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[6363] トリッパーズ・カーニバル(主人公以外の男子全員~【真・完結】 
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/09/18 07:06
 この話は、オリ主ものです。 コレでもかってくらいオリ主です、すでに15人以上オリキャラが登場します。

 ここまで増えて原作キャラの影が薄くなっていることは作者が一番分かっています。 でも世界観がオリジナルだと面白くないとも考えています。

 何らかの二次創作じゃないとこの話はできず、リリカルなのはに白羽の矢が立ったとご理解ください。

 若干ハーレム気味です。 オリキャラの1人に女キャラ(一部除く)の好意が集まってます。

 一応そういうのが嫌いな方は注意してください。

 主人公は1人か、全員か?

 読み方によって印象が変わる奇妙な作品でしょうが、よろしくお願いします。

 キャラ設定は新キャラとか新設定がでたときとか、時々更新します。


4月10日、12,13,14を投稿
5月4日、15,16,17を投稿、チラ裏から移動
5月14日、18(いちぶ、かん)を投稿
5月17日、19を投稿、タイトル変更
5月22日、20,21を投稿
5月27日、22を投稿、ちょこっと間違えていた部分を修正
6月12日、外伝2更新、ちょこちょこ修正
6月21日、23,24,25を投稿、 行間を変えてみました。見づらいなら戻します。 サブタイを消しました。
      誤字修正しました。
7月29日、26,27,外伝3を投稿。書き忘れを追加。
8月6日、28,29,30,エピローグ投稿。 ありがとうございました。
9月13日、おまけ1を投稿、3まで予定しています。
9月15日、おまけ2を投稿、おまけ1の誤字修正、誤字報告ありがとうございました。
9月18日、おまけ3を投稿、これで完全に完結です。誤字報告ありがとうございます。



[6363] いち
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2010/04/28 22:56
 いっちねんせーになったーら、いっちねんせーになったーら、とっもだっちひゃっくにっんできるっかな?

 って歌を歌いながら、僕は小学校に入学しました。

 そういえば保育所では毎日お昼寝の時間があったけど、小学校からはそれがありません。

 お昼寝は好きなのに、ちょっぴり残念です。


「こんにちは、私が皆の……」


 先生が教室に入ってきました。

 でもクラスを見渡したとたんに顔を引きつらせています、どうしたんでしょうか?


「えーっと……とりあえず順番に自己紹介しようか? 端の机に座っている子から、最後まで行ったら次の列に移ってね」

「はい、天崎刹那、かもめ保育所から来ました。 趣味は読書、好きなものは甘いお菓子です」

「えっと……天崎君の髪の毛は……」

「地毛です」


 出席番号一番の天崎君は髪が白いです、カッコいいです、宇宙剣士サムライガーみたいです。

 それにすごく大人っぽいです、サムライガーもあんな感じです、憧れちゃいます。


「ええっと……次は?」

「アルス・エヴォリュアル、立花保育所、運動と剣術が趣味だ」

「ええっと……エヴォリュアル君の髪の毛……」

「天然です」

「ですよねー」


 先生が机に突っ伏しました。お腹が痛くなったのでしょうか?

 エヴォリュアル君の髪の毛は青くて腰まで届くくらい長いです、カッコいいです、サムライガーのライバルの蒼きナイトがあんな感じです。

 それにとっても落ち着いた雰囲気を持ってます、きっとどんな時でも冷静なんだと思います。

 このクラスには30人います、男の子が15人、女の子が15人です、指を折らなくても数えられます、そのくらいなら保育所で習いました。

 それにしてもこのクラスは外国人が多いです、お父さんが国際化が進んでるといつも言ってますが、これがそうなんでしょうか?

 男の子の中で7人が外国人です、女の子は一人だけ、バニングスさんだけです。

 男の子の方は多くて覚えられません、覚えるのは苦手です、女の子は一人だったので覚えることができました。

 それに男の子の髪の毛は皆カラフルです、赤毛とか金髪、青髪、白髪、まるで虹を見ているみたいです。

 よく見ると目の色もカッコいいです、赤色や金色、左右で違う色の人もいます。

 僕は黒髪黒目です、お父さんとお母さんも黒色です、遺伝って言うらしいです、意味は分からないけどそのうち学校で教えてくれるらしいです。

 僕の番が来ました。

 名前と好きなものを言うようです、皆順番に言っていました。

 僕の好きなことはお昼寝でしょうか?


「真塚和真です、上から読んでも下から読んでもまずかかずまです。 お昼寝が大好きです、よろしくおねがいします」


 先生が泣いています。

 やっとまともな男の子が……と呟いてます。

 挨拶を間違えちゃったのでしょうか? そういえば保育所を言い忘れてしまいました。 やり直した方がいいのかもしれません。

 でも次の人が勝手に喋り始めちゃいました。

 仕方が無いので座ります、お日様ぽかぽか気持ちいいです、このままお昼寝したいです。


「ファルゲン・C・ライデュース、得意なことは格闘で――」


 先生がまた机に突っ伏しました。

 きっと先生もお昼寝したくなったんだと思います、お日様気持ちいいですし、あったかいですし。

 お布団が無いのは寝にくいけど、この温かさならいらないと思います。

 それじゃぁ、おやすみなさい…Zzzz……




 事件です、事件が起きました。

 バニングスさんが月村さんを虐めてます、大切なリボンを無理やり取ったらしいです。

 酷いことです、人のものを取ったら泥棒ってポ〇モンで言ってました。

 止めないといけません、ちょっと怖いですけど同じクラスの仲間です、ケンカするより仲良くしたいです。

 恐る恐る近づいて声をかけることにします、大丈夫です、通学途中にある家で飼っているでっかい犬よりは怖くありません。


「えーっと、そのぉ」

「何よ!」


 バニングスさんの手が空を斬りました。

 もう少し僕が近づいていたら当たっていたかもしれません、バニングスさんの怖さはでっかい犬よりも上になりました。

 バニングスさんならきっと一発であの犬を倒せるに違いありません、それくらい今のバニングスさんは怖いです。

 クラスメイトがこんな雰囲気をしているのは嫌です、早く元に戻って欲しいです、みんな仲良くが一番です。

 こんなのは悲しいです、ちょっぴり涙が出てきてしまいました。

 そんな時、一人の影が僕の横を通ってバニングスさんに近づいていきます、それは高町さんでした。

 高町さんも怖い顔をしています、けどただ怖いだけじゃなくて、こっちの怖いは怖くありません。

 怖いけど力強くて、すごく真剣で、とても頼りがいがあります。

 そんな高町さんはバニングスさんの頬を引っ叩きました。

 バニングスさんは床に倒れて、叩かれた頬に手を当てながら高町さんを睨みつけます。

 そんなバニングスさんを立ったまま見下ろしながら、しっかりと眼を見ながら、お母さんが言い聞かせるように言いました。


「痛い? でも、あなたに大切な物を取られたすずかちゃんはもっと痛いんだよ」


 すごく大切な言葉です、僕に向けて言われた言葉じゃ無いけれど、僕はきっといつまでも覚えていると思います。

 高町さんがバニングスさんに手を差し出すと、バニングスさんはその手をしっかり握って立ち上がりました。

 そして月村さんに謝りながらリボンを返します、月村さんもバニングスさんを許してあげてこれで一件落着です。

 やっぱり怒ったり泣いたりしているより、皆笑っているほうがうれしいです。

 僕も自分の席に戻ろうとして――


「ちょっと待ちなさい」


 バニングスさんに首を捕まれました。

 思わず 「ぐえぇ」 って声がでました。

 その声に気がついたバニングスさんは手を離してくれました。

 何の用でしょうか? 仲直りは高町さんがやってくれたし、月村さんも許してあげてるし……


「さっきは悪かったわね、あんたも止めようとしてくれたんでしょ?」


 バニングスさんは止めようとした僕に手を上げたことを謝ってくれました。

 僕も許してあげました。

 ごめんなさいと言ったら許してあげる、いつもお父さんはそう言っています。

 そして仲直りしたら友達になれるとも言っています、だからきっとバニングスさんとも友達になれます。


「アリサでいいわよ、和真って呼ぶから」

「わたしもすずかで、よろしく、和真君」

「皆友達だね! 和真君、私もなのはって呼んで欲しいの」


 今日は3人も友達ができました、とっても嬉しいです。

 百人はすごく大変そうだけど、できるだけいっぱい友達をつくりたいなぁ。








「真塚君、バニングスさん、高町さん、月村さん」

「先生! いつの間に?」

「扉の隙間からずっと見ていました。 その友情はかけがえの無いものです、いつまでも大切にしてください」

「「「「はい」」」」

「よし、それじゃぁ授業を――」



「何なんだアイツ」

「あんなの原作には……」

「介入すべきだったのか? でも下手したら……」

「3年になるころには離れるか?」

「原作さえ始まれば……」


「男子たちの悪意が真塚君に向いてる! 先生のクラスで虐めは許しませんよ!」



[6363] にわめ
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/02/20 20:16
「さて、それでは第二回、チームTRIP活動会議を開始します」


 白髪の少年がそう宣言するとパチパチとやる気の無い拍手が起こった。

 ここは海鳴郊外にある廃ビル、時刻は深夜、そんなところに小学生ほどの人影が14人もそろっていた。

 こんな時刻に、そんな場所に、そんな年齢の子供が、こんなにたくさんいる。

 はっきり言って異常だが、彼らは自分達の意思で此処に集まっていた。

 その目的は……話し合いである。

 彼ら14人が小学校に入学して初めて顔をあわせたその瞬間、まるでお互いに電流が走ったような感覚がした。

『こいつらは、自分と同類だ』

 そう、彼ら14人はトリッパーと呼ばれる、いわゆる現実の世界からやって来た者たちだった。

 ちなみに、15人中14人が来訪者なのだから最後の一人である真塚和真もそうなのではないかと言う話は当然上がったが、仲間の一人がさり気なくデバイスで嘘発見器の真似事をしても反応なし、シロという結論だった。

 こうして彼らのクラスで和真だけを除外して、来訪者によるリリカルなのはの世界をよりよくする会、長いしトリッパーの集団だからチームトリップでいいんじゃね?

 いやいや、それならかっこよく英語でTRIPだろ。

 という集団が出来上がった。


「司会はこの俺、天崎刹那が取らせてもらう。 まずは第一回のおさらいだが……」

「微妙に失敗しちまったなぁ」

「特に介入せずになのは、アリサ、すずかに友達になってもらうはずだったのに」

「何かもう一人付いた」


 この会議が行なわれる前、第一回の議題、それはアリサによるすずか虐めをどうするかだった。

 結論は放置、酷いように思えるがこのイベントが無ければ3人は友達になれない、必要なことだと割り切ることになった。

 目論み通り3人は友達となったが……なのはの前にアリサを止めようとした和真も友達になった。

 真塚和真という人物は原作には出ていない、完全なイレギュラーである。

 原作どおりに進まないならこれからの対応を難しくなる、それをどうするかが第二回会議の議題だった。


「で、何か意見は?」

「……(無言で手を上げる」

「ファルゲンか、どうしたらいいと思うんだ?」

「放置してもいいんじゃないか?」

「その根拠は?」

「真塚和真という人間がリリカルなのはにいないのは確かだが、もしかしたら映像に出ていないだけで実はいたのかもしれない」


 つまりはこういうことだ。

 3人が友達になるイベントの時、和真は確かに存在した。

 しかしこれから2年間過ごすうちに関係が薄くなり、和真が引っ越すか何かでいなくなって完全に友達としての縁が切れる。

 そうして友達は3人だけとなり、なのはが思い出を語るときには既にいなくなった和真を除外して3人だけの思い出が映像化された。


「ありえなくは無いが、なのはが友達を忘れるってのはなぁ……」

「そうでなくても本編に登場しないから脚本家によって存在を抹消された可能性だってある」

「脚本家ってそんな身もふたも無いようなことを」

「それに下手に引き剥がしてアリサに嫌われるのが辛い……」

「ああ、ケンカを止めなかった俺たちへの女子の視線、キッツイからなぁ」


 彼ら14人は、基本的にクラス中の女子から嫌われていた。

 女の子が虐められていたのに傍観していた。 自己紹介でカッコいい事を言っていた割には何もしなかったヘタレども。 見た目と名前だけヒーローのチキン野郎ども。

 それを見返すためにチームTRIPイメージアップ作戦ということで14人そろってテストで100点を取ったり、体育でぶっちぎりの活躍をしたりした。

 が、すべて逆効果に終わった。

 それだけのことが出来るなら何故あの時アリサを止めなかった? と言われては言い返すことが出来ない。

 そして一度本気を見せた以上、普通レベルに落としたら手を抜いていると一発でばれてしまう。

 行くも出来ず引くも出来ず、小学校という生活空間ではなんとも居心地が悪くなってしまったのだ。


「まぁ、本編開始まであと2年あるんだし、ゆっくりと印象を戻していこう」

「はぁ……」

「どうした? 烈火」

「いや、もう別にいいかなぁ~って思ってさ」

「何が?」

「別に俺リリカルなのは好きじゃねぇんだよ、オタクの友人に無理やりマラソンで無印からStsまで見せられて、無理やり土産にDVD持たされて、朦朧とした意識で横断歩道渡ったら赤で、気がついたら神尾烈火とかいうガキで」

「ああ、お前は介入反対派だったな」

「ぶっちゃけPT事件と闇の書事件が無事終わってくれりゃ後どうでもいいのよ。 理不尽な死に方で途絶えた生を取り戻したいだけなの」

「あー、あるある、俺は折角若返ったんだから可愛い彼女作りたいけど、別に原作キャラじゃなくてもいいし」

「俺も俺も、俺って戦闘機人だし、Stsまで原作キャラについてったらマッドドクタースカになんかされそうで怖いし」


 チームTRIP14人中3人は介入反対派だった。

 いちいち危ないことをして怪我するよりも折角手に入れた二度目の生を謳歌するという選択をしたいのが彼らだ。

 介入賛成派はあまりいい顔をしない、力があるのだから原作よりいい世界にすべきだと言うのが賛成派の意見だった。

 主にプレシアとかリインフォースとか

 ただ、時の庭園最終決戦で下手したらプレシアに巻き込まれて次元の海に散る可能性があるのも事実、闇の書事件でも死ぬ可能性満載だ。

 無理に参加を促すこともできない、そこまで強制するのは同じ来訪者仲間としてしたくない。


「嫌なら無理強いはしないが、何かあったら連絡を入れること。 チームメンバーに無断で原作介入行動はしない、魔法仕様も厳禁だ。 目の前でジュエルシードが暴走したとかなら例外だけどな」

「闇の書っていえばさぁ」

「?」

「はやてとはいつ接触するの? ヴォルケンズにいい印象を持ってもらうためにも早めに付き合いを開始した方がいいと思うけど」

「そうだな、病院か図書館で張り込んで――」

「無理だ」

「??」


 刹那がはやて対策を提案しようとしたら一人がそれを中断させた。

 全員がその人物に注目する。

 彼は深い溜め息をついて頭を抱えながら自分の取った行動を語り始めた。


「俺どうしてもはやてに会いたくてさ、図書館で待ち伏せしたんだよ」

「勝手な行動はルール違反だぞ、 『村田大介』 君」

「昔の名前で呼ぶな! 今は竜宮カムイだっての! 結構キッツイな、このルールを破ったら昔の名前で呼ぶ刑、今の名前とギャップがある程何か惨めになるし!」

「まぁまぁ、それで」

「先生から親に電話があった。 カムイ君が学校に来ていませんって……」


 沈黙がその場を支配した。

 カムイはもう一度深く溜め息をついて、他の13人は何と反応したらいいか困ってしまう。

 考えて見れば当然の結果だ。

 小学生が行方不明になったらまず教師から親に連絡が行く、そして次に大人を駆り出して町内大捜索をする。

 見つからなかったら最悪警察沙汰に、見つかったら拳骨、説教、外出禁止、お小遣いカットのフルコースが待っている。


「小遣いが月300円になった……何を買えるんだよこれで」

「それは……気の毒に」

「半分は自業自得なんじゃ?」

「それで、お前たちの中で学校サボって図書館通いを許してくれそうな親は?」


 全員が現在の自分の親の姿を思い描き、学校に行かず図書館に行きたいと言ったところを想像し、一斉に首を振った。

 彼らの親は皆いい人たちだ。

 明らかに怪しい存在を愛情を込めてここまで育ててくれた、文字通りもう一人の親。

 こんな優しい親に心配事をさせるわけにはいかない、学校に通い始めて一年目から登校拒否になったらどれだけ心配するだろうか? しかも学校自体には何の問題も無いのに。


「14人もいるのに何故か親無しがいないんだよな」

「両親がミッド組の奴は下手にはやてと接触したらグレアムが圧力かけてくるかもしれないし」

「待ち伏せするなら地球組、連休か夏休みを狙おう。 そこなら図書館に篭りきりでも問題ない」

「今日のお題はこれで終わりか? 明日も学校があるし、そろそろ解散しようぜ」

「そうだな、あんまり長く家から離れてると親に気づかれるかもしれないし」

「小学生って予想以上につらいな」


 魔法を使える人間は転移魔法で、そうじゃない人間は転移できる人間が家に送る。

 今回の司会を務めた天崎刹那は魔導師なので自分の転移で帰るのだが、ふと思うところがあって自宅とは別の場所に転移した。

 現れたのは真塚家上空、住所録を読んで場所は確認したし、表札にも真塚と書かれているので間違いない。

 時刻は深夜、電気も消えているし寝ているのだろう。

 まぁこんな深夜に様子を見て何かが分かるものでもない、自分でも何をしているんだと言い聞かせて、改めて自宅に帰ろうとして――


「なん…だと…?」


 刹那は、あるものを見つけた。

 そして次の日にチームTRIP第三回会議を行なうことをメンバー全員に念話で伝えたのだった。







チュン、チュン
ジリリリリリリリリリッ!


 スズメさんの声が聞こえます、続いて目覚まし時計の音も聞こえてきました。

 パチンと目覚まし時計の頭を叩いて音を止めます、でも布団から出ることができません。

 気持ちいいです、このままお昼ねしたいです、朝だけど、むにゃむにゃ


「和真、朝よ、起きなさい」


 お母さんが起こしに来ました。 でも今だけはお母さんじゃありません、悪の宇宙人の侵略です。

 頭まで布団に潜って抵抗します、僕は亀さんになります、布団じゃなくて甲羅です。

 いつものお母さんなら無理やり布団を取るのにしてきません、なんででしょうか?

 寝てもいいんでしょうか?

 だったらお言葉に甘えます、まるで巻き寿司のように布団に包まって、このまま――


「今日から友達と登校するんでしょう? 早く起きないと友達を待たせちゃうわよ」


 そうでした、今日からなのは、アリサ、すずかと一緒に学校に行くのです。

 家の場所が離れてるから学校に行く途中の道で合流だけど、友達を待たせるわけには行きません。

 女の子を待たせるのはよくないってお父さんが言ってました。 お母さんはあなたが言えたセリフですかって言ってました。

 布団から飛び出て着替えます、小学生だから一人で着替えるのもへっちゃらです、けど今の季節はまだ寒いです。

 布団に戻りたくなるのを我慢して一気に着替えます、上着まで着たら寒くなくなりました。

 ふでばこよし、体操服よし、不審者撃退のたまご君よし、一つ一つ指差し確認して全部良し!

 鞄を持って台所に向かうと、お父さんは先に朝ごはんを食べていました。

 新聞を読みながらは行儀が悪いといつもお母さんに言われてるのに、お父さんは変えようとしません。 今日もお母さんに怒られてます。

 僕もイスに座ってトーストに齧りつきます、この食パンはとっても美味しいです、翠屋ってお店の限定品らしいです。

 お母さんはそこのお母さんと仲良しらしいです、今度そのお店のお母さんと僕と同じ年の女の子が遊びに来ることになってます。

 とってもいい子で、きっと仲良くなれるといってくれました。 とっても楽しみです。

 そんな子ならきっと――


「ほな、先にごちそうさまです」

「食器はそのままでいいわよ、私がやっておくから」

「いや~ご飯食わしてもろうとる立場としてはやっぱり片付けくらいはせんと……」

「そんな! あなたが引っ越してきた時から隣同士で、3歳の時からずっと和真といっしょにいて、もう兄妹みたいなものなのに……そんな他人行儀な」

「貯金だって結構ありますし、やっぱりお金くらいは」

「子供を育てるのは大人の楽しみなんだから、そんなの気にしなくていいの。 そのグレアムさんという人のお金は大人になるまで取っておきなさい」


 そんな子ならきっと、はやてとも仲良しになれるはずです。

 お父さんとお母さんが死んじゃって、足も悪くなったはやては小学校に行くことができません。

 そんなの悲しいです、何とかしたいです、寂しい顔よりも笑ってる顔の方がいいです。

 だから小学校に行く時に決めました。

 百人は無理でもいっぱい友達を作ります、そして家に遊びに来てもらいます、その時はやてを紹介したら……はやても友達いっぱいになります!

 そうしたらきっと寂しくない、それにはやてが元気になって学校に行けるようになったらいきなり友達いっぱいです。

 今度のお休みになったら3人を家に招待します、みんないい子です、はやてもと仲良しになれます。

 だから今日も元気よく、家中に響くくらい大きな声で


「いってきまーす!」







読書感想文 題材『かわいそうなぞう』

ある生徒の感想文の冒頭
この話は戦争の悲劇と苦しみを後の世に伝え、その悲しみが(以下略


 溜め息をついて机に突っ伏した。

 バサバサと机に積み重ねてあったプリントが床に落ちるが拾う気力が出ない、同僚の先生に注意されるまでそのままだった。


(こんな作文を小学校一年のコンクールに出せるわけ無いじゃない、けど全員分提出が義務だし……)


 おそらくぶっちぎりで最優秀賞確定だろう、が、同時に生徒の作文に教師が手を出したと疑われそうで怖い。

 しかもこんな作文が後13人分存在するのだ。

 そういえば、昔テストの時に生徒に答えを教える教師の問題が新聞に載ったことがあった。

 あの教師は結局どうなったんだろうか? 懲戒免職? 教員免許剥奪? よく覚えていない。

 作文なんてそんなに重要でもないし、何かあったとしても多分それよりは軽い処分になるだろうが……


「はぁ……落ちたプリント拾わなきゃ」


 そう自分に言い聞かせて床に手を伸ばし、一人の作文を見つけた。


かわいそうなぞう  まずかかずま
ぞうさんがとってもかわいそうです。 どうぶつえんから出られないのにせんそうのせいで(以下略



「もしもし、おばあちゃん? うん、私、急におばあちゃんの声が聞きたくなって……うん、うん、大丈夫、私ちゃんと小学校の先生やってるよ、うん、小学生の先生を……ね」



[6363] さーん
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/02/07 02:21
将来の夢 真塚和真
僕は将来


 そこまで書いたけど、これ以上続きが思い浮かびません。

 将来、未来、大人の自分、僕はいったい何をしているんでしょうか?


「あんたも書けてないの?」


 鉛筆を指でくるくる回しているとアリサが話しかけてきました。

 それに気がついたなのはとすずかも僕の席の近くに集まります。

 僕も、ということは他にも書けてない人がいるわけで、席に近づいてきた3人の顔を見ると誰が書けていないかすぐにわかりました。

 なのはが少し浮かない顔をしています、きっと僕と一緒で将来のイメージを思い描けないんだと思います。


「なのはちゃんは翠屋を継ぐんじゃないの?」

「うん、多分そうなんだけど……本当にそれでいいのかなって」


 すずかの質問にもうまく答えられないようです。

 どんな未来がいいか? ならすぐにでも答えることが出来ます。

 みんなが笑顔で、みんなが元気で、みんなが幸せな未来がいいに決まっています。

 でもそんな未来に辿り着くため、自分に何が出来るのかが僕にはわかりません。

 僕はすずかみたいに運動ができるわけじゃないし、アリサやなのはみたいに得意な勉強があるわけじゃないです。

 そんな僕が出来ること……


「天崎君は将来なにするの?」


 自分で考えても思い浮かばないので隣の席の天崎君に聞くことにしました。

 天崎君は一年の時から同じクラスです、というか30人中男子の15人となのは、アリサ、すずかの3人の女子

 つまり18人が三年生になった時のクラス替えでもバラバラにならずに固まったままでした。 ついでに先生も一年のときからずっと同じ先生です。

 三年生になった最初の授業で、教室に入ってきた瞬間に先生が倒れたのはよく覚えてます、先生には体に気をつけて欲しいです。

 ずっと同じクラスでも、話題が無かったらクラスメイトと話すことってそんなに多くないです、その点席が隣の天崎君は結構会話することが多いです。

 天崎君はいい人です、教科書を忘れたら見せてくれるし、難しい問題は一緒に考えてくれます。

 けど、天崎君は友達になってくれません。

 あくまでクラスメイトなんです、なんだか僕と距離をとろうとしています、僕のほうから話しかけないと基本的に何も答えてくれません。

 一度刹那と呼んだことがあります、友達になりたいという気持ちを込めて呼びかけました。

 返事は拒否でした。

 天崎と呼ぶように釘を刺されました。 友達になるつもりは無いと言われました。

 アリサは天崎君を嫌っています、友達になりたくないと言う奴を無理に友達にしなくていいと言いました。

 でも天崎君は時々うらやましそうに、見守るように僕達に視線を向けています。

 目線が合うと急いで視線をそらしますが、間違いなく心では友達になりたがっているはずです。

 だから、今日も僕は天崎君に声をかけます。


「俺? 何も考えてないから、今がよければいいし、じゃあ俺は帰るから」

「なによ、参考にならないわね」


 アリサはちゃんとした答えを出さない天崎君に不満のようです。

 すずかは軽い考えに苦笑し、なのはは自分の答えの参考にならず少し落ち込みました。

 結局いつまでも学校に残っても仕方が無いので僕達も帰ることにしました。

 学校を出るまでの間、妙に天崎君が最後に見せた表情が気になりました。

 あの顔は……なのはを守ろうと不良の前に立ちふさがった恭也さんと同じ顔でした。






「あれ? 声が聞こえる」


 公園の近くを通りかかったらなのはが急に立ち止まりました。

 キョロキョロと周りを見ながら公園の中に入っていき、傷ついたフェレットを見つけました。

 元気が無いです、このままだと死んじゃうかもしれません。

 いそいで動物病院に連れて行きます、死んじゃうのは駄目です、それだけは絶対にだめです。

 フェレットを抱えて走り動物病院に辿り着きました。

 幸いにも他の患者の動物はいません、これならすぐにお医者さんが診てくれます。

 診察台の上に寝かされたフェレットを心配そうに見つめます、すごく苦しそうだけど大丈夫でしょうか?

 お医者さんは色々とフェレットに触ったり聴診器を当てたりして調べていましたが、やがてにっこりと微笑んでくれました。

 このフェレットは心配しなくていいそうです、けど一応入院して様子を見るらしいです。

 安心しました。 みんなもほっとしています。

 明日また、みんなでフェレットの様子を見に来ることにしました。

 元気になってるといいな。






「へぇ~、そんなことがあったんか」

 家に帰って今日のことをはやてに話しました。

 小学校に入る前に悪くなったはやての足は、まだ治っていません。 むしろ悪くなっています。

 けどはやてはそれを顔に出しません、心配かけまいと空元気を出してます。

 それに気がついているからお父さんとお母さんも何も言いません、はやてはやさしいから、心配されていると分かると元気がなくなってしまうのです。


「でもまぁ、フェレットをうちで飼うこともはできんな。 うちはシロがおるし」


 はやてがシロという言葉を言うと同時に、廊下からトコトコと足音が聞こえてきました。

 次に扉の向こうからワンワンと鳴き声が聞こえてきます、どう聞いても犬です。

 僕とはやてはちょっとだけ顔を見合わせ、同時に笑いました。

 扉を開けるとちょこんと小さなオスの犬が座っています。 ふわふわの毛が可愛いです。

 去年のはやての誕生日に、お父さんが連れてきた新しい家族です。

 ふとはやてが呟いた 「犬ってかわええなぁ」 で購入を決定したらしいです。 犬の色とか種類はお父さんの趣味です。

 そんなシロは甘えん坊で名前を呼んだらすぐにやってきます。 名前じゃなくてもシロという単語が入っていればとにかくやってきます。

 お座りしているシロを抱きかかえてはやての膝に乗せてあげます。はやては膝に乗せたシロを撫でるのが大好きです。

 僕もたまに一緒に寝たりします。 あったかくて気持ちいいです。


「アリサちゃんちは犬がいっぱいおって、すずかちゃんちは猫がいっぱいおるし、飼うのはなのはちゃん?」

「なのはの家は翠屋だし、食べ物のお店はそういうのに厳しいって聞いたことがあるよ」

「そっかぁ、なら飼い主募集かな? みんなでポスター作ることになるかもなぁ」


 ふと作文のことを思い出しました。

 はやてには、将来の夢はあるんでしょうか?


「将来かぁ……足が治ったらやけど、保母さんなんかええかもな」

「保母さん?」

「そう、和彦さんと真子さんのおかげで大人から子供に与えられる物ってのを感じてな、わたしもそういうことができたらなぁ~って」


 すごいです、はやてがそういうことを考えているなんて始めて聞きました。

 ちゃんと将来のことも考えています、僕の方は……


「あ、ちゃんと和真からも大事なもんいっぱい貰ったよ? それに今も貰い続け取るし」


 少し考え込んだら、はやてに変な誤解を与えてしまいました。

 僕ははやてに何かをあげれているんでしょうか? それではやてが喜んでくれるなら、とっても嬉しいです。

 お母さんの晩ご飯に呼ぶ声が聞こえたので台所にいきました。

 晩ご飯のカレーは美味しかったです。






 晩ご飯を食べて、宿題を終わらせて、ちょっとだけはやてとゲームして、お風呂に入って、あとは寝るだけになりました。

 今日は僕がシロと寝る日です、昨日ははやての番だったから今日は僕であっています。


「シロ~」


 ……来ません。

 おかしいです、呼んでも来ないなんて一緒に暮らし始めた直後だけです。

 耳をすましても足音が聞こえません。 何があったのでしょうか?

 探してみると玄関の扉が開いていることに気がつきました。

 誰も外には出ていないはずです、シロでは扉を開けることは出来ません、ならなんで開いているんでしょうか?

 靴を履いて外に出てみます、やっぱりシロの姿は見えませんし、だれもいま――

 気がつくと家の前とは別の場所にいました。 ワープ? 瞬間移動?

 意識を失う前に何かが当たったような気がしました。

 でも体は痛くありません、それよりもなんだか疲れています、運動した覚えもありません。


「わん!」


 近くにシロがいました。 シロと一緒に移動したのでしょうか? シロのいるところにワープしたのでしょうか?

 とりあえず海鳴ということは分かりました。 何となく見覚えのある場所が遠くに見えます。

 たぶん歩いて帰れます、心配させちゃいけないし早く帰らないといけません。


「シロ、帰るよ」

「わん?」


 シロは宝石みたいなものをくわえていました。

 なんだか高価そうです、こういうのは交番に届けないといけません。

 そう思っていると突然その宝石が輝き始め……シロの体が見る見る大きくなっていきます!

 すごいです! 生命の神秘です!

 シロは一年たっても小さいままでしたが、ついに成長期に入ったようです。 犬の成長期ってこういう風に大きくなるって初めて知りました。

 きっとお父さんに頼んで少し高価なドッグフードに変えたのが良かったんです、これなら散歩の時に大きい犬から隠れる必要はありません。

 大きくなったシロは僕の顔をペロペロなめてきます、いつも僕がシロを撫でてるからきっとそのお礼です。

 これだけ大きいなら背中に乗れるかもしれません、気分は金太郎です、クマじゃなくて犬ですけど。

 はやてにも見せたいです、足の動かないはやてがシロの背中に乗ったら楽しく散歩できます。 きっとはやても喜ぶでしょう。

 僕を背中に乗せたシロは振り落とさないようにゆっくりと、それでも体が大きいから結構速いですが、家に向かって歩き始めました。









「これは……予想外だった。 こうなったら――」

「そうか? 俺は結構予想できたがな」

「お前は!?」

「これ以上、真塚和真に手出しはさせないぜ。 アルス・エヴォリュアル」

「やっちまえばこっちの物だ。 邪魔はさせないぞ、天崎刹那」



[6363] しー
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/02/07 20:52
 大きくなったシロの背中に乗って夜の道を進みます。

 初めはどこか分からなかったけど、シロはちゃんと家に向かっています、犬の帰巣本能はすごいって、この前テレビでやっていました。

 今の位置から家まであと10分くらいでしょうか? シロのスピードが速いので思ったよりも時間がかかりません。

 ふわふわのシロの背中は気持ちよくて、このまま寝てしまいそうです。

 でもちゃんと布団で寝なさいっていつも言われてます、だから我慢です。

 そのうち動物病院の近くまで来ました。

 ここは昼間フェレットが入院したはずです、あのフェレットは元気でしょうか?


「うわ、おっきい犬! って、和真君?」


 女の子の驚く声、見ると茶色い髪の見知った顔がありました。

 なんでなのはがここにいるのでしょうか?

 不思議に思ったけどなのははそれどころじゃありません、大きくなったシロを見ながら驚いています。

 とりあえず僕に起きた簡単な説明をしました。

 気がついたら家から離れていたこと、シロが大きくなったこと、今帰る途中なこと。

 そうすると落ち着いたなのはも何故此処にいるかを説明してくれました。

 なのはは昼間のフェレットに呼ばれて此処に来たらしいです。

 すごいです、なのははフェレットとお話ができます。

 なのはは少し照れたみたいです、そんななのはの顔をシロがなめました。

 いきなりで驚いたみたいですけど、すぐに笑いながらシロに抱きつきました。

 なのはもシロの背中に乗ってみます、このまま家までの帰り道を通れば動物病院の前まで行くことになります。 なのはをそこまで送っていくことにしました。

 それにフェレットの様子は僕も気になります。

 もしかしたら何か大変なことになっているのかもしれません、なのはの話ではフェレットの声は切羽詰っていたらしいです。

 少し急いだおかげですぐに動物病院に辿り着きました。

 シロの背中から降りて扉を開けようとしますが……開きません。

 鍵がかかっています、今は夜ですし、考えてみたら当たり前です。

 どこか入れる場所は無いでしょうか? でも勝手に入るのはよくない事も確かです。

 入りたいけど入っちゃいけない、けどフェレットの様子は気になるし……

 二人で考えていると、動物病院の中からカタカタと音が聞こえてきました。

 なんでしょう? 中にいる動物の音でしょうか?

 そう思っていると窓が開きます、少しばかり開いたその隙間からフェレットが出てきて地面に着地しました。


「ふぅ、やっと抜け出せた。 早くジュエルシードを探さないと」


 すごいです、僕にもフェレットの声が聞こえました。

 なのはも聞こえているようです、ということはこのフェレットの声は誰にでも聞こえるのでしょうか?

 もしかしたら僕はすごい思い違いをしていたのかもしれません、つまりフェレットは元々お話が出来る生き物だったのです!


「和真君、さすがにそれは……」

「こんにちはフェレットさん、お名前を教えてください」

「あ、こんにちは、僕はユーノ・スクライアって、うわ! ジュエルシードの暴走体!」


 フェレットの名前はユーノ・スクライアというらしいです。

 きっと外国から来たんでしょう、外国人っぽい名前だし、ユーノが名前でスクライアが苗字です。

 ユーノはシロを見ながらなんだか慌てています。

 危ないとか危険とか離れろとか、きっとフェレットだから犬が苦手なんです。

 シロは危なくないとユーノに説明してあげます、僕とシロはとっても仲良しでずっと一緒にいる、怖くなんか無い、ユーノとも仲良くなれる。

 その証拠にシロは人に噛み付いたことなんて一度もありません、手を出したら指先をペロペロなめます。

 今は大きくなっているので頭をなめますが、とっても可愛いです。


「このままでは彼が危ない! 食べられてしまう! 僕は今戦えないし、そこの子、これを受け取って」

「え? え? うん、何これ?」

「それを持って、僕の言葉を繰り返してほしい。 我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を――」

「え~っと、我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を解き放て――」


 ユーノがなのはに赤いビー玉みたいなものを渡しました。

 あれは何でしょう? 今唱えている呪文みたいなのは何でしょう?

 すごく気になります、ドキドキしながら何が起きるのかを待ちました。

 シロもちゃんとお座りをして待っています、そういえばサムライガーの後番組 『魔法のメイド、マジカル咲夜』 でこんな感じの呪文を唱えていたような気がします。

 と、いうことは……変身でしょか?

 やっぱり変身するんでしょうか? 杖を持って空飛んで、みたいなのに。


「レイジングハート、セットアップ」

「レイジングハート、セットアップ!」

『Stand by ready. Set up.』


 すべての言葉を言い終わると、なのはの体が輝きだしました。

 光が収まった時には服が変わっています、聖祥小学校の制服、とは少し違うけど似ています。

 手にはピンク色の杖を持っています。 その代わり赤い玉が消えてます。

 これはやっぱり魔法使いです、すごいです、やっぱりなのはは魔法使いになったんです。

 きっとこれから困っている人を助けたりするんです、ユーノ君はマスコットです。


「さあ! レイジングハートをその犬に向けて」

「う、うん」

「わん?」


 なのはが杖、レイジングハートの先をシロに向けました。

 何をするんでしょうか? シロもきょとんとした顔でそれを見ています。


「ジュエルシードを封印するんだ!」

「ジュエルシード、封印!」


 なのはが叫ぶと、シロから宝石みたいなものが離れました。

 さっきシロが飲み込んだやつです、するとシロの体がどんどん小さくなります。

 あっという間にシロの体はいつもと同じ大きさになりました。

 これじゃぁ背中に乗れません、少し残念です。

 でもあんまり大きかったらシロを抱きかかえることが出来ません、それが出来ないのもちょっと勿体無いので、名残惜しいけど元の大きさで納得することにしました。

 それにしても、あの宝石がシロから抜けたら元の大きさに戻った。

 ということは、シロは成長期じゃなかったということでしょう、あの宝石のおかげで大きくなれていたみたいです。

 宝石ってそんなに栄養があるんでしょうか?

 ユーノはアレのことをよく知っているみたいだし、どこで売っているか教えてくれるかもしれません。


「ありがとう、君たちのおかげでジュエルシードの封印ができたよ」

「あの宝石はジュエルシードって言うんだ? どこでもらえるの?」

「うん、私も知りたい。 ユーノ君が何者なのかとか、何でシロが大きくなったのとか、色々教えて欲しいの」

「ええっと、僕は別の世界で遺跡発掘をしていて――」






 時間はシロが巨大化し、和真が家路についたところに巻き戻る。


「これ以上、真塚和真に手出しはさせないぜ。 アルス・エヴォリュアル」

「やっちまえばこっちの物だ。 邪魔はさせないぞ、天崎刹那」

「ジュエルシードの発動は防げなかったが、真塚和真の人徳のおかげか大人しいものだ。 下手に刺激を与えられても困るし、ここで退場してもらう」

「お前を倒してすぐに追いかければまだイベントには間に合う、潰させてもらおう」


 刹那とアルスは同時に手を動かし、同時に自分のデバイスを取り出した。

 刹那のデバイスはカード、普段は財布の中に入れていてテレホンカードやレンタルビデオの会員カードと混ざっている。

 ある意味考えられない偽装工作だが、一般社会で違和感無く持ち歩くには、ある意味完璧な偽装工作だった。

 財布からデバイスだけを取り出して、財布そのものはポケットに戻す。

 現在のデバイスは待機状態、戦闘形態にするため、刹那はその言葉を口にする。


「永瀬一号、セットアップ!」

『Redy』


 刹那のデバイス、永瀬一号の形が杖に変化する。

 特に特徴の無い、デバイスと言ったらまぁこんな形なんじゃね? とでも言われそうな平凡な杖だった。

 同時に刹那の服も変化し、トレーナーにGパンという格好は一瞬にして上下とも黒いジャージ姿になった。


「スラッシュハート、セットアップ!」

『Let's go』


 アルスのデバイスは剣の形をしたペンダントだった。

 それを握ってキーワードを唱えることで刃渡り一メートル以上の本物の剣になる。

 ベルカ式カートリッジシステムを搭載したアームドデバイス、シグナムのレヴァンテインを模したことが一目で分かった。

 同時に青い鎧姿になる、鎧といっても中世のナイトのようにガチガチな格好ではない、性能よりも見た目を重視したことがはっきりと分かる、頼りない装甲だった。


「相変わらず恥ずかしい格好だな、住田厚司君」

「そっちこそなんだ? デバイスの名前とジャージ、センス無いぞ、永瀬タクマ君」

「この格好が動きやすいんだよ。 それに俺は昔の名前の方が好きなんだ。 せめてデバイスにつけてもいいだろ」


 二人はデバイスを構えたままジリジリと距離を測り、同時に空中に飛び上がった。

 二人とも空戦魔導師なので空を飛ぶことは出来るが、刹那の方がやや空中機動は得意だった。

 アームドデバイスのアルスに接近戦を挑むことを良しとしない刹那は出来る限り距離をとらなくてはならない、一定の距離を維持している間は射撃魔法で有利に戦えるからだ。


「弾幕、通常弾、直射と曲射を適当に混ぜてばら撒け!」

「フォトンスラッシャー!」


 アルスが剣を振るうと、その軌跡に沿って発生した魔力の刃が刹那に襲い掛かる。

 しかしその斬撃は直線に放たれた4発の魔力弾と接触して相殺される、そして同時に発射された6発の曲射弾がアルスに向かって襲い掛かった。

 その攻撃をアルスは前に出て避ける、もとより接近戦に持ち込まないとアルスに勝ち目は無い、それなら多少のダメージを受けても突っ込んだ方がいいと判断したらしい。

 少しだけその戦法に驚いたが飛行速度は刹那の方が速いことは変わりない、それにアルスはフラッシュムーブのような特殊な移動魔法を使えるわけではない。

 チョコチョコ攻撃しては逃げ、攻撃しては逃げを繰り返すうちに海鳴公園上空にまで移動していた。


「お前! いつまで逃げる気なんだよ!」


 アルスが怒った声で言う、刹那の弾はチョコチョコ当たっているがアルスの攻撃は一度も刹那に当たっていない。

 かといってそれで大ダメージを受けるわけでもなく、嫌がらせなローキックや牽制のジャブをずっと繰り返されたような気がしてイライラしているのだ。

 そんなアルスを見て刹那は大きな溜め息をついた。

 しょうがないといった様子でバットを振るような体勢でデバイスを構えた。


「お望みどうり、大技をぶつけてやる」

「ようやくその気になったか……カートリッジロード!」


 スラッシュハートの排出機構が動き、薬莢が排出される。

 そしてアルスはスラッシュハートを上段に構えて、己の魔力を最大限にまで高めた。

 その姿を見て刹那は口元を歪める。

 まるで計画通りだと言わんばかりに……


「必殺必中、バーニング――」

「今だ! やれ!」

「「「バインド!」」」

「な、なんだ!?」


 必殺の一撃を放とうとしたその瞬間、アルスは3人分のバインドによって雁字搦めにされて地面に落下した。

 魔力の帯で芋虫のようになったアルスの周りに4人の人影が降り立つ。

 一人は刹那、他の3人は原作介入反対派の3人だった。


「よう、いい姿じゃないか」

「真塚和真とそのペットにジュエルシードを押し当てて、暴走体を動物病院まで誘導して無理やり原作を実行する」

「そこで颯爽と現れて高町なのはを助けて主人公ポジを奪う、真塚和真は怪我して入院でもしてもらえれば原作から離れる」

「なかなかに外道だな。 高感度アップのためにその女の子が好きな奴を襲うなんて」

「くそ、お前ら……」


 芋虫状態のアルスに対して好き勝手に言いたいことを言っている4人。

 まぁ、悪いことをしようとしたし、自業自得なんだから問題ないだろうと4人は勝手に納得した。

 そんな時、彼らに念話がつながる。

 それは真塚和真と高町なのはの様子を見ているメンバーからの連絡だった。

 二人とユーノは無事ジュエルシードを封印、特に被害もなし、これから家に帰るらしい。

 他に邪魔が入る様子もないし、解散するように伝える。 明日も学校はあるのだ。


「これで、第一話終了ってところか?」

「サブタイつけるとしたら何がいいかな?」

「原作どおりでいいんじゃね? それは不思議な出会いなの? で」

「いや、でも実際は1話と2話の最初が合体してるわけだし……」

「お前らはそれでいいのか!? 折角なのはが、フェイトが、はやてがいるのに!」


 アルスの叫び声で4人は談笑を止めた。

 刹那はアルスの胸元を掴んで吊り上げる。

 そのまま少しの間アルスを睨みつけるが、やがて手を離して大きく溜め息をついた。

 手が離されたせいで再びアルスは地面に落ちる。

 しゃがみこんで、永瀬一号を使って亀を虐めるようにつつきながら、刹那はアルスに言い聞かせた。


「いいか? 主人公は真塚和真、俺たちは単なるモブキャラで、クラスメイトAで、話の本筋に介入するべきじゃないんだ」

「そんなことは無い! なれるはずだ! 俺も、主人公に!」






「はぁ、まだ仕事が終わらないし、夜食でも買おう」


 そう独り言を言いながらサンダルを履く。

 そういえば近くのコンビニでおにぎりが全品20円引きだったはず、2~3個と眠気覚ましのコーヒーを買うことにする。

 できるだけ街灯のついた道を通り、次の角を曲がろうとしたところで――


「シロ、次を右だよ」

「わん!」

「真塚君? 小学生がこんな夜中に――」

「先生? 今帰っている途中です。 すぐに家に帰るから大丈夫です」

「わん!」


 クマよりも大きい犬にまたがっている自分のクラスの生徒を見つけた。

 思わず言葉を失う。

 ああ、そういえば金太郎は実在のモデルがいるらしいけど、だったら何も問題は無いはずだ。

 クマに乗るのに比べたら犬に乗るくらい簡単なことだろう、ほら、あずま〇が大王のち〇ちゃんだって犬に乗ってたし。


「そうですね、気をつけて帰ってくださいね」

「はーい」

「わん!」


 和真を見送ったあと、再びコンビニに向けて歩き出した。

 店内にはレジ打ちの人が一人だけ、夜食と飲み物を買ってお金を払い、店を出る前にふと思い立って声をかける。


「あの……でっかい犬に乗ったことってあります?」

「犬に? 私はありませんけど、3歳になる娘が飼っているセントバーナードの背中によく乗って遊んでますよ」

「そうですよね、珍しくなんかないですよね、よくあることですよね、あーよかった」

(何だこの客?)



[6363] ごー
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/02/13 00:14
「俺、気がついちまった。 この世界は、リリカルなのはの世界じゃないって」


 八神はやてが真塚和真と共に暮らしている。

 その驚愕の事実を知ってから、チームTRIPは大きな活動をしてこなかった。

 むしろ何も出来なかった。

 真塚和真というイレギュラーがリリカルなのはという物語にどんな影響を与えているのかが分からない。

 下手に接触するとどうなるか? バタフライ効果で何が起きるだろうか?

 結局誰も積極的な意見を言えないまま時は過ぎ、ただ黙々と魔法の訓練をこなしていた。

 彼ら14人は全員リンカーコアを持っている。

 ランクはB~AAAとまちまちだが、ランクの低いものは戦闘機人だったりレアスキルもちだったりするので結局は全員同じくらいと見ていいだろう。

 しかし彼らの中でデバイスを持っている人間は9人だけだ。

 地球以外の出身で親が魔導師の人間6人、地球人だが先祖に魔導師がいて家捜しでデバイスを見つけた人間が2人、何か道端に落ちていたのを見つけたのが1人。

 しかし今後何かしらの活動をするなら全員が魔法を使えたほうがいい。

 その意見だけは全員が賛成し、魔法訓練とデバイス製作作業が始まった。

 幸いファルゲン・C・ライデュースの親がデバイスマイスターだったので、次元転移魔法の練習を兼ねて色々な世界から材料を集めて作ってもらうことにする。

 いきなり5人分のデバイスを作って欲しいと頼むのは少し気が引けたが、魔導師の友達が多いのはいいことだという単純な父親は快く息子のお願いを聞いてくれた。

 こうして全員がデバイスを手に入れたチームTRIPは日々魔法戦闘の訓練や模擬戦をしながら2年をすごし……

 3年生になった直後の第62回チームTRIP活動会議で、竜宮カムイが冒頭のようなセリフを言ったのだった。


「どうしたんだ? いきなりそんなこと言って、おま! ドガースレベル99って! せめて進化させろよ!」

「リリカルなのはじゃなきゃなんなんだ? とらハか? でもアリサはバニングスだしすずかもいるぞって、そっちこそイーブイのレベル99にしてるじゃねぇか! 進化させろよ!」


 ジェフリー・マークハントと鬼道炎はポケモンの対戦をしながらカムイの言葉に返事をした。

 他のメンバーもトランプをしたり、麻雀をしたり、持ち込んだお菓子を食べたり、各々好き勝手なことをしていた。

 初めのうちは真剣に話し合っていた会議も60回もすればだれてくる、今や会議という名目で集まり、だべり、遊ぶ、そんな集まりになっていた。

 そんな誰も注目していない状況でカムイはひとりでポツポツと話し始める。

 この2年で自分はどうしてこういう結論に辿り着いたのかを


「俺さ、やっぱりはやてを諦めきれないでさ、休日とかに真塚和真の家に行って、窓からはやての様子を見たりしてたんだよ」

「おまw それ犯罪だぞ!」

「どうみてもストーカーです、ありがとうございました」

「海鳴在住の小学生、村田大介、逮捕される。 はやてが可愛いからやった、後悔はしていないと供述」

「真剣なんだ! 真面目に聞いてくれ!」


 突然カムイが叫んだせいでからかう雰囲気では無くなってしまった。

 その声に特に興味も無く遊んでいた奴もカムイに注目する。


「八神はやてってさ、幼いころに両親を失い、足が悪くなって学校にも行けなくて、家族が欲しいって願ってる。 簡単に言うと可哀想な子だよな?」

「うん、まぁ、そういう設定だなぁ」

「それがさ、すごくいい顔で笑ってるんだよ。 真塚和真といっしょにいると、すごく信頼していて、この間は 『いつまでも一緒にいよう』 なんて言ってた。 はは、俺の入る隙間なんて一ミリも開いて無い」

「いいことじゃないか、原作とは違うが幸せなら……原作とは違う? まさか!」


 全員が息を呑んだ。

 もう誰も軽口を言うような状況ではない、カムイはある意味この世界の真実に触れようとしているのかもしれない。

 何人かの顔が青くなる、何人かは少し考えるような仕草をする、何人かはまだ理解をしていない。


「多分このまま行ったらヴォルケンリッターともいい家族になるんだろうな。 なのはやヴォルケンと友達ならユーノやアースラメンバーとも接触する。 闇の書事件が起きたら間違いなく中心にいる」

「結局何が言いたい?」

「そういう奴ってさ、 『主人公』 って言わないか?」


 言ってしまった。

 何人かは想像していたが、今までワザと意識からは外していた考えだった。

 この世界は 『魔法少女リリカルなのは』 の世界ではなく、 『真塚和真を主人公としたリリカルなのはの二次創作』 の世界


「だったら何なんだよ! この世界が2次創作だとして、何が変わるんだ!」


 鬼道炎が声を張り上げた。

 今までずっとリリカルなのはの世界だと思っていたのに、だからこそこれからの行動を考えることが出来たのに。

 今まで見えていた道が急になくなってしまったかのような感覚。

 こみ上げる不安は声を出して打ち消すしかかれは知らなかった。


「とりあえず、真塚和真を主人公としたら……みんなはどんな話を考える?」

「あいつが主人公だったらねぇ」


 刹那の提案でとりあえず全員考え始めた。

 彼らの頭に思い描かれる真塚和真の姿、それがジュエルシード暴走体やフェイト、アースラメンバーと出会ったらどうなるだろうか?


「ほのぼのだな」

「うん、ほのぼのだ」

「フェイトと仲良くなって、なのはとフェイトの間に入って 『ケンカしちゃだめ~』 とか言いそうだな」

「プレシアも説得するんじゃね?」

「リンディ茶を美味しく飲みそうな気がする」

「え~ん、クロノがいじめる~」

「クロノ君なんか嫌い! スターライトブレイカー!」

「まぁ原作知識があんまり役に立たないことは分かった」

「でも、それなら俺たちが適当に介入してもいいんじゃ無いか? どうせ原作どうりに行かないことはほぼ確定したし、楽しめる程度なら」


 ぼそっと呟いたジェフリーの顔を全員が注目した。

 ジェフリー自身は、自分は何かそんなにおかしなことを言ったかと思っている。

 しかし、何人かにとっては、それは正に悪魔の誘い、エデンのリンゴのごとき禁断の果実だった。

 その日から、メンバーの半数が急によそよそしくなった。

 そしてユーノが海鳴に現れる3日前、ついに彼らからチームTRIPを脱退するという宣言が出たのだった。







「で、何をするかと思えばいきなりコレだからな」

「日常生活の時に手を出さなかったことは褒めておこう。 そこまでしてたらド外道から腐れ外道にランクアップしていた。 いや、ランクダウンか?」


 バインドで巻き寿司にされているアルスを地面に転がしたまま、残ったチームTRIP7人のうち4人は話を続けていた。

 アルスは時々じたばたしながら喚くが、その度に刹那は永瀬一号でつついて黙らせていた。

 やがて話は、しょっぱながコレなら他の奴は何をするのかに移っていった。

 今回は真塚和真の主人公補正でうまくいったが、下手したら暴走体の破壊活動に巻き込まれて怪我、最悪死亡するかもしれない。

 そうでなくても真塚和真の両親を含む一般人にも被害が出てしまうかもしれない。

 過激派が好き勝手に干渉した結果、原作よりも悪い内容になってしまったら大変だ。

 もしかしたら、ジュエルシードの暴走体に一般人が巻き込まれるかもしれない。

 もしかしたら、プレシアの次元震に地球が巻き込まれるかもしれない。

 もしかしたら、アルカンシェルが地上に向けて撃たれるかもしれない。

 だから、明確なルールを決めなくてはいけない。

 暴走しないように、歯止めが利くように、少しでも被害が減らせるように。


「お前たち、どうせサーチャーで見ているんだろう! こいつは取り合えず様子見のイケニエってところか? いいか、よく聞け!
一つ、真塚和真とその周囲の人間への直接攻撃の禁止、一般人を巻き込むな。
一つ、日常生活時の戦闘の禁止、何も起きてない時にいきなり襲い掛かってくるんじゃないぞ。
基本この二つを守るなら、介入したければ好きにしろ。 ただし、チームTRIPは全力で阻止する。 あまりに酷いと管理局に通報する、少なくともこいつがやろうとしたことは管理局基準で言えば間違いなく犯罪だ。 フェイトと違って完全に自分の意思でやっているから情状酌量の余地はないぞ!」


 一気に叫ぶと改めてアルスを見下ろす。

 刹那の顔は、とてつもなく邪悪な顔になっていた。

 思いっきり口を歪めて、クックックと笑い声をだす。

 そんな様子を残りの三人は苦笑しながら見ている、見ているだけで誰も止めようとしない。


「な、何をする気だ!」

「見せしめだよ、お前は少しばかりやりすぎだ」


 アルスからデバイスをひったくる。

 待機状態に戻ったそれを残る3人のうちの1人、リュウセイ・クロウバードに投げ渡す。

 リュウセイは戦闘機人、そしてそのISは自らの体の一部を数千度にまで加熱させる 『ヒートソウル』 

 リュウセイの手に握られたデバイスは一瞬にして固体から液体にまで変化して、握りこぶしの中で完全に潰されてしまった。

 続いて刹那は永瀬一号の先端をアルスの腹に押し付けた。


「高町なのはは千発以上のフォトンランサーを耐え切ったわけだが……4秒の間に千発は無理だが3秒に一発の割合で打ち続けることなら俺にも出来る。 ざっと50分かかる計算だな」

「や、やめろ、同じリリカルなのはが好きな仲間じゃないか!」

「アホ、俺はリリカルなのはの物語自体が好きなんだ。 お前みたいに萌えとか言ってる奴と一緒にするな。 俺は燃えの方がすきなんだよ」

「烈火、リュウセイ、紫音、助けてくれ!」

「俺たちは死にたくないだけだ。 とりあえず真塚和真が主人公なら次元断層とかアルカンシェルとかは無さそうだから……あきらめろ」

「悪魔め!」

「元ネタより先にこのセリフを言えるとは思わなかった。 悪魔でいいぜ。 永瀬一号、砲撃弾、直射、止めろと言うまで打ち続けろ」

「や、や、やめてく――」


 夜の海鳴公園に、1人の男の悲鳴が響き渡った。









 今日はすごいことがありました。 何となのはが魔法少女になったのです。

 ユーノの話だと、シロを大きくした宝石はとっても危ないものだったのです。

 シロがいい子だったから大丈夫だったけど、もしかしたら悪い子になっていたかも知れないって言ってました。

 よい子のシロが悪い子になるなんて信じられません、そんなのが街にたくさんあったらみんな悲しくなってしまいます。

 なのははジュエルシードを集めるらしいです、みんなが危ないのは嫌だって言ってました。 やっぱりなのははやさしいです。

 僕も手伝います、魔法を使うことは出来ないから封印はできません、けど探すだけならできます。

 シロはジュエルシードの臭いを覚えたはずなので、シロと一緒なら見つけることができるはずです、見つけたら携帯電話でなのはに連絡します。

 本当は色んな人と協力して、みんなで探したほうが早く見つかるはずです。

 けど、他の人に心配をかけたくないので内緒にすることにしました。

 もちろんなのはが魔法を使えることになったのも内緒です、周りの人に内緒で人々を助けるなんて、本物の魔法使いみたいです。

 ……本物の魔法使いなんでした。

 そういえばなのはと二人だけで秘密を作るなんて初めてな気がします、いつもは秘密を作らずに皆で楽しくしています。


「うん、和真君と秘密を作るのって初めてなの」


 なのは少し楽しそうです、なのはが楽しいと僕も楽しくなります。

 ユーノはそんな僕達といっしょに、必ずジュエルシードを集めると気合を入れてました。

 でも今日はもう遅いので解散です、ユーノは僕の家に来ることになりました。

 シロがユーノを気に入ったみたいです、ユーノの顔をペロペロなめてます、時々ユーノをくわえます。


「た、食べられる! 助けて! 美味しくないよ、硬いよ、食中毒になるよ!」


 ユーノとシロがとっても仲良しです、なのはも微笑みながら見守ってます。

 きっとお父さんとお母さん、はやてもユーノと仲良くしてくれるはずです。

 新しい家族が増えて、僕もとっても嬉しいです。



[6363] ろっく
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/02/10 02:42
 海鳴を見渡せる丘の上、そこに一本の木が生えてます。

 シロの散歩をしながらジュエルシードを探していると、シロはいつもの散歩のコースを外れて此処にきました。

 ジュエルシードの臭いを探せるようになったシロは、こうして散歩の途中でジュエルシードを見つけるとそこに連れて行ってくれます。

 この間は神社で見つけました。 落ちていたのを拾ったシロがまた大きくなったのでちょっと嬉しかったです。

 今回は木の途中にくっ付いてます。

 ジュエルシードを見つけたらなのはに連絡、携帯電話のお友達欄から番号を出せばすぐにかける事が出来ます。

 なのははすぐに此処に来ると返事をしました。

 なのはは魔法少女なので本当に飛べます、すごいです、羨ましいです。

 ユーノの話だと僕にはリンカーコアというものが無いから魔法が使えないそうです、残念です。

 僕も魔法が使えたら、もっとユーノのお手伝いが出来るのに……

 ユーノは僕の家に住んでいます、喋れることは家族には秘密です、普通のフェレットのように振舞っています。

 家族は皆ユーノが来た事を大歓迎です、新しい家族ができたってすごく喜んでくれてました。

 特にシロと仲良しです、ユーノはよくシロの口の中に入って遊んでます。 とっても楽しそうです。

 それと魔法関係でなのはの家に遊びに行くことが多くなりました。

 魔法使いになったばかりのなのはは、まだまだ色んな魔法の勉強をしないといけません。

 ユーノはその先生をしています、魔法について僕は何も知りませんが、頑張っているなのはを見るのは大好きです。

 その魔法の勉強のおかげで、なのははガ〇ダムみたいなビームを撃てるようになりました。 すごくかっこよかったです。

 目標はサテライトキャノンらしいです、早く見てみたいです。

 それにしても、この場所はすごくあったかくて気持ちいいです、新しいお昼ねスポットに認定します。

 ふわぁ~……Zzzz


「わん! わん!」


 シロの鳴き声で目が覚めました。 こんなに慌てたシロの声を聞くのはすごく久しぶりです、何があったのでしょうか?

 時計を見ると2分も寝てません、僕は1分で寝ることが出来るから、お昼寝しようと思ってからまだ3分しかたってません。

 起きて辺りを見回すと、シロが鳴いていた理由がすぐに分かりました。

 街が木の根で大変なことになってます、どう考えてもこの木についているジュエルシードのせいです。

 なのははまだ来ていません、空を飛べるからすぐ来ると思いますが、街が大変なことになっているのに待っているだけなんて駄目です。

 意を決して木にしがみつきます、木登りは苦手です、恭也お兄ちゃんにはお世辞にも運動の才能があるとは言えない、と言われてます。

 けど頑張って上ります、シロも下で応援してくれてます、鳴き声が聞こえるだけです、怖くて下は見れません。

 ついにジュエルシードに手が届くところまで来ました。

 ジュエルシードをしっかりと握って引っ張るけど取れません、力が足りないんでしょうか?

 今度は両手で持って、思いっきり力を入れて、えい!

 抜けました、けどそのせいで足を滑らせてしまいました。

 空中に体が投げ出されます、このままでは落ちます、怪我をしてしまいます、下にいるシロを潰しちゃいます。

 手を伸ばして枝を掴もうとしますが届きません、僕はそのまま地面に――


「和真君!」


 すごい速度でなのはが飛んできました。

 そして地面に墜落するスレスレで僕を拾います、なのはのおかげで地面に激突せずに済みました。

 今なのはに抱きかかえられてます、少し恥ずかしいです、でも怪我をしなくて済んだので我慢です。

 ありがとう、となのはにお礼を言うと泣かれてしまいました。


「和真君は魔法が使えないんだし、危ないことしないで、怪我しちゃうの、そんなのいやなの」


 なのはに心配をさせてしまいました。 心配させてごめんって謝りました。 

 これからは危ないことはできるだけしないようにします、できるだけです、やらないとは言いません。

 そのことに気がついたなのはは少しだけ悲しそうになりました。 なのはが悲しいと僕も悲しくなります。

 でもこればかりは譲れません、なのはだけが危ないことするなんて嫌です。

 魔法があるからって、1人で何でも出来ると思ったら大間違いだ、ってマジカル咲夜で言ってました。 皆で協力したときにこそ無限の力がどうとかこうとか……

 ユーノは漫画の話しと聞いて苦笑しています、けど僕はその考え方がとっても大切なような気がします。

 そんな、いろいろと考えることができた一日でした。







「こんにちは、すずかと遊びに来ました」

「どうもこんにちは、今日はお世話になります」

「わん!」

「真塚様、八神様、ようこそいらっしゃいました」


 今日はすずかの家に遊びに来ました。

 はやてとシロ、ユーノも一緒です。

 すずかの家は猫がいっぱいです、みんなにゃーにゃーでとっても楽しいです。

 シロはとってもいい子なので猫と遊びます、猫を虐めない良い犬だってすずかに褒められてました。 シロが褒められて僕も嬉しいです。

 少したつとアリサ、なのはと恭也さんがやってきてお茶会が始まりました。

 ユーノはアリサ、すずかと遊んでいます。 癒されるとか命の危険が無いとか呟いてます。


「わん!」


 シロが鳴くたびにちょっぴりビクッとしています。

 アリサもそれに気がつきました。 シロを抱きかかえてユーノの方に向けます。


「何コイツ? このフェレットが気になってるの?」

「ああ、シロはユーノのことが大好きなんよ、いつも一緒に遊んどるんで」

「へぇ、そうなんだ。 じゃ、ほら」


 アリサがシロを離します、すずかもユーノを離しました。

 そのとたん、ユーノは走ってどこかに行ってしまい、シロもユーノを追いかけていきました。

 あんまり友達の家を走りまわるのはよくないです、お掃除するメイドさんにも迷惑をかけてしまいます。

 みんなにシロを追いかけることを伝えました。

 シロの足は速いからすぐに見失ってしまいます、犬の足は人間の何倍も速いです。

 どこに言ったんだろうと探していると、庭をシロが歩いているのが見えました。

 ユーノの姿が見えません、さっきまでユーノを追いかけていたのに、いったい何があったんでしょうか?

 僕も庭に行ってシロを探します、シロの名前を呼びながらちょっとした森くらいの広さがある庭の中に入りました。

 シロの名前を呼ぶたびにシロからの返事が聞こえます、その鳴き声を頼りに奥へ、奥へ。

 少し広い空間に出ると、また大きく成長したシロがいました。

 どう考えてもジュエルシードのせいです、すずかの家のお庭に落ちてるとは思いませんでした。

 ここ最近、ずっとジュエルシードを探していたから、シロはユーノを追いかけるよりもそっちを優先したのでしょう。

 取り合えず大きくなったシロを皆のところに連れて行くわけには行きません、なのはに携帯で連絡してここで待っていることにします。

 そういえばさっきのお茶会のお菓子を少し持っていたんでした。 美味しそうなクッキーを一つシロの口に入れます。

 ジュエルシードを取り出したらシロは小さくなってしまうので、せっかくだから今のうちに大きいシロで遊ぶことにしました。

 背中に上ったり、毛に埋もれたり、顔をなめられたり、やっぱり大きいシロと遊ぶのは楽しいです。

 そういうことをしていると、急にシロが空を見ながら吼え始めました。

 何があるんでしょうか?

 僕も空を見てみると……空から降ってきた金色の光がシロにぶつかりました。


「ぎゃうん!」


 その光を受けたシロが苦しそうな声を上げて倒れます、あれは魔法の攻撃です、なのはの練習で見たことがあります。

 なのはの光はピンクだったけど、だったらこの金色の光を撃ったのは誰なんでしょうか?

 そう思っていると、空から金髪の女の子が降りてきました。

 空を飛んでいるし、なのはと似たような杖を持っているし、この子は魔導師です!


「そこの男の子、ここは危ないから 「シロを虐めるな!」 って、ええ!?」


 手を広げて女の子とシロの間に立ちます。

 少し怖いけど、僕が止めないとシロが酷いことされてしまいます。

 すると女の子は少しオロオロしだしました。 何だか予想外のことが起きたみたいです。


「あの、その犬はとっても危険だから離れないと……」

「シロは危なくなんか無い! おっきくなっても良い子だ!」

「でもジュエルシードっていう物のせいで、いつ凶暴化するか……」

「シロは僕の家族だ! だからどんなになっても平気だ!」


 女の子は少しの間黙っていました。

 やがてゆっくりと僕に近づくと、頭を下げて謝りました。


「ごめんなさい。 あなたの家族を傷つけてしまって」


 女の子は本当は優しい子でした。

 シロにも謝ってくれます、シロも女の子を許してあげました。 女の子の顔をペロペロなめてます。

 ごめんなさいって謝ったら友達になれます。

 シロも女の子を気に入ってくれてます、きっと仲良しになれます。


「僕の名前は真塚和真です。 こっちはシロです」

「私の名前は――」

「和真君! 大丈夫?」

「デバイスを持っている? 此処に来たって事は、ジュエルシードを!」


 なのはがやってきました。 もう変身しています、レイジングハートも杖になってます。

 けどなのはを見た女の子が急に慌てました。 なのはよりもレイジングハートを見て慌てた感じです。

 女の子がシロからジュエルシードを引っ張りだしました。

 シロは見る見る小さくなっていきます、あっという間に元の大きさに戻りました。

 最後に一度だけシロの頭を撫でると、女の子は空に飛び立ちます。

 なのはも空に飛び上がりますが、女の子の動きは速くて見失ってしまいました。

 残念そうな顔をして地面に降りてきます。


「あの子、何て名前なんだろう?」

「それに何でジュエルシードを集めているのかも気になるの」

「分からない、けどあの子もジュエルシードを集めている以上、どこかでぶつかることになる。 もしかしたら魔法で戦闘することになるのかもしれない」


 魔法で戦闘?

 なのはとあの子が?

 そんなの嫌です、とっても悲しいです。

 折角友達になれると思ったのに……ジュエルシードとか関係なくあの子に会うことが出来ればよかったのに。

 今度会うときには、あの子の口から名前を教えて欲しいです。



[6363] なな
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/02/10 02:49
「そろそろか」


 1人の少年が空き地に積み重なっているゴムタイヤの上に座っていた。

 赤い髪に赤い目という、日本人としての遺伝ではありえない容姿を持った少年だった。

 彼は月村邸向けて人影が飛んでいったのを確認してゆっくりと腰を上げる。

 胸に着けているドクロのペンダントを手に持ち、それを天高く掲げたところで人の気配に気がついた。

 そこにいたのは少年と同じく赤髪赤目の聖祥小学校男子制服を着た。 年齢も同じくらいの少年だった。


「ああ、これでフェイトとなのは、そして真塚和真が出会う」

「そして俺もだ」

「お前は駄目だ。 ディスト・ティニーニ、お前はあそこに行っちゃいけない」

「兄妹の出会いを邪魔するなら、容赦しないぞ。 リュウセイ・クロウバード」


 リュウセイは一瞬キョトンとした顔でディストを見た。

 やがて顔を崩して、腹を抱えて笑い出す。

 その様子をディストは不機嫌そうに見る。 ドクロのペンダントを握っている手にどんどん力が込められて、少し血が出てきた。

 やがて笑うことに満足したリュウセイは真剣な表情でディストを睨みつける。

 その目をディストも睨み返し、二人の間はまるで稲妻を生み出すかのように緊張感が高まった。


「何が兄妹だ。 F計画の実験体ってだけで、テスタロッサ一家との血のつながりなんてないんだろ?」

「それでも、俺ならフェイトの苦しみを分かち合える」

「必要ない、その役目をするのは真塚和真だ。 アイツならフェイトを癒すことも、もしかしたらプレシアの説得もできるかもしれない」


 リュウセイは懐から金属製のメリケンサックを取り出した。

 それを拳につけるとディストの目つきが変わる。

 彼らトリップした人間はお互いのデバイスの形と基本戦闘スタイルをよく知っている。

 リュウセイのデバイスはこのメリケンサック、ディストのデバイスはドクロのペンダントだった。


「いくぞ、メリケンサック君」 『 Ok Master 』

「準備はいいな、フォルクスイェーガー」 『 All right 』


 二人はお互いに向かって同時に走り出し、お互い同時に拳を突き出し、お互い同時に相手の顔面を殴りつけ――


「「セットアップ!」」


 お互い同時にバリアジャケットを身に纏った。

 ディストのバリアジャケットは髪、目と同じ赤い色。 ノースリーブの服は動きやすさを重視したのだろう。

 デバイスは両手についた手甲、殴ることを目的とした格闘用のアームドデバイスだった。

 それに対してリュウセイのバリアジャケットはひと目で普通ではないと分かる。

 黒い、フード付きのダボダボの布、そうとしか表現できないような、こんなのが街中にいたら一発で通報されてしまいそうな、怪しい宗教か黒魔術でもしていそうな、そんな格好だった。

 デバイスは待機状態と変わらないメリケンサック、名前の通り、シンプルなメリケンサックだ。


「相変わらず怪しい格好をしているな、リュウセイ」

「俺は元々介入反対派だからな。 出来る限り正体がばれない格好を考えたら……こうなった」

「介入したくないなら邪魔するな!」

「安全に暮らしたいから邪魔するんだよ!」


 ディストの左拳によるパンチを右手で受け、右拳のパンチを左手で受け止める。

 両手を掴むことで攻撃を避けることが出来なくなったディストの腹にリュウセイは連続して蹴りを打ち込んだ。

 戦闘機人のリュウセイの蹴りはバリアジャケットで軽減してもかなりのダメージがある、このままではいけないと考えたディストは自分を中心に回転してリュウセイを振り回す。

 リュウセイに空戦技能が無いことはかつてチームTRIPの魔法訓練で知っている。

 ディストの目的はあくまでフェイトに会うことであってリュウセイと戦うことではないのだ。

 つまり、リュウセイを適当に投げ飛ばしてから自分は空を飛んでフェイトを追いかければ、リュウセイにディストをとめることは出来なくなるのだ。

 ディストはどんどん回転速度を上げるがリュウセイは離さない、戦闘機人のパワーはコレくらいで離れるほどヤワではない。

 だんだんイラついてきたディストは捕まれている両拳に魔力を溜め始めた。


「吹き飛ばせ、ダブルエナジーコレダー!」

「させるか! IS発動、ヒートソウル!」


 ディストの生み出した魔力が電撃となってリュウセイに襲い掛かる。

 同時にリュウセイのIS能力で生み出した高熱がディストに襲い掛かる。

 完全な我慢比べ、ディストが高熱に耐え切れず回転を止めるか? リュウセイが電撃に耐え切れず手を離すか?

 決着は些細な事で決まってしまった。

 ヒートソウルの熱に耐え切れなくなったフォルクスイェーガーが溶け出し、遠心力で飛び散ってリュウセイの目に入ったのだ。

 思わず目を瞑ってしまうが、その隙をディストは逃さない。

 力が緩んだその一瞬でリュウセイの手を無理やり離し、渾身の蹴りで吹き飛ばす。

 リュウセイが近くにあるアパートの窓を突き破って部屋に入ったことを確認すると、ディストは飛行魔法を発動して月村邸に飛んでいくのだった。


「つ~、戦闘機人でも痛いものは痛いんだぞ」

「え? 何? え? 泥棒?」


 どこかのアパートに突入してしまったリュウセイが顔を上げると、よく見知った顔があった。

 自分のクラスの担任だ。 2年間顔を見続けているので見間違えたりはしない。

 こうなるとリュウセイのバリアジャケットは正解だった。 これならフードで顔を覆ってしまえば正体がばれるようなことは無い。

 先生はいい感じに混乱している。 窓を突き破って人間が突入、ちゃぶ台を叩き割って頭にできたてのカップ麺を被っていれば混乱もするだろう。

 取り合えず今頭に被っているカップ麺を処分する、具体的には自分の腹の中に、スープは全部こぼれているのでとても味気ない。

 財布から300円を取り出して先生に向けて放り投げる。 先生は混乱しながらもそれをキャッチした。


「すいません、先生。 カップ麺代です」

「え? あの、弁償するなら机と窓……」

「山内め、こっちが空を飛べないって、いつまでも思ってんじゃねぇぞ」

「あの?」

「IS発動! ヒートソウル脚部集中、飛べええええええ!」


 足に集中させた熱エネルギーを爆発させ、ロケットのようにリュウセイは飛び出していった。

 爆風でメチャクチャになったアパートの一室を残して……


「ケホッ、ケホッ、なんだったの? 今の……」

「ちょっと、何ですか? 今の大きな音は? 近所迷惑ですよ」

「ああ、すいません……って、警察! 警察に電話!」



 ディストは月村邸に向けて飛行していた。

 リュウセイのヒートソウルのせいでデバイスはボロボロになってしまい、飛行魔法の速度も上がらないが何とかフェイトに追いつくだろう。

 そう思っていると目の前に人影が現れた。

 チームTRIPの1人、竜宮カムイだった。


「フェイトならさっき帰った。 なかなかいいイベントだったよ」

「帰ったか、ならフェイトの隠れ家の方に行くだけだ。 追いかければ場所の特定くらいなら出来る」

「いいや、お前はここでリタイアだ」


 ディストのデバイスはボロボロ、戦って勝ち目は無い。

 それを理解しているディストは戦闘以外の方法でこの場を切り抜ける方法を思いついた。

 すなわち、カムイの説得と引き抜き工作だ。


「組まないか? 俺はフェイト、そっちははやて、お互いに好きな子を幸せにしたらいい」

「魅力的な提案だな」

「だったら!」

「だが断る!」


 カムイのしっかりとした否定に、ディストは驚いた。

 カムイがはやて好きはメンバー内でもかなりのものだった。

 一年のころはメンバー内の約束を破り勝手にはやてと接触しようとしたし、最近はストーカーまがいのこともしていたというのに……

 信じられないといった顔をするディストに向かってカムイは言う、自分の決意と覚悟を


「八神はやてを幸せに出来るのは俺じゃない、彼女の家族と友達、真塚和真とその周囲の人間だ。 俺はその様子を遠くから見てるだけでいい、それだけで満足だ」

「諦めたのか? ヘタレめ」

「最高の褒め言葉だ。 バインド!」


 空中に現れた光の縄がディストを捕らえようと襲い掛かる。

 必死でそれを避けるがデバイスが破損し、うまく飛行できない現状で捕まるのは時間の問題だった。

 一本のバインドが足を固定する、動かなくなった足を忌々しげに見るディストに向かって、カムイは人差し指を向ける。


「なんだ? フリーザ様の真似か?」

「いや、後」

「後?」


 ディストが後を向くと――


「山内広、覚悟おおおおおおおおおおおおお」


 ものすごい速度でリュウセイが飛んできた。

 正確には飛んでいるのではない、空中に魔力で作り出した足場を踏み、ジャンプする瞬間にIS能力で起こした爆発で加速しているのだ。

 コレにより、飛行魔法ほどの小回りは効かないが直線に関してはかなりの速度で移動することが出来る。

 どんどん大きくなるリュウセイに驚いて逃げようとするディストこと山内広、しかしカムイのバインドは彼を逃がさない。

 やがてリュウセイは空中で蹴りの体勢作り、最後の加速でディストに突っ込んだ。

 ディストは逃げることが出来ない、だが攻撃を防ぐことは出来る。

 プロテクションを発動し、胸の前で両手を十字に組んで、半分破壊された手甲でリュウセイの蹴りを受け止める。


「この程度の蹴り、防げないと思ったか! 吉野圭一!」

「防ぐさ、防ぐと分かっていた。 手甲型のお前のデバイスでな」

「何!」

「必殺、ヒートソウルブレイカー!」


 リュウセイの足とディストの手甲の間に莫大な熱量が溜まっていく。

 マズイ、そうディストが考えたときには遅かった。

 爆炎が二人の体を包み込み、ディストの手甲型デバイスであるフォルクスイェーガーは粉々に砕け散った。

 残ったのは意識を失い、足のバインドのせいで逆さまに宙吊りとなったディストと、魔力の足場に着地するリュウセイ、そしてリュウセイにペットボトルを投げ渡すカムイ。

 ペットボトルを受け取ったリュウセイはそれを一気に飲み干して大きく息を吐いた。

 それを見ながらカムイもペットボトルのスポーツドリンクを飲み始める。


「どうだった? 今回」

「面白かったぞ、フェイトの前に立ちふさがって 『シロを虐めるな』 って、フェイトも謝ってた」

「そりゃよかった。 いい友達になりそうだ。 さてと」


 ディストにかけているバインドを解除する。

 重力に従い地面に堕ちるのを空中でキャッチ、米俵を持つように肩に担ぐ。

 一応家に送ってやるくらいはしてやろう、こういう奴でもかつては仲間だったのだから。


「あと5人、か」

「次は温泉だな。 少しくらい疲れを癒すか?」

「いいな、泊まるんじゃなくて温泉だけならそんなに金もかからないだろうし」


 小学生には、宿屋に泊まるほどの金は無いのだ。



[6363] はち
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/02/13 00:14
「見つけた。 ジュエルシード、これさえあれば……」


 1人の少年が宝石を拾い上げる。

 まだ覚醒しておらず、誰の願いも聞いていないジュエルシードは比較的安定している。

 しかしいつまでも素手で持っているわけにはいかない、危険物であることに変わりは無いのだから。

 自分のデバイスを取り出して、ジュエルシードの封印を命じる。

 ジュエルシードはゆっくりとデバイスに引き寄せられていき、吸い込まれるその直前の魔法攻撃によって地面に堕ちた。

 少年が顔を上げて魔法攻撃を仕掛けた人間を睨みつける。

 その仕掛けた人間、それもまた少年と同じくらいの年齢の少年だった。


「みんなの平和を守るため、って訳じゃなさそうだな」

「おかしいか? ジュエルシードを放置すれば一般人にも被害が出るぞ」


 その言葉に空中の少年はワザとらしく笑う。

 それに釣られて地上の少年も笑う。

 森林に二人の笑い声が響き渡る、お互いを信用していない人間が出すことの出来る乾いた笑いが。

 二人とも取り合えず満足するまで笑った後、突如デバイスを構えて戦闘体勢になる。

 地上にいる少年のデバイスは大鎌、魔力で出来た刃が曲線を描く。

 バリアジャケットは黒、男ようにアレンジされているが誰を真似したかはひと目で分かるデザインだった。

 空中にいる少年のデバイスは拳銃、完全に中~遠距離戦を意識している。

 バリアジャケットは、聖祥小学校男子体操服。 御丁寧に胸には 『マークハント』 と書かれていた。


「なあ、ジェフリー。 見逃してくれないか? 元々ここのジュエルシードはフェイトが手に入れるし、僕が渡しても問題ないだろ?」

「だめだ。 それを手土産にフェイトと仲良くなる魂胆だろう? それを見逃すわけには行かない」


 軽い口調で説得しようとするが、ジェフリーは首を振る。

 それを見て少年は大きく溜め息をつく、説得できるとは思っていなかったがこうも迷い無く首を横に振られるとはさすがに予想外だった。

 今は敵同士だとはいえ、元々は志を共にする仲間だったというのに……


「大空蒼牙、そっちこそ投降してくれないか? 俺も昔の友達と戦うのは嫌だ」

「昔の、ねぇ……。 その時点で戦う気十分じゃないか、佐藤武!」

「バレたか、リタイアしても友達だからな! 浅井元治!」

「それはこっちのセリフだ! ヘルライザー、ファントムスラッシュ!」

「JD、マシンガンモード!」


 蒼牙が鎌のデバイス、ヘルライザーを横一文字に振るうと三日月型の魔力刃がジェフリーに向かって飛ぶ。

 ジェフリーはそれを飛行魔法で回避しつつ蒼牙のいた場所に小型の魔力弾を大量に浴びせた。

 土煙が巻き起こり、蒼牙の姿が完全に見えなくなる。

 それでもジェフリーは弾を打ち込むことを止めない、完全に止めを刺すくらいの気持ちで、たっぷり三分間は魔力弾の豪雨を振らせ続けた。

 煙が晴れた後に出てきたのはうつ伏せに倒れている蒼牙、バリアジャケットもボロボロになっていてどう見ても戦闘不能だった。

 戦闘不能にしたのならデバイスを破壊しなくてはならない、そこまでして初めてリタイアさせることが出来るからだ。

 ジェフリーは地面に降りて倒れている蒼牙に近づく、しかし突然蒼牙が起き上がってジェフリーに襲い掛かった。

 突然の不意打ち、何とかそれに反応し振りかぶった鎌の柄の部分を握り締めて押し合いの形になる。

 歪曲した魔力の刃がジェフリーの首にかかる、少しでも力を抜いたら真っ二つだろう。

 非殺傷の魔法攻撃なので死にはしないが戦闘不能になるのは確実、そうなったら――


「死んだフリとは、なかなかの策士じゃないか」

「コレで決めれると思ったが……やっぱり甘くないな」

「俺は辛口だぜ? 火を吹くくらいにな」

「だったら冷まさせてもらおうかな、ファントムスラッシュ、連射」


 蒼牙が叫ぶと、何発ものファントムスラッシュが空中に飛び出す。

 丁度柄と刃の間に入っているジェフリーにはその様子を見ることはできないが、自分に当たらず後に飛んで行ったことだけは分かった。


「格闘武器での射撃魔法としては珍しいな、武器を振らなくても打ち出せたのか」

「もっと珍しいぞ、ファントムスラッシュは一度打ち出されると……ファントムブーメランになる!」

「なにぃ!」


 その直後、背中に感じる魔法の衝撃。

 ブーメランとして戻ってきたファントムスラッシュがジェフリーの背中に直撃したのだ。

 さらに2発、3発と直撃してその度にジェフリーの体力が削り取られていく。

 確か打ち出されたファントムスラッシュは15発、こんなものを後10発以上喰らえば戦闘不能は確実だ。

 しかし避けることも出来ない、今ジェフリーと蒼牙は全力で押し合いをしている。 少しでも力を抜いた瞬間に真っ二つにされてしまうだろう。

 接近戦の能力は蒼牙の方が遥かに高い、銃型デバイスのジェフリーにも一応接近用の魔法はあるが発動まで時間がかかる。


「打つ手無しだな、残りのファントムブーメランの着弾タイミングを調整して一度に当たるようにしてやる。 昔の友達だからな、苦しまずに気絶したほうがいいだろ?」

「お前、それは……」


 10以上の魔力の刃の速度が変化し、二人から等距離で空中に静止する。


「それは……」


 それらが一斉に、ジェフリーの背中に向かって再加速した。

 避けることも防ぐことも出来ない、蒼牙は勝利を確信して口もとを歪める。


「それは死亡フラグって奴だぞ」

「なにぃ!」


 先ほどまで驚愕の表情だったジェフリーが急に余裕の表情になる。

 軽く力を抜いてワザと押し合いに負け、蒼牙が前につんのめった所で股の下を潜り相手の後に出る。

 二人の位置が入れ替わり、当然蒼牙の目の前には迫り来る自分のファントムスラッシュの群れがあった。

 必死で逃げようとする蒼牙を後から羽交い絞め、ファントムスラッシュはすべて打ち出した蒼牙自身に直撃するだろう。

 コレで勝ったことを確信して今度はジェフリーの口もとが歪む。


「お約束の展開だな、コレで終わりだ!」

「残念、そのセリフは死亡フラグだ」


 蒼牙の目の前でファントムスラッシュの群れは急に直角に進行方向を変え、ぐるりと大きく曲線を描いて再集結する。

 蒼牙を羽交い絞めにしているジェフリーの、さらに後に集まったそれらは再び直進の動きになりジェフリーに向かって移動を開始した。

 ジェフリーは直感した。 ファントムブーメランという名前そのものが罠だったと。

 よくよく考えてみれば同時着弾させるために速度調整をしていたのだし、自動誘導弾ではなく遠隔操作弾に近い魔法だったのだろう。

 恐らく逃げても追尾してくる、打ち落とすために蒼牙を離したら振り向きざまの攻撃でやられる、アレだけの攻撃をすべて防御することも出来ない。


「打つ手無しだろう、ファントムブーメランは変幻自在、俺の意思で好きなように動く攻撃を避けることも防ぐことも不可能!」

「ありがとよ」

「なんだ? 急にそんなこと言って」

「そのセリフは……死亡フラグだあああああああ!」


 蒼牙を羽交い絞めにしたまま少しだけ腰を落とし、一瞬だけ力を溜め、それを一気に爆発させてブリッジをする。

 蒼牙の感じる一瞬の浮遊感、反転する世界、高速で近づく地面。

 ドスッ

 鈍い音を最後に目の前が真っ暗になる、とても息苦しい、まるで首が地面に埋まったような……

 頭が混乱して何が起きているのか分からない、しかしよくないことが起きるのは分かる。

 必死にもがくが動けない、ジェフリーに体をつかまれている、そこで理解した。

 自分はバックドロップを喰らったのだ。

 そしてバックドロップによって自分とジェフリーの位置関係が再び入れ替わったことを理解した瞬間、すさまじい魔力の衝撃で蒼牙は今度こそ意識を失った。


「ギリギリの戦いだった……」


 バックドロップの体勢を維持したまま、ジェフリーは呟いた。

 さすがに頭まで地面に埋まって混乱した状態で攻撃を操作することは出来なかったらしい、10を超えるファントムスラッシュはすべて頭を地面に埋めた蒼牙の腹に直撃していた。

 意識を失い、デバイスから手を離した蒼牙を地面から引き抜く。

 後はデバイスさえ破壊すれば蒼牙はリタイアとなる、銃型デバイスJDをヘルライザーに向け、引き金を引こうとしたところで何者かの攻撃がジェフリーに打ち込まれた。

 思わずその場を飛びのく、倒れたままの蒼牙から離れてデバイスを構え、追撃に備えて辺りを警戒する。

 すると空中から少年が降りてきた。 当然介入者の一人だが、ジェフリーはその人物を見て驚いた。


「悪いな、まだコイツにリタイアしてもらうわけにはいかない」

「鬼道、お前は蒼牙と組んでいるのか?」


 攻撃してきたのは過激派の一人、鬼道炎。

 青いツナギ姿のバリアジャケットと刀型のアームドデバイスを持つ、ジェフリーと一番仲のよい人間であった。


「何でチームを抜けたんだ? お前はリリカルなのはで特別に好きなキャラクターはいなかっただろう?」

「ああ、だから少し離れた視点で物を見ることができる。 そして物語に介入することを選んだ」

「なぜだ! 真塚和真が主人公なら問題ないだろう! 俺たちが下手に介入したら、それこそ世界が滅びるかもしれないぞ!」

「それじゃあ聞くが、俺たちって何なんだ?」


 ジェフリーは答えることができない、炎がどういう考えで質問したのかが分からない。

 返事が無いことを確認した炎は少しだけ悲しそうな顔をした。

 それはまるで、ジェフリーが答えないからチームから抜けたとでも言いたそうな顔だった。


「真塚和真は確かに主人公なんだろう。 でも俺たちは? 現実からの介入者の俺達も主人公の資格は十分にある。 なんで俺達は集められた? この世界に」

「それは……」

「真塚和真を主人公としたら、確かにハッピーエンドになるだろう。 けど、それじゃあ俺がここにいる意味が分からない。 俺はこの世界で何をすべきなのかを知りたい。 たとえ俺の行動のせいでバットエンドになったとしてもだ」


 炎はいつのまにかジュエルシードを握っていた。

 そして大きく振りかぶって、全力で遥か空の彼方に向かって投げ飛ばす。

 思わす投げ飛ばされたジュエルシードを目で追ってしまうジェフリー、視線を戻した時には既に炎と蒼牙の姿は消えていた。

 慌てて周囲を見渡すが影も形も存在しない、どうやら転移魔法で移動したらしい。

 歯ぎしりをするジェフリーに炎からの念話が届く。


「チームに対抗するにはこっちもチームを作らないとな。 7対5だと多少不利だが組まないよりはマシだろうし」

「なあ、自分の存在理由を探すのって、死ぬような危険を侵してまですることか?」

「……時空管理局が来たらおおっぴらに戦闘できなくなる。 チームと過激派の戦いは次が最後になるはずだ」


 ジェフリーの質問に答えることなく、炎は一方的に念話を切断した。

 ジュエルシードは飛んでいった方向、あれは高町なのはが泊まっている温泉宿の方では無かっただろうか?

 原作と筋道が変わってしまったが、これ以上の活動はするべきでない。

 ジュエルシードを元の場所に戻すわけにもいかないし、原作キャラと接触することも避けるべきだった。


「自分の存在意義か、ハッピーエンドか、ガラにも無いことで悩みやがって……ばかやろうが」


 黒い少女が温泉宿に向かって飛んでいくのを確認して、ジェフリーは転移した。

 原作とは少し違うがなのははフェイトの名前を知ることになるのだろう。

 予定通り、のはずだが炎の言葉がジェフリーの心に残ったのだった。



[6363]
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/02/13 00:15
 今日は皆で温泉に来ました。

 折角の連休なのにお父さんが出張で寂しかったけど、なのはのお父さんが一緒に行かないかと誘ってくれました。

 お母さんも賛成してくれて、僕とはやても一緒に行くことになりました。

 その温泉はペットを連れて行ってもいいらしく、シロとユーノも一緒に行っていいのでとても嬉しいです。

 温泉は泳げるくらい大きいお風呂らしいです、そんなお風呂に入るのは初めてです。

 大きな車に乗ってさあ出発!

 皆でゲームをしながら温泉に、温泉に……ぐ~


「うわっ、コイツもう寝たわよ?」

「あはは、和真は車に乗ったら一分で寝るんよ」

「すごい特技なの……かなぁ?」

「ムカつくくらい幸せそうな顔で寝てるわね。 イタズラしてやれ」

「アリサちゃん、そういうの止めた方が……」

「何これ? 和真のほっぺたってまるできめ細かいシルクのような……ううん、これはカシミアよ! しかも一流メーカーでも滅多に手に入れられないほど上質の」

「すごい気持ちええからな、わたしも和真が寝てる間ずっと触ってて朝になったことが何度かあったし」

「うわぁ、ホント気持ち良い、それに……おいしそう……じゅるり」

「すずかちゃん! 何でヨダレでてるの!? それにおいしそうって表現は間違ってると思うの!」


 目が覚めると温泉宿の少し手前でした。

 なんだかほっぺたが少し痛いです、寝てるときにどこかで打ったんでしょうか?

 女の子たちがすごい目をそらしてます、あれは秘密がある人間の目です。

 女の子には男の子には言えない秘密があるって忍さんが言いました。 心なしか笑いをこらえているように見えます。

 女の子だけの秘密、僕は男の子だから知ることが出来ません。 けど我慢します、だって男の子だから。

 浴衣に着替えると温泉に行きます、シロとユーノも一緒です。

 温泉はシロとユーノも一緒に入れるところをなのはのお父さんが探してくれました。 ありがとうってお礼をいいます、シロも 「わん」 とお礼を言ってました。

 なのはのお父さんは喜んでくれて嬉しいと言ってました。

 さっそく温泉に入ることにします、初めてなのですごく楽しみです。

 タオルを持って、浴衣を持って、シロとユーノを連れて温泉に向かうと……なのはが女の人に絡まれてました。

 同じ宿に泊まっているお客さんでしょうか?


「ん? ああ、あんたがもう一人いたガキかい? それに……白い毛の……」


 女の人の動きが止まりました。

 息が荒くなって、真っ直ぐにこっちを見て、何だかすごく興奮しています。

 今にも飛び掛りそうなのを必死で我慢しています、一歩間違えば不審者になってしまうでしょう。


「あの? 大丈夫ですか?」

「え? ああ、大丈夫、大丈夫だよ。 うん、それで、その子の名前は?」


 女の人はアルフさんというらしいです。

 僕は真塚和真、頭に乗っているのはユーノ、持っているのはシロと自己紹介をしました。


「シロさん、って言うんだね。 これから温泉? よければ、その、一緒に」


 アルフさんはシロのことが大好きみたいです。 シロと一緒に温泉に入らせて欲しいとお願いしてきました。

 けど、シロは男の子です、だからシロは男湯です。

 そのことを教えてあげたら、すごく残念そうに、チラチラとシロを見ながら女湯の方に入っていきました。

 なのはとユーノも唖然としています、アルフさんの態度がものすごく変化したことに驚いたようです。

 改めて温泉に入ることにします。

 服を脱いで浴場に出ると湯気が目の前を包みました。 看板があります、肩こり、腰痛、よく分かりません。

 すごく広くて思わず泳ぎたくなりました。 けど我慢です、泳がないで下さいって書いてありました。


「シロさん、湯加減はどうだい、じゃない、どうですか?」

「わん!」

「そうかい、それは良かった。 この後時間があるなら……」


 アルフさんは女湯の方からシロに話しかけてます。

 シロに新しい友達ができたみたいで、とても嬉しいです。

 手足を投げ出してお風呂に浸かります、こんなこと家のお風呂じゃできません。

 露天風呂なので外の風景が見えます、こういうのを開放的って言うんだと思います。

 空を見ていると何かがキラリと光りました。 なんでしょう?

 どんどんこっちに近づいてきます、石? 宝石? あれは……


「なんだいフェイト、え? ジュエルシードが? 見えた! でもこのままじゃぁ……」

「え? アルフさん? そっちは男湯なの!」

「ええい、邪魔な壁だね! そぉい!」


 アルフさんが女湯の壁を突き破ってこっちに飛び込んできました。

 空から落ちてきた宝石、ジュエルシードに向かって手を伸ばしますが届きません。

 続いてこの間の女の子が空から突入して来ました。 女の子もジュエルシードに向けて手を伸ばします。

 そしてあと少しでジュエルシードに届くというところで――


「わん!」


 シロがジュエルシードに飛びついて口にくわえました。

 思いっきりジャンプしていたアルフさんは温泉に飛び込みました。 空から降ってきた女の子も温泉に突入します。

 それと同時に扉が開いて、なのはのお父さんと恭也さんが男湯に入ってきました。

 立ち止まって温泉に突っ込んでいるアルフさんと女の子を見ます。


「どうやら混浴だったらしい、恭也、少し時間をずらそう」

「そうだな、こんなところを忍に見られたら大変だ。 それと外国人の少女よ、風呂は服を脱いで入るものだぞ」


 二人は出て行きました。

 何だか事態の収拾が大変なので仕切りなおすことになりました。

 服を着てから近くの林で会うことにします。

 ジュエルシードはシロがくわえたままでアルフさんがシロを抱えることになりました。

 両方に文句の無い方法らしいですが、アルフさんがとっても楽しそうでした。

 シロにほお擦りしたりしてます、シロはすこしうざったそうにしてます。 どんな人とも仲良くなるシロにしては珍しいです。

 宿から少し離れた場所には、もう女の子とアルフさんがいました。 アルフさんはシロを抱きかかえてました。

 こうして顔をあわせたからには、取り合えず最初にすることは決まっています。


「こんにちは、僕の名前は真塚和真です。 こっちはシロとユーノです」

「高町なのは、私立聖祥小学校の三年生です」


 自己紹介、名前を知りたい人と話すときはまず自分の名前を教えてあげましょうってお母さんが言ってました。

 女の子は少し戸惑ったみたいでしたが


「私はフェイト・テスタロッサ、こっちはアルフ」


 ちゃんと名前を教えてくれました。

 名前を教えあったら友達になれます、けど今はそういう雰囲気じゃありません。

 今にもケンカをしそうです、こんな雰囲気は嫌です、嫌いです。


「ジュエルシードを渡して、そっちが集めてるのも」

「ジュエルシードは危ないものなの、なんでフェイトちゃんは集めてるの?」

「それは……」

「教える必要なんかないよフェイト、こんな甘ったれのガキなんかに!」


 アルフさんが怖いです、空気がピリピリしています。

 皆で仲良く出来ないのでしょうか?

 ジュエルシードも二人で半分こづつにしたりして、そうしたら……


「残念だけど無理だよ。 ジュエルシードはとても危険なものなんだ。 理由も分からないのに渡すわけにはいかないよ」


 ユーノの言うこともわかります。

 けど、僕は、……頭がこんがらがって何も考えられません。

 どうしたらいいのか? どうすればいいのか? 何をすべきなのか? 何ができるのか?

 考えている間になのはとフェイトは空中に飛び上がりケンカを始めてしまいました。

 魔法を使えない僕はそれを見ているだけしかできません、どんなに手を伸ばしても届きません。

 それがすごく悔しくて、すごくもどかしくて、すごく悲しくて――

 いつの間にか、僕は泣いていました。




 二人のケンカはフェイトが勝ちました。

 レイジングハートから出てきたジュエルシードをフェイトが受け取りました。

 続いて地上に降りてきてシロの咥えているジュエルシードを封印します。

 アルフさんの腕から抜け出したシロが僕に向かって飛びつきました。 それをキャッチした僕はギューって抱きしめました。

 今は無性にシロを抱きしめていたいです、じゃないと体の奥から壊れてしまいそうです。

 シロの温もりのおかげで、何とか耐えていられます。

 心がバラバラになりそうです、こんなに悲しいのは初めてです。


「キミ、泣いてるの? ごめんなさい、またあなたの友達を傷つけてしまって」


 フェイトが謝ってくれました。

 違います、なのはが傷ついたのは確かに悲しいです。

 けど、それよりもなのはとフェイトがケンカしたこと自体が悲しいです。

 フェイトとアルフさんは空を飛んでどこかにいきました。

 なのはも地上に降ります、服がボロボロだけどユーノの話しによればバリアジャケットが破損しただけでなのはの体に怪我は無いそうです。


「ごめんね、ジュエルシード取られちゃった。 和真君にも探すの手伝ってもらったのに」


 ジュエルシードなんかどうでもいいです。 怪我が無くて本当によかったです。

 でもなのははまたフェイトとケンカするつもりです。

 今度こそフェイトからジュエルシードを集める理由を聞きたいと言っています。

 ケンカせずに話をすることは出来ないのでしょうか?

 ジュエルシードとか関係なく、普通に出会って、普通にお話をして……

 涙が止まりません。

 きっと二人は何度もケンカをするんでしょう、どちらかがすべてのジュエルシードを手に入れるまで、何度も何度も。


「大丈夫だよ、次は必ずフェイトちゃんとお話してみせるから」


 違うんです、うまく言葉に出来ないけど、そういうことじゃありません。

 僕は――







 それから数日後


「二人とも、最近何やってるのよ」

「私達友達でしょ? それでも教えてくれないの?」

「もういいわ! 何やってるのか知らないけど、二人で勝手にやってなさい!」


 僕達は、アリサとケンカしてしまいました。



[6363] じゅー
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/02/13 23:42
 今日もジュエルシードを探してシロの散歩をします。

 でも、あんまり楽しくありません、色んなことを考えてしまって頭がパンクしそうです。

 フェイトとなのはのケンカ、僕とアリサのケンカ、いったいどうしたらいいのか分かりません。

 きっと普段の態度にも少しづつ悩んでいることが出てるんだと思います。

 お父さんやお母さん、はやてが心配してくれました。 悩んでいるなら相談してほしいと言ってくれました。

 でも相談できません、お父さんやお母さんに相談したらそこからなのはのお父さんやお母さんに伝わってしまいます。

 それだとなのはが秘密にしている意味がありません、なのはと二人の秘密って約束したから、内緒にしておかなくてはいけません。

 何も話せないでいたらお父さんがお小遣いをくれました。

 翠屋で美味しい物でも食べてきなさい、と言ってくれました。 でもそんな気分になれません。

 翠屋とは別の方向にトボトボと歩きます、気がつくとかなり街中に出てしまいました。

 人がいっぱいいます、こういうところに1人で来るのは初めてです。

 いつもと違う所を歩いたら少しは気が晴れるかもしれません、シロもジュエルシードを見つけられないみたいだし、適当に歩き回りました。


「わん! わん!」


 しばらく歩き回っていたら、急にシロが鳴き声を上げて走り出しました。

 ジュエルシードを見つけたのとは少し違う気がします、はぐれるわけにもいかないので追いかけます。

 少し走ると、シロは1人の女の子の周りをくるくる回っていました。 女の子はすごく戸惑っています。

 いきなり子犬が現れて急に自分の周りを走り回りだしたら、きっと誰だって驚くでしょう。

 シロを抱きかかえて女の子に謝ります、シロも 「くぅ~ん」 って謝りました。


「キミは、あの時の」


 女の子は、フェイト・テスタロッサでした。

 ジュエルシードを探しているのでしょうか? この辺りにあるんでしょうか?

 でもシロは見つけていません、きっと無いんだと思いますが、それじゃあなんでフェイトはここにいるのでしょうか?

 尋ねてみたら、目の前にあるお店に緊張して入れないらしいです。

 ケーキ屋さんです、店の名前に覚えがあります。

 お母さんとなのはのお母さんがこのお店の話をしていました。 ここのショートケーキは見習うところがあると言っていました。

 フェイトはこのお店に入りたいらしいですが、ここは動物がいけないのでシロには外で待ってもらうことにして二人で入りました。

 もしかしたら、コレはチャンスというやつなのかもしれません。

 ジュエルシードの関係の無い今なら、きっとフェイトとゆっくりお話できます。

 貰ったお小遣いの範囲内で済むようにケーキとジュースを注文します、フェイトも同じものを注文して席に着きました。

 それで……何を聞いたらいいんでしょうか?

 色々話したいことがあったはずなのに、いざ目の前にフェイトがいたら言葉がうまくまとまりません。

 一言も話さないまま注文のケーキが来ました。 真っ白なクリームの上に苺が乗っていて美味しそうです。

 とりあえず、両手を合わせていただきますをしました。 それを見てフェイトもいただきますをしました。

 翠屋以外のケーキを食べるのはすごく久しぶりです、とっても甘くて美味しいです。

 甘いものが体に入ると少し心が落ち着いてきました。

 美味しいものを食べながらだと話が進むってお父さんが言ったことがあります、きっとこういうことなのでしょう。

 思い切って尋ねてみることにします、 「なんでジュエルシードを集めているの?」


「母さんが必要としているから」


 フェイトはそう答えました。

 フェイトはとっても優しいです、きっとお母さんが大好きなんです。

 僕もお母さんが大好きです、お母さんのお願いだったら頑張ってかなえようって気持ちになります。

 そのことを伝えたら、フェイトは小声で 「ありがとう」 と呟きました。 すこし照れているみたいです。

 お母さんのために頑張ることは大切なことです、それを止めるように言うことなんて出来ません。

 フェイトのお母さんのためにも、フェイトには頑張って欲しいです。 けど、それでもなのはとケンカすることは嫌です。

 だからお願いします、なのはとケンカするのを止めて欲しいって。

 フェイトは悲しそうな顔で首を横に振りました。


「母さんのためにもジュエルシードを集めることは止められない。 その為にならもう一人の子とも戦うつもり」


 それっきりフェイトは黙ってしまいました。

 ケーキを食べ終わるとお土産を買ってお店を出ます、僕もそれについてお金を払ってお店を出ました。

 外ではシロが待っています。 シロはいい子だから大人しく待っていてくれました。


「この間はごめんね、あなたを傷つけたりして」

「わん!」

「あなたも、魔法使えないんだし、ジュエルシードには関わら無い方がいい。 さよなら」

「うん、またね」


 最後にシロの頭を撫でて、フェイトは家に帰りました。

 僕も家に帰ります、貰ったお小遣いじゃお土産を買えないので、せめてお釣りはお父さんに返すことにします。

 フェイトのお母さん、その人とお話できれば、なのはとフェイトがケンカせずに済むのでしょうか?

 何だか最近、考えることがいっぱいできてしまいました。

 フェイトのお母さんはどんな人なんでしょう? やさしいフェイトのお母さんだから、きっと優しい人なんだと思います。







 フェイトとケーキを食べてから少したったある日、新しいジュエルシードが見つかりました。

 廃ビルの中にあるらしいです、危ないから遠くで見てるようにってなのはに釘を刺されました。

 またなのはとフェイトがケンカします。 僕は見てるだけしかできません。

 でも最近いろんなことがありすぎて、何だかとっても、自分でも嫌な気分になって……


「和真、あぶないよ!」


 ユーノが止めるのも聞かずに廃ビルの中に入ります。

 エレベーターは動きません、階段を使って上に上に、そしてついにジュエルシードを見つけました。


「危ないからなのはに任せて、僕たちは離れていよう」

「わん!」


 ユーノが何か言っています、けど全然頭に入ってきません、全部素通りしてます。

 ジュエルシードは鈍く輝いています、それを見ているとなんだか心がざわついてきました。

 ユーノはジュエルシードは危ない物だって言ってました。

 これがあったら僕たちの街が大変なことになるかもしれないって、だからなのははジュエルシードを集めます。

 フェイトはお母さんのためにジュエルシードを集めています。

 そのためならなのはとケンカするって、現に今、なのはとフェイトはケンカをしています。

 そういうのも、全部ジュエルシードがあるからです。

 これがあるから、二人はケンカして、街が危なくて、アリサやすずかに内緒を作って、お父さんやお母さんやはやてに心配させて……

 近くにある大きい石を持ち上げます。 僕の頭くらいの大きさがあります、とっても重いです。

 ユーノが何か叫んでます、けど聞こえません、周りから音がなくなりました。

 石を僕の頭より高い位置まで振りかぶります、足元にはジュエルシードがあります、相変わらず光っています、何だかとっても気に入りません。

 こんなのがあるから、こんなのがあるから、こんなのがあるから、こんなのがあるから!


「なのは! 和真を止めて!」

「え? あの子、まさか!」

「あのガキ! そんなことしたら!」

「和真君! だめえええええええええええ!」




「こんなもの……壊れちゃえ!」




 ジュエルシードに向けて石を叩きつけるのと同時に、ジュエルシードはさらに光を強めました。

 そして何か強い、見えない力に押し出されて、僕は窓を突き破って空中に弾き飛ばされました。

 この前は木から落ちたけど、今度はそれよりずっと高いし、下はアスファルトです。

 この前は大怪我をするかもしれませんでしたが、今回は死んでしまうでしょう。

 何だか周りがゆっくりに見えます、死ぬかもしれないのに妙に頭がスッキリしてます。

 なのはとフェイトがこっちに向かってきます。

 もう魔法攻撃の打ち合いなんかしていません、二人はケンカを止めました。

 よかったです、本当に、二人がケンカを止めて――


「駄目、間に合わないの!」

「ううん、間に合う! 間に合わせる!」


 フェイトが僕に体当たりをしました。

 そのまま窓を突き破って、今度は建物の中に入ります。 勢いのついたまま、二人でもみくちゃになって床を転がりました。

 少しくらくらしますが生きてます、フェイトにお礼を言おうとして、ほっぺたを叩かれました。

 すごく怒っている顔です、なのはとケンカしている時でもこんな顔はしてません。


「なんでこんな事を、死ぬところだったのに!」


 フェイトに心配させてしまいました。

 フェイトは僕がジュエルシードを壊そうとしたことよりも、死にそうになったことを怒っています。

 とても悪いことをしたと思いました。 僕は理由を説明します。

 なのはとフェイトがケンカをしているのが嫌だったこと、それでジュエルシードが無ければケンカしなくていいと思ったこと。

 全部話をすると、フェイトは呆れた顔をしました。

 頭を抱えて溜め息をつきます、そして立ち上がると、こんどは少しだけ微笑みました。


「ジュエルシードを集めて母さんの願いをかなえたら、そうしたらきっと……だから、それまで待ってて」


 フェイトは窓からそとに出て行きました。 続いてなのはが泣きながら抱きついてきます。

 無事でよかったと、何度も何度も泣きながら言いました。

 窓からフェイトとアルフが去っていくのが見えました。 きっとジュエルシードを回収したんだと思います。

 シロとユーノがやってくるまで、なのははずっと泣き続けてました。







 学校の昼休憩、いつもなら4人で一緒にお話をして過ごします。

 けど、最近は二人だけ、なのはとお話をするだけです。

 ちらりとアリサの方を見ると目が合いました。

 何かを話しかけようとして、アリサがワザとらしく顔を背けます。

 アリサは怒っています、僕となのはが隠し事をしているからです。 でも話す訳にはいきません、僕達が危ないことをしていると知ったら心配させてしまいます。

 本当は話してしまいたいです、ジュエルシードのことも魔法のことも全部話して友達に戻りたいです。

 だけどそうしたら、アリサやすずかは絶対に手伝うって言います。

 だからと言って嘘を言って誤魔化すこともできません、友達に嘘はつきたくないです。 そんなことをしたら本当に友達じゃなくなってしまいそうで怖いです。

 結局僕は本当のことを話すこともできず、かといってアリサの追求にうまく嘘をつくことも出来ず。

 そういう中途半端な態度のせいで、余計にアリサを怒らせてしまっているのです。


「真塚君、少しお話をしましょうか?」


 先生に呼び出されました。 生徒指導室と書かれた部屋でお話をするらしいです。

 悪いことをした生徒がここで怖い先生と二人っきりで話をしているのを何度か見たことがあります。

 僕はここに呼び出される理由がわかりません、気がつかないうちに悪いことをしてしまっていたのでしょうか?


「最近真塚君達の仲良し4人組の様子が変だから、何か悩み事があるなら先生に相談してくれないかな?」


 先生に相談、してもいいのでしょうか?

 どうしようか悩んでいると、先生は他の人には秘密にすると言ってくれました。

 でも魔法のこととかジュエルシードのこととか話しても信じてくれないかもしれません。

 できるだけその辺りを誤魔化して、それでもできるだけ本当のことに近づけるように、できるだけ慎重にコレまでの出来事を話します。

 海鳴にユーノの大事な物がばら撒かれていること。

 それを集める手伝いをなのはがしていること。

 そのことは秘密にしていて事情を話せず、アリサとケンカしてしまったこと。

 僕が話している間、先生は一言も口を挟まずに黙って聞いてくれました。


「そっか、真塚君はいっぱい我慢してきたんだね。 本当のことは話せない、嘘もつきたくない、それで悩んでるんだ?」


 先生の質問に僕は黙って頷きました。

 先生は小声で 「そっか」 と呟くと、少しだけ考えごとをします。

 そいて、すこしだけ微笑みました。

 あの表情は……何か昔のことを思い出した表情です、すごく懐かしい思い出を話すときのお父さんやお母さんの顔に似ています。


「友達でも内緒や隠し事はある、先生だってそういうことで友達とケンカしたことあるんだよ」


 驚きです、先生でもケンカしたりするんです。

 しかも僕と同じような理由でなんて、先生はどうやって友達と仲直りしたんでしょうか?


「先生はね、待ってもらったの。 話せるようになったら、いつか必ず事情を話すから、それまで待って欲しいって言って」

「先生の友達は待ってくれたんですか? 話せるようになるまで、いつまでかかるか分からないのに」

「うん、友情って言うのは真塚君が考えているよりずっと強いものだよ。 心を込めてお願いすれば、きっとバニングスさんも待ってくれるはずだから」


 待ってもらう。

 ジュエルシードのことが全部終われば、きっと全部話せます。

 少しだけ心が晴れました。

 アリサは我慢してくれるでしょうか?

 分かりません、もしかしたらもっと怒るかもしれません、けど本当のことを言わずに嘘もつかずにアリサと付き合う方法を他に思い浮かびません。

 後でアリサとお話をします。

 自分にできる精一杯の気持ちを込めて、お願いをしてみるつもりです。

 生徒指導室を出て教室に戻りました。

 話をしているアリサとすずかの手を取って半ば無理やり屋上に連れて行きます。 突然のことなので二人とも驚いています。

 なのはにもついて来るようにお願いします。 少し戸惑いながらついて来てくれました。

 相変わらず不機嫌なアリサに頭を下げます。


「ごめん、アリサ」

「なによ、謝ったって許してやらないんだから」

「ううん、何をしてるかは話せない、だからごめん」

「……そこまで謝られたら逆にすがすがしいけど、結局理由は話してくれないの?」

「うん、でも絶対話すから、今は無理だけど話せるようになったら。 それまで待って」

「私からも、いつか必ず事情を説明するから、今は待ってほしいの」


 なのはも頭を下げます。

 アリサはそんな僕達を見ながら、大きく溜め息をつきました。


「ぽやぽやの和真となのはがそこまでするなんて、よっぽどのことなのね。 いいわ、待ってあげる」


 なのはと同時に顔を上げます。

 うれしいです、アリサは待っていてくれるって言ってくれました。

 二人でお礼を言うと、アリサは少し照れながら 「まぁ、友達だし」 と言いました。

 やっぱりアリサはやさしいです、すずかも嬉しくて微笑んでくれてます。


「ただし、話せるようになったらすぐ話すこと、私はそんなに気長じゃないんだからね」


 アリサがそっぽを向きながら言いました。 こんな態度のアリサは少し照れています。

 なのはと二人で、アリサにお礼をいいました。 何度も何度も、ありがとう、いつか必ず話す、と言いました。


「バニングスさん、ちょっと生徒指導室まで……って、もういいみたいですね。 やっぱり子供は行動がはやいな~」


 屋上の入り口のところに先生が来ました。 気がついたのは僕だけみたいです。

 声をかけようとしたら、先生は口に指を当てて 「し~」 ってしました。 そして他の3人に気づかれないうちに階段を下りてそのまま帰って行きました。

 休憩時間が終わるまで、僕たちは以前みたいに楽しくお話しをしてすごしました。

 きっとフェイトとも仲良くなれます。

 そんな気持ちを胸に抱き、僕たちはそろって次の授業に遅刻してしまいました。



[6363] じゅーいち
Name: ark◆9c67bf19 ID:e50a5e85
Date: 2009/02/19 14:08
「待たせたな」

「いや、今来たところだ」


 夜の海鳴のビル街、その最も高いビルの屋上に10人の少年が集まっていた。

 チームTRIPメンバー5人、過激派メンバー5人、彼らは全員デバイスを起動し、バリアジャケットを着用している。

 今にも戦闘が始まりそうなピリピリした空気の中、過激派メンバーの1人鬼道炎がチームの前に進み出る。

 日本刀のデバイスを抜き身のまま手に持ち、青いツナギを身に纏い、不敵な笑みを浮かべている。

 それに対してチーム側から前に出るのは天崎刹那、実質的なリーダーである彼が過激派をまとめている鬼道と話をする。


「こんな手紙で呼び出して、そういうつもりと考えていいのか?」

「ああ、そこに書いてある内容がすべてだ」


 刹那が一枚の手紙を炎に見せる。

 そこに書いてあるのは、チームと過激派の決戦をする場所と日時の指定。

 この戦いに過激派が勝利したらチーム過激派の原作介入行動に干渉しない、チームが勝利したら過激派は以後原作キャラに手出しをしないといった条件。

 その他、細かいルールなどが書かれていた。


「まぁ、結界を張って一般人を締め出すことや非殺傷設定を厳守することは納得できるが、人数制限が無いのは何でだ? 5対7じゃこっちが有利だろう」

「そのくらい譲歩しないと付き合ってくれそうに無いからな。 そう言いながらそっちも5人じゃないか、ファルゲンと紫音は真塚和真の監視か?」

「どうだろうな? 何か奥の手を用意して待機してるのかもしれないぞ」

「そういうことにしといてやるか、それじゃあそろそろ」

「ああ、そろそろ」


 10人全員が自分のデバイスを持つ手に力を入れる。

 それぞれが、各自の戦う相手を睨みつける。

 一筋の風が彼らの間を通り抜け、誰かが少しだけ息をのみ、ゴクリと喉を鳴らした瞬間、刹那と炎は同時に叫んだ。


『決戦だ!』


 それを合図にチームの5人がバラバラの方向に飛び出す、それを追って過激派の5人もバラバラに飛び出す。

 とんでもなく下らない個人の欲望と、世界の存亡をかけた戦いが今始まったのだった。




 10人の介入者が集まり、そしてバラバラに散った高層ビル。 全員がいなくなったその屋上に新たに二人の人間が現れた。

 ファルゲンと紫音、集まったチームの5人にはいなかった二人が数分の遅れで集合場所にやってきたのだ。

 
「なぁ、吉村」

「ファルゲンだ。 昔の名前で呼ぶクセ、直らないのか?」

「いい名前じゃないか、吉村正、ファルゲンなんとかよりよっぽどいい名前だと思うけど」

「まあな、そっちも橘惇の方が幽鬼紫音よりも親近感が沸くな」

「ちがいない」


 二人は笑いながらデバイスを起動してバリアジャケットを身にまとう。

 二人のバリアジャケットは全く同じデザイン、聖祥小学校男子制服だった。

 紫音は自分の身長以上の長さのあるキャノン砲を肩に担いぐ、ただし銃口は誰もいない空に向けていた。


「35ミリ魔法キャノン、バレル展開、チャージ開始」

『 Ok, count down 283,282,281…… 』


 紫音のデバイスがカウントダウンを開始したのを確認して、ファルゲンは顔にメガネをかけた。

 それと同時にファルゲンの周囲に無数の画面が浮かび上がる、その一つ一つには戦闘を開始したチームと過激派の姿が映し出されている。

 それを確認しながらチームメンバーに時々指示を出し始めた。


「インテリ、3番と5番の動きは速い、ちゃんと捕捉し続けて何時でも行動を起こせるようにしておけ、最低でも4分後には」

『 All right 』


 それっきり、二人は無駄口を叩かずにお互いの作業に集中した。

 紫音のデバイスの音声だけが淡々と数字を減らしている。


『 267,266,265,264…… 』





 飛行魔法を駆使して移動する刹那の前にいきなり赤いバリアジャケットを纏った人影が現れる。

 その姿を確認した刹那は動きを止めて空中に静止する。

 相手のデバイスは弓、それを構えた状態で真っ直ぐに刹那へ狙いを定めている。


「相手はお前か、牛田茂」

「ザップ・トライフォンだ。 その名前は捨てた」

「自分でそんなセリフ言って恥ずかしくないか?」

「自分に酔わなくて厨二病なんざやってられるか!」


 ザップのデバイスに光の矢が装填される。

 それを見た刹那は射線から外れようと全力で横に飛ぶ、が、茂は射線から刹那が消えたことにも構わずに光の矢を発射した。

 先ほどまで刹那のいた場所を素通りして空に消える光の矢、しかし数百メートル進んだところで無数の小さな矢に分裂しターンして戻ってくる。

 逃げ場が無いほどに空間を埋め尽くす矢を避ける手段など存在しない、近場のビルを盾にして降り注ぐ矢をやり過ごす。

 ビルに背を預けて矢を防ぎながら辺りを索敵する刹那だったが、殺気を感じて前面にシールドを張る。

 その予感は正しかった。 ザップは弓を分解し、二本の剣にして刹那に接近戦を挑んできたのだ。

 杖型デバイスを操る刹那の得意距離は中~遠距離、それに対抗するため弓形態での遠距離戦と双剣での近距離戦を同時にこなすザップが相手をする作戦だった。

 シールドと剣の間でバチバチと魔力の火花が散り、少しづつ刹那の体が壁に押し込まれていく。

 単純なパワー勝負なら刹那の不利は明らか、彼は元々小細工で勝負するタイプであって力のぶつかり合いは苦手なのだ。

 気合を入れて魔力を放出し、ザップを弾き飛ばす。 距離が離れたザップは双剣を合体させて弓にし、高出力の魔力砲を打ち出してきた。


「遠距離も近距離も戦えるなんて羨ましい……なっと、永瀬一号、誘導弾連射!」

「一応、お前に対抗するには俺が一番って話し合いで決まったからな。 サジタリウス、スマッシャーアロー!」


 刹那の放った無数の誘導弾をすべて吹き飛ばして、ザップのスマッシャーアローは刹那に直撃した。

 地面に落下する刹那に止めを刺そうと狙いを定めるザップ、小細工が得意な刹那に近づくことはしない、遠距離から安全に攻撃することを選択する。

 サジタリウスを構え、最大の攻撃を放つために魔力のチャージを開始する、だが突然そのチャージは中止することになる。

 落下する刹那が10人に増えた。

 もちろん、こんなものは幻術に決まっている。 どれが本物か分からないなら全部攻撃すればいいだけだ。

 拡散射撃ですべての刹那を一度に攻撃する、魔力弾はすべての刹那に着弾し、すべての刹那が消えた。


「全部幻術? 本物は……後か!」


 後で魔力を感じた。

 振り向きざまに攻撃しようとして、その腕が止まる。

 離れた場所から茂を攻撃しようとする人影、それは紛れも無く、高町なのはの姿だった。

 高町なのははレイジングハートをこちらに向け、ディバインバスターを撃とうとしている。

 何故ここに高町なのはが? ザップはそのことで頭がいっぱいになり、一瞬タクマのことを忘れてしまった。

 次の瞬間、背中に感じた衝撃でザップは刹那との戦闘中であることを思い出す。

 刹那は後からザップを羽交い絞めにしていた。 そして自分ごとバインドでザップの体をグルグル巻きにして動けなくする。


「誘導弾は全部目くらまし、最初に落下していた俺自身がすでに幻術だ。 そして当然、アレもな」


 高町なのはの姿が歪み、やがて消えてしまった。

 まんまと罠にはまったことを理解してザップは歯軋りをする。 こんな手に引っかかるとは、自分でも情けない。


「それで、自分ごとバインドで固定してどうするんだ? お前も攻撃できないだろ?」

「俺は攻撃する必要は無い、ファルゲン! やれ!」


 刹那が叫ぶのと同時に、二人の姿は空中から消えた。





 
 竜宮カムイははやて萌えである。

 そのことを仲間内に隠したことはないし、例のストーカー事件でどのくらいの度合いかは分かるというものだ。

 もっとも、チームの一員として八神はやてを見守る決意をしたことで、ある意味仲間の中で一番勇気があると尊敬されたりもしたのだが。

 そんな彼が、八神はやてに関して一つだけ他の人間に譲れないことがある。

 それは……


「ヴォルフ・マクレガー、いや、西田吉郎! 俺は、お前だけは認めるわけにはいかない!」

「お前に認められる必要などない!」


 二人のデバイスは、奇しくも同じベルカ式の大剣だった。

 近接戦闘で大剣を振るう二人の間には何度も火花が散り、大剣が接触するたびに二人の腕は振動で痺れる。

 だが二人とも引かない、引くわけにはいかない。

 同じ八神はやてに萌えた者同士として、そして、お互いに譲れぬそれぞれの思いのために引くことは出来ない。


「村田! お前はヘタレだ! 自分の思いを途中で諦めた、その程度の奴にはやてとヴォルケンリッターは相応しくない!」

「それが認めるわけにはいかない理由だ! お前、はやてと一緒にヴォルケンズもって思ってるだろうが! ハーレムかぁ? ふざけんな!」


 カムイの渾身の一撃でヴォルフはビルの壁面に吹き飛ばされる。 しかし足を壁に向けて、壁面に着地した。

 陸戦なので空は飛べないが、それでもこの程度の重力制御の魔法なら使えるのだ。

 ヴォルフが顔を上げると空中にカムイが浮かんでいた。

 空を飛んでいるというよりも大剣に掴まって落ちないようにしている状態、彼も自力で空を飛ぶことは出来ず、あくまでデバイスで浮かんでいるに過ぎない。

 つまり、デバイスとカムイを何らかの方法で切り離したら自動的に吉郎の勝利になる。

 そのことを理解してヴォルフはニヤリと笑った。

 同じベルカ式だが、チームにいたころの魔法訓練でお互いの力関係は理解している。

 そして自分が有利なことも……


「アロンダイト、カートリッジロード」


 ヴォルフの大剣から薬莢が放出され、魔力が一時的に増大される。


「疾風三式、カートリッジロード」


 カムイの大剣からも薬莢が排出される。

 お互いがお互いの全力攻撃を放とうとしていることを理解した。

 そしてこの一撃で決着がつくだろうことも、二人には想像できた。


「思えば、この世界に来てから一番話をしたのはお前だったな」

「同じはやて萌えと思っていたからな、三日でそれが間違いだと分かったけど」

「コレで決着だ。 折角だから白状してやる、ああ俺はハーレム狙いだ! はやてもシグナムもヴィータもシャマルも、全員に萌えてる」

「どうやら、此処までだな」

「何!?」

「お前は今、自分で死亡フラグを立てた」


 カムイがまるでサーフボードのように大剣の上に乗る。

 このまま突撃するのが大介の必殺技、ならばヴォルフはそれをギリギリで避けて相手無防備なところにこちらの必殺技を叩き込む。

 単純ながらも必勝の戦術、勝利を確信してさらに口もとが釣りあがる。

 気取られるわけにはいかないので必死に隠そうとするが、それでも付き合いが長いカムイはヴォルフの狙いを感じ取っていた。

 そして、それを知りながらあえて誘いに乗ることを選択する。

 ビルの壁面に立つ吉郎に向けてどんどん加速を続け、一直線に突撃する。


「ソードダイバー、吹き飛べ! 西田!」


 自身を一本の巨大な剣に見立て、最大の加速と質量を持っての体当たり。

 これを防ぐことは並大抵のシールドやプロテクションではだめだ、そんな防御をヴォルフがすることもできない。

 しかしヴォルフの顔から余裕は消えない、この攻撃は防ぐことは難しいが避けることは割と簡単なことを知っているからだ。

 あまりに高速な突撃のせいで攻撃をするカムイ自身が何をしているのか分かっていないのがソードダイバー最大の欠点。

 予定通りに飛びのいたヴォルフの真横の窓に突っ込む大介、きっとこのビルの内部はメチャメチャになっただろうがそこは気の毒としか言いようが無い。

 それよりも重要なのは、今ビルの中には隙だらけのカムイがいることだ。


「村田! もらっ……た?」


 止めの一撃を喰らわせようとカムイの空けたビルの穴に入る、だがそこにカムイの姿は無かった。

 カムイのデバイスの疾風三式だけが柱に突き刺さっている、だがソードダイバーはカムイ自身が突っ込む技なので本人がいないとおかしい。


「何もおかしくないぜ、色々改良してな、剣だけ打ち出すようにした」


 穴の外からカムイが体当たりをしてきた。

 後からの攻撃に反応できず、ヴォルフはカムイにしっかりと掴まれてしまう。

 そのまま刹那がザップにしたのと同じように、自分の体ごと相手をバインドで固定する。


「くそ、飛行魔法、使えたのか?」

「必死に覚えた。 ほんの数分間しか飛べないからギリギリまでデバイスを使ってた」

「俺の負けか?」

「折角だから何で負けたのか教えてやる。 さっきお前は……ザフィーラを忘れていた。 それはヴォルケンズ好きとしてやっちゃあいけないことだ。 やれ! 吉村!」


 ビルの中から二人の姿は消え、残ったのは破壊されたオフィスだけだった。







「速度を合わせろ神尾、こっちは飛べないんだから!」

「リュウセイこそ速度を合わせろ、直線の速度はそっちの方が速いだろうが!」


 夜のビル街を二人の黒魔術師が移動する。

 元介入反対派の二人が相談して考えたバリアジャケットは明らかに怪しい黒魔術師の格好だった。

 3人目の介入反対派の紫音にもこのデザインを進めたが、彼は恥ずかしさに耐え切れず結局聖祥小学校制服と同じデザインにしてしまった。

 それが残念だった、何故このハイセンスが分からないのかと思う。

 こうしてちょっとずれたセンスを持つ二人はチーム内でも仲がよく、いくつかコンビネーションも考えたりしているのだった。

 そんな二人の相手は、こちらも二人組みの過激派――


「大空蒼牙と龍堂翼、厄介な奴らの担当になっちまったな」

「正確な超遠距離射撃と近~中距離のコンビネーション、こっちは二人とも格闘タイプだから、何とかして龍堂に近づかないと……来るぞ!」


 やや低めのビルの屋上をに着地した瞬間、空から人影が降ってきた。

 ギリギリのところでその影を避けるが、人影の拳はビルの屋上を突き破って下の階に移動する。

 その破壊力に驚く暇も無い、遥か遠方のビルの屋上が光った次の瞬間にはリュウセイに魔力弾が打ち込まれていた。

 距離があるため威力は減衰しているので一撃必殺にはならない、だがそれなりに痛く、打ち込まれた頭を抑えながら移動する。

 なんとか給水タンクの陰に隠れてやり過ごそうとするが、今度はリュウセイのいる床に丸い切れ目が入る。

 その切れ目にそって床が落下し、リュウセイはそのまま下の階に落ちてしまった。


「リュウセイ! っと、こっちも何とかしないと」


 リュウセイがビルの内部に移動したことで翼は狙いを烈火に変えてきた。

 慌てて物陰に隠れることで難を逃れる。

 翼のデバイスはスナイパーライフル、その射撃の正確さなら姿を見せた瞬間に狙い撃ちされてしまう。

 距離が離れている今なら何発かは耐えられるだろう、しかし攻撃するために接近すればその分威力が上がる。

 おそらく100メートルほどまで近づいたら、バリアジャケットを貫いて致命傷を食らってしまうだろう。

 結局、解決策が思い浮かぶまで持久戦をする覚悟で、今履いている靴型のデバイスにそっと触れたのだった。

 一方、ビルの内部に移動したリュウセイはもう一人の過激派、大空蒼牙と相対していた。


「ジェフリーに見逃してもらったらしいが、俺はそんなに甘くないぞ」

「本当はリベンジしたかったが、鬼道が相手をするらしいからな。 お前で我慢だ!」


 蒼牙が大鎌のデバイスを振ることで発生する魔力の刃、これがファントムスラッシュと言う技であることをリュウセイはジェフリーから聞いていた。

 そして使用者の意思で自由に軌道を変えることが出来ることも。

 まずこちらに向かってくる時にジャンプで避け、さ戻ってくる時は床に穴を開けて下の階へ逃れる。

 床を破壊した時の粉塵でリュウセイの姿を見失った蒼牙の動きが止まり、その隙に床から生えてきた二本の腕に足を捕まれ、さらに下の階に引きずりこまれてしまう。


「いらっしゃ~い、そして……さようならだ!」


 戦闘機人としてのパワーを最大限に発動させて、こんどは天井に向けて投げつける。

 真上に投げ飛ばされた蒼牙は天井を一枚抜き、二枚抜き、屋上も突き破って空中に投げ出された。

 そして屋上で硬直した事態を打破する一手を待っていた烈火が蒼牙に飛び掛る。


「ブーツ君、カートリッジロード! 必殺ぅ……烈火キイイイイイック!」


 空中に飛び出して完全に無防備な蒼牙への一撃を翼のいる方向に向けて撃つ。

 当然、蹴られた蒼牙は射撃体勢を取っている翼に向かって飛ぶ、それは正確な射撃を防ぐ障害物としては十分すぎる盾だった。

 蒼牙の陰に隠れながら翼に近づく烈火、それにリュウセイも追いついてきた。

 しかし遠距離から射撃をする翼まではかなりの距離がある、途中で蒼牙が体勢を立て直してしまう。

 そのことに気がついたリュウセイと烈火は一瞬だけお互いに視線を交わらせると、意地悪そうな顔をして蒼牙にさらなる攻撃を加える。


「くそ、そうなんども 「ヒートソウルブレイカー!」 ぶべらっ! お前ら 「烈火キック!」 げぶはっ! いいかげんに 「ヒートソウルブレイカー!」 ぐげりゅ! すいませ 「烈火キック!」 ごぼはっ!」


 体勢を立て直しそうなら攻撃、失速しそうなら攻撃を繰り返すことで翼に接近する。

 そしてある程度まで接近したところで同時に左右に飛び出し、翼を両側から挟みこむ位置に移動した。

 翼のデバイスでは一度に複数の敵を相手にすることは出来ない、まして完全に反対方向にいる二人を攻撃する手段は存在しない。

 取り合えず目に付いた烈火の方に攻撃しようとして、飛んできた蒼牙に当たってしまった。

 二人に気を取られていた。 こんな間抜けな事態になってしまうとは……

 邪魔な蒼牙をどけようとして、二人まとめてバインドで体を固定される。

 右を向くとリュウセイが右腕を天高く掲げている、左を向くと烈火も右腕を掲げている。

 そして二人の右腕から伸びたバインドが翼と蒼牙を挟んでつながっていた。


「マグネットパワープラス!」

「マグネットパワーマイナス!」


 そういえば、タッグ編で完璧な奴らは最初黒いフード姿だったことを思い出す。 ちょうどバリアジャケットを纏ったリュウセイと烈火みたいに――


「「津田藤二、これでお前も終わりだ。 クロス・ボンバー!」」


 リュウセイと烈火のラリアットに翼と蒼牙が挟まれた瞬間、彼らは転移魔法でその場から姿を消したのだった。







「マサ、適当に相手をするぞ。 空破斬!」


 ツナギ姿の鬼道炎が日本刀を振るうと、その軌跡に沿って生まれた魔力の刃がジェフリーに向けて放たれた。

 それをマシンガンモードのJDで撃墜しながらジェフリーは違和感を感じていた。 すなわち炎は本気でジェフリーの相手をしていないことを。


「JD、誘導弾と直射弾をそれぞれ5発づつ」


 それぞれ異なった種類の弾を合計10発発射して様子を見る。

 炎は誘導弾をすべて日本刀型デバイスのマサで叩き落し、直射弾は余裕を持って回避した。

 ここまではいい、だがその後炎は距離をとり、適当な遠距離魔法をばら撒いてくるだけだった。

 日本刀型デバイスの接近戦を得意とするはずの炎がこんな行動を取るのはおかしい、時間稼ぎをしているのだろうか?

 だが何のために?


「なにを考えている鬼道、お前たちの方から挑んできた勝負じゃないのか?」

「さてな、そっちとこっちじゃ勝利条件が違うのかも知れないぞ、数ターン耐えるとか」

「ふざけるな!」

「そうか、じゃあ少しはまともに戦うとしよう。 フラッシュムーブ」


 先ほどまで逃げていた炎が今度は高速で接近してきた。

 再びJDをマシンガンモードにして、当たるを幸いに乱射する。 だが、そのすべての弾丸を回避しながら炎はジェフリーに肉薄してきた。

 そして横なぎにマサを振るい、ジェフリーのバリアジャケットを切り裂いた。

 ギリギリで飛びのいて致命傷だけは避けるが、反撃の射撃魔法はすべて弾かれてしまった。


「無駄だ。 俺のレアスキルは知ってるだろう? 俺は射撃魔法の弾道を撃った瞬間に知ることが出来る」

「ああ、知ってるさ、そして読めるのは射撃魔法だけだってのも、弾道だけだってのもな! JD、奥の手その1、弾幕を張れ!」


 コレまでとは違う種類の弾丸、しかしレアスキルを発動した炎にはその弾がどのように飛ぶのかがはっきりと分かる。

 いままでと同じように避けれる物は避け、直撃コースも弾丸はマサを使って弾き飛ばそうとして、目の前を光に包まれた。

 マサで打ち落とした魔法弾がいきなり爆発したのだ。 すなわち、炸裂弾。

 炎のレアスキルでは弾丸の種類までは分からない、それを利用した奥の手だった。

 高速戦闘をする炎の防御力は低い、自分のレアスキルのこともあって被弾することを考えていないからだ。

 10発以上の炸裂弾の爆風で姿は見えないが、少なくとも致命傷を与えたはずだ。

 そう思っていると、爆風のからボロボロのバリアジャケットの炎が飛び出してきた。

 デバイスのマサを上段に構えて、真っ直ぐに振り下ろしてくる。


「JD、もう一発奥の手で……」

「させるか、空破斬、連打!」


 ジェフリーがJDを構えたところに空破斬が降り注ぐ。

 その一発が手に当たってジェフリーは思わずデバイスを落としてしまった。 そしてその隙を炎は逃さない。

 あっという間に日本刀型デバイスを突きつけられ、ジェフリーは身動きが取れなくなってしまった。

 どちらが勝者なのかは明白、デバイスも無いジェフリーに反撃の手段は無い。

 止めを刺されるかと覚悟をするが炎は何もしない、マサをジェフリーの喉元に突きつけたまま遠くの方を見ていた。


「過激派は皆やられたみたいだな。 どうやらこっちの負けのようだ」

「お前は勝っているだろう?」

「勝ち負け自体はどうでもいい、ただ時間を稼いだかいはあった」


 炎はマサを鞘に戻すとジェフリーから離れた。

 止めを刺さない炎に疑問を感じながら、ジェフリーは尋ねる。 炎の考えが未だに読めないからだ。


「結局、お前は何をしたかったんだ? まるで負けることが前提みたいじゃないか?」

「これで過激派は大人しくなる。 ああ、安心しろ、約束どおり俺も原作キャラに手を出すことはしない」

「説明になっていない! 一応はお前も過激派の一員だろうが!」

「ならこういえばいいか? この戦いは楔を打ち込むことが目的だった。 そして打ち込むのに十分な時間稼ぎはした」

「楔?」

「真塚和真にはリリカルなのはの主人公として決定的に足りないものがある。 それを補うことが、きっと俺達の存在理由だ。 よく考えろ」


 そう言い残して炎は転移魔法で消えた。

 残されたジェフリーは念話で仲間たちと連絡をとる、他の仲間のは無事作戦通りに進んでいた。

 失敗したのは自分だけ、ついつい溜め息をついてしまう。


「ファルゲン、こっちは失敗、鬼道は逃げた」

「了解、まぁ1人じゃ何も出来ないだろうし。 過激派の大半を吹き飛ばせるなら十分だ」


 念話を切断して、ファルゲンと紫音が待機している高層ビルのほうを見る。

 一本の巨大な魔力の砲撃が天に向かって伸びているのが見えた。

 これで、決着。






『 5,4,3,2,1, complete 』


 デバイスの音声が準備完了を告げる。

 それと同時に紫音の目の前に8人の少年たちが転移してきた。

 全員がバインドで縛られて身動きできない状態、今ならどんな攻撃でも直撃するだろう。


「全員転送完了、ジェフリーと鬼道は無しだ」

「了解、まとめて吹き飛ばしてやる! パクリ上等、スターライトブラスター!」


 夜空に走る一本の魔法の閃光、ただし本家高町なのはのスターライトブレイカーと同程度の太さがある。

 紫音のデバイス、35ミリ魔法キャノンから放たれた砲撃が、転移してきたチームと過激派をまとめて吹き飛ばした。

 意気揚々とハイタッチをするファルゲンと紫音、地面に落下していく八人の少年たち、それを見て少しばかりの冷や汗をかくジェフリー。

 鬼道は逃げたがそれ以外の過激派は全滅し、チーム側にはまだ3人の生き残りがいる。

 通常の戦闘で勝利することが困難な場合、捨て身の覚悟で自分ごと相手をバインドで固定しファルゲンに転送してもらう。

 そして身動きの取れないところを、チャージに4分以上かかり通常では使い道が無い紫音の必殺魔法で吹き飛ばす。

 これがチームTRIPの立てた作戦、約4名ほどすでに決着のついた状態で転移をおこなってしまったが、まぁ最終的に勝利できたので問題ないことにした。

 後はバインドを引き剥がして過激派のデバイスを破壊すればこの戦いは終わる。

 鬼道の言う楔が何かは分からないが、こうしてチームTRIPと過激派の戦いは一応の決着がついたのだった。








 同じクラスの鬼道君から電話がありました。

 今日の宿題で分からないところがあったから教えて欲しいらしいので、明日には絶対返してもらう約束でノートを貸してあげることにします。

 けど、約束の場所に鬼道君はいませんでした。 変わりに手紙と双眼鏡がありました。

 手紙にはある方向を双眼鏡で見るように書かれています、なんだろうと思ってその方向を見てみると……

 魔法でケンカしているクラスの男子達がいました。



[6363] じゅうに
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/04/11 20:03
「いこうか、シロ」

「くぅ~ん」


 シロと一緒にトボトボと家を出発します。

 元気が出ません、自分でも元気が無いって分かるぐらいだから他の人にはもっと元気が無いように見えるんだと思います。

 お父さんやお母さん、はやてにも心配されてしまいました。

 でも魔法関係のことは、たとえ家族に対しても話さないようにって言われてます。 だから本当のことを話すことは出来ません。

 嘘をついて心配ないことを伝えます、けど僕は嘘をつくことが苦手です、きっとみんな僕が嘘をついていることに気がついているでしょう。

 それでもそれ以上深く聞いてこないのは、普段嘘をつかない僕がそこまでして隠したがっていることが大切なことだと感じてくれているからかもしれません。

 きっと僕の方から話すのを待っていてくれてるんだと思いますが……そういう風に思われているのに答えることが出来ないのが辛いです。

 そんな嫌な気持ちを吹き飛ばすつもりで走り出します。 もう全力で、運動会のかけっこをするくらいの気持ちで。

 なのははいません、ユーノもいません、僕はもう……ジュエルシードを探していません。

 なぜなら、ジュエルシードに関わっちゃいけないって時空管理局の人に言われてしまったからです。







 鬼道君に呼び出されてから数日後、いつもどおりなのはとフェイトがジュエルシードの取り合いを始めました。

 僕は見てるだけ、というか身動き取れない状態です。 アルフさんが僕を抱きかかえてます。

 フェイトがそういう指示を出したらしいです、僕をジュエルシードに近づけるなって言ってました。

 この前ジュエルシードを壊そうとしたのを怒っているのでしょうか? そう思ってアルフさんに尋ねるとクスクスと笑われてしまいました。


「アンタが怪我しないようにって言ってたよ。 この間は下手したら死んでたかもしれないんだし、魔法が使えないんだから大人しくしてな」


 必死にもがきますが抜け出せません、脱出は無理だという結論に辿り着きました。

 僕が暴れなくなったのでアルフさんはシロとおしゃべりを始めました。 趣味とか好みの女性のタイプとかを聞いています。

 シロが 「わん」 と鳴くたびにアルフさんは喜んだりちょっと落ち込んだりしました。 シロはどういう風に返事をしているのでしょうか?

 そっちも気になりますが、それよりもなのはとフェイトの方を心配しなくてはいけません。

 ケンカする二人を止める方法は無いのでしょうか? 僕も魔法が使えたら……

 そう考えていると、突然空間が歪んで黒い服の男の子が現れました。

 ワープです、絶対魔法関係の人です、年齢は僕より少し高いくらいでしょうか?


「僕は時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。 二人とも武器を収めろ!」


 その声で二人が止まりました。

 なのはは何が起きたのか分からないという表情をしてます、けどフェイトはかなり驚いた顔をしています。

 少しだけアルフとアイコンタクトをすると一目散に逃げ出しました。 クロノという人は逃げるフェイトに向かって杖を向けます。

 いけません、攻撃する気です。 杖の先から魔法の弾を出してフェイトを打ち落とすつもりです。

 何とか止めないといけません、どうしようかと思ってアルフさんの顔をみました。


「ごめんよ、でもあの娘ならちゃんと受け止めてくれるだろうさ」


 一瞬アルフさんが何を言っているのか分かりませんでした。 そして考える余裕もありませんでした。

 アルフさんは僕の胸倉を片手で掴むと――クロノに向かって投げつけました。

 僕は空を飛ぶことができません、当然投げられたらそのままです。 ものすごい速度でクロノに向かった僕は……


「っ!? シールド!」

「ぎゃう!」


 クロノの前に現れた壁に当たって止まり、今度は重力に引っ張られて真下に落下しました。

 そんな僕をなのはが空中でキャッチします、木の時と同じです。

 ただ一つ違っていたのは、今回なのはは泣いていません、怒った顔でクロノを睨みつけてます。


「すまない、とっさに防いでしまった。 彼は大丈夫か?」

「和真君は魔法が使えないのに……酷い」

「幸い怪我は無さそうだ。 このままアースラまで一緒に―― 「ディバイィィィン……」 なぁ!?」


 なのはは片手で僕を抱きかかえ、もう片方の手に持っているレイジングハートをクロノの方に向けました。

 杖の先に桃色の光が集まります、かなり本気みたいでたっぷりと時間をかけてチャージしています。

 クロノがとても驚いた顔をしました。 何で攻撃されるのか分かってないのでしょう、というか僕にも分かりません。

 何か、すごい勘違いをしているのかもしれません、というか絶対しています。 なのはは割と思い込んだら突っ走る傾向があります。


「ま、待て! 責めるべきは防いだ僕ではなく投げつけたあの使い魔じゃ……」

「バスタアアアアアア!」 

「うおわぁ!」


 桃色の閃光をクロノはギリギリのところで避けました。 かなり危なかったらしく冷や汗をかいてます。

 なのははすかさず二発目を撃つ準備に入りました。

 なのはの周りに光の弾が出てきます。 確かディバインシューターって名前だったと思います。 この弾が相手を追いかけるのです。

 きっと真っ直ぐ飛ぶディバインバスターが避けられたので違う魔法にしたのでしょう、けどコレが当たったら……なんかこう……ものすごくマズイ気がします。


「なのは、その人は時空管理局っていうこの世界の警察みたいな……」


 ユーノがなのはを止めようと必死に説得しています。 けどなのはは話を聞いていません。


「和真! なのはを止めて!」


 自分では無理だと感じたユーノが僕に丸投げしました。

 そんなこと言われても、今のなのはは変な感じにテンションが上がっています。 どうしたら止められるでしょうか?

 そんなことを考えているうちになのはの魔法発射体勢が整いました。 あとは掛け声をかけるだけで魔法の弾はクロノに向かって殺到します。


「ディバインシューター!」


 もう時間がありません、手段を選んでいる余裕もありません。

 僕はなのはの顔に向けて指を突き出しました。


「シュー 「えい」 ト?」


 ぷに

 なのはの頬っぺたに僕の指が突き刺さります。

 急に集中が途切れたせいで魔法の弾はメチャクチャの方向に飛んでいきました。 クロノには一発も当たってません。

 とりあえず安心です、なのはは何が起きたのか分かっていないみたいです。

 混乱しているなのはの両頬に手を当てて無理やり僕のほうに向けます、なのはと目が合いました。 ちょっと恥ずかしいです。


「大丈夫だから、怪我とかしてないから。 ね?」

「う、うん……わかったの」


 なのはが落ち着きました。

 ユーノもクロノもほっと胸をなでおろしました。

 そのタイミングを見計らったかのように空中に画面が浮かび上がりました。 これも魔法でしょうか?

 どっちかっていうと別な感じがします。 魔法よりも宇宙刑事とか宇宙が舞台のロボット漫画とか……

 画面に映っている女の人はリンディ・ハラオウンと名乗りました。 アースラって宇宙船の艦長らしいです。

 その宇宙船に招待してくれることになりました。 宇宙船って始めてなのですごくワクワクします。

 ワープして目に入ったのは、まるで漫画に出てくるようなカッコいい宇宙船の中でした。

 見るもの全部が新しいです、乗組員の人たちもカッコいいです、そして案内されたのは……何故か和室でした。

 別の意味で驚きました。 なんで別の世界の宇宙船に和室があるのか分かりません。

 差し出されたのはお茶と羊羹です、ちゃんと湯のみです。 この宇宙船は本当に別の世界から来たんでしょうか?

 お茶を飲んでみて……甘いです。 珍しいお茶です、お父さんが飲んでいるお茶は苦かった気がしますが、種類が違うんでしょうか?

 リンディさんは普通に飲んでます、クロノは手をつけてません。 クロノはきっとお茶が嫌いなんです。

 リンディさんがお茶を飲んで、湯飲みを置いて、話が始まりました。


「さて、貴方達にコレまでの事情を聞きたいのだけど?」

「キミは変身を解いて楽になったらどうだ?」

「あ、そうですね。 わかりました」


 そういうとユーノが光に包まれて人間になりました。

 すごいです、ユーノは喋れるだけじゃなくて変身できるフェレットでした。

 あれ? 人間が本物でフェレットが変身した姿? でもユーノはフェレットで、フェレットが人間で、フェレットがユーノで……


「いたい、いたい、いたい、何でシロは僕を噛んでるの? 和真止めて、僕人間だから、もうフェレットじゃないから」


 シロがユーノに噛み付いてます。

 シロは他の人に噛み付くことはしません、ってことは、やっぱりユーノはフェレットなんだと思います。

 リンディさんとなのははそれを見てクスクス笑い、クロノは溜め息をつきました。

 ユーノからシロを引き剥がして、そのままシロを抱きかかえて座ります。 こうしたらシロは大人しくなるのでもう大丈夫です。

 ユーノの服の袖がシロの唾液でべたべたになってしまいました。 その部分をハンカチで拭きながらユーノはコレまでに起きたことを説明します。

 ユーノが地球に来た理由、ジュエルシード、協力する僕となのは、そして同じくジュエルシードを集めているフェイト。

 一通りの話を聞き終わったリンディさんはまたお茶を一口すすりました。

 そして今までの優しい表情から厳しい大人の表情になります。


「事情は分かりました。 これより先は時空管理局が調査します。 あなたたちは元の生活に戻ってください」

「けど、私も何かしたいんです。 出来ることがあるのに何もしないなんて嫌なの!」


 なのはの気持ちは分かります。

 僕だって海鳴の街が大好きだから、その街がジュエルシードで大変なことになるのが嫌だから、今までがんばってきました。

 それにジュエルシードに関わるうちに色々とやりたいことも出来ました。

 なのはとフェイトの仲直り、ジュエルシードをめぐってケンカする二人を何とかして仲直りさせたいです。

 でもリンディさんの言うことも分かります。

 時空管理局は警察に似たものらしいです、世界の平和を守るために頑張っています。

 そんな人たちのお仕事に僕たちが関わっていいのでしょうか?

 いくら僕でも現実と漫画が違うことくらい分かる年齢です、カッコいいヒーローや面白い漫画を見たらワクワクしますけど、ニセモノって理解してます。 ただし魔法は存在することは最近知りました。

 だからいわゆる、殺人事件の捜査をする少年探偵とかいうのが日本にいないことくらい分かります。

 そういうことは大人の仕事、僕のような子供が出ることじゃありません。

 ……僕はどうしたらいいんでしょうか?


「分かりました。 けど一日考えてください。 それでも考えが変わらないのなら手伝ってもらうわ」

「はい!」


 話がまとまったみたいです。

 なのはは手伝う気満々です。 なのはの性格を考えると当然の答えでした。

 すごいです、なのはは自分の思いを貫く強さを持ってます。

 そんななのはを見ていると僕も勇気が沸いてきます、がんばろうって気持ちに慣れます。


「わん!」


 シロも応援してくれてます。

 魔法が使えない僕がどんなことできるか分からないけど、何か出来ることがあるはずです。


「僕も 「ただし和真君、あなたは別です」 え?」


 手伝う、と言おうとしたところでリンディさんに言葉を止められました。

 真剣な顔で僕の目を見つめてます、この目は見たことがあります。

 僕が危ないことをしそうなとき、それを止めるお父さんとお母さんの目です。  リンディさんがその目をしているということは……


「和真君、正直に答えなさい。 あなたはジュエルシードに関わって何回危ない目に遭いましたか?」

「……2回です。 木から落ちたときと、ビルから落ちたとき」

「その時はうまくなのはさんやフェイトって子が助けてくれたみたいですが、もし間に合わなかったら? もしそのまま地面に落ちていたら?」

「……怪我してました」

「大怪我です、もしかしたら死んでいたかもしれません。 魔法を使えない貴方がジュエルシードに関わるのはそれほど危ないことです。 そして次にそんな事態になった時、助かる保障もありません」

「でも、僕はなのはとフェイトが――」

「これ以上ワガママを言うようなら事件が解決するまで君を拘束することも考慮しなくてはならない。 いくら君にやる気があっても、ハッキリ言って足手まといだ」


 クロノが拘束とか怖いこと言ってます。

 きっと牢屋みたいなところに閉じ込められて毎日オニギリ二個の生活とかさせられるんだと思います。

 不安になってなのはの方を見ると、なのはは何か考え込んでいました。

 
「わたしも和真君は元の生活に戻った方がいいと思うの」


 なのはがそんなことを言いました。

 ショックです、まさかなのはの口からそんな言葉が出るとは思いませんでした。

 これまで一緒に頑張ってきたのに……確かに僕は何も出来なくてなのはに助けられてばかりだったけど、こうして真正面から言われるのは辛いです。

 多分今の僕は泣きそうな顔をしています。 目に熱いものがたまっていくのが分かります。

 そんな僕の頭になのはが手を置いて、やさしく撫でてくれました。


「わたしが守りたい大切なものの中に和真君も入っているの。 和真君が危ない目に遭うのは嫌だから……お願い、私に任せてほしいの」








「和真おかえり~、ってどうしたん? 何で泣いとんの? 怪我でもしたん?」


 あの後どんな話をしたのか覚えていません。

 管理局の人に近くの公園までワープで送ってもらいました。 そこから何も考えずに家まで歩いたんだと思います。

 玄関を開けて、出迎えてくれたはやての言葉を聞いて初めて自分が泣いていることに気がつきました。

 お母さんは僕を元気付けようと、晩ご飯のハンバーグを大きくしてくれました。 うれしいです、けど美味しくないです。

 ふらふらしながらお風呂に入り、いつも見ているアニメも見ずに寝ます。

 みんなにいっぱい心配をかけてしまいました。 明日になったらいつもどおり、元気にならないといけません。

 そう、明日になったらいつもどおり……明日になったら……

 なのはがしばらく学校を休むって、なのはのお父さんから電話がありました。

 おたふく風邪って言ってるけど嘘です、なのはは一度おたふく風邪にかかったって以前聞いたことがあります。 絶対魔法関係です。

 きっとアースラの人たちと一緒にジュエルシードを探しているんだと思います、けど僕にはどうすることも出来ません。 宇宙にあるアースラに行くことなんて出来ません。


「なかなかしょぼくれてるじゃないか? どうした?」


 散歩をしていると声をかけられました。

 鬼道君です、こんなところで会うなんてすごい偶然です。

 そうです、鬼道君に会ったら聞きたいことがあったんです。 あの夜、クラスの皆とケンカしていたこととか、魔法のこととか。

 そう、魔法です。 鬼道君も魔法使いで魔法が使えるんでした。

 鬼道君にお願いします、僕に魔法を教えて欲しいんです。 頑張って覚えるから教えてください。


「無理だ。 お前には魔法を使う源が無いから、どれだけ頑張ろうと魔法を使えない」


 残念です、魔法が使えたら僕もなのはの手伝いが出来たのに。

 鬼道君が駄目なら他のクラスメイトに魔法を習うことも考えていました。 けど僕に源が無いなら、他の誰に頼んでも魔法を覚えることは出来ないのでしょう。

 しょんぼりしていると鬼道君が缶ジュースを差し出しました。 おごってくれるらしいです。

 近くの公園のベンチに座ってお話をします。

 なのはのこととか、フェイトのこととか、ジュエルシードのこととか、鬼道君は魔法使いだから話しても大丈夫だと思います。


「なるほど、高町なのはとフェイトって娘がケンカするのが嫌なのか。 でもケンカしてから仲良くなることもあるだろ? ある意味王道の展開だ」


 それはそうかもしれません、けど痛いのは嫌です。

 なのはもフェイトも優しい子です、ケンカなんかしなくてもきっと仲良しになれるはずです。

 なんで二人がケンカをするんでしょうか? 二人を止めることは出来ないのでしょうか?

 僕じゃあどうしようも出来ないのでしょうか?


「だったら知ることだ。 情報が少ないと考えも纏まらないぞ。 何でフェイトがジュエルシードを集めてるかを知って……チッ、もう来たか」


 鬼道君が空を見上げました。 それに釣られて僕も同じ方向を見ます。

 空の彼方に見える人影、杖を持っています。 魔法使いです。

 管理局の人? 違います、こちらに向かってきているのは見慣れた人間です。

 あれは天崎君です、そういえばこの間ケンカしていたクラスメイトの1人に天崎君もいました。

 そして天崎君と鬼道君は別々のチームでケンカしてたと思います。

 二人はまたケンカをするのでしょうか? 止めないといけません。


「鬼道! 管理局も来ているのに、何をしようとしている!」

「二人ともケンカしないで!」


 思わずベンチから立ち上がります。

 天崎君を止めようと前へ出ようとして――


「もうちょっと話したかったがしょうがない、マサ、やれ」


 後からの衝撃で、僕は意識を失いました。








「あれ?」

「どうした? エイミィ」

「海鳴で魔力反応が出たの。 あ、消えた」

「フェイトちゃんですか?」

「ジュエルシードの反応は無いから違うと思うけど……サーチャーにも何も映って無いし、終わった後だろうね」

「なら調べても無駄だろう。 それも気になるが今はジュエルシードを優先するべきだ」


 クロノの話を聞きながら、なのはは日常に戻った友達のことを考えた。

 本当は一緒にいたかった、けど何の力も無い和真をこれ以上危ない目に合わせるわけにはいかない。

 分かれる間際、泣いていた和真の顔を思い出すと胸が痛くなってくる。

 だから少しでも早くジュエルシードを集め、フェイトとお話をしようと決意を固める高町なのはであった。







 転移反応を感じた女性は、自らの足で招かれざる客を出迎えることにした。

 最初は娘が戻ってきたのかと思ったがどうやら違うらしい、かといって敵意のある侵入者でもない。

 いまここにいるのは自分ひとり、ほんの少しの興味も合わさって自分の目で確かめることにしたのだ。

 そうして見つけたのは……娘と同じほどの年齢の子供と白い犬だった。

 リンカーコアも無い人間がどうやってここに?

 気にはなったが気絶している少年をこのまま置いておくわけにもいかない、取り合えず寝かせられる場所に運ぼうと抱きかかえた。


「わん、わん!」

「この坊やの友達? 大丈夫、ちゃんとした部屋に運ぶだけよ」

「くぅ~ん」


 主人に危害を加える存在ではないと理解したのか犬は大人しくなった。

 すると今度は少年が目を覚ます。 状況を理解していないのか辺りをキョロキョロと見回した。


「気がついた? 坊や」


 その声で少年は抱きかかえられていることに気がついたらしい、寝ぼけた顔で女性の顔をまじまじと見つめた。

 そして大きな欠伸をし、目を擦って口を開く。


「おばさん、だれ?」


 女性はコケて、頭を打った少年は再び気絶した。



[6363] じゅうさん
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/04/11 20:04
 お布団が暖かいです。 気持ちいいです。

 ふわふわで丸まりたいです、アルマジロです、今ならカンガルーの子供の気持ちが分かります。

 何だか今日のお布団はいつもより寝心地がいいです。 いつものお布団も好きだけど、今日の布団はさらさらしてます、高級感があります。

 お母さんが来るまでもう少しこの感触を楽しみます。 ぐ~

 ……何かおかしいです。

 いつまでたってもお母さんが起こしに来ません、いつもなら朝ご飯の時間で学校に遅れると言うのに。 台所から流れてくる朝ご飯のにおいがありません。

 それにスズメの鳴き声も聞こえません、朝になったらチュンチュン楽しく鳴いているのに何で今日は聞こえないんでしょうか?

 ちょっとだけ布団から顔を出してみます、シロがクッションの上で丸まっているのが見えました。 特に変わったところは……シロ以外の全部が変わってました。

 思わず飛び起きてしまいました。 自分でもこんな風に起きるのは珍しいと思います、それくらい驚きました。

 ここはどこでしょう? 僕の家じゃありません、知らない場所です。

 取り合えずベッドから降りて、部屋の扉を開けてみました。 やっぱり知らない場所です、どこかのお城でしょうか?


「わん」


 シロも起きたみたいです。 シロはここがどこか知っているのでしょうか?

 シロは少しだけ辺りの臭いを嗅ぎ、僕の空けた扉の隙間から廊下に出て行きました。 時々振り返るのは僕を待ってくれているのでしょうか? 多分ついてきて欲しいみたいです。

 分かれ道に来るたびに臭いを嗅ぐシロ、何を探しているのでしょうか?

 1人でいるのも寂しいからついていきます。 きっとシロに付いて行けば誰かに会えるはずです。

 それからしばらく歩くと大きな部屋に出ました。 ここに誰かいるのでしょうか?

 そう思って部屋の中に入ると、フェイトがいました。

 でも変です、何でカプセルみたいなものに入っているのでしょうか? 漫画で見たことあります。 冷凍睡眠とか、そんなやつです。

 よく見るとフェイトじゃないような気もしてきます。 少し小さいです、フェイトは僕と同じくらいの年齢だったけど、この子はもう少し年下みたいです。


「フェイトの……妹?」

「いいえ、姉になるわ」


 独り言を呟いたら後から返事が来ました。 ちょっとビックリしました。

 振り向くと女の人がいました。 きっとこの家の人だと思います。 挨拶をしなくちゃいけません。


「こんにちは、僕は真塚和真です。 こっちはシロです」

「わん!」

「ええ、こんにちは坊や。 でも勝手に人の家を歩き回るのはよくないわよ。 まぁ、坊やをベットに置いてほっておいた私も悪いけど」

「ごめんなさい、おばさん」


 おばさんが地面に倒れました。 orzってなってます。

 何かブツブツ呟いてます。 年齢がどうとか、悪意は無いとか、相手はまだ子供とか――

 少ししたら立ち上がりました。 ちょっと怒ってるみたいです。 僕何か失礼なことをしたでしょうか?


「坊や、出来ればプレシアさんって呼んでくれると嬉しいわ」

「おば……プレシアさんは、フェイトのお母さんですか?」


 ここのカプセルに入ってるのはフェイトのお姉さんなら、プレシアさんはフェイトのお母さんということになります。

 そうだとしたらお願いがあります。 フェイトとなのはがケンカするのを止めて欲しいです。

 フェイトのお母さんがお願いしたら、きっと二人は仲良くなれます。


「残念だけど、私にもやることがあるの。 そのためにはジュエルシードを集めないといけないし、邪魔をするなら戦うことになるわ」

「それでも――」

「ところで? 坊やはフェイトの友達?」


 僕の言葉はさえぎられました。

 プレシアさんの質問に僕はどう答えたらいいのでしょうか?

 まだ友達じゃ無いと思います、けど一緒にケーキを食べたりしたし、すごく悩みます。

 しばらく考えて出た答えは、 『今は違うけど友達になりたい』 でした。

 それを聞いたプレシアさんは 「そう」 と呟いてカプセルの中の女の子に近づきました。


「坊やみたいな子がフェイトの友達になれば、私は何の心配もしなくていいわ」


 何の心配でしょうか? 僕には分かりません。

 でもきっと、プレシアさんはフェイトのことが好きなんだと思います。 僕のお母さんと同じような目をしています。

 でも何だか嫌な予感がします。 はやての両親が事故にあう前のような、そんな感じです。

 いろいろ聞きたい事があるけど、何から尋ねたらいいのでしょう?


「この子は、なんでこんなところで寝てるんですか?」


 取り合えず目に付いた女の子について尋ねることにします。

 プレシアさんは悲しそうな顔をして首を左右に振りました。 寝ているんじゃないんでしょうか?


「この子、アリシアは……死んでいるの」


 そう言われて、驚いてアリシアを見ます。

 パッと見て眠っているようにしか見えません、本当に死んでいるのでしょうか?

 プレシアさんが悲しそうな顔をした理由も分かりました。 大好きな人が亡くなるのは悲しいです。

 僕もはやての両親が死んだ時、とても悲しかったです。


「でも私は諦め切れなくて、この子を生き返らせようとしているの」


 もっと驚きました。 魔法ってすごいです、死んだ人を生き返らせることも出来るなんて!

 死ぬのは悲しいです、そんなの嫌です。

 フェイトが頑張ってジュエルシードを集めている理由が分かりました。 プレシアさんを手伝って、アリシアを生き返らせようとしているんです。

 アリシアが生き返ったらきっと仲良く出来ます。 なのはとも仲良くなると思います。

 ……これを使えば、はやての両親を生き返らせることもできるのでしょうか?

 はやては僕の家に来てから4年くらいになります。 最初は遠慮していたはやても今では本当の家族です。

 でも、時々寂しそうな顔をします。 僕達を見て落ち込んだりしてます。

 はやての両親が生き返ったら、きっとはやても嬉しいと思います。 はやてが元の家に戻るのは少し寂しいけど、僕の家族とはやての家族で仲良くできるはずです。


「残念だけど、すぐに生き返るわけじゃなくて方法のある場所に移動するだけよ。 そこに行ったら帰ってこれない。 大切な人と別れたくないなら止めておきなさい」


 残念です。 はやての両親に生き返って欲しいけど、お別れになるのは駄目です。

 お父さんやお母さん、なのはにはやて、アリサにすずか、天崎君に鬼道君にクラスのみんな――

 大切な人がいっぱいいます。 誰とも別れたくありません。

 そこで気がつきました。 プレシアさんはアリシアを生き返らせるために帰って来れない所に行こうとしています。 そしてフェイトはプレシアさんの子供です。

 ってことは、フェイトともお別れです。 フェイトはプレシアさんに着いて行って帰ってこれないところに行ってしまいます。

 フェイトと友達になりたいのに、すぐにお別れなんて残念です。


「いいえ、行くのは私とアリシアだけ。 フェイトは置いていくわ」

「フェイトだけ仲間はずれは可哀想です。 フェイトも一緒じゃいけないんですか?」

「とっても危ないの、もしかしたら死んでしまうかもしれないくらい。 そこにフェイトを連れて行くわけには行かないわ」


 危ないのだめです、プレシアさんに危ないことになったらフェイトが悲しみます。

 でもそれをしないとアリシアが生き返らなくて、フェイトは置いてきぼりで、死んじゃうかもしれなくて、友達になりたくて……

 何だかこんがらがってきました。 どうするのが一番いいのでしょうか?

 うんうん唸っていると、プレシアさんが頭を撫でてくれました。

 お母さんと同じ手です、暖かくて気持ちいいです。


「坊やは優しいわね、本当なら他人の家庭の問題なのに、皆が幸せになれる方法を一生懸命考えてくれている。 でもね、私も一生懸命考えて、それで選んだ方法なの。 それで恨まれることになっても、これ以上の方法は思いつかないわ」


 プレシアさんの言っている意味が分かりません。 恨まれるって、誰にでしょうか?

 また考えることができて頭がパンクしそうです。 知恵熱が出てきそうです。

 そんな僕の頭から手を離したプレシアさんは杖を取り出しました。 何も無い所から出てきたので、きっとデバイスです。


「フェイトのことを知っているならジュエルシードが落ちた街の子供ね。 後は記憶を消して管理局に……いた。 あの街に10人以上魔導師が集まっているなら間違いなく管理局でしょう」


 プレシアさんは何か魔法を使おうとしています。

 でも途中で止めました。 僕にこの部屋から出ないように注意してからどこかに行ってしまいました。

 待っているように言われたのでまってます、色んな機械があるけど触っちゃいけない気がします。

 しばらく待っていると、シロが何かを感じました。 そして勝手に部屋から出て行ってしまいました。

 どうしよう……。

 プレシアさんの言いつけを破るわけにはいきません、でもこのままじゃシロが迷子になってしまいます。

 しょうがないです、シロを連れ戻さないといけません。 シロを見つけてすぐに戻ってきたらたぶん大丈夫です。

 廊下に出て適当に進みます。 あの角を曲がってあそこを真っ直ぐで……

 迷いました。 道順覚えてません、あの部屋に戻れません。

 取り合えずシロを見つけないとどうにもなりません、シロを大声で呼びながら廊下を歩きます。


「シロさん、なんでこんなところに? いや、それよりもフェイトを助けて!」


 声が聞こえました。 アルフさんの声です。

 そっちの方に行くとシロとアルフさんと……プレシアさんに鞭で打たれているフェイトがいました。

 一瞬、プレシアさんが何をしているのか理解できませんでした。

 あんなに優しいひとなのに、フェイトがあんなに好きなのに、どうしてこんなのことしているんでしょうか?

 プレシアさんの手が上がります、またフェイトが叩かれます、思わず足が動きます。


「坊や!?」

「君は?」


 フェイトとプレシアさんの間に割って入ります。 プレシアさんは驚いて振り下ろす手を止めようとしました。

 けど鞭は止まりません、そのまま空を切って――僕の頭に当たりました。

 痛いです、痛いけど我慢です。 すごく泣きたいけど我慢します。

 叩かれたところから血が出てきました。 目に入るけど我慢します、目を閉じるわけにはいきません。

 しっかりと目を開いて、プレシアさん目を見ます。

 プレシアさんは驚きと悲しみと辛いのを我慢しているのと、いろんなものが入り混じった目をしています。

 きっと本当はこんな事をしたくないんです、だったら何で……

 恨まれるってプレシアさんが言ってたのを思い出しました。 恨むのはフェイト、恨まれるのはプレシアさん。

 そんなのは駄目です、恨んだりするより仲良くしたほうがいいです。 痛いのも恨むのも悲しいのも、そういうのは全部嫌です。

 それに、フェイトはプレシアさんのことが大好きだって言ってました。 プレシアさんもフェイトのことが大好きだって話をして感じました。

 お互いが大好き同士なのにこんなことするなんて、叩く方も叩かれる方も痛いです。 体も、心も――


「どきなさい、坊や。 これは私の家庭の問題よ」

「嫌です、こんなことしちゃ駄目です」

「なら坊やも叩くわよ! 今ので分かったでしょう? この鞭に叩かれたら血だってでるのよ!」


 プレシアさんはまた腕を振り上げました。 怖い声で脅します。

 けど目は怖くありません、プレシアさんは今にも泣きそうな目をしています。 きっと僕にどいて欲しいって思ってます。


「ほんとはプレシアさんだってこんなことしたくないんでしょ? プレシアさん優しいひとだもん」

「そんなことは!」

「プレシアさんとっても辛そうな目をしてます。 苦しそうな顔してます。 だって、だってプレシアさん、フェイトのことだいす――」

「転送!」


 言葉を全部言う前に、プレシアさんは僕に向けて杖を振りました。









「最初に引っかかったのは、ジュエルシードが木に取り付いた時だ」


 廃ビルの一室を利用したチームTRIP秘密基地、ここに14人の少年が集まっていた。

 真塚和真を転送でどこかに送った後、炎は大した抵抗もせず刹那に掴まった。

 そして真塚和真に何をしたかという質問に対して、過激派を含めたメンバー全員が集まったら答えると言ったのだった。

 何をしても口を割りそうに無いので仕方なく全員を集たところで、ようやく炎は口を開いた。


「木から落ちて助けられる様子、ビルから落ちて助けられる様子、そこであることに気がついた」

「アレってフラグ立てじゃないのか?」

「それもそうだがもっと根本的な問題に気がついたんだ。 真塚和真は魔法が使えない」


 メンバー大半の頭の上に疑問符が浮かんだ。

 いまさらそれが何だというのか? そんなことは最初に真塚和真を見たときから気がついていたのに。

 だが一部の者たちは少しだけ考えた。 そして思いつく、魔法に関係する組織のことを。


「時空管理局か」

「そう、二次創作だと時空管理局が無能な組織に書かれることがあるが、それでも魔法の使えない一般人を巻き込むほどバカな真似はしないだろう」

「真塚和真は家に帰され、そこで魔法とのつながりは絶たれる。 少なくともA'sまで」

「海上決戦にも時の庭園にも参加しない主人公、ちょっと情けなさ過ぎると思わないか?」

「お前……まさか! 真塚和真を時の庭園に送り込んだのか!」


 刹那の追求に炎はニヤリと笑って答えた。

 ある者は頭をかかえ、ある者は青ざめ、ある者は驚き、ある者は悔しがる。

 14人の反応はそれぞれだが、共通している思いは 『なんてことしやがったんだコイツ』 だった。

 ここにいる14人はプレシアがどのような人間か知らない。 見たままの狂気に身をゆだねた魔女か、二次創作で見かける母親か――

 下手したら真塚和真は死ぬ可能性すらある。 まさか炎がここまで危ない事をするとは誰も予想できなかった。


「まぁ、この世界のプレシアはいい人の可能性が高い。 何の目算も無く送り込んだわけじゃない」

「根拠は?」

「ケーキ屋で買い物をしているプレシアを見かけた。 そのおかげで時の庭園の場所も特定できた」


 プレシアがケーキ屋で買い物?

 時期的にはフェイトがお土産を持って帰った後らしい、そんなタイミングで買い物をする理由はただひとつ。

 贖罪、自分が踏み潰したフェイトの気持ちを少しでも感じようとした。

 その考えに至った時、鬼道はこの世界のプレシアがいいプレシアであり、ワザとフェイトに辛く当たるパターンであることに気がついた。


「王道展開なら主人公の説得で考えを変え、プレシアは管理局に自首するところだが……」

「時の庭園に行く手段の無い真塚和真だと何も出来ない」

「真塚和真を送った理由は分かった。 けど鬼道、それと俺たちの存在意義とどういう関係があるんだ?」

「ああ、それは――」

「転移反応!? この部屋だ!」


 ジェフリーの問いかけに鬼道が答えようとした瞬間、ファルゲンの声が部屋に響いた。

 チームメンバーはデバイスを起動し、戦う術のない過激派は一斉に飛びのく。

 全員が注目する中、部屋の中心に光が集まって中から少年が現れた。

 真塚和真、鬼道炎によって時の庭園に送られた一般人。 何でここに現れたのかは分からないが、おそらくプレシアが転移魔法で返したのだろう。

 和真は驚いた顔をして回りを見回した。 そして周りにいるのがクラスの男子だと分かると今度は悩みだした。

 つづいてシロが転移して和真の頭の上に落ちる。 その衝撃で何かを思いついたらしい、立ち上がり、大きな声で叫んだ。


「みんな、お願いがあります!」


 それから全員が和真の話を聞いた。

 真塚和真が見たこと、感じたことを、誰も口を挟まず、真剣に――



[6363] じゅうし
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/05/04 21:01
「そんなこと無いよ、あのババアはフェイトのことなんて虫けらのように思ってるんだ」


 そういってアルフさんは歯を食いしばりました。

 プレシアさんに魔法の魔法で海鳴に戻って、クラスのみんなにお願いをして、それからまた少したったある日、アリサの家でアルフを見つけました。

 話を聞くと、プレシアさんから逃げてきたらしいです。 怪我がとっても痛そうです。

 アルフさんはしばらくの間プレシアさんの悪口を言い続けました。

 アルフさんはプレシアさんのことが嫌いです、フェイトにひどいことをするからです。

 でもフェイトはプレシアさんのことが好きです、フェイトはプレシアさんの子供です。 僕もお母さんが大好きです。

 プレシアさんもフェイトのことが好きです。 でもフェイトを虐めます、フェイトを置いて遠くに行こうとしています。 ワザとフェイトに嫌われようとしています。

 そんなの悲しいです、親子なんだから仲良くしたほうがいいです。

 アルフさんは、僕が見たプレシアさんの姿を信じてくれませんでした。 ずっとフェイトが虐められているのを見てきたから信じられないのです。


「アンタが嘘を言うとは思わないよ、シロさんもそう言ってるし、本当なんだろ? でも、そんな急に言われても心の整理が出来ないんだよ」


 それっきりアルフさんは黙ってしまいました。 シロが呼びかけても返事をしてくれませんでした。

 しょうがないので帰ろうとしますが


「なぁ、ちょっと頼みがあるんだ」


 後ろを向いたところで引き止められました。









「あれ? 和真くん、珍しいね」


 なのはが帰ってるって話を聞いたので会いにきました。

 翠屋に行ったら、剣術道場の方に顔を出していると聞いたのでそっちに行きます。 ついでにお弁当を届けて欲しいと頼まれたので引き受けました。

 道場の中では恭也さんと士郎さんがケンカしてます。 二人はケンカじゃなくて訓練って言ってるけど、違いが分かりません。

 あれくらいすごい動きが出来たら、魔法が無くてもなのはと一緒に管理局の人のお手伝いが出来たでしょうか?

 でも昔少しだけ混ぜてもらった時に、とことん才能が無いって言われました。 ついでに素振りした木刀が手からすっぽ抜けて、壁に跳ね返り頭に当たって泣きました。 一年生最初のころです。

 それ以来、桃子さんが僕にこういうことを参加させる事を禁止させたそうです。 今なら泣かない自信はあるけど、迫ってくる木刀はやっぱり怖いです。

 なのはは二人の様子をじっと見ています。 とても真剣な表情です。


「またフェイトとケンカするの?」


 僕の質問に、なのはは黙って頷きました。

 やっぱりそうです、なのははフェイトとのケンカの参考にするためお兄さんとお父さんの訓練を見ているんです。

 そんなことしてほしくないです。 仲良くして欲しいです。


「でも、私はフェイトちゃんのことをもっとよく知りたい。 そのために、フェイトちゃんと全力でぶつからないといけないの」


 なのはの決意は変わりません、もう僕ではどうしようも無いのかもしれません。

 少し迷ったけど、プレシアさんのことを話すことにします。

 フェイトがジュエルシードを集めている理由が分かったら、もしかしたらケンカをとめることが出来るかもしれないと考えたからです。

 僕の話を聞き終えたなのはは驚いて、溜め息をついて、それから笑いました。

 なんでなのはがこんなリアクションを取るのか分かりません。 何かおかしなことを言ったでしょうか?


「ううん、ただ……和真君すごいなって思って。 いつも隣にいるかと思ったら、気がつくとずっと先にいる」


 僕はなのは見たいに魔法を使うことも出来ませんし、アリサみたいに頭がいいわけでもないし、すずかみたいな運動もできません。

 それでも、なのはは僕をすごいといいます。 わかりません、みんなの方がもっとすごいのに……


「今度は私が追いつくから、フェイトちゃんとお話して、プレシアさんともお話をする。 だから待ってて」


 ご飯の時間になったので帰ります。

 お弁当はなのはの家族分なので、僕は自分の家で食べるのです。 手を振ってさよならをします。

 その後は真っ直ぐ家に帰りました。 だからこの後のなのはの呟きは聞こえませんでした。


「待ってって言っても、いつの間にか先にいるんだろうなぁ」









 普段の散歩なら絶対に行かないくらい遠くに出かけます。

 住所をメモした紙を見ながら、時々おまわりさんに道を尋ねながら歩き続けます。

 そして目的のマンションに辿り着きました。 エレベーターで上に上に、部屋番号を確認して呼び鈴を押します。

 しばらく待つと扉が開きました。


「はい、どちらさまですか?」

「こんにちは」


 バタン

 フェイトは僕の顔を見るなり扉を閉じました。 すこしあっけに取られてしまいました。

 もう一度呼び鈴を鳴らします。 けど、扉は開かれません。


「なんでここが分かったの? 管理局は?」


 扉の向こうから声がします。 でも顔を見せてくれません。

 しょうがないからこのまま話します。 顔を見ないで話しをするのはあんまり好きじゃないです。


「アルフさんがフェイトの様子を見て欲しいって、僕なら管理局に言わないだろうって」

「そう、なら大丈夫って伝えて。 私は貴方に話すことなんて無い」

「僕はフェイトと話しをしたいよ、お話しよう?」

「駄目、母さんは貴方と話をするなって言った。 少なくともジュエルシードを全部集めるまで」


 確か時の庭園でプレシアさんは僕の記憶を消すとか言っていました。 でも慌てたせいで消し忘れたようです。

 だからフェイトに僕と話をしないように言ったんだとと思います。 僕とプレシアさんが話したことを伝えさせないために……

 でもそんなこと関係ありません。 フェイトとプレシアさんは仲良くして欲しいです。 大好きな人に酷いことするなんて嫌です。


「あのね、そのままでいいから聞いて」


 返事はありません。 でもこのまま話しを続けます。


「プレシアさんは優しい人で、フェイトのことが大好きだから。 本当はフェイトに酷いことしたくないって思ってるから。 僕はフェイトとプレシアさんに仲良くして欲しいから」


 僕が話している間、扉の向こうからは物音一つ聞こえてきません。 でもフェイトはそこにいます、何となくですが分かります。

 じっと息を潜めて、僕の話を聞いています。


「僕、もう一度プレシアさんに会って、お願いするから。 フェイトと仲良くしてくださいって頼むから。 だから……待ってて」

「……ありがとう」


 扉の向こうから小さな声が聞こえ、その声を聞いて僕は帰りました。

 エレベーターの扉が閉まる直前、フェイトの部屋の扉が開くのが見えました。









「行こうか、シロ」

「わん!」


 一旦家に帰って、用意していたリュックサックを背負います。

 中身は色々です。 文房具とかお弁当とか、何が必要になるか分からないので思いついた物を適当に突っ込みました。

 いっぱい詰まったせいで重たいです。 けど頑張って背負います。

 玄関を開けて、約束の場所にいこうとしたところで、今までリビングにいたはやてがやってきました。


「ちょいまち、和真」

「何?」

「いつやったか、アリサちゃんが誘拐されたことあったなぁ」


 一年生のときにそんなことがありました。

 あの時は、落としたアリサのハンカチをシロに嗅がせて犯人を追いかけました。 でも僕も犯人に捕まりました。

 助けに来た恭也さんとなのはのお父さんがビックリしてました。 攫われたのがアリサだけと思っていたら、僕もいたからです。

 その後、はやてが泣いて、お父さんが怒って、お母さんに抱きしめられて、よく覚えてます。

 でも、何で今その話をするんでしょうか?


「今の和真、あの時とおんなじやで? 何かやろうとしとるんちゃう? もしそうなら……おじさんとおばさんにチクッてでも止めるで」


 返事に困りました。 どう答えればいいのでしょうか?

 危なくない、とは言えません。 プレシアさんは一度僕の記憶を消そうとしました。 ワザとじゃないにしても怪我をしました。

 それに、管理局に備えて準備をしているらしいです。 ロボットみたいなのをたくさん用意してるってみんなが言ってました。

 本当のことを言ったら行かせてもらえません、でもはやてに嘘をつきたくありません。

 悩んでいると、はやては大きく溜め息をつきました。


「言えんことか、ならせめてどこへ、何をしに行くかは教えて」

「友達……ううん、友達になりたい子の家に、その子とお母さんが仲良く出来るようにお願いしに行くの」


 それを聞いたはやてはまた溜め息をつきました。

 頭をかいて悩んで、腕を組んで悩んで、何を思いついたのでしょうか? 車椅子を動かして一旦部屋に戻りました。

 しばらくするとお守りを持って着ました。 交通安全って書いてあります。 効果があるのでしょうか?


「こんなもんしか見つからんけど、ないよりはええと思うよ」

「うん、ありがと」

「ええ? 絶対帰ってきてな? 約束やで?」

「うん、いってきます」

「いってらっしゃい」


 はやての見送りを受けて出発します。

 目的地は学校、そこが待ち合わせの場所です。

 休日なので裏門から入り、予定通りに鍵が開いている理科室の窓から校舎内に入ります。

 目指すは屋上、階段を上って、扉を開けると1人の男の子がいました。

 鬼道君です。 海の方をずっと見つめています。 遠くに見える二つの人影はきっとなのはとフェイトです。


「ずっと考えていた。 この世界に来た意味、何でここにいるのか? 何をすればいいのか? 俺達は主役か、モブか」


 難しいことを言ってます。 僕には意味が分かりません。


「一つ賭けをしたんだ。 お前が時の庭園から戻ってこないか、戻ってきてなのはに相談するか、時空管理局に相談するか、俺たちに相談するか」


 そう、僕はみんなに相談しました。

 もう一度プレシアさんに会いたい、みんなの力を貸して欲しいって。


「偶然か必然か、お前は俺たちの前に現れて、俺たちの力を貸して欲しいって言った。 それで確信したよ、俺たちの存在理由は真塚和真を助けることだ。 魔法を使えないお前の剣になり、盾になり、必ずプレシアのところに連れて行ってやる」


 でも、鬼道君以外の反応は様々でした。

 この時期に時の庭園に行くと死ぬかもしれないって誰かが言いました。

 その言葉で皆迷いました。 だれだって死ぬのは嫌です。 無理強いできません、来たい人だけ参加することになりました。

 いったい何人来てくれるのでしょうか?

 そう思っていると、屋上の扉が開く音が聞こえました。


「お前に何かあると、はやてが悲しむからな。 手数は多い方がいいだろ」

「そうそう、それにここで恩を売っておいてヴォルケンズとの仲を取り持ってもらわないと」

「もちろん、ザフィーラも含まれてるよな?」

「ノーコメント」


 竜宮君とヴォルフ君が来てくれました。


「デバイスが無いと協力もできないだろ?」

「……感謝してる」

「だったら少しくらい金よこせ。 親父に無理言って全員分超特急で修理してもらったんだから」

「……A'sまでに、小さいうちに付き合ってみせる」

「話し聞けよ、後お前ロリコンだったのか……」


 ファルゲン君、龍堂君も来てくれました。


「フェイトの兄としては、参加しないわけにはいかないな」

「フェイトの彼氏としては、参加しないわけにはいかないな」

「お前に義兄と呼ばれる筋合いはない」

「呼ぶつもりもない」

「なんだとコラァ!」

「やんのかオラァ!」


 ディスト君、大空君はケンカしながら来ました。


「群がる傀儡兵、それを薙ぎ倒す俺」

「それを見るなのは、キャー! アルス君カッコいい!」

「ならんならん、妄想乙」

「邪気眼が戦いを求めている。 くそっ、暴れるな!」

「アルス君、私ずっとアルス君のことが……くぅ! 待ち遠しいぜ」

「この厨二病患者どもめ……」


 ザップ君、アルス君、ジェフリー君、何だか楽しそうです。


「助けられるのに何もしないのは、さすがに気分が悪いなぁ」

「もし俺がいないせいで誰かが死んだら、一生後悔するだろうし」

「まぁ遠距離から撃ってるだけなら大丈夫だと思うし」

「おいおい、俺は接近戦オンリーなんだぞ?」

「援護は任せる。 巻き込むなよ、この前みたいに」

「文句なら間違えて転送したファルゲンに言ってくれ。 俺は作戦に従っただけだ」


 リュウセイ君、神尾君、幽鬼君も力を貸してくれます。

 そして――


「手に入れたのはたくさんの友達、願ったことは親子の絆。
 思いは力に、願いは意志に、不屈の魂はこの胸に
 普通少年ノーマルかずま……」


 天崎君は集まった全員の顔を見回しました。 みんな黙って、天崎君に注目します。


「プラス、14人の魔法少年。 タイトルとしちゃ中々だと思う」


 その一言で歓声が上がりました。 もう最高のテンションです。

 みんなが来てくれました。

 みんなが力を貸してくれます。

 みんながそろえば何だって出来ます。


「最悪次元の狭間に落ちる」

「助かっても管理局に目を付けられるのは確実」

「平穏な生活なんてもうできない」

「原作どおりなんてもういかない」

「何が起きるか分からない」

「知ったことかそんなこと!」

「この15人なら、運命だって変えられる!」

「一つの家族の幸せのため」

「二人の少女の友情のため」

「よりよい未来のため」

「ついでにそれぞれの欲望のため」

「ちょっ! おまっ!」

「……水さすな、テンションが下がる」

「いざ、時の庭園へ」

「わん!」

「待ってて、プレシアさん」


 僕達15人と一匹は学校の屋上から消え、目を開けると時の庭園です。

 次々と出てくる大きな鎧、デバイスを起動して服が変わるみんな。

 みんなの援護を受けながら、僕とシロはプレシアさんのいるところ、アリシアの眠る部屋に向けて走り出しました。










「え? 学校に無断侵入? 誰かが忘れ物を取りに行ったんじゃ、それくらい見逃してあげても……15人も? それで……もういなかった。 はい、はい、注意しておきます」


 電話ごしで姿の見えない相手に向けて彼女は頭を下げた。

 用件は休日の学校に侵入した生徒、近所のおばさんが理科室の窓から校舎内に入る15人の生徒を見かけたらしい。

 それを警備の人間が聞き、特徴などから彼女のクラスの男子たちだと判明し、こうして連絡が来たわけだ。

 話を聞いた彼女は受話器を置いて、ごろりとカーペットの上に寝転んだ。

 これからしなければいけないことは、やはりそれぞれの親へ確認の電話をすることだろう。 しかしどうにもやる気にならない。

 自分の受け持つクラスの男の子たちは変だ。 コレは誤魔化すつもりもないし、目をそむけるつもりもない。

 小学校三年生とは思えないほど大人っぽい子供たち、そんな子が14人+1も集まってイタズラなどをするとは思えなかった。 そういった意味ではこれほど信頼できる子供たちもいないだろう。

 何か理由があるはず、何かをやろうとしているはず、それを邪魔していいのだろうか?


「はぁ……みんな、怪我だけはしないでくださいね」


 彼女は黙殺することを決めた。 そして、休みが明けたら学校で話をすることにした。

 テレビではファンタジー映画の悪い魔女が主人公の説得で改心するところだった。



[6363] じゅうご
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/05/04 21:01
「これが私の全力全開、スターライト……ブレイカアアアアアアアアアアア!!!」


 その一撃で決着はついた。

 海鳴の海上で行なわれたなのはとフェイトの決闘、その戦いで見事なのはは勝利を手にしたのだった。

 すさまじい魔力ダメージを受けたフェイトはすぐさまアースラに転送されて治療される。 衰弱はしているが特に問題は無いという診断で一同はほっと一息つく。

 プレシアからの通信が来たのはその瞬間だった。

 全員が緊張する。 フェイトを確保したこのタイミングで一体何を話すつもりなのか?

 そんななのは、フェイトを含めたアースラメンバーを一瞥してプレシアは口を開く。


「役立たずのお人形ね。 失望したわ」


 お人形

 誰一人、それが誰を指すのか理解できなかった。 しかしプレシアの視線が向いている方向を見ることで理解する。

 この単語はフェイトを指している。

 それに気がついたとき、真っ先に反応したのはなのはとアルフだった。


「フェイトちゃんはあなたの子供なんでしょ? そんな言い方酷いの!」

「そうだよ! あのガキンチョもシロさんも、アンタのこと優しい人だって言ってたけど……やっぱりアンタはクソババアだ」


 そんな二人の怒りの声を受けて、プレシアは……笑った。

 全員があっけに取られる、不思議に思う。

 しばらく笑い続けた後、視線をアースラに戻して言った。


「子供? 優しい? あの坊やから話を聞いたのね? 可愛い坊やだったわ、私が適当に考えた嘘を全部信じて」

「う……嘘?」


 フェイトが力なく呟いた。

 母親を愛していた。 どんな仕打ちを受けてもその思いで耐えてきた。 でも鞭で打たれて、思いが揺らぎ始めた。

 そんな時、少年が言ってくれた。 お母さんはフェイトのことが大好きだと――

 その言葉が嬉しかった。 やっぱり自分の思いは間違っていないと信じることが出来た。 母も自分を愛してくれていると分かった。

 だから少年に感謝の言葉を返した。 なんて言ったらいいか分からないから、自分に出来る精一杯の気持ちを、ただ一言だけ……

『ありがとう』

 それがすべて嘘だった?

 少年は騙されていた。 騙したのは自分の母親、少年の言葉は嘘、なら母の本当の気持ちは?

 わからない、何も考えたくない、話の続きを聞きたくない、でも耳に入ってくる。


「執務官さん、貴方なら分かるんじゃないの? アリシアとフェイトの矛盾が」


 話を振られたクロノに皆が注目する。

 クロノはプレシアを睨みつけるが、相変わらずプレシアは怪しく微笑みながらこちら側を見下していた。


「アリシアが生まれたのがおよそ30年前、フェイトが現在9歳、姉妹というには年齢が離れすぎている。 それに父親だ。 アリシア死亡の時点でプレシアは離婚している。 ならフェイトの父親はだれだ?」

「そんなもの存在しないわ、なぜならフェイトはアリシアの変わりに私が作ったのだから」


 作った。

 その言葉がやけに気味悪く感じられた。

 人間は作る物ではない、普通は産むと表現する。 作るのは人ではなく物だ。

 しかしプレシアはあえて 『作った』 と表現した。 その単語の意味を、次の言葉を聞くまで誰も理解できなかった。


「フェイト、貴方はアリシアの代わりにするために作ったお人形、アリシアのクローンなのよ」

「クローン……」


 誰が呟いたのか分からなかったが、その一言は全員の耳に届いた。

 その一言が耳に届いた瞬間、フェイトは青ざめて震えだした。 体を丸めてまるで寒さに耐えるような体勢をとる。

 そんなフェイトをなのはとアルフが支えた。 少しでも暖めようとするが効果はない。 耳を塞ぎ、目を塞ぎ、外界を拒絶し続ける。

 それでもプレシアは話を続ける、フェイトの苦しみなど関係なく、そんなもの関係ないとばかりに。


「最後だから教えてあげるわ」

「やめて……」

「ファイト、私はね」

「やめて!」

「ずっと昔から、貴方のことが!」

「やめてえええええええええ!」

「だいっきら――」


 フェイトが叫ぶ、なのはがフェイトを抱きしめる、アルフがプレシアを睨む、クロノが拳を握る、そして――

 爆音が時の庭園を揺るがした。

 振動によってプレシアは言いかけた言葉を中断し、バランスを崩して思わず倒れそうになった。

 全員があっけに取られる。 一体何が起きたのか理解できなかった。 目を閉じ、耳を塞いでいたフェイトも思わず顔を上げた程だった。

 中でも一番混乱したのはプレシアだろう、自分の庭たる時の庭園で一体何が起きたのか? 急いで空中に映像を浮かばせて時の庭園内部の様子を見る。

 そこに映っていたのは、傀儡兵を薙ぎ倒す少年たちだった。

 多い、少なくとも10人以上、落ち着いて数えれば14人いることが分かった。 いつの間にコレだけの人数がもぐりこんだのだろうか?

 強い、Aランク魔導師に相当する傀儡兵が次々とやられていく。 彼ら全員が最低でもAランク以上の戦闘能力を持ち、平均すれば恐らくAAランクを超えるだろう。


「管理局、もう内部に!」

「誰だ! あの魔導師たちは!」


 プレシアとクロノは同時に叫んだ。 そして顔を見合わせる。

 プレシアはクロノの言葉で彼らが管理局員で無いことを理解した。 クロノは一瞬だけプレシアに関係のある魔導師かと考えたが、プレシアに何の心当たりも無いことを理解した。

 なら一体、この魔導師達は何者だ?

 全員が疑問に思う中、なのはの表情が変わっていく。

 最初は何が起きたのか分からずにあっけに取られて、次に何かを思い出すように目線を上に移動させ、最後に映像に映る少年たちを指差しながらワナワナと震えだした。

 なのはの態度の変化に最初に気がついたのはリンディだった。 その異常な様子に思わず声をかける。


「どうしました? なのはさん」

「あ、あの、あの、あそこにいる子たちって……」


 なのはの示す人物が傀儡兵と戦っている少年たちだということは分かった。 しかし彼女は何を言おうとしているのか?

 まさか、魔法と関係して一月程度しか経っていないなのはに魔導師の知り合いなどいるはずが――


「あそこにいるの、私のクラスの男子たちです! 何で皆あんなところにいるの!?」

「え?」

「「「「えええええええええええええええええ!?」」」」


 思わず、アースラ内の全員が叫んでいた。 プレシアでさえも我を忘れてぽかんとしていた。

 それほどなのはの言葉は衝撃的だった。 ある意味先ほどのフェイトの秘密よりも衝撃的だった。

 もうさっきまでのプレシアの話で重苦しくなっている人間などいなかった。

 リンディも少しばかり呆れながら、なのはに確認を取る。


「ええっと……なのはさん? クラスっていうのは、学校の?」

「はい、天崎君、エヴォリュアル君、大空君、神尾君、鬼道君……間違いありません全員です!」

「いったい何が起きているんだ……」


 いや、正確には一人足りない。 しかしここまで揃っていると、どうしてもいるのではないかと疑ってしまう。

 いるはずがない、彼は魔法が使えないのだから。 誰かに魔法で送り込まれない限りは……自分のクラスメイトは全員魔法を使っているではないか!

 油断していた、忘れていた、彼は一度時の庭園に行っているのだ。 何故二度目が無いと言い切れる?

 そのことに気がついたとき、プレシアの映っている映像の奥にある扉が動いた。

 全員がその扉に注目する、画面に背を向けて扉を見る。

 ゆっくりと、重い音を立てながら開いていく扉を見つめながら、誰かが息を呑んだ。


「わん!」


 やがて扉の隙間から一匹の白い犬が現れ


「こんにちは、プレシアさん」


 真塚和真が顔を出した。


「坊や!? 何でまたここに!」

「ごめんなさい、また勝手に家の中歩きました。 呼んでも返事が無いし、チャイムがどこあるか分からなかったんです」

「そういうことを聞いているんじゃないのよ!」


 プレシアはデバイスを起動し、その先を和真に向けた。

 しかし和真は、プレシアの目をじっと見つめながら歩み寄ってくる。 一緒にシロもプレシアに近寄る。


「プレシアさんにお願いがあります」

「私には話しなんて無いわ、また地球まで転送して……できない!? この部屋に結界が張られている!?」

「フェイトのことです。 えっとね」

「話は無いと言ったはずよ!」


 プレシアの持つ杖の先に魔力の光が宿る。

 魔法攻撃、バリアジャケットを身に着けず、魔法に対する防御手段のない和真では一発当たっただけで気絶してしまう。

 いや、気絶ならまだいい、非殺傷設定ならしばらく動けなくなるだけだ。 だが、もし殺傷設定なら和真の命に関わる。

 クロノやなのはは攻撃を止めさせようと必死に呼びかける、しかしプレシアは話を聞かない。 和真を脅すこともかねてゆっくりと魔力を溜め続ける。

 それを知ってか知らずか、和真は歩みを止めない。 脅しだけでは止まらないと判断したプレシアはついに魔力弾の発射を決意した。

 だが杖の先から魔力の弾が離れるより速く、白い影がプレシアに襲い掛かる。 プレシアが和真に集中している隙に回りこんだシロがプレシアの腕に噛み付いたのだ。

 牙をつきたてられて思わずデバイスを取り落とすプレシア。 そのチャンスを逃さず、シロは落ちたデバイスを咥えて部屋の隅に移動してしまった。

 急いでシロを追いかけ、デバイスを取り戻そうとするプレシアだったが服の裾を引っ張られて足を止める。 見ると和真がプレシアの服の端を握っていた。

 無言で服を引っ張るが離さない、無理やり手を広げようとするが隙をついて反対の手で服を握るので振りほどけない。

 ついにプレシアは物理的に和真を叩こうと手を振り上げた。


「フェイトも連れて行ってあげてください」


 振り上げた手が止まる。


「プレシアさんとアリシアが行っちゃったらフェイト一人ぼっちです。 そんなの寂しいです」

「貴方馬鹿なの? いえ、坊やには言ってなかったわね。 私はフェイトのことなんてどうでもいいのよ」

「嘘です」


 プレシアの言い分はその一言で否定された。

 何の根拠もない、それでも自信に満ち溢れた言葉を聞いてプレシアは顔を歪め、フェイトはそんな母親の反応に困惑した。

 何が真実で、何が偽りなのか分からない。 それでも、この会話の中にこそ自分の求める答えがあることだけは分かった。

 だからじっと映像を見つめ、プレシアと和真の会話に集中する。


「フェイトのことを話すプレシアさん、僕のお母さんと同じ目をしてました。 とっても優しくて、温かくて、フェイトのことが大好きだって分かりました」

「でも見たでしょう? 私がフェイトを鞭で叩く姿を、あれこそが真実よ」

「あの時のプレシアさん、辛くて苦しい顔してました。 タンスの角に小指ぶつけたときよりも痛そうでした。 本当はあんなことしたくないんでしょ?」

「そう、だったら……私が悪い魔女だって教えてあげるわ!」


 上げていた手が勢いよく振り下ろされる。 そして、部屋に乾いた音が響き渡った。

 プレシアの平手打ちが和真の頬を叩いたのだ。 大人の力で叩かれたら子供に抵抗する術などない、その衝撃にしたがって和真は地面に倒れこむ。


「和真君!」


 思わずなのはが叫ぶ。

 和真は倒れながらもプレシアの服を離さなかった。 少し涙目になりながらも再び立ち上がる。

 誰もがプレシアの行動を止めようとしている中、クロノだけは冷静に現在の状況を分析していた。

 そして気がつく、今の状況はプレシアの逮捕をするための絶好の機会だということに。


「エイミィ、転送準備だ。 今のうちに時の庭園に乗り込む、武装局員に知らせてくれ」

「え? クロノ君?」

「プレシアは彼に集中して、もはやアースラと通信がつながっていることなど忘れている。 謎の魔導師集団のおかげで時の庭園の防衛にも隙が出来た。 行くなら今しかない」

「私も行かせて、和真君が頑張ってるのに見てるだけなんてできないの」

「私も、母さんと話がしたい。 母さんの本当の気持ちを知りたい」

「分かった。 エイミィ、この通信を僕たちにリアルタイムで送ってくれ。 プレシアを説得する材料になるかもしれない」


 クロノとなのは、フェイト、アルフ、そしてアースラ武装局員たちは時の庭園へと乗り込んだ。

 プレシアの逮捕、説得は今しか出来ないと誰もが考えていた。

 ただ一つ彼らに勘違いがあるとすれば、高町なのはのクラスメイトだからといって管理局の味方とは限らないという可能性を忘れたことだろう。



[6363] じゅうろく
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/05/04 21:02
 プレシアさん、フェイトと仲良くしてください。

 そんなつもりは無いわ、私はアリシアだけいればいいのよ!

 そんなの寂しいです。 二人より三人の方が楽しいです。

 そんな感情なんてとっくの昔に捨てたわ、フェイトを捨て、アリシアを生き返らせると決めた時に!





「必殺必中、バーニング……ぶべらぁ」


 傀儡兵の巨体から繰り出されるパンチに直撃し、アルスは吹き飛ばされた。

 続いて追撃の魔力弾を撃とうとする傀儡兵、しかし魔力弾が発射される前に切込みが入った腕がズレて地面に落ち、さらに胴体をたてに真っ二つにされて崩れ落ちる。 横から飛び込んだヴォルフとカムイが切り裂いたのだ。


「数が多いんだから、隙のでかい大技使うな。 小技で確実にいけ」

「お前だって派手好きだろうに、何で今日は地味なんだ?」

「そりゃぁ、ここで地味にポイント稼いどけば後で和真にヴォルケンズの紹介を頼みやすいからな」

「相変わらずよこしまだなぁ」


 そう笑いながら話すヴォルフとカムイの背中に影が差す、別の傀儡兵が腕を振り上げ、今、まさに襲い掛かろうとしているところだった。

 ヴォルフは気がついていない、アルスはスラッシュハートを前に突き出し傀儡兵の頭を斬り飛ばす。 同時にヴォルフとカムイが振り向きざまに両腕を切り落とし、さらに横からの魔力の閃光でその傀儡兵は完全に沈黙した。

 その閃光の先を見ると魔力キャノンを構えた紫音がいた。


「活躍したいんなら無駄話してないで戦え~。 もっとも、ザップがいるから撃墜数トップはあいつで決まりだろうけど」


 そう言って4人が注目したのは、少し離れたところから矢の形をした魔力弾をばら撒いているザップだった。

 弓形デバイスを使い、多種多様な攻撃をするザップはメンバーの中でも一番集団戦に向いている。 本人曰く、某弓兵をパクったらそうなったとのこと。

 今も一度に数十本の魔力の矢を放ち、10体単位で傀儡兵を薙ぎ倒している。 これでは単体戦が得意なアルスやヴォルフ、連射ができない紫音と比べると撃破数にかなりの差が出る。


「1人で全部やらないでこっちにも少し回せ、せっかくの 『俺が華麗に傀儡兵を倒すところをなのはに見てもらってアルス君かっこいい計画』 が台無しだろうが」

「何言ってる! クライマックスで見せ場を作らないで厨ニ病を名乗れるか!」

「小学生なのに厨ニとはこれいかに。 ほらほら、見せ場を持っていかれたくなかったら二人ともカンバレ、俺は後ろからチョコチョコやらせてもらうから」

「別にそういうこと考えずにとにかく倒す! それが和真のひいてははやてのためになる!」


 そんな会話をしながら紫音は魔力のチャージを再開する。 大技で一気に吹き飛ばすつもりらしい。

 アルス、ヴォルフ、カムイは目線だけで合図を交わすと、同時に傀儡兵の群れに突撃を開始する。

 遠くから管理局と思われる足音が近づいていた。





 アリシアだって、フェイトがいなかったら悲しいです。 いっしょの方がいいです。

 アリシアはフェイトのことなど知らないわ、私さえ黙っていればいいのよ!

 嘘つき続けるんですか? 大好きなアリシアに、大好きなフェイトなんていないって。

 そんな感情は捨てたといったはずよ!





 無数の傀儡兵の残骸が散らばる大部屋、そこに数人の管理局武装局員が入ってきた。

 彼らはまず目に飛び込んできた傀儡兵の残骸に驚く、謎の魔導師集団の映像を見てから急いできたのに既に戦闘は終わっていた。

 部屋の中にいるのは5人の少年、彼らは僅か十数分の間に数十体の傀儡兵を全滅させたことになる。

 この若さでこの戦闘力、管理局に入ってくれればどれだけ力強いだろうと考えながら1人の少年に武装局員が近づいた。


「君たち、大丈夫か? 怪我は無いか?」

「ああ、管理局の人ですか?」

「そうだ、後は任せて君たちは我々の船、アースラに行ってくれ」

「貴方たちは?」

「我々はプレシア・テスタロッサの逮捕に向かったメンバーと合流する。 最初の予定よりも人数に余裕ができたから、逮捕も時間の問題だ」

「そうですか……」


 局員は気がつかない、少年が拳を握り締めたのを。

 気がつかないまま、そういえば自分の息子が同じくらいだったなと思い出し、この任務が終わったら家族サービスで遊園地にでも行こうと考えた。

 そして目の前の少年と自分の子供を重ね合わせ、よく頑張ったと頭を撫でようと手を伸ばし――

 少年の頭に管理局員の手が乗るのと、管理局員の鳩尾に少年の拳が触れるのは全くの同時だった。


「ひっさつぅ……」

「君?」

「烈火パァンチ!」


 ズドムッ、そんな音が聞こえた気がした。

 衝撃を受けた管理局員は前のめりに烈火にもたれかかり、烈火が拳を引いて支えがなくなるとそのまま地面に倒れた。

 傍から見ていてもほほえましい 『大人の管理局員と少年魔導師』 の絵柄は一瞬にして崩れ去った。

 温かい目で見守っていた他の管理局員も現実に引き戻される。 それでもすぐさまデバイスを構えて戦闘態勢をとったのはさすがだろう。

 もっとも、準備が出来たからといって人間すぐに戦えるものではない。 彼らは烈火に集中するあまり他の4人の行動を見落としていた。


「ヒートソウルブレイカー!」


 リュウセイのとび蹴りで1人の武装局員が壁に叩きつけられる。


「……狙い打つ」


 翼の狙撃でまた1人、武装局員が地面に倒れる。


「痺れろ!」


 武装局員の一人にタックルしたディストはそのまま電撃を流し込んで相手を気絶させた。


「ファントムスラッシュ!」


 蒼牙が大鎌型デバイスのヘルライザーを振って発生させた魔力の刃が残りの武装局員を沈黙させる。

 その後、彼らは気絶している武装局員のデバイスをひったくってリュウセイに投げ渡していく。 リュウセイのISでデバイスを破壊するためだ。

 こうしておけば回復しても戦線に復帰されることは無い、大人しくアースラに帰るだろうと考えたのだ。

 すべての武装局員のデバイスを破壊した後、急にリュウセイが膝をつき、地面に手をついた。


「どうした? orzってなって」

「やっちまった……管理局をぶっ飛ばした。 これで犯罪者だぁ……」

「気持ちは分かるが、プレシアの説得がひと段落するまで邪魔させないって計画だし」

「それに、そのままアースラ付きの嘱託になればフェイトと一緒にいられる」

「フェイトを見守るのは俺の役目だ。 お前には渡さん」

「……ミッドチルダは就業年齢が低い、小さい子いっぱい」


 妙なところで気合を入れる3人を見て、リュウセイと烈火は溜め息をついた。 

 蒼牙やディストや翼ほど単純に考えられればどれほど楽だろうか?

 そんなことを考えている間に増援の武装局員がやってきてしまった。 整然とした動きであっという間に5人を取り囲む。

 リュウセイと烈火は再び溜め息をつき、残る3人はテンションを上げてデバイスを構える。

 どうせ嘱託になるなら、無限書庫とか事務系を希望しようと考える2人、そして嘱託になるためには厳しい試験があることをすっかり忘れている3人は再び管理局の魔導師と戦うのだった。





 アリシアを生き返らせて、フェイトと仲良くして、両方してください。

 それが出来るなら、ここまで悩むことなど無かったわ! それが出来ないから選んだのよ!

 なんで? 二人とも大好きなのに、1人しか選べないなんて悲しいです。

 アルハザードなんてあるかも分からない、そんな物のために命を賭けるなんて、私1人でいいのよ!

 きっと大丈夫です。 きっとうまく出来ます。 だからフェイトも連れて行ってあげてください。 僕、フェイトとお別れになっても我慢しますから。

 何も知らない子供が、何の根拠も無くそんなこと言って!

 



 パァン!

 乾いた音が扉越しに聞こえた。


「今ので15発か?」

「いや、まだ14発だ」


 傀儡兵の残骸と気絶した武装局員が辺りに散乱する中、ふと呟いたジェフリーの質問にファルゲンが答えた。

 ここはプレシアのいる部屋の前、そして数えていたのはプレシアが和真を叩いた回数。

 答えを聞いたジェフリーは 「そうか」 と呟いた後、大きくため息をついた。


「どうした」

「よく考えたら、俺たちってものすごく酷い事をしているんじゃないかって思って」

「そりゃぁな……9歳のガキンチョが大人に殴られてるのを黙認してるんだ。 いいことじゃないわな」

「真塚和真が気絶したら突入する予定だったが、粘ってるな」


 空中に映し出される部屋の中の様子、そこでは和真がプレシアの服の端をつかみ必死に語りかけていた。

 その言葉を聞くたびに、プレシアは顔色を変えて和真の頬を叩く。 和真が倒れる、でも手を離さない、起き上がる、語りかける、また叩かれる――

 素人目でも分かる、あれは図星だから叩いている。 和真の言葉が深くプレシアの心に響いているから叩いている。

 となれば、和真によるプレシアの説得という目的自体は順調なのだろう、その過程で傷つく和真を抜きにすれば。

 そんな時、座って休憩していた刹那と炎が急に立ち上がってデバイスを構えた。 それに気がついたジェフリーも立ち上がる。

 通路の先からやってきた人影、なのは、フェイト、クロノ、ユーノ、アルフ、今までのようなモブキャラとは違う、圧倒的な存在感を放つ原作キャラがやってきたのだ。


「予定より早かったな。 いや、俺たちが傀儡兵を潰したからか?」

「どいて、天崎君。 この先に和真君とプレシアさんがいるんでしょ?」

「お願い、母さんのところに行かせて」


 なのはとフェイトはデバイスを構えた。 提案を拒否した瞬間に攻撃しそうな雰囲気を纏っている。

 そんなふたりを手で制し、クロノが一歩前に出る。 彼は4人の少年達と辺りの惨状を見てから口を開いた。


「君たちの目的は何だ? プレシアと敵対し、管理局と戦い、魔法も使えない少年を送り込んで、何をしようとしている?」

「プレシア・テスタロッサの説得」

「なら通してもらえないか? 僕たちもプレシアを説得したい、利害は一致しているはずだ」

「そうだなぁ……ちょっとタイム」


 クロノの提案に、4人は円陣を組んで話し合いを始めた。

 正直、作戦の第一段階はすでに達成されている。 プレシアと和真は本音で語り合い、その様子はフェイトも知るところになった。

 これならもう、フェイトの心に傷を残して消えるプレシアはいないだろう。 残るか消えるかは分からないが少なくとも原作よりは後味がよくなるはずだ。

 ただ、どうせならプレシアを生かしたい。 和真も言っているではないか? 死ぬのは悲しい、生きているほうがいいと。

 ここで横槍が入ってやけになったプレシアが次元震を起こしては水の泡、かといってフェイトとプレシアを会わせない事には先に進めない。

 和真だけで説得が完了すればベストだったのだが、今の様子では後一押しが足りないように思える。

 果たしてこのタイミングで勝負することが吉と出るか、凶と出るか?





 お願いします、プレシアさん、お願いします。

 坊や、お願いだから、お願いだから手を離して……

 仲良くしてください、フェイトと、アリシアと、みんなで仲良く。

 これ以上、私に坊やを傷つけさせないで……

 嫌です。 離しません、絶対に離しません。

 ――――っ!

 パァン

 なか、よく……

 気絶……したのね? ごめんなさい坊や、やっぱり私は魔女だわ。 ごめんなさい、ごめんなさい……





「和真くん!」


 なのはが叫ぶ。

 部屋の中の様子を見るためにフェルゲンが映し出していた映像、その中で和真はついに膝を折り、地面に倒れこんだ。

 チームの4人も話し合いを止めてその映像に注目する。

 タイミングがいいのか悪いのか、図らずとも和真による説得はこれ以上不可能となり、ちょうどフェイトたちがいるので自分たちが突入する必要もなくなった。

 と、なればやる事はただひとつ。


「行きな、俺たちの役目はここまでだ」


 ファルゲンが結界を解除し、扉の前から移動して道を開ける。

 クロノたちは少しだけ驚いたが、ここで揉め事を起こすよりも先に進んだほうがいいと判断したらしい。 無言で前に進み扉に手をかけた。


「君たちは来ないのか?」


 ほんの少しだけ扉を動かしたクロノが振り向かないでたずねる。

 その質問に答えたのは刹那だった。 杖状のデバイス、永瀬一号で自らの肩を叩きながらニヤリと笑う。


「ここから先は俺たちの出番じゃない。 がんばってプレシアを引き止めてくれ」

「……分かった」


 クロノたちは改めて扉を開けて部屋の中に入っていった。

 途中、なのはがちらりとクラスメイトを見る。 だが気絶した和真のことが気になるらしい、すぐ向き直ってクロノに続く。

 フェイトは彼らを気に留めすらしない、それよりもプレシアのことで頭がいっぱいなようだ。

 アルフとユーノは少し困った顔をした。 何を言ったらいいか分からないといった雰囲気、しかしこのままでは置いていかれるのでついていく。

 全員が扉の向こうに行き、扉の閉まるのを確認して4人は視線を交わらせた。


「で、俺たちの出番が本当にここまでのわけないよな?」


 炎が確認するように言った。


「あたりまえだ。 ザップじゃないがクライマックスで大人しくしてる分けない」


 ジェフリーが当然のように答える。


「最後の最後でおいしいところを持っていく。 目立つのは嫌いだけど、たまにはこんなのもいいか」


 ファルゲンがメンバーへ念話を使って呼びかかる。


「だが、それは本当に命を懸けることになる。 何人くるか……全員来そうだな」


 刹那は和真とプレシアのいる扉を見つめながら少しだけ笑う。

 タイミングよく仲間たちの足音が聞こえてきた。

 この場にいる4人、そして分かれて戦っていた10人の足音が――



[6363] じゅうなな
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/05/04 21:02
 クロノたちが突入したとき、プレシアは和真を床に寝かせ膝枕をしていた。

 プレシアの手が暖かい光を発し、和真の頬に触れている。 そして真っ赤に腫れた和真の頬が少しずつ肌色に戻っているのを見ると治癒魔法をかけているのだろう。

 しばらく和真の治療を続けていたプレシアは、クロノたちに気がつくと膝に乗っていた和真の頭を動かして床に下ろす。

 そしてゆっくりと立ち上がったプレシアにフェイトが近づいていく。


「母さん……」


 小さな声で呼びかけたフェイトに対し、プレシアは無言で左手を伸ばし魔力弾を放った。

 デバイスはシロに奪われたままだがこのくらいのことはできる。 しかもデバイスを使用せず、詠唱もしていないのに床がえぐれるほどの威力がある。 さすがは大魔導師といったところだろう。

 フェイトの足元に着弾したそれは爆風で床の破片を撒き散らし、フェイトの歩みを止めた。

 プレシアが攻撃魔法を放ったことで全員が警戒する。 戦闘する可能性も考えてはいた、むしろ高いと思っていた。 しかしフェイトはデバイスを構えようともせずにまたプレシアに向けて歩き出す。

 そんなフェイトに向けてさらに魔力弾を撃つプレシア、今度は先ほどよりも近くに着弾。 強烈な爆風でフェイトがバランスを崩す。


「フェイト!」


 思わずアルフが駆け寄る。 自分の主が倒れないように急いで支える。

 アルフがプレシアを睨みつけるがプレシアはまったく気にしない。 和真を膝に乗せていたときのようなやさしい顔とはまったく違う、ジュエルシードを集めていたときと同じ顔でフェイトを見つめていた。


「母さん!」


 アルフに支えられたまま、今度は大きな声で呼びかける。 プレシアは三度魔力をためて攻撃魔法を放とうとする。


「もう止めろ、プレシア・テスタロッサ」


 その動きが、クロノの声で止まった。

 相変わらずの表情でクロノを見るプレシア、逆にクロノは真っ直ぐプレシアを見つめる。

 哀れみ、悲しみ、様々な気持ちが混ざった何とも微妙な顔だった。


「お前は優しい人間だ。 本当はそんなことしたくないのだろう?」

「そんなことないわ、無抵抗の魔法を使えない子供を10発以上叩いたのよ? どこが優しいというの?」

「抵抗する意思を奪いたいなら魔法攻撃をすればいいだけだ。 だがSランクの魔力を持つがゆえにデバイスの無い状態では細かい調整ができない、いくら非殺傷にしてもバリアジャケットも魔力に対する抵抗も無い彼にはどんな影響が出るか分からない。 神経系や肉体に障害が、いや最悪死ぬ可能性すらあった」


 そこでクロノは和真を見た。

 プレシアの足元に寝転がっている和真はスヤスヤと寝息をたてている。

 プレシアに叩かれていた頬はすでに元の色に戻っている。 少しばかり口の中を切っているようだが、どう見ても生命に問題は無かった。

 この状況で眠っているとは、肝が据わっているのか鈍いのか、おそらく後者だろう。

 テスタロッサ一家が仲良くしている夢でも見ているのだろうか? 時々寝言でプレシア、フェイト、アリシアの名前を呼んでいる。

 のんきなものだ。 アースラで見ていたときはどうなるかと心配したが、おかげでプレシア説得の糸口がつかめそうだった。

 改めてプレシアと視線を交わらせる。 プレシアが少し困った表情をしたのは気のせいではないだろう、どう反論しようか悩んでいるようだ。

 ならばここで一気に丸め込む、そう判断したクロノは話を続ける。


「お前はそうなることを恐れた。 だから彼の意思を折るために直接叩いたのだろう? その右手、すこし痺れているようだな。 犬に噛まれたせいか、彼を叩きすぎたのかは知らないが、それでも彼の治療を優先している。 そんな状態で悪ぶっても、今更悪人だなんて思えるか」


 プレシアは思わず右手を後ろに隠した。

 クロノの言ったことは半分はでたらめだった。 ただ、少しばかりプレシアの手の様子がおかしいことに気がついたのでカマをかけてみたのだ。

 そして反応を見る限り正解だったようだ。


「おとなしく投降しろ、情状酌量の余地もあるし、今ならまだたいした罪にはならない」

「坊やなんかに貴重な魔力を使うのはもったいなかっただけ、さすがに死んだら気分が悪いから治癒したのよ」

「嘘! 和真君の治療をしていたプレシアさんはとても優しそうだったの。 プレシアさんが悪い人なら和真君はここまでがんばらない、プレシアさんが優しい人だから、自分の心に素直になってほしいから和真君は来たの」

「この坊やが、私のことを勘違いしただけよ!」


 3度目の魔法攻撃、今度は床ではなく直接人間を狙った攻撃だった。

 狙いはフェイト、直撃すれば危ないだろうがフェイトは落ち着いてシールドを発生させて防ぐ。

 それを見たプレシアは少しだけ驚いた。 直撃させるつもりだったのに防がれるとは思わなかった。

 デバイスが無いとはいえS級魔導師がそれなりの魔力を込めた攻撃、しかも自分の母親の放った魔法弾をこうも冷静に防ぐとは予想外だった。

 致命的なダメージを与えられると期待したわけではない、むしろ精神的なことを責めるつもりだった。

 娘に攻撃する母親に絶望する、失望する、悲しむ、そんな反応を期待していた。 しかしフェイトにそんな様子は現れない、むしろより強い意思を持ってプレシアに近づいてくる。


「母さん、私、母さんとその子の会話を聞きました」

「坊やとの? どうやって……」

「ずいぶん彼に集中していたみたいだな、アースラとの通信がつながりっぱなしだったぞ」


 クロノに指摘され、慌ててアースラとの通信を切断するがもう遅い、すでに話は聞き終わった後だ。

 自分の状況を悟ったプレシアは目を閉じて天を仰ぐ、もう観念したのか、打開策を考えているのかは分からない。

 そんなプレシアにかまわず、フェイトは自分の考えを話し始めた。


「私の記憶の優しい母さん、私にひどい事をする母さん、その子が教えてくれた母さん、どれが本当の母さんか分からなくて、すごく悩んで、そんな時に本当のこと聞かされて、頭の中ぐちゃぐちゃになって、何も信じられなくなった」


 話し始めたフェイト自身、何を話したらいいか分かっていない。

 ただ思いついた言葉を順番に口にしている。

 それでも、誰も何も言わずに話を聞く。


「そんな時、その子が母さんの前にやってきて、話を始めて、あんな母さん今まで見たこと無かった。 私が今まで見てきた母さんとはぜんぜん違った。 でも、だからこそ、それが本当のお母さんだって感じた。」


 少しだけプレシアの様子を伺う。

 プレシアに変化は無い、ただ何も言わない態度が逆に話を進めるように言っているように思えた。


「母さん、私は母さんが大好きです。 母さんも私のことが好きだって信じてます。 母さんが口でどんなことを言っても、どれだけ私を叩いても、その子の思いと母さんの叫びを信じます」

「……ふふ、ふふふ、あーはっはっはっは」


 突然、話を聞いていたプレシアが天を仰いだまま笑い出した。

 何事かと全員が驚く。

 プレシアはしばらく笑い続けた後、しゃがみこんで寝ている和真の頭をそっと撫でた。

 和真がくすぐったそうに悶えると手を離して立ち上がる。

 フェイトの方を向いたプレシアは、先ほどまでフェイトに接していたプレシアとは明らかに違った。 これまでのプレシアが魔女だとすれば、今のプレシアには母という言葉が一番似合う。

 その変化に、その引き金となったフェイト自信が驚いた。


「不思議な坊やね、この子の前では嘘がつけないわ。 つい正直に話して、つい感情的になって」

「母さん、それじゃあ」

「ええ、フェイト、大好きよ。 あなたも私の大切な娘、アリシアの妹、かけがえの無い存在」

「母さん……」


 フェイトが涙を流す。 それだけプレシアの言葉がうれしかった。

 なのははほっと一息つく。 プレシアが自分の心に素直になってくれて、すべてうまくいったと感じた。

 だがクロノは、少しだけ疑念が沸いた。

『あなた "も" 大切な』 ということは、同じくらい大切な存在があるということだ。

 当然もう一人の娘のアリシアのことだろうが、アリシアは死んでいる。 死んでいる娘と生きている娘を比較したら、当然生きている娘を選ぶはずだ。

 そこで思い出した。 プレシアの目的は――


「しまった!」

「クロノ君!?」


 クロノがプレシアに向けて走り出す。

 驚いたなのはは止められない、クロノが何をするのか分からない。

 
「でも――」

「え?」


 突如、プレシアが魔法弾を放った。

 それはフェイトの脇を通り抜け、こちらに向かっていたクロノに直撃する。

 シールドの間に合わなかったクロノは吹き飛ばされて地面を転げまわった。 攻撃した本人であるプレシアを除いた全員は何がおきたのか分からなかった。

 クロノのダメージは大きいがまだ動ける、S2Uを杖の代わりにして何とか立ち上がる。 バリアジャケットも所々破損しているが、それでも顔を上げてプレシアを睨み付けた。


「プレシア・テスタロッサ! お前は、お前は諦めないのか! アルハザードに行き、娘のアリシアを生き返らせることを!」

「そんな!」

「母さん!?」


 クロノの叫び声にフェイトもなのはも驚いた。

 プレシアは自分の心に素直になって、フェイトと仲直りした。 それは確かなはずだ。

 なのになぜ、今更、次元断層を引き起こそうとするのか?

 その疑問を尋ねる前に、プレシアはジュエルシードへ魔力を込めだした。 どんどん魔力が高まっていき、空間を振るわせるほどになる。

 アースラからの通信でエイミィが何か叫んでいる、しかし誰もその言葉を聞いていなかった。


「プレシアさん! 何で? フェイトちゃんのこと大好きだって言ったのに、何でこんなことするの!」

「確かにフェイトのことは大切よ。 でも、私は同じくらいアリシアのことが大切なのよ!」

「だからアルハザードに行くの? フェイトちゃんを置いて、それじゃあ幸せになんかなれないよ! プレシアさんも、フェイトちゃんも!」

「私がいなくてもフェイトは幸せになれるわ。 坊やがいて、あなたがいる。 優しい友達に囲まれていればフェイトは大丈夫、でもアリシアは私が何とかしないといけないのよ!」


 ついに、時の庭園の崩壊が始まった。

 ジュエルシードを中心として床が崩れていき、すべてを飲み込む次元の狭間が現れる。

 魔法を使えない奈落の空間、そこに落ちたら這い上がることはできない、行き着く先はアルハザードか、それとも死か?


「待って母さん! 私も――」

「来てはだめよ、フェイト! 僅かな望みにかけた旅、それにあなたを巻き込むことはできないわ」

「それでも私は母さんと一緒にいたい、離れるなんて嫌だ。 一緒がいい!」

「……さよならフェイト、愛してるわ」

「母さん、待って母さん、離してアルフ、このままじゃ母さんが!」


 フェイトがプレシアに向けて駆け出すのを、アルフは羽交い絞めにして止めた。

 いくらプレシアがいい奴と分かっても、主であるフェイトを死地に飛び込ませるわけにはいかなかった。

 たとえこのことで恨まれる事になっても、それでもフェイトを死なせることはできない。 全力でフェイトが動けないようにする。

 そんなフェイトの叫びを聞きながら、プレシアはフェイトに背を向けた。

 プレシアの向いた先ではアリシアの入ったポットが次元の狭間に飲み込まれていくところだった。 プレシアもそれに続く気だということは容易に想像できた。

 プレシアの足元に水滴が落ちる、涙だ。 プレシアは泣いている。 プレシアもフェイトとの別れが悲しいのだ。

 それでもついに覚悟を決め、服の袖で涙を拭いたプレシアはアリシアに向けて走り出し――――こけた。

 それはもう、盛大に顔面を床に打ち付けた。 慌てて起き上がって再び走ろうとして、またこけた。

 間違いない、何者かがプレシアの邪魔をしている。 だがフェイトはアルフに拘束されている、ならば誰が?


「むにゃむにゃ、プレシアさん……ぐーぐー」

「坊や!?」

「だめです、待ってあげましょう。 いってらっしゃい、スヤスヤ」

「寝ぼけてる!? 離して坊や、このままじゃ坊やまで!」


 眠っている和真がプレシアの服の端を握っていた。

 必死に離させようとするが和真は離さない、そうこうしている間にも崩壊は着実に近づいてきている。

 プレシアは迷った。

 アルハザードに行くならこのまま行けばいい、しかしそれは和真を巻き込むことになる。 かといって和真は離れそうに無い、時間をかければ指を一本一本引き剥がすことも可能だがその前に崩壊に巻き込まれるのは確実だった。

 死んだ娘を生き返らせるために他人の子供を巻き込むか?

 他人の子供を救うために死んだ娘を諦めるか?

 決断を迫られたプレシアはアリシアに背を向け、眠っている和真を抱きかかえて、フェイトに向けて走り出しす。

 しかし、それも途中で止まる。 3歩ほど踏み出したところでプレシアは膝を突いて血を吐き出した。

 元々病に冒されていたプレシア、その発作が最悪のタイミングでおきてしまった。

 それでも何とか和真を運ぼうとするプレシアだったが予想以上に崩壊のスピードが速い、さらにプレシアのいた床も脆かったのだろう、ひび割れた床が二人分の重量を支えきれなくなってしまう。


「母さん!」


 フェイトが手を伸ばす、しかし主を危険にさらす事を良しとしないアルフがその動きを止める。


「和真君!」


 なのはが手を伸ばす、しかしこのままではなのはも巻き込まれると判断したクロノとユーノがその動きを止める。


「わん!」


 しかし、白く小さい影を止める者はいなかった。

 シロが次元の狭間に飛び込む。 今まで咥えていたプレシアのデバイスを放り捨て、変わりに和真の背負っているリュックサックに噛み付く。

 それだけだった。

 シロは犬だ。 当然空など飛べない。 足場が無くては支えることもできない。 そのまま一緒に落ちていくだけである。

 だが、落ちていくプレシアと和真にシロが加わることによってひとつだけ変わることがある。 それは、距離だ。

 シロのおかげでシロの体分、ほんの数十センチだけ岸への距離が伸びた。

 そしてシロがリュックサックに噛み付くのと同時に、大きな音を立てて部屋の扉が開かれ、少年たちがなだれ込む。

 何事かと全員が注目する中、メガネ型デバイスのインテリを装備したファルゲンがジュエルシードを囲むように結界を張った。


「結界展開、数十秒しか持たないぞ! その間に引き上げろ!」


 これで崩壊のスピードをほんの少しだけ遅らせることに成功した。 しかし次元断層そのものが終わったわけではない、文字通り数十秒持てばいいほうだろう。

 その数十秒にすべてを賭けて、残りの13人が次元の狭間へと飛び込む。





「物語は、ハッピーエンドじゃなきゃだめだ!」

 シロの胴体を刹那がつかんだ。

「和真を連れ出したのは俺だ。 だからつれて帰る!」

 刹那の足を炎がつかんだ。

「プレシア母さんを死なせるか!」

 炎の足をディストがつかんだ。

「義母さんになる人を死なせてたまるか!」

 ディストの足を蒼牙がつかんだ。

「和真がいなくなったらはやてが悲しむ、そんなの嫌だ!」

 蒼牙の足をカムイがつかんだ。

「ここで行かなきゃカッコよくねぇ!」

 カムイの足をザップがつかんだ。

「……和真死ぬ、みんな悲しむ、小さい子泣くの見たくない」

 ザップの足を翼がつかんだ。

「見てくれなのは、俺の勇姿を!」

 翼の足をアルスがつかんだ。

「ヴォルケンズ攻略のためにも、和真には生きてもらわないと!」

 アルスの足をヴォルフがつかんだ。

「死ぬのはだめだ。 運命を変えるんだ!」

 ヴォルフの足をジェフリーがつかんだ。

「怖い、怖いけど……見捨てるのはもっと怖い!」

 ジェフリーの足を紫音がつかんだ。

「後悔はしたくない、してたまるか!」

 紫音の足を烈火がつかんだ。

「戦闘機人のパワーを……なめるなああああああああ!」

 最後に、烈火の足をつかんだリュウセイが全員を引っ張りあげようと力を込める。




 しかし、さすがに14人+1匹分の重さはきつい。 一気に引っ張りあげることもできず、じりじりと足が次元の狭間に近づいていく。

 このままでは彼らが落ちるのも時間の問題、打つ手なしかと歯を食いしばるリュウセイだったが、自分をさらに引っ張る存在に気がつく。


「お前たち! 管理局の作戦を妨害しただけでなくこんなことまでして、説明はきっちりしてもらうぞ!」

「みんながんばって、もう少しなの!」

「お願い、母さんを助けて!」

「あのババアでも死んだらフェイトが悲しむ、それにシロさんを助けないと!」

「次元断層はもう少し抑えられます。 今のうちに!」


 なのはたちがリュウセイをつかんでいた。 ユーノはファルゲンを手伝って結界を張っている。

 4人分の力、特にアルフが加わったことで何とか持ち直すことができた。 それでもピンチなことに変わりは無い、少しばかり猶予が伸びただけだ。


「私が落ちれば、ほかの子供たちは……」


 プレシアが和真の手を無理やり離させようともがき始めた。

 確かに、この中で一番体重が重いのは大人のプレシアだ。 彼女が離れれば一気に軽くなって持ち上がるかもしれない。

 しかし、それはプレシア以外が望む結果ではない。 みんなプレシアも助けたいと考えている。


「飛べ! リュウセイ!」


 一番先でシロを掴んでいる刹那が叫んだ。

 飛ぶ?

 リュウセイを掴んでいるクロノたちはどういう意味か分からなかった。 しかし付き合いの長いメンバーは刹那の作戦を理解する。

 呼びかけられたリュウセイは腰を落とし、足に力をこめ、深呼吸をして意識を集中させた。

 何をする気かと様子を伺うクロノだったが、リュウセイの足元に熱気が溜まっていくことに気がつく。

 飛ぶという表現、集まる熱気、何をやろうとしているのか一瞬で理解できた。


「手を離せ、彼は飛ぶぞ!」

「え? 飛ぶって?」

「文字通り飛ぶんだ。 ロケットみたいに!」

「そのとおり! IS発動、ヒートソウル! そぉい!」


 突如、リュウセイの足元で爆発が起きた。 その衝撃でリュウセイを掴んでいたなのはたちは思わず手を離すが、そんなことお構いなしに15人と一匹は宙に浮く。

 後ろに向けて発生した推進力はそのまま全員を引き上げる、ただ慣性の法則はきっちりと働いていた。

 引っ張りあげられたスピードは衰えることなく、彼らは空中を舞い、リュウセイが壁に当たってとまると団子状態になって次々とのしかかる。

 一番下になったリュウセイは大変なことになったようだが、13人分のクッションのおかげでプレシアと和真は無傷だった。


「えっと、みんな大丈夫なの?」


 直前で手を離したおかげで巻き込まれなかったなのはたちが心配そうに覗き込む。

 その声に答えた13人はいっせいに親指を立てて大丈夫だとアピールした。 それを見たなのははほっと安心する。


「結界がもう持たない、早く脱出するぞ。 エイミィ、転送してくれ」

『了解、数が多いから順番にね』


 クロノの提案に反対するものはいなかった。 ただプレシアは少しだけ戸惑った。

 眠ったまま手を離そうとしない和真と、反対側からもう離れないとばかりに服を握るフェイトを見てため息をつく。 そしてジュエルシードを、いや、アリシアの落ちた次元の狭間を見ながら呟いた。


「さようなら、アリシア。 ごめんなさい、あなたを一人にさせて」

『私は大丈夫。 さようなら、お母さん』


 声が聞こえた気がして、プレシアは顔を上げた。 フェイトを見るが、フェイトが喋ったのではないらしい。 ならば幻聴だろうか?

 それを確かめる暇などなくプレシアも転送される。 物理的につながっている和真とフェイトも一緒にその場から消えた。

 全員の転送が完了すると同時に、ジュエルシードに張られていた結界が破壊された。

 再び始まる時の庭園の崩壊、誰もいない部屋で、プレシアのデバイスが次元の狭間に落ちていく。



 後にPT事件と呼ばれるジュエルシードをめぐる事件は、こうして終了した。



[6363] いちぶ、かん
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/05/14 22:39
 アースラ医務室は何ともいえない緊張感が漂っていた。

 持病のせいで吐血したプレシアは事情聴取を後回しにして検査のため医務室に移された。 すぐそばにフェイトと和真もいる。

 リンディが 『どうせ事情聴取をするなら一緒のほうがいいだろう』 と適当な理由をでっち上げてプレシアが落ち着くまでフェイトといられるようにし、和真は眠ったままプレシアを離さないのでついでにそのまま運ばれたのだ。

 簡単な検査が終わり、とりあえず容態は安定したと判断され、親子の会話を邪魔するのも悪いと気を利かせた医務官は部屋から出て行った。

 今、部屋の中ではェイトは椅子に座り、プレシアはベッドに腰を掛け、プレシアが座っているベッドには和真が寝かされている。

 そんな空間でプレシアとフェイトは互いに向かい合ったまま、検査が終わってから一言も喋っていなかった。 お互い何を話したらいいか分からないのだ。

 プレシアは時の庭園でハッキリとフェイトを置いてアリシアと共に行くと宣言した。 が、結局こうして一緒にいることになった。

 一度置いて行くと言って、自分なりの別れの言葉をかけた。 もう二度と会うことは無いと思っていた。 それだけの覚悟を持っていたのにとんだ肩透かしだ。

 今更なんて声をかければいいのか分からない、どんな話をすればいいか分からない。お互いそんなことを考えているせいで話ができないのだ。


「「あの……」」


 二人同時に声をかけ、二人同時に声を詰まらせる。 こんなことを何回繰り返しただろうか?

 そんな時に和真が目を覚ました。 起き上がって寝ぼけた目で辺りをキョロキョロと見回した。

 フェイトもプレシアもほっと一息つく、原因が何であれこの緊張した空気が和んで話しやすくなったからだ。 ついでにこのまま親子の会話をするきっかけを作ってくれることを期待する。


「プレシアさん? フェイト? あれ? ここどこ?」

「おはよう坊や、ここはアースラの医務室よ」

「アースラ……ってどこだっけ? アリシアは? もう帰ってきた?」


 寝ぼけている和真の言葉はよく意味が分からない、ただアリシアの名前を呼んだことが気になった。

 和真とアリシアに直接の面識は無い、ただ生体ポットに入っていたアリシアを見たことはある。 それと意識を失う直前の目的意識や状況が組み合わさって夢に出てきたのだろう。

 どんな小さなことでも話をするきっかけが欲しいプレシアは和真を話に加わらせることにした。 内容は、とりあえず見ていた夢でいいだろうと考える。


「坊やはどんな夢を見たのかしら? 教えてくれる?」

「えっとね、アリシアが一人でおつかいに行くの。 けどプレシアさんがこっそり後をついて行こうとするからフェイトが家に独りぼっちになっちゃうの。 それで、アリシアがお母さんは家に帰ってって言って、プレシアさんそれでも帰ろうとしないから引っ張ったの」


 軽い気持ちで尋ねた夢の内容、しかしそれは二人が驚くのに十分な内容だった。

 いなくなるアリシア、追いかけるプレシア、置いていかれるフェイト、この構図はまさしく時の庭園で起きたことだ。 だが、完全に眠っていた和真がその光景を覚えているはずが無い。

 そして夢の内容で気になったことがひとつ――


「坊や、アリシアがこないでって言ったの? 間違いない?」

「うん、一人でおつかいできるしフェイトが寂しがるからお母さんは家で待っててって言ったの」

「そう、きっとアリシアもそう望んでいたのね」


 がんばってひっぱたんだから、と胸を張る和真。 しかし頭が覚醒するに連れて状況を理解し始める。

 アースラにいる自分、プレシア、フェイト。 見当たらないアリシア。 自分が気絶する前のいた時の庭園の状況。

 それらの情報がつながった時、和真の目が潤み、涙が溜まっていく。


「う、うう、ぐすっ」

「坊や? どうしたの」

「大丈夫? まさか、どこか怪我が……」


 プレシアとフェイトがおろおろし始める。 和真が今にも泣き出しそうなのにどうしたらいいか分からないからだ。

 緊張感が切れて安心したからか、それともプレシアに叩かれたことを思い出したからか、なだめようとしても効果が無い。


「うわーん、ごめんなさい、ごめんなさい、うう、ぐすん」

「和真君、どうしたの!」


 そしてついに大粒の涙を流して泣き始めた。

 それと同時になのはが医務室に飛び込んでくる。 どうやら扉のすぐ外で室内の様子を伺っていたらしい。

 すぐさま和真に飛びつくが和真の様子は変わらない、飛び込んだなのはもどうしたらいいか分からなくなってしまった。

 プレシアがフェイトが虐めるはず無いことは分かる、だが和真は誰かに謝り続けるばかりで泣き止む様子が無い。


「ごめんなさい、ごめんなさい、うわーん」

「坊や、誰も怒ってないのよ。 だから泣き止んで」

「ごめんなさい、アリシアごめんなさい、ぐすっ」

「坊や……アリシアに謝ってるの!?」

「生き返れなくてごめんなさい、プレシアさんと別れてごめんなさい、僕が引っ張ったから、ごめんなさい、ごめんなさい」


 それで全員が理解した。

 和真はテスタロッサ一家がそろうことを願って時の庭園に行った。 テスタロッサ一家とはプレシア、フェイト、アリシアの3人のことだ。

 しかしその3人がそろうことはもう無い。 寝ぼけた和真がプレシアを引き止めたせいでアリシアは次元の狭間に消え、プレシアは残ることになった。

 夢の中の出来事が実際に起きたことだと分かった和真は自分がアリシアとフェイトを引き裂いてしまったと理解したのだ。 その罪悪感はどれほどのものだろう。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ううう……」

「いいのよ坊や、坊やのせいじゃないの、悪いのは私なのだから」


 涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃの和真だが、どれだけ服が汚れようともかまわずにプレシアは和真を抱いて頭を撫でた。

 次第に落ち着いた和真は泣きつかれたのか再び寝息を立てて眠りだす。 さっきまで寝ていたというのに、まだ子供ということだろう。

 和真をベッドに寝かせたプレシアはそれを見ている視線に気がついた。 その先にはフェイトがいる。

 微笑ましく思っているのと同時に、少しだけ羨ましそうな視線。 それを感じた時、プレシアはフェイトにどのように接したらいいのか理解した。 両手を広げてフェイトに向き直る。


「いらっしゃい、フェイト」


 必要な言葉はその一言、他の言葉は必要ない。

 しかし言われたほうのフェイトは戸惑ってしまった。 今まで母親にこんなことを言われた記憶など無いからだ。

 どうしたらいいのか分からない、何をすればいいのか分からない、急に不安になってしまう。

 半ば助けを求めるようになのはを見ると、なのははゆっくりとフェイトの後ろに回って両手のひらを背中にそっと添えた。


「行けばいいんだよ、フェイトちゃん。 それがフェイトちゃんのしたいことなんでしょ?」

「私の……したいこと?」


 少しだけ椅子から腰を上げる、しかしそれ以上動けない。

 母親が呼んでいるのに、行きたいのに、自分の足が言うことを聞いてくれない。

 その気持ちを察したなのはは、微笑を浮かべながらフェイトの背中を突き飛ばす。 バランスを崩したフェイトはつんのめりながら前に移動してプレシアの胸の中に納まった。

 プレシアがフェイトを抱きしめる。 フェイトはなのはに文句を言おうとして自分の状況に気がついた。

 母親に抱かれるのはどれだけぶりだろうか? 植えつけられたアリシアの記憶と境目が分からない自分の記憶のせいでよく分からないが、もしかしたら初めてかもしれない。

 でも分かる。 これが自分が望んできた物、これが欲しくて自分は今までがんばってきたのだ。

 溢れてくる涙を止めることなどもうできない、二度と離さないという想いで力いっぱい母親を抱きしめる。

 母も強く抱き返してくれた。 二人の想いは同じだと理解できた。 それがうれしさを倍増させる。

 医務室では静かにという張り紙など無視して、フェイトは力いっぱい叫んだ。 叫ばずにはいられなかった。


「母さん、母さん、母さん! うわあああああああああああん」





「で、君たちの処分だが――」


 そう話を切り出すクロノだったが、話を聞く立場の人間は誰もクロノの話しを聞いていなかった。

 出されたお茶を手に騒がしくして、落ち着く様子を見せない。


「これが噂のリンディ茶か」

「うお、甘い、マジで甘い!」

「甘いけど……耐えられないほどじゃない! なぜなら俺はフェイトの兄だから!」

「なら俺はあえて地獄に挑戦してやる、砂糖追加お願いします!」

「糖尿病になるぞ……あ、飲み物自分で持ってきたんでいいです」


 アースラの艦長部屋、そこにいるのはクロノとリンディと時の庭園で遭遇した14人の魔導師。

 リンディはその騒がしい様子を微笑ましく見ているが、クロノはこめかみに青筋を立てながら震えだす。


「お前たち! 少しは落ち着いて話を聞け! もう少しで犯罪者になるところだったんだぞ!」


 クロノが一喝して騒いでいた者たちも静かになった。 あぐらや正座などそれぞれが畳に相応しい座り方をする。

 全員が落ち着いたところで刹那が手を上げる。 質問があるという意思表示だ。

 それに気がついたクロノは発言の許可を出す。 部屋内の全員が刹那に注目した。


「犯罪者になるところだったってことは、犯罪者じゃないのか? 局員叩きのめしたり、プレシアの前に真塚和真を連れて行ったり、結構問題があると思うんだが」


 管理局員に対しての攻撃、次元犯罪者の前に魔法の使えない民間人を連れて行く、どちらも管理局からすれば立派な犯罪行為だ。

 それは執務官のクロノが一番よく分かっているはずだが、クロノは落ち着いた様子で 「なんだ、そのことか」 と言った。


「確かに君たちの行動には問題がある。 だが、それらはプレシアを説得するという意思の下で行われたのだろう? そこを中心に考えると逆に協力的だったと考えることもできる」

「たとえば?」

「プレシアの説得はあの少年がいなければ不可能だっただろうし、一般の武装局員が突入したらヤケになって次元震を起こしたかもしれない。 何より次元の狭間に落ちるプレシアを助け出せたのは君たちの協力があったからだ。 それについては感謝する」

「局員と戦ったのはプレシアを説得する過程の違いから生まれた不幸な事故と判断しました。 よって皆さんに悪意はないと考え、特に罰をかけないことにします。 ただ、武装局員の方々には後で謝ってくださいね」


 リンディの言葉にある者は喜び、ある者はがっかりする。

 喜んでいるのはリュウセイ、紫音、烈火。 落ち込んでいるのはディスト、蒼牙、翼。 ものの見事に元介入反対派と元過激派に分かれていた。

 喜ぶのはともかく、罰が無いのになぜがっかりするのか? クロノには分からない。

 近くにいた刹那に尋ねることにする。


「彼らは何故落ち込んでいるんだ?」

「大方これを機に嘱託になろうとでも考えていたんだろ?」

「優秀な魔導師が管理局に入ってくれるのは歓迎する。 帰るときに資料を渡してやるか……」

「そうしてくれ、嘱託は犯罪者が罪を軽くするためになるものだと思い込んでいる」

「使われることが多いだけで試験さえ通れば誰でもなれるんだがな……君は管理局に入る予定は無いのか?」

「将来は分からないが、今はなるつもりは無い。 もう少し子供を楽しむつもりだ」

「残念だ。 この集団のリーダーは君だろう? 指揮ができる人間は貴重だからな。 君なら優秀な局員としてどんな仕事でもできるだろうに」

「なりたくなったら、今日できたコネを使わさせてもらうことにするよ」


 クロノと刹那は力強く握手を交わした。

 それを見ていたリンディはお茶をすすりながら笑顔を浮かべる。


「二人とも仲がいいのね」

「クロノさんは、まぁ、一番気に入ってますから」

「妙な言い方だな? 何の中で一番気に入っているんだ?」

「……この事件に関わった人間の中で、そしてこれからおきる事件に関わる人間の中でかな?」


 クロノは刹那の奇妙な言い回しの仕方に少しだけ疑問を感じたが、今はとりあえず再び騒ぎ出した他のメンバーを静かにさせることにしたのだった。










 プレシア・テスタロッサはジュエルシードを使い次元震を起こした。

 幸いにも被害は時の庭園だけで済んだが被害の程度が問題なのではない、起こしたこと自体がすでに罪になってしまうのだ。

 それでも説得に応じて (正確には和真を助ける過程で生き残ったのだが、応じたことにしたほうが罪が軽くなる) 投降したことや動機、これから先管理局への協力する意思があることを考えると情状酌量の余地は大いにある。

 なによりプレシアには体調の問題がある。 持病を持つプレシアは長期の刑務所生活には耐えられないだろうから、恐らく管理局関係の病院に監視付きで入院ということになるはずだ。

 フェイトの方はもっと簡単である、何しろ主犯のプレシアが生きているのだから。

 ジュエルシード集めはプレシアに命じられた。 主犯のプレシアがそう言えば疑いようも無く受け入れられる。

 フェイトは母に責任を押し付けるその方針に嫌がったが、プレシアの説得でしぶしぶながら納得した。 これでうまくいけば無罪にすることも可能だろう。


 これがクロノが予測したプレシアとフェイトの今後でした。

 裁判とかよく分からないけど、プレシアさんは何か罰を受けるんだということは分かりました。


「プレシアさん、無罪にならないの? あんなに優しい人なのに……」

「次元震を起こしたことと、君に暴行を働いたことは消しようが無いからな。 できる限りのことはするつもりだ」

「僕も証人としてついて行くから、まかせてよ」

「ユーノ君……なんか頼りないの、やっぱり私と和真君が行った方が……」

「ぐはぁ」


 なのはの一言でユーノが地面に倒れました。 病気でしょうか? 心配です。

 そんなユーノを引きずってクロノはこの場からいなくなりました。

 時間はあまり取れないけど、少しでも話ができるようにしてくれたらしいです。 クロノは優しいです。

 そういえば、フェイトと落ち着いて話すのはすごく久しぶりな気がします。 ケーキ屋さんで話しましたが、あの時はジュエルシードとかそんな話でした。 普通の話をするのは始めてかも知れません。

 そう考えると、急に何を話したらいいか分からなくなってしまいました。 フェイトとなのはも同じみたいです。 少し気まずい空気です。

 そんな空気を変えたのはシロとアルフさんでした。 アルフさんは人間の姿でシロを抱きかかえて泣いています。 別かれたくないんだと思います。


「うわああん、シロさん! シロさんと別れたくない~!」

「わん、わん」

「ぐすん、そうだよね。 アタシはフェイトの使い魔なんだ。 ついていくのが使命なんだ」

「わわん、わん」

「友達? いいや、大歓迎だよ! うん、アタシもシロさんと友達になりたい!」

「わん!」

「友達、遠距離恋愛、恋人、結婚、子供は10匹くらい……ああ、シロさん!」

「く~ん」

「ああ! 引かないで! ごめん、ちょっと飛躍しすぎた。 友達だね、友達、手紙とか書くから!」

「わん!」

「え? この首輪を? ありがとうシロさん。 大事にするよ!」


 シロとアルフさんが友達になりました。 アルフさんがとっても嬉しそうです。

 空気が和んだところでフェイトが話を始めました。


「私嬉しかった。 真っ直ぐぶつかってくれるあなたが、私と母さんの為に耐えてくれる君が。 あの時言ったよね? ジュエルシードを集めて、母さんの願いをかなえたらって。 今なら言えるよ、私は君たちと友達になりたい」


 フェイトの方から友達になりたいって言ってくれました。

 嬉しいです、僕も友達になりたいです。 というかもう友達です!

 でもフェイトは少しうつむきました。 何か心配事があるんでしょうか?


「でも、友達ってどうしたらいいか分からない。 だから教えてほしいんだ、どうしたら友達になれるのか?」


 思わずなのはと顔を見合わせました。 こんなことを聞かれるとは思っていませんでした。

 友達になるのって簡単です、僕もなのはもそれを知ってます。


「私、高町なのは」

「僕、真塚和真」

「え? え? 何?」


 急に自己紹介を始めたからフェイトが少し混乱したみたいです。

 でも止まりません、話を続けます。


「名前を呼んで、そうしたら友達になれるよ」

「名前を……?」


 フェイトは目を閉じて、深呼吸をしました。

 それから決意をしたように目を開き口を開きます。


「和真、なのは……」

「「うん!」」

「和真! なのは!」

「「うん!」」


 だんだんと大きくなるフェイトの声に、僕たちの声も大きくなります。

 そして3人で手をつなぎ、僕となのはでフェイトを挟んで抱き合います。

 もうすぐお別れです、友達になれて嬉しいけど寂しいです。 でも平気です、またすぐに会えます。

 少し涙目になりながらフェイトから離れたなのはは、自分のリボンを外してフェイトに差し出しました。 フェイトにあげるみたいです。 僕も何かあげたいけど、何かあるでしょうか?

 はやてからもらったお守りを見つけました。 そういえばズボンのポケットに入れっぱなしでした。

 ここで名案が思い浮かびます。 このお守りをフェイトに渡します。 はやて→僕→フェイトです。 これでフェイトとはやても友達になれます!


「思い出になるもの、こんなのしか無いけど……」

「これ友達からもらったの。 今度会ったら紹介するから、きっと仲良くなれるから、また会おう! いつか、かならず」

「うん、それじゃあ私も」


 フェイトがリボンを外して僕となのはに差し出します。

 フェイトの左右の髪をまとめていたから二つ、僕となのはにひとつずつ。

 それを交換して、フェイトが何か言おうとしたときでした。




「俺、大空蒼牙! よろしく!」


 どこからともかく蒼牙君が現れて――


「空気読めこのバカヤロウが!」


 リュウセイ君がものすごい速度で走ってきて蒼牙君を殴りました。

 蒼牙君はくるくる回りながら街灯にぶつかって止まります。 とても痛そうです。

 それをきっかけに他のみんなも現れます。 見送りにこないと思っていたら、どうやらみんな隠れていたみたいです。

 フェイトもなのはもあっけにとられました。 状況が飲み込めていません、というか僕も何がなんだか分かりません。


「かんにんやー、がまんできなかったんやー、俺もフェイトと友達に、あわよくばその先に――」

「ここは見守るって昨日話し合っただろうが。 ってか何で関西弁なんだ? あー、リュウセイ・クロウバードです。 よろしく」

「結局、お前もじゃねぇか。 ヴォルフ・マクレガーだ」

「ディスト・ティニーニ、できればお兄ちゃんって呼んで欲しい!」

「自重しろ。 幽鬼紫音だ」

「アルス・エヴォリュアル、むしろなのはと友達になりたい!」

「……龍堂翼、竜使いの子供を引き取ったら是非教えて欲しい」

「神尾烈火だけど、何か思い出になるようなモンあったかなぁ?」

「ザップ・トライフォン、この邪気眼封印用包帯をあげよう」

「そんなのもらっても困るぞ、竜宮カムイ。 このお饅頭、お勧めだからぜひ食べて欲しい」

「馬鹿だなぁ、こういう時は保存の利くものだろ? この煎餅なら長く持つし日本茶にも合う。 あ、ジェフリー・マークハントです」

「なに言ってる、フェイトっつったら洋菓子だろうに。 ファルゲン・C・ライデュース、ケーキは生ものだから早めに食べて欲しい」

「食いモンばっかり渡してどうする。 鬼道炎、デジカメ持ってきた。 こういうときの基本は写真だろ?」

「天崎刹那だ。 すぐ行くんだからインスタントカメラじゃないと、ちゃんと持ってきたぞ」


 まだ戸惑っているフェイトを中心に全員が並びます。

 中央をフェイト、その両側に僕となのは、フェイトの後ろにシロを抱いたアルフさん、そして場所の取り合いをしているみんな。

 カメラのタイマーをセットした刹那君が急いで端っこに加わりました。

 急なことでフェイトが緊張しています。 このままじゃ緊張した顔のフェイトが写真に残っちゃいます。


「フェイト、笑って。 笑うと楽しいよ」

「フェイトちゃん、みんなの思い出、笑顔で残そう!」

「和真、なのは……それにみんなありがとう。 私、とっても嬉しい!」


 シャッターの切れる音がして、写真が撮れました。

 たくさんの友達がみんな笑顔、楽しいです。






「で、終われば綺麗にまとまったのに。 なんでこんなことしてんだ?」

「休日の学校に忍び込んだからだろ? 文句言わずに働け」


 すべての授業が終わった放課後、僕たち15人はゴミ袋を持って街を歩いています。

 教頭先生に呼び出された僕たちはしこたま怒られました。 なぜか先生も怒られてました。

 一時間くらい説教されたあと、町内で一週間のゴミ拾いボランティアをすることになりました。 毎日の放課後に一時間、みんなと一緒に街中を歩き回ります。

 こうやってみんなと一緒に過ごすのは初めてです、ゴミ拾いでも楽しくなります。

 みんな文句を言いながらでもちゃんとゴミ拾いはしています。 なんだかんだ言って全員真面目です。 結構隅の方まで確認してゴミを集めています。 

 15人でいっせいに掃除をしたらすぐに綺麗になりました。 それにおしゃべりもしていると一時間くらいすぐに過ぎていきます。


「みんな~、そろそろ時間ですよ~」


 終わる時間を見計らって先生が来ました。 手にビニール袋を持っています。 中身は缶ジュースです。

 みんな先生の前に並んで缶ジュースを受け取りました。 僕はオレンジ味です。 飲み終えたらちゃんとゴミ袋に入れます。


「でもいいんですか? 一応罰なのにこんなことして」

「教頭先生には内緒ですよ? みんな頑張っているからご褒美です」


 微笑む先生の後ろに人影が現れました。

 僕たちはいっせいに視線を逸らします、先生はまだ気がついていません。

 教頭先生です。 少し怒っている教頭先生が笑っている先生の後ろに立っています。 いつの間に来たんでしょうか?

 先生は教頭先生に気がつかずに話を続けます。


「思えば真塚君は一年のころから男子の中で孤立してましたから、仲良くなって先生嬉しいです。 そのお祝いもかねておごっちゃいます」

「それはそれは、座土先生は大変な生徒思いですな」

「いや~、それほどでも……って教頭先生!」

「座土先生には教育者としての心得について……くどくどくどくど――」


 先生が教頭先生に怒られている間、僕たちはそ知らぬ顔でジュースを飲みました。

 飲み終わって空き缶を集め、適当な世間話をしていると教頭先生は学校に戻っていきました。 説教は終わったみたいです。

 僕たちも一旦学校に戻ります。 学校でゴミ袋を焼却場に出して、それからさよならです。

 その途中、僕は先生の袖を引っ張りました。 先生に聞きたいことができたのです。 気がついた先生は足を止めて目線を僕に合わせてくれました。


「なんですか? 真塚君」

「えっとね、先生の名前って座土って言うんですか? いつも先生って呼んでるから知りませんでした」

「え!? ま、まさか……」


 先生がみんなの顔を見ます。 みんないっせいに先生から顔を逸らしました。

 みんな冷や汗をかいてます。 何人かは完全に後ろを向いて口笛を吹いてます。


「2年以上同じクラスなのに、生徒に名前を覚えられていなかった……」

「せんせええええええええええええええええええ!」

「大丈夫、大丈夫です。 覚えましたから、座土先生!」

「あれ? でも下の名前は?」

「おま! しー! しー! 黙ってろ!」

「先生はいい先生ですから、俺たちの先生は先生しかいませんから!」


 先生は膝をついてorzってなりました。

 みんな先生を励まそうと必死に呼びかけます。 そのうち変にテンションが上がったのか皆で先生を担ぎ上げました。

 まるで御神輿のように先生を持ち上げるとそのまま学校まで運んで行きます。 通行人が何事かと注目しますが、そんなこと気にせずにどんどんスピードを上げて見えなくなってしまいました。

 ゴミ袋を持っている僕は参加することができません。 後を走って追いかけます。


「ちょっと坊や」


 追いかけているとお婆さんに呼び止められました。 赤いチャンチャンコを着て杖をついています。 80歳くらいでしょうか? もっと上かもしれません。

 手招きしているから近づきます。 何の用でしょうか? 困っているならお手伝いしないといけません。


「今運ばれたのは坊やの先生? あの子はちゃんと先生してる?」

「うん! 先生優しいよ、困った時の相談も聞いてくれるし、僕先生が先生でよかった!」

「それはよかった。 頑張るんだよマナミ、今度カツオを送ってあげるからね」

「マナミって……先生のこと?」


 お婆さんはニッコリと笑うと、消えました。

 いきなり目の前からいなくなったのです。 辺りを見回してもどこにも見当たりません。

 皆に追いつけなくなるといけないので学校に向けて走ります。 今ならまだ間に合います。

 途中に一度だけ振り返って……電柱の上に人影が見えました。 でも眼をこすってもう一度見ると誰もいません。 たぶん見間違いです。

 今度から先生のことはマナミ先生って呼ぼうと自分で決めて、僕はまた走り出します。

 大好きな友達と大好きな先生、明日の学校も楽しみです!



[6363] じゅうく! 第二部開始
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/06/21 14:21
「くっくっく、はーっはっは、きいいいいいいいいいいたあああああああああああああああ」

「うっせぇぞ! 俺は漢字の書き取りがあと300字も残ってんだ!」


 ここはトリッパーズの秘密基地である廃ビル。 放課後のゴミ掃除も終わり、メンバーはここに集まっていた。

 直接ここに来た者は制服、一旦家に帰った者は私服、家に帰ってなにやら荷物を持ってきたらしいカムイは私服姿だ。

 そんなカムイは部屋に入ってくると同時に奇声を発し、直後に炎の魔法攻撃で吹き飛ばされた。

 煙を上げながらピクピクと痙攣するカムイを無視して、ある者はゲームをし、またあるものは今日の宿題に取り掛かる。

 10分後、復活したカムイはよろよろとバランスをとりながら再び部屋に入ってきた。 炎の魔法攻撃は結構な威力があったらしい。 それをバリアジャケット無しで受けたのだからまだダメージが残っている。

 そんな攻撃を受けたにもかかわらずカムイは怒ったりしない、ニヤニヤと笑みを浮かべながら自分の座布団を取り出して座り、何かのカタログを見始めた。

 興味を持った数人が後ろから近づいてカタログを覗き見する。 内容は女の子向けのアクセサリーとかそういう特集だった。

 今までカムイはこういうものに興味を持ったことなど無い、彼女でもできたか? でも何だかんだではやて一筋のカムイが別の女を作るとも思えない。


「何言ってんだ? はやてにプレゼントするに決まってるだろ?」


 そう言った事で明日のはやての誕生日にプレゼントするつもりだということが理解できた。 このイベントを逃すはやて好きはいないだろう。

 これまでは遠くから見守っているだけだったが、和真と友達になったことで堂々とはやてに近づくことができる。 これは大きな前進だった。

 だからプレゼントを選んでいることをメンバーに伝え、カムイは再びカタログに集中する。 誕生日前日だというのにまだプレゼントを決めかねているらしい。


「しっかし……このカタログに載ってるもん全部高いぞ? 数千円、下手したら万単位のもある。 買えるのか?」


 カタログを覗き見していた1人がふと漏らした一言は全員の疑問を分かりやすく表していた。

 小学生の小遣いなんて高々知れたもの、こんな高価なものなど買えるはずが無い。 ましてカムイは月の小遣いを300円にされていたはずだが、もう正常な金額に戻ったのだろうか?


「くっくっく、現在の小遣いは月500円 (一学年上がるごとに100円増えた) だがチリも積もれば山となる!」


 カムイが立ち上がって持ってきたかばんをあさる。 取り出したのはピンク色の物体、それを天高く持ち上げる。

 全員が注目する中、カムイは大声で叫んだ。


「見よ! この豚さん貯金箱の勇姿を! 漫画も、おもちゃも、お菓子も買わずに、お年玉もお使いのお駄賃も使わずに2年間ため続けた――」

「あ」


 カムイの手から豚さん貯金箱が落ちる。 どうやら小銭ばかり入れていたせいでかなりの重さになって、手が滑ったらしい。

 地面に落ちていく豚さん貯金箱の姿がまるでスローモーションのようによく見える。 同時にカムイの眼にはこれまでの思い出が映し出された。



 カムイも小学校に入ったし、そろそろお小遣いを上げないといけないな。

 この貯金箱にお金をためてね? 無駄遣いしちゃだめよ?

 学校をサボっただと! そんな子供に育てた覚えは無い! 小遣いは月300円だ!

 お父さん頑固だから……カムイ、何で学校に行かなかったか話せないの?

 進級したし、少しは小遣いを増やそう。 ただし100円だけだ。

 もう少しあげても……小学生にだって友達づきあいがあるんだし。

 甘いことを言っちゃいけないぞお母さん、甘やかしてきたから一年の時学校をサボったんだ。



 落下する豚さん貯金箱と眼が合った。

 黒い点だけで描かれたつぶらな瞳、しかしそれはとても力強い意思を感じさせる。

 後悔は無い、悔いなど無い、これまでの人生満足だった。 豚さん貯金箱がそう言っているように思えた。


『カムイクン、ア・リ・ガ・ト――』


 思わず手を伸ばすが届かない。 豚さん貯金箱は地面と接触し――

 パリーン


「トン吉いいいいいいいいいいいいいいいい!」


 乾いた音を立てて粉々に砕け散った。

 辺りにギリギリまで詰められていた小銭が散乱するがカムイは拾おうとしない。 拳を握り締めて涙を拭く。

 それを他のメンバーは少し引きつった表情で見守っていた。


「あいつと貯金箱の間にどんな友情があったんだ……」

「さあ……? ってか貯金箱に名前付けてたのか」


 しばらくして、まだ眼を赤くしているカムイは散らばった小銭を集め始めた。

 それにしても多い、ほとんどが百円玉だがどう少なく見積もっても一万円以上あるのは確実だった。

 何枚かごとにまとめて、電卓も利用して計算して、山になった小銭を前にして合計金額を発表する。

 その額、一万四千五百二十二円。

 思わず拍手が巻き起こった。 小学校三年生という年齢、さらにカムイの小遣いを考えるとまさに限界ギリギリの金額だろう。

 だがこれだけあれば小学生への誕生日プレゼントとしてかなりの物まで買うことができる。 あんまり高価なものだと相手が遠慮するかもしれないが、それでも選択肢は多いほうがいい。

 自らの勝利を確信して天に向けてを拳を突き上げるカムイ、しかしそこに横槍を入れる男がいた。


「甘い、甘いぞ! リンディ茶より甘い!」

「なにぃ! どういうことだヴォルフ!」


 同じはやて好き、しかしこちらはヴォルケンズを含めたハーレムを狙っているヴォルフだった。

 彼は懐から財布を取り出すと3枚の紙幣を取り出した。 そこに描かれている福沢諭吉、紛れもない一万円札がヴォルフの手の中にあった。


「ば、ばかな……万札だと!」

「どうだ! これだけあればはやてだけでなくヴォルケンズにもプレゼントを買うことが可能だ!」

「負けた……完敗だ」


 高笑いをするヴォルフ、膝をつくカムイ、これで勝負はついたかに見えた。 だが偶然がカムイに味方をする。

 ヴォルフのポケットから一枚のカードが落ちるのを炎が見つけた。 高笑いをして気づかないヴォルフに変わって拾ってやることにする。

 そして何の気もなしに拾ったカードを見て、炎の顔つきが変わった。

 それに気がついたリュウセイが横からカードを奪い、また顔つきを険しくする。


「おい西田吉郎(ヴォルフの本名)、これは何だ?」


 リュウセイが他のメンバーにもヴォルフの落としたカードを見せる。 カムイを慰めていた他のメンバーも集まってそれを見る。

 大きく書かれている海鳴銀行の文字、そして名前欄に書かれたキャサリン・マクレガーという文字。

 メンバー達の記憶が正しければ、キャサリンというのはヴォルフの母親の名前だったはずだ。 名前に似合わず典型的な日本のおばちゃんで親しみ易かったことを覚えている。

 だが3万という小学生が持てるはずも無い大金、母親の名前が書かれたキャッシュカード、それらが意味することはただ一つ。


「てめぇ……親のキャッシュカードをパクリやがったな!」

「家族間とはいえ犯罪だぞ! 管理局法じゃなくて日本の法律で!」


 壁際に追い詰められるヴォルフ、逃げ場は無い。

 戦うしかないと覚悟したヴォルフは大剣のデバイス、アロンダイトを起動してバリアジャケットを身にまとった。

 他のメンバーもバリアジャケットを装着する、それぞれのデバイスの切っ先をヴォルフに向けていつでも攻撃ができる体勢になる。


「何か言いたいことは?」


 炎の問いかけに、ヴォルフは口を歪めて言い放った。


「昔の人は言っていた。 犯罪はばれなきゃ犯罪じゃねぇんだ!」

『ばれてんじゃねぇか!』


 ウボァー


 すぐにATMで入金させました。







 卵の黄身と白身を分けて、白身だけをボールに入れて、泡だて器で混ぜる混ぜる混ぜる――

 どんどん泡立ちます。 なんだか面白いです。 あわあわ、あわあわ、ぶくぶくぶくぶく

 夢中になって泡だて器をかき回し続けていると、いつの間にか皆が消えてしまいました。 どこにいるんでしょう?

 目の前が真っ白で何も見えません。 ちょっぴりぬるぬるします。 何がおきたのか分かりません。


「ちょっと和真、メレンゲまだできないの? ってうわっ! 何がおきてるの、何この泡人間?」

「和真君だいじょうぶ? 今、拭いてあげるからね」


 アリサが何か驚いてます。 体に布の感触がしました。 段々と視界が戻ると、なのはがタオルで拭いてくれてました。

 とりあえずメレンゲはできました。 ボウルに山盛りであるから、これだけあれば十分足りるはずです。

 はやての誕生日のために皆でケーキを作ることにしました。 僕達だけで手作りです。 がんばって、楽しく作ります。


「すべすべでもちもちの肌に白くてどろどろの液体が……ハァハァ、じゅるり」

「すずかちゃん、落ち着いて。 よだれ、よだれ」

「うん、大丈夫だよ。 あの白いのはケフィアだもんね、いやらしい物じゃないもんね」

「いや、メレンゲなの……」


 すずかがよだれを垂らしてます。 きっとケーキができるのが楽しみなんです。 すずかは食いしん坊です。

 でも大丈夫、おっきいケーキを作るからすずかもきっと満足するはずです。

 なのはがすずかのよだれを拭いてあげてると、桃子さんがやってきました。 お店のほうがひと段落したから見に来てくれたらしいです。


「みんな、調子はどう? うまくできてる?」

『はーい』


 元気よく返事します。 桃子さんはニッコリ笑ってくれました。

 そういえば桃子さんに言わなきゃならないことがありました。 メレンゲ作るのに夢中ですっかり忘れてました。


「明日のお誕生日会、友達呼んでもいいですか?」

「友達? いいわよ、どうせお店を貸切にしてするんだから、少しくらい増えたって――」

「14人増えます。 みんな友達です」


 桃子さんがこけました。 

 アリサとすずかは驚いて、なのはは少し苦笑いをしています。

 やっぱり14人は多いでしょうか? でも皆友達だし、皆にはやてをお祝いして欲しいです。


「何でそんなに増えたのよ? ってか14人って……あいつらか……」


 アリサはその14人がクラスのみんなだって気がついたみたいです。 少しだけ嫌そうな顔をしました。

 アリサは他のクラスメイトの男の子があんまり好きじゃありません。 なんか行動や言動がワザとらしいって言ってました。

 これを機に仲良くなって欲しいです。 嫌いよりも仲がいいほうがうれしいです。


「ってか、何でそいつらがはやての誕生日パーティーに来るのよ? 関係ないじゃない」


 アリサに皆が参加する事になった理由を説明します。

 今日のゴミ拾いが終わったあと、カムイ君が話しかけてきました。 僕が嬉しそうにしていたから気になったらしいです。

 明日がはやての誕生日だからケーキを作るって言うと、友達の僕の家族であるはやてとも友達になりたいって言ってくれました。

 どうやってはやてにみんなを紹介しようか悩んでいたけど、みんなで誕生日をお祝いしたらきっと楽しいです。 だからみんなにも明日翠屋に来て欲しいって伝えるようお願いしました。

 カムイ君はとっても喜んで、奇声を上げながら帰っていきました。 あんなに喜んでくれるなんて、招待したかいがあります。

 みんなで楽しくはやての誕生日をお祝いして、はやても友達がいっぱいできるし、とっても楽しみです。


「いろいろ突っ込みたいんだけど、竜宮ってなんか元々はやてに近づくために和真に声をかけたように思えるわね」

「考えすぎ……には思えないね、あの男子達だと」

「そ、そんなことないの。 みんないい子だよ、一応……」

「なんで言葉に詰まってんのよ」


 ケーキ作りを再開します。

 明日の誕生日会に参加するのは僕とその家族、なのはと家族、アリサ、すずかとお姉さんとメイドさん、それにクラスのみんな。

 ……25人以上います、さすがに多すぎでしょうか?

 会場が翠屋でよかったです。 ここならみんな入ることができます。


「さて、25人分も作るならさすがに子供達だけじゃつらいわね。 私も手伝うわ」

「お母さん、でもお店のほうは?」

「そっちは士郎さんに任せるから大丈夫。 それに、みんなが楽しそうだからお母さんも混ざりたくなったの」


 桃子さんが手伝ってくれたおかげで無事にケーキはできました。とってもおいしそうです。

 最後にクリームで文字を書いて……は・や・て・た・ん・じょ・う・び・お・め・で・と……う!

 準備も完璧、明日が楽しみです。






「で、プレゼント決まったのか?」

「ああ、はやては本を読むのが好きだからな。 そこを考慮して――」

「考慮して?」

「図書券」


 ウボァー






「いいの? おばあちゃん、高知に戻らなくて。 おばあちゃんがいてくれるのは嬉しいけど……日課にしてるおじいちゃんのお墓参りは?」

「すまないね、迷惑かけて。 ちょっとやることがあって、少し長く滞在することになりそうだよ。 おじいさんも許してくれるさ」

「迷惑だなんて……おばあちゃんの佃煮美味しいから、毎日食べれるのは嬉しいな」

「ありがとうマナミ、今年いっぱいはこっちにいることになると思うからね」

「わぁ! それじゃお盆やクリスマスも一緒にすごせるね。 そうだ! 翠屋って有名なお店のケーキがあるの、抹茶味だからおばあちゃんも気に入るよ」

「まったく、いい年して男の話が無いんだから。 そういえば……」






「見つけたぞ、八神はやて、そして闇の書。 他に家族がいることは予想外だったが……些細なことだ。 日付が変わるときに決着をつけてやる」





 それぞれの思いが交じり合う中、日は暮れ、闇が広がり。

 時刻は6月4日の午前0時を迎えることになる。



[6363] にじゅー
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/06/21 14:22
 眠っていたけど眼が覚めました。 ジュースを飲んだせいです。 トイレに行ってきました。

 自分の部屋に戻る途中、はやての部屋の前を通ります。 するとはやての部屋が光っていることに気がつきました。

 はやてまだおきてるんでしょうか? 明日は、さっき12時を回ったからもう今日ですが、誕生日だからワクワクして寝れないのかもしれません。


「わん! わん!」

「そんなに警戒しないでほしい、貴殿の主は私達の主でもある」

「あーもう! 主は気絶するし、犬は吼えるし、どーすりゃいいんだ?」

「まぁまぁ、ヴィータちゃん。 この子だっていきなり目の前に私達が現れたらびっくりするわよ」

「いや、この者は冷静に我等を観察している。 現在の状況を不利と知っても主を守るために立ちふさがっているのだ」


 はやての部屋からシロと知らない人たちの声が聞こえます。 シロは今日ははやてと寝てるからいるのは分かります。 でも他の人が分かりません。

 だれでしょう? 気になったので見てみます。

 部屋の中に入るとそこにいたのは年上の女の人が2人、男の人が1人、同じ年くらいの女の子が1人。 僕がドアを開けた音に気がついて一斉にこっちを向きました。

 黒い、体の輪郭がハッキリ分かる服、というかタイツ? そんな服を来ている人たちを見たことがあります。

 確か……2~3日前のテレビでやってた懐かしのアニメ特集で――


「泥棒さん?」


 キャットだとかなんだとか、三姉妹の泥棒の漫画があんな感じでした。 丁度女の人が3人だし、数もあってます。

 あれ? でも男の人はいませんでした。 じゃあやっぱり違うのかな? 眠くて頭がぼーっとします。


「ちげーよ、あたし達はヴォルケンリッター、闇の書の主に仕える騎士だ。 そういうお前はなんなんだよ?」

「僕? 真塚和真です。 聖祥小学校三年生です。 よろしくお願いします」

「わんわん!」

「む、そうなのか? 皆、この者は主のご家族。 ならば我等にとって主と同等の存在、失礼の無いようにしなくては」


 男の人がシロとお話しています。 僕もなんとなくしか分からないのに、この人は全部分かるみたいです。 アルフさんと同じ?

 でもまあ、泥棒さんじゃないなら大丈夫です。 ヴォ…ヴォ…ぼるけんりったーって何でしょうか?

 目の前の人たちは僕に向けてしゃがんでいます。 ご家族がどうとか、ご無礼がどうとか、忠誠がうんたらかんたら……

 全然意味が分かりません、頭に言葉が入ってきません。 いつもなら寝ている時間です、こんな時間まで起きてることなんて無いのですごく眠いです。

 そんな中、金髪の女の人が急に立ち上がりました。 僕に背中を向けて窓をにらみ付けます。


「みんな! 魔導師が接近してるわ、気をつけて!」

「なんだと! くそ、この状態の主を守りながら戦うのは……」

「それよりも我等が目覚めた瞬間を狙うとは!」


 4人が武器を取り出しました。 剣とかハンマーとか、たぶんデバイスです。 それじゃあこの人たちは魔導師? 魔導師で泥棒?

 でも泥棒じゃないって言ってたし、やっぱり分かりません。

 月の光が窓から部屋の中に降り注いで明るいです。 その光の中に人影が見えました。

 小さかった人影はどんどんこっちに向かってきます。 空を飛んでいるからあの人も魔導師? なんだか怒っているようにも見えます。


「ヴォルケンリッター、覚悟!」


 窓のすぐ近くまで来た男の人が杖を振り上げました。 窓を叩き割って部屋に入る気です。

 そんなことをしたらガラスが飛び散って危ないです。 部屋の中にいる僕達は怪我をするかもしれません。

 でも大丈夫でした。 横から来た人影が体当たりでその人を吹き飛ばしました。


「させるかあああああああああああ!」


 あれ? カムイ君? なんでいるの?

 カムイ君は一瞬だけこっちを見て、親指を立てました。 僕も手を振ります。

 男の人とカムイ君はそのままどこかに飛んでいきました。 なんだったんでしょう?

 わけが分かりません、ぼるけんりったーの人たちも混乱しているみたいです。


「なんだったんだ? 今のは?」

「場所を移して戦闘しているみたいね。 片方は明らかに闇の書を狙っていたけど……もう片方は私達を守った? 情報が足りない、サーチャーで様子を見てみるわ」

「頼む、この状態の主から離れるわけにもいかない」

「そっちはいいんだろうけどさ、こいつ……じゃなかった、この……主の弟? 兄? はどうすんだよ?」


 赤毛の女の子が僕のことを指差しました。 僕をはやての兄弟と思っているみたいです。

 そういうこと考えたことありませんでした。 一応僕の誕生日が3月3日だからお兄さんになるのかな? あれ、弟?

 桃毛の女の人が腕を組んでしばらく考え事をしました。 考えるんのはいいけど、僕もう限界です。

 丁度いいところにベッドがあります。 おやすみなさい――


「こいつ寝ちまったぞ? どうすんだよ?」

「主のご家族なら問題あるまい。 とりあえず起きるまで待とう」

「そうね、その間さっきの魔導師を調べないと」

「今回の主、その周りの環境、目覚めた直後を狙ってきた魔導師、我等を守る魔導師、いったい何が起きているのだ……」






「はやて、和真、まだ起きているのか? 明日も学校があるんだから……君達は?」

「主のご両親ですか? 我等は――」





 真塚和真が夜中のトイレを済ませる少し前、時刻は6月3日の午後11時55分。 真塚家をマンションの屋上から観察する5人の人影があった。

 カムイ、ヴォルフのはやて好き両名はこのイベントを逃すまいと見物しに来ていた。

 残りはせっかくだから見ておこうという紫音、ヴィータを見に来た翼、そして遠くから観察するのに便利な補助系デバイスを持つので無理やり付き合わされたファルゲンだった。

 他のメンバーは寝ている。 どうせ誕生日会で顔合わせをすると考えているので、そこまでして見なくてもいいと思っていたからだ。


「お、光った光った! 出てくるぞ!」


 ヴォルフが真塚家の方向を指差してはしゃぐ、他のものはファルゲンが映し出す真塚家のはやての部屋映像に注目する。

 その様子を見ながらファルゲンは頭を抱えた。 もしかしてこれは盗撮とかそういう部類の犯罪になるのではないか?

 そりゃぁ少しはこのイベントを気にしてはいたが、寝ている女の子の部屋を見ながら騒いでいるのを客観的に見たら……うん、犯罪だ。


「出てきたからいいだろ? もう切るぞ」

「もうちょっと待て、今和真が入ってきた。 ここからが本番だ」

「まったく……」


 6月になって夜も蒸し暑くなってきた。 自販機で買った缶コーヒーで喉を潤す。

 雲ひとつ無い綺麗な月夜、そういえばメンバーが二つに分かれて決戦をしたときもこんな夜だった気がする。 そう思いながらビル街の方を見て――

 空を飛ぶ人影を見つけた。

 他のメンバーが様子を見に来たかと思ったが違う、メンバーは全員小学生だがあの人影は中学~高校生だ。

 その人物は真塚家に向けて一直線に飛んでいる。 偶然方向が同じなのではない、明らかに目的意識を持って真塚家を目指していた。

 しかもスピードを落とす様子が無い、このまま突っ込むつもりだ!


「カムイ、行け! この中じゃお前が一番速い!」

「行けって……え?」

「相手も速い、後を追いかけてもだめだ。 真塚家を目指せ! 先回りするんだ!」

「分かった! 疾風三式、カートリッジロード、ソードダイバーだ!」


 カムイの持つ大剣デバイス、疾風三式からカートリッジが排出され魔力が充填される。 さらにカムイの声を合図にサーフボードと同等の大きさに変化した。

 それに飛び乗ると通常の飛行魔法よりもはるかに速い速度で飛んでいく、カムイ自身は長時間ができないがこの方法を使えば通常の飛行魔導師よりも移動速度は速くなるのだ。

 ただし、デバイスを乗り物に使っているから当然剣として振るうことはできない。 移動以外の手段に使うこともできない。

 できるのはせいぜい体当たりくらいなものだ。


「ヴォルケンリッター、覚悟!」

「させるかあああああああああああ!」


 だが、その体当たりはカムイの攻撃の中でも最大級の破壊力を持っている必殺の一撃だ。

 真塚家二階の窓の前でデバイスを振り上げていた男は、予想していなかった横からの一撃に吹き飛ばされる。 そのまま道路に落下し、アスファルトを滑走し、壁に当たって停止した。

 圧倒的な速度、人間とデバイスを合わせた重量、カートリッジによって増幅されたAAランクの魔力、プロテクションだろうとシールドだろうと突き破る攻撃が直撃したのだ。 バリアジャケット程度で耐え切れるはずが無い。

 男は杖のデバイスを支えにして立ち上がる。 ダメージは大きいはずだが精神力で耐えているようだった。 現状の不利を悟ったのか飛行魔法で撤退を開始した。

 カムイはちらりと部屋の中をのぞく。 気絶しているはやて、目覚めたばかりのヴォルケンリッター、そして眠そうな顔の和真。

 親指を立てると和真も手を振って答えた。 多分大丈夫だと決め付けて謎の魔導師を追うことにする。

 謎の魔導師は結構な深手を負ったらしい、飛行速度も格段に落ちている。 転移で逃げられても困るので結界を張って逃げられないようにした。


「よう、なんだあんた? っつても、この日にヴォルケンズを襲うなんて答えは決まってるけどな」

「子供? いや、見た目どおりの年齢じゃないな、お前もそうか」

「そうだぜトリッパー、聞かせてもらおうか……何故八神はやてを狙った?」

「ただ物語を楽しむだけの奴が……SV3、カートリッジロード、クリアヒール」

『Ok,master』


 男のデバイスからカートリッジが排出される。 それを見てカムイは眉をひそめた。

 男のデバイスはミッド式のインテリジェントデバイス、それにカートリッジを取り付けている。 ようするに原作のなのは達と同じだ。

 アニメを見たのは前世、つまり9年以上前だからよく覚えていないがそういうのは危なかったはずだ。 メンバーでもカートリッジを付けているのはアームドデバイスの人間だけで、ミッド式の刹那などは付けていない。

 管理局基準のバリアジャケットを見て男は局員だと分かった。 しかし危険を冒してまでカートリッジを付けた理由は?

 カッコつけ? なのはみたいに付けたかった? 強くなりたかった?

 その疑問は男の使った魔法で理解できた。 なんと男はカートリッジを消費して治癒魔法をかけたのだ。

 普通そんなことはしない、治癒魔法なんて医療魔導師に任せるのが普通だし、そもそも治療なんて敵のいないところでやるものだからカートリッジを使ってまで急ぐ必要など無い。

 なのにワザワザそんなことをする理由はひとつ、強力な敵と連続して戦うことを想定しているのだ。 つまり――


「最初からヴォルケンズを狙っていた? カートリッジもヴォルケンズに対抗するためで、しかも全員を一度に相手するつもりだったのか!」

「管理局じゃベルカ式のアームドを使う奴なんてほとんどいない。 お前で腕試しだ!」


 そう言って男は距離をとった。

 アームドデバイスの基本は接近戦、離れている相手に攻撃する手段は少ない。 対ベルカ式の基本戦術だ。

 カムイはそれに付き合うつもりは無い、逆に言えば接近すればこちらは有利だからだ。 多少の被弾は覚悟して突撃する。 カムイのバリアジャケットはメンバーでも固いほうなので普通の射撃魔法で止まることはないはずだ。

 だが、男は動かない。 接近されると拙いはずなのに、空中に静止したままカムイを待ち構える。 そのことに疑問を感じるたカムイは単純に接近することを止めて対策をとることにした。

 まずプロテクションを展開、さらにシールドを展開、おまけに大剣の疾風三式を変形させて盾にする。 ここまで防御を固めればディバインバスターでも耐え切る自信があった。


「丁度いい、それを壊せるなら鉄槌の騎士でも倒せるだろう。 手加減して非殺傷でやってやる! SV3、カートリッジロード!」

『Ok, Cannon of micron 』


 デバイスの音声が気にかかった。 ミクロの大砲? 嫌な予感がする。

 今更だが回避に専念して仲間を待つべきじゃないのかと思った。 未知の相手、恐らく現役の管理局員でヴォルケンリッター全員を相手しようと考えるほどの実力者と戦うのに自分ひとりで大丈夫なのか?

 5対1ならよっぽどのことが無い限り勝てる。 しかしさすがに卑怯かもしれないとも思う。

 いや、はやてと和真を守るためなら手段を選ぶ必要など無いのかもしれない。 多人数でフルボッコ程度なら許容範囲ないだろう。

 そんなことを考えてしまい、男から意識を離してしまった。 そしてヴォルケンリッター全員と戦う覚悟のある男はその隙を逃すほど甘い相手ではなかった。


「最速の一撃をくらいな……シュート!」


 男のデバイスから何かが発射された。

 恐らく魔力弾、恐らくと表現したのは発射されたものを肉眼で確認することができなかったから。 それほどまでに、その一発は小さく、速かった。

 そして軽かった。

 疾風三式を変形させた盾と魔力弾が接触した瞬間、抵抗などまったく感じなかった。 普通の射撃魔法でももう少し抵抗がある、なんとも頼りない一撃だ。

 これで終わりならそれでいい、今度はこっちが攻撃する番だ。 疾風三式を盾から大剣に変形、それを構える。

 だが次の瞬間、疾風三式が砕けた。

 頑丈にできているはずのアームドデバイスが粉々になった。 思わず柄だけを握ったまま固まってしまう。

 一瞬遅れてやってくる衝撃、体の中で爆弾が爆発したような感覚、全身を保護するバリアジャケットが内部からはじけ飛ぶ。

 メンバー内の訓練で紫音の砲撃魔法を喰らった時でもここまでのダメージはなかった。 原因は先ほどの攻撃しか思い浮かばない。

 魔力ダメージで全身が痺れて立っていられなくなる。 前のめりに倒れてアスファルトに体を打ち付けるが痛みを感じない。

 感覚が無くなるほどの魔法攻撃など初めて喰らった。 もはや指一本動かせない。


「その防御を貫けるなら大丈夫だろう。 ヴォルケンリッターを倒す自信がついたよ」

「てめぇ……何しやがった」

「年上にそんな口調は感心しないが……、AAAの砲撃魔法をミリ単位まで圧縮して、高速射撃魔法の速度と砲撃魔法の威力を持つ弾丸を打ち出した。 シールドだろうがプロテクションだろうが貫通して相手の体内で爆発するチート技だが直射しかできなくてな。 お前のような防御を固めて真っ直ぐ来る相手は丁度いい的だ」

「こんなもんを……殺傷設定でヴォルケンズに打ち込むつもりか……」

「当然だ。 この11年、それを生きがいに頑張った」

「11年……前の闇の書事件?」

「ああ、ここまで言えば想像つくだろう?」


 男はカムイに背を向ける。

 目線の先にはこちらに向かってくる残りのメンバー、どうやら戦うつもりらしい。

 タイマンでは負けたが集団で囲めば……その想像をカムイは切り捨てる。 ヴォルケンリッター全員を相手にするつもりなら集団戦闘も想定しているはずだ。

 下手したら全員が返り討ちにあう、その危険性を伝えなければならない。


「くっそ、動けねぇ……」

「結界を張りなおした。 補助専用が本気で張ったんだ。 逃げられると思うな」

「大丈夫かカムイ? この野郎……砲撃で吹き飛ばしてやる」

「ヴォルケンズを狙うやつ、許せない。 何者だ!」


 アロンダイトを男に向けるヴォルフが問い詰める。 それに対して男はニヤリと笑って答えた。


「時空管理局一等空士ブラウン・クルーガー、前世の名前は岡崎哲也! ジャンルは……闇の書被害者復讐モノだ!」



[6363] にじゅう……いち!
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/06/21 14:22
 闇の書被害者復讐モノ、こういう分類が正しいのかは不明だがリリカルなのはの二次創作ではしばしば見られるSSである。

 11年前の闇の書事件、および八神はやての闇の書事件で襲われた者(たいてい死亡)の身内が引き起こすややアンチ要素を含んだ物語。

 特徴としては物語の視点が復讐をする人間ならばアンチ物、復讐を止める原作キャラなら苦難を乗り越えての成長話になることがあげられる。

 物語の始まりとしては闇の書事件における八神はやてとヴォルケンリッターの処分が軽いことで復讐を決意することが多いようだ。 それまで闇の書の在り処が分からないのだから当然だろう。

 だから決して、ヴォルケンリッターが目覚めた瞬間を狙って襲うようなことは無い。 それこそ、原作を知っていない限りは――




「SV3、カートリッジロード、COMスタンバイ」

『 OK, Cannon of micron 』

「シュート!」

「っ! シールド……しまった!」


 カートリッジシステムを付けたデバイスから発射される超高速の魔力弾。 ファルゲンはとっさにシールドを展開するが、シールドなど無力というブラウンの言葉をその身で体感することになった。

 体の中で爆弾が爆発するような感覚、カムイと同じようにバリアジャケットが内部から吹き飛ばされて気を失う。

 防御力をギリギリまで高めたカムイでようやく意識を保っていたというのに、戦闘能力の低い補助魔導師のファルゲンでは耐えられるはずも無かった。


「ヴォルケンリッターで例えるならお前はシャマルだ。 援護されると厄介だし、真っ先に潰させてもらった」

「動き回れ……直射しかできないなら、的を絞らせるな」


 倒れたままのカムイが消え入りそうな声で助言をする。 カムイ自身、今にも意識を失いそうなのに根性で耐えているのは八神はやてを思うからであった。

 ここで自分達が倒せなければ、ブラウンは再び真塚家に向かうだろう。 当然、ヴォルケンリッターを倒す、いや殺すために。

 そんなことさせるわけにはいかない、今日は八神はやてに新しい家族ができる記念日、それを家族を失う悲しみの日に変えるわけにはいかない。 そんなことを考えて、少しだけ疑問を感じた。

 その疑問が何なのか分からないが、とりあえず体力を回復させて援護しなくてはならない。 今できるのはせいぜい簡単な助言程度だ。

 疾風三式の刀身は砕け散ったが柄は残っている。 本体は柄なので、刃に魔力を通す攻撃魔法以外なら使うことはできた。

 前のめりに倒れた体勢のまま、自身に治癒魔法をかけるカムイは首だけ動かして仲間の様子を確認する。


「砲撃魔導師が援護して、もう1人が格闘戦をしかける。 基本だが……連携がいまいちだな。 コンビネーション訓練をしていないだろう?」

「この間までケンカしてたからな。 でも……今は仲良しだ!」

「ケンカしてた原因が気になるが……ま、それは機会があるときに聞くとしよう」


 ヴォルフと紫音はカムイの忠告を守って戦闘をしている。

 基本的にヴォルフが相手に肉薄して魔法を打たせないようにする。 距離が離れたら紫音が足止めをして、その隙にまたヴォルフが近づく。

 これで紫音が誘導弾や炸裂弾を打てたらもっと有利に戦えるのだろうが、あいにく紫音はそういう小技を捨てて砲撃にすべてを賭けている。

 当然砲撃は発射間隔が長く、隙が大きい。 かつて過激派と介入反対派に分かれていたヴォルフと紫音では完璧なコンビネーションなどできるはずも無く、ちょこちょこと隙を作っては反撃を受けてしまっている。

 あれは年季の差だ。 とカムイは思った。

 トリップメンバーが魔法を使い出したのはここ2~3年程度。 しかし相手は10年前から復讐を誓い、長く管理局に身を置いて戦闘をこなしてきた。 キャリアの差は歴然としている。

 指揮をとることが得意な刹那、射撃魔法の弾道予測ができる炎、どちらかがいれば戦況も変わったかもしれないが……

 無いものねだりをしてもしょうがない、できるのはせいぜい首の動く範囲で戦況を分析し、助言と野次を飛ばすくらいのことくらいだ。


「SV3、カートリッジロード。 砲撃魔導師から潰すぞ」

「紫音! 動き回れ、止まった瞬間にやられるぞ!」

「分かってる。 くっそ、砲撃魔導師は動きが遅いんだぞ!」


 紫音は必死に空中を動き回ってを絞らせない。 だがそれができていると思ったのは本人だけだった。 鈍足な動きを捕らえることなど、現職管理局員のブラウンには造作も無いことなのだ。

 バインドが紫音の足に絡み付いて動きを止める。 カートリッジを使って強化されたバインドを破るには時間がかかるだろう

 完全な不意打ちだった。 治癒魔法にもカートリッジを使う相手、予想できたはずだがカートリッジの後は必殺技と先入観が働いてしまった。

 動けない紫音を狙ってデバイスを構え、再びカートリッジを装填するブラウン。 しかしヴォルフが攻撃を阻止する。

 アロンダイトを振り回して少しでも時間を稼ぐ。 せめて紫音がバインドから抜け出すまで1人で持ちこたえなければならない。


「アロンダイト、カートリッジロード。 黒蛇追剣!」

「シグナムのマネか? ヴォルケンリッター対策をしている俺には効かないぞ!」


 アロンダイトの刀身が何十個ものパーツに別れ、まるで蛇のようにブラウンを追い詰める。 普通の剣と大剣との違いはあれど、シグナムの攻撃を参考にしたことは見た目で分かった。

 それを余裕の態度で避けているところを見ると、やはり対策は万全なのだろう。 所詮劣化コピー、こんなパクリ技で倒せるほど甘い相手ではないということだ。

 だが、時間を稼ぐことはできた。 紫音がバインドから抜け出し、強力な砲撃魔法をチャージする程度の時間稼ぎは。


「ヴォルフ、どけ! 吹き飛ばしてやる!」

「まかせた!」

「ばかやろう! 動きを止めるなっていったはずだ!」


 カムイが叫ぶのも聞かず、ヴォルフがブラウンから距離をとる。

 魔法キャノンを背負って照準をブラウンに向けている紫音、逆に言えば攻撃するためとはいえ足を止めてしまっている。

 ブラウンはニヤリと笑い、デバイスの先端を紫音の方向に向けた。


「ディバイン……ブラスター!」

「COM、シュート!」


 二人の攻撃が同時に発射される。

 紫音の砲撃はダムの放水、圧倒的な水流ですべてを吹き飛ばす必殺の一撃。 だが、それもダイヤモンドを切り裂く水流カッターのに比べたら圧倒的に遅い。

 発射は同時でも先に相手に到達したのはブラウンの攻撃、閃光が紫音の体を突き抜けてカムイやファルゲンと同じように内部からの衝撃が発生する。

 完全に気絶する紫音、いくら砲撃魔導師の紫音の防御力が高いといっても、完全防御体勢のカムイを戦闘不能にした一撃は攻撃体勢で耐え切れるものではなかった。

 それに対して紫音が打ち出した砲撃は余裕で回避される。 残念ながら渾身の一撃は何にも当たらずに空へと消えてしまった。


「あとは……お前1人だ」


 ブラウンがヴォルフの方を向く。 ヴォルフは思わず後ずさりをしてしまった。

 3人で挑んで2人がやられた。 しかも相手はこれといったダメージを受けていない。

 実力が違いすぎる、伊達に闇の書復讐モノとして10年間過ごしてきたわけではないらしい。 その影にどれだけの復讐心と血のにじむような努力があったのだろうか?

 遊び半分で9年間過ごしてきた自分とは覚悟が違う。 ひしひしと伝わる気迫が圧迫感を生みヴォルフの呼吸を荒くさせた。

 倒れている仲間の様子を確認する。 1人では勝てない、少しでも手助けが欲しい、だがファルゲンと紫音は気絶しており、カムイもまだ動けない。


(もう少し時間を稼げ)


 カムイの唇がそんな動きをした。 眼にはまだ闘志が残っている。

 時間稼ぎをする、といったらやはり話だろう。 同じトリッパー、うまくいけば相手の情報を得られるかもしれない。

 少しでも情報を引き出して、他のメンバーに伝える。 それは絶対に役に立つことだ。


「11年前、何があった? 死んだのはクライド・ハラオウンだけじゃないのか?」

「クライド・ハラオウンが死んだのは最後の最後だ。 それ以前の蒐集ですでに被害者は出ていた。 当然、八神はやてじゃない闇の書の主だから……死者もな」




 岡崎哲也が転生したのは17年前、ミッドチルダに住むクルーガー家の男児として生まれ変わった。

 管理局職員として真面目に働く父と優しい専業主婦の母、そして年齢にそぐわない怪しい行動を繰り返す息子。 それでも両親は本当の息子、ブラウンとして哲也と接してくれた。

 ある日、哲也はついに我慢できなくなる。 クルーガー家の息子として過ごすことが両親を騙しているように思えてしまったのだ。

 そして思い切って自分が別の世界の生まれ変わりであり、これから起きる主要な出来事を知っていることも告白し――その結果、家族の絆はより深まった。

 息子が生まれ変わりと知っても両親の態度は変わらなかった。 むしろ、奇妙な行動の謎が解けてすっきりした。 ブラウン・クルーガーの両親はそんな人間だった。

 父がヴォルケンリッターに襲われ、死亡したのはその一月後だった。

 11年前の闇の書の主は蒐集時に相手を殺すことを肯定していたらしい、リンカーコアを奪われた父はそのまま殺されてしまった。

 それを機に、母との関係が悪くなった。 戦うすべの無い母は怒りをぶつける相手を求めていた。 一番近くにいたのは息子のブラウンだった。

 未来を知っているなら、何で父を救えなかった?

 母は食事を取らなくなった。 ショック、怒り、絶望、様々なものが重なり精神が衰弱していった。

 結局、母は病院で世話になることになり、11年前の闇の書事件終了と同時に目の前で自殺した。 最後にひどい事をしたと謝り、復讐をブラウンに頼んだ。

 その後、ブラウンは管理局に入り、同時に対ヴォルケンリッター用の自主訓練を始める。

 原作キャラとはいえ、両親を奪ったことは許せない。 許すつもりも無い。

 物語が崩壊したってかまうものか、所詮復讐なんて自己満足だ。 その後のことなど後で考える。

 そして11年後、両親の仇が目覚める。




「つまんねぇ」


 その一言でヴォルフはブラウンの話を断ち切った。

 人の悲劇をつまらないと言うのは人として間違っているだろう、しかし話し相手は敵で、どうせ過去話も時間稼ぎで始めたのだ。

 そしてそれが終了した今、長々と話を聞く義理などどこにもない。


「トリッパーの復讐だから期待してたけど……闇の書被害者復讐モノの王道じゃねぇか、何の面白みもない」

「悪かったな! けど10年間ため続けた恨みは本物だ。 俺はヴォルケンリッターを殺す!」


 ブラウンのデバイスに魔力が溜まる。 必殺の攻撃、COMを撃つつもりだ。

 それを確認したヴォルフはアロンダイトを正面に構えた。 どうやら真正面からぶつかる気らしい。


「馬鹿かお前は? 今までの戦いで威力は分かっただろう?」


 呆れた声を出すブラウン、しかしヴォルフは深呼吸をしてさらに気合を入れる。


「俺は……ヴォルケンリッターが大好きだ」

「?」

「シグナムみたいに誇り高くなりたい。 ヴィータみたいに強くなりたい。 シャマルみたいに優しくなりたい。 ザフィーラみたいに大切な人を守りたい」

「何を言っている?」

「俺はへたれだ。 俺はチキンだ。 でもこの思いは本物だ。 だから……だから! 俺はヴォルケンズハーレムを作る! ザフィーラは友達ポジ!」


 ブラウンはこけた。 だがそんなこと気にせずにヴォルフは話を続ける。

 胸を張って堂々と、ものすごく馬鹿らしいことを大真面目に宣言する。


「そのためにもヴォルケンリッターを守る! 好感度大幅アップ! だからお前は、俺が倒す!」

「分かった。 馬鹿なんだな……なら望みどおり、吹き飛ばしてやる! COM、シュート!」

「こいやあああああああああああああああ!」


 ヴォルフが走る、ブラウンが迎え撃つ。

 ブラウンのデバイスから発射される魔力弾は一直線にヴォルフに向かい――別方向からの魔力弾と接触して弾道が変わった。

 思わず魔力弾が飛んできた方向を見てしまう。 そこには何もない……いや、2キロほど先にマンションがある。 そしてその屋上にスナイパーライフルを構えた少年がいる。

 信じられないことだが、それだけの距離から高速移動するミリ単位の目標を狙撃したらしい。


「幼女を守る時の翼はすごいんだ。 ヴィータを守る決意をした今のあいつは針の穴でも弾を通すぞ」


 後ろから声が聞こえ、次の瞬間何者かが体当たりをしてきた。

 先ほどまで倒れていたカムイがブラウンに必死にしがみついている。 昔の話をしている間に体力を回復させたのだ。


「ワザワザ面白くないお前の過去話を聞いてまで時間稼ぎをした理由は二つ、俺の体力回復と翼がアンタの魔法攻撃を打ち落とせるだけの魔力をためるためだ!」

「くそ! 離せ!」

「往生せいや、おどれえええええええええええええええ!」


 地面と水平になるように振るったアロンダイトの刃がブラウンのバリアジャケットと接触する。

 とっさに攻撃してきた方向と反対に飛んで衝撃を逃がそうとするが、組み付いたカムイのせいで体が重い。 衝撃を受け流しきれない。

 ヴォルフは力任せにブラウンを叩きつけ、電柱とアロンダイトの刃の間に相手を挟みこむ状態に持ち込む。 さらにそこから気合一発、刀身に魔力を溜め込み一気に爆発させる。

 ピシッ

 乾いた音が辺りに響き渡る。 硬いものにヒビが入る音、それはブラウンの後ろにある電柱から聞こえていた。

 ヴォルフの攻撃に電柱が耐え切れなくなったのだ。 それでもかまわずにどんどん力を込め、ついに電柱が崩壊した。

 破片を撒き散らしながら砕け散る電柱、抵抗がなくなったことで一気に振るわれるアロンダイト、吹き飛ばされるブラウン。

 カムイを背負ったまま壁に地面に叩きつけられたブラウンはピクリとも動かない、完全に気絶してしまったらしい。 それを確認したヴォルフは地面に仰向けになって寝転がる。

 電柱を破壊してしまった。 深夜だから寝ている人間が多いが、ここら一帯は停電になっているだろう。

 知ったことかと思う、こっちはギリギリの戦いをしていたのだ。 これくらいは緊急避難とかいう奴だろう。

 遠くの空には、こちらに向かってくるメンバー達の姿が見えた。





 ブラウンが眼を覚ますと、そこは見たことない部屋だった。

 漫画やゲームが散乱している。 男の子の遊び部屋と言われれば信じてしまう部屋、しかしそこはチームトリップの秘密基地だ。

 顔を上げると10人以上の少年が自分を囲んでいた。 体が動けないのは何重にもバインドで拘束されているから、デバイスを奪われた状態ではさすがに抜け出すことはできない。

 9歳の子供の集団に拘束される17歳、見知らぬ人が見たらどのように見えるだろうか?

 そんなことを考えていると、1人の少年がブラウンの前に立つ。 竜宮カムイ、一番最初にブラウンと戦ったトリッパー。


「なあ?」


 カムイの問いかけにブラウンは答えない、仏頂面で無視する。

 カムイはため息をつく。 しかし気を取り直して話を続けることにした。


「なあ、あんた……はやて好きだろ?」


 無言のブラウンの体が、大きく震えた。



[6363] にじゅーに
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/06/21 14:22
 カムイの言葉で、メンバーのブラウンを見る目つきが変わった。

 ある者は怪訝そうな顔、ある者はやはりそうかと納得した顔、ある者は信じられないといった表情。

 全員の反応を一通り観察したブラウンはため息をつく。 諦めか落胆か、それがどんな意味を持つため息なのかは分からない。

 何故カムイがそんなことを言ったのか分からないメンバー達が説明を求めると、カムイはブラウンに質問を始めた。


「お前は1人でヴォルケンリッターと戦おうとした。 何故だ? 何で味方を集めなかった」

「1人で十分だと思った。 戦えるだけの準備はしたつもりだ。 お前らなんかに負けちまったけどな」

「嘘だな」


 ぶっきらぼうに答えるブラウン、それをカムイは一言で断ち切った。

 本気でヴォルケンリッターと戦うつもりなら一人で突っ込むことはしない。 どれだけ強くても4対1では圧倒的不利、まず人数を集めることが自然だ。

 過去の闇の書事件でも相当の被害者が出たらしい、その遺族を集めれば結構な人数になるはずだ。 戦闘員には困ることは無いだろうに。

 それをせずに1人で来たという事は、他の闇の書被害者に八神はやての存在を知られたくは無かったということ。 もし知られていたらはやてにどんな被害が出るか分からない。

 八神はやての存在を表沙汰にしないために1人ですべてに決着を付けようとした。 そう考えれば不利を承知で1人で戦いに来た説明がつく。


「お前はヴォルケンリッターが目覚めた瞬間を狙った。 時間をかければ隙を狙い4人を分散することも可能だったはずなのに、4人が絶対に揃っているこの日を狙った」

「一秒でも早く戦いたかっただけだ」

「今日、この日だけ、他の日と違うことがある。 それはヴォルケンリッターが現れて、かつ八神はやてがまだ彼らを認識していないことだ」


 ヴォルケンリッターが地球に現れるとき、八神はやては気絶する。 彼女がヴォルケンリッターを認識するのは朝、眼が覚めてからだ。

 それまでにヴォルケンリッターを滅ぼせば八神はやてはヴォルケンリッターの存在を知らないままとなる。 せいぜい夢の中でいろいろ名前を教えてもらったが、やっぱりそれは夢だったと思う程度だ。

 そうなってしまえば後になってヴォルケンリッターを滅ぼし、そのせいで八神はやてが家族を失う悲しみを感じることも無い。

 八神はやての心を守りつつヴォルケンリッターを滅ぼすのなら、今このタイミングがベストであることは間違いなかった。


「初めはそう思ったんだが、今考えたら八神はやてには家族がいる。 ヴォルケンリッターを失っても心の傷は癒されるだろうな」


 その返事は、ブラウン本人が自らをはやて好きと認めるものだった。

 カムイの言葉を信じていなかった他のメンバーは驚く。 まさかヴォルケンリッター嫌いとはやて好きが両立するとは思っていなかったからだ。

 はやて好きを当てられたブラウンはニヤリと笑ったが、やがて体を震えさせながら涙を流し始めた。

 衝撃の事実で騒いでいたメンバーも、急に泣き出したブラウンに注目する。 先ほどまで話していたカムイもこの変化に驚き、どう扱ったらいいか戸惑ってしまう。

 それにかまわず、ブラウンは大声を出して叫びだした。 そのせいで場はどんどん混乱していく。


「ああくそっ! そうだよ、俺ははやて好きだよ! 転生してリリなの世界だと分かって、一番に考えたのがはやてに会えるだよ! 1人暮らしのはやての父親とかお兄さんポジとか狙ってたよ! だけどよ、だけどよ……親をヴォルケンリッターに殺されたんだ。 優しい親父とお袋だったんだ。 俺がトリッパーで、生まれ変わりで、もしかしたら本来生まれるはずだった二人の子供を塗りつぶしたのかも知れないって告白したとき……俺のことを息子って呼んでくれたんだ。 本当の子供って認めてくれたんだ。 大好きだったんだ! でもモブキャラだったんだよ、俺の親父は。 いつ死ぬかなんて分かるはず無いだろうが! なのに俺のせいで死んだって、どうすることもできなかったんだよ。 最後の最後に謝らないでくれよ、お前のせいにして悪かったって死ぬ直前に言うなよ、何で死に際の言葉が仇を取ってくれなんだよ。 そんなこと言われたら復讐するしかないじゃないか! どちくしょうが、ヴォルケンリッターが憎い! ぶっ殺したい! でもそうしたらはやてが悲しむ、家族を失う、そんなのだめだ。 でもそれだけを目標に11年頑張ってきて、必死に訓練して、作戦を立てて、今更後には引けなかったんだ! 半分自棄で襲い掛かったよ! 殺せるならそれでいいし、負けても納得できるんだろうなって感じてたよ。 そしたらなんだ? わけの分からないトリッパー連中に邪魔されて、こうして捕まって、ああちくしょう、どうすりゃいいんだよ? 教えてくれよ? 原作を尊重してどんなことが起きても無視すればいいのか? 当初の目的どおりはやてと仲良くなればいいのか? 親の仇を討つためにヴォルケンリッターと戦えばいいのか? 復讐なんかくだらないって分かってる、分かってるけど……分かってるけど! 教えてくれよ、お前達もトリッパーなんだろ? 自分達で答えを見つけて、原作を変える決意をしたんだろ? プレシアを生かしたって話はもう耳に入っている、もうこれから先何が起きるか分からない、それだけの覚悟を持つってすげぇな、俺は今でも中途半端だ。 なあ、俺は……俺は……どうしたら……」

 息もつかずに叫び続けるブラウン、その迫力に押されて混乱していたトリップメンバー達も次第に落ち着きを取り戻し始めた。

 辛かったんだろうな、と誰かが言った。

 おそらくこの11年間、葛藤し続けたのだろう。 悩んで悩んで悩み続けて、ついに決心して戦いに来たら……9歳の子供の集団によって邪魔をされてしまった。

 どう声をかけたらいいか分からない、ブラウンの行動を肯定も否定もできない。 両親がそろって原作キャラと仲良くやっている自分達が何を言っても説得力が無い。

 自分達でどうこうできる問題ではないと判断したメンバーはブラウンをどうするかについて話し合うことに決めた。

 いつまでも監視つきで監禁するわけにはいかない。 メンバーには学校や普段の生活もあるし、現職の管理局員がこの97管理外世界で行方不明になったらそれもまた問題だろう。


「管理局に通報、は駄目だな。 そんなことしたら連鎖的に闇の書がばれる」

「かといって開放したらまたヴォルケンリッターに襲い掛かりそうだし」

「いつまでも監禁しておくわけにもいかない」

「殺す……もっての外だ。 そんなことしたら、もうなのは達と友達でなんていられない」

「いいじゃないか、開放しても」


 どう扱っても困ってしまい全員が考える中、炎がとても軽い態度で提案した。


「また来るならまた戦えばいい。 気の済むまで何度でも、そのうち自分の気持ちに決着もつくだろう」

「NANOHAさん式友達の作り方の応用。 気の済むまで何度でもお話をしよう。 この人の戦い方も分かったことだし、3~4人で戦えば負けはしないだろう」


 刹那が杖型デバイスの永瀬一号を向けると、ブラウンを拘束していたバインドが解除された。

 続いて一枚のカードを投げ渡す。 手の中に納まったそれは光を放ち一本の杖になった。 これがブラウンのデバイスSV3だ。

 拘束を解除され、デバイスも返却されたブラウンは落ち着きを取り戻す。 落ち着きを取り戻したら手の中のデバイスとメンバーの顔を交互に眺める。

 信じられないといった表情、次に何かを悟ったような表情。


「いいのか? まだ隠し玉を持っているかもしれないぞ? そうしたら俺は今度こそヴォルケンリッターを倒す」

「だったら14人全員でフルボッコにしてやる。 場合によってはヴォルケンズも混ぜて18人、いや、なのはとフェイトを合わせての20人でリンチだ。 俺達は負けないぞ、八神はやてと真塚和真の為に」

「それは怖いな」


 バリアジャケットを展開したブラウンが窓から飛び降りる。 そしてすぐに飛行魔法でビルの5階の高さまで浮かび上がってきた。


「忠告しておく。 10年前の闇の書事件、その恨みは根強く残っている。 今回の事件でも被害者が出ることを考えれば……いつか必ず闇の書遺族復讐モノは起きるぞ、原作に無いからといって油断するな」

「ああ、忠告感謝する」

「ま、そうなる前に俺がヴォルケンリッターを潰すけどな。 一応お約束を言っておく、覚えていろ! 次は負けないからな!」


 ブラウンは海に向かって飛んでいった。 恐らく市街地から離れたところで転移するつもりだろう。

 それを見送るメンバー達。 姿が見えなくなったところで誰かがあくびをした。

 もう夜明けが近い、明日も学校があるし、放課後には八神はやて誕生日パーティーがある。

 さあ、帰って少しでも寝ようとしたところで待ったの声がかかった。 刹那が全員を呼び止めたのだ。


「まだ帰るな。 真塚家警護のローテーション決めるぞ」


 再びブラウンが来ることを想定した当然の提案、しかし一斉にブーイングが起きる。

 さらに全員が口々に好き勝手なことを言い出した。


「えー、めんどくさい。 大丈夫だって、あいつライバルキャラじゃん?」

「どうせ仲間になるだろ? ピッコロとかべジータポジだって」

「いつもは敵対、時々協力、銭形警部ポジ」

「いやいや、ここはライバルキャラとして登場したが何度も負けてギャグキャラ化だろ?」

「お前ら……」


 パァン! パァン! パァン! パァン!

 永瀬一号に発生させた薄い板状の魔力を重ね合わせた攻撃、魔力ハリセンとも言うべき攻撃で軽口を言ったメンバーの頭を叩いていく。

 最近になって刹那が開発した魔法で、心地のよい音とちょっとクラクラする程度の魔力ダメージを発生させる面白攻撃だった。

 頭を抑えるメンバーを見て満足した刹那は話を続ける。


「そうでなくても、カムイの姿をヴォルケンズに見られたんだから、何らかの説明を考える必要がある。 友好的に接触する方法、闇の書被害者に恨まれない方法、話し合うことはいっぱいある!」









 トリップメンバーから開放されたブラウンは飛行魔法で海鳴海上までやってきた。

 現役時空管理局員のブラウンには当然普段の仕事というものが存在する。 魔力があるなら、ミッドチルダは17歳でも社会人なのだ。

 今回海鳴にやってこれたのは休暇申請をしたから、明日からはまた仕事が始まることになる。

 次に休暇が取れるのは一月ほど後だろうか? そうなったら、また海鳴に来ようと思う。

 ヴォルケンリッターを許すことはできない、しかし迷っていることも確かだった。 11年間、仇をとると自分に言い聞かせて無理やり納得させてきたが、それが正しいのか分からない。

 もしかしたら、今日負けたのはいいことなのかもしれない。 自分と同じトリッパーと戦うことによっていつか気持ちの整理ができるかもしれない。

 復讐を止めるのか、やっぱり仇をとるのか? もう少し悩んでみようと思った。


「ブラウン・クルーガー一等空士」


 さあこれから転移しようと思ったとき、突然声をかけられた。

 しかしここは地球、しかも海上だ。 自分の名前を呼ぶ存在などいるはずが無い。

 辺りを見回すと、三人の人影が空中に浮いていた。 そのうち二人には見覚えがある。

 5年ほど前、闇の書事件で家族を失ったブラウンに当然接触してきた人間がいた。 闇の書の永久封印を狙うギル・グレアムだ。

 グレアムは闇の書の封印する同志にならないかと持ちかけてきた。 だがそれが八神はやてを犠牲にすることを知っているブラウンは拒否、自分の力でヴォルケンリッターを倒すことを決意する。

 そんな話をしたときにグレアムの側にいた二人、リーゼロッテ、アリアが今目の前にいる。

 しかし、真ん中の男に見覚えは無い。 自分と同じくらいの年齢だが、原作でも生まれ変わってからでも見たことの無い顔だった。


「残念だ。 優秀な局員だったが、まさか極秘任務中に殉職なんて」


 謎の男がそんなことを言った。

 もちろん、自分は極秘任務なんて受けていないし、殉職することも無い。 なら、そんなことを言う理由はただひとつ。

 自分を始末するつもりだ――!

 とっさに戦闘体勢を取ろうとするが遅かった。 両側からリーゼ姉妹が飛び掛ってきて拘束されてしまう。


「COMだっけ? あんたの魔法。 直射しかできないなら、こうしちゃえばもう攻撃できない」

「まさか1人でヴォルケンリッターに襲い掛かるとは思わなかったからね。 まぁ向こうのトリッパーの能力が分かっただけでよしとするよ」


 リーゼアリアがトリッパーという単語を使った。

 そんな単語、普通出てくるものではない。 誰かから教えられたことになる。

 そして彼女達と行動を共にして、原作知識に入っていない人物が目の前にいる。


「お前もトリッパーか? 何者だ!」


 謎の男に向けて叫ぶ、男はため息をついて喋り始めた。


「普通さ、高町家とか八神家とか、珍しい所じゃハラオウン家に生まれるもんだろ? 何でグレアム家に生まれるんだよ」

「原作キャラ血縁トリッパーだと!?」

「まぁまぁ、アル坊。 そのおかげでお父様の計画も確実になるんだし」

「なんか八神はやての周りいっぱい魔導師がいて困ったけど、こっちにもアル坊いるからね」

「信用するな! トリッパーでグレアムに協力する奴なんているわけない! 何か企んでいるぞ!」

「うるさいね、私達はアル坊が生まれたときから一緒だったんだ。 アル坊のことなら誰よりも分かってるんだよ」

「おとなしくお父様の計画に協力すればよかったのに、アンタを放置したら予定より早く闇の書の存在が知られることになりそうだ。 消えてもらうよ」


 二人の拘束がさらに強くなる。 男の悪口を言われて怒ったらしい。

 それで理解した。 この男、リーゼ姉妹を堕としている。 何でも言うことを聞くベタ惚れ状態、奴隷や人形と同じ状態。

 危険だ。 わざわざグレアムに協力するなんて、よっぽどの原作アンチか、グレアムの計画を隠れ蓑にして何かを企んでいるかのどちらかしかない。

 何とかして14人のトリッパーに伝えなければならない、トリッパーと互角に戦えるのは同じトリッパーだけだ。 原作キャラでは手の内が完全に知られてしまっている。

 何とかして脱出しなくては、しかしリーゼ姉妹の拘束は簡単には外せそうに無い。


「お前がトリッパーにしたような自己紹介をさせてもらおうかな。 俺の名前はアルバート・グレアム、前世の名前は鈴木敬一郎」


 アルバートと名乗ったトリッパーは一冊の本を取り出した。

 そのページが一枚づつ分解されアルバートの周りを漂う。 おそらくデバイスだろうが、ミッドでもベルカでもない。 まったく未知のデバイスだ。

 その能力も普通でないことは簡単に想像できた。 だが、どんなチート能力を持っているかまでは分からない。

 さらに魔力もどんどん高まっている。 もうとっくにブラウンの魔力を超えてしまった。 少なく見積もってもS、下手すればSS以上の魔力を持っている。


「チートデバイス、チート魔力、そしてギル・グレアムの孫という立場。 要するに……」


 ブラウンに手のひらを向けるアルバート、そして周囲にどんどん浮かび上がっていく魔力スフィア。

 ファランクスシフト――フェイトでさえ呪文詠唱が必要だった魔法を無詠唱で行えるとは、まさにチートされた戦闘能力と呼べるほどだった。

 しかし感心してなどいられない、これまでの言動から相手がブラウンを殺そうとしていることは明白だ。 となればあの魔法は殺傷設定なのだろう。

 絶対に避けなくてはならない、掠っただけで致命傷になることは確実だ。

 チャンスは一瞬、遅れたら命は無い。 僅かな動きでも見逃さないよう、アルバートをにらみ付ける。


「俺はA's編のラスボスだ」


 アルバートが凶悪な顔でニヤリと口の端を持ち上げたのと、30を超える魔力スフィアから一斉砲撃が発射されるのと、リーゼ姉妹がブラウンから離れるのと、ブラウンが魔法を発動させたのはまったくの同時だった。

 閃光で辺りが真っ白になり、それが収まった後には何も残っていなかった。


「へぇ、さすがにあの攻撃じゃ消滅した?」

「いや、生きてるみたいだよ。 何発か当たったみたいだけど転移した。 ま、ほっといてもくたばるだろうけど」

「そのセリフは生存フラグだ。 俺の攻撃魔力反応が強すぎてどこに飛んだか分からないが、八神はやての監視をしていれば見つかるだろう」

「まかせて! あそこの犬は厄介だけど、隠密性能なら猫の方が数倍上だからね」

「どんなに優秀な犬の鼻も、猫のステルスには適わないさ。 アル坊は帰ってゆっくりしなよ」


 そう言ってリーゼ姉妹は真塚家に向かっていく。

 それを見送りながら、アルバートは誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。


「つまらないなぁ、この世界。 本当につまらない」


 その声を聞いた者は誰もいない。

 そしてアルバートが転移魔法でいなくなると、夜の静寂だけが残ったのだった。



[6363] にじゅうさん
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/06/21 14:19
「皆さん、おはようございます!」

 若々しい声と共に、1人の女性が扉を開けて入ってきた。
 聖祥小学校に勤める座土マナミは教室の前方にある教壇に立ち、出席簿を開いた。 そしてそこに書いてある30人の名前を確認する。

「それじゃあ出席を取ります。 天崎刹那くん」

 明るい声が教室に響き渡る。 しかし返事は無い。
 二回三回と呼びかけるがやはり返事は無い、だが教室に入った時は全員揃っていたはずだ。
 不思議に思って刹那の席を見ると、ちゃんと座っているのは確認できた。 でも様子がおかしい。
 机にうつぶせになってピクリとも動かない。 もしかして体調が悪いのだろうか?
 場合によっては保健室に連れて行くことも考えなくてはならない。 なぜなら彼女は教師なのだから、生徒の体調について知っておく必要がある。
 そう思ってマナミは教壇を離れて刹那の席に近づき、声をかけながら刹那の体を揺さぶった。

「天崎くん、どこか調子が悪いのですか?」
「っは!? すいません、寝てました。 話し合いで寝てないんで……何言ってんだ? もう大丈夫です」
「あまり夜更かしをしてはいけませんよ。 一度感覚が狂ったら直すのは大変ですから」

 いつも真面目に授業を聞いて、学級委員としてクラスの中心で活動している刹那が朝から居眠りとは珍しいことだった。 もしかしたら初めてかもしれない。
 夜遅くまで何をしていたのかは分からないが、きっと大変なことがあったのだろう。 そうマナミは考えた。
 朝のHRはまだ続いている。 気を取り直して教壇に戻り、再び出席簿を開く。

「アルス・エヴォリュアルくん」

 出席番号2番の少年の名前を呼ぶ。 しかしまた返事が無い。
 今度はどうしたのかと思いアルスの席の方を向くと、アルスの隣の席に座っている女子が手を上げていた。

「せんせー、エヴォリュアル君が寝ています」

 それを引き金に次々と教室で手が上がる。
 そのすべては女子、そして手を上げている女子の隣の席にいる男子は全員机に突っ伏していた。

「せんせー、鬼道くんも寝ています」
「竜宮くんも~」
「リュウセイくんも起きそうに無いです」
「龍堂君のイビキがうるさいです……」

 さすがのマナミも顔を引きつらせた。 クラスを見回すと確かに男子全員が寝ている。 先ほど起こした刹那も再び眼を閉じて頭を下げていた。
 クラスの半数が寝ているというこの状況、教師としていったいどのように対処すればいいのか?
 寝ているのが1人か2人ならば直接席まで行って起こすことができる。 しかし15人全員を起こしながら教室を回るのはどうかと思う。
 男の先生なら大きな声で叫ぶことも可能だろうが、果たして自分にそんな声が出せるだろうか?
 いや、出さなくてはならない! 生徒をしかるのもまた教師の役目だ。
 マナミは少しだけ息を吸い込み……

「座土先生、職員室にプリントを忘れてましたよ」

 突然の来訪者に思わず噴出してしまった。
 プリントを持ってきた教頭先生は教室を見回して現在の状況を理解した。
 マナミにプリントを手渡すと、教卓を叩いて大きな音を出す。 その音で眠っていた男子達は一斉に目を覚ました。

「こら! 学校に来たばかりなのに眠る奴がいるか! まだ授業も始まっていないんだぞ!」

 そう言って教頭先生は寝ている男子の頭を叩いて回りだした。
 教室内に乾いた音が響き、次々と男子が頭を抑えてのた打ち回る。 後頭部を叩かれた衝撃でおでこが机に激突し、かなり痛いようだ。

「教頭先生、そこまで怒らなくても……」
「座土先生もです。 クラスの半数が居眠りなんて、教師としての威厳が足りません。 私が若かったころは」
「あの……教頭先生、そろそろ授業が――」
「話は終わっていません! 授業を変更して一時間目は道徳の授業にします!」

 結局一時間目はずっと教頭先生の話を聞き続け……
 二時間目、この教室では31人の寝ている姿があったとか。




 はやての目の前にケーキがあります。 そこに刺さっているのは9本のロウソク、はやての年齢と同じです。
 暗い部屋の中、ロウソクの火だけが明かりとして残っています。
 はやては少しだけ息を吸った後、一気に吹きました。 その風で次々に火が消えます。
 全部の火が消え終わったことを確認してから、士郎さんが部屋の明かりをつけました。

「はやて、お誕生日おめでと~」

 僕がそう言うと、みんなが一斉にクラッカーを鳴らしてくれました。
 次に拍手が巻き起ります。 すごく大きな音で翠屋の外まで聞こえたかも知れません。
 はやてはみんなにお礼を言いました。 こんなにたくさんの人でお誕生日のお祝いをしたのは初めてだから少し照れているみたいです。
 次はケーキを切り分けます。 はやての分は少し大きめにして、上にチョコレートの板を乗せてもらってました。
 誕生日の特権です。 すこしうらやましいです。 でも僕の誕生日の時は僕がもらったので今回ははやての番です。

「さあ、皆さんもどうぞ」
「いえ、我等……」
「うめー! ケーキってギガうめー!」
「こら! ヴィータ!」
「いいじゃないシグナム、美味しいわよ」

 シグナムさんはケーキをもらうのを遠慮しています。 でもヴィータはすぐにかぶりついて頬を膨らませています。 リスみたいです。
 シャマルさんは普通に食べてます。 こっちも美味しそうに食べてくれて嬉しいです。
 ザフィーラは犬の姿で床にケーキのお皿を置いてもらいました。 シロと並んで食べています。 犬の状態だと表情が分からないけど、あの目はきっと喜んでくれてます。
 ヴォルケンリッターのみんなは今朝初めて会いました。
 夜中に会っているらしいけどよく覚えていません。 起きたらはやてのベッドだったし、たぶん寝ぼけてました。
 なんでもはやてが持ってた鎖つきの本が闇の書っていうすごいものらしいです。 どのくらいすごいかって聞かれたら、よくわかんないけどすごいそうです。
 お父さんとお母さんは、最初は戸惑ったらしいけど話を聞いてヴォルケンリッターが悪い人たちじゃないと知りました。
 犬に変身するザフィーラとか、シャマルさんが魔法を使ったのを見て魔法を信じてくれました。 これで僕の家族はみんな魔法を知ったことになります。 クラスのみんなを紹介しやすくなりました。
 はやてが闇の書の主ってのになって、それを完成させたらはやてもすごい魔法使いになれるらしいです。 でもそのためにはリンカーコアってのを集めないといけません。
 動物にもあるらしいけど大抵は人間が持っているらしいです。 つまりリンカーコアを集めるには他の人とケンカしなくちゃいけません。
 そんなの駄目です。 ケンカしちゃいけません。 家族会議でそういうことはしないって話になりました。
 ヴォルケンリッターははやてを守る騎士らしいです。 騎士は英語でナイトです。 それくらい知ってます。 残念だけどサムライガーの蒼きナイトとは関係ないそうです。 
 騎士ってカッコいいけど、今の時代はそういうのはいないってお父さんが言ってました。 だからはやてを守るなら家族にしようって言いました。
 一緒に暮らすんだし、近所の人には遠縁の親戚って紹介するらしいです。 遠縁ってのは、なかなか会った事の無いって意味らしいです。
 こうして家族になったヴォルケンリッターの皆を紹介するのにはやての誕生日会が丁度いいので、一緒に来てもらうことになったのです。 はやてもお祝いする人が多い方が楽しいです。

「みんな、せっかくだから他の人たちにも挨拶してき。 これからお世話になるし、挨拶はしとかんと」
「いえ、我等の使命は主を守ること。 お側を離れるわけには……」
「そんなんあかん。 なのはちゃんの家族とは深い付き合いしとるし、和真の友達だって家に来ることがあるかもしれん。 後で困ったことにならんよう、ちゃんとしとき」
「分かりました。 そこまで言われるなら……騎士として相応しい振る舞いをして見せましょう」

 ヴォルケンリッターのみんなははやての側を離れようとしません。 みんなはやてを大事に思ってます。 あーゆうのを過保護って言うそうです。
 でもそれだけはやてのことが大好きなんだと思います。 はやてもちょっと困ってるのと嬉しいのが半々の顔をしています。
 そんなはやてに言われてシグナムさんがみんなの所に向かいました。
 なんだかみんなを警戒してます。 怖い犬に近づく時……とは少し違います。 怖がってるわけじゃないみたいです。
 みんなの方も近づくシグナムさんに気がつきました。 みんなの方は緊張してるみたいです。 参観日でお母さんが来たときよりも緊張してます。 たしかに、シグナムさんが怒ったらお母さんよりも怖そうです。 けど怒られるようなことしてないなら大丈夫なはずです。
 シグナムさんはみんなの前まで来ると、深々と頭を下げました。

「私は八神はやての遠縁の親戚、シグナムという。 仲間ともどもよろしく頼む」
「え、いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」
「うむ、それと……」

 何か話しているようでしたが小声で聞き取れませんでした。 でも内緒話するくらいだから、きっと仲良くなれたんだと思います。
 一通り挨拶し終わったシグナムさんははやてのところに戻ってきました。 分かれて挨拶していたシャマルさんとヴィータも丁度終わったみたいです。
 そういえばザフィーラが挨拶に行ってません。 ずっとシロとお話してます。 言葉も喋らずにわんわんと鳴いてます。
 ずっと犬のままでいるつもりなんでしょうか? 尋ねてみたら小声で 「この姿の方が主の近くで守ることができる」 って言いました。 僕は学校で昼間家にいないけど、シロははやてと一緒にいられるのと同じことだと思います。

「主、一通りの挨拶をしてまいりました」
「うん、ようできた。 でもまぁ、もう少し愛想良くっちゅうか、フレンドリィにできんかなぁ?」
「フレンドリィ……ですか?」
「シグナムはそういうの苦手だからな。 その点、あたしは完璧だぜ」
「ヴィータちゃんは少し自重したほうがいいわよ。 男の子達に敵意を振りまいて、余ったケーキをくれる大人に懐いて……」
「う、うるせー! くれるって言うからもらったんだ! あたしは悪くねー」

 その様子を見てた周りのお父さんとお母さんからクスクスという笑い声が聞こえてきました。 それに気がついたヴィータが顔を赤くします。
 夜も遅くなってきたから、プレゼントの時間になりました。 今日のお誕生日会最後のイベントです。
 みんなそれぞれプレゼントを持って一列に並びました。 こうして順番に渡していきます。
 山のように重なったプレゼント、みんなはやてのことが大好きだって分かります。 はやても笑顔でとっても嬉しそうです。
 友達のみんなもヴォルケンリッターのみんなも、両方ともはやてのことが大好きなんだから仲良くしてほしいです。



[6363] にじゅうよん
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/06/21 14:19
 誕生日会も終わり、それぞれが各家庭に帰っていく。 たくさんのプレゼントをもらったはやて、それを手分けして運んだヴォルケンリッター、一緒に祝った真塚家一行も歩いて十数分の家にたどり着いた。
 両親は一服するためにお茶の用意をし、はやてと和真はプレゼントをテーブルの上におく。 そして、それを眺めているうちに少しづつはやての顔がにやけてくた。
 まだ誕生日会の興奮が冷めないことに加えて、今まで見たことの無いほどのプレゼントの山を再確認して感動が盛り返してきたのだ。

「和真の友達、みんなええ人やね。 それに個性的で、面白くて、あんな友達と毎日会える和真がうらやましいわ」
「今度遊びに来てくれるって、きっと楽しいよ」
「そうやね、楽しみやわ。 それじゃ、戦利品の確認しよか!」

 そう言ってはやてはプレゼントの確認を始めた。
 一つ一つ破れないよう丁寧に包装をはがして、残った包装紙はキチンと折りたたんでひとまとめにする。 箱も折り目に沿って折りたたんでまた使えるように取っておく。 家族ができていても、はやては倹約家なのだ。

「綺麗な花束やね、おばさん、空いてる花瓶ありましたっけ? このキーホルダーかわええなぁ、でも付ける場所が無いし……こっちの小物入れにしまっとこ」
「うさぎさんの人形、うさぎさんの人形、うさぎさんの人形、みんなうさぎさん好きなのかな?」
「何か狙ってそろえてる気もするけど、可愛いからええか。 図書券、うわっ! 一万円分もある! こりゃ何かお返し考えんと。 包帯、これは救急箱に入れとこか」

 はやてと和真がプレゼントを開けている間、シグナムとヴィータは夜風に当たってくると言い再び外に出かけていた。
 騎士甲冑を身に纏い、月を背に空を飛ぶ。 向かう先は人気の無い空き地、念のため結界を張り一般人が入れないようにする。
 その状態で待つことしばし、自分達がやってきたのとは別の方向から空を飛ぶ数人の人影が見えた。
 天崎刹那を中心としたトリップメンバーの一部。 一睡もできずに学校で寝るほど白熱した会議の末に決定した本日の真塚家警護のローテーションだった。
 メンバーの代表として話を聞く刹那がシグナムの前に降り立ち、口を開く。

「原作と同じ姿……その格好を考えたのは主の八神はやてか?」
「そうだ。 和真殿も考えてくださったが、主の意見を取り入れた」
「あたしはそれでもよかったんだけどな、サムライガーってのカッコよかったし」
「たとえ主の御家族でも我等が直接使えているのは主、ならば主を優先させるべきだ。 そして……闇の書について知っているお前達の目的は何だ!」

 シグナムがレヴァンテインを刹那の目の前に突きつけた。 それに合わせてヴィータもグラーフアンゼンを構える。
 対するトリッパー側は落ち着いたものだ。 まるでシグナムがこのような行動を取ることなど予測済みかのように誰も動かない。 剣を突きつけられている当人である刹那は少しばかり笑ってさえ入る。
 その態度が逆にシグナム達を戸惑わせた。 高い魔力を持っているようだが所詮ははやてや和真と同じ年齢の子供、少し威圧すれば抵抗するか怯えるかするだろうと考えていたからだ。
 それを見て主にとって有害かどうかを判断するつもりだったが余裕を見せるこの反応、ヴィータと同じで見た目に惑わされてはならないと直感する。
 そんなシグナムに対して刹那は笑顔を浮かべたままで返答する。
 実は刹那は恐怖とは別の要素で緊張していた。 ここで失敗したらヴォルケンリッターと敵対する可能性もある。 そうなったら折角一つにまとまっているトリッパーたちがどうなるか分かったものではないことを心配しているのだ。
 最悪、5月に起きたメンバーを二分しての戦いが再び勃発するかもしれない。 ブラウンというメンバー3人を倒すほどの実力を持ち、ヴォルケンリッターを狙うトリッパーがいる以上それだけは避けなくてはならなかった。
 メンバー全員が一致団結するにはヴォルケンリッターとの友好的な関係が必要不可欠、その運命は直接話をする刹那にかかっている。

「真塚和真とその周囲の幸せ……って言ったら信じてもらえるか?」
「答えになっていないな。 和真殿は主の御家族、だがそれだけだ。 魔力も持たない完全な一般人、なぜそんなことをする必要がある」
「誕生日会に来た人間を思い出してほしい。 友達で魔導師15人、知り合いとして凄腕の剣士が3人、夜天の書の主とヴォルケンリッターにいたってはすでに家族、あそこで一般人を探す方が難しいくらいだ。 5月に起きた事件を加えるとさらに増えるぞ」
「その中心が和真だってのかよ? そんなばかなことあるかってーの」

 ヴィータは鼻で笑うがシグナムは真剣な表情で聞いていた。 真っ直ぐに刹那と眼を合わせて、一字一句を聞き逃さないように集中している。
 そのシグナムの態度に脈ありと感じた刹那はさらに話を続けた。 周りのメンバーたちも声を出さずにじっと二人を見守っている。

「これから先起きる事件でも必ず真塚和真は中心にる。 真塚和真が幸せなら周りの人間も幸せになれる。 八神はやてをふくめてな。 そして俺達はそのおこぼれを頂戴する。 それで十分だ」

 緊張しながらも軽口を叩く刹那と比べ、はやての名前が出たことで今度はシグナムとヴィータが動揺した。
 この言葉をそのまま受け止めるなら、彼らはヴォルケンリッターの主である八神はやてに危害を加える存在ではないということになる。 それどころか共にはやてを守ってくれる心強い味方にもなる。
 だが、今のところそれを証明できるのは刹那の言葉だけだ。 何か証拠を出せといわれても、トリッパー側が出せるものなど存在しない。 言葉で信じてもらうしかないのだ。
 最悪、自分達の魔力を蒐集させるから信じてくれと言う手が残っているがそれはそれで拙い気もする。 そんなことをして完全な信用など得られない、常に警戒心が付きまとう緊張した関係になってしまうだろう。
 今度はトリッパー側がヴォルケンリッターの反応を見る番になった。
 果たしてどの程度まで信じてもらえるか? 自分達に対するヴォルケンリッターの対応は? これから先どのように接するべきなのか?

「……主の御家族、真塚家は優しい方々だ」

 少しだけ沈黙した後、シグナムはそう言った。 だが言われた方は頭の上に疑問符を浮かべる。
 何故ここで真塚家の話がでるのか? 今度はトリッパー側が黙って話を聞くことになった。

「魔法の使えない人間からすれば我等は異質な存在だ。 まして深夜に娘の部屋にいきなり現れた我等は自分達で言うのもなんだが怪しかっただろう。 普通ならこの世界の警察機関に連絡をされるところだが、ご主人と奥方のご好意でとりあえず主が目覚めてから家族会議をするという話になった」

 メンバー全員がすっかり忘れていたことだが、そういえばこの世界の八神はやては1人暮らしではなく家族がいるのだった。
 原作でヴォルケンリッターがすんなり家族になれたのは八神はやてが1人暮らしだったからだ。 それなら本人が許可するだけで住むことができる。
 しかし、大人がいるのなら問題は大きくなる。 シグナムの言うとおり、普通なら警察に通報されてしまうだろう。 原作で家族になっているのだからここでも家族になるだろうと楽観していたが、ヴォルケンリッター最大の危機が初日に起きるなど考えもしなかった。
 無事乗り越えられたらしいが、真塚家父が気のいい人間でなかったら危ないところだった。 下手したら今日の朝刊には 『騎士を名乗る国籍不明の外国人、住居不法侵入で逮捕。 本人は主に仕えると主張』 という記事が載っていたかもしれない。
 ただメンバーは真塚夫妻がとりあえず様子見をしようと決断した理由の一つに、シロが攻撃したりしないのだから悪い人ではないだろう、という判断基準があったことを知らなかった。

「主は我等のことを夢で見たと言われた。 恐らく闇の書と繋がった影響だろう。 そして和真殿は……悪い人の眼じゃない、嘘を言っている眼じゃない、それだけで我等を信じてくださった」
「なんだか優しいって言うよりも単純って感じだけどな~、ザフィーラが人間か犬かで悩んで知恵熱出してたし」
「そのように言うな、純粋で人を見る目があるということだ。 そんな和真殿が誕生日会に行く前に写真を見せてくださった。 天崎刹那、みんなのまとめ役らしいな」

 突然名前を呼ばれて刹那が驚いた。 まだ名乗っていなかったのに、ヴォルケンリッターは自分たちのことを知っているらしい。
 和真がヴォルケンリッターに見せたのはPT事件の最後に撮った全員集合の写真だと簡単に想像できた。
 シグナムはこの場にいるメンバー一人一人の名前と簡単な特徴を言っていく。 写真だけで特徴が分かるはず無いから、そこは和真から聞いた内容だろう。

「リュウセイ・クロウバード、運動が得意でカッコいい。 アルス・エヴォリュアル、高町なのはのことが好き。 ディスト・ティニーニ、フェイト・テスタロッサの兄で頑張り屋」

 その評価を聞いてリュウセイは苦笑した。 確かに自分の運動能力はトリッパーの中でもトップだ。 本当のこととはいえ、他人からの評価を聞くのは年齢に関係なく苦手ということを再認識した。
 アルスは照れた。 かつて主人公の座に収まるため確実に管理局につかまるようなことをやらかした彼だが、実は結構純情なところがある。 堂々となのは好きのことを指摘されて恥ずかしくなったのだ。
 ディストはガッツポーズを取った。 普段から自分はフェイトの兄と言っていた成果はあり、どうやら和真はそのように認識したらしい。 将を射んとすればまず馬から、既成事実作戦は順調だった。
 三者三様の反応を見てからシグナムは剣を引いた。 少しばかり微笑んでいるように見えるのは気のせいではないだろう。

「お前達が和真殿のご友人で、誕生日会で主ともご友人になったことは分かった。 主に危害を加える存在でないことも分かった。 我等を信じてくださった和真殿の目を我等も信じたい」
「それじゃあ!」
「夜の戦いの一部始終は仲間のサーチャーで監視させてもらった。 以前の主の時に蒐集した者の敵討ち、気の毒に思うが我等は今の主を守らなくてはならない。 戦えなかった時に相手をしてくれたこと、感謝する」

 シグナムが頭を下げる。 これにはヴォルケンリッターの一員であるヴィータも驚いた。 だが感謝された方はもっと驚いた。
 ヴォルケンリッターとの交渉は難航すると予想していたトリッパー、まさか感謝されるとは思ってもいなかった。 必死で頭を上げるように言うがシグナムはしばらく頭を下げたままだった。
 これならヴォルケンリッターとの関係も良好か? そう考えてメンバーは一息つく。

「だが!」

 そんな時、シグナムは顔を上げて声を張り上げた。
 メンバーに再び緊張が走る。 やはりそんなに甘くなかったか?
 シグナムは再び真剣な表情になっていた。 研ぎ澄まされた刃を連想させ、油断すると一刀両断されそうな雰囲気があたりに広がる。
 ゴクリ、という音がどこからか聞こえた。
 それが自分の喉で発生した音だと気がつくまで少しばかり時間が掛かる。 一度油断した後の緊張は、する前の何倍にも感じてしまった。

「万が一、お前達が管理局に通報したり、主に危害を加えるようなことになれば、たとえご友人だろうと討つ。 それが主を守るヴォルケンリッターの使命だ」
「そうだな、そんなことにはなりたくない」
「私もだ。 そうなったら主は悲しむだろう。 それに和真殿は、きっと皆とも仲良くなれると言われた。 その信頼、崩したくない」

 二人は力強く握手をした。
 これで本当にヴォルケンリッターとの交渉は終わる。 途中何度も冷やりとしたが、結局は予想の範囲内での終了だ。
 これからの警護にはヴォルケンリッターも加わってくれるだろう。 ブラウンの目的はヴォルケンリッターを倒すことなので積極的には戦いに参加させられないが、一気に4人の戦力が増えるのはありがたい。
 特にシャマルがいれば、補助専用のファルゲンがいなくても他のメンバーへの迅速な連絡ができる。 そうすれば短時間で18人が集合することも可能だ。
 とりあえず、当面の問題への対策はできた。 ほっと胸をなでおろしながら手を離す。
 今日の話し合いはこれで十分だと判断したシグナムはヴィータに帰ることを伝えた。 あまり長い間夜風に当たっていては真塚家に心配されてしまう。
 一度刹那に背を向けたシグナムだったが、言い忘れたことがあったのか再び振り向いた。 話し合いの後はそのまま見回りに移ろうとしていたメンバーもそれに気がついて足を止める。

「一つ、お前達の間違いを正したい」
「間違い?」
「我等は闇の書の騎士だ。 夜天の書がなんなのかは知らないが、間違えないでほしい」

 そう言って、今度こそシグナムとヴィータは飛び去っていった。
 姿が見えなくなるまで見送ってから、トリッパーたちも飛び立つ。 これからサーチャーを飛ばしながら海鳴を一回りするのだ。
 リュウセイとアルスは楽しそうに談笑しながら見回りをするが、刹那は難しい顔をしている。 それを気にしたディストが話しかけてきた。

「どうした? 浮かない顔して、ヴォルケンズとの交渉は成功じゃないのか?」
「交渉は成功でもこれからの行動は難しい、また管理局ともめる可能性もある」

 深刻そうな話に談笑していた二人も話をやめた。
 空中で動きを止め、円になって顔を見合わせる。

「さりげなく夜天の書って言ったらピンポイントで指摘してきた。 どうやら本気で分からないらしい、夜天ってなんだか昔の記憶にひっかかる作戦は失敗だ」
「闇の書の騎士ってことか……時期が悪いのか、俺達じゃ駄目なのか」
「今の状態じゃ、闇の書が完成したら危ないって言っても信じてもらえない。 下手したら今日の話し合いが無駄になる。 管理局にも話せないし、はやての容態が悪くなったら間違いなくヴォルケンズは蒐集に行くだろうな」
「となると俺達も蒐集に参加か、はぁ……」

 リュウセイは大きくため息をついた。
 元介入反対派、今は少しばかり吹っ切れたがそれでも積極的に目立ちたくは無い。
 戦闘機人の彼はあんまり目立ったら将来スカリエッティやナンバーズに目を付けられてしまうかもしれない。 さらわれたギンガ状態になるのはいくらなんでも嫌だった。
 落ち込むリュウセイの肩をディストが叩く。 なんと声をかけたら言いか分からないが、とりあえず慰めるつもりらしい。
 それに比べてアルスは明るい、力強く背中を叩くせいでリュウセイは少し咳き込んでしまった。

「大丈夫だって、俺達を入れて18人。 単純に考えれば原作の4倍の速度で蒐集できる」
「そんな問題じゃないだろ」
「4倍集めることができるなら動物からだけでも足りるかもしれないってことだよ」

 3人のやり取りを見ながら今度は刹那がため息をつく。 事はそう単純ではないのだ。
 彼らはどんな動物からどの程度のリンカーコアが取れるのか知らない。 できるだけ早く蒐集を開始した方がいいのは明らかだ。
 しかし、開始を早くするとそれだけ管理局に見つかる危険性も高まる。 また、順調に集めすぎてアースラが来る前に闇の書が完成しても困る。
 早すぎず遅すぎず、目立たず決して気付かれないように行動しなくてはならない。 自分達にそんな細かいことが可能なのだろうか?

「A's編、苦労しそうだな」

 刹那がそう呟いてから、彼らは再び見回りを再開したのだった。



[6363] にじゅうごー!
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/06/21 19:33
 太陽の光が暖かい原っぱ、そこに人工的な光が集まり輝くを増していく。
 辺りを覆いつくすほど強い光が発生した後に光が収まると、そこに現れたのは4人の少年だった。
 鬼道炎、ザップ・トライフォン、龍堂翼、ジェフリー・マークハント
 彼らは闇の書に蒐集させるリンカーコアを集めるために、地球を離れて別世界にやってきたのだ。
 10月の終わりごろから八神はやての体調が悪化し始めた。 当然、その原因を知っているヴォルケンリッターはリンカーコアの蒐集に行こうとする。 が、その前に彼女達はトリッパーに相談をした。
 5ヶ月以上続けているヴォルケンリッターとの夜の見回りは信頼を得るに十分だった。 結局最初以来ブラウンが攻めてくることは無かったが、過ごした時間は無駄にはならなかった。
 そうして決まったヴォルケンリッター無実作戦、18人でローテーションを組み、はやての護衛と人間以外の動物からリンカーコアの蒐集をおこなうことになった。
 3倍以上の人間がいるのだから集められる量も3倍というアルスの言葉はある意味正解だった。 最初に14人分のリンカーコアを蒐集させたこともあり12月に入った時点で闇の書は400ページ、なかなか順調な結果と言えるだろう。
 アースラが来るとトリッパーズは動き辛くなるので、原作より早いペースで蒐集した方がいいだろうと思ったのだ。

「で、ここの原生生物はいいリンカーコアを持ってるんだろ? 早く集めようぜ」
「魔力があるということは、それを利用した攻撃をする可能性もある。 まずは情報収集をするべきだ」
「……あっちに街がある」
「そうだな、この世界の倫理観とかで狩猟禁止だったら厄介だし」
「こら! 君達!」

 4人で今後の相談をしていたら、突然声をかけられた。 驚いてその方向を見ると1人の老人がこちらに向かってきている。
 その老人は4人の目の前まで息を切らしながら走ってくると、汗だくになりながら肩で息をする。 年齢の割りに激しい運動をしたのだから当然だろう。
 メンバーは少し戸惑ったがすぐに冷静になる。 どうせ誰かから話を聞かなくてはならないのだ。 だったらそれがこの老人でもいいだろう。
 老人が落ち着くのを待ってから話しかけようとするが、それより先に老人が口を開いた。

「何も、ぜぇぜぇ、持たず……草むらに入ると、野生の……モンが、ぜぇぜぇ、危ない、ぜぇ」

 途中何度も息をつくせいでうまく聞き取れないが、大体の内容は理解できた。 それと同時にこの世界がどんな世界なのかも理解した。
 特にジェフリーと鬼道はソレをかなりやりこんでいる。 この後の展開を予想すると心が躍りだすかのように嬉しくなってくる。
 そして、その期待に答えるかのように老人は4人についてくるように言った。 当然ついていく。 まさかリアルでアレを見る機会があるとは思わなかった。
 案内されたのは予想通りの研究所、奥に通されると机の上に4つのボールが置いてあった。 原作では3つだが、もう一個は黄色のヤツだろうと予想する。 こちらも4人で丁度いい。
 老人はワクワクしている4人の表情を確認すると、ニッコリ笑って宣言した。

「好きなのを一つあげよう」

 その言葉と同時に4人は我先にと机の周りに集まり、上においてある赤白のボールを手に取り……その中にいる少女と目が合った。
 鬼道とジェフリーの動きが止まる。
 おかしい、自分達が想像していたのは赤いトカゲとか青い亀とか緑のカエル、黄色いネズミだ。 断じて女の子ではない。
 ボールの中の女の子はつぶらな瞳でじっとこちらを見つめている。 鬼道は目を合わせたままボールを机の上に戻した。
 それから後ろを向き、深呼吸をしてから振り返る。 そこにいるのはやはり赤いトカゲではなく女の子だった。 何度繰り返してもソレは変わらない。

「改造パッチが当たってやがる……」
「オリジナルじゃないとは思っていたけど……」

 頭を抱えてうずくまる二人、顔をあわせて同時にため息をつく。
 顔を上げるとザップは苦笑いをしていた。 二人の心情を察してどう言葉をかけたらいいか困っているのだろう。
 ただ、半分笑いをこらえている辺りこの状況を楽しんでいるようだ。
 そして、龍堂はじっと机の上のボールを見ていた。 他の三人には目もくれず、一人で真剣に考え事をしている。 声をかけても反応しない。
 3人は龍堂がどういう人間なのかを思い出した。 そんな三人の気持ちなど無視して龍堂はボールの一つに手を伸ばす。

「君に決め 「決めんなボケェ!」 ゲブハッ!」

 ジェフリーの飛び蹴りを受けた龍堂は壁に激突して動きを止めた。
 ビクンビクンと痙攣を繰り返し、首が変な方向に曲がっているような気もするが、気のせいだ。 この程度なら数分で復活するだろう。

「危ないところだった。 この世界にあいつを解き放ったら乱獲しかねん」
「管理局にばれないように、適度にリンカーコアを取って……取って……くぅっ! 静まれ! 暴れるな!」

 今度はザップがおかしくなった。 ボールに向けて包帯を巻いた左腕を伸ばし、それを押しとどめるように右腕で押さえつけている。
 たまに意味も無くこういう行動をすることはメンバー全員が知っていることだが、今日は本当に苦しそうだ。
 ただ、腕を押さえている割には肉体的な痛みで苦しんでいるのではないらしい、もっと精神的な苦しみに見える。

「どうした? リンカーコアがどうかしたのか? って、ああ、なんとなく理解できた」
「何かリンカーコア集めに問題があるのか?」
「想像してみろ、俺達がこの世界の原生生物からリンカーコアを奪っているところを」

 そう鬼道に言われてジェフリーは想像してみる。
 リンカーコアを奪うのはまず相手を行動不能にすることから始まる。 バインドで拘束してもいいが、破られる可能性も考えると非殺傷攻撃で気絶させた方がいい。
 そうして動けなくなった相手の胸元に手を当てて蒐集用の魔法を使うと手が相手の体内に入っていき、引き出すとリンカーコアが一緒に取り出せるのだ。
 外傷は無いが意識を失い地面に倒れる少女、少年はゆっくりと近づき、少女の胸元に手を当てる。
 ずぶずぶと少女の体内に入っていく少年の腕、苦しさを感じるのか少女の吐息は段々と激しくなっていき……

「理性と欲望の間で苦しんでいるのか。 考えてみれば9年以上禁欲し続けてるんだよなぁ」
「そういうビデオも借りれないし、本も買えないし、道端で拾ったエロ本を秘密の場所で仲間と見るって、中学生か俺達は。 小学生だけど」
「この世界はヴォルケンリッターに任せた方がいいかな? 仲間内から犯罪者を出すのはさすがに気が引ける」
「……帰るか」
「そういやもう12月だったな。 ヴォルケンズとなのはの仲も良いし、原作みたいにはならないだろうけど」

 気絶したままの龍堂を引きずりながら研究所の外に出て、人目の無いところで転移魔法を使う。
 視界の端では、老人が再び 「危ない」 と叫びながら草むらにいる赤い帽子の少年に向けて走り出していた。




「お母さん!」

 そう叫びながらフェイトは病室の扉を開けた。 看護婦が静かにするように注意するのも無視してベッドのプレシアへ近づいていく。
 いつもは静かに入ってくるフェイトだったが、今日は様子がおかしい。 少し怒っているようにも見える。
 驚いたプレシアは思わず手に持っていたリンゴとナイフを落としてしまう。 慌てて拾おうとするが、それより早くフェイトが拾って近くのテーブルに置き、プレシアの目の前までやってきた。

「お母さん、リンディさんから聞いたよ。 私をリンディさんの所に預けるって、なんで? 私お母さんと一緒にいたいのに!」
「ああ、そのこと」

 必死なフェイトとは対照的に、プレシアは落ち着いて返事をした。 そのことを聞かれると想定していたらしい。
 プレシアは少しだけ微笑みながら、フェイトの質問に答えた。

「嘱託になったのならアースラでの活動が多くなるわ。 どうせ住む場所を決めなくてはならないのだし、管理局の施設よりは顔見知りと一緒の方がいいでしょ?」
「それは、そうだけど……。 でも管理局の施設ならすぐにお母さんに会えるし」

 簡単には納得しそうに無いフェイトの様子を見てプレシアはため息をついた。
 わが娘ながらここまで頑固だとは思わなかった。 少しばかり融通の利かない性格だと思っていたが、どうやら引く気は無いらしい。
 こんな風に育てた覚えは、と言う言葉を出そうとして思いとどまる。 フェイトがこうも自分と離れるのを嫌がるのは自分のせいだと思い出したからだ。
 アリシアを選んでフェイトを捨てる決断をしてから、プレシアはフェイトに辛く当たった。 フェイトに嫌われて、アルハザードへ旅立つために。
 結局それを行うことは無かったが、辛く当たった期間に比例してフェイトの思いも大きくなっていたのだろう。
 犯罪者として裁かれる立場にいるプレシアの面会許可はそう簡単に取ることはできないのだが、看護婦からの話ではフェイトが毎日のように面会許可を求ているらしい。 面会できる日は文字通り朝から晩までプレシアの病室に入り浸るようになった。
 そのことを聞かされて、そこまで思ってくれているフェイトに嬉しさ半分、毎回手続きをしてくれているであろうクロノへの申し訳なさ半分という妙な気持ちを感じるようになっていた。
 本当は自分だってフェイトといたい。 しかし、フェイトのことを思うならそれよりもいい提案があることをプレシアはリンディと話し合っていた。

「実はリンディさんから聞いたのだけど、アースラは地球に行くらしいわ」
「地球に?」
「ええ、それで地球に活動拠点を作るらしいの。 つまり、普段は地球に住むのね。 なのはちゃんや坊やとも会えるわよ」
「なのはに和真、それにみんな……。 アルフだってシロと会いたいだろうし、でも……」

 かなり葛藤していることが分かった。 友達に会いたいという気持ちと母親から離れたくないという思いがせめぎあっているらしい。
 きっとどちらも選べず悩み続けるだろう、そう考えたプレシアはフェイトの背中を押すことにした。
 もっとも、現在のプレシアの立場を考えればどちらを選ぶべきかなど決まっている。

「私の判決はまだでないし、貴方みたいに無罪というわけには行かない。 残念だけど毎日会えるわけではないわ。 だったら、その間は友達と一緒の方がいいでしょ? 転送すればすぐにミッドまで来れるのだし」
「……分かった。 手紙書くから、なのはに送るみたいにビデオメールとか、みんなと一緒にお見舞いに来るから。 待ってて、お母さん」
「ええ、待ってるわ」

 その後、面会時間ギリギリまで話をしてからフェイトは病室を出る。
 扉の外ではクロノが腕を組んで待っていた。 少しばかり怒っているような、呆れているような雰囲気を出している。
 そんなクロノの姿を見て、これからの行動について話している途中で飛び出してきたことを思い出した。
 そういえば面会許可を取っていないのにプレシアのお見舞いに来れたのは、自分が飛び出した後急いで許可を取ってくれたのだろう。 これから世話になるというのに、初っ端から迷惑をかけてしまった。

「えっと、ごめんなさい」
「元々出発前に面会許可を申請するつもりだった。 たいした違いは無い」
「それでも、話を聞かずに飛び出しちゃって……」
「そう思うなら嘱託としてちゃんと働くんだ。 それがプレシアの減刑にもきっと役立つ」
「うん、それで、地球に行くんだよね? まさかなのはや和真に何かあったの?」

 フェイトが不安そうな顔をした。
 なのはは大抵のことでも大丈夫だろうが、和真はそうはいかない。 もしかしたら危ない目にあっているかもしれない。
 一般人なんだからそうそう巻き込まれることは無いと思うが、それでもなのはや他の友達に関係があると自分から関わりそう怖い。
 そんなフェイトの気持ちを察したクロノは首を振ってその考えを否定した。 とりあえずなのはと和真が大丈夫だと分かって安心するがクロノの表情が晴れないことが気になった。
 どうしたのかと尋ねると、ため息をつきながら何枚かの書類を渡される。 それはフェイトが嘱託としての初仕事に関する書類だった。

「管理外世界における魔導師の原生生物襲撃事件? これが私の最初の仕事なんだ」
「そんなに気合を入れなくてもいい。 目撃情報のところを読んでくれ」
「えっと魔導師の姿は、ジャージ、体操服、頭からかぶった黒い布、これってもしかして……」
「ああ、あいつらだ」

 今度は二人同時にため息をつく。 97管理外世界を中心とした事件、特徴的なバリアジャケット、犯人を特定するには十分すぎる情報だった。

「少しばかり彼らから話を聞く必要がある。 向こうでの生活準備もあるし、出発しよう」
「うん、早く皆に会いたい」
「それに、こっちに残っていると色々大変なんだ。 大きな事件を起こした者は注目されるが、さすがに一日30件以上の面会申請を処理するのは疲れる」
「私と母さん、そんなに注目されてたんだ」

 フェイトの公判中、会ったことも無い管理局員からの面会申請が大量に届いた。
 もちろん事件に関係の無い人間を面会させるわけにはいかないのですべて却下したが、クロノの執務官人生で間違いなく一番の事務仕事をしたといえるだろう。
 それをするくらいなら母親のお茶に付き合う方がまだマシだと思える辺り末期のような気もするが、自覚しているからまだ大丈夫だと自分に言い聞かせる。
 先に整備ドックで待っていたリンディ、ユーノ、アルフと合流し、アースラは再び地球に向けて発進した。




「止まれ」

 そう声をかけられて、男は足を止めた。 振り向くと1人の管理局員が立っている。
 何の用かと疑問に思ったが、今はやるべきことがある。 その管理局員を無視して先にするもうとするが、局員は先回りして男の行く手を塞いだ。
 横を通り抜けようとするが通すつもりは無いらしい、約束の時間まであまり余裕が無い。 さっさとしょうがないから話を聞くことにした。

「行かせるわけにはいかない。 死ぬぞ」
「どういうことだ?」
「俺が調べた結果、PT事件終了後だけでも13名が行方不明、もしくは任務中に死亡している。 共通点は……ギル・グレアムに面会した」

 その言葉を聞いて男は驚いた。 これから会う予定の人間こそ、そのギル・グレアムだったからだ。
 男は、いわゆる現実の世界からやってきたトリッパーだった。
 魔力を持っていたので魔導師となり、管理局に入り、下っ端の武装局員として適当に過ごしていた。 そんな時、PT事件が起きたのを知り、今度は闇の書事件が起きることを思い出したのだ。
 ここでグレアムを説得し、協力すれば原作よりもいい結果になるのではないかと考えて話をする約束を取ったのだ。 もちろん、いざとなればグレアムが八神はやてにやろうとしていることをバラすと脅すつもりだった。
 グレアムは少しばかり自分の信念に酔っているところがあるが、根はいい人物で、話し合えば分かってくれると思っていた。 それだけに、目の前の局員の話は無視できない。

「信じられないな。 そんなことしているなら何で逮捕されない?」
「グレアムは捨て身の覚悟だ。 後のことなど考えずに持てる限りの力を使っている。 そうなった権力者はやっかいだぞ、平局員を消す程度造作もないだろう」
「本当にやばそうなら逃げる。 忠告は感謝するよ」

 そう言って、男は管理局員の横をすり抜ける。
 この局員の話が本当かどうかは分からない、仮に事実だとしても自分だってそこそこの腕前を持つ魔道師だ。 リーゼ姉妹は厄介だが逃げる程度はできるはずだと思っていた。
 少しずつ、男と局員の距離が開いていく。 少しばかり時間には遅れるだろうが急げば何とかなると考えたとき、局員が叫んだ。

「SSSクラスの魔力、恐らく闇の書に関係するチートデバイス、リーゼ姉妹を手なずける手腕、原作知識、これが向こうのトリッパーだ」

 原作知識、という言葉に反応して男は止まる。
 この世界が物語の世界だと分かっているのは、現実からやってきた人間だけ。 そんな言葉を使うのは自分と同じ状況の人間ということになる。
 つまり、目の前の局員も現実からやってきたトリッパーと言うことになる。
 だとすれば、先ほどまでの話も一気に信憑性が出てきた。 言ったとおりのスペックを持つ化け物が相手なら、Bランク程度の自分では一瞬で消し炭にされてしまうかもしれない。
 どうしようかと思う、急に恐怖がわいてくる。 そんな男の肩を、局員は軽く叩いた。

「今は仲間を集める時期だ。 決戦の日は分かっているな? グレアムとの会談は行ったほうがいい、休むと怪しまれる。 次元犯罪がどうとか、適当に話をしてさっさと帰るんだ」
「……分かった」

 肩を落として歩いていく男の背中を見送る。 彼がグレアムの一味、アルバート・グレアムの手によって消されるか、それとも無事生き残るかは彼自身と話術と運に掛かっている。
 男の無事を願いながら、局員、ブラウン・クルーガーは手帳を開いた。

「次は……14時から、この時期にグレアムにアポを取っている平局員は十中八九トリッパーという予想は当たったか。 艦長クラスを引き込めればかなり楽になるんだがな」




「おばあちゃん。 冷えるし、部屋に入った方が良いよ」
「もう12月だしね。 今晩はキムチ鍋にしようか」

 そう言って星を見ていた老婆はアパートの一室に入った。
 中では娘が鍋とガスコンロの準備をしている。 冷蔵庫の中から鍋の材料と大量のキムチを取り出して煮込みだした。
 料理が出来上がるまでの間、バラエディー番組を見ながら雑談をして過ごす。 TVでは生き別れの家族と感動の再会というコーナーをしている。

「そういえば、あの人どうしてるかな? 6月くらいにおばあちゃんが連れてきたあの人」
「ああ、怪我が治ったらすぐ出て行ったからね。 まぁ、元気にしているだろうさ」
「そうだといいけど、心配だなぁ」
「あら? マナミはああいう男が好みなのかい?」

 祖母の質問に、マナミは一瞬きょとんとして、次に大爆笑した。
 しばらく腹を抱えて笑い続け、隣の部屋から文句が来たところでやっと落ち着く。

「ないない、だって5歳以上年下なんだよ? 弟みたいなものだし」
「年下は駄目かい? ならこの話はやめとこうかねぇ……」
「お見合い? まぁ、結婚願望無いわけじゃないし、おばあちゃんの紹介だし、会ってみるだけなら……。 どんなひと?」
「不破さんって人の息子さん、今大学生なのかな? 数年前に父親の命を助けてねぇ、その時に約束したんだよ。 確かこの街に住んでるはずだけど……。 まぁ、その辺はいつか外伝にでも……作者の気が向いたらいいんだけどねぇ……」
「外伝? 作者? おばあちゃん、何言ってるの?」
「いやいや、年をとると独り言が多くなってねぇ。 さぁ、鍋が煮えてきたよ」

 鍋のふたを取ると、赤い蒸気が立ち上った。 辺りに少しばかり鼻につくキムチの匂いが立ち込める。
 二人は小皿を用意し、程よい辛さのキムチ鍋を堪能する。 二人前より多かった具はみるみる減っていき、あっという間に汁だけになった。
 窓の外では白い少女と赤い少女がビル街に向けて飛んでいたが、それに気がついたのは最後の雑炊を楽しむ一人の老婆だけだった。



[6363] にじゅうろっく
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/07/29 19:50
「もうすぐ地球だよ。 もっとも、向こうは夜だからなのはちゃんや和真君に会いに行くのは明日になってからね?」
「ええ~そんなぁ~、早くシロさんに会いたいのに!」
「アルフ、いつでも会えるようになるんだから、迷惑かけちゃいけないよ」
「うう……わかったよ、フェイト」

 エイミィの言葉で落ち込むアルフの肩をフェイトが叩いて慰める。 他のブリッジクルーはそれを微笑ましく見守っていた。
 ジュエルシードをめぐる戦いから6ヶ月、アースラは再び地球圏を訪れた。 その任務は第97管理外世界の近くで起きている原生生物襲撃事件の調査である。
 調査といっても、目撃情報などからすでに犯人の目星はついている。 と、いうか知り合いだった。 報告書を読んだ直後は頭を抱えてしばらくうずくまってしまった。
 まぁ嘱託となったフェイトの初任務として、危険の無い丁度いい任務だと考えたのだ。 ちょっぴりなのはさん式のお話をした後で一時間ほどの説教でもすれば解決するだろうと予想して。
 それが大きな間違いだと気がつくのは、地球圏衛星軌道上にアースラが待機した時だった。

「あれ? 海鳴に結界? モニターに映すね……なのはちゃんと……だれ?」
「あれは……リンカーコアを奪われてる! なのはが危ない!」

 モニターに映ったのは二人、なのはと赤い少女だった。 少女の年齢はなのはよりも少し幼く見える。
 そんな二人が夜のビル街に結界を張っている。 ただ事であるはずが無い。
 しかも赤い少女はなのはの胸に手を当て、リンカーコアを引きずり出している。 されているなのはも苦しいらしく、苦悶の表情を浮かべていた。
 リンカーコアとは魔力の源、赤い少女の目的は分からないが、はなのはに危機にさらされていると一瞬で理解する。
 ユーノの「なのはが危ない!」を聞いた瞬間、フェイトはブリッジを飛び出して転送装置へと走っていった。 突然のことで呆気にとられたが、いち早く状況を理解したクロノは支持を出す。

「ユーノ、アルフ! 追ってくれ、近くに仲間がいるはずだ!」
「クロノ、あいつを知っているの?」
「ああ、あいつはヴォルケンリッター、ロストロギア、闇の書の騎士の1人だ!」


 真塚家のヴィータから連絡があったのは家族で夕食をとった直後だった。
 相談したいことがあるから来て欲しい、指定された時間と場所は夜中のビル街だった。 それほど他の人間に聞かせたくない話なのだろう。
 もしかしたら、ここ最近男子達の様子がおかしいことにも関係しているのかもしれない。
 和真を除く男子達が放課後に何かをやっているのは気づいていた。 しかしいくら聞いても教えてはくれず、少しばかり仲間はずれにされているような気がしていたのだ。
 なのはに気のあるアルスは口を滑らせそうになったが、他のメンバーが一斉に飛び掛って口を塞いだせいで聞けなかった。 仲のいい和真もメンバーが何をしているかは知らないらしい。
 10月後半から感じていたモヤモヤはどんどん大きくなっている。 その答えを知ることが出来るかもしれない、そう考えて夜中に家族の目を盗んで家を飛び出してきたのだった。
 約束の場所に行く途中でヴィータと出会い、そのまま一緒にビル街までやってきた。 無数に立ち並ぶビルの一つ、その屋上に降り立つとヴィータは周囲に結界を張る。 これで偶然一般人が紛れ込む心配も無くなった。
 少しの間、黙って見詰め合うなのはとヴィータ。 なのはがどう話を切り出そうかと考えていると、ヴィータが突然土下座をした。
 突然のことで慌てるなのはを無視して、ヴィータは話を始める。 八神はやてのためにリンカーコアが必要なこと、ここ最近はやての病状が悪化してきたので今の蒐集では不安になってきたこと、なのはほどの魔力の持ち主ならかなり闇の書のページを稼げること。

「男子達が最近おかしいのも、何かやってるの?」
「あいつらもはやてのために頑張ってくれてるんだ。 本当は魔導師のリンカーコアの方が何倍も効率がいいんだけど、それははやてへの裏切りになるから止めろって言ってくれた。 真っ先に自分達のリンカーコアをくれたし、蒐集を手伝ってくれるおかげで動物だけで何とかなって人間を襲わないで済んでる。 けど、あたしは少しでも早くはやてを直したい」
「フェイトちゃんへのビデオメール、ヴォルケンリッターのみんなのことは話さないでって言ってたけど、そのことに関係してるの?」
「ああ、あたし達が昔人間からリンカーコアを奪っていたのは事実だ。 そのせいで管理局に目をつけられている、けど管理局に見つかったらはやてや真塚家のみんなと離れなくちゃならない。 そんなのいやだ!」

 ヴィータの言葉を聞いて、なのはは少しだけ考えた。
 フェイトの話をしたとき、ヴォルケンリッターは和真の友達ならぜひ会いたいと言った。 しかしフェイトが管理局で裁判を受け、嘱託として働くかもしれないと聞くと態度を一変した。
 自分たちのことは絶対に伝えないでくれと言い張り譲ろうとしない、なのはと和真にも釘を刺してビデオメールにもヴォルケンリッターの存在を思わせる言葉は言わせないようにした。
 新しい友達を紹介できなくて二人は悲しんだが、どうしてもと頼み込むヴォルケンリッター達の願いを無視することもできず、しかたなく彼女達の紹介はしてこなかった。
 ずっと残念に思っていたが、まさかこんな理由があるとは思わなかった。
 それが本当ならヴォルケンリッターは管理局に捕まってしまう。 そうなったら折角できた和真とはやての新しい家族が居なくなってしまう。
 おそらく、今の動物から集めているのもあまりよくないことなのだろう。 自分を仲間はずれにしたのはフェイトとビデオメールで話す機会の多いから、万が一情報が漏れるのを恐れたのだとなのはは考えた。
そして今、はやてのことを心配するヴィータはその危険を冒してでもなのはのリンカーコアを求めてきたのだろう。 1人でやってきたのはきっと他の仲間にも内緒だから、それはなのはが誰にも話さないという信頼をしていることの証明でもある。
 なのはとってもはやては大切な友達だ。 そのはやてが困っているなら、是非とも助けたい。
 自分が少しでもはやてを助けることができるなら……。

「いいよ、ヴィータちゃん」
「ホントか!?」
「はやてちゃんを助けるためなら、私なんだってする! だから私のリンカーコアを取って」

 なのはの言葉に、ヴィータは思わず顔を上げた。
 なのはは優しく微笑んでいる。 まるで、そうすることが当然なように。

「さあ、やって、そしてはやてちゃんを助けて」
「ありがとう、なのは。 少し苦しいけど、治癒魔法かけてしばらく休んだら直るからな」

 感謝の気持ちでいっぱいになったヴィータは思わず涙を流した。
 しかし、すぐに袖で顔を拭いて涙をぬぐう。 本当に泣くのははやてが元気になったときだからだ。
 なのはの胸元に手を当て、蒐集の魔法を発動させる。 ずぶずぶとヴィータの腕がなのはの体に沈んでいく。
 苦悶の表情を浮かべるなのはを見て、少しだけヴィータは考えた。 
 リンカーコアを取ったらしばらく魔法を使えなくなるし、体調不良にもなる。 学校も休まなくてはならないだろう。
 今度、和真と一緒にお見舞いに行こう。
 そんなことを考えて――

「なのはからはなれろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 上空からフェイトがデバイスを振りかぶって突撃してきた。
 慌てて飛びのいて斬撃を回避する。 半ば取り出しかけていたリンカーコアから手が離れ、再びなのはの体内に戻っていった。
 フェイトはなのはとヴィータの間に立ち、バルディッシュを構えて警戒する。 ヴィータもグラーフアイゼンを構える。
 なのはは突然のことに驚いてしりもちをついてしまった。 混乱する頭を整理しきれず、呆然とフェイトの後姿を見上げている。
 そんななのはをチラリと見て、外傷がないことに安心したフェイトは怒りを込めてヴィータを睨み付けた。
 その迫力にヴィータは思わず一歩後ろに下がってしまう。 一瞬でも気を抜いたらフェイトはヴィータに飛び掛るだろう。
 フェイトはヴィータのことを知らないが、ヴィータはフェイトに見覚えがあった。 ヴォルケンリッターのことは秘密にしてもらっているが、和真の友達ということでビデオメールは見させてもらっていたからだ。
 フェイトはジュエルシードの事件で犯罪者となり、減刑の為に嘱託魔導師になるとビデオで言っていた。 つまり……

「管理局の魔導師か!?」
「……友達だ」

 思わずフェイトの後ろにいるなのはの顔を見る。 そして目だけでメッセージを伝えた。
 フェイトを呼んだ。 つまり管理局に連絡したのはお前か?と。
 その意図を察したなのはは必死に首を振ってそれを否定する。 そもそもヴィータがなのはを呼び出したのは今日であり、いくら何でも一日で管理局がやってこれるはずが無い。
 それに気がついたヴィータは思わず苦い顔をした。 いつかは管理局にバレるとは思っていたが、まさかこんな状況で鉢合わせするとは、なんとも運が悪い。
 しかし、運の悪さを嘆いてもいられない。 この状況をどうにかして突破しなくてはならなかった。
 相手は管理局、すぐに援軍が来るだろうから長引くだけ不利になる。
 さらにフェイトは和真の友達だ。 出来ることなら傷つけたくは無いし、下手に戦ってフェイトから和真、さらにはやてに情報が伝わっても拙い。
 こんな魔法を使う犯罪者と戦った→それってもしかして僕の家にいる人たちじゃない?
 そんな会話がされるかと思うと寒気がする。 と、なると取れる手段はただ一つ……逃げることだけである。
 全速力で飛び上がり、振り返らず真っ直ぐ飛び続ける。 向かうは八神家とは反対の方向、フェイトを撒いたところで転移するつもりだった。
 しかし数秒後にはその考えが甘いことを痛感する。 飛行速度はヴィータよりもフェイトの方が数段早いのだ。 逃げられるわけが無い。 すぐに回り込まれてしまった。

「私は時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ。 貴方からは話を聞きたい」
「管理局に話すことなんかねー!」
「警告します。 素直に従ってくれないなら……無理にでも話を聞かせてもらう!」

 サイズフォームのバルディッシュをグラーフアイゼンで受け止める。 動きが速くてシールドを張る暇が無かったのだ。
 そのままつばぜり合いの形で硬直する。 フェイトはパワーが足りないせいで押し切れず、ヴィータは戦うことに迷いがあり全力を出せなかった。
 その硬直もすぐに破られる。 動けないヴィータの隙を突いてアルフが殴りかかってきたからだ。
 このままではやられる!
 そう直感した時、1人の男がアルフを殴り飛ばしてヴィータを守った。 人間形態のザフィーラが駆けつけたのだ。
 続いてシグナムがフェイトとヴィータのつばぜり合いに割り込んで二人を引き離す。
 新たに現れた二人を警戒してフェイトもアルフと合流する。 人数的にはまだ不利だが、それでも1人で3人と戦うなんてマネはしない。
 その3人を見ながら、フェイト話しかけた。

「仲間がいたの?」
「管理局の者よ、我等も戦うつもりは無い、見逃してほしい」
「駄目、貴方達がなのはに何をしようとしたか、場合によっては逮捕させてもらう」
「そちらが不利なのは分かるだろう。 下手に損害が出る前に引くべきだとは思わないか?」
「不利だからって諦めるわけにはいかない。 それに……こっちにも仲間がいる!」
「バインド!」
「しまった!?」

 反応したときにはもう遅い、あっという間に三人はバインドで拘束されてしまった。
 その後でゆっくりとクロノとユーノが現れた。 相手を拘束している状態でもS2Uを構えて油断しない。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。 ヴォルケンリッター、話を聞かせてもらうぞ。 今回の闇の書の主についてもな」
「素直に話をすると思っているのか?」
「思っていない、だがこの状態から逃げられると思わないことだ」

 ヴォルケンリッターが4人全員捕まっては主のはやてを守ることが出来なくなってしまう。 かといって戦闘能力の低いシャマル1人が残った所で満足に蒐集を続けることも出来ない。
 とある事情でヴォルケンリッターのことを知っているクロノは、シャマルが何らかの方法で3人を助けに来ると予想していた。
 その瞬間をアースラで捕捉して確保、もしくは泳がせて闇の書の主を見つけ出す。 これがクロノの立てた作戦だ。
 だから、ヴィータやシグナムが少しだけ微笑んだのはシャマルが行動を起こした合図、同時にヴォルケンリッター達はクロノ達がシャマルの存在を知らないと思い込んでいる。 そう考えた。
 まったく別方向から、クロノの邪魔をする存在がやってきたのはその瞬間だった。

「フォルクスイェーガー、ナックルショット! くらええええええええええ!」
「切り裂け、空破斬!」
「JD、バーストモード、炸裂弾発射!」
「ファントムスラッシュ、切り裂け!」

 どこからともなく現れた4人のトリッパーの一斉攻撃によってヴォルケンリッター達は爆発に包み込まれた。
 全員が唖然とする中、ディスト、鬼道、ジェフリー、蒼牙がビルの上に降り立った。 4人ともバリアジャケットを身に纏い、すでに戦闘体勢を取っている。
 それを見たクロノは頭を抱える。 味方が着てくれたことは嬉しいが、タイミングが問題だった。 このままなら勝利できたのに、逆に状況がややこしくなってしまった。
 トリッパー達の攻撃によって発生した煙がはれると、そこから現れたのはバインドの解けたヴォルケンリッターの姿だった。 多少ダメージを受けたようだが、行動に問題が無い程度だ。

「助けに来たぞ、クロノ!」
「ああ、来てくれたのは嬉しいが……タイミングが悪すぎる! 君達の攻撃でバインドが解けたぞ!」
「悪いな、そのかわりあいつらを捕まえるのを手伝う!」

 トリッパーも戦いに加わり、数の上ではクロノたちが圧倒的に有利になった。 なにせ3対8、2倍以上の差があるのだから一対一では負け無しのベルカの騎士とて負ける要素は無いように思える。

 しかもクロノ側だって一人一人が並みの魔導師以上の戦闘能力を持っているのだから、クロノも最初はすぐに再び確保できると考えていた。
 だが、事態はクロノが予想していた以上に戦いは混沌となっていくことになる。

「フォトンランサー、シュー……ああ、射線に入らないで!」
「バインド! って相手を吹き飛ばすような攻撃しないで! こっちの攻撃が外れちゃうから!」
「こら、ガキども! あたしがいるのに攻撃するな! 当たるところだったじゃないか!」
「君達は……手伝うのか邪魔するのかハッキリしろ!」

 クロノ達の増援に来たはずのトリッパー達は、ハッキリ言って彼らの邪魔をしていた。
 射撃魔法を撃つときに射線に入る。 相手を吹き飛ばして攻撃に当たるのを避けさせる。 接近戦を仕掛けようとしているところに射撃魔法を撃って無理やり引き離す。
 連携が最悪などというレベルではない。 お互いがお互いを邪魔して10の力が6から7くらいにしかなっていなかった。 それもそのはず、トリッパー達は実際にクロノ達の邪魔をするつもりで行動しているからだ。
 今日、この日にヴィータがいなくなったことでトリッパー達は嫌な予感を感じていた。 その予感は見事に当たり、フェイトに追われているヴィータを発見したのだが、どうやって助けるかが問題になった。
 トリッパーとヴォルケンリッターが組んでいることがバレるのはマズイ。 かといってヴィータがこのまま捕まるのもマズイ。 そこで取った方法は、トリッパー達が管理局側にもぐりこんでヴォルケンリッターの手伝いをすることだった。
 トリッパーとヴォルケンリッターは半年近い付き合いもあり、互いの実力は良く知っている。 組んでいるとばれない程度に本気で戦うことも可能であり、クロノの目を騙すことも可能だと考えたのだ。
 ところが、そんな事情を知らない者が戦っている管理局メンバーの他に、離れた場所にもう1人いた。 ヴィータにリンカーコアを渡す途中でフェイトが乱入してきて、そのまま戦いを止めるタイミングを逃してしまったなのはである。
 なのはは自分が何をすべきかを、頭をフル回転させて必死に考えた。
 クロノやフェイトに加勢すればヴォルケンリッターと戦うことになってしまう。 ヴォルケンリッターに加勢すれば知り合いだとばれてしまい、はやてが管理局に目をつけられてしまう。
 どちらにも加勢せずにこの戦いを終わらせる方法、友人達が戦っていているせいで多少混乱しているなのはは、一つの決断を下す。
 何か派手なことをすれば、皆の注意を引いてヴォルケンリッターは逃げることが出来るのではないか?

「レイジングハート、いくよ!」
『Ok,10…9…8…』

 レイジングハートを構えて魔力を貯める。 遠くで友人達の戦う音が聞こえ、近くでカウントダウンが聞こえる。
 なのはの最強の魔法、スターライトブレイカーを改良して更に威力を高めた必殺技。 ため時間もさらに長くなったが、誰も邪魔することの無い今の状況なら余裕を持って準備ができる。
 この魔法で結界を吹き飛ばすと同時にアースラの注目をこちらに集めることが出来ると考えたのだ。

『6…5…4』

 レイジングハートを握る手に汗がにじむ。 自分が緊張して、心臓が激しく鼓動しているのが分かった。
 友人の何人かがこちらに気がついた。 自分が何をしようとしているかを理解したらしい。
 カウントダウンが終了するタイミングに合わせて少しだけ息を吸い込む。 少しだけ目を閉じて、これからのことを考える。
 管理局とヴォルケンリッターは戦ってしまった。 これからアースラに協力するにしても、ヴォルケンリッターに協力するにしても複雑な事情が出来てしまうに違う無い。
 先のことはどうなるか分からない。 でも今、自分に出来ることはこの戦いを少しでも早く終わらせることだけだ。
 なら、それに全力を尽くす!

『2…1…0』
「スターライト!」

 レイジングハートを大きく振りかぶり発射体勢を整える。 ここまできたら、今戦っている全員がなのはの攻撃準備に気がついた。
 これで皆の注目を集めることに成功した。 後は派手な魔法を一発放てば混乱が起きて、ヴォルケンリッターは逃げることが可能だろう。
 ヴォルケンリッターを捕まえようとしているアースラメンバーを邪魔することに申し訳なさを感じたが、首を振ってその考えを追い出した。
 もう迷っている時間は無い。 迷うことは止めた。 決断をした。

「ブレイ 「ここまで狂っていたら意味無いかもしれないが、できる限り修正するか」 え?」

 なのはの胸から手が突き出した。
 その光景に、誰もが一瞬動きを止める。 中でもヴォルケンリッターとトリッパーは信じられないものを見るように目を見張った。
 仮面をつけた男がなのはの背後に立ち、背中から腕を突き刺している。 その腕は胸側から飛び出し、なのはのリンカーコアを握り締めていた。
 間違いなく蒐集である。 しかしヴォルケンリッターではない、急いでシャマルに念話をつなぐが、シャマルの方も混乱いる。 当然、彼女も相手が誰だか分かるはずが無い。
 ヴォルケンリッターは第三者の乱入に戸惑った。 クロノ達アースラメンバーはなのはの護衛を怠ったことを後悔した。 そして、トリッパー達はこのタイミングで介入してくる相手の神経が信じられなかった。

「シャマル? 違う、男だと!?」 シグナムが叫ぶ。
「仮面の男……闇の書の主か!」 クロノが歯軋りをする。
「このタイミングで仮面の男、くそっ、早すぎる」 鬼道が顔をしかめる。

 3つのグループが3通りの混乱をする中、一番混乱しているのは蒐集されたなのは自身だった。
 今自分に何が起きているのか? 先ほどのヴィータの蒐集に似ているが、まったく違う部分が一つあった。 痛みだ。
 ヴィータの蒐集も痛かったが、あれはなのはへの気遣が見えた。 できるだけ苦しまないよう、細心の注意を払っているとやられた側でも理解できた。
 しかし、今自分のリンカーコアを引き抜いている男には優しさなど感じられない。 例えるなら、力任せに髪を引っ張られてブチブチと千切られていくような感覚。
 痛い、苦しい、気絶しそうだ。 けど意識を手放すわけには行かない。
 ヴォルケンリッターを逃がすため、どんどん力の抜けていく体に僅かばかりの気合を込めてレイジングハートを握りなおし。 最後の力を振り絞って振り下ろした。

「スター…ライト……ブ…ブレイカー!」
『Starlight breaker』

 桃色の閃光が夜空を貫く。 空気が震える。 視界が光で埋め尽くされる。
 膨大な魔力が辺りを支配し、アースラの観測も一瞬だけ何も見えなくなった。
 その瞬間を逃すヴォルケンリッターではない。 なのはのことは気になるが、今を逃しては撤退するタイミングは無いだろう。
 ヴィータは今にもなのはに向けて飛び出しそうだが、ザフィーラが腕をつかんで半ば無理やりその場から離れる。 なのはの攻撃で魔力反応が滅茶苦茶な今なら追跡も困難なはずだ。
 しかし、逃がすまいとフェイトがシグナムに向かう。 仮面の男をヴォルケンリッターの仲間だと思ったフェイトはその怒りを目の前のシグナムにぶつけたのだ。

「いまだ! ヴィータ、ザフィーラ、引くぞ!」
「させない!」
「くそっ! レヴァンテイン、カートリッジロード! 紫電一閃!」

 少しでも早くこの場を離れたいシグナムは思い切って大技を繰り出した。
 カートリッジを消費して変形したレヴァンテインの刀身が蛇のように唸りフェイトに襲い掛かる。
 とっさにバルディッシュで受け止めようとするが、シグナムの攻撃はフェイトの想像以上だった。 受け止めたバルディッシュは真っ二つになり、飛行魔法を維持できなくなったフェイトは地面に向けて落下していくが、アルフが急いで抱きかかえたおかげで大事には至らなかった。
 破壊したのがデバイスだけで済んだことに安心したシグナムもヴィータとザフィーラに続いて転移する。 なのはや和真の友人をできるだけ傷つけたくないが、これからのことを考えるとそうもいかない。 その表情には暗いものが見えた。

「みんな、よかった……逃げれて……」

 全力を尽くしたなのはは前のめりに地面へ倒れた。 もう指一本動かせない。
 どんどん目の前が暗くなっていく中、何者かが自分の手からレイジングハートを取り上げるのが分かった。
 レイジングハートの音声が必死に何かを言っているが聞こえない。 目線だけを上に向けると、目の前に仮面の男が立っていた。
 男はレイジングハートを持っていた。 先ほど取り上げたのもこの男だと理解した。 しかし、男が何をしようとしているのかは理解できない。
 男は左手でレイジングハートを地面と水平に持ち、右腕を大きく振りかぶった。

「なに……するの?」
「見れば分かるだろう? 力加減は苦手だが、強い分にはかまわないだろう」
「まさか……やめて、やめて」
「途中はどうでもいいが、最後はちゃんとしてもらわないといけない。 期待してるぞ」
「やめてええええええええええええ!」

 男の右腕が勢いよく振り下ろされ、レイジングハートの折れる音が辺りに響き渡った。



[6363] にじゅうなーな
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/07/29 19:51
「さて、君達には各世界の自然保護団体からの苦情のことで色々言いたかったが……残念ながらそんな悠長なことは言えなくなった」

 そう前置きしてクロノは話を始めた。
 アースラ艦長室、異世界の船としては異常すぎる純日本風の室内に16人の人間が集まっていた。
 艦長のリンディ、執務官のクロノ、そして14人のトリッパー達は全員正座をして真面目に話を聞いている。
 日本標準時間ではまだ夜明け前、当然ヴォルケンリッターとの戦いに参加したメンバー以外は寝ていたが、緊急事態ということで念話で目覚まし時計の音を大音量で鳴らして無理やり集合させたのだった。
 そして見せるのはヴォルケンリッターとの戦いの映像、それを見たトリッパーの何人かが険しい表情をしたがクロノはそれに気がつかなかった。

「これは今日深夜に戦った相手、闇の書の騎士、ヴォルケンリッターだ。 君達にはヴォルケンリッター捜索の手伝いをしてほしい」

 一方的なクロノの物言いに不満の声が上がった。
 原作、PT事件は、なのはに対してクロノは手を引くように言い、リンディは一旦帰ってよく考えるように言った。 相手のことを考えるならそれが自然である。
 しかし今回は最初から協力を要請した来た。 しかもその口調は拒否することを許さないといった雰囲気を感じさせる。
 そんな中、刹那が1人手を上げた。 14人を代表して質問をするつもりらしい。 クロノもそれを理解して目線で話すように伝えた。

「一応聞いておくが、拒否権は?」
「もちろんある。 だが相手は強い、なのはは負傷し、フェイトもデバイスを破壊された。 アースラの武装局員では相手にならないだろう」
「そんな相手と戦わせる気なのか?」
「闇の書は危険なロストロギアだ。 放っておけばこの世界が滅びることになる。 どうか手伝って欲しい」

 そう言ってクロノは頭を下げた。
 そこまでされては断ることはできない、メンバーの半数はそれで協力することを決めた。
 しかし残りの半数はまだ迷っている。 アースラに協力するということはヴォルケンリッター相手に戦うということ、それに抵抗があるのだ。
 今回はワザと逃がすことに成功したが、そう何度も使える手ではない。 クロノならすぐに手加減していると気づいてしまうだろう。
 そうなれば、ヴォルケンリッターと本気で戦うことになってしまう。 実力試しという名目で何度か戦ったことはあったが、さすがにこんな状況で戦うのは嫌だった。

「タイム、ちょっと話し合う」
「ああ、よく考えて決めて欲しい」

 刹那の合図で14人はクロノとリンディから離れて円陣を組んだ。 そのまま小声で話し合いを始める。
 クロノはワザワザ後ろを向き、リンディはお茶を飲み始める。 盗み聞きをするつもりは無いようだ。

「で、どうする?」
「どうするって、ヴォルケンリッターと戦うのはいやだぞ」
「まぁ、そうなんだが……かといって今まで通りも無理だぞ。 アースラが来たのは俺達の狩りが原因みたいだし、マークされちまってる」
「逆に考えるんだ。 アースラと行動を共にすることで情報をリークして安全な世界をヴォルケンズに伝えるんだ」
「それがいいか、予定より早く登場した仮面の男も警戒しなくちゃな」

 円陣を解いてクロノを呼ぶ。
 14人が協力することを伝えると、クロノはもう一度深く頭を下げた。
 本気で協力すると信じているクロノを騙すことは気の毒に思ったが、こちらにも事情がある。 すべてが終われば正直に告白しようと全員が思った。
 しばらく頭を下げていたクロノだが、顔を上げると同時に鋭い目つきになる。 先ほどまではクロノ個人として頭を下げたが、今はもう時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだった。
 その迫力に驚いてしまうトリッパー達、立ち上がったクロノはS2Uを起動してその先を14人に向けた。

「そうと決まれば連携訓練だ。 本局の訓練施設を予約しておいた。 今回みたいなみっともない戦い方は許さないぞ!」
「戦ったメンバーは寝てないんだけどなぁ……」
「男だけか……なのはもフェイトも今は戦えないからなぁ、華が無いぜ」

 トリッパー達が溜息をつく中、クロノは更なる気合を入れて事件解決を決意したのだった。




 12月になって寒くなってきました。 冬は好きです。 お布団が夏の10倍くらい気持ちよく感じることができるからです。
 でもお布団から出たらあんまり好きじゃなくなります。 ぶるぶる震えてしまいます。 シロを抱えると温かいですが、学校に持っていったら教頭先生に怒られました。
 ペットを連れてきちゃいけませんって言われました。 変わりにマナミ先生が使い捨てのカイロをくれました。 カイロは持ってきていいらしいから、お父さんにいっぱい買ってもらいました。
 温かくしないと風邪をひいちゃいます。 僕は大丈夫ですが、なのはが風邪をひいたらしいです。 なんか調子が悪そうでした。 いつも持ってるレイジングハートも持っていません。
ヴォルケンリッターのみんなも調子が悪いみたいです。 なんだか上の空って言うか、悩んでるって言うか、相談して欲しいです。
 それにはやても、時々苦しそうにします。 病院で見てもらっても元気になりません。 お医者さんじゃない僕は何もできないのが、とっても悲しいです。
 けど、嬉しいこともあります。 フェイトが地球に来たのです。 しかも地球に住むらしいです。
 あんまり嬉しいから会いに行くことにしました。 ビデオメールでしかフェイトを見ていないアリサとすずかも一緒です。 二人ともフェイトに会うのが楽しみみたいです。
 待ち合わせの場所に行くと、フェイトが小さい犬を連れて待っていました。 どこかで見たことあるような、無いような……

「アンタどこかで見たのよねぇ……」
「シロと仲良しだし……あれ? この首輪シロの? もしかしてアルフさん?」
「アルフって言うのね。 でも何で犬にさんを付けてるのよ?」

 アルフさんは大きな声で 「わん!」 って言いました。 喋れることや人間になれることは秘密みたいです。
 アルフさんはシロとお話を始めました。 人間のときはアルフさんの言ってることが分かるから、何となく何を話しているか分かったけど、今回は完全に犬語なので全然分かりません。
 でも何か楽しいことを話しているのは分かりました。 半年振りに会ったのだから、きっと話したいことがいっぱいあるんだと思います。
 僕もフェイトとお話したいです。 フェイトと分かれてからの半年、ビデオメールのやり取りはしてましたが、やっぱり直接お話したかったです。
 何を話そうかな? いっぱい話したいことがあって迷っちゃいます。

「えっとね、はやての誕生日にね、ヴォル 「和真君だめ!」 ムグムグ」
「何やってるの? 和真が苦しそうだけど」
「あはは、なんでもないの」

 なのはに口を塞がれてしまいました。 そういえば、ヴォルケンリッターのことは秘密なんでした。 あんまり嬉しかったんで忘れてしまいました。
 でも、友達なんだから近いうちに会うと思いますが、それでも紹介したらいけないんでしょうか? チラリとなのはをみると、ブンブンと首を横に振りました。 駄目みたいです。
 フェイトならヴォルケンリッターの皆とも仲良くできると重いのに……。 とっても真面目なシグナムさんなんかフェイトと気が合うと思います。
 クリスマスまでには紹介したいなと思いながら、この日はいっぱいおしゃべりをして過ごしました。

「みなさん、今日は新しい友達がクラスに加わります」
「フェイト・テスタロッサです。 地きゅ……じゃなかった。 海鳴にはホームステイで来ました。 よろしくお願いします」
「ヒャッホオオオオオオオオオオオオウ!」
「キタ――――――――――――!」
「うるさいわよ男子達!」

 あれから数日後、ついにフェイトが転校して来ました。
 フェイトが自己紹介すると同時に、みんな大喜びしました。 みんなもフェイトと一緒の学校が楽しみだったんだと思います。
 みんなが一斉にフェイトと話をしようとしますが、教頭先生が教室の近くを通ったのは見えたのでみんな静かになりました。 もうすぐ朝のHRも終わるので、そうなったら教頭先生に怒られちゃいます。
 変わりにお昼休みに話をすることになりました。 それが楽しみなせいか、みんな授業を聞いていません。 そわそわしてます。
 午前の授業の終わりを告げるチャイムがなった瞬間、男子は席を立って駆け出しました。 ちょっとフェイトが驚いてます。 少し女子達の目つきが冷ややかです。
 僕はお弁当を持ってなのはの席に行きました。 お昼はいつも一緒に食べてます。 なのはは少し困った顔をしてました。 なのはもフェイトと話をしたいけど、みんなが集まっているところに入ることができないで困ってます。
 そんななのはの様子に気がついたアリサが男子達の集団の中にもぐりこんで行き、フェイトの手を引っ張って出てきました。 それに気がついたみんなが騒ぎ出します。
 でもアリサは男子達を睨み付けて叫びました。

「アンタ達は以前に会ったらしいけど、私やすずかはビデオでしか見てないんだから、今日くらい譲りなさい!」

 そう言われると、みんな納得してそれぞれの席に戻りました。 アリサに譲ってくれました。 みんな優しいです。
 僕も席に戻ろうとしたら、アリサに引き止められました。 僕はいいらしいです。 みんなの方を見ると、「遠慮するな」って天崎君が言ってくれました。
 お礼を言おうとしたけど、その前にアリサに引っ張られました。 天崎君は少し笑いながら自分のお弁当を食べ始めます。 僕達もお弁当を広げて話を始めます。
 そのうち、話題が携帯電話のことになりました。 すずかが買い換える予定らしく、カタログを持って来てたので5人で見ることにしました。

「フェイトちゃんも持ってた方がいいよ、メールとか音楽とか楽しいし」
「でも、いっぱいあってどれを選んだらいいか……和真も持ってるの?」
「もってるよ、えっとねぇ……これ!」
「こいつの携帯は参考にしない方がいいわよ、子供用の決められた番号にしか繋がらないやつだし」
「和真君も買い換えたら? 私はこっちのにするつもり、音楽もいっぱい入れれるし」
「音楽……サムライガーもあるかな?」

 それからしばらくの間、学校に行くのが楽しみでした。 みんな揃っている学校、フェイトも仲間に加わって体育で競争したりテストの点数くらべをしたり、すごく楽しかったです。
 でも、学校が終わると寂しくなります。 12月に入ってから、みんなと放課後に遊ぶことがなくなりました。 なのはとフェイトも忙しいし、ヴォルケンリッターも家にいないことが多いです。
 しょうがないから、シロと散歩をしたり、はやてと遊んだり、アリサやすずかの家に行ったりして過ごしました。 でも、やっぱりみんなと一緒の方が楽しいです。
 もうすぐクリスマス、クリスマスならきっとみんな時間があると思います。 そこでパーティーをアリサ、すずかと一緒に企画しました。 みんなで集まって、プレゼントの交換をして、おっきいケーキを食べて――
 その時にヴォルケンリッターもフェイトに紹介します。 ずっと秘密にしてたけど、もう我慢できません。 ぜったいに紹介します。 もう決めました。
 そうと決まれば準備です。 みんなにそのことを伝えて、アリサ、すずかと一緒に翠屋に行きました。 はやての誕生日の時と同じようにみんなでケーキを作ります。 今度はフェイトやクロノやリンディさん、エイミィさんも呼ぶので前より大きいケーキを作らないといけません。
 でも、今回はなのはが手伝えません。 アースラのお仕事を手伝っているからです。 その代わりはやてが一緒に作ってくれます。 はやてはよく僕と一緒にお母さんの手伝いをしているので、料理は得意です。
 一緒に買い物したり、プレゼントを考えたり、折り紙を切って飾りを作ったり、クリスマスの楽しみがどんどん増えてきます。 きっと楽しいパーティーになるはずです。
 はやてが倒れて、入院したのはそんな時でした。
 何度お見舞いに行っても元気にならず、クリスマス・イブになってしまいました。

「あはは、ごめんなぁ、こんな時に調子悪くなって。 これじゃ明日のパーティーにでれんなぁ、私の分まで楽しんできて」

 はやては明るく話すけど、僕は心配です。
 お医者さんは原因不明だって言ってました。 ヴォルケンリッターの皆は時間が無いって言ってました。
 僕は何ができるのか考えて、はやてに元気になってもらう秘策をリックサックに入れて来ました。 背負っているリュックサックを下ろして、口を開きます。
 何が出るのか気になったはやては身を乗り出してリュックサックの中を覗き込みました。

「わん!」
「わあぁ、シロ! ごめんなぁ、入院してたせいで遊べんで」
「くぅ~ん」

 本当ははやてが入院した初日にシロを連れてくるつもりでした。 けど看護婦さんに「病院に犬を連れてきてはいけません」って言われてしまいました。
 でも、どうしてもはやてにシロを会わせてあげたいから、こうして隠して連れてきたのです。 喜んでくれてよかったです。 頑張って隠してきたかいがありました。
 しばらく看護婦さんに隠れてシロと遊んでいたはやてですが、ふと何かを思い出して話を始めました。

「そういえば、和真が来る前になのはちゃんとフェイトちゃん、ヴォルケンリッターの皆が見舞いに来てな? なんか顔あわせた瞬間――」

 はやてが消えました。
 本当です、光に包まれたかと思うとベッドの上からいなくなってました。 部屋の中を見回しても、廊下にでてもいません。
 似たようなのを見たことがあります。 転移魔法ってやつです。 きっとはやては魔法でどこか別の場所に移動したんだと思います。
 けど、それじゃあ何処に移動したかわかりません。 ヴォルケンリッターや友達のみんななら分かるかもしれませんが、僕は魔法が使えません。
 どうしようか悩んでいると、突然シロが走り出しました。 きっとシロははやてが何処にいるか分かるんだと思います。 いそいで僕も走ります。
 たどり着いたのは屋上でした。 きっとここにはやてはいるんだと思います。 すこし怖いけど、扉を開けて屋上にでます。
 そこにいたのは、はやてとなのは、フェイト、それに……なのはとフェイトに胸を貫かれて消えていくヴォルケンリッターの皆でした。

「和真!? あかん! 来たらあかん! 逃げて!」

 はやてが叫んでいるけど、僕ははやてに駆け寄りました。 はやては歩けないので、僕が助けないといけません。
 頑張ってはやてを背負って、必死に出口を目指します。 けど、なのはとフェイトが先を塞ぐ方が早かったです。

「和真も災難だね、家族が闇の書の主になっちゃうなんて」
「そのせいで死んじゃうんだから、はやてちゃんは酷い子なの」
「目的は私やろ! 和真は関係ない! 和真、私を置いて逃げて!」

 なのはとフェイトが酷いことを言ってます。 とっても悲しいです。
 でもおかしいです。 二人ともいい子だって、僕は知ってます。 こんなことを言う子じゃないって、長い付き合いで分かってます。

「だれだ! お前たち誰だ!」
「何言ってるの? 和真君、なのはだよ?」
「ちがう! なのはもフェイトも友達だ。 こんなことしない、そんな酷いこと言わない、そんな怖い目じゃない! お前たちニセモノだ!」
「うるさいな、だったら「ガルルルルルル! ウォーン!」犬! しまった!?」

 シロが僕たちの前に来て、なのはとフェイトのニセモノに向かって吼えました。
 すると二人の姿が崩れて、知らない女の人が現れました。 きっと変装していたんです。 これで二人がニセモノだってハッキリしました。
 背中のはやてが拳を握っているのが分かりました。 怒っています。 僕も怒ってます。 友達を真似て騙すなんて許せません。
 女の人たちは少しだけ顔をしかめました。 でも、すぐに薄ら笑いを浮かべました。 気持ち悪いです。 何かたくらんでいます。

「やっぱり、犬は油断ならなかったね。 でも、それならもう一つの策を使うだけだよ」
「アル坊が手伝ってくれたおかげで何とか全員捕まえることができたんだ。 折角だから有効活用しないと」

 片方の女の人が手を上げると、空中に不思議な物が出てきました。 全部で16個、中に人影が見えます。
 中にいるのは……本物のなのはとフェイト、それにクラスメイト達です。 みんな閉じ込められてます。 
 みんな必死に壁を叩いたり、叫んだりしているけど外に出られそうにありません。 なんとかしたいけど、僕は見ているだけしかできませんでした。
 そんな僕を見てニヤリと笑った女の人は、開いていた手のひらをゆっくりと閉じます。 すると、皆を閉じ込めているものに電気みたいなのが流れました。
 みんな苦しんでいます。 きっととても痛いんです。 悲しいです、悔しいです、このひとはどうしてこんな酷いことができるんでしょうか?

「やめて、みんなに酷いことしないで!」
「家族だけじゃなく友達まで、あんたらどんだけ酷いことしたら気が済むん!」

 僕とはやてがいくら叫んでも、女の人は聞いてくれません。
 少し困った表情をした女の人は、もう片方の女の人と話を始めました。

「あんまり効果がないね、どうしようか?」
「ヴォルケンリッターを消した直後に私達がニセモノだってばれたからね、それに比べたらインパクトは少ないし」
「あ、アル坊から念話だ。 へぇ……もう1人家族を、ねぇ」

 女の人が怖いかをして近づいてきます。 なんとかはやてを守ろうとしますが、もう1人の女の人が無理やりはやてを引き剥がしました。
 はやてに駆け寄ろうとしますが、担ぎ上げられてしまいました。 動けません。 はやてを助けなきゃいけないのに……
 見ると、シロがはやてを守ってくれてます。 シロがはやての前にいるおかげでもう1人の女の人ははやてに酷いことできないみたいです。
 よかった、シロがいるならはやては大丈夫です。 後は何とかしてみんなを助けないと、って思っていると、僕を抱えた女の人は空に飛び上がりました。
 高いです。 怖いです。 屋上からさらに20メートルくらいあります。
 はやてが青い顔になりました。 僕もこれから何をされるのか分かりました。
 この女の人は、僕をここから落とす気です。

「そんな、そんなことしたら、和真が死んでまう。 だめや、そんなの絶対だめや……」
「恨むんなら、闇の書の主になった自分を恨むんだね」
「お願い、私にできることなら何でもする。 だから、和真を助けて」
「だったら自分で助ければいいじゃないか、できればの話だけど」

 僕を掴んでいた女の人が手を離しました。
 僕はまっさかさまに、コンクリートでできた屋上に向けて落下して――




「お願い! だれでもええ! 和真を、友達を、みんなを助けて! こんな酷い世界もう嫌や!」



『かしこまりました。 主』





 気がつくと、家のベッドで寝てました。
 あれ? 病院にいたはずだけど……それに皆は?



[6363] にじゅーはっち
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/08/06 23:04
「グレアム提督、あなたは闇の書の転生先を独自に調べ、監視していましたね? 管理局に報告せず、わざと覚醒させ、自分達の手で封印するために」

 時空管理局本局の一室、クロノの言葉を聞いたギル・グレアムは静かに眼を閉じた。 いったい何を考えているのか? クロノには分からない。
 真塚和真が空中から落とされ病院の屋上に墜落する瞬間、闇の書は完全に覚醒した。
 闇の書の管制人格は病院屋上にいた八神はやて、真塚和真、さらに14人の少年を飲み込んで周囲に無差別攻撃を開始したのだ。
 ギリギリのところで難を逃れたなのはとフェイトが足止めをしているが、果たしてどの程度持つか分からない。 そうでなくても改変された闇の書は世界を滅ぼす、本来ならクロノも加勢するべきだが、一時的にアースラに任せている。
 クロノにはどうしてもやっておかなくてはならないことがあった。 今回の事件の全貌を明らかにすることこそが、時空管理局執務官たるクロノの使命でもあるからだ。
 そして、リーゼ姉妹を捕らえ、仮面の男の裏にいる存在に気がついたクロノは真実を明らかにするため時空管理局提督ギル・グレアムと話をしに来たのだった。

「君は……トリッパーという存在を知っているか?」
「いえ、何ですか? それは」

 闇の書についての話が始まるとばかり思っていたクロノは思わず聞き返した。
 トリッパー、恐らく旅行などを表すtripにerをつけてtripperなのだろうが、それに一致する単語は思い浮かばない。 何かの固有名詞だろうか? だとしたら知らなくてもしょうがないのかもしれない。
 このような状況でグレアムが話題に出すのだから、今回の事件に関係があるのだろう。 そう考えて、クロノは話の続きを聞くことにした。

「しばしば人生を物語に例えることがあるが、物語なら読者がいるはずだ。 読者の視点から物語の内側、登場人物へとトリップした者のことをトリッパーと言う……らしい」
「ばからしい。 だとすれば、そのトリッパーは物語の内容、つまり未来を知っていることになる」
「そう、知っていたのだよ。 アルバートは」

 その名前を聞いた瞬間、クロノは眉をひそめた。
 父であるクライド・ハラオウンを11年前の闇の書事件で失ってから、クロノとリンディはずいぶんとグレアムの世話になってきた。 当然、ギル・グレアムの孫であるアルバート・グレアムとも面識があるし、それなりに長い間付き合ってきた。
 しかし、今のクロノの態度は明らかにアルバートを嫌っている。 何事にも冷静に接しようとするクロノにしては珍しい反応だった。
 それに気がついたリーゼ姉妹も機嫌を悪くする。 彼女達はクロノとアルバートの仲が良くないことを知っていたが、あからさまに嫌悪感を示されるのはいい気分でなかった。

「あくまで、物語として重要な部分しか覚えていないらしいが、あの子は11年前の闇の書事件を、クライド君の死を予言していた。 しかし当時の私はそれを子供の戯言として取り合わず、結果として彼を見殺しにしてしまった」
「過去のことを言っても仕方がありません。 アルバートは今回の事件についてなんと言ったんですか?」
「闇の書の復活、そして第97管理外世界の滅亡。 それを聞いたとき、私の中の迷いは消えたよ。 何としても闇の書は封印しなければならない、たとえ一つの家庭の幸せを消し去ろうとも! そのためにどんな汚いこともして、後戻りのできないところまで来たのだ!」
「貴方と面会した人間の何人かが行方不明になっていますね? やはり彼らは……」
「彼らもまた、トリッパーと呼ばれる人間だったよ。 話の内容はいつも同じだった。 八神はやてから手を引け、闇の書は大丈夫だ、解決方法は他にもある。 しかしどの様にするのかと聞けば、具体的な方法を答えられるものはいなかった。 唯一の具体的なプランがアルバートの考えた闇の書の主ごとの凍結封印だったのだ。 そして、それは私の考えた計画と見事に一致していた。 計画の邪魔になると判断した者達は……消えてもらった」

 クロノはグレアムの話を聞きながら拳を強く握り締めた。
 グレアムのしたことは許されるものではない。 しかるべき対処をし、裁かれなければならない。
 しかし、その前にどうしてもグレアムへ言いたいことがあった。
 グレアムのしている大きな勘違い、アルバート・グレアムは決して彼らの仲間では無いということを教えなければならない。

「私はどのような罰でも受け入れるつもりだ。 しかし闇の書は必ず封印する。 そのために、アルバートは地球に向かったのだからな」
「年を取ってもうろくしたか、それとも孫煩悩で冷静な判断ができなくなったか? ギル・グレアム!」
「クロスケ! あんた!」
「いくら何でも、お父様の悪口は許さないよ!」

 グレアムの悪口を言われ、クロノに向けて飛び掛ろうとするリーゼ姉妹を、悪口を言われたグレアム自身が手で制した。
 クロノの話には続きがある、そのことを理解しているから、先を促して話を聞こうとしたのだ。

「アルバートは特殊な本型のデバイスを持っていましたね? 名前は確か……厨二の書。 何でそんな名前にしたのかは分かりませんが、以前彼はあのデバイスは古代ベルカのユニゾンデバイス、夜天の書のデータを元にして自分の趣味に合うように改造した物だと自慢していました」
「ああ、夜天の書のデータは正式稼動前の無限書庫を探検したときに見つけたらしいな。 そこから1人でデバイスを作り上げるとは、あの子は自分のことをチートと言っていた」
「チートか、あいつに相応しい言葉だ。 では闇の書は過去、悪意のある者に改変されて世界を滅ぼすロストロギアとなったことは?」
「……初耳だ」
「でしょうね。 このことはつい先日、僕の知り合いが無限書庫から情報を見つけました。 そして闇の書が改変される前の名前は……夜天の書」

 見た目は冷静を装っているが、グレアムの内面はかなりの動揺をしていることがクロノには分かった。 リーゼ姉妹は動揺を隠すことができずに驚愕の表情を浮かべている。
 その様子をみてクロノは歯軋りをした。 半ば予想していたことだが、実際にそうだと分かると悔しさが押さえきれなくなる。
 すべては、アルバート・グレアムの手の上で起きていることだと認識してしまったからだ。

「彼は闇の書についての重要な情報があるにも関わらず、貴方達に黙っていた。 彼こそが、他の解決方法を行える唯一の人間だったのにしなかった。 それに、トリッパーが未来の知識を持っているなら、当然貴方の考えも分かっているはずだ」
「なんだと!?」
「こうなると闇の書の影響で第97管理外世界が滅びるという未来の物語も怪しい。 本当の物語がどのような物なのかは分からないが、対処できるはずの闇の書を放置し、貴方の思考を巧みに誘導したんだ。 まともなことを考えているはずが無い」
「そんな……そんなはずが……」

 グレアムは、それ以上何も喋らなかった。
 力なくうなだれた姿は、まるで世捨て人のようにも、生きる希望を無くしたようにも見える。
 一番信頼していた自分の孫に裏切られたのだ。 そのショックは計り知れないだろう。 リーゼ姉妹が必死に呼びかけるが返事をしない。 生気の無い姿とはこのことを言うのだろう。
 この先、ギル・グレアムが元に戻るか、それともずっとこのままでいるかは分からない。 しかし、クロノにはやることがあった。 グレアムに背を向けて部屋を出て行く。
 向かうは本局の転送装置、行き先はアースラ。
 この世界が物語だろうと関係ない。 読者がいるなら見せ付けてやる。
 ハッピーエンドを迎えるために、クロノは地球で戦う仲間たちのもとへと急いだ。




「先生……この街、どうしたんでしょうか?」
「誰もいないなんて、絶対おかしいです」
「……大丈夫です。 二人とも、先生から離れないで、手を握ってて」

 右手をアリサと、左手をすずかとつないだマナミは震える足に無理やり気合を入れて歩き出した。
 大好きな祖母と一緒に過ごすクリスマス・イブ、主役はやっぱりケーキだろうと思い買いに出た。 この街で一番美味しいケーキを買える翠屋に行く途中、アリサ、すずかと偶然合流した。
 そこまでは良かったのだ。 担当する生徒と世間話をしながらの道のりはとても楽しかった。 しかし、その楽しみは突然消えてしまう。
 突然、街中からすべての人間が消えてしまった。 人間だけでない、まったくの無音となった街はすべての生命が消えてしまったようにも感じられる。
 世界中で、人間は自分達だけではないか?
 そんな恐怖を感じるが、マナミはそれを顔に出さなかった。 今、自分の両手に守るべき生徒がいるという事実が、恐怖を体から追い出して体を動かしていた。
 目指すは学校、この街で何が起きているかは分からないが、学校は災害時の避難場所に指定されていることをマナミは覚えていた。 もしかしたらみんなそこに集まっているのかも知れないと考え、三人で移動を開始したのだった。

「先生、あれは?」

 その時、すずかが何かを見つけて指をさした。 つられてマナミとアリサもその方向を見る。
 その指は空に向いていた。 その先にはありえないものがあった。 人間が空中に浮いているという光景に思わず3人とも足を止めてしまった。
 その空中にいる人間が腕を天に向けると、よく分からない光の玉が生まれた。 その玉はどんどん大きくなり、ついには十数メートルもの大きさになった。
 アレは、良くないものだ。 直感でそう感じたマナミは思わず叫ぶ。

「二人とも、走って! できるだけ遠くに逃げて!」
「は、はい!」
「スターライトブラスター」

 声など聞こえないほど遠くにいるはずなのに、空中の女性の言った言葉はハッキリと分かった。
 そして光弾が発射され、周囲に光が満ち溢れる。
 3人は必死に走るが、アリサとすずかは所詮子供の足、光が迫ってくるスピードの方がはるかに速い。 さらに、アリサが途中でこけてしまう。
 すずかは思わずアリサに駆け寄った。 マナミはアリサを抱きかかえようとして、間に合わないことを悟った。 二人に覆いかぶさって、すべてを飲み込む光から少しでも守ろうとする。
 しかし衝撃はいつまでたっても来なかった。 光の奔流が押し寄せてきているのは分かるが、それが3人の前で何かに防がれているのだ。
 顔を上げると、見慣れた小さな姿があった。 その人物が手を前に出すと、まるで海を割るモーゼのように光の奔流が左右に分かれ、3人を避けて後ろへ流れた。

「おばあ……ちゃん?」

 家で留守番をしているはずの祖母が3人も守っている。 しばらく呆然と眺めていたが、有葉はニッコリと微笑み、その姿を消した。 辺りを見回すが、影も形も見当たらない。
 不思議に思っていると、空からなのはとフェイトが降りてきた。 二人はマナミの前に着陸すると、涙目になりながらマナミに抱きついた。

「先生、よかった……。 もう駄目かと思ったの」
「間に合わなくて、先生が死んじゃうかも知れないって思って、本当に、本当によかった」
「高町さん? テスタロッサさん? いったい……」

 マナミに守られていたアリサとすずかも、光が止まったことに気がついて顔を上げる。 そしてなのはとフェイトの姿を見て驚いた。
 何故この無人の街にこの二人がいるのか? 持っている杖やその格好は何なのか? 今起きたことは? 何故空から?
 聞きたいことはいっぱいあった。 それが5月に起きたなのはの秘密に関係していることも直感で理解できた。
 そして、もう尋ねずにいることはできなかった。

「いったい、何が起きてるの? なんで二人とも……」
「それは……後で絶対話すから、いまは……ごめん。 リンディさん、先生達をお願いします」
「……分かったわ、絶対説明してもらうからね」
「高町さん、テスタロッサさん……」

 アリサ、すずかと順番に転送されるなか、マナミがなのはに声をかけた。 しかし、そこで言葉に詰まってしまう。 声をかけたはいいが、何を言うか考えていなかったのだ。
 少しだけ考えた結果、マナミは笑顔でこう言った。

「クリスマスパーティー、先生も参加しちゃいます。 一緒に楽しみましょう」

 一緒に楽しむ、つまり、なのはとフェイトも加わってということだ。 そこには、二人に無事に帰ってきて欲しいという気持ちが込められていた。
 しっかりとうなずく二人を見ながら、マナミも転送されてその場から消える。 それを確認して、なのはとフェイトは空中の女性、闇の書の管制人格へと向き直った。
 一緒に、だったら帰るのはなのはとフェイトだけではない。 和真も、はやても、ヴォルケンリッターも、クラスメイトの男子達も一緒でなければ意味が無い。
 空中に飛び上がって相手と同じ高さまで来ると、管制人格は再び攻撃の準備を始めた。 二人もそれを迎え撃つために身構える。

「空破斬」

 管制人格が感情を込めない声でそう言いながら手刀を振るうと、その軌跡に沿って魔力の刃が生まれ、フェイトに向けて発射される。
 本来は鬼道の技だが、14人のトリッパーのリンカーコアを手に入れた闇の書は彼らの魔法を自在に使いこなすことができる。 リンカーコアを提供したトリッパー達が忘れていた、最大の誤算だった。
 自分達の魔法が、まさかなのはたちを苦しめるとは考えていなかったのだ。 しかし、当の本人達は闇の書に取り込まれていてそのことを知ることはできない。
 ハーケンフォームで空破斬を叩き落しながら接近するフェイト、射撃魔法で援護するなのは、いいコンビネーションだがトリッパー達の魔法には癖の強いものも多い。

「ファントムスラッシュ」

 ブーメラン状の魔力の刃が発射され、フェイトに向けて真っ直ぐ飛んでいく。 それを余裕で避けたフェイトはそのまま管制人格にバルディッシュで切りかかる。

「これで!」
「フェイトちゃん、危ない!」
「ファントムブーメラン」

 ファントムスラッシュが途中で反転し、フェイトの後方から襲い掛かった。 突然の真後ろからの攻撃に反応できず、直撃してしまう。
 バランスを崩すフェイトの懐に潜りこんだ管制人格はフェイトの喉元を掴み、右腕一本でフェイトの体を持ち上げた。 フェイトは管制人格の体を蹴って脱出しようとするが、管制人格の握力は強く、引き剥がすことができない。
 なのはがディバインバスターで攻撃するが、空いている左腕でシールドを発生させて防ぐ。 さらにフェイトを掴んでいる右腕に魔力をためた。

「エナジーコレダー」
「くっ、あああああああああああ」

 フェイトの体を目に見えるほどの電流が駆け巡り、苦痛を与える。
 ファントムスラッシュは蒼牙の魔法、エナジーコレダーはディストの魔法である。 二人ともフェイト好きだというのに、彼らの魔法がフェイトを苦しめるとは、なんとも皮肉なことだった。
 ぐったりとしたフェイトから手を離した管制人格は、その場で半回転してフェイトの腹部に足の裏を当てる。 いわゆる、後ろ回し蹴りの体勢だった。
 しかし、この状況で繰り出されるのが普通の後ろ回し蹴りであるはずが無い。 それは管制人格の足に発生した魔力でも分かる。

「烈火キック」

 フェイトの体が吹き飛ばされる。
 猛スピードで空中を移動し、このままではビルに激突するという時、アルフが受け止めて難を逃れた。 さらに、すぐにユーノが治癒魔法をかけてフェイトを回復させる。
 まるで14人と同時に戦っているような感覚に、皆苦しさを感じていた。 このまま不利な状況が続き、最終的に時間切れになってしまうのではないかという恐怖が辺りを包み込む。
 クロノがグレアムの所から戻ってきたのは、そんな時だった。
意気消沈しているのを見てため息をつき、顔を上げて管制人格をにらみつける。

「悪いが、彼らには自然保護の件での説教がまだなんだ。 八神はやてにも聞きたいことがあるし、真塚和真にいたっては一般人、返してもらうぞ」
「主たちは夢を見ている。 覚めることの無い幸せな夢だ」
「だが夢は夢だ。 夢は覚めなくてはならない」
「しかし、主は目覚めることを望んでいない。 主はこの世界を否定し、友人達が傷つかない世界を望んだ。 私は主の否定したこの世界を滅ぼす」
「そんなの……そんなの間違ってる!」

 黙ってクロノと管制人格の話を聞いていたなのはが叫んだ。
 目に再び闘志を燃やし、レイジングハートを強く握り締め、譲れない意思を持って一歩前に出る。
 そして、闇の書の管制人格に向けて、大声で叫んだ。

「はやてちゃん、聞こえる? 世界はこんなはずじゃないことばかり、苦しいことも、悲しいことも、辛いことも、いっぱいあるよ。 でもね、楽しいことも、嬉しいこともいっぱいある! 友達がいれば、苦しい時に支えあえる。 嬉しいときに分け合える。 だから……だから、そんなところに引きこもってちゃ駄目だよ! お話を聞いて! はやてちゃん、和真君、みんな!」






 誰かに、呼ばれたような気がしました。
 どこかで、というか絶対に聞いた事のある声です。 でも誰の声か思い出せません。 なんででしょうか?
 悩んでいたらはやてが話しかけてきました。

「どうしたん和真? ボーっとして」
「誰かが呼んだの。 でも誰か思い出せなくて……」
「ん~、私は聞こえんかったし、気のせいとちゃう?」

 気のせい、何でしょうか?
 はやてがそう言っているなら、そうなのかもしれません。 僕以外、その声を聞いた人はいないみたいだし、気のせいなんだと思います。
 そうかも知れないと返事をすると、はやてはお母さんの手伝いをしに台所へ戻りました。
 僕は何をしようかな? 家でお手伝いをしようかな? それとも翠屋に行こうかな?
 ……何で翠屋に行こうと思ったんでしょうか?
 何か約束をしてたような気がします。 皆で翠屋に集まって、何かをしていたような……思い出せません。
 翠屋っていったらケーキが美味しいです。 だから、多分ケーキを作っていたんだと思いますが、何でケーキを作っていたんでしょうか?
 僕たちが集まってケーキを作るのは、何か特別なことがある日の準備だけです。 誰かの誕生日か、他にケーキを食べる日って言えば――

「和真、ゲームしようぜ!」

 考え事をしてたら、ヴィータがゲームを持ってきました。 ごはんができるまで時間があるし、一緒に遊びます。
 この時間にゲームをするのは珍しいです。 いつもは先に宿題を終わらせてから、ご飯を食べた後に一時間だけ遊んでます。 ゲームは一日一時間って誰かが言ってました。
 何で今日はゲームをしているんでしょうか?
 宿題をやらなくちゃいけないのに……宿題は……そういえば無いんでした。 学校がお休みだから、宿題が無いのは当たり前です。
 ……何で学校が休みなんでしょうか?
 日曜じゃないはずだし、祝日だったかな? なんか違う気がします。 ここ2~3日学校に行ってない気がしますから、連休?
 でも今月はそんな連休があったでしょうか? 確か終業式があって……なんで終業式あるんだろう?
 終業式があれば、長い休みになります。 例えば夏休み、あれは一月くらい学校がお休みです。 でも、今は夏休みじゃありません。
 でも夏休みは8月です。 今は冬だから夏休みじゃありません。
 冬にそんな長い休みがあったでしょうか? と、いうか今日は何月何日でしょうか?
 寒いから、11月は過ぎてると思います。 12月? 12月の休みっていったら、にじゅう――何日だっけ?
 確か、壁にカレンダーがかかっていたはずです。 アレを見れば今日が何日か分かります。

「きゃあ! ごめんなさい」
「気をつけろシャマル、そんな盛大にお茶をこぼして、カレンダーがグチャグチャではないか」
「ごめんなさい、今度お使いに出たときに買ってきます」

 カレンダーが見れなくなってしまいました。 しょうがないからヴィータと一緒にゲームをします。
 何をやろうかな~、桃太郎電鉄にします。 このゲームはみんな一緒に遊べるから大好きです。 僕とヴィータと、コンピューター二人で始めます。
 コンピューターのレベルはまめ鬼、弱いから見る見る借金がたまっていきます。 これなら僕でも勝てます、けど馬鬼になると勝てません。
 ゲームの月が進んで、11月が終わりました。 その次の月に始まりの絵が画面に出ます。 雪だるまと、赤い服を着たサン――

「和真、サムライガーの時間だから、一緒に見よ?」

 はやてがゲームの電源を切りました。
 もうそんな時間になってました。 サムライガーは毎週欠かさず見ています。
 前番組のマジカルさくやも面白かったけど、やっぱりサムライガーの方が好きです。 一回目が終わったときは残念だったけど、セカンドシーズンが始まるって分かった時はとても嬉しかったです。
 OPが終わって、本編が始まりました。 今日のサムライガーも面白いです。 30分があっという間に過ぎていきます。
 最後の5分、この時が一番わくわくします。 サムライガーの必殺技はいつ見てもカッコいいです。

『いくぞ! 必殺、サンダークロス・スラッシュ!』
『ぐわあああああ、おのれサムライガー! もう少しだったのにいいいい』

 サムライガーの攻撃で怪人が爆発しました。 エンディングが始まって次は次回予告、来週も楽しみです。
 サンダークロス・スラッシュ、カッコよかったです。 シグナムさんなら使えそうな気がします。 剣もってるし、魔法が使えるし。
 サンダークロス、サンダ……クロス……、サン…クロ……
 サンタクロース!
 思い出した! はやてが家にいるのはおかしいです。
 今日はクリスマス・イブです。 ついこの間、みんなでクリスマスパーティ用のケーキを作ってたら、はやてが倒れて入院したんです。
 それで、お見舞いに行ったらはやてが消えちゃって、シロを追いかけて屋上に行ったらなのはとフェイトのニセモノがいて、友達が捕まってて……
 僕は、女の人に空から落とされたんでした。

「気づいてもうたんか」

 周りの景色に亀裂ができました。 そしてガラスが割れるみたいにバラバラと崩れます。
 その下から現れたのは真っ黒な空間、そしてはやてと、見たこと無い女の人でした。
 はやては悲しそうな顔をしています。 悲しい顔より笑ってる方が楽しいのに、何でそんな顔をしているのか分かりません。
 他のみんなは何処でしょうか? 辺りを見回してみますが、真っ暗でよく分かりません。 屋上にいた友達もどこかにいると思いですが、はやては知っているかな?

『はやてちゃん、和真君、みんな!』

 声が聞こえました。 今度は間違えません、これはなのはの声です。 どこから聞こえたんでしょうか?

「聞いたらあかん」

 はやてが冷たい声でそう言いました。
 普段のはやてなら絶対に出さない声です。 はやてのこんな声を聞くのは嫌です。
 でも、はやては僕の腕を掴んで話を続けました。

「外の世界なんて、行ったらあかん。 ずっとここに居たらええ」
「でも、みんな頑張ってるよ」

 外では、なのはとフェイトが必死に僕たち呼びかけています。 きっとここから連れ出そうとしているんです。
 アルフさんも、ユーノも、クロノも頑張ってます。
 みんな心配しています。 大丈夫だって教えてあげないといけません。 でも、はやてはそうさせまいとしています。
 まるで、外の世界が嫌いになったみたいです。

「ここにおったら楽しく過ごせる。 怖いことなんであらへん、あんな危ないことも起こらん」

 危ないこと、女の人に空から落とされたことだと分かりました。
 助けてくれたのはきっとはやてです。 はやては僕がもうあんな目に遭わないようにしてくれています。
 けど、だからって、こんな場所にいるのはいけません。 ここは寂しいです。 みんなと一緒の方が楽しいです。

「けど、もう嫌なんよ。 家族が居なくなるのが、友達が傷つくのが、私はもう耐えることなんてできん」
「……みんなね、はやてとヴォルケンリッターのことが大好きなんだよ」
「え?」
 
 僕ははやての手を握り返しました。 同じくらいの大きさなのに、なんだか小さく感じます。 そして、少し震えています。
 きっと不安なんです。 怖いんです。 平気だってことを教えてあげないといけません。

「はやてのことが大好きだから、外のなのはたちもはやてと一緒に居たいから頑張ってる。 僕もみんなと一緒にいたいよ。 はやては、みんなと一緒に居るのは嫌?」
「嫌やない、そら私も一緒がええ。 けど、私のせいで皆が傷つくのは嫌なんよ」
「大丈夫だよ」

 はやての言葉に、僕は自信満々で答えます。
 泣きそうだったはやては、顔を上げて僕の顔を見ました。 僕は精一杯の笑顔を作ります。
 悲しい顔より、笑顔の方がいいです。 はやてにも笑顔になって欲しいです。

「だってはやての笑顔が見たいから、はやてが笑ってくれたら、みんなどんなに辛いことだって頑張れる! それに……」
「それに?」
「クリスマスだもん。 こんなことしてるはやてにはサンタさん来ないよ? はやてだけプレゼントがもらえないの、僕いやだよ?」
「へ? サンタさん? サンタさんて、サンタさんって……ぷ、ぷぷ、あっはは、サンタさんて、おかし、あっはっはっは、あーはっはっはっは!」

 はやてが何だか気の抜けた声を出しました。 そんなに変なこと言ったでしょうか?
 今のはやてはみんなに迷惑にかけてます。 普段のはやてはいい子だけど、今のはやてはあんまりいい子じゃありません。 きっとサンタさんも来てくれないと思います。
 はやてはしばらくの間呆けた顔をしていましたが、突然笑い出しました。 おなかを抱えての大爆笑です。 こんなに笑ったはやてを見るのは久しぶりな気がします。
 何だかよく分かりません、けどはやてが笑ってくれて嬉しいです。 元気になったみたいです。

「そうやね、サンタさん来てくれんのは嫌やわ。 私もいい子にせんとな、和真は何がほしいん?」
「はやてを元気にしてほしい! それで一緒にクリスマスパーティーにいくの」
「うん、パーティー楽しみやわ。 そうと決まったら、こんなとこ居られへん。 はよ出んとな」
「主……」

 僕たちの話を聞いていた女の人が呟きました。 この人誰でしょうか?
 はやてと仲よさそうです。 はやての友達なら紹介して欲しいです。
 そう頼むと、はやては少し困った顔をしました。 この人、名前が無いそうです。

「主、私は……」
「一緒にって言ったやろ? もちろん、あんたもパーティーに参加してもらうで」
「しかし……」
「しかしもかかしも無い! 決定! そうなったら皆に紹介せんとあかんし、名前がいるな~」
「名前ですか?」
「そう、ちょっと早いけどクリスマスプレゼントな。 あんたの名前は……祝福の風、リインフォース」
「リイン……フォース、それが私の?」
「そう、あんたの名前」

 リインフォースさんが涙を流しました。 悲しい涙じゃなくて嬉しい涙です。
 新しい家族ができて僕も嬉しいです。 みんなに教えてあげたいです。
 そういえば、みんなは何処に居るんでしょうか? はやてと話をしていたせいですっかり忘れていました。 探さないといけません。

「わん!」

 いつの間にかシロが足元に来てました。
 僕のズボンの端を咥えて引っ張ってます。 こっちに来いって言ってるみたいです。
 みんなの場所が分かるんでしょうか? 鼻がいいから匂いで分かるんだと思います。

「私はこっから出る準備するから、和真はみんなを呼んできて」
「うん、わかった!」

 はやてとリインフォースさんから別れ、シロの後を付いていきます。
 早く皆に会いたいな。



[6363] にじゅうく~
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/08/06 23:05
永瀬タクマはうんざりしていた。
 高校を卒業し、県外の大学に通うため1人暮らしを始めた。 家族と離れて好きなことができるとつい昨日まで考えていた。
 自分のことをオタクと自覚している彼は、映像研究会というサークルを見つけた。 もちろん、それがアニメを見るオタクの集団だと理解しての行動だ。
 だが、その活動内容は彼が予想していた物とはまったく違っていたのだ。
 太った先輩達は、美少女が戦うアニメを見ては「○○たん萌え」だの「○○たんとチュッチュしたいお」など言っている。 そんなのは、彼が望んだアニメの感想ではない。
 もっと、今週の作画がどうとか、ストーリーの良し悪しとか、声優の頑張りとか、そういう話をしたかったのに……誰一人としてそんな部分を見ていないのだ。
 大体、今見ているのは美少女アニメではなく、熱血バトルアクションと分類されているはずだ。 確かにエロゲーのスピンオフだが、そういう風に見るのは間違っている。
 ため息をつきながら窓の外を見る。 丁度休憩時間なので、これから講義を受ける者とこれから帰る者で溢れかえっていた。 そんな中、奇妙なモノを見つける。
 大学の正門のところで警備員が何かをしている。 どうやら人間を止めているらしいが、相手はやけに小さい。 子供と……白い犬だ。
 それに気がついた時、タクマは部屋を飛び出し、全力疾走で大学正門に向かっていった。




 住田厚司は暗い部屋の中でペットボトルに直接口をつけて中のジュースを飲んだ。
 この部屋から出なくなってどれくらいたつだろうか? 自分でも覚えていない。 出ようとも思わない。
 ここ2週間ほどの間は両親とも話をしていない。 食事は毎日決まった時間に部屋の前に置いてある。 トイレにでも行かない限り、部屋から出る必要は無いのだ。
 いつもどおりテレビを見ていると、玄関のチャイムの音が聞こえた。 客が来たところで自分には関係ない、無視してテレビを見続ける。
 しかし、チャイムは何度も何度も押され続ける。 家族の誰も出ようとしない。 さすがにおかしいと考えて、部屋から出て玄関に向かう。

「出ては駄目よ、厚司」

 母親が行く手をふさいだ。 引きこもりの息子が部屋から出るのは喜ばしい事のはずなのに、何故止めるのだろうか?

「ずっとここに居ていいのよ、誰も出て来いなんて言わないわ」

 その間もチャイムは鳴り続けている。 厚司は母親の横を通り抜けて、玄関の扉に手をかけた。
 そこで厚司は振り返り、笑顔で母親に声をかける。 つい先ほどまで引きこもっていたとは思えない、妙に晴れ晴れとした表情だった。

「俺、引きこもりの前にオタクだから。 本物に会えるなら出かけるくらいのことはするよ」

 言っていることは微妙に情けなかったが、彼は力強く玄関の扉を開いた。







 浅井元治は同人誌即売会に来ていた。
 地方のイベントだが、そこそこ大きい規模なのでいくつかの有名サークルも参加している。 これなら戦利品にも期待が持てるというものだ。
 軍資金は十分! 準備は万全! 後は買うだけ!
 まず真っ先に有名サークルに向かい、狙いの本がなくなる前に購入する。 その後外周をぐるりと回り、目ぼしい本を片っ端から購入していった。
 最後に、島と呼ばれる内側のサークルを散策する。 こういう場所にこそ掘り出し物が眠っている。 時間はたっぷりあることだし、慌てずに一つ一つを見ていけばいい。
 その中で、目を引く同人誌を見つけた。 サークル名『吉村正』どうやら本名らしい。
 パラパラと見本を見て、購入を決意する。 財布から300円はを取り出して渡すと、相手は2冊の同人誌を渡してきた。 自分が買ったのは一冊のはずだ。

「好きな方を選びな」

 選べと言われても、見本を読んだほうを買うに決まっている。 しかし、もう片方も妙に気になる。
 とりあえず、もう片方を読ませてもらうことにした。 内容は、己の欲望をぶつけ合う少年達の物語、そして友人のために頑張る1人の少年物語。
 それを読み終えた元治は腕を組んで考えた。 自分が選ぶのは、少女達の物語か、少年達の物語か?
 ちらりと作者の顔を見てみると、自信満々の顔で笑っている。 まるで、どちらを選ぶか最初から分かっているかのようだった。
 その時、犬を連れた少年がやってきて、300円を置いて片方の同人誌を買っていった。
 それを見た元治も、少年が買った方と同じ本の購入を決意した。





「え?」
「お?」
「あ…」

 吉野圭一、野村恭一、橘惇の三人は同時に同じDVDに手を伸ばし、同時に手を引っ込めた。
 三人ともオタクな知り合いに無理やりアニメのシリーズを徹夜で見せられ、朦朧とする頭で事故も起こさなかったのは奇跡とも言えるだろう。
 ただ、やはりぼんやりしていたせいか、自分達でも気づかないうちにレンタルビデオ店に入ってしまっていた。 しかも取ろうとしたのは先ほどまで見せられていたアニメだ。
 どうやら半分洗脳されかかっていたらしい、会員カードも持っていないレンタルビデオ店だというのに、自然と借りようとしてしまっていた。

「どうぞ、譲りますよ」
「いえ、僕の方こそいいです」
「俺も、別に見たいわけじゃないし」

 三人が遠慮したことが可笑しくて思わず笑ってしまう。 面白い偶然もあったものだ。
 用はないし、この店から出ようとすると子供と犬が走っていくのが見えた。 子供はともかく、店内に犬を入れるのはあまりよくない。
 大人として一言注意しようと思い、圭一は後を追いかける。 他の二人も同じ気持ちらしく、圭一と一緒に子供と犬を探す。
 その時、ふと一つのDVDパッケージが三人の目に入った。
 15人の少年と、一匹の犬が書かれている絵だ。 先ほど取ろうとしたアニメに絵柄が似ているような気がする。 それに何故か同じ者が3つ置いてある。
 まるで、3人に借りて欲しいと言っているようにも見える。 自然と手が伸び、1人が1つを持っていた。 そのまま三人でレジに向かう。

「ご利用は初めてですか? こちらにお名前をお願いします」

 店員が入会申し込みの用紙を渡してきた。 それには当然名前を書く欄がある。 指示にしたがって書こうとして、手が止まった。
 自分達の書く名前は……
 3人は顔を合わせて頷くと、同時にそれぞれの現在の名前を書き込んだ。




 村田大介は緊張していた。
 好きな女の子に告白しようと思い、その子の家の前までやって来た。 しかし、そこから先の一歩が踏み出せない。
 呼び鈴を押して、彼女を呼び出し、告白する。 やるべきことは分かっているが、決断ができずにもう3時間近く家の前を行ったりきたりしていた。
 いきなり告白なんて迷惑じゃないだろうか? もう夜中の12時近いし、明日にしたほうがいいのではないか? オタクな自分なんかじゃ彼女は付き合ってくれないんじゃないか?
 悩んでいると、誰かに方を叩かれる。 振り返ると、制服姿の警官が立っていた。
 警官は大介に警察手帳を見せた。 ○○県警、佐藤武巡査と書かれている。 それを見ることで本物の警官だと理解できた。

「この家の人から、怪しい人がうろついていると連絡があった」
「え、いや、この家の人に告白しようと……」
「はいはい、話は交番で聞くから、ちょっと一緒に来てもらうね」

 さすがに警察に逆らうことはできない。 仕方なくついていくと、交番の目の前で武巡査の無線機がなった。
 何か事件が起きたらしい、武巡査はすばやく無線機を手に取る。

「はい、はい、了解しました」
「何かあったんですか?」
「海鳴で事件だ。 子供と犬が巻き込まれたらしい、本官はこれより現場に向かう!」
「あの、私は?」
「好きにしてくれ、元に戻るのも、ついて来るのも」

 一般人について来いというのはおかしくないか? そう尋ねる前に、武巡査は走っていった。 さすが警官、足が速くあっという間に見えなくなる。
 大介は少し悩み、告白しようと思った子の家があるほうを一度だけ見て、反対方向に向けて走り出した。
 武巡査が向かう場所と、同じ場所を目指して――





「まーた授業さぼって、こんなに傷だらけになって、飽きないね~」

 牛田茂が学校の屋上で寝転がっていると、1人の女生徒が声をかけてきた。 手には救急箱を持っている。
 今の茂るはキズだらけ、つい先ほどまでケンカをしていたのだから当然である。 三人の上級生に囲まれながらも、すべてを返り討ちにした茂は校内でも不良として有名だった。
 そんな悪い噂の絶えない茂に近づいた女生徒は、まるでいつものことのように救急箱から消毒と包帯を取り出すと茂の治療を始める。 茂も黙って女生徒に手当てを任せる。

「ケンカなんかダサいよ? 世の中にはもっとカッコいいことがあるって」
「向こうが絡んでくるんだよ。 別にカッコつけてケンカしてるわけじゃ……って、なにしてる!」

 女生徒は茂の腕に落書きをしていた。 何やら目玉らしい模様を書いている。 しかも油性マジックらしく、手で擦った程度では全然消えなかった。
 さらに笑いながらその模様を隠すように包帯を巻きつける。 こんな落書きを人に見せるのは恥ずかしいが、何故か納得できなかった。

「あはは、包帯で隠してあげる」
「お前が書いたんだろうが!」
「うん、カッコいい! 時々腕を押さえて苦しんでね。 封印とか、暴走とか、そういう言葉を付けるとなおグッド!」
「するか!」
「うまくできたらデートしてあげる」

 その言葉に思わずドキッとした。
 少し悩んだ後、意を決して包帯を巻いた腕を押さえて、苦しそうなマネをする。 ただ、顔を真っ赤にして、ものすごく棒読みのセリフだ。

「まだ恥ずかしさが残ってるね。 30点、こらからも精進しましょう」
「やらせといてそれかよ」
「他にはね~、不良に囲まれてる少年を助けるのなんかカッコいいかもね」

 女生徒が校庭を指差す。 その先には、先ほど叩きのめした上級生達が小学生ほどの男の子と白い犬を取り囲んでいた。
 上級生達は先ほどケンカに負けたせいで腹がたっているらしい、早く少年を助けなければ、どんな酷い目に遭うか分かったものではない。

「……足止めするのはいいが、倒してしまってもかまわないのだろう? どうだ、ダチから借りたエロゲーのセリフだけど、カッコいいだろう」
「45点、この場面で言うセリフじゃないね」
「残念だ。 次ぎに会う時は100点をとってやる」
「期待しないで待っていよう」

 女生徒は笑いながら茂を見送り、茂も笑いながら校庭に向かっていった。
 牛田茂が一人前の厨二病になる日は、まだ遠い。




 津田藤二と山内広は二人並んで公園のベンチに座っていた。
 二人の視線の先には砂場で遊ぶ小学生ほどの女の子が二人いる。 二人はその女の子達を見守るように遠くから眺めていた。
 やがて、缶コーヒーを飲み終えた広が藤二に話しかける。

「おいロリコン」
「……なんだ、シスコン」
「ぺドフィリア」
「……近親相姦」
「そんなことするか、妹だぞ」
「……俺だってしない。 ピュアな関係だ」

 二人の女性の好みは、普通の成人男性とは違っていた。
 小学校教師の津田藤二は自分の受け持つ生徒に恋をした。 しかし年齢差のことは理解しており、懲戒免職になる危険を侵してまで行動する勇気は沸かなかった。。
 高校生の山内広は10歳近く年の離れた妹に恋をした。 父親と再婚した新しい母の連れ子なので血は繋がっていないが、世間で兄妹と呼ばれる関係であることには変わりが無かった。
 そんな二人は、アニメを見ることでその気を紛らわせた。 藤二は登場する少女達を見て、広はある登場人物の義妹となった少女を見るのが楽しみとなった。
 今居る場所がどんな場所かは理解している。 ここなら自分達の望みを叶えることもできるのだろう。 しかし――

「放っておく事もできない、か……」
「……ショタに興味は無いんだけどな」

 二人はベンチから立ち上がり、少女に背を向けて公園を立ち去る。
 二人の向かう先には、電柱に頭をぶつけて泣き喚く少年と、その少年の周りをくるくる回っている白い犬の姿があった。





 優しい父、優しい母、美味しい料理、まさに理想の一家団欒だというのに、西田吉郎の顔は晴れない。
 それに気がついた母が、ご飯のお代わりをつぎながら声をかけてきた。

「どうしたの? 何か嫌なことでもあった?」
「嫌なこと? ああ、あるさ。 この気色悪い世界が嫌だ! 気色悪いあんたらが嫌だ!」
「そう、現実の方が好きなのね」

 両親が席から立つと、一家団欒の風景が一変する。
 テーブルの上の料理は、吉郎の分だけ残飯になった。 体には無数の打撲痕と火傷痕が浮かび上がり、激痛が襲い掛かった。 母親が持っている熱湯の入ったやかんを見れば、誰が傷を付けたかなど一目で分かる。
 吉郎は虐待されていた。 いつからなんて覚えていない、少なくとも幼稚園くらいから中学3年まで続いていたのは確かだ。 もっとも、虐待が終わったのは両親が改心したからではなく、自分が死んだからなのだが。
 そんな吉郎の唯一の楽しみが、両親が寝静まった夜中に見るアニメだった。 その中でも特に少女の手に入れた温かい家庭にあこがれた。 その登場人物から勇気をもらい、吉郎は家を飛び出し、事故にあった。
 あの時と同じように走り出せばいい、そう考えても足が動かない。 9年ぶりの恐怖は本人の想像以上に心の深いところに刻み込まれていたらしい。
 そして近づいてきた父親が手を振り上げた瞬間、窓ガラスが割れて1人の女性と白い犬が突入してきた。

「ウチの息子に、なにすんだよ!」

 割烹着を着た中年の女性は持っていた大根で父親を殴り倒し、さらに犬が母親に噛み付くと、母親は倒れて動かなくなった。 どうやら転んだ拍子に頭を打ったらしい。
 突入してきた女性こそキャサリン・マクレガー、吉郎のもう1人の母親である。 彼女はゆっくりと吉郎に近づくと優しく語りかけた。

「馬鹿息子、今晩はすき焼きだよ。 とっとと帰ってきな」
「くそばばあ、どうせ肉なんかほんの少しで白菜と白滝で腹を膨らませるんだろうが」
「そんだけ元気がありゃ大丈夫だね。 帰りにネギと豆腐を頼むよ」

 そう言ってキャサリンの姿が消える。 ここは闇の書の中、あのキャサリンもニセモノだが、もしも本物が自分の両親に会ったら同じことをするだろうと感じられた。
 吉郎は立ち上がり、倒れている両親の顔に一発づつ蹴りを入れると、犬と供に部屋から出て行く。 遠くの方で、犬を探す少年の声が聞こえていた。





「今日は、先生から皆に言いたいことがある」

 朝のHRの時間、高校教師である金井修平は教壇に立ちそう言った。
 ざわついていた生徒達も、教師の真剣な声に思わず無駄話よ止めて正面を向く。 それを確認して、修平は続きを話し出した。

「君達の大部分はやりたいことが見つかっていないだろう。 やるべきことが分からないだろう。 しかし、それが見つかるときは、いつか必ず来る」
「そんな断言していいんですか~」

 生徒の1人が手を上げ、からかうように質問をした。 それに釣られて数人の生徒が小さな笑い声を上げる。
 しかし、修平は自信満々で「そうだ」と答えた。 一点の曇りも無い表情から生まれる妙な説得力に、笑っていた生徒も静かになった。

「君達がこの世界に生まれたのには意味がある。 必ずやるべき役割がある。 君達は……みんな主役だ」
『金井先生、金井先生、ご友人と犬が面会を希望しています。 職員室まで来てください』

 教室に備え付けられているスピーカーから放送が流れた。 修平は黒板に大きく『自習』と書くと、教室を出て行こうとする。
 それを1人の生徒が引きとめた。 席から立ち上がり、声を上げて修平に質問する。

「先生! 先生は見つけたんですか? 自分のやるべきことを」
「ああ、見つけたぞ。 これからそれを果たしに行く。 なんたって、俺も主役の1人だからな」




 14人は真っ暗な空間に集まっていた。
 それぞれが真塚和真とシロを追いかけていたはずだが、気がつくとこうして顔をあわせることになっていた。

「いくか?」

 天崎刹那が確認を取ると、全員が同時に頷いた。 誰もここに残る気など無い。 自分達の居るべき場所を分かっている。

「ああ」「もちろん」「当然だな」「質問自体が無意味だ」「何を今更」「ここまで来ちゃったらなぁ」「後戻りはできない。 する気も無い」「ここで引いたらカッコ悪い」「義妹が頑張ってるしな」「……ここを乗り切ればリインⅡに会える」「早く片付けて、晩飯を食いたい」「やるべきことは、分かっている」

「それじゃあ行こう! 俺達の世界へ!」

 決意を固めた14人は、光に向かって一斉に走り出した。

















 そして、光の中から突っ込んできたトラックに全員跳ね飛ばされた。















「みんな!」

 なのはは喜びに満ちた声でそう叫んだ。
 闇の書に囚われていた友人達が次々と飛び出してくる。 まるで何かに跳ね飛ばされてダメージを負っているようにも見えるが、そんなことは気にならないぐらい嬉しかった。
 さらにヴォルケンリッターも現れる。 病院の屋上で蒐集されてしまった彼らも蘇り、リインフォースとユニゾンしたはやてに向けて頭を下げた。
 そして、守護獣形態のザフィーラの背中に和真が座っていた。 背中のリュックサックの中にはシロもいる。 合計25人と一匹、これで全員が揃ったことになる。

「さあ、みんな! 最後の決戦だ!」

 天崎刹那が海上を指差す。 そこには巨大な怪物、闇の書の闇ともいうべき存在がいた。 その巨大さと迫力に思わず驚いてしまうが、これを放っておくと地球が滅びることになってしまう。 なんとしても倒さなくてはならない。

「でも、どうすれば……」
「全員の一斉攻撃で弱らせた後、宇宙に転送してアルカンシェルで止めを刺せばいい」
「まるでその方法なら勝てると知っていたみたいだな。 まさか君達も……いや、そのことは後にしよう」

 トリッパー達の物言いに少しばかりの疑問を感じたクロノだが、今はそれよりも仕事を優先させることにした。
 どうせ後で説教をしなくてはならない。 ヴォルケンリッターに協力していたことなど、いいたいことはいっぱいある。 だが、それも目の前の怪物を倒して地球を救ってからの話だ。

「よっしゃ! なのはちゃん、フェイトちゃん、いくで!」

 はやてが気合を入れて二人を見た。 なのはとフェイトも頷いてデバイスにカートリッジを装填する。

「スターライト」「ラグナロク」「プラズマザンバー」
「「「ブレイカー!」」」

 3人の攻撃が闇の書の闇に向かう。
 トリッパー達はこれでA's編が終了すると思い安心した。 ユーノ達はその威力に驚いた。 ヴォルケンリッターは主を苦しめる存在が消えることを喜んだ。 真塚和真は状況をよく理解していなかった。
 そしてクロノは、そう簡単に決着がつくはずがないと考えていた。 まだ、ヤツが姿を現していない。
 その直後、彼らは信じられないものを見る。

「シールド」

 闇の書の闇と3人の間に無数の本のページが現れ、壁を作ったのだ。
 300枚以上のページ一枚一枚からシールドが発生し、それらが組み合わさった結果、3人の攻撃は闇の書の闇に届くことなく霧散した。
 はやての魔力はSランク、なのはとフェイトの魔法もカートリッジを使用すればSランク並みの威力がある。 それが完全に防がれるとは、並大抵のことではできないはずだ。
 しかし、その男は余裕の顔で闇の書の闇の上に立っていた。
 空中に浮かんでいるページが男の手に集まり、再び本の形になる。 闇の書に非常に似ているその本を見てはやてとヴォルケンリッターは驚いた。
 突然の乱入者に混乱する仲間達から、1人クロノが前にでる。 S2Uの先を男に向けて、毅然とした態度で言い放つ。

「来ると思っていたぞ、アルバート・グレアム!」

 真塚和真は男の目を見て思った。
 あの人は、悪い人だ。



[6363] さんじゅー
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/08/06 23:06
 アルバート・グレアム、ギル・グレアムの孫にしてトリッパー、今まで事態を静観していた彼は、最後の最後にとんでもない介入をしてきた。
 世界を滅ぼしうる闇の書の闇をこちらの攻撃から守ったのだ。 そんなことをしても、いったいどんなメリットがあるのか分からない。

「答えろ、アルバート・グレアム! 世界の未来を知るトリッパーがいったい何をしようとしている!」
「トリッパーがやることなんて、決まっているだろう」

 クロノの質問に、アルバートは少し気だるそうに返事をした。

「ひとつ、原作キャラとの接点を最低限にし、モブとして暮らす」 元穏健派トリッパーがその言葉に反応した。
「ふたつ、自分を主役としてその世界で好き勝手にする」 元過激派トリッパーが息を呑んだ。
「みっつ、その物語の不幸な出来事を無くし、ハッピーエンドにする」 14人のトリッパー全員が頷いた。
「まぁ、どれかって言うと2と3に近いかな? トリッパーとしては至極当然な行動だ」

 アルバートの言った内容は、ほぼすべてのトリップSSに共通する内容だった。 基本的にトリッパーの目的はこの3つのどれかと言っていいだろう。
 しかし、クロノは納得しなかった。 この3つはどれもアルバートには当てはまらないからだ。
 モブにしては関わりすぎている。 主役にしては影で動いている。 闇の書の闇を守ってハッピーエンドになるとは思えない。

「質問を変えよう。 何故こちらの攻撃を防いだ」
「闇の書の闇を使い、地球を滅ぼすためだ」

 その単純な答えに、全員が驚愕した。 こうも堂々と世界を滅ぼすと言えるとは、この男、よっぽど図太い神経をしているに違いない。
 だが、新たな謎が生まれることになった。 つまり、どうして地球を滅ぼすのか?
 その疑問を真っ先に声に出したのはなのはだった。

「なんで、何でそんなことするの? そんなことしたら、いっぱい人が死んじゃうよ」
「何で? 何でねぇ……おい! そこのお前!」

 アルバートが急にトリッパーの1人を指名した。 指名されたアルスは戸惑いながらも前に出てきた。

「GS美神のSSで一番好きなのはどんなやつだ」
「は?」
「GS美神だよ、それとも読んだこと無いのか?」
「ええっと……最強モノ? 小竜姫ヒロインで」
「エヴァだったら?」
「やっぱり王道の逆行モノ、少しばかりのアンチミサトが入っているといい感じ」
「ネギま」
「ネギの兄弟、ハーレム、実力を隠してるやつ!」

 アルバートとアルスの会話を理解できたのは、トリッパーだけだった。 他の者達は頭に疑問符を浮かべながら話を聞いている。
 GS美神? 最強? 逆行? ミサトって誰? ネギまってヤキトリの?
 話の意味が分からない者達を置いて、一通り好きなジャンルのSSについて話したアルス。 会話が終わった後は妙にスッキリした顔をしていた。
 会話といっても、アルバートの質問にアルスが一方的に答えていただけである。 アルバートは返事を聞くたびに「なるほど」と呟きながら頷いていた。
 これで何が起きるのか? 他の人間がアルバートの様子を伺っていると、少し震えているのが分かった。 その震えはどんどん大きくなり、ついに大爆笑を始める。
 先ほどまでの落ち着いた雰囲気とは違う、気が触れているかのような笑い方に、なのは達は思わず一歩引いてしまう。

「くっくっく、ヒャーッハッハッハ! そんなモノが面白い? まだまだお子様だな」
「なんだと! じゃあお前はどんなのが好きなんだよ」
「GS美神は横島の力が危険視されて神族から狙われるもの、エヴァはシンジがサードインパクトの首謀者として殺されるやつ、ネギまは魔族襲来を父親のせいと知り魔法使いそのものを恨む!」
「お前……そのジャンルは!」
「ヒャッハァ! そうだよ、俺の好きなジャンルは、ダーク系SSだ!」

 その答えに、14人のトリッパーは戦慄した。 同時に、アルバートが何故地球を滅ぼそうとしているかを理解した。
 しかし、トリッパー以外の人間はまだ理解できない。 話の内容から、アルバートがあまり明るくない話や登場人物が苦しい目にある話が好きなのは分かった。
 しかし、それと地球を滅ぼすことが繋がらないのだ。 そういう話が好きだからって、実際に世界を滅ぼす気になるはずがないと思っているからだ。
 唯一の例外がクロノである。 彼はトリッパーの存在を知り、アルバートにとってこの世界が物語の中であることを知っている。 そのアルバートがダーク好きということは――

「お前は、この世界を滅ぼしてみんなの心に傷を付ける気か!? ここにいる人間を苦しめる。 そのためだけに世界を滅ぼすのか!?」
「正確には、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやての三人だ。 この三人が揃わないとStsが始まらないからな」
「そんな……私達を苦しめるために、世界を滅ぼすって……」
「ちゃんと闇の書から出れるか心配だったが、レイジングハートを叩き折ってワザと強化させたかいがあった。 原作どおりに進まず、八神はやてが死んじまったら楽しさ半減だ」
「そんなん、ゆるさへん!」
「いいねいいね、その目だ。 故郷を失った主人公達は復讐を誓いながら管理局で働く。 そして10年後、再び現れるこの俺、ラスボス、アルバート・グレアム! この戦いは、憎しみと血潮に染まるSts編のプロローグなんだよ! ヒャッハァ!」

 アルバートが叫ぶと同時に、闇の書の闇が大きく震えた。
 元々無差別に破壊をもたらすものである。 頭の上に人間が乗っていたらまずそれに反応するだろう。
 アルバートは24人の魔導師に加えて闇の書の闇とも戦わなくてはならない。 しかも、世界を滅ぼすというアルバートの目的のためには自分の手で闇の書の闇を破壊するわけにもいかない。
 たとえSSSの化け物だとしても、この状況を利用すれば戦えるかもしれない。 アルバートの力を一番良く知っているクロノは頭をフル回転させてどう戦うかを考える。
 しかし、アルバートは信じられない行動で闇の書の闇を無害化した。
 まず両手を合わせる。 食事をする前、もしくは日本で神に祈るときの姿に似ていた。 そこで一度気合を入れ、手を離し、今度は両手を闇の書の闇に当てる。
 何か魔法を使っているのか? しかしデバイスを使用している様子は無い。 やがて、手を離したアルバートはトリッパー達が集まっている方向を指差した。
 それだけで、闇の書の闇は巨大な魔力弾をその方向に打ち出す。 何とか全員回避に成功し、魔力弾は空のかなたに消え去るが、直撃していれば人間など消し飛んでいただろう。
 だが、一番の問題は闇の書の闇がアルバートの命令を聞いたことだ。
 ヴォルケンリッターやクロノは驚きを通り越して恐怖を覚えた。 どうすればそんなことが可能なのか? まったく理解できない。
 そしてトリッパー達は別の意味で驚いた。 アルバートが行った行動は、ある意味有名な動きだったからだ。

「ヤツはいったい何を?」
「ハガレンの、錬金術だ……」
「なんだ? それは?」
「あのやろう、闇の書の闇を作り変えやがった! バケモンか!?」

 闇の書の闇を自由に操るアルバートは余裕の表情を浮かべている。 厨二の書という強力なデバイスがあるにも関わらず、一枚のカードを取り出して新たなデバイスを起動した。
 氷結の杖デュランダル、受け取ったのはクロノでは無くアルバートだった。 ギル・グレアムの仲間で高い魔力を持つのだから、受け取っていたのは当然だろう。

「実はな、この世界を観察するうちに、世界を滅ぼすより簡単にダーク系SSにする方法を思いついた」
「なに……そうか!? ザフィーラ逃げろ! ヤツは和真を狙っている!」
「くっ、分かった」
「遅い。 デュランダル、エターナルフォースブリザードだ」
『OK,boss』
「え? 雪? うわあああああああん」

 鬼道の忠告も遅く、デュランダルから発射された冷気が和真に直撃した。 魔法への対抗手段の無い和真は一瞬にして氷漬けになってしまう。 ザフィーラが何とか抵抗しようとするが、一番近くに居たザフィーラも冷気の影響を受けてしまった。
 半分だけ氷漬けになり、落下していくザフィーラ。 途中でファルゲンが作り出した魔力の足場に落ちたので海面に叩きつけられずに済んだが、寒そうに体を振るわせる。 シャマルがすぐに回復を始めたのですぐに治るだろう。
 一方、完全に氷漬けになった和真は空中を移動してアルバートの横まで移動した。 どうやらアルバートが魔法で運んだらしい。

「そんな厨二の代表的な名前で、恥ずかしくないのか?」
「っくっくっく、だが性能は見てのとおり、そして効果もな」
「効果……相手は死ぬ!?」
「そんな……和真君が……死ぬって」

 なのはの顔が恐怖で青ざめる。 フェイトとはやても同じような表情をした。
 和真はこの三人と特に仲がいい。 なのはとは小学校入学以来の親友、フェイトとはプレシアとの和解に協力し、はやてに至っては家族である。
 それが死んでしまうことは、3人の心に傷を残してダーク系SSとするのに十分な出来事だろう。 原作のリインフォースとの別れとは違う、自分達を苦しめるために親友が殺されることに彼女達が耐えられるとは思えない。
 それを分かっているから、アルバートは和真をこの様な目にあわせたのだ。 万が一、闇の書の闇を倒されたときの保険として。

「このガキンチョが死ぬまで約20分、闇の書の闇が世界を滅ぼすまでの時間も20分、さあどうする!」
「決まってる、お前をぶっ飛ばす! 烈火キイイイイイイイック」
「右に同じ、エナジイィィィィコレダアアアアア」

 アルバートが和真を氷漬けにした隙を狙い、烈火とディストが上下のコンビネーションで攻撃を仕掛けた。
 並みの相手なら必殺のタイミング、反応などできるはずが無い。 しかしアルバートは烈火を右手、ディストを左手の指2本だけで受け止めていた。 その姿はまさしく――

「ヒャッハァ! 冥王さまより先に天地魔闘の構えをしちまったぜ!」
「そんな……これに反応するだと!?」
「俺の『円』は半径100メートル、不意打ちなんて無駄だぜ」
「H×Hの念能力!」
「だが、相手の位置が分かっても腕が塞がっているなら攻撃できないだろう! 必殺必中、バーニング――」

 二人の攻撃を防いで動けないアルバートに向かってアルスが切りかかる。 隙の大きい大技だが、相手が動けないなら命中する、はずだった。

「俺はダイの大冒険も好きなんでな! カラミティエンド! フェニックスウィング! カイザーフェニックス!」

 流れるような三段攻撃で烈火が叩き落され、ディストが吹き飛ばされ、アルスが炎に包まれた。
 これは天地魔闘の構えの元ネタを知らなかったアルスの失敗である。 元ネタを知っていれば、あの場面での攻撃は戸惑っただろう。
 だが、アルスの犠牲は無駄ではない。 元ネタを知っているからこそ攻撃を仕掛けることのできるタイミングも存在する。 天地魔闘の構えは3段攻撃の後にこそ最大の弱点が存在することを、龍堂は知っていた。
 300メートル以上の距離から飛来する高速の弾丸、察知できても反応できず、防御も間に合わず直撃するしかない一発。 それがアルバートに届く前に、見えない何かによって弾かれる。
 魔法ではない、別の力が働いていた。 2発、3発と連射するがすべて見えない力によって防がれてしまった。

「念能力『自動防衛装置(オートガード)』だ。 俺に遠距離攻撃は通用しない。 ちなみに、制約は20メートル以上の距離からの攻撃であること。 それさえ守れば核兵器でも防げる」
「軽すぎるだろうが! その制約!」
「ヒャッハァ! チートの特権だぜ!」
「だったら肉弾戦だ!」

 リュウセイがアルバートに殴りかかった。
 リュウセイの右腕のパンチをアルバートが左手で止め、アルバートの右腕のパンチをリュウセイが左手で止めた。 そもまま力比べの体勢で硬直する。
 リュウセイは苦しそうに力を込めているが、アルバートは余裕の表情で押しかえす。 硬直しているのもアルバートが力を抜いているからだとすぐに分かった。

「さすが戦闘機人、なかなかのパワーだが、念能力を解除して体に纏わせれば……」
「ちくしょう……俺がパワー負けしてる」

 本気を出したアルバートが、圧倒的なパワーでリュウセイを押しつぶす。 一気に押し切られたリュウセイは膝をついてしまい、どちらが勝ったかは明らかとなった。
 さらにアルバートはリュウセイに止めを刺す準備を始める。 リュウセイの右腕をワザと離し、自分の左手を自由にしたアルバートは、その左腕に魔法とは別のエネルギーの球体を作り出した。
 その球体の中では、まるで暴風雨のようにエネルギーが暴れまわっている。 その必殺技の名前を『螺旋丸』ということをリュウセイは知っている。

「ナルトまで、いくつ引き出しがあるんだテメェは!」
「ヒャッハァ! そんなのに答える義理なんざ……無い!」

 螺旋丸を発生させた左手がリュウセイの頭部に迫る。 そんなものを喰らったら人間の頭程度消し飛んでしまうだろう。 しかし、右手で押さえつけられているリュウセイは逃げることができない。
 絶体絶命の中、リュウセイの姿が突然消えた。 力を込めていたせいで前につんのめったアルバートが辺りを見回すと、その姿はファルゲンのすぐ隣に見つけることができた。
 とっさに転移魔法で回収したらしいが、他人と接触している人間を単独て転送している辺りフェルゲンの能力の高さが分かる行動だった。
 そしてアルバートを挟んでファルゲンの反対側には紫音がキャノン砲を構えて待機していた。 遠距離攻撃の効かないアルバートが念能力を解除するタイミングをずっと待っていたのだ。

「ディバイィィン……ブラスター!」
「さすがに人数が多いと、的確に隙を狙ってくるな。 魔力と気を……合成!」
「咸卦法? かまうか! 吹き飛ばしてやる!」
「できると思うのか? ヒャッハァ!」

 紫音の砲撃とアルバートが咸卦法で作り出したエネルギーがぶつかり合い爆発が起きる。
 衝撃波が空気を震わせ、煙が舞い上がり、ボロボロの紫音が海面に向けて落下していった。 急いでファルゲンが足場を作り、ヴォルフが受け止めなければ大怪我をしていただろう。
 その光景を、無傷のアルバートは不満そうに眺めた。
 正直、原作キャラ以外はどうなってもいい。 ダーク系SSの世界にするために、原作キャラには生き残ってもらわないと困るが、トリッパー達が死んだところで何の問題も無かった。
 むしろ、仲のいい友人トリッパーを2~3人殺した方がダーク系SSとして面白い方向に進むような気もする。 そのために、オリキャラ主人公を氷漬けにして、わざわざ時間をかけて殺そうとしているのだから。
 ただ、こうウロチョロされるのは少しばかり面倒くさい。 まるで夏に蚊がたかってくるような、そんな感覚。 すぐに仕留められるけど、数が多くてイライラしてしまう。
 そこでアルバートは少しばかり本気を出すことにした。 厨二の書を天高く掲げて魔力を込めると、再びページがバラバラになり空中に飛び出していった。
 それらが何枚かづつ集まると、今度は人間の形を作り出す。 そうして現れたのは25組100人のヴォルケンリッターの姿だった。

「こいつらの戦闘能力は全員AAAクラスだ。 ハッキリ言って本物より強い。 果たして勝てるかな?」

 その言葉に全員が絶望した。
 アルバート1人でも勝てるか分からないのに、さらに100人のAAAランク魔導師が加わってしまった。 この状況で勝てると希望を持てるほうがおかしい。
 全員の顔が絶望に染まっていく様を、アルバートは気持ちよさそうに眺めた。 いい兆候だ。 この圧倒的な恐怖を乗り越えるため、登場人物は自分の意思を殺して強さを求めるだろう。
 そして10年もたてば、立派なダーク系SSの登場人物として完成することは間違いない。 それより以前にも、高町なのは撃墜事件やゼスト隊壊滅などにも介入すれば、更に面白くなるだろう。

「ヒャーッハッハッハッハ! 今のお前たちじゃ絶対に勝てねぇ! 大人しく地球が滅びるのを見物して、また10年後に頑張るんだな!」
「だが断る」「ええ、断るわ」
「なにぃ……誰だ!」

 声のした方向にアルバートが振り向くと同時に、土砂降りの雨のように無数の魔法攻撃が降り注いだ。 アルバートは無傷だが、コピーヴォルケンリッターを10人ほど消滅させる。
 これにはアルバートの方が驚いた。 まさかここで援軍が来るとは思っていなかったのだ。 しかも1人や2人ではない、そこには50人を超える魔導師がデバイスを構えていた。 その中心にいるのは――

「ブラウン・クルーガー! この死に損ないが!」
「感謝するぞ。 これだけヴォルケンリッターがいれば、仇を討ち放題だ」
「そして、プレシア・テスタロッサ!」
「娘の友達に酷いことをしてくれてるわね。 許さないわよ」
「コイツは丁度いい! ここでプレシアを殺せば、ダーク系SSにまた一歩近づくってもんだ! ヒャッハァ!」

 コピーヴォルケンリッター軍団が現れた魔導師軍団に攻撃を仕掛ける。
 戦力差、約二倍。 そのすべてがAAA。 魔導師軍団の戦闘能力がどの程度かは分からないが、圧倒的不利であることに変わりない、はずだった。
 しかし実際は、魔導師軍団が多少不利だが一気に蹴散らされもしないというレベルの戦いを繰り広げていた。
 ヴォルケンリッターの4人はそれを見て驚く。 コピーヴォルケンリッターの戦い方は自分達と比べても遜色ないし、単体では自分達より能力が高いことも分かる。
 なのに、援軍の魔導師たちは戦えている。 ここの実力はコピーヴォルケンリッターより低いが、対ヴォルケンリッター用の戦法が抜群にうまいのだ。
 そんなことを考えているうちに、ブラウンとプレシアがこちら側に合流してきた。 ブラウンの目的を知っているヴォルケンリッターは警戒するが、カムイがそれを止めさせた。

「いいのか、味方して? ヴォルケンリッターは親の仇なんだろ?」
「100人以上いるんだ。 4人くらい見逃しても構わないだろう」
「あの魔導師たちは?」
「トリッパーをかき集めた。 ランクF~AAAまで、数をそろえることを最優先、連携訓練の仮想敵が俺の持っていたヴォルケンリッターのデータしかなかったが……逆に良かったみたいだな」

「母さん、どうしてここに?」
「そうだ。 貴方は監視付きで入院をしていたはずだ」
「許可は取れているらしいわ、偽造だけど」

 フェイトとクロノの質問に、プレシアは簡単に返事をした。
 それを聞いてクロノは眉をひそめた。 執務官としてはその発言は見過ごせない、詳しく話を聞こうとする。
 管理局の病院で治療を受けていたプレシア・テスタロッサ。 容態は少しづつ安定し、地球に向かったフェイトはどうしているかと考えていると、奇妙な男が現れた。
 ブラウン・クルーガーと名乗るその男は、様々なことをプレシアに教えた。 娘とその友達に危機が迫っている、圧倒的な強さを持つ敵、そしてトリッパーの存在。
 最初は半信半疑だったが、まだ公開されていない26年前の事故やF計画について、さらにフェイトへの対応を知っていたことで信じることができた。
 万が一信じなくて、娘を助けられないことになることを考えると、それ以上迷う余地は無かった。 ブラウンの探し出した提督クラスのトリッパーが偽造した許可証にサインをし、プレシアは地球へとやってきたのだった。

「ヒャッハァ! 俺を無視するとはいい度胸じゃねぇか! 嫌でも注目してもらうぜ、魔法の射手・闇の2300矢!」

 援軍に喜んでいたのもつかの間、突然アルバートが攻撃を仕掛けてきた。 2300本の魔法の矢が一斉にトリッパー達に襲い掛かる。
 しかし、プレシアは慌てない。 彼らを守るように前に出て、デバイスを向けてシールドを発生させ、2300本の魔法の矢をすべて防御する。
 時の庭園では和真を素手で叩いていたが、Sランク魔導師、プレシア・テスタロッサの真の力が垣間見え、メンバーの何人かから思わず感嘆の声が上がった。

「いいデバイスね。 これなら体への負担も少ないわ」
「管理局選りすぐりの頭脳系トリッパーの英知を結集したデバイスだ。 10年後、機動6課にデバイスマイスターとして入るため日夜努力してるからな。 本気になったらすごいのを作るぞ」

 ニヤリと笑うブラウン、コピーヴォルケンリッターと戦っている魔導師の何人かが戦いながら何やらアピールをしている。 彼らがプレシアのデバイスを作ったトリッパーなのだろう。
 心強い味方が加わったことで再び士気が上がるが、その雰囲気を壊したのはまたしてもアルバートだった。

「なるほど、確かにSランクのプレシアを相手にするのは面倒くさいな。 だが忘れてないか? 制限時間はもう半分以上過ぎてるぜ、ヒャッハァ!」

 その言葉で現状を思い出す。
 後10分ほどで氷漬けになった真塚和真は死亡し、闇の書の闇は世界を滅ぼしてしまう。 それまでにアルバートを倒し、闇の書の闇を倒し、和真を救出しなくてはならない。
 プレシアが加わったといっても、圧倒的に不利なことには変わりない。 この状況を打開するのは、まさに奇跡といえるほどの戦い方が必要になるだろう。
 再び悪い空気が流れようとする中、14人のトリッパーが顔を上げた。 その瞳に宿る闘志は消えるどころかますます強くなって、まさに炎のように燃え上がりだした。

「なめんなキ○ガイ!」
「なにぃ」
「俺達15人が揃えば、運命だって変えられる! さらにこれだけの仲間が居れば、奇跡だって引き起こせる!」
「だが、その15人目は氷漬けだ。 ヒャッハァ! これじゃあ奇跡なんて起きねぇ! どうすんだいったい?」
「決まってるだろ? なあ、みんな!」

『お前をぶっ飛ばす!』

「ヒャッハァ! いい度胸だ、返り討ちにしてやるぜ! 念能力! 天地魔闘の構え! 螺旋丸! 真空竜巻旋風脚! レイジングストーム! 目からビーム!」

 13人のトリッパーが一斉に襲い掛かり、次々と吹き飛ばされていく。 アルバートは状況に合わせて様々な攻撃を繰り出し、トリッパーを撃墜していった。
 なのは達も戦いに加わろうとするが、刹那が前に出てそれを止める。 当然なのはは納得できない。 今は少しでも戦力が欲しいはずだ。

「刹那くん、どうして邪魔するの?」
「もう少し待て、ヤツの手札を全部引きずり出すまで」
「でも時間が……」
「残り5分が勝負だ。 それまで力を貯めておいてくれ」


「「ダブルソードダイバー!」」

 カムイとヴォルフが大剣型アームドデバイスの上に乗り、サーフィンのように突撃する。
 それぞれを両手で受け止めるアルバート、直後、二人の後ろからジェフリーと鬼道が現れる。 二人ともカムイとヴォルフの後ろに隠れて近づいていたのだ。
 ジェフリーが真上からの炸裂弾、鬼道が後ろに回って胴を切りつける斬撃、アルバートは先の二人を天地魔闘の構えで吹き飛ばし、ジェフリーを最後のカイザーフェニックスで焼き尽くし、鬼道の刃を念能力の『堅』で防ぐ。
 堅のために自動防衛装置を解いた瞬間を狙って、翼と紫音が遠距離から攻撃をする。 それもシールド魔法と二指真空波で防ぐと、今度は真後ろから蒼牙のファントムスラッシュが襲い掛かる。
 20発のファントムスラッシュに対して2000発以上の魔法の射手を放ち、攻撃を行った蒼牙ごと打ち落とせば、烈火とリュウセイがバインドでアルバートの動きを拘束させる。
 二人のクロスボンバーが迫る中、力任せにバインドを引きちぎり、レイジングストームで真反対にいる二人を同時に吹き飛ばし、さらに攻撃後の隙を狙っていたディストの方を向き、昇竜拳で殴り飛ばす。
 空中に飛ぶのを待っていたザップとアルスに対しては、ザップの双剣型デバイスを錬金術でバラバラに分解して使用不能にし、アルスを蹴り一発で叩き落す。
 一度やられたトリッパーはファルゲンとシャマルが転移魔法で回収し、すぐさま治癒魔法で回復させていた。 しかし、回復させたそばからまた突撃をし、やられ、回収され、回復し、突撃するのローテーションが出来上がってしまっている。
 それはつまり、自分の出番を待っている高町なのはは、友人がボロボロになる様子を何度も何度も見せ付けられているということでもあった。
 思わず目を背けたくなるが、それをしてはいけない。 友人達は道を切り開くために戦っているのだから。 自然とレイジングハートを握る手にも力が入る。

「面倒くせぇ、わらわらとゴキブリみたいに沸きやがって。 全部まとめて吹き飛ばしてやる!」

 アルバートが一枚のカードを取り出す。 それには不思議な模様が描いてあった。 全部まとめて吹き飛ばす、と言ったからには範囲攻撃だろうと予想し、全員が防御の体勢をとる。

「スペルカード! 厨符『超弾幕結界』」
「ここに来て東方かよ! マジで節操ねぇな!」
「隙間がねぇ! 見た目二の次で当てることだけを考えてやがる、最低野郎が!」
「ヒャッハァ! 最高の褒め言葉だ!」

 全員が数千発の弾幕をうけ、全員が同時に負傷する。 今までは入れ替わり負傷していたおかげで波状攻撃ができたが、これでは回復するまで時間が掛かってしまう。
 その時、レイジングハートが残り時間が5分であることを知らせた。 なのはが刹那に確認を取るような視線を向ける。
 ここで「いい」と言えばすぐにでも突っ込んでいきそうな雰囲気を纏わせている。

「ファルゲン、ユーノ、シャマルさん! メンバーの回復は?」
「30秒で終わらせてやる!」
「よし、いくぞ! 作戦は念話で伝える!」

 その言葉に、今まで戦いを静観していた原作キャラたちが気合を入れる。
 アルバートもそれに気がついた。 どんな攻撃でもはじき返すとでも言うように口の端を吊り上げて笑う。
 

『まず、相手の動きを止めることが必要だ。 幸いヤツはどんな攻撃でも受け止める自信をもっている。 逃げるなんてことはしないはずだ』
「轟天爆砕! ギガントシュラアアアァァァァァァァァク!」
「ヒャッハァ! さすがにでかい、ぶっ壊しがいがあるぜ!」

 先陣を切ったのはヴィータだった。 巨大化させたグラーフアイゼンでアルバートを闇の書の闇ごと押しつぶそうとする。
 それに対抗するのは、アルバートの螺旋丸だった。 右手に球体を作り出し、グラーフアイゼンにぶつける。
 少しばかりの均衡、やがてグラーフアイゼンに亀裂が生じた。 しかしヴィータは力を弱めない、むしろ更に気合を入れて力を込める。 そしてついに、グラーフアイゼンが砕けた。

「ストラグルバインド!」

 その砕けたグラーフアイゼンの後ろからクロノが現れ、ストラグルバインドでその右腕を封じる。 巨大化したグラーフアイゼンの後ろに隠れて接近していたのだ。
 あらゆる魔法効果を無効化するストラグルバインドだが、咸卦法にも効果があると刹那はにらんでいた。 魔力と気の融合、ならば魔力部分だけでも消せば咸卦法は機能しなくなる。
 半ば賭けだったがこの目論見は成功し、アルバートの顔に始めて戸惑いが浮かんだ。 使用している彼自身、そうなることを知らなかったのだろう。

『次に念による防御を崩す。 ワザと念能力を発動させ、本体の防御力を下げるんだ』

「フェイト、貴方に魔法を教えたのはリニスだけど。 そのリニスにこの魔法を教えたのは、そして貴方に教えるように言ったのは私なのよ」
「母さん、そうだったんだ。 ありがとう」
「うまくできるか、見てあげるわ」
「うん! 見てて!」
「フォトンランサー」「サンダースマッシャー」
「「ファランクスシフト! ファイア!」」

 Sランクとカートリッジで強化したAAAランクの同時攻撃。二人分76基の魔力スフィアから合計2000発以上の攻撃魔法がアルバートに殺到する。
 ストラグルバインドで捕らえられ、バリアジャケットもかなり弱体化している今、さすがのアルバートと言えども喰らったら無傷では済まない攻撃だった。
 しかし落ち着いて念能力の自動防衛装置を発動すれば、2000発の攻撃魔法はアルバートを中心とした半径20メートルの壁にさえぎられてしまう。
 とりあえず、この攻撃の無効化に成功したアルバートは、ストラグルバインドを外すまでの時間を、あるものに稼がせることにした。

『アルバートと同時に闇の書の闇も倒さなくてはならない。 シグナム、頼んだぞ』

「ちぃ、闇の書の闇、バインドを解くまでの時間を稼げ」
「させるか! レヴァンテイン、ボーケンフォルム! 駆けよ隼、シュツルムファルケン!」

 変形したレヴァンテインから発射された魔力の刃が、闇の書の闇に直撃して大爆発を引き起こす。
 闇の書の闇の巨体が揺らぎ、大きなダメージを負ったことが分かった。 それを見てアルバートは思わず舌打ちをした。
 まず真っ先に自分を倒そうとすると思っていたので、このタイミングで闇の書の闇を狙うとは思っていなかった。 さらに先ほど弾き飛ばしたファランクスシフトの余波も闇の書の闇にダメージを与えてしまっている。
 こいつはもう役に立たない。 そう考えたアルバートは、もう一つの手札を呼び寄せる。

「コピーヴォルケンリッター! そんな雑魚どもは無視してこっちを手伝え!」
「させへんよ、みんなと同じ顔でやりにくいけど、あんたらの相手は私や! 闇に染まれ、デアボリック・エミッション!」

 援軍のトリッパー達を無視してアルバートに向かうコピーヴォルケンリッターの前にはやてが立ちふさがった。
 コピーヴォルケンリッターの戦闘力はAAAランク、しかしはやてはSランクの広域攻撃魔法を放つことができる。 なのはやフェイトですら直撃すれば危ない攻撃だ。
 完全に防御の体制になったコピーヴォルケンリッターをトリッパー達は次々と打ち落とす。 はやての魔法で大ダメージを負っている相手を倒すことなど、彼らには造作も無かった。

『咸卦法も、念による防御も封じ、バリアジャケットも大幅に弱体化した。 攻撃するなら――』

「うん、今だね。 レイジングハート、エクセリオンモード!」
『Ignition. A. C. S., standby.』

 なのはがレイジングハートを変形させた。 その目は真っ直ぐにアルバートを見つめている。
 ちらりと、アルバートの近くに浮遊する氷塊を見る。 中にはぐったりした様子の真塚和真が入っている。
 残り時間は3分も残っていない。 大切な友達を助け出すために、貯めに貯めた最後の力を一気に開放する。

「全力全開、エクセリオンバスタアアアアァァァァァァァァ!!!」

 レイジングハートを構えたなのはが、真っ直ぐにアルバートへ突撃する。

「ヒャッハァ! 魔力は弱まったが、チャクラはまだ残ってるぜ!」

 アルバートが螺旋丸を左手に作り出し、大きく振りかぶる。

「借りを返すぞ、COM、シュート!」

 なのはと共に20メートル以内まで接近したブラウンの攻撃が正確に螺旋丸へと直撃し、球体は爆発してアルバートの左手から消え去る。

「ヒャッ……ハァ?」

 その様子に、思わずアルバートは自分の左手を見つめ、なのはから目を逸らし――
 突撃したなのはが、ついにアルバートへとぶつかった。
 魔力のスパークが両者の間で発生し、辺りに光が撒き散らされる。 ぶつかり合う魔力の衝撃波が圧力となって周囲に暴風を巻き起こす。
 その被害を一番受けるのは、当然なのはとアルバートだ。 しかし、なのはの表情がどんどん苦悶に歪むのに対し、アルバートは少しずつ笑みを作り始めた。

「確かに驚いたが、SSSランクを甘く見すぎたな。 魔力が弱まっても、小娘1人の攻撃を防ぎきることぐらいはできるぜ! ヒャッハァ!」
「確かに、私1人じゃ貴方には勝てない。 けど、みんなが揃えば、奇跡だって引き起こせる!」

 なのはの魔力が一段と強くなった。 アルバートは思わず眉をひそめる。 まだ余裕で耐えられるが、想像以上のパワーに驚いたのだ。
 そこで更になのはの魔力が高まる。 これで終わりではない、まるで際限が無いようになのはの魔力が高まり続け、ついにはSランクを超えるほどの魔力を持った。
 明らかにおかしい、こんなことはありえない。 さらに魔力が高まり、アルバートにも耐えるのが精一杯になったとき、彼は気がついた。
 なのはの後ろに、まだ人間がいる。 その後ろにも、さらにその後ろにも、前の人間の背中に手を置いて、一列に並んでいち。
 それは、先ほどまで余裕であしらっていた14人のトリッパー達、ユーノ、アルフ、シャマル、ザフィーラ、アースラの名も無き武装局員まで繋がっていた。
 さらに人数は増える。 フェイト、はやて、プレシア、クロノ、そして援軍に来た管理局のトリッパー達。 彼らの魔力のすべてをレイジングハートに集中し、そのすべてをエクセリオンバスターにまわしている。

「ぐうううぅぅぅぅ、なるほど、さすがの俺も危ない、危ないが……危ないのはそっちも同じだ!」

 ピシッ

 何かが割れるような音が聞こえた。
 なのはは自分の手元を見て、目を開いた。 レイジングハートにひびが入っているのだ。

「そんな!? レイジングハート!」
「ヒャッハァ! そんだけ魔力を集めて、デバイスが持つはずがねぇ! そいつが壊れるまで、10秒耐え切れば俺の勝ちだ!」

 アルバートは苦痛の冷や汗をかきながらも、笑みを浮かべたままでそう言った。 そしてそれは、10秒耐え切るという自信の表れでもあった。
 たった10秒がやけに長く感じる。 レイジングハートは1秒ごとに亀裂が増え、いつ粉々になってもおかしくない状態になっていた。
 やがて、レイジングハートのすべての箇所に亀裂が生じ、無事な箇所が何処にも無くなった次の瞬間。

 パリィン

 モノが砕ける、乾いた音が辺りに響き渡った。
 その音になのはは絶望し、アルバートは最高の笑い声を上げる。

「アッヒャッヒャッヒャ! これで俺の勝ちだ! ヒャ「グルルルルル……ウォオオオオオン!」 なにぃ!」

 レイジングハートは無事だった。 いくつかのパーツが粉々になったが、まだ原形を保っている。
 壊れたのは、和真を捕らえていた氷の塊だった。 そして中から飛び出してきた、小さな白い影がアルバートへと飛び掛る。 和真のリュックサックに入っていたシロが、和真を捕らえていた氷を内側から砕いたのだ。
 アルバートに飛び掛ったシロは、アルバートのバリアジャケットに喰らい付くと力任せに引きちぎった。 まるで布が破れるように穴が開き、そこから連鎖するように体全体のバリアジャケットが消えていく。
 いくらSSSの魔導師といえども、バリアジャケットも無しに攻撃魔法を喰らえばひとたまりも無い。 しかも全力の自分と拮抗する威力がある魔法、一度均衡が崩れると後は押し流されるだけだった。

「ブレイク……シュゥゥゥゥゥゥゥット!」
「ばかな、犬に、犬のせいで負ける? このチートラスボスの俺が、ばかな! そんな! こんな! こんなクソSS、二度と読んでたまるかああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 なのはが最後の気合を入れると同時に、レイジングハートは砕け、アルバートは闇の書の闇と供に光の奔流に飲み込まれた。

「いまだ! エイミィ!」

 さらにクロノの合図で、闇の書の闇は宇宙へと打ち上げられる。
 供に吹き飛ばされた、アルバート・グレアムを巻き込んで。
 全員がほっと一息ついたのもつかの間、なのはが海面に向けて落下を始めた。 レイジングハートが機能しなくなったせいで飛行魔法を維持できなくなったのだ。
 じたばたするがどうにもならない。 重力に引かれての自由落下に対して、魔法の使えなくなったなのはに抵抗する術は無かった。
 その時、同じように落下する和真の姿を発見した。 しかも向こうは意識が無く、頭からまっさかさまに落ちている。 このまま海面に叩きつけられるのは明らかに危険だった。
 必死に手を伸ばし、和真を手繰り寄せたなのはは、和真を抱きかかえて少しでも落下の衝撃から守ろうとする。
 せめて和真だけでも守る、そう考えていたなのはだったが、和真の服に引っかかっている赤い球体に気がついた。 レイジングハートのコア部分、先ほど爆散したときに引っかかったらしい。
 迷うことなくそれを手に取り自分と和真を包み込むようにプロテクションを発動させた瞬間――
 二人は水柱をあげて海面に落下した。

「っぷは、和真くん、大丈夫? 和真くん!」
「ん~、なのは? あれ? なんで泳いでるの?」

 海面から顔だけ出したなのはが呼びかけると、和真は目を擦りながら返事をした。
 どうやら無事らしい、安心して気が抜けた瞬間、なのはと和真は同時にくしゃみをした。 12月の海は寒い、壊れたレイジングハートのプロテクションでは冷気を完全に遮断できなかった。
 そっと、レイジングハートのコアを握り締める。 一度壊れてから、一月もたたないうちにまた壊してしまった。 しかも前回より酷い。 修理はできるだろうが、申し訳ない気持ちになってしまう。
 和真がなのはの目元にそっと指を当てる。 知らず知らずのうちに泣いてしまっていたらしい。 和真が助かったことの嬉涙か、レイジングハートを壊した悲しい涙か、なのは本人にも分からなかった。
 でも、きっと笑っていい。 何となくだか、そんな気がする。 なのはが笑みを浮かべると、和真も笑みを浮かべ、しばらく二人で笑いあって過ごした。 
 そのうち仲間達が上空から降りてきて、二人を引き上げる。 その時、和真が空を指差す。

「見て、サンタさん!」

 全員がその方向を向くと、真っ直ぐ伸びる虹色の線が夜空に浮かび上がっていた。



[6363] さいご!
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/08/06 23:07
 次元世界の中心、ミッドチルダ。 機動六課宿舎から徒歩5分の場所に、その店はあった。
 今、1人の男がその店の前に立ち、ミッドチルダ語と日本語の両方で書かれた看板を見上げながら、ポツリとつぶやいた。

「翠屋ミッドチルダ支店、オリ主のお約束だな」

 そう言ってクスリと笑った男は、扉を開けて店内に入る。 扉の上部についている鈴から音が鳴ると、カウンターの中で作業していた青年が顔をあげてこちらを見た。
 大人としての若々しさと、少年のあどけなさの両方を併せ持つ青年は、入ってきた男の姿を見た瞬間に満面の笑みを浮かべる。
 それに気がついた男も微笑み返すと、腰ほどの高さの人影が近寄ってくる。 金髪で左右の瞳の色が違う少女の案内されて、カウンターの空いている席に座る。

「いらっしゃい、天崎君」
「ああ、久しぶりだな、和真」

 出されたコーヒーを一口飲む、ブラックだが苦すぎず、薄すぎず、丁度いい味わいが舌を刺激した。
 さらにサービスとして出されたクッキーをかじり、思わず「お、うまいな」感嘆の声を上げた。

「8年のキャリアは伊達じゃないな。 最初は消し炭を作ってたのに」
「なのはが怪我したとき、必死に頑張ったから。 僕は魔法で助けられないから、これくらいは、ね……」

 店内を見渡すと、先ほどの少女、高町ヴィヴィオがウェイトレスとして手伝っていた。
 テーブル席に今日のランチを運んでいる。 見ていて危なっかしいが、幼いながらも頑張る姿に何となく昔の和真が重なって見えた。
 そんなヴィヴィオが料理を運んだテーブルには3人の男が座っていた。

「よーし、ヴィヴィオ、パパって言ってごらん」
「いやいや、パパはこっちだ」
「よこしまな奴らめ。 ママのお兄さんだよ、おじさんって言ってごらん」
「何やってんだお前らは……」

 アルス、蒼牙、ディストがヴィヴィオを懐柔しようとしていた。 その様子を見て、同じ席についているジェフリーはため息をつく。
 10年たってもなのはとフェイトを諦めていない二人は、ヴィヴィオのパパになろうと必死に頑張っている。 自称フェイトの兄のディストだけはママの兄、叔父になろうとしていた。
 当のヴィヴィオはそれを知ってか知らずか、ニコニコと笑いながら純粋な返事をする。

「うん、わかった。 おじちゃん」
「いや、だからね」
「ヴィヴィオ~、あっちのテーブルをお願い」
「は~い、パパ」

 和真の支持にしたがって、ヴィヴィオは別のテーブルへお冷を運んでいった。 アルスと蒼牙はがっくりと机にうなだれ、ディストはガッツポーズを取った。
 このおじちゃんと、ディストが望むおじちゃんはニュアンスが違う気がするが、本人が満足しているのだからいいのだろう。 ジェフリーは余計な突込みを入れずに、運ばれたコーヒーを楽しむことにした。
 別のテーブルでは、水色の髪の少女が注文を受けていた。 リインフォースが生き残ったこの世界でも、トリッパー達の頼みによってはやてはリインⅡを生み出したのだ。
 もっとも、機動6課の人数は足りているので、いつもはこちらの手伝いをしているが。

「これ、はやてに渡してくれる?」「カムイさん、ラブレターは自分で渡した方がいいですよ~。 はやてちゃんいつも苦笑いしてます。 脈、無いですよ」
「お父さんってよんでほしい」「ヴォルフさん、寝言は寝てからいってくださいね~」
「……付き合ってください」「だまれこのロリコンが」
「コーヒーとケーキセット」「はいは~い、紫音さんにはサービスしちゃいます。 なんたってお姉さまの命の恩人ですから」

 初代リインフォースが消えようとするのを、トリッパー達は必死になって止めた。 大団円にするための最後の鍵をアルバート・グレアムが残していたからだ。
 アルバートの持っていた厨二の書は夜天の書のコピー、そしてそのデータは無限書庫で見つけたと言っていた。 つまり、無限書庫を探せば夜天の書の元データが見つかる。 かもしれなかった。
 無限の資料がある無限書庫でそのデータを見つけ出すのは、砂漠に落ちた針を探すことよりも難しい。 しかし、リインフォースはギリギリまで待つことを選択する。
 そしてデータを発見したのは、管理局に入ったものの結局前線に行くのが嫌で無限書庫勤務を希望した紫音だった。 それがどうやらリインⅡに気に入られたらしく、紫音は翼の嫉妬の視線を受ける日々を送っていた。

「正義の魔導師アーチャー、銀行強盗を捕縛、人質は全員救出。 管理局に入ったらどうだ?」
「それはカッコよくない。 アウトローの方がヒーローっぽいからな」
「ミッドチルダで一番の流行ファッションは腕に包帯、10台前半で大人気、ねぇ」
「ガツガツ、意外なものが、モグモグ、流行るもんだな。 ランチセットお代わり!」

 ザップは1人、管理局に入らずに正義の味方をしていた。 その方が厨二病らしく活動できると思っているからだ。 しかし、本人に内緒で嘱託魔導師登録がされていることを彼は知らない。
 烈火とファルゲンが読んでいる雑誌のページをめくると、『20年前の闇の書事件、再審請求またも棄却される』という記事があった。 写真にはブラウンが写っている。
 ブラウンは闇の書被害者遺族を纏め上げ、裁判の請求をしたり、過激派を押さえたりと忙しくしているらしいが、彼なら道を踏み外したりしないだろう。
 これまでの間、リュウセイはずっと食事を続けている。 食べ終わった食器が山のように重なるが、それでも食べるのを止めない。
 管理局に入り、本格的に戦うようになってからリュウセイの食事量は一気に増えた。 運動量と関係あるらしいが、スバル・ナカジマと大食い対決をしたときは本気で店が潰れかけ、以来すこしばかり自粛をするようになった。 あくまで、すこしばかりだが。

「お、俺が最後か」

 店の入り口が開き、新たな客が入ってくる。 19歳になった鬼道炎である。
 刹那の隣に座ると、同じようにコーヒーを飲んでクッキーをつまむ。 その味が気に入ったのか、さらに二つ、三つと手を伸ばしす。
 鬼道が席についてしばらくたつと、店の隅に置いてあるテレビでニュースが始まった。 女性レポーターがマイクを持ち、画面にアップで映し出された。

『ここ管理局地上本部では、公開意見陳述会が開始されました。 8年前の大改革以来、積極的に新しいことに挑戦し、成功を収めてきた時空管理局。 その先陣を切るレジアス・ゲイズ中将への期待は今回も大きく――あれ? なんですか? 攻撃です! 地上本部が何者かの攻撃を受けています!』

「はじまったか」
「ああ、やるとしたら絶対このタイミングだろうな」
「予想できた事態だ。 準備も万全!」

 コーヒーを飲み終えると同時に、彼らはデバイスを起動して一斉にシールドを張る。
 その直後、窓ガラスを破って店内に投げ込まれるピンポン玉ほどの玉。 中には『爆』という文字が浮かび上がっていた。
 その玉が強い光を放つと、爆発が起き、炎が暴れ周り、翠屋ミッドチルダ支店は一瞬にして瓦礫の山となった。

「くっくっくっく、ヒャーッハッハッハッハ! 不思議なもんだなぁ! 二度と読まないと思うクソSSほど、更新されたら読んじまうぜ、ヒャッハァ!」

 そして瓦礫の前に降り立つ、最凶のチートトリッパー、アルバート・グレアム。 彼の高笑いが響く中、瓦礫の山が吹き飛び、中から17の人影が現れた。
 真塚和真、ヴィヴィオ、リインⅡを守るように囲む14人のトリッパー。 彼らの活躍で中心の3人には傷一つ付いていない。

「文殊か、厄介な能力を身に付けやがって」
「この分だともう2~3個は新ネタを覚えていると考えた方がいいな」
「手に入れたのはネタだけじゃないぜ! 60人のダーク好きアンチ管理局トリッパー、130人の俺特製戦闘機人、そして2300体の俺のオリジナルガジェット! それをまとめるのは、よく分からない封印が解けて聖王として覚醒したこの俺! アルバート・グレアムだヒャッハァ!」

 大声で戦力自慢をするアルバート、しかしトリッパー達は慌てない。 むしろ余裕の表情で聞いていた。
 その様子が気に入らないアルバート、笑うのを止めて機嫌が悪そうな顔をする。
 それを見た刹那が手を上げると、次々と新たな人影が現れた。 14人のトリッパーを合わせるとその数は丁度100。

「甘いな、戦力を増強したのはお前だけじゃない!」
「なにぃ!」
「公開意見陳述会の警備をサボってこっちに来た機動6課!」

「さあ! 気合入れていくで!」
「和真くん、必ず守るからね」
「あなただけは、必ず捕まえる!」

「よく分からんうちに管理局がまともになって、改心していつの間にか和真と知り合っていたスカリエッティ一味!」

「てんちょーは守るっす、ここのケーキ食べれないの嫌っすから」
「店長からケーキの作り方教えてもらうの、そしてドクターに!」
「糖分は脳の働きを活性化するのでね。 この店が無くなるのは困るんだ。 ……もう無くなっているが」

「10年前もお世話になり、今も数が増えている管理局トリッパーのみなさん!」

「いくぞ、みんな!」
『おおおおおおお!』

「何故か10年たっても小さいままのシロ、そして10匹を超えるアルフとシロの子供達!」

「ぐるるるるるる!」
「ウォーン!」
「アタシとシロさんの愛の力で、アンタなんか食いちぎってやるよ!」

 アルバートの軍団と、和真を中心とする軍団がにらみ合う。
 一触即発の空気の中、沈黙を破ったのはやはりアルバートの笑い声だった。

「ヒャッハァ! やっぱりそうこなくちゃ面白くない。 Sts終了後のオリジナルストーリーはダーク系だぜ!」
「させるか! 真塚和真の友達100人、俺達は絶対に負けない!」
「そいつは期待ができるな、さあ――」












「お祭り(カーニバル)は続くぞ! ヒャッハァ!」













 第97管理外世界、地球。 日本、○○県海鳴市。
 座土マナミはふと空を見上げた。 何があるというわけでもない、青い空が広がっているだけだ。
 思い出すのは、別世界へと旅立っていった生徒達。 彼らと過ごした日々は、彼らが卒業してからも、一日たりとも忘れたことは無い。
 時々連絡は来るが、やはりたまには実際に会いたいと考えてしまう。 もっとも、あのアクの強い男子達に毎日会えば疲労が溜まってしまう事は6年間でよく理解しているが。

「あ、せんせいだ」
「せんせ~」

 公園の前を通りかかると、遊んでいた子供達が近寄ってくる。 彼らは今年入学したばかり、マナミは再び一年生の担任になっていた。
 10年前のような異常な子供達ではない、何処にでもいる普通の子供達。 しかし、それが何となく物足りないように思えてしまう辺り、マナミも彼らに影響されていたのだろう。
 そんな子供達がマナミの周りに集まって取り囲んだ。 そして服を引っ張り、公園においてるベンチにマナミを座らせ、子供達自身は地面に直接座った。

「せんせー、お話して」
「この間のHRで話してくれたの、もう一度聞きたい!」

 その言葉で、マナミは子供達が何を求めているかを理解する。 それは、彼女が新しい子供達の担任になると必ず話す物語だった。
 マナミは微笑んで、話を始める。

「それは、不屈の心を持つ子供達の物語。 まるでお祭り(カーニバル)みたいに楽しく、騒がしく、きらびやかな物語。 先生がその15人の男の子を初めて見たとき――」











[6363] せってい
Name: ark◆9c67bf19 ID:51b818ff
Date: 2009/08/06 23:13
 現在までに登場しているオリキャラ一覧です。 先に読むと内容のネタバレも含みます。
 初めは作る気はなかったけど、人数と設定が多くて作者自身が混乱してきたので作ることにしました。
 新しい人物や設定が登場するたびに新しく追加していきます。



真塚和真  一般人

主人公兼ヒロイン。 黒髪黒目の日本人。 一分で寝る特技を持つ。
天然、ぽやぽや、小学校3年にしては少し幼すぎるかもしれない。
優しいし勇気もあるし主人公補正満載、と書くと御都合主人公なので、彼をいかに純粋に書けるかがこの話の最も重要な部分でもある。
残念ながら家に来てくれるような友達はまだ3人、がんばれ男の子!
人の目を見て相手がいい人かどうかを判断できる。


天崎刹那 (永瀬タクマ) チームTRIP 空戦AA

白髪、昔の名前の方が気に入っている。
リーダー気質がある、ただ時々黒くなったりする。
リリカルなのはというアニメそのものが好きなのでとても常識人。
好きなキャラクターは無し、あえて言うならクロノ、派手さに頼らず堅実な魔法を登録している辺りがそれっぽい。
4話の必殺ポーズはブラフ、そんなものありません。
デバイスはミッド式杖型の永瀬一号、バリアジャケットはジャージ、見た目より機能優先。


竜宮カムイ (村田大介) チームTRIP 空戦AA

はやて好き、気になって様子を見に行くほど、ちょいストーカーの気があり。
でもはやての幸せのために諦める、ある意味男らしい、比較的常識人。
大剣デバイス疾風三式(はやてさんしき)、何が三式なのかは不明。
最近空戦が出来るようになった。


リュウセイ・クロウバード (吉野圭一) チームTRIP 陸戦B+

戦闘機人、赤髪赤目、ISは体を高熱化したり接触面を爆発させたりする 『ヒートソウル』
元介入反対派、だってスカとか怖いし。
でも過激派のせいで安全そうな物語がメチャメチャになるのはもっと怖い、だから反対派は3人とも世界を守るためにチームTRIPに残っている。
空を飛べない代わりに空中に足場を作ってジャンプできる。
デバイスはメリケンサック型のメリケンサック君、ネーミングセンス無し。
バリアジャケットは黒魔術の儀式をしそうな黒いフード付きの姿、安全に過ごしたいので正体を隠すことを第一なデザイン。
蹴った場所を全力のISで吹き飛ばす 『必殺、ヒートソウルブレイカー』、蹴って爆発ってまるでライダーキック。


神尾烈火 (野村恭一) チームTRIP 空戦AA

元介入反対派、死にたくない。
別にリリカルなのはが好きなわけじゃない、むしろキン肉マンの方が好き。 ただ次元震や闇の書は怖い。
靴型デバイスのブーツ君、必殺烈火キック、ネーミングセンスがリュウセイと同レベル。
コンビネーション必殺を考えるほどリュウセイとは仲がいい。
本編で本名が出てないけど、めんどいから此処で書いておきます。


幽鬼紫音 (橘惇) チームTRIP 空戦AAA

元介入反対派
原作キャラじゃなくてもいいから可愛い彼女がほしい、アニメって便利だね、みんな可愛く見える。
デバイスは砲撃戦用の35ミリ魔法キャノン、魔法攻撃なので口径は関係ない。
本家を超える威力のスターライトブラスターは4分43秒の間動けないという致命的な欠陥がある。


ファルゲン・C・ライデュース (吉村正) チームTRIP  空戦A

親がデバイスマイスター、トリッパーのデバイスのいくつかはコイツの親に作ってもらった。
過激派のデバイスを破壊することで物語の介入を阻止できるのは、個人の小学生では他のデバイスマイスターに修理を頼む金も材料が無いから。
親がミッドチルダ人でも、ホイホイとデバイスを手に入れることは出来ません、デバイスって高価だし、数ヶ月~年単位の期間が必要。
メガネ型デバイスのインテリを使う。 サポート専門なのは14人の中でファルゲンだけ。


ジェフリー・マークハント (佐藤武) チームTRIP 空戦AA

銃型デバイスのJDを操る、好きな映画はジャッジ・ドレッドらしい。
体操服のバリアジャケット、卒業したらどうするんだろうか?
イーブイのレベルを99まで上げた。


鬼道炎 (金井修平) 過激派 空戦A+

トリップした理由を探すためにあえて過激派に入る。
日本刀のデバイスのマサ、青いツナギのバリアジャケット。
ドガースのレベルを99まで上げた。
射撃魔法の弾道を撃った瞬間に理解できる、ただし弾道が分かるだけ。
途中で爆発したり、避けられないほど太い砲撃、大量に弾の出るファランクスシフトなどは避けられない。
真塚和真が誰にプレシアの相談をするかで存在意義を決めた。
本編で本名は出ていない。


アルス・エヴォリュアル (住田厚司)  過激派 空戦AAA

長い青髪、なのは萌え、そのために主人公の座を奪おうとする。
空中移動は苦手、それでも頑張って飛行することを覚えた。 でも遠距離魔法は一つしか覚えてない。
一般人への魔法攻撃、ロストロギアを押し付けて発動させる、犯罪です。 なのはにばれたらどうするつもりだったんだろう?
天崎刹那 (永瀬タクマ) の50分耐久砲撃魔法でリタイア。
デバイスはベルカ式アームドデバイスのスラッシュハート、バリアジャケットはデザイン重視の頼りない鎧。
使用魔法は斬撃型射撃魔法のフォトンスラッシャー、そして必殺必中・バーニング(ry


ディスト・ティニーニ (山内広)  過激派 空戦AA

赤髪赤目、プロジェクトF・A・T・Eの実験体、ただしプレシアとは別の人間が作った。
フェイト萌え、自称フェイトの兄、そういうのって自意識過剰だと思う。
リュウセイ (吉野圭一) とカムイ (村田大介) によってリタイアさせられる。
手甲型デバイスのフォルクスイェーガー、赤いノースリーブのバリアジャケット。
電撃で相手を攻撃するダブルエナジーコレダーが必殺技、微妙に地味だが接近戦ではメンバー内でも強い。


大空蒼牙 (浅井元治)  過激派 陸戦AAA

チームに空戦が多い中で空を飛べないことを悩んでいる。
大鎌のデバイスヘルライザー、黒いバリアジャケットで誰を意識しているか一発で分かる。
ファントムスラッシュは変幻自在、自分の意思で好きなように動かせる。
だからフリーザ様みたいなコトにはならない、はずだった。
自称フェイトの彼氏w そういうのって自意識(ry


ヴォルフ・マクレガー (西田吉郎) 過激派 陸戦AA

はやて+ヴォルケン好き、ハーレム狙い。 ただしザフィーラ、てめーはだめだ。
重力制御が得意で足場さえあれば天井にも立てる、が飛べない。
隠し事が苦手で顔に出るタイプ。
大剣デバイスアロンダイト、特に注目するところは無い。
シグナムの技をパクッた黒蛇追剣を使う。 威力もパクリ技らしくその程度。


ザップ・トライフォン (牛田茂) 過激派 空戦AA

そろそろ名前を考えるのがめんどくさくなって、適当に名づけたせいで微妙にトリップ後の名前がかっこ悪い。
弓形デバイスのサジタリウス、分解すると二本の剣になる。
赤い服(バリアジャケット)、弓、双剣、どうやらFateが好きらしい。
近~遠距離、単体~集団戦をバランスよくこなせる、メンバーでも強いほう。
本格的な厨二病、しかも本人が自覚している。 でもまだ小学生。


龍堂翼 (津田藤二) 過激派 陸戦AAA

スナイパーライフル型のデバイスを操る、遠距離狙撃のスペシャリスト。
セリフが無いのは元々無口だから、忘れてたわけじゃありません、信じてください。
特に見せ場も無くクロスボンバー!
ロリコンと判明、小学生同士なら問題なし。 ヴィータとヴィヴィオが危ない!
幼女を守るためなら限界以上の能力を発揮することができる。


先生 (座土マナミ)

このSSの真のヒロイン
たまにしか登場しない、けど妙に人気がある。
そういえば原作の先生って女の人だっけ?
ショートボブ、メガネ、童顔、学生くささを残した態度がマイジャスティス。
何で……何で作者のリアル担任は……
2年以上もの間、生徒に名前を覚えられていなかった。


シロ

真塚家の飼い犬、白い雑種、小型犬
Aランク魔導師並みの戦闘能力、Sランク魔導師(プレシア)のバリアジャケットを食い破ってダメージを与える牙
シロが特別なのではなく地球の犬がすごい、シロ自体の能力は犬の中でも上の中くらい
アルフを一目ぼれさせる、別れ際に首輪を渡した。


高知のおばあちゃん (座土有葉)

謎の存在、物語の根源に関わっている、かもしれない。
海鳴に滞在中
外伝3で名前が判明した。読み方は『ざどあるは』、欧米風に呼ぶと……?


――――――第二部より登場


ブラウン・クルーガー (岡崎哲也) 時空管理局一等空士 空戦AAA

現在17歳、10年前の闇の書事件で父親を失い、連鎖的に母親も失う。
トリッパーでありながら原作キャラに恨みを持つ。 しかし本当ははやて好きだと見抜かれた。
管理局員エース用インテリジェントデバイスに無理やりカートリッジを取り付けた。
砲撃魔法を限界まで圧縮して打ち出すCOM (Canon of micron) が必殺技、チート技だがロリコンパワーを限界まで発揮した翼によって打ち落とされた。


アルバート・グレアム (鈴木敬一郎) グレアム派 空戦SSS

17歳、ギル・グレアムの孫。
チート魔力でチートデバイスを持つチートキャラ、しかもそれを自覚していてA's編ラスボスを自称する。
何故グレアムに協力しているかは不明。
リーゼロッテ、アリアに好かれているがそれすらも何かに利用しているようにも見える。
その正体はダーク系の話が好きな多重クロストリッパーだった。 闇の書の闇を使い、地球を滅ぼして世界をダーク系の物語にしようとした。
なのはやトリッパー達によって阻止されるが、10年後、ミッドチルダに再び現れる。
皮肉にも、夜天の書コピーを作ったことがリインフォース生存、ハッピーエンドの鍵になってしまった。
ナルト、H×H、ダイの大冒険、SNK及びカプコン格ゲー、鋼の錬金術師、ネギま、GS美神の能力を使う。



[6363] がいでん
Name: ark◆9c67bf19 ID:e50a5e85
Date: 2009/02/28 11:53
 いつもの真塚家の夜。

 父親が新聞を読み、母親が食事の片付けをし、シャマルがそれを手伝い、シグナムが食後のお茶を飲み、和真とはやてが学校の宿題に取りかかり、ヴィータがソファに寝そべってアニメ番組を見ている。

 ただ一つ違っていたのは……


「ヴィータよ」

「ん? 何だよザフィーラ」


 ザフィーラに声を掛けられて、ヴィータは少し不機嫌そうに返事をした。

 テレビではアニメの主人公のロボットが必殺技を出すところ、一番盛り上がるところに水を差されてしまったのだ。

 しかし、そんなことなど気にせずにザフィーラは話を進める。


「前々から言おうと思っていたが、お前は目上の者に対する敬意が足りていない」

「目上ぇ? そりゃあたしはそういうの苦手だけどさ、できるだけ払ってるよ?」


 ヴィータは口が悪い、態度も悪い、それでもベルカの騎士としての誇りを忘れたことはない。

 主であるはやてのことは大切に思っているし、その家族の真塚一家にも不器用ながら感謝を示している。

 ただ表現が下手なだけでその心は騎士として恥じることのない物だということはみんな理解していた。

 だから多くは口を挟まない、ヴィータは言葉ではなく行動で表現するタイプだからだ。


「だがヴィータよ、お前は大事な人に敬意を払っていない」

「大事な人?」


 ヴィータが部屋を見回す。

 ヴォルケンリッターを除くとこの家にいるのは……はやて、和真、その両親、そして――


「わん!」


 シロが目に入った。

 しばらくじっとシロを見つめ、そしてザフィーラに疑問の目を向ける。

 ザフィーラが黙って頷いたのでもう一度シロを見る、だがシロはしっぽを振ってお座りをしていた。


「なあザフィーラ、もしかして……シロか?」

「バカモノ! シロさんと呼ばんか! シロさんと!」


 ザフィーラに怒られてしまった。

 納得のいかないヴィータはシロを抱きかかえてじっくりと観察してみる。

 何処にでもいそうな雑種の小型犬、ヴィータでも簡単に持ち上げられる小さな身体。

 確かにシロは真塚家の一員だが、それでもやはりタダの犬だ。


「能力を過小評価するとは、ベルカの騎士としてどうかと思うぞ」


 お茶を飲み終わったシグナムが話に加わってきた。

 しかもザフィーラに賛同している、そのことがヴィータには信じられない。


「能力を過小評価って、ザフィーラみたいな守護獣や魔導師の使い魔じゃないんだしさ~」

「いや、シロ殿は強い。 以前散歩の途中で手合わせしてもらったが、私でも危ないところだった」

「うわっ! シグナムが冗談言うなんて、でも面白くないぜ」


 結局、ザフィーラもシグナムもため息をついてこれ以上言うのを止めた。

 そんな二人を変に思いながら、ヴィータはテレビの方に向き直る。

 とっくにアニメは終わっており、どうでもいいバラエティーが始まっていたので電源を切ったのだった。

 そして深夜――

 小腹が空いたヴィータは抜き足差し足で台所に向かっていた。

 内緒のアイスを冷蔵庫に隠してある、それを頬張るところを想像すると自然によだれが出てくる。

 しかし途中で妙な物音に気がつく、玄関の方だ。

 まさか泥棒?

 ベルカの騎士が守護するこの家に忍び込むとはいい度胸だ。 ぶっ飛ばして警察に連れて行ってやる。

 そう考えながら玄関に向かうと……これから出て行こうとするシロとザフィーラの姿を見つけた。

 こんな夜中に外へ? 一体何故?

 こっそりと後をつけると、二人(二匹)は家から少し離れた広場に移動した。

 そしてその広場にいる犬、犬、犬。

 まるでこの街のすべての犬が集まっているのではないかと錯覚するほどの大量の犬がいた。

 なんだこれは? と疑問に思っていると


「わん! わん! わん!」


 後ろから来た犬に見つかってしまった。

 その鳴き声を聞いたとたん、犬たちが一斉にヴィータを取り囲む。

 その殺気だった態度に思わずアイゼンを起動してバリアジャケットを身に纏った。

 数十匹の犬が唸る中、ザフィーラとシロがヴィータを守るように犬たちの前に立ちふさがる。


「わん! わん!」

「この者は我々の知り合いだ。 手出しはしないと約束する」


 その声を聞いた犬たちは少しばかり話し合うようなそぶりを見せた後、ゆっくりとヴィータを解放した。

 ヴィータにとっては分けが分からない、一体この広場で何が起きようとしているのだろうか?

 すると、犬の群れの中に一匹の見慣れた姿を見つけた。

 アレはアルフ(子犬)だ。 何故あんな所にいるのだろうか?


「シロさん! 来ちゃいけない、これは罠だよ!」

「わん!」

「わわん、わん、わん!」

「くぅ~ん、わんわん!」




「なぁ? ザフィーラ?」

「仕方がない、通訳してやろう」


 ヴィータが申し訳なさそうにザフィーラに視線を向ける。

 ザフィーラはやれやれといった表情で通訳を引き受けたのだった。

 以下、犬語を日本語に変換します。


「くっくっく、このアマなかなか強情だったぜ。 俺の兵隊が20匹ほどやられちまった」

「ふん、数に頼らなければ何もできないゲス野郎が、貴様など犬の誇りも無いのだろうな」

「何とでも言え、疾風(はやて)のシロを倒せるなら安い物だ。 そしてこのポチが海鳴を支配する」


 ザフィーラの通訳を聞きながらヴィータは頭を抱えた。

 まさか犬の社会がこんな状態だったとは……いや、それよりも突っ込むべき所はたくさんある。

 とりあえず一番突っ込みたいのはアルフについてだった。


「なぁ? あいつって使い魔で人型になれるよな? 何で捕まってんだ?」

「流石に数で押されては体力が保たなかったのだろう、個人的な問題で主に助けを求めることもできず……無念だろうに」

「いやいやいや、犬だぜ? 犬の10匹や20匹でそんな!」

「相手を過小評価するなと言っただろう。 見ていれば分かる」


 犬の群れが二つに割れ、中から一匹の犬が出てきた。

 茶色い毛並み、短い足、長い胴体、垂れ下がった耳――

 そう、ダックスフントと呼ばれる犬がシロの前に進み出てきた。


「ダク助さん、お願いします」

「ふん、噂に名高き疾風のシロがこんな雑種とはな。 だが仕事だ。 手加減はしないぞ」

「弱い犬ほどよく吠える。うんちくはいいからかかってこい、1秒で終わらせてやる」

「ほざけ! 若造が!」


 ヴィータはまた頭を抱えた。

 ダックスフントのことはテレビでも見たことがある。

 長い胴体を見て笑ったし、はやてがシロの方が可愛いなんて言っていた。

 それがこんな傭兵みたいなマネをするとは、そもそも何を報酬に仕事を引き受けたのか?

 金か? 餌か? ヴィータには想像できない。


「狩人ダク助、やっかいな相手だな」

「そうかぁ? ダックスフントって短足でチョコチョコ動き回るだけだろ?」

「相手を過小評価するな! ダックスフントはアナグマの狩猟用に品種改良された、いわば狩りのエリート! その戦闘能力はCランク魔導師にも匹敵する!」

「そんな――」


 バカな、と言おうとした瞬間、ヴィータは信じられない物を見た。

 まずダク助がまっすぐシロに向かって突撃した。

 蹴った土が砂埃をまき散らし、まるでロケットのような速度で突っ込むダク助がシロにぶつかったその瞬間、シロの姿が消えた。

 突如目標を見失い戸惑うダク助、その時、誰か(犬)が 「横だ!」 と叫ぶ。

 その声に反応するより早く、ダク助の身体を衝撃が襲う。

 ダックスフントの長い胴体への強烈な体当たり、ダク助は身体を「く」 の文字に折りながら吹き飛ばされる。

 観客(犬)が宙を舞うダク助に注目する、ゆうに十数メートルは空中を移動しただろうか?

 広場の端の壁に当たったダク助はそのまま地面に落ち、情けない鳴き声を上げて動かなくなる。

 以上、ダク助が突撃してからきっちり1秒の出来事だった。


「さすがシロさん、ダックスフントは長い胴体と短い足でスピードは速いが小回りが利かない。 そこを突いたのか」

「う、動きが見えなかった……」


 ヴィータは初めて犬という生物に恐怖した。

 なんなのだ? 今の戦いは?

 犬の喧嘩ってもっとこう……吠えたり噛みついたり、そんなのじゃなかったのか?

 なんでベルカの騎士でも追いつけないほどの高スピードのバトルが繰り広げられているのか?

 もしかしてここにいる犬はすべて魔導師の使い魔か守護獣ではないのか?

 思いっきり混乱するヴィータをよそに、シロの前に第二の刺客が姿を現す。

 小さなからだ、つぶれた顔、そういう犬をブルドッグと言う。


「なるほど、噂通りの実力だな。 疾風のシロ」

「その血のにおい……名前を聞いておこうか?」

「ブル吉、人(犬)は俺をバッファロークラッシャーブル吉と呼ぶ」

「なるほど、お前が32匹の牛を喰い殺した伝説のブルドッグ、ブル吉か。 相手にとって不足はない!」




「アホか! ここは日本だろうが! なんで32頭も牛を殺してんだよ!」

「何を言っている? ブルドッグが牛と戦って何がおかしい? そういう風に品種改良された犬だろうに」

「アタシか? アタシがおかしいのか?」


 叫ぶヴィータをよそに戦いが始まった。

 口を大きく開けてシロに噛みつこうとするブル吉、しかしシロには当たらない。

 軽いフットワークですべての攻撃を避け、反撃の機会をうかがっている。

 そして一瞬の隙をついてシロの姿が消えた。

 ダク助の時と同じ、一つ違ったのはブル吉がそれに反応して上を向いたことだった。

 上空に浮かぶ満月に犬の形の影ができる、それはだんだん大きくなり、ブル吉に向かって襲いかかる!


「バカめ! 空中では身動きが取れまい! 俺の牙の餌食にしてくれる!」


 口を開けて落ちてくるシロを待ちかまえるブル吉、しかし彼は見た。 シロの目はまだ諦めていない。

 落下するシロは大きく尻尾を振って空中の身体に別方向のベクトルを加えた。

 それにより、ブル吉が予測していた落下の軌道よりも手前に着地する。

 そして目の前には天に向かって口を開ける無防備なブル吉の顔があった。

 ブル吉が失敗に気がついたときにはもう遅い、強烈なアッパー(前足)がブル吉のアゴにたたき込まれて一瞬の脳震とうを引き起こす。

 そこにだめ押しの後ろ回し蹴り(後ろ足)、この攻撃ではタフなブルドッグといえどもひとたまりもない、ブル吉は地面に倒れ、完全に気を失った。


「己の武器(牙)を過信しすぎたな、これは我らの戦いにとっても重要なことだ。 覚えておけ」

「すげぇ、すげぇけど、何か納得いかねぇ……」


 二人も傭兵がやられたことでポチは歯ぎしりをした。

 一筋縄ではいかないと分かっていたが、まさかここまで強いとは……

 しかし3人(匹)目の傭兵のことを思い出してほくそ笑む。

 どうせ一人(匹)目二人(匹)目は捨て駒、次の傭兵こそ最強といっても過言ではない。


「土佐丸さん、お願いします!」


 ポチが叫ぶと、広場の角にあるドラム缶の後ろから一つの影が現れた。

 でかい、高さだけでもシロの3~4倍、おそらく重さは10倍以上あるだろう。

 威風堂々とした態度、歴戦の印たる体中の傷跡、王者の威圧感を発生させる鋭い眼光、日本が誇る最強の闘犬、土佐犬の姿がそこにはあった。


「土佐丸……まさか!?」

「知ってんのか? ザフィーラ?」

「高知の闘犬で5年間不敗を誇った伝説の戦士だ。 引退して飼い犬になったと聞いていたが、まさかこの街にいたとは……」

「確かに、あの大きさじゃ小型犬のシロに勝ち目はないぜ」

「それよりも恐ろしいのは土佐犬自体の戦闘能力だ。 あれほどの戦士になると、もはや管理局のAランク……いや、AAの魔導師でも歯が立たないだろう」

「いや、闘犬ってテレビで見たことあるけど……そんなこと無かったぜ?」

「アレはフィルターが掛かっている、SUMOUと同じだ」

「スゲー! 闘犬ってギガスゲー!」


 興奮するヴィータとは反対にシロは冷や汗を流していた。

 この犬は強い、獣だからこそ分かる圧倒的な実力差、まともに戦って勝ち目はない。

 だが逃げるわけにもいかない、逃げたら人(犬)質になっているアルフがどのような目に遭うか?

 攻めるもできず逃げるもできず、ただ時間だけがゆっくりと過ぎていった。

 やがて土佐丸が前足を一歩前に出す、思わず後ずさりしてしまうシロ、それを見て土佐丸はにやりと笑った。

 もう一歩土佐丸が前に出ると、同じだけシロは下がる、もう一歩、もう一歩……

 やがてシロの尻尾が壁に振れてしまった。 これ以上は下がれない。


「終わりだな、坊主」


 土佐丸の声を聞きながらシロは少しだけ目をつむった。

 思い出すのは最初の記憶、気がつくとシロは薄暗い部屋の中にいた。

 小さな部屋がたくさんあり、一つ一つの部屋に2~3匹ずつの犬がいた。

 そして人間が部屋から犬を連れ出すたびに、苦しそうな鳴き声が聞こえてもう二度とその犬は戻ってこないのだ。

 あれは殺されているのだと理解するのにそれほど時間はかからなかった。

 そして、いつか自分の番が来ることも理解していた。

 恐怖で眠れない日が続いた。 子犬の自分にできるのは泣き叫ぶことだけだった。

 ある日、一人の人間に部屋から連れ出された。 いつも犬を連れて行く人間とは別人だった。

 それでも人間に連れ出されたからには殺されるのだろう、そう思いながら箱に入れられた。

 真っ暗な箱に入ること数十分、突然光が降り注いだ。

 目の前に現れる人間の子どもが二人、おそらく雄と雌だと思えた。

 その子ども達は自分を抱きかかえてしばらく話し合った後、口をそろえてこう言った。 


「お前の名前はシロ、これからは家族だ」


 家族を守ろうと誓った。 強くなろうと誓った。

 大きくなれば強くなれると思ってちょっと間違った道に進んだりもした。

 そして気がついた。

 一番大切なのは勇気、何者にも負けない心こそが最大の武器。

 チラリとアルフの方を見ると心配そうな表情でこちらを見ていた。

 恐怖で固まる顔を無理矢理笑顔にしてアルフに話しかける。


「アルフ!」

「シロさん、あたしのことはいいから!」

「明日の散歩は午後5時頃、海岸沿いの道を行く予定だ。 時間を合わせたら会えるかもな」

「うん、絶対行くよ! だから……だから勝って!」

「敵を前に女(雌犬)と会話とは、余裕だな」

「余裕だよ、何故なら……これから楽勝でアンタを倒すんだからな!」


 海鳴の犬たちが見守る中、シロは地面を蹴って土佐丸に飛びかかった。








 学校から帰って、シロの散歩に行きます。

 今日のシロは海岸沿いに行きたいみたいです、海を身ながら散歩するのも楽しいです。

 途中フェイトに会いました。 フェイトもアルフの散歩中、すごい偶然です。


「アルフがどうしても散歩に行きたいって、それもこの時間じゃないとダメだって」


 シロとアルフは仲良しです、子犬状態のアルフはシロと同じくらいの大きさで、並んで歩いています。

 フェイトと散歩しながらいろんなお話をしました。

 主な内容は、ヴィータとシロが仲良くなったことでしょうか?

 今朝からヴィータがシロに親切です、自分のご飯を分けようとしたり、秘蔵のアイスを一緒に食べたり。 あと高知旅行に行きたいと言ってました。

 それから、僕とフェイトは海岸に降りて一緒に遊ぶことにしました。

 波打ち際を走ったり、綺麗な貝殻見つけたり、シロとアルフが海に飛び込んで慌てたり、とっても楽しかったです。

 あっという間に晩ご飯の時間になってしまったので帰ろうとすると、前から見慣れた人がやって来ました。

 犬の散歩、というより大きい犬に引っ張られています。

 その人は僕たちの目の前まで来ると止まりました。 というか犬が止まってようやく休憩できたみたいです。


「真塚君、フェイトさん、犬の散歩ですか?」


 先生です、先生も犬の散歩をしています。

 大きい犬です、しかも傷だらけです、ちょっぴり怖いです。


「ああ、この子ね、高知のおばあちゃんの頼みで1週間だけ預かってるの。 アパートだから大家さんに頼み込んでね。 すごいのよ、高知の闘犬で5年間不敗の――」



[6363] 外伝2 高町恭也(仮)の自業自得
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/06/12 22:36
 今日はすずかのうちにあそびに行きました。

 そのとちゅう、なのはのうちによった時おひるねをしてしまいました。

 そのせいでやくそくの時間におくれちゃいました。 ごめんなさい。

 きょうやさんも行く予定だったけど、用事があってだめらしいです。 ざんねんです。

 次の時はちこくしないように気をつけたいです。 それに、みんなでいっしょにおかしを食べたいです。








 その男が目を覚ましたとき、とても体が気だるく感じた。 額に手を当てると熱は無いようだ。 しかしひどい頭痛がする。

 ちゃんと寝冷えしないように気をつけているのだが、風邪を引いてしまったのだろうか?

 そういえば昨晩少しばかり酒を飲んだことを思い出すが、あの程度で二日酔いするほど酒に弱くは無いつもりだ。 合コンの時など浴びるように飲むが次の日に影響が出たことなど無い。

 とりあえず大学の午前中の講義は休んで様子を見ることにしよう。 場合によっては病院に行くことも考慮しなくてはならない。

 なんにせよ朝食はとるべきだ。 そう考え、頭まで被っていた布団をどけて、上体を起こし……異常に気がついた。

 ここは自分の部屋ではない。 まったく見覚えの無い場所だ。

 寝ている間に誘拐でもされたか? この調子の悪さは睡眠薬か何かの副作用か?

 混乱する頭で部屋から出る。 どうやらここはやや広い普通の住宅、拘束も見張りも無いことから誘拐とは違うことは理解できた。

 なら次は何故自分がここにいるかを調べたい。 とりあえずこの家を調べてみる。 住民に出会ったら現状を尋ねる必要がある。

 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、視界の端に無視できないものが見えた。 急いで引き返してそれを確認する。

 洗面台に備え付けられている鏡、どこの家庭にも置いてあるそれに映っているのは自分の顔ではなかった。

 まったく別人の、それでいて見覚えのある顔。 パソコンやテレビなどでよく見た顔。


「たかまち……きょうや?」


 思わず口から出たその名前は、自分の大好きなPCゲームの主人公だった。

 しばらくそのまま呆然としてしまう。 意識を再起動したのは誰かに背中を叩かれたからだ。

 驚いて振り向くと、そこには小学生ほどの女の子が立っていた。 向こうも驚いているのはこちらが大げさに反応したせいだろう。

 これもまたテレビやパソコンでよく見た顔、高町なのはだ。


「えっと、おにいちゃん? 何度呼んでも返事が無かったから。 朝ごはんできてるよ」

「あ、ああ、分かった。 すぐ行く」


 自分の考えが正しいか分からない恭也(仮)は高町家の面々と話をすることにした。 ここが本当に漫画の世界なのか確信を持つためだ。

 その結果、様々なことが分かった。

 居候がいないことからとらハ3では無くリリカルなのはの世界だということ。 現在一月の後半、もうA'sは終わっていること。 ちゃんと起きてはやてやフェイトと友達になっていること。

 いくつか当たり前のことを質問したせいで心配されたが、体調が悪いことと物忘れということでごまかした。 自分でも苦しい言い訳かと思ったが、本気で心配してくれている高町家の様子を見る限り大丈夫と判断する。

 どうやら、それほどまでに高町恭也の体調が悪いことは非常事態らしい。 まだ高町恭也として振舞う自信が無かったので、時間稼ぎもかねて今日は家にいると宣言する。

 この時間を利用して高町恭也のことを少しでも知らなければならない。 高町恭也の部屋を物色すれば、もしかしたら日記でも出てくるかもしれない。 そうすればどのように行動したらいいかの参考にできるはずだ。

 朝食を終えて席を立つ。 一応新聞を見てみるが、書いてあるのは元の世界と大差ない内容だった。

 当然といえば当然だ。 魔法がある以外は元の世界と変わらない上、その魔法は一般社会には広がっていないのだから。 新聞で得られる知識は高町恭也として生活する上では役に立たないと判断する。

 他に何か無いだろうか? 新聞で得られる情報がこの程度ならテレビも大差ないだろう。 悩んでいるとなのはが話しかけてきた。


「お兄ちゃん、調子が悪いならすずかちゃんの家にいけないの? お茶会はまた今度にする?」


 どうやら今日は月村家に遊びに行く予定だったらしい。 しかし自分が行くわけにはいかない。

 そこには高町恭也の恋人である月村忍がいるからだ。 どんなことで中身が別人だとばれるか分かったものではない。 家で一緒にいる家族なら仕方が無いが、できるだけ接触する人間は減らすべきだ。

 そこで気がついた。 そう、月村忍は高町恭也の恋人なのだ。

 今回は避けたがずっと避け続けるわけにもいかない、いつか必ず話をすることになる。 話をするだけじゃない、恋人なんだから……あんなことやこんなこと、雰囲気によってはXXX板的なことだってするだろう。 だって恋人なんだから。

 思わずにやけそうになるのを必死に隠す。 高町恭也はにやけたりしない、心を落ち着かせて返事をする。

 病気がうつったらいけないから行かない、お茶会自体は中止せずになのはは楽しんできたらいい。 といった内容を伝えると、なのはは残念そうな顔をして電話をかけ始めた。

 月村家に連絡して高町恭也は行かないということを連絡するのだろう。


「うん、お兄ちゃん病気で……ごめんなさい。 私は行くよ、お兄ちゃんが自分の分まで楽しんできてほしいって。 うん、はやてちゃんは病院の検査が終わってから行くって言ってた。 だから、私と和真君が一緒にいくの」


 電話での会話でまったく未知の名前が出てきた。 恐らく男の名前だ。

 いくら記憶を呼び起こしても和真という名前に思い当たらない、そんな人間リリカルなのはには登場しない。

 かといってモブキャラでもない。 一緒にお茶会をするくらいだから相当仲がいいに違いない。

 恐らく無印やA'sにも関わっているはず。 まさか……オリキャラ?


「なのは、その和真君とはどんな子だ?」

「お兄ちゃん、何言ってるの? 和真君だよ? お兄ちゃんとだってよく顔をあわせてるじゃない」

「いや、まぁ、そうなんだが……。 そうだ、なのはは和真君をどう思ってるんだ?」


 正体不明のオリキャラの正体を探る質問にこれほど適したものも無いだろう。 原作女キャラの反応を見ればそいつがどう思われているか? どんな人間かが分かるというものだ。

 そしてその考えは的中する。

 なのはは少し照れ、少し慌てながら和真という少年のことを話し始めた。 それをまとめると……やさしい、勇気がある、強い心を持っている、皆に好かれている。

 オリキャラ主人公のお約束だ。 どうやら完全なリリカルなのはでは無く、オリキャラのいるリリカルなのは二次創作の世界らしい。

 と、なれば、自分が高町恭也に入り込んでいるのもそのオリキャラ主人公が関係しているかもしれない。 ぜひ接触したい相手だ。

 それからしばらく時間が過ぎ、士郎と桃子は喫茶店の方に行き、高校生の美由希は友人との約束があるらしく出かけた。

 なのはも先ほど喫茶店に向かった。 客が多いので手伝ってほしいと連絡が来たのだ。 もっとも、朝から体調が悪いと言い張った恭也(仮)は家で休んでいるように指示されたが。

 つまり、現在家にいるのは恭也(仮)1人。 真塚和真が白い犬と共にやってきたのはそんな時だった。

 玄関で直接対面するが和真は恭也(仮)の腹より少し高い程度の身長しかない、120センチちょっとだろうか? 少なくとも130は無い。 なのはより低い、これから成長期だろうが9歳の男の子にしては低かった。

 恭也(仮)はとりあえず見た目から真塚和真を観察する。

 黒髪黒目の純正日本人、オリキャラならどんなにカラフルかと思っていたが期待はずれだった。 いやいや、地味だからこそすごい実力があるのかもしれない。

 でもぱっと見では普通の子供に見える。 そもそも高町恭也に入り込むまで一般人だったのに、入れ物が変わっただけで見た目で実力が分かるようになるわけが無い。

 どうしようかと迷っていると和真がじっと見つめていることに気がつく。 思わず目を見つめ返してしまい、そうなったら何だか先に目を逸らしたら負けのように思ってしまった。

 お互いに目を合わせたまましばらく時間が過ぎ……和真が口を開く。


「恭也さん? でも恭也さんじゃない気がする……でも恭也さんだし……わかんない」


 小首を傾げながら和真はそう言った。 そしてそれは恭也(仮)に衝撃を与えるのに十分だった。

 何も考えていないように見えたがさすがはオリキャラ主人公、自分が高町恭也でない事を見破るとは……。 相手を見た目で判断するのは危ないと実感できた。

 さて、次はこの少年に対しどのように接するか?

 和真は高町恭也の様子がすこし変だと思っている。 しかし確証が無いのだろう、こっちを見たまま首をかしげている。

 変に思っているが悩んでいる、ということは和真は高町恭也に何が起きたのかはっきりと理解していない。 つまり自分が高町恭也に入っていることと目の前のオリキャラ主人公は無関係、少なくとも意図的な行動はしていないということになる。

 まぁ、このぽやぽやしている態度が本物かどうかなど恭也(仮)には判断できない。 実は擬態だとか、二重人格とかでも見破れるほど人生経験は豊富ではなかった。

 そこで思いつく。 あるではないか、この少年の正体を探り、同時に高町恭也らしいお約束の行動が――。

 恭也(仮)はニヤリと笑いながら、和真にこう提案した。


「なぁ、和真君。 ちょっと道場の方に来てくれないか?」


 恭也(仮)は気づいていなかった。 なのはが和真のことを話すときに言ったのは『やさしい、勇気がある、強い心を持っている、皆に好かれている』。

 決して、『強い』とか『カッコいい』とは言わなかったことに……





 気がつくと恭也(仮)は暗闇の中にいた。 前後左右、上下も真っ黒。 こんな空間、普通であるはずが無い。

 移動しているのか止まっているのか? 歩いているのか飛んでいるのか? 数秒過ぎたが数時間過ぎたか?

 やがて目の前に光が集まり、人型を形成する。 出来上がったのは今朝鏡で見た自分の顔、高町恭也だった。


「こうして面と向かって話すのは初めてだな」

「高町恭也……教えてくれ! なんで俺がアンタの中に入ったんだ? ここは一体どこだ?」

「何故お前が俺の中に入ったかは分からない。 ここは、恐らく俺達の心の中だ。 お前が気絶したおかげで繋がったらしい」

「気絶? 俺が? 何で?」

「覚えてないのか?」


 恭也は恭也(仮)に説明を始めた。

 和真を道場に連れてきた恭也(仮)は和真に竹刀を渡した。 和真は不思議そうに受け取った竹刀を眺めるが、恭也(仮)は無視して自分も竹刀を持つ。

 開始線のところまで移動して上段の構えを取ると、和真もマネをして上段の構えを取ろうとする。 しかし、恭也(仮)が渡した大人用の竹刀は明らかに大きすぎた。 ふらふらとバランスがとれず危なっかしい。

 恭也(仮)は前の世界で剣道三段、それに高町恭也の運動能力が加われば本来の高町恭也には適わないまでもかなりの戦闘能力を持つことができる。

 気合の掛け声を叫びつつ竹刀を上段から真っ直ぐ振り下ろす。 和真は声に驚き、持っている竹刀でバランスを崩したのも合わさって足を滑らせる。

 結果、恭也(仮)が繰り出した人生最速のメンは空を切り、転んださいに頭を打った和真は目を回して気絶した。

 あまりのあっけなさに、コイツは本当にオリキャラ主人公か?と疑念を抱く恭也(仮)。 つついたり揺さぶったりして反応を見ようとするが、当然気絶しているので反応は無い。

 そこにシロに連れられてなのはと士郎がやってきた。 喫茶店の前で騒ぐシロを見て、和真に何か起きたのではないかと思い桃子に店を任せて来たのだ。 そしてその想像は見事に当たっていた。

 場所は道場、気絶している和真、竹刀を持っている恭也(仮)、誰が何をしたかは明らかだ。

 すぐさま恭也(仮)を正座させて説教を始める。

 できる限り高町恭也らしい恭也を演じようとしてお約束でもある『なのはに近づくオリ男キャラをボコボコにする訓練という名目のリンチ』をやっていた恭介(仮)はかなり混乱した。

 オリ男キャラは竹刀が当たる前に気絶するし、なのはは涙目になりながら和真を揺さぶっているし、士郎は本気で怒っているし、わけが分からない。


「和真君に才能の欠片も無いことは分かっているだろう。 二倍以上年齢が開いているのに、まともに相手ができると思っているのか? 防具も着けないなんて危ない、お前の力なら死んでいたかも知れないんだぞ
 お前は弱いものいじめをするような人間じゃ無いのに、何でこんなことを……。 育て方を間違ってしまったのか……。 和真君のご家族に何とわびればいいのか……。
 聞いているのか、恭也! さっきからボーっとして、どうやら少し根性を叩きなおさなくてはならないようだな」


 そう言って士郎は真剣を取り出した。

 簡単に人を殺せる本物の凶器、その刀身で反射する日の光を見たとき、恭也(仮)の意識は一気に覚醒した。

 自分が本物の高町恭也なら相手をすることもできるだろう。 しかし、いくら高町恭也の肉体でも剣道と不破の剣術の差を埋めることなどできない。

 青ざめながらなのはの方をみる。 和真を道場の隅の方に引きずって運んでいたなのははチラリと恭也(仮)の方を見ると一言だけ喋った。


「お兄ちゃんなんか、嫌い」


 それから先はもう振り向かない。 いまだに意識を失っている和真の頭に膝枕をし、シロが和真の顔をなめるのを見続ける。

 絶望を感じながら顔を戻した瞬間、目の前に日本刀の刃が見えた。






「それで気絶した、というわけか。 誰なんだ? あの子供、原作にはいなかったぞ」

「和真君は和真君、なのはの友達、それで十分だ」

「そうか、原作は当てにならない。 気をつけるよ」


 恭也(仮)は微笑む。 だが恭也はとても凶悪な顔でニヤリと笑った。

 その表情に嫌な予感を感じて思わず後ずさりしようとするが、ここは高町恭也の心の世界。 そんなことで距離は離れたりしない。

 逆に恭也は恭也(仮)にどんどん近づいてくる。 いつの間にか両手に小太刀を握っている。 肌で感じ取れるくらい高い殺気を出し始める。


「俺とお前は、残念ながら繋がっているらしい。 表に出ている方の記憶や感情を読み取れるんだ」

「そ、それで……?」

「なのはを見たとき、お前は自分のパソコンを思い出したな? あの画像はなんだ? お前は忍のことを思ったとき、何を考えた?」


 答える必要は無い、恭也はそれが何なのかを理解したうえで恭也(仮)を追い詰めている。

 と、いうか答えられない。 心の中のはずなのに寒気がする。 ガタガタと体が震えて言葉が出ない。

 恭也(仮)の目の前までやってきた恭也は、小太刀を持った手を振り上げ――






 高町恭也は朝の鍛錬から戻ると、まずシャワーを浴びて汗を流した。

 それから濡れた体をタオルで拭き、服を着て廊下に出ると妹のなのはがいた。 どうやら風呂場から出てくるのを待っていたらしい。


「お兄ちゃん、調子はどう? 大丈夫?」

「ああ、昨日はどうかしていた。 もう大丈夫だ。 今度和真君に謝らないと」

「うん、和真君覚えてないみたいだけど、ちゃんと謝ってね」


 そんな会話をしてから、一緒に朝食をとるため台所に向かう。 その途中洗面台の前をとおりかかると恭也は足を止めた。

 同じように立ち止まるなのは、恭也はなのはを先に台所に行かせ、自分の顔をよく観察するように鏡を覗き込んだ。

 映っているのは当然左右対称な自分の顔、それをしばらく見つめ続けてから急に独り言を喋りだす。


「情けで消さないでやったんだ。 普段は大人しくしてろ。 はい、分かりました。 よし、だったら週に一度くらいは体を使わせてやる」


 朝食の準備ができていることを知らせる声が台所から聞こえ、恭也は家族の団欒をするのだった。

 そして、この日を境に恭也の大学の成績は激変する。

 付き合っている月村忍曰く、まるで普段の二倍勉強しているようらしい。



[6363] 外伝3 不幸なトリッパーが手に入れた小さな幸せ
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/07/29 20:34
 作者の持論だが、トリッパーを大きく分けると3種類になると考える。
 異世界に移動すると同時に赤ん坊になり、人生をやり直す『転生型』。 本編のトリッパー達がこれに当たる。
 原作の登場人物、もしくはオリキャラの意識を乗っ取り、入れ替わって生活する『憑依型』。 多少変則的だが、外伝で登場した高町恭也(仮)がこれである。
 最後に、移動前と同じ状態で突然異世界に現れる『転移型』(体が子供になる等の副作用が起きることもある)。 この『転移型』トリッパーには、他の二つには無い問題点が存在する。 それは――




 少しばかり肌寒い秋の一日、大漁旗を掲げた船が大海原を真っ直ぐに進む。
 魚を保存する船倉にはこれ以上入らないくらいのカツオが詰まっている。 まさに10年に一度の漁獲量といって良いだろう。
 その甲板にいる二人の男、1人はまだ若く、もう1人は60は過ぎている老人だった。
 若者は慣れた手つきで船の舵を握り、老人は月を見ながらタバコをふかしている。 時々、思い出したかのようにチラチラと若者を見る老人の表情は、何か悩み事をしているようにも見えた。
 ここ30分ほどの間、二人の間に会話は無い。 それ以前は今日の成果や次の休日のことなどを話していたが、老人の娘の話題になったとたん急に話が途切れてしまった。
 少し気まずい雰囲気の中、もうぐ港に着くというところで老人はタバコを海に投げ捨て、立ち上がって若者の近くにまで歩いてきた。
 それに気がついた若者も少しばかり船の速度を落とし、話を聞けるようにする。

「なぁ、義人よ」
「なんですか? おやっさん」
「お前がウチに来て、どれくらいになる?」
「そうですね……ちょうど2年になりますね」
「そうか……もうそんなに経つか」

 すこし考えてから年数を答えた義人の返事を聞いて、老人は目を閉じて宙を仰いだ。
 どうやら昔を思い出しているらしい、邪魔しないように静かにしておくことにする。
 やがて何かを決意した老人は、クーラーボックスからビールを取り出して一気に飲み干した。 どうやらよほどのことらしい、酒の力を借りて気を高ぶらせて言うつもりのようだ。

「お前がやってきた時、こんなヤツが何の役に立つって思ったもんだ。 あの人のの紹介じゃなきゃ追い返していたところだったぜ」
「あの頃はすいませんでした。 迷惑ばかりかけて」
「バッキャロー! 今でも迷惑かけっぱなしだよ!」
「あはは、すいません」

 頭を軽く小突かれて思わず笑ってしまった。
 老人の口は悪いが、それが半分冗談だという事は3年の付き合いでよく知っている。 漁師が船の操舵を任せているのは信頼している証拠だと分かっているからだ。
 そんな風に冗談を言っていたのも僅かな間、老人の表情が真面目なものになったことに気がついた。
 いよいよ本題に入ることを感じ、義人も気を引き締めた。 これまでお世話になったのだから、どの様な話でも真剣に聞こうと心に誓う。

「実はな、良子の事だ」
「良子さんの?」
「あの子は早くから両親を事故で亡くし、ワシが男で一つで育ててきた。 あの子も文句を言わずに仕事の手伝いをしてくれてる」
「ええ、いい女性だと思います」
「そうだろ? あの子ももう26だ。 都会ならともかく、こんな地方じゃ嫁の貰い手もいない。 まぁ、その原因はワシにあるわけだが……」
「それは……」

 ここまで言われたら、さすがに義人も老人が何を考えているか気がついた。
 高知に来て2年、老人の家族には世話になりっぱなしだった。 居候をしているので、孫娘の良子と接する機会も多い。
 老人の孫娘である良子のことが好きか? と聞かれれば自信を持って「はい」と答えることができる。
 実は老人が知らないだけで、義人と良子はかなり深い中になっていた。 いつこの話を切り出そうか二人で相談していたが、まさか老人の方から話を始めるとは思わなかった。
 今が一番いい機会なのは間違いない。 今こそ勇気を振り絞るときだ。
 義人は深呼吸をして、すこしだけ2年前を、自分がこの世界に来たときのことを思い出した。





 トラックにひかれたと思ったら、見知らぬ街にいた。 義人に起きた出来事を説明すると、そう表現するしかなかった。
 最初のうちは混乱したが、それでも時間が立てば現状を確認する程度のことはできる。 とりあえず、自分の現在位置を確認して、元の場所に戻る努力をするべきだということはすぐに分かる。
 とりあえず交番を探すべきだ。 そうすればこの街の名前も自分の街への帰り方も分かる。 その考えが甘いということは、1人の少女を見て理解した。
 道の向こう側から、学校に向かっているらしい小学生の女の子が歩いてきた。 その顔をみた瞬間、思わず足を止めて、目を開いてしまう。
 高町なのは、とらハ3の主人公である高町恭也の妹で魔法少女リリカルなのはの主人公。
 幻覚でも見たかと思いながら先に進むと、喫茶店があった。 その店名は翠屋、思わず店の中に入ってしまう。

「いらっしゃいませ、こちらのお席にどうぞ」

 高町恭也に席に案内してもらう。
 そういえばトラックにひかれたのはコンビニへ朝食を買いに行く途中だったことを思い出した。 丁度良いのでモーニングセットを注文することにした。
 料理が来るまでの間、店内を観察してみる。 するとカウンターの奥にいる高町士郎、ウェイトレスとして配膳を手伝っているシャマルを見つけることができた。
 どうやらこの世界はとらハでは無くリリカルなのはと見て間違いないらしい。 まぁ、それが分かったからといって元の世界に帰る方法が分からないことには違いないが……
 とりあえず、今は運ばれてきたトースト、サラダ、コーヒーのセットを腹に詰め込むことにする。
 さすがは人気の店、その味は本物であっという間に食べつくしてしまった。 折角だからケーキも注文する。 翠屋といったら高町桃子の作る洋菓子が一番の目玉だろう。
 それらを3つほど食べてから、会計を済ませることにする。

「1240円になります。 はい、60円のお釣りです」
「あー、この店ってアルバイトの募集とかしていませんかね?」
「アルバイトですか? 別に、家族や娘の友人が手伝ってくれてますので」
「そうですか、いや、だったらいいです」

 レジ打ちに入った高町桃子に千円札を渡してお釣りをもらう。
 こんなことを尋ねたが、本気でアルバイトができるとは考えていない。 一見の客がいきなり働かせてくれと言ったら拒否するのが普通の反応だろう。
 しかし、これで高町家に自分を印象付けることができた。
 この先、自分が物語に関われば再び高町家に接触することになるだろう。 その時に「あ、あの時の」となって高町家と仲良くなることができる。
 そんな妄想をしながら受け取ったお釣りを財布の中に入れる。 残金は260円、さすがにこれは少なすぎる。 道行く人に郵便局の場所を尋ねると、快く教えてくれた。
 平日の昼間ということもあり、ATMコーナーに人はいない。 義人はそのうちの一つの前に立ち、キャッシュカードを挿入した。

『このカードは、使用できません』

 電子音声と共にキャッシュカードが排出された。 何度やっても同じことが繰り返される。

「どうかなさいましたか?」
「いや、この機械壊れて……あ、何でも無いです」

 様子がおかしいことに気がついた郵便局員が声をかけてきた。 文句を言おうとして、重大なことに気がついた。
 このATMは壊れてなどいない。 おかしいのは自分のキャッシュカードのほうだ。
 ここは現実では無くリリカルなのはの世界、別の世界で作ったカードがこちらの世界で使えるはず無い。 
 なんだか怪しい者を見る目つきの郵便局員に適当な言い訳をしてその場から逃げるように立ち去る。 持っているキャッシュカード、クレジットカードなど、すべてが役に立たなくなってしまった。
 とにかく金を手に入れる手段を探さなくてはならない、それに寝床だ。 とにかく生活できるようにならなくては、こんな漫画の世界で死ぬのは嫌だった。
 急いで翠屋に戻る。 先ほどは断られたが、今度は土下座をしてでも仕事と寝床をもらうつもりだ。 もう原作に関わってなど悠長なことは言うことができない。
 そうして翠屋の前までたどり着くと、高町士郎が警官と話しているのが見えた。 何事かと、思わず隠れて様子を伺う。

「それで、この千円札の番号が同じだと気がついたんですね? しかしよくできてるな、透かしもあるし、まったく見分けがつかない」
「偶然同じ番号が無ければ分かりませんでした。 それで、持っていた男の特徴は――」

 なんという不幸な偶然だろうか、渡した紙幣と同じ番号がその店にあるなんて、いったいどれだけの低確率なのか分からない。
 しかも、そのせいで偽札を使用したと思われてしまった。 これではアルバイトや居候を頼むどころではない。 今すぐこの場を離れなくてはならなかった。
 高町家は頼れない。 と、なると……八神家が頭に浮かんだ。 家族を求める八神はやてなら、ヴォルケンリッターの他にもう1人増えても大丈夫だろう。
 そうと決まれば八神はやてと接触しなくてはならない。 テンプレの展開なら――

「きゃっ!」

 視界の端に倒れる車椅子と少女が入った。 間違いなく八神はやてだ。 なんというナイスタイミング。
 急いで駆け寄って車椅子を戻し、そこに八神はやてを座らせる。 これで第一印象はいいものになったはずだ。
 さらに、そこから世間話をして、さりげなく自分に住む家が無いことを伝える。 心優しい八神はやては、計画通り同情を寄せてくれた。
 これならいけるか? と、思ったとき、第三者がその場に現れた。

「はやて~」
「あ、和真、学校終わったん?」
「うん、はやてが見えたから、一緒に帰ろうと思って走ってきたの」
「そっか、こっちはシロとザフィーラが出かけてもうてな、1人で散歩してたらこの人に助けてもろうたんよ」

 義人は混乱した。 この少年はだれだ?
 原作にこんな人物はいない。 しかし、八神はやてと仲がよく、会話を聞いていると一緒に暮らしているらしい。
 どうやら純粋なリリカルなのはの世界ではなく、オリキャラがいるらしいと結論づける。 だとすれば、今の計画が怪しくなってしまう。
 この世界の八神はやてには家族がいる。 そこに会ったばかりの人間を迎えるとは思いにくい。
 だが、その心配は杞憂だった。 はやてが和真に義人のことを伝えると、和真は携帯電話を取り出してどこかに電話をかけた。

「もしもし、お母さん? 今はやてと一緒にいるの。 それでね、お家が無い人がいてね……」

 どうやら和真は母親に相談するつもりらしい。 もしここで母親が許可すれば、義人はとりあえずの住居を手に入れることができる。
 天に祈るつもりで拳を握る。 ゴクリと唾を飲む。 そして、道の向こうから警官が歩いてくるのが見えた。

「それで、その人はやてを助けてくれて……あれ、いない?」
「なんかお巡りさん見た瞬間に走って行ってもうたで? どうしたんかなぁ?」
「君達、この辺りでこういう人を見なかったか?」
「この人さっきの……」
「なのはちゃんのお店で偽札事件ですか? 悪い人には見えんかったけど……」




 この世界に来てから2週間が過ぎた。 雑草と水だけで過ごすのは何日目だろうか?
 奇跡的に犯罪行為はしていない。 精神力は日々磨り減っていくが、最後の一線だけは意地でも越えないようにしている。
 高町家にも八神家にも頼ることができない今、最後の望みはハラオウン家と時空管理局だった。
 次元漂流者として保護してもらう、そうすれば元の世界に帰ることができるかもしれないと考え、ハラオウン家を探しているのだが見つからない。
 偽札事件の重要参考人と思われているので交番で尋ねることはできない。 電話帳を見てもハラオウンは見つからない。
 義人は勘違いをしていた。 シャマルが翠屋にいたことで、なのはとヴォルケンリッターの仲がいい→A'sが終わっていると思ってしまったのだ。
 現在10月、後2ヶ月たたなくてはアースラは地球に来ない。 そうとは知らず、義人は警察から隠れつつ街を歩き回ってきた。
 しかし、それももう限界だ。 地面に大の字になって寝転んでいると、ポツポツと雨が降ってきた。
 指一本動かす気になれない、このまま死んでしまうのかという気持ちが他人事のように感じられる。
 その時、目の前に袋入りのアンパンが落ちてきた。 久しぶりのまともな食べ物、急いで袋を破ってかぶりつく。

「食べながらで良いから聞くんだよ」

 気がつくと、傍らに老婆が立っていた。 この老婆が食べ物を恵んでくれたらしい。

「働く気があるなら、仕事と住む場所を紹介してあげるよ。 真面目に働くと約束するならね、どうする?」

 断る理由は無かった。
 義人はもう十分に理解していたからだ。
 転生型、憑依型トリッパーは最初から家庭がある。 しかし、転移型トリッパーは、物語の冒頭で誰かの家に転がり込まないとホームレスになってしまう、ということを。




拝啓、座土有葉様

 寒さの強くなってきた秋の日々、どのようにお過ごしでしょうか?
 このたび、私は結婚することになりました。 相手は貴方が紹介してくださった海野源三さんの孫娘、良子さんです。
 思えば2年前、行き場の無かった私を助けてくださった御恩は忘れることができません。 高知までの移動費、戸籍、住民票など、お世話になったことを考えればどの様なお礼をしても足りないくらいです。
 私が良子さんと出会うことができたのも、すべて貴方のおかげです。 ですから、この喜びを一番に伝えたいと考え、手紙を書かせてもらいました。
 結婚式は3ヶ月後を予定しています。 正確な日時が決まったら招待状を御送りしますので、ぜひいらして下さい。

敬具




「ただいま!」

 座土有葉が手紙を読んでいると、珍しく機嫌の悪いマナミが帰ってきた。
 そのまま冷蔵庫を開けると、牛乳をパックから直接、行儀悪く一気飲みする。 あまりに珍しいので、有葉は思わず声をかける。

「どうしたんだいマナミ、何かあったのかい?」
「聞いてよおばあちゃん! この間、高町さんが大怪我したでしょ? まだ小学生なのに、大変な仕事をして、日々の疲労が原因なんだって。 リンディさんにミッドチルダの病院に連れて行ってもらったら、偶然責任者の人に会ったの。 そこで、どうしてそんなことさせたのかって言ったら、本人の意思とか、管理局の方針とか、そんなことばっかり! リンディさん以外の管理局の人って、あんなのばかりなの!? ああ……他の子は大丈夫かなぁ……」

 子供達を心配して天を仰ぐマナミを見た有葉は、立ち上がって出かける準備を始めた。
 マナミの話を聞いて、こちらも珍しく機嫌を悪くしたらしい。

「おばあちゃん、どこいくの?」
「他の子達がいるから大丈夫だと思ったけど、甘い考えだったみたいだね。 やっぱり大本をどうにかしないと駄目みたいだし、ちょっと管理局を潰……ゲフンゲフン、さすがにそれはまずいね、偉い人と話をしてくるよ。 一番偉い連中と、『お話』を、ね」

 数日後、最高評議会より管理局の大改革が発表されることになる。



[6363] おまけその1、本編or外伝で使わなかったボツネタ
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/09/15 18:23
『ザフィーラの海鳴デビュー』 先に外伝を書いてしまったからボツ


「はぁ……」

 守護獣形態のザフィーラは、1人で道を歩きながらため息をついた。 思い出すのは自らの主、八神はやてと真塚家の人々の姿だ。
 新たな闇の書の主である八神はやてはヴォルケンリッターを家族として扱ってくれている。 真塚家の人々も自分達を受け入れてくれている。
 それはいい、今までの主とは違う温かい家庭は、絶対に守って見せるという気持ちをより強固なものにしてくれた。 それは自分以外のヴォルケンリッターも同じだろうと確信している。
 だが、その気持ちは空回りし続けている。 ようするに、敵が来ないのだ。
 もちろん、主を害する存在は来ないほうが良いに決まっている。 しかし、今までヴォルケンリッターとして長い間戦ってきたので現在のような状況は逆に戸惑ってしまうのだ。
 敵は来ない、蒐集もせずに普通に過ごしているだけなら管理局も気づかない、しかし……必ず来ないという保証も無い。
 ようするに、このぬるま湯のような状況に慣れてしまい、いざというときに動けなくなってしまうことをザフィーラは心配している。
 シャマルやヴィータはすでに周囲の人々と打ち解けている。 二人ともベルカの騎士、戦いになったらすぐに意識を切り替えることができるだろう。
 シグナムは騎士としての心を鈍らせないように鍛錬をしている。 タカマチキョウヤというすばらしい剣士との試合は、木刀での鍛錬と理解していても真剣と同じような緊張感を得ることができるらしい。
 しかし自分はどうだろうか?
 周囲に溶け込むこともできず、かといって守護獣としての役目を果たす事もできず、中途半端な心構えのまま家庭内ではシロという飼い犬と同じように扱われている。
 悩んでも答えは出ず、少しの気晴らしでもできるだろうかと考えて散歩をするが、ため息の数が増えるばかりだ。

「はぁ……」
「おい兄ちゃん、人にぶつかっておいて侘びの一つもないんか?」

 何かに当たったと思ったら、声が聞こえた。 見ると一匹のチワワが愛くるしい瞳でこちらを睨み付けている。
 どうやら考え事をしながら歩いていたせいでぶつかってしまったらしい。
 体の大きさはザフィーラの方が圧倒的に大きいことだし、周囲に気を配っていなかったことも事実。 特に問題を起こしたくも無かったし、ザフィーラは素直に謝ることにした。

「すまない、少し考え事をしていたせいで気がつかなかった」
「ああん!? そりゃワシが視界に入らんほど小さいってことか?」
「いや、そういうわけでは……」
「でかい図体の割りに年上に対する礼儀がなってないのぉ、ちょっとばかし教育してやらんとな!」

 変ないちゃもんを付けられてしまった。 それともこれが地球の犬の常識なのだろうか?
 真塚家のシロはもっと礼儀正しかったが……
 全然関係ないがそろそろ夕食の時間が近づいてきた。 早く帰らなくては主や真塚家の方々に心配をさせてしまう。
 しょうがない、適当にあしらうことにしよう。 ただの犬一匹が何をしようと、守護獣である自分なら簡単に倒すことができる。 手加減した魔法攻撃で気絶でもさせれば――

 それは、闇の書の騎士ヴォルケンリッターとして長い間戦ってきたザフィーラが経験する、もっとも速く、もっとも重い一撃だった。

 一瞬、ザフィーラは何をされたのか分からなかった。
 気がついた時にはものすごい衝撃を受け、錐もみ状に回転しながら宙を舞い、ゆうに20メートルは吹き飛ばされて地面に落下した。
 それがチワワの体当たりを受けた結果と言うことを理解したのは、先ほどまで自分が居た位置にチワワの姿があったからだ。 その足元には車が急ブレーキをかけたような黒い線が引かれている。
 混乱する頭を無理やり覚醒させて、ザフィーラは現状を確認する。 未知の相手と戦っても、冷静に状況を分析できるのはさすがザフィーラというべきだろう。 ヴィータだったら逆に熱くなってしまったかもしれない。
 信じられないことだが、目の前のチワワはそこらの魔導師よりはるかに高い戦闘能力を持っている。 なぜ? という疑問はこの際捨てておく。 とにかく持っているのだ。

「おう、どうした? でかい図体の割りに根性が無いじゃないか」
「くそ……貴様、何者だ!?」
「何者? ワシに挨拶をしないような若造だ。 ならば教えてやる、ワシはチワ夫! 人(犬)はワシのことを、バーニングチワ夫と呼ぶ!」
「魔導師の使い魔か!」
「何を訳の分からないことを、こりゃもう少しお灸を据えてやらんとな!」

 再び体当たりをしてくるチワ夫をギリギリのところでシールドで防ぐ。
 チワ夫と接触したシールドがバチバチと音を立ててスパークを発生させる。 魔力を使っていない攻撃にも関わらず、ザフィーラは防ぐことで精一杯だった。
 必死で力を込めるザフィーラ、それに対してチワ夫は少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに余裕の表情に戻る。

「なかなか奇妙な技を使うな。 だが……甘い!」
「何!」
「奥義! ムーンライト・フェンリルクラッシュ!」

 ザフィーラは大地を滑る月を見た。
 いや、それは超高速で回転しているせいで、完全な円にしか見えなくなったチワ夫だった。 前足を中心に回転するチワ夫は、どうやって方向を確認しているのか真っ直ぐにザフィーラに向かってくる。
 ザフィーラに近づくにつれて回転速度を上げるチワ夫から、ついに竜巻が巻き起こる。 さらにソニックブームが発生し、付近の物を無差別に切り裂き始めた。
 ザフィーラは動かない、いや、動けない。
 ヴォルケンリッターの一員として戦ってきた。 勝ち目が無い戦いでも、盾の守護獣の誇りを持って仲間を守り抜いてきた。
 しかし、今、ザフィーラは初めて恐怖で足が動かなくなった。 できるのはシールドを張ることだけだが、それもこの攻撃の前では日本刀に和紙の盾で挑むようなものだろう。

(ここまでか……、守護獣の役目を果たせずに主と別れることになるとは、無念だ)
「諦めるな! ピンチの時ほど、希望は目の前にある!」
「この声は!?」

 チワ夫のムーンライト・フェンリルクラッシュがザフィーラに直撃する瞬間、小さな白い影がザフィーラの頭上を飛び越え、回転するチワ夫の真上から竜巻の中に飛び込んだ。
 次の瞬間、ひときわ大きな風が巻き起こり、竜巻は霧散した。 そして土煙の中から地面に倒れたチワ夫と、チワ夫を上から押さえつけているシロの姿が現れる。

「竜巻の外周は確かに強力、だが一度中に入ってしまえは、中心は無風状態。 自ら死地に飛び込む勇気こそ、この攻撃を破る唯一の手段、そうですよね? チワ夫さん」
「シロ坊主か、確かにそう教えたが……それを実践するとは思わなかったぞ」
「家族が危ないと思って、無我夢中でした。 二度はできません」
「一度できれば十分だ。 ところで、そろそろどけてくれないか?」

 チワ夫の上から移動するシロをザフィーラは呆然としながら見ていた。
 ザフィーラの知っているシロは、愛玩動物らしくはやてや和真とじゃれ合うただの子犬だ。 それがザフィーラでも恐怖を感じた攻撃の中に飛び込み、さらにはそれを打ち破った。
 いったいこの犬は何者だろうか? 今までただの犬と思い、特に気にも留めなかったが、もしかしてそれはとても失礼なことをしていたのではないだろうか?
 シロはしばらくチワ夫と談笑していたが、遠くでシロの名前を呼ぶ子供の声に気がつくと軽く会釈をしてチワ夫に背を向ける。 チワ夫は別方向からやってきた金髪の少女に抱えられてリムジンに乗り込んだ。
 ザフィーラは慌ててシロを追いかける。 シロに聞きたい事が色々とできたからだ。

「シロ……さん?」
「災難だったな。 チワ夫さんは新顔を見つけるとケンカを売るのが趣味なんだ。 俺も初めて会ったときはこっぴどくやられたよ」
「いや、聞きたいのはそういうことではなく……」
「ザフィーラはこの海鳴でもベスト20には入る実力だから、チワ夫さんもつい本気をだしたんだろう」

 シロは軽く言ったが、ザフィーラはその答えにこの日二度目の恐怖を感じた。
 自分は犬ではない、ベルカの騎士、ヴォルケンリッターの一員なのだ。 それが、この街で20位?
 では日本では、いや、地球では自分より強い犬がもっとたくさん居ることになる。 そして、自分でも勝てないであろう相手を倒したシロの実力はいったい?
 どうやらのんびりしている暇はないらしい。 もっと地球の犬社会について知らなければ!
 そしてそれは、守護獣として主を守ることにも必ず役に立つはずだ。

「シロさん!」
「ん?」

 突然、ザフィーラに声をかけられてシロは足を止める。
 振り返るとザフィーラはシロに向けて深々と頭を下げていた。 相手に対して大きな敬意を払っていることが良く分かるお辞儀だった。

「これからも、お願いします!」
「突然そう言われると照れるな。 それじゃぁ、TVで闘犬でも見るか」
「はい!」


 浜辺で寝ている一匹の犬の前に、一枚の葉っぱが舞い降りた。 それには小さな犬の足型がスタンプのように付いている。
 それを見た犬は、その葉っぱを前足で押しつぶす。 さらに口を歪めて笑い顔を作った。

「自ら竜巻に飛び込む姿、まさに疾風、疾風のシロ……か。 バーニングチワ夫が認める相手なら面白い戦いができそうだ」

 高知の荒波を前に、一匹の土佐犬の鳴き声が辺りに響き渡った。







『先生のお見合い』 ネタとしてお見合いするようなことを書いたけど、実際にはあんまりさせたくないのでボツ


 とある人物の護衛をする仕事、護衛対象の開催するパーディーの警備をしていた士郎は爆弾を発見した。
 解体する時間は無い、護衛対象を逃がす時間も無い。 ならば、できる限り被害の出ない場所に爆弾を運ぶことが残された唯一の手段だった。
 たとえ、そのせいで自分の逃げる時間が無くなろうとも、むしろ自分ひとりの被害で他の人間が助かるならば望むところだ。
 爆弾を抱えたまま、窓に向けて走り出す。 ここはビルの30階、ここから爆弾を思いっきり投げれば、地上に落下するまでの間に爆発して被害は窓ガラス一枚で済む。
 問題は、爆弾を投げるまでの間に爆弾が爆発しないかだ。
 タイマーはかなりギリギリ、まさに一か八か、士郎は大きく振りかぶり――その瞬間、タイマーがゼロになった。

(駄目だったか……桃子、恭也、美由希、なのは……)

 爆弾を持った右腕を中心に炎が巻き起こる。
 目の前の光景が次々と切り替わる。 桃子との出会い、恭也や美由希との修行、なのはの誕生、自分でも走馬灯を見ていることが妙に冷静に理解できた。
 自分は死ぬのだ。 それが分かるのに恐怖は無い、たが悔いは残っている。
 思えば護衛の仕事ばかりで、なのはには寂しい思いをさせてしまった。 こんなことなら、もっと家族として触れ合えばよかった。
 できることなら、喫茶店のマスターとしてのんびりした生活を――

「やれやれ、まさか今日、この場所とはねぇ。 見ちまった以上、無視することもできないか」

 一人の影が、爆発している途中の爆弾を士郎の手から引ったくり、遠くに投げ飛ばす。
 その動きは、神速を使うことのできる士郎にも反応できないほどの速度だった。 その動きをしたのが、腰を曲げて杖を突いている老婆だと分かり、思わず体から力が抜けてしまう。
  爆炎を見ながら、高町士郎はその場にへたり込んだ。 その目の前に握り飯が差し出される。
 目の前に立っている1人の老婆、炎に照らされる彼女の姿を見ながら士郎は自分の命が助かったことを理解した。

「高町さん、大丈夫……あなたは!?」
「テロに狙われるとは、偉くなったものだね。 ガキのころは迷惑かけてばかりの悪がきだったのに」
「座土さん、来てくださるなら迎えを出しましたのに……、ささ、向こうでお話でも」
「美味いものが食べれると期待したのに、食い物をケチってるね。 このカツオ、安物だろう?」
「食材の仕入れ担当と料理人をクビにしろ! 今すぐに最高級のカツオを仕入れるんだ! 市場が開いてない? それでも探して来い!」

 心配して士郎の様子を身に来た護衛対象が、老婆の姿を見た瞬間に驚きの表情になった。
 そのまま士郎の存在を忘れて老婆と話を始める。 このパーディー会場で一番のVIPは護衛対象のはずだが、その態度から老婆がその男以上のVIPであることは誰の目にも明らかだった。
 しばらく男と話していた老婆は、会話がひと段落すると再び士郎に歩みよってきた。 士郎も立ち上がって頭を下げる。
 依頼主よりも更に偉い立場らしい老婆、ならば雇用された身として挨拶をしないわけにはいかない。 この歳、老婆がした先ほどの動きのことは忘れることにした。

「どうだい? 一緒にお茶でも、たまには若い人と話をしたいからね」
「いえ、私は護衛ですし……」
「高町さん、私からも」
「……お相伴に預かります」

 依頼主からも頼まれては断ることはできない。 士郎はしぶしぶ、老婆の話し相手になることを承諾したのだった。




「で、実際に話をしたら妙に盛り上がって、息子と孫娘がいるという話になって、だったら将来お見合いでもさせるか、と言う話になったんだな。 と・う・さ・ん」
「あっはっは、命の恩人の頼みじゃしょうがないね。 うん、息子に彼女がいてもしょうがない。 そうだよねぇ、た・か・ま・ち・し・ろ・う・さん」
「すまない、もっと早くに伝えておくべきだった。 あれから連絡が無かったし、向こうも忘れているとばかり思っていた」

 ふらりと翠屋にやってきた老婆は最初に店長である高町士郎を呼び出した。
 何事かとやってきた士郎は、老婆が座土有葉であることが分かると仕事を忘れて昔話に華を咲かせ、約束を思い出した。
 最悪だったのは手伝いをしていた恭也と忍がその話を聞いてきたことだ。 おかげで士郎は有葉と話している間、ずっと二人の冷たい視線にさらされ続けることになってしまった。
 それは有葉が帰ってからも続き、閉店して店内から客が居なくなると同時に士郎は二人の前に土下座した。

「ええっと……お兄ちゃんのお見合い相手って、先生? どうしよう、忍さんも大事だけど、先生とお兄ちゃんが結婚しても嬉しいし……」
「確かになのはの先生はいい人だが、俺は忍以外の女性と付き合う気は無い。 この話、ことわ――折角だから会うだけ会ってみる。 こうして知り合うことも何かの縁だしな――お前! 勝手に!――あの先生とは一度ゆっくり話をしたかったんだ――すこし黙ってろ!」

 急にその場を離れてブツブツと独り言を言い始める恭也を不思議に思いながらも、士郎は安心した。
 士郎だって、すでに恋人のいる息子を親の都合で無理やりお見合いさせることを申し訳なく思っている。 しかし、断ることができないのも事実。
 どうしても嫌だと言うのであれば、菓子折りでも持って有葉に謝らなくてはならなかったが、承諾してくれて助かった。
 約束はお見合いをすることであって、その結果付き合うことになろうが、話が無かったことになろうがどちらでもいいのだ。 とにかくお見合いさえすれば義理は果たしたことになる。
 しかし、それで納得できないのが恭也の恋人の忍だった。 恭也とお見合いの相手でるマナミが付き合うことは無い、と確信していてもあまりいい気分では無い。
 妹のすずかからも座土マナミの話は時々聞かされる。 家庭訪問で直接話をしたこともある。 マナミは自分と比べても手ごわい相手だと十分に理解しているのだ。
 恭也の性格を考えると勝利は揺るがないだろうが、念には念を入れなくてはならない。 忍は携帯電話を取り出して妹のすずかに連絡を取る。

「あ、すずか? 今度の日曜日にさ、すずかのクラスの子集めてよ。 ほら、この間ドラマでさ、「先生辞めないで~」ってやってたでしょ? それを実際に試したくなってさ」




 大波乱のお見合い当日編、やりません。



[6363] おまけ2、最終回のボツネタ
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/09/15 18:24
『最終決戦Bパターン』先生に魔法を使わせると先生らしくなくなる気がしたのでボツ




 マナミはなんともいえない不安に支配されていた。 アリサとすずかを抱きかかえる手にも無意識のうちに力が入ってしまう。
 腕の中の二人が少しだけ苦しそうな声をだしたので、慌てて力を抜く。 しかし、マナミを掴む二人の手はより強く力を込めてきた。
 二人も不安を感じていることを理解し、今度は力を込めすぎないように気をつけて抱きしめた。
 誰も居なくなった夜の海鳴、宙に浮かぶ女性の放った光から助かり、自分の生徒であるなのはとフェイトと会い、気がついたら見たこともない場所にいた。
 近代的な建物の中、例えるならSF映画の宇宙船に似ている気がする、その一室に案内され、この部屋から出ないように指示された。
 ここはいったいどこなのか? なのはとフェイトは無事なのか? 何故彼女達も空を飛べるのか?
 聞きたい事はたくさんあるがこの部屋に居るのは自分達三人だけ、いくら自問自答しても納得できる答えなど出るはずも無い。

「先生、なのは達大丈夫でしょうか?」
「え、えっと、きっと大丈夫です。 高町さんもテスタロッサさんも空飛んでたんですよ? なんかこう……きっと大丈夫です。 えーっと、ほら! テレビがあります。 テレビでも見ながら時間を潰しましょう」

 不安そうな声を出すすずかの気を紛らわせるため、壁に埋め込まれているテレビらしき物体に手を伸ばす。 が、操作方法が分からない。
 当然のことだった。 これは地球製のテレビではなくアースラに設置されている艦内通信装置、ミッドチルダ製なのだから分からないに決まっている。
 それでも、少しでも気を紛らわせることができればと思い適当にボタンを押す。 やがて、どのスイッチが反応したのか分からないが、画面に映像が映し出された。
 しかしそれを見た瞬間、三人は驚愕の表情を浮かべる。
 夜の海鳴の海、巨大な怪物、圧倒的な力を見せ付ける謎の男、そして……ボロボロになりながら戦い続ける14人の生徒と氷漬けになっている真塚和真。

「これは!?」
「和真! なんでこんなことになってるの!? それにみんなも!」
「これが……これが海鳴で起きていることなんですか? みんなこんなことに巻き込まれているんですか?」

 アリサは思わず画面に叩いた。 そんなことをしても意味が無いことは理解していたが、高ぶる気持ちを抑え切れなかった。
 すずかは画面から顔を背けた。 男子達とはあまり話したことが無いとはいえ、このような姿を見たく無かった。
 そして、マナミは無言で立ち上がり、部屋の出口に向けて歩き出した。
 それに気がついた二人はマナミに声をかける。 この部屋で待っているように言われたのに、アースラの中のことなど分からないのに何処に行こうというのか?

「二人とも、ここで待っていてください。 先生はみんなを助けに行きます」
「無理です! 先生飛べないし、あんなビームだって出せないし、死んじゃいます!」
「それでも、生徒が苦しんでいるのを黙って見ているなんてできません」
「だったら私達も!」
「駄目です。 二人とも、私の生徒です。 危険な目にあわせるわけには行きません。 だから、ここで待っていてください。 いえ、待っていなさい!」

 普段の優しいマナミからは想像できない厳しい声に、二人は思わず動きを止めた。 それだけの迫力が今のマナミにはある。
 マナミは二人が自分に付いて来る意思を無くしたことを確認すると、今度は振り返らずに部屋を出た。
 アリサとすずかは、自動で閉まる扉の向こうにあるマナミの背中を黙って見送る。 二人は手をつないで、扉が閉まった後もずっと視線を逸らさなかった。
 通路に出たマナミだが、実はどうすればいいかなど全然考えていなかった。
 見たことも無い宇宙船の艦内、土地勘があるほうがおかしい。 加えて出ないように指示されていた部屋から出ているのだ。 誰かに見つかれば連れ戻されてしまうだろう。
 幸い先ほどまで居た部屋の隣がロッカールームだったので、ここの制服らしい服を失敬した。 これである程度歩き回っても怪しまれないだろう。
 後はなんとかして海鳴に向かう方法を探さなくてはならない。
ここが宇宙船なら、普通の方法で外に出ることはできないだろう。 ここに来るときはワープみたいな技術で運ばれたが、そのワープで最初にたどり着いた場所なら逆に海鳴に行くことができるかもしれないとマナミはにらんでいた。

「おい! 戦えるヤツは全員現地に飛ぶぞ! なんでもヴォルケンリッターのコピーが100人も出たらしい!」
「マジか!? 俺Dランクだぞ、行ってもやられるだけだぜ」
「それでもだ、最悪盾になれればいい! 今はとにかく数が必要だ!」

 近くに居た男達がそんな会話をしながら走っていった。
 その会話の中で出てきた『現地』が海鳴ということは容易に想像できた。 そして『ヴォルケンリッターのコピー』とやらが敵で、それが100人も出てきて大変だと言うことも理解した。
 急がなくてはならない。 先ほどの男達の後を追えば海鳴にいけることは分かったので、後はどうやってワープをするかだが、そんなものは後で考えることにした。
 そう思って一歩を踏み出した瞬間、突然後ろから声をかけられる。

「そこのお前、この忙しいときに何をして……保護した民間人? 何故こんなところ――」

 しまったと思い、思わずビクリと震える。 しかし、男の言葉は続かなかった。
 恐る恐る目を開けると、男は手を伸ばした格好のまま固まっている。 不思議に思って目の前で手を振ってみるが、まったく反応しない。
 振り返ると、先ほど海鳴に向かうと話していた二人が走る格好のままで止まっていた。 片足を上げての前屈姿勢、物理法則を考えれば絶対に倒れるはずだが、まるで空中に固定されているように見える。
 いや、おかしいのは人間だけではない、先ほどまでうるさく聞こえていたアラートが今はまったく聞こえなくなっている。 世界から音が消え去っていた。
 まさかと思い自分の腕時計を確認する。 大学入学時に買ったアナログ式だが、秒針が動いていない。
 電池が切れたわけでも、壊れたわけでもない、これはおそらく……時が止まっているのだ。

「行くのかい? マナミ」
「……やっぱり、お婆ちゃんだったんだ」

 聞こえてきた声に返事をすると、廊下の曲がり角から有葉が現れた。
 それを見たマナミは、「やっぱり」と呟きながら笑みを浮かべる。 マナミは自分の祖母が、只者ではない事にうすうすながら感づいていたのだ。
 空に浮かぶ女性の光を防いだこと、目の前から突然消えたこと、幻覚ではなく実際に起きたことだと、何となく分かっていた。
 有葉はゆっくりマナミの前まで来ると、大きくため息をついた。 それがどういう意味を持つため息なのか、マナミには分からない。

「やめときな。 マナミが行ったところで、何の役にも立たないよ」
「そうかもしれない。 けど、このまま見ていることもできない」
「子供達に任せておけばいいじゃないか、きっとうまくやるよ」
「お婆ちゃん……。 私大人なんだよ? 先生なんだよ? 今戦っているのは子供達で、私の大切な生徒達。
 高町さんは自分の意思を貫ける子。
 テスタロッサさんは転校して来たばかりだけど、友達ができて嬉しそう。
 天崎君と鬼道君はリーダーシップがあってクラスをまとめられる。
 竜宮君、エヴォリュアル君、ディニーニ君は目標に向けて一生懸命頑張れる。
 クロウバード君、神尾君、幽鬼君、龍堂君はいざという時に頼りになるの。
 トライフォン君、大空訓、それにマクレガー君はクラスのムードメイカーでいつも明るい。
 ライデュース君とマークハント君は真面目でみんなを引き締めてくれる。
 そして……真塚君は優しくて、気がつくとみんなの中心にいる不思議な子。
 みんなが揃って私のクラスなの。 だれか1人でも欠けちゃだめなの。 みんなを守るため、私も何かをしたい。 だから……だから! お婆ちゃん、力を貸して!」

 マナミは叫びながら顔を上げた。 目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
 有葉はしばらく黙っていたが、やがて懐から一つのブローチを取り出す。
 それはマナミが子供のころ、「大人になったらあげる」と有葉が言った物だ。 マナミ自身、現物を見てその約束を思い出した。
 何故、今それを取り出したのかは分からない。 不思議に思うマナミの手に有葉はそれを握らせた。
 さらに有葉がマナミに手のひらを向けると、マナミの体が光に包まれながら宙に浮かぶ。
 これはワープする前兆だと、マナミは何となくだが感じ取った。 そして祖母の渡してくれたこのブローチが子供達を助ける力になることも分かった。

「お婆ちゃん!」
「いってきな。 可愛い孫娘がした初めての我侭、これまでいい子にしてきたんだから、ご褒美をあげないとね」
「お婆ちゃん、ありがとう! 私、絶対にみんなを助けるから!」

 マナミの姿が消え、有葉だけがその場に残される。
 有葉は少しだけ背伸びをすると、マナミがワープしたのと同じように、今度は自分の身に光を纏わせた。

「さて、念には念を入れておかないと。 あいつはちっとやそっとじゃ倒せないからね」

 そう呟くと、有葉の姿もアースラ艦内から消えた。
 同時に止まっていた時間が動き出し、局員達は再びあわただしく活動を開始する。
 腕を伸ばしていた局員は誰かに声をかけたような気がしたが、周囲に誰も居ないことを確認すると、気のせいだという結論を出した。






「確かに驚いたが、SSSランクを甘く見すぎたな。 魔力が弱まっても、小娘1人の攻撃を防ぎきることぐらいはできるぜ! ヒャッハァ!」
「そんな!? これでも駄目なの? きゃあ!」

 皆の力を合わせて直撃させたエクセリオンバスター、だがアルバート・グレアムを倒すにはまだ力が足りなかった。
 さらにアルバートが力を込めると、なのはは弾かれてしまい、空中に投げ出される。
 その様子を、戦闘に参加した者達は絶望の表情で見ていた。
 全員が全力を使い切った。 これ以上は戦うことができない。 敗北を確信してしまった。
 トリッパー達が歯軋りをし、なのはが涙を流し、アルバートが笑みを浮かべたその瞬間――

「みんな! 諦めてはいけません!」

 天から舞い降りたマナミが、吹き飛ばされるなのはをしっかりと受け止めた。
 突然の乱入者に誰もが驚く、特にトリッパー達はものすごく驚いた。 まさかここで先生が来るとは思わなかったからだ。
 ここで不機嫌になったのがアルバートだった。 勝利を確信した瞬間に邪魔者が来たのだから、いい気分で居られるはずが無い。

「てめぇ……何者だ?」
「この子達の……先生です!」
「ヒャッハァ! 俺は教師が大嫌いなんだ! 荷物検査でDSを取り上げられた恨み、アンタで晴らさせてもらうぜ!」

 アルバートがマナミに向けて魔力弾を放つ。 ダメージを負っているとはいえSSSランクの魔法攻撃、直撃すれば抱きかかえているなのはごと消滅してしまうだろう。
 しかしマナミは慌てない、落ち着いた動きで祖母に託されたブローチを握り締める。
 恐怖が無いわけではない、アースラ艦内で見た映像でアルバートの力はとても恐ろしいものだと理解している。 しかし、祖母のくれた力はそれを上回ると信じている!

「人の繋がりは無限の力、思いは胸に、光は心に、明日への希望はみんなと供に! ユニオンハート、セットアップ!」

 マナミの体が光に包まれ、着ている服が変化を始める。
 今までは若者向けの女性用スーツだったが、ブローチを胸に着けた純白のドレス姿となった。 一番近い服の形で例えるなら、ウェディングドレスだろうか?
 そういえば、祖母が自分のお見合いの企画をしていたことを思い出す。 曾孫の姿を見るまで死ぬわけにはいかないと笑いながら語っていた。
 きっと、本当は自分が結婚するときにこれを渡す予定だったのだろう。 それを自分の都合で早めてしまい、申し訳なく思ってしまう。
 同時に、自分のためにコレを用意してくれたことを嬉しく思う。 このバリアジャケットは、祖母の愛が全身を包み込んでくれているようにも感じることができた。
 そんな幸せな気分を感じながら、マナミは迫り来る魔力弾を片手で払いのけた。
 その場の全員がぽかんと口を開けてそれを見た。 それくらい馬鹿らしく、信じられない出来事だった。 アルバートも思わず呆然としてしまう。
 弾き飛ばされた魔力弾はそのまま空のかなたに消え去る。 アルバートはしばらくそれを見ていたが、ハッと我に返りマナミをにらみつけた。

「俺の攻撃をこうも簡単に? 何者だ!」
「さっきも言ったはずです。 私は私立聖祥大学付属小学校、3年1組担任、座土マナミ!」
「馬鹿言うな! 何で教師が俺と同レベルか、それ以上の魔力を持ってるんだよ!」
「子供達を守るためなら、教師は無敵になります!」
「ヒャッハァ! 説明になってねぇ! だが、こうなったら全力で叩き潰してやるぜ! SSSランクの魔法攻撃に、念能力とか気とか、その他もろもろを全部合わせた最強の攻撃だ!」

 アルバートが両手を天に向けると、どす黒い力が集まり始める。
 最初はピンポン玉程度の大きさだった弾はどんどん大きくなり、最終的には数十メートルの大きさにまで成長した。
 バチバチと所々で稲妻を発生させている漆黒の玉、それがどれほどの破壊力を秘めているのか、もはや想像できない。
 少なくとも海鳴を余裕で吹き飛ばす程度の破壊力はあるはずだ。 下手すれば日本、地球レベルでの災害を引き起こすかもしれない。
 その圧力はマナミも感じ、抱きかかえられているなのはも恐怖を感じて震えだす。
 そんななのはをしっかりと抱きしめ、なのはの耳元に口を近づけて、マナミはささやきかけた。

「大丈夫、先生を信じて」

 それだけでなのはの震えは止まる。 再び闘志が燃え上がり、レイジングハートを握る手にも力が戻る。
 マナミの腕から離れたなのはは、自分の力で空を飛びマナミの隣に並んだ。 少しだけ驚いたマナミだったが、なのはの表情を見て安心する。
 なのははマナミの顔を見ながら力強くうなづき、二人は同時にアルバートへと向き直る。 視線の先では、アルバートが今、まさに巨大な玉を発射しようとしているところだった。

「本当は闇の書の闇か、アースラのアルカンシェルで地球を滅ぼすつもりだったが……もう関係ねぇ! 俺が直接やってやる!」
「そんなこと、絶対にさせない。 みんなの大好きなこの世界、必ず守ってみせる!」
「チート玉だヒャッハァ! 防げるモンなら防いでみろ!」

 迫り来るチート玉、圧倒的な破壊力を持つ攻撃に対してマナミとなのはは自らその中に飛び込んでいった。
 自暴自棄になったかと思い口元を歪めるアルバート、それが驚愕の表情に変わるまで時間は掛からなかった。
 気持ち悪いくらいどす黒いチート玉から溢れ出す一筋の光、その光は数を増してチート玉のあらゆる場所から発生する。 そして優しい光は辺りを埋め尽くし、ついにチート玉は霧散した。
 光の中から現れるマナミとなのは、二人はレイジングハートを左右から握り締め、アルバートに向けて突撃する。

「「二人の力を合わせて、ツイン・エクセリオン・バスタアアアアアァァァァァァァァァ!!!」」
「ぐおおおおおおお、ばかな……ばかな! ヒャッハアアアアアァァァァァァ!!!!」
「いまだ! エイミィ、転送を!」

 二人が同時に叫び、至近距離で撃ち出した魔力の奔流がアルバートを吹き飛ばした。
 そのまま闇の書の闇に激突したアルバートは、闇の書の闇と一緒に宇宙へと転送される。
 後はアルカンシェルで殲滅して終わり、のはずなのだが……。
 あのチート能力を持つアルバートを本当にそれで倒せるのか、トリッパー達は僅かながらの不安を拭い去れなかった。





 すさまじい攻撃を受けて意識を失っていたアルバートは、妙な息苦しさで目を覚ました。
 空には満点の星、足元には地球、近くには闇の書の闇、遠くにはアースラ、それらを確認して現状を理解する。
 宇宙空間で人間は活動できないはずだが、チート能力を持っているアルバートにそんなことは関係ない。 すぐに体勢を立て直す。

「なるほど、闇の書の闇ごとこの俺をアルカンシェルで吹き飛ばすつもりか、だが……甘いぜヒャッハァ! 先にアースラを攻撃してやる」
「そんなことさせると思うのかい?」

 アースラを撃墜するべく魔力を高めるアルバートの背後から声が聞こえた。 しかしここは宇宙空間、人間などいるはずない。
 アルバートがゆっくり振り向くと、そこには1人の老婆が地球を背に浮かんでいた。 その老婆の名前が、座土有葉ということをアルバートは知らない。
 そんなアルバートを無視して、有葉は話を始めた。

「最強の力なんていらなかった。 ただ静かに暮らせればそれでよかった」
「何を言ってるんだ?」
「いくつもの世界を渡り歩いて、いくつもの故郷を滅ぼされて、この世界にたどり着いて、お爺さんと出会って、子供を生んで、孫の顔も見れた」

 様々な世界に転生し、いくつもの世界をダーク系ストーリーに染めてきたアルバート。 その活動を邪魔する存在がいたことを思い出す。
 手ごわい相手だったが、世界を転生するたびに新たな能力を身に着けるアルバートはすべての戦いに勝利し、絶望を振りまいてきた。
 しわだらけの顔は若かったころの面影など欠片も残っていない。 しかし、アルバートには有葉が若かったころの姿をありありと思い出すことができた。
 今まではただ面倒な相手というだけだった。 だが、ダメージを負っている今、アルバートはとんでもないピンチを迎えていることを理解する。

「これまでの世界にもいたオリキャラの女!?」
「アンタを倒すためだけに、ずっと力を貯めてきたんだ。 この世界は、マナミのいるこの世界だけは、絶対に守らせてもらうよ」
「キサマアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!」
「アンタのお祭り(カーニバル)は、コレでおしまいだ!」

 有葉の一撃がアルバートの体を貫き、さらにアルカンシェルが闇の書の闇ごとアルバートを消し飛ばす。
 アルバートの胸に右腕を突き刺している有葉を巻き込んで――






「お婆ちゃん!?」

 マナミはハッと空を見上げた。 アースラのアルカンシェルの虹の光が。夜空に一筋の線を作り出している。
 それを見ながら、マナミは無意識に涙を流していた。 なにか、とても大切な人がいなくなったような気がしたからだ。

「先生、どこか怪我したの? 大丈夫?」

 心配したなのはが声をかけてきたが、涙をぬぐって心配ないと返事をした。
 氷から開放された和真を抱きかかえる、どうやら眠っているだけらしく、命の危険はなさそうだ。
 トリッパー達の方に向けて飛行すると、彼らは皆心配そうな顔をしていた。 彼らも自分達の担任が泣いていることに気がついたのだろう。
 そんな彼らに向けて、マナミは精一杯の笑顔を作ってみせる。 彼らもそれに笑顔で答えた。
 14人と、なのはとフェイト、そして腕の中で眠る和真の顔を見てから、マナミは目を閉じる。
 みんなが無事で本当に良かった。 みんなを守れて本当に良かった。
 再び目を開けると、全員が自分に注目していることに気がついた。 どうやら、自分が何か言うのを待っているらしい。
 マナミは少しだけ考えて、自分なりの締めの言葉を言うことにする。
 思いついた言葉に思わずクスリと笑ってしまうが、自分らしいと妙に納得できて、やっぱり自分は教師なのだと再認識することができた。

「みんな、大変なことがあったけど、宿題はちゃんとやってくださいね」

 夜の海鳴の海上に、子供達の笑い声が響き渡った。



[6363] おまけ3、次回作のボツネタ、ちょっとだけクロス注意
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae
Date: 2009/09/18 07:05
『次回作のボツネタ(多重クロス?)』
小学生では無理な作品や劇中で年単位の時間が経過する作品もあり、14人分を考ることもできず、普通のオリ主モノになりそうな話も多数あったためボツ



『和真・プレシア編、リリカルなのはの世界』



「くっ……ここは? アルハザード……ではない。 そう、失敗したのね……」

 どことも分からない森の中でプレシアは意識を取り戻した。 くらくらする頭を押さえながら、自分の現状を確認する。
 そう、自分はジュエルシードの力を使い、アルハザードに向かうことを決意したのだ。 死んでしまった娘、アリシアを生き返らせるために。
 しかし、最後の最後で邪魔が入った。 もう1人の娘、フェイトと自分を仲直りさせるために1人の子供が時の庭園までやってきたのだ。
 その子供は、どれだけプレシアに暴力を振るわれようが絶対に諦めなかった。 絶対に諦めず、プレシアに仲直りして欲しいと訴え続け、最後には意識を失った。
 その後、プレシアはアルハザード行きを強行する。だが、その子供を助けるために直前で逃げようとし、他の子供達が二人を助けるため次元の狭間に飛び込んできた。 ここまでは良く覚えている。
 それから……こうして自分1人でいるところを見ると、恐らく失敗したのだろう。
 子供達は助かったのか? それとも一緒に次元の狭間に落ちたのか?

「そうだ! アリシア、それに坊やは!?」

 そこまで思い出したところで、初めて自分以外の人間に意識が向いた。
 まずは娘のアリシア、今まで生き返らせるために行動してきた大切な存在。 しかし辺りを見回してもアリシアの入っているポットは影も形も見当たらなかった。
 自分が次元の狭間に落ちるより早く落ちていたので、かなり位置がずれてしまったのだろう。 位置だけならいいが、別の世界に落ちてしまったのなら探しようが無い。
 さすがにこの世界すべてを探査する魔法などを使うことはできないため、見つけるには長い時間が掛かるだろう。 もしかしたら二度と再開することなどできないかもしれない。
 それでも、諦めるわけにはいかない。 結果的にフェイトを元の世界に置いてきた以上、自分にはもうアリシアしかいないからだ。
 そしてもう1人、自分と供に次元の狭間に落ちた少年、真塚和真の姿も見当たらない。
 こちらは直前まで自分と一緒にいたので、同じ世界にいる可能性も高い。 もしかしたらすぐ近くにいるかもしれないと考え、周囲に探索魔法を飛ばしてみる。
 デバイスが無いのであまり大規模なものは使えないが、それでもプレシアほどの魔導師なら数十キロ範囲での探索が可能だ。
 それほどの範囲を調べることができたおかげで、ほんの僅かな時間でプレシアは和真を発見することができた。 すぐに飛行魔法で和真の下に駆けつける。
 数分ほど飛んだところで、一人でうずくまっている和真の姿を見ることができた。 上から見た程度だと、怪我などはしていないらしい。
 プレシアはとりあえずほっとした。 しかし、すぐに顔を曇らせる。 和真が泣いていることに気がついたからだ。

「坊や、大丈夫? どこか怪我をしたの?」
「うう……ぐすん、プレシアさん? プレシアさんは、僕の知ってるプレシアさん?」
「何を言っているの? 私は坊やの知っているプレシア・テスタロッサよ」
「プレシアさん、うわーん! プレシアさん! みんないなくて、僕のこと知らなくて、家に行っても知らない人がいて、ぐすん、うわああぁぁぁん!」

 プレシアに妙な質問をした和真は、プレシアの答えが自分の求めているモノだと分かると、プレシアに抱きついて本格的に泣き出した。
 和真は泣きながら何かを訴えているが、涙と鼻水で声がかすれてよく聞き取れない。 プレシアは和真の頭を撫でながら、和真が落ち着くまで待つことにする。
 そして和真の断片的な話をつなぎ合わせることで、自分が予想外の事態に巻き込まれていることを認識した。
 和真が目覚めたとき、自分が海鳴にいることに気がついた。
 時の庭園にいた自分が何故海鳴にいるのか分からなかったが、とりあえず家に帰ることにした。 もしかしたら他のみんなも家に帰っているかもしれないので、学級名簿を見ながら電話で確認を取ろうと思ったのだ。
 そして自宅にたどり着くと、表札が別の名前になっていた。 チャイムを押すと、まったく知らない人が出てきた。 明らかに、自分の両親ではない、自分の家がいつの間にか他人の家になっていたことを理解する。
 混乱したままでいると、隣の家からはやてが出てきた。 そこははやてが真塚家に住むようになってから使っていなかったはずなのに、外国人らしき人たちと一緒に住んでいるらしかい。
 何故はやてがそっちの家に住んでいるのかは分からなかったが、はやてに聞けば自分の家がどうなったか知っていると思った。 だが、はやては和真のことを知らないと言った。
 時の庭園に行く前にもらったお守りを見せても覚えが無いと言う。 それでも諦めずに話をしていると、やがてはやての隣にいた女の人や赤い髪の女の子が怖い目で睨んできて、思わずその場から逃げ出してしまった。
 その後も、翠屋、友達の家、学校、フェイトの隠れ家、友人達の秘密基地と回ってみたが、和真を知っている人間はだれもいなかった。 友人達は存在すらしていない。
 自分はまったく知らない世界に来てしまった。
 それを理解してしまい、悲しさと寂しさで胸がいっぱいになり、特に方向も定めずに走りまわった。 自分でもどこをどう走ったのか分からないが、気がついたら森の中にいた。
 やがてお腹もすき、かといって街に戻る気にもならず、うずくまって泣いていたら、こうしてプレシアが現れたのだ。

「坊やの地球じゃない? よく似ている別の世界とでもいうの? まさかこんな世界にたどり着くなんて……」
「うう、ぐすん、く~、す~」

 泣くことに疲れた和真がプレシアの腕の中で眠ったのを確認し、プレシアはこれからどうするかを考える。
 この世界に自分以外に和真を知る者はいないし、和真がこのようなことになったのは自分の責任、自分が和真を守らなければならないのだ。
 幸い、プレシアは次元移動魔法を使うことができる。 長い旅になるだろうが、それを繰り返して元の世界を探すしかないだろう。
 道など分からない手探りの旅、生きている間に目的地へたどり着くことができるかどうかも分からない。 いや、たどり着けない可能性の方が圧倒的に高いだろう。
 それでも、和真を元の世界に戻すにはそれに賭けるしかない。 それにうまくいけば、移動した先の世界で和真の友達やアリシアを見つけることができるかも知れなかった。
 そうと決めればこの世界にいる理由も無い、プレシアは次元転移魔法を発動させようとし――複数の魔導師が接近していることを感じ取った。



「クロノ! お母さんが見つかったって、本当!?」
「プレシアさん、見つかったんですか!?」
「エイミィが言ったのか……黙っているように釘をさしておくべきだった」

 学校が終わり、これから帰ろうとしたところでエイミィからの連絡を受けた高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、自宅に戻らずアースラに直行した。
 さらにクロノが止めるのも聞かず、無理やり部屋の中に押し入る。 そして部屋の中で見たのは、次元の狭間に消えたはずのフェイトの母親と、その腕の中で眠る見たこと無い少年だった。
 少年が誰かは分からないが、それよりも、もう二度と会えないと思っていた母親と再開できたことが嬉しかった。
 同時に複雑な気持ちが胸を占める。 フェイトのことを人形と言い、本当の娘と供にアルハザードへ向かった母親に対して、なんと声をかければいいのか分からないのだ。

「フェイト? いえ、この世界が元の世界と違うなら……」
「お母さん? あの……」
「フェイト、この坊やのこと、知っている?」

 どうしようかと悩んでいると、プレシアの方からフェイトに声をかけてきた。
 自分の母親からの話に緊張するフェイトだったが、何を聞きたいのかよく分からない。 とりあえず、プレシアの腕の中で眠る少年の顔を見てみる。
 何処にでもいるような、普通の日本人の少年だ。 しかし、闇の書事件で地球に来てまだ一月ちょっとしかたっていないフェイトに彼のような知り合いはいない。
 ここで嘘をついても仕方が無いので、正直に答えることにする。 それに、折角再開した母親に嘘をつきたくは無かった。

「え? その子? ……ごめんなさい、知りません」
「そう、やっぱりあなたは、私の娘じゃないのね」

 だから会わせたくなかったんだ。
 彼女は君の母親ではない、よく似ているだけの別人だ。
 あの和真という少年はこの世界にいたという記録が無い、だが彼の世界では、彼は君達と友達だったらしい。
 なんでもはやてと一緒に住んでいたとのことだ。、PT事件の最後でこっちに来て、闇の書事件はまだ起きなかったらしい。
 時空管理局でもそこまで似ている世界は見つかっていない、彼を元の世界に戻すには時間がかかるだろう。
 落ち込まないことだ。 別世界のプレシアがこの世界に来たのなら、この世界のプレシアもどこかで生きているのかもしれない。

 クロノが何か言っていたようだが、フェイトの耳には入らない。 それほどまでにフェイトの受けたショックは大きかった。
 再開した母親に、再び娘ではないと宣告されてしまった。 言いたいことがいっぱいあったはずなのに、すべて吹っ飛んで頭の中が真っ白になった。
 同時に、プレシアが和真のことを大事にしているということを理解してしまった。 自分の母親は、自分が娘かどうかを判断するために、自分が見たことも無い少年を判断基準にしたのだ。
 少年の頭を撫でるプレシアの姿は、まさに親子の関係と言ってもいいほどの愛情を感じることができた。 まったく他人のはずなのにプレシアに愛されている少年のことが羨ましく、同時に嫉妬してしまった。
 あのような母の顔は、アリシアの記憶でしか見たことが無い。 少なくとも、フェイトの記憶では一度も見せなかった顔だ。 それをあの少年は惜しみなく受けている。
 フェイトの心の中で黒い感情が芽生え始め、胸の奥で宝石が鈍く輝き始めた。


 トイレを終え、手を洗った和真はアースラ艦内で道に迷ってしまった。
 元の世界でも一度アースラに乗った事はあるが、内部構造など簡単に分かるものではない。 道を尋ねられるような人間か、案内板のようなものが無いかを探してみる。
 しかしだれもいない。 しょうがないので誰かに出会うまで適当に歩き回るが、何故か誰にも会わず、時間ばかりが過ぎてゆく。
 そんな和真の後ろに、黒い人影が現れた。
 その人影はデバイスに魔力の刃を作り出すと、それを大きく振りかぶり、和真の背中に向けて――

「フェイトちゃん! 何やってるの!」

 突然聞こえてきたなのはの声で和真は振り返り、その拍子に足を滑らせて尻餅をつき、振り下ろされたバルディッシュを避けることができた。
 和真を襲った犯人はフェイトだった。 バリアジャケットを身にまとったフェイトが、ハーケンモードのバルディッシュ・アサルトを和真の目の前に床につき立てている。
 チッっと舌打ちしたフェイトは、今度は横なぎに和真を切り裂こうとバルディッシュをする。 だが、間一髪なのはがフェイトに組み付いた。

「フェイトちゃん、止めて!」
「離してなのは! この子が、この子さえいなければ、母さんは帰ってくるんだ!」
「あのプレシアさんはフェイトちゃんのお母さんじゃないよ! そんなことしても、フェイトちゃんのプレシアさんは帰ってこない!」
「うるさい! 母さんは母さんだ。 私の母さんなんだ!」

 なのはを振り払ったフェイトは、再びバルディッシュを構えて和真を睨みつける。 その殺気は、魔導師が民間人に向けていいようなものではなかった。
 その迫力に思わず一度後ずさりをした和真だったが、じっとフェイトの顔を見ながらゆっくりと近づき始めた。
 そしてフェイトの目の前まで来ると、今度は頭を下げた。 何故和真がそんな行動を取るのか分からないフェイトは、思わず攻撃するのをやめてしまう。

「ごめんなさい」
「……何で謝るの?」
「フェイトもプレシアさんも仲良くしたいのに、僕がいたから仲良くできなくて、それで怒ってるんでしょ?」
「それは……」

 図星だった。
 自分はこの少年に嫉妬し、ついには気持ちを抑えきれなくなり、ついには手をあげてしまった。
 責められるべきはフェイトのはずなのに、この少年は自分のせいでフェイトが苦しんでいることを分かっており、自分の方が悪いと認めているのだ。

「僕からもプレシアさんにお願いするから、フェイトと話をしてって頼むから、いっしょに行こう?」

 和真がフェイトに向けて手を伸ばしてきた。 フェイトと仲直りをするつもりらしい。
 先ほどまでの自分が、なんだか馬鹿らしいものに思えてしまう。 いったい何を考えてあんな凶行に及んでしまったのか、自分でも分からなくなってしまった。
 こんな良い子なら、きっと友達になることができる。 事実、彼の元の世界でもなのはと友達らしいし、自分とも友達になろうとしたらしい。
 だったら、自分もなれるはずだ。 そう考え、フェイトは手を伸ばし――

『本当にそれでいいの?』

 自分の胸の奥から響く声を聞き、手と止めた。

『そんなことしても、あの母さんは自分の母さんにならない』
『あの母さんは別の世界の母さん、本当の私の母さんじゃ無い』
『そのうち別の世界に行ってしまう。 また私の前からいなくなってしまう』
『なんで? その子の故郷を見つけるため、その子について行くから母さんはいなくなる』
『だったら、この子がいなくなれば?』
『そうしたら、母さんは元の世界を探す理由が無くなる。 ずっとここにいてくれる』
『私の本当の母さんになってくれる』

 何人ものフェイトがフェイトに語りかける。
 それはフェイトにしか見えない幻覚で、フェイトにしか聞こえない幻聴なのだろう。 動きを止めたフェイトを和真は不思議そうに眺める。
 しばらく黙っていたフェイトが、少しづつ体を震わせ始めた。 同時に、フェイトの体から黒い蒸気みたいなものが噴出し始める。
 その異変に一番最初に気がついたのはなのはだった。 コレと似たような感覚を、彼女は一年前に体験している。
 決して忘れられない思い出、辛いことがたくさんあった記憶が蘇り、なのはは思わず叫んだ。

「ジュエルシード! なんでフェイトちゃんに!?」
「母さんは私のだ! サンダースマッシャー!」

 フェイトが雄たけびを上げながら、バルディッシュの先端を和真に向けた。 カートリッジが排出され、魔力が高まりだし、今にも魔法攻撃を打ち出そうとする。
 和真はまた尻餅をついてしまった。 コレでは逃げることができない。 そして魔導師でない和真が強力な魔法攻撃を受けて無事で済むはずも無い。
 なのはが止める間も無く、金色の魔力の光が和真の至近距離から発射され――和真の目の前に発生したシールドによってその攻撃は防がれた。
 シールドで防いでもすべての衝撃を殺すことはできなかったらしく、和真は転げまわって意識を失った。 それでも、たいした怪我はしていなく、どうやら大丈夫らしいということが分かる。
 フェイトが通路の先を睨みつけると、そこにはクロノとプレシアがいた。 プレシアはフェイトの方に手のひらを向けている。 プレシアが和真の前にシールドを張ったことは明らかだった。

「予想しておくべきだったわね。 私の世界のジュエルシード、まさかこんなことになるなんて」
「母さん、やっぱりその子を守るんだ。 そんな母さんなんて、いらない!」

 フェイトが標的をプレシアに変えた。 バルディッシュをハーケンモードにして、プレシアに切りかかる。
 それを寸でのところで避けつつ、プレシアはクロノに声をかける。

「執務官! どこか派手に動ける場所はないの!?」
「この壁の向こうが訓練室だけど、入り口は通路を曲がった先にある」
「修理費は払わないわよ!」

 クロノの返事を聞かず、プレシアは壁に向けて魔力弾を叩きつける。 その衝撃で大穴が空き、向こうにはアースラ艦内の訓練場が見えた。
 プレシアがその中に飛び込むと、フェイトもそれを追いかけて中に入っていく。 続いてクロノとなのはも後を追う。
 訓練場では、1人のアースラの武装局員が自主訓練をしていた。 突然起こった破壊に驚き、思わず動きを止めてプレシアに注目する。
 その動きが止まった瞬間を狙い、プレシアは名も無き武装局員に対して魔力弾を打ち込む。
 いくらバリアジャケットを身に着けているといっても武装局員はCランク程度、それに比べプレシアはデバイスを持っていないとはいえSランクを越える能力を持っている。
 一発で武装局員は気絶し、プレシアはその男が持っていたデバイスを奪い取る。 一般魔導師用の何の変哲も無いストレージデバイス、当然登録されている魔法もそれなりのモノしか入っていない。
 だが、プレシアほどの魔導師ならたいした問題ではない、一瞬で自分の魔法を登録する。 プレシアがいかに魔導師としての質が高いかが分かる行動だった。
 デバイスを手に入れたプレシアは、訓練室の中央でフェイトと向きあう。 クロノとなのはが加勢しようとするが、それをプレシアは手で制する。

「危険だ! フェイトほどの魔導師にジュエルシードが力を加えているんだぞ」
「そうね。 だけど、聞き分けの無い子供をしかるのは、大人の役目よ!」
「フォトンスマッシャー!」

 フェイトの放つ魔法がプレシアに迫る。 それをシールドで防ぎながら、プレシアは空中に飛び上がった。 フェイトも後を追い空中に飛び出す。
 次にフェイトはソニックフォームで高速移動を開始した。 プレシアは格闘攻撃があまり得意でないと思い、接近戦で戦おうと考えたのだ。
 しかし、それは浅知恵だった。 確かにプレシアは接近戦があまり得意ではないが、そう仕掛けてくる相手への対処方法もいくつか持っているのだ。
 プレシアがデバイスを掲げると、一瞬にして巨大な魔力の塊が生まれた。 さらにプレシアが合図をすると、その魔力の塊は炸裂して周辺を無差別に攻撃し始める。
 相手に追いつくことができないなら、周辺すべてを攻撃すればいい。 プレシアほどの魔力があるからこそできる攻撃方法だった。
 小さい弾といえどもプレシアの魔力の高さとソニックフォームの防御力の低さが合わされば結構なダメージになる。 思わずフェイトは動きを止めてしまった。
 その瞬間を逃すプレシアではない、すぐさま追撃の魔力弾をフェイトに叩き込む。 その攻撃にフェイトはシールドを張ることもできず直撃してしまう。

「フェイトちゃん!」
「いや、まだ終わっていない」

 クロノが指を指す先には、煙の中から無傷のフェイトが現れる。
 普段のフェイトならこれで終わっていたかもしれないが、ジュエルシードがフェイトに力を与えているのだ。
 フェイトはバルディッシュを変形させていた。 さらにその先に魔力でできた金色の巨大な刃を発生させる。

「かあさん、かあさん、カアサンカアサンカアサンカアサンカアサン……」
「……私は、貴方の母親ではないわ」
「うわああああああああああああ! プラズマザンバアアアァァァブレイカアアアァァァ!」

 プレシアの一言が引き金になり、フェイトは全力を開放した。
 AAAランクの魔力、カートリッジ、ジュエルシード、この3つが合わさった攻撃を喰らっては、いかに大魔導師プレシア・テスタロッサといえども命の危険がある。
 そんな攻撃を前にプレシアは、自ら突っ込んでいった。 何の迷いも無く、真っ直ぐフェイトに向けて飛び込んでいく。
 クロノも、なのはも、攻撃を繰り出しているフェイト自身も、そのプレシアの行動が信じられなかった。 それでも巨大な剣は止まらない、プレシアに向けて真っ直ぐに振り下ろされる。
 それをプレシアは、左手に発生させたシールドで防ぐ。 かなりの魔力をシールドにまわしているにも関わらず、フェイトの攻撃はじりじりとシールドにめり込みだす。 プレシアの表情にも苦痛が見えた。
 それでも、プレシアはフェイトに近づくのを止めない。 プラズマザンバーを押さえながらじりじりと近づき、ついにフェイトの目の前にたどり着いた。
 ここはバルディッシュの柄の範囲、ここまで接近すればプラズマザンバーといえども攻撃できない。 フェイトは攻撃に全力を注ぎ込んだせいで完全に無防備になっている。
 フェイトの顔が恐怖で歪む。 フェイトはいま、かつての母親に受けた仕打ちを思い出していた。
 鞭で叩かれた苦しい記憶、とても辛く、忘れることのできない記憶。
 そんなフェイトの顔を冷ややかな目で見ながら、プレシアは手を大きく振り上げ――

パァン

 フェイトの頬に平手打ちをした。
 フェイトが頬を押さえながらプレシアを見ようとするが、急に目の前が真っ暗になる。 それがプレシアに抱かれているからだと気がついたのは、自分のすぐ上から声が聞こえてきたからだ。

「私は貴方の母親じゃない。 けど、貴方の母親がどんな気持ちだったのか? それを伝えることならできる」
「母さん……」
「どんな世界にたどり着いたとしても、私はもう1人の娘のことを忘れない。 フェイトが友達と過ごせると信じられるから、私はアリシアのために旅に出ることができた。 ごめんなさい、貴方を置いて行って。 ありがとう、私を忘れないでくれて」
「うう、母さん、母さん! 母さん!――あう……」

 フェイトが意識を失った。 プレシアが非殺傷設定の魔法で気絶させたのだ。
 プレシアはフェイトを抱きかかえたまま地面に着地する。 そこにはいつの間にかアースラの局員達が集まり、意識を取り戻した和真もやってきていた。
 それを一通り見渡した後、リンディにフェイトを預ける。 そして今度はなのはの前にやってくると、膝を折りなのはと同じ目線になって話しかけた。

「これからも、フェイトの友達でいてあげて」
「はい! ……でも、プレシアさんはこれからどうするんですか?」
「私は行くわ、坊やを元の世界にもどさないといけないから」

 そう言ってプレシアはジュエルシードを取り出した。 フェイトに取り付いていたものを回収したのだ。
 それを見たクロノ達は思わず警戒した。 ジュエルシードの恐ろしさはよく知っている。 無理も無いことだろう。

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。 次元転移魔法の補助に使うだけ、移動するのも私達二人だけだから次元震がおきることも無いわ。 いくわよ、坊や」
「はーい」

 和真がプレシアの近くに駆け寄ると、プレシアは次元転移の準備を開始した。
 最後に和真が振り返り、なのはと顔をあわせる。

「和真くん、さよなら」

 なのはが和真に別れの言葉を言った。 和真も手を振って返事をする。

「またね!」

 それは再開を約束する言葉。
 また会うことを信じている和真の言葉に、なのはも自分の言葉を言い換えた。

「うん、またね!」

 プレシアと和真の姿がその場から消える。
 ほんの一日だけの出会い、再開の可能性はゼロに近いことなど分かっている。
 今度会ったらゆっくり話をしたいと思いながら、なのはは二人が消えた後も和真のいた場所をじっと見続けていた。







「さて、そろそろ到着する予定かな?」
「あれ? 誰かくるんですか?」

 無精ひげの男が時計を見ながら呟いた独り言に、天崎刹那は反応した。
 次元震に巻き込まれた刹那は、気がついたら1人でこの世界にいた。 それから色々あって、彼はこの男と一緒に生活しているのだ。
 男は少しだけ楽しそうに、自分が時計を気にしていた理由を説明する。

「ああ、イギリスから知り合いが来るんだよ。 その迎えを任されていてね」
「へ~、どんな人なんです?」
「10歳の双子の男の子だよ。 二人とも礼儀正しいから、きっと君とも仲良くなれると思うな」

 双子、というところで刹那が反応した。 それを男は不思議に思う。
 確かに双子は珍しいが、ここまで反応するものだろうか? 刹那の身の上については一通り聞いたが、双子にどうこうされたという話は無かったはずだ。
 しかし、刹那は真剣な表情で何かを考えている。 何を考えているのか男には分からない。
 やがて、刹那は男に尋ねた。 その双子の名前は? と

「ああ、兄のほうがジャギ・スプリングフィールド。 弟の方がネギ、二人とも魔法学校を優秀な成績で卒業した期待の新星さ」
「他には? どんなことでもいいから教えてください。 特に兄について」

 双子の兄のほうだけを気にする刹那を奇妙に感じながらも、男はその兄について思い出す。
 どちらも立派な魔法使いを目指す、将来に期待が持てる子供達だが、兄のほうだけの特徴となると数が限られる。
 そうして思いついたのは、兄だけが持つ癖についてだった。

「そういっても、二人ともいい子だし……ああ、ジャギ君の方は妙な口癖があってね。 いくら注意しても直らないんだよ」
「口癖?」
「ああ、よくヒャッハァ! って言うね彼は」



『天崎刹那編、ネギまの世界』書きません。



『おまけのおまけ』



 彼女は自然と供に生活をしていた。
 朝日が昇れば目を覚まし、森の中を歩き回って食べ物を探し、日が沈めば眠りに付く。 自然のおきてに従うのが彼女の生き方だった。
 そんな彼女がいつもどおりに森で狩りをしていると、草陰で物音が聞こえてきた。 何か獲物がいるのかと思い、その草むらを書き分けると……
 そこには、地面に横たわる小さな体があった。 体力を消耗しているらしく、苦しそうに息をしている。
 その凛々しい姿に、彼女は一目で恋に落ちた。 これほどの衝撃は彼女の人生の中で初めてかもしれなかった。
 これまでの人生で、彼女はたくさんの相手と関係を持ち、子供を生んできた。 しかし、それは自分の血を後世に残すという、半ば義務みたいなものだった。
 しかし、今回は違う。 今回、初めて彼女は自分の意思で目の前の相手と子供を作りたいと考えた。
 そのためには、まず苦しんでいる彼を助けなくてはならない。 彼女は慎重に彼を自分の住処へと運び、本来は子供用に準備していた寝床に彼を寝かせた。
 それからは、必死の看病が続いた。
 綺麗な水を飲ませ、薬草を集め、食料を与える。 そのかいあって、数日後には容態が安定し、会話することができるようになった。
 彼は尋ねた。 「自分を助けてくれたのは貴方か?」
 彼女は答えた。 「はい、貴方が森で倒れているのを見つけ、こうして看病していました」

「ありがとう、ところで俺以外に誰か見なかったか? 家族とその友人がいるはずだ」
「いえ、貴方以外には誰も……」
「そうか……くそ、俺があの時に!」

 彼は悔しそうに歯軋りをした。
 はぐれた相手というのが彼にとってとても大切な存在であることが分かり、気の毒に思うと同時に、そこまで彼に思われる相手が羨ましくも思えてしまった。
 そこで気がついた。 自分はまだ、彼の名前も知らないということを。

「あの……」
「む、済まない。 個人的なことだ。 気にしないで欲しい」
「いえ、それよりも、お名前を教えてくれませんか?」

 それを聞いて、彼はハッとした。 彼自身、名を名乗っていないことを思い出したのだろう。
 彼は申し訳なさそうに頭を下げ、自己紹介をした。

「申し遅れて済まない、俺の名前はシロと言う」
「シロさん、その美しい毛並みのとおり、すばらしい名前です」
「それで、貴方は?」
「はい、私はクイーン。 ライガ・クイーンと言います」



『シロ編、TOAの世界』書きませんってば


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