『それじゃあ、私ははやてちゃんとお風呂にはいってきますね』
『なぁなぁ、偶には三人で入ろうやぁ』
『いえ、今日はシャワーで済まそうかと思っているので…また今度、ヴィータも誘って入りましょう』
『なら、銭湯か温泉に行くのもえぇなぁ』
数分前の八神家のリビングではそんな会話が在った。和気藹々という言葉が似合う幸せな光景。今は、ソファーに腰を下ろしたシグナムがカーテンを開けっぱなしにした状態で月を見て居た。
寒空の中、澄んだ空気のお陰でいつも以上に月がハッキリと美しく見える。
「…貰ったのか?」
そう、声を掛けたのは絨毯に寝そべっているザフィーラだった。彼は普段から獣の姿で過ごしている。ソレを望んだのがはやてであり、今では自分も今の姿で過ごしていた方が落ち着く様な気がしている。
深い蒼色の体毛が夜空の色に似ている。今更の事だがシグナムはザフィーラの姿を視界に納めてそう思った。
そこで考える。『雲の騎士』と言う自分達守護騎士が本当の意味で…と、ふと頭によぎった真実に表情を引き締め取り繕う為に口を開く。
仲間の中で一番敏いのはザフィーラなのだ。その真実は受け入れがたいモノでしかない。ソレを守護騎士を纏める者としては見過ごせない。知ってしまえば…シャマルは立ち直れないだろうし、ザフィーラも塞いでしまうだろう。
「あぁ、防いだと思ったんだがな。何、あの少女は良い魔導師になるぞ?」
シグナムがおどけて言うも、ザフィーラは視線は細めて言う。
「あぁ、確かに。今日で在った少年少女達は何れも素晴らしい魔導師になるだろうが……誤魔化すな。俺が何を言いたいのか解っているだろう」
その言葉に「確かに」と返す。考え無い様にしていたのに蒸し返されては、熱く滾るこの熱を解放しなければならない。直ぐに結界を小規模展開。薄い魔力の膜がシグナムとザフィーラの二人を包む、其処には直径二m程の異相結界が存在した。
その中でシグナムは立ち上がり上着を脱いだ。ブラジャーすらしていない、否出来ない。プルンと揺れる乳房、細く括れた腰のライン、それでも鍛え上げられ薄っすらと目を細めなければ解らない程に割れた腹筋。
その肌の白さも相まって。普通の男ならその場で襲いかかる様な妖艶さを秘めた肉体。その顔はザフィーラがゾッとするほどに妖しく、美しく薄っすらと笑顔を張り付けて居た。
腹を縦になぞる。其処でザフィーラは気づく、今まで傷一つなかった肌に線が浮かんだ。
「本当に才能が在る。フェイト・テスタロッサ…ヴィータは性格上戦わせない方が良いだろう。やるなら、私かお前とシャマルの二人一組が妥当だ。」
腕を組む。その大きな乳房が潰れ形を変える。
「あの結界を破った魔導師。お前では危ない。やるなら私かヴィータ…それかヴィータとシャマルの二人一組が良いだろう。」
組んでいた腕の片方、右腕を上げ自分の顎に当てる。片目を開けたその姿は挑発をしている様で、切れ長の目は少し潤んでいた。
「管理局執務官…シャマルの報告からして厄介だ。シャマル以外の我等は戦えるだろうが、恐らく前の二人より遣り難いだろう。一人よりも二人で掛かるか、不意を突くのが良い。」
「そして」
両手を広げ、揺れる放漫な乳房その儘に立つ姿には劣情等の類は抱けない程の堂々した格があり、その姿は仲間で在る筈のザフィーラでさえ威圧した。
「明智良哉」
パリッと音がした。其処で気づく完全に飲まれていて気づかなかった。アレは騎士甲冑の応用だ。ソレが解けた瞬間に現れたのはその白い肌に浮かぶ痛々しい傷。
腹に横一文字
左横腹から右胸に駆けての一閃
右肩から溝を少し過ぎたあたりまでの一閃。
クルリと背中を見せられれば背の半ばから首の付け根までの一閃。
目を凝らせば右腕は薄っすらと焼け、赤くなっている。
「…まて…ソレは…」
狼狽する。ヴォルケンリッターで一番戦闘力が高いのが目の前のシグナムだ。そのシグナムが本気では無かったとはいえ、此処まで傷を負うだろうか? 答えは否だ。
「魔力・技術・膂力は私が圧倒していた。確かに素早かった、技術はテスタロッサより上で戦い方も巧い。互いに本気では無かったとは言え素晴らしい!!」
シグナムの言葉は止まらない。
「お前も見て居ただろう? あの戦いを、生死を賭けた殺し合いを!! 素晴らしい!! 素晴らしい程にあの少年は生き汚い!! 躊躇しない!! ソレでいて驚くほどに潔い!!」
熱の籠った声は思いを乗せ、濡れた瞳は愛人に注がれるモノそのモノ。
「何よりも手段だ!! 奇抜だ!! 誰が考えた? 音を使うなど!!」
まるで恋人の事を語る様に口を開くシグナム。
「解るだろうザフィーラ!! 肉体強化に加え騎士甲冑内に別の魔導式を刻む!! その無駄な行為!! 誰かが考えた、だが無駄の多さに使うモノは居なかった!! 純粋な声故に騎士甲冑のフィールドは素通り!! 痛快だろ!! 清々しく成るぐらいにあの攻撃は奇策だ!! それ程までに強化された肉体の錬度、素晴らしい土台だ!!」
振りかざされた鋼の魔力色。元は鉛の様な鈍さだったモノは圧縮と集束される事により鋼に成っていた。
突き刺さる殺気の鋭さ。其処には何もない。無機質なただ殺すと言う意思しかなかった。
素晴らしい。素晴らしいとシグナムは絶賛する。
ザフィーラは思う。これ程までに手放しで称賛を贈られる少年は、如何にしてそれ程までに至ったのか。
何故に其処までの意思を持つのか?
ザフィーラが解ったのはシグナムと明智良哉の戦いに水を差しては成らないと言う事。
シグナムの変化…闘争心の増大とソレを抑え込めるだけの冷静さ。何よりも、今までとは違うと確かに言える落ち着きが在ると気づいた。今までも落ち着きが無かったという事はない。
今までも将として確かな落ち着きと冷静さを持って来た。ソレが更に深いモノに成っている。ソレと同時に内に秘めたる熱いモノまでもより大きく成っているのを確認した。
その事に不満は無い。自分とて滾るモノが未だに燻り続けている。
(ルーダー・アドベルト…)
四つの誘導弾を使用した攻撃。拳を良ければその先には誘導弾が在る。ソレを避けようとすればバインドが設置して在る。
あの場の流れを読んで居たのは確実にあの男だった。誘導するのが巧い。目での牽制などはソレが牽制かも解らない程に自然なモノだった。ルーダーよりも前から戦っていた使い魔を近くに待機させていたのも効いた。何よりもあの男はまだ何かを隠している。
ソレが理解できるだけの実力は持っているつもりだ。気に成るのはアレだけ近接格闘を行っているのに持っているデバイスはストレージの杖型だった事だ。
「シグナム」
「なんだ?」
ザフィーラは当たり前の様に言う。
「あの少年はお前に委ねる。だが、あの男は…アドベルトは俺の獲物だ。守護獣としては失格だが…俺は奴と最後まで戦いたい。」
「…良いだろう。そのように動けば良い。まぁ、そうなる様に動けるかはその時の状況によるが…」
「ソレで良いさ。我等の目的は主はやての平穏と幸せだ。」
「それよりも、速く服を着ろ。風邪を引くぞ」
「解ってッユゥン!!」
ズズ
何とも言えない雰囲気がリビングを支配した。
次元空間航行艦船アースラ、メディカルルームでファラリス・アテンザは面相臭そうに髪を弄りながらカルテを見て言う。
「驚く位に健康体ね。」
「まぁ、打身ぐらいですからね。もう、治りましたし」
その言葉に明智良哉も答える。先の戦闘で行った手刀、僅かに緊張していたのだろう型を崩し真っ直ぐに伸ばしてしまった為に少々指を痛めてしまったのだ。それも、医療局員の魔法で直ぐに治ってしまった。
ファラリス・アテンザがアースラに居るのは彼女が管理局局員であり、アースラに搭乗しているスタッフの一人となっているからだ。ソレと同時に医療局員としての知識等もあり其処ら辺の医者より知識も技術もある。
これは昔、彼女が起こしてしまった自惚れが原因の大惨事の償いの一環であり、自己満足の一つでもある自身に対する罰の結果が身に成ったモノなのだが…その話は関係ない。
故に彼女は今まで明智良哉と言う人間を見て来た一人の医師(モドキ)であり、デバイスマスターであり、家族の様な姉の様な人物でもある。彼女が此処に居るもう一つの理由にはラプラスの存在もあるが、今回は『月村』に関する事の方が大きい。
その事に溜息が出そうになるも、コレも友人と目の前の少年の為と思えばそれ程嫌な事ではない。巧く行けばこの世界に定期的に来れるかも知れない。
ファラリスに取ってこの世界の日本のサブカルチャーは新鮮なモノが多かった。『魔法』が存在し大衆もその事を知っている。そんな世界では無い発想がこの世界には在る。ある程度の技術が在るのも良い。
ゲーム、マンガ、アニメ、小説。ドレをとってもこの世界で流行っているモノはミッドでも人気が出るだろう。何よりもミッドでは手に入り難くいがこの世界でなら友人の伝手を使えば簡単に手に入るモノが多い。
損得を考えても得のが大きい。失敗しても損害は少ない。
其処まで考えると、ファラリスは明智良哉に言う。
「高町なのはちゃんだけど軽傷よ。今は気を失ってるだけだから時期に目を覚ますわ。ユーノ・スクライアも無傷。フェイト・テスタロッサは軽傷だけど、貴方と同じでもう問題無いわ。クロノ執務官だけが何時も以上に難しい顔をしているわね。」
ファラリスの一言に明智良哉の表情がピクリと動く。
(目聡い子…まぁ、だからこそ話すんだけど)
「どうもね、今回の件は黒幕が居るのが確定しているみたいなのよね。後で私が知る限りの情報は送っておくからソレを見ておきなさい。たぶんだけど…今回の件は根が深いわよ?」
「解りました。」
明智良哉は表情を変えずにそう言うと立ち上がり、一礼すると部屋を出た。ファラリスはその後ろ姿を見送るとデスクに肘を付いて顎を乗せると詰まらなさそうに言う
「今回は使わなかったかぁ…実戦データが欲しいんだけどなぁ」
そう言う彼女は実年齢よりも幼く見えた。
「…お前、また何かしてんのか?」
シャーっと音を立てて無人と思われていたベットが顔を出し、その中に居たルーダーが目を細めて言った。
「良いじゃない隊長。今回のはあの子からの依頼よ。い・ら・い」
「…似合わねぇ」
そう言った瞬間にルーダーは腹に手を当てて体を丸める。
「お…おま…ソレは無しだろ」
「私のテリトリーで失礼な事言うからよ。それで? 何か解ったの? いや、何を知ってるの?」
その言葉を切欠に両者の目に真剣な光が灯る。
「根が深い。お前の言った事は合ってるさ、でもな…今回の件はお前が思っているよりも深いぞ?」
「どう言う事?」
ファラリスの質問にルーダーはベットに座り直して答える。
「今回の件…ロストロギアは『闇の書』で確定だ。奴さん等がヴォルケンリッターと名乗ったしな、それぞれの特徴も合致する。何て言ったって何十年も管理局がその前身と成った組織が封印出来なかったモノだ。そして…」
「そして?」
「被害者…遺族が多すぎる。もしも闇の書のマスターを確保出来たとしても…無事で済む可能性は低いな。アレに怨みが在る人間が多すぎる。アレに復讐したいと思っている人間も多すぎる。」
まぁ、俺もなんだがよ
と、ルーダー付けくわえると。ファラリスは苦虫を噛み潰した様な表情で「そう…」と答えた。部屋に落ちた沈黙が重々しく感じる。その中で再度ルーダーが口を開く。
「リンディ艦長は少々執務官に過保護な所があるのは知っているな?」
「? まぁ、今の堅物執務官殿を見てれば解るけど?」
「…クライド・ハラオウン。艦長の旦那の名だ。そして、俺の先輩っつーか…近所に住んでた兄ちゃんの名でも在る。先輩は闇の書に殺された。」
「……良い人だったよ、でもその最後はあっけなさすぎた。アルカンシェルでドンだ。怨まない筈が無いさ。艦長の過保護な所は先輩を失った恐怖から来てる。クロノ執務官のあの生真面目さもな。」
「でも、今回は…悪く言っちゃうけど私怨に奔った暴走は無かったわよ?」
「もう一人、ハラオウン親子と関わりが深い人間が居るんだよ。その人の権限…影響力もあるがソレを使っちまえば…最悪も在る」
「…誰?」
ファラリス達が最悪と考えているのは、今回の闇の書のマスターが善良な魔法の『ま』の字も知らない人間だった場合の事だ。強力な力を持てば人は変わる。殆どがそうで、自分を見失わないのは極一部でしかない。
何よりも、怨み・復讐の類が闇の書に向けば良いがマスターに向く可能性も多いに在るのだ。人は頭で理解しても感情が納得できなければ簡単に箍を外してしまう可能性のある生物である。
誰も彼もが理性的では無いのだ。
「『海の英雄』ギル・グレアム提督だよ。」
その言葉聞くと、ファラリスは安堵を覚えた。
ギル・グレアムと言う人物は、管理局の中でも紳士的であり、正義感があり、現場への理解もある、上司にしたい人物TOP10に入る程の人間である。
だからこそ、ルーダーも言葉にしたのだろう。まずは無いと言う人物として名を出したのだろう。だが、ルーダーは警告した
「それでも、もしもが在るかも知れないんだよなぁ」
ルーダーは頭を掻きながら思考を廻らす。このアースラの搭乗員は略ハラオウン派の人間である。そのハラオウン派はグレアム派の中にある派閥の一つでしかない。確かにギル・グレアムとハラオウン親子の間には個人的な繋がりも在る。
その為か、もしもギル・グレアムが復讐に奔った場合止める事が難しいのだ。ハラオウン親子が幾ら己を律した所でギル・グレアムが思いなおすという行動を取る可能性はかなり低い。
なぜならば、ハラオウン親子とギル・グレアムの繋がり。其処に在るのはクライド・ハラオウンという人物であり既に故人と成っている人物だからだ。話を聞けばギル・グレアムは才能があり正義感も強く誠実だったクライド・ハラオウンを息子の様に可愛がっていたと聞く。
実際にギル・グレアムには家族が居ない。独身であり、もしかしたらクライドを養子に…と考えて居たのかもしれない。
全ては推測の域をでない事だが、もし、そんな人間が目の前に憎い仇が現れたとして冷静でいられるだろうか?
ルーダーはその事が不安で堪らなかった。
私情に奔る上司に巻き込まれる部下程死に易い。
今回戦ってみて解ったが、ヴォルケンリッターの戦闘能力は高い。一対一であの強さ、その海千山千の古兵がチームを組んで此方を襲ってくる。寒気がする。今の戦力では拙い。
一人ずつ当たり、各個撃破ならば相性を考えれば可能性は在る。実際に、あの盾の守護獣には高町なのはかフェイト・テスタロッサ、明智良哉を当てれば良い。他のメンバーの戦闘情報が無いから他の事は解らないがあの三人なら撃破出来るだろう。
「お願いだから変な事は起こらないでくれよ…皺寄せが来る方の身に成ってくれ…」
ルーダーの小さな呟きは虚空に消えた
明智良哉とクロノ・ハラオウンは久しぶりの再会を喜び、早速お互いが取得した戦闘情報の交換を行い。その姿を見て居たリンディ・ハラオウンとエイミィ・リミエッタに溜息を吐かれていた。
「もうちょっと、子供らしい反応を見せてくれても良いと思うんだけど…」
「クロノ君が増えた様に見える…」
「「???」」
何か残念なモノを見ている様な二人の視線に首を傾げる二人、そんな所だけが年相応の姿だった。
互いの情報交換の途中で、高町なのはが意識を取りもどしたとの報告が入りクロノ・ハラオウンは一旦席を外すことにした。明智良哉は明智良哉でアースラで保存しているヴォルケンリッターの情報提示をリンディに求める。
どの道その情報は伝える予定だったので、実際に戦ったモノからの意見も取り入れ今後の対策を行いたいリンディと供に各々の対策を考える。
実際に映像等を見て二人が共通して思ったのは手加減されていたという事だ。事実、蒐集目的でなければ出会って数分も経たずに終わってしまうだろう。その事を明智良哉は事前にリンディに伝えている。だからこそ余計にそう思えてくる。
「厄介ね」
「はい…特にこの紅い騎士」
そう言い、良哉が指摘したのは鉄槌の騎士・ヴィータだった。
「えぇ、一番に潰したい存在だわ。確かに闇の書を持っていた騎士も厄介だけど、この騎士はチームプレイの中核になってる可能性が高いわね。近・中、もしかしたら見せて居ないだけで遠距離も出来るオールラウンダー…」
「高町の話を聞かないとこの騎士の事は良く解らないでしょうが…個人の意見を捨ててチームで来られれば…俺は勝ちは無いと思います。」
実際の所ヴィータには突撃思考が在る為、自身の持ち味を生かし切れていない所がある。だが、ソレを差し置いてもその突破力は計り知れない。
剣士・シグナムは戦いたくない位に強い。
鉄槌・ヴィータも同じく強いが決して勝てないと言う訳ではない。
盾・ザフィーラも強いだろうが勝てる。だが、正面からいけば酷く時間が掛かるだろう。
最後の一人は良く解らない。だが、クロノ・ハラオウンと接触した時の反応を見れば戦闘タイプでは無い様だ。だからこそ、より警戒しなくてはならない。
そして
「仮面の男ですか?」
「えぇ、闇の書完成を目論んでいるみたいだけど…」
その事に疑問を覚える。クロノ・ハラオウンからの情報では、闇の書はそのマスターですら御せる事が出来ずに暴走し死に至るロストロギアとある。そして、それは何度も繰り返していて、一番ひどい時は四つの次元世界が虚数空間に消えたと在る。
そんなモノを操ろうとするだろうか? 操れるのだろうか?
そもそも、操る必要も在るのだろうか? そのメリットは?
仮面の男、その目的は本当に闇の書の完成なのだろうか? もしかしたら、ソレは過程で必要な事だから援助しているのかもしれない。現に、湖の騎士が仮面の男と出会ったのは今回が初めての様だ
(さて、この事件。無事に解決する事は知っているが…どうするのだろうか?)
明智良哉は思考の海に入って行った。
リンディは思う。違和感が無い。
(……この子は)
ソレは異常だ。高町なのは、フェイト・テスタロッサ、と同じ年とは思えない程に落ち着いている。冷静と言えば聞こえは良いかもしれないが、何処か違う。
「俺ではシグナムは無理です。テスタロッサも危ない。俺の初撃に気づいた事から高町も危ない。クロノさんも無理でしょう。三人は欲しいです。あの紅い騎士を落とした後にも先にもシグナムをどうにかしないと直ぐに覆される。」
(あぁ、そうか。この子は余りにも第三者すぎるのか)
物事を客観的に見れる。ソレは良い事だ。だが、行き過ぎれば危ない。不安が鎌首を持ちあげる。以前は安心していた事柄だった。もしかしたら見誤ったのかもしれない。
(命の価値が恐ろしいぐらいに低いのかもしれない)
「そうね…でも、対策を練れれば在る程度の修正は出来るわ。良哉君…どれくらいなら時間を稼げるかしら?」
「やり方にも因りますし、相手の意図もありますから…本気で来ると過程して長くて十分程度が限界だと思います」
映像を少しでも見る事が出来ていなければ疑っていただろう。でも、見てしまっては信じるしかない。あの戦いは技術による殺し合いだった。
「…最短は?」
表情は苦笑だった。何処か諦めている様にも見えたが、それともどこかが違う。なんとも言えないズレが在る。
「一合目で終わりますよ。俺とシグナムでは技術の差が大き過ぎます。」
私はこの時ほどグレアム提督の存在を有難いと思った事は無い。既になのはさん達との面会の予定が入っている。その後に合って貰おう。グレアム提督は魔導師としても人間としても素晴らしい人だ。
「そう、ごめんなさい。嫌な事を聞いたわね」
頭を下げる私に少年は答える
「いえ、事実ですから」
其処に張り付いている苦笑は、本当にこの子が浮かべている感情なのだろうか?
そんな考えがリンディの頭に過った。
アースラの自室…と言えなくもない部屋が、アースラでの俺の拠点だ。最初からそうだった訳では無いが、どうもこの部屋は明智良哉の住処であるとアースラスタッフの共通認識に成っているらしい。
当たり前の様にユーノが訪れて来たのが三十分程前、事前に渡されていた魔導式の感想を聞かれた。その後は改良点等、こうしたいという望みを話し、ソレが無理かどうかをユーノが持つ知識を元に検証して貰ったり他の人間の情報等を聞いた。
やはり、マルチタクスが通常の人間よりも多く出来るのは凄いと素直に思う。そう思った事が口に出ていたらしく頬を染めながら謙遜し照れるユーノを見ると、本当にこいつは凄いと思った。遺跡、ロストロギア、過去に栄えた文明の歴史、それら全ての知識において俺やクロノさんは勿論、そこらの考古学者では敵わない。
何よりも、スクライアという一族が伝える魔法技術は日常においても、戦闘においても利用できるモノが多い。
(流石…としか言いようが無いな)
「どうしたの? 」
「いや、やっぱりユーノは凄いなと思っただけだ」
「も、もう。そんなに凄くは無いよ。なのはは僕の指導とかなしの感覚だよりで砲撃魔法とかの式を組み上げちゃたんだし…本当に、天才と思える人間に出会うと自分が如何に不概無いかが刻まれるよ」
アレは別モノだと思うが…戦闘能力だけで言えば高町なのは群を抜いている。魔力量の差も在るし、適性でもそうだ。だが、ユーノが高町なのはに勝てないと言う訳でもない。
実際に、パートナーとして連れて行くのならば高町よりもユーノを連れていきたいと思うベテランの方が多い筈だ。砲撃魔導師と組むのは本当に難しいし、下手したら巻き込まれる。(←実際に巻き込まれ乙あり)
そう考えると、組むとして一番に上げられるのはクロノさんかユーノの二人一組が良い。出来れば俺、クロノさん、ユーノの三人一組が理想的だと考える。
お互いの力量の問題もあるが、高町とのコンビはお断りしたい。高速戦闘は防御力が落ちるし魔力もそれなりに使うから短期決戦以外ではしたくない。そう考えると、テスタロッサとのコンビもそれなりに有りか…
「良哉?」
「ん? あ、すまない。今後の事について考えてた」
「…はぁ、良いけどね。それよりも、執務官から連絡が入ってるよ。何故か僕の方に…」
この後、管理局でも影響力の強い提督…「英雄」と面会する事に成るとは思ってもみなかった。
Side グレアム
「ありがとうございました!!」
明るいソプラノボイスが室内に響いた。
「ソレでは、僕も一度戻ります。忙しい中時間を作って頂きありがとうございます」
「何、私はもうロートルだよ? それに、忙しいと言っても舞い込んでくる書類仕事は簡単なモノだ何年もやっているとね。更に言わせてもらえれば、これから育つであろう若い子達と話す事も一つの仕事であり、娯楽だ。」
「はは、そう言って頂けると嬉しいです。」
「勿論君と話すのも楽しいよ、クロノ君。それでは、また」
「はい、また後で」
閉まる扉の音に私の心は少しだけ軽くなった。仕方が無いのかもしれない、あの子は顔つき等は母親に似ているがその中からも父親の面影を感じ取れる年頃に成った。
その事がどうしようもなく、あの時の事を思い出させる。罪悪感がある。それはとうの昔に自覚している。なぜ、私だったのだろうか…彼と最後に言葉を交わしたのが彼を殺した私なのだろうか?
その事も理解している。だが、どうも感情が納得していない。なぜあの時…
『提督、妻と息子を頼みます。』
怨み事を無念を叩きつけてくれなかったのだろうか?
『リンディは結構な強がりだから、時々で良いんで愚痴を吐きださせてやってください』
なぜ彼は、最後の最後まで世の理不尽を嘆かなかったのだろう
『ロッテ、アリアも頼むよ? 本当にアイツは強がりだから提督には愚痴れないかもしれないしね。クロノもまだまだ子供だから遊んでやってくれ』
(クライド、君は本当にソレで良かったのか?)
もう少し我儘になっても良い様な男だった。
『…っ…グレアム提督、本艦はこのままの進路を維持したまま進みます。予想以上に浸食が早いです。そちらの射程に入り次第…お願いします。はは、まさかあの封印を破るとは予想できなかったで』
私が聞いたのは其処までだった。既にエスティアの制御は奪われていた。周りは、仕方が無い、不幸だった。ソレに類似する言葉で私を励ました。当時、私はその言葉に救われた。私だけが救われた。
嫌に成る。自分だけが救われた言葉で彼女達が救われる筈も無いのに…私がソレに気づいたのはクライドの葬儀の時だった。彼女の作られた表情に私は打ちのめされた、私が彼女に言葉を掛ける前にその事に気づけたのが不幸中の幸いだったのかもしれない。
でなければ、今の様な関係は築けなかっただろう。あの時、私は彼女になんと声を掛けたのだろうか? 今と成っては思い出す事も出来ない。たかが十年、されど十年。
だが、あの時の私は心の底から掛け無しの本音を言ったという確信は持っている。我が事ながら恥ずかしい。あの時の焦りようは今思い出しても失笑モノだろう。
「そうか…もう、十年も経つのか…老いる訳だな」
深く腰掛けた椅子がギシっと音を立てる。昔なら、こんなに深く椅子に腰を掛ける事などしなかったのだが…今では、自然と深く腰掛けてしまっている。
目を瞑れば其処には消滅するエスティアが在る。
死体の無い棺桶を見ながら気丈に涙を堪える若い母親が居る。
茫然としている少年の顔が見れる。
幾つモノ不幸を生み出してきたロストロギア
幾つモノ悲しみを生み出してきたロストロギア
幾つモノ世界を崩壊させてきたロストロギア
(此処で終わりにしなければならない。)
目を瞑れば其処に現れる少女がいる。
事故で両親を失った哀れな少女。自分が情報操作し、居なくなっても大きな悲しみ大勢に与えない不幸な少女。自分がこの為に作りだした生贄の羊。
私は酷い事をしている。私は自分勝手な事をしている。
(だが、ソレがどうした。一人と大勢、天杯に掛ける事も出来ない。)
もっと良い手段は無かっただろうか? 今もそう考える。だが、私はソレを見つけられなかった。ならば、今在る最善を行うしかない。周りに伝えるにはもう遅い。
「私は地獄行きだろうな…」
「お父様?」
「アリアか…件の少年に付いてお前の意見を聞かせておくれ」
私が思考の海に沈んでいた時に入って来たのだろう使い魔に言葉を投げる。本当に年を取った。以前ならば気づけたろうに…
「良哉・明智。十歳。両親は既に亡くなっており、傭兵クラウンのデバイスを使用しています。」
空間モニターに映し出された戦闘データを見ながら、アリアの説明を聞く。
「最初の実戦は地球時間では7月、戦闘時間は合計一分弱。初戦闘にて犯罪者一名を無傷で捕縛、その後此方側の過失で一名を殺害。」
「…だからか」
心が歪んでしまっているのか、麻痺してしまっているのか…彼女、リンディ・ハラオウンが私に頼むと言う事はそれなりに根が深い事なのだろう。もしくは…その『何か』を今まで彼女に隠し通して来られた程に自覚があるのか…
「その後、地球の自宅にルーダー・アドベルト、ファラリス・アテンザ両名と共に降りています。報告書から、日本に在る戦闘術の師に出会い今も訓練を受けている模様です。」
画面が切り替わる。
「この画像から見て取れる様に獣型の使い魔を保持しているようです。また、この戦闘記録から見れる様に魔法式はベルカ式、ミッド式の両方を使い分けている様です。」
「まて、コレは古代ベルカ式か?」
「はい、元はデバイス『シュベルト・クロイツ』に記録されたモノを自分用にアレンジした物かと思われます。戦闘タイプは短期決戦型の近接ですが、遠距離からの攻撃も出来る事が今回の戦闘にて判明しました。」
「…アリア、この少年と戦う事を前提とした場合…勝てるか?」
「話に成りません。体も出来あがっていない子供、ソレも近接…確かに速度は脅威に成りえますがその分攻撃が直線的です。接敵擦る前に捕縛して終わり…それだけです。が、」
「が?」
「今回の戦闘が全てでは無いでしょう。お互いに本気では無い様に見えます。なのは・高町、フェイト・テスタロッサも後幾らかは見せて居ない魔法のストックは有るでしょうが過去の記録を見れば予想でき対応出来る範囲のモノです。しかし…」
「この少年は違う」
「はい、お父様はあの二人の少女と話されてどう思われましたか?」
どう思ったか…か
「素直な真っ直ぐな少女達だったよ。話した印象も過去の記録を見ても、少々純粋過ぎる所も有りそうだが彼女達ならあの子達を導いてくれるだろう。」
「はい、私もデータだけを見ればそう思います。同じくデータを見た限りで良哉・明智を見た所…危険、不可解です。」
「ほう?」
私とアリアの話し合いは三十分ほど続き、それから十分もしない内に面会の時間が来た。
直接顔を合わせるまで、私は少々明智良哉という少年に其処まで危うさを感じて居なかった。ただ、心の深い部分に傷を負ってしまった哀れな子供と言う印象が在った。
だが、ソレは違った。
Side out
「クロノ・ハラオウンです。良哉・明智を連れてきました」
クロノさんの声に俺は腹に少しだけ力を入れた。これから会う人物の事を考えれば誰だってそうなるのではないか? と思ってしまう程に立場が違い過ぎる人間だからだ。
(リンディさん…なんで、こんなとんでもない人と話さないといけないんですか?)
「御苦労、君は下がってくれ」
「ハッ!!」
綺麗な敬礼をして下がるクロノさんが、俺の横を通り過ぎる瞬間に小声で言う。
(心配無い、あの人は紳士だ)
そう言われ、部屋の中に入ってみれば其処には綺麗なスーツに身を包んだ壮年の紳士が姿勢正しくソファーに座っていた。唯それだけで、頭の中がスゥっと冷えて行くのが自覚できた。戦闘思考のスイッチが入りかけている。
それ程のまでの威圧感…否、威厳がこの紳士から迸っていた。
「はっはっは、そんなに緊張しなくても良いよ。さぁ、座ってくれ。」
Side out
在って見れば、その少年は何処にでもいる様な普通の少年だった。眼帯と煤けたような白髪さえなければそれなりに体も鍛えている何処か爽やかな少年と見えたのかもしれない。単純に、私はこの少年が心に傷を負って居ても仕方が無いと考えていた。
成人年齢から教育、常識までが違うのだ。確かにこの少年の年齢はミッドでも子供と呼べるモノだ。だが、教育と常識が違う。この世界、特に日本と言う国は今は戦争、テロリズムとは表面上かなり無縁な国と言って良い。
あの国の見せかけの平和とも言えなくもない平和は単純に素晴らしいとも思える。そんな国に生まれ、当たり前の平和の中で過ごしていた子供が殺人という大罪を犯さなければ成らなかった。傷ついて当然だ。歪んでしまっても仕方が無い。だからこそ、まだその歪みが小さい内に出来るだけ直さなくては成らない。傷を塞いでやらなければならない。
あぁ、確かに…コレは同じ世界の出身で尚且つ人生経験豊富で『日本』と言う国を知っている人間がやるのが適任だ。
(そう…だが、それも…)
最初に私が感じた事が正解だった場合の時の話だ。
違和感…そう、違和感が在る。簡単な会話から気づいたモノではない。彼の落ち着いた雰囲気は元々兼ね備えていたものと見ても良いだろう。周りの環境が彼をそう成らざるをえない状況を作ったと錯覚しても良いのかもしれない。
だが、違う。余りにも…いや、それさえも違うのかも知れない。
(これは強敵だぞ…リンディ君)
価値観の相違。恐らく、彼女が感じたのはそれだ。
最初の会話はなぜ管理局に入ろうと思ったのか? と言う簡単な質問だった。彼の家族構成はリンディ・ハラオウンからは知らされていない。もしかしたら彼と彼女の間に何か秘密が在るのかも知れない。
(いや、在るのだろうな…両親の事は聞かない方が良いか…巧くなったものだ。)
言い回しの問題だ。この言い方から想像出来るのは、両親が共に亡くなっているか、虐待が在ったのか、捨てられたのか…。アリアが『個人的』に調べた資料では二人の局員がこの少年に着いて地球に降りている。
さらに言えば、この少年は彼女達と知り合いでもある。気づかない筈が無い。ずっと監視していたのだ、アレが起動し守護騎士が現れた時から見張っていたのだ。罪悪感を感じていたのだ。
だが、この少年は剣の騎士に対して「初めまして」と言った。この少年には裏が在る。確実にある。気を許して良い人間ではない。私達的には有難い事だが、管理局側としては拙い事だ。
この事がバレればこの少年自身も危ない。なのに…なぜ、この少年は隠したのだろうか?
それが解らない。
「この…俺の相棒と離れたくなかった、と言うのが最初の理由です。」
目を見ての会話。口はペラペラと嘘を語るが目は正直だ。この目さえ欺けるモノは一流の詐欺師の資質を持っているのだろう。私が見ている限り、嘘を吐いている様には見えない。
「他の理由を上げるなら…知ってしまったからでしょうか?」
「ほう、何を知ったのかな?」
広い世界か? 未知なる技術か? 我々が生まれた世界では御伽話でしかない魔法か?
「恐怖を知りました。希望を知りました。憧れと尊敬を知りました。」
理解が出来なかった。だが、この少年のプロフィールを思い出すと最初と最後は見当がついた。恐らく前者はロストロギア、後者はクロノ・ハラオウン。彼女からの話でもこの少年とクロノ執務官の関係は微笑ましいモノだと聞いている。
まるで、兄弟の様で親友の様で互いが互いの事を尊敬出来る関係だと…そう聞いた。
その事に頬が緩みそうになるのを堪えながら私は口を開いた。
「…君は、執務官に成りたいのかな? クロノ執務官と同じ様な」
少年は即答する。
「はい。ですがクロノさんの様なでは無く、自分なりの執務官を目指すつもりです」
Side out
Side 明智良哉
「はい。ですがクロノさんの様なでは無く、自分なりの執務官を目指すつもりです」
気を抜けない。ソレがこの男を見ての第一印象だ。提督職に就き英雄とまで呼ばれる人間だ。それは当たり前なのだろう。
(目を離さないか…)
視線が合っている。これだけで視線を逸らせない様にしている。なぜ自分が其処までマークされているのかが解らない。彼以外にも視線を感じる…監視? それよりも観察という言葉の方が合いそうな絡みつく様な…そんな視線だ。
(恭也さんに師事していなかったら絶対に気づかないぞ…これ)
理由を考える。はっきり言って俺はこのギル・グレアムという人間との接点がない。同じ世界の出身と言うくらいだろうか? それ以外は思い当たらない。
『マスター、Yes、Noでお答えください。Yesならば指を一回、そうでないのならば二回』
トン
膝の上で指を一回だけ動かす。
『ありがとうございます。ギル・グレアムはマスターとなにか接点が在るのですか?』
トントン
不審に思われないように体を動かすのも面倒なものだ。
「自分なりの執務官…か。ソレはどんな執務官なのかな?」
『解りました。マスター、この男はマスターと同じ地球の出身。ならば、私を含めお姉さま達と調べる事も可能かと思われます。』
トン
「恥ずかしい話ですが、理想は見つけていません。でも、大勢を…より多くの人の笑顔を守れるように成りたいと思います。」
「…そうか。明智良哉君。君の言った道はとても厳しく険しく苦しいものだ。まず、私達が生まれたこの世界とミッドチルダでは似ている所も多少はあるが法律が違う。人種の違い出身世界の違いで起こる差別だって未だに残っている。」
真剣な顔でそう言う男を見る。視線は外せない、目は口よりもモノを言う。だが、その目さえも欺くのが相手…ギル・グレアムの居る階級の職務でも在る。故に…
全てを疑うしかない。
「執務官は法の番人だ。故に常に公平で成らなければならない、平等でなければならない。おかしな話だがね、良い執務官は二通り居る。一つ管理局の法を優先し常に管理局為に働く者。もう一つは、人としての良識を優先しながらも最低限の法は絶対に守り護らせる者」
それは、そうだろう。エリート達の殆どは前者だ。管理局は正義であり、管理局が定めた次元管理法は正しい。その認識を少なからず教育段階で植え込まれているのだから。
「失望するかもしれないが…執務官を目指すなら君は後者を目指す方が良いだろう。違う世界の常識に慣れるのにも時間が掛かるしどうしても違和感は残る。」
「…彼方がそうだからですか?」
カマを掛けてみる。それで、少しはこの男の事が解る。
「私が英雄と呼ばれるのはね、大きな事件を解決したからではないよ。確かにそれもあるが…私が若い頃は本当に青くてね…上司の命令でも正しく無いと思えば反抗していたんだよ。最初は独房十日間、次は一カ月の禁固処分。その次辺りからかな…裏側で動く事を教えて貰ったよ当時の仲間にね」
故に今の地位に昇りつめた…か。なんとも…敵にしたくない相手だ。海千山千の古兵だ。リンディ提督よりも上だ。
「それからだよ英雄と呼ばれる様に成ったのは。元は私に対する皮肉や嘲笑の言葉だったが功績を積んで行けば逆転だ。私は元々イギリス貴族の出でね、裏で動き方はなんとなくは知っていたのも功をそうした。話が逸れたね、昔はそうだったよ。今は自身が無いな。年を取り過ぎた。その分、クロノには期待しているがね」
あぁ、同意だ。あの人はきっと英雄に成れる。いや、成っていたと思う。
「だから、コレはアドバイスだ。本当に平等に成れる人間は居ない。ソレが出来るのならばソレは機械か、心が壊れてしまった人型だ。」
「確かに…そうですね。ありがとうございます。なんとなくですが目標が出来そうです。執務官になってからの」
「はっはっはっ!! そうか、執務官に成ってからの目標が見えてきたか…大いに頑張ってくれ。管理局は…私も含め、優秀な執務官なら何時でも迎え入れる!! 海に来るなら一声かけてくれ、悪い様にはしないよ。」
恐らく、コレは半分本気で半分嘘だ。確信する、この男は臭い。何よりも、一瞬だけ見せたあの目は昔見た事のある目だ。嫌に成る程見た事のある目だ。調べる必要が在る。
こんな時ほど、なぜちゃんと資料に目を通し記憶しなかったのかを知りたくなる。
「ん? そろそろ時間か、君とはもう少し話したかったんだが…残念だ。最後に一つ、コレは忠告だ。今回、君が関わってしまった事件はかなり厄介な代物だ。暫くはリンディ提督の所に居た方が良いだろう。私の方からも連絡を入れておこう」
「ありがとうございます。ソレでは『また』何時になるかは解りませんが…」
「そうだな。君とは話が合いそうな気がする。機会が有ればまたこの老い耄れと話してくれ」
ドアを開き、一礼してから退室する。直ぐ其処でクロノさんが待機していた。
「どうだった?」
「気さくな『良い人』でした。」
「そうか、あの人は僕の先生みたいな人でね。あの人の使い魔に戦い方を学んだんだ。機会が有れば紹介するよ。正確に難有りだが…絶対に為になる。」
その時のクロノさんの顔は何処か誇らしかった。俺はその表情がとても眩しく見えた。
(臆病者で結構。あの男は引っかかる、何かが引っかかる。『暫くはリンディ提督の所に居た方が良いだろう』? 絶対に…)
Side out
Side グレアム
「そうだな。君とは話が合いそうな気がする。機会が有ればまたこの老い耄れと話してくれ」
一礼して退室する少年を笑顔で送り出し、ドアが閉まるのを確認してから深々と椅子に座り込んだ。
(私も…馬鹿だな。)
あの時、私は本気で口にした。海に来るなら一声かけてくれと…彼がそうなった時には既に居ないのに
(期待したのか? 私は?)
あぁ、少年の語った事は素晴らしい。あの少年を彼女やクロノが導いてくれるならきっと素晴らしい執務官になるだろう。だが、今回の件はどうしようも無い。私自身が黒幕なのだ。最低でも死者は一名。自分達も感情に入れるならば二人と二匹だ。
(何処まで嘘で何処まで本当なのか…)
あの少年の目から嘘も本当も見つけられなかった。会話だけなら将来が楽しみな子供だ。しかし、どうも気に成るあの少年には期待しているのは確かなのだろう。だからこそ、裏側の事を少しだけ…入ってしまえば裏ですら無い事を話した。
あの少年の目には失望も絶望も怒りさえも見れなかった。隠しているのか、何とも思っていないのか…
「全く、イレギュラーだ。あの少年は油断成らない」
観察していたのに観察されていたなんて当たり前の事をされているかもしれない。
そう思える位には妖しい。何かが在る。絶対にだ。あの少年は何かを隠している。
引っかかる。戦闘の事も、リンディ君の彼に対する配慮も…
(臆病、卑怯、卑劣で結構。あの少年は絶対に…)
Side out
((裏がある))
おまけ
良哉を見たフェイトの行動
彼女が明智良哉を見たのはグレアムとの会話や高町なのはと話した後、少し時間が経ってからだ。お気に入りのヌイグルミを枕の横に置き、シャワーも済ませた後の事。
自分が確認できなかった、シグナムと良哉の戦闘データを見せて貰おうとリンディに頼みに行く途中だった
「?!」
目標はクロノ・ハラオウン、ユーノ・スクライアと談笑していた。同性同士なのだから話も合うのだろう。それは別に構わない。なんとなく解るからだ。
驚いたのは髪の色だ。戦闘の時は兜を付けていたから分からなかったが、黒では無く煤けた様な白髪に変わっている。見方を変えれば鉛様な鋼の様なそんな色。
フェイト全力でリンディの元へ向かった
そして、こう言った
「リンディさん!! 煤けた白色の生地って有りますか!!」
「へ?」
リンディがポカンとした表情で呆けた声を出してしまったのは仕方が無い。
一つだけ確かな事は、翌朝には髪の色の変わったヌイグルミが涎つきで在った。それだけで在る。
此処では無い。何処かでも無い。そんな所。
ソファーがその空間に在った。テーブルを囲むようにして其処に在った。その上に座り本を読む青年が居た。赤毛でローブを来た青年。特徴いえば、目が死んだ魚の様な目をしている事だろうか?
ページを捲り青年は一言吐いた。
「やっと…此処までか」
そう言った瞬間異音が響いた。青年が顔を抑えると、本に何かの欠片が落ちる。ソレと同時にまるで最初か其処に居たかのように、青年と全く同じ格好をした青年がテーブルの向こう側に座っていた。
「お前…?!」
「よう、良い夢見れたかよ。アギ・スプリングフィールド」
パラパラと顔から欠片が落ち、アギと呼ばれた青年が手から顔を話すと顔がポトリと床に落ち、砕けて消えた。青年をアギと呼んだ青年は気だるげに紫煙を吐きだしながら興味無さそうにアギを見た。
「お前が…お前がソレを言うかよ!! アギ・スプリングフィールド!!」
互いが同じ名前、似た背格好。だが、唯一違うのはその目だった。紫煙を吹かす後から現れたアギは濁った様な死んだ魚を彷彿させる目を半分開けていた。最初からこの空間に居たアギはギラついた光を灯しながらもネットリとした見られているだけで汗を掻く様な目をしていた。
「べっつに~? 俺がお前に何を言おうが勝手だし? 人の記録をちょこちょこ覗いてる奴が一人しか思い当たらないから、ちょっとむかっとしたから来ただけなんだけどねぇ。まぁ、すこし『お話し』しようじゃないの? 彼が居る世界設定的に考えて?」
其処に在るのは興味か、嫌悪か…ソレは彼にしか解らない。
(あ、武をゲーセンに放置してきちった…命も一緒だから良いか?)
まぁ、こいつは今も昔も駄目人間なのは変わらない。
あとがき
久しぶりです。遅れまくってごめんなさい。現在、骨折中のBINです。バイクに当てられました。なんか痛いなぁと思いながらも仕事が終わって病院行ったら
医者「折れてるね~」
BIN「マジで?」
医者「綺麗に折れてるから二週間もすればくっつくよ君なら十日位で治りそうだけど」
BIN「それはないwww」※軽トラに惹かれて軽く膝を擦りむいただけだった事が在る
医者「仕事は少し休みなさい。退院したのも少し前の事だし」
と言う会話が有りました。左手だけで打つって難しいね!!
あ、あと上司が変わりました。見た目がどうみても北の魔王に似ているのですが…どうしたら良いのでしょうか?
因みにこんな感じです↓
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Y.://三二ニ>''"Y o`ヽヾハ;;;ー- .. ` 、}/
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〈/l;;トヘ.___ノ} ` 二´ ;;:;:;:;:;:〃⌒ヽ
_从 トiへ. ミ"// く:::{ j''ッ、 |
( ヽ '' ヾ} ン" ノフ ノ 彡x
ヽ| ______ ノ xッ、ノィィ彡''⌒ヾ ,,ミ、
八 ノ ,,z'
ヽ ,xミン′ ,, -‐''"
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今回キツイので何時もの無し。感想返しも遅れます