

「ああ」

今日も多く血液消費したからか疲れた…。スカさんに秘密兵器使ってもらうか…
それと昨日発見したんだが、キングパーソナリティは、猫形態でいると発動しないようだ。
だから、キャットフォームに変化しナズナの頭でへたれていたら
結界内に異変が起きた。

「これは…」

『結界を破壊しようとしてるみたいだね』

結界内は黒い闇が溢れている。
そろそろスカさん特性の防御結界を張ろうとしたとき、それは起こった。

「マスター、あれを」

ナズナが突然指差したとこには、フェイトがいた。なぜか膝をついている。

「…えっ?」

なんでフェイトここにいるの?アルフとユーノががんばるとこだろ?えっ?

『シグナムとの戦いが予想以上にきつかったんだろう。それにあの子の使い魔は君を追ってたんだから、あの執務官の近くにいるよ。今、高町なのはと共にここに向かってきてるが、間に合わないだろうね』

俺のせい!?

「ここで脱落ですか…お気の毒ですね」

「和んでる場合じゃない!」

ここでフェイトが脱落すると、フェイトが前線に出てこなくなるだろ!
そうしたら、次の戦いでリンカーコアが抜かれないだろ!

「ナズナ! 行ってくれ」

「…………はい」

俺の頼みにしぶしぶながらナズナはフェイトの元に飛んでくれた。
フェイトは突然現れた、俺とナズナに驚いてる。

「えっ!? あれ!?」

フェイトが混乱しているうちに防御結界作動。俺たちを黒い雷から守る。
その攻撃が止み、ようやく会話が出来る状況になったとき改めてフェイトが驚いた。

「ナズナ!? どうしてここに」

「俺から説明しようそれは…」

俺が嘘八百を述べようと考えたときちょっと厄介なことが起きた。

「っく!?」

ナズナが青いバインドで縛られてしまったのだ。

「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情はあとで聞こう」

お前マジKY










おまけ


アリシアのことを話された管理局の反応


sideクロノ・ハラオウン


「…その話は本当なのかい」

「うん、アリサから写真も見せてもらったんだ」

フェイトから聞いた話はにわかには信じられない話だった。
あの時の庭園で見たアリシアヲなのはの友達が見たといってきたらしい。
それに伝言まで頼まれて、普通は信じられない。けれど…

「クロノ君。この写真には、確かにアリシアちゃん写ってるよ」

「ああ、これがなければ信じないところだが…」

フェイトに渡されたこの小さな写真。
これに確かにフェイトとそっくりな人物が写っている。

「本当にフェイトさんにそっくりね」

「あたしも驚いちまったよ。なのはから聞いた…幽霊だっけ? この世界にはそんな存在もいるんだねぇ」

この第97管理外世界「地球」には、幽霊という架空の存在があるというのは知っている。
だけど、それが本当にいるかどうかは定かではない。

「フェイトちゃん嬉しそうですね」

「そうね、アリサさんの伝言では、応援してくれてるって言ってくれてたらしいから、嬉しいんだと思うわ」

この話をしてからフェイトはご機嫌だ。
あの時自分がした行動がオリジナル…いや、姉が非難していないということを
知っただけでも気が楽になったんだろう。
だからと言って…

「まったく、幽霊なんて非科学的な…」

「あれあれあれぇ~?怖いのかなクロノ君」

「ち、違う!ただ僕は、そういう非科学的な物は信じないんだ!」

「はいはい、そういうことにしときますよ~」

「信じてないなエイミィ!!」





「へくちっ!」

「ア、アリシア!? どうかしたの!風邪!?」

「違うよ、喉に何か詰まった感じがしたから、くしゃみしただけだよ」

「そう、ならよかったわ。体に異変があったらすぐに母さんに言うのよ」

「わかってるよ」

「……あの、お二人さん…」

「何かしら?」

「顔中米粒だらけになっている俺になにかかける言葉は…」

「アリシアの口から出た米を顔中につけるなんて…嵐、あなたやるわね…」

「おい、誰かこの人病院連れてってくれ」










<あとがき>
仮面が二人になりました。最終的にジェットストリームアタックを繰り出せる人数になりますね。
嵐の希望通りネコ同士仲良くできるのか!?
そして時空管理局に捕まった主人公(ナズナ)と使い魔(嵐)の運命は!?
では!また次回!!



[6935] 第33話「おめでとう! 猫は空気から使い魔に進化した!」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 17:47
「離せ! 俺たちを解放しろ!」

≪すみませんマスター、油断してました≫

「俺たちにこんなことをしてただで済むと思うなよ」

「なのは、フェイト、とりあえず集まってくれ」

「話し聞け!」

≪ていうか君、拘束されてないよね≫

せめて俺を拘束してくれよ!空気扱いするな!!



第33話「おめでとう!猫は空気から使い魔に進化した!」



俺たち(ナズナ)を拘束し、クロノは場所を移動しビルの上に集まった。
そこには、なんだか複雑そうな表情のフェイトとアルフ。
そして、ナズナと初めてゆっくり向かい合ったなのはとユーノがいた。
かなり空気が重い…
そして、当たり前のように俺のことは全員スルー。アルフだけが俺のことを見ている。惚れてしまいそうだ。

「ナズナ…、どうしてここに」

フェイトが意を決してナズナに話しかけるが、ナズナはうんともすんとも言わない。
これに、腹が立ったのかクロノは眼光を鋭くさせ話しかけてきた。

「君はなぜここにいた?どうやって結界に侵入してきた」

「……」

クロノの怒声にも全く反応しない。さすがナズナ。俺とは違うぜ。

「答えろ!」

ナズナはあさっての方向を向いて聞きもしない。
フェイトとなのはは、そのナズナの態度にオロオロとし、クロノはイライラしていた。

「待ってクロノ! この使い魔に聞いてみたらどうかな? 僕たちが初めて会ったときも、この子が喋ってたんだ。もしかしたら言語能力をサポートする使い魔なのかもしれない」

「確かにこいつはお喋りだからね。ナズナより喋ると思うよ」

っ!?ユーノ! お前たちは俺のことを認識してくれているのか!?
お前らの主のなのはとフェイトなんて、ユーノが俺のこと指名したとき
こんなやついたっけ? って表情したのに!

「…主を助けたいだろう? 君が代弁するのかい?」

「…わかった」

ラッキー! ナズナを喋らせなくて済んだ!
ありがとうアルフ!ありがとうユーノ! もう淫獣なんて呼ばないよ!

≪ナズナ、スカさん、出来るだけ長引かせるから何とかしてみてくれ≫

≪ああ、わかった≫

≪……≫

ナズナから返事がないってことは、もう作業を始めてくれてるのか?
さすがナズナさん! 手が早いッス!!

「君の主は何故言葉を話さないんだ」

「ナズナは本来会話は苦手だから、俺が喋るようにしているんだ」

「なるほど…、戦闘をメインに作られた使い魔じゃなかったのか」

今このときだけ、自分が使い魔って誤解されててよかったと思った。
なんだか釈然としないけど…
まあ構わないか。こうなったらナズナの使い魔でいいよ。某桃色アリサみたいに萌える主だからいいよ。

「それで、君たちはなぜここにいたんだ」

「強力な魔力の流れを感じたから、ここに来てみたんだ」

「ジュエルシードの時と言い、君たちは強大な魔力を集めているんですか」

惜しいな淫獣…じゃないユーノ。
残念ながら強大な魔力は、もうクリアしたから必要ないんだよね。
影が薄い気がする狼の代わりを演じに来ただけです。

「まあ似たようなものかな」

「どうやってここに来たんだ」

この質問のやり取りは、おそらくアースラかマンションに居る
リンディも見ているはず。めんどくさいことになった…

「それは、協力者のおかげだ。その人に頼み込んでね」

「その人物の名は」

「あまり詳しく知らないんだ。確か…Jと名乗っていたな」

スカリエッティですなんて言ったら、どうなっちまうかわかったもんじゃない。
ここは無難に偽名を使っとくべきだろう。

≪誰だい? そのダサい名前は≫

≪悪かったな。あんただよ≫

即席でいい名前なんて思いつかねえよ。
エターナル・マッド・スカリジェイとかじゃないだけマシだろ。

「…嘘をついてるわけじゃないんだろうな」

「信じるか信じないかはお前たち次第だ」

できれば信じて欲しいな。真実10%嘘90%だけど…

「あの! ナズナはどうして私を助けてくれたの!?」

フェイトさんそれ何回目だよ!
あなたをうまく利用するためです! って言えねえ!

「…さあな、主が勝手にしたことだ。俺にはわからねえ」

助けてってお願いしたのは俺ですけどね。まあ、ナズナもそこまでフェイトのことは嫌ってないみたいだし
そのかわり、なのはのことはかなり毛嫌いしてますが…

≪スカさん、どうよ? 行けそう?≫

≪うん? ああ、もう少しだよ≫

≪ナズナは?≫

≪……≫

あれ? ナズナから全然返事が返ってこない
そんなに集中しているのか?けど、スカさんは返事返してくれてるし…
いや、スカさんが不真面目なだけって可能性も…

「じゃあ、ジュエルシードは、どこにあるんだ」

「ジュエルシード? 知らないな」

「とぼけても無駄だ。お前たちが何個かジュエルシードを所持しているのは知っている」

…やばいな。これ以上は誤魔化せない。
かと言ってサラーブのことを話すわけにもいかない。

「知らないな。そんなの」

「これ以上話しても無駄みたいだな。あとは、アースラでじっくり聞こう」

クロノは、そう言うとバインドで縛ったナズナを転移魔法で一緒に連れて行こうとした。
俺は、正直ここまでかと半分諦め、目を閉じていた。だけど…

「なっ!」

クロノの叫び声が聞こえて目を開けてみると、クロノが蹴飛ばされ
ユーノを巻き込みすっ飛んでた。そして、赤い彗星カラーの仮面の魔導師がいた。
誰だこいつ!?このカラーは俺専用だったはず。リーゼロッテたちが化けているのか!?

「ふっ!」

ナズナが即座にバインドを弾き飛ばし、仮面に切りかかるが
俺とは違って、滑らかな動きで攻撃をかわした。

「お前! また来たのか!」

クロノ、それ俺じゃない。

「あんた! 今度は戦いに来たのかい!」

アルフ、それ俺じゃないってば。
そう思ったのもつかの間、俺はナズナの頭から飛ばされていた。いや、ナズナが飛んだ。
気づくと仮面はナズナの前に現れ、ボディーブローを決めていたのだ。

「ナズナ!」

フェイトが名前を呼ぶが俺はそれを見た瞬間地面に着地し
頭に血が上り、気づいたら仮面に飛び掛っていた。

「てめえ!!」

体を人間に戻し、拳を叩き込んでやろうと思ったが
一瞬で俺の前に現れ、キツイ一撃をお見舞いされた。幸い、顔を見られる事態は防げたが
その一撃を食らい、地面に叩きつけられた痛みと血の足らなさで俺の意識は途絶えた。





sideフェイト・テスタロッサ


クロノがナズナを連れて行こうとしたとき、正直嬉しかった。
ナズナだってきっと理由があってジュエルシードを集めていたと思うし、ここで捕まっても
私と一緒で魔導師を続けれると思ったから。
そう考えているとき、突然クロノが宙を舞い、ユーノに激突した。
接近に全然気づけなかった。すぐにクロノの飛んだ逆の方向を見てみるとさっき見た仮面の魔導師がいた。
その仮面の魔導師を認識した途端にまた一瞬で移動し、ナズナに一撃を決めていた。

「ナズナ!」

あのナズナが、こうも簡単にやられるなんて、信じられないけど
それだけこの魔導師が強いということだ。気づいたら、使い魔の猫もやられていた。

「お前、何が狙いだ」

クロノがS2Uを向けて問うが、相手はまるで気にしないかのようにナズナを担いだ。

「その子をどこに連れて行く!」

「…利用できるものは利用する」

その言葉が頭で理解できた瞬間、バルディッシュを振り下ろした。

「なっ!?」

振り下ろしたバルディッシュは、片手で受け止められていた。

「いくらフェイトが疲労しているとは言え、片手でなんて…」

別に片手で受け止められるのは初めてではない。クロノに一回やられている。
つまり、この仮面の魔導師はクロノレベルの魔導師ということだ。

「邪魔だ」

バルディッシュの柄を捕まれ、そのままビルに投げつけられる。

「フェイトちゃん!」

「だ、大丈夫」

少し効いたけど、まだ戦える。
だが、仮面の魔導師はビルとビルの間に逃げ込み、転移してしまった。

「エイミィ!」

『駄目だよクロノ君!あの人すごい速さで連続で転移していってて、追いきれないよ! ああっ! 反応消えた!』

「ナズナ…」

助けれなかった…




















sideout


「ありが…う…います」

「気…し…いで」

意識が戻って目が覚めたとき、俺はベッドで寝かされていた。
それもお俺のベッドだった。

「俺の部屋の天井だ…」

とりあえず体を起こすが、体も治療されている。どういう事だ?

「スカさん? これは…」

『おや? 目が覚めたのかい』

枕元に置いてあるスカさんに今の状況を尋ねてみることにした。

「スカさん、俺たちはどうなったんだ? 敵に捕まったんじゃないのか」

『何を言ってるんだい』

スカさんは大丈夫かこいつ的な声質で俺に答える。
えっ? 何か今の状況理解できてないの俺だけなのか?ナズナは?

「あっ! みんなー、嵐が起きてるよー」

ドアが開いたと思うと、ねこじゃらしを持ったアリシアが
俺の起きてる姿を見ると、突然廊下に向かって大声を出した。

「マスター、起きられましたか」

すぐに走っていたのがナズナだった。
足音が俺にも聞こえてくるくらい響いてた。

「あら、起きたの」

次にやってきたのは、プレシアさん。めんどくさそうに欠伸をしながらやってきた。

「えっと、どういう状況?」

俺は正体不明の俺と同じカラーの仮面魔導師に捕まり
人体実験でもされるのかと思ったいたんだが
明らかにそういう雰囲気じゃない。風邪をひいたクラスメートのお見舞い的な雰囲気だ。

「あなた、聞いてなかったの?」

「えっ? 何をですか」

「ドクターから聞いてると思ったんですが」

『あれ? 話してなかったかな。いやー申し訳ない』

何? 何なんだ。何を俺に話してくれてないんだ?

「マスター、あの時私はずっとプレシアさんに救援を求めていたんです」

ああ、あの返事を全くしてくれなかったときってそれか
てっきり、バインドを解こうとしているのかと思った。

「私がちょっと用事で外に出てたんだけど、用事が済んで家に帰っていたから、ナズナの連絡があってすぐに駆けつけたわ」

「ありがとうございます」

「構わないわよ」

じゃあ、あの異常なくらいの戦闘力を持った仮面はプレシアさんだったわけか
どうりであんなに強かったわけね。

「じゃあナズナ。あの攻撃も演技だったのか」

「はい。けど私は全力でいったつもりです」

「すごい演技力だな」

「ええ、おかげですぐに済んだわ」

じゃあ俺を気絶させるくらい高威力で殴るのは止めて欲しかった…
結構痛かったんだけど、割とマジで

『しかし君も男だね』

「えっ」

『ナズナが敵にやられた時の君の怒りようは凄かったよ』

「……」

「マ、マスター…」

『恥ずかしがることはない』

「スカさん、その話はもういいだろう」

わざわざ掘り出すなよ! 微妙に恥ずかしいだろ!

『まあ、何とか管理局からうまく逃げれたんだから、全て水に流そうじゃないか』

「元はといえばスカさんが俺に伝えてくれればよかったんだけど」





「どのくらい寝てた?」

俺たちは場所をサラーブの会議室に移していた。

『丸一日さ。疲労も結構溜まっていたみたいだしね』

「そんなに寝てたのか!?」

てっきりま半日ぐらいかなと思っていたんだが
知らないうちになれない戦闘のせいで体に疲れが溜まってたのかもな。

『まあゆっくり休めてよかったじゃないか』

「そりゃそうだけど」

『大丈夫。敵の動きに進展は見られなかったよ』

敵、というのはヴォルケンリッターのことを言っているんだろう。
まだクリスマスには、だいぶ時間が残っている。
その間にしなきゃいけないことは、闇の書のコピーの完成。
Asが終わるまでに完成させなきゃ、難しい事態になってしまう。

「スカさん、闇の書の完成状況は?」

『あの守護獣はもういらないね。復元率89%くらいかな。クリスマスまでには絶対に完成する』

「クリスマスまでか…」

結構早く完成するみたいだな。

「そう言えば猫姉妹のこと解決してなかったな…」

あの時はうまく逃げれたが、今度会ったときは問答無用で倒されそうだし…
管理局にちくるか?いや、それは最終手段だ。
あの二人が管理局に今の時点で捕まると、はやての闇の書が発動しないで
終わってしまいそうだ。

「嵐」

「はい?」

猫姉妹の対策について考えていると、プレシアさんが話しかけてきた。

「確か、あの仮面の魔導師と交渉する予定だったわよね?」

「はい」

プレシアさんには、あの猫姉妹のこととグレアムについて
話し終えている。プレシアさんは話したときはたいして興味なさそうだったが
一応記憶に残しといてくれたようだ。

「私に秘策があるわ」

「は?」










<あとがき>
見事KY執務官から逃走に成功しました。
しかしそのおかげで余計に誤解が深まったような気がする…
今、フェイトの頭の中では捕らわれのお姫様(ナズナ)を助ける王子様(フェイト)が浮んでるでしょう。
嵐? 木の役でいいんじゃない?



[6935] 第34話「交渉人プレシア・テスタロッサ」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 17:58
「プレシアさんの秘策…不安だ…」

『そうかい? 私は楽しみだけどね』

「何するかは内緒だって言って話してくれないし、ほんとに何するんだよ…」

『まあ、黙って指示されたことをこなせばいいさ』



第34話「交渉人プレシア・テスタロッサ」



sideフェイト・テスタロッサ


ナズナが仮面の魔導師に捕らわれてから数日。
クロノたちは、仮面の魔導師やナズナの居場所を一生懸命探したけど見つからなかった。
私は、その間ずっとバルディッシュを振るって鍛錬をしていた。
シグナムに勝つために新しい戦法を考えたり、リンディさんから養子にならないかと、相談されたことを悩んでいたり
あの仮面の魔導師にはまだまだ敵わないのはわかっていたけど
それでも目の前でナズナを助けれなかったのは悔しい思いとかがぐちゃぐちゃになってて
体を動かして発散しないと頭と心がいっぱいいっぱいだった。
そのことを考えながら必死に鍛錬を続けた。そんな時だった。守護騎士たちがまた現れたのは。

「結界を張れる局員の集合まで…最速で45分…うぅ…まずいなぁ」

画面に映っているには、私と戦った魔導師、シグナムだった。
シグナムは一人で砂漠に佇んでいる。

≪フェイト≫

≪アルフ? どうしたの?≫

突然のアルフからの念話。アルフは真剣な顔をして、私に伝えてくる。

≪フェイトはあいつと一対一で勝負がしたいんだろ?≫

≪うん≫

≪だったら、そうすればいい。それにあいつと戦っているとあの赤い仮面野郎も出てくるかもしれないよ≫

あの仮面の魔導師はいつも守護騎士の傍に現れていた。
アルフの言うとおり今回もシグナムの傍にやってくるかもしれない。
そこを捕まえれば、ナズナの居場所がわかるかもしれない

≪アルフ、お願いできる?≫

≪了解だよ!≫

私が戦っているときに仮面の魔導師が出てきたら
アルフに捕まえてもらえばいい。それなら私はシグナムとの戦いに集中できる。

「エイミィ、私たちが行く」





sideプレシア・テスタロッサ


「母さん、機嫌良さそうだね」

「そう見える? アリシア」

嵐たちが私の指示で行動している時間。この後の予定を考えていると、表情に出ていたのか
私の膝に乗って絵本を読んでいるアリシアに指摘されてしまった。
そんなにわかりやすく出ていただろうか?

「うん! なんかニヤニヤって感じで笑ってたよ」

我が娘ながらニヤニヤはないんじゃないだろうか?
ちょっぴり母さんショックよ。

「機嫌は悪くないわ」

「てことは良いってことだよね」

「機嫌が良いというより楽しみなだけよ」

「??」

アリシアは私の言ったことが理解できなかったのか
キョトンとした表情になった。ああ、そんな顔もかわいいわアリシア!

「つまり、ケーキを食べるのを楽しみにしてるアリシアと同じ気分ってことよ」

「ケーキあるの!?」

「ふふ、物の例えよアリシア」

アリシアにわかりやすく伝えようと好きなもので例えてみたが
アリシアの興味が別に移ってしまった見たいだ。

「ん~、母さんは何かを楽しみにしてるってこと?」

「ええそうよ」

食べ物?服?行事?とアリシアが思いつく限りの自分の楽しみなことを
聞いてくるけど、どれも外れ。幼いアリシアには、絶対にわからないこと

「むぅ…もういいや!」

いくら聞いても答えがわからないことに拗ねたのか、アリシアはまた絵本を読み出してしまう。
少し意地悪しすぎたかもしれない。
謝ろうかとアリシアの頭を撫でてやると、アリシアは急に私の顔を見た。

「ど、どうしたのアリシア」

「スカリーに聞いてたの思い出した!」

スカリエッティがアリシアに? 何か変なことを吹き込んでないといいが…

「何かしら?」

「母さん、フェイトを苛めたらしいね」

…一瞬アリシアが行ったことが理解できなかった。

「えっ?」

「スカリーから聞いたよ! 母さんがフェイト苛めたって!」

あの変態デバイス…余計なことを…

「それは誤解よアリシア、あの時は」

「言い訳は駄目! スカリー言ってたよ! 容赦なく投げ飛ばしたって!」

嘘は言っていが、重要なことを言ってない。
フェイトが攻撃してきたことと自分たちがピンチだったことを

「聞いてアリシア、母さんね」

「とりあえず正座!」

「あの…」

「話はそれから!!」

今このとき、AI破壊プログラムの研究をすることを心に誓った。





sideout


「うわああああああああああ!」

転移してきた瞬間、この叫び声。
展開どおりフェイトが猫姉妹片割れに魔力を奪われていた。

「フェイトを離せえぇえっぐえ!」

アルフのこえが聞こえてくるなと思った瞬間後頭部に激痛。
転移してきた俺は猫姉妹とアルフの間に転移してきたようで
急速にダッシュしていたアルフはブレーキが出来ず、俺と激突したみたいだ。
頭を押さえて蹲っている俺とアルフ。
猫姉妹とシグナムの冷たい視線が心に痛い。

「あん、った! 別の仮面が出てきたと思ったら今頃か、っよ!」

アルフが痛むとこを押さえて喋っているとき青いバインドがアルフを縛った。

「しまった!!」

後ろを振り返ると猫姉妹がカードみたいなものを持っていた。
そうやら邪魔に鳴ると思って縛っといてらしい。

≪俺たちは縛らなかったんだな≫

≪私たちには正体がばれているからね。ここで管理局に捕まっていろいろ喋られたら迷惑だからだろう≫

≪なるほど…≫

…とりあえず

≪計画通り!≫

≪しかし、この後下手すれば拉致られて、誰も見ていない場所で殺されるだろうね≫

ですよね…

≪今回は戦いに来たわけじゃないだろう? 早くおつかいを済ませよう≫

≪そうだな≫

シグナムたちを見てみると蒐集は終わったみたいで
早々に立ち去り、仮面をつけた奴だけが残されていた。

「……」

猫姉妹は無言で構えをとり、俺に殺気を飛ばしてくる。
その殺気にビビリながら俺は懐から一枚のカードを取り出した。
相手は俺が攻撃してくるのと勘違いしてのか、殺気が濃くなった気がする。

「受け取れ」

カードを投げ渡すと、警戒しながらも猫姉妹はそれを拾った。
そこには、ある次元座標が書かれている。

「さらばだ…」

捨て台詞を吐き、転移。
猫姉妹は、そのカードをずっと見つめていた。





「そういうことなら母さんは悪くないか…許してあげる!」

「だから言ったでしょ? あんまりあのデバイスの言うことを鵜呑みにしちゃ駄目って」

「もういいですか?」

サラーブに帰って早々、溜息をついてるプレシアさんと、いつも通り元気なアリシア
そしてどこか疲れている表情のナズナが出迎えてくれた。

「プレシアさん、準備整いました」

「あら、なら今日の夜に来るだろうから、準備しとかないと」

プレシアさんは、そう言うと急いで研究室に入っていった。

「本当に大丈夫なのか?」

激しく不安だ…





sideギル・グレアム


「これが、か…」

リーゼから渡された一枚のカード
そこには、遥か昔に滅んでしまった次元の座標が記されていた。

「父様! あたしが行ってあいつらのことを調べてくる」

「そうです、私たちが調べてきます。父様」

闇の書の永久封印計画。クライドが亡くなったから、積み重ねてきた計画。
順調だった、だが、不穏分子が混ざったのをロッテたちから聞いていた。
私たちの正体を知っている者がいると。

「すまない…頼めるか」

「当たり前です父様。奴らの狙いを突き止めてきます」

場所を指定してきたということは、準備は出来ているということ。
ここに行くのは敵の懐に突っ込んでいくのと同じだ。だが、私たちの正体を知っている彼らを野放しには出来ない。
だが、今回の敵には何故か得体の知れないものを感じ、不安を覚える。

「心配しないでよ父様、あたしたちなら大丈夫!」

全て順調なはずだった。しかし、壮大な計画ほど罅が入れば脆いものだと私は感じた。















sideout


カードを猫姉妹に渡してから、数時間、地球の時間では夜。俺は暗闇に居た。
全く周りが見えない真っ暗な空間。俺の下に設置してあるライトが唯一俺を照らしてくれている。
俺はどこかの魔王が座りそうな禍々しいデザイン(プレシア作)の椅子に座っていた。

「来たか…」

その暗い空間に一人の人の気配が俺に近づいてきた。
予想通り、俺とは色違いの仮面、猫姉妹だった。

「話を聞かせてもらおうか」

猫姉妹の片割れが、静かな、しかし怒りを感じる声質で俺に尋ねてくる。
それは、何故自分たちの正体を知っているかということだろう。

「何を?」

「知っていることを全て」

「嫌だと言ったら?」

「力尽くでも!!」

そう言うと、指を弾き何かを合図した。その合図とともにもう一人仮面が現れる。
恐らく、猫姉妹の予定では俺をボコボコにして情報を吐き出させるつもりだったんだろう。確かに俺一人だったら可能だったはずだ。
しかし、もう一人現れた仮面の魔導師は…

「アリア…ごめん」

首元に魔力刃を突きつけられた状態で現れた。

「ロッテ!?」

「話し合いの途中に襲撃なんて、躾のなってない雌猫ね」

俺と同じカラーの仮面、プレシアさんが簡易のストレージデバイスを使い
猫姉妹の一人ロッテを捕らえていた。

「では、本題に移ろう」

「くっ! 何が目的だ!」

もはや仮面のキャラを続けても無駄と判断したのか、変化を解き元の姿に戻る二人。
猫耳か…、やっぱプレシアさんの猫耳のほうがインパクト強いよなぁ…

「大丈夫よ。あなたたちは殺さないわ」

首元に首輪をつけるプレシアさん。
ここからの計画は俺もスカさんも知らされてない。後はプレシアさん次第だ。

「あなた達のご主人様と会話したいの、連絡つないで」

「何をふざけたこっぐああぁああぁ!!」

「ふざけているのはあなたでしょ? これはお願いじゃないの、命令」

プレシアさんは男が見たら、惚れてしまうような綺麗な笑みを浮かべてロッテを撫でる。

「ロッテ!!」

「つないで」

「い、やがあぁああぁああ!」

プレシアさんは、尋ねるたびに電流が流す。返事がどっちでも構わないかのように。
見ていて鳥肌が立ってきた。スカさんもSだけど、プレシアさんはまさにSの王女様だ。鞭が似合うしね。

「つないで」

「っあぁあああぁああぁあ!!!!」

…本当に俺らはいつの間に悪の組織になったんだっけ?
いや、管理局とは敵対してるけど、これ悪の組織ってより人体実験的な組織じゃない? 似たようなものか?
一応、ロッテが拒否するたびにプレシアさんがボタン? のようなものを押し、首輪から、放電されるようになってるんだけど…なんという鬼畜アイテム…

『やめてくれ!』

「父様!? 何故!?」

突然空中に画面が浮き上がり、そこに映っているのはグレアムさんだった。

『アリア、話をするだけだ。それにこれ以上されればロッテが死んでしまう』

「父、様」

「だからって、きゃあぁああぁああ!」

「あなたはもう黙っていいわ、御機嫌ようグレアム提督」

最後の最後でアリアにまで電流を流すプレシアさん。そこに文字通り痺れるけど憧れない。

『やはり知っていたか…話はする。だからそれ以上はやめてくれないか』

「ええ、構いません」

プレシアさんは、ボタン? を地面に捨てた。

『君の用件とは何だね』

「率直に言うわ。あなたが調べた闇の書の情報をよこしなさい。そしてこの事件の間は、私たちに手を出さないで」

『それをすることで私たちにメリットは?』

「ないわ。この事件の間は私たちは闇の書のことに関わってくるでしょう。それを無視し続けなさい」

「そんなの私たちがすると思ってるの! 父様! こいつらの言うことを聞く必要はない! 私たちのことは気にしないでください!」

グレアムさんは、悩んだ顔をしている。ここでアリアたちを見捨てるようと考えているのか。
それとも、この状況を打開する方法を考えているのか。

「八神はやて…だったかしら?」

『っ!?』

プレシアさんがその名を出した瞬間空気が変わった。

「お前…」

「あの子、確か車椅子に乗ってたわね」

「そ、れが、どし、た…」

ロッテ、まだ気絶してなかったのかよ

「この子の車椅子に爆発物を仕掛けたわ」

『「「なっ!?」」』

…なんだってーーーー!?
そんなの俺も聞いてないぞプレシアさん!? ていうか爆発物って!?

「規模は小さいだろうけど…そうね、あの子の家ぐらいは吹き飛ぶでしょうね」

プレシアさんはポケットから、財布を出すかのようにスイッチを出す。

「そんなの嘘に決まっている!」

「あら、じゃあちょっと押してみようかしら」

プレシアさんは気軽にスイッチを押そうとした瞬間

『…わかった』

グレアムさんが折れた。
ここではやてに死なれてしまうと、計画の軸から全てがパーになるからだろう。

「今すぐここにデータを送りなさい」

『わかった。……これでいいだろう』

「ええ、十分よ」

≪すごい情報量が流れ込んできている。これで研究も終わったようなものだね≫

どうやらすごい情報量が流れ込んできているらしい。
スカさんも絶賛している。

『それじゃあ、爆弾を解除してくれるかい』

「ええ」

プレシアさんは、持っているスイッチとは、別のスイッチを押した。
ここでドカンとかなったら、グレアムさん発狂するだろな。

「これで大丈夫よ。じゃあこれ、いらないからあげるわ。さすがに一方的じゃあなたたちも納得しないでしょ」

突如現れた魔法陣からザフィーラが出現し、猫姉妹とグレアムは驚いていた。
その内に転移魔法で俺とプレシアさんはサラーブに戻った。










<あとがき>
猫姉妹、プレシアに敗れる。プレシアさん大活躍のAsですね。
これで猫姉妹と不干渉条約を結びましたね。一方的に…
そしてザッフィーさよなら、君は元の場所に戻りなさい。
次回ははやて家にみんなのザッフィーが戻ってくるよ! 多分!
プレシアさんが楽しみにしてたこと? ヒントはプレシアさんはSってことだ。
では!また次回!!



[6935] 第35話「完成! 夜天の栞」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/14 18:04
『完成した! 完成したぞ!』

「ええ! とうとう完成さしたわ!」

『ああ、闇の…いや、“夜天の栞”が!』

「さすがに今日は疲れたわ。寝ましょうか」

『もう朝だけどね。…おや?』

「どうかしたの? …あれ?」

朝日が眩しい時間帯、サラーブを爆発による揺れが襲った。



第35話「完成! 夜天の栞」



「あらから二日…か」

プレシアさんの鬼の交渉から二日。
グレアムさんのデータを入手してことにより、研究は急ピッチで進んだらしい。
この二日間、俺とナズナが交代交代でプレシアさんにご飯を持って行っている。
ご飯は、一緒に食べて欲しいんだが、スカさん曰く、今が正念場らしい。

「だからって、二日間ぶっ続けはよくないって、前にも言ったのに…」

「母さんがいなくてつまんないよね…」

「アリシア、元気を出してください」

「ありがとうナズナ」

「まあ今は俺が遊んでるし、退屈じゃないだろ…って時間か」

今日も朝ごはんを三人で食べ終わり、そろそろプレシアさんにご飯を持っていく時間だ。
俺は、アリシアと猫フォームで遊んでいたが、朝ごはんは俺が持っていかなきゃいけないので
人間形態に戻って朝ごはんをお盆に置いて持って行こうとしたとき
それは起こった。



―――ボンッ! ボボンッ! ドンッ!



「爆発!?」

「これはっ!?」

「揺れてる~~!」

突然に爆発音に揺れ、そこまで驚くほどの揺れではなかった。
しかし爆発と揺れが起こったということは、何かが起こったということ。
俺とナズナは顔を見合し、頷きあうと研究室に急いだ。

「あっ! 待って! 私も行く!」





「これは…」

研究所はそこまで傷ついてなかった。爆発のせいで煙が充満しているだけですんでいる
それはスカさんの研究室が丈夫なのかそれとも、思ったより爆発の威力が小さかったのかはわからないが
とりあえず倒れているプレシアさんの介抱に向かった。

「プレシアさん、大丈夫ですか?」

「痛た…大丈夫よ、目立った外傷はないわ」

「母さんが無事でよかった~」

「水を汲んできます」

「プレシアさん、スカさんは?」

「スカリエッティなら…そこよ」

プレシアさんの指差して場所を見てみると、そこには人形が転がっている。
そして外れた腕の指先に指輪がある。

「スカさん」

『いやいや、爆発するとは予想外だ』

「何があったんだ?」

『夜天の書のコピー、夜天の栞が完成したんだが…完成した瞬間“あの子”が飛び出してきてね』

「“あの子”?」

「嵐! あれ!」

スカさんの話に集中していると後ろからアリシアに呼ばれ
振り向いてみると、そこには知らない女の子がいた。

「……えっ」

ナズナとは対象的に褐色の肌にこれまたナズナと対象の白い髪の毛
髪型はヴィータに似ているが三つ編みが一つだけだ。服は黒いインナーだった。
ていうか目つき悪いよ。かなり俺のこと睨んできてるよ。睨まないでいーですよ。

「お前等誰だ?」

≪スカさん! この子誰よ!≫

≪…おそらくだが、夜天の書の守護騎士システムが働いたんじゃないかと思う。結構完璧にコピーしたからね≫

≪それだったら、何で一体? それに出てくるとしたら、ヴィータとかそこら辺の奴じゃないか? なんだこのザヴィータ≫

体がヴィータでカラーザッフィー、その名はザヴィータ!
失敗したフュージョンみたいな名前だな…デバイスとかどうなるんだよ…

≪いや、守護騎士が全体的に混ざってるはずだ。この子なら守護騎士たちとも互角に渡り合えるだろう。とりあえず混乱してるようだし、会話を試みてみたらどうかな?≫

≪わかった≫

「初めまして! 俺の名前は」

「ここどこだ?」

「俺の名前は」

「なんであたしこんなとこいんだ?」

「…俺の名前は」

「うるさい!!」

「みぎゃあああああ!! 目が! 目が!」

懸命に話しかけている俺に向かってうるさいって、傷つくぜ! そして実際に傷つけられたぜ!
冗談言ってる場合じゃないんだけどね! ナズナにいてもらえばよかったと後悔しているよ。
それにしても、どうやら混乱の極みになっているっぽいな。興奮状態だ。

「わけわかんねえ! くそっ!」

首からかけていた剣の形の首飾り? を腕に持った。

「エッケザックス!!」

名前らしきものを叫んだ途端、光に包まれ使い手よりもデカイ剣となった。
ていうかデカイよ。具体的にいうならフェイトのザンバーぐらい
見た目はシグナムのレヴァンティンによく似ているが、こっちの方がカートリッジはたくさん入りそうだ。

「ぶった切れーー!!」

ザヴィータは片手で大剣を振るい、俺に向かってくる。
このままではミンチになり切刻まれてしまう。俺は急ぎスカさんを装備し
その一撃をかわした。

「のわっ!? 床が抉れてる!?」

「よけんじゃねー!!」

「無茶を! 言う、な!」

地面にいると大剣が地面を擦るのか、少し体を浮かしながら
俺に剣を振るってき続ける。

「くそっ!」

俺に攻撃するのに飽きたのか、研究室を飛び出して言った。

「何だあいつ…、夜天の書の守護騎士なんだろ? なんでいきなり感情豊かなんだ?」

『それは今の守護騎士を軸に作ったからだと思うよ』

「なるほど…、あいつどこに行ったんだ?」

『ここから脱出を図ろうとしているらしいね。さ迷い続けて、訓練用施設に逃げ込んだらしい』

「そこに一旦閉じ込めるか…あれ? 訓練室からナズナの反応があるんだけど」

『…さっきの騒ぎの時、水を汲みに行ってたね、そう言えば』





sideナズナ


「またあの野郎の仲間か!?」

…何だこいつ?
ここにいるのに私が知らないということは侵入者か?
大きな剣型のデバイスを構えているけど、バリアジャケットを着ていない。
速さを求めて、防御を捨てたんだろう。

「食らえ!」

訂正、速さを求めているわけではないらしい。
今の攻撃は、そこまで脅威を感じるほどの速さではない。

「侵入者なら、掃除しときましょう」

ミーティアをセットアップし、相手に突きつける。

「ここに何の用です」

「そんなことはあたしが聞きたいんだよ!」

『blasen』

私の問いに返事の代わりとでも言うのか剣をその場で横薙ぎに振るう。

「っ!?」

白いもや状の魔力が迫ってくるのをかわしカートリッジをリロード
相手は、こちらに向かい飛んでき、剣を振るってくる。

『Blade Form』

しかし間一髪、わたしのブレードフォームが間に合い、受け止めることに成功した。
そのまま力比べが始まるが、彼女の力、普通じゃない。
この小さな体のどこに詰まっているんだ。

「ちっ!」

このまま競り合っていたんじゃ部が悪い。一旦距離をとって、即座に懐に詰め寄る。
あいての武器は大剣、懐に入られると使いにくいはず。だから私は数で攻めることにした。

「うっとしいぞてめー!」

大剣を壁のように前に突き出し、私の攻撃を防いでいるが
それも時間の問題だろう。このまま攻めきれる。

「近寄るな!」

体を回転させその勢いのまま剣を一緒に回転させてる。
攻撃を直に食らってしまったらひとたまりもない。私は急いで離脱した。
乱暴な方法だが、確かにこれでは近づきにくくなった。

「ブラーゼン! でもってもう一丁ブラーゼン!」

『blasen』

再び剣を振るい、魔力の風で攻撃を仕掛けてくる。
これは、そんなに攻撃力を感じさせないが、そのかわり速さがある。

「ならば!」

『Blade Shoot』

ブレードショットで向かい撃つ。
予想通り攻撃力は私のブレードショットの方が高かったが
2回の攻撃により、威力が弱まり、簡単に彼女のデバイスで弾かれてしまった。

「ちっ! お前あいつと違ってやるな…」

あいつ? 彼女はどこかで他の相手と戦ってきたのか?

「考え事している暇はないぜ!」

彼女の宣言どおり、考え事などさせないかのごとく猛攻が始まった。
自分より大きい武器をここまでうまく使うのは、尊敬する。
しかし、彼女はバリアジャケットを着ていない。私の攻撃を一撃でも食らえば、勝負はついたも同然だろう。
そう思ったとき、猛攻を仕掛けてきていた彼女が距離をとった。

「おもしれえ! エッケザックス!」

彼女のデバイスがジャコンと機械的な音を響かせカートリッジをリロードした途端
デバイスの排気口から煙が噴出される。
このまま変形させては不味いと感じ、ミーティアで攻撃を加えようとするが
大剣を持っていないほうの拳でアッパーカットの要領で私の腹を殴りつけた。

「かはっ!」

この巨大なデバイスを扱うほどの力に殴られた私は胃の中のものを吐き出しそうになった。

『Zwei Schwert』

「ツヴァイ・シュヴェーアト!」

「っく…」

そこには、大剣を二つ持ち構えている彼女がいた。
二本の剣は柄の下の部分からは、鎖で繋がっているが
その鎖は彼女の邪魔にならないかのように彼女の体に触れてもすり抜けている。

「手加減…といっている場合じゃないですね」

手を抜いて勝てる相手じゃない。あの時戦った守護騎士と同等だろう。
ならばこちらも本気で相手をしよう。

「ミーティア…えっ?」

「あ…、あっ…」

本気でいこうと決意を固めた瞬間、彼女の様子が変わった。
さっきまでは、手に汗握るほどの気迫を感じたが、今の彼女からは何も感じれない。

「なん、だ…これ…」

デバイスを落とし、膝をつき、自分の体の不調を調べようと行動したみたいだが
その前に力尽き、瞼を閉じてしまった。

「…これは、急激な魔力不足?」

疲れている状態で急激に魔力を行使すると陥る症状だ。
しかし、いったい彼女はどこから来たんだ…

「後でマスターたちに聞くとして…この子は…」

…ここで死なれたら寝覚め悪いですね。















side???


あれ…あたし…どうしたんだっけ?
いきなり暗い世界から目が覚めたかと思うと、変な奴らがいっぱいいて
それで自分が誰かって考えたら、わけがわからないことが頭に浮んできて混乱して、ちょっとだけ怖くなって逃げたら、黒い魔導師にあって…
その後…

「あたし…」

「起きましたか?」

「へっ?」

目を開けたとき一番初めに目に入ったのは、さっきまで考えていた魔導師だった。
なんで、あたしは寝てるんだ?

「何で…」

「あまり動かないでください。マスターから詳しい事情は聞きました」

「…うん」

何でかはわからないけど、ここで寝ていると心が落ち着いた。

「あたし…どうなったんだ」

「ドクターの話では、誕生したてなのに、魔力を使い過ぎらしいです」

「お前は、なんでここに…」

「あなたが倒れて、誰があなたに魔力を分けたと思っているんですか」

こいつが分けてくれたのか…

「…ごめん」

「気にしないでください。今はゆっくり休んで」

そう言いながら、こいつはあたしの頭を優しく、本当に優しく撫でてきた。
子ども扱いされてるみたいでちょっと恥ずかしい。
だけど嫌じゃない。むしろうれしい気もする。

「なあ、名前は…」

「私ですか? ナズナと言います」

いい名前でしょう、とナズナは満面の笑みであたしに言ってきた。
あたしはそういう事はわからないけどナズナが言うならそうなんだろう。

「あなたの名前も聞いてませんね」

「あたしは…シントラ」

頭の中では、名前を考えるとこれが出てくる。多分これがあたしの名前なんだろう。

「そうですか。よろしく、シントラ」

「うん…」

ナズナは相変わらずあたしの頭を撫でている。
なんだか胸がポカポカしてる感じであったかい気がする。

「あの…」

「何です?」

「姉御って呼んでいい?」





おまけ


シントラとナズナの会話の野次馬

「いいなーナズナの膝枕…」

「なら私がしてあげる!」

「マジか!?」

「嘘はつかないよ! さあ猫さんになって!」

「ああ、実はちょっとわかってたわ。そのオチ」

『なら私の女性型の人形貸そうか?』

「そこまで飢えてない」










<あとがき>
新キャラ登場! その名はシントラちゃん
他の守護騎士と並ぶ戦闘能力を持っています。
本当はユニゾンデバイスも登場予定だったんですが、時期が早すぎると思い延期。
デバイスの名前は北欧神話の剣でディートリヒという人物が使っていたらしいんですが、それで黒胃が
ディートリヒ?⇒ヴィータの必殺技は…⇒テートリヒ・シュラーク⇒シントラって見た目は…⇒これでいいか
という単純な考えで出来た名前です。



[6935] 第36話「クリスマス・イヴは赤く染まる?」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 18:10
「ナズナ」

「姉御に気安く話しかけんじゃねえ!」

「いや、作戦のことなんだけど」

「あたしから伝えとくからおめーは帰れ」

「いや…だから…」

「しっし!」

…一応、その姉御の主なんだけどな…



第36話「クリスマス・イヴは赤く染まる?」



12月24日、決戦の日。
そこで俺たちは、困ったことに陥っていた。

「幻覚魔法が使えない?」

『ああ、夜天の栞は完成したが、肝心の幻覚魔法が使えないんだ』

「正確に言うと幻覚魔法自体は使えるわ。普通の幻覚魔法はね

「どういうことですか?」

『この時代に来る前に説明しただろう?何故あの闇の書の幻覚魔法じゃないといけないか』

確か人の負の部分に反応するとか何とか言ってたような…

『綺麗な夜天の栞じゃ、汚れた部分が再現できてないってことさ』

つまり、今の汚れているって言い方は失礼だが、闇で汚れた
正真正銘の“闇”の書が必要になってくるってことか…

「姉御、あいつら何わけ分かんねーこと喋ってるんだ?」

「多分、厄介な問題が起きたんだとと思います。ドクターは行き当たりばったりですから」

「ふーーーん」

夜天の栞が手に入った時点でもうこの事件からは手を引いて
しばらくstsまでは準備期間に入る予定だったんだが
幻覚魔法が使えないとなると話は別だ。以前スカさんに聞いたことがあるが
別に帰るのに必要なもので、幻覚魔法は一番あってもなくても出来ることに差はないらしい。
ただ成功率が違ってくるだけだ。

「どうすれば…」

『悩む必要はない』

「え? 何か策があるのかスカさん」

『ジュエルシードのときと一緒だよ。奪えばいい』

「奪う? …まさか!?」

『そのまさかだよ』

闇の書を奪えばいいとスカさんは言うのか!?
しかし今日はもう24日、クリスマス・イブの日だ。今更はやてからは奪えない。
それにはやては、もう病院にいるだろうから病院を襲撃しなきゃいけないのはいろいろ厄介だよな…倫理的に…

『勘違いしてないかい? 私は闇の書を奪えとは言ってない。管制人格を奪うんだ』

「…難易度上がってない?」

本を奪うんじゃなく、リィンフォースを奪う? 余計に難易度上がってんじゃん。
守護騎士たちにフルボッコされるんじゃないか?
素直にこっちの言うことを聞いてくれるとは思えないし。

『君の話では今日、全ての決着がつくんろう?』

「そりゃそうだが…」

ナズナが単騎で出撃するのは怪しまれるんじゃないか?
すぐに拘束されそうだし…

『今回はこの子に出てもらおう』

「あ゛っ? あたし?」

『そう君だよシントラ』

シントラは突然自分が指名されてちょっとビックリしている。

「どうするんだ?」

『シントラには私たちと敵対してもらおうってことだよ』

「わけわかんねえぞリング野郎」

リング野郎…なかなかいいネーミングセンスだ。
今度スカさんがからかってきたら俺もそう呼ぶことにしよう。

『私たちは仮面で出撃する。そこでグレアムの使い魔に合流する。そこに追ってくるのが君だ』

「あたしが?」

『理由は適当でいいよ。そこで高町なのはたちを助ける。あとは流れのまま行ってもらおう。最後の場所さえわかればそれでいい。』

なるほど、リィンフォースの消える場所を探るのにシントラを使うわけか

『作戦は以上だね。何か質問は?』

「いえ、特にありません。ドクター、私は待機でよろしいんですね」

『君はもしもの時に動いてくれ』

「そうですか。では、シントラ、マスターを頼みます」

ナズナはシントラの頭を撫でながらお願いをした。
効果は抜群で、シントラの顔は沸騰寸前なほど真っ赤になっている。

「ま、任せてくれよ! 姉御の頼みなら、例えあんな奴だろうが、絶対守っていやる」

「頼もしい限りです」

…あんな奴は酷くないか? ていうかなんでシントラは俺のことをあんなに敵視しているんだ?
時々、まるで親の仇を見るような目つきで睨んできてるんだけど
最初の攻撃とかかわしたことに怒っているのか?

「そうと決まれば、嵐! 行くぞ!」

「あんまり襟引っ張らないでくれ。伸びる」

この二人で大丈夫なんだろうか…





sideナズナ


マスターとシントラは先ほど準備を済ませ、サラーブから出発してしまった。
シントラはかなりの戦闘能力を持っている。きっとマスターを守ってくれるだろう。
そしてマスターが頑張っている間に、私は…

「プレシアさん。アリシアの調子はどうですか?」

「だいぶ落ち着いてきたけど、熱が下がらないわね」

急に熱を出して倒れたアリシアの看病をしていた。
会議が終わり、いつも顔を出しているアリシアが来なかったことを疑問に思って
アリシアを探してみるとプレシアさんの部屋で倒れていた。
あの時のプレシアさんの驚きようは凄かった。



---回想



「アリシア! アリシア!!!」

「プ、プレシアさん!落ち着いて!」

『焦ってもどうにもならないよプレシア。すぐに調子を調べよよう』

「大丈夫!? 私がわかる!? アリシア!?」

「プレシアさん!」

「目を開けてアリシア! 母さんを一人にしないで!」

『…ジェイル・ショック!!』

「はうっ!?」

「プレシアさん!?」

『今のうちにアリシアを寝室に運んで』

「えと…プレシアさんは…」

『冷たい床で頭を冷やしておこう』

「……了解です」



---終了



あれは凄かった…
目を覚ましたら綺麗に記憶飛んでいたし…

「アリシア…クリスマス前だからってはしゃぎ過ぎたのね…」

プレシアさんが言うとおり、アリシアは昨日から
今日をものすごい楽しみにしていた。サンタさんがくるように手紙まで書いていた。
その疲れが今になってやってきたんだろう。

「全く…あんまり無茶しちゃ駄目よ、アリシア」

「今はゆっくり寝かせてあげましょう」

アリシアはさっきまでは、少し顔色が悪く寝苦しそうだったが
今は安らかに寝息を立てている。

「全部が終わるまで…ゆっくりお休みアリシア…」





side八神 はやて


すずかちゃんたちがあたしなんかのためにお見舞いにいてくれたことに嬉しくて浮かれていたとき
突然ベットが、いや、床が蒼く光だして、光が収まったかと思うと外におった。
それだけやったら、ヴィータたちのおかげでそういうこともあることを知っとったから
驚かんかった。だけど、目の前にヴィータが吊るされている。
それだけであたしは冷静を保てなかった。
そして、そこにいたのはさっきまで一緒におった二人、なのはちゃんとフェイトちゃんがおった。

「なのはちゃん…フェイトちゃん…なんなん…なんなんこれ…」

状況がまったく理解できない。
何故二人があたしの家族にこんなことをするのか。なんで魔法を知っているのかとか
頭の中を考えがぐるぐる回っている。

「君は病気なんだよ…闇の書の呪いって病気…」

「もうね…治らないんだ…」

闇の書の呪い?
何故二人が闇の書のことを知っているんだろう。
なんだか、胸が痛い。

「闇の書が完成しても助からない」

「君は救われることは…ないんだ」

なのはちゃんたちの言葉の一つ一つが心に突き刺さってくる。
考えないようにしていてことが、頭に浮かんでくる。
頭が痛い、苦しい。

「そんなん…ええねん…ヴィータを放して」

「この子達ね、もう壊れちゃってるの。私たちがこうする前から」

「とっくの昔に壊された闇の書の機能をまだ使えると思い込んで…無駄な努力を続けてたの」

「無駄ってなんや! シグナムは、シャマルは…」

家族のしていたことを無駄と言われて怒りが湧いたけど
フェイトちゃんが視線を逸らした先を見てみると、シグナムとシャマルの服があった。
胸が痛い、苦しい。

「はやてちゃん。これ、知ってるよね?」

なのはちゃんの声がして、振り向いてみると
なのはちゃんは、ここにいないはずのザフィーラを抱えてた。

「これもはやてちゃんのためにがんばってたんだけど」

「途中で負けて壊れちゃたんだ」

なのはちゃんはザフィーラを地面に叩きつけた。
ザフィーラは、見るからにボロボロで弱っている。
足が痛い、苦しい。

「壊れた機械は役に立たないよね」

「だから、壊しちゃおう」

壊す!?あたしの家族を壊す!?

「やめっ! やめてえぇええぇえ!!!」

「やめてほしかったら…」

「力尽くでどうぞ」

なのはちゃんたちは、あたしが悲しむのを楽しんでいるかのように微笑む。
きっと誰が見てもかわいいと思う微笑だろう。だけどあたしには悪魔にしか見えない。
体が痛い、苦しい。

「何で! 何でやねん! 何でこんなん…」

「ねえ、はやてちゃん」

「運命って残酷なんだよ」

「やめ、やめてっ!! やめてえぇええええぇえぇ!!!!!」

あたしの願いもむなしく、光がヴィータとザフィーラを埋め尽くした。

「あっああ…」

痛い痛い痛い…
頭が、胸が、足が、体が………心が痛い

『Guten Morgen, Meister.』

「うわあぁああぁあああぁああぁあああああぁああああ!!!!!!!」





sideout


準備最中に突然アリシアが倒れるというハプニングのおかげで
かなり出るのが遅れてしまった。
予定では、なのはたちがヴィータと戦っているときに行くはずだったんだけど…

「あなたは!?」

「何をしに来た!?」

絶賛幼女の嫌われ中です。
転移してきてみると、なのはさんたちもう捕まってますよ。
そこに転移してきちゃったものだから、すごい質問攻め。何しに来たとか、ナズナを何処にやったとか。

「さて…」

どうしようか。
もう闇の書が発動するまで時間の問題。
ここに待機していると間違いなく巻き込まれてしまう。
一緒に転移してきたと思ったのに、シントラ来てないみたいだしな…

「さっきの仮面の魔導師の仲間なの!?」

「違う…」

それに、余計にいらん誤解を与えてしまいそうで怖いし…
ここは無難に引いとくのが賢い選択かな…

「引くかっりぶろ!?」

とりあえず俺は一旦引こうと思った途端
斜め下方向にぶっ飛ばされました。ものすごい衝撃と共に

「ざまあみやがれ! 仮面野郎!」

サラ―ブに転移する前に聞こえてきたのは、シントラの嬉しそうな声だった。
救いだったのは顔に向けて攻撃されたこと。
仮面が硬くてよかった…。作戦は一応味方ってことをなのはたちにアピールすることだけど、ちょっと言っといて欲しかったぜ…





sideシントラ


「よっしゃ!」

リング野郎…スカ山? だっけ?
そいつに指示されたことは済ましたな。嵐を思いっきりぶっ飛ばせなんて
あたしにしたらちょろいちょろい!

「えっ? えっ!?」

「き、君は…」

声がした方向を見ると、変なゲージに閉じ込められている金髪と…っ!?

「姉御!?」

「ふえっ!?」

姉御がいた。
何で姉御がここにいるのかは知らないけど
姉御が捕まっているのに助けないわけにはいかない。

「今助けます! うりゃあぁああぁあ!!!」

エッケザックスを振り下ろし叩き続ける。
すると徐々に亀裂が入っていき、最後の一撃で木っ端微塵に砕けた。

「助かった! ありがとう! 君は」

…あれ? こいつ姉御じゃない?
色が違うしなんていうか…オーラ? を感じない。

「誰だてめえ!」

「ふえっ!? それはこっちの台詞なの!」

「うわあぁああぁあああぁああぁあああああぁああああ!!!!!!!」

「「「っ!!」」」

偽姉御の言葉を遮り、耳を塞ぎたくなるような大声が夜に響いた。










<あとがき>
As編ラストまであと僅か。
相変わらず目立った行動ができてない嵐。
このまま闇の書事件を超えてしまうのか!?
では!また次回!!



[6935] 第37話「闇の書の戦闘力は正直、反則だろ」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 18:15
「うわっ!? 何だありゃ!?」

「はやて!?」

「はやてちゃん!!」

闇の歯車は聖なる夜に回り始めた。



第37話「闇の書の戦闘力は正直、反則だろ」



sideなのは


守護騎士のみんなと戦っているときに再び乱入してきた謎の青い仮面の魔導師。
突然現れて、ヴィータちゃんたち、守護騎士たちみんなを蒐集してしまった。
そして私たちはバインドで縛ったまま固い魔法で出来たゲージの中に閉じ込められてしまった。
その後、赤い仮面の魔導師がやってきたから私たちを倒しに来たのかと思ったんだけど
赤い仮面の魔導師は特になにもしてこなかった。
いや、しようとしたのかもしれないけど、その前に突然現れた子に吹き飛ばされてしまっただけかもしれない。
突然現れた子は、雪のように白い髪の毛に大きいデバイス。
その子に助けてもらったんだけど…

「あいつ何だ? 黒い光に包まれて熱そうだな」

あんまり緊張感がないの…

「それで君は一体なんで助けてくれたの?」

「誰がお前なんか好きで助けるか! 姉御に頼まれたんだ!」

姉後って誰? と聞く前にはやてちゃんを包んでいた黒い光が収まり
そこには、はやてちゃんのではなく、全くの別人がいた。
体は大きくなっているし、髪の毛も銀色。はやてちゃんとは似ても似つかない。

「また、全てが終わってしまった。一体幾たび…こんな悲しみを繰り返せばいいんだ…」

「はやてちゃん!」

「はやて…」

だけどあそこにいるのは間違いなくはやてちゃんのはずだ。
けれどもまるで私たちの声が届いてないかのように女の人は話し続ける。

「我は闇の書…我が力の全ては」

『Diabolic emission.』

手を空に掲げたかと思うと
この夜空を埋め尽くすかのように大きな黒い魔法が発動していく。

「でっけぇ!!」

「っ!?」

「主の願いを…そのままに…」

肥大化した黒い魔力の塊は、それ自体が恐怖を具現化したような
圧倒間を感じる。
これがこの距離で放たれたらマズイ!!

「デアボリック・エミッション」

チャージが終わったのか黒い魔法は空に放たれた。
これは…

「空間攻撃!」

「不味いんじゃねえか!これ!」

「闇に…染まれ」

空に放たれた魔法は、空中で更に肥大化し
かなりの距離に攻撃を加えようとしている。これが当たると
防御の薄いフェイトちゃんが危ない。ここは私が防がないと!

『Round shield.』

『Panzerschild』

「あなたは…」

さっき助けてくれた子が、私がシールドを展開すると、同じように隣で展開してくれた。
一人ではちょっとキツイと感じたからすごい助かった。

「勘違いすんなよな! 姉御に頼まれてしかたなくだからな!」

「それでもありがとう!」

「いいから集中しろ! 破られたらマズイだろが!」

「うん!」

何だか、ヴィータちゃんと似ているなと思った。





sideクロノ・ハラオウン


仮面の魔導師、アリアたちを捕獲し、グレアム提督との会話が全て終わり
現場が心配なので戻ろうと思ったけど、僕はどうしても気になることが一つ残っていた。

「グレアム提督」

「なんだいクロノ」

「あなたたちが闇の書の封印を狙っているのはわかりました」

「ああ、そうだ」

「他に仲間か協力者はいませんか?」

「…どういうことだい」

「仮面の魔導師…アリアたちとそっくりの仮面の魔導師のことです…」

そう。この事件のもう一つの暗躍者。
初めは仮面の魔導師たちは全員仲間だと思っていた。
けれどアリアたちが仮面の魔導師だとわかると、その説は違うと思った。

「…あいつらか…」

「ロッテ、何かしているのか」

「ロッテ、私が話そう。彼らとの直接的な繋がりはない。私たちも、自分たちの他に、こんなことをしている者がいると知って驚いたんだ」

「直接…とは?」

「…彼らに一度対談したんだよ」

「っ!?」

「だがこれと言って、何もしていないんだ。自分たちに不干渉を求めてきて、更闇の書の情報を欲しいと言ってきた」

闇の書の情報? 何故それが必要になるんだ?
奴らはその情報を使っていったい何を…。奴らも闇の書に恨みがある者の犯行か?

「それで提督は…」

「…情報を渡してしまったよ」

「……」

「クロノ! あれは仕方がなかったんだ」

「アリア、それは言い訳だ。私たちは今あの子を殺すと同じことをしようとしたんだ。彼らを攻める権利は私たちにはないよ」

「でも父様!」

…これ以上ここに留まっていても無駄な時間か…

「クロノ! どこへ…」

「現場が心配なので、一旦失礼します」

このまま、フェイトたちの所に転移しようと思った矢先

「クロノ!」

グレアム提督に引き止められた。





sideシントラ


「ぜぇーっ、ぜぇーっ」

「痛た…」

「なのは…ごめん…ありがとう、大丈夫? …えと、あなたも」

あたしたちは、あのやばそうな真っ黒な魔法を防ぎきったと思った瞬間
金髪があたしたちを掴み、高速でその場を離脱し、ビルの陰に身を潜めていた。
偽姉御とあたしは二人とはいえ、あの攻撃を防ぎきるのには骨が折れた。

「うん、大丈夫…」

「この位…ちょろい、ぜ…」

その言葉を聞くと金髪は少し暗い顔から一転して鋭い顔つきになった。

「あの子、広域攻撃型だね。避けるのは難しいかな…バルディッシュ!」

『Yes, sir. Barrier jacket, Lightning form.』

金髪がデバイスに何か伝えたかと思うと
金髪の騎士甲冑が変化してさっきよりは防御力が上がったように見える。

「はい、なのは。そう言えばあなたの名前を聞いてなかったね。私はフェイト。フェイト・テスタロッサ」

「そうだったんね。私、高町なのは!よろしくね」

デバイスを高町なんたらに渡すと自己紹介をしてきた。
ここで名乗らないと失礼になってしまうんだろうか?

「…あたしは、シントラだ」

「にゃはは、よろしくシントラちゃん」

「よろしくシントラ。それでシントラはどうしてここに来たんだっけ」

「さっきも言ったろ。ナズナの姉御の頼みでだ」

ナズナの姉御の名前を聞いて途端、フェイトの顔が再び厳しくなった。

「っ!! ナズナ!?」

「ナズナちゃん!?」

「お、おう。何か文句あんのか?」

姉御に文句があるってんなら、あたしが直々にボコボコにしてやる。

「なのは!!」

「フェイトーーー!!」

二人であたしの肩を揺さぶっていると、遠くから声が聞こえた。
女の声と女っぽいやつの声が。

「ユーノ君! アルフさん!」

「何やってんだい二人とも!」

「ここは危険だよ!」

「ユーノ君! この子ナズナちゃんの頼みでここに来たって!」

「なんだって! あんたナズナを知ってんのかい!?」

知ってるも何も自慢の姉御で、あたしは妹分だ。
今の目標は、姉御の隣に並ぶこと。

「じゃあ、あんたは…この感じは!?」

「っく!!」

犬耳がついた女…アルフだっけ?
そいつが何かに気づくと同時に、あたしたちを強烈な風が襲った。
多分、ただの風じゃないだろう。

「な、何?」

「前と同じ、閉じ込める結界だ!」

どうやらあたしもここから出られないようになったようだ…
確かスカ山の計画では、味方の振りをするんだったけ?今更だけどめんどくさくなってきたな…

「やっぱり私たちを狙ってるんだ」

…多分、あたしも狙われるんだろうな…

「今クロノが解決法を探している。援護も向かっているんだけど、まだ時間が…」

「それまで私たちで何とかするしかないか…」

「ああ、あんたのことは後回しだよ…んっ?」

全員が話し合っているとき、高町だけが、ジッと敵のほうを見つめていた。
しかし、本当に姉御そっくりだな…。姉御のほうが100倍凄いけど

「……なのは」

フェイトの声でやっとこちらに気づいたのか、少し元気のない表情を浮かべた。

「うん、大丈夫!」















「はあぁああぁあ!!」

フェイトが敵に切りかかり、その隙を見てあたしが切りかかる。
そこで隙が出来たときにアルフたちに動きを封じてもらう作戦なんだけど

「こいつ…強い!」

敵が規格外に強い。攻めているのか押されているのかわからなくなってくる。
もう一度切りかかろうとしたとき、敵がこっちを見て動きを止めた。

「お前…何故騎士たちを感じる?」

「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ!」

「今だ! アルフ、行くよ!」

「任せな!」

あたしに話しかけてきたときの隙をアルフたちは見逃さなかった。
敵は一瞬でユーノのバインド、そしてアルフのバインドに縛り付けられた。

「砕け…」

『Breakup.』

敵は焦りもせずに冷静にバインドを一瞬で解除する。
けれどそれも計算のうち。

『Plasma smasher.』

「ファイア!」

『Divine buster, extension.』

「シュート!」

既に高町たちの砲撃準備は整っている。挟み撃ちにする形で、敵を攻撃した。
さすがにちょっとはダメージがいくと思ったんだが――

「盾…」

『Panzerschild.』

あの野郎、攻撃を防ぎやがった。
二枚同時発動だと? どんな高位技術持ってんだよ、あの野郎…

「真ん中ががら空きだぜ!」

さすがに三枚同時発動は出来ないだろうと思い、エッケザックスを敵に向かって切りかかる。

「刃を撃て、血に染めよ」

『Blutiger Dolch.』

こいつ!? この状態でまだ魔法が使えんのか!?

「穿て、ブラッディーダガー」

やばい! 当たる!? バリアを…



―――ドォン! ドドン! ドンッ!!



「っく」

「ふぅ…」

「いってえな! くそっ!」

直撃はギリギリ避けれたけど、ちょっと掠った。

「咎人たちに、滅びの光を……」

あたしたちが倒れてないことをわかっていたのか
すぐに次の攻撃の準備をしている。

「まさか!?」

「あれは!?」

周りの奴らが焦っている。
あたしもあれはわかる。姉御が似た技を使っているのを見せてもらったことがある。
あれはヤバイ。どんな戦況も一瞬で覆してしまう。
当たればあたしたちは一環の終わりだ。

「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ…」

「スターライト…ブレイカー?」

どんどんと周りの魔力が収束されていく。このままここにいるとお陀仏だ。

「貫け…閃光…」

「アルフ! ユーノ!」

「あいよ!」

フェイトの動きと同時に全員が動き出した。あたしも急いでここから離脱した。

「なのはの魔法を使うなんて…」

「なのはは一度蒐集されてる。その時にコピーされたんだ」

「ちょ、フェイトちゃん。こんなに離れなくても…」

「至近で食らったら防御の上からでも落とされる!回避距離を取らなきゃ」

「馬鹿かおめーは! 少しでも距離離れないといけないだろうが!」

「そ、そうなの?」





あたしはフェイトたちとは、違う方向に退避してきた。

「はぁ…」

「だいぶ離れたね。なのはとフェイトは…」

「アルフ! 来るよ」

休む暇もなく、星の光が街に放たれた。

「フェイト…無事でいておくれ」

「はっ? 高町たちは、まだあそこに残ってんのか?」

「うん、なのはたちの友達がいてね」

「へえ…」

こんなことに巻き込まれるなんて、よっぽど運が悪いんだな。その友達。
そんなことを話しているうちに星の光はようやく収まった。

「…死んだか?」

「何言ってのさフェイト!」

突然アルフが叫びだした。おそらく念話だろう。

「行こう、アルフ」

「でもさ!」

「気がかりがあると二人が思い切り戦えないから」

「うぅ…」

さっきの友達のことでも頼まれたのか?

「シントラ」

「んっ?」

「君になのはたちをお願いしたい」

「へっ?」

「会ったばかりの君にこんなこと頼むのは筋違いだろうけど、今は少しでも助けが欲しいときなんだ」

いや、姉御から頼まれたから、別にいいけどさ…

「あたしからもお願いだ! フェイトに手を貸してやってくれ!」

「ええと…わ、わかった! それじゃあ往ってくる」

あたしは二人から逃げるように、闇の書の場所に向かった。





「う、あ、ああぁ」

「フェイトちゃん!」

…間に合わなかったか?

「おい! 高町!」

「シントラちゃん!どうしてここに!?」

「ユーノたちに頼まれたんだよ! それよりあいつは!?」

やっと見つけたかと思ったら光になって消えちまった。
攻撃魔法とかには見えなかったんだけど…

「わからないよ!」

「おい! 何しやがったんだ!」

空で佇んでいる闇の書に聞いてみると
案外簡単に、だけど言葉は難しく教えてくれた。

「全ては…安らかな眠りのうちに…」

…そうか! こいつが姉御たちが求めてる幻覚魔法か!
だけど、このままじゃ計画どころの話じゃねえじゃねえか。3対1で圧倒されてたのに
2対1か…ちょっとキツイな…



闇の歯車は止まらず回り続ける…















――寝室


ここにある少女が眠っていた。

「うぅ…」

少女は突然熱を出し倒れたのだが、先ほどまで体調は戻りつつあった、しかし

「う~ん…」

再び、苦しみだした。

「お…お…」

彼女の母親がそれに気づいたのかこの部屋に近づいてくる。

「おね…おねい…」

一歩、また一歩と、母親は確実に近づいてくる。そして…

「おねえーーーーーちゃーーーんパワーーーー!! マキシマム!!!」

彼女もまた、妹と同じように金色の粒子になって消えてしまった。

「アリシア、どうしたの…っ!?」

後に残ったのは少女の母親の叫び声だけ










<あとがき>
シントラってばフェイトたちに協力しすぎだろ。
感想でみんな嵐を空気扱いしててフイタ
それとシントラは一応生まれたばかりで、ナズナを母親のような目で見ている点があります。
だからシントラは、ナズナが嵐に構ってばかりなのに嫉妬しています。
ナズナも妹のような、娘のような視点で見ています。
多分、嵐がナズナと関係があまりなかったらいい友達になれるはずだったんですが…
このあたりはAs編が終わりしだい触れたいと思います。
では!また次回!!



[6935] 第38話「金色の姉妹」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 19:10
「マスター、大丈夫ですか?」

「仮面のおかげでそんなにダメージはないよ」

「すみません、私がシントラに注意しとけば…」

「いや、ナズナが気にしなくても」

「シントラは私から躾しときます」

「……躾?」



第38話「金色の姉妹」



「大丈夫だって、そんなに痛くないし」

「駄目です」

俺がサラーブに戻ると仮面に罅が入っているのをナズナが見た瞬間
引っ張られ、俺の部屋まで連れて行かれた。
何故こういう状況になったのか説明し、ナズナの大袈裟な手当てを受けていた。

「全く! シントラは無茶をしすぎです!」

「まあ、作戦だしそんなに怒らなくても…」

「いえ! 帰ってきたら説教です! そして模擬戦に付き合ってもらいます」

「それ、俺混ぜないでね」

俺としては別にどうでもいいのだが、
ナズナは怒り心頭のようだ。顔を真っ赤にして怒っている。

「話はシントラが帰ってきてからにしよう」

「…マスターがそう言うなら。ですが次からは許しません」

俺の言葉に未だにぶすっとしているナズナだが
ちょっとは怒りは収まったようだ。

「アリシアの調子は?」

「はい、だいぶ落ち着いてきました」

「そっか、よかった」

いつも元気なアリシアが突然倒れたのには本当に驚いたが
アリシアのことだ、明日には元気いっぱいに戻って
プレシアさんを心配させるようなことをまたしてしまうだろう。そのことを考えていると顔に自然に笑みが浮かんだ。

「きゃあああぁあああぁああああぁあああああぁあああああああああああ!!!!」

…どうやら、明日ではなく今日だったらしい。

「行きますよマスター」

「えっ、ああうん」

「早くしてください」

「えっ? 何が?」

「猫型になってください。私が運びます」

怪我は大丈夫だし、何より恥ずかしいんだが…

「いや、別にいい…」

「マスター…」

ナズナは、泣きそうな瞳でこっちを見てくる。
まるで、親に捨てられた子供のようだ。

「……あれれー急に足が痛くなってきたなー。猫型になっちゃおうかな」

俺が猫型になったのを確認するとナズナは
うれしそうに俺を胸に抱いて走り出した。…いろいろと複雑だ





「プレシアさんアリシアがどうか…っておい!?」

アリシアの寝室に行くとプレシアさんは壁に頭を打ち付けていた。
なにかブツブツとつぶやいている。

「アリシアアリシアアリシアアリシアアリシア私は駄目な母私は駄目な母私は駄目な母…」

かなり怖い。
この姿を見たら鬼太郎の妖怪アンテナも反応するんじゃないだろか?
いや、寧ろ妖怪の親玉に相応しいとスカウトでもくるんじゃないだおるか? それくらい怖い。

「アリシアはどこに行ったんですか? まさか外へ?」

ナズナの問いにピタッと動きが止まり。何を思いついたのか、魔法を発動しようとしていた。
ただの探索魔法なら傍観していたんだが、明らかに高魔力を込めた次元魔法だ。

「何してるんですかあんたは!!」

「放しなさい! きっと闇の書がアリシアを攫ったに違いないわ! あの道具風情に一撃をお見舞いするのよ!」

落ち着いて考えが出来なくなっているのか、考えが支離滅裂だ。

「とりあえず落ち着いて! まだそうと決まったわけじゃないじゃないですか!」

「さあやるのよプレシア! 私ならきっと闇の書を倒せる! がんばれ私!」

キャラ変わってるじゃねえか! なんだよ! がんばれ私って! 可愛いじゃねえか!!

「プレシアさん落ち着いて!」

「スカさん! どうにかしろ!」

このままじゃいろんな意味で危ない!

『プレシア、アリシアはおそらく帰ってくる』

「……えっ」

スカさんの帰ってくるという言葉に反応したのかプレシアさんは、魔法の発動を止めた。
何かを探るような目つきでスカさんを睨む。

「それは、何の根拠で言っているのかしら」

『闇の書の研究をしていたのは、他にもならぬ私と君だ。闇の書のことなら大抵は理解できている。』

「それで?」

『おそらくだが、アリシアが取り込まれたとすれば、それはフェイト・テスタロッサが闇の書に取り込まれたからだ。彼女たちはある意味同じ人間だからね。アリシアの体調が崩れたのも彼女はこのことを予知していたのかもしれない』

「ええ」

『しかし、事実取り込まれたのは、フェイト・テスタロッサだけだ。フェイト・テスタロッサの意思が彼女を呼んだ。だが、彼女の意思が消えてしまうと、おそらくアリシアは闇の書から吐き出されるだろう』

「……」

『遅かれ早かれフェイト・テスタロッサの意思は消えるか、それとも脱出できるかはすぐにわかる。だったら少しここで待ってみたらどうだい?』

「……」

プレシアさんは顎に手を当てて考えている。
今ここで闇の書に攻撃を仕掛けるか、それとも待つか。

「いいでしょう。あなたを信じて30分待つわ。けどそれが過ぎたら、闇の書に攻撃を仕掛ける」

『構わないよ』

それだけ伝えると、プレシアさんは自分の部屋に戻っていった。

「何とかなった…」

嵐は過ぎ去ったようだな。

「それにしてもアリシア大丈夫かな」

『多分大丈夫だよ』

「へえ、スカさん何でわかるんだ」

『普段のあの子を見ていると感じるが、あの子は強い子だ。何食わぬ顔でここに戻ってくる気がするよ』

「それは俺も同感」

きっと遊ぼうとでも言いながら戻ってくるだろう。





sideフェイト


「どうしたのフェイト?」

「…なんでもないよ」

私はさっきまで闇の書と戦っていた
そう、戦っていたはず。だけど目が覚めたらいたのは
何度も夢見ていた、適わない夢。

「本当にどうかしましたか? 顔色が優れませんよ」

「大丈夫だよ…」

リニスがいて、アリシアがいる。そして母さんがいる。
きっと適わないはずの夢だった。夢だから出来ることだった。
夢、これはきっと夢だってわかってる。

「フェイト、調子が悪いなら我慢せずに言っていいのよ」

「はい…母さん」

いないはずのアリシア。消えてしまったリニス。
私に優しい母さん。みんながいるだけで私の心が温かくなるのがわかる。

「じゃあ今日はみんなでお出かけしましょうか」

ああ神様、もう少しだけ、この幸せな夢にいては駄目ですか。





side高町なのは


「っく!」

フェイトちゃんが闇の書さんに取り込まれえて
何とか私とシントラちゃんで抑えているんだけど、闇の書さんの力は、益々強くなっていくように感じる。

『Schwarze Wirkung.』

バリアが砕かれ、さらに強力な攻撃を加えてくる。
レイジングハートを盾にして防ぐけれど、威力は弱まらず吹き飛ばされてしまう。

「わっ!?」

海に叩きつけられると思ったけれど
シントラちゃんがギリギリで受け止めてくれた。

「ありがとう」

「別にお礼言われるほどじゃねえ」

「にゃはは」

確かに一人では、勝つことはおろか、耐え続けれるかどうかもあやしい。
フェイトちゃんのことも心配だ。
戦闘区域を海に移したから、なんとか町のほうは、リンディさんがしてくれるから、心配はない。
後は私が闇の書さんを説得できれば何とかなる。
レイジングハートにカートリッジを再リロードする。

『Reload.』

「マガジン残り3本。カートリッジ18発。スターライトブレイカー、撃てるチャンスあるかな?」

リロードしている間はシントラちゃんが闇の書さんを相手してくれてる。
だけど、私がスターライトブレイカーをチャージするときっと止めにくるだろう。
止められる前にどうにか撃つチャンスは…

『I have a method.(手段はあります)』

「えっ」

『Call me "Excellion mode."』

「駄目だよ! あれは本体の補強するまで使っちゃ駄目だって」

今、それを使うと最悪の場合…

「私がコントロールに失敗したら…レイジングハート壊れちゃうんだよ!」

だから、そんなの絶対に駄目だよ!

『Call me. Call me, my master.』

…レイジングハートも止めたいんだね。闇の書さんを
この繰り返される悲しみ、悪い夢を。…わかったよ! 一緒に止めよう

「うわあぁああぁあ!!」

「シントラちゃん!?」

「お前も…もう眠れ」

気づくとシントラちゃんは吹き飛ばされ、目の前に闇の書さんが佇んでいた。

「いつかは眠るよ。けどそれは今じゃない、今は、はやてちゃんとフェイトちゃんを助ける…それから、あなたも!!」

全力全開で!!

「レイジングハート! エクセリオンモード! ドライブ!!」

『Ignition.』





sideフェイト


冷たい雨が降り続ける中、私とアリシアはいた。

「ねえ、フェイト…夢でもいいじゃない。ここにいよ? ずっと一緒に」

ここは夢、私がずっと望んでいた夢。
アリシアの言うとおり、ここにずっといたらきっと楽しいだろう。
アリシアと一緒にずっと一緒にここにいたい気持ちは確かにある。

「私、ここでなら生きていられる。フェイトのお姉さんでいられる。母さんとアルフとリニスと、みんなと一緒にいられるんだよ」

みんな…一緒に…

「フェイトが欲しかった幸せ、みんなあげるよ」

確かに欲しかった…だけど

「ごめんねアリシア…私は行かなくちゃ」

きっと外ではなのはがシントラがアルフがユーノが、みんなが頑張っている。
それなのに私だけ幸せな夢を見ているわけにはいかない。

「そっか…」

そう答えるとアリシアの雰囲気がガラリと変わって、私の首を絞めてきた。
私より小さな体とは思えない力がこもっている。

「ア、リシ、ア?」

「…くせに…」

「えっ」

「母さんを助けれなかったくせに!!」

「っ!?」

首が絞められて息が出来なかったけど、別の意味で息が出来ない。
アリシアの目が憎悪に染まって私を射抜く。

「母さんだけじゃない! 私も殺したくせに!」

考えていた。アリサにアリシアの話を聞く前からずっと
夜中に魘されて起きる事だってあった。アリシアは私を恨んでるんじゃないかって
アリサからは、見守っていると言っていたと聞いた。
うれしかった。ずっと悩んでいたことが少しは解消したような気がして。

「お前なんか…」

だけどやっぱり実際は恨まれていたんだと思う。
だってアリシアの目は、私を叱ってるとの母さんの目にそっくりだ…
アリシアの腕の力が徐々に強まっていく。

「お人形なんか…」

さっきまで、この夢から出なきゃと思っていた。
けど、私はここにいた方がいいのかもしれない。罰としてここに残って方が…

「死んでしまっt「おねえーーーーーちゃーーーんパワーーーー!! マキシマム!!!」」

突然の大声がすると思った途端、苦しみから解放された。

「っとう!」

いきなり飛んできた。金色の流星は、アリシアを蹴り飛ばし
クルリと一回転し、地面に着地した。

「え…アリ、シア?」

「正義の味方は遅れて参上するって言ってた!」

現れたのは、さっき私の首を絞めていたアリシアだった。
蹴り飛ばされたアリシアは光の粒子になって雨雲の中に消えていった。

「全く! 嘘ばっか言って! フェイト、大丈夫?」

「う、うん」

アリシアは私に笑顔のまま手を差し伸べてきた。
私はその手を素直に握り返せなく、ずっと手を見たままだった。

「フェイト?」

「アリシアは…私のこと…恨んでるよね」

何を言ってるんだろう。このアリシアは私を助けてくれたのに。だけど私の中の負の感情が溢れ出てくる。
きっとこのアリシアも私のことが嫌いなんだ。きっと恨んでる。責められる。考えれば考えるほど悪い方向にしか思い浮かばない。
さっき見たアリシアの目が忘れられない。
やっぱりアリシアは私のことを恨んでいる。そんなことが言いたいんじゃないのに
今の私には、そのことしか考えられない。

「なんで?」

だけどアリシアはきょとんとした表情を浮かべて聞いたきた。

「だって、私はアリシアを、母さんをっあう!」

額に痛みが走る。でこピンされてしまった。

「フェイトはマイナスに考えすぎ! 例え死んでいても私はフェイトのことぜっったい恨まない」

痛みのせいでよく聞こえなかったけど、恨まないという言葉は聞こえた。

「どっ、どうして!?」

「そんなの簡単だよ! 私はフェイトのお姉さん! フェイトは妹! 妹を信じてあげない姉はいないんだよ!」

アリシア…

「…うぅ……ふぇ…えぇ…」

膝を突いたままアリシアに泣きついてしまった。
アリシアの言葉を聞いて私の中の負の感情は嘘のように消えてしまった。

「えぐっ…ご、ごめ、んね…ひっ…アリ、シ、ア…」

悲しいわけじゃない。泣きたいわけじゃない。謝りたいわけじゃない。
嬉しいんだ。お礼が言いたいんだ。だけど涙は止まらなくて、出てくるのは謝罪の言葉ばかり。

「謝らないでよ…謝らなきゃいけないのは私なのに、それにフェイトが泣いてるとわたし…えぅ…」

「あぅ、あり、ありが、ふぇ、とう…」

その後私たちは、しばらく二人で泣き続けた。





「えへへ」

「ふふ」

泣き終わり二人で手を繋いで笑いあいながら、歩いていた。そして
いつの間にか時の庭園によく似た家の中心に来た。

「ここでお別れだね」

「うん」

私は今バリアジャケットを羽織っている。
何故かバルディッシュがアリシアのポケットに入っていたから。

「フェイトはフェイト、私は私、母さんは母さん。私がフェイトの姉ってのは絶対だからね!」

「ふふ、わかったよ。姉さん」

「うう、フェイトがからかってくる…」

そんなつもりで言ったんじゃないんだけどな。
アリシ、…姉さんは、私がからかったと勘違いしたのかちょっと不機嫌になった。

「じゃあ、往くね」

「往ってらっしゃい。フェイトは自分のしたいように頑張ればいいよ」

「うん、バルディッシュ、ザンバーフォーム」

『Zamber form.』

じゃあ往こう。みんなが待っている場所へ





sideアリシア


往っちゃったか…
周りの景色は砕け、真っ暗な空間が広がっている。
私の体も徐々に足のほうから消えていってる。

「あなたでしたか、イレギュラーな存在は」

「んっ?」

暗闇の中、後ろを振り向くと、綺麗な銀色の髪の毛な女の人がいた。

「誰?」

「闇…いえ、リインフォースです。書の内部に違和感を感じて、様子を見に来たんですが、心配なかったようですね。あなたは元の場所に戻ります。それにしても…そっくりですね」

そう言うとリインフォースさんは、何だか暗い表情になった。

「どうかしたの?」

「…これから、主が戦いに赴くのですが、少し心配で」

「…さっきそっくりって言ったよね。その子も戦うの?」

体が消えていく。残っているのは上半身だけだ。

「? ええ、多分ですが」

「協力してあげる!」

「いえ、あなたの魔力ではとても…」

「私の友達が協力してくれるよ!」

「友達ですか?」

「うん。どうやって呼べるかな?」

「…そうですね。戦力が多いに越したことはありません。その人物を強く思い浮かべてください」

「了解!」

嵐は、みんな弱いって言うけど、私は結構頼りにしてるから
きっと今回もなんとかしてくれるはず!だって嵐は私と母さんを助けてくれたから!
もう体の感覚がない。今残っているのは頭だけだろう。

「この礼は必ず…」

その声が聞こえた途端、意識は途絶えた。










<あとがき>
厳しい意見の数々、ありがとうございます。参考にさせてもらいます。
次回! As編闇の書は倒せると思います。
破天荒娘のせいで参加しないといけないようになってしまった嵐の運命は!?
ちなみにフェイトが見た闇アリシアは、フェイトが思っていたことが具現したような存在です。
では!また次回!!



[6935] 第39話「夜の終わり 作戦の崩壊?」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 22:22
「…今誰か俺のこと読んだか?」

「? …誰も呼んでいませんよ?」

『呼んでいないよ』

「……気のせいか?」



第39話「夜の終わり 作戦の崩壊?」



プレシアさんの闇の書攻撃まで残り40分くらいになったとき
不意に誰かに呼ばれた気配がして振り返るが、そこにはナズナしかいない。

「確かに誰か読んだんだけどな…」

「私には聞こえませんでした」

『空耳じゃないかい?』

「うーーん」

確かに耳に響いたというよりは、念話みたいに頭に響いたって感じだ。
声は女性っぽかったような気がする…

「疲れか? いや、そこまで働いては…」

『心配事が多くありすぎて、疲れてるんだよ。もう少し休みなさい』

「…まあ、そうするわ」

特にしんどくないけど、幻聴が聞こえてくるぐらいなら
すぐに休んだ方がいいのかもしれない。そう思い部屋に向かおうとしたら

「マ、マスター!?」

「はい?」

ナズナに腕を引っ張られた。少し慌てているようだ。

「か…」

「か?」

「体が透けています!?」

「…は?」

何を言っているんだ…ってあれーーーーーーーーーー!?
俺の体が確かに透けている!? 昔流行った指人形のクリアタイプのように!?
す、ステルスか!? 何時の間にこんな技を習得したんだ俺は!? 身に覚えがないぞ!!

「な、何故!? 食生活の偏り!? 野菜をもっと食べるべきだったのか!?」

『…野菜は食べるべきだが、少し落ち着きなさい。これは、一種の召喚魔法のようなものだ。誰かが君を召還しようとしているらしいね』

鮮血の戦士とか、そういう名前だったらいいな。ていうか俺を召喚って
MP消費かなり少なそうだよな。いや、そんなこと考えている場合じゃないだろう!?

「困ったときのスカさん!?」

『無理だ。一回召喚されてから戻ってこよう』

「誰だ!? 俺を召喚しようなんて馬鹿げたことを考えたのは」

…まさかルイズ!?

『普通は知らない人物なんて召喚できるはずはない。だからこれは君のことを詳しく知っているも人物だね』

「…ですよね」

スカさんとの会話中に俺の体はよりスケルトンになっている。
というか、俺の腕を掴んでいたナズナまでスケルトン。

「ナズナ、危ないから離れてたほうが」

「いやです」

「…あの」

「いやです」

「……」

残念! この装備は外せない!残念じゃないけどさ…
まあいざってときにはナズナがいる方が助かるし、構わないか

『召喚先に何があるかわからないからね、デバイスは起動しといたほうがいいね』

「…蛇が出るか鬼が出るか」

出来ればピンクの髪のアリサが出ればいいな。
あっ、それだと余計に現実帰れねえ。





sideクロノ・ハラオウン


現場に到着して途端目に入ったのは、大きな闇だった。
闇の書の暴走は、まだ始まっていないというのに、凄まじい魔力を感じる。
グレアム提督から、受け取ったデュランダル。これが果たして闇の書に効くだろうか…

「あれは…なのはに…フェイト…もう一人はユーノが言っていた…」

現場には三人の魔導師がそろっていた。
一人は何者かはわからないが、ナズナと関係のある魔導師らしい。
あいつらは気に入らない。今回も何か裏でコソコソと何かしているのだろう。

「むっ」

闇の書の黒い光とは似つかない白い光が輝き
周りに守護騎士たちが集合している。しかしいつもより一人多い?
守護騎士たちの守られるように中心にいた、光の玉が砕けると共に一人の少女が現れた。

「そろそろ僕も合流しよう」

そう思い下降を始めようと思った時…

「失礼しまーーーーーーーーーーーーす!!!!」

後頭部に衝撃、そのままなのはたちの場所まで叩きつけられた。





side高町なのは


「は、やて! はや、て! はやてーー!!」

はやてちゃんに泣きついているヴィータちゃん。
まだ全部終わったわけじゃないけれど、これを見ていると、心が温かくなる。

「なのはちゃんもフェイトちゃんもごめんなぁ…うちの子達がいろいろ迷惑かけてもうて」

「ううん」

「平気」

「うわあああぁあああああぁああぁああ!!??」

はやてちゃんに返事をすると同時にクロノ君の叫び声が聞こえた。
ちょっと、場違いだと思った。

「落ちる落ちる!」

「早くどけ! 僕を乗り物にするな!!」

振り向いてみると、そこにはクロノ君に乗っている男の子と

「ナズナ!?」

「姉御!?」

ナズナちゃんがいた

「いや~ごめんね? 俺さ、急に飛行魔法とかすんの苦手なんだ」

「笑ってないで早くどけ! 割と重いんだ!!」

ナズナちゃんと一緒に落ちてきたこの子は

「…あれ? え? ここって…え? …ええぇえぇえええ!!!!」

さっきのクロノ君を越えるボリュームで壮大に叫んだ。





sideout


気づいたらそこは空中でした。
とか冗談言う前に急降下。急いで飛行魔法を発動しようとするけど
焦りで全然発動しないのよ、これが。憑依人生一年経たずに死亡かと思ったね実際
だけど運がいいことに、誰か知らないけど魔導師っぽい人がいたから乗せてもらったのよ、背中に
そこで気づいて止めとけばよかったと只今絶賛後悔中。

「また君たちか!!」

「ナズナ! 一体どうやってここに!?」

「ナズナちゃん! 何しにここへ!?」

「あんた、どっかで会ったことあるかい?」

「アルフもそう思う? 僕もなんだよ」

「なんや、えらいたくさん集まったな~」

「本当にいっぱいですね」

「ザフィーラ、ヴィータ、どうかしたのか?」

「いや、何か頭が痛くてよ」

「同じく…」

「あねふぉ! いふぁいいふぁい!! ごふぇんなふぁい!」

≪いいえ、許しません。帰ったらたっぷり拷…模擬戦です。≫

何このカオス空間…
ナズナはナズナでここに来た途端、シントラとお話始めるし
スカさんは俺が呼びかけても反応なしだし、お前ら揃いも揃ってこんなことしている場合じゃないだろう。

『クロノ君! 時間あまり残ってないよ!!』

エイミィ、ナイス。

「っく、今は君たちに構っている場合じゃない…。みんな、話を聞いてくれ。僕は時空管理局…」

どうやら、俺たちに構っている場合じゃない状況だと思い出したみたいだな。
全員で集まって作戦会議を始めた。
なら、こっちも…

≪シントラ。状況はどうだね?≫

≪お前に言われたとおり派手に暴れたけど、本当にあれなんとかなんのかよ?≫

確かにあれに直で戦ったら、どうにかなるなんて考えるなんて無理だろう。
あれを滅ぼせるアルカンシェルってどれだけすごいんだよ…

≪そこは、主人公補正ってやつでなんとかなるんだよ≫

≪主人公補…なんだ?≫

≪わからないなら別にいい≫

≪しかしマスター、どうしますか?≫

ここから今すぐ離脱するのは無理だな…
なんか結界張ってるみたいだし。

≪流れに身を任すしかないな≫

≪そうですか≫

予定では、シントラに暴れさせて闇の書の破壊が終わった後に
シントラの場所を特定して、ナズナと一緒に襲撃する予定だってんだけど…

≪かなり狂ったな…、ここに呼ばれたのが予想外だ≫

一体誰がこんなことをしたんだ?まるでアリシアのようじゃないか



――とある寝室



「アリシア…戻ってきたのね!!」

「むにゅ…」

「体調も元に戻っているわね…」

「にゃ…」

「それにしてもどこに行ってたのかしら?」

「んにゃ…」

「やっぱり闇の書に?そう言えばあの二人は…」

「ねこじゃらしはこっちだよ嵐…」

「…闇の書の暴走体付近に反応アリ…はぁ…なにしてるのかしら」

「うにゅ…そこ違う…」

「私も準備しないとね」

「ひゃん! …どこ舐めてるの…」





「全員の紹介は済んだな…っておい! 聞いていたのか!」

「聞いてたって。あれをどうにかしないと俺たちもやばいから、協力しろって言ってるんだろ?」

確かにここでじっとしているよりいいけど
俺、ヌメヌメした感じの物って苦手なんだよね…
フェイトとなのはの治療も終わり、闇の書の暴走も始まろうとしていた。

「あたしたちはサポート班だ。あのうざいバリケードをうまく止めるよ」

「うん」

「ああ」

「あんまり自信ないんだけど…」

サポート万歳! だけどやっぱりサポートでも怖いものは怖い

「あんた、大丈夫なのかい? 言語能力をサポートするのが役目なんだろう?」

アルフ。誤解とは言え敵で心配してくれるのはお前くらいだよ…

「…最低限は、戦える」

「始まるぞ!」

クロノの掛け声が聞こえると、闇の書も答えるかのように暴走を開始した。



―――ア゛ーア゛ア゛ーー



「チェーンバインド!」

「ストラグルバインド!」

「ブラッティ・ストリング!」

緑の鎖とオレンジの鎖が触手を断ち切り。俺の赤い紐が触手に絡みつく。

「縛れ! 鋼の軛! でりゃあぁああぁああああ!!」

「触手の一本釣りぃいいいぃい!!」

ザフィーラの攻撃が敵をなぎ倒し、俺が吊り上げた触手のもがきで
残っている周りの触手を巻き込んでいく。



―――ア゛ア゛ア゛!!



「ちゃんと合わせろよ! 高町なのは!」

「ヴィータちゃんもね!」

「鉄槌の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼン!」

カートリッジがリロードされ、アイゼンの形態が変化していく。

『Gigantform.』

前から思っていたけどヴィータのデバイスのアイゼンって心惹かれるものがあるよね。

「轟・天・爆・砕!! ギガント!! シュラアァァァクゥゥゥ!!!」

使い手の何倍も大きくなりそのまま振り下ろした。
当然、その攻撃に耐えれるはずがなく、バリアは砕け散った。

「高町なのは! レイジングハート・エクセリオン! いきます!」

『Load cartridge.』

カートリッジを多く消費し、その分なのはの魔力が高まっていく。

「エクセリオン・バスタァァ!!」

『Barrel shot.』

撃たせまいと、闇の書は止めにくるが、あっけなく撃破され補足されてしまう。
知らなかったのか…? 白い悪魔からは逃げられない!!

「ブレイク!」

4つの砲撃が闇の書のバリアを破ろうとするが決定打が足りない。

「シュート!!」

その4つの砲撃に更に強力な砲撃を足され、第二のバリアは砕け散る。



―――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛



「次! シグナムとテスタロッサちゃん!」

「剣の騎士、シグナムが魂…炎の魔剣レヴァンティン!刃と連結刃に続くもう一つの姿…」

鞘と刀が合わさり、剣が弓となった。

『Bogenform.』

「翔けよ! 隼!」

『Sturmfalken.』

放った矢は、バリアに突き刺さるや否や爆発を起こし、第3のバリアを破壊した。
ブロー○ン・ファンダズ○かよ…

「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュ・ザンバー! いきます!」

バルディッシュの残りのカートリッジをリロードし、刃を振るう。
その衝撃で、フェイトを攻撃しようとしていた触手が切り裂かれる。

「撃ち抜け、雷神!」

『Jet Zamber.』

雷を帯びた刃が伸び、闇の書に切りかかる。
切り裂けぬものなどないかと言う様に簡単に切り裂かれる最後のバリア。
バリアを切り裂くだけに留まらず、闇の書まで切り裂いた。



―――ア゛ア゛! ア゛ア゛ア゛ア゛!!



闇の書は危機を感じたのか、撃墜の攻撃を加えようとした。

「…ミーティア・ナイトメア…」

「姉御が帰りたがってる…」

『Buster Rain』

『Zwei Schwert』

ナズナがカートリッジを消費し、空から黒い雨を降らし、撃墜しようとしていた触手たちを半数撃ち破り
シントラが、双大剣の片方を持ったまま鎖を振り回し、もう片方の大剣が残り半数を切り裂いた。

「はやてちゃん!」

「彼方より来たれ、宿り木の枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け!石化の槍ミストルティン!」



―――ア゛ア゛ア゛、ア゛ア……



はやての魔法が炸裂し、闇の書は石となったが、それも長く続かないようだ
ウネウネが増して、更に凶悪な見た目へと変わっていく。

「うげぇ…トカゲみたい」

「な、なんだかすごいこと…」

人間の女性みたいなのは砕け散り、今はでかいトカゲみたいになっている。
見た目と大きさ的には恐竜かもしれない。

「いくぞ、デュランダル」

『OK, Boss.』

クロノが新デバイス、デュランダルを構える。
この後、S2U使わなくなるんだっけ?結構あの電子音声好きなんだけど

「悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ」

魔法陣が浮かび上がると、海が言葉のとおり凍てつき
ちらちらと雪まで降ってきた。これって魔法の効果なんだろうか?

「凍てつけ!!」

『Eternal Coffin.』

今度こそ完璧に凍りついたが、やはり簡単に復活する。だが、そろそろ潮時だ。

「いくよ! フェイトちゃん! ナズナちゃん! はやてちゃん!」

クロノが動きを封じている間に4人はそれぞれ別の場所にいた。
そして、四方向から魔法を発動させる。

『Starlight Breaker.』

周りの魔力が集束していく。

「全力全開! スターライト…」

「雷光一閃! プラズマザンバー…」

フェイトの周りに稲妻が走る

『Darkness Breaker』

「ダークネス…」

ナズナもなのは同様周りの魔力を集束する。

「ごめんな…お休みな…」

はやての杖の先に魔力が集まる

「響け終焉の笛! ラグナロク…」



「「「「ブレイカァァァァァァァァ!!!!」」」」



桃・金・黒・白の圧倒的な攻撃を食らい、爆散する闇の書

「本体コア…露出…捕まえった!」

「長距離転送!」

「目標軌道上!」

≪誤差修正≫

参加しているけど、これ俺の力じゃなくて、スカさんの力なんだよね

「「「転送!!」」」

虹色の光を放ちながら宙に飛んでく闇の書、後はアースラ頼みだな。

























『現場のみんな! お疲れ様でした!!』

どうやら原作どおり無事に闇の書の破壊は成功したようだ。
皆が手を取り合って喜んでいる。今のうちに俺たちも退散しますか…

「そうはいかない」

「…あのさ、今おめでたい空気じゃない? そこでこれはちょっと…」

「残念だけど、僕は執務官だ。職務を全うさせてもらう」

空気読めねえな相変わらず…
いや、ここで俺たち見逃す執務官もどうかと思うけどさ…

「じゃあ、今度こそアースラにきてもらおうか」

「マジでか」

この人数でこられるとさすがに分が悪すぎるので大人しく従ったとき

「はやて!!」

はやてが気を失い倒れていた。
はやてもだが俺たちもどうなってしまうんだろう…










<あとがき>
次回! As編最終回!?
では!また次回!!










おまけ


魔法紹介

バスター・レイン(Buster Rain)
使用者:ナズナ
ナズナが持つ広域攻撃魔法の一つ
ディバイン・バスターを空に展開して、複数の敵を撃ち抜く魔法
準備に時間がかかるのと、魔力を多く消費するのが弱点。敵が複数のときは使えるが、単体のときには使いにくい。
ブラスタービットは、ミーティアに未設置なので、ナズナ自身が制御しなくてはいけない高度な技



[6935] 第40話「スタンバイ…レディィィィ!! ゴオォォォォ!!!」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/20 09:36
「長かった物語の終焉も近い…か」

≪予定とはかなり変わったけど、一応順調なのかな≫

「かなりと言うか、ほとんどな。Asは終わるけど、多分ここからが本当の始まりだと思う」

≪ここから牢獄に行かなければね≫

「そうなったら脱獄少年 リアル鈴木とかでいいんじゃない?」



第40話「スタンバイ…レディィィィ!! ゴオォォォォ!!!」



「執務官、こんなとこに居てていいのか? 八神はやてのお見舞いにでも行ってきてもいいよ? 俺たちのことは気にしないでさ」

俺たちのことなんて放っておいて、愛しい妹の友達の所に行けばいいのに。

「ふざけた事を言ってないでさっさとバリアジャケットを解除したらどうだ」

「……」

あの後、アースラに連行された俺とナズナは、取調室のような部屋に3人で連れてかれた。フェイトたちは途中で別れたが
クロノはやっぱりついてきた。

「おいおい、女の子にいきなり脱げって…おませさん!」

「なっ!? …ち、違う! そうじゃなくてデバイスを解除しろと言ったんだ!」

それは、わかってるけどねぇ…

「このまま話し合いってわけにはいかない?」

「駄目だ」

≪これは、もう無理だね≫

どうにもならんね。マジで

「ナズナ」

「はい」

「…?」

ナズナの体が光、バリアジャケットが解除された瞬間。
クロノは零れるかと思うほど目を見開いた。

「どういうことだ…」

「なにが? どれが?」

クロノは拳を握って手を震わせている。
まるで信じられないものを目にしたかのように

「何故彼女はなのはと同じ顔なんだ!!」

クロノの怒声が部屋に響く。

「そっくりさんなんじゃない?」

「そっくりで済ませれる問題じゃない!! 双子と言っても信じれるぞ」

そりゃクローンですから。ある意味双子よりも血の繋がりは濃いかもね。まあ、混ざってるけど。

「心外です」

クロノのテンションはますますヒートアップ。
もう何かいっぱいいっぱいだ。

「っく! とりあえず艦長に報告してくる。君たちはここでじっとしててくれ」

そう言うとクロノは部屋から出て行った。
俺とナズナに手錠をかけて

「ふ! ふん! …デバイスが発動しないか…」

「こっちもです」

「あたしもだ」

どうやら、この手錠をつけているとデバイスが発動しない仕組みになっているようだ。
全くスカさんやミーティアが発動しない。

「魔力も発動しにくいし、監視カメラがついてる可能性あるから、下手に動けないな…」

「力技で外れそうにもねえな…」

「今は現状待機しかないですね…」

見られている可能性を考えるとあまり会話するのはよくないだろう。
もしかしたら、この今もこの部屋を見ているのかもしれないし
だけど、このまま待機していると捕まるのは必須だよな…

「神頼みならぬ、母頼みってか」

助けるのはプレシアさんを信じるとして
今はこっちの行動を考えとかないとマズイな。





sideクロノ・ハラオウン


取調室から出たあと、僕は夢中で走っていた。
道中に何度か声を掛けられた気もするが、構っている余裕はなかった。

「かあ…艦長! これを」

「どうしたのクロノ? ようやく一段落着いたのに、そんなに慌てて」

「どしたのさクロノ君」

エイミィと母さんがいる場所についた僕は急いで画面を展開した。

「ナズナさんね……っ!?」

「これがどうか…っ!?」

二人ともこの映像を見て気づいたようだ
ナズナという魔導師がなのはに似ている、いや瓜二つだということに

「これは…」

「そっくりさん…じゃないよね」

「クロノ、あなたはどう思っているの?」

「それは…」

普通に考えたならプロジェクトFだと思う。
だけど、それだと辻褄が合わないことになってしまう。
なのはが魔導師として活躍しだしたのはP・T事件からのはずだ。
ならばその戦績が狙われてクローンを作ろうと考える者も出てくるかもしれない。
だけどナズナはP・T事件のとき、確かに僕たちの敵として現れた。

「おかしい…」

「ええ、そのとおりね」

ナズナがプロジェクトFで生み出されたなら、生み出した者は
ジュエルシードがばら撒かれた時に、ナズナを誕生さしたはずだ
だけどそれもおかしい。まだ魔導師のなりたてだったなのはのクローンを生み出しても
何の価値もない。寧ろ邪魔になる確立のほうが高い。

「ナズナさんの話は聞けた?」

「いえ…全然…」

「そう…、このことなのはさんたちには」

「まだ話していません」

「なら、このことは全てがわかったときに話しましょう。本当になのはさんそっくりなだけかもしれないわ」

「そうだといいんですが…」

なのはとナズナ
全く関係がなければそれでいいんだが、そうとは思えなかった。










sideout


ナズナの素顔が見られてから一日。
昨日はナズナの体を検査するだけで終わったが
残念ながらナズナの体を検査するだけではすぐには気づけないだろう。
二人のリンカーコアが混ざっているなんて、かなり時間をかけて調べないとわからない。
そして今日もクロノに質問攻めにされると思いきや
クロノは部屋に入ってくるなり大きな溜息をついた。

「執務官、えらく真剣な顔だな?どうした」

「…闇の書の破壊が決まってな。それを今日実行するんだ」

「へぇ…」

まあ知ってたけどね

「それが終わった後、今日は君の検査だ」

「昨日ナズナもしたのに俺もやるのか?」

注射とか苦手なんだけど…
ていうか病院の匂いが苦手だからそういう検査とか嫌いなんだよね

「当たり前だ」

「なら執務官。今日の闇の書が破壊、見学させてくれないか?」

「…逃げる気か?」

「逃げれないだろ、ナズナがここに残ってるんだし」

これで無理とか言われたら、もう闇の書は諦めます。
クロノもまさかご主人様を放って逃げようとする使い魔もそういないと思うだろう。

「闇の書とは一応共闘した仲だし、最後の別れぐらいしたいと思って」

「…いいだろう。ただし僕も同行する。逃げようなんて考えるなよ」

「もちろん」

もちろん嘘だけど。










「あれ? クロノ君」

「クロノ、どうかしたの?」

「こいつがどうしても闇の書に挨拶しときたいと言って聞かないんだ」

たどり着くと、もうそこは消える準備を整えたリインフォースとなのはたちがいた。
俺の姿を見つけるとちょっと警戒した感じに守護騎士たちは構えた。

「いや、何もしなっどわ!?」

にこやかに笑顔を作りながら、わざと顔から転倒。周りからビックリした声が聞こえるが無視。
切っておいた口から血が垂れ、魔法陣に一滴かかる。

「何をしているんだ」

「手錠のせいで動きにくいんだよ。ちょっと手を貸してくれ」

本当にズッコケタように体を捻らせ
クロノに助けを求めるとクロノは呆れたように手を貸してくれた。

「どうも」

それを当然のように受け入れ、起き上がる俺を見て
空気が和んだのか、幾分俺に向けられていた警戒の視線は解けた。

≪本当に嘘が上手になったね≫

≪誰かさんが最高の詐欺師だからな≫

≪聞こえないね。それじゃあ作業に移るよ≫

闇の書の魔法陣に変化は全くと言っていいほど見られない。
しかし、実際は白い水にインクを垂らしたかのようにゆっくりと染まっていている。
俺の血から、徐々にスカリエッティという毒が入り込んでいく。
手錠を解くのは簡単だった。口を切り手錠の内部に俺の血を侵入させて暴走させるだけ
魔法が使いにくいけど、暴走させるだけなら初心者の俺にはちょろい。
後は捕まっているフリをしてついて行けばいいだけ。
普通の魔導師専用の拘束具には俺の能力は割りと便利だった。

≪間に合うか?≫

≪余裕だね。きっと管制プログラム自身も自分は消滅したと思うだろうね≫

≪どうなるんだ?≫

≪夜天の魔道書は破壊され、新たな宿木の栞に管制プログラムを宿らせる。それが済めば目を覚ます。それまでは意識は絶たれるだろう≫

≪一回はここで壊れるわけか…≫










sideリインフォース


「私の意志はあなたの魔導と騎士達の魂に残ります。私はいつもあなたの側にいます」

本当は、主が眠っているうちに消えてしまいたかった。だけど主は私の元へ来てしまった。
私は来て欲しくなかった。

「そんなんちゃう! そんなんちゃうやろ! リィンフォース!」

あなたの悲しむ顔が見たくなかったから。主は心優しい御方だ。
私のようなものまで、気にかけてくれる。だからこそ、私はそんなあなたの顔が見たくなかった。

「駄々っ子はご友人に嫌われます。聞き訳を、我が主」

「リインフォース! きゃっ!?」

主はやてが私に駆け寄ろうとしたとき、雪に隠れた段差に躓き、地面に投げ出されてしまった。
一瞬、駆け寄ってしまいそうになったけれど、ここで駆け寄ってはいけない。別れられなくなる。

「何でや…。これから私は…これからずっと幸せにしてやらなあかんのに」

その言葉だけで、その気持ちだけで、私は幸せです。
ゆっくりと主に近づいて、冷たくなってしまった主の頬を優しく、精一杯の気持ちを込めて撫でる。

「大丈夫です。私はもう世界で一番幸福な魔導書ですから」

そう。ただ終焉を知らせるだけしか出来なかった魔道書が、こんなにも優しい主に看取ってもらえる。こんな幸せはないだろう。

「リインフォース」

「主はやて、一つお願いが」

「えっ」

「私は消えて、小さく無力な欠片へと変わります。もしよければ、私の名はその欠片ではなく、あなたがいずれ手にするであろう新たな魔導の器に贈ってあげていただけますか? 祝福の風、リィンフォース。私の魂はきっとその子に宿ります」

本当は、私があなたを支えてあげたかった。けれどそれは…祝福の風、リインフォースに託そう。

「リイ、ンフォース…」

「はい。我が主」

思いは伝えた。もう主に関わる必要はない。これ以上話していると別れが辛くなるばかりだ。
私はゆっくりと立ち上がり、主はやてから離れ、魔法陣に戻った。

「主はやて、守護騎士達、それから小さな勇者達、ありがとう。そしてさようなら」

体が消滅していく感覚が大きくなっていく。きっとこのまま私は消えていくんだろう。
主に伝えたいことは伝えた。しかし我侭を、一つだけ我侭を言わしてもらえるなら、私も主はやての家族と言う輪の中に入ってみたかった。
魔道書としてではなく、一人の人として…





sideout


「うぅ…うっ…」

「はやてちゃん…」

「はやて…」

…見事に消え去りましたね。
本当に大丈夫なのか? 全く原作と差がない消え方だったぞ?
というか、リアルであの二人の別れ見て少し涙が…

「君も満足しただろう。さあアースラに帰ろう」

「ああ、満足した。だから…」

壊しておいた手錠をクロノの目の前で破壊する。

「そろそろ帰るわ」

「なっ!? どうやって手錠を…」

「企業秘密」

俺たちの空気が変わったのを感じたのか
なのはとフェイトがクロノの傍に来た。ヴィータたちははやてを慰めている。

「クロノ君、これは…」

「問題ない。今すぐ捕らえる」

『ク、クロノ君!?』

「どうしたエイミィ!?」

『ナズナちゃんたちが脱走した!』

「何だっ…!?」

クロノが言葉を言い終える前に二つの刃がクロスするようにクロノに突きつけられた。

「…くそっ」

ナズナとシントラだった。

「俺が外したのと同じことを二人の手錠にもしておいたんだ」

「じゃあ、どうやってアースラからここに…」

『それが、アースラに突然別次元から魔力攻撃がきて、それどころじゃなかったんだ。ごめん…』

「別次元から…魔力攻撃」

…およ?それは、聞いてなかったな。自力で脱出したのかと思った。
今、リンディいないみたいだし。

「迎えにきたわよ」

魔法陣から聞こえてくる女性の声
俺たちはよく聞く声だが、フェイトはその声を聴いた瞬間顔色を変えた。

「か、あ…さん」

プレシアさんも合流した。

≪これはこれは、まさに全員集合だね≫

「退散、退散」

シントラがなのはをナズナがクロノをバインド、放心しているフェイトはスルーで
今のうちにプレシアさんが用意してくれた転移魔法で退避している最中に

「甘く見るな!!」

クロノがバインドを無理矢理、解除した。
そしてそのまま俺たちに魔力弾を放ってくるが

「なっ…」

「えっ!? 私何で…」

フェイトが弾き落としていた。
その内に全員転移魔法の範囲に逃げ切れたのだが
フェイト自身、何故クロノの攻撃を弾いたのか理解できてない様子だった。

≪転移開始まで残り10秒≫

「くっ…」

クロノはバインドを無理矢理解除した反動で動けなくなっている。
なのはもバインドを解除しようとしているが、間に合わないだろう。

「フェイト」

「は、はい」

プレシアさんがフェイトに話しかけるが、顔はなにやら真っ赤だ。

「…そ、その…前は…ごめんなさいね」

「………えっ?」

かなり無茶のある笑顔を浮かべながらフェイトに謝罪しているプレシアさんは
かなり不気味だったが、フェイトはまさかそんな言葉を言われるとは思っていなかったのかまたもや放心している。

「ま、て…」

クロノの悔しさが滲みまくった声を最後に俺たちはその場から逃げることに成功した。










<あとがき>
一応、As編終了。
全部バレてしまいました。さてどうなるか…
次回はリインⅠの行方とか、クロノ側から見たナズナ、この時のフェイトの心中とかを少し
質問のシントラの騎士甲冑はザフィーラの騎士甲冑に似た感じですが、薄い青色で
タンクトップではなく袖はついています。篭手も。下はヴィータ系のスカートですね。
では!また次回!!



[6935] 登場人物 As編
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/20 13:51
Asで増えた登場人物や無印で紹介してなかった人




















シントラ


夜天の栞完成時に守護騎士プログラムまで再現していたため誕生した新たな守護騎士。
見た目と性格はヴィータよりなので少し我侭で甘えん坊なとこがある。
ナズナを尊敬している。頭がしっかりして初めて見たのがナズナだったからかもしれない…鳥?
ナズナを綺麗に笑わしてくれる嵐も好きなんだが、何故か素直になれない。
最近は、ナズナのように綺麗に見える笑顔の練習をしているがうまくいかない。




「姉御! ここはあたしに任せてください!」




リインフォース・アインス


闇の書の破壊が終わり、気づくと攫われていた人(デバイス)
しかし、消滅する運命だった自分が助けられたのはかなり恩義を感じている。
アリシアのおかげで既に嵐のことはだいたい知っていたので協力をすることになった。
復活と同時に体が縮み、ロリ隊員の一人に加わってしまった。
自由に動けるようになってから、食に興味を持ち始め、いつか食べ歩きをしたいと考えている。




「このリンゴという果物は、皮は食えないのか?」




八神 はやて


幼い頃に両親を亡くし、障害孤独なはずだった少女。
闇の書の主に選ばれたことによって、ラッキーだったのかアンラッキーだったのかよくわからない。
家事が上手で、八神家のお母さん的存在。
ナズナについて一番興味がないのもこの子かもしれない。




「みんな~ご飯が出来たで~」




シグナム


ニート侍と言われがちだが、実際に働いてないわけではない。
休日などは剣道のコーチなどをしたりしている。
お風呂をこよなく愛す人物で、彼女がお風呂に入らないときには何かが起こるかもしれない。
最近、好敵手が出来てちょっぴりうれしい。




「主はやて。私が運びます」




ヴィータ


守護騎士の中で、一番幼い容姿だが、戦闘では一,二を争う戦闘力を持つ。
好物は、はやてのご飯とおいしいアイス。
休日は公園に遊びに行って、爺達とゲートボールをするのが趣味。
なのはに軽い恐怖感を覚えるが、何故なのかは自分でもわからない。




「やっぱりはやての飯はギガウマ!!」




シャマル


守護騎士の中で、唯一戦闘向けじゃない騎士。
主にサポート面で主や他の騎士たちを支える。ドジっこだが
最近料理に目覚め、はやてにご指導ぢてもらっているが
味が物凄い微妙。そして時々凄い味になる(不味い的な意味で)




「こんどは私が作ってみますね、はやてちゃん」




ザフィーラ


いきなり嵐たちに捕獲されてしまったかわいそうな狼。
はやてには武者修行の旅に出たと言い訳した。言う方も言う方だが信じる方も凄い…
アルフとの接触はほとんどなかったはずだが、事件後、ヴィータと散歩しているときに
でかい図体が邪魔だと指摘され、そこから知り合っていった。




「シャマル…それは止めとけ…」




グレアム


闇の書を封印しようと頑張っていたお爺さん。
計画に支障はなかったはずだが、クロノに見破られるかわいそうなお爺さん。
嵐たちの接触から、転落していった封印計画。




「闇の書の封印計画…か…」




リーゼアリア


グレアムの使い魔。猫姉妹の片割れ。
原作と違い、かなり痛い目にあった猫。プレシアさん曰く、猫の使い魔は泣かせてなんぼらしい。




「うう、あいつにやられた傷が疼く…」




リーゼロッテ


グレアムの使い魔。猫姉妹の片割れ。
こちらも原作と違い、かなりダメージを追わされた猫。夢でプレシアさんが出るらしい。




「ああ、やめて…こないでぇ…」




リンディ・ハラオウン


クロノのお母さん。最近フェイトのお母さんにもなった。
プレシアの生存の確率を聞いて、フェイトの養子の件をちょっと悩んだが
フェイト自身がいいと言ったので、そのままお母さんへ。




「自分が望んだ…ね。なんだかフェイトさんも一皮剥けたわね」




エイミィ・リミエッタ


あまり目立たないが、影で結構頑張っている人。




「大器晩成型と呼んでよ!!」




アリサ・バニングス


ナズナと嵐に一番初めに接触した原作キャラ。
そして、何故かアリシアの友達。いろいろとフラグを立てる少女である。
だからと言って何か出来るわけではない。




「な~の~は~、さっさと説明しなさい!」




月村 すずか


今のところ空気。




「アリサちゃん、落ち着いて…」



[6935] 第41話「祝福の風、復活」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 20:34
『助かったよプレシア』

「本当にあなたたちはあの執務官によく捕まるわね」

「いやー面目ない」

「お帰りー」

「ただいま」



第41話「祝福の風、復活」



サラーブに帰り、プレシアさんにお礼を言っているとき
ふと疑問に思ったことを聞いてみた

「あの、プレシアさん」

「何かしら?」

「助けてくれたのは助かりましたけど、どうして直接迎えに?」

「ああ、そのことね」

プレシアさんのおかげで脱出が楽になったのは確かだが
そのせいでプレシアさんの正体までバレてしまった。
プレシアさんほどの魔導師なら、別に直接迎えに来なくても何か他に方法があっただろう。

「理由は幾つかあるわ」

「それは?」

「まず一つ、さっき聞いたんだけどナズナの体が調べられたらしいわね」

「はい」

時間が夜遅くだったんで、俺は後回しにされ、先に謎が多いナズナの
体を検査することにしたそうだ。

「それよ」

「…?」

「ナズナの体が調べられたってことは、遅かれ早かれナズナの正体は知られるわ」

「はい」

「そうなると、誰がナズナを作ったかということになるわね」

ナズナの体が主人公二人の融合体だとクロノが気づけば
誰かがナズナを作り出したかということになるだろう。

『君は除外されるだろうね。見た目はナズナと変わらないからね』

「そうなると、あなたたちの裏に誰かがいると考えるでしょうね。だから私が出たの」

「えっ?」

「フェイトを生み出した私がバックにいると考えれば、きっとナズナは私が生み出したと考えるでしょう」

なるほど…、大魔導師プレシア・テスタロッサがバックについているとわかれば
そう考えるのが妥当だろう。

「二つ、執務官たちを混乱させるためよ」

「混乱ですか」

「ええ、自分で言うのもなんだけど、あの時に比べると、私は大分若くなっているわ。そして、あっちの情報ではプレシア・テスタロッサは虚数空間に飲まれて行方不明となっているはず。だけど私があなたたちを助けに来た。これはどういうことでしょうね」

「…矛盾が生じますね」

行方がわからなくなっていたプレシアさんが再び管理局の前に立ち塞がった。
それも、かなり若くなって

「執務官は悩むでしょうね。アルハザードの有無? 私のクローン? それとも全く別人? どれが答えなのかを」

『答えは出ないだろうがね』

あの神経質のクロノのことだから、すっげえ真面目に考えるんだろうな…
なんだか凄く悪い子とした気分だ…

「三つ、一刻も早く嵐、あなたを回収するためよ」

「俺ですか?」

「正確に言うとあなたが付けているデバイスよ」

ああ、スカさんのことね。

「私たちの正体がバレても構わないけど、あなたのデバイスの正体だけはバレては駄目。スカリエッティのAIを持ったデバイスなんてバレたら、取り返しのつかないことになるわよ」

スカさんの正体がバレるのってそんなにやばい事なのか?

「それだけで、かなりの情報を管理局に知られてしまうわ。私たちの狙い、基地の場所、能力、全てといっても過言じゃないわね」

それはヤバイ。

「まあ、このぐらいね。それじゃあ私は作業に移るから、スカリエッティ借りていくわよ」

俺の手からスカさんを受け取り、プレシアさんは研究室に戻っていった。










『…で、四つ目は』

「…………ちょっとフェイトに謝ろうと思っただけよ」

『クククククク……』

「今日こそAI破壊プログラムを完成させるわ」





sideフェイトテスタロッサ


「すみません、逃げられてしまいました…」

『しかたないわ。まさか、そんな人物が出てくるなんて、誰も予測つかないもの』

闇の書の破壊が終わった後に起きた、脱走。
それは、全部が終わったのにもかかわらず、不穏な空気を漂わせていた。

「…フェイト、何故あそこで庇ったんだ」

「…ごめんない」

あの時、突然現れたナズナに驚いのもあるけど
もう一人現れた人物…母さんの登場が私の思考を停止させた。

「…プレシア・テスタロッサは本物かどうかは定かではなかった。偽者かもしれなかったんだ」

「うん…」

あの時、クロノが母さんを攻撃したとき
停止していた思考に咄嗟に言葉が浮かんできた。



―――フェイトは自分のしたいように頑張ればいいよ



その言葉が頭に思い浮かぶと自然に体が動き、クロノの攻撃を弾き落としていた。
今もあの時も自分が何をしたのか理解できなかった。

「…今日はなのはたちとクリスマス会をやるんだろう? そこで少し休むといい」

クロノと話している今も、何故母さんたちを庇ってしまったのかはうまく表現できない。
母さんかもしれない人を助けたかったから?ナズナを逃がしてあげたかったから?
わからないことばかりだけど、母さんからの言葉を聞いたときは、心が穏やかになった。
まるで、闇の書に飲み込まれた刹那に見た夢の続きを見ているようで。

「ごめんクロノ…じゃあ、行って来る」

アリシアの言葉と、母さんの再会。それは、私の心に強い芯を残した気がした。










sideout


『…認識完了。夜天の栞、管制人格インプット終了』

「既に完成されてあるプログラムのバグを修正して読み込ませるだけあって、かなり楽ね」

『闇の部分は極力取り除いた。けれど、元闇の書の管制人格がいるなら、幻覚魔法の精度も上がる』

「しばらくは小まめに点検しないといけないわね。大丈夫だとは思うけど…」

『ここで暴走されては適わんからね』

「…終った?」

ナズナがシントラと模擬戦という名の拷問を始めてしまったので
暇になった俺は、スカさんたちの研究風景を観察しに来てみたんだけど欠片も理解できなかった。
さっきの会話はなんとなくわかるけど、やってることはチンプンカンプンだ。

「あら? いたのね」

『すまないね。ほったらかしで』

「プレシアさん…さっきお茶入れてきたの俺なんだけど…」

喉が渇いたって言ったからお茶入れてきて、それ飲んだのに…
俺のことを認識してくれてなかったのか…

「ごめんなさいね。研究しているとどうも他に目がいかないの」

『まあ、そのおかげで早く済んだんだ』

「済んだ?」

「ええ、夜天の栞に管制プログラムを登録できたわ。今から起こすの」

『見てもらったほうが早いね。ポチっとな』

スカさんの人形がスイッチを押した途端、雪のような光が集って女性の形になった。
ていうかポチっとなってあんた未来のデバイスのくせになんか古いな…

『こ、…ここ、は』

『ノイズが酷いな…修正修正…』

『お前達は…主は…』

周りをキョロキョロと確認し、その後俺たちを見るリインⅠ

「初めまして…じゃないな。こんにちはリインフォース」

『お前は…あの時の…』

「あの時がどの時かわからないけど、今の状況理解できてる?」

なんだか、寝起きみたいな印象受けるんだけど…

『私は…主と別れ…消滅したはず…』

「その後のこと覚えてる?」

『暗い…暗い空間を彷徨っていた。その間に私の体が浄化されるのを感じた…』

浄化…というのは、恐らくスカさんたちの闇を取り除いたとこだろう。
汚い水を綺麗にする感覚なんだろうか?

『君が消えるのは惜しいと思ってね。助けてみたんだ』

『そんなことが可能なのか…』

「管理局でも出来たと思うけど、時間が足らなかったのね。私たちは事前に入れ物を用意していたから可能だっただけ」

As開始する前にこの作戦開始してたからな
事前準備は怠らないのがビビリのいいとこだと俺は思うんだ。

『お前達は…管理局じゃないのか』

『残念だが、管理局ではないね。どっちかと言うと敵かな』

『敵?』

「いろいろと事情があって、管理局との仲はあまり良好ではないのよ」

クロ助からやばい位敵視されていますからね俺ら
そんなにクロノが怒りそうなことをしてだろうか?覚えがないんだが…

『その管理局の敵が何故私を助けた』

管理局の敵=悪というわけではないとわかっているのか
あまり警戒した様子が見られない。
まあ、初めからバリバリに警戒されていたら、交渉も何もなくなっちゃうから都合がいいけどな。

『人を助けるのに理由は要らないよ』

「スカさんそれ、鳥肌立つからやめてくんない?」

いい人スカリエッティってどう考えても裏があるに決まってんだろ…
助けてくれたけど、右腕がサイコガンになってるとか。

『私を助けたのなら、私に何かして欲しいと考えるのが普通だろう』

スカさんの意見をスルーし、純粋に俺のことを睨んでくるリインⅠ
考えてみれば、初対面の相手が俺自身に質問されるのって初めてじゃないだろうか?

「…実は俺たちに協力してほしい」

『何をだ』

「俺が…自分の世界に帰るのを」

『…詳しく話してくれ』










『なるほど、ロストロギアによって飛ばされてきた異世界の住人か』

「…それでどうなんだ」

話し終えた俺は、緊張した顔でリインⅠに返事を求めた。
ここで断られえるとスカさんに説得してもらわないといけなくなってしまう。

『助けてもらったことは確かだ。それに私はお前達の助けがなければ消滅していたのも確かだろう』

リインⅠは一つ一つゆっくりと話していく。
俺の顔から一筋の汗が垂れる。

『…いいだろう。協力しよう』

「…え? マジ?」

意外なほどあっさりと協力してくれることを言った。

『…何だその顔は』

「いや、こんなあっさりでいいのか? もしかしたら主と戦うかもしれないんだぞ?」

『主と直接戦う場合は私は外さしてもらおう。それは許可してくれ』

さすがに主と戦うのは駄目らしい。まあそれくらいなら構わないが

『こんなにあっさりと許可してくれるなんて思わなかったね』

そうだね。いざという時は私が説得(洗脳)しようと言っていたスカさん。

「それより嵐と話し合う人ってのも珍しいわね」

「それは言える…」

俺って初めて話す人とかだと周りにスカさんとかプレシアさんとかナズナがいるから
みんなそっちに話しかけるんだよね。

『どういう事だ?』

「いや、プレシアさんとかに話しかけないで俺に話しかけてきたのは珍しいから」

『…お前は闇の書の暴走のときに唯一他から呼ばれた人物だ』

「あれ呼んだのリインフォースだったのか?」

『いや、私ではない。しかしお前を呼んだ者は無垢な心を持っていた。そのような者が心から信じて思うのがお前なんだ。これが協力してもいいと思った理由だ』

「えと…どうも…」

顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
馬鹿にされたりするのは慣れてるんだが、褒められたりするのは耐性がない俺には効果抜群だ。

「じゃあ…よろしくお願いします」

新たに一人回帰組に加わった一日だった。










おまけ


「これは…どういうことだ」

『気に入らなかったのかい?』

「そうでも…なくはない!」

「何か懐かしい…このぐらいの大きさのキャラ…好きだったな…」

話し合いが終わり、いざリインⅠを実体化すると、事態は混乱を招いた。

「何故体が縮んでいる!?」

目の前のリインⅠはstsのリインⅡぐらいの大きさになっていた。
今は裸になるといろいろとやばいのでバリアジャケットを纏っている。
羽が小さく二枚、赤い模様が消えて、枷も消えている…が小さい

「ロリクール…だと…!? …いかん、鼻血が…」

『まあこのくらいの大きさが一番活動にも容量にも適しているんだ。我慢してくれ』

「…複雑だ…」

この後、ホクホク顔でリインⅠを頭に乗せてナズナに見せに行くと
頬を抓られました。痛かった。










<あとがき>
完璧にAs編終了! この後空白期がしばらく続きます。
平穏に成長に伏線に…修行ぐらいですかね。
他にも外伝とかも入れていきたいとおもっています。IFの世界とか
では!また次回!!



[6935] 第42話「風のいる生活」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 20:43
「さあ! どんと来いアリシア!」

「いくよ! 嵐! えい! やあっ! とおっ!」

「この程度で俺が飛び掛ると思うな! もっとスナップを効かせろ!」

「わかった! たあっ!」

「あのねこじゃらし見ると平和だって思うわね…」



第42話「風のいる生活」



sideリインフォースⅠ


私の名はリインフォース。主はやてから戴いた名前だ。
しかし、私はもう主はやての前にはいない。新しい私の妹か弟のような存在が
この名前を受け継いでいくはずだろう。
少し寂しい気もするが、自分から主はやてに頼んだことだ。仕方がない。
だったら私はなんと名乗ればいいのだろう。そう考えているときだった。

「アインスでいいんじゃないのか?」

「…アインス?」

「リインフォースの名前を捨てたくないんだろう?」

「それは…そうだが…」

『普段は私たちも君のことをアインスと呼べばいい』

「リインフォース・アインスだとかなり長いからな。アインスかアインでいいか?」

「…そうだな、私にも呼称がないと困る。これからはアインスと呼んでくれ」

「ああ、よろしくアインス」

『よろしく頼むよアインス』

「改めてよろしくだ。」

その日から、私はアインスと名乗っている。
何故嵐がこの名前を思いついたのかはわからないが
存外にこの名前は気に入っている。そんな風に名前も決まり、皆がのんびりしている時の話だ。





~~~嵐


「ふむ…なかなかおいしいな」

「…俺が摘もうとしてたのを何故平然とアインスが食べている…」

「…? 机の上に置いてあったのだが…嵐のだったか?」

太陽が美しく輝く夕方。いい匂いがすると思い、その場所を突き止めると
そこには、クッキーといわれるお菓子が3枚置いてあった。
最近、おばちゃんと言われる人物のご飯を食べて食に興味を持った私は1枚だけもらおうと思い
口にしていたのだが、ついつい2枚も食べてしまった。

「なん…だと…」

そこにやってきたのが牛乳を片手に持った嵐だった。



「夕飯出来るまで我慢しろよ!」

「しかし、お前もこれを食べようとしていたんだろう?」

「俺は…えと…」

「…?」

「まあ、1枚残ってるし、別にいいか…」

そう言うと嵐は私の隣に座り残ったクッキーを食べ始めた。

「そういえば大分馴染んできたな」

「なにがだ?」

「アインスだよ。」

「私がか?」

「初めてここに来たときは、お菓子なんて全然興味なさそうだったのに、数日でお菓子に興味出してるじゃん」

確かにここに初めてきたときは、全く食や他のことなど興味がなかった。
しかし、ここの連中と暮らしていると、何だかいろんなことに興味が出た。
魔道書だったとき、主はやてと守護騎士たちが楽しそうにご飯を食べているのが羨ましかった。
主はやてと一緒に笑っていられる守護騎士の中に入りたかった。

「…そうだな」

「そうだろ」

普通とは違うかもしれないが、これも一つの家族なんだろう。
その温かさが私にこんなにも早く、変化を与えたのかもしれない。
消えると思っていた間際に願ったことが叶うなんて思いもしなかったが、まさかかなってしまうとはな。

「これからは、いろんな事をやってみるのもいいかもしれないな」

「やりすぎはよくないと思うが」

「ふふ、そうだな、まずは軽く…だな」

「なら今日の夕飯は俺と二人で作ってみるか」

「…面白そうだ」

何事にも挑戦してみるとしようか。



―――その日、キッチンで謎の爆発が起きたが、犯人は捕まっていない。





~~~スカリエッティ


『フフフ…、今日の研究はどうしようか…』

研究室という名の部屋に私はやって来ていた。
ここは、薬品の匂いがきつくてあまり好きではないんだが
私の体調を調べるのがこの部屋なので仕方ない。

「スカリエッティ」

『…おや、どうしたんだい?

「どうしたもこうしたもないだろう。私の検査は終わったのか」

この男は私と同じような存在のはずなんだが
こいつと一緒にされると何というか…寒気がするというか…何というか…

『検査? それならもう終わったよ』

「なら起こしてくれてもいいだろう」

『起きないほうがいろいろと都合が…』

「今度からはナズナか嵐を同行させてもいいか?」

『冗談だよ』

食えない奴だ…
デバイスのはずなのにどこか人間くさい言動に行動。ある意味生きている人間よりも人間っぽいとこがあるな。
嵐が言うには、生きている人間と一緒にすることがおかしいらしいがな。

「お前はここにいるときはいつも楽しそうだな」

『ん?』

人形を操作して研究しているスカリエッティは
試験管を持ったまま、首だけをこっちに向けて回転してきた。

「…不気味だから止めろ」

『君も同じ事を言うんだね』

「同じこと?」

『この前アリシアが見ているテレビで言ってたんだよ。人の目を見て話さないと失礼だと』

こいつの言うことはいつも突拍子もない。
この前も、赤色と血の色、どっちが好きかと聞いてきたことがあった。
どちらも一緒じゃないのかと言うと、笑いながら、研究室に入っていった。

「それがどうかしたのか」

『いやぁ…当たり前のことに気づかされたと思ってね。研究のときはどうしても研究に意識がいって、人の話なんて研究しながら聞くだろう? もちろん顔も研究している方を向いたままだ。だが人形の体なら顔だけでも話している人物のほうを向けるだろう? これを嵐にやったんだが、思いっきり否定されてしまってね』

「…当たり前だと思うぞ」



―――嵐と二人でスカリエッティの狂いについて盛り上がった。





~~~アリシア&プレシア+猫?


「ほら!」

「甘い!」

「とりゃ!」

「まだまだ!」

「よく飽きないわね…」

目の前にはプレシアがソファに座りながら
嵐、いや、猫と戯れているアリシアを見ていた。

「プレシア、あれは楽しいのか?」

どう見ても人間が楽しむ遊びには見えないんだが…

「まあ、やっている人は和むわね」

「和む…なるほど、嵐はアリシアのためにあの姿に」

「せぇいっ!」

「何の!」

人間が猫になってあれをしても大しておもしろくもないだろう。
それなのに嵐が猫に変化してアリシアとあの遊びをしているということは
アリシアを退屈させないためだろう。いい兄ということか。

「いえ、彼も楽しんでいるわよ」

「…え?」

プレシアの一言が私の考えをフリーズさせた。
目の前の嵐は猫のクセに楽しそうに尻尾を振り続けている。

「楽しんで…いるのか…」

「私もずっとアリシアと遊んでもらっているのも悪いと思って、猫でも飼おうかと思ったんだけど」

「飼わなかったのか?」

「彼に思いっきり拒否されたのよ」

「……」

「彼、「俺のかわりを飼うなんて何てことを言うんだーー!」って叫んできてね」

それは、人間としてどうなんでしょう…

「それで、あんなものまで作らされて…」

アリシアが持っているねこじゃらしは光ったり伸び縮みしたりしている。
持つ部分にスイッチらしきものが見える。

「じゃらしー君・サイクロン。暗いとこでも光って見えるし伸縮も自在。防水性だし、高い場所から落としても壊れない優れものよ」

「それは、また…」

才能の無駄遣いなんじゃないだろうか?

「まあ、私はアリシアの笑顔が見れればそれでいいわ」

プレシアさんは鞄から大きなカメラを出し、アリシアを撮り始めた。

「あっ! アインス! 一緒に遊ぼう!」

「えっ、私はその」

「アインスが嵐の背中に乗って、嵐はいつも通りに動くの」

「話を…」

アリシアに捕まれ、嵐の背中に乗せられる。

「じゃあ始め!」



―――じゃらしーコースターは結構酔うことがわかった。





~~~シントラ


「マスターは…」

「いや、そうだけど…」

「しかし…」

「けど…」

晩御飯の片付けが手伝い終わり
適当にふらついていたとき、遠くから声が聞こえてきた。

「じゃあそれでいこう」

「そうですねマスター」

声の出所を探してみると、そこにはナズナと嵐が話していた。
会話は聞こえなかったが、一段落ついたようだ。二人とも笑っている。

「……」

「んっ? シントラ、何をしているんだ」

「うおっ!? ア、アインスか…ビックリした…」

二人から隠れるように壁に隠れている者がいると思ったら
それはシントラだった。私の声にビックリしたのか少し息が荒い。

「何をしているんだ?」

「う…」

私が疑問を口にすると、シントラは困った表情になり
口を閉ざしてしまった。…わけありか?

「黙っていたらわからない」

「うぅ…」

スカリエッティに聞いた話では、シントラは夜天の栞から生まれた守護騎士プログラムらしい。
よくそんなものを生み出せたものだと素直に感心する。

「誰にも言わないでくれるか?」

「約束しよう」

「…じゃあ聞いてくれ」

ここで話すと、ナズナたちに見つかると思い、場所を移動した。

「それで、どうした? 何故ナズナたちから隠れてたんだ」

「それは…」

シントラは顔を伏せて話し出した。

「あたしさ、姉御のことが好きなんだよ。姉御が笑ってくれてると嬉しい」

「ああ」

「姉御はあたしと一緒にいるときでも笑ってくれてるけど、…嵐の傍にいるとすっげー綺麗なんだ」

「そうだな…」

「あたしなんかと一緒にいるときより凄く綺麗でさ…、さっきも遠くから見てたけどやっぱり綺麗だった」

搾り出すようにシントラは声を出す。

「嵐のことは嫌いじゃない…ナズナと一緒にいる嵐の笑顔も…その…綺麗だった」

確かにあの二人は一緒にいるときは笑っているときが多い。
訓練していても、それが終われば二人は顔を見合わせて笑う。

「姉御と嵐が一緒に笑ってるのを見ると嬉しい、けどなんか悲しい。よくわかんないけど」

…難しい問題だな

「すまない…的確な答えは出せそうにない」

「いいよ。話してだけでも満足したから。ありがとな」

「すまないな。だが、お前はまだ若い。少しずつ前に進んでいけばいい」



―――その日は二人で一緒の布団で眠った。





~~~ナズナ


「この大きさだと、本を読むのも一苦労だな」

太陽の日差しが心地よい朝
そんな朝早くに私は本を読んでいた。

「スカリエッティに頼んでみるか?」

体が小さくなってしまった私には本を読むだけで重労働だ。
毎回魔法を使うわけにもいかないので、さすがに対策を考えないといけない。

「だが、スカリエッティに頼むととんでもない物が作られそうで怖いな…」

「…? アインスですか?」

声がしたほうを振り向いてみるとキッチンにナズナがいた。

「ナズナか、こんな朝早くにどうした」

「今日は私が当番なので朝ごはんの準備を」

この家のご飯はナズナとプレシアが交互に作っている。
夕飯はおばちゃんが作ってくれるときが多いが、朝は大体交代制だ。

「そうか」

「アインスは一体何を?」

「ちょっと本を読もうと思ってな」

「そうですか」

「「……」」

…何故だ? 会話が続かない。
それに何だか空気が淀んでいるように感じる。

「少し聞きたいことがあります」

「…何だ?」

とりあえず包丁は置いてくれ
野菜を刻もうとしているのはわかっているが少々恐怖を感じる。

「アインスは、マスターと昨日夕飯を作りましたね」

「ああ、かなり失敗しまったが」

「仲がいいんですね」

「…それなりにはいいと思うが」

空気が重い。重力が重くなる魔法を食らったようだ。

「アインスはマスターのことをどう思ってるんですか」

「いい友、家族と思っている」

「“友達・家族”ですか」

「ああ」

そう答えるとナズナはぶつぶつと何かを呟き始めた。
友達なら~、とか家族はちょっと危ない~、とか聞こえてくる。家族は危ないのか?

「考えていても仕方ありませんね。朝ごはん一緒に作りましょう」

「そ、そうだな」

昨日よりもキッチンに入るのが緊張した。



―――その日は、キッチンは爆発しなかった。




















今思い出すと濃い毎日を送っているな…

「アインスー! 遊ぼー!」

「アリシア。今日はコースターは勘弁してくれないか」

さてと、今日は何をしてみようか










おまけ


~~~おばちゃん


「zzz…」

「サラちゃん…って誰もいないのかい?無用心だねぇ…」

「zz…」

「おや? これ、サラちゃんの新しい人形? へぇ~最近のはよくできてるねぇ…本当に生きてるみたいだね」

「z……」

「せっかく来たんだし、ちょっとだけ…」





「ただいま~、あれ?おばちゃん?」

「あら、サラちゃん。この部屋開けっ放しだったわよ。気をつけるようにセリアさんに言っといてくれるかい」

「うん! ありがとうおばちゃん!」

「いいんだよ、気にしないで。それじゃ、あたしはお暇しますかね」

「ばいば~い」

「zzz…」

「あれ? アインス? 何でこんな場所に…って!?」

「zzz…」

「かわいい!! 前にテレビで見た和服ってお洋服だ!」

「…ぅん…」

「嵐たちに見せてあげよ!」



―――この騒動あと、アインスの服はおばちゃんに頼み大量に作ってもらった。










<あとがき>
アインスさんと回帰組の日常風景でした。
しかし書いてみるとアインスさんが回帰組で一番大人な感じになりますね。
まだ染まってないだけかもしれませんが…
では!また次回!!



[6935] 第43話「あなたと…合体したい…」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 20:52
「嵐、なかなか戦いが上手になってきたわね」

『もう10ヶ月ぐらい続けているからね』

「まだまだ甘いとこの方が多いけど」

「それで、何故私を呼んだんだ?」

『ちょっと手伝ってほしいことがあってね』



第43話「あなたと…合体したい…」



冬の終わりが近い3月。
俺の最近の訓練の相手はナズナとシントラの交代交代だった。
ナズナ曰く、ミッドとベルカ、違う系統の魔導師との戦いに慣らすためらしい。
ナズナと違ってシントラは中々遠距離の攻撃をしてこないので、剣と剣を交じわすことが多かった。

「今日はここまでだ。今日の反省は姉御に聞いてくれ」

「どうだった?」

「そうですね…」

ナズナが俺たちのほうへ歩いてきながら考えている。おそらく今日の評価を
シントラは訓練が終わり、シントラが騎士甲冑を解除する。

「魔法の失敗は減りましたね」

「そうだな。それ、随分成功の確率上がってきたじゃねえか」

「今回は一回で成功してました」

「うん? ああ、これね」

『最近は失敗するほうが珍しいよ』

シントラが指差してきたのは、俺が持っている刀。
というより、どでかいメスなんだが。それを指している。

「ドクターソードだっけ?」

「ああ」

ドクターストップのときに使うメスとは違い、攻撃性のあるメス、それがドクターソード。
ドクターストップに攻撃性を持たすことが最近になって可能なったので
早速作った魔法だ。

「結構頑丈でうざかった」

「俺の魔法の売りだからな…」

頑丈じゃない俺の魔法なんて砲撃が使えないなのは程に役に立たない

「ただ攻撃力がいまいちだよな」

「エッケザックスと打ち合えるのは凄いんですが…」

「そうだよな…」

あまり攻撃力ないのが弱点だよなぁ…
非殺傷を解除して殺傷設定にすればかなり使える魔法なんだけどな。
俺の魔法は普通の魔法と一緒で殺傷と非殺傷を設定できている。
そこらへんはスカさんがうまい具合に操作していてくれてる。

「総合的に見て、マスターの戦い方はヒットアンドアウェイの形になるんですが…」

「なるんだが?」

「スピードがちょっと…」

「それは…」

肉体強化を使ってるから、そこらへんの般人より速いのは確かだ。
だけど、魔導師となれば話は別になる。
フェイトやナズナと俺の速度を比べてみると一目瞭然だ。

「速さか…」

『ソニックムーブでも練習するかい?』

「それ俺に全く向かなかったじゃん…」

『そう言えばそうだったね』

フェイトやエリオが使うソニックムーブ。
一回試してみたことがあったんだが、全く使えなかった。
使おうとスカさんにしてもらうと暴発して、その場で爆発を起こした。
どうやら、俺が使うには向かない魔法だったようで、それ以来練習していない。

「考えててもしかたない。スカさん、輸血」

『はいはい』

スカさんを装備している右腕から、何かが刺さる感覚がしたと思うと
俺の血が体に流れ込んでくる。
ブラッド・カードリッジ、俺がスカさんに頼んでいた一品だ。
カートリッジの弾丸を魔力ではなく、血液を詰め込んだだけだが。
採った他の血はスカさんに魔法でちゃんと保管してもらってる。

「おぉおおお~」

『気持ち悪い声を出さないでくれ』

訓練がない日とかにちょっとづつ溜め込んでいた俺の血液を使用している。
初めは刺さる感触に抵抗を感じていてが、今は慣れた。

「そういえば今日の訓練は早めに終わるんだな」

「はい」

「スカ山が何かしたいらしいぜ」

「スカさんが?」

『ちょっと試したいことがあるだけさ』

「試したいこと?」

俺の輸血が終わったのと同時に扉が開き
プレシアさんとアリシア、そしてアインスが来た。

「試したいことってなんなんだ?」

「嵐、お疲れ!」

アリシアからタオルが渡された。ほんの少し冷たくて気持ちいい。

「ありがとアリシア」

「むぅ…」

「大丈夫だよナズナ! 私はナズナの味方だから」

「い、言っていることがわかりません」

『話し戻すよ』

アリシアとナズナが盛り上がりだしたのだがスカさんの言葉で中断されてしまった。

『アインスを連れてきたということは、大体察しはついているだろう』

「…ユニゾンか?」

『そうだよ、融合の実験を試してみるんだ』

そういえばアインスってユニゾンデバイスだったんだな。
ユニゾンデバイスというより魔導師のイメージが強いからちょっと忘れてたわ。

「あなたたち三人に協力してもらうから、そのつもりで」

「わかりました。では誰からいきましょう」

ユニゾンか…、これが可能ならばかなり戦闘力上がるんじゃないか?
男が一度は夢見る最強オリ主になれるかもしれない。
こう…なのはとかも片手の一撃で薙ぎ飛ばしちゃったりさ! 無双的に千切っては投げ千切っては投げってね!

『ならナズナ、君から頼むよ』

「はい」

ナズナは、アインスと共に訓練室の中央に立った。
俺たちは魔法障壁が張られているモニタールームで二人の様子を観察することにした。

『じゃあ頼むよ』

「わかった。ナズナ、準備はいいか?」

「はい」

ナズナの返事を聞くとアインスは目を閉じナズナの体に小さい手を当てる。
小さいアインスがナズナに触れるには飛ばないといけないんだが、今回はナズナが屈んでるので飛んでいない。

「…?」

アインスの体が光りだしたが、一向に融合は起こらない。
ナズナも少し怪訝な表情になっている。

『どうやら駄目みたいだね』

「すまない」

『君が謝ることじゃないさ。ナズナとは融合適性が合わなかっただけだ』

どうやら、ナズナとのユニゾンは無理だったらしい。
ナズナとアインスのユニゾンが可能なら、ありえないほどにナズナ無双になれただろうに。

「残念です」

『しかたないね。それじゃあシントラ』

「あたしか? 何か緊張するな」

ナズナと入れ替わるようにシントラが中央に立つ。

「それじゃあいくぞ」

「あ、ああ」

さっきと同じようにシントラの体に手を当てる。
すると今回は、アインスの体と同調するようにシントラの体も光り始める。

「おおっ!」

このままユニゾンするのかと思ったのだが、光はゆっくり収まっていった。

『可能のようだね』

「ああ」

『君たちならユニゾンはできるとはわかっていたけどね』

「それでも確認は必要だろう」

『違いないね』

話の内容を聞くに、シントラとアインスの融合適性はあったようだ。
まあ、同じ夜天の栞からの存在だし、出来るのは当然といったところか

「大丈夫かシントラ?」

「き、緊張した…」

シントラは何に緊張したのかは知らないが相当緊張したみたいだ。
ユニゾンってそんなに緊張するものか?いや、融合事故とかは俺だって怖いけどさ。

『次は嵐、君だよ』

「わかった」

シントラが帰ってきていたので次は俺が訓練室の中央に行った。

「次で最後か」

「そうみたいだな。よろしく頼む」

「わかっている」

『それじゃあ始めてくれるかい』

アインスは目を閉じ俺にゆっくりと手を当ててくる。
俺は、アインスに触られた瞬間、体に異変を感じた。ピリッて感じに
電流が走ったみたいな…

「…?」

「む…」

それは、アインスも感じているようで
ナズナやシントラのときのように光りださない。

『どうしたんだい?』

「ちょっと待ってくれ」

スカさんが気になったのか、質問してきたが
アインスは俺に手を当てたままじっと俺の体を見ていた。

「よし…」

しばらく体をじっと見ていたアインスだったが、何かわかったのか
やっと体が光りだした。

「っ!?」

アインスの体が光るのを認識すると同時に頭に何かが浮かんできた。
掠れているが遺跡のようなものと、森のようなものが見える。
それに右腕が焼けるように熱い。

「っく…」

「おい……丈…か! …い!」

頭が熱くなるのを感じ、俺は意識を手放した。




















「ん…」

意識が戻ると俺は、ベットに寝かされていた。
少し体がだるく感じる。

「俺…どうなったんだっけ?」

ユニゾンの実験の後に急に意識が遠くなって…

「ようやく起きたのか」

「シントラか…」

ベットの横においてある椅子に腰掛けていたのは、ブスっとしているシントラだった。
何だか微妙に怒っているような気がする。

「どうなったんだっけ…」

「どうって?」

「あの後…」

「おめーが倒れた後、姉御がすぐにここに連れて行ったよ。あんまり姉御に心配させんじゃねえ」

「そうか…」

やはり、俺はあの後倒れたようだ。原因はわからないが
あの時は、突然頭になにかが浮かび、体が焼けるように熱くなった。

「もうすぐ姉御がここに来るから、それまで大人しくしとけ」

「ああ、心配させてすまん」

「……べ、別にあたしは心配してねえ…」

「ツンデレ…」

「もう一回寝るか?」

「…遠慮しときます」

シントラと冗談を言い合っていると、ナズナが部屋に入ってきた。

「マスター目を覚ましたんですね」

「心配掛けて悪いな」

「いえ、目を覚ましてよかったです」

起き上がり、ナズナと向き合おうと思った時、何かを右手に握っているんのに気がついた。
冷たい石のような感触がする。

「これは…」

「おめーが気絶してるときにも拳は握ったままだったんだ。何握ってたんだ?」

「赤い…石? いえ、宝石でしょうか?」

拳を開いて出てきたのは赤い石だった。しかも半分欠けている。
元はダイヤの形だったんだろう。半分なくなっている・

「何でこんな物を俺が持ってたんだ?」

「マスターの物じゃないんですか?」

「俺に宝石集める趣味はないんだが」

「スカ山に聞いてみたらいいんじゃねえか?」

「それもそうだな」

ベットから降り、スカさんの研究室に行こうとしたが
ナズナに止められ、強制的にベットに戻された。

「ナズナ?」

「駄目です。今日は一日寝ておいてください。明日、ドクター聞きましょう」

晩御飯は後で持ってきます。
そう言うと、ナズナとシントラは部屋を出て行ってしまった。

「…心配性だな」

することがないので、今日は寝ることにした。





sideプレシア・テスタロッサ


『まだ起きているのかい?』

深夜の研究室。誰もいないと思っていた部屋に声が響いた。

「ちょっと気になることがあってね」

『…嵐のことかい』

そこにいたのはスカリエッティ。人形を操作してここまで来たようだ。

「それもあるけど、今はこの人物についてよ」

『カル・ラントシュタイナか…』

カル・ラントシュタイナ。今より遥か昔に生きていた魔導師。

「彼のデータを改めて見てみたけど…不可解な点が多すぎるわ」

『そうだね』

嵐のオリジナルとなった人物。
その活躍は後世にも語り継がれているはずなのに、情報が少なすぎる。
それに彼が強いと記されているが、ここまで強いのは少し無理がある。
残っている情報が誇張されているだけかもしれないが

『彼はあまり自分の情報を流すのを嫌ったらしい。彼のDNAだって、未来でようやく発見されたものだ』

「今日の実験での嵐の反応も気になるわ。それに…」

『あの宝石だね』

嵐が気絶したときから手に持っていた宝石。
少し見せてもらったが、あれは嵐の血液で出来ていた。

「ユニゾンが鍵になったんだと思うわ。あの宝石が何かはわからないけど」

『…もう少し、カル・ラントシュタイナのことを調べてみる必要がありそうだね』

「ええ、悪いけど手伝ってもらうわ」

また、睡眠時間が削られそうね…










<あとがき>
嵐のオリジナルの話は現実回帰を書く前から考えてたんですが
ようやく片鱗を出せました。さて、うまく回収出来るかな…
では!また次回!!



[6935] 第44話「一年が過ぎるのは本当に早い」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 21:32
『そうえば一年だね』

「一年?何が?」

『君は覚えてないのか?』

「誰かの誕生日…いや、違うな」

『この過去に来て一年だよ』

「マジか?」



第44話「一年が過ぎるのは本当に早い」



「そうかぁ…もう一年経ったんだなぁ」

『初めてこの世界に来たのは一年前だね』

あの時アルハザードに飛ばされたときは焦ったよなぁ…
目が覚めたらいきなりわけのわからない爺共に囲まれてるんだからな~

「大変だったよなぁ」

『いきなり暴走体に食われそうになったからね』

「あれビビったよなぁ…」

やっとこのリリカル世界にたどり着いたと思ったらギャラ○スだもんな~。
あの時もナズナがいなければ一発退場だったはずだろう。

「本当にいろいろあったな…」

『かなり濃い一年間だったね』

ジュエルシードの回収、プレシアさんの勧誘、アリシアの蘇生。
さらには闇の書事件に殴りこみ。簡単には体験できないことばかりだ。

「よくここまでこれたな…」

『努力の勝利だね』

いや、スカさんやナズナならともかく、俺は全然頑張ってなかった気がする。
いつもナズナが前に出ていたし…

「気にしない方向でいこう…」

『どうかしたかい』

「なんでもない。そうだ、ここは一つパ~っとお祝いでもするか!」

『お祝い? 何のだい?』

「一年間お疲れ様みたいな感じで」

やっと苦しい時期を乗り越えたんだし、ちょっと羽目を外してもいいだろう。
この世界に来てスカさんとかは休みなしで働いてもらってるし、たまにはゆっくりみんなで休憩も必要ってこと!

『今日は全員休みだし、誘ってみたらいいんじゃないか?』

「そうだな」

確かナズナはリビングにいたはずだよな…





「ナズナ」

「はい、なんですかマスター?」

ナズナは予想通りリビングにいた。

「今日は花見にでも行こうかと思うんだけど」

「花見ですか?だったら準備します」

ナズナは、キッチンに入っていった。きっとお弁当を作ってくれるのだろう。
ナズナの飯はおいしいから、楽しみだ。
俺も手伝いたいんだけど、キッチンに入るといつもナズナに大丈夫と言われ追い返されてしまう。何でだろな。

「嵐~」

「おっ! アリシアもここにいたのか」

「うん。どっか行くの?」

「花見でも行こうかなって思ってさ」

「花見!! 私も!」

「俺とナズナが行くんだ。全員行くに決まってるだろう?」

「準備してくる!」

アリシアは走って自分の部屋に戻っていってしまった。
多分あの様子なら、プレシアさんにも自然に伝わるだろう。

「すげえ勢いでアリシアが走ってたけど、何かあんのか?」

さっきのアリシアを見かけていたのか、シントラとアインスまでやってきた。

「今から花見でも行こうかと思ってさ」

「花見?」

「花を見に行くのか?」

いや、花を見に行くのは確かなんだが…どっちかって言うと、桜見ない人も多いような…
アインスは何故花を見に行くのか理解できないようだ。

「まあ日本でこの時期に咲く桜っていう花があって、それの下で食ったり飲んだりしようってこと」

「つまり宴会じゃねえのか?」

「簡単に言うと宴会だ」

「だったら準備してくる。アインス! 行こうぜ!」

「あまり走るとさっきのアリシアみたいに転ぶぞ」

シントラもアリシア同様走って戻っていった。というか、アリシア転んだのね。

「みんな準備って何準備するんだ?」

間違った知識じゃないといいんだが…死体を準備してくるとか。

『暇ならナズナを手伝ったらどうだい?』

「それもそうだな」

今日こそは手伝いくらいさせてくれるだろう。ナズナがいるキッチンに向かった。

「マスター、まだ何か御用が?」

「いや、俺も手伝おうかと思って」

「え゛っ…」

俺が手伝うと言った瞬間、ナズナの笑顔に罅が入ったような気がした。
それどころか段々顔色が悪くなってきている。
何で俺が手伝おうとするといつもこんな表情をするんだろうな? 全く謎だ。

「ど、どうしてですか」

「スカさんが手伝ったらどうだって」

「少しドクターを借ります」

俺の指にあるスカさんを奪うと、ナズナは少し離れた場所に行ってしまった。
…待っているだけじゃ暇だし、なんか作ってみるか…




――離れた場所


「何言ってるんですかドクター!!」

『少しは手伝ったほうがいいんじゃないかと言っただけだよ』

「ドクターも知らないわけじゃないでしょう!」

『何をかな? ククク…』

「マスターのことです!またキッチンを爆発させる気ですか!?」

『何で爆発したのか知りたくてね』

「ドクターは直接片付けしないから駄目です」

『しかたない。諦めるよ』

「それならいいんです」

『嵐が何か作ろうとしているが、いいのかい?』

「えっ? ああっ! 待ってくださいマスター!

『ククク…』





「いや、何か作ろうかなって思って」

「ここは大丈夫です! マスターは椅子に座っててください」

「そうか? 悪いな」

適当に何か作ろうとしたら、すごい勢いでナズナに止められた。
しかも俺は何もしないでいいと言う。何故だ…

「うーむ…」

『大人しくしてるのが無難だね』

やっぱりあの時の爆発がいけなかったのだろうか…










ナズナの準備が出来てからおばちゃんを誘って花見に行くことになった。
適当に桜が咲いているとこでいいと考えていたんだが
おばちゃんが友達が場所取りしていた場所をもらったと言うので
そこで花見をすることになり、ちょっと遠出をした。

「けどよかったんですか? 取っといた場所を」

「い~のい~の! 場所取りしたのはいいけど、全員が日の花見キャンセルしたらしくて、今度にするらしいからおばちゃんがもらったの」

「へえ…運が悪い人ですね」

「あの子いっつもそんな役割なのよ! この前もね…」

適当におばちゃんの話を聞きながら目的地を目指し
そろそろ桜の木がちらほらと見え始めてきた。

「ああ、あれよあれ!」

おばちゃんが指差す場所に立派な桜が咲き誇っていた。

「ふわ~」

「すっげ~」

≪見事だ…≫

「綺麗ね」

≪壮観だね≫

各々が桜に評価を下す中、俺とナズナはシートと押さえを置いて準備していた。
おばちゃんも気づいたようで手伝ってくれた。

「すご~い! ほらほら見てよ! こんなっケホ! 花びらが口に入った~」

≪あんまり大きく口を開けないほうがいいみたいだな≫

アリシアに抱かれているアインスが冷静に判断している。
ちなみに、シントラとアインスだが、アインスはアリシアが買った新しい人形としているので
今回はアリシアが持ってきたということにしてある。
忘れそうだが、一応おばちゃんは一般人なので、アインスのことを知られるのはマズイ。
シントラのほうは、プレシアさんの従兄弟の娘をプレシアさんが預かっているという設定だ。
そして、念のため全員が魔力を封じる腕輪をしている。

「はいはい、みんなこれ持って」

「ありがとうございます」

少し桜を見ているとおばちゃんがナズナや俺
プレシアさんたちに飲み物を渡している。

「それじゃあ、いいわね」

「そうね、嵐」

「えっ? …ああ、はい」

いきなり振られて何のことかわからなかったけど
多分、乾杯的なことをやればいいんだろう。

「え~、何というかお疲れ様でした!」

「お疲れ~」

「あたしはまだそんなに働いてねえけどな」

「私は結構しんどかったわ…」

「何というか、駆け足だった一年間でしたが、これからもよろしくお願いします!」

≪フフ…≫

「もちろんです」

「何のことかわかんないけど…おばちゃんに任せなさい」

≪桜か…綺麗だな…≫

「堅苦しいのはここまでにして、それじゃあ乾杯!」

「「「「乾杯!!」」」」

楽しい花見が始まった。





sideナズナ


マスターの挨拶が終わってから数分。
マスターを含む全員が私の作ったお弁当や、おばちゃんが持ってきた食べ物を
食べたり飲んだりしているうちに時間は3時間が経っていた。
楽しい時間はすぐに過ぎていくというのこの身で実感した気分だ。

「アリシア、疲れてないかしら?」

「大丈夫!」

「いや~大人数だと、酒がうまいんだよ」

時間が経つにつれ、お弁当や飲み物はなくなっていき
そろそろお開きにしようかと考えていたんだけど…

「あのビール瓶に当たったらあたしの勝ちだぞ」

≪だが、外れたら私の勝ちだ≫

「当たってから、3回勝負とかはなしだぞ!」

≪いいとも≫

≪シントラ、何故スカリエッティが玉役なんだ?≫

「スカ山が自分がするって言い出したんだ」

≪多分、勝てないと思うぞ…≫

皆が、違うことをしていて声を掛けにくい…それに…

「俺だってな! なのは級の強さ欲しいけどなぁ、現実は甘くなかったんだ!」

何故かマスターが酔っ払ってしまって、話が出来ない。

「それにだ! この顔も全然変化ねえじゃん! 俺の子供の頃の顔ジャン!」

さっきから泣きながら、お酒の瓶に話しかけている。
止めたほうがいいんだろうか…

「あなたってどこにでもいる顔だよね…って言われた顔のままジャン! 変化くれよ!」

顔がいつもと比べると真っ赤なのが一目瞭然だ。
一体誰がマスターのコップをお酒に摩り替えたんだろう…
とりあえず止めたほうがいいと判断した私は、マスターの肩を揺すった。

「マスター、大丈夫ですか? …マスター?」

「う、…む…」

するとマスターはいきなり寝てしまったようだ。
このまま寝ると風邪を引いてしまうと思い、アリシア用に持ってきた毛布を掛けようと
カバンを取ろうとしたとき、何かに押し倒された。

「う…」

「………?」

初めは誰かわからなかったけど、振り向いたとき
顔に血が上るのがわかった。

「む……」

「っっっっっ!!!! (声にならないほどの悲鳴)」





――かなり離れた花見会場


「ん?」

「どうしたのフェイトちゃん?」

「なんかおったんか?」

「え? 何でもないよ」

「なんか聞こえたのかい? フェイト」

「あら、どうしたの?」

「何かあったの? 教えなさいよ」

「いや、気のせいだったんだと思う」

「ふ~ん、まあいいわ。…そうだフェイト、もう一回歌ってよ」

「ええっ!」

「それ賛成! お願いだよフェイトちゃん」

「うぅ…わかったよ…」

きっと気のせい。ナズナの声が聞こえたなんて。






「マ、ママッマママ、マスターっ!!??」

「あらあらまあまあ」

「…若いっていいわね」

「嵐、大胆! ナズナよかったね!」

≪おばちゃんを操作した甲斐があったね≫

「…ちぇ…」

≪何というか…まあ…なあ?≫

「zzz…」

自分の顔はおそらく真っ赤になっているだろう。それくらい恥ずかしい。

「そろそろ帰ろうかと思ってたんだけど…まだいた方がいいかしら?」

「よくないです! 帰りましょう!!」

そもそもこういうことは二人のときに…ってそうじゃなくて!!

「えぇ~、もうちょっと楽しめばいいのに~」

「いいからマスターを退かすの手伝ってください!!」

結局、この後マスターが寝相で横に動くまでこのままだった。
…まあ、別に嫌じゃなかったですけど…こういうのは雰囲気が大事…じゃなくて!!










おまけ


その後の嵐


花見の途中からの記憶が全くない。今朝目覚めると頭痛が俺を襲った。
頭痛がやっと治まり、自分が何をしたのか気になり
少し周りに聞いてみたんだが、ナズナは顔すら合わしてくれない。アリシアとプレシアさんはニヤニヤするだけで答えてくれない。
シントラは不機嫌なようなそうじゃないような微妙な感じで、アインスは何故か説明しにくいらしく
答えをはぐらかされた。
唯一答えてくれた。スカさんは…

『昨日はお楽しみでしたね』

…と答えてくれた…
何をしてしまったんだ…昨日の俺よ…










<あとがき>
花見の話でした。
フェイトたちも近く…と言っても離れていますがいました。
あんまり関わりませんでしたが…。
では!また次回!!



[6935] 第45話「悪の親玉? いえ、今日は従者です」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 21:40
「暑いな…」

「暑いです…」

「暑いよぉ…」

『私はデバイスだから感じないけどね』

「「「……」」」



第45話「悪の親玉? いえ、今日は従者です」



「それにしても暑いな…」

「はい…」

時が経つのは早く、季節は夏真っ盛りだ。
ニュースでは、今年の夏は例年に比べて猛暑だというが
生憎例年の気温を知らないので何ともいえない。

「こんな暑いときはなんもする気起きないよなぁ…」

「ですが訓練はしましたよ?」

「そりゃ怠るわけにはいかないし…」

『体に染み付いてるね』

会話するだけで汗が流れ出てくる。
こんな暑いときはクーラーが効いた冷えている部屋で寝ていたいものだ。
そういえば子供の頃はクーラーの効いている部屋で寝るとお腹をよく冷やしていたな…

「サラーブの方がまだ涼しいんじゃないか~」

『サラーブの温度は実質この世界と同じにしてある。冷房が効いた部屋じゃないと変わらないよ』

「だよな~」

なら、どこにいたって大して変わりないんだよな…
そういえば、さっきまでここにいたアリシアはどこに行ったんだ?
アリシアは目の届くところにいないと何するかわからないから不安になるんだが…

「うきゃ~~!!」

「…今の叫び声は」

『アリシアだね』

また、あのお転婆姫さんは…
今度は一体何をやらかしてしまったんだ…

「お~も~い~」

「プレシアさんは…」

「買い物に行っています」

昼ごはん食い終わった後に何か布と糸がなくなったって言ってたな。
だったら俺たちが助けに行くしかないか

「ちょっと待ってろよアリシア」

「なるべく早く~」





「…どうしたんだこれ?」

「散らかってます」

『プレシアが見たら怒りそうだね』

プレシアさんの部屋に駆けつけ、目に入ったのもは
サラーブ入り口の押入れの上のほうから、詰め込んであった荷物が
床に散らかっている光景だった。

「ここ~」

「…あれか」

その荷物の下から小さな手がこっちに手を振っていた。
手を振れるということは、まだ大分余裕があるということだろう。

「大丈夫か?」

「ちょうど荷物の隙間になってるから大丈夫」

「なら慎重に退けてくぞ」

「うん。お願い」

俺とナズナは荷物を崩さないように伸張に上から退かしていった。
作業をすること10分。ようやくアリシアの顔が見えた。

「ありがと~」

「後は引っ張るからな」

アリシアが両手を掲げ、それを引っ張りようやく脱出できた。

「ふ~」

「一体何してたんだ?」

「えとね、これ出そうと思ったの」

『なんだいそれは?』

アリシアが退かした荷物の中から取り出したのは
アリシアが目覚めて、しばらく経ったとき、デパートに行って買った物だった。

「そういえばそれ去年買ったけど、全然しなかったな」

アリシアが取り出したのは膨らまして泳ぐ、ゴムプールだった。

「今日暑いでしょ! だから、これで遊ぼうと思って!」

「なるほどね…」

アリシアなりにこの暑さをどうにかする方法を考えていたわけか
だけどそのゴムプール…

「準備の仕方知ってるのか?」

「馬鹿にしないでよ! 空気入れたらいいんでしょ!」

そうだな。空気を入れれば遊べるようになるんだろうな。

「誰が入れるんだ?」

「……」

アリシアは俺の言葉に黙ってしまった。
多分、というか絶対に考えてなかった表情だ。

「…ジャンケン?」

苦し紛れに笑顔を浮かべながらアリシアは言うが
確かにそれしか方法はないだろう。こんなことで魔法を使うのもばかばかしい。

「いいだろう! だが、ただのジャンケンじゃおもしろくない! 最後まで負けた者は勝者の言うことを今日一日聞かなくてはならない! これでどうだ!」

「おお! おもしろそう! やるやる」

「じゃあナズナも」

「はい、わかりました」

「じゃあいくよ! ジャ~ンケ~ン」

「「「っほい!」」」

魔力だけが全てじゃないんだよ!










sideクロノ・ハラオウン


「こんな時期に集まってもらってすまない」

管理局の一室。
そこに闇の書事件に関わった魔導師が集まっている。
今日はちょうど全員が仕事が休みだから、集まってもらった。

「気にせんでええよクロノ君。私も暇やったし」

「にゃはは、実は私も…」

「クロノ、気にしないで」

最近になってなのはたちも時空管理局で働きだした後輩になった。
それぞれが自分のことで忙しい中、よくこんなに集まれたものだ。

「それでクロノ、このメンバーを集めて何がしたかったんだい?」

アルフは僕を睨むように見つめてくる。こんなメンバーを集めたせいで何か大きな事件があったと勘違いされているみたいだ。
残念ながら、いや、事件じゃないことは残念じゃないんだけど、今回はそういうことではない。

「それは今から話すよユーノ。エイミィ」

「はいは~い!お任せあれ!」

エイミィに指示して、闇の書の事件に関わったもう一人の
魔導師の映像が表示された。

「こいつらは…」

「確か暴走のときにいた者だな」

「ナズナたちじゃないか。何かあったのかい?」

ナズナの映像が表示されると皆の表情が引き締まった。
それはそうだろう。彼女たちの素性はいまだにわかってない。だが、最近になってとんでもないことが発見された。

「彼女たちについて、わかったことを報告しようと思ってね」

「クロノ!? 何かわかったの!?」

「ああ」

彼女たちの映像や魔法、それにナズナの身体検査の結果。
それをさらに細かく調べていくことで、彼女たちの姿が見えてきた。

「まずこの子だね」

「シントラちゃん…」

闇の書の暴走が始まった時からいた少女。
蒼い騎士甲冑に身を包み、白い髪の毛をなびかしている。

「彼女のことを調べている内にわかったことがある。彼女は守護騎士システムで生まれた存在だ」

「何っ!?」

シグナムたちの方から驚いた声が聞こえるが、しかたないだろう。
自分たちと同じ存在が他にいるのだから。

「この映像、彼女は闇の書から攻撃を受けて負傷しているが、このときにはもう治癒し始めている。魔法を使った痕跡も見当たらない」

彼女が闇の書の戦いが終わり、アースラに連行したとき
彼女の傷は少しづつ治癒し始めていた。

「なるほど…確かに闇の書のプログラムなら、それも可能だろう」

「我らは闇の書が破壊されない限り、何度でも蘇るからな」

「…けど、この子はシグナムたちと初めて会った時にはおらんかったで?」

「そこは仮説になるんだけど、おそらく彼女たちは闇の書とどこかで接触をしたことがあるんだと思う。それで闇の書から、その守護騎士プログラムをコピーした…と思う。まああくまで仮説だから、外れてると思っておいてくれ」

闇の書のプログラムか…。並大抵の魔導師では歯が立たないだろう。





――シントラの部屋


「…よし」



―――ニヤッ



「…う~ん」



―――ニィヤ



「これも違う…」

「シントラ。ナズナたちが呼んでたぞ」

「うわぁああぁあああ!!! いきなり入ってくんじゃねえよアインス!!」

「む、すまないな。次からは気をつけよう」

「あ、こっちも怒鳴ってごめん。……あのさ…見た?」

「何のことだ?」

「ああ、別に見てないならいいんだ! うん!」

「そうか。それと、あんまり鏡を見て一人でニヤニヤするのは止めた方がいい。少し怖いぞ」

「やっぱ見てたんじゃねえか!!」





――管理局


「次に彼女…プレシア・テスタロッサだが…」

プレシアの名が出た途端、フェイトの顔が曇る。
あまりこの話題をフェイトの前で話したくないけど、フェイトに話さないわけにはいかない。

「彼女については、そこまでわかってないんだ。本物か否か、情報が少なすぎてね」

「そ、そうなんだ」

フェイトの顔が安心したようになる。
フェイトは一体どっちの方がよかったんだろうか?

「プレシア・テスタロッサについてわかったことは、彼女が仮面の魔導師の一人だということ」

「何だって!? あのいけ好かない仮面野郎は、あのクソババアだったのかい!?」

「アルフ…」

「グレアム提督の話を聞いてみると、仮面の魔導師と接触したとき、仮面の魔導師の一人が強力な電気の魔法を使用したらしい」

アリアの話によると、凄まじい電気の魔法だったらしい。
拷問器具を通して、自分の魔力を相手にぶつける魔法。並みの術者では操作も難しいと言っていた。

「プレシア・テスタロッサ…大魔導師か…厄介だな」





――とある母の帰り道


「お菓子買いすぎちゃったかしら。まあこれでアリシアも大喜びね」



―――クゥン



「あら…こんなところに子犬が…捨てられたのかしら? 哀れね」



―――クゥ…



「こんな場所で待っていてもご主人様は帰ってこないわよ?あなたも生きたいなら、醜くても生き続けなさい」



―――クウゥ



「…何よその目は? 私に縋ってもどうしようもならないわ。自分でどうにかしなさい」



―――ウゥ…



「そ、そんな泣きそうな目をしたって、だ、騙されないわよ!」



―――クォン…



「……」



その後、この子犬は新しい飼い主を見つけることが出来た。
その影に一人の女性が奮闘したのは誰も知らない…





――管理局


「そして最後の一人…ナズナだ。エイミィ、あれを」

「ほい来た!」

エイミィの操作で画面が変わり、ナズナの仮面を付けている写真から
仮面を外したナズナの写真が写った。

「…えっ」

「クロ、ノ…これは…」

「ナズナの素顔だ」

全員が仮面に釘付けになっている。
そこには、仮面を外し、なのはそっくりの顔をさらけ出しているナズナが写っている。

「ど、どういうことなの?」

「これは、僕がナズナたちをアースラに連行して、バリアジャケットを解除させたときに撮ったものだ」

「そうじゃないだろクロノ!!」

「落ち着けユーノ。今から説明する」

「ヴィータ? どうした? 体が震えているぞ」

「…なんでもねえ」

しばらく全員がパニックに陥って会話が出来なかったが
だんだんと落ち着いてきて、ようやく話が出来る状態になった。

「それじゃあわかったことを話そう。なのは、大丈夫か」

「う、うん」

「専門の機関などでナズナの身体検査の結果を細かく調べてみてわかったことがある」

「わかったこと?」

「ナズナはおそらく、プロジェクトFで作られた存在だ」

「「「「っ!!」」」」

なのはとフェイト、そしてユーノにアルフが驚いた表情になるが
はやてはよくわかっていない様子だ。

「すまないフェイト、フェイトがいるのにこんな話を」

「いいよクロノ。私もナズナのことは知りたかった」

「そう言ってもらうと助かる」

「や、やっぱり…私の…かな」

「それは、今後の調査で明らかになっていくと思う。もう少し待ってくれ」

「けど、もしそうだとしたら、なんでなのはを…」

「それも仮説なんだが…」

僕なりに考えてみたんだけど…

「まず一つ、彼らの中に未来を予言できるものがいる。これによってなのはがPT事件のときに活躍するのを予言して、なのはの細胞を入手し、それからクローンを作り出した」

これが出来る人物を一人知っているからこそ、この仮説が浮かんだ。

「二つ、彼女たちが全くの別次元から来た存在。そっちの世界での魔導師の中になのはとよく似た人物がいたのかもしれない」

だが、この仮説だとこちらの世界に干渉してくる理由がわからない。

「どちらにしても、彼女たちの後ろには何かがいるように僕は感じる。それを覚えといてくれ」

シントラやプレシア、そしてナズナの後ろに強大な何かが見える。そんな気がした。





sideout


「嵐~、お水足して~」

「はいはい只今!」

「あの…いいのですかマスター」

「今の俺はただの敗者…存分に命令するがいい」

「えと…じゃあお茶を…」

「かしこまりました~」

…ジャンケンって運だから。
しゃあないじゃん? いや、本気じゃないし、本当だし

『負け犬…ププっ』

「…うるs「嵐~」只今参ります!」










<あとがき>
クロノの仮説が惜しいとこ突いてるんですがね。
けどクロノってstsで出番ほとんどないからなぁ…
では!また次回!!



[6935] 第46話「笑顔を探れ」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 21:47
「こうかな…」

「不自然だな」

「これは?」

「少し硬いぞ」

「これでどうだ」

「…私を睨んでいるのか?」



第46話「笑顔を探れ」



sideシントラ


「全然駄目だ…」

「まあ…な…」

あたしは最近の日課の笑顔の練習をしていた。
ナズナの姉御みたいに綺麗に笑ってみたくて、練習しているんだけど…

「どうしても不気味になっちまう…」

「私も人のことは言えないが…確かにな」

前にアインスに見つかってから、アインスに付き合ってもらって
笑顔の練習をしているんだけど、お互いあんまり笑わないから全くお手本にならない。
アリシアに頼るのが一番いいんだけど、アリシアって口軽そうだよなぁ…。すぐに嵐とかにバレそうだしな。

「う~ん。アインスもそんなに笑わないからなぁ」

「すまないな。笑うというのは存外難しい」

「それはあたしも今感じているけどさ…」

普段、姉御と一緒にいるときは、普通に笑えてると思う。
けど、一人で笑ってみて、鏡で見てみると、すげー不気味だった。

「何で姉御はあんなに綺麗に笑えるんだろう…」

「ここは一つ、いろんな者から意見を取り入れてみたらどうだ?」

いろんな奴からか…
確かに、アリシアを見ているプレシアは、すげぇ綺麗に笑うときがあったな。

「そうだな。いろんな奴に聞いてみるか」

「私も同行しよう」





「あらあらシントラちゃんじゃないか」

「あっ、おばちゃん。こんちは!」

「はいこんにちは」

≪私は念話に切り替えるぞ≫

玄関から出て、外に出てみると
そこには通路を掃除しているおばちゃんがいた。

「どうしたんだい? そんなに慌てて」

「い、いや、なんでもない…あっ、おばちゃん、手伝おうか?」

一国も早く、他の人の意見が聞きたくて外に飛び出ただけなんだけどな…
だけど、それをおばちゃんに言うと、笑われそうで嫌だ。

「掃除をかい?助かるよ。そこにある箒で手伝っておくれ」

「あ、ああ」

つい口から出た誤魔化しで掃除をするハメになってしまった。
別に嫌ってわけじゃないんだけど、みんなから早く意見を聞きたい。

「何か悩んでる顔だねぇ…おばちゃんに軽く相談してみたらどうだい?」

「えっ…けど」

「大丈夫。おばちゃんは悩みを聞いても、誰にも言わないよ」

≪聞いてもらったらどうだ?≫

そうだな。おばちゃんから意見をもらうのもいいかもしれない。

「そ、それなら、ちょっと話聞いてくれねえか」

「いいのさ、さあ話してみな」

おばちゃんは、私の心の中を当てるように言葉を話す。
ここまで心の中を見破られてるとなると、あたしの悩みも解決するかもしれない。

「あのさ、おばちゃんもさっきあたしに会ったとき笑ってたよな…」

「ああ、それがどうかしたかい?」

「あれは何で笑ってたの?」

あたしの問いにおばちゃんは、しばらく放心してしまった。
そしてようやく再起動したのか、あたしの問いに答えてくれた。

「そりゃ、シントラちゃんに会えたからさ」

「あたし…に?」

「そうさ。シントラちゃんに会ったから、自然に笑顔が浮かんだだけ」

「そ、そういうもんなのか」

≪ふむ…≫

「そういうもんさ。知り合いの子が元気にしている姿を見るだけで、あたしは笑顔になるよ」

おばちゃんの笑顔は、綺麗だったけど
ナズナやプレシアとどこか違う気がした。どこがとは説明できないけど…

「さて、大体終わったね。ありがとシントラちゃん」

「あ、うん」

おばちゃんはあたしから箒を受け取ると部屋に帰っていってしまった。

「よくわからなかったな…」

「シントラ、アインス、何してんだ?」

この後、誰に会いに行こうかと考えていると扉が開き、嵐が出てきた。

「べ、別に何でもねーよ!」

「そうか? なら、今から買い物行くんだけど、一緒に行くか?」

嵐について行くのもいいけど、嵐に話すのはかなり恥ずかしい。
ここは断った方がいいな。

「お菓子くらいなら買ってやるよ」

「……行く…」

「私も行こう」





「はぁ? 何を思って笑ったか?」

「そうだよ」

買い物をしながら、少し遠まわしに嵐に笑顔のことについて
聞いてみたけど、かなり難しい顔をされた。

「笑顔ねぇ…」

「どうした?」

「いや、考えてみたらそんなに考えて笑ってないな~ってさ」

「そうなのか?」

「いや…う~ん…」

買い物カゴを持ちながら、野菜を選んでいる嵐は
あたしの問いに真剣に考えている。

「楽しいことがあれば笑うぞ?」

「それは、あたしも笑う」

「どういう状況の笑顔なんだ?」

「そ、それは…」

うぅ…、これをあたしの口から言うのは、少し癪だ…

「ナズナと一緒にいるときのだ」

「ア、アインス!?」

「ナズナと?」

あたしが悩んでいる内に、嵐の来ている服の胸ポケットから、ひょっこりと顔を出し
アインスが嵐の問いに答えていた。

「ナズナといるときか…」

「そ、そうだよ! お前と姉御、いつも笑ってるだろ!」

「いつも笑ってるか?」

「少なくとも、私が見た限りでは、大体笑っていた」

「そんなにか?」

ああもう! とにかく嵐と姉御が一緒にいるとなんか綺麗に見えるんだよ!
それだけは絶対に!! あたしが言うんだから間違いねえ!

「ん~…ナズナと一緒にいると、まあ気が楽になるからかもな」

「気が楽に?」

「ほら、スカさんとかと二人でいると息が詰まるけど、ナズナといると楽なんだよ」

「……」

嵐は、楽になると言っているけど、それだけじゃない気がする。
もっとそれ以上にも理由があるとあたしは思った。あたしにはわからないけど。

「ほら、そろそろレジ行くから、お菓子選んでこい」

「わかったよ!」





あたしたちは、店の隅にあるベンチに座っていた。

「お菓子は一個と言っておくべきだったな…」

「一個とは言ってなかったからな!」

嵐は野菜が入った袋を持って
あたしはアリシアやあたしの分のお菓子が入った袋を持っていた。

「まあ、いいか…んっ?」

「なんだ?なんかあったのか?」

「いや違う」

嵐が突然立ち上がり、あたしの髪の毛を見てきた。
なんだか、少し恥ずかしい気分だ…

「シントラ、髪留め切れかけてるぞ」

「髪留め? ああ、プレシアに買ってもらったのだ」

今日は暑くて三つ編みにするのがだるかったから普通に髪留めで来たんだけど

「寿命かな?」

「ふむ…、ちょっと待ってろ」

嵐は荷物をあたしの隣において、どこかに行ってしまった。

「お、おい! どこ行くんだよ…ってもういねえじゃんか…」

しょうがねえ、待つか…





「おう、待たせたな」

「遅いんだよ!」

「悪い、それじゃあ帰ろう」

嵐は戻ってきたかと思うと、いきなり帰ろうと言ってきた。

「結局、何しに行ってたんだ?」

「まあ、それはお楽しみというやつだな」

「アインスも知ってるのかよ」

そういえば胸ポケットに入ったままだったな。










「アインス、嵐はどこ行っちまったんだ?」

「ん? ああ、自分の用事を済ませに行ったんだろう」

家に帰ると、嵐はそのままスカ山の研究室に入っていった。
スカ山に用事ってことは、魔法関連の用事なのか?

「あれ~、シントラだ!」

「アリシアか」

嵐のには相談し終わったから、次はプレシアに聞きに行こうと思っていたら
アリシアからこっちに来てくれた。

「アリシア、プレシアはどこにいるんだ?」

「母さん? 母さんなら私の部屋にいるよ」

アリシアの部屋にいるってことは、休憩しているのか?
だったら部屋に行くのは迷惑になるかもしれないな。

「飯食い終わった後に相談するか」

「何か悩み事?」

「まあな」

「だったら一緒にご飯作ろう! 今日はナズナと一緒にご飯作る約束してたんだ!」

「な、何で料理なんかを」

「シントラ、料理を甘く見てはいけない。あれは食べる側も楽しいが、作る側もなかなか興味深い。それをすることによって悩みを忘れてしまおうとアリシアは言ってるんだろう」

いや、そんなに深く考えて言ったんじゃないと思うんだけど…
というかえらく真剣だなアインス。何か思うところがあったのか?

「え? あ~…そ、そう! それが言いたかったの!」

「…まあ、今から暇だし、姉御の手伝いするのもいいか」

「今日のご飯はお肉♪お肉♪お魚♪お魚♪」

「焼きソバです」

「うえっ!? ナズナ!?」

アリシアが楽しそうに歌っていると姉御が出てきた。
アリシアは、さっきまで歌っていた、肉や魚などが食いたかったのかショックな表情だ。

「アリシアには、野菜多めにしときますね」

「えぇ~」

「文句はプレシアさんにどうぞ」

「う…」

結局今日は姉御が行ったとおり、焼きソバになった。
塩よりソースがおいしかった。





「シントラ」

「なんだよ」

晩飯が終わってプレシアに話を聞きに行こうとすると嵐に引き止められた。

「これやるよ」

「これは…」

嵐が渡してきたのは、二つの髪留めだった。
一つは月の形を象っていて、もう一つは太陽を象ってる。

「…え?」

「スカさんに頼んで丈夫にしてもらったから、ちょっとやそっとじゃ壊れないから。シントラにプレゼントだ」

「な、なんで」

「ナズナには首飾りあげたことがあるからな。シントラにもと思って」

知っている。姉御がいつも大事に持っている首飾り。
戦闘中にも外さないくせにあれに攻撃が当たりそうになると烈火の如く怒り出す。

「あ、ありがとよ」

「二つも必要なかったんだけどな。予備ってことで」

顔を見られないように、嵐から髪留めを受け取りそのままプレシアの部屋に行った。





「それで、私のところに来たと」

「ああ、プレシアならわかるんじゃないかなって思って」

プレシアの部屋にやって来た私は早速プレシアに相談した。

「アリシアを見ている私の笑顔が綺麗に見える理由を教えて欲しいか」

「わからないか?」

「いえ、わかるわよ」

「だったら!!」

あたしは机に乗り出して、プレシアに詰め寄る。
プレシアは、あたしの顔をじーっと見ながら、何かを考えている。
そして、ようやく結論が出たのか、あたしに答えてくれたんだけど…

「けどあなたには教えられないわ」

「なんで!?」

答えは教えてくれなかった。

「自分でそれがわからないんじゃ、ナズナや私の笑顔の理由なんてわかるはずないわ」

「ぐっ…」

「それどころか、あなたがナズナのように笑うなんて、片腹痛いわ」

プレシアの言葉が私の心に突き刺さる。

「う、うるさい!! もういい! プレシアには頼らない!」

あたしは逃げ出すようにプレシアの部屋を出た。










「…ぐす…」

あたしは、サラーブの訓練室に来ていた。そこで、一人で涙を流していた。

「…そう、だよなぁ」

答えをプレシアから聞いたって、自分が姉御みたいに綺麗に笑えるわけじゃない。
そんなことは、プレシアに言われないでもわかっていた。

「…けど…」

ちょっとでも近づきたかった。姉御みたいに笑ってみたかった。

「…泣いててもしかたないか…」

こんな場所で泣いていてもしかたない。
心機一転、明日からまた頑張ろう。まずは、プレシアに謝っておこう。

『おや? 訓練室に誰かいるのかい?』

訓練室から出ようと思って扉に近づくとスカ山の声が聞こえてきた。
…ヤバイ!? あたしの顔、今は涙でぐちゃぐちゃだ!?

「あいつだけには見られたくねえ!!」

こんな顔をあいつに見られたら、どんなこと言われるかわかったものじゃない。
あたしは、さっきまでマイナス思考だった脳をフル回転させ、ある秘策を思いついた。

「て、転移魔法だ! 転移魔法であたしの部屋まで…」

すぐにエッケザックスを起動し、転移魔法を発動する。
だけど、ここで焦ったのと、さっきのことで集中してなかったのがいけなかった。
ポケットから予備のカードリッジが零れる。

「あ」

『ERROR』

「えっ?」

カートリッジの魔力まで使って転移魔法は発動した。
あたしをあたしの部屋以外のどこかに転移させたけど…










<あとがき>
シントラの悩み編突入。まあそんなに長引きませんが…
時間がわかりにくい空白期の時系列をいつかまとめたいと思っています。



[6935] 第47話「笑顔を求めて」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 21:55
「スカさん、こっちにシントラいなかったか?」

『…少し不味いことになってね』

「不味いこと? どうかしたのか」

『シントラが転移でどこかへ行ってしまった』

「だったら追えばいいんじゃないのか?」

『…出来ないね』

「…はい?」



第47話「笑顔を求めて」



「出来ないって…どうしてなんだ?」

晩御飯が終わったあと、プレシアさんの部屋から怒鳴り声が聞こえてきたかと思うと
シントラが飛び出してきた。プレシアさんに聞いても答えてくれないので
しかたなくシントラを探していたんだが、転移でどこか言ってしまったらしい。
ショックを受けていたみたいな感じだったが、まさか転移でどこかに行くほどショックを受けていたのか…

『さっき試してみたんだ。だけど…』

「だけど?」

『何故か転移先が特定できないんだ』

「何故か?」

スカさんなら、この程度笑いながらどうにかしてくれそうなんだが。

『訓練室から転移をした反応があった。だから、そこから調べてみたんだけど何回やってもエラーが出るんだよ』

エラーが出るってことは転移に失敗してしまったのだろうか?
だけど失敗したなら転移しないはずだよな…

「失敗したんじゃないんだよな?」

『転移自体は成功している。だけど集中してなかったんだろう。どこに飛んだか見当もつかない』

「エラーって出るのは?」

『おそらくだが、ジャミングが掛かっている場所に飛んだんだと思う』

ジャミングが掛かった場所…、どっかの要塞じゃないだろうな。

「ジャミングが掛かっているのに転移出来るのか?」

そもそも、ジャミングが掛かっている場所なんかに
転移すら出来ないと思うんだが。

『転移は可能だろう。転移後がどうなるか知らないけどね』

なるほど、転移は可能だけどその後が危険ってことね

「じゃあシントラはもしかしたらヤバイってこと?」

『だから初めに言ってだろう』

そう言えば言っていたような気もする。

「…どうにかして迎えにいけないか?」

『だから無理だよ。シントラから帰ってくるしか方法はない』

「…ヤバイな」

『ヤバイね…』

シントラ…無事に帰ってきてくれよ…
そして管理局のお世話にだけはなってくれるなよ…










sideシントラ


「う、うう…」

「あっ、起きましたか?」

「こ、ここは…」

何だか体が痛い。
それに、さっきまで暗かったのに明るくなっている。

「ここはステルラウィークスという村の離れです」

ステルラウィークス? 何だそれ
ていうかあたしはさっきまで一体どこにいたんだっけ?

「ビックリしました。森を歩いていたら、あなたが倒れていたんですから」

意識が段々とハッキリしてきた。そうだ。あたしは確かスカ山が来たのに焦って転移しようとして
焦っていたせいでカートリッジを落としちゃって、転移に失敗して…

「あの…大丈夫ですか?」

「わんっ!」

「おわ!? な、何だこいつ!?」

いきなりあたしの頬に濡れた感触があったと思うと
茶色い毛の犬があたしの頬を舐めていた。

「駄目だよポアロ!」

「くぅ~ん…」

「な、何だかいまいち状況が理解できなねえ…」

あたしは転移失敗してどうなっちまったんだ?
周りの景色を見るからにしあわせ荘の近くってわけじゃなさそうだけど…

「えと、私が用事で村から出たときに、ポアロが突然走り出しちゃって、それで追いかけたら、あなたがいたんです」

「…今、朝だよな?」

「はい、朝です」

あたしが転移失敗したのは晩飯を食い終わった後だから…
もしかして、ここで夜を過ごしたのか?
けど、地球じゃないみたいだし、もしかしたら時間の流れも違うのかもしれない。

「ここって地球って名前の星か?」

「地球?」

どうやら当たったらしい。ここは地球じゃない。
ということは次元を超えて転移してしまったのか…カートリッジが零れなければ…

「えと、魔導師って知っているか?」

「魔導師ですか? 知ってますよ。村にも何人かいます」

魔法文明がない次元世界じゃないみたいだな。
そう言えば助けてもらったのにお礼も言ってなかったな。

「とりあえずありがとな! あたしはシントラって言うんだ」

「はい。私はコーデリアと言います。この子はポアロ」

「わん!」

綺麗な草色の髪をした少女と茶色い元気な犬との出会いだった。










自己紹介が終わってコーデリアが川に水をくみに行って戻ってきた。

「あなたは、どうしてこんな場所に?」

「いや、えと…」

転移失敗して飛んできましたとは言えねえ…

「な、なりゆき!」

「なりゆき…ですか?」

「あ、ああ」

都合のいい言い訳なんて思いつくはずもなく、適当な誤魔化しになってしまった。

「わんわん!」

「あ、ごめんねポアロ。行こうか」

そういえば、コーデリアはよく見てみるとかなり大きなカバンを背負っている。
どこかへ行く途中だったんだろうか?

「あたしも少しついていくよ」

ここがどういうとこかもう少し知りたいし

「何でコーデリアはこんなとこ一人でうろついていたんだ?」

あたしとコーデリアは歩きながら話をすることにした。

「実は父が病気で倒れてしまったんです…。それで、父の病気を治すには、リデレフロースと言う花が必要なんです」

「それを何でコーデリアみたいな子供が?」

コーデリアはあたしの問いに困ったような表情を浮かべた。

「リデレフロースは、エブルって名前の洞窟にしか咲かないんです」

「だったらそれを大人が採りに行ったらいいじゃねえか」

姉御より小さい、あたしと同じ身長の奴を行かすなんて危険すぎる。

「実はエブルの中には恐ろしい怪物がいるという話が昔からあるんです」

「怪物?」

「はい。なんでも目がたくさんあるとか、この世の終わりを感じさせるような声を出すとか、見たら死んでしまうとか、いろいろ噂があります」

目がたくさんあって見たら死んじまう?
確かにそいつは化けモンだな。あたしだったら出会った瞬間即行逃げるね。
あ、見たら死んじゃうんだったら会った瞬間にアウトか? 対策してても無理じゃねえか。

「ならやっぱりお前が行くべきじゃねえだろ。危ねえぞ」

その噂が本当なら、尚更コーデリア一人なんて危険だ。

「…その、皆が行くのを嫌がりまして…」

「嫌がる?」

「他人のために死にに行くなんて馬鹿な真似を何でしないといけないと言われてしまいました」

…まあ、他人のために命掛けるなんて馬鹿がすることだよな。
人間ってのは、自分の命を守ることで精一杯だって嵐が言ってたし。

「だから私が採ってこようと思ったんです」

「はあ!? 大丈夫なのかお前!?」

「大丈夫ですよ。こう見えても魔導師なんです」

「えっ、コーデリア、魔導師だったのか?」

「はい。村に何人かいると言っていたでしょう」

「いや、コーデリアが戦うようには見えなくてさ」

コーデリアは姉御やあたしと違って戦う者の雰囲気を纏ってない。
おそらくまだ実戦経験が少ないんだろう。

「だから一人でも大丈夫です。それにポアロも一緒にいます」

「わん!」

コーデリアの言葉に返事をするようにポアロは吠えた。

「あれですね」

突然コーデリアが立ち止まったと思うと森の奥に向けて指を刺した。
そこには洞窟への入り口があった。

「ここでお別れですね」

「ん…」

「この道を引き返すと、私の村に着くので、まだ話が聞きたければどうぞ」

コーデリアはそれだけあたしに伝えると
ポアロと一緒に洞窟に入っていった。
そのとき、コーデリアの手が震えているのをあたしは見逃さなかった。

「どーすっかな…」

ここでエッケザックスにサラーブへの座標を特定してもらって
サラーブに帰れば、それで全部終わるだろう。

「けどな~」

倒れているところを手当てまでしてもらった相手をこのまま見殺しにするのも後味悪い。

「それに…」

あいつは父が病気と言っていた。そのとき、何故か姉御や嵐の姿が頭に浮かんだ。
あたしがコーデリアの立場だったら…あたしは…

「家族…か…」

あたしの足は洞窟に向かっていた。










「ありがとうございます! わざわざついてきてもらって」

「わん!」

「いや、あたしが勝手についてきただけだから」

洞窟に入ってコーデリアに追いついたとき、コーデリアは
最初は驚いた顔をしたけど、心細かったのかすぐにうれしそうな顔になった。

「にしてもでけえ虫が多いな」

「はい。少し気持ち悪いですね」

洞窟に入って最初に出迎えてくれたのは、地球ではありえないぐらいでかい虫だった。
大きいのとなるとあたしくらいの大きさの虫もいた。

「コーデリアは、こんな所に一人で来るってことは結構出来るのか?」

実戦経験は少なそうだが、魔導師としての訓練はしていて
腕はそこそこかもしれないしな。

「えーと…、そんなに魔法は使わないんです…」

「はあ!? だってデバイスも持ってるじゃんか!」

洞窟に入ってからデバイスを起動したんだろう。服がバリアジャケットになっている。
デバイスは短剣と銃の二丁のデバイスだ。

「こ、これは、私の祖父の形見なんです」

「祖父?」

「はい! 私に祖父はとても強い魔導師だったんです! 村で一番強かったんですよ!」

コーデリアは自分のことのように爺さんの武勇を語る。

「祖父は私なんかより百倍凄くて」

とか

「祖父が解決できなかった事件はない」

とか
かなり、爺さんのことを尊敬していたようだ。

「私も子供の頃から祖父のことが大好きで、よく祖父の真似をして遊んでました」

「その石ころもか?」

コーデリアが首飾りにしている紫の石ころ。
あまり綺麗ではなく色がよく見えないが、確かに紫色だ

「はい。これも祖父の…」

コーデリアは途中で言葉を切り、あたしの方を指差してきた。

「で、…出ましたーー!!」

「は?」

ポアロと二人で洞窟の岩陰に隠れて、あたしの後ろを睨んでいる。
あたしも後ろを振り向いてみるとそこには…

「…光?」

洞窟の天井に無数の穴が開き、太陽の光が入り込んでいる。

「め、目玉がたくさんですよ!!」

「ああ、なるほど」

一つ目の謎が解けたな。

「多分、これがたくさんの目の正体だよ」

「……」

コーデリアは、恐る恐る、天井の穴を確認する。

「そ、そうみたいですね。よ、よかった」

「全く、大丈夫かよ」

こんなとこで手こずっていたら、目当てのとこまで無事にたどり着けるかわかったものじゃない。
やっぱり着いてきて正解だったな。

「先に進もうぜ。後、話の続きも」

「は、はい。これも祖父の真似なんです」

ゆっくりと歩きながら、コーデリアは話を再開した。

「祖父はとても凄い魔導師でした。それに比べて私は全然です。村のみんなからも、サポートや研究班になった方がいいと言われるほどです」

「そうなのか?」

「魔力量もそこまで多くありません。それに性格が臆病で…」



―――ゴオオォォォォ



「うひいぃぃ!?」

「落ち着け、この分かれ道からだ」

分かれ道の片方から風が吹いているせいで、人の声みたいに聞こえる。
風が吹いているってことは、こっちから行けば外に出るかもしれないな。

「どっちに行けばいいんだ?」

「か、風が吹いてない方です。外じゃなくて奥にあるんで」

コーデリアはあたしの背中に張り付いたまま離れない。
本当によく一人で採りにこようなんて考えたな。

「この世の終わりを感じさせる声ね…」

「何か言いましたか?」

「なんでもねえ」

二つ目の謎も解けたな。





上に行ったり下に行ったりを繰り返して15分。
その間、コーデリアとは、爺さんの話やこの世界のことやをしながら道を歩いていた。

「この世界は普通外からの者はわからない用に結界が張ってあるんです」

「この世界にあたしが来たのは凄いことってことか」

「はい、よっぽど優れた魔導師か、運がいい人しか来れませんよ」

「へ、へえ…」

本当のことは言わないでおこう。

「おっ? かなり広い空間に出たな」

たどり着いた場所は、円形に出来ていて、かなり広かった。

「あそこにまだ道がある。行ってみるか…ってどした?」

道を見つけ、コーデリアに話しかけると、コーデリアはある一点を見つめていた。
そこには、ポツンと花が一輪咲いていた。

「あ、あれはリデレフロース!? やりました!」

一目散に駆け寄り、花を摘もうとするが、ポアロが何かに警戒している。
あたしも何かが蠢いているのを感じコーデリアの襟を掴み下がらせた。

「引けっ!!」

「わっ!?」

コーデリアをあたしの場所に下がらすと同時に



―――オォオオォン!!



地面から花を頭に生やした生き物が現れた。










<あとがき>
シントラ成長編は残り2話くらいで終わりですね。
質問のシントラ成長の件ですか、永遠のロリータです。
stsになるとアリシアがロリータじゃなくなっちゃうんですよね。
小話でシントラがスカさんの魔法で大人に…とかは考えてるんですが…
ちなみに今回登場したコーデリアは、背がかなり小さいですが10才です。シントラは気づいていません。
では!また次回!!



[6935] 第48話「笑顔のために」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 22:01
「な、なんですか!?」

「わん! わん!!」

「めんどくせえことになってきやがった!」



―――フッーー! フッーー!



第48話「笑顔のために」



sideシントラ


―――オオォ!!



「ラスボスってとこか!」

突然地中から現れた、謎のサイ? みたいな動物は鋭い眼光であたしとコーデリアを射抜いてくる。
サイにしては尾が長く太いし、殻? のようなものまで皮膚についているが、一応サイに見える。大きさは小象ぐらいだがそれでもでかい。

「こ、こっこ、怖くなんてありません! ポアロがついてます!」

「後ろ見てみろ」

「えっ?」

「クウ~ン…」

コーデリアの後ろに丸くなって隠れているポアロがいた。
さっきまで吠えまくっていたが、今の咆哮で根負けしてようだ。
まあ、さっきまで吠えていたのは凄かったけどな。さすがに根負けしちまったか。

「ポアロ! 私の後ろに隠れるなんてズルイ!」

「わ、わぅん…」

「お前ら喧嘩してる場合じゃないだろ!」

コーデリアはポアロを捕まえ前後に激しく揺すっている。
やばい状況なのに、何故か緊張感がない二人だった。

「父のホームズが泣いていますよ!」

「わうわうん…」

「いいから敵に集中…っ危ねえ!!」



―――ガアァアアァ!!!



サイ? が我慢できなかったのか、
物凄いスピードであたしたちに鋭い角を向け突進してきた。

「早い!?」

コーデリアを掴みポアロを胸に抱き、前転し、攻撃を何とか、かわす。
そのまま突っ込んでいったサイ? は硬い岩に激突した。

「や、やりましたね!」

「いや…」

岩が砕け、砂埃が舞うが、その中から一つの影が出てきた。

「ダメージはねえみたいだな」

「あわわわわ」

「くうん…」

しかし思いのほか深く角が岩に刺さったのか、抜けないようだ。
体を必死に動かして抜こうとしている。
その様子を見る限りはそこまで頭はよくないのかもしれないな。多分。

「コーデリア、こっちこい」

「ふえ?」

コーデリアを少し離れた岩場に連れて行く。

「いいか、絶対にここから動くなよ」

『Shell Protection』

エッケザックスでスカ山に作ってもらった簡易の防御魔法を発動しておく。
コーデリアとポアロを白い光が包むように展開される。

「シ、シントラさんは!?」

「あたしか? あたしはちょっとあいつと遊んでくる」

「で、でも!?」

「大丈夫だって。あたしはこう見えても結構強いんだぜ? ここでじっとしてろよ」

あたしは、コーデリアたちの隠れている岩場から離れ
サイ野郎が突き刺さっている場所に戻った。



―――ウウゥゥウ…



「はっ! 無事に抜けたんだな! そのまま突き刺さったままだと思ったぜ」

人間の言葉が理解できるかはわからないけどとりあえず挑発をしてみる。
するとサイ野郎は頭にきたのか、走り出す準備をしている。

「人間の言葉がわかるのか? まあどっちでもいいか」

サイ野郎は長い尾を激しく振り、威嚇してきている。

「今からあたしが叩き切ることには変わりねえんだからな!!!」

エッケザックスを持ち上げ、サイ野朗に向けた。

「来いよサイ野郎! その立派な角とお別れさしてやるぜ!」

サイ野郎はあたしの挑発に乗ったのか、凄まじい速度であたしに向かってきた。
でかい体からは想像できない速度だ。

「まずは力比べだ!!」

あたしはエッケザックスをサイ野郎に向けておもいっきり剣を振るった。
あいつの角とあたしの剣が衝突し火花を散らす。

「くっ…なかなか…効く…」

あいつの速度がプラスされている衝撃は
かなりの衝撃だった。思わずエッケザックスを弾かれてしまいそうになった。

「だらっ!!」

エッケザックスを両手で握り、全力でサイ野郎の角を弾く。
サイ野郎は、そのせいで自分の体の向きがズレ、違う方向に突っ込んだ。
どうやら、いきなりは止まれないようだ。

「手が痺れた…」

サイ野郎の突進を弾けるのがわかったのはいいが
一回一回弾いて、手にこんなに痺れを与えてしまうのなら、いつ手が駄目になるかわからない。
次からは、弾くんじゃなくてなくかわすようにしないと…



―――フッーーーー!!!



自分の突進が弾かれたことに苛立ったのか
角が攻撃されたことに怒ったのかは知らないが相当頭にきたようだ。
目が血走っている。

「悪いな。加減できなくて」

するとまた馬鹿の一つ覚えのように突進を繰り出してくる。
まともに攻撃に当たってしまうと大ダメージを負ってしまうだろう。

「誰が当たってやるかよ!」

サイ野郎の動きを正確に読み、突進を回避する。
さっきと同じように突っ込んでいくが、Uターンし、またあたしに突っ込んでくる。

「空中に逃げれば当てれねえだろ」

サイ野郎が突っ込んでくるのを下で見ながら攻撃をしようと思って
空中に回避したまではよかったんだけど…



―――オォ!!!



「嘘だろ!?」

サイ野郎は速度を保ったまま、あたしに向けてジャンプして攻撃してきた。
かなり、高く飛んでいたはずなのに、サイ野郎はあたしの目の前にいる。

「危ねえ!!」

ギリギリ体を反らすことに成功し、サイ野郎の攻撃をかわす。
サイ野郎はゆっくりと空中から地面に落ちていく。

「隙だらけだぜ!」

その落ちてってるサイ野郎にエッケザックスに風を纏わせ振り下ろす。

「紫電一閃!!」

あたしの渾身の一撃を食らう瞬間、サイ野郎は、体の殻みたいなのを
体全体に覆いあたしの攻撃をガードした。

「か、硬い!?」

あたしは力が強い方だと思っているが、さすがにこれは硬すぎる。
いくら力があるとはいえ、今のエッケザックスで砕くのは不可能だ。

「意外に賢いんだな…」

体全体を覆った姿は、まるでボールみたいだった。
そのボールの体のまま地面に着地し、何回かバウンドした。

「ちっ、ふざけた体しやがって」

サイ野郎は体を覆っている殻を解除し
頭をぶるぶると振っている。



―――ウウゥウ…



「直に攻撃が駄目なら、これでどうだ!」

『Argerwindhose』

カートリッジをリロードし、エッケザックスを地面に突き刺す。
その突き刺した部分を中心に竜巻が発生する。

「耐えられるか!?」

近くにいたサイ野郎も巻き込まれる。
だが、あいつは、その竜巻に巻き込まれたと思うと、また体を丸めた。

「…これでも無理か?」

竜巻の中に発生する、無数の風の刃が切り刻むが、一向に本体には攻撃が届かない。
ただ、あの硬い殻が傷ついていってるだけだ。

「あの殻みたいな皮膚を砕かなきゃ駄目だな…」

竜巻が収まったにを確認して、エッケザックスを引き抜く。

「ツヴァイ・シュヴェーアト」

『Zwei Schwert』

エッケザックスの形態を二刀流にして構える。
こうなったら、威力よりも手数で攻めて、隙が出来たときに“あれ”を決める。



―――グオオォォオオ!!!



「おらよ!」

片方の剣をサイ野郎が走り出す前に投げつける。
だが、サイ野郎は気にせず走り出し、攻撃を角で弾く。

「甘いぜ!」

弾かれた剣を繋がっている鎖で操り
再びサイ野郎に攻撃を加える。



―――ゴオッ!?



弾いた剣がまた戻ってくるとは思ってなかったのか
硬い殻に覆われてない状態でモロに攻撃を食らい、顔に傷がついた。

「っし! やっと一発入ったか!」

攻撃を食らったことに驚いたのかサイ野郎は闇雲に暴れだした。
怒りか恐怖か、その両方か、どちらにしても、周りが見えてねえ



―――オォオ!? オオオォオ!!!



そのままあたしに向かって突進してきたが、今までに比べると遅い。

「今のお前なら、かわすのは余裕だぜ」

あたしはさっきの攻撃のせいで動きが鈍ったと考えていた。
だけど、それは間違いだった。

「がはっ!?」

完全にかわしたはずなのに、体に走る重い衝撃。何本かいったかもしれない。
その何かに攻撃され、壁に叩きつけられた。

「な、に…が」

痛む体を無理矢理動かし、サイ野郎を見たとき
何に攻撃されたかすぐにわかった。

「…な、るほど。尾で、ね…」

攻撃された何かの正体はわかった。
なら次は、あの尾にも注意を払って闘えばいいだけの話だ。

「まだまだっ!!!」





sideコーデリア


どうしよう!?
目の前でシントラさんはあの怖い生き物と戦っている。
私はしばらくその戦いに見惚れていた。
シントラさんはさっき言っていた通り、とても強い魔導師だった。その戦い方に憧れまで抱いた。
このまま怖い生き物を倒せると思ったとき、シントラさんに尾の攻撃が当たってしまい
形勢が逆転してしまった。押していたシントラさんが押されている。
助けなくちゃいけない!でも…

「私は…」

周りの大人たちは口を揃えて言っている。


――お前の爺さんは凄い奴だったが、お前は全然だな


――魔導師に向いてないぜ?


――あんまり戦いはしない方がいいだろう


私は祖父のように才能はない…
祖父のように立派な魔導師になりたかったけど、大人しくしといた方がいいと皆は言っている。

「でも…」

目の前でシントラさんは頑張っている。私なんかのために
シントラさんには全く関係のないことなのに、私についてきてくれた。
そんな人をこのまま見捨てていいのか?だけど、私なんかが助けに入っても邪魔に…

「わん!!」

「ポ、ポアロ!? どうしたの?」

ポアロはいきなり吠え出し、私の目をジッと見つめてきている。
私には何かを伝えようとしているように見えた。

「ポアロも…助けたいんだね」

「わん! わんわん!!」

そうだ。ポアロも勇気を出しているのに私が出さないわけにはいかない。

「よし、やろう!」

「わん!」

そうと決まれば、シントラさんを助けないと!
私は頭をフル回転させ、周りの景色を見渡し使えるものを探す。
弱い私が敵に勝つためには、使えるもの全てつかわなくちゃいけない。

「あれで…こうしたら…」

私は、リュックを降ろし、中からある物を取り出す。

「ポアロ、これを咥えて…」





sideシントラ


くそ…体の動きが段々鈍ってきたな…
あの時食らった一撃が不味かったかもしれない。早めに勝負を決めたいが
サイ野郎は、硬い皮膚で覆う覆わないの繰り返しで、思ったよりダメージが与えれない。

「どうするか…」

“あれ”をすれば倒せる。当たればの話だが
だけど、こんなに動き回るサイ野郎に当てれる自信はない。何とかあいつの動きを止めなくちゃ…

「怖い生き物! こっちですよ!!」

声が聞こえた。岩場で隠れているはずのコーデリアの声が
振り向いてみると、案の定、声を出していたのはコーデリアだった。

「馬鹿!! 危ねえから隠れてろ!」

コーデリアはあたしの言葉を無視して、短剣と銃を両手に持ち
銃の方でサイ野郎に攻撃を放った。

「怖いんですか!? こっちですよ~」

場所を知らせるように、銃を空に向けて撃つ。
さすがに頭にきたのか、サイ野郎はコーデリアに突進した。

「危ねえ! 避けろ!!」

サイ野郎の速度の方が速く、助けれそうにない。
当たる瞬間に、少し目を背けてしまった。が…



―――グォオオォオ!?



サイ野郎の悲鳴が聞こえ、目を開けてみると、サイ野郎が転倒していた。

「なっ!?」

サイ野郎はすぐに体を起こそうとしたが、
上から、大きな岩が落ちてきて、長い尾を踏みつけにし、身動きが取れなくなった。

「ああ!?」

何故か、コーデリアがショックな声を出しているが、気にならなかった。
これなら、“あれ”が絶対に当てれる。

「エッケザックス!!!」

『Speerform』

カートリッジをリロードし、エッケザックスの形態が変わっていく。
二つの剣から、大きな槍に
槍の後ろの先端部分とあたしの腕は鎖で繋がれているが、この鎖限りはあるが
槍の邪魔にならない程度には伸びる。

「終わりだ! メテオスピア!!!」

『MeteoritSpeer』

あたしは体を弓なりに上体を反らし、力の限り槍を投げつけた。
そのときにもう一発、カートリッジがリロードされる。
あたしの手から離れた途端、バーニアが発動し、さらに速度が上がる。
その速度のまま、サイ野郎に直撃し、暴風が起こった。










<あとがき>
次で終わりですね。
では!また次回!!










おまけ


魔法紹介

Argerwindhose(エルガーヴィント・ホーゼ)
使用者:シントラ
カートリッジを一つ消費し、自分の周りに竜巻を発生させる魔法。
周りにいる対象を殲滅するのにも使えるが、防御にも使える。
遠くの対象には当たらないのが欠点。



[6935] 第49話「笑顔の答え」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 22:07
「はあっ! はあっ!」

「シントラさん! 大丈夫ですか!?」

「な、何とかな…、こいつ…強かったな」

「は、はい。まさかこんな生き物がいたなんて…」

「わう…」



第49話「笑顔の答え」



sideシントラ


鎖を引っ張り、エッケザックスを手元に戻す。

「あ~疲れた」

あたしはその場に腰を下ろし、倒れているサイ野郎を見た。

「頭から花なんて生やしやがって…」

サイに花が咲いているようでなんとなく間抜けに見える。
というか間抜けだ。

「なんにせよ、中々の強敵だった…」

正直、コーデリアがいなければやばかったかもしれない。

「コーデリア、ありが…ってあれ?」

コーデリアにお礼を言おうとコーデリアのほうを見ると
そこにはいなかった。

「あれ?」

「この花…」

コーデリアは倒れているサイ野郎の頭に生えている花をジッと観察していた。
そう言えば、花を探しに来たんだったな。戦いのせいで忘れてた。
というより、その花よく無事…じゃねえな。花弁の部分がボロボロになっちまってる。悪いことしたか。

「ち、違います…」

「は? これと違うのか?」

あんなに苦労したのに…骨折り損のくたびれもうけかよ…
いや、これをもって帰って薬草とかに使えるとは到底思えないけどよ。

「よく似てますがこれはドルミーレフロースです」

「ドルミーレ? 何か違うのか?」

あたしから言わせると、リデナントカもドルナントカも
似たようなものだと思うんだけど…

「リデレフロースは病気を治してくれますが、これは眠ってしまいます」

「食うと眠くなるのか?」

「はい。とても強力で、虫でもこの蜜を吸うと眠ってしまうほどです。リデレフロースとよく似た見た目と匂いをしてるので虫もよく間違えるそうですよ」

虫が花を間違うね…死活問題じゃねえの?

「シントラさんがあんなに頑張ってくれたのに…」

「えっ、あっ、別に気にしなくてもいいぜ?」

コーデリアはこの世の終わりという表情で地面に手をついてしまう。
なんだかあたしが泣かせてしまったみたいだ。

「まだあそこに道はあるし、もうちょっと進んでみよう」

「わん!」

「そ、そうですね! 私も諦めません!」





「そう言えばコーデリア、さっきは助かった。…その、あ、ありがと」

「えっ、あの…私、あんまりお役に立てなくて」

「いや、そんなことない。あたしは凄く助かった」

もし助けが入らなかったら、あそこでやられていたかもしれない。

「あの時、一体何したんだ?」

あの時は、戦いの最中だったからコーデリアが
何をしたのかは、いまいちわかってない。

「あれですか、まずポアロにこのロープを咥えてもらって」

コーデリアは背負っていたバックから、頑丈そうなロープを取り出した。
なんでそんな物を持ってきたんだこいつ?

「違う岩にグルグルに巻きつけてもらいました」

「よく巻けたな…」

「はい! ポアロは凄いんです!」

「わん!」

犬と思っていたけど、普通の犬じゃないっぽいな…使い魔系か?

「それで罠を仕掛けました」

「罠?」

「私の方のの岩にもグルグル巻いて、それに躓いて、転んだんですよ」

なるほど…、あの巨体を転ばしたわけか

「それだけだと、すぐに起き上がってくると考えたんで、上の大きな岩を攻撃して、踏み潰しちゃおうと思ってんですけど…、計算と違って…」

あの時、撃ってたのは場所を教えるためじゃなくて、岩を狙っていたんだな。
だけど体に落ちるんじゃなく尾に落ちたってわけか

「だから、シントラさんのおかげで助かりました。最後の魔法、凄かったです。やっぱり私じゃ無理で…」

「いや、コーデリアは絶対に戦いのセンスを持ってる。あたしが保障するよ」

あの追い詰められた状況で、センスのない奴なら、怯えてることしかできないだろう。
だけどコーデリアは、敵を倒す策を一瞬で考え、あたしの手助けをしてくれた。

「だけど…魔力量も…」

「魔力量が全てじゃない。魔力量が少なくたって、さっきみたいに策を成せば勝てる! あたしの知ってる奴も魔力量は全然ないしな」

まあ嵐は嵐で特殊だと思うけど

「そ、そう言ってもらえるとうれしいです! 私、さっきの戦いでシントラさんを尊敬しました!そんな人から言ってもらえるなんて…」

「な、なんか照れるな…」

コーデリアは笑顔であたしの手を握り、激しく上下に揺らす。

「い、いいから! ほら! 行き止まりが見えてきたぞ」

何だか恥ずかしくなってきた、あたしは、行き止まりが見えてきたことに感謝した。

「川がありますね…流れが少し速いです」

そこは、神秘的だった。川が流れている奥に花の集まっている場所がある。
そしてその奥の壁には、絵が書かれている。

「この絵は…」

コーデリアが川を飛んで超えて、絵の方へゆっくりと歩いていく。
あたしも絵を見ていたが、コーデリアは絵に目を奪われていて、周りが見えてない。

「コーデリア!」

「はい!?」

「下見てみろ」

「えっ?」

壁に書かれている絵の手前にはポッカリと穴が開いていた。
この暗い洞窟では、少し見えにくいが。

「ひぇええぇええ!!」

「なるほど…見たら死ぬか…」

正確に言うと、目を奪われすぎると、転落して死んじまうってとこか

「にしても変な絵だな」

ちょっと古い感じがする描き方だが、多分、下の方に描かれているのは人間だろう。
何かを祈るようなポーズをしているように見える。そして、上の方に描かれているのは、紫色の流れ星か?
なら、人間が流れ星に願いをしている絵なんだろうか?よくわからないけど、こういうのはスカ山が好きそうだ。

「まあ、いいか。こんな絵より花だ」

「…そうですね!」

コーデリアは、花の咲いている場所に行き、花を調べている。
あたしにはわからないけど、今回は正解なんだろうか?

「こ、今度こそこれです! リデレフロースです!」

「わんわん!」

どうやら今回は正解だったようだ!
ポアロとコーデリアは跳ね回り喜んでいる。

「危ねえぞ」

「やりました! やり、ってうわ!?」

案の定、足が絡まり、こけた。

「痛た…」

「あんまりはしゃぎすぎんなよ。ほら」

コーデリアに手を貸して起き上がらせる。

「すみません…つい嬉しくて」

「だったら、早くこれを親父さんに届けてやらないとな」

「はい!」

「わん!」

コーデリアが花を何輪か摘んだので、この洞窟から出ることにした。










「や、やっと出れました…」

「あ~、太陽が眩しい」

帰りは特に危ない目には遭わなかったが
リデレフロースに寄ってきた虫たちがうっとおしかった。

「叩き切ってやりてえけど、エッケザックスがドロドロになっちまう」

「そ、それは嫌ですね…」

ひたすら走って逃げるしか出来なかったから、余計にストレスが溜まった。
エッケザックスにはすまねえけど、やっぱり叩き切ればよかった。

「父の家は、村とは少し離れていますので、ついてきてください」

「こうなったら、最後まで行かしてもらうよ」





「父上! 大丈夫ですか!?」

「お、おお、コーデリア…無事だったか」

しばらく歩くと木で出来た家が見えてきた、中に入ると、少し厳ついおっさんが
布団で寝ていた。病気だから仕方ないけど、かなり顔色が悪くて、さらに厳つく見える。

「これ! 採ってきました!」

「こ、コーデリア…行ってはいけないと言っていただろう…」

「ご、ごめんなさい…けど、じっとしてられなくて」

「全く…そういう所は親父にそっくりだな」

「お、お爺様と…」

「ああ、ありがとうコーデリア」

コーデリアの親父さんは、ニッコリと笑ってコーデリアの頭を撫でた。
その撫でられた途端、コーデリアは笑顔を浮かべた。

「んっ? (…この笑顔は)」

二人の笑顔を見ていて、どこかで見たことのある笑顔だということに気づいた。
ごく最近どこかで見たような気がする…

「じゃあ早速、おかゆに混ぜて持ってきます! 少し待っていてください!」

コーデリアは、台所だと思われる場所に走っていった。

「…君がコーデリアについていってくれたんだね。まずはあの子を守ってくれてありがとう」

「べ、別に守ってなんかねーよ! あ、あいつはあたしなんかいなくても…」

「いや、それだけじゃない。何だか前見たときよりもコーデリアは立派になったように見える。…自信…かな? そんなものがついたように見えるよ。これもおそらく君のおかげだろう?」

「うぅ…」

「本当にありがとう」

…思い出した。この笑顔がどこで見たことがあるかを

「あ、ああ、別に礼言われることじゃねえ」

プレシアがアリシアに向ける笑顔と同じなんだ。
コーデリアの親父さんとコーデリア。プレシアとアリシアどっちも“家族”に向けて笑っている。

「そっか…」

プレシアの答えがわかった。










「もう帰っちゃうんですか!?」

「くぅ…」

「ああ、エッケザックスが家までの場所を特定したから」

コーデリアの親父さんが花入りのおかゆを食べ終わり
眠ったので、家から出て、サラーブの座標を特定したんだが、案外あっさり見つかった。

「そうですか…」

「まあな…、そう言えばお前、首飾りなくなってるぞ?」

「えっ? …ああ!? 本当だ!!」

洞窟を出たときから気づいていたんだけど
コーデリアは気づいてなかったみたいだ。てっきり気づいてるのかと思っていた。

「こけた時に落としちゃったのかな~。苦労して見つけたのに…うぅ~…」

「あのさ…」

「はい?」

「か、代わりってわけじゃねえけど…これ…」

あたしは、ポケットに入っていた、髪留めの一つをコーデリアに手渡した。

「うわ~、綺麗ですね…いいんですか? こんな物を…?」

「もう一つあるからな」

ポケットから、もう一つの月を象った髪留めを出した。

「お、お揃いですか! うれしいです」

「まあ形は違うけどな。じゃああたしは帰るからな」

エッケザックスのカードリッジを使い、転移魔法を発動する。

「シントラさん! ありがとうございました!」

「こっちもお前のおかげでわかったことがあるから、お互い様だ! お前、爺さんに憧れるのはいいけど、いつかは、爺さんを越えるくらいの心構えにしろよ!」

「はい!」

段々とコーデリアの声が聞こえなくなってくる。

「いつか…またいつか会ったときは、あたしと勝負しようぜ!」

「しょ、勝負ですか!? が、頑張ります!」

「それまでしっかり鍛えとけよ! あたしも4倍強くなってるかも知れねえからな!」

「はい!!」

その言葉が最後となり、あたしはサラーブへと転移した。






























sideout


昨日、いきなり俺の上から、シントラが転移してきた。
シントラが帰ってきた途端、ナズナがシントラを引きずり、訓練室に連れて行ったので
話は出来なかったが、一体どこへ行ってたんだろう? シントラは名前は覚えてないらしいし…
ていうか…

「何で、俺の隣に座ってるんだ?」

「別にいいだろ。あたしの勝手だ」

いつもなら、俺の隣なんて座らずにナズナの手伝いをしにいくんだが
今日は何故か俺の隣に座ってのんびりしている。

「まあ別にいいけどな…そう言えばちゃんとしてくれてるんだな。髪留め」

「ん…、ああ」

シントラは俺のプレゼントをして、俺の前に来るなんて想像してなかった。
つけてくれるのかも怪しいと思っていたのに

「悩みは解決したのか?」

「…まあな」

失踪する前に何かに悩んでいた様子だったので心配していたが
どうやら、悩みは解消したようだ。

「よかったな」

「……あのさ」

「んっ?」

シントラは急に真面目な声を出し俺の方を向いてきた。

「あたしさ、初めは嵐が大嫌いだったんだ」

「いきなり何を言う」

いきなりの大嫌い発言。お父さんはお前をそんな子に育てた覚えはありませんよ!

「今も、好き…ではないけどさ」

「何が言いたいんだ?」

「嵐が傷つくと姉御はすげえ悲しむし、あたしも何か心配するからさ」

シントラは俺の眼を見て

「嵐に困ったことが遭ったら、あたしが助けてやるよ」

笑った。

それは、今までの意地悪そうな笑いではなく、とても綺麗な笑顔だった。
正直、少し見惚れた。

「ん、あ~、ああ、よろしく」

本当に、何があったんだか…











――ステルラウィークスの離れ


「父上!」

「どうしたコーデリア」

「私を魔導師として鍛えてください!」

「…どうしてだい?」

「また…また会ったときは対等にありたいからです!」

「…そうか」

「駄目…ですか…」

「いや…お前が鍛えて欲しいというなら、喜んで鍛えよう。ただし、生半可な気持ちでは務まらんぞ」

「はい! じゃあ一緒に頑張ろうね! ポアロ!」

「わん!!」


















































――川


ここはシントラが怪我をしたときにコーデリアが水をくみに来た川。
そこに不思議な色をしている一つの石を魚が見つけた。紫色をしている石なんて珍しく、さらに何か字まで彫られている。
魚は気になり、字を見てみたが人間の文字はわからない。一体なんて書いてあるのか。



―――C・M コーデリア・マセラティ



魚にはわからない。










<あとがき>
はい!シントラ成長編終了!
なんか予想以上に長くなってしまった…
では!また次回!!










おまけ


魔法紹介

MeteoritSpeer(メテオスピア)
使用者:シントラ
エッケザックスをスピアフォルムにして直接投げつける荒業。直撃すると強力な暴風を起こす。
シュツルムフォルケンと同じく結界・バリア破壊効果を持つ。
シントラの強力な力で投げられ、バーニアにより更に加速し、対象を攻撃する。
バーニアと直撃したとき風を起こすために、投げる前にカートリッジを一つ消費しなければならない。



魔法生物紹介

サイマジロン
エブルに生息する地球にいるサイによく似た魔法生物。普段は頭だけ出し地中の中で過ごし、花に寄ってきた虫を食べて生活している。
本来、外敵は存在しないので、角は戦いに使うのではなく、地面を掘るのに使っている。
サイマジロン同士で争うときは尾で威嚇するか、角をぶつけ合ったりして、縄張りを守る。
強靭な脚力を持っているが、意外に足に対する攻撃には弱い。
角は折れても一日経てばすぐに生えてくる。



[6935] 第50話「Puppet Prince」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:6e1cf639
Date: 2009/06/14 22:13
「次はあれに乗ろうよ!」

「ジェットコースター…、アリシア、一人で…」

「さあ母さん! 一緒に行こ~」

「ああっ!? 離してアリシア!?」

「なんて言うか…、のんびりしてるよな」



第50話「Puppet Prince」



何故、俺たち回帰組(おばちゃん除く)が遊園地にいるのか?
それは、一昨日の夜。プレシアさんとアリシアの会話のせいであった。





―――一昨日


「ねえ母さん!」

「どうしたのかしらアリシア?」

「私ね、母さんにお願いがあるの!」

そろそろ寝ようかと思っている時間帯にアリシアとプレシアが
話しているのを偶然見つけた俺は、しばらく話しに交わることにした。

「お願い?」

「うん! いいかな?」

「ええ、言ってみなさいアリシア。出来ることならしてあげるわ」

プレシアさんは基本的にアリシアに甘い。
アリシアに厳しいプレシアさんというのもかなり不気味ではあるが…

「えっとね、私、ここに行ってみたいの」

「ここ?」

そう言ってアリシアが取り出したのは、毎日ミッド新聞だった。
ここ、サラーブに唯一届く、ミッドの情報である。
一体どこから、この新聞を取り入れているのかスカさんに聞いてみたところ
違うとこの郵便受けに、この新聞が入れられると、自動的にサラーブに送られてくるようになっているらしい。
つまり、悪戯とかで石とか入れられるとその石も送られてきたりもするらしい。そんなことは一度もないが。
その毎日ミッド新聞を取り出して、一体どこに行きたいんだ? 誰かの殺人現場?

「…マジックパーク?」

「うん!」

アリシアが指差しているとこを見ると、そこには一つの写真が貼られていた。
遊園地の紹介? みたいなページらしく、スリル満点のジェットコースターと書いてある。

「ここに行ってみたいの!」

「え゛? ここミッドなんだけど…」

「でも行ってみたいんだよ~」

確かにこのジェットコースターは乗ってみたいが
ミッドに行くのはちょっと危険な気がする。

「アリシアはここに行きたいのね?」

「行きたい!」

「そうね…」

プレシアさんは、新聞を見て何かを考えている。

「まあいいでしょ。明後日に行きましょうか」

「ちょ!? プレシアさん!?」

「やったー!!」

部屋を退出していったプレシアさんを追い、腕を掴む。

「プレシアさん! いいんですか!?」

「遊園地のことかしら?」

「はい、危険じゃ…」

「多分、大丈夫でしょうね。あなたのデバイスも黙っているみたいだし」

そういえばさっきの会話に一度も入ってこなかったなスカさん。
寝ていたのか? デバイスのクセにまた

『大丈夫だよ。変装していけばいいだけだよ。魔力は抑えるのをつければいいんだしね』

スカさんが反対しないなんて…本当に大丈夫なんだろうか?

『まあ、そこのジェットコースターに使っている素材を調べてみたいというのもあるけどね』

「それが本音なのか、さっきのが本音かどっちだ?」





―――現在


まさか、本当にくるとは思わなかったな…
ナズナもさすがに変装してきているし、ちょっとやそっとではなのはと気づかない。
それにこの時期はそこまでなのはは知られていないはずだしな。

「マスター。こっちです」

「ああ」

しかし人が多いな…迷子になってしまいそうだ。
俺、結構方向音痴だしな…

「ナズナ」

「はい?」

「ちょっと手繋いでいいか? 迷子になりそうで…」

かなり恥かしいけど迷子になって迷子センターに行くよりは百倍マシだろう。
ナズナには悪いが、主が迷子センターで呼ばれるなんて従者からしたら悪夢だろう。

「…は、はい。構いませんよ」

「悪いな」

ナズナに手を繋いでもらい、アリシアたちを見失いように追いかける。

「でけーな」

「そうだな。小さくなってしまったからかもしれないが、何もかもが大きく見える」

シントラとアインスも後ろからついてきている。
シントラも万が一に備えて変装しているのでわからないはずだろう。
アインスは、いくら魔法文明が発達している世界とはいえ、ユニゾンデバイスは不味いので
シントラの胸ポケットに入ってもらっている。

「それにしても、よく疲れないなアリシア」

「昨日は興奮して眠れなかったそうですが…」

「今だけじゃねえのか?」

「おそらく、帰りは倒れるだろうな」

あのテンションのまあ突っ切ったら、そりゃ帰りはガス欠だよな。

「嵐~! 早く~!」

「すぐに追いつくから、ゆっくり歩いて待ってろ!」










「いいの?」

「いいから楽しんで来いって、さすがに二回連続乗りはしんどいしさ。俺は疲れたから、ちょっと休憩しとくよ」

「でも…」

「いいって。そのかわりスカさん連れてってやってくれ。一回じゃ、研究し足りなかったらしいからさ」

あの後、アリシアと一緒に並んで30分、ようやくジェットコースターに乗れたんだが
ジェットコースターはあっという間に終わってしまい、アリシアがもう一度乗りたいと言い出した。
さすがにしんどいので、アリシアたちだけで行ってくるように俺は頼んだ。

「ア、アリシア…母さんも休憩…」

「じゃあ、待っててね嵐! もう一回乗ってくる!」

「アリシア…」

「あたしももう一回乗ってくる! アインスは?」

「私もお前についていくよ」

アリシアたちは走って列に並びに行った。
そして、一人だけここに残っている人物がいた。

「ナズナはいいのか?」

「はい。私はマスターといます」

「そうなのか?」

「はい」

ナズナは、ジェットコースターに乗る気はないらしい。
俺と一緒で疲れたんだろうか?

「ナズナ、ちょっとトイレ行ってくる」

「席を取っておきます」





「あ~、結構綺麗なトイレだったな」

トイレを済まし、ナズナの元に戻ると、ナズナは椅子に座って本を読んでいた。

「悪いな、待たして」

「いえ」

俺を待っている間に飲み物を買っていたんだろうか
ジュースが一つテーブルに置いてあった。

「あ、そ、それはマスターの分です」

「あれ? 俺の分だったのか? ナズナの分は?」

「わ、私はもう飲んで、ゴミ箱に捨ててきました」

「そうか、ありがと」

わざわざ俺の分まで買っといてくれるなんてさすがナズナ。気が利くな。
俺は、テーブルのジュースを手に取りストローを吸う。

「……」

ナズナの視線が何故か鋭い。口に何かついていたんだろうか?

「…なんかついてるか?」

「い、いえ! 何でも!」

…変なナズナだな
そういえばブックカバーをしているが、一体どんな本を読んでいるんだろう?
ナズナのことだから、魔法の本なんだろうな。今度聞いてみよう。

「さっき30分ぐらい並んでいたから、アリシアたちが帰ってくるのも30分くらいだな。それまでここで待っとくか」

あまり離れて、アリシアたちと合流できなくても困るからな。
ナズナも本読んでるみたいだし、俺もなんか暇つぶしの道具持ってこればよかった。

「なんか暇をつぶせるようなものは…んっ?」

「…劇、始まるよ~」

「劇?」

いきなり聞こえた声の方向に振り向くと
そこには、人形劇の舞台があり、劇が始まろうとしているが、誰も寄っていない。
人気がないんだろうか?

「ナズナ、ちょっと行ってくるわ」

「…私もついていきます」

ちょっと不機嫌になったナズナを連れて、人形劇を見に行ってみると
劇をしようとしている、口だけしか見えない男の口が笑った。

「お客さんが来るなんて珍しい!僕の劇を存分に楽しんでくれ」

声は若いような年をとっているような、よくわからない声だったが
何故か嫌悪感を抱いた。

「客が珍しい? そんなに人気ないのか?」

「いや~、そういうわけじゃないんだけどね」

「?」

「せっかくだし見ていったらどうかな? 面白いよ」

まあ暇だったし、ちょうどいいか

「これから始めるのはある国の物語…」










昔々、ある王族に一人の子供が生まれました。
子供は、不思議な子供でした。生まれたばかりで母といるよりも人形といる方が笑顔になります。
ある日、使用人が人形を誤って壊してしまいました。
使用人は子供に泣かれると思い、思わず目を瞑りましたが、次に聞こえてきてたのは子供の笑い声でした。
使用人は、その子供が少し怖くなりました。
ある日、使用人が部屋の掃除をしに行くと、ベットの下から切り刻まれた人形が大量に出てきました。
その日から、使用人は子供の世話係を辞めてしまいました。


そして子供は王子として、教育をされ、立派な王子へとなりました。
王子には、親が決めた許婚がいました。同じく国で同じ年に生まれた王族の姫でした。
しかし、王子は姫には目もくれず、人形を手に持ち、今日も新しい人形を捜しに行きます。
だけど姫は王子のことを嫌いになりませんでした。王子に心から惚れていたからです。
姫は言いました。

「あなたは、何故私を見てくれないの?」

王子は言いました。

「君が人形じゃないから」

姫はその日から、王子の前に現れなくなりました。


だけどそんなことは王子は気になりません。王子は、次に人形の置き場所が欲しくなりました。
そう思い、王子は国の王様を殺してしまいました。
当然、王を守っている騎士たちは怒り、王子に切りかかりました。
しかし、鉄の剣で何度切りつけても、王子の体には傷一つつきません。やがて騎士たちも王子に殺されました。
王子はこの時から、王様へとなりました。


その日、国は大きく変わってしまいました。名前だけではありません。
国は豊かな国でした。争いもない、平和な国でしたが、王様が支配してからは変わってしまいました。
王様は自分の人形を守るため、力を求めました。
他国との交流もしないようになり、ひたすらに力を求め続けました。
その内に、国の人々も笑わなくなり、まるで人形のようになり、王様は大変喜びました。


王様が国を支配してから一年か過ぎた頃、王様は結婚しました。
あの時、王様の前に現れなくなった姫が再び王様の前に姿を現したのです。
そして目の前に立ち、姫は言いました。

「私はあなたのために人形になりました」

王様は笑いながら言いました。

「一年前に見たあなたとは、別人のようです。あなたも僕と一緒になったんですね。なら、一緒に楽しみましょう」

国に人形の夫婦が誕生しました。

王様が国を支配してから数年、他の国とたくさん戦争をしました。
王様の国は強く、どの国にも負けない強さを持っていましたが、唯一互角の力を持った国がありました。
その国との戦いのときは王様自ら戦いに赴き敵と戦いました。
中でも、血塗られた戦士は、王様といつも互角の戦いを繰り広げていました。


戦いが終わりを告げるときがきました。
ついに王様が血塗られた戦士によって討ち取られてしまったのです。
だけど、その戦いで血塗られた戦士も王様との戦いの傷で死んでしまいました。
王様は、戦いに負け、姫と共に永い眠りについてしまいました。
国が解放され、世界に平和が訪れました。











「これでお終い。面白かった?」

「…謎が結構多いんだけど」

人形劇で戦いまで表現するのは凄いけどな

「わからないとこは自分で考えると面白いかもよ?」

「あー、もういいわ」

適当に時間つぶせたし、アリシアもそろそろ帰ってくるだろ。

「ナズナ行くそ…!?」

「はい…!?」

ナズナに呼びかけ、元の場所に戻ろうとしたとき、ナズナと俺は人形劇の男に手を摑まれた。

「なんだ?」

「ん~」

人形劇の男は、俺とナズナの手をにぎにぎしながら口元を歪めている。

「いいね君たち。君たちみたいのを見ているとまだまだ生きる活力が湧いてくるよ」

「は?」

いきなり何言い出すんだこいつは?

「ふふ、それじゃあ僕は行くよ」

そう言うなり手を離し、どこかへ行ってしまった。何者だったんだあいつ?

「嵐~! お待たせ~」

「おっ、アリシア! ここ! ここ!」










「結構楽しかったな!」

「ああ、お土産のクッキーもおいしかった」

「そ、そうね…私は目が回ったわ…」

「じゃあそろそろ帰ろうか?俺も疲れたし」

派手なパレードが終わり、辺りが暗くなってきたので
そろそろサラーブに帰ることにしたんだが

「うにゅ…」

やっぱりアリシアはパレードが終わった途端、眠たそうになってしまった。
しかたがないので今は俺が背負っている。

「帰りましょう」

ナズナには逸れないようにシントラの手を握ってもらっている。

「姉御、痛い痛い」

ナズナも眠たいのか、力加減が出来ていないようだな。
俺も眠たいし、そろそろ帰ろうかね。

「スカさん」

『転移開始』

それにしても変な奴に会ったな…










<あとがき>
今更ですが、タイトル修正。そろそろ原作に関わっていきますね。
なのはの怪我とか、他もろもろ
嵐は、そんなにstsの歴史を変えるつもりはありませんが、本人の知らない所で変化していってます。
では!また次回!!










おまけ


ナズナが呼んでいた本

題名:気になる異性の心を鷲摑み!?
P16.間接キスの項目



[6935] 第51話「白と黒 表と裏 正義と悪?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:c8ec9852
Date: 2009/06/14 22:23
「…?」

「ナズナ? どうかしたのか?」

「いえ、少し気持ちが悪くなった気がして…」

「気持ち悪い?」

「……っ!? まさか!! つわり!?」

『とりあえず落ち着こうかプレシア』



第51話「白と黒 表と裏 正義と悪?」



この世界に来て2年ぐらい経った。俺の肉低年齢も11歳。
身長も、少しナズナを追い越した。そんなある日、ナズナが突然地面に膝を突いた。
今は大人しく眠っている。

「姉御は大丈夫なのか」

「体調が悪いわけではないんだよな?」

『君たちの体調管理は怠っていない。ナズナの体には異常はないはずだが…』

「だったら、なんでナズナはしんどそうなんだ?」

ナズナは、少しベットに横になっているが、表情は苦しそうだ。
悪夢で魘されているように見える。

「おかしいわね…。体に異常がないってことは、心に異常があるのかしら?」

心に異常? それはなにか悩みでも抱えているってことだろうか?
だけど最近のナズナの様子を見る限り、別に悩みを持っているようには見えなかったが…
俺がナズナを全然わかってないということなんだろうか。

「私はてっきり嵐が襲…いえ、なんでもないわ」

「おそ? 何だ? プレシアは何言おうとしたんだアインス」

「…お前にはまだ早い」

…俺ってどう見られているんだろう…

『ふむ…、少し気になることがある。ちょっと研究室に行ってくるよ』

スカさんは人形を操作し、自分の研究室に行ってしまった。

「私も手伝ってくるわ」

そしてプレシアさんも

「…さすがにこの状態のナズナを一人にしておくわけにはいかないよな」

「姉御一人放っておくと何するかわからねえからな…」

今は、無理矢理ベットに寝かしているが、目が覚めたらすぐに動き出すだろう。
さっきも今日の当番はナズナだったが、この状態のナズナを働かせるわけにはいかないので
俺が代わりに食器を洗っていたんだが、走って俺を止めてきた。自分が働かないのに俺を働かせるわけにはいかないと凄い形相で。
だけど、それで力尽きたのか、ふらりと、床に倒れてしまったので、ここに連れてきた。

「こんな時くらいは、俺が仕事やるんだけどな…」

「姉御は頑固だからな…」

戦闘とかはナズナに任せっきりなので、こういう事は俺がしてやりたいんだが
ナズナは嫌らしい。まあ今は寝かしといて、起きたときに…

「マ、マス…ター…?」

って起きたのかよ

「どうだ? 体調は」

「はい…大丈夫です…」

そんなしんどそうな顔で言っても全く説得力ないけどな。

「姉御! 起きたら駄目だって!」

返事をしながら起き上がろうとするナズナをシントラが寝かす。
ナズナはいつもなら、抵抗するだろうが、今日はやはり抵抗はしてこない。

「体に異常はないらしいから、多分風邪だと思うってスカさんは言ってたぞ」

「そ、そうですか…」

俺の言葉が聞こえているか微妙だが、ナズナは聞こえたのか頷いた。
まあ、スカさんが言うには風邪ではないらしいけど、ナズナには一日ゆっくりしといてもらった方がいいしな。

「で、では…家事に戻りま、す…」

「いや、風邪だから寝とけって」

どうやら俺の意図を汲んでくれなかったようだ。

「し、しかしマス…ター」

「はいはい、病人は寝とくの」

再び起き上がろうとしたナズナをゆっくりとベットに倒す。

「今日はあたしたちで何とかしてみるから、姉御は寝ていてください」

「そういう事で、寝とけよ?」

シントラと一緒に部屋を出て行こうとすると、ナズナに服の裾を掴まれた。

「どうしたナズナ? のど渇いたか?」

「い、いえ…あの…」

ナズナは、顔を布団に隠し、顔が見えない。何かして欲しいみたいだが…

「…嵐」

「なんだアインス」

「お前はここに残っていろ。私たちで家事は何とかする」

「え? でもシントラたちだけで…」

「…そうだな、おめーはここで姉御といてくれ」

「シントラまでかよ。でも家事は」

「あたしたちで出来るよ。おめーは邪魔になんねえように、ここでジッとしてろ!」

シントラはそう言うと、部屋を出て行ってしまった。
アインスもそれを追うように部屋から出て行った。あの二人で大丈夫なんだろうか…

「アリシアは…駄目だな。余計悪化する」

俺が考えても仕方ないか…。

「よっこらせ」

ベットの近くに置いてある椅子に腰掛ける。
ナズナは相変わらず、顔を布団で隠し、目だけこっちに向けてきている。

「あの…」

「……」

ナズナは布団から少しだけ手を出している。
俺はこの時、ひらめいた。この手が何を意味しているのかを理解した。

「っ!!??」

「これでいいか?」

少しだけ出しているナズナの手を繋いでやる。
そしたら、ナズナは一瞬驚いた顔になったが、すぐに笑顔になった。どうやら正解だったらしい。
俺も子供の頃、風邪を引いて寝込んでいるとき、親が隣にいて俺の手をこうしてくれた。
風邪のときはどうしても心がさびしくなってしまうから、これはとても嬉しかった。
ナズナは風邪ではないらしいが、体が弱っているのは確実だ。しかも心の異常かもしれないとスカさんは言っていたので
これは効果覿面だろう。

「……」

「ん?」

繋いでいると、ナズナは少し強弱などをつけて俺の手をにぎにぎしてきている。
寝るまで繋いでおこうと思っていたが、これは長くなりそうだな…
というか女の子独特の柔らかい手でにぎにぎされると俺もいろいろとやばいんだけど…





ナズナが俺の手を開放したのは眠ってから30分後だった。
眠ったら、手を離してくれると思っていたんだが、眠った後も俺の手は離さなかった。
離す離さない以前に、眠る前より握る力がアップしていた。30分経って、ようやく力尽きたのか、俺の手を解放してくれた。
解放された後、俺はスカさんに呼ばれ、研究室に足を運んでいた。

『ああ、来たね』

「あれ? プレシアさんは?」

『シントラが壁を破壊する恐れがあったからね。手伝いに行ってもらってるよ』

やっぱり、俺も行った方がよかったんじゃないだろうか…

「それで、何かわかったのかスカさん」

プレシアさんの話を聞きに来たわけじゃないぞ

『多分だけどね。これを見てくれ』

スカさんの人形が、キーボードのような物を操作すると空中に下面が表示された。
何かのニュースの切り抜き? いや、歴史表か?

「高町なのは、瀕死の重傷を負う…ってこれあの事件か?」

stsでティアナの模擬戦の後に話していたあの事件の話か。
あの時期の話って、原作でもいまいち触れられないから、不明確な部分多いんだよな。

「これが、どうした?」

『これが起こるのは明日だよ』

「へ~、明日墜ちるんだ。で?」

その主人公が墜ちるのとナズナが苦しんでるのと何か関係あるのか?
なのはが墜ちるなんてナズナは関係ないだろ。

『ナズナは、高町なのはの細胞を使っている』

「ああ、アルハザードで聞いた」

あの時はどれだけチートだよって驚いたけどな。

『闇の書の事件のことは覚えているかい?』

「何を?」

『アリシアのことだよ』

ああ、アリシアが突然サラーブから消えたことね。
あれはアインスから聞いた話だと、フェイトに共鳴したとかそんなんだったよね。

「それが?」

『今回も似たようなケースだ』

似たようなケース?

「どういう事だ?」

『ナズナは、今の高町なのはをベースに作られていない。未来の高町なのはをベースに作られている。つまり事故を経験したことがある高町なのはだ。それでこの日が近づいてきているのを肌で感じ、体調を崩したんだというのが一つ』

一つってことは、あと何個かはあるわけね…

『そして、さっき言った通り、ナズナは高町なのはの未来の姿がベースになっている』

「ああ」

『君は、この世界をどう思う?』

スカさんはいきなり話を止めて、話を変えてきた。世界って…このリリカルワールドのことなのか?

「そりゃ、リリカルでマジカルな世界だろ?」

『君は、どこから来た?』

「現実から来て、未来のアルハザー…」

未来?

「…そうか!!」

『気づいたようだね』

ここは、“未来”のアルハザードから来た“過去”の世界。
もしこの世界でなのはが死んでしまうということが起きたのなら…

「ナズナが消滅するってことか」

『そうだね。その可能性もある』

「可能性?」

『この世界は確かに過去だ。だが、それは私たちが未来にいたから過去だと思うんだろう。だが、今この世界は大きく変化している。プレシアの生存、闇の書の生存』

俺が見たアニメからはかなり離れてしまっているな…
正直、先の展開が読みにくくなってきた。

「つまり…」

『この世界は並行世界の可能性が大きい。しかし、万が一だが過去の可能性もある。だから、ナズナが苦しんでいるのかもしれない』

並行世界なら、なのはが死んでも問題はないだろう。
しかし、もしここが過去の世界なら、なのはが死んでしまうとナズナが消えるかもしれない。

「だけど、原作じゃ死ななかったけど…」

『かなり私たちも好きに動いたからね。いろいろと差異が見られるからね。何が起こるかはわからないよ』

「暴れすぎたか…」

ヴィータとなのはの仲って原作通り進んでいるんだろうか?
もし、微妙に仲が悪かったら、あの時、どうなってしまうかわからないぞ…

「見過ごすわけにはいかなくなったな…」

「嵐~! ナズナが起きたから、お粥持っていってあげてよ~」

「わかった! そこに置いといてくれ~! …スカさん、じゃあナズナとちょっと相談してくる」

『明日だからね。早めに頼むよ』










「そうですか…」

ナズナの寝ている部屋に行き、さっき聞いた話をナズナに全部伝えた。
ナズナは話が終わると、黙って自分の手を見つめている。

「…そうですね。明日、様子を見に行きましょう。マスターのおかげで、体調も少しよくなりましたし」

どうやらナズナは、なのはに接触することにしたようだ。
なのはが墜ちる場所は、スカさんが知っている場所なので、簡単に転移出来るらしい。

「じゃあ、明日俺もついていくから」

「?」

ナズナは俺がついてくるとは思っていなかったのか、キョトンとした表情になった。

「ほらほら、いいから口開けろって。お粥冷めるぞ」

「……あ~」

俺の能力の本領発揮ってね。








































side高町なのは


何がいけなかったんだろう。

「おい! しっかりしろ! おい!!」

今日の任務はそんなに大変な任務じゃなかったはずだった。

「眠るんじゃねえぞ!」

正体不明の敵が現れても、そこまで手ごわい敵じゃなかった。
私の体が自由に動かせなかっただけだ。

「医療班、何やってんだよ! 早くしてくれよっ! こいつ、死んじまうよっ!」

ヴィータちゃんの声が聞こえる。泣いているのがわかる。
泣かないで、大丈夫と言いたいけれど、体がうまく動かせない。

「畜生! なのは! ちょっと医療班引っ張ってくるから、絶対に死ぬんじゃねえぞ!」

雪の上に寝かされたけど、冷たくない。体も少し温かい。
多分、ヴィータちゃんが簡単な魔法を使ってくれたんだろう。

「いいか! 絶対だぞ! 死んでたら怒るからな!」

ヴィータちゃんの声が聞き取りにくくなってきた。
ヴィータちゃんが離れていくのと共に誰かが、ここに近づいてくるのも感じる。

「…あれ? ヴィータいないじゃん? やっぱ変わってるのか?」

君たちは…

「高町…なのは…」

ナズナちゃん…?

「さてと、一応、応急処置だけでもしとこうかね」

ナズナちゃんと一緒にいた男の子が私の体に触れた途端
私から流れていた血が、止まった。

「出血はこれを固めて止めて…」

「高町なのは。あなたに聞きたいことがあります」

何? ナズナちゃん?

「あなたは何故こんなことになってまで、魔導師を続けるのですか?」

…私は…少しでも多くの人に笑ってもらいたいだけだよ。

「自分と全く関係のない人なのに?」

うん…

「そうですか」

ナズナちゃんはデバイスを私に向けた。

「ちょ! ナズナ!! 何してんの!?」

「ここで死んだ方が高町なのはにとっても楽だと思いまして」

「ブレイク! ブレイク!!」

男の子が止めると、ナズナちゃんはデバイスを下げてくれた。

「…まあいいです。高町なのは。知っているでしょうが、あなたと私は似ています」

そうだね。

「けど、それは外側だけですね。あなたは少しでも多くの人を助けたい。私は大事な人が生き残るのなら、他人がどうなろうとどうでもいいです」

へえ。

「自分の身さえ削って助けるのだけは同意ですね。私は一人だけのために捧げますが」

何が言いたいの?

「あなたと私は絶対に仲良くすることはないでしょうね。私はあなたが嫌いですから」

………

「ここで死ななければ、また会うこともあると思いますが、その時は、“お話”なんてしませんから」

ふーん。

「それじゃあ帰ります。さよなら高町なのは。もう会わないことを祈っています」

私もナズナちゃんはあまり好きじゃないタイプみたいだね。
それじゃあねナズナちゃん。絶対に死んであげないから。


急速な眠気が私を襲い、そのまま寝てしまった。










<あとがき>
なのは撃墜は終了!
なのはとナズナって中身もよく似ているんですけどね…。方向逆だけど。
周りの人のために頑張るなのは。大事な主のために頑張るナズナ。正直、同属嫌悪ですね。
なのはとの関係は初期からこんな感じになる予定だったんですが、如何せん、なのはの出番少なくて…
嵐はなのはとナズナが口で争ってる中、一人で治療してました。出血止めたり、輸血したり…
ただ、リンカーコアは原作通り傷ついているので、少し治療が簡単になるだけですね。シャマル先生は治療の痕に気づくでしょうが。
では!また次回!!



[6935] 第52話「ずれ始めた歯車」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:c8ec9852
Date: 2009/06/14 22:29
「なのはってよくあれで死ななかったよな…」

『小さい子供があんな怪我を負っても魔導師を続けるなんて、正気の沙汰とは思えないね』

「なのはの幼少時代に問題ありだよなぁ」

『そうだね。ここで復帰しないで日常に戻るのが普通だと思うよ』

「主人公はつらいね」



第52話「ずれ始めた歯車」



sideクロノ


「クロノ!!」

「フェイト! ここは病院だ。静かに」

「ご、ごめん…、でもなのはが!?」

いつも通り仕事をしていた今日。
一通の連絡が、みんなに伝わった。それを読んだとき、初めは信じられなかった。
高町なのはが墜ちたなんて

「なのはは!?」

「今、シャマルが見てくれてる」

仕事を置いて、みんな病院に駆けつけた。
軽い怪我ではない。瀕死の重傷だと言う話を聞いたからだ。

「あ、あたしが、あたしがしっかり見とけば」

「ヴィータ…」

全員が手術室の前で、なのはの無事を祈っていた。
誰もが、なのはが無事にここに帰ってきてくれることを願っていた。

「…!?」

そして、手術室の電灯が消えた。

「なのは…」

手術室から出てきたシャマルは、どこか暗い顔をしていた。
その顔を見て、皆が息を呑むのが聞こえる。

「手術は…成功しました」

「本当!?」

「はい…」

手術が成功したのに以前シャマルの表情は暗いままだ。
何か問題があったんだろう。

「けど現段階では、魔法の使用、そして足での歩行は、非常に困難です」

「っ!?」

全員がその言葉を聞いて驚いた。
なのはがもう動けなくなる可能性もある。そして飛べなくなってしまう。

「そ、そんな!?」

「嘘だろ…」

悲しみに嘆く中、シャマルが僕を呼んでいるのが見えた。

「どうかしたのかい」

「…一つだけ話しておきたいことがあります」

何故それを僕だけに?
みんなの前では話しにくいことなんだろうか?

「フェイトたちには…」

「なのはちゃんの容態には関係はない話なんです」

「それは?」

シャマルは、少し迷う素振りを見せた後、話を切り出した。

「なのはちゃんの怪我を見て気づいたんです」

「なのはの傷に何かあったのか!?」

「医療班が運んできたとき、応急処置はされていたんです。けれど報告の応急処置と違う点が見られるんです」

「違う点?」

「はい。なのはちゃんの出血、ここに来たときは止まっていたんです。血? だと思うんですけど、それが固まって出血を抑えていたみたいなんです」

血がなのはの出血を止めていた?
人間にそんな芸当できるはずがない。ということは魔法だろう。だけど、一体誰がそんな魔法を…

「それと、なのはちゃんの血も結構流れたはずなのに、あまり輸血が必要じゃなかったんです」

「輸血も?」

血絡みのことばかりだな…

「そのおかげで、早急に手術が出来て一命を取り留めたんです」

「そうか」

「それで、結論なんですけど…、なのはちゃん…ここに来る前に誰かから手当てを受けているように思えます」

「…ああ、僕も今そう考えていた」

シャマルは僕に話を伝え終わると、手術室に戻っていった。


なのはを手当て…一体誰がそんなことを…
それに、ヴィータがなのはの場所を離れてから、10分も経っていないと聞いている。
だったら、そのヴィータがいない10分の間になのはを手当てしたのか?
だけど、それを可能にするには、なのはが今日墜ちるというのをわかっていなければ無理な話だ。…わかってなければ?
どこかで同じようなことを考えていたような気がする。

「…あれは…」

思い出せ。どこかで考えていたはずだ。

「クロノ…みんな帰っちゃったよ。私たちも…」

「…あ、ああ、僕も帰るよ」

フェイトの呼びかけで周りを見渡してみると、皆は解散したようだ。
このままここにいても仕方ないだろう。

「なのは、早く目が覚めるといいね」

「全くだな」

フェイトは、無理に笑って、落ち込んでないように見せているが
笑顔がいつもより引きつって見える。

「フェイト、無理しなくていい」

「…ごめんクロノ。ちょっとお手洗い行ってくる…」

フェイトは下を向いたまま歩いていった。ここにいた、全員が心に大きな傷を負ってしまった。
何故、なのはの体調に気づいてやれなかったのか。
もっとなのはの体調を気遣ってやれたんじゃないだろうか?
その考えが、僕の頭の中を回っている。
なのはの顔が真っ黒に染まるイメージが頭に…、真っ黒?

「真っ黒…っ!!」

さっきの悩みが解けた。
なのはの撃墜を予言できそうな人物が一人いた。

「だが…」

奴らになのはを救うメリットが見当たらない。
寧ろ、なのはがいない方があっちにとっては都合がいいはずだ。
最近は全く姿も見なくなった。もしかしたら、もういないのかもしれない。

「ナズナたち…の可能性も考慮しておこう」

何故、なのはが治療されていたか?
なのはが知っているかもしれない。目が覚めたら聞いてみたらいい話だ。










sideout


なのはと遭遇してから、何日か経った。
ナズナの体調はすっかりよくなり、悩みの種が一つ解消した。

「結構、簡単に遭遇できてよかった」

『まあ、場所は特定できていたしね』

行く前にスカさんが次元座標を入力し、転移したと思ったら
目の前には、倒れているなのはがいるだけだった。

「あれで、なのはは死なないはずだし、概ね原作どおり進むだろ」

『そう言えば、何故君は、今回はあまり動かないんだい?』

「ん? ああ、stsとか、あまり歴史弄るとわけわかんなくなって、ストーリーがわかんなくなっても困るだろ?」

無印やAsは、暴れても無問題の所で抑えているはずだし…
抑えていたよな?

「stsで…マセラティ? だっけ? そいつからコメテスアメテュスを奪ったらいいしね」

『マセラティの一族の者が、管理局の技術部に入るには君の言うstsの時代だね』

少なくても後、8年くらいか。先は長いな。

「それって8年後しか無理なのか? 今からそいつのとこへ行って、奪ってくるとか」

その方法が可能なら今すぐそっちに向かいたいところだが

『それは無理だ。マセラティの集落がどこにあるのかは、わかっていない。そこに行くことが難しいね』

「そうか…残念だ」

まあ、技術部から奪うのなんて簡単だろう。
技術部に潜入してもいいし、技術部を直接襲撃してもいいしな。

『それにしてもあの時は見事だったね』

「何が?」

『君の魔法だよ』

「ああ、そう言って貰えるとうれしいよ」

あの時、ナズナとなのはが離している間に
俺はせっせとなのはの治療をしていた。地味にコツコツと

『出血を止めれるのはいい発見だったね』

「そうか?」

『いっそのこと医者にでもなったらどうだい? 結構儲かると思うよ』

「医者か…それも悪くないけど、俺、医学的な知識0だからな。出血止めるとか、そういうのしか出来ないわ」

ナース服のナズナやプレシアさんってのも魅力的だがな。
アリシアなんて嬉々としてナース服着そうだ。お医者さーーん、とか言い出して。

『それもそうだね』

「…まあ、俺の医者云々の話はどうでもいいとしてさ」

『どうしたんだい』

「スカさん、この時期に暗躍しまくってたよな?」

なのはが撃墜された年にいろいろと世界にも動きがあったはずだ。

『そうだね。結構働いたね』

「働くって…」

そのせいで殺されるゼストたちが哀れすぎる…

『それがどうかしたかい?』

「スカさんに遭遇しといた方がいいかなって思って」

『私にかい?』

「うん」

stsの時代を動くとなると、確実にスカさん…じゃない、スカリエッティに出くわすだろう。
その時にお互い初対面だったら、戦闘しなくてはならなくなってしまう。
それは、いろんな意味で避けたい。

「どうしたら会えるかな?」

『…正直、会わない方がいいと思うがね』

「…?」

『まあ、会いたいなら初めのレリック事件まで待っていればいいよ』

「最初の…」

最初のレリック事件というと、あの大火災のあれだろうか?
あれってレリックの暴走でなったんだっけ?

『そこにレリックを回収しに来ている子達がいる。そこに私が案内しよう』

「あ~、スカさんが指示してただっけ」

スカさんって一応ラスボスでしたね。忘れてたわ。
デバイスになって俺の指に納まっているスカさんを見るととてもそうは思えない。
どっちかというと、この場合俺がラスボスか…?

「なら結局、時間はかなり余るっことか」

『来る戦いに備えて、しっかり体を鍛えておくんだね』

「…そうだな」

スカさんとスカリエッティか…、出会わしたら駄目な気もしてきた。










自分の部屋を出てリビングに行くとナズナとアリシアが掃除をしていた。
前まで仕事をしていなかった分を取り返そうとしているような勢いだ。

「ナズナ、アリシア」

「あっ! 嵐!!」

「マスター、どうかしましたか?」

「前まで寝込んでいたんだから、あまり無茶するなよ」

また倒れられたら、こっちも困るしな。

「大丈夫です。もう体は元気ですから」

「私が見てるから大丈夫!!」

「ならいいけど…」

アリシアが見てるって、あんまり信用出来ない…ナズナって体が元気じゃなくても普通に仕事しようとするから心配だ。
俺とシントラでしっかりナズナの体調には目を見張っとかないと。
そこらへんは、なのは譲りだよな。

「………はっ!!」

「アリシア? どうかしましたか」

掃除をしていたアリシアが突然天井を向き、ニヤニヤし始めた。
かなり不気味だ。というか怖いよ。

「くふふ、ナ~ズナ! 耳貸して!」

「はい?」

ニヤニヤを保ったまま、ナズナの耳で何かを話し始める。
するとナズナの顔が徐々に赤くなって、最終的には真っ赤になった。一体どういう話をしたんだ?

「そ、そうだマスター」

「どした?」

ナズナはアリシアから離れ掃除の手を止めて俺の目を見てきた。

「た、高町なのはと最近会いまし、たよね!」

「会うも何も、治療までしたな」

ナズナは俺の眼を見ていたが、焦点が合っていない。
あっちを見たり、こっちを見たりと、忙しそうだ。

「た、高町なのはとわた、…わ、わた、わわわ」

限界まで赤い。真っ赤なトマトといい勝負だ。

「わわ…わた、し……きゅう…」

「…駄目だったか~」

「…大丈夫か?」

ナズナは全部言い終わる前に倒れてしまった。
アリシアが介護して、ソファーに寝かせて、扇いでいる。

「……うむ」

ほんのちょっとかわいいと思った。…ほんのちょっとは嘘だ。






























――戦闘機人プラント



「ス、バル…、ギン、ガ…、ゲン、ヤさ、…」

一つの命が消えようとしていた。

「あら~、これ、まだ生きているわ~」

「なかなか骨がある魔導師だな。それだけに惜しい」

「生きててもしんどいだけなのにね~、チンクちゃん~止め刺してちょ~だ~い」

「ああ」

容赦なくチンクがナイフを投げたとき、イレギュラーが発生した。

「なっ!?」

「どういうことだ!?」

質量兵器。先の時代ではガジェットドローンⅣ型と呼ばれる物がクイントを庇った。

「貴様ら! 機械如きが反逆するか!?」

「おかしいわね~反逆なんて起こすはずないんだけど…」

「人形だって逆らうときもあるかもしれませんよ?」

「誰だ!?」

3人が声のした方を振り向くと、そこにいたには黒子のような衣装の者が一人と女性が一人。
その黒子と女性の後ろにガジェットが並んでいた。

「貴様…何者だ!」

その問いに、黒子は口元を歪ませ答えた。

「人形遣いですよ」




歯車は徐々にずれ始める。










<あとがき>
次から時間が飛んで、修行編に入ると思います。多分。
結構長いんですが、それが終わるとそろそろstsに入っていくので空白期のラストですかね。
では!また次回!!



[6935] 第53話「風邪を舐めると痛い目に遭う」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:c8ec9852
Date: 2009/06/14 22:46
<この戦いを終わらして、のんびりと畑でも耕したいものだな>

<全員下がれ! 私が出る>

<お前の名前は…■■■■だ! これから私と共に戦ってくれ>

<全く、あまりしんどいのは嫌いなんだが…>



第53話「風邪を舐めると痛い目に遭う」



「…変な夢だったな」

いつもは、見た夢は忘れることが多い俺が、珍しく見た夢を覚えていた。
しかし内容に全く見覚えがない。喋っていたのも誰だかは分からなかった。
だけど、どこかで聞いたことのある声。
…いや、どこかと言うよりいつも聞いている声だな。俺の声に近いものを感じた。なんとなくだけど。

「…飯食うか…」

いつまでも夢のことを考えていてもしかたない。
少し重たく感じる体を動かし、リビングに向かった。体が重たい? もしかして太ったか?

「お! おはよ~嵐!」

「ん…」

ようやくフェイトと無印のフェイトと同じ9歳になったアリシアが
背中から俺の首にぶら下がっている。俺とアリシアの身長の差は、現在30cm。俺、約160cm、アリシア、約130cm。
このくらいで苦しむ俺じゃないはずだが、今日はアリシアが異常に重く感じた。

「お、おも…」

「むっ! レディに失礼だよ!」

「す、すまん」

アリシアはほっぺを膨らましながら、俺から降りた。
今日は少しからだの調子がおかしいな。変な夢を見たからだろうか?
夢を見たくらいで体調に変化が出るなんて一体どういう効果の夢なんだよ。全く。

「それじゃあ先に行ってるね」

「ああ」

アリシアは、パジャマのままリビングに走っていった。
この前、着替えてから来るようにプレシアさんに注意されたばっかなのに…忘れてるな。

「お、嵐。はよっす」

「おはよう」

「おはようシントラ、アインス」

後ろから来たのは、大体二人でいることが多いシントラとアインスだった。
シントラは手に新聞を持っている。

「ほら、今日の新聞だ」

「どうも」

シントラは、俺に新聞をよく取ってきてくれる。
リビングに行くついでだと言っているが、リビングに来るのに新聞を取っていると
時間が掛かるのは、シントラには内緒だ。
知ると怒りそうだからな。

「おはよ」

「はい、おはようございますマスター」

ナズナが朝ごはんをテーブルに並べている。
俺は、皿をテーブルに運んで席について、新聞を読み始めた。

「今日のニュースは…」


『芸人魔導師コンビのNo Stopのブレーキ・タイヤさん(36)と人気女優のターン・ノリノリカさん(34)が出来ちゃった結婚!?』


へえ~こいつ等結婚しちゃったんだ。最近騒がれてたからそろそろかなって思ってたけど…
世の中、なんでもやり過ぎはよくないってことだな…
俺も気をつけるようにしよう。…経験ないけど。


『謎の魔導師拉致事件相次ぐ! 管理局も犯人の足取り掴めず』


最近、有名になってきたニュースだな…。
魔導師が行方不明になって、場所すら特定できなくなるって言う事件。
これこそ本当に気をつけないとな。アリシアたちにも一応注意しとかないと。


『若きエース、高町なのは(13)教導隊入り』


…相変わらずがんばってるね~主人公。
その頑張りを俺も見習った方がいいんだろうか? 熱血!! みたいな。

「おい、飯出来てるぞ」

「あ、悪い」

シントラの言葉通り、俺の前にはご飯と味噌汁という、朝の定番が用意されていた。
俺は新聞を置いて、飯を口に入れた瞬間、俺の体に異変が起きた。

「……」

「マスター? どうかしましたか? 顔色が悪いです」

「味噌汁嫌いだったか? でも今まで普通に食ってたよな」

ナズナたちの声を聞きながら、俺は、トイレに走った。





「ぎ、ぎもぢわるい゛」

トイレに走り、なんとか間に合った俺が出てきて最初に話した言葉がこれだった。
冗談とか言っている場合じゃなかった。真剣にしんどい。
この世界に来てから、初めてのことだった。

「マスター! 大丈夫ですか!?」

「だい゛びょうぶ…」

『明らかに大丈夫じゃないだろう…』

ナズナが心配してわざわざ見に来てくれた。
心配させるわけにはいかないと思い、大丈夫そうに振舞ってみたが
全くの逆効果だった。うまく話せなくなっている。

「マスター!? まさか体調が!?」

「し、心配するな」

「無理です!!」

『無理だね』

「姉御! 嵐はどうだった」

騒ぎを聞きつけたのか、シントラまで来る始末。
もう言い逃れは出来そうにない。

「ちょっと風邪気味でな。放っとけばすぐに治る」

「それでしたら、今日は一日ベットで寝ていてください!」

「あ、ああ、勿論だ」

ナズナから、覇気のようなものを感じ、俺は頷くことしか出来なかった。
ナズナさん怖いよ…





「38度8分…ね」

『思ってより高いね』

「け、結構ありますね…」

「あなたが風邪を引くなんて、珍しいわね。明日は槍でも降るのかしら」

ナズナに部屋に連行された後、ナズナは食事を持ってくると
部屋を出て行き、入れ替わりでプレシアさんが体温を測りに来てくれた。
体温計を持ってこっちにゆっくりと近づいてくるプレシアさんにはかなり恐怖を感じた。
そんなことを言ったら、雷で黒焦げだろうけど。

「あなた昨日、何か風邪に掛かるようなことしたかしら?」

「風邪ですか?」

昨日は特に何もしていないはずだが…
しっかり早く寝たし、風呂を出た後も体はちゃんと拭いたはずだし…

「特には…」

「…誰かに移されたのかしら?」

『その可能性もあるが…』

誰かに移された可能性もあるが、それだと
俺と一緒に誰かも苦しんでなきゃ詐欺だろ。そいつがやばいくらい抵抗あるなら別だけど

『まあ、それはどうでもいいか』

「そうね。嵐、今日は大人しくしときなさい」

「そうします…」

「訓練も今日はお休みにしときましょう」

「すみません…」

「謝る必要はないわ」

プレシアさんはナズナが入ってくるのを見るとそそくさと部屋を出て行ってしまった。
ナズナは、リンゴを持ってきている。

「リンゴなら、食べれると思いまして」

「ああ、リンゴなら何とかいけそうだ」

ナズナは椅子に座ると、ビニール袋を出して膝の上に置き
そこに器用に剥いたリンゴの皮を入れていく。

「上手だな」

「はい」

俺は、昔から料理が苦手で、小学校のときもリンゴの皮むきテストは
0に限りなく近い点数だった。

「これでいいかな…」

『いいんじゃないかい』

ナズナは、リンゴを剥き終わり最後の皮を袋に入れる。
膝の上に置いてあった皿には綺麗に剥かれたリンゴが並べられてる。

「それじゃあ」

手を伸ばし、一つのリンゴに刺さっている
爪楊枝に手を伸ばしたのだが

「駄目です!」

「へっ?」

ナズナに腕を掴まれ止められた。

「え、これナズナの?」

「マスターのです」

余計にわけが分からない。
俺のために剥いてくれたんなら、何故俺が食べちゃ駄目なんだ?
いただきますを言っていないとかだろうか?

「いただきますを言ってなかったからか?」

「いえ、違います」

「じゃあなんで」

「…昔のことを覚えているでしょうかマスター?」

「昔?」

昔というと、どれぐらい昔だろうか?

「私が高町なのはと出会う前に寝込んでいたでしょう」

「あっ! それか!」

あの時は、ナズナも、今の俺と似たような症状になっていたな、そういえば。
だけど、何故今それを?

「あの時、マスターは私に何かしてきませんでしたか?」

「何か?」

何かしただろうか? 身に覚えがないんだが…
ナズナが気に食わないことなんてしてないと思うけど、もしかしたら
知らないうちにしてしまってたんだろうか?

「だから私もします」

「しますって?」

「……」

ナズナはリ爪楊枝を掴み、俺の口に運んできた。
…そう言えばナズナにこれしたな…、今頃になって後悔。

「…あ~ん」

ここで断るのも悪いと思い、口を大きく開ける。
この状況が、リンゴが食い終わるまで続いた。緊張と、体調の悪さでまた吐きそうだった。





「ナズナ、いつまでもここにいなくてもいいんだぞ?」

「しかし…」

リンゴが食い終わってもナズナはこの部屋から出て行かなかった。
心配してくれるのは嬉しいが、ここにいつまでも縛っておくのは悪い気がする。

「俺は大丈夫だから」

「……」

ナズナは離れようとしない。
ここで、いい事を思いつき、俺はナズナの手を握った。

「マスター?」

「絶対大丈夫だって、風邪如きでくたばったりしないからさ、そんなに心配ならこれ」

俺はいつもしている赤の十字架の首飾りをナズナに渡した。

「それで」

そして、ナズナがしている、黒い十字架の首飾りを取り
俺の首飾りと交換した形になった。

「これは?」

「この首飾りをナズナだと思うから、ナズナはその首飾りを俺だと思っていたらいい」

我ながら臭すぎる台詞。顔が真っ赤になるのを感じる。

「わ、わかりました」

ナズナの方も照れながらも了解し、部屋を出て行った。
俺は、ベットに横になって、目を閉じ、すぐに眠りについた。





この時にナズナいてもらった方がよかったと後悔するのは、もう少し先のことだった。




















<俺とお前がいれば百人力だ。そうだろ?>


<今日の戦いで、亡くなった者は…>


<人形に心は宿るか否か>


<あたしを置いていくとはどういうことだ!!>


<お前は…、ここで眠っていてくれ>


<いやだ!! 最後まで一緒に…>


<お休み…>


<人形の王よ! これ以上は好きにさせん!!>










「…冷たい…」

顔にかかる、冷たい雨で目が覚めた。
またあの夢だ。一体なんなんだ? 見たことないのに、知っているような…あれ?

「…ここ、どこだ?」

『まさか…ここは…』

さっきまで俺は自分の部屋でしんどいから寝ていたはず
だけど、今は、嘘みたいにしんどさは消えている。それに場所まで変わっている。
俺の部屋から、雨が降りしきる森に

「…え?」

驚きのあまり、握っていた拳が解けると、中から宝石が転がってきた。
スカさんに預かっておいてもらった赤い石が。










おまけ


入院なのはさんとクロノのとフェイトの会話


sideフェイト・テスタロッサ


「それで、間違いないんだな」

「うん。あの時、確かにナズナちゃんがいた」

なのはが目を覚ましたという話を聞いてすぐに駆けつけた。
心配していたけど、私たちの前では元気に振舞ってくれた。なのはが一番つらい筈なのに。
その後、クロノが始めた出した話は、想像の斜め上を行っていた。

「やはりか…」

なのはが墜ちたときにナズナがいたというのだ。
初めはクロノが嘘を言っているのかと思ったけど、なのはは確かに見たらしい。

「そうか。協力ありがとうなのは。フェイトとは積もる話もあるだろう。すまないが僕はここで」

クロノは、席を立ち、帰ってしまった。
忙しい中、わざわざ時間を作っていたと母さんに聞いたので
きっと今日の忙しかったのに無理してここに来たんだろう。

その後、私となのはは、怪我のことや魔法のこと30分は話し続けていた。
私がそろそろ帰ろうとした時、なのはが切り出した。

「ナズナちゃんさ」

「えっ」

「クロノ君は、私のクローンだってことしか結局わからなかったって言ってたけど」

ナズナの調査は、クロノの調べでは、なのはのクローンということしかわからなかった。
他にも、わからないことは多いらしいけど、ここが管理局の限界らしい。

「私、それだけで十分だと思った」

「なのは、どうしたの?」

「ナズナちゃんと話してて、わかったの。ナズナちゃんと私って似てるのは外側だけって。ナズナちゃんも言っていたけど」

なのはは、話し続ける。

「多分、私とナズナちゃんはお互い相容れない存在なんだと思う。だから、こんな傷すぐに直して、ナズナちゃんを見返すの」

なのはは、強い眼差しで、窓から空を見た。
怪我で落ち込んでいたなのはだったけど、ナズナの話をした時の眼は、力が篭っていた。

「けど…」

なのはには、悪いけど、二人はよく似てると思う。お互いに、何か譲れない芯が立っている所とか…
私は、なのはにまた来ると言って、病室を出た。




















「そう言えば、ナズナちゃんの隣にいた男の子…、名前聞いてなかったな…。今度ナズナちゃんと会ったとき聞いてみたらいいかな。そのくらいのお話は別に良いよね。私の怪我の手当てもしてくれたみたいだし…」










<あとがき>
嵐、修行編突入!!
これが終わると、嵐も大分すると思いますし、力もつくと思います。
それと、クロノが言う管理局の限界は“表”のです。スカさんなど“裏”の者はさらに研究を続けています。
まあ、スカリエッティが作った理論なので、精々わかるのは同じスカリエッティだけでしょうが…
では!また次回!!



[6935] 第54話「柘榴色の世界」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:c8ec9852
Date: 2009/06/14 22:51
「え? 何? えっ?」

『…一体何をしたんだい』

「いや、特に何もしていないはずだけど…え?」

『転移? いや、引き寄せられたのか? しかし…』

「…雨が冷てえ」



第54話「柘榴色の世界」



「…本当にここは、どこなんだ?」

『君は何もしていない。それは確かなんだね?』

「ああ。寝ていただけだからな」

最後にしたのはナズナとの会話ぐらいのはずなんだが…
その証拠に俺の首飾りは赤ではなく、黒だ。

「っと…」

地面に落ちている赤い宝石を拾って、よく見てみると
やはり、何年前かに、アインスと融合した時に出てきた石と同じだ。
普通の赤よりも濃い、どこか血を連想させる真っ赤な色。

「これが何でここに…」

『…場所はわかっている。ここに来れた理由はわからないけどね』

「えっ、スカさんここ知ってるのか」

てっきり全く知らない場所に出たのかと思っていたんだが
どうやたスカさんが知っている土地らしい。俺の見た限り原作では見たことのない土地なんだが
俺の記憶違いだったんだろうか?

『ここはグラナトゥム…血で染まる土地と呼ばれている』

「グラナトゥム?」

知らない名前だ。やはり原作では名前すら出てきてないと思う。
しかし、血で染まる土地だと? なんと恐ろしい世界なんだ。早々に退場したい。

「…やばい世界なのか」

『血で染まるとという話は、いろいろな説がある。一番有力なのは、その木を見てもらえばわかる』

「木?」

話を聞いて、木を見上げてみると真っ赤な実が成っていた。

「これは?」

『この実を最初に食べた者が血の味がすると言い出してね。すっかりそれが定着してしまって、それで血で染まる土地と言われるというらしい』

「なるほど」

とりあえず、そう言う話だったら怖くないし、別に構わない。
血が大好きで、いつも見ていたいって感じの殺人鬼がいるとかだったら漏らすよ俺。

『今より遥か未来で出される説だけどね』

「…は?」

今より遥か未来?どういう意味だ?

『この世界は今の世界では発見されていない。言うなら、君が第一発見者だ』

「俺が?」

『正確に言うなら、見つかるまであと639年だよ』

約600年後かよ…
新しい世界! 世紀の大発見!! とか新聞に載らないかな? 載ったらやばいけど。

「じゃあ、何で俺がここに?」

『それがわからないんだ』

「とりあえず、一回戻ろう。ナズナも心配してると思うし」

こんな雨が当たるような場所にずっといたら、せっかく治っている風邪も
また再発してしまう。そういえばなんで治ってるんだ?

『そうだね。転移を開始する…』

「……」

『……』

「……?」

いつもなら、俺の足元から紅い魔法陣が出るはずだが
今日は、一向に出る気配がない。何かトラブルでも起きたんだろうか。

「スカさん?」

『…出来ない』

「出来ないって…っまさか!?」

『転移が…出来ない…』

最悪の事態だった。いつも冷静なスカさんも少し焦っている感じに見える。
そして、俺もようやく危機感を持ち始めた。

「転移出来ないって…何で!?」

『転移を何かに阻害されていると思う』

「誰に!?」

『それがわかったら苦労しないよ』

スカさんにもわからない。それって絶望的ではないか。
少なくとも、問題が解決するまではここにいなくてはいけないみたいだ。
俺は、このまま雨に当たり続けると、体調を崩すと思い、雨を凌げる場所を探しに歩いた。





雨は止む素振りを全く見せない。
それどころか、まるで俺をいじめるかのようにどんどん酷くなっていく一方だ。最悪…

「…スカさん」

『…なんだい』

しばらく無言で歩き続けたが、さすがに退屈になってくる。
俺は、少しスカさんにこの世界のことをを聞いておくことにした。

「この世界って未来で発見されるんだろう?」

『そうだね』

「どんな発見があったんだ?」

『…カル・ラントシュタイナという人物が眠る場所だよ』

「カル? どんな人なんだ?」

知らないな。

『詳しくはわかっていない事が多い人物でね』

「そうなのか?」

『管理局が出来る前の人物だよ?』

「…いつの人だよ」

よくそんな昔の人物のこと調べれたな。
そう言えばヴィヴィオもかなり昔の人物のクローンだったけ?

『約200年前の人物かな』

「200年ね。昔と言ってもそこまで昔じゃないな」

いや、それでもかなり昔だけどね。だけど俺千年後の未来から来てる人間だしね。
千年前の人物とかだと思ったよ。それだと魔法文明すら存在してないかもしれないけど

『200年前にこの国と、ある国が戦争をしていたんだ。その戦争で、相手の大将を討ち取った人物がカル・ラントシュタイナだよ』

戦争を終わらした人物か。そりゃかなりの英雄だろうな。

『まあ、彼の死後、この世界もすぐに滅んでしまったんだけどね』

「何で?」

『そこらへんは、あんまり彼とは関係なくなってくるよ。今度のアリシアの歴史の勉強の時にしよう』

「俺も受けるのかよ」

スカさんとプレシアさんによるアリシアの勉強会。
最近はかなり難しくなっているらしく、よくアリシアから愚痴を聞かされている。まあ、最高の家庭教師だけどさ。

「そんな凄い人物が眠る土地だったのか」

『さっきの伝承もこの土地にあった岩などに書かれていたんだけどね』

じゃあ、探せばその伝承も出てくるって事か。

『…そして君のオリジナルだよ』

「っ!?」

俺のオリジナル!?
そういえば、過去の偉人のクローンだって言ってたような気がする…

「俺の…」

『君のオリジナルの墓がここで発見されてね。そこに、血の瓶が発見されたんだ。それを複製して、出来たのが君だ』

「そうだったのか…」

俺のオリジナルか…。どんな人物だったんだろうな。聞いたことなかったな。
ここから帰ったら、スカさんに資料を貰って調べてみようかな。

「…お! いい感じの岩発見」

目の前に、雨を凌げそうな大きな岩があり、とりあえずそこで休憩することにした。

「あ~、びしょびしょ…」

服を脱ぎ、絞りたいとこだが、脱いでも着る服がないので、そのままにしといた。
火を熾そうにも、木もないから、無理だろう。周りから取ってこようかな…

「それで、俺のオリジナル以外になんかあるのか?」

『そうだね…。開かずの門もあったね』

「門? そんなのあったのか」

『サラーブと同じだよ。門の先は違う次元に通じているらしいけど、どうしても開かないんだ』

「それで開かずか」

未来の世界だし、そういうのは開けれそうなんだけど、無理だったのか
今より、魔法も進化してると思ったんだが…

『開けれないのも無理はないよ。その門を作ったのは、カル・ラントシュタイナだったんだからね。彼は魔導師でもあり科学者でもあったらしい。私には及ばないと思うが、彼も相当だったらしいからね』

凄い人だったんだな。俺とは大違…、あっ、俺と同じ人だっけ。

『あとは、化石が何個か発見されたね』

「化石なんて発見されたのか」

えらく歴史を感じる場所だったんだな…

『化石は、貝の化石から、生物の化石まで、たくさん見つかったよ』

「へぇ~」

『中でも凄いのが……あっ』

「どうかしたのか?」

スカさんが話を急に話を止めた。
喋るのが大好きなスカさんが喋るのを止めるということは、何かが起きたサインだ。

『早くセットアップを!!』

スカさんの叫びと同時に、何かが俺の背中に乗りかかった。





「っ!? 誰だ!?」

重みのせいで、息がしにくいのを我慢し、敵を確認する。
そこには、鋭利な牙を生え揃えた、大きいトカゲみたいな生き物がいた。

「…マジか!?」

トカゲは、そんなに大きくないが、赤ん坊なら一飲みにできそうだ。
そのトカゲが、俺の首に向かって、その歯を突きたてようとしているようだ。

「食われてたまるか!!」

すぐにスカさんを起動し、力尽くでトカゲを突き飛ばす。

『ドクターソード』

「食う相手を選ぶんだったな!!」

ドクターソードを作り、トカゲに突き刺す。トカゲは力尽きたのか、小さく鳴いて動かなくなった。

「な、なんだこいつ…」

『盲点だった…。未来では化石になっていたが、もしかしたら今は化石ではないかもしれないと思ったけど、当たっていたとはね』

なるほど、スカさんのさっきの話しが突然止まったのはこのためか。
それより、危険がないと思っていたこの土地は、危険だったという事実の方がショックだ。

「こんなトカゲがいるなんて、最悪だ…」

昔の俺なら、ここでもうチビッてるんじゃないか?
これもナズナの訓練のおかげってことだな。

「それより、こいつ他にもいるんじゃ…」



―――シャアァァ!!



―――シュラアァァ!!



―――ジュラララ…



「嘘だろ…」

急いでここから離れようと、岩場から出てみると
そこには、さっきのトカゲが何体もいる。見た限り5体ぐらいだ。

『さっきの声は、仲間を呼ぶ声だったみたいだね』

「…助けてナズえもん…」

ここにいないナズナが死ぬほど恋しくなって、首飾りを見た。





――そのころのナズナさん


「はっ!?」

「ナズナ~、どしたの?」

「マスターが呼んでいる気がしました」

「ご飯まで寝かせといてあげようって言ったのはナズナでしょ?」

「そ、そうですが…」

「嵐成分が抜けてきたの?首飾りだけでは我慢できなくなったの~?」

「そ、そんなことありません!!晩御飯の買い物に行きますよ」

「は~い」



ナズナが嵐がいないことに気づいて暴れるまであと2時間…





――グラナトゥム


「どけえ!!」

走りながら、トカゲに攻撃する。
じっとしていると、囲まれてしまうので、動き続け、奴らに囲まれないようにする。

「邪魔だ!」

走っているトカゲが俺に飛び掛ってくる。
奴らは俺を、ただの獲物ではなく、厄介な獲物と認識したのか、連携を組んで攻撃を仕掛けてくる。
ただの馬鹿なら楽だったんだが、知識があるのがうっとおしい。

「アクセルシューターに比べたら甘いんだよ!!」

飛んでくるトカゲの尻尾を掴み、振り回す。肉体強化の魔法を使っている俺には造作もない。
普通のトカゲと違って、尻尾の千切れたりはしないみたいだ。

「そぉれい!!」

勢いよく、俺についてきているもう一体のトカゲに投げつける。
かわす暇もなく、トカゲ同士でぶつかり、そのまま後ろの岩に衝突し動かなくなった。

「次はお前!!」

群の中で一番大きいトカゲにブラッティ・ストリングを首に巻きつけ、背中に乗る。
トカゲは、いきなり背中に乗られたことに焦り、激しく体を揺らすが紐のおかげで俺は落ちない。

「チャイルド・フィア!」

残りの2体の眼にチャイルド・フィアを放つ。
2体は、眼に血の針が突き刺さった痛みで暴れている。

「こっちこっち!」

奴らに場所を知らせるように大きな声を出すと、それが聞こえたのか
声のする方に突っ込んでくる。

「残念!」

トカゲの背中から、飛び降り、全員が衝突する。
一番でかいトカゲは、そのまま走り続け、ある程度走ると倒れてしまった。
でかいトカゲに体当たりをかました2体のトカゲは、仲間を攻撃してしまったことに焦ったのかオロオロとしている。

「でかいトカゲが親玉だったのか?」

『わからないが、戦意は喪失しているね』

トカゲは親玉がやられたせいかはわからないが、さっきまでの血走っていた眼に
恐怖が浮かんでいる。まさか親玉がやられるとは思っていなかったのか?

「まあ、襲ってこないなら別にいいか」

襲ってきたら、返り討ちに出来るくらいの実力はあるしな。俺も成長したもんだ。ナズナに感謝。
とりあえず、ここの地形を把握したいし、空中に行くか。

「スカさん。飛ぶわ」

『飛行魔法を展開するんだね』

スカさんが飛行魔法を展開して、飛ぼうとした時、地面が揺れるのを感じた。





―――グルゥウアァアアァァ!!!!





一瞬だった。
トカゲが、突然現れた羽のない竜に食われるのは。口の中で骨が砕ける音が煎餅を食べているかのように、感じる。

「あ…」

竜の体は黒い硬そうな鱗に覆われている。大きさはフリード程ありそうだ。

眼が合った。恐ろしいくらい、大きな眼と



この時、俺は二つのミスをした。


「ス、スカさん!!」


竜から眼を逸らしたこと。


『飛行魔法、展開』


竜に背を向けて逃げたこと。




















左腕の感覚が消えた。










<あとがき>
修行編というより、強化編ですね。ナズナの訓練で、ある程度、修行はしているんで。
強大な力を持つ敵に出会った嵐の運命は!?
では!また次回!!



[6935] 第55話「欠けたパーツ」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:c8ec9852
Date: 2009/06/14 22:58
舞台の上で黒い人形は踊る。観客を楽しませるために。

何があっても踊り続ける。壊れて動けなくなるまで。

踊る踊る。黒い人形は踊り続ける。



「ああ゛あああ゛ああ゛あ゛ああ゛ああああ゛ああ゛ああ゛あ゛!!!!!」



例え、どこかがが壊れても…



第55話「欠けたパーツ」



「ああ゛ああ゛ああ゛あ!!!」


痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! 熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!
意識が朦朧とする。


「があっあ゛ああ゛あ!!!」


傷が痛いを通り越して、熱い。死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。



「う゛ぼお゛えぇぇ」



自然に口から胃の中のものを吐き出している。痛い。



『落ち着いて! 落ち着くんだ!!』



誰かの声が聞こえる。熱い。さっきまで聞こえてた声。痛い。
何かを言っているけど、全く頭に入ってこない。熱い。何を言っているんだろう。


「あ、ああ、うっ、ああ…」


何もかもがどうでもいい。痛みから解放されたい。痛い。
何故自分がこんなとこにいるのかもわからなくなってきた。何故こんなとこにいるんだろう。



『落ち着いて! ゆっくり…』



昨日は親父と喧嘩して、それで険悪な空気になって、飯が不味くなったんだっけ? 熱い。
そういえば、そろそろお袋の誕生日じゃないか。



『ゆっくり、そう、ゆっくりだ』



最近、平田に会っていないな。痛い。あいつって普段は何してるんだろう?


「あ…あああ…」





『もう少し…』




…あれ? 何を考えていたんだっけ?
親父お袋平田ナズナスカさんプレシアアリシアシントラアインス…
熱い。あれ? どっちが現実なんだっけ? あれ?


「…ぅあ」


『ふう…よかった』







意識が徐々に覚醒していく。俺は、確か…

「ス、カ…さん」

『大丈夫かい?』

どうなったんだ? 気絶はしていないはず。あの竜に襲われた後、まだ時間はあまり経っていないと思う。
俺が寝ている場所は草原で少なくとも食われて天国にいるような事態にはなっていない。

「ここは…」

『鎮痛作用が効いてきたみたいだね。よかった』

首だけを動かし、周りを見てみると、光の靄に包まれている。
さっきの竜も、そう離れていない場所でトカゲの体を貪っている。

「ど、う…な、った」

『…君の腕が食い千切られた』

「マ、ジか…」

『運よく腕だけで済んだからよかったね。体だったら終わっていたよ。林に墜落した瞬間に不可視の結界を張り、そこで、君の腕を再構成した』

「再…?」

再構成? 一体どういうことだ?

『すぐに処置したし、使った血液も輸血は完了した。動けるだろう』

確かに疲労感はあるが、なんとか体は動く。
ゆっくりと体を起こし、左腕を見てみると、真っ赤に染まった左腕があった。
スカさんが魔法で構成してくれたのか。だけど全く感覚が感じられない。

「…えと」

『血で君の傷を塞ぎ、更にブラッティクロウで腕を構成したんだ。しばらくは動かしにくいだろうが、我慢してくれ』

雑菌消毒もバッチリだとスカさんは付け足した。
確かに左腕が異常に重く感じる。それにしても…

「よく、ここに襲い掛かってこなかったな…」

あんな近くにいるのに…

『あの竜は、肉より血を好むみたいだね。君の左腕を食べているときは、左腕に夢中だったよ』

…恐ろしい竜。

『しかし、どう逃げるかが問題だね…。この不可視結界は見えなくなるだけで、防御力は皆無だし、時間も10分保たばいい方だしね。匂いは漏れないから、大丈夫だけど』

竜はトカゲを食い終わり、キョロキョロしている。おそらく俺を探しているんだろう。

「残、り何分く、らい?」

『現在で1分46秒だね』

それはやばいな。
あいつが、しばらくこっちに興味を持たなくすればいいのか。

「何と、かして、みる」

竜は俺の左腕を食った。俺の血液タップリの左腕を

「……」

遠隔操作は苦手なんだが、この際文句は言ってられない。
俺は、竜の胃の中にある自分の血液を感じ取る。

「弾けろ」

途端に竜が叫び声を上げ倒れた。
いくら外が硬いと言っても胃の中で爆発はキツイだろう。そう思ったんだが…



―――ウゥウゥウウ…



竜は、起き上がろうとしていた。

『今のうちに逃げるんだ!』

「けど、あいつ…」

ここで逃げても結局は、同じなんじゃないか?

『いいから逃げるんだ。私が言う方向に走ってくれ』

「…わかった」

ここで話していても竜が起き上がるのを待っているだけになる。
俺は、スカさんの指示に従い、スカさんの示す方向に重たく感じる足を走らせた。





「はぁ…はぁ…」

逃げ込んだ先は、何だか澄んだ空気をしているような感じがする。
さっきまで、風前の灯だった自分が少し元気になった気さえしてきた。

「こ、ここは?」

『カル・ラントシュタイナの墓だよ』

「ここが…」

スカさんの言うとおり、この澄んだ空気の発生源のような場所に
赤い十字架が建ってある。

『カル・ラントシュタイナ、ここ眠る』

十字架に書いてある字は、俺には読めないがスカさんが翻訳してくれた。

「ここは、危険じゃないのか?」

『大丈夫。ここには、人間以外の生物が寄り付かないような結界が張られてるんだ。ここは元は村だったんだよ』

あんな凶暴な竜なんかがいる世界で平和に暮らしていけるわけがない。
だから、寄り付かなくなる結界を作ったんだろう。

「そ、うか」

その言葉を聞いた途端、体を眠気が襲った。
俺は、眠気に耐え切れず、墓にもたれかかり、寝てしまった。


『今は、ゆっくり休むといい』










sideナズナ


「マスター!!!!!!」

私は、探していた。
晩御飯を持っていくと消えていたマスターを。

「ナズナ! 落ち着いてよ」

「姉御! そんなとこにはいないよ! ベットの下なんて…」

「シントラ! あなたも探しなさい!!」

「うぇ!?」

初めはお手洗いだと思った。だけど、いつまで経っても帰ってこないマスターが
心配になって、みんなで探してみると、どこにもいなかった。
そこから、ずっと探し続けているけど、一向に見つからない。

「マスターマスターマスター!!」

「ナズナ…」

「あ、姉御…」

あんな状態でうろつくなんて絶対に駄目だ!
そんなに遠くにいけない筈なのに、マスターは見つからない。

「みんな」

「あっ! 母さん」

「プレシア! 何かわかったのか!」

「ええ、わかったわ」

「本当ですか!?」

探すのを中断して、プレシアさんに駆け寄る。
すると、プレシアさんは困惑した表情をして言った。

「嵐とスカリエッティは…サラーブにいないわ」

「え…」

プレシアさんは、何て言ったんだろう?
少し私の耳が悪くなったのかもしれない。もう一回聞いてみよう。

「い、今何て…」

「ナズナ。よく聞いて。嵐はここにいないの」

マスターが…いない…

「少なくても、サラーブには絶対にいないわ。多分、違う世界にいるんだと思う」

マスターが違う世界に…

「…ミーティア」

『stand by ready.set up.』

「ナズナ! 何をしているの!?」

「マスターを探しに行くんです!!」

「だけど姉御! どこにいるかもわからないんだぜ!?」

「離しなさい! マスターは体調が悪かったのに、どこかわからない場所に飛ばされて…」



「落ち着きなさい!!!!」



「「「っ!?」」」

突然にプレシアさんの一喝で全員の動きが止まった。

「ナズナ。嵐が心配なのはわかるけど、あなたが管理局に捕まったりでもしたら、誰が困るのかわかるでしょう」

「そ、それは…」

「確かに嵐は心配だわ。だけどここで闇雲に探してもどうにかなるわけではないわ」

プレシアさんの言うことは正しい。けれど…マスターは…

「あなたが嵐を信じてあげないでどうするの」

「っ!?」

マスターを信じる…

「確かに嵐は、体調も悪かったし、戦闘力もここで一番低いわ。けれど、あなたの主でしょ?なら信じてあげなさい。」

「…すみませんでした」

「…今日は解散しましょう。アリシア、私は嵐の行方を探るから今日はナズナと寝なさい」

「うん! わかった」

皆が解散していく中
知らず知らずのうちに、赤い首飾りを握り締めていた。

「マスター…どうかご無事で…」










sideout


「んっ…」

目が覚めたとき、最初に感じたのは体中が濡れている感覚だった。
どうやら雨を浴びながら眠っていたようだ。

「ああ…やっぱ夢じゃなかったか…」

自分の真っ赤な左腕を見て確信する。
腕が食われたのは夢ではなく紛れもなく現実だということを。

「…ラッキーだったのかな」

腕が食い千切られて、一瞬意識が飛ぶだけで済んだんだ。
下手すれば、腕がちぎれた瞬間にショック死してもおかしくなかっただろう。

「ははは…」

思わず笑いが込み上げてくる。
漫画なんかで、腕が千切れるキャラクターがいたけど、まさか自分が体験するとは思わなかった。
まあ、あっちの世界の日本では普通に暮らしている限りは起こらないことだろう。

「……」

問題なく動かせる右腕で、ナズナの黒い首飾りを握り締める。
そうしようと思ったわけじゃない。ただ、自然に体が動いていた。

「…スカさん」

『…なんだい』

「昨日、スカさんが食われなくてよかったな」

『笑えないね』

いつも通りの会話をスカさんと交じわす。本当にいつも通りの会話を。

「実際危なかっただろ」

『右腕だったらアウトだったね』

「…はあ」

だけど、そんなに会話は続けられなかった。
普段の状態なら未だしも、左腕がない状態で、そこまでスカさんと
会話する気分にはなれない。それにいつまでも現実逃避しているわけにはいかない。

「スカさん。転移が出来ないのが何でかわかった?」

『私の転移魔法を邪魔している存在がどこにいるかわかった。そいつを何とかすればいいだろう』

「邪魔?」

邪魔という事は、もしかしたら、俺をここに呼んだのもそいつなんじゃないか?
実際、手がかりはそれしかないみたいだし。

「そこに案内頼める?」

『わかった。案内をするよ』

俺は墓から起き上がり、墓を前へ見据えた。そして、一応、合唱しておいた。
ここが日本ではないので多分通じないとは思うが、気持ちの問題だ。

「じゃあ、行くか」

『ちょっと待ってくれ』

気分を入れ替え、転移を邪魔している奴の場所に行こうとしたとき、スカさんが止めた。

「なんだスカさん」

正直、もうさっさと帰りたいんだけど。
今、正気を保っているのも奇跡だと思うんだよね、俺。下手したら発狂するよ。

『墓の根元を調べてくれるかい』

「根元?」

俺の寝ていた、カル・ラントシュタイナの墓を調べてみると
そこから、赤い瓶が出てきた。

「何だこれ?」

『さっき説明しただろ?カル・ラントシュタイナの血液だ。特殊な加工技術で出来た瓶で、中の血液を全く変化させなかったんだよ』

「へえ…え? 血液?」

『血液だよ? どうかしたのかい』

スカさんは血液と言っているが、この感じは明らかに液体じゃない。

「石? かなんかが入ってんだけど…」

蓋のほうが小さく、中の石が取り出せない。しかたなく、割って中身を取り出した。

「これは…」

『おかしいね。昨日は、ちゃんと液体だったんだが…』

それは、俺の持っている石と同じような石だった。










<あとがき>
強化編もいよいよ終盤に差し掛かっていきます。
それと最近、インフルエンザとか、いろいろ怖いですね。気をつけてください。
感想で指摘された化石ですが、すみません。知識不足でしたね。トカゲたちについては化石ではなく骨ということにしといてください。
では!また次回!!










おまけ


魔法生物紹介

トカゲウス

グラナトゥムに多く生息する、太古の地球に存在していた恐竜と似た生物。雑食で、木になっている実を食べたりもする。
群を成して行動することが多く、狩りも群で行う。鋭利な爪と牙が武器。獲物を切り裂き肉を喰らう。
群の中にはリーダーが存在し、リーダーが倒されると、途端に統率力を失う。
昔のグラナトゥムの人々は、小さい頃から飼い慣らし、戦争で騎乗して出撃する者もいた。



[6935] 第56話「血の遺跡の謎? 気分は考古学者」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:c8ec9852
Date: 2009/06/14 23:05
「石? 同じのか…いや、ちょっと違うか?」

『全く…この世界に来てから、わからないことばかりだよ』

「スカさんにわからないことが俺に理解できるはずねえな。この件はパスで、先に進もう」

『そうだね。道案内をするから、言う通りに歩いてくれ』

「了解」



第56話「血の遺跡の謎? 気分は考古学者」



スカさんに案内され、歩き始めたものの
昨日の恐竜のせいで、えらく警戒心を保ちながら移動しなくてはならなかった。
だって気づいたら胃の中でしたじゃ洒落になんないだろ。ピノキオかよ。

「時々、聞こえてくる唸り声はあのトカゲとかだと思うけど…」

林の中から時々、何かの声が聞こえるが、あの竜の声は
聞くだけですぐにわかる。強く頭に残っている。
あの竜に食われた部分がズキズキと傷む。脳に食われた映像が強く浮かぶ。その度に汗が顔から垂れる。

「無事に辿り着いたらいいけど」

『それが一番だね』

「まあ、何にも起こらないってのはあり得ないと思ってた、っけど!!」

茂みから、飛び出てきたのはやっぱり昨日のトカゲだった。
腕代わりにしているブラッティクロウで受け止めるが左腕は踏ん張る力が湧かず、押し倒されてしまう。

「トカゲに押し倒される趣味はない!!」

どっちかと言うと美女がいい!!

『大丈夫かい?』

「チャイルド・フィア!!」

押し倒された体制で、右腕をトカゲの腹に当てて、大量に針を放つ。
トカゲは、その針の衝撃で弾き飛ばされ、地面でバタつき、腹に刺さった針を抜こうと苦しんでいる。

「注射中は動かないようにしてください! っと!!」

昨日と同じで、仲間を呼ばれてはうっとおしいので、呼ぶ前に
ブラッティクロウで頭を貫き、止めを刺す。

「この程度の敵なら、何とかなるんだけどな…」

あの竜相手に生きて勝てるかも怪しい。
フリードと戦ったらどっちが勝つんだろう。意外と仲良くなるかもしれないしな。

「スカさん、道は?」

『このまま真っ直ぐ行ってくれ』

「へ~い」

出来れば、もう出てこなかったらいいな…










「…門?」

『門だね』

あの後、何体か挑んできたトカゲがいたが、全員返り討ちにし
やっとのことで辿り着いた場所には、スカさんの言う、転移を妨害してくる人物なんておらず
一つの門だけがそこにあった。

「門なのに、後ろに家や城がない?」

『いや、ここは昨日話した門だ』

「ああ、開かずの門とか言う」

だとすると、この先に何があるかはカル・ラントシュタイナしか知らないってわけか。

「どこから反応が?」

『……この門からだよ』

「え? …開かずの門なんじゃ…」

『…絶望だね』

帰るのを邪魔している存在は、どうやらこの門の奥に引篭もっているらしいな。
俺たちを帰すつもりがないんだろうか?
それとも、俺たちがここに来たのは偶然なんだろうか?

「行き詰ったか…」

『どうするんだい?』

「どうしようもないな…」

未来で開いていない門が今の俺に開けれるはずがない。

「…とりあえず、調べてみるか」

だけど、ここでジッとしていても何も始まらない。
寧ろ、ジッとしているのは危険だろう。あの竜が来るかもしれない。

「ん~…」

右手で門を触りながら、何かないか探してみるが、特に何もない。
門は冷たい岩で出来ていて、謎の人のような生物が描かれている。
そこで、あることに気づいた。

「…この人みたいな奴の手に、窪みがある…」

『ああ、未来ではその窪みは傷ではないかと言う説だったよ』

「傷にしては不自然だろ?」

『今は、綺麗だからそう言えるけど、未来ではこの門もボロボロだったからね』

まあ、今いる生物たちがいなくなってしまうようなことが起きるんだし
当然と言えば当然か。

「…窪み」

俺は、特に考えていたわけではないが、その時、あの二つの赤い石が頭に浮かんだ。

「もしかして…」

ポケットを弄り、二つの石を取り出す。
その二つは、互いに欠けているが、合わせると一つの形になる。

『ほう…』

「これで…」

一つになった宝石を、窪みにはめた途端、人のような人物に赤い線が走る。まるで血管が浮き出ているみたいだ。
そして、体中が赤い線だらけになり、最後に目が光った。

「怖っ!?」



―――ズズズズズ…



門はゆっくりと動き開いた。

「おぉ…」

『こ、これは…お、おもしろいね! 心の奥から何かがこみ上げてくる! そう! 探究心が!!』

お前に心ないだろ。
とツッコミを入れると、ネチネチと文句を言ってきそうなので、あえてスルー。

『あの血は、彼が残していた鍵だったんだね! だけど、未来のものが瓶に触っても血液のままだったのは、多分あの瓶は人を選ぶんじゃないかな? 君はカル・ラントシュタイナのクローンだ。それに瓶が反応したのかもしれないね! しかも、鍵は二つで一つだった。おそらく彼の体に鍵を隠していたんだろう。クローンの君もユニゾンした時に生み出した…いや、元から持っていたのを外に出したんだろう。いやいや、中々警戒心が強かったんだね。それほども物がこの中にあるのかな!』

「…だったらいいな。奥に進めるようになったし、行こう」

『ああ! 歴史的第一歩を踏み出そう!!』

ちょっとうるさいし、テンションがうぜぇ…





『(そういえば違う場所からも何かが開く音が聞こえたような気が…)』





「…すげえな」

『素晴らしいね』

中は、さっきの森と違ってかなり文明的だった。
俺たちの時代と大分近い技術かもしれない。それほどに凄かった。
昔の人物がこれほどの文化を築けるなんて、本当に天才だったんだな。スカさんより凄いんじゃないか?

「遺跡って言う割には明るいな」

天井で植物のような物体が、光を発している。

『遺跡と呼んでいるのは私たちだからね。彼にしたら家だったのかもしれないよ』

「…にしても…寒い…」

さっきまで体に雨を浴びていたが、遺跡の中は雨など届くはずがない。
体は濡れなくなったんだが、びしょびしょの服のせいで体が冷えて仕方ない。

「鼻水出そうだな」

『汚いから、私で拭かないでくれよ』

てめぇ…

『分かれ道は、ないみたいだね』

スカさんが露骨に話を逸らしたが気にしないでおこう。
確かに遺跡の中は一本道だ。おかげで道に迷う心配はないんだが。

「奥に転移を邪魔している奴がいるんだろう?」

『多分ね』

「だったら、もしかしたら俺たち誘いこまれてるんじゃないか?」

ここまでスムーズに事が進むとはっきり言って不気味だ。
何かに導かれているような気さえする。

『誘い込まれる…か。当たっているかもしれないね』

「だろ? 危険じゃないか?」

このまま進んで、待ち構えている敵にズブリって展開なんてお断りだ。
こんなとこで死んでしまうわけにはいかない。
今まで苦労してきたのが全部水の泡になってしまう。そうなるとナズナたちに申し訳ない。

『だけど戻ってもどうにもならないだろう。さっきの竜種にまた襲われるだけだ』

「うっ…」

『私たちに残された手段は進むしかないんだ。頑張ってくれ』

「…了解」

結局、現状維持か…





「扉か?」

あの後もしばらく歩き続け、明かりが段々となくなってきたかと思うと
目の前には、大きな扉があった。

「ふっ!」

力尽くで、押してみるが開かない。

「無理か…」

『嵐。壁に何かあるよ』

「壁?」

スカさんに言われたとおり、壁の方を見てみると、確かに何かがある。

「これ…鍵か?」

取ってみると、それは地球でも比較的によく眼にする物だった。
しあわせ荘では、大家さんのおばちゃんが、部屋の本棚の上においてある巾着袋の中に
これと同じようにたくさん鍵がついたマスターキーが入っている。
何でおばちゃんが隠している鍵を知っているのと言うと、実質的に管理しているのははスカさんだからだ。

「まさか…」

俺は、もう一度扉をよく見た。そして見つけた。

「か、鍵穴…」

『何というか…ねぇ』

大きな扉の真ん中辺りにちょこんと小さな穴があった。

『…鍵を開けてみたらどうだい』

「…そうだな」

何を思ってこれを作ったんだろう。

「だけど、少なく見ても鍵は20個はあるぞ?」

『全部試すしかないだろう』

「面倒だな…」

『文句を言ってても仕方ないよ』

「じゃあやりますか」

俺は、一番端っこの鍵から順番に試していこうと思い
一つ目の鍵を挿した。

「無理か」

『外れだね』

やはり一発目から成功とはいかないみたいだ。
鍵を抜き、次の鍵を試そうとした時、鍵穴に異変が起きていた。

『おや?』

「え? …え?」

鍵穴は光を放ち、音を立てて何かをしている。

「何してんだ?」

『わからないね』

鍵穴の光は収まったが、特に変化はない。鍵穴がなくなったりなんてこともしていない。
さっきの光は、一体何をしていたんだ?

「じゃあ気を取り直して次の鍵…」










「全部外れ…」

かなり時間をかけてしたんだが、結果は全部外れで終わった。
挿すたびに、光を放つから、余計に時間がかかってしまった。なのに全部外れ。

「まさか、この鍵自体がフェイントだったのか」

『その可能性もあるけど、この仕組みがわかったよ』

「仕組み?」

『途中からわかっていたんだけど、一応の確認で全部試してもらったよ。おかげで確信が持てた』

「で?仕組みってのは?」

『簡単だよ。挿すたびに光を出していただろう?この鍵穴は挿されるたびに形を変えているんだ。だから、何度やっても外れだったんだよ。挿されるたびに変わられるんじゃ、コピーも出来ないね。挿された感覚がなくなったら発動するみたいだ』

「じゃあ、当たるまでやり続けなきゃいけないのか…」

『そうなるね』

24個もあったんだぞ…、毎回挿すたびに形が変わるんなら
当たる確立は毎回24分の一じゃねえか。何時間ここでいなきゃいけないんだよ。
しかも、この中に当たりだって入ってないかもしれないのに…

「カルさんは一々こんなことしていたのか…」

『それはわからないけどね』

カルさんって俺と同じ体だったんだろ?こんなこと毎回やるなんて、性格は似ていないんだな。
同じなのは能力だけってか?まあ、怪我とかにはかなり便利な能力だけどな。
傷を塞いだりすることとかには、かなり役に立つ。……塞ぐ?

「穴…」

『何か気づいたのかい』

「カルさんって、俺と同じ能力だったんだよな?」

『ああ、君と同じ、血液を使う魔法だった』

「…試す価値はあるか」

俺は、鍵を元の場所に戻して、扉に近づいた。

『何をするんだい?』

「まあ見ててくれ」

俺は鍵穴に指を当てて、血を流し込んでいった。

「これくらいで…」

鍵穴の中で、血の形を鍵穴に合わしていく。

「……ビンゴ」

手を動かすと、鍵は開いた。

『…君、医者にも向いてるって言ったけど泥棒の方がいいかもね』

「うるせえ」

医者で泥棒な魔法使いか…。なんかかなり雑魚キャラ臭がする…

「今度は…」

『行き止まり?』

扉の先は、再び行き止まりだった。扉もない。

「どうなっ、どわ!?」

奥の壁に触れようと、足を一歩進めた瞬間、俺の体が大きく揺れた。

「な、何事!?」

俺が立っている地面がゆっくりと下降し始めている。

「お、落ちている!?」

『いや、これは下降して行ってる』

スカさんの言ったとおり、どうやらゆっくりと降りて行ってるみたいだった。
人が乗ったら、自動的に作動するように作られているようだ。

「エレベータみたいだな…」

『そう言ってしまうと浪漫がないよ』

浪漫なんかは要らない。平和が欲しい。

『しかし面白い。君といると本当に飽きないね』

「うれしくねえ」

エレベータはゆっくりと降りて行ってる。
この下が人生のゴールではなく、ちゃんとしたゴールであることを祈る。





『そろそろ止まってきたね』

「ああ」

エレベーターに乗って5分程度、エレベーターはゆっくりと減速し始めた。
まあ、元々ゆっくりなので、些細な違いだけど。

「止まったな」

エレベーターが止まると、目の前の壁が開きだした。

『段々と奥に入ってきたね』

「敵がいないいいけど、これ無事に帰れるのか?」

帰ったときに、アリシアやシントラへの土産話がたくさん出来そうだな。
ランディ・ジョーンズの大冒険とかどうだろう?










<あとがき>
カルさんの遺跡? 家? でした。
強化編ももう少しで終わり。強化はされますが、そこは嵐なので、万能ではありませんが
大分強化はされます。初期ヤムチャから、セル編クリリンくらい。
では!また次回!!



[6935] 第57話「壊れていくパーツ」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:c8ec9852
Date: 2009/06/14 23:12
「遺跡って、全部こんな感じなのか」

『全部ではないけどね。これを見たらスクライア一族は、歓喜するだろう』

「どこぞの司書長でも連れてくるか…」

『専門家がいた方が楽でいいんだけどね』

「スカさんは、発掘より研究って感じだよな」



第57話「壊れていくパーツ」



エレベーターのような、機械から降りて、少し歩いたら
何やらとんでもない場所に辿り着いてしまった。いろんな意味で汗が止まらない。

「…マジか」

『これは…』

さっきまで雨で体中がびちょびちょだったが、これのおかげで乾いた。
しかし、今度は自分の汗でびちょびちょになっている。
ここにいたらせっかく治った風邪も再発するんじゃないだろうか? いや、再発するな。

「マグマ?」

『溶岩とも言うね』

辿り着いた場所では、いかにも暑そうな色をしているマグマがお出迎えしてくれた。
マグマなんて、こんな近くで初めて見たよ。

「マグマってこんな場所で出来るもんか?」

『それはないと思うけどね…。多分、魔法で維持されてるんだと思う』

「魔法ね…。なんのために?」

『熱エネルギーのためとかじゃないのかい?』

「熱ってレベルじゃねえぞ」

触ったら、熱い! …じゃ済まない。溶ける!? …の領域だろう。

『こんなとこで話していてもしかたないよ。奥に進もう』

「いや、進もうって…」

『どうしたんだい!? さあ!!』

「いや、ちょっと待て」

マグマは、その場所の下にある。
そして、そのマグマの上を一つの橋が架けられている。マグマに触れると溶けてしまうためか
マグマの部分にまで、橋が作られていない。人一人が渡るのが限界だろう。

「え?これ渡るの?」

『渡らないと奥に進めないよ』

「……え?」

これ進むと、もしかしたら崩れるんじゃない? マグマに真っ逆さまじゃない?
ていうかスカさん楽しそうじゃない?

『さあ!!』

「楽しそうでなによりです…」

スカさんをこのままマグマに落としたらいいんじゃないだろうかと考えながら
崩れる恐れがある石で出来ている橋に一歩踏み出す。
石橋叩いて渡るという諺があるが、今、それを試さないで渡るのがどんなに危険かを噛み締めていた。

「崩れるなよ~壊れるなよ~…」

足に全神経を集中し、ゆっくりと一歩ずつ踏み出していく。
気分はまるでバレリーナ。

「もう少し…」

少しずつ進んで、もう少しでゴール。俺の顔は汗でびっしりだ。
だが、そんなことは全く気にならない。

「……っしゃあ!!!」

最後の一歩をジャンプで華麗に決めて、俺は脚を渡り切った。充実感が俺を包む。

「さあ! 先に進もう!」

『…そうだね』

俺のテンションは上がりっぱなしだが、スカさんのテンションは少し下がった気がする。
俺が慌てたりしなかったのが、よっぽどつまらなかったんだろうか?
スカさんを見返せたことが、俺にはちょっぴり嬉しかったが、次の瞬間、その気分は脆く崩れた

『まあ飛行魔法使えばよかったんだけどね』

「なん…だと…」










あの後、しばらく何もない道がひたすら続いた。
特に変わったことはなかったが、大通りなのか道が広くなっていた。

「スカさん。この遺跡に入ってから、何時間ぐらい経つんだ?」

『遺跡に入ってからかい? 3時間くらいかな』

「3時間か」

結構時間経ってたんだな。そんなに時間のことなんて気にしてなかった。
というか、これ一体どこに向かってるんだ?
転移を邪魔している奴が本当にこの奥にいるのかもあやしくなってきた。

「反応はどうなってるんだ?」

『邪魔している者のかい? 遺跡の中だけしかわからないから、なんとも言えないね』

「せめて、後どれくらい歩けばいいのかわかればいいんだけどな」

延々とあのマグマの場所から、歩き続けているが、一向に目立ったものは見つからない。
道を曲がったり、下りを降りて行ったりの繰り返しだ。

『まあ、遺跡ってのは、広いときはとことん広いからね』

「狭い遺跡だったらよかったのにな」

『狭い遺跡だと、トラップが怖いね』

「トラップは、この遺跡にはなかったな」

仕掛けは何個かあったが、トラップに引っ掛かることはなかった。

『ここまで来るには、全部、選べれた能力を持っていないとこれないからね』

「選ばれた?」

『入り口は、君の体内に存在していた鍵が必要だ。次の扉は君の能力を応用して使わなきゃいけなかった。つまり、ここに来れている人物は、血液の変換資質を持った、カル・ラントシュタイナぐらいだよ』

「俺もカルさんのクローンだから、ここまで来れたと…」

だとしたら、カルさんは、何をここまで厳重にしていたんだ?





『…ようやく終点のようだね』

「ん…、そうみたいだな」

俺の目の前には、巨大な扉がある。こんどは鍵穴はない。
まるで、どこかの城みたいに巨大な扉だった。

「今度も力尽くでは、開かないタイプっぽいな」

前の扉で力尽くは無理だったのに、前より更に強力な扉では絶対に無理だ。
だとしたら、さっきと同じように何か仕掛けがあるはず…

「周りにそれらしい物はない…か?」

『あれはどうだい?』

「あれって、扉の前にある台か?」

扉の前にある謎の台。怪しいとは思ったが、何も書かれていない。
特におかしい点は見当たらないが

『…それに触ってごらん』

「触って?」

スカさんは、何かに気づいたようだ。俺にはさっぱりだが、言うとおりに動く。

「こうか?」

『左じゃないよ。右手だ』

「こう?…おぉっ!?」

なくなっている方の手ではなく、自分の手で触れた途端、台が光り始めた。
右手がこしょばい感じがする。

「何してるんだ?」

『君の手から、情報を認識しているんだよ。指紋確認みたいなものだ』

指紋認識ね…本当に厳重だな。ここにくるまで3つのプロテクトかよ。
台から光の線が地面を伝い、扉に伸びていく。光の線が扉全体に伝い終わると、扉はカチンと音を立てた。

「確認完了か?」

『そのようだね』

扉は、大きな音を立てながら開いた。

「終点か?」

『そうだと思うよ』

扉の先は、ぼんやりと明るい空間だった。今までで一番広い。
空気が、さっきまでより、外に近い感じがする。それにほんのりと雨の匂いがした。

「外に近いのか?」

『上から、外の空気を感じるね』

上を見上げると、天井は、遥か遠くだった。

「高いな」

『高いね』

出るときは、飛行魔法であそこから出ようと考えていると、何かが光っているのが眼に入った。

「…薔薇?」

それは、薔薇だった。暗い空間の中で淡く光っている。

「花の部分しかないな…」

俺がその薔薇に近づこうとしたとき、天井から轟音とした。

「何事!?」

その轟音の後、俺の背後に何かが落下して、地面に降り立った音がした。

「…な…」

ゆっくりと背後を振り返り、音の正体を見たとき、体中に鳥肌が立つ。





―――グゥウオォオオオァア!!!!





俺の左腕を食い千切った竜がいた。

「う、嘘だろ」

何故この竜がここにいるのかを、考える間もなく、竜は俺に攻撃したきた。
いや、攻撃ではない。俺を喰らおうとしてきた。



―――グォオゥ!!



「危な!!」

前とは違い、竜の姿をしっかりと眼にしながら、竜の攻撃をかわす。
竜は、羽がない分、大地での行動速度が速いみたいだ。
俺に攻撃が当たらなかったのが気に食わなかったのか、更に唸り声を大きくする竜。機嫌悪…

「やるしかないか…」

遺跡探索のおかげで体は疲労しているが、動けに程じゃない。
気がかりなのが左腕。こちらは右腕と違い、力も入れにくいし動かしにくい。
左手でなにかをするのは、自殺行為に等しいだろう。

「ドクターソード」

相手を倒すためではない。相手の攻撃を受け流すために
ドクターソードを左腕は添えるだけにして、右腕だけで握り、竜を見据える。
対峙して、食われたときの恐怖が頭に浮かんで足がガクガクと震えるが、ここで負けるわけにはいかない。
無理矢理にでも足の震えを止めて自分の心を奮い立たせる。



―――ウウ゛ウゥ?



竜は、俺がさっきと同じように逃げないことに疑問を抱いているようだ。
俺のことを覚えているのか?

「俺を狙っていた?」

『言っただろう?血を好むと。君の極上の血を求めて、ここまで来たんだろう』

「だけど、どうや、って!?」

竜の大きな爪をかわす。当たり前だが竜は俺とスカさんの会話を待ってくれない。

『君の臭いだろう。そして、初めの門を開けたときに違う場所でも何かが開く反応があった。それが天井だろう』

天井も開いていたわけね。そっちからの方が楽だったかもな。



―――ガアァアァ!!!



「くそっ!」

どこかに弱点があるかもしれない。それを見つけて、仕留めてやる。

「そらっ!」

ギリギリまで引き付けてかわす。
ナズナのアクセルシューターや、シントラの攻撃で、速い攻撃には慣れている。

「スカさん!」

『了解だよ』

飛行魔法を発動し、俺の肩に赤い羽根が展開される。

「刺されよ!」

大きく飛翔し、ドクターソードと共に重力の従うまま竜の背中に急降下する。
威力は小さいが、重力の力をプラスし、無理矢理威力を上げる。
ドクターソードは、見事に竜の背中に直撃し、肉を切り裂くと思った。が――

「やっぱりかよ! チクショー!!」

ドクターソードは、肉を引き裂くまでにも至らなかった。
それどころか、刀身に罅まで入っている。

「撤退!」

ドクターソードを破棄し、背中から飛び降りて竜から距離をとる。



―――ゴォオアァアア!!



それを好機と見たのか、竜は、俺の体に向かった、鋭い牙を向けてくる。

「げ!?」

『やばいね』

しっかり捉えられていた俺の体は、綺麗に竜の口に収まっていた。
このまま竜が口を閉じれば、俺は、キノピオの仲間入りということになる。

「さっせるかあぁぁ!!」

『ブラッティ・プロテクション』

スカさんに少し補助をしてもらい、手と足からブラッティ・プロテクションを発動。
足から魔法を発動するなんて、俺くらいじゃないだろうか?

「ふんぐぅおぉぉぉ!!!」

『キ、キツイね』

竜の口が閉じられ、俺の盾と牙がぶつかった。
盾の耐久力には、自身があるんだが、竜の顎の力が半端ない。
一瞬で、ブラッティ・プロテクションに罅が入り、俺の体が悲鳴を上げる。

「死ぬ死ぬ死ぬ……死んでたまるかぁあぁぁ!!!」

無我夢中で、自分の魔法を暴走させる。

『ほう…』

手と足で展開していたブラッティ・プロテクションが爆発を起こし
竜の口を吹き飛ばした。しかし、俺の腕や足もダメージを負ってしまった。左腕のブラッティクロウの形が崩れている。

『修正。輸血』

竜がふらついている間に、左腕と使った血を回復する。

「はあ…、はあ…、し、死ぬとこだった」

『まだ、竜は倒れていないよ』

「わ、わかってる」

スカさんの言ったとおり、竜は、体を起こし、俺のことを睨んできたいる。
その眼は、まるで宝玉のように綺麗だが、憤怒の炎が燃えているように見える。

「こっからが本番か?」

『君を“餌”ではなく“敵”と認めたみたいだね』

うれしくないな。

『来るよ』

「わかって、る!?」

竜は、予想だにしないスピードで、俺の目の前に現れた。
フェイトやナズナには、到底及ばない。だけど、この大型がここまで速度を出せるものかと感心する。

「う、そだろ!?」

咄嗟にブラッティ・プロテクションを展開。
巨体の竜との正面衝突は避けれたが、衝撃は殺せず、派手に吹き飛ばされる。

「が、っは!!」

空中で体勢を立て直して、竜を見るが、その方向には竜はいなかった。

「一体どこに…」

『後ろだ!』

スカさんの忠告も空しく、俺は後ろから接近していた竜に気づかず、ぶっ飛ばされた。

「ぐっ!」

薔薇の近くに叩きつけられ、薔薇が俺の血で汚れる。背中から、落下したからか背中が痛い。

「こいつ…桁違いだな」

下手すると、エースクラスの魔導師が出動しないといけないだろう。

「愚痴言ってる場合じゃないか…」

動かない体を無理矢理動かし、竜を見る。竜は、俺が起き上がるとわかっていたのか
大きく口を開き、何かをしようとしている。

『離れるんだ! 今すぐに!』

「えっ? なん」

言葉は最後まで言えなかった。竜の攻撃によって



―――グルゥウオォアアァ!!!



竜は口から、電気を纏っている魔力弾のようなものを放ってきた。
俺の緊急回避も間に合わず、右足が犠牲になった。

「反則だろ…」

『足は、飛行魔法で誤魔化せる。だけどあまり激しく動けないよ』

俺の足は、真っ黒に焦げている。感覚も疎かになったのか、右足が死んでしまったのかわからないが何も感じない。

「こりゃ無理かも…」

食い千切られた左腕。真っ黒に焦げている右足。痛む体。
希望を失うには充分な材料だろう。








































微かに光を増した薔薇は、その花を大きく散らし
中から、一人の小さな少女が姿を現していた。










<あとがき>
次回で、強化編は終わりだと思います。
嵐は、確かに強化されますが、なのはと火力で争えるようになるなんてことにはなりません。
強化も限定的ですし、強化後もそこまで強化はされませんので。戦いやすくなるって感じですね。
遺跡の鍵についてですが、鍵はカルさんが作った鍵なので、血液の魔力変換資質には、反応しませんでしたが
ピッキングや、無理矢理こじ開けようとすると、扉から、マグマが噴出する仕掛けです。
それと、嵐の存在が消えてしまうのではという指摘がありましたが、そこらへんは嵐の存在はややこしいんです。

並行世界                   嵐の魂
                          +
未来                カル・ラントシュタイナの体
                          ∥
未来+並行世界       並行世界の嵐の魂が入った肉体
                          ↓
                       過去へGO!

こんな感じになっているので、嵐は、未来世界で新たに生まれた人間って感じです。
嵐が瓶を割ってしまったので、未来永劫カル・ラントシュタイナのクローンは生まれないでしょう。



[6935] 第58話「合体!? 自称 吸血鬼のデバイス?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:c8ec9852
Date: 2009/06/14 23:26
「フフフ! 鮮血の姫君ふっかーつ! 誰だ、こんな場所で暴れているのは…」



―――グルゥウゥウウ…



「…あ、争いはよくないぞ。うん」

「…誰だ、あいつ」

『さあ?』

事態は更に混乱を極めていく。



第58話「合体!? 自称 吸血鬼のデバイス?」



半分諦めかけていた時、突然薔薇から光が漏れ出し、中から出てきたのは
人間だが、明らかにサイズが小さい。アインスくらいか? 浮いてるし…

「あ、あたしに手を出してただで済むと思うな!」



―――ウゥウウゥ…



誰なんだ、あの小人? この世界の原住民だろうか?
血の色を思わせる肩を超えるくらいの髪にこれまた真っ赤な眼。服はボロボロの布を纏っているだけ。

「スカさん、この世界の住人はあんなに小さいものなのか?」

『いや、私たちの世界と変わらない体格だったと記録されているけどね』

じゃあ誰なんだ? あんな大きな声を出したせいで、竜にも目をつけられている。少しでも動いたら食われるだろう。
だけど、小人はそんなことを気にしてないかのように竜を指差し、高々に宣言する。

「あたしは、誇り高い吸血鬼…だといいな…。カーミラだ! そのあたしに手を出そうなんて、浅はかだぞ!」

結論で言うと、あの小人は馬鹿だった。そんな理屈竜に通じるはずがない。
その印に竜は、一層小人への視線を強くした。視線で焼ききれそうだ。
口から攻撃出せるんだし、眼からも攻撃出せるかもな。竜だし、ドラゴン・アイ! みたいに。

「ててて、手を出してみろ! お前の血を死ぬまで吸い尽くして…」



―――グルゥウオォオオ!!



「き、来たー!?」

竜は我慢の限界だったのか、俺をおいて、一目散に小人に向かっていった。
小人は小人で自分の方に来たことに、ビックリしている。あれだけ挑発すればくるだろう…

「今のうちに…」

『怪我の手当てをしておこう』

ボロボロの体を修復する作業に移る。体は切れて血が出ている箇所が何個かある。
確認できた場所を自分の血で固め、止血する。
真っ黒に焼かれてしまった右足は、さすがに血でどうにかできるもんじゃなかった。
痛みがないのが唯一の救いなんだが、悪い兆候なのかはわからない。

「修復箇所は、このくらいか?」

『ああ、左腕の破損箇所も修復完了だよ』

「まだ、戦えるな」

あの小人は、以外に俊敏な速度で、竜から逃げ回っている。速さはなかなかみたいだな。
というか、あいつ何で薔薇の中になんか閉じこもっていたんだ?

「あ、あたしを狙うなんていい度胸だ! す、少しお灸を据えてやらなくてはいけ、ない、な」

竜に追われながらもそこまで悪態が吐けるのは凄いな。

「し、しんど、い…」

が、それも限界のようだ。段々と速度が落ちてきている。このままだと
竜の爪の餌食になるのも時間の問題だろう。

「見殺しにするのも、気が引けるな」

俺は、小人に振り下ろされる爪と小人の間に割って入り、爪をドクターソードで受け止めた。

「おい! 大丈夫か」

「…カ、カル?」

小人は、俺の顔を見て、一瞬、呆けた顔になったが、すぐにシャキっとした顔に戻り
その小さな口を開いた。

「お、お前! あたしをこんな所に封じ込めてどうする気だったんだ! あの変態人形王との戦いはどうなったんだ! それに、その変なデバイスは何だ! 前のデバイスは捨てたのか! それより、お前なんか縮んでないか?」

マシンガントークだった。しかも、わけのわからないことが殆どだったけど。
竜の爪を逸らし、小人を抱えて、走る。

「訂正入れるけど、俺はそのカルさんじゃないから」

「カ、カルじゃないだと!? だけどその顔は…」

『説明が難しいね』

それに今は説明している暇もなさそうだしな。

「見てわかる通り説明している暇はない。何かこの状況を打開できる策はないか?」

飛行魔法を展開して、空を飛びながら攻撃を回避する。
出来れば、上空に上がって逃げたいところだが、俺の飛行速度では、天井に辿り着く前に
竜に喰いつかれてしまうだろう。

『この状況を打開するのはかなり至難の業だよ』

「やばいよな…」

竜は、攻撃を休ませる気はなく、更に激しさを増している。

「と、とりあえず離せ! あたしは抱っこされるのは、嫌いなんだ」

「おい! っ危ない!?」

小人が、俺の手から離れようとした瞬間、竜の爪が、小人に振り下ろされていた。
小人が攻撃されると思った途端、体が動いて小人を庇っていた。

「ぐあっ」

幸い、背中に緊急用のブラッティプロテクションを展開したおかげで、肉が裂かれるまではいかない。
精々、背中に裂かれたような痛みが走る程度だ。

「痛…」

「す、すまない」

「き、気にすん、な…」

背中の痛みで、さっきまで保っていた意識が、更に朦朧とする。終わりが近いかもしれない。

「黙って死ぬつもりはないけどな…」

正直、もう寝たい。だけど眠るとゲームオーバーだ。

「おい。さっきの能力…お前は、カルと血縁関係があるのか?」

『ないとも言えないね』

血縁関係というより、ある意味ご本人ですからね。

「茶化すな!」

「まあ、かなりあると言えばあるけど、それが何かあるのか?」

竜が俺の方に狙いをつけ、突っ込んでこようとしている。

「…よし! お前、名前は」

「…? 鈴木嵐だ」

「鈴木嵐? 珍しい名前だな。まあ、いい、あたしはカーミラ。緊急事態だからお前に協力しよう。貸しはすぐに返す方なんだ」

「何を…!?」

言葉は続かなかった。小人…いや、カーミラは
体が発光しだし、赤い球体に変化した。

「まさか…」

『ユニゾン…デバイス…』

カーミラは、ゆっくりと俺の体に触れ、俺の体に変化を起こした。
バリアジャケットに変化は少ないが、白衣に蝙蝠のマークが浮かび上がる。



―――オォオオォオ!!



竜が、何かに気づいて俺たちに突っ込んでくるが、少々遅かった。
俺とカーミラの融合は、既に完了していた。

「ブラッティ・シールド、三重!」

普段の俺なら、展開するだけで、一苦労だが
俺とスカさん、そしてカーミラの3人でカバーし合い展開するので、苦はない。三重の盾で牙を受け止める。

「お前…ユニゾンデバイスだったのか」

≪一体なんだと思っていたんだ?≫

「小人かと…」

≪お前…馬鹿にしているのか≫

馬鹿にしている気はないが、まさか、融合騎がこんな世界にあるとは思わなかった。

『何にしてもこれで、チャンス到来だね』

「そうだな。死なないで済むかもな」

俺は、3重の盾の内、2枚を、そのまま竜の口の中に押し込み爆散させた。



―――グルゥ!??



竜は大きく体を仰け反らせた。俺は残りの一つのシールドを盾から剣へと変化させる。

「スカさん、残りのカードリッジは?」

『残り二発。君の魔力もそろそろ空だ』

「えっ? カーミラが融合したのに、大して変わってなくないか?」

≪う、うるさいぞ! あたしが融合したからといって、そんなに増えるわけないだろ!≫

『増えると思ったんだけどね、1から1.5ぐらいだよ』

「微妙だ…。カーミラ、融合して何が出来るんだ?」

≪え、と…サポートかな? ほ、ほら! ソニックムーブとか、そういう補助魔法とかで手助けできる≫

「微妙な…」

ソニックムーブは嬉しいけど、なんか本当に微妙な手助けしか出来なさそうだな。

『だけどやるしかないよ』

≪来たぞ!≫

竜の攻撃は、さっきと同じ速度だが、俺の速度はさっきに比べると月とすっぽんだ。
今更、竜の攻撃にむざむざ当たるような間抜けな真似はしない。

「このままだと、こっちが燃料切れで負ける。何か手は!?」

≪あたしは、他人の血を採取してお前の魔法をサポートすることも出来るが…≫

「それ便利じゃん! それ使おう!」

≪加減が難しくて、人に使ったことがない。カルもこの魔法は嫌いだったからな。それにあの鱗を切り裂いて、奴の体内の血を採取するなんて、不可能だ≫

対人戦でも、下手すると相手を殺してしまい、今この状況でも使用不可と…

「つ、使えない」

≪それと言い忘れていたが、融合を解除するとしばらく魔法が使えなくなるぞ≫

なんで、今になってそんな最悪な情報ばっか湧いて来るんだ!
負けフラグ立ちまくりじゃねえか!

「のわっ!?」

作戦を立てている時も、竜は待ってくれない。容赦なく攻撃を加えてくる。

「あの硬い鱗がどうにかならないと…」

『しかし、君の攻撃では歯が立たないよ。唯一通じる口の中への攻撃も、何回もしたせいで、警戒心を持ってしまっている。』

何か…何かないか…
竜を倒さなくてもいい。生き残るだけでいい。その方法は…

≪おい! 右から尾が来ている!≫

「了、っ解!」

右足を使えないせいで、飛びながらの戦いが続いているが
本来俺は、空での戦闘が、あまり得意じゃない。能力的に見ても、地上の方が向いている。

「くそ! 空なんて嫌いだ!」

≪左!≫

「補助してくれ!」

≪わかった。ソニックムーブ、発動≫

さっきまでの速度とは段違いの速度を出し、竜の攻撃をかわしたまでは、よかったが

「おぶう!?」

そのまま壁に直撃した。

『速すぎて、君には操作が難しい。帰れたら練習あるのみだね』

「今、物凄くナズナやフェイトのことを尊敬したよ」

≪ボーっとしている場合か! また来たぞ!!≫

竜もいい加減、俺の相手に飽き飽きしてきている。攻撃が一撃一撃必殺の威力を持っている。

「…必殺?」

考えてみたら、俺は竜を倒すことだけで、殺すことは考えてなかった。
強大な力を持っている相手に勝つイメージが浮かばないというのも一つの理由だが

「……」

殺す…。なら、来る途中に見つけた“あれ”を利用すれば…

「スカさん! カーミラ! 引く!」

竜の背中に飛び乗り、走りぬけ、背後を取る。

≪引く!? この状況でか!?≫

『何か考えたのかい』

「俺が自力で倒すのは、無理なんだ。だったら、勝てる方法を探す」

問題は、あの竜に追いつかれすぎるのは、不味い。

≪逃げるならあたしに任せろ≫

『……ほう、面白い補助魔法だ。嵐、手を上に』

「こうか?」

途端に俺の手から、白い煙が発生した。煙は、何かヒンヤリしていて気持ちが悪い。

≪ヴァンパイアミストだ!≫

ただの霧を出す魔法じゃない? という言葉は口に出る前に飲み込んだ。

「よし! 引くぞ!」

竜は、霧で覆われた部屋の中で俺を探しているが、見当たらないのか
ずっとキョロキョロしている。その竜の目に入らないようにこっそりと入ってきた扉を抜けた。

『このまま逃げるのかい?』

「まさか」

扉を抜けて通った道を逆走していると後ろのほうで何かが崩れる音が響いた。



―――ゴオォォオオ!!!



「気づいたみたいだな」

『少しペースを上げるよ』

≪一体何をするつもりなんだ?≫

カーミラの質問に答えないで、俺は、更に速度を上げて引き返した。
今度は、俺が竜を黒焦げにしてやる番だ。





















俺は、真っ赤な絨毯が敷かれたような空間で地面に手を置いていた。
そして目の前の通路から轟音を上げながら壁に体が当たるのも気にせず竜が走ってきている。
俺が、ここで待っていたのに驚いたのか竜は、顔を傾げる動きをしたように見えた。
だが、竜は俺が動く気配がないとわかると、足に力を込めてその空間に足を踏み入れた。
それが間違い。



―――ウオォオオォオ!!??


「かかったな!?」

『成功だ』

赤い絨毯が敷かれたような空間。それは絨毯なんかじゃない。俺の血だ。
極限まで薄く延ばした血。それをこの空間に敷いた。俺のいる部分はしっかりと作ってある。
だが、他の部分は、竜が乗っても人間が乗っても崩れるようになっている。カートリッジも全部使ったまさに出血大サービスだ。
そして、この下は…

「焼け死ね」



―――オ゛オ゛オ゛ォオ゛!!!



何もかもを焼き尽くす灼熱の業火。硬い鱗を持っていても耐え難いマグマ。
竜は、もがき苦しんでいる。その場にいては、巻き添えを食ってしまう。俺は、少し離れた。

「俺の場所まで崩れてきているな…」

『飛行魔法を展開するのも、ギリギリの魔力だね』

「もう鼻血もでねえよ」

ゆっくりと飛行魔法で安全地帯に着地する。

「何とか…なったな」

≪お前、カルみたいな戦法を考えるんだな≫

『君にしては上出来だと思うよ。ナズナも鼻が高いだろう』

竜は、もう声を上げてこない。多分、絶命したんだろう。
目の前が霞んできている。頭がふらふらする。

「スカさん。後よろしく…」

『…お疲れ』

血を大量に使い、体の隅々までボロボロの俺が意識を保っていられてのは奇跡に近い。
ナズナの首飾りを強く握り、俺は意識を失った。






























『プレ…ア、マーディ…グイ……の準備…』

「わ…ったわ」

何か冷たい水滴が当たり、意識がゆっくりと覚めていく。
スカさんとプレシアさんの声。ということは帰って来れたということか…

「ら、嵐、ひくっ…し、死んじゃ、駄目だ、よ! うぅ…」

「大丈夫だってアリシア! スカ山は命に別状はないって言ってただろ!? だから大丈夫だ!」

「し、シントラ、だ、って、ひくっ、さっき、まで、泣いてたく、っせに」

「シントラ、アリシア。大丈夫だから、もう泣くな」

“家族”の声が、聞こえる。俺を心配してくれている声が。その声を聞くだけで、元気が出てくる。
それより俺は、さっきから何に頭を乗せているんだ? 柔らかい感じがする…それに、上から水滴が落ちてきて少し冷たい。

「アリ、…ア。シン、ト…」

「「っ!?」」

「よ、う…」

「嵐! 起きたの!」

「し、心配させやがって! べ、別に泣いてねーからな!」

「マス、ター…」

そこでようやく気づいた。俺の今の状況を。俺は、ナズナに膝枕をされている。
やばい。かなり恥ずかしい。穴があったら入りたい。けど、体が動かない。

「か、帰ってきて、くれて、ほん、とうに、ひっ…よか、った、です…」

水滴の正体はナズナの涙だった。今も止まることなく流れている。

「マ、マスター、私のせいで、す、すみ、ません。わ、たしが、ついて、いれば」

「嵐! 待ってて! すぐに母さんたちを連れてくるから!」

「あたしたちも行くぞ、アインス!」

アリシアとシントラがどこかに走っていく。この状態で二人きりにしないで欲しい。

「ナ、ズナ」

「…ごめんな、さい…ご、めんな、さい」

気にしないで欲しい。あれは、本当に仕方がなかった。転移した理由は謎だし
いくらナズナが万能とは言え、不測の事態には対応できない。

「わた、しのせいで、っひく、こ、こんな、こと、ふぇ?」

俺は、動かすだけで一苦労だが、そんなこと無視してナズナの頬を撫でる。

「気に、すん、な」

「けど」

「それ…ほ、ら」

ナズナの手は、俺の赤い首飾りを握っていた。強く握りすぎて血が滲んでいる。

「そ、んなに心配して、いてくれたん、だろ?」

俺は、その気持ちだけで十分うれしい。

「マス、ター」

「それ、に、俺もこの、首飾りのおかげで、挫けないで、済んだ」

あの世界にいた時、度々、この首飾りを握り締めていた。そうすると、ナズナが守ってくれそうな気がしたから。
…そろそろ喋るのがつらい。

「だか、ら、な。泣かな、いでくれよ」

「…はい」

俺の言葉に返事をしてくれてたけど、まだ涙は流れている。まあ、きっと泣き止んでくれるだろう。

「悪い。少し、ね、むい…。寝る…わ」

腕を少し動かしただけで、これだ。俺は再び意識を失った。
次に見たナズナの顔が笑っていますように。










sideナズナ


マスターが、帰ってきた時の姿を見たときは、私の世界が崩壊する音が聞こえた。
腕は、千切れてしまっていた。足は、真っ黒に焼かれていた。マスターの能力が特殊だから生きていられたかもしれないが、常人なら死んでも不思議じゃない傷だった。
ドクターとプレシアさんが今、時間魔法の準備をしてくれている。それまで様子を見ているように頼まれた。
マスターが眼を覚ました時、嬉しいのが半分と、恐怖が半分だった。
マスターは、私が傍にいなかったから、怪我を負った。そのことを、責められても仕方がないと考えていた。
だけど、マスターは私に文句を一つも言ってこなかった。それどころか、私が慰められてしまった。マスターが一番つらい筈なのに。

「マスター…」

マスターは、無理して体を動かしていたためか、またすぐに眠ってしまった。

「……」

私に名前をくれた人。私の生きる目的。大事な家族。そして、愛おしい人。
あなたを邪魔する者がいるなら、私が倒しましょう。あなたの道がないなら、私が切り開きましょう。
だから今は、ゆっくりと寝てください。次に目が覚めたときは、いつもの私でいます。
きっとマスターは、私の思いには気づいていない。今はそれでいい。
だけど、これくらいは、許してください。



















黒き従者は、血の主にゆっくりと唇を重ねた。深く、長く。




















おまけ


――扉の前


『…誰か入ってくれないか』

「…これは、きついわね…」

「あ、あたしは、何も見ていない! 何も見ていない!!」

「うわ~! うわ~!」

「アリシア、落ち着け。シントラ、お前もだ」

『もう少し、待つかい?』

「けど、治療は、早くした方がいいんじゃないかしら」

『時間魔法だからね。死んでも大丈夫だよ』

「それもどうかど思うわ」

「見ていない! 見ていないぃぃ!!」

「まあ、あと少し待とう。それと落ち着けシントラ」

「いいなぁ…ナズナ…」

「「「『っ!?』」」」











<あとがき>
強化編が終わりました。次回は、補足ですね。カーミラののこととかをもうちょっと細かく。
…そろそろstsか。かなり終わりに近づいてきたな…
では!!また次回!!










おまけ2


魔法生物紹介


ストマックドラゴン

グラナトゥムに数少なく生息する、凶暴な肉食竜。主な主食はトカゲウス。実も食べることもあるが、それは緊急手段。
竜種には、珍しく、羽が生えていない。グラナトゥムには、空を飛ぶ生物が少ないためかと思われる。
体内に電気を発生させる器官を持っており、それを魔力に纏わせ攻撃する。
鱗は、並みの魔導師では、傷一つつけられないほど頑丈。体内への攻撃が唯一の弱点。
肉より血を好み、同じトカゲウスでも、血が美味い方を食べる。臭いで確認していると思われる。



[6935] 第59話「吸血鬼の正体?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:c8ec9852
Date: 2009/06/14 23:52
「…あのさ」

『どうしたんだい?』

「…何で俺の怪我って中途半端に治ってるの?」

『プレシアが、少しだけ欲しいと言っていたからね。半分あげたんだ』

「あげたって…お前…」



第59話「吸血鬼の正体?」



俺が目が覚めたとき、時間はかなり過ぎていた。
ナズナと話してから三日経っているらしい。その間、寝続けていたのか…

「体は完全に綺麗になってる」

『左腕。右足。共に完治完了だよ』

左腕を抓れば、痛いと感じる。どうやら無事に治っているようだ。
まさか腕を抓って痛いと感じて嬉しいと思う日が来るとは思わなかったな。

「けどベットから起き上がれない」

『プレシアが半分使いたいみたいだからね』

そのせいで俺は、ご飯を人から食べさしてもらわないといけないけどな。
昨日の朝は、ナズナがしてくれたんだが、昼は買い物に行っていたらしくアリシアがしてくれた。
今日は、今のところナズナが全部してくれてる。今は二人で買い物に行っているはずだ。

「…早く自分で食べれるようになりたい」

『男としては喜ぶべきだよ?』

「ナズナの場合は緊張して食べた気にならないし、アリシアは年下だぞ?」

これなら、何も意識しないで食えるシントラの方が楽だ。
あの二人はいろんな意味で落ち着いて食えないからな。マジで。

「時間魔法って、あれで最後だったか?」

『あれで最後だよ。これからは、死ぬような怪我はしないようにね』

三つの内、二つはアリシアとプレシアさんに使ったけど
まさか最後の一つを俺が使うことになるとは思いもしなかったな。

「で、こいつはずっとこんな調子だし」

「か~~こ~」

俺の胸の上でいびきをかきながら寝ているカーミラ。目が覚めた時から乗っている。
飯を食うときは、邪魔だとわかったのか、どこかへ飛んでいったが、俺が寝るとまた戻ってくる。

『君って小さい子に好かれる体質かい?』

「小さいって、これは違う意味で小さいだろ」

これに恋したらロリコンやぺドフェリアになってしまうんだろうか?

「起きろ」

「うぎゅ」

指で顔を軽く握ると、変な声を出して、目が覚めたみたいだ。

「人が寝ているのを起こすのはマナー違反だ」

「人の体の上で寝るのもな」

寝起きで機嫌が悪いのか、睨んできたが、こっちも聞きたいことはある。
ずっと俺の体の上で寝ていられるわけにいかない。

「なんだ? あたしに何か聞きたいことがあるのか?」

俺が自分に構ってくるのが愉快なのか、ニヤニヤとした表情だ。
なんというか、小悪魔的な笑みに見える。

「ああ、ちょっとな」

「この三日間は、退屈だったぞ。お前の事情を聞き終わったら、変なSの女に体を弄りまくられてな」

そういえば、私のほかにも銀髪の女も弄られていたな、と小さく続けた。
…プレシアさん。あなたは何をしているんですか…

「それで、あたしに何が聞きたい」

「お前のこと全部」

「ほう、あたしに興味があるのか? 残念だが、あたしは渋いのが好みだ。15年出直しt「いや、そっち方面は興味ないから」…そうか」

こいつ、なんか年寄り臭い気がするぞ。

「まず、お前は名前は確か…」

「鮮血の姫君、カーミラだ」

鮮血の姫君って言うわりには、あまり血の魔法は、使わなかったな。
俺やカルさんとかと融合してから、力を発揮するタイプなのか?

「前の主は」

「カル・ラントシュタイナだ。お前のオリジナルなんだろう?」

「ああ、そうみたいだな」

実際、カルさんのこと見たことないから実感湧かないけどね。

「何であんな場所にいたんだ?」

「…今は、あれから200年経っているんだな。200年前、カルが敵の大将と決着をつける時、あたしもついて行くつもりだった。だけど、カルはあたしを自分の研究室に連れて行き、そこで封印された。カルがあの後、どうなったかは知らない。カルがあの変態を討ち取ったって記録は残っていたみたいだがな」

カルさんは、何故カーミラを連れて行かなかったんだろう?
確か、スカさんの話では、カルさんはその戦いで死んでしまったはずだ。
カーミラを連れて一緒に戦ったら、もしかしたら生きていられたかもしれないのに…

『そして、君を転移させたのは、直接ではないが、彼女だよ』

「え? マジ?」

俺を強制的に連れてきて、更にあんな地獄の日々を過ごさせた犯人は、目の前のカーミラ?
男とか、おっさんとかだったら思いっきりぶん殴ろうかと思ってたのに…

『君が、この時代にいたのが問題だったんだ。過去の世界で君はいない存在だからね。彼女は、カル・ラントシュタイナと戦いたいと思いながら、封印された。その思いが時間を重ねるたびに大きくなって君を呼び寄せたんだ。そして、君を縛った。思いが段々と悪い方向に昇華していったんだね』

あの変な夢は、何かのお告げだったのか? 転移しますよ~的な。

「その…悪かったな。あたしのせいで」

「気にすんな。無事だったし」

ちょっとデンジャーな体験が出来たと思っておこう。
デンジャー過ぎて体の一部が千切れてしまうイベントまで起きたけどな。

「で、カーミラはこれからどうしたいんだ?」

出来れば、俺たちに協力して欲しいところなんだが

「この時代にカルはいない。なら、カル以外とは融合できないあたしなど、役に立たない小人だ。だから出来ればあたしを使って欲しい」

「大歓迎。俺の戦闘力も上がるし、それにカルさんの話しも聞ける」

『回帰組へようこそ。頼りにしているよ、カーミラ』

「あ、ああ、あたしに任せておけ!」










――帰り道


「あのね、ナズナ」

「はい? なんですかアリシア」

「ちょっと聞きたいことがあるの」

「私に答えられることなら」

「うん。大丈夫だよ」

「なら構いません」

「じゃあ聞くね。嵐とのキスってどんな感じ?」

「ぶうぅぅーーーーーーーー!!!」

「わっ!? 午後ティーかかる!?」















「それで、どんな能力が使えるんだ?」

「の、能力か? ほ、補助なら任せろ!」

「やっぱそれしか無理なのか…」

「移動魔法に転移魔法。捕獲系や結界も任してくれ」

典型的な補助魔法だな…。攻撃の補助とか、炎の変換とかは出来ないのね。
アインスは、変換系の魔法が上手だったな。電気とか炎とか。
しかも単体で戦えるほどの能力を持ったデバイスって…化け物じゃねえか。

「それと、吸血鬼っぽい魔法も使えてたよな?」

竜から逃げるときに、使った霧を出現させる魔法。あれは使えそうだ。

「ヴァンパイアミストか? あたしは吸血鬼だからな!」

明らかに見た目だけな。サラーブには、既にアインスがいたから、
おばちゃん印のミニスーツがたくさんある。カーミラは、赤い服に身を包み、上から赤いマントを羽織っている。
見た目だけは確かに吸血鬼に見えなくもない。
まあ、昨日の晩御飯の餃子を食べまくっていたのを見たときは、絶対違うと思ったがな。

「太陽の光ってどう思う?」

「ポカポカしてて、気持ちいいな」

やっぱり吸血鬼じゃないよな。牙は生えているけど。

「血を吸う能力はなんなんだ?」

「カルをサポートするために考えたんだけど、一回使ってみたら対象を死ぬまで吸い尽くしてしまって、それから使ってない」

それは、使えないな。

「というか、お前ってカルさんにどう出会ったんだ?」

ユニゾンデバイスなんて、そんなに出会えるものじゃない。
もしかして、カルさんが作ったんだろうか?

「そ、それはだな…、じ、実はあたしは元は失敗作で、どこかの次元に捨てられて、流れ流れに辿り着いたのが、カルの世界だったんだ」

つまり、アギトと一緒で、一応はレプリカじゃないのか

「カルに会うまでは、いろいろあった。意識は半分だけだったけど、実験されて、改造しようにも役に立たないから捨てて、それの繰り返しだった。失敗作だったから、改造とか難しいんだ」

融合騎となれば、喉から手が出るくらい欲しいという奴も出てくるだろう。
けど、そんな融合騎が失敗作で、全く役に立たないなら、捨てた方がいいだろう。

「カルに会ったときも、また同じことされて捨てられるんだと思った。けど、カルは三日三晩徹夜であたしを研究して、一から作り変えてくれた。そして、あたしに名前をくれた。だからカルの助けになるために頑張った。だけどカルは最後の戦いにあたしを連れてってくれなかった」

カルさんってマジで凄かったんだな。それに、カーミラは
カルさんのことを話しているときは嬉しそうで、悲しそうだ。

「…この話はもういいだろう」

「ああ、じゃあ次に俺の目的についてだ」










――帰り道


「げほっ! ごほっ!」

「ナズナ? 大丈夫?」

「にゃ、にゃにをゅっていりゅのでふ! (な、何を言っているのです!)」

「何言っているのかわからないけど、嵐とキスしてたでしょ?」

「み、見て、いたんですか」

「うん。バッチリ」

「……」

「それで、どうなの!」

「て…」

「て?」

「鉄の味がしました」

「…じゃあ、感触は?」

「か、感触!?」

「うん」

「や、柔らかかったです。はい」

「そっか」















「つまり、お前はカルのクローンだけど、ちょっと違う存在なわけか」

「まあ簡単に言うとそうなる」

俺の目的、ここにいる理由を聞いたカーミラは大して慌てた様子もなく
ただ、黙って俺の話を聞いていた。

「珍しいこともあるもんだ」

『普通はないけどね』

「こんな感じで時空管理局とかと対立していくから」

「時空管理局?何だそれは?」

…え?

「時空管理局を知らないのか?」

「知らない」

「魔法で戦っていただろ?」

「いや、カルは魔法で戦うのを好んでいたが、銃を使う奴が主流だったな」

ん? どこか話にずれがあるな。

『嵐。200年前は、時空管理局は存在していないよ』

「え? そうなの?」

『時空管理局はカーミラの時代ではまだ、創立されていない』

そうだっけ? 時空管理局っていつくらいに創立されたんだ?
そこらへんは、あんまり覚えてないな。

「時空管理局ってのは、字の通り時空を管理する仕事だ」

「ほお。同じ人間が住んでいるのに、それを人間が管理するとは、大きく出たな」

「まあそうだけどな。そいつらは、基本的に邪魔してくるから、気をつけて欲しいってこと」

「わかった」

大体の説明は終わったかな? 仲間のことは、また会ったときにすればいい。

「じゃあ、俺はもう少し寝るわ」

「あたしも寝る」

体を早く元気にして、カーミラとユニゾンの訓練しないといけないな。










――しあわせ荘前


「そういえば、何故そんなことを聞くんです?アリシア」

「え? いや~、ちょっと」

「ちょっと?」

「ナズナは、嵐と対等な位置にいるよね?」

「…?」

「その点、私は嵐に守ってもらってばっかりだったから、そ、その、嵐の背中をま、守ってみたいな~、なんて…」

「守る?」

「うん。母さんに頼んでみたの」

「??」

「私も、せめて嵐たちの足を引っ張らないようになろうって」

「つまり…」

「明日から、私もがんばる! 嵐とナズナとシントラと一緒に!」

「…訓練は、朝が早いです。夜更かししないように」

「うん!」

























――どこかの廃墟


雨が降り、真っ暗で何も見えない空間に、一人の青年が立っている。

「主」

その後ろから、一人の女性が姿を現す。

「ああ、どうかしましたか?」

「何故、あんな脳みそたちの言いなりになるんです? あんな奴らに従うなんて…」

「別に従っているわけじゃないですよ」

その言葉に女性は、びっくりした様子で顔を上げ、青年の顔を見つめる。

「ただ、下についていたほうが“あの子”を手に入れやすいと思っただけですよ」

青年は楽しそうに顔を歪め、冷たい雨を浴び続ける。

「“あの子”とは、前に会ったと言っていた…」

「そう。強気な子でさ、男の方は、興味があるけどいらない。“あの子”はどうにかしてでも欲しいんだ」

青年の言葉に、女性は少しだけ悲しそうな顔をした。

「早く始まらないかな? あなたもそう思いませんか?」

青年が問いかけた方向には、仮面で顔を隠し、口元しか見えない、薄い青色の髪の女性が佇んでいた。















おまけ


「…こ、ここは、…私はバルディッシュを作り終えて…」

「起きたわね」

「っ!? プ、プレシア!? 何故あなたがここに」

「時間魔法って便利ね。契約まで復元できるなんて…。全部使ってしまったけれど」

「…? 何を言っているんですか?」

「アリシアが、自分の力で戦いたいなんて…、そんなこと言うなんて考えてもいなかったわ。まあ、今回の嵐のことや、前のシントラみたいなことがいつ起きるかわからないし、アリシアにも戦える術が必要だと感じたわ。けれどアリシアはまだまだ未熟。だったらどうすればいいか? そこで私は閃いたの。嵐やシントラはユニゾンすることで、戦闘力を上げる。そう! ユニゾンという可能性に!」

「プレシアー、聞いてますかー」

「だけどいくら私でも融合騎は、作れないわ。そこで、考えたのが、スカリエッティに聞いていた融合理論。そして二体の融合騎を解剖…じゃない、隅々まで研究! それを取り入れることによって、新しく考え出した機能、擬似融合システム!」

「プレシア、性格変わってませんか?」

「使い魔と、主を一時的に融合させることによって、使い魔の力を擬似的に主が使えるようになる。これは衝撃的だわ! 次元世界に震撼を起こすわ! アリシアは、魔力量が心配だから普段は私の魔力でいきましょう。あなたは、普段は猫の状態でいなさい。省エネよ」

「何を…」

「じゃあ、さっさとやりましょう。動かないで」

「動かないでって、体拘束されてるんですが…、って何をして…」

「喋らないで」

「ちょ!? やめてください!プレシア! あ、…あーーーーーーーーーーーーーーー!!!」










<あとがき>
強化編は、これで終わりです。次回はまた時間が飛ぶかな~。
今回、新たに増えたキャラはカーミラと猫です。猫については所期から考えていたんですが、ようやく出せました。
彼女は回帰組で数少ない常識人兼ツッコミ役となるでしょう。…多分。
では!また次回!!



[6935] 第60話「無限の欲望+無限の欲望=混沌」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:c8ec9852
Date: 2009/06/14 23:58
「…ここか?」

「こんな場所で事件が起こるの?」

『ああ、今日間違いなく起きる』

「空港が事故になっちゃうなんて、怖いね~」

「アリシア、あんまり動き回るなよ。逸れたらどうする」

「リニスがいるから大丈夫!」



第60話「無限の欲望+無限の欲望=混沌」



臨海空港は、混雑しいていた。
今から事故が起きるなんて思えない。まあ、起こるんだけどね。

「それで、いつ頃事故は起きるんだ?」

『今から30分くらいかな』

「30分もあるの!? だったら何か食べに行こうよ~」

「アリシア、間食はあまりよくありませんよ」

「うぅ~」

猫に注意されてうな垂れる人間ってのも珍しいよな。まあ、そこは、親子だし、娘に怒られてへこむ母だしな
今、アリシアを注意したのは、リニス。俺と魂のじゃらし同盟を組んだ仲だ。
リニスは必死で拒否しているが、俺にはわかる。あれはツンデレだと。
そもそも、リニスがこの回帰組に入ったのは、一年も前の話だ。ちょうどカーミラが入ったくらい。





――一年前



「し、しんどいよ~」

俺の怪我が完璧に完治して、カーミラとの、融合練習をしている時
突然、ナズナから、今日から一緒に訓練する人が増えたと伝えられ、その人物はアリシアだった。

「訓練の最初はこんなもんだ。姉御の訓練は、毎日やれば確実に強くなれるからな」

「で、でもまだ終わらないんでしょ」

「当たり前だ。それとも止めんのか?」

確かに訓練の最初は、しんどくて止めたくなって来る。俺もその一人だ。
アリシアも、そんな感じになって止めるのかと見ていると、アリシアは、俺の方向を見る。

「…何?」

「…止めない」

…え? 何事? 俺には負けない的な意識ですか?
いや、ライバル心は、いいことだと思うよ? でもそれを俺に向けなくてもいいんじゃないか?

「なら、次は魔力制御に…あ、ちょっと待て」

話の最中にシントラに連絡が入ったようだ。シントラは少し離れて
連絡相手と会話している。空中に浮かんでいるモニターには、プレシアさんが写っている。

「…? 今から、くるから準備しとけ? 何をだ? お、おい!プレシア…、あ~…」

どうやら、一方的に切られてみたいだな。
プレシアさんが訓練室に用事?アリシア絡みなのは、間違いないが一体なんだ?
まあ、それは来てから聞いてみたらいいか…

「来たわ!」

「早いよ」

転移魔法でも使ったのだろう。一瞬で訓練室にやってきた。
そして、その手には、一匹の猫が摘まれている。

「プレシアさん、それ何ですか?」

「元使い魔よ」

元使い魔…ああ、リニスね。

「それ、どうしたんですか?」

「研究の成果と言ってもらいましょう」

プレシアさんは、いい汗かいたと言わんばかりにハンカチで頭を拭う。
そして、手の中にいる猫は、何かを思い出したのか顔が真っ青になっている。

「リニス…不憫だ…」

「わかってくれる方がいるだけで…嬉しいです…」

リニスは、猫状態のまま地面に着地し、アリシアを見ると驚いた顔をした。

「ほ、本当にアリシアですね。フェイトじゃないみたいですし」

「あら、あなた私の話を信じてなかったのかしら」

「い、いえ! 半信半疑だっただけでってうわ!?」

「リニスだ~」

さっきまで、しんどいと言っていた筈のアリシアが一目散にリニスに駆け寄り
抱き上げる。そしてポケットから折りたたみ式のじゃらしー君・サイクロン
他の猫のためにそれを出すとは、認めることは出来んな。後で注意しておこう。

「それで、プレシアさん、何の用だったんですか?まさか、リニスの紹介だけ?」

「いえ、リニスの実験よ。リニス、準備を」

「は、はい」

「ふえ?」

プレシアさんの合図と共にリニスの体が光を放ち、徐々にアリシアに融合…というより引っ付いていってる。

「おお、おおお!!」

俺のテンションも最高潮。アリシアは光に包まれ、光が収まったときには…

「「…ぶはっ」」

とりあえず、俺とプレシアさんが鼻血を出したということ。





――臨海空港



「あれは、良かった…」

「おい! あたしにもクリームを食わせろ」

「胸ポケットから顔を出すな。後で買ってやるから」

椅子に座って、店で買ったソフトクリームを食いながら昔を思い出す。
まだ、初期段階だから仕方なかったが、バリアジャケットの構成が出来なかったみたいで
出てきたのは、素っ裸で、頭からネコミミ、そして、尻尾を生やしたアリシアだった。
あの後、アリシアの顔が真っ赤になるとこは覚えているが、それ以外の記憶はない。

「嵐~何考えてるの~」

「…いや、別に」

君の素っ裸の時のことさ! なんて口が裂けてもいえない。

「今回は初めて私と組むんだから! ちゃんとシャキっとして!」

今回はスカさん…じゃない。スカリエッティとの接触の日だ。
誰と組んでいくかと言う話になり、カーミラは基本俺と行動している。それでカーミラと俺以外に誰かってことになり
ナズナは少しめんどくさい事態になりそうなのでスカさんがパスした。
その時のナズナの視線だけで、スカさんのボディに罅が入りそうだった。
危険性も少ないので今回はアリシアの実践テストと、シントラは言っていた。
何だかんだ言いながらも一番、アリシアの訓練に付き合っていたのはシントラだしな。
それに、スカリエッティと話をするなら、アリシアがいた方が都合がいい。

『ここで、しばらくジッとしていてくれ』

「え?」

ソフトクリームも半分が食い終わり、次は何を食いに行こうか考えているときスカさんから忠告が入った。

『もう少しでレリックが暴走を起こす』

「そっか。アリシア、そろそろ始まるぞ」

「えっ?」

「アリシア、ほっぺにクリームがついてますよ。嵐、すみませんが、アリシアのクリームを取ってあげてください」

「ああ」

ポケットから、ハンカチを取り出し、アリシアのほっぺを拭く。
アリシアは、ム~、と声を出しながら、目を瞑っている。こうしていると兄貴になった気分だ。悪くない。

『防火。衝撃緩和。読み込み完了。結界を作動する』

爆発の音が響いたのも、拭き終わった後だった。










「…こりゃ酷い…」

「うわ…」

「熱いな…」

爆発音が収まり、結界を解除して出てきたのは、真っ赤な炎に包まれた空間だった。
さっきまでいた場所とは、到底思えない。

「アリシア。早く私をセットしてください」

「あ、うん。リニス、セット!」

頭に乗っていたリニスが吸い込まれるようにアリシアに入っていく。
そして、光が収まると昔のように裸ではなく、ちゃんと服を纏っているアリシアが出てきた。
服は、リニスの服に似ているが、ほんのり露出が多いように見える。テスタロッサの一族は露出が好きなんだろうか?
頭に帽子は被っていない。ネコミミが生えている。そして、、お尻からは、チョロンと尻尾が生えている。

「完璧!」

≪本番で失敗しないかひやひやしましたよ≫

この融合は失敗しても取り込まれるなどの、心配はない。
融合騎と違って使い魔と合体しているだけなので、割と簡単に解除できる。
この姿になったアリシアは、素早くなる。それと耳と眼がよくなる。空中は飛べないが、独自の方法で飛ぶことも可能だ。
戦闘体系は、言うならばスバル寄りだ。肉体で突っ込んでいく。他にも違う戦い方も出来るのだが、アリシアはこれが気に入ってる。

「あたしと融合はしなくていいんだな?」

「カーミラは緊急事態用だからな」

カーミラとユニゾンしてしまうと、解除したときに30分くらい、魔法が使用不可になってしまう。無理にもう一度融合すると、次に解除したとき、体にどんな負担がかかるかわからない。それは避けたい。

「嵐! そのスカリーの部下の人の場所まで行こう!」

「そうだな」

『この崩れている道を真っ直ぐに行ってくれ。曲がるときにまた声を掛けるよ』

「じゃあ行く…」



―――お母さん…眼を開けてよ!



「い、行こ…」



―――誰か、助けて…お兄ちゃん…怖いよ…



「……」



―――痛いよ。足が痛いよ…



「嵐…」

「ちょ、ちょっと寄り道しながら行こう! うん! それがいい!」

「私もそう言おうと思ってたんだ! そうしよ!」

『はあ…』

…子供の声には弱いんだよ…





この火災の時、暴走した危険物の爆心地に近かった子供たちや親が、何者かに治療されていることが話題になるのは別の話。











「レリックは…喪失してしまいましたか」

『お仕事ご苦労様だねウーノ』

「っ!? ドクター!?」

スカさんの案内を聞きながら、死なない程度に治療しながら進んでいると
紫色の髪の女性がいると思ったら、まんまウーノだった。

「…誰ですか?」

俺がドクターじゃないとわかると、途端に警戒心を出しながら俺に尋ねてくる。
しかし、アリシアが眼に入ると、驚愕の表情を浮かべる。

「フェイトお嬢様!?」

「むっ!? 違うよ! アリシアお嬢様だよ」

いや、そこじゃないと思うよアリシア。

『ウーノ。私の声を忘れたのかい? 悲しいね』

「ド、ドクター…何ですか…」

いいえ、ドクターですがドクターではありません。…心理テストみたいだな。

『私は、君の言っているドクターとは違うんだけどね。私たちをスカリエッティの場所に連れて行ってくれるかい? ウーノ』

ウーノは、少し呆然としながらも
やはり、ドクターの言うことは絶対なのか、転移魔法を発動した。










スカリエッティの基地っぽい場所に転移してくると、ウーノは黙って歩き出した。
多分、ついて来いということなんだろう。そのままついて行ってると、ある扉の前で、止まり、こっちに振り向いた。

「少しドクターに話を聞いてきます。ここでお待ちください」

ウーノは、部屋に入っていってしまった。

「ウーノ。レリックはどうだったんだい?」

「レリックは喪失してしまいました。…それと、ドクターに会いたいと言う者を発見しました」

「私にかい? おもしろそうだね。ウーノ。君は下がってくれて構わないよ。私に会いに来た人たちを通してくれ」

「…わかりました。それでは」

扉に耳を当てて、中の様子を探ってみると、どうやらスカリエッティは会ってくれるみたいだ。

「どうぞ」

「どうも」

ウーノと入れ違いに部屋に入る。

≪あ~懐かしい空気だね。この環境も結構好きだったんだけどね…≫

こんな、死体とかたくさんいそうな場所に住むなんて俺はごめんだからな。
夜に一人でトイレに行けなくなったらどうするんだ。

「君たちかい、私に会いたいという酔狂な人は」

…スカリエッティだ…なんかいつも見ていたんだけど、新鮮だ。
案の定、隣でアリシアも呆然とスカリエッティの顔を見つめていた。

『こんばんはスカリエッティ』

「っ!? …これはこれは、丁寧にどうも。こんばんはスカリエッティ。まさか生きているうちに自分と挨拶するなんて思わなかったね」

『だが…』

「おもしろいね」

『「フフフフフ…」』

…何か、この空間にあまり長く過ごしたくない…さっきの火災現場の方がマシに見えてくるから困る。
アリシアなんか、おもしろがって笑っちゃってるよ。凄いな。

「それで、君たちは何者だい? 最高評議会から私に刺客かな?」

ここでの会話は全てスカさんに任す方向で計画している。欲望には欲望だ。
俺とアリシアは、スカさんに振られたことだけ喋ればいい。

「それに、まさかアリシア・テスタロッサが生きているとはね。プレシア女史については聞いていたんだがね」

『まあ、最高評議会なんかとは繋がりはない。私たちは私たちの目的があるんだ。君と一緒でね』

「ほう…。それじゃあ君たちは何者だい? 私の人格を搭載したデバイスなんて、おもしろい」

『秘密組織が作り出した存在だとでも言っておこう』

スカさんは、俺たちが未来から来たことや、俺が並行世界の存在であることは
黙っていることにしたみたいだ。話すのはよくないらしい。

『今回は、少し頼みがあって来たんだ。管理局の情報を最高評議会にばれないように私たちに譲って欲しいんだ』

これは、ジャブ。別にあってもなくても構わない。あった方が便利ってだけ。これにスカリエッティが乗ってくれれば…

「情報? それはキツイね。無限の欲望が言うんだ。管理局の情報全てだろう?」

『無限の欲望について詳しいね。ファンかい? サインあげようか?』

「『フフフフフ』」

なんだこの狂気2000万パワーズは…。技のスカさん! 力のスカリエッティ!!

「…出来ないことはない。けど、条件がある」

『なんだい?』

「さっき私にも目的があると言っていたね。ならば知ってるだろう? 私の計画を。それに加担して欲しいんだ」

『断るよ』

「そう言うと思ったよ」

二人の会話は、魔導師たちの戦いのようだった。どっちも先を読んで喋っている。

「だったら、手伝いだけでいいんだ。私が頼んだとき、君たちが良ければ手伝いをしてくれないかい?」

『…断る権利はあるんだね?』

俺たちの目的は、スカリエッティとの敵対を避けること。さすがにナンバーズとの相手は厄介だ。

「もちろん」

『ふむ…、いいだろう。なら、我々は協力体制になる。お互いに手出しは無用。これでいいかい?』

「ああ。私の作品には、手を出させないようにするよ」

そこから話はトントン拍子に進んでいった。
とりあえずこれで一応は、スカリエッティがこちらに攻撃することはないはず。





「スカさん。うまくいったじゃないか」

『ああ。だけど本当は干渉したくなかったんだけどね』

スカリエッティとの話を終えて、気分よく帰っていると、スカさんは何か気になるのか声質が暗い。

「けど、一応は約束出来たし、十分だろ」

スカリエッティの計画にちょっとだけ手伝わなきゃいけなくなったけど
それは、どうせレリックの回収とかだろう。

「これで、後はマセラティの人からコメテスアメテュスを奪えば、全部終わりってことだ」










『この世界は、私の世界通りの道筋を辿っていない。すると、もしかしたら…』




















――スカリエッティ研究施設


「さて、彼に連絡するよ」

「いいんですか?もう一人のドクターとの契約は」

「ああ。最高評議会には、伝えないよ」

「わかりました」

「では、ウーノ。通信を」

「はい」

『…なんだいスカリエッティ?』

「やあ、こんばんは。君に朗報がある」















おまけ


「そういえばスカリー」

『なんだいアリシア』

「人間のときのスカリーって怖かったんだね。今のほうが可愛いと思うよ」

『…どうも』

「アリシア、さすがにそれはいいすぎですよ」

「くく、スカリエッティもアリシアには形無しだな」

「男にかわいいは辛いなスカさん」















おまけ…というよりFILE.02.5


火災現場の奥に、一人の少女が妹を探しに危険な場所を歩いていた。

「スバル…返事して…お姉ちゃんが、すぐに助けに行くから…」

名はギンガ・ナガシマ。妹のスバルが逸れたことを知り、探しに来ていた。
だが、足場が脆く、ギンガが歩いた反動で、崩れてしまった。

「っきゃああぁぁあぁ!!!」

足場を失い、重力に従うまま下に落下していく。だが

「危なーーーい!!!」

天井に短剣をさし、そこから緑の鎖のような物で体を吊った状態でバンジーの要領で
ギンガのピンチを救った。

「っきゃ!?」

「危なかったね。大丈夫?」

「あ、あなたは…」

「私は魔導師探偵コーデリア・マセラティ。ちょっと依頼でここに来ていたんだけど、運の悪いことに巻き込まれちゃって」

あいつどっかに行っちゃったかな、とコーデリアは、悔しそうに口にする。
そのコーデリアの上から、落盤した岩が落ちてきていた。

「あ、危ない!」

「えっ?」

だが、それもコーデリアたちを傷つけることはなかった。
彼女たちに当たる前に金色の閃光がその岩を切り伏せていた。

「大丈夫ですか!?」

「あ、大丈夫です。ありがとう」

「すぐに非難します。捕まってください。…あなたは、魔導師ですよね?」

「はい! 魔導師探偵事務所マセラティの所長のコーデリア・マセラティです! 困ったことがあれば連絡どうぞ!」

「ま、魔導師探偵ですか? 珍しい仕事ですね」










<あとがき>
さて、そろそろstsに入っていきます。というか、これ事態がstsの第2話くらいですけどね。
感想で指摘されましたアリシアのリンカーコアですが、以前言ったとおりこのアリシアは、微弱ながらリンカーコアを持っている設定です。
それと、リニスさんの契約はプレシアのままです。リニスさんは優秀な使い魔なので、アリシアに維持出来る魔力はありません。
言うならば、アリシアは、セカンドマスター的な存在です。
それと、コメテスアメテュスですが、コーデリアさんは、一応持っています。それじゃなく髪留めをつけてますが。
次回が、stsに入る前の最後の平穏ですが、リアルの事情で更新が遅れます。すみません。
では!また次回!!



[6935] 第61話「海だ! 水着だ! sts前だ!」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:7c42c911
Date: 2009/06/20 09:53
「ナズナ~早くおいでよ~!」

「いえ、こ、この格好は…」

「大丈夫! 嵐も気に入ってくれるよ! ね! 嵐!」

「鼻血でも出すんじゃねえの?」

「シントラ、あまり言ってやるな」



第61話「海だ! 水着だ! sts前だ!」



「…なんでこんな場所に来ているのかね…」

『気に入らなかったのかい?』

「いや、もうstsが始まるまで一ヶ月もないじゃん。」

この4年間くらいは、訓練の繰り返しだった。
おかげで、アリシアも俺も大分戦えるようにはなったと思う。
スカリエッティからの頼みも来るかと思ったが、案外連絡はなく。何事もない4年間を過ごせた。

「stsまで、もう少しなのに…なのに…」

俺は、顔を上げ、目の前を見た。

「俺たちは海なんかに来てるんだ…」

澄み切った青い空。美しい青い海。眩しい太陽!
その空間に俺は、水着を着てパラソルの下、太陽の光に当たらないように座っていた。

『プライベートビーチだよ?』

「またなんか危なそうな…」

『大丈夫だよ。クリーンな世界だからね。危険生物もいない…はず』

「そこはすっぱりといないと言ってくれ」

またデカイ恐竜なんか出てきたら俺泣くよ?

『一年中こんな気温の世界なんて珍しいんだけどね。私も水辺の研究をするときに、よく利用したもんだよ』

「研究じゃなくて遊びにしろよ…」

俺のテンションは、太陽の光と反比例して下がりっぱなしだ。
元々、海はあんまり好きじゃない。塩の味がする水って苦手なんだよな。

『女性陣は、まだ来ないみたいだね』

「女性は着替えに時間がかかるからな」

男たちがすぐに終わらせる準備にも女性は時間がかかるものだと思う。
それに、待つのは嫌いじゃない。…そうだ。今のうちに言っておこう。

「スカさん。もう少しでstsが始めるけど」

『何だね』

「stsでもよろしく頼む。頼りにしてるから」

スカさんがいたおかげでここまでこれたと言っても過言じゃない。
アニメでは、スカリエッティってあまり好きなキャラじゃなかったけど、スカさんは別物みたいなものだ。

『…なんだか照れるね』

「…俺も」

二人で海を見つめながら、時間が経つのをじっと待っていた。
そして、元気いっぱいのあの声が聞こえてきた。

「ら~~~~ん~~~!!」

「おお、来たか」

元気いっぱいに走ってきたのは、やはりアリシアだった。
始めてあったときよりもかなり成長して、今じゃ幼児体系とはいえないスタイルになった。
フェイトより、胸は小さい印象を受けるが

「お待たせ!」

砂浜の上に華麗に着地するアリシア。水着は、蒼いワンピース。
昔ならあんまり反応しなかっただろうが、今のアリシアの身長は150cmくらいだ。
胸が控えめじゃなかったら危なかった。

「お~これが海か! 太陽が気持ちいな!」

似非吸血デバイスことカーミラが俺の頭の上に着地して
どこから取り出したか…というより準備したのか小さな自分サイズのコップに飲み物を入れて飲んでいる。
水着まで真っ赤なのか…、やっぱ赤が好きなんだな。

「あ、鼻血出さなかったみたいだ」

「シントラ…」

遅れてシントラとアインスがやってくる。…え?

「シントラ。お前…それなんだ?」

「水着」

「…まあ、俺たち以外にいないから別に構わないけど…」

アインスは、白色の一般的な水着を着ていたが、問題はシントラだった。
シントラは、確かに水着を着ている。ロリの特殊装備、スクール水着と言う伝家の宝刀を。

「水着って誰が用意したんだっけ?」

『アリシアだよ』

「……」

アリシア…、変な世界に毒されたのか…

「待たしたわね」

「あ、プレシアさん。プレシアさんも着替えてたんですか」

「私は泳がないけどね」

プレシアさんは、露出が少ない全身を覆っている水着を着ている。
どこか、大人の魅力を感じる。というか、はっきり言ってエロイ雰囲気が出ている。
年上好きではないはずなんだけど、水着姿のプレシアさんを見て、一瞬ドキッとしたのは俺だけの秘密だ。

「多分、こんなゆったりした時間は、もうあまりとれなくなるでしょうね」

「…そうですね。どこかに遊びに行くなんて、出来るかどうか」

後ろから、リニスも顔を出した。今回だけは許されているのか、猫フォームじゃなくて
ちゃんとした、人間の姿で水着を着ている。
プレシアさんとは違ったエロさがあり、やはりちょっとドキッとしてしまった。

「のんびり…か」

stsが始まってしまうと、そこからは、帰るか、帰れないかがかかっている。
機動六課には、あまり関係がないが、管理局にコメテスアメテュスを取りに行かなければ行けない。

「…まあいいわ。今日は、しっかりと遊んで、休んで、事に備えましょう」

「はい」

プレシアさんはパラソルの影に入り、本とノートを出して、読み始めてしまった。
俺がいると気が散るかもしれない。俺は、アリシアたちがいる場所に向かった。

「あれ? アリシア、ナズナも一緒に着替えに言ったよな?」

「あれ? ナズナも連れてきたはずだけど…」

周りを見渡しても、どこにも見当たらない。

「んっ」

「えっ?」

シントラが指差して方向には、木があるだけだった。しかし、隠れきれていないのか
チョロンと黒い髪の毛と体が見えている。

「あ! いたいた。ナズナ、隠れてちゃ駄目だよ!」

「ああ! アリシア、離して下さい! 自分で出ますから!」

「ほら!」

木から出てきたナズナは、黒いビキニを着ていた。
ナズナの白い肌が、黒に良く映えている。

『似合ってるじゃないか』

「ス、スカさんの言うとおりだと思うぞ」

視線が胸に行きそうになるのを青い空を見ることで阻止する。
ナズナの胸は、顔はなのは似のはずなのに、どっちかと言うとフェイト寄りだ。
俺も健康な20歳前の肉体。ようやく、元の体になった。最近のナズナの体に欲情しそうになっているのは秘密だ。

「ふふん、嵐ってば私たちの水着見てドキドキしてるでしょ~」

「シテナイヨ」

『バレバレな演技だね…』

「マスター…」

色んな種類の視線が俺に突き刺さってくる。

「ド、ドキドキなんてしてない! してないぃいぃぃーーー!!!」

ダッシュで二人の間を駆け抜け、海に飛び込んで、クロールで逃走を図った。
俺の顔は、恥ずかしさで真っ赤なはずだ。それを見られないようにするためと
顔に篭った熱を海の水で冷やすために。だが--

「待て待て~! 顔見せて~」

「あたしにも見せろ!」

二体の(二人の)体育系に追跡されていた。

「じゅ、準備運動を怠るなんて、駄目だ!」

「あ、そうだね。じゃあシントラに頼むよ」

「任せろ!」

どうやらシントラは、俺とアリシアが会話をしている間に準備運動は終わらしていたようだ。
俺は、クロールを激しくし、気持ち的に速度を上げるが、差は縮まっていく。

「もう顔は赤くねえよ! 諦めろ!」

「顔はどうでもいい! お前を捕まえたいだけだ!」

「な、何故!?」

「海に来たんだから、とりあえず泳ぎたいだろ!」

「ちくしょおぉーーー!!」

俺とシントラは、体力がなくなるまで泳いだ。まあ、俺がシントラに敵うはずもなく
最終的には、俺がシントラに捕まってしまったのだが。




「いち・に・さん…、ナズナは泳がないの?」

「わ、私は、ここで休んでおきます」

「恥ずかしがらなくてもいいと思うのにな~」










「さあさあ、おばちゃん張り切っちゃったからね! どんどん食べて!」

「わ~い!」

「うめえ!」

シントラとの、デス・スイミングが終わった後、アリシアと泳いだり、ナズナの水着がずれそうになって、顔を真っ赤にして全力で海を泳いだりと
いろいろと肉体的にも精神的にもしんどい時間を終えて、宿(スカさんの基地)に戻ってくると何故か焼肉を焼いているおばちゃんがいた。

「…スカさん」

『なんだい?』

「いいの?」

『問題ないよ。おばちゃんは、ここをどこかの別荘だと思っているはずだからね』

「……」

『正確に言うとプレシア…じゃないね。セリアの別荘だと思っているはずだ。飛行機での記憶は、適当に作っておいたよ』

「…おばちゃんって今年でいくつだっけ」

『五十は…データでは、16歳と出るよ』

「……そう」

あまり深く考えないでおこう。

「ほら! 鈴木くんも座って座って」

「あ、すみません」

とりあえず、シントラの幼女サイズになっているカーミラの横に座り、
焼いてある肉を食う。うむ、うまい。

「マスター、口に汚れが」

「あ、ごめん」

ナズナから、ティッシュを手渡され、口元を拭いていると、何故かおばちゃんがニマニマしている。
若干、眼が輝いているように見えて、怖い。

「お、おいしいですね。おばちゃん」

「そうだろ? あたしにかかればこんなものだよ」

視線から悪寒を感じてので、話を誤魔化すためにおばちゃんに話を振る。
どうやら乗ってくれたみたいで、一安心…。喉の渇きを癒すために水を一口…

「ところで、ナズナちゃんと鈴木くんは、やっちゃたのかい」

「「ブゥウぅうううううぅうううう!!」」

飲めませんでした。

「な、なななな、何を言ってるんですか!?」

「え? おばちゃんてっきりそんな関係だと」

「あらあら、本田さん。嵐とナズナは、まだそんな関係じゃないわ。“まだ”ね」

「あらら、おばちゃん早とちりしちゃったよ」

「だから何を!!」

俺と同様に、水を口から噴出した、ナズナが、首まで真っ赤にしておばちゃんに講義している。
そんな、ナズナの講義は最強の力を持つおばちゃんコンビに歯が立つはずもなく、受け流され続けている。

「だって…ねえ?」

「ええ…ねえ?」

おばちゃんとプレシアさんは、互いの視線を合わせニッコリと笑い
俺とナズナの方を見て、再びニッコリと笑う。
俺は、恥ずかしさがマックスになり、キョロキョロと視線を変えているとナズナが突然立ち上がった。

「ご、ご馳走様でした」

いそいそとナズナは、自分の部屋に戻っていってしまった。
おばちゃんコンビはそのナズナが行った方向を見た後、俺の方を見てニヤニヤしだした。

「…ご馳走様です」

ほとんど焼肉は食えなかった。




















「…綺麗だな」

『夜中に何をするのかと思ったら星かい?』

腹が減って寝付けなかったので、気分転換に外に出てみると
空には、星が輝いていた。日本では、こんな景色は見れないかもしれない。

「よっと」

砂浜に寝転び、空を見上げる。

「は~」

すこし風が吹いて、俺の髪を揺らす。その風が吹いたとき、左から誰かの気配を感じた。

「…誰かいるのか?」

「っ! よくわかりましたね」

その人物は、ナズナだった。

「ナズナ!? 何でここに?」

「少し、眠れなくて…」

俺と同じ理由だったらしい。
ナズナは俺の隣に腰を下ろし、空を見上げる。

「「……」」

俺と同じで焼肉のときのことがまだ気になっているのか、ナズナは口を開かない。

「あ、あのさ」

「はい」

このままの状態が続くのは苦しいと思い、話を振る。

「ナ、ナズナは、この回収が終わったら、どうするんだ」

「…どう、ですか」

ナズナは、俺の問いに少し悩んでいるように見えた。
そこで俺は、ナズナがこの世界に予定がないのなら、言いたいことがあるのを思い出した。だが緊張のせいで汗が止まらない。

「ナ、ナズナに、もし、よ、予定がないならさ」

「え?」

俺の心臓が破れそうなぐらい激しく動いている。汗も呼応するように吹き出てきている。

「お、お、俺の世界にしゃ、こ、こないか?」

言えた。噛んだけど。

「マスターの、世界?」

「いや、予定があるなら無理にとは言わないけどさ、予定がないならついて来てくれたらうれしいかなあ~って、あの、俺の世界でお礼とかもいろいろしたいしさ。親とかにも紹介したいし。無理にとは言わないけどさ! 何ていうのかな? スカさんが言うには、俺の思いをかなえると、コメテスアメテュスから転移魔法的なものが発生するんだって。だから、近くにいたら俺の世界に来れると思うんだって。それで、俺が装着しているスカさんは、俺の世界に来るらしいんだけど、それで、ナズナもどうかな~って。嫌なら構わないけど。アリシアは、どうするかは、わからないけど、とりあえず、一番初めにナズナに話しておこうかな~って思ったんだ」

緊張のせいで超早口になってしまった。ナズナがポカンとしている。
ていうか恥っ! かなり恥ずかしいんだけど…

「マスターが…」

「ん?」

「マスターが、迷惑じゃなければ…」

ナズナの顔も俺の顔も真っ赤。多分この状況で正常なのは、スカさんぐらいじゃないだろうか。
…スカさんは、外してこればよかったな。

「め、迷惑じゃない! 全然! 全く! じゃ、じゃあ、今日はもう遅いから、帰って寝よう」

服についた砂を掃い、戻ろうと思った時、ナズナに服を掴まれた。

「ナズナ?」

ナズナは、俺の顔を見ないで、俯きながら耳を真っ赤にして俺に言った。

「きょ、今日は、一緒に寝てくれませんか?」

……え゛









黒き従者と血の主の夜は長い。










おまけ


何故か断ることが出来ず、ナズナと寝ることになってしまった俺は、とりあえずスカさんを自分のベットに置き
ナズナの部屋にお邪魔することにした。

「お、落ち着け。寝るだけだ。ナズナと一緒に寝るだけだ。深く考えるな。寝るだけだ」

大丈夫。寝るだけ。寝るだけ。よし、準備はOKだ。

「ナズナ。来た…ぞ」

「…くぅ」

緊張してゆっくりとドアを開き、ベットに向かってみるとそこには眠りの姫様…
…寝ていますな。はい。
あんだけ海で泳ぎまくったんじゃ、そりゃ疲れるよな。

「…まあ、そうだよね」

ナズナから少し離れてベットに寝転がり、寝てしまおうと思った。が…

「う~ん…」

「っ!!??」

ナズナがゴロゴロと転がり、俺の体に抱きついてきた。しかも強烈で少し苦しい。

「ナズ、ナ、離せ、くる、しい」

苦しい以前に俺の理性が苦しい。柔らかい何かを押し付けてくるな。

「うぅん」

「……無理か。なら、寝るしかない。心頭滅却すれば、火もまた涼しい。煩悩退散!」

疲れているのに無理矢理起こすのは忍びない。離してくれないならこのまま寝るしかない。俺は、自分の鉄の理性を信じて眼を閉じる。

「むにゅ…」

「……」

鉄の理性はティッシュになるのも時間の問題かもしれない…





次の日は、寝不足になりスカさんからは

『昨日はお楽しみできませんでしたね』

と言われた。床に叩きつけたが、罅一つ入らなかった。















「マス、ター、大好きです…むにゃ…」









<あとがき>
更新できた。けど、また忙しいので遅れます。ちょっとずつ更新していきたいと思います。
次回からstsに突入します。多分。
では!また次回!!



[6935] 第62話「歪んでいく物語」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:7c42c911
Date: 2009/06/20 10:10
「嵐~、新聞だよ~」

「おお、ありがと。何々…この二人ってやっぱり別れたか~」

「嵐、ナズナがご飯できたって」

「わかった。今行く」

「早くね!」



第62話「歪んでいく物語」



「ふむ…」


『新部隊、機動六課発足』


「始まるみたいだな」

『そうみたいだね』

とうとう始まるか。stsが。
俺たちは、六課を無視して管理局に突っ込めばいいだけかもしれないが。

「これでマセラティに会えば、終わりだな」

ナズナが焼いたトーストを食いながら新聞に写っている人物を見る。
そこには、原作のヒロイン三人が写っている。ふむ、アリシアを見ているせいでフェイトが物凄い大人に見えるな。
この三人に更に新キャラのスバルたちが加わるわけか…そういえば…

「俺って誰が好きだったけ?」

まだ俺が現実にいたときは、誰が好きだったんだっけな?
確か、ヒロインの三人組みじゃなかったはずなんだけど…。誰だったけな。

『好き?』

「ん? いや、何でもない」

口に出ていたらしい。まあ、スカさんに話しても理解できないだろうしな。

『(…ナズナが、凄い目つきで見ているんだが…)』

ん~、誰が好きだったんだっけ?

「…っ!」

思い出した! リインフォースⅡだったかな。
性的な意味じゃなくて、見た目的な意味で、小さい感じでかわいいからだったけ?
断じてロリコンじゃない。

「マスター、お茶です」

「お、ありがと」

ナズナがお茶を持ってきてくれたので、喉を潤す。
というか、そんなに勢いよく机にお茶置いたからちょっと零れちゃってるじゃないか。

「…マスター、何を考えていたんですか?」

「え?」

お茶を飲みながらナズナの方を見ると、顔は笑っているが、目が笑っていない。
ていうか、目に光がない。ヤンデレヒロインがよくする眼になっている。

「え、あ、む、昔の…」

ナズナの視線が怖すぎて、うまく口が開かない。

「……」

≪ナズナ≫

≪何ですか?≫

どうしよう。昔の好きなキャラを思い出してましたなんて言うべきだろうか。

≪実は、嵐と私は、さっきまで会話していたんだ≫

≪会話ですか?≫

≪ああ、ナズナは可愛くて好きだと言っていたかな≫

≪っ!?≫

正直に言うのは少し恥ずかしいが、ここで言わないと変な誤解をナズナに与えそうだ。
なら、正直に言うべきだろう。

≪君に直接言うのは恥ずかしいんだろう。ここは見逃してあげてくれないか≫

≪か、かかっか、かわいいですか。し、ししっしし、仕方ありません≫

よし、言うか!

「ナズ…」

「マ、マスター。食器を片付けてきます」

「…えっ」

俺が意を決して言おうとしたとき、ナズナはキッチンに行ってしまった。

「…どしたんだ?」

『貸し一つだ』

「…何が?」





『スカリエッティから連絡があったよ。後で会いたいらしいよ』

「スカリエッティから?」

まさか仕事の頼みだろうか?
今までスカリエッティは俺たちには、仕事の頼みはしてこなかったんだが…

「詳しくは、会ってみてからにするか」

『ナズナも連れて行こう。一応の護衛だ』

「わかった」

さすがにスカリエッティにはナズナの戦闘情報は渡っていると思うが
もしスカリエッティから攻撃があってもナズナなら抑えれるはずだろう。

「ナズナ」

「どうしましたマスター」

「ちょっとスカリエッティに会いに行くから」

ナズナは、スカリエッティと聞くと、俺のつけている指輪を見た。
いや、これじゃないって。これも一応、というか、本物のスカリエッティだけどさ。

「このスカじゃなくて、人間の方のスカ」

「あ、そっちのスカでしたか」

「うん。そっちのスカ」

「すみません。スカ違いでした」

「全く。気をつけろよ。スカを見間違うなんて」

「すみません」

『…もしかして、喧嘩売ってるかい?』

「「いや、全然」」

『…一応、二人の創造主のはずなんだけどね』

スカさんに喧嘩を売るなんて、そんなこと俺たちに出来るはずないじゃないか。
もしかして、スカさん疲れて疑心暗鬼になってるんじゃなか?

『…助けなければよかったね』





「ここか」

相変わらず何かジメジメしてそうな場所だな。カビが生えてきそうだ。
人の死体かもしれない物もあるっぽいし、嫌な空気だね本当。

「マスター、気分が優れないんですか?」

「いや、ここが空気悪いな~と思って」

『慣れていない者には、キツイだろうね』

スカリエッティの連絡には、場所の指定までしてあったので、難なく来れたのだが
スカリエッティのいる所にはAMFが展開しているので、入り口に転移してきてわざわざ歩いている。

「スカさん。ここはどっち?」

『左の扉だよ』

「了解」

左の扉を抜けると、そこには、一人の女性が待っていた。

「お待ちしておりました。ドクターがあちらでお待ちです」

『お迎えご苦労だねウーノ』

「いえ」

ウーノの指した扉を抜けると、そこには無限の欲望がいた。

「やあ、待っていたよ」

『すまないね。待たしてしまったかい?』

スカリエッティは、俺とナズナの姿を見てニヤニヤと笑っている。

「おや、管理局のエースと会えるとは光栄だ」

スカリエッティは、わかっていながらもニヤニヤして俺たちを見る。

「このドクターは、指輪のドクターの4倍に腹が立ちますね」

ナズナも顔を満開の笑顔にしてスカリエッティに笑いかける。

「どうだい? 君が良ければ、こっちに来ても構わないよ」

スカリエッティは、Fプロジェクトの究極の成功作のナズナが欲しいのか
プライベートでも、よくナズナとか俺に訪ねてくる。

「お断りします」

「つれないな。こんなにも君を欲しているのに」

「虫唾が走ります」

「酷いね」

「離せ。変態」

ナズナの手を握り、撫でようとしたスカリエッティを
ナズナは、思いっきりはたいて、俺の後ろに隠れてくる。あれ? どっちが護衛だっけ?

「怒らせてしまったかな」

「わかって言ってるだろ」

「それはどうかな?」

このスカリエッティは断られるのがわかって聞いてくるのだが
いい加減諦めて欲しい。俺のことは、4回くらい断ると諦めたくせにナズナは諦めない。

「もしかしてMか?」

「いや、誤解しないでくれ。そうだ。今日、君たちを呼んだのはこれだよ」

スカリエッティが何かキーのような物を操作すると、空中にモニターが浮かんだ。
これは…機動六課?

「これが?」

『私たちに関係あるのかい?』

俺たちに六課の紹介されても困るんだけど。
それに、俺たちもう知ってるし。今更メンバーなんか教えられても…

「君たちは、私の手伝いをしてくれるんだろ? ならば、敵を知っていてもいいと思ってね」

「なるほど…え? これ誰?」

『…!?』

六課のメンバーの中に、明らかに俺が知らないキャラがいる。
オレンジ髪や、青い髪の奴は知っているが、こんな緑髪の大人キャラは知らない。マリエルか?
いや。どう見てもマリエルじゃない。

「彼女は、コーデリア・マセラティ。管理局には、勤めていないフリーの魔導師だ」

「っ!?」

こいつがマセラティ!? ええ!?
だって、マセラティは管理局のデバイスとかを調整するとかそんな役じゃなかったか!?
なのにこいつ、普通に戦闘してくるっぽいじゃん!?

「フェイト・テスタロッサが一年契約して雇っている魔導師探偵らしいね」

「フェ、フェイトが!?」

なんて余計なことしてるんだ!? わざわざ雇わなくてもいいだろう!?
いきなり原作から遠ざかってるんですけど!?
テスタロッサの家系は、俺のことをとことん邪魔するのが得意みたいだな。姉と同じで!

「詳しい情報は、どうでもいいから調べてないよ。彼女には、あまり興味はないんだ」

スカリエッティは、研究体や、実験体には興味を持つが
普通の人間には、かなり興味を持ちにくい。なのでマセラティも一緒だろう。

≪歴史が変わってるね≫

≪不味いな≫

マセラティのいる場所を襲撃する予定だったのに、六課だとさすがにキツイ。
あそこは、ある意味、怪物の魔窟だ。魔力的な意味で。

≪しかも、もしかしたらこれ以上の歪みもあるかもしれないな≫

≪…しかたない≫

「スカリエッティ! こ、この六課のもっと詳しい情報を提供して欲しい」

「…これかい?」

これ以上歪んでいるかもしれないのを調べるために、最新の情報がいる。
それに、このコーデリアという人物の情報。何故六課にいるのかも調べたい。悔しいがスカリエッティに情報の提供を求めないといけない。

「…なら、手伝いをしてもらおうか」





「最悪だ。まさかマセラティが六課にいるなんて…」

『未来のデータとは、大分違うね』

「マスター…」

スカリエッティの基地のから帰りながら、俺とスカさんは、気分をかなりブルーにして
帰り道を歩いていた。

「未来はどうだったんだ?」

『未来のデータだと、彼女は、デバイスを作成する仕事だったし、子供の頃に瀕死の重傷を負って魔導師なんてとてもじゃないが無理な体なはずだよ』

「…一体どこでそれは変わってしまったんだ」

おかげでスカリエッティの手伝いをしなきゃいけない。
手伝いする気は、なかったのに…

「ナズナ、頼めるか?」

「マスター。言うまでもないです」

『今回は、ナズナと君だけでいいだろう』

スカリエッティの基地から出て、転移魔法を発動して、サラーブに戻る。

「あ、お帰り!」

「遅かったじゃねえか」

「お帰り。無事か?」

転移を終えて、待っていたのは、アリシアとシントラとアインスだった。

「悪い。ちょっとややこしい事態になって」

「ややこしい事態だと?」

「とりあえず全員集めてくれ」

「わかった。シントラ、行くぞ」





「…まためんどくさい事態になってるわね」

全員集まって、さっき気づいたことを話し終わると、一番初めに声を上げたのは
プレシアさんだった。実際、本当に面倒くさいとおもっているんだろう。
だけど忘れないで欲しい。あなたの娘の妹が雇っている存在だということを。

「あなたたちの言っていたこととかなり変わり始めているわね。全く面倒ね」

「そうみたいですね…」

これ以上は歪まないことを祈るばかりだ。

『派手に暴れすぎたね』

派手に暴れすぎたのは認めるが、これは俺たちに関係ないんじゃないか?
いや、俺たちというイレギュラーがいるからこんなことになったのかもしれないが。

「…コーデリア?」

「シントラ? どうしたの?」

「いや、何でもねえ」

「それで、スカリエッティに一回協力しなきゃいけなくなりました」

「誰が行くのかしら」

「とりあえず、俺とナズナが手伝うことにしました」

さすがに全員で手伝うとかはしない。
余計に事態が混乱しだしそうだし、わざわざ全戦力を出すまでもない。

「スカリエッティにも、そう伝えたんで」

「なら、救援の連絡がくるのを待つだけなわけね」

レリック絡みの手伝いなのは確実だろうけど



































side高町なのは


≪同じ空は久しぶりだね。フェイトちゃん≫

≪うん。なのは≫

はやてちゃんの夢の部隊。機動六課の初の任務。
本当は新人たちに新型デバイスの練習をさせてからにしたかったんだけど、そうも言ってられなくなった。

ガジェットの攻撃をかわしながら、攻撃する。
ガジェットは、空中を飛ぶのに適している形のせいなのか、中々素早い。だけど…

『Accel Shooter.』

カートリッジをリロードし、アクセルシューターを放つ。
操作したアクセルシューターは、3機のガジェットを攻撃し、破壊する。

「よし、次…!?」

次のガジェットを撃墜しようとしたとき、後ろから私の顔の横ギリギリを黒い魔力が通り過ぎていった。
黒い魔力。それを持っている人物を私は一人しか知らない。私は振り向かずに言った。




















「こんにちは。久しぶりだねナズナちゃん」




「ええ。久しぶりです高町なのは。元気そうで残念です」




















白い魔導師と黒い魔導師。表と裏。本当の物語では出会うはずのなかった二人。



[6935] 第63話「星と雷と…何故か血液」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:7c42c911
Date: 2009/06/20 10:28
「…さて、足止めはナズナに任せてと」

「あたしとお前は、レリックに向かっている三人の足止めをすればいいわけだな」

『レリック回収は、しなくていいそうだ。まあ、戦闘力の確認をしたいんだと思うけどね』

「この時の二人なら何とかなるだろ。…多分」

「いざという時はあたしがいる。心配するな」



第63話「星と雷と…何故か血液」



「スカリエッティから、連絡よ」

「こんな朝から?」

手伝うと約束してから数日、スカさんたちに朝起こされたかと思うと
どうやらスカリエッティから連絡が入ったみたいだ。
朝のモーニングコールがスカリエッティ。今日も素敵な一日が過ごせそうだなぁ…

「はい」

『やあ。寝ていたのかな? これは悪かった』

「いいから要件だけ話してくれ」

スカリエッティの話を聞いてると、また眠気が出てくる。
それにいきなり起こされて苛立っているのにデバイスのスカさんなら我慢できるが、このスカリエッティは我慢できない。

『先ほどレリックらしきロストロギアが発見されたらしくてね。そこで君たちに頼みがある』

半分寝てしまっている頭で何とかスカリエッティの話を理解する。
つまり、前回約束したお手伝いなわけだ。面倒くさい…

「頼み?」

『用件は、簡単だよ。そのロストロギアは、リニアレールにあるらしい。そこを私の玩具が襲撃する。それを手伝って欲しいんだ』

…リニア? あっ、これもしかして、新人たちの初出動のやつじゃね?

「それを俺とナズナが回収すればいいのか?」

あのレリックを俺とナズナで回収するだけなら、かなりチョロイ。
さすがに、ナズナは、新人たちには手も足も出ない最強の敵となってしまうだろう。

『まさか。いきなりそんな大役を頼んだりはしないよ』

「はっ?」

これじゃないのか? 絶対にそのレリックの回収だと思ったんだが。

「レリックの回収は私の玩具に任せるよ。君たちは、それを邪魔しに来る管理局の足止めを頼みたい」

…足止め? 何故そんなまどろっこしいことを…

『駄目かな』

「いや、それで機動六課の情報をもらえるなら」

元々、それだけが狙いなわけだし。
そのためには、レリックを回収してこいや、足止めなどあまり差異はない。

『もちろんだよ。約束は守ろう』

「わかった」

『呼んだら、前と同じ場所に来てくれ。途中まで送るよ』

「了解」

スカリエッティは、俺に笑顔で手を振り、通信をきった。不気味すぎて鳥肌が…

「手伝いって、どんな鬼畜なことをやらされるかと思ったら、案外普通ね」

『今回は、試しみたいな物だと思う。』

「試し?」

『さっき君が機動六課の話をした時、私はニッコリ笑っただろう? 多分、これに機動六課が関わってくるのがわかっているんだと思う。それで、ナズナや、君のデータを計りたいんだ』

つまり、スカリエッティなりの試験ってことか。

「だったら、軽く手を抜いて相手すればいいんじゃないか?」

これでスカリエッティが、俺たちに興味がなくなれば万々歳だ。

『私たちに興味がなくなったら、いつ同盟を捨てるかわからないよ』

「あ~、それがあったか」

ややこしい話になってきたな。









sideナズナ


ついにマスターが帰るために必要な欠片が全て揃う年がやってきた。
いままでやってきたロストロギアの回収が実を結ぶ。
マスターは、今までと同じで、何事もなく回収できると言っていたけれど、ドクターは警戒していた。
今までとは何か違う。自分たちのせいでイレギュラーが発生しているかもしれないと。
だけどそんなことは関係ない。例えイレギュラーが出てきて、マスターを邪魔しようとしたなら
私が消し去ればいいだけだ。

ドクターの元になったスカリエッティからの命令で機動六課という
私の記憶の奥にある組織の足止めをすることになった。
あまり、高町なのはの記憶は残っていないけど、機動六課という単語だけは覚えていた。

マスターが青髪とオレンジ髪を相手にすると言っていたので
高町なのはを足止めすることに決めて、後ろから軽い魔力弾を放った。
予想通り、高町なのはには、当たらずにそのまま通り過ぎていく魔力弾。そして高町なのはは、私に話しかけてきた。

「こんにちは。久しぶりだねナズナちゃん」

私と同じ声、全く同じに聞こえる不愉快な声。

「ええ。久しぶりです高町なのは。元気そうで残念です」

「にゃはは、ひどいな~」

高町なのはは、笑いながらで振り返ったが、顔は全く笑っていない。

「どうしてここにナズナちゃんがいるのかな」

「どうしてだと思いますか」

「質問を質問で返すのはよくないって教わらなかったかな」

「質問に答える気がないだけじゃないですか」

「ふふ、おもしろいなナズナちゃんは」

「あなたは、おもしろくありませんね。不愉快です」

互いに作り笑いをしながら会話を続けている。

「もしかして、今度はレリックを盗みに来たのかな? 相変わらず手癖が悪いね」

「相変わらず? 今まで盗んできた覚えはないんですが」

「本当に?」

「はい」

私は私が出来る最高の笑顔を作り答える。
この笑顔をマスターに向けたら、もしかしたら照れてくれるかもしれない。そんな大胆なこと出来もしないけど。

「へえ、そうなんだ。ごめんね」

「構いませんよ。そろそろ始めませんか? いい加減あなたと会話するのは面倒くさくなりました」

「そうだね。フェイトちゃん一人にガジェットの相手さしておくのは悪いからね」

これで時間を稼ぐのも悪くはないが、このまま穏便に会話を進められる自信はない。

「あっ、聞きたいことが一つあったんだ」

「なんですか? それくらいなら構いませんよ」

私に聞きたいこと? もうクローンってことはばれている筈。ならば他に何か…

「私が墜とされた時に、ナズナちゃんっていたよね」

「…いましたが」

あの時の会話は今も覚えている。

「あの時のことが聞きたいんだけど」

「…?」

あの時? 何かあっただろうか? 特に聞くことなんてないはず…

「あの時さ、ナズナちゃんの他にも誰かいたよね」

「…ええ」

「それって誰なのかな」

「………………は?」

今こいつはなんて言ったんだ?
あの時にいたのはマスターだ。何故それを私に聞く。いや、何故それを聞く?

「…何で?」

「何でって…あの時、私のこと治療してくれてたのは、その人だから、お礼だけでも言っておこうかなと思っただけだよ」

ああ、お礼を言いたいんですね。なら私が言っておきましょう。

「伝えておきます」

外側真っ白、中身真っ黒な魔法使いがお礼を言ってましたって。

「直接言いたいな。ナズナちゃんだと、変なこと伝えそうだし」

「ちっ」

意外に鋭い…

「さっきから、イライラしてたけど、ナズナちゃん、この人の話題が出てきてから、イライラ度が上がってない?」

「そんなことありません」

「…あやしいな。もしか『Accel Shooter』っわ!?」

「高町なのは。軽く運動して帰ろうと思いましたが、気が変わりました。遊びましょう」










sideout



―――ズガアアァァン!!!!



「…うおっ!? 何だ今の音!?」

ガジェットから飛び降り、リニアの上に着地した途端、遠くから
何かに衝突したような音が聞こえてきた。

「なんだ。ビビッたのか? あたしは全然怖くなかったぞ」

「俺のポケットで、何か震えているけどな」

『あれは、高魔力の砲撃同士が衝突した音だね』

「ということは、ナズナは、始めたわけか」

軽く足止めしてくれって言っといたけど、案外本気だな。

『君も和んでいる場合じゃないだろう? 来るよ』

俺は、ドクターソードを作り出し、スバルたちに備える。…あれ?

「俺って、普通にこの血の剣を作り出せてるけど、AMFとか、どうなんだ?」

普通に展開したから気づかなかったが、何でだ?

『ここはAMFが届きにくいっていうのもあるけれど、君の魔法は、君の血でコーティングしてある。魔法をキャンセルされにくいんだ。まあ、強力すぎるAMFには、適わないかもしれないけどね』

「はあ~」

「案外役に立つな。嵐とカルの魔法は」

相変わらず器用貧乏な魔法だな…

「リイン曹長! ここですか…!?」

「ティア! お待たせ! どうかしたの?」

俺の姿を見て、リインとティアナが口をポカンとあけている。
スバルは、俺の姿を見ていないからか、二人が何故そんな顔をしているのか理解できていない。

「こんにちは」

「え!? あっ、こんにちは」

律儀に挨拶を返してくれるのは嬉しいが、これでいいのかスバル…

「あんた! 何者!」

「魔導師兼医者兼泥棒です」

ボイスチェンジャーで、声はガラガラ。ちょっと気持ち悪い。

「仕事を聞いてるんじゃない! 何故ここにいるのかを聞いているの! 何かこいつ腹立つわ!」

「ティ、ティア、落ち着いて。リイン曹長! …えっ」

相棒の興奮を宥めながら、リインに話を振るが、リインは、そこにはいない。

「む~、離せです! リインは仕事中ですよ! 公務執行妨害です!」

「うるさい! あたしだって仕事中だ」

「悪者に仕事も何もないです!」

「うるさいぞお前! 銀ガキ!」

「なっ!? リインをガキと言うなら、そっちだって!」

「残念、あたしは、結構年取ってるんでね」

「じゃあ、赤ババアです!」

「な!? お、お前! 言ってはならないことを言ったな!!」

「ババア! ババア! 赤ババア!!」

「ガキ! ガキ! 銀ガキ!」

カーミラと戯れて…じゃない。戦っている。

「スバル! そっちは、リイン曹長に任せといて、あたしたちはこいつを相手するわよ!」

任せてと言うか、この二人が争っているところに乱入してしまうと二人とも踏み潰してしまいそうだな。

「りょ、了解!」

スバルとティアナは、一瞬呆気ていたが、すぐに戻り俺に視線を戻した。

「あたしが、援護するから、スバルは突っ込んで!」

「わかった! いっくぞぉぉぉ!!」

ローラーブーツで加速し、俺に突っ込んでくるスバル。
空を飛べないかわりに空を走るとは、よく言ったものだ。

「うっりゃあ!!!」

拳を大きく振りかぶり、俺の顔面目掛けて攻撃してくるが
俺は、ドクターソードを盾にして攻撃を防ぐ。中々の威力だけど、防げないほどじゃない。

「か、硬い!?」

見た目はただの赤い剣だったのに、その硬さに驚いたのか、スバルは、力を弱めた。
俺は、それを好機と見て、剣を思いっきり振りかざし、スバルを弾く。

「くらえっ!」

そのスバルが弾かれるのを読んでいたのか、ティアナが援護射撃を俺に撃ってきた。
さすが長年コンビを組んでいるだけある。お互いの行動を上手く把握してあるな。だけど…

「甘い!」

乗ってきた、ガジェットを、ブラッティ・ストリングで手繰り寄せ
ティアナの攻撃を防ぐ。別にスカさんが作った物じゃないし、構わないよな。

「嘘!?」

「ず、ずるい!」

「ずるい? 自分の乗り物をどう使おうが自由だ!」

ガジェットは、AMFを発生しているおかげで、ティアナの魔法を打ち消すことが出来た。
俺は、ブラッティ・ストリングで、右腕にガジェットをぐるぐる巻きにして、装着した。ちょっと重い…

「行くぜ!」

「う、うわ!?」

そのままドクターソードで突っ込み、スバルに剣を振るって攻撃するが、スバルは、上手い具合にかわした。
だけど俺の本当の攻撃目標はスバルじゃない。それを援護する狙撃手だ。

「せえっのぉ!!」

スバルに攻撃したドクターソードの回転を維持し、そのままティアナに投げつける。

「えっ!?」

「ティ、ティア!!」

予想外に上手くいき、俺の投げつけたドクターソードは、ティアナに向かっていた。
このまま顔面に命中すれば戦闘は出来ない状態になるだろう。

「っく!?」

前転し、ギリギリ回避に成功してティアナは、リニアの上を転がる。
その体制のまま俺に向かって撃ってくるが、右腕に装着したガジェットシールド君で防ぐ。

「ティア! 大丈夫!!」

「ええ、大丈夫」

すぐにスバルが駆け寄るが、ティアナは、手を借りずに立ち上がる。そして、俺を睨んでくる。

「く…(こいつ、なのはさんたちみたいに圧倒的な力は感じないけど、…うまい)」

「あれでいくか」

相手は、こっちが遠距離に攻撃してこないと思っているのか、無防備だ。
なら、新作の魔法を披露するのも悪くはないだろう。俺は、輪ゴムとかでよくやる手を銃の形にしてスバルに向ける。
スバルは、俺の行動に首をかしげている。

「っ!? スバル!」

ティアナが、スバルを引っ張り自分の方に倒そうとするが、ちょっと遅かったな。
俺の指先から、小さな、血の弾丸が発射された。

「痛っ!!」

スバルの肩に直撃するが、動けない程のダメージじゃないだろう。
これは、カーミラに教えてもらった、カルさんがよく使っていたらしい魔法で、指先に血を集め凝縮し相手に放つ魔法。
極限まで固められた血液は、下手すれば岩も砕く。

「血弾ってとこだな」

魔法同士のぶつけ合いには、向かない魔法だけどね。人に当てる専用だしね。

「スバル! 大丈夫!?」

「う、うん。戦えない程じゃないよ」

肩を押さえながらゆっくりと起き上がる。まあ、これには、もう一つの使い方あるんだけど
今のスバルたちに使う魔法じゃないな。難しいし。

「じっとしてたら、危ない。動き続けてやるしかないってことね」

「そうだよな。走るのはしんどいから嫌だよな」

「っ!!」

ダッシュでティアナに近づき、強化しかしていない拳で腹に一撃を入れる。

「かはっ!(戦い方は、隊長たちじゃなくて、あたしたち寄りな筈。この実力差は…経験!?)」

「正直、気が乗らない戦いなんだよな。勝ってるの今だけな気もするし」

本当に主人公組は、優秀で羨ましい限りですな。

「お前ええぇぇ!!!」

ティアナを殴り飛ばされたので、ちょっぴりプッツンしたのか怒り顔だ。
ウイングロードを利用して、高く飛翔。重力の力を足して俺に一撃を食らわすつもりか。

「頼むぞ! ガジェット君!」

ガジェット君で攻撃を受け止めるが、魔法の力を打ち消すことには成功するが
スバルのそのままの拳と重力の力は消せない。ガジェットを粉砕しリニアの天井ごと砕き、俺に一撃を入れてくる。

「…いてぇ」

『自業自得だよ。…スカリエッティからだ』

「繋いで」

『いや、お疲れ様。面白い物が見れてよかったよ。その褒美に今回は、レリックは譲ろうと思うから、退散しても構わないよ。じゃあ、またよろしく。六課の情報は、明日までには送っておくよ』

…そうですか。
倒れている体をゆっくりと起こしてレリックのケースを発見する。このまま退散するのが無難だな。

≪ナズナ、カーミラ。退散するけど、出来るか?≫

≪楽勝に決まっているだろう! こんな銀ガキに遅れを取るあたしじゃないぞ!≫

≪可能です≫

≪じゃあ昔のスカリエッティの基地によろしく≫

箱を持ったまま天井に出来た穴を通り、リニアの上に戻ると
ティアナとスバルは、お互い戦闘体制に戻っていた。さっきまでの時間に体制を立て直したんだろう。
カーミラが俺の肩に戻ってくる。

「それをどうするつもりですか!!」

「今すぐ降参しなさい! 今なら罪もそこまで重くないわ」

どうやら、全部終わりかけみたいだな。このままだとエリオたちまでやってきそうだ。
早々にこの場から退散した方が身のためだな。

「これが欲しいんだったけ? ならくれてやるよ!」

「「「あっ!?」」」

リニアの外に全力投球。スバルたちは、完全に気を取られている。

「わわ~! ティ、ティア!? どうしよ!?」

「スカさん。転移魔法を、昔の基地に」

「落ち着け! エリオ! キャロ! 回収お願いできる?」

「…もう準備完了? 早かったな」

「よ、よかったです~。あれをあんな風に扱うなんて、命知らずにも程があるです」

「あ、あれ? ティア、リイン曹長。あの人いませんよ」










sideナズナ


「はあ、はあ…」

「時間が来ましたので、失礼します。ミーティア」

マスターから、撤退命令だ。すぐに前のスカリエッティの基地に行かなければ。

「に、逃げるの?」

「逃げる?」

何を言っているんだろう?

「あなた、そんな体でまだやる気だったんですか?」

高町なのはの体は、大きな外傷はないが、小さな傷でボロボロだ。
致命傷になる攻撃だけは、うまい具合に避けているのがさすが私のオリジナルというべきか。

「そろそろフェイトも来るでしょう。だから私はもう引きます」

「私は…まだやれる」

「勘違いしてませんか?」

「な、何を」

「あなたが今、無事に空に飛んでいるのは、私が手加減して戦ってたからですよ?」

本気を出していたなら、今頃、高町なのはは、ここにはいない。
治療室にでも、送られていたんじゃないだろうか?

「っく…」

『The preparation for the metastasis magic ended. It is possible to metastasize at any time.(転移魔法の準備が終わりました。 いつでも転移可能です)』

「今のあなたじゃ、勝てませんよ。組織に縛られているので仕方ありませんが」

本当なら高町なのはと私の戦闘力は、大して違いはない。どちらが勝ってもおかしくはない。
だけど、今の高町なのはには、組織という枷がある。それを解除しない限り、私と互角に戦うのは難しいだろう。

「さようなら。高町なのは」

高町なのはの悔しそうな顔が見れた私は満足して、マスターの元へ帰っていった。















「……はやてちゃんに相談しなきゃ」










<あとがき>
忙しい。猫の手というかもう猫を借りたいよ。
なのはは、六課にいる限り、ナズナと渡り合うのは、キツイですね。今回の件で、少し改善されますが。
限定解除は、さすがに初任務で出すのはしのびなかったのでしょう。
それと、今回、嵐の声とかを曖昧にしているのは、ちょっと理由があります。潜入的な。



[6935] 第64話「回帰組を正しく評価している人はいるんだろうか?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:7c42c911
Date: 2009/06/20 11:02
「…誰だこれ?」

『だから、マセラティ一族の一人だよ』

「いや、何でこいつが六課に関わって来るんだ?」

『…私たちの暴走が原因だと思うよ』

「これが若さか…」

『君もまだ若いだろう』



第64話「回帰組を正しく評価している人はいるんだろうか?」



スカリエッティからのドキドキ!? 六課のデータ!! を
貰ってからすぐにスカさんと一緒に研究室に移動して、データをモニターに映しながら見る。
すると、そこには、全く原作とは変わっていない魔法少女(ギリギリもいるが)が揃っていた。

「問題がこいつか…」

「あたしにも見えるようにしろ!!」

「はいはい」

フェイトをクリックすると、フェイトをサポートする役として登録されてある
緑髪のフェイトたちより一つ年上の女性、コーデリア・マセラティが表示される。

『コーデリア・マセラティ…魔導師探偵をしていて、そして事務所まで構えているのか…中々やるね』

「なんだその魔導師探偵って」

ネ○ロか?

『簡単に言うと、管理局が取り合ってくれない小さな事件を解決してくれる人さ』

「便利屋みたいなものか…」

それで何でその便利屋もどきが、この機動六課に関わってきてるかって話だ。
あんまり、というか全然関係ない人だろこの人。

『彼女は、外部協力者、いわゆる傭兵のような存在だからね。魔力リミッターにも引っかからないわけだ』

「でも、こいつそんなに魔力量高くなくないか?」

ティアナくらいの量だと思うんだが。

『そうみたいだね。魔力量は、そこまで多くないみたいだね』

「そこまで脅威じゃないってことか?」

「おい。お前も魔力量の少ない内の一人だろ」

「カーミラ…お前、痛いとこ突くな…」

確かに俺は魔力量はかなり低い部類に入るけど、そこまでストレートに言わなくても…
これでも結構傷つきやすいんだぜ?

『しかし、フェイト・テスタロッサが雇うくらいだ。確かに相当の腕を持っていると考えられるけどね』

素人同然の探偵を雇うほど、目利きが出来ないわけじゃないだろう。

「こいつって、今も六課にいるのか? ならこいつごと拉致するのも手だな」

『いや、今は機動六課にはいないみたいだね』

えっ? みんなと一緒の時期に働き始めてないんだこいつ。

『依頼を受ける前の仕事を片付けてから、それとなにか用事があるらしいから、正式に機動六課に来るのは、6月くらいになるみたいだね』

「6月? 結構先だな」

それだと、もうヴィヴィオが見つかる手前くらいじゃないか。

「どうするかね」

『どうとは?』

「どうやってコメテスアメテュスを奪うかってこと」

いくらこっちに情報があるからと言っても、あっちの情報が全部把握できるわけじゃない。
出来れば、あっちの情報は常に把握しておきたいところだ。
だけど、それにはあっちに何か盗聴器的な物を仕掛けないといけない。
まあ、そんなことが出来るならとっくにやっている。出来ないから困ってるんだけどな。

「ちょっと触る」

『構わないよ』

俺は、六課のデータを細かく調べ、どこか穴がないか探してみることにした。
しかし深く調べてみればみるほど非常識な組織という認識が濃くなってくるな。やっぱり魔力的な意味で。

「…食堂専用の職員や清掃職員の職員もちゃんといるんだな」

『それは、そうだろう。いくら魔導師といっても、誰もが食事を作れるわけじゃないからね』

アニメとかじゃ、描写されてなかったけど、ちゃんといるのはいるもんなんだな。

「こういう奴らの情報って、あまり詳しく載ってないんだな」

明らかに魔導師メンバーに比べると情報が少ない。

『そういう仕事は、魔力を必要としないからね。魔法を使えない人だっているかもしれないよ』

「なるほど」

だから、情報があまりすくないわけか。
…え? ちょっと待てよ…。情報が少ないわけだよな? この普通の職員たちは…!

「スカさん! いいこと思いついた!!」

『君がいいことと言うと、全然いいことじゃないことが多いよ』

「今回は大丈夫! 完璧すぎて怖い!」

『…話してくれ』









side--


機動六課の食堂。訓練や、仕事を休憩し、各々の職員たちが食事を楽しんでいる中
賑やかな食堂の中、一際大きな声をあげている組があった。

「なのは!!」

「フェイトちゃん。どうかしたの?」

のんびりと、一人で食事を食べていた、高町なのはに近づいていったのはフェイト・T・ハラオウン。
様子を見る限り、少し怒り気味のようだった。

「どうかしたのじゃないよ! 昨日ナズナと会ったって聞いてたのに、なのはは、すぐに寝ちゃうし、朝は、訓練に行っちゃって話が出来ないし…」

「あ、ごめん。昨日は、いろいろあって疲れちゃったから、そのまま寝ちゃったんだっけ」

いかにも怒っています! という表情をしているフェイトを苦笑いをしながら受け流すなのはだが
今日のフェイトは、ナズナのことが関わっているせいなのか引かなかった。

「ここでお話してくれるよね」

「フェ、フェイトちゃん…、ご、ご飯とってきたらどうかな?」

話はするつもりだったが、今のフェイトに話が出来るかどうかあやしい。
とりあえず、何か取ってき手いる間に頭も冷えるんじゃないかと思い、提案してみた。

「もう持ってきてるよ!」

「あ、そうなの」

以外に冷静だった。

フェイトは、なのはと向かい側の席に座り、なのはをジッと睨む。
ポテトサラダをパクパクしながら、どことなくムスっとしているようになのはには見える。それは最初からだが…

「ど、どうしてフェイトちゃんは機嫌悪いのかな?」

なのはの問いにフェイトは、一瞬考える素振りをしたあとに答えた。

「なんか、最近なのはばかりナズナと会っている気がしたから」

その言葉になのはは、フェイトの眼をジッと見るが、今度はフェイトが視線を逸らしてしまった。
遠くから見ると、どっちもモジモジしているので、告白前に見えなくもない。現に…



「これは、まさか修羅場って奴か!? なのはちゃんとフェイトちゃんの別れ話か!?」

「落ち着いてください主」

「しゅ、修羅場ですか!? 駄目です~! みんな仲良くするです~!!」

「ていうか、なのはとフェイトは付き合ってねえよはやて」

遠くからその様子を見て妄想を膨らましている狸部隊長がいた。



「ナズナと会って、話したんだよね?」

「うん。まあ、したと言えば…したのかな?」

あれを会話というのかどうかは微妙だ。どちらかというと、ただ口喧嘩しただけかもしれない。
実際にナズナは会話ではなく喧嘩(というか戦闘)をしたと考えている。

「何を話したの?」

「う~ん。元気? って感じのこと」

にゃはは、と笑いながらなのはは答えたが、明らかに笑顔には、無理があった。
残念なことになのはは、フェイトに嘘をつくときは顔に出やすいタイプだった。

「嘘でしょ。絶対」

「うう」

ばっちり指摘されてしまったなのはは、何故ばれた!? という表情になるが、当たり前である。
そこでようやく観念したのか、顔がシャキっと真面目になった。

「…今回の目的をちょっと聞いてみたりもしたんだけど、全然答えてくれなかったよ」

「やっぱりレリックが目的?」

「いや、これ見て」

空中にモニターが表示され、リニアで戦った二人の魔導師。ナズナと鈴木嵐が映し出された。

「この白衣のバリアジャケットの魔導師の方がスバルたちと交戦したんだけど、最後には、レリックのケースを投げて逃走したらいんだ。逃げるためには仕方なくって感じじゃなくて、最初から興味ないって感じだったって、ティアナが報告してくれた」

画面に映し出されえている魔導師は、シャマルが普段着ていそうなバリアジャケットを纏い
腕を銃の形にして、こちらに向けているのがわかる。髪が目に被さっているせいか、顔が見えにくい。

「それで、この人なんだけど、シャマルさんが言うには、私の怪我を治療してくれた人なんだ」

「ええっ!?」

このデータをシャマルが見た途端、大声を上げてなのはに掴みかかり。
そして、「なのはちゃん! この人! 絶対この人よ!」と、血走った眼でなのはを見ながら言った。

「シャマルさんが言うには、怪我した時に、私の出血を止めていてくれた魔法の術式と、あの赤い剣の術式が一緒だったんだって」

あの時のシャマルさんの慌てっぷりは凄かったよ~と笑顔で言う親友に
フェイトは軽く頭痛を覚えた。

「まさか、なのはを助けた人がナズナと繋がってるとは思いもしなかったよ…」

「私は、怪我したときにちょっとだけ覚えてはいたんだけどね」

なのはは、本当は、もう一つ気になることがあった。この人物の話題になった時の
ナズナの焦ったあの態度だ。それは、まだ未確認のことが多いので、フェイトたちには黙っていることにした。
もしかしたら、白衣の魔導師がナズナのボスなのかもしれないという可能性も頭に入れながら。
しかし、実際は、確かにボスなんだが、ナズナが焦った理由は全く別の理由ということには気づかなかった。

「しかも、報告では、この人、ユニゾンデバイスも所持していたらしいんだ。えと、…これ」

「融合騎を!?」

画面に映し出されたのは、リインフォースⅡと争っている、カーミラだった。どう見てもじゃれているようにしか見えないが。
融合騎は、このミッドでは、本来はロストロギアに指定されるくらい危険な物だ。
他人だけではなく、融合事故という、自分にまで危害を及ばす可能性のある、大変危険なデバイスとして扱われている。
今、ユニゾンデバイスを使っている代表的な例を挙げるなら八神はやてたちくらいである。
その貴重なユニゾンデバイスを無断で持っているだけで、かなりの違法になってしまう。
しかも、持っているということは、ロードという可能性も出てくる。

「かなり、厄介な感じだね」

「うん。一筋縄ではいかないよ」

二人で今回の敵について真剣に考えていると

「あっ、なのはさん! 一緒にいいですか!」

「馬鹿スバル! あんま大きな声出さないでよ!」

「ご、ごめん」

そんな二人の後ろから、新人たち4人、スバルにティアナ、エリオにキャロが近づいてきた。

「この席はいっぱいだから、隣でいいかな」

「はい! 全然構いません!」

「すみません。お食事中に…」

「「失礼します…」」

スバル以外、全員が少々緊張した感じに席に座った。

「あふぇ、にゃにょはしゃん、ほれってひほうのひゃつですか? (あれ、なのはさん、それって昨日のやつですか?)」

「口の中に入ったまま話すな!」

「あはは…、うん、昨日の襲撃してきた魔導師のデータだよ」

口の中いっぱいにごはんを蓄えながら話すスバルの言葉は、まるっきり理解できなかった。
理解できたのは、この中で一番付き合いが長いティアナぐらいだっただろう。

スバルたち新人は、なのはが表示していた、データを見て、二人目を見た瞬間、全員がむせ返った。

「げほっ!?」

「げ、げっほ! げほっ!? な、なのはさん! その、それ」

いち早く復活したスバルが、モニターに映っている、一人の魔導師を指差した。
黒いバリアジャケットを纏い、透き通るような白い肌。そして、なのはのサイドポニーとは、少し違う普通のポニーテール。
その姿は、多少違えど自分たちの上司。高町なのはにそっくりだ。

「もしきゃ!?」

「な、なのはさんにそっくりですね?」

毎回毎回一言多い相棒の口を塞いで、ティアナが軽く尋ねた。

「うん。多分、いや、絶対私の人造魔導師だよ」

別に隠しているわけではなかったなのはは、正直に答えた。
その言葉に少しだけエリオが反応したのをフェイトは見逃さなかった。

「人造? 魔導師?」

あまり聞き覚えがないのか、キャロは、つい口に出してしまった。

「優秀な遺伝子を使って人工的に生み出した子供に投薬とか機械部品を埋め込んで、後天的に強力な能力や魔力を持たせる。それが人造魔導師だよ」

「倫理的な問題はもちろん、今の技術じゃどうしたっていろんな部分で無理が生じる。コストもあわない。だからよっぽどどうかしてる連中でもない限り手を出したりしない技術のはずなんだけど…」

「どうかしてる人たちが作ったのかはわからないけど、10年前からの付き合いになるのかな?」

なのはの周りの人たちは、この機動六課では、繋がりがある人物が多い。
10年前から知っている人物の中で、その例外がこのナズナだろう。

「なのはさんの魔力を持った魔導師…、かなりの強敵じゃないですか」

「うん。………いつか墜とすけど」

「やっぱりなのはさんは、勝つ自信が…あれっ?」

最後の一言が聞こえていたのは、フェイトとティアナだけだった。










sideout


「どうだ! この姿!」

俺は、スカさんに思いついた作戦を披露していた。

『…君が恐ろしく馬k…天才に近いのはわかった』

「褒めるなよ。照れる」

「多分褒められてないぞ」

スカさんは、俺の指ではなく、カーミラが持っててくれている。

「これで本格的に潜入が出来るだろ?」

「ああ。その姿ならとりあえず六課までは行けるかもしれないな」

「だろ? 泣き声とかも練習した方がいいかな?」

『いいんじゃないかい』

「キュクル~♪」

「まあ、作戦自体は悪くないだろ? スカリエッティ」

『作戦自体はね』

外野が何か言っているが全く聞こえな~い。

『その“竜”の姿は気に入ったのかい』

「ああ!」

そう。俺は、キャロの愛竜、フリードに化けて、じゃない、変化していた。
色まで完璧に再現してあり、素人が見たら比べはつかない匠の仕上がりとなっている。

「これでホテルの事件のときに、フリードと入れ替わるんだ! それで、その後、六課に移動して、フリードをスカさんに送ってもらって元に戻る」

『召喚師は気づく可能性は高いよ?』

「…短い間に、ばれない事を祈るだけだ」

そこら辺は、神頼み。まあ、ほんの数十分だし、何とかなるだろ。

「その後、この六課の清掃職員として働いている、デ・ト? 本名だか、なんだか知らないけど、この目立ってない人物と入れ替わる! 幸いこいつ黒髪で顔はいつも隠しているみたいだし、それに清掃員なんて誰も覚えてないだろ!」

地味な痩せ型っぽい男だし、そいつは、とりあえず監禁でもしとくか?
いや、むしろ金でもやってどこかに行ってもらったほうがいいか?

「この六課の寮に俺が侵入するから、連絡はこのスカさんでする」

アクセサリーでギリギリ誤魔化せるだろう。

「ついでにフリードは、眠らしておいてもらうから、スカさん! 強力な竜でも眠る薬をよろしく!」

『わかったよ』

「竜の姿で指差してくるな。なんか腹立つ」

…手が動かしにくいんです。











おまけ


ここは、嵐たちが会議している場所とは離れたリビング。
そこでナズナは、汚れが気になり、掃除をしているところだった。そこにアリシアがやってきた。

「ナズナ!」

「アリシア? どうしました?」

掃除を中断してアリシアの方を見たナズナは、ニコニコ笑っているアリシアを見て、少し嫌な予感がした。

「ミーティアに聞いたよ。かなり本気でいったって」

「はあ」

「ずばり! その人に嵐のことを知られるのが嫌だったんでしょ!」

「っ!?」

ここで笑顔で「違います」と言えば誤魔化せるが、ナズナは嵐の事となると嘘が下手になる。
そこら辺は、オリジナル譲りかもしれない。

「ちち、違います! 少し違う場所を掃除してきます! 大体!何で私が高町なのはに嫉妬しなくちゃいけないんですか! 確かに昔からマスターは、高町なのはのことを気にしていますが!」

何か一人でぶつぶつ言いながら、ナズナはアリシアから逃げていった。

「……」




~アリシアの想像~


「マスターは、私のものです! パッと出てきてマスターを横から掻っ攫おうなんて、この泥棒猫!!」

「恋に遠慮しているナズナちゃんが悪いんじゃないかな? 私は何だって全力全開だよ?」

「いままで男がいるどころか、レズ疑惑まであった奴が何を言ってるんですか! いいから、マスターを返しなさい!」

「っな!? そんなことナズナちゃんに言われたくないかな。それにナズナちゃんのことより、私のほうが好きかもしれないよ?」

「ありえません! ていうか、マスターを離せ!!」

「嫌だといったら?」

「とりあえず、消し飛ばします」

「全力全開?」

「全力全壊で」

「それじゃあ力尽くで来たらどうかな?」

「少し、頭割りましょうか」

「出来るならどうぞ」

「…とりあえず、猫モードをやめていいか?」


~終了~




「それはないか」

「何を想像しているんですかアリシア。プレシアが呼んでいますよ」

「あ、リニス! わかった、すぐ行く」










<あとがき>
次回はホテルアグスタだ! そして、未確認勢力も動き出す! と思う!



[6935] 第65話「未確認勢力 薺の危機」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:7c42c911
Date: 2009/06/21 13:43
「主、スカリエッティから連絡です」

「ああ、ご苦労様。何て言っていましたか?」

「今がチャンス、と一言」

「そうですか。なら出ましょう。頼みましたよ、お人形さん」

「……」



第65話「未確認勢力 薺の危機」



side--


ヴァイスの操縦するヘリの中、機動六課のフォワードメンバーは揃っていた。
その全員が注目しているモニターに写っているのは、スカリエッティだった。
恐らくD-スカリエッティが見れば、少々写りが悪い。取り直そうと言い出す顔だった。

「違法研究で広域手配されている、次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティの線を中心に、操作を進める」

前回のガジェットの破壊部分から発見された名前の入ったプレートにより決定された。
この他には、もしかすると、ナズナや嵐もスカリエッティと協力している線も考えられている。
最も、ナズナや嵐がこのはなしを聞けば、大笑いするか怒り狂うかのどっちかだろう。スカリエッティ(人間)に協力するなんてありえないと叫びながら。

「こっちの捜査は、主に私と一年間私の助手として来てもらうコーデリアさんが進めていくんだけど、みんなも一応覚えておいてね」

その言葉に全員返事をするが、スバルは、何か引っかかりを覚えた。

「で、今日これから向かう先はここ! ホテルアグスタ!」

「骨董美術品オークションの…」

なのはたちが行き先の説明をしている中、スバルは、何かを考えながら
ずっとザフィーラの頭を撫でていた。そんな扱いでいいのか言いたくなるが
彼からすれば新人に撫でられても、そんな扱いには慣れていると言うだろう。悲しいが。

≪ちょっとスバル! あんた何考えてるのよ!≫

さっきから話を聞いているのか微妙な相棒に、ティアナは念話で呼びかける。

≪う~ん…コーデリアってどこかで聞いた名前のような…≫

≪か、勘違いじゃないかしら≫

相棒のこういうところは慣れているティアナだが、何か様子がおかしかった。

≪どうでもいいから、話に集中しなさい!≫

≪ご、ごめん≫

相棒に話に集中するように注意し、ティアナも隊長たちの話に集中することにした。


コーデリア・マセラティ。
訓練生の時のティアナが戦い方を見て、尊敬し、スバルに話した人物である。





sideシントラ


周り一面に木が茂っている中に、あたしとアインスは座っていた。
今回は、あたしとアインスは暴れるだけでいいらしい。

「ここでいいのか?」

「そうみたいだ。ここでもう少しで何かが来るらしい」

「そっか…」

「どうした? 緊張しているのか?」

「してねえよ。だけど、今回の回収で嵐は、全部終わりって言ってたからさ」

「そうだな。私は、今回から始めて手伝いをするんだが、それが最後とはな」

「まっ、長引きそうな回収だけどな」

あたしは、夜天の栞と呼ばれるデバイスから生まれたプログラム。
その栞は、今はアインスが所持しているけど、マスターは姉御と…嵐だと思っている。
その二人が、したいことを手伝えるなら、例え次元世界を管理している奴らだろうとぶった切ってやる。
それで、あの二人が笑ってくれるなら、あたしは嬉しいしな!

「お前も変わったな」

「変わった? 何が」

「さてな」

顔を空に向けてニコニコと笑っているアインス。変なこと言うアインスだな。
それにしてもこんな作戦で本当に上手くいくのか?





――作戦会議


「作戦が決まった! 俺が六課に侵入する! 以上!」

機動六課がホテルアグスタに行く日、あたしと姉御にアインス、それに嵐が揃っていた。

「質問は!」

「とりあえず、全部だ」

「あたしにもわかるように説明しろ! というか潜入って何する気だ!!」

当然のごとく、あたしとアインスが講義する。
どんな作戦かは知らないけど、何かいろいろと省きすぎている気がしてならない。

「今日は、ホテルアグスタの任務にこっそり行くんだ!」

だから、それを細かく聞きたいんだって言ってるのに!

「そこで、俺がキャロの竜に化ける」

「キャロ?」

『六課にいる、竜召喚だよ』

召喚師か。本体を狙うのがメジャーだよな。

「そこで、ナズナには待機しといてもらってだな! フリードを預かってもらう役になってもらう」

姉御が戦いに出ないのか? 何だか珍しいな。

「それで、私とシントラを呼んだ理由はなんなんだ? 何か私たちにも頼みたいことがあるんだろう」

「そうだ。姉御が行かないなら、あたしたちが行くってことなのか?」

嵐は、ニッコリと笑って答えた。

「まあね。というか、シントラには今回は活躍してもらわないといけない」

あ、あたしが活躍!? 一体何をさせる気なんだ。

『君とアインスには、囮を頼みたいんだ。私たちが出来るだけ目立たなくなるような囮にね』

「つまり、陽動ということか」

「六課の目をシントラたちに向けている間に俺とナズナが森に準備を仕掛けておく。脱出経路もちゃんと用意しておくから、そこから逃げてくれ」





――ホテルアグスタ


「ったく、本当にいい加減な作戦だよな」

「そう文句を言うな」

あの会議の後、すぐにこのアグスタって言うホテル付近の森の中に入っているんだけど
一向に騒ぎは起こらない。本当に今日起こるんだろうか? …少し暇だし、嵐に買ってもらっといたチョコでも食うか。

「シントラ」

「ん?」

ポケットから、チョコを出して、口に入れようとしていたとき、いきなりアインスに止められた。

「やらねえぞ」

「違う」

「じゃあなんだ?」

「お前は、ナズナと嵐が帰ってしまう時、どうするつもりだ?」

嵐と…姉御が帰るとき…
確かに姉御は、嵐の世界についていくといっていた。ついでにスカ山も。
その話を聞いて時、あたしの頭にも嵐の世界が浮かんだけど、自分で誤魔化していた。まだ先のことだって。
けれど、それはもう目の前まで来ている。ならあたしは…

「あたしは…」



―――ドォン! ドン!



「…始まったようだ。行くぞ」

「あ、ああ。わかった」

どうやら、嵐の言ったとおり、事件は起きたようだ。おかげで、答えが出なかったけど
まあ、それはまた今度考えればいいか!

「「ユニゾン!!」」

そういえば、あたしは何て言おうとしたんだろう。





sideout


「お~、始まってる始まってる」

ホテルから少し離れた木の上で観察していると
ところどころで、火柱が上がっている。

「よっと」

木の上から、飛び降り、先ほど出会ってしまった人物の前に飛び降りる。

「いや~、召喚って便利なんですね~」

「お前達は、何故ここにいるんだ?」

転移してきて、森に入って少し歩いただけで、この人たちと遭遇だよ。
ナズナも相手が魔導師だから、構えて戦いが始まりそうな空気にしちゃうし、本当に焦った。
とりあえず、ナズナにデバイスを下げさせ、敵でないことをアピールして、事なきを得たが。

「いえいえ、今回は私情のことなんで、スカリエッティは関係ありませんよ。というかそれじゃあ、この襲撃はゼストさんじゃなくて、俺たちに頼むでしょ」

「…確かにそうだな」

かなり疑いを持たれてる…。やっぱりデバイスがスカさんだからか!?
いや、でもそれはまだ話してないから知らないはずなんだけど…

「マスター。シントラが戦闘を開始したようです。行きましょう」

「あ、わかった。それじゃあ、この魔力リミッターをつけて…」

海鳴で暮らしていたときにつけていた、魔力を消すマジックアイテム。これでレーダーには引っかかりにくいはずだ。

「じゃあゼストさん、失礼します」

「ああ」

かなり無口なゼストさんに別れを告げて、俺とナズナは森の奥に進んでいった。
時々、ガジェットの残骸などが落ちていて、危ない。





sideシグナム


周りにいたガジェットは、片付けたと思っていたとき、シャマルから、突然の連絡が入った。

『シグナム、そこから、少し遠くに、魔力反応があるわ』

「遠く?」

空中に飛び、シャマルの言うとおり、周りを探してみると
突如、少し離れた森から、稲妻を纏っている竜巻が発生した。

「なっ!?」

それは、一瞬だった。まだ、生き残っていたガジェットすら巻き込み
周りの木々をもなぎ倒し、その竜巻に触れた物全てを焦がした。

「シャマル! すぐにそこに確認しに行く」

『ええ、お願い!』

私は、すぐにそこに駆けつけ、竜巻が収まるのを見届けた後、その発生地に踏み入った。
そこにいたのは、淡く光る白い光を纏い、蒼と黒、そして白が混ざったバリアジャケットを着たヴィータに似た少女がいた。
肌はザフィーラと同じく褐色の色をしている。
そして何より眼を引くのが、自分の体よりも大きい剣だ。こいつが我らと同じ体を持つシントラか? 情報と少し違うが…
…まさかユニゾン? なのはから聞いた情報では、ナズナという魔導師が融合騎を連れていたと聞いていたが…

「貴様、ここに何をしに来た」

「…別に」

シントラは、特に答えるつもりはないのか、そっけない態度をとってきた。
しかし、何だ? こいつからは、どこか懐かしい感じを受ける。

「我々の邪魔をしにきたのか?」

「そうだと言ったらなんなんだよ」

「ふっ、ベルカの騎士の風上にも置けん奴だということだ」

ヴィータと似ている容姿だからか、挑発に乗ってくるかと思ったが、存外に冷静にシントラは返してきた。

「…ベルカの騎士とか、そんな称号は要らねえ」

「何?」

我らと一緒の存在と聞いていた。ならばベルカの騎士として誇りを持っていると思っていたんだが…

「あんたはあんたの守りたい奴がいるだろ。あたしだっている。出来ればずっと笑顔でいて欲しい奴が。そいつのためだったら、騎士とかそんな称号、どこにでも捨ててやる」

…なるほど、そうだな。私も主はやての命を救うためならば、この剣だって捨てても構わないと思った。
闇の書事件の時は、どれ程考えたか。自分が変わってやりたい。何かしてやりたいと。
こいつも一緒なんだろう。あの時の私たちと。

「…失礼したな。先程の無礼を詫びさして欲しい。お前は、私と変わらない、強い志を持ったベルカの騎士のようだ。ならば、名乗ろう、私はシグナム、ヴォルケンリッターの一人、烈火の将シグナム」

「…あたしは、シントラだ。特に名乗ることはねえ」

互いに剣を構える。お互いの視線が交わる。
すると、突然、シントラを纏っていた白い光が消え、バリアジャケットも蒼と黒に変わった。懐かしい感じも少し薄れた。

「…どういうことだ」

「…いろいろと事情があるんだよ。それにあんたとは、あたしだけの実力でやりたい」

融合騎なしで私とやりたいというわけか。いいだろう。

「融合騎はどうした」

「違う場所で待機してもらってる」

ほう、一瞬で転移するとは中々優れた融合騎のようだな。
しかし、私にはリミッターがある。思うように動けないかもしれない。だが、ここで逃げるなど論外だ。

「…参る」

「行くぜ!」

こんなにも心が躍るのだから。










sideout


さてと、大分奥まで進んできたな。周りのガジェットの残骸が多くなってきたのが証拠だ。
とりあえず、ここに魔力を察知できない結界を張ったので、シャマルさんにも見つからないはずだ。
シントラの脱出ポイントのマーキングポイントも設置したし、後は、キャロを探すだけだな。

「ナズナ、ちょっと練習するからこれ持っといて」

「はい」

ナズナに荷物と首飾りを渡し、変化魔法を発動させる。体が縮み、手が広がる感覚があって、それが収まる。
眼を開けると、目の前のナズナが大きくなっていた。

「どうだ? 完璧?」

俺的には完璧にフリードを再現しているはずなんだけど

「はい。竜に見えます」

『ああ、どこから見てもあの竜にしか見えないよ

どうやら完璧に変化できていたらしい。
子供の頃に散々猫に変化していたおかげで、体が小さくなっても移動には困らない。

「よっ! はっ!」

大きな翼を上下し、体を浮かそうとするが…

「やっぱ自力では無理か…」

やっぱり飛べなかった。初めに変化した時も、翼を羽ばたかせ飛ぼうとしたが
人間が変化した、体で空を飛ぶのは無理だった。
スカさんが言うには、飛ぶ生物に変化して魔力を使わずに飛ぶのは、かなり高度な変化魔法らしい。
もちろん俺にそんな高度な魔法が出来るはずはない。翼を羽ばたかせ、普通の飛行魔法を行使し、空を飛ぶ。

「練習はこれくらいでいいな」

『そろそろ戦いも終わる。竜召喚師を探しに行くといい』

元の状態に戻り、ナズナから荷物を受け取る。

「それじゃあ、フリード捕まえた時は、ここに送るから、ナズナはここで待機しといてくれ」

「はい。気をつけてください」

ナズナに待機しているように頼み、俺とスカさんは、キャロを探しに行った。





「いねえな」

『いないね』

森の中を歩きながら探しているんだが、一向に見つからない。
空を飛んで探せば楽なんだけど、それだと見つかってしまう。

「考えたら、そこら中で爆発音が聞こえてるんだし、それを頼りに探しても見つかるはずないよな」

『どこにいたとか、覚えてないのかい』

「ホテル付近だったと思うんだけど…」

確かホテル付近で戦闘していたような気がするんだけど…
そう言えば、ヴィータが大声でティアナに注意していたよな? 攻撃ミスとかで
だったらヴィータの声を探せば見つかるかもしれないな。

「よし、永遠のロリー…あれ?」

『どうしたんだい』

「俺って首飾りつけてなかった? サラーブに置いてきたっけ?」

つけてきたような気がしたんだけど、勘違いだったか?

『何を言ってるんだい。君は、ナズナに預けたままじゃないか』

「あっ! しまった。預けっぱなしだったか」

変化魔法の最後の練習の時に預けたままだったか…

「どうしよ…」

『後で、ナズナに送ってもらえばいいだろう。そんなに気にする物かい?』

「…そうだな。…そう」

後で…これが終わった後で送ってもらえばいいか。










side--


嵐とナズナが別れた結界の中、ナズナは一人、マスターである嵐を心配しながら
結界内で正座しながら、一人待機していた。

「マスターは大丈夫でしょうか」

『I think it is safe. Because the Ran is unexpectedly strong(大丈夫ですよ。嵐は、意外と丈夫ですから)』

「そうですね…」

デバイス、ミーティアと話しながら、嵐が忘れていってしまった首飾りを握り締める。
その、何かに祈りを捧げている姿を見ていたのは、ミーティアだけではなかった。
背後から、何者かが接近してきているのに、ナズナは気づいた。

「ミーティア!」

『Blade Shoot』

即座にデバイスを後ろに向け、攻撃するが、攻撃に命中した人物は、何事もなかったかのように
攻撃を弾いて、否、吸収した。

「なっ!?」

命中したはずの攻撃が、何事もなかったかのように反応され
一瞬焦ったナズナだったが、すぐに冷静になり、もう一度同じ攻撃を繰り返すが

「効かない!?」

やはり体に吸い込まれていってしまう。遠距離攻撃は効かないと判断したナズナは、ミーティアをブレードフォームにしたまま
今度は、直接攻撃に切り替え、切りかかった。しかし、当たる直前にまた違う乱入者に防がれてしまう。

「……」

「あ、新手!?」

ナズナは知らないが、スバルとギンガが好んで使っているリボルバーナックルを装備した
女性の魔導師に魔力刃が防がれ、その隙に先程突っ込んできた人物に腹を強打され吹き飛ばされる。

「ぐっ…」

『Is it safe.master!? (マスター、大丈夫ですか!?)』

「大丈夫です。少し油断しただけです…」

腹を押さえながら、ナズナは敵を観察する。
ナズナは、一番初めに殴ってきた女性を見るが、女性は、灰色の髪をなびかせ、整っている顔をしていた。
ナズナを殴り飛ばせる力がどこにあるのかと思ってしまうほど華奢だ。
しかし、整っている顔をしているが、ナズナには、何故かその顔が人形みたいに感情がないように見えた。
もう一人の方は、仮面を付けていて、表情が読めない。青い長髪をしている。

「何者ですか」

ここに来れて、さらに犯罪者かどうかわからない自分にいきなり殴りかかってくるということは
管理局ではないだろうとナズナは判断し、デバイスを突きつけ、何者か問い詰める。

「……」

「…答える気はないようですね」

しかし、敵側は、答える素振りさえ見せない。ナズナは、このまま問いただしても無駄だと思い
とりあえず気絶させてサラーブに連行してしまおうと考え、デバイスを構えなおす。が--

「っ!? バインド!?」

ナズナの体が突然浮き上がり、バインドされていた。
普通のバインドは、体を縛り動けなくするが、このバインドは、腕を吊り上げ、地に足をつけなくし、動けなくしてある。

「いや~、こんにちは」

そしてそれをしただろうと思われる術者の声が、二人の女性の後ろから聞こえてくる。

「いやいや、数年前とは、比べ物にならないほど綺麗になりましたね」

「…お前は…」

お前なんか知らないと言おうとしたナズナだったが、どこかでその声を、聞いたことがあった。

「覚えていませんか? 遊園地で会いましたよね」

「…あの気味が悪い人形劇の男…」

少し記憶が曖昧だが、小さい頃、確かに会ったのを覚えていた。
記憶が曖昧なのは、間接キスとかの方が濃いせいかもしれないが…

「その人形劇の男が何のようですか」

「あなたが欲しいんです」

「は?」

こんな状況じゃなかったらプロポーズにも聞こえる言葉だが、ナズナには、言っている意味がわからなかった。

「実は、僕って人形が大好きなんです。特に女性の人形なんて、堪らなく好きなんです。だから、あなたが欲しい」

吊り上げられて動けないナズナの体に近づき、足や体を摩る。
ナズナの体に鳥肌が立ち。顔に浮かぶ嫌悪感を隠さずに出す。

「断る。誰がお前なんかの人形になるか。離せ! 触るな変態!」

その言葉に、残念そうな表情を浮かべる男は、ナズナの顎に手をかけ、上向きにした。

「は、離せ! 触るな」

「残念です。僕は、女性を無理矢理操ったりするのは、嫌いなんですけどね」

その言葉を言うや否や、ゆっくりとナズナに顔を近づけてくる。
ナズナたちには、見えてないが、ナズナを攻撃した灰色の髪を持った女性が、苦い表情をしていた。

「離せ! 離せ! 離せぇぇ!!!」

そんなことに気づく余裕もなく、ナズナは、顔を振り、眼に涙を浮かべて、拒否している。
しかし、腕が吊り上げられているナズナに逃げ道などなく、徐々に男の顔が近づいてくる。

「い、嫌…」

嵐が忘れていった赤い首飾りを握ることしかできないナズナ。
そんなナズナと、男の距離がゼロになる…












































前に、杭のように太い赤い柱が、男の肩を貫いた。





「とりあえず離れろ変態。話はそれからだ」










<あとがき>
…あれ? 嵐が主人公みたいだ。ヒロインじゃなかったけ?
かなり長くなってしまったホテルアグスタ。まだ終わりじゃありませんが…



[6935] 第66話「人のよm 仲間に手を出してただで済むと思うな」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:7c42c911
Date: 2009/06/20 12:04
「おやおや、ご主人様のお帰りですか」

「ご主人様とかじゃないから。というか離れろ」

「いいとこで邪魔してくれますね。もしかして見てました?」

「誰が見るか。というか離れろ」

「まさに横槍ですよ。空気読んでください」

「すまんな。変態と美女の公演は、今度にしてくれ。というか離れろ」

『引き返して正解だったね。というか落ち着け』



第66話「人のよm 仲間に手を出してただで済むと思うな」



キャロ探索作戦をしているつもりだったので首飾りを忘れてしまったのは仕方ないと思い諦めていたけど
どうも首飾りがないと落ち着かないということで引き返してきた。
ようやくたどり着くと、何やらナズナが待機している場所が騒がしい。ガジェットでも紛れ込んできたと思い、合流しようとすると…

「い、嫌…」

何故かナズナの滅多に聞けない嫌がるボイスが聞こえてきた。レア度高けえなぁおい。
そんなこと考えている場合じゃないと気づいた俺は、ナズナの声が聞こえた方向に走った。
そして茂みを抜けた先には、白髪のイケメン野朗がナズナに近づいていっているのが眼に入る。
リリカル世界では、男のイケメンは、珍しいよな。ゼストは、おっさんでイケメンというよりダンディーって感じだからね。
まあ、そんなのんきなこと考えられてたのは、一瞬だったよ。まず排除しようと思ったからね。イケメン野朗を。

「スカさん」

『ブラッティ・カートリッジ使用』

即座にBカートリッジを使用し、カートリッジの血液全てを魔法に行使する。
太く強靭な杭のような血の柱。ブラッティ・ピラー。俺の攻撃魔法の中で上位の攻撃力を誇る。
これを、カーミラに見せたときは、嫌がられると思ったが、「デカイ杭だな~」と相変わらず全く吸血鬼の片鱗も見せないご様子だった。
それをナズナに当たらないように細心の注意を払いながら、投げつける。そして、見事イケメン野朗に直撃。さり気なくガッツポーズ。
まあ、いきなりこんなことをしては、失礼かもしれないが、まず言うことがある。

「とりあえず離れろ変態。話はそれからだ」

ナズナに近づこうなんて百万光年早い。





「…相変わらず、便利な魔法ですね」

イケメンは、肩に血の柱を指したまま、連れっぽい二人のところに下がった。
その内にナズナに近づき、バインドを破壊し、腰が抜けてるのか、立てないナズナに肩を貸す。
ナズナの体は、そこまでダメージはなさそうだが、何か精神的にダメージを受けている様子に見える。あのイケメンに何かされたか?
だとしたら益々あの変態は許すわけにはいかない。千回地獄を見てもらおうか。

「大丈夫か? 何か変なことされてないな?」

「…はい。だ、大丈夫です」

微妙に涙ぐみながら、ナズナは答えてくれた。一応変なことはされていないっぽいな。
…されてないよな? されてないよね?

「あなたがもう少し遅ければ、上手くいったんですが」

「ああ、残念だったな。人生を終えてから、もう一回チャレンジしてみろ」

「それならいいんですか?」

俺の言葉にニコッとして問うイケメン。5人に3人は落ちるだろう美形スマイル。

「有名な除霊師呼んどいてやるよ」

とりあえず、ナズナを木にゆっくりと寝かせ、イケメンの変態を見据える。
相手は三人。俺一人では、到底かないそうにない相手だ。まあ、ただでは負けてやらんがな。
ナズナを傷つけた罪は、そのイケメンをイケメンといえない顔にするぐらいしてやらないとな。

「変態が潜んでいるとは…油断した」

「…貴様!!」

まず挑発をして、それに乗ってくるかを試してみると、思わぬ奴が挑発に乗ってきた。
灰色のショートヘアの女が、突っ込んでくる。予想外だ。

「ま、マスター…そいつには、魔法は」

後ろでナズナが何か伝えようとしてくれてるが、ちょっと遅い。
敵は、既に俺の懐に向かってきている。けれど、そこに来るには、超えなきゃいけない罠があるんだな、これが。

「なっ!?」

女が、俺の懐にたどり着くことはなかった。
さっきナズナを木に寝かせた時に仕掛けておいた罠。ブラッティ・マイン(強)
Bカートリッジ一発分の簡易の罠。カートリッジに近づくと発動するようになってある。威力は、小さいが、体中に針が刺さるせいで動きが鈍くなり、攻撃がしにくくなる。
見事に罠に嵌った女は、赤い針に貫かれて、体中針だらけになった。

「ナズナ! 何だったんだ!」

「え? あれ? 魔法が効いてる…」

ナズナは、女に魔法が効いているのに驚いている様子だ。一体どういうことなんだ?
まさか魔法が効かない敵だったのか? だけど俺の攻撃は通っている。どういう仕組みなんだ?

「…相変わらずあなたの魔法と彼女は相性が悪い」

「す、すみません。主…」

「下がってなさい」

相変わらず? 俺はその女と戦うのは初めてのはずだ。
なのに相性が悪い? 何でそんなこと知っているんだ。それに相性ってどういうことなんだ。

≪思い出した≫

敵の動きを観察していると、スカさんが、念話で話しかけてきた。

≪思い出したって?≫

≪今、君の目の前にいる敵のことだ。彼は、ジムキオ・ヘムローディ。次元犯罪者の一人だ≫

≪次元犯罪者? どんなことをっ!?≫

念話での話はそこまでだった。イケメン…じゃない。ジムキオが俺に殴りかかってきた。
体中に針が刺さっている女は、もう一人の敵の後ろで待機している。
もう一人の女は、今のところは手を出してくる様子には見えない。ジムキオ一人で戦うつもりか!?

「いきなりかよ! ちょっとは待て!」

せめて、肩に刺さっている杭を抜くぐらいしろよ! 痛みを感じてないのか?

「戦いとは、いつも突然ですよ。油断しているといつ殺られるかわからない」

ジムキオは、笑顔で俺に拳を連打してくる。身体能力も中々のようだ。

「うお!?」

足を払われ、地面に倒される。そのままトドメを刺すつもりか、腹に向かって拳を振り下ろしてくるが
俺もこのままやられるわけにはいかない。プロテクションを展開し、拳を防ぐ。

「ほう。この程度では、無理ですか」

「当たり前だ! とりあえず、死ね!」

プロテクションに叩きつけられた拳を掴み、俺の手と血で固める。
そして、肉体強化を活かし、ジムキオを思いっきり持ち上げて、血を解除し、木に叩きつけようと投げ飛ばすが

「おっと、危ない危ない」

手から魔力で出来た糸? のような物を出し、手ごろの木に巻きつけ、威力を弱め、そのままゆっくりと
木に衝突するが、もちろんダメージなんてない。
というか、こいつのさっきの糸って、俺のブラッティ・ストリングとそっくりじゃないか。
しかも、こいつの動き一つ一つがなんか優雅で腹が立つ。顔面に拳を叩きつけたい。思いっきり。
それに、初めにブラッティ・ピラーを肩に食らっているはずなのに本当に痛みを感じてないのかこいつ?

「今度は、こっちから行くぜ!」

対抗意識を感じた俺はブラッティ・ストリングを発動。
ジムキオの足に絡みつかせ、思いっきり引っ張る。すると案の定地面に倒れる。
そのまま引っ張り、今度こそ木に叩きつけまくってやろうと考えて引っ張り続けたが。

「それ」

「ぶっ!?」

糸を石に巻きつけて、俺の顔面目掛けてぶつけてきた。
ジムキオを引っ張っていた俺がかわせるはずもなく、普通に命中してしまうが、やられっぱなしは趣味じゃない。
紐を、引っ張って俺の足元にジムキオを連れてくる。

「死ね!」

「っか!?」

さっきとは、逆の立ち位置になっていたが、そんなことは気にせず
強化した拳を振り下ろし、見事に腹に直撃させた。その時、何かジムキオの体に違和感があった。
普通の人間より少々硬い感じがする…

「……」

確認のため、もう一発殴ろうと思ったら灰色の髪の方じゃない女に片手で攻撃を受け止められた。
…あれ? こいつ、どっかで見たことある? え? どこだ? せめて顔見せろ。

「……」

仮面を引き剥がそうと顔に触れようとしたら、もう片方の手で殴りかかってきた。

「させるか!!」

こっちも倒れていたはずのナズナが、ソニック・ムーブを発動させ
ミーティアの、魔力刃で拳を受け止める。
力は、あっちの方が強いが、速度が加わっていたナズナが若干押している。

「すみません。もういいですよ」

「あっ!?」

下で倒れていたジムキオがいない!? あんな短時間で逃げたのかよ!? 以外に逃げ足速いな。
その言葉に了解したのか、青髪の女も跳躍し、ジムキオの隣に降り立つ。

「この程度か」

戦えない程じゃない。するとジムキオは、俺のほうとナズナの方を見て、ニッコリと笑う。

「やっぱり慣れない戦い方は、するんじゃないですね」

「慣れない?」

言葉が終わると共に、奴の周りに三つの四角い魔法陣が浮かび上がる。
魔力光は白なんだが、どこか罅というか、ノイズのようなものが見えて、汚い印象を受ける。

「召喚魔法!?」

その魔法陣から現れたのは、道化師が着ているような派手な服を着ている、地面に顔を向けてるただの男だった。
残りの魔法陣からも似たような男が出てくる。全部で三人の気味の悪い男が召喚された。

「…なんだ?」

「始まり始まり~」

ジムキオののんきな声に反応したのか、全員がグルンと顔をあげる。更に気味が悪くなった。
そのまま変な動きで俺に近づいてくる姿は、恐怖を覚える。そして一人の男が口を大きく開け、俺に飛び掛ってきた。

「うぉわ!? 何だ!?」

「マスター!」

まさか噛み付いてくるとは思わなかった。人間じゃないのか?
もしかして、合成獣とか、そんなんじゃないよな? あ、よくできた人形か!? ならば!!

「ウウウうぅウ!」

「人に噛み付いてはいけないと教わらなかったのか!!」

「おゥ!?」

腕に噛み付いてきたので、ブラッティクロウを展開し、そのまま腹に攻撃する。

「アっ…」

「なっ!?」

俺の攻撃した箇所から、ドロリと、血のようなものが流れ出てきた。これは、俺の血じゃない。生暖かい。
俺の魔法は、見た目は危なく見えるが、非殺傷だと実際は魔力刃と同じで、魔力的ダメージしか与えない。
なのに何でこいつからは、血みたいなものが流れてくるんだ!? 人形に態々赤いペンキでも入れているのか?
いや、血を使っている俺にはわかる。これは、本物の血だ。

「くっ!?」

腕を振るい、人形? だと思っていたものをジムキオに投げつける。
よく見てみると、周りの人形? は動きを止めていた。俺が攻撃して、血を出した人形? は、魔法陣の中に戻っていった。

「吃驚したかい? これが僕の技能。パペッターとでも言いましょうか」

「…パペッター?」

「詳しいことは、話せませんが、僕がある仕掛けをした人間や、機械、その他にも色々ありますが、僕が仕掛けをした物は動かせるんです。宛ら人形遣いのようにね。魔導師なんかは、その人が使える魔法まで操作できます。」

ジムキオは、ニコニコしながら俺に説明している。まるで子供に御話を聞かしているみたいだ。
そんなジムキオの態度が気に食わない。今すぐ殴りつけてやりたい。

「この血は…」

「ああ、血のことならご心配しないでください。その男は、何年前かに死んでいます。僕って男性を人形にするなら生かしてするのは、嫌いなんです。生きたままは女性に限りますよね。だけど、戦いで血が出ないこの時代は、つまらないと思いません? だから僕が操作する男性の人形は、魔法は自動的に非殺傷に変換されます。リアルでいいでしょう? 保存しておくのは結構面倒くさいんですよ」

「お前、腐ってるよ。だけどいいのか? 俺にそんなこと話して」

こいつらは、正体不明だが、俺たちに攻撃を仕掛けてきているってことは、敵側のはず。
その敵にわざわざ自分の能力を話すなんてよっぽど自分の腕に自信があるか、ただの馬鹿かの二択だ。

「此方だけ知っているのはフェアじゃないでしょう?」

会話をしながらもさっきの人形たちは、デバイスと思われる武器を構えなおした。
ハンマーのようなデバイスと、双剣のデバイス。正直キツイ…
それでなくても、残りのBカートリッジは、四つなのに…。だけど、こいつは懲らしめないと気がすまない。
それにあいつには、まだあの杭が刺さったままになってる。いい加減抜けばいいものを。馬鹿にしてるつもりなのか?

「どうしますか? まだやりますか? 大人しくナズナを渡してください」

…は? 何、名前で呼んでんだ? 使うか。

「お前が名前で呼ぶな! 爆散!」

苦手な遠隔操作を行い、肩に刺さっている杭を爆発させる。
非殺傷の場合、外側に魔力的ダメージが与えられるが、この場合内側にダメージが与えられる。

「主!」

「あら? 久しぶりで油断してました」

「…お前、人間じゃなかったのか」

見事に攻撃は成功した。だけど、ジムキオの顔は歪むどころか、笑顔のまま。
それも腕が吹き飛んでいるのに血さえ出ていない。戦闘機人でも、出血はするはずだ。

「自分で考えてみれば、面白いかもしれませんよ。今回は引きます。次回の御話を楽しみにしといてください」

奴らの足元に魔法陣が浮かび、その中にゆっくりと消えていく。吹き飛んだ腕は、灰色の女が回収済みだ。

「二度と来るな。ナズナ、大丈夫か」

多分、去ったと思うのでさっき起き上がった後、すぐに木に寄りかかってしまったナズナの様子を見る。

「はい。すみませんマスター。主であるマスターに助けてもらうなんて、従者失格ですね…」

よっぽど、あの変態たちにやられたのがショックだったのか、まるでお先真っ暗のような顔だ。

「まあ、泣くな? 俺は、今までナズナに助けてもらってたんだから、寧ろやっと助けることが出来てうれしいよ? これからは、ナズナに助けてもらうだけじゃなくて、お互いに助け合っていこうな?」

ようやく俺だってナズナと肩を並べられる位には、成長したんだ。
いつまでも助けてもらってるのは、さすがにしのびない。

「は、はい! こ、これからもよろしくお願いします!」

やっと機嫌を直してくれたのか、笑顔になってくれた。これで一安心。

「詳しい話は、これが終わってからにしよう。もう爆音が聞こえなくなってる。襲撃が終わったんだ。今からキャロを探しにいってくるから、ここで待機しててくれよ? もし危なくなったら、真っ先に俺に連絡してくれ」

「わかりました。あっ、待ってください」

何? と言う前にナズナが抱きついてきた。

「な、ななんあななな、ナズナさん!? なな、何をしているんでせうか!?」

「消毒です」

ああ。あの気持ち悪い男に触られたからね。というか、普通はこれ俺がするシチュエーションだよね?
こう、「あんな男に触られたなんて! 俺が消毒してやるよ! ちゅっ」見たいな感じですね。わかります。
イケメンとは言え、あんなキモイ性格の奴に触られたら寒気がするよね。わかるわかる。
俺が女でも、いくら顔がいいからと言ってもやっぱり性格って大事だもんね。選ばないよあんなイケメン。
消毒といえば、昔は訓練でよく怪我してナズナが怪我を見てくれたよな。簡単な怪我だとスカさん、魔法使わないんだもんな。治癒力とか言って。
変態といえば、気持ち悪い顔が思い浮かぶんだけど、あんなかっこいい奴もいるんだな。アリシアたちにも注意しとかないとな。
それより、いろいろと当たっててやばいんですけど。俺のことを好いてくれるのは、嬉しいけど
俺も健康な男の子。いろいろ限界が、その、もう鼻血出そうとか、いや、あのね、ああああああああああ!!!!!





「ああ、これを取りに来たんだよ」

「気をつけてください」

ナズナから、赤い首飾りを受けとり、今度こそキャロ探しに出発した。
…うん。耐えた俺はいろいろと偉いと思うよ。でも心が傷ついてる女の子を襲うってどうよ? って考えたら冷めたわ。





side--


「「紫電一閃!!」」

嵐たちが戦っている間、シントラとシグナムも互いに全力を尽くし戦っていた。
風と炎が衝突し、炎が、風に煽られ、そして、二人の熱気によって、森に熱い空気が立ち込めている。
リミッターに縛られているシグナムだが、シントラも、ユニゾン時に、大技を放ったせいで
魔力的には互角となっている。そのため、何度も打ち合いになり、何度も相殺されるのであった。
それを何度も繰り広げては、シントラが押され、またはシグナムが押される。それを繰り返している。

「まだまだ!」

「来い!」

二人とも体に汚れてない場所はないと思うほど、ドロドロだ。
しかし。敵同士の戦いのはずなのに、二人の顔に浮かんでいるのは、喜の感情。
戦っているというより、舞っているようだ。
シントラもシグナムもお互い任務など頭に残っていない。ただ目の前の敵と戦うことしか頭にない。

「ぶった切れろ!」

「甘い!」

シントラの力が込められたエッケザックスを、シグナムは、レヴァンティンでうまく受け流す。
そして攻撃を受け流し、その攻撃によって出来た隙を見逃さず、素早く攻撃を加える。

「させるか!」

「っち!?」

受け流され、地面に突き刺さったエッケザックスを、そのまま力尽くで動かし、地面を抉りながらシグナムのレヴァンティンを受け止める。
シグナムもこんな荒業には驚いたが、すぐに笑みを浮かべる。

「頼もしいな。お前の剣は」

「エッケザックスを舐めるな!」

エッケザックスを引き抜く際に、土砂も一緒に巻き上げ、シグナムを巻き込む。
土砂のせいで動きが一瞬鈍ったシグナムを捉え、エッケザックスを振るう。しかし

「地面を抉るとは、豪快な奴だ」

「あんたは、動きが早い奴だな」

シグナムは、鞘と剣をクロスさせて巨大なエッケザックスを挟むかのように受け止めていた。
これ以上押し切るのは、無理だと判断したシントラは、一端引いて、エッケザックスを構えなおす。

「今度は、私から行くぞ。レヴァンティン!」

『Schlangeform』

シントラとの距離が離れてのを利用しカートリッジをロードして、形状を連結刃に変化させる。
いきなり、蛇のように伸びた剣を見て、シントラは、一時放心した。
しかし、すぐに意識を取り戻し、自分のデバイスを構え、周囲に巻きついてくるような連結刃を睨む。

「早くて見切れねえな。危ね!?」

連結刃は、シントラの周りを覆っているだけではなく、隙在らば噛み付いてくる。まるで蛇のようだ。

「くっそ、周りを囲まれちまった。こうなったら本体を叩く!」

エッケザックスで、眼の前の連結刃に振り下ろし、活路を見出す。
目の前には、連結刃のコントロールに集中しているシグナムが眼に入った。
連結刃のシュランゲフォルムは、中距離の相手に攻撃が可能になりと、戦術の幅を広げるが、欠点がないわけではない。
今、まさにその状況に陥ってるが、コントロールに集中しなくては、いけなくなる。
それに気づいていたわけではないが、シントラは、好機かと思い、攻撃に乗り出した。

「その速さでは、私には届かないぞ」

シグナムの宣言通り、攻撃しようとしていたシントラの方が、連結刃によって攻撃されてしまう。
とっさにエッケザックスでガードしておかげでダメージは半減された。すぐに立て直すが、再び連結刃に囲まれてしまう。

「…速さが足りないなら、足してやればいいだけだ! ヴェーエン!!」

『wehen』

エッケザックスを後ろに構え、魔法を発動する。発動した魔法は、風を起こす魔法。
剣先から強力な風を起こし、強制的に自分の速度を上げる。発動後の進路は自分で操作しなくてはならない。
無理矢理連結刃の中を突破したせいで、体中に連結刃により傷がつくが、そんなのは気にしなかった。
それで、シグナムが攻撃をカバーする前にたどり着くには、十分な速度だったから。

「てぇええやああぁぁあ!!!」

「がっ、ぐっ」

シグナム目掛け一直線に飛んだが、連結刃の壁で位置が微妙にずれていたせいで、綺麗に攻撃が決まらず
攻撃は当たったが、意識を失うほどではなかった。

「ふふ、こんなに心が躍る戦いは久しぶりだ」

ふらつく体を無理矢理動かし、元に戻ったレヴァンティンを構える。
この風体なら、普通は、弱って動けないように見えるはずの彼女だが。今の姿は、まるで研ぎ澄まされた刀のようだ。

「行くぞ」

カードリッジをロードした途端、シグナムの周りを魔力光が激しく光りだす。
それを見たシントラも、エッケザックスを地に刺し、カートリッジをロードする。

「はあ、はあ。負けるかよ…」

シグナムと同じように、シントラの周りも魔力光で輝きだし、さらに風がシントラを包んでいく。

「飛竜一閃!!」

レヴァンティンを再び連結刃に変形させ、さらに魔力を乗せて放たれた。

「エルガーヴィント・ホーゼ!!」

エッケザックスが刺さった地面を中心にし、強力な竜巻が発生する。



二つの技が激突し、互いを食らいあう。
飛竜一閃は、高い貫通力を持つ。そのせいか、若干押し気味に見えるが
エルガーヴィント・ホーゼは、攻撃の魔法であり、守りの魔法でもある。術者を犯す魔法を徐々に削りつつある。
剣と風のぶつかり合い。周りの木々を薙ぎ倒し、ガジェットの残骸をも吹き飛ばす。
いつまで続くかと思われたぶつかり合いも、どちらの魔法も消滅しあうことで、終わってしまった。
消滅の余波で、お互い吹き飛ばされ、地面や、木に叩きつけられて、倒れたままになっている。



「うぅ…」

「ぐっ…」

意識は、二人ともあるが、体に無理をさせすぎたか動かない。
その時、シントラの倒れている場所にを白い魔法陣が浮かび上がった。シントラは少し警戒したが、念話が来た途端、警戒を解いた。

≪シントラ、嵐から、連絡があった。もう引いていいそうだ。マーキングポイントの場所まで転移させる。そのまま大人しくしといてくれ≫

≪悪いアインス…。迷惑掛けて…≫

≪気にするな。お前は、十分囮役になっていた。仕事はちゃんと成功した。今は、休んでおけ≫

≪…うん≫

シントラは、気張っていたのを緩め、そのまま眠ってしまった。
そのままシグナムが、起き上がる前にシントラは、転移完了した。










<あとがき>
がんばれ嵐くんとがんばれシントラちゃんをお送りしました。
今回で収まりきりませんでしたが、次回でようやく機動六課に入っていくと思います。
では!また次回!!



[6935] 第67話「潜入には 度胸が必要 ビビリには難しい」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:fd9652be
Date: 2009/06/20 12:22
「う~ん」

「キャロ、どうかしたの?」

「あ、エリオ君。ちょっとフリードの様子がおかしいような気がして…」

「おかしい?」

「説明しにくいんだけど…う~ん」

「……(もう気づくとか、早すぎだろ。マジやばいッス)」



第67話「潜入には 度胸が必要 ビビリには難しい」



変態野朗を撃退して、やっとキャロ探索を始めたところ、今度は以外に簡単に見つかった。
襲撃が終わった後の現場調査をしている最中だった。ガジェットの周りをウロウロしている。
ラッキーなことに周りには、フェイトやエリオはいない。一人で調査している。
そういえば、今頃、なのはと淫獣こと、ユーノが遭遇していることか? あの二人の関係は、よくわからんとアニメの頃から思ってたな。

「無駄なこと考えてる場合じゃないか。とっとと捕まえて、入れ替わりますか」

『さっさとしないと、またトラブルが起こるかもしれないから、早くしたほうが無難だね』

「了解だジェイル。任務を開始する」

気分は蛇! 確実に任務を成功させるぜ!!

『いいから、早く』

ノリの悪い奴だな。
とりあえず、草むらから、キャロの視界に入らないように慎重に移動し、ゆっくりキャロに近づいた。
幸いキャロは、ガジェットの残骸などの調査に真剣になっていて、少しくらい音を立てても気づかない。
あまり、音を立てずに行動は、得意ではないがこれなら大丈夫だろう。
あ、考えたら猫に変化して近づいていった方が安全だったんじゃないだろうか?

≪竜が、召喚師から離れた。今がチャンスだ≫

キャロの近くを飛び回っていたフリードは、鼻先に虫がくっついたのか、頭を振るうように飛び回り
キャロから距離が離れた。今が好機!!!

「クキュッ…―――」

一瞬で、フリードの口に、スカさんに頼んでおいた、竜でも眠る薬をつけたハンカチを当てる。
気分はまるでバーローの犯人役。もしかしたら俺は今、全身黒タイツかもしれない。周りから見たらだが。
そんなことを考えている間に、フリードは「キュル…」と声を上げて夢の中に行ってしまったようだ。
白銀の鱗を持った竜ってどれくらいで売れるんだろう? いや、売らないけどね。というか竜って食えるんだろうか? いや、食わないけどね。
…ジュルリ…

「スカさん。ナズナに連絡を」

『了解』

フリード捕獲が成功したので、回収役のナズナに連絡を入れる。

『マスター。終わったんですか?』

「ああ。この通りぐっすり。それじゃあ、こいつ一端送るから、後でまた送り返してくれ」

『わかりました。ではまた』

通信を切り、転移魔法でフリードとスカさんをナズナの元に転移させる準備を始める。

「それじゃあスカさん。詳しい話は、六課で安全に話が出来る状況を作ってからするから、一端ここでお別れだ」

『頼むから間抜けな真似をして捕まるなんてことはよしてくれよ』

スカさんがどういう眼で俺を見ているのかよくわかる発言だ。
そこまで信用ないかなぁ…俺って。そりゃナズナやシントラに比べられるとそうだけどさぁ…

「大丈夫。大船に乗ったつもりでいてくれ」

魔法を発動させ、体を人間から竜に変化させる。

『気分はタイタニック。それじゃあ、また後で』

「おい、どういうことだ」

伝説の沈む船じゃねえか。一昨日アリシアは見て感涙してた奴じゃねえか。

『喋ってるよ』

「キュ、キュクルルル」

『なんて言っているかわからないね。それじゃあ頑張ってくれ』

スカさんとフリードは、ナズナの元に転移していった。
というかスカさん酷くない?

「フリード! そろそろ行くよ~」

「キュクルー!! (イエッサー!)」

考えている暇はないか。俺は、バレないように行動するだけだぜ!!
キャロを欺くなんて簡単簡単!





とりあえず簡単なんて言っていた自分を殴り飛ばしてやりたい気分です。
なんだよこいつ。勘が鋭いとかいうレベルじゃないよ。さすが竜を使役する人だよ。凄いこっち見てきてる。
もしかして気づいてないよね? え? もしかして、気づいてるけど、気づいてない振りしてるだけじゃないよね?
頭の中で「こいつフリードじゃねえけど、ちょっと放っといて遊んでやるかww」とか思ってないよね? こんな無垢な顔して思ってないよね? ねえ?

「キュ、キュクルル」

「う~ん…」

今、「こいつ鳴いたよ! マジあり得ねぇww」とか考えてないよね! いい歳して、なにしてんだとか思ってないか!?

「キャロ、全員集合だって」

「あ、うん」

キャロは、俺をおいてエリオについていったので、今のうちにキャロから離れて、どこか人がいない物陰に入った。

「やばい。かなり緊張感がやっばい!」

変化を解除し、元の姿に戻って息を整える。緊張感で死んでしまいそうだった…
息を整えた後、スカさんたちに連絡を送る。連絡は、スカさんお手製の連絡装置。簡単に基地に連絡が出来る優れもの。
なんと無駄にアラーム機能までついてる代物だ。何故、こんなことに力を注ぐかが理解できないけどな。

『成功したのかい』

「ああ、一応、機動六課にたどり着いた」

『わかった。ナズナ』

スカさんの連絡が切れたかと思うと、目の前に魔法陣が現れた。
その魔法陣から出てきてのは、ぐっすり眠っているフリードとその上に乗せてあったスカさんだった。
というか、フリード…まだ寝ていたのか。どれだけ強力な、薬を使ったんだろう。

「よくここがわかったな」

『君の持っている連絡装置には、発信機もついてあるからね』

なるほど。この連絡装置は、朝に俺のことを起こしてくれるだけじゃなく、発信機もついてたのか。
出来ればそういう機能の説明を先にしてほしいんだけど…

「スカさんに言っても無駄か。さて、フリードをキャロの近くに…」

スカさんを装着して、起きる様子のないフリードを担ぎ、先ほどの場所にこっそりと戻る。
さっきと違い、猫型に変化してある。一応の擬態みたいなものだ。
ちなみに、フリードは、猫状態の俺の背中に乗せてあるが、やはり竜だけあって重たい。訓練をしているようだ。

「…キャロたちは、今、解散の号令をかけられてるとこかな?」

元の場所にたどり着いた俺は、フリードをゆっくりと地面に下ろし、その場を去った。
このままここにいると、六課の誰かに見つかる可能性が高いからな。
それじゃあ、六課の寮に向かいますかね。

「スカさん」

『案内するから、その通りに動いてくれ』




「フリード! こんなとこにいたの? …あれ? フリード…寝ちゃってる? …疲れてたのかな?」

「キャロ! フリードは、見つかったの?」

「あ、うん。探すの手伝ってくれてありがとう」





sideデ・ト


ふふふふ…、ついに、この時が、やってきた。
あいつのせいでせっかくの仕事を駄目にされたんだ。この報いはかならずしてやる。
何故、僕がこんな場所でしがない掃除職員をやらなきゃいけないんだ。サボってるから構わないけどね。
それもこれも全部あいつ、コーデリアのせいだ。
あいつが僕らの計画を邪魔したせいで、僕たちは管理局に捕まってしまった。
幸い牢に放り込まれることはなかったけど、あの事件のせいで全員前科持ちになってしまった。さらにメンバーも次々とバラバラになってしまった。
サリンは、家業を継ぐと実家に帰ってしまったし、モーガンは、知り合いの喫茶に雇われて抜けていってしまった。
全部あいつのせいだ!!

「絶対に復讐してやるぞ!! コーデリア・マセラティ!!!」

わざわざ管理局に勤めて、あいつが、ここで働くって聞いたからこそ、こんなとこで働いてやってるんだ!
そうじゃなきゃ誰がこんな場所にいるもんか。僕は、これでもエリートだったんだから!!
元バントの時に、みんなで金を出し合って買ったデバイス、このビューティーノイズで、あんな奴奏で殺してやる!!



――ピンポーーン



「ん?」

どうやら誰かが僕の部屋に尋ねてきたらしい。もしかしたら管理人か?
仕事をしていない僕を追い出そうと考えたんじゃ…。 そういえば、挨拶にも行ったことなかったな…

「…はい」

このまま、居留守を使うのも構わないが、強制的に中に入られては困る。

『どうも~。お荷物、お届けにあがりました~』

「荷物?」

誰だ? この場所で働いていることは、誰にも教えていないはずなんだけど…

『え~と、友達からじゃないでしょうか?』

友達!? もしかしてサリンとモーガン!? ここで頑張っている僕を元気付けようとして
わざわざ、僕のことを探して送ってくれたんじゃ…

「あ、い、今、開けます!!」

『え? あ、はいはい~』

こうしてはいられない。僕のためにわざわざ送ってくれたんだとしたら、それを戴かないわけにはいかない。
ありがとう! モーガン! サリン! 僕、二人のためにも頑張るよ!!
ルンルン気分になった僕は、スキップをしながら玄関に向かってその扉に手をつけた。

「はい!!」

「よっと…」

笑顔で扉を開けて見たのは、赤い槌を振りかぶった男だった。

「お寝んねしなさいなぁああぁぁあああ!!!!!」




―――ゴッ!!



ジャストミート。僕の頭。
そこで意識は途絶えた。










sideout


スカさんの案内でたどり着いた六課の寮。
ここからデ・トという人物の部屋に入り込まないといけない。
そこでスカさんに匹敵する(自称)頭脳を持つ俺が考えた作戦がこれだった。

『…馬鹿と天才は紙一重というけど、多分君はばk…天才の方だと思うよ』

「だろ?」

バリアジャケットを限定的に変更し、どこからどう見ても有名運送業のク○ネコっぽい服装だ。

「さてと…」

寮に侵入し、事前に調べておいた部屋番号の場所に到着する。
そしてインターホンを、押して相手が出るのを待った。しばらくすると相手の声が聞こえてきた。

『…はい』

「どうも~。お荷物、お届けにあがりました~」

怪しまれないように、出来るだけ明るい声を出す。

『荷物?』

微妙に怪しんでいる声だ。あれ? なんか変なこと言ったか俺?
このままだとせっかくここまできた計画が俺のミスで終わってしまう。ナズナに軽蔑の眼差しで見られてしまう!
それは、不味い!! 何か、何かいい誤魔化しを!?

「え~と、友達からじゃないでしょうか?」

ガッテム!! こんなんじゃ誤魔化せないだろ俺!! 今からでも遅くない! 訂正を…

『あ、い、今、開けます!!』

うぇ?

「え? あ、はいはい~」

駄目だと思っていた誤魔化しでOKだった。何故? まあ構わないけど
というか、友達って単語に食いついたな。友達たくさんいるんだろうか? それともいないからこそ食いついたんだろうか?
考えながらもドクターハンマーを作る。ソードと同じ容量で、槌型だ。戦闘では、あまり使ったことはない。
使えることは使えるんだがドクターソードの方が、敵の攻撃を防ぎやすいからな。
今回は、戦闘というわけじゃないので、省エネで小さめのドクターハンマーを作り出した。

「はい!!」

「よっと…」

それじゃあ…

「お寝んねしなさいなぁああぁぁあああ!!!!!」



―――ゴッ!!



ナイスヒット。彼の頭。
ドクターハンマーは、見事に頭の米神らへんに命中し、そのまま倒れた。俺は、駆け寄ってデ・トの様子を確認する。もちろん俺に医学知識はない。
デ・トは、頭に強く攻撃を当たったので気を失っていると思うが、手がピクピク動いている。

「よし! 叩いたら動いた。大丈夫だな」

『……もしかしなくても腱反射かい? 頭部腱反射なんて、聞いたことないよ』

ですよねー。










「へえ、結構豪華なんだな」

さすが新部隊、機動六課。いい場所だ。まあ、しあわせ荘と比べているからかもしれないが…
デ・トは、バインドではなく、市販のロープで拘束した後で適当に玄関に寝かせておいた。
一回起きそうになったから、フリードに使ったハンカチを当てると、また眠ってしまった。凄い威力だ…
起きてうるさいと困るので口にタオルを巻いておいたので、後のことは、目が覚めてからでいいだろう。

「それじゃあ、スカさん」

『わかっている』

「なら話が早い。今日の変態のこと知ってたのか?」

ナズナを襲おうをした、超・超・超変態なジムキオ。
思い出すだけでムカムカしてくるあのイケメンっぷり。ナズナが嫌がっていたからいいが
これで頬を染めていたら、ショック死したかもしれない。よかった。

『彼の名前は、ジムキオ・ヘムローディ。今日言ったが昔の私と同じ、次元犯罪者だ』

「次元犯罪者ってことは、何かしたのか?」

スカさんみたいに、管理局を潰そうとしたとか?

『そうだね。ただ、私とは違う方向で犯罪者だったね』

「違う方向? スカさんと?」

まあ、今のスカリエッティも変態だしな。

『何と言うか…、私は、中で物を作って犯罪を犯すだろう? 彼は、外で物や人を盗んで犯罪を犯すんだ』

「具体的には、どういう感じなんだ?」

まずは事件を聞かなければ判断しにくい。

『そうだな…12年前くらいになるけど、ある一国のお姫様がいたんだが、その姫は、父親…王様に、大事に育てられていたんだ。ずっと城に閉じ込めるほどね。まさに籠の中の鳥だ。そんなお姫様に目をつけたのがジムキオだ。その城に乗り込み、お姫様の部屋まで乗り込んだらしいよ』

「えらく積極的だな。警備とかは?」

一国のお姫様となれば、警備も厳重で中々近づけないと思うんだが。

『進入方法は、わかってないけどそこにいた警備兵たちは、同じ人間が何人もいたと証言している。今回、彼と接触して能力を知れたからわかったことだけど、おそらく人形だったんだろうね』

あのパペッターとかいうふざけた能力か。ふざけた能力だけど、強力なのには違いない。

「それでお姫様は?」

『結局、おいしくいただかれただけで盗まれなかった。彼が求めていた物と違ったんだろう』

「いただかれたって…、羨ま、げふんげふん! な、なんて破廉恥な…。あいつってリリカル原作じゃどうなってるんだ?」

『彼は、私の起こす事件の8年前くらいに自殺していたはずだ。体の一片も残らず、爆破したらしい。遺書のようなものには、「つまらない世界には、厭きた」と、書かれていたらしい。その彼が何故…』

「8年前…」

そう言えば、あいつって、あの人形劇の男ってナズナが言っていたよな…


―――君たちみたいなのを見ているとまだまだ生きる活力が湧いてくるよ。


「…あ~、スカさん、まあ、それは置いといて、あいつの話を」

まさか、あれが原因じゃないよな? あんな些細なことで爆死を止めたのか?

『昔の情報はないからわからないけど、彼は、ストーク・ジープ、発掘家であり資産家でもある。突然、その人物の養子となっていた。ストークは、温厚で人当たりもよかった。しかし、そのジムキオを養子にしてから、3年。すっかり様子が変わってしまったらしい。返事には答えない。同じ方向を見ていたり、痴呆かと言わていたけど…』

「…人形にされていたわけか」

えげつない…

『ストークの死後、独り身だったストークの遺産を全てジムキオに譲られ、ジムキオは、ストークの私物を全て売り払い、家を捨ててどこかに行ってしまった。その後、彼が表舞台に出てきたのは、犯罪者としてだった。年月を重ねていたはずなのに全く見た目に変化はなかった。年をとっていないみたいだったね。一応、彼の情報は、これで終わりだ』

「その変態武勇伝を持つ、変態がナズナを求めてたってことか」

あんな奴にナズナは、やれん。今度来てもボッコボコにしてやる。

「じゃあ、作戦も完了したし、今日は、シャワーでも浴びて寝るか」

『明日からいろいろと動かなければいけない。あまり夜更かししては駄目だよ』

お前は、俺のおかんか。ナズナに後で連絡しておこう。










――夜のデ・ト部屋


sideD-スカリエッティ


「む、無理…ナズナ、それ…無理だって…リンゴに乗って空は…」

『どんな夢を見てるんだ…』

嵐が寝てからも私には作業がある。寝る前に転送してもらっておいた人形を操作し
この部屋に、魔力を遮断する結界を構築しなければいけない。

『それにしても…』

今日の事件。あまりにも都合が良すぎる。何故、ホテルアグスタに私たちがいるのがわかっていた?
明らかに彼等には、協力者がいる。

『一番可能性が高いのは、…私か』

この時代の私なら考えられる。今度、問い詰めなければ。
……こんなことを考えるなんて、私も緩くなったのかもしれない。いや、緩くなった。家族というぬるま湯に浸かりすぎたか…。だが…悪くはない。

「梨? それだったら飛べそうだ…」

『…風邪引くよ』

布団をかけなおし、結界の構築を再開した。










<あとがき>
六課潜入成功!! 次回からは、六課での嵐の暴走をお楽しみください。



[6935] 第68話「伝説の掃除人 その名は…」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:fd9652be
Date: 2009/06/20 12:39
「う゛~~~~~~~!!」

「あ~。いい朝だ」

「う゛う゛!! う゛っう゛う゛!!」

「今日から頑張るぞ~」

「う゛ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」



第68話「伝説の掃除人 その名は…」



一晩寝て昨日の疲れがすっきり取れたのを感じ、いつも通り軽い朝練に取り込む。
これは、もうナズナのおかげでクセみたいなものだ。10年間欠かさず続けていたせいで体に染み付いている。
顔を洗って寮の外に出て、軽く走りこんだ後、筋トレをこなし、ドクターソードの練習として、スカさんに用意しておいてもらった竹刀を素振りをする。
まあ、剣道の才能なんて皆無な俺が剣術なんて出来るはずはない。数年間振り続けて、やっと相手の攻撃を受け流し攻撃が出来るくらいだ。

「…ふう。そろそろ戻らないとな」

一時間くらい体を動かした後、スカさんの待つ、一応の自分の部屋に戻り、部屋に設置されているシャワーを浴びて
冷蔵庫を開けて中を探ると、お茶が入っているのを見つけたので、いただいておいた。
そういえばミッドは、何を主に飲んでいるんだろう? お茶となんだろうか?
せっかく六課に潜入したんだから、そういうことを調べてみるのもおもしろいかもしれないな。

「う゛ーー!!」

「うお!? まだ説得終わってなかったのか?」

「説得するのは、面倒くさいから君に任せるって言っただろ…」

朝に起きたら、目覚めていたデ・トさん。スカさんに説得を頼んでおいたのに…




「それで、何が言いたかったんだ?」

「何が目的だ! 僕を捕らえても、六課は何にもならないぞ!」

どうやら何か勘違いしているみたいだ。俺が六課を襲撃でもしに来た敵だと思っているのか? まあ似たようなものだけど…
それでも、六課を襲撃しようなんて考えてないし、するとしてもこんなアニメにいたのかどうかわからない奴は、襲わない。
襲うんだったら、初めから新人とか隊長とか狙うだろ。

「勘違いするな。別に六課をどうこうしようとしたわけじゃない」

「な、なんだと! じゃあ何をしに来た! それに何故僕を縛る」

縛ったのは、スカさんの話でお前に魔力があったからだよ。魔力はないと思ってたのに…

「ちょっと六課で調べたいことがあってね」

戦力とかは、まあわかっているからどうでもいいんだけど、未確認のコーデリアについて調べたい。
原作にいないキャラだと、どんな戦い方をするのかもわからないからな。
それが事前にわかっていると対策も練りやすいし、どんな人柄か出来れば知っておきたい。

「お前に聞いてもいいんだけど、知らないだろ?」

「お前等みたいな犯罪者が探している奴を僕が知るはずないだろう!!」

えらく怒ってるな。やっぱり問答無用で縛ったのはまずかったか。

「そう言うなよ。コーデリア・マセラティって知ってるか?」

こんな奴でも、念のために聞いておいた。もちろん期待なんてこれっぽっちもしてなかったんだが
この名前を出した途端、デ・トの顔が強張った。…え? ビンゴか?

「な、なな、何故そいつを調べてるんだ?」

さっきの堂々としていた態度とは一変し、何だかオドオドした態度になり
更には、顔中に汗が流れ出している。明らかに何か知っているか隠しているのがモロわかりだ。

「ちょっとわけありでね」

「…!! そうか! お前達もあいつに復讐しようとしたんだな?」

何を勘違いしたのか、またもや態度を一変させて明るい感じになった。忙しい奴だな。
それよりも復讐? もしかしてこいつって俺たちと似た位置にいるキャラなのか?

「なら、こいつを解いてくれ。僕たちは協力出来る」

…このままちょっと喋らしてみるか。

「解けと言われても、信用ない相手を解くなんて無理だ」

「そ、それもそうだな。今から僕のことも話す。だからこれを…」

「話が先だ」

俺の言葉に折れたのか、デ・トは、ぽつぽつと話し始めた。

「実は、僕は昔バントをやっていて結構流行ってたんだ。それと同時にちょっと人には言えないこともやっていて、その一つにファンから金を盗んだことがあるんだ。何回目かやってるとバントの時にいきなりあいつが現れて僕たちのやってたこと全部ファンにバラしちゃったんだ。それからは、管理局に捕まるし、メンバーは散り散りになるし、最悪だったんだ。だから僕は、コーデリアに復讐する! 君たちの似たようなものだろう?」

とりあえず、協力はできねえな。
それに俺たちも似たようなものって…まあ似てるかもしれないけどさ。

「さあ、解いてくれ」

「スカさん」

『了解』

俺が解いてくれると思ったのか、物凄い笑顔で見られたけど別に解くつもりでスカさんに話しかけたわけじゃない。
厳重に縛られていたロープの上から更にバインドが現れ、デ・トを縛り上げる。
デ・トの顔が喜びから、絶望に変わって俺のことを睨みつけてくるが、縛られている奴に睨みつけられても怖くもなんともない。

「どういうつもりだ! 全部話しただろう!」

『誰も解くとは言ってない。勝手に君が話しただけだ』

「そういうこと」

デ・トの顔が怒りで真っ赤になる。騙されたことの怒りか、俺に向かっての怒りか。
まあ、おそらく後者だろうな。

「ずるいぞ! 僕にあんなに話させといて!」

「そう言われても…」

まあ、コーデリアのことを少し話してくれたのはありがたかったかな。

「そうだ。スカさん、俺ってサラーブにあんまり戻れなくなるよな?」

『ああ。いくらここが魔力を感知させないとはいえ、極力避けたほうがいい。連絡も此方から一方通行だ』

昨日のうちにスカさんは、結界を張ってくれたらしく、一応は、この部屋で魔法を使ってもわからないようになっている。
だけど、俺は大丈夫なんだが、ナズナやなのはなどの強大な魔力を持つ魔導師が放つ砲撃魔法などは、隠しきれない。
まあ、砲撃魔法を放つなら魔力云々じゃなくて普通にバレるだろ。

「なら、これを貼ってと…」

デ・トの体にメッセージが書いてある紙を貼り付けた。

「スカさん。こいつサラーブに送っといて」

『…まあ、いいだろう。転移開始』

魔法陣が浮かび上がり、デ・トは、光と消えてしまった。

「がんばれよ…」

『君もそろそろ仕事じゃないのかい?』

おっと。なら、準備しないとな。





着替えは、管理局の制服と掃除職員の着る汚れていい服の二種類だった。
とりあえず掃除職員の着る服を着て、六課に出向いた。

「ご苦労様です」

「いえいえ」

通り過ぎる人々に声をかけられるのは、ちょっと緊張した。
今の俺の姿は、つばのついた帽子を深く被り、髪をわざと眼にかけるようにして、更に眼鏡まで装備している。
そしてデ・トがしていたと思われるギターの形をしたアクセサリー、スカさんの話ではデバイスらしい。それも装備している。
大丈夫だとは思うが念には念をというやつだ。

しばらく歩いていると同じ服を着た奴が集まっているのが眼に入った。あれか?

「おお、こっちだこっち!」

どうやらこれだったらしい。ちょっと早足で駆け寄りその集団に加わった。

「じゃあ今日も班に別れて各自掃除に励んでくれ」

「ういーす」

「了解っす」

職員のやる気ない声と共に、ばらばらと散っていく。俺だけおいていかれた。
すると、さっきまで声を出していたゴリラに似た男が話しかけてきた。

「どうした?」

「あ、いや、実は俺今日まで病気で職場に来てなくて、今日が初めてなんです」

「ん? そんな話し聞いてないような…。ああ。お前、ずっと来てなかったデ・トとかいう奴なのか? 病気だったのか? 寮にいたと聞いてたが…」

「じ、自宅療養だったんです」

「む? そうか。なら今日は、俺と行動だ」

「わかりました。ゴリさん」

「なら、ついて来い。ん? ゴリ?」

「行きましょう」










「全く、お前も本名をちゃんと書類に書いてもらわないと困る」

「いや、これが本名なんじゃ」

「そんなわけないだろ!! 舐めているのか!」

「そ、そっすよね」

ゴリさん怖いよ。

「俺は、このトイレを綺麗にしてくるから、お前はこの前の廊下を綺麗にしといてくれ」

「了解」

ゴリさんは、男子トイレに入っていった。俺は、清掃中の看板をトイレの前に立てて
トイレ前の廊下の掃除を始めることにした。
トイレ掃除は小学生の頃は大嫌いだったがその内、大して気にならなくなったよな…

「情報収集したいんだけどな~」

≪仕方ないだろう。仕事をしていないで六課をうろつくなんて怪しいにも、程がある≫

濡らしたモップで廊下を掃除しながらスカさんに愚痴る。ここで話していてバレても困るので念話で。

「よっ! ほっ!」

掃除は、サラーブにいた時に結構やっていた。ナズナにばかりやらすわけにはいかないと思ったから。
まさかなのはの世界で六課の掃除をするとは、思わなかったけどな。
というか、リリカル世界に来て掃除しているってどうなんだろう? せっかく来たのに掃除って…

そんな風に変なことを考えていたのがいけなかったのか、前から来ている人物に気づかないでそのままぶつかってしまった。

「うおっ!?」

「うわ!?」

勢いよくぶつかったせいか地面に倒れそうになってしまうが、咄嗟のことで演技中のことを忘れてしまい戦いの癖で
地面に手をつき、地面に倒れず普通に元の体制に戻ってしまった。…しまった。

「いたた、ごめんなさい」

「あ、ああ。気にしないでくれ」

…しかも、スバルちゃんでしたー。泣きたいでーす。手を貸して起きるのを手伝う。

「すみません。でも凄い運動神経でしたね!」

「あ、ああ。うん。」

早くどっか行ってくれーーーー!!!

「スバルー! 何してるの! 行くわよ」

「あ、は~い! それじゃあ、お仕事頑張ってください」

…何とかなったか。

「おう。掃除終わったか?」

「ゴリさん。代わってくれ…」

「何だ? いきなりどうした? ん? ゴリ?」

「仕事を続けましょう」

結局、ゴリさんは、コーデリアについては、名前くらいしか知らなかった。無駄な一日だったな…
それと、食堂のご飯が意外においしかったことに感動した一日だった。










「ん、ん~、朝か…」

寮のデ・トの部屋で過ごしてから二日目か。

『おはよう。朝の訓練に行くんだろう?』

「昼は仕事で訓練出来ないからな。朝くらいはやっとかないと、ナズナに怒られる」

スカさんを置いて、外に出た。そして数分後、後悔することになった。





「…あぁ、止めとけばよかった」

朝練なんて、そのくらいサボっとけばよかった。ナズナだって、気づかないだろう。
そう、数分前の俺に忠告したい気分だ。

「清掃員さんも朝練してたんですか?」

「…まあ、体力が大事っすから」

「そうなんですかー」

ランニング中にスバルと再会してしまいました! 泣きそうだ! 神はよほど俺のことが嫌いと見える。

「スバル、その人は?」

「昨日ぶつかっちゃた人だよ」

「ぶつかったって、あんたちゃんと謝ったんでしょうね」

「謝ったよ~」

…もう行っていいかな? ここで朝練するのは、精神的にキツイ。
女二人で訓練するのに、そこに男が混ざるのはよくないよね! だから俺は部屋に帰ります!!

「清掃員さんもあたしたちなんか気にしないで続けてください」

「…あ、はい」

とりあえず、昨日と同じ筋トレをした後、竹刀をカバンから取り出す。
スバルたち二人は、ウイングロードまで使って訓練しているのが見える。朝からとばし過ぎじゃないか?
それを尻目に俺は、竹刀を振り続ける。これも慣れてきたし、次は槌の練習に移したいな。槌はまだ練習不足かもしれないからな。
だけどドクターソードの代わりは竹刀でいけるけど、ハンマーの場合何を代わりにしてすればいいんだろう。
それにドクターソードのバリエーションを増やしたいところだけど、あれ結構難しいんだよな。どうしたもんか…

「あの」

「うぇい!?」

ようやく集中してきた所にティアナが襲撃! お兄さんに何か用ですか!?
いきなりのことだったのでかなり変な声を出してしまった。見られた…恥かしい。

「清掃員さんは、魔導師なんですか?」

「え、い、いや、昔は魔導師やってたんだけど、如何せん魔力がねえ」

これは事実。嘘35% 事実65%だ。
俺の言葉にティアナは、暗くなり、「やっぱり魔力か…」と呟いてる。

「それでも訓練は続けているんですね」

暗くなったティアナの代わりに、スバルが俺に質問してくる。

「ああ、師匠的な人から、訓練は欠かさないことって言い聞かされてましたから」

ナズナは、なのはに似て厳しいとこがあるからな。なのはと違うところは
訓練のことを他の人に相談してから、答えを出すとこかな。よくプレシアさんと話し合ってたし。

「清掃員さんは、格上の魔導師と戦ったことはありますか?」

「あ、ありますけど」

毎回毎回格上ばっかだよ。敵で格下だったのは、お前等くらいだ。とは言わない。

「か、勝ちましたか!?」

「え、あ~、一応」

竜の時のあれは勝利といえるかどうかは微妙だけど、勝ったことは勝った。

「どう戦いましたか!?」

「どう?」

どうって…

「力じゃなくて、頭で戦ったっす」

「ず、頭突きですか!?」

「スバル! ちょっと黙ってなさい!」

「格上の相手と戦う場合、何が相手より劣っているかを素早く見極めるのが先決っす。全て劣っている場合が多いけど。それと、相手の攻撃をなるべく食らわないようにしたいっすね。攻撃を食らい過ぎると、働く頭も働かないっすから。それに何も自分の力だけで、相手を倒さなくてもいいっすね。周りの地形全てを味方につける。それも大事っす」

俺の戦闘スタイルは、大体これだからな。
あとは、自分に出来ることをする。出来ないことを戦いでするのは、自殺行為だからな。
これを言うと、なのはの模擬戦の時に、ややこしくなりそうだから、言わない。頑張ってくれ。

「参考になります」

「何に焦ってるか知らないけど、そんなに焦らなくてもいいと思うっす」

何に焦っているのかも言うこと聞かないことも知ってるけどね。

「ご忠告感謝します。だけど、あたしは、強くなりたいんです」

「…まあ、頑張ってください」

そろそろ頃合だし、戻るとしますか。

「また明日!」

…明日もここに来なきゃいけないのか。
面倒くさいし、精神的にツライけど、今日見た限りでは、俺のことに気づかなかったみたいだし、いいかな?

「あ! お名前なんて言うんですか」

…言ってなかったな。鈴木嵐…これは、いろいろと面倒くさそうだよな…
偽名にしておこう。だけどデ・トは、明らかにおかしいから嫌だな。他の名前にしておこう。

「べ、ベルツリー・ストームだ。よろしく」



伝説の掃除人 ベルツリー・ストームと呼んでもらおうか。










おまけ


今日のナズナさん


サラーブに作られたくつろぎの間。そこに一人の少女が溜息をついていた。
少女の名前は、ナズナ。鈴木嵐に従える従者であった。

「マスター…無事でしょうか」

何故、溜息をついているかというと、それは、主の安否を心配していたからだ。
ちなみに、朝からこの調子で、シントラとの模擬戦最中ですら、溜息をつく程に主のことが心配で堪らなかった。

「ナズナは心配性だな~。大丈夫だよ」

「そうですよ」

そして、その向かいに座っているのは、金色の髪を靡かせる少女、アリシアが
薄茶色の毛色の猫、リニスを撫でながらナズナと一緒に、この間でくつろいでいた。

「そうは言いましても…」

「というかナズナ」

「はい?」

自分の愚痴を聞いてもらおうと思ったナズナだったが、アリシアに先に喋られてしまい、タイミングを逃した。

「二人ってさ、付き合ってるんだよね?」

「っ!? げ、ゲホッ!? な、何を突然!?」

アリシアの言葉を聞いた途端、ナズナはむせ返った。
思えば、ナズナは、アリシアの言葉に振り回されてばかりだった。幼少時と言い、今と言い。

「え? 告白されてないの?」

「こ、告白は…」

確かに、ナズナは告白はされていないし、嵐も告白はしていない。
本人たちは気づいてないが、うっかりプロポーズ紛いのことは口走っているが。

「ふ~ん。ナズナももっとアタックしなきゃ盗られちゃうよ。帰ってきたら、告白してみようよ!」

「こ、告白ですか!? だ、だけど…、それに盗られるなんて…」

ナズナはむせ返った口内に、冷たいお茶を流し込む。

「うん。 …私とか」

「え? 何か言いましたか?」

「いや、何も」



「(…空気が重い…)」



ナズナとアリシアは、ゆっくり休めたが、リニスは、あまり心休めなかった。










おまけ2


「どこだここは!?」

「あら? 嵐からだわ」

プレシアの研究室に直接送り込まれてきたのは、デ・トだった。

「だ、誰だお前は!!」

「ふんふん、なるほどね」

デ・トに貼り付いてある紙を剥がして見てみると、メッセージが書かれていた。

【任務に邪魔になっても困るんでしばらく雑用として使ってあげてください】

「何をする気なんだ! 離してくれ!」

周りの機材などを見て、改造でもされるのかと思ったデ・トは、体をクネクネと動かしてプレシアから距離をとろうとしていた。

「あなたには、私の雑用を手伝ってもらうだけよ」

「だ、誰がババアなんかに」

次の瞬間、デ・トの顔スレスレにプレシアの指が通り過ぎ、地面に突き刺さった。指が。
肉体強化と衝撃緩和、物質破壊を同時にデバイスを使わずに使うだけなのだが、並みの魔導師でさえ使うのは難しい技術だった。
それ故に相手の強さがわかってしまったデ・トのとった行動は…

「何か?」

「犬とお呼びください」

服従だった。



[6935] 第69話「あれ? ティアナが凡人なら、俺って…」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:fd9652be
Date: 2009/06/20 12:56
「あたしは! もう誰も傷つけたくないから! なくしたくないから! だから…強くなりたいんです!!」

「…少し…頭冷やそうか…」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! ファントムブレイズ!!!」

「クロスファイア…シュート」

「ティア!?」



第69話「あれ? ティアナが凡人なら、俺って…」



「ふっ、ふっ、ふっ」

ティアナとスバルと知り合ってから一週間ぐらい経った。
相変わらず、俺は、朝練を欠かさずしているため、毎回毎回スバルたちの練習に付き合っている感じになってしまった。
まあ付き合うと言っても、今のはどう見えたとか、意見を聞かれるくらいなんだけどね。

「ベルツリーさん」

「ん? ああ、何か用事っすか?」

腕立て伏せをしている最中に上の方からスバルの声が聞こえてきたので
下を向いたまま話すのも失礼と思い、腕立て伏せを中断してスバルの方に顔を向けた。

「あ、いつものを今日もお願いしたいんです」

「…あ、ああ、あれ…」

スバルとしたこと、それは“ただ”の組み手である。しかし、怪力スバルとの組み手となると
いろいろとキツイ。何しろこっちは戦いの時は、肉体強化などをスカさんに調整してもらいながら戦っている。
それなのにデバイスなし、つまり肉体強化なしで組み手なんてしんどいどころの騒ぎじゃない。しかも相手は戦闘機人だしさ…

「ま、まあ、構わないっす」

「ありがとうございます」

ちょろっと視線を動かし、ティアナに助けを求めてみるが、ティアナは一秒でも時間が惜しいのか
鬼気迫る表情で自分の構えを見直している。怖いよ。

「じゃあ、遠慮なくいきますよ!」

「え、あ、ちょい待って」

スバルは既に組み手の準備万端だったみたいだ。今にも俺に襲い掛かってきそう…
基本はティアナと訓練をしているが、ティアナが一人で構え方の追及に入ってしまうと一人で訓練するしかない。
そこで隣で素振りをしていた俺に眼がいき、協力を頼まれ組み手をしてしまったわけだ。超反省。
あそこで断っとけばよかった。そのくらいなら構わないかなんて考えなきゃよかった。

「それじゃあ、お手柔らかに」

とりあえず俺が怪我をしないように頑張らねば。





「う、あ~~~~!! ありがとうございました」

「いや、構わないっす」

スバルとの組み手は実際にかなり練習にはなる。投げたり、投げられたり、防いだり攻撃したり
俺の魔法は、砲撃なんかはほとんど出来ないから、近距離の戦闘は、ためになる。
そのかわり少しでも油断したら容赦なく鉄拳が迫ってくるけど…

「ティア~! そろそろ終わるよ~」

「え? もうそんな時間?」

「そうだよ」

スバルと軽い体操をしながら未だに構えや狙撃の練習をしているティアナに呼びかける。
こいつは、本当に焦ってるな…。スバルがいないと永遠に訓練し続けるんじゃないだろうか?

「今日もありがとうございました」

「気にしないでくれ。俺も好きでやってるから」

ティアナにお礼を言われるが、一応俺は六課に潜入して、コーデリアのことを探らなければいけない。
なのにこんなことをしていていいんだろうか? ナズナやシントラが知ったら、怒られそうだな。
…そう言えばティアナたちには、コーデリアのこと聞いたことなかったな。念のため聞いてみるのもいいかもしれない。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

「え? 何ですか」

「コーデリアさんって知ってるか?」

確か今はいないけれど、この六課に近いうちに来るって話だ。だったらもしかすると知っているかもしれない。

「え? あ、えっと…」

ティアナは、スバルの顔を見ながら悩んだ表情になった。

「コーデリアさん? 確か前に隊長たちから名前が出ましたよ? どっかで聞いたことがあるんですけど…」

スバルは知っているのか、首をかしげている。

「す、スバル! 体操が終わったなら、先に部屋に戻ってなさい」

「へ? あ、うん。それじゃあ、ベルツリーさん、今日もありがとうございました」

ティアナに言われたとおりにスバルは帰って行ってしまった。知っているんだったら話を聞いてみたかったんだけどな…

「あ、コーデリアさんについては、知っているのであたしが話します」

「え? 知ってたのか?」

答えないから知らないかと思ってた。

「コーデリアさんは、あたしも詳しいことは知らないんです。探偵をやっているくらいしか…」

「そうか…。あれ? なら何でスバルを遠ざけたんだ?」

「そ、それは、あ、あのですね。訓練生の時に、偶然ですけど、コーデリアさんの戦闘の映像を見たことがあって、そのコーデリアさんって魔力量は、あたしぐらいなんです」

「へえ」

結構低めなんだな。
俺もティアナも人のこと言えるほど魔力持ってるわけじゃないけど。

「それでも対戦相手の方が魔力量は、高かったんですけど、経験と知識で補って、見事に敵を撃退したんです。あの時見たフェイクシルエットに憧れて、あたしも勉強したんです」

ほほう。コーデリアは、フェイクシルエットが使えるわけか。それより、スバルを遠ざけた理由は…

「恥ずかしかったわけか」

「ち、違います…」

スバルは、恥ずかしがらずになのはさんなのはさんって言いまくるからな。
相棒のそんな姿を見ているせいなのか、自分の憧れや尊敬している人を相棒に言うのは恥ずかしいと思っているのか?

「ありがと、大分参考になった」

「はあ。でも何でコーデリアさんのことを?」

「ん? …まあ、ちょこっとわけありかな」

「…? あ、そうだ。あたしとスバル、明日は模擬戦なんです。だから明日は、体を休めるので、朝練には、来ないですけど…」

「そうか。元々一人でやっていたんだ。気にしないでくれ。それより、明日の模擬戦を頑張ってくれ」

明日は久々に周りの視線を気にせずに訓練が出来そうだな。

「はい!」

白い悪魔がトラウマにならないようにね。





「それでそっちの様子は?」

≪特に変化はないそうだ。デ・トもよく働いてくれてるらしいよ≫

毎回毎回、違う班に混ざりながら六課内を掃除している俺は、スカさんと念話でサラーブの様子を聞いていた。
サラーブには、最近帰っていないから少々心配だ。デ・トのこととかも。

「そっか。デ・トも頑張ってるんだな」

正直、プレシアさんに送ってしまった後で、今度デ・トを見たときは
錬金術師よろしく的に合成獣になってしまっていたらどうしようと思った。顔がライオンになってるとか。
ま、さすがにプレシアさんもそこまでしないか。…しないよね?

「お~い新入り! バケツ持ってきてくれ」

「了解っす」

頭で考え事をしながらも仕事には手を抜かない。サラーブでのナズナの手伝いが活きてきたな。

「これでいいっすか」

「ああ、じゃあ、お前は、休んどいていいぞ」

「へい」

お休みをもらえたのでとりあえず外に出て、新鮮な空気を吸う。

「あ~。今日もいい仕事したな!」

『…目的忘れないでくれよ』

「わかってるよ」

ベンチに寝転がって日の光を浴びながら、掃除の疲れを癒す。そんな風にゆったりしている時
いきなり俺の体を人の影が覆った。誰だよ、人が気持ちよく寝ようと思ってるときに。

「悪い。隣いいか?」

…何故ヴァイス?




「自己紹介がまだだったな。俺はヴァイス・グランセニック」

「はあ、ベルツリー・ストームって言います」

ヴァイスから貰った飲み物に口をつけながら、ヴァイスと並んでいる。え? 何で? 何かしたのか? 俺。
もしかして、知らないうちにヴァイスにフラグを立てていてこれはヴァイスルートのイベントでは…そんなわけないか。

「…いきなりだが、あんたは、どう思う」

「…は?」

お互い何か気まずい空気の中、ヴァイスが切り出した。しかし何をどう思うんだ?
もしや俺のことどう思ってるんだ的な質問なんだろうか? どうも思ってないが。

「いや、ほら、お前と朝練してる…」

「スバルたちのこと?」

「そうだ」

…そう言えば、君ってずっとストーカーしてたよね? それで、俺みたいなわけ分からない奴が
朝練の時にいたら気になるのは当然だよな。

「どうとは?」

「…オレンジの方を見てだ」

「…そうですね。焦ってます。というかこのままじゃ潰れます」

アニメでもなのはにお仕置きされずに進んだら、執務官なんてなれずに志半ばでナンバーズ辺りに殺されたんじゃないか?

「…やっぱり、そう見えるか」

「忠告しないんですか?」

「…あんたもわかってんだろ? 忠告したって聞かないってことは」

はい。実際、止めないでしょうね。

「…それともう一つ気になることがあるんだ」

「…?」

「お前、魔導師だったんだよな? 盗み聞きして悪いが、聞いちまった。だけど、お前本当に辞めたのか? あの動きを見て、そうは思えない」

…鋭い。辞めたとは言え、さすがは元魔導師。

「辞めましたよ」

「…まあ、あまり深く聞くのはよくねえか。すまねえな」

「いえ」

ヴァイスは、飲み終わった缶を持って立ち上がった。

「じゃあ仕事の途中だったから、俺は帰るわ。じゃあなベルツリー」

ヴァイスは、まだ仕事中だったのか、自分の職場に駆け足で戻っていった。
俺は、ヴァイスに貰った飲み物を一気飲みしてさっき掃除していた場所にあるゴミ箱に缶を捨てに行った。
その後、ゴリさんに仕事のヘルプを頼まれてゴリさんの仕事を手伝った後、家に帰って明日の計画を考えながら、寝てしまった。





「本当にいないな」

『いて欲しかったのかい?』

「いや、久しぶりに一人で訓練だなって思って」

『せっかくだし、ナズナに連絡してみたらどうだい』

最近サラーブに連絡していないし、ヴァイスも今日は、ティアナたちの訓練はないから見に来てないのは確認済みだ。
ナズナとも久しぶりに話したい。それに訓練のことを相談するのもいいかもしれないな。

「そうだな。スカさん、サラーブに連絡しよう」

『了解』

人は周りに見当たらないが、一応目立たないところに移動して空中にモニターが表示される。
何も映っていないが、今は、呼び出し中だ。そろそろ誰かが出るだろう。

『は、はい!!!』

「おわ!? し、シントラ!? どうかしたのか」

『嵐かよ!? 今、嵐に構ってる場合じゃないんだ!!』

久しぶりに連絡したサラーブは、えらく焦っているようだった。

「どうかしたのか? まさか敵襲!?」

『敵襲だったら、どれ程よかったか!! ああ!! 姉御、止めてくれ!!』

モニターに映っていたシントラは、モニターから見えないとこに行ってしまい、何をしているのかわからない。
すると、疲れきった表情のアインスがのっそりとモニターに映った。

「アインス、一体どうしたんだ」

『…お前は、関係ない…のか? 直接にはな』

何なんだ?

『すまないな。連絡はまた今度にしてくれ』

「ああ、わかった」

通信を切り、スカさんと顔(体?)を見合わせる。

「何だったんだ?」

『さあ?』





いつも通りの仕事を終え、休憩を貰った俺は、相変わらずコーデリアの情報を聞いたりして過ごしていた。

「これと言った情報なしか」

『まあ、そろそろコーデリアも来る頃じゃないかい? 本人を直接観察してみるのが一番かもしれないよ』

「そうだな」

ここで悩んでも仕方ないか! パ~っと、飯でも食うかな!っと思った矢先。

「……」

いかにも私暗いです、といった表情の高町なのはを見つけた。

≪…スルーで≫

≪そうだね≫

俺とスカさんは、来た道を引き返していった。





side高町なのは


「はあ…」

六課が建ち上がってから2ヶ月くらい経った。
部隊の雰囲気も段々よくなってきたし、順調に進んできたと思ったいた。今日までは。
今日の模擬戦でティアナが行った行為。あれは、明らかに私が指導したことでない危険で危ない行動だった。
そのティアナは、今はシャマルさんの所で休んでいる。スバルは、何もないけど、お話できる感じじゃなかった。
何が悪かったんだろう。ティアナももちろんよくなかったけど、私にも原因の一端はあるはずだ。
そうして悩んでいると、顔の横から冷たいドリンクが現れた。

「ふえ!?」

「何か、お悩みですか?」

ドリンクを持っていたのは、どこかで聞いたことのある声だった。










sideout


「なるほど、ティアナが…」

「はい。あれ、ティアナをご存知なんですか」

「え、あ、朝練の時に会って、それからちょっと…」

「そうですか…」

うはーい、お話聞いちゃったよ。軽く自己紹介もしちゃったよ!! だってなのはの顔ってナズナにそっくりなんだもん。ずるいぜ!!
あれ? なんか間違ってるような気がする。オリジナル…まあ、いいか。
そんなナズナにそっくりな顔で、落ち込まれてると心が痛い。くそ、顔変えろ。ということで、何故か話を聞くことになっている。

「どうしてこうなってしまったのか、自分でよくわからないんです」

…なのはは、全部自分で何とかしようってとこあるからな…

「なの、高町隊長は頼らなさ過ぎるんです」

「頼らない…」

「俺の師匠的な人は、俺に教えるときは、それこそ高町隊長に匹敵するくらい厳しく教えてくれます」

「そうなんですか? 会ってみたいです」

会ってます。

「そして、その訓練が終わったら俺に意見を求めてきます。どうだった? 何がキツくて何が楽だったか。それを聞いて、更に訓練のカリキュラムを組み立てます。ここまでは、高町隊長もやっているかもしれません」

「はい…」

「その後、ナ、…師匠は、他の魔導師にも意見を求めます。最終的に最低三人には、聞いています」

プレシア、シントラ、スカさん。この三人で大体やってるからな…

「……」

「高町隊長。あなたは、もっと他の人と話してみてはどうでしょう? 聞けば高町隊長には、幼少からの友達が何人もいると聞きます。その友に軽く意見を求めてみてはどうでしょう? それに、ティアナたちとも、もっと積極的に話をしてみてはどうですか? 話をしないで、相手の気持ちを理解できるのは、それこそ長年連れ添った友くらいですよ」

「そうですね…」

なのはは、暗い顔が何となく明るくなったように見えた。

「ありがとうございます! まだ自分の中で整理がついてないですけど、いろいろと話してみます!」

「いえ、気にしないでください。というか、よかったんですか? こんな話を俺にして」

結構、ほいほい話していい内容じゃなくないか? 自分の教えてる生徒のことだし。

「え、と…、なんだかベルツリーさんって話しやすくって」

頭をかきながらにゃはは、と笑ってるなのはさん。今度ナズナに、にゃははって笑ってもらおう。ギャップが凄そうだ。

「…はあ」

「じゃあ、聞いてくれてありがとうございました!!」

…俺、六課に来てから悩み相談室になってないか?










おまけ


今日のナズナさん


「起きてください」

「むっ…」

どこかの西洋風の豪邸の寝室。いくらするんだと言うほどの大きなベットに眠る青年を起こすメイド。
青年はこれまた西洋風の貴族の格好をしている。名は、鈴木嵐。
そして、その青年に向かってニッコリと笑いながら、青年を起こしているメイド服を着た女。ナズナ。
スカリエッティが見たら「一体何ごっこをしているんだい? ククク…」と言い出しそうな服装をした二人がいた。

「朝ですよ」

「わかった」

青年、嵐は、ベットから起き上がり、メイド、ナズナに起きた服装のままついて行った。
何故、ベットで寝るときに着替えていないんだと、リニスがいれば突っ込んでいただろう。

「お食事の準備が出来ました」

「ああ。ありがとう」

庶民が見たらこの長い机は、使いにくくないかと思われるほどの長さを持った机。
そこに座る、嵐。そして食事を運んでいるナズナ。食事は、それを作る額だけで、庶民は一ヶ月暮らせるんではないかと思えるほど豪華だ。

「どうぞ」

「いただきます」

フォークとナイフを華麗に使いこなし、食事を勧めていく嵐。
嵐は、食べ方が汚いわけではないが、豪華の食事などだとつい緊張してしまい、うまく食べれない傾向がある。
だが、この嵐は、まるでお手本のように食事を食べていく。パーフェクト嵐。
みるみるうちに、食事はなくなって行き、食事が出て20分。豪華な食事はなくなってしまった。

「ふう、ごちそうさま。美味しかったよ」

「勿体無いお言葉…」

嵐の言葉に頭を下げたナズナは、頭を上げ主の顔を見たとき、主の頬に、ソースが残っているのが眼に入った。
別に邪なことを考えたわけではない。ただ、自然に体が動き、主の頬を舐めていた。

「ナズナ…」

「え? あ!? こ、これは、あああ、あの!? すす、すみません!!!」

自分の行動が信じられないと、顔を真っ赤にしながら、主に謝罪の言葉を述べるナズナ。
その謝り続けるナズナに、嵐は、ゆっくりと近づいていき。

「んむっ!?」

唇を塞いだ。

「っぷは!? ま、マスター!? 何を!?」

「考えたらデザートがまだだと思ってね」

真っ赤なナズナを笑顔で眺めながら、ナズナの来ているメイド服に手をかけ、ゆっくりとずらしていく。

「マスター!? え、ええとえと!? ああ、あの!? あ、ああああ!?」





アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??










「……」

物凄い寝癖の頭をしたナズナがベットから体を起こして目の前の壁を眺めていた。
わかっていた。マスターである嵐は、あんなことをするなら恥ずかしさで余裕で死ねるだろう。
だからもう少し目が覚めるのが早くてもよかったんじゃないかとナズナは起床して間もない頭の中で考える。
結局、ナズナが眼を覚ましたのは、ナズナのファンシー・シアター(お子様お断り)が上映終了してからだ。ポップコーンもおかわりしたかもしれない。
主である嵐を自分の勝手な空想(妄想)で汚してしまったことに罪悪感を感じながらゆっくりと起き上がり――










濡れていた。どこがとは言わないが。



















―――ザッパーーー



「な、ナズナ!? 何してるの!! 風邪引くよ!!」

アリシアが朝起きて訓練所で見たものは、ホースの水を冷水にし、頭から被っているナズナだった。
中々ショッキングな目覚めである。

「離しなさい!! これは修行なんです! マスターへの忠誠心が試されているんです!!」

「誰かナズナを止めて~~!!」

「どわっ!? 何してんだ姉御!!」

「朝っぱらから…、後で、犬に掃除させときましょ」

「何事なんだ…」

「最近、嵐禁断症状がよく出るな」



今日も回帰組は元気です。










<あとがき>
この後は、原作どおり話が進み、仲直りするでしょう。
そういえば、この話って一応15禁といれた方がいいんでしょうか? 指摘があったら、すぐに修正さしてもらいます。
次回は、コーデリアさんか、電撃家族の話になると思います。
では!! また次回!!



[6935] 第70話「探すのをやめて夢の中に行く前に見つかった」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:fd9652be
Date: 2009/06/20 12:59
「…ちょっと悩み聞いて欲しいんだけど」

『なんだい?』

「俺って、いつから、お悩み相談始めたっけ?」

『…まあ、君の性分みたいなものだ』

「…………」



第70話「探すのをやめて夢の中に行く前に見つかった」



「情熱の~赤い薔薇~」

今日も今日とて掃除を頑張っている。
そう! 俺の目的はこの六課を綺麗にし、皆が心地よく過ごせる空間にすることなんだ! うん!!
って感じの目的だったら簡単だったんだけどな…。掃除職人 クリーン鈴木! 始まります!

「おっかさんのためならえんやこら~」

だけど、掃除しないわけにもいかない。掃除していないと、堂々と六課を動くことが出来なくなるからな。
そのためには、働かなくてはいけない! そう! 働かない者、食うべからず!

「おい! 終わったのか!」

「はい! 終わりましたゴリさん」

「そうか、ご苦労。ん? ゴリ?」





「お昼、お昼」

朝からの掃除を終え、ようやく食事にありつける。そう思い食堂に行くと

「あ、ベルツリーさん!」

「こんにちは」

スバルとティアナに会ってしまいました。…こいつらとは、縁でもあるんだろうか?

「あ、ああ、久しぶりっすね。今から食事?」

「はい。あ、ベルツリーさんもどうぞ」

なし崩し的に、俺もスバルたちと一緒に飯を食うことになってしまった。
正直、俺以外の清掃員の視線が痛い。何、女と食ってんだって視線をしてる気がする。いや、している。
みんな、俺は、悪くない。というか、出来れば関わりたくなかったんだ! 本当なんだ信じてくれ!
食事を取り、スバルに引っ張られる形になり、お子様二人が座っている机に向かっていく。
お子様二人とは、もちろん、エリオとキャロだ。あれ? 何故かキャロが暗い表情をしている? 気のせいか?

「あれ? スバルさん、その人は…」

「あ、エリオは、会った事なかったよね! 清掃員のベルツリーさん。あたしとティアの訓練に付き合ってくれてたんだよ」

「そうなんですか?」

エリオ! キャロ!  くは!? 六課のフォワードメンバー全員と知り合っちまった!
もう、あれだな。いつバレてもおかしくない状況だな。

「ベルツリー・ストームっす」

「あ、キャロ・ル・ルシエです」

「エリオ・モンディアルです」

ほんとにこいつ等礼儀正しいな。十歳とは、思えないぞ。隣に座ってガバガバと飯食ってる
スバルの方が精神年齢低いんじゃないか? 頬に食べかすがついてる。

「ベルツリーさんは、訓練に付き合っていたということは、魔導師なんですか」

「ん~、元ね」

魔導師やってるけど、この六課では、引退した魔導師という設定を貫くんだよ!

「え? 辞めちゃったんですか?」

「いろいろと事情があってね」

犯罪的な意味でな。お前達に話したら、現行犯逮捕だよ。

「あ、すみません」

「気にしないでくれ」

何か勘違いしたのか、キャロは、頭を下げて謝罪してきた。
いや、別に謝られるほど辛い過去が原因で魔導師辞めたって設定なわけじゃないから。ただの魔力量だから。

「それと、ベルツリーさん。この前はありがとうございました」

「え? 何かしましたか?」

「なのはさんから聞きました。ベルツリーさん、あたしのことをなのはさんと話し合ってくれたって」

…え? いや、ティアナのことは、そんなに話してなかったと思うんだけど…
いや、確かに訓練のこととか、ナズナの訓練の方法とかは話たけど、ティアナについては直接的にはそんな話してないよな?
まあ、感謝されて悪い気はしないけど。

「ちょっと話しただけだ。ティアナが気にすることはないよ」

「それでもです」

「ふむ? ほうういへは、ふぇふひぃーふぇんは、ふぃっふぉんひゅっひんふぁんふぇふか?」

「スバルー、口の中のもの片付けてから喋りなさい」

ティアナの注意を受け、ごっくんと、口の中に入っていた食い物を一気に飲み込む。よく、吐きそうにならないな。

「っぷは! すみません。えと、ベルツリーさんって、気になってたんですが、あたしみたいにご先祖は、日本出身なのかなって?」

「え? 何で?」

名前は、ベルツリーだぞ? どこの日本人がそんなしょぼい名前付けたがるんだ。
俺だったら、絶対に嫌だね。絶対に親に講義する。そして変える。

「いや、ベルツリーさんの髪の色ってミッドでは、あまり見ない色なんです」

「…あ」

そうだった。俺って一応黒色だったんだな。このミッドで、黒髪黒目の人って何故か少ないからな…
黒とかがいない代わりに、蒼とか、黄とか、緑とか、ありえない色の方が圧倒的に多い。う~ん、ファンタジー。

「まあ、よくわからないけど、確かに先祖は、日本に住んでいたって聞いたことがある」

先祖って言うか、元の世界にいる家族のことだけど。
俺の家族に海外の血が混ざっているなんて凄い奴はいないはずだ。純正の日本人だ。

「やっぱりですか! あたしも同じなんです!」

自分の予想が当たって嬉しいのか喜んで自分のことも話し出す。
正直、あまり話題がなかったので、スバルのこの性格は便利だと思った。こう言う知らない連中の相手をする時なんていいんじゃないか?
スバルのおかげでエリオとキャロも知らない人だから緊張していた様子だったが、ちょっと和らいだ気がした。

「そういえば、キャロ。さっきから暗い表情で、どうしたの?」

「え、暗い表情してましたか?」

「そうだよ~。ご飯のときに暗い顔してると、ご飯がおいしくなくなるよ~」

あ、やっぱり気のせいじゃなかったのね。初対面だから気のせいだと思ってた。

「実は、今日の訓練の後、フリードが突然、どこかに飛んでいってしまったんです」

へえ、確かにいつもそこら辺を羽ばたいてるフリードが見当たらないな。飯食ってたんじゃないのか。
というより、フリードがキャロから離れていくなんて珍しいな。

「え! フリードが!」

「竜ってやっぱり制御が難しい生物なのかしら」

「い、いえ! フリードは、ちゃんと私の言うことを聞いてくれてたんです!」

そうだよな。竜って制御とか難しそうなイメージがある。プライド高そうな感じだもんな。
実際、キャロもヴォルテールとフリード同時に二体制御って出来るようになったんだよな? 考えたらすげえな。
そのフリードが言うことを聞かなくなるなんて、何かキャロに悩みとかでもあるんだろうか?

「だけど、この前からフリードの様子がちょっとおかしくて、最近は収まってきたんですけど…」

「この前?」

「ホテル・アグスタの任務が終わってからです」

「ああ。あれね」

…ああ。俺が原因ね。

「探してみたんだけど、見つからなくて…なのはさんは、午後の訓練の時は、フリード抜きの訓練をするから、今日は大丈夫とは、言ってくれたんですけど…」

「明日までには見つけとかないといけないわね」

「はい…」

キャロは、しょぼんと、頭を下げた。今日の訓練では、問題ないが、訓練が終わるのは、体が疲れきった後
それでフリードを探すとなれば、明日の訓練にも支障が出るかもしれない。

「召喚で、呼べばいいんじゃないの?」

「はい。最悪、それに頼るしか…」

「フリードも人騒がせだね~」

「あんたが言うな。あんたが」

「あ、俺が探しとこうか?」

「え?」

食事を平らげ、そろそろお暇しようかと思ったが、会話を聞いているうちに、思いついた。
今日は、お昼からは仕事はないし、それに、多分、フリードがそうなった原因は俺にある確立が非常に高い。
だったら、暇つぶし感覚でフリードを捕まえておくのもいいかもしれない。信頼も得れるし。

「いいんですか?」

「昼からは、暇だったからちょうどいいよ」

「大丈夫ですか? 大人しいとは言え、竜ですけど…」

エリオが心配したような声で、俺に話しかけてくる。
大丈夫大丈夫。力が開放されてないフリードくらいの大きさなら昔に会った竜の方が何倍も恐ろしかったからね。
あれのおかげで、フリードにもそれ程恐怖感ない。いや、全くないから。

「大丈夫だよエリオ! ベルツリーさんは、凄いんだから!」

「そうね。スバルの言うとおり、魔法を使わなくてもかなり動けるわ。それじゃあ、お願いできますか? ベルツリーさん」

「ああ、任せてくれ」

「フリードのこと、よろしくお願いします」

暇つぶしには持って来いだな。コーデリア探しも今日は、ちょっと休憩っと。





『なるほど、それで、今日は、コーデリアの情報収集もお休みなわけだね』

食事が終わった後、スバルたちは、午後の訓練に向かってしまった。俺は、作業をしていたスカさんを取りに一端部屋に戻ることにした。
予想通りスカさんは、結界の点検も作業をしていた。そして、俺は、フリード探しをしながらスカさんに事情を話した。

「ああ、フリードのことも、元は俺の責任の可能性が高いしな。それに最近働いてばっかだったし、ちょうどいいだろう」

『休息かい? まあ構わないよ』

「にしても、見つからないな」

『そうだね』

「キュルル」

探し始めて30分。結構色んな所を探し回ったり、聞きまわったが、フリードは見つからなかった。
まさか、外に出たってわけじゃないだろうしな。やっぱりどこかに隠れている可能性が高いか…

「キュル」

「今ちょっと考え事してるから、静かに…って、おい!?」

「キュル!?」

さっきから、肩が重いと思ったらフリードがいつの間にか乗っていた。

「いつから!?」

『ついさっきだよ』

俺の声にビックリしたのか、フリードは、俺の肩から離れていった。しかし、ちょっと離れた地面に着地すると
ジッと俺のことを見つめてきている。動く気配は感じられない。ただこっちを見ている。

「な、なんだ?」

このままのわけにはいかないと思い、フリードを捕まえようと近づくと、近づいた分だけ、フリードは離れた。
一歩、するとフリードも一歩。二歩進んで三歩さがる。フリードも同じように動いた。
近づくと離れるが、離れていくと近づいてくる。まるで磁石になった気分だ。というか、こいつは、一体何がしたいんだ?

「キュルル」

「そぉい!!」

離れる振りをし、フリードが近づいてきた瞬間、地を蹴って、フリードに飛び掛った。

「キュル!!」

しかし、間一髪かわされてしまい、地面と熱い抱擁を交じわす。かなり痛い。

「あ、あいつ…何がしたいんだ…」

『…多分、君と遊びたいんじゃないかな? ほら、君を待ってるよ』

痛む体を起こしてみると、フリードは、またジッとこちらを見ている。
まるで「その程度か? 興味が失せたぞ小僧」という感じだ。いや、悪魔で俺の想像なんだけど。

「に、人間を舐めるな!!!!」

魔力を使うわけにはいかない。俺は自分の体力だけで、フリードを捕まえることにした。



『…化けた時に、仲間とでも思われたか? だけど姿見られてないし…同じペットの匂いを感じたか?』





「おおぉぉおぉおおぉお!!!! 待て待て待て!!!」

俺の本気のダッシュの前を優雅に飛んでいるフリードは、何だかちょっぴり楽しそうに見える。俺の気のせいかもしれないけど。
そんなこと考えているうちにも、フリードと俺の距離は、縮まったり、開いたりの繰り返しだった。
フリードの飛行速度はそこまで速くはないんだが、階段などは、一瞬で突破できる。そこが距離を開かれるポイントだった。
それに、俺も何時までも体力が続くわけじゃない。時折、止まって、息を整える。フリードもその間に休憩する。そして、また走り出す。

「くそぉ、あの竜舐めやがって…、とお!!」

ある程度、距離が縮まったように感じた俺は、再びフリードに飛び掛るが、やはりギリギリでかわされてしまう。
しかし、俺も、今度は、うまく着地でき、地面と抱擁せずに済んだ。

「紐が使えれば、簡単に捕まえれるものの…」

魔法に頼りすぎるのもよくないが、今だけは、使いたかった。潜入じゃなかったら…

『駄目だからね』

「わかってる」

フリードは、俺の突撃をかわした後、また逃げ出し、分かれ道を右に曲がった。見失っては、不味いと思い。全速力で追うと

「わっ!? りゅ、竜!?」

「わん!」

「キュルル~!」

犬に捕まっていた。





「今日から、ここで働くから、いろいろ見回っていたら、まさか竜に会うとは思わなかったよ」

「そうですか」

竜、フリードを捕まえられたのはよかったが、更に驚いたこともあった。フリードを捕まえたのは
俺が、調べに調べていた、コーデリア・マセラティだった。初め会った時は、驚いて、返事が出来なかった。

「こっちでいいの?」

「こっちで、フリードを見つけたら来てくださいと言われてたんで」

会話しながら、コーデリアを観察する。草色の髪に後ろに、太陽の形をした髪留めをしてある。
この髪留めって、昔、シントラに渡したもう一つの方によく似てる…。シントラは、月の髪留めをいつもしてる。太陽の方はなくしたらしい。
そして、なんか、犬もいる。ハスキーに似てるけど、毛色が茶色だ。雑種? スカさんの話では、この犬からも魔力を感じるらしい。

「あ! ベルツリーさん!」

ちょうど訓練も終わったのか、ボロボロの服装のスバルたちが走ってきた。

「フリード! もう! 勝手にいなくなったりしたら駄目だよ!」

「キュウ~」

俺の腕に抱かれていたフリードは、俺の腕からキャロの隣に飛んでいった。
スバルとエリオは、フリードの申し訳なさそうな声に笑っていたが、ティアナだけは、俺の隣の人物、コーデリアを見て固まっていた。

「こ、ここ、あ、え、ま、マセラティさんですか!?」

「コーデリアでいいですよ」

「じ、自分はティアナ・ランスターと申します!」

…あれだな。スバルがなのはに会ったときの再現みたいだな。緊張してか、口調が変になってるし。

「フェイトいるかな?」

「フェイトさんですか? フェイトさんならなのはさんと一緒に」

「ありがと」

コーデリアは、キャロの頭を撫でた後、スバルたちの来た方向に行ってしまった。
ティアナは、まだ微妙に興奮してて、キャロは、頭を撫でられることに慣れてないのか呆然としていた。
エリオは、何が起こったのか理解できてない様子で、スバルは、やっと謎が解けたかのように大声で叫んだ。

「あー! コーデリアさんってティふむっぐ!?」

「いいから! 黙ってなさい」

憧れってことは、前に話を聞いたから知ってるが、エリオたちに知られるのも恥ずかしかったんだろうか?




















―――深夜 ベルツリーの部屋


『つまり、レリックが欲しいわけね』

『ああ、スカリエッティとの交渉のために一つは、欲しい』

『わかったわ。レリックが出たら連絡を』

『頼んだよプレシア』

『レリック回収は、アリシアが適任かしら…。リニスに伝えておくわ』





『本格的に動くか…。忙しくなるよ。嵐…』










おまけ


今日のナズナさん


サラーブであまり人が近づかない場所、プレシアの研究室。
そこにサラーブの女性全員が集まり、なにやら話し合っているようだった。

「全く、ナズナも嵐がいなくて寂しい気持ちはわかるけど、水行は、やり過ぎ!」

「そ、そういう訳じゃないんですが…」

「言い訳は駄目!!」

「はい!!」

アリシアに怒られながら、ナズナはメイド服を着ているクマの人形を抱きしめている。

「大体、ナズナは、嵐が寝てるときとかは、大胆のくせに、嵐起きてると、全然駄目だよ!!」

「まあ、姉御は、嵐が意識してると恥ずかしいみたいだからな」

「カルの一緒にいる時のあたしも似た経験があるな」

「というか、いい加減素直になったらどうだ? 断られることはプレシアがアリシアを嫌いになるくらいの確立だと思うぞ」

それぞれ言いたい放題である。全員の言葉を受けながら、涙ぐんだり、赤くなったりとナズナは忙しそうだった。
そんな、乙女の会話を尻目に、プレシアは、D-スカリエッティが書いた研究資料を優雅に紅茶を飲みながら、まだまだ青いわね…、と考えていた。

「そうだ! ナズナって、嵐にプレゼントあげたことある?」

「プレゼントですか?」

「うん。ほら、その首飾りも嵐から貰ったでしょ? だけど、ナズナって嵐に何かあげたことあるのかなって」

ナズナが首からかけている首飾りは、嵐が昔、プレシアと買いに行った首飾りである。
そして、アリシアは知らないが、クマの人形も、実は嵐(D-スカ?)がゲームセンターで取って、ナズナにプレゼントした物である。

「そうだな。たまには、此方からプレゼントと言うのもいいんじゃないか」

「姉御があげたら、あいつ喜んで鼻血出すと思うぜ」

「だけど、嵐…いや、男が喜ぶ物ってなんだ?」

嵐に何か、プレゼントしようという話の流れになったのは、いいが
サラーブにいるのは、全員女性。男性の欲しがる物が簡単に言える物は、いなかった。プレシアは、休憩中。
そこでアリシアが、考えた策は――



「僕が欲しい物ですか?」

同じ男である、デ・トに話を聞くことであった。

「うん」

「欲しい物ですか? (こ、これは…、こんな人数の女性に囲まれて欲しい物を聞かれるということは…、まさかモテ期!?)」

かなり勘違いをしたデ・トは、気分をよくし、アリシアの問いに答えた。

「いやぁ、綺麗な女性から貰える物に文句をつける男なんていませんよ (僕はいつでもOKです!)」

「そうですか。ありがとうございました。アリシア、行きますよ」

「あ、うん。じゃあね~」

「はいはい~ (美しい人だ…)」

デ・ト 彼女いない歴=年齢





「ナズナが作った物だったら絶対喜んでくれるってことだね!」

「そ、そうでしょうか?」

デ・トの意見を聞いたアリシアは、早速、ナズナに何か作ってみてはどうかと提案した。

「そうだよ。いっそのこと、私をあ・げ・る、にしちゃう?」

「アリシア。姉御にそれはキツイだろ」

「想像しにくいな…」

アリシアの言葉を聞いて、ナズナは、いつも通り、そのことを思い浮かべるが
普通なら、ナズナが体にリボンを巻いて、嵐に迫っているのを想像しただろう。事実、アリシアたちは、それを想像していた。しかし、ナズナは違った。




~妄★想~





「ま、マスター!!」

「おお、ナズナか。どうかしたか?」

ナズナは、体をリボンで結んだ状態で嵐に愛にきていた。
今、ナズナの体を覆っているのは、布切れ一枚だけだ。それをなくせば、リボンで結ばれたナズナが姿を現すだろう。

「わ、わた、私を…」

「ナズナ…」

だけど、主を前にしたナズナは、緊張のあまり、私をプレゼントとは言えない。
そんなナズナを見て、嵐は、椅子から立ち上がった。そして――

「え!?」

服を一瞬で脱いだ。すると、何故かリボンで包まれた嵐が、現れた。

「俺が先に言わしてくれ…ナズナ。俺を…食べてくれないか」

妄想(空想)の中でしか生きられないパーフェクト嵐。パーフェクトな彼の辞書に恥ずかしいの文字は、ない。
そんなパーフェクト嵐の言葉に顔を真っ赤にしたナズナは、ゆっくりと主に近づき…

「い、いただきます!!!」



噛み付いた




~終★了~





「くはっ!?」

「え? な、何で!? 今の鼻血出すとこ!?」

「いや、自分が嵐に食われるのを想像したんじゃないか?」

それは、逆だった。どちらかと言うと、食った。

「あ、姉御ーーー!! しっかりしろ!」

シントラが、幸せそうな顔して倒れ付したナズナを起こしている。

「…この鼻血プレゼントしたらいいんじゃないか?」

「カーミラ…。それは、いろいろとまずい」

小さい体の二人が、ナズナの流した血を見て溜息をついていた。






「犬。あれ、掃除」

「ははぁ!」










<あとがき>
コーデリアさん登場! さて、次回はヴィヴィオ回収編かな。
電撃家族は、ヴィヴィオ編が終わってからの方が、いろいろと都合がいい気がしたので、後回しに…
感想のナズナたちの髪型ですが、ナズナは、昔と変わらずポニーテールです。
アリシアは、ツインテール。ツインテールネコミミ。これだけは譲れない。
それと、ナズナは普段はクールですが、それは、嵐がいる時だけですね。いや、いない時もクールですけど、嵐がいると失態を見られたくないみたいな…
頭の中では普段もいろいろと想像してます。
では!また次回!!



[6935] 第71話「猫って意外と凶暴?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:fd9652be
Date: 2009/06/21 13:47
「アリシア、忘れ物ないわね?」

「大丈夫だよ母さん」

「プレシア、アリシアは、私が守ります。安心してください」

「そ、そうね。頼んだわリニス」

「はい。アリシア。頑張りましょう」

「うん! 嵐のためにも頑張るぞ~!!」



第71話「猫って意外と凶暴?」



「コーデリアさんは、フェイトさんの知り合いだったんですね~」

「昔、ちょっとだけ一緒に仕事したことがあるんだ。初めて会ったのはそれじゃないんだけどね」

「そ、そうなんですか!」

「ティア…」

…え? 何この状況? 何時の間に俺は、普通にスバルたちの飯の時間に付き合う関係になってんの?
え? この前の、フリード事件から、ずっとこの状態だよね? 何で? 違和感とかないのか? 俺は普通にレギュラー化してるのか?
いや、今日は、コーデリアも一緒に飯を食べるみたいだから好都合だったけど、さすがに女性率が高いよ…。男2で女4って…
あ、もしかしなくてもフリードって雄だよな? じゃあ男3だな。

「わん!」

「キュクル~」

「フリードもすっかり仲良くなったね」

「キュル?」

俺たちの食べている机の下で、ザッフィー的なポジションにいるのが、コーデリアの使い魔…、コーデリアが言うには相棒、スカさんの話では使い魔ではないらしいが
まあ、相棒のポアロだ。ザッフィーと違って、人間率0%だから、俺の言葉が分かっているのかもあやしい。

「そういえば、今日はみんな午後からの訓練はお休みなのかな」

そうだな。今日も午後から、またなのは隊長による訓練が始まるはずなんだが
スバルたちは、どことなく余裕そうに見える。

「実は今日は、なのはさんたちにお休み貰っちゃたんで、午後からは自由行動なんです」

「そうなんだ」

お休み? スバルたちがお休みってことは、もしかしてヴィヴィオの日なのか? 後でスカさんに聞いておこう。

「さて、それじゃあティア! そろそろ行く準備しなきゃね!」

「分かってるわよ。そんなに焦らないの」

スバルが、食べ終わった食器を片付けながらティアナに話しかけている。
恐らく準備とは、ヴァイスに借りるバイクのことか、それか服を着替えることだろう。
ティアナは、はしゃいでいる相棒を見て、やれやれと頭の米神を抑えながら自分の食器を片付け、スバルの後ろについて行った。

「あ、待ってください!」

「フリード! 行くよ!」

「キュルル」

そして、その青橙コンビを追いかけるように、仲良しコンビも走っていった。

「ふう、元気だな…」

その姿を見つめながら、コーデリアは、コーヒーを一口啜る。

「コーデリアさんは、訓練に参加しないんですか?」

一応こっちの方が格下の階級なんで、さん付け。

「え? あ、私は今日は参加しません。今日で訓練の確認をした後、明日から参加するつもりです」

俺の疑問にコーデリアは、簡単に答えてくれた。今日のこの後の訓練に参加するんだったら、出来れば見ておきたかったんだけどな。
まあ、愚痴を言っていても仕方がない。今日は、ここまでにしておこう。

「それじゃあ、俺も帰ります。じゃあまた」

「うん」

「わぅん!」

一人と一匹から見送られ、とりあえずそこら辺をうろうろして、自分の部屋に戻ろうと考えていた。
今日の俺の仕事は、休みだ。ゴリさんにゆっくりと休めといわれている。なら、久しぶりに街の方にでも行ってみるのもいいかもしれない。
ヴィヴィオのこともあるし、ナズナを呼んで遊ぶのも楽しいかもと今日の予定を考えながら歩いていたら

「じゃあ、今日の訓練のことを確かめるてことで」

「おう! …っておいなのは! 前見ろ!」

「え? きゃ!?」

「ぬお!?」

結構な勢いで高町なのはとぶつかってしまった。結構痛かった。

「痛たた…。すみません、前ちゃんと見てませんでした…ってベルツリーさん?」

「痛い。おはようございます高町隊長」

俺だと分かると、すぐに起き上がり、俺が起き上がるのを手伝ってくれた。

「なのは、こいつ誰?」

シントラに似ているせいで、思わず頭をもふもふと撫でてしまいたい。
シントラは顔を真っ赤にして、エッケザックスを起動さしてまで俺のこと追いかけてくるからな。あれは、命懸だった…

「この人は、ベルツリーさん。私が落ち込んでるときに慰めてもらっちゃった」

「な、慰め…てめえ!! なのはに何しやがった!?」

なのは様の言葉を、何か変な方向に解釈したヴィータが、俺のことを凄い形相で睨みつけられている。

「何もしていない。ギブギブギブ…」

「本当か? なのは」

「本当だってさっきから言ってたじゃんか…」

全く。中身も微妙にシントラにそっくりだな。
そこで、俺は、不意に自分の胸元を触るといつもある感覚がなくなっていた。

「あ、あれ? た、高町隊長。ここらへんに何か落ちてませんでしたか?」

そう。ナズナとおそろいの赤い十字架がなくなっていたのだ。おそらくさっきぶつかった拍子に首から墜ちたんだろう。

「落ちていた? もしかしてこれかな?」

なのはは、地面に屈むと何かを拾った。赤い十字架の首飾り。

「それです!! ありがとうございます!!」

「え!? あ、はい」

なのはから受け取り、首にかけなおす。その必死な姿をなのはは、じっと見ていた。

「大事な物なんですね」

「あ~、まあ、小さい頃に買った大事な物なんで。まあ、ダサいかもしれませんが」

「いや、そんなことない。オシャレだとあたしは思う」

何故かヴィータが思いっきり褒めてきた。少し汗をかいているようにも見える。

「そうですか? そういってもらえるとうれしいです」

「ヴィータちゃんがそんなこと言うなんて珍しいね」

「…そうだな。何でだろ」










「あ、ベルツリーさん」

「あれ? 今からお出かけ?」

寮に戻ろうと、ふらふらしているとスバルが話しかけてきた。服装は、いつもの仕事着ではなく、プライベート用の服装になっている。
服のことなんて、あんまり覚えていないが、多分ヴィヴィオの話じゃないかと思う。

「ベルツリーさんもお休みなんですよね? どこかにお出かけするんですか?」

「いや、俺は家で大人しくゲームでもしておくよ」

外に出てて、お前達に見つかったら面倒な事態になるからな。

「そうですかー。なら、お土産買ってきますね!!」

「いや、気にしないでくれ」



その後、ティアナがくるまで少し談笑して、ティアナがきたのでスバルと別れ、寮に戻って早速スカさんに今回のことを聞いてみることにした。

『今日が聖王が見つかる日? 知らなかったのかい?』

「え? 気づいてたのか」

『君なら分かってると思ってんだけどね』

仕方ないだろう。もうかなり昔のことだし、それに細かい日程なんて覚えてないんだから。

「まあ、今回は特に動かなくても構わないか。ヴィヴィオは、無事に回収されるだろう」

『今回は動くよ。いや、もう動いてるよ』

「は?」

『ちょっと調べたいことがあってね。レリックが欲しいんだ。それに、おそらくだけど人形も動く。だから、君も準備しといてくれ』

「? 珍しく本気だな?」

一体何が起こるんだ?










side--


「よっと! うぅ…暗いし、なんか臭~い」

≪仕方ないですよ。私と同化しているんですから、鼻が敏感になってるんです≫

暗い空間の中、そんな空間には場違いな一つの声が響く。
名は、アリシア・テスタロッサ。先日、D-スカリエッティと母のプレシア・テスタロッサに頼まれ、レリックの回収に向かっていた。
何故、プレシアたちがこの回収にアリシアを選んだかには、理由があった。

「むむ! あっちから音が!」

金色の髪からひょっこりと出ている金色のような茶色いような猫の耳をピクピクと動かし、目を鋭くさせる。
リニスと同化したアリシアの特性は、猫のリニスの特性を100%活かすことが出来る。つまり、人間よりも目や耳の感覚が鋭くなるということ。
それ故に今回の任務には、アリシアたちが選ばれた。

「暗いけど、猫の目なら大丈夫~♪」

≪真面目にしないと、プレシアが怒りますよ≫

暗い場所でも猫の目を活かし、音のする方向に難なく進んでいくアリシア。歌まで歌っている。リニスは、少し心配になったが、本人が楽しそうなので注意に留めておいた。
アリシアが聞きつけた音は、進むに連れてどんどん大きくなったいく。ズルズルと何かを引きずるような音。

「…昨日の映画…」

≪どうかしました?≫

アリシアは、その何かを引きずるような音を聞いて、昨日見た映画の内容を思い出していた。
昨日見た映画では、警備員が何かを引きずる音に気づいて確認しに行くと、自分の腐って零れている腕を引きずりながら歩いている
ゾンビがおり、そのゾンビに逃げる暇もなく喰われてしまうという内容だった。怖くて久しぶりに母の布団で一緒に寝たくらいだ。
それを今この状況で思い出してしまい、段々と歩くペースがゆっくりになっていく。

「も、もしかしてゾンビとかじゃないよね?」

≪テレビの見すぎです≫

アリシアの言葉に、そういえば今日の朝、主の機嫌が怖いくらいよかったなとリニスは思い出していた。
アリシアは怖がりながら音の出所に近づいていき、とうとう音を出している物の正体を見た。

「…子供?」

そこにはゾンビ…ではなく、ただの小さな少女しかいなかった。しかしその少女を見てただの少女と判断することは出来なかった。
少女の服装は、まるでそこら辺にあった布を纏っただけだ。それに音の正体でもあるケースを鎖で体に結び付けて歩いている。

「大丈夫?」

そのまま見ているわけにもいかず、アリシアは、倒れそうになった少女の体を支える。
しかし、少女の意識はないに等しく、自分を救った誰かの方を見るが、眼が霞んで鮮やかな金色とルビーのような紅しか見えない。

「だ、だれ…」

かすれる様な声で、尋ねることしか出来なかった。

「え、あ、そうだな…。マジニャンとでも呼んで!」

…恐らく、マジシャンと猫をかけたんだろう。どことなく名前の付け方が黒き従者の主に似ているが、家族とは似ていくものなんだろう。
アリシアは、本名を名乗るわけにもいかないと考えたのか、咄嗟に出た偽名でやり過ごした。

「マジ…ニャン」

その名前を聞くと同時に糸が切れたかのように気絶してしまった少女。

「…え~と…これってレリックだよね?」

アリシアは、気絶してしまった少女を壁に寝かせ、少女が引きずっていたケースに目を向ける。

≪これが回収しなきゃいけない物ですね。アリシア。さっさと回収してしまいましょう≫

「そだね」

少女に巻きついている鎖を片方の手で持ち、もう片方の手に薄い魔力を張り巡らせていく。

「ニャン断ち!!!」

適当につけた技名を叫び、鎖を両断する。魔力の操作はリニスが行っているので、失敗することなんてほとんどない。
振り下ろされた手は、見事に鎖を両断し、一つのケースを少女と分離させる。

「よし! もう一つやって、その後は、この子を一応地上に出してあげて…」

管理局がどうにかしてくれるだろうと思い、少女を地上に連れて行ってあげようと背に背負った時
アリシアと同化しているリニス、猫の感が危険だとこの場所にいると危険だと知らせる。自分の相棒の感に従い、その場所からケースと少女を持って、大きく跳躍した。



――メキッ



アリシアがその場から離れた途端、青い髪を持つ、女性が地面を抉った。

「あ、危なかった…」

顔から一筋の汗を垂らしながら、自分がさっきまでいた場所を眺める。
青い髪の女性は、よっぽど勢いよく殴りつけたのか、拳が地面にめり込み、抜けなくなっている。

「あ! あなた、前に嵐たちの邪魔した人でしょ! 何で私たちの邪魔するの!!」

ビシッ!! っと自分に殴りかかってきた女性を指差すが、女性はまるで聞いていないかのように拳を抜くのに夢中になっている。
アリシアもアリシアで、別に聞いていないのを気にしないで話し続ける。

「全く! 嵐の邪魔をするなんて駄目だよ! やっと嵐が、帰れるのに! だからもう邪魔しないで! わかった?」

親が子供に叱るかのように女性に話しかける。相変わらず女性は無視しているようだが。

「言うこと聞かない子には…」

少女とケースを地面に置き、青い髪の女性に向かって走る。

「お仕置きだよ!」

女性との距離が縮まり、目の前くらいまで走った後、高く跳躍し、女性に向かって、飛び蹴りをお見舞いした。
無論、魔力によって強化されている飛び蹴りだ。

「猫跳脚!」

猫の部分は、ニャンと呼んでも猫と呼んでも構わないらしい。拳が埋まっていた女性にクリーンヒットしたと思われたアリシアの一撃は…

「う、嘘!?」

両手で防がれていた。女性はアリシアが跳躍したのを見ると、もう片方の拳で更に地面を砕き、拳を脱出させた。
そして、アリシアの攻撃の飛び蹴りを両腕でガードした。
アリシアは、女性の両腕を蹴り、一回転し、ケースと少女の下に戻った。

「この一撃で眠ってくれたらよかったのに…」

「……」

青い髪の女性は、仮面のせいで何を考えてるのかさっぱりだが、この時だけはアリシアにも行動がわかった。

「さすがに荷物と女の子を持ったまま戦うのは、ちょっと無理なんだけど…、見逃して?」

あはは、と渇いた笑いをしながら、女性に頼んでみる。女性は口元をニコリとも笑わせないで

「やっぱり来るんだ!?」

ローラーブーツを加速させ、アリシアに攻撃を仕掛けてきた。

「うわわわ!?」

女性による連撃をかわしながら、なるべく女性から距離をとる。
アリシアの手には、回収目的のレリックがあり、そして弱っている少女がいる。
そんなハンデを持ちながら戦えるほど、アリシアは強くない。だからと言ってこのままだとジリ貧だ。

「リニス!」

≪脚力強化≫

女性の大振りな攻撃をかわし、そのかわした勢いを保ったまま、女性の腕を蹴り上げる。
女性は、蹴り上げられたことにより、一瞬の隙が出来た。それを見逃す術はなく、アリシアは全力でその場を離脱した。





「ふう…。まだついてきてる…」

全力で離れたが、曲がり道などが存在せず、真っ直ぐの道をただかけるだけになっていしまい、女性も恐らくついて来ている。

「とりあえず…」

アリシアは少女を柱の陰に隠し、鎖を両断した方のケースを持つ。

「大人しくしてるんだぞ~」

疲れて寝ている少女の頭を笑みを浮かべながら、撫で、ゆっくりと立ち上がる。

「どっちが狙いかわかんないけど、レリックが狙いならこっちに来るよね」

女性は、もう見えるところまで接近してきている。このまま少女を背負っていても負けるだけだと考えたアリシアは
少女を物陰に隠し、レリックを自分が所持することで、意識をこっちにむけることにした。
こっちに来て戦いになった場合、レリックを置いて戦えばいいし、最悪レリックを盾にしたって構わないと考えていた。

「鬼さんこちら~! 猫のいる方へ~」

手を鳴らしながら、目立つように女性から逃げていく。すると女性も、その音と声を頼りに追いかけてくる。
アリシアの作戦はとりあえず成功した。















「エリオ君、どうかしたの?」

「いや、下から、何か物音がした気がして…。ちょっと確認してみよう」

そのすぐ上で、自分の妹の子供たちがいることには、気づかなかったが。

「(…まさか、フェイトさんがあんなこと言うはずないよね?)」










<あとがき>
忙しくて嫌になる今日この頃。
ビビリの黒胃ですが、明日、とらハ板に引越ししたいと思います。追加・修正と共に。
では!また次回!!



[6935] 第72話「ニャンニャン…ニャン!?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:fd9652be
Date: 2009/06/20 13:11
「行ってきます!!!!!」

「姉御~あんまり張り切らないでくれ~」

「多分、聞いてないな。獲物を前にした狼のようだ」

「あたしも嵐に呼ばれたから行ってくる」

「ああ、気をつけていけよ」

「アリシアは大丈夫かしら…」



第72話「ニャンニャン…ニャン!?」



side--


少女、ヴィヴィオがアリシアに連れられ、物陰に隠された後すぐにヴィヴィオは目を覚ました。
何だか暖かい手が自分の頭に乗った気がして目を開けてみると、そこには誰もいない。
寂しくなってうろついている内に上から少しだけ明かりが漏れている場所を見つけ、そこを最後の力を振り絞り、上がったところで力尽きて再び気を失ってしまった。
しかし、そこを運よくキャロとエリオに発見されて無事保護された。
そして、六課の新人たちは、ヴィヴィオをシャマルに預けた後、ヴィヴィオの持っていたケースの鎖が断ち切られている跡を発見し
もしかするとまだレリックの入ったケースがあるのかもしれないと考えていた矢先に地下からガジェットの反応が発見された。

そして、現在スバルたちは地下を走ってレリックのケースを探している。

「ケースの鎖を見てみると、明らかに切られたような跡だったから、魔導師が関わってると思うからみんな油断しちゃ駄目よ」

ティアナがケースを見て気になったとこは、ずばり切られた断面だった。千切れたのだったら千切れた感じに鎖はなっている。
しかし、あのレリックのケースについてあった鎖は明らかに切られたような跡だった。
実際にアリシアとリニスによる魔法なのだが、リニスの細かすぎる魔力制御によってアリシアの手が名刀程の切れ味を持ってしまった故だが。

「魔導師…もしかしてなのはさんの…」

スバルは、以前自分たちの前に立ち塞がった敵。自分の尊敬する人を圧倒した人物、ナズナを思い浮かべた。
あんな人物がこの先に待っているというなら、果たして自分たちで太刀打ちできるかと不安になっていくが、その考えはティアナに否定された。

「その可能性もあると思って、なのはさんに相談してみたんだけど“これ”は絶対に違うらしい」

「へ? どうして?」

「なのはさんが言うには、“なんとなく”らしいわ」

宿敵と書いて友と読むのかもしれない…。本人たちは絶対に嫌がるだろうが…










「とうりゃ!!」

倒された拍子に地面に手をつき、そのまま女性を蹴り付けるアリシア。
敵はアリシアの足を掴み、攻撃を受け止める。しかし、それを見てアリシアは笑みを浮かべる。

「食らえ!」

≪脚部点火≫

アリシアがリニスと同化しているときに使う地上での超加速。それは足に魔力を溜めて爆発させ、速度をつける。
アリシアはそれを利用し、自分の足を掴んだ敵に向けて魔力を爆発させる。
敵も危機を感じたのか、すぐにアリシアを投げ飛ばし、爆発から回避しようとする、ワンテンポ遅かった。

「……!?」

掴んでいる足の先が爆発し、敵を壁に吹き飛ばした後、アリシアはその爆破を利用して距離をとる。
この作戦をナズナに見せれば少し考えが足らないと注意され、嵐に話せばそれ戴きと言われるんだろうなとアリシアはボンヤリと頭で考えながら、次の手も考えていた。
この攻撃で相手が倒れるとは考えられない。恐らくすぐに起き上がってくるだろう。

「……」

「やっぱり~」

≪文句言ってる場合じゃないでしょう≫

敵は、まるで痛覚がないのかゆっくりと起き上がり、すぐにアリシアの方を睨んでくる。
いくらバリアジャケットを纏っているとはいえ、壁に激突してすぐに顔色一つ変えないなんて普通では考えられなかった。
さっきの爆発で、少し仮面が割れて顔の見える部分が増えたが、眼の部分は無事なので人物の特定は出来ないだろう。

「レリックのケースも落としちゃうし…」

≪だからちゃんと持っていなさいと言ったでしょう≫

戦いの最中、いや、少女、ヴィヴィオを敵の意識から逸らすために逃げているときに攻撃を受けてしまい
気づいたらレリックのケースを落としてしまっていた。
すぐに拾いに行こうと考えたアリシアだが、敵はケースなどお構いなしに攻撃を仕掛けてきているため断念した。

≪来ました!≫

「一端引き返した方がいいね!」

敵の攻撃をかわし、進んでいた方向の逆に走り始めるアリシア。もちろん黙って見ているはずもなく襲い掛かってくる青い髪の女性。
ただアリシアにとって救いなのが、敵は飛行魔法が使えないのか飛んで自分に攻撃を仕掛けてくることはない。
アリシア自身も飛行魔法が使えないが飛べないわけではない。しかし狭い空間では使いにくい飛行方法なので、これだけは助かったと思っていた。

≪アリシア≫

「遠距離攻撃は嫌いなんだけど…猫の爪!!」

後ろから追跡してきている敵に向かって文字通り腕を振るう。
するとアリシアの爪先からフェイト同じ色の魔力光が現れ、爪のような形の魔力が敵に向かい五つ飛んだ。
アリシアの少ない遠距離魔法の一つ。猫の爪。簡単に言うと魔力刃を飛ばしているようなもの。魔力刃よりも些か威力は低い。

敵はアリシアの未知の攻撃に一端動きを止めるが、すぐに動きを再開し、猫の爪をかわす。

「爪爪! 爪!!」

≪本当に遠距離攻撃は苦手ですね…≫

連続で3回。爪の数は15発。だが綺麗に決まったのは0だった。全て掠ったり、撃墜されたりだ。

「苦手なんだから仕方ないじゃんか~」

このまま遠距離攻撃を仕掛けていても自分の魔力が尽きるだけだと判断したアリシアは、再び逃走。
リニスの魔力はプレシア経由で繋がっているので、プレシアの魔力を持った使い魔と言っても過言ではない。
魔力量に難ありだったアリシアもリニスと同化することによって解決されているが、それでも無駄撃ちは勿体無いということ。

「嵐にかけっこだったら勝てるのに~」

≪それが今の状況に役に立つ要素ですか≫

「ううぅ~」

愚痴を零しながらも、しっかりと敵との距離を離そうと走っているが、敵もローラーブーツを使用しているので遅いわけではない。
しっかりとアリシアについてきているし、隙さえあれば追い抜かれるほどだ。

「“あれ”は最終手段だし…」

≪今は逃げることに専念してください。追いつかれますよ≫










アリシアと青い髪の女性が戦闘をしている中、スバルたちはスバルの姉、ギンガと合流していた。
合流した後もガジェットの攻撃は収まらず、激しい攻防を繰り広げながら奥に進んでいた。
そして、ガジェットのⅢ型を破壊し、しばらく進んだところで大きな広場に出た。そこでキャロは、目的の物を見つけた。

「あ! ありました!!」

キャロの掛け声を聞き、全員がキャロに近づいていく。しかし、ティアナが何か音がしていることに気づいた。

「何この音…」

何かが壁を蹴って近づいてきているような音。突然のことで反応出来なかったが、次の瞬間キャロが何者かの攻撃によって弾き飛ばされた。

「きゃあ!?」

「キャロ!!」

すぐにエリオが攻撃を仕掛けた人物に反撃するが、見えない何かに切り裂かれ肩を負傷する。

「ぐっ」

「エリオ君!!」

だが、すぐにキャロの前に立って何者かから庇うように立ち塞がる。
自分を攻撃した何者か。それは体型で人間と判断していたが、姿を見てみると自分の考えが間違っていたことに気づかされる。
確かに肉体の形は人間に近いだろう。しかし、その体は明らかに人間ではなく、どちらかと言うと虫にちかい見た目を持っていた。
キャロはそんな、エリオを見つめた後、自分が落としたケースを誰かに拾われるのを目撃し、急いで駆け寄る。

「邪魔」

「っ!?」

駆け寄ると同時にケースを拾った人物に高出力の砲撃を放たれた。
咄嗟にプロテクションを展開し、紫の髪を持った少女、ルーテシアの攻撃をガードするが

「きゃああ!!」

「キャロ!? ぐぁ!?」

呆気なくプロテクションは砕け散り、壁に叩きつけられそうになるが、エリオに衝撃を緩和してもらって事なきを得た。
ルーテシアの攻撃に応えるかのように、虫の体を持つ生物、ガリューも攻撃を再開する。

「うおおおおおおおお!!!!」

スバルがガリューに蹴りかかるが簡単にかわされる。そのかわした隙をつき、ギンガが追い討ちをかけた。
さすがにこれをかわすのは不可能と判断したガリューは、自らの腕をクロスさせてギンガの一撃を防ぐ。

「てええええ!! はあっ!!」

ダメージを殺すことには成功したが、威力を殺すことは出来ず、そのまま吹き飛ばされるガリュー。
その間にスバルはルーテシアに近づき、それを返すように注意を促そうとした。

「こらぁー! そこの女の子! それ危険な物なんだよ! 触っちゃ駄目! こっちに渡して!」

スバルの注意も空しく、ルーテシアはその場を離れて行ってしまう。だが

「ごめんね、乱暴で。でもね、これ本当に危ない物なのよ」

次の瞬間、空間がぼやけたかと思うと、ティアナがデバイスをルーテシアに突きつけている状態だった。
幻影魔法を駆使し、ルーテシアとガリューに気づかれないように接近したんだろう。
ルーテシアの顔に少し焦りの表情が浮かんだが、少しするとそれは収まりさっきまでの無表情に戻った。
ティアナは、それに少し違和感があったが、気にしなかった。このままルーテシアを六課まで連れて行こうかと考えた途端――



「スターレンゲホイル!!」

轟音と閃光がティアナたちを襲った。



「うにゃああああああああああああああ!!!!!!」



…情けない叫び声も










「ふっ! はっ!」

敵に攻撃・防御・逃走などを繰り返しながら走っているせいで全然進んでいないアリシア。
このままだとレリックを落とした場所に行くまでにかなり時間を食ってしまう。

「こうなったら一気に行くよ!」

≪初めから使えばよかったのに…≫

「細かいこと気にしないの! 嵐の邪魔するんなら、倒しとく方がいいと思ったの!」

アリシアと揉めながら、リニスは敵を捉える準備を整える。

≪準備完了ですよアリシア≫

「なら、私が指示したら思いっきりお願い!」

敵の攻撃を捌きながら、アリシアは敵の隙を見逃さないように紅い眼を鋭くさせる。
リニスと同化しているせいなのか、若干いつもよりも鋭さが増している。

「てえい!!」

敵の攻撃が止むと同時に、自分の蹴りを相手の肺の部分に向けて放つ。さすがに肺に攻撃を食らえば
ただでは済まないのか、肋骨の部分を腕でガードする。

「今だ!」

≪脚部点火≫

「……!?」

相手の体を蹴った反動を利用し、更にそれにブーストをかけ、その場から離脱に成功する。
魔力の爆発に再び巻き込まれ、敵はしばらく動けない状態になった。
それを知ってか知らずかアリシアは、敵から離れれたことを喜んでいた。己の出せる全速でレリックのケースを落とした場所に向かった。
しかし、全力で走ったにも関わらず、アリシアを迎えたのは祝福ではなく、轟音と閃光だった。
リニスと同化しているアリシアにとってこれほど熱烈な歓迎はなかった。



「うにゃああああああああああああああ!!!!!!」



恐ろしく早く目的の場所に到着したが、後一分遅かったほうがよかったかもしれない。










「う、うにゃ…ほ、星が見える…」

体をピクピクと痙攣させ、地面に倒れ伏すアリシア。ご丁寧にネコミミまでピクピクと動いている。
そんなアリシアを見て、驚いているのはルーテシアたちもそうだが、スバルたちも一緒だった。

「ふぇ、フェイトさん! どうしてここに!?」

「フェイト隊長! 大丈夫ですか!」

「そ、それと…どうしてネコミミ?」

エリオ・ティアナ・スバルが倒れているアリシアに勘違いしながら駆け寄る。
キャロは、さっきの壁に叩きつけられた衝撃で気を失っているのでエリオに運んでもらっていた。

「…あれ?」

フェイトに駆け寄った時、最初に違和感を発見したのはエリオだった。ネコミミもそうだが、フェイトよりも少し背が小さく感じた。
それにバリアジャケットも黒を基調としているのではなく、どちらかと言うと白を基調としている気がする。
エリオは知らないが、フェイトが見たら尋ねるだろう、何故リニスの服を着ているのかと。

「こらぁ! お前らあたしを無視するな!」

派手に登場したはずなのに、何者か分からない謎のネコミミ女に邪魔されたアギトは少し不機嫌だった。

「あたしは、烈火の剣精のアギト様だぞ!!」

怒りながら台詞を喋り、大声を出すたびに、彼女、アギトの背中に綺麗な花火が咲く。
緊迫した空間に花火にネコミミ。一体さっきまでの緊迫した空気はどこに旅に出てしまったのか。

「ああ、もういい! ネコミミもお前等も…まとめてかかって来やがれ!!」










スバルたちがまだレリックのケースを見つけていないとき
なのはとフェイトは、さっきまでは空でガジェットと戦っていたが、はやての指示ではやての攻撃が当たらない安全空域まで避難していた。
そして、なのはたちの避難が確認された途端、空を八神はやての魔法が覆った。

「さすがはやてちゃん…」

「うん。ここははやてに任して、私たちは急いで戻ろう」

友人の相変わらずの魔法の切れに感心しながらフェイトは、すぐヘリに戻ろうとするが
一緒に避難したなのはは、一向に動こうとしない。

「なのは?」

「フェイトちゃんはヘリに向かってくれるかな」

「え?」

さっきまでのなのはの温かい感じと違って、どこか冷たい印象を受ける。どことなく声質も冷たい。

「私にお客さんが来たみたい」

「お客?」

フェイトは、周りを見渡してみると、空から黒い羽が落ちてくるのに気づいた。
黒い羽といえば、はやてを想像したフェイトだが、はやてには空の殲滅をお願いしている。こんな場所にくる筈はない。

「やっぱり来たんだね」

「ええ、来ました」

黒に染まった魔導師がなのはとフェイトの前に舞い降りた。

「またナズナちゃんか~。本当に一匹見つけたらたくさんいるんだね」

「ええ、あなたと同じでしつこいんです」

「私ってしつこいかな?」

「気づいてなかったんですか? これは滑稽ですね」

会うたびに会話と会話のドッチボールを開始するなのはとナズナ。フェイトは、軽く冷や汗を流しながら二人の様子を伺っていた。

「フェイトちゃん。ヘリ」

「な、なのは。けれど…」

「大丈夫。だからお願い」

「うぅ…わかった。ナズナもなのはもあんまり喧嘩ばっかしてちゃ駄目だよ」

ここは、なのはに任せ、自分はヘリに急ごうとしたとき、目の前にモニターが表示された。

『フェイト』

「コーデリアさん」

フェイトと個人的に契約しているコーデリアだった。

『私もヘリに駆けつけます』

「本当!? ありがとう」

コーデリアは、一応六課で待機していたのだが、雲行きが怪しくなってきたのを感じ、シャーリーに細かい話を聞き
狙われる可能性の高いヘリの援護に向かうことにしたのだ。

「それじゃあなのは、あまり無茶しないでね」

「うん」

フェイトは最後にナズナを見た後、今出せる最速でヘリに向かっていった。

「お別れは済みましたか」

「待っててくれたんだ。優しいね。あれ? ナズナちゃんの首飾りってベルツリーさんのとお揃いなんだね」

「ベルツリー…(ベルツリー→ベルとツリー→鈴と木→鈴木!→マスター!!→高町なのはが知っている→にゃんにゃん→KILL)」

嵐成分が足りないせいなのか、嵐に関係あることを瞬時に頭で計算する。若干想像(妄想)も混ざっているが。

「この前以上にボロ雑巾にしてあげましょう。覚悟してください」

「へえ、出来るのかな?」

この前戦ったときに完膚なきまでに倒されたなのはは、負けたはずなのにどこか余裕を感じさせる笑みを浮かべている。

「ミーティア」

『Let's live always.(いつも通りにいきましょう)』

ナズナがミーティアを構え、なのはに突きつける。

「対シェファーズ パース 限定解除」

なのはの体に本来の魔力が戻った。










<あとがき>
先に72話を投稿。今から修正を開始して終わったら引越しします。
ヴィヴィオ編では、嵐も動くから、もう少し長くなりそうです。



[6935] 第73話「黒い薺と白い菜の花」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:fd9652be
Date: 2009/06/20 13:00
「ドクター」

「おや、ウーノ。どうかしたのかい?」

「何故、六課に有利になるような条件を最高評議会にお頼みに?」

「ふむ。中々難しい質問だね。…まあ簡単に言えば見たかったのかもしれないね」

「見たかった?」

「黒と白のぶつかりをね。まあ、私たちにはそこまで被害はない。大人しく傍観しようじゃないか」

「はあ…」



第73話「黒い薺と白い菜の花」



side--


「いきなり呼び出しなんて、一体どうしたのはやてちゃ、…どうしましたか、八神部隊長」

六課の部隊長室。新人たちの訓練を終え、高町なのはは自分も休憩しようと思っていた矢先
突然の呼び出し。一緒に休憩に向かっていたフェイトに一つ断りをいれ、急いで八神はやてが待つ部隊長室へ急いだ。
疲れのせいでついプライベートの口調で喋ってしまったが、すぐに持ち直し、仕事口調にする。

「ああ、いやそんなに固くならんでええよ。ちょっとこの前に相談されてたことが何とかなったから言っとこお思って」

いつの間にか自分が気づかない内にミスをしてしまっていたんだろうか? と心配になっていたなのはは
はやての言うこの前相談したことというのが頭に浮かんでこなかった。

「この前のこと?」

「え? なのはちゃん忘れとったん? ほら、ナズナちゃんのことで相談してきたやろ? リミッターで縛られている限り手も足も出せへん~って」

ナズナの名前が出た途端、なのはははやてに相談していたことを思い出し、同時にあの時負けた屈辱も同時に思い出した。
部隊長の手前でそのことを表情に出すのは不味いと思ったが、既に遅く、黒いオーラを纏った笑顔を浮かべていた。

「ああ、ナズナちゃんね…」

「おぉ…なのはちゃん。かなり怖いからその表情止めて、話聞いてな」

小学生からの幼馴染の恐ろしい笑顔を見ながら冷や汗を流すがはやて。彼女はナズナとなのはの仲の悪さを
フェイトから聞いていたが、所詮は聞いていただけ。実際に眼にして本当に仲が悪いんだなと理解した。
彼女自体はナズナについては3人の中で一番興味がないだろう。確かに興味が全くないというわけではないが
高町なのはのようにライバル心を持っているわけでもない。フェイト・テスタロッサのようにどこか友達的な雰囲気を持っているわけでもない。
ただ、自分の親友と同じで小学生から知っている存在というだけなのだ。

「無理は承知でクロノ君に相談してみてんけどな」

「クロノ君に?」

クロノ・ハラオウン。恐らくナズナについて一番深く調べたのは彼だ。しかし結局足取りは掴めず、自分の位も高くなり、ナズナだけに関わってるにはいかなくなった。
そのため最近はナズナの存在も薄れてきていた。はやてに相談されるまでは。

はやてに相談された話は簡単だった。なのはのリミッターを解除して戦いたいということだ。簡単な内容だが、実際は簡単じゃない。
部隊にそれぞれが保有できる魔力総量は決まっている。なのはのリミッターを解除すればそれを破ってしまうことになる。
しかし、ナズナと出会うたびに解除申請して解除するのも、それはそれで面倒な事態になってしまう。
悩みに悩んだクロノだったが、此方もだめもとで本局に掛け合ってみた。すると、なんと簡単に許可が下りてしまったのだ。条件付で。

「クロノ君もなんか胡散臭いって言ってたけど下りたことは下りたんや。せっかくやし、存分に使わせてもらったらええ」

「そうだね。それで条件って?」

「うん。そんなに難しくなかったわ」

条件は確かに簡単だった。


一つ.普段は通常勤務と変わらずリミッターをすること。


二つ.リミッター解除“対シェファーズ パース”は次元犯罪者ナズナにしか使用しないこと。


三つ.被害を最小で抑えるためフルドライブを禁ずる。


四つ.戦闘終了後、直ちにリミッターをかけなおすこと。


五つ.次元犯罪者ナズナは拘束した後、本局に送ること。


「フルドライブは駄目か…」

「そうみたいやね」

「一応、条件はこれだけかな?」

明らかにナズナを意識した限定解除。そして捕まえた後で本局に送るということは――

「管理局で働かせる?」

「そこら辺はよくわからんけど、管理局は人材不足やし、やっぱりそうなんちゃうかな?」

二人は気づかなかった。いや、気づくはずなかった。この件に自分たちが追っている次元犯罪者ジェイル・スカリエッティが関わっていることに。




















「…対シェファーズ パースですか。随分と警戒されてますね」

自分の目の前にいる相手。高町なのはの魔力の高ぶりに警戒しながら眼を鋭くさせ睨むナズナ。
さっきまでは、リミッターのせいで圧倒的にナズナの魔力が高かった。しかし、今はそれ程に差のないくらいになっている。

「そうだね。私って臆病だから」

自分の魔力のリミッターが解除された時に漏れた微かな桃色の魔力を纏いながらなのはは笑みを浮かべる。

「そうですね。このチキン」

嵐としばらく会っていないせいか、普段以上にピリピリしているナズナは
嵐と騙してるとは言え同じ職場で働いているなのはに対して嫉妬のような感情を抱いていた。

「そのチキンにそっくりなナズナちゃんもチキンだね?」

なのはのリミッターも完全に解除され、既に力は本来のなのはのものに戻っている。

「鳥は鳥でも高貴な鳥です。そうですね…差し詰め白鳥ですね」

「そうっ!!」

ナズナの言葉が終わるや否や、一瞬でナズナに接近して攻撃を繰り出してきた。

『Short Buster』

移動しながら放つ砲撃。手加減などしていない。する必要がないとばかりに周りに浮遊しているスフィアから放たれた4つの砲撃は見事に命中し、ナズナを爆煙が包む。

「……」

レイジングハートを構えながら相手のアクションに備える。あの一撃で倒せるほど甘い相手じゃないことは、なのは自身が一番よく知っていた。

「…!? レイジングハート!」

そして、予想通り爆煙が晴れる前にナズナは爆煙の中から攻撃を放ってきた。
ディバインシューターが直接自分に迫ってくるのを冷静に眺めながらプロテクションを展開し、攻撃を防ぐ。

「礼儀がなってませんね」

爆煙が晴れて出てきたナズナはなのはを一瞥をくれ、すぐに構えなおす。

「ミーティア」

「…レイジングハート」

デバイスの機械的な音が響き、カートリッジがリロードされる。
なのはもそれに応えるかのようにレイジングハートを構えカートリッジをリロードする。

『『Accel Shooter』』

黒い魔力砲撃と桃色の魔力砲撃が同時に放たれる。その数互いに32。
ナズナとなのはは、互いに魔法を放ったのを確認するとゆっくりと目を閉じた。
もし魔法を知らない者が見たら、一体何をしているのかと思うだろうが、既に二人の間では戦いは始まっている。

「…ふっ…ふっ…」

互いに呼吸を整えながら集中するのは放ったアクセルシューターの操作。指揮者の指示に従うかのように黒色と桃色の魔力は動き続ける。
その中の一組が互いにぶつかり合い爆散し、その爆発に巻き込まれ同じように爆散する魔弾。
黒色の魔弾がなのはに迫ればすぐに庇うかのように桃色の魔弾が進路を阻害し、爆散する。

「っく…」

その呟きを漏らしたのはどちらだったか。互いの魔弾を防ぎ潰しあっているうちに魔弾の数は確実に減っていく。
高位の砲撃魔導師のふたりだからこそ出来る戦闘。これがなのはではなくただの魔導師だったなら
最初の32発の砲撃魔法をいくつか防いだ後にやられるのがオチだっただろう。同じ魔法を使う二人だからこその戦い。そして結果。

「…以前とは違うようですね」

「前までの私だと思ってるなら痛い目に遭うよ」

普段のなのはを知る者が見たらわかるだろう。誰もが笑顔になるような笑いじゃない。純粋に戦いを楽しんでいる笑顔。戦っているときのシグナムと同じ顔をしている。

「なら…」

丁度アクセルシューターは互いに打ち消しあい、全てが消滅した。それを機にナズナは再びミーティアを構える。

「ミーティア」

『Divine Buster』

相手が前回よりも強力になっていようが関係ない。自分の魔力を持って打倒するのみ。
ナズナは心の中で呟きながら魔力を集束していく。なのはもすぐに準備に取り掛かっていた。純粋な力比べがしたいのだろうか。
そんなことを考えながら、ミーティアを握る力を強くしていく。

「ディバインバスター」

「こっちだって負けないよ!」

先ほどのアクセルシューターとは比べ物にならない高威力の砲撃魔法、ディバインバスターが放たれる。
黒色の砲撃と桃色の砲撃は、互いにぶつかり合い、相手の魔法を食い破ろうと進み続ける。

「レイジングハート!!」

『Load cartridge,』

「ミーティア」

『Load cartridge,』

どちらも同じくらい押し続けている。なのはが押せばナズナが押し返し、ナズナが押せば、なのはが押し返す。
カートリッジをリロードしてもそれは変わらない。二人とも顔に汗を浮かばせながら必死に自らのデバイスを握っている。
何秒、本人たちにすれば何時間の鬩ぎあい。それはまたしても相手に攻撃を加えられないで終わった。
中心で爆発したぶつかり合いは、突風を起こすだけで相手にダメージがいくものではなかった。

「ちっ」

高威力のディバインバスターが起こしたのは、突風だけじゃない。同時に爆煙も巻き起こし
ナズナたちの視界の妨げにもなっていた。

「高町なのはは…」

『Master!!』

爆煙の中、周りを見渡しなのはを探し始めようとしたナズナだったが、突然の相棒の呼びかけに中断した。
そして、冷静になり上を見上げてみると桃色の光、アクセルシューターが6つ放たれているのを発見した。

「…何故今更?」

なのはの行動に疑問を覚えたナズナだったが、あのままアクセルシューターを放置するのも危険だと思い
ミーティアを上に向け、打ち落とそうとした。その時――

「っ捕まえたよ!!!」

爆煙を裂いて現れたなのはに胸倉を掴まれそのままの飛行速度で空中で押しやられる。

「何を!?」

「一緒の力を持ってるなら純粋な力比べじゃ勝てない。だけど」

なのはは考えなしでナズナとアクセルシューターやディバインバスターを放っていたわけじゃない。
試したいた。ナズナはどこまで自分と同等の力を持っているのかを。そして理解した。ナズナは自分と同等、いや、それ以上の力を持っていることに。

「ちょっとだけ気になることがあった」

「っく!!」

ナズナはなのはから逃れようと足掻いたが、なのはは自分の腕とナズナの体をフープバインドで固定してしまっていた。
ナズナはそのままなのはに胸倉を摑まれ、飛び続ける。

なのはが気になったこと。それは一番初めに攻撃を放った時のことだった。
なのはが戦いの始まりのときに放った攻撃、ショートバスター。威力は小さいかもしれないがなのはは自分の魔力の高さを理解している。
その自分が力を込めて放った砲撃魔法。並みの魔導師ならそれだけで敗れてしまうほどのはず。
だけど、やはりナズナは攻撃を耐え切りなのはに攻撃を返してきた。そこまではいい。
その時になのはは見た。常人ならあまり気にしないだろう。ましてや戦闘中、そんなことなんて気にしないのが当然だ。
なのはが見たもの、それはバリアジャケットの微かな汚れだった。いや、損傷かもしれない。
攻撃を防ぎきり自分に攻撃したときのナズナのバリアジャケットに僅かに損傷が見えた気がした。
だが、それはおかしい。自分だったらあれは完璧に防げる攻撃のはずだとなのはは考えた。直撃したならば、あれしか損傷がないのもおかしいと。

「だったら…」

「…!?」

6つのアクセルシューターがなのはの周りに寄り添うように飛び交う。

ただの勘違いかもしれない。だけど、勘違いじゃないかもしれない。自分の長年の戦闘で培った勘が伝えてくる。
今攻撃しないで、いつ攻撃するのかと。

「(自分の勘を信じてみるしかない!!)」

6つのアクセルシューターは術者諸共にナズナに突撃し、小さな爆発が起きた。










「はっ! はっ!」

肩で息をしながら爆煙から出てきたのはなのはだった。自分のアクセルシューターとは言え直撃すると痛い。
しかし戦闘が出来ない程のダメージはもちろん受けていない。油断せず、ナズナが現れるのをデバイスを構えながら待つ。

『Master. The condition of body? (マスター。体の調子は?)』

「大丈夫だよレイジングハート」

相棒の気遣いに笑みを浮かべていると、爆煙が晴れ、攻撃を食らった本人が登場した。
物凄い目つきでなのはのことを睨んでいるが、その体はなのはよりもダメージは大きいようだった。

『Apparently, the idea of master is like the correct answer. Her defense is thinner than master. (どうやらマスターの考えは正解のようですね。彼女はマスターよりも防御が薄い。)』

「そうみたいだね」

自分たちの考えが正解だったのが嬉しいのか、なのはは嬉しそうな表情をする。

『It is a device that looks like the user, and means only an extra thing. (使い手に似て、余計なことばかり話すデバイスですね)』

「親は子に似るとは、このことですね」

対するナズナたちはダメージを与えられたのがかなり頭にきているようだ。

『I'm sorry. Defect device (すみません。欠陥デバイス)』

『…Master. The destruction permission of that inferior goods (…マスター。あの粗悪品の破壊許可を)』

魔導師だけでなく、デバイスまで睨みあいを始めてしまった中
ナズナは先ほどの攻撃で頭が少々冷えたのか、冷静な顔でなのはを見つめていた。

「…ミーティア。スタイルを変えますよ」

小さく呟いた言葉と共に、ミーティアを空に掲げる。ミーティアは形状を変化させ、その先から黒い魔力刃を発生さした。そして、その刃先をなのはに向けた。

「…!?」

なのはが矛先が向けられたと認識した途端、ナズナは姿を消し、自分の目の前にミーティアを振り上げて現れていた。
すぐにレイジングハートを魔力刃の振り下ろされる場所に構え、攻撃を防ぐことに成功する。
まさに一瞬の攻撃。さっきまで砲台と戦っていたはずなのに、いつの間にか剣士と戦っているように錯覚を覚える。

「ええい!!」

レイジングハートでナズナを振り払い、ナズナが振り払われた方にディバインシューターを放つ。
振り払われ体制も整えていない。なのははこれなら当たったと思った。確かになのはの攻撃は命中した。

「ふん!」

「っ嘘!?」

回避できないと判断したナズナは体制を整えぬまま、自分に向かってきたディバインシューターをミーティアで切り裂き、強引に回避した。
その攻防に唖然としていたなのはを見逃すはずもなく、再び切りかかる。

「はぁああぁあ!!」

「しまっ!?」

一瞬の隙。しかし、なのはたち一流の魔導師にとってその隙は大きかった。
ナズナは自分の持っている力を振り絞り、大振りになのはを切りつける。直撃すればなのははこの攻撃で沈むはずだった。

『Protection』

「く!?」

なのはのデバイス、レイジングハートがそれを防いだ。ナズナの横向きに攻撃した一閃は強固な盾に防がれる。

「ああああ!!」

そんなもの気にせずナズナは振り絞った力を更に振り絞り、力を込める。徐々に魔力刃がプロテクションに食い込み始めた。
それに気づいたレイジングハートはすぐにこの場から離脱することを先決した。

『Barrier Burst』

食い込んでいた魔力刃のせいですぐに回避出来ず、ナズナは爆発に巻き込まれ飛ばされる。
魔力刃が食い込んでいたせいで距離が離せなかったなのはも爆発に巻き込まれ飛ばされた。
吹き飛ばされたナズナだったが、すぐになのはのに向かって突撃してきたが、なのはは先ほどのナズナと同じように
不安定な体制で指をナズナに向け、そしてディバインシューターを放った。もろに直撃したナズナはさっきよりも遠くに押し飛ばされる。
なのはは空中ですぐに体制を立て直し、自分のデバイスにお礼を言う。

「っごめん! レイジングハート」

『Please do not worry. (気にしないでください)』

お礼を言った後、すぐにナズナの居場所を探るが、その必要はなかった。遠くで機械的な音が聞こえたからだ。デバイスをリロードする音が。

「削れ」

『Blade Spinshoot』

何かが風を切って迫ってくるのを感じたなのはは、音の下方向を振り返りながらプロテクションを展開。
ナズナの放った攻撃を受け止めた。だが、このナズナの攻撃は受け止めるのは不正解だった。

「っく、キツっ…」

ナズナの放った攻撃、ブレードスピンショット。ブレードショットをカートリッジで強化し、更に回転を加える。
放たれた攻撃は相手のシールドやバリアをドリルのように削りながら進んでいく。
そして、今まさになのはのプロテクションはドリルのような攻撃に削られつつあった。

「く、ああああ!!」

渾身の魔力を込め、プロテクションの位置をずらし、自分に攻撃が当たらないようにする。
その甲斐あって、ブレードスピンショットはなのはの肩を貫通するだけに収まった。しかし――

「終わりです」

目の前にまたしてもナズナが迫っていた。そして今度こそミーティアを振り上げ



なのはに振り下ろし、直撃した。





「くっ、今の感触…まさか防いだ!?」

確かに攻撃は直撃し、なのははビルに突っ込んでいったが、ナズナは今の攻撃に違和感があった。
バリアジャケットを纏っているとは言え、あの固い感触はおかしい。また防がれたと考えていた。

「優秀なデバイスのようですね」

『In inferior goods, it is not. (ただの粗悪品とは違うようですね)』

すぐに追いかけようとするが、さすがにダメージが大きくて体がうまく動かせない。
息を整えていた時、ビルから桃色の砲撃、ディバインバスターが窓や壁を突き破りナズナに向かってきた。

「またっ!?」

疲労した体に鞭を打ち体に残っている魔力を総動員し、ディバインバスターの防御に移る。
プロテクションを容赦なく削っていく砲撃。ここでこの攻撃が通ってしまうとナズナは今度こそ動けなくなるだろう。
だからこそ、ナズナは全力以上の力を出し、砲撃を防ぐ。
やがて、砲撃の威力も弱まっていき、桃色の砲撃は完璧に消え去った。ナズナは何とか防ぎきったのだ。そこで少し気が抜けたのがいけなかった。

『Short Buster』

「いっけーーー!!!!」

ディバインバスターを撃ち終った後、すぐにアクセルフィンを展開して、後ろに回りこんでいたなのはに気づけなかった。










空に再び爆音が響いた。










<あとがき>
さて、修正修正…



[6935] 第74話「小さな猫の大きな思い」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:fd9652be
Date: 2009/06/21 15:12
「じゃあ頼みましたよ」

「はい。捕らえてこなくてもよろしいんですね?」

「彼の返事を聞くまでは別に構いません。それに彼が来るとも限りませんからね」

「わかりました」

「あの二人の戦いに巻き込まれないように気をつけてくださいね。ナズナだけを狙ってくれれば構いません」



第74話「小さな猫の大きな思い」



side--


ナズナとなのはが地上で戦っている中、そのはるか下にある地下でも戦いは始まっていた。
追い詰めたと思っていたルーテシアへの援軍。そしてフェイト・T・ハラオウンの乱入? によって更に事態を混乱した。実際はアリシアなのだが。

「はっ!!」

アギトの放った火炎が地面に着弾すると同時に燃え上がり、周りの物を燃やし尽くす。
スバルたちは高くと跳ぶことによって全員攻撃を回避する。
キャロは、気絶しているためエリオに抱きかかえられながら、そしてアリシアもフェイトと勘違いされているためスバルが抱いて回避した。

「…っ!?」

その火炎によって巻き上げられた爆煙に身を隠し、突撃してきたのはガリューだった。
その奇襲にいち早く気づいたギンガは、ブリッツキャリバーを構えガリューに突撃していく。

「はあっ!!」

ガリューの剣のような形を持った爪とギンガの拳がぶつかり合い、爆発を巻き起こし、二人を離す。

「っく」

その攻防に目を取られていたスバルは自分に敵が迫っていることに気づけなかった。
それに気づいたのはエリオだったが、気づいたときには既に新たに現れた女性はスバルに攻撃を加えようとしている時だった。

「スバルさん!!」

「えっ!?」

スバルに女性の攻撃が当たると思われた瞬間、スバルが抱えていたアリシアが目を見開き、抱きかかえられたまま脚で攻撃を受け止める。

「痛~~!!」

強化してるとは言え、リボルバーナックルと打ち合うのはきつかっただろう。
スバルから飛び降り、その場をグルグルと走り回る。ようやく痛みが治まったのか敵を見据える。

「また追ってきたの!? しつこい!!」

ビシっと敵の事を指差し、高らかに声を上げる。周りにいるものはいきなりの発言に訳がわからなくなっていた。
何故こんなに明るい雰囲気なんだ? フェイト隊長はこんなに明るい人だったろうか? 一体あいつは誰なんだ? それぞれの疑問は尽きない。
そんな中、エリオただ一人がアリシアに声を掛けた。

「あ、あの、フェイトさん?」

「え? 人違いだよ?」

つい「フェイトは私の妹! 異論は認めない!」と言いそうになったが抑える。
その発言を聞いたエリオは、この人はまさかフェイトさんのクローン。人造魔導師じゃないかと考えた。
そのことを聞く前にスバルの動揺した声に遮られた。

「え、あ、か、かあ、さん?」

いつものような元気のあるスバルの声じゃない。風が吹けば折れてしまいそうな弱い声。
エリオは初めに聞いたときは、別人かと思った。アリシアも彼女の母親なのかと、戦闘態勢を一時止めて、成り行きを見守る。

「母さん?」

変化はスバルだけじゃなかった。姉のギンガにも同様の変化が起こっている。
だが、ギンガの場合、スバルと違って相手から視線を外すようなことはしなかった。

「油断してんじゃねえ!!」

その空気を破ったのは、アギトだった。再び火炎を発動し、スバルたちに向けて攻撃してくる。
ギンガはすぐに離脱し、呆然としていたスバルは、ティアナに引っ張られ攻撃を回避し、柱の陰に隠れる。
その火炎が放たれた途端、青い髪の女性は、アリシアに攻撃を再開する。

「あっぶないな! もう!!」

バリアジャケットを戦闘型に、フェイトのバリアジャケットについている籠手のような装備で敵の拳を受け止める。
スバルたちに攻撃を仕掛けたアギトだったがアリシアたちには攻撃を仕掛けてくる気配はない。
アギトは、アリシアと戦っている女性を見て、表情を歪めている。

「(…旦那が気にしてるもう一人の…)」





「スバル! ぼーっとしない!!」

「ご、ごめんティア。だけど」

壁に退避したティアナは、まずスバルを叱った。あのままティアナが助けなければ
スバルは火炎の餌食になっていただろう。それが分かっているからこそ、スバルも謝罪の言葉を述べる。

「今のあたしたちは任務中。ケースの確保が第一よ! あの人があんたのお母さんに似てても関係ない!」

「ごめん…」

顔を俯かせ謝るスバル。自分の中でも整理出来ていないんだろう。死んだと思われていた母によく似た姿、武器を使う魔導師が現れていきなり襲い掛かってきた。
仮面をしているおかげで顔が見れないせいで母と断定できないのが救いなのか救いじゃないのか。
ティアナも自分の兄が生きていて、いきなり攻撃を仕掛けられれば同じ状態に陥るだろう。

「…撤退しながら引き付けるわ」

「…こっちに向かってるヴィータ副隊長とリイン曹長に合流できれば…」

「そっ。あの子達も止めれるかもしれないし、あんたの気になる人だって止めれるかもしれないわ」

その親友の言葉にスバルは目頭が熱くなるのを感じた。さっきまで怒っていたのに自分のことを考えてくれる親友に。

「それに、エリオはあのフェイト隊長に似ている人が気になるんでしょう?」

「…はい」

全員のすることが決まった。任務を続行しようと動いたとき、話の要から念話がきた。

≪よし! 中々いいぞ。スバルにティアナ≫

≪≪ヴィータ副隊長!!≫≫





「はあ!!」

高く跳躍して、重力を利用して女性を蹴りつけるが、うまく受け止められて攻撃が決まらない。
脚を掴まれ続けて、投げ飛ばされては適わないと、すぐにその場から離れる。

≪そろそろきつくなってきましたね≫

「う、うん。大技は、あん、まり使って、ないのに」

アリシアは戦闘を続けながらも周りに気を配っていた。このままこの空間で戦闘を続けるのは無理がある。
なら、どこからか脱出するしかない。どこかに出口がないかを戦いながら探していた。
しかし、道はあろうとも上に繋がる道は、どれかはわからない。その状況を繰り返していた。

「いっそ転移魔法で逃げちゃいたいよ…」

≪そうもいかないでしょう≫

アリシアもまたスバルたちと同じくレリック確保が目的だ。
だが、どうやらレリックを手に入れるためには、この女性を倒さなくてはどうにもならないようだ。

「どうすれば…」

女性は、アリシアを嘗めているかのようゆっくりと近づいてくる。実際は女性も小さなダメージの蓄積で徐々に疲労が溜まってきているだけだ。
そうとも気づかず、アリシアはキッと女性を睨む。その時だった。アギトが声を上げたのは。

「ルールー! なんか近づいてきてる! 魔力反応は…でけえ!」

アギトの声が聞こえたアリシアは感覚を研ぎ澄ましてみると、確かにシントラに似た魔力が近づいてきているのを察知した。
そして、この近づいてきている者が地上から来たことも。

「…(これは…チャンス?)」

気配を限りなく薄くして、近づいてくる者の襲撃に備えた。
そんな自分の行動に気づいて不振に思ったのか、女性も何かを探るように周りを見る。



―――ドォオオォン!!!



「……っ!?」


アリシアの援軍が来たと勘違いしたのか、音の発生した方向に構えなおすが
その襲撃者、ヴィータの狙いは、アリシアの援護に来たのではない。どちらかと言えば、アリシアを逮捕しに来た者だ。
そうとも知らず、女性はアリシアに背中を向けてしまい、アリシアから視線を外してしまう。

「捕らえよ! 凍てつく足枷!」

そして襲撃者たち、ヴィータとリインフォースⅡは、自分たちの目の前にいる犯罪者を捕らえようとしていた。
リインが唱えた魔法が発動すると共にアギトとルーテシアを冷たい空気が包み始める。

「フリーレンフェッセルン!!」

呪文が唱え終わると同時にアギトとルーテシアは冷たい氷の牢獄に閉じ込められてしまった。
そしてヴィータはギガントフォームにしたアイゼンをガリューに叩きつけようとしていた。

「吹き飛べぇえぇえええ!!!!」

ヴィータの渾身の力が込められた一撃を防いだガリューだったが、防ぎきれず、宣言どおりボールのように吹き飛ばされる。
ガリューを吹き飛ばしたのを確認したヴィータはアイゼンを元に戻し、戦闘態勢を解除しようとした。

「ヴィータ副隊長! まだです!!」

ティアナの言葉と同時に金色の閃光が後ろを駆け抜けて行った。同時にスバルの十八番、ウイングロードも。

「な、何だ!?」

「ウイングロードまで…」

いきなり自分の後ろを駆け抜けていった存在を眼にすることは適わず、自分たちが通ってきた穴にウイングロードは続いている。
追いかけたいところだが、まだ敵の状態を確認していない状況で新人たちを置いていくのは危険だと判断したヴィータは、いち早くアギトたちの状態の確認を行った。
そしてスバルは、自分のウイングロードよりも少し濃く、姉よりも少し薄い青いウイングロードを悲しそうに見つめていた。





「ついてきてる!?」

≪魔力で作った道のようなもので追いかけてきています≫

ヴィータのおかげで外に出る手段を見つけたアリシアの行動は、迅速だった。
ヴィータが突き破ってきた穴に飛びいることであの場からの脱出に成功した。レリックは後でナズナと合流して回収しにこればいい。
そう考えたアリシアは、ヴィータが降りてきた通路を上に飛んで地上を目指している。
アリシアの飛行魔法、C(キャット)ウオークスタンド。空中で足場に魔法陣を展開して、空中に留まる技術を利用した魔法。
足場に小さな跳躍力を高める魔法陣を展開して、それを利用し空を翔る。スタイル的にはなのはではなく、やはりスバル寄りの飛行魔法。
猫の柔軟性を活かして空中で体を動かし、360度全ての方向に跳躍することも可能。

「光だ!! 出口だよ!!」

光が見えた途端、アリシアは足元の魔法陣を力いっぱい踏み、速度を上げて跳躍した。
後ろの女性も負けじとローラーブーツを加速させ、アリシアを追う。

「とうっ!!」

空中に躍り出たアリシアは魔法陣を展開し、空中に着地する。
女性は、ローラーブーツについてある宝石のようなものがチカチカ光ったかと思うと、ウイングロードの展開を止めて、アリシアと同じように空中で止まってしまった。

「ここで一気に決めるよ!」

アリシアが走る構えを取ると、女性の周りを囲むように小さな魔法陣が複数展開される。
その魔法陣は女性を円形に囲むと攻撃する素振りは見せず、ただそこにジッとあるだけだった。

「スタート!!」

アリシアの掛け声をあげると、女性に向かって行くのではなく。見当違いの方向に跳んで行った。
見当違いの方向に跳んで行ったアリシアは、そのまま跳んでいくかと思われたが、すぐに跳ね返るように女性に突撃していった。

「ええい!」

「…!?」

いきなり方向転換してくるとは思っていなかったのか、ガードが遅れてしまい、攻撃を加えられてしまう。
アリシアはその攻撃の反動を利用して、攻撃後その場から離脱した。
そしてまた、女性に向かって突撃していく。まるで狭い部屋でスーパーボールで遊んでるかのように、跳ね続ける。

「……!!」

度重なる連撃にこのまま攻撃され続けると不味いと判断した女性は、アリシアを捕らえようとするが
女性の周りを跳ね回っているアリシアを捕らえるのは至難の業だった。
しかし、捕らえない限り攻撃を食らい続けてしまう。遠距離攻撃、高町なのはのように狙撃できれば何とかなっただろうが
今、この状態で使える魔法を女性は所持していなかった。攻撃を食らい仮面が半分割れ、顔の半分が姿を現す。

「これで…」

「……」

「トドメ!!」

アリシアは更に速度を上げ、相手の腹目掛けて蹴りを食らせた。しかし—

「う、うそぉ!!」

直撃を食らったにも関わらず女性はまるで痛みを感じないかのように無表情だった。体が痛みを感じていないだけか
先ほどの動きから見ると、疲労は確かに感じている節があった。
アリシアは、この驚きによって隙が出来てしまい。腹に叩き込んでいた脚を掴まれ、近くのビルに投げつけられてしまう。

「うわっと」

着地したアリシアは、敵を見逃してはならないと考えてすぐに上の方向をみる。
すると女性はその場から動かずに体を屈めている。ただ体を屈めているだけなら気にならなかったが
女性の目の前には、ウイングロードと同じ色、つまり女性が発動した魔法らしきものがあった。環状魔法陣、加速や増幅に使われる。

「砲撃魔法?」

≪だとしたら、ここでジッとしていたらいい的です。かわしてください≫

「わかった」

すぐにC・ウオークスタンドを発動させてその場から離脱するアリシア。
環状魔法陣は、そこから砲撃が放たれるわけでもなく、ただゆっくりと動き、アリシアの逃げた方向に矛先を向ける。

「なんか不気味だね」

≪砲撃を放つ気配はありませんが…≫

しばらく動き続けたアリシアだったが、いつまで経っても攻撃してこない敵に苛立ちながら動き続ける。
少し距離を置き、立ち止まって相手の様子を探るがさっきからどこも変化は見られない。

「もしかしてハッタリ?」

≪…わかりません≫

時間稼ぎをしているだけだったのかもしれない。そう考えたアリシアは、女性に蹴りかかろうと
脚に力を込めたとき、リニスが違和感に気づいた。女性が少しだけ、ほんの少し体を動かした。

≪っ!? アリシア!!≫

「えっ」

リニスが叫んだときには遅く、女性はアリシアの目の前まで迫ってきていた。

攻撃を食らったアリシアは、そのままビルに叩きつけられてしまった。さっきと違い、着地も間々ならなかった。















≪痛い…≫

「すみません。気づくのが遅れてしまって」

ビルの崩れた瓦礫から聞こえる声は、アリシアの声ではなかった。アリシアよりも少し大人の雰囲気を漂わせる声。
プレシアを主に持つ使い魔、リニスの声だった。ビルに叩きつけられたアリシアの姿はなく、いるのはリニスただ一人だ。

「まさか、自分を砲弾にするとは思いもしませんでした。下手すれば大怪我じゃ済みませんよ」

≪おかげでこっちは大ダメージだよ~≫

「まだ声に余裕があります。大丈夫ですね」

あの瞬間にリニスがしたことは二つ。アリシアとリニスの融合のときにプレシアが緊急時のために仕組んでおいたシステム
オペレーション・チェンジ(Operation Change) 体の操作をアリシアからリニスに変化させるシステム。
これでアリシアと操作を変化さした後、すぐに全力でプロテクションを展開。些か間に合わなかったが、ギリギリ致命傷は避けられた。

「ここからは、私が戦闘に≪リニス、チェンジ≫…何故ですか」

アリシアの体力は尽きかけている。ならば、ここからは自分が戦闘に出るのが筋だと思ったリニスだったがアリシアに否定されてしまう。

≪私がやる≫

「アリシア…」

アリシアの声にはどこか意地があった。こんなにもボロボロになってまで何故頑張るのだろうと
リニスは疑問に思った。ここで自分が戦っても別に問題ないはずなのに。

「私は…」

≪っ!?≫

そしてリニスが気づいたときには、体を操作しているのはアリシアにチェンジされていた。
アリシアは、ふらつく体を無理にでも動かして、敵の元へ向かおうとしている。

≪アリシア、あまり無茶は…≫

「母さんやナズナ、それにスカリーにシントラもアインスもカーミラもリニスもフェイトだって…それに嵐も大好きなんだ!!」

≪アリシア?≫

「だけどみんな戦っていたのに自分だけ見てるなんて嫌だった。嵐は家で大人しくしてるだけでいいって言ってるけど、みんな頑張ってるのに…嵐の手伝いしてるのに、私だけずっと見てるだけってのは嫌だった。どうして私には魔法の才能がないんだって思ってた」

小さい頃からアリシアは戦闘に参加なんてしたことはなかった。それはアリシアは自分に才能がないため仕方ないと諦めていた。
だが、あの事件、嵐が一人で次元世界に飛ばされ、大怪我をして帰ってきた時からアリシアは考えていた。いくら異能があるとは言え、嵐も才能が溢れてはいない。
だったら自分も母に頼めば嵐と一緒に戦えるのではないかと、手伝いが出来るんじゃないかと。

「母さんにリニスのことを話されたとき、嬉しかった! 私も嵐やナズナと戦えるって思ったから」

プレシアは大事な娘のアリシアが戦うのには反対だったが、娘の強い意志に折れ、戦う武器を与えた。

「だから、こんなところでリニスに頼ってちゃ駄目なんだ! ナズナやシントラだったらこんなの簡単に乗り越えちゃうはずだから!」

アリシアの意思。その強い意志にリニスは返す言葉がなかった。ここで何を言ってもアリシアは折れないだろう。
ならアリシアの戦う武器として蘇らされた自分がすることは一つだとリニスは考え行動した。

「…! 体が楽に…」

≪少し疲労を引き受けただけです。戦闘が終わったら覚悟しときなさい≫

「…ありがと! リニス!!」

≪いくらプレシアの魔力が膨大だといっても、そろそろ限界です。次で決めますよ≫

「わかった。“あれ”でいくよ!!」

自分が突っ込んで出来た穴を通り、アリシアを殴り飛ばした位置から動いていない女性を睨む。
よく見れば、女性のローラーブーツからは、煙が立ち上がっている。

≪あの魔法は、術者にも相当のダメージがあるようですね≫

「それはこっちも同じだけどね!!」

野球のピッチャーをするかのように振りかぶり、黄色の猫の頭の形をした魔力弾を投げつける。
女性は何かの攻撃かと思い、防御の姿勢に移るが、魔力弾は女性に向かっていくほど速度が緩やかになっていった。
不審に思った女性は、防御の姿勢を解いて回避行動をとろうとした。その時――



―――ニャン♪



間の抜けた猫の声が聞こえたかと思うと、魔力弾が破裂し、眩い光が辺り一面を照らした。
強い光を直に見てしまった女性は手で眼を覆ってしまう。痛覚は消えているように見えるが他の感覚は残っているようだ。

「レクレス・サンダー!!」

光で見えないので女性にはアリシアの声しか聞こえない。
そしてアリシアは、魔法、猫騙しを発動してから攻撃の準備を整えていた。
アリシアの体を電気が纏っていく。アリシアは、プレシアの魔力変換資質の電気を受け継いでいる。
だが、フェイトやプレシアと違って上手く操作出来ない。訓練のときは暴走して嵐に電気が当たったり、発動しなかったりと苦労が多かった。
うまく発動できて相手にちゃんと攻撃が通るのは、稀だった。

「し、痺れる…」

≪だからこの技は最終手段なんですよ≫

リニスと融合しても上手く発動できたことはなかった。リニスが変換資質を持っていなかったのが原因だが。
だけどアリシアはちゃんと発動できる方法を知っていた。魔力の暴走。それが発動の鍵だった。しかし暴走で発動してしまうと十中八九暴走で終わってしまう。
そこでアリシアは遠距離の電気攻撃を諦め、近距離の電気攻撃を思いついた。
自分に暴走した電気を通すことで、無理矢理に電気を纏い攻撃する。まさにごり押しの魔法だった。
バリアジャケットを纏っているとは言え、痺れるのは痺れる。だからこの技は本当に追い込まれたときにしか使わない予定だった。
発動すれば自分にもダメージを負わす技なんて、戦闘中に連続して使えないからだ。

「行くよ! 最後の攻撃!!!」

≪肉体強化・脚部強化≫

女性に最初に出会ったときと同じ動きで女性に向かうアリシア。速度は最初のそれとは比べ物にならない。
バチバチとアリシアが纏っている暴走した電気が音を上げる。

「雷招! 猫跳脚!!!」



雷が落ちたような轟音が空に響いた。そして遠くで何かの爆発音が同時に響いていた。










おまけ


魔法紹介


レクレス・サンダー(Reckless Thunder)
使用者:猫アリシア
リニスと同化したアリシアが使用する技。技と言うにはあまりにもお粗末。ただ魔力変換資質を暴走させ自分に纏わせるだけ。
ただ、何故か嵐には好評であった。


キャット・サプライズ(Cat Surprise)
使用者:猫アリシア
通称、猫騙し。強烈な光を敵に浴びさせることによって敵の視界を封じる。
初撃にしか使えない技だが、効果は絶大。魔力弾が猫の形をしているのはアリシアの趣味。


ハイスピード・サークル(High speed Circle)
使用者:人形(クイント?)
謎の女性が使う魔法。環状魔法陣を発動する魔法で、普通は砲撃などの補助に発動する魔法陣。
自分を砲撃の代わりにして撃つ魔法。一瞬で相手に詰め寄り、強烈な一撃を加える技。
発動にカートリッジを使用する必要がある。
ただ、あまりにもスピードが出るために連続しようは出来ないし、どうやら術者の体にも負担があるらしいが…


デバイス紹介


ケレタリス キャリバー(Celeritas Calibur)
使用者:人形(クイント?)
マッハキャリバー、ブリッツキャリバーによく似たローラーブーツ型デバイス。クリスタルの色は黄色。
実はさりげなくインテリジェントデバイス。










<あとがき>
ナズナの決着とアリシアの決着は次回で。
実はヒロインこと嵐も、もう現場に来ています。



[6935] 第75話「人形王との交渉」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:fd9652be
Date: 2009/06/27 16:33
「……っ?」

「カーミラ? どうかしたのか?」

「…いや、何か嫌な感じがしただけだ。気にしないでくれ」

「そうか。じゃあ急ぐぞ」

「ああ。…ところで、その狐のお面はなんだ?」

「変装だ」

「…本当に時々お前が分からなくなる」



第75話「人形王との交渉」



side--


アリシアが女性に稲妻を纏った一撃を食らわせた後、女性は稲妻を一身に受け、衝撃を殺しきれず、その身をビルに突撃させた。
アリシアは、女性に攻撃が当たったのを確認すると、すぐにその場から離れ、女性の様子を伺った。
さっきの暴走魔法のおかげでアリシアの体にも、多少とは言え、ダメージを負っている。
迂闊に相手に近づき、不意打ちの一撃を食らっては堪らないとアリシアは判断した。

「はぁ…はぁ…これ、で…決ま、ったか、な…」

≪攻撃は完璧に命中しました。後は彼女の耐久力しだいです≫

「お願いだから倒れてよ~」

手を合わせ、神に祈るかのようにアリシアは願う。その願いが神に届いたのかは分からないが
女性は、ビルに突っ込んだまま動く気配を全く見せない。バリアジャケットを着ているため死んでるわけではない。魔力ダメージが大きく気絶しているのだろう。

「か、勝ったの?」

≪……≫

アリシアは十分に警戒しながら女性に近づき、ビルの瓦礫に埋もれている女性を確認する。
瓦礫に埋もれ、体全体は見えないが、瓦礫の間から見える上半身はピクリとも動く様子はない。

「…ちょんちょん」

≪アリシア…あなたは…≫

指先でそ~っと女性の体をつついてみたアリシアだが、やはり女性に動く素振りはない。
アリシアは、それを確認すると満面の笑みを浮かべ立ち上がり、空に腕を掲げ、ガッツポーズをとった。

「しょ、勝利ーーー!!」

初めて家族以外の魔導師と戦い、見事勝利をしたアリシアの喜びは最高潮だった。

「や、やった~! これで私も一人前! 嵐やナズナ! シントラにアインスとも並んだね!」

≪おめでとうございます。アリシア≫

「リニスのおかげだよ~!」

その場でクルクルと回り、抑えきれない喜びの感情を体で表す。
そのせいで、瓦礫に埋もれている女性が微かに動いたことに気づけなかった。女性はゆっくりと体を動かし
体に圧し掛かっている瓦礫の山を力尽くで押し退け、立ち上がろうとしていた。

「!? ま、まだ動けるの!?」

女性が動き出したことに気づいたアリシアはすぐに戦闘態勢に切り替え、女性を攻撃しようと考えるが
瓦礫を必死に退けている女性の顔を見てその考えは消えてしまった。

「スバ…ギン、ガ…ゲン…」

アリシアと戦っているときには、一言も言葉を発さなかった女性が瓦礫を退かしながら言葉を発している。
それだけではなかった。瓦礫のせいでほとんど壊れてしまった仮面から見える女性の眼には、意思の光が途切れ途切れだが、宿っている。
そんな女性の急激な変化にアリシアは攻撃をしていいのかと躊躇してしまった。
だが、それも長く続かなかった。瓦礫を退かし終わり、体が自由に動かせるようになった女性の後ろから病的なほど白い髪を持った男が現れた。
現れた男、ジムキオ・ヘムローディが女性に触れた瞬間、糸が切れたかのように女性は倒れてしまった。

「だ、誰!?」

「僕のとっておきとここまでするなんて、アリシア・テスタロッサ。あなたがフェイト・テスタロッサならどれ程よかったか。…ふむ、電気の攻撃のせいで少し弱まってしまったか? それともダメージのせいか…」

ジムキオは芝居がかった動きでショックを受けている表現をしてアリシアを睨んでいる。
その動き・言葉にアリシアは言葉では表現できない嫌悪感を抱いた。
基本的にアリシアは人を嫌うことなんてない。だが、何故かこの男だけはアリシアはどこか気に入らない印象を受けた。

「…そういえば、あなたも前に嵐の邪魔して、更にナズナにちゅうしようとした人だね」

「ええ。ナズナの唇を奪えなかったことは、非常に残念でした」

「それ以上、私に近づいてこないで」

溢れ出る嫌悪感を隠そうともせずにアリシアはジムキオを睨む。

「…ふぅ」

アリシアの態度が気に入らなかったのか、自分が気に入られていないことにショックを受けたのか、どちらかはわからなかったが
ジムキオが溜息をつくと同時に魔法陣が展開、可笑しな服を着ている人間が四人現れた。

「子供には人形が似合いますね」

「もう人形で遊ぶほど子供じゃないよ」

四人の人間がアリシアに一斉に飛び掛る。アリシアは、残り少ない魔力を拳に纏い撃墜に備える。
そのアリシアの後ろからジムキオではない男の声が聞こえてきた。

「そうだな。人形で遊びたいなら、家で人形と遊んでろ」

「ふふん! そうだよね!」

アリシアの拳が二体の人間を突き飛ばし、男の赤い爪が残りの二体を殴り飛ばした。

「…来ましたか」

「一番近くにいてくれて助かったよ」

男、嵐は、アリシアと背中合わせになりながらも、視線はジムキオに向けていた。
医者のようなバリアジャケットに祭りなどで使いそうな似合わない狐のお面をつけながら。
そしてその胸ポケットがモゾモゾと動き出し、一人の少女、カーミラが顔を出したかと思うと、ジムキオを見て表情がみるみる変わったいった。

「お、お前! 変態人形王! ど、どういうことだ!」

「…おやぁ? お久しぶりですねぇ~。カーミラちゃんじゃないですか」

「話に聞いたときから似てると思ってたが! まさか本当にお前だったのか!」





sideout


何だかカーミラとジムキオが場の雰囲気をややこしいことにしてくれていた。というかカーミラは、こいつと知り合いだったのか? それもかなり昔からの関係らしいな。
…こいつ自身が話してたあの人形の御話…。その王がこいつだったってことなのか? だったら血塗られた戦士ってのは…

「相変わらず頭に血が上りやすい子ですね?」

「お前!」

「落ち着けカーミラ。…まさかあんたが王様だったとは。想像もつかなかったよ」

「自分で考えてみたら面白いと言ってあげたのに」

クスクスと余裕のある顔で笑うこいつの顔が気に入らない。

スカさんの話を聞いた後、いそいで街に出かけ、たどり着いた街はもう戦いが始まっていた。
スカさんの話では人形野朗も動くという話だったから、人形野朗の居場所を探しているとちょうど空にアリシアが見えたから合流しようと思った矢先に、人形野朗を発見した。そこでカーミラの爆弾発言によって、場が混乱してしまったというわけだ。

「何でお前が生きてるのかとか、どうなってるとかはどうでもいい。ていうか教える気はないんだろ?」

「よくわかりましたね」

自分で考えろって言われるのが落ちだからな。俺はドクターソードを展開して、アリシアを庇うように前に立った。

「嵐?」

「アリシア、リニス。二人はナズナと合流してレリックの確保を。こいつは俺が何とかしてみる」

「え!? け、けど嵐! 大丈夫なの!?」

「あたしがついてる。こんな変態なんかにやらせはしない」

「うぅ…絶対負けちゃ駄目だからね」

俺とカーミラの言葉にアリシアは渋々従い、ナズナの魔力が感じられる方向に跳んで行った。
やはりあの女性、クイント。何故生きているのか色々気になるが、そのクイントとの戦闘の疲れで足取りが重そうに見えた。
そしてクイントは、ジムキオが魔法陣に回収済みであった。

アリシアの姿が見えなくなった途端、周りにいた四人の人形が俺に向かってそれぞれの獲物を突き刺してきた。
だが、俺に突き刺さることはなかった。何故なら、俺の周りには鉄壁の血の盾が展開されていたから。

「ユニゾン、ギリギリセーフ…」

≪格好つけて油断してるからだ!≫

『全く同感だね』

「め、面目ない…」

敵の攻撃を防いだ俺は、目の前にいるふざけたセンスの服を着ている男、いや、人形に手に持つドクターソードで切り裂いた。
そして、俺の周りを浮遊している小さなメス、ドクターソード(小)が残りの敵も切り裂いていく。
この小さなメスを操作しているのは俺ではなくカーミラだ。俺はこのメスの操作を気にせず、自由に動ける。

「そらよっ!」

盾にした血の形状を針状に変化させ、盾と接していた人形の体を突き刺し、その攻撃によって倒れた人形に覆いかぶさるように血の盾は崩れていった。

「やはりこの程度では相手にもなりませんか」

≪当たり前だ! あたしを嘗めるな!!≫

「段々と戦い方が彼に似てきてますね。彼と同じで実に不愉快だ」

「悪いな。不愉快で」

「……」

俺の言葉に全く反応を示さずに指を鳴らすとジムキオの目の前に魔法陣が展開された。相変わらずどこか汚い印象を受ける魔法陣だ。
そして、また人形を出してくるのかと思った俺の考えを裏切るかのように出てきたのは一振りの剣だった。
形は特に可笑しなとこはない。よくあるごく普通の剣だ。だけど明らかに普通の剣とは違う部分がある。一目で分かる。

「…なんだあれ? なんか…気持ち悪いな」

≪あれは…≫

『どこかで見たね』

刃の部分に何か呪文のような古代語のようなわけのわからないものが書かれている。
それを見た途端、言いようのない気持ち悪さが俺の体を駆け巡った。あれは、気持ち悪い。近づいてはいけない。

「フフ…」

剣を見ている俺の表情が可笑しかったのか、ジムキオは俺に向けてニッコリと笑った。
そして笑ったかと思うといきなり俺に向けて跳躍し、その手に持つ気持ち悪い剣で切りかかってきた。

「させるか!!」

気持ちの悪さは消えないがこのままジッとしていても切られるだけだと判断した俺はドクターソードで防ごうと思い――

≪っ!!! 駄目だ! 今の状態でその剣は!!≫

打ち合った俺のドクターソードとジムキオの奇妙な剣。俺のドクターソードは打ち合った瞬間に罅が入り粉々に粉砕され、赤い結晶が俺の眼前に散った。
そしてその呆気なく砕け散ったドクターソードに目を取られた俺はジムキオの拳を顔面に受けて空から地面に叩き落された。










side--


高町なのはとナズナが争った場所は幾つかナズナたちの攻撃で崩れてしまったビルがあった。
そしてその荒れたビルの空。なのはの攻撃を食らったナズナの周りに爆煙が立ち込めていた。しかしナズナは墜ちてくる気配はない。
なのははさっきの攻撃は確かに命中したはずだが、万が一に備えて立ち込める爆煙を睨んでいた。

「……」

そんな沈黙を破ったのはやはりナズナだった。

『Sonic Move』

「っ!?」

声が聞こえると共に気配のする方向にプロテクションを展開する。

「っ嘘!?」

しかしプロテクションを展開した方向にあったものは黒い魔力の塊。明らかに攻撃が目的じゃない。獲物をおびき寄せるおとり。
すぐにプロテクションの展開を中断して攻撃に備えるように急いだが、ナズナの攻撃の方が些か速かった。

「う、…っが」

なのはの腹から黒い魔力刃が生えた。後ろからナズナが突き刺しただけ。ただそれだけだ。殺傷設定ならばなのははこの瞬間に命が絶たれただろう。
薄れる意識の中、なのはが見たナズナは自分の攻撃で傷ついている気配はなかった。それに眼が行ったせいで首飾りの十字架が淡く光っているのに気づけなかった。

「…っふ!」

魔力刃を振り回し、手ごろな場所になのはを叩き降ろしたナズナはミーティアの構えを解かなかった。
魔力刃を消してブレードフォームからバスターモードに切り替える。ナズナはなのはに容赦する気は微塵もなかった。
魔力が集束されていくのを眺めながらなのはもニヤリとやはりいつもの彼女とは思えない笑みを浮かべる。ここでナズナが手加減すればなのはは怒っただろう。
自分は全力でやった。それなのにナズナが最後の最後で自分に情けを与えるなんて許せない。だからこそなのはは笑った。

「っちぇ、また、か…けど今、度こそ…」

「ディバインバスター」

なのはの意識を黒い魔力が飲み込んだ。





「はっ…はっ…」

『Is it safe? Master (大丈夫ですかマスター?)』

「だ、大丈夫です。それよりありがとう」

『It doesn't worry. I am arms of master. (お気になさらず。私はマスターの武器ですから)』

ナズナがなのはの最後の攻撃を防げたのは半分はミーティアのおかげだった。
ナズナが気づけなかったなのはの攻撃を瞬時に察知したミーティアは即座にプロテクションを展開したが
少々間に合わず、少しだけ攻撃が通るはずだった。
だが、攻撃が当たると思われた瞬間にナズナのつけている首飾りが突然光を発してナズナの周りに結界を展開させてナズナを守ったのだ。

「はっ、マスターに、感謝…です、ね」

黒い十字架を胸に抱いて、今はいない主に感謝するナズナ。そして十字架に傷がついていないことにホッとした。

「はぁ…はぁ…」

『Master. Is it really safe? (マスター。本当に大丈夫ですか?)』

戦闘が終わったナズナはミーティアを支えにして立ち、息を整えているが一向に整え終わる気配がない。

「おか、しいですね…体か、ら力、が、抜ける感、覚が…」

「それは私が近くにいるからでしょうね」

「っ!?」

声のする方向にいたのは以前ナズナを捕らえた灰色の髪を持った女だった。

「どういう、ことだ」

「…ふぅ」

女がナズナに見せるかのように手を掲げるとそこから黒の魔力弾と桃色の魔力弾が浮かびあがった。

「…っ!?」

本来魔導師が持っている魔力光は一人一つ。だからこそナズナは女のしたことに驚きを示した。

「私にはちょっとした特技があるの。人の魔力を拝借して自分の力として使うことがね。まあ、相手に触れるか攻撃されたりしないとうまく盗れないけど」

実際に力が抜けると言ってもごく僅かでしょ? と言いナズナの顔を見て微笑む。

「…なるほど、あの時攻撃が吸収されたのはそういう絡繰ですか…」

敵の動きに細心の注意を払いながらナズナはミーティアを構える。

「落ち着きなさい。今回は交渉に来ただけ」

「交渉…?」

「これを」

女が空に展開したモニターに映っていたのは愛すべき主だった。





sideout


「く、っは」

直で背中から地面に叩きつけられたせいで背骨が軋む。痛い、超痛い。
剣と剣との衝突のときに切られた指先から血が止まらない。おかしい。魔法で止血できない。

≪あれは吸血剣。血の呪いの剣だ。カル…もお前も弱点の剣だ≫

『なるほど。確かどこかの世界のロストロギアだったね。消失したと聞いていたが、まさか彼が所持しているとは…』

「く、最悪…」

あの剣で攻撃されたら俺の魔法は全部豆腐のように切り裂かれてしまうってことなのか? だとしたら勝率が一気に下がる。
それに怪我も治せないんじゃ本当に勝つ要素ゼロに近い。

「怪我は…」

≪それは自然治癒でどうにかなる≫

致命傷を負ったらアウトってことね。

「ああ、よかった。まだ生きていましたか」

「おかげさまでー」

こいつヘラヘラと…

「交渉相手が死んでしまったら交渉になりませんからね」

「…なんつもりだ」

ニコニコと笑いながら地に剣を刺して無手になるジムキオ。交渉をしたい? 俺とか?
ジムキオは剣を指した場所からゆっくりと俺の倒れている場所に近づいてきている。

「交渉をしたいんですよ」

交渉をしたいと言いながらも全く俺の意見なんて言わせてくれない。会話の一方通行。

「あなたは何か目的があって管理局に敵対している、違いますか?」

「…それが何だ」

「簡単な話ですよ。条件を飲んでくれるなら僕も協力しますよ」

痛む体を起こしてジムキオの近くに歩いていく。

「…確かに悪くない話かもな。で? 条件は」

「それこそもっと簡単!」

砕け散ったドクターソードをもう一度だけ展開準備。

「ナズナをください」

「死ね」

ジムキオの目掛けてドクターソードを振るうが、ステップを踏むようにジムキオは一歩下がり剣の場所にたどり着く。
笑顔は絶やしていない。俺が断ったというのに顔は笑ったまま。怒りの感情とか湧かないんだろうか?

「どうしてですか? ナズナを捧げれば全て上手くいきます」

「金や権力、力や他の物ならいくらでもやった。けどな、人は違うだろ。そもそもナズナだけじゃない。アリシアだってプレシアさんだってシントラだって他の誰だって俺は断る。それが家族ってもんだと思うから」

「何故? 血の繋がりもない家族でしょう?」

「っは!! 血の繋がりが必要なら手を繋いで円になった中心に俺がいれば万事解決だろうが!!!」

自分で言っていることの意味がわからない。確かに俺は血の能力を持っててある意味血人間だけど…
けど、考える前に自然に口から言葉が出ていた。こいつにだけは、やらないと。
展開したドクターソードでもう一度ジムキオに切りかかる。ジムキオは地から剣を抜いて俺とまた打ち合うことになる。俺はまた呆気なく砕け散ると思ったが—

「ほう…」

「え?」

俺の意思を示すかのようにドクターソードは砕けなかった。

≪コーティング完了! この剣は砕けない!≫

『カーミラの魔力でドクターソードを覆っている。この剣は砕けさせないよ』

頼もしい二人の声に力が湧いた。










<あとがき>
次回でヴィヴィオ救出編は終わりかな?
感想の指摘ですが文才なくてすみません。ちょっとづつ修正していきたいと思います。
なのはがナズナを嫌う理由は同属嫌悪みたいな感じですね。なのははナズナのことを嫌いなんじゃなくて気に入らない。
同じだけど方向全く逆向いてますからね。ある意味ちょっとナズナに嫉妬していると言ってもいいかもしれません。
知らない誰かのために頑張れる自分と大事な人のために頑張れるナズナと比べて。
なのはって心から大事な人っていませんからね。ヴィヴィオがくるまでは。





おまけ


ロストロギア紹介


吸血剣
血を好む剣として代々伝わってきた剣。ジムキオがいる時代から存在していた古代のロストロギア。
血を吸うのではなく血を切り裂く能力があり、血を体内に持つ人間を容易く切り裂く。傷つけられた傷は嵐の魔法では治癒不可能。
常人にすれば切れ味が鋭い剣というだけの剣だが、嵐にすれば魔法も切り裂く剣。



[6935] 第76話「決裂…の前に交渉なんかしていたか?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/06/28 17:05
「逮捕は…いいけど」

「…?」

「大事なヘリは…放っておいていいの?」

「っな!?」

「あなたは…また…守れないかもね」



第76話「決裂…の前に交渉なんかしていたか?」



sideout


「うらうらうらぁ!!」

カーミラの魔力によってコーティングされたドクターソードはさっきと違って砕ける素振りは見せない。
気味の悪い吸血剣に当たっても砕けず、攻撃を防いでも負けずにしっかりと俺を守ってくれている。

「…カーミラちゃんがそっちについているのは厄介でしたね」

「今更泣き言といっても遅い!!」

≪そうだ!≫

幾たびの剣戟を続けているが俺とジムキオと共に致命傷という傷はない。
だが、ジムキオの剣は確かに俺の体を蝕んできている。剣戟の最中に俺の体は徐々に切り裂かれている部分が多くなってきた。
もちろん戦えないほどじゃない。ただのかすり傷。だけどいつもなら血で塞ぐ傷が塞げない。それが厄介だった。

「そこです」

大振りにドクターソードを振り上げた俺に下から切り払ってくるジムキオ。
このままこいつの攻撃が通ってしまうと上半身と下半身がお別れしないといけなくなってしまう。

「っ!? カーミラ!!」

≪任せろ!!≫

そうはさせないと、俺とジムキオの吸血剣の間に血で作られたプロテクションではない
普通のプロテクションが展開されて俺と吸血剣の接触を防ぐ。
ギリギリと音を立てて衝突する吸血剣とプロテクション。破られたらどうしようと冷や汗ものだった。

≪っふん!!≫

「っく」

プロテクションを爆破させて俺とジムキオの距離を一旦離す。
俺はその間に練習していた槌型にドクターソードをドクターハンマーに変形させて剣を折りにかかった。

「おや」

「くっそ!」

ドクターハンマーを横ぶりに剣めがけて折るつもりで振るったが、ジムキオは咄嗟の判断で剣のガードから腕のガードに変え
俺の一撃を剣ではなく、腕で防いだ。もちろん無事で済むはずなく、腕から生々しい音が響いた。

「剣を折るつもりだったんだけどな…」

『惜しいね』

≪剣が折れれより有利に戦えるからな≫

腕を折ったことで少しでも有利になるかと思ったがジムキオがどんな存在かを忘れていた。
ジムキオはドクターハンマーをガードした方の腕で俺の首を絞めかかってきた。

「う、ごくのか!?」

≪嵐!≫

だが、俺も大人しく首を絞められて死ぬわけにはいかない。スカさんの肉体強化の力でジムキオを引き剥がし地面に倒す。

『嵐! 後ろだ!』

押し倒した状態でたこ殴りにしてやろうかと思った途端、ジムキオの指がかすかに動くと同時にスカさんの声
そしてミシミシと何かが壊れる音が俺の後ろから聞こえてきている。

「…って嘘だろ…」

すぐに背後に警戒して後ろを向くがそこには予想だにしていなかったものがあった。

「やっば!?」

「フフ…」

クイントの衝突によって半壊したビルがジムキオの糸によって俺たちのほうに倒れてくる光景だった。
ゆっくりと倒れてくる光景がなんだか現実味がない。

「どわあぁああぁあああ!!!???」





「痛たた…」

暗い瓦礫の中から瓦礫を退けて光が視界いっぱいに広がる。
まさかビルを倒してくるとは思いもしなかった。というか魔導師の戦いじゃねえだろ。
幸い、ギリギリでブラッティ・プロテクションが間に合って岩に押しつぶされるっていう事態は防げたけど…

「あいつは…」

「危なかった」

「無事かよ…」

体中ボロボロになりながらもニコニコしながら瓦礫の中から這いずり出てくるジムキオ。
こいつがどうやって瓦礫を防いだのかはわからないがどうやら残念なことに無事らしい。

「先手必勝!」

「む」

ボロボロの状態で剣を持っていないなら俺が有利だ。そろそろ頭がクラクラしてきたが
気合で乗り切ってブラッティクロウを展開してジムキオの顔面を握りつぶそうとするが

「ふん!」

瓦礫に手を突っ込んだかと思うと、引き抜き現れた吸血剣で攻撃を防がれ、カーミラの魔力で加工していないブラッティクロウが砕け散る。
ドクターソードが砕け散ったときの過ちを二度繰り返してなるものかと俺はその場から急いで離脱する。
俺と同じくジムキオもその場から離れていってしまった。

「ふむ…」

「どうかしたのか」

「いやいや、どうやらこの舞台の悪役を演じるのは僕みたいですね」

「…はあ?」

突然攻撃を止めて引いたかと思うといきなり何言い出すんだこいつは…

「どんな御話にも悪という存在は必要です。そうじゃないと話が成り立たないでしょう?」

「別に平和な話でも構わないじゃないのか?」

「そういう御話も嫌いじゃないんですけどね」

ジムキオは器用に剣をクルクルと手で回しながら会話を続けている。
今のうちに俺はスカさんにBカートリッジで血の輸血をしてもらっている最中だ。

「それだと君は…」

「あっ?」

剣を回すのを中断して俺の瞳をジッと見つめてくる。イケメンだけに中々眼光は鋭い。

「…君の役も決まりましたね。交渉は決裂しました。それじゃあ君とは友好関係を結べないということで」

「あたりまえだろ。嘗めてるのか」

残念そうな表情で俺の顔をジムキオ。心なしか来たときより元気がなくなったような顔になっている。
しかし一転して急に明るい顔になったかと思うととんでもないことを言い出した。

「いやぁ。何だか君に興味が湧いてきました」

「…は?」

「どうです? 君も僕の物になりませんか?」

「…え?」

段々と雲行きが怪しくなってきた。やばい雰囲気だ。俺の貞操的な意味で。

「どうです?」

「とりあえず手を握るな。キモい」

貧血とは違う意味で頭がクラクラしてきたかと思うとジムキオに手を握られていた。鳥肌が立ちまくった。

「だからb「ぶった切れろーーーー!!!!」」

目の前にいたジムキオが何者か…いや、誰かはわかるが、何者かの大剣で切られてしまった。










side--


「…主との交渉は決裂…ですか」

「そ、そうですね」

モニターに映っている互いの主の戦いを眺めながら呟きを漏らす従者二人。
片方は若干呆れながら、もう片方は恥ずかしさか嬉しさゆえの照れかで顔を真っ赤に染めている。

「さて、なら私はどうしたらいい「猫蹴脚!」っ!?」

虫の息とまではいかないが心身ともに疲労しているナズナを捕らえることは女にとって難しいことではない。
そう考えながらナズナのほうを向くと後ろからの急襲されてしまった。

「っよっと! ナズナ! 大丈夫! ボロボロだよ! 転んだ?」

「アリシア…そちらこそボロボロですよ。ねこじゃらしで遊びすぎたんじゃないですか?」

「ふふ~ん。ナズナ程じゃないよ!」

女に蹴りを食らわせたアリシアはすぐに再び跳躍しナズナと並ぶ。
そしてアリシアの言葉に笑みを浮かべながらこちらも皮肉で返す。そのおかげか表情に余裕が出てきている。

「増援…ですか。これで更に難しくなってしまいましたね」

実際はアリシアが加わっても大して労力に変わりはない。万全なアリシアなら変わるがアリシアもナズナ同様ボロボロ。
この程度なら軽くあしらう程度に相手をしてやれば何とかなるはずだった。
だが、女には最初からナズナを連れ去る気など毛頭なかった。

「…主の所に戻りますか…」

どうでもよさそうにナズナから視点を外した女は来た道を引き返そうとしていた。
そんな行動に構えていたアリシアは戦闘が起こらないことに首を傾げていた。リニスも同様に。
しかしナズナだけはそんな女の表情を見て、何かに気づいたかのような顔をしていた。そして背中を向けている女に声をかけた。

「あの!」

「…何か?」

ナズナの声に振り返らずに応える女。どうでもいいことならすぐに帰るという空気を晒している。

「…安心しましたね?」

「っ!?」

「マスターが断って安心しましたね?」

断言するように声をかけるナズナ。そのナズナの言葉に反応するように肩を揺らす女。ナズナは口を開き続ける。

「あなたの位置が取られるのが怖かったんでしょう?」

「…れ…」

「私がその位置に納まってしまうことが」

「だま…れ」

「あなたはあいつのことが好きなんですね?」

「黙れ!!!」

怒声と共に黒い魔力弾と桃色の魔力弾が放たれる。アリシアとナズナの近くに着弾し、爆破する。
女は大きく肩で息をしながらアリシアの後ろにいるナズナのことを睨んでいる。

「お前に何がわかる! あの人の何が理解できる! 何も知らないであの人のことを話すな! あの人と一番一緒にいたのは私なんだ!」

さっきまでの落ち着いた表情が嘘のようにさっきまでの小さな声が別人のようになる。
静かな流れだった川が激流になるかのように、女の感情は揺れ動く。

「あの人は高貴な御方だ! あの人に認められるのがどんなに光栄なことか!」

「昔、馬鹿なお姫様がいた! 何も知らないで! 憧れだけで! 見た目だけであの人を求めた! 抱かれた! 」

「だけどあの人を知ると途端に態度を変えて恐れた! 怖い! 恐ろしいと!」

「そんな馬鹿を近くに置いておくなんて私は認めない! 主が認めても私が殺す!」

「本当はお前も要らない! だけどあの人はお前を求めてる! だったら従者の私がすることは一つ! お前を! 主に! 捧げること!」

大声で捲し上げると女は大きく息を吸って呼吸を整えた。
ナズナとアリシアは突然の女の豹変に驚き、反応が出来ずに唖然として女を眺めていた。

「…今日は帰る…。だけど次に主から命令があれば、お前の手足を折ってでも主の下に連れてゆく」

女は現れた時の態度に戻るとまたゆっくりと引き返していった。

「あなた! 名前は!」

そこで大きな声をあげたのはアリシアだった。アリシアは名前がなければ呼びにくいと思ったんだろう。

「…トレニア」

ポツリと名前を呟き、その場から離れていった。もう振り返ることはなかった。

「…あ! 忘れてた!! ナズナ! 早く準備して!」

「え? 何です?」
.









ナズナとなのはの戦闘が終わった同時刻。フェイトはなのはの代わりに全力でヘリに向かっていた。
コーデリアからも連絡があり、此方に向かっているとのことだった。

「っ! よかった。ヘリは無事」

急いで向かったおかげでヘリに損害は見当たらない。どうやら自分は間に合ったようだと安心した時だった。
ヘリに向けて強大なエネルギーが放たれそうになったのは。

「っ!? これは!!」

フェイトが気づくと同時に強大なエネルギー砲、ヘビィバレルがヘリに向けて放たれた。
気づいたときにはもう遅く、ヘビィバレルは着弾し、爆発した。










「うっふふっのふ~♪ どう? この完璧な計画」

「黙って…。今命中確認中」

ビルの上からヘリに攻撃を放った犯人。ディエチ、そしてクワットロは上機嫌で爆煙を眺めていた。
自分の計画がうまくいき、機動六課のヴィータにも皮肉が言えたことが楽しかったのかクワットロは上機嫌だった。
そしてディエチは自分の放った攻撃が命中したのかどうか確認していたが、ヘリの姿が見えたことに唖然とした。

「あれ? まだ飛んでる…」

自分の攻撃のせいで煙が晴れずにヘリの全貌が確認できないがヘリはまだ空中に留まっている。
あれほどの攻撃を受けたならばすぐに墜落してもおかしくないはずなのに。

「あら?」

ディエチは自分のスコープ機能を持った左目で更にヘリの様子を伺う。
すると爆煙の中から茶色い毛むくじゃらの盾と緑色のプロテクションが姿を現した。

「…何あれ?」

あんなわけのわからないものに自分の攻撃が防御されたかと思うと少し眩暈がした。



「え~と…スターズ2とロングアーチへ、こちらコーデリア! ギリギリで防御成功!」

「わん!」

そして盾が光を放ったかと思うといきなり犬に変化してしまった。どうやら変化魔法だったらしい。

『はぁ~危なかった~。ギリギリや…』

『ありがとうございますコーデリアさん! けれどよく防げましたね』

はやては間に合ったことに安心し、シャリオはあの砲撃を防げたことに驚いた。
コーデリアの戦闘力は相当なものだとフェイトから聞いていたシャリオだが、今の攻撃を防げるのには驚いた。

「ははは…ちょこっと反則使いましたから」

「わうう…」

頭を掻きながら照れるコーデリア。犬のポアロの首輪がキラリと光った。



「あっら~」

「こっちもフルパワーじゃないとはいえ…、マジで?」

まさか全くマークしていなかった人物に防がれると思っていなかった二人のショックは大きかった。
そして二人に追い討ちをかけるように金色の魔力が二人に迫っていった。
自分たちに迫る攻撃をかわした二人だったが、フェイトはすでに二人の姿を捉えていた。

「見つけた!」

「こっちも!?」

「速い!?」

まともにやって勝てる相手じゃないと判断したディエチとクアットロは逃走を図るがフェイトが許すはずもなく二人を追う。

「止まりなさい! 市街地での危険魔法使用、および殺人未遂の現行犯で逮捕します!」

スフィアを展開していつでも放てる準備をする。
二人がこのまま逃走し続けるのなら容赦なく二人に向けて放たれるだろう。

「今日は遠慮します~!」

このままだと捕まってしまうと考え、クアットロはISを発動させる。

「IS発動! シルバーカーテン!」

クアットロのIS、シルバーカーテンが発動してディエチとクアットロの姿を消す。

「はっ! はやて!」

敵が消えたのを確認したフェイトははやてに呼びかける。



「位置確認…。詠唱完了。発動まで…あと4秒!!」

遠く離れた場所ではやてが二人を捕らえるために詠唱を開始していた。



「了解!」

はやての魔法に巻き込まれないためにフェイトはその場から一旦離脱する。
その様子を隠れてみていた二人はいきなりフェイトが引いたことを疑問に思いながらシルバーカーテンを解除して姿を現す。

「離れた…? なんで?」

「まさか!」

敵が引いたことの理由の予想がついたクアットロは空を見上げる。するとそこには強大な黒い魔力が存在した。
それは発動はしていないが、発動すれば即座に二人を飲み込むだろう。

「広域…空間攻撃!」

「うっそ~ん!」



「遠き地にて、闇に沈め…デアボリックエミッション!」



「うわああああああっ!!!」

容赦なく発動されたはやての魔法はゆっくりと二人を飲み込んでいく。
少々のダメージを負いながらも広域空間攻撃から脱出した二人を待っていたのはまたしても緑色の魔法だった。

「…っ!?」

ディエチを抱えて飛んでいたクアットロを二人まとめて緑色の少しゴツイ鎖が二人をぐるぐる巻きにする。
そしてその鎖に触れているとどこかリラックスした気持ちになり、力が湧いてこない。

「なんか気持ちいでしょ? それって犯人捕らえるときにちょうどいいんだ」

「わん!」

空には短剣と銃のデバイス、フラッシング・ブレインを構えたコーデリアとポアロが

『They never surrender. Judged to have in danger of escape (投降の意志なし…逃走の危険ありと認定)』

そして下には今にも攻撃を放ってきそうなフェイト。

「コーデリアさん。鎖はどのくらい持ちますか!」

「ごめん。これあんまり長くもたないんだ。もう限界かも」

「なら…」

『Knock out by buster. After that, arrest it. (砲撃で昏倒させて捕らえます)』

フェイトの手に魔力が溜まっていく。それを見た二人の顔がなんとか抵抗して逃げようとするが力が出しにくい。

「あまり攻撃魔法は得意じゃないけど…」

コーデリアの周りに幾つもの緑色の槍が浮んでくる。ポアロの周りにも茶色の槍が浮んできている。
カートリッジの音が空に響き、フェイトの魔力がより強く感じるようになってゆく。
同じくコーデリアもカートリッジをロードし、魔力を大きくさせた。

「トライデント…スマッシャーッ!」

「ダンシング…スピア!!」

二人の攻撃が同時に放たれ、避けれるはずもなくディエチとクアットロに命中したように見えた。

『ビンゴ!』

「じゃない! 多分避けられた!」

『ふぇ!?』

ディエチとクアットロはトーレのIS、ライドインパルスによって救出されていた。





sideout


「シントラ? どうしてお前が?」

「危ないとこ感謝するぞシントラ」

シントラに切られたジムキオは逃げるように魔法陣の中に退散していった。
俺はユニゾンを解いたせいで魔法のまの字も使えない一般人になっている。

「プレシアが救援に出すって言い出してよ。お前等のとこにはあたしが行くことになったんだ。別に心配だったわけじゃねえからな!」

いつもどおりのシントラのやり取りを微笑ましく見守りながらふと引っ掛かりを覚えた。
救援を出そう? 俺等のとこには? つまり他の場所、ナズナたちの場所にも誰か向かっているのか。

「他のメンバーも出ているわけか」

「ああ、多分そろそろ着く頃だと思う。じゃあ転移するからあたしに掴まれ」

そうか、なら安心だな。そう思って俺はシントラの体に触れた。

「…頭に手を置くんじゃねえー!! なでなでするなぁーーー!!!」

『緊張感ないね…』










side--


「ケースはシルエットではなく本物でした。あたしのシルエットって、衝撃に弱いんで、奪われた時点でバレちゃいますから…」

「なので、ケースを開封して、レリック本体に直接厳重封印をかけて…」

「その中身は…」

「…?」

「こんなカンジで」

「なーるほどー!」

レリックを盗られたと思っていたリインとヴィータは新人たちの作戦に舌を巻いていた。
まさか自分の知らぬ間にこんな策を講じていたなんて思いもしなかったヴィータは乾いた笑いをあげる。

「へえ~。本当にそこに隠してたんだ… (嵐の言った通りだ)」

キャロの頭からレリックを取ってマジマジと眺めるアリシア。服装はフェイトになっている。

「あれ? フェイトさん?」

「いつの間に来たんですか?」

新人たちはフェイトは合流したと思い全く警戒心を抱いていなかった。

『みんな! その人フェイトさんじゃない!』

シャリオの声で全員がレリックを眺めているアリシアに目を向ける。
アリシアはせっかくフェイトの服装にしたのにすぐにバレてしまってことにショックを受けていた。

「てめえ! 何者だ!」

「ストップです」

アリシアの隣にゆっくりと降り立ったのはナズナだ。服装がボロボロで全員が驚く。
しかし、これだけボロボロなら何故このメンバーの前に現れたのかとリインとヴィータは疑問を覚える。
こんなところに出てきたら全員を二人で相手にするも同じ、明らかに無謀に見えた。

「てめえがなのはの…」

「はい。鈴木ナズナです」

少し、いや、かなり欲望が漏れ出しているナズナ。

「なんのようだ? (スズキ?)」

「レリックを貰いに」

「嘗めてんのか? そんなボロボロの状態であたしたち全員を相手にs「何故私はボロボロなんでしょう」…はぁ?」

問われてヴィータは考える。何故こんなにもボロボロか。確かナズナが現れたという情報は聞いている。
それで誰かがナズナを撃退するってことになった。そこまで考えてヴィータの顔色は真っ青に変わった。

「て、てめえ…まさか」

「私たちに手を出したら…わかりますよね?」

アリシアの中にいるリニスが転移魔法を発動させてナズナは優雅に歩いて向かう。
ヴィータたちはその光景を歯を食いしばって見ているだけしか出来なかった。
ここで自分たちが手を出せばなのはに何をされるかわからない、と自分の頭に言い聞かせ耐えた。
無論ナズナはなのはに特に何もしていない。レイジングハートが此方に連絡してこないようにだけは処置しているが
ナズナを攻撃すれば死ぬような仕掛けなど一切していない。ただのハッタリだ。今、フェイトとコーデリアが急いでなのはの救出に向かってる。


そしてその光景を見て話が聞き取れず切りかかろうとしている二人、シグナムとシャッハがいたが
その二人も現れた"風”により背後から喉元に黒い岩のような剣を当てられ身動きがとれなくなっていた。

「…お前は…」

「済まないな烈火の将。私はもうお前たちの知る"風”じゃない」

そんなことを言いながら悲しそうな表情を浮かべているアインスにシグナムは溜息をついた。


「全く…お前といいシントラといい…戦いにくい相手だ」


ナズナたちが転移完了してから追うように転移していってしまった
アインスの瞳にシントラと同じ光を見たシグナムはもう一度大きく溜息をついた。










おまけ


「いいですかマスター! あまり女性と仲良くしない方がいいんですよ! 情が移ったらどうするんですか!」

「そ、そうだな」

「大体、ベルツリーってなんですか!」

「ぎ、偽名?」

「そもそも高町なのはとの会話で名前が出るほど仲がいいということなんですか!!」

「あ、あのさ」

「何です!!」

「なんで俺、猫型じゃないと駄目なんだ。ちょっと膝の上は恥ずかしいんだけど…」

「罰です! 」

「え、いや…」

「いいですかマスター!」

「はい…もういいです」

『クク…尻に敷かれているね…、この場合は膝に置かれているけどね』



その日、嵐はサラーブに泊まって次の日六課に帰った。怒りのテンションが上ったせいで周りが見えていないナズナが
猫状態の嵐を飯はナズナが食べさせ、風呂に一緒に入り、ベットで一緒に寝るということがあった。
嵐が帰った三十分後、リビングで休憩しているときに急に正常に戻り、自分がしたことの大胆さを理解したのか
顔を真っ赤にして頭を抱えながらひたすらリビングを左右に転がり続けるナズナをシントラが目撃した。










<あとがき>
ヴィヴィオ編が終わりました。残すは六課襲撃編と聖王の器編と回帰編ですかね
もう少しおつきあいください。



[6935] 第77話「最近の女の子って何して遊んだら喜ぶんだ?」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:fd9652be
Date: 2009/08/03 15:45
『突如現れた謎の人物!? それは敵なの!? それとも味方なの!?』

『複雑に絡み合う謎と謎! それは果たして解けるのか!?』

『次回! プリレンジャー第43話 謎のプリ戦士! シルバージョマコ!!』

『見ないと私のリンゴキャンディーブレイクが炸裂するぞ!』

「おい。何懐かしいの見てんだアリシア」

「押入れから出てきたんだ~」



第77話「最近の女の子って何して遊んだら喜ぶんだ?」



side八神はやて


――…それは本当のことなんやな?


――はい。確かに


なのはちゃんの怪我もそこまで騒ぐほどの怪我じゃなくて安心していたときにシグナムから出た話は
そんな考えを吹き飛ばしてしまうほどのことやった。頭で考えがグルグル回ってる。


――…このことをみんなは?


――守護騎士たちには全員伝えました。テスタロッサにも報告として


――そっか。


新人たちがレリックを盗られてしまった時、シグナムが援護に行けんかった理由は何者かに足止めされたから。
その何者かがナズナちゃんの協力者ってことは確かや。それがあたしたちの全く知らん人物やったら何も問題はなかった。
ただナズナちゃんに協力者がまだおるってだけ。それだけのはずやった。


――本物かどうかはわかりません。しかし私は本物だと感じました。


――本物のリイン…フォース…


雪の降る日にまるで雪がとけるかのように消えてしまったあたしの大事な家族。
助けたかったけど助けれなかった。見てるだけしかできなくてそんな自分が殺したくなるほど嫌になった。

「はやてちゃん? どうかしましたか?」

「ん? なんでもないよリイン」

「そうですか? 何だか辛そうです」

「リインはいい子やな~」

ふわふわとあたしの方へ飛んできたリインを胸に抱き、そっと頭を撫でる。
リインはほんのりと顔を赤くしながらもあたしの手を払うことはせず、黙ってあたしに撫でられていた。



「喜べばいいんか…悲しめばいいんか…ようわからんな…」

「はやてちゃん…」





sideout


「つまりジムキオは俺のオリジナルがいる時代の人物だと?」

『カーミラに聞いた話をまとめるとそうなるね』

機動六課の掃除の達人にまで上り詰めそうな勢いの俺は掃除をしながらスカさんの報告に耳を傾けていた。
…む、この汚れは直接擦らないと取れないタイプと見た。後で擦っておこう。

「変態って昔から存在したんだな~」

『感心するのはそこじゃないと思うんだがね』

いや、そこも重要だろ。下手すれば俺って今回捕まったら掘られたかもしれないんだよな?
先に言っておくが俺にウホ要素は微塵もない! 巨乳! 微乳! 貧乳! 好きになった“女の子”がタイプです! ここ重要!
断じていい男には興味ありません! トイレにも行きません! ホイホイ付いて行ったりしませんから!!

「ああ、どうすればいいんだ…あいつなんか君が欲しい的なこと言ってたよね」

『…まあ…ねえ』

「くそっ、何故俺があんな変態に…くそぅ…せめて…せめてジムキオが女だったら…女だったら…」



――自分で考えてみれば面白いかもしれないわ


――ナズナをくださらない?


――君も私の物にならない?



「…いいかも」

『駄目だろ』



―――ウワァァァァァァァン!!!!!



「う、うるさっ!?」

子供特有の甲高い泣き声が耳に響いた。邪なことを考えていた俺に神…もとい薺の裁きか?
音…というより声の聞こえる場所に掃除しながら近づいていくと目の前にアリシアのそっくりさん…というかほぼ本人のフェイトがいた。おまけではやても。
どうやら二人もこの泣き声の場所に向かっているらしい。…あ、これってヴィヴィオのあれか?

「あなたは?」

「あ、俺はベルツリーと申します」

「ベルツリー? あ、なのはたちが前に話していた…」

俺のことを話していただと!! まさか謎のイケメン清掃員現る的な話題で!?

「相談に乗るのがとても上手だって。あなたのお話は耳にしています。」

「…どうも」

わかってたけど…ね。

「どうしてここに?」

「偶々掃除をしていたら子供の声が聞こえたもので。六課には泣くような子供はいないので迷子かと」

「あ、違うんです。これは六課が保護した子で」

「フェイトちゃん。なのはちゃんが限界やって」

扉の置くから聞こえてくる泣き声のボリュームは大きくなり続けている。このままいくと破裂するんじゃね? ってくらい。
子供の頃って泣きたいだけ泣いて泣き終わった後に喉の不調とかに気づいてまた泣きたくなるんだよね。
まあ子供が泣いているのにこんなところでじっとし続けるわけにはいかない。

「ハラオウン隊長。とりあえず中へ入ったらどうでしょう」

「そ、そうですね。すみません」

俺に一言誤りを述べた後、いそいそと部屋の中に入って言った。ついでに俺もこっそりと。
中に入るとそこは泣き続けるヴィヴィオにそれを受け止めるなのは。そして宥めるフォワード陣。大変だ…

「八神部隊長?」

「フェイトさん?」

「あれ? なんでベルツリーさんが?」

エリオ、ティアナ、スバルと順番に入ってきた人物の名前を挙げる。まあ俺がいるのは確かに変だけどなんでって…

「エースオブエースにも勝てへん相手はおるもんやねぇ~」

はやての声に反応したのかヴィヴィオがゆっくりと泣き顔をこっちに向けると驚いたように眼を見開いたかと思うと
ニパッといきなりの笑顔になった。これには宥めていたスバルたちもなのはも驚いた。そしてヴィヴィオが叫んだ名前に俺は驚いた。

「マジニャン!!」

「ぶほっ!?」

何故俺が驚いたかと言うとこの前久々にサラーブに帰ったとき、簡単に言うとヴィヴィオの回収のすぐ後。
その日は一日中猫でいろんな意味で不自由な日だったんだが、その猫な一日にアリシアが戦いの情報交換のとき
謎の少女に出会ったので偽名を名乗っておいたと言われたのだ。すぐに気絶したという話だったので気にしない方向で行っていたんだが
まさか覚えていたとは…子供の記憶力侮りがたし…

「え、ええ!?」





sideフェイト


「マジニャンだ~!!」

「ま、マジニャン!?」

聖王教会本部に向かうのになのはも連れて行かないといけない。けれど、どうやら保護した子が
なのはに泣きついて離れられないと聞き、とりあえずはやてと共になのはたちの場所に向かった。
途中で前々からなのはたちに話を聞いていた人物。ベルツリーさんに会ったけれど話している場合じゃなかったから一言謝罪してからなのはたちのいる部屋に入った。
そこでまたも予想していない事態が起こってしまった。

「マジニャン♪ マジニャン♪」

「えと…」

何故か保護した子、ヴィヴィオが私のことをマジニャンと呼び、今度は私に引っ付いてきた。

「マジニャン? この人を知ってるの? ヴィヴィオ?」

「マジニャンはヴィヴィオを助けてくれた!」

なのはがヴィヴィオに事情を聞いているけれど、いまいち分からない。

「…もしかしてあの人のことじゃないでしょうか」

エリオの話で出た人物はこの間の任務のときに乱入してきたっていう私とそっくりの魔導師。
名前は聞けなかったけれど、映像を見る限りは確かに私に瓜二つだった。私の…クローンではないかとの話になったけれど私は多分姉さんだと思う。

「げっほげふ!!」

「風邪ですか? ベルツリーさん」

「い、いえ。気にしないでください」

昔、アリサから聞いた話だと姉さんは幽霊になってアリサの前に現れたって話だった。その時は幽霊ってなんなのかよくわからなかったけれど。
そして闇の書の事件の時に闇の書の夢の中で折れた私を奮い立たせてくれた姉さん。
あの事件のおかげでなんだか姉さんが生きているって知ってもあんまり驚かない。なんとなくそんな気もしていたから。
ナズナと一緒にいたとこから考えるにおそらくナズナの仲間なんだと思う。

「マジニャン? どうかしたの?」

「ねえティア。マジニャンって何?」

「あたしが知るわけないでしょ」

なのははナズナを嫌っている。今回も眼を覚ましたときの第一声が「次は勝つ!!!」だったから。
けれど最近になって気づいたことがある。ナズナは昔の私に似ているところがある。
何となくだけれど誰かのために必死に頑張っているように見える。昔の私と違うところは覚悟の強さ。昔の私となんて比べ物にならない。
管理局と敵対しているのもおそらく誰かのためだと思う。

「…ふふ。私はマジニャンじゃないんだよ」

「ふぇ?」

「私はマジニャンの妹なのだ! フェイトって言うんだよ」

「ええぇ!!」

「なのはさんの大事なお友達だよ」

管理局に所属している私が抱いちゃいけない思いだけど。

「だからちょっとお願い聞いてくれるかな?」

「うゆ?」

ナズナと仲良くできる姉さんが羨ましい。そんな風にナズナに思われる人が羨ましい。





sideout


ちょびっと原作と違う展開になって焦ったけど、保育士フェイトさんのおかげで何とか丸く納まりました。よかった…
けれどちょっと問題が起こってしまった。まあ俺の正体がばれるとかそんな素敵な問題ではない。

「高~~~い」

「……ふう」

何故か俺もヴィヴィオの子守を頼まれたことだ。ちなみの今の状態は俺がヴィヴィオを背負っている形になる。

「すみませんベルツリーさん。僕の身長じゃ少し難しくて」

「気にしないでくれ。子供は嫌いじゃない」

まあ仕事もサボれるし、ちょうどいいかな。後でゴリさんに連絡入れておこう。
子供と久々に遊ぶってのも楽しいからな。最近アリシアも遊んでくれないからちょっと寂しかったんだよね。
欲を言えば猫フォームになってヴィヴィオに猫じゃらしを持たして遊んでほし…じゃない。遊んでやりたいな。

「次はなにする?」

「ヴィヴィオ、絵、かきたい!!」

「了解」



「ねこさん上手!」

「そうか? (リニスをイメージしたんだが)」

「上手です! ねえエリオ君」

「はい! 僕も上手だと思いますよ」

「そうか? じゃあこれは」

「このねこもかわいい!!」



「揺らしたから崩れた~!!」

「ちょっと動いただけだろ! ごめんなさい!」

「ニャンにいのせい~」

「え? ニャンにいって何? 猫の絵が上手いだけでニャン?」

「ふふ」





「じゃあもう行くから」

「ありがとうございました」

遊びつかれたのかグッスリとヴィヴィオは眠ってしまった。このままここに居ても意味がないので
今日はお暇させてもらうことにした。ゴリさんにも連絡入れといたから寮に帰りますかね。

「…ニャンにい、か。ニャンパパじゃなくてよかった…」












side--


旧い結晶と無限の欲望が交わる地


死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る


死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち


それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる




「それって…」

「まさか」

「ロストロギアを切欠に始める管理局地上本部の壊滅と…そして、管理局システムの崩壊」

「…それともう一つ。気になることもある」

カリムの言葉に驚いていたなのはたちだが、クロノの言葉に表情を引き締める。

「気になること?」

「ああ。騎士カリム」

クロノがカリムに呼びかけるとカリムは頷いて預言書を見る。

「この予言に…時々ですがノイズが走り、文字が浮かび上がります」

「文字?」

「古代ベルカ語で…文章ではなく、言葉なんですが…」

「何て書いてあるんですか?」





「人形と」











おまけ


今日のナズナさん


リビングで大家族の番組を見ているアリシアがポツリと呟く。

「子供か…」

「どうかしたのか? アリシア」

「子供ってやっぱり可愛いんだろうなって思って」

アリシアの頭の上にゆっくりと着地するカーミラは、ちょっと悩んだ表情をしている。

「あたしは子供を宿すことは出来ないけど…」

「え? あ! ごめん!」

「いやいいよ。だけど性別は女。確かに自分の腹痛めて生んだ子供は可愛いだろうな」

うんうんと頷きながら自分の考えを飛べるカーミラ。
そんなカーミラの考えを聞いたナズナは自分がもしマスターに子供が出来たといえばどんな反応してくれるか考えていた。

「結婚して…子供が出来て…子供が大きくなって…なんかいいよね~。」

「そうだな」

話をしながらも二人はさっきから顔を赤くしたまま明後日の方向を眺めているナズナを見続けている。
頭をシェイクすれば鼻から赤い液体が飛び散りそうだ。それほどに真っ赤。二人はまたかと溜息をつく。

「何考えてると思う?」

「子供が出来て二人で可愛がってる夢」

「意外性をついて子作りの夢」





~妄★想~





ある街にある小さな家。そこにその家の主が帰ってきた。

「ただいまナズナ!」

「お帰りなさい。マス…じゃないですね。あなた」

「ああ、今帰ったよ」

二人はお互いの匂いをつけるかのように抱き合い続ける。10秒も抱き合っていたが二人には足りないくらいだった。
しかし、玄関で延々と抱き合っているわけにも行かず、二人は渋々離れる。

「ご飯にしますか? お風呂にしますか? そ、それともわ、私に…」

「ナズナといきたいけどそれはお風呂の後にするよ。先にご飯を食べよう」

妻が顔を真っ赤にして言ったお決まりの言葉に顔色一つ変化させずに言う夫の嵐。パーフェクト嵐。
さすがはナズナの頭の中にしか存在できない存在。そこに痺れもしないし憧れもしない。

「は、はい。今日はあなたの好きな物だけで作ってみました」

夫、嵐の手を引いて妻、ナズナが案内した先に待っていたのは夫の好物で作られた料理だった。

「嬉しいよナズナ」

「んっ…」

妻の手を引いて軽く触れる程度のキスをする嵐。それに動揺してまた顔を赤くするナズナ。
このまま行ってしまうかと思われた二人を止めたのは一つの泣き声だった。


――ウエェェェェン!!


「あ、あの子が泣いてます」

泣いている子供に近寄り、何故泣いているかを調べるナズナ。

「お腹が空いているだけみたいですね」

服をずらして自分の乳を子供に飲ませるナズナ。それを横から見ている嵐。

「…えと…喉渇いてませんか?」

「…渇いた」





~終★了~





「や、やっぱり飲ませないといけませんよね! 妻として!」

「好きにしてくれ」

「飲ます? 口移し?」





「犬、紅茶」

「ははあ!!」










<あとがき>
かなり更新が遅くなって申し訳ない。
今回の話に出てこなかったクイントなどは次回か次々回かで。
では!また次回!!



[6935] 第78話「家族の形に決まりはない」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/08/03 16:16
---ふにゃ~



「っ!? 同胞!?」

『君ね…』



---にゃう?



「何故こんなところに…。ここは悪魔が巣くう魔窟だ。見つかる前にお逃げ」

『いや、だから君ね…』



---にゃんにゃにゃん♪



「暇だから遊んで欲しい…。いいだろう全身全霊で遊んでやろう! 体力の貯蔵は十分か!!」

『…今の言語が理解出来たのかい?』



第78話「家族の形に決まりはない」



---にゃ!



「あぁ…和むわぁこの感じ…」

仕事が速く済んだのでのんびりと外を散策していると見つけた我が同胞。…そうだなニャん・ザ・キッドとでも呼ぼうか。
うむ。素晴らしいネーミングセンスだ。素晴らしすぎて体中から涙が出てきそうだ。
ニャん・ザ・キッド…キッドを見つけた俺はキッドからの熱い視線にかつての俺がアリシアに向けていた視線と
同じ光を持っていることに気づいた。暇だから遊んで欲しい、構って欲しいと!!



---にゃうん♪



「愛い奴よのう」

本来猫は進んで人間に近づいてくるなんてことは滅多にないはずなのにキッドは何故か俺にゆっくりと近づいてきた。
日本でよく見るタイプの毛並み。三毛猫のタイプだったからか何だか愛着も湧いた。
スカさんが同じ匂いとか、人間としての尊厳がとか難しいこと言っていたけど気にしない。

「お前は可愛いな」

どっかのデバイスと違って。



---にゃにゃ



優しく頭を撫でてやると目を細め嬉しそうにしてくれているキッドを見て荒んだ心が潤っていく。アニマルテラピー恐るべし。
キッドの頭を撫で続けながら青い空を眺めているとゆっくりと睡魔が俺を襲う。このまま寝てもいいかと考え目を閉じて…

「はぁ…」

「ふぅ…」

開けた。





「…で? お二人さんは何をそんなに悩んでいたわけ?」

「い、いえ。大したことじゃ!? ね、ねえキャロ!?」

「そ、そうですよ!?」



---にゃ~?



俺とキッドが座っていた場所の目の前を溜息を吐きながら通ろうとした二人。エリオとキャロのちびっ子コンビ。
いつも明るく純粋な二人が溜息を連続で吐いているのを見たら気になるというものだ。
俺の膝に丸くなって寝転がっているキッドもいきなり溜息を吐いて現れた人間を観察するように眺めている。

「まあ、話したくないなら別に構わないけど? 話したら楽になるかもしれないよ?」

「「……」」

運のいいことに今日の俺は荒んだ心がキッドによって潤っている。砂漠のオアシス状態だ。
今の俺ならアリシアの地獄の勉強だって手伝ってやれる。スカさんのどんな実験にだって笑顔で付き合っていられるだろう。
ナズナにどんな暴言を吐かれたって…あ、それは無理だわ。死ぬ。マッハで死ぬ。

「けど…」

「俺が聞くのにはまずい話か?」

もしかしてエリオとキャロの悩みはそれぞれ違う可能性だってあるしな。エリオはプロジェクトFのことかもしれない。
キャロは…桃髪繋がりで使い魔としてフリードの態度がなってないとかか? こ、ここここのバカ竜ーーー!! か?

「い、いえ! そんなことないです!」

「はい!!」

「なら話してみろって。こんなに優しい俺は珍しいよ?」

≪滅多にないだろうね≫

うるせーよ。

「…そ、その…本当にただの愚痴になってしまうんですけど…」

「はい…」

「いいって。人間たまにはガス抜きしとかないと破裂するぜ? なあ?」



---にゃん!



膝元から華麗にジャンプして俺の頭に飛び乗るキッド。どーでもいいけど頭はちょっと重いよ。

「え、えと…それじゃあ…」










「…なるほど…」

俺は話が長くなりそうなので話を聞く前に買って来たジュースを人飲みする。
エリオとキャロの手にも俺が買って来たジュースがあるが二人は話に夢中で手をつける様子は見られない。
キッドにも何か買ってきてやりたかったがさすがの六課とは言え猫の食べ物がおいてあるところはなかった。残念だ。

「とりあえず飲め」

「あ、はい、すみません」

「いや怒ってるわけじゃない」

俺の指摘に一瞬呆けた表情になった二人だったがすぐに手に持つ飲み物のことだと気づいたのか飲み始めた。
買ったときは冷たかったはずなんだがすっかり話し込んでいるうちに温くなってしまっただろう。

「…家族か…」



---にゃぁ…



エリオとキャロの悩みは実にシンプルだった。薄々感づいてはいたがやっぱりフェイトのことだ。
何故に今更フェイトのことで悩んでいるのかというと最近俺のことを兄呼ばわりするようになった一人のお姫様が原因だった。
どうやらこの世界のフェイトはヴィヴィオにママと呼ばれていない。フェイトさんかフェイトにゃんだ。
ヴィヴィオと遊んでいるときにフェイトのことをフェイトにゃんと呼んだときは何も飲んでいないのに吹きそうになった。いや、吹いた。
ママとは呼ばれていないが子供の扱いに慣れているフェイトがヴィヴィオと接する時間が長くなるのは自然のどうりだ。
そしてそんな二人を遠くから眺めていると知らない人が見れば十中八九親子と間違えるだろう。髪の色もおそろいだしな。そこが原因だ。

「お、美味しいですね! このジュース」

「そ、そうだねエリオ君!」

俺がジッと黙ってるのを見て何か勘違いしたのか俺のご機嫌を取るような態度を取る二人。いや、気にしないでくれよ。


話は戻るがそのヴィヴィオとフェイトのやり取りをエリオとキャロが見ているときに二人は心の中で少し引っかかるものを感じたらしい。
それは嫉妬の感情も少し混ざっていたと思うがその二人を見て自分たちの今の状況に疑問を抱いた。
フェイトの屈託のない笑顔。もしかしたら自分もヴィヴィオのように魔導師ではなくてただのフェイトの家族としていた方がよかったのではないか?
魔導師は年齢関係なく優秀な才能があれば出来る仕事だ。そして二人はフェイトの力になりたくて危険な魔導師としての道を選んだ。
始めにフェイトにこの話をしたときはやんわりと反対されたらしいが、最終的に自分が選んだ道なら私は反対しないとフェイトが折れた。
だけどその時に自分たちのほうが妥協してただの二人の子供としてフェイトの近くにいることをフェイトは望んだのではないかということだ。
もちろんフェイトは自分の家族として危ない仕事をして欲しくなかったのも本音だろう。だけど二人の選んだ道を親だからと勝手に決めるのも嫌だったんだろう。
サラーブにいる母、プレシア・テスタロッサと似ている点は子供の選んだ道を応援しているとこだろう。
プレシアさんもアリシアが戦いを希望したときは物凄い悩んでいたのを知っている。夜な夜な部屋から呻き声が聞こえてくるくらいだ。

「つまり自分たちはフェイトに心配ばかりかけていると…」

「はい…」

「魔導師になってからフェイトさんに心配ばかりかけている気がして…」

だから普通の子供になったほうがよかったとね…

「難しい問題だな」

「それに僕…家族の…本当の家族ってあまり知らないんです」

「…私もです…」

二人は飲み終えたジュースを脇に置いて頭を地面に向けて俯いてしまった。確かにエリオは親から見捨てられ、キャロのは里から永久追放されるくらいだ。
…この図って事情を知らない人が見れば苛めてるように見えない?

「…全く…お前らは子供のクセにいろいろと難しいこと考えすぎなんんだよ」

こいつら何でこの年齢でこんなに大人的な考えを持ってるんだよ。俺の子供時代が凄い馬鹿みたいに思えるじゃないか。
このくらいの年齢の奴は友達と楽しく遊んで無茶して暴れて馬鹿みたいに笑って怒られたらいいんだよ。

≪実際に馬鹿じゃなかったのかい?≫

黙らっしゃい。

「で、でも…」

「いいからちょっとついてこい!」

「え? あ、ちょ、わわわ!?」

「え、エリオく、ふわっ!?」

二人の子供を脇に抱え頭に猫を乗せた一人の清掃員が六課を翔ける! 気分はほんのり猫バ○!





「はやて~!」

「なんやヴィータ~いきなり」

「一緒に飯食おう!」

「リインも食べるです~!!」

「では私も…」

「ヴィータちゃん! あまりはやてちゃんを困らしちゃ駄目よ」

「ええよシャマル。丁度仕事も一段落ついたし、一緒にご飯食べようか」

賑やかな食堂で賑やかな団体が歩いている。最強戦力八神一家だ。

「あの…」

「何だ?」

「どうしてこんなことするんですか?」

「ばれない為だ」

俺に抱えられているキャロがおずおずと俺の顔を見ながら質問してくる。

「ばれないって…」

「何か問題でもあるのか?」

「い、いえ…」

今の俺の状態ははやて御一行からギリギリ見えない壁に隠れながらはやてたちの行動を監視している。これのどこに不満があるんだというんだ全く…。

『(…八神はやてたちからは見えないが他の職員たちには丸見えだがね…)』

「ヴィータまたそれか? この前もそれやったやろ~」

「だってこれが好きなんだ! はやての飯には全然及ばねえけどな!」

「リインもはやてちゃんのご飯が食べたいです!」

「だよなー」

リインとヴィータが自分の飯を運びながら口々に文句を言っている。そこまで言うはやての飯を一度食ってみたいな。
ナズナの飯も結構うまいが他の人の料理と比べたことはあんまりないからな…

「あの…これは何ムグっ!?」

「いいから黙って見とけ」

再びエリオが俺に聞いてくるがばれたはまずいため口を塞ぐ。

「あ~あ。たまにははやてのギガウマな飯食べてえな~」

「全く。お前は堪え性がないな」

「そう言うシグナムだってこの前はやての飯が食いたいって言ってたじゃねえか!!」

「なっ!? それはお前の前では話していないはず!!」

「シャマルから聞いた」

「シャマルゥゥウゥゥウウゥ!!!!!」

顔を真っ赤にしてシャマルに襲い掛かるシグナム。さすがは烈火の将。速さが段違いだ。
呆気なくシャマルは捕まってしまい、首をがっくんがっくんと揺さぶられている。シグナムとは反対に顔が青くなっていく。

「シ、シグ、落ち着、ナ、グフ」

「シグナグフ? 私はそんな名ではないぞ」

誰だよそのガンダムっぽい名前は。

「全く…」

「まーまーザフィーラ。それに二人とも落ち着いてえな」

「主はやてがそう言われるのなら」

「う、うぅ…何だか知らないお爺さんと川のほとりでお話している夢を見たわ」

「それやべーんじゃねえか?」

人はそれをS・A・N・Z・Uの川と言う。

「そやな~。今度食堂借りて久々に作ってみようかな」

「ほんとかはやて!! やった!」

「やったです~」

嬉しさを押さえられずに大声を出して喜ぶヴィータ。その周りを飛び回るリインフォース。
全く…と言いながらもほんのり嬉しそうにしているシグナム。未だに青い顔のシャマル。黙って椅子の下にいるザッフィー。

「よし。行くぞ」

「え?」



---にゃお~う



キッドの鳴き声が響くと同時に翔け猫の閃光。





「ほら!」

「えい!」

芝生の上で風船の飛ばしあいをしている二人。ヴィヴィオとなのはを俺とちびっ子コンビは眺めていた。
午後の訓練までまだ時間があるんだろう。その間にヴィヴィオと仲良く遊んでいるみたいだった。こういう風景を眺めてると和むよね。

「ふわ、あ、あぁ!」

「ヴィヴィオまた落としちゃったね」

風船がゆっくりと吹いた風に流されてヴィヴィオの予測していた地点とは別の場所に落ちてしまった。
それに走って駆け寄り、風船を取りなのはを見てムッとした表情になる。

「もう一回!」

「ふふ、いいよ。ヴィヴィオは負けず嫌いだね」

えい! と可愛らしい声をあげてなのはに向かって風船を飛ばす。風船はふわふわとなのはに向かって飛んでいく。

「あの…」

「…ん? 何だ」

大人のなのはが簡単に風船を落とすはずもなく、難なくヴィヴィオに飛ばし返すとヴィヴィオはあたふたしながら構えを取る。
今は風が吹いていないのでヴィヴィオも何とか風船をなのはに飛ばし返すことに成功していた。

「その…これは?」

「…さっきの部隊長とか高町隊長を見ててどう思うよ」

「仲がいいな…と思います」

「そうだな、仲がいいな。繋がりを言葉で表すなら何が当てはまる? 姉妹? 恋人? 友達? 違うな。家族だろ」

「そう…ですね」

キャロは仲良く風船を飛ばしあっているヴィヴィオとなのはを眺めながら呟く。

「さっきまで見ていた二組の家族を見てて全く同じに見えたか?」

「え? いえ同じには…」

「そうだ。同じには見えない。それが家族ってもんじゃないか?」

「「……」」

「同じような雰囲気を持っているのはある。けど全く同じ形の家族ってのはない」

仲がよくて暖かい家族。あんまり喋らないけど心でつながっている家族。悲しいけど親と子が信頼しあえていない家族。
形は千差万別だ。同じように見えても知れば知るほど違いと言うのは見えてくる。

「「……」」

「俺から見たら…お前らは立派な家族に見えるよ」

「けど…「エリオ! キャロ!!」ふぇ、フェイトさん?」

未だに自信がないのか反論しようとしたエリオの声を遮り必死の形相でフェイトが翔けてくる。

「ど、どうしたんですか!?」

「ふぇ、フェイトさん!」

「よかった無事で…」

二人を抱きかかえ安堵の息を吐くフェイト。その顔はアリシアのことを思うプレシアと重なって見えた。それにしても一体全体どうしたんだ?

「心配したんだよ…」

「ど、どうしてですか」

「食堂で聞いたんだよ。猫耳の変質者にエリオたちが攫われたって」

「……」



---にゃ…にゃん



「無事でよかった…」

「え、えと…」

「あ、あの…」

フェイトはギュ~っとエリオとキャロを抱きしめる。暖かい温もりに慣れていない二人の顔は真っ赤だ。
ここで変質者がどうこう尋ねるのは野暮だろう。仕方ない。空気を読もう。

「あ~ニャンにいだ!」

ヴィヴィオがこっちに気づいたのか風船を持って近づいてくる。
フェイトもヴィヴィオがいたことに気づいたのか抱きしめる力を緩めた。その隙に二人はフェイトから抜け出した。

「遊んで~」

「はいはい。今はこの二人と遊んでなさい」

抱擁から解放されたちびっ子コンビをヴィヴィオに差し出すとヴィヴィオは二人の手を引いてなのはの元に戻った。
この場に残されたのは俺とフェイトだけだ。咄嗟にぼろが出そうでちょっと緊張。

「こんにちは」

「あ、はい。こんにちは」

無難に挨拶してみたけど、その後また無言。なんだああぁあぁあ!! この空気!!

「あの」

「はい?」

この場にいても仕方ないと考えてヴィヴィオの元に向かおうと思ったときにフェイトから声をかけられた。

「何か?」

「その、ちょっと聞きたいことが…」

フェイトが聞きたいこと? まさかフェイトも俺に悩みを?

「何ですか?」

「ベルツリーさん…昔会「ニャンにい~! 早く~」」

「ああ。すぐ行く! すみません聞こえなかったのでもう一度お願いできますか」

ヴィヴィオのせいで後半が聞こえなかった。

「…すみません。やっぱりいいです。多分私の勘違いだと思います」

「そうですか?」

何だったんだ?










おまけ


夢の中へ





「…ここは?」

嵐が目を開けたとき、そこは自分の知る部屋ではない場所だった。俗に言う知らない天井だ。
一体自分がどうしてここにいるのかが理解出来なかった。自分は昨日はエリオたちと別れ部屋に戻った後に
デ・トのデバイスを適当にいじくった後に寝たはずだ。何故こんな場所に? まさか拉致? と嵐が思考の中に入ろうとしたとき

「起きたんですか」

何故か裸のナズナがいた。思考は完全にフリーズした。

「え、えと何故ここに? それに何故裸?」

嵐はまさか超えてはいけない一線を越えてしまったのか? 超えたとしても覚えたないのが勿体無い! と考えた。
些かというよりかなり思考がずれているが、本人はいたって本気だった。

「覚えていないんですか?」

「え、ええと、イエス…」

ナズナの問いに答えることよりもナズナの体を見て鼻血を抑えることに集中している嵐は声が変に高くなっていた。
その答えを聞くとナズナは自分の体を下の部分からゆっくりと撫でていく。その姿は男が見れば必ず腰を引いてしまうだろう。

「あんなに激しかったのに…」

自分の体を撫でていた指を口に含み、ぴちゃぴちゃっといやらしい水音を立てた。

「くはっ!?」

そこが限界だった。





次の日、枕を真っ赤にしてしまい洗濯が大変になった嵐が確認された。





ナズナ


「すみませんティッシュ取ってください」

「ナズナ~女の子が鼻血ってどうかと思うよ~」

「すみません。夢の中くらい積極的に行動した結果が…」

「…どんな夢見たの?」

「は、激し…ノーコメントでお願いします」





アリシア


「ああ! 嵐が泉に!!」

どういう状況でそうなったのかは謎だがいきなり嵐が足を滑らせ泉に落ちてしまった。
アリシアは必死に手を伸ばしたがあと少し届かず嵐は深い泉に身を落としてしまい、浮んでくることはなかった。

「そ、そんな…嵐…らーーんーーーー!!!」

アリシアが涙を泉に一滴落とした瞬間、川が輝き出し一人の黒髪の女神が現れた。

「え、と何してるのナズナ」

「私はナズナではありません。泉の精霊です」

どこから見てもナズナなのだが、どうやら違うらしい。どう突っ込めばいいかアリシアが考えたとき
ナズナ…じゃなく、自称泉の精霊の手にいる人物が目には入った途端に大声をあげた。

「嵐ーーーー!!?? しかも二人いるーーーー!!!」

泉の精霊ナズナの手にいたのは嵐だった。その声に泉の精霊はニコリと笑い

「あなたが落としたのはこの勇気があって頭がよくて魔力値SSSで暗い過去を持っていてナデポ持ちで主人公補正のついたマス…嵐ですか?」

「俺は…世界を守りたい…」

究極完全体パーフェクト嵐のようだ。

「それともこっちのTSで何故か可愛くなっていて天然で女性の理想のスタイルでそれでいて強くてニコポ持ちでヒロイン補正のついた嵐ですか?」

「こ、ここってどこなのかな?」

T(とても)S(主人公とは思えない)嵐のようだ。

「二人とも違うよ!!」

明らかに別人の嵐を持って帰っても仕方がない。帰ったとしてもナズナに殺されるだろう。

「あなたは正直者ですね。褒美にこのパーフェクト嵐とTS嵐を差し上げましょう」

「どうやら神は戦いを止めるのを許してくれないらしい」

「あ、あの…よろしくおねがいします!!」

「それでは」

二人の嵐をアリシアに渡すと泉の精霊は用は済んだとばかりに泉の中に戻っていく。

「ちょっと待ったーーー!! 元の嵐を返してよ!!」

「このマス…嵐は私が責任持ってけっこ…世話を見ます」





「いいかげんにしろーーー!!! 私がナズナに殺されるーーー!!」





夜中に大声をあげたせいでプレシアが心配して見に来られたアリシアだった。





リインフォース


「こ、ここはどこですか…?」

リインフォースは混乱していた。主であるはやての傍で眠ったはずなのに目覚めてみたら自分は真っ暗な空間にいた。
そして真っ暗な空間だけでなく、ゆっくりと地面が動いている感覚まである。自分はいったいどうなったのか?
その疑問が晴れるのは暗い空間が一筋の明るい光によって全てが照らされたときだった。

「こ、ここは…」

「17番テーブルにどうぞ~」

「か、回転すし?」

回転すし屋だった。そして悟った。これは自分が見ている夢だと。何故なら自分は皿に乗って回っているから。

「ふわっ!?」

リインは何故自分がこんな夢を見ているのか考えているとリインの乗っている皿が誰かに取られたようだ。

「むっ? お前は」

「え? …えぇええぇえ!!!」

皿を取ったのはリインフォース・ツヴァイの姉妹機リインフォース・アインスだった。
さりげなく一人で10皿くらい平らげていた。大きさは通常状態から大人フォームに切り替えていた。

「え、えと!? あ、あなたは!?」

「…私はお前の…一応は同じ存在だが生まれた順で言うと姉に当たる存在だ」

皿の上であわあわしているリインとは逆に冷静に自分の紹介をするアインス。

「な、なんでここに!? えと、ゆ、夢ですか!?」

「おそらくお前の中にあるほんの僅かな私の欠片と共鳴して同じものを見ているんだろう」

「えと…」

「場所は…お前が望んだ場所なんじゃないか? (私が昨日見た美味しい回転すしのせいだな)」

「り、リインが望んだことですか!? そ、そういえば最近お寿司食べていなかったような…けど…」





リインが悩んでいるうちに時間切れなのか世界はまた真っ暗な空間に包まれてしまった
しかしその日からリインは夢の中でアインスによく遭遇するようになった。





カーミラ


カーミラの手から赤い光線のようなものが山に向かう。そして着弾すると同時に山は木っ端微塵に砕け散った。

「ハッハッハッハッハ!!! あたしの凄さがわかったか! カル! 嵐!」

そしてその山を破壊したカーミラの後ろにはカル・ラントシュタイナと鈴木嵐が膝をついていた。
どうやらカーミラは攻撃魔法の凄さを従者でもあり相棒でもある二人に見せつけていたようだった。

「はい! カーミラ様は素晴らしいです!」

「カーミラ様! 俺一生あんたについてくぜ!」

山から飛んでくる破片をカーミラの周りにルビーのように美しいシールドが展開され三人を守る。

「さすがカーミラ様だ! 俺たちのことをしっかり守ってくださる!」

「カーミラ様になら命でも捧げられるぜ!」

カーミラはゆっくりと二人が持っている神輿のような作りになっている椅子に腰掛け
立派な牙を見せるかのようにニヤリと笑う。その姿はいつもと違い吸血鬼そのものだった。

「ふふ。いいだろう! お前たちの心意気を認める! あたしが血を吸ってあたし専属の眷属にしてやる! ありがたく思え!」

「「はい!」」





「ふ、ふふふ…これでずっと一緒だ…」





起きたときに二人がいなくてわんわん泣いたのはアインスと二人だけの秘密。





シントラ


「ナズナママ! 嵐パパ!」

自分は何を言っているんだろう? シントラが一番初めに考えたことはそれだった。
シントラの目の前には今より少しだけ綺麗なナズナと今より少しだけカッコいい嵐だった。そしてその二人とシントラは手を繋いで歩いている。

「今日ね! テストで100点取ったんだ!」

「ほ~そりゃ凄いな」

「な、撫でられることじゃねえよ!」

「ふふシントラ…照れてますね」

「て、照れてなんかいないよ! ママは誤解してる!」

違和感なく嵐とナズナをパパとママと呼んでいる。何故? と考えるのは全て言い終わった後。
自分はナズナのことは姉御と呼んで嵐のことは呼び捨てにしていたはずだ。それに自分は二人の子供じゃない。

「…そっか」

「どうかしましたか?」

「ん? なんかあったのかシントラ?」

「何でもないよ」

シントラは自分が夢を見ていることに気づいた。自分が二人の子供になれるなんてありえないから。けれど夢なら…

「パパ! ママ! 一緒に遊ぼう!!」

ちょっとだけ素直になるのもいいかもしれない。





朝ごはんのときにナズナのことをママと呼んでしまうまで幸せな時を過ごしたシントラだった。





プレシア リニス スカリエッティ 犬


「寝る間を惜しんでまですることかしら?」

≪すまないね。今回は何だか胸騒ぎがするんだ≫

「全く…。犬! 次元航行艦の資料を持ってきて! …犬?」

「zzz…」

「…もういいわ。自分で持ってくるわ。 リニス、行くわよ」

「あ、はい」

「ぐふふ、アリシアちゃ~ん…」

「…アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ…」

「ぷ、プレシア!! 部屋を壊さないでってもう発動する!? 防御魔法を…」





強力な雷がサラーブを揺らした。









おまけ2


名前:ニャん・ザ・キッド
通称:キッド
年齢:5才
血液型:??
出身:ミッドチルダ
所属:フリーの傭兵(野良)
階級:魂の友
役職:嵐の癒し
魔法術式:なし
所持資格:なし

三毛猫で♂というレアキャラ










<あとがき>
遅くなってすみません。 なんとかペースを戻していきたいと思います。
では!次回!!



[6935] 第79話「初めても暗闇 再会も暗闇で」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2009/08/20 19:04
「どうして…」

『……』

「どうして…こんな…」

『フム…』

「あんまりだ…何故…俺が…俺が何をした…」

「ベルツリーさ~ん。飲んどるか~」

「こっちに来て一緒に飲みましょうよ~」

「……はーい…」



第79話「初めても暗闇 再会も暗闇で」



---あはっはっはっは!!



---飲め飲め~!



---誰かこれ追加してくれな~い!



「…俺は…夢を見ているんだろうか?」

≪残念だけど、現実だよ。だから頬を抓るのはやめなさい≫

本当だ。頬を抓ったら痛い。そして真に残念なことに間の前の景色はなくならない。
試しにもう一度抓ってみるけれどやっぱり目の前の景色はなくならない。…うん、現実逃避は止めよう。

「どうしたんですか? ベルツリーさん?」

「もしかして調子でも悪いんですか?」

「いえ、ちょっと眩暈がしただけですよ」

≪それは俗に調子が悪いと言うんだけどね≫

俺が目の前の景色を見て呆然としているのを調子が悪いように見えたのか
ナガシマ姉妹が話しかけてきてくれた。お気遣いはうれしいんだけど眩暈の原因はお前らにあるんだけどね。
朝にこんなことになると知っていたらこんなとこには絶対にこなかったのに…

「そうですか? もし調子が悪くなったら言ってください! シャマル先生呼んできます!」

「あ、どうも」

シャマル先生の転移魔法でいますぐ俺の家に戻してくれたらすぐによくなるんだけどな。

そんなナガシマ姉妹を眺めながら俺は朝の失態のことを思い出していた。










あれは朝にいつも通りに訓練していたときだ。
もうこの六課での生活に慣れてきたのか朝に誰の視線も気にすることなく朝練をするようになり
今日も今日とてドクターソードの新形態とか最近のお楽しみ、デ・トのデバイス弄りをどうするか考えているときに
いつも聞こえてくる賑やかな声と冷静な声ともう一つ別の声が聞こえてきた。

「ベルツリ~さ~ん!!」

この声はスバル。一緒に朝練をしていたときから俺のことを呼んでここに来るのが日課だった。
そして後ろからティアナが申し訳なさそうに歩いてくる。これが基本だった。だけどこの日は少しだけ例外が混ざっていたのだ。

「コラ! 駄目でしょスバル! こんな朝からそんなに大声出して」

「ええ!! だってベルツリーさんと会うときはいつもこんな感じで…」

「だからってもう少しボリューム抑えなさい」

「(…? スバルとティアナ以外に誰かいるのか?)」

正直このときはギンガのことなんて全く覚えてなかった。だってギンガってあんまり活躍しなかったし…
改めてギンガを見たときにこんなキャラが途中で六課に来てたなと思い出したくらいだ。

「ベルツリーさん! おはようございます!」

「ベルツリーさん おはようございます」

「ああ。…で、そちらの方は?」

このときにギンガの存在を思い出したが、ここで知っているのもおかしいと判断した俺は
見るからに初対面な反応をした。まあ実際に初対面だったからな。

「初めまして。私はスバルの姉のギンガ・ナガシマです。いつも妹がお世話になっています」

「い、いえいえ此方こそ、あ、俺はベルツリー・ストームと申します」

「ストームさんですか」

「あ、出来ればベルツリーと呼んでくれませんか」

ストームさんって…

「あ、はい。よろしくおねがいしますベルツリーさん!」

この後、ギンガたちは軽く流した後に早朝訓練があるみたいでそのまま訓練に向かってしまった。
そしてその訓練に向かう前にスバルが俺の前にやってきてこう言った。

「ベルツリーさんって仕事終わってから何か予定ありますか?」

「? 今日は特には…」

「本当ですか!? じゃあ今日ちょっと夜に食事会みたいなことをするんです! よかったら来てください」

「は、はあ。わかりました」

このときだ。このときに断っておけば俺はあの惨劇に巻き込まれなくて済んだ。今からすれば後悔先に立たずってやつか。










「はあ…こんなに盛り上がるなんて聞いてねえよ…」

結局あの後に俺は仕事を終わらせて暇だったのでスバルの言う食事かいとやらに足を運んだ。
料理が出るならもしかしたらはやての料理も出るかもしれないと思ったし、前々からはやての料理は食べてみたかったから。
そして足を運んだときはまだよかった。簡単な料理が並べられたテーブルに食事が並べられていて
その周りにはフォワードメンバーのキャロにエリオ。それと招待してくれたスバルにティアナ。最後にギンガが
囲んで食事をしていた。どうやたこの食事はギンガの歓迎会らしく、それを企画したときにギンガがスバルが話していた
俺に会ってみたいということになり、エリオとキャロがこの前のお世話になったお礼が言いたいと言い出し最終的にこの食事会にご招待しようということになった。

「そこまではいい…」

そう。別にそこまでは構わなかった。エリオとキャロのお礼も別に言われて嫌なわけじゃない。
この食事だって美味しいし言うことなしだ。隊長陣が来るまでは。
最初に来たのはなのはとフェイトだった。今日はデスクワークもさほど多くなかったらしく、一緒に飯を食いに来たときにバッタリだ。
そこで青い犬が

「なのはさんたちもご一緒しませんか!」

と言い出した。冗談じゃない断れと念じた俺の願いも空しく「じゃあご一緒しようかな」と参戦。おまけでフェイトも。
まあこれもギリギリ許せる。俺が我慢すれば言いだけの話しだ。ボロを出さないように気をつけて行動すればいい。問題は次だ。

「なんや賑やかやな~」

「本当です~」

「お前ら何してんだ?」

八神一家の登場だった。先ほどの展開でもうこの先の展開を読んだ俺は皿のエビフライをスバルの口に2・3個ほど突っ込み
余計なことを言わせないようにしたのだが、敵は青い犬だけじゃなかった。白い悪魔もいた。

「はやてちゃんも一緒にどうかな?」

「(ホワイトデビルッ!?)」

「今日は仕事もひと段落着いたし、参加させてもらおか~」

その後、シャリオやヴァイスにグリフィスとアシストのメンバーまで加わり大宴会となってしまった。





「全くよ…」

こんなに大きな宴会になるんだったら早めに帰ったらよかったな…というか帰ろうかな…
目の前で酒が入り盛り上がっている職員を冷めた目で見ながら麦茶を啜る。俺もちょっと酒を飲みたかったんだけど
前にナズナに自分がいるときだけしか酒は飲んでは駄目といわれ自重している。

「ベルツリーさん元気ありませんね」

「高町隊長…大丈夫ですよ」

ナガシマ姉妹に続いてお前までもか。けどなのははナズナに顔が似ているから近くにいるだけならまだ他の奴よりマシだ。

「……」

「どうかしましたか?」

俺の心配をしたかと思うと次は俺の胸元をジーっと見てきている。…まさか胸元に欲情しているのか?

「ベルツリーさん」

「あ、はい」

「その首飾りってどこで買ったんですか?」

どうやらなのはは俺の体に欲情していたわけではなく俺の身に着けている首飾りが気になっていたようだ。

「これですか? これは小さい頃に仲のよかった…友達と買ったんです」

ナズナに買ってあげたなんて言ったらヤバイな。
…あれ? これこのまま話し続けるとなんかヤバくない? 全部ゲロっちゃいそうじゃない?

「へえ。赤い十字架なんて珍しいですね。病院のマークなんですか?」

「なんとなくこのマークが好きなんですよ」

「最近こんな感じの首飾りを見たことがあって気になったんです」

「そうなんですか」

何かヤバさを感じてきた俺は少し風に当たってくると言って外に逃げた。





「ん?」

「あれ?」

外に逃げ込めたと思っていた俺を待っていたのは青い犬…スバルだった。
待っていたというよりはスバルもあの食事会の熱を冷ますため外に出ていたみたいだ。

「お前も外に出てたのか?」

「あ、え、はい」

スバルは俺の視線から逃れようと顔をわたわたしながら動かしている。
そのわたわた動かしている顔の目の部分から一筋のミズが流れ落ちるのを俺は見逃さなかった。

「…え~と…俺ってもしかして邪魔だったか?」

「い、いえ。あたしもそろそろ戻ろうかなって思ってたので全然!」

「……」

「……」

暗いウ夜の闇の中で月明かりだけが俺たちを照らしていた。気まずいことこの上ない。

「…あの」

「…はい?」

何とかこの空気を脱出しようと明るい話題を話そうと思った矢先に話しかかけてきたのは忠犬スバル。
もしかしてスバルがこの空気を打開する話題を思いついたんだろうか?

「ちょっと…聞いていいですか?」

「…え?」

「え、えと、ティアとエリオたちはベルツリーさんにアドバイスもらって凄いためになったって言っていたからあたしもちょっと質問したくて…」

スバルは指と指をもじもじさせながら俺に話しかける。その姿は捨てられた子犬みたいだ。垂れた耳と尻尾が見えそう。

「いいぞ。けどそんなしっかりとしたアドバイスなんてしたことないぞ。ティアナやエリオには切欠を与えただけだ」

「それでも構いません! お願いできませんか!」

「そうか。じゃあ話してみてくれ」

必死だな…

「えと、質問なんですけど…ベルツリーさんはもし、もしですよ? 家族が敵にいるかもしれないってなったらどうしますか?」

「家族が敵…か…」

俺で言うならナズナやプレシアさんとかか…
…スバルが悩んでいるのはあの人形野郎に従えているクイントみたいな戦いをする魔導師のことか。確かにあの動きはスバルたちによく似ているよな…

「そうだな。とりあえず悲しむ」

「…へ?」

ナズナが自らの意思で裏切りなんてした日には首でも吊りかねない。

「思いっきり悲しんで泣いたあとに理由を問いただす」

「……」

「自分に気に入らないことがあるのかもしれない。もしかしたら事情があるのかもしれない。それを問いただす」

恐らくあのクイントだと思われる魔導師は十中八九人形野郎が操っている。
あれがクイントだとしても何も自分の意思であの人形に従えているのはありえないだろう。

「家族だから家族の自分がけじめをつける」

「けじめ…」

「後は自分で考えてくれ」

俺はスバルに背を向け食事会の方に戻っていった。すると途中でギンガに出くわした。

「ありがとうございます」

「…何に?」

「私も家族…妹と話してきます」

ぺこりと俺に頭を下げたギンガはスバルの元に走って言った。










そろそろお開きの時間になってきたのかメンバーが後片付けを始めた。俺も見ているだけでは悪いので片付けに加わる。
食器を片付けて寝ている連中を起こしていく。その中でいくら起こしても起きない人物がいた。

「もっとしゃけ~」

「…誰だよこの人にお酒なんて飲ましたの…」

狸部隊長、八神はやて。幸せそうに涎を垂らしながら夢の中へINしているようだ。

「高町隊長! 部隊長はどうするんですか?」

「え? あ~…完璧にダウンしてるね…」

頬を真っ赤にして眠る姿はなかなか可愛いかもしれないが酒の臭いで可愛さダウンだ。

「他の人は?」

「それが…」



ヴィータ⇒食いすぎて眠たくなりスリープ

シグナム⇒寝てしまったヴィータを部屋に送るため離脱。

シャマル⇒飲みすぎてダウン

ザッフィー⇒シャマルを背負い部屋に帰宅

リインフォース⇒お子様には限界な時間でスリープ。寝言で「今度はカレー屋…」と呟く



「どうするんですか…」

「…そうだ! ベルツリーさん部屋まで送ってあげてくださいよ」

「っ!!?? 何言ってるんですか!? 俺一応男なんですけど!?」

いきなり何を言い出すんだこの白い悪魔は!? 言動まで悪魔化していってるのか!?

「私たちは片づけしていますからその間に…」

「いや、だから俺は男なんですよ!!」

「大丈夫ですよ。私はベルツリーさんを信じてますから! それに…」

「それに?」

「もし悪戯なんてしたらヴィータちゃんやシグナムさんにボロボロにされますよ?」

「…パパっと済まして俺も帰ります」

…いや、はやてに手なんか出したらサラーブにいる妖精に殺されるだろうけどね…

『(…その前にナズナに殺されると思うけどね)』





「え、とフェイトに教えたもらった情報によると部屋はこの先に…」

はやてを背中に背負いながらはやて一家の部屋を目指す。さっさと済まして俺も部屋に戻りたい。

「このまま真っ直ぐ…」

「リイン…フォース…」

背負っている背中に冷たい雫が落ちるのを感じた。

「なんで…なん、でや…」

その冷たさを無視してはやての部屋を目指し続ける。涙の原因はあのときの夢を思い出しているのか
それとも今の状況を嘆いているのかは俺にはわからなかった。

「うぅ…」

「……」

けれど今はやてが泣いているのは俺の家族であり仲間であるアインスが関わっているのは明確だった。





「すぅ……」

「よっと…」

とりあえず部屋に運んでベットに寝かす。服の着替えは明日自分で何とかしてもらおう。
朝に風呂に入ればいいし、制服の着替えも一着しかないなんてことはないだろう。…一着だけじゃないよな?

「う…ん…」

涙は止まっている。しかしないた後がほんのりと残っているのを見て、ちょっぴり見てはいけない場面を見てしまった気分だ。

「スカさん」

『お人好しだね』

「うるさい。…助けたとは言え、ある意味弱みに付け込んで家族と引き離したもんなのかな…」

アインスは本当にサラーブにいて楽しいだろうか? 本当は今すぐにでもはやての元に戻りたいんじゃ…
そう考えると少し憂鬱な気分になった。黒く光る指輪を見ながらぼんやりとそんなことを考えていた。










side八神はやて


「ん、…ここは…」

あたしが目を覚ましてみると周りのみんなは姿を消していた。いや、人だけじゃない風景すらも消えている。
真っ暗な闇の世界。昔どこかで見たことがある世界。これは確か…

「闇の書のときに…」

あのとき飲み込まれたときに見た何だか寂しくて悲しい世界。そこによく似ている。
けどあの世界とは明らかに違う。寂しい感じもしない。悲しい気配もない。ただの真っ暗な世界。

「え、雪?」

その真っ暗な世界にゆらゆらと下りてくる白い結晶。それはあたしの手のひらに落ちて儚く消えた。
その儚く消えた雪を見て昔のことを思い出してちょっと涙が流れそうになるのをグッと抑える。

「なんやろここ…それにみんなは…」

真っ暗な世界に降り注ぐ白い雪は黒の風景によく映えた。その雪を眺めながら自分の現状を把握する。
その時やった。懐かしい、本当に懐かしい声が聞こえてきたのは。

「あ、主…はやて…」

声のする方に振り向いて最初に見えたのは透き通るような銀。そしてルビーのような赤やった。

「り、リイン…フォース」

「な、何故…ここに?」

昔と違って動く足を動かしてあたしはリインフォースに抱きついた。

「リインフォース!! リインフォース!! 会いたかった!」

「ある、じ…」

リインフォースに抱きついたいるとしばらく放心していたリインフォースも
少し躊躇いながらもあたしの背中に手を回してくれた。それからしばらく抱きあっとって
けれどずっとこのままとってわけにもいかん。もう少しこのままでいたかったけれど。あたしはゆっくりとリインフォースから離れた。

「これは…きっと夢やな…」

いないはずのリインフォースが目の前にいるなんて神様は優しくて残酷な夢を見さしてくれるもんやな。
だってこの夢から目を覚ましたらきっとリインフォースはいないから。

「主はやて…そうですね。これは…きっと夢です」

そっからはいろいろ話した。最近のテレビの話。美味しかった飲食店の話。楽しかった出来事。
いっぱい、いっぱい、普通の友達みたいにいっぱい話した。リインフォースはその間は黙ってあたしの話を聞いてくれていた。
リインフォースは今はアインスと名乗っているらしくあたしもそう呼ばしてもらうことにした。

「なあアインス」

「はい」

「あたしな…ずっと聞きたいことがあってん」

「何ですか」

「アインスは…あたしのこと…嫌い…になった?」

雪の降るあの日。みんな残れたのに自分だけ消えることを選んだアインス。そして次に姿を現したときはあたしたちの敵になって現れた。
それを見て、もしかしたらアインスはあたしのことを恨んでる、嫌っているんじゃないかと考えた。

「主はやて。あなたのことを嫌いになるはずがありません」

「そやったら!!」

あたしの家にと言いかけた口をアインスは手で制した。

「すみません主はやて。あなたのことは今でも大好きです。だけど…」

アインスは言いづらそうにあたしの顔を見た。あたしは何だか全て悟ったような気がした。

「そっか。アインスにも大事な家族が出来てんね」

少し悲しかったけれど、アインスにも守りたいと思える存在が出来たんだ。それを今奪うのは筋違いだ。

「主はやて…」

あたしの体が光りだす。どうやら夢の終わりの時間のようだ。雪のように体が崩れていく。
あたしはそれが何だか悲しくてアインスに背中を向けた。

「…アインス」

「はい」

「今…楽しい?」

その質問にアインスは一瞬驚いた空気になったけれどすぐに返事をくれた。

「はい」

「そっか」

きっとアインスは笑っているだろう。あたしも笑っている。
あの時とは状況がまるで逆だ。雪が振る世界であたしが消えて、アインスが残る。けれどあの時と違うことが一つある。



「またな」



「はい。また…」



お互いが笑顔なこと。涙は…ない。




















おまけ


「今日の会議のテーマはデレについてです」

【デレ】と書かれた大きな紙を自分の前に掲げるナズナ。
その周りには何故か六課のメンバーの女性陣とサラーブの女性陣が椅子に座ってナズナを見ていた。
そしてその会議を見守るの客は全員ナズナだった。端に嵐やザフィーラ、ヴァイスにグリフィス、そしてエリオなど男性用の席も用意されている。

「マスターを落とすために必要なのはデレだと最近思ったんです」

「ナズナは普段からデレてるよ!」

「そうなの姉さん?」

「うん。けど見ていないところでデレるから駄目なんだよ」

「意気地がないのね。昔の私を思い出すわ」

「「母さんの昔…」」

「シャラップです。必要なのはこれです!」

【デレ】と書かれた紙が破かれると後ろから【ツンデレ】と書かれた紙が現れる。

「これこそマスターを落とす最高の神器! 最近の男性はこれが好きな方が多いと思いました」

「姉御ー! ツンデレって具体的には何なんだ?」

はい! と元気に手を掲げナズナに質問するシントラをヴィータは鼻で笑った。

「オメーそんなことも知らねえのか?」

「んだと!! オメーは知ってるのか!!」

「そ、そりゃ知ってるに決まってんだろ! ツンデレってのは…あれだ! えと…夏によく出る…」

「何だよ知らないじゃんか! あたしと一緒だな!」

「一緒にすんな!!」

座っている椅子を飛び出し掴み合いに発展するツンデレ二人。保護者の二人が止めに入る。

「ほらほらヴィータちゃん。あんまり怒らないの」

「だってシャマル! こいつが!!」

「シントラの方も落ち着け。この程度で冷静を失うなど騎士の名が泣くぞ」

「シグナム! けどこいつか!!」

「いいですか? つまりこの恥ずかしさによって強がってしまう「…もういいかな?」…何がですか」

熱演していたナズナは講義が途中で中断されて腹が立ったのか、中断させた相手なのはを睨んだ。
なのはとナズナが睨み合った途端に部屋の温度が3度くらい下がったのではないかと思わせるほどの空気になった。

「ようするにナズナちゃんに勇気がないだけでしょ?」

「言ってくれますね。マスターの心の要塞を破壊するのにどれだけ私が苦労しているか教えてあげたいですね」

「そこまで策を練って行かなきゃ崩せないなんてよっぽど堅固なんだね。その要塞は」

パチパチと二人の間で見えない火花が散る。気温は下がっていく一方だ。

「ふう。どうやらあなたには頭だけでなく体にも教えてあげなくてはいけないみたいですね」

「いいよ。出来るならね」

会場が爆発したのはその2秒後だった。
爆発に巻き込まれてビリビリに破かれた紙の最後の項目に書いてある言葉が地面に悲しく佇んでいた。





【ヤンデレ】










「…違うでしょ…何故そこに敵が…それに嵐…お茶を飲んでいるだけじゃなくて助けてください…アリシア…フェイト…ボーっとしていると…危ないです…」



とある部屋の猫耳が生えた使い魔の悪夢。










<あとがき>
さて、そろそろ襲撃編か…



[6935] 第80話「甘い蜜と欲望の蜜」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:16592b49
Date: 2010/08/19 13:24
「じゃあ行ってくるよ」

「本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。この人形の性能は君が一番よく知っているだろう?」

「…そうだな。じゃあ気をつけて」

「ああ」



第80話「甘い蜜と欲望の蜜」



---サラーブ



「……」

「シントラ~。どうしたのそんなに真剣そうに」

サラーブのリビングにあたる部屋にシントラは一人でこの間の戦闘データの映像を見つめていた。
朝食を食い終わってからもそのデータを見続けるシントラが心配になったアリシアがシントラに声をかける。

「またそのデータ見てるの? シントラって誰とも戦闘しなかったよね?」

前回の戦い、ヴィヴィオとレリックが関わった事件ではシントラは嵐を迎えに行ったくらいの働きしかしていない。
そのシントラが何故この戦いのデータを真剣に探るのかはアリシアには全く理解できなかった。

「こいつ…」

シントラはアリシアの問いに答えはせず、映像に映っている一人の少女を指した。

「…? 誰?」

「コーデリアだな」

「アインス」

緑の髪を持った女性にアリシアは見覚えがなく首を傾げたが、その頭にふわりと呆れたようにアインスが降り立つ。

「嵐の話しで出てきた魔導師だ。嵐の目的を達成するための一番重要な鍵」

「あ、あははー。…忘れてた」

誤魔化すかのように頭をかくアリシア。そんなアリシアにアインスは小さく溜息を漏らす。
そんな二人のやり取りを黙って眺めていたシントラは視線を再び二人のやり取りからコーデリアに戻してしまった。

「…本当にどうしたんだ?」

「…こいつが…鍵…か」





シントラはこの日の夜、サラーブから一時姿を消した。










---機動六課



「はい。模擬戦終了。どうだったティアナ?」

「コ、コーデリアさんの戦い方はもの凄く参考になりました」

一方機動六課ではコーデリアとスバル・ティアナの模擬戦が行われていた。

「そうだね。コーデリアさんとティアナのスタイルはよく似ているから。スバルはどうかな?」

「コーデリアさんも凄かったけど、ポアロも…」

「わん!!」

自分の名前が呼ばれたからなのかポアロは元気よく吠える。

「あんまり複数戦はやらないんだけど二人くらいの人数ならポアロと二人で抑えられるからね」

ポアロの頭を撫でながらニコニコと笑いながらコーデリアはなのはと話している。

「じゃあ朝の訓練は終わり! みんな体をよくほぐしてから戻るんだよ」

朝の戦闘のデータをまとめるためになのははいち早く戻っていった。そのなのはを見届けた後にティアナがコーデリアに話しかけた。

「あ、あの、宜しければお昼ご一緒に…」

「うん。別に構わないですよ」

笑顔で答えるコーデリアにうれしそうな表情をするティアナ。そんな二人を眺めながらエリオはふと呟いた。

「なんだかなのはさんに話しかけるスバルさんみたいですね」

そう呟いたエリオだったが呟いた後に自分の失態に気づき口を塞ぐ。

「え? なんか言ったエリオ?」

「い、いえ…何でも」

誰の耳にも入っていないことに安堵の息を吐く。
もしもティアナの耳に入っていたら烈火のごとく怒り狂うだろう。主に恥ずかしさが理由で。

「それじゃあお昼に」

「はい!」





---食堂



「へえ~、そんな事件があったんですね」

「今でもその姉妹とは連絡とかとってるんだ」

約束どおり食堂で食事をしている六課のフォワードメンバーとコーデリア。食事をしながらコーデリアの関わった事件の話を聞いていた。

「コーデリアさんはどうして魔導師探偵になったんですか?」

「…いろいろ理由もあるけど、初めは祖父に憧れたからかな」

懐かしむように話すコーデリア。そんなコーデリアにスバルはさらに質問をする。

「最初?」

「うん。最初。私って魔力量はそんなに多くないでしょ」

「え、ええと…」

はいと言うのが失礼な気がして口ごもるスバル。そんなスバルを見てコーデリアはニコリと笑う。

「いいの。気にしないで。本当のことですから」

「すみません…」

「だから周りからは祖父と同じ道を歩むのは無理だって言われ続けていた。私もそうかもって諦めかけていたときにその人はいきなり現れたんです」

思い出すように目を瞑るコーデリアの太陽の髪留めが光に反射して光る。

「その人は強かった。見ず知らずの私に協力してくれて、諦めかけていた私の道を月のような優しい光で明るく照らしてくれた。」

コーデリアの強い言葉にティアナは神々しいものを見るように見つめる。
スバルたちもそこまでではないが強い視線を向けている。

「そこからかな。真剣に取り組んで魔導師探偵になろうって思ったのは。もしあの時あの人に会っていなかったら多分この仕事はしていなかったと思う」

「…凄い人がいたんですね」

話を聞き終えたスバルたちは呆気に取られた表情でそう呟くしか出来なかった。

「ねえティア」

ふと思い出したかのようにスバルはティアナに話しかけた。

「何よ」

「今日ってベルツリーさんは誘わなかったの?」

「残念だけど今日は朝から休みを取ってどこかに出かけたらしいわ」

「そっか~。残念」

「ベルツリーさん?」

聞いたことのない名前にコーデリアは疑問の声をあげる。

「あれ? コーデリアさん、この前一緒に食事しましたよね」

「…あ、そう言えば、最初に会ったときから名前聞いてなかったです…」

実はコーデリアは、嵐の名前を一度も訪ねたことがなかった。そのため名前を聞いてもピンとこなかったのだ。
嵐も嵐でコーデリアとは積極的に話をしようとは考えておらず、適当に会話する程度にしていた。
コーデリアが知らないだけで、後ろをこっそりと尾行されていたりもする。犬のポアロも気づいていなかったが。

「ベルツリーさんって優しいから凄い話しやすいんですよ」

「はい。私もお世話になりました」

「キュクル~」

ちびっ子コンビに説明を聞いたコーデリアはそんな人だったのかと小さく声に出した。

「それじゃあ今度話してみようかな」

「それがいいですよ」

「あれ? 今日は、お休みできてないんですよね?」

「はい、そうですけど」

「ふふ、コーデリア探偵の推理ではその人は今日、デートと見たです」

「「「「……」」」」

ビシッと指を立てたコーデリアの言葉に固まるフォワードメンバー。コーデリアが飲み物を注ぎ足したとき再起動した。

「で、デートですか!?」

「な、なんか想像できない」

「大人です…」

「で、デートか…」

上からスバル・ティアナ・キャロ・エリオの順番で驚く。
スバルは純粋に驚き、エリオとキャロは大人な話に少し顔を赤くしている。ティアナは微妙に悩んだ表情だ。

「想像できないって…そういう人なの?」

「え? い、いや、なんというか…」

コーデリアの言葉に困った顔をしながらコーデリアの視線から目を逸らす。

「なんというか?」

「…女性に積極的に行動する人に見えなくて」

「「「あ~~」」」

よく理解しているのかもしれない。





「あ! ヴィータ“さん”! 一緒にデザート食べましょうです!」

「またお前かよ!? ていうか、なんであたしだけさん付けなんだよ!?」










sideout


「っっふえっくしょん!!!!」

うう、なんか一瞬すごい寒気が…風邪か?

「マスター。風邪ですか?」

「ん? あ、いや大丈夫」

一緒にご飯を食べているナズナに心配されてしまった。今度から気をつけねば。

「それにしてもナズナと直接会うのは久しぶりだな」

「はい」

嬉しそうに微笑むナズナに心が癒される。六課に潜入してからなにかと苦労が耐えなかったからな。
目の前のナズナはいつものポニーテイルではなく、髪を下ろしている。おまけに目にはサングラス。
これだったらよく見なければなのはに似ているなんてわからないだろう。



「今日は暇だったのですか?」

「うん。スカさんがスカリエッティと交渉に一人で行くって言ったからね」

手に入れたレリックを持ってスカリエッティと交渉しに行くと聞いたときは俺も行くと言ったんだけど
スカさんは一人で行きたいと言い出し、それでもついて行きたいと言ったけど結局スカさんに諭されて一人で行かしてしまった。
そうなるとスカさんがいないで行動するのも怖いので必然的に仕事は休むことになった。
暇つぶしといってもデバイス弄りは飽きたし、この間買ったクロスワードパズルは夜中にスカさんに全部やられたからもうやりたくない。
誰かからお誘いの電話でも来ないかなと思ったけど、サラーブからはこっちに通信できないようにしてある。
だからこっちからサラーブ連絡してナズナがちょうど暇だと言ってくれたのでお出かけに誘った。
連絡をし終わってから、これってデートじゃね? と考えて焦ったのは後の祭りだ。

「美味しいですね」

「あ、ああ」

一人で焦って部屋の中を走り回ったのはいいが実際に会ってみると普通に接してくるナズナに
自分一人だけ焦っていたという事実にナズナの大人さを俺の子供っぽさを思い知らされて軽いショックを受けた。

「確かに美味い(緊張で味わからん…)」

真っ赤なトマトを口に入れても全く味がわからない。普通に接してくれるナズナを見て安心したのも束の間。
今度はナズナの淫夢を思い出してしまい、トマトよりも真っ赤な血を噴出しそうになってしまった。

「この後はどうします?」

「ん、えと、映画でも見るか…」

「はい」

結局最後まで味はわからなかったが腹は膨れた。お会計を済まして目的の映画館を目指した。
そこでふと思い出したが、ナズナってトマトはあんまり好きじゃなかったはず。
知らない間に好きになったのか? そうじゃないとしたら何で美味しいなんて言ってきたのだろう。





『駄目だ! これ以上近づくな!』


映画についてもやっぱりあの淫夢は俺の脳に焼きついたまま剥がれない。
ヤバイ。やば過ぎる。映画の内容が全く頭に入ってこない。むしろこの暗闇の中でのシチュエーションが頭に…ヤバイ。


『どうして? 私たち10年以上も一緒に暮らしてきたでしょ?』


ナズナはどうなんだろう? 横目で見る限りは映画に集中しているように見えるのだけどな。
だけど映画館って暗いから相手の表情が読み取りににくい。


『だ、駄目だ! 確かにお前は忠実な眷属だった。けど今のお前はなんだ!』


どさくさに紛れて手とか握るアクシデントは起こらないだろうか? そういえば今見ている映画のジャンルはホラーなのか?


『変なこといいますね…あなたが私をこうしたのですよ』


…この場面だけではホラーかどうかわかりにくいな。というか途中から見る映画ほどつまらないものはない。


『そ、そんな力を与えた覚えはない! 俺に近づくな! 離れてくれ!』


映画が終わったらどこに行こうか…。久々にゲームセンターでもいいな。
スバルとティアナがアニメで言っていたアイスクリーム屋にも行ってみたい。


『クス…愛に不可能はないのです。大好きな人のためなら何だって出来ます。だからこれからは私があなたを…守りマスヨ♪』


よし。この映画を見終わったらデザートでも食いに行こうって誘ってみよう。


『や、止めろ! 俺は死ねないんだぞ! 死ねないだけで痛いのは痛いのだ! なのにそれを食らったら…食らったら…』


あ、手握れた。


『ギャアァアアアアァアアアァアア!!!!!!』


にぎにぎ





「バニラとチョコはやっぱり美味だな」

「美味しいです」

映画を見終わった後にスバルたちの行っていたアイス屋で一息つく。
ベンチに座りながら待ちゆく人々を見ながらアイスを食べる。ただそれだけだがやっぱりナズナといると落ち着く。

「マスター」

「ん?」

アイスを食べていて体がちょっと冷えたなと感じたとき、ナズナから声をかけてきた。

「どした?」

「少し質問が…」

「なんだ? 言ってみてくれ」

アイスを食べてご機嫌な俺はナズナの音質がいつもより低いことに気づかなかった。

「高町なのはとは何もありませんね?」

アイスを食べていた体の温度がさらに下がった気がした。










side--


---スカリエッティの隠れ家


「それでこのレリックが交渉の条件と」

『それに私たちの場所には聖王がいることも忘れてもらっては困る』

人間のスカリエッティとスカリエッティによく似た顔のつくりの人形が互いに睨みながら話をしていた。
しかし、突然スカリエッティが席を立ち上がりゆっくりと歩き始めた。

「難しい話はあとにしよう。今日君を呼んだのは用事があったのだよ」

ゆっくりと人形のD‐スカリエッティが座っている席の回りをぐるぐると回り始める。

『……』

「しかしやはり可笑しな感覚なものだね。自分と会話をするというのは」

スカリエッティが次に何を話すかがわかっているのか、それとも無視しているだけなのか
D‐スカリエッティは黙ったまま席に座り続けている。

「普通じゃ絶対に起こりえない。そう考えると私は幸運だ」

「同じ能力を持つ二人の天才が同じ世界に現れる確立なんて、天文学的な数字だよ」

「もしかしたら神の思し召しとさえ考えるよ」

『…用件を言ったらどうだい?』

D‐スカリエッティの言葉を待っていたかのようにスカリエッティは振り返り。

「君も私と同じ無限の欲望だ。家族などという弱い鎖に縛れるようなものじゃない。内に宿る欲望が疼くだろう?」

『……』










「我々に協力してくれないか? ドクタースカリエッティ、いや兄弟」










sideout


アイスクリーム屋でかなり問い詰められたが何とかなんともないことをわかってくれて
落ち着けた。休憩していたはずなのに疲れが増した気がする。アイスは溶けちゃったし。
あの後は適当にアクセサリーショップに行ったりゲームセンターで対戦したりと暇がない一日になった。

「それじゃあ俺は帰るから」

「はい。今日は楽しかったです」

ここで別れて帰ろうかと思ったとき何かに引かれる感覚があり前に進めない。

「あ…」

惹かれる感覚はナズナの手だった。…気づかないうちに自然に握っていたみたいだな。気づかなかった。
このまま握っていたら別れられないと思い離そうとしたのだが…

「……」

「……」

離れません。

「…えと…ナズナ?」

「…しだけ…」

「え?」

「もう少しだけ…このままで…」

ぎゅっと弱弱しい力で俺の手を握るナズナに嫌なんて言えるはずはない。
俺とナズナは近くのベンチに腰を下ろし夕日が沈むまでそのまま手を繋いだままでいた。










side--


---機動六課 ~夜~



「月がきれいだね、ポアロ」

「わん!」

海の煮える場所、なのはとティアナがお互いの意見を交わした場所にコーデリアとポアロはいた。

「けど、どうしたのポアロ? いきなり私を呼ぶなんて」

「あたしが頼んだんだ」

「っ!?」

月の照らす中、自分とポアロしかいないと思っていたコーデリアは突如聞こえた声にデバイスを構え備える。
聞こえた声の人物は影に重なっているせいで姿は見えない。

「警戒すんな…って言っても無理な話か」

影から出て月明かりに照らされた姿を見てコーデリアの警戒の表情が驚きの表情に変わった。

「し、しし、シントラさん!!??」

「ば、馬鹿!! でけぇ声出すな!」

驚きのあまり大声をあげてしまったコーデリアをシントラが抑える。

「お、お久しぶりです! どうしてここに!? ポアロで呼んだって…私に用事ですか!? 魔力反応がないのは何故!? ヴィータさんと似ていますね! 昔と変わらないのはどうして!?」

「あ~…もう…」

月と太陽の夜は長くなりそうだった。





「そ、そうだったんですか…」

「あたしの正体なんてどうでもいいんだ。それよりコーデリア、お前…じいさんの…持ってるだろ」

あの後シントラは包み隠さず全て話した。家族のことや回帰組のことは話してはいないが。
自分のこと、何故ここに自分が来たか、魔力反応が何故しないのかは話した。

「…はい」

「……渡してもらえないか」

「いいですよ」

「そっか…力尽くは嫌だったけど…えっ?」

デバイスを握り締めたシントラはコーデリアの言葉に思わずデバイスを落としそうになった。

「い、いいのか!?」

「はい。だってシントラさん、悪いことには使わないんですよね?」

「そ、それはそうだけど」

「それにシントラさんの目、シントラさんと初めて会ったときの私を見ているみたいです」

初めて会ったときと言うとコーデリアが父のために薬草を取ろうと躍起になっていた頃だ。
確かに今のシントラとは状況が違うがお互い家族のために躍起になって行動している。そしてまさかここまで簡単にいくとは思っていなかったシントラは少し反応が鈍かった。

「じゃあ」

「けど!」

「くれ」と続けようとしたシントラの言葉はコーデリアに遮られた。

「私に勝ったらです」

「…は?」

挑戦的な目つきでシントラを睨むコーデリアの目は嘘をついている目ではないことをシントラは見抜いた。
その目を見て自分たちが最後に別れたときの瞬間を思い出していた。



---いつか…またいつか会ったときは、あたしと勝負しようぜ!



---しょ、勝負ですか!? が、頑張ります!



---それまでしっかり鍛えとけよ! あたしも4倍強くなってるかも知れねえからな!



---はい!



「…っく! いいな、コーデリア! お前いいよ!」

コーデリアの挑戦的な顔とは違いシントラはサラーブでも見せないような笑みを浮かべる。
その場にアリシアが入ればシントラを見てこう言うだろう。“何だか悪そうな笑顔”と。

「わかった。だったらその鍵はあたしが勝ってもらいうける」

「簡単にいくとは思わないでください。こっちにはポアロもいるんですからね」

「わん!」

かかって来いとでも言っているのかポアロはシントラに向かって強く吠える。

「今日はもう遅い。都合がついたらあたしに連絡してくれ」

そう言うとシントラはエッケザックスのプライベート通信のナンバーが書かれた紙を渡した。

「一応犯罪者だからな。内緒にしてくれよ」

「大丈夫です。私が受けた依頼はスカリエッティの逮捕協力ですから」

「そりゃ安心だな」

実は自分たちの陣営にもスカリエッティはいることに気づいたらどうなってしまうのだろうとシントラは頭の隅で考えた。

「じゃあな」

「はい。また」





「いてっ!?」

コーデリアと別れたシントラはサラーブに直通しているマーキングポイントに向かっている途中
曲がり角からいきなり現れた人物とぶつかってしまった。

「いてて。ごめ…ってスカ山かよ」

知らない人にぶつかってしまったと思ったシントラはすぐに謝ろうとするが目の前にいるのは
見たことのある人間、というより人形だったのですぐに態度を改めた。

『…そういう君はどうかしたのかい。こんな時間に』

「あっ! それがよ--」

シントラは何とかコーデリアとの交渉がうまくいって最後の鍵、コメテスアメテュスが手に入ることを伝えた。

『…そうか。だったらもうこの六課にいる意味はないね』

「そうだろ? だから嵐にも伝えといてくれよ」

姉御の機嫌もよくなるからな、と話し終えたシントラはマーキングポイントの場所に帰ってしまった。










『フフ…すまないね…』










おまけ


嵐とナズナが見ていた映画


『Vampire and attendant's love?』


内容
少し頭のゆるい吸血鬼と忠誠心とか抜きにしてご主人ラブな眷属の恋愛話。
ヤンデレな眷属の過激な愛にヤンデレエンドの主人公の死が出来ない哀れな吸血鬼の恋物語?










<あとがき>
これで最後の平穏。次回から襲撃・聖王の器編ですね。
とりあえずスカさあぁああぁあん!!! と叫びたくなる内容ですがスカさんは一体!?
では!また次回!!



[6935] 第81話「綻び」
Name: 黒胃◆4c5519d8 ID:de9169ef
Date: 2010/08/19 13:15
「ナズナ~、スカリーから連絡が来てたよ~」

「ドクターから?」

「うん。母さんは大分前から自分の部屋に籠もりっきりで出てこないから私が連絡受けといたの」

「ドクターから連絡…作戦の変更でしょうか…」



第81話「綻び」



side--


「ん~…今日も疲れた~」

体を伸ばしながら、よたよたと歩くのは、ボサボサの髪を帽子で押さえつけ、眼鏡をつけている変装嵐であった。
既に素の姿は六課勢には見られているが、仕事中は未だにこの変装は崩していない。まだスパイ気取りのようだった。
だが、コーデリアの調査もスカリエッティからもうしなくていいとの話を聴き、早々にサラーブに帰ろうとも考えていた。

「なんか今日は騒がしかったな…明日なんかあんのか?」

しかし予定があるのか、スカリエッティはまだ待って欲しいと嵐に話し、嵐は一応六課に残ることにしたのだ。
そしていつも通りに掃除していた彼は、今日の六課がいつもよりも慌しい空気だったような気がしていた。

『明日か…そうだね。明日の朝、大事な話がある。君も早く寝なさい』

「うい」

そうと決まれば、うだうだ帰っていないでさっさと帰って寝るかと嵐は暗い夜道を走る。しかし走っている最中に何かを思い出したのか急激に止まった。

「…あれ? いつもなら、ここらでキッドが出てくるはずなのに…」

嵐の帰りを待ち構えているかのようにキッドは嵐の仕事帰りに飛びついていた。
それに慣れた嵐は飛びついてきたところを受け止めて、そのまま一緒に帰るのを繰り返していたのだが、今日に限ってそれがない

「…飯でも食ってるのか?」

仕方なく、彼はまた夜道を走り出した。


--


なのはたちが先に現場の警備に向かった後、フェイトとヴィヴィオは同じ部屋で仮眠をとっていた。
ベッドに寝転がったり、急がしそうに走り回ったかと思うと、ベッドの下に頭を入れていたりとヴィヴィオは楽しそうに駆け回っている。

「…ねえフェイトママ」

「ん? どうかしたの」

軽く明日に向けての準備をしているとヴィヴィオがフェイトの飾っている写真の一枚を手に取りキラキラと目を向けていた。
どうやら何かしていた作業を終えて、暇にしているところで見つけたようだ。写真に写っているのは幼い姿ではあるが、姉のアリシアであった。

「…マジニャン?」

「ん…そうだよ」

「わぁーーー!!!」

フェイトの肯定に更に目を輝かせてヴィヴィオは写真を見つめる。
どうやらヴィヴィオの中ではマジニャン…アリシアは少年で言う正義のヒーロー的なポジションなのだろう。
女の子がそれもどうかと思うが確かにアリシアの戦い方は魔法少女っぽくない。

「フェイトママはマジニャンと仲がいいの!?」

ヴィヴィオの頭の中では同じ格好の二人が大きな悪と戦い勝利している姿が見えた。

「そうだね。姉さんはいつも私のことを見てくれているんだよ」

「すごーい!!!」

「それに姉さんは私の何倍も強いよ。魔法だけじゃない。心も体も…」

「ふわぁぁ」

尊敬しているフェイトの倍強いと聞いたヴィヴィオは驚いて言葉に出来ないようだ。そんなヴィヴィオの頭をフェイトは優しく撫でる。

「姉さんは姉さんの形がある。けど私も私の形があるんだ。それはプレシア母さんにもある。リンディ母さんにだって。それにもちろんヴィヴィオにだってあるんだよ」

「むう…」

「ふふ、ごめんね。また難しいお話しちゃったね」



---にゃおん!



話を終わらせヴィヴィオに抱きついたフェイトの足元から飛び出てきたのは一匹の三毛猫だった。

「うわ!?」

「ああ! ダメだよ、隠れてなきゃ」

体をブルブルと振るわせる猫の体をヴィヴィオが抱き上げる。少々ヴィヴィオには重そうだ。

「ヴィ…ヴィヴィオ…その子は?」

「前にニャンにいと遊んでたらニャンにいの背中にいたの!」

正確に言うと、ヴィヴィオが遊んでいたらではなく、遊びに行った時である。
仕事の休憩時間に睡眠不足だったのか寝てしまった嵐の背中をベッドにしてキッドも寝ていたのだ。それをヴィヴィオが連れてきて、
今の今まで六課で一緒に遊んでいたようだ。そのせいかキッドは、若干疲れているように見えた。

「…ベルツリーさんが?」

「べる…つり? …ああ! ヴィヴィオのうささんとっちゃダメ~~!!」

ヴィヴィオが持っているウサギの人形が気になったのかキッドは耳の部分を噛んでヴィヴィオから奪い取る。
それに気づいたヴィヴィオがキッドを追う。部屋の中を一匹の猫と一人の少女が駆けまわった。賑やかな部屋にフェイトは真面目な表情崩し、笑顔になった。

それぞれの夜がゆっくりと過ぎていく。



―――破滅に向かって



sideout


「つまり今日ナズナが迎えに来てくれるわけか?」

俺は部屋を勝手に模様替えしてしまって、汚してしまった部屋を片付けながらスカさんと会話をしている。
この部屋に来て、しばらく。俺は大分自分好みに改造した部屋でくつろいでいると、スカさんからナズナたちから連絡があったとの知らせを聞いたのだ。

『ああ』

昨日の夜から六課の面々が騒がしいかと思っていたらどうやら公開意見陳述会の日だったらしい。
だったらそろそろ脱出せねば危ないと考えて朝にスカさんに相談してみようと思ったら、ナズナからの連絡の話し。どうやらもう策は練っているらしい。頼もしいね、本当。
それにしても…もうそんな時期になっているんだなぁ…この展開で六課って結構大打撃受けるから大変そうだったよなぁ。
まあ死者は出ていないはずだし、原作キャラが何とか頑張るだろう。頑張れよ、ヴァイス君! ルールーに負けるけど挫けるな。
それでナズナが迎えに来てくれるまで時間は余っているし、何して過ごすべきかと考えて。

「脱出するときまでに荷物でもまとめておくか」

『そうだね』

ということになったのだ。ここに来てそんなに重要なものを部屋に置いてあるわけじゃないけど一応確認しておくかな。
要らないものは捨てて、要るものはちゃんとまとめておこう。立つ鳥跡を濁さずってな。





「…うわ、懐かしい! たまごっちだ」

『……』

「おほー! デジモンまで!? カブテリモンで止まってやがる!? …バグか?」

『…………』





side--


公開意見陳述会の会場になった建物の外。ヴィータと他フォワードメンバーは襲撃に備えて警備しているところだった。
六課の面々の他にも、局員達が緊迫した空気で警備に当たっている。
そんな中ヴィータはフォワードメンバーに警戒を緩めないように注意を促しながら、なのはと念話を行っていた。
今回の襲撃の目的が読めない、謎の部分が多いとなのはと話している。
スカリエッティ一味だと推察して兵器の威力証明? しかし態々ここを狙うなどリスクが高すぎる、ここ以外の場所を狙えばいい話だ。
やはり明確な答えは出ず、どの答えも正しい答えには辿り着かなかった。

≪あんまり考えてもしょうがないよ、ヴィータちゃん≫

≪あのよ、なのは≫

≪ん?≫

このまま考えていても時間の無駄だと判断したなのははこの話を打ち切る。するとヴィータはオズオズとした態度で話しかけてきた。
何かいいにくいことでもあったのだろうか?

≪発想を変えてよ、これってあのスズキナズナって奴らの組織ってことも考えられねぇか?≫

≪――それは≫

スズキナズナ。ヴィータの前でそう名乗った彼女は昔から謎が多い、いや謎が多いと言うと語弊があるかもしれない。
謎しかない少女だった。幼い頃から事件の場に颯爽と現れて自分達の目的が済むと風のように去ってしまう。
昔から、そして今もクロノの頭を悩ませ続けている存在だった。さすがに提督の地位を貰ってからは個人的に調査することも少なくなったようだが。

≪ナズナちゃん…か≫

≪違うか?≫

なのはは、考える。
確かに彼女、ナズナが何か目的があったこの局員達が固める陳述会を襲わなくてはならないのであっては、迷いなく襲うだろう。
しかし、なのはは、騎士カリムの出した予言を聞いている。彼女たちが襲撃を仕掛けてくるのならば、もっと単純に言い方は失礼だが馬鹿っぽく出る気がした。
あんな複雑に予言に出ることは考えられない。もっと単純に、一言だけとか――

≪…一言?≫

≪なのは?≫

何かの欠片と欠片が一つになる感覚。なのはは、騎士カリムの予言に時折浮かんだ、謎の単語を思い出した。

――――“人形”

人形と騎士カリムは言った。しかしこんな事例はいままで見たこともなく。ただの魔法のミスかもしれないとの話もあった。
その時は対して気にしていなかったなのはだったが、今思うとあの言葉はナズナのことを示していたのでは?
いや、それはないとなのはは、考えを打ち切る。確かにナズナは自分のことを人形と言ったことがあるとフェイトから聞いたことがあったが、
今、この陳述会に介入してくる意図が読めない。ナズナたちの行動は謎が多く、未だに理解していない部分の方が多いが、
なのはは、この事件にナズナの組織が敵として関わってくる可能性は低いと見ていた。
しかし一度浮かんだ不安は拭えない。ナズナが何かしら関わってくるのでは―――との考えがなのはの頭をグルグル回る。その思考を打ち切ったのはヴィータの念話であった。

≪なのは?≫

≪…ごめん、何でもないよ。ナズナちゃんが襲撃してくる可能性は低いと思う≫

≪そっか≫

なのはは頭に浮かんだ考えを打ち消し、ヴィータに応答する。

≪やっぱり考えていても仕方ないよ、信頼できる上司が命令をくれる。私たちはその通りに動こう≫

≪そうだな≫

話を打ち切ったなのはであったが、胸に疼く嫌な予感は打ち切れなかった。





sideコーデリア


私が契約しているのはフェイトだけど機動六課に協力していないわけじゃない。
ティアナとの訓練は自分の腕の向上にも繋がり欠かせない。スバルたちも嫌いなわけじゃない。
けれど…何というか…

「こういう空気は苦手なのに…」

「わん…」

周りにいる人みんながピリピリしているみたいで何だか落ち着かないよ…
管理局員ってみんなこうなのかな…。私も管理局に入っていたらこんな感じになってしまうのかな?
フェイトに頼まれて警備に協力することになったのは別に構わない。この警備は何だかきな臭いし。
八神部隊長の話では、騎士カリムという人物のレアスキルの占い的な能力では、この陳述会が戦いの舞台になるとの意見が高いらしい。
だからこそこれほどの量の魔導師が集まっているのだろう。だけど、これほどの量の警備を抜けて、戦うなんてどれほどの戦力を保持しているのか…
ただの間抜けという線もないわけではない。

「わん」

「ポアロ? 気にしないで」

なのはさんたちは犯人の候補では私とフェイトが追っているスカリエッティの一味と、高町なのはのクローンを裏で操っているという謎の人物。
まあ、これは薄い。というかないです。だってあの組織にはシントラさんが組み込まれている。その組織がわざわざ本当に悪の組織みたいなことをするとは思えない。

「いやな予感…ですか」

「どうかしましたかコーデリアさん?」

「あ、ギンガ」

頭をうならせていると青い髪をしたスバル家の姉の方、ギンガが話しかけてきた。ギンガに久しぶりに会ったときは驚いた。昔助けた子がまさか局員になっているなんて。世界は狭いな。
フェイトたちは中の警備に行っている。本当は全員中の警備になるのかと思っていたけど、どうやら中に入っていいのは隊長格の三人だけのようだ。
だから私はフォワードメンバーと警備していた。そして開始から4時間くらい経過し、陳述会もそろそろ終わりだ。
私とギンガはティアナたちと別れて北エントランスに経過報告をしに行っていた。

「うん…なんだか鼻辺りがヒリヒリするんだ。きっと今日は何か起こる。まだ警戒しといたほうがいいよ」

「わう! わんわん」

「はい。わかっています」

私の勘が当たらなければいいんだけど…



そんな甘い考えは直後に響いた爆音に打ち消された。






sideナズナ


「それでは行ってきます」

「は~い。母さんには私から伝えておくから早めに帰ってきてね~」

「姉御! 気をつけてな!」

ドクターからの連絡の内容は単純だった。ただ迎えに来て欲しいという簡単な内容。
どうやら今日機動六課で戦闘が起こるので待機している場所まで私が迎えに行けばいい。それでマスターの任務は終わりだ。

「マスターを待たせては悪いですね。急ぎましょう」





――アリシアはこの時、母に連絡しておかなかったことをひどく後悔することになる。












「ここ…ですね。マスターがいる場所は」










---コンコン










「お? ナズナが来たのか」










「早くサラーブにマスターと戻りたいね」

『Of course. master(そうですね)』










---コンコン










「はいはい今開けますよ。…六課生活も終わりか~」

『…ああ。そうだね』










「な、なんと言えばいいでしょう…お、お帰りなさい? でしょうか」

『Let's go as usual.(普段のままでいきましょう)』










「はー…い?」










「お迎えに参りました。セカンドドクター」









数秒後、寮の一室は大きく爆発を起こし、それが火種のように襲撃が始まった。





--





「よく来たね」

「マスターとドクターは何処へ」

目の前に現れた予想外の人物に私はさっきまでのドキドキ感が嘘のように喪失しているのに気づいた。
というより、目の前の人物が現れたことにより、ドキドキがイライラに変換されている気さえしてきた。

「奥で待機してもらっているよ」

“マスター”が待機しているという話の場所にたどり着いた私を待っていたのはスカリエッティだった。腹が立つ、消えないかな。
私が指示を受けた場所は機動六課からそう遠くもないビルの一つだ。
何故ここと思ったけれど、ドクターの反応もこのビルからしていたから、ここにマスターもいると判断していた。だからこそスカリエッティのせいで腹が立つ。

「そうですか。お邪魔しました」

こんな変態と話している時間が勿体無い。早くマスターに会いたい。抱きしめたい。
見れば、後ろの変態の隣には紫の髪の女…ウーノだったかな? ウーノが忙しそうにキーボードと思われるものに何かを打ち込んだり、通信したりしている。
見るだけで忙しそうだ。私に話しかける暇があるなら手伝ってあげればいい。

「おっと少し待ってくれないか」

嵐の場所を聞いたナズナは情報源のスカリエッティに頭を下げずに部屋を出て行こうと扉に手をかける。
そのナズナを止めたのも他ならぬスカリエッティだった。ナズナはいかにも面倒くさそうな表情を浮ばせる。
それに対してスカリエッティはニコニコと人のよさそうな笑みを浮かべている。





「少し…私の話を聞いてくれないかな? 君の主の話だよ」










sideコーデリア


「ギンガ!!」

「ッすみません!!」

襲撃は突然だった。鳴り響いた爆音と同時に辺りに立ち込める慌しい空気。
もう! 私の嫌な予感に限って当たるんだから、こんなところはおじいちゃん譲りじゃなくてよかったのに!!

「いくよ!」

「はい!」

私とギンガは既にセットアップを済ませている。迅速に動いて被害を少なくし、出来ればこの事件の犯人及び協力者を捕まえたい。
幸いにも私とギンガが駆け抜けているスペースは爆発や攻撃による被害は少ないからスムーズに移動できた。
軽快に走り続ける私たちの動きを止めたのは相棒のポアロだった。何かを見つけたのか私たちに振り返り一吠えしてくる。

「どうかしたんですか?」

「ポアロが止まれって」

どうしたんだろう? こんな急いでいるときに…だけどポアロは私をいつも助けてくれている。
犬であるポアロは私たち人間の魔導師に比べると警戒心が強い。だからこそ私はポアロの注意は聞き逃さないようにしている。

「中々優秀な…犬を持っているな」

止まった私たちの目の前に現れる人影。それは局員ではなく、小さな少女。だからと言ってもフォワードメンバーでもない。
目の前の眼帯をした銀髪の少女はゆっくりと姿を現し、地面に突き刺さっているナイフと思われるものを抜き取った。

「今ので終わらせるつもりだったが…甘かったか」

「あなたはこの事件に何か関連していますね? 管理局です、武器を捨てて手をあげてください」

ギンガの口上に従うわけでもなく、少女は観察するように私…ではなく、ギンガを眺める。
どうやらギンガは目の前の敵の未知数の戦闘力に目を奪われて気づいていない。周りから何かで滑るような、
そう、ギンガやスバルたちの移動手段であるローラーブーツの音だ。

「タイプ・ゼロ…回収させてもらおう」

少女の声が聞こえると同時に私は隣のギンガを蹴り飛ばした。
急いでいたから結構威力込めて蹴っちゃってけど許してほしい。ギンガのいた位置を通り過ぎる青い砲弾。
それは止まるどころか私たちの後ろの壁を破壊して更に奥の壁まで破壊する。恐ろしい威力に速度。欠点は進行方向の変更不可ですね。

「今の攻撃をかわすか。腕利きの魔導師か。運のいいだけの魔導師か」

「経験と場数です」

「け、っほ、けほ、すみません、コーデリアさん」

「気にしないでくださいです。私もギンガがいなければ冷静でいられなかったと思う」

数は二人、二対二に持ち込める…いや、ポアロを入れて此方が多い。
大概の魔導師、または戦士はポアロを戦える人数には数えない。それは間違いでポアロは単体でも戦えるし、
寧ろ私よりも機動力は上だ。魔導犬の名前は伊達じゃない。

「多分、スバルやなのはが向かってくれてると思う。勝つんじゃなくて、持ちこたえよう」

「はい!」

さて、シントラさんとの戦いの前の準備運動です。




sideナズナ


目の前の男の顔を直視したくない。あまり長くこの場所に痛くない。早くマスターたちの元へ駆けつけたい。
だけど私はこの男から目が離せない。いや、頭では離せと体に伝達されている。だけど体が動かない。ひどく喉が渇く。
スカリエッティが言った言葉は私の動きを

「君に話したいことは君の愛しい主の変更のお知らせだ」

「なにを、言って、いる…」

目の前の男から粘着質のような粘ついた声が聞こえる。聞きたくない。聞くな。目の前の男の話に耳を傾けるな。
聞くな、聞くな聞くな聞くな聞くな。

「実はある“協力者”が私に出来てね」

目の前の男はゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。私は手ににぎるミーティアをより一層強く握り締める。
いつでも発動できるように。いつでも目の前の男を消せるように。

「協力者に協力してもらい、私はある計画を実行に移すことした」

一歩、また一歩と私に近づいてくる。
男の顔が歩みに比例するかのように歪んでいく。おぞましい、吐き気がする。だけど変態から目が離せない。

「人間というのは不思議でね。例え興味がなくても、人が欲しているとそれに魅力を感じてしまう」

ミーティアの起動を確認。いつでも迎撃可能。
奴が不審な動きをした途端に、一秒も掛からない内に首を落とせる。あとは奴の行動を一部も見逃さないようにするだけ。

「そのためにはいくつか準備が必要だったのだよそして今日その準備が整った」

奴の目の前にモニターが表示される。関係ない。私は奴から目を逸らさない。目…を…

「君の主がね」

モニターに映っているのは、倒れているのは

「死ね」



マスター。



コロス。こいつはこのまま放っておいてもマスターに害をなすだけ。いや、存在しているだけでマスターを汚す。だから、ここで殺しておく。
マスターはこいつを始末した後で探せばいい。それにマスターが黙って捕まるはずが無い。ドクターもついているのにありえない。
いや、そんな理屈はどうでもいい。物事を正当化する必要はない。純粋に、私は、こいつを、殺したい。一片のDNAも残さずに消し去りたい。
あそこに倒れているのは人形か複製かは知らない、知りたくもない。けどこいつはマスターを汚した。アスターの複製を生みだした。
それが中身もマスターであろうと、外見だけがマスターであろうと関係ない。マスターに関係するものに触れた。それだけで万死に値する。

ミーティアの形状はすでにブレードフォーム。奴の首を切り落とすには十分。あとはこのまま振り切るだけ。このままいけたら――――

「っ!?」

奴の首を切り落とすはずだった刃が止まった。奴の魔法で、技術で止められたのではない。奴が何かしたのではなく、私が止めてしまった。
違うとわかっているのに、これはあの人じゃないって頭では理解しているのに。それでも体は動いてくれない。

「…切らないのかい?」

ああ、声まで―――

「…れ」

「調子でも悪いのかい?」

そんな声で話しかけるな。私に触れるな。私の中に入ってくるな。

「黙れ…」

「大丈夫か、ナズナ? 体の調子が悪いのなら―――」

「その声で、その顔で、私に、話しかけるな!!!!!!」

目の前には愛しい人。


切れない
切りたい

殺せない
殺したい

消し去りたい。
消し去れない。


「違う。違う違う違う!! おまえは…おまえは…!?」

動け! 動いて! こいつはマスターじゃない。ただの覆面の変態。だから動け! あと一センチでいい!
そうすれば、悪夢は覚める。動いて、悪夢を見るのは私じゃない。私が、マスターに仇なす敵に悪夢を見せるんだ。

『すこし落ち着いたらどうだい? ナズナ』

え? この声は…

『冷静になったかい?』

マスターの顔をした変態の指から聞こえる声は変態の声。けどそれがどこから聞こえてくるのかが問題だ。
どうしてその声が変態の指から聞こえてくる? さっきまでいなかった。何故?

『すまないね。私は無限の欲望。彼の器では満足できなかった』

「-そだ」

『…ナズナ、君も来ないかい? キミも』

「嘘だ!!!!!」

目の前の光景は何だ!? 何故ドクターがそこにいる!? あそこにいたマスターは本物!?
どうして裏切ったんですか!! いや、これが変態の策か!? 私たちを内部分裂させて…けど--

「葛藤はいいけど、背後にも気を回しておくべきよ、お嬢様」

目の前のスカリエッティから聞こえる声は、とうとう私の頭がおかしくなったのか、大分高く聞こえた。

「な、に…を」

後ろを振り返り瞳に映るのはどこかで見た女。
女が私の体に触れた途端に魔力の収束がうまくいかない。体に魔力がうまく張り巡らせられない。体が重い。
まるで触れられている場所から何かが抜け落ちていくかのようだ。意識が…薄れ、る。

「デバイス、主の命が惜しいなら大人しくしなさい。可愛いお顔に傷がついちゃうわよ?」

鋭利な刃が装着されている手甲…形状的には爪型に見える。
それが私の目に突き付けられており、それがあと数センチ前に動かせば、私の目を抉るだろう。

「…もう会う事もないだろう」


どこかで聞いた声。ど、こかで…

この感覚も、どこか、で…


「あ、マす、たー…」










私が、迎えに、い----















<あとがき>
本当にすみません。凄く更新が遅れてしまいました。
これから更新していきます。未熟者ですが最後まで走りきるのでこれからもよろしくお願いします。
今回から嵐主人公ルートが始まります。ヒーローとヒロインの位置が完璧に入れ替わります。
活躍度的に今まで活躍していなかった分、存分に暴れるよみたいな。セイバールート士郎からHFルート士郎くらい変わる! …かな。
無印、As、そしてstsと舞台を重ね、主人公として羽ばたきます。ヒーローインですね! …あれ? 
では! また!!



[6935] 外伝1話「悲しい痛み」
Name: 黒胃◆10a28c55 ID:c8ec9852
Date: 2009/06/20 13:17
――――ON





「この世界を支配するのは、この俺なんだーーー!!!!」

「先輩、何か叫んでますけど」

「放っとけ、一週間に一回はあれやるんだ」

「けど…」

「そして、世界中の女性を我が手に収めるーーーー!!!!」

「そっすね。放っときましょう」



外伝1話「悲しい痛み」



世界中の女性のみんな!! こんにちは!
もちろん俺の名前を知っているよな? え? 知らない!?
おいおい、お前ら俺の名前も知らないのか? 全くもって駄目な奴らだな。
まあ、お前らは地底の存在だし、知らないのも無理はないか! 俺の名前はセドリック・フューチャー。
人は俺のことを、次元世界一の天才と呼ぶ。
まあ、お前ら地底人には、分からない話だろうと思うがな。
ハッハッハッハーーーッ! ハッハッハーー!!!

「先輩。セドリックがまた何かしてますよ」

「放っとけ。あいつ突然地底人と会話するとか言って地底ラジオとか言う発明品を作って、今試しているらしい」

「へ~。で、それ可能なんですか?」

「馬鹿。地底人がいること自体ありえないからな」

「じゃあ、あれは何してるんすか?」

「わけの分からないとこに電波いってるんじゃねえの?」

凡人共が俺の才能に嫉妬して、デタラメを言っている声が聞こえるな。
ハハハ! 愉快だな!
それはそうと俺がお前ら地底人にコンタクトを取ったのはこんな話をするためではない。
まあ、お前らが俺の存在を確認していないのも可愛そうだと思ったのもあるが
今日は、女の恐ろしさについて教えといてやろうと思ってな。
あれは、俺がまだ若い…と言っても一ヶ月前の出来事の話だ…










――一ヶ月前


「今日も太陽が眩しいな」

太陽がサンサンと輝く中、俺は木の陰で休んでいた。
研究に嫌気がさしたわけじゃない。
ただ、外に出て新鮮な空気を吸いたくなっただけの話だ。

「やっぱ、外で吸うタバコはうまい」

この矛盾が最高に俺は好きだった。
綺麗な空気の下で、汚いタバコを吸う。至福の瞬間と言ってもいいだろう。

「お前、またサボってるのか」

「あ゛?」

木陰で寝ているときに突然話しかけられた方を見ると
そこには、優等生の…誰だっけ?
まあ、後輩から慕われている俺の同級生がいた。
俺ほどじゃないけど、こいつもまあまあ顔がいいほうだと思う。
蒼い髪に、オシャレな水色のピアス。服は黒系を好んで着るらしいが
この研究室で白衣以外を着る奴なんてほとんどいない。
だから、俺は人伝にしか、こいつの服のセンスを聞いたことがない。

「何だ? お前もサボりに来たのか」

「俺は違う」

「いいっていいって、隠すなよ」

「俺は、自分の研究は済ましている。お前、これ以上サボると研究室にいられなくなるぞ」

「それは困ったな」

俺たちの研究室は、センスがある奴しか集まれない
つまり俗に言うエリートを集めている研究室だ。だが、そこで評価がもらえる魔法を3ヶ月に一個作らないと
その部屋から追い出される。そんなシステムだ。

「俺と共同してくれよ」

「却下。お前は前もそれで乗り切った」

「そうだったけか?」

研究と言っても一人でしなくてはいけないわけではない。
二人でする奴もいれば、十人でする奴らもいる。
人数は問題じゃないのだ。評価をもらえるかもらえないか、それだけ。

「友達だろ? 頼む」

「前も同じこと言ってきたよな」

「過去のことを気にしてると、前へ進めないぜ?」

「お前に言われたくねえよ」

「頼むって」

奴は、悩んだ顔をしている。もう一押しだな。そう思ったのが顔に出ていたのか
奴は、俺の眼を見てニヤリと笑った。

「いいだろう」

「マジか! やっぱ持つべきものは友達だな」

「ただし!」

「なんだ?」

「俺の出す問題に答えれたらいいぞ」

なるほど。答えられなかったら協力しなしってことか。
シンプルでいいじゃないか。結構好きだぜ、こういうの。

「ああ、構わない」

こう見えたって、エリートなんだ。
甘く見られたら困るぜ。

「俺の名前は?」

「……」

俺は一人で研究することになった。










「名前…忘れてたな…」

問題が終わった後、答えを求めたんだが
あいつは正解も教えてくれなかった。多分、今度も同じ方法を使うんだろう。っくそ!!

「研究のテーマ…どうするかね」

当てもなく、フラフラと歩いていると
俺の隣を美しい女性が通り抜けて言ったのが見えた。

「…ふっ」

俺は見た目の通り頭脳明晰だ。
綺麗な女性に会ったら、告白までのシュチュエーションまで完璧に考える。
あの女性は守って欲しいタイプと見た。

「ついてるな…」

俺は、ゆっくりと女性の後を追い
ばれないように家の場所を突き止めた。

「ビンゴ!」

あの足取りから見て
そんなに遠い場所ではないと言うことはわかっていたが
予想以上に、早くついた。明日から観察開始だな。





一日目


話しかけるタイミングを計るため、不良などが近くにいないか探す。
残念ながら、不良などはいないみたいだ。
彼女は、今日はコンビニに行って、適当にご飯を買っていた。

「家事能力は低いっと」

成績表(女性のステータス)に×をつける。



二日目


仕事は、俺とは違うが魔法関連の仕事と言うことが判明。
魔法ではなく、デバイスのメカニックだったが
腕はそこそこらしい。これは高得点だと思った。

「技術者としては高いっと」

○一つ



三日目


ついに名前が判明。アンジェリカ・アテンザ。
彼女が外でうろついている時に颯爽と助ける計画を練っていたところ
彼女の友達らしき人物が呼んでいた。

「アンジェリカ…美しい」

顔も名前も…



四日目


どうやら俺の予想は外れていたかもしれない。
彼女は、守って欲しいタイプじゃなく、守ってあげる! というタイプかもしれない。
なら今から計画を変えるべきか…
だが、四日間研究を放置してここまでしたんだ。最後までこれでいこう。

「俺は…自分のモテを信じる!」

人生でモテ期が来るのは3回らしい。



五日目


さすがにそろそろ研究室にも顔を出しておかないとまずい。
しかたなく今日は、観察を諦め
研究室に向かい、研究のテーマを考えるが、どうも気分が乗らない。
もしかしたら、俺がこうしている間に、彼女は守ってもらいたいという状況になっているかもしれない。
そう考えると、研究に手がつかない。

「恋は盲目だな…」

「何気持ち悪いこと言ってんだ? 手伝ってやってんだからちゃんとやれ」

「へ~いへい」

俺の頭にタンコブ一つ。


六日目


もう、我慢の限界だ。俺の計算が外れたのは真に悔しいが
このまま見ていても、時間の無駄だ。
下手すると、俺が研究室を追い出されてからでも動きはなさそうだ。
明日、特攻を掛けるしかない。





「俺としたことが柄にもなく緊張しているみたいだな…」

「何ポーズ決めてんだ?キメェ」

俺が食堂で飯を食いながら、悩んでいると、名前は…忘れた。
前に、俺に問題を出した男がやってきて、俺の隣に座った。

「おまえには関係ないだろう」

「そうか、ならいい。けどそのポーズはキモイから止めといた方がいいぞ」

「この格好良さがわからないか…センスないな」

俺の頭にタンコブ一つ、トータル二つ。

「で、何考えてたんだ?」

「俺の思いを愛おしい人に伝えようと思ってな」

「キモ過ぎ」

俺の拳が奴の顔面を強襲するが
うまくかわされ、カウンターで二発頭を殴られる。タンコブ三つ、トータル四つ。

「お前、前も女に告白してなかったか?」

「ああ、美しい人には声をかけるのが俺の主義だ」

いや、義務と言ってもいいだろう。
使命でもいいかもしれないな。響きがかっこよく感じるし

「懲りないなお前。前も散々だったのに」

「男は振られるほど強くなっていく」

「お前何回振られたっけ?」

「さあな。三桁超えた辺りから数えてないな」

「お前の理論でいくと、お前最強なんだけど」

手に持ってた箸を投げつけるが指の間に受け止められてしまった。
ならばと、カツ丼を頭からぶっ掛けようと思ったら、弾き返され
俺の頭にカツ丼が襲い掛かる。
その後、頭に掛かったカツ丼を一人でむなしく食べて、風呂に向かった。





「さあ! 今度こそ! 今度こそ成功させる!!」

風呂に入った後、体にいい匂いがする香水をして
アンジェリカがいつも通る道で待っていることにした。

「…あれは」

10分ほど待っていると、アンジェリカが奥から歩いてくる。
俺は、身形を整え、深く深呼吸をし、アンジェリカに向かって歩いていく。
だが…

「ぐはっ!?」

歩いている最中に何者かに地面に組み伏せられた。
体の触り心地から、思うに女だろう。

「暴れんなストーカー!アンジェリカ!こいつだよ!あんたにずっと付き纏ってたの」

「う、うん…」

女は、俺のことを睨んできている。
というか、ストーカー? 俺は断じてストーカーなんてしていない。
そのことを組み伏せられながら話すと、更に女の機嫌は悪くなった。

「嘘付け! お前、アンジェリカにずっと付き纏ってただろ!」

「誤解だ! 愛故に何だ!!」

どうやら俺の愛が誤解され、ストーカーだと思われたらしい。
ならば、この誤解を解けばこの二人と接点は出来る。うまくいけばハーレムかもしれない。
頑張るんだ! セドリック!!

「ごちゃごちゃうるせえよ!!」

「ほでゅ!!??」

ここからハーレムルートが始まろうとした瞬間
強気な女が俺に向かって足を振り上げ、大事な部分を強打してきた。
金○マの痛みで意識が朦朧とする。

「ほら! アンジェリカ! 行くよ!」

「あ、うん」

「お前も二度とアンジェリカに近づくなよ!」

女たちは倒れてる俺を放って、どこかへ行った。
後に残ったのは俺の下半身に悲しい痛みだけ。










俺はあの日から取り憑かれたように研究室に閉じこもり
ついに完成した魔法を試そうとしていた。
サッド・ペイン。あの時の気持ちをそのまま魔法にしたものだ。
効果が俺の思うとおりなら、食事中に俺にタンコブを三つも作った奴の苦しむ姿が見れるはずだ。決して八つ当たりではない。
魔法はいつもの木陰にセットしている。

「用ってなんだ?」

何も知らない奴が来た。

「いや、ちょっとな…」

さあ! 苦しめ!!

「なんだ?」

「…あれ?」

魔法が発動すると思ったんだが、発動しない。

「用がないなら帰るぞ」

「……あ、ああ。わざわざすまないな」

奴は帰ってしまった。どうやらこの魔法は失敗作だったみたいだ。
しかたない。また今度頑張るか…俺は木にもたれて、しばらく眠った。










――一ヵ月後





どうだったか? 恐ろしかったろ? いかに女が恐ろしいかわかってもらえたか?
女は美しいが、同時に怖い生き物だからな。お前ら地底人も気をつけるんだぜ?
ん? 結局あの魔法は失敗作だったのかって? さあな、あんな駄作のことなんて忘れちまったよ。
そんなことより、もっと面白い話が…
おっと、すまないな。今日はこれからH×H53巻を買いに行かなきゃいけないんだ。
それじゃあまた今度な。






























…あ? あいつ、つけっぱなしで行ったのか? 相変わらず馬鹿だな。
地底人もいるなら聞いてくれよ。あいつ、俺に仕掛けていたらしい魔法があるんだけどそれを失敗したんだと考えてたらしくてな
いつも通り木陰で寝ていたんだろうな。一週間後にあいつの叫び声が木陰から聞こえてきたんだぜ? 本当に馬鹿だろ?
それじゃあ今日はこれで終わりだ。じゃあな。





――――OFF










<あとがき>
全く本編に関係のない外伝一号でした。
Sad Pain誕生秘話でした。原作より千年未来の話ですけどね。
外伝は書いてて楽しかったですね。また書くと思います。
修行編は次回からスタート!2年くらい時間が進みます。
では!また次回!!



[6935] 外伝2話「遠い記憶」
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:fd9652be
Date: 2009/05/30 13:13
「くーかー」

「あれ? カーミラ寝ちゃってる」

「俺の上で寝てないなんて珍しいな」

「今は寝かしといてあげようよ」

「いや、別に起こす気はなかったぞアリシア。それより準備の続きだ」

「嵐もサボってたくせにー!!」



外伝2話「遠い記憶」



「…い! お…!!」

う、うるさい。誰だあたしの眠りを妨げるのは…
あたしは、最低でも一回寝たら5時間は、寝たいタイプなんだ。だから起こさないでくれ。

「起きろって言ってんだろ!!」

「むぎゅ!?」

誰かが呼ぶ声を無視して、そのまま再び深い眠りにつこうとした時、顔に衝撃が走り目が覚めた。
ゆるく叩かれたのか、あまり痛くはなかったけど、後からジンジンくる。い、痛い…

「ようやく目が覚めたか」

「い、痛いだろ! こんなことするなんてゆるさ、ぬぎゅ!?」

叩いた相手に文句を言おうとした途端、またもや顔を指で押さえられた。

「うるさい。今、レポート書いてるんだから、ちょっと大人しくしてろ。それと、寝たいなら、用意してある布団で寝ろ。俺の頭の上で寝るな。やばい薬品かけるぞ」

「うぅ…、わ、わかったよ。カル」

カル。カル・ラントシュタイナ。あたしをこんなにも自由に動ける体にしてくれた、あたしのロード。
初めて、カルの顔を見た時のことは、今でも覚えている。










「あ、あたしは…」

「ら、ラントシュタイナ隊長! 融合騎が目を覚ましました」

ここは、どこだ? あたしは、確かわけのわからない連中に捕まったあと

役に立たないと判断されて、それでまた捨てられた後、誰か分からないけれど、暖かい手に包まれて…
あれ? あたしは、その後…。その後…

「起きたか」

「ふぇ?」

今までの出来事と、あたしに起こったことを考えていると、気づいたらあたしの目の前には
黒い長髪の男が立っていた。あたしの大きさが小さいせいもあるけど、何故かとても大きい人物に見えた。
見とれていたわけじゃなかったんだけど、いきなり現れた人物に目を取られ、あたしはしばらく放心してしまった。

「意識はハッキリしているか?」

「え? え? えと、あれ?」

男に言われて、ようやく意識を取り戻すが、何がはっきりしているかわからなかった。
確かに意識はハッキリしているけど、何故ここにいるのか? 何でこんなに自由に体が動かせるのかなど、わからないことが多い。
男は、そんなあたしを見て、何を考えているのかわかったのか、あたしの疑問の答えを出してくれた。

「お前は、私が改良して、完成した融合騎。記憶がハッキリしていないのは、まだ体がうまく出来ていない頃のことだからだろう」

何も言っていないのに、よくここまで、あたしが考えていることがわかるものだと感心した。
それよりもあたしが融合騎だと? し、失敗作だったあたしが!? うれしさで口がにやけてくるのが止められなかった。

「隊長! ようやく完成しましたね! 部下がこれを拾ってきた時は、こんな物が役に立つのかと思いましたが、さすが隊長ですね!」

「そうだな。…そう言えば、お前の名前を聞いてなかったな。いつまでもこれやあれでは、締まらないだろう。名前は?」

な、名前? えーと…何だっけ? 昔はちゃんと失敗作とはいえ、名前もしっかりあったんだけど…
何だっけ? あれ? や、やばい!! 名前が思い出せない!? 記憶では、誰もあたしのことを名前で呼ばずに
失敗作としか言ってくれなかったからなぁ…。うぅ…名前…

「…名前は、ないのか?」

「え!? い、いや、ないわけではない! 思い出せないだけだ! 忘れたわけじゃないぞ!」

「…それは、忘れたと同じだろ…」

あたしの言葉に男は、呆れた表情をした。しかたないだろ! 覚えてないんだから!!

「…このまま考えていても、どうせ思い出せないだろう」

「わ、わからないぞ! もしかしたら思い出すかも」

あたしの記憶力なら、なんとか覚えて…ないな。うん。

「お前は、私が生み出した。言わば、私の作品名わけだ。なら、私が新たにお前に名前を授ける。いいな?」

「新しい名前? …いいだろう! あたしに相応しいかっこいい名前にしろ!」

せっかく失敗作ではない、完成された融合騎になれたんだ。かっこいい名前がいい!

「お前の名前は…カーミラだ! これから私と共に戦ってくれ」










「ふふ…」

「何笑ってるんだ? 思い出し笑いは、気持ち悪いぞ」

昔のことを思い出して笑っていると、カルが、嫌そうな顔をしてあたしを見ていた。
き、気持ち悪い!? そんな風に見えたのか!? 失礼な奴め!!

「気持ち悪いと言われる覚えはない! 昔のことを思い出していただけだ!」

「昔? ああ、そう言えば、一年前くらいか? カーミラが生まれたのは」

作業を中断し、伸びをしながら、こっちを向いた。

「あの時のお前は、何も知らないから、苦労したもんだ」

「し、仕方ないだろう! 今まで自由に動く機会なんてなかったんだからな!」

「はは。お前全然変わらないな」

「何だと!? あたしは、成長したぞ!!」

「体も心も成長してねえよ」

カルは、あたしの体を見て、くすくすと笑い出す。人の体を見て笑うとは、いい度胸だ。
しかも、いくらデバイスとはいえ、あたしも女。女性をそんな扱いする奴には、罰を与えなければ!

「食らえ!!」

「危な!?」

捨て身の一撃、体当たりをカルの顔面目掛けて、突っ込んだが、カルは、簡単に回避してしまった。
しかも、攻撃をよけた後に、あたしの体を捕まれた。

「お前~。主に向かって攻撃とはいい度胸だな」

「離せ~! 犯される~」

「誰が!?」

カルの手の中で、もがきながらも、あたしは笑っていた。だってカルが、あたしと遊んでくれている。
カルは普段は、研究とかで忙しくて、あたしなんかに構ってくれない。
ようやく研究がひと段落着いて、あたしと遊んでくれるかと思ったら、敵の襲撃で戦場に駆り出される。
そんな感じで、カルとあたしがこんな風にじゃれあう時間は、ほんの一握りの時間だけ。あたしはその時間が大好きだった。

「あ、そう言えばカル。この前、外に出たとき、面白い物見つけたって言ってたのは何だったんだ?」

この前、あたしが寝ている間に、生態系の調査に行ってたよな?
その時、確か、面白い物を見つけたって食事の時にあたしに自慢してきたのを覚えている。

「ああ、それか」

「面白い物は?」

「まあ、俺が面白いと感じただけなんだけどな。大型の竜種の子供がいたんだけど、そいつが親が亡くなったみたいで、群で行動する竜種に苛められてたんだけど、その子供が、いきなり切れてさ、苛めてた竜種全員食い殺しちまったんだ。いやあ、あの時の竜たちのビックリした顔なんて堪らなかったね。苛めてた竜に食われるなんて思ってなかったんだろう。あの竜は、強くなるなきっと」

「…面白いのか? それ」

「だから俺だからだよ」

時々、カルがわからなくなる…。他にも、いろいろ話をしようとしたんだけど

「隊長!!」

それは、無理だった。

「どうした?」

「山岳地帯に敵の襲撃が確認されました! 今は、山岳地帯の部隊で抑えていますが、それも時間の問題で…。今すぐ隊長の部隊に援軍をお願いしたいのですが」

「わかった」

…また、戦いか。カルは、黙っているけれど、本当は戦いは、嫌いだ。
よくあたしに愚痴ってくる。何で戦わなくちゃいけないんだろうなと、あたしも戦いは好きじゃない。
カルは、戦いたくはないけど、それだと、この国は、敵の国に奪われてしまう。それは、認めれないとカルは言っている。

「カーミラ。私たちも出るぞ」

「…了解」

いつものプライベートな口調から、仕事口調になったカルの後ろをノロノロとついていった。





「すみません! ラントシュタイナ隊長! こんなとこまで態々…」

「気にしなくていい。状況は?」

あの後、すぐに部隊を招集し、戦場に赴いた。カルの部隊は、戦闘に特化した部隊だ。
戦場で、最も敵を殲滅するのに向いている。だから、どの戦場にも駆り出され、敵と戦い、勝利するために奮闘する。

「今は抑えれていますが、このままだと時期に…」

「何故だ? 山岳地帯の部隊は戦いに向いていない部隊とは聞いていないが…」

山岳地帯は、最もカルたちの国に侵入しやすい、経路だ。
そのせいで、よく襲撃されるが、それを撃退するために、カルたちの部隊には及ばないが、それでも戦闘力のある戦士が集められた部隊のはず。
それが、何故、こんな襲撃によって崩されているのは、出撃前からの疑問だった。

「それが、敵兵が、あの人形王の者たちで…」

「…なるほど。わかった」

人形王か。カルと戦場に赴いてい、何回か戦ったことがある兵たちだ。
実際は、その人形王は、直接会ったことはないが、その兵たちの強さは、他の国を上回る強さだった。
何度倒しても、致命傷を食らわない限りは、動き続ける。傷ついても顔色一つ変化させない。そんな敵だった。
戦場で恐怖を感じないことはないが、その敵たちには、戦場の恐怖をは、違った恐怖感を覚えた。

「ラントシュタイナ隊長。我々はどうしたら…」

「全員下がれ! 私が出る」

山岳地帯の隊長が、カルに指示を求めるが、カルは、全員の撤退を命じた。

「隊長。俺たちも出ますよ」

「あの人形王の兵たちが相手か。こりゃ今回死ぬかもな」

「骨は拾ってやるよ。肉は自分で持って帰ってくれ」

「俺、帰ったらあの子に告白しよう」

「死ぬ気か?」

全員が、カルの後ろに並び、闘志を燃やしている。カルも、部下たちの言葉にニヤリと口元を歪ませる。

「なれば、作戦を説明する。皆、よく話を聞いてくれ」


――了解!!





side--


「こいつ、いい加減に死ねぇ!!」

「くそっ! 意外に動きが早い…!!」

「た、助けてくれぇ! 足が、足が死体に捕まれて動かない」

戦場。誰もが、生き残りたいと思い、戦い、誰もが死にたくないと思い、死んでいく場所。

「手前等と死ぬのはごめんだ!!」

その岩場に囲まれている戦場で戦ったいる者たちは、全員が敵に恐怖を抱いていた。
戦場で敵に恐怖を抱くのは当然だが、この敵たちに抱く恐怖は、いつも感じる恐怖感じゃなかった。

「やっぱり致命傷を食らわないと駄目か…」

攻撃しても、動き続ける、敵兵。まるで人間じゃない。まるで幽霊や人形と戦っているように錯覚する。
槍で体を突けば、槍を掴まれ、そのまま手に持つ剣で体を切り裂かれる。
銃で、撃てば、腕で銃弾を防ぎ、そのまま特攻を仕掛けてくる。腕に当たったはずが、痛みを感じていないように。
全員が、戦いに疲れを感じてきたとき、一人の兵が、大声を上げた。

「皆、ラントシュタイナさんの部隊から連絡が入った」

「何!?」

「全員退避。ラントシュタイナ部隊が、相手をするらしい。けが人を優先しながら退避だ!!」

その言葉が、部隊に伝わると同時に、全員が戦いを中断し
怪我で早く動けない者を、カバーしながら、戦場から、退避していった。
その逃げ帰る姿をジッと見ている敵では、なかった。退避していく、兵たちを逃さないかのように追おうとした。

「そうはさせないぜ!!」

しかし、兵を追っていた敵へいたちが、兵の逃げている方向からの突然の攻撃により足を止めざる終えなくなった。
放たれた5発の弾が、地面に着弾すると同時に大きな爆発を起こし、何人かの敵兵を食らった。

「っち、今ので、全員やるつもりだったんだけどな」

「お前、相変わらず命中しないな」

「まあ、食い残しは、俺たちが食うってことで」

爆発によって巻き起こった砂嵐が収まると、カル・ラントシュタイナの部隊全員が揃っていた。
各々、自分の武器を構えている。その部隊の中心にカル・ラントシュタイナは仁王立ちしていた。

「死ぬなよ。行くぞ!!」

カルの掛け声と共に兵たちは雄たけびを上げ、敵に食らいついていった。

「死ね」

敵の頭を正確に打ち抜いていく兵。

「刻まれろおぉぉ!!」

剣を二刀構え、上半身と下半身を永遠にお別れさせる兵。

「下手な攻撃、数突きゃ当たる!!」

身の丈ほどの槍を、自在に操り、敵に無数の風穴を開ける兵。
その他にも、全員が、敵を押していった。カル・ラントシュタイナもその一人であった。

「ユニゾンは、済ましてあるが、さすがに3対1はキツイな」

≪ごちゃごちゃ言っている暇はないだろ!≫

剣を構えた3人の敵を、自分の持つ、魔法も何もかかっていない剣で受け流す。
しかし、いくら、速度や筋力が底上げされているとは言え、3人相手は、明らかに無理があった。
それを理解しているカル・ラントシュタイナは、顔に汗を浮かばせ、攻撃を受け流すかのようにかわしている。攻撃のチャンスを伺いながら。

「今だ!!」

3人の攻撃が同時に放たれたのを、確認した途端、渾身の力で剣を振い、3人の、剣を弾く。
強い力で弾かれた敵は、一瞬、体の動きが止まった。

「行くぞ!」

≪おう!≫

手に持つ剣を地面に突き刺し、手を銃の形にする。

≪外すなよ≫

「こんな距離で外すわけないだろ」

一瞬で、3人の頭に赤い銃弾が放たれ、その内2人は、頭を打ちぬかれ、倒れるが
1人だけ、腕で、銃弾をガードし、死を免れた。

「ちっ、惜しい」

「……」

腕を打ち抜かれたのにも構わず、その腕で、死んだ仲間の剣を奪い両腕に構える。

「だが、食らったことは失敗だったな!!」

地面に突き刺した剣を抜き、敵に切りかかる。敵も応戦しようとするが

「……」

何故か片腕が、吹き飛んでいた。その隙を逃すはずもなく、カル・ラントシュタイナに首を切られた。





戦い始めて、しばらく経った。もはや、地面が赤く染まってない所は、ないほどだった。

「そろそろ、いいな。全員! 退避!」

カル・ラントシュタイナの号令で、皆が戦いを中断し、撤退する。今度は撤退させないと敵も追う。



―――ドンッ!!!



しかし、突然の爆発で、岩場が崩れ、戦場に落下してきた。
カル・ラントシュタイナの部隊は全員退避しているが、自分たちはこのままでは、押しつぶされてしまう。

「あばよ~」

「馬鹿なこと言ってる場合か! 逃げるぞ」

急いで、自分たちも安全地帯に退避しようとしたが、足が血に絡めとられ、動けなくされていた。

カル・ラントシュタイナの作戦は簡単だった。
敵を全て殲滅するために、戦場の岩場に爆破物を仕掛け、それを爆破させ、全員を巻き込ます。逃げられては、困るために部下たちに渡していたのは
自分の血液を込めた瓶。それを戦いながら、さっきまで戦っていた山岳部隊の血に、倒した敵の血に垂らさせておいた。
そのため、今、戦場に流れている血は、全てカル・ラントシュタイナの制御下にあると言っても過言じゃない。

血に染まっている戦場で足元の血を踏まずに戦うなど不可能。足を捉えられた敵は、成す術もなく岩に押しつぶされていった。





sideカーミラ


「…星が綺麗だな」

戦いが終わって、あたしは夜空を眺めていた。
戦場に行ったあとは、夜空を眺めるのが好きだった。高ぶった心が静まる。

「何してるんだ」

そこにカルがやってきた。

「別に…」

カルは、戦った後は、しばらく寝る。ひたすら寝る。起きることなんて珍しい。

「…星が綺麗だな」

「…ああ」

なんとなく、なんとなくカルに聞いてみたいことがあった。

「カルは、戦わなくてよくなったら、何がしたいんだ?」

「…そうだな。畑でも耕したいな」

カルらしいと思った。

「あ~。今日もカルと遊べなかったな~」

「また今度だな」

「あたしと休むときに限って何か起こるからな~」

カルとのんびりと、夜空を眺めながら、話す。それだけで心が温かくなる。
それは、親子愛なのか…それとも…

「あ、流れ星」

「え! あ! 願い事言うの忘れた!!」

ぼーっとじている間に流れ星が流れたらしい。くそっ逃した!!

「カル! 言えたか!」

「心の中で10回以上言ったから大丈夫」

「…お前、時々だけど、天才なのか馬鹿なのかわからないときがあるな」

さて、冷えてきたし、寝るか…










「起きてーーーーーー!!!」

「ぬわーーー!!??」

寝たと思ったら、また誰かによって起こされた。

「もう! 準備出来たよ! 早く早く!」

…ああ、夢だったのか。懐かしい夢を見たな…

「今日は、カーミラとリニスがきてちょうど一年なんだから! パーティーしようって言ったでしょ!」

そうだな。無理矢理、嵐を引っ張ってパーティーの準備をしていたな。

「ジャ~ン! どう!」

「…凄いな」

態々こんな山まで来て、さらに結界まで張って虫が寄ってこないようにしてまで、外で食うのか?

「星空の下で食べるなんて楽しそうでしょ!!」

「そうだな」

見ると、もう、食べ始めてる奴もいた。…おばちゃんだったか? 

「さっさ! カーミラも早く! 食べ終わっちゃうよ!」

サイズを子供の体にしているあたしの体を引っ張り、席に座らされた。まあ、せっかくだ。たくさん食べるか。

「あら、流れ星だわ」

「マスターとずっと一緒にいれますようにマスターと…」

「フェイトと私と母さんとリニスと嵐とスカリーとシントラとアイン…あ、消えちゃった」

…ナズナ。小さな声で言ったつもりかもしれないが駄々漏れだぞ。

「マスターは、言えましたか?」

「俺は、心の中で100回以上言ったから大丈夫だろ」

…やっぱりカルは馬鹿だったかもしれない。










<あとがき>
感想で言われていたカルさん編。原作には、カルさんは、関わってきませんが、性格的には嵐より大人ですね。
では! また次回!!



[6935] マセラティ魔導師探偵の事件簿 FILE01.人を惑わす魅惑の音
Name: 黒胃◆bfbb7c41 ID:c8ec9852
Date: 2009/06/20 13:33
「とうとうここまで来た…」

「わん!」

「父さんの厳しい修行を終えて、ミッドの安い事務所を、お爺様の遺産で買って…」

「わうう…」

「そしてとうとう! マセラティ探偵事務所開業!! これから頑張るぞー!」

「わう~!」



マセラティ魔導師探偵の事件簿 FILE01.人を惑わす魅惑の音



「…暇だね…ポアロ」

「わうぅ」

私は今、自分で買った椅子に座って机に体を倒して暇な一日を過ごしていた。
気分最高に開業したのは三週間前。その元気が仕事があれば今も続いていたかもしれない。
だけどここ最近で回ってきた仕事は、ペットがいなくなったから探してくださいくらいだった。
しかもペットを探してくださいと言うお客さんに常連客まで出来てしまっている始末。
せめて浮気調査とか、そういうのだったらまだやる気出るんだけどな~。

「お昼でも食べようか」

「わう!」

重い腰を上げ、のろのろとキッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。
最近のお気に入りはカップラーメンの赤いFoX。それに、自分で好きな具を乗せて食べること。
これがまたおいしい。別に料理が苦手ってわけじゃないけれど、一日に何回も作るのは疲れるからちょうどいい。
私は、冷蔵庫の中から昨日の晩御飯の残りの鳥を取り出して、お湯を沸かした。

「仕事がない時は、休むに限る~♪」

「わうぅ~♪」

鳥を小さく切りながら、歌を口ずさむ。最近の流行の曲や歌なんかはわからないけど。

「あなたのペットを探しましょ~♪」

「わうわう~♪」

やっぱり、仕事が回ってこないのは退屈だ。それにこの状態が続くと最悪ご飯も食えなくなってしまう。
そんなことになったら、さすがにバイトもしないといけないかも。
バイトか…近くのカフェで働くのも悪くないかもしれない…。あそこのカフェ美味しいし。
けれどお爺様は、言っていた。仕事ってのはがめつく奴にはよってこない。慌てず待つことが大事だって。
そしてら、仕事は向こうからやってくるものだ。

「あの、すみません。ここって探偵しているって聞いたんですけど…」

ほらね。





「はい。浮気調査からペット探し! 盗人も何でも来いですよ」

「あ、こんにちは。わたし、トルネオ・アスコットと言います。13歳です」

「私はコーデリア・マセラティと言います」

「わん! わん!」

本日初のお客様は女の子だった。私よりも幼かった。
水色の髪の毛を頭の高いところでお団子にしていて、服は大人しい印象を受ける。
あまり活発なことはしないタイプに見えた。あくまで印象だからわからないけれど。
もしかしたらこの子も表面はこれだけど、裏の顔は凄いなんてことはよくある話だしね。

「それでどんなお悩みですか?」

このくらいのお年のお客さんなら、ペット探しの可能性も高いけど
もしかしたら好きな男の子のプライベートを探ってくださいとかかもしれない。だったらどうしよう。

「その、直接的にわたしのことじゃないんですけど…」

「わたしのことじゃない? どういうことですか?」

トルネオは、どこかもじもじとして言い難そうにしている。
何か言い難いことなんだろうか?

「わたし、姉がいるんです」

「姉、ですか?」

「はい。アコードっていう名前でいつもはアコ姉って呼んでいます」

そのアコードという人の悩みなんだろうか? だったら何故この子が私の所に?
姉の代わりに来たってことは、姉が来れない状態だったんだろうか?

「お姉さんの悩みですか?」

「は、はい」

「だったらお姉さんを連れてきた方がいいんじゃないですか?」

「い、いえ! アコ姉じゃ駄目なんです!」

トルネオは、机に手を叩きつけて立ち上がり、私の眼を見つめてくる。
その眼には、弱々しい外見とは裏腹に強い力が篭って見える。

「とりあえず、話してください。話はそれからです」

このままじゃ、何時まで立っても話が進まない。私の腹も空く一方だ。
お湯も沸いたし、そろそろご飯の続きもしたい。ポアロも私の服を噛み、急かしている。

「あの、コーデリアさんは、セルフィッシュって知ってますか」

トルネオは、ようやく落ち着いたのか、ゆっくりと席に座った。

「…ごめん。知らない」

新種の魚くらいしか、頭に浮かんでこなかったよ。

「最近、ミッドで流行っているバンドです」

「…ミッドってそんなの流行ってるの?」

「わう?」

さっきも思っていたけど、私は音楽については飛び切り疎い。だって、
私がいいと思った音楽はいい。悪いと思った音楽は悪い。それでいいと思ってるから。

「いえ、道端で週に一回やっているくらいらしいです。けど、凄い熱狂的なファンがいて、それで話題になって面白半分に見に行っている人がいるんです」

「ふ~ん」

なるほどね。

「そのバンドと、あなたのお姉さんと何が関係あるの?」

トルネオは、私の言葉にさっきまでの顔色が一気に悪くなり、俯き気味になってしまった。

「じ、実は、アコ姉がそのバンドに興味を持ってしまって、それで何回か行っているうちに嵌っちゃって」

「嵌るくらいならいいんじゃないかな? 人の趣味は其々だしね」

誰にだって、いろんな趣味はある。自慢できることもあれば
人様に話せば、笑われること必須のことだってある。
ちなみに私の趣味は読書。推理小説をお気に入りのカフェでコーヒーを飲みながら読むのが堪らない。

「嵌るだけだったらよかったんですけど、一ヶ月前の路上ライブに行った後に、様子が変になったんです」

「変?」

もしかして薬か? ミッドはクリーンな町だ。だけど薬とかもないわけではない。

「夜中に突然どっかに行っちゃったんです! いきなり外に出て」

「外に?」

「その後、朝になる前に帰ってきたんですけど次の日どこに行ってたのか聞いてみたんですけど、全く覚えてないどころか、自分は寝てたっていうんです!」

夢遊病だろうか? けれど、それなら、子供の頃から症状が出ていてもおかしくないはず。
いきなり、この年になって夢遊病になったというのも考えにくい。

「けれど、それってバンドが原因っぽいよね? 魔法使ったんじゃない? 管理局に言った方がいいんじゃないかな」

来てくれるのは嬉しいけど、管理局に言った方が確実に思える。

「…一回、管理局に言った事はあるんです。それで、セルフィッシュのメンバー3人が調べられたんですけど、リンカーコアはもちろんありました。けど、魔力量が明らかに足りないんです。アコ姉が魔法を使われたとすれば、Aランク以上の魔導師じゃないと無理だって」

なるほど、もう管理局には通報した後だったのか。

「それで、管理局もわたしの嫌がらせだと判断しちゃって、あんまり話を聞いてくれないんです」

管理局は、こんな軽い感じの事件については、中々助けに来てくれない。
ロストロギアや質量兵器が関わってくる事件だと、すぐに駆けつけてくれるんだけどね。

「お姉さんは、どんな調子なの?」

「その後は、出ることはありませんでした。けどその後、いろいろ調べてみたら、アコ姉のお金が減っていたんです」

お金か…つまり、お金が目的だったのかもしれない。
けれど、それなら何故トルネオのお姉さんが狙われたんだろう? 何か理由があるのだろうか?

「とりあえず、そのなんとかフィッシュに行ってみよう」

「や、やってくれるんですか!?」

「うん」

「あの、お金、今はこの位しかないんですけど」

トルネオは、ポケットからクシャクシャになった5万円を出してきた。

「お金は気にしないで。まずは解決出来るかどうかだよ」

「わん!!」

私は、太陽を象った髪留めをしてなんとかフィッシュを見に行くことにした。





「ここでいいの?」

「はい。今日の夜6時半から始まるらしいです」

あの後、軽く昼ごはんを食べた後にそのバンドが始まる時間までそこら辺をぶらぶらして
時間が6時半近くなったのを確認して、路上ライブが行われる公園にやって来た。
周りには、ちらほらと人の姿が見えてきている。多分、私たちと同じで、バンドを見に来た人たちだろう。
そしてトルネオの腕時計の針が8の場所に移動したとき、空中から、3人の男たちが降りてきた。
地面に着地すると、よくわからないごちゃごちゃした楽器みたいな物をセットしていく。ポアロは、つまらないのか林で遊んでいる。

「みんな! お待たせ!」

「俺たちの曲で、今日も楽しんでいってくれ!」

「それじゃあ行くぜ!」

私はバンドに詳しくないから、バンドがどんな音楽かはあまり知らないけど
その音楽が始まった途端、周りの客は、大きな歓声を上げた。人気なんだなぁ…
音楽については、よくわからなかったけど、普通に上手いと思う。よくわからないけど。
けど、音楽よりまず目に付いたのは、照明に見える魔力で作ったライトだ。
照明のかわりをしている魔法で、メンバーたちをテンポよく照らしていく。それが一番気になった。
3曲くらい弾き終わるとメンバーたちは、全員、汗でびっしょりだった。テカテカと光って見える頭。

「今日はここまでだ! みんなありがとう!」

終わったのか楽器を片付けだしている。観客たちも、ぞろぞろと帰っていく。
その中で前の方にいた女性を見たとき、腕に高そうな腕時計をしているのが眼に入った。
あんな高そうな腕時計を買うなんて、ミッドには、お金持ちが多いんだな。いいな。
その女性は、メンバーに呼ばれて近づいていき、何かを話すとまた離れてしまった。

「特に変なとこなかったけど」

「はい。残念です…」

もしかしたら私たちは勘違いしていたのかもしれない。
このバンドグループは、事件に全く関係はなくて、黒幕は別にいるのかもしれないし
もしかしたら本当にトルネオのお姉さんが夢遊病に目覚めたのかもしれない。

「次は、お姉さんに会ってみたいな」

バンドが原因じゃないなら、お姉さんに原因があるのかもしれない

「アコ姉ですか? じゃあわたしの友達ってことで紹介します」

私、これでも15歳だからまだ友達でも全然OKだよね?

「ポアロ! 行くよ」





「アコ姉、ただいま」

トルネオの家は公園を出て、10分くらい歩いてすぐだった。マンションの23号室。
犬は駄目らしいので、ポアロは外で待っといてもらうことにした。

「あ、トルネオ。おかえり。遅いよ」

玄関を開けて迎えてくれたのは、トルネオよりちょっと大人の雰囲気を出すアコードだった。
二人で並ぶと背しか見分けはつかない。

「うん。ちょっと用事が長引いて。そういえばアコ姉。今日は見に行ってないんだね」

「今日は、どうしても友達の手伝いしなきゃいけなかったの。行きたかったな~」

やっぱり自分が夜で歩いているって記憶はないみたい。一体誰がこんな魔法を…
いや、魔法と決め付けるのは、まだ早い。

「あれ? トルネオ、その人は?」

「あ、此方コーデリアさん。私の友達」

「こんばんは。コーデリア・マセラティです」

一応、礼儀正しくお辞儀をしておく。人様の家では行儀正しくね。

「こんばんは。だけど、どうしたの? こんな時間に友達なんて」

「久々に会ったら、何だか話が弾んじゃって。それでもっと話したいなって思って」

「そうなの? じゃあ、晩御飯は、あたしが作るから部屋でゆっくりしときなさい」

アコードは、トルネオと大して年は違わないらしい。
私より年が下なのにこんなにもしっかりしてるなんて立派だと思った。

「お姉さん。優しそうだね」

「はい。家は母さんと父さんが小さい頃に亡くなってしまって、二人が残してくれたお金で生きてきたんです。アコ姉は、わたしを学校に行かすために、寝る間も惜しんで仕事をして、わたしの為にがんばってくれてたんです。中学生になってからは、わたしもバイトをして、家の生活費の手助けをしています。そんなアコ姉からお金を奪うなんて、そんな奴ら許せないんです」

トルネオは、アコードの話をすると、熱が入ったかのように話し出す。
それだけお姉さんが大好きなんだろう。

「ここが、お部屋?」

「はい。アコ姉と二人で使ってます」

部屋は、ベットが一つと机が二つ。後は本棚があるだけのシンプルな部屋だった。

「ベットは一つしかないので、布団を敷いて寝るのと交代交代です」

「へえ」

部屋を見渡してみても、特に手掛かりになりそうな物は見当たらない。

「ん?」

けど、机の上に、綺麗に輝くものを見つけた。

「これ、高そうだね」

「それ、母の形見なんです」

大きな、宝石がついているネックレス。軽く100万は超えそうだ。
赤いFoXが何個買えるだろう? そして、これ一つで、私は何日仕事をしないで過ごせるだろう?

「アコ姉は、これを身につけて外出するのが好きでいつも外に出るときはつけています。盗まれるかもしれないから危ないよって言ってるんですけど…」

苦笑いをしながら、この宝石について教えてくれた。確かにこんな宝石をつけて
歩いていたなら、盗人なら喉から手が出るくらい欲しいだろう。思わずロックオンしてしまう。

「晩御飯だよ~」

「あ、はーい。コーデリアさん、良ければ食べていってください」

「じゃあご馳走になります」

あまり食べたことはなかったけどたこ焼きは、美味しかった。





「ん~」

「わうわう~」

晩御飯をご馳走になって、そのまま泊まっていくように言われたけど
さすがにそこまでお世話になるわけには行かない。用事があると言って、トルネオと携帯の番号を交換して帰路についている。
ポアロはお腹が減ったのか早く帰りたそうだ。今回の事件は、未だに解決の目処が立たない。
というか、事件なのかも怪しくなってきた。盗まれたお金は精々2万。給料日前だったのが幸いしたらしい。

「…あれ? あの人…」

路上ライブがあった公園の前を通っていると、あの時に見た、高そうな腕時計をしている女性が眼に入った。
さっきとの違いは、紫のスカーフを巻きつけている。
時間は、もう夜遅い。私が言うのもなんだけど、女性が一人でウロウロするのはよくない。
いつもなら放っておくんだけど、その日は、どこかその女性が気になり、話しかけてみた。

「こんばんは」

「…?」

いきなり話しかけたせいか、かなり不審な目で見られた。

「あ、私もあの時のライブにいたんです。今日のライブもよかったですね」

愛想笑いを浮かべながら、女性に近づく。女性は最初は怪訝な顔をしていたけど
ライブの話が出た途端、眼を輝かして私に話しかけてきた。

「ええ、今日も素晴らしかったわ。それに、今日は私、メンバーの子達にお食事にまで、誘われたのよ」

女性は、この事を自慢したくて仕方ない様子で私に次々と話し続ける。

「あなたも、頑張ればメンバーに誘われるんじゃないかしら? それじゃあ私は帰るわ」

女性は、優越感に浸りながらゆっくりとした足取りで公園を出て行ってしまった。
私は別になんとかフィッシュに興味はないから、別に構わないけどね。
だけど、女性が言った食事に誘われたという言葉が頭に引っかかった。
もしかしたらアコードも、お金がなくなる前に誘われたりしてなかっただろうか?

「…聞いてみよう」

私がここで考えていても仕方がない。聞いてみる方が早いと思って
携帯を取り出し、トルネオの番号を押す。数回のコール音の後にトルネオが出た。

『どうしたんですかコーデリアさん』

「うん、ちょっと気になることがあったの」

『気になることですか?』

「お姉さんさ、あのバンドのメンバーと食事とか行ったことあるんじゃないかな?」

『食事ですか? ちょっと待ってください。確認してみます』

トルネオが、電話から離れた、アコードに確認を取っている声が聞こえる。

『コーデリアさん。何でわかったんですか? アコ姉は、確かに食事をしたことがあるって言ってます』

「わかった。ありがとう」

そのまま電話を切り、星が見える夜空を見上げる。バンドのメンバーは、黒。





その日からは、特に目立った行動が出来ない。だってバンドが活動するのは、また一週間後だ。
とりあえず私は、いつも通りにペットの行方を探しながらも、事件の謎について考えていた。
そして今日は、最近行っているカフェで考えていた。このカフェってペットOKだから、ポアロも入っていいんだよね。

「…何で、アコードが狙われたのかな~」

「わう~」

温かいコーヒーを飲みながら。ボーっと考えていた。
けれど、一向に答えは浮かんでこない。出口がない迷路みたいだ。

「もしかして、知り合いだったとか…いや、それだとトルネオが知っているはずだ」

トルネオは、知り合いだったのなら、そのことは私に教えてくれるはずだ。
それに、知り合いなら私にわざわざ依頼なんかしないで直接いくだろう。

「見た目で判断した…これも可能性としては低いな~」

見た目だけなら、前にライブに行った時にアコードにそっくりな
トルネオが声を掛けられえてもおかしくないはずだ。だけど、掛けられていない。見てなかっただけかもしれないけれど。
だけど、昨日のお客さんは、多くて見ても精々20人くらい。少しくらいなら眼に入るはず…

「だったら、特別な理由があるのか?」

何か特殊な能力があるとか…、いや、あの二人に魔力資質は、ほとんどないと昨日、携帯で確認済みだ。

「ポアロはわかる?」

「わう?」

ポアロは、のんびりと床に寝転がりながら、大きく欠伸をかいた。

「わかるはずないか」

ポアロは、普段は普通の犬と変わらない。私の言葉を理解は出来ているけど喋りはしない。

「う~。何かヒントは…」

「ごめ~ん! 待った?」

「ん?」

カフェのウェイトレスさんが、仕事を終えて、外に待っている彼氏に合流しているのが見える。

「ちょっと長引いちゃって」

「いや、全然待ってないよ」

「それじゃあ、行こっか?」

二人は仲良く手を握り、歩いていこうとしていた。

「うん。それと、その指輪似合ってるよ」

「そう? うれしいな。これ結構高かったんだ。人気だから、これつけてると金持ちと勘違いされちゃうよ」

「はは、いいじゃないか」

金持ちと勘違い? へえ、人気の商品で、それが高かったりするとそんなこともあるんだ。
…高い? そういえばアコードは、出かけるときに…

「それだ!!!」

「わうっ!?」

その言葉にピーンときた。もう思いっきり立って、膝を机の角にぶつける位。
お食事に誘われた理由。高そうな腕時計。形見のネックレス。
私は、急いでペット探しの常連に電話した。





「コーデリアさん。今日もあのライブを見に行くんですか?」

「うん」

「わん!」

あのライブから一週間経った日に、私とトルネオは、また同じ場所にいた。

「これつけて。あとこれも」

私は、ペット探しの常連のポルシェさんに電話して、貸してもらった物があった。
ポルシェさんの家は、お金持ちで、私に依頼しに来るときは、いつも高そうな車に乗ってくる。
ポルシェさんの家で飼っている、ペルシャ猫のドル君は、いつも家を脱走するらしい。
その度に、自分の部下に探させるのは悪いと思っていたらしく、そこで私みたいな便利屋に頼んだのが始まりだった。
何度か頼まれているうちに仲良くなって、電話番号の交換までしていた。
それで今日は、ポルシェさんに頼んで、かなり高そうな装飾品を5品くらい貸してもらえないか頼んだところ
快く貸してくれた。

「な、何だか凄く高そうですね」

トルネオは、キラキラと光って眩しい宝石の指輪やネックレスをつけて、緊張している。
私だってこんな高級品なんてつけたことない。壊したら弁償出来るかな…

「お姉さんは?」

「アコ姉は、今日も先週の友達に頼んで、手伝いをしてもらってます」

アコードが、ここに来ない理由は、トルネオは手を回していたんだ。中々手が早いね。

「じゃあ、行くよ」

「は、はい」

公園に辿り着くと、先週よりも多く感じるくらいの人数がいた。その中で、前に公園であった、女性が
紫のスカーフをして、来ているのを見つけた。女性も気づいたのか、こっちを見るとニコリと笑って近づいてきた。ちょっとムカついた。

「あら、また来てたんですか?」

「うん。でもあなたには関係ないでしょ?」

「そうね」

会話はそれだけだった。彼女はまた、私たちから離れて定位置に戻った。
私は気づかれないように、彼女にある仕掛けをした。
ライブは、先週と同じように始まり、先週とは違う曲を3個演奏し終わると楽器を片付けだす

「コーデリアさん。終わっちゃいましたよ」

「うん。私の考えが合ってれば、多分、何か起こると思う」

今日のお客さんの中で、目立った高そうな物をつけている人は
私たち以外は見当たらなかった。

「あ…」

紫のスカーフを巻いていた女性は、今日は何か予定があるのかあっさりと帰っていった。
その女性を見つめていたとき、後ろから肩に手を置かれた。振り向くと、いたのは、バンドのメンバーたちだった。

「何ですか?」

「君たち、かわいいね。良ければ、今日の打ち上げを一緒にしない?」

獲物はかかった。





メンバーの打ち上げは、焼肉屋で行われた。酒が入って、テンションが上がってきている。
ポアロには度々、悪いけど、外で待ってもらっている。
痩せ型で頭を金に染めている男がデ・ト。ジムにでも行っているのか、筋肉質でこれまた金髪の男が、サリン。
そして、その中でリーダー格に位置している、銀髪の男がモーガン。全員二十代。どいつも本名ではない。
雑誌とかで紹介されるイケメンに部類するのはモーガンだけかな?

「いやぁ、こんな可愛い子と、食事できるなんてついてるな!」

「そうだね。嬉しいな」

「私も楽しいですよ~」

デ・トとサリンだけがはしゃいでいる。私も酔ったフリをしながら、様子を探る。
トルネオは、早々にリタイアしている。未成年にこのお酒だらけの臭いは耐え切れなかったみたい。
私も未成年だけど、父さんの訓練のおかげで、酔いにくい体質になっている。

「モーガンさんは、飲まないんですか~」

「ああ、俺はいいから、楽しんでくれ」

唯一飲んでいないのがモーガンだった。モーガンは寝ているトルネオの
ネックレスに釘付けになっている。ちょっと探りを入れてみることにした。

「この子って、いつもこんな感じに無防備なんですよ~。私もこの子利用して、結構いい生活させてもらってるんで、良いカモなんですよ~」

その言葉を聞いた途端、モーガンは、ビックリした顔で私を見た。

「…この子の家は金持ちなのかい?」

「どこかの会社の社長の娘らしいですよ~。一緒に甘い蜜吸いますか~」

全部嘘だけどね。密かに、ポケットに入っている、カード状の待機状態のデバイス、フラッシング・ブレインに録音を開始させる。

「…君も、僕たちの計画に協力してくれないか?」

「協力ですか~」

「ああ、いい金儲けなんだけど、最近外れも多くてね。君が協力してくれれば、此方も助かる」

これだけで、十分なんだけど、もう少し粘る。

「ん~、どんな金儲けなんですか~」

「簡単だ。俺とサリンとデ・トで協力して、頭の悪い連中から金を巻き上げるだけだ。ライブを聞きに来ている奴で、金を持ってそうな奴を、こんな感じに食事に誘って、その時に、このスカーフを渡すんだ。次のライブでそれを目印にして俺たちの魔法で洗脳して、金を巻き上げる。簡単だろ?」

モーガンは、私が興味を持ったと思ったのか、急に饒舌になった。
魔法を使うという言葉に何かの引っかかりを感じる。…魔力光は…

「…あ」

「どうかしたか?」

「いえいえ! 何も!」

ここで、もう一つの気になっていたことが解けた。あの不思議に光る魔法のライト。
あれは、演奏を派手に魅せるためじゃない。魔力光を隠すための魔法だったんだ。

「でも、魔法ってどんな魔法なんですか?」

「管理局に一回、探られたこともあったんだけどな。あいつらも気づかないほどレアな魔法だ。俺たち3人がいないと発動しない魔法、インヴィテーションサウンドだ」

「インヴィテーションサウンド?」

「俺たち、3人の魔法を連結させて、発動するんだ。十分くらいで発動する。魔力量が少ない俺たちが、互いを補って発動する魔法なんだ。管理局の連中が実に来ているときは、普通に演奏するだけだけどな」

そんな魔法を考えるくらいなら、自分で、働いて金を集めれば良いのに。

「じゃあ、失敗ってのは?」

「金持ちっぽいってだけで判断しているからね。実際は金持ちじゃなかったりもするんだ。この前、凄い宝石のネックレスをつけた女もいたんだけど、全然金は持ってなくてさ。損した気分だよ。ネックレスを取ってやろうかと思ったけど、それだとさすがに次の日すぐ気づく。だから、君が協力してくれたら、この子みたいな子をライブに連れてきたくれたらいいよ。もちろん報酬も払う」

トルネオとそっくりだったのに、トルネオを見ていても気づかない。
こいつらは、金か、高そうな物しか見ていなかったわけか。間抜けなバンド

「う~ん、すみません。返事は、来週で良いですか?」

「ああ、いい返事を期待している。それと、このことは他言無用だ」

「わかりました。それと、あのライトの魔法。少し教えてもらっても良いですか?」

「ああ。メモ渡すよ」

その後、お開きになり、トルネオにスカーフを渡しておいてくれと、私に言って解散となった。
その日は、トルネオを連れて、家に帰り、アコードに連絡して、トルネオを家に泊めた。
そして、夜の深夜に、あの紫のスカーフをつけていた彼女。セルフィッシュの次の獲物も動き始めたので、映像と音声を録音しておいた。










「あの、コーデリアさん…」

あの食事会から一週間。トルネオは、一応、スカーフをしている。
私は、この一週間、モーガンから貰った魔力光を隠す魔法の練習をしていた。
案外簡単で、すぐに使用できるけど、そんなに戦闘に使える魔法じゃなかった。
そして、今日のライブには、二人と一匹じゃなくて、三人と一匹になっている。アコードも連れてきた。

「久々だから、楽しみだな~」

アコードは、久々にバンドが見れるのが嬉しいのかテンションが高い。
こんなに夢中になってくれる人がいるんだから、しっかりとバンドで食えるように頑張ればいいと思う。

「いいんですか? アコ姉を連れてきても…」

「うん。多分、これで終わりだから」

そう言うと、トルネオは、驚いたように私を見た。

「えっ!? 解決したんですか!?」

「まだだけど、これで奴らは、お終い」

自分たちで自分たちへの鎮魂歌を歌ってね。





ライブが始まって、客のテンションが上がり始める3曲目に入ろうとしたときだった。
突然、バンドのメンバーを照らしている魔法のライトが、メンバーたちを囲むように照らした。まあ、私がやったんだけどね。
さすがにメンバーたちも、馬鹿ではないみたいで、すぐに魔法をキャンセルして、魔力光を消した。

「おい! デ・ト! 何かトラブルか!?」

「いや、トラブルはないよ! 誰かが操作したみたいだ」

「何!? 誰が…」

私はゆっくりとステージに上がった。

「ゲームオーバーだね」

「手前! 何したかわかってんのか!?」

サリンが私に掴みかかろうとするが、私は手で制した。

「あまりそのライトの上を通らない方が良いよ。そのライトのおかげで見えないけど触れた瞬間に死なない程度に痛めつける罠が張ってあるんだ」

その言葉を聞いて途端、サリンは顔を真っ青にしてライトから離れた。

「いい子だ」

私は、バインドで三人を縛り上げた。なす術もなく縛り上げられる。
観客たちは、何が起こったのかわかっておらず、呆然と私たちのやり取りを眺めていた。
とりあえず、大音量で、昨日の焼肉屋のやり取りと
昨日、女性に仕掛けていた盗聴器で、女性とのやり取りも流す。女性とのやり取りは会話が少ないから
ちょっとわかりにくかったけど、十分に証拠になる。

「あんた、確かコーデリアとか言ったな。なんでこんな事した」

大音量で自分の声が流れている中、リーダー格のモーガンが、諦めた表情で、私を見つめる。

「あ、そういえば、本業を話してませんでしたね」

モーガンは、私を見続けている。





「私は、魔導師探偵のコーデリア・マセラティです」










「ご協力に感謝します」

「いえいえ~」

あの後、管理局に連絡して、すぐに3人を確保しに来てもらった。
と言っても、もう確保し終わっている状態だったので、連行するだけだったけどね。
それに、今の彼らは、傷だらけになっている。イケメンだったモーガンなんて、酷い有様だ。
あの後、アコード率いる、女性ファン全員で袋にされてしまっていた。

「あの! コーデリアさん!」

「あれ? トルネオ? お姉さんはいいの?」

結構ショックを受けたはずだ。自分が騙されていたのを知ったんだから。

「アコ姉は、大丈夫です! 寧ろ、あんな奴らのファンだったなんてムカつくー、とか言って、仕事仲間と自棄食いしてくるらしいです」

どうやら心配なかったみたい。

「今回は、本当にありがとうございます!」

「気にしないでよ。仕事をこなしただけだからね」

少し興奮した様子で、私に話しかける。

「それにしてもコーデリアさんって凄い魔導師だったんですね! あんな罠が張れるなんて…」

「罠? 何の話?」

「えっ? あいつらを捕まえたときに罠を張ったって…」

ああ、それか。

「それ嘘だから」

「…ええぇえぇええ!!!」

夜中に大きな声が響き渡る。

「で、でも! あんなに自身たっぷりに…」

「そうだね」

ハッタリは、ビビった方が負けってね。










これは後日談なんだけど
あの後、トルネオは、報酬を払いに来た。別にそこまで払わなくてもいいと言ったんだけど
お礼の気持ちと言うことで、結局5万円を頂いてしまった。
金は、持っている奴から貰う!ってお爺様は言ってたんだけどな…
アコードは、今度は、違うバンドに嵌っているらしい。今回は、メジャーで有名だから大丈夫だと言っていた。
そのバンド名を教えてもらったけど、やっぱり私は、知らなかった。
バンドメンバーの事件のことは私の手のひらより小さく、新聞に載ったんだけど、私の名前は載っていない。
…民間協力者ってなんだ…










<あとがき>
外伝…じゃなく。同じ世界で頑張っているコーデリアちゃんでした。いつもより長めになっています。スペシャル的な。
コーデリア事件簿は、実は、初期では、これを投稿しようとしていましたが、これだと
なのはssじゃなくて、魔法が使える世界の探偵なんですよね。しかもネタが少ないし…
ちなみにこれは、59話から1年後くらいの時間軸です。コーデリアもstsから関わってくるキャラになってきますんで。
では!また次回!!












おまけ


魔法紹介
インヴィテーションサウンド(Invitation Sound)
使用者:セルフィッシュ
一人では発動しない、三人で発動する特殊な魔法。
発動するまでに時間がかかるので戦闘には、全く向かない。
対象の行動を自由に操作できるが、魔力資質がない者に限るのが弱点。
唯一、認められる点と言えば、音で対象に魔法をかけるので回避しにくいところぐらい。


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