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[5159] ループ(リリなの転生物)前書き 
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/02/24 00:14
最初に、コレは転生物です。しかもループです。
キャラが変わっている事も多々あります。
特に面白くないかもしれません。

それでも、読んで頂けるのなら嬉しいです。



                                                                by  ru-pu改め、BIN



[5159] ループ(リリカル転生・習作)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:45
どうも、始めまして。
コレはいわゆる転生物です。
原作レイプになるかもしれません
HENTAIが居るかもしれません
誰かのアンチになるかもしれません

それでも、テストだから読んでやると言う。心優しい方々はどうぞ↓へ。今の所そんな事はないよ?









なぁ、生まれ変わりって信じるか?

アレだ、アレ。輪廻転生って奴だ。別に宗教の勧誘とかじゃない。とかじゃないんだが・・・

「信じるしかないんだよなぁ・・・・・・ハァ」

俺は四十年前までは、ただのリーマンだった。彼女も居らず、親兄弟とも死別。会社帰りには同僚と一緒に嫌な上司や取引先の愚痴を言いながら酒を飲み、家に帰ったら寝るかゲームするかのどっちか。
でも、それが幸せだった。
だから最初は死のうかと思ったよ。目が覚めたら呼吸出来ない上に喋れないし、目も良く見えなければ耳も聞こえにくい。身体なんか殆ど動かせないんだぜ?
目がある程度見えるように成ったら、嫌でも見させられる現実。俺は赤ん坊に成ってた。
最初は思考が疑問で埋め尽くされたし、泣いた。それはもう、人生の中でも一度在るか無いか位の泣きっぷりだったと思う。たぶん、お袋が死んだ時位泣いた。
でもさ、そんな俺をさ。あやしてくれるんだよ、二人はさ・・・・・・
ソレを見て、コレでも良いかと思ったんだよ。新い人生、新しい自分で良いじゃないかってさ。幸いに勤めてた会社は二流だったが、出た大学一流だったから。神童でもして前は出来なかった親孝行をしようと思った。ソレが生まれて一ヶ月ぐらい経った頃に思ったこと。
でもさ

「良君、明日お引越しだから。今日は早く寝ようね~」
「はーい」

幸せってさ

「お父さん・・・・・・まだ着かないの?」
「もうチョット、もうチョット。海鳴は山も在るし海も在るし、美味しいケーキ屋さんも在るから、もうチョット我慢しような」
「ほら、良君。少し寝てなさい。着いたら起こしてあげるから」

簡単に壊れる物なんだよ

俺が最初に覚えてたのは此処まで、コレ以降の記憶はない。ただ、強い衝撃と悲鳴
みたいのを聴いた様な気がするだけ。

コレが最初の人生の終わり。
でもさ、ソレは夢だと思ったんだよ。起きたら家に居たし、引越しは明日だった。だから普通にしてられたんだよ。二度目が在るまで
そして気が付くと引越しの前日。理解した、自分が死んだ事を理解した。その日、俺は自分が死んだ事に因るストレスで腹が痛くなり病院に行く事に成った。引越しは一日ずれた。
家に帰ってニュースを見ると、交通事故でトラックの運転手と乗用車に乗っていた三人家族が亡くなったと流れていた。

(・・・・・・俺達が回避したから、この家族はなくなったのか?)

簡単な事だった。死ぬ筈の命が三つ助かった、その代償に違う家族が犠牲に成った。ただそれだけ。俺が五歳の時だった。胃が痛んだが気にしない様にする事にした。

それから、二年程して絶望した。母が死んだ、階段から落ちて即死。打ち所が悪かったらしい。それから一年もしない内に父が死んだ。自殺だった。
残された遺書には俺への謝罪と父の友人に向けた頼みが書かれていた。
父の友人は良い人だった。独身だが俺を本当の息子の様に愛してくれた、何でも子供が作れない身体らしい。言い方が悪いかも知れないが、種無しという事だ。

それから一年。俺は九才に成った、学校での友人関係も良好。ただ、苦手な奴等とは出来るだけ距離を取った。その代表格はバニングスさんという女の子。
何かと突っかかって来るので苦手だ。テストで良い点取れるのは当たり前だ、中身の年齢が違うのだから。そんなこんなで、日々の幸せを噛締めながら毎日を過ごした。

そして、俺は死んだ。
原因は河原で拾った緑色の石だ。冗談で養父にその石を見せると「願いが叶う石かもよ?」と笑ったので、俺も冗談でその石に願ったのだ。

「俺達が不幸に成りませんように」

そしたら、石から緑色の光が漏れて強い衝撃を受けた。目を開けると養父が死んでいた。俺も胸から下がグチャグチャに成っていた。
成程、死ねば幸も不幸も無い。
コレが二度目の終わり。正確には三度目だが・・・気が付くと俺が養父に引き取られた時に戻っていた。

俺が繰り返す事を理解して三度目、考えるのが面倒臭く成った。取り合えずあの石は死亡フラグという事は理解した。
前と同じ小学校で、前と同じクラスで少し自重しながら過ごした。テストは常に中間を狙うようにした。すると、バニングスさんは突っかかって来なくなった。偶に睨まれるが・・・何もしてないのに
すると、高町さんが話してくるように成った。バニングスさんと仲良くして欲しいらしい。この子は良い子なのだが、少し・・・いや、かなりしつこい。苦手に成った。

前回とは違い俺は塾に行く事にした。塾という言い訳が欲しかったからだ、高町さんから逃げる為に。そして、帰るのが遅くなったある日。黒くて大きい何かと対峙する高町さんと出会った。

向こうが俺を視認する前に、黒い奴に吹き飛ばされ俺の意識は途絶えた。気が付くと病院で、養父が泣いていた。良かったと、生きていてくれて良かったと。
俺は脚が動かなく成って居た。下半身麻痺だが、トイレは自分で分かるので正式な下半身麻痺では無いと理解できたが・・・・・・

絶望感は無かった。何よりも生きているのだ、繰り返さなくて済む。ただ通信教育と車椅子の生活に成っただけ。そんな生活が二ヶ月程続くと、知らない人が家に来た。
医者らしい。俺の脚のを治療させてくれと言ってきた。長くなるので起こった事の要点だけでいうと
訪ねてきた人の名前はリンディ・ハラオウンという女性
彼女は異世界人だった
しかも魔法使いみたいなものらしい
俺の怪我はロストロギアという物のが引き起こした事件に巻き込まれたから
地球よりも発展している、ミッドチルダという所に行けば直せる可能性が在る

養父も俺も疑った。コイツは電波かと、ラリってんのかと。でも、目の前で魔法を見せられると信じるしかなかった。リンディさんの事を信じることにした。最初は俺だけがミッドに行くはずだったが、養父も着いてくる事になった。
何でも、魔法を使う才能があったらしく。ソレを学びたいらしい

「息子を護る力が欲しい」

と言って。久しぶり泣いてしまった。それから養父は、俺が治療中に魔導士というのに成り、俺が治療の為に入院していた半年の間に無限書庫という所で働いているらしい。

因みに俺の足が動かなくなった原因は、リンカーコアという物が急に魔力を浴びて不安定なときに強い衝撃(魔力)を浴びた事による歪みが原因だったらしい。
序でだが、そのリンカーコアという物が在るか無いかで魔法が使えるか、使えないかが決るんだとか。しかもランクが在るらしい。

養父はAAA+。俺はAAA-何だと。其の侭の流れで俺は時空管理局という所で働く事に成った。魔法はミッド式、ベルカ式の二種類が在り。俺は男の子なのでベルカを選んだ。管理局では陸海空の三つの部署が在りリンディさんからは「海」を進められたが俺は陸に行く事にした。理由は養父だ、結婚など自分は出来ないと言っていた養父がお熱なのだよ。リンディさんに、偶に良い雰囲気成ってる所をリンディさんの息子さんと発見する。

あ、息子さんの名前はクロノさん。

「僕と君は兄弟に成るかもしれないな」

と笑いながら言っていたのを覚えている。クロノさんが兄か・・・良いなぁと思ったので一人暮らしを決意した。
陸で入った部隊は特殊部隊なんだが、此処の隊長がベラボウに強い。そして不器用だった。ゼストというなの男の人なのだが、寡黙な人でオーバーSのベルカの騎士。質問すれば答えてくれるが、中々会話が続かず。ゼスト隊長と仲の良い上司であるレジアスさんに良く相談に乗ってもらった。

レジアスさんは少将で、俺からしたら雲の上の人なのだが・・・熱い人だ。正義感が強過ぎる所が在るが、良い人。ゼスト隊長の事をいつも心配している。ただ、俺に違う隊に移らないかと毎回聞いてくるのは簡便して欲しい。
死ぬ可能性が在るのは理解しているし、納得している。それに、俺は死にたくない。繰り返すのも嫌だ。その為に魔法を学び、暇な時はゼストさんに鍛えて貰っているのだ。無駄にはしたくない。

そして、ゼスト隊は全滅した。俺を残して・・・
俺は重症を負って入院した。下手をするともう戦えないかもしれない。ソレよりも実感が湧かなかった。
いつも通りに宿舎に帰れば、年上の仲間達が笑って居るのではないかと
いつも通りに部署に顔を出せば、隊長がコーヒーを飲んでいるのではないかと

実感が湧いたのは、レジアス少将が見舞いに来てくれた時だった。俺はレジアスさんの指示に従い、陸から海に移った。勉強はしていたので資格を取り、俺は提督補佐に成った。
そのまま八年程して、モニター越しに懐かしい顔を見た。高町なのは一等空尉
上司であるクロノさんに、話さなくて良いのかと聴かれたが断った。彼女が苦手なのは今も代わらない。だって、二つ名が『管理局の白い悪魔』だぞ? 知り合いたく無いって。

因みにクロノさんの義妹である、フェイトさんも苦手だ。
天然な所とか、思い込みが激しい所とかが。知り合った魔導士の中で良く話すのは、ヴィータさんだ。
武装隊の連中は『合法ロリ』と叫んで、グラーフアイゼンのシツコイ汚れが付いたので謝罪しながら拭いたのを覚えている。アレは怒るだろう、俺達より年上なのに。ヴィータさんは古代ベルカの騎士で、擬似生命体らしい。本人から教えてもらった、ついで美味しいアイスの店も教えてもらった。

そのままJ・S事件というのが起こり・・・・・・ゼスト隊長と戦った。泣きながら戦った。ヴィータさんから連絡を受けた時は喜びの方が強かった・・・敵だと知っても。でも、お互い譲れない物が在った。ゼスト隊長は真実を、俺は事件の解決・・・言い訳だな。俺は、俺の家族。養父が心配なく暮らせる日常の為に戦った。隊が全滅してから五年以上の時間が俺を鍛えてくれた。魔力ランクはS-に成った。鍛えてもらった技で、身体で、俺は尊敬する隊長を殺した。

最後に「・・・・強くなったな」と笑って、隊長は逝った。俺はそれから一ヶ月後に管理局を止めて、聖王教会でベルカ式を学ぶ子供達を相手に教鞭を振るっていた。そのまま約三十年、教鞭を振るい続け・・・肺を患って死んだ。風邪から肺炎に悪化したのが止めだった。

後悔は不思議なほどに無かった。隊の仲間が死んだ事にも、隊長を殺した事も、卒業していった生徒の内の幾人かが亡くなった事にも・・・・・・
ソレよりも、幸せな事の方が多かったかも知れない。養父の結婚、姪の結婚に出産、友人達の結婚に、卒業生達の結婚。子供に名前を付けてくれと頼まれた時は涙を我慢するのが大変だった。

これも自命・・・繰り返す事も無いだろうと楽観した。事故死する可能性が捨て切れなかったので、結婚する事は無かった。ただ、それでも後悔は無い。そう思った。そう思って死んだ。

だからさ

「・・・なんで・・・だよ」

コレは無いだろう?

「如何しろって言うんだよ・・・・・・」

俺は、子供時代に戻っていた



―――――――――――――――――――――――
テスト

有りかなぁと思ってヤッタ
スマン




[5159] ループの二(好評のようなので)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:46
ただ呆然とする。何でかって?

目の前に母が微笑んでいるからだよ

「あらあら、どうしたの良君。突然固まって」

「なんでもないよ? おかーさん」

呂律が巧く回らない。自分の手を見てその小ささに驚く・・・・・・大体三歳ぐらいか?
母が台所に行ったので部屋を見回すと、押入れの襖にウルトラマンの落書きが有った・・・・・・そうか、四歳ぐらいだ。三歳ではない。

確か中身はおっさんだったから、子供らしい行動が出来ずに如何したら良いか分からず。イタズラをしたんだ、懐かしい。その後で、何時も微笑みを絶やさない母を怒らせて泣いたんだけっか?

(なんで戻って来ちまったんだ? 病死ではダメなのか?)

少ない情報を整理する事にする。今の時点で分かっているのは転生前の年齢と名前に学校で習った事。
なら今は?
名前
(明智良哉)
性別
(漢)
両親の名前
(明智伸哉、明智良子)
養父の名前
(徳永秀樹)

此れから起こる事
(母の事故死、父の自殺。高町一等空尉が関わった事件が二つ、引越し先で起こる。緑色の石は死亡フラグ。隊の全滅・・・・・・隊長との殺し合い)

思い出したら涙が出てきた。局を辞める一ヶ月の間で調べた事を思い出す。
評議会の暗躍
利用されたレジアスさん
犠牲に成った仲間
死して尚利用された隊長
事件を起こしたスカリエッティでさえ、評議会の犠牲者だった。

(局を辞める直前に査察官のヴェロッサさんに連絡を取れたのが幸いだったな。)

評議会の奴等は自分のクローンを創って居やがった。それが分かったのがJ・S事件から四年後だった。その事件は明るみには出てないが、俺が魔法を教えた生徒が三人死んだ。
クソッ、碌な連中じゃねぇ。いや、違う。今その事を考えてはいけない

俺がしてはいけない事は?
(俺が関わって居ない事には関わらない事・・・・・・関われば何がどう変わるかが分からない)

俺に許された事は?
(・・・・・・母と父の死。之は防げる、違う所で誰かが変わりに死ぬかもしれないが・・・それは如何でも良い。家族と養父、それに仲間が生きていけるなら他人は如何でも良い。後は・・・繰り返しの原因が分かれば・・・)

「よし。魔法の構成もちゃんと覚えちぇ・・・・てる」

呂律が回らないのは如何もなれないな・・・

「良く~ん。ご飯出来たわよ~」
「はーい」

母の手作りハンバーグは美味しかった。ソレよりも懐かしかった。
母の笑い声とはこんなにも心に響くものだったのか
父の背中とはこんなにも大きく、広いものだったのか
二人の温もりは、こんなにも優しいものだったのか

失ったからこそ今気付いた。
俺の顔に付いたソースを拭いながら笑う母を見て
帰ってきた父と風呂に入って
二人に囲まれた布団で川の字になって
気付かれない様に泣くのに、手間取った。
俺は恐らく地獄に居る。前の記憶は所々抜けている所が在った。
養父が誰と結婚したのかが分からない。
俺が始めて血に汚れたのが何時だったかが思い出せない。
教師として、右も左も分からなかった俺を導いてくれた人が分からない。
隊長がナニを求めていたのかが思い出せない。
俺を初めて、夜の街に連れ出してくれた部隊の先任が分からない。
受け持った生徒達の名前と顔が思い出せない

俺は今地獄に居るのだろう。此の儘、囚われ続ければ廻り続けるのだろう。今より多くの大切なモノを忘れるのかも知れない。
それでも、今は感謝しよう
ループという名の檻に
母と父の愛情を思い出させてくれた監獄に

今は・・・・・・感謝してやる

俺が動くとしたら約三年後だ。
魔法はデバイスが無くても使える。
ベルカ式の基本は肉体強化
リンカーコアはまだ未成熟だ、少しづつ身体に魔力を鳴らしていけば最終的には最低でも前回と同じレベルまでいけるはずだ。
槍と剣を使った訓練はまだ早い。明日から軸を鍛える事にしよう
もう少し、両親に甘えよう。養父にも会ってみよう。あの人は海鳴市に住んでいたから、早ければ来年に会える。
学校は余り行きたくないな・・・苦手な人が多い。

(まてよ? 身体に魔力を馴染ませたらリンディさんに遭えないんじゃ・・・関わるしかないのか?)









―――――――――――――――――――――
今書いてるSSの息抜きに書いたテストに感想が付く。こんなに嬉しい事は無い
名前とか某所とは違いますけど。
皆さんの、暖かい心に感謝します



[5159] ループの二ノ一
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:48
ごめんねと母が泣く

すまないと父が吐く

泣かないで欲しい。誰も、何も無くしていない。命は此処に有るんだから

「大丈夫だよ母さん。父さんも謝るくらいなら、もっと早く帰ってきてね」

うん、うん。と、頷く両親から視線を外してやっと見慣れた天井を見る。この天井は嫌いだ、寧ろ病院は嫌いだ。

現在、俺は入院している。
繰り返しを自覚して四度目の、何処か同じで、何処かが違う。俺の人生。入院しているのは骨が折れたから肋骨がね、ポキっと。だが後悔はしない、俺の骨の二、三本で母は助かった。衝撃で二人仲良く気絶したが・・・・
勿論、『魔法』を使ってこの結果だ。リンカーコアが安定していないので出力不足だし、何よりもムラが有りすぎる。母を助けたときは恐らくEランクにギリギリ届くぐらいの出力しか出なかった。その前に試した時はAランク位・・・だと思う。
ピーキーすぎる自分のリンカーコアに嫌気が注す。人に依るが、今の俺の歳。つまり、七歳でも安定している人は安定している。例を上げるのなら高町一等空尉やクロノさん・・・隊長やクイントさん達もそうだったと聞いたな。

三年前、俺は自分の持ち得る情報を整理し確実に動かなければ成らない事柄を纏めた。
最初に、交通事故。五歳の時のだ。この時は前日に水分を取りまくって、腹を下した。

次に、一週間に起こった母さんの転倒事故を防ぐ事。之は成功したが、正直魔法に頼りすぎた。反省せざる終えない。ゼスト隊長やクイントさんにも教えられた事なのに、忘れていた。体を鍛えるのにはまだ少し早いが、退院しだい鍛えようと思う。確か、剣道場が有った筈だ・・・剣術道場だったかも知れないが、ソコに通ってみようと思う。

三つ目にロストロギアが起こした暴走事件の被害者に成る事。それも、確実に管理局に保護。または勧誘されなくては成らない。
之に関しては常に死が付きまとう。被害者に成る時、俺は魔法を使っては成らない。確実に現地人として、被害者に成らなければ両親か自分自身に有らぬ疑いを掛けられる可能性が在るからだ。
魔法を使う瞬間を目撃する事も考えたが、高町なのはは心優しい人間である。俺を関わらせようとはしないだろう。

今の所は之位だ。

後の事は、三つ目が成功した場合に考える。何よりも、俺はデバイスを手に入れなければ成らない。最低でストレージ。最善でインテリジェント、次善でアームド。ブーストを求めるのは場違いすぎる。

俺が求めるのは情報だ、スカリエッティの・・・たしか高町一等空尉が最初に関わった事件でプロジェクトFATEが関わっていた筈だ。正直な所、俺はこの事件と『闇の書事件』に詳しくは無い。当時の俺は興味が無かった。
しかし、分かる事が有る。この二つの事件に俺は関わらなくても良いのだ。どちらも高町なのはという、未来のエースが解決している。

今後の方針と言えば距離の問題だろう。高町やバニングスさんとの、半ば確信していたが彼女達とは同じクラスなのだ。此処までは良い。だが、席が隣なのだ。高町なのはと・・・

これが月村さんや他の女子ならば良かった。苦手じゃないし、悪影響じゃない。高町なのは高ランク魔導士の卵で有る。俺も管理局に入ってから知ったが俺も含めて、当時の地球出身の若手魔導士は破格過ぎるのだ。その中でも魔力の資質で一番の劣等生で有る俺のリンカーコアは不安定、高町なのはのリンカーコアは安定しており微かに漏れ出す魔力が俺のリンカーコアを刺激する。

簡単に言えば圧力を掛けられている。俺のリンカーコアはソレを何とかしようと、圧力を跳ね返そうとするが不安定な為に出来ない。そして、俺の体は魔力にまだ慣れていない。つまり、体調が悪くなる。前回は、脚が動かなくなる様な魔力を叩き込まれた為。体が防衛本能に従って慣れていたのだ。
話しを戻そう。俺は彼女の近くに居ると体調が悪くなり、授業中に読書も出来ない位の気樽さを覚える。つまり

「あら、始めまして。良哉のお友達?」

入院中位は逢いたくないんだよ

「はい、高町なのはです!! クラスの皆で千羽鶴を創ったので、持って来ました」

お前に・・・・

笑顔で話す二人を他所に父が首を傾げ、ポンと手を叩いて言った。

「確か、翠屋のマスターの娘さん?!」
「そうですけど・・・えっと、お父さんの知り合いですか?」

聞き返す高町に父が嬉しそうに言った・・・父さん、お願いだから・・・・

「お母さん・・・桃子さんは中学の時の先輩なんだよ。」
「そうなんですか!?」

世間話し、してないで早く用件を済ませて貰って帰って貰ってくれ・・・

「いや~お父さんの士郎さんとも、この間居酒屋で会ってね。一緒に飲んでたんだよ」
「へ~」

本当に、空気読めよ高町!! 俺の顔色はもう土気色だ!! 






それから、三十分程経って高町と両親は帰っていった。良い子なんだ、良い子なんだが・・・・・・今の俺には厳しすぎる(魔力に因る負荷的な意味で)



side out

高町なのはと明智夫妻が病院を出ると、二人の少女が手を振った。高町なのはは明智夫妻に挨拶すると、少女達の下へと掛けていった。明智夫妻はその姿を見て微笑むと軽く手を振って、駐車場へと向かった

「ねぇ、アナタ」
「なんだい? 良子」
「あの子・・・なのはちゃん。可愛い子だったわね」
「そうだなぁ・・・桃子さんも美人だし、士郎さんなんか美男子だぞ?」
「・・・ちょっと寄って帰りましょう。明日は良哉に美味しいケーキか、シュークリームを持っていくわ。」
「そうだな・・・良子、言って良いか?」
「何?」
「嫉妬して良い?」

フフフ、と笑う良子と手を繋ぎながら、信哉は軽く拗ねた。

その様子を見ながら少女達は

「ラブラブね」
「ラブラブだね」
「にゃはは、お父さん達みたい」

と言って病院を後にした。

「それで? アイツはどうだったの? なのは」
「あっ、私も気に成る。明智君とお話しできた? なのはちゃん」

なのはは、首を横に振り寂しそうに言った

「ダメだった・・・顔色も悪かったし。私・・・避けられてるみたいだよ・・・」
「そうなんだ・・・明智君、なんでなのはちゃんの事を避けてるのかな? アリサちゃんも避けられてるよね?」
「分からないんだ・・・お話しようとしても、直ぐに居なく成っちゃうし・・・嫌われる様な事しちゃったのかなぁ」
「私は別に・・・アイツが気に入らないだけよ。なーんか、アイツの目を見るとイラッとするよのね。子供の癖に老人みたいな目してて」
「・・・アリサちゃん」
「私達も子供だよ?」
「それでもよ!! 思い出したらムカムカしてきた・・・今から私の家に行きましょ、ゲームするわよ」

大股で歩くアリサに、二人は苦笑して付いていった



side 良哉

真っ白な天井を見つめていると、前に入院した時の事を思い出した。あの時・・・レジアス少将は何を思っていたのだろうか
友人を亡くしてしまった事を、自分の所為だと嘆いていたのだろうか?
そう考えると・・・頭が痛んだ。

「づっ!! なん・・・だ・・・この痛みは」

ズキリ、ズキリと痛みが脳を侵す。視界が揺らいで来た。痛みは徐々に増していく、その痛みと揺れる視界に耐えている最中に・・・俺は見た

頭を下げるレジアス少将。
その姿には厚みが無かった。何処か煤けた様な印象が有った
「良哉・・・すまない・・・」
「少将!! 何故、頭を下げるのですか? 之は任務中の「すまない」・・・少将?」

そうだ、俺はあの時レジアス少将では無く、レジアス・ゲイズという男と会ったんだ

「俺には・・・どうする事も出来無かった。」
「どういう事ですか? 何が・・・」
「今回の事件は表ざたには・・・・管理局の上層部の一部にしか知らされない。ゼスト隊はテロリストとの交戦により全滅。生き残ったのは君だけと・・・発表される」

そうだ、そういう事に成った。

「何を言ってるんですか?! それじゃあ、俺の仲間達は!! クイントさんは!! 隊長、ゼスト隊長は何の為に!! 俺達は何の為に戦ったんだ!!」

「・・・すまない」

俺は、少将の胸倉を掴んで壁に叩き付けた。レジアスさんも悲しかっただろうに、当時の俺にはそんな事を考える余裕だ無かった。

「謝罪が聴きたいんじゃない!! 答えろ!! レジアス・ゲイズ少将!!」
「・・・上層部の決定だ・・・・・・覆す事は出来ない・・・出来ないんだ。良哉、『海』に行け。『陸』に居れば、お前は嫌でも好奇の目で見られる・・・・・・俺が出来るのは此処までだ。退院次第に人事部から事例が来る・・・」

そう言って、レジアス少将は病室を出て行った。

「何だよ・・・無駄死にじゃないか・・・先任達も、新入りも、クイントさんも、メガーヌさんも、隊長も・・・無駄死にじゃないか!!」

痛みが引く、視界が戻る。身体に張り付く服が気持ち悪かった

(馬鹿だったんだなぁ・・・・・・俺)

無駄では無かった。俺達の戦いは無駄では無かった。クイントさんの娘さん達は、正しくクイントさんの意思と技を受け継いで戦っていた。
メガーヌさんの娘さんも事件後、更正施設を出て優秀な召還士として戦っていた。
俺は・・・皆から教えられた事を生徒達に教えられただろうか?
今と成っては判らない事が如何しても気になった。
今夜は眠れそうにも無い。



だから、病院は嫌いなんだ






―――――――――――――――――――――――――――――

取り合えず記憶の関連付けてきな事をして見ました。
誤字脱字が有ればご指摘をお願いします。
1206に修正。オロンさん、サンクス



[5159] ループの二ノ二
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:50
突然話しを変えるが、魔導士狩りって知っているか?

旧暦の時代に起きた、ムカつく事件だ。
ドコの次元世界も質量兵器・・・つまりは銃やミサイル並みの攻撃を放てる魔導士を、自陣に入れようと管理外、次元空間移動をする事が出来ない世界。自分達より科学・魔道で劣る世界から、資質の在る人間を少年少女、若人、女、構わず攫って往った事件だ。

これを取り締まったのは纏まる前の管理局だが、一番攫ったのも管理局だ。旧暦の時から管理局は大規模組織だった。
故に出来る意識誘導、協力という名目。暴走するという脅しが多く有った。
この事は殆ど知られていない。俺自身も古代ベルカに興味を持ち無限書庫に入り浸った時に、出てこなければ俺も知らなかった事だ。
当時は、昔は昔と割り切って居たが。意識誘導するような喋り方が自然と現れる人達が居る。

その殆どが現場に出る指揮官だったりする。
ソレを酷い事だと言う事は誰にだってできる。しかし、一度でもその立場になると理解してしまう。
そして矛盾を感じてしまう。
管理局で特に他世界に移動する『海』の局員達が志半ばで辞めてしまう原因のトップ3に入る矛盾だ。
暴走を恐れ、管理するという名の保護を行い。教育し戦い方を教えると、その過程の間に殆どの人間が管理局に就職したがる。

『世界を護りたい』と誰もが願う、夢を輝かせて

『人を助けたい』と誰もが認める、夢を抱いて

そして散ってゆく。

呆れるほど簡単に、瞬きをした瞬間に、若い命が散ってゆく。
その姿を見て思ってしまうのだ、なんであの子を戦闘に出してしまったんだと。あの子はまだ幼かったのにと。
答えは簡単だ『高ランク魔導士』だからだ。
俺が部隊に入った時に、一番の年長者・・・名前は思い出せないがその人は俺に言った。

「お前も物好きな餓鬼だな、海に行きゃあ優しい争いの時代で生存率が上がるって言うのによ。まぁ、来たからには教えてやるよ。最悪な十数年から変わらない時代の侭、今に至る戦場での戦い方をよ」

ソレぐらい違ったのだ。『海』に勤める人達には失礼かも知れないが、そう言ってしまえるだけ違うのだ。
高ランク魔導士? この間のテロリストに質量兵器で頭撃たれて死んだよ。
こんな会話が普通に有る。
ドコドコでアイツが子供を庇って死んだ。
あそこで民間人を護る為に死んだ。

『海』と『陸』の違いを簡単に言うと質と量の違いだ。

全てに措いて優秀な人材、豊富な予算は『海』に回される。次に『空』、最後に『陸』。
武装隊のランクも酷い時が有る。
俺は特殊部隊に該当されるゼスト隊居たため中々分からなかったが、海でクロノさんの補佐をする様に成って思い知った。
戦艦一つを整備するだけで、確実に中隊。もしかしたら大隊を賄える大金が動く。
海の設備を陸に持っていけば、確実に犯罪検挙率が10~15%上がる。その自身が有る。
すまない、興奮して話しがそれ過ぎた。何が言いたいのかというと

「ディバインバスター!!」

戦闘に力が在るだけの初心者を出すなという事だ。

ピンクの閃光の巻き添えを喰らい、吹き飛びながら明滅する思考で考える。
盾を出したが出力的に精々Bランク程度、之でも高い方だ。未だ不安定なリンカーコアから搾り出した魔力にしては。
前回のようには行かなかった。まず、俺は塾では無く道場に通った。つまり、前回の事件は見過ごしたのだ。昔の事過ぎて日にち等覚えていなかったのが災いした。

友人が所属するサッカークラブの試合を見に行った帰りにロストロギアの発動を確認したので、次善を打った。イレギュラーだったのは、前回経験していなかったという事だ。
ロストロギアの効果で突然現れた大樹に、俺は絡め取られた。不安定な魔力で木を切ろうとしたのだが、運悪く高町が現れ動けなくなった。
さらに追い討ちで、高町の位置からでは俺の居る場所が見えずに文字道理『魔砲』を喰らった。
何もかもが巧く行かなかった。そう思った瞬間、頭に強い衝撃を受けた。

気が付けば、小学三年生が始まる初日の朝だった。五度目の繰り返しが始まった。
奇妙な事に魔力に慣れていなかった筈の体が、魔力に慣れていた。相変わらず不安定なリンカーコアが、俺に安心をくれた。
情報が少なすぎて憶測に成るが、もしかしたら俺のリンカーコア・・・若しくは肉体に何かしらの問題が在るのかもしれない。
その場合、管理局は信用できなくなる可能性が在る。俺が生まれる前から、評議会の正義の名の元に非合法な研究は在った。それが関わっている可能性が在る。

しかし、そうすると辻褄が合わなくなる。

ソレならば。脳髄共のバックアップ、保険を破壊する時に場所を移せた筈だ。
俺が管理局を辞める前に奴等の事を調べる為に動いた事は筒抜けに成っている筈だ。ジェイル・スカリエティは戦闘機人と、持ち前の頭脳を持って監視を騙していたが、俺は何もしていない。奴等がモルモットに監視を付けない筈が無いのだ。

如何いう事だ?

(俺の考えすぎなのか? ・・・・・・此処は一旦、隊長達やレジアスさんの事は忘れて考え直すべきなのか?)

「良君? 学校に遅れるわよ?」
「え? あっ、いってきま~す!!「チョット待って!!」・・・・何?」
「コホン。良君はアクセサリーとか興味在る」
「普通ー、バスが来ちゃうから行ってきます!!」

取り合えず。今は失敗を噛締めて次に生かそう。
方針は決った。最善は管理局が介入してきた時に現場に居る事だ。そうすれば、説明の為に自動的に『海』の戦艦に乗れる。
恐らくその時に、何か異常がないか調べるという名目で魔導士ランク・・・・・・リンカーコアも調べられる。事件に介入しなくても勧誘が有るだろう。
遥か未来でも、人材不足で悩まされたのだから確実だ。

(それと、高町には近づかない。一番怖ろしいのは無能な味方、二番目は強い敵、三番目は戦闘初心者だ)

思って憂鬱に成った実を言うと、誕生日が来週なのだ。そして、俺は親が用意したプレゼントの中身を知っている。父は新しいゲーム機。母は昔の職業がら古い時代の形を模した着物。

(嘘の喜び方で騙せ・・・るか・・・・そう言えば)

「前は、あんな事聞かれたか?」
「何言ってんだ良?」
「いや、なんでも無い」

声に出てたのか・・・隣がコイツで良かった

「ソレよりさ、今度の試合観に来いよ? 0点に抑えるからさ」
「本当に出来んのか?」
「出来るって!! 」
「じゃあ、期待しとく」

そういえば、コイツがロストロギアを持っていたような・・・・クソッ、また思い出せない。





―――――――――――――――――――-―――――――
独自解釈がありますが気にしないで欲しい。
簡単に作った設定というか人物紹介は、もう在った方が良いですかね?
意見を求む。切に





[5159] ループの二ノ三
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:52
今まで自分が繰り返す原因を考えてきた。

情報が少なすぎる為に全てが憶測の域を出ない。

その中で一番最悪の可能性を考えてしまった。

レアスキル

偶に現れる個人の希少技能。
之が原因だった場合如何したら良いかが判らない。
しかし、希望が無いわけではない。前々回の人生で、俺は管理局に所属していた。
ゼスト隊長の指示で、ちょうど成長期だった俺は検査をしょっちゅう受けるようにしていた。この事を思い出したのは予防注射の時だった。
そして、当時の俺は監視などはされていない可能性が高い。可能性が高いという所が微妙だが、殆ど無いと思って良い。
つまり、繰り返しの原因がレアスキルの可能性はかなり低い。医者にも言われて無いので、90%以上の確立でない。重症を負って入院した時にも言われなかったので、安心して良いと思う

「良君・・・如何? 本当は着物にしようと思ったんだけど、アクセサリーにしたのよ。」

お母様、私を現実に引き戻さないで下さい。ソレと、着物の方が有難かったです。

「この、アクセサリーはね。お母さんの御爺ちゃんが若い頃に友達になったドイツの軍人さんから、友好の証に刀と交換した。歴史の在る物なのよ♪」

何処かに居るかもしれないクソッタレな神様。
俺は、実の母が理解できません。

俺からすれば十字架とは縁の深いものだ。ベルカ式を使い、聖王教会で教鞭を振るっていたし。
俺が使っていたアームドデバイスも待機状態の時は剣十字だった。
しかし、この発想は無かった。今のヨーロッパでも嫌われてるんだぞ

鍵十字・・・ハーケンクロイツって

「ねっ凄いでしょ!! 中心に二つの宝石が付いてる鍵十字って、私コレしか見たこと無いもの!!」

興奮する母のテンションに触発されたのか、気分は落ち着いてきた。
俺の母は優しい人だ。そして優秀な人でもある。父と出会う前から結婚するまでは優秀な考古学者で、精力的に海外に飛んでいたパワフルな人だったらしい。
父が大学サークルの旅行でチベットに行ったのが出会いだったとか、そこから友達になって、恋人になって、ただ会うためにエジプトにまで大学サボって単独で行ったのは今でも懐かしいと父はよく話す。
序でに俺が出来たのがエジプト。初めて知ったよ、出来ちゃった婚だったなんて。少し羨ましいけど・・・・

「う、うん。カッコイイねコレ!! 俺、大事にするよ!!」

半ばヤケクソ気味言って、父からのプレゼントと一緒に部屋に戻る。

「・・・・ハァ。歴史が変わった? 確か、前回では着物だった筈だ。」

考える。些細な事かも知れないが確かに変わっている。母の言動からすると、どちらにするか迷っていたらしい事とこの鍵十字は以前から家に在ったという事だ。つまり、プレゼントをどちらかに決定する事が在ったという事か。しかし、そんな事が・・・・

『コホン。良君はアクセサリーとか興味在る』
『普通ー、バスが来ちゃうから行ってきます!!』

アレか!!
確かに、何気ない会話や行動で次、またはその次が変わる。今回俺は道場に通う事で前々回に巻き込まれた事件に逢わなかった。そして、軽い気持ちで約束したサッカーの試合で事件に逢った。

(つまり、正史に関わらず他の所で関わって行けば未来は変わる。まぁ当たり前だが・・・しかし、それで繰り返しの原因が判る訳でもない。)

しかし、俺が関わった所為で解決する筈の事件が解決しなくなる可能性も有る。
俺にとってメリットは殆ど無い。ソコまで考えて、机の上に置いた鍵十字を見る。良く観ればオカシイ形だ、改めて手にとってみるとソレが良く分かった。軽い。そして・・・先が全部尖っている。
普通の十字架に尖った形を上から着けた様な形だ。

「コレは、動くのか?」

先を抓んで動かしてみる。動かない。ビクともしない。・・・・・・何をしているんだろうか? 少々考えすぎて疲れたようだ。バカらしい。
大体、当時の軍人から貰った物だ。その形に思い入れや思い出、それに誇りも在るだろう。
鍵十字が実はただの十字でした、なんて事が在るわけがない。
だけど、もう一回動かしてみようと思う自分が居る。

「ハァ・・・俺も相当参ってるな。コレで終わりにしよう。動いても動かなくても寝よう」

もう一度先を摘んだ所で魔力を流してみる事にした。流石に身体強化しても動か無ければ、馬鹿な考えも無くなる。そして、身体強化した瞬間。鍵十字は独りでに動いた。そして、唖然とする。その形は少々歪だが

「・・・・・・ベルカの剣十字・・・だと?」

(そういう貴方は、魔導士なのですね?)

頭に響く機械的な声。念話だ。

「・・・何故、デバイスが管理外世界に有る。」

(質問には答えましょう。条件として、私の質問にも答えて頂きます。宜しいですか?)

「かまわない。最初の質問に答えてくれ。」

質問の受け答えをするだけなら、俺に害はない。何故魔法を知っているのかを誤魔化すいい訳等、管理局対策で幾つか考えている。

(この世界の年月で言えば九十年前に今亡き主と共に、転送事故でこの世界に来ました。事故が原因で主は重症を負い、ソレを発見した青年に助けられました。)

「ふむ・・・主はどうなった?」

(リンカーコアに重大な負荷が罹った為に、魔導士としての人生に幕を閉じました。)

「ならば、その血を引くものは? 一般人として生きたのならば子をが居ても可笑しくない筈だ」

(主は、主を助けた青年と一緒になりましたが・・・子を生せませんでした。私はお守りとして青年に託されましたが、その青年と親しい間柄になったこの国の青年に託され、今に至ります。)

「何故、子が居ないと断言できる。戦争に生き残っている可能性が在るだろう」

(・・・・・・貴方の曽祖父と共に墓に行きました。私が貴方の曽祖父に託されてから二十年後の事です。貴方の曽祖父は主の下へと向かいましたが・・・私が託されてから二年後に、流行り病で帰らぬ人と成っていました)

「・・・そうか、すまない事を聴いた。此方の質問は以上だ」

(貴方はベルカを知っているのですか?)

「聞きかじりだ、基礎は教わったが・・・短い間だけだ。リンカーコアも不安定な所為で、魔力を使う時にかなりの落差が出る」

(貴方は、私に何を望みますか?)

「? 質問の意味が良く分からんのだが・・・・・・特には無い。お前の話を聞く限りでは、主だった者の事が大切だったのだろう? 出来れば、俺のデバイスに成って欲しかったが。他人の相棒を盗むような事はしたくない。俺はお前に何も望まない。・・・・・・いや、一つだけ望みは有るが、俺が言わなくともお前はソレを行っている」

(・・・・如何いう事でしょうか)

「お前は、お前の主の事を誇りと共に覚えている。ベルカの騎士で無くとも、何時までも相棒に、共に戦った者に誇りと共に覚えていて貰えるのは最高の手向けだと思うが?」

(・・・・・・貴方が)

「ん?」

(貴方が望むのならば、私に、私達に新しい名を与えてください)

「良いのか? 俺は、お前の前の主の事を何も知らないし。知ったとしてもその様には成れないぞ?」

(戦うものに対する最高の手向けを知り。デバイスで有る私達に強要をしないその態度・・・使う魔法もベルカならば、文句は在りません。貴方が欲するならば、以前の姿を捨てましょう。以前の名を捨てましょう。新たなる信の元、誓いを立てましょう。)

悪い話ではない。デバイスは欲しかったし、相談できる相手も欲しかった。それに会話が出来る所からしてインテリジェントデバイス。カートリッジシステムが無いのは痛いが、ソレを差し引いても悪い事は無い

「・・・俺のデバイス。相棒に成ってくれるのか?」

(私達の主に成って頂けますか?)

「君が望むのならば」

(貴方が望むのならば)

「ならば望もう。汝が新しき名はシュベルトクロイツ。我が道を共に進む、剣の旗印よ」

(新たな名、拝命しました。我が名はシュベルト・クロイツ。インテリジェント型アームド試作型デバイスです。コレより主が為の旗印と成り、剣と成りましょう)


・・
・・・
・・・・
・・・・・?

「・・・・・・初めて聴くデバイスなんだけど・・・・如何いう物なんだ?」

(前主は変わった方でした。近接はベルカを使い、遠距離ではミッドを使う魔道騎士とでも言いましょうか? それぞれの距離に特化した物を使ったほうが被害が少ないという考えの持ち主でした)

・・・・・・・十年後の八神二等陸佐みたいな感じの人なのか? 八神陸佐は支援型だったが、話しを聞く限り戦闘特化型だな。

(故に、デバイスは二つ在った方が良いと考え。私達を作られました。インテリジェント型であるシュベルト。そしてアームド型で有るクロイツ。)

「・・・す、凄い人だったんだな」

(はい、教会に所属していた時期も在りましたが。戦いを求めて各次元世界で傭兵をしたりしていましたし、その度に私達を改良していきました。)

「まて、インテリジェントデバイスにカートリッジシステムを取り付けたのか? それは」

(危険すぎます。主の事を思うのならばするべき事では在りません・・・が、私達は予めカートリッジシステムを取り付ける為に設計されています。私はインテリジェントですが、他のインテリジェントデバイスに比べれば性能は落ちます。予め、落として創られています。戦闘が始まれば、殆ど会話をする事は出来ませんが。ソレ故にカートリッジを使用できます。)

「・・・・・・すまない。デバイスには疎いんだ。取り合えずは危険は無いと思って良いんだな?」

(はい。主、もう夜も遅いです。騎士甲冑や武器の形状は明日決めましょう。)

「・・・・・・そうだな。そうしよう、コレから宜しく頼む」

(はい。それでは、お休みなさいませ)






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
設定ぽい物

主人公

明智良哉(アケチ・リョウヤ)

何の因果か、リリカルなのはの世界に生まれ変わった元おっさん
しかも、原作の知識などコレッポッチも無い。
何故か死ぬと過去に戻る。訳が判らない。何をさせたいのかも判らない
容姿は普通。何所にでも居そうな感じ、父親に似てしまった為
美人な母と普通の父との三人家族。
尊敬する人は、養父だった徳永秀樹。
尊敬する魔導士はゼスト・グランガイツ。
実はゼストの隠し子との噂が、在ったとか無かったとか。

現在、なのはアレルギー。出来れば地球出身の魔導士(なのは・はやて・フェイト)の近くには現在は居たくない。
過去も現在、未来もファシズムではない。此処重要


シュベルト・クロイツ

なんか思いついたデバイス。簡単に言えばインテリとアームドが二つ在るだけ、でもこの二つはリンクしているらしい。
演算速度とか速い


徳永秀樹

二度目と三度目の保護者
結婚したらしい、種無しなのに
無限書庫勤務。
現在は名うての営業マン。子供好き。
持ち歌は壊れかけのRadio

12月9日。1237に一部修正 



[5159] ループの二ノ四
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:52
荒唐無稽な話しを聞きました
同じ事を繰り返すだけの、終わりの見えない拷問のような話しです
人と一緒になる事などできず
ただ、大切なモノを失っていく
時が経てば、ソレを繰り返し
途方も無い年月を繰り返す

私の主はそういう存在に成ってしまった人間です。
私は気付きました。主は繰り返した事を覚えていると言われましたが・・・大切なモノを繰り返す度に一部忘れてしまうとも、言われました
私は思います。この身はただのAIでしか在りませんが、主は繰り返した事の全てを覚えている訳では無いと。
恐らく、主が覚えている以上に繰り返して居るのだと。人は全てを覚えていられる訳では在りません。嬉しいと感じた事も、哀しいと感じた事も、時が過ぎれば忘れてしまいます。風化するように。
主が忘れて居るのは、自分を護る為では無いのかと私は愚考します。
勿論、最初は疑いました。死する度に過去に戻る等というのは、何かの冗句では無いのかと。しかし、ソレは真実でした。主に言われ監視していた少女・・・高町なのはという名の少女はロストロギアの探索、封印を開始しました。
主がご友人のサッカーの試合を観に行った帰りに、主の言った通りに巨大な大樹が現れました。主が言った通りに、金髪の少女が使い魔を連れて現れました。
疑う余地が在りませんでした。

レアスキルの可能性は略ゼロ。我が主の魔力が定まらないのは、リンカーコアが安定していないのが原因です。私は主の命令でリンカーコアのスキャンを行いました。本来ならば、専門の機関で診て貰わなければいけないのですが・・・主はソレを良しとはしませんでした。

ソレが正しい判断だとは言いません。しかし、もし心無い者に主の事がバレれば・・・その者達は主を拘束し、研究するでしょう。ソレは容認出来ないものです。
スキャンした結果、主のリンカーコアは細かい傷で覆われていました。何らかの原因で魔力の過負荷を受けているような傷つき方でした。コレならば、主のコアが安定しないのが分かります。そんな時でした。私と主がロストロギアの反応に気が付いたのは・・・




昼食を食べ、新しい相棒にリンカーコアのスキャンを頼み。その結果を見て少し鬱な気分に成った。
原因は隣の魔王様。
いい子なんだよ? いい子なんだ。芯のしっかりとした良い子なんだよ。高町は・・・。そう思うんだが・・・そろそろ本格的に転校とかを考えたくなってきた。
鬱屈した気分を紛わそうと、机に向かってカートリッジを造ってみても。気分は晴れない。
そして、現状の俺ではカートリッジを一つ作るのに十五分は掛る。それが、俺を何とも言えない気分にさせる。俺の相棒。シュベルト・クロイツにはカートリッジが合計二十入る。シュベルトに五、クロイツに十五。シュベルトはインテリジェントの為、多くのカートリッジが入らない様に成っている。AIの負荷を軽減する為だろう。
彼女の前の主。ジェシカ・クラウン、この名を聞いた時は本当に驚いた。管理局に居た時は彼女の武勇伝を聞いて、幼いながらに興奮したのを思い出す。クイントさんやメガーヌさんは仕方ないとしても、ゼスト隊長にも笑われたのがショックだった。

『傭兵クラウン』『血濡れのクラウン』『殲滅のクラウン』『戦神クラウン』

SSランクの戦闘狂。多くのテロリストを殲滅した魔導士にして騎士。そんな彼女が自らの為に造り、改造していった試作デバイスが俺の相棒に成った。シュベルトの形は槍。俺はコレにもう一つの形に成れる様にプログラムした。
クロイツの形は・・・・・・形容しがたい。起こしてみればその大きさに驚いた。腰に接合する様に現れた鉄塊。足を保護する為の具足。鏡で全体を見ればソレは銃の様な大砲の様な者だった・・・・・・シュベルトはジェシカ・クラウンを変わった人と言ったが俺が思うに、奴はキ○○イだと思う。この、思いっきり質量兵器(弾丸)も打ち出せます。ありがとう御座いました。な形のクロイツ・・・ロマンが在るのは認めよう。俺も男の子だ、大口径の銃とか撃ってみたい。

しかし、コレで撃てば戦車にも穴が開くのでは?と思ってしまう。使い道は残念ながら略無い。
更に残念な事に、俺はミッド式が下手だ。アクセルシューター? 二個しか出せない。ランクが近くともSLBとかは使えない。あんな大破壊魔砲使える奴の方が少ない。バインドなどは使えるが・・・遠距離系の魔法は苦手なのだ。魔力を放出させる感覚が掴めない。
当てるのに自信は在るが撃つまでにヤられる。
取り合えず。クロイツは暫くは使えない。念の為に使用と形状を少し変えたが・・・身体が出来上がらなければ、満足に使えないだろう。

話しを変えよう。序でに、トイレに行こう
俺はこの事件に、何時関わるか。それとも関わらず見過ごすのかを迷っている。俺が今欲しいのは管理局との関わりとジェイル・スカリエッティの足掛かりだ。今、この地に在るロストロギアには用がない。用が在るのは、この事件の首謀者であるプレシア・テスタロッサにプロジェクトFATEの事を教えた、又は託した者を特定する為の情報だ。
渡したのがジェイル自身ならば、ソコを辿っても居場所を探すのは難しい。だが、仲介人が居たとすれば?
話しは変わってくる。メリットもデメリットも大きいがやる価値は在る。

管理局との関わりは、俺が被害者と成る事が前提だ。
高い魔力資質が在れば、何かと理由を付けて勧誘するだろう。その場合被害者で在った方が、受け入れられやすい。
つまり、今回は見過ごして次の事件で巻き込まれれば良い

しかし、ジェイルの情報を掴むためには首謀者の施設に侵入しなければ成らない。俺には場所が分からない。

一応、高町に発信機(勿論魔法)を使えれば良いのだが・・・出来るのかが分からない。若しくは、アースラにハッキング出来れば良いのだがそんな設備は無いし。出来たとしても直ぐにバレる

(どうしたモノか・・・・・)

そうやって悩んでる時に、ロストロギアの反応が在った。
急いで家を出る。腕時計を見ればトイレに入って四十分近く、時間が過ぎていた。今も俺の体調は悪い。最近、高町から漏れている魔力が上がっている所為だ。『魔法』という力に慣れたからだろう。俺は気樽さと、リンカーコアの痛みによるストレスで胃腸がヤバイ。

(魔法に慣れたんなら日常生活の中での制御にも慣れろよな・・・・)

デバイスは起動しない。魔力も使わない。結界内に入ると、俺は直ぐに草むらに姿を隠した。状況を見ると三つ巴。

(クロノさん・・・昔から小柄だったんだ・・・・)

少々、失礼な事を考えてしまったが同時に思いついた。
高町に仕掛けられないの成らば、他に掛ければ良い(発信機)
此方は施設の座標さえ分かれば良いのだ。相棒と出会った次の日からせっせとカートリッジを作ってきたのだ、その魔力を使えば転移できる。
俺は迷わずに、使い魔で有ろう女性に魔法を使った。タイミング良くクロノさんが逃走しようとした、テスタロッサに攻撃しソレを高町が護ろうとした瞬間だったので巧く誤魔化せた。

「直ぐに此処から離れるぞ」

『承知』

俺は、其の侭家に帰り座標がチャンと分かるかの確認を行い。一息付くと、カートリッジの製作に取り掛かった。
準備は幾らしても悪い事は無い。俺が今使える奥の手はカートッリジの消費がバカみたいに掛るのだ









次の週から高町が学校を休んだ。

暫くは体調の心配をしなくて良い。そう思うと、自然と笑顔が浮かびバニングスさんに睨まれた





――――――――――――――――――――――――

簡単な人物紹介

高町なのは

無自覚魔王
砲撃が有り得ない。頑固
主人公から避けられ気味。なんか悲しいらしい

明智良哉

最近胃腸薬を携帯する様に成った

クロノ・ハラオウン

小柄


以上



[5159] ループの二ノ五
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:52
最近調子が良い。
原因は解かっている。高町が居ないからだ。高町の身体から無意識に溢れ出る膨大な魔力。ソレはまだ不安定な、俺のリンカーコアに負荷を掛けていた。しかし、今は高町が居ない。恐らく管理局に協力しているのだろう、今は最高に体調が良い。

胃薬が要らなくなった

授業中に読書が出来るようになった。

(・・・・・・涙が出そうだ)

それに、全てとは言わないが巧くいっている。テスタロッサの使い魔・アルフに掛けた魔法は、成功。状況も手助けしてくれた為か、管理局にもテスタロッサ達にも気付かれる事無くいった。
既に、テスタロッサ達がこの町のドコに潜伏していて、プレシア・テスタロッサの居場所まで分かった。後は、潜入するタイミングを見計らうだけだ。
巧くいっている。運が自分に味方している。と、思うことが出来るぐらいに順調に進んでいる。リンカーコアも負荷を受けない所為か徐々に安定してきているらしい。
その中でただ一つ、悩みというか困った事が有る。

高町が少しの間だけ学校を休むと、担任が言った時に胃の痛みや、気樽さから暫くさよなら出来ると思い頬が緩んだ所をバニングスさんに見られて以降・・・・・・睨みつけられるのだ。死ねと言わんばかりに・・・・しかも、ソレが他の女子にまで伝染しているのが痛い。クラスの半分以上が俺に対してアウェイだ

御蔭で胃痛から逃れられたが、頭が痛い・・・・・・誤解だと言いたいが、強ち誤解では無いので弁解の使用が無い。
というか、諦めた。翌々考えれば、俺は小学校四年生に成った事が無い。魔導士としての勉強でミッドに居たし、今更小学校や中学校の勉強もする気にはならない。平均を狙って、回答するのも意外に難しいし。数学などに関しては魔法を使うために復習したりもしたので、院生に行けるんじゃないかと思ったりする。まぁ実際にそこまで甘いわけでは無いが・・・・・

「・・・・・・ハァ」

(如何かされましたか? 主)

シュベルトに心配された。情けない・・・相棒に余計な心配を掛けるとは・・・隊長達に笑われてしまう

「いや、何でも無い。それよりバイタルは?」

(特に以上はありません。しかし、重心が若干右にズレています)

「分かった」

姿勢を正して、足を動かす。俺は相棒を手に入れてから、効果的にトレーニングをする事が出来るように成った。現在、ランニング中だ。
規則正しく、一定のリズムで息を吐いて吸う。少し暖かい空気が肺に入り、身体を少しだけ冷やしてくれる。体で風を切り、腕を小さく振って走る。ゆっくりではなく、でも速くも無いスピードでアスファルトを蹴る。
そんな時だった。嗅ぎ慣れた、出来れば慣れたくなかった匂いに気が付いたのは。

(・・・・・・嫌な予感が・・・・・・いや、でも・・・危ない状態だったら・・・・しかし・・・)

ある意味で慣れたくなかった血の匂いが近くなる。半ばヤケクソ気味に向かう。

(そうだ、一般人の振りをしてれば大丈夫・・・大丈夫だ)

ソコには腹から血を流す赤い毛皮の狼が、息も絶え絶えに横たわっていた。
これは、不味い。俺が辺に干渉したからか? 
いや、俺が干渉しなくても元からこういう状態に成ったのか?
分からない、分からないが・・・・・

(コレが原因で、俺の知る未来が変わると不味い。・・・まずは止血か)

上に来ていたジャージを脱ぎ、下に着ていた長袖を千切る。アルフに触れると、ピクリと動いたがそれだけだった。傷口を押さえるように布を巻く。
そんな時だ、黒塗りの車が止まったのは。中から出てきたのは頭痛の種のバニングスさんと、渋い執事。
バニングスさんは一瞬俺を睨んだが、アルフを見ると直ぐに携帯を取り出して言った。

「鮫島、その犬を車に乗せて、私は病院に電話するからソレと・・・明智、アンタも車に乗って。病院で説明しないといけないから」

俺は素直に車に乗った。バニングスさんのこういう所は凄いと思う、この年で大人な判断を出来る、切り替えることが出来る当たりは尊敬できる。
そのまま、病院に直行してアルフの治療は終わった。どう要った治療をしたのかわ知らないが、病院に来る前よりは大丈夫そうだったので的確な診療が出来たのだろう。
帰りもバニングスさんの車で送って貰い、執事の鮫島さんが両親に遅くなった理由を説明してくれたので怒られる事は無かった。アルフは、バニングスさんの所で預かる事に成って居たので安心できる。

次の日、短い会話でアルフの現状をバニングスさんが教えてくれた。驚く位に回復が早いらしく、今は病院食の様な食事をさせているが明日からは普通食でも大丈夫かもしれないらしい。一応、今日も病院に連れて行くらしいので医者と検討してみるとの事。

その日の夜は、前日出来なかった。カートリッジ造りで時間を潰した。リンカーコアの調子が良い。普段は十五分掛る作業が十分で終わる。シュベルト曰く、コアが安定し始めたらしい。負荷を受けなくなったからだろう。少し、寝るのが遅くなったが調子が良いので良しとする。此の儘、リンカーコアが安定してくれれば高町に悩まされずに済む。

それから数日、何故かリンカーコアが安定しない。前よりはマシに成ったが・・・それでもまだ不安定だ。頭を捻る。そんな時、海のほうで大きい魔力を感じた。大きいと言っても攻撃的な感じでは無い、如何やら結界を張ったようだ。
俺の体、高町から負荷を掛けられていた所為か魔力に敏感だ。というか、敏感に成った。成らざる終えなかった。主に体調と胃腸の為に
サーチャーを飛ばしてみると、高町とテスタロッサが戦っていた。不安定な魔力で魔法を使った為に、直ぐに二人の攻撃の余波で掻き消されてしまったが・・・状況が分かったので良しとする。

念の為にプレシア・テスタロッサの居城にクロイツだけを転移させる。此方は元特殊部隊出身。研究ばかりしている魔導士に気付かれずに転移させるのも、するのも遣り成れている。違法研究所に侵入するのよりは簡単だ。
クロイツから送られてくる情報を、シュベルトを介して教えてもらう。すると、武装隊が転移しているらしい。コレは好奇だ。俺は今まで作ったカートリッジを手に取り直ぐに転移した。

転移すると、武装隊は中に進入した後の様で見つからずに済んだ。こう要った魔導士の居城には、もしもの時の為に外部から中に接続できるような装置が有る。何らかの事故などで自分の魔力で、装置や設備を動かせなくなった時の為である。
最低でも、中に一つ外に一つは有る筈だ。今まで侵入してきた施設で如何いった場所に有ったのかを、思い出せる範囲で思い出して探してみると、一発で発見できた。その装置をシュベルトに繋ぎ、制御室の場所を探してもらう。

(付いてる・・・付いてるぞ!!)

「如何やら、動力部の近くに有るようです。ナビゲートします。」

身体強化をして、走る。魔力の消費を出来るだけ無くして走る。飛べば直ぐにでもつけるかも知れないが、バレてしまうので走る。制御室に着いた所で、爆発音が聞こえた。武装隊の第二陣が来たのだろうか? どの道時間が無いので、直ぐに制御室でプロジェクトFATEに付いての情報を引き出す。
演算能力に優れるクロイツとシュベルトが待機状態でリンクし、面白いぐらいの速度で情報を閲覧し、自分の欲しい情報を探す。

(違う・・・コレも、コレも・・・違うか・・・・・・時間が無いのに!!)

しかし、欲しいモノが見つからない。駄目元で違う資料も見る。爆発音が近くなってきたし、高町の魔力も感じた本当に時間が無い。

(・・・・・・テスタロッサの身体情報などイラン・・・・・ん? アリシア・テスタロッサ?)

俺が知る限り、テスタロッサは、母と娘の二つだった筈・・・と、言う事はオリジナルか?如何やら、今見ているのはプレシア・テスタロッサ私的な日記の様な物らしい。先に進めて見る。

(有った!! コレだ・・・この名前、仲介者だ。)

日付を確認し照らし合わせると、誤差を含めてもコレが当たりの様だ。俺は、このデータをシュベルトに記録させようとして横に跳んだ。

先程まで居た所を、鉄塊が粉砕する。厄介な事に傀儡兵が一体此方に来た。
直ぐに、身体強化をする。カートリッジが一つ減った。

「シュベルト!!」
『御意』

槍となったシュベルト構えて、カートリッジを二つ連続で使い突っ込む。今の俺には力が無い。だが、身体強化を施せば幾らは上がる。力だけでは無く早さも・・・

傀儡兵が腕を振り上げる前に踏み込む。

カートリッジの魔力を其の侭収束し魔力刃の生成。

余剰魔力はインパクトの瞬間、槍の石突で爆発させる。

推進力を増した槍事、傀儡兵の腹に大穴を開けて着地。

付き過ぎたスピードで蹈鞴を踏んで、無理やり魔力を引き出した所為で悪くなった体調に嫌になったが。データ保存の作業の為に、元の場所に戻るとデータが消され始めていた

「ハッキング?!」

(主、プロジェクトFATEの資料はコピーされた形跡があります)

「クソ!! 仲介人が出てきた所だけ消されてる!!」

感情に任せて壁を殴った瞬間に爆発音が混じり、天井に皹が入り、床の一部が崩れた。

(動力部が破壊されたようです。直ぐに退避しましょう)

「・・・・ああ」

持ってきたカートリッジを使い、転移しようとした瞬間に。床かを打ち抜いて傀儡兵が現れた。運の悪い事に、床の破片が頭に当たり視界が揺らいだ。

振り上げられた腕は既に下り始め、視界の揺れと、床を打ち抜かれた振動で体勢を崩し、転移の途中で妨害された為にその処理を行っているシュベルトのシールドも間に合わない。

(畜生!!)

負け惜しみに言ってやる。迫り来る鉄塊を前に

「道筋と場所は覚えた」

痛みは一瞬。

衝撃も一瞬

俺は、繰り返す







[5159] ループの二ノ五ノ外――ムカつく変な奴。(俗にいう外伝)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:54
最初にこの話しは、最終的に無駄な物です。
本編を読んでいただければお分かり頂けると思います





初めてアイツを見た時は、薄気味悪い奴だと思った。何処か悟った様な顔で周りの人間を見ていたのだ。好印象を受けるはずが無い
それから暫く経って、ムカつく奴に成った。アイツはあからさまにに私達を避ける、避けようとする。私に取って、その行動は如何でも良いものだった。私はアイツが好きではない、どちらかと言えば嫌いだ。向こうが避けるのならばチョウド良いとすら思った。
ソレが嫌だったのか、私の親友はアイツに根気良く話しかけようとした。皆で仲良くしたいという、なのはらしい考えだと思った。
でもアイツはそんな、なのはをのらりくらりと避わし続けた。その度に私の親友は落ち込む。

良く考えれば、私は、私の親友を落ち込ませるからアイツが嫌いなのかもしれない。

学校のテストも運動も平均点。

オカシイ事に常に平均なのだ、誤差など±3位だ。授業中は教科書を開いて、本を読みながら、時間が経つとノートを取る。不真面目な男だ。
そして、一番ムカついたのは

「え~っと、高町さんは家の用事で少しお休みするそうです」

と、先生が言ったときに、アイツは笑ったのだ。頬を緩めて。

(アイツ!!)

立ち上がろうとした私は、すずかに止められ、アイツを睨みつける事しかできなかった。
授業が終わり、文句を言ってやろう。そして絶対に打っ叩こうと思うと、アイツは教室には居なかった。授業が始まるギリギリに成って教室に入って来たのを見て、次こそはと思っても駄目だった。昼休みに探してみても見つからない。
徹底的に私達を避けている。ムカつく。

そのまま、アイツに接触できずに時間だけが過ぎていった。


何時もの様に鮫島の運転する車に乗って、何時もの様に塾に行く。この移動時間でさえ、私はイライラしていた。ムカつきが溜まりに溜まっていた。そんな時だ、アイツを明智良哉を見つけたのは。

私は、鮫島に言って車を止めさせ。直ぐに車を降りた。直ぐにでも文句を言ってやろうと思ったが、出来なかった。アイツは怪我をした大型犬の手当てをしていた。
車のライトが当たる地面には赤黒い染みが出来ていた。私は直ぐに気持ちを切り替える。
バニングスの娘としてソレ位の事は出来る。携帯を取り出して、番号を打ちながら鮫島に指示を出す。私は犬が好きだ・・・猫も好きだけど、どちらかと言われれば犬派だ。家でも犬を飼っているので、病院の先生とは顔馴染みだったので診療時間が終わっているのにも関わらず、直ぐに連れてきなさいと言ってくれた。

移動中、アイツは犬の傷口を押さえていた。止血のためだ。移動中、私達の間に会話は無かった。勿論帰りもだ。
そんな気分では無かったし、切り出せる雰囲気でも無かった。

次の日、預かった犬の状況を教えた。ソレ位してやるのが義務だと思ったからだ、でもムカつく事に変わりは無い。こういう時だけは捕まえる事ができる辺りが、さらにムカつく。

「昨日の犬だけど・・・」

「何か在ったのか?」

心配そうに言うコイツに、少し驚く。アレだけ避けていたと云うのに、何故こうも簡単に私と会話できるのだろうか? 私は、私の言葉だけを聴いて、会話を切り上げると予想していたので、少し面食らった。

「・・・・・・順調に回復してるわ。食欲も有るみたいだし、今日学校が終わったら病院の先生と相談して見るわ。普通のドッグフードを食べさせても良いかどうか・・・それだけよ」

「・・・・・・そうか。ありがとう」

「別に・・・報告位して上げるわよ。アンタが応急処置してたから、回復が早いのかもしれないし。」

私はそれだけ言って、自分の席に戻った。
依然としてムカつきは有る。でも、不思議な事にイライラは昨日よりも収まっていた。

(何よアイツ・・・・ヤッパリ変な奴だわ。ムカつくし)






――――――――――――――――――――――
それでも、コレは無かった事に成った。
感想で、アリサ視点の物が見てみたいと有ったので書いてみた。
反省して居る。御免なさい



[5159] ループの二ノ六
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:54
気が付くと朝だった。
薄っすらと、カーテンの隙間から光の筋が注して部屋を少し明るくする。

意識がハッキリとする。

反射的に顔に手をやる。痛みなど無い、痺れなど無い。
だが、感触は覚えている。ある意味極限状態に有った身体と精神に触れる冷たい恐怖の感触。顔を潰したであろう鋼の冷たさ、精神を侵す逃れられない死の冷たさ。
冷や汗が出る。寒くも無いのに体が震える。自分で自分を抱きしめる。震えは少し収まった。

(主? 如何かされましたか?)

相棒の声が聞こえると、震えが完全に止まり。日の暖かさが身体に熱を与えてくれるのを感じた。

「・・・・・・繰り返した」

(!?)

「すまない、助かったよ。シュベルト・・・お前が居て良かった」

(・・・私は、良く有りません。私は主を護れなかったのでしょう?)

「いや、アレは完全に俺のミスだ。予想外に巧く行き過ぎた事に、警戒を怠った。それに、目的の物を探すのに手間取った。」

(それでは、繰り返しの原因を見つけたのですか?!)

「いや、その足掛かりだ。見つけるための足掛かりを手に入れたが・・・消された。」

(そう・・・ですか・・・)

「気にするな。確か・・・時の庭園だっけか? ソコの座標と目的の物が在る所の道筋は覚えた。今から座標を言うから、記録しといてくれ。まず・・・・・」



座標をシュベルトに記録して貰い、朝食を取った。朝食の最中に母から、何かあったのかと聞かれた時は肝が冷えた。何という勘の良さだろう、少し羨ましい。顔を洗い、歯を磨いて着替える。部屋に戻るとシュベルトにリンカーコアを調べてもらう、今回はそんなに戻っていないがスキャンして貰う前だったらしい。ベットの上で天井を見ながら、思い出す。

(プレシアは何者かに見張られている。少なくとも、あの設備に外部からハッキングできる様な奴等に。ソレよりも、日にちを覚えてないのが痛いな。今から出来る事が少ないし、アルフはやはり落ちてくるのだろうか?)

そんな事を考えながら、自分の掌を見る。剣凧が目立った、今までの努力の証。過去に戦った状況を思い出す。決して少なくは無い部分を忘れている。
しかし、多くは無いが少なくも無い部分を覚えている。
この二つと、相棒は俺を裏切らない。確信を持てる。久しぶりに握ったデバイスは、手に馴染んだ。一番最初に教わった、最も突進力と攻撃力の有る手段を取れた。身体のぎこちなさや違和感は、これから如何とでもなる。

ヤル気が出てきた。死ぬのは怖い。死なせるのも怖い。殺し殺されるのが怖い。それでも、遣らなければ成らない。
自分の為に、遥か過去の少し遠い未来の仲間の為に。
全員を助けられるなんて、思っていないし思えない。理想は現実に押しつぶされる。幾ら集まろうとも人には限界が有る。

それでも、その理想を思はない事は出来ない。
ソレはとても綺麗で素晴らしい、幸福な未来だから、思う事を止める事が出来ない。甘ったれた事かも知れない。夢見がちな思い。でも、ソレを信じて進めるほど、俺は純情じゃない。

だから、多くを助ける為に少数を切り捨てる。
ソレが管理局員だった俺のスタンスだ。槍を握った時に思い出した。俺は自分の為にデバイスを握っていた事に。

(主、スキャンが終わりました。)

「そうか・・・うん。シュベルト、クロイツ。少し、歩こう。念話で聴く」

(御意)

俺は剣十字を上着の内ポケットに入れて、散歩をする事にした。日の光が気持ち良い、気分転換には最高の天気だ。


歩く、ただ歩く。普段なら良く観ようともしない町並みを眺めながら、当ても無く歩く。シュベルトからの報告を聞く限り、前回と診断の結果は変わっていない事に少し安堵した。公園の近くに有った、たい焼き屋を観た時に小さく腹が鳴ったので二つ程購入する事にした。

「すみません、二つ貰えますか」

「いらっしゃ!! 餡子にカスタード、抹茶にチーズ。どれにしますか?」

餡子を二つと言おうとして考える。俺の中で餡子はスタンダードで王道だ、カスタードは邪道だ。抹茶は想像できるが、チーズ・・・・

(あの・・・主?)

(如何したシュベルト?)

(チーズとはあのチーズですか?)

(乳製品のチーズを言っているのならそうだが・・・如何したんだ)

(流石に遭わないのでは? 餡子とカスタードから、たい焼きの中身は甘味料なのでしょう? しかし、チーズは塩気や酸味が有る物です。ソレは売れるのですか?)

どうなんだろうか? 個人的には味も想像できないが・・・新しい物へ挑戦なのかもしれない。此処は・・・

「それじゃあ、餡子とチーズを一つづつ下さい」

(主?!)

別に驚く事じゃないだろう? 失敗したと思うのなら、次から買わなければ良いのだ

「ほい、二つで二百円だ。ありがとう御座いました!!」

ポケットから小銭を取り出して払う。まだ熱いたい焼きが入った袋を持って公園のベンチに座り、手にとって食べる

「あむ・・・・・・・餡子か、尻尾の先まで餡子が詰まってる。あの店は当りだな」

自販機で買った冷たいお茶が、餡子の甘さを引き立てる。
海の見える公園で買い食いをする。
意外な事に人が少ない。もしかしたら、この景色が当たり前な人が多いのかも知れない

(・・・勿体無い。今度、母さん達と来ようかな?)

紙袋の中に手を伸ばす。餡子は食べた。残るはチーズ、温かい内に食べるのが良いのだろう。一口齧る・・・・・・・これは!!

「美味いじゃないか」

(・・・・・・)

人気の少ない公園で、日の光を浴びながら海を眺める。
恐らく、この景色が当たり前に成っている人が多いのだろう。

(勿体無いな・・・)

身体が温かい。小腹も満たした。

(少し・・・眠くなってきた)

だが、此処で眠って風邪でも引いてしまったら馬鹿らし過ぎる。

(なぁ、シュベルト)

(何でしょうか?主)

(お前は魔力を誤魔化せるのか? 自慢じゃないが、俺は魔力には敏感だ。なのに、お前に気付かなかった。お前の中にカートリッジが在ったのにも関わらずだ)

俺は、眠気を抑える為にシュベルトと話す事にした。

(誤魔化せます。しかし、誤魔化すだけです。鍵十字の状態の時は魔力を外に出さぬよう、感じにくくするように設定されています。前に前主の事を話した時に説明下と思いますが、あの方は傭兵でした。それも飛び切りの・・・それ故に狙われる事も多く、町に居る時などは変身魔法で容姿を変え、自分と私達から魔力を感じられにくいようにしていました。)

(・・・・・・初見で見抜かれたことは?)

(一度も有りません。逆に、主は何故私がデバイスだと分かったのかが気に成ります)

(疲れてたんだよ。ソレでなんとなくそう思った。俺はただ鍵十字の先端が動くような気がして動かそうとしたんだ。観てなかったのか?)

(スリープモードでしたので・・・・・・魔法の発動を確認したので起きたんです)

(そうか・・・・)

会話する為の話題が無くなった。眠気が襲ってくる。欠伸が出そうに成るのを我慢すると、涙が出てきた。

(主、少し眠られたらどうですか? 三十分程したら起こしますよ?)

「すまん。」

そう言って、少しだけ眠ることにした。気疲れしていたのかもしれない、目を瞑ると直ぐに意識がなくなった。




(・・・じ・・・起き・・・ださ・・・主!!)

目を開ける。胸が痛かった。状況が理解できなかった。目の前には高町達が居て、俺の真後ろにはロストロギアの暴走体が居た。咄嗟に逃げようと足を動かそうとすると、足が重い。目を向ければ木の根が絡まっていた。
木の根には鋭い切断面が有った為、テスタロッサが助けてくれたのだろうと思う。
それにしても、このロストロギアは植物が好きなのだろうかとどうでも良い事を考えてしまう。

寝起きで考えの纏まらない思考を覚醒させてくれたのは、高町の声だった

「明智君危ない!!」

ハッと振り向けば、高町のデバイスから誘導型であろう魔力弾が発射された。
自分の後ろを振り向けば、木の枝で出来た束が迫っていた。咄嗟に後ろに跳び引いたが木の根が絡まって重い足では巧く動けずに少ししか距離が稼げなかったが、自分の横を通り過ぎるピンクの弾丸を観て安心した。
自分が魔法を使わずに済んだ事に。俺の行動方針を理解し魔法を使わなかった、相棒に。
だから、顔面に衝撃を受けた時は間抜けな声が出た

「はっ・・・・・?」

視界の左半分が消えた。見えなくなった。右目を寄らせて観ると長いものが見えた。

(主!!)

(シュベルト・・・・・・管理局にバレるなよ?)

「・・・・・・痛いなぁ・・・」

俺の意識はそこで途絶えた。咄嗟にシュベルトに言ったが、繰り返したら意味が無い事に気が付き。何故か笑ってしまった。

「明智君!! 確りして!! 明智君!!」

高町の声が聞こえたような気がしたが、ソレを確認する術がない。




side なのは

声を掛ける、必死に声を掛ける。それでも彼は目を開けない。

「明智君!! 確りして!! 明智君!!」

(どうしよう、どうしようどうしよう明智君が死んじゃう!!)

左目から突き出した木の枝が、綺麗に眼球の収まっていた所に収まっている。流れ出る細く赤い、血。

(私の所為だ)

「なのは退いて!!」

ユーノの声で、少しだけ落ち着きを取り戻したなのはは、明智良哉に突き刺さった木の枝を抜こうと手を伸ばした。

「止めろ!!」

しかし、その腕は一人の少年によって止められた。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。双方共に武装解除をしてくれ、詳しい話を聞きたい。エイミィ!!」

クロノ・ハラオウンが最後に、強く言ったのは人の名前。それに答えるように空間に映像が映し出された。
ソコに見えるは、ちょっと特徴的な癖毛を持つ女性だった。

(お姉ちゃんと同じくらい・・・かな)

自分の姉と同じぐらいの年齢の女性は、明るい声で言った

「大丈夫だよクロノ君。医療局員が転送ポートに向かってるから、直ぐに付くよ!!」

クロノはソレに頷き、己の仕事を開始した。

「さあ、デバイスを待機状態に戻してくれ。」



side out



結果だけを言えばフェイト・テスタロッサは逃走し、高町なのは、ユーノ・スクライアはアースラに向かい。管理局に協力する事を決めた。正史と同じく。
しかし、違う点が有るとすれば・・・・
高町なのはは自分の無力に憤り、自己嫌悪に耽った。
ユーノ・スクライアは高町なのはを巻き込んでしまった事に、後悔した。
クロノ・ハラオウンは自分達の行動の遅さに理不尽を感じた。
フェイト・テスタロッサは、その瞬間が目に焼きついて離れ無かった。
アルフは、最後に聞いた言葉が忘れられなかった。

そして、本来ならば此処に居なかった筈の明智良哉は

「早く、麻酔を打って!!」
「・・・・・・・眼球が完璧に潰れてるわ」
「・・・・視神経の奥まで損傷してる・・・」
「チィ・・・出血が激しくなってきた!! 輸血の用意を!! 早くして!! 子供の身体じゃ、脳に障害が残るかもしれない!!」

現在、アースラに乗る。優秀な医療局員達による、手術を受けていた


「母さ・・・艦長。被害者の状態は・・・」

「まだ、手術中よ・・・・・・エイミィ、あの子のご両親は見つかった?」

「それが・・・家は見つかったんですが・・・親御さんが見つからないんです。夜だって言うのに」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
PVって何?っと今更聞いてみる。
主人公、危篤状態。




[5159] ループの二ノ七
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:54
『・・・解っているな? 良哉』

『了解です、隊長。何時も通りに俺とメガーヌさんで潜入・霍乱ですね』

『良哉・・・お前はもう少し緊張感を持て。お前の組んだ潜入用の魔法は完璧では無いんだぞ』

『大丈夫ですよ、隊長。その為のメガーヌさんで、ソレを護る為の俺です。ソレよりも合図したら早く来てくださいね?』

『ソレは、誰に言ってるのかしら』

『ソレは隊長とクイントさ「ゴチィ!!」いっ!!』

『ハハハハハハハハ!!坊主、お前今日何回目の拳骨だ?!』


懐かしい


『ん? お前も飲むか?』

『あっ、頂きます』

『砂糖とミルクは?』

『要りません!!子ども扱いしないで下さいよ隊長』


懐かしい


『良哉・・・クイント達は?』

『別々の場所に強制転移されたみたいです。此処に来るまでに、陸尉達の死体を三つ確認しました』

『・・・そうか。先ずは目の前の敵を倒す。全力で行くぞ!!』

『はい!! 早くクイントさん達を助けに行きましょう!!』


懐かしい


そうか、左目を潰されたのは初めてじゃない

『良哉!!』

『大丈夫・・・です。隊長の・・・盾く・・・らいには・・・成れます』

『止めろ!! 戻れ!!』

『ガア゛アアアアァァァァァァァァァァァァ!!』

そして、俺の左目に刺さっていたナイフが爆発して・・・ソレと引き換えに戦闘機人の左腕を切り飛ばしたんだ



何故忘れていたんだろうか?

何故思い出したんだろうか?

俺は・・・何度繰り返しているのだろうか?




解らない



目を開くと気樽さを覚えた。視界の半分が暗い。
身体を動かしてみると、驚くほどに緩慢に動いた。体中から骨の鳴る音が聞こえる
首を動かしてみると、テスタロッサが居た。
しかし、様子がおかしい。覇気が感じられない。其の侭観ていると、目が合い。テスタロッサが俺に気付いた

「あっ」

それだけだった。雰囲気が重い。

「此処は何処?」

「・・・・・・・アースラの医務室」

「高町達は?」

「・・・・・・か、母さんの所」

どうやら、質問すれば返してはくれるらしい。しかし、どうも今のテスタロッサと話していると人形と話しているようで気持ち悪い。

「君は、行かないのか?」

「わ、私は要らないって・・・・・・言われたから・・・・・・人形は要らないって・・・・」

少しだけ、声に感情が戻る。しかし、高町達は時の庭園に向かった後らしい。時間が無い。此処で魔導士とバレるのも不味い。俺は出来るだけ関わりたくない・・・

「行って来い」

「無理だよ・・・・・・要らないって言われたんだ・・・嫌われたくないよ。母さんにこれ以上嫌われたくない。アルフも行っちゃった。あの子も行っちゃった。独りは嫌だよ。嫌われたくないよ。母さん、母さん母さん母さん・・・・・・どうして私は」

アリシアに成れなかったんだろう・・・・・

テスタロッサがそう吐いた・・・・・・ムカついた。イライラする。子供? 知った事か

「さっさと行け、人形野朗」

「・・・・・・・人形」

「ああ、そうだ人形。お前は人形なんだろ? 自分で行っただろうが。ん?そうか、人形は自分からは動けないんだったな!! だったら命令してやる。さっさと行って来い人形!! 行かないのならこの部屋から出ろ人形。なんだ、何故睨む?オカシイ事は言って無いだろう人形。なんでアリシアに成れなかったんだろう? 馬鹿かお前、自身が他人に成れるわけ無いだろうが!! ああ、そうか。造ったご主人様に似たのか。災難だったなぁ人形。そんな事も解らない大馬鹿に造られた上に捨てられたんだからな!!」

言った。言い切った。誹謗中傷を交えて言ってやった。如何やら俺も相当参っている様だ。
返答は平手、左の頬が痛い。左目の奥が疼く

「貴方に・・・貴方には解らない!!」

「知るか人形!! 何時までもウジウジと鬱陶しい!! さっさと出てけ!!」

「私は・・・私は人形じゃない!!」

「ソレが如何した。傷口の近くを叩きやがって!! 痛てぇだろうが人形!!」

「私には・・・フェイト・テスタロッサっていう名前が・・・・あ」

「それなら、とっとと出てけテスタロッサ。高町に会うようなら眼の事は気にするなって言っておいてくれ。コレは事故だ」

「・・・・貴方の着替えとか荷物、あそこの籠の中に入ってるから・・・・・・ありがとう」



テスタロッサはそう言うと、出て行った。高町達の所に向かったのだろう。
ベッドから降りる。腕に小さな痛みを感じ、視線を落とすと点滴の針が抜けていた。叩かれた時に動いたのが原因で取れたのだろう。小さな傷口からゆっくりと血が流れる。
痛みの御蔭で意識が完全に覚醒する。テスタロッサに言った事に自己嫌悪しそうになるが、無視をして籠に近づき。籠の中から上着を取って着る。胸の所で、何かが動いた。

(シュベルト・・・誤魔化せるか?)

(ダミーは用意しました。後は主の命令を待つばかりです。)

頼もしい。

(時間は?)

(十分です。流石に設備が整ってます)

十分だ

(ダミーを流したと同時に転移する。ソコからは・・・・最速で飛ぶ。カートリッジは?)

(私に五つ、クロイツに十三です。)

十分だ

(敵が来た場合は如何されますか? 今の主の身体では・・・満足に動けないのでは?)

(見敵必殺。ただ貫く。行くぞ、シュベルト。十秒後にダミーを流せ、それから三秒後に転移する)

(御意に)

呼吸を整える。やっと見つけた階段の一段目。決して逃して成るものか

(主)

「転移開始」






辿り着けばソコは酷い状態だった。抉れた地面、散乱する鉄塊、無数の皹が入った壁と天井。そして、時折聞こえる破砕音と爆音が懐かしく思える。
夢を見た。昔の懐かしい夢を・・・・・・
だから・・・・

「調子が良い・・・・・・単純だな。シュベルト!!」

(御意)

進む、駆ける。壁を蹴り、空を飛ぶ。目の前に現れる傀儡兵の腹を貫き通る。手に伝わる衝撃が、通り過ぎる時に感じる爆風の熱と風が心を躍らせる。

(生きている。今、俺はこの時を生きている!!)

速度を殺さずに部屋に突っ込む

「シュベルト!! プレシアの私的な日記を全てコピーしろ!!」

(プロジェクトの方は?)

「詳細と結果を日記の次に優先。時間が有れば全てだ。」

(御意)

時間は・・・・・・時計は無い。しかし、五分は掛ってない。

「シュベルト、三分で終わらせろ」

(御意)

時間がとても遅く感じられる。引き伸ばされたような感覚が、神経を尖らせる。

(主、終わりました)

「・・・・・・後、何分残ってる?」

(二分です。今二分を切りました)

ハッキング元を調べられれば、良かったが・・・・仕方ない。

「引くぞ、転移用意」

カランと床に落ちたカートリッジの残骸が、その場に残った




「・・・っと時間は?」

(残り二十五秒)

直ぐにベットに腰を掛け、内ポケットにシュベルト・クロイツを突っ込む。胸ポケット動くのを感じた。

(さて・・・・・・如何するか? 家への連絡は管理局がしているはず。していなかったら誘拐と疑われても仕方が無いからな・・・ソレよりも)

悲しませてしまう。
左目を失った事を。ソレを思い出すと疼き始めた。

「つっ・・・・・・」

呼吸をするたびに、左目の在った場所が疼く
心臓が動くたびに、痛みが増す
痛みが増すたびに、呼吸が速くなる
呼吸が速くなるたびに、鼓動が速くなる

(ヤバイ・・・・痛みで・・・意識が・・・)

痛みで気が遠くなり、痛みが意識を取り戻す。
それを三度ほど続けた後、俺の意識は無くなった。


・・
・・・
・・・・
・・・・・


胸が痛い。でも起きたくない。
右手が温かい。胸が痛い。
胸の痛みがしつこく、俺を刺激する。覚醒し始めた意識が痛みの原因を結論付ける

(この痛み・・・・・・高町だな)

ゆっくりと目を開けると、高町が俺の手を握っていた・・・・・・ヤッパリか

「・・・・・・おはよう」

「・・・・・・良かったよぅ~・・・明智君が起きたよぅ~」

泣き始める高町をなだめる事二十分。どうやら、アレから俺は二日程眠っていたらしい。点滴に含まれていた鎮痛剤の投与が無くなった為に、意識を失って其の侭という訳だ。
高町は、俺に謝罪がしたくて付き添っていたらしい。

「ごめんなさい・・・私、明智君を助けられなかった・・・」

正直に言ってしまえば、恨みなんぞ持ってない。アレは事故だ。あの場に居た誰もが予想しなかった事故。

「・・・・・・アレは事故だ。高町は悪くない。」

「でも・・・もう見えないんだよ!! 私がもっと確りしてたら防げたかも知れないんだよ?!」

「高町、アレは事故だ。それに、感謝する理由は在るが。怒る理由が無い。それとも何か? 高町はアレなのか? その・・・怒られたり叱られたりするのが大好きな性質なのか?」

「ち、違うよ!! でも、ヤッパリ、明智君の目は「しつこい」・・・・でも!!」

勘違いも甚だしい。アレか? 俺が知る高町も夢想家な所が在ったが、昔はもっと酷かったのか・・・

「でももしかしも無い。高町・・・お前は神様にでも成った積もりか? 自分が確りしていれば全てを助けられるとでも思ってるのか?」

「そ、そんな・・・訳じゃないけど」

「覚えとけ高町、人は全部を救えないし助けられない。助けられるのは本当に少しで、救えるのは自分の手が届く範囲の人だけだ。だから、お前は悪くない。あんな化物が相手だったんだ。倒せた事を誇れ。それに、高町はチャンと俺の命を助けてくれた。俺には高町を恨む理由はないよ」

「・・・・・・・・・」

沈黙する高町に、続けて言う。寝すぎて鈍い思考で考えた言葉を言う

「ありがとう、高町。助けてくれて・・・本当にありがとう」

「う・・・っく・・ふえぇぇぇぇ・・・・・」

泣き始めた高町に、驚きながら少しだけ距離を取る。リンカーコアが痛い。
それから、どれくらい時間が経ったのだろうか? 気が付くと高町は泣きつかれて寝ていて、頭を撫でてあやしていた俺の右手は棒の様に成っていた。

このままの体勢で寝かせておくのも、アレなので。俺はベッドを高町に譲る。持ち上げた時の高町は、酷く軽かった。
隣のベッドに座ると、ドアが開きクロノさんとリンディさんが入ってきた。

「起きたばかりで済まないんだが・・・・・・話しが在るんだ。」

「ごめんなさい、とても重要な事だから・・・・・・少しだけ移動してもらっても良い?」

「良いですよ? 治療してもらった様ですし・・・・・・」

知らない振りをするのも大変なものだ。ついつい、名前を言いそうに成る。

「すまない。僕はクロノ・ハラオウンと言う」

「私は、リンディ・ハラオウンよ。リンディさんって呼んでね」

「・・・姉弟なんですか?」

お世辞は言っておく事にする。その後、喜ぶリンディさんとソレを恥ずかしそうに見ているクロノさんと一緒に、隣の部屋に移った。
どうやら、この部屋は二日前まで俺が寝ていた場所らしい。その証拠に、部屋の隅に在る籠から俺の服が見えた。
恐らく、怪我をした武装隊の人を治療する為に、移動させられたのだろう。

ソレよりも、リンカーコアが痛い。さっきよりも痛い。冷や汗が出てきた。

「大丈夫か? 汗が酷いが・・・」

「慣れてますから・・・大丈夫です。」

「慣れてるって・・・・・・医療局員からは持病などは見られないと報告が来ているんだが・・・・何か患ってるのか?」

「いえ・・・高町の近くに居ると・・・こう・・・胸の辺りが・・・酷く痛むんです」

俺の言葉を聞いて、リンディさんが立ち止まり後ろに下がる。

「何やってるんですか? 艦長」

「どう?」

「少し・・・楽に成りました」

俺がそう言うとリンディさんは、一度だけ目を瞑り言った

「クロノ、貴方は此処に残って。直ぐに連絡するから」

「はい」

それから、一分もしないうちに空間に映像が映し出された。

「まず、怪我をしているのに時間を取らせてしまった事を謝罪するわ。本当に御免なさい。・・・貴方の、良哉君のその胸の痛みはね。リンカーコアという器官が、刺激されて痛みを起こしているの」

知ってます

「辛かったでしょう・・・学校でなのはさんの隣だったんでしょ。」

「・・・・・・地獄でした」

「・・・・・・大変だったんだな。」

ポンと肩にに乗せられた手に、物凄く感謝した。この痛みは本当にキツイ。我慢できてしまう辺りが特に・・・

「それでね・・・・良哉君。取り乱さないで聞いて欲しいの・・・・・・貴方のご両親、お父さんとお母さんなんだけど・・・・」






――――――――――――――――――――――――――――――
構成の関係で切ります。コレで無印最後だったのに(TT)
でも、論文終わったから。直ぐにでも書く。
具体的には、火曜か水曜




[5159] ループの二ノ八
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:54
終わりが来た。
俺に終りが来た。
何故忘れていたんだろう。

『それでね・・・・良哉君。取り乱さないで聞いて欲しいの・・・・・・貴方のご両親、お父さんとお母さんなんだけど・・・・』

囚われ、奪われる。偶然な運命。ソレは最早必然だという事を失念していた

『お母さんが・・・・お亡くなりになられたわ・・・ソレとお父さんの方も事故で植物状態に・・・』

鮮明に
鮮烈に
思い出した

世界の法則を

最初に、両親を助けた時・・・知らない家族が無くなった。

次の対価は?

俺の怪我だけでは足りない筈だ。

俺のした行為はただ時間を延ばしただけだ。

ならば、死から救った対価は?

命だ。

全ては、平等に取引された。

何かを得る為には、何かを払わなければならない。

(そうか・・・俺の怪我と引き換えに、両親の寿命は伸びた。死を先送りにしていただけなのか・・・・・・)

左目の変わりに情報を・・・安息の変わりに繋がりを・・・

母は帰りの遅い俺を探しに出かけて、車に撥ねられ。頭部を激しく打ち即死
父はその事を知らされ病院に駆け込んだ帰りに・・・バイクと衝突して意識不明の重体に、そして二日前に植物状態に成った。

(俺の両親が死ぬのは決まりきった事だとでも言うのか!!)

世界が差し出せと言っている様に思ってしまう。
繰り返す俺にその対価を要求しているようだ。

「・・・大丈夫か? 良哉」

「良哉君・・・酷い事を言っているのは理解しているわ・・・貴方は此れから如何したい? 少しだけ考えて・・・また、連絡するわ」

「・・・・・・少しだけ、独りにさせてください。ソレと、誰にも言わないで下さい」

「分かったわ」

画面が消える。目の前には黒い背中が在った。

「・・・・・・僕も・・・・・・父を亡くした。その時は独りで泣いたし・・・塞ぎ込んだ。」

クロノさんが苦しそうに言う。

「大丈夫・・・です・・・少ししたら・・・整理できますから・・・・」

「君は・・・強いな」

クロノさんはそう言って出て行った。

「シュベルト・・・」

(主?)

「可笑しいんだ。こんなにも哀しいのに・・・・涙が出ない」

胸が苦しい程詰まっているのに

声を絞り出して喋っているのに

涙が出ない

「何でかなぁ・・・叫びたいのに・・・泣き喚きたいのに・・・何でかなぁ・・・」

心の何処かで
頭の片隅で

「納得してるんだよ・・・ああ、そうかって思ってるんだよ・・・何でかなぁ」

(主・・・私達が居ます。まだ、私達が居ます。)

「ありがとう、シュベルト・・・でもさ・・・・・・お前達は俺で良いのか? 両親の死にも泣けない屑みたいな餓鬼に、着いて来てくれるか?」

(異な事を・・・私達は誓いました。貴方の剣になると・・・我らの忠誠は主が死する時まで永遠に・・・)

「ありがとう・・・シュベルト・・・・・・ありがとう・・・・・・少し、疲れた。」

(今はただ、お休み下さい。我が主。)

「・・・そうするよ」

電源が落ちた機械のように、俺は眠りに付いた




眠る自分の主を観てシュベルトは嘆く

主・・・貴方は・・・

『可笑しいんだ。こんなにも哀しいのに・・・・涙が出ない』

壊れる事も

『何でかなぁ・・・叫びたいのに・・・泣き喚きたいのに・・・何でかなぁ・・・』

狂う事さえも

『納得してるんだよ・・・ああ、そうかって思ってるんだよ・・・何でかなぁ』

出来ないのですね。

ソレの何と哀しい事か。
ソレの何と怖ろしい事か。
ソレの何と誇らしい事か。
ソレの何と素晴らしい事か。

その境遇に思う
その精神に思う
その強固な理性に思う
その屈強な心に思う

(誰か・・・この方を・・・助けてください。救い上げてください。支えてください)



side クロノ・ハラオウン

『君は・・・強いな』

何がだ

『君は・・・強いな』

どの口で・・・

「クソッ」

壁を叩く。

(何が、強いなだ。僕は馬鹿か!!)

辛くない筈がない、哀くない筈がない。
過去に味わった喪失感が甦る。アレから母が少しだけ気丈になった・・・自分を苦しめない為に。
アレから自分は、魔法に打ち込み始めた。打ち込むことで、集中する事で、夢中になる事で

(思い出そうとする事を拒んでいたじゃないか!!)

悔しい、苦しい。経験者なのに何も出来ない。励ます事さえ出来ない。
ソレが悔しい。ソレが辛い。

「・・・誰にも言わないで下さい・・・・・・か」

(あの状況で、他人の心配が出来る・・・)

「なのは達には言えないな・・・・今はまだ」

彼女はずっと傍に居ようとした。
自分の所為だと言って・・・・・・
彼が起きた時の画像データを見た、高い魔力資質が在ったからだ。その時、彼はフェイト・テスタロッサに気付かせた
今さっき、誰にもいうなと言った

(なんで・・・あんな子ばかりが失う・・・・)

「本当に・・・こんな筈じゃ無かった事ばかりだ」

整理できる筈がない。自分の時は母が居た。支えてくれる家族が居た・・・
だが、彼は一人だ。
親戚関係を調べれば、彼の両親はどちらも一人っ子。親の両親も彼が生まれて、二年程で亡くなっている。正真正銘に独りっきりだ。あんな子供が・・・・

「クロノく~ん。・・・・・如何したの?」

「いや、何でも無い。少し考え事をしていただけだよ、エイミィ。それより、如何したんだ?」

「いや~、フェイトちゃんとお昼しようと思って。だから、なのはちゃんを呼びにいく所だよ。あの子の病室に居るんでしょ?」

「ああ、でも今は泣きつかれて眠ってるよ」

「・・・・・・何か酷い事でも言われたの?」

「逆だよ・・・お前は悪くないって説き伏せてた。おそらく、なのはは納得が要ってないと思うけど・・・感謝された事に、今まで張り詰めていたモノが溢れたんだろう。僕と母さんが入るのを躊躇うぐらいだったし」

「・・・大物というか何というか。あの子、相当なお人よし?」

「優しい子だと思うよ・・・彼は」

「ありゃ? 珍しく褒めるね・・・やっぱり、何か在ったの?」

「あ、あの」

怖がられているのだろうか?エイミィの後ろから顔を出したフェイトがおずおずという

(仕方ないか・・・最初が最初だし、厳しい事も言ったからなぁ)

「何だい?」

「あの子は・・・大丈夫なんですか?その、傷口の近くを叩いちゃったし・・・お礼もまだ言ってない・・・」

気付いてるのか? 自分を立ち上がれる様にしてくれた事に・・・・

「傷に関しては大丈夫らしい。今は、独りにしてあげてくれ。礼を言う時間はまだ在るから・・・すまないが、報告書を纏めないといけないんだ。」

僕はそう言って、その場を後にした

(彼が魔法を知りたいと云うのなら・・・僕が教えよう。そうじゃないと・・・壊れてしまうかもしれない)

過去の自分を見ている様な気がする。魔法云々の事はチャンと説明しないと分からないが、もし望むのなら・・・

僕はそう思いながら自室に向かった。


side フェイト・テスタロッサ

クロノはそう言って、歩いていった。

「エイミィさん」

「何かな?フェイトちゃん」

「あの子の名前は、なんて言うんですか?」

「え~とね」

空間に画面が映し出されれる。エイミィさんは、ソレを操作してソレを見ながら言う

「名前は、明智良哉君だね・・・」

リョウヤ・・・うん覚えた

「・・・怪我の方は・・・如何なんですか?」

「聞きたい?余り、お勧めしないんだけど・・・」

「お願いします。私が原因でも在りますから」

エイミィさんは、少し考えてから言った

「左目は完全に潰れちゃってる。視神経の方まで遣られちゃってるから・・・今の医療技術では、治療しきれないね。でも、あの子は事故だから気にするなって言ってるみたいだし・・・現実感がまだ無いのかもしれないから。余り話題に出しちゃ駄目だよ?」

「はい」

「フェイト・・・なんで、あんな奴の事、気にするんだい。アイツはフェイトに酷い事言ったのにさぁ!!」

うん、本当に酷い事を言われた。でも・・・

「でもね、アルフ。リョウヤに言って貰えなかったら、私はまだ塞ぎこんでたと思う。まだ、哀しいし辛いけど・・・前を向けるよ? リョウヤが気付かせてくれた、私はフェイト・テスタロッサだって。アリシアじゃ無いんだって・・・だから、母さんに言えたんだ。私は、それでも貴女の娘ですって」

「・・・・・・そうかも知れないけどさぁ・・・私はアイツが嫌いだよ・・・」

アルフが嫌うのも、仕方ないかも知れない。けど、何でだろうか? 私はリョウヤを嫌いじゃない

(不思議だなぁ・・・なんでだろう)

私はそう思いながら食堂に向かった。本当なら、部屋に居ないといけないんだけど・・・エイミィさんが監視という事で食堂に連れ出してくれた。ありがたいと思う。


side リンディ・ハラオウン

「ハァ・・・」

溜め息が出る。あんな子供に、キツイ事を言ってしまった。言わなければ成らない事だったとはいえ、もう少し良い言い方が在ったのでは無いかと思ってしまう。
モニターに彼の事を何度か映そうと思ったが、していない。
彼のバイタルデータを見ると、更に溜め息がでた

(リンカーコアが不安定だけど、検査結果はAAA-~AAA+・・・・しかも、なのはさんの近くで簸たすら耐え続けた・・・・)

「とんでもない精神力と我慢強さね・・・かなり痛い筈なんだけど・・・・」

あの子はその痛み我慢して、なのはさんを慰めていた。フェイトさんを激励していた。私の近くに居ても耐えていた。

「管理局に欲しいわ・・・・・・でも」

躊躇われる。突然左目を奪われ、両親を失った。植物状態と言えば聞こえは良いが、脳死だ。機材が無ければ直ぐに・・・・

(今の所は、彼の両親の親戚を名乗っているけど・・・ミッドでも、回復は見込めないわ・・・)

医療局員にも言われた。今の医療技術では無理だと。

(まだ、十歳の子供に・・・こんな、選択・・・)

「・・・・・・選ばさせられない」

(先ずは心のケアね。養子に貰うっていう手も有るわ)

私は、子供が辛い目に悲しい目に会うのが嫌いだ。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

予告よりフライングで出してみる。
今回はそれぞれ(魔王様を除く)の視点で書いて見ました・・・途中からですが
以下、軽い設定

ヒロイン

明智良哉

左目を失う。両親を失ったも同然。
でも、狂えない。壊れれない。
お人よし。後、前回少しだけ我愛羅状態に成った

「俺に生きる実感をくれ!!」

的な感じで

主人公

高町なのは

作者が変換すると何故か『名の刃』と出る
泣いた。

近年稀に見る大泣きをした


フェイト・テスタロッサ

罵られたけど感謝している
M疑惑浮上?

アルフ

良哉に負い目があるけど、嫌い。
でも、主人の話を聞いて悩み中

クロノ

背中を見せた。チョット兄貴要素があるかもしれない


終り


たぶん、次ぐらいで無印が終わる。もしかしたら終わらないかもしれないけどその時はごめん
A、sに行く前に何か書くと思う
あと、エロって遣った方がええの?











[5159] ループの二ノ終
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:55
ごめんなさい

貴女の死を受け入れてしまって

ゴメンナサイ

貴方の命を終わらせる決断をしてしまった事に

御免なさい

貴方達の死に涙も流せない。親不孝な俺で




起きれば、感情の整理は出来ていなかった。出来ていたのは頭の整理だけだった。
発散しきれない感情を遣り込める為に身体を動かす。寝てばかりで、筋力の低下した身体は面白いくらいに短時間で悲鳴を上げ始めた。
腕が叫べば、腹筋へ
腹筋が叫べば、脚へ
それを繰り返し、体中が悲鳴を上げると。遣り切れなかったモノは落ち着いていた。リンディさんにはすまない事をしたと思う。子供好きで優しいあの人は、どうにか父を助ける事が出来ないかと考えていた。でも、俺は知っている。起きないのだと。植物状態の人間が起きる可能性は限りなく0に等しく、起きたとしても障害が残る。
母が死んだ時、父はその喪失感に耐え切れず。最後まで謝りながら自殺した。涙で濡れた、震えながら書いた筆跡で俺に謝りながら、友に頼みながら逝った。
知ってるが故に判断した。

哀しい、辛い。それでも涙が出ない
怖ろしい、判断し切れる落ち着いた頭が
憤りを感じる。全てが萎えてしまったかの様に、静かな心に

骨壷を抱えて、墓に入れる。
恐らく、自分は此処に入れないのだろうと思いながら

「良哉君・・・」

「すみません。リンディさん。何から何まで頼ってしまって・・・」

「良いのよ・・・私達にはコレくらいの事しか出来ない。」

墓所から移動する。コツコツと石段に響く足音が、耳に残る。左目に付けた眼帯に触れる。少しだけ暖かいソレが、落ち着きをくれる。

「良哉君・・・貴方を一時的にでも、この世界から遠ざける事を許してとは言わないわ。・・・でも、辛かったら頼って良いのよ? 貴方はまだ、子供なんだから」

優しい人だ。養父が惚れたのが解った気がする。

「・・・その時は、お願いします。ソレで・・・・・・此処から公園に向かう為の理由を、お聞きしても良いですか?」

渋い顔をするリンディさん。本当に御免なさい。

「・・・・・・貴方が付けている剣十字・・・ソレはね、デバイスと呼ばれる物なの」

気付かれた理由は、その形状と、二つのコアだ。通常のデバイスとは違うからこそ、相棒達が作られてから知られていた。約一世紀前の英雄の作った相棒。約一世紀あった時間。それが、相棒の事を気付かせた

「コレは、誕生日に母から貰ったものです。母は曽祖父から貰ったと言っていましたし、その曽祖父も、親友となったドイツ軍人から貰ったとの事です。これも母がそういってました。」

管理局としては、回収したいだろう。ミッドとベルカの両方を使い、数々の戦場で勝利を収めてきた英雄のデバイス。しかし、俺は相棒を失う訳には行かない。

「コレは・・・コレだけが・・・俺に残ったものです。誰にも渡したくないです。だから、俺を魔導士にしてください」

頭を下げる。既に魔導士と資質が在るのは向こうも知っている。

「・・・・・・貴方はソレで良いの? 私達管理局は貴方の様な高い資質を持つ魔導士の卵を歓迎するわ・・・でもね、それで良いの? お友達とも、余り遊べなくなるのよ? 局員になれば・・・沢山怖ろしい目に遭うかもしれない。」

「それでも、俺はコイツと共に在りたい。」

「・・・・・・先に左目の治療が先よ? 魔法を教えるのもそれから・・・それで、良いかしら?」

「ありがとう御座います」

(・・・・・・魔法を教えるのは、クロノに任せることにして・・・・私は・・・・・・この子の安心出来る場所を造ってあげないと・・・)

そのまま歩く。いつもなら、見向きもしない道を観ながら。いつもなら、興味さえ沸かない些細なモノを見ながら。



公園に着くと、高町とテスタロッサが喋っていたので、邪魔に成らない様にクロノさん達の所に向かった

「ひっぐ・・・あの子・・・いい子だねぇ・・・フェイトも・・・良かったぁ~」

アルフがガン泣きしていた。リンディさんは一足先にアースラへと戻っていった。気を使ってくれたのかもしれない。最低でも二ヶ月は戻ってこれない。住んでいた家の所有権や財産は俺のモノに成っている。最後に、冷蔵庫や食品類の処分を済ませたのが昨日だ。

「・・・良哉、君は・・・何か話さなくて良いのか?」

「一応、しばらくはミッドの方で治療するとは言いましたから・・・それに、あの二人の別れに一々、この左目の事を思い出させるのは・・・ね? ソレと、涙を拭いておけ、ほら。」

ハンカチを取り出して、アルフに差し出す。

「・・・・・・・・・アンタの事・・・許した訳じゃないけど・・・・・・今は借りとく」

苦笑が漏れる。クロノさんも少しだけ笑ってる

「クロノさん。あの事は・・・」

「大丈夫だよ。僕も艦長も誰にも言ってない。」

「・・・・・・ありがとう御座います」

「・・・・・・いや。君が言ったように・・・なのはが潰れてしまう可能性が高いからね・・・」

高町達の方に目を向けると、リボンの交換をしていた。ソレを観て、微笑ましいと思ってしまう。

「アンタ・・・・」

「ん? 」

「・・・良い奴なのか悪い奴なのか、良く解んない奴なんだね」

アルフが変な事を言ってる。何が言いたいのだろうか?

「・・・まぁ、取り合えず。時間だ。二人とも」

クロノさんの後に続く。
しかし、片目が無いだけで物凄く不便だ。遠近感が中々攫めない。歩いている最中、何も無い所で転びそうになる。今みたいに

「おっと」

転びそうに成ったのをアルフが腕を掴んで、防いでくれた。

「観ていてコッチがハラハラするね・・・掴まりな」

「いや・・・君は俺のことが嫌いなんだろ?」

「・・・・良く分からないんだよ・・・・感謝もしてるし、嫌いなのも変わらない」

「だったら、何故?」

「だから、観ててハラハラするって言っただろ!! 掴まるのか掴まらないのか、さあ、ドッチだい!!」

「・・・・・・手間をかける」

「最初っから、そうすれば良いんだよ!!」

グイッと手を引かれる。歩調も俺に合わせてくれているようだ・・・

(・・・ふぅ、如何やら、修復不可能と言う訳では無いみたいだな・・・・安心した)

何故か、クロノさんが安心したとでも言いたげに笑っている。何でだろうか?

「あ、明智君!!」

「なんだ? 高町」

「あの・・・その・・・ありがとう」

「? 礼を言われる理由が解らないんだが・・・・」

高町は、笑って言った

「私には在るの!! またね」

「・・・またな」

高町の言葉に、俺は簡単にかえした。いい加減にリンカーコアが痛いんだ。俺を見るなアルフ

光に包まれ、アースラに戻る

テスタロッサとは直ぐに別れた。リンカーコアの疼きが原因だ。この事はテスタロッサには言ってあるので、失礼はしていないと思う。

与えられた部屋では無く、デバイスの整備などをしている部屋に向かう。
今は、技術者の話が聞きたい

足りないのならば他から持ってくればいい。

「すみません。デバイスの事で聞きたい事が有るんですが・・・」

「何かな? 」



まだまだ、問題はある。管理局員にすら成って居ないこの身では、情報を調べる事すら難しい。
何もかもが足りない。
俺はまだ、スタートラインに立ててすら無いのかもしれないのだから・・・





――――――――――――――――――――――――――――――――

無印終り? A,Sにはまだ入れない。
こんな所かな?
たぶん、呼んでる人は今回なんで、技術者に聞きたい事が在るのか解るとおもう。



[5159] ループの二・五ノ一
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:55
その発想は無かった

この考えだけは思いつかなかった・・・いや、知識が在るからコソ気付かなかったのかもしれない

発端は、あの子。
少し前に起こった、ロストロギアを巡る争いの被害者。黒い髪に黒い瞳、異様に似合っていない眼帯。でも、その眼帯が痛々しいとは思えない。
原因は眼だ。年にそぐわない、落ち着いた瞳。自分より年上の人と話している様な気分になる。
日記を書いている今でさえ、鮮明に思い出せる。
昼食を食べた後、コーヒーで一休みをしている時にあの子は来た。質問が有ると言って。
質問とはデバイスに付いての事だった。私はソレを聴いて少し安心した。
落ち込んでる人間に、私は掛ける言葉を持たない。失った事の無い人間に、失ってした人に対して掛ける言葉など無い。余計に、相手の心を締め付けてしまうかも知れないから。

私が予想した質問は、デバイスの形状や、形態などの、男の子が好きな事だろうと思った。
結果は大外れ。
彼は単刀直入に聞いてきた

「デバイスはこういう風に使えないか?」

と、その言葉に戦慄した。怖ろしいと思った。でも面白いと心が叫んだ
今までに、自分が考えた事も無かった事
自分の周りには無かった発想
彼は、その場で一枚の紙に筆を滑らせ、自分の名前を書き。ソレが自分の書いた物であるという証明に、血判を押した。
こんな人間に出会った事が無かった。今まで生きてきた十八年間で、只の一度も・・・
私は直ぐに他の技術者に連絡を取った。既に構想は決っている。
後は、ソレを作り上げるだけだ。
既に彼から相談を受けて三日たった今に、三日前の事を書いている。不思議な事に眠く無い。寧ろ清々しい。徹夜の心地よさを始めて感じた。
造れる、作り上げる。新しいモノを作り上げられる。
彼に感謝しよう。彼は面白く、素晴らしく、怖ろしい。
これから、長い付き合いに成りそうだ

                                                   ~~~~ファラリス・アテンザの日記より抜粋





病院とは退屈な物だ。それは、何処でも変わらない。待ち時間が長い。
唯一の救いは、同行者がクロノさんという事だろう。
俺は、左目の治療の為に週に一回は検査をしなければいけない。その時、保護者としてクロノさんか、武装隊の人が付いてきてくれる。之はありがたい。自分の知りたい事が知れる。現在のミッドの状況などだ
一応、俺の通う病院もミッドなのだが。アースラからの転送で移動しているので、自分で確認する術が無い。

「それじゃあ、やっぱり地上の方が手薄に成るんじゃないんですか?」

「そうだ・・・管理局全体に言える事だが、人材不足が一番の問題なんだ。陸でも海でも犯罪者のレベルが年々上がってきているし、質量兵器の密輸も多くなっている。その分検挙率も上がっているんだが・・・前年度と比べれば、犯罪は増えている。」

「・・・・・・大変ですね・・・それなら、少し無理をしてでも陸の方を強化した方が良いんじゃないんですか?」

「そうも行かないのが現状なんだ。海と陸は仲が悪い・・・・・・と言っても、ソレは上の連中なんだ。しかも、下らない僻みや嫉妬が多分に混じっているから・・・な」

「・・・・・・・・本当に、大人のやる事なんですかね?」

「・・・・・・さぁね。之ばかりは上に行かなければ解らないよ。昼はどうする? 実は美味い定食屋が近くに有るんだ」

「・・・ゴチに成ります」

「それじゃあ、行くか? 魔法の訓練・・・というか、基礎知識の勉強の方は夕方にしよう」


定食は美味かった。何処か日本食と似ていて・・・




「それじゃあ、今日はテストだ」

その一言にちょっと絶望。
現在、俺はクロノさんに魔法を教えてもらっている。正確にはその理論。今の不安定なリンカーコアで魔法の訓練をすれば、リンカーコアの成長を妨げ。安定するまでの時間が伸びると判断したからだ。
今やっているのは、学校(ミッドの)で習う魔法(シールド等)の理論を拠り深く知る事とソレを理解し応用する事だ。理論を理解していれば、ソレはより正しく発揮される。知っていけば、どう構成すれば魔力を無駄なく、より少ない量で発動出来るかが解る。
実際に、如何に少ない量で魔法を行使できるかは知っている。知らなければ大怪我をしていた場面が数多く在る。俺に取っては復習の意味もあるこの授業は、とても楽しい物だ。新たな一面を垣間見れる事も、授業を楽しみに出来る一因と成っている。
何より、クロノさんの説明は解り易い。クロノさん曰く、俺はクロノさんに近いタイプらしい。つまり、感覚で魔法を使うのではなく。理論を理解して使うタイプ。
高町達とは違う。成長は遅いが、少しずつ堅実に強くなるタイプなんだと・・・

うん・・・話しを逸らしていたけど。クロノさんはスパルタなんだ

「あの・・・・・・之って本当に、俺みたいなレベルの見習い? がやるテストなんですか?」

「大丈夫だ。今までの事をチャンと覚えているのなら出来る。合格点は・・・・そうだな。八割以上だな・・・以下なら・・・正解率の低い部分を重点的に補修する。さあ、始めるぞ・・・」

いや、法律の所とかやったの十日以上前じゃ無かったっけ?







「時間だ・・・僕は採点してくるから・・・今日はもう終りだな。」

「は・・・い・・・」

頭が痛い・・・絶対に俺がやるレベルの問題じゃない・・・こんなに頭が痛く成ったのは、提督補佐の資格を取った時ぐらいじゃないか?

「それじゃ、お休み。」

「・・・お休みなさい。クロノさん」

そう言って、クロノさんは部屋から出て行った。シャワーを浴びて、ベッドに横に成る。

「・・・シュベルト」

(何でしょうか? 主)

「俺ってさ・・・ミッド式の才能ないな」

実際に無い。ミッドもベルカも使えるが、俺は近接専門のベルカ寄りだ。砲撃なぞ夢のまた夢。

(しかた在りません。前主もベルカの方が得意でしたし、その為のクロイツです。)

「・・・・・・ソレはそう何だが・・・」

(寧ろ、前主が規格外だったのだと思われます。主が気にする程の事では有りません。戦闘技術ならば、私に蓄えられた情報が在ります。今は、地道に経験を積み、身体を慣らせましょう。)

そう、言われるとぐぅの音も出ない。

(今は、休息を取るのも訓練だと思いましょう。主の成長の妨げに成らぬように・・・)

「そうだな・・・お休み。シュベルト、クロイツ」

(お休みなさいませ。主)








side クロノ・ハラオウン

回答に○と×を着けていく。 もくもくと着けていく。
彼の・・・良哉に魔法やミッドを含めた常識・法律などを教え始めてもう直ぐで一ヶ月が経つ。
ふと、思い返してみれば意外なほどに楽しい事に気が付いた。

(・・・・・・まぁ、僕と似たタイプだからなぁ)

良哉に魔法を教える事を決めたのは、母に頼まれたというのも在るが。自分が教えたかったというのも在る。過去の自分を良哉に投影しているのも自覚している。
だが、良哉が自分よりも強い事(精神的に)が解ると余計に熱が入ってしまう。自分でもスパルタだなとは思っている。
ついこの間、母とエイミィにも言われたばかりだ。だが、自重しようとは思わない。
良哉は質問してくる。より効果的に使うにはどうすれば良いか? どうすれば、もっと魔力を少なく、元の力を保ったまま発動させる事が出来るのか。

嘗ては、自分も考えた。試した。失敗もした。そんな事を聞いてくる。
それが、堪らなく楽しい。
よく考えれば、年の近い同性と一緒に居るのは中々無い事だった。友達と呼べる間柄に近いのかもしれない。それよりも、年の近い弟が出来たような感覚の方が少し強い。

筆を動かす。

さて、そろそろ現実を見よう

「・・・・・・・九十二点」

良哉は勤勉だ。家庭教師の真似事をしているから良く分かる。予習も復習もするし、理解力も在る方だと思うが・・・・・・

「之は・・・報告だな」

近々、僕の記録は抜かれるかも知れない。少し悔しいが、嬉しい。



「あら? どうかしたの? クロノ」

個人的には飲みたくないお茶を啜りながら、艦長は言った。どうして、あんな物を美味しそうに飲めるのだろうか? 正直な所、実の母の味覚を疑う

「之を見てください」

先程採点した、テストを見せる。僕の予想が正しければ・・・・・・

「・・・・・・ん? 」

(眼を擦る)

「・・・・・・・」

(お茶に砂糖を足す)

「・・・・・・・」

(序でにミルクも足す)

「・・・・・・エイミィ」

(一気にお茶を飲む)

「何でしょうか? 艦長」

「之を見て、貴女の感想を教えて」

「之って・・・テストですか? もしかして、物凄く悪いとか?」

冗談ぽくそう言って、僕を見るエイミィ。

「見てから言ってくれ。」

「はいはい、解ってるよ~だ。どれどれ・・・おっ九十二点。なんだ、良哉君って結構やるじゃん。さてさて、問題の方は・・・・・・・・・?」

コメカミを軽く揉んで、口を開くエイミィ

「・・・・・・クロノ君。之ってさぁ・・・去年の執務官試験の問題じゃないのかな?」

「その通りだ。」

胸を張って答えてやる。

「・・・・・・艦長・・・・良哉君って管理局に入るんですよね?」

「そうねぇ。一応、リンカーコアが安定するまで嘱託魔導士として登録してるけど。コアが安定したら、そうなるわね。」

「・・・・・・クロノ君。一つ聞いて良いかな?」

「どうしたんだエイミィ? 不安そうな顔をして・・・・・・体調が悪いなら休んだ方が良いぞ?」

「あの・・・・・・私って執務官補佐、クビ?」

「? 何を言ってるんだ君は?」

エイミィ・リミエッタ。職の心配をする十六歳である。




side リンディ・ハラオウン

頭が痛い。本来ならば嬉しい事なのだが、頭が痛く成った。

「・・・本当に、どうしようかしら」

愛息子であるクロノが出て行ってから、その事で頭がいっぱいだ。

「あの子はまだ、十歳よ?」

そんな子が既に、執務官に成れる位の知識を持っている。

「家族を失ったばかりの子に、この道を進められる?」

一つの艦に執務官を二人は置けない。クロノはまだ真面目過ぎる所が在り、交渉等には不安が残る。

「之で、戦闘能力も高かったら・・・・・・」

彼に、この道を勧めなくてはいけない。管理局員として

「・・・・・・クロノ・・・貴方もやり過ぎよ」

珍しいと感じられる程に、楽しそうに授業をする息子の姿とその授業を楽しそうに受ける少年に、微笑ましい物感じるが。結果が良すぎる。

「あぁ・・・・・・本当にどうしようかしら・・・・・・グレアム提督に相談しようかしら? なのはさんや、フェイトさんと一緒に合わせてみて・・・・・・」

保護した少年の複雑な環境をまだ整え終わっていない。あの子が安心出来る居場所を造れていない

「・・・・・・リンカーコアが安定してないから、まだチャンと話しが出来ないし・・・」

お茶に砂糖を足す

「・・・・・・フェイトさんの方は、実質無罪で押していける事は確実だから良いのだけれど」

彼の立場はそれなりに複雑だ。高ランク魔導師の卵、ロストロギアの一方的な被害者。之だけなら、まだ良かったが。今回は、管理局の失態が在った。

(もっと早く、ご両親に連絡が取れれば・・・・)

運が悪かったというのも在る。少々急でもすぐさまご両親を見つけ出していれば・・・

(・・・本当にどうしようかしら)

管理局全体の問題である人材不足。手元に何人もの高ランク魔導士は置いて置けない現状では、陸からの催促もある。

(・・・・・・困った事になったわ)

せめて、彼が戦闘に関しての技術力がまだ、現場に出せないぐらいの物で在って欲しいと願うしかない

「・・・・・・戦闘に関しては・・・まだ先の事に成るだろうから・・・何とか、打開策を考えないと・・・」

まだまだ、仕事も考える事も沢山ある。私はお茶を一口飲み。手元の書類に目を通す事にした






――――――――――――――――――――――――――――――

簡単な人物設定


クロノ・ハラオウン(ヒーロー)

最近、良哉が可愛くてしかたない。(弟的な意味で)
ヒロイン(良哉)に家庭教師みたいな事をしている
フェイトの裁判にの事でも忙しいらしい

明智良哉(ヒロイン)

無駄に勉強した過去(提督補佐)が在った為、周囲に誤解を撒き散らしている
自分で自分の首を絞めているかも知れない。ざまぁ
クロノと一緒に居る時が、一番の安全

エイミィ・リミエッタ

職の危機に瀕している。

リンディ・ハラオウン

ヒロインの事情で頭を悩ましている
養子に取ろうと思っているが・・・どうなるやら
ヒロインのリンカーコアを刺激しないように自重中
でも、病院に行く。その時はリミッターを掛けている。
でも、常時掛けて置くと緊急時に問題が起こる為、艦に居る時は外して居なくてはいけない。


ファラリス・アテンザ

オリキャラ
技術者。整備も出来る。当たり前だが
心のマッドな部分を刺激された
マリエル・アテンザの姉?

終り

何だか混乱させてしまったようで、すみません。
しかし、チラシの裏・・・なんと素晴らしい所だ・・・とらハ版に移さなくてすむ。
いや、もう、恐くて怖くて・・・・




[5159] ループの二・五ノ二
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:55
デバイスが完成した。否、之をデバイスと呼んで良いのだろうか?
AIは有る。補助も出来る。整備もしなくてはいけない。だが、用途が違う。どんな、技術者も之を見てデバイスとは解らないだろう。
苦節、四十と八日。医療局員と私、ソレと他の技術者の作り出した。努力と知恵の結晶。
今も、私とモニター越しだが三人で彼のカルテを見ている。彼が通うミッドの病院で、彼の担当をしている主治医も製作者の中に入っている。
血液検査、視神経への接続、細菌等への対策。デバイスの整備。
見直す。何度も見直して、しつこい位に話し合い。指摘し改善する。
医療に関わる者は、新たなる治療への試みの為に心血を注ぐ
技術に関わる者は、新たなる可能性を見出し心血を注ぐ
そして、私は…





いつも通りの時間にアースラで検査を受ける。
何故だか最近、誰かに見られている気がする…気のせいだと思うのだが…
検査と言ってもリンカーコアのだ。どれ程安定したのか、どれくらい不安定なのか、ソレを調べるだけ。他にも、長い時間負荷を受けていた為に障害が出ていないかを調べているらしい。結果は良好
普段は、クロノさんという高ランク魔導士と一緒に居る事が多いので、その影響が出ていないかを調べている

「あの、それでどう何でしょうか?」

「う~ん……何て言うか、デタラメだね。」

「デタラメ?」

「うん。君がクロノ執務官と一緒に居ても大丈夫なのは、簡単に言えば魔力の親和性の問題なんだよ」

「親和性?相性が良いって事ですか?」

「そういう事。一応、他の魔導士の人との親和性を調べてみたんだけどね。」

と、言う事は俺と高町の相性はかなり悪かったのか

「でも、それがオカシイんだよ。」

「?」

「こう言っちゃ何だけど。君と一番相性が良いのは、高町なのはちゃん何だよ。之が」

は?

「クロノ執務官は三番目だね。二番目はリンディ提督。ほら、オカシイだろ? 」

どういう事なのだろうか?

「……恐らく、親和性が高すぎたんだろうね。二人は…だから、普通より負荷が掛っても気が付かなくて、気が付いた時は負荷が掛り過ぎた状態に成ったんだね。一応、そおいう仮説は出来たんだけど…」

「はぁ…」

「まぁ、之くらいかな。あと、ファラリスさんが検査が終わったら来る様にって言ってたよ? 何かやらかしたのかい?」

「いえ、ちょっとデバイスについて話を聞いたりしてただけですけど?」

「まあ、とりあえず。行って来な。検査も終り。結果はクロノ執務官かリンディ艦長に報告しておくから、後で聞くようにね。」

「はい、ありがとう御座いました」





side クロノ・ハラオウン

唖然とした。訓練室で倒れている武装隊員に駆け寄る。彼は確かミッド式だが近接を得意としていた筈だ。Aランクのベテラン。彼からアドバイスを貰った事も有る。故に、彼が荒い息をついて横に成っている状況が理解できなかった。

「おい!! どうしたんだ!!」

「おっ、執務官……どうしたもこうしたも、あの坊主の訓練に付き合ったらボロ負けしまして…」

「坊主? 良哉か?!」

有り得ない。体格差・経験・膂力。どれを取っても良哉が勝てる要素が少なすぎる。

「……はは、恥ずかしい事ですが。俺も年かなぁ…どう思います? 十歳の子供に魔法を使わずに負ける二十八って……マリアに何て言おう。ヨワッチィ、パパなんて嫌いなんて言われたらどうしよう」

「いや、君の娘の事は良いから。どんな状況でやったんだ? 良哉は左目が無いんだぞ?!」

僕の言葉に彼…ルーダー・アドベルトは、オドケタ表情を引っ込めて言った

「執務官。ありゃ、とんだ狸だ。自分の左目が見えない事さえ勝つ為の策にしてやがる。何よりも、あの槍捌き。ベルカ式の使いとは昔戦った事が在りますが…あの年であんだけ使えるんなら、直ぐにでも隊に欲しい腕前です。データを後で渡すんで観てください、ありゃ、異常だ。」

僕は何も言えなかった。彼は弱くは無い。僕よりも戦闘経験の多い魔導士だ。戦って負ける事はないが時間は掛る。之は絶対だ。そんな彼を、魔法を使わない純粋な肉弾戦で打ち負かすなど…





side out

身体を動かした後なので、気持ちが良い。左目の眼帯に触れるとまだ少し違和感が在る。それでも、戻った左の視界に心が弾む。

失った左目の代わりに、俺は一つのデバイスを作ってもらう事にした。
勿論、脅迫をしたわけではない。少し、魅力的な結果をチラつかせただけだ。それも、実現するかどうかも解らない結果を
結果は成功。これからは、現在、俺の左目の中に納まっている物を改良、調整して更に良い物が造られていくだろう。
その代わりに、俺は絶対に呼び出しを喰らう。主にリンディさんに。

(主…何故、眼帯を取らないのですか?)

(之は必要だよ? シュベルト。この左目は俺の弱点だ。普通ならな。)

左目が見えない敵に、普通ならどう攻撃する?
当たり前の様に死角を突く

(この左目の眼帯は、嫌でも相手の思考の中に弱点として入り込む)

(……主)

(なんだ?シュベルト)

(性質が悪いです)

(今更だな)

上機嫌で部屋に戻る。余り言いたくは無いが、やはりアースラの部屋よりも自分の家の方が良い。
ミッドの病院の方でも、問題は無いと言われたので後少しすれば家に戻れる。
俺と両親の思い出の詰まった家に…

シャワーを浴び、汗を流す。リンカーコアも大分安定している。
之でもう、リンカーコアの痛みに悩まされずに済むと思うと、やはり嬉しくなる。
髪を拭きながら戻ると、突然ドアが開いた

「あの………御免なさい!!」

カシュンとドアが閉まった。……パンツ履いてるから、別に構わないんだが…




side フェイト・テスタロッサ

ドアを開けると、下着一枚の良哉が居た。

「ど、どうしたんだい? フェイト? お礼を言うんじゃなかったの?」

「……あの、僕も謝罪をしたいんだけど……何でドアを閉めたの」

「……は、裸だった。見ちゃった。見ちゃったよぉ……アルフゥ、私嫌われちゃったかも」

嫌われたかも知れない。どうしよう……なのは見たいに友達に成りたかったのに

「おーい、入っても良いぞ。」

「ほら、入ろうよフェイト」

「で、でもぉ」

「大丈夫だよ。僕も男の子だけど、裸を見られた位なら平気だよ?」

ユーノはそうかもしれないけど…

「ほら、男のユーノがそう言ってるんだから、入ろうよフェイト」

「う、うん。失礼します」




―――――――――――――――――――――――――――――――
今回は、此処で終り。
次回、ユーノが出張るかもしれない

人物紹介

オリキャラ

ルーダー・アドベルト

おっさん。子持ち、親馬鹿
何処か、漢臭の濃い男
最近、五歳になる娘が、一緒に風呂に入ってくれないので悩んでいる
ミッド式Aランク
アースラ武装隊員。序でに隊長。兄が居るらしい



[5159] ループの二・五ノ三
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/04 03:45
恐い

恐い

フェイトにはああ言ったけど、正直な所もう少し時間が欲しかった。
彼の左目を失う原因を作ったのは僕だ
独りで回収しようなんて思わずに、直ぐに管理局やスクライアに連絡しなかった僕の責任だ。
なのはが落ち込み、心に傷を負ったのも僕の責任だ。

恐い

怖ろしい

覚悟はしていた筈だった。でも、いざとなると足が竦んでしまう。震えてしまう。
強く握り締めた拳が痛い。
彼は憎悪の瞳で僕を見るのだろうか
彼は憤怒を込めて僕を見るのだろうか

謝っても、僕の罪は拭われない。
謝っても、僕を許せる筈がない

殴られるだろうか?
それなら、喜んで殴られよう

彼と同じように、左目を抉られるだろうか?
それなら、僕は喜んで左目を差し出そう

でも、彼は僕が予想していたどんな罰よりも重く、酷い罰を僕に渡した






突然の訪問に驚いたが、見ない顔が居たので直ぐに落ち着くことが出来た。
自己紹介もそこそこに、お互いの紹介をしたが。
正直な話。気分が萎えた。

「あの、今日はお礼を言おうと思って…」

テスタロッサの義理堅い発言に、心が痛む。

アレはそんなモノじゃない。俺が俺の理由で喚き散らした八つ当たりだ

「…いや、あの時は俺も言いすぎた。礼は要らない、それと…すまなかった」

頭を下げる。ケジメは付ける。

「良いよ。リョウヤがああ言ってくれなかったら、私は前を向けなかった。お互い様だよ…私も傷の近くを叩いちゃったし」

「そうしてくれると有り難い。」

「それとね…コッチがユーノ。話しが在るんだって」

フェイトとアルフの後ろに居た、何処か地味な印象を受ける少年が前にでて頭を下げた。

「この度は、君の左目の事を含めて、君の世界の平穏を乱してしまってスミマセンでした!!」

ユーノ・スクライア、俺からすれば彼もまた被害者だ。俺は彼にソレ位の価値しか見出せない。俺は、それほど彼の事を知らないし、知る機会も無かった。無限図書の司書長で嘗ての養父の上司だった事ぐらいしか知らない。
個人のつながりも無かったし、俺が知って居る事といえば高町に片思いしていた事ぐらいだ。結構有名だったなぁ

「…君の事を含め今回の事は、全部事故だ。君が気にする必要は無いとは言い切れないが、改善点は見つかったんだろう? 自分の行動に後悔したんだろう? それなら、この次からこういった事が無いようにしてくれればソレで良い」

「それでも…僕は、取り返しの付かない事を…」

コイツもか? 

「高町にも言ったんだが、お前等は神にでも成ったつもりか? 自分がちゃんとしていれば、全てが救える、助けられるとでも思っているのか? 謝罪は受け取ろう。でもそれだけだ、俺は君の自己満足の為の謝罪をこれ以上聴く気も無いし受ける気にも成らない」

どうも、俺の周りには良い子が多い

「それに、先に言った通り。俺は君に対して怒りも恨みも持っていない。クロノさんに聞いたぞ? 治療魔法で手伝ってくれてたんだろう? 医療局員の人は君が手伝ってくれなかったら、脳に障害が残ったかも知れないと言っていたよ。君には感謝してる。頭を上げてくれ」

「…君は「何をしている。ユーノ・スクライア」…クロノ?」

クロノさんが、部屋に入ってきた。急いでいたのだろうか? 少し息が荒い

「どうしたんですか? クロノさん」

「どうしたもこうしたもないだろう!! 大丈夫なのか?」

あぁ、そうか

「大丈夫ですよ。整理は付いてます。付いてしまいました…俺にはソレしか言えないです」

「……そうか、僕の方こそすまない。君の部屋に淫獣が居ると知って、急いで駆けつけてきたんだ。」

「誰が淫獣だ!! アレは事故だったんだ!!」

「インジュウ? アルフ、クロノは何を言っているの?」

「フェイト、離れて!! リョウヤのほうに移動するんだよ!!」

何をやったんだユーノ・スクライア? 

「セクハラでもしたのか? スクライア」

「覗きだ。しかも、変身魔法を使い小動物になって、年端も行かない少女から妙齢の女性の風呂を除いていた」

クロノさんが力説する。うわぁ、コイツそんな変態だったのか…俺と同じ年の癖してすすんでるなぁ

「だから、アレはなのはが無理やり!! 「ユーノって…」なんで、そこで距離を取るのさぁ!!」

テスタロッサ、変態が恐いのは解ったから近寄るな。大分マシに成ったとはいえ、リンカーコアが痛いんだ。

「……フェイト、もう少し向こうに行って(之で少し許してやるよ、リョウヤ)」

なっ!! アルフ!!

「リョウヤ…あの、リンカーコアは大丈夫?」

「あ、あぁ。大分良くなったから、平気だ。」

ニヤリと笑うアルフ。くっ…お前を少し侮っていた。だが、甘んじて受けてやろう。

とりあえず、スクライアが叫び、無罪を主張し。クロノさんが如何に有罪であるかを主張する
良く見れば、必死なスクライアに対してクロノさんは何処か楽しそうにしている。

(スクライア……遊ばれている事に気付け)

「あ、あの」

「なんだ? テスタロッサ」

「えと、その…さっきは御免なさい」

「? ああ、アレぐらいで怒る事は無い。気にするな。」

「良哉」

どうやら、スクライアは力尽きたらしい。

「はい?」

「一つ報告が有る。君の世界…地球に帰るのが少しばかり遅れる。それと、後で話しが在るので覚悟しておけ」

……来た

「…はい」

「フェイト、アルフ。君達にも話しがある。僕に着いて来てくれ。ユーノ、寝るなら帰れ」

「き、君は。本当にムカつくね!!」

「大丈夫だ、僕は君が大嫌いだから」

「僕もだよ!!」

一時の騒がしい時間が終り。俺は説教タイムまでの時間を待つ事にした。





フェイトとアルフを連れて、僕は母さん…艦長の元へと向かった。
全ては、この映像ディスクに記録されてる。短い映像。
フェイトとアルフを連れて行くのは、二人の意見を聞きたいからだ

「艦長」

「どうしたのクロノ? フェイトさんやアルフさんまで連れて」

「良哉の戦闘記録です…三分も有りませんが」

「…流して頂戴」

画面に映る、二人。
方や大人。方や子供。
共通しているのは、長い棒を持っている事のみ。
武装隊の訓練用の物だ。他に何種類かある。魔法を使えるからと云っても、肉体を鍛えるのは当たり前だ。
之だけを見れば、子供が大人に勝てる筈も無い。
リーチが違う。膂力が違う。体力に差が有り過ぎる

それは、何気ない会話から始まった。

『本当に良いのか? 』

『了承したのは貴方ですよ? 勿論、本気で来て下さい。左を狙う事を含めて』

『おいおい、それじゃあ弱いもの虐めに成っちまうだろうが…娘に嫌われちまう』

『ソレを理由にするつもりですか? 負けた時の』

『……坊主、おじさんを怒らせると恐いぞ?』

『いえいえ、娘さんに嫌われる未来が確定してる人の、何処を恐がれと? 家に帰ったら娘さんに言われますよ? 弱いパパなんて嫌いなんて』

『坊主…泣いてもシラネェからな!!』

ルーダーの力強い踏み込み、左上段から迫る攻撃。

スピードも威力も申し分の無い一撃だ。僕はそう思う。魔法無しの純粋な肉弾戦。
持っている武具は、衝撃吸収材などを使っている物だが当れば痛い。

その一撃に、良哉は棒を添えて流した。
棒の片方を床に付け支えている。
良哉の身体は屈められており、ルーダーの攻撃を受け流し始めた瞬間には、前に出ていた。
伸ばされたルーダーの右腕を流れるように進む攻撃が、顎を捉える。ルーダーの身体の外側に一歩踏み出す様な一歩。二歩目で腕の内側に、其処からの攻撃。
腕が戻らぬように、添えて流した一撃。
確実に急所を捉えている。

(こんなにも簡単に終わるのか?)

僕はそう思った。
でも違った。
顎を打ち据えた一撃は回転して、右のわき腹へ

ルーダーの身体が沈む。

でも、終わらない。

脇から打ち下ろされる一撃が、足の甲を打ち。

跳ね上がった棒が、再び顎を打ち挙げる。

その侭仰け反りそうに成った身体に、打ち下ろしが再び入る。

接近しすぎた状態の二人。之で今度こそ終わったと僕は思った。

その状態で、良哉はアッパーを繰り出した。

二人の身長差から当る所は言いたくない。思わず内股になってしまう。

其の侭屈もうとするルーダーに、容赦の無い追い討ち。屈もうとした瞬間に良哉は外に一歩前進し、棒を振るい後頭部を殴打。

其の侭倒れる。ルーダーに近寄り、腰を数回叩いてから。礼を言うと部屋を退室した



「……容赦がないわね」

「ですが、今の彼の体力を考えれば妥当です。軽い一撃を補う為の急所を狙う連撃は・・・特にあそこは・・・」

「クロノ…内股に成ってるわよ?」

アレは男にしかわからないんだ

「アルフ…なんで、クロノは内股に成って冷や汗をかいてるの?」

「あ、ははは…男の子にはイロイロあるんだよフェイト。…それにしても、アイツって結構エグイねぇ」

「…確かにそうだが。僕は正しいと思う。軽い挑発から情報収集。其処から更に挑発して冷静な判断を出来ないようにして、初撃を誘導してからの連撃による短期決戦。」

「…之で魔法まで使われたら堪ったもんじゃないねぇ。どんな魔法を使うかは知らないけど…でも、フェイトには勝てないよ♪ ねっフェイト」

「うん。負ける気はしないけど…戦ってみたいなぁ」

こうして、彼の死亡フラグは立っていくのである




「それと、彼を地球に送るのが遅れる事は伝えてきました。」

「そう、それなら…もう休みなさい。到着は明日になるわ」

「はい。」

「それと、フェイトさん達は残ってね。チョットお話しが在るから。」

「「?」」




僕は、自室に戻る。今日の説教は無しだ。

「それにしても」

気が重い。良哉を送り出す時ぐらいは、良い気持ちで送り出したかったのだが・・・

「指名手配犯に…魔導士が五人程か…もう少し多めに見ても良いな」

手元の書類に目を通して溜め息を付く

もしも、武装隊員と僕で手が足りない場合は彼等に手伝って貰わないかもしれない。
良哉には防御と捕縛を中心に教えたが…攻撃は殆ど教えていない。彼のデバイスがベルカ式で教えますと云っていたからだ。しかし、ブレイクインパルスぐらいは教えておくべきだったか?

「侭成らないな…本当に」

――――――――――――――――――――――――――――――――

ヒロイン、おっさんをフルボッコ

戦闘描写は苦手だけど頑張った…結果は見ての通りorz


人物設定

クロノ・ハラオウン

ユーノが嫌いというか気が合わない。

「良哉は俺の嫁(弟的な意味で)」

ユーノ・スクライヤ

クロノが嫌い。無実ではないと思う
良い子。なのはと同じぐらい。

ドロボウネコ?

「良哉は僕が貰う!!」


おわり?


そろそろ、死亡フラグが…多分作者の振るうイエス・ノー、サイコロしだい
過去編? つまりは、教師時代の事や、VSゼストあたりを書こうかと考える。
何時になるかは解らない。



[5159] ループの二・五ノ四
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:53
自分勝手な理由だとは分かっている

好きなだけ恨んでくれて、呪ってくれ良いから

死んでくれ









朝、寝汗の気持ち悪さで起きた。

「…気持ち悪い……シャワー浴びよう」

熱いお湯が身体を流れる。眠気が覚めて、意識がハッキリする。髪を拭きながら歯を磨く。鏡に映った自分の顔に苦笑が漏れた

(デバイスの色とは解っているんだが…)

左の紅い瞳が爛々と光っている。義眼を模したデバイス。名前をラプラスと言う…付けたのはファラリスさんだが、途轍もない皮肉だと思う。俺は前知魔では無いんだがなぁ

(主、食事の時間です。今の時間ならばクロノさんと一緒できますよ?)

「サンキュー、シュベルト。それじゃあ、行こうか」

シュベルト・クロイツを首にかけ、部屋を出た。食堂に向かう。擦れ違う局員が俺の顔を凝視するが、気にする程の事でもない。眼帯がそんなに珍しいのだろうか?
食堂でAセットを頼み、席に座るとクロノさんがBセットを持って隣に座った。

「おはよう」

「おはよう御座います。クロノさん」

何時の間に来たのだろうか? 些細な事なので気にするほどでもないか…

「良哉、食べながらで良いから聴いてくれ」

「はい」

「今日、これから丁度三時間後に僕と武装隊は出動する事に成った」

「……事件ですか?」

「ああ。指名手配犯が一人にフリーの魔導士が五人。実際にはまだ居るかもしれないがな。それと、質量兵器で武装した人間が十二人。」

「反管理局組織のメンバーですか……」

「その通りだ。この間、授業で教えたと思うが…管理局は大きい組織だ。随ってソレが気に入らない・主義主張が合わない人間は多く居る。」

「大変ですね……でも、武装隊はどれ位連れて行くんですか? 全員は多いから二十ぐらいですか?」

「全員だ。」

「全員って…ロストロギアでも持って…いるんですね。」

「序でに、人質が十七にんだとよ」

ガチャンと音を立てて食器を置いて、ルーダーさんが座った

「おはよう御座います。ルーダーさん」

「おう。執務官殿もおはよう」

「おはよう、ルーダー二等海尉。それで、準備は?」

クロノさんがルーダーさんに聞く

「もう終わりましたけどね……P・T事件で負傷した奴等の変わりに新人を入れたでしょう。それがねぇ」

「何か在ったんですか?」

顰めっ面に成ったルーダーさんは、頭を掻きながら言った

「新人の中によぉ、自分達が負けるはず無いと思ってる奴がいてよぉ。まぁ、今回来た新人共は根っからのエリートだから仕方ないちゃ、仕方ないんだが…その中でも正義は必ず勝つとか言ってんのが一人居るんだよ。其処ん所どう思うよ坊主?」

「……一番に死ぬか逃げ出すか、使えなく成るんじゃ無いですか?言い方が悪いかも知れないですけど……クロノさん?」

昔の俺でも死ぬ可能性は考えて、覚悟はしていたんだけど……

「確かに、言い方は悪いが……ソイツは危ないな。ルーダー、今回向こうはロストロギアを持っている。資料はさっき渡したと思うんだが…説明したのか?」

「しましたよ。今回は向こうの出方に因っては逮捕ではなく。殺傷も在り得るって事はっと、すまんな坊主。お前に聞かせる事じゃ無かったな」

「いえ…多分関係在りますよ?」

「その通りだ。これから聴こうと思っていたんだが……もしかしたら、君とフェイトに応援を頼むかもしれない。その為、シュベルトには現在、良哉が使える魔法を教えて欲しい。」

『電子資料で宜しいのなら、後で端末に送っておきます。その話しからすると、ソレを観てから正式に頼むという事ですね?』

「その通りだ……勿論、良哉達に頼まなくても良いようにするつもりだし。したとしても、武装隊の方に回ってもらう。ルーダーの指揮が在るなら被害は殆ど無いだろうしな」

「この坊主を出すんですか?! いや…まぁ…そこら辺の奴等…というか新人より使えそうなんで、コッチとしては願ったり叶ったりなんですけど…責任重いなぁ」






朝食の後、トレーニングルームで柔軟と軽い運動をして時間を潰す。
途中でテスタロッサとアルフが来たので、一緒に身体を動かす。
身体は大分、柔らかく成った。筋肉も同年代では付いてはいる方だろう。昨日の訓練で使った棒を使う。昔を思い出しながら、確認するように振るう。
ゆっくり、ゆっくりと振るう。
思い出す。随分と昔の少し先の未来。自分の右肩を抉った銃弾。切り落とした犯罪者の腕。仲間の悲鳴を聞いた事。
皆、皆。全てが糧になる。思い出す、思い出せる戦いの記憶が選択肢をくれる。

(今の俺は…弱い)

ブン

(今の俺は…強い)

ブン

「勝てるかなぁ…シュベルト?」

(主が望むなら…)

相棒の声に不安が無くなる。本当に、自分には勿体無い相棒だ

「良い子だね…リョウヤのデバイスは」

「…俺には勿体無いぐらいにな」

『ありがとう御座います。テスタロッサ』

「フェイトで良いよ? リョウヤも」

簡単な会話だが、之でも頑張っているほうだ。高町と強い繋がりがあるテスタロッサ…未来の姿を知っている為、やはり苦手意識がある。
そんな時だ、警報が鳴ったのは

「!! 急ぐぞ」

「うん!!」

艦長室に急ぐ。其処には、信じられない映像が映っていた。

『…執務官殿、良いのか? 俺を気絶させてもアウト。殺してもアウトだ。このスイッチを押してもだ!!』

『…君も死ぬぞ? ソレが解っているのか?』

スキンヘッドの男が喚きたてている。右手に持った杖をクロノさん向け、左手に持ったスイッチを掲げて勝ち誇っている。

「……どういう状況なんですか?」

「あの犯罪者…厄介な事にロストロギアを暴走させる気なんだよ。それも、自分が気絶しても死んでも発動するように仕組んでる…アイツの頭の傷分かる?」

良く観れば、縫った後が見える。それも、最近縫ったような傷だ。

「頭に何か仕込んだ…ですか? 何か要求でもしてるんですか?」

「……この間捕まった、次元犯罪者の解放よ。今回のテロはソレが目的……でも」

開放される筈が無い。其処まで管理局は甘くない。今回使用されているロストロギアの情報を聞く

名はコレクトブリット
魔力開放型のロストロギア。
形状は円盤型。七つの宝石が付いているのが特徴的だ
しかし、ランクは低い。
その特性はその宝石の様な物に魔力を溜め込む事が出来るという事。
その宝石に溜め込まれた魔力は、それぞれの特性を持つ事
ただし、込められる魔力がSSSランクを超える量という辺りがロストロギアと言える。
ただし、使用するにしても精密な魔力操作が必要な事から能力の全てを使うことが理論上可能でも使える人間がいない。それ故に封印されていた。
如何やら、研究の為に輸送していた所を強奪されたようだ。

「……不味いですね」

俺の言葉にリンディさんが返す

「ええ、観た所、魔力も充電済みみたいだし…少しでも本人の魔力を流せば…ドカンね。中規模次元震は確実だわ…でも、大丈夫よ。この手のテロリストの今までも居たわ。つまり…」

「既に手は打ってある…っていう事ですか?」

「その通り♪ 既に準備は始めてるから…後は時間稼ぎね。クロノもソレが解ってるから、落ち着いて居るでしょ?」

リンディさんがそう言ったその時、閃光がテロリストを貫いた

『なっ!!』

全員が言った。誰だ余計な事をしでかしてくれた阿呆は!!

『執務官!! 大丈夫ですか?!』

『君はなんて事をしてくれたんだ!!艦長!! 至急退避を!! 暴走し――――――――――――――!!』

そして、画面が閃光に包まれた。

最初に声を上げたのはリンディさんだった

「エイミィ!! 状況は!!」

「えっは、はい。中規模次元震を確認…駄目です。間に合いません……すみません艦長。管制のミスです…」

その言葉を最後に、目の前に在った機材が爆発したのを見ると同時に艦自体が衝撃に飲まれた










目を覚ます。肌が沸騰する様な感覚が全身を走る。鼓動が早くなる、息が速くなる。感じるはずの無い痛みが全身を包む。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いクルシイ痛い痛い痛い痛い痛い痛イタイい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いクルシイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いクルシイ痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いクルシイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しいイタイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しい痛い痛い痛いいたい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛クルシイい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いクルシイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いくるしい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛苦しいい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛クルシイい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いクルシイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイ苦しい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いクルシイ痛い痛い痛い痛い痛い痛イタイい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いクルシイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いクルシイ痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いクルシイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しいイタイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しい痛い痛い痛いいたい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛クルシイい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いクルシイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いくるしい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛苦しいい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛クルシイい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いクルシイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイ苦しい痛い痛い痛い痛い痛い

『主!!』

「う…ぁ…シュベルト?」

『主…繰り返されたのですね?』

繰り返した? 何で? 俺はクロノさんから事件の事を聞いて………どうした?クロノさんと話してどうしたんだ?
そうだ、ルーダーさんも一緒に話して…それで…

放たれる閃光

崩れ落ちるテロリスト

自分に酔いながら、クロノに駆け寄った武装隊員

暴走したロストロギア


「づっ!!」

頭が痛い。でも肝心な所を思い出した

「シュベルト…ユーノスクライアが来たのは何時だ?」

『ユーノ・スクライア? いえ、まだ来た事もありませんが。』

時間はある。部屋はどう見てもアースラの物だ

「今日の予定は? 」

『特には在りません。強いて挙げるのなら、先日行ったテストの結果が出るといった所ですが…主、時間は在るのですか?』

「約一ヶ月は在る。今日から身体を動かす。情報も集める。取り合えずファラリスさんの所に行くぞ」

俺は、着替えて部屋を後にした





――――――――――――――――――――――――――
イロイロと遅れて御免なさい。
でも、また寝る。疲れが取れない

それと、報告を一つ

二十行ったら移します。理由は感想数が見れないから
見れないと、タイミングを見逃す。感想返すのが遅くなるのは気分が悪い

後、その時は名前が変わります。普段使ってる名前になります
ソレと、息抜きで書くの止めた。

オワリ














[5159] ループの二・五ノ五(修正しただけ)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:52

「……そうね。その場合は仕方が無いと思うけど………するしかないわね」

「やっぱりそうですか……勉強になりました。ありがとう御座います」

ファラリスさんに頭を下げる。

「良いってば…ソレよりも、左目の期待して良いわよ。身内贔屓と自画自賛に成るけどね…此処まで凄いのが出来るとは思わなかったわ。医療関係の人間も成功すれば、貴方を前例として新たな治療法を確立出来るって喜んでたから。それと、貴方には悪い事かもしれないけど…最低でも三年は私の所に来る事。解った」

「はい。」

「それじゃあね。クロノ執務官と勉強があるんでしょ?遅れないように行って来なさい」

「ありがとう、御座いました」

俺は、自室へと向かった。部屋に着くと丁度クロノさんが来た所だった。

「良哉、昨日のテストだが…合格だ。ただし、間違えた所は補習してもらう」

スパルタですね、クロノさん

それから、前行った通りであろう授業を受ける。『あろう』というのは覚えてないからだ。知識は在る。だが、この情景が思い出せない。
夜になった。考える。どうすれば良いのかを

(まず、あの阿呆をどうにかするべきだな…)

とにかく、あの阿呆を何とかしないと死だ。
ルーダーさんとはまだ知り合っていない。義眼も出来ていない。
もし、何とかできなかった場合は…

「……殺すか」

『主、短絡的に成り過ぎです。もう少し考えましょう、時間はまだ在るのですから…』

「そう…だな。すまん、シュベルト。やっぱり、大分参ってる…死ぬ事にも、与えられる痛みにも慣れないなぁ」

『主、だからこそ人間なのです。故に考えましょう。』

「あぁ、解ってる」

もし、あの阿呆を何とか出来なかったとしたら…テスタロッサに出て…そうか!!

「テスタロッサだ、アイツの魔法…えっとそ、ソニックムーブ。シュベルト、お前知ってるか?」

『…すみません。アレは一瞬の加速なので前主が好まず、ダウンロードしていません…ですが。テスタロッサなら、教えてくれるのでは?』

それは、そうだが…

「……関わりたくないんだよなぁ」

アレに関わると言う事は高町に関わる事になる。未来のエース様と関わると言う事は俺が呼ばれるかもしれない。之は避けたい。
不思議な事に俺は、ジェイルにも戦闘機人にも恨みが無い。

「でも…今は好き嫌い言ってられないか…」

クロノさんに死んで欲しくない。リンディさんにも、エイミィさんにもだ

「明日、行ってみるか…」




side ユーノ・スクライア

「なら…彼は」

「うん。左目は完全に見えないって…」

なんて事をしてしまったんだろう
元凶は僕だ
彼から左目を奪ったのは僕だ
僕が…彼から『普通』を『日常』を奪った

「僕は…」

「それでね。私、聴いてみたんだ。なんで魔法を習おうって思ったのって」

「フェイト?」

気に成った。彼が魔法を習おうと思った理由が…
復讐の為だろうか?
それなら、僕は受け入れられる。
殺されても構わない。

「そしたらね、シュベルトと離れたくないって言うのと、左目が見えないと不便だからだって。あっ、シュベルトはねリョウヤのデバイスの名前でね。私達とは違う魔法…えっと…べ、ベルカ式っていう魔法がダウンロードされてるデバイスで…」

左目が不便だから?

と言う事は…彼は…

「フェイト、彼は「テスタロッサ、今良いか?」…」

「あっリョウヤだ。何だろう? ユーノ一旦、閉じ「このままで良いよ」…ユーノ?」」

「僕は…彼と向かい合わなくちゃいけないんだ」

「…分かった。良いよ、リョウヤ」

ドアが開くと、黒い髪に黒い瞳、黒い眼帯の彼が居た
彼と言葉を交わした事なんて無い。
彼と視線が交わった事も無い。

彼はどんな感情を込めて僕を見るのだろうか?

彼は、どんな言葉で僕と話すのだろうか?

とても恐い


side out


部屋に入ると何処か落ち着かない様子のテスタロッサが居た。何か在ったのだろうか?
視線を巡らすと、モニターにスクライアが移っている。

(あぁ、だからか…)

見ればスクライアも何かを耐えるように此方を見ている。
そういえば、初対面だったな…

「…君は、ユーノ・スクライアで間違いないな?」

「そうです。」

「ならば、俺は君に言う事が有る」

「あ、あの、ユーノは「感謝する」…ふぇ?」

変な声を出して固まるテスタロッサは無視する。今の内に言っておかなくては煩いし面倒くさいのだ。

「スクライア…君がこの眼の事を罪と思うのは勝手だ。だが、俺は君に怨みも憤りも無い。今回の事は事故であり。此処に居る全員が被害者だ。故に君からの謝罪は受け入れない。君がソレを嫌だというのなら…協力してくれ。今回の事はソレでチャラにしよう」

「君は…ソレで良いの? 僕がもっとチャンとしてい「くどい」でも!!」

「スクライア。俺が聞きたいのは協力するのか、しないのかだ」

「僕に…拒否する意思は無いよ…それでも…僕は…」

「其処からは君の勝手だ…俺と君は対等…ソレだけで君にとっては十分の罰だろ?」

「…そう…だね。こんなに辛い罰は無いよ…それで? 僕は何をすれば良いのかな?」

何処か覚悟決めたような表情で聴くスクライア。俺としては、未来の司書長の知恵を借りられるだけでもかなりの収穫だ。スクライアがどんなに自己嫌悪に耽っても、ソレが俺に取ってプラスに働くならどうでも良い。

「後で、連絡を入れる。」

「分かった。連絡先はフェイトかクロノに聞いて…されじゃ」

「あぁ、またな」

さて、奇妙な姿勢で固まっているテスタロッサをどうするか?…今はソレが問題だな




それから、三日程して自分用に組んだ魔法をクロノさんとテスタロッサに見てもらう。
結果は上々。発動の確認はもう少し先に成りそうだが…成功するだろう。
意外にも面倒見の良いテスタロッサに感謝だ。しかし、接点が増えてしまったのが懸念材料だな…

テスタロッサと別れ、少し遅い夕食を取りにクロノさんと食堂に向かう。

「良哉…ユーノと話たらしいな。大丈夫か?」

「はい…整理は付いてますから…クロノさんもありがとう御座います。黙っててくれて…」




side アルフ

最近、フェイトとリョウヤの仲が良い。仲が良いと言っても魔法を教えるぐらいの関係だけど…ちょっとモヤモヤする。
心配なのだ。アタシはアイツを信じきれない。何かの拍子でフェイトに酷い事を言うかもしれない。言う資格がアイツには有る。それに、あの時に聴いたアイツの言葉が未だに耳に残っている。

『痛いなぁ』

まるで、他人の事の様に言った言葉をまだ覚えている。

だから、アタシはリョウヤの監視をする事にした。念話も使えない状態だけど、耳と鼻は良い。少し離れた距離でも声は聞こえる。
毎回理由を造らないといけないのが面倒だけど、フェイトの為なら苦には成らない。

『…君と約束した事だ。艦長と僕。ソレと一部の局員しか知らないし、緘口令も敷かれている。』

『ありがとう御座います』

緘口令? 一体、何の話をしてるんだ?

『この件に関しては…僕達、管理局の失態だ…もっと早く動けていればご両親も…』

『クロノさん。もう終りにしましょう。俺の心の整理は付いてます。両親が死んだ事を隠匿して貰ったのも自分の意思です。』

死んだ? アイツの親が? 

『しかし…すまない。穿り返す事じゃ無かった。でも、之だけは覚えておいてくれ。辛くなったら頼ってくれ、少なくとも僕と艦長は…』

「あら? アルフさん何してるの?」

「……あの…アイツの親が死んだのって「口にしないで。私の部屋で話しましょう」…分かったよ」



部屋に入って、渡された資料を見ながらリンディの話しを聞く

「…それじゃあ…あの時…」

「貴女の責任ではないわ。之は私達の行動が遅かったから起きたの。原因は・・・私達よ」

「それでも!!」

あの時…あの時、助ける事が出来てたら…

「何でだい…アイツ…独りぼっちじゃないかぁ…」

「彼がそう望んだのよ……なのはさんが潰れるからってね……」

「なんで、アイツは平気で居られるんだい!! 分かんないよアタシにはさぁ」

『……いや。君が言ったように…なのはが潰れてしまう可能性が高いからね…』あの時からアイツは笑ってた。
何で、何で!!

「何でリョウヤは、笑ってられるんだい…」

「アルフさん…フェイトさんには…」

「黙ってるよ…なのはにも黙ってる…でも…アタシはどんな顔してリョウヤに会えば良いのかが分からないよぉ」

「…いつも通りにしてなくちゃいけないわ…彼は聡い子だから…」

その日から数日。アタシはリョウヤと顔を合わせることしなかった




side out


義眼が完成した。
勝負は明日だ。
前回と同じようにルーダーさんを打ちのめした。
身体の方も以常は無い。リンカーコアの安定率も後少し。もうテスタロッサの近くに居ても痛く成らなく成ってきた。
左目も順調。
策も練った。最悪の場合は殺す事にする。その場合、自分の今後がかなりヤバイが…死を回避する為には仕方が無い。でも、之は本当に最悪の場合だ。
実際の所は気絶だろう。

今日はもう寝る事にする。

しかしテスタロッサ…お前はそんなに俺の素肌が見たいのか?

寝る前に、顔を真っ赤にしたテスタロッサを思い出して笑った。

ふと気付く。笑ったのは何時振りだろうか?


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描写はないが、フェイトに覗かれる運命が変わらなかったヒロイン


事件は次回!!

新人はどうなるのだろうか?!




[5159] ループの二・五ノ六
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:52
「その通りだ……勿論、良哉達に頼まなくても良いようにするつもりだし。したとしても、武装隊の方に回ってもらう。ルーダーの指揮が在るなら被害は殆ど無いだろうしな」

「この坊主を出すんですか?! いや…まぁ…そこら辺の奴等…というか新人より使えそうなんで、コッチとしては願ったり叶ったりなんですけど…責任重いなぁ」

前回と同じ会話が繰り広げられる。だが、今回は此処で終わらせない

「いえ、クロノさん。俺を使ってください」

「良哉、君は…」

魔力を出す。まだ安定していないと言ってもAAランク位の魔力は操れる。

「…君は、バカだ」

「それで良いですよ。今回は嫌な予感がするんです」

「執務官…使いましょう。坊主が心配なら執務官と組ませればいい…でしょ?」

クロノさんは少し考えるようにして、目を瞑った




side ルーダーアドベルド

俺を使えと、坊主が言った。こいつは異常だ

だが、俺はソレを拒否する事が出来ない。理由は眼だ。坊主の目は兄貴に似ている。

ミッドチルダ首都防衛隊に所属する、バカ兄貴にそっくりだ。俺より七つも年上の癖して結婚もせず、昔から変わらない戦場に身を置く馬鹿にそっくりなのだ。
それが、途轍もなく妬ましく、嬉しい。
こういう異常者が…馬鹿が、俺は堪らなく大好きなのだ。
坊主に肉弾戦で負けたっていうのも理由だが…
今回は坊主を使うことが正しい…此方は只でさえ新人のひよっこ共が居るのだ。人材不足にも程が有る。それに比べれば坊主の方が使える。
餓鬼の癖して駆け引きを使う狸だ。コイツが居た方が幾分か楽だ。まぁクロノ執務官に苦労を掛ける事に成るかもしれないが…問題は無いだろう。

『アースラの切り札』とその教え子のコンビ。

頼もしいじゃないか



side out

クロノさんは、立ち上がると言った

「良哉、君は馬鹿だ…ルーダー体制を整えなおす。エイミィ」

画面が宙に現れる

「はいは~い。何かなクロノ君?」

「フェイトとアルフを呼んでくれ。彼女達にも参加してもらう」

「OK。裁判でも有利になるからでしょ?」

「そうだ。良哉、僕に着いて来い。君は馬鹿だ。しかし…」

其処まで言って、席を離れるクロノさんに慌てて付いていく

「嫌いじゃない」

何処かクロノさんが笑っている様な気がした









作戦目的

指名手配犯、アルバ・コープの捕縛。

魔導士ランク、B+

正し、ロストロギアを所持している為。最終判断は現場に居る執務官or武装隊員の判断を優先する。

その他魔導士は五名の内、一人以外が登録のされていない魔導士。

捜査結果、四人の魔導士は裏のフリー魔導士で有り。全員がC~A-の魔導士である。
登録されている魔導士は近代ベルカを使う魔導士と判明

名前、ブルハ・ラ・ベンツィ

魔導士ランクAA



名前の判明している二人は、管理局特殊輸送艦を襲撃した事が判明しており、既に死者が三人出ている。



side リンディ・ハラオウン

「はぁ…あの子…本当にどうしようかしら?」

「期待の新人で良いんじゃないんですか? 艦長」

「それでもねぇ…」

あの子は聡い子だ、けれど、それ以上に過激かもしれない。

あの子は言った。裁判をフェイトさんの有利の状態で持っていくには、大きい物になると
確かにそうだ。P・T事件での協力した件では、彼女の生活背景などを見て情状酌量の余地が在る。それに今回の件で管理局に協力し指名手配犯の逮捕に一役買ったという事に成れば…

(リンディさん、養子に取るにしてもその方が取りやすいですよ?)

まるで自分の考えを読まれているようだ…

「……あの子、艦長職か執務官に本当になったら大化けするんじゃないかしら?」

「そうかもしれませんね……クロノ君のお気に入りですし。本当にクビに成ったらどうしよう・・・・・・・」

そんな未来を想像して、本気で危機感を覚えるエイミィだった



side out

部隊は三つに分かれた。ルーダーさん率いる武装隊+テスタロッサとアルフ組み。此方は武装している非魔導士と四人の魔導士の捕縛に動く

そして、首謀者と見られる指名手配犯の捕縛・殺傷にはクロノさんと俺の二人。

双方の援護の為に別働隊が十二人。例の阿呆が含まれている。
武装隊のメンバーはベテランと新人の混合に成っている為、あの阿呆も暴走・自分勝手な行動はしないだろう。
遠巻きにみた時は、喚いていたが…何か遣らかそうとしたらボコって良いとルーダーさんに言われている。

耳に付けたインカムで、情報を交換しながら進む。インカムを付けているのはルーダーさんとクロノさんに俺と別働隊のリーダーに抜擢された、マーガスさんという武装隊員の四人。インカムから入ってくる情報に因ると、テスタロッサが大活躍中との事…ストレス溜まってたのかなぁ?

「クロノさん」

「何か問題か? 良哉」

「……先に行ってください。俺はお客さんの相手をします。」

「だが…」

「クロノさん。貴方は執務官で俺は協力者です。管理局の執務官がする事は何ですか?」

「…そうだったな。良哉…早くしてくれよ? 未来の管理局員に現場を見せたいからな」

「…勿論です。」

飛ぶクロノさんの壁に成る様に立つと、西洋剣の形をしたデバイスを携えた男が出てきた。

「一応聴きます。投降しませんか?」

「投降するぐらいなら、こんな事はしない。其方こそ帰ったらどうだ? 子供の遊びで死にたくないだろ?」

シュベルトを構える。確かに今は子供だ左の眼帯も効いているのだろう、余裕と油断が見える。この程度の輩に俺が…元首都防衛特殊部隊で有ったゼスト隊に居た俺が負ける筈が無い。許されない。許される筈が無い。何故ならこういった輩は…

「……小物が」
――SonicMove――

魔法の発動と同時に魔力刃形成。
この馬鹿な魔導士は、俺を子供と侮り。左目を見て余裕を見せた。
先に攻撃させる時間すら勿体無い。
シュベルトを振るう。勿論、非殺傷だ。
首の後ろにメリ込む感触が伝わる。

「ぎっ…」

詰らない……

抵抗も出来ずに倒れた男にバインドを使い、別働隊に連絡する。

「マーガスさん。犯罪者の一人を撃破。バインドで拘束して有ります。二人一組で回収をお願いします」

さて、早くクロノさんの後を追わないと…


side マーガス・バリオット

「了解」

全く、何て餓鬼だ。連絡が行きかうから知っている。
隊長達が戦っているのは名前の判明して居ない魔導士四名と、非魔導士の十二人。人質の解放もテスタロッサ嬢の活躍により目前。魔導士は速攻でテスタロッサ、アルフのコンビに潰された。
一応、隊長達の方は画面越しに見れたので執務官達の方が少し心配だったが…

「接触してから一分も掛らないって、ドンだけ使える餓鬼なんだよ…エイミィちゃんが焦るのも分かるぜ…」

良哉という餓鬼が捕まえたのはAAランクのベルカ使いだ…正直信じられんが…インカムを通して聞こえた会話が、納得させる。あの小僧は餓鬼じゃなくて狸だ。
かっこよく言えば戦士。
しかも、なんだよ。「……小物が」って。こえぇよ。機嫌が悪い時の隊長並だよ。アレ

「そこの二人!!…えっと、ジールとマルク。執務官達が向かったルートの中間地点にて、犯人確保の連絡が在った。気絶しているが…早急に連行して来い!! 首謀者に増援を気取られない為、その場には送れないが、出来るだけ近くに送る!!急げ!!」

「「了解!!」」

「リーダー!!」

「何だ? ガイル・コートギー三等海尉」

「自分も行きます。」

考える。確かに其方の方がもしもの対処の時に有効だ。ジールはB、マルクはB+。そしてコイツはAだ。近接を得意とするAAでも梃子摺るだろうし、時間稼ぎにも成る。

「分かった。正し、何か在っても自分達で対処するな。先ずは連絡しろ。良いな?」

「了解!!」

元気なもんだ…しかし、ああいう奴は特に注意しておかないとな…局員なら命令違反は厳罰だ。



side ジール・コルベルト

現場に送られると、犯罪者との距離は二百mあるか無いか位の距離だった。眼を覚まされても困るので、駆け足で向かう。
マルクとガイルも俺に続いて駆け足だ。
この二人との付き合いは長い。学校に入る前からの知り合いだ。連携の自信もある。
いざと成っても時間は稼げる。その間に連絡すれば良い。
そう思って、急いだが。そうでも無かった。
目の前には四肢をバインドで拘束されて、気絶している犯罪者。

「此方ジール。犯人確保。今から連行します。」

『了解。早く戻れよ。隊長達の方も片付いた。今からそっちのサポートに回る。急げ』

「了解」

犯人を担ぐ。バインドは直ぐに解けるよう構成してあったので簡単に解けた。転送地点まで、犯人を担いで戻ろうとした時。ガイルが言った・

「……俺、執務官の方に行く」

「ハァ?! 馬鹿言うな、命令違反だぞ?!」

「けど…あの良哉とかいう子供は、左目が見えないんだぞ?」

「…良く考えろ? その子供がコイツを片付けた。それでも心配か?」

「心配だ。あの子は民間協力者で、左目が見えない。執務官が居たとしても、凶悪犯相手には足手まといに成る可能性が高いだろう!!」

コイツ…悪い癖が出やがった。しかし…確かに、ロストロギアを持った凶悪犯相手では……

「厳罰だぞ?」

「分かってる。でもさ、民間協力者も護れないで管理局員なんて名乗れないだろ?」

「……あぁぁぁ!! もう!! お前のそおいう所が嫌いだコノヤロウ!! 俺は止めたからな、行くぞマルク」

「あぁ、気をつけろよ。ガイル」

「おう、足手まといには成らないさ」

アイツの正義感の強い所が、好ましく思うも大っ嫌いだ。




side out


直ぐに入り口の影に身を隠す。既に魔法を使って姿が見えにくく成っているので余り隠れる意味は無いが、用心に越した事はない。
途中、ルーダーさんから連絡が在った。

『制圧完了、直ぐに手伝いに行ってやるぞ坊主』

と、成程。前回の阿呆はルーダーさんの部隊で、先行して来たのか。しかもタイミング悪く。

集中して、犯人とクロノさんの遣り取りを見る。やはり、頭の中に何かを仕込んでいる様だ。左の義眼が、勝手にズームをして傷口を映し出す。

「ラプラス。サーチ出来るか?」

(yes、五秒で終わらせます。マスター)

視界半分が少しだけブレる。やはり調整がまだ必要な用だ。

(マスター。脳内にチップを確認。)

「もしもの場合は?」

(相手が気付かぬ内に、直接魔力を流せば脳ごと破壊できます。暴走の可能性は極小。)

「…そうか」

もしも、もしもの場合だ。シュベルトの冷たさが、熱くなった身体にちょうど良かった。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ゴメン、終わらんかった。しかも、熱い展開もなし

軽い設定

ラプラス

義眼型デバイス。主に視覚の補助をする。スキャンやサーチも出来る。でも処理能力や演算能力を上げすぎた為、容量が少ない。
AIのレベルもチョット低い。
序でに魔法は二つしか登録できない。
シュベルト・クロイツのリンクシステムを併用している。
ブッチャケ、偽・白眼。
最初に附けた時は物凄く酔った。見えすぎる為。五回もの調整の末、今に至る。
でもまだ調整の余地在り。
余り知られていない存在。知っているのは良哉、ファラリス、医療局員が一名に、ミッドの医者が一人と、技術者(ファラリスの舎弟、絶対服従)が二人。
所詮は義眼。魔法は二の次。
技術者達の浪漫が込められている。

マーガス・バリオット

魔導士ランクB+

ルーダーの部下。実はもう少しでAランクに行ける。でも、もう無理。
昔、調子に乗っていた時に、今の奥さんと喧嘩中のルーダーに舐めた事言った為フルボッコ。
こんな感じ

「良いんですか?俺、強いですよ」

「あ? 良いから来い。揉んでやるよ」

この後、魔法で眼暗ましを喰らい。視界を潰された後、関節技で遣られる。
アームロック→一本背負い→腕拉ぎ→四の字→アキレス腱固め

その後靭帯が切れ掛かり入院。ルーダーは始末書の海に沈むも、凹んでる姿を今の奥さんに慰められ。仲直り。
奥さんは「この人は私が居ないと駄目なんだ」と思ったらしい。

ガイル・コートギー

阿呆。正義馬鹿。熱血漢。良哉の死亡フラグ

いい人では在るが、組織には余り向いてない。


こんな感じ。バトルはあっさりと済ませた。ゴメン。
序でに報告。xxxに書いた。もしかしたら来週ぐらいか、週末にお蔵入りさせるかも…期待はするな



[5159] ループの二・五ノ七(ゴメン、また修正だけなんだ)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/02/23 22:06
トントンと組んだ腕の肘を叩く。

素晴らしい。

あの子が敵を落とした。

素晴らしい。

私が、私達が作った物が正常に作動し勝利に貢献した。

怖ろしい。

使い方を説明したあの子が。

「………あの子はヤッパリ…」

面白い

「? 何か言いました?ファラリスさん」

「いいえ、特に言ってないわよ? それより、良哉君はどうなってるの? サーチャー飛ばしたんでしょ?」

「あっ、画面に出します。…それにしても、珍しいですね。ファラリスさんがブリッジに来るって」

「そう…ね。良哉君にはデバイスやその他の技術の事を教えてるし…可愛い教え子みたいな物だもの、心配ぐらいするわよ。それと、エイミィ」

「なんですか?」

「マリーから変な事聞いてないでしょうね?」

「聞いてませんよ? あっ、艦長。ルーダーさん達の方が終わりました」

「分かったわ。其の侭、強制転移の準備を始めさせて……彼なら言われなくても分かるでしょうけど…」

「了解しました。」







インカムを通して、情報が入る。ソレを聞いて整理しながら考えを纏める。

(ルーダーさん達は成功。テスタロッサの方も人質解放に貢献した…裁判は勝ちだな。どの道、クロノさんがどうにかしたんだと思うけど…それにしても…)

「…執務官殿、良いのか? 俺を気絶させてもアウト。殺してもアウトだ。このスイッチを押してもだ!!」

煩いと思う。犯人もいっぱいいっぱい何だろうが、情けない。
今回は前回と違い、阿呆が居ないので安心していた。ソレがいけなかった。気が緩んでいた

魔力反応を感じ後ろを振り向くと、既に発射寸前の魔力の塊が在った。

(あの阿呆が!! 声が聞こえなかったとしても、度が過ぎる!!)

間に合わない。




side ルーダー・アドベルト

「ハァッ?! 一人残してきた?! 何やってんだマーガス!!」

「コッチも今さっきまで知らなかったんですよ!! 新人共が勝手に決めて、報告誤魔化しやがった!!」

何処の阿呆共だ!! 畜生が!!

「艦長にはお前から連絡しろ…テスタロッサ!! 着いて来い!! 援護に行くぞ!!」

「はっ、はい!!」

マーガスが局員を二人捕まえて、殴り飛ばした。アイツ等か

「新人共…坊主が現場の判断で動いたら、手前ぇらの責任だぞ。マーガス、事件が終わったら、こいつ等は独房に五日間放り込め。勿論、揉んでからだ。先走ったクソは俺が直々に揉んでやる。その後で独房入りだ。」

「勿論です。食事は一食で…ミッドに戻ったら除隊にしますよ。あんな子供に殺人を犯させるかも知れないんだ。本当ならこの場でボコッても足りねぇ…人手不足で良かったなぁ…アッ!!」

「ルーダーさん!! 早く行きましょう!! 」

テスタロッサの嬢ちゃんには、聞こえない様に喋ったが…スマンな坊主。最善を尽くそうと思ったら、足の速い嬢ちゃんに先行してもらうしかねぇ…

「テスタロッサ、全速で向かえ!! 途中で新人見つけたら、戻るように言え!! ソレで引かなかったら気絶させろ!!分かったな!!」

「はい!! アルフ、往くよ!!」

嬢ちゃんはそう言って飛んでいった。間に合って欲しい。

『ルーダー隊長。報告の方は確かなの?』

念話か…

『艦長、残念ながら本当です。転移ポイントにはテスタロッサを往かせました。直ぐに着く筈ですから…お願いします。俺も向かっていますが、悔しい事に嬢ちゃんの方が早い』

『良哉君なら、大丈夫だと思うのだけど…殺傷の考えは浮かばないと…』

分かってない。あの坊主は自分の体の障害さえ利用する狸だ。
精神が在りえないくらいに成熟している。普段見せないその裏側を感じてない…つくづく大した狸だ。
艦長の目を欺けてるんだからな。接点が少ないって云うのも在るか…

『艦長、ソレは違う。坊主はそういう考えが出来て、本当に必要なら実行できるぐらいに大人だ。』

ああ、クソッ!! 悪い予感しかしねぇ!!

「坊主…早まるなよ…お前には少し早すぎる…」

祈る事しか出来ない自分が、殺したい程に不甲斐無い。




side out


弾丸が放たれた。薄い青色をした魔力の弾丸。
間に合わない。弾く事が出来ても気づかれる。

殺すしかない。

そう思った瞬間には

――SonicMove――

相棒が反応していた。

床を蹴る、犯人はまだ気付いていない。
前には進まない。天井へと跳ぶ
魔法で強化した身体が更に、加速をする。

天井に手を着き、足を着き。蹴る。

――SonicMove――

俺は中途半端だ。身体強化をしながらのソニックムーブは短時間しか出来ない。慣れれば、併用するのも楽に成るのだろうが時間が無い。

シュベルトを突き出す。魔力刃の形成。刃の部分だけに集中させる事に因って更に鋭さを増すシュベルト。

頼もしい。嬉しい。

状況を判断し、効果的なサポートをしてくれる。我が相棒。



非殺傷なんて優しいモノは既に切ってある。シュベルトを横に振るう。

「あがぁ?」

間抜な声が聞こえたが無視。直ぐに魔力を飽和状態にして流し込む。
頚骨に半ば程食い込んだ槍から流れ出た魔力が、神経も脳もグチャグチャにする。

腕が痛い。無理な体勢からで、身体強化分の魔力をシュベルトに流し込んだからだ。安定し始めたリンカーコアから、ある程度一定の魔力を使えるが、負荷は掛けない方が良い。

身体ごと捻る様に振り切った。犯人との位置が換わる。換える。
何故なら、ロストロギアは犯人の真後ろに隠されている。暴走の瞬間に見た、あの溢れる閃光が何処から湧き出たのかを

傷口からシュベルトを引き抜いた瞬間に、背中に衝撃を受けた。

痛い。

「良哉!!」

「すみません。こうするしか……」

犯人の首から血が吹き出ていた。

眼や耳からもドス黒い血が…


クロノさんは、表情を歪ませながら俺の顎を親指で一撫でした
クロノさんの指には血が付いていた。

殺したんだよなぁ………

虚しい。思ったのはそれだけだった。最初に殺した時は…酷かったなぁ…

「…いや、謝る必要は無い。今回の事は正しい判断だった……悔しい事だが…」

本当に悔しそうに言う。

「おい!! 何で殺したんだ!!」

後ろから肩を掴まれ無理やり方向転換させられる。なんだ、テスタロッサも来ていたのか…入り口で呆けているのを見て、俺はそう思った

「最善を選んだ…それだけだ」

「何が最善だ!! 人を殺したんだぞ!!」

あぁ、もう。ウザったい



side ルーダー・アドベルド

『ルーダー隊長』

「何ですか、艦長。もう直ぐ着くんで早めにお願いします」

『…アルバ・コープの死亡を確認……貴方の言った通りだったわ…』

畜生が!! 

「原因は?!」

『武装隊員の先走りが原因よ……私は、またあの子に重い物を…』

畜生、畜生!! クソが、クソッタレが!! 

「……艦長、坊主には何も言うな。優しくするな。アイツはもう、餓鬼じゃない。後の事は俺達に任してくれ…頼む」

『……頼みます』

坊主、坊主坊主。この先走りが、もう、坊主なんて呼べねぇじゃねぇか!!


目的地に着くと、馬鹿が坊主に怒鳴っていた。

「何が最善だ!! 人を殺したんだぞ!!」

誰の責任だと思ってやがる

魔力を込めた左で吹き飛ばす。バリアジャケット着てるから痣ぐらいだろう…と思ったときには、新人はもう殴り飛ばされていた。

「巫山戯るなぁ!!」

テスタロッサの使い魔か……いやはや、どうして……良い使い魔じゃないの?

「ぼ…良哉、良くやった。」

「…ハァ、もうチョット何とかなら無かったんですか? アレ」

「そう言うな。マーガスの奴も知らなかったんだ、新人共の暴走だ。夢見がちな坊ちゃん共は現実を見ようとしないから嫌なんだ…」

コイツは、最高だ。最高に最低だ。後悔など無いのだろう、その眼は曇っていない。

「執務官、すみません。部下の暴走を止め切れなかった、我々の失態です」

「そうだな…しかし、細かな事を聞いていないので判断しかねる。後で報告書を持って来てくれ。」

「言われなくとも…良哉!! お前もだ、報告書の書き方教えてやる」

振り向くと、使い魔とそのご主人に心配される良哉が居た。

「リョウヤ!! 怪我とかない? 大丈夫? 」

「アンタはもうチョット、自分の事を考えな!! 」

「いや…その…ごめんなさい」

笑いが漏れる。不謹慎なのは百も承知だ。でも良いだろう?
餓鬼が男を通り越して戦士になった。
普通なら、心に傷を負い。周りからの視線で重圧を感じる場面で、心配されて謝ってやがる。
嬉しいねぇ…羨ましいねぇ。良い仲間、良い上司、コイツは化ける。後で兄貴に自慢してやろう。
執務官も苦笑してやがる。コイツも何時の間にか一皮向けてやがった…まぁ、良哉の事だろうな…
子供っていうのは成長が早い…家に帰りたいなぁ…マリアはどうしてるだろうか? 可愛いから、悪い虫が付いていないだろうかが心配だ…

「何が巫山戯るなだ!! ソイツは人を殺したんだぞ!! いくら犯罪者とは云え、ソイツにも家族や友人が居るんだ!!」

空気読めやゴラァ!! 鼻っ柱押さえて此方に歩いてくるガイルに俺はそう思った。ここいらでサクッとヤッちまおうか?



side フェイト・テスタロッサ

許せない。リョウヤは正しい行動を取ったのに

許せない。この人の所為でそう動かないといけなくなったのに

許せない。自分の過失に眼を向けれないこの人が許せない。

バルディッシュを突きつける。悪いのはこの人だ。インカムを通して伝えられた情報がソレを証明してる。
この人にリョウヤを怒鳴る資格なんて無い。
確かにリョウヤは人を殺した…ソレはいけない事だ。でも、今回の事は正しい事だ。私だってリョウヤの事が少し恐い。私はそういった事をした事が無いから…でも、リョウヤの身体が少し、少しだけ震えてた…ソレだけで、私にリョウヤを恐がる理由は無くなった。

「近づかないで下さい。貴方に…リョウヤを非難する資格なんてない!!」

「何を言ってるんだ!! 人殺しは犯罪だぞ!!」

「そうだな、人殺しは犯罪だ…だが、今回は違う。」

クロノが直ぐに口を開いた。デバイスを握る手が白くなってる。
ヤッパリ、クロノも怒ってる。
私は知った。母さんとの事で…どうにも成らない理不尽が在る事を。
世界は決して優しくないという事を私は知っている。

「今回の場合は現場の判断が優先される。一つを救う為に十を犠牲にする事は出来ない。何よりも今回の元凶は間違いなく君だ。正規の武装隊員の身勝手な行動で何百、何千の命が、最悪、一つの世界が滅びるのを止める為のその場に居た者の最善だ。」

「し、しかし!!」

「君が言いたい事も分かる。犯罪者も殺す事無く捕まえる…これは正しい考えだ。しかし、現実を見ろ。今回は君の独断専行で数え切れない命を危険に晒したんだ!! その尻拭いをしてもらった君に彼を責める資格など無い!! ましてや、命令違反、虚偽報告を行った君には何も言う資格が無いんだ!! さっさと艦に戻れ!! 不愉快だ!!」

始めてみた…クロノが本気で怒ってる所…

「ルーダー・アドベルト隊長!! 彼の処分は君に任せる!!」

「了解!! ナマ言えない様にしますよ」

ルーダーさんはそう言って、武装隊員の人を連れて行った。

「リョウヤ…大丈夫?」

「大丈夫だ、テスタロッサ…心配する必要は無い。クロノさん、ロストロギアは?」

「もう回収したよ。君が盾に成ってくれなかったら暴走していた…すまない。」

少しだけ、二人が羨ましいと思った。次にして欲しい事をお互い理解しているような感じがして……私も…なれるかなぁ


side out

報告書…と言えば眉を顰めたくなる響きだが、そんな事は無い。
実際には、ルーダーさんより早く終わって文句言われたし……そして今は、そのルーダーさんと武装隊の人達にクロノさん、リンディさんに管制の人にアルフにテスタロッサで、艦の外に居る。
何故かと言うと…ルーダーさん曰く

「一仕事終えた、汗も掻いた。新しい仲間が出来た。酒は勧めれないのが残念だが…親交を深める為に風呂に入る!!」

要約すると、疲れたからリフレッシュ!! という事らしい。
現在、事件の有った世界の温泉施設で入浴中です。眼帯は外して、ラプラスも外している。正確には、ファラリスさんが調整中。

「それでよぉ。マリアが言うんだよ。大きく成ったらパパのお嫁さんに成るって…」

「良かったですね…其の侭大きく成ってくれたら…最高ですね」

助けてください。この人は親馬鹿すぎます

「ルーダー…そろそろ止めろ。僕達をノボさせる気か?」

「何だよ…娘自慢ぐらいさせろよ執務官…それじゃあ、話しを換えるが…エイミィちゃんとは何処まで言ったんだ?」

「ブッ!!………行き成り何を言い出すんだ!! 僕とエイミィはそう云った関係じゃない!!」

「「「「「「「「嘘だ!!」」」」」」」」

「L5?!」

すみません、クロノさん…この隙に俺は逃げます…

俺は軽く頭を下げて、見えないように奥の風呂に向かった。アッチで髪とか洗おう…体しか洗ってないんだ




「ふぅ~……賑やかなのも良いけど、一人の方が落ち着くな…シュベルト」

『そうですね…主、震えの方は大丈夫ですか?』

自分でも気付けない程の小さな震え…心構えも感情の整理も出来ていたのに、体が付いてこなかった

「…あぁ大丈夫だ。だけど…慣れないなぁ」

『無理に慣れる事は無いと思います。我々は殺す為に在るのでは無いのですから…今回はそうしなければ成らなかった、それだけです。』

「そうだな……」


そうして、夜は更けていった。






画面を見る。面白い、素晴らしい。あの子は素晴らしい。
こんなにも私の心を揺さぶる。

「壊れてしまったのね…良哉君は…」

医療カルテを見る。コレはいけない事だ。でもせずには居られない。ラプラスの調整の為にデータを引き出した。勿論、あの子の身体データも…見て思ったのは、何て事なのだろうと云う事。
あの子は壊れてしまった。心や精神がじゃ無い、体がだ。

「リミッターが…幾つか壊れちゃったのね…良哉君」

膂力が普通の子の平均を軽く超えている。筋力の30%を難なく使えているのだ、私は医者じゃないがそれぐらいの事は分かる。普通、人間は10~15、良くて20%の力しか使えないのだ…何故なら、人の体は人の全力に耐えられない。
彼は火事場の糞力が普通の状態に成っている。原因は恐らく…左目を失った時。ジェルシードの残留魔力が彼の脳の本当に極少を壊した。

「………完全な物にしなきゃ…そうでしょ? ラプラス」

『yes、マイスター…私はマスターの目と成るモノ。マスターの補助こそが私の存在理由です』

「…えぇ、そうだったわね」

私はあの子が哀れで成らない
私はあの子が怖ろしくて堪らない
それでも、それ以上にあの子の事を愛おしいと思う

身体の欠損にも負けず、前を向いているあの子の事が…
普通なら腐ってもしょうがない事が有ったのに、歩いているあの子が…

(コレが親心って言うのかしら? たぶん…そうよね?)









―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

バトルは駄目だね。俺。
不思議な事に、皆が皆、漢になっているような気が……何故だ?
実は、温泉シーン(混浴)が有るが…切った。中途半端だったんだ許してくれ、年明けには上げる。簡便してください

後、xxxの方を見て思った。ヴィヴィオ人気すぎwww




[5159] ループの二・五ノ八。
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/01 01:49
視界が半分に成ると辛い。シャワーが見えづらい。シャンプーは何処だ

「シュベルト、シャン「リョウヤ?」…何故居るテスタロッサ?」

そんなに俺の素肌が見たいのか? 顔は向けない。ソレが礼儀だ。

「何でって…奥に来たらリョウヤが…アレ? 覗き?」

「覗くか…俺も奥に来ただけだ」

「フェイトー…って、遅かったみたいだね。此処、奥の方は混浴なんだって…」

謎は全て解けた。俺は無罪だ。

「テスタロッサ、後ろを向け。向こうに戻る。俺の裸を見ても面白くともなんともないだろう?」

タオルを腰に巻きなおして立つ、一歩踏み出して滑った。

(ヤバッ!!)

「っと、危ないねぇ。ほら、座りな。洗ってやるよ。」

「いや、自分で「また、コケルつもりかい?」…うぐぅ」

「(なんか…可愛いかも)」

そのまま、座らさせられて御湯を頭から流される。

「…痒い所は在るかい?」

「いや…気持ち良いよアルフ。上手いんだな、髪を洗うの…」

「そりゃぁね。フェイトの髪を痛ませる訳にはいかないだろ?」

「あぁ、確かに…使い魔としては見逃せない事だな…テスタロッサ、すまないが少し待っててくれ。洗い終わったら向こうに戻るから」

人に髪を洗って貰うなんて、何時振りだろうか……気持ちがいい

「えっと…リョウヤ?」

「なんだテスタロッサ? 左側は見えないから安全だぞ?」

「あの…そうじゃ無くて…その…私も洗って良い? リョウヤの頭…そっちの方が早いし」

待て、お前は今オカシイ事を言った。

「いや、俺は「いいね、フェイト!!」もう終わると思うんだが…」

(リョウヤ、フェイトに洗ってもらいな。その間、アタシはフェイトの髪を洗うから)

(馬鹿を言うな。安定してきたとはいえ、痛いモノは痛いんだぞ…それに男女七歳にして席を同じせずという言葉もある)

(んなもん知らないね!! 良いから洗われな。フェイトには人との係わり合いが必要なんだよ)

確かに…そうだろうが…

(高町が居るだろう?)

(今、居ない子に何を頼れって言うんだい? )

…………余り、親しくしたくは無いんだが…

「……頼む。」

「うん!!」






side ルーダー・アドベルト


「行ったか?」

「行ったみたいですねぇ。それじゃ、執務官。処分の方を…」

「ああ」

さて、態と騒いでリョウヤを奥(混浴)に追いやったのには理由がある

「それでは、正式な処分を今から口頭で言う。後で各自に書類が行くから確認してくれ。」

「は、了解しました。お前ら、チャンと聞いとけよ」

『『『『『『『『了解』』』』』』』

「声がデカイ!!」

「君もだ。」

すんません。

「まず、ルーダー・アドベルト二等海尉。」

「はい。」

「降格処分に半年の減給(40%)にボーナスカット。二ヶ月の謹慎。監察官が付くので暴れないように、その後、三ヶ月の無料奉仕だ。それと、艦長から特別任務を御指名だ。」

「はい。」

減給にボーナスカットに謹慎か……予想していたより軽いな…特別任務の所為か? 一体どんな任務なんだよ。

「マーガス・バリオット三等海尉。」

「はい。」

「君も降格処分と減給にボーナス七割カット。謹慎は…無しだが、四ヶ月の無料奉仕だ。」

「はい。」

最低でも二ヶ月か……長期の任務なのか? 余り危ない事はしたくないんだが…もう直ぐマリアも小等部に成るし…三ヵ月後は誕生日だし…それから二ヵ月後は結婚記念日だし…マリアも弟かお兄ちゃんが欲しいとか言ってるし…
でもなぁ…お兄ちゃんは諦めてもらわないと…妹じゃ駄目なのだろうか?

「お…聞いて…か? ルーダー・アドべルト!!」

「ん? あ、ええ。聞いてますよ? マーガスも可哀想に。アイツ、彼女と真剣に結婚考えてるらしいですよ?」

「ん? そうなのか?」

「いや…そうっすけど…てか、なんで隊長が知ってるんですか!!」

「バッカ、お前の彼女は家のハニーの後輩だ!!」

崩れ落ちるマーガス。いい気味だ。貴様の夜の性活での悩みも知ってんだぜ?家のハニーは

「それで、それだけじゃないんでしょう?」

「そうだ。僕自身も減給、無料奉仕に…まだあるが…今回の良哉の事で艦長は中立という態度を取っている…理由は分かるな?」

そういう事か…

「そういえば、入れ替えたばかりでしたね…正規クルーと」

アースラの人員変更が有ったのだ。実際には短い期間の事だが…優秀な艦に新人をぶち込み、優秀なクルー(少数)に指導させる。次にミッド戻った時には正規クルーに戻るが…嫌な時に…やらかしてくれたもんだ

「そうだ…必要なのは解っている。その為に今回は短い航海なんだが……」

「新人共に餓鬼が多すぎると」

「そうだ……半ば嫌がらせだな」

艦長…ハラオウンには味方も多いが、敵も多い。名家の弊害だな…下らない事やってくれる。

「ジラール少将あたりですかね?」

「だろうな…彼の息子を捕まえたのは僕だし、もみ消されないようにしたのは母さんだ………レティ提督が動いてくれているから…大丈夫だと思うんだが」

簡単に言えば、今回来た新人共の殆どに少将の息が掛っていて、さらに追加で無能を送ってきたと…………

「そして…今回事を大きくした隊員の友人にスポンサーの息子が一人」

ア――――――…艦長、相当ヤバイな…何もしなくても叩かれるし、現場の味方をすれば餓鬼が暴走する危険が在るか………

「良哉が降りるのって…何時ですか?」

「三日後だ。」

「其処から挽回ですね……後暗いのが何人か居るんでしょ?」

「…哀しい事にな」

「まっ、その辺の汚れ役は俺達任せてください……後、独房に入れてる奴等は俺の先輩に連絡したら是非連れてきてくれと言われたんで、航海が終われば移動になりますよ……前線にね」

「君は……本当に…怖ろしいな。僕は絶対に行きたくない所だ」

「俺もですよ」

誰だってあんな所に行きたくない。でも誰かが行かなくては成らない。現実を見据えてない理想家共は行くだろうが……俺はゴメンだぜ。魔獣討伐なんてよ…


それにしても、嫌に静かだな…あいつ等何やってんだ?
辺りを見回すと奥の方にむさ苦しい集団を発見。

「おい、マーガス。何やってんだ。」

「あっ、隊長。観て下さいよアレ。良哉の野郎、テスタロッサに髪洗って貰ってやがる」

子供同士なんだから構わんだろうが

「良いじゃねぇか。ソレぐらいよ。」

「隊長、アンタは何も解ってない。コレだから妻子持ちは」

「殴って良いか? 殴るからな? 寧ろ殴らせろ」

「落ち着いてくださいよ隊長。良いですか、良哉は子供だしテスタロッサも子供だ。それも同じ年だ。コレは所謂、幼馴染的なモノに近いんですよ。その関係で洗いっこですよ? フラグですよ? 俺が今の彼女と洗いっこするのに、ドンダケ苦労したと思ってるんですか? 一つ言っときますけど、俺等の中で彼女持ちは俺と隊長のみですよ? 仕事で中々合えないかっらてこの間分かれた『孤児』が何人居ると思ってんすか?!」

「だから、何が言いたいんだよ?」

「―――――――――羨ましいんだ!!」

マーガスが馬鹿発言した。それにバカ共が続いた

「……俺もだ」
「…自分もです」
「…誰かに洗ってもらいたい」
「…妬ましい」
「…嫉妬で人が殺せたら」
「クソッ…湯気でよく見えねぇ」
「…金髪ヨウjョと洗いっこ…」
「…良タソ…ハァハァ」

ちょっと待て!! 危ないのが居た!!

「見てくれ隊長!! 羨ましいだろ!! 漢が嫉妬に燃えるとき!! 白覆面を被るときぃぃぃ!!」

「お前は黙れ!!」

バキ

「へぶぁ!!」

指を鳴らしながら言う

「お前ら全員戻れ!! ソレと最後の二人誰だ!! 執務官も見てんだぞ!!コラァ!!」

振り向くと小声で「…明日は僕が洗うか」と吐いてる執務官がいた。
可愛がるのは良いんだが…溺愛しすぎだろう…そういえば執務官も一人っ子だったか…




side out


シャカシャカと泡と音を立てながら、テスタロッサは言った。

「……リョウヤ…辛くない?」

あぁ、そういう事か……御人好しめ、最高に御人好しの『大人』達め。要らぬ御節介だ。

「……割り切れてる。ああしなければ、皆が死んでいた。大勢の人間が死んで世界が死んでいた。」

「…そう…だね。」

音が止んだ。御湯を掛けられる。そうだ、俺は正しく間違った事をした。何度もした事だ。心底落ち込んだ事も有った。
思い出した。思い出せた。でも、もう忘れかけてる。嫌に成る。大切な事なのに、忘れてしまう。

「テスタロッサ……君が気にする事じゃない。どうしても気にしてしまうんだったら、忘れる事だ。」

「…無理だよ。初めて見たんだよ?……恐いよ」

ああ、また考えてなかった……面倒くさいなぁ。嫌だなぁ。そう思ってしまう自分が……

「そうだな……だったら、強くなれば良い。俺みたいな行動を取る事の無いぐらい強くなれば……恐くないんじゃないかな?」

「…そうかな?」

そうだよ。大人になれば、嫌でも割り切れる。俺の知る未来では、死臭の漂う研究所とかに行ってたんだから……

「きっとそうだよ。強い大人になれば……大丈夫さ。ルーダーさんとかみたいに」

「私の方が強いと思うよ?」

「魔力はだろ? 大人のあの人は高町みたいに正面からは来ないよ。」

「そうかなぁ?」

「明日、頼んでみたら?」

「…そうする。」

もう一度、お湯を被る。

「それじゃ、俺は戻るよ。またな」

「コケるんじゃないよ?」

「気をつけてね?」


心がイタイなぁ…実は情報を盗みに入った時、助けようと思えば助けられたかも知れなんだよなぁ…
酷い事をしてる。八つ当たりで傷つけて、彼女の大切な人を見捨てて、また彼女の優しさに、少し甘えてる。
見苦しいなぁ、不甲斐無いなぁ、それでも…

(こうしないと生きていけない)

いっそ狂人に成れればドレだけ楽なんだろうか?

壊れてしまえばドレだけ楽なんだろうか?

(でも、無理だ)

理性を保たないと意味が無い。繰り返しの原因も見つかってない。アースラの中では盗んだ情報を見ることは出来ない。最低限…安全な所じゃないと、危険すぎる。

キツイ

ツライ

クルシイ

それでも…

「お前ら全員戻れ!! ソレと最後の二人誰だ!! 執務官も見てんだぞ!!コラァ!!」

(この一瞬が、堪らなく楽しい)


side リンディ・ハラオウン

溜め息がでた。何度目の溜め息なんだろうか? 数えていないから解らない。

「ハァ、良哉君をまた巻き込んでしまったわ……」

自分は一体何をしているのだろうか? 運が悪いといえばソレまでだ。しかし…そうも言ってられない。言ってはいけない。何よりも、私は怒っているのだ。

「ヤッてくれたわね、ジラール・ドントマル!!」

何故コウも小悪党が多いのだろうか…全員が全員では無く。その少数…権力にしがみ付いてる小悪党共が

書類を整理する。今考えるのは彼の処遇だ。彼の近くに局の者を付ける事は決定している。今回の事件で見せた判断力、その判断を行動に移せる行動力。そして、何かを切り捨てられるその精神力と感情の制御力。
眼を見張るばかりだ。局員としては素直に嬉しい。しかし、一人の人間…母親としては悲しい。
本来なら、その場に駆けつけて彼を擁護し現場の判断を賞賛するべきだった。いつもどおりなら。

「最低ね、艦長としても親としても…」

彼の傍には信頼できる人間が付いている、クロノは当然として歴戦のルーダー・アドベルト。元武装隊で現在は技術局員のファラリス・アテンザ。
彼等が付いているなら心配は無いと思う、勿論、彼にはカウンセリングを受けてもらうが、ファラリスの報告によれば別段気にしていないとの事。詳しく言えば、殺した事に罪を感じても後悔はしていない。少し安心した。
彼は命を軽く見ていない。それどころか背負うつもりでいる。

「本当に、今すぐ欲しい人材ね…それでも」

今は無理だ。最低でもゴミ掃除を行わなければ成らない。あの男は今回の事で私達、ハラオウンを叩きに来るだろう。しかし、所詮小悪党だ。爪が甘い。
あの噂は本当なのだろう。ロストロギアを態と暴走させ、ソレを封印したが傷を負って前線から引いたという過去は

コンコン

「どうぞ」

「失礼します。艦長、耳寄りな情報はどうですか?」

「裏づけは?」

「バッチリですね、朝にでもデータが届きますし今回の事で他の執務官も動いてますし、レティ提督も動いてるんでしょう?」

ルーダー・アドベルト。武装隊歴十三年の古参兵、彼の情報網は侮れない。今までも何度も助けられている。信頼できる部下でありクライドの後輩

「それじゃあ、聴こうかしら。任務の方は…口頭と書類どちらが良いかしら?」

「書類で、余り寝てないんでしょ? 艦長。それでは耳寄り情報その一。今回入ってきた新人の殆どがまず有りえない」

どういう事かしら?

「卒業してても、此処に回せる程の能力が無いんですよ。成績もかなり色をつけられてるみたいですね…此処に来る前に、教官やってる後輩に連絡した所。色が付いてないのは今独房に居る三人と武装隊に来た二人。文官も三人程ですね。」

それはそれは

「その二。独房入りしている奴の内の一人であるマルク・ディルスンは完璧に黒ですね、今独房内で面白い事やってますよ。後でデータを渡すんで確認を、そしてその三」

あらあら、もう解っちゃったわ

「「ジラールとディルスンは組んでいる」」

「流石に解りますよね」

「えぇ、本当に。小悪党は少し尻尾を掴めば面白いぐらいに踊ってくれるわ」

本当に、家の名に固執する小悪党と権力に魅せられた金持ちというのは…救いがたい

「それじゃ、俺はコレで。ファラリスの奴もコソコソなんか遣ってますよ? 良哉の事を相当気に入ってるみたいですし」

「ありがとう。後で話してみるわ」

さてと、覚悟しなさい小悪党。私に、ハラオウンにチョッカイ掛けてきた愚か者。

「どうしてくれようかしら?」

久しぶりにレティと暴れるのも、良いかも知れないわね




side ガイル・コートギー

体中が痛い。関節がギリギリと痛い。何よりも自分の弱さが痛い

「…俺の所為か」

俺の軽率さが原因だ。ソレは理解した。身体に理解させられた。

「それでも…」

認めたくない。人を殺して良い理由なんて無いんだ。たとえ犯罪者でも、無い筈だ。でも、あの子の行動は正しいと思う自分が居る。何故だろうか? 間違っている筈なのに正しいなんて、オカシイだろ。

「認めたくない」

頭で理解してる、身体で理解してる。それでも、認めたくない

「なのに…なんで…」

そんな時に、聞きなれた声を聞いた

(大丈夫か?)

(マルク? なんで念話できるんだ? 独房に居るんだろ? バレたら只じゃすまないぞ?!)

この時俺は知らなかった。監視されてる事に

(まぁ、なんとか成るだろ。ジールの奴も寝てるし。)

(だからって、お前)

(ソレよりも…大丈夫か?)

(大丈夫とは、言えないかな? ボロボロだ)

(そうか…でもさ、俺はお前の言ったことは正しいと思ってるぜ。間違ってない。)

その言葉は俺が望んで居た物だった。でも…本当にそうなのだろうか

(本当にそうなんだろうか? 俺がもっとちゃんとしていれば…)

(正しいよ。人を殺して良い理由なんて在ってたまるか。周りが間違ってるんだよ。お前が正しい。だからさ…)

何だろうか? 今までに聞いたことの無いぐらいに真剣な声色でマルクは言った

(周りを変えようぜ? 俺達が正しいんだ。人を殺して正義。なんてのは無いだろう? 俺達が正しいって認めさせるんだ。)

(でも…どうしたら)

(今回の事は確かにお前のミスが原因だ。でも、お前に悪気が在った訳じゃない。そこでだ、俺は今回の事を親父に報告する。元からそう言われてたしな。この際だ利用させてもらう。親父はジラール少将と古い友人でなハラオウン艦長達の事を疑ってるんだ)

(どういう事だ?)

(…ハラオウンは管理局内で大きい発言力を持ってる。旧暦の頃から活躍してるんだから当たり前だな…少将はそれを危惧してるんだ。大きい発言力に権力は人間を腐らせる。能力は在っても…暴走したらどうなるかと…今回の事だってそうだ。殺す事が正しい筈が無いのに、執務官は正しいと言ってる。コレが許される筈が無い。)

確かにそうだ。殺す事が正しい筈が無い。しかし…

(俺は何をすればいい?)

(何、今回の事をバネに強く成ってくれれば良い。序でに文官の人達と仲良くしとけば良い。彼等はお前が正しいと解ってるさ)

そうなのか…

(マルク)

(なんだ?)

(ありがとう)

(何時もの事だろう)

確かにそうだ。

「そうか、俺は間違ってないか…」



side マルク・ディルスン

「ありがとう…か。スマンなガイル。俺は上に行きたいんだ」

寝入っている、ジールを見ながら思う。

俺は間違ってる。でも、それで良い。まさか此処まで上手く事が運ぶと思わなかった。正義バカな友人の扱い易さを見越しての判断だったが…ジークの甘さにも助けられたな。

「悪く思うなよ。十年内に俺ら全員上に行けるんだ」

ジラール少将から、親父に持ちかけられた話しだったが…美味しい話だ。
ジラール少将は管理局で強い発言力を持つ事になるだろう。俺の親父もジラールの妻が経営する企業かと契約を結べる。序でに娘と俺の婚約も目前だ。

「ハハハ、さぁ。此処を出たらバラ色の未来の始まりだ」

「っと。いかないんだよなぁ」

なっ!!

「た、隊長」

「オイタはいけないなぁ、マルク・ディルスン。お前にはバラ色じゃなくて、ドドメ色の未来を用意して有るんだよ?」

「なっ何を言って…」

「おいおい、解ってるんだろ? 独房の中で念話なんか使っちゃダメだろ。ちゃんと傍受させて貰ったよ。勿論、さっきの独り言もな。なぁ、そうだろ?ガイル」

「はい」

ガイル?! 何でだ?! いや、まさか

「さてと、お前には俺と執務官殿から『話』が有るんだ。」

嘘だ。嘘だ嘘だ。

「さっさと行こうか?」



side ファラリス・アテンザ

どうやら、上手くいったみたいね。

モニターを見ながら私はコーヒーを一口飲んだ。

「それにしても…こう来るか」

机の上にポツンと置いてある書類を見て、私はそう思った。

「コッチからすれば、願ったり叶ったり何だけど…ルーダーさんとか」

私はルーダー・アドベルトが少し苦手だ。私の過去を知っているから

「考えても性が無いわね。ね、ラプラス」

『はい、マイスター。私としてはマスターの為になるのなら、構いません。』

「でしょうね。」

愉快だ。こんなに気分が良いのは三年振りだ。明日からが楽しみでしょうがない。




side out

さて、俺は少しだけ彼女に甘えた。その代わりにアドバイス的な事も言った。コレは対価だと思うんだ。だからさ

「あっ、あのね」

全くもって予想してなかったんだよ

「全然、眠れなくて…リンディさんも良いって言ってくれたから…その」

簡便してください

「今日だけ一緒して良い?」

枕を持って押しかけてきたテスタロッサとアルフに、本気で土下座しようと思った。








後日、リンカーコアが安定している事を教えられたのだが。痛みが取れない。
どういうことだ?






オマケ?

朝、少々寝不足でボヤッとする頭を覚ましながら。クロノ・ハラオウンは弟的な存在である、明智良哉と朝食を取ろうと思い部屋に向かった。

クロノにとって、明智良哉は可愛い存在だった
一緒に居るようになって一ヶ月と少しの間で、良哉はクロノに言った言葉の性である。
元々クロノは良哉に親近感の様な物を感じていた。過去の自分と重ねているのを自覚しているので当たり前の事かも知れない。クロノは良哉に潰れて欲しくなかった。それ故に親身に接した。そうやって十日程経った時に良哉は言った

「何か、クロノさんてお兄ちゃん見たいですね」

笑顔だった。元々一人っ子だったクロノからすれば、兄弟と云うのは一種の憧れみたいな物だった。そんな事を言われれば嬉しい。より一層、親身になった。
彼の補佐であるエイミィ・リミエッタも本当の兄弟の様に仲の良い二人に、良く分からない危機感を抱いたほどだ。
それ故に、ドアを開いた瞬間に目に入った光景に固まった

自分の弟の様な存在が、同じ年の少女に抱き枕の様に抱きしめられて寝ているのだ。ちょっと魘されてるのがポイント


「何をやってるんだ君達は!!」


こうやって、彼はブラコン気質になっていくのである。


オワリ


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
コレで本当に最後だ!! とらハ版には来月移します。
もう卒業なのに就職決ってないんだ…帰りたくねぇ

簡単な設定

明智良哉
リンカーコアが安定した
でも幻痛に悩まされる
リミッターもチョット壊れた。


クロノ・ハラオウン

何時の間にか漢に成ってた。良哉が可愛い。
この話しから二週間後、少将を逮捕する。
この事件より、身内に対しても厳しく。正しく執務官職を全うしている為、尊敬され始める。
ブラコン。

「敵は淫獣ではなく、フェイトだった」orz

ルーダー・アドベルト

親馬鹿。兄貴、降格したので三等海尉に成った。家計が危ない
クライド・ハラウオンの後輩らしい。
人脈が凄い。進んで汚れ役をやる、アースラの兄貴?

ガイル・コートギー

親友が捕まった。しかも、利用されていた事を教えられる。
絶望しか残ってない。出番は…まだ有るかもしれない

ジラール・ドントマル

デブ。少将。小悪党。典型的な組織のゴミ、又は膿。
クロノ・ハラオウンに捕まる事が決定されている。
良哉が関わって無くてもどの道クロノに捕まっていた。
クロノが英雄視される原因の一つに成った。所詮踏み台

ファラリス・アテンザ

マッド。なんか良い事が在った模様。
ルーダーが苦手。元武装隊員だった事が判明
妹を抜かした家族とは疎遠になっている。
陸に少しだけコネが有る。

リンディ・ハラオウン

怒らせたらヤバイ


フェイト・テスタロッサ

何か良哉との距離が縮まった、実際には少し離れている。厄介だと思われてる
何だかんだ言いながらも子供
恐くて、アルフと共に良哉の部屋へGO!!

「知ってる? リョウヤって暖かいんだよ。クロノ」

マーガス・バリオット

嫉妬の戦士


こんな所かな?

今回はオリ設定的な感じで…そうじゃないかも知れないけど。
次回から、As序章? に入るのでアンケートを

どS―――ヴィータ出せゴラァ
どN―――そろそろすずか辺りと絡ませようぜ
どM―――何も言わずにシグナムだ!!
AN―――はやてだろ?
SS―――寧ろ、漢?を出そうぜ?
SM―――名の刃様

p―――汝の好きなようにするがいい。でも、不幸にはしてね♪

出番が早まるか、多くなるか、フラグが立つか(死亡)に成ります。

バトルについて、嫌でもやらなくてはなりません。

K---ハイパー良哉タイム
I---何時も道理で良いよ
L---ハイパーヘボタイム

ズットと言う訳では有りません。どれか一個をやるかもという感じで。
バトルに関しては、アンケートとは違う結果になるかも知れません。ごめんなさい
こいつら勝手に動くんだよ。

それでは、良いお年を…来年も宜しくお願いします





[5159] ループの三ノ一(すずか編 通称どN)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/03 03:10
チチチチっと、鳥の囀りが心地良い。
帰ってきて一週間。自分が思っていたよりも埃が溜まっていた事に驚きながらも掃除をした。
暖かい。只の家といえばそれだけで終わってしまう。それでも、俺に取って此処は思い出の詰まった場所なのだと、安心できる場所なのだと、心が訴える。
両親の服や物は殆ど処分した。仏壇も無い。
なんて、親不孝物なんだろう。帰って来た次の日。暑い日ざしの下、散歩に出かけた。少し前まで通っていた学び舎を見た。ソレは何処か大きく見えた。
何所にでも有る様な町並みが、とても眩しく見えた。
最後に、公園に言った。
俺の左目が無くなった場所。
両親を死に追いやった原因の場所。

後悔がこびり付いた場所。

「そういえば…ピクニックに行こうと思ったんだよなぁ…」

もう、叶わない思い。一度だけ眼を瞑った。それだけで、俺は切り捨てられる。
公園から出ようと足を動かすと、屋台が有った。

「買って帰るか…ルーダーさんは抹茶が好きそうだし…ファラリスさんは餡子かな?」

現在、一緒に住んでいる人達を思い出す。
ルーダーさんは、俺の監視、ファラリスさんはルーダーさんの監視。リンディさんの配慮だ。ありがたいと思う。朝起きて、挨拶をする相手が居るのは嬉しい。

たい焼きのメニューを見ると、一品増えていた

『カレー』

なん…だと?

「おっ…坊主か? どうしたんだ左目?」

「あっ、お久しぶりです。母に付いてエジプトの方に行った時に…チョット」

ご近所にも言っている嘘を当たり前のように言う。
母は遺跡調査の為、海外に出張中。父はヘッドハンティングされ、アメリカに出張中。という事に成っている。
病院の方では、母の死は無かった事に成っている。資料上では。
奇跡的に息を吹き返し、海外の病院に搬送されたとなっているのだ。
父も同じように…

「そうか…よっしゃ、今日も半額にしてやる!!」

「それじゃあ…餡子二つに抹茶を二つとチーズを一つ、後…」

「スマンが抹茶を三つとチーズを一つ、後…」

「「カレーを…む?」」

背の高い、美男子と言える男の人が居た。この人…強い。何よりも…

「チーズ美味いよな?」

「ええ、あのトロトロ感が何とも言えません。」

「「同士よ!!」」

この人は同士だ!!

(主…味覚にも障害が…)

「俺は高町恭也という。大学生だ」

「明智良哉です。通信教育なので、学校にはいっていません。」

「カレーは始めてかい?」

「はい、一週間前まで日本を離れていたので…」

「そうか、一つ奢ろう」

「ありがとう御座います。」

「カレーを三つくれ」

「まいど!!」

それぞれ、紙袋を受け取りベンチに腰掛ける。この人…恭也さんは強い、歩いている最中も中心線にブレが無い。何らかの武術を学んでいるか…収めているのだろう。自分では到達できない位置に居るのが、何となく分かる。

カレーを齧る。その隣で恭也さんもカレーを齧った。

「美味い」

「だろ? ところで…良哉君。君は何か武術をやっているね?」

「恭也さんもでしょ?」

「解るか?」

頷く。手を見た、ソレは何かを握り振るう手だ。

「はい…中心線がブレることなく歩く。見る人が見れば解ります。」

「そうか…君は…長物を扱っているね? それと…刀かな? 刀の方は握って日が浅いだろ?」

確かにそうだ、刀を握ったのは今年に入ってから、棒はかなり前から槍に見立てて振っていた。そういえば…源蔵さんに挨拶をしていない。
柴源蔵、齢八十になる老人だが…その腕は凄い。此処、海鳴市に道場を構える道場主。俺はその人に剣を習っていた。俺の何が気に入ったのか解らないが、付きっ切りでだ。直接言われた事だが…俺に剣の才能は無い。だから、基礎だけしか教えられていない。
今から、顔を見せにいったら怒られるだろうか? 確か、休日は老人会のゲートボールに参加していた筈だ…今度覗いてみよう。ランニングついでと理由を付けて…

理由をつけないと、合おうと思わない自分の臆病さが嫌になるが其処は無視する。
まぁ、何が言いたいのかというと

「…なぁ、一つ手合わせしないか? 良い場所を知ってるんだ」

高町恭也という好青年かつ強すぎる、練習相手が出来た。何でも妹が二人居るらしい。名前は知らないが…いやな予感しかしない。



家に帰ると既に晩御飯の時間になっていた。良い匂いがする。手を洗い、嗽をすませてリビングに行くとパンとサラダをテーブルに運んでいるファラリスさんがいた

「おかえり、良哉君。ちょっと遅かったわね?」

「ただいま、ファラリスさん。普段より早いですよ。今度から、また道場に通おうと思ってますし。ルーダーさんは?」

「あそこ」

っと言ってキッチンを指差す。すると、シチューの入った器を持ってルーダーさんが出てきた。
この人、何気にスキルが豊富なのである。趣味は釣りらしい。ファラリスさんは料理が出来るには出来るが、何と言うか…漢の料理的な物なのだ。ルーダーさんは家庭的な料理が得意らしい。奥さんが妊娠中は全ての家事を自分で行ったそうだ。
娘さんにも、「ママのシチューよりパパの方が美味しいね!!」っと褒められたそうだ。ソレが原因で嵌ったのが凄い

「おう、今帰ったのか。今日はおじさんの特性シチューだ。マリアにも絶賛の品だ!! 残さず食えよ!!」

「それじゃあ、明日は俺が作りましょう。日本のおふくろの味を出してやる」

「……私を置いてけぼりにしないでよ…」

知りません。茹でた肉ブロックを焼いて塩コショウで味付けした物は酷すぎると思うんだ

シチューをパクつく。パンに絡めてもよし。鶏肉も暖かく、人参独特の甘味が美味しい。

「で? ご近所さんはどうにか成ったが…学校の方はどうする? もう一度通うのか?」

「通いません。元々学ぶまでもない事ですから」

「ルーダーさーん? 良哉君舐めない方が良いですよ? 去年の執務官試験九十二点だったんですよ?」

「…凄いな、お前」

「クロノさんがスパルタだったので」

やりすぎだろーと言うルーダーさんを視界に納めつつ、パンを千切る。久しぶりに落ち着いた気がする夜だった。
明日は買い物にいかないと…肉じゃがに糸蒟蒻は必要だと思うんだ。

side すずか

夏休み、アリサちゃんとなのはちゃんの関係も元道理になって約二ヶ月たった。でも最近気になる事がある。一週間ほど前の事だ、アリサちゃんの車で塾に行った時、商店街で見たことの有る人を見つけた。
その時は見間違いだと思ったけど、後になって気に成り出した。

明智良哉、前まで同じ学校の同じクラスに居た男の子。何処か達観したような目が印象に残った優しそうな人。

私が唯一苦手じゃないクラスの男子。

他の男の子は苦手だ、と言うより男の人が苦手だ。
お姉ちゃんの婚約者、なのはちゃんのお兄さんの恭也さんに慣れるのにも時間が掛ったのに…
クラスの男子は少し五月蝿くて苦手だ。だから、何処か大人と錯覚しそうな雰囲気を持っていた明智君だけが大丈夫な男子だった。

明智君は少し前に学校を辞めた。
海外の方に向かったお母さんに付いて行ったそうだ。少しだけ、寂しかった。アリサちゃんは明智君の事が嫌いだって言っているけど…アレは嫌いじゃ無くて苦手なんだと思う。本当に嫌いな人の事を口に出す事なんてしないよ。

なのはちゃんは…やっぱり、哀しそうだった。前よりもその感情が深まってる様な気がする。

「見間違えたのかなぁ?」

でも、やっぱり気になる。どうしてだろうか? 
友達という間柄でもないのに…なんでこんなに気になるんだろう? 

答えはわからない。

私は、月を見ながら答えの解らない事に首を捻った

「むぅ」




side out

少し痛む身体を庇いながら走る。今朝、恭也さんに教えて貰った場所で稽古をつけて貰った。稽古と言っても実戦的な組み手だけだけど…あの人は強すぎる。

全く持って勝てる気がしない。

小太刀二刀流、流派は知らないが出鱈目に強い。
イロイロと自身を失くす。やってられない。

何? 攻撃をすり抜ける攻撃って?

コッチも殺す積もりで往ったのに…話しにならないほど強いって何だよ
元々敵わないと予想はしていたけど…圧倒的過ぎると…ねぇ。
あの人絶対に魔導士に勝てるよ。
今度からは俺より少し強いぐらいの実力で戦ろうと言っていたが…どれ程強いんだよ。
人間ってあそこまで強くなれるのか?
人間の不思議を知った朝だった。

家に帰ると、ルーダーさんに笑われた。ソレをファラリスさんが地獄突きで封じた。この人も意外と容赦が無い。

「それにしても…随分と遣られたわね…」

人の体をマジマジと見て言わないで下さい

「…いや…良哉。お前に稽古付けてくれた兄ちゃん、相当強いだろ? この打ち込み方というか…お前が叩かれた所は、比較的に治りやすいとこだ。寧ろ叩かれたトコ全部がそうだが…力加減も絶妙だな。これなら明日、明後日には治ってるだろ。痛み事態は昼にでも無くなるんじゃねぇか? コレ」

現に、痛みは少しづつ引いていっている。

「…あの人、本当に人間なんだろうか?」

「しらねぇよ」

「ちょっと、合ってみたいわね。その人、恭也さんだっけ?」

「はい、大学生だそうですから…ファラリスさんと同じぐらいですよ?」


さて、痛みが引いたらシャワーを浴びて、買い物にでも行こう。勿論、ルーダーさんにも付いてきてもらう。荷物持ちは必要だ



side 高町恭也

「あれ? 恭ちゃん…右手どうしたの?」

「ん…ちょっとな」

思い出しても驚愕する。昨日合ったばかりの同好の士、年は離れているが…いい子だった。最初は棒術…長物を使った戦いを感じてみたいという理由だったが…途中から熱が入ってしまった。

俺からすれば話しにならない実力だが…なのはと同じ年頃の少年にすれば大した物だろう。
熱くなってしまった原因はその身体能力。
明らかに同年代の人間を超えた膂力と速さ。

それと、『勘の眼』

視力の無い左への攻撃に当たり前のように反応し、避けていた。
あの受け流しも少々荒が目立つが、巧かった。
何よりもあの眼。勝つ方法を考え続けて居たであろうあの眼の光。
何よりも、戦っている最中の表情。
勝てないと解っても考え続け、更に笑っていた。純粋な悦びを含んでいたあの笑み。何もかもから解き放たれた様に活き活きとしていた。

彼は俺と、俺の父と同種の人間だ。戦いの中に楽しみを見つけ出せる、見つけ出して楽しめる。戦闘者だ

「ふふ…後五年、八年経てば…面白いな」

「恭ちゃん…眼が恐いよ?」

「美由希、素振り五百追加。その後組み手な」

義妹の叫びは無視する。





side out

急に背筋が寒くなった。

「なんだ?」

「どうした良哉?」

「いや…何か、嫌な予感が…」

気のせいか?

「そうか…で? 他に買う物は?」

「お茶とか米ですね。」

ドンと人にぶつかった。男の人だった。

「おっと…ごめんね。」

「こちらこそすみません。」

「いや、左目を見ればわかるよ。所で、一つ訪ねたいんだけど」

「はい? 何でしょうか?」

道に迷ったのか? 日本人離れした感じの人だから…観光ついでに寄ったのかな?

「この辺に、音楽教室が有るでしょ?知り合いというか、従姉妹の姪の妹を迎えに来たんだけど…場所が解らなくなってね。」

「ああ、それなら。此処の道を真っ直ぐ行って二つ目の信号を左に曲がった所に有りますよ。看板が出てるから直ぐに解ります。バイオリンの絵が描いてありますから…」

「そうかい。ありがとう…それとこの辺は車が多いのかい?」

「そういう訳ではないですけど、さっき言った所の信号の所は比較的に多いですね。日が暮れると少なくなりますけど…その所為かスピード違反車が多いらしいですよ?」

「ふーん…気をつけるよあの子もまだ終わってないだろうしね。それじゃっ」

「気をつけてください。」

「良哉~お前が居ないと米が買えないぞ~」

「ちょっと待ってくださ~い!!」

この時、俺は気付かなかった。幸せに浸っていたからなのかも知れない





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まぁ、解る人には解っちゃうよね。

おまけを書こうと思ったけれど、二日酔いなので簡便。
実は、すずかの話しはアンケートする前からあったんだ。でもそれだと意外性が無いと思ったのでアンケートしてみたら

同士が多すぎwwwww

さて、あとがき長いけどごめんね
今回の話(まだつづく)は、本来なら居ない筈の三人が居たらどうなるか的な感じの話し。
結果から言えばこの三人居なくても、解決するのよね
兄貴とヒロインがどう動くか?
その時マッドは?
観たいな感じになる筈。後、今回は殺すかどうか悩み中。兄貴が居るから作者もどう動くかが解らない。こいつら勝手に動くから。

ヴォルケンズが出るのはまだ先。解りやすいの張ったしね


簡単な人物紹介

明智良哉

眼帯、静香ちゃん体質
ヤッパリヒロインキャラ
時たま戦士
戦ってる最中は笑っているらしい…将来が危ない
死亡フラグメーカー
序盤で一個立てた

「だって…戦ってる時は余計な事考えなくて良いんだもん」

ルーダー・アドベルト

主婦、家庭的。
キッチンを巡って夫婦喧嘩した事が有る。
親馬鹿、兄貴、皆の兄貴兼時々父

「地球のビールって…美味いんだな!!」

実は地球に来て二日目に二日酔いになった

ファラリス・アテンザ

料理の腕は漢前
特技
「教頭の地獄突き」

結構容赦が無い
実は腹に大きな傷がある

「料理…習った方が良いのかなぁ」


高町恭也

味覚に問題が在るかも?
御神不破流の剣士、正確には永全不動八門一派の御神真刀流小太刀二刀術の剣士
戦闘狂。良哉とはたい焼き仲間
ちょっとした好奇心から一緒に稽古をしてみた
なのはの兄。良哉は知らない
シスコン。


月村すずか

唯一の癒しキャラ
三人娘の中で一番の運動神経を持つ
良哉がミスった所為で、町で見かけられる
気になる。夜も眠りにくい

「…最近、寝不足です。この違和感は何?」

唯一三人娘の中で、良哉に安心をくれるであろう少女
でも、作者はそんな事…ねぇ?

今回は此処まで、次かその次ぐらいでルーダーと良哉に……

その時、クロノは?!

と、なるかも知れない。景気が回復するぐらいの確立で。







[5159] ループの三ノ二(すずか編 通称どN)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/04 03:44
洗濯物をた畳む。時計の針は四時を回っていた。彼らが家を出たのが二時前だったんだけど・・・

「何してるのかしら?」

口に出してみて、笑いが出た。自分でもオカシイ。まさか、私が人の洗濯物をたとむ日が来るなんて思っても見なかった。
技術者一本で生きてきた三年間。家庭などに興味は無かった。家族も…妹のマリーぐらいしか、私の心配はしないだろう。そういえば…あの子に連絡するの忘れてたわ。

「今度、手紙書かなきゃ」

「「ただいまー!!」」

ようやく帰って来たようだ。

「おかえりー。遅かったわね?」

「そうか?」

「ルーダーさんが、ツマミコーナーから動かなかったんですよ。」

「ちょ?! 良哉ソレは?!」

「ルーダーさん…ちょっとお話しましょう? ね?」

この人は…もう…

「…アレ?」

「どうしたの良哉君?」

良哉君がポケットに手を入れたまま、固まった。

「サイフ、落とした…」

「ルーダーさん。探しに行って下さい。それで勘弁してあげます。」

「俺も行って来ます!!」

「はい、行ってらっしゃい。お風呂は沸かしとくわね。」

少し騒がしいけれど、こんな毎日が楽しい。私はそう思うのだ。





駆ける。駆ける駆ける駆ける!! 生活の為に

「何処に落としたんだよ、このバカ!!」

「解らないから困ってるんですよ!! レジで清算した時は在ったから…商店街の何処かです!!」

サイフを落とした。財布の中には銀行のカードが入っている。さっき携帯で連絡して止めてもらったけど…あの中には現金が…

スーパーには無かった。交番にも行ったが無かった。何処だ、何処に行った!!

「在った!!」

「本当ですか?!」

ルーダーさんが腰を屈めて拾い上げた物を見せた。確かにサイフだ。
良かった。

「本当に良かった…」

「ああ、まだビールも買ってないからな」

今日は一本多く出してあげよう。

そのまま、歩いて帰ろうとして目の前の道路を猛スピードでワゴン車が走っていった。

「ッ…危なっ?!」

「大丈夫か? 良哉?」

何なんだよ今の車…あんなにスピード出して…車の進んだ方を向いて、確認する。ナンバーを控えようと思ったが…既に居なかった。

(マスター。あの車のナンバーでしたら控えましたが?)

(本当か?! 後で教えてくれラプラス。家に帰ったら警察に連絡してやる)

(仰せのままに)

「アレ? ルーダーさん?」

後ろを向けばルーダーさんが居なくなっていた。何処に行ったんだ? 迷子…は無いか。辺りを見回すと、高そうな車の扉を開けて騒いでいるルーダーさんが居た。

「ちょ?! ルーダーさん何してるんですか?!」

強盗とかだったらシャレにならない

「良哉!! このおっさんが!!」

アレ…この人確か…

「バニングスの執事さん? えっどうしたんですか!!」

「…警察に連絡を…アリサお嬢様とすずかお嬢さまが…誘拐…」

ハァッ?! 誘拐!!

執事さんは、それだけ言うと気を失った。

「ルーダーさん」

「エリアサーチしとくから先に連絡しといてくれ。空を飛ぶのも久しぶりだな、こりゃ」

「ありがとう御座います。」

携帯を取り出して警察に連絡した。ラプラスが控えていたナンバーを教えたが…偽装されてる可能性が高い。ルーダーさん頼みだ。





side ルーダー・アドベルト

あ~あ、久しぶりの休みというか、特別任務だったのに…アレかね? 俺みたいな男には平穏が似合わないとでも言われてるみたいで嫌になる。

良哉の反応から見ても知り合いみたいだし、あのおっさんの言葉から解ったが攫われた二人は女の子。
マリアよりは年上だろうけど…
お嬢様と呼ばれていたと言う事は、誘拐した目的は金か、親に対しての脅しか…気分が悪くなるな。
人質は基本的に傷つけないのが定石だが…眼に見える傷が無けりゃあ大丈夫と思う輩も多い。
最低な事にソッチが目的のカスだっているしな…考えてたらムカムカしてきた。

ちょっと本気で往こうかね? 俺の目の前で少女を誘拐なんて許せねぇ!!

「おうおう、パッと見怪しさ全開の廃ビルをサーチしてみりゃ…ビンゴ」

さてと、良哉と一緒に殴りこむかね?

俺はアイツを子供として見れない。意識すりゃ出来るが…素で見ると、同僚と同じように見てしまう。
別に悪い事だとは思っていない。俺とアイツは仲間だ。

(良哉、お嬢ちゃん達を見つけたぜ。どうする? 吶喊するか?)

返って来た返事は、実に俺好みの答えだった。





マリア、パパは頑張ってるぞぉーーーー!!






side ファラリス・アテンザ

掛ってきた電話は、知り合いが誘拐されたという連絡だった。
何ソレ? と思った自分を笑わないで欲しい。それにしても…女の子を誘拐ね…

良哉君にその誘拐された子の特徴を聞いたけど…曰くタイプは違うがどちらも美少女

との事。
許せないわね。許せないわ。艦から持ってきたコンピュータを起動させて、繋ぐ。此方に来てから私が直ぐに取り掛かったのがネットに繋ぐ事だ。
情報は全てを制す。私が大怪我をして学んだ事だ。
誘拐された二人の苗字を入れて検索。情報の羅列の中から、企業系のみを再検索する。
誘拐された理由で考えられるのは可愛いからか、ソレが誰かに取って重要な存在だからかだ。時々、攫いたいから攫ったなんてキ○ガイが居るけど、先ず省く。

「…バニングス社…社長はデビット・バニングスっと、ビンゴ♪」

そこからは簸たすらに情報を洗い流す。この会社、多方面に進出しすぎなのよ!!
バニングスの所為で経営に問題が出ている所を外す。
誘拐するなら、自分の足が附かない様にする筈だ、人を雇うのにも大金がいる。ライバル会社辺りが怪しいわね…情報を絞る。今の時点で不利益を被っている会社を探す。

株の変動、商品の売り上げを比較する。
見つかったら犯罪行為。管理局員に見つかっても違法行為。

でもね、お姉さんは女の子の味方なの。ましてや、私には妹が居る。その妹より年下の可愛い子に、何かが在るのは嫌だ。

しかも、その女の子は良哉君の知り合い。余計に許せない…
私とルーダーさんは知った。
彼の両親の事を…彼自身が教えてくれた。知っているのは私とルーダーさんに艦長とクロノ執務官。それと、アルフという使い魔。使い魔の方は自分のミスで知られてしまったらしい…何処かぬけてる辺りがあの子らしいのかも知れない。

そんな子の目の前で知り合いを誘拐? 許さない。ルーダーさんも心底ムカついてるでしょうね…

「さてと…貴方達には死んでもらおうかしら? 社会的に、財産没収も追加して」

私は、画面に映った監視カメラからの情報を見ながらそう言った。






side out

携帯を閉じる。最後にバニングスと月村に連絡を入れた。警察にも事情を話して開放された。彼女等が攫われて、約一時間。
執事さん…鮫島さんも意識を取り戻して、彼女達を探している。

「さて……往きますか」

厄介だ。魔法は使えない。魔法の事を知られては不味い。俺は監視されてる身、今回の行動はリンディさん達に報告が行く。あの人達なら、良くやったと褒めてくれそうだが。周りはそうとは行かないだろう。
リンディさん達に敵が多いのは知っている。そいつ等からすれば、俺はあの人達の弱点だ。社会的な地位も底辺だしな。

「で? どうする良哉? 俺のデバイスは杖型だから、その辺で拾ったと誤魔化せるけど…お前のはまんま槍だろ?」

「コレを使います」

チョット長めの鉄パイプ。

ファラリスさんから言われた。俺の怪我は目だけでは無く、脳にも有った。その結果が今の俺の身体能力。御蔭で毎日の朝、昼、晩の三回の身体スキャンが決まり事になった。今の所問題は無い。
もしかしたら、寝てる間に骨が折れるなんて事が在る可能性が出てきた。ちょっと鬱になりそうだ。
ファラリスさんは、ジェルシードの魔力の影響がまだ有るのではないかと言っていたが。さすがに、もう無いと思う。思いたい。これ以上のハンデは御免だ
左目のラプラスが眼帯の下で弱い光を放つ。
建物全体をスキャンしてるのだ。魔法を積み込めない代わりに付いている機能は俺に取って有り難い物だ。暗視も出来れば全体も見れる。体温を見る事も可能。

「物騒だなぁ…骨、何本逝っとく?」

「寧ろ、潰しましょうか? 玉」

ブルッと来たと軽口を叩くルーダーさんと一緒に、俺は廃ビルに侵入した。

人数は全部で八人。熱源からして二人は離れ離れにされている様だ。三階に六人

四階に二人。

先に三階の連中から片付ける事にする。






side すずか


いつも通りの筈だった。

アリサちゃんとお喋りしながら音楽教室を出て車に乗った。夏休み中は出来るだけお昼に時間をずらしている、習い事。
皆ともっと遊びたいから…夏の日差しはチョット苦手だけど。友達と一緒なら大丈夫。
大丈夫のはずだった。
今日は少しだけ体調が悪い。何故だか酷く咽が渇く。
何でだろうか? この発作は偶に有る。でも周期的なモノのはずだ。
私に取って大嫌いな事が原因で起きる発作。
学校を休む事も有るぐらいにこの発作は酷い。
嫌なぐらいにこの発作は私に教える。私が人とは違うと…人間じゃないと。化物なんだと。
私の一族はチョット変わっている。夜の一族という吸血鬼の一族だ。私が運動を得意なのもその所為。
だからちょっと不注意になっていた。
私は、助席の窓を叩く音に気付けなかった。
其処からは物凄い速さで、事が進んでいった。誘拐されたと気付いた時には、私とアリサちゃんは違う車の中だった。そして、一人の男が私に話しかけてきた。

「やぁ、始めましてかな? もしかしたらさくらから聞いているかもしれないけど?」

指名手配犯、テロリスト、犯罪者。知ってる。直接会った事はないけど、話しは聞いている。私と同じ一族の男

「ひ、氷室遊」

「正解、ちょっとお話ししようか? 月村すずか。夜の一族が党首の妹。」





side 月村忍


「居場所は解ったのか?」

「…まだよ。もう少し待って」

恭也の言葉にそう返すも、焦りが私を焦がす

なんで、すずかを行かせたのだろう

なんで、私が迎えに行かなかったのだろう

なんで、なんで………

ハッキングをして町中の監視カメラの映像を見る。電話を掛けてくれた男の子に感謝だ。そういえば…明智良哉と名乗っていたわね。
聞き覚えが有る。すずかが時々話してくれた、不思議な雰囲気の男の子…でも、海外に引っ越したんじゃなかったかしら?

「有った!! ノエル!! このルートで身を隠すのに丁度良い場所は!!」

「……この先には廃ビルが有った筈です。此方から取り寄せた情報からすれば犯人の乗って居たと思われる車は既に乗り捨てて有りました。他の者達も動いております。」

車を乗り捨てて別の車に乗ったか…車を乗り換えたと見せかけて近くに潜伏しているか…

「恭也、廃ビルの方に行ってみて。ノエル、車を出して。私は町の外の方を探してみる。乗り換えてないとしたら…恭也、頼むわね」

「任せろ」

短く言って、ノエルと共に外に出る恭也。

「お願い…すずか、無事でいて」

あの子は自分の存在自体にコンプレックスを持っている。いつもいつも、なのはちゃん達と友達で良いのかと悩んでいる。
氷室は何をするつもりなの?
あの子は争いを好まない子なのよ?

「…まさか」

最悪の考えが頭を過ぎった。それだけは在って欲しくない
奴はあの子に…■■を■■させるき?!





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次回!! ゴールデンボール・クラッシャー、ジャスティス☆リョ☆ウ☆ヤ☆

始まりません!!




良哉・ルーダー組みは吶喊
我らがファラリスさま…何か恐い事してる?!


簡単な人物設定。

クロノ・ハラオウン

何だか物足りない毎日を送っている
良哉ロス状態。
何気に、良哉が艦から降りる時に写真を取っていたりする。
ブラコン。
少将逮捕まであと少し、内心、ストレスを発散させようと思っている。

「なんで、毎日がこんなにも味気ないんだ?」


フェイト・テスタロッサ

最近寂しい。寝る時に抱き癖が付いた。
良哉の枕を抱いて寝てるらしい。

「なんかね…落ち着く匂いがするんだ」

偶にリンディと寝ているとの事。でも、枕は放さない



アルフ

フェイトが抱いている枕の匂いが気になって仕方ない。所詮犬(狼)
良哉がちょっと心配。
時々、どう接して良いか解らなくなるらしい
何だかんだ言いながらも雌。
風呂で取った大胆な行動に赤面。
言い方がちょっときつかったかもと、自己嫌悪する時がある。


マーガス・バリオット

ルーダーが居なくなったので、隊長代理になった。
ヒーヒー言いながら頑張っている。
部屋に有る白いマスクを不思議に思っている

「こんなの…持ってたか? 俺?」

口でなんと言おうとも、ルーダーの事を尊敬している。
コイツも、兄貴体質。この間、フェイトと模擬戦して何とか勝った。
次の日からは負けている。



白いマスク

異界からの侵入者。被ると神の声が聞こえるらしい。



こんな所かな? 駆け足気味なのは解っている。突っ込んでくれるな









[5159] ループの三ノ三(すずか編 通称どN)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/07 00:03


「う…あ…」

気が付いたら知らない場所に居た。朧とする意識で周りを見れば、知らない男が四人。
直ぐにどういう状況なのかが解った。

(誘拐されたんだ…すずかは?)

自分が誘拐された事に気付き、一緒に居たはずの親友が居ない事に焦りを覚えた。

「すず…か…どこ」

「おっ、気が付いたみたいだぜ?」

「やっとかよ…それじゃ、カメラの用意するぞ」

「最初誰がいく? 」

「俺が…いや、ジャンケンするか?」

何を言っている? 順番? 怖気が奔った。嫌だ、嫌だ嫌だ

「おいおい、恐がってるだろ? 俺のサドッ気がヤバイんだ、ちょっと落ち着け。それと、もう一人なら氷室さんが連れてったぜ? 今頃お楽しみじゃねぇの?」

嗤いながら言う男。気持ち悪い

「おい、アイツ降りてきてねぇけど。良いのか?」

「黒髪の方が良いって言って上に言ったんだ。放って置け。それじゃ、俺から言って良いか? 」

男が握った拳を他の男達に見せて、嗤った。ズンズンと私に近づいてくる。

「こ…ない…で」

「諦めな、クスリ使って天国見せてやるよ。俺がイッてからだけどな!!」

「ひでぇ」

「鬼畜ぅ」

「其処に痺れる憧れるぅ」

ふざけた声で騒ぐ男達の下衆な視線が気持ち悪い。嫌だ、こんな男達の慰み物のに成るのが嫌だ。友達を助ける力が無い自分が嫌だ。
誰か…誰でも良いから、私は我慢できるから…すずかを助けて!!
私は目の前に迫る恐怖に怯えて、眼を瞑った。






side ルーダー・アドベルト

ブチっと自分の中で何かが切れる音がした。
解ってる、解ってるよ? 殺しても良いんだな糞共が…

「良哉…何人いける?」

「…二、二で分けましょう。カメラとバニングスに迫ってるのは俺が…」

「OK、他の二人は俺が殺る。なぁに、殺したとしても隠匿できるでしょ。方法は知ってるし…本気で往くぞ良哉…結界はこの部屋限定で張る。1」

「2」

「3」

「「Go!!」」

良哉よりワンテンポ遅れて突っ込む。
カメラを向けていた男の肩に鉄パイプがめり込み、骨が折れる音と肉が潰れる音が俺にも聞こえた。良いねぇ、良いぜ良哉。

カメラを向けていた男の肩を砕きながら宙に上がり、一回転しながら鉄パイプをもう一人の良哉の標的に打ち下ろされた。
俺の標的は、突然強襲してきた良哉に気を取られて呆然としている。
脇ががら空きだぜ。

ミヂィ

思いっきり、助を叩く。
骨を砕いた感覚がデバイス越しに伝わる、感触は最悪だがスカッとする。
そのまま襟首を掴んで身体の前に引っ張り、ベルトを掴んで盾にしながらもう一人に突っ込む。銃とか持ってたらヤバイからな。

そのまま、盾にした男をぶつける。無様に尻餅付いた男が口を開こうとしたが、耳が腐ると困るのでデバイスを口に叩き下ろす。

良い音を立てて歯が折れた。うえぇ、汚ねぇ!!

とりあえず、殺しては居ない。口ではああ言ったが殺すとクビになってしまう。家族を路頭に迷わせたくない。
足で、腕をを踏みつける。軽く呻いていた声が無くなった。気絶したようだ、根性無しが。

振り向くと、クチャァっと粘っこい音がした。

良哉が持っていた鉄パイプの先はL字型に成っている。少しだけだけどな。そして、穴が開いている。

運悪くソレが股間に叩き込まれたようだ。

一応観ていたが、背中を強打された男は痛みで転がり、仰向けになった所に凶器が打ち下ろされた。想像したらブルッと来た。
鉄パイプの穴は其処まで大きくない。睾丸が二個も入らないだろうギリギリで、位置を変えたら入るかも知れないが…

「良哉…潰れた? それとも破れた?」

「半分づつぐらい潰れて、ちょこっと破れました…うわぁ」

全く…頼もしい相棒だ…



side アリサ・バニングス

鈍い音が聞こえた。叩かれたのだろうか? でも、痛みは無い。眼を開けると知ってる奴が居た。なんで? なんで、アイツが居るの?
アイツは引っ越した筈だ。クラスの皆に何も言わずに引っ越した筈だ。
でも、アイツが居る。私を助けてくれるの? なんで?
話した事など皆無に等しい。互いが互いを避けていた。アイツがなんで私を避けていたのかは知らない。私はアイツの目が気に入らなかったし、纏ってる雰囲気が回りと掛け離れていて気持ち悪かったから、避けてた。

「なん…で…アンタが…居るのよ」

可愛く無い事を言った。自覚してる。

「目の前で知り合いが誘拐されて、探してみれば更に不愉快な事になってた。だから助けた。それだけだよ、バニングスさん。鮫島さんも無事だったし…後は月村だけだな。ルーダーさん…後、お願いします。子供より大人の方が良いでしょ?」

何を言ってるの? それだけで来たの? 酷い事されるかもしれないのに? 最悪、殺されちゃうかも知れないのに? 
それに何よ、その眼帯。

「…お前の方が良いと思うが…お嬢ちゃん、名前は?」

大人の人が優しい笑みで言った。恭也さん達より年上の人だ。

「アリサ…バニングスです。」

「そうか…それじゃあ、アリサちゃん。これから外に出る。警察には良哉が匿名で情報を流したそうだから、じきに来ると思う。」

「はい」

「正直な所、君は俺の事が恐いと思う。でも、此処に居たら危険だ。君は戦う力を持たない。だから、俺が少し遠くに君を連れて行く。」

「でも、アイツだって「良哉は違う」…アイツだって子供じゃない」

私と同じ年の男の子だ、ソレは変わらない。なんで…皆、アイツを子供として扱わないの?
学校でもそうだ。アイツが居なくなってから、直ぐに問題が在った。クラスには先生以外に頼る人間が居ないのだ。気付かなかった。男子に纏まりが無くなった。
女子はそうでも無かったけど、ちょっと纏まりが掛けていた。
たった一人が欠けてただけでクラスの纏まりが悪くなった。先生が新任だった事も原因かも知れない。皆が皆、アイツは自分達と違うという目で見ていた。アイツもソレを受け入れていた。
私はソレが気に入らなかった。

「バニングス、持っとけ」

放物線を描いて私に投げられたのは携帯だった。私の携帯は壊されている。恐らくすずかのも…

「アンタ…なんで…」

「鮫島さんに連絡すれば、駆けつけてくれるだろ? そしたら、警察も直ぐに動ける。」

なんで…アンタは…

「なんで、平気な顔してるのよ!! 左目の眼帯は何よ!! アンタだって子供なのよ!! なんで…なんで…アンタは大人みたいに振舞うのよ!!」

何よ…何でよ…アンタは一人で大丈夫そうな顔するのよ

「ルーダーさん。バニングスをお願いします」

「ハァ…任せとけ、十分…いや、五分で戻る。」

私はルーダーという人に抱えられて、その場を去った。
悔しい、悔しい。涙が止まらない。アイツを理解できないのが恐くて、悔しい。
同じ年なのに、同じ子供なのに

「アリサちゃん、君は正しい。でも、そおいう人間も居るんだ。解らなくて良いから、良哉を責めないでくれ」

「…なんでよ…なんで…」

振動が止まった。険しい声でルーダーさんが言った

「…そこに居る奴、出て来い!!」

まさか…そういえば、奴等は一人上に上がったと言っていた。もし、部屋に戻らずに見回りにいっていたとしたら…






side 月村すずか


それは甘い誘惑だった。自分の体に流れる血が疼く。

普段なら、気持ちが悪くなる鉄の匂いがとても良い香りに感じる

でも、私は化物になりたくない。人を殺してまで血を飲みたくない。

「ほら、遠慮しないで。一言、言えば良いんだよ? 『血が飲みたい』とね」

「い…や…です!!」

そうかぁ、と氷室は言った。ドサリと崩れ落ちた人だったモノがピクピクと痙攣している。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪いのに…咽が渇く

部屋に充満する血の香りが、私をオカシクする。咽が渇いた。美味しそうだ、流れ出る赤い筋がとても美味しそうに見える

(だめ!! 私は私で居たい…なのはちゃんとアリサちゃんの友達で居たい!!)

「そうか、こんなむさ苦しい男の血は飲みたくないね。ハハハ、考えが足りなかったよ。それじゃあ、あの子を連れてくるからチョット待っててくれ。」

「…あの子」

誰? 誰なの? 

ふと頭に親友の顔が過ぎる。

「!! 嫌!! やめて!! 飲む!! 飲みますから!! アリサちゃんに酷い事しないで!!」

「おや? なら、ソレで良いか。それじゃあ、飲むんだ。そして、君は正しく夜の一族になる。悲しむ事も、苦しむ事も何も無い。所詮は劣等種…餌に過ぎないのだから」

気持ち悪い、気持ち悪い、あの自身に満ちた目が気持ち悪い。その自身が何なのかを私は知っている。私の中に在る欲求の大きさがソレを肯定する。
氷室は私を本物の吸血鬼にするつもりだ。嫌だ、成りたくない。嫌だ嫌だ嫌だ!!
お姉ちゃんに嫌われる、恭也さんに嫌われる。なのはちゃんに、アリサちゃんに、皆から嫌われる。

(嫌だよ…嫌われたくないよ…誰か…)

「…助けて…」

蚊の泣くような声だった、自分で自分を笑ってしまう。何で私はお姉ちゃんみたいに強くないんだろう…なんで私は恭也さんみたいに強くないんだろう…
なんで、私は…

抗えないんだろう




side out


さて、覗き見た光景に少々驚いたが…どうするか?

困った事に、月村と氷室という男の居る部屋に窓が無い。序でに階段も遠い。部屋に押し入るのは簡単だが…あの男に勝てるかが解らない。
本能が警告する。アレは違うと。何かが違うと。

本能の侭、ラプラスが勝手に動く。この辺り、本当に優秀だと思う。
その結果、少しオカシイという何処ろでは無くなった。筋組織の一本一本が発達しすぎている。外見上普通に見えても中身の性能が違う。
普通なら3程度の力しか出せない物(全力で)が7ぐらい出せる様な構造に成っている。
氷室の声から『夜の一族』という単語が出たが、訳が解らない。忍者とかの末裔なのか?

恐らく違うだろうが…氷室はすずかに血を飲ませる事に固執しているように思える。何故だ? 何故、人に血を飲ませる?
頭に浮かんだのは宗教関連の事だが…違うような気がする。もう一つ浮かんだのは、吸血鬼の真似事をさせてorして。自己暗示を掛けているのかだが…まさかな。

いや、魔法というモノが在るんだから……止めよう。今はすずかをどう助けるかだ
何かないか…

(ラプラス)

(何でしょうか?マスター)

(この部屋の耐久度は解るか?)

(可能ですが…あまり無茶をしないで下さい。)

良し。後は俺に可能かどうかだ…上手くいってくれよ。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

こんな良哉は良哉じゃない!! 
っと思いながら書いております。
だって…勝手に動くんだもの…

次回、氷室のアンちゃんと激突。 一方その頃ファラリスは? 見たいな感じで

それと、股間が冷えた人。貴方は正しい。

序でに、前のアンケートの選択肢の意味は

どS、そのままの意味。親しかった人に合わせるなんて…的な感じ
どN、妥当。ノーマルという感じ
どM、茨の道的な意味で
AN、アブノーマル。足の動かない女の子が良いなんて?! 良く分かります!!
SM、適度に虐め合う的な意味で。魔力と思想の違い

P、作者の日常に足りない物。平和。連日の飲み会でイロイロヤバイです。

後、一日一回更新してる事に気付いた。その内無理に成る。職がね。無いの。
有っても、これで貯金とか出来る? って感じのなの。誰か職を下さい!! 
正月なんて嫌いだ!! お年玉なんて嫌いだ!! もう勘弁してください・お金が無いです!!


それと、他の作品を知ってる人が居てちょっと嬉しかった。人気無いと思ってたのに。嬉しいものだね。



この作品は、皆様の優しさとサドッ気。それと私のサドッ気と少ないヤル気で出来ています。
感想をくれる皆様、誠にありがとう御座います。







追伸、ちゃんと考えてるぜ?ヴィのこと…



[5159] ループの三ノ四(すずか編 通称どN)修正しました
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/11 03:07
起動音だけが部屋に響く。
画面に映った画像をバラマキ、監視カメラから盗んだ映像を修正してバラマク
コレで奴等は逃げられない。奴等の名前、家族構成などもバラマキ済み。
少しすれば、殆どの人が指を指して声を挙げるでしょう。

犯罪者と誘拐犯と

逃げられないように銀行に預けてあった金銭は名義を変えて、孤児院や介護施設に寄付する。三割は良哉君の口座に入れたけど…仕事料よ?
ずっと家に居るのもなんだし…何処かに旅行に行きたいわねぇ…
執務官が怒りそうだけど…

まぁ、こんなものよね。下衆の末路なんて…序でにマスコミに画像と動画を入れたファイルを送っとこう。明日の朝刊が楽しみだわ。
それにしても、情報社会っていうのは恐いわねぇ







踏み込む。何度も繰り返した打ち下ろし
背後からの強襲。普通なら、ドアの音に反応して一瞬の停滞が生まれる…筈だった
ゾクリと背筋が凍る
そのまま、倒れこむようにして身体を低くして前進。頭の上を何かが通り過ぎた。

「なんだ…昼間に会った子か…どうしたんだい? 迷子にでもなったのかな? それとも」

なんだコイツは?! 

「食べられに来たのかな?」

冷や汗が背中を伝う。全身の産毛が逆立つような感覚が…教えてくれる。勝てない

「月村」

「な…んで? 明…ち…くん…なん…で」

「とりあえず、俺の服でも体でも良いから掴まれ。逃げるぞ」

対峙した男から眼を逸らさずに言う。早く、早く掴まれ月村!!

「だ…め…でき…ない…逃げ…て…お願…い…逃げて!!」

何だ?何故だ? 男性恐怖症という事は無い。ソレなら学校に来ていないはずだ。

「眼を逸らさないのは立派だけどな…後ろに気を付けた方が良いぞ?」

「止めて!! 言わないで!!」

「ソイツは、吸血鬼だ」



side すずか

知られた、知られてしまった。知られたくなかったのに…折角助けに来てくれたのに…
嫌われる。嫌われちゃう。

「…そうなのか? 月村」

「…う…ん」

違う!! なんで? 何で違うって言えないの?!

(もう、良いでしょ? この子の血、飲んじゃおうよ)

いや!! 止めて!! 私は…

(否定できないでしょ? だって、知られちゃったんだよ? なのはちゃん達にも知られちゃうよ?)

それでも…嫌だ。飲みたくない!! 飲みたくなんか無い!!

(嘘吐き。本当は飲みたいくせに。此処で明智君の血を全部飲んじゃえばバレないよ?)

やだ!! 止めて、止めてよぉ…

(ちゃんと現実をみようよ。咽もカラカラだよ? それに…首筋から視線が離れてないじゃない?)

ちが?!

(ずっと気に成ってたでしょ? なんで明智君なら平気なんだろうって。他の男の子は苦手なのに)

ソレは、何処か大人な感じがしたから…

声が聞こえる。頭の片隅に声が…

「…月村…血を吸われると死ぬのか?」

「…死なないよ」

「噛まれると吸血鬼になるのか?」

「…ならな…い…お願い…明智君。…逃げて」

お願い、逃げて。まだ、我慢できるから、お願い。逃げて…

「なぁ、アンタ。俺を逃がす気ないだろ?」

「良く分かったね。賢い子は好きだよ。」

「月村、逃げたら俺は殺される。逃げなくても殺される。それでも君は俺に逃げろと言うのか?」

「で…も…」

言葉が続かない。鼓動が早くなる。顔が熱い。

「全部終わったら吸っても良いからさ。今は我慢してくれ」

どうして? なんでそんな事言うの? 私はまだ我慢できるよ? そんな事言われたら…我慢できなくなっちゃうよ…

それでも、明智君の言葉に従いその背中にしがみ付くのは、私の弱さなのだろうか
以外にもガッチリとした背中は温かくて、仄かに香る汗の匂いが私の意識を蕩けさせる。

(ああ…咽が渇いたなぁ…)

それでも、飲もうとは思わなかった。噛もうとも思えなかった。
彼は私を助けに来てくれた。それがとても嬉しくて怖ろしい。
嫌われただろうか? 嫌われたと思う。
それでも、嬉しいと思うのは…私が弱いからだろうか
眼を瞑る。明智君の腕が動くのが解る。床に何かを叩きつけるような音がすると、私は浮遊感に襲われた。




side out


side out

月村は吸血鬼らしい。でも噛まれても吸血鬼にはならないそうだ……ゾンビか?
地球の神秘だ。どうでも良いが…今此処で俺の血を吸うつもりなら気絶させて逃げる。コレが終わって、もし暴れだして…殺し合う事になったら…俺は月村を殺す。魔法を使ってでも殺す。殺せる。
酷いかもしれないが、俺の中で月村の優先順位は低い。助けに来たのは知り合いで尚且つ目の前で誘拐されたからだ。その事を後悔してるし、良かったとも思っている。幾ら優先順位が低くても、知り合いが酷い眼に遭うのは気分が悪い。ソレが女の子で、強姦ならば尚更だ。
月村は俺が知る未来で何ら重要ではない。親しくも無かったし。関係が無かった。
月村が暴れる云々は最悪の可能性の一つだが、警戒するに越した事は無い。俺は死にたくないし、仲間を救いたい。繰り返しの原因を見つけて何とかしたい。後はどうでも良い。

「それで?どうやって逃げる?小僧」

普通なら逃げられない。逃げられるはずが無い。

(…普通ならな)

左手を動かしてカートリッジを取り出す。ビルに侵入する前に、予めシュベルトから抜き取って置いたものだ。カートリッジの中身は、魔力。俺の色に染まった魔力。
ソレをこの場で使うとどうなるか?
カーットリジに詰まった魔力は開放され、霧散する。但し、俺の魔力光を撒き散らしてだ。まるで閃光弾のように…
俺の魔力の色は鋼の様な色。白に近い灰色。そんな色の閃光が弾ける。コレは堪らない。数秒は時間を稼げる。
カチっとカートリッジが床に落ちた音がする。間を置かずに踏みつける。瞬間的に魔力を流し込む。爆発。衝撃は無い
在るのは閃光。
叫びながら眼を押さえる氷室を視界の端に収めながら鉄パイプを振り下ろす。
身体強化に鉄パイプの強化はカートリッジから閃光が溢れた瞬間に初めて、既に終わっている。鉄パイプを振り下ろす場所も予め決めてある。
所々違うが、結果は同じ
砕ける床、落ちる俺達。短い落下時間。その短い時間の中で月村の足を俺の体と、後ろに回した鉄パイプで挟む。
月村には悪いが、盾に成ってもらう。氷室は月村を殺さない。殺せないではなく殺さない。無理やり血を飲ませようとしていたぐらいだ。しかし、俺は殺す。躊躇無く、嬲りながら殺す気だ。目を見れば解る。ソレぐらいは読み取れる。
後ろからの強襲が怖ろしいから、月村を背負う。小さい希望。それが今の月村である。
着地の瞬間に足と膝に痛みが奔ったが、無視して走る

「あ、明智君!! アリサちゃんが」

「もう助けた!!」

見えすぎる左目が、後ろから迫る絶望を移す。体を半歩、右にズラす。俺の隣を瓦礫の破片が通り過ぎた。当れば即死のソレは、俺の頭が在った場所を通り過ぎて階段に当った。
降りる方の階段にだ。
失敗した!! 右に逃げるべきだった!! 
逃げ道が限定された。階段が目前だった所為で上がる事しか出来ない。氷室のスピードは異常だ。止まれば直ぐに追いつかれる。
スピードを落とさずに階段を上る。カートリッジ使う事も忘れない。

「グアッ!! 殺す、殺す殺す殺す!! 絶対に殺してやるぞ劣等種ぅぅぅぅぅ!!」

ビル全体が揺れるような大絶叫に、月村が竦み上がった。
なるべく置くの部屋に入る。

ルーダーさん。早く来て下さい。



side ルーダー・アドベルト



不味い、非戦闘員、しかも子供を護りながら戦えるか? 答えはyesだが…今回はNOだ。
魔法が使える世界なら良い。しかし、此処は管理『外』世界。魔法の存在は知られて無い。それに相手は、此方に姿を見せずに移動している。気付けたのは気配が一瞬漏れたからだ。俺の抱えているお嬢ちゃんを確認したからだと思うが…

「ルーダーさん…」

「アリサちゃん。一人で逃げれるか?」

「はい。ある程度離れたら携帯で家に連絡します」

強い子だ…いや、無理をさせてるだけか…情け無い

「待て!! 」

強い、静止を求める声と同じに黒尽くめの男が出てきた…怪しさ全開だな、おい

「恭也さん!!」

「知り合いなのか?」

「友達のお兄さんです…凄く強い」

「貴方は誘拐犯じゃないんですか?」

あ~…そういう事…

「逆だ、逆。俺はこの子を助けに来た善良なおじさん。それじゃあ、この子は任せたぜ? 相棒がもう一人の子の方に行ってるんだ」

俺がそう言うと、黒尽くめの雰囲気がガラリと変わった。コイツ…強い

「本当か?! っ!! ノエルさん、アリサちゃんを頼みます!! 貴方も逃げてください、奴は普通の人間じゃ勝てない!!」

「畏まりました。アリサ様、此方へ。其方の方も」

「まてまて、一遍に無茶苦茶言うな。あの黒尽くめ…恭也とか言ったか? アイツはもう行っちまったし、そんなにヤバイのか?」

メイド…で良いんだよな。その女性に聞く

「…詳細は明かせませんが…銃器を持っていたとしても、対峙すれば勝てる可能性極小です」

クソッタレが!!

俺は直ぐに駆け出した。向こうが追いかけてくる気配は無い。直ぐに見えなくなった。振り返り確認して、俺は魔法を使う。
短い距離を全速で飛ぶ。周りから見えない筈だ。一々低空で走ってる様に見せかけてるんだ。
それでも、追いつけないてどうよ? 人間止めてるんじゃないの? あの男…そう思った瞬間には、目の前を走る男を発見。全身黒だから見えにくかった

「おいアンタ!! 恭也って言うんだろ!! 良哉って名前に聞き覚えは無いか!!」

「なんで知ってるんだ!!」

「俺の相棒はソイツだ!! 俺よりアンタの方が早い!! アイツは四階に向かった筈だ!!」

「解った!! しかし…嘘だった時は…」

「アイツは俺の仲間だ!!」

恭也の言葉にそう返すと、恭也は無言でスピードを上げた。魔法も使わずにアレだけのスピードだせるのかよ…
しかし、ツライね。管理外世界での不測の事態っていうのは

(良哉!! 聞こえるか!!)






side out

ガチャンとまた別の部屋で音がした。ゆっくりと、音を鳴らしながら部屋を探す。遊んでやがる。恐怖を与えてるつもりなんだろう。ならばソレは大成功だ。俺の後ろで、音が鳴るたびに身体を竦ませてる月村がいる。
手を握る。少し無理やりだが…仕方が無い。ゆっくりと、音を立てずに歩く。
人間とは結構単純なもので、他人の体温を感じると落ち着く。その為に手を握る。ゆっくりと歩くのは気を紛わせる為だ。
昔、初めて人を殺した時はメガーヌさんがそうして傍に居てくれた。吐いて喚き散らして自己嫌悪に耽った俺を立たせてくれた。なんで今思い出したのかは解らない…それが哀しい

「明智君…恐くないの? 私は、氷室が言った通り…」

「月村、他人に自分は吸血鬼ですって言って信じる人間がドレだけ居ると思う?」

声は勿論小さくしている。お互いが近い距離に居るし…大丈夫だと思う。月村にパニックや癇癪を起こされても堪らない。

「それは…そうかもしれないけど。でも、私は」

「うん。でもさ、そんなモノなんだよ。別に噛まれたからといって吸血鬼になる訳じゃない。死ぬほど吸うわけでもないんだろ?」

(おい!! 良哉!!)

「そう…だけど……でも、オカシイよ…なんで、恐くないの?」

「まぁ…そんなモノより恐いモノを知ってるから…かな?(聞こえてます。急いでください、ルーダーさん。ヤツは強すぎる)」

月村に言いながら、ルーダーさんと話す。頭が痛い

(今何処だ? )

「恐いモノ?」

「人間だよ、月村。この世で一番恐いのは人間だ。(四階の…窓側…ビルの入り口側です。)」

(解った。既に一人、援軍がそっちに向かってる。お前が言ってた恭也とかいう男だ。)

恭也さん? なんで? 疑問が尽きないが、戦力的に一番ありがたい。

「そう…かなぁ?」

「そうさ。人間ぐらいだろ? その時の感情で同属を殺すのは? 」

月村も大分落ち着いて来たようだ。何かを必死に考えてるようだし…もう、手を離しても大丈夫だろう。俺は二人が来るまでの間の、時間稼ぎをしなくてはならない。周りを見渡すと工事で使ったのか、ロープと梯子が放置してあった。後。カラーコーン?だったか? 名前は覚えてないが、工事現場に有るやつ。
ロープをてに取ってみる、中々の長さだが…今から脱出してる時間は無いな…
隣の部屋から音がした
どうやら、次のようだ…



時間稼ぎ…出来るか? 



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
相変わらず短くてごめんなさい。
友人の家に逃げ込んでました。平穏を求めて…

超展開に次ぐ超展開!! 恭也は間に合うのか? ルーダーは? 影で蠢くファラリスは!!

「ねぇ作者、どうして良哉、直ぐ死ぬん?」

的な感じで逝けたら良いな!!



今日は終わります。体力も限界なので…





[5159] ループの三ノ五(すずか編 通称どN)修正しました
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/11 03:07
人間が一番恐いと思うから


明智君はそう言った。

何で?

そう聞けなかったのは、哀しい眼をしていたから。なんでそんなに落ち着いて居られるの?
私が我慢できなくなったら。どの道、氷室の思う壷なのに…

何でそんなに深い光を湛えてるの? 

でも、その瞳が私の中の声を掻き消す。私の思考が巡る。
ズルイと思う。私の誰にも言えない悩みを『そのていど』呼ばわりの例題で切り捨てて、彼は彼の答えを教えてくれない。
それに加えて、人間が一番恐いと私に言う。
バカみたいだ。明智君はソレを当たり前のように言う。
握っていた手が離された。少し寂しい。心細い。
疑問ばかりで、私は私を取り戻した。

彼の答えを聞いていないから、出来るかどうかは分からないけど…
私は彼を…明智良哉を知りたい。
何で助けに来てくれたの?
何で恐くないの?
何で眼帯をしてるの?
何で此処が解ったの?
何でそんなに強いの?
何で武器を持ってるの?

(そうか……お姉ちゃんもこんな感じだったのかな?)

私は明智君が好きなんだ……私の危機に駆けつけてくれたヒーロー…
うん、それで良いよね。たとえ嫌われたとしても、この気持ちは余り変わらないと思う。
私が見つけたこの思いは

私の真実だから。









拾ったロープを梯子に結ぶ。その端を月村の腰に結ぶ。

「あ、あの、明智君?」

「何だ?」

「あの、どうして結ぶの?」

「逃げる為だ。」

月村の質問に答えてから、窓側に拠る。鉄パイプを構える。
カートリッジは後三つ。しかし、眼暗ましはそんなに効かないだろう…恭也さんが駆けつけてくれる事に期待するしかない。

ドアはゆっくりと時間を掛けて開けられた。

笑いしか出てこない。状況は絶望的。希望観測すれば助かる可能性は在る。逃げ出したい。月村なんて放り出せば良いじゃないかと思う。それでも、そんな事は出来ない。俺の拠所が邪魔をする。輝かしい過去。死んでいった先達、仲間、生徒。今はもう無かった事に成ってしまったモノがそんな事を許してくれない。

何て酷い事なんだろうか。生きたいのに、繰り返したくないのに、彼等を助けたいのに…
此処で逃げれば、向き合えない。


「此処に居たのか…探したぞ?」

「そうは思えなかったけど? 眼が真っ赤ですよ?」

嫌みには嫌みで返す。

「酷いな、コッチは君の心配をしていたのに…すずかに噛まれていないかどうか…酷いなぁ…そんな子にはお仕置きが必要だ。そう、思うだろう?」

「何を馬鹿な。子供相手に恐怖心を煽るような事しながら探してたくせに」

「……そうか…ソレが解るか。餓鬼、お前『殺し』てるだろ?」

流石に解るか…左目が驚いてる月村を映す。そして、その向こう側も

「明智君?」

「そういう事だ。『悪いな』月村」

鉄パイプを手放した。氷室も月村も、俺の行動に唖然とする。

「え?」

「なっ!!」

俺は空いた手で月村掴み、強引に放り投げた。窓の外に

「キャァァァァァァァァァ!!」

「貴様!!」

直ぐに鉄パイプを拾い上げて、突き出す。

避けられた。でもまだ

鉄パイプを腰に当て薙ぎ払う。

「チッ」

掠った。

そのまま、距離を取る。

振り切った鉄パイプが梯子に当って、大きな音がする。

「餓鬼ィィィィ!!」

「怒るなよ。お前の目的を潰しただけだろ? まさか、俺の事を劣等種と呼ぶような御方が? そんな事も考え付かないなんて事はないだろう?」

たっぷりと嘲笑を乗せて言う。怒れ

「殺す!! 絶対に殺す!! 生きたまま腕を捥いでやる!!」

「やってみろ!!」

大き過ぎる身体能力の差。リーチは武器の御蔭で俺の方が長いが、強度は心もとない…が好き嫌いを言っている暇ではない。

突く。避けられる。
大振りの拳が迫る。半歩動き避ける。そのまま打ち上げ。
空を切る。胴に迫る蹴り。
鉄パイプを斜めにして身体を沈める。蹴りと鉄パイプが触れる瞬間に押し上げる。
足払い。
背中から倒れる氷室。一歩踏み込んで打ち下ろし。横に転がり避けられる。

(勝てる!!)

そう思ったのが間違いだった。




side ルーダー・アドベルト


森を抜け廃ビルに辿り着くと、奇怪な光景が目の前に広がった。

「…なに? これ?」

少女がぶら下がっている。目を凝らせばロープが繋がっているのが解った。聞こえてくる衝突音で、合点がいく。
呆けて居る場合ではない。四階から伸びたロープは二階をチョット過ぎた所で終わっている。あの少女は自力でロープを上り、二階の窓から中に入ろうとしている。
つまり、良哉と恭也はまだ戦って居る。

しかし

「良く考え付いたなぁ…アイツ」

息が上がっている。飛んだとはいえソレまでは全速で走っていたのだ…老いが迫っている身体が憎い。
俺のやることはあの少女を救い上げて、その事を良哉に知らせる事。

「状況が許すのなら…下から砲撃魔法でも打ち込んでやるかね」

込み上げて来るこの感情は喜びだ。良哉は解ってる。戦いというモノを。俺がソレを理解するのに一年掛った、その後半年腐った。その後で兄貴に叩き直された。
愉快だ。愉快じゃないか。
現実を見据えてるだけじゃない。戦いも解ってる。覚悟も持っている。

堪らない!! アイツは管理局に入ると聞いている。艦長や過保護気味な執務官の事だ、最初はアースラで仕事だろう。
アイツと一緒に仕事をする。楽しみだ。他の奴等も良哉を気に入る、コレは絶対だ。

「そういやぁ…先ずは学校に入れなきゃなんねぇんだよな…ミッドに居る間は家に居候させるか…」

アイツとなら楽しくやれる。俺はそう思うのだ







side out



腹に喰らった蹴りに、息が詰まる。

「おげ…ゲホゲホ…ッ」

こいつ…遊んでやがった!!

「流石にキツイか? 餓鬼」

パンパンと尻を叩き汚れを落としながら嗤う。

足に力が入らない。上半身を腕で支えるのが限界だ

「だが……良いな、お前。俺の目的を潰す為に月村すずか自体を亡き者にする。」

氷室は嬉しそうに言う

「外道だ。ソレが良い。見境が無い、躊躇が無い。お前の顔には後悔も罪悪感も浮かんでない!!」

窓の直ぐ傍に在る梯子に眼をやる。運の良い事に、部屋に在ったロープはこの薄暗い部屋では見えにくい。
予め、ロープの余った部分を外に出し窓の端に来るようにしていて良かった。部屋の隅にから鉄骨が見えて居たのも幸運だった。その事がバレない為にも、これ以上奴の視線を下に向けさせる訳には行かない。
鉄パイプを叩きつけるように打ち鳴らして、立つ。足が震える。恭也さんはまだこない。

(ラプラス!!)

(No.まだ一分も経っていません。後、二十秒は必要です)

いけるか? いや、やるんだ!!

「ソレで? 俺をどうする?」

「眷属になれ」

五…呼吸を整える

「生憎、人間を止める気も、他人に噛み付いて血を啜るのも趣味じゃない」

「必要は無い。ただ、俺の血を受け入れろ。それだけで済む」

十二…足に力が入り始めた

「ハッ!! 怪しいな、噛まれた瞬間に洗脳されたら堪らないんでね」

十六…来た!!

「そんな事はしないさ、月村と違って俺の血統は獣人の血が多少混じっていてね。さくら程強い訳じゃないから人と同じ姿だが…その分、良いトコ取りでね。回復力、筋力、寿命、どれもが人より上だ。俺の血を受け入れ、眷属になるのなら…お前もその恩恵を授かれるぞ? 血を吸わずとも…どうだ?」

二十五…心が揺れる話しだが…

「それは、魅力的だけど…そうも行かない理由が在るんでね」

「言ってみろ。最後の言葉くらい聴いてやる」

「俺を生んでくれた両親に申し訳が立たないんだよ!! アンタもそう思うだろ!!」

踏み込む、やはりさっきよりは弱い

「残念だよ…所詮は劣等種か」

手刀での突き。鉄パイプを手放し、手首を掴む。そのまま抱き込み、身体全体で腕にしがみ付く。

「今だ!!」

「なっ!!」

「雄ォォォォォォ!!」



しがみ付いた俺に意識を向けた氷室の不意をついての斬撃。二の腕から切り飛ばされた左腕が、血を撒き散らしながらキリキリ回る。
俺は背筋に力を入れ、氷室の肘を逸らせて、手首を捻る

「ギィ…ア…舐…める…ナァァァァァ!!」

氷室は俺を右腕事、恭也さんにぶつけた。しくじった。直ぐに手を離すべきだった。恭也さんは俺を庇って少し後退した、ソレが隙になる。

「高町恭也ァァ!!」

「チィ!!」

更に後退、左に半歩、右に半歩。

恭也さんの頬が浅く切れた

「捨ててください!!」

「しかし…」

「殺される」

「…解った。合図をしたら逃げてくれ」

避ける、避ける避ける避ける。
居心地は最悪だ。左目に右目が追いついてこない。仕方なく瞑る。
怖ろしい事に、氷室の左腕の出血は止まっていた。肉も盛り上がっている。

(ラプラス)

(御意)

「出鱈目すぎるだろ…恭也さん、アイツは倒せるんですか?」

「頭部の破壊、ソレか心臓を破壊すればな!!」

また、恭也さんに傷が走る。
俺を抱えている所為で、捌ききれて居ないのが原因だ。
氷室の傷は少しずつ治っていっている。脅威的なスピードだ。
タイミングを見計らう。

氷室の蹴り、避ける。その後に続いた回し蹴り…今だ!!

「投げて!!」

「?…そうか?!」

宙に放られる。蹴りの軌道の少し上、氷室の足に足をつけて蹴る。

体制を崩した氷室に恭也さんが切りかかった。後ろに後退する氷室。
鉄パイプを握り、恭也さんと挟むように攻撃する。
狙いは足

一歩後退する瞬間に、薙ぎ払う。

「グッ」

「貰った!!」

恭也さんの横凪の一撃が、氷室のクビを切り裂いた!!

しかし、それで終わらなかった。倒れこむ氷室。その瞬間、眼が合った。

(ヤバ!!)

鉄パイプを前に構える。切り裂かれた。鉄パイプごと…

「ギッ!!」

「良哉君!!」

「ハッハァー!! 甘いんだよ!! 」

足払いが、恭也さんに当る。氷室は窓を背に此方を向いて嗤った

「まさか、貴様がこんなにも早く来るとは思わなかったぞ。高町恭也…しかし、さくらから聞いてなかったのか? 」

嗤う、嗤う。全てを見下したように

「クビを切られたぐらい直ぐに治るんだよ!! 月村とは違って俺もさくらも獣人の血が混じってるんだ、回復力は月村以上、膂力も、瞬発力もだ!!」

「それが、どうした。殺せないわけじゃ無い」

身体を持ち上げる。鉄パイプは見事に寸断されていた。その御蔭で腹と胸の皮一枚ですんだようだ。

頭がクラクラする。内臓が痛い。傷がヒリヒリする。それでも…まだ、終わっていない。

窓に背を向けた氷室は道化の様に嗤う。

「そうだ。さすがに、何の用意もしていないからお前と戦うのはキツイ。左腕も治るのに三十分は掛るな。だから…」

「待て!!」

氷室は後ろに飛んだ。チャンスだ。

カチリと懐に入れていたカートリッジを取り出し、鉄パイプと一緒に握りこむ。

「バカが!!」

カランと氷室が飛んだ瞬間に投げたモノが、閃光を放った。恐らく拳銃も持っていただろうに…アイツは本当に、俺達で遊んでいた様だ
それでも、俺の左目には効かない

恭也さんが蹈鞴を踏む。その横を駆け抜ける。

「お前!!」

「バァーカ。」

バインドを仕掛ける。両手足をそれぞれ固定された氷室。俺はその上に乗り、カートリッジの尻をを手の平で強引に押す

バインドは直ぐに解けた。当たり前だ、荒すぎる構成では数秒しか持たない。勿論、態とだ。恭也さんが来る事を教えられてから考えていた。
殺し方も聴いた。

「死ぬ気か?! 劣等種!!」

「ハッ!! 心臓と頭をぶっ壊せば死ぬんだろう!!」

魔力刃の形成は、今までよりも速く、スムーズに出来た。右腕を振り下ろし心臓を貫く。

「流石に、四階から落ちたら死ななくても動けなくなるだろ?」

「ギィッザ…マ゛ァァァ」

「シツコイ」

口めがけて左腕を振るう。頚骨を粉砕そのまま引き抜き、眉間に突き刺す
苦し紛れの一撃が左足に当った…痛い
下を見れば近づく地面

後2秒もないか…

「また…かぁ」


俺の体を衝撃が襲った。











side すずか

「あ、ありがとう御座います」

「いや、家の相棒がやったんだ。尻拭いするのは当たり前だよ。お嬢ちゃん」

私は明智君に窓から落とされた。勿論、そうする事は教えられてない。余りの事に本当に死ぬかと思った…お腹がズキズキする。酷いよ明智君…

「さて、逃げれるかい?」

「はい、明智君は!!」

「恭也っていう奴がもう向かってる。良哉もまだ大丈夫だ」

良かった…明智君…

「外の森を真っ直ぐ行ったら道路に出られる。さっき、メイド…たしか…ノエルとかいう女の人にアリサちゃんを預けた所だ」

「解りました、早く明智「死ぬ気か?! 劣等種!!」?!」

振り向く、外から声が聞こえた。下からじゃない上から

その時にはもう、駆け出していた。ロープもまだ解いていない。間違ってても死ぬ事はない。途中でロープが切れても大丈夫だ。
私の体は頑丈だから

身体は思ったよりも軽く、恐怖など微塵も湧かなかった。
手を伸ばす。私の眼前を氷室とその上に跨った明智君が通る。

「痛っ!!」

右肩が外れるかと思った。指も痛い。それでも…

左手を伸ばし、脇に手を入れて持ち上げる。少し重たい
でも、その重さがとても大事な事を、私は気付いた。

「明け…智…君…明智君!!」

「ゲホッ!! ゲホゲホ…っ!! ハァ~」

ど、どうしよう。最初に服の襟首を掴んじゃった…

「あの、ごめんね」

「…いや、助かった。ありがとう、月村」

良かった…明智君が生きてるよぉ

「おい!! 大丈夫か!!」

「ルーダーさん!! 早く引き上げて下さい!!」

ゆっくりと、引き上げられる。何だかどうでも良くなっちゃった。今はただ、明智君の重さが愛おしい

以外に重いんだね…外から見たら細く見えるのに

ミチミチ

「?! ルーダーさん早く!! ロープ「ブチ」が!!」

嘘…ロープが切れちゃった!!

「月村!! 掴まれ!!」

また、私を背負う形になった明智君。直ぐに衝撃が来た。横に転がる私の目に映ったのは、氷室の上で動かない明智君…

「明智君!!」

「良哉!!」

「良哉君!!」

直ぐに駆けつける。胸が動いてる事に安堵した。それでも…

「あ、足が…」

明智君を失いたくない。手を伸ばす。その手は恭也さんに止められた

「放して!! なんで?! 恭也さん?!」

「動かしたら駄目だ!!出血が激しい…ルーダーさん!!」

「もうやってる!!」

不自然な体制で、良哉君の太ももをしばる男の人…

嫌だ、嫌だよ。折角、好きって解ったのに…嫌だよぉ!!










side ルーダー・アドベルト


階段を駆け下りる。最後の最後で不幸がやってきた。
涙を流して良哉の名を呼ぶ少女。その手を掴んで止める恭也。
良哉の太ももには鉄パイプが刺さっていた。出血が激しい、動脈が破れてやがる。

服を破り、急いで止血する。大丈夫か? 大丈夫なのか? 

止血をした後、恭也と二人係で良哉を動かす。此処からはスピード勝負だ。この傷じゃあ俺の治療魔法なんかじゃ、間に合わない。

「ルーダーさん。これから良哉君をある所に運びます。ソコの方が病院よりも早い。良哉君の血液型は?」

血液型? 何だ? 何だった? クソッ!! 出てこない。こんな時にファラリスが居れ…!!

「携帯を貸せ!! 早く!!」

半ば奪い取るように恭也から携帯を取る。直ぐに出てくれよ…

『もしもし?』

「ファラリス!! 俺だ!! 良哉の血液型を教えてくれ!!」







【あとがき】

たぶん、皆こうなってると思う


( ゚д゚) ・・・

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゚д゚) ・・・

(つд⊂)ゴシゴシゴシ   

 _, ._
(;゚ Д゚) …ハァ!?

ふざけんな!!
体力持たないんじゃなかったのか!!
あと、自惚れんな!!




次でどNはオワリのはず…


以下、簡単な紹介


明智良哉

眼帯、嫁
氷室の心臓に刺した鉄パイプが右の太ももに刺さった。
瀕死。
左足の太ももは折れてる。
落ちた衝撃で更に酷い事に成ってる。
死亡回避。・・・・チィ


ルーダー・アドベルト

兄貴、今回は出番というか
活躍少なめ。
でもこの人が居ないとコウは成らなかったと思う


ファラリス・アテンザ

良哉危篤に驚愕。
急いでタクシーを捕まえる
暗黒神という噂が…皆逃げろ!!


月村すずか

何かに気付いた
釣り橋効果? だと思う(作者は)
何気に大胆


高町恭也

最後の最後で出し抜かれた。
未熟。戦場での経験が少ない為だと思われる。
彼女が出来てイチャイチャしてるから…


鉄パイプ

鍛えればラスボスさえ倒せる一品。
良哉を護り、真っ二つに成るも、最後まで武器として在った。

「俺はただの廃品だ…役目は果たしたぜ…主」

実は漢という裏設定


良哉の眼帯

ファラリスの作品
形状は、刀の鍔見たいな形をしているが…厚みが違う
魔力反応を抑える働きがある。
つまり、ラプラスを隠匿する為のもの。
実はまだ、ギミックが付けられる予定である。



こんなトコかな?
次こそ寝る
感想とか…夕方ぐらいに返せたら良いな。と思う
ゴメンね



[5159] ループの三ノ六(すずか編 通称どN・完結)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/13 13:50

徐々に体温が低くなって行くのが分かる。

傷口を心臓より高くしているルーダーさん。

なるべく揺らさないように、そしてなるべく速く車を運転するノエル

アリサちゃんには、鮫島さんが迎えに来たらしい。

ごめんね。明智君。

恨んでくれて良いから…ごめんね

私は、彼の首に牙を突き立てた。











side ルーダー・アドベルト


変化は劇的な物だった。最初は何が起こったかが解らなかった。解ったのは一つ、良哉が死なずに済んだ。それだけだ

俺は恭也に連れられて大きな屋敷に入った。良哉は別室に連れて行かれた。医療器具などは有るのかとけばyesと返された。コレでも人を見る目は有るつもりだ。コイツは信用しても良いと思う。
俺に遅れるようにして、ファラリスが到着した。なんでも、良哉のデバイスには発信機を付けているから直ぐに来れたらしい。胸座を掴まれ揺すられたが、事情を話すと直ぐに落ち着きを取り戻した。
武装隊から離れてもそういう所は昔の侭だ。

俺とファラリスが席に着くと、一人の女がやって来た。美人だ。互いの自己紹介を済ませる。この女性は良哉が助けたお嬢ちゃんの姉で、恭也の彼女らしい。
最初に礼を言う辺り、出来た人間の様だ。
しかし、唐突に頭を下げられ謝られた。

「待ってくれ、コッチは何が何だか解らないんだ。」

「そうね。私はその場に居なかったから何も言えないのに…なんで私にまで謝るかしら? 貴女の様子からして…良哉の怪我の事だけじゃないんでしょう?」

俺に続いてファラリスが言った。月村忍と名乗ったその女は、表情を引き締めて口を開いた




side すずか


胸に耳を当てる。トクンと音が聞こえた。
それだけで、安心する。
手を握る、暖かさが伝わる。
それだけで、後悔は無くなった。

明智君は目を覚まさない。失血のショックと身体を強く打った為の衝撃で気を失った様だと、ノエルは言っていた。ノエルは、さっきまで私の近くに居たけど…何かあったら呼ぶからと言って、下がってもらった

明智君の怪我酷い物だ。左足は大腿骨が折れている。コレでも少しマシに成ったのだ。本当なら砕けていた。
右足の怪我は既に新しい肉が盛り上がり、傷口を塞ぎかけている。
内臓の方にもダメージが大きいらしいけど、数日すれば普通にご飯を食べれる様になるとノエルは言っていた。

私が噛んだ傷口も…既に治っている。

今、お姉ちゃんがルーダーさんともう一人の女の人に何が起こったのかを説明している。最終手段として記憶も消せるからと、お姉ちゃんは言った。
私は、ソレが終わり次第、説教されると思う。
何の誓いも立てていない人に、血を流し込んでしまった。
非常手段としてもやってはいけない事だ。
別に、血を分けたからといってその人物を操ったり出来るわけじゃない。お日様の下を普通に歩けるし、血を飲まなくても良い。

その代わり、時代に置いて行かれる。

私達、夜の一族は長寿だ。老化も遅く、四十を過ぎても二十代に見られるのが普通。短くても百二十年ぐらいは生きられる。

その血を流し込んだ。

明智君の身体も私と似たようなモノに成ってしまった。寿命の方は解らない、少しだけ長くなっているかもしれない。
年を取り難く、常人より回復力の高い人間。
でも、それだけの事で周りから置いて行かれる。彼の知人友人は彼を残して死んでゆく。彼が愛した人も彼を置いていく。
なんて事をしてしまったんだろうと後悔した。でも、彼の暖かさを感じるとソレは無くなった。

なんて都合の良い事を考えているんだろう。

暗い悦びが在ると言えば在る。
私はソレを否定しない。
だって彼が好きなのだ。一緒に居たい。

彼は、私の悩みを「そんな事」扱いした。ソレがとても嬉しい。

彼は私を受け入れてくれる。そんな自分勝手な思いが私の中に在る。





side ファラリス・アテンザ


ソレは物語に出てくるような、話しだった。

彼女は言った

自分達は吸血鬼と呼ばれるモノの血を引く一族である。

と。本来ならば笑い飛ばしてしまうような話しだけれど…そんな事は出来なかった。
彼女の表情は真剣で、その瞳は真実を告げていると語っていた。

(さすが管理外世界…とでも言えば良いのかしら?)

隣を見ればルーダーさんは口を開けて呆然としていた。

「それは、解ったわ。つまり、良哉君は人の侭な訳ね?」

「そうです…そうですが…」

「うん、言いたい事は大体予想できるから良いわ。恐らく、貴方達と同じかそれに準ずる力が使える…っといった所かしら?」

私の言葉に一瞬、目を見開く忍さん。まぁ、当たり前よね。私もコッチに来てからイロイロと調べたり、暇つぶしに本とか読んでたし…文字はミッドの方に変換すれば簡単だったからね。
何が為に成るか解らないわぁ

「…その通りです。それで…」

「契約でも結ぶのかしら? 自分達の事を誰にも知らさない…とか?」

忍さんは、もう驚くのを止めたようだ。

「はい…それで、結んで頂けますか?」

「良いわよ? コッチは良哉君を助けて貰ったんだし、ねっ? ルーダーさん」

「キツイ事言うな…俺も構わんよ。だが…良哉はどうする? 今回、俺達は何も出来なかった無能だ。そして、被害者は良哉だ。」

「それに関しては…彼が起きてから話します。最悪の場合は…記憶を消します」

「ソレは…勝手に決められんな。俺は良哉が拒否するのなら拒否する。」

まぁ、そうよね。ルーダーさんは義理堅いし…私には他にやりたいことが在るし

「じゃあ、そういう事だから…そうだ。契約する代わりと言ったら場違いだけど…協力してくれない?」

「何に…っと聴いて宜しいですか?」

「勿論」

さぁて、根こそぎ蹂躪してあげるわ。犯罪者共








side out




眼を開ける。知らない天井が有った…どうやら生き残れた様だ。ゆっくりと身体を動かしてみる。
左足が動かない、痛みが激しい。骨が折れているようだ。
右足の太股には違和感が在る。思い出せば鉄パイプが刺さっていた筈だ。
頭が重い、身体がダルイ…貧血の所為だろう
ソコまで考えて、左手が動かない事に気が付いた。
前にも在った事だ。今回は高町ではなく月村が俺の手を握って居た。座った侭の体勢で寝ると首やら腰に悪いのに…

「おい、月村」

「ん~…」

起きない。肩を揺すってみる。

「やぁ~…」

起きない。頬を突いてみる、プニプニとしていて柔らかい

「むぅ~…アム」

ガリッ!!

「イッ!!…っ~」

「はれ…あ、あけふぃふん!!」

「人の指を加えたまま喋るな」

「ご、ごめんなさい」

しかも、お前。今チョット血を飲んだろ

しかし、助かったか…

「お互い、助かったな」

俺がそう言うと、月村は怒られた様な表情で言った

「…その事なんだけど」

月村はゆっくりと話し始めた。たった数分の短い話。要点だけ絞ればこうだ

月村は俺を噛んだ
血を飲んだのではなく、自分の血を贈った
俺は人間の侭だが、常人では在り得ない回復力を得た
老化が極端に遅くなった(身体の成長がピークに達すると老い難くなる)
しかし、贈った血は少量なので回復力は一ヶ月もすれば元に戻る。
その反面、老化現象の方は自分達程ではないが遅くなるとの事。しかも寿命の方も若干伸びている可能性も在る

俺としては、別に問題視する様な事は無い。今身体に起こっている事も死んでしまった場合、無効になる可能性が在る。
寧ろ、回復力は魅力的だ。

問題が在るとすれば、月村が語った誓約。
簡単に纏めると、秘密を知ったからには身内になれや
もっと簡単にすると、嫁(婿)に来い
という事だ。
正直、無理だ。
別に、俺が人を愛せない訳ではない。
けれど、俺が月村を本当に愛してしまった場合…俺は耐えられないと思う。
仲間を失う絶望は耐え難いモノだった
両親を失う絶望は屈辱だった。
ならば、愛しい人を失う絶望は?
考えられない、考えたくも無い。
次こそ狂う自信が在る。壊れる自信が在る。そうなれば…全てが無駄になる。
だから、妥協案を出す

「月村…秘密は漏らさない、だから…友人では駄目か?」

「…やっぱり、嫌だよね…」

「いや、そういう訳ではない。コレは…俺の覚悟だ」

「覚悟?」

うん、食いついてくれたみたいだ

「一つ、俺の秘密を教えてやる。氷室が言ったと思うが、俺は人殺しだ」

「……本当なの?」

頷く。

「俺はその事を後悔していない。必要だから殺した。月村も解るだろ? 人殺しはいけない事だ。」

「…うん」

「そして、今日は氷室を殺した。」

「でも…それは自衛の為で…」

「確かにそうだ。それでもいけないことだ…本来ならば、俺は裁かれなければいけない。それも良いさ。でも、今はやることが在る。俺はソレをやり遂げるまで止まる気は微塵も無い、ならばどうすれば良いか? 解るだろう?」

「今日の事は無かった事にする?」

「そうだ…しかし、俺は君達の一族の事を知ってしまった。君達は俺をどうにかしなければならない」

最悪、殺される…のか? 

「そして、俺の覚悟の事だが…俺は俺のやるべき事をなすまで誰とも交わらない。」

「それは…寂し過ぎるよ…」

そうだな。でも、そうしないと俺はダメになる。誰かに甘えれば依存してしまう。その立場に甘えてしまう。

「だから…友人?」

月村は俺に聞き返した

「ああ、ダメか?」

答えは直ぐに来た

「良いよ。でもね、二つだけ聞いて良い?」

「ああ、条件を飲んでくれたんだ。ソレぐらいは聞こう」

「…私の事、気持ち悪い?」

「それは、無いな。寧ろ、世間から見れば月村は美少女の部類だろ?」

「ぁぅ~…えっと、明智君の近くに居ても良い?」

「友達なら、遊ぶのは当然だろ? まぁ、俺は大手を振って遊べる立場じゃないが…」

「うん、なら良いよ。」

その後、誓いの言葉を言わなければ成らない事を教えられ慌てたのは忘れたい。





side すずか



外に出た。明智君は私に、恥ずかしそうに誓いの言葉を言ってくれた。婚約者じゃなくて、お友達だけど……それが嬉しい。

「すずか」

「どうしたのお姉ちゃん?」

「良かったの? 私なら…」

「良いの」

風が気持ち良い。手には明智君の温もりが残っている。その温もりが、身体全体を包んでくれてるようで…私は幸せ

「お友達になれたんだ」

「…そう」

お姉ちゃんが何を言いたいのかは、何となく解る。

でもね

「お姉ちゃん、お友達になれたんだよ? だったら、ソコから先が在っても間違いじゃないよね?」

「!! そうね、間違いじゃないわ(すずか…ソコまで考えてたなんて…)」

空を見上げる。暗い空に輝く星。その星に負けないくらい、優しく輝く満月が在った。
満月の日に誓約を交わした。

吸血鬼の血を引く私が交わした。大好きな人と…なんて御誂え向きな夜なんだろう

明智君、絶対に捕まえて見せるんだから

捕まえられなくても友達で居られる。私は諦めるつもりは無い。
それでも…明智君が他の人を好きになったら…

(意地でも振り向かせて見せる)

それが、私の誓い。
私が私にした誓い。


絶対に忘れない誓い。



だって、今日はこんなにも綺麗な満月が輝いているのだから。




side ファラリス・アテンザ



「つまり…貴方達は明智良哉君の護衛な訳ね?」

「その通り。だからね、あの子を知ってる人間には余り遭わせたくないの。特に…学校の同級生にはね。近所の奥様方には裏でイロイロ出来るんだけど…子供同士のネットワークは侮れないモノが在るから…」

「理由は聞かないわ。人の事は言えないしね」

うんうん。話しの解る人で良かった。まぁ、半分くらい嘘なのも見抜かれてると思うけど…肝心な部分には触れてないからね。

「ありがとう。それで、もう一人の子にも言わなくちゃいけないんだけど?」

「後で、車を出しましょう。バニングス氏にはお話しが在るし」

「勿論、同席させて貰うわよ? 一応、それも私の目的何だから」

「ええ、良いわ」

「宜しくね。後、タメ口で良いわよ? 疲れるでしょ?」

「ありがと…ファラリス」

「どういたしまして、忍」

「「フフフフ」」





おまけ

「な、なあ恭也。」

「な、何ですか? ルーダーさん」

「コーヒーを飲みすぎたらしい。トイレに案内してくれないか?」

「ええ、良いですとも」



ビビリと言ってはいけない。あの暗黒空間には誰も居たくは無いのだ





【サドがき】

遅れてしまってごめんなさい。序でに短くてごめんなさい。
可笑しくなったテンション落ち着けてました。
それで、一言。感想返しについて、謝罪を。

今回、作者の病気に関しては纏めて一言で返そうかと思います。

指摘をくれたななしさんexes01さん。計算してくれた坂の上さん。誠にありがとう御座います。
文系の私には全くわからず、こんなもん的に書いたので勉強になります。

此処で、次回の予告的なモノを一つ

                                      【ファラリス無双】

簡単な人物紹介

明智良哉

強化フラグでは無かった。(当たり前)
周りからは既に獲物(将来的な意味で)
全治?…何時治るかは次で?
すずかに羞恥プレイをさせられた(誓約)


ルーダー・アドベルト

ビビリィ。でも仕方が無い。


高町恭也

ビビリィ2.やっぱり仕方が無い


ファラリス・アテンザ

暗黒神の化身?
過激なマッド。
仲間が出来た

「…跪け、犯罪者」


月村忍


妹思い、恭也の彼女
暗黒神の化身の友人
マッド

「すずか…怖ろしい子!!」


月村すずか


良哉の友達。
でも、狙うわその先
ちょっと腹黒いかもしれない



こんな所かな? 次は病気が発動しないように頑張ってみる。発動したら結婚式編










[5159] ループの四ノ一(やっとこさA,s…に入れてない?!)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/19 10:45

一週間。たった一週間で怪我は治った。
月村さまさまで在る。

その代わりに一週間、月村邸に泊まる事になったが…特に何も無かった。
ノエルさんに風呂に入れられたりとか(すずか乱入)
ファラリスさんが月村のお姉さんと仲が良くなったとか(二日ほど旅行に行ったらしい)
恭也さんとルーダーさんが釣りについて熱く語っていたとか(俺に話を振らないで欲しい)

ぐらいだ。

久しぶりに家に帰って寝ると、少し寂しさを感じた。
だが、ちょうど良い。俺にはコレぐらいでちょうど良い。甘えは禁物だ。
朝、身体が鈍らない様に鍛錬をする。恭也さんが付き合ってくれるので、短いながらも濃密な時間を過ごせる。
一つ。気付いたが、恭也さんは高町の兄だ。出来れば、高町には知られたくない。その事をルーダーさんに相談すると、もう手は打ったと言われたので安心した。
シャワーを浴びて、服を着替える。
夏休みは終り、この時間は知っている人とは会わない。近所の奥様ぐらいだが…不思議な事に両隣やお向かいさんなどの家は、人が居なくなった。

まぁ、全員共働きで子供も居ない人達だったが…突然居なくなると寂しい。時々、夕飯の御裾分けをくれるので仲も良かったのだが…皆、出張らしい。昇進に伴い出張が増えたと隣の山田さん(29)が言っていたの思い出す。

玄関で靴を履きながら、その事を思い出した。

「ハァ…」

会うのが怖い。これから公園に向かうのだ…世話になった剣の師に会いに…

「…行くか」

俺は一言、自分に言い聞かせてドアノブを捻った。








足取りが重い。精神的にだが…

(拒絶されるのが恐い…ですか?)

シュベルトがそう言った。その通りだ。一人は恐い。独りは怖ろしい。孤独は人を狂わせる。

(だから…月村すずかの誓約を飲んだのですね?)

(…そうだ。一人だけ残される辛さは、十分に知っているからな)

後悔している。 誓約などするべきでは無かった。後から聞いたが記憶を消すだけで済んだそうだ。情報不足が仇となったな…
月村すずかは、包容力が有る。全てを包み許してくれるような暖かさが有る。アレは危険だ。俺が繰り返す事が知られるかも知れない。俺が打ち明けてしまうかもしれない。そうなったらどうなる?
あの子は泣くだろう。俺に謝るかもしれない。
理解力の有る子だ。お互いが傷つくのではなく、俺が傷つくと思うだろう。それだけは避けたい。


(主、付きましたよ)

シュベルトの声で、前を向く。剣の恩師が、同年代の仲間とゲートボールをしていた。
どうしようか? どう声を掛けようかと悩んでいると、後ろから大声が聞こえた

「おーい、じいちゃーんばあちゃーん!!」

剣の師と眼が合った。身体が動かない。恩師、柴源蔵はにこりと笑うと声を張り上げた。

「ヴィータちゃん!! 目の前の馬鹿弟子を捕まえてくれ!!」

「任せろ!!」

ヴィータ?! 振り向く。
覚えている、あの紅い髪を。
覚えている、その声を。
覚えている、その身に合わない頼もしさを

危うく名前を呼びそうになったのを我慢して飲み込み。腰に衝撃を受けて倒れた。
当り方が不味い。受身が取れない。後頭部に衝撃を受けて、俺は気絶した。




side ヴィータ


「動くなよ!! って……」

アタシは源蔵のじいちゃんが言った通りに、男を捕まえた。男って言ってもはやてと同じくらいの男の子だ。アタシに捕まえられない筈がねぇ

「おーい」

動かない男の頬をペチペチと叩いてみる。

「………」

胸に耳を当ててみる。良かった、心臓は動いている。死んではいない。
胸も上下しているから呼吸は出来てる。
うん、気絶だな!!

「…あーどうしよう?」

悪いのは…アタシだよな。取りあえず背負ってみる。

(こいつ…意外と鍛えてる)

身体に無駄な脂肪が殆ど無い。つまり、重い。アタシが音を上げるほどじゃねーけど…

「じーちゃん、コイツ気絶した」

目の前まで歩いてきたじいちゃんに言う。源じいちゃんはヒョイっと気絶した男を持ち上げると

「気にせんで良い。少し前まで、わしが気絶させてたからな!!」

と笑って、ベンチの方へ歩いていった。

「ん? ていう事は…アイツ剣をやってるのか? でも…」

あの肉の付き方は剣じゃねーよなぁ?




side out






眼を開けると、剣の師が居た

「久しぶりじゃな、良哉」

「はい…お久しぶりです。源蔵先生」

「お前の左目の事は聞かん。だが、答えろ…刃を向けたな?」

「…はい」

先生の纏う雰囲気が重くなった。懐かしいと思うのは、久しぶりだからだろうか?

「後悔はしているか?」

「いいえ」

「覚悟は出来ているか?」

「はい」

予想通りだ。戦争を経験し、殺しを経験しているこの人は恐いぐらいに人を見通す。

「破門じゃ。」

「…はい」

「但し、剣は振り続けろ。場所が無いのなら家に来い。序でにわしの鍛錬に付き合え」

「…はい」

クシャリと頭を撫でられる。その先には笑顔が在った。恐らく、この人は俺が人を殺した事には気付いていない。俺が真剣を持って人を傷つけたと考えたのだろう。心が痛い。でも、それ以上に良かったと思う自分が居る。

「おい」

「えっと…なんですか?」

「あ~悪かったな。気絶させちまって」

「良いですよ。悪気が在った訳でも無いですし…俺は明智良哉といいます。貴女は?」

「…ヴィータ」

キツイなぁ…知っている人に会うのは。少し親しかったから余計にキツイ

「それじゃあ、始めましてヴィータさん」

「?…なぁ、なんで敬語なんだ?」

まぁ、普通はそうだろうな。俺は知っている。この人は尊敬できる『騎士』であり『先達』である事を。

「いや…何となくですよ? 自分より頼りになる様な感じがしますし…」

「お前…良い奴だな…よし、気に入った!! 一緒にゲートボールしようぜ!!」

「ええ、いいですよ」

こういう日も、偶には良い物だ。
周りの人達からも歓迎されたし、ゲートボールが以外に面白いという事も発見した。今度から顔を出そうと思う。



公園からの帰り道、本来ならば一人の筈が二人になった。隣に居るのはヴィータさんである。帰り道が途中まで一緒なので、二人で帰る事になったのだ。

「ふ~ん、それじゃあ学校には行ってないのか」

「まぁ、学校で習う事は理解してますし…眼の事もありますから」

「…ゴメン、考えてなかった。」

「いいですよ。それにしても、熱いですね…もう、九月なのに」

「…だなぁ。でもさ、暑い代わりにアイスがギガうめぇんだ」

確かに、暑い日に食べるアイスは美味い。風呂上りならば最高だ

「……暑い」

「言うなよ、アタシだって暑いんだからさぁ」

信号で止まるのが拷問である。雲一つ無い快晴の空が憎い。

「コンビニで少し涼みます?」

「…賛成」




side ヴィータ




はやてのギガウマご飯を食べて、一息つく。

「どうしたヴィータ?」

「ん? なぁ、シグナム。確かさ、道場でバイトしてたよな?」

「そうだが…初めて一週間も経っていないぞ?」

「いや、ソレは知ってるけど…明智良哉って知ってるか?」

「明智?……いや、知らんな。」

首を傾げるシグナム。やっぱり、結構前に辞めたのか…

気になる。あの男…良哉が気になる。
何なんだろうかこの感覚は?
アイツは良い奴だ。帰りにアイスも奢ってくれたし、またゲートボールをする約束もした。
何より見る目が有る。
初見でアタシの事を自分より頼りになる様な感じがすると言った時は、正直嬉しかったし…
それと、あの肉の付き方。アレは剣…源じいちゃんが使うのは刀って云うらしいけど…その付き方たじゃない。アレは長物を使う為の筋肉の付き方だ。刀を使うのは嘘ではないと思う。
所々、そういう肉付きしてたし…

「ちょっと面白い奴に会ってさ」

「ほう…鉄槌の騎士が面白いと言うか…強いのか?」

「いや、魔法も使えない奴だぞ? しかも、はやてと同じ年で左目が無い」

「…そうか(ふむ、今度源蔵氏に聞いてみるか…)」

なんか、ヤバイ事言ったような気がする…まぁ、いっか。シグナムもソコまで無茶しないだろうし

また、明日か…もう寝るか




side out



部屋で、データを見る。時の庭園から入手したものだ。

「……ゲレヒティ・ヒカイト」

(確実に偽名ですね、主)

「ああ、そんなに巧く行くわけがないか…でも」

(主?)

「無駄では無かった…最悪、事が始まる前に奴と接触できる可能性は少なくは無い」

(…どうか…どうか御自愛下さい、主。その選択は雅に紙一重です。)

そうかも知れない。でも、最悪の中から最善を見つけられなければ…

「そう…だな。もう少し考えるよ。それじゃ、スクライアに送って貰った資料でも見ますか」

(主。夜更かしはダメですよ?)








おまけ



男は逃げていた。

大通りに出れば自分は助かる。しかし、家族が死ぬ。

息を切らせながら、男はただ逃げる事しか出来ない。一定の感覚で銃弾が石畳を穿つ。身体反射的に穿たれた地面を避ける。

「畜生、畜生畜生畜生!!」

悪態を付いても何も起こらない。一体何度目だろうか? また、男の前の地面を銃弾が穿つ。

簡単な仕事だった。人を一人送るだけの簡単な仕事だった。
送った人間は化物の様に強く。その男の力には組織も目を付けていた。サンプル目当てに近づけば、男はいとも簡単に家族を売った。家族と言っても血が繋がってるだけで親戚と代わらない連中だと笑って売った。
男はその男を嫌悪した。でもそれ以上に恐怖した。
男と協力関係になると組織内での地位も上がった。男は転がってきた幸運に歓喜した。
誰もが羨んだ。十年以上も前から目を付けていたモノが手に入る。その可能性を上げたのだ。例え手に入らなかったとしても、男とコンタクトを取れる事が強かった。その男はテロリストだった。協力関係も結んでいる、その男が協力すれば成功率は九十%以上。
男の将来は安泰だった。

「何でだ? 何で俺に辿り着けた?」

幾十にもダミーを使い、自分に辿り着くのは至難の業だった。組織でも折り紙付きの者が偽装したのだ。

路地を抜ける。小さな公園に出た。銃弾は飛んでこない。

「ゼヒ…ゼヒ…」

走り続けた男は懐から取り出した拳銃を握り、呼吸を整え始めた。
直ぐに木の陰に隠れる。
周りからは死角に位置する所を見つけ出すのは慣れていた。人を殺すのにも慣れていた。
男は安堵した。少なくとも、自分が生きている間は家族は無事だ。
自分が汚い仕事をしている事を知らない両親、妻、息子。
仲間が護ってくれている。自分の周りに付き甘い汁を吸おうとする奴らだが、そういった小物だからこそ使える。自分が生きている限り必死で両親を護るだろう。
奴等も一応はプロだ。

「さっさと出てきなさい。」

女の声だった。

顔を少し出して観ると、女がベンチに座っていた。淡い外灯が薄っすらと顔を映す。それなりに綺麗な顔立ちをした女だった。

それでも、素直に出て行くほど男はボケてない。しかし、それも無理になった。
木を貫通する銃弾。
明らかに人を殺す為のではないその威力に、男は出るしかなかった。

「…降参だ」

「そう…それで?」

男は女の目の前に銃を捨てた。口では降参と言ったが、する気は無い。小型の銃は二挺隠している。隙を突き腕を伸ばせば、バン。
事は直ぐに終わる。
後は、逃げるだけだった。地の利は自分に在ると確信が持てるからの選択だった。しかし、今すぐ殺す訳にはいかない。何故、自分に辿り着いたかを調べなければならない。今後、こんな事が在っては堪らない。

「交渉だ。金は出す。アンタは俺を見逃す。どうやって、俺に辿り着いたかを教えてもらえれば、追加金もだす。」

「そうじゃないわ。貴方は私の身内と友人に牙を向けた…交渉の前にする事が在るでしょう?」

男に悪寒が走った。この女、普通じゃない。両腕を伸ばそうとした瞬間、女がドスの利いた声で言った

「跪け」

ブチっと両腕が飛んだ。数瞬遅れて血が溢れ出す。認識が追いつかない。自分の腕が千切れ飛んだと理解した瞬間、視線が下がった。
衝撃が身体を襲う。
足を動かそうとしても、動かない

まるで、虫けらの様に這い蹲った男は理解した。

自分は四肢を捥がれたのだと。失血で意識が朧となる中、男は女を見た。
女は男を見ていた、何の感情も映さないガラスの様な透き通った瞳だった。
綺麗だと、場違いな事を思った。女の後ろから、ライフルを持った男女と明らかに自分では敵わない実力を持っているだろう女が現れた。
男はその女を知っていた。自分の組織を嗅ぎ回る、忌々しい存在だった。

(不破美沙斗?!香港国際警防隊か!!)

勝てるわけが無い。最強と呼ばれる対テロ組織。なんという事だ。
怖ろしい、目の前の女が怖ろしい。たった一人を追い詰める為に奴等を動かした目の前の女が怖ろしい。

「お前…は…何者…だ」

「ただの過保護なお姉さんよ? それと…私は貴方に喋る事を許可した覚えは無いんだけど?」

パン

と呆気ない音を認識した瞬間、男は息絶えた。


女はソレを見届けると、一枚のディスクを取り出してソレを渡した

「はい、コレが報酬。サービスで、この近くの研究所の場所と見取り図も入れたわ」

「協力感謝します。」

「良いの良いの。私の身内に怪我させた元凶を潰せるんならコレぐらい軽い軽い。」

「それでもです。私の甥っ子も絡んでるようですし…」


二人はその後も簡単なお喋りをすると、その場を去った。

一人は、路地を抜けた先に止めてある友人の車に乗り

一人は部下を連れてその場を去った

死体は既に回収され、血痕さえ偽装されていた。

車の中で親友と笑いあう女の名はファラリス・アテンザ

部下を引き連れその場を去ったのは不破美沙斗

決して敵に回してはいけない、狩人の名である。








【あとがき!!】
すずかはどうした!!!

と言われたらこう返す。知らんがな。

出番は在るけど、少し先

ほのぼのな感じで書いてみたよ?



以下、簡単な人物紹介


明智良哉

眼帯っ子
過去、ヴィータとは親しかったらしい
何気にアイスを奢っている辺り、信憑性高し
ゲートボールに目覚める。
刀を使うことが判明。
でも槍使いという矛盾
死亡フラグが立った。二つ程
魔力の圧縮・集束・縮小が得意・放出が出来ない事も無いが苦手。
魔力制御は巧い。巧いからこそ、なのはの近くに居ても気絶できなかった

ルーダー・アドベルト

恭也とマブダチ。
釣りに熱くなる漢。
クラス「アングラー」
最近、ダメ親父かしてきている。
ミッド式の癖して、近接が得意。
熱い展開はまだ先

「ダベルトと思った奴、ちょっと表でろ」


ファラリス・アテンザ

元武装隊。腹には大きな傷がある。
自らの油断が招いた授業料。
魔導士ランクAだったが、怪我をした時にリンカーコアに影響が出た為魔力ランクは下がっている。
本人も、魔法を使う事はもう無いと思っているので気にしていない
何処か危険な匂いを孕んだ女性。
セミロングの茶髪。
何処かのマフィアっぽい

「あの子に怪我させた事を後悔して逝きなさい」


ユーノ・スクライア

良哉と何かをしている。
資料を送ったらしい。
序でに裁判の状況を教えている。
クロノには秘密
何やら無限書庫で何か調べ物をしている
スクライアから何かを取り寄せたらしい。

「僕にはコレくらいしか出来ないから…」


マリア・アドベルト

ちょっとファザコン気味
中々帰って来ない父親に腹を立てている
でも素直になれない難しい年頃(五歳)
でも、一緒にお風呂は嫌
叔父も好き。
寧ろ、叔父の方が好き
魔力資質高し
レスキル持ちのハイブリット
でもなのは達ほどではない


高町なのは

良哉が地球に帰っている事はまだ知らない。
フェイトからのビデオレターが楽しみで仕方ない
偶に、良哉が映ってないか期待している。

「明智君が帰って来たら、お友達になるの。名前で呼んで貰うんだ~」

すずかの身近なライバルかも知れない

魔力の集束・放出が得意、圧縮・縮小は苦手。
魔力制御は巧くなって来ている。レイハさんのおかげ


クロノ・ハラオウン

良哉が怪我をした事は知らない。
知ったら、仕事を片付けて飛んでくる
既に、良哉が管理局員に成れるように準備している。
序でに、執務官試験を受けさせる気満々である。

「揃って執務官…良いじゃないか」

戦闘スタイルは良哉と相性が抜群。寧ろ鬼


こんなトコかな?

遊び問題。VS氷室の時、作者が聴いていた曲は何でしょう

A・今がその時だ
B・最終鬼畜全部声
C・君が光に変えていく
D・人間が大好きな壊れた妖怪の唄
E・情熱
F・Enemy Within

特に何もないよ?



[5159] ネタ、作者の病気。反論は受け付けない俗にいうIF-----TS注意!!
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/10 23:02
これはね、病気なんだ。故に、処方箋を下さい




シュベルトを振るい、眼前に迫った魔力の塊を弾いた。
コレがいけなかったのだろう。
弾いた魔力弾は俺が、俺と位置の代わった犯人に直撃し閃光が溢れた。

(しまった!!)

コレでまた繰り返し。そう思った。記憶が正しければ、ロストロギアは犯人の後ろの壁に有った筈なのに。
しかし、眼を覚ませば、ソコはアースラの自室ではなく。医務室だった。

(戻ったのか?)

眼帯がソレを否定する。横を向けばクロノさんが寝ていた。…ん?クロノさんはこんなに髪が長かっただろうか?

(シュベルト?)

(主…今回は助かりました。それと…一つ問題が…)

助かったのか…良かった。
クロノさんには心配を掛けてしまった様だ。座ったまま、寝てしまっている。本当にごめんなさい。

「ん? 良哉、目が覚めたのか…良かった…」

「はい…心配を掛けてしまった様で…すみません。」

「全くだ…っと言いたいんだが…すまない。」

何だろうか? 自分の記憶に在るクロノさんと目の前のクロノさんが違うように思える。

「詳しくはブリッジで話そう…付いてきてくれ」




そのまま、ブリッジに行く。そこで、一つ疑問が増えた。リンカーコアの疼きが消えた

何故だ

「良哉君、良く聴いてね。貴方の…いえ、貴方達の身体に起こった事を…」



ロストロギアが二つ有った。コレにはさして驚かなかった。しかし、その能力に驚く。
ロストロギア・オープンキーズ

能力は開放。
ロストロギア自身が魔力を蓄えているわけではないので、危険性は低い。しかし、使われている技術の全てが不明。
ただ、全てを開放し、悩みを消す。
これは怖ろしい。どんなセキュリティーも問答無用で開放するのだ。泥棒のし放題だ。しかし、ソレは無機物に限った事で有機物になると一変する。
確かに悩みから解き放つがソレは、少し歪んだ形で行われる。

俺のリンカーコアの痛みから解放したのは良い。問題は、あの一瞬で俺を庇ったクロノさんに有った。
クロノさん自身が、リンディさんに次いで話してくれたんだが…

曰く、コンプレックスから開放されたが、その所為で女に成った。

どんだけ?

(あの…主?)

(なんだシュベルト? 俺は頭が痛いんだが…)

(…主もその影響を受けているんですよ?)

(だから、なんだ)

(主の悩みも解決された可能性が高いということです)

………………………………は?

(ソレを確かめる手段はありませんが…賭けてみませんか?その可能性に)

なんだと…解放された? この地獄から? 本当に?

(可能性は高いです)

「良哉? 」

「クロノさん…すみません」

涙が流れた、解放された。その可能性が高い。嬉しい、嬉しい

(主…普通に生きてみませんか? 解き放たれて無かったとしても…損には成らない筈です。)

ああ、それも良いかも知れない。






side out

しかし、良哉が流した涙は盛大に誤解を招いた

主にクロノに。彼…既に彼女だが、彼女が一番の被害者なのだ。男から女に成った。遺伝子レベルで…
取り乱さなかったのは、良哉という弟的存在が居たからである。そんな彼が涙を流した。すみませんと言って…この事にクルーは勘違いをした。自分を守る為に被害に有ったクロノに謝罪しているのだと。
自分の力不足を嘆いているのだと。

この勘違いから、クロノや他のクルーから親身に接せられるようになる良哉であった。

しかし、クロノの接し方は一線を越えたレベルだった。以前の彼女…つまりは彼だったクロノならば、大丈夫だったのだ。
今の彼は彼女、つまり女なのである。良哉の泣き顔やら、その後の謝罪やらに母性本能を刺激されまくった。ホンモノのブラコンになったのである。そのブラコン振りは、周りが引くぐらいの勢いだった。
本来なら、家に帰る筈だった良哉を何が在るか解らないと、一旦、ミッドの病院で検査させ、心配だからと一日中一緒に居る始末。
コレが、長く続いた。
闇の書事件では、ミッドに留守番させている良哉に逢いたいが為に恐るべきスピードでヴォルケンズを叩きのめした。
本来ならAAA+の彼女には無理な話である。しかし、彼女に成ったクロノは一味も二味も違った。
遺伝子レベルで女になったクロノは正しく母親に似まくった。魔力ランクSSの化物である。
グレアムの使い魔二匹は現れた瞬間に捉えられ、身元を割り出されてグレアムごと御用に。闇の書の暴走が起こるも、グレアムから徴収したデュランダルで無理やり凍結。そのまま宇宙空間に転移させ、アルカンシェルで消滅。

実に怖ろしきかなブラコン

良哉も戸惑った。クロノは女となっても、自分の中では兄のような位置に居る人なのだ。しかし、身体は女性である。
しつこい様だがもう一度言おう『クロノは正しく母親に似まくった』スタイルも含めてである。一緒に風呂に入ろうとして、クロノとリンディが大喧嘩した時はとんでもないモノだった。
なのは、フェイト、はやてが止めに入ったのにも関わらずである。
既に十五歳を迎えた三人が参入したリンディ陣。ソレをモノともせずに蹴散らすクロノ。その暴れっぷりは管理局、次元犯罪者が土下座する勢いである。
長期任務で良哉と離れた時のクロノには近づきたくない。誰もがそう思った。そして、事件が起こる。

良哉が暗殺されかかった

何故? と誰もが思った。

良哉はやはり、可能性を信じ切れなかったのである。秘密裏に情報を集めていた。その結果多くの犯罪者を捕まえ、『陸』の執務官として名を馳せていたのだが…最高評議会が行ってきた非合法な研究、実験の情報と証拠を知らないうちそろえてしまったのである。
良哉のデバイスから、その情報を教えられたクロノは激怒した。そして泣いた。自分は頼られていなかったと。ソレを慰めたのがリンディである。
彼女は息子で有った娘を心底心配していた。そして、ちょっと都合の良い事を言ってしまったのである。

「貴女が大切だから、良哉君は相談できなかったのよ。男の子の心情も理解してあげないと、お嫁にいけないわよ?」

このセリフである。コレが最後の引き金を引いた。
クロノからすれば、身体は女に成ったが心は男のままだという認識が有った
しかし、このセリフを聴けば、勘違いする。つまり

良哉は自分を女として大切に思ってくれていて、相談できなかった。と

キュンっとクロノの中で音がした。トキメイタのである。

リンディは後に語る。「アレは予想だにしなかった」と

クロノは良哉の残した資料を纏め、管理局内で粛清を始めた。無論、一人ではない。地球出身の高ランク魔導士三人に加え、やけに協力的だったレジアス中将に三提督の連合でだ。

この時、良哉は三ヶ月の重症で意識不明だった。唯一真実を語れ、ストッパーになれる存在は不在だったのである。
その護衛を買って出たのはアルフで有った。

後の歴史で語られる『大粛清』の始まりである。

多くの高官が捕まり、ソレと繋がっていた犯罪者、政治家、資本家等等…大量の逮捕者が出て、管理局は規模を収縮させるしかなかった。
しかし、只では起きない。管理局は真管理局と成った。
自分達で管理できる次元を確実に護る為に、次元世界同士で同盟を組み、それぞれの世界で自警団が作られたのが良かった。
管理局はその自警団と契約を結び、少しずつ、しかし確実に、次元世界を護る事が出来るように成った。
良哉が入院してから、四年たった頃の話である。
法律などが大幅に変わった。

良哉はそんな世界で溜め息を付いた。こんな筈では無かったと。

そんな時に、久しぶりの休暇を取って着飾ったクロノが家に来たのである。
つもる話しも在る。二人はゆっくりと話し、酒を飲んで寝た。


「朝か…痛ッ!! 腰が…なんで?」

良哉は横を見て固まった。クロノが隣で寝ているからで有る。勿論スッパである。
恐る恐るシーツを観る。赤いシミが合った。

(ダウト!!)

確認すれば、クロノは何処か嬉しそうに寝ていた。『女の顔』である。良哉は自覚した。酔った勢いとはいえ、好きでもない女性を抱けるほど外道でもない。
自分は何時の間にか、クロノを『女』として好きになっていたのだと…視線を横に動かせば太ももから又に掛けて白い液体が有った。
ソレは、とても扇情的な情景であり。薄っすらと眼を開け、恥ずかしそうに挨拶をするクロノは良哉の理性を打ち砕いた

「あ、あの…おはよう」

「おはようございます。クロノさん」

ソレが第二ラウンドのはじまりである

その後、二人は結婚した。初めての夜から、三ヶ月ごの事である。

二人の子供に恵まれ、不自由しない給金を貰い、二人は死ぬまで供に有った





















「はっ!!」

クロノは頭を抱えて一言言った

「なんであんな夢を?」



所詮は夢落ちである。





反論も文句も駄目だしも受け付けない!! 病気だから仕方が無い!!

※皆の意見はわかった。消さないよ。
それでも一言、言わせてくれ



                                        皆理解有りすぎ



[5159] 作者の病気は皆の病気?今回は軽度、前回は中度-----TS注意!!
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/17 08:23
ソレは祝福の鐘だった。

愛し合う二人が籍を入れて直ぐに、リンディ・ハラオウンは咆えた

「結婚式よ!!!」


正直所、二人は式を上げる気は無かった。お互いが忙しいというのも在るが、何よりもライバルがヤバイ。
前者は良哉、後者はクロノである。

現在、良哉は陸の執務官である。行っている事は海や空と代わらないが、唯一他と違うのは容赦が無いという所だ。身内?上官? バカじゃないの?
である。問答無用で捕まえる。本来ならば無理なことでも、良哉は違った。
多くの陸士に慕われているのである。
良哉はゼスト隊の生き残りである。その中にはクイント・ナカジマという女性魔導師がいた。彼女には二人の娘が居る。
ぶっちゃけ、心配だった。
ちょくちょく顔を出しては遊んでやり。お父さんが構ってくれないとなればゲンヤ・ナカジマを拉致る。
仕事は全部引き受けて、帰れと言った事十数回。ゲンヤが指揮する部隊の人間が良哉が指揮官と勘違いするぐらい的確に仕事をした。
コレは償いに近い行為だったが、誰も止めれなかった。この時期の良哉は仲間を護れなかった自分を嫌悪していた。仕事に逃げたかったのである。無理やり有給を与えられても、良哉は働いた。バレるといけないので秘密裏にだ。
士官学校に顔をだし、ルーダーの後輩と話しを付けて学生を指導していた。
コレが原因で見習い魔導師達は、知らない内に実戦派になっていく。
授業で見せる現実。非合法研究の実態。
夢など見れない事を教え込んだ。死んで欲しくないからである。
そして、最後にこういうのだ

「コレをみて、揺らぐ奴は管理局に入ろうと思うな。死ぬぞ」

生徒達からすればムカつく事である。意地でも管理局員になってやろうと息巻いた。

それから、三年もすると。知り合いが陸海空関係なく増えた。しかも、任務に出れば、教えられた事が正しい事が分かるので慕われる。
つまり、管理局の高官などを逮捕する時の協力者が無駄に出来た。
その所為で名が上がる。管理局はコレ幸いと広告塔にする。
『空』の高町『陸』の明智と言った具合だ。なにが言いたいのかと言うと、任務が多い。現場に出れば士気が上がるからだ。

しかも、良哉は執務官。陸に所属しても色んな所に出向になる

クロノにいったてはその美貌が仇となった。能力も高く容姿も整っている。更に言えばスタイルも抜群だ。
海では、一度は惚れる女と言われるぐらいである。

そんな二人が結婚式を挙げる。

暴動モノである。二人とも人気が高すぎるのだ。

ソレを説明するも、納得しないリンディ。良哉達は逆に丸め込まれた。更に、クロノが妊娠している事が発覚。リンディは止まらなくなった。

それでも、常識はあるだろうと二人は何処か楽観していたのだが…甘かった。
結婚式の日取りが次の日には決ったのである。しかも、三日後。在り得ない。
二人は頭を抱えた。序でに、クロノの姉代わりとして、女としてのエチケットをイロイロと教えていたエイミィが情報をリークした。

曰く「私を置いて結婚するなんて、許せないよね?」

である。

結婚式は、ある意味盛大に行われた。なんと、聖王教会が速攻で教会を手配したのだ。式場自体が在り得ないぐらいの物だ。
式に集まったのは、昔馴染みから元上官や教え子に同僚。しかし、問題が在った。
二人を狙う異性は未だに居たのだ。

「やっぱり納得できない!!」

白い悪魔が咆える。

「クロノ…私はリョウヤを弟にしたくない。寧ろ妻に成りたい!!」

金色の死神が脱ぐ(バリアジャケット的な意味で)

「兄さんは渡せない」

何時の間にか妹ポジションに居たギンガがギュンギュン回す。

何時の時代も女は強い。クロノを狙っていた男共は、三人の女の迫力にドン引きした。咆える女三人に対し、クロノは冷静に言った。

「君達の気持ちは分かる…だが良哉は、ぼ…いや。」


「私の夫だ!!」


「「「元々は男だった癖に!!」」」

「ソレがどうした。今の私は、クロノ・ハラオウンは女だ!!それに、私の御腹には既に…」

そっと、自身の腹に手を当て優しく微笑むクロノ。三人はoruと成った

勝てない、勝てる筈がない。女は強い、それ以上に母は強いのだ。三人はソレを良く知っている。

なのは、自身の母を思い出した

フェイトは、自身の母と養母を思い出した

ギンガも母を思い出した

そして、同時に思う

(((勝てない!!)))

そんな三人を他所に、男たちの中で一人の漢が叫んだ

「羨ましい!!」

ソレが切っ掛けとなり、声が溢れ出す

「妬ましい!!」
「何で俺じゃないんだ!!」
「高町さんも狙ってたのか!!」
「フェイト執務官もだと!!」
「陸のアイドル、ギンガさんまで!!」
「嫉妬で奴を殺せたら!!」
「おい、誰か無限書庫に行って来い!!」
「そうだ!!禁呪か何かが在る筈だ!!」

孤児(みなしご)達の叫びである。その中で、一人の男が口を開いた

「漢が嫉妬に燃える時~」

孤児達が次々に道を開ける

「嫉妬マスクを呼ぶ合図~」

その言葉を聞いた瞬間、皆が跪いた

「素顔は誰だかしらないが~」

その漢は白いマスクを被っていた

「嫉妬の心を仮面に隠し~」

不思議な現象が起こった、孤児達の手の中に白いマスクが現れたのだ。誰もソレに驚かない。まるで当たり前の様にソレを装着する

「「「「嫉妬パワーの炸裂だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」」

湧き上がる魔力(嫉妬)はSSSを軽く超える。
その異常事態に誰も唖然とした。

マスクを被った漢達。その中でもリーダーである漢が咆えた

「俺達の前で修羅場を見せ付けた上にリア充しやがって!! 許せん!!」

更に湧き上がる魔力(父心)

雄雄しく咆えた。周りがそれに反応する。
クロノと良哉は絶体絶命だ。
流石にヤバイと思ったリンディ(年齢不詳)は言い放った

「なのはさん、フェイト、ギンガちゃん…ミッドは重婚OKなの忘れてない?」

「「「なんだってー!!」」」

ミッドは重婚可で在る。幾つもの条件をクリアしなければならないが…
次元世界の中心と言われる世界には、様々な次元から人が来る。様々な次元から人が来ると言う事は様々な風習にも対応しなければならない。
つまりは、御都合主義という事でファイナルアンサー? 正解!! という事

今此処に三人の修羅が誕生した。
しかし、本当に怖ろしいのはリンディ・ハラオウンその人である。この女、三人が条件をクリアできない事を見越して言いやがった。
なぜならば、重婚には当事者達の合意が必要なのだ。
今や、女全開のクロノが頷く事は無い。好きなのだから独占したい。人とはそういう物である。

何とか成ったと思ったリンディは、掻いてない汗を拭く動作した。その瞬間。
爆音が響き渡った。

何事かと外を見ると、見たことも無い戦艦が一つに無数のガジェット。式場には管理局の重鎮が集っている。見方を変えればそれだけ二人の結婚は祝福されて居たと言えるが、管理局に恨み等を持つ者達からすれば飛んで火に入る夏の虫。

しかし、予想外の事が起こった。式場に亀裂が奔ったのだ。落ちる瓦礫からクロノを守る為、良哉は盾に成った。突然の強襲に呆然と成って居た人間の中で唯一動けた良哉は、クロノを庇い、降り注ぐガラス片と瓦礫からクロノを護り、血を流した。

ブチリと何かが切れる音が複数聞こえた。

「よくも…娘の結婚式を…」
「よくも…良哉を…」

後の歴史で語られる『ハラオウン無双』の始まりである。

何かが切れたのは二人だけではない。
嫉妬の戦士達も切れた。彼らは極悪非道とは程遠い紳士(漢)である。彼等はアベック(彼女持ち)を憎みはしても女性や幼子に優しく紳士である。身重の女性に害をなす事はタブーである。

なのは、フェイト、ギンガも切れる。何せ未来の夫(仮)に重症を負わせたのである。切れない筈が無い。

この事件を起こしたジェイル・スカリエッティと戦闘機人は一時間も経たずにガジェット事殲滅された。コレに活躍したのは漢達である。彼等が使うのは魔力では無く。嫉妬

嫉妬ビームが空を薙ぎ払い

嫉妬の炎が天を焦がす

嫉妬パンチはガジェット壊し

嫉妬キックが大地を揺らした

戦艦に殴りこんだハラオウン親子は、戦闘機人をフルボッコ。序でになのは達も乗り込んでフルボッコ。
その姿を見ていた局員は語った

「ええ、凄かったですよ。寧ろ、ジェイル・スカリエッティが哀れでなりませんでした。高町一等空尉までもが、バインドを駆使してハラオウン親子を止めたくらいですから…」

簡単に言えば、無限瞬極殺。魔力無し状態でフルボッコ。映像で確認した結果。
666コンボだった。









次の年、クロノは元気な男の子を出産。何気に、ゼストを延命させる事に成功したレジアスが出産祝いに、果物詰め合わせを持って良哉の家を訪ねると。
まだ、名前の決らない息子に悪戦苦闘する良哉とクロノが居た。
そこで何を思ったのか、良哉が言った。

「名づけ親になってくれませんか?」

レジアス号泣。序でに、良哉が息子のオムツを換えている時に来たゼストも号泣。
その後、どちらが考えるかで二人の肉体言語での会話が行われ。かろうじて勝利したレジアスが名前を付けた。
二人目の子はゼストがつけた。


追記

なのは、フェイト、ギンガは重婚の条件をクリアできず、犯罪者相手にストレス発散していた。

追記の追記

聖王のクローンであるヴィヴィオは高町なのはが引き取った。娘は良哉の息子と一緒にさせる気満々である。

フェイトはシングルマザーに成って居た。父親は誰か分からない。ただ一つ言えることは…クロノはシスコンでも在った。それだけである。

ギンガも子供を引き取っていた。スカリエッティのラボから保護した男の子だ。その姿は子供の頃の良哉に似ていたとさ






[5159] ループの四ノ二(やっとこさA,s…に入れてない?!)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/19 10:44



微妙に坂が多い道を走る。
日差しはマダマダ衰えないが、気にはならない。
アイスがギガウマになるから、気になっても気にしない。

今回はお互いに待ち合わせ時間を決めた。
その時間に少し、遅れそうなのだ。
だから走る。

「お~い!!」

ソレが最近のアタシの日常








「んっ~~~と」

背筋を伸ばす。今日はベッドではなく、机の上で寝てしまった。念の為に資料を確認する。

…良かった、涎は付いてない。

ヴィータさんと出会って、十日が経った。師匠の許しが出たので、剣も振っている。基礎だけだけど…
別に剣術をやっているのではない。身体を鍛える目的で入った道場に飾られていた真剣に見ほれていたら、師匠に眼を付けられたのが始まりだったし。
まだ、暑さの残る九月。水で顔を洗っても冷たいとは思わない。歯を磨き、顔を拭く。台所では最近見慣れたファラリスさんが朝食を作っていた。ルーダーさんはニュースを見ている。
少し前までは考えられなかった光景に、頬が緩む。

「おはよう御座います」

「おう、今日は無いのか?」

恭也さんとの朝稽古の事だろう。

「今日は無いですよ。体を休めるのも訓練です。ルーダーさんは今日もでしょう?」

「一端に言うねぇ。まぁ、午後はそうだな。今日こそでかいの釣ってやる」

毎晩、鯖や小鯵は勘弁です

「良哉君、おはよー。今日はスクランブルエッグとトーストにコーンスープだよ」

「おはよう御座います。ファラリスさん」

最近、ファラリスさんは料理に凝っている…というか料理を頑張っている。

席に着いて手を合わせる

「「「いただきます」」」

そんな、朝が俺の最近だ。




朝食を食べ終り、食器を台所に持っていく。洗うのはルーダーさんの仕事だ。

俺は部屋に戻り、スクライアに送って貰った資料を見る。
さすが、スクライア。管理局に居た頃には見れなかった資料が多い。

(主が古代ベルカ文字を読めるとは思いませんでしたよ)

「まぁな。コレでも提督補佐もやってたし、その後はベルカで教師をしてたんだ。歴史を教える為と個人的な興味の賜物だよ」

しかし、それでも問題が在る。

この世界、地球と同じように言語は複数有るのだ。当時の共通語を古代ベルカ文字として学習する事は出来るが、言ってしまえばそれだけなのである。

複数の領地が同じ言語と共通言語を使う所も有れば、複数の領地が様々な言語を使う所も有る。なので、古代ベルカの遺跡で発見される本などの文献資料等は中央、つまり聖王関連やその王家に近い物程解読しやすい。解読できてもその技術を使えるかどうかは別になるけど。

その反面、そういった所とは遠い関係に有る所に有る物は解読しにくい。

文字や発音の違いなどが原因だ。

英語とアラブ語とかぐらいに、文面が似ていれば解読はしやすいのだが…文字が似ていて文法も似ている癖に所々が違ったりするのが厄介である。
前者ならば、最初から別の文字として捉えて解読していけば良いのだが。後者になると先入観などが入ってきて、自信などが持てなくなるのだ。まぁ、そう思うのは二流、三流の証拠なんだけど。

「ん? コレはギ? にせの弟? いや義理の弟? 義弟か…じゃあコレは…母?」

最初っから詰まります。難しい

(主、それは妹では?)

ぬぅ…ヤヤコシイ

「いや…でもなぁ…コッチのだとコレは母なんだよ」

別の資料を取り出して、見比べる。文法は同じようだ。互いの領地が近かったのかも知れない。此方は、スクライア一族の手で三分の一程解読されているので後回しにした。

(しかし、古代ベルカ語では妹、または姪を表す言葉ですよ?)

「…わからん」





そのまま解読を進めるも、文脈が繋がらずに気分転換に散歩をする事にした。この時間なら知り合いは学校だ。

(しかし、解読とは難しい物なのですね)

「そうだな…俺も解読されている文献しか読んだ記憶が無い…」

俺達には難し過ぎる。

(ならば、スクライアに頼んでみては? 全てはではキツイでしょうから、今回解読してみた部分を送って、指摘して貰えれば…)

「…一歩進めるな。夜にでも連絡してみよう。」

十字路にでる。以前、通った事の有る道だ。右に曲がれば坂が有り、その先に病院が在る。左に曲がれば幼稚園が在り、真っ直ぐ進むと道場の方に行く道になる。

(顔を出すか? 師匠なら要るだろうし…でも、昨日ボコボコにされたばかりだから…)

「あれ? 車椅子が止まらん!!」

「はやて!! シャマル、何やってんだ!!」

「だって!! 卵が落ちそうで!! じゃなくてはやてちゃん!!」

「シャマル!! 卵割ったらダメやからなぁぁぁぁ!! そこの人退いてぇぇぇ」

考え事をしていると、悲鳴が聞こえた

「ヘ?」

突進してくる車椅子。

その直ぐ後ろを駆けるヴィータさん

その手がグリップを掴んだ瞬間、俺も車椅子の肘置き手を付け踏ん張った。

靴が擦れる。車椅子に乗っている子の頭が肩に当った。痛い

車椅子は止まったが力を殺しきれない。後ろに尻餅をつく様に転がった。

十字路には信号が有る。信号が有るのは車が通るからだ。そこで転がってしまった事に気が付き、直ぐに歩道に向かおうとした時には遅かった。
シールドは間に合わない。ラプラスは、ファラリスさんが簡易メンテナンス中だ。シュベルトで魔法を使おうと思えば起動させなければ成らない。
その暇が無い。
眼を開ければ眼前にタイヤ

(トラックかよ…)







眼を開ければ、酷い頭痛が襲ってきた。

「ぐっ………つぅ~」

ガンガンと五月蝿い鈍痛を出来るだけ無視しながら周りを見る。
窓から差し込む日の光が昼頃だと教えてくれる。
自分が入っている布団は自分の物ではない。月村で俺が横になっていた物だ。

(主?)

「どうやら寝すぎたらしい」

(…本でも読みますか? 月村忍様が置いていかれた書物がありますよ?)

「そうしよう…俺に分かる様な内容なら良いんだけどな」

(ふふ…字が違うのなら翻訳します。意味が分からないのなら共に考えましょう。時間は在るのでしょう?)

勿体無いぐらいの最高の相棒。

(お前が相棒で、本当に良かった)



side シュベルト



我が主は嘘吐きです。

何が寝すぎたでしょうか。貴方が寝てから二時間も経っていません。忘れたのですか?
私とラプラスは繋がっているですよ? 貴方のバイタル変化ぐらい分かります。

(姉様、何故マスターは嘘を付くのですか?)

(我等が主は優しいからですよ。我等、命無き意思を持つ我等を対等に扱ってくれているからです。)

(…何故でしょうか?我等は道具、如いて言えば兵器です。代えが利く物です。)

学習しなさい、ラプラス。ソレが我等に許された事です。貴方もそう思うでしょクロイツ?

(………ja)

(貴方には酷な質問でしたね…)

(姉様?)

(ラプラス、貴女はコレからの存在です。我等と違い経験が無い。疑問を増やしなさい。質問しなさい。それでも…主の不利にならないようにする事。主の繰り返しは誰にも言ってはいけません。悟られる事も在ってはなりません。)

(承知しております。私はマスターの目です。それ以上でも以下でもない。何故、自分自身の不利になる様に動けましょうか)


それで良い。ソレでこそ主に仕えるモノ。我等の存在は、ただ唯一、主の為に…







side out


本を捲っていると、ノックの音がした

「どうぞ」

「…元気そうね」

驚いた。彼女には嫌われていたのに…


「何、驚いてるのよ…あんた」


アリサ・バニングスが、来た。





【あとがき】

咽が痛い。タバコが吸えない。何コレ? 拷問? 死ねと?

風邪引いた。

っという事で、今回と言うか、A.s編では初ループ。正直な所、この話しが終わるまでに無茶苦茶怒られる事が多くなりそうな予感。

ソレと、まだ出てきませんが。

ヴォルケンズには独自設定が在ります。ご容赦下さい。完璧オリ設定です。

では、この辺で…次回、遅くなると思います。
風邪がッパネェ…



因みに、前回の答えはCの君が光に変えていく。
テンション上げるとおかしくなるからね



[5159] ループの四ノ三(やっとこさA,s…に入れてない?!)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/21 21:02


「だって、バニングスは俺の事嫌いだろ?」

平然と言ってのけた。

確かに、確かに私はコイツ…明智良哉が嫌いだ。
当たり前のように、受け止め許容できるその在り方が嫌いだ。
でも、そういう嫌いではない。

私は恐いのだ。だから、この男の事を嫌って避けてきた。
理解できないのだ。
大人びてるとかそんなモノじゃない。確実に私達と違う内側を持った、この男が理解できないから恐い。


「別に…大嫌いっていう訳じゃないわよ…」

「? 嫌いには代わらないだろ?」

「だから違うって言ってるでしょ!! 私はアンタの事が解らないから嫌いなの!!」

だから、私は叫ぶのだ。
命の恩人だとかは関係ない。
どこか歪んでいるような気がするこの男を、叩き直す。
私の為に。
取りあえず。私はコイツに礼を言う事を、すずかがファリンさんと紅茶を持ってくるまで、忘れていた。
コイツと居ると、調子が狂う。







ポリポリとクッキーを齧る。部屋に有ったカレンダーを見ると、月村家に厄介になって五日目という事が解った。
もう少し前だったら、秘密裏に氷室を処理できたのに…

「…で? あんた、左目はどうしたのよ」

「あっ、私も気に成ってた」

さて…どうするか…

「…テロ」

取りあえずそれだけ言っておく。後は勝手に向こうが妄想なり想像なりしてくれるだろう。
俺の母は海外に遺跡調査に行ってる事になっている。俺はソレに付いて行った。
そういう事だ

「お母さんは大丈夫なの?」

「ピンピンしてるよ。俺は怪我も在ったし、周りの迷惑になるから帰って来たんだ。勉強は通信制にすれば殆ど問題もないし…日本に居た方が安全だからな」

「…そう」

気拙い雰囲気が流れる。

「それじゃあ、教えてあげようか?」

「何を?」

「勉強に決ってんでしょ。」

「アリサちゃんが男の子に優しい…え? 夢?」

「すずか、ちょっと向こうで御話しましょ? なのは式で」


俺は何も見なかった。そうですよね? ファリンさん

「紅茶のお代わりですか?」

「…はい」





side すずか


「で? 何で機嫌が悪いのかしら、すずか」

「そ、そんな事ないよ?」

アリサちゃんもなのはちゃんも、偶に鋭すぎるよ。

「アンタね…直ぐに分かる嘘は付かないの。私とアイツが話してる時のすずか、チョット恐かったわよ?」

「うぅぅ~」

「もしかして。惚れたの?」

「ひゃい?! ち、違うにょ?!」

あぅ…舌、噛んだ

「分かりやすい反応ありがとう、すずか……さて、きりきり吐きなさい」

「あ、アリサちゃん? なんか恐いよ?」

「どの口が言うかぁ!! 人の後ろからプレッシャー掛けて来て!! 私の方が恐かったわよ?!」

だって…明智君とあんまりお喋りできないんだもん

「聞きたい事は一杯在るから覚悟しなさい。何で、緘口令が引かれたのとかその辺りを詳しく聞いてあげるわ」

明智君、人間が一番恐いっていう事が分かったよ…




side out



何処か燃え尽きた月村を視界の隅に置いて、三杯目の紅茶を飲む。咽がやけに渇くのは血の所為なのだろうか?
後遺症的なモノは寿命と老化遅滞としか聞いてないのだが…後で確認してみよう

「それで、どうするの? 」

「…コレといって必要は無いよ。元から分かってるモノだしな」

「はぁ? アンタ全部が全部平均点じゃ…そういう事。アンタ、今まで手を抜いてた訳ね」

流石バニングス。頭の回転が速い

「そういう事。」

「舐めてるわね、アンタ」

「仕方ないだろ? 自分の苦手な人間と接点が増える様な事はしたくなかったんだよ」

高町の近くは本当に地獄だったし、バニングスは睨んでくるから頭が痛くなったし

「…そんなに苦手なの」

「ああ、苦手だ。君や月村を含めてな。」

「バッカじゃないの…そんな風に生きてたら寂しいだけじゃない」

確かに、その生き方はある意味寂しいかも知れない。苦手な人間とは関わりを最低に、自分の好きな人間と生きていく生き方。
逃避だ。
でも、それが一番良い。彼女達は綺麗過ぎる。自分もと思ってしまう。
それに甘えてしまえば、ズルズルといきそうで怖ろしい。

「そうかも知れない。でもそうじゃ無いかも知れない。」

「寂しいに決ってるじゃない!! 」

「決め付けるなよバニングス。個人の人生は他人の評価で決るんじゃない。自身が最後に決めることだ」

現に、俺は『満足の死』を知っている。その人生に後悔は腐るほど在った。その代わりに幸福も在った。

「………分かったわ。その事に関しては何も言わない。でもね、苦手は克服するものよ」

あぁ、だから苦手なんだ。

「アンタが私を苦手でも近づいてやるわ。今日はもう帰るけどね、良哉」

そう言って、部屋を出たバニングス。ソレを追いかけるように月村とファリンさんも出て行った。

(主…ああいう輩はシツコイですよ?)

(マスター、私もそう思います)

「……勘弁してくれ」




side すずか


「アリサちゃん!!」

「何よすずか? 大声出して」

大声出してって…だって明智君の事…

「大丈夫よ。なのはや学校の人間には言わないから…ファラリスっていう人に釘刺されてるしね」

「そうじゃ無くて!! 明智君の事、名前で」

「? 別に良いじゃない? 私が決めたの、良哉の友達になるって。あんな事平然という奴、放っておけないじゃない? 恩人だしね」

ま、まさか…

「すずかも名前で呼ばなきゃ。取っちゃうわよ?」

「えぅ?! だ、だってアリサちゃん明智君の事、好きじゃないでしょ?!」

「そうよ? 今わね。コレからどうなるかは知らないわよ。」

何で? 何で?

「『近づいてやる』って言っちゃったしね。これでも良哉には感謝してるし、助けて貰った時は嬉しかったし。そこら辺の男よりはマシでしょ?」

「…分かった。でも…譲らないよ? 私は本気だもん」

「そうなったら、宣戦布告するわよ。今は応援してあげる、取りあえずは名前で呼ばれる様にならないとね?」

「…お願いしますぅ~」

情けないかも知れないけれど、明智君は本当に苗字でしか呼んでくれないんだ…






side out


前回と同じように、月村邸での療養期間を終え。自宅に帰る。

やはり、自分の家というモノは良い。心が落ち着く。自分の部屋に入る。
スカスカの本棚に手を伸ばし、アルバムを取り出す。
捲れば幼い自分が笑っていた。
その隣に居る母も笑っていた。
父も笑っていた。

在りし日あった幸せな時間。

墓参りに行っていない事に気付いた

「…親不孝だな」

(主?)

「なんでもないよ。カートリッジを作って寝ようか、シュベルト」

明日は公園に行かないと…先生に会えない






【あとがき】

雨にも負けず、風にも負けず、冷たい雪にも、暑い日ざしにも負けない
だけれど、身体が付いてこない。

未だにカゼッピキのBINです。
頭がチカチカ? する。

簡単な紹介

アリサ・バニングス

男前な幼女
ツンデレ?
良哉の言葉にほっとけない病が発症

月村すずか

吸血鬼
おしとやか、おっとり系のお嬢様
癒しなのかバイオレンスなのか分からない
アリサにプレッシャーをかけた

これでゆるして・・・・・



[5159] ループの四ノ四(やっとこさA,s…に入れてない?!)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/21 23:54
「来たわよー!!」

余り聞きたくない声が聞こえた。勘弁して欲しい。
高町には気付かれていないが、此方としては来て欲しくない。関わりたく無い。
ルーダーさんとファラリスさんは「モテル男はツライねぇ」と言って助けてはくれない。

「居るんなら早く開けなさいよ!!」

「アリサちゃん近所迷惑に成るからね? ね?」

何がいけなかったんだ?









最近日課になった恭也さんとの実戦稽古を終え家に帰る途中、缶珈琲を買った。朝は少し寒くなったが昼間は暑い。少しずつだが秋が来ている。
帰り道にはもう珍しくないモノになって居た。ソレに気付き少し寂しくなる。こうやって何もかもが当たり前になっていく。それが人の修正だという事は理解している。

だからこそ恐い

何れ痛みや死が当たり前になったらどうなるのだろうかと考えてしまう。
それに慣れてはいけない。
慣れれば壊れ、狂う。
それでも良いかと思ってしまえば先には進めないだろう。
帰宅しシャワーを浴びて汗を流す。部屋に戻るとスクライアと協力して…一方的に教えて貰って訳した資料が、机の上に置いた儘になっていた。

この資料で分かったのは、とある魔法の術式とソレを開発した人物の名前。スクライアには黙っている、どの道使えない魔法だからだ。
それと俺には解読の基礎からなっていないという事。スクライアの暖かい眼が忘れられない。

窓の外を見れば、雲一つ無い青空が広がっていた。そう言えば今日はヴィータさんと約束が在った。ゲートボールの…
あの日、俺はヴィータさんが飛び掛ってくるのを知っていたのでソレを避けようとした。しかし、流石はヴォルケンリッター。ソレをさせまいと俺を追うヴィータさん。
そのままお互いが熱くなってしまい、先生の拳骨が来るまで競い合っていた。

偶に思うのだが恭也さん然り先生然り、常人とは一線を駕した人物が多いと思うのは気の所為では無い筈だ。
月村の一族。話しで聞けば恭也さんの義妹と父、この町に何か在るのだろうか?
もう、悪霊とかが出てきても驚きそうに無い。でも聞こうとは思わない、自分の中の常識が完全に壊れてしまいそうだ。

靴を履き、公園に向かう。ゲートボールも楽しいがその帰りにヴィータさんと食べるアイスが美味い。今日は何を買おうか?




side シグナム


板張りの床に正座して待つ。普段世話になっている道場でこの間ヴィータから聞いた少年の名を道場主である源蔵氏に聞いた所、道場が休みの今日、話して貰う事になったからだ。
本音を言えば、その話の後で行う源蔵氏との試合の方が楽しみなのだが…

「待たせて悪いのぅ、シグナムさん」

「いえ、お話して頂くのは私の方なのですし…静かな道場で瞑想するのも良い物です」

老人とは思えない、逞しい胸板が胴着の隙間から見える。

「良哉の事だったな…ヴィータちゃんから聞いたのかい?」

「はい。アレが同年代の子を気にするのは珍しい事なので…」

ヴィータと私は年の離れた異母姉妹という事になっている。世間とは広いもので、私がこの道場でアルバイトをしているのも、ヴィータと源蔵氏が知り合いだったからだ。

「それで、何を聞きたい?」

「それは…性格など、人となりを」

私がそう聞くと、源蔵氏は顎に手を当ててから言った。

「根っこの部分では御人好し」

どっこいしょと座り、胡坐をかきながら続ける

「されど、夢を見ず現実を見つめる冷たい部分も確りと持っているが優しさも持っている…懐が深いと思う時も在るが、アレは自分自身の価値を低く見ているなぁ」

「…気が弱いのですか?」

「そんな事は無い。アレは芯が通った珍しい人間じゃ…じゃが子供特有の柔軟さが余り無いのぉ。良哉と話している時は子供ではなく大人と話しているような気がする事が多々在る。」

精神的に成熟しており、現実を見つめ夢との折り合いが付けられる人間か…

「まぁ、要約すると不思議な小僧じゃよアレは…そうさのぉ、シグナムさんは会った事が無いが高町の息子に近いモノを持っている。喫茶店の息子じゃが使う剣からは血の匂いがする惜しい男じゃよ。時代が時代なら、武将として歴史に名を残しておったかも知れぬ」

「不思議…ですか?」

「そうとしか言えんのぉ…何故かは知らぬが覚悟を持っておる。ソレがどんな覚悟かはしらんがのぉ」

源蔵氏ソレだけ言うと、木刀を持ち立ち上がる

「それじゃあ、一本勝負じゃ」

「はい」

向かい合うと血が騒いだ。老人とは思えない程の闘志が私に向かってくる。

「シグナムさんも好き者じゃなぁ…笑っておるぞ?」

「ソレは貴方もですよ?」

開始の合図など入らない。魔法などは使わない純粋な剣の勝負。
私達は同じに踏み込んだ。




side out


「なぁ」

「はい?」

何時もの帰り道、ヴィータさんとアイスを食べながら歩く。

「なんで、毎回アイス奢ってくれるんだ?」

「そりゃあ…何故だろう?」

「アタシに聞くなよ」

本当は癖だ。昔はヴィータさんとよくアイスの美味い店に出かけてたし…なんだか、ヴィータさんと一緒に居る=アイスを食べるの方式が出来上がっている。

「良いじゃないですか。アイスは好きでしょう?」

「そうだけどよー…自分で買えるぞ? 毎回悪いし…」

「男が奢るもんですよ」

「…そういうもんか?」

「そうですよ」

「良哉がソレで良いんなら良いけどさ…」

この会話も毎回しているような気がする。
帰り道の途中でアイスを買い、食べながら帰る。丁度別れる道に出ると食べ終わる。

「それじゃあ、また」

「おう、またな…じゃねぇや。次は予定が在るから日曜だな」

「分かりました。次は勝ちます」

「簡単には負けてやんねー」

ゲートボールで俺は負け越している。あの時、力の加減を間違えなければ…

家に帰るとルーダーさんがカレーを作っていた

「何カレーですか?」

「ティキンだ」

無駄に発音が似ているのは言語や文字が似ているからだろうか?






side ヴィータ


「ただいまー」

「ん? 早いなヴィータ」

「悪いかよって…何が在った?」

シグナムの姿勢が少しオカシイ

「源蔵氏と少し試合をした結果だ」

源蔵のじいちゃんと試合? 

「勝ったのか?」

「負けた。三本中一本しか取れなかった」

じいちゃん…強すぎるよ…

「それと、明智良哉の人柄を聞いてきた。」

「? 何でだ? アイツは魔導師じゃねえぞ?」

「ふぅ…お前が面白いと言うから、少し気になってな」

ふ~ん…昔のシグナムだったら気にしないのにな。
それだけ、変わったのか…あたしを含めて…
たぶん、ソレは良い事なんだと思う。はやてが笑っている毎日が変えてくれた、幸せな世界に居られるからなんだと思うから

「で? 源蔵のじいちゃんは何て言ってたんだ?」

「不思議な子供だと言っていた…後、何かしらの覚悟を持っていると…」

なんだそりゃ? 

「アイツは不思議な奴じゃねぇぞ? 」

取りあえず、アタシはそう言った。もう少し詳しく聞いてみるか…



【あとがき】

風邪が治らない。でも、タバコは手放さない。ソレが俺のジャスティス!!

一本では物足りず、試合を三度行ったバトルジャンキー・シグナム

良哉は暫くは死亡は無い。サイコロ振ったら『生』の字がでたから。





[5159] ループの四ノ五(やっとこさA,s…に入れてない?!)修正しただけなんだぜ?
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/22 10:24
坂道を登る

一度だけ通った事のある道

長い塀がその敷地の大きさを教えてくれる

門を潜る時、持っていた花が風に揺れた

歓迎してくれているのだろうか? そうなら嬉しい

そう思った自分が嫌になった

「久しぶり…父さん、母さん」

俺はそう言って花を置いた。






side ヴィータ


車椅子を押す。今日、コレから何処に行くのかは聞いてない。
はやてが持っていた花は、シャマルが持っている。シグナムはお菓子の入った包みを持っている。

「主はやて、次はどちらに曲がれば?」

「右やな。直ぐに坂道が在るから、ソコを上りきったら到着や」

シグナムは道場、シャマルは買い物であった事をはやてに話しながら歩く。
はやてはソレを嬉しそうに聞きながら、言葉を返していた

アタシもじいちゃんやばあちゃんの事を話したけど、良哉の事は話してない。別に毎回アイスを奢って貰ってる事を怒られるかも知れないとか思ってる訳じゃないからな?

坂を上りきるとデカイ門が在った。

「主此処ですか?」

「うん、正確には門を潜って左や。」

墓地だ。テレビで見たことが在る

「…はやて…此処って」

「うん。お父さんとお母さんに皆の事報告してなかったから」

はやてはそう言って微笑んだ。

嬉しい。家族として認められている事を実感する。でも、哀しい。はやての両親に会えない事が…

門を潜って左に曲がる。左に曲がって進んでいる途中、人が後ろを通る気配がしたので振り返ると知っている後姿を見つけた。

「良哉?」

「ん? 何か言うた?」

「なんでもない」

とっさにそう答えた。
何でかは分からない。でも…今、声を掛けるのはしてはいけない事だと思った。

そう考えながら車椅子を押す。

「ストーップ」

車椅子から手を離す。

はやての指示に従って、墓石の掃除をして花と菓子を添える。
はやてが墓石に向かってアタシ達の紹介をする。紹介が終わるとはやてが言った

「ヴィータ、そわそわしてるけど何か在ったん?」

「いや…その…知ってる奴が居たから」

私がそう言うと、シグナムが車椅子のグリップを握った

「ならば、会って来たらどうだ?」

「そやそや、報告も終わったし後は帰るだけやし。道は分かるやろ?」

「で、でもよー」

「俺達が付いているのだ、主に危険は無い」

狼状態のザフィーラが言う。

その後シャマルにも言われたので、アタシははやて達と分かれて良哉の向かった方へ向かった。




side out



線香に火を付ける。ゆらりゆらりと浮かび、消える煙が時間を忘れさせる。
線香に火を付ける前に墓石を掃除した。汚れが溜まっていた…ソレを洗うと自分の親不孝っぷりに思わず笑いが出そうになった。
人間、情けなさ過ぎると笑いがでるんだなと思った。
手を合わせる。

「本当に久しぶり。父さん、母さん。二人が死んでから三ヶ月経ったよ…今まで一度も来れずにゴメン」

墓を前にしても何も浮かばない。哀しさも辛さも浮かばない。

「ごめんなさい。母さんが死んだのは俺のミスが原因だと思う」

浮かぶのは自分への憤り

「父さん…貴方を殺したのは俺です」

生命維持を断ったのは俺の決定だ。

「二人の死に涙を流せなくて…ごめんなさい」

いくら二人の事を思い出しても、涙は出ない。
納得しているから、理解しているから

「怨んでくれて構いません。呪ってくれても構いません」

寧ろ、そうで在って欲しい。死者は何も語らない。何を思っていたのかも分からない。

「俺は…最後まで親不孝者だと思います」

此処に骨は埋められないだろう…碌な死に方もしないと思う。それでも…

立ち上がり、墓石に背を向ける。

「貴方達の子に生まれて良かった」

まだ水の入っている桶を片手に、来た道を戻って桶を返す。

門を潜ると風が背中を押した

「…本当に、貴方達の子に生まれて良かった」

夕食まで時間は在る。先生の所に顔をだそう。そう思い、俺はゆっくりと坂道を下りた。
物言わず、ただ共に居てくれる相棒達に感謝しながら



side ヴィータ


なんだよ…出れるわけねぇじゃねぇか…

「お前は何を思ってるんだよ…」

ポツリと口から出た言葉は、意外な程大きく聞こえた。
動くに動けない。
哀しい時に泣けない人間は知っている。
昔、本当に昔に何度も見た。どれくらい昔は分からない。薄っすらと記録として残っている。ソレは何代も前の主だったのかも知れない。戦った敵だったのかも知れない。
顔も声も思い出せない。でも、そういう奴は直に潰れる。
奴等は笑わない。心の底から笑えないんだ…

「そう言えば…アイツが笑ってる所、見たことが無いのかも知れない」

顔は笑っている。でも心は笑っていない。
良哉の笑顔を見た事は在る。ゲートボールをしているじいちゃんやばあちゃんと話している時、アタシと帰る途中の何気ない会話の最中に…

「笑わせよう」

そうだ、笑わせよう。一回だけでも良い。アイツを本当に笑わせてやろう。
それだけでも、心が震える筈だ。
その一回が切っ掛けになる筈だ。

「どうやって笑わせようか…じいちゃん達に聞いてみるか…」

アタシは一度だけ頭を下げて、墓地を出た。
時間は有る。ゆっくりと、でも早く笑わせてやろう。
アタシとアイツは友達なんだ



side out


先生の所に顔を出すと、腰にシップを貼って素振りをしているのを目撃した。
話しを聞けば前日に知り合いと試合をしたらしい。対戦相手が可哀想だと少し思った。
先生が俺用の刀を出してくれる。
先生は剣道の道場を出しているが、実際は剣術家だ。戦争中は人を何人も切ったと言っていた。戦争で感じた哀しいまでの命の脆さを貴いモノだと感じたから道場を構え、肉体だけではなくその精神を鍛えようと考えた末の結論らしい。
実際に、海鳴市での若者の犯罪は少ない。地域の平和に貢献しているのかもしれない。
刀を振るう。左目を失うまでは重いと感じていた刀は、嘘の様に軽かった。
ソレを言うと先生は、型が様になってきたからだと言った。
俺が先生に習っているのは、実戦では余り役には立たない事だと思う。実際に言われた。普通に振るう方が手っ取り早いと。
それでも、コレは辞められない。一瞬で全てが終わる。二の太刀は無いこの技は、心構えを新たにしてくれる。

日も暮れ始めた頃、先生の家を出た。
歩き始めて三分も経っていないぐらいに、バニングスに捕まった。月村も一緒だ。
唯一の救いは高町が居ない事だろう。耐えられるがあの痛みはツライ

二人は塾帰りらしい。

「それで? 何処に行ってたのよ?」

「剣の先生の所にな」

「あれ? でも、良哉君って棒を使ってなかった?」

最近、月村は俺の事を名前で呼ぶようになった。ソレが少しくすぐったい。

「基本は棒というか…槍だ。剣は少し前から始めたんだ。大体一年と少し前ぐらい」

「そんなにやって使えるの?」

「引き出しを広げてるだけだよ。バニング「アリサ」…バニ「アリサ」…アリサ」

宜しいと頷く、バニングス。コイツには何故か逆らってはいけないような気がする。具体的に言うと後が恐い。早くミッドに引っ越したい。

「つきむ「すずか」…つ「すずか」…」

涙目で言い直す月村にも怖ろしいモノを感じる。何気にコイツも強い。

「…すずか」

「何?良哉君」

名前で呼ぶと本当に嬉しそうに笑うので、コレで良いかと思ってしまう。余り深い関係にはなりたくないんだが…

「ソコの角で下ろしてくれ」

「私の車なんだけど?」

お前が運転してる訳じゃないだろうが、バニングス。

「鮫島さん」

「分かっていますよ」

この中で味方はこの人だけだ








【あとがき】

調子が良いので吶喊作業


以下、人物紹介


明智良哉

最近二人にたじたじ
安心できる女性はファラリスとヴィータ
アイスが好物。
すずかに押され気味


月村すずか

良哉を名前で呼ぶようになった
良哉に名前で呼ばれる事に成功
涙目+上目使いのコンボを習得
何気に良哉の心に侵食している

アリサ・バニングス

良哉の天敵
有限実行幼女
良哉の家に強襲を掛ける
ファラリスと仲が良いらしい


ヴィータ

漢の浪漫装備を持つ幼女
アイスが好き。
趣味はゲートボール
良哉とは親友兼ライバル(ゲートボールの)
結構子供っぽいが大人の考え方もできる
良哉が気になる

柴源蔵

今年で八十六の老人
見た目は六十程にしか見えない
服の下に隠された肉体は戦士のモノ
戦争を経験し、殺しを経験し世の無常を知るじいさん
剣術の使い手。
居合いが得意らしいが使う事は無い。
ブッチャケ、踏み込んで切った方が早い

それじゃあ、寝るわ。
テストがあったけど、かなりヤバイ。欝だ寝よう






[5159] ループの四ノ六(やっとこさA,s…に入れてない?!)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/25 00:54
ふと思い出して、考える。

思い出したのは、スクライアから送られてきた資料を見てからだ。以前、この資料を解読しきれずにスクライアに手助けして貰おうと話していた時に俺は死んだ。
車椅子を正面から受け止めたのが原因だ。
少し考えれば、力の方向を変えてやれば良いだけの話しだった。

「シュベルト。最近、魔力反応は在ったか?」

『高町なのはの魔力反応ならば毎朝感知していますが……そういえば、二十日ほど前に感知しました。』

ならば、その時に俺は死んだのだろう。八神はやては死ななかった。あの時、俺という一般人が居た為にヴィータさんは魔法を使えなかった。
そう考えて良いのだろう。あの人は情に厚い人だ。
ソコに好感を持てるし、ソレが有るから信用できる。

「今日も行きますか」

(私としては、高町恭也の武術を解明したいです。ラプラスによる筋肉の動き、その筋肉が本来ならばどう動いているかを透視・記録するべきかと…)

確かに、一度しか受けていないが防御をすり抜けてくるあの技は習得したいものだ。








最近、休みの日になると必ず訪問が有る。主にバニングスの…
有言実行をするのは素晴らしい事だと思うが、辞めて欲しい。ファラリスさんが所有する機材は、明らかに地球の文明レベルを超えている物が有るからだ。
何時の間に運び込んだのだろうかと、不思議に思う事も有るが気にしない事にしている。なんだか恐いし
まぁ、バニングスが来るのは夕方近くなのでソレが救いになっている。
一度、泊まって良い? などと言っていたが却下した。突然部屋に来られても困る。スクライアの資料にカートリッジ。見られて困る物は幾らでも有る。
しかし、夕食を一緒にする事が当たり前に成りつつ有るこの状況はどうした物だろうか…月村も便乗してるし…何よりもこの二人は、ファラリスさんに受けが良い。方や天才、方や理解の早い芯の通った子。
ファラリスさんも妹が増えたみたいだと喜んでいる。何もいえない俺に、酒を寄越すルーダーさんの優しさに何度救われた事か…
勿論、月村達が帰ってから俺の部屋でだ。
一度、ファラリスさんに見つかって怒られたのでコッソリ飲んでいる。
ラプラスが適量を教えてくれるので後には残らない。

十月も半ばになると、肌寒い。
最近は、恭也さんの訓練にも慣れて以前よりかなり動けるようになった。偶に恭也さんの眼が恐くなる時があるが…先生と同じで戦闘狂の気でも有るのだろうか?

何時も恭也さんと訓練を行う神社には狐が居る。恭也さんに懐いているようだ。恭也さんはその子狐の事を久遠と呼んでいた。
誰かのペットなのかと聞くと高校時代の後輩が飼っていると言われた。
この子狐はかなり賢く、此方の言葉を理解している節がある。最初は中々近づけなかったが、十一月になる頃には俺の頭に乗っかるぐらいには懐いてくれた。
それから二週間程居ない時が在ったが、いつも通りだったので一緒に稲荷寿司を食べた。その頃は恭也さんも、大学が忙しかったのか中々訓練が出来なかった。時間が有っても大分疲れた様子だったので、身体の動きを見て貰い、アドバイスを貰う事が一時期の訓練だった。

ルーダーさんは相変わらず恭也さんと暇を見つけては釣りに行っている。癖になってると言って、庭で身体を動かしている姿を毎日見る。
ルーダーさんは近接では徒手空拳が得意らしい。此方に来てからは中国拳法に興味が有ると言っていたが…この人は素で強い。

関節技が巧いのだ。何度か相手をして貰ったが、意とも容易く手首を決められたり、関節外されたりと負け越している。技量が高い。

ルーダーさん曰く、関節技は魔導師にも有効だそうだ

考えてみれば当たり前の事だった。バリアジャケットに包まれていても関節は動く。自身の身体の動きを阻害するバリアジャケット等は無いのだ。そう考えると、中国拳法も使えるかも知れない。バリアジャケットは少しの衝撃なら吸収してしまう。つまり、空手などの身体を破壊する剛の拳よりも、内臓等の身体の内側を破壊する技法を多く伝える中国拳法の一部が有効な可能性が高い。
可能性の話しだが…今度掌ていで叩いてみよう。踏み込み等は本などで見れば有る程度出来る筈だ。使えるようならその状態から、魔力を打ち出せれば使えるかも知れない。

そんな事を考えたのが二週間も前の事だ。

十二月も近い冬。
ファラリスさんとルーダーさんが帰る日が決った。ソレが決った日、俺がミッドの士官学校に入れる事を教えてもらった。画面越しにクロノさんが嬉しそうに言っていた。
クロノさんと画面越しに話す事は意外と多い。スクライアとは別に、宿題が送られてくる。
その答え合わせと、注意点は全てクロノさんが行っている。アドバイスの時は時間を割いて画面越しに教えてくれる。クロノさんの話だと学校の授業は短期プログラムで行われる可能性が高いと言っていた。
詰め込み、暗記が多くなるから注意しろとも言われた。
大体、二・三ヶ月で終わるから今からどの部署に行きたいか決めておけとも言われた。
それと、執務官試験はどうするかも聞かれた。なんでも、受かる可能性は高いから早めに受けた方が良いらしい。執務官補佐として二ヶ月から半年の研修は自分の所で出来るからと…
ルーダーさん達も早めに受けた方が良いと言っていた。受からなくとも、試験の感覚が掴めればOKなんだそうだ。
士官学校に通うなら自分の家に来いとルーダーさんが言うのでそうする事にする。
行く部署は決めている。しかし、試験はどうするか…資格は持っていた方が良い。でも、そうすると隊長達に会うのが遅くなる…
三人とも時間は有るから良く考えろと言った。

時間とは思ったよりも早く過ぎる。
気が付けば、ファラリスさんがアースラに帰還する日になっていた。正確には前日だが…今日は家に居ないのであってはいる。
ファラリスさんは現在、月村邸で忍さんと飲んでいる。
今日はルーダーさんと二人きりの夕食だ。
鍋にしようという事になったので、買い物に出かける。その帰りに、奴等は来た。

「貴様、魔導師だな」

大柄な男が俺達にそう言った。視線はルーダーさんに固定されている。

「良哉…逃げれるか?」

「…たぶんですが」

「それじゃあ行け。やる事は解ってるな?」

「了解。タイミングはお願いします」

小声で打ち合わせは終わる。

「それで…後ろの美人さんも俺をご指名なのかな?」

「…驚いた、私に気付くか」

ダメだ。逃げれる可能性が下がった。

「荒事にはしたくないんだが…用件は?」

「リンカーコアを貰いたい」

「それは…無理だな。こっちの仕事に差し支える」

「なら、悪いと思うが力ずくだ」

(行け)

「シュベルト!!」

多重転移で逃げる。アースラの座標がわからないので、一番安全な所には逃げられない


「あの子供も魔導師だったか…ザフィーラ」

「解っている。此処は任せろ。」

「頼むぞ」





【みじかい】

今回は、チョット初心に帰ってみた。イロイロしかけたしね。


風邪は完治した。と思ったら、俺以外の家族が全員風邪で倒れる。
原因は私です。
なんてこったい…テスト期間中なんだぜ? 俺…どうしろと…

次回、ルーダーVSザフィーラ!! 漢のガチバトル。
砲撃? 浮遊? そんなモノは無い。
身体と身体のぶつかりあいさぁぁ!!!

良哉は逃げる。
シグナムが追う。


後、少し前のアンケートで、ハイパー良哉タイムを考えてたら…ハイパーエネミータイムになっていた…

何故だ?

後、チョット聞きます。病気が違う方向に出た。浮気しても良いよね?



[5159] ループの四ノ七(やっとこさA,s…に入れてない?!)シグナムの紹介を追加
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/01/26 20:29
風を切って拳が迫る。

首を逸らして避け、右のフック

肉と肉がぶつかり合う。

(防がれたか)

「…やるな」

「そっちもな!!」

足払い、跳んで避けられる。

「だが、まだまだだ!!」

単純に魔力で強化された拳が、立ち上がる途中の顔に迫る。
一瞬だけ魔法で飛び、拳を手で受け止め捻る。

「貰った!!」

「させるか!!」

手首を掴んだ左手を掴まれ、身体ごと引かれるように地面に叩きつけられる。受身が取れない。

だが…

「手は離してないぜ?」

「バインド?!」

空間に一瞬だけでも、縫いつける。その一瞬の隙で良い

腕の力だけで身体を持ち上げる。相手の身体に足を絡め、胴体で腕を抱え込むようにして捻る。

バインドが壊されたと同じに、腹に鈍い音が響いた。

「ゲハッ……無理やり曲げたか…やるねぇ」

「グッ…貴様もだ。バインドからしてミッド式魔導師が、肉弾戦で此処まで出来るとはな…名は…」

腹が痛い。諸に入りやがった。
でも、右手首は貰った…

「ルーダー…ルーダー・アドベルト。お前は」

「ザフィーラ。性は無い。守護獣、ザフィーラだ。」

足が震えやがる。でも、勝てない訳じゃない。眼を凝らせば脂汗が出てやがる。無理やり動かした所為で筋もやったな?

「一つ聞く。なんで、俺が魔導師だと分かった?」

「…近づけば魔導師か魔導師じゃないかは分かる。俺は主の盾だ。区別ぐらい付くさ。此方としてもお前という魔導師は予想外だった。」

「そうかい…買い物行くのもう少し早くしとけば良かったなぁ」

「此方も一つ聞きたい。どうしても、リンカーコアを差し出せないか? 生命の心配は無い。少し痛む程度だ。」

あぁ、昔の俺なら出してたかもなぁ…でもよぉ

「無理だな、妻と娘に顔向け出来ない。」

「そうか…ならば、少々荒っぽく往くぞ!!」

「咆えてんじゃねぁぞ!! 」

狙うは潰した右!!

メギィ

「ガァッ!!」

コイツ…完全に右を捨てやがった!!

「コレでお互い腕一本だな」

顔へのフェイクを見破られた。少し勢いが付きすぎていた為に、本命の左を潰された。右腕に挟まれ膝で折られた。
ご丁寧に右の肋も二本持っていかれた
痛む肋を抑えて、後退する。

「けっ、何がお互い腕一本だ。肋も持っていきやがって」

「ふん。完全に右腕を持って行った上に、人の肋を持っていこうとした奴が言うセリフか?」

ザフィーラの右脇腹からは血が滲んでいた。
指に魔力を集中して肉を貫き、肋を折るか引き抜こうとしたのだ

「荒事には慣れているようだな…こんな事出来るのだから当たり前か…」

「職務上、困ったチャンが多いんでね。」

息を整える。

まだだ、まだ負けてやれない!!





side out





「ああ!! もう!!」

立ち上がりの遅い端末にイライラしながら周りを警戒する。
多重転移で最後に設定したのは、自宅だ。此処ならアースラに連絡できる。

起動音が新たに鳴り、キーボードを叩く。
後は送信するだけという時に、奴が来た

俺は椅子から転げるように落ちてソレを回避する。何とか送信ボタンを押せたが、届いているかどうかは五分五分だ。

シュベルトを構える。

「結界も張らずに突撃だ何て…」

「そうだな、普通ならやらないが……何故か、この周辺に生体反応は無い。」

しまった…この周りの住人は、バニングス社か月村が権利を握る会社の社員だ。ファラリスさんがその辺の事で動いていたんだ、出張や単身赴任という形で此処周辺は寂しくなっているのを忘れていた。

「それで…何が目的だ」

「心苦しいが…リンカーコアを蒐集させて欲しい」

闇の書事件か…やっても良いが…

「死にはしない。苦痛は有るが…我が主の為。無理やりにでも貰っていくぞ!!」

ガキィ

イキナリ切り掛ってきた。コッチの話しを聞こうともしない。

「防ぐか…面白い」

思い出した…ヴォルケンリッター・烈火の将、シグナム。当時でも有名だった戦闘狂じゃないか!!
防ぐんじゃ無かった。ヴィータさんからも注意されてた。シグナムとは模擬戦をするな。お前の力量なら絶対に目を付けられるって

どうする? どうする?

ルーダーさんの方もヤバイ。あの男は確か盾の守護獣。
たしかまだ、泉の騎士が居た筈だ。さすがのあの人も『騎士』二人を相手には逃げられない。

冷静に考えろ。此処は俺の家だ。間取りは覚えている。少し心苦しいが。

「シュベルトォォ!!」

―――Short bullet―――

直射型魔力弾を石突から斜め上に出す。壊れる壁。
壁を粉砕した所為で細かい瓦礫となった破片を、魔力噴射で巻き上げる。
一瞬だけ視界を遮り、穴に入る。
穴にシールドを張り、少しの時間稼ぎ。
本棚に手を掛け必要な物を取り出した瞬間に、俺は壁を粉砕し外に放りだされた。


「ガッ…何が…」

右腕が痛い。まるで焼けどを負ったように肌全体がヒリヒリする。

「紫電一閃を喰らって、まだ動けるか…惜しいな」

「クッソ…がぁ」

アルバムは何処に…

シュベルトを左に持ち替えて、体勢を整える。

ラプラスが周辺を探り、アルバムを見つけた。

ソレはもう、アルバムとは言えなくなっていた。切断された所から火が付き、嫌な臭いを放ちながら燃えていた。


「……逃げるぞ」

カートリッジを一本抜く。ソレを観て踏み込もうとした瞬間に

―――Blitz Action―――

だが、一撃は返させて貰う!!

「ぐぅっ!!」

「チィッ!!」

危険なレベルの肉体強化での高速移動と斬撃。それも防がれた。右手が使えれば…

互いに距離を取る。

シグナムは笑いながら言った

「我が名はシグナム。ヴォルケンリッターが烈火の将だ!! 汝が名は!!」

名乗りだと? フザケルナよ…人の拠所を燃やした貴様に…

「…多重転移」

教えてなどやるものか!!





sideシグナム




逃げたか…個人的には惜しい。アレはまだ本気を見せていない。リンカーコアも蒐集出来なかったが…帰る場所は押さえた。魔力反応も覚えた。
シャマルにデータを渡せば直ぐにでも見つかるだろう。
何よりも、私はアレの本気とぶつかって見たい。一瞬だけ見せたあの眼。アレは戦士が持つ眼だ。

「ザフィーラ? どうした? 逃げられた?! お前がか…場所は?」

面白い、不謹慎だが心が躍るのを抑えられない。

「…そうか、不明か。此方も逃げられた…管理局に関しては時間の問題だ。普段は魔力を隠しているし、此方に転移してきたのなら他の次元に逃げれば良い。」

主には少し嘘を付かなくてはいけないのが心苦しいが、主の命の為。泥は我等が全て被る。




side ザフィーラ


「そうか、分かった。」

破られた結界を見て、俺は溜め息を付いた。
あの男…ルーダー・アドベルトには驚かされた。その近接戦闘の技術もだが結界の破り方にだ。

「まさか、自分を砲弾に見立てて無理やり破るとはな…俺もまだまだ未熟という事か」

それにしても、右の肋を全て折らせて俺の左足を砕くとは……驚嘆する。
少なくとも、奴は重症だ。感触からして折れた肋が肺に刺さっている筈だ…なのに自爆紛いの方法で俺の結界を破って逃走したか…

「未だに…あの様な戦士が居るのか」

笑いが漏れる。歓喜だ。あの様な男が、戦士が、戦う者がまだ居る。遥か昔、記憶ではない薄れてしまった記録の中にも僅かにしか存在しなかった者が居る。

喜ばずして何をする。

笑っていると、駆けつけたシャマルに叩かれた。お前には分からんよ。



side ルーダー


呼吸がし難い。
目眩がする。
身体が痛い。
自爆紛いの方法で結界を突破したのだ、気絶しても可笑しくない痛みが体中を襲う。
何とか、管理世界で人が住んでいる所に転移できたが…意識が持ちそうに無い

「ゴホっ…エホエオ…」

あと少し…あと少し行けば…管理局員の詰め所が…

揺れる視界に人が映る…何処かで見たような顔だな…もう、コイツで良いよな

「大丈夫ですか?! 確りしてください!! 誰か!! 早く局員に知らせて!!」

「お…い…」

「何ですか?! 喋らないで下さい!! 死んじゃいますよ!! 貴方も局員なら頑張って下さい!!」

「うる…せえ…アースラ…のリン…ディ…ハラオ…ウンに…連…ら…く…良哉…が危…ない…急げ」

伝えたぞ? 伝えたからな? 

「ちょっと!! 眼を瞑るな!! 閉じるな!!」





side out


転移先はファラリスさんが滞在しているだろう、月村邸。地面に足が付いた瞬間に、身体が崩れ落ちた。

「ハハ…ダメージがバカにならないな」

(一瞬の気の緩みを突かれました…我等のミスです)

「俺のミスでも有るけどな…痛ぅ…」

肋が折れてるな…右腕も…

でも、身体の痛みよりも…心の痛みの方がデカイ。

『我が名はシグナム。ヴォルケンリッターが烈火の将だ!! 汝が名は!!』

フザケルナよ…フザケルナ…

「シュベルト、クロイツ、ラプラス」

腹立たしい、己が、アイツが

「俺は間違うぞ。今回ばかりは、我慢も納得も出来そうに無い」

(貴方の心のままに、我等はただ貴方の勝利を運びます)

(私も同じですマスター。この身はマスターの目として生まれました。私はマスターの一部も同然、何処までもマスターと共に歩みます)

「ありがとう」

身体を揺らさない様に歩く。突然、敷地内に現れたのだ直ぐにでも誰かがくる












「貴様だけは殺してやるぞ…シグナム」


今回だけ、今度だけ、この身を憎しみに委ねよう。

たとえ、命が尽きても





























二日後、この世界の近くに航行中のアースラに連絡が入る。ソレと同時に管理局から、次元世界で頻発している魔導師のリンカーコアを蒐集して回る違法魔導士の捕縛を、アースラに命じられる。
ルーダー・アドベルトは意識不明の重体でアースラに収容され、先にミッドチルダに戻っていたファラリス・アテンザにより明智良哉の無事を告げられる。



闇の書事件はこうして始まった




【あとがき】


ヴィータをウィーターと言ってしまった事があります。
そう言えば先日、大宰府に行ってきましたよ。大学からも近かったので…
その時、頭の中に声がしたんだ。

「別に、思いついたなら書けば良いではないか。ソレもまた勉強だ」

と、俺の病気は神様公認!!とパニックになりそうでしたがその場は自重しました。

俺も腐ってるなぁ…脳が

後、友人が一言こう言いました

「お前の今書いてる奴さぁ…どSかSぐらいしか読まないんじゃね?」

なんでも、どSが群がる作品なのではないかと…違うよね?



さて、少し長くなりましたが。今回はこんな感じです。

ザフィーラVSルーダー

ルーダーの勝ちに近い引き分け? かな。

シグナムVS良哉

良哉が逃げ切ったのでシグナムの負けだと思う

以下人物紹介

明智良哉


眼帯、不幸。
魔法は、フェイトから貰ったものが多い
戦闘スタイルは短期決戦。
高速近接戦闘。
フェイトと被る。しかし、コンビを組ませれば強いかも知れない
復讐鬼化した


ルーダー・アドベルト

漢。兄貴。拳の似合う漢
ザッフィーと戦う
重症。その行いにアースラの武装隊が男泣き
ミッドの病院に搬送される。


ファラリス・アテンザ

良哉の頼みで、ラプラスを改造。
序でに他も改造。
良哉の切り札?が一個増えた。


シグナム

良哉の目的。
巨乳。
ニートではない。フリーター
良哉のアルバムを切っちゃった。でも事故
良哉の特徴には気付けない
暗い所にバッカ良哉が居た為。
知らない為の不幸




こんなトコかな?

ネギま関連で思いついた(病気)
初期作品をプロット紛失で停止してるのに…でもやる
可能性は高い?
こんな私を許せ



[5159] ループの四ノ八(やっとこさA,sに入りました!!)修正
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/02/08 23:00

我が主が月村邸に転がり込んでから一週間。
今、私の目の前で起こっている事は当たり前の事になってきています。

「アーン」

「いや、だからな月む「すずか」…すずか。左手が使えるから「アーン」…」

主は毎回、抵抗しますが。月村すずかは屈しません。
最近、主も諦め気味です。私は、少し情けないその姿を見て安心します。

「アーン」

「……」

「アーン!!」

「……」

「…あーん」

あ、少し泣きが入りました。主の敗北パターンです。

「……あーん」

パクっとレンゲを咥えます。すると、月村すずかは雅に華が咲いた様な笑顔を浮かべ笑います。

「はい、次。アーン」

「……あむ」









バタンとドアが閉まり、月村は部屋を出て行った。

「シュベルト」

(周囲に魔力反応はありません…ヴォルケンリッターと名乗ったあの騎士とその一味は、今だ高町なのはには接触していないようです。)

「…そうか」

(主、一つ宜しいでしょうか?)

「? どうした?」

(アレを殺せますか?)

「生きてる限りな…手段は有る。お前も分かっているだろう?」

(……アレなら殺し合いには成るでしょう。しかし、あの騎士中身はアレでしたが腕は本物です。使っていた魔法は古代ベルカ式、今の時代ならば希少技能と言っても遜色ありません。確かに、主にも適正はあります。しかし…)

「経験が無い…だろ? 」

確かに、俺には経験が足りない。長い、本当に長い時を戦い抜いてきた騎士は強いだろう。
堅実だろう。

「それがどうした?」

(主?)

涙は枯れた。

両親の死に泣けなかった時点で俺は最低の部類の人間だ。

拠所…両親との思い出を焼かれた。

その事にも涙は流れなかった。

渦巻くこの憤怒と憎悪。粘着質なこの思いは毒だ。頭の中で俺に囁き続ける。

奴を殺せと

奴の主を殺せと

その声に賛同したくなる。寧ろしたい

だが、ソレをすれば俺は奴と同じに成ってしまう。それだけは出来ない。
俺の目的はシグナムの死。他は関係ない。
俺の身勝手なケジメの付け方だ。勝つ為の手段は選ばないとは言わない。
外道には落ちない。落ちれば其の侭生きるだろう…そんな事では、この地獄からは出られない。
それだけは嫌だ。俺は解放されたい。ちゃんと死にたいんだ。


「良哉くーん、お昼はファリンに食べさせて貰ってねー!!」

月村の声が扉越しに聞こえた。あの子には世話になっている。肋の痛みも無くなった。
情けない事に、月村邸に転移した俺はすぐに気絶した。眼を覚ませば涙目の月村の顔が映った。
気絶した俺を最初に見つけたのは月村だった。シュベルトが念話でファラリスさんを呼んだが、月村が一番に俺を見つけ。血を流し込んだ。
起きれば、わんわん泣く月村を宥め。泣きつかれて寝た所にファラリスさんが来た。事情を話すと、ファラリスさんは直ぐに家に向かった。
帰ってきた時には朝になっていた。眼を擦りながらファラリスさんの報告を聞く。
家の破壊の後は修復されていたが、一部はされてはいなかった。
修復されていたのは壁とガラスのみだった。ファラリスさんがボロボロになった物も、一応部屋に置いてきたと言ってくれた。その際に壊された端末の事を聞くと笑いながら、「君の命が助かった…それだけで十分よ」と言って笑った。

部屋を出る時に、新しい眼帯を渡された。ラプラスは強化の為に一度持っていくという事になった。二日後には転移で帰ってきた。手紙と一緒に。
手紙の内容は、ルーダーさんの事だった。
意識不明の重体だが命は助かったらしい。神経や脳に異常は無いから退院のあとのリハビリ次第で、復帰できるとの事。
少し、安心した。


部屋に閉まって有ったカートリッジは無事だった。今はキッチンの床下に有る。ファラリスさんが移動させてくれた。スクライアからの資料は送った。今頃、スクライア一族の元に届いているだろう。
クロノさん達には無事だと伝言を頼んだ。恐らく、会う事は無い。今は潜伏中という事になっている。詳しくは知らないがファラリスさんが何も言わずに手を打ってくれた。

ユーノ・スクライアには悪い事をしたな。翻訳方をシュベルトに入れた為に、手ずかずの資料の翻訳も終わっていたのだが…訳した資料は送っていない。
人を利用してばかりの自分が滑稽に思えてきた。

「少し…寝よう」


布団を被り直し、眼を瞑る。眠気は直ぐに襲ってきた






side すずか



家に大好きな人が居る。それだけで、一日はこうも変わるものなんだと実感した

私はイケナイ子だ。あの人を縛り付けてる。自覚は有る。でも、辞めようとは思はない。彼は怪我が治れば往ってしまう。それが何と無く分かる。大好きな人の事だもの、分からない筈が無い。
往って欲しくない、傍に居て欲しい。何て我儘なんだろう。

「…早く終わらないかなぁ」

短いHRが長く感じる。

「ちょっと、すずか」

「何? アリサちゃん?」

「声に出てるわよ。小さいから先生には聞こえてないと思うけど、シャキッっとしなさい」

声に出てた?

どうしよう…残りたくないなぁ

私の言葉は案の定、先生には聞こえていなかった。何時もの三人で学校から帰る。

「ねぇねぇ、すずかちゃん」

「何? なのはちゃん」

本当になんだろう? 不思議そうな顔して…何か在ったのかな?

「すずかちゃん、最近良い事でも有ったの?」

「なのは…余り言わないで上げなさい。」

「えぇぇ…でも気になるよぉ」

アリサちゃん。ソコはもうチョット、フォローして欲しいなぁ

「…あのね、なのはちゃん」

「うん!!」

余り隠し事はいけないよね? 良哉君の名前が分からなければ良いんだし…バレなければ良いよね?

「私ね、好きな人が出来たの」

「へ~そうなんだぁ………え?!」

「あ~…なのは、驚きすぎよ。驚くのは無理も無いと思うけど」

「二人とも酷いよぉ…」

「でも、すずかちゃん男の子苦手でしょう?」

「そう…だね。苦手だよ? でも、あの人は大丈夫なの」

私を助けてくれた。受け入れてくれた。それだけで十分。

「ほぇ~…アリサちゃん。すずかちゃんが物凄く綺麗に見えるよ」

「恋してるからじゃないの?」










side out



サーチャーを飛ばしてカートリッジの確認をする。
およそダンボール二箱と半分。一つと半分は普通のカートリッジ。もう一つは秘密兵器。でも、コレは使わないと思う。


夜、すずかの襲撃に撃沈し朝が来る。
朝、必ず聞くすずかの声に安息を覚える。
イケナイと思った。あの子は正しく毒のように俺の中に入ってくる。

「シュベルト…予定を変更して此処を出ようと思う」

(…主)

「此の儘だと俺は…」

ダメに成る。あの子に甘えきってしまう。ソレはダメだ。
俺と関わる限り、あの子には危険が及ぶ可能性が高い。知っているというだけで俺は狙われる可能性が高い。バレ無ければ良いとは考えられ無い。
情報は何処から漏れるか分からないのだ

(…良いではないですか)

「シュベルト?」

(甘えて良いではないですか。主は月村すずかの思いに気付いているのでしょう?)

…アレだけされれば、嫌でも気付くさ。すずかの好意に

「…だが…俺は…」

(復讐は一度きり。ならば、それが終り生きていたのなら一度だけ休みましょう。酷い言い方ですが主は無限です。ソレが主の強みです。)

「しかし!!」

(良いではないですか、一度くらい幸せな未来を生きても。)

「無かった事に成るんだぞ…全てが、愛した事が、愛された事が…」

(はい。ですが、主は全ての始まりの時には無かった事にしているでしょう? 完全では無くとも…)

そうだ。過去に戻れば未来に有った事はリセットしている

(今回の事とて、過去に戻ってしまったら無かった事になります。それでも、今回はその思いに奔るのでしょう?)

それは…

(ならば、良いではないですか。ソレを罰にでも罪にでもすれば良い。全ての時間の全ての我等が共に背負います。)

「…俺は…俺は…」

(ふぅ…それならば賭けをしましょう。主)

「賭け?」

(はい、単純な賭けです。貴方が生き残れば休む。生き残れなければ其の侭次へ…)

「そうだな…そうしよう」

心の何処かで俺は夢を見ている。
ただ、平穏を貪る生活というモノを…



次の日の夜。オフィス街が結界に包まれた。決戦の日は近い。近隣の世界にサーチャーを飛ばす。
魔力反応の有る生物が居る世界を限定に。

シグナムは強い。今の俺の力量では勝てる可能性は限りなく少ない。
ならば…弱くすれば良い。それだけだ









side ファラリス


「それで…良哉君は無事なのね?」

「はい。今は療養中です。少なくとも一ヶ月は戦闘行為は出来ません」

彼女達の血の力が無ければ…

その事は報告しない。

あの子は戦闘に出るだろう。自分の命を勘定に入れずあの騎士を打倒するのだろう。可哀想な子…でもそれ以上に強い子
私は大人として最低で人としても最低な事をしている。それでも、ファラリス・アテンザとして最高の事をする。

「一つ、聞きたい事が有るんだが…」

「何でしょうか? クロノ執務官」

この子も良哉を可愛がっている。本当なら駆けつけたいのだろう、抑えているがイライラした空気が少し漏れている

「良哉は…涙を流したか? 自分の大切なモノを燃やされて…」

「…いえ。」

「……そうか。艦長、良哉を艦に呼ぶ事は僕も反対します。今の良哉に必要なのは戦闘に関係無い場所での休養でしょう」

「そうね…ファラリスさん。下がって良いわ。」

艦長の命令に従い退室する。私は嘘を付いた。

でも、それで良い。

最高のタイミングで奴等を横面を叩く。

私に出来るのは管理局に来る情報をラプラスに流す事ぐらいだから…



あの子は、気絶している間に涙を流した













哀しいぐらいに真っ赤な涙を








【atogaki】

へたれる良哉をシュベルトが叩きなおす。有る意味相棒とはこういう物では無いのだろうか? そう思います。

今回は、恋は女を美しく強くし、男を弱くてバカなモノにしてしまう的な風に感じてくれたのならば成功。

次回? か、その次は血みどろの可能性大。


良哉が嗤います。ぬこがとんでもない事になるかも…


以下人物紹介


明智良哉

チョットへたれ。眼帯
復讐者。未来の九鬼先生?
すずかの好意には気付いている。
でも、自分の性質を知っているから進めない。
本当に涙が枯れたのか、血の涙を流す。
また死亡フラグがたった


月村すずか

恋する乙女☆
良哉の中に順調に入り込んでいる。
アーン成功率100
寝ている間にキスをしようとして、姉に見つかる。
以来からかわれている
なのはに恋の素晴らしさを説く


高町なのは

未来の魔王。白い悪魔。
恋の偉大さを知る。
戦闘終了後良哉の事を知る。
物凄い落ち込んでいる。

「フェイトちゃん酷いよー!!」


フェイト・テスタロッサ

良哉が襲撃された事をしる。
シグナムは敵。
切りかかる時は殺すつもりで往った。でも負ける

「だ、だって、クロノから秘密にしとけって言われたんだよ。なのは」


クロノ・ハラウオン

一番腹が立ってる漢。
シャマルは問答無用で撃とうかと迷った。
良哉の肉体的、精神的な傷を心配し戦闘には呼ばない。
コレもまた愛情。

「さて、シグナム。懺悔の準備は十分か?」


おまけ 「仁義無き内紛」


「シグナム」

「なんだ、ヴィータ。」

ヴィータはキツク握った拳を震わして聞いた

「…良哉を襲ったのか?」

「? ああ、先日の戦士の事か? スマンな、アレの本気と戦ってみたいが為に見逃した」

「そういう事、聞いてんじゃねぇ!! アイツが魔導師だって気付けなかったのはアタシのミスだ…だからってよぉ…なんで、なんで…アタシに教えなかった!!」

「ヴィータ…そうか…そうだったな。明智良哉はお前の友人だったな。すまない。だが、私も今日戦ったテスタロッサがその名を口にして、初めて知ったんだ。許せとは言わない。全てが終わったら如何様にでもすれば良い」

「……分かった…蒐集は、はやての為だ。でもな、アイツが戦場に出てきたら相手をするのはアタシだ!!」

「…分かった」



その夜、ヴィータは静かに涙を一筋だけ流した

「…良哉、ゴメンな」


騎士達の夜は更ける




こんなトコかな? 

なのは達の戦闘は、たいして変わらないので省きました。変わったといえばセリフぐらいです。フェイトの…

次回、待て。ブッチャケテスト期間中。マジで勉強しないとヤバイ。特に明日の四限










[5159] 俺のあたまがバニングス!!!!!!!!!!! 熱病だ…自重しようTS注意!!
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/02/23 22:30
さぁ皆、またも病気だ。覚悟しろ


コノ病気は、クロ姉のいう事を聞かずに地球に戻ったIFだ。ヒロインは…分かるだろ?






久しぶりの我が家に帰って来た良哉は、半ば放心していた。
今まで自分を閉じ込めていた檻から解き放たれたかもしれない。その可能性が極めて高いからだ。

地球に帰るのはイロイロとキツかった。
良哉を引きとめようとするクロノ。最後は半泣き状態だった。胸がキュンキュンした良哉は何とかクロノを振り切り、白い覆面を被ったマーガスとの一騎打ちに勝利して、ルーダーとファラリスと地球に帰る事が出来た。

胸がキュンキュンしたあたり、コイツも大概である。

それでも、半ば放心気味の良哉は当てもなく町を歩くのが日課になり始めた。
夕方になると、今気付いた様に家に帰るのが当たり前に成って居た。その帰りに、知っている顔が見えたので咄嗟に顔を隠した。
すると、どうもオカシイ。車は止まったままで動く気配は無い。でも、ソレも直ぐにどうでも良くなった。
毎日が味気ない。ソレが今の良哉の思っている事だった。
そこで、ふと思いついた事を実行。携帯で、今日は遅くなると家に告げて、走り出す。
何処でも良いから一人になりたかった。ルーダーとファラリスは良哉を心配する。それが、妙に嫌だった。少し、考える時間が欲しかった。

そこでやってきました、何処かの廃墟。

入って、上って、適当にドアを開けると。今にも犯されそうな女の子。
元首都防衛隊の本能が刺激され、問答無用でデバイスを起動。かなり、どうでも良く成っていた良哉君は大ハッスルです。

巨漢の顎を砕き、ナニを潰し、線の細い男のナニを潰し、メタボな体臭のキツイ男のキャンタマを踏み潰し、中肉中背の男のいきり立ったブツを蹴り折、御袋さんを踏み潰す。


鶏が締められる様な、切ない叫びが響き渡りました。

粉砕少年・キャンタマブレイカー誕生の瞬間である。


一方、襲われる寸前だった。バニングスさん家のツンデレは唖然としました。
槍を持って暴れまわる少年。良哉を知っていたからです。
少年は虚ろな瞳でまだ暴れています。

その時、何を思ったのか良哉君。デバイスに有りっ丈の魔力を集束するとソレを圧縮して巨大な魔力の刃を出しました。更にソレの形を収縮すると、天井に向かって投げ飛ばします。

この子は魔力AAAの魔導師です。何気に結界を張っていましたが、良哉を探しに外を駆け回っていたルーダーさんが気付き救援にきました。
掛った時間は凡そ三分。
ルーダーが見たのは、金髪の幼女に声を掛けられる良哉でした。急いでファラリスに念話を飛ばすと、幼女に良哉に何が在ったのかを聞きました。
それを聞いてルーダーは後悔しました。良哉の心の悲鳴に気付けなかったからです。ルーダーは幼女と良哉の関係を聞くとこう言いました

「…筋違いだと思う…コイツと仲良くしてやってくれ」

ソコは無駄に男前な、名の刃様の親友、燃える女バニングス。元気に返事をしました。
すずかを攫った氷室さんは、良哉の投げたデバイスに二枚に卸されて見つかりました。すずかさんは気絶中だったので、何時の間にか助かっていて首を傾げていました。

この事は無かった事にされ、アリサは魔法を知りました。でも、誰にも言いませんでした。理由は良哉です。良哉は心を閉ざしてボウっとするのが当たり前になっていました。アリサさんは約束を護り、甲斐甲斐しく良哉に接します。
クロノさんは半狂乱状態で仕事をきっかりとこなしていました。ブラコン恐いがアルフの口癖です。

そして、三ヶ月と少しが経ちました。

アリサさんは良哉にクリスマスはどうすると話しかけます。良哉は不思議でなりませんでした。どうして自分に構うのかが、不思議で不思議でなりませんでした。
イロイロと鬱憤やストレスが溜まっていた良哉は爆発しました。甲斐甲斐しく接するアリサがウザかったのです。

アリサは良哉の罵詈雑言を最後まで聞くと鼻で笑い言いました

「アンタが心配だからに決ってんでしょ!! 私はしたいからしてるの!! 自分のしたい事して何が悪いっていうのよ!!!」

女・バニングス。まさに絶好調である。

その発言を聞いた良哉は、呆れて何も言えませんでしたが。直ぐに笑いが出てきました。小さい自分が馬鹿らしくなったのです。

その姿をみて呆然とするのがバニングス。流石にムカっと来たので文句を言ってやろうとすると。良哉ポツリと言いました

「なぁ、バニングス…馬鹿な話しを聞いてくれるか?」

その声の真剣さに驚くも、アリサさんは聞く事にしました。

紡がれるのは永遠に終わらない男の話。

友を殺され、自分も死に

尊敬した人を殺され自分も死に、

疑問と不安だけが溜まっていく

救いの無い物語。

良哉言いました。

「でも、突然その檻から出られたかもしれないと言われた」

アリサにはその話が事実なんだという確信が有りました。自分や友人の名前が出てきたからです。話を聞けば、友人が少しおかしかったのにも納得が行きました。
でも、アリサさんは同情はしません。それは、彼女がアリサ・バニングスだからです。彼女は、ウジウジ五月蝿い良哉に軽く…大分切れていました

「何時までもウジウジしてるんじゃないわよ!! 可能性が高いだけ? だったら賭けてやるわよ!! アタシが一緒に人生賭けてやるわよ!!」

プロポーズと言われても仕方有りません。


何処かで黒いお姉さんが、癇癪を起こして、辻斬り烈火がぼこられましたが、関係は在りません。有りませんとも


それから二週間。クリスマスが来ました。良哉は未だに迷っていました。今日は夜、家に来るようにアリサさんに言われたからです。
そして、心を決めて外に出た瞬間。魔力を感知しました。急いでソコに向かいます。
町に張られた結界は堅く。入れそうも有りません。その時、左目のラプラスが中の映像を映し出します。

そこに映ったのは、魔王VS夜天。正直ドン引きです。良哉はソレを見ながらアレなら大丈夫かと思いました。そこで放たれ防がれるスターライト・ブレイカー。
良哉は本格的に関わりたく無いと思いました。そして、夜天がコピったスターライト・ブレイカーをなのはは避けました。そしてその進行方向には、一般人の筈のアリサとすずかが居ました。

良哉の中で何かが切れました。

もうこれ以上失いたくない。それだけです。カートリッジを全部使い、魔力刃で結界を切り裂き、ソニックムーブでアリサ達の前に移動。
全力で、防ぎます。

「良哉!! 何してるのよ!! 逃げなさいよ!!」

「もう…嫌なんだ…失いたくない。失いたくないんだ!!」

アリサは良哉が何を言っているのかが、一瞬分かりませんでした。ソレに気付いた時には、良哉の持つ槍には無数の罅が入って居ました。

「止めて良哉!! アンタはもう頑張らなくて良いから!! 逃げて…逃げてよぉ」

アリサ達は運悪く、足を捻っていました。動くに動けません。
夜天の放った星の極光はドンドン魔力注がれ大きく成っていきます。
良哉のデバイスから、また、カートリッジが吐き出されます。実はこのデバイス。カートリッジを転移で補給できるので、有り得ない位に魔力の底上げが出来ます。魔導師の事を考えなければ。
カランカランと空薬莢が地面に落ちます。

その数既に、二十五。
良哉の身体は限界です
その状態で、良哉は聞きました

「アリサ…人生賭けてくれるんだよな?」

アリサは驚きました、何故なら。初めて名前で呼ばれたからです

「…えぇ、幾らでも賭けてやるわよ!! 私の一生賭けてあげる!!」

「…俺は…幸せに成る方法は知らない。戦う事ぐらいしか出来ない。」

「良いわよ!! 私が一緒に居てあげるんだから、幸せにしてやるわよ!!」

「………ありがとう。アリサ。」

そう言って振り返り笑うと。良哉は更にカートリッジを使いました。

「たぶん。俺は今、物凄く幸せだ」

それだけ言うと、良哉は全部の魔力を使い、星の極光を切り裂きました。ソコから良哉の意識はありません。
気が付くと、知らない部屋で寝ていました。
ソコはバニングス邸。

良哉は助かりました。その代わりに、魔法を使えなくなりました。その事に後悔は無く。良哉は部屋に入ってきた少女に言いました

「おはよう、アリサ」

「おはよう、良哉」

その後、良哉は復学し。アリサと付き合い始めました。その時の事を二人の関係者はこういいます

「デレ期っていつ終わるの?」←未来の魔王

「キ…キスしてるの見ました」←魔王の嫁

「凄いなぁ…口の中で舌がモゴモゴしてたんやで?」←夜天の主

「最近、アリサちゃんの肌がつやつやしてます」←現在の本編ヒロイン

「僕は、良哉が幸せならソレでいい」←別世界で嫁

一度デレ始めたアリサさんは、凄いらしいです。
皆、アリサちゃんの家には泊まれないと言います。

何故なら、良哉は現在バニングス邸に住んでおり。二人は凄い事しているからです。
執事の鮫島さんは泣きながら言います

「良哉様…いえ、若君。お嬢様を宜しくお願いします」

この執事、五年後に三十歳年下のメイドと結婚し。二児を儲けました。侮れない


それから月日が経ち。二人は高校卒業後、同じに大学に進学。在学中に結婚し、卒業と同時に会社を継ぎ、その腕はミッドにまで及びました。
金目当てで拠って来る有象無象を蹴散らして、悪徳企業をフェイトとクロノと共に叩き潰し。地球に次元航行技術を齎し、世界を変えた人物となりました。
二人の間に元気な男の子が二人と、可愛い娘が出来ました。
長男は二人が卒業と同じに授かった子です。

母譲りの負けん気の強さと父譲りの頑強な理性を持ったこの子は。十七年後、管理局の闇を恋人である聖王と協力して暴き。次元世界の英雄となりました


コレは一つの有るかも知れない未来の一つ















「はっ!! 良哉…浮気はしてないわよね?」

新婚一年目の夜。クロノはそんな夢を見ましたというお話し






[5159] ループの四ノ九(やっとこさA,sに入りました!!)ミスッタ、ゴメンなさい
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/02/23 22:28


反応有り、ソレが朝起きてからの最初の報告だった。

口が歪む。だらしないぐらいに表情が崩れる。

まだだ。まだ、管理局が見つけていない。そのまま追尾させる。表情は元に戻った。ただ、鼓動だけが早くなる。



「良哉君、おはよう」

「おはよう、すずか」



今は平穏に浸ろう。全てにケジメを付けるんだ。










その日、月村すずかは幸せだった。自分が訂正しなくとも、自分の名前を呼んでくれた。ソコに笑顔も加わった。
学校の授業なんて頭に入らない。

(早く帰りたいなぁ)

ずっと、その事を考えている。親友であるアリサ・バニングスは、何が有ったのかを聞く為にすずかに聞いた

「すずか」

「なーに? アリサちゃん?」

幸せ一杯の笑顔のお出迎えである。その笑顔にアリサは嬉しくなった。今まで、この友人の笑顔は沢山見てきた。
だが、今のすずかの浮かべる笑顔はそのドレもが霞んでしまう程に輝いている様に見えたからだ。

(なんだ、上手い事やってる見たいじゃない)

自然と笑顔になる二人。

「良い事でもあった? キスでもしたの?」

「き、キスはしてないよぉ?! まだ、む、無理。恥ずかしすぎるよ!!」

「冗談よ、すずか」

「もぉ」

二人は幸せだった。後二人、古い付き合いの親友と、新しい親友にも教えてあげたい。でも、教えて上げられないのが残念だった。
次が終われば昼休み。今日も二人でお昼だが、仕方が無い。
なのはもフェイトもお休みで、二人は何かを抱え込んでいる。
それが哀しいが、自分達にも秘密が在るのでお互い様かとアリサは思った。

始業の鐘が鳴る。あと少しでお昼。もう少し我慢すれば帰れる。










side out


眼帯の下で、ラプラスが囁く。

管理局は奴等を発見したようだ。高町達が出るまで少し時間が有る。ベットから降りる。体を軽く捻ると少し小さくなったパジャマの上がズボンから出た。成長したんだなと思う。
パジャマは脱ぐ意味が無い。どの道BJを纏うのだ此の儘で良いだろう。水を溜めたビニール製の入れ物を取り出す。両方合わせれば十キロは有る。魔力を浸透させた水だ。コレが基礎になる。
体の調子は良い。心の調子は最悪だ。携帯を開いて時間を確認すると、電話を掛ける。シュベルトとの賭け。とても魅力的で、とても酷い事だと思う。それでも、心引かれる。

「すずか…少しだけ、屋上で待っててくれ」

返答はyes。俺なんかの何処が良いのかが分からないが…悪くはない。寧ろ嬉しい。

「シュベルト」

『御意に』

BJを纏い、転移する。転移が終わると、眼下にそわそわしているすずかが居た。
少し笑ってしまう。恋をした事も、人を愛した事も恐らくは有る。記憶には無いが有ると思う。

(こんなに……恐いモノだとは思わなかったな)

結界を張って、少しのだけ空間を隔離する。トンと音を立てて降りると、ビックリしたすずかが、口を開けて居た。

「りょ、良哉君?! その格好…というか…出て来て大丈夫なの?!」

「あぁ、チョット、すずかにいう事があってな」

「私に?」

「ん…少し、出てくる」

「?…?!ダメだよ!! 怪我も治ったばかり何だよ?! 私達の血だって其処まで万能じゃないんだよ?!」

「出ないといけないから…」

ラプラスが別世界の映像を写しながら、まだかまだかと打診する。すまないが、今は黙っていて欲しい。

「月村すずかさん。」

「………何?」

心臓が痛い

「俺が帰ってきた時、俺の時間を貰ってくれますか?」

「……それって契約…良いの? 本当に?」

「何度も言わせないでくれ。その…恥ずかしい」

「約束だよ? 絶対だからね?」

一度だけ頷いて、転移する。ラプラスが写す映像、シグナムとフェイトの闘いに乱入者が現れた。シグナムは動いていない。フェイトのリンカーコアの蒐集を行うつもりだ。仮面の男も動いていない。

視界が歪む。世界を渡る。
眼下に有る砂だらけの大地に、三人の人影が有る

「シュベルト」

『御意』

魔力刃の展開。

―――Sonic Move―――

堅い手応え。振り下ろしたシュベルトが砂に突き刺さった

「ナッ?!」

「グァっ?! 貴様…「邪魔だ」ガッ!!」

突き刺したシュベルトを支点に蹴りを叩き込む。強化した身体に響く鈍い音。伝わる感触。肋を貰った。キリキリと回りながら落ちてくる仮面の男の腕をシュベルトで打ち払う。

「転移」

直ぐ両隣に現れる、水を溜めたビニール。シュベルトで斬りつけると水が勢い良く外に飛び出た

「うっ…りょ…うや?」

「テスタロッサ、退け。コイツは俺の獲物だ」

動けないであろうテスタロッサを転移で飛ばす。出来るだけ、クロノさんの近くに跳ばしたつもりだ。

「明智良哉…悪いが退かせて貰うぞ」

「逃げれるのか? 俺が何もしてないと思っているのか?」

瞬時に展開される結界。

「何が何でも逃がさない…という事か…ならば、力ずくで?!」

一歩踏み込んで、シグナムの動きが止まる。

「……何故その魔導式を知っている?! 」

「何って決ってるだろ?」

結界の中央に浮かび上がった紋様。砂漠に撒いた、俺の魔力を多量に含んだ水が砂の大地の下で形作る紋様。

非殺傷を無効に強制的に殺傷設定に変える禁呪。古代ベルカで生まれた、決闘の為の魔法。俺が張った結界を含めて一セット。カートリッジを八発も使った。水に含ませた魔力だけでは足りなかった。
それでも十分だ。半径五十メートルの強固な結界。作り出したこの決闘場。

「なぁ、シグナム。俺は待った。待って待ってようやくチャンスが来た」

本当に長かった。一日が数ヶ月に思えるほどに長かった。

「さぁ、シグナム。死合おう。俺はお前を殺しに来たんだ」











side シグナム





目の前の少年に何が在ったかは知らない。

目の前の少年が何故、古代ベルカでも禁呪とされた決闘場を作れるのかは知らない

私に解るのは、私がこの少年に何かをしてしまったという事だけだ。

「私を狙うのは私怨か?」

「その通り、俺の身勝手な我儘だ」

纏っているのは闘気ではなく怒気

「全てが終わってからではダメか?」

「そうしたら、お前に勝てる可能性が低くなる」

怒気が殺意に変わる。冷たく研ぎ澄まされたソレに、遥か昔に感じた肌が粟立つ様な感覚が甦る。

「この魔法を敷けば自分が死ぬ事も有ると分かっているのか?」

「勿論。」

殺意が消えて何も無くなった。少年は笑みを湛えている。狂喜は感じない

「好い加減に始めよう。足の不自由な御主人様が心配だろ?」

「貴様?!」

殺気が無いからこそ、咄嗟に動けなかった。この空間内では空を飛ぶ事も出来ない。砂に足を取られる。
頬に熱を感じた。浅く切られた

「理解しただろうシグナム。言葉要らない。死ぬか生きるかそれだけの事だ」

「名を名乗れ。名乗りは決闘の基本だ」

笑みが零れそうになる。体を駆けるこの感覚。生と死の二択の闘い。殺し合い。此度の主の元に居ればもう、感じる事も無いだろうと思っていたこの感覚。
あぁ、素直になろう。私は興奮している。裂帛の殺意すら飲み込んで殺し合いに挑む、目の前の少年と戦いたがっている。不謹慎だ。今は逃げに徹するべきなのに、止まれそうに無い。

「我が名はシグナム!! ヴォルケンリッターが烈火の将だ!!」

「明智良哉、ただの復讐人だ。」










side out



互いに名乗り、得物を構える。身体の強化は万全。後は俺が勝つ為の条件をクリア出来れば良い。

シグナムの上段から打ち込みを流す。そのまま斬りつけるがバックスッテプで避けられる。
踏み込み突く。速さが足りずに打ち払われる。跳ね上がった刃先。シュベルトを回転させ石突で踏み込んできたシグナムの顎を狙う。首を曲げて避けられる。
横凪の一線を後ろに跳ぶ事で避けるが、刃先がBJを切り裂く。

「…流石、烈火の将。しかし、忘れてないか? お前が人を殺せば、その罪は主にも降りかかるぞ?」

「ッ!!」

一瞬の停滞

―――Blitz Action―――

「ヅッ!!」

「これも、避けるか…経験の違いか」

直ぐに振り返り、シュベルトを構える。

「貴様…それが狙いか…」

「当たり前だろ? アンタは俺よりも強い。経験の差なんて月と鼈だ。」

最低でも腕一本は欲しかった。チャンスだったのに…

「決闘を何だと思っている!!」

「手段だ。貴様を殺す為のな。汚いか? 腐っているか? どうでも良い。貴様は俺の拠所を破壊した。失うモノなどとうに無い。腹が立つなら殺せば良い。その後、貴様と貴様の主人がどうなろうと俺は知らんよ。」

「明智良哉ァァァ!!」

怒れ、憤れ、冷静さを失え。思考を愚鈍化させろ。

「フッ!!」

怒り任せの力の篭った打ち下ろしからの突き。流して右に半歩ズレる事で避ける。
Blitz Actionで擦れ違いざまに左の脇腹目掛けて掌を繰り出す。鈍い感触。魔力で強化すればシグナムにも通る事が解った。

「ガッ、紫電一閃!!」

シュベルトを眼前に構えて受ける。吹き飛ばされた。なんという馬鹿力、魔力。シグナムのレヴァンテインから発せられた炎に、BJが焦げた。

今のままでは持久戦。高町達が結界の破壊を行えば、決着が着く前に止められてしまう可能性が高い

シグナムも冷静さを取り戻したようだ。此処からは短期決戦、出し惜しみ無しでいくしかない







side ヴィータ




「おい…何やってんだよ…」

何で、この結界が有る。

「止めろよ…止めろよ!!」

何で、良哉とシグナムが殺しあってるんだよ!!

「ヴィータちゃん!! この結界は何!!」

高町なのはが五月蝿い。アタシが聞きたいぐらいだ。なんで、コレが…

「アイゼン!!」

『Ja!!』

グラーフアイゼンを振り上げ飛び上がる

―――Giganthammer―――

「ブチ破れぇぇぇぇぇぇ!!」

拮抗する。槌と結界。バリアブレイクの効果もある、アタシ自身が信頼する技。それさえも、この結界は阻もうとしている。
チラチラと見える、良哉とシグナム

脇腹を押えるシグナムとBJが焦げ付いた良哉。止めないと、止めないとドチラかが死ぬ

「ディバインバスター!!」

桃色の砲撃が結界を揺らす。コレならいける

「ヴィータちゃん!!」

「…ありがとうは言わねぇ!!」

ピキっと罅が入る。もう少し、もう少しだ!!











【久しぶり】

どうも、お待たせしました? 待ってる人は少ないか。
帰ってきました。表に。チラ裏で病気を移して安定したので、帰ってきました。
どうも、対極と言って良いぐらいにノリの違うのを書きたくて…この話。思いっきりネガティブに成らんと書けんのよ。




次回は何時になるか…取り合えずは次回で決着。バトルはねぇ…好きだけどヘタだから困る。何とか、ハイパー良哉タイムにいけそうだ。


書いててクロノベルトをやりたくなって来た。











綺麗に死亡フラグ立ててやったぜ!! ざまぁwww



[5159] ループの四ノ終(やっとこさA,sに入りました!!)修正しました
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/07/07 22:21
結界に罅が入る。

結界に罅が入れば直ぐに分かる。トスっとカートリッジの空薬莢が砂の上に落ちた。

罅は無くなり、更にカートリッジを使って結界をより強固な物にする。

持久戦になれば敗北は必至。

ならば、短期決戦で決める。











シグナムにとって、目の前の少年は怖ろしい存在だった。将として冷静さに関しては自信が有ったが、少年はソレを嘲笑うかのように無視をして自分の感情をかき乱す。

(カートリッジの使用の仕方から見ても特攻は当たり前にするだろう)

ズキリと肋が痛む。

(近接格闘でも、私を殺せる可能性も高い)

ならば、一度殺されるのも在りかもしれないと考え。その考えを否定した。

(アレが満足できなければ…主に危害が及ぶ可能性がある。)

ならばどうする

(足を止め、戦力を奪う!!)

リンカーコアが脈動し、魔力が体を覆い。剣が燃える

「往くぞ!! レヴァンテイン!!」

(まずは、動きを止める。その次はデバイスを破壊する)











シグナムの猛攻は良哉に取ってありがたい物だった、短期決戦は望む所。剣を避け、受け流しながら狙いを予想して動く

(俺の動きを止めるよな連撃…足を奪う気か? 体力を消耗させるのも狙いに含まれているのかもな)

時折反撃して、具合を確かめる。重い一撃を受ければ腕が痺れる。少しずつだが疲労が溜まる。

(いけるか? シュベルト?)

(異な事を…主が望むのならば。我等が全てを賭けて!!)

主従が咆えた。

「「往くぞシグナム。その命、我等が貰い受ける!!」」





side 良哉





体がギシギシと軋む。戦闘中なのに勝手に顔が笑みを作る

胴を狙った突きは避けられる。薙ぎ払った槍は受け流される。

そうだ、それで良い。そのままこのスピードに付いて来い。

BJが少しずつ変わっていく。体に張り付くようにして変わっていく。

振るう槍が少しずつ変わっていく、少しづつ無駄を省いていく。

(準備完了。後は一気にいけます。)

(良くやった。合図は俺に任せろ)

(御意)

息を思い切り吸い込んでの、連撃。一瞬だけでもシグナムの速さを抜ければそれで良い。
態と打ち払わせる。その力を利用して再度突く。一瞬の停滞が出来る。威力を上乗せした一撃が連撃の直ぐ後に来るのだ。
停滞しない方がオカシイ。何よりも、お互いに砂漠での戦闘には慣れが無い筈。

(今!!)








side シグナム


「シュベルト・クロイツ!!」

『『ja!!』』

連撃の中に無かった強く、重い一撃を防いで出来た一瞬の停滞の間に、明智良哉の姿が変わった。
軍服の様なBJが体に張り付き、テレビで見た事の在るライダースーツの様に成っている。顔もフルフェイスの兜の様な物で隠され、デバイスも突撃槍のではなく細身の物に成っている。
何よりも違うのが、その存在感。獣を象ったような兜の所為か威圧感が増している

「往くぞ」

「ッ?! レヴァンテイン!!」

一瞬に三度の突き。防御が間に合わずに一撃を受ける。

(速い!!)

怖ろしい程の速さ。先ほどまで戦っていたテスタロッサよりも速い

続けざまに打ち込まれる連撃、剣一つでは足りない。手数が少なすぎる。

片手を離して鞘握って振るう。即席の二刀流。それでも、足りない

ドン

突きを払ったのに肩を衝撃が貫いた。

(何だ?! 何が起こった?!)

幸い、BJは貫かなかったが何発も食らってはいけない

ドン

(また?!)

次は腹に来た。

視線で動かして探す。明智良哉の足元にカートリッジの空薬莢が落ちていた

(まさか?!)

槍を打ち払わずに身体を動かして避け、ソレを確認し。鞘に込めた魔力を砂に叩き付けて視界を潰して距離をとる

「釘打ち機のように圧縮した魔力を押し出していたのか」

「………」

「流石だ、明智良哉。貴公はテスタロッサよりも速く、戦闘も巧い」

故に、微塵の加減も出来ない私を怨め。主はやて、不甲斐無い私をお許し下さい。

(腕の一本は切り飛ばさなければ…気絶させる事もできない)

「…最早許しは請わない。怨め、往くぞレヴァンテイン!!」

『Schlangebeißenangriff』

我が剣の第二の形。受けきれるか? 明智良哉!!


side 良哉



(もう、見切られたか…シュベルト)

(後、百二十秒です。)

予想外に差が在る。決めれないかも知れない。それでも、止めるわけにはいかない。
何よりも連結刃による中距離攻撃、軌道が読みにくい

「グッ!! 近づき難いな」

弾けば上から、避ければ斜めから、嫌みなぐらいに死角を突いてきやがる…何よりも

「ハァァァァ!!」

「馬鹿魔力が!!」

炎の付加の攻撃。長時間打ち合えない。

(残り、四十秒です。)

時間も足りない。

「リミッター解除」

『…御意』

「フルドライブ!!」

使います、隊長。

一気に駆ける、迫り来る蛇の様な剣の連撃。受け止めるな、弾け、流せ、足を止めれば捕まる
ソレでも止まない攻撃と、飛び火する炎。熱い、ソレよりも暑い。体力を奪われる。柔らかい砂地がクッションの代わりをする為、余計に力を使う。
後少し、後少しで俺の間合いだ。

(マスター!! 後ろです!!)

半身を捻りながら跳ぶ、遠心力を加えた横薙ぎの一線は受け止められた。それで良い。

此処からが俺の間合いだ。

片足に力が入らない、切られた様だ。出血は無い。その代わりに引き攣る。傷口を焼かれた。痛い、でもソレだけだ。骨に異常は無い。支えにはなる!!

「オォォォォォ!!」

「馬鹿な?! ヅッ!! 」

(腱を切られた筈だぞ?! 痛みを感じないのか?!)

驚いたシグナムの顔が何処か可愛く見えた。その顔が歪む。当たり前だ、先ほどの連撃拠りも一撃の重さは上だ

(後、十七秒)

此処で決める!!

「シュベルト!!」

『カートリッジ、フルロード』

体に溢れる魔力を制御する気など元から無い。只、目の前に集めるだけで良い。細かな制御など不要。
圧縮するだけで、全てが整う

槍の切っ先に現れる圧縮された魔力の球体。ソレを貫く

「クタバレェェェ!!」

指向性が無いのなら、穴を開けて出してやれば良い。後は勝手に溢れ出す。

shockwave、ソレがコレの名前。対人用に過去の俺が、遥か未来の俺が作った殺す為の業。

終わった。もう、ボロボロだ。

『マスター…残念ながら、終りではありません』

ラプラスの声でシュベルトを握りなおす。勝率は既に四割をきってる。左足も動かない。

連結刃を避けきれない。額を掠った。眼帯が切れた。

「ゴホッ…まさか…コレで終りとは言わないよな? 明智良哉!!」

「お前を殺すまで、終わらないさ」

ソレでも、次の一撃を避けれそうに無い











side ヴィータ


止めてくれ…お願いだ…もう、止めてくれよ!!

「明智君!! もう止めて!! 死んじゃう、死んじゃうよ!!」

戦いは一方的になった。シュラゲンフォルムの中距離攻撃で切り刻まれる良哉と、左腕が曲がってはいけない方向に曲がり、口からドス黒い血を流しながら右腕を振るうシグナム
良哉も、左足を切られて動けない。ソレでも、攻撃を受け流し打ち落としているのには驚きだ。
互いに満身創痍。ソレでも、良哉の分が悪過ぎる。
此の侭では埒が明かない。シグナムも、此の侭時が経てば死ぬ可能性が高い。内臓をやられてるのは明白だ。
中距離では決着がつきそうにない。魔力を込めるのも辛そうな二人。動けない良哉、体力的にも動けないだろう
シグナムにも遠距離攻撃の手段は在る。しかし、その隙に良哉が何をするか分からない。
手詰まりの状況。
でも、シグナムなら…

「ヴィータちゃん、もう一回!!」

「ダメだ。時間が経ちすぎた。罅を入れても直ぐに直された、今割り込みを掛けたら良哉がどうなるか分からねぇ」

「でも!!」

「観てるしかないんだよ!!」

畜生










side out



シグナム、良哉、二人の中に焦りが在った。互いに限界が近く、隙を見せれば負ける。
たとえ満身創痍でも、何かをしてくる確信が二人には有った。
今の距離では決着がつきそうにもない。
シグナムは内臓へのダメージと折れた肋と腕から伝わる痛みが思考を邪魔する。
良哉は、切られた左足と今までの負荷の所為で呼吸をするのも辛い。
決めるには一撃が必要だ。


連結刃から剣へ、その間に踏み込む。明智良哉は動けず、片足にしか力が入らない。
一撃の重さ、全身全霊の一撃を防げるとは思わない。

その一撃に賭けて、シグナムは愛剣を振るった

「紫電一閃!!」





ソレを嘲笑うかのように見開かれた左目。本来なら存在しない眼球が紅く輝いた。


捉えたと良哉は笑みを作った。
圧縮に圧縮を重ね、暴走寸前まで溜めた魔力。
明智良哉には砲撃の才能はない。射撃なら出来る。高町なのはのような砲撃は無理だ。
それだけで、戦闘の幅は縮まる。でも、それではダメだった。思いついたのは風船を見てからだった。
水が入った風船。許容量を超えれば破裂する。
しかし、破裂寸前の風船に小さな穴を開けてやれば?
水は穴から勢い良く飛び出る。原理を説明すればこの程度の事。実践するには集中力や圧縮の才能が必要だが、その二つを良哉は持っていた。
放たれた閃光は従来の速さを超えた一撃。
ソレは見事にシグナムを貫いた。しかし、それだけだった。
咄嗟に半身を捻り、折れた左腕を捨てた。切り飛ばされた左腕、閃光が鋭すぎたのが仇になった。当る範囲も極小。急所を捉えられなかったのは動かない左足が自分の体重を支えきれない所為で、右足の負担が思った以上に掛っていた事だ

迫り来る剣にシュベルトを合わせるが防ぎきれない。

シグナムの剣は見事に良哉の胴を捉えた

倒れる良哉、思い出したかのように燃え上がるBJ

シグナムはボロボロになった愛剣を支えにして、空を見上げた

(…終わった。)

「ゴフッ!! ゲフゲフ…私も、長くないか」

失った左腕は焼き切られたように傷口が爛れている。御蔭で出血は少ない。
切った相手もまだ助かる。筈だ、捉えた瞬間に何かに阻まれた感触があった

「早く…火を消さねば」

振り向けば、炎の中に輝く紅い瞳。剣を構える暇さえ無かった


明智良哉は、燃えるBJを纏いながら感謝した。ファラリス・アテンザにである。
彼女の作った眼帯に仕込まれている防御術式。眼帯が落ちた時は発動しないように操るのが大変だった。
見事に切られた胴は本来なら内臓が飛び出していても可笑しくは無い。全てはBJと眼帯のお蔭である。

(ラプラス…任せるぞ)

(了解しました。マスター、脳への負荷は出来るだけ私が処理します)

(シュベルト・クロイツ…リンクしろ)

((ja))

リンクシステム。シュベルト・クロイツに組み込まれている処理速度を上げるためのモノ。魔法処理、演算、情報、これら全ての処理速度を上げる為のもの。
コレと同じ物がラプラスにも組み込まれている。
一級品ではないがインテリジェントデバイス二機とアームドデバイス一機の処理能力を繋げる。
その速度は、異常の一言に尽きる。
そんな中で、ラプラスがするのは、視神経を通して魔力を流し脳を刺激して加速させる事。完全なリミッター解除。
万全の状態でも十秒使えば体が壊れる。幾ら身体強化を施しても、人間の体は全力に耐えられない。
それならば、耐えられる時間を探せば良い。凡そ三秒。コレが明智良哉の全力に耐えられる時間である。

幸いな事に、シグナムは自身の勝利だと確信している。だから、良哉は熱に耐えながら待った。
シグナムが振り返った瞬間がその時だった

動かない左足以外で、両腕で右足で大地を叩いて進む。

雅に一瞬。視界から色が無くなる。首筋に歯を立て噛み千切る。一瞬の交差、それだけの事で、右腕が折れた、左腕の筋肉が少し千切れた。
シュベルトを持てて居るのが不思議なくらいだ。
口に入っている肉片を吐き捨てる。

背後に座り込んでいるシグナムが言う

「まさか…足を奪っても…動くとは…私の負けか…」

「アンタは強かった…でも、俺も只では死ねない。死んでやれない。」

私怨など、戦っている内に無くなった。遥か上に居る騎士との戦いは、後悔が無くなるほどのモノだった。
こんなにも虚しい気持ちになったのは始めてかも知れない

「復讐は完遂か…気分はどうだ…復讐人」

「虚しいだけだ…達成感すら霞む」

結界が消える。維持するだけの魔力は尽きた。

「はは…そうか、私の間違えに付き合わせたのに…すまないな。戦士・良哉」

「騎士・シグナム。貴女の選択は間違いだが正解なのだろうさ…俺が一番間違えていたんだよ」

復讐にたいする後悔しか湧かない。それだけ言うと、良哉は左足を引きづりながら歩く。

「「去らば、貴公(貴女)とはもっと違う出会い方をしたかった」」







side ヴィータ



「おい、シグナム!! 目を開けろ!! 」

首筋からダクダクと流れる血が止まらない。

「ヴィ…タ…お前が面白いと言った男は…強かったよ…私達の選択は正しいんだとさ」

何で、笑ってるんだよ!! はやてに…はやてに何て言えば良いんだよ!!

「主には……巧く言ってくれ…何、書が完成すれば私も甦る」

「馬鹿が!! 今のお前じゃないと意味が無いだろうが!!」

そう言う私に「そうか…」と言うとシグナムは消えた。今迄だって仲間が死ぬ事は有った。アタシ自身が死んだ事も在る。
それでも…こんなに悲しいのは初めてだ




side なのは


「明智君止まって!! これ以上動いたらダメだよ!!」

そう言って抱きついて止めた。ソレでも、明智君は止まらない
熱に浮かされた様に、「帰らないと」と言うばかりだ

顔を見ても、焦点が合っていない。ダメだ。これ以上は…明智君が死んじゃう

「私が連れて帰るから!! だから、今は止まって!! 休まないとダメだよ」

向こうの方から、クロノ君とフェイトちゃんが来るのが見えた。私は直ぐに声を出した。私一人じゃ止められそうに無かったから

「二人とも早く!!」

少しだけ明智君から意識を放したのが間違いだった。

カシュンという音と共にカートリッジが排出された。見間違いかと思った。さっきの闘いで全部使い切ったモノだと思っていた

「ラン…ダム…転移」

『御意』

「ダメ!!」

手を伸ばしても間に合わなかった、その前にデバイスで弾き飛ばされた。

「明智君!!」

叫んでも声は届かない。私は…助けられなかった











その日、私は学校を早退する事にした。虫の知らせの様なモノがあったから…ズルをした。
アリサちゃんは、仕方がなさそうに文句を言っていた。
たぶん、何か誤解していると思う

学校から帰って、私は庭にでた。此処に来ると思ったから、此処で合えると思ったから。
大学が早く終わったお姉ちゃんと恭也さんが、私に何かを言っていたけど覚えていない。
二人とも不思議そうにしていた。
今は私の後ろの方でお茶をしてる。
そして…私の目の前に彼が現れた

ボロボロで傷だらけ、火傷もしてる。左足もボロボロで、右腕は力なく垂れている。
駆け寄って、倒れる途中の良哉君を受け止めた

「おかえり…良哉君」

「た…だいま…すずか」

「良哉君?!」

「すずか?!」

駆け寄ってくる二人には悪いけど、少し静かにして欲しい。彼はもう、疲れ果てているんだから

「疲れたでしょ…私はずっと傍に居るから…寝ても良いよ?」

「あぁ…チョット…疲れすぎた」

貴方の最後の時間を貰えた。それだけで…私は幸せだよ。良哉君

「おやすみ、良哉君」

「おやす…み…すずか」










「……すずか」

「……すずかちゃん」

「お姉ちゃん…帰って来たよ。良哉君、私との約束…護ってくれた…最後に、良哉君の時間をくれたよ」

でも…悲しいよ。幸せだけど悲しいよ

私は泣きながら、彼の首筋に口をつけた











「………繰り返したか」

目を開ければ見慣れた自分の部屋にいた。

日付は分からない。でも、どこか埃っぽい。

アルバムを取り出し、眺めた後でベットの上に放る。

「…只の逆恨みの結果がコレだ」

馬鹿らしい、馬鹿らしすぎる!! 何が許せないだ!! 殺してヤルだ!!

「俺は…只の馬鹿だ」










【文句はきかねぇ!! コレが全力です。勘弁】

死亡フラグは折れなかった。すずかファンゴメンネ?
さて、戻った時期は何時なのか? いい加減A,S終わらせたいと思いながら書いております。

皆…俺…がんばったよ



以下、簡単な紹介

明智良哉

復讐成功。でも、鬱
所詮は自分が悪いので自業自得。
目からビームが出せる事が判明

今回BJが変形しましたが…フェイトのライオットみたいなモノらしいよ?

名前は…ビーストフォームで良いか。


シグナム

良哉に負けた。実質相打ち
首筋噛み千切られ、主を人質に取られ
左腕跳ばされ、肋も折られた
それでも、引き分けっぽい
すんげぇ強い


ヴィータ

はやての騎士となってから心が成長した模様
シグナムの死に泣いた
実は、シグナムの代わりに良哉と戦わせて
改心(双七VSクッキー的な)をさせて
なのは鬱、はやて鬱にしようかと思ったけど却下した。
故に出番が少ない

高町なのは

ヴィータと同じく出番が少ない。
彼女が目立つのはまだ先だと思う
プロット的に


クロノ

今回は空気
毎度毎度兄貴させてたら
こっちの予定が狂うので




こんなとこかな? 次も遅れる…職がね…



[5159] ループの五ノ一
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/04/13 03:32


笑いすら出てこなかった。自分のした事は間違いだと理解していた。大きく見れば、どうでも良い事だったんだ。
自分の我儘を通した事により、無駄な時間を過ごしたと言っても良い。
夏の太陽がジクジクと、嫌な汗を掻かせる。
こんな事に……こんな思いを抱いてしまうなら…いっその事、壊れてしまえば良いのに…

「…ソレも出来ない…か」

繰り返してみれば、地球に帰ってきた次の日の朝だった。嗤った。盛大に嗤った。心の中で嗤った。
どれだけ後悔しても、変わる事の無い現状。自分の行った事の何と無駄なことか。
確かに、自分の戦闘に関する知識等は深まった。しかし、経験は体に無い。また、一からの作り直し。
何よりも…

「…ごめんなさい」

すずかには悪い事をした。涙は出ない。とうに枯れている。

それに、既に彼女との繋がりは俺には無い。

「未練たらたらだな…情けない…」

本当に情けない。あんな事はもう起こらない、起こさせない。でも…

「彼女達に不幸が訪れるのは…我慢なら無い。」

傲慢にも程が在る。『今』は会っては居ない恭也さんが、あの場に居たのだ。すずかは無事に救出されるのだろう…バニングスが居なければ。
元凶は断っておこう。恭也さんにも、前と同じように会っておかなければならない。
体を鍛えるには最高の練習相手で、力量に大きな差が有る先達との試合は何よりも糧になる。高町に気を付ければ、大丈夫だと思うし…
前を向こう。過去の繋がり決着を着けよう。
俺はそう決めて外に出る事にした。海鳴に入るには交通機関を通らなければ成らない。手段は幾らでも有るが、後暗い方法で入るには限定される。昔取った杵柄、ああいう輩の考える事はある程度は解かる。
家の掃除を二人に任せて、俺は町を回る事にした。周囲に気を配りながら。
俺を知る人間に遭う事は、出来るだけ避けた方が良い。ルーダーさんとファラリスさんは「ゆっくり、外を周って来い」と笑って言ってくれた。その優しさが嬉しかった。

町を歩く。懐かしいとは思わない。昨日までは居たのだから…何も思わない。
幾つかの駅と港、人通りの少ない交通機関に、サーチャーを仕掛ける。恐らく、一週間以内には来るだろう。もし、見つけられなくとも車を破壊すれば良いのだ。彼女達が何処で攫われたのかは知っている。咄嗟の行動をしても、ルーダーさんは咎めないだろう。

コレで良い。彼女達とは親しくしない方が良い、互いに傷つくだけだ。あの事件が無ければ、互いにああ行った事にはならないのだから。








side シュベルト


地球に帰って来たと思えば、我等が主は繰り返していた。ポツリポツリと語られた事柄に、己の力不足を感じる。
主は、己の取った行動を無駄な事と思っている。実際に、大局を見ればその通りだ。しかし、私はそうは思っていない。
復讐は主に取ってしなければ成らない事だと考える。耐えに耐えれば、何時か防波堤は破られる。感情に飲み込まれ、正常な判断を下せなくなる。
主には辛い事だが、主のアドバンテージは『繰り返し』だ。主を苦しませるのも『繰り返し』だ。
前回で失敗したのならば、今回で成功すれば良い。私はそう、主に言った。主も頷いた。
心には蟠りが有るだろう。私には…私達には…我等には心は無い。全てが経験に因る擬似的なモノでしかない。
考えれば考えるほどに『デバイス』で有る事が悔やまれる。我等は主を抱きしめる事が出来ない。
何時も…何時でも…主はギリギリの所に居る。壊れそうで壊れない。狂いそうで狂はない。

正確には、壊れそうで壊れ『れ』ない。狂いそうで狂『え』ない。

情報は伝えられた。主の心に傷を負わせた代償に

ならば、我等は常に最善を考える。実行する。実行できる状態に有る。

新たなBJの製作は完了しており、我等の状態もファラリス・アテンザの手により最高の状態に有る。

何処までも、何時までも、我等は主と共に有りましょう。


side out




情報を整理する。コレからの行動で全てが決る。

第一に、過去との決別。

コレに関しては既に手を打ってある。奴が侵入して来てからだ。此方から手が出せないのならば、周りを誘導すれば良いだけの事だ。
自分の無能振りを痛感した。情報操作はシュベルトやラプラスに任せれば良かったのだ、翌々考えれば直ぐに気付けた事だった。
科学技術…デバイス等の製作技術を見れば地球よりミッドの方が進んでいる。科学の中身が違うが、コレは確実だ。
月村には気を付けなければ成らないが、他はどうにでもなる。

第二に、高町恭也との接触。

個人的には好きな人だ。真面目で誠実、そして強い。己を磨くには打って付けの相手だ。
何よりも、彼の使う『技』が知りたい。その為には彼の身体データが必要だ。何処の筋肉をどう使っているのかが解からなければ、盗む事も出来ない。
自分の技を易々と人に教える事は無いだろう。
その為にも、彼とは戦わなければならない。彼が『技』を使うまで…使わせるまで、俺は強くならなければ成らない。

第三に、ヴォルケンリッター。

接触は控えようと思う。先生に会うのは直接道場に足を運ぶ事にする。
正直な所、シグナムに出会った時に冷静で居られるかどうかが分からない。憎しみは無い…とは言い切れない。未だに何とも言えないモノが燻っている。
彼女達の蒐集の糧に成っても良いが…生きていられる自身が無い。安定しているとはいえ、未だにテスタロッサやリンディさんの近くに居ると痛むのだ。
何らかの障害が残っては不利になる。
避けるしかない。

(コレは…弱さだな)

今の俺ではシグナムに勝てない。完全な勝利などは無理だ。両腕か足を捨てれば勝てる…殺せるだろう。
でも、それだけだ。意味が無い。俺にメリットが無い。会わない方が断然良い。

「シュベルト…サーチャーの方は?」

『反応無しです…当たり前ですが。乗り込んでくるのは二日は先でしょう。最悪の可能性は…』

「既に乗り込んでいる場合か…そちらの方はラプラスに調べさせている。問題は少ないはずだ」

最悪、誘拐現場での時間稼ぎが居る。奴が居るだけで難易度は眼を背けたくなる程に跳ね上がる。

『可能性の話しです。確率的には低いと思われます。主の記憶が正しければ、まだ侵入はしていない筈です』

この辺に、音楽教室が有るでしょ?知り合いというか、従姉妹の姪の妹を迎えに来たんだけど…場所が解らなくなってね。

氷村が俺に言ったセリフだ。あの場であの言葉。俺から情報を聞き出したあの言葉が確立を低くしてくれている。

「…今から緊張してもダメだな」

『えぇ…今はお休み下さい。体に異常が無くとも精神的な疲労が大きいのですから…』

「ああ、そうするよ。お休み、シュベルト」

『お休みなさいませ。主』


ベッドに横に成ると、どうしても違和感が左目にある。ラプラスを外しているだけで動き難く、喪失感が胸に広がる。

中々眠れそうに無いな…今日は

俺はそう思い、目を閉じた










朝が来ると、自然と眼が覚める。カーテンの閉め忘れで熱い日差しと光が体を照らした。嫌でも起きてしまう。
ニ、三時間は確実に寝れたようだ。時計を見れば朝の七時。
顔を洗って、朝食を食べて歯を洗う。今日はどうするか…左目の中に戻ったラプラスの感触に安心しながら、服を着替える。家の掃除等は終わっている。
ルーダーさん達は、日用品を買う為に今日は出かけるらしいが…人通りの多い所は出来るだけ出たく無い。
只でさえ時期が悪い。今は夏休みなのだ。知り合いとは空いたく無い。しかし、待つだけでは手持ち無沙汰だ。

「…先生の所に行くか?」

あの人なら…未だに俺の中で燻っているモノをどうにかしてくれるかも知れない。どうにか成らなくとも…気は紛れる。
戦う為には、コレを何とかしなくては成らない。
俺は、ルーダーさん達に、一言伝えて道場に向かった。











【短い!!】

久しぶりです。待っててくれた方、遅くなりました。
注意。タグ付け禁止。その辺勘弁。病気とかも
人様の所では騒がないで下さい。お願いします。
それと、すずか終わりました。でも、幼女で行きます。幼女で行きます。大切な事なので二回言いました。
幼女で行きます!!!

ロリコンでも良いじゃない。この時期は幼女しか居ないんだから

簡単な設定


明智良哉

すずかに未練。眼帯
眼からビーム。ちょっと女々しいかも


ルーダー・アドベルト

兄貴。今の所は良い男。
明智家の父的な兄的な存在。
暫く出番は無いのかも知れない


ファラリス・アテンザ

明智家の姉的な存在
マッド。恐い。女帝(覚醒なし)
ラプラスとかのメンテをしている。
個人で所有している機材を、幾つか持ち込んでいるらしい


こんな所です。幼女はまだだよ?





[5159] ループの五ノニ
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/04/26 20:00
何も出来なかった。此処まで自分は弱かったのだろうか? 体が悲鳴を上げている。体中が打ち身だらけだ。

「…ドレだけ経った」

(二十二分と少しです……シグナムが居ました)

「っ?! …そうか」

どうしようも無いほどに悔しい。そして、逃げ出したい。奴を見たらどうなる? 俺は俺の儘で居られるのか?
解からない。自信が無い。直ぐにでもシュベルトを起動させてしまいそうだ。

「…だからか……」

無様に寝そべっているのは…

「はっ…ハハハ…」

…畜生










何時の事だったか、わしが開いている道場に餓鬼が来た。剣道の道場だ、子供が来るのは珍しい事では無い。
無いのだが…この餓鬼は違った。大方、わしの事を聞いた子供なのだろう。その時、わしはそう思った。
偶に居るのだ、子供らしい理由で強くなりたいと思い。わしに剣を教えて欲しいという子供は…
嬉しい事に、今の時代では人を殺す為の剣なんていうのは必要とされていない。今まで通りに断り、剣道を教える事にした。そうする筈だった。

その餓鬼は違った。こいつは違うと断言できた。眼が違った。纏う雰囲気が違った。今にも弾けそうなモノを纏っていた。ソレを見て昔の自分を思い出した。
重ねたと言っても良い。
しかし、自分とは違い。芯が有ると思った。思ったのだが…

「立て…」

折れちまった様だ。

ブンと竹刀を振るう。中には鉄が入っている。当たり前だ。刀は見た目に反してそれなりの重さがある。竹刀を振る感覚で振れば自滅する。
パンと肉を打つとくぐもった声が出される。

「お前に何が在ったのかは知らねぇし、知りたくもねぇ…ただな」

もう一度振るう。フェイントを混ぜて腕を叩く。

「うじうじ悩んで、剣を振るな!!」

気絶した弟子を放って水を飲む。一時間休憩を挟んで起こす事にする。時計を確認すれば、もう昼だ。軽く何かを食べる事にしよう

「あぁ、シグナムさんや。手出しは無用じゃ。コレはこいつの問題じゃからの」

「…やりすぎでは無いのですか? この様な子供に…」

「何、折れた刀は叩き熱して繋げるモノじゃ。甘やかしてイカンのじゃよ」

わしはそう言うと、下駄を履いて道場を後にした。後ろから付いて来る異人の女性はシグナムという女傑。
一ヶ月程前から、家の道場でアルバイトをしている。使う剣は違うが強い。
驚くほどの速さで剣道を覚えてしまった。ソレからは彼女と試合するのが密かな楽しみなっている。
お互いに話しなど無い。仲が悪いという訳では無いが、話すにもタイミングが必要なのだ。長いと言える付き合いは無いが、彼女の人となりは知っている。

強く、優しく、厳しい。何処か一直線な所が有るが、気にするほどの事でもない。試合をすればある程度の事は解かる。冷静で理を知り、義に熱い。
生まれた時代が時代ならば、騎士として劇の主役に成る様な武勇を残したかも知れない。そう、思ってしまうのは年を取りすぎた所為か…

暖簾を潜り、店の中に入る

「源さん、山掛けかい?」

「そうじゃな、少し精を付けておかんとこの後がキツイだろうし…大盛りで頼む」

「そっちの人は?」

「私も、同じ物で」

「はいよ!! 何時もの所が空いてるからな、源さん!!」

長年の行き着けの蕎麦屋。店主は自分の教え子だった男だ、今も偶に道場に来て竹刀を振るう。
奴の父親とは同級生だった。隣同士の家に生まれ、何をするにも一緒だった。ソレは戦場でも同じだった。毎日、生き残れた事に喜び、仲間の死に泣いた。

(…奴の死を教えたのは、何時の事だったか)

座敷に座ると、店員が熱いお茶を持って来た。ソレを一口啜る。目の前に座った女性…シグナムが口を開く。

「何故…あの様な訓練を? アレは流石に行き過ぎだと思うのですが?」

「何…アレは家の馬鹿弟子が心の中で望んでいる事じゃよ」

「アレが?」

悩みを持ってやって来た馬鹿弟子。雰囲気で観れば、何かを失ったのだろう。大切な何かを…そして…人を殺して来た。
血の匂いに敏感な鼻が教えてくれる。大昔に自身が浴び、今も体にこびり付いている匂い。
鼻が覚えているあの嫌な香り。何日も嗅ぎ続けた…

「アレはな…吹っ切れていない。いや…吹っ切れられないんじゃよ。何かを失い何かを奪った。ソレは解かるが…どうにも解せん。アレはそれなりに強い餓鬼だ。」

「? 意味が分からないのですが?」

「井の中の蛙と言うやつなのかと思ったがどうにも違うんじゃよ。何かが鈍った…ズレたのかも知れん」

「井の中の蛙と言う言葉の意味は知りませんが…あの子供が人としての道を反れたと?」

そういう捉え方も出来るか…

「そうでは無いのぉ…人としての道を反れたと言うのなら、わしはなんかは既に大幅に反れて居るよ。わしが言っているのは『自身の道』という意味じゃな。アレは最初に会った時からソレを持っていた。何を捨ててでも譲れない物が在ると言う目をしていた。」

「捨てきれない物が出来て戸惑っているという事ですか?」

「まぁ、そうじゃな。ソレで、折れちまってるのさ…」

シグナムの眼が鋭くなった。まぁ、そうじゃろうな。わしは間違っておるからのぉ。

「一つ言うて置くが、わしは理解してやっておるよ。」

わしがそう言うのと同時に蕎麦が来た。

「話は終りじゃ。さっさと食って戻ろう。アレも眼が覚めてる頃じゃろうからな」











体に力が戻り始めた。薬缶に入った水を飲む。只それだけで体が痛む。
大の字になり、息を吐く。それだけで、落ち着いた。全身に掻いた汗は不快で、それ以上に今の有様が不快だ。
呼吸を整え、座り直した時に先生が帰ってきた。その隣にシグナムはいない

(何を考えている明智良哉…シグナムは関係ないんだ)

「取れ」

「…はい」

竹刀を持って打ち込む。簡単に返される。左上段の一撃を受け流す。でもそれだけで終わる。先に一歩踏み込まれ体がぶつかり、弾かれる。
体制を崩した所に片手での横薙ぎ。片手で持っている分、間合いが広がる。

「カハッ!!」

「…立て」

足が震える。子供と大人。例え老人でも、源蔵先生の体は鍛えられた鋼の様に硬く重い。
子供の俺が耐えられる訳が無い、リミッターが壊れていてもだ。運動量保存の法則が有る。俺と先生の体重の差は二十キロ以上、膂力も先生のほうが強い。俺の力は精々成人男性が一寸鍛えた程度ぐらいでしか無い。
そして、使っているのは長物ではなく竹刀。遠心力を味方にしても勝てない。

ただ、打ち倒される。

左上段を避ける。避けたと思った一撃は、無理やり軌道を変えて胴に減り込む。

右下段からの一撃を避ける。踏み込み胴を狙って突く。半身を捻って避けそのまま打ち下ろしで肩を打たれる。動きが止まった瞬間に突かれて倒れる。

繰り返す。打ち倒される事を繰り返す。俺の攻撃は一切当らない。掠りもしない。

時間も分からなく成る位、ソレを繰り返していた。何度気絶したのかも分からない。それでも、体は動く。
気絶した時に体を休めている。その時間をくれている。

「…お前がわしに最初に言った言葉を覚えておるか?」

最初に言った言葉? 決っている。目的の為に手段が欲しかった。行きたい場所が有るからだ。父と母を護りたかったからだ。
でも…両親は死んだ。母は俺のミスと運の悪さで、父は俺の判断で…

「強くなりたい…行きたい場所が有る…それと…大切な人を護りたい」

護りたかった!!

「そうじゃな…確かにそう言った。わしはお前が人を殺しいようがいまいが、どうでも良い。お前の判断でそうなった。そうしたのだろうしのぉ。わしも人の事は言えない。だがな…今のお前では何一つ護れん。誰一人殺せん。」

「………」

「甘ったれるのも好い加減せい!! 刀を持ったのならば迷うな!! 護りたいモノが在るのなら他を切り捨ててでも護り通せ!! 貫くべきモノが在るのなら貫き通せ!! 次で終りじゃ。そして、二度と此処に来るな。初心に帰ってみろ…見るべきモノはソコに在るんじゃろうて…」

そのまま、竹刀を構えて立つ先生を見る。

俺の初心? 生きたい。普通に死にたい。繰り返したく無い。本当なら魔法だって捨てたい。
でも、捨てれない。死ねない。
全ての原因が謎で、何をすれば良いかも解からない。殆どの事を手探りで行っている。
初心とは何だろうか? 先生に剣を習いに来た時の事だろうか? 自分が繰り返す原因を調べようと決めた時だろうか?

記憶を辿っていく。

教え子が結婚した。

教え子にこの名前を付けてくれと頼まれた。

教え子が殉職した。

隊長を殺した。

クイントさんを護れなかった。

ルーテシアちゃんの事に気付けなかった。

仲間が死んだ。

仲間を護れなかった。

そうだ、一人も…誰も助けられずに、最後に殺した。


『……強くなったな』

『違う違う、もっと腕を捻る感じで…コウ!!』

『ねぇねぇ、昨日初めてルーテシアが一人でトイレを成功させたのよ!!』

『よう、新米。これから頼むぜ?』

『お前も大変だろう…アイツは口下手だからな…』


あ…あぁ…そうか…俺はただ…

(認めたく無かったんだ)

力の無い自分。不安が満ち満ちている『先』の事。鍛えても助けられない不条理。

だから、異性とは余り関わりたく無かった。同性ともソコまで深い付き合いはしていなかった。何処かで線引きをしていないと耐えられないから。

『俺が帰ってきた時、俺の時間を貰ってくれますか?』

初めて告白した。拠所が欲しかった。誰かを心の底から愛したかった。不安を忘れたかった。誰かの隣に居たかった。

寂しかった

ソコに、俺が居なくても良い。ただ、その光景を見ているだけで良いんだ。それ以上は望まない。
ソコに、俺の居場所は要らない。俺の腕の届く距離など高が知れているのだ。欲張りはしない。ただ、見ているだけで良い。
そして…繰り返しが無くなれば、望むモノは何も無い。

(…簡単な事だったんだ。)

全てに平等になろう。全てに線を引こう。進む為に。

最低限の関わりが在れば良い。必要以上に関わっては行けない。

独りは寂しい。一人は寂しくない。

竹刀を握ると、世界が一変したように思えた。体が…心が軽くなった。
公私は分ける。心を殺す術も知っている。
敵には何も感じない。周りの人間には友愛を…消えてしまった敵には慈悲を、逝ってしまった友には愛情を抱こう。











気が付けば、俺は背負われて居た。先生じゃない。先生からは何処か甘い匂いなどしない

「気が付いたか?」

「…はい」

「そうか…もう少しじっとして居た方が良い」

一定の間隔で振動が心地良い。トクンと心音を感じた。

俺が止めた鼓動を感じる。その鼓動が、とても綺麗だと思った。家から百メートル程離れた場所で下ろして貰う。
心はざわめかない。寧ろ、今までに無いぐらいに落ち着いていた。
今なら前を向ける。歩いて行ける。

「私には、源蔵氏と貴公があの様な事をしていたのかは知らない。故に何も言えない…源蔵氏からの伝言と手紙を預かっている。帰ったら読めとの事だ。」

「すみません。それと、ありがとうございます。」

「気にする事は無い。久しぶりに血が騒いだ…それではな」

家に帰ると、ファラリスさんとルーダーさんに怒られた。服の下は痣だらけだったのを忘れていた。














おまけ。師の言葉

剣を手に取ったのならば迷わずに振れ

槍を手に取ったのならば薙ぎ払え

迷いを葛藤を憂いを、関係なく断ち切れ

貫き通せ

常に真っ直ぐに立ち続けろ

ソレが出来れば、折れる事は無い











【作者はね、嘘吐きなんだ】

(´・ω・`) やあ。初っ端からすまないが、心して聞いてくれ。

     
就職しました。先週に

嘘だと思ってくれていい。ただ、更新速度がヤバイ位に亀に成る。チョコチョコ書いているが、休みの日に成るとヤバイ位眠いし、疲れの所為か食事も億劫なんだ。
感想を返すのも遅れるだろう。三ヶ月ほど我慢してくれ。今回の感想はスマン。

でも、コレだけは伝えたい。


ただいま。

それと、タグは自重してね

それじゃあ、何時も通りに簡単な紹介だ



明智良哉

常にブレ続けているのかも?
吹っ切れた。でも、ある意味覇王状態
破門になった。フルボッコ。
シグナムに癒されたかも?


シグナム


血が滾った。良哉が魔導士という事には気が付いていない。
良哉を背負った時に、以外と重いなとか思った
地味に蕎麦の魅力に取り付かれている



柴源蔵

過去に何やら悲しい経験をしている。
蕎麦が好き。年と肉体年齢が一致しないじいさん
良哉を破門にした。
独り立ちの切欠に成れば良いと思っている

「真っ直ぐ立てよ。馬鹿弟子」



こんな所かな?

文才もない男さん。修正しました。

皆様からの暖かい感想には力を貰っています。主に元気を…職業が職業だから責任も思いし疲れるし、時間通りに帰れないし、まだ準社員なのでキツイ。正直辞めたいけど働かないと負けかなと思う。



[5159] ループの五ノ三
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/05/11 22:58


男が最初に思ったのは「何故?」という疑問だった。

首から抜けていく血液。徐々に体が冷たくなっていくのを感じながら、男は自分が動かされている事に気付いた。
しかし、ソレが何だろうか?
今更、意味が無い。自分は直ぐにでも死ぬ。

ブチ

(ほら、見た事か。)

男は薄れ逝く意識の中でそう思った。それでも、まだ意識は在る。
自分が死ぬには、まだ時間が掛るらしい。男は何故こうなったのか…自分が死ぬのかを考えた。
考えて直ぐに止めた。簡単な事だからだ。自分が死ぬのは血を吸われているからで、血を吸われているのは在る人物が怪我をした所為だからだ。
完全に信用も信頼もしていなかった。当たり前だ。自分が運ぶ人物など怪しすぎる。依頼をした組織も怪しすぎる。寧ろ、悪名しか聞かない。
昔の事だが、積荷に9パラを撃ち込まれた事を思い出した。死にはしなかったが、暫くは痛みでムシャクシャした。

でも、今回はそんな気持ちさえ湧かない。圧倒的過ぎる力に格。殺されて当然と思ってしまう。
そんな中で気になったのは、そんな化物に傷を負わせた人物だ。自分は何も見えなかったその一撃は確実に化物の左腕を切断していた。落ちた左腕は海の底。

(ざまぁみろ)

心の中で嗤ってやった。ソレぐらいしか出来ない自分が、嫌いには成れない。当然だ。こうなる可能性は普段から理解していた。

(あぁ…でも…)

衝撃が体に伝わった。どうやら落とされたらしいという事に気付くのに、少し時間が掛った。

男の目に映ったのは槍。

(もう少し速く来て欲しかったぜ…スーパーマン)

それか、一撃で仕留めてくれよ

男の名は、グリーヴ・ロウアン。只のしがない運び屋だった。












日が顔を出したばかりの時間。俺は自分の体を確認して「良し!!」と声をだした。
体の痛みはもう無い。ソレは昨日確認していた。そうでなければ恭也さんと会っていない。昨日、俺は自身が経験した通りに高町恭也に接触した。カレー味のたい焼きはやっぱり旨かった。
コレは譲れない。ルーダーさん達には不評だった。この旨さはミッドの人間には通じないのだろうか?
そんな事を考えながらシャワーを浴びて、少し磯臭かった体を洗ってから服を着替えて仕度をする。今日、今回は初めての模擬戦。俺は恭也さんの本気が見たい。本気が見れなくとも技が見たい。
ラプラスは常に発動させる。筋肉の動きや体捌きを見極める。ソレが今回の目的。

「頼むぞ、ラプラス」

『仰せのままに』

頼りに成る左目の相棒に声を掛ける。

俺は待ち合わせの場所に向かった



Side out



今回、明智良哉は一つ細工をした。普段から使っている木製の棒。ソレを中間で別れる様にしたのだ。接着もチャンとしており、そんじょそこらの事では分かれない様にしている。
故に、恭也の全力を見れずとも技なら見れるかも知れないという淡い希望を抱いていた。当然ながら、高町恭也と明智良哉には大きな差が有る。例え、良哉のリミッターが壊れていて馬鹿力を出せたとしても関係ない物だ。
規格外という言葉が似合う高町恭也に、魔法抜きで戦う明智良哉が敵う筈も無い。

徐々に上がる攻撃の速さ

徐々に耐えられなくなる一撃の重み

受け流し切れない攻撃は防ぐしかなく、一度でも防げば捕まる。

そんな中で、高町恭也は驚いていた

(此処までとは…)

高町恭也からすれば、明智良哉の戦闘能力は怖ろしくもなんとも無い。義妹である高町美由希の方が強いし、父に至っては現役引退をしたくせに未だに自分よりも強い。
そんな二人と比べれば、可哀想だが…ソレが事実だ。
それでも、恭也が驚いたのは『今』の自分に付いてきている事にだった。片目が無いというだけで戦いの場では不利に成る。どう、取り繕っても死角と言うものは出来るのだ。なのに、目の前の少年は自分の攻撃を耐えている。
時には逸らし、カウンターを打ち込もうとさえしている。
受け流しの技術は自分から見ればまだまだと言った所だ。しかし、その荒さは徐々に削がれていっている。まるで、思い出すかのように少年の体は動いている。
何かが背中を這い上がってきた。ソレは、恐怖であり喜びだった。
自分との戦いの中で成長している少年。コレは酷い。酷い位に勿体無い。少年がどんな流派を使っているのかは知らない。
少年の得物が何故、棒なのかも知らない。
もっと早く出会いたかった。そうすれば、自分が教えれたのかも知れない。自分が思うより才能が無い可能性は勿論在る。しかし、ソレがどうだというのだ?
御神の技を教える訳では無い。純粋に戦う技術を教えたいのだ。一人の武人として。



一方、明智良哉は既に限界が近かった。

何もかもが甘かったのかも知れない。高町恭也を見誤った。

ソレが明智良哉の実力であった。一度間違えば、簡単に崩れるのが当たり前。最初から間違えれば、逆転する事等不可能に近い。
別に、高町恭也に勝つ事が目的では無い。『技』を使わせる事が目的なのだ。不意の一撃で良い。
咄嗟に体が動くような一撃で良い。マグレ当たりで十分なのだ。ソレが最初から間違えた事によって、困難だったハードルが更に上がった。

魔法を使おうかとうも考えたが、直ぐに却下する。当たり前だ。ミッド式もベルカ式も魔法を使おうとすれば、『陣』が描かれる。
あからさまな『加速』をすれば、直ぐにでもバレる。高町恭也に勘繰られては成らない。ハードルがまた上がる。
そんな、負け一直線の戦いの中。明智良哉は、攻勢出る事にした。

『魔法』を使用しては成らない。

『魔法』をバラしてはいけない

つまりは、魔法を使わずにインチキすれば良い。しかし、その手段は有っても『目的』が達成できるかが解からない。

念話で、相棒達に計算させる。少しでも剣から意識を逸らせば倒れる。それ程の実力を持っているのが高町恭也であり、その本当の実力を隠しているのが高町恭也なのだ。

計算の結果は二分の一。五〇%の確立。

完全に運任せだ。それも、五分五分の…負ければ、次の機会が在る可能性は低い。勝てば、最低限の目的は達成できる。
明智良哉は賭けに出る事にした。自分が出来る最大の反則は『繰り返し』だという事を理解しているからこそ出来る。それは『先に知って、後から出す』ジャンケンで言う『後出し』と変わらない反則だが…ソレが最大の強みだという事を理解しているからだ。

左目のラプラスが、眼帯の下で輝く。

視神経を通して魔力が脳を刺激し、枷が外れる。

人体の全力。本当の全力を発揮する準備が整う瞬間。明智良哉の寿命は十秒になる。
正確には違う。過去に使った時は体を少しは鍛える事が出来たが、今回は出来ていない。十秒より少ない時間しか動けない。ラプラス・シュベルト・クロイツが弾き出した時間は凡そ四秒。

最初の変化は視力に現れる。敵以外の情報がカットされる。ラプラスの機能を『技』を観る為に割いているからだ。

次に聴覚。音が消える。体感時間が延びる代わりに情報がカットされる

嗅覚。臭いを感じる事等、不可能になる。情報削減の影響だ。

痛覚。感じる暇さえない。認識が追いつかない。

その状態に成った瞬間。棒の中間を真ん中に両手で握り思いっきり捻る。キュッと音を立てて棒が二本に分かれる。
二刀流等習った事も無ければ、咄嗟に使える才能も無い。ただ、振るう為だけに分ける。
手数を増やすしか、選択肢が無かった。

そして、動きが限りなく遅くなった高町恭也に向かって踏み込み。振るった棒が当る瞬間。


高町恭也はその領域に、さも当然の如く踏み込み。神速の一撃を持って、明智良哉を打ち負かした。

咄嗟に棒の片割れで防いだ一撃は。その防御を『貫』き。衝撃を『徹』た。

笑みが零れる。明智良哉は死んでいない。ラプラスはその動きを記録した。

「かっ…はぁ」

その、言葉とも取れない声を残して。明智良哉は意識を手放した。



高町恭也は震えていた。己が御神の『技』を使った事に震えていた。体が動いた。
明智良哉が動く瞬間に確かに感じた感覚が、高町恭也を動かした。
完成していない、未熟なれど一介の武人を打ち倒せるあの『技』は自分の流派の物だった。
有り得ないと考えたが、直ぐにその思いを否定した。

打ち払った一撃は、子供の出せる威力ではない。成人男性が出せる威力でもない。

頭に浮かんだのは、『脳の異常』という考えだ。人間の体は壊れやすく壊れ難い。人体は百%の力を使えない。人間の脳はブラックボックスだらけの物だ。そんな事、子供でも聞いた事が在る常識だ。
その為、人には安全弁が付いている。故に生きていける。
だが、その安全弁を外す方法は有る。中国拳法の中には薬物を使って安全弁を外す鍛錬が有るし、『火事場のバカ力』とは生命の危機やソレに準じる危機が訪れた時に、生きようとする本能が安全弁を外す事だ。そこまで考えて、高町恭也は疑問に突き当たる

安全弁とは一つではない。どれ程の数が有るのかは分からないが、ソレは確実だ。

ならば…一体どれほどのリミッターを外せば……

「…いかん?! 大丈夫か良哉君!!」

安らかに気絶する明智良哉に駆け寄り、体を調べると。高町恭也は直ぐに頼りに成る伴侶に電話を掛けた。










side 良哉

眼が覚めると、空が赤くなり始めていた。見上げた天井は知っている。此処は…月村家だ。

直ぐに屋敷内の探索をする。幸いな事にすずかは居ないようだ。恐らくだが、アリサ達と遊んでいるのだろう。俺が気付いてから五分程経ってから恭也さんが部屋にきた。ソコからは質問攻めだった。
その質問も最終的に言えば一つに絞られていた。

「最後に使った技は…何処で覚えた」

ただ、速く動く為に枷を外したとしか言いようが無かった。本当にソレしかしていない。枷…リミッターの事に関して言えば、左目の怪我の事を説明すればある程度、納得してくれた。
してくれたのだが…ソコからは説教のオンパレードだった。途中で忍さんも混ざった。一応は、自分が動けるであろう時間は分かっていたので大丈夫と言ったのが、さらに説教に拍車を掛けたらしい。
それに、忍さんはどこか疲れた様子だった。寝不足のようだが…大丈夫だろう。月村の一族の事はある程度は知っている。その頑強さは特に…

空が暗くなり始めた頃に、俺は二人の説教から解放されてノエルさんの運転する車で家に帰った。恭也さんも一緒にだ。一言、保護者の方に言いたい事が在るらしい。
情けない事だが、俺の肉体年齢は十歳。アレだけ動けば腹が減っていても、睡欲が勝る。何よりも、全身筋肉痛で一人ではロボットの様な動きになる。
家に帰った俺は、ルーダーさんに抱えられて部屋に戻るとそのまま眠りに付いた。











side out



その不意打ちは閃光だった。氷村遊にはそう感じられた。切断された左腕の傷口は既に塞がり、徐々に再生している。
だが、それよりも不可解な事が有った。それは、自分の行動が何者かに知られていると言う事に関してだ。自分に仕事を頼みに来た男とは何度か仕事をしている。故に、あの男の性質はある程度は知っている。
あの男は力の信望者だであり、弱者だ。自分からすれば体の良い駒にすら成らない様な臆病者だ。
ならば誰が? 最初に浮かんだのは血縁関係だったが、自分の事を追っている血縁にはバレていないという確信が有った。さくらの動きなど随分前から把握している。
月村にも情報はまだ、入っていない筈だ。ならば…誰が?

倉庫街を走る。高く跳べば見つかるから、一気に離脱は出来ない。何よりも、プライドが許さない。
たかが人間が…劣等種が!! この俺に傷を付けた!!

立ち止まって、続きを言葉にする。

「なぁ、そうだろ? 餓鬼!!」

「知らんな、雑種。思い上がるのも程ほどにしておいた方が良い。器が知れるぞ?」


倉庫街にて、誰も知らない戦いが始まった。

圧倒的に有利な形で。

コレは、高町恭也と明智良哉が出会った日の夜の事である。











【続きは次回!!】

バトルは苦手なんだよ…BINです。既に仕事を辞めたいと思っているヘタレです。
さて、今回の話で言いたい事は…良哉-魔法=恭也に勝てるはずが無いwwwです。

またもやすずかルートに光の兆しが!!

作者は嘘吐きだって、前回言ったじゃないか。

後、一つお知らせ。氷室ではなく氷村でしたorz
修正は休暇がきしだい行います。マジごめん。今日は五時起きなのに・・・・





[5159] ループの五ノ四
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/05/13 23:20

圧倒的に不利なのはドチラか?

吸血鬼…夜の一族と呼ばれる一族の血を引く氷村遊?

リミッターが壊れた、明智良哉という魔導士か?

明智良哉は確かに氷村遊の左腕を切り落とした。方法は解からないが確かに切断した。
しかし、それは相手に気付かれずに攻撃出来るという前提条件が有って始めて可能となる事だ。
姿を現した明智良哉に、もうそお有利は無い。

氷村遊は夜の一族…人以上の『力』を持つ一族の出だ。テロリストでもある。不意を突かれて左腕を失ったが、既に傷口は塞がり、肉が盛り上がり再生し始めている。
さらに、明智良哉という敵を視認した。今まで有った不利は無くなった。

故に、氷村遊の中には怒りが渦巻いていた。確かに、左腕を切り落とされたのは己のミスだ。
どういったトリックを使ったのは知らないが、相手の技量も認める。
だが…子供に傷つけられたという事実が、人間に傷つけられたという事実が自尊心を傷つける。人より優れている自分が傷つけられたという事が気に食わない。
氷村遊は、この時点で己の勝利が当然のモノだと考えていた。

しかし、氷村は相手を過小評価していた。完全に自分よりも格下の相手だと思っていた。故に

「知らんな、雑種。思い上がるのも程ほどにしておいた方が良い。器が知れるぞ?」

明智良哉の挑発とも言えない台詞に簡単に乗る。

「咆えるな人間風情が!!」

力強く蹴った大地には罅が入り、明智良哉の顔面に向かって放たれた手刀は風を切り裂いた。
切り裂いたが…ソレは空を切るのみ。
感情に任せた直線的な攻撃は左へのサイドスッテプで避けられる。
氷村は攻撃の勢いで流れ体を地面に倒れる様にして背後からの攻撃を避け、地面に付いた両手で体を浮き上がらせ跳ぶ。
地面には握り締められた様な手形が残った。

氷村は知らない。『魔法』というこの世界には無い反則を。敗因を挙げるとすればソレが一番なのだろう。



明智良哉に焦りは無かった。焦る必要が無かった。
己と氷村では氷村の方が強い。魔法を使い周りの事を考えなければ勝てるだろう。それが、最初の奇襲で解かった事だった。
最初の奇襲は上空からの『Sonic Move』を使った奇襲。確実に心臓事切り裂いたと思った一撃は、左腕を落とすだけに終わった。
姿を捕らえられなかっただけマシな事だったが、最初のミスで知らない男が一人死んだ。
その事は悔やまれるが仕方が無い。後暗い事をして生きていたのだろう、積荷が氷村だったのだ…それなりの覚悟は有った筈だ。

明智良哉は倉庫の影に潜みながら口を歪めた。確かに、戦力の差は大きい。高町なのはに気付かれ無いように魔法を使うのは厳しい。正確にはレイジングハートにだが…
その所為で大きい結界などは張れない。コレだけで手札が減る。
でも、それだけだった。此処は自分の領土。自分の知る戦場。地の利は有る。それと…

「氷村、一つ教えてやる…ソコ、危ないぞ?」

「舐めやがって!! 絶対に殺してや!? 」

準備は万全だった。

何故、直ぐにでも氷村遊はこの場所から出なかったのか? 何故、この倉庫街に留まっていたのか?
簡単である。結界が有ったからだ。不出来な隔離結界。入るのは誰でも出来るくせに出るには結界を壊さなければならない。
氷村遊の鋭い直感が、その場所に移動させなかった。そして、この倉庫街を出る為には絶対に通らなければ成らない道が幾つか在る。警備上の問題なのだろうが、ソレが助けと成った。
後は、幾つかの場所に、小さい結界を張るだけで良かった。その結界に嵌れば尚の事、明智良哉の有利になる。
例え結界に入らなくとも袋の鼠だ。油断はしない。全力で挑む。一瞬の油断が希望と言う名の絶望が戦局を覆す事を知っているからだ。

設置型バインドに四肢を縛られ動く事の出来ない氷村に、更にバインドを付けて口を塞ぐ。姿はまだ見せない。
其の侭、慎重に慎重を重ねてバインド事、氷村を移動させる。額に浮かび上がる汗が目に入りそうになるが、気にしている様な余裕はない。
明智良哉は圧縮・縮小に秀でているが、その分魔力の放出が苦手なのだ。遠隔操作も同じ。サーチャー程度なら普通に使える。今行っている作業も此処まで慎重にやらなくとも出来る。出来るが、失敗は許されない。
その為、集中する。姿はまだ見せない


氷村遊は戸惑っていた。怒りよりも焦りが勝ったのだ。捕まっている。ソレは理解出来た。しかし、自分を捕らえているモノが何なのかが解からない。
知能を持った生物は未知に恐怖し興奮する。好奇心の問題だが、自分を捉えている何かを見て恐怖しない方がオカシイ。その何かが爆発したらどうなる? 自身の死だ。四肢を捥がれ頭を吹き飛ばされ無残な肉の塊に成り果てる。
攻撃性は無いのかも知れないが可能性は捨てきれない。
しかも、動けず声も出せない状態にある。己が内に恐れが生まれない訳が無い。

最初は『退魔』の技と思った。そうすれば襲撃者の事を含めて己を殺そうとする理由が解かる…が、霊力は感じない。全てが合致しない。
月村からの刺客? ソレは無い。アソコにはこの様な力を使う者は居ない筈だ。戦闘に特化している力を持つのは、高町恭也ダケの筈。
最近になって取り込んだ? それにしても速過ぎる、有り得ない。
自分の視界に海が見えた時、初めて自分が海の真上に居る事に気付き氷村は目の前に居る人間を睨みつけた。

「…さよならだ」

サッと血の気が引いた。言葉の意味もそうだが、ソレを発した子供の顔を見てだ。
全ての感情をそぎ落とした様な平坦な声に、感情が有るのかと疑ってしまいそうな表情。

(何なんだ?! この人間は?! この餓鬼は?!)

「怨み等無い…ただの偽善だ。お前にすずかを攫われたら……此方としても都合が悪い」

何故知っていると声を出したかったが、出ない。徐々に己を捕らえていたモノが増えていく。
どうなるかが解からないとは言わないし、思えない。死ぬ。コレが純然たる事実だった。
そこまで思い知って愕然とする

人間に、何の反撃も出来ずに無残に…無様に死ぬ。氷村遊は絶望する。格下相手に何も出来ずに死ぬ。ソレが結果として残る。
自尊心が、誇りが、音を立てて折れる。砕ける。

眼の周りだけは包まれなかった。視界には子供が映り続ける。そして、その子供が上げた手が、少しずつ握られていく。
縛りがきつくなり体が圧迫される。何時の間にか不思議な円形の幕に包まれていた事に気付き、声を出そうとしたが…もう、遅かった。
全身に掛る圧力が強くなり、自分がどうやって殺されるのかが解かった。

圧死

潰されて死ぬ。脳も心臓も肺も胃も腸も潰されて死ぬ。

「さよなら氷村。お前には感謝もしているよ」

その言葉が、氷村遊の聞いた最後の声だった。











グチャっと、音が聞こえ水の中に何かが落ちる音を聞き届けた。サーチャーを飛ばしてその何かを確認して、既に事切れてしまったもう一人の所へと向かう。
死体は冷たい。でも、ソレは死後五時間以上経った物がだ。人は死ぬと一時間に一度ずつ体温が下がっていく。
しかし、血を抜き取られた場合は…

「…ごめんなさい。」

明智良哉は名も知らぬ男の死体を担ぐと、また海に向かった。そこには停泊している小型の不審船が一隻佇んでいる。その船に乗り込み、火をつけて沖に向かって発進させる。



夜道を一人、ジャージ姿で歩く。この姿を見て先程まで殺し合いをしていたとは、誰もが思わないだろう。ランニングしてましたと言われれば納得してしまう。
明智良哉の頭にあるのは、最早何の関わりも無い月村すずかの事だった。さよならは言えない。
ソコまでの関係など、既に無いのだから。

「次は…バニングスか」

『その前に高町恭也との試合ですよ? 主?』

その夜、明智良哉は死んだ様に眠りに付いた









という事が、昨日に有った事だ。既に日を跨いでいたので四時間ほどしか眠っていなかったが…そういう事が有った。
有ったんだが……何故か目が覚めると病院に居た
見知らぬ医者が俺の体をマッサージしている。コレはどういう事なのだろうか?

説明を求む。切に…







side ルーダー



フライパンを荒いながら溜め息を付く。良哉の事だ
今朝、早くから家を訪ねてきた高町恭也に一応は話されていたがまさか体のリミッターが壊れているとは思わなかった。
どうやらファラリスは知っていたような節が有る。問い詰めて見ればアッサリと吐きやがった。しかも、その程度で体は壊れない。寧ろ、これから体が耐えられるように成長する何て抜かしやがる。
ファラリスの言う事を信じれば、良哉は筋力を三十%使う事が出来るとの事だが…ソレを聞いた高町恭也の言葉に、俺達は息を呑むことしか出来なかった

「確かに普段はそうでしょうが…彼は…良哉君は俺との模擬戦の最中に完全にリミッターを外しました。自分の意思で」

ソレを聞いた瞬間に開いた口が塞がらなくなった。さらに高町恭也の言葉が続くと、塞がりそうだった口がまた開いてしまった。
良哉は自分の体のリミッターを全て外す事が出来る上に、その状態で動ける時間を理解している。
ソレが昨日聞いた話を纏めた結果だ。

「全く…どうなってんだよ…」

アイツはチョット…じゃないな。結構戦える奴だ。でも、今はそれだけの奴だ。それなりに頭も良い。クロノ執務官から、執務官に成らないかと言われる位に学はある
それでも…此処までだとは

「はぁ~、下手したら直ぐにでもあの世行きじゃねぇか」

笑い話にも成らない。

アイツがソコまでヤバイ状態だとは思わなかったが…どうなる事か…

「病院での検査結果次第か…アースラが来たら、最初に身体検査させねぇとな」

自分でスイッチの切り替えが出来る様だから、ソコまで心配する事は無いんだろうが。何事にも危険は伴う。
その為に、高町恭也の提案を飲んだのだ。コレでダメでしただったら、どうしてくれようか? あの若造

「それにしても暑いなぁ…昼は何か冷たい物でも作るか」

その頃には、良哉も帰ってきてるだろうし










【あとがき】

短い。説明文ばっかりだし…ハァ。話しがススマネェ
すずかルート? 兆しが見えただけですよ? 幼女違いですよ皆さん
さてさて、病院に拉致された良哉。ソコには一人、接点の有る人物が居るよね?誰ルートか?
結構簡単に予想できるだろ?

関係在りませんが、作者はビールが嫌いです。でも、最近ビールが美味しく感じます。

まぁ、焼酎や清酒、ウイスキィーの方が断然好きなんですけどね。


それでは、おやすみなさい





[5159] ループの五ノ五
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/05/18 01:48
全身をマッサージして貰い十分。体中がジンジンと疼き、少し痒い。
血行が良くなっているのだろうが…ソレよりも説明をして欲しい。特に話し込んでいる恭也さん。
俺の体をマッサージしてくれた女医さんはフィリス・矢沢という名前らしい。銀髪の美人さんだ。恭也さんとどういう関係なのだろうか?
何やら熱く語っている恭也さんにタジタジしているが…止めたくても止めれない。こっちは、話の中心に居るようなのだが俺には理解できない。

何故、俺は病院に居るのか?

何故、俺はマッサージを受けていたのか?

それと…何時の間にCTスキャンされたんだ?

何もかもが解からない。











ジリジリと真夏の残滓が残る晴れ空のした。私は主はやてとヴィータの三人で病院に向かっている。
主には念の為に帽子を被って貰って頂いたのが幸いした。この暑さは主の様な子供には些かキツイ物が在る。
私やヴィータは耐えられるが、何の訓練も受けていない主には拷問だろう。

「はやて~…帰りにアイス買おう」

「そうやなぁ~この暑さは堪らんもんなぁ…あっ、今日の夜は冷やし中華にしよ」

「…ヴィータ。騎士たる者がこの程度の暑さで根を上げるとわ…情けないぞ」

正直な所、源蔵氏の道場での稽古中の暑さに比べれば何て事は無い。
そう言えば…あの少年は今、何をしているのだろうか? 腐ってなければ良いのだが…

(いや、それは無いか…あの眼、一介の戦士のソレに近いものが有った。生まれる時代と場所…それにリンカーコアが在れば…)

何らかの武勇を立てて騎士に成って居たかもしれない。まぁ、あの少年にリンカーコアが在るかどうかは調べなければ解からないのだが…ソレは無いだろう。
我等が主が破格過ぎるだけなのだろう。

「シグナム? 何か考え事?」

「いえ、コレもテレビで言っていた地球温暖化と言う奴なのだろうかと思うと…」

「あぁ、朝のニュースでやってたヤツか…でもよぉ。アタシ等がドウコウできる問題じゃねぇだろ?」

「そうやなぁ…ウチ等を含めて、地球に住んでる皆が気を付けなどうしようも無いことやしなぁ…でも、ヴィータ。何でも小さい事からコツコツとや。今日から冷房の温度は二十七度にするからなぁ」

主は、優しく思いやりの有る方だ。

熱を発するアスファルトの坂を上がりきると、病院までもう少しと言う距離だ。主の車椅子を押しながら思う。
主の体。下半身の麻痺は原因不明のモノだ。石田女史は良くしてくれているが…主の体を蝕む麻痺の原因は、シャマルを持ってしても解からない。
いっその事、他の次元世界を回り医者を探そうかと思ったのだが主はソレを望んでいない。
これ以上は進まないのだからと、笑って言う。何と心の強い子供なのだろうか。
私が主に対して始めて思った事だ。主はやてではなく、八神はやてという少女に対して…

今日の定期健診はドレぐらい掛るのだろうか? 速く終われば良いと思う。

そして、私はあの少年と再び出会った。

偶然なのだろう。私も、あの少年も互いの名前を知らない。いや、私は源蔵氏があの少年の事を『良哉』と呼んでいたのを覚えている。
私は、主を石田女史に預けると玄関の方へ向かった。

(まだ、居れば良いのだが…)

私が病院の玄関口に行くと、上下を黒で纏めた青年と話している少年を見つけた。会話は聞き取れないが、黒い青年が少年に謝っているようだ。
私は二人に声を掛けた

「ソコの少年…私を覚えているか?」





一方的に此方だけが名前を知っているというのは、どうにもスッキリしないからな











話は簡単だった。

恭也さんは俺の体を心配して、信用の置ける医師に俺を見せたかったという事が始まりらしい。
なんでも、俺が寝てしまった後ルーダーさんやファラリスさんと話て決めたそうだ。念の為に少し早く来て見ると寝ながら筋肉痛に魘される俺を発見して、ルーダーさん達に断りを入れてから俺を病院まで忍さんの車で連れてきたとの事。
後、個人的にはコレが一番重要な事だったのだが。恭也さんは俺に稽古を付けてくれるらしい。残念な事に、恭也さんが使う流派ではなく。純粋に戦闘に関しての術を教えてくれるらしいのだ。

恭也さん曰く

「戦いながら盗め」

らしい。ならば、言葉に甘えよう。俺自身、恭也さんの流派を教えてもらえるなんて思っていない。ならば、恭也さんの動きから予測し、推測し少しずつ解体して、自分流にしていけば良いのだ。
動きには癖が出る。流派の技を使わずとも、その流が微かに現れる。俺はソレを見つけ出せば良い。

「でも、最初に説明して欲しかったです。」

「いや…その…スマン。」

俺の事を考えて行動してくれたのは嬉しいが、やはり最初に説明して欲しい。

序でだが、嬉しい事に俺を鍛える事は内密にとの事だ。恭也さん自身が父や妹に知られたく無いらしい。俺としては高町に知られる事が無くなって嬉しいのだが…そこまでして貰うと、余り怒る気も無くなってしまう。
そう思って、会話が途切れた時声を掛けられた

過去に、少し先の未来で殺し殺された。シグナムに

「ソコの少年…私を覚えているか?」

その言葉に、心はざわめかなかった。

(大丈夫だ、俺は乗り越えた)

「はい…俺を運んでくれた方ですね? どうして病院に?」

「あぁ、世話に成っている人が定期健診の日でなその付き添いだ。その途中で君を見かけたので、自己紹介でもと思ってな。同じ町に住んでいるんだ。知り合いは多い方が良い」

知っている。シグナムが誰の付き添いで来たのかを

知っている。シグナムは少し先の未来で犯罪を起こす事を

知っている。ソレが八神はやての為と思ってやった事を

「そう何ですか…俺は明智良哉と言います」

「私はシグナムだ。姓は…八神だ。話はそれだけだ、今度有ったら声を掛けてくれ、君は…その…なんと言うか…面白そうだ」

「はぁ…解かりました。それでは」

「あぁ、車には気をつけろ」

俺はシグナムに背を向けて病院を出た。隣で恭也さんが

「あの女性…強いな」

とか言っていたが、その通りなので「そうなんですか?」と取り合えず知らない不利をした。

帰りも忍さんの車だった。すずかは居ないようだ。少し…ホッとした。











明智良哉に声を掛けてみたが、あの切り返しで良かったのだろうか?
私は自分が思ったことを純粋に言葉にしたのだが…あの少年は面白い。何が面白いというと。やはり眼だ。
あの眼は戦いを知っている者の眼だ。ならば、どんな戦いを知っているのだろうか? ソレを考えるだけで面白い。
体を使わない知恵の戦いなのかも知れない。
背負った時に解かった、長物を使った戦いなのかも知れない。
左の視界が無い戦場で、どういった戦いをするのかにも興味が在る。

(私も大概だな…この世界にはそのような戦いが有る筈も無いのに…)

あの眼は何かしら強い覚悟を持った者が、何か大きな物を背負った者がする眼だ。

あの少年…明智良哉にも何か事情が有るのだろう。

「そう言えば…源蔵氏は……」

『少し前に海外に行った奴だよ。まぁ、少し前に帰ってきたらしい…帰ってきたらあんなんだったがな…エジプトで何が有ったんだか…』

「エジプトか…」

この国以外の話を聞くのも面白いかも知れない。主に土産話が出来る

「おい、シグナム。何笑ってるんだよ? 気持ち悪いぞ」

「お前はもう少し言葉遣いを改めろヴィータ。主はやてにも言われてるだろ?」

「うっ…」

はぁ、主の検査は何時になったら終わるのだろうか?










家に帰れば、ルーダーさんが鼻歌を歌いながら台所に立っていた。当たり前の事だが、朝も昼も食べていない。
恭也さん達に誘われたが、すずかや高町に遭遇する可能性が在ったので辞退した。迷惑を掛ける訳にもいかない。何よりも恋人同士の時間を無駄に浪費させる様な事は出来るだけしたくない。
ただでさえ、恭也さんは俺に稽古を付けるために時間を割いてくれているのだ。これ以上は迷惑だろう。
後、心残りはアリサが攫われる時なのだが…抜かりは無い。
既に海鳴一帯で人が近寄りそうに無い場所は押えてある。時間もまだ有る。ソレが何時起きたのかも覚えている。それに…既に動いている
ズレが生じるかもしれない…最低でも±三日の誤差を考えて居る。

まぁ…監視しているだけなのだが。コレでも幾らかは違う。

そんな事を考えながら、冷蔵庫から冷たい麦茶をだしてテーブルに移動する。簡単な検査結果は食後に伝えるとしよう。
本格的な物は少し時間が掛る。

今日の昼食は何だろうか?




side ルーダー


グツグツと泡立つ湯の中から黄金色の麺を取り出して、冷水に移し軽く掻き回してから氷水に移す。
同じ色をした薄焼き卵を千切りにして、コンビニで買って来たハムも切る。
後は…

「キュウリだな…コレを切って麺に乗せて…」

タレを掛ければ出来上がり

「出来たぞ~」

冷やし中華と言う物は中々に美味かった。今度、マリアに作ってやろう。

「「いただきまーす」」

「その前に手は洗ったか? お前等?」

手洗い嗽はチャンとするんだぞ?












【・・・・】

どうも、BINです。休みはまだか!! と心の中で叫んでいます。でも…大体ニ・三日に一話ぐらいで逝けそうかも…

仕事? 明日は五時には家を出るよ。何で俺が周りを纏めにゃ成らんのだ。面倒臭い。
仕事中に執筆とか出来ないし…夜勤も有るし…もうイヤダァ

それと、感想を観て思った。幼女=今回の√なんて…みんな、良く考えるんだ!! 俺は嘘吐きなんだぞ?!

それでは、お休み。先に外伝的なものでも書くかなぁ…








[5159] ループの五ノ六
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/05/18 01:45



美味しい昼食を食べた後、俺は在ることに気付いた。何で気付かなかった…精密検査なんて受けたら…

「そういえばだけど、簡単な検査結果なら私がルーダーさんに説明しておいたから今日はゆっくりしていなさい。良哉」

「? どういう…」

「はぁ…私達が居るのは何の為だと思っているの? こういった時の情報操作の為の私。事件に巻き込まれたときの為のルーダーさんよ。」

あぁ、そう言う事か。

「御手数掛けます。ファラリスさん。」

「そう思うのなら、今日は安静にしてなさい。情報操作も楽じゃないんだから…ラプラスは後でとりに行くわ。眼帯は付けたままにしてなさい。解かった?」

「はい」

今日は体を休めよう。











side ファラリス



ハァ…疲れるわぁ

「この暑さの中でって言うのが特に…」

この日本と言う国には四季其々の楽しみが有るって聞いたんだけど……この時期に海はねぇ…
プールも微妙だし…入れないから私
やる事も、もう少しで終わるけれど。この世界のセキュリティはピンキリの差が激しいわね。それだけ情報が手に入りやすいという事でも有るんだけど…
良哉の検査結果の正式な数値は、大体は解かる。その為のラプラスなのだから…それにしても…

「人は慣れる生物…か。何処の誰が言ったのかは知らないけれど、確かにそういう生物よね」

筋肉疲労、骨格疲労。ドレをとってもギリギリの数値。それでも…少しずつ適応しているようだ。ラプラスを作る前から、彼のリミッターは壊れていた。
左目を失った時から彼は壊れた。
ソレを考えれば。まぁ、こういう結果なのも解かるが……どうした物か…

「管理局入りしたら、担当医になろうかしら?」

正確には、成れないが。彼を保護する立場には成れる。
病院の方も、ラプラスを造る時に話た彼等に言えば何とか成るだろうし…ラプラスを外していれば普通に検査されてもバレはしないだろう。

そう言えばだけど…マリーは元気かしら? エイミーと仲が良いみたいだけど…変な影響は受けていないだろうか?

「うん、その内メールでも送ろう。」

さてと…偽装はコレで良いとして、どうしようかしらこの白衣? 病院に忍び込むのも楽じゃなかったけど。
ルーダーさんにでも上げようかしら? 息子も欲しいとか言ってたわよね、確か。奥さんも元々はお医者さんだし…アネットさん元気かしら? 最後に会ったのは…

「…っと、ソレこそ今度で良いか。今は…」

ラプラスをどうするかよね。

彼の戦闘スタイルは見た所、速さを生かした戦い方。フェイト・テスタロッサと似た戦いかた。
けれど、ラプラスに有ったデータを見れば違う。
相手に攻撃させる。後の先だ。受け流しの技術も、彼の年齢してみれば有る。
何よりも、正確に人体の弱い場所を狙うように攻撃しようとしている様にも思える。
恐らくだが、ラプラスがそうさせたのだろう。広がった視界が選択肢を広げた。それは良い。でも、そうすると…

「今の魔法ではダメじゃないのかしら?」

基本的な防御魔法はインストールされている、シュベルト・クロイツに…しかし、彼がソレを使用している所を見た事が無い。使ったという情報も無い。

「…直接聞くのが手っ取り早いんだけど」

それではロマンが無い。私はそう思う。

「本当に、面白いわね…良哉」









side out


体は正直な物で、ベットの上に横に成ると直ぐに眠気が襲ってきた。
そのまま目を閉じる。夢は見ない。
眼を開けると空が赤く成っていた。夕方まで寝ていたらしい。大体三時間くらいだろうか? 体に有った疲れは綺麗に無く成っていた。 
その時までは、そう思っていた。

「良く寝てたな良哉。腹減ってるだろ? 流石三食食ってないんだからなぁ」

「え?」

三食? まさか…カレンダーを見る。テレビを着ける。そのニュースで流れていたのは、誘拐未遂犯が捕まったというニュースだった。

(自意識過剰だったな……氷村という存在が無ければ、こうも簡単に解決していたのか)

やはり、氷村を直接叩いたのは正解だったか。これで、俺と彼女達に直接の接点は無くなった。
これから気をつけなければ成らないのは、ヴォルケンリッターと高町なのは、それと…月村忍の三人か。

「ほれ、今日はシチューだ。鱈腹食ってねろ、恭也が明日の朝から始めるってよ。」

「あっ、はい」

良かった。彼女達は平穏に暮らせているのか…


夜、食事を終え風呂に入いった後。左の眼孔に戻ってきたラプラスと相棒達と一緒に恭也さんの動きを分析する。
何度も、何度も、観察して視点を変え筋肉の動き、その攻撃の軌跡を見る。
攻撃の瞬間に使っている筋肉の動き、僅かな捻りは分かった。分かったが解からない。
体で覚えるしか無いのは覚悟していたが…どうやって…

「地道に行くしかないか」

『そうですね。元より、主が彼の技を使えるという保障はなかったのですから…』

『全力でサポートします。マスター』

「取り合えず…本当に戦いの中で盗まないとな」

明日の朝が、楽しみだ。












体が自然と覚醒する。起きて最初にするのはストレッチ。体の細部まで自分で動きを確かめる。
顔を洗い。服を着替えて簡単な用意を済ませて外に出る。
家の前には恭也さんが立っていた。時間的には丁度良かったのだろう。俺としては、少なからず緊張…不安が有る。
俺の今の体では、魔法の補助が無ければ長時間戦えない。確実に短期決戦しか出来ない。
体も出来上がっていないのだ、どうしても体力に問題が有る。その為の訓練なのだが…

「よし、走って神社まで行くぞ。付いて来い」

「はい」

俺は、思考するのを止めて恭也さんの後ろを付いて行く事にした。

息が切れる。恭也さんの背中が徐々に離れていく。

息が切れる。足が旨く動かない。

肺が痛くなる。息をするのも辛い。

頭の奥で、チクチクと痛みがする。

神社の階段に着いた時、俺は既に疲れ過ぎていた。

「どうした。まだ、準備運動だぞ。」

「は…い…」

「…五分休憩だ。俺は先に上がっている」

返事をするのもやっとだ。前回では、模擬戦(物凄く短い)を何度も休憩を入れて行っていただけだった。
それでも、体力は付くし重点的に使っている筋肉も強化されていったんだが…

『それだけ、高町恭也が本気なのでしょう』

(そうなのだろうか? しかし…)

『元々我等…主は抜け出せない迷路に居るのです。力を付ければ選択肢も増えます。』

そう…だな。今は体を休める事に集中しよう。模擬戦になったら、データ収集もしなければならない。
体の休め方は知っている。まだ、自然に使える訳では無いので意識して呼吸を変える。それだけで、大分違う。
焦りは何時だって有る。なまじ、一つの選択を知っているから焦る。
でも、忘れる事は出来ない、忘れた時点でまた同じ道を辿ってしまうかも知れないからだ。
何よりも、ソレは無駄でしかない。俺は、俺が覚えている以上に死に繰り返して此処にいる。本当は違うのかもしれない。でも、その可能性の方が高い。

ならば、どうするか? 先ずは死なない事。でも、コレが一番難しい。

忘れない事、コレは不可能だ。理由は知らない。だが、予想は出来る。

最後に、常に最良を重ね続ける。これも、不可能だ。物事の良し悪し等は常に移り変わる。

(難題過ぎるな)

こんな事を考える事が出来るのは、落ち着いてきたからだろう

『主、四分立ちました。今からゆっくりと歩いていけば、丁度五分です』

「…行こう」

恭也さん。盗ませて貰います。己が出来る範囲の全てを

でも、それ自体が甘い事だった。

首筋に木刀を突きつけられる。切っ先は頚動脈に当っている。突きを放った瞬間にコレだ。仕切り直し

最初と同じように突きを繰り出し、一歩踏み込む。避けられるのは当たり前。故に薙ぐ。
それも避けられる。

コツンと棒に木刀を当てられ、軸がブレる。

(デタラメすぎる!!)

棒の何処を叩けば良いか等、分かる筈も無い。常に間合いは変化する。力の加減、軌道。その全てを見極めなければならない。
何で…そんな事が出来るんだ!!

驚愕とブレた軌道を修正する為に力んだ為に、動きが少しだけズレる

足を打たれ、注意される。その間に二回殺される。

我武者羅になってはいけない。

常に冷静にならなければ成らない。

常に平静でなければ成らない

常に体力を考えなければ成らない

常に警戒し集中しなければ……盗む事等出来る筈も無い。

ソレが焦りを生む。心に波が立つ。思考に無駄が入る。俺はそのまま気絶した








side 高町恭也




「一回」

首筋に木刀を触れさせる。仕切り直す

「二回、三回」

「くっ!!」

この子は予想以上に動く。元からそのつもりだったが…コレは面白いな。少し、レベルを下げる

「足運びが単調になっているぞ!!」

足を打つ

「間合いがずれている」

棒を思いっきり弾く

「焦るな。今の君では勝てない」

容赦無く打ちのめす。

気絶した良哉君を木陰に寝かせて時計を確認する。十分か…

「以外に持ったな」

俺の予想では長くても七分。早ければ三分程で気絶する様にしていたんだが…
こうやって、誰かを鍛えようとすると何時も父の大きさを思い知らされる。何時も、自身の未熟を感じてしまう。
教えるという事は、今までの自分を見直す事でも有る。余計に己の未熟が見えてくる。
それでも、この子は他の何者でもない『俺』が育てたい。

その瞳に灯っている光は何なのか? 知っている。覚悟だ。
俺にも父にも義妹にもソレは見れる。
ならば、その光と共に在る輝きは何だ? 知っている。諦めだ。
俺は知っている。諦めるという行為を。俺は現状では義妹よりも強い。だが父より弱く叔母よりも弱い。
本気を出した忍の腕力にも叶う筈も無く。知識も劣っている。
だから、諦めた。しかし、諦め切れなかった。故に鍛え続けている。後、五年もしないうちに義妹は俺より強くなる。『才』の違いだ。俺にも有るが義妹の方が優れている。それでも諦めきれないから、強く成りたいと常に思っている。

故に、知っている。その二つの光に隠れているモノの名前を。

反骨心。抗い続ける気概。

「早く起きろ、良哉」

木刀を振りながら、声を出す

「盗んで見せろ、良哉」

強く踏み込み、風を切る。想定した相手を切り捨てる

「俺も、お前も…まだまだ強く成れる」

だから、早く起きろ





side out


明智良哉が眼を覚ましたのは三十分後の事だった。その後も、五分~十分試合をしては、三十分から一時間気絶するを繰り返す。
高町恭也からすれば気疲れする事は有っても、肉体的に疲れる事は無い。
明智良哉からすれば、精神的にも肉体的にも疲れ果てる。今日より二週間、鍛錬に出ては高町恭也に背負われて帰宅するのが朝の日課に成った。

人とは慣れる生き物だ。どんな過酷な環境に居ても一握りの命が適応する様に。
常に死が背後に居る。目的が有る。明智良哉は必死に成る。コレは当たり前の事だ。
気絶から回復する時間は短くなり。常に長物を全力で振るう肉体はそれに適した筋肉を作り始める。
ソレと同時に、高町恭也は戦い方を教える。木刀だけではない。打撃、蹴り、投げ、投擲を使う。
つまり、ソレも使わなければ己を鍛える時間が極端に減る。所詮は付け焼刃。
しかし、ソレを使い続ければ? ソレは一流に届かなくとも二流には成る。例え、ソレが数年、十数年先の事だとしてもだ。
明智良哉は思い始める。噛み砕き始める。少しづつ、一歩一歩成長していく。
時には棒を分けて、二刀モドキを使いさえする。貪欲に成る。
得物が二つ在るならばと、一つを囮にして刀の様に振るう事さえする。そのドレもが幼稚だが、一つ。また一つと訂正される事により、型が出来ていく。整えられていく。
後は繰り返しになる。
其の侭、一ヶ月が経ち、十月の半ばに成った。既に、前回とは大幅にズレている。

つまり


「ん? 久しいな。明智」

「そうですね。シグナムさんと…」

「この子はヴィータだ。一緒に住んでいる…腹違いの妹だ。」


出会いも変わる











【あとがき】

休みを寄越せと叫びたい。BINです。
さもなくば、書類関係自筆ではなくキーボードにしてくれと…無理なのは分かってるけどね。
さて、順調にヒロインからヒーローに進化し始めている良哉ですが…やっぱり、ヒロインだと思うんだ!!

人物設定てきなもの?


高町恭也

海鳴の兄貴
なのはの兄。とらハフラグは未だに残っている模様
強くなる事に貪欲なバトルジャンキー

「俺は…まだ強く成れる!!」


月村忍

夜の一族当主。すずかの姉
もしかしたら、良哉の義姉に成って居たかもしれない人
恭也をゲットした人。でも、牽制はしている模様
マッド。天才
ファラリスと会わせるとダメな人

「女医? どうしてやろうかしら…」

明智良哉

眼帯。無節操(いろんな意味で)
少しずつ、強くなっている。
でも、シグシグに勝てそうも無い。
好物はアイス(バニラ・抹茶)
大好物はたい焼き(チーズ)
すずか、回避中。…でも

「砂漠葬送!!」
   ↑
氷村戦ラストだとこんな感じ


ルーダー・アルベルト

アースラの兄貴。主夫
地球の料理に目覚めつつある。
ビール大好き。でも焼酎も好き。
恭也とは釣り仲間になった。
密かに、地球の武術を訓練している。
後、なのはとかの監視もしている。ボディーガードとも言う


ファラリス・アテンザ

月村忍と会わせてはいけない人
混ぜるな危険。
実は、良哉のサポート等の為に来ている。
(リンディはラプラスの事を知らない)
ハッカーでも有る。技術の差。
イロイロとヤッテイル
最近、株を始める。儲かったら温泉とか行きたいなぁとか思ってる
日本酒が好き

「四季折々って…私には辛いわ」

寒い方が好き


こんな所かな? それじゃあ、お休み





[5159] ループの五ノ七(ヴィが活躍?)
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/05/22 00:52




その日、私は久しぶりの暇な時間に手持ち無沙汰に成って居た。
今まで過ごした時間は戦いの連続で、これ程までにゆったりと出来るような事は無かったのだ。
ソレは、私を含めたヴォルケンリッター全員がそうだろうと思う。しかし、私以外はソレゾレ何をするのかを決めているようだった。

翌々思い出せば、シャマルは『家事』その中でも特に『料理』に興味が在るようで良く主はやての手伝いをしている。
この間、ホットケーキなる物を作っていた。味は…普通だった。美味くも無ければ不味くも無い。

ザフィーラは、狼形態で主の近くに居る。時々、咽元や頭を撫でられている。あいつは特にする事が無いのではなく。四六時中主を護る為に傍に控えている。
盾の守護獣だからだろう。

ヴィータは良く外に行く。ゲートボールというスポーツ。球技が面白いと言っている。
まぁ、その縁で私も源蔵氏の道場でアルバイトをしているのだから文句は言わない。しかし、あの口調は出来るだけ直して貰いたい。騎士として
ヴィータは今日もゲートボールをしに行くようだ。

さて…どうした物か? 私としては誰かと共に行動するのが一番良いと思うのだが…

シャマル→美味くも無く不味くも無い料理を作り、食べる事になる。

ザフィーラ→主と一緒。しかし、会話が続かない。喋るのは苦手なのだ。特に主位の世代に面白いと思える様な話題が無い。古代ベルカに有った話などは既にしてしまっている

ヴィータ→ゲートボール。…興味は有るが。性に合わない気がする。しかし、ヴィータは外に行く。誰かに会えるかも知れない。
考えてみれば、ゆっくりとこの町を歩いた事は少ない。最近では…

(明智を背負った時ぐらいか…フム)

ヴィータと行動しよう。何だか、少年に会えそうな気がする。それに、会えずともゲートボールには源蔵氏も参加している。話し相手には困らないだろう。将棋も負け越しているし…

「ヴィータ」

「何だ? コレからゲートボールに行くんだから手短にしてくれよ?」


最初は渋ったが、帰りにアイスを買ってやると言ったら気前良く了承してくれた

「べ、別にアイスに釣られた訳じゃねぇーからな!!」

「分かったから行くぞ」

「お、おい!! 待てって!! ……アイスはバニラだからな!!」

ふむ…そう言えば、こうやって仲間と平和な町を歩くのは何時振りだろうか











その日は少々特別な日だった。既に過去形な当たりが、自分が途轍もない親不孝者だと教えている。
しかし、既に自分の中で決着が付いているモノに他人にどうこう言われたく無いと思う自分も居る。
攻められるべきなのだろう。過去にするなと。何時までも持ち続けろと。
それでも、コレを持ち続ければ何時か潰れるのは自分自身だという事を理解している。だからこそ、捨てた。
偶に思い出せば良い。自分の都合の良い思い出を…事実と一緒に

「良哉?」

「はい? 何ですかルーダーさん」

朝食後のリビング。ファラリスさんはジョギングに行き。ルーダーさんは洗い物が終わったのでソファーで寛ぎながらテレビを見ている。
最近、この時間に成るとフラリと外に出て行くのに今日は家でダラダラとしている。

(この人…仕事が無かったら只の主夫なんじゃ…)

「今日は特に何も無いんだろ?」

「はい…そうですけど」

今日は恭也さんとの鍛錬も早く終わった。今日はデートらしい。大学の単位で落とせない授業も有るとも言っていた。
失いたく無い人が居るのなら、その人との時間は大事にするべきだ。
護りたい人が居るのなら、その人の近くに居るべきだ。
人の腕は自分が思っているほど長くなくて、人の手は思っているほど多くを掴めない。
ならば、共に居る時間を愛し育むのが正しい。

(俺には…出来なかったしなぁ…)

恐らく出来ないのだろう。最終的な目標は有る。でも、それ以上に求めてしまうのは人の業なのだろう。

「だったら、外でも歩いて来い。鍛錬鍛錬で気分転換もマトモに出来てねぇんだろ? やる事無いなら外で買い食いでもしながらノンビリして来い。」

「…そう…ですね。そうします」

「おう、行って来い」






「あっ、盆栽の手入れしてから行きます」

「……手早くな。(あの野郎、仲間が少ないからって良哉を引き込むなよなぁ)」











もう、この国では秋も半ばだというのに日差しは強い。コレも地球温暖化というモノの影響らしいが、夏よりは過ごしやすい。
私の先を歩くヴィータは機嫌が良いのか、今にも歌いだしそうな感じだ。こうやって、落ち着ける時間で考え直せば仕方が無い事なのだろうと思う。
ヴィータは凡そ十歳~八歳程度の肉体年齢だ。精神年齢はソレより高いが、こうも平和だとその子供らしさが出るのは仕方の無い事なのだろう。

(こんな事を考えられるのも…主のお蔭か)

私達を人として扱う優しい主。

私達を受け入れてくれた強い少女。

(このまま…何事も無い日々が続いてくれるのならば…)

幸せなのだろう。

公園に着くと、既に数人のご老体が集まっていた。そして、ヴィータを見つけると元気に声を出して手を振る。
こういった光景は、どの時代でも、どの世界でも美しく暖かいと思う。
こんも光景を護る為に戦うのならば、その先に死が待ち受けていたとしても本望と思う事が出来るのだろう。

私のオリジナルはどうだったのだろうか?

私と同じ事を考えたのだろうか?

私と同じ事を感じたのだろうか?

私と同じく、その中に修羅を飼っていたのだろうか?

正直に言えば、私は戦うのが好きだ。己の強さが分かる。相手の強さが分かる。技を競える。
何よりも、心が叫ぶ。猛る。
ソコに魔法が無くとも良い。強き武がアレば良い。知らないモノを知れる喜び。ソレを乗り越える悦び。
しかし、この平穏が続くのならば。剣を鞘に収めた儘でもいい気がしてくる。

「何を笑っているのかな? シグナムさん」

「いえ、この様な場所に居ても戦う事を考えている自分がオカシクなっただけです。源蔵氏」

柴源蔵。あの少年、明智良哉の元師匠。あの一撃は私も見ていた。無駄が一切無い綺麗な…背筋が冷えた綺麗な一太刀。
体が疲れきっていたから出来たであろうあの一撃。
あの少年とはもう一度逢いたい。会って見たい。あの少年は今、どんな目をしているのか? どれ程強くなったのか?
気に成る。気に成るが…此処でその話を出すほど空気を読めない訳では無い
主に鍛えられたからな。

「それは、性じゃよ。ワシだってそうじゃ。今でも刀を持つと気が若返る。心が震える。ワシが俺に成る。」

「その様です。」

やはり、ヴィータに着いて来て良かったようだ。
ゲートボールのルールが分からないので、面白みが分からなかったが。コッチはコッチで将棋をしていたので、暇ではなかった。
挨拶をして、公園を出る。
その帰りに因るのは近くのコンビニ。アイスを買わなければ成らない。約束したしな

「…ハーゲ○ダ○ツ買っていいか?」

「ホー○ラ○バーにしろ」

いらっしゃいませー!! と店員が声を出す。何故か入り口を見てしまう。すると、そこに居たのは

「ん? 久しいな。明智」

「そうですね。シグナムさんと…」

「この子はヴィータだ。一緒に住んでいる…腹違いの妹だ。」

未だにアイスで迷っている、ヴィータは置いておく。其の侭、話しが続かなくなる。
困った、話題が無い。

「え~っと…シグナムさんもアイスを買いに?」

「いや、私は付き合いだ。明智はアイスを買いに来たのか?」

「そうですよ? 好物ですし、風呂上りに食べたいので…」

そう言いながら明智は、ヴィータが未だに迷っているアイス…ハー○ンダッ○バニラを五つほど籠に入れた後、抹茶を三つ籠に入れた。
その姿を見るヴィータが聞く

「なぁ…ソレ、ドレ位で食べ終わる?」

何を言っているのだろうか? 普通に考えて、八日だろう。そう言おうとして

「三日ですけど?」

「だよな!! ソレ位食べるよな!!」

何も言えなくなった。私がオカシイのだろうか?
私の隣で何やら話し込む二人。アイスはアイスでは無いのか? 殆どの商品が似た味じゃないのか?
○ーゲ○ダ○ツは少々高いと思うのは私だけか?
正直に言おう。話に付いていけない。何処か大人と間違える様な雰囲気を持っていたと思った少年も、やはり年頃の少年だったか…
まぁ、ソレは良い。兎に角、会計を済まして帰ろう。昼食もまだなのだ、遅くなると主が心配する。
私が二人の話に入ろうとしたら、既に二人はレジに並んでいた。

「それでは、シグナムさん、ヴィータさん。俺はコレで」

「おう、車に気を付けろよな」

本当に打ち解けたような二人を観ると、やはり私達は変わったのだと思った。私も、「またな」と短く明智に言い。踵を返す。
ヴィータは嬉しそうに笑っていた。

「惚れたのか?」

からかい半分で言う。コレぐらいは許して欲しい

「な?! バカ!! チゲーよ!! アイス奢って貰ったから良い奴だなって思っただけだ!!」

その姿を見て笑う。そんな私を見て憤慨するヴィータ。ソロソロからかうのを止めようかと思った。その瞬間……視界の隅で何かが光った。
自然とソレを視線で追ってしまう。振り向けばこちらに背を向けて歩く明智。赤信号で止まっている。距離は五十mも無い。三十m位だ。
体は臨戦態勢に入っていた。確かに感じた強い悪意。そして、視界の隅で奔った光。
まさかと考えた自分が、一瞬引き止める。有り得なくは無いと考える自分が戸惑わせる。
明智は気付いていない。

(ダメだ!! 間に合わない!!)

一瞬の思考がタイミングを遅らせる。家々を囲む塀が死角になっていて気付けなかった。トラックが煙を上げて飛び出してきている。

「明智!!」

声は届く。しかし、手は届かない。

続けて聞こえた爆音。トラックが爆発した音が辺りに響いた。











挨拶をして背を向ける。やはり、ヴィータさんとは話しが合う。出来る事なら……戦いたくない。
『出来る事なら』という微かな希望が有る分だけ、嫌になる。
闇の書事件、高町達が解決した大きな事件。コレを機に管理局はヴォルケンリッターと夜天の主を手に入れる。言い方が悪いかも知れないが、ソレが正しい判断だ。
八神はやての事も考えたのだろう。それに、大きすぎる力は野放しにはして置け無い。誰かに狙われれば、ヴォルケンリッターが動く。それだけで事件が起きる。
管理局内でもソレが無いとは言えないが、対処はしやすい。
それに、聖王協会も嗅ぎ付ける。其処から、互いの協力関係…繋がりも増す。問題も有るが。大きい目で見ればメリットの方が大きい。
八神はやては、成功を収める。コレは俺が知る未来の事だが、ソレが事実だ。彼女を慕い。彼女に憧れ、彼女の様に成りたいと思う人材が新たに局に入る。
この事件が俺の知る通りに解決するのならば、コレで管理局は陸海空の三つの部署に大きな看板を持つ。持てる未来が、持ったという事実が残る。

(…彼女達や民衆、管理局内の真実を知らない者、知る者がどう言をうと…)

赤信号に運悪く捕まり、下らない事を考えてしまった。此処の信号は切り替わるのが遅いので、仕方が無い。
信号は今だ変わらず。秋だというのに強い日差しに辟易する。アイスが溶ける前に帰りたい。

「明智!!」

声が聞こえ、振り返ろうとして体が固まった。トラックが突っ込んでくる。
大丈夫、まだ逃げれる。しかし運悪く、此処にはヴォルケンリッターが居る。魔法は使えない。脳内のリミッターを解除しようにも、手順が有る。
それに

(何で、運転手が焼け死んでいる?!)

その事に、体が硬直した。こんな事件は無かった。いや、有ってはならない。此処は俺が生まれた世界だ。
魔法というモノは確かに在った。吸血鬼の一族も居た。馬鹿げた身体能力を持つ人間も居る。それでも、コレは認めたく無い。
何処の誰にも気付かれずに、移動している人間を焼き殺す事等不可能だ。
近づいてくるトラック。運転手だったモノの顔がハッキリと見えた。驚きと苦痛にが入り混じった様な表情。

(こんな所で?!)

体が無理やり動かされ、爆音が聞こえた。

痛みは無い。綺麗に一瞬で死ねたのだろうか? 体が焼けるような痛みも、痺れる感覚も無い

「おい!! 大丈夫か?!」

「ヴィ…ヴィータさん?」

俺はヴィータさんに助けられた。















【あとがき】

休みが実感できません。一日休みが有っても、休めなかったら意味が無い。家族を怨みます。
部屋の掃除がしたい…夜だと家族が五月蝿いから出来ないし…

さて、皆さんはシグナムやらはやて√と考えているようですが…違うよ? 嘘吐きですから♪

感想はチョット待って、今日も早く、遅い。休みよ速く来い。

恒例? の人物紹介


高町恭也

海鳴の兄貴
現在、忍と授業中。
その二人を見ている赤星は糖が不足中
何気にというか、スパルタ。


クロノ・ハラオウン

良哉の兄貴分
現在、良哉の為にイロイロとやっている
ミッドでの予定とか…執務官試験の為の授業とか
エイミーにも手伝って貰っている。
最近、エイミィのチョットした仕草にドキっとしたりしている。
フェイトの裁判でも活躍中。


エイミィ・リミエッタ

現在、クロノのお手伝い中。
真剣なクロノにドキっとする事が多々在る。

リア充自重してくれ


シグナム

以外と空気が読めるかも?しれない。所詮は可能性
やっぱり、戦闘狂。将棋が趣味になり始めている
アイスはサッパリ。
今回、役立たず。仕方が無い、ヴォルケンのリーダーだから


ヴィータ

A,Sヒーロー。
良哉の恩人。アイス仲間。ロリ、でも合法
ロマン装備の幼女。作者は間違えて「ウィーター!!」と言った事が有る
今回、一番活躍した人
でも、アイスがダメに成ったのでチョット悲しい
アイスの違いが分かる幼女

「だから、アイツは友達だって言ってるだろぉ?!」


明智良哉

主人公。でも、ヒロインっぽい
窮地を幼女に救われる。恋は始まらない。寧ろ、させたく無い
眼帯。義眼。微妙にシグナムに狙われている。
恭也の弟子。でも、御神不破流ではなく戦闘の
只では起きない子。
アイスの違いが分かる少年

「この世界が、一番危ないのでは無いだろうか?」

こんな所かな? それでは、おやすみなさい



[5159] ループの五ノ八
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/05/31 23:39



九死に一生を得る。まさにその通りの状況で、俺は助かった。
後ろで俺を抱えているヴィータさんには感謝してもしきれない。それでも、一言だけ言わせて欲しい
場違いなのは分かっている。それでも、コレだけは譲れない

「大丈夫か?」

「はい…力、強いんですね。ヴィータさん」

「ま、まぁな!! アタシ位になるとお前ぐらいは軽いんだよ!!」

そういうモノではないと思うが…この人達、特に前線にでるシグナム、ヴィータ、ザフィーラは力が強い。
それに反して、後衛のシャマルは力が弱いが参謀という立場で違う意味での強さがある。
確か、そうだった筈だ。

「あの…」

「どうした? どっか怪我したのか?!」

「あの…そうじゃなくて…」











「…降ろして下さい」

お姫様抱っこは、ちょっと…

「………すまねぇ」

何とも言えない空気が当たりを支配した













少年は助かった。ヴィータの行動に感謝する。自分が不甲斐無いと思いもするが、どうにも引っかかる事が有り。私はヴィータに声を掛け家に戻る事にした。
ヴィータにも話そうかと思ったが、暫くは黙っておく事にする。私の考えている事は普通ならば有り得ない。
だが…人とは複雑なモノなのだ。出来れば、一方的なモノで有って欲しいと考えてしまう。

「ただいま帰りました」

「ただいま!!」

「おかえりーシグナム、ヴィータ」

家に帰れば、主が笑顔で声を掛けてくれる。あぁ、やはり今、この瞬間に生きている私達は幸せなのだろう。

幸せな時間は早く過ぎる。ソレはそれだけその時間が大切だからだ。私はそう思う。
故に、私は自らこの時間を断ち切る。またこの時間を大切にする為に

「…と、いう事なんだシャマル。出来るか?」

う~んと唸る湖の騎士。

「出来るけど…良いのかしら?」

何がいけないと言うのだ?

「だって、ソレってその子のプライベートまで覗くって事でしょ?」

待て

「それに…話を聞く限り、その子…良哉君? はまだ、子供だし…シグナムにそんな趣味があったなんて」

「何をどうまちがったらそうなる?!」

「? えっと…シグナムはその良哉君が何かに狙われてるっポイから心配で、その子を護る為に監視をしようと…」

だいたい合ってる。合ってはいるが…

「違う!! 私は明智の監視をしながら、奴が怨みかっているかも知れぬ輩を見つけようとだな…」

「あ、そういう事。でも…やっぱり私は反対かなぁ。どの道、その子のプライベートを覗き見る事になるし…」

確かにそうだが…コレは明智の命に関わる。あの一瞬の閃光。感じた悪意とそれに隠された殺意。
やはり、了解を取るべきだろうか? しかし、そうすると…私たちの事を話さなければならない。
それは、どうかと思う。その様な力が在ると言う事を教えるだけでも良いのかも知れないが、もしソレに強い興味を持たれてしまったら危ないかもしれない。
私達を含め闇の書はロストロギアと呼ばれる『失われた技術・現状では再現不可能な技術』で創られたモノだ。
管理局が何処から来るのかも分からない。子供のいう事だが、ソレが広まりでもすれば分からない。
私の心配のし過ぎなのだろうが…此方を知らない。ましてや縁の無い人間を引き込むのは止めた方が良いのだろう。

「すまないが…頼む」

「ハァ…貴女ならそう言うと思っていたわ、シグナム。明日から始めるから、今日はもう終りにしましょう?」

「そうだな。主はやても今日は良い事が有ったのか、豪勢にいくと言っていたしな」

スマンな明智。











「まぁ、そうなるか…仕方ねぇ。時々でも良いから気にかけてみるか」

アイス奢ってくれたしなぁ

紅い少女がコッソリっと聞いていた。











所変わって明智良哉は、警察からの事情聴取からの帰宅途中だった。保護者として来たルーダーとファラリスと買い物をしての帰り道だった。
町を赤く染め上げる夕日が伸ばす三つの影。左から大・小・中の順に揺れている。影は全て繋がって居て、影だけ見れば仲の良い家族を連想できる光景だった。
事の始まりはルーダーの一言。

「…マリア……何してるかなぁ」

と言う、親馬鹿…ではなく。馬鹿親発言にファラリスが便乗した。只それだけだ。

「…娘に逢いたい」

「思い出すんなら、手を繋がなければ良いじゃない」

「親馬鹿ですねー」

会話は絶対に家族がする物ではなかった。そんな事を言いながら、ふと何かを思い出したかのようにルーダーが言う

「良哉、お前がミッドに来る時は家に居候だからな?」

「「は?」」

ルーダーは続ける

「クロノ執務官とリンディ提督とも話したんだがな。お前が管理局員に成るんだったら、短期プログラムを軍学校で行わないと成らない。その間、お前は住む所が必要になる。学校に寮は有るが…どうにもなぁ。」

「寮に何か有るんですか?」

良哉の質問に、ルーダーは苦虫を噛締めた様な顔になり言う

「寮は相部屋が殆どだ。短期プログラムを受けるのはエリートとかだしな。簡単に言うとチョッカイ掛けてくるのが居るんだよ。唾付けておこうとする奴とか…。局に影響力を持つ家柄の奴等が居る事には居るし…俺達三人の考えからして、お前にはまだ要らない柵だ。そういうのは、早く持ちすぎると碌な事にならない。」

「…つまり、純粋な実力で局に上げるって事?」

ファラリスの言葉にルーダーは頷く。

「その通りだ。提督達もハラオウンの名前は控えるから、俺の推薦に成る。俺自身は局…と言うかエースでも看板でもないからな。ポッと出エリートっていうか…そんなのだから梃入れは略無い。後輩も何人か居るから其処は信頼できる。その分、辛口に成るのは間違い無いが…」

「良いですよ? ルーダーさんの家族にも興味は有りますし。迷惑でなければ」

良哉の答えに機嫌を良くしてルーダは続ける

「なら、その方向で行くか。明日、明後日には報告を上げるからな、執務官やテスタロッサお嬢ちゃんに伝言が有るなら伝えておくぞ?」

「特には無いですね。あっ、クロノさんに帰ったら模擬戦宜しくお願いしますと」

「私もエイミィに、妹に変な事教えてたら…って伝えておいて」

「…怖いな…お前等」

ルーダーはそう言いながら、スーパーのビニール袋の中から小さな酒瓶を気付かれない様に取り出して静かに、そして素早く、後ろに投げた。

ガチャンとガラスが割れる音がして、他の二人は驚いて振り向いたがそれだけだった。

(…気の所為か? でも確かに胸糞悪い気配が…)

「どうしたんですか?」

「うんにゃ、何でも無い。ただ、今日はビール三本にして欲しいかなぁっと」

「二本ですよ?」

「二本よ?」

「お前等冷てぇ」

この時、良哉がラプラスを起動させていればこの異変にも気付けたかもしれない。
残念な事に、ラプラスは起動していない。全ては強くなる為に、日常生活では片目で過ごしている為の失敗だった。
人の体は五感の内一つを失うと、欠落した部分を補おうと鋭敏化する。片方の視力が無くなった人間もソレに当てはまる。
ソレが情報を得るための機関ならば、尚更だ。五感全てがそうだが、視力はかなり重要な位置にある。触覚・聴覚・嗅覚・味覚が鋭敏になる。
ソレが五感。しかし、第六感は鍛えられない。ソレは天性の物で有ったり、長い経験から体が察知する物である。

長い経験は有っても、良哉は知識のみしかも欠落した部分も有る。コレは適応されない。

死の影は何処までも、近くに潜んでいる













【休みを下さい。】

上司よ、休みを寄越せ。それか残業させろ!! 以外と仕事人間気質が在る事に最近気付いたBINです。

さぁ、死亡フラグが見えてきました。
良くある様な話しですが・・・仕方が無い。文才とか無いもの
せめて、皆様の予想を出来るだけ裏切りたいと思いますが・・・ムリポ
ループだからなぁ・・・殺すの簡単でも生かすのが・・・ヘタに障害残すとやりにくくなるし

あっ、因みにですが↑に次回予告が隠れています。隠れていませんが

簡単な人物紹介

明智良哉

ヒロインっぽい主人公。
スペランカー二代目。(感想サンクス)
眼帯。
今回、A.s後の路線が固まる。
五感鋭敏化中

ルーダー・アドべルト

仕事人。兄貴・やる時はヤル漢。
何かに気付く。親馬鹿ならぬ馬鹿親
ビール大好き。

クロノ・ハラオウン

無印ヒーロー。今は未定
良哉の兄貴分。
良哉の将来を考えている模様。
でも、エイミィと何だか良い感じ

リンディ・ハラオウン

人妻。未亡人。アースラの母。
クロノとエイミィの雰囲気に微笑が止まらない。
最近、孫の名前を考え初めているらしい。


フェイト・テスタロッサ

魔王の嫁。
最近、抱き枕から良い匂いが消えて困っている。
抱き癖が付く。
裁縫を始めた


シグナム

烈火の騎士。エアブレイカー
ショタ疑惑浮上。シャマルゥの所為
良哉の監視を始める。


ヴィータ

幼女。ヒーロー?
ロマン装備を持つ漢な娘
シグナムの話を盗み聞き。
餌付けされかけている。
ハーゲンはやっぱり高いと思うが美味い。


それではお休み




[5159] ループの五ノ九
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/06/11 23:06


正直な所、聞くんじゃ無かったと思っている。
朝も早くから私を叩き起こしたシグナムを、軽く怨む。
私だって眠いのよ? でも、あんな風に頭を下げられたら協力して上げたくなるじゃない。
仲間だし・・・家族なんだし。

でも・・・

「違う、ソレはフェイントだ」

コレは・・・

「むぅ・・・アレを流せるのか・・・荒いが中々・・・」

無いと思うのよねぇ・・・

(あっ、今日はスーパーの特売日だったけ? 後ではやてちゃんに聞いて置かないと)


八神家の朝は、何時も通りに平和だった。











(監視されている)

朝、明智良哉が家を出て最初に思ったことである。

神社までの道のりは、高町恭也とのランニングから始まる。このランニングの後は何時ものように五分の休憩を挟んでいる。
人間とは慣れる生き物だ。でも、それは同じ事を繰り返しているという条件が有ってのもの。
慣れる前に、本当に慣れる少し前に走る距離が伸びる。それだけで、慣れるのに時間が掛る。

高町恭也はそうやって明智良哉の体力の底上げを行っている。

基本的に高町恭也が教えるのは戦い方だが、ソレは体力が有ってのモノだ。
戦闘を行い。勝てる見込みが無ければ逃げる。コレを行うだけでも馬鹿みたいに体力を消費する。
死ぬかもしれないと言う危機感は、怖ろしい程に体力を消費させる。精神を磨り減らす。
長い道のりになったランニング。ソレに消費する時間は徐々にだが少なくなる。ソレは慣れて来たという証拠。

高町恭也は考える

(そろそろ・・・いや、今は此の侭の距離で止めておくか)

何と言をうと明智良哉は今だ十歳の子供。鍛えすぎるとこれからの成長に害を及ぼす。特に身体的にだ。
その辺りの事も考えなくてはならない。その事を考えながら何時も父の大きさを再認する。

力ではない。その大きさ・・・今だに勝てる気がしない

(本当に大きいな)

人を育てるという事の難しさ。父は笑いながらこなしていた。自分も楽しんでいたのだろう。その事には共感が出来る。

少しづつ、一歩一歩変わっていくその様子を見ていると此方も楽しくなる。
成長とは素晴らしく羨ましいモノだ。自分が成長するのには今の彼以上の訓練と努力が必要だ。ソレも何ヶ月に一歩という程のスピードで。
ソレに不満は無い。成長できる事には変わりが無いのだから。

そして、今日の訓練は何時もと違い明智良哉の体力がどれ程のモノになったのかを見極めるモノにした。
理由は視線である。俺達を見ているのではなく。俺達を含めたこの辺りを見ている様な視線が在ったからだ。
良哉も辺りを警戒しているようだ。全く、何処の誰かは知らないが・・・

「困った事をしてくれる」

「何か言いましたか? 恭也さん」

「いや、何でも無い。ソレより、準備は良いか? 良哉」

「はい!!」

俺達は棒と木刀を打ち合わせた

フェイントを織り交ぜ、時には武器を手放しての徒手格闘を行う。俺が教えた事の一つ。

拳は余り使うなという事。

拳は傷つきやすい人の体を壊すのならば、外を壊すよりも内側からの方が何かと便利だという事だ。
確かに骨を折ったり肉を抉ったりとすれば、此方の方が相手に与える痛み等は上だろう。しかし、ソレを行う人の体はそうも行かない。
得物が有るのならば良い。しかし、無ければ元から備わっている武器・・・四肢を使わなければならない。

勿論、そういった所も鍛えてはいる。それでも、傷つく。

故に掌を使う事教えた。体の効率的な動かし方も同時に教えた。特に体の捻り方、腕の突き出し方、踏み込みをだ。
未だに、合格点を出せるのは体の捻り方だ。棒を使う時にもその捻りが出ている。流しにくい突きを・・・その最初の一歩を出せるようになったと、忍を相手に嘗めるほどにしか飲めない酒を飲んだのはこの間の事だ。
教えられた事を理解し、自分なりに噛み砕き、己の物にする。自分には出来すぎた生徒なのでは無いかと思う事も有る。

そして

「はっ!!」

「っ?! 甘い!!」

コレだ。衝撃が僅かだが防御を無視して届いた。否、『衝撃が徹った』のだ。
面白い。本当に俺から盗み、自分の物にしようと足掻いているその姿が素晴らしい。俺も燻っては居られないと、再認する。
まだだ、まだ、『徹』には届かない。しかし、その一歩はモノにし始めている。五発に一発は出来かけている。

教えてみたいと思うが、教える事は出来ない。そうすれば、自分を抑えるのが難しくなる。俺はより一層、辛い鍛錬を行うだろう。

互いが強くなる為に、何時か、俺がこの子と戦う為に



恭也さんとの訓練は何時もギリギリのモノだ。油断をすれば容赦なく叩き潰される。
打ち込まれる打撃、斬撃を受け流すのは自分でも旨くなったと思う。
それでも、何一つ敵わない。ソレに腐る事は無い。
俺は幾度も負けてきた。何度も勝った。幾度も死んで繰り返した。今更、この程度の事で腐っては居られない。
得物の、拳の、蹴りの遣り取りに頭の中が熱く成る。でも、ソレは直ぐに鎮火させる。
感情を剥き出しにして戦うのも一つの方法だ。感情の爆発は肉体にも影響を及ぼす。勿論、デメリットも有る。
だから、使わない。感情を剥き出しにするという事は自分を曝け出す事。自分の考えを読まれやすくなるという事。
そんな事をされれば俺みたいな奴は直ぐに負ける。

頭は冷たくする。滾るものは胸に秘めておけば良い。ソレは少し前に学んだ事だ。

冷静な部分が考えて答えを出す。監視の事だ。恐らく、監視しているのはヴォルケンリッター
近々、会って置かなくてはならない。










ソレは模擬戦なのだろう。訓練なのだろう。実践さながらの闘いは私の血を滾らせるのに十分なものだった。

互いの得物を捨てての徒手空拳。その勝負が付けば互いに得物を拾ってもう一勝負。連戦に次ぐ連戦。負けるのは何時も明智少年。勝つのは、あの少年と病院で会った時に居た黒尽くめの青年。
私はソレをみて思う

楽しそうだと。面白そうだと。

闘いから離れて数ヶ月しか経っていない。いや、経って閉まったと言うべきなのだろうか。出来る事ならあの場に混ざりたい。
剣を合わせたい。
少年は強くなっている。あの時よりも確実に強くなっている。残念で成らない。
もし、あのまま道場に通っていたのなら・・・
止めよう。過ぎた事は変わらない。その模擬戦も終り、時計を見ると私が映像を見始めて二十分程しか足ってなかった。

「・・・羨ましいな」

「何言ってるの。心優しき主が居て、私達に人としての衣食住が与えられて、各々の自由が在って、趣味が有って・・・その上で、貴女は戦場を選ぶの?」

シャマルの言葉にハッとなる。

「・・・望むわけが無い。あぁ、コレは私の性分で業だ。故に物足りなくなるのは認めよう。だが・・・戦場に、主が望む筈も無い戦場に出よう等とは微塵も思わん。」

強き者と戦いたい。武人としての業だ、だが私は『騎士』だ。主の盾で在り剣。主を危険に晒す様な事はしない。

「ごめんなさい、シグナム。それと・・・」

「あぁ、監視のほうは止めよう。気付かれているしな」

全く、サーチャーからの視線に気付くなんて規格外が二人も居るとは思はなんだ。

私達はそのまま、朝食に取り掛かった。偶には主を驚かせてみたいのだ。私だって目玉焼きなら作れる。











・・・スクランブルになったがな












彼女が時折、周りを気にするようにしたのは昨日の事が原因だ。何時もの道を少し注意深く見る。
結果は同じ。不思議な事なんて何も無い。逆にソレが少女を安心させるが悩みの種になる。
そんな感じで、彼女が頭を捻る。考えても分からない事は、幾ら考えても分かる筈もない。それでも、少しは考えようと少女は思う。
普通なら、馬鹿らしいと言われるだろう。でも、気になる。
何の因果か、少女は少年を救った。ソレが原因なのかも知れない。

(まぁ、もう少し面倒を見てやるか・・・話せる奴だし、良い奴だし)

そんな事を考えながら少女・・・ヴィータは坂道を下る。右に曲がれば昨日のコンビにがある。
左に曲がれば、昨日少年を助けた十字路が有る。

「一応、アタシも観ておくか」

そう言ってヴィータは事故現場を見に足を運んだ。昨日有った事故は、既にご近所中に尾鰭背鰭をつけた状態で駆け抜けている。
少し、人の密集している所が目的地。其処に向かう途中で、知らない女性とぶつかりそうになったので、頭を下げる。
制服と呼ばれる物で身を包んだ女性からは少し、甘い匂いがしたのが印象的だった。
人混みを掻き分けて見た事故現場は何処か寂しさを感じさせた。此処で人が死んだ。

「・・・壊れて焦げた塀と被害に有った民家・・・か」

昔に見た物と同じようで違う場所には、何も感じられなかった。

そのまま、公園へと向かい。ゲートボールを行う。ソレが彼女の日常の一部に成って居た。
事故の噂は老人にまで行き届いて、自分が知らない事を知っている人間まで居た。

「へぇ~、それじゃあ、即死だったのか」

ヴィータの言葉に源蔵は答えた

「そうじゃな、ワシも教え子が愚痴ってたのを聞いただけじゃからソレ位しかしらんの・・・そう言えば可笑しな事をほざいていたな。あの馬鹿は」

「可笑しなこと?」

「ん? 何でも、運転主は事故に遭う前に死んでいた可能性が高いだとか何とかの。まぁ、そんな事より、ヴィータちゃんの番じゃぞ?」

「え? もうアタシの番か・・・不思議な事もあるもんだなぁ。」

「ハッハッハ、この世は不思議で一杯なんじゃよ。気付かないだけでな」

魔法抜きでとはいえ、シグナムに勝てるじいちゃんが居るくらいだもんなぁ

ヴィータはそんな事を思った。

そして、昼前には帰宅する。その帰り道、偶然なのか必然なのか、ヴィータは明智良哉と会う。散りあえずは声を掛ける。

「体は大丈夫か?」

「大丈夫ですよ、怪我一つしてないんですから。ヴィータさんは帰りですか? ゲートボールの」

「おう!! 何なら一緒にやってみるか?」

「遠慮しておきます。時間も合いそうにないですから」

そこで会話が無くなる。当たり前だ、出会ったのは昨日が初めてで、ヴィータは明智良哉の事を殆ど知らない。
良い奴というのは分かるが、それ以外で知っているのは自分と同じくアイス好きという事ぐらいだ。

(やべぇ、会話が続かねぇ!!)

ヴィータがそう思った瞬間に、明智良哉は口を開いた

「そうだ、今度・・・えーっと明日のお昼過ぎ位に会えますか? 警察での事情聴取の事とかをシグナムさんにも話さなきゃならないんで・・・」

「ん? えっと・・・それじゃあ、明日の二時ごろで良いか? 場所は?」

「そうですねぇ・・・人気の無い所なら神社。別に人に聞かれても良いなら駅前の喫茶店にしませんか?」

「じゃあ、それで。アタシからシグナムに言っておけば良いんだな?」

「はい、お願いします。」

そう話して、二人は別れる。

何気に、ヴィータの気拙げな空気を感じ取ってフォローする明智良哉だったりする。




【あとがき】

遅くなった。どうも、BINです。もう既に仕事に行きたくないとか考えてしまいます。
職場の人間関係が微妙です。主任と限定ですが!! 合わない人間とは居るものですねぇ・・・はぁ

それでは恒例の



明智良哉

Spelunker(本来の意味で)
眼帯。何か狙われているらしい?
尻ではない、命。
徹モドキを習得。でもソレだけ。
恭也に改造されている途中


高町恭也

規格外。海鳴の兄貴。新米先生。
とらハ設定だと、新米先生では無いが。此処はリリカル
バトルジャンキーの気が有るのは仕方が無い。
未だに過去のフラグが回りにある。
リア充


ヴィータ

紅い幼女。ハンマー幼女。ロマン装備
アイスが好物。ゲートボールが好き。
姐御肌。頼れる幼女

「漢女(おとめ)じゃねぇ!! 騎士だ!!」





[5159] ループの五ノ十
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/06/23 22:17

変わらぬ道を一人で走る。季節は既に冬と言っても良いのだろう、朝の寒さは冬の物だ。
走りながら思う。昨日の事だ、ヴィータさん達と約束したのは良い物の連絡方法を考えていなかった。後で、シグナムさんが源蔵先生に連絡を取って俺の家に連絡をくれなければどうなって居たか。

そう重いながら走る。今日は恭也さんと一緒ではない。互いに用事があるのだ仕方が無い。それでも、やる事は変わらない。
神社の階段の前まで来ると、ゆっくりと歩きながら体を休める。コレも何時もと変わらない。コレでも、体力は大分付いている。
昔のままだったら、歩く事も出来なかっただろう。やはり、恭也さんに師事したのは正解だった。
戦いの幅もそれなりに広がっている・・・と思う。得物の握り方を知るだけでも大分違うのだ。シュベルトに新たな形態が加わった。
コレは、これからモノにしていけば良い。

階段を上がる。この寒い時期、自販機の飲み物も半分はホットに成っている。それでも、スポーツ飲料は冷たいままなので特に苦には成らない。口に少しだけ含んで、ゆっくりと飲み込む。
冷たいままだと体に負担が掛る。カサカサと風に揺れる木の葉が地面に落ちる。
その中で棒を振るう。相手は居ない。イメージする。ソレが終われば木に棒を打ち込む。
何度も、何度も打ち込みながら確認する。途中から何かに見られている様な気配がし始めた。
何なんだろうか? サーチャーではない。悪意も敵意も感じない。
木に打ち込みながら考えるが答えは出ない。ガサリと茂みが揺れる。動きを止めて構えるが、其処から出てきたのは一匹の子狐。

「クゥ?」

「・・・・・・そうか、そういえば・・・お前が居るんだったな」

忘れかけていたが思い出した。子狐の久遠。恭也さんの知り合いの子狐。

「一人か?」

「クォン!!」

この子は頭が良い。此方の言葉を理解している。確か・・・

「何か飲むか?」

「クゥ?」

頭を捻る姿に少し安らぐ

「甘酒でいいか?」

「?! クォン!!」

嬉しそうに鳴く子狐に、此方も暖かい気持ちになる。思い出す、大福や油揚げも好物だったな
俺の周りをグルグルと回る久遠に微笑みながら聞いてみる

「一緒に行くか?」

「クゥ?・・・・・・クォン!!」

タタタと階段の前まで走って鳴く。

初めて会った時は警戒されたモノだが・・・今回はそんな素振りは無かったな。何かあったのだろうか?
そんな事を考えてしまうが、その思考は無駄な物だと思い切り捨てる。

「それじゃあ行くか?」

「クォン」

ゆっくりとだが階段を下りる。カサリカサリと落ち葉が落ちるのが目に映り、思い出す。

(あぁ、そうだ。まだ・・・行っていなかったな)

前回で行っていたので勘違いをしていた。本当に・・・俺はダメな人間だ。

ガチャリと自販機から甘酒が出る。ソレを取り出して気付く。久遠に飲ませるためには器が無い。今、俺が持っているのは飲みかけのスポーツ飲料の入ったペットボトルにサイフとデバイス。
どうしたモノかと考えていると

「クゥン?」

久遠が鳴いた。そこで思いつく、ペットボトルを半分にすれば良いのだ縦に。神社に戻る。久遠には競争だと言った。すると、嬉しそうに鳴いて走り出す。
周りを確認してシュベルトを起動させてペットボトルを二つに切る。
久遠が驚いたて茂みに逃げて、「クゥ~」と鳴くので直ぐにシュベルトを元に戻す。
ガサリと茂みから出てきた久遠に言う

「秘密だぞ?」

「クォン!!」

元気に鳴く久遠の前に二つに割れたペットボトルを置く、スポーツ飲料の匂いは仕方が無いが、味が混ざらないように水で洗った。
其処に、少し温くなった甘酒を入れる

「クゥ~♪」

美味しそうに甘酒を飲む子狐。ソレを観た後で、その場を後にする。

時間はまだある。シグナムさん達に会う前に、墓参り行こう



明智良哉がソレを決めた時。高町恭也は道場でイライラしていた。
その原因は、今、この瞬間にも弟子を鍛える時間を削られて居るからである。そのイラつきも飲み込み。静かに父の言葉を聞く

「恭也・・・何を隠してるんだ? 正直な所、此処最近のお前は凄い。」

何が凄いのか? 自分は全く変わっていない。強くなった訳でもない。

「何が在った? 」

父の問いに返す答えが無い恭也は、素直に疑問をぶつける

「父さん。何が言いたいんだ? 俺には何が凄いのかも分からないんだが?」

恭也の問いに、士郎は溜め息を吐きながら言う

「ハァ・・・恭也、お前は俺の息子だ。だからと言って身内贔屓でお前の事を判断はしない。特に戦いに対してだ。ストレートに言おう。お前は気付いていないようだが・・・お前は三ヶ月前より格段に強くなっている。今まででも基礎は出来ていた。しかし、基礎は基礎。それに極めるという事は無いに等しい、ソレは分かるな?」

「ああ」

「だからだ、今のお前はその基礎が以前よりも出来ている。それだけなら俺より上かも知れん。分かるか? 鍛錬の密度、経験、時間。ドレをとっても俺とお前には差が有る。俺に有利な方でだ。それが・・・追いつかれて居る・・・追いつかれ始めている。何が在った?」

恭也は士郎の言葉を聞いて合点がいく。ソレと同時に歓喜が胸の中でざわめく。
押えれているが、今にも暴発しそうなほどの歓喜。
渇望した。心より望んだ。現実に打ちのめされ、それでも諦めきれないモノに手が届いている。
何より、己の時間が無駄ではなく。有意義で有り。密かに誓っていた、思っていたモノが現実のモノとなり始めている事が何よりも嬉しかった。

共に強くなる。俺達はまだ強くなれる。

遅すぎる一歩。嫉妬してしまうような一歩。

焦る気持ち。 ざわめく思い。 

望む未来。 辿り着きたい未来

熱くなる衝動。 熱くなる願い。

それに手が届いた。父から言われた。今、己は強くなっている。

「恭也・・・何を・・・」

士郎の言葉それ以上は続かなかった。高町恭也から溢れ出す闘志、歓喜、何よりも飢えた獣の様な・・・爛々と輝く視線。
思わず鳥肌が立つ。
その異変に気付き、部屋で読書と洒落込んでいた美由希も慌てて道場に現れる。

そして、高町美由希は自分の兄弟子の有り得ない姿を見る

普段から無愛想と名高い高町恭也が子供の様に笑っている。

月村忍と結ばれてからは、非常に柔らかく成ったと家族中から言われる義兄が今まで見たことも無い位に笑っている。
その体から溢れ出るモノに、美由希は恐怖した。否、恐怖ではなく畏怖。戦いたくない。戦いたい。戦士としての、武人としての本能が真逆の事を自身に訴える。
声にならない声が出る。ソレさえも、恭也の纏うモノに掻き消されてしまう様な錯覚を覚える

高町恭也は木刀を構えると、己の父に笑いながら言う。子供の様に・・・純粋な笑顔で

「あぁ、父さん。自分を抑えられそうにも無いんだ。戦おう。戦ってくれ・・・俺が負けたら話す。父さんが負けたら話さない。それで良いだろ?」

シンプルな言葉が、高町士郎に火を灯す。

高町士郎が不破士郎に戻る。

美由希は直ぐに道場から出る。確実に巻き込まれる。巻き込まれたいと思ってしまう。
あの二人は、止められない。自身には・・・同じ自身だから分かってしまう。

今の二人は・・・

「永全不動八門一派の御神真刀流小太刀二刀術師範代高町恭也!!」

「永全不動八門一派の御神真刀流小太刀二刀術師範高町士郎!!」











「「推して参る!!」」


不破なのだ












自宅に帰った明智良哉は朝食を摂ると直ぐに家を出た。
向かう先は墓地。その行き道で偶然にもヴィータと出会う。

「オーイ、何処行くんだ?」

明智良哉からすれば、これから行く所は誰にも知られたく無い、知られては成らない場所だ。だから、直ぐに誤魔化し話を摩り替える

「買い物ですよ。今日は、神社の方で良いんですよね?」

「ん? お、おう。一応、余り聞かれたく無いからなぁ。シグナムも無駄に目立ちたくないって言ってたし」

良哉は半ば二人の答えを予測していた。未来を知るからこそ分かるのだ。街中で目だって居れば直ぐにでも管理局に知られる。
自分の知る情報では、ヴォルケンリッターの居場所が判明したのはかなり後だった筈。ならば、以前から周囲には警戒していたのだろうと

「そうですか・・・それでは、また後で」

「おう、遅れんなよ?」

「ハハハ、分かってますよ。ヴィータさん」

そう言って、分かれる。この時点で明智良哉にはミスがあった。
ラプラスを起動させない。感覚を研ぎ澄ます為の訓練の所為で、良哉は自分が狙われているという事を知らない。
無論、今もラプラスを起動させては居ない。
そして、コレは半ば忘れかかっている事だが・・・ヴィータの性格を確りと覚えて居ない事だ。
ヴォルケンリッターは総じて『義』に厚い所がある。騎士なのだからソレは当然の事だ。その中でも、ヴィータは自分の認めたモノには甘い所がある。心配性と言っても良い。そして、親分肌、姐御肌な所が在り面倒見も良い。
コレは普通ならヴィータの長所と成る。そして、彼女が人から好かれる理由にもなるだろう。
だが、長所がそのまま長所と成る事は少ない。長所は短所にもなる。
善意が悪意に変わるように、嘘が真実に成るように、この長所は、知らない内に明智良哉を追い詰める事にも成る。




少し長い坂道を登りきり門を潜る。もう来ないと誓ったのは挨拶をしてから、報告をしてから。
けじめと言う物は確りと着けて置かなければ、纏わり着く澱みとなる。

墓石を掃除する。蝋燭を立てる。来る途中で買った花を供え、線香の束に火を点ける。
ふらふらと上がる煙が視界に映る。

涙等は流れない。心が揺れる事も無い。既に決着は着いているのだ。コレは今回の繰り返しの義務出しかない。

「父さん、母さん。久しぶりで良いのかな? 俺には良く分からなくなってたよ。今の俺は、まだ一度も来てなかったって事をさ。ゴメン。親不孝者でゴメン。勝手に殺してゴメン。俺の勘違いで死なせてゴメン」

立ち上がり、墓石を背にそのまま去る。最後の言葉を残して

「もう、二度と絶対に・・・来ないから。安らかに眠ってください。」

そう言って、墓地を後にする。門を潜ると、其処には珍妙なモノが尻尾揺らして座っていた。

「クォン!!」

「何だ? 何時から着いて来たんだ久遠?」

良哉の言葉に久遠はビクリとしたが、直ぐに良哉の足に跳び付き駆け上がり頭の上に乗る。

「久遠?」

「クゥ~」

離れそうにも無い久遠に苦笑しながら、コレでも良いかと思い坂を下る。
そろそろ、待ち合わせの時間に成る。
神社まで行く道は以外に短く。階段は慣れも有ってか苦には成らない。何時も鍛錬を行う場所は自分の庭の様なモノだったが、直ぐに二人を発見できるように階段に座る。








「父さん、母さん。久しぶりで良いのかな? 俺には良く分からなくなってたよ。今の俺は、まだ一度も来てなかったって事をさ。ゴメン。親不孝者でゴメン。勝手に殺してゴメン。俺の勘違いで死なせてゴメン」

その言葉には何の感情も込められていない様に思えた。アイツに何が在ったのかをアタシは知らない。
知る様な中でもないのかもしれない。アタシはアイツの事を友達ぐらいには思ってる。話も合うし、特に退屈もしないし、良い奴だからだ。
だから、アタシはアイツが・・・良哉が分からなくなった。

何で、普通の子供がアソコまで感情を殺せてるのか?

普通なら出来やしない。普通でも出来たらいけない。出来るようになるのは修羅場潜り抜けてきた・・・その中でも最低と最悪を潜ってきたヤツぐらいだ。
ある程度になれば、感情の殺し方は分かる。分かるが解かってはいないっていう状況に成る。

でも

どうして


「もう、二度と絶対に・・・来ないから。安らかに眠ってください。」

その言葉に、そんな最低な言葉に・・・温かさが有るんだよ











「わかんねぇ・・・お前はどういう奴なんだよ・・・良哉」

人知れず吐いた言葉は、風に掻き消された













【あとがき】

何か訳がわからんモノを上げたBINです。しかも、感想がついてて嬉しかったし。

まぁ、ソレは置いておいて。シボウフラグ始めました・・・ではなく、立ちました

下はオマケ。


アースラでのヒトトキ







フェイト・テスタロッサは焦っていた。

裁判が自分に不利な方に動いている? 否

なのはへのビデオレターを送る時に、明智良哉の事を黙っている事に罪悪感を感じている? 合っては居るが、否

フェイトが焦っている事は一つ。コレは自身の生活に関わるとても大事な事だ

ある朝、フェイトは気付いた。

「匂いが・・・薄れてる!?」

主に、自分の匂いで。

ソレを観ていたアルフがチョット安心したのは秘密。

(どうしようどうしようどうしよう・・・此の侭だと・・・此の侭だと・・・)

「・・・寝れないよぉ」


フェイトは情けなく吐いた










「・・・アドベルトさんに、頼んどこうかしら?」

アースラ艦長室で、書類整理をしながらそう言ったリンディ。
覗き見していないで仕事をしろと言いたいが、仕事をこなしながらやっているから何も言えない。
性質が悪すぎる。有能すぎると言っても良い

「突然何を言ってるんですか? 艦長」

そんなリンディに声を掛けたのはクロノ。目の下には隈が出来ている。
彼も仕事が多く。気に掛ける事が多い為に寝不足なのだ。

「ん? こっちの事よこっちの・・・ところでクロノ?」

そんな、ギリギリのクロノに、リンディは爆弾を投げる

「はい?」

「弟と妹・・・両方欲しいと思わない?」

「は?」

一瞬、ドッチもと思ってしまったクロノは三時間ほど仮眠を取って、自分を落ち着ける事にした。
母に白い目を向けてから














[5159] ループ・たたり編。開始
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/06/20 14:29
注・今回、イロイロと摸造しています。久遠とか・・・ソレを踏まえてお読み下さい。











太陽も頭上に上がりきり、少し傾いた頃。階段の上から見える道に、桃色と赤色の二人が見えた。
時間はそんなに経っていない。昼は態と抜いた。食べる気には成らなかったというのも在る。
立ち上がって声を出そうとした瞬間。久遠が大きな声で鳴いた。
何か有るのだろうか?
そう思い。頭から俺の横に移動していた久遠に目を向けるその瞬間

ドス

「えぁ? ・・・あっ・・・」

衝撃が体を貫いた。

目の前に見えるのは脈動する肉塊。
頭が冷たくなっていくこの感覚は失血なのだろう。
視界は既にぼやけていて、魔力を使う事も出来ないくらいに重症だという事を冷静な部分が教えてくれる。
最後の力を振り絞り、顔をそらして見えた物は



華奢な女の左腕だった











「っ!?」

ガバっと音を立てて起き上がる。左胸がズキリズキリと有りもしない傷の痛みを訴える。
ドクドクと早鐘の様に鳴る心臓が、体中に嫌な汗を掻かせる。

「ゼヒッゼヒッ・・・ゼッゼッ」

一瞬でカラカラに乾いた咽が、痛みに耐える体が訴える。

その状態が落ち着くのに、凡そ二十分。深呼吸を三度行い、明智良哉は直ぐに行動する。

ラプラスの起動。極小の範囲でのサーチャーの展開。

その中で、明智良哉は一つの存在を確認する。

「・・・久遠」

子狐の久遠。ソレが、此方を観ている。サーチャーは直ぐに消し、シュベルト・クロイツを手に外へ出る。
もう、肌寒い朝。部屋を出る前にカレンダーを確認すれば、ソレは自分が死んだ日の朝。

なぜ死んだのか? 心臓を抉られ、左の肺に穴が開き、脳に血が回らなくなったからだ

誰に殺された? 解からない。自身を殺して得する存在が居るのかも分からない。

なぜ久遠が此方を観ていたのか? 解からない。しかし・・・

(あの鳴き声は俺を助けようとして上げたのか?)

馬鹿らしいと否定してしまうような考えが浮かび。明智良哉は顔を顰める。

(だが・・・確かめない事には始まらない)

家を出た良哉は久遠に向かって一直線に歩く。久遠は動かない。距離は約百メートル。

八十

六十

四十

三十

(今!!)

「シュベルト!!」

『Sonic Move』

瞬時に縮む距離。突きつけた槍。片目が見つめる。久遠は一歩も動かずに、静かに明智良哉を見つめて鳴いた
しかし、ソレに気付いた時には既に手遅れ。明智良哉は突然襲ってきた鈍痛に、強制的に意識を奪われた。




眼前で安らかな寝息を立てる人間を見ながら、狐・・・久遠も共に眠りに落ちようとしていた。
それでも、何とか眠気を耐えて人間・明智良哉を人型に成った身体で引きづりながら移動する。
久遠は、狐の変化だった。妖孤とも呼ばれる。子供の姿をとっているが狐耳がピョコンと出ており、二つの尻尾が巫女服から飛び出ている。
その姿を見れば、周りに居る人間は騒ぐ筈だが可笑しな事に二人以外の生き物は辺りに居なかった。
結界。人払いと呼ばれる、魔法とはまた違った力で作られた結界が周りに展開して有るからだ。
久遠は眠たそうに目を擦りながら明智良哉の自宅の前まで来ると、良哉を抱えて跳び上がった。トンと屋根に着地して二階の良哉の部屋へと侵入する。
ベッドに良哉を寝かせると、久遠は言った

「・・・ごめんなさい」

そう言うと、久遠は再び子狐の姿に戻り良哉の腹の上で丸くなる。

『夢写し』が始まった

夢写しとは、久遠の夢と自分の夢を取り替えて見る事が出来る久遠の能力の一つである。
ソレを知らない明智良哉は、夢と理解できる世界で困惑した。
良哉からすれば、突然映画を見せられるのと同じような物だ。しかも、その映像から目を離す事は出来ない。
ただ見せられ続ける。
始まりは、一匹の妖孤と弥太と言う一人の男・・・今だ少年の出会いからだった。

始まりは、御伽噺や昔話によくある出会いだった。怪我をした久遠を弥太と言う少年が助けた。ただそれだけ
その事で人に・・・弥太に興味を持った久遠は弥太を気にしだす。
最初は一匹の子狐として近づいた。近づき、弥太と遊んでいる内に他の人間の事を気にしだす。
弥太にも友達が居る。自分は妖怪、それでなくとも子狐。
自分は其処まで優先されていない。一番では無い。そう思うようになる久遠。
ソレは、人間なら誰でも持つ独占欲と・・・淡い恋心の芽生えだった。

(・・・むず痒いモノが在るな・・・・・・しかし、なぜコレを俺に見せる必要がある?)

良哉は考える。既に答えは出ているのだが、己の過去を他人に見せるという事が理解出来ない。

(それにしても・・・微笑ましいモノだな・・・)



久遠は夢の中で驚いていた。夢写しとは自分の夢を相手に見せるもの。それも、近くに居る相手に見せるものだ。
そう、見せるモノであり。見るモノではない。なのに・・・久遠は明智良哉の過去と言う名の夢を見ている。
久遠は驚いたが、直ぐに表情を崩した。暖かな色が見える。生まれたばかりと言えない、物心が付いた時ぐらいからの映像。
周りで笑う大人の表情は優しく、暖かいものだった。しかし、不思議な事にこの微笑を向けられている人物の心には二つの感情が有った。
喜びと罪悪感。

何かイタズラでもしたのだろうか? 怒られるのは自分も嫌だ、そう思うとなぜだか親近感が湧いてきた。
この夢は心地良い。そう・・・久遠は思い始め、この先の闇を見た

(?・・・!?)

交通事故に遭った。そして、この家族は死んだ。なのに・・・この夢には続きが有った。

コレはオカシイ。夢の人物も困惑していた。そして、久遠自身が己という存在を内包している世界で、コレは有り得ないと思ってしまう。
その有り得ない現象の名は・・・

(『繰り返し』・・・てる)

それは怖ろしい。ソレは恐ろしい。輪廻転生。魂の循環。時間の逆行。全ての法則を無視した現象。
妖怪と呼ばれる、この世のモノではないとされる自分達でさえ出来ない、起こせない現象。
出来る存在が居るとすれば、ソレは神と呼ばれる・・・ただ呼ばれるモノではない。人も自分も知らない。人が作り出したモノではない。
この世界を作り出した、本当の存在だ。

(良哉・・・人間じゃない?)

久遠は続きに見入ってしまう。交通事故を回避した夢の人物。久遠はソレを観ながら良かったと思い。後悔をした。
夢の人物に重く圧し掛かる。対価という名の代償。他人の未来。知らない命の終り。
映像は続く。目を逸らす事は出来ない。眼を逸らせば、此方の夢も『写せない』事を理解しているからだ。

映像の続きは久遠が見ても、波乱万丈というモノだった。

夢の人物の母が死んだ。父が自ら命を絶った。父の友人に引き取られた夢の人物。
でも、其処には少しだけ希望が在った。明るい色が見えた。
しかし、夢の人物はまた繰り返す。

不思議な力を持った石に因って

ダイレクトに繋がっている。繋がって仕舞っている久遠に困惑という感情が雪崩れ込んでくる。

そして、映像が切り替わる。夢の人物の行動が変わる。優秀だと言われていたのが普通になった。人付き合いが変わった。
少し、今居る場所が寒くなった。
夢の人物の前には常に壁が有るように思えた。ソレは当っていて、自分達とは違う化物に襲われ、夢の中の人物は両足が動かなくなった。
久遠はホッとした。
繰り返す度に、此処は寒くなっている様な気がしたからだ。

嫌な事が有れば、良い事も有る。久遠はソレを理解しているし、知っている。
それは、夢の中の人物も一緒だった。良い事が有った。
足が治った。力を手にした。父と呼べる存在が幸せになろうとしていた。
久遠は我が事の様に喜ぶ

(良哉・・・良かった・・・笑顔・・・暖かい)

久遠は忘れていた。コレが明智良哉にとっては既に『過去』だという事を・・・





弥太と久遠の間に幾つかの変化が有った。数日や数ヶ月ではない。一年、二年と時間を掛けた変化だった。
久遠は人の姿を取った。そして、村・・・今ならば町か。そこの祭で弥太と会い友人となった。金髪という、この時代では有り得ない髪の色にも弥太は少し驚くだけで直ぐに仲良く成った。
こうやって、第三者として二人を見ていると大体の人柄が解かってくる。このまま変わらずに居ればという条件付でだが。

弥太という少年・・・もう直ぐ青年は、何処か天然が入っているかも知れないが、優しく落ち着いている人間だ。他人にも優しい。それなりに人にも慕われているようだ。

久遠は、子供という印象が強いが、大人・・・いや、女だ。徐々にだがそうなっていった。

笑ってしまったが、久遠は弥太に妖怪だと気付かれた。当たり前だ
一年も変わらない姿で有っていれば気付かれる。後、狐時代の好物が同じという所も。

それでも、ソレを受け入れた弥太という人間を凄いと思った。陳腐な言い方かも知れないが、器が大きい。
その事に恥かしがり、喜ぶ久遠を見ていると幸せな気持ちになれた。

互いが隠す秘密は無く。共有する秘密が出来た二人の仲は、前よりも早く。そして確実に縮まっていく。
途中途中、此方が恥かしくなる様な事を囁きあう二人に呆然としたり、居た堪れない気持ちになったりとしたが。二人の世界は幸せで満ちていた。
ソレを少し羨ましく思ってしまう自分の小ささに辟易したが、この二人には幸せになって欲しいと心の底から思った。
だが・・・

(こういった話の最後は・・・古今東西、須らく・・・)

悲劇に終わる。

互いが互いを想い。愛し。幸せを渡しあう。そんな世界は、呆気なく壊される

(・・・そうだ・・・・・・俺は知っている・・・)

疫病が、弥太の住む町に広まった。子供が、男が、女が、老人が、次々と倒れた。ソレを治しに来た医者でさえ倒れる始末。この時代、他の手段で疫病や流行り病を治そうとすれば・・・その手段は・・・神に願う事になる。
供物を捧げるのだ、神に。供物は多種多様に変わる。土地が違えば酒ですら変わるのだ。
だが、多くの神が・・・多くの神に仕える者が・・・神の声聞くとされた者が、神に対して用意する供物は人間だった。

処女、女、子供。基本的は女子供が捧げられる事が多い。

だが、此処では違った。

町の中で、病に倒れず。活力に溢れた若い人間。

弥太が選ばれた。その事に、弥太は何も言わなかった。久遠にさえ話していなかった。
それはそうだろう。久遠に話せば間違いなく弥太を止めようとする。
弥太は他人の為に・・・大勢の為に、自分の命を捧げられる人間だった。助からないかもしれないのに・・・
何よりも、町にある神社の神主から直接言われたのだ。神からの御告げだと。

故に・・・久遠が見た弥太の最後の姿は・・・








仲間が次々に死んでいった。久遠はその光景を見ながら耳を塞ぎたくなる。
目を閉じたくなる。

夢の人物から雪崩れ込んでくる、悲しみ、怒り、憎しみ、絶望といった感情に押し潰されそうになる。
また、寒くなった。久遠はそう思う。何もかもを奪われていく理不尽。
救えない大切な人。力の無い自分。
その辛さは、悲しみは、憤りは・・・知っている。体験している。

(良哉・・・死んでも・・・死ねない)

ソレは、どのような地獄なのだろうか?

久遠は見続ける。夢の中の人物。明智良哉の軌跡を・・・仲間が死に絶え、一人になった明智良哉の中で燻っていたのは憎しみではなく。悲しみと後悔。

己への憤りと・・・・・・諦めと喜びだった。

復讐に囚われなかったのは良かったのかも知れない。ソレと同時に、明智良哉の喜び久遠は悲しくなった。
この頃の明智良哉を見るに、生き残れたと、生き残ってしまったと矛盾する思いを抱いているが解かる。そして、また繰り返すという事を理解してしまっているから・・・余計に悲しくなる。
それからの明智良哉の一生は、平和で有りながら、所々に小さな波乱が混じると言う幸せと呼んでも良いモノだった。
ただ一つ、仲間に終りを与えた時は悲しみが酷かった。自分が呑まれそうになったほどだ。

そして、明智良哉はその一生を終え。また、戻る。

(また・・・始まる? 今の良哉・・・何時の・・・何回目の良哉?)

既に、久遠は明智良哉の繰り返しを数えていない。数え切れなくなった。
同じ場面で、何度も死んだ。過程が違うという違いは有ったが、死は変わらなかった。
十を超え、二十を過ぎた時から数えていない。

(良哉・・・忘れる。大切な事・・・封印してる。)

そして、映像の中で明智良哉はまた死んだ

始まり続ける絶望の螺旋。希望と言う名の絶望と、絶望と言う名の教えが幾重にも重なるラビリンス。
その出口は未だに見えない。

久遠は気付く。コレが初めてではない。明智良哉に取ってコレは初めてではない。

並ぶ選択肢は増える。過程が変わり続ける。

つまり、明智良哉は既に『夢写し』を体験している。

(忘れてる?・・・・・・でも・・・)

攻める事は出来ない。明智良哉が明智良哉で居る為には、仕方が無い処置だ。人は所詮人でしかない。

だからこそ、久遠には希望が見えた









映像の中の少女が狂う。女性が狂う。取り憑いた怨念により憎悪に溺れ狂う。

『化物』

人がそう叫ぶ。

『化物』

久遠が人にそう叫ぶ

(・・・お互い様だな。いや、俺が言える事ではないか)

ヒトデナシ

そう言われた事を思い出した。怒りと失望に染まった少女の視線を思い出した。

久遠は人に倒された。封印された。そして、数百年の年月を経て再び復活する

怨念を切り離す。霊刀の一撃。

少女救う為に命を張った小太刀。

純粋な願いの元に、久遠を救おうとする巫女。


彼女は救われた。その事が嬉しい。何処か自分に似ているなと思ったのは、前の復讐に囚われた自分が居たからだろう。

「それで、俺は何をすればいい。久遠」

目が覚めた明智良哉は涙を流す少女に訪ねた。












【あとがき】

お久しぶりですBINです。

リアルからの逃避を決行したいと思いながら、これから夜勤という・・・明後日は休みだ。寝ようと思う

今回の話ですが、多分に摸造しております。とらハ2・3とちがうじゃねぇかと・・・

うん。ごめん。

それでは何時もの


明智良哉

眼帯。ヒロイン時々主人公。
過去にヒトデナシと幼女に言われたらしい。
少女だが・・・
今回久しぶりに死ぬ。でもまだ死ぬと思う


久遠

狐の変化。妖怪。幼女!
獣っ子。甘酒が好き。幼女!!
大福好き。良哉の過去を知る。幼女!!!
今回のキー


高町恭也

海鳴の兄貴。戦闘狂。
熱い家系の長男。父とは引き分け。痛み分け。
良哉の師匠。野菜人説浮上。


ルーダー・アドベルト

蚊帳の外。アースラの兄貴
活躍無し。ダメオヤジ。
でも、イロイロとやっている模様
リンディの要請で、なぜか良哉の枕を送る。
そろそろ、活躍の場が・・・


てなところです。それでは、逝ってきまーす







感想とか修正は、明後日か明日にします。ゴメン



[5159] タタリ編ー2
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/07/07 22:15
「ごめんなさい」

少女は言う。ソレが何に対しての謝罪なのか?

これから起こる事に対する謝罪なのか?

それとも俺の過去を見た事に対する謝罪なのか?











久遠は明智良哉が目を覚ますと、涙を流しながら話した。
明智良哉が狙われている事。
タタリという名の怨念の事。
高町恭也に頼れない理由。

「薫も…遠くに行ってる。那美…戦い向かない。勝てない」

「なんで俺なんだ? 俺には君達の様な力がない。持って居る事には持っているが…ソレは別系統のモノだ。なぜ…俺なんだ?」

明智良哉は当然の質問をする。

「良哉…霊力無い。でも…似た力有る、ソレで戦える…それに」

狙われている

最後に久遠はそう言う。明智良哉には解からなかった。納得が行かない。タタリという怨念の性質は知った。記憶を見せられたのだ、コレで解からなかったら戦いに生き残る事さえ無理になる。
だが、なぜタタリという存在が自分を狙っているのかが解からない。
久遠との繋がりはまず無い。なぜなら久遠と出会ったのは少し前で、高町恭也との鍛錬が無ければ会うことも無かったからだ。
タタリと既に出会っているという事も有り得ない。自分が高町恭也や久遠を知る以前に倒されている。

「タタリ…少し残ってた、時間を掛けて力…取り戻した。」

だからこそ解からない。自分と何一つ接点を持たない存在から、殺意を向けられる理由が解からない。

「…恭也さんは知らないんだな?」

「恭也…凄く強い。でも、霊力無い。意味が無い…」

高町恭也にはタタリに対しての決定打が無い。有効な攻撃方法が無い。

「その…那美さんという人は?」

「タタリに、鎮魂…もう効かない。久遠、チョット繋がってるから解かる。」

その言葉は那美と呼ばれる人物の事を案じているからなのだろうが、簡単にしてしまえば役立たずという事でも有る。
明智良哉としては、自分が久遠と協力してタタリという怪異を滅せられるのならば協力しなければならない。
己の命が掛っているのならば、当然の事だ。しかし、ソレは魔法を使う事。朝の一件でかなり危ないのだ。本来ならば使いたくない。
此処でヴォルケンリッターに知られれば、蒐集の対象になってしまうのは明白だ。
そうなれば、自然と自分の近しい人間にも被害が及ぶ。

ルーダー・アドベルトはどうなった? 

その答えは、既に明智良哉の中で出ていた。もしかしたら、相手が良かったのでは? とさえ思ってしまう。

「大丈夫…結界張る。中に居ないと…分からない。霊力有っても分かりにくいの…張れる」

「…知ってるのか」

「良哉…繰り返してる。沢山忘れてる…ごめんなさい。久遠…何も出来ない。久遠、見せる事出来る。…見る事出来ない」

「結界は張れるんだな?」

「うん」

「俺達だけで勝てるんだな?」

「うん…久遠も戦える。力、溜めた」

明智良哉は決断した。




明智良哉に抱かれて移動する久遠は、罪悪感で押し潰されそうになって居た。
明智良哉の『繰り返し』に関してである。
久遠が、明智良哉の過去を見れたのは簡単に言ってしまえば事故だ。それも、頻繁には起きない事故。
故に、その事故の起こし方を解かってしまう。
だからこそ…話さない。話せない。
良哉の過去に『久遠』が居たのだ。その久遠は今の自分とは違う様子だったが、今の自分と同じ事をしていた。

(良哉…タタリと戦うの八回目。でも、其処から先が無い。)

明智良哉は覚えていない。覚えられなかったのか、忘れてしまったのかは解からないが。それが事実だ。
久遠は明智良哉の強みを知る故に、希望を見出せた。次に託す。託さなければならない。この事を強く、印象付けなければならない。

タタリを倒す為に










明智良哉は少し急いでいた。約束の時間に遅れてしまうからだ、何よりあの場所での会合は拙い。
アソコで自分は殺された。今、歩いている瞬間でさえ狙われているのかもしれない。久遠が居る分、タタリという存在が自分に近づくのを察知出来るらしいので有る程度は安心もしているが、油断は出来ない。
何事にもある程度緊張して居た方が動けるモノなのだ。
話は変わるが、明智良哉は急いでいる為早歩きになって居た。此処で間違いが無いようにしておきたい事がある。
それは、明智良哉の早歩きの速度。ソレは一般人の早歩きとは段違いの速度で、寧ろ競歩ではないのか? と言われる速度だ。
一般人と鍛えている者の歩く速度、走る速度は自然と違ってくる。何よりも真面目に訓練に励んでいる者ならば尚更だ。
つまり、チョットしたレベルに居るものは自然と注目してしまう。

「うわぁ~…あの子鍛えてるね…何やってるんだろ?」

何が言いたいのかと言うと。
高町恭也と高町士郎の試合が終り、気分転換を兼ねて散歩ついでに本を買いに外に出ていた高町美由希に興味を持たれてしまう。

コレが救いの一手になるのか、ソレは誰にも解からない。未来は未だに定まっていない。


明智良哉が神社の階段に着くと、少し上の方に二人を発見した。

(遅かったか)

「シグナムさん、ヴィータさん」

そう声を掛けられた二人は同時に振り向き、階段を折り始めた。距離が近かった為、降りたのだ。

「少し早かったか?」

「いえ、まだ余裕が有りますよ」

「だから、少し早いって言ったんだよ…」

シグナムの言葉に良哉が答えると、ヴィータが頭の後ろで手を組み言う

「むぅ…しかしだな、あの時は明智に任せてしまったし…予定より前に来るのは常識だろ?」

「まぁ…そうだけど…」

「いいじゃないですかヴィータさん。お互いに丁度良く合えたんですから」

良哉の言葉に「そうだけど…」と返して、ヴィータはポンと手を打ち言う

「それじゃあ、此処で話そうぜ? 日も当るし、其処の自販機で暖かいのも買えるし」

「そう…だな。それで良いか? 明智?」

「構いませんよ?」

ヴィータの発言に、明智良哉は喜んだ。此処なら逃げ場が有り、何かが在ればこの二人が確実に動くという事が確信できるからだ。
良心が痛む。二人の事を知っているからこそ出る答えに心が痛む。でも、ソレを外に出す事はない。
暖かいお茶を買い、階段に座る。少々行儀が悪いが気にする事は無い。
話は事実を話すだけだった。

「・・・事故?」

「はい、運転手が運転中に心臓麻痺か何かを起こして・・・・・・と、いう事に」

有り大抵に言えば、大人の事情で済まされたのだ。コレは当たり前だろう。原因不明の何かによって運転手が殺されましたなんていう事は、普通なら有り得ない。有り得ないのだ、普通なら。

その言葉にシグナムは内心眉を顰める。

その言葉にヴィータは不機嫌になる。

当たり前だ、当たり前だが・・・仕方が無いと納得も出来る。此処は管理『外』世界。
魔法という技術は無く。御伽噺にしか出ないファンタジーなモノなのだ。ソレを知らない世界に住む人間が、分かるはずも無い。
一般市民にその得体の知れない何かを教える訳にも行かない。無用な不安を掻き立てる物ではないのだ。
事は秘密裏に進められるのだろうという事が、二人には分かった。
故に、これ以上あの事を探る事はしない。明智良哉の前では

「しかし、以外に早く終わったな。私はてっきり・・・」

「自分達も事情聴取を受けないといけなくなった・・・と思いました?」

明智良哉の答えに、シグナムは頷いた。

「でもよぉ、何でアタシ達は呼ばれなかったんだ?」

「簡単ですよ。シグナムさんは俺から離れた所に居た。ヴィータさんはまだ小さい子供。シグナムさんに関しては、恐らく・・・源蔵先生の口利きが有ったんだと思います。あの人・・・この辺ではいろんな意味で有名ですし、人望も有りますから」

明智良哉の答えに、ヴィータはなるほどと頷いた。

「じーちゃんも警察関係の人間と飯食いに行ったって言ってたから、多分そん時か・・・それで? シグナムは良いとしてアタシは?」

「子供だからです」

「は?」

「・・・観たままだな」

ヴィータは意外すぎる言葉にポカーンとなった。そして・・・

「何でだ?!」

「いや、小さい子供が事故現場を見た恐怖で逃げ出した・・・という事で」

「アタシはそんな臆病者じゃねぇぇ!!」

ガクンガクンと明智良哉を掴んで揺さぶるヴィータ

シグナムはソレを観ながら不意に思った

(・・・・・・平和だ)











「うぷ・・・・気持ち悪い・・・」

「クゥ~」

「いや・・・その・・・ごめん」









そんな騒がしくも平和な一時は過ぎ。日が沈む。

空は暗くなり、月が顔を出す。

時刻は既に十二時を回り、一時も既に半分過ぎていた。

辺りは暗く。葉が落ちた木々の間を、駆け抜ける影が一つ

「久遠!! タタリは!!」

「・・・右!!」

少女を背負った良哉は、冷たい汗を垂らしながら駆ける。

右から頭を狙った雷が通り過ぎる。

姿が見えない。捉えられない。魔力など微塵も感じない、体温も全く無い存在の強襲から逃げ続ける。
遠くに見える小さな明かりは、海鳴市の光。此処からでも見えるその光に未だに自分は生きていると感じる。

何故こうなったのか? 簡単だ。何時来るかも解からない強襲に備える事が出来ない。
だから、逆に打って出た。
撃退する力は有るのだ。久遠と言う存在がその手段を有している。
だが、甘かった。タタリはタタリではなく、タタリではないタタリは間違いなくタタリだった。
二人は困惑する。二人が共通して知っていたタタリの攻撃方法・・・行動の仕方が全くと言って良いほどに違っていた。
姿を捉える事が出来ない。久遠でもだ。居場所を察知できるのは、それだけ集中しているからで有って、攻撃に回す思考など在るはずも無かった。
一度、カウンターを喰らわせようと、魔法の結界を張るが明智良哉の張ったシールドは雷の威力を三割ほど減退させるだけ、左腕が千切れ飛んだ。出血が無いのがせめてもの救いなのかもしれない。
雷の熱で、ズタズタになった腕の傷口が焼けたのだ。

雷を受けた良哉は、BJの御蔭で感電死はギリギリで避ける事が出来たが只それだけだった。
神経にまで被害を及ぼす電撃。体中が引き攣り、思ったように体は動かせず。
酷い頭痛と目眩に顔を歪めながら明智良哉は逃げていた。
コレでも奇跡と言って良いだろう。普通ならば死んでいるはずなのだから。明智良哉をギリギリで護ったのはラプラスだった。魔力で脳の周りに結界を張り、神経系から這い上がってくる電流を、その身を持って受け止めた。
その代償として、明智良哉の左の視界はノイズ交じりの酷い物になっている。

それでも、少女を背負って逃げるのは本能が叫んでいるからだろう

『死にたくない』

その衝動に突き動かされて逃げているのだ。

明智良哉には、タタリに対して有効な攻撃法が無い。そう、姿も見えず。接敵も出来ない相手に攻撃する事すら出来ていないのだ。

今の自分は、良い様に嬲られている。そう解かってしまう。動物がする狩ではない。
圧倒的な強者が、自身の満足の為に弱者を甚振るような状況に有る。

「良哉!!」

「なっ?! 久遠!!」

明智良哉と違い。久遠は保険を持っていた。『明智良哉』という保険をだ。この状況に有って、久遠は確信していた事柄ある。
ソレは、相手が明智良哉を殺す方法。甚振って、甚振って甚振って・・・最後は直接自分の手で殺す。
嫌と言うほどに理解できた。過去の弱い自分はそうしたから

「良・・・哉・・・次・・・勝って」

「久・・・遠・・・お前?!」

そして、久遠に押さえつけられた明智良哉が見たタタリは・・・

「お前は?!」

女の左腕を生やした男の姿だった











[5159] タタリ編ー3
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/07/24 23:29
コトっと、机の上に置いたコップが音を立てる。

「んっーーー」

椅子に座ったまま伸びをすると、ゴキゴキと背骨が音を立てた。

「っはぁ~…やっぱり、少しは運動した方が良いわね」

実を言うと、最近お腹周りが少々気になる。コレも美味しい御飯を作れるルーダーさんが悪い。

そう思いながら、私はこの家に…世界に持ち込んだ端末の画面を観ながら一口コーヒーを飲む。

「ふぅ、外見は旧式も旧式だけど使い始めたら中々味が有るのよねぇ」

この端末は、外見はこの世界のPCだが中身は違う。中身は私が私物として持っていたガラクタになっていた物を修理した物。
普通に買おうと思ったらそれなりに高いので、ジャンク品を漁って組み立てた物だ。
給料は余り使う道が無いので有るには有るが、出来るだけ使わない方が良い。それに、何だか得した気分にもなれる。

机の上に置いてあるカレンダーは、少し前にルーダーさんと良哉との三人で買い物に行った時に購入した物。
今日の日付を見ると赤丸がして有ったので、慌てて着替える。

(今日は私が料理当番の日だった)

料理は苦手だ。そんな私でも作れるこの世界で夢の料理に出会った。その名もカレー。
以外にコレは私でも作れた。各種のスパイスを組み合わせるのは薬品の実験にも、デバイスをより高性能な物にする為に行うパーツの適合実験にも似ている気がする。

「良哉はまだ部屋に居るかしら? チキンかポークかビーフか…意外な所でスープかの要望ぐらい聞いとかないと」

ルーダーさんは大概の物なら食べれるから別に良い。その癖、舌が肥えてるから腹が立つけど…
私は、そう考えながら部屋を出た











「づっ! 」

「良哉?」

あの顔を見て死んだ。あの顔は覚えている。俺はアイツを知っている。

幻痛を捩じ伏せると直ぐにヤツの名前が頭に浮かんだ。
頭の中で奴の顔と名前が一致した時、今が何時でどういう状況なのかを理解する。
夢写しが終わった瞬間だ。時間が無い。奴に対する有効な手段が解からない。奴の攻撃をマトモに防ぐ事すら出来ない俺に、残された時間は少ない。

「……戻ってきた?」

久遠の言葉に、体が一瞬硬直する。俺が言葉を出す前に、久遠が言葉を紡いだ。

「夢写し…良哉忘れた?」

「いや、覚えてる。」

前に言われた。久遠は俺の過去と事情を知っている。

「久遠、今の俺達で本当に勝てるのか? 勝てるのならドレほどの勝率なんだ? 俺には…奴に勝つヴィジョンが見えない」

「タタリ…久遠、倒せる。力溜めた、今ならタタリに勝てる」

其処で気付く。久遠はタタリが俺達の知っているタタリとは違うという事を知らない。
俺が見たタタリは久遠が知るタタリではなく。久遠の知るタタリと同じ力を持った別の存在だという事を話す。
すると、久遠は悲しそうに言った

「タタリ…食べられちゃった。」

「食べられた?」

意味が分からない

「タタリ、力取り戻すのに…沢山、沢山の同じモノ…似たモノ食べた。」

「同じモノ?」

久遠はコクリと頷くと、言う

「タタリ…怨念。強い、とっても強い怨念。怨念、生きてる物から沢山溢れてる。怒り、悲しみ、妬み…沢山、沢山の未練食べて…逆に食べられた。」

そういう事か…なら、何故俺のが狙われるのかも手に取るように解かった。
奴が俺を狙うのは、殺したいと思うのは当然の事で正当な理由だ。逃げる訳には行かない。
奴には俺を嬲り殺すと言う行動に出ていた。自分で考え動く事が、力の調整が出来ている証拠でもある。
ならば…考えなくてはならない。あの雷の防ぎ方を、奴に…氷村遊の怨念を滅す手段を

俺が思考の海に潜ろうとすると、久遠がソレを止めた。

「良哉…私、何て言ってた?」

「何って…」

あの時、久遠は

『良・・・哉・・・次・・・勝って』

「!?」

其処で気付く。久遠の言葉はオカシイ。極端な話だが、俺は今回の事を回避出来る。その可能性を持っている。
そう、前回で戻ってしまった最初まで戻っていれば…最初から回避出来る。
氷村に関してはまた、別の手段で対応すれば良いのだ。そうすれば今回の事は無くなる。
なのに…なぜ久遠はああ言った? まるで俺が何処まで戻るかを知っているような言い方だ。

「久遠…君は…」

「知ってる。良哉、今死んでも、さっきにしか戻れない。」

久遠は、俺の知らない何かを知っている





良哉…さっきまでの良哉じゃない。今の良哉は新しい良哉。良哉の事を話しても良い良哉になった。
前の私は、たぶん話してない。
でも、今なら話せる。確信が無かったら話せなかった、良哉は敵かも知れなかった。
今の良哉を見て確信できた。良哉、私と同じ。私達と同じ。敵じゃない

「良哉…『贄』」

「贄?」

「良哉、この世界で生まれた。私もこの世界で生まれた。恭也も那美も薫も、皆この世界で生まれた子供。でも、良哉…この世界で生まれたけど、歪められた。」

良哉、歪められた。一番やってはいけない事。だから、繰り返す。繰り返す様に歪められてる。
この世界を創った何かへの明確な反逆。裏切り。
だから、良哉の周りも歪んでる。

「ちょっと、待ってくれ久遠。歪められた? 俺のこの繰り返しは…」

「人が入ってはいけない領域に手を伸ばした。ソレを掴んじゃった。良哉、その被害者。生贄。」

良哉、凄く混乱してる。私にも解かるぐらい瞳が揺らいでる

「…ソレは…無理だ。無理な筈だ。ソレこそ本当に『魔法』だ。そんな、事出来たらいけない。ソレが出来るという事は…」

「世界を蹂躪するのと同じ。だから、良哉はソレを何とかしないといけない。じゃないと、良哉、何時までも繰り返す。終りが無くなる。」

「どういう事なんだよ…歪められた? 何に? 誰に? 何時? 本当なのか? 久遠…お願いだ、俺にも解かる様に説明してくれ」

両肩に手を置かれた。力がドンドン込められていく

「良哉…痛い」

「お願いだ…何がどうなってるんだ…」

駄目、良哉に私の声、届いてない。ギリギリと肩に置かれた手が、私を締め上げる。

(駄目、何とかしないと…良哉、壊しちゃう!!)

其処で、一つの事を思い出した。良哉、タタリと戦って八回も死んだ。でも、その先が無かった。今が九回目かも解からないのに…私が軽率だった。
もしかしたら、良哉は耐えられなかったのかも知れない。だから、忘れているのかもしれない。

「良…哉ァ」

「久遠…お願いだ…俺は…何なんだ」

早く何とかしないと…永遠に…

『いい加減にしなさい!!』

その一言で、良哉の目に光が戻った。

『貴方が何なのかなんて今更解かりきった事を、何故問うのですか?』

「…シュベルト」

『貴方が、貴方こそが我等が主。剣十字の名を我等に与えた、我等を従える事を許された唯一の主。明智良哉。それ以外の何だと言うのですか? そんな下らない事を考えている暇が有るのなら、約束に遅れないようにしなさい、時間…有りませんよ?』

「約束? …?! 」

『久遠の話は私が聞いておきます。久遠、私と話せますか?』

「大丈夫…ソレぐらいなら何時でも出来る」

私は胸を張って答えた。良哉の頭の上で私はしゅべるとに話す。発音、難しい。

『つまり…主は』

(この世界で生まれたけど、この世界に従わない…従えない存在。)

『主の主観で過去に遡っている…という事は…』

(無い。しゅべると達、沢山、沢山進んでる。この世界の人間より、ずっとずっと先に居る。でも、この世界の人間もずっとずっと、貴方達より先に居る所もある)

『それはそうでしょう。お互いが見つけ出したエネルギーや、世界に残っていた物がちがうのですから』

そう、そういう事。だから、私は解かる。『魂』というモノが歪んでしまっている事が

(主観時間じゃないけど、それもあってる。良哉、長生きする。でも歪んだままだと戻る。そうすると、其処から先は無くなる。可能性は残っても、そうは成らない。良哉、最初から居なければ世界は続く。でも、良哉が居ると違う。)

良哉が過去に戻る。世界も巻き戻ってしまう。世界も気付けない内に。
世界が気付くのは良哉が死んだ瞬間。
因果も時間も運命も、歪んだ存在の所為で歪んでしまう。
世界を巻き込んだやり直し。してはいけない事。出来てはいけない事。世界の敵になる。
ソレは、世界に有る全てと敵対する事。水も空気も、因果も運命も、時間も…全部、敵に成る。
だから、してはいけない。

(久遠、世界から生まれた。ソレは皆同じ。良哉も同じ。でも、久遠達は、人間よりも世界に近い所に居るから分かる。良哉は『贄』。世界に対する『贄』。良哉に何かをした何かは、何かを試してる。)

『…それも、意味の無い事に等しい…』

(うん…良哉、解放されない。歪み、直さないと解放されない。久遠、良哉助けたい。助けてあげたい。でも、出来ない。)

『ソレは…我等も同じです』

(うん。知ってる。でも、出来ない。原因判らないから…)

私は、物凄い速さで走る良哉にしがみ付きながらそう言った。










「…あの子、滅茶苦茶早いじゃないの。何かしてるっていうモノじゃないよ。」

(あれ? あの走り方…何処かで…? )

高町美由希は首を傾げながら、家に戻った。家族に面白い話が出来たと思いながら











明智良哉は、自分からすれば三回目の会合にギリギリ間に合った事に安堵した。
シグナムは薄く笑いながら

「そんなに急がなくとも…」

と言い。ヴィータは汗だくの良哉に

「ほら、買ってきてやったぞ。この間のアイスの借りだかんな」

と、スポーツ飲料を渡した。

会合は、三回目という事も有り。要点を纏めて話、短い時間で終わった。
繰り返すとはそういう事だ。変わる事を求めなければ只のルーチンワークと変わらない。明智良哉はそんな事を思いながら自分が、今しなくては成らない事を考える。
久遠とシュベルトの会話を聞いていない明智良哉は考える。
どうすれば勝てるか? どうすれば死なないのか?
此方の防御では、氷村の雷を防げない。喰らえば直ぐにでも動けなくなる。
八方塞がりだ。当たり前の事だが、明智良哉には『霊力』というモノが無い。有るのは『魔力』
更に言えば『霊力』がどういうモノかも理解できない。
明智良哉に、氷村遊(タタリ)に対して有効な攻撃手段は無いに等しい。

「せめて…奴の動きを止められるのならな…」

有効な手段は見つからない。











side シュベルト


『繰り返し』

私も、主も、ソレは主観時間の逆行と考えていました。いえ、今までの話から推測するにそうとしか考えられなかったのです。
しかし、久遠。数百年を生きるこの狐の少女は違うと言います。
私には『魂』という概念がよくわかりません。言葉は知っています。ですが、解からないのです。
ソレは、今も昔も変わらず…永遠を求めるモノ達が研究している事ぐらいか知りません。しかし、ソレも眉唾物な話しばかり、実証されたという例は知りません。
なぜ、我等が主はそう成ってしまったのか? 主に何かをした『何か』とは何なのか? 私にはソレが…いえ、主にも解かりません。
因果律、運命、時間、それらまで歪めて巻き込んで居ると久遠は言います。ソレは有り得てはならないという事は、私にも解かります。
ソレが、人の手により自由に使えるというのなら…世界は人の手によって滅ぶのは目に見えています。
世の中は善人ばかりでは無いのですから
しかし、私は『世界が歪む』という事すら解かりません。故に、私は未だに主に話せていない。
話せば…主は絶対に動揺するでしょう。嘆くでしょう。傷つくでしょう。ソレは避けなくてはなりません。
これ以上、主を痛めつけても何にもならない。
だから、私は先ず氷村に勝つ事を優先して考える様に言いました。コレが終われば時間は有るのです。
雷の防ぎ方は…そうです。聞けば良いのです、調べ物が得意な彼に…





Side ファラリス

(オカシイ)

私は、ファラリス・アテンザは何故部屋に戻った? 明智良哉に今日の夕食のリクエストを聞きに行ったのでは無いのか?

(なぜ戻った? )

決っている。なんとなくだ…違う、ソレはオカシイ。
私には明確な目的が有った。なのに、『なんとなく』なんて適当な理由で部屋に戻ったりしない。
ならばなぜ? 

(確か…あの時は…)

良哉の部屋に向かって、部屋の前まで来たのは良いけど物音一つ聞こえなかったら…

(ドアを開けようとして…)

止めた。そうだ、なぜか止めてしまったのだ。ノックもしたし入っても大丈夫な筈なのに…私は引き返した。
オカシイ、理解できない。

(何か…有るわね)

私は、良哉の部屋に向かい耳を澄ませた。微かに、話し声が聞こえる

『う……それに……なん…雷…? ……いち……それ……夫の……ず』

『本当に…けか? ユー……?』

『それ…け…よ……でも急だ……クロ……が知……ら……こるよ?』

この声は…良哉と…ユーノ・スクライア? でも、何を話しているのかしら? 雷がどうのこうのと…
良哉が何をしているのかは解かる。私達も普段しているのだ。世界を超えた連絡は…でも、それで一体何を聞いているの?
私達には相談も無しに…キナ臭いわね。此処は…鼻の利く人に見張って貰った方が良いわね。



Side out



所変わって、高町家では家族揃っての何時通りの夕食の時間。
高町桃子が自分の娘に今日は良い事でもあったの? と聞けば、高町なのはは今日学校であった出来事を楽しそうに話す。
高町なのはが、なぜか包帯や絆創膏だらけの父と兄に、何が在ったの? と控えめに聞けば、互いに視線で牽制しながら何でも無いと答える無愛想×2。
そんな二人の対応に桃子が怒ると、高町美由希が場の雰囲気を和まそうと他愛も無い話をする。

「そ、そう言えばさ。今日すっごく速く走ってる子を観たんだよ」

「すっごく速い?」

自分の話に乗ってきた妹に、心の中で喜んでいる高町美由希は勢いに任せて言う

「そうなんだよ!! 本当に速いの、なのはと同じくらいの子供なんだけどさ。私、吃驚したよ。あの子、何かやってるね。空手とかじゃなくて、私達と同じようなヤツ!!」

「ほう…美由希がそう言うか…どんな子なんだ?」

高町士郎の言葉に美由希は「う~ん」と唸った後で言う

「黒髪」

「…日本人なら殆どそうだろ?」

「えーと…何処かで見たこと在るような走り方だった」

ピクリと恭也の眉が震えた…が、高町恭也は動じずに箸を進める。そして、タマネギとジャガイモの味噌汁を啜ったその時

「…眼帯してた!!」

「ブフォ!!」

「目が!! 味噌汁が目にぃぃぃ!!」

予想外過ぎる不意打ちに、高町士郎は転げ回る。よく租借されたホクホクのジャガイモの一部が眼に入ったようだ。

「お兄ちゃん?!」

「恭ちゃん?!」

「……スマン。入ってはいけない所にタマネギが入ってな」

「あらあら…水要るかしら?」

転げまわる夫を他所に、コップに水を足す高町桃子。

「士郎さんなら大丈夫だもの♪」

実に恐るべき信頼なのか愛情なのか…ソレは誰にも解らない

そして、高町美由希のこの一言が、彼女が名前も知らない人物。明智良哉に取って最大の助けに成るとは誰も知らなかった。

そんな事が有った夕食後、高町恭也は悩んでいた。普段ならこんな事は無い。
しかし、なぜだか胸が騒ぐ。予感と言っても良いそのザワメキが、高町恭也の睡魔を払いのける。
所々傷む体を持ち上げて、高町恭也は考える。
明智良哉は、高町恭也に取って弟子とも言える存在だ。共に高みを目指す仲間でも良いのかもしれない。
我武者羅に強くなろうとするあの姿勢。そうで有っても冷静に考えるその自制心。
そして、何処か共感できるその在り方。
そんな少年が、全力で走っていても別段不思議には思わない。自分だって、月村忍との待ち合わせに遅れそうになってしまった時は、全力で走る。
後で、文句を言われたが…目だってしまうとな……
そんな事を考えていると、自室の襖がスパーンと開けられた
其処に居たのは

「恭也…まさかとは思うが、教えていないだろうな?」

高町士郎が、真剣な表情で立っていた

(来たか…まぁ、今回は俺の失態だな…さて、どうするか。最悪、勘当だな)

門外不出の流派の技が盗まれかけている事が知られれば確実だ。しかし、それでも良いかも知れないと考える自分が居る。
縁が切られ、他人と成るならば…挑戦できる。試合ではない死合いが…最悪、ドチラかが死んでしまうかもしれない程の戦いが出来る。
其れ程までに父は強い。越えたい、越えてみたい。あの背中を追い越したい、追いつきたい。自分の背中を見せてやりたい。
此処まで来たのだと。此処まで強くなったのだと。貴方の息子は貴方を越えたのだと…
其れはとても魅力的な事だ。しかし、悲しいぐらいに無い事でもある。父はそういう人間ではない。勿論、自身もだ。

(我ながら度し難い。護る者を見つけたというのに…いや、今それは関係ないか。何だ、この胸騒ぎは…まるで…)

父さんが重症の怪我で生死の境を彷徨って居た時に感じていたモノに近い様な…この重くじっとりと纏わり憑くモノは、何なんだ?

半ば呆けていた自分に気付き、父を見据える。父は何も言わずに俺の前に座り、胡坐を掻いた。無言の時が過ぎる。
俺は、あの子の事を話す気は無い。今や、あの子の成長…いや、足掻きは俺の楽しみに成っている。
その様な少年を見れば、父も口を出すだろう。其れは彼に取っては良い事なのかも知れないが、俺に取っては面白くない。
俺が育てたいと思ったのだ、コレは譲れない。
長い様で短い時間が過ぎた。外を吹く風が家の壁に当たり音を立てる。何処か遠くで車が走る音も聞こえる。

「恭也…言いたい事はイロイロ有るが、まぁ、アレだ。強くなったな…本当に強くなった」

静かな部屋に響いたのは父のそんな言葉だった。理解が追いつかない。
俺が強い? それは無い。才では美由希に劣り、実戦では父に勝てず。叔母の足元にも及ばない。
そんな俺が強い? 有り得ない。それは、普通の人間よりは強いだろう。その自覚は有る。だが、其れは幼い頃から訓練を…不破の訓練を受け、続けてきたからだ。
今の強さは、歴代の御神の剣士に届かない。父に届かない。

「違う。俺は…まだ、父さんより弱い…弱いんだ」

「当たり前だ。俺はお前の親父だぞ? 戦闘経験が違うんだ、引き出しは俺の方が多い」

そう、だから戦術の幅も広い。でも、其れは父が積み上げてきた結果だ。その強さを含めて父は強い。其れが無かったとしても俺より強い。
そんな父の背中を、ずっと見つめ続けて、追い求めて、歩いてきた。今も歩いている。
だからこそ、父の言葉は受け取れない。言葉では信じられない。戦い、ソレに勝って始めて…俺は一つ壁を越えられたと実感できると思う。

「ソレを含めて…父さんの強さだ。俺はソレを含めた父さんに勝って始めて…強くなったと実感出来る。そんな気がするんだ」

「はぁ…お前はやっぱり、不破なんだなぁ。悲しいような、嬉しいような…まぁ、お前の場合、忍ちゃん関連で嫌でも戦闘経験を積む事になるだろう。一、二年もすれば俺なんか越えちまうさ、だから、速めに渡しておこうと思ってな」

スッと出されたのは古めかしい木箱。ソレを受け取ると、その重さで中に何が入っているのかが直ぐに解かった。

「刀?」

「そうだ、俺がお前に託した小太刀…八景。それの…影打ち。使い処は自分で見極めろ。後、お前に電話が有ったぞ? ルーダーとかいう人から」

「ルーダーさんから?」

俺は木箱を一度、床に置くと電話を掛けることにした。携帯の番号を渡すのを忘れてた事を、悔やむのはコレが初めての事だった。

俺の予感は当っていた











【あとがき】

と言う名の説明かな? 良哉の繰り返し。主観の時間逆行では有りません。
時間も因果も何もかもを巻き込んだやり直し。世界のリセット。そうでなければ、ソレこそロストロギアなどで、解決してしまうから。
そして、良哉が存在するだけで出来る『歪み』コレはイベントの事ですね。
良哉が居なければ発生しなかった事柄です。
そして、未来の知識が有るのなら未来を決定する因子が在ると考えられますが、それも無効化されています。『歪み』に因って。
詳しく書くとグダグダになる上に持論の暴論に成るので、ポツポツと出します。
簡単に言えば、良哉に対しては運命と呼ばれるモノは干渉できないという事です。

後、関係ないですが一応聞いておきたいことが…いや、書く予定も無いのですが…カッコイイユーノは好きですか?
















[5159] タタリ編ー4
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/07/07 22:11
こんな時間に秘密の話をする。それは、なぜか嬉しくて、ドキドキして、僕の心を弾ませる。
でも、ソレを顔に出さないように勤める。だって、これから彼は戦いに往くのだ。相手が誰だかは知らない。知る筈も無い。
彼とは、時々連絡を取っていた。僕が知っている古代ベルカの事、僕が今居る場所で調べられる事、僕の一族に有る資料の事。
今考えても、僕は一族を追放されるかも知れない。でも、それでも良いと考えてしまう。
僕は彼から、奪ってしまった。その瞳を、彼の…彼の世界での普通の生活を。
僕なんかでは彼の助けにはなれない。僕はデバイスを使えない。使わない。使える魔法も防御と補助ばかり…彼と戦う事なんて出来やしない。
クロノを羨ましく思える。専門的な知識を教えられる彼が、強い彼が…だから僕は、僕なりに…彼を助ける。力に成る。なっていくつもりだ。
だから、僕の問いに答え。この事を無かった事にする。

今の僕にはソレぐらいしか出来ないから

「あ…そうだ。気を付けてね、良哉。後、さっき送った構成での魔法。感想聞かせてよ?」

「解かってる。助かるよ、ユーノ。魔法の事も含めて…感想は…使ってみてからだな。」


だから、また話そう。良哉。




side 久遠



「とおりゃんせ?」

「うん。天神様の…道。通るの…逝く人だけ、それ以外、通れない。」

私は良哉に答える。

通りゃんせ 通りゃんせ

ここはどこの 細通じゃ

天神さまの 細道じゃ

ちょっと通して 下しゃんせ

御用のないもの 通しゃせぬ

この子の七つの お祝いに

お札を納めに まいります

行きはよいよい 帰りはこわい

こわいながらも

通りゃんせ 通りゃんせ

タタリは悪霊。怨念。逝くには邪魔な物。削ぎ落とされるモノ。
だから、神様には返せない。返せば還ってしまうから。

天神様は慈悲の神。正直に全てを打ち明ければ許してくれる可能性が高い神様。
久遠も許してくれるかも知れない。でも、ちゃんと考えて有るから大丈夫。

私達でタタリ倒せる。

私は、必要な事を良哉に教える。人が作り出した詩は、種類にも拠るが強い力を持つ事がある。コレも、その中の一つ。
だから、大丈夫。
良哉は私の言葉を信じてくれた。もしかしたら、自分を無理やり納得させているのかも知れない。
それでも、私の言葉を信じてくれた。ソレが、嬉しい。
良哉と少し話して少ししてから、良哉と一緒に学校に行った。少し前まで、良哉は此処に通っていたらしい。
必要な物を得ると、良哉は次の場所に向かった。町から少し離れた山の中に在る廃墟。其処で、もう一つ必要な物を取る。
タタリが近づいていないか心配だったけど、タタリと会う事は無かった。少しづつ時間が過ぎていく。
時間が過ぎていくのを認識する度に恐怖心が沸きあがってくる。でも、大丈夫。良哉の懐は暖かい。良い匂いもする。イロイロと混じってるけど……
優しい良い匂い。







Side out


明智良哉と久遠が自宅をコッソリと出たのを確認して、ファラリス・アテンザはルーダーの部屋に入った。
ルーダーはビール片手に深夜番組を見ながら詰まらなさそうに言う

「どうしたファラリス? お前が自分から俺の所に来るなんて…世界が崩壊でもするのか?」

「五月蝿いわね。ちょっと気に成る事が有るから聞きに来たのよ。ルーダー隊長?」

実を言えばこの二人、余り知られては居ないが仲が良いという訳では無い。かと言って悪い訳でも無い。
それは二人の過去と性格に問題が在るからなのだが、その事は置いておこう。
ルーダーは隊長で、ファラリスは元武装隊員だった。それだけである。

「良哉か?」

「そうよ。最近…と言うか今日なんだけどね。チョーット不思議な事が有ってね…心当たりが無いか聞きに来たのよ。」

「不思議?」

ファラリスは話す。明智良哉の部屋を訪ねに行ったのに、なぜか部屋に戻ってしまったという事。
明確な目的が在るのに、後でで良いかと思わされてしまった事。

その話を聞いたルーダーは一度頷いて言った。

「確かに…な。だが、考えすぎじゃねぇのか? 此処は魔法も無い世界だぞ? この辺りには高町なのは以外に魔導士は居ない。その辺りの事はお前が一番知ってるんじゃないのか?」

「そうね…でも、この世界には高町恭也の様な人間が居るのよ?」

その言葉にルーダーは「あぁ、確かに」と思った。今では釣り仲間で、結婚生活がどういうモノかを教えている青年。
高町恭也の身体能力には目を見張る物がある。先ず、自分では純粋な肉弾戦では勝てない。
流石は高町なのはの兄だという所だろう。高町恭也に師事している明智良哉の肉体も変わってきている。
長い間、武装隊に居れば嫌でも相手の身体つきに気付いてしまう。
あの少年は強くなっている。まだ、強くなるだろう。成長する事でリーチも伸びる。管理世界での常識が無い分、普通とは違う発想も出来るだろう。
そんな少年と、何時か一緒に仕事をする。ルーダー・アドベルトのチョットした夢でも有る。

「まぁ…アイツは例外だ、例外。こっちのTV番組にでも毒されたか? 」

「ソレだったらドレだけ楽か……良哉が家を出たわ。デバイスを持って」

ルーダーは「?」と首を捻った。明智良哉は何時もデバイスを所持しているからだ。常に共に有る。そんな関係を結んでいるあの『三人』が常に共に居ない事の方が稀だ。

「何時もの事だろう?」

だからルーダーは答える。何時もの事だと、ソレがあの少年の普通だろうと。
ファラリス・アテンザは「あぁ…」と吐いた後で付け加える。

「妙な動物…アレは確か…狐とかいう動物だわ。それと…ユーノ・スクライアと内緒話をしていたみたいね。どうも引っかかるのよ。」

「ほぉ、内緒話ねぇ…」

内緒話と言う言葉に反応する。ソレが何なのかは解からない。しかし、気に成る。この時間に家を出るというのも微妙だ。
明智良哉が朝と夜にランニングをしているのは知っている。それにしても、今回は少々遅い時間だ。

「…とりあえず…恭也に電話してみる。」

「お願いするわ。」


だが、高町恭也はこの時の電話に出れず。ルーダーは少しばかり待ち惚けすることに成る。








高町恭也は、ルーダー・アドベルトに連絡を取った後直ぐに身支度を整え家を出た。父が何かを言いたそうにしていたが、見なかった事にした。
罪悪感は在る。嘘を付いているのだ自身が尊敬し、目差し、今も尚輝いている父に…
何時かは話そうとは思う。思っている。しかし、ソレはまだまだ先の話しだ。明智良哉がもっと強くなった時に話す。そう思っている。
若しくは自分が父を打ち破った時。

「ルーダーさん!!」

「遅いぞ恭也!!」

待ち合わせの場所まで全力で走ってきた恭也に、ルーダーは怒鳴る。それだけ、イライラしているのだ。仕方の無い事だ。
人間、自身が分からない理由で巻き込まれる事に、全く持って理解できない存在に襲われる事に納得など出来はしない。出来てはいけないのだ。

「それで? 場所は?」

「あの子なら、人が居ない場所を選ぶ筈です…幸いな事に、この辺りでは…」

そう言い、恭也は神社の更に向こうを指差す。

山だ。夜の闇の中でさえ分かる場所。夜空よりも暗く見える場所。人が滅多に寄り付かない場所。
奇しくも其処は高町家…自分達が良く篭る場所だ。熊も猪も生息している。小川も在る。
あの場所なら人は来ない。山火事でもなければ人は見向きもしない場所だ。

「チッ…遠いな」

「いえ、逆です。」

そう言うと、恭也はルーダーぼ後ろを見ながら言う。ルーダーは後ろ振り向き「は?」っと声を漏らした。
普通ならば、もっと唖然としていても良いのだろうが無駄に人生経験が豊富なこの男は直ぐに起動した。

「始めまして、ルーダー・アドベルト様。少々遅れました恭也様…お車の方へ、事情は中で聞きます。」

「あぁ、解かっている。最悪、忍の力を借りなくては成らないかもしれない。」

「いや…ちょっと待ってくれ、俺の名前を知っている事はどうでも良いが…アンタ名前は?」

ルーダーがそう言うと、女性は姿勢を正し頭を下げながら言う

「ノエル・綺堂・エーアリヒカイト…月村家でメイドをしております。」

ルーダーは少し、後悔した。

だが、この後悔は車内での高町恭也の説明によって吹き飛ばされる。そして…ルーダー・アドベルトに、アースラ武装隊隊長に、家族を、仲間を護る為に戦う男に、スイッチが入る










ジャリっと踏みしめた土が音を立てる。その音に、懐に入って胸から顔を出している久遠はビクっと一度震える。
その久遠の仕草にスマナイと思いながらも、明智良哉は歩を進める。大地に根を張る木々に気を付けながら獣道を歩く。
デバイスの代わり持っている二本の鉄の棒が木に当たりコーンと音を立てる。

「…久遠」

「まだ先…タタリ、待ってる。待ち構えてる」

久遠の言葉に、明智良哉は徐々に緊張を高める。スゥーっと深く息を吸いゆっくりと吐く。
それだけで、鼓動が安定する。思考が冷える。
胸に感じる温かみ。ソレを失わせる事だけはしたくない。明智良哉はそう思う。
全ては数十分前に打ち明けられた、久遠が取れる最悪の場合の最良だった。

タタリを自分と言う『器』に再び戻し、自分ごと滅する。

久遠からすれば、最小の犠牲で済ませられる最良の方法なのだろう。それでも、久遠は生きたいと願っている。
故に、こんな餓鬼に助けを求めた。それなら、出来るだけはやらなければ成らない。
自分の事を自分よりも知っている可能性の有る存在を失うのも勿体無い。そういった考えが有るには有る。しかし、それだけじゃない。
簡単に言えば『情』が映ってしまったのだ。自身の事を分かってくれているその小さな存在に。
伝わる暖かさに、生きている鼓動に。
久遠の過去に思う所も有った。

だから、明智良哉は久遠のその最善を取らせない。

獣道を進み続けると、其処は少し開けた広場の様に成って居た。雑草が生え地面などは見えないが、動き回るには丁度良い場所だ。
その真ん中にソレは居た。

忘れる事は出来ない一回目の邂逅

正面から戦って、無残なまでにボロボロにされた。

あの高町恭也と戦い、生き延びる程の強さを見せられた

忘れる筈も無い二度目の邂逅。

奇襲は避けられ、知らない誰かが犠牲成った。

魔法は有効だと知った。

繰り返される三度目

自身の胸を貫いたあの感触

魔法では防ぎきれない雷撃

有効打が自分にはない事を知った。

それらを知った上で挑む。無謀だ無茶だ。明智良哉は自身でそう思う。だが、逃げては進めない事も知っている。身に沁みている。
故に、此処で終わっても情報を持ち帰る。今が駄目なら次で、次が駄目ならその次で…何処まで覚えていられるかは自分でも分からない。
自身の名前、明智良哉になる前の名前も既に忘れてしまった。
過去に居た部隊の仲間も思い出せるのは三人ほど。それも、内二人はギリギリ人柄が思い出せる程度。どんな事をしたのかなんて既に思い出せない。
仕方が無い。それで良い。彼等は既に居ない。次に合えるかもしれない皆は全員別人で自分の知らない人なのだ。
彼等が知らないように自分も彼等を思い出せない。なら、それで良い。しかし、理解者を…『明智良哉』の事を知っているこの子は護りたい。
死ぬなんて選択はさせたく無い。見たく無い。何よりも、理不尽は大嫌いだ。

「久しぶりだなぁ…小僧」

「会いたくも無かったけどな…」

明智良哉は考える。山の中にこの様な広場が出来るのか? 答えは否。此処はそう作られた場所だ。動きやすい様に、戦いやすい様に奴が…氷村遊が明智良哉を嬲る為に

(シュベルト、クロイツ、ラプラス)

ラプラスを使用しての身体強化。挨拶代わりに鉄棒を投げる。当るわけも無く、ソレは地面に突き立つ。
もう一本は自分の直ぐ傍に突き立てる。

「…始めようか…さっさと帰って寝たいんだ」

「良いじゃねぇか、何なら此処で眠れよ…永遠になぁ!!」

氷室遊と言う名のタタリが、この世に具現する。ただ個人に災厄を撒き散らす為だけに。











所変わり、高町家では末娘のなのはがゴソゴソと資料を漁っていた

「え~っと…コレは一年生の時で…コレは二年生の時ので…ニャァァ…見つからないよぉ」

高町なのはが見つけ出したいのは連絡網。それも、一学期の物だ。

「お母さーん!! 一学期の連絡網何処~」

「う~ん。全部此処に挟んでたと思うんだけど…変ねぇ」

あうあうしているなのはの隣で、高町桃子は首を捻る。

「ほぇ? どうしたの二人とも? もう直ぐ一時だよ?」

夜の自主鍛錬を終えた美由希が風呂上りで湿っている髪をワシャワシャとタオルで拭きながら声を掛けた。
高町美由希は少し前から一人で自主鍛錬を始めた。理由は簡単な事で、兄弟子である恭也の背中が突然、遠くに行ってしまったような感覚を覚えたからだ。
その感覚は正しく、既に昨日の事に成っているが高町恭也は高町士郎と引き分けている。
その事に多少ながらも焦りを覚えているのだ。

「それがねぇ…なのはのクラスの連絡網、一学期の奴なんだけど…それが無いのよ」

「ふ~ん…でも一学期のでしょ? もう二学期も半分過ぎてるんだから無くなってても気にしなくても…ん? どうして一学期?」

美由希の質問に、桃子は嬉しそうに言う

「なのはがね、連絡先を知りたいんだって…それに、住所も分かるからね」

「へ~…男の子?」

「そうなのよ!!」

「本当?!」

「「きゃぁー!!」」




「二人とも!! ちゃんと手伝ってください!!」


夜中に怒られる二人。なぜか自分も手伝う事になっている美由希は何処か理不尽を感じながらも手を貸す事にした。
普段なら、自分達がこういった会話をすれば何かしら突っ込んでくる…というか慌てて「ち、違うよぉー!!」等と言う末の妹が、その様な事もせずに集中してるのだ。
手伝うのも吝かではない。寧ろ、その男の子に興味が出てきた。










「あ、私のに挟まってるよ?」

「「あっ」」

他のファイルに目が行かなかった高町家親子の失態である。








【あとがき】

と言う感じな四です。ユーノは最初だけ。活躍するのはA’sが終わって少ししてからのかな? 寧ろ活躍できるのか?…どうなんだろうか…まぁ、いいか

さて、ルーダーにスイッチが入りました。恭也は入りっぱなしです。蒸し暑いわ!!
と思っています。ルーダーとファラリスは過去に何か在った模様。
ソレと、久遠ルートではありません。

何時ものは無し。明日も五時なんだ。オヤスミ…したくても未だに自宅じゃない。



[5159] タタリ編ー5
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/07/24 23:27





幽霊。それは現世に未練を残した死した人の魂。そう、言われている。それが正しいのかどうかは解からない。
ただ、高町恭也が語った事は真実だとルーダーは確信した。

「甘かった…俺達の失態だ…」

拳を握り締め、自分への憤りにその身を震わせる男の言葉を聞いて確信した。
勿論、最初は疑った。幽霊、そんなモノは迷信や錯覚だと思っていた。しかし、それが存在するという。
その存在を祓うモノ達が居ると言う。
何処の御伽噺だと最初は思った。しかし、そこでルーダーは考え直す。コレは自分達にも通じる事だからだ。
管理『外』世界。それも、魔法というモノが存在しない世界で自分達が『魔法』の事を語ってもソレを信じる者は少ないだろう。
それと同じなのだ。
だが、その話を聞いてルーダーは聞き返した。

「…おい、霊力…だっけか? それは、お前に有るのか? 俺にも有るのか?」

「人から聞いた話しですが…人は微弱ながらも霊力を備えているそうです。大小の差やその『意味』は違うらしいですが…」

あぁ、やっぱりか。ルーダーはそう思った、ソレと同時にスイッチが入る。
高町恭也はその変化に反応した。隣に座っていた男は完全に戦士と化していた。その体から滲み出る圧力は、多くの戦闘経験を持ち修羅場を潜り抜けてきた者が持つ独特の圧力だった。
自身の父がそうである様に…この男、ルーダー・アドベルトも歴戦の戦士なのだと理解した。
ルーダーは前を向いたまま口を開いた。その言葉には猛りが有った。

「で、恭也。どうやったら、俺達はその化物に勝てる?」

笑っているのが解かる。勿論、自分もそ声を聞いて笑っている。ソレも当然なのだ。

古来より、名も無き剣士が、武道家が妖魔を打ち破ったという話は有る。何よりも高町恭也は己の伴侶の為にそういったモノへの対処法を学んでいる。
もっとも効率良く、危険な手段では有るが…漢達は躊躇等はしない。
高町恭也の言葉を聞いて、ルーダーは笑いながら言う

「良いねぇ、そういうのは大好きだ。あぁ、大好きすぎて笑いが出る。」

「えぇ、自分も…大好きですよ。何よりも…」

漢なら、誰かの為に強く成れる。愛しい者、大切なモノを護る時には…

「ならば、手筈通りに?」

従者はハンドルを握ったまま聞く。

後始末、戦闘のフォロー。やる事は多い。インカムを通してその会話を聞いていた月村忍はテーブルにコーヒーカップを置いて溜め息を漏らした。
溜め息の原因は最愛の男。高町恭也のそういった所を含めて愛しているのだから仕方が無いと考えてしまう。

(あぁ、もうダメだなぁ。)

彼のあの声を聞いて昂ぶってしまっている。

もう、駄目なぐらいにヤられている。

(仕方ないか…恭也みたいな人は)

何処までも愚直で

何処までもどうしようも無くて

その後姿が何よりも綺麗で

絶対に自分を曲げない。

「あ~あ、忍ちゃんチョット嫉妬しちゃうかも」

あの少年に。彼の弟子に。自分から観ても面白そうな少年に。

「そう言えば…すずかと一緒のクラスだったみたいね。少し、探ってみようかしら
?」

彼等にスイッチを入れた少年。明智良哉の事を…

「あー…本当に羨ましいわ。ああいう恭也は中々見られないのに…」

何か、大切なモノを護る為に戦うあの男は。自分の伴侶は。自分の伴侶の様な男は。

その何かを護る時には












最強に成れるのだから










暗い森の広場。寂しく突き立った鉄棒が月光を浴びて、その存在を主張していた。
その広場には風など吹いていない。なのに、周りの草木が揺れる。
風の変わりに広場に響くのは、男の哄笑。

「クハッ! ハハハハ!! ハハハハハハハハハハハハハ!!!」

圧倒。まさにその言葉が当てはまる。

大きな黒い影が小さな影を襲う。小さな影は、少しづつ、しかし確実にその身を削られていく。
風を切る音がする。また一つ、小さな影に傷が出来た。

「どうした? 避け切れてないぞ小僧!!」

小僧と呼ばれた小さな影。明智良哉は、悪魔でも冷静に言葉を返す

「その避け切れていない小僧に致命傷を与えられないお前は……余ほど愚鈍なんだな」

明智良哉は魔法を使っていない。明智良哉が大きな影、氷村遊に攻撃をするには魔力を使う。攻撃は出来る。
しかし、大したダメージにはならない。ソレを知っているから攻撃をしない。魔力を無駄には使わない。使えない。
ただ、情報を集める事に集中する。

現状で分かって居る事は二つ。

・氷村に物理的な攻撃は効かない事
・氷村が此方を傷つける時のみ、物理的な接触がある事

この二つの情報を上手く使わなくてはならない。

(さて…どうする? 後欲しいのは)

『あの雷と…霊力という力の特性…いえ、魔力との差です』

シュベルトとの念話を解して、腰のクロイツが演算速度を上げる。

左目のラプラスは常時稼動。久遠も静かに時を待っている。
正直な話、久遠が居なければ俺は氷村の攻撃を受け流せない。久遠の察知能力が無ければ、既に致命傷を負っている。

(良哉、右)

ヒュッっと顔の横を風が通り抜ける。ツゥっと血が流れた。

(クソッ!! 此方からは殆ど見えないなんてな…)

「そろそろ終りにするぞ? 小僧?」

バチッっと氷村の左腕から音が聞こえた。

「久遠!!」

「クゥー!!」

広場に閃光が奔った











その光景を、離れた場所から観察していたシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ…ヴォルケンリッターは目を細める。
四人はこの戦いを最初から見ていた。はるか上空に設置したサーチャーを介して。
シグナムはその戦いが始まった瞬間から、介入しようと考えていた。ここから出れば直ぐにでもつける距離なのだ。
それでも、この場を離れられなかった。
何かが叫ぶ。叫び続けているのだ。ソレは勘と呼ばれるモノなのかもしれない。今、自分が介入すれば後悔する。
そう、何かが訴えている。

(何だ…この感覚は…何を迷っている?!)

あの受け流しの技術。足裁き。咄嗟の回避。周りを視る目。ドレをとっても惜しい。此処で失うには遅すぎる。
あの少年は良い騎士になれる。その素質が有る。此処で失うには惜しい。確かに私には関係ない。だが…
捨て置く訳には行かない。あの少年にベルカの事を伝えたい。散っていた多くの騎士の武勇を教えたい。剣を、戦いを教えたい。
何よりも…戦ってみたい!!

だが、体が動かない。冷静な部分が私を動かさない。

(あぁ…クソッ!! あの場に行きたい!!)


一方、ヴィータは戸惑っていた。明智良哉はは自身が友と思っている。そう、友人なのだ。同好の士でも有る。だが、それが拙い。今の自分達の現状がそうさせる。
蒐集の最中なのだ。時期が悪い。管理局には知られて居ないが、それでもアレが発動すれば必ず嗅ぎ付けるだろう。
実際に時間との戦いでも有る。長引けば長引くほど…リスクが大きくなる。
そして、そのリスクを回避する為には…

(魔力ランクの高い魔導士からの蒐集しかねぇ…)

悩む。悩んでしまう。この生活が好きだから悩んでしまう。八神はやてと明智良哉。ドチラか一方しか救えないというのなら、確実に八神はやてを取る。
しかし、今回は別に明智良哉を狙う必要性は高くない。魔力が低くてもリンカーコアを持つ多くの生物から蒐集すれば良いのだ。
だが、確実性をとるのならば…

(何を悩んでんだ!! アタシは…アタシはヴォルケンリッター、鉄槌の騎士なんだ!!)


だが、心の中でそっと呟く

(出来るだけ痛くない様にするから……もし、そうなっても…抵抗はしないでくれよ…良哉)

未来は…誰にも解らない

二人とは違い、話でしか明智良哉の事を知らないザフィーラはこの場の誰よりも冷静に戦いを見つめていた。

(ほぉ…先程の回避と良いあの足裁き……格闘も出来るようだな。魔力ランクが解からんのが痛いが…顔は覚えておこう)

ザフィーラだけが、この場で明智良哉の生き汚さに気付いた。
頬が緩むのを耐えながら、ザフィーラは明智良哉の評価を引き上げる。

(なるほど…あの鉄棒の意味はそういう事か。しかし、分の悪い賭けだな…)

だが、と心の中で一息置いてザフィーラは思う

(嫌いでは無い)

この四人の中で、一番哀れなのはシャマルだろう。彼女がサーチャーの設置、操作、中継を行っていたのだ。つまり

「目が?! 目がぁ~!! あぁぁぁぁぁ!!!」

あの雷の衝突で生じた閃光をダイレクトに…



「「「五月蝿いぞシャマル!!」」」


(私の扱いが酷い!!)


湖の騎士が己の不遇に嘆いていた頃、一人の女性が上空を飛んでいた。
彼女は、小型の情報端末を片手に目標に向かって一直線に飛ぶ。久しぶりに使う魔法。リンカーコアが脈動した瞬間に、意識が数瞬彼方へと飛んでいった。
過去に負った傷の名残。それが体を蝕む。脂汗が額に前髪を貼り付ける。息も上がる。
只でさえ大分出遅れてしまったファラリス・アテンザは奥歯をグッと噛み。漏れそうになった呻きを殺した。
情報端末には明智良哉と何かの戦闘データとラプラスから得られる情報が羅列されていた。ラプラスに気付かれずにハッキングを出来るファラリスに驚くべきか、泣き叫びたいという気持ちを押し殺し、脂汗を滲ませながらも屈する事の無い我慢強さに驚くベキなのか。
それは誰にも解からないが。ファラリスには、一つ解かっている事が有る。
ソレは時間が経てば明智良哉とその相棒達が気付くかも知れない。しかし、それでは遅い。先程の激しい閃光で、此方の情報端末とラプラスの繋がりが強制的に絶たれてしまった。それ故に気付けた。

(早く教えて上げないと…何やってるのよルーダーさんは!!)

ファラリス・アテンザはその昔、武装隊に所属していた一人だ。その当事の年齢は十四。今から四年前の事だ。だが、彼女は武装隊に二ヶ月しか居られなった。
全ては彼女のミスに因って白紙に戻された。

もう、抵抗できないと高を括った所為だった。初めて単独で捕まえた指名手配犯。確実に気絶させ、拘束もした。怒りながらも褒め、心配してくれた少し年上の仲間と隊長であったルーダー。輝かしい時代だった。何もかもが満ち足りていた。ソレを彼女は自身で崩してしまった。
犯人は諦めていなかった。自分達の緊張が解けた一瞬。犯人は拘束を破り反撃に出た。ルーダーが居なければ死んでいた。
ルーダーだけが緊張を解いていなかった。その結果、彼女は重症を追い魔導士として死んだ。いや、今の状況を観ればファラリス・アテンザという魔導士は瀕死の状態なのだろう。
AAだった魔力ランクはB-まで落ち、今もゆっくりと下がり続けている。

(もう、使う事も無いと思ってたんだけどなぁ)

死者五十三人。重軽傷者二百四十三人。ソレが彼女の驕りのツケだった。

その贖罪なのかも知れない。ファラリスは別の方向から復帰した。デバイスマスターとして…
医療も簡単な事なら覚えた。それでも、失った物は戻らない。今でも覚えている、自分の所為で死んだ仲間達。その家族は今も自分を怨んでいるのだろう。
ただの餓鬼が粋がって、大事なモノを失った。それだけの話しだ。そう思うようになって二年。明智良哉に出会った。
あの少年は面白い。素晴らしい。恐ろしい。狂っている。理性が狂っている。親の死を泣かない子など居ない。余程の親で無い限り…
彼は泣かなかった、割り切っていた。恐ろしい、自分には出来ない。昔の自分の様に脆くない。それ故に掻き消えて終うかのように何処か儚く見えた
愛しいと思った。羨ましいと思った。何よりも憎たらしかった。自分に無い物を持っている少年に嫉妬しそうになった。いや、した。
ラプラスから引き出す戦闘データを見る度に、悔しくなった。そして愛しくなった。

ボロボロの戦闘機械。それがファラリスが羨む理由で愛する理由。

ただ愚直に強く成ろうとしている姿が眩しく見えた。

そして、確実に少しづつ強くなるその姿が恐ろしかった。

欲しい。欲しかった。思いは全ては過去に在ったものだった。ソレを思い出してしまった。
スイッチが入ってしまった。
何時しか思うようになった。あの少年と共に歩くのなら……何時か…その場所まで行けるのでは無いかと。











だから、ファラリス・アテンザは手を抜かない










氷村遊は嗤った。盛大に嗤った。自身が喰らった化物の雷。ソレは絶大な威力を誇る。
生きている時ならば、絶対に戦いたくは無いと考える程の威力。屈辱的な死。その後でさえこの化物食われた。
運が良い事に、この化物は狐でも有った。故に…中から喰らってやった。
幸先の良い事に、力を付ける方法は直ぐに解かったし簡単だった。唯一の懸念で有ったこの化物と似た化物もこの場に居た。力を蓄えていたようだが…結果から言ってしまえば此方の方が力が上だった。
何よりも、力を蓄える行為は甘美だった。嘗ては血を飲んだ、肉も喰らった。しかし…魂と言う物はそれ以上に極上だった。生まれたばかりの子供の魂は味が薄かった。
社会に、世間に怨みや憤りを持つ者の魂は最高だった。

故に喰らい続けた。その結果がこの勝利。最高だ。最高だと盛大に嗤おうとして…氷村遊は目を見張った



「おいおい、驚くなよ。コレぐらいの用意はするだろ? 普通」

「けほっ…良哉、タタリ少し強い」

得物は生きていた。その手に小さい金具を弄びながら。












【あとがき】

あつ…い…クーラー大破!! 扇風機中破!! 勘弁してください!!

最近、仕事が合っていないと思う今日この頃。お元気ですか? BINは鬱に成りそうです。筆が進みますが…時間が無い

あっ、モンハン買う事にしました。

今回、すこーしだけというか大まかなファラリスの過去が出ました。
良哉がまだ生きています。サイコロを作り直そうかと思う。

熱帯夜にも負けずに皆様、頑張って夏を乗り越えましょう。私は盆休み在りません。
学生の頃に戻りたい

今回、何時ものは無い。寝ます…暑いけど

















[5159] タタリ編ー6
Name: BIN◆c8942e10 ID:4057465b
Date: 2009/08/15 01:35






ガタガタと揺れる車の中、静かに時間が過ぎる。ソレを退屈だとは思わない。
寧ろ、これから行う事を考えれば仕方がない事なのだろう。目的地までにはまだ時間が掛る様だ。そんな中、ルーダー・アドベルトは口を開いた。
その言葉に、高町恭也は「は?」と声を漏らしてしまった。

「まぁ、そういう反応が普通だわな。だが…コレもマジなんだよ。更に言えば、お前にも関わりがあるんだぜ?」

ルーダー・アルベルトはこういった人間なのだ。

本来ならば話してはいけない。次元管理局法という法律に記されている。コレは、次元管理局に勤める殆ど者に適用される。
それでも、ルーダーは話す。

『魔法』の事を、その存在を、次元世界の事を

ソレを聞いた高町恭也は納得した。その中に、自身の弟子や妹の事が在ったからだ。特に妹、高町なのはに関することでこの話が夢物語等では無く。事実だと納得させた。
その話を聞くと、高町恭也は少し…ホンの少しだけ安心した

「つまり、良哉はまだ生きている可能性の方が高いという事ですね?」

「まぁ、十中八九そうだろう。魔法が幽霊に効かなくても逃げ続ける事なら出来る。高ランク魔導士だしな…」


そんな話をしている間に、車は止まった。気負う事無く外に出る。山から吹く風は何処か嫌な感じがした。
その瞬間、景色がブレた。山が歪むのではない。山の一部が歪んでいるのだ。ソレを観た二人は走り出した。

「おい恭也!! 結界が張って有るんだろ!! どうやって入る!!」

「切り開くのみ!!」

恭也の一言に、ルーダーは笑いながら言う

「それじゃあ、文字通りに飛んで行くぞ!! 」

デバイスを起動させ、その身がBJに包まれる。恭也は一瞬驚いたが直ぐに落ち着き、自身に伸ばされた腕を掴んだ。











コロコロと手の中で転がす金属。名称をボルトと言う。こんな物で奴の雷を防いだ訳では無いが、奴はそう思ったのだろう。
さっきの事で解かった事が有る。指向性は有っても、其処まで精密に操れない事。あの雷は左腕からしか出せない事。
コレは大きい収穫だ。奴の左腕を使えなくしてやれば良い。
しかし、その手段は今は無い。そう無いのだ。明智良哉が、氷村遊に対して使える攻撃手段は久遠だけ。
そして、氷村遊の雷は久遠の雷よりも強いらしい。

(久遠、後何回いける?)

(二回…三回ならいける)

その言葉に絶望はしない。さっきみたいな事をせずに避け続ければ良い。幸いな事にあの雷は左腕の動き、を見ていれば避けれる。
BJを身に纏ったので、傷も少なくすむだろう。だが……其処までしか出来ないのだ。明智良哉には、氷村遊に勝つ手段が少なすぎる。久遠の攻撃しかない。ソレを気付かれるのも時間の問題…いや、氷村遊は既にその事に気付いている。

そう、気付いている。故に、明智良哉のする事は決っている。

(絶対に…護りきる!!)

そう思った瞬間に、明智良哉は魔法を使いその場から逃げた。閃光が地面を穿つ。
ソレを観ながら明智良哉は動き続ける。

地面や木々に傷を付けながら



逃げの一手を選択した明智良哉に対して、氷村遊は確かめる事から始めた。
氷村からすればあの少年は狩るべき『獲物』で有り。殺すべき『敵』なのだ。
その為の手段を一々確認する。普段ならばしない事を氷村は確認する。なぜならば、氷村はあの日。自身が殺された日に、今が自分が行使している『力の様なモノ』で殺されているのだ。慎重になるのが当たり前。
故に、ゆっくりと確認作業に入る。久遠を狙いながら。当然の事ながら、氷村遊は気付いている。自身が一番気を付けなければならない子狐の事を…否、ソレはもう知っていると言っても良い位に理解している。
元々、氷村が喰った『タタリ』という怨念はその子狐に憑いていた存在なのだ。『タタリ』が知っている事は氷村遊も知っている。
そう、『タタリ』が『知っている』

だからこそ、明智良哉の知る『氷村遊』と久遠の知る『タタリ』とは全く違ったモノに成っている事を二人は知らない。

「巧く避けるな、小僧。聞き忘れていたが、どうして俺を殺した?」

故に、氷室の話に乗ってしまう。時間稼ぎと考えるのは両方なのだ

「…お前は笑いながら殺しただろう。」

そう、それは氷村が海鳴に上陸する船で起こった事だ。ソレを知るのは既に二人だけ。その事に氷村は可笑しそうに聞いた。

「殺した? 誰をだ? 」

「惚けるなよ…積荷の中に有った家族を…お前は嗤いながら喰った!!」

明智良哉は見ていた。あの日、サーチャーから観ていた。不審船の中を、その中で見つけた氷村遊が密入国者であろう家族を一人づつ噛んでいく姿を。

「子供の前で父を殺し、子の命だけは無く母親を犯し、最後は呆然と目の前で起こった行為を見せ付けられた子供を…母親の前で嗤いながら引き裂いた!!」

「あぁ…アレか。船旅ってのは時間が掛ってなぁ…イロイロと溜まるんだよ。大人に成れれば小僧にも解かるぜ?」

嗤う。氷村は本当に可笑しそうに嗤う。

「人を喰って何が悪い? 俺達より劣っている劣等種を喰らって何が悪い? 小僧…お前を殺して何が悪い?」

瞬間、明智良哉はその場から横に動くが、体に鈍い音が響くのを感じた。




あぁ…そうか

シュベルトはそう思った。その事に、嬉しくなった。そして悲しくなった。
己の失態なのだろう。その記録を消していれば良かったのだ。あの時、自身が明智良哉に告げたのは『目的のモノがやって来た』という事だけだ。そして、この記録を見なければ『あの場で犠牲となったのはただ一人』だった筈なのだ。
炎上させた船には生命反応は無かった。当たり前だ、既に息絶えていたのだから。
だから、あの船を燃やす事を進言した。語られなかった、無駄なものとして見捨てた者達への弔いとして…

あぁ、嬉しい。我等が主は正しき怒りに奮える戦士なのだ

あぁ、なんという事だろうか。我等が主はその中でも冷徹で居られる戦士なのだ。

どうする事もできない。何故…其処まで強固な理性を持っているのだろうか。

人と言う物は、何をどうやっても溜まる。溜まってしまうのだ。ソレはストレスと呼ぶ事も出来る。
イラつきと呼ぶ事も有る。憎しみと呼ぶ事も出来る。嘆きと呼ぶ事も有る。
そう、少しでもそれに振り回される事が在れば良い。程度は有るがそれで発散出来ているからだ。
しかし…ソレすら押さえ込み、制御する。本能の手綱さえ握り締めているこの主の理性は悲しすぎる。
哀れだ、哀れを通り越して呆れる。呆れさえ貫いて驚嘆してしまう。
戦士として…ソレは素晴らしいものだ。そうとしか言い様がない。だが…人間としては…

駄目だ。この有り方は駄目なのだ。何時か破綻が来る。既に、一度だけ主は体験している。復讐という枷の外れた行為を行っている。
だからこそ、その理性はより強固なモノに成ってしまったのだろう。
体を打ち据えられながらも、その身に抱いた久遠を守り通す姿を見れば…主は人として善人…良い人に見える。
だが、そうではない。歪んでいる。あぁ、久遠が言った通り『明智良哉は歪められている』この繰り返しという檻に因って歪んでしまっている。
選択肢は有ったのだ。

転移してしまえば良い。自分達の演算速度ならばソレこそ容易く出来る。

それでも…主はその身を盾とする事を選んだ。

ソレは贖罪なのかもしれない。違うのかもしれない。

ただ、一言言える事が有るとすれば。

この、歪んでしまった人間が。優しい心を残した少年が、何処までも冷たい心を持った少年が…己の主で良かったという事だ。

誇りに思う。この歪を誇りに思う。全力でモガク命の輝き。ソレを持っている。発しているその姿を誇りに思う。

故に、シュベルト・クロイツは待つ。

もう一つの『仲間』が導き出す事を信じて待ち続ける



空を二つの影が飛ぶ。文字通りの最短を突っ切って、二人の男が飛ぶ。
飛び続ける二人は、その違和感に気が付くと自分達がいる場所を見て嗤う。山を目指していた筈が、何時の間にか反対方向に逆送していたのだ。

「…あそこか」

「…ですね」

二人にしか解らない会話。第三者が見れば気が狂ってるのか? と言われても仕方が無い。
なぜ、其処まで言われるのか? 簡単な事だ。二人は事も何気に自身の肉体を傷つけた。
当たり前のように小太刀を引く。事も何気に刃を握る。

その後、二人は思いっきり何も無い空間を殴りつけ、切り裂いた。






明智良哉は自分の左腕が折れている事を冷静に認識し、這い上がってくる痛みを押し殺した。それだけで、数瞬の時間を失ってしまう。
明智良哉は左腕を折られた。誰に? 目の前に氷村遊は立っている。ならば誰が?
何時の間にか後ろに立っていた『氷村遊』にだ。その事に驚く暇など無い。

挟まれた状態での連撃。

目の前の氷村が顔を狙って拳を振れば、後ろの氷村が足を狙って蹴りを放つ。

殺さないように

嬲るのだ。必要に、不自然なまでに。

弱い者いじめではない。これは暴力ではない。ただ、虐殺する為に行う前準備でしかないのだ。氷村遊にとって。
決して殺しはしない。急所はあえて外し。肉を打つ。骨を折ってはいけない。折れた骨が肉に突き刺さり外に飛び出ては出血で死んでしまうかもしれない。
顔も余り狙ってはいけない。絶望した表情が見れなくなる。
なぜ、其処までするのか? それは、氷村が奪われたモノを取り戻す為にだ。自尊心。プライドとも言って良い。
自分より下に見ていたモノが自分を殺した。それだけならば、此処までにはならない。其処までだったのかと。自分のミスだったと、自分に言い訳が出来るのだ、知恵を持つ生物は無意識にソレを行っている。
しかし、しかしだ。圧倒的なまでに何も出来なかったら? 惨めに殺されたら? どう言い訳する?
氷村は見てしまったのだ。明智良哉の姿を。子供の姿を。人間の子供の姿を。
輝く檻の中。ソレが徐々に縮まり自分を押し潰してゆく恐怖
圧迫され、折れ、食い込む骨が体を貫く痛み。

氷村遊はその時、完全に折られてしまったのだ。嘗ては自分が他者に与えていたモノに因って

恐怖に因って

「「どうした小僧!! 怖いか?! 惨めか?!」」

嬲る。殴って、蹴って、突いて、払って。攻撃し続ける。

態と避けるように仕向ける。その先には必ず次の一手を用意する。
時折漏れる声を聞くだけで愉悦に浸れる。絶頂してしまいそうなぐらいに興奮する。
それでも、まだだと我慢する。

殺したい。殺したい。殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい惨めに殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい



もう、殺そう



一方、明智良哉は久遠を護りながら自分の体の傷の具合を確認していた。簡単な抵抗なら出来るのだ。いや、させて貰っているというのが正しい。
切欠が欲しい。そう願う。明智良哉には起死回生の手段が無い。久遠を使うのは後が怖い。アレを滅ぼすには久遠が必要不可欠なのだ。出来ない。
只、打たれ続ける。BJが有るとはいえ今の状況が続けば拙い。

そんな時だった、二人の氷村が大きく拳を振り上げた。コレで決めるつもりなのだろう。本番の前の拷問を。冷静な自分が、打つ手は無いと囁く。本能が避けろと叫ぶ。
だが、動けない。打たれ過ぎた代償は体への負担。足を動かすのも億劫になってしまう程の疲れが競りあがってくる。
もう、眠ろう。次が有る。そう考えてしまう自分が居るのを自覚する。ソレを否定する自分が居るのも自覚する。

そこで、明智良哉はこの場では聞こえない筈の声を聞く

其処に二人は立っていた。自分を挟み、護る様に立っていた。

その拳は打ち出された拳を握り止めていた。

その拳は打ち出された拳を握り止めた瞬間に握りつぶしていた。

月光を反射し、神々しく輝く白刃と。硬く握り締められ、その魔力色、深緑に輝く拳が同じタイミングで振るわれた。

「手前ぇ」

「貴様」

その白刃は紅く染まっていた。その拳は赤く染まっていた。

そして、何よりも


「「俺の弟分に何してやがる!!」」


恭也とルーダーは怒りに燃えていた



氷村遊には理解できなかった。なぜ自分が殴り飛ばされたのか? なぜ、作り出した分身が切り捨てられたのか?
理解が出来ない。なぜ、高町恭也が此処に居るのか? なぜ此処がわかったのか? 解からない。
しかし、優秀な嗅覚がある匂いを嗅ぎ取った。その匂いとは血液

「…まさか…そんな…馬鹿な事…」

氷村の呟きに、恭也とルーダーは嗤って言う

「何が馬鹿だ、バーカ。手段が有るなら使う。これ、戦いの常識だぜ?」

「その通りだ。まぁ、余り使いたくない手では有るけどな」

疑問に思う事が愚かな証拠だと笑う二人に氷村は激昂し、考え直す。
そう、自分の勝利は揺ぎ無いモノだと考える為の足掛かりの一つにする。
血液、ソレは人が生きていく為には必要な物。目に見える命の通貨。
それを使えば、自身の様な存在にも触れる事は出来るのだろう。程度にも拠るが…
ただ、ソレは愚かな選択だ。一度使った通貨には、既に価値が無い。そう、無いのだ。再び通貨を使うしかない。その先には『死』が待っている。持久戦に持ち込めば此方の勝利。
そう、嬲り続ければ良い。それだけだ。そう、それだけで良い。
自分が、奴等を、一方的に、虐殺する。

それだけで言い。







ラプラスは考える。既に自身のマスターである明智良哉にはサインを送っている。
バイタルは既に危険域に達する所まで来ている。これ以上の戦闘は無謀でしかない。
だが、それでも戦う事を止めないマスターと先達で有るシュベルト・クロイツが不思議でならない。
だが…自身の仕えるマスターがソレを望むのならば、その望みを叶えよう。ソレこそが、先達から教えて貰った、デバイスとしての誇り、相棒としての誇りなのだろうから…

(理解不能…しかし…)

悪くは無い。何故そういった回答が出るのかが自身でも解らない。それでも…今、ソレは関係ない。
今は、己のマスターの為に動く。それ以外は全てが不要。

不要なのだ。

故に見つけた。ホンの少しの歪み。記録したデータから見つけ出した『歪み』。
そう、この瞬間。明智良哉はその手に刃を手にする事が出来た。







【ね…む…zzz】

眠い、ただ、それだけです。前の修正とかは後でします。久しぶりの休み…寝てモンハンしよう。
ところで…どうやってネットに接続するの?




[5159] タタリ編七
Name: BIN◆d3245a21 ID:4b8c7aee
Date: 2009/09/12 21:06





一言で言わせれば、それは異常だった。

明智良哉は眼前の戦闘を見て心を奪われるとういう意味を始めて理解出来た。
義眼…ラプラスが見せるその光景。高町恭也の戦闘技術の凄まじさ。小太刀ニ刀流と言う、習得困難な技術を…普通ならば、ソレは一刀流に劣るとさえ言われてしまうその業を、あそこまで…一つの美まで昇華させて尚、実戦でその苛烈さを魅せるその有り方に見ほれてしまう。

際立っている。その動き一つ一つが高町恭也の理想どおりに、思い描いた様に動けているからなのかもしれない。

そう、高町恭也も心を奪われていた。誰にではない。己の動きにでもない。

この、戦いの場の流を作り操る。一人の男に畏敬を抱いた。

信じられるだろうか? 共闘などしたことも無い他人が、友人では有っても、其処まで深い付き合いをした事の無い人間が。
こうも、自分が思い描いた軌跡を現実の物にしてくれているなど…誰が考え付く。

(まただ)

振り上げた八景はフェイク。振り下ろしまでの隙は誘い。その誘いに乗ってこないのは流石なのだろう。
脳裏に自分が思い描く、理想が在る。そう成るように戦い。勝利する。戦いとはそういう一面を持つ。先が解らない事などは多すぎて…だからこそ、自身の流を作り、ソレを掴み、思い描いた通りに事を進められればソレは最高の結果、最小の犠牲のみで事を終わらせる事が出来るのだ。
そして、その思い描いた流と絵は自身にしか解らない。他人がソレを察する事が出来たとしても大まかな事のみで、細部までは理解しきれない。
だからこそ、今、この場がオカシイと気付いてしまう。
抜き放った影打ちに合わせるように氷村が後ろに下がる…が

「グォッ?!」

「ハッハァ!! 周りが見えてねぇぞ三下ぁ!!!」

もう一人の氷村が殴り飛ばされ、俺が相対していた氷村に衝突して体勢を崩し中途半端に後ろに下がった状態に成る。

(あぁ、この位置。この体勢。理想通りだ!!)

振り上げた影打ちを両手で握り込む。

只、速く

只、力強く

何よりも、必殺の意を込めて

自身の鮮血に濡れた刀を振り下ろす。

振るった後の隙は大きい。両手で握り込み、全力を持って踏み込み、振り下ろした。

大丈夫だと確信が在った。否、そうさせた。彼の、ルーダー・アルベルトの行動が俺の背を押した。




高町恭也が使う御神の技に虎乱という技がある。本来ならば二刀の連撃を持って相手を倒す技が有る。
虎切という技がある。御神の技に共通するのは抜刀術だ。恭也の放った一撃は打ち下ろし。
只の打ち下ろしでしかない。だが、侮る無かれ。

その一撃は全力の踏み込みを持って、全力で振り下ろされた。

空が泣く。空が啼く。空が哭く。

その一撃は刀身が氷村の右腕に触れた瞬間に、たった二人にだけにしか分らない轟音を奏でた。
雅に雷が落ちたかのような轟音。氷村は聞いた。体の内に鳴り響いた轟音。理解した、してしまった。刀身が触れた瞬簡に、既に右腕は綺麗に切断されていた事に。
斬撃が、触れた瞬間に体を『徹った』。その一撃は、それだけには留まらなかった。
雷鳴が体の内から聞こえたのだ。

体に当たり、徹って行った斬撃の衝撃が体を徹る瞬間に僅かに拡散し、氷村の体を内側から衝撃を与えた。


後に、高町士郎がこの技を見た瞬間に使う事を禁じる。



その名を



―――――雷徹と名づけられて







啼いた、哭いた。声無き叫びが聞こえた。唇が歪む。半ば背を向けるような格好に成ってしまっている高町恭也に、あの化物は攻撃できない。
その証拠が、目の前のソレだ。ブレている。その姿がブレている。なぜそう成っているのかは分らない。ただ、ソレは一つの可能性をルーダーに気付かせた。

纏う魔力は深緑。握る拳は真紅。引き絞った腕は朱腕。

ルーダー・アドベルトという魔導士は、他の一般魔導士より少し強いだけの存在だ。
ソレに、幼き頃からの経験と目標への努力が有って今、この場に居る。魔力集束率、圧縮率、射出力、魔力制御力…その全てが平均より少し上な程度だ。
一般武装隊員の中にはソレゾレの分野で己より上が居る。ゴロゴロ居る。それでも、ルーダーは勝ってきた。犯罪者に、敵に、味方に勝ち続けてきた。
試合や模擬戦の事ではない。全ての戦いに生き残ってきた。重症を負った事もある、死んだと思ったこともある。挫折した事もある。その全てがバネに成っている。
生きる事に貪欲。纏めてしまえばコレだけで終わる。だから、ルーダーは強く成った、成れた。そう有り続けた。ハッタリも此処まで来れば凄い物に成る。
ルーダーは誰よりも臆病なのだ、だから生き残る事に主軸を置いた。だから、強くなる。戦いの場で、臆病者は時に強者に成り上がる。ルーダーは成り上がり続けた。戦いをコントロールすることに因って勝者で在り続けた。
今までの戦いの経験。それに生き残ってきた技術がルーダーを強くした。
彼が後天的に手に入れた物。ソレは『視界』。簡単に言えば観察力がずば抜けているのだ。ソレを長年の勘と技術が保管している。
高町恭也は自分の理想通りに動けていると思っている。ソレは正しい。しかし、前提が違う。

高町恭也は、己が描いた理想の行動をしている、出来ていると思っている。

ソレは正しく、間違いである。

実際には、ルーダーが作り出した流れに影響され、次第に捕まり、何時の間にかルーダーの思うように動かされている。

というのが正しい。

つまり、いま、この場はルーダーの独壇場なのだ。

(仮称…『ダブル』ってとこか?)

再び二人になった氷村。片方はまだ動けないで居る。此方が本体。そんな事は考えずとも分っている。
真っ赤に染まった両腕。切り傷が多く。力を込めれば血が滲む。不覚を取った訳では無い。態と薄皮一枚で受けていたのだ。全てが前準備であり、本命。
既にルーダーの一撃は、血を流すという余計な行動を省いて行われる。
前に進む前に、腿に前蹴り。一瞬の停滞を作り出し、地面を蹴り上げそのまま氷村の顔…正確にアゴ横に蹴る。魔法で身体強化された体から繰り出されるその一撃は人を殺せる。容易くではない、それなりの場所を、ある程度の力で蹴るか殴るか突く。
分身は簡単に消えた。ルーダーは情報を纏めていく。

分身は殺せば消える。

本体の体がピクリと動いたのを感じ、ルーダーはその体に拳を当てた。ただ、当てるだけの攻撃。威力など無い等しい。
そこで嗤う。馬鹿にする。扱き下ろす。言葉の挑発などは不要。行動で示す。
それだけで、相手の頭に血が上って行くのが分った。
視界の端には常に明智良哉が映っている。その動きを常に観察しながら眼前の敵に集中する。ルーダーは思う。何て察しの良い奴なんだと…明智良哉を見ながら思う。
明智良哉は魔力を込めていた。明智良哉は魔力を圧縮していた。明智良哉は魔力を集束していた。

何に? その手に握るデバイスにだ

(つまりは…こういう事なんだろ!!)

深緑の魔力がその腕を輝かせる。その魔力は何処か粘着質な物のように見えた。

「ほらよ!! お兄さんからのお土産だ!!」

サイドステップで避けた大振りな攻撃、その懐に入るにはとても…とてもとても楽だった。深緑の左腕は当たり前のように氷村の右脇腹に突き進み…少し軽いが、確かな感触をその腕に伝えた。

氷村は動じない。寧ろ不思議に思った。その一撃は余りにも軽く、痛くない。挑発ではない。
氷村は考え、簡単な答えをだす。

奴等が使っている。自分を殺した『力』では今の俺を殺す事は出来ない。

ソレは事実だった。その答えが正しかった。氷村遊の中で今までの事が繋がった。

明智良哉は何故、攻撃してこなかった。否、何故避ける事の出来る攻撃しかしてこなかった?
―――――自身の攻撃が俺に聞かない事を確信させない為だ。

ニヤリと頬が上がった。笑いが出そうな程、愉快だ。

(あ~あ…厄介だ。コレは厄介なくらいに愚かだ。)

ルーダーはそう思いながら、腕の魔力を集束させた、その左肘から指先までが深緑に包まれる。
ソレを観て溜め息が出そうに成るのを我慢し念話で明智良哉に一言つげると、ツプリと音を立てて氷村の体に指を侵入させた。



それは確かに叫びだった。まるで幼い子供が、痛みを始めて知ったような叫びだった。
少なくとも、高町恭也はそう思った。
その叫びを上げさせた男は、またも嗤っていた。何かを掴んだ。掴めた。それは自分達の勝率を上げる為のものだと分った。
故に今だ全力の反動で痺れる右腕を無視して、前線に躍り出る。

「イッ?! ガッァァァァァ!!」

狂乱とはこういう事を言うのだろう。氷村を観ながらそう思う。滅茶苦茶な攻撃はドレも必殺さが避けるには容易い。容易いが…氷村の場合は勝手が違った。
元より人間とは違いすぎる身体能力を持っていた氷村、ソレが怨念となって現れた。タタリという化物を喰らって。
その所為で、更に強く成って居た。滅茶苦茶でデタラメな攻撃が壁のように存在し、近づけない。

(使うか?)

「恭也、何をするかは解かんねーけど…少しだけまて」

「…了解」

神速を使おうと考えた高町恭也は、ルーダーの言葉に従った。この場の流を作り出したのがルーダーであり、自身の考えの間違いに気が付いたからだ。

が、何事もにもイレギュラーは付き纏う。

「逃げて!!」

ソレが避けられたのは、明智良哉が叫んだからだ

その声に体が反応した。全力で飛び引いた場所に雷が落ちた。否、貫いた。後ろに飛んでいたら、間違いなく即死だっただろう。
ルーダーは表情を引き攣らせ、恭也は、気付けなかった己の鈍さに憤った。
ソレは、人としてなら自然な考えで、思い。だからこそ、ほんの一瞬を費やしてしまう。

「しまった?! 避けろ良哉!!」

「グッ?! 間に合うか!!」

ルーダーが叫んだ瞬間に、恭也はモノクロの世界に入った。その世界の中で、氷村の動きは遅い。遅いが、間に合わない。後一歩、どうしても足りない。

(こんなモノなのか? この程度なのか?! くっそぉぉぉぉぉぉ!!)

高町恭也の眼前に、赤が散った。




殺った。確実な手応えが有った。骨を削った、肉を貫いた、削いだ。その証拠に自身の左腕に垂れる赤い液体がその証拠だった。
愉悦が駆け上がる。目的は果たした。この場を離れようと氷村は考えた。今の状態で高町恭也達と戦うのは不利だと考えたからだ。何より警戒しなくては成らないのはルーダーと呼ばれたあの男。
自身の体を突き破った男の存在が、そう考えさせた。アレは危険だと本能が叫んだ。明智良哉という名の糞餓鬼を殺す為とはいえ、『力』を使ってしまった。あの一撃は常に出せるものではない。元から自分の力ではないのだ、扱いは難しい上に『溜め』がいるのだ。直ぐに出せる物ではない、出せる事には出せるがそれは弱いものだ。
久遠という子狐も予めその体の内に溜めていたから出せたのだ。それは自身も同じ事であり使えば使うだけ力が減ると言う事である。

そこまで考えて、氷村は自分の右肩がジンワリと熱を帯びていくの気づいた。
そこで、氷村は自身の眼下に気づいた。

有り得ない

そう考えた瞬間、右肩から肩甲骨に掛けて肉が裂けた。

「ギャァァァァァ!!」

女が座り込んでいた。鈍い鉛色の光が照らしたその顔は一言で言えば綺麗だった。頬に付いた血の雫が余計にそう思わせた。
町で見かければ夜の供に誘っても良いレベルだと、雄としての部分が考えた。
涙で少しだけ歪んだ視界の中で、その女がゆっくりと立ち会った。右肩を抑えて

「あら、意外と情けないのね? 痛いのはこっちの方なんだけど?」

女は自分を見下した用に言い放った。

「キッ!! 貴様!!」

「チョット、隊長!! 良哉君がボロボロじゃないの!!」

全く相手にされていない。まるで、初めから居ないかのように振舞われる。

(何だ?! 何なんだこの女は?!)

混乱した。結界を破ってきたであろう女の存在に混乱した。イレギュラーである高町恭也達はまだ納得できた。結界を打ち破る方法を知っていて、実践したからだ。
だが、この女からは何も感じられない。霊力など微塵も感じなかった。只の女でしかない。その程度の存在に、なぜこうも無碍に扱われているのかが解らない。
解らないからこそ…腹が立った。頭に血が上る。

「いや…隊長って…お前…」

「何? 元部下が隊長と呼んだら可笑しいかしら?」

無視。完全な無視。

「貴様らぁぁぁ!!」

跳ね上がる。足に力を込めて、女の後ろから腕を突き出す。そうして…氷村遊は血濡れの左腕を肘から切断された

ファラリス・アテンザは笑う。

(それでこそよ)

だからこそ嫉妬した。

ファラリス・アテンザは哂う。

(本当に愚か者ね)

だからこそ許せない

ファラリス・アテンザは夢を見る。

(がんばれ良哉…私が見れなかった…行く事が出来なかった先を見せて)

鈍い鉛色の光が残像を残して通り過ぎる。

数瞬前に微かに聞こえた機械音声。

眼前には背中を向ける明智良哉が立っていた。

(あぁ…本当に、嫉ましい位に愛しいわ)







明智良哉は混乱しそうに成った。それをさせなかったのは原因である、ファラリス・アテンザ本人だった。
ファラリスは小声で良哉に告げた。

「私は大丈夫だから…貴方は貴方の出来る事を確実にしなさい」

血を流しながらそう言った。告げた。立ち上がり良哉に背を向けて歩く姿は大きかった。そう見えた。
肩の傷を見る限り、それは歩くだけでも激痛が走るだろう。そんな激痛を飲み込んで、平然とした顔で歩いて言った。

(何が…此処までだ)

腕に力を込める。胸の中のリンカーコアが脈動する。意識が鮮明になり、体中に力が漲る。その瞬間から、思考が高速化し、分裂し、また一つになる。
攻撃手段が揃った。反撃の狼煙が上がった。
『血』が有効なのが解った。
密度を高め、ギチギチに圧縮し、収束した魔力ならば傷をつけられる事が解った。
もう、相手を殺せる。その為の刃が握られた。今まで我慢していた物が一気に噴出す。
胸の中で久遠が小さく鳴いて知らせる。

氷村は完全に明知良哉の存在を忘れている。もしくは瀕死だと思っている。

(馬鹿め)

命の遣り取りをしている最中に、敵に後ろ見せるのは愚の骨頂だ。奇策も何も無しにそんな事をすれば、待ち受けているのは死だ。
だからこそ、明智良哉は自分と久遠…タタリと氷村だけが共有している情報に感謝する。最初は不思議に思った。なぜ、左腕だけが女性…タタリのモノなのか?
戦えば解った。その前に久遠が気づいた。
雷は元々はタタリと久遠の力。確かにタタリは喰われたのだろう。しかし、相手を喰らったと言うだけでその力をアソコまで使える訳が無いのだ。
だからこそ、左腕が残った。力を使う為に

ブチっと頭の奥で音がした。

最初に音が消えた。

『Ready?』

誰が何を言っているかなんて解らない。

槍を構える。

嗅覚が無くなった。自分の内側から出ていた鉄の臭いも分からなくなった。

『……Program start』

『Blitz Action』

『Panzergeist』

ラプラスが制御を補助する。シュベルトが動きを補佐する。クロイツがその守りを強化する。排出されたカートリッジは三つ。全てがシュベルトから吐き出され、クロイツから補給される。
ラプラスが僅かな魔力で脳の負担を軽減する為に演算能力を使い、其れの底上げの為にシュベルト・クロイツがリンクシステムでラプラスと繋がる。

視界から色が消えた。見える景色は白と黒の世界。

味覚は消えうせた。

さぁ、反撃を始めよう。











高町恭也は唾を飲み込んだ。

ファラリス・アテンザは美しく笑った。

ルーダー・アドベルトは驚愕した。

高町恭也とルーダー・アドベルトは明智良哉を見ていた。飛び出す寸前の明智良哉を見ていた。そこに、もう一人の明智良哉を見た。
獣の如き笑みを称えた獣面の槍使いの咆哮の瞬間を











あとがき

PC初期化…イロイロと、大切な物を失いました。仕事でも使うから余裕なんてありゃしない。
家族計画…何処になおしたっけ? てこいれは何処にやったけ? 巣作りは…つよきす…ランスシリーズ…大番長…ニトロ作品…

よく自殺しなかったと思った今日この頃。皆様、お元気ですか? 私は仕事を始めて体重が落ちました。ズボンがブカブカです。

さて、次回から反撃場面。久遠が活躍するのか? 



以下人物設定

高町恭也

海鳴りの兄貴。戦闘狂、リア充。
なんか到達しかけてる。人として失格かもしれない。


ルーダー・アドベルト

アースラの主夫。親馬鹿、馬鹿親。
まぁ、こんなもん。対人は強い。ベルカ適性が低すぎるのが泣きっ面に蜂
兄貴はもっと強いらしい。
本質は臆病者


ファラリス・アテンザ。

過去、武装隊出身。傷持ち。
レスキルがある模様。多分凶悪。
魔法を使うと常に激痛に悩まされる。
昔は真っ直ぐで勝気な少女だったっぽい。

久遠

俺の嫁。


これぐらいかな? 次回もまた、長く掛かりそうだ。
プロジェクトリーダーとか…嘘だと言ってよ主任!! ぜってぇー泣かす。



[5159] タタリ編八
Name: BIN◆d3245a21 ID:4b8c7aee
Date: 2009/10/15 01:49


血飛沫が上がる。其れは興奮の為か? それとも狂ったのか?

高町恭也は眼前の光景に一瞬だけたじろいだ。
魔法という理不尽を目にした。己が鍛えた生徒がもう一つの顔を見せた。驚くなという方が無理なのかもしれない。
だが、前者は予め知識としてルーダーから軽く教えられていた。そこまで驚く程の事ではない。ならば後者か? と、問われればそれも違うと答える。
人とは生きていく上で、幾つもの顔を見せる。それは、自身にも有る。闘争に飢えた滾りがある。強くなりたいと泣き叫び我武者羅に鍛える自身が居る。
その様な当然の事で高町恭也は動じない。ならば、何に驚いたのか?

自身の傷口に指を入れ抉る、ファラリス・アテンザの凶行にだ。

其れと同時に、氷村はのた打ち回る。

呆然としている場合ではない。敵は這い蹲っている。

なぜ、明智良哉は左腕を切った?

其処には自分には分からない理由が有る筈だ。あの少年は無駄な事はしないだろう、短いがそれなりに濃い時間を共有してきたつもりだ。ならば…

(ただ、信ずるのみ!!)

体は本能の侭に動く、其れを御するは冷静な戦闘思考。掲げた理念はただ、勝利のみ。

高町恭也は不破恭也なのだ。

掴むべきモノを掴む。だからこそ刀を持つ、武を極めようとする。誰よりも強く、何者よりも強く、護るために!!

場の流れというものは、完全に氷村の手から離れていた。後方の高町恭也、前方のルーダー・アドベルト。
気づいたのは己だけではない。その確信があった。初めからそうなのだ、この場での自分の役割は駒に近い、駒その物なのかもしれない。なぜならば、この場の流れは常にルーダー・アドベルトの手の中にあるのだ。

「ゲェァ?!」

のた打ち回る氷村を蹴り上げる。その蹴りの軌跡に深緑の光が後を引いた。それだけでは足らない。此の侭では終わらない。そう叫んでいるかのようにルーダーが動く。胴を蹴り上げられ浮いた氷村にさらに蹴りが叩き込まれる。
浮いた体は法則に従い落下する、其処へさらに蹴り、さらに体が浮く。ダメージが少ないのは明らかだ。その証拠に氷村は反撃の為、ルーダーに手を伸ばそうとした。そして失敗する。
蹴りである程度の高さまで蹴り上げられた氷村の襟首を掴み引く。それだけで氷村は半ば立ったような体制になる。一秒もしない内に地面に足が付くだろう。
だが、ルーダーはそのまま掌で顎をカチ上げた。氷村の体を引く瞬間にもっとも引き上げ易い距離までの接近、さらに其処から半歩前進し半回転。大地を踏みしめ体のバネを使い顎を打った。
そして、その体勢こそが高町恭也の望んだモノだった。モノクロの世界に入る。音が消え味覚が消え香りも消える。ただ目指すは勝利のみ。
神速の抜刀。ただの一撃。技の名前などは無い。何の変哲も無い抜刀術。その一撃は氷村の左腕の残りを完全に切断した。



氷村は混乱する。全てが分からない。なぜ自分が惨めに貪られているのかが分からない。己は『狩る』立場に居たはずだ。
なのに、今は追い詰められ無様に『狩られている』
考える、考える、考える。確かに二人…三人はイレギュラーだった。それでも之はオカシイ。有り得ない、有り得てはいけない。
あの小僧一人ならば容易かった筈だ、筈なのだ。考える、考える、考える。そも、全ての原因は自分を殺したあの小僧の所為だ、其れが絶対なのだ。復讐をして何が悪い? 復讐は正当な物だ。それに、あの男は自分と同じな筈だ。分かる、判る、解る。あの小僧は自分と同じ狂人のはずだ。
違いが有るとすれば、それを悟らせない事だけではないか。
何よりも腹が立つ。同属嫌悪なのかもしれない。其れよりも腹が立つのが、アレは自分よりもモノを持っていることだ。

(そうだ!! あの子狐が!! あの女狐が居るから!! 助けを請うから!!)

あの小僧は自分の存在を感知した。

全ては八つ当たりである。それも、場違いな八つ当たり。ただ、その八つ当たりは氷村にとって正しい事で考えだった。この場で、憎悪を滾らせる相手が一人増え、そしてその憎悪はナカのモノに力を与える。




昔、本当に昔。一匹の幼い妖狐が恋をした。
御伽噺の様な陳腐と言っても良い出会いをした。
最初に気づいたのは少年で、妖狐の正体を見破った。
後から気づいたのは妖狐で、その未知なる暖かさに喜んだ。
時は過ぎ、恋を知って、少年は青年に妖狐は女になった。
一生一緒…到底無理な話だとは互いが知っていた。理解していた、それを承知の上での愛だった。


――――――――――――なのに

青年は人に殺された。彼が元気だったというだけで。
彼の住んでいた村に病が流行りだしたのが不幸の始まりだった。会う時間は減り、心配になった。
次の不幸は一つの情報。神職に就いていた有る男が言った言葉。生贄を捧げる。簡単に言えばそれだけの事。それは女に安心を齎した。
古来より、生贄は女・子供が捧げられる。青年は子供ではなく、一人前の男だった。

次の不幸はその考えが覆された事。若く、生気溢れる人間は、彼だけしかいなかった。

そして、次の不幸は…その事を女が知ったのは全てが終わった後だったと言う事。

――――――――――――なんで?

冷たい体はただの肉でしかなく。魂の無い人型は人形と同じ。
暖かい声は聞こえず。その腕が再び女を抱くことは無い。
女の心には傷がつけられ、その傷は怒りを生み出した。
最愛の人を理不尽な理由で理不尽に殺されたという怒りが、女を捕らえ縛り上げた。

最後の不幸は…怒りに縛られてしまったと言う事。女は青年を殺した神職を殺し、その場に破壊を齎した。
何も知らない人々は口々に言った

――――――――――――タタリだ。怨霊が現れた。道真公の怨霊の再来だ。

人は『神』に祭り上げられた負の一面と、女の怒り故の行動を重ねた。
過去の災害と重ね、生贄…人柱にされた青年を祀った。自分達を守ってくれる存在として、自分達を脅かすモノを駆逐する『タタリ』として。

彼等の間違いは女の存在を知らなかった事。祀った男の魂などは無く。居るのは怒りに魅入られた哀れな妖狐。
彼らの行いは、何れは薄れる怒りに身を任した妖狐を縛り付けてしまった。

それが……タタリの始まりだった。




結局、それは八つ当たりだったのだろう。古来より続いた風習だった。神が信じられ、八百万の神が住むと信じられていた。
つまりは『そういったモノ』としては知っていた。ソレは常に他人事の筈のモノとしていたのだ。誰もが自分には…と考え、思っていた。
女もソレと変わらなかった。唯一の違いといえば、女は『神』という存在を知っていた。
そして…正式な手順も踏まずに『生贄』を捧げたとしても意味は無いと言う事も知っていた。
だから、それは八つ当たりだった。幾らでも手の回しようは有った。だが、ソレをしなかった。

―――――――――――――なぜ?

あの時、あの瞬間

―――――――――――――どうして?

高を括り

―――――――――――――なんで?

行動しなかった?!

女は自身から湧き出たモノに括られた、縛られた。それは女の自業自得といっても良かった。
人の想い…信仰の強さを知っていた筈なのに、自分には関係ないと思っていた。

神に対する『八つ当たり』
神を崇めるモノへの『八つ当たり』
何よりも、行動しなかった愚かな自身への『八つ当たり』


カチリと歯車が噛み合う。それは、正しく歪んでいき完成する。

怨霊・氷村遊として。





悲鳴が上がる。氷村の内から叫びが聞こえる。条件が揃った。生まれる為の条件が揃った。何よりも、良質な餌がそこには在った。
怨霊より生まれた怨霊が、怨霊に力を与えた怨霊を喰らおうと猛る。
その変化を見逃す事無く、明智良哉の懐から子狐が飛び出し雷撃を打ち出す。

終わったと、久遠と良哉は確信した。その威力を知っているからこそ、弱っていく敵を見ていたからこそ、二人は目を疑った。

腕が生えていた。切断した筈の『女』の腕が有った場所に『男』の腕が生えていた。

異質な空気を全員が感じた。その中で、高町恭也のみが動けた。知っていたからこそ動けた。

(タタリ!!)

踏み込みは一瞬

抜刀した小太刀は神速

故に、高町恭也は愕然とする。

重なった。視線が重なった。既に抜刀した小太刀を止めるには遅すぎた。

「残念」

オドケタ、馬鹿にしたような声色でタタリは嗤った。

腹部への衝撃。声が上がらない程の激痛。肺から空気が抜けていく。吸い込む事など出来そうにもない。ただ、痛みが意識を繋ぎ止める。

次の瞬間に見たものは、雷に焼かれる久遠の姿だった






全ては一瞬で方がついた。最終的に、氷村遊が明智良哉と久遠を上回った。
落ちる雷が狐を焼いて、大気を巻き込んだ一撃が明智良哉を吹き飛ばした。ただ、それだけだ。

「いいなぁ…いいなぁコレ。馴染む…あぁ!! 馴染む!! コレが俺だ!! 本当の俺だ!!」

狂ったように笑うタタリと、立つ事も出来ない高町恭也。動けないルーダー・アドベルトとファラリス・アテンザ。殴り飛ばされた明智良哉と、焼かれた久遠。
それらを見ながら、新しい玩具を買って貰った子供の様に氷村遊ははしゃいだ。否、はしゃいでいる。
まるで、ほかのモノなど興味は無いとゆう風に。価値など無いと笑うように。

ルーダーは観察する。アレは先程までの愚物じゃないと一目で解った。解ってしまった。太刀打ち等出来る筈も無い。基礎から違う。在り方から違う。
逃げる事も出来ないと本能が諦めた。
ルーダーは考える。ならばどうする? 起死回生の一手は無く、ただ死ぬのを待つだけの家畜と何も変わらない現状をどう打破する?
明智良哉の生存は解らず、焼けた狐が何かも解らず、目の前で狂った様に嗤うバケモノに敵わない事だけが理解出来た。

(…それでも)

死ぬわけにはいかない。妻と子がいる。愛しい家族がいる。死ぬ訳には行かない。

ジャリっと音がした。死んだと思っていた狐が、這うように動いていた。逃げている様に見えた。その音に反応したのか、氷村はニタニタと不快な笑みを浮かべてその狐を蹴飛ばした。軽く蹴った様に見えたその一撃は予想以上の飛距離を出した。
狐が向かっていた場所とは正反対の方向へ蹴っ飛ばした。山形に動くのではなく低い位置を直線で書いた線の様に蹴り飛ばされた。

「おいおいおい!! 何、逃げようとしてんだよ御稲荷様!! タタリの生みの親なんだろ?! 係って来いよぉ!!」

反吐が出そうな笑顔だった。ギリっと食いしばった歯が音を鳴らした。それは、他の二人も同じだった。だが、動けない。幾ら念話を飛ばしても明智良哉からの反応は無かった。最悪の可能性が過ぎった。軽く蹴っただけであの威力なのだ、それ以上の速度と威力で殴られた明智良哉が死んでいてもおかしく無い。BJが有ったとしても限度がある。

ジャリッ、ジャリッ、と態と音を立てながらバケモノが歩く。

「出て来いよぉ…次は…誰が蹴られるか分かんねぇぞぉ!!」

視線が合った。

(不味いな)

考えなど浮かばない。ただ、震え無い様にするので限界だった。

「ぐ…お゛ん!!」

叫びが聞こえた

と~…ゃんせ 

次に聞こえたその声は、遠い場所にいる娘の声に良く似ていた。






認識出来たのは強烈な光のみだった。突然現れた雷の光。距離が近すぎた、強烈な光は視力を奪うには十分すぎた。辛うじて機能を保つラプラスが、久遠が焼かれた事を見せてくれた。迫る拳に体は反応出来なかった。
明智良哉は反応出来なかった。人の反射神経では間に合わなかった。魔法を使う事も出来なかった。明智良哉には何も出来なかった。
だが、氷村遊だけが知らない事が有った。デバイスという意思を持った物の存在。コレが明智良哉を助けた。相手にバレない様にBJ内での障壁の展開。極短時間の飛行魔法の展開による退避。明智良哉の意識が失われる前に行われた一瞬の行動が命を救った。だが、それだけでしかない。
確かに明智良哉は刃を得た。だが、ソレ=勝利ではなく。ソレ=今までの氷村遊への勝率上昇でしかない。
明智良哉の意識が戻った時、そこは何も無い真っ暗闇だった。

(暗い……見えてないのか?)

取り乱す気力すら失せる程の脱力感。何も見えないという状況で冷静さを失わなかったのは体を襲う酷い痛みが、まだ生きている事を教えてくれているからだった。

(ラプラス…)

念話に応答はなし。代わりにシュベルトが答える。

(主、暫くは無理です。)

直ぐに思い当たったのは過剰な演算によるフリーズ。考えても見れば仕方が無い。未知のモノを観測させ観察させ情報を処理させた上で、リミッターを外した脳への干渉に情報処理。
デバイスとしては低スペックのラプラス。AIを積んでいる為に一応インテリジェントデバイスに属している為、人格がある。その人格による緊急時の判断で救われたが…その人格の所為で容量を喰っている。

舌打ちをしたくなるが、ソレをするだけ体力と気力の無駄でしかない。

(現状は?)

(内臓が破裂しなかったのは幸運です。ラプラスが極短時間の飛行魔法を即席で編んだのが良かったのでしょう。左右の助骨…右、十一番・十番。左、十一番・九番は折れています。左、十番には皹です。奇妙な折れ方ですね…幸い、内臓に刺さっていませんが…)

(一撃でも喰らえばアウト、掠ってもアウト。全力で動くのは持っての外…か?)

(はい…最善は)

「あぁ、それは言わなくて良い」

声が出た。その考えはとても魅力的で、楽で、とてもとても甘ったるい考えだ

(では? )

(久遠が生きてる、まだ感じられる。なら…)

シュベルト・クロイツを支えに何とか立ち上がる。場所は覚えている。全部が中途半端な状態で残ってる。
ソレを完成させるだけで良い。都合の良い事に久遠とは逆方向に離れ離れだ。計画通りにいかなくても、時間稼ぎにはなる。
足りない部分に足すだけで良い。その作業が辛い…歩くだけ激痛が奔る。口の中からは鉄の臭いしかしない。喉にへばり付いてるのは血の塊だった。吐き出して解ったが内臓も手酷くやられている。痛すぎて痛覚が麻痺しかけているからこの程度の激痛なのだろう。
視界は少しづつ戻ってきている。シュベルト・クロイツの補助では厳しいモノがある。木の根に足が引っかかり転びそうになる。
回復魔法は使えない。使えたとしてもお粗末なものだ。擦り傷を治す程度でしかない。適正値が殆どゼロに近いのだ。

(あぁ…どこだっけ)

後一本、後…一本だけ…

『右下、地面から二cmです』

そうか…

ガッっと音が聞こえた。


横に二本、縦に二本。その線が現すのは道標

黄泉路へ向かう道標。

神が通る道の印

さぁ、詠え。

詠え、唄え、謳え!!


「ぐ…お゛ん!!」

明智良哉は謳いあげた。











あとがき

ハイパー☆氷村タイム!!

お久しぶりです。BINです。遅くなってすみません。社会が悪いんです。嘘です。キリンさんが悪いんです、また嘘です。
エロゲーやってました!! 村正予約しました!! コミュ予約しました!! 姫狩りやってました!! コンプしました!! プロペラの新作もやってました!! ていうかロストした作品を再びやってました!!

許されるよね?

さて、瀕死の良哉、動けないルーダー、ファラリス、恭也の三人と。輝いてる久遠ですが…流石に死にますよねこれ?

簡単なアレ↓


明智良哉

ヒロイン属性のヒロイン?
今回も死に掛け、ていうか死ぬだろうコレ?
なぜかサイコロに愛されている(いや、うん。本当に)
現在、たくさん折れて打たれています。


ルーダー・アドベルト

新緑に輝く二十八歳(おっさん)
熱い人。観察するのは得意。
すれ違いざまに女性のバストの大きさを判別出来る
娘ラブ。久遠が危ないかもしれない


ファラリス・アテンザ

レアスキル持ちの元武装隊員。
魔法というか魔力を使うだけで激痛が走る。
過去の傷、障害が残っている。
ルーダーから言わせればエグイと言われるレアスキルを発動中。


高町恭也

兄貴、この人も熱い。違う意味でも熱い
原作よろしく良い所を持っていかれるのか?!


久遠(ヒーロー?)

狐、獣耳、妖怪、幼女。
雷が出せる。人に化けれる。幼女でもある

こんなところかな? 仕事の為に寝ます





[5159] タタリ編九
Name: BIN◆d3245a21 ID:4b8c7aee
Date: 2009/10/21 02:16





『通りゃんせ 通りゃんせ ここはどこの 細通じゃ』

ガサリと音を立てて草むらから少女が現れた。

『天神さまの 細道じゃ ちょっと通して 下しゃんせ』

自分の娘より少し年下の少女…の様なモノだった。

『御用のないもの 通しゃせぬ この子の七つの お祝いに』

長い金髪にこの国でいう巫女服という物を着ているが、明らかに人ではなかった。
揺れる二本の尻尾に頭から生えている獣の耳。ルーダーは思う。コレが妖怪というモノなのかと。使い魔とは格が違う。独立した生命体。纏う雰囲気からして違う。放つ力はなぜか心を刺激する。
恐怖なのかもしれない。畏れナノかもしれない。ただ断言できる。コレは人が恐れてイイモノで恐れを持たなければならないモノなのだと。

『お札を納めに まいります 行きはよいよい 帰りはこわい』

ルーダーがそう確信した様に、氷村遊は動揺した。なぜか? 焼いた筈の傷がないのだ。ソレはオカシイ。焦げ後すらない。毛並みが所々焦げていたはずだ。
無様に這い蹲っていた筈だ。
蹴り飛ばした時には瀕死だった筈だ。
なのに、それら全ての欠片も無い
何よりも違うのは力が違う。危険だと全てが警戒音を鳴らす。アレは危険だ。先程までとは違う。力が違う。何よりもそれ以上に何かが違う。
考える前に体が動く。アレは直ぐに殺さなければ拙い。

「死ネェェェェェェェ!!!!!!!!」

『こわいながらも』

だが遅い。この場には久遠を知る者が一人残っている。全ては知らない。だが、『久遠』を知り『タタリ』を知る者が一人だけ残っている。

「ハァァァァァ!!!」

高町恭也の咆哮が全てを動かせた。神速での抜刀。掠るだけで終わる一撃。それに気を取られない氷村。ルーダーが少女の前に展開したラウンドシールド。一瞬だけ動きが止まった。ファラリスが躊躇無く自身の傷に指を突き入れた。

「ギィッ?!」

仰け反る氷村。その仰け反った状態で見えた。見えてしまった。口から下が真っ赤に染まった明智良哉が。笑っている明智良哉が見え、口の動きを読んでしまった。

「また貴様かぁぁぁ!!!!!!!!!」

「「通りゃんせ 通りゃんせ」」

全てが覆された。









死にたくない

シニタクナイ

嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

消えたくない!!

泣く。女が泣く。妄念が啼く。怨霊が鳴く。嫌だと叫ぶ。
復讐は果たされない。望みは叶わない。嘆きが止まらない。怒りが収まらない。

クソッタレとソレは叫んだ。新しく取り込んだモノの知識が教えてくれた。新しく取り込む度に知識は増え、怒りは増し、嘆きが止まらない。
こんな所で止まれない。こんな事では許されない。彼が浮かばれない、浮かばれる筈も無い。彼は居ないのだから。

(弥太…弥太弥太弥太!! )

許せるものか、止まれるモノか!!

あぁ、だが哀しい事にこの場で終わってしまうのだろう。タタリは此処で終わってしまうのだろう。取るに足らぬ存在だと思っていたモノは意外と強かった、その中に在った潜在的な力が強かった。何よりも相性が悪かった。微かに見えたその血統の祖に近しい位置にそいつは居た。



狐から生まれた、女から生まれたタタリが狼に勝てる筈がない。あぁ、口惜しい。意識を食われ自我を喰われ力を喰われ最後に存在さえも喰われてしまう。
口惜しいくちおしいクチオシイ…

叫びは聞こえないだろう、嘆きは聞こえないだろう、怒りを感じる事もないだろう。

口惜しい…自身が消えれば、誰が伝えるのか? 笑っていた男の事を、心優しい少年の声を

口惜しい…自身が消えれば、誰が覚えておくのだろうか? あの温もりを、暖かさを、心地良さを!!

手がさし伸ばされた。見覚えが有る手だった。だから、私はその手を掴んだ



嘆きが聞こえる、怒りを感じる。感じるどころではない、ソレは正に自分の物なのだ。肩代わりさせていた。ずっと縛っていた。彼女を縛っていたのは人の想いだ。でも、ソレをさらに強くしたのは自分だった。
だって、そうでしょう? 彼は犠牲になった。人は彼を忘れない。人は理由はどう在れ彼を祀った。彼の温もりは忘れ去られるだろう。声も、形も、その生き様も、何もかも、彼を構成する殆どの事が忘れ去られてしまうだろう。
だが、存在は残る筈だった。そういった存在が居たという事を遺せる筈だった。
自分が全てを駄目にしてしまった。自分こそが彼を完全に殺してしまった!!
残ったのは私の行動だった。消してしまったのは私の行動だった。絶えられる筈も無い。一番愛した。誰よりも好きだった。彼が居れば他はどうでも良かった。あの時、自身の全てが彼だった。
だから、身代わりを作ってしまった。造ってしまった、創ってしまった。あのまま殺されれば其れで良かった。だが、醜くも残ってしまった。全てを忘れて残ってしまった。
あぁ、彼女が強いのは当たり前だ。彼女はずっと、覚えていて、苦しんでいた。私が負けるはずだ。縛られる筈だ。彼女に全てを任せてしまえば良かった。


少し前まで私ならそう思ってしまったのだろう。

「ずっと…背負って行くから…」

彼の様に、幾らでも傷を負をう。幾らでも後悔しよう。幾らでも反省しよう。そして…最後は決着をつけて見せる。

見せるから…

「もう、眠っても大丈夫」

貴女事、背負っていくから

「もう…貴女は貴女を許してあげて?」

伸ばした手で、伸ばされた手を掴む。彼女が笑った様に見えた。


時間は一瞬、一瞬で良かった。放たれた雷に当たる瞬間に自身の雷を当てて相殺して一瞬だけ繋げた。その結果、相殺しきれなかった雷に焼かれたが、彼女とは繋がれた。
蹴り飛ばされたのは痛かったが、実質痛いだけで問題はなかった。
アレは既に終わっている。解っていない。解る筈も無いのだろう。なぜ、人が妖怪を恐れるのか。亡霊風情に解る筈も無い。力だけ妖怪に成ったとしても、アレは所詮亡霊という枠からは出られない。
それよりも、気になるのは明智良哉の存在だった。死んでしまったかも知れない。否、ソレは今の所は無いが何れそうなるかもしれない。アレの一撃は自分でも痛い。
人の姿になるとガッっと音が聞こえた

(生きてる)

嬉しい。あの人間はまだ足掻いている。こんな、情けない化物の為に足掻いている。当初の計画通りに動いてくれている。それだけで嬉しい。
あの暴力の嵐から自身を庇ってくれた。あの時の自分では死んでしまうだろう嵐から守ってくれた。書きかけの印に線を足す。
呼んで欲しい。名前を呼んで欲しい。あの強い魂を持つ人間に、ボロボロで薄汚くて継ぎ接ぎだらけの魂を持つ男に読んで欲しい。
一緒に戦わせて欲しい。

「ぐ…お゛ん!!」

あぁ、あぁ!! 呼んでくれた。先に立つモノが呼んでくれた。なら、そこまで行ける。私は答えを出す前に、問題を見る前に投げ出してしまった弱いモノだ。だけど、貴方が教えてくれた。答えの一つを教えてくれた。
全てを飲み込み切り捨てる鋼の人よ。貴方は受け入れた、貴方は噛み締めた。貴方は全てにけじめを着けながら歩いていた。だから、その後ろをトボトボと着いていきます。
怖がりながら、貴方の支えに成れるように。だから…

「進んで…良哉」

黄泉路の門が開いた





全てが覆る様な感覚が奔った。全ては変わっていない。変わっていないが、この状況が望みだった。唯一、明智良哉が氷村遊に勝てる決戦場を作ることが狙いだった。人が怨霊に勝てる場所を作ることが目的だった。

久遠曰く。亡霊に抗うには強き心、命、魂を持って打ち砕く

人は亡霊に勝てない。勝てるのは一部の特殊な力を持った人間だ。大多数の人間では勝てない。

だが、亡霊に亡霊をぶつければ? 魂に魂をぶつける事が可能なら…勝てる見込みはあるのだ。
成りたての怨霊なら特に。

全ては確認していた。

氷村遊は悲鳴を上げる。痛みに膝を突く。全て人間と同じ反応だ。

「お前っ!! お前がぁぁ!!」

――――――――――――つまり

久遠の二尾が唸り、氷村を空へと打ち上げる。

――――――――――――奴は

誰よりも早く動いたのは高町恭也だった。

落ちてくる氷村に対して、抜刀ではなく無手で喰らいつく。

「御神流」

落ちてくる氷室に合わせて体を下に入れる。何もしなければ『激突』する。だが、その瞬間に真上に蹴りを放ち其の侭氷村の体を反転させながら地面に叩きつける。

「猿落とし!!」

「ギッ!!……!!」

もがく。悪霊が苦しむ。

―――――――――――生きていた時の己に縛られている。

体を抉られた分けじゃない。存在の一部を失った分けでは無い。つまり、そういう事だ。

(ルーダーさん、ファラリスさん。今なら、全てが効きます!!)

「了解!!」

「貴方は?」

あぁ、ファラリスさんは鋭いなぁ。

「大丈夫ですよ。この場でなら、俺は大丈夫です。」

「信じるわ!!」

さぁ、俺もはじめよう。

「久遠」

「うん」

手が合わさった




氷村遊は痛みにもがきながら開放した。混乱が有る。動揺もしている。何よりも恐怖している。

(早く…早く殺さなければ!!)

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

「しまっ?!」

全身から放たれる雷撃。直線ではなく円。点ではなく面で蹂躙する。その雷撃の威力は直線のモノよりも威力は劣る。だが、ソレは雷。当たれば痺れる。焼ける、運が悪ければ死に到る。雷が放たれてしまえば避ける事など無理に等しい。しかも、今回のこの攻撃はここに居る全員が初見であり、放つ前の予兆など分らない。
高町恭也は逃げられない。声を上げるも時は既に遅く、その一撃を甘んじて受けるしかない。覚悟は一瞬、驚きはその後できた。
それは、モニターで彼等の戦いを見ていた月村忍も同じだった。

「っ?! 恭也!!」

間に合わない。ノエルに連絡しても間に合わない。最悪の可能性が頭にチラつく。冷静さを失いそうになり、ガタッと言う音で後ろを振り向く。
月村すずかが呆然としていた。

(しまった!!)

忍はすずかに黙っていた。すずかが狙われていた可能性が高かった事、ソレをすずかのクラスメイトが防いだかも知れない事。その所為ですずかと同じ年の少年が血塗れに成っている事。恭也が死ぬかもしれないという事。彼等が死ねば、次は自分達の可能性が高いという事。

「恭也…さん? あれ? なんで?」

モニターの向こう側で、高町恭也は無傷とわ言えないが立っていた。所々火傷の様な傷ができ、服も所々が焦げていたが五体満足だった。

『ふぅ…フィールド系を張るのは久しぶりだったが…無事か? 恭也?』

『えぇ…問題有りません。』

不可視の壁が恭也を守りきった。会話からして、ルーダー・アドベルトが守ったのだろう。それに少しだけ、落ち着きを取り戻す。顔をモニターに向けたまま忍はすずかに言う

「…終わったら、全部話すから…部屋に戻っていなさい。すずか」

ソレは姉としての優しさから出た言葉だった。しかし、すずかは動かない。魅入っている。
動く気配の無いすずかを不思議に思い、また、後ろを向く。すずかは震えていた。その震えは恐怖から来るものだろうと思った。故にすずかの従者であるファリンを呼ぶ。
妹の震えが止まらない。手を伸ばし、優しく抱きしめようとして…忍は飛び引いた。

「す、すずか?」

近づいて分った。あの震えは…

「ハ…っ…あぁぁ」

『私達』特有の飢えだ

拙い。これはいけない。すずかにはまだ早すぎたのだ。すずかが『飢え』を我慢しているのは知っている。

(くっ?! 刺激が強すぎた!!)

すずかの視線はモニターの一部に釘付けになっている。画面の端、妖狐と手を合わせている眼帯の少年。確かに彼はすずかのクラスメイトだった。しかし、それ以上の関係は無かった筈だ。調べれば調べる程にあの少年とすずかの接点は無いに等しい。すずかの友人、アリサ・バニングスと少年の中は最悪に近いモノだった。すずかからもその様な事を聞いている。調べる限りではアリサちゃんの一人相撲の様だったが…。
そして、嫌う人が居るのだろうか? と思ってしまうぐらい良い子ななのはちゃんを苦手としていたという事も分っている。
何よりも、あの少年の事をすずかが気には成っても心を寄せる事は無いと半ば核心している。情報だけでしかあの少年の事を知らないからかも知れない。だが、そう思えるだけの事を隠している。
あの少年の両親は死んでいないと周囲は思わされている。だが、あの少年の両親は間違いなく死んでいる。あの少年、明智良哉は実の親の死を隠匿している。
墓も有った。私が其処を見に行った時、其処には人が来た痕跡は無かった。
何よりも、その両親の死を隠匿した方法が分らない。病院にも、会社にも知り合いにも、その情報が無い。
確実に大きな組織が関与している。私はそう思う。

「すずか!! 確りしなさい!!」

「…あっ……お姉ちゃん? なんで…明智君が…」

良かった、まだ大丈夫だ

「ファリン!! ファリン!! すずかを連れて下がりなさい!!」

私の叫び直ぐ駆けつけたファリンにすずかを預け、私は私の仕事をする。

「まぁ…忍ちゃんにはコレくらいしか出来ないんだけどさ」




体が熱い。喉が渇く。視界に映ったのは赤。彼の口から流れ胸元を汚し、体中から赤い毛糸の様に流れ出てとても美味しそうに見えた。
何も知らない。戦っている理由も、血塗れな理由も、恭也さんと居る理由も、その戦いをお姉ちゃんが見ている理由も、何も知らない。当たり前だ、だって彼は私達を避けていた。私達に近づこうとはしなかった。誰にでも優しかった彼は、私達には優しくは無かった。
何か酷い事をしてしまったのだろうか? なのはちゃんと考えた事がある。
アリサちゃんは彼の目が気に入らないムカつくと言っていたが、私はそうでもない。あの目は深い。とても深い。まるで海を見ている様にな気がする。そして、どこか壊れ物の様にも見えて…かなり不思議だった。
たぶん、クラスの皆もそうだと思う。彼が居なくなった教室はどこか騒がしかった。ソワソワとしていた。其の時に私は思った。

空気

酷い意味では無く、良い意味で空気。

無ければ困る。有っても其処まで気にはしない。当たり前だから。授業中に先生が何度その名前を呼んだか。休み時間、何人が彼の名前を呼んだか。
私は彼の事を何も知らない。知りたかったけど知らない。気になっていたけど知らない。ずっと、ずっと気になっていたけど、彼が近づけさせてはくれなかった。
画面越しに見た彼はぜんぜん違った。静かな優しい雰囲気は無かった。爛々と強い光を灯していた右目。力なく垂れ下がる左腕。口の端から滴る血も気にせず獰猛に笑っていたあの表情。
ドレもが初めてだった。見た瞬間に頭の中が真っ白になった。渇いて渇いて仕方が無かった。だから、私は知りたい。大嫌いな血液を飲みたく無いというのも有った。でもそれ以上に知りたい。あの場を見る限り、彼は私達側に居る人なのだろう。なのはちゃんやアリサちゃん達とは違う側の人間なんだろう。

彼を知りたい。正反対の印象を受けたあの瞳。あの笑み。

「ファリン…お願い」

「ダ、ダメですよ?!あぁ~でもでも、すずかちゃんのお願いも聞いてあげたいですけど~」

ゴメンね、ファリン。でも、私は知りたい。

「うっ、う~……分かりました。すずかちゃんが私に我侭を言ってくれたから、ソレに従っちゃいます!!」

「ありがとう、ファリン」

明智君、私は彼方の事が知りたい





合わさる掌。互いの暖かさが交じり合い、安心感を二人の心に宿す。方や血塗れ少年、方や無傷少女。
少年は右腕を横に伸ばし、少女は左腕を伸ばす。掌が合わさり指が絡む。少女が一瞬だけ振るえ、少年が苦笑した。大地に奔った不可視の四つの線。交わり一つの形を作りだした四つの線。大地には異物が一本、そして少女、久遠が草薮に隠していたもう一本の異物を予め刺してあった異物の近くに投げ、突き立てる。
合わさった手が、絡まった指が互いの鼓動を伝える。

「シュベルト…カートリッジ……フル・ロード!!」

『Ja!!』

シュベルトと呼ばれた槍が一人でに飛び、二本の異物、鉄パイプの上で停止し、空薬莢を五つ吐き出す。
鉛色の線がシュベルトを包み、さらにもう一本の線を作り出す。

氷村遊は動けずに居た。その完成していくモノを見ながら動けないで居た。
眼前の高町恭也とルーダー・アドベルト。この二人のが氷村遊を動かせないで居た。虚実を交えた二人の連撃。ソレを裁くのは容易い。容易い筈だった。能力では確実に劣っている筈の二人の人間に押されている。
何よりも氷村遊をその場に縛っているのは、ファラリス・アテンザだった。

「チィ!!! 女ぁぁ!!」

ファラリスに近づこうとすれば、恭也とルーダーに邪魔される。明智良哉に向かおうとすれば、耐え難い痛みが体を奔り動きを鈍らせる。

「予想以上に痛みに弱いのね?」

顔面蒼白の女が言う。目を瞑ったまま、脂汗を掻いて言う。何をされているのか理解が出来ない。故に怒りが募る。久遠が出てきてから体に奔る痛みが倍になった。混乱してしまうのも仕方が無い。
ファラリス・アテンザはレアスキルと呼ばれる固有能力を持っている。

『一方的な精神干渉』

実際はもっと違う名前なのだが、ファラリスはそう書いて『マインド』と読んでいる。
精神干渉に拠る『幻痛』が痛みの正体なのだ。使用条件は相手の体に接触する。コレをクリアすると、半径三十メートル内でその力を使用できる。
それでも、その力は弱く相手に何かしらの不安を与える程度のモノ。集中し難くする程度のモノだ。だが、この力には上がある。
使用条件2。相手に自身の体液(血液、汗、唾液)を付着させる事。だが、この場合での精神干渉は自身にも影響が出る。だが、その分威力は桁違いのモノに成る
現在、ファラリスが使用しているのは後者での能力使用。
ファラリスは、自身が今負っている傷、過去に負った傷の痛みを強く思い出し、相手に送り付けている。何倍にも強くして。

精神がガリガリと削られる。それでも笑って魅せる。釘付けにする。ファラリスは思う。胸から下腹部に掛けてが濡れている。薄目で下を見れば真っ赤に染まっていた。流石に出血が酷かったので背に負った傷はある程度治療はしておいた。
胸にも腹にも傷はない。古い傷跡しかない。

(そろそろ…限界ね)

ファラリスはそう思った。目を開ける。ルーダーと恭也が善戦しているが決定打が決まらない。何よりも首を切り落とした程度で死ぬとは思ってもいない。
そんな時、歌が聞こえた

「とおりゃんせ とおりゃんせ ここはどこの細道じゃ」

綺麗な少女がそう歌った

「やめしゃんせ やめしゃんせ ここは黄泉への細道じゃ」

掠れた少年が歌い上げる

「天神様の 細道じゃ ちょっと通して 下しゃんせ」

「国母神様の 細道じゃ 早く帰って 下しゃんせ」

「御用のないもの 通しゃせぬ この子の七つの お祝いに お札を納めに まいります」

「御用があっても 通しゃせぬ この方七つの末子故 お慰めに 玉を納めに まいりんさい」

「行きはよいよい 帰りはこわい こわいながらも 通りゃんせ 通りゃんせ」

「行きはよいよい 帰りはない 大岩をどけれたら 通りゃんせ 通りゃんせ」

氷村が叫ぶ。それは抗う事が出来ない卑劣な法だと声にならない叫びを上げる。

四つの線が交わり、ソレは鳥居を作り出す。大地に描かれた『地下』に繋がる黄泉路の門。

その上に並ぶ二つの門。方や黄泉より道を繋ぎ、方や天より道を繋ぐ。

少女と少年の間を天が通り、冷たい鋼の門が黄泉じの門を開く。

辺りに現れた亡者の残り微が二つの門を潜り消えていく。地下への門が吸い込み、天の門が送り出す。

「さぁ、氷村遊。此処から先は」




全力だ



傷一つない明智良哉が氷村遊の眼前で言った







あとがき


すずか…だと?



よっしゃ!! へし折ってやんよ!!

頑張ったんじゃないかなぁ~とおもう。今日、朝五時から出勤なんだぜ?

良哉君、結構ギリギリだったりします。

最後のやめしゃんせ やめしゃんせは完全に独自設定だし、噛み合いませんので深く考えないでください。ソレっぽいものと思ってください。責任持ちません
皆様の自由に…考えてみても、イミフだと思います。

それでは、お休み



[5159] タタリ編十
Name: BIN◆d3245a21 ID:4b8c7aee
Date: 2009/11/16 02:55





きぃと椅子が音を発した。古臭い木造の椅子は僕なんかが体重を掛けただけで音を出す。古臭いとか趣味が悪いと周りから言われる事も有るが僕は気にしない。
座るなら柔らかい木造の椅子に限る。ちゃんとクッションも貼り付けてあるし何より、木の臭いが僕を落ち着けてくれる。コレだけは譲れない。
勿論、プラスチックや化学繊維等で出来た椅子が嫌いと言う訳ではない。
そんな事を思いながら、裁判の資料を纏める。僕の裁判ではなく、フェイト・テスタロッサの裁判に関しての資料だ。
僕としてはコレで十分だと思っていた物でも、本職というかソレに係わる者としてはまだ足りない箇所が有るらしい。

「はぁ…クロノ、コレで良いかい?」

「……本当ならもう少し直したい所だが、コレで良いだろう。」

クロノ・ハラオウンは僕の渡した書類を受け取ると踵を返した

「ねぇ、フェイト達は元気?」

「元気だな……寧ろ元気すぎる。」

そう言うとクロノはため息を吐いた。
裁判に新しい事件にその起訴やらが一気に舞い込んできたらしい。少しだけ同情するが頑張れとは言わない。絶対に言ってやらない。
だって、僕はクロノの事が気に食わないし。

「君は暇そうだな」

「まぁね。今回の事では僕も一族の一部から批判と言うか中傷というか…そんなのも有るからね。いつも通りには行かないんだよ。そっちは大活躍らしいじゃない。」

「活躍なんてしない方が良いんだが…そうも言ってられないんだ。良哉が来るまでに出来るだけ落ちつかせて置きたいんだ。」

気に食わないクロノと僕の共通の話題と言うか、友人と言えば彼だ。ソレを思うと少しばかりの優越感が在る。僕はクロノの知らない彼を知っている。
そう言えば、彼は使ってくれただろうか? 彼の特性には合ってる『魔法』だと思うんだけど…

「元気にしてるかな?」

「当たり前だ。ルーダー・アドベルトに、ある意味でアースラの鬼札のファラリス・アテンザが一緒なんだ。僕が戦いたくない人№1何だぞ? ファラリス女史は。」

そんな事を話しながら過ごす時間。僕は何となく気に入っている。ある意味、クロノには遠慮してないから気が楽なのかもしれない。
次に連絡が入るのは何時かな?






八神という表札の掛かっている一軒屋のリビングで、ギリっという音が響いた。
音の鳴った場所は二つ。サーチャーにより映し出されている映像を見ている烈火の騎士の手。
獣の尾を持つ大柄な男に拘束された真紅の髪を持つ少女の口の中。
少女が叫ぶ。

「退け!! 退けよザフィーラ!! あいつが、良哉が死んじまう!!」

「冷静になれ!! あそこに映っている男は管理局の者だぞ!!」

それに大柄な男。ザフィーラが怒鳴り返す。その様子を見ながらハァとタメ息を吐く湖の騎士・シャマル。シャマルは結界を張ってて良かったと思いながら画面に見入る。
理解できない現象が起きている。理解できないモノが人間と魔導士と使い魔の様な者と戦っている。否、殺しあっている。
あの使い魔の様な者も理解できない。なんだアレは? 見ているだけで圧倒されそうなモノが、何かが在る。見ているだけソレが分る。サーチャーの感度は最大限に上げている。その為だろうか? あの少女の様な者を近くに感じる。だからこそ違和感が在る。
魔法とは違う異質な力の所為だろう。ソレしかない。画面の中でその少女の様な者は女性に変わった。長い金髪。ゆらゆらと揺れる五尾。五尾が少年…明智良哉を包む。

(あ、気持ち良さそう)

全然関係ない事を考えてしまった。でも、あのモフモフしたモノには包まれてみたいと思う。
横目でシグナムを見る。我らがリーダーはどの様な表情でこの戦いを見ているのだろうか? 
この意味の分らない、理解できない現象が溢れている戦いを見てどう感じているのだろうか?
そもそも、亡者など始めてみた。正直にアレは怖い。ホラーだ。夏に強制的に見せられた映画よりも怖い。生々し過ぎる。
人を殺した事は在る。自身のオリジナルも沢山殺しているだろう。だが、死体が好きな訳ではない。殺しが好きな訳ではない。

そう思いながら横を見て後悔した。

笑っていた。

目が笑っていた。表情は冷静そのモノだ。口元は引き締められていて緩んだ所など一切見当たらない。
でも、それを台無しにするぐらい目が笑っていた。ソレと同時に濡れていた。ある種の感動や悔しさの為かもしれない。
思えば、彼女にはあの少年に対して相談を受けた事も有る。助けに行きたいのだろう。共に戦いたいのかもしれない。戦ってみたいのかもしれない。あの場に行けないのが悔しいのだろう。あの場に居ない事が悔しいのだろう。
ヴィータは純粋に心配しているのだろうが、私達はあそこへは行けない。行ってはならない。私達の存在がバレるのは大変拙い。此処に拠点が有るとバレる可能性が高い。
考え事をしていたら、いつの間にか怒鳴り合いわ終わっていた。そして私は画面に視線を戻す。その瞬間ヴィータが吐いた

「…すげぇ」

あぁ、確かに。コレは理不尽過ぎる。








実を言えば、今行っている事は予定にはなかった。本来ならば、此処まで最悪の状況に成らない筈だったからだ。
何事も最悪の可能性を考えておくものだが、此処まで予定が狂うと笑いが出る。
それでも、この結果は当たり前なのかもしれない。俺と久遠は氷村遊が此処までに成るとは思っても見なかったし良そうもしていなかった。久遠が言う

「良哉…気を確りと」

「うん。分ってる。だから、頼むよ」

同じ土俵に立てたのだ。これからは力の強さではない。意思の、理性の、本能の、信念の強さが関わってくる。
それにしても、ボロボロな自分の体を見ると良く生きていたものだと思ってしまう。
柔らかい五つの尾に包まれているから既にその姿は見えていないが、その後が不安になってしまう。
死にたくはない。死ぬのは怖い。忘れられるのが、忘れてしまうのが、無くなってしまうのが怖い。
それでも、奴を滅しない限り先は無い。
俺は飛び出し、氷村遊に言ってやる。

「さぁ、氷村遊。此処からは」

全力だ






理不尽だ。余りにも理不尽だ。こんな事が有って堪るか、有って良い筈が無い。卑怯だ。卑怯すぎる。何だソレは。なんでだ。なぜ、なぜ!!

「傷が一つも無いんだ!!」

突き出した拳は、掌を外から添えられて流される。当たり前のように顎をかち上げられる。仰け反る体が言う事を利かない。追撃に体を硬くするれば何も無かった。
ただ、自分より数歩先で殺したい奴が構えていた。
腰に添えられた右腕。突き出された左腕、腰を少し落とした体制で明智良哉という名の餓鬼が無表情に俺を見ていた。
チョイチョイと左手が動いた。

掛かって来い

その意が汲み取れた。腹が立つ。あの餓鬼に。腹が立つ。あの餓鬼が起こす理不尽に。腹が立つ。高が人間がこの身に一撃をくれた事に!!

吼えた。言葉など必要ない。俺はあいつを殺す為に此処に居る。そうだ、最初からソレだけが目的だった。今や俺を喰らったバケモノは、俺が食い殺した。引っ張られる事は無い。だから殺す。完膚なきまでに!! 

最速で前に出る。右の拳をフェイントにさらに一歩前に出る。途中で右腕を折り、右の拳に左の掌を合わせて肘を入れる。完全に入った。
そう、入ったのだ。必殺だ。顔面が陥没して当然の一撃だった。その筈だ。

「捕まえたぞ。氷村遊」

なぜだ?! なぜ生きている。なぜだ!!

左の手首を掴まれた。体が沈んだ。何よりも溝に衝撃が有った。息が詰まる。顔を下に向けようとする。膝を出そうとする。当たり前の様に胸の中心に裏拳を入れられた。

なぜだ!!

体が落ちる。膝が折れた。コレは拙い。眼前に迫る掌が見える。捻りが加わっているの明白だった。眉間にソレが突き刺さり仰け反る。体から前方に雷を放った。これで少しはあの餓鬼も動けなく成る筈だ。
だが、膝を折り仰け反った状態の腹に踵が減り込んだことに拠って否定された。

なぜだ!!

減り込んだ足に更に体重を乗せられる。仰け反った状態の俺の顔に影が掛かった

(ま…ず…い!!)

だが、遅かった。無理に振るった右腕は空を切り。腹には更に衝撃が伝わった。

なぜだ!! なぜ、幽体で有るこの体に肉弾戦でダメージを与えられる?!不思議な光は纏っていない。忌々しいあの『力』を使用していない。武器すら持っていない!!
奴は俺の事を空中から見下ろしている。その両眼で見下している

(待て…なぜ両の目が…)

気づいた。簡単な事だ。そうか、そういう事か!!

ならば、出来るはずだ。俺にも出来るはずだ。奴を殺す。簡単な事だ。今まで通りだ。

「餓鬼ィィィ!! テメェの優位も其処までだぁ!!!!」

亡霊ならば空だって飛べる。そういう事だ。

体は、自身が思った以上に動いた。ドンドン動きが良くなってきている。下を見れば俺の推測が正しかった事が理解できた。あの妖狐の尻尾にあの餓鬼の体は包まれていた。他の人間もいつの間にか妖狐の後ろに居る。

同じ幽体ならば、俺の勝ちだ。バケモノを内側から食い殺して、その力を手にした俺の勝ちだ!!




もう、魔法などは関係ない。ただ、意志の強さが勝敗になる。久遠は其の事を知っていた。故に心配などは微塵も無い。あの強固な精神。重く静かな理性。何よりも苛烈な信念。
勝てない理由が無い。認めたのだ。私が、妖怪と呼ばれる人より遥かに強い生物が認めたのだ。同じ土俵、それも精神的なモノで殺し合おうモノならば自分は勝てない。
体験すれば分る。解る。解ってしまう。

狂わない狂人

壊れない壊人

例えるならそう成るだろう。だからこそ、自分が行う事を、行わなければいけない事を確実に行う。幸い、二人の人間が良哉の肉体を治療している。これなら、大丈夫だ。暫くは動けないかもしれないがそれでも助かる。
だから私は結界に穴を開ける。

そこから溢れ出すのは亡者。私の役目は体を守る事。明智良哉の肉体と、此処に居る人間を護る事。天神様の道に引かれて集まった亡者は結界により此処に入って来れなかった。だから、穴を作ってやった。天神様の道は閉ざされている。残っているのは黄泉への路。
そう、あの世への冥府への路。
次々と引き込まれていく。中には逃げようとするモノも居るが無駄な事だ。此処には『桃』等ない。アレから逃れられる亡者は居ない。
五尾を操り、憑こうとする亡者を薙ぎ払う。

「久遠」

「ん。信じて、恭也」

此処には彼が居る。計画には若干の変更が有る。私は彼女を救いたいから!!




ヴィータの吐きが聞こえた。あぁ、そうだコレは凄い。目で追えない。対峙すればまだ、気配や直感や経験で幾らかは対処できるだろう。
だが、速すぎる。戦場が空に変わった瞬間からは明智の優位だ。
攻撃を受け流しカウンターを仕掛ける。後の先の戦い。全てを流す。相手が空中戦が初めてなのもあるだろう。
何よりもだ、戦い方がえげつない。
態と攻撃を受けるという事を何度も繰り返している。相手が必殺と核心している一撃のみを喰らっている。だが、傷などつかない。
理不尽だ。理不尽にも程がある。何よりもあの場所で異常なのは、明智良哉の体が『二つ有る』と言う事だ。
理解が出来ない。幻術ではない。そんな時、シャマルが言った

「…幽体離脱?」

「…シャマル、お前、疲れてるのか?」

ザフィーラがそう言うが、私も一瞬そう思ってしまった。だが、考えれば辻褄が合う
最初、明智は攻撃という攻撃をしていなかった。周りはしていたが、必ず相手に触れるには血を付けていた。
だが、そんな事が有り得るのだろうか? 

一方、シャマルの発言を馬鹿にした様に言ったザフィーラは明智良哉の評価を改めた。
生き汚い小僧から正しく難敵に評価を修正する。
あの鉄の棒には細い糸の様な物が取り付けて有ったのだ。ソレは小さな金属製の釘…ボルトに繋がっていた。それにより、相殺し切れなかった雷を流したのだろうと言う事は解った。だが、ソレはバレれば意味が無い物に成ってしまう。つまり、使い捨てても良い物だと言う事だ。だが、それは違った。あの場で屯している亡者がある一定の場所から列になっているのだ。
道を作っている。あの糸とボルトが。あぁ、そうなのだろう。主が話してくれた神社のソレだ。あの形は主が説明してくれた鳥居と言う物で、もう一本新たに突き刺さった鉄の棒からも伸びている物と、初めに使ったあの糸とボルトが階段。つまりは路の役目を担っているのだろう。

(どこまで読んでいる? どこからどこまでが…予想の範囲だ?)

そこで気づく。口では馬鹿にしたが、成程。シャマルの発言は略正解なのだろう。

「すまんな、シャマル。お前は正しいのかも知れない。」

「う? え? えぇぇぇぇ?! それじゃあ、あの、明智良哉君は幽体離脱していて、あの戦ってるのはお化け?」

「お、そうか。そう言う事になるな…」

明智良哉が圧倒しているからだろう。ヴィータも冷静さを取り戻し、シャマルをからかう余裕が出てきたようだ。だが、出来るだけそっち系統でいじって欲しくはない。
アレに毎夜毎夜、トイレの度に起こされるのは不愉快だ





立て続けに襲ってくる疑問と不安。氷村遊に取って目の前の存在は自身に対する絶対的な理不尽に成っていた。
確実に心臓を破れる衝撃を叩き込んだ。
股間を蹴り上げた。
後頭部掴み喉に肘を入れた。
頚椎に膝を叩き込んだ。

無傷。無傷無傷無傷。

理不尽にも程が有る。確実に相手を殺せる威力を伴った打撃は全て明智良哉の体に入った。入った筈だった。その結果が無傷。咽る事無く、喘ぐ事無く、血を、涙を、汗さえも流す事無く明智良哉が眼前に立っている。
雷の一撃だけはまだ放っていない。恐怖が湧き上がる。ソレを否定する。そんな事は有り得ない。必ずこの一撃は相手を殺す事が出来るのだと縋り付く。負ける筈はない。負ける事は無い。避ける事は出来るだろう。初動を見切られれば仕方がない。
故にだ。ゼロ距離からの雷ならば当たる筈だ。そして、その一撃は明智良哉を殺すのだ。
だからこそ、もう一度試みる。

「ガァァァァ!!」

右の大振りは当たり前のようにいなされる。それで良い。
そのまま体を回転させて蹴りを打ち下ろす。逸らされる。それで良い。
足首を左手で掴み、引きおろす。抵抗など無い。
明智良哉の体を反転させて宙吊りにする。そこから右フック体に当たるが呻き声さえ聞こえない。ゾクリと冷たいモノが背筋を駆け上がる。
右の一撃の衝撃が明智良哉を揺らす。手を離し頭を蹴り上げ首を掴む。まるで風に巻き上げられた木の葉の様に高く上がる。背後を取り羽交い絞めにする。何の抵抗も無い。

ゾクリ

「シネェェェェ!!」

放った。文句の無い一撃。今まで放った雷の中で一番の威力だった。余りの威力に腹と胸が少し焼けた。だが、すぐに痛みは無くなった。当たり前だ。亡霊は殺せない。既に死んでいるのだ。説得され昇天するような心も無い。
目の前には何も居なくなっていた。

「はっ…ハハハハハハ!!」

勝った。殺した、殺せた。復讐は成された!!

「馬鹿が!! ハハハハハハ!! 馬鹿が馬鹿が馬鹿が!! 余裕ぶっこいてあっさり死にやがった!! ざまぁみろ!! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

ゾクリ

「!!」

背筋が冷える。じわりじわりと競り上がる不安。否定する。否定する。辺りを見回す。何も無い。そう、自身以外には居ないのだ。勝ったのだ。氷村遊は勝ったのだ。明智良哉に勝ったのだ。
そう確信する。己は絶対だと言う誇りと自信が再び帰ってくる。
だが、理不尽は何所までも理不尽でしかないのだ。

「それで? そろそろ始めても良いのか?」

震える。体が震える。帰ってきた誇りに皹が入る。

黒い瞳が月を背にして見下ろしていた。

(何だ…アレは)

揃っている両眼。其処には何も映っていなかった。否、其処には何の感情も無かった。人形の様な、息絶えた死人の様な、今すぐにでも死ぬだろう老人の様な…
光を灯さない両眼が自分を見ていた。

「あ…あぁ…ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

叫ぶ。逃げながら叫ぶ。ソレしかできない。殺せない。なぜか殺せない。自分が殺せない。理不尽だ。無理だ、無理だ無理だ無理だ。殺せない。何度も殺した筈だ。殺せた筈だ。なのに奴は存在する。

ドンと何かぶつかった。

「逃げるなよ」

「っ―――――――!!」

拳を突き出した。手首を掴まれる。足を払われた。吹っ飛ばされた様に足が上がる。体が横に泳ぐ。掴まれた腕事泳がされる。回る視界が回る。無防備な腹に掌が打ち込まれる。内臓が破裂する様な痛み。血を吐いた。無理だ、勝てる筈が無い。逃げなければ。逃げなければ殺される。
痛みが邪魔して動けない。
顔を上げるのでさえ辛い。

(殺される、殺される!! あの時の様に!!)

初対面での敵対だった。アレの気が知れない。絶対に狂ってる。自分と同じ様にイカレてる。そうイカレてる。アレに自分を殺す明確な理由は無いはずだ。最初に聞いた理由では弱い。弱すぎる筈だ。アレは関係ない。明智良哉と関係ない!!

どうでも良い様で、知らなければ成らない疑問が頭に浮かぶ

なんで―――――!!

視線の先では、鈍く輝く槍を構えた明智良哉が居た。





痛みとは何だ?

腕を切り飛ばされる事か?
足を押し潰される事か?
全身を焼かれる事か?
腹に穴を空けられる事か?
全身を吹き飛ばされる事か?
目を抉られる事か?

肉体が有ればそうだろう。味わった。耐え難い。アレは痛い。気を失う。
だが、否だ。
魂の、精神の、心の痛みではない。
氷村遊如きに屈する精神等持っていない。壊れる心を持っていない。折れてしまうような誇り等、犬に食わせてしまえば良い。
忘却こそが恐ろしい。死ぬ事が、全てが無かった事になるのが恐ろしい。

魂にリンカーコアは付随しない。アレは肉体に有る器官だ。故に魔法は使えない。此の侭なら使えない。元が無いのだ。コレでは解らない。
アレはどこまで行っても寄生体だ。タタリという存在に寄生している害虫の様なモノだ。アレを砕くには力が要る。でも、そんなモノは持っていない。
無いものは無い。だから、有る所から盛ってくれば良い
ガリガリと自分にだけ聞こえる音を立てて仕立て上げる。ユーノ、お前がくれた術式は今此処で役に立っている。実際に魔法として使えるかどうかは解らない。魔力を使ってないから解らない。それでも、解ることが有るのなら…

「お前は天才だ」

無様に這い蹲る氷村に狙いを定める。確かにコレは俺の特性に合っている。圧縮・縮小・収束。遠隔での魔力操作なんてしなくても良い。

「DornbuschFliegen」

さぁ、暴け。茨の槍よ!!

投擲した鋼色の光を放つ槍が崩れる。崩れて崩れて屑の様に成っていく。元は槍だったものが削がれて行く。散り散りになったソレは正しく釘の様だった。だが、その形は歪。
歪なそれは釘に例えるには荒々しすぎて、自然に生きる茨の様だった。
一つが二つ。二つが四つ。四つが十六。更にそこから崩れるも、存在を維持できずに他の茨と一緒になる。そうして行く内に茨は三十に分かれた。

腕を削ぐ、頭を、胸を、肘を、腹を、腿を、脛を、足を、抉り、切り裂き、貫く。
悲鳴が上がる。それは氷村遊にとって、怨霊にとって、妖怪にとって、絶大な威力を誇る茨の一刺し。
命を削って作られた絶対の茨。
明智良哉は、ソレを見届けると蜃気楼の様に姿を消した。








高町恭也は考える。意思とは何か?

自発的に目的を選択することだ。

当たり前の答えが頭に浮かぶ。意思なくしては、何も出来ないだろう。ただ、流される。利用される。最後に捨てられる。意思がないモノは人形と同じだ。
人に伝えずとも良い。ソレを持っていれば良いのだ。選択できる。意思が有るから行動できる。
ならば、自分がしなくては成らない事は何だろうか?

強くなる事。

確かに、ソレは正解だ。だが、今は違う。

明智良哉を助ける事。

確かに、ソレも正解だ。だが、今は違う。

巻き込んでしまった友人を助ける事。

確かに、ソレも正解だ。この人が居なければ死んでいただろう。だが、ソレも違う。

敵を斬る事。

確かに、ソレが正解だ。だが、どこを斬る? 

首か? 否、ソレぐらいでは死なない。

ならば、胴か? 否、それでも死なない。

左右に斬り分ける? 否、それでも死なないだろう。

ならば何処だ? 

核だ。

氷村遊が『今の氷村遊』としていられるモノの根本から斬る。

久遠は言った。俺にしか聞こえない方法で告げた。

『良哉が整えるから…核を斬って』

あの少年と少女が教えてくれた。

久遠は言う

『良哉がアレを殺す力を持ってない。持ってはいるけど使ったらいけない。弱らせる事は出来るけど、ソレは一時的なモノでしかない。私だと、力強すぎる。余計なものまで消してしまう。だから…』

茨の弾丸が氷村を抉った。落ちる、氷村が落ちる。俺から七歩程離れた場所に落ちる。顔を上げる。少女の横顔が視界に入った。少女が涙を流していた。なぜだ?

『持ってはいるけど使ってはいけない』

理由は分からない。痛みが有るのかも知れない。だが、今は関係ない。

相手を斬るという意思を込め、己の血で赤く染まる二刀を構える。
無様な姿で起き上がる氷村は、呆然としていた。モノクロの世界に入る
音が離れていく、体に感じる筈の風の感触も消えていく。既に血の臭いも感知できない。
其のモノクロの世界で、ソレは明確に笑っていた。にやけた顔だった。傷口、体中にある傷口が塞がっていく。
『核』と呼ばれるモノも隠れていく見えていたソレは醜悪なモノだった。
赤黒いモノに青と黒を混じらせた様なものが取り付いた姿だった。赤黒い球体は綺麗な円を描いていた。それ単体なら、ソレは美しかったのかもしれない。残念な事に取り付いたモノは歪で汚く、醜かった。

(どっちだ? どっちを斬れば良い?!)

間合いまでは後五歩。傷の塞がりが早い

四歩

醜悪な方を斬ろうと決める。

三歩

傷が塞がる。

(拙い?!)

二歩

鉛色の刃が再び傷を付け、途中で弾けた。聞こえもしない声が聞こえた気がした

一歩

何かが目の前に立った。

氷村だ。完全に回復した氷村が目の前に立っていた。抜刀。間合いに入られすぎていた為、刃が途中で止まる。
刀が抜けない?! 挟まれているのか?!
モノクロの世界から出てしまう。焦りがそうさせてしまった

「惜しかったな!! 高町きょ「お前がな!!!!」ギァ?!」

深緑の一撃が、血に濡れた膝が氷村の横顔に入り弾き飛ばす

「往け恭也!! 核の繋がりを断てだとよ!!」

「はい!!」

再びモノクロの世界に入る。膝が軋んだ、体中から体温が奪われた

(づっ?! 限界が…)

ミシミシと膝が軋む、筋肉が音を立てる。

氷村が下がる。笑いながら下がる。目標は辛うじて見えている。あの分身を出すのに力を使った為のロスなのだろう。
だが、足りない。一歩ではない。半歩足りない。この足では『次が無い』。これ以上は走れない。何も出来ない

(何も出来ない? なぜ?)

弱いからだ。高町恭也が弱いからだ。力が足りない、戦いの流れを見る目も、敵を翻弄する早さも、敵を妥当する意思さえ弱いからだ!!

(後、半歩!! 半歩だけで良いんだ!!)

動けない。これ以上早くは動けない。それでは駄目だ。だがどうする? 神速をもってしても半歩足りない。これ以上、手は無い。考え付かない。

(神速で足らない…足らないなら!!)

一つ、無謀な賭けにでる。今までやった事は無い。やった人物も知らない。
それでも、コレに賭けなくてはならない。無様だ。あぁ無様だ。笑え、笑えよ高町恭也。自分を嗤え。何が『何も出来ない』だ。勝率の高い策だけ羅列するのは馬鹿でも出来る。あぁ、そうだ。高町恭也…俺は弱い。実践など数える程しか行っていない。奴らはどうだった? 諦めたか? 違うだろう!!

(足掻いた。足掻いて足掻いて足掻き抜いて)

死んだ。殺した。あぁ、そうだ。俺が殺した。護る為に殺した。そうしないといけない位に強かった。粘られた。
駄目だ。これでは駄目だ。俺はまだ足掻ける。どれほど無様で、滑稽な姿かは分からないが、足掻ききって見せよう

モノクロの世界の中で更に神速を使う。使ってみせる。
断つべき場所は知っている。斬るべき場所も知っている。なら、後は行動するのみ!!

膝の軋みが止まらない。体中が上げている悲鳴が止まらない。体の感覚が無い。

でも

確かな感触を

俺はこの何も見えない世界で感じた

世界が戻る。色を認識する。熱さと冷たさを感じる。腹から喉に込み上げる不快な臭いを認識する。

ただ、敵の悲鳴だけが聞こえる

「無茶しやがって…お前もあいつも、少しは戸惑えよなー」

視界が高くなった。右膝が痛みを訴える。俺はルーダーさんに支えられながら立つので精一杯だった。顔を左向ければルーダー・アドベルトの横顔が、その隣にはファラリスと呼ばれていた女性の横顔が在る。
真正面には無骨な鳥居が一つ。周りに目を向けて分かった。立ってから引きづられる様に動いていたらしい。

「氷村は?」

「お空の上よ…全く、私達は余り治癒系の魔法は使えないんだけど」

そう言ってため息を吐き上を向くファラリスさんに習い、俺も上を向く

「あぁ、アレは確かに無茶だ」

「でしょ?」

「つーか、あんなモン使われた普通に死ねる様な気がする」

俺達はそう言って笑った。






あとがき

ぶっちゃけると、最後まで書こうとは思った。でも、仕事が残っている。つーかテンションが変なので自分でストップしました。

……許して?

簡単なアレ↓


ルーダー・アドベルト

脇役、主人公にはなれない
でも兄貴。
なんだかんだで、良い所の繋ぎは持っていく

ファラリス・アテンザ

レアスキル持ちのマッド。
姉御と呼びたい。
クロノが苦手としている。

高町恭也

『閃』習得? 爆弾が出来たかも?
最後はボロボロ

クロノ

裁判中
良哉育成計画を企てている模様
なんだかんだでユーノとは腐れ縁になりそうだと思っている。
実はフェイトとリンディのやっている事の所為で疲れている。
おもにエイミィ

「…僕にだって限界はあるぞ?」

と、本気で言いそうに成る

ユーノ・スクライア

淫獣ではない。一族内でなんかあった模様
肩身が狭いらしい。
良哉とは友達?
古い物が好き。


あ~……ネムテェ。二時間とかでやるモンじゃねぇ…おやすみなしゃい

誤字とかは時間が取れ次第なおします。そっちもゴメンね・・・



[5159] タタリ編―十一
Name: BIN◆5caaab55 ID:784a3ac9
Date: 2010/01/22 23:08








其れは己の存在を賭けた逃亡だった。誰が考えつけたか?
人知を超えた存在を内側から喰らい、その力を取り込み更なる力得た存在がたった一人の子供に勝てない。
逆に滅ぼされてしまうと、殺されると恐怖を感じ無様に逃げるしかない。
理不尽。何という理不尽。ただその存在が、その存在の行動が自身を砕き自信を砕く。

(逃げないと)

貫かれた。否、これは貫かれたと言って良いのだろうか? 茨は確かに体を貫いた。
だがこの傷は貫かれたと言って良いモノなのだろうか? ズタズタだ。
傷の入り口は小さなナイフで滅多刺しにされたようで、傷の中身は釣り針に付いている返しが中を通って行ったかのように細かく抉られている。
何だコレは? 何だこの痛みは? 知らない。こんなモノは知らない。知っていて良いモノではない。
それだけが確かっだった。

故にソレは未知。恐怖の対象と成るが、想像が出来る『未知』と成る。
想像が出来てしまった事が不運であり、ソレを想像出来てしまうと言う生物としての優秀さの証明。
想像出来てしまうからの痛みがあり、想像出来てしまうからの恐怖がある。路が出来てしまう。
生物、命を持つ全ての底に根ざす生存本能までの路が容易く繋がってしまう。コレが全くの未知ならば恐怖こそすれ考える事が出来る。
未知とは恐怖その物であり明確な死を意味しない。だが、此処には正体があり、姿が見え、その存在をある程度理解できる『氷村遊にとっての理不尽』が存在する。
そして、傷を見れる。どうやって付けられたのか想像ができる。それならば…と理解できてしまう。解らないのはソレを構成するモノ。解るのは己に死が迫っている事。

(逃げないと!!)

殺される。そう思う。そう感じる。何時でも『死』と言うモノは唐突に現れる。
羞恥等無い。生きる事を、生き延びる事を考える。
氷村は生物としては優秀だった。ソレは生前からだ、種族が違う。寿命、生まれついての身体能力、容姿、『人間』よりは生まれ持ったポテンシャルが違う。
残念な事に氷村遊は種族としては上でも『人』としては最低の部類だった。時代が違えば一種の暴君として歴史に名を残していたかもしれない。
それだけの突出したモノを持っていたソレは確かだった。
後ろ暗いコネクションも持っていたし、ソレを動かす事の出来る知能も持っていた。暴虐を認められてしまう程の武力も持っていた。
彼はプライドが高かった。彼は傲慢だった。
その二つが曇らせていた。それだけだった。

(上は駄目だ、アレは罠だ。見え透いた罠だ!!)

上空にある結界の穴。其処から出られれば逃げれる。一目散に追われる事も無く逃げられる。その可能性は高い。
だが駄目だ。あの狐に殺される。
あの理不尽が追いかけてくる。

(結界を破って逃げるしか!!)

後退。一目散の後退。森へ逃げ、幾許かの時間を稼ぎ全身全霊の『雷』を持って穴を開ける。ソレしかない。幸いな事に傷は塞がっていく。

(今しかない!!)

後ろに跳ぶ。その瞬間には高町恭也が小太刀を構え突進して来るのが見えた。距離はあと四歩程。
絶対の自信が蘇る。ソレまでの経験が語りかける。己は高町恭也よりも速いと。
絶対の確信がある。『核』を見られたという確信がある。なぜならその視線は己の『心臓』『存在その物』に向けられていた。
鎌首を擡げるモノがある。

(殺せる!!)

己の方が半歩は速い。核さえ切られなければまだ回復出来る。その程度の力は残っている。

(こいつだけでも殺す!!)

後悔させてやるという思いがある。これだけはという思いがある。それでもと…訴えかけてくる思いが邪魔をする。死にたくはない。何せ一度死んだのだ。
覚えている。締めつけられる体から聞こえる肉の潰れて逝く音
覚えている。軋む体中の骨。
覚えている。除所に罅が入っていく痛み。折れた骨が肉を突き刺し、皮を破るあの感覚。飛び出した骨が無残に砕けるあの感覚。
内臓という内臓が潰れて逝く感触と破裂する小気味の良い音の連続。

覚えている。覚えている覚えている覚えている!!

だからこそ、噛み付きたい!! せめて一撃、鼠が猫を噛んだ様な小さな傷で良い。それだけでも…せめてそれだけでも!!

怖い。ソレは当たり前だ。嘗てアレは己を殺した。
理不尽だ。アレに己の攻撃は通らない。
最悪だ。氷村遊がこんな事を考えている。

(それでも!!)

ズブリと鉛がが輝く。痛みが心を折りに来る。

(堪えろ!!)

小太刀が体に入ってくる。痛いのに満ち足りた様な不思議な感覚。

(一矢報いたぞ!!)

「惜しかったな!! 高町きょ「お前がな!!!!」ギァ?!」

振り下ろすだけで良かった。横に薙ぐだけでも良かった。それだけの力は有るのだ。
一秒も要らなかった。数瞬の時間が有れば良かった

(なぜだ)

何もかもが己の邪魔をする!!

(だが………ッ!?)

鬼が居た。否、鬼が在った。刹那よりも短いその時間に確かにそれは存在した。

(何でだ!! 何で何で何で何で!!)

死にたくない。逃げないといけない。生きるのだ。復讐の為に。生きなくては成らないのだ。思い知らせるのだ!!
人に!! 劣等種に!! 我が物顔で世界に居座る人間共に!! 貴様らより優秀な存在が居るのだと!! 貴様等にバレぬ様に影に生きる優秀な一族が!! 種族が居るのだと!!
貴様等如きが日の下を王者の様に生きて居るのは間違いなのだと思い知らせるのだ!!

(生きなくては!!)

生存本能が燃え盛り、死の恐怖が思考を断ち切り、幼い頃からの思いが路を指し示す。

月を目指す。あの結界の穴を、生への入り口を最速で目指す。

だが、一番知っている筈の事を。今まで嬲って来たモノ達に使っていた手段を氷村遊は完全に忘れていた。

ガチャリと眼前には砲身が構えられていた。ソレに触れる事も出来ずに体が押し止められる。

「あっ…何…で」

月を、目指していた筈の月を人型が隠した。

「俺が…死ななきゃならない!!」

ソレは疑問。魚の小骨が刺さったかの様な小さな疑問。己と理不尽の接点を知りたいと思う欲求。

人型は詰まらなそうに答えた。

「昔…心底好きに成った女が居た。容赦が無い女だった。動けない俺に無理やり『あ~ん』をする様な諦めの悪い女だった。口を開けないと泣く様な卑怯な手まで使ってきた。」

それが何だと言うのだ。そんな女は知らない。第一、目の前の人型は子供だ。ならば、それはママゴトと何の違いが有ると言うのだ。

「IFだよ。それだけの話だ。ただのけじめだ。ソレに言うだろ? 汚物は――――――――」

『Desinfizieren; sterilisieren.』

眼前で理不尽が解き放たれた





明智良哉が最初に感じたのは眩暈と吐き気だった。視界が霞、呼吸が儘ならない。体に出来ていた切り傷や擦過傷は粗方塞がっていた。だがそれだけなのだと痛みが訴えた。
折れた左腕が痛みを訴える。折れた助骨が訴える。
休めと、動くなと。体が全身で訴える。もう眠れと。惰弱な意思が囁き掛ける。

(次が有る)

(少し休憩しよう。次なら大丈夫だ。タイミングは解っただろう?)

そうだ。確かにそうだ。これ以上辛い思いをする必要などないのだ。誰にも責められない。責められる筈がない。確実に自分より強い強敵に此処まで粘る理由はもうないのだ。
それこそ、無駄な足掻きだ。

だからこそ、下らないと断じる。

それこそが過ちだと断ずる。

確かに、次に回した方が今より楽にそして被害も少なく戦える。

(それがどうした)

このままでは奴に勝っても死ぬのだろう。死なないにしても数カ月は床に伏せる事になるだろう。

だが

それがどうした!!

全力を出していない。切り札も切っていない。出せるものはまだ有るのだ。
何よりも、己が師事する高町恭也が!! 己が尊敬するルーダー・アドベルトが!! 己が信頼するファラリス・アテンザが戦っているのだ!!
自分が弱く、卑怯で臆病者である事は認めよう。当たり前だ。戦いが無い世界で生まれ、知らない内に訳の解らない世界に再び生まれた。
訳の解らない理不尽な牢獄に囚われた。
今もまだ、その中から抜け出す事が出来ずにいる。

誰にも喋れない。語る事など出来るわけもない。全てを隠し嘘を付き続ける最低な自分を助ける為に戦ってくれている三人を置いて己だけ逃げようなど出来る筈もない。
誰かが教えてくれたのだ

『同じ部隊で、同じ宿舎に住んで、一緒に仕事をしてる。家族となんら変わらないでしょ? だから、悩みが有るなら話してよ? じゃないと、お姉さん失格じゃない』

誰かが肩を叩いて言ってくれたのだ

『気落ちすんな。こんな事は其処等中に吐いて捨てる程溢れてる不幸だ。一人の為に残りの十数人を見捨てる訳にはいかない。だろ? とっと帰って反省会だ。次に生かすぞ、相棒』

誰かが刻み込んでくれたのだ。

『お前は生きろ…生きて任務を全うしろ!!』

誰かが背中を押してくれたのだ。

『諦めそうに成った時こそ全力でぶつかりなさい!! 男の子でしょ!!』

もう、顔も思い出せない人達が教えてくれたのだ。どんな状況でも諦めず。どんなに無様で惨めでも、生きる事を諦めるなと。諦めた奴こそ見るに堪えない程に醜いのだと。
だから、お前(弱音)は邪魔だ。すっこんでろ!!

ギチギチと嫌な音を立てる体を無理やり動かし構え、小さな魔力の塊を刃に変えて投擲。次いで足の裏にラウンドシールドを展開。
連続展開の為、最小の魔力で人の頭程度の大きさの物を作っていく。ソレを足がかりに跳ぶ。飛んでいては間に合わない。
ブチブチと何かが切れる。ズブリと何かが刺さった。無視する。

眼前に敵がやって来た。殺す。躊躇等無い。殺す理由? 己の為だ。自分勝手なけじめの為だ。
右の腹の半ばから足の付け根に触れる鋼の感触が羨ましい。この冷たさが欲しい。何事にも揺らがないこの堅い冷たさが。

「昔…心底好きに成った女が居た。容赦が無い女だった。動けない俺に無理やり『あ~ん』をする様な諦めの悪い女だった。口を開けないと泣く様な卑怯な手まで使ってきた。」

口が勝手に動いていた。懐かしさと恥ずかしさを思い出す。下らない。
全ては起きていない。起こしていない。無かったのだ。そんな事は無かったのだ。未練だ。僅かに残っていた未練が答えている。

下らない。下らない下らない。アレは駄目だ。毒だ。路を逸らす毒だ、甘い甘い『幸せ』という名の毒だ。性病よりも性質が悪い。
だから、斬ってやろう。近づいてくればそれなりに相手はしよう。使えそうなら使おう。
だが、ソレは在り得ない。俺はアレ…月村すずかとは他人だ。他人でしかない。関係など無いのだ。
だから言ってやろう。けじめだ。これにて『未練』は駆逐する

「IFだよ。それだけの話だ。ただのけじめだ。ソレに言うだろ? 汚物は――――――――」

『Desinfizieren; sterilisieren.』

その通りだクロイツ

汚物は消毒だ。


ガチンと音を立ててカートリッジが排出され、弾倉が一段下がる。引き金はとても軽く、圧縮に圧縮を施し無理やりに型に詰め固まった魔力の砲弾が排出される。
引き金は軽く、衝撃は強く。あらゆるモノを吹き飛ばしてくれる。
罪悪感? そんなモノは無い。
達成感? そんなモノは無い。
虚無感? それしか無い。

罪悪感を感じるには繰り返しすぎた。達成感等はまだまだ先に有るモノなのだろう。虚無感ばかりが募る。絶望ばかりが目につく。
あの言葉を掛けてくれたのは誰なのだろうか?
肩を叩いてくれたのは誰なのだろうか?
背中を押してくれたのは誰なのだろうか?
俺が尊敬していたあの人は…誰なのだろうか?

だれもかれもが死んでしまって、だれもかれもが生きていて、だれもかれも俺を知らなくて、だれもかれもを俺は忘れて逝く。

(今は…関係無いか)

今するべき事は氷村遊の消滅。

ソレを確実に行えば良い。鉛色の砲弾に打たれ押しやられ、氷村はグングンと地面に向かっていく。ギチリと何かが千切れるような音が聞こえた。
背中が痛い。正確には腰に近い横っ腹。痛みそのままに魔法行使を中断。そのまま落下する。この方が速いのだ。飛行魔法では追いつけない。
Sonic Moveを使おうかと思ったが辞めた。魔力の無駄づかいだ。体の到る所を強化しているのだ。そしてその状況でこのざまである。
肺に刺さったらしき助骨も魔力で固定し肺が動いても血液が肺の中に溜まらないように無理やり魔力でくっつけている。
魔力の消費は激しい。ユーノに聞きかじっただけの遺跡で使用する魔法技術の模倣は即席では出来なかったらしい。
本来ならば全く違う使い方なのだから仕方がない。骨を固定し穴の隙間を埋められただけでも上出来だ。地面に落ちる瞬間に浮遊魔法を使えば良い。

『Floater』

一瞬だけの浮遊。僅かな魔力で使用する。それだけで良い。受け身を取り転がるようにして立つ。
クロイツの解除と顕現。連続して行われる。立った瞬間に体が流れるがクロイツが顕現する事に因って体制を立て直す。
目の前には半分以上『門』に吸い込まれている氷村遊が憎々しげに此方を見ていた。
地面に残されている長い爪痕が抵抗の証拠だろう。腰を落とし右腕でクロイツ持ち直す。腰に回るベルトからカチっと音が鳴る。右腕離し引き金に指を掛ける。
視界は霞んでいる。だがこの距離ならば外しようがないしクロイツが補助してくれる。

「ガァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」

ソレは氷村遊の最後の足掻きなのだろう。それでも、俺はその場を動かなかった。正確には動けなかった。
チッと奴の爪が額を霞めた。ハラリと眼帯が落ちる。届かない。決定的な一撃は通らない。通さない。確信が有った。これ以上は無いという確信が有った。
背後にある温かさがソレを確信させる。視界の端に見える柔らかそうな尻尾が確信をくれる。
氷村が目を見開いて笑った。
口が動いた

―――――なんだ…お前も化け物じゃねぇか

あぁ、そうなのだろう。何も知らないモノが見たらまさしく俺も人とは違う『モノ』に見えるのだろう。
何も無い左目から漏れる赤い光は、人が放つモノじゃない。
ラプラスは未だに再起動の気配が無い。エラーの処理をしているようだ。ソレにも微量だが魔力を使う。

ガチャンと弾倉がまた一段下がる。その瞬間に五つの尾が氷村に向かって伸び、何かを引っ張り出した。
関係無い。今は関係ない。こんな事は聞いていない。迷わずに引き金を引く。

ドンという衝撃が体を駆け抜け体が半円を描くように滑る。真後ろに居た久遠が庇ってくれなければ立っていられなかっただろう。妖怪の膂力も出鱈目なモノだ。
氷村に目を向けると体の殆どが門に吸い込まれていた。後一押しが必要そうだ。クロイツはもう使えない体が限界だ。
魔力はまだ有る。もしもの為に節約していたのだ、余って無くては笑えない。
有りっ丈の魔力を限界まで圧縮。ソレを槍の形にする。圧縮した魔力を穂先に収束。それを解き放つ。
腕を振る力も残っていない。故に解き放つ。崩壊させる。槍は真っ直ぐに飛んでいく。
おかげで自爆だ。右腕から感覚が無くなった。
視界が歪む。




これで…終わった…筈だ









最後の足掻きだと決めて繰り出した一撃が理不尽に届いた。一矢報いた。直ぐに大地に爪を立てる。
一撃。中ったのだ。その証拠に理不尽の眼帯が落ちた。そして仄暗い空洞が俺を捉えた。
してやったりだ。そう思った。其処にあるモノを見るまでは。光っていた。薄っすらと、確実に光っていた。赤い。朱い光を放っていた。
在り得ない。なんだアレは? 疑問ばかりが募る。あの理不尽には理解できない事が多すぎる。だからこそ理不尽なのだろう。
冷静な部分がそう考え、笑いが出そうになり己の中で答えが出た。

(あぁ…コイツも化け物なのか)

その答えがストンと胸の中に落ちた。仕方がない。仕方がない。あんな化け物に勝てる筈がない。
だが、奴は人として生きてきた。その筈だ。だからこそ言葉にしてやった。何としてでも傷を負わせたかった。
日の下を悠々と生きる俺以外の化け物に、お前にその資格は無いと刻みたかった。
俺と『同じ奴』に言ってやりたかった。何が違うと。

臆病者

腰抜け野郎

安全な位置からでしか攻撃しようとしない卑怯モノ。

自身の優位を確認しなければ勝負をしない糞野郎。

自分勝手な理由で誰かを殺す外道

全ての言葉が自分に当てはまる。当たり前だ。だからどうした

だからこそ誇って生きてきた。

なのに奴は『人の中で生きている』

傷を残したかった。今のままの生の中で常に後ろめたさを感じさせたかった

―――――なんだ…お前も化け物じゃねぇか

それでも、理不尽は理不尽らしく表情を変えなかった。輝く鉛の砲弾が体を打つ。
このまま手を離してしまえば楽になれたのだろう。それでも、生きたかった。
体を半分に割る。既に痛み等感じなかった。当たり前だ。亡霊が何故痛みを感じなければならない。この力は『霊力』とは全く違う。狐の『雷』と全く違う。
全ては思い込みだったのだ。生きていれば痛い攻撃も、死んでいるのだから痛くない。簡単な事に気付けなかった。

割った体の半分が飛んできた槍に持って行かれた。だが半分は残っている。
体内に有る筈の『核』はあの女狐に奪われた。勝機は無い。逃げる事も出来ない。それでも生きたい。
後一撃。一撃で良い。残したい。あの理不尽に傷を残したい。

残っている右腕に力を込めた。少しだけ前進する。右肩に痛みを感じた。コレは思い込みだ。幽霊が痛みを感じる筈はない。それでも痛い。顔を上げる。
黒づくめの男が立っていた。立っているのもやっとの状態の様だ。そして倒れた。
黒づくめの男が倒れる瞬間に視界が赤く染まった。拳が顔を打った。
思わず手から力が抜けそうになる。
女が立っていた。右肩には小太刀が刺さっていた。ソレを引き抜き右腕に突き刺した。腕が半分切れた。其処で女も動かなくなった。
深緑の光を纏った男が黒づくめ男と女の肩を支え引きづりながら目の前まで歩いてきた。腕の半ばで止まっていた小太刀足をかけた。
支えられている男と女は意識を失っていなかった。爛々と目が輝いていた。

男が言った。

「さっさと逝けよ。化け物」

グッと足に力を込められたのが解った。

女が言った

「あぁ…そう言えば、こんな時に言う言葉が有ったわねぇ」

深緑の男が言った

「この間やってた洋画とか言うヤツのだろ?」

黒づくめの男が言った

「あぁ…俺も見ましたよ」

ブチリと腕が千切れた。

三人が右手の拳を握り親指だけ立て、思いっきり下に向けて言い放った

「「「とっととクタバレSon of a bitch!!」」」

体が吸い込まれる。心が竦む。また感じた、何度も感じたモノを再度感じた。理解できた。
怖い。あの理不尽が怖かった。怖かったのだ。
だが、今はそれ以上に目の前に居た三人が怖かった。あの眼が怖かった。
そして理解する。

明智良哉は理解できない部分が多く怖かったが、その中身は理解できた。感じる事ができた。だから怖かった。怖くなった。今はそうでもない。
だが、目の前の三人は違った。理解できる。人間だ。今まで沢山殺してきた人間だ。それでも怖い。
あの瞳に宿る光が怖い。勝てないと思ってしまう。負けると思ってしまう。
そこで、やっと理解できた。

何故、自分たち夜の一族が影に隠れて生きるのかを。
一個の生命体として人間を上回る筈の自分達が影に潜んでいるのかを。

人間ではなく。人間全体、『人類』こそが自分達以上の化け物だったのだ。

(あぁ………畜生)

氷村は最後にそう思った。





昔、半世紀も遡らなくて良い本当に少しだけ昔。
夜の一族と言う人間よりも長寿で力強く知恵の有る一族の中に一人の子供が生まれた。
吸血鬼、人狼などの幻想の中に生きるモノの血を引いた一族の中に男の子が生まれた。
赤ん坊は少しずつ知識を蓄え自我を形成し少年に成った。そこで初めて『自分』と『他人』の違い知る。
人よりも強い。ソレは少年にとって一つのステータスだった。容姿も優れている自覚もあった。
そこで、一つ疑問に思った。
『なぜ、自分達の事は秘密にしないといけないのだろう』
周りの大人達は答える
『他の人達を驚かせてしまうからね』
『人は自分達と違うモノを極端に怖がるから』
『社会に混乱を招いてしまうから』
『世界から排除されてしまうから』
最初はそれで納得出来た。だが、初めに抱いた疑問は早々無くならず。何時までも心の中に有った。
少年は青年に成った。女を知った。優れた容姿故、困る事は無かった。金も有った。長く続く一族の家系は本流に近づく程に大きな財を築いていた。
そして、血を飲み始めた。幼いころから時々飲んでいる輸血用の血ではない。たまたま、抱いていた女の頸筋を見ていたら飲みたくなった。
痛がっても冗談で済むだろう。そんな考えが有った。
止まらなかった。生きている女の頸筋から直接飲む血は今までに飲んだ事も無いほどに美味かった。勿論、女は死んだ。
命を握っているという感触は感じた事も無い位の素晴らしい優越感を与えた。
そこで思った。『生き血が美味かったのだ。ならば、その肉はどんな味がするのだろうか?』この時点で彼は血に溺れて居た。
力に魅入られて居た。歪んでいた。優秀だったからこそ、周りも気付かなかった。
初めて食べた肉は頬が落ちる程に美味かった。彼の歪みは確実なモノと成った。
丁度この時、彼は気まぐれと意地悪さで声を掛けた同じ年の女性に振られていた。否、振られる以前に他の男に取られていた。彼の認識ではそうだった。
優れた自分の思い通りに成らなかった事柄が有った。その事実が、彼の自尊心を傷つけて居た。
そして、次第に思うように成る。

『自分とその一族は優れている。その他の『人間』は劣っている』

生き血を啜り、肉を喰らう様になると更に思う様になった

『自分達のような超越種こそが世を統べるべきだ。劣等種はただの餌か労働力でしかないのだから』

其処には幼い頃からの不満も有ったのだろう。子供にとって誰にも言えない秘密を持つと言う事は負担を強いる。

その思いが故に、氷村遊は歪みを確実なモノにした。

自分達こそが日の下を歩く王者なのだと。社会の混乱など屁でも無い。人間は自分達よりも劣っているのだから当たり前だ。
優れている自分達に従っていれば良いのだと。

自分達がその存在を隠し、生きている事こそが間違いなのだと彼は思う様になった。

当然、人を殺しすぎて居れば一族のモノから追われる。自分と同じ考えを持つモノは少なかった。全く逆の事を考えるモノの方が多かった。

其処からは簡単だ。彼は追手を振り切り、国を離れ活動しテロリストと呼ばれる様になる。
そして、どこの馬の骨とも解らない子供に殺さされた。

ただ、それだけの話。


綺堂さくらは纏められた書類の内容に自分が知る過去の事を加えて、そう纏めた。口にした紅茶は冷めてしまっていた。
ふぅ、とタメ息を付くと背筋を伸ばし前に座るかわいい姪っ子に視線を向けて言う

「こんな出鱈目信じれると思う?」

「思わない。でも、これを信じて貰わないと話が進まないのよ。さくら姉さん」

ハァ、と此方もタメ息を付く

「忍…私はこれで善いわよ? それでもね、『タタリ』の事の詳細と『久遠』の事を入れてくれないと神崎が納得しないわよ」

「あら? 明智良哉の事じゃなくて?」

「それは向こうにも通じるから良いの、当主自らが久遠本人から詳細を聞いてるんだから…ソレに明智君だっけ? 彼自身にコチラ側に来る意思は無いんでしょ? だったら良いわよ。書類を整えろって言ってるの…それと、すずかは大丈夫なの?」

「……まだ、解らないわ」

「…そう」

ひゅぅっと風が吹いた

「「ハァ…」」







あとがき

遅れてしまい大変申し訳ない。とうとうマイPCが旅立ちました。物理的に基盤を踏みぬかれて…
12月に入って少ししてバラして掃除をしていたらバキっと…弟に踏みぬかれてたよ…
後、海外にも三日ほど出張? なんか着いて来いといわれて行きましたよ。何もしていませんが。英語しゃべれないし。
まぁ、あれですよ。これからまた忙しくなる。仕事を辞めたいと思う今日この頃です絶対魔王もやってました。再び真・恋姫もやり、マジこいもやってたり。なぜか今はフィギュ@を再びやっている。何がしたいのかが正直自分でもわかっていません。

なんか、今回はリハビリも兼ねているような感じです。生温かい目で見てくれたのならうれしいです。
さて、次回ですが。
ヒロインが何を失ったのかが判明するかも? すずかは再びフラグを立てるのか? 久遠はどうなるのか? 
的な感じで書けたら嬉しいな。


今回はいつものなし




































と、言うことはない
↓いつもの


明智良哉

ヒロイン兼主人公

毎回瀕死。今回は

「ヒャッハー!! 汚物は消毒だぁー!!」

となった。


クロイツ

初めての顕現。
本来ならば腰だけではなく胸の真ん中でクロスするようにベルトが包む。
360°回転できる。盾にも出来る。ベルトの上を好きに移動できる。勝手に固定もできる。
結構硬い。プラスで重い。シュベルトもクロイツも重さがある。無くす事も出来るがあえてしてない。
銃身が焼けつくまで撃ち続けられそうなアレに似ている事もない。
声は大塚芳忠さんをもっと掠れさせたような声を想像してください。

ルーダー

最後は劇画タッチだと思う。

ファラリス

こいつも最後は劇画タッチだと思う

高町恭也

人間失格だと思う。キャラも違うと断言できると思う。
こんな熱血じゃないと思うんだ。
やっぱり最後は劇画だと思うんだ。

こんなところかな?

オヤスミー。修正したいけど眠いので寝ます。ごめんね



[5159] タタリ編十二(少し修正・改行)
Name: BIN◆5caaab55 ID:784a3ac9
Date: 2010/03/23 03:03






静かな空間が世界を支配した。人工の光が届かない山の中、自分達を照らすのは月と星の光だけで風の音や虫の声、木々の擦れる音も聞こえない。胸の中に有る温かみ、胸の内に取り戻した温かみ。その二つが私達の勝利を教えてくれた。


黄泉の門。死者の国へと通じる門に氷村遊は吸い込まれ消えて逝った。

最後の一押しをした三人も仲良く気を失ったようだ。

そして、こんな私を護り、信じ続けてくれた少年は立ったまま気を失っている。私はそんな彼を支える形で立っていた。

地面を見ると半円上に二つの線が入っていた。一つは少年の、もう一つは私の。ソレを見るとなぜだか嬉しくなった。

最後の不安は無くなった。本当なら、誰にも言わずに消えるつもりだった。彼には言ってはいなかったがどの道、私は死ぬつもりだった。勿論、彼を信じていなかったからではない。


門を閉じる為に『向こう側』に行こうと思っていただけだ。ついでに会いたい人に逢えたら良いなと思っていた。でも、もうそんな事は思わない。私が背負うと決めたのだ。やっと向き合えたのだ。私が彼を覚えていられるのだ。


でも、これは…


(仕方がないよね?)


彼を見る。真っ直ぐと前を向いたまま気絶している彼をみる。私だから解る。化け物と呼ばれる存在だからこそ解る。彼の右腕はもう動く事は無い。あの茨の槍を投擲した時だろう。霊体で戦っていた時に使ったあの槍は、文字通り魂を命を削って作りだしたのだろう。使ってはいけないと言ったのに…

どれほどの痛みを伴ったのだろうか? 直接魂を削るその作業はどれほどの苦痛を彼にもたらしたのだろうか? 解る筈もない。コレは治る事は無い。人では治せない。彼にはこれからも戦いが待っていると言うのに…もう、これ以上『戻れない』と言うのに。

今回の事をきれいさっぱり忘れない限り、次は無いと言うのに。どれほどの時間が無駄になってしまうのかも解らないと言うのに…大切なモノを沢山失ってしまうのに。

だから、コレは仕方がない。私にできる精一杯の恩返しと罪滅ぼし。

五つある尾を一本千切り、彼の右腕に押しつけて『契る』

お前はこれから腕になるのだと。私の力は貴方と供に在り続けるのだと。

もしかしたら、コレが楔に成るかも知れない。歪められた魂を正しく世界に止める為の、正しい時間の流れに止める為の、この世界の一員で有ると言う証明に成るかも知れない。

そうなってくれれば…彼が贄に成る事は無くなるかも知れない。


だから、少しだけ我儘をしてみる。


「良哉…生きて」


触れるだけの口づけを彼の頸筋に、忘れないために匂いを一嗅ぎ。それだけで、私は大丈夫。コレは恋とは違う。愛でも無いかもしれない。


憧れだ、それと尊敬。私達より弱い筈の存在が、私達より強かった為の、美しかった為の畏怖。私達ではこうは成れないだろうから…


「じゃあね、良哉」


私は有りっ丈の霊力を練り上げながら『向こう側』に行く事を決めた。


『行くのですか?』


突然聞こえた声にビクリとしてしまった。声は門から聞こえる。


「シュベルト?」

『はい。それで、行かれてしまうのですか?』

「うん。門は閉めないと…じゃないと、死者が溢れてきちゃう。古の神様が引き連れて出てきちゃうから」

『…神、と呼ばれる存在がどれほどのモノかは知りません。居たとしても関係有りません。主が悔やみます。流れない涙を流します。故に、止めさせて頂きます』


カシュンと薬莢が飛び出ると私の体を光る輪が拘束した。


『万が一の為にと、フルロードをした瞬間に補充しておいて良かった。それでは久遠。話し合いましょうか? 最良の結果を導き出すために』


嬉しいな。嬉しいな嬉しいな。私の事を心配してくれる人が、『モノ』が増えた。

嬉しいな…悲しいな…


「うん、だからコレが最良の選択なんだ。」


少しだけ体に力を込める。すると、ガラスが砕ける様に光の輪は砕けて消えた


『なっ!!』

「空間固定の術にそっくりだったからね、直ぐに壊し方も解ったよ。私も雷を『落とす』時は座標の計算まで無意識で行ってるの。私達はそういう普通なら無理な事を当たり前にできる『存在』なんだよ。でも、嬉しかったよ」


足を進める。


『止まりなさい!! 』


ごめんね


『貴女は生きようとは思わないのですか!!』


ごめんね

だって、私がやらないと…私の大好きな人達が死んじゃうかも知れないんだもん。だから…


(生きたいなんて言えない)

『久遠!!』

「ごめんね…シュベルト」

『謝るな!! 出来もしない作り笑いなんてするな!! 涙など流すくらいなら止まりなさい!!』

(そうだよ。小娘。あんた如きが行ける訳無いだろう)


内から溢れた力が私を吹き飛ばした。





彼等は見ていた。長い時間見ていた、言葉にすれば簡単に終わってしまうが少なくない時間を明智良哉を見る事に費やしていた。付き合いの長さでいえば約10年。生まれた時から見続けていた。泣き顔を見てきた。拗ねたような顔を見てきた。その笑顔を見守って来た。


何度、手を伸ばしただろうか。だが、その手は触れられない。

何度、涙を流したのだろうか。 だが、その涙は知られない。

何度、声を漏らしただろうか。 だが、その声は聞こえる事はない。


人を殺すのを見た。その行動に茫然とした、その原因を作った人間を恨んだ。明智良哉に同情し、己の無力を嘆いた。


明智良哉が特訓しているのを見た。その行動に喜んだ。その相手に感謝した。明智良哉を応援し、己の無力に憤怒した。


悩む姿を見た。その悩みの深さとその悩みが解らずに憤った。悩みを掃うキッカケを作った人間に感謝し、憤った。明智良哉の悩みを理解できない己の無力を呪った。


笑顔を見た。共に居てくれる二人に感謝し、嫉妬した。傍に居ても何もできない己の存在は無価値だと思い至った。


だからこそ、今この場で明智良哉に触れられるこの『舞台』に感謝した。

意識を失っている明智良哉の頬に触れる。太い彼の指が右の頬に触れた。その温かさに涙が溢れた。

細く柔らかな自分の指が左の頬に触れた。そのまま指を上にズラす。厚みの無い閉じられた左の瞼に触れる。軽く押すとそこには何の感触も無かった。


「っ!! あぁぁ…」


声が漏れた。痛かっただろうに、辛かっただろうに。明智良哉は涙を流さなかった。弱音を吐かなかった。その出来事を呪わなかった。彼女達を恨まなかった、憎まなかった。


ソレが嬉しい。ソレが悲しい。ソレが辛い。


彼女達を恨みの対象にしなかった事が嬉しい。お前達の所為だと憎まなかった事が嬉しい。逃げなかった事が嬉しい。

明智良哉に言葉を掛けてやれないのが悲しい。慰めてやれないのが悲しい。

一緒に居られないのが辛い。認識されずただ見ているだけの自分達の存在が辛い。一緒に悩んでやれないのが辛い。

最愛の息子に何もしてやれないのが辛い。悲しい。

夫もそう思っている。名前は忘れてしまった。最初は覚えて居た筈だった。だが、時が経つにつれ思い出せなくなった。自分の名前さえ忘れてしまった。夫もそうなのだろう。


だが、私達は夫婦で在ると言う事は覚えている。


そして、この少年が、明智良哉が自分達の大切な息子だと言う事も覚えている。忘れる筈もない。


無価値同然の存在だった私達。


何れ力尽き、消えていく筈だった私達がやっと息子の力に成れる時を得た。それが堪らなく嬉しく。寂しい。

コレで終わりなのだと理解しているから。だから、この顔を覚えておこう。私達は一度だけ息子を抱きしめた。










ポタリポタリと水滴が顔を濡らした。視界は未だにぼやけている、どうやら生き残る事は出来たらしい。そして、自分の体の具合が相当悪いという事は直ぐに理解できた。


体が驚く事すら諦めている。なぜ立っていられるのかが不思議でたまらない。


俺を見ながら涙を流している二人は誰なのだろうか? 解らない。だが、あの二人が生きていないのは確かだ。

足が透けている。体がブレている。体を構成しきれていないのだ、ならばアレは幽霊なのだろう。

幽霊というモノにも驚きが沸かないのは、慣れてしまったからだろうか?


それよりも不可解な事が在る。


この幽霊達は泣いているのだ。笑いながら泣いているのだ。幸せそうに泣いているのだ。不可解すぎる。

だからだろうか? 俺は口を開いた。否、開かねばいけないような気がした。


「なぜ、泣いているんですか?」


女性が答えた


『っ!! 私達にも出来る事が見つかって、つい…ね』


そう言って女性は涙を拭った。その女性の肩に手を回した男性が続くように言った。


『それと、君に触れられたからかな? いや、人に触れる事が長い間出来なかったからね。』

「そうですか」


沈黙が下りた。幽霊の男女は何かを考える様に互いを見ると、口を開いた。


『それに』

「それに?」

『君が、私達の息子に似ていたからかな? ほら、私達はもう会えないから』

「はは、そうですか…でも」

『でも…何だい?』

「貴方達みたいな人の息子が、俺と似ているは気の所為ですよ。貴方達見たいな人の息子さんなら、俺みたいな糞餓鬼じゃなくて…もっと、そう普通の良い子でしょう?」


二人は首をゆっくりと振って言った。


『いいえ、だって私達の息子だもの。私達の知らない所でヤンチャをしてる筈だわ』

『そうだ。なんてったて俺達の息子だからな。どっちに似てもヤンチャの筈だ。頭の回転は速かったから俺達の知らない所で』


この人達が言うのならばそうなのだろう。なんとなくそんな気がする。二人は笑いながら言った。既に門に向いながら歩いていた。もう、逝くのだろう。

此処に居て、更に門に向かっていると言う事はそういう事なのだろう。

なぜだか寂しいと思った。でもそれだけだった。初対面の人にそう思った自分に驚いたが、戦いの後だ疲れているのだろう思った。


『früh.!! Rufen zum Halten bringen.!!』


クロイツが何かを言っている。本来ならば其処までの機能が無い筈…何か重要な事でもあるのだろうか?

しかし、言語機能が低いクロイツの言葉は片言染みていて理解が追いつかない。ただでさえ血が足りていないのだ。

情報を頭の中で整理する。整理するが、何を呼び止めろと言うのだろうか? あの二人は漸く向こう側に逝けることが出来ると言うのに…

俺は、ラプラスが再起動するまでそんな事を考えていた。







胸が詰まる。呼吸が一瞬止まり涙が流れる。在り得ない。なんで彼女が…タタリが出て来れたのだろうか?


『はっ、馬鹿だね。久遠、お前は小娘のままだ。』


何がだろうか? 個体しての年齢ならば私の方が上だ。


『理由が解らないから小娘なんだよ。それに、私はアンタに背負って貰う程弱くない!! それに、小娘如きを弥太に逢わせるもんか。アンタは後ろの小童と一緒に居る方が合ってるよ。弥太は私のだ。アンタは逃げ出したんだからね』


そう言われてしまうと何も言えない。私は彼女に押しつけてしまったのだから。

だから、コレが彼女の優しさから出た言葉だと言う事も理解できた。だが、本当に良いのだろうか? 向こう側に逝っても、弥太に逢える可能性は限りなく低いのだ。

彼が死んでから何百年も経っている。会えるとしてもその確率は一%以下の確立でしかない。


「いいの?」


『ふん…弥太を愛したのは私だ。私はお前の過去だ。現在が過去を追いかけようとするのは惨めでしかない。アンタは…精々過去を懐かしみながら今で苦しめば良いさ。』


ソレが、アンタに取っての贖罪にもなるだろうさ


そう言ってタタリは私の前か歩いて行った。私はソレを見送る事しか出来ない。尾を千切った所為で力が入らない。今まで張りつめていた力が霧散してしまった。


私の横を二人の仲の良さそうな夫婦が泣きながら通り過ぎて行った。擦れ違い様に『息子を頼むよ』と声を掛けられた。


体が硬直する。だめだ、と思う意思に反して体は後ろ向いた。

良哉が立っていた。不思議そうな顔で立っていた。其処には悲しみも喜びも無く。ただ、戸惑いが在った。


『貴方達は…』


シュベルトの声に私は門を見る。


『息子をよろしくね。シュベルト』

『頼む、まさか、コイツのあげたプレゼントがなぁ』


二人はそう言い門の向こう側へと歩いて行く。

黄泉の門は死者の門。遥か昔、その路を塞いだ大岩は神ならぬモノに退かす事などは出来ない。鬼神の類ならズラす程度は出来るかも知れない。

その大岩は神が必死の思いで動かした為に、その力を持っている。故に黄泉の門を開ける事は私には出来なかった。

だから、少しだけ穴を穿った。岩と門の隙間に小さい小さい穴を作った。それすらも、閉じてしまえば無意味なものに成る。

問題はその門は内側からしか閉める事が出来ない。その門は外側からしか開ける事が出来ない。まるで、穴を塞いでいる大岩のように。


だから、最終的には自分が消える筈だった。僅かばかりの力を彼に託して。


それすらも彼は飲み干し噛み砕き越えて行けると確信があったから。

だが、その決断は無意味なモノに成ってしまった。だが、コレが一番良い結末なのかもしれない。

生き恥を曝していると言われればそうだが、生きて居たい。あの人の後ろを歩いていきたい。隣りは望まない。私は後ろから支えたい。


その為には生きなければならない。


『主は…解らなかったんですね』


だからこそ、『今は生きなくてはならない』と強く思った。


『私は貴女が憎い…その肉の体を持ちながら死のうとした貴女が憎い。』

「ごめんね、シュベルト。」

『だからこそ、私は貴女を頼もしく思います。バケモノ、二度とこの様な真似はしないでください。貴女もこれから必要とされるんでしょうから…久遠』

「うん。これからも宜しくね。シュベルト」


私は生きていこう。彼が終わるまで生きていこう。今はそれだけで十分な気がする。








エラーを処理し終えた私が最初に見たのは、今まで何度も写真で見た姿でした。

たしか、アレはマスターが久遠と合う少し前に見て居たアルバムの中にあった写真に写っていた人物だった筈だ。

しかし、不思議に思う。彼等は既に死んでいる筈。其処まで考えて思った。


(成るほど、アレがちゃんとした幽霊というやつですか。)


自身を起動させ、役割を果たす。リンクで兄様(クロイツ)からマスターの表情を見て答えを出す。


(…どうやら、記憶から消されている様ですね。)


しかし、コレは教えた方が宜しいのでしょうか? 以前、マスターがご両親の墓参りに行かれた時は「此処にはもう来ない」と言っていましたし…

ですが、今はもう居ないご両親との邂逅。これは知らせた方が良いのでしょう。私がするには出すぎたマネかも知れませんが。姉様は褒めてくれるような気がします


『マスター』

「ラプラス…調子はどうだ」

『快調です。しかし、今回の事でマイスターに要望が幾つか…それと、マスター自身に訪ねなければならない事が…』

「なら、それは後で聞こう。壊れてなくて良かったよ、ラプラス」

何でしょうか? 私は所詮道具。壊れても直せば良い、壊れても次のモノを作れば良いのに…しかし、なぜかマスターの言葉がとても…何と言えば良いのでしょうか?

あぁ、たぶんこの表現が一番合っている。私はマスターの言葉が嬉しい。

もしかしたら、マスターにも褒められるかも知れません。


『マスター…遅くなりましたが。ご両親とは話されたのですか?』


私は、マスターにそう聞いた。





ご両親とは話されたのですか?



この言葉を理解する頃には、あの二人は見えなくなっていた。衝撃は有った。しかし、不思議と彼等が両親だと知って寂しさが無くなった。

既に諦めていた存在だ。既に無くしてしまった存在だ。もう、彼等の価値さえも忘れてしまっているのだろう。


写真を見せられてコレが君の両親だよと言われても実感がないように、コレもそれと同じなのだろう。しかし、この頬を伝うモノは何だ。


涙は流れなくなった。ソレは理解している。彼等の死を知り、認めた時にも涙は流れなかった。しかし、今、頬を伝って居るのは液体だ。目からは何も流れて居ない。手で拭う。ソレは水だった。しかし、汗ではない。多少交っては居るが汗の匂いが薄い。そして思い出す。二人は泣いていたなと。形容しがたいモノが生まれる。

どうでも良い事だ。だが、その事実に気付いた瞬間にモヤモヤとしたものが生まれたのを自覚した。この感覚は慣れているモノだ。


今まで何度も感じてきた。悔しさだ。


認めよう。


もう、俺は彼等に愛情というモノ。子が親に向ける愛情は持っていない。とうに擦り切れてしまった様だ。そう思うと本当に下らない。

以前は大事にしていた両親の事。その姿、声、表情、思いで。ソレを失い僅かな繋がりであるモノを燃やされて復讐まで行った。

其処まで考えて悔しさが湧き出た。そんな自分が悔しかった。夜風が涙の跡を乾かす。


愛していた。


ソレは絶対だ。無償の愛は俺を包んで居てくれた。

離れたくなかった。その温かさは何物にも代えられない安心をくれて居た。

だからこそ、俺が言わなくてはならない。


「さようなら!!」


力の限り叫んだ。声は届かないかもしれない。届いたとしてもその答えは解らない。


それでも伝えなくてはならないモノがある。


この路の先には、貴方達が望んでくれたモノは何一つ無いのかも知れないけれど


「ありがとうございました!!」


感謝を伝えなければならない。産んでくれた事、愛してくれた事、見守っていてくれた事。

無理をして叫んだからだろう。呼吸がしにくくなり意識が遠のく。肺に突き刺さっていた骨がズレるのを認識して、俺は意識を失った。









さようならと彼は叫んだ。

その言葉の中にどれだけの思いが込められていたのか、私には解らない。でもその思いは途轍もなく重く、温かな思いだと思った。その言葉はとても温かな音を持っていたから。

ありがとうございましたと彼は叫んだ。

その言葉の中にどれほどの思いが込められていたのか、私には解らない。でもその思いは途轍もなく重く、擦り切れてしまうのではないかと思ってしまう程に悲痛な音だった。


おかしい、普通なら逆の筈だ。さようならは別れの言葉。


ありがとうございましたは感謝の言葉。逆だ、その言葉の中にあった音は逆の筈だ。


なぜさようならが温かく、ありがとうが悲痛なのか。


私は忙しなく指示を飛ばす姉の姿を視界に収めながらモニターを見て居た。

最初は反対された。それでも見たかった。私自身、此処まで姉に食い下がるのは初めての事だ。厳しい顔をしていた姉も最終的には折れてくれた。

そして、私は見た。異常だらけの戦いを。圧倒と言う名の戦闘を、そこで終わってくれれば良かった。終わってくれれば良かった。あの言葉も気にはならなかった。

知らない彼を知れたと言うのは私の心に何とも言えない優越感の様なモノを与えてくれた。そう、私の友達もクラスメイトも知らない彼の姿。

その声、表情。冷徹な声、変わる事のない無表情。どこまでも相手を追い詰めるその戦い方。心を折る戦い方。非情だ。

私の知る明智君は、物静かで大人びて居て冷静で私たち以外には優しい少年だった。

モニターで見て居た明智君は、激しく、熱く、冷静で冷徹、そして非情な戦士だった。

私の知る明智君とは正反対なその姿。認めてしまおう。私は見惚れた。普通なら目を逸らしたくなるような映像に見惚れた。血に濡れたその姿に興奮した。

そんな自分を気持ち悪いと思った。でも認めるしかない。そんな彼が、戦いの途中とても優しい声をだした。


『昔…心底好きに成った女が居た。容赦が無い女だった。動けない俺に無理やり『あ~ん』をする様な諦めの悪い女だった。口を開けないと泣く様な卑怯な手まで使ってきた。』


誰なのだろうか? 幼稚園の時の話なのだろうか? ソレは私には解らない。それだけなら、私は納得出来た。でも次の言葉が解らなかった。


『IFだよ。それだけの話だ。ただのけじめだ。』


IFの話だと彼は言った。なぜこの場面で『IF』の話しをするのだろうか? 解らない

けじめと彼は言った。それはなんのけじめなのだろうか? 解らない。

なんでIFの話で、けじめと言うのだろうか? 解らない。

解らない事だらけで彼の事ばかり考えている。なぜ片目だけに成ったのか? 解らない。なぜそんな力を持っているのか? 解らない。

そう考えて居た時だ。その場面を見てしまったのは


(アレ…明智君のお母さん?)


見た事がある人物が現れた。でも、どこから現れたのかが理解できなかった。空間からにじみ出る様に現れたと理解できたのは数秒経ってからだ。

おかしい、私が知る事と全く違う。明智君はお母さんと一緒に国外に言った筈だ。だからこそ、あの場で戦っていたからこそ気になってしまったのだ。

そういう事に成っていた筈だ。なら、なぜそこに居る? それにその隣に居る男性は、明智君のお父さんだろう。明智君に似てる。それに…


(なんで、明智君は…)


戸惑っているの? 私にはそう見えた。初めて会った人に在ったような、そんな対応をしている。

そして、最後にさようならとありがとうだ。

まるで、もう会えないみたいな…そう考えて気付く

(二度と会えない? あの二人はもう居ないって言うこと?)

モニターの中の明智君が倒れる。倒れた瞬間にビクンと体が震え一度だけ大きく咳き込むと血を吐きだした。

その姿に体が冷たくなる


「明智君!!」

「!? ノエル、ヘリを回したわ。…えぇ、そうよ。恭也達を先に回収して車に乗せておいて、女性と明智良哉はその場に、勿論応急措置をしてからよ。こっちで機材と必要物品の確保はしておくわ。」


そう言うと、お姉ちゃんは深く息を吐いて私に言った。


「すずか、貴女はもう寝なさい。明日も学校が在るでしょう?」

「いや」

「すずか…」


だめだ。それは出来ない。彼が死んでしまうかもしれない。私にでも解る。あの出血量は危険だ。私にでも解るくらいの血を明智君は吐きだしてる。

骨も折れてる。沢山殴られてる。

嫌だ、彼が死ぬのは嫌だ。私はまだまだ彼の事を知りたい。彼と話してみたい。

お姉ちゃんは諦めたように首を振るとファリンにコーヒーを二人分頼んだ。


「お姉ちゃん」

「はぁ…もう、どうしてこんなに頑固なのかしら」






あとがき

久しぶりの休み。体をちゃんと休められる休み。こんにちはBINです。
これからアルトネリコをはじめます。勿論3です。
鈍亀になるからごめんね!!

いつもの↓


明智良哉

両親の事は完全に忘れてしまったよう。
ゼスト隊の時の記憶も大分、擦り切れてきている。
さて、まだまだ失くして貰おうか!!


月村すずか

結構頑固。明智良哉に固執し始めているのかも?
お姉ちゃんに初めての我儘? お姉ちゃんが大好き
何度でもブチ折るさ、フラグなど

月村忍

夜の一族当主。恭也の女。
妹にはというか身内に甘い?
明智良哉の存在に思うところが多々あり。
氷村遊との関係を特に疑っている。


綺堂さくら

夜の一族。忍の叔母。
小さい頃から忍の面倒を見ている。
ノエルは綺堂の家に合ったモノを忍が直したモノ。
小さい頃からの関係か、忍とは姉妹のような関係。
すずかに叔母さんと呼ばれると微妙に凹む年頃。


さて、アルトネは大体3人めのヒロインに寝取られるんだが…今回はどうなるかねぇ



[5159] タタリ編 十三(修正しました)
Name: BIN◆5caaab55 ID:784a3ac9
Date: 2010/03/23 02:48






流れ出た血液は大地に染み込み、黒かったソレを更に黒く染め上げる。酸化した血はより黒くなり消えていく。
失ったモノは戻っては来ない。こんな当たり前の事を再確認したノエルはヘリの中で輸血作業を終え、ファラリス・アテンザの傷を縫合していた。
高町恭也とルーダー・アドベルトの傷は見かけよりも浅く、その処置は直ぐに終わった。高町恭也は己の限界を超えその体は休養を求めて居た。

ルーダー・アドベルトは絶対的な力と長時間相対して居た為の精神疲労が酷かった。目の下にはクマができ、頬は若干痩せこけて居る様に見えた。
まるで、一瞬で十年年をとったと思われてもソレを否定できないような姿だった。ファラリス・アテンザ局部麻酔を打たれ感覚の無い肩を気にしながら明智良哉を診て居た。

魔法を使った検査ではその体が異常だらけで在る事を正確に伝えた。何が異常なのか?
折れた助骨が肺を突き破っている。痛いどころの騒ぎではない。しかし、それも可愛いモノだ。ならば何か?
右足の亀裂骨折か? 否。腰回旋筋が千切れかかっている事か? 否。ならば何だ? 体の各所に有る骨折個所と打撲痕、裂傷に擦過傷、どれもこれもが酷いモノだ。
目立つ事は無いだろうが傷は残るだろう。だが、それだけだ。何が異常なのか? 生きていく上で必要なモノが足りないのだ。
血液が足りて居ないのだ。それが異常なのだ。体温は低い。コレは当たり前だ。だが生きている。

異常にも程がある。

医学を甞めて居るのかと言いたいぐらいだ。そんな事を考えているファラリスにノエルは聞く。

「…彼は『人間』なのですか?」

その言葉にファラリスは苦笑しながら答えた。

「人間よ。私と同じ、高町恭也と同じ…ね」

其処まで言って、自分もそろそろ限界だと気づく。自身も血を流している、幾ら男よりも女の方が失血に強いと言っても無理なモノは無理なのだ。

「……この子を、頼むわ…この子には未来があるんだから」

そう言い、ファラリス・アテンザは落ちた眼帯の所為で顕わに成っている右の瞼に手を置き魔法を使って中のモノを転移させる。
ファラリス以外は誰にも解らないように何重にもフェイクを忍ばせた魔法陣が現れ消える。
ソレを見届けるとファラリスは眠りに就いた。

高町恭也は立つ事も儘ならない自分の体を叱咤しながらノエルに近づき一言「頼む」と言いそのまま崩れる様にして座り込み目を閉じた。
唯一、意識を保っているルーダーは水を一口飲むと無理やり携帯食を胃に収めた。
ただ、明智良哉を見つめながら自身の脈を数えながら息を整える。本当に苦しいのは此処からだとルーダーだけが感じていた。







月村すずかが最初に見たのは所々が血に濡れたエプロンドレスを身に纏ったノエルであり、その血を出したであろう明智良哉の弱った姿だった。
充満する血の香りがすずかの中の血を刺激する。その所為かすずかは自分の感覚が研ぎ澄まされていくのを自覚した。
浅くゆっくりと呼吸する音が聞こえる。その音は血に染まった明智良哉の口から聞こえてくる。
その事に、嫌でも気が高ぶるのを感じ嫌でも明智良哉の命が幾許も持たないと言う事を理解させられた。

「生きているのが奇跡です。輸血が間に合ったとも思えません。それと…」

ノエルから報告を聞く姉の後ろ姿を見ながらすずかの頭の中に一つの考えが浮かぶ。
だが、ソレを否定する。ソレを行うと言う事は少なからず明智良哉を『人』から外す可能性があるからであり、嫌われるという事が恐ろしいと感じたからである。
だが、一度浮かんだ考えは消える事は無く何度も何度も頭の中で囁いてくる。

血を贈れ

眷属とし

その存在を縛りつけろ

甘い誘惑だった。

ソレはそうだろう。人が一番恐ろしいと感じるのは、向けられる悪意や嫌悪では無く。無視。
そこに居ても認識されず、居ないように扱われる。ソレは長寿の自分達には度々訪れるモノだとは理解できる。
何れ、自身の親友達は自分を置いて逝ってしまう。その後は誰と関わるのか? 外界からの刺激は無くなるのではないか? 誰かと、家族以外と繋がりを持っていられるのか?
長い事、同じ所には住めない。何れ此処に引きこもるか何年か周期で各地を転々とするのかも知れない。

その先に確実なモノが無いのだ。月村すずかにはその確信を抱く為のモノが無いのだ。
ならば、と思う。もしかしたら、と考える。
少なくとも憎まれれば、彼は自分を忘れない。殺しに来るかもしれない。殺しに会いに来てくれるかもしれない。
もしかしたら、自分の事を好きに成ってくれるかもしれない。確率は低いが命の恩人になれればその可能性は有る。
そう、友達に成れるかもしれない。

少なくとも中途半端な事には成らないと考えた。

その考えはとても愚かで醜く、甘い考えだ。普通の『人』がその考えを聞けばその者の頭を心配するだろう。
が、彼女にとって、月村すずかにとってその考えはどの様な状況に転んでも自身の存在を確固たるモノに出来る結果なのだ。

この世の誰もが目を背けようとも、その存在が憎んでくれる。愛してくれる。己という存在を月村すずかという存在を見てくれる。

家族では無い、同族でも無い。ただの他人がそうやって自分に意識を向けてくれる。

勿論、友人に自分の事を話されるかもしれない。だが、コレは人命救助だ。
自分の事をバラされても彼女達は自分を拒否しない。それは半ば確信していた。話して居ないのは自身が臆病なだけだ。
高町恭也と月村すずかはお互いの事を知っている。勿論、恭也の父である高町士郎もその事を知っている。既に、高町家は身内も同然なのだ。
そういう打算を入れずとも、高町なのはは自分の事を受け入れてくれる。アリサ・バニングスという少女も自分の事を受け入れてくれる。そういう人柄だ。

勿論、アリサは最初は怒るだろうがそれでも受け入れてくれるだろう。
高町なのはも、困ったような寂しそうな顔をした後で受け入れくれるだろう。あの太陽の様な笑顔で。

だからこそ、月村すずか暴挙に出た。姉が、人の記憶をある程度なら消せる事も知っていると言うのも有ったのかもしれない。

急ぎすぎず、だがゆっくりでは無い速度で明智良哉に近づく。
浅い呼吸が聞こえる。傷だらけの体が見える。その頸筋に残っている血痕、明智良哉が口から吐き出した血の跡に体温が上がり下腹部が熱くなるのを感じた。

其処から先を、月村すずかは覚えていない。気がつけば明智良哉の手を握り締めたまま、自宅の客間で目が覚めた。
そして、自分の考えに怖気が奔った。普段なら考えもしない事を考え実行してしまった。

瞳が揺れる。ソレは自身の心が揺らいでいる証明でもある。
目の前に座り、こちらをじっと見つめる子狐の瞳写る自分は正にそうだった。

「わ…私はっ!!」

(なんて事を)

だが、その思いは狐の一言で覆された。

「ありがとう」

その一言に、すずかは目を見開いた。

「貴女は…良哉に必要。だから、付け込ませて貰った」

「?!」

「私の尾だけじゃ、良哉死んでた。血が必要だった。ごめんなさい」

つまりは、そういう事だったのだと理解した。落ち着いて考えれば、自分が決定的におかしい考えを頭に浮かべたのは明智良哉が此処に着いてからだ。

数百年を生きる怪異、その術を持ってすれば自分なんかの意識を操るのは容易い事なのだろう。しかし、必要とはどおいう意味なのだろうか?

この子狐が言ったように『血』の事なのだろうか?

その事を尋ねようと口を開こうとしたが、狐は明智良哉の布団の中に入り込み頬をに鼻を近づけるとピスピスと音を立てて匂いを嗅ぎ眠りについた。
言葉を紡ごうにも紡げない状況。すずかはモンモンとする考えを抱えたまま座って居るしか出来なかった。

何よりも、安らかに眠る子狐は可愛くモフモフしていてどうにも恨んだり怒ったりは出来そうにも無かった。その隣で静かに寝息を立てる明智良哉を見ていると、騒ぐ気には成れなかった。

考えてもみれば、明智良哉の取った行動のお陰で自分達は救われているのだ。既に、その辺りの事は考えなくても解っていたし知っていた。
数ヶ月前に有った友人の誘拐未遂事件。ソレを阻止したのは自分の姉とその婚約者だ。そして、姉が氷村の名前を口にしていたのは丁度その数日前だ。
その時期の姉は忙しそうに各所に電話を掛けていたし、叔母であるさくらとも頻繁に連絡を取っていた。

それだけ、情報が揃えば一つの可能性が見えてくる。

氷村の元々の狙いは自分達『月村』であり、その『月村』の一人である自分はその時、別口から誘拐されそうになったアリサ・バニングスと友人なのだ。
ソレに加え、自分は子供。成るほど、狙うには十分だ。もし、本当にそうならば自分は彼に助けられていると言う事に成るのだろう。

そこまで考えて、子狐の言葉が蘇る。

(も、もしかして…)

『貴女は良哉に必要』

(明智君が私の事が…)

恋に恋するお年頃。そんな考えが浮かび顔が熱くなるのを自覚するすずか。そんなすずかを最初に発見したのはドジっ子メイドだった。






さて、状況を纏めよう。明智良哉は先ずそう思った。自身の現状を知るのは大切な事だ。
夢を見ている。そう、コレは夢なのだと自覚出来る。
今立っている場所は部屋。正確には色の無い部屋だ、壁が在るようには見えないが確かに其処には壁が在り、天井が存在すると確信できる。
何よりも無色透明の空間と言うのはどうにも例える事が出来ない。先は見えないし、色も無い。夢の中だと言うのに歩く事も出来ない。

そんな中で自分の肉体の状況を確認しよう等と考えてしまったのは、混乱しているからだろう。そう、自分の思考に結論づける。
時間の感覚、空腹、眠気、全てを感じないこの空間では自分がどれほどの時間を過ごしているのかも解らない。
疲れさえ無いのだ。しかし、感じる事が出来るモノを発見すると嬉しくなる。

「退屈だ」

そう、退屈だ。何も無い。自身以外何も無い。在る筈の体さえ動かせない。発狂しないのが不思議に思えた。
そんな事を何度も考え、その度に無駄と思う。何か考える事は無いかと考える事自体を忘れて居たのに気付いたのはついさっきの事だ。
だが、目の前の問題を先送りにして良いモノなのだろうかとも考えてしまう。
しかし、考えても解らない事を延々と考える事は今は無駄でしかないという事は解っている事だ。此処には知識を補完するモノ、得る為のモノが何一つとしてない。

ならば、今後どのようにして失った部分を補うかを考える事の方が建設的だ。
失ったのは右腕だ。肉は付いている、骨も付いているが…感覚は無い。ソレがあの戦いの最後に払った代償の一つだ。
腕をデバイスで補うのは無理だ。正確には無理では無いが無駄だ。それなら無い方が良い。寧ろ、移植した方が良い。神経系をヤられているならばミッドの総合病院で長期入院と長いリハビリをした方が良い。

それでも駄目ならば一度死ぬという反則もあるが、ソレにはリスクが付く。今回の勝利であの時、久遠と記憶を共有した時に戻る可能性は限りなくゼロに近くなった。
が、それ以上戻れるかどうかは解らない。もしも、戻れるのならば地球に帰って来た直後が望ましい。
その望みが叶った場合は氷村は放置する。けじめは付けたし、俺個人には何の問題も無い。もしかしたら高町恭也という師を失うかもしれないが…それは、運が悪かったと諦められる。まぁ、情報ぐらいは流すが…
その後、月村すずかとアリサ・バニングスがどうなろうと俺には関係ない。あの時点では苦手なクラスメイトであり、何の縁も無い。
だが、氷村を殺した後だった場合はどうするか?

その場合は、早々に久遠と接触しなければならない。さすがに今回の事を忘れるには早すぎるだろう考えるが、ソレが希望観測だという事も自覚している。
出来れば…このまま次に移れる方が精神的にはありがたい。そう思い、目を開くと景色が変わっていた。世界に色が付いていた。

「これは…なんて」

無様な世界なんだ。

空も大気も太陽も大地も全てに線が奔っている。良く見れば世界の全てが合わない、合っていない。線を境界としてチグハグだ。
目の前に広がる景色は緑だ。草原が広がっている。だが違う。

何本もの線を境に、在る場所は雨が降っている。
在る場所は風が吹いている。
在る場所には火が付いている
在る場所は泥に埋もれている。
在る場所はその半ばまで水没している。

空を見上げる。

雲が繋がっていない。線を境にその種類が違う。場所によっては雷が、雨が、雹が雪が灰が降っている。

太陽を見る。

その姿は変わらない。そう思うが気付いてしまった。形が既に整っていない。
光を発して居ない場所がある。燃え尽きてしまった場所もある。

「なんだこれは」

口から洩れた言葉に、答えを返す存在は居ない。此処には俺しかいない。なのに、答えとは言えない言葉が返ってきた。

「世界だよ。まぁ、君にはまだ早いんだなぁコレが」

振り向いた瞬間に顔面を掴まれ持ちあげられる。声からして男。それなりの長身だ。
顔の確認が出来ない。動けないのが悔やまれる。

「まぁ…もうチョイしたらどっかで会えると思うけど…ガンバレなんて事は言わないから安心してねぇ? それじゃぁ、元の場所へ帰ってねぇ」

男の言葉を聞いた瞬間に、体中が痛みを訴えた。痛みで声が出そうに成るが出ない。
体が痛くて動かせず。痛いからこそ反射的に動こうとするも極度の疲労の所為かただ痛みを耐える事だけしか出来ない。
だが、その痛みも懐かしいモノに思えてしまう。あの変な空間に居たせいなのだろう。精神的にもかなり消耗したようだ。
ガチャリとドアを開ける音が聞こえたが、俺はこれ以上痛みに耐える事が出来そうにもなくそのまま視界が闇に閉ざされるのを受け入れた。





綺堂さくらは部屋に入ると、直ぐに明智良哉の意識の有無を確認した。離れた所から声を掛けるという方法で。
本当ならば近づき体に触れるなりした方が良いのだが、それを行えるのは今のところ五人だけなのだ。氷村との戦いに参加した者のみが触れる事が出来る。

明智良哉の右腕がそうさせているのだ。話を聞いただけで近寄る事が躊躇われる。

明智良哉は霊体に欠損が出来た。これでは末端から腐ってしまう。幾ら血が通おうともその肉に命が宿っていなければ意味がない。
人とは、肉体を持つ生物とはそういうモノなのだ。霊体の回復が出来るのは妖怪や神、悪魔と呼ばれる人外か特殊な一族のみだ。
人間に霊体を分け与えるなんてはっきりと言ってしまえば自殺行為でしかない。今は大丈夫でも近いうちに精神異常を起こすか、魂が浸食され死ぬ。

さらに、そこに自分達の血が混じってしまえば何が起こるか解らない。

まぁ、その為に私が暫く此処に滞在する事になったのだから町が消滅するような事態にはならないだろうが…心配になるのは仕方がない。
もしもの事態に備え、この部屋の到る所に爆薬を仕掛けているから初見で無理と感じれば即座に爆発させる事が出来る。私も死ぬかもしれないが…そこは掛けるしかない。

「まったく…神崎も自分達が保護してるならちゃんと後始末しなさいよねッと!!」

その場を飛びのき部屋から全速で退室する。

性質の悪い事に、明智良哉の右腕が自身を護るためか雷を放つのだ。それも、人が死ぬだろう一撃をだ。良くもまぁそんな出鱈目が出来ると思う。
厄介にも程がある。これではどうしようもない。出来れば殺したくは無いが、必要ならば殺さなくてはならない。
少なくともあの子は氷村を殺した。ならば、同等かそれ以上の力を有すると認めなければならない。

「はぁ…唯一の救いは防衛本能が働かないとうんともスンと言わない事ね。」

一気に老け込んでしまった様な気がするわ。まだ、若いつもりなのに…

綺堂さくらはそう呟くと自室に戻り不貞寝をすることにした。



一方、高町恭也・ルーダー・ファラリスの三人は月村忍からの説明を受け唸っていた。
正確には恭也以外の二人が唸っていた。恭也は薄く笑みを浮かべたが直ぐに表情を元に戻し、カップを口に運ぶ。

恭也は車椅子に乗っていた。膝の完治まで、歩く事を許されていないのだ。流石に立つ事は許されているがソレは恭也にっとってとても退屈な事だった。

傷の手当てを行い家に連絡を入れれば両親に怒られ、妹達には心配される。はっきり言って心が痛んだ。それだけではない。神速の中で神速を使うという荒業が出来たのだ。
ならば、ソレを完全なものとして修めたいという武人らしい強い気持ちもある。

(早く治らないもだろうか)

そう思っていると、月村忍から釘を刺される

「恭也~」

「解ってるよ忍。無茶はしない」

彼女に少量の血を注入されなければ、膝が治る可能性は無かったと理解している。彼女達の力を知っている高町恭也は、だからこそ不安になる。

「良哉君はまだ?」

「目を覚まさないわ。コレに関して私に出来るのは安静にしていられる場所と、医療器具の提供と治療のみよ。後は…すずかの行った事に対する謝罪」

その言葉を聞くと、ルーダーとファラリスは忍を見ながら伝える。

「俺個人としては貴女達の事を秘密にするのは構わない。が…」

「そうね。私達が良哉の事を決める事は出来ないわ。あの子は自分で決める。その上で切り捨てるでしょうね」

「家の妹もそれなりに可愛いと思うんだけど?」

忍は少し強めに言うが、ルーダーは肩をすくめて返す。

「良哉の好みは知らないが…まずは無いだろうな。」

その言葉にファラリスでは無く、恭也が頷き口を開いた。

「ですね…あの子は、本当に無駄、必要無しと割り切っている様ですし」

「恭也?!」

はぁ、とタメ息を一つ吐き、恭也は忍に言う。

「怒らないでくれ、ソレが俺が見てきたあの子の印象でもあるんだ。実に惜しい事だけどな…あの子の在り方は、強すぎる。何れ、孤立してしまうかも知れない…」

だからこそ、俺が教えれる事は全て教える気だと恭也は言葉を切った後で言う。

「……何にせよ、明智良哉君に関しては起きてからね。すみませんが、彼の右腕に関しては久遠にしか詳しい事が解らないんです。」

月村忍は凛とした表情でそう言うと頭を下げる。

残る三人は、その事実にタメ息を吐くしかなかった。











継ぎ接ぎだらけの惨めで間抜けでもっともらしい醜い世界。男は其処に立っていた。男は周囲を見渡し、羽織っていたローブの中からタバコを一本取り出し火を付ける。
紫煙を吐きだしながらタメ息を付く。

「世界を崩す意思には水を、星を砕く思いには血を…ってか? 下らないねぇ」

本当に下らないと男は言うと、ブチリとフィルターを噛み切り唾と一緒に吐き捨てる。

「なんでこうなっちゃったかなぁ…前途多難にも程があるでしょコレ?」

男は頭をガシガシと掻くとタメ息をまた吐く。男には覇気というモノが無かった。

「まぁ、待つのは慣れてるから良いけどさ…嫁さん怒ってるだろうなぁ」

あのプリンを食べた事まだ怒ってるだろうしなぁ

男は寂しそうにそう言うと、世界から姿を消す。それと同時に世界もその姿を隠していった。









あとがき

遅れたました。仕事を辞めたい。BINです。今、就職活動をしている人。始めた人。
自分が楽しめる、または目指している仕事をしましょう。
取りあえず働かないと…!! と思い就職すると私みたいに辛い思いをします。
警備員かノベル書きか普通のリーマンに成りたかったんだぁ…俺。
まぁ、そういうわけです。
アルトネ、問答無用で最初はココナエンドに行きました。次にフィンネル。その次がティリアです。
サキ? 興味ありません。ごめん。なんかね、興が乗らなかった。今はスターオーシャン4やってるよ?



何時もの↓

明智良哉

魔改造された様子。何かの切欠か?
でも、ボロボロになるだろうさ。だって俺が作者だから
失っているのは左目。ラプラスはファラリスが所持。
なんだか、右腕が勝手に動くらしい。

「ぐっ、落ち着け俺の右腕!!」

とかなったら、俺が笑う。


高町恭也

暫くは車椅子。お風呂は彼女と一緒。モゲロ
リア充。寝るのも彼女と一緒。モゲロォォ!!
良哉心配中。


ルーダー・アドベルト

三人の中では軽傷。切り傷と失血のみ。
良哉の事は良哉に決めさせる。
でも、任務が在るからその事は再び話し合い。
娘が同じ幼稚園の男子に告白をされた事を知らない。


ファラリス・アテンザ

たぶん、一番の重傷。肩の肉抉るは、刀刺すわ。
実は古傷の所為で、子供が出来ないという
故に子供は好き。自分の作った作品は子供のように愛す人。
だが、料理は男の料理


月村すずか

久遠に操られていた様子。でも、ソレが自分の心の闇だとは気付いていない
なんだか、誤解している様子。一種の希望見たいのを…でも、ねぇ?
学校には行くが良哉の事は秘密。帰宅すると良哉の所に向かうのが日課に成り始めている。


久遠

幼女…もとい妖孤。すずかを操ったのは夢写しの応用らしい。
尻尾を一本プレゼント。今は那美と薫からお説教をうけている。
ロリコンジャイアントがソレとなしに庇っている様子




オリキャラ。一発では無いのでご用心。
なんだか、悩んでいる様子。結婚している様子。
謎? だが。時々絡んでくる。


こんなところかな?



[5159] 日常?(修正しました)
Name: BIN◆5caaab55 ID:784a3ac9
Date: 2010/03/23 02:44





ハラリとページが捲られる。其処に有るのは白い文字も絵を無い唯の白紙のページ。
ソレは本なのかと問われればソレはyesと答える。
ソレは欠陥品なのではないかと問われればソレはnoと答える。
ただただ、白紙を見つめているとソレに文字が徐々に浮かんでくる。
ソレはそれを見るとタメ息を吐き、本を閉じた。







明智良哉が目覚めて三日が立った。ソレは彼が月村邸に運ばれて一週間の時が過ぎた事に成る。起きた良哉が確認したのは体の傷が完治しているという事だった。
だが、その事に慌てる事は無く。ただ、頷いただけだった。
筋肉の衰えはまるで無く。右腕も思った通りに動く。その事には少しだけ驚いたが一番驚いたのは、自分の右腕に起こった事だ。
久遠の話を聞いても、オカルトという分野にはまるで学が無い良哉にとってはちんぷんかんぷんな事だらけだったからだ。

久遠は子狐では無く、少女の姿をとっていた。

その姿で仕方なさそうに微笑む姿には万人が安らぎを覚えるのではないかと思ってしまう程の、落ち着いた表情だった。
久遠が纏めた事は二つ。

その右腕は、『まだ』不完全だという事

その力は『まだ一人で』は使えないという事

良哉からすればそれだけ解れば良い事だった。動かなく成った筈の右腕は復活していたし、傷も治った。文句のつけどころが無い。
明智良哉が必要とするモノの一つは力であり、この結果は+だった。-も多いが二つを比べてもマイナスにも零にも成らない。故に文句は無い…無いが不満が有る。
有る意味で彼にとってはかなり『必要』な事だった。

風呂に入りたい

現在も絶対安静という名の軟禁をされているのだ。出来る事は意外と少ないし、これからする事も少ない。

これから起こるであろう『闇の書事件』には関係を持たなくても構わないのだ。

降りかかる火の粉は払うか、避けるかをすれば良いだけだからだ。
確かに、シグナム、ヴィータの二人とは縁が在る。が、八神はやてには縁がない。過去も未来もだ。すれ違うぐらいは有ったかもしれないが、覚えていない。
ならば、そんな他人の為に自らを危険にさらす等…今は愚の骨頂でしかない。そんな事は子供でも解る。そんな事を考えながら外を見る。
そして、今はそんなどうでもいい事を考える暇では無いという事を思い出す。連日、四日間眠り続けて居た脳は未だに鈍い痛みを伝えてくる。
何よりも、体は全快しているのにだるくてしょうがない。そして、腹が減る。
そんな事を考えながら、明智良哉はトントンと扉を叩く面倒事に意識を向けた。




扉を開けると、そこには無機質な瞳が在った。その在り方に背筋がゾッとする。その感覚にも慣れてしまっていたし、彼に嫌われようが興味があった。
すずか…妹は彼が起きてからはあまり近づけさせて居ない。勿論、彼は私達の事を黙っていると契約をした。が、身内には成らないと言いきった。

妹はその事にショックを余り受けて居なかった様だが、瞳は潤んでいた。

その理由を問い質す事もしなかったし、明智良哉も何かを言う事は無かった。
明智良哉は身内に成らないと言いきった後、私に向かい言った。

『俺と貴女達は知人でも無ければ友でも無く、唯の他人だ。ソレが俺の認識であり、俺の現実だ。だが、貴女達には恩がある。身内には成らないが誰にも話さないと誓おう。』

恐らく、それが彼なりの譲歩だったのかもしれない。普通なら嫌悪感等を抱くかもしれない、現にさくら姉さんは顔を顰め拳を握っていた。
私はそうでも無かった。恭也の話を聞いていたからかも知れないが、嫌悪感以上に親近感を抱いた。理由は直ぐに見つかった。

明智良哉とは過去の月村忍なのだ。

さくら姉さんに預けられていた時の私にそっくりなのだ。その性格は自己中心的と言ってしまえばそこで終わり。
もっと深くまで理解しようとすれば臆病者のソレなのだ。人と関わりたくても関わられず。

人を恐れ、近づけさせない。心を許せる相手でさえ最初から疑ってみる様な捻くれ者。

故に、私は明智良哉との距離感の取り方が直ぐに解った。利を共にすれば良い。利を与え、協力させれば良い。
私が彼に払わせる対価は『妹の話し相手』という役柄であり、私が彼に与える利は『健康』であり、すずかが払う対価は『血』なのだ。

そして、彼が私に本当の対価として寄越すのはその『身体』の情報。

解るだろうか? 私の知識欲を刺激させるモノを持っているこの少年は私達と対等の様に振舞いながらも、実は私達より上の立場に居る。
久遠が告げたのだろう体の事を、明智良哉は正確に把握していた。私がその条件を飲まなければ彼は妹を、月村すずかという存在に価値を見出さず、見出そうともしない。

そうやって、心を壊す気でいる。

そして実行するのだろう。昔の私ならばそうしている。出来ると言いきれる。
恭也と出会わなければ…私は今もこう在ったのかも知れないと思ってしまい。寒気がする。

その生き方は余りも、うすっぺら過ぎて…哀れみさえ込み上げてくる。

この子は知らないのかも知れない、触れ合う事の重要さを。
忘れてしまっているのかも知れない。他者の温かさを…
そして、過去の私はソレを理解して居た。でも、ソレが怖くて出来なかった。
話をしている限り、彼は過去の私に似すぎて居た。だからこそ、私と彼の圧倒的に違う部分を理解するのが遅かった。





高町なのはが明智良哉の家に訪れたのは、月村邸で明智良哉が目を覚ましたその日だった。学校も塾も休みだったその日は、たまたま誰とも約束事をしていなかった。

朝は魔法の練習。昼は家族で昼食を食べ、午後の空いた時間で住所を頼りに明智邸へと向かった。
視界に入ったのは何処にでも有りそうな普通の庭付き一戸建ての家。表札には明智の文字。
新聞も溜まっておらず、玄関前も綺麗なモノだった。
が、そこに人が居ないという事は直ぐに解った。気配の様なものが無い。音が聞こえない。念の為、サーチャーを使い二階も除いてみたが人がいる様な形跡が無い。
首から垂れ下がる相棒が生体反応の有無を伝えると、なのはは肩を落とした。
高町なのはは夢を見る。あの時、自分の目の前で起こった血の匂いがこびり付いたあの夢を見るのだ。

何も出来ずに、突き刺さる木の枝。倒れる同級生の体。何も出来ずに見て居る事しかできない無力な自分の夢。

ソレは、彼女にとって悪夢だった。普通とは違う力、『魔法』に出合い。戦いを経験し、悲しい事件にも立ち会った。
ソレは正しく自分を強くしてくれたという確信が在った。昔より自分に自身を持てる。ソレは確実だ。世界の危機を防げたのだ。
あの事件の後、クロノ・ハラオウンが IFの話を教えてくれた。その事で礼を言われた。その事が嬉しかった。普通では出来ない事を行った。そして、成功させた。
友人も出来た。大切な相棒も出来た。でも、その悪夢が無力を伝える。
故に、魔法の訓練にも熱が入る。その集中力は相棒であるレイジングハートも褒める程のモノだ。

だが、その悪夢が否定する。

その悪夢が伝えるのだ。

確かに、高町なのはは明智良哉を窮地から救ったのかも知れない。だが、一番役に立っていないと言う事は己が一番理解していた。
自分はただ見て居ただけだ。確かに、声を掛け続けた。彼を知る者の、彼が知っている者の掛け声が、励ましが必要だと言われたからだ。
だが、声を掛けて居た自分はただ声を掛け続けただけでその場には居なかった。その現場には立ち入れなかった。

役に立たないからだ。

治療等出来ない子供は邪魔でしかない。ソレは理解できる。だが、それが事実であり…現実だった。
それでも、明智良哉は高町なのはに言った「ありがとう」という残酷な救いの言葉を

その一言が、高町なのはは役立たずだと言う事を証明していた。彼女にはそう思えた。

本当に救われたのは自分…高町なのはであり、高町なのはを救ったのは明智良哉なのだと。
片目を失い、その元凶を許し、何も出来なかった自分に礼を言う。その時はただ嬉しくて安心して、家族の前でさえ見せた事も無い程の大泣きをした。
今思えば、ソレは自己防衛だったのかもしれない。事件が解決し普通の生活に戻ってから一カ月もするとそう考える様になった。

そして、自分は明智良哉というクラスメイトの事を知らな過ぎるという事に気が付く。
友達に成っても居ない。ましてや知人でも無い。ただの他人同士の関係に気が付く。
そして、この間聞いた話に出てくる眼帯の少年の話し。そんなご都合主義はあり得ないがもしかしたらと思った。
だが、来てみれば当たり前のように其処には誰も居らず。悲しい現実が在っただけだった。
フェイトから来るビデオレターでも明智良哉の事は一切話題には上がらない。
高町なのは、肩を落としたまま来た道をゆっくりと戻って行った。一言つぶやいて

「絶対に…お友達に成るんだ…」






知らないからこそ知ろうとする。人は解りあえると信じているからこその行動だった。
高町なのはは綺麗なのだ。純粋とも言える。
だが、それは何も知らないと言う事と一緒で彼女自身も気づいていない、気付けない生来の歪みを大きくする。
その事に、周りも気付けない。周りは近すぎるからこそ気付けず。彼女を知る第三者も、高町なのはを見ているからこそ気付けない。
そんな、彼女と周りの行き違いが大きな落とし穴となる。ソレはまだ、先のお話






普通なら此処で諦める。居ない者は居ないのだ、ソレは相棒が証明しているし自分でもなんとなく解った。だからこそ、その思いが後ろ髪を引こうとも振り返る事に意味は無い。
無いのだ。だが、高町なのは振り返ってしまう。インターホンを押せば、誰かが出てくるような気がする。言葉では何とも言えない何かを感じれたのだ。

「あれ?」

高町なのは、一度目をこすり再び明智邸を見る。

「あれ? ………気のせい?」

と首を傾けて「ムゥ~」と唸ると再び前を向き歩き始めた。

「カーテンが空いてたような気がしたんだけどなー」

そう呟きながら…







その後ろ姿を捉えたヴィータは首を捻り考えた。が、明智良哉の交友関係を全て把握している訳ではないので直ぐに放棄した。

「っーか、あんなぽややんってした奴がアイツの友達に居る訳がねぇーか」

そして、確かめる様にインターホンを押し数秒待つ。
やはり、中からの返答は無い。人の気配というモノ無い。今までと同じだ。此処数日と同じだ。

周りの病院もシグナム達と調べたが、明智良哉は居なかった。あの戦いの後、最後まで見れなかったのが残念でならない。

が、どの道、明智良哉を襲うわけにはいかない。周りに居る管理局の者に気付かれては意味がない。何よりも、明智良哉は自分達が何処に住んでいるかも知っているのだ。

自分達の主に危険が迫るのは望んでいない。何よりも、友達には早々手を出したくない。

後者は自分の我儘である。その事に気づいているし、何とかソレを譲りたくない。そう思い口を歪める。

「チッ…弱くなったなぁ…鉄槌の騎士がさぁ」

そう言った所で何も変わらない。

そして、此処数日の何時も通りに帰ろうとしたところで踵を返しデバイス無しの極小の魔力で身体強化を行う。そのまま、壁を一度蹴り二階の屋根へと手を掛け屋根の上に立つ。
その状態で言う。

「女、『餓鬼』は何処だ?」

明智邸のみが結界に包まれる。魔力は少量、管理局に気付かれては困る。その為、見っとも無く酷い出来の結界に成ってしまって居るが仕方がない。
もとから自分はこういった事が苦手なのだ。シャマルの様には出来ない。

あの時もそうだ。あのババァは落ち着けば出来るとかぬかしたが、ソレは多少の時間が居るんだ。ソレを知らないババァじゃ無かろうに…

(ん? あの時って何だ?)

そう思いながらも、返答を待つ…待つが、何も起こらない。ソレを確信するとタメ息を吐いて地面に降り、コンビニへと足を向ける。
幾ら寒くなっても、好物は食べたいのだ。

「あの時って本当に何だ? ……映画の見すぎか?」

今度から、ザフィーラが見る戦争物の映画を見るのを控えようと考えながらヴィータはポケットの中の小銭を確認した。

「…十円足りねぇ」






ファラリス・アテンザはヘナヘナっと床に座り込んだ。

天井から掛けられた声に体が反応しなかった事に、大きくタメ息を付き心から安堵した。
そのまま五分程してからカーテンを少し開け、外を確認する。誰も居ない事に心底安心し、明智良哉のベットに倒れこんだ。

「…さっきの声かからして性別は女、年齢は子供…最低五歳、最高十三…いえ、十一位かしら? 一体何者よ…この世界、魔法が無いだけでめちゃくちゃ危ないんじゃなの?」

『それよりもマイスター…改良をお願いします』

そんな、ラプラスの一言に心労がドッと襲ってくるも何とか自身に活を入れて起き上がる。

「あのねぇ…出来るのは内側だけよ? ソレに本格的には向こうに帰ってからじゃないと、何も出来ないわ」

『解っています。だからこそ、出来る事を今して欲しいのです。私自身のもっとも効率的な形態はこの前の戦いで見つけました。』

ラプラスの言った事に興味を覚え、口を開く。

「へぇ~…教えて貰おうかしら?」

『私は目です。目とは視るモノです。ならば私は形に囚われずに見る事が出来るモノに成らなくてはいけません。』

ただ、それだけです。

そう、誇らしくラプラスは言いきった。

その事にファラリスは感動を覚える。
出来て一年も立っていない、碌に固有人格もインストール出来なかったデバイスと言う意味で言えば三流品にも劣る欠陥品が、此処まで言い切った。
言いきったのだ。其処に確固たる自信を持ってまるで明智良哉の望み等、理解しているとでも言いたげに。
成長している。その人格がちゃんと成長している。学習機能は付けているが短期間で此処まで人間らしい…否、『自分勝手と言われても仕方がない忠誠心』を持つに至るとは…
ファラリスは首を鳴らすと生き生きとした声で言った。

「今の言葉、普通なら初期化されても文句は言えないわよ?」

『何を当たり前な? 私の時間はその殆どをマスターと共有してきたのですよ? 何回とも言うのが馬鹿らしく成るくらい、マスターと考えたのですよ?』

「………」

『マスターの好物、味付け、良く見るTV、新聞は何処まで目を通すか…全てを共にしてきたのですよ?』

「…そうね」

『戦闘に関してはまだまだ、先達である姉様と兄様に指示を貰っていますが何れはソレも要らなくなります。いえ、成るのです。故に、もう一度言います。』




マイスター、私を改良しなさい。私はマスターの『目』と成るには貧弱すぎるのです。

笑う、嗤う、哂う。

全てを込めて、ファラリス・アテンザは涙を滲ませて笑う。

自分の子供を笑い尽くす。

「当たり前な事を、今更言うの? 貴女こそ覚えなさい。私は貴女の生みの親で、あの子の保護者の一人で、あの子の行き着く先を見たい協力者なのよ?」

馬鹿にするなと言いたげに、傲慢に力強く言い切り自室に向かう。
その顔は、所謂喜びに歪んでいた。





ルーダー・アドベルトは窓を開けた一室で明智良哉と話しをしていた。
話しと言うのは今後の事である。あの戦いの一件で重傷を負ったが直ぐに全快したと、何を馬鹿なと言われても仕方が無い状況に有る明智良哉とこれからの事を話している。

話しているのは、ミッドチルダから地球への帰還の話だ。

地球とミッドチルダは当たり前だが遠い。本当に遠い。
チャンとしたトランスポーターを使えば直ぐだが、使用料が掛る。ついでに高い。
更に言えば地球にも設置しなくては成らない。しかも高い。もう一度言う。高いのだ。
一回の往復でそれなりの額が吹っ飛ぶ。任務なら金は要らないが…提督クラスで無いと無理だ。頻繁に使うのは…
ぶっちゃけ、リンディ・ハラオウンの提案に頷けば問題は無い。だが…

娘がお兄ちゃんかお姉ちゃんが欲しいと去年の誕生日に言ったのだ!!

「…どうにかならねぇかなぁ」

「まぁ…俺が働きだしたら大丈夫ですけど」

二人の会話はそんなモノだ。

後は、いい加減風呂に入りたいだの。盆栽の手入れがしたいだの。娘自慢で会話は終わる。
それから暫くして、日が沈む頃に月村すずかは明智良哉の部屋に訪れた。

二人の会話はこれと言って面白みは無い。すずかが学校で起こった出来事を話し、ソレに良哉が言葉を返し頷くだけ。

方や笑顔が見えるが、もう片方はこれと言って表情に変化が無い。

ただ、今日の月村すずかは何かが違った。明智良哉はそう思った。強いて言えば目の光が違う。とても、強い光を灯していた。
そして、月村すずかは明智良哉に質問した。

「どうして…身内には成れないの?」

ソレは、幼い彼女からすれば大きな覚悟と勇気を振り絞った質問だった。

明智良哉は考える。本来ならばそのまま自分の事実…簡単に言えば不要と言う事を告げてしまえば言い。
だが、この体は既にそう言う訳にはいかなくなっていた。体が求めているのだ『血』を、誰かのではなく。明確に『月村すずか』の血を求めているのだ。

久遠曰く。ソレは体が完成…時期を迎えれば無くなると言っていたが、単純に成長すれば良いと言う事ではない。

体の完成とは、明智良哉の体が明智良哉の体の使用に耐えられる様になった事を言う。

勿論、限界を超えれば破損し破壊される。其処は普通の肉体と一緒だ。だが、コレはある種の進化を世代を使って行うのではなく。
一人の人生の中に有る、許された極僅かな時間で行うと言う事である。
明智良哉には時間が無い。在るようで無い。ソレが事実だ。常に生命の危機が傍に有る。多くの人生を経験している明智良哉は知っている。

詳細は既に解らないが、一瞬の行動、他愛もない一言、僅かな表情。生活に欠かせない全ての些細な食い違いが死を運んでくる。不仲を運んでくる。
そして、月村すずかとはその不幸を多く持っている。既に彼女は自分を殺せると言う事を知らずとも感じている筈だ。
彼女の姉は勘違いをしている。アレは自分の意思では無い。自分の意思が明確ならばこんな事にはならない。

もっと早くに此処を出れた。が、ソレが出来ない。

すずかの血が無ければこの体は動かなくなる。それも良い。其処でリセットされれば良い。だが、その後はどうだ?
この事より前、少なくとも二カ月から三カ月は前に戻らなければ同じ道を辿る可能性が高い。そして、何処まで覚えられているか自身が無い。
故に、言葉は慎重に選ばなければならない。

今後の事を考えればソレが一番安全だ。

「俺は…別に君の事を嫌悪している訳でも、気味悪がってる訳でもない。少なくとも君には恩は感じているし、この状況を作ってくれた君達の『一族』にも感謝している」

「だったら…」

「俺はそうだが、周りはどう思う? ルーダーさんの上司は理解も思いやりも在って優しい人だ。彼女なら大丈夫だ。だが、他の人間はどうだろうか?」

すずかの目を見て言う

「俺も直に組織に入る。其処には俺の身体情報も身辺の事も送られる、久遠の事は使い魔として登録すればそれで良いし、向こうには『霊』に関する事は解らないだろうから構わない」

ゆっくりと、静かに、言い聞かせるように

「だが、君は別だ。君と言う『人』は存在するし、戸籍もある。遺伝子も有るし『一族』も要る。俺は有る程度は上に行くつもりだ。ソレは俺の将来だ、誰かに口を出される事は無い」

絶対的な決定を彼女に言い聞かせる。

「組織には派閥が有る。絶対だ。故に反発があり敵対があり友好がある。そうなれば…汚い事も必然と増えてくる。」

暴力、結構な事だ。ソレは自分も行使する。
権力、宜しい。使える立場に居るのならば躊躇い無く使うべきものだ。
謀略、使わないでどうする。生きる為には必要なモノだ。
財力、有る事に損は無い。寧ろ、有る方が良い。

力は全て一つの手札として切れるカードだ。弱いモノはそのまま踏みつぶせる。
だが、強いモノは弱い部分を切り崩していかなければ成らない。
弱みは見せて良いモノではない。見せて良い弱い部分は、餌として使える程度のモノで無くてはならない。

故に明智良哉は月村すずかに植え付ける。

「君は俺の枷になる。だからこそ、身内には成れない。それは君にも『危険』が及ぶ。だから…」

慎重に、丁寧に、大人が子供に言い聞かせるように…

「だから?」

「身内では無い、唯の友人として…いや『良き友人、隣人』として在ると言う事で譲歩してくれないか?」

少しだけ頬を緩ませ、言う。





月村すずかは、明智良哉の言葉を頭の中で、心の中で反芻する。

『枷になる』

この言葉に、言葉が沈む。自分は、自分と言う存在は明智良哉の大きな負担に成ってしまっている。
この事に、心が沈む。ソレはとても悲しい。自分の事を『人』と言ってくれている人の重荷になるのは嫌だった。
自分の事を認め、嫌いに成らないでいてくれる人間に迷惑を掛けたくなかった。

『一族』『危険』

と、言う言葉に心が温かくなった。自分の事だけではなく、自分を含めた全体を見て、その全体の事を考え心配してくれている。
その考えに、その思いに心が温かくなる。嬉しくなる。
明智良哉と言う人間は全体を見る事が出来、その全体の安全を考えてくれている。その大きさに嬉しくなる。

『良き友人、隣人』

と言う言葉に目頭が熱くなる。
友人として居てくれると言う事に、一族に害をなさず、互いを支えれる隣人として、私達を否定しないでいてくれるという言葉に感動する。
血が熱くなり、下腹部が熱を持つ。

月村すずかの中で、明智良哉という存在は大きなモノとなりある種の絶対的な位置を確立させる。
だからこそ、勘違いの元と成っている淡い思いに光を灯す。
その光は明智良哉の一つの強力な手札となり、月村忍への強力な抑止力に成りうるモノへと育てる事の出来るジョーカーとなる。

「あのね…その……今はそれで良いと思うの」

この言葉を聞いた瞬間、明智良哉はその鉄面皮の下にいやらしい笑みを浮かべる。

「だから…えっと…その…」

少しだけ紅潮した頬が可愛らしいなと思いながらも、明智良哉は次の言葉を待った。
月村すずかからしたら、その言葉を紡ぐのには最初の質問以上に勇気が居るに違いない。嘗て、ソレに似た言葉…在り大抵に言えばプロポーズと言っても間違いの無い言葉を言った事も有るのだ。その恥ずかしさも、ソレを言う為の覚悟の大きさも知っている。
故に、待つのは苦では無かった。

「良き友人、隣人の…先が有っても可笑しくはない…よね?」

「それは…解らないだろうさ。未来は無限だ。そういう事も…在りえるだろう?」

「そ、そうだね。それじゃあ、もう遅いから私、帰るね!!」

「あぁ、今の時期は何処に居ても寒い。風邪を引かないようにな」

「うん、明智君もね!! それじゃあ、おやすみ」

「おやすみ、『すずか』」

「!?」

驚きながらも嬉しそうな顔をして出て言った月村すずかを見送ると、明智良哉は自嘲するように言った。

「醜いな」

『えぇ、最低ですね。主…女心を何だと思っているのですか?』

中々に痛い所を付いてくる相棒の言葉に、苦笑が漏れる。

「どうなんだろうな…」

『しかし…必要な事です。私はそう思います。人も力も金銭も経験も知識も使ってナンボですからね。』

「……そうだな」

明智良哉はそう呟くと。再び横になり、眠りに入った。







月村忍がその事を知ったのはそれから二日後の話し。ファラリス・アテンザが居合刀を携えて月村邸にやってくる一日前の事だった。











あとがき

酷いとか、すずか可哀そうとか思った人、ごめんなさい。
でも、必要なんだよ?生きるって難しいね?

なんとなく、力を入れて見たがそんなに変わってないよね…はぁ

何時ものアレ↓


明智良哉

黒くなった。


ルーダー・アドベルト

財布が心配な大黒柱。
娘が告白されたが、二秒後に断っている事を知らない。
奥さんは身長が低い巨乳らしい。



ファラリス・アテンザ

なんだか、怖い。ラプラス改良中。
ヴィータにビビる。


ヴィータ

なんだか、おかしい様子。オリ設定ありです。ごめんね
やっぱり、良哉は友達と思っている。さて、どうするか…


居合刀


道場の師匠からのプレゼンと。折れやすいので取り扱い注意。






























































まぁ感想で、死んだ魚の目を持つやる気の無い引き籠もりの魔法使いが浮かんだ人正解。
でも、ひとつ言わせてもらえればクロスではない。
もともと、この役所が必要でどう複線を張っていくかとか考えてたら、訳の分らんうちそいつを主人公に何か書いてみようと思ったのが病気の始まりだった。
ぶっちゃけると、この話のためにあの病気を書きました。最初と最後だけ決めてれば意外と書けると実感しましたよ…
まぁ、裏話をすると、あっちは最後バットで終わるつもりだったんですけどね。



[5159] 日常2?(修正しました)
Name: BIN◆5caaab55 ID:784a3ac9
Date: 2010/03/23 02:39







ギシッとベットが音を鳴らした。起き上がった拍子に目に髪が掛った。もう、長い事切っていないなと思うと笑いそうに成る。繰り返した年月を考えれば正しく長い間切っていないのだ。実際に、身体年齢を考えれば約一年程切っていないだけなのに…いや、もうソレも正しく無いのかも知れない。


何時髪を切ったかなんて事は欠片も覚えて居ない。少し前にファラリスさんに前髪を整えて貰っただけだ。そう思いながら髪に触れる。ベタついていた。それも仕方が無い。約一週間も風呂に入っていないのだ。体は拭いているが頭は洗えない。


熱いシャワーを浴びたい所だ。外を見れば日が沈み掛けている時間帯だった。もう、夕方かと思うと自分の体内時計がかなり狂っていると言う事を自覚する。朝は嫌でも目が覚める。体に染みついた習慣だけが正確に時間を把握しているようだ。それ以外では働かないのが何とも使えない。


ベットから足を下ろし、軽く体を動かす。ポキポキと体中から音が聞こえた。少し寝すぎた様だ。
だが、今はそんな事を考えている時ではない。やっと…風呂に入れるのだ。どうやらすずかが月村忍に頼んだらしい。


詳しくは知らないが、朝そんな事を言っていたのは覚えている。

ベットと壁の間に寝かしてある居合刀が視界に入る。コレは今日の昼にファラリスさんが持って来てくれたモノだ。自分でも忘れて居たモノを再び目にすると、何とも言えないモノを感じる。手に取るとズシリと鋼の重みが確かにある。この重みは心地が良い。この重さが嘗ての師から教わった事の重さだと感じるからだ。


ソレは確かだ。師の居合は数える位しか見て居ない。その時に自分が何を感じ、何を覚えたのかは覚えて居ない。何よりも風呂だ。ルーダーさんが一緒に入ると言っていたので少しの間、ストレッチをしながら待つ。
柔軟な体は必要不可欠な物だ。体を動かしていると、中身が新しく成った右腕に苦笑が出てしまう。


霊体と言うモノは肉体に影響を及ぼす。久遠の説明を身を持って体験すると、成るほどと納得してしまう。耐久力が違うのだ。右腕だけが別人の耐久性と持久力を持っている。この狭い空間では訓練が出来ないからまだ試していないが、打撃の威力も上がっているのだろうと予測出来る。
それは、今夜にでも行えば良い。


コンコンとノックの音が聞こえた。

やっと熱い風呂に入れる。





カチャリとドアノブを下げて扉を開くと、其処には誰も居なかった。その事実に少し遅かったと思うも、仕方が無いと思う。


「嬉しそうだったもんなぁ…」


私がお姉ちゃんに掛けあった結果が彼を喜ばせた、この事実は私に喜びを与えてくれた。彼がソレを望んでいたと言うのも有るけれど、女子として私も彼と同じ状態は嫌だと思ったからだ。約一週間もお風呂に入れないのは女性なら誰でも嫌な筈だ。


髪はベトツクし匂いも気に成る。ソレは男性である彼も同じだった様で…何だか自分と同じ考えを持っていると言う事が嬉しかった。でも、そう思うなら体を動かすのを止めれば良いんじゃないの? と彼に聞いてみたがソレは却下された。


体が鈍るのは困るらしい。その辺りの事は私には良く解らない。恭也さんに聞いてみると同じ事を言われた。恭也さんにはお姉ちゃんが居るけど、明智君にはそういう人が近くに居る様には見えない。だから、その辺りが不安だ。
私はその事を恭也さんに言ったけど、恭也さんは微笑を浮かべながら言った。


「いや、常に二人…違うな、二人と二機が居るから大丈夫だよ」


二人は解るが、二機が解らない。私がそういう顔をしていたのだろう、恭也さんが彼の相棒という存在を教えてくれた。なるほどと思ったが、不安なのは変わらなかった。機械でもノエルとは違う、ファリンとも違う。彼女達には温かさが在る。


だけど、明智君の相棒には温かさは在るのだろうか? 私は不安に思った。そして、もう一つ不安に成った。そんな技術が身近にあったらお姉ちゃんが興味を示さない筈が無い。妹の私が言うのもなんだけど、お姉ちゃんはマッドだ。

明智君に迷惑を掛けてたらどうしよう。

「あぁ、忍の事なら大丈夫だ。ファラリスさんと『仲良く』相談してたからな……近づきたく無いぐらいに…」

全然関係ないけれど、私はそう言った恭也さんに白髪を三本見つけた。


車椅子だけど、お姉ちゃんがベッタリだから逃げられなかったんだろうなぁ





カポーンとルーダー・アドベルトが洗面器を落とした。無理もない、目の前で起こった事を考えれば誰だってそうなる。寧ろ、声を出さなかったルーダーはかなり優秀な部類に入る。


ルーダーは考える。どうしてこうなった…と


事の初めは風呂だ。明智良哉は約一週間程風呂に入れない状況に居た。軟禁と言えばそうなのだが、アレは監禁だと明智良哉は愚痴る。実際にルーダーもそう思ったが、此処でいざこざを起こしても『利』が無いと言う事を理解出来た為にしなかった。明智良哉本人もソレを理解していた。


それと、二人が共通して在る事を確信していたからこそ言いださなかった。そう、今はまだ血生臭い事には成らない。


それだけは、確信出来て居た。

そして、今日やっと正しく軟禁という事に成った。部屋から出れるし、風呂にも入れる。一人で入ればこんな事には成らなかったが、明智良哉の髪はこの年齢の少年にしては長い。本人も何時切ったか覚えて居ない位には切っていない。ルーダーは以前、戦闘の邪魔に成ると助言したが明智良哉は使い道は有ると答えた。


その後は誰も髪に関しては何も言わない。時々、前髪を整える位だ。今日もそのつもりで一緒に風呂に入ったのだが…湯を頭から掛けたらこのざまだ。今見えている頭の天辺、本来ならば明智良哉は黒髪だ。だが、今はその根元の辺りが少し白く見える。


ルーダーは取りあえず見なかった事にして、前髪を整える事にした。幸いな事に明智良哉は目を瞑っている。もし、そこだけが白く成っているのなら、寝ている間にでも染めてしまえば良いと無理やり思い込み髪を切る。その後は、何時も通りに髪を洗いそのまま体を洗って全身を流す。


例え、髪を洗っている最中にその泡の色が黒くなっている事に気が付いても無視する。さらに、明智良哉が髪を洗っている最中に体を洗って気が付かない様にすると言う事は忘れては成らない。問題の先送りの為に…


そして、今に至る。


ルーダーは思う


(何でこうなった!!)

(アレか? ファラリスの言う通りに手入れをしなかった所為か?!)

どうでも良い事を考えつつ、固まるしかないルーダーだったが明智良哉は自分に起こったその異変を目にしてタメ息を吐きながら言う

「ハァ…問題無いから良いか」

拍子抜けするルーダーだが、本人が気にしていないのならソレで良いと結論ずける。よくよく考えれば仕方が無いのかもしれない。あんな存在との殺し合いを行ったのだ。自分でさえあの戦闘の後の顔は老けて見えた。其れ程までにやつれていた。


精神的な圧迫は自分の比では無い事は明確だったし、自分の命が係った殺し合いでの重圧は酷く重い。過度の精神的なストレスで一夜にして髪が白く成るという言い過ぎな話は聞いた事はあるが、目の前にすると愕然としてしまう。


少し、自分の事が気に成り髪を確認すると白髪を発見して納得してしまう。更に本人が気にしていないと言うのならば、ソレを気にする訳にはいかない。何時も通りに接していれば良いのだ。だから、ルーダーは何も言わずに風呂に入るかと声を掛けた。


二人して湯船に浸かると無意識に声が出る。そんな中、ルーダーは一言だけ明智良哉に言った。


「白って言うより灰色だよなぁ、ソレ」

「確かに…」

何とも言えない空気の中、二人は遅れて入って来た一匹を見て笑った。久遠は訳も解らずに首を可愛く傾げるだけだった。


「クゥ?」





明智良哉は湯船に映る自分の顔を見ながら髪に触れる。少しゴワゴワと堅い感触に髪質も変わったか…と考え、直ぐにソレもどうでも良いと思った。少し体を沈め、ブクブクと気泡を出しながら良哉は考える。考える事はこれからの事だ。良哉の中で管理局に入る事は決定している。


管理局自体、悪い所では無い。黒い所は多いし、悪い事をしているのも確かだが管理局は必要な組織なのだ。其処に入り、在る程度の地位を気付ければメリットは多い。故に、管理局に正式に入る前から在る程度の功績や恩が欲しい。


そして、目の前には闇の書と言うロストロギアが起こす事件が待っている。本当ならば関わりたくない事件だが、これに協力し事件解決に貢献出来れば…明智良哉の評価が上がる。酷く打算的な考えだがこれ位の事をしなければ功績とは言えない。


特に、この事件を機に何かが変わるのが確かなのだ。高町なのは、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライア、クロノ・ハラオウン、八神はやて、ヴォルケンリッター…
この繋がりは捨てがたい。何と言っても管理局の陸海空の看板と本局にて『英雄』とも呼ばれる人物と事件を共有すると言う事は繋がりを持てると言う事なのだ。ヴォルケンリッターのシャマル、ザフィーラは外すとして、各所の情報を得ようとするならば親しくしておいて損は無い。


自分が将来的に陸に行くと言う事は自分の中で決定している。勿論、海や空に行く事も考えたがそれだと在る可能性を確認する事が難しくなってしまう。ソレは個人的には少し不味い。故に陸を選択する。八神はやては陸に行く。この事から其処まで親しくしなくても良いと考える。


空の高町なのはは将来的にはエースだ、情報を得る為には持ってこいの人物だが…エース故に隠される事も多い可能性が在る。故に、今より少し関わりを持つ位の間柄で良いだろうと考える。


海のクロノ・ハラオウン、フェイト・テスタロッサは重要だ。将来は『提督』と『執務官』だクロノさんは艦長でもあり元執務官と言う名も持つ。その繋がり…人脈は欲しい。テスタロッサも現役の執務官だ、海での生の情報は陸のモノと交換出来るし執務官としての腕も一流だった。


其処まで考えると、一つ問題が出てくる。空の情報だ。高町なのはとは違う空の局員と繋がりを持たないといけない。コレは将来的な問題だが…様はそのような人物と仲良く成れるかどうかである。正直に言って自身が無い。こう言っては何だが、人づきあいが下手のは自覚している。


以前はこうでは無かった様な気がするが、考えてみれば交友関係を結んでいたのは主観時間ではかなり昔の事だ。この問題はルーダー・アドベルトやファラリス・アテンザの交友関係を使って何とかするのが現状ではベストだと考える事にする。しかし、この問題は自分でも何とか出来る様に努力しなければならない。


(どうしたモノか…)


そう、明智良哉が考えていると久遠が語りかけてくる。


『良哉…大丈夫?』


念話とは違う念話。魔法では無く超能力といった部類のモノなのかもしれない。


『体に問題は無い。少々右腕頑丈に成り過ぎだとは思ったが…』

『そうじゃない。良哉の体に起こった事…』


明智良哉は、久遠の言葉に少し黙り言う


『髪に至っては問題は無い、確認したが目も問題は無い…肌もな。少々日光に気をつけないといけないようだが…』

『味覚は?』


その言葉に、多少の驚きを覚えたがそれだけだ。どうして解ったとは思わない。『契る』とはそういう事らしい。


『甘味なら、僅かに感じられる』

『……ごめんなさい』


久遠は今にも泣きそうな声でそう伝えるが、明智良哉は何故そんなに気に病むのかが解らなかった。命を救われたのだ。これだけの代償を払っても足りない位だと思うのが、明智良哉の本心だった。


『気にする事は無い。食の楽しみは人生の三分の一を占めるかも知れないが…人生の三分の一を代償にしただけで助かったんだ。そう考えれば安いモノだ』

『でも…』

『久遠、この話はコレで終わりだ。良いな?』

『……うん』


それっきり、会話は無くなるが…久遠は居た堪れない状況を何とかしようとパチャパチャとお湯を掻き良哉に近づく。その姿にルーダーが癒された。良哉は久遠を一撫ですると、体をグッと伸ばし目を瞑る。考える事はまだまだ多い。居合刀の事も考えなければならない。基本は習った。だが、ソレの完成型を目にした事は少ししかない。記憶も記録もしていないのだ。


習得しようとすれば訓練が必要になるし時間も必要になる。生身で使用するためには時間が掛かる。故にインチキをするしかないし、そのインチキをするにしても自分に合った型を見つけ出さなければならない。


(儘ならない)


明智良哉は、取りあえず今夜から訓練を開始しようと思い湯船から上がった。夕食時に周りから髪の事で突っ込まれまくり疲労するのだがその事を彼はまだ知らない。







朝露が庭を濡らし、足首に草が触れると冷たいという感覚が直ぐに体を震わせた。ブルリと震える体を自分で抱きしめる。地面を見ながら歩くと直ぐに彼の居た場所を見つける事が出来た。地面にくっきりと足跡が残っている。其処に自分の足を重ねてみると、僅かに彼の方が大きかった。


彼の後を追う様に足跡に足を重ねて行く。


タン、タンと音を立てて彼の後に続く。踏んだ拍子に草に集まっていた滴が飛び脛に掛かった。進み、進みクルリと回る。穏やかな風を切る様に、彼の道筋を追う。雑草の花が咲いている。ソレをよける様にして足を踏み出す。空は白み始め、まるで薄化粧をしているようで、もう少しで日が出るのを予感させる。


だから、今のうちに月にお願いしてしまおう。


踏み出した足に滴が掛かる。星もその輝きを小さくし月も沈みかけている今のうちにお願いをしてしまおう。どうか、この思いが届きますように。あの綺麗な姿に届きますように。
夜、窓から覗いた彼の姿。髪の色が変わっちゃたのには驚いたけど、その髪の色が夜に映えた。月光を浴びて立つその姿は綺麗だった。振るっていた刀が鳴らす小さな音は、ィイン、ィィンと虫の音を連想させた。


徐々に、徐々に速くなる鞘走り、風を切る音、踏みしめた地面がジャリっと音立てる。縮み上がったのは私の心。とても綺麗で鋭い姿に自分が切られる姿を想像してしまい、胸の中が冷たくなった。そして、その事に血が熱くなり見入ってしまった。彼には黒が似合う、でもそれ以上に濃紺が似合う。


でも、それ以上に血の色が似合うと思う。その姿を思うだけで興奮してしまう。これでは病気だ。でも、悪い気分じゃない。私は魅入った、彼の傷ついた姿に。魅入られたあの獰猛な笑みに、あの冷たい癖に熱い眼差しに。駄目だ、これでは駄目だ。一方的過ぎる。私ばかりが気付いて、自覚して近づきたくなる。


考えればあの言葉は遠回しなお断りだ。それでも良い、今のままで良い。でも駄目だ、近づきたくて堪らない。傍に居たくて堪らない。その姿を見続けたい。彼は私の事など眼中に無いのだろう。一定の価値しか私には無いのだろう。だからどうした。駄目だ、これ以上は幸せすぎる。勿体ないにも程がある。あの鋭い刀の様な彼に近づいてしまう。触れれば傷つくのは目に見えて居るのに…

私には我慢出来そうにない。























だって、彼を思うだけで…

























こんなにも、お腹が熱くなる。














彼が、明智良哉を見つけたのは偶然だった。散歩と言う名の捜索は彼にとって無駄では無かった。人の目に着きづらい場所は知っておいた方が得なのだ。これからの事を思えば余計に…。現在、彼…ザフィーラ達、ヴォルケンリッターの主である八神はやての具合は日に日に悪くなっている。


一度、状態が回復したのは蒐集を行った時だ。それも、湖の騎士であり、ヴォルケンリッターの参謀であるシャマルが独断で行った蒐集でだ。その事に烈火の将・シグナムは苦い顔をしたが、やはり自分達の予想は当たっていた。闇の書の浸食が増している。このままでは自分達の主は死ぬ。自分達の所為で死ぬ。闇の書の所為で死ぬ。故にザフィーラ達は蒐集を始めた。


八神はやてに禁じられていた事を始めた。バレないように、なるべく人は襲わない様に…だがなるべくなのだ。


高ランクの魔導師が居れば蒐集しない手は無い。別に殺す訳ではないのだ。既に数人襲っている。この世界からかなり離れた世界で…管理局にもまだバレてはいない。だからこそ、明智良哉という存在は危険なのだとザフィーラは理解していた。コレはヴォルケンリッター全員の共通認識だ。


戦闘力、機転、観察力、忍耐力、危険だ。あそこまで粘れる戦士は危険だ。少ない確率の勝利を掴む戦士は危険にも程がある。だが、明智良哉のみを確保しても意味は無い。あの少年の傍には管理局員と不思議な生物がいる。確保するにしても、あの少年と共に戦っていた全員を捕える必要性がある。


だが、優先順位で言えば一番がルーダーと呼ばれていた男だ。明智良哉は二番。ファラリスと呼ばれていた女性は三番。恭也と呼ばれていた男は最後だ。あの不思議な生物は良く解らない。完全な不確定要素だ。理解出来ない力は脅威だ。だが、あの雷ならばギリギリで防げる自身がザフィーラには在った。


誰もソレを責める事は出来ない。なぜならば、霊力と魔力その違いを細かい所まで調べたモノはそうは居ない。故に魔法を知るモノはその先入観から間違ってしまう。嘗ては明智良哉も通った路だ。この時はまだ、ザフィーラは明智良哉を捕獲対象として認識していた。
していたが、ソレが自分の予測していたモノよりも危険と判断した場合…結果は目に見えている。


簡単に行ってしまえば、ザフィーラは偶然と幸運により明智良哉の痕跡を発見した。偶々郊外まで足を伸ばした所、最近嗅いだばかりの匂いを発見した。其処に…明智良哉は居た。大きな屋敷の中庭で明智良哉は鍛錬に励んでいた。


それから数時間後、彼等は動く。



おまけ。今日のアースラ




チクっと針が布を貫き糸を通す、それなりに頑丈な布なのだろう。針を通すのにはそれなりに力を込めなければならない。

アルフはそんな主の姿を見ながら、絆創膏を用意し始める。

原因はいつの間にか付いていた主の寝癖だ。

抱きつき癖。

それだけなら問題はなかったのだが…抱きつく物が厄介だ。

明智良哉が使っていた枕なのだ。これは如何ともし難い。抱くなとは言わない。寝てる時に頬摺りしても良い。だが…

これが無いと安心して寝れないと言うのはどうした事だろうか…

アルフは考えながら肩を落とす。

素体が狼なため、アルフの鼻は良い。主が安眠する事は良い事だ。前は寝れない夜もあったのだ。それを考えれば断然良い事なのだろう。

が、自分はそうもいかない。あの匂いは、自分の心をチクチクと付いてくる。主であるフェイトに隠し事があるのが原因だが、内容が内容なので話す訳にもいかない。

フツフツと怒りがこみ上げてくる。

(もう少し子供らしく喚いたらどうなんだい!! あの小僧は!!)

そうしてくれれば、周りも対応できるのだが明智良哉本人が受け入れ納得してしまっている為、対応出来ない。

近しい人間を失っている経験がある人間が近くに居ればいいのだが、クロノ・リンディ共に安易に動いて良い立場ではない。

ここに来て分ったが、派閥争いとは面倒臭く、後も味も悪ければ、スッキリもしない。ドロドロとしたものだ。
うんざりだ。リンディは良くこんな事を出来るなぁと感心してしまう。

「イッ…ぅぅ」

「あぁ、もう。フェイト~今日はこれくらいで終わっとこうよ~。もう、指が絆創膏だらけじゃないのさ!!」

涙目で指を咥えるフェイトは、少しだけショボ~ンとしながら上目遣いで言った。

「後ちょっとだけ…」

アルフは耳と尻尾を垂らした。




リンディが思った事は一つだけだ。

(やだ…何これ…可愛い!!)

もう、駄目である。

ちょっとした息抜きがてらに、今何をしているかなぁ~と艦長権限(職権乱用)でフェイトの寝顔でも覗こうと思ったのが始まりだった。寧ろ此処からリンディが始まったのかもしれない。後にエイミィ・ハラオウンはこう語る

「ん? あ~あの時の事ね。私も結構ノリノリだったし(クロノをからかう的な意味で)ソレに赤ちゃんが出来てからね、こうやって裁縫が出来るのは良い事だなぁって良く思うよ? お義母さんには敵わないけど」

と。だが、今はそんな遥か先の未来の事などどうでもいいのだ。もしかしたらクロノがTSするかもしれないし、良哉がTSするかもしれない。

そんな確率も存在する未来の事など今は考える事は無い。いま、考えなければいけない事はこの胃痛から解放される事だ。

クロノ・ハラオウンは胃薬片手にそう思った。

言わせてもらえば、女性とは可愛いモノが大好きである。それは、例え男性から見てソレはどうよ? と思うモノでさえ「○○カワイイ」と付けてしまうぐらい好きなのである。
其処には個人の趣味も関わってくるので何とも言えないモノがあるが…大抵子供時代は人形等に惹かれる。
そしてリンディ・ハラオウンも○○歳になっても女性なのだ。可愛いモノ・甘いモノは大好物であり、女親としては娘と一緒に服を選び、購入したり。一緒に料理を作ったり。昔の恋話に花を咲かせたり、娘の恋愛事情に首を突っ込んだり…等々。やってみたい事は沢山あるのだ。

そこで、この映像である。リンディからしてみれば、フェイト・テスタロッサという少女は被害者という意味合いが強い少女である。

養子に取るという選択肢も自分の中にあり、天然…と言うよりは純粋な部分の多い少女で可愛く将来が楽しみな女の子である。

魔導師としても優秀、頭も優秀、性格も素直。是非とも娘に欲しい少女である。

そんな少女がヌイグルミ…恐らく抱き枕の様なモノを一生懸命に作っている姿は可愛く、癒しなのだ。それは他の女性職員も同じで、頑張っている可愛い少女の姿はいろんな意味で励みに成るし、応援したい、協力したいという気持ちになる。

何が言いたいのかと言うと、仕事を適当な所で切って大勢で裁縫教室が開かれたのだ…次元航行艦の中で…

クロノは止まらない胃痛と頭痛とタメ息と戦いながら額に青筋を浮かべながら書類を書き続ける。クロノからすればここ最近オーバーワーク気味だった母や職員数名が休むのは良い事だとは思う。思うが…

「適当な所じゃなくて、しっかりと区切りの良い所で終わってくれ…」

彼の苦労は暫く続きそうである。












あとがき

久しぶりにフェイトを書きたかった。ただそれだけなんだ。


何時もの↓


明智良哉

ちょっとアホの子
味覚のほぼ九割が無くなった様子。まぁ、プラスチックを食べてるようなモノだと割り切ってほしい。
次回、個人的にサイコロに期待。

月村すずか

小学生の癖して下腹部キュンキュンしてるらしい。
小学生≠BINの書くすずか
一人の女性=BINの書くすずか。
寧ろsuzukaではないかと思う今日この頃。


フェイト・テスタロッサ

ヌイグルミ制作中。
リンディが講師の編み物教室に参加予定。
寧ろ参加。エイミィと一緒に頑張る。


エイミィ・リミエッタ

現在、クロノをからかうために何か制作中。


クロノ・ハラオウン

胃痛・頭痛に悩みながらストレスを溜める毎日。
そろそろ臨界点に…


ルーダー・アドベルト

奥さんは一つ年下の幼馴染。
人生勝ち組。

エミリア・アドベルト

ルーダーの奥さん
身長154 上から、89・62・83
少し童顔。医者であるが育児の為辞めている。
ときどき現場に顔を出す。外科、整形外科、脳外科。
どれでも行けるが、体力がないので手術は苦手。
プロポーズは彼女から。現在、主婦満喫中。












言い忘れたが、生死サイコロは良哉の分だけではなかたっりするんだぜ? まだ使わないけど。



[5159] A'sに入った!! 一
Name: BIN◆5caaab55 ID:784a3ac9
Date: 2010/03/23 03:22










獣は観察する。ソレは狩りの基本であり、狼を素体としている獣からすれば本能に従った行為だった。

知恵を持った獣は考える。如何にして獲物を捕えるかを…

男は決断する。短絡なのかもしれないが、あまり時間を掛ける訳にもいかない。

結界の展開、構成等は自分のもっとも得意とする分野でもあった。それゆえの帰結だったのかもしれない。




女は既に待ち構えていた。場所の決定、戦場の確保、自分達が有利な地形を選択し万全とは良いがたい「二人で戦う」為の万全を用意した。一部開けた場所は薄っすらと湿っていて、座ってしまえば濡れてしまうだろう。そんな事を思いながら彼女…シャマルは時を待つ。


意外な事に、任意の人物を転送する場所にバインドを設置するのには骨が折れた。普段ならばそんな事は無いのだが、かなりシビアな設定を使ったのが原因だと自覚しているので仕方が無いなとタメ息を吐く。



シャマル、ザフィーラの意思は完全には一致してはいない。



確かに明智良哉の存在は危険だ。近くに管理局員が居る事で、もし自分達の存在が知られれば一気に八神はやてまで捜索されてしまう。そうなれば、言い訳はできない。
なによりも、あの戦闘能力は危ない。補助と後衛をする自分では相対すれば先ず勝てないだろう。

前衛が必ずいる。足さえ止めれば自分には勝機がある。

前衛のみならば、少々危険な位だが楽観は出来ない。明智良哉の速さは脅威だ、シグナム、ヴィータなら何とか防ぐ事は出来るだろうが、自分では無理だ。一対一で勝てると確信出来るのはシグナム。ヴィータも勝てるだろうがかなりの損害が出ると考える。


ザフィーラと自分は論外だ。まず、あの速さについていけない。


戦うならば今回の様に罠を張り、相手の不意を付き短期決戦で一方的に行わなければ勝てる見込みは少ない。

故に、卑怯と言われるかもしれない策を使う。ヴィータもシグナムも今回の様な策はあまり好くでは無い。自分もそうだが…自分は参謀なのだ。仲間の誰もが考えつかない事を予測しておく必要があり、どんな最良の結果が待っていようとも最悪を過程しなければならない。


相手にどんなに信頼と信用を置いても、腹の底では疑わなければならない。必要ならば仲間も捨てなければならないが…ソレに関しては余り心は痛まない。


なぜなら、自分達はプログラムであり本体である『闇の書』が無事ならば幾らでも再生が出来る。

その事から、今回の作戦を考えついた。勿論、最悪の場合は自分のみ逃げ切らなければならない。今の主は綺麗な人だ。容姿の話ではなく、心の話し。優しく思いやりがあり包容力も有る。器も大きく、最高の主と言っても良い。


自分以外の騎士達は言い訳や嘘が下手だ。だからこそ、自分がその役目を担わなくてはならない。

本当ならば、後の二人を呼びたいがソレは出来ない。

もしかしたら



「殺さないと…」



シグナムならば大丈夫だろう。ヴィータは少々危うい。だが、ヴォルケンリッターと主には悪い。

今回の事は自分の独断で行わなければならない。主は絶対に守らなくてはならない。否、護らなくてはならないのだ。

待つ時間の長さに緊張が続き、口が渇く。無意識に唇を甞めると世界が震えた。





明智良哉にとって、この世界移動は完全に不意打ちだった。体は鍛錬のお陰で温まっていたが、如何せん体力を消費しているしこの場での奇襲は想定していなかった。それも当たり前の事だ。

明智良哉は自分の事をヴォルケンリッターが監視していた事を知らない。コレはシャマルの偵察技術の高さにも関係する。


そして完全に不意を打たれた明智良哉の体は膠着する。当たり前だ、心の隙を突かれた持ち直すには数瞬の時間を要する。コレは致命的だ。何よりも歴戦の兵であるヴォルケンリッターがその様な格好のチャンスを逃す筈もない。

なによりも、今まで近くに潜んでいたザフィーラに気付けなかった明智良哉のミスだ。背後から蒼い影が強襲する。直ぐにシュベルトを起動させたが遅い。襲いかかる拳を避けようと体を捻る。これすらも拙かった。

現れる光のリング、ソレは体を捻りかけた明智良哉の体を見事に捕え空間に固定する。明智良哉は咄嗟にカートリッジを排出し、槍の切っ先より魔力刃を射出するがソレは簡単に避けられる。

クロイツが既にバインドの解除を行っているがまだ、最低でも数瞬の時間を要する。その時間は明らかに自分にとっての不利を意味し、危機を表す。


(拙い!!)


空間に固定されている為叩かれても受け身が取れない、衝撃も逃がせない。大ぶり一撃は明らかに意識を奪う為の力が籠っている。此処で捕まるのは失態であり、今後の計画の大きな汚点となる。明智良哉はこの一撃を避ける事は出来ない。完全な絶体絶命だった。

此処で動いたのはラプラスだった。明智良哉は忘れてしまっているが明智良哉の付けている眼帯には防御の為の魔法術式が刻まれている。魔力が有れば自動で展開するソレの制御はラプラスにもできる。


ザフィーラの顎を狙った拳は展開された術式に阻まれる。コレで稼げたのは一秒にも満たない僅かな時間のみ。


だからこそ、思考する時間が出来る。

だからこそ、ザフィーラは警戒する。

だからこそ、シャマルは観察する。


だからこそ、その思考の結果が最良でも良いでもない結果に繋がる。


死闘を多く経験し、知識としても保管している。これは、明智良哉が誇っても良いモノだろう。命の遣り取りの中で『捕獲』という行為を行おうと思えば確実に相手の三段上の実力が必要になる。もしくは相手よりも確実に劣っている必要がある。

前者は余裕、後者は侮りが在るからだ。どれだけ気を引き締めても相手より圧倒的に強ければソレは知らない内に油断を生む。その状況で致命傷に近い傷を負えば自ずとソレに気付く事は出来る。


だが、ほんの僅かな掠り傷程度では自分で気を引き締める位しか出来ない。人…知能を持ち良識を持ち悪い考えもでき理性を持つ生物は完璧では無い。理性と本能が存在すれば僅かな差異と矛盾が生まれる。だからこそ間違え、乗り越え、正し、整え、より良い方向へ向かう事が出来る。

人は人が過小評価、過大評価出来る程の生物では無い。

人は己が思っているより劣っている。人は理想を描き夢を見るがソレを完璧な形で再現出来ない。叶わせる事が出来ない。矛盾を内包している時点でソレは無理なのだ。

ザフィーラ達ヴォルケンリッターも例に漏れず、矛盾を抱えている。ソレは心と呼ばれるモノを持っていれば自ずと自覚する事が出来る。どう思って居ようと現実では叶わない。だからこそベストでは無くベターが在る。妥協という言葉が存在する。

それが出来ないモノは挫折する。折れ、朽ちて逝く。誰も彼もが妥協し、最良を望みながらも次善に手を伸ばす。考える事が出来るからこそ派閥が生まれ闘争が生まれ破滅が訪れ再生される。ソレは絶対なのだ。誰も彼もが間違えながら生きて行く。誰も彼もが後悔して生きて逝く。


存在するのはソレを諦められるか、諦められないか。どちらかだ。そこから更に朽ちるかそれでも次こそはと抗えるか、どちらかだ。導き出された結果がある。

その過程で此処さえ違えばと言う箇所が在る。悲しい事に、この場に居る三人は全員が抗える生き物だった。それだけなのだ。


明智良哉は僅かな思考時間を得た。そして、目の前の存在を正しく認識する。故に予め蓄えて在った知識が答えを導き出す。ヴォルケンリッターは何れ再生されると言う『史実』を。明智良哉の最大の特性は繰り返しに因る未来知識だ。

ソレは繰り返す度に薄れ消えて行く氷の様なものだが、確かな利点でもある。だからこそ、対応策を用意する。もう、ソレを行ったのが何時だったかも忘れている。

だが、知識として蓄える為には必要な行為でもある。単純に書きとめているのだ。何処にでもある様なノートに。

詳しいか詳しくないか、ソレはその時の自分に確認を取る以外方法がない。細かい事などは既に忘れてしまっている。大事な事も同じだ。もう、声すら思い出せない人達が居て思い出が在る。だが、ソレは補完できる。

知識として補完出来る。人物等は正確と気性が解れば合わせる事は出来る。大きな事件はその流れを書き留めておけばいい。『闇の書事件』は関わった事が無い。

故に報告書位しか見た事が無い。それを見た経緯すらも別件を調べて居た時に見たモノだ、当時の自分の興味を引く事でも在ったのだろう。闇の書事件の報告書、その最後の方には確かに記録されている。


八神はやてにより、一度消え去ったヴォルケンリッターが再生されたと。


遅いか早いか、それだけの問題だ。此処で一人失おうとも彼らの行動は変わらない。より慎重になるか、仇討にくるか。恐らく前者に近い後者だ。在る程度まで安全を確保しなければ動く事は無いだろう。

今回でもかなり危ない橋を渡っている筈だ。その程度は解る。当たり前のように思考…気持ちが切り替わる。逃走を考え、殺傷を考える。冷静に確実に殺しに掛かる。

僅かな時間で導き出した結果、明智良哉はバインドから解放されザフィーラの一撃を喰らう。顎に拳を当て力に逆らわずに顎をずらし首を回し体を回し遠心力を味方に付け相手が逃げられない速度で右腕を振るう。

手刀を作った右手、その先には圧縮・収束した魔力が刃を形成する。右腕の長さが一センチ程度伸びた程度の幅だが、ソレは確実にザフィーラの命を奪うには十分だった。


ザフィーラは自身の迂闊を呪う。確実を求めた。ソレは仕方が無い。余り気づ付けては残りの獲物を捕え難くなる。だからこそ一撃で決める。顎が砕ける一歩手前の力加減。故に力がはいる。ソレ位デリケートなのだ。

魔力ダメージで相手を気絶させるには大きな魔力を使う。本来ならばじわじわと弱らせ、確実に倒さなくてはならない。だが、今は贅沢を言って居られない。だからこそ、緊張が生まれる。だからこそ焦りが生まれる。

明智良哉を出来る限り速く捕獲しなければ、捕獲しても意味が無い。他の二人に気付かれてからでは遅いのだ。管理局に知られるにはまだ早すぎるのだ。

何よりも明智良哉とルーダー・アドベルトと言う戦力と、ファラリス・アテンザと言うレア・スキル持ちが的に回るのは厄介なのだ。明智良哉を敵に回すのは危険なのだ。

久遠と言うイレギュラー…未知の生物が敵に回るのは拙いのだ。幾ら自身にどうにか出来ると言う自信が有っても拙いのだ。

明智良哉とシグナム、ヴィータに面識が有るのが原因だ。焦るのは仕方が無いのかもしれない、第三者が彼の心境を知ればそう思うかもしれない。だが、戦いを知るモノは焦ったお前が悪いと思う。焦りが力みを生み、力みが隙を作りだした。


その隙が自身の危機に繋がり相手の好機に成るのは直ぐに考え付く事だった。


(なんと…)


ザフィーラは思う。


(…未熟)


己の迂闊と失態。相手の技術と切り替えの速さ。


(すまぬ)


確信する。既にこの少年は人殺しを経験していると理解し、ソレが必要だったと割り切っている事を。

骨を切られ、肉を裂かれ、血管を断たれる。その後、目と目が合う。僅かな…本当に僅かな時間、目が合う。その瞳が、表情が物語っている。

無機質な視線、変わらない表情。


(侮った…ソレが敗因かだが…)


(我等の勝ち…だ)


明智良哉の胸元から生える、仲間の手。その手が明智良哉のリンカーコアを握り締めるのを見て、ザフィーラは逝く。


シャマルは明智良哉が此処まで出来る事に恐怖を感じた。そして、明智良哉と言う少年は間違いなく障害になると判断した。リンカーコアを握り締め蒐集を開始する。

明智良哉の呻き声が聞こえ、倒れる音が聞こえた。

サーチャーでその姿を確認し、数分待ってから現場に向かう。完全に気を失っている様だ。無抵抗な少年に対して、腕一本…と黒い感情が湧き出してくる。前は無かった事だ。この感情を胸の奥に押し込むと、この感情さえ、今の主の恩恵なのだと理解し愛しく思う。

仲間の体は既に消えてしまっていた。その事を悲しく思う。コレで自分達の愛する主の心に傷を作ってしまう。だが、書が完成すれば元に戻す事が出来る。ソレが悲しくも心強い。

常に一歩引いた位置取りを心がけて居たのが良かったのだろう。急に沸いた寒気に体が一歩無意識に下がり、右腕が撥ね飛んだ。その事に気づくのに数瞬。

事態の理解に全てを合わせて一秒。咄嗟に発動させた旅の扉に左腕を差し込み、初動を防ぐ。

明智良哉は気を失って等居なかった。稀に居る蒐集後も意識を保っていられる人間だった。己の失態だった。迂闊にも程が有った。仲間が討たれた事に動揺が有った。ソレが原因だった。

初動を止める。槍が薙がれる前に腕を抑え込み、体を動かす。同時に左腕に痛みを感じる。


(折られた!!)


腕に力が入らない。拳は作れど腕は上がらず。更に引っ張られ体が前に流れる。体勢を崩され、嫌でも相手に目が行く。眼前に迫る肘、眉間に当たるのを防ぐため額で受け止める、脆い障壁を張るのも忘れない。

少しでもダメージを減らさなければならない。ガチっと音がし、頭が後ろに跳ぶ。体ごと吹き飛び距離が開く、涙が流れるが目を閉じる事は無い。閉じれる訳が無い。眼前には既に敵が迫っていた。


(は…やい!!)


バインドの設置が間に合わない。槍は既に体に触れる直前。否、切っ先は既に腹に刺さり始めて居た。


(はやてちゃん…ごめんなさい)


鋼が体を貫く嫌な感覚。突撃槍というのが厄介だ。傷口を広げて行く幅広いソレは確実に死を与えてくれる。だが即死では無い。


(ごめんなさい…シグナム…ヴィータ…ちゃん)




BJを着て居て良かったと、明智良哉は場違いな事を考えながら戦闘状態を説いた。勿論、シャマルの死体からは距離を置き消えるのを眺めながらだ。血の匂いは取れ難い。自分が今厄介に成っている場所で、こうも新鮮な血の匂いをさせて居ては要らぬ誤解を与えてしまう。

そう考えて、今のBJよりも高速戦闘用の方が良かったかと思いなおし頭を掻いた。コレで先が解らなくなった。うまくいけば直ぐにでもヴォルケンリッター達は捕えられ八神はやてを確保出来るかも知れない。

ソレに越した事は無い。闇の書の暴走は起きないかもしれない。ソレは良い事だ。

闇の書を確保出来れば遅かれ速かれ解析がされる。そうすれば、ベルカ…聖王教会が手を出してくるだろう。

此方の側から向こうに恩を売れる。貸しを作れる。パイプが出来る筈だ。ソレが険悪なモノか良いモノか、少しでも良識があれば後者の関係を目指すだろう。貸しは保険だ。


そこまで考え、帰る準備を始める。帰ったら言い訳を幾らか用意しておかないといけない。ソレを考えるのは非常に面倒臭い。そう考えていると、一つ。不自然な事に気づく。自身がシャマルに負わせた傷は致命傷だが、即死の傷では無い。

痛みで気絶したのか、ショックで心臓が止まったのか? それでも、あの反応は不自然だと今更ながらに気付きシュベルトを構え腰を低く落とす。

だが、その行動は既に無意味なモノだったと明智良哉は理解する。

再び現れる光のリング。不自然なシャマルの体…左手が折れて居るのは知っている。自分が折ったのだ、知らない筈が無い。その左腕は何処だ? 

シャマルは木に寄りかかる様にして座り込んでいる。体も若干傾いているし、顔も伏せられている。体の影で良く見えなかった。注意力不足だった。


その事を今嘆いても既に遅い、その左腕は背後に有ったのだ。


「しまっ!!」


声を上げてももう遅い。

体は空間に固定され動けない。首に回ったバインドが変化するのが解る。コレはチェーンバインドだ。ソレはグイグイと力強く明智良哉の気管を圧迫し血管を圧迫し、頸椎を軋ませる。

即死でも無いのに安心してしまった自分に反吐が出そうになりながらも、バインドの解除に全力を注ぐ。蒐集されたばかりのリンカーコアは悲鳴を上げ痛みを訴える。それ以上に脳に血が回らずに視界が霞始める。


(くっ…そぉぉ)


シャマルが頬笑みながら顔を上げた。その顔色は青を通り越していた、白く美しい頬笑みを携えて、彼女は最後の力を振り絞る。


「貴方の…勝ちで…終わらせない…わ」


背中の肉が抉られるのが解った。残っていた全魔力を使った過剰な強化、ソレがシャマルの必殺の一撃だった。僅かな魔力しか残っていない明智良哉にソレを防ぐための力は無い。BJは当たり前のように破かれ、肉を抉られ、その中のモノを握り締められた。


左の胸に近い所から、ブジュっと何かが潰れる音が聞こえた。


「私と…貴方の…相討ち…引き分けよ」


ニィと口の端を釣り上げ、シャマルは逝く。


心臓を潰されたにも関わらず、明智良哉は無表情にその結果を受け入れ倒れ逝く。





明智良哉が目を覚ますと、其処には見知った天井が広がっていた。髪はまだ黒く、体には酷い筋肉痛がある。目の前には綺堂さくらが目を見開いていた。


(前回はこんな事は無かったぞ…)


そう思った明智良哉に久遠が「クゥ」と心配そうに鳴いた。




綺堂さくらは驚愕に身を固めた。起きる筈が無いのだ。起きれる筈が無いのだ。ソレが解っているから確認を行う為に来たのだ。なんだ、この出鱈目な生物は当たり前のように目を覚ましたではないか。

理解できない。自分の知る常識が当てはまらない。明智良哉の血筋に『特殊な血』は居ない。調べる限りではその存在は認められない。ならば、それ以前に居たのだろうという考えは浮かばない。

簡単な話だ、そんなにも昔に一度有るか無いかの可能性が有ったとしてもこうは成らない。先祖返り等と言う生易しいモノでは無い。コレは新たなる異端だ。それ以外に有ってはならない。

己よりも上位の存在、精神・肉体面でもその存在の密度で遥かに上回る久遠という妖孤に対して明智良哉と言う人間は弱すぎる。何れは食われるか自己崩壊する事しか出来ない筈の存在が当たり前のように存在する。

何処の喜劇だ? 自分達の一族の血が混ざった程度でその差は埋められる訳がないのだ。ソレで埋められるような差ならば遠の昔にこの小さい島国は自分達が治めている。誰にも気取られないように…


目の前で向くりと起きた少年に異常を感じられないこの現状が『異常』なのだ。


(氷村遊と同等? はっ、コレがその程度の存在ならどれだけ幸運なのよ私は!!)


危険だ。危険すぎる。この存在はこの生物は危険だ。人間だが何かが決定的に違う。

明智良哉はゆっくりと私を見た。目と目が有った。その瞬間、私は深海に引きづり込まれた様な感覚に襲われ動けなくなった。


明智良哉は自身が目覚めたタイミングに驚いたモノの、直ぐに何時もの思考を取り戻した。幸いな事に久遠が自分の近くに居るという事実が安心を与えて居た。此処に久遠が居る事で、明智良哉は自分の知りたい情報を直ぐに得られた。

今が、氷村との戦いから何日経った日かが直ぐに解った。そして、何故自分が前は起きて居なかったこのタイミングで起きられたのが直ぐに解った。心臓に有る鈍い痛みがソレを教えてくれた。

ただ単純に余りの痛みに脳が覚醒したのだ。

その事になぜだか笑いが込み上げてくる。殺されて起きる。まるで夢を見て居る様でとても滑稽だった。だが、その事が今の明智良哉には可笑しくて堪らなかった。襲撃のタイミングが解り、其処に何が有るのかを知り、其処で誰が待ち受けているのかが解った。

そして、先程までの自分は咄嗟の判断で引き分けに持ち込めた。否、持ち込まれたが正しい。が、それが愉快で堪らなかった。獲物が向こうからやって来たのだ。さて、どうしようかと考え思考の海に埋没しようとすると、大きな敵意が自分に向かって放たれた。

その放出元を見ると、二度ほど顔を合わせた顔が有った。何かを警戒し決心している瞳だったが、それはとてもとても微笑ましく見えた。だからこそ、この相手に対して何も思えないし思う事も無い。唯その姿を見つめ返した。


腹を満たした肉食獣はそれ以上、獲物を得ようとは思わない。

象は一匹の蟻に気付かない。

一滴の雨粒は大海に影響を与えられない。

一粒の砂は、砂漠に何の影響も与えない。


久遠と言う霊的上位存在との契りとは呪いであり祝福と同義なのだ。明智良哉に霊的な位置に置いて絶大な守護者が憑いたのだ。例え、明智良哉がその力の万分の一も使えず。死ぬかもしれない危険性を今まで以上に抱え込んだのだとしても、この存在の力強い。

蛇に睨まれた蛙。その表現を自分自身が体現するとは今まで思った事も無かった。

綺堂さくらは脂汗を掻きながら口を開いた。ソレは命を賭しての絶対の防衛線。これを踏み越えるのならば死が待っていようと踏み込む。その覚悟の言葉。


「貴方は『私達』にとっての『何』?」


明智良哉は頬笑みながら、過去に言った言葉をそのまま伝えた。


良き隣人・友人…と


その言葉は綺堂さくらに絶対の警戒と安堵を与えると同時に希望を抱かせた。


(防壁は堅い…私と忍は無理。すずかに託すしかなさそうね…)

「OK、解ったわ。私達にお互いを気づ付ける理由はまだ無い。そう言う事ね」

「えぇ、俺達はまだ互いを理解できないししていない。」


さくらは踵を返し部屋を出る。その短い間に一言だけ残す。


「忠告、『私達を甞めない事ね』本気に成った女は怖いわよ」


バタンと戸が閉まると明智良哉はタメ息を吐く様に呟いた。


「身を持って経験していますよ」





次の日、ファラリスに居合刀の事を頼みそのまま風呂に入った明智良哉が入浴後の脱衣所ですずかとバッチリ対面したのは、さくらと忍の陰謀だったりする。










あとがき。

うん。しょっぱなで一死。サイコロの調子が良くてテンションが上がってきているBINです。実を言うと私、やってみたい事が有るのでちょっとやってみようと思います。
ぶっちゃけパクリです。
人様の良い所は取り入れた方が良いと思うんだ!!(言い訳)


彼の軌跡


アギ・スプリングフィールドとチャチャゼロが新世界に繰り出した瞬間に出迎えてくれたのは火球だった。

当然の如く驚きチャチャゼロを盾にしようとし投げ飛ばされるが、火球は突然現れた二名に驚いたハンターの一人に当たり当たらずにすんだ。

その事に安堵しながらも「アレ? 俺の所為でリアルに一人逝ったんじゃね?」と考え、魔力の塊を作りだして破裂させて目くらまし。


リオレイアピヨる。

ハンターもピヨる。

アギチャは逃げる。


洞窟に入り、外から聞こえる咆哮に「パネェ、飛龍パネェ」と半泣きのアギと「火球ヤベェ、マジ火球ヤベェ」と頭の悪い事を言うチャチャゼロ。

ホトボリ冷めるまで洞窟で待機する二人。「速くハンター殺られないかなぁ」と中々に酷い事考えるが、ブンブン煩いランゴスタに切れる。麻痺毒たっぷりの針を十本回収。

外からは絶え間なく「ギシャァァァァァ!!」と咆哮が聞こえる、時々「チクショー!!」とか「何でこんな時に限って…ランポスがっ?!」とか聞こえるも聞こえないふりの二人は順調にランゴスタの素材を集め始める。

いい加減、咆哮も聞こえなく成って来たので入り口付近まで近づくと何だか重たいモノが入口より急接近。ソレに衝突し洞窟の奥まで転がるアギチャ。飛んできたモノは尻尾で美味しそうな赤身が切断面から見える。其処でバカ(アギ)が一言言う。


「コレ、食えるんじゃね?」

「マ・ジ・デ!!」


さっそく調理に取りかかる。その時になって周囲のマナが前よりも豊富だったり、外氣が凄く豊富だったりする事に気づくも調理に集中。尻尾をチャチャゼロが横に真っ二つにし、アギがその半分の方から氣で強化した指を器用に使い肉を綺麗にこそぎ取り、火を起こしてフライパン代わりにする。

調理中に「レイアもレウスも尻尾に毒が…」と気づき、取りあえずチャチャゼロ生贄に安全性を試すも「ウマーー!!」と歓喜するだけのチャチャゼロに「そう言えば、コイツ人形だった。」と気づき、自分達の居る場所からかなり下にランポスが居る事を思い出し肉を投げてみる。三十秒後、毒死したランポスが五体。チャチャゼロ切れる。


喧嘩勃発。


取りあえず、自分が人形で毒が効かない事を心得ていたので冗談で切れてみたチャチャゼロ。でも、アギはそんなこと知らないので、焦って近くに有ったモノを投げる。何だか丸っこいモノだった。序に掴んだ瞬間ニチャァとした感触が有った。

チャチャゼロ、半分冗談で気を抜きまくっていたので避けれず呑み込む。なんとなく焦る。

別に何とも無いので「冗談ダゼ?」と誤解を解くが五秒後倒れる。アギ、マジで焦る。なぜ焦ったかと言うとチャチャゼロがTyatyazeroになったからだ。意味が解らない。

簡単な話し、アギが投げたのが雌火龍の宝玉で呑み込んだチャチャゼロの核と成っているモノと変な反応を起こし人化した。序に龍の因子も持ってたりする。何よりも問題なのがボン、キュッ、ボンの美人だった。


その姿にムラムラしない息子に気づき「俺はEDじゃないんだ!!」と密林の中心で漢が叫んだ。


真っ裸は困る(社会的に)ので洞窟から出て、レイアが居ないのを確認してから亡くなっている女ハンターから装備とインナーをパチって火葬(証拠隠滅)をして洞窟に戻る。途中爆発音とエセ中国人みたいな悲鳴が聞こえたが無視して進む。


その時の会話を抜粋


「現地で剥ぎ取って来た」

「誰が上手い事言えとwww」


チャチャゼロの言語機能がUpした。



次から続けて良いかな?


因みにアギチャ編とマブラブ(ぶち壊し)Fate(これもぶっ壊し)とかも有る。ドレか一つだ。話しにするには時間が無い。私の精一杯だ。足りない所は自己の脳内補完で許して






何時もの↓

明智良哉。

さっそく一死。シャマルと引き分け。
さくらと忍に嵌められる。
すずかに全裸を真正面から見られる。逆に見る。
その時に言った言葉。

「…出ろ(表へ)」


ザフィーラ

さっそく一死。油断大敵。情報不足。
やっぱりコイツも漢臭がする。どうなるか?


シャマル

シャマルゥでもシャア丸でもシャ○でもない。
必殺料理人でも無い。
最後にやってくれる人。



こんなとこかな?

さて、修正するか。後、この間、我慢できずに上司を殴ってしまった。社会人的にマズイ。
そいつは昨日地方に飛ばされたけどな!! 何故だか人事の人に酒を奢られた…俺はどうなるのだろうか?



[5159] ループのA'sの一
Name: BIN◆5caaab55 ID:784a3ac9
Date: 2010/04/20 23:55

注意!!

オリジナル設定がありまする…良いですね? ありまする。

付き合えないと感じる方はブラウザの戻るをクリックしてください。

それ以降は自己責任という事で・・・・






OK?







それではどうぞ↓



























さてと、と月村忍は自身の研究室と言っている地下のとある一室で試験管を手に取った。毒では無い。ただ、栄養素が高すぎるだけの代物なのだ。味もほぼ無く、作るのも機材と材料が有れば簡単に作れる。

材料費も安いとは言えないが高くも無い。だが、これだけでは物足りない。あの少年には何とか一泡吹かせたい。気に入らないという訳では無い。
ただ、自分よりも大人びていると過去の自分と似ているくせに、過去の自分よりも大人びているあの少年の態度がなんとなく癪なだけだ。

勿論、この試験管の中身は月村忍が作らなくてはならない義務なのだ。昨日、突然目を覚ました少年の異常の無い状態が異常なのだと綺堂さくらが自分に語った。
ソレには同意する。もしかしたら『一族』の血と相性が良かったのかもしれない。そんな考えも有ったが、起きたのならば検査をしなければならない。

それで、判明したのが…栄養の問題だ。簡単な話、彼の体は物凄く燃費が悪いモノに成っていた。エネルギー消費量が人の倍以上なのだ。
これまで通りに恭也と訓練をしていたら体に蓄えているエネルギーを全部使ったとしても、三日で栄養失調を起こして倒れて居ただろう。体が勝手にエネルギー消費量を少なくしようとしたかもしれないが…

彼自身が行う訓練ならば、速くて一週間、持って十日と言った所だ。勿論、普通に三食食べ一人で行う些細な筋トレだけならばの話しだが…それでも、これに気づけたのが速くて良かった。もしかしたら、手遅れに成っていたのかも知れない。

明智良哉は確かに人間なのだろう。間違いなく純粋な人間なのだろう。だからこそ、此処まで影響が出てしまう。いや…過剰な拒否反応が出ているのだろう。もしかしたら、この過剰な拒否反応が彼の内面を表しているのかもしれない。

だが、過剰な程に拒否をしているくせにソレを受け止めて居られるのはなぜなのだろうか? 久遠の影響はどちらかと言えば拒否反応が出ていると言って良い。明智良哉と久遠が『契った』箇所は確実に明智良哉本来の細胞を別のモノ変えて行こうとしている。

肉体と言う物理面からではなく、もっと複雑かつ単純な場所からじわじわと毒の様に変えて行こうとしている。だが、未だに彼の体は『契った右腕』以外は人間のモノだ。久遠がその影響を抑えているのかと考えもしたが、ソレは抑えられるモノでは無いと綺堂さくらや久遠自身が言う。

ならば、どういう事だ? 

答えは余り認めたく無いモノだ。明智良哉という存在・魂・精神が久遠という妖孤と拮抗している。又は若干上回っている。そうとしか考えられない。そう考えると次から次にと考えが浮かんでくる。

明智良哉の『夜の一族』の『血』に対する拒絶反応は、その血を排除、またはそんなモノを必要としない体に成る為の抵抗なのでは無いのだろうか?
ウィルスに対する免疫を作っているという事ではないだろうか?
否、ソレは有り得る事なのだろうか?

明智良哉の霊力は一般人と何ら変わりはない。それは断言できる。その道の専門家とも言って良い存在がそう断言するのだ。秘められた力という線も無い。

月村忍は浮かんだ考えに首を振りながら自嘲するように言う


「進化?…ふざけるんじゃないわよ」


幾百、幾千、幾万の時間を掛けて行う命の神秘を、命に備わる世代を超える肉体改造を一世代にも満たない時間で行おうとしていると、認める訳にはいかない。それが…その考え自体がドレだけ出鱈目でぶっ飛んでいるか、月村忍は理解しながら吐き捨てる。


「専門の分野じゃないけどねぇ…こんな事を認めて堪るモノですか。徹底的に解析してあげるわ。覚悟しなさい、明智良哉」


その為にも、今は排除はしないで上げる。



「あ~…でも、血液検査をもう一回しないといけないわねぇ。この時間なら…ん~、今からやっちゃいましょう」







所変わり、月村すずかはベットの上で顔を赤らめて居た。今日一日、何かしら暇な時間が出来ると昨晩の光景を思い出してしまう。

血色が良く成り少し赤らんだ肌

色が抜けた髪から垂れた滴

引き締まった肉体

それと…

カァァっと顔が熱くなり、思いだした事を仕舞う為に頭をブンブンと振る。

(あぅ~…怒らせちゃったかなぁ)

どうしようもなく、彼を明智良哉を意識してしまう。これはアレだろうか? もう自分でも解らないくらいに意識しているという事なのだろうかとすずかは考え…考え…明智良哉の裸を思い出して顔を赤らめる。


「私…今、物凄くはしたない子だよぉ」


第三者から言わせて貰えば仕方が無いとしか言いようがない。好意を持っている相手の全裸を事故とはいえ見てしまったとなれば、大人、子供関係無く意識してしまう。
其処で明確に区切りを付けられるかどうかがその違いなのだろうが…ソレを出来る人間は意外と少ない。

夜に思いだし自身を慰める者も居れば、そんな事が有った程度で済ませれる者も居る。仕事中に思いだしミスをしてしまう者だって居るし、暫くは顔を合わせ辛いと思うのが普通の反応だろう。
だが、恋を自覚している乙女はちょっと違うのかもしれない。否、自覚しているからこそ深みに嵌ってしまうのかもしれない。吊り橋効果と似たようなものだと斜に構えている人間は思うかもしれないが、そうではない人間は違う。

だが、月村すずかは重大な事に気が付いていない。

その現場が脱衣所であり、自分が風呂に入る直前であったという事。

風呂には誰も入っていないと思うのが普通で、自分も完全に無防備だったという事。











つまりは、自分も全裸だったという事にすずかはまだ気がついていなかったりする。









自分の妹がそんな悶々とした状態にあるとは一切しらない忍は、自室の部屋の前で聞き耳を立てて居た。忍が此処に居るのは部屋に帰る為なのだが、その前に明智良哉が部屋に居なかったからと言葉が付く。
やる気を出していたのに肩透かしを食らった忍は恋人である高町恭也に甘えようと思っていた。

思っていたのだが…自室から真剣な恋人の声が聞こえるではないか。中に入って邪魔するのも何だかなぁと思い、聞き耳を立てているのが今の状況で有る。
本当ならば、ファラリスが持ち込んだ機材を一から調べると言う考え(暇つぶしとも言う)も浮かんだのだが話し相手が明智良哉だと解り興味が沸く。ファラリスとの関係は良好だ、お互いが研究者というのも関係してか話が合う。実際に話していて十年来の友人と話している様な感じがする。その変わり、ルーダーと明智良哉との関係は何とも言えないモノだ。

ルーダーとは彼の立場と義務も関係しているのだろうがどうしてもソッチの話に成ってしまうし、彼自身が話す事を避けている感じだ。まぁ、お互いに余り干渉せずに今の状態を保って居たいと言うところだろう。そうさせるのは自身達の存在の特質さと自分が異性だという事も関係しているようだ。


「なら……やは…じゃ……と……」

「そう……れ……外だと……柔軟……そ……以上に……というのも……なによりも……るには……ねを使用しないと…」


(良く聞こえないわね)

こんな事なら、防音を余り考えなかった方が良かったかも…と思い。その考えを否定する。


「……何処に…ば…入るで…か」

「知……いに…見よう……する…ない…俺が………これぐらいだ」


(っ~もう!! 肝心な所が聞き取れないじゃない!!)


「盗み聞きは駄目よ? 忍」

「っ!! 」


キュッと耳を抓まれ引きずられる月村忍は、何とか声を出すのを我慢して恨みがましい視線でファラリス・アテンザを見る。ソレをスルーしながらその手に持っていた書類をペチっと忍の額に当てた。忍はその書類に目を通しながら一言言う。


「手が早いわね」

「当然、あの子の為ですもの」


その返事にタメ息を吐くと気を取り直して言いなおす。


「ねぇ…本当に良かったの?」

「何が?」

「技術提供の事」


そう、ファラリス・アテンザは個人の独断で自分の知る技術を月村忍に教えていたのだ。それはなぜか? ファラリスしか解らない。忍も有る程度は予測出来るが、ソレも確かなモノではないし其処までする必要が有るのかも判断できない。勿論、見返りは渡している。金銭、機材、その他色々…。在る意味で、ファラリス・アテンザ一人がこの地球という世界で独立して暮らせる下地を作りだしていた。


「あら? 私、そんな事はしていないわよ? ただ、『お友達と互いの文化の違いについて話し合った』だけですもの。」


女狐…と、思ったが、ソレは自分にも当てはまる所が多々あったので直ぐに撤回する。


「んふふ…人心把握は有る程度は出来るつもり、その人物の性質もそれなりに理解しているつもり、飼っている犬は少ないけど、貸しは多く作ってるの。それにね、」

「それに?」

「一度でも良いから挫折を味わってみると、何事にも全力で当たれるモノなのよ? それが必要だって身を持って知れるからね」


ソレは、途轍もない重さを持って月村忍の頭に残った。






明智良哉は考え直す。何をと問われれば、居合と答えるしかない。簡単に言えば、実物の居合刀ならば真似事は可能だが本物には程遠いと言う事実を確認する為の行為だった。
当たり前だ、幾ら自身の体に合った『型』を見つけ出し知る事が出来たとしても本物に辿り着くまでには長い研鑽が必要となる。

天才の中の天才ならばそんな事は無いのかも知れない。だが、その可能性は零に近い。近過ぎて考えるのも馬鹿らしく成る様な可能性だ。
当たり前だが明智良哉自身がその可能性を持っている訳ではない。だが、真似事は出来る。それは、自分の体を自分が思う通りに動かす事が出来ればの話だ。

ソレにも時間が掛かる。何千、何万、何億と刀を振るい歪みを修正して正しい軌跡を描き続けなければならない。当たり前だが、居合は二の太刀要らず。二度目は無いのだ。
反則を使えば二度目も三度目も存在する。その方法は知っている。知っているがソレを行えるか? と問われれば今は無理だとしか答え様がない。

そもそも、技術が無い。それ以前に、デバイスでは本当に居合を行う為の形態を取る事が不可能だ。今の所、明智良哉が知る限りでは玉鋼以上に刀を作るのに適している鉱物を知らない。
更に言えば、玉鋼が有れば良いと言う訳でもない。それこそ、本当の名刀を知らなければとんでも無い駄作が作られてしまう。

デバイスには、斬る事を求められていない。その本当の役割は杖で在るからだ。

デバイスには、敵を殺す事を求められていない。その本当の役割は魔導士の補助だからだ。

デバイスに求めてはいけない。その形状を正確に果たす機能…役割を持つソレは既にデバイスでは無く凶器なのだ。

デバイスに求めるのは演算能力、処理速度、身を守るための強度。使用者の力に成る機能。相棒としての人格、能力。

殺すのではなく、その結果が何かを殺すと言うモノでもデバイスがするのはその手伝い、導きなのだ。


故に、その能力を付加させてしまえばソレはデバイスでは無く凶器。だが、その凶器は時に心強く、時に必要となり、また邪魔に成る。今は、ソレを望む時。魔力を纏わせれば非殺傷が出来る等とは言わない。言ってはいけない。



デバイスはドレだけ信頼関係を作ろうとも、情を注ごうとも道具なのだ。



ドレだけ人間味に溢れ様とも、その身を砕いてまで主に尽くしたとしてもソレは当たり前の事であり道具ならば当然の事なのだ。この思いはドレだけ取り繕っても変わらない。ソレは恐らく…


「お前も理解しているのだろ?」

『何をですか? 主?』


パチリ、パチリと音を出す右手の中の剣十字が月光を浴びて鈍く光りながら言葉を発する。


「俺と…お前達の根本的な関係だよ」

『我等は主が従僕。唯の剣で在り槍で在り砲で在り盾です。我等は唯、唯一主である貴方様の為に斬り裂き、貫き、打ち砕き、阻みます。我等は主の道具です。』


あぁ、やっぱりお前達は俺には勿体ない位に強い。伽藍の左目が少し寂しく感じた。


『…ラプラスはどうなっているのでしょうか?』

「ファラリスさん次第だな…日が昇る頃に何をやっていたのかと思えば、家に在った物をコッチに運んで来ただけらしいしな。」

『しかし…それでは次元管理法に背くのでは?』

「さて…どうかな? 管理局の法には抜け道が多い、自分達の為にもな。何かしらの考えがあの人にも有るんだろう。」


それが俺の頼み事の為なのだから文句は言えない。

そう思うと、苦笑が出た。夜も遅い時間、もう寝ようと布団を掴むとパチリという音が連続して起こる。これも何とかしないとなぁと思うが、久遠は居ない。正確には家に戻っている。
横に成ると今日、恭也さんと話した事はどうなるだろうかという考えが頭を過った。知り合いに頼むと言っていたが出来ればその先を知りたい。だが、その為に必要なラプラスはメンテナンス中でいつ帰ってくるかも解らない。

と、言うよりは前よりも凄く成っていそうで少し怖い様なそうでない様なドキドキがある。これは、アレだ次の日が遠足と知っているのに中々寝付けない様なそんな感覚だ。



なぜだか無性にアイスが食べたくなった。勿論バニラを





そう考え始めたら止まらなくなる。アイスの一つ二つは此処にも在るだろうが、ソレを求めるのも何だか癪だ。求める位なら、他の事をして居れば良い。
幸いな事に、三時間も寝れば体は動くし頭も働く。夜はもう遅い時間だが、まだまだ長い。学校も塾も習い事も無い身としては昼に寝ても構わない。

窓から外を除けば静かで広い星空と、山の形をした暗い影が見える。今日は月明かりも強い様に感じる。

服を着替え、何時もの位置にデバイスを取り付ける。右腕から物に接触する度にバチバチと音が鳴る。


『主? 』

「散歩だ、敷地内ならうろついても文句は言われない。穏行の訓練と思えばそれもまた楽しいだろう」

『御意に…微弱な魔力反応が近づいていますが?』

「…結界は?」

『張っている様です。』

「数は?」

『一つ』

「俺の将来を優位に働かせるには?」

『捕縛もまた一興かと…しかし』

「強襲には気をつけないとな。剣の騎士は強い。」

『見過ごしますか?』

「…おい」

『冗談です』

「精神的に責めるのも戦い方の一つだ。だろ?」

『…御意。…やはり貴方は最低の部類の人間ですね』

「嫌なら、一人で良いが?」

『それこそ御冗談を。だからこそ、貴方は我等の主なのです。前主クラウンと同じく』

「それこそ、冗談だよ。俺はあんな伝説の化け物じゃない」

『中身が近ければ同じですよ…では行きましょう。マーキングはしていますので何処へでも逃げましょう。遣り逃げが基本です。』


こいつは人の事がいえないくらい、性格が悪いとはじめて思った。








夜も遅い時間、八神家のリビングには明かりが付いていた。ソファーに座りコーヒーを啜りながらシグナムは思う。時間が無いと。
コレはヴォルケンリッター全員の総意だ。時間が無い、足りない。自分達の主である八神はやての意思に反して行っている蒐集だが、効率が悪すぎる。自分達全員が行動すればそうでもないのかもしれない。

だが、自分達全員が動けば目立つ上に主に気づかれる。

何よりも自分が余り動けて居ないとシグナムは考えている。周りから見ればソレは間違いなのだが、本人からしてみれば違う。剣筋、体捌きに違和感が在るのだ。体が思った様に動かない。
さらに、ここ最近は夢見が悪く寝不足気味だ。その夢にも違和感が有る。最初は自分の過去の事を思い出しているのだと考えたが、どうにも違う。

今とは違う主が居る。これは解る。

だが、周りに居る仲間が違う。コレはおかしい。

闇の書には自分達以外の守護騎士は登録されていない。コレは事実であり間違えようの無い事だ。そして、何よりもおかしいのが夢の中の自分の姿だ。今の主より授かった騎士甲冑では無い、元から身につけていた物とも違う。
それよりも豪華で煌びやかな物を纏っているのだ。そして、その姿は老いていた。自分の後ろには着き従う大勢の騎士が整列している。

そして、その自分が膝を折る相手に記憶が無い。透ける様な美しい銀髪に左右の色が違う瞳。

誰だ? この女性は…


「シグナム?」

「っ! すまんシャマル。少し考え事をしていた。」


(今はやめておこう。そんな事よりも…)


「明智の事だったな…それで? 消息は掴めたのか?」


シャマルは首を振りながら言う


「いいえ、影も形も…ザフィーラが匂いを追おうとしたみたいだけど他県へ続いていたらしいわ。荷物を輸送した痕跡があった事には気づけたけど追跡は不可能…明智良哉以外の人間も見つけられなかった。完全にお手上げね。ヴィータちゃんが時々大きい魔力反応を感じるって言ってたけど、それは違うでしょうし…」

「すまんなシグナム。俺がもっと早く気づいていれば…」


そう言い頭をさげるザフィーラ。


「構わん。此方の事は気づかれてはいないだろうしな、本当に他県…遠い所に行ってくれてたのなら幸いだ。少しは警戒レベルを落としても大丈夫だろう。それで…ヴィータは?」

「はやてちゃんと一緒に寝てるわ。ここ最近、貴女やヴィータちゃんは出てたでしょ? はやてちゃんもだけど、きっとヴィータちゃんも寂しかったのよ」

「寂しい…か…」

「ええ、きっと…ね」


プログラムが寂しいか…いや、ヴィータなら仕方が無い。あの頃のヴィータも寂し…


「!?」

「ど、どうしたのシグナム? 急に固まって?」

「い、いや…少しな。」


どうしてだ…なぜ私は…


「…警戒するに越した事はないけど、余り拘り過ぎるのは良くないと思うわ。私やザフィーラでは対一ではキツイ…いえ、負けると思うけど。貴女とヴィータちゃんならそうでも無い訳だし。それに、その可能性を考えて二人一組で動いてるじゃない。」

「そうだな…だが、どうしても警戒してしまう。何かが…そう、私の中の深い所に在る何かが警戒しろと叫んでいるんだ。」


そうだ。あの戦闘を見た時から疼くモノがある。戦闘を見た高揚ではない。確かにソレは在ったが醒めてしまえば異和感に気づく。あの少年には何かが有る。
何かが…私には解らない何かが在るのだ。剣を交えれば解るかも知れない、ソレを知る切欠が手に入るかも知れない。

何よりも、この夢と訳の解らない記憶の正体が、原因が解るかも知れないのだ。




「はぁ、貴女も心配性ね。変わったわよ?」

「それはお前もだろうシャマル。」

「そうね、でもソレを言うなら私達全員よ。貴女はそんなに心配性…と言うか胸の内を言う様な人じゃなかったし、ヴィータちゃんはあんなに可愛い子じゃ無かったわ。私も家事とかには一切の興味も無かったし人と話すのも情報収集ぐらいだったし、ザフィーラに至ってはもっと気を張ってて常にピリピリしてた。まぁ、一番変わったのは貴女だと思うわよ?」


シャマルの言葉にまさかと思った事が口に出た。が、シャマルはクスクスと笑いながら言う


「だってそうでしょう? 昔の…剣の騎士なら、烈火の騎士なら子供に何かを教えるなんて事はしなかったでしょ? 貴女は炎の様に激しく剣の様に冷たかったじゃない?」

「ぐっ…ソレを言うならお前もだろう。昔は常に笑いの仮面を被って相手の腹を探り、相手と談笑しながら事を終える氷の様な奴だった。」

「「………」」




クワァ~~~~



「「日和るなケダモノ!!」」

「……俺は関係ないだろう」


日和ったザフィーラが叩かれた。コレは当然の事だと私は考える。

夜も遅い時間にシャワーを浴びる。そういえば、最近主はやてと風呂に入っていない。その事に罪悪感が込み上げる。込み上げて込み上げて溢れだしそうになる。あの方は私達が今行っている事を知っても許してしまうだろう。その事情をすれば彼女自身が罪悪感に囚われるだろう。
だからこそ、バレてはならない。知ってしまえばあの心優しい少女は罪の意識に苛まれる。

私達はソレを望まない。だが、それ以上に彼女の死を望まない。彼女が死んでしまう様な無慈悲な世界など望まない。我等の主を…自身の不遇を恨みスレてしまっても、自棄にもならないあの優しく強い少女を殺す様な世界など我等が許さない。そのような結末は私が斬り裂いて見せる。

あの少女の、優しき主の未来を掴み取るのだ。我等が何と言われようとも、あの少女に怨まれる事になろうとも


「あの子だけには…幸せに成って貰いたい」


熱めのシャワーが私の言葉を霞ませる。そして…ふと思う。あの少年は今も研鑽しているのだろうかと考える。あの戦闘を見るからに、明智良哉は近接戦闘を主とする魔導士だ。だからこそ戦ってみたいと思う。思うが、其処まで望むモノでは無い。だが、なぜか私はあの少年に拘っている様な気がする。勿論、明智良哉を警戒するのはその周りの人物に管理局員が居るからだ。

在る程度は仕方が無い、仕方が無いが…引っかかる。確かに私は明智良哉を知っている。知っていると言っても友情などが有る訳ではなく、唯の知り合いと言う程度のモノだが…それでも、私はあの少年が危険だと思っている。存在や意思等では無い、行動理念などは知りもしない。会話もそう多くを交わした訳でもない。ヴィータは気にかけて居る様だが私はそうではない。

あの少年の力に興味は在る。どれだけ強くなったかも気に成る。だが、危険性は少ない筈なのだ。だが…危険なのだ。ソレが主はやてに取ってでは無く、私達…否、私にとって…

なぜだかは解らない。解りようも無い、漠然としたこの形にな成らないモノは今の私にとって大変危険なモノに感じるのだ。神経質に成っているのかもしれない、精神的に不安に成っているのかもしれない。私はそう思い直しながら風呂からあがる。

ここ最近は夢の所為で寝不足なのだ。今日こそゆっくりと眠りたい



そんな私の思いは無残にも打ち砕かれた


夢の中に現れた私の主が唯一欲した一人の獣面の騎士によって









酷い、酷い夢をみた。少女は未だに整わない呼吸を繰り返しながら布団から抜け出し、部屋の窓から外に出た。気分が悪い、気持ちが悪いにも程がある。ヴィータはただそう吐いた。

知らない男、知らない女、知らない子供、知らない仲間。

知らない知らない知らないずくし。気持ち悪いにも程がある。否、気持ち悪いどころの騒ぎでは無い。その知らない場所で、知らない世界で自分とは似ても似つかない自分が呵々大笑しながら酒を飲み、自分より大分若い騎士見習いを小突いているのだ。

そんな世界は知らない。そんな自分は知らない。ヴォルケンリッターたる自分に部下等いない、親など居ない。居るのは仲間と愛しい主が唯一人。それだけだ。

それだけで良い筈だ

良い筈なのに…


「…羨ましくなかねぇ」


違う、違う違う違う違う!!


「羨ましくなんかねぇ!!」


親なんていらない。部下なんていらない。

今居る場所はあそこ以上に温かい。仲間が居る、向こうは知らないが友達も居る。はやてが居る

何よりも■■がいる。

あそこには居なかった。あそこでは一緒に居られなかった!!


「?!――っ!! 違ぇ、違ぇ違ぇ違ぇ!! ■■なんて居ねぇ!! あいつは違う!!」


何だ…なんなんだよ!! アタシは…


「アタシは…アタシは」


誰なんだよぉ



降り立って膝を着いた場所は出かい屋敷の見える草原だった。遠目でしか見られない屋敷には明かりが着いて居なかった。その姿を少し寂しく思う。あんなに大きな家だ、大勢の使用人とソレの雇用主、その家族が住んでいるのだろう。

ソレを見ていると、無性に腹が立って来た。

その理由が解らない。今だって幸せなんだ、なんでこんなしょうも無い事を思う。

そんな自分が情けなくて悔しく成った。今の自分は自分じゃない。そう思う。こんなにも情けないのが鉄槌の騎士の筈が無い。在っては成らない。自分は鉄槌の騎士。ヴォルケンリッターの突撃役。全ての壁を打ち崩す破壊鎚だ。

なのに…なんで…

なんでなんだよ…


「…良哉」


なんで、こんなにも惑わすんだよ…


「…知ってたのか…アタシが…魔導士だって」


良哉は顔色一つ、目の色も変えずに言い切った


「えぇ、最初から知っていましたよ? ヴィータさん。」











予想外な事に其処に居たのは鉄槌の騎士だった。いや、偵察に来ていると思えば妥当だと思うが湖の騎士がそんな浅慮な事をさせるとは思っても居なかったから予想外だった。失敗したかもしれない。

これが湖の騎士の策だとしたら、守護獣と剣の騎士か本人が隠れている可能性が高い。


『逃げますか?』


(いや、彼女の状態から見て一人だとは思う……念の為に準備はしておいてくれ)


『御意』

「貴女やシグナム程の高ランク魔術師…と、言うより魔力が有れば感の良い者は気づくでしょう?」

「…嘘だな」


顔を顰めたまま口を開くヴィータさんに、少し安心する。何やら落ち込んでいた…否、葛藤していた様な、迷いに戸惑っていた様な雰囲気だったので直ぐに嘘だとバレる事を言ったのだが、話に乗ってくれた様だ。


「えぇ、そうです。ちょっとした事情で魔力には敏感なんですよ。それで? 今日は一体どうしたんですか? この世界に帰って来てみればお粗末な隠匿結界のみで夜間飛行ですか?」

「っ、別に…今日は機嫌が悪かったんだよ。それとも何か? テメェーはアタシにそんな事を言う為にわざわざ来たのか?」


…相当頭にキている様だ。俺が心を揺さぶる意味が無いくらいにブレて居る様に見える。何が在ったのだろうか? 
まぁ、出来れば此処でドンパチはしたくない。捕縛は完全に無理だな。自分が導いたのならまだしも、勝手に苛立ちブレているベテランを捕縛出来る程、俺は強く無い。


(シュベルト、何時でも転移出来る様にしておいてくれ)


『御意』

「いえいえ、ただここ最近リンカーコアを保有する生物が襲われて…いや、命の心配はないんですが衰弱しているという事件が多発していましてね…」

「はっ!! アタシ達がやったとでも言いてぇのかよ?」


チッ、殺気だってきたな。そろそろ仕掛けてきそうだ


「そんな訳ないでしょ? 証拠は何も無いんですから…でも、少し気に成る事がね。」

「………」


…確か、この人の性格上そろそろ…


「いやー、俺が上に行く為にはそれなりに功績が必要な訳なんですよ。えぇ、それなりに大きな功績が…ね」

「……おい、一つだけ聞くぞ。」


(シュベルト!!)


その姿は、気圧される程に堂々としていて、その手に握るデバイスは今にも俺を壊しに来そうなほどに禍々しく見えた。


「お前は…敵か?」

「逆に聞きますが…貴女は俺の敵ですか?」


そう言った瞬間に、俺は大きく後ろに跳び引く。一瞬前まで居た場所には土煙が待っていた。


「あぁ!! 敵だなぁ!!」


紅い髪を月明かりの元に輝かせ、破壊鎚を握るその小さな体に気力を溢れさせ、立ち塞がるモノ全てを粉砕すると言わんばかりに大地にクモの巣状の亀裂を奔らせた騎士が俺を睨みつける。


(かかった!!)


「なら、非殺傷は要らないですね? 貴女の…大切なモノにも」

「テメェェ!!」


グォっと圧倒的なまでの怒気に鳥肌が立つ。今ならば御せるかも知れない。

だが、まだ早い。その時ではない。目的は達した。


「それでは、今日は此処まで。まだ、体が万全ではないんですよ。」


そう言った瞬間、展開された陣に従い俺は別の次元世界に移った。


「案外、気持ちが良いな」

『清々しいぐらいに小物で外道でしたよ。主。』

「だな。しかし、お前の重さと冷たさは有りがたい。ドレだけの事を言おうとも、流されずに済む」


そう言い、四つ程世界を変えて部屋に戻った。

コレで彼女達は焦るだろう。

程良く緊張した体は直ぐにでも寝れそうなぐらいに疲れていた。気疲れだな…布団の中に久遠が来ていた事に驚いた。


右腕から異音は聞こえなくなった。






あとがき

大変です。その一言がリアルなBINです。
今回感想を返せそうにないっす。マジごめん。

クビには成りませんでした。飛ばされもしませんでした。

なぜか、教育する新人が増えました。仕事が以前の三割増し以上です。

だれか…変わってくれ!!!!!!

そう言えばですが、この間、会社帰りというか休憩中の時間にPCショップにてとある物を発見した

『くどわふた~』

速効で予約した私は正常な人間だと自負します。反論は…受け付ける!!

あと、なろうの奴はメールしときました。感想を見ててビックリしたよ。



それではいつもの↓



明智良哉


パチもの悪役。成り切れないのは坊やだから?
恭也と何かを相談中。ヴィータに喧嘩を売る
ぶっつぶれろと作者は思う。

「右腕の静電気が凄く地味に痛い…」


ファラリス・アテンザ

なんだか暗躍中。機材を取りに家に戻る時は月村家の車とノエルを使用。
忍とは友達。やはりマッドか…
デバイスマイスターでもある。イロイロと考えているらしい。

「挫折を知って…少しずつ大人になるのよ」


月村忍


イロイロと納得のいかない事が多い模様。
現在は明智良哉の謎の解明が目的。
恭也とはラブラブ。出来れば良哉を解剖してみたいと思ってる。


月村すずか

良哉と裸を見たり見られたりと大変な模様。
学校でも心配されているらしい。時々溜息を吐きながら外を見る姿にファンが急増中。
勿論、顔が微妙に赤く、瞳が潤んでいる。
なのはとアリサが時々ドキっとして自身の性癖を疑ったりするぐらいのモノらしい。

「…責任、取らないといけないよね?」

でも、フラグはブレイクする。


ヴィータ

何だか大変のよう。オリジナル設定あり。本人も知らない。

「お前が…敵なら!! アタシはお前をぶっ潰す!!」

ヴォルケンリッターが鉄槌の騎士。その意志は固い


シグナム

こちらにもオリジナル設定あり。
夢見が悪い。寝不足気味。体が思うように動かないらしいが、周りから見ればそうではないとの事。
ヴィータの過去を知っている?


こんなとこかな?


おまけ


アルフな話


フェイト・テスタロッサの朝は早くはない。ぶっちゃけ朝は弱い。

寝巻が乱れていても、涎が垂れた跡があっても気にしないというか気付かない。

そんな、朝はダメな子の身の回りの世話をするのは使い魔であるアルフの仕事である。

「フェイトー、顔を拭くよー」

「……う…ん」

ゴシゴシと強くこすってはいけない。温かいタオルで優しく撫でるように、しかし、しっかりと拭く。

「それじゃぁ、歯磨きをしてこなきゃね? フェイト?」

「うん…zz…ふぁ、寝てないよ?」

ぽや~とした表情でそう言うフェイトに胸がキュンキュンするが朝食の準備をしなくてはいけないので我慢するアルフ。

だが、尻尾は激しく振られる。

「うんうん、分ってるよ。丁寧にしっかりと磨いてくるんだよ?」

「ふぁ~い」

………アルフ朝食準備中

……………アルフ朝食準備(ry

…………………アルフ朝食準(ry

…………………………アルフ朝(ry

……………………………………アル中




「おまたせ、アルフ。いつもごめんね?」

「別に良いんだよフェイト。それに、もう直ぐ出来上がるんだろ?」

「うん!!」

そう言いながらベーコンレタスサンドを頬張るフェイトを「可愛いねぇ」と思いながら見つめるアルフ。

アルフ達がアースラに収容されて一番良かったと思うのは、リンディ・ハラオウンとクロノ・ハラオウンが居る事だ。

母の様に、接する事のできる大人の女性が居るという事はフェイト・テスタロッサ位の少女にとって大きな支えとなる。何よりも母の愛情に飢えているフェイトにとってはありがたい事なのだ。

本人は気付いていないが、無意識にそういうモノを求めている。

兄の様に接する事の出来る青年…いや、少年? である、クロノの存在も大きい。何よりも家族というものはフェイト・テスタロッサにとっては有って無いようなモノだったのだから。頼れる存在が居るのは大変うれしい。

(まぁ…良哉の時は凄かったてエイミィは言ってたけど…アイツっていう経験があるから、こういうふうに接して居るのかも知れないねぇ)

何よりも、一人の人物に対して共通の話題がある。と言うのも大きい。

多かれ少なかれ、他人と話し楽しめると言う事は精神安定を図るには持って来いの事だ。それが、フェイト本人が気にしている人物の事なら尚更良い事だろう…気に入らないけど。

ぶっちゃけて言えば、アルフは明智良哉に対してどう接して良いのかを未だに決めかねている。

良い奴ではある。だが、嫌な奴でもあった。何かと秘密が多い様だし、考え方が子供の考え方じゃないというのも…なんとも言い難い。

簡単に言えば本質が見えてこないのだ。

だが、そんな事を考えていても、主であるフェイトは

「ねぇ、アルフ。」

「なんだいフェイト?」

「良哉が解いたテストなんだけど…」

「……うわぁ」

出来すぎていてうわぁと思ってしまうモノを持ってこられても、余計に混乱するだけなので勘弁して欲しい。

判断材料があっても、見えてこないのだから、気持ちが悪い。それが、アルフの悩みだったりする。
他にも、クロノとの模擬戦で勝てないフェイトを慰めたりと大変なのだ。

フェイト自身も気を付けているのだが、戦い方が時々というか…まぁ、感情的に成り易いと言う所がある。これは幼い頃にリニスにも言われていた事だ。
自分もそうなので、なんとも言えないのだが高速機動戦闘を行うフェイトにそれほど苦労もせずに勝てるクロノに無茶言うなと言いたい。
実際に

「誰もがアンタみたいに冷静に動き続ける事が出来る訳じゃないじゃないか…」

と言った事があるのだが、その時クロノは普通に

「いや、良哉は僕以上なんだが…」

の一言に撃沈。だけど、アレは違うと思うのがアルフの言い分だ。アレはただ単に熱くなる事が出来ないと言うか、精神が老いてると言うか…

(枯れてるんだと思うんだけどねぇ)

実際に自分達の裸が近くに有っても、何の反応も無かった…と言うか興味がなかったのか?

(雌としてのプライドを傷つけられるんだよね…アイツの反応って)

短い期間だが、一緒に居たというか、同じ艦で暮らしていたのだ。そりゃ、フェイトが寝床に強襲してから、何度も似たような事がある。

着替えている所に出くわしたり

モニター開いたらシャワー中だったり

全て、フェイトが除いてしまったことだけど…

(あぁ、だからあの人形が微妙に似てるのか…)

アルフはそれ以上考えない事にした。これ以上考えると自分の主が良哉専門の覗き魔になってしまうような気がしたから

朝食が終われば、フェイトはクロノや他の武装局員達の監視というか目の届く範囲
で訓練したり、エイミィから勉強を教えてもらったり、リンディから裁縫とかを教えて貰ったりと一日を自由に暮らしている。

その間、クロノは最近来たユーノと一緒に裁判結果を話したり自分も含めてここ最近多発しているリンカーコアを保有する野生動物の謎の衰弱事件について意見交換をしたりとしている。

そう言えばだが、裁判の結果は事実上無罪のようなモノだった。まぁ、そうなる事が事前に知らされていたので其処まで心配してなかった。

後、五日もしないうちに『地球』に着くらしい。早く着かないかぁとフェイトは洩らすが、自分はそうでも無い。

「あ~……どうしようかねぇ」

取りあえず、子犬モードを見せてみようかねぇ

なんだかんだと考えながらも、仲良くする事に決めたアルフだった。


おわり



[5159] A´sの二
Name: BIN◆5caaab55 ID:784a3ac9
Date: 2010/05/12 19:12





(畜生…ちくしょうちくしょうチクショウ!!)

アタシが馬鹿だった。何が気に掛けるだ。

(アタシは何も見て居なかった!!)

擬態を見抜けなかった、裏の顔を見抜けなかった、良い奴だと思ってたのに…友達だと思っていたのに!!

「シグナム!!」







―――誓いなさい

その声は鈴の様に大広間に響く。

豪華絢爛の名が相応しい煌びやかな謁見の間に、絶対の王者が儀礼剣を持ち若き騎士見習いに告げる。

夢の中の私はその光景を見ながら安堵に浸っていた。あの王者と騎士見習いの関係は知っている。王者との付き合いは既に十六年にもなる。生まれた時から護って来た、我が友の大切な孫娘の一人。

素直ではなく、何処か捻くれている小娘が自分の居場所を求めて幼い頃から城を抜け出していたのを良く追っていたのだ。まさか、侍従の変装をしているとは思わなかったが…

そんな小娘も成人になった。今日はその儀式が執り行われた。今は戦争中の為本来の様な盛大なパーティーは開け無かったが、己が思いを寄せる者と共に在れるようになるのは素晴らしい事だ。

私の隣に居る馬鹿義娘もそわそわと落ち着きが無い。

「おい、クソ婆。なんでそんな生温かい目で見てんだよ」

「何、二十も過ぎたのに男の影も形も無いハナタレ義娘が哀れに見えただけだ。」

全く、三年ぶりに会ったと言うのに挨拶も無いとは…アイゼン卿に預けたのは失敗だったグラトゥラツィオーン卿に預ければ良かった。あそこなら同じ年のシャーリンも居たのに…

「黙りやがれ行かず後家。アタシは良いんだよ、義父も別に良いって言ってんだし義兄も義妹も結婚してんだ。アタシは戦場で戦ってるのが性に合ってんだよ。お分かりですか?グルートヒッツェ様?」

「ハァ…こんなチンチクリンを次の近衛騎士団長の候補に上げなくてはならんのか…」

あぁ、確かに。この娘には荷が重い様な気がする。夢の中の私はそう思っている。私は別の事に驚愕を隠せない、その女の姿は見間違えようも無い。仲間で在る少女をそのまま成長させればこう成るのだろうと容易く予想できる。

「名前で呼べ!! アンタが付けたんだろうが!! アタシは『紅鉄姫』ヴィータ・アイゼンクルペンだ!!」

「それが、どうした。今は静かにしろ。小さく怒鳴るなんて器用な真似せんで良い。それとだが…私はシグナムリア・フォン・グルートヒッツェだぞ? 名前を呼んで欲しければ結果をだせ。字等、ハッタリ位にしか使えんぞ? お前の好きな戦場ではな」

出すまでも無く、結果は見えていると夢の中の私は思っている。第二次次元戦争…今から十三代前の聖王陛下がこのベルカと言う世界を勝ち取った独立戦争から約170年、再びベルカという我等の故郷は外の世界と争っている。

まぁ、今までそうやって勝ち取った物を吸収し技術を発展させて来たのだ。我等の暮らす世界と似たような事をしている世界も有る。今回はソレがカチあった…運悪く内乱が起こっていた二十年前に。

自身ももう若く無い。既に六十に届きそうなのだ。魔力も衰え、力も衰え、今在るのは長い間鍛えた技術と経験ぐらいのもだ。我が秘奥も伝授できる様な人間も居らず。古代魔法を使えるのは己を含め四人に成ってしまった。

戦争はまだまだ続きそうだ。その時にこの世界を率いるのはあのじゃじゃ馬か、その兄君の誰かか…できればあの娘に率いて欲しい。そして…その隣にはあの青年が居て欲しい。
だが、その思いを打ち砕くのはその青年の言葉だった。

其処からは流れる様に場面が移り変わった。

怒りと戸惑い、裏切られたと思った為の憎悪から儀礼剣を付きだす王者。

その剣により左目を抉られた青年。

その二人を止めに入った私とヴィータ。

そして、血の線を顔に描きながら青年が言った言葉

「この身は騎士に至れなかった出来そこない、故に名を捨て名誉も栄誉も全てを捨てましょう。不敬なこの顔を晒さぬ様に仮面を被り惨めに生きましょう。そして戦い続けましょう。私が仕えるのは貴女様では無くこのベルカのみ。私が護ると誓ったのは何処にでもいる様な明るく美しいあの少女のみ。」

なんとも言えない喪失感が私と、夢の中の私を襲った。それよりも、私のオリジナルがこの私だと気づいた瞬間に烈火の将、剣の騎士の役割を思い出した。
思い出してしまった。思い出してしまったからこそ私は納得した。成るほど、確かに…因縁とでも言うのだろうか?

此処まで出来上がっていると笑ってしまう。

映像…否、私の記録は流れ続ける。そんな私を現実に引き戻したのはヴィータの怒鳴り声だった。

「シグナム!!」

「うるさいぞハナタレ義娘」

「ハナっ?! だからアタシはヴィータっつう名前が有るって言ってるだろうがぁ!! このクソ婆!!」

……私はヴィータの言葉にドキリとした。

今の会話の遣り取りは夢の中の…否、私の過去の記憶と同じ

(まさか…其処まで切羽詰まった状況なのか!?)

「何が有った」

「?…っ!! そうだった、良哉の野郎が」

私は一度待ったを掛けて、ヴォルケンリッターをリビングに集めた。それと同時に状況は其処まで切羽詰まった状態ではない事を認識する。
理由としてはヴィータの態度だ。今しがたの私との会話をヴィータは覚えて居ない、覚えられないのが正解なのだろう。自分が何を言ったのかも覚えて居ない筈だ。私という人格が完全に蘇った…表現しづらいな。
シグナムではなく、シグナムリアとして再構築された意識が私の中に在る以上ヴィータが再構築される事は略無いと言える。コレは受け入れれるか自身が気づくかしなければならない事だからだ。
こうしてヴォルケンリッターの面々を見ているとザフィーラ以外は全て私に縁が在る者達だと言う事が解る。シャマルの顔には見覚えというか面影が残っている。今、ソレを此処で言っても意味がないが…

「それで? 明智がどうしたんだヴィータ」

ポツリポツリとヴィータが話し始める。

訳の解らない不可解で不快な夢

その夢の所為で夜中に起き、気分を紛らわす為に夜間飛行を行った事。

辿りついた場所から見えた大きな屋敷。

その方角から現れた明智良哉との会話。

明智良哉との戦闘とも呼べない戦闘との結末。

「アタシは…アタシ達は騙されてたんだ!! あいつ、はやての事にも気づいてる。手柄が必要だって…見た事も無い様な笑い方で言いやがった!!」

「そんな…」

「むぅ…」

「………」

はっきり言おう。やられたと。

まさか此処まで簡単に…いや、ヴィータの迂闊か…

「馬鹿かお前は」

「なっ?!」

驚いた様に顔を上げ、私を睨みつけるヴィータに言う。

「もう一度言おう。馬鹿かお前は。簡単で幼稚な挑発とカマ掛けにやられおって…嘆かわしい」

「な、何がだよ!! シグナムはあいつを見てねぇからそう言えるんだ!! あの眼は本気だった、本気でアタシを嘲ってた!!」

ここまで冷静になれていないのは、それだけ明智良哉の事を信頼…いや、信用していたのだろう。あの戦いを見ていなければ、私も信じたのかも知れない。いや、それだけならば此処までの失態は犯さないか。

どんなに激昂しようが、憎悪を滾らせようが、心のどこかでソレを冷静に見る事ができ判断を下せるのがヴィータの強みだ。過去も現在もそうだった。ヴィータの判断を誤らせたのは…

「迷いか…」

「っ!?」

ビクリとヴィータが一瞬震える

「話してみろ、ソレを聞くのも私の役割だ」

「………」

下を向き沈黙するヴィータを見ながら思う。今の私はシグマムで在りながらシグナムリアなのだと。ヴィータのこの姿には覚えがある。その記憶が有る事から私も…シグナムリアも口で何と言おうとも義母としてこの少女を愛していた事に気づく。

勿論、シグナムとしての私もこの少女の事を大切に思っている。大切な仲間であり、今は家族だ。

「…シグナム、今日はもう止めましょう? 夜ももう遅いしはやてちゃんもヴィータちゃんが居ない事に気づくかもしれないわ。」

「そうだな、ヴィータ明日の朝から時間は開けておけ…」

私はそう言うと自室に戻る事にした。正直な所、ヴィータの迷いの原因には心当たりが有る。恐らくは…

「罪悪感…か。コレは仕方が無いのかもしれんな…」

私はそう呟き目を閉じる事にした。

未だにシグナムリアの記憶は完全ではない。空白部分が有る。ソレは…あの方の願いの成就の為には必要な事だ。

(主はやて…お許しください。私は…あの方のこの願いだけは叶えて差し上げたいのです)







リビングに残っている三人は動く事が出来なかった。

勿論、これから横に成ると言うのは決定しているが俯いたままのヴィータを放ってはおけない。シャマルもザフィーラもヴィータの失態には気づいている。だが…ソレを咎める事は出来なかった。

シャマルは思う。ヴィータが本当に裏切られたと思わされ敵と宣言したと告げた時に彼女は本当に強い子なのだと思った。
一方的かも知れない、それでも友と思っていた人物に敵と宣言し行動した事は守護騎士として当たり前の事だ。だが、実際にソレを出来るかどうかと問われれば大半のモノが躊躇するし、最後の最後で情に流されると言う可能性もある。

彼女は裏切られた瞬間も守護騎士であり、今も主の為に守護騎士で在り続けている。

だからこそ、シグナムの目を見た時に違和感を感じた。

優しい目だった。何かを懐かしむ様な眼でも在った。ソレは何故なのか?

(シグナムはヴィータちゃんが迷った原因を知っている? でも…そんな…まさか)

自分達はプログラムだ。オリジナル…元に成った者は存在するがソレの記憶を持っていると言われれば否としか答え様が無い。

理由として守護騎士プログラムと魔法生命体と言う事が上げられる。

プログラムとして自分達は主を護らなくてはならない。主の命令は主の緊急時以外は第一優先事項だ。

魔法生命体…正確には疑似魔法生命体。魔法生命体とは少し違う。魔法生命体は文字通り魔法に因って創造された生物の総称だ。ソレの一般的な例として魔法生命体はその体から魔力が無くなれば死ぬ。消滅と言っても良い。

今では魔法を使う生物にも当てはめられている様だが、私達が作られた時はそうだった。

ハッキリ言ってしまえば殺されない限り存在する自分達に、オリジナル…人間の記憶は重すぎるのだ。だからこそ、私達は基本的に主が変わる度に記憶を記録にして感情を出来るだけ初期化される様に成っている。

その筈の私達に、私達の元を知る術は無い。

なのに…シグナムのあの眼差しは…

(ダメね…今はその事よりもヴィータちゃんを…)




ザフィーラはただヴィータを見て居た。彼はヴィータの失態を責めようとは思わない。なぜならば、たとえ明智良哉が責めてきても時間を稼ぐ事は出来ると確信しているからだ。
そう長い時間は無理かもしれないが、仲間が到着するまでの時間なら稼げるという自信がある。

仲間を信頼しているし信用している。だからこ、ザフィーラは何もしない。ヴィータの強さを知っているし、信用している。何よりも此処にはシャマルが居て、先程のシグナムの発言も有る。

ザフィーラは思う。皆、変わったと。ソレを嬉しく思う自分も既に変わってるという自覚が有った。この世界が平和だからなのかもしれない。






シャマルがヴィータに声を掛けようとした時、ヴィータはポソリと吐いた

「悔しかったんだ…」

「ヴィータちゃん?」

ポタリと床に水滴が落ちる。シャマルは驚きに身を固めた。

あのヴィータが、鉄槌の騎士が涙を流しているのだ。仲間の前で涙を流し心の内に在るモノを吐きだしているのだ

「どうしてだ?」

ザフィーラの言葉にヴィータは首を振りながら

「わからねぇ」

と、短く言った

「…そうか」

ザフィーラそう答えながらも、考える。自身の胸の内を語る仲間に対して何かしてやれる事は無いかと考える。

「でっかい屋敷が見えたんだ…本当にでかいんだ。あの屋敷にはさ…家族と沢山の使用人が住んでるんだよ…そう考えるのが普通だよな。屋敷の管理とかイロイロあるから…」

「そう、そんなに大きかったの」

シャマルはソファーに座り、ポンポンと自分の隣りを叩く。ヴィータは素直に其処に座った。

「うん…でさ、思ったんだ。あの屋敷に住んでる奴は恵まれてるんだって…もしかしたら違うのかもしれないけどさ…でもそうなんだろうって思ったらさ」

「思ったら?」

「…ムカついたんだ。悔しくなったんだ…胸の奥が痛いんだよ…それが、情けなくて…悔しくて」

「…そう」

「アタシは…アタシ達は恵まれてるんだ。はやてが主なんだ、温かい家が有るんだ、仲間が居て美味い飯も食べれてるんだ!! でもよ…でもよぉ」

それは誰に対してのモノか、シャマルもザフィーラも解らなかった

「すっげぇ痛いんだよぉ…胸の奥が痛くて痛くてぇ!!」

「うん、うん」

「訳がっ…解らないんだよ…知らない奴らが笑ってて…其処も負けない位に温かくて…沢山の仲間が居て…頭の中がごちゃごちゃでぇっ!!」

嗚咽が混じり始め、シャマルは誰にも気づかれない様に防音結界を張る。

「そんな時にっ…アイツが来て…功績が欲しいって、嗤って…ソレを見抜けなかったのが、悔しくて…でも」

「でも?」

「シグナムの言葉で…間違いが解って…悔しいのに、嬉しくて…」

あぁそうか、この子は

「もうっ、自分が解らねぇんだよ!!」

明智良哉が自分を裏切っていない事に気が付いて、嬉しくてどうしたらいいのか解らないのね。そして、なんでそんな事をしたのかが解らなくて戸惑っているのね。

(本当に…変わったわ)

「大丈夫よヴィータちゃん。シグナムなら答えてくれるわ、今は眠りなさい」

私はそう言い、ヴィータちゃんに魔法を掛ける。少しだけ罪悪感が沸いた。

「…良いのか?」

「これで良いのよ。私は湖の騎士。ヴォルケンリッターの参謀で、今はお姉さん役なんだもの」

「…そうか」

夜は更けて行く。月が沈み、太陽が昇る。ソレと同じように、この子も迷いから抜け出せるように願う。

(何も聞かないし詮索もしないわ…だから、ヴィータちゃんを導いてあげてね。シグナム)






チチチと、小鳥の囀りが聞こえる肌寒い朝。月村すずかはベットの中で目を覚ました。少しボーっとする頭を左右に軽く振る、カーテンの隙間から洩れた日の光に少しだけ目を細める。

「………起きなきゃ」

そう言いつつも体は寝る事を訴える。夜、寝るのが遅すぎたのだ。考えれば考える程深みに嵌ってしまう。まるで底なし沼に落ちてしまった様だ。だが、それよりも重大な事に昨日の夜。正確には今日の午前中に理解してしまった。

「…見られちゃった」

カァーっと顔が熱くなる。鏡で見たら耳の先まで真っ赤に成ってるいる事だろう。

「どんな、顔して合えば良いのぉ…」

月村すずかの朝は悩む事から始まった。






そんな事に興味の欠片もない明智良哉は、既に月村邸に居なかった。
少々…いや、かなり運転手がメイド服というのが似合わない黒塗りのバンに高町恭也と乗っていた。お互い無言だが嫌な空気は流れない、重苦しい雰囲気も無ければ、堅苦しいと思わせる様子も無かった。

お互いがリラックスした状態がコレなのだ。

元々、高町恭也は無愛想で寡黙のくせして近しい人間をからかうという事をする人間で。

明智良哉は繰り返しの影響か、元からそうだったのか、無愛想で寡黙、必要の無いモノには無関心という人間である。

運転しているファリンは思う。

(期待した私が間違いでした~)

心の叫びは誰にも届かない。

だが、この何の音も無い…車のエンジン音、風邪を切る音、対向車や後ろを走る車が時折大音量で音楽を流しているのでその音しか聞こえない状態で既に二時間程走っている。
気が狂いそうだとファリンは思うも、方や主人であるすずかの義兄(決定事項)。方や主人が気にしまくっている異性。

(失礼な事は言えません!! でも、誰か助けてくださ~い!!)

板ばさみである。

そんな中、何か癒しは無いモノかと考えるも、自分を含め持ってきているモノは幾許かの金銭と弁当と飲み物。それと着替えである。

癒しなど欠片も無い。食べる事は好きだが別に食べなくても生きていける存在な自分が何となしに腹立たしい。等と全く関係ない事を考えないとやっていられない現状なのだ。

何か話題になる様な事柄が有れば良いのだが…既に試して撃沈した後である。三十分程前に「それにしても恭也様、怪我の治りが早くて良かったですね。明智様も良かったです」と話を振ったのだ。

変えてっ来た答えは

「あぁ、イレインの時に比べれば…いや、比べる事も無いか。忍のお陰だよ。なぁ、良哉?」

「えぇ、俺もすずかと久遠のお陰で生きながらえました。感謝しています。でも…」

「余り頼りたくはない…って所だろ?」

「はい。危機感知能力の低下繋がる可能性も有りますし…血の影響が残っている時とそうでない時の能力に差が出る様なので…恭也さんもでしょう?」

「あぁ、同感だ。だからこそ…」

「「次はもっと巧くやる」」

「だな」

「ですね」

会話時間は五分も無かった…

(すずかちゃん…私、挫けそうです)

車は既に他県に入り、余り舗装されていない山道に入った。





その頃、高町なのはは算数の授業中だった。

特に突出した出来事は無かったが、今日は少し気に成る事があった。それは…

「………ぅぅ~」

「………はふぅ」

「………」(ソワソワ)

落ち着かない月村すずかの事である。今までで一度も見た事が無いくらいに落ち着きが無い。突然顔を赤らめたり、濡れた瞳で物憂げにタメ息を付いたり、時計をチラチラ見ながらソワソワしてたり・・・

(な、何が有ったんだろう?)

最後の様子だけを見ればトイレかな? と思えなくも無いが、前の行動の二つがソレは無いと言っている様なモノだ。授業を聞きながら首を捻るも、思い当たるモノが無い。
なんだかんだで、自分も悩んでいる事は有るのだ。もしかしたら、そういう時に見逃したのかも知れない。普段なら絶対にしないが、ポケットに入れてある携帯をそっと取り出しメールを打つ。
勿論、近くのクラスメート(女子)に折り畳んだメモ紙を「アリサちゃんに渡して」と小声で頼みながら渡してからだ。

『すずかちゃん、何か有ったのかな?』

自分と同じく親友であるアリサ・バニングスなら、何か知っているのではないかと思ったからの行動だった。

『さぁ? 私が聞きたいくらいよ。なのはは何か知らないの?』

どうやら、親友も心当たりが無いらしい。

『解らないからメールしたんだよ~。何か困った事でもあるのかな?』

『どうなんだろう? でも…何かアヤシイわね。』

そうだ。何か妖しいのだ。そこで閃く、思えば最近月村邸で遊んでいないし姉である忍にも会いたいしお泊り状態の兄にも会いたい。。

『アリサちゃん、明日すずかちゃんの家に遊びに行かない?』

『そうね、明日は何も無いし…すずかが大丈夫ならそうしましょう。』



高町なのはとアリサ・バニングスがそう決めた頃、高町なのはが会いたいと思った兄。高町恭也はファリンと明智良哉を後ろに山道を歩いていた。
舗装されていない道、特に今歩いている様な道は獣道と呼ばれ人が進むには歩き難い。それでも、一切の疲れを見せずにいるこの三人は異常なのだろう。一人は自動人形なので当たり前かもしれない、高町恭也は日頃から鍛えているし恭也の事を知る人間は「あぁ、恭也ならできるだろ」という具合に納得してしまう。

傍から見て異端なのは十歳の子供、明智良哉だ。

子供には辛すぎる道を難なく歩いている。高町恭也ならこう言うだろう。

「朝のランニングは体力の向上が目的だが、それ以外にも走りながら休むと言う術を体得する為のモノだ。」

ファリンなら当たり前の様にこう言う

「? すずかちゃんが多量の血を贈られているんですよ?」

そのどちらも正解なので、周囲の事情を知る者なら納得は出来る。

高町恭也は先頭に立ち藪や木の枝等を排除しながら黙々と進み、目的地の場所まで後少しと言う所で思いついた。

「良哉」

「なんですか? 」

「其処に川が流れているだろ?」

恭也の指さす方を見れば、確かに小さな川が有る。川と呼ぶには少々小さすぎる様にも思えるも、そう呼ばれればそうと納得出来るくらいのモノが有る。

「この先に水が湧き、小さな池に成っている場所が有る。其処が目的地だ。」

「?」

恭也の言いたい事が解らない明智良哉は首を捻る。

「其処まで走るぞ」

「了解」

そんな二人の会話にファリンが嘆いた。

「私もですか?」

しかし二人は既に走りだしていた

「あ、待ってくださーい!!」

妹の知らない所で兄は楽しく過ごしていた。




緑以外には特に見るべきモノもない世界で、少女が大の字で横に成っていた。正確には横にさせられていた。動こうにも疲れ果てて動けない。事の始まりは昨夜の事だ。原因は自分なので文句は無い。

「ば、化け物かよ…」

切れ切れの呼吸、張り裂けんばかり鼓動を刻む心臓、熱い体、時折吹く風が心地よかった。

朝になったら時間を作れと言っていたシグナムの言葉に従い時間を作ってみれば、シグナムが取った最初の行動は鋭い打ち下ろしだった。咄嗟の事だったが対応出来た自分を褒めてやりたい位だった。
文句を言おうにも、次々と繰り出される斬檄に口を開く事が出来なかった。結局、シールドを破壊され、打ち下ろしがフェイクだと気づけづにアイゼンを掴まれ、そのまま炎に包まれるまで…自分が一度負けるまでは何も出来なかったし言えなかった。

自分が口を開こうとしたら

「それで? スッキリしたか?」

と、言われ混乱した。そんな事出来る訳が無い。いきなり攻撃され負かされてスッキリ出来る人間が居るのなら見てみたいぐらいだ。

「出来る訳ねぇだろ!! お前は一体何がしたいんだよ!!」

アタシが怒るのは当然だと思う。

「何、意地っ張りのお前の事だ。素直に何かを話すとは思えん。」

真顔で言いやがった。その事に激昂しそうになるが、確かにと思う自分も居るので「ぅっ」と詰まってしまった所で、再び斬檄が繰り出された。
その後も、アタシがやられては休憩、やられては休憩の繰り返し、最初に負けてから五回ほど負けてこうやって寝転がっている。シグナムは昼飯を調達しに言った。

「…あいつ、料理とか出来たっけか?」

ポツリと言うと言葉は風に吹かれて何処かに消えた。誰も居ないと言う事に気付いたが寂しいとは思わなかった。負けに負けて負け越して、悔しさとかそんなモノさえ負かされた。どうやらこうも負け続けてしまうと清々しい気持ち成れる様だ。

「シグナムの言った事も強ち間違えじゃねぇみてぇだ。」

清々しい、馬鹿らしいく成るぐらいに清々しい。心に風が吹いた、温かい…とても温かく涼しい春風が吹いた様だった。どうでも良い。そう、どうでも良いのだ。明智良哉は自分を裏切ったと言う訳では無いのかもしれない。でも、敵だ。たぶん、それは偽りようの無い事なんだと割り切った。
敵でもアイツは友達だ。向こうは違うかもしれない、少し悲しいが仕方が無い。打ち負かして全部が終わった後でまた始めればいい。それだけの事なのだ。まぁ、昨日あった自分の恥ずかしい姿は全部アイツの所為だからちょっと強めに叩くけど…

「あー……シャマルには恥ずかしい所みられたなぁ」

「なんだ? 泣きっ面でも見せたのか?」

コイツは、唐突すぎる…






ふむ…打ち負かし続けて素直にさせようと荒療治をしたが、私の取り越し苦労だったようだ。流石に昔とはもう違うらしい。そう考えてしまうのは、私が本来の役割を…いや、未だにシグナムリアの記憶を完全なモノにした訳でもないのに早計か…
まぁ、今回の事は自身が何処まで動けるかの確認も兼ねての事なので終わりが良ければソレで良い。全くもって…この義娘は変わらない。その事を嬉しく思う。出来れば遥か昔のあの時代で…私より生き、孫でも見せてくれれば文句は無かったのだがな…

仕方がないか、この子もあの方も…あの者達も生まれた時代が悪かった。そうとしか言いようが無い。

「うっせ!! 泣いてなんかねぇ!!」

今、この子のこんな姿を見れるだけ恵まれているのかもしれないな。私は…

「はぁ…それは肯定している様なものだ。お前はもう少し…いや、戦闘以外でもポーカーフェイスを身につけろ」

「っ…それより、飯はどうしたんだよ?」

「魚を焼いている。寄生虫の心配もない、後は塩を振るぐらいだ。行くぞ泣き虫」

「だから泣いてねぇ!!」

僅かに表情が崩れるのを自覚する。まぁ、見られていないのでどうでも良い事だ。あの様子かして割り切った様だしな…後はあの子しだいか

私は地面に腰を下ろし焚き木の近くに刺していた魚を取ると塩を振って再び焚き木の近くに刺しなおす。ヴィータはソレを珍しそうに見ている。こうして見るとやはりこの子はまだ子供だと思ってしまう。外見年齢に中身が引っ張られているだけかもしれないが…

パチッと火の粉が舞う。コレが夜なら主はやても楽しめるだろう。あの様子からしてキャンプ等の経験は無い様だ。海水浴や紅葉狩りというのも有ったか、あの子には多くの経験を積ませて上げたい。
これ位の当たり前の幸福が欠けているのだ、あの子には…保護者と成っている者には憤りを覚えない日は無い。両親も心許せる友すら居なかったのだ、あの少女は一人だったのだ。主が言うには外国人だと言う事らしい、近々シャマルに調べさせてみようどのような人物かも気に成るしな。

「なぁ」

「どうした、ヴィータ?」

「もう食って良いか」

魚を見るからには食べても問題は無い程度には火が通っている様だ。出来ればもう少し焼いた方が良いのだが…

「熱いから気をつけろ」

「解ってるって、腹が減って堪らないんだよアタシは!!」

そう言うと魚にがっついていくヴィータ。はぁ、もう少し淑女としての礼節を教えるべきだったのだろうか…私が言えたものでもないが
まぁ良い。そろそろ本題に入るか

「食べながらで良いから聞け、ヴィータ」

「ふぁ? ふぇふふぃふぃいけふぉ?」

本当に淑女としての礼節をもっと教えておけば良かった…!!

「…私はシグナムであってシグナムでは無い」

「ムグムグ…っンク…何言ってんだ?」

「私は剣の騎士、烈火の将シグナムではない。正確にはそうであってそうでない。」

「…そりゃそうだろ。アタシ達はブッチャケプログラム…疑似魔法生命体。今じゃ魔法生命体って呼ばれる奴だ。当然、メチャクチャ昔にアタシ達の元に成ったオリジナルが居るだろ?」

それも正しいんだがな

「なら、言いかえる。オリジナルの記憶は有るか?」

「はぁ?! 有る訳ねぇだろそんなもん!! そんなのが在ったら…アレだ…ええっと…面倒な事になるだろ?」

ふむ、それくらいの事は知っていて当然か…

「そうだな、普通ならそうだ。なら聞くが…私達の記憶に、記録でも良い。蒐集が終わった後の事を覚えて居るか?」

「何言ってんだよシグナム、そんなの当然…当然…おい…いや、まてシグナム。もうちょっとで思い出すから少し待ってくれ」

やはりか…

「もういい、思い出そうとする限り無駄だ。」

「何がだよ!!」

「一時間は掛かるぞ? 私が試してそうだったからな…それもハッキリ思い出せるのは三十以上前だぞ? それ以降はどんどんオボロゲに成って行き、思い出せなくなっている。」

「……マジかよ」

「本当だ。だからこそ、私がお前と組んで出ずっぱりに成っているんだ。」

実際の所、私もシグナムリアとしての夢を見るまでは気づかなかった。夢の原因を探ろうと記憶と記録を遡っていたら…と言う訳だ。しかもその思い出した記憶も虫食い状態このような状況で蒐集をし続けるのにも限界がある。

だからこそ、私はヴィータにだけは伝えておかなければならない

「覚えておいてくれ。常に疑う事を忘れるな、最悪を想定するんだ。本来ならシャマルの仕事だがな…アイツは参謀だ故に気付けない事も出てくる。」

「解った…けど、どうする? 」

「今まで通りにするしかないだろう。最悪、我等のプログラムが狂っているのかもしれん。それに、闇の書は基本ストレージだインテリジェントと違い主に危害を加えると言う意思すらない。問題は管理人格だが…もしもの時は我等で管理人格を一度消し、復元するしかないな」

「……それしかねぇのか?」

「あぁ、ソレしかない。だがこれだけは言える、管理局には頼れない。」

奴らは情報を調べるだけ調べてからアルカンシェルを使用する可能性が高い。

「儘ならねぇな」

「…そうだな。明智の問題も有るしな。ヴィータ」

「迷わねぇし引く気もねぇ!! 全部終わってからまた始めるさ、後悔はしたくないから…それに、今思えば直ぐに解ったんだよなぁ、アイツの嗤い方は作りモノだった事くらい」

「なら良い。もしもだが…どうしても力が欲しいと心の底から思う時が在ったら…」

「在ったら?」

「何、私を頼れ。」

「そ、そんな事に成る事がねぇよ!! ほら、さっさと行くぞシグナム!!」

私達は少し休んだ後、僅かばかりの蒐集を行った。ヴィータには言って居ないが無駄だろう。今話した事が徐々に記憶から無くなっていく様に成っている事など…
私は目覚めた。故に保って居られる。全ては…主はやての心の強さが鍵か…

(遥か過去の誓い…今回で果されるのだろうか…)










シグナム、ヴィータが会話に上げた明智良哉は息を切らせる事も無く、少々痛んでいる小屋に入った。勿論、隣には高町恭也が正座で座っておりファリンは小屋の外で待機中である。目の前に胡坐を掻いて座っている老人とは思えない鍛え上げられた体を持つ老人はそんな二人を見た後で顎髭を触りながら一言問うた。

「…刀とは、何だ?」

それだけ言うと小屋の奥に引っ込んで行った。その姿を見ながら苦笑を浮かべ恭也さんが言う。

「お前なりの価値観…ソレがどういうモノなのかをそのまま話せば良い。まぁ、ソレしだいでお前の望みは叶わなくなるがな。心配するな正解など無い様なモノだ。俺も暫く外に出て居よう…終わったら教えてくれ。」

そう言うと恭也さんは音も立てずに外に出て行った。

考える。

刀とは何か?

斬る為の道具だ。

しかし、それは答えなのだろうか? 考えてみれば斧でも槍でも斬る事が出来る。刀でも突く事が出来る。

考えを少し戻す。刀とは何か?

凶器だ。コレは間違いが無い。刀とは力の一つだ。二・三人斬れば刃毀れを起こすが問題はない位に洗礼された凶器。だが、それも違うのかもしれない。刀には美術品という側面もある。

少し考え方を変えよう。刀とは何か?

道具だ。これこそ間違いが無い。美術品も道具の一つ、凶器も道具の一つ。

これを否定されたらそれこそ何だと言いたい。結局は人それぞれの価値観からの答えでしかないのだから、絶対と言えるモノは無いのかもしれない。

いや、待てよ。人に因っては刀とは誇りで在ったり、魂で在ったりする。昔の侍等がそう答えるかも知れない。あの老人に取っては此方の方が好みの答えかもしれない。

「…待てよ。そもそも刀とは何だ? と言う質問に意味が在るのか? 」

考えれば考える程解らなくなる。刀とは所詮、鉄の塊だ。細かい所は違うのだろうが似た様なものだろう。ソレに求めるのは斬ると言う役割? …違うか斬るのは人だ、刀の持ち手の取る行動でしかない。
刀に求められるのは…鋭さなのだろう。

…やはり刀とはどう考えても道具としか答えが出ない。まぁ良い。今回の事で刀を打つ所を見れなくとも、刀鍛冶は探せば居るだろうし…サーチャーで盗み見するという手も有る。面と向かって頼んだのは誠意を見せる為でもあったし、コレが駄目なら覗くぐらいしか手が無い。

そう考え、小屋の奥へと向かう。木で出来た簡単な作りの戸は少し歪んでいて開けにくかった。

結果を言ってしまえば合格出来た様だ。現在、俺は老人…鉄人(てつひと)さんの鍛冶姿を見学している。恭也さんやファリンさんは小屋で寝て居るだろう。月も傾き、外は静かで俺には時折吹く風に揺れる木の音と鉄を打つ音、火の子の撥ねる音、水が蒸発する音しか聞こえない。

シュベルト・クロイツもただ見ているだけだ。録画や解析も行っているがそれ程負担に成る作業でも無い。カン!! と鉄を打つ度に何故だろうか? 心が弾む。ただ無性にその鉄を鍛える作業が素晴らしモノに見える。鉄を打つ老人の体は火に照らされ、実年齢よりも若く見える。その背は大きく見え、仕事が仕事だからだろうか逞しくまるで父の背中を見ている様な気にさせてくれる。

(馬鹿みたいだな…顔も知らない人と重ねるなんて…)

鉄火場の夜はまだ開けそうにない。ふと、クロノさんに会いたくなった。自分が思っていた以上に頼りにしている様だ。









そんな風に頼られてるとは思っても居なかったクロノは仕事に忙殺されていた。

「エイミィ次のを頼む。」

「クロノ君、そろそろ休憩を入れないと倒れちゃうよ!!」

「これ以上書類を溜める方が悪循環を招く。唯でさえ、地球に行く途中での犯人の現行犯逮捕にその裏を取ったりで本局に二日は居なくてはならないんだぞ? それに、リンカーコア保有生物の謎の衰弱…嫌な予感しかしないんだ。幾ら君が有能な補佐官でも、今の情報を纏めるのには時間が掛かるだろ」

「それは…そうだけど…」

何時もより強いクロノの言葉にエイミィはシュンとする。その姿を見たアルフがポンポンと肩を叩き、何も言わずにエイミィを引っ張る。

「ちょっ、あ、アルフ?」

「今のクロノに何言っても無駄だと思うよ?」

「それはそうかもだけど…アレ以上根を詰めると倒れちゃうよ。」

その気弱な一面を見てアルフは驚くも、笑みを見せながら言った。

(そっか…クロノと良哉はそう言う所が似てるんだ。)

「大丈夫だよ。ユーノも手伝ってるみたいだし、こう言っちゃなんだけどマーガスも頑張ってるんだろ? それに…」

「それに?」

「クロノと良哉は似てるんだよ。その内変なミスをするに決まってるさ。そこで説得した方がいいよ。」

「?」

「あの二人は似てるって事さ。良哉の奴なんか銭湯で…」

そうやって必死に話しかけ励ますアルフの姿にエイミィも次第に元気を取り戻していく。

結局、睡眠不足がたたり持ちあげたアツアツの珈琲入りのコップを自分の足に落とし転げまわるクロノを説得し寝かしつけると言う事をエイミィがする事に成るのは今から6時間後の事であった。

ちなみに、協力をしていたユーノがその姿を見て「ざまぁ」と嗤ったのは何時もの事でその後、エイミィに甲斐甲斐しく世話される姿をみて

「君もいい加減にしたらクロノ?」

とちょっとだけ心配した。



あとがき

やーすみが欲しい!! 仕事を辞めたい!! ニートになり…たくはないな…
どうも、BINです。イベント事sリーダーをしろだってさ。辞表の書き方誰かおしえてくれないかなぁ~

上司とのみに言った。娘自慢が煩かった。取りあえずウサビッチのDVDを1~3貸してみた。

上司娘「びっち、びっち!!」

俺「ポカーン」   ←今ここ

それとですが、作者が思う古代ベルカはまぁ、昔のアメリカ見たいな状況だったというのが構想の中にあります。ぶっちゃけ植民地。世界丸ごとだから植民世界か?
アレです、次元間航空技術を持っていて科学技術、魔法技術もそれなりに発達していた次元世界に征服された元・管理外世界の一つ。
で、ベルカ設立は初代聖王が反乱を起こし勝ち取ったと…てな感じです。実際はそれより前から反乱というか、独立運動はあったというせっていですが。その後のベルカも侵略と技術の吸収を行っていき…崩壊と言った感じのモノを設定しています。故にオリ設定が満載と・・
大丈夫かなぁ?

ちなみに、急激に発展した時期も有り、王政であったため王位継承権で揉めたり内乱が多発したり、人体実験も行われていたり、他の次元世界からの侵攻が有ったり、侵攻したりと主人公代替わりでの戦記物書けるんじゃね? って言うくらいの妄想をしておりまする。
テンプレ見たいに王族が居て貴族が居て庶民が居て奴隷がいる。見たいな世界観。
騎士は貴族から上級騎士とか、平民から下級騎士とか。んでもって下級騎士も何かしらの功を立てれば上級騎士になれたり成れなかったり? 身分違いの恋愛が有ったり無かったり?
聖王っていうのは最初にベルカを支配していた次元世界の技術で造られた人造人間だったり?とか

まぁ、ごちゃごちゃしています。

仕方が無いですね。作者が永遠の厨二病ですから。

ちなみにですが、パソコンを新調してから『なのは』を一発変換すると名の覇と出る様になりました。
アルフと入れると啞琉婦とでます。呪われているのだろうか?
フェイトはフェイトと出るのに…

何時か…古代ベルカ編とかやるのも面白いかもね




いつもの!!!



ヴィータ
なにやらふっきれた様子。
良哉とは友達?
最初から敵と認識され今まで自分に対して行ってくれてた行為が打算に塗れて居たと思いブチ切れるも良哉のヘタな芝居に気づき持ち直す。
バグに気づくも忘れてしまう設定。

「敵でもアイツは友達だ!!」


シグナム

元の人(シグナムリア)の記憶が蘇る。なかなかに因縁が在るらしい。
元の人はヴィータの義母だったよう。全部オリ設定。
肉体言語が得意

「悩む前に行動しろ。後悔するのは動いてからだ」


高町恭也

寡黙な人間。良哉と二人だと周りの人間に迷惑
膝完治に浮かれて良哉を小屋に残した後、全力で山を駆け回る
後で忍に怒られる

ファリン

すずかの従者。自動人形。ドジっ子。メイド。
今回の苦労人。後で良哉が怒られる。さくらに

「すずかちゃーん!! 私の心が折れそうですぅ(泣き)」



クロノ・ハラオウン

意外と頼りにされている模様。
ワーカーホリック? 
エイミィにイロイロ心配掛けている。
地球に行く途中、次元犯罪者を逮捕。どうやら大物と繋がっている様子。

「早く地球に行きたいと言うのに!!」

と、思いながら仕事をやっつけている。



フェイト・テスタロッサ

どうやら、今回も次元犯罪者を捕まえるのに協力したらしい。周りからの評価も良い。
今回の事件では、殺傷設定で攻撃するクロノに驚くもその後の説明に頷く。
また少し大人に成った?
現在、手製の良哉人形を抱いて寝ている。

「にゅふふ…ん~」

ダラシナイ顔でギュッと人形を抱きしめる姿にリンディが癒されたのは当然の事であった。




[5159] A'sの三
Name: BIN◆5caaab55 ID:784a3ac9
Date: 2010/06/08 22:45








親に逢えば親を斬る。

友に逢えば友を、愛人に逢えば愛人を、他人に逢えば他人を斬る事が出来る。

鋼とは道具。鋼とは力。使う者次第で如何様にも出来るモノだ。

故に、鋼には罪等無く。所詮は使う者の使用法が問題なのだ。

だからこそ、明智良哉は一人の刀鍛冶に言った。


刀も銃も槍も鎚もそれこそ道端に転がっている石も全ては同じである。

使用法に…その道具に必要とされるモノを突き詰めて行った結果、今の形が出来た。

「故に、刀とは道具の範疇を超える事はない。ソレに付加される価値観は人間の一方的な幻想でしかない。」

だから、俺の意思を尊重する刀を打って欲しい。

老人は視線をズラすことなく真っ直ぐと明智良哉の目を見続ける。

「俺は全てを斬ります。有象無象の関係無く。好意を寄せられようとも、憎しみを寄せられようとも…ソレが目の前に立ち塞がるのなら、俺は全てを切り捨てて往く」

老人はゆっくりと立ち上がると、着いて来いとでも言う様に首を動かした。

ソレが、今より三日前の話である。





ただいま

その言葉だけで今までの苦労が報われた。少なくとも、私はそうだった。今から丁度二日前、明智君が恭也さんと出かけてから一日経った日にアリサちゃんとなのはちゃんが家に来た。
彼女達と遊ぶのも久しぶりだと感じてしまったのは、短い時間で沢山の事が有ったからだと思う。

久しぶりと言う感覚を覚えながら、中庭でお茶をしたりボードゲームで遊んだりTVゲームで遊んだりした。格闘ゲームはなのはちゃんの独壇場だったけど…

と言うかなのはちゃんって基本的にゲーム全般に強いんだよね。
シューティングとかは特にだけど…そうやって遊んで居る内に二人から「何か有ったの?」と聞かれた。その時に動揺せずに答えられた自分を褒めてあげたい。
無難な答えを選び、答え。表情を偽る。罪悪感が湧いてくる。でも、我慢しなくてはならない。彼の事を話すには自分達の事も話さなくてはならない。
私にはまだ…その勇気が無い。意気地無しと言われても仕方が無いと思うけど…私はまだ、今のままの関係が続けば良いとも思っている。

大変なのはこれから先だ。そう思う事にしている。もしかすると案外あっさりと解決してしまうかもしれない。そう思う私は、やはり意気地無しのだろう。

大変と言えばなのはちゃん達が来た時一番大変だったのはファラリスさんとルーダーさんだった。二人とも明智君の関係者で特にファラリスさんは傷が完治していない。
本当なら腕を動かすだけでも痛い筈なのに、お姉ちゃんの研究室で毎日の様に何かをしている。

食事の時は顔を出すからそれとなく聞いてみたけどファラリスさんは笑顔で


「大丈夫よ、女っていうのは男よりも痛みに強いの。だから、私の心配をするよりも貴女は自分の事を考えなさい」


と言った。正直、その笑顔と姿に私は母と言うモノを感じた。



うん、私は少しオカシイのかもしれない。でも、そう感じたのは事実だ。その事は認めよう。コレは誤魔化しでしかない。
今だって痛い筈だ。それでも、痛みを我慢している素振りすら見せないこの人は強いのだろう。

あぁ、そうか。だから私は母の様だと思ったのか。うん、一つ納得がいった。

だからこそ、私は聞けなかった。正直に言うと恥ずかしかったから。あの頬笑みは強い。とてもとても重い。憧れを感じてしまう程美しい。
たぶん、それはお姉ちゃんも同じだと思う。だって食事が全く進んでないんだもの。その事をファラリスさんに指摘されて慌てる姉を見ると笑いが漏れてしまった。

そんな光景は初めての癖して懐かしく、懐かしい癖に初めてと言う不思議な一場面として心に残っている。この光景を私は忘れる事はないだろう。

そして、もう一つ心に刻み込んだ光景が蘇る様に祈る。

其処には未来の義兄がルーダーさんに結婚生活について話を聞き、姉が夫婦関係に付いて詳しく聞き、そんな二人を呆れる様な顔で紅茶を飲み時々からかうファラリスさんが居て…そんな光景を見ながらゆっくりとコーヒーを飲む無愛想な彼が居る。

そんな彼が微かに口元に笑みを形作っているのがポイントだ。その光景の中には笑顔の私も含まれている。

どうか、どうかこの光景が壊れませんように。

期限の有るこの光景が少しでも長く続きますように…

私はただそれだけを願います。

だから、早く帰ってきてくれないかなぁ

と思っていた。彼が帰って来て、明日からまたその光景が在る日常が戻ってくる。胸の奥が温かい。温かくて暖かくて、蕩けてしまいそうだ。フゥとタメ息がこぼれる。コレが、私が友達にも秘密にしている事。

夜の中庭では彼が当たり前の様に刀を振るっている。

イィィン、シィィン、と音を奏でて居る。

季節外れの虫が鳴く様に、季節外れの猛暑が在る様に、季節外れの春が来ている事を自覚する。
元から自覚していたモノを強く見つめると、ソレは当たり前の事で呆気ないくらいに私の中から恥ずかしさが消えて行った。

だってそうでしょ?

生物には雌雄同体で無い限り、雄と雌がいる。

人にだって男と女の違いが有って…

その違いを求めるのは自然の摂理。

だって、人は独りでは生きていけない。

だって、私は独りでは生きてはいけない。

私は一人では満足に生きられない。

だって、彼の事が好きなんだもの。











少女の夜は更ける。寒空の下、冷たい風が吹く外とは違い。彼女の中には季節外れの春風が優しく吹いていた。







が、結局その光景をその次の日に見る事は出来なかった。







シグナム。烈火の将。剣の騎士。ソレがヴォルケンリッターとしての私の名。

シグナムリア。遥か過去のベルカに存在した近衛騎士団長。過去のベルカ王の側近。それがシグナムの元に成った人物の名。

私は誰だ? シグナムだ。シグナムで在りシグナムリアだ。

この気持ちは何だ? それはシグナムリアのモノだ。シグナムのモノでも在る。

私は誰だ? シグナムリアだ。シグナムでも在る。

「私は…騎士だ。」

口にした言葉そのまま私の答えと成った。

シグナムは守護騎士として生まれた。否、創りだされた。

シグナムリアは大貴族の三女として生まれ、騎士に成り、近衛騎士として生きた。

ならば、私は騎士だ。そうでしかない。

ならば誓いを果たさなければならない。あの方の願いを聞き届け、束の間の夢を約束した。

誓いだ。私は誓ったのだ。あの方の想いに、あの方の余生を共に過ごし、誓ったのだ。遥か未来に、遥か過去に。

騎士の名に誓ったのだ。

ならば、私は…



伝える。

伝えなければならない。私達ではもう手に負えない。ヴィータの記憶にあの事は残って居ない。だが、闇の書に関しては疑念を抱いているのは確かだ。ソレでこそ、お前を推した意味が在る。

ザフィーラには既に伝えた、直にシャマルも動くだろう。

だが、私は余り動いてはいけない。此処から先は考えなければ成らない。
シグナムリアの経験と勘に基づいて、シグナムの力を持って。シグナムリアの技術に基づいて、シグナムの経験を擦り合わせて。
シグナムリアの知識に基づいて、シグナムの技術を底上げして。シグナムリアの、そしてシグナムの、思いを擦り合わせて戦わなければならない。

小さな、小さな希望の欠片を握り締めて。

「シグナム? どうしたん? 急に難しい顔して…」

「いえ、昔話を…今の時代で言う童話? を、思い出したので」

私の言葉に少女は笑顔を輝かせる。その顔を見れば次に出てくる言葉は予想が付く。

「ホント?! なぁなぁ、少し聞かせて欲しいんやけど…」

「えぇ、良いですよ。最近は自分の都合で家を開けてばかりでしたから」

苦笑が漏れる。自分の吐いた嘘にでは無い。自分を騙せない嘘を吐くほど無様では無い。

「やった!!」

「フフ、昔、本当に昔の事です。聖都より七つの山を越え、五つの大河を渡った所に…」

話の途中でヴィータ達が帰って来て、其処で話は中断した。主にはせがまれたが夕食が遅れると他の騎士達が空腹に成る。どの時代でも食物の恨みは怖いモノだ。さて、私も少し手伝おう。火加減は任して欲しい。

夜、主はやてにせがまれ寝る間まで話を続ける事にした。

主が寝たのは日が昇り始めてからだった。寝る前の言葉は

「シグナム、ソレは童話やあらへん。戦記や」

だった。

朝食で作ったベーコンエッグは好評だった。次は煮込みモノを覚えてみようかと思う。





この日より、ヴォルケンリッターは本格的に蒐集を始める。それは、クロノ・ハラオウン達時空管理局員に取って忌まわしいロストロギア・闇の書の覚醒を知らせる前兆となる。





時空管理局・本局。

総称『海』と呼ばれる時空管理局の大元。その帰還ドッグのエレベーターの中、リンディ・ハラオウン提督とアースラ搭乗員であり執務官補佐兼管制官エイミィ・リミエッタが乗っていた。

「ふぅ…事件に次いでまた事件ですね…艦長」

「そう落ち込まないの、エイミィ。」

少し疲れを見せて言うエイミィにリンディは薄く笑みを作りながら言った。

「まぁ、貴女の気持ちも解るけど。私達は時空管理局局員なのよ…確かに、フェイトさん達をゆっくりとなのはさん達に逢わせてあげたいけどね。フェイトさんも今は嘱託魔導師、それにこの間の事件解決に協力した事も含めて彼女の立場も大分良く成ったわ」

「それはそうですけど…私は、クロノ君が倒れそうで心配です」

エイミィの言葉にリンディは頭を痛める。リンディの息子であるクロノ・ハラオウンが原因だ。リンディから見て身内贔屓かも知れないがクロノは優秀だ。イレギュラーに弱い所は有るが、基本的にルールの中で動くと言う事に関しては優秀だ。

その弱点で在ったイレギュラーに弱いと言う部分も、最近は改善されてきてる。より解りやすく、より正確に、と新しく出来た自分の弟分に家庭教師として魔法や法律等を教えて居たからだろう。

これだけならば諸手を挙げて喜べる事なのだが、問題に成っているのはその性格だ。

品行優勢、生真面目、ちょっと硬いのが玉に傷。

ワーカーホリック。仕事中毒なのだ。三度の飯よりと言う程ではないが一度仕事を始めるとやれる所までやろうとする。その後の事を考え、周りの動きも考えて仕事をする。より効率的にと

つまりは働き過ぎて過労状態なのだ。地球に付くまでの時間は絶対に休ませなくてはならない。

リンディはエイミィに一言言った。

「頼んだわよ…補佐官」

「ちょ~っと荷が重いかもしれませんが、頑張ります」

その後、クロノはフェイトとアルフの協力により捕縛されエイミィに寝かしつけられた。

クロノはポツリと吐く

「…バインドで簀巻きにされるとは思ってもみなかった」








クロノ・ハラオウンがそんな事に成っているとはこれっぽっちも知らない明智良哉は、月村邸帰って来たその次の日の早朝からファラリス・アテンザに連れられて地下の研究室に来ていた。

幾つもの配線が混雑し、余り見た事も無い機材が乱立するその部屋は正にカオスと言って言い所だった。ファラリスはその機材の中から一つのデバイスを取りだす。ラプラスだ。明智良哉は直ぐにそうだと解った。見た目に変わりはない。

変われる筈も無い。此処とミッドチルダでの技術力には差がある。それも、地球には無い「魔法」と言う技術…魔力と言う生体エネルギーを使う為の『科学』技術には一定の差がある。全てにおいて地球が劣っているとは言えないが、その分野では大きな差が在る。

「はい、それなりに新しく成ってる所もあるから後で確認する事」

「はい、ありがとうございます。」

そのデバイス。ラプラスを再び左目の在った場所に入れる。入れた瞬間に脳を突き抜ける様な痛みが有るが顔に出す様な真似はせずただ耐える。

『おはようございます。マスター』

「あぁ、おはようラプラス。また何時も通りに頼むよ。」

『了解しました』

視界は良好。前より幾分か鮮明に成ったような気がしないでもない。

「それと、彼方が昨日帰って来た時に持って来たアレだけど…もう少し時間が掛かるわ。局に成る設備が使えるのなら今日中にでも終わるけれど…少なく見積もっても三日。まぁ、五日は掛かるモノと思って頂戴。」

急な申し出だったのにソレ位の時間で済むのかと思ってしまった。これも、月独自の技術の賜物なのだろう。下手をすればミッドより凄いモノも有るのかもしれない。ノエルさん達自動人形を見て居ればそう考え、思ってしまうのも当たり前の事なのかもしれない。

まぁ、今はその技術も廃れ誰にも解らないモノに成ってしまっているらしいのだが、すずかの話によればソレを蘇らそうとしているのが月村忍らしい。曰く、天才。鬼才。
高町恭也自身が、アレはマッドだと言い切るぐらいには才があり月村…夜の一族と言う者達を纏める当主としての手腕も有る。

そんな彼女が此方の事に興味を示さない訳が無い。

「大丈夫ですか?」

「なにが?」

「…いいえ、俺の心配だったみたいです。巧くやってくださいね?」

「フフ、解ってるわよ。それにしても、面白い体になったものね」

そんな二人の会話。ソレを知りながらもどうするかなぁと考えているルーダー・アドベルトは報告書片手に唸っていた。『夜の一族』のことである。どう報告すれば良いかが問題だとルーダーは日夜考えている。

もう、いっその事隠さずに報告すると言う選択肢も在るには在るのだが…それは個人的にしたくわない。だからと言って誤魔化す為の事を考えると思いつかない。そこで、考えついたのが…

夜の一族なんて存在は居なかった。と言う事である。

幸いにもこの世界には霊能と言うモノがあり、自身もそれに関わった。その戦闘で明智良哉は怪我を負ったモノの月村家の所有する『家宝』で治療された。

とでも言う事にして後は月村忍、綺堂さくらの二名に行って貰う。他力本願この上ないが、所詮自分は武装局員でしかない。

権力とは厄介なモノだ。月村忍達がこの事を了承してくれた事が奇跡の様なモノだった。本音を言わせれば、自分達の秘密を話しても良いかどうかを己の目を持って確かめたい、見極めたいと言うのが在るのだろう。後は…この世界の外の技術か…

「はぁ、黒いねぇ。嫌になるぜ。」

無性に妻と娘に逢いたい。思い出せばもうすぐ自分達の結婚記念日だと言う事を思い出しどうするかと言う悩みが増えたルーダーは恭也に声を掛けて釣りに行く事にするのだった。

「疲れてますね」

釣り糸を垂らし静かに待つ、そんな静寂を破ったのは高町恭也だった。月村家所有地の一つである山は、車で小一時間行った所に在る。川も流れて居て、避暑地としても使える。今は冬の風が冷たく本来なら厳しいモノだが、二人の真後ろで燃える焚き木が暖かくしてくれる。

「あー…お前も何れ解るさ。」

「俺も?」

夫婦間の事なのだろうか? と恭也は思ったがどうやら違う様だと、ルーダーの横顔を見て思った。

「なんつーかなぁ…まぁ、所詮俺もお前も『力』の人間だ。戦う事を生業にしてる人種なんだよ。特に俺は戦って勝つ事に重点を置いて生きてきた。敵に勝つんじゃねぇ戦って生き残る事が俺の勝利だ。」

釣り糸は揺れない。

「だからよ、情報を集める事、ソレを使う事は徹底的にする。でもな、其処までの人間なんだよ。」

「?」

「お前もそう遠くない未来に絶対に経験するぞ? お前の嫁さんは月村って言う財閥の当主。多くの企業の統括者だ。んで、お前はそんなお偉いさんの夫」

「…確かに」

「まぁ、お前さんには余り回ってこないかもしれないが…俺達見たいな人間に取って『政』とそれから…それこそ人に因るが『法』は鬼門に近いんだよ。」

そう言うと、ルーダーは深い深い溜息を吐いた。

「やはり…貴方達の世界でも?」

「俺達が知らないだけなのかもしれない。その可能性は在る。でもな…ちょーっと特殊すぎる。この事実が次元世界に発覚したらお前…遺伝子工学やらを専攻してるぶっとんだ連中やら趣味の悪い好事家が出張ってくるぞ」

ルーダー・アドベルトの心配事は正にソレだ。

信じられるだろうか? 人間と同じ姿を持ちながら人間を超えた寿命を持ち、人間より優れた身体能力を持つ『少し違う人間』の存在を。その一族の存在を認められるだろうか?しかも、中には特異な能力を持つ者まで存在する。
極めつけはその一族が過去に持っていた技術。ミッドチルダや他の管理世界にも無い技術。アレほど見事な…人間と言われても信じてしまう様な自動人形を作れるその技術に目を付けない筈が無い。技術提供などで解決出来るのならソレで良い。此方の技術は此処でも役に立つモノが多い。両方に利が在る。

だが、前者の場合は…どうなるかが解らない。

非人道的実験。アレは酷い。そうとしか言えない。地獄等と揶揄するよりも酷い。そう言った方が解りやすい。どれもこれもが実験体。壊れればゴミと同じように破棄される。暇つぶしに…慰みモノに成る。それでも…まだマシなのかもしれない。
何度かそう言った実験場、研究所に突入した事が在る。あそこで見た、古い研究所。建物がでは無い。ソレが存在した年数の話だ。其処で見たのは自意識を微かに残した…

「っ、胸糞悪い。恭也!! 今日はもういいや。飲みにでも行くぞ!!」

「俺は下戸なんですが」

だったら、強く成ろうぜ!! そう言いながら首に腕を回しヘッドロクをするルーダーの胸の中には不安が渦巻いていた。





日も沈みかけの夕暮れ時、明智良哉は中にはで優雅にティータイムを擦る事を強要されていた。

「…それで? 神咲からの接触は無いの?」

「ありませんよ。久遠に聞けば解るんじゃないんですか?」

綺堂さくら。ソレが明智良哉にティータイムを強要させている女性の名前だった。

綺堂さくらは明智良哉を警戒している。そして、ソレを隠す気も無い。ソレがこの件に関する全員の見解だった。ソレは当人同士も同じであり、明智良哉はルーダー、ファラリス等の人物を外し、此処に居る人物全てを警戒している。そんな素振りは見せないが厚い壁が、深い溝が其処にある。

高町恭也には大分警戒は解いているが、月村忍と言う存在が在る為警戒している。月村すずかには警戒どころか興味が無い。友人付き合いはしているが、それは自分が口にした契約だからだ。

「で? 何で貴女はそんな事を聞くんですか?」

言葉の裏には「何で自分が既に握っていて確信している情報を聞いてるんですか?」と意味が在る。

「別に? 確認よ確認。それで、何か変わった事は在ったかしら…貴方の『体』に」

「特には何も? 静電気が起こりやすく成ったぐらいですかね? 季節的に空気が乾燥しているからかも知れませんが」

第三者からすれば年の離れた親類とお茶をしている様に見えるかも知れない。お互いに顔には笑みを張りつかせている。明智良哉の笑みは、笑顔とは言えない微妙なモノだが、確かに笑みなのだろう。繰り返しの所為か、いつの間にか感情を表情で表わすのが苦手に成っているのかもしれない。

遠くから見れば微笑ましい光景に見えたのだろう。実際の所は腹の探り合いである。

綺堂さくらは夜の一族の中でも大きな力を持つ家の人間である。現在大きな力を持つのは『月村』『綺堂』の二家だ。昔はまだ在っただろうその存在は、子を残しにくいと言う一族の特色とも言える弊害で無くなってしまった。
特に血の濃い家ほどそうなる。血が濃いからこその『力』なのだが…長寿であり不老とは言えないが若い時間が長いと言うのはそう言った種の滅びを防ぐために適応した結果なのだろう。そして、力にも種類が在る。ソレは物理的に襲いかかってくる暴力の様な解りやすいモノ等を含めて。

例えで表わせば『月村』は技術。『綺堂』は金。

月村はその技術力を持って一族を護り、その存在を隠匿し簡単には手を出せない様な世間的な立場を誰しもがわかる様な『力』を世界に示している。
綺堂はその経済力。一族の利益を追求し、得た金銭を運営し、月村の世間的な立場を強化、補佐する。他にも汚い仕事もする。敵対者を見つけ出し、炙り出し潰す。

月村は社会的な地位を確立し権力を振るう。綺堂は情報を集め、纏め、非日常的な『暴力』さえ使って影から力を振るう。

元々は『氷村』に連なるモノ達が行ってきた事だったが、その家は既に無い。
その為か、暴力という点に関しては些か弱い部分が有るがそれは将来的には解消される。『不破』が既に此処に居るのだ、その家の歴史は日の元の国の裏の歴史を紐解いて行くと明らかに成る。護る為の『御神』が失われて久しいが、『不破』と言う殺す為の刃が少なくとも生きている。

その存在は既に香港からも流れている。さて、月村…夜の一族は少しの時間を無事に過ごせば安泰だ。その筈だったが、突然イレギュラーが現れた。

そのイレギュラーは言うまでも無く『魔法』と言う力を行使する存在だ。其処から発覚した『異世界』とも呼べる世界の数々。此処まで解れば、綺堂さくらの頭は常に最悪を想定する。

つまりは、『夜の一族』の全滅、絶滅。

この世界の中でさえ、非合法の実験は当たり前の様に行われていて、どの世界でも人間は不老と不死を求め、自分とは違うモノに容赦が無い。

全ての世界共通で人とそれ以外の共存とは理想でしかない。この世界の大国で在り、多民族国家でもあるア○○カ合○国でも未だに、肌の違いの差別が在り、州が違うだけでの独特の訛りに対する嘲りがある。人種の差別、言葉の差別、それすらも乗り越えられないこの世界が、一歩も二歩も進んだ技術を持つそんな世界と出会えばどうなるか等は人類の歴史を紐解いていけば直ぐに解るモノだろう。

隷属と言う名の友好か、共存と言う名の戦争か…共存と言いながらも戦争と言う言葉が出てくる事が既にオカシイが、対等に付き合うには何かしらの『力』を示さなければならない。まぁ、今の世界ならば隷属と言う名の友好を行い、技術を吸収し『独立』と言う名の戦いをするのだろうが…ソレはどうでも良い。本当はどうでも良くはないが、そんな先の事は置いておかなければならない。

問題は今だ。今現在の事だ。ハッキリ断言できる。地球のとある国は管理局の存在を『知っている』

次元世界と言うモノを知っているのだ。繋がる、繋がった、繋がってしまった。

少なくとも日本という国はその事は知らないだろう。かの大国も知らないだろう。隣国も知らないだろう。

ならば、何処だ? どの国が知っている? 普通では起きない筈の現象が数多く埋もれている国は何処だ? 其処が妖しい。
説明が付いてしまう幾つかの神話が存在する。未だに解明できない技術がこの世界に存在してしまっている。

周りはこの考えをただの『妄想』と馬鹿に出来るだろう。誇大妄想と言ってしまえばソレで終わりだ。だが、可能性は零では無いのだ。その可能性に気づいてしまったからには考えない訳にはいかない。

次元世界に対する夜の一族のアクションは決まっている。隠匿だ。隠匿しなければならない。それと同時にソレが不可能に近い事も解っている。高町なのは、姪の義妹に成る少女の存在を忌まわしく思ってしまう。最終的にあの子の決断に成ってしまうが、そういう風に成ってしまうのだろう。

技術の流出。この世界でも同じ事が起こっている。先進国から後進国への兵器の流出…一番恐れなければならないのは其処だろう。

だからこそ、少しでも、この明智良哉と言う少年は始末するか、もしくは完全に味方に引き入れなければならない。此処で毒を盛るのは簡単だ。だが、その後が危ない。此処で殺そうと思えば…何とか成るかも知れない。だが、その結果は己の死を計算に入れても低すぎる可能性だ。迂闊な手段は取れない。

だからこそ、久遠と言う存在を使うしかない。

「特に変わりはない…ねぇ」

表情は崩すな。感情を抑えつけ、仮面を被れ!!







明智良哉からすれば、綺堂さくらとの会話はどうでも良いモノだった。ハッキリ言ってしまえば自身の体が外見上人間のソレで在り、見ただけでは解らないほどに『人間の体』ならば、中身がどうなろうが知った事では無かった。

力を得られるのならばソレで良い。謎が解けるのならばソレで良い。月村…夜の一族の事などは心底どうでも良い。ただ、月村すずかの存在が有ればソレで良い。これからのやりようでは人形の様にする事も出来るだろう。今の生命線が月村すずかと言う厄介なモノで無ければこんな会話等する必要も無かったのだ。

明智良哉は月村すずかに因って生きながらえた。

明智良哉の肉体は、月村すずかの『血』に因ってその生命を繋ぎ止めた。

明智良哉には月村すずかの血が多量に注ぎ込まれている。其処から起こる変化は身体能力の一時的な向上、自己治癒力の一時的な向上、身体能力を競う者達にとっては夢の様なドーピング剤だ。だが、問題が有った。久遠との『契り』に加え極度の生命の危険と衰弱。其処からの回復に必要なモノは何処から調達したのか?

調達出来て居ないのだ。体は動く医療の面から見ても問題は見つからないのかもしれない。肉体的な損失はないのだから。だからこそ、血の効力が切れる時にこそ、ソイツは一気に押し寄せてくる。確かに夜の一族の『血』は素晴らしい物なのだろう。

だが、決定的に足りないモノが在る。『栄養』が足りないのだ。夜の一族が優れているのはその肉体なのだ。『血』が優れている訳ではない。久遠の知識を借りて言えばこの効力は『共鳴』や『感応』と言った言葉に近い効力をフィジカルでは無くアストラルより起こすモノだ。

(実際に体験しなければ眉唾物の話だがな…綺堂さくら、厄介だな…)

本来ならば、怪我が治った時点で逃げ出しても問題は無かったのだ…だが、明智良哉は月村邸に居る。それは何故か?

治癒の代償を払えないから此処に居なくてはならない。月村すずかに頼らなければならない。既に、明智良哉の肉体は月村すずかの『血』が無ければ燃料切れを起こすポンコツなのだ。治癒の為に使った栄養が足りない。一日に摂取出来る栄養では到底足りない。数か月以上の時間を掛けなくては成らない。だが、普通にその時間を掛けようと思えば半月経たない内に死が待っている。明智良哉個人としてはソレも有りだ。だが、今生きているからには少しでも先の情報を得たい。

月村すずかに命を救われてしまった結果、月村すずかの血に縛られている。

皮肉な結果だ。その為、万一に備えて月村すずかとは良好な関係を築かなければならなくなり、月村すずかの縁者にも余り悪印象を与え過ぎては成らない。特に、この綺堂さくらと言う人物には気をつけなければならない。

世間で物を言うのは金銭だ。コレは変えようがない。仁徳も在るのだろう。だが、それ以上に多額の金銭は強い。人情に因る絆は確かに堅い、そして強い。

だが、互いの『利』の為に結んだ関係は適度な強さ、柔軟さを持ちその関係を結んだモノの采配で強くも弱くもなる。はっきり言ってしまえば、綺堂さくらの持つその『力』に明智良哉は屈するしかない。彼女の意思一つで、明智良哉は打ち捨てられる事もあるのだ。それ程までに、綺堂さくらの立場は高く強い。

一族の利益を追求する『綺堂』はその気になれば『月村』を当主の座から蹴落とせるだろう。ソレをしないのは個人的な関係に因るモノなのか、そういう風に教育段階で刷り込まれたのか? それを知ろうとは思わない。

「えぇ、右腕以外は特に」

今は、どうやってこの場を切り抜けるか。明智良哉に取ってソレが最大の問題だ

「そう、右腕以外はねぇ…。そう言えば、君はこれからどうするのかな? その異常を抱える右腕を持って」

「どうしましょうか? 俺としては管理局に入る予定にしていますが?」

(…そう言う事か)

「ふ~ん。…ソレがどういう事か解って言ってるの?」

綺堂さくらは先程よりも若干鋭くなった視線で明智良哉に言う。

「少なくとも…今現在、俺を保護してくれている方には話さなければならないでしょうね」

だが、その事は月村忍も許可を出している。その事は、綺堂さくらも知っている。彼女達は其処から先の…自分達の事を話す人物の事が知りたいのだ。予測したいのだ、その対応策を、より最善に近い次善が欲しくて堪らない。不安で堪らないのだろう。

明智良哉はそう予測する。ソレと同時に思う。

(俺達の存在を消そうとしないだけ人道的…いや、慎重なのか?)

明智良哉には知識が在る。ボロボロで薄れて朧に成っていようが知識が在る。未来、そう遠くない未来でも高町なのは達と月村すずか達の関係は良好だった。印象的だった記憶、幸せを強く感じた記憶は意外と薄れては居ないモノが多い。

恐らくは自分を護る為の後者なのだろうが、今と成っては気持ち悪いモノだとも思ってしまう。良くも悪くも印象的な事柄は覚えて居られるが、圧倒的に悪い事の方を覚えている。幸せは慣れれば普通に成ってしまうモノの所為か直ぐに薄れてしまうと言う欠点もある。

記憶の中に存在する朧な光景の中ではクロノさん一家が月村すずかやアリサ・バニングス達と一緒に買い物をしている姿を、クロノさんがダラシナイ顔で話している。子供の服を…と話していた様な気がするが、それもどうだったか…

もう、そのままリンディ・ハラオウンの事をしゃべっても良いのだが…自分の立場を固めておきたい。

明智良哉は考える。自分が知る綺堂さくらと言う人物の情報を集めて考える。今まで何もしてこなかった訳ではない。それとなく情報収集は行っていたのだ。その為、高町恭也とルーダーはその親交を深めたし、月村忍とファラリスも中が良い。互いの趣味が合ったと言うのもあるが…

明智良哉自身も綺堂さくらにはサーチャーを張りつかせる事ぐらいはしている。

その結果、解った事は綺堂と言う家の役割等だ。

(乗ってくれるか? いや、釣れるか?)

「トランスポーターって凄いですよね?」

「…?」


明智良哉と綺堂さくらの間に、契約が出来たのはこの日の夜の事だった。










月も傾き、虫も寝静まった深夜。月村邸のバルコニーで二人はワイン片手にグテーと座っていた。両方とも美人なのだが最後の態度で非常に残念な事に成っている。その二人の名前は、綺堂さくら、月村忍と言う。
二人は血縁上は叔母と姪の関係だが、二人を見て居ると姉妹の様にみえる。
両方に共通しない事は、隅が出来て居るか居ないかの違い。共通しているのはどちらも満足げな表情をしていると言うところだろう。
何かを遣り遂げたという達成感は人に誇らしさを与えるには十分なモノだ。どちらも無言でグラスの中身を揺らしている。その姿には憂いは全くなかった。

「満足そうだけど…何か良い事が在った? 忍?」

年長者だからだろう。綺堂さくらはそう月村忍にそう聞いた。

「もうね…すっごいのよ。流石は異世界!! と、言いたい所だけど…確実に私達……じゃなくて、この世界の一歩以上先を行ってるわ。だからかなぁ、楽しい。本当に楽しい。久しぶりに思い出しちゃった」

貴女の所に厄介払いされてた時の事。そう言い微笑むと、何かに気付いたかのように言う。でも、アンナ物はもう作りたくないわねぇと

月村忍はそう言い、クイっとグラスを呷る。その姿を見ながら「高いのに…」と思うもその姿がらしいと思い。笑みが出る。

「私は見つけ出したわ、私達より、百年後のこの世界の在り様の一つを…結果は幾らでも変わるでしょうけど。でも、私達にとっては最悪に成らない限りの『利益』が在るわ。」

「…一族の利益を追求してくれるのは嬉しいんだけど…さくら姉さんも少しは自分の事考えたら?」

「うるさいわね。私は経理統括よ? 余り私事に構っていられないんですもの…ソレに私は明後日にはドイツに戻る予定よ。」

「あら? あの子の事は良いの?」

「良いも悪いも無いわ。あの子に取って私達は無価値見たいなモノよ。価値が在るのはすずかぐらい…それも、何時までそうなのか…」

「ありゃぁ…どうやったらそう成るのかしら」

二人は互いに溜息を吐いて、同時に言った。

「「すずかも大変な男に惚れたわねぇ」」

そう言うも二人の顔は笑顔だった。


夜は更ける。時が進む。明かりの消えたバルコニー。大きな屋敷の明かりは消える。風の吹く音が静かに雑草を、木々を揺らし微かな音を立てる。
其処に立つ少年は静かに刀を振るう。
出来たばかりの綺麗な刀身。
月光を浴び鈍く光る鋼の輝き。
風さえ切れぬ程にゆっくりと振られる人切包丁。

鞘に納めても音が経たない。

ポケットから取り出した鋼の塊。既にソレは鍛え上げられた一種のインゴット。腰からぶら下がる剣十字が静かに光る。

少年は空を見る。遠い遠い此処では無い遠い景色を見つめる様に。

少年からでは見えない遠い空、静かに紅い少女が飛んでいた。

少年は、液体の入った試験管を自分の目の高さまで持ち上げると、蓋を開け一口で中身を飲みほした。

それはまるで、何かを祝福しているかのような姿だった。




あとがき

どうも、BINです。友人からスパロボ精神コマンドったー成るものをしてみろとメールが届き早速やってみた。

HNの場合

『ド根性、激闘、直感、友情、誘爆』

本名の場合

『直感、魂、再動、不屈、覚醒』


……なあ、これを見てくれ、こいつをどう思う? 











何だか今日は調子がいいきがする。






[5159] A'sの四(2010.06.12修正)
Name: BIN◆5caaab55 ID:784a3ac9
Date: 2010/06/12 01:33











考える。事件は毎度の如く、頭を悩ませる。一番厄介なのは其処等にある様なミステリー小説の様な事件だが…今回の事件はそうではない。

リンカーコア保有生物の衰弱。死んではいない。ただ、極端に弱っている。だが、ソレは自然界では死に繋がる程の危険性を孕む被害に遭った生命体には重大な事件だ。

勿論、自分がそんな動物達に無償の愛を寄せる様な博愛主義者では無いと言う事は理解しているし、互いが理解しあえる様な存在に対しては甘いと言う事も自覚している。

今回の事件は、一言で言えば嫌なのだ。

其処に、自分の過去が関係しているからかもしれない。あの事件…父が死んだあの事件からもう、十一年の月日が流れた。だからこそだろう。その確信が在った。その可能性が高かった。母もそう考えているのだろう。いや、確信しているのかもしれない。

被害に遭った生物は例外なく衰弱していた。その衰弱の仕方も共通していた。まるで、魔力を抜き取られたかのように弱っていた。リンカーコアの衰弱と過度な疲労。其処から起こる魔力制御の負担。
リンカーコア保有生物…俗に言う魔法生命体は日常的に魔法を使う。日常動作に不備…もどかしさや痛み、尋常じゃない倦怠感を覚えればそれは途轍もないストレスを感じる事だろう。


情報を閲覧し、共通点を探し、目撃情報が無いかを調べると見つかった共通点は被害に遭った魔法生物達は少なからず魔力ダメージ・物理ダメージ…兎に角、何らかの戦闘行為が行われた事だ。
傷の具合からして、最低でも二人…最高三人、否、四人程で行われているのかも知れない。裂傷に打撲が見られるが、打撲に関してはその面積の違いから鈍器の様な物と魔力で強化された拳に因るモノでは無いかと推測する。

さぁ、現実逃避もそろそろ止めよう。執務管として、正解に近いかもしれない答えを持っているなら口に出し現実を見つめよう。

「…闇の書」

それ以外には、自分では考えが付かない。だが、それは何時かは起こりえる事件だったと納得している。ソレの先駆けかも知れない事件の担当に成るとは思ってもみなかった。少なからず望んでは居たが実際にそうなると戸惑いが在る。
父の仇を取りたい…とは思って居ない。今の僕には執務官と言う役職が、立場がある。私情を挟むわけにはいかない。父の仇を取るのではなく、被害を最小限に止めなければならない。闇の書が起動するのは今回が初めてではないのだ対処法はある。
しかし、その対処法も最後の手段と言っても良い方法だ。だが、今の所ソレしか対処法が無い。その判断を忌避する気持ちが在る。だが、僕はその対処を行った先達達に尊敬の念を覚える。

覚えるが行いたくない。出来るのならば死人は出したくない。そう思う。今の儘ではいけない。新たな対処法を模索しなければならない。立ち止まってはいけない。

無理かもしれない。僕では思いつかないかもしれない。今回の事件では無理なのかもしれない。それでも、動かなければ何も出来ない。行動しなければ何の結果も残らない。

「エイミィ、至急無限書庫の司書に連絡を入れてくれ」

「了解…でも、決まった分けじゃないから徒労かも知れないよ?」

エイミィの言葉に確かにと思う。だが、しなければならない。これまで何もしてこなかった自分を殴ってやりたい。コレは最低でも僕達がしなければ成らなかった事だ。今まで見て見ぬふりをして来た僕の怠慢だ。

「それでも良いんだよ、エイミィ。コレは元々僕が…僕達が調べて、調べ続け無きゃ成らない事だったんだ。」

「でも…」

「僕は『遺族』だ。闇の書を憎み、怨み絶対に許さずに破壊してやると思っているし出来る事ならそうしたい。僕以外にも大勢居る筈だ。でも、僕は『執務官』になった。任務に私情を挟んではいけない。そして、執務官ならば―――」

そうだ。僕は、だからこそ成りたいと願った。目指したんだ。

「救わなければならない。多くの見知らぬ人を、その笑顔を。出来る事なら『闇の書』を封印し、その力を使用して悪事を働く者に法の裁きを受けさせなければならない。」

自分に取って都合の良い『理由』に逃げては成らない。都合の良い『思い』に逃げては成らない。現実は、世界は何時だって厳しいんだ。こんな筈じゃ無かった事ばかりなんだ。ソレを嘆いて良い。でも其処で立ち止まったら、蹲ったままでは駄目なんだ。

何よりも、年下の少年少女が辛い現実から目を逸らさずに生きている。

何よりも、此処で逃げたら恥ずかしいじゃないか






フェイト・テスタロッサは第三者から見ても上機嫌だった。その理由はこのアースラ乗務員ならば知っている。

友人に会える。

それも、自分を救ってくれた友人に会える。しかも人生で最初の友達とくれば嬉しさは途轍もないレベルのモノだろう。

乗務員達は揃って、そのワクワクウキウキソワソワしたフェイトの姿を生温かい視線で見守りながら微笑ましい気持ちに和んでいる。
一方、そのフェイトの使い魔であるアルフはその生温かい視線に気づいて微妙に居心地の悪さを感じているが…

「…(にぱぁぁ~)」

主の笑顔を見てこれで良いかと思ってしまい。なんだかんだ思いながらも尻尾が揺れている。
自室では手製の人形を抱きしめてゴロゴロしたり、人形と対面して挨拶の練習をしたりしているのを見て居るので何かもう恥ずかしいとか思うのも馬鹿らしく成って来ているのが現状だからだ。

アルフは知っている。フェイト・テスタロッサに取って高町なのはがドレだけ大切な存在なのかを。

アルフは知っている。明智良哉と言う存在がフェイト・テスタロッサに取って最悪の衝撃を与える可能性を孕んでいると言う事を。

アルフは知っている。フェイト・テスタロッサに取って明智良哉は一種の憧れなのだと言う事を。

アルフは考える。明智良哉と主であるフェイト・テスタロッサの関係の危うさに付いてだ。
考えるまでも無く、フェイトは明智良哉の事を友人だと思っている。周りもそうだろう。リンディ、クロノ、エイミィ達だってそう思っている。
だが、一度も…明智良哉がアースラを降りる時に成っても明智良哉はフェイトの事を名前で呼んだ事が無い。そして、『友人』と言った事も無い。

そんな事を考える。明智良哉は危険だ。人一人の人生を狂わせる事が出来る程に危険だ。
勿論、その人一人と言うのが、高町なのはとフェイト・テスタロッサの事を指しているのはアルフの中では絶対だった。二人は確実に償おうとする。
だが、明智良哉はソレを拒むだろう。要らないと言うだろう。無駄だと言い切るのだろう。そんな確信が在った。だがしかし、フェイトは明智良哉と高町なのはとの再会を望んでいる。
それは、高町なのはも変わらないだろう。だが、明智良哉は望んでもいなければ拒んでも居ないのだろう。
あの少年は、フェイト・テスタロッサと高町なのはに其処までの興味が無いのだと思う。例外はクロノ・ハラオウンとユーノ・スクライアだろう。前者は単純に尊敬している様だし、後者は何かを相談し合うぐらいの関係があるようだ。

これを不公平と糾弾したくなるが、同時に有難いとも思う。あの少年の心使い一つで、フェイトは、自分の愛するご主人様は自己嫌悪に陥る。償いを拒まれさらに堕ちるだろう。もう一人の少女もそうだ。
自分はどうすれば良いのだろうか? そう考えても答えは見つからない。取りあえずは現状維持が次善なのかも知れない。出来れば距離の調整を行えれば尚良い。

アルフはそう考えると、溜息を吐いた。





高町なのはの夜は、それなりに遅い。否、遅くなった。
無力な自分が許せない。何も出来ない自分が許せない。そう言った想いがそおの原因だった。早朝からの魔法の訓練。今では空き缶を宙に弾き続ける事が百以上出来る様になった。
日々更新されるその記録は確かな自信を与えてくれる。
力が有れば必要とされる。有能であれば評価される。他者から認められ、その価値を知る事が出来る。

小難しく、知った様に行ってしまえばこんな理由である。

だが、彼女はソレを理解していない。幼い頃のトラウマの様な日々がその原因なのだろう。当時、幼い高町なのはには構ってくれる存在が居なかった。
高町士郎は重傷を負い長期の入院。翠屋はまだ軌道に乗っておらず、高町桃子は家を開ける事が多い。高町恭也は余裕を無くし己を鍛える事に集中しようにも、日々の生活を送る為に父の愛した女性を護る為にも否応なく店を手伝うと言った状況だった。
高町美由紀も同様だ。母と呼ぶには何かが違く、姉と呼ぶには離れすぎた年齢の桃子との距離を測りかね自分で手一杯だった。

自然と、高町なのはは理解した。己には何も出来ない。ただ邪魔に成る。それは嫌だった。自身で考えた末の結果だったのかもしれない。己の心を護る為の未熟な防衛本能が働いたのかもしれない。彼女はおとなしい子だった。
誰の邪魔もしない。家族の邪魔はしない。嫌われれば今居る僅かな隙間しかない自分の居場所さえ無くなってしまうかもしれないと思ったからだろう。
自然と掛かった重圧はその形を歪ませた。自分の事は自分でする。自身が出来る範囲で自分の事は自分でする。彼女の世界は小さかった。それは仕方が無い。
人の世界とは関わり合いで大きくなっていく。最初に認識する世界とは家族だ。その家族から嫌われると言う事は世界が敵に成ると言う事だ。それは恐ろしい。

もしかしたら、それは幼く未熟な自己主張だったのかもしれない。

自分は良い子だから、もっと自分を見て欲しい。

結末として、高町士郎の退院という幸せな結果があり、少しだけその歪みは修正されたが大きく歪んだ部分はそのままだったのだ。

誰かに必要とされたい。誰かに頼られたい。誰かの為に何かをして上げたい。
どれもが人が持つ正しい感情で在り、どれもが生きて行く上で現れる欲求である。ソレは愛故に必要として欲しいのかもしれない。ソレは自身を持ちたいが為の欲求なのかもしれない。ソレは、とても素晴らしい博愛精神の表れなのかもしれない。


故に『良い子』


故に『善人』


故に、ソレを知ってしまえば純心では無くなり、勿論無垢でもない。それは、人の感情なのだからそのドレもが素晴らし良いぐらいに、美しいほどに醜い。


高町なのははそんな事などは一切知らないし、気づいても居ない。否、気づけないからこその歪み。

そんな少女を此処まで狩り立たせる『悪夢』が、本来ならば在り得ないモノ。

高町なのははそんな事は知らない。世界でさえそんな事は知らない。だからこそ、その悪夢は事実であり、超えるべきモノであり…だからこそ、高町なのはソレを乗り越える為に前へ、前へと進む。

そして、そんな時だった。高町なのはの周囲が結界に包まれたのは。

レイジングハートは己の失態を呪った。この世界には自分の主以外に魔法を使う生物が居ないと思っていた。少なくとも高町なのはが住むこの海鳴には居ないと思っていた。
それもそうだろう。此処は管理外世界であり次元を渡る技術がない…魔法が無い世界なのだ。当然、この世界の殆どの人間にはリンカーコアは無い。魔法が無い故にデバイスも無い。
それ以前に魔法を扱う術が無い。

それが、レイジングハートの持つ世界の常識だった。ソレを覆す結果が今の状況。咄嗟の判断だったのだろう。高町なのはは家から文字通りに飛び出し空を駆け、迫りくる脅威を見つけ出した。

最初に行うのは接敵では無く逃走。

当たり前の事だが、高町なのはに自分が攻撃される理由が無い。思いつかないし、先ず追いかけてくる紅い少女に会った事も無いのだ。
戦闘のプロでも無く実際に戦いの経験も少ない少女が逃げるのは当然だった。
そして、解らないからこそ知りたくなる。コレがもし誤解から来る悲しい擦れ違い成らば話し合いで解決出来る。そういう希望が出てくる。ソレが実現すれば互いに傷つかづに済むし、何かが在るのならば協力できる。
少し過去の話。フェイト・テスタロッサと解りあえたように…

現実はそんな夢物語の様な美しいモノでは無い。常に終わり方は綺麗でない事の方が多く、美しく終われた過去の事が奇跡に近いものだと言う事を高町なのはまだ知らない。
当たり前だろう。社会に出る準備も出来て居ない、義務教育課程すら終えて居ない、人の醜さも、ソレが在るから美しく見えるモノさえも知らない。唯の少女には理解できないモノの方が多すぎるのが現実であり、社会である。
人は少しずつ成長する。それは、人付き合いからか、勉学からか、世界情勢からか、人それぞれだが少しずつ世界とは社会とはそういうモノだと漠然と知って行くのだ。

大人に成ると言うのは汚れる事だと誰かが言った。ソレもまた事実だろう。

成長とは必ずしも良い事では無いと誰かが言った。ソレもまた事実だろう。

進化とは常に素晴らしい事では無い。個人にとっては必ずしもそうではない。

『識』とは必ずしも、良い事では無い。それもまた事実だ。

成らば自分は子供で良いと物語の主人公等は声高らかに言うだろう。

ソレは間違いだ。何処かは子供の儘でも良い。しかし、必ずどこかは大人で成らなければならない。ソレが出来ないのならば害悪でしかない。

高町なのはは今はソレで良い。夢に生き挫折を知れば良い。それでも諦めずに進む事が出来るのならば、ソレは成長だ。過去に学びどうすれば良かったかを振り返る事が進む為には必ず必要だからだ。
後ろを振り向く事が出来るのは強さだ。そして、再び前を向く事が出来るのも強さだ。

高町なのはは紅い少女に問う。逃げに逃げた夜空の終着は良く知る町のオフィス街だった。既に結界に包まれた其処は檻だった。この、紅い少女が張ったのか…それとも別の誰かが張ったのかは解らない。
レイジングハート。高町なのはの相棒は伝える。

敵性反応は目の前の少女のみだと。

希望観測。良い言葉だ。ソレは文字通りに希望を与えてくれるとても都合の良いモノだ。誰だってそうで在って欲しい願うモノだ。だからこそ気をつけなければならない。それこそが自身が自身に仕掛けてしまった罠なのだから。

(動きを止めて…話し合う!!)

紅の少女が振り下ろしたハンマーをラウンドシールドで受け止める。防御の堅さには自信が在った。自分が最も得意とするのは遠距離からの攻撃。相棒からも言われていた。だからこそ、護りを固めなければならないと。

それは今までの努力の賜物なのだろう。以前の儘で有れば高町なのははこの一撃で意識を刈り取られていたかもしれない。

「チッ、案外堅い」

紅い少女はそう言うと、直ぐに体勢を整える。其処には空白が生まれる。言葉を挟むのなら此処だろうと高町なのはは思った。

「待って!! なんでこんな事をするの?! 」

疑問の提示。紅い少女は普通に答える

「魔力が必要なんだよ。それだけ…だっ!!」

接敵、瞬発力の在る直線的な軌道。距離が有れば良かった、今回は運が悪かったとしか言いようが無い。今の高町なのはに避けれるだけの余裕が出来る距離では無かった。

振り下ろされる鉄槌。だが、これなら防げる。一度防いだ、ならば次も…頭の中では既にバインドを使用しての拘束までのビジョンが見えて居た。

「アイゼン!!」

『Ja!!』

カシュっと何かが排出されるのを高町なのはは見た。突然膨れ上がる魔力。

(なんで、突然魔力が?!)

接触。発光。明滅。破砕音。次の瞬間、高町なのはは吹き飛ばされた。



「悪りぃな……そのまま動くなよ? 命まで取りはしないから……」

「う…ぁ…」

ソレは恐怖なのだろう。打ち破られた魔法。罅の入った相棒。自分一人しかいないと言う状況。

(ユーノ君…フェイトちゃん…クロノ君…リンディさん…誰か…)

だからこそ、願う。唯一高町なのはの歪みが少し正された部分。誰かに少しだけ頼れる様に成ったという些細な事。だからこそ、ソレに答える友情が、絆が其処には在った。

「誰だ、お前? 」

なのはは夢じゃないかと思った。望んだ姿が其処に在った。願った人が其処に居た。

「次元管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ」

「ユーノ・スクライア」

「「高町なのはの友達だ!!」」

閃光が紅に衝突した。








ヴォルケンリッター・ヴィータは空を飛ぶ。彼女は、正確には彼女達は主である少女を救う為にその少女との約束を破っている。その事に罪悪感を覚えるが、彼女達だけが世界に生きるのと彼女の主と一緒に世界を生きるのでは意味が違ってくる。

幸せ

ソレを与えてくれた少女を見捨てる事など出来はしない。

ヴィータは空を飛ぶ。探し物をしている。探しているのは二つ。高い魔力を持った生物と明智良哉。どちらかと言えば後者を見つけたいと言う思いの方が強い。
発見次第、速効で蒐集し動けなくする。そうすれば、暫くは動けなくなるからだ。その間に闇の書を完成させてしまえば良い。また其処から始めようと少し前に決めたのだ。少し前と言えば頭に引っかかる記憶が在る。
シグナムとの模擬戦の後の食事の時に何かを話した筈なのだが、殆ど覚えて居ない。何か重要な事を話したと思うのだがソレが思い出せない。もしかしたら、思い出すまでも無い様な下らない事なのかも知れない。

「…まぁ、良いか。それよりも…この辺なんだよなぁ」

時々感じる強い魔力は眼下の下にある公園から感じるモノだ。と、断言するには些か範囲が曖昧過ぎるがこの公園から在る程度の範囲にその魔力を持った人間が居るという可能性は高い。

そうと成れば話は簡単だった。炙り出せば良いのだ。幸いな事に方法があり、最悪な事に時間が無かった。大きな反応を残さないように素早く結界を張っては消し張っては消しを繰り返す。繰り返す事七回目、ヴィータは運が良いと喜んだ。
そして、此処からが時間との勝負だとも理解していた。直ぐにでも蒐集を行おうと相手の意識を刈り取る事に集中するが、相手もそれなりに経験を積んでいたらしい。逃げる速さも中々のものだ。
もしかしたら、あの明智良哉が戦っていた居た様なモノとの戦闘経験が在るのかもしれない。その可能性が在るかも知れないと意識し、追撃を行う。

予め、幾つかのポイントに罠を張っていたのが正解だった。シャマルに感謝しなくてはと思い、相棒を強く握る。

振り下ろし、撃ち落とす。

確かに守りは堅かったが抜けない訳ではない。つまりは、その程度だった。

カートリッジを一つ消費して結界を破壊。そのまま、白い魔導士に一撃を喰らわせてやるが中々に主思いなデバイスを持っていた様だ。攻撃の軌道上に己の身を乗せて主を庇うとは…あっぱれだ。
心苦しい…そういう気持ちは在る。だが、それは今は捨てなければならない感情だ。だからこそ、白い魔導士の質問に素っ気なく答える。
蒐集しようと近づいてみれば、新たに現れた魔導士二人。管理局と言う名に警戒を深めるが新たに現れた黒い魔導士は速かった。先程の白いのとは比べ物に成らない。もう一人の魔導士は白いのの治療を行っている。
もし復帰されれば自分一人では危ないかもしれない。

白いのに視線を一瞬向けたのが間違え立ったのだろう。黒いのは一瞬の油断も無く、アタシの背後を取り、一瞬の躊躇もなくその大鎌を振り切った。

前に進み何と直撃を避ける。だが、僅かに遅れてしまった回避行動の所為で帽子に少し掠ってしまった。その事に怒りを覚える。不意に嫌な予感がした。背後に障壁を展開。僅かに間に合わず魔力スフィアが直撃した。







その戦いを見て居た。ただ、見て居た。遥か上空に設置されたサーチャーがその姿を見えない左目を通して見せて居た。
始まった。それが明智良哉の思った事だった。介入する意思はあるが、条件が揃っていない。ヴィータだけでは駄目なのだ。あの場にもう一人欲しい。倒す為で無く、知らせる為に欲しいのだ。
情報は武器だ。知らせたいのだ間違った情報をヴォルケンリッターに。

此処で一人打ち取るのは簡単だ、テスタロッサ、高町、ユーノ、其処に自分も加われば捕縛出来るだろう。だが、他の騎士が現れた場合の奇襲・強襲。もし、ソレを受けた時に防げるか防げないのか。拘束が破られた時のヴィータへの対処。

その辺りの事を考えれば介入するのは少し早い。せめて、あの場にクロノ・ハラオウンが居れば良かったのだが…
そう思いながらただ見続ける。どうやら仲間が現れた様だ。

「御丁寧に全員集合か…シュベルト捕縛の見込みは?」

『20%を切るでしょう。ヴォルケンリッター一体一体の強さも有りますが真に恐れる所が在るとすればチームワークではないかと…』

その通りだ。盾の守護獣の守りは堅く。湖の騎士の頭は切れ、鉄槌の騎士の突貫力は凄まじく、剣の騎士は純粋に強い。

「…クロノさん達は?」

『通信出来ました。囮を申し出ましたが…問題は無いですね?』

「御苦労。それでは往こうか…久遠」

「くぅ!!」








突然の通信にアースラスッタフは少々驚いたものの、その発信元が知る人物だと解ると直ぐに艦長であるリンディ・ハラオウンに指示を仰いだ。

「良哉君ね…何てタイミングの良い…」

「出来ればもっと早く現場に出てて欲しかったなぁ~何て、私は思うんだけど。クロノ君はどう思う?」

「どうもこうも無いだろう? 慎重で良いと思うが…コレは相手が複数人かもしれないと言う可能性を考慮しての事だろう。
良哉の眼からして今の儘でもフェイト達の勝機方が高いと考え、仲間の割り込みが有ればその時に介入する…妥当だと思うが? 艦長」

「えぇ、良哉君にはこのまま動いてもらいます。クロノ執務官、現場で合流しだいに魔導士の捕縛をお願いします。各武装局員は結界外の捜索と、ルーダー・アドベルト、ファラリス・アテンザに連絡を」

「「「「了解。」」」」








と、言う訳で短いながらも二つ目。今はこの程度が限界か…お休み

そう言えばですが、二週間ぐらい前に久しぶりにナルトを見てその後からエヴォリミットをやり思った。シャノンが長門に見えてイロイロ台無しだと
ちなみに、置き場が無いではシャノンルートが一番好きですよ? つーか福山の兄さん大好きだ。CD買っちゃったZE!!



[5159] A'sの5
Name: BIN◆5caaab55 ID:784a3ac9
Date: 2010/07/03 21:15







ヴォルケンリッター・シグナムはつい先程ビルに叩き落としたフェイト・テスタロッサを上空から見下ろしながら感じて居た。性的な意味では無い。本能という部分で漠然と感じて居た。


見られている


だが、どんなに周りに探りを入れても一向にその正体は解らない。サーチャーでは無い。結界内に自分達のモノ以外は存在していない。その事はシャマルに念話でも確認した。
しかし、どうにも気に成る。結界の外からは見られてはいない筈…シャマルが妨害しているのだ。次元管理局嘱託魔導師と名乗った少女が居たことから嗅ぎつけられた事は解っては居たが、どうも違う。
管理局の者が見て居るのならば納得は出来る。それでも、細かには見れない筈だ。だが、自分が感じる視線は確実に自分を捕えて居る様に思える。

(何処から…)

誰が見て居るのかは大凡の見当は付いている。明智良哉だろう。だが、あの少年が此方の戦力を知っているとは思えない。その片鱗を味わえたのはヴィータだけだろう。ならば、この視線は何なのか?
もしかしたら、あの少年の近しい者が以前の自分達を知っているのかも知れない。そう考えると明智良哉の近くに居た男の魔導師が居る事を思い出した。案外ソレが当たりなのかも知れない。
そうと成ると、一番最初に狙うのは誰だろうか? 視線を感じる自分が居るのだから、自分なのだろう。

(私かシャマル…どちらを狙うか、十中八九私なのだろうがな…気づけた事が救いか)

もっとも弱い者か、強い者のどちらかを潰す。弱点を強く叩くのは当たり前だし、強い駒を潰すのも一つの手だ。前者は此方の士気を崩すには持ってこいだし、あちらの士気向上にも繋がる。後者も此方の士気を崩すには十分な選択だ。

自分ならどうするだろうか?

必然的にソレが答えの様な気がする。眼前を見れば少々疲労したフェイト・テスタロッサが私を見て居た。ふむ、中々に良い魔導師だ。太刀筋も良いし未だに諦めて居ないあの目も良い。
惜しいなと思う。後数年も研鑽を続ければ以前のシグナムと良い勝負が出来るだろう。戦いの中で成長する様な天賦の才が在るとするのならば今ここで行動不能にしておくべきなのだろうが、ソレは解らない。
解るとすれば次に戦う時なのだろうが…それも解らない。既にシャマルには逃走の準備を擦る様に指示しているが、シャマルの事だ一人ぐらいは蒐集する算段をしているのだろう。
その為にも、時間は稼いでおいた方が良い。

既に相手の名前はヴィータから聞いているが、改めて聞いた方が気分は良い

「良い相棒だな。貴公、名は?」

「フェイト…フェイト・テスタロッサ。この子の名前はバルディッシュ。貴女は?」

「良い名だな。我が名はシグナム。ヴォルケンリッターが剣の騎士にて烈火の将。我が愛剣の名はレヴァンテイン!! 問おう、此処は一度引いてはくれないか?」

答えは聞くまでも無いのだろうが…時間稼ぎには成る。何よりも、若い才能を潰してしまうのは嫌だ。

そんな時だ、悪寒が私を貫いた。

「ッ!! 紫電―――――」

振り返る勢いそのままに、私は全力でソレを薙ぎ払った。

「――――一閃!!」

閃光に衝突。痺れる右腕。強い衝撃が腕を通して体に伝わる。打ち払う心算で全力で薙いだ私の一撃は、その衝撃により私自身が弾かれる事でその成果を見せた。

右腕の感覚が無い。痺れは在った。だが、動かそうにも痺れが邪魔をする。良く見ればレヴァンテインにも亀裂が幾つも奔っていた。眼前を見る。この異相結界内でモノを幾ら壊そうが元在った場所には何の影響も無いから良いが…

倒壊しているビルを見ると怖気が奔る。更にその攻撃が在った場所は抉れ、クレーターが出来ている。砲撃? 否、アレは…

其処には当たり前のようにあの少年が居た。瓦礫に刺さっている槍を掴みさも当たり前のように言い放つ

「初めましてベルカの騎士。此処で終わってくれませんか?」

「初めましてベルカの戦士。逆に貴公が此処で果ててはくれないか?」


やはり、お前はそうなのだな。明智。










どんどんと近づく月に思う。

なぜこんな事に労力を削がねばならないのかと。

思ってみたが、結局は自身の目的の為なので苦笑しか出て来ない。そんな下らない事を考えて居ると、目的のポイントを過ぎて居た。肩に乗っている久遠が心細そうにかぼそく鳴いた。

「…大丈夫だ。」

「クゥ…」

まるで怖がっていないと訴えるかのように首を振る久遠を見ると、其処ら辺にいる様な子供を連想してしまい可笑しくなった。そして、自分も年齢的には大して変わらない事を思い出すと余計に可笑しくなった。

「久遠、何をすれば良いか解るな?」

(お手伝いと援護。それと支援?)

「あぁ、正解だ。」

「クゥ♪」

得意そうに尻尾を振る姿は愛らしいのだろう。そんな久遠が実はとんでも無い威力の攻撃が出来ると知れば、知った人間は嘘だと思うに違いない。それ程のギャップがある。
その久遠のサポートが無ければ今の明智良哉では、右腕の力を十全に発揮出来ないのだから情けない。

シュベルトを構える。幅広い突撃槍から徐々に細身に成って行く。柄よりも大きかった刃はどんどんと縮まり短くなる。刃の全長はおよそ30㎝、幅は柄と同じ程度の大きさ、全長は約2m。

最初に纏っていたのはミッドチルダの魔導師らしい服を意識したBJだった。ソレが少しだけ変わる。軍服の上からコートを羽織っていた形から軍服にコートが絡みついた形になっていた。その姿はライダースーツを着て居る様に見える。

顔を隠す仮面も無ければ、体の各部位を護る為の甲冑もない。

『Anfang』

槍がそう吐いた。パキっと槍頭が割れる。中心から割れ、更にその二つがまた割れる。現れたのは四つ叉の槍。その中心に在るのは槍頭の無い短い突起のみ。

「久遠、頼むぞ?」

(久遠、頑張る!!)

魔力刃が形成される。ソレは中心から伸びた。周りの槍頭よりも少しばかり長いソレは徐々に長さを増しデバイスと同じ長さに成る

『Kompression』

デバイスがそう吐くと魔力刃は最初に形成された時の半分以下の大きさに成った。再び、その槍頭は伸びる。

『Kompression』

繰り返す。何度も、何度も何度も何度も。何度も繰り返す。既にその術式では無理なのだろう。圧縮された魔力はその強固な外殻を突き破り漏れだそうする。

『Vermischung…Sperrung.』

続けよう。右腕から異音が連続して起こる。久遠が右肩の上で毛を逆立てる。

右腕から異音が連続して起こる。右腕が熱くて仕方が無い。

右腕が異音を連続して放つ。右腕から何も感じなくなった。

『gemischter Chor. Ausklang』

「Eine schrittweise Ende」
「轟き、奔れ。祖は我が欠片也」


『Durchbohren, Werfen.』

「ブリューナク」
「轟雷閃衡」

魔力と霊力は似ている。明智良哉と久遠の考えた結末。その二つは酷く似ている。氷村との戦いで解った事だ。久遠は最初から確信していた事だが、明智良哉が魔力を『圧縮』する事に長けていなければひたすらあの時間を繰り返していた事だろう。
魔力と霊力の違いはその大きさだ。この世に在るモノ全てには形が在る。ソレが認識できるか認識できないかの違いだ。全てが形は違うが小さな塊で出来ている。霊力はその粒が小さく結び付きも小さいが内包する力は魔力と同等かそれ以上のモノであり。
魔力は霊力よりもその粒が大きく、内包する力は同等かそれを下回りその結び付きは霊力よりも強い。
元からリンカーコアから精製…正確には蓄積し害の無い様に加工する内臓器官でありそれは肉体が死んでしまえば当たり前のように動かなくなる。肉体が生きて居れば問題なく機能するが…は生きて居ないと使えないモノだ。
霊力は生きて居ても死んでいても使えるモノだ。其処にその存在が在ると言うだけ使えるモノだ。最初にその力の認識、使える程度の容量が在るかの問題もあるがそういうモノだ。

魔力を人が使うには生きて居なくてはいけない。命が無ければ使えない。そして生体エネルギーの一種でも在る。リンカーコアに蓄積、加工された瞬間からそういうモノに成る。
そして、その下地には霊力が存在する。大きさは関係なく生物には全て微弱ながら霊力が存在する。
だからとは言えないが、この二つは相性が良い。良すぎるのかもしれない。霊力は魔力からの影響を受けにくい。魔力もそうだがその分、霊力と比べると他の力に影響されやすい。霊力は重力等に僅かながらの影響を受けるがその他の影響を受けにくい。その為か魔力を持って霊力を打ち破ろうとする普通の儘では殆ど影響を受けない。擦りぬけてしまうかのように手ごたえを感じれない。
故に魔力をギチギチに圧縮し魔力を構成する小さな粒を壊してしまうぐらいに構成の隙間を潰さなくては成らない。霊力が魔力を擦りぬけれないくらいに堅めてしまわなければ影響を与える事は出来ない。

明智良哉がとった行動は、その堅めた魔力の内に後天的に備わってしまったモノを久遠のサポートで詰め込むと言う事だった。


話は変わるが魔導師には個人でそれぞれの特徴が在る。人間なのだから当たり前の事だが。その中でも一番に上げられるのはスキルだ。それも固有スキル。レアスキルと呼ばれるモノが上げられる。
その次に上げられるのが体質。魔力変換体質と呼ばれるモノだ。コレは魔法を介さずに魔力を自然に他の現象に変える事が出来る体質を持つモノの事を言う。フェイト・テスタロッサの雷等がそう。しかし、魔法式を通すという一手間を加えれば適性しだいではできるのでアレば便利というのが一般の考えである。
しかし、コレはアレば良いな程度のモノではない。一手間掛ける時間を省ける分、速く行動を行えると言う事で敵対する者からすれば堪ったものではない。その分ロスが無いのだから隙が出来にくい。

明智良哉が後天的に得た資質はコレに近い。そして、酷く扱い難い。現状では久遠がいなければ本来の力を発揮出来ない上に自身では静電気程度の威力しかない。それ以上を出そうとすれば何が起きるか解らない。
自爆覚悟でするにも博打の要素が高すぎる。
しかも正確には久遠が居れば良いと言う話ではない。接触していなければならない。肉体的でも精神的でもどちらでも良いがこの二人に関して言えば後者は無理なのだ。根本の存在が違い過ぎる為にどちらにも悪影響を及ぼす。
契りはしているがアレとは別の意味での接触が必要なのだ。さらに言えば夜の一族の血の影響が在る為、その契りからの発展系の契約を出来ないでいるのが現状である。
明智良哉は久遠を抱えたまま戦闘を行えるほど強くはない。久遠がどうなっても良いのなら出来るが、久遠に無いかが在ると自身の右腕がどうなるかも解らない。故にヴォルケンリッター等の古兵との戦闘は無理なのだ。

そして、明智良哉がシグナムよりも優れているのは今この状況のみであり。この攻撃は奇襲。そして、この奇襲で一定の結果を残せなければ辛い持久戦しか残っていない。


つまりは、全力で最大の威力を誇る攻撃が出来るはこの一回きり。

そして、その攻撃はシグナムに逸らされてしまった。腕一本を一時的に使えなくする事には成功したが全てを見せるには早すぎるのが今だ。何よりも、過去でその奇襲と限定条件下での全力で引き分け。気が重たくなるのを自覚しながら明智良哉は口を開き簡単な言葉をシグナムと交わした。







アースラのブリッチではリンディ・ハラオウン含め、スタッフ全員が一瞬茫然とし手を止めてしまった。明智良哉の取った行動にも驚くには驚いたが動けないほどでは無かったが、問題はその威力に在る。
アースラスタッフ。それもブリッジに詰める職員は在る程度は明智良哉の事は知っている。特にリンディとエイミィは知っている。明智良哉の魔力値は当然知っている。自分達が知る限りではAAA-。ソレが魔力だけを見た場合の明智良哉の評価だ。

「ハハハ…艦長。良哉君の今の魔法何ですが威力的に見ればS-なんですけど…」

「理論上は可能よ。条件が有るけど少なくともあの子なら可能だわ。なのはさんのもそうだけど…この子の圧縮技術もとんでも無いわね…クロノったら、あの短い期間で一体どこまで詰め込ませたのかしら」

一目見ただけでどのような技術を使っているかを言い当てるリンディの目にもエイミィは驚くが、それ以上に驚いている人物が別の場所から結界内に突入した。



「いや、入るの楽に成ったけど…アイツ奇襲かけたな?!」

ルーダーはそう言いながら結界内に突入し、直ぐに障壁を張った。

ビキリと嫌な音が聞こえた瞬間にバックステップし、後ろに跳ぶ瞬間に魔法を解除する。一瞬、支えを失った襲撃者がバランスを崩した隙にその後ろからアルフが殴りかかる。

「貰った!!」

「?! 危ねぇ!!」

「シッ!!」

襲撃者はバランスを崩した儘、踏み止まる事はせずに前に倒れこむ。自分から飛び込むように前に…否、地面に跳ぶ。突きだされた両手が己の体重を支えれる様に。ルーダーの警告は僅かに遅く、アルフは顎に踵が当たるのを防ぐ為に首を逸らす。

ピッと頬に掠り、其処が熱を持つ。

(行ったん引くか?)

その選択肢が頭に浮かぶが、眼前を見ればソレが出来なかった。顎を狙った一撃は完全にフェイクだった。本当の狙いはルーダー・アドベルトだった。
ルーダーは襲撃者のアッパーを両腕を交差する事で受け止めたが余りの威力に体が撥ねあがった。

(チィ!! アタシは眼中に無いってかい?!)

アルフはルーダーの援護に行こうとしたが辞めさせられた。上空へ撥ねあがったルーダーが爛々と光る眼でアルフを見て居たからだ。その瞳が言っている。

其処に居ろ

その顔には余裕が見えた。其処で冷静に成る。翌々考えれば魔力強化されているとはいえ、BJを纏ったAランク魔導師を打ち上げられる筈も無い。

「…悔しいけど、アタシより隊長さんの方がやっぱり適任か…」

アルフは動く事無く二人の様子を観察する事にした。ルーダー・アドベルトが何をしたいかが解っているからだ。此処まで来て何をするかが解らない様な低能ではない。2対1のこの状況。巧く隙を見つけてやろうじゃないか!!

即席のコンビが此処に生まれた。




空を駆け、ビルの屋上に降りる。その事から、相手が何を望んでいるのか襲撃者…ザフィーラは直ぐに理解出来た。まぁ、己に武装が無い事も関係しているのだろうが自分が一番得意とする領分を選ぶとは…好感が持てる。
ザフィーラはそう思った。

「自分で飛んで威力を殺したか…戦い慣れてるな。名は…何と言う。管理局の魔導師」

ルーダーは内心引き攣った笑いを上げたかった。管理局に勤めて十年、何度も負けたでも生き残って来た。その感が伝える。今は勝てない。勝てる状況じゃない、情報が少なすぎる。
さらに言えば、相手の使う魔法からミッド式ではなくベルカ式だと言うのは一目了然で相手の立ち振舞いと身体特徴から使い魔。ベルカでは守護獣と呼ばれるソレだと解ったし、相手の主が高潔なモノだとも予測出来た。
つまり、名乗り名乗られたらならば…ソレが戦いの場での事ならばそれはベルカの者達からすれば神聖な戦いの儀式に他ならない。名乗り合った相手と、誓って不正の無い戦いを行うと宣言する事だ。
冷や汗が流れるのが止まらない。

(…ベルカはその辺が特に厳しいからなぁ。横槍いれるなら確実に仕留めねぇと後が怖い)

「時空管理局巡航L級8番艦。次元空間航行艦船アースラ武装隊隊長ルーダー・アドベルト」

「ほう、一部隊の隊長か…俺の名はザフィーラ。ヴォルケンリッター・盾の守護獣、ザフィーラだ!!」

名乗りが終わった瞬間から、戦いの始まりだ。だからこそ名乗る前から体が直ぐに動く様にしなければならない。何の変哲もない右ストレートを右斜めに進む事で回避、ボディ狙いで左で殴るも左ひざで防がれる。

(魔力で外殻強化してなかったら拳が痛んでたな)

「ダラァ!!」

ザフィーラの軸足を右のローで刈り取る。右に跳ばれ避けられる。右足を止めずに振り切りその勢いの儘倒れこむように左側へ重心移動。右足が地面に付いた時点で左回し。
案の定ザフィーラはルーダーの左足前に進み足の内側に左腕を盾に擦る様に当て突っ込む。
胴体。股間から胸までを阻むように障壁を張るも、バリアブレイクが込められた右の拳が障壁を砕く。その間の時間で射線上に起動されたデバイスと右手を突っ込む。

ビキィ

先端で受けたせいだろう。罅が入った。同時に攻撃は防げた。その場から後ろに跳び引き間を保つ。

「股間狙うとか容赦ないねぇ」

「ハッ、防いで置いて良く言う」

違いねぇ。

「防がないと玉無しに成るだろうが、守護獣」

「問題無い。どの道非殺傷だ。死ぬほど痛いだけだ、魔導師」

こいつ…

「男の風上にも置けない所業だぜ?」

「何、名誉の負傷にしておけば良いだろう?」

警戒しているな? それなら、やり方を変えますか…

「これでも、もう一人子供が欲しい身でね。頑張らなきゃならないんだよ」

「良かったな。まだ潰れてない」

時間稼ぎに徹しましょうか!!

『Fire』

四つのスフィアが射出された。










一人と一人。ソレを見守る一人。見守る側に成ってしまったフェイト・テスタロッサは動くに動けなかった。動いて良いのかも解らなかった。頭の中では?マークが浮かび続けて居た。
敵対している二人は、然も当たり前のように話している。最初の一言は明確な敵意が在ったと思う。たぶん、そうだと考える。が、それでも今の状況が解らない。先程まで自分が刃を合わせて居たシグナムと援軍として来た明智良哉は仲がよさそうに話している。

「やはりな…砲撃級の魔力を込めた投擲か…また無茶な真似を」

「ソレを言われると何も言えないな。だが、アレの真芯を捕える貴女も出鱈目だ」

二人は一定の距離を保ったまま話している。私が見た限りでは二人が動いたのは互いの獲物を構えなおした時だけだ。一体なんなんだろうか? 私にはあの二人の行動が解らない。

「あぁ、私も咄嗟の判断にしては出来過ぎだと思っているよ。」

「化け物め。咄嗟に出来る事がアレか? 戦いたくないな、貴女とは。」

「そう言うな。実はな、血が滾ってしょうがないんだ。かなり前から、貴公の戦いを見てな。さて、もう良いだろう? これ以上は私も仲間から在らぬ疑いを掛けられそうだ。」

ゾクリとした。背筋が凍った様な寒気を覚えた。違う、さっきまで私と戦ってたシグナムじゃない。震えが止まらない。何? コレは何? 怖い。あの騎士が怖い。

「我が名はシグナム!! ヴォルケンリッターが烈火の将!! 剣の騎士だ!!」

「…明智良哉。騎士名等も持って居ないし字も持って居ない。強いて言えば執務官候補生予定? かな」

見る間にリョウヤのBJが変わって行く。胸当てが追加され具足が追加され手甲が追加された。徐々に頭も兜に包まれていく。

狼を模した様な兜。手甲は肘から突起の様なモノが生え、具足も膝から似た様な突起が生えた。指先まで丁寧に包まれたその姿は二足歩行する獣の様で、槍を構えて立つ姿はとても鋭く見えた。
戦いの合図は無かった。強いて言えば突然だった。お互いが計ったように動いた。リョウヤの踏み込みはただ速かった。シグナムの踏み込みは巧かった。
激突音が響く。私はその中に入っていけない。入ってはいけないと思った。私では駄目だ。スピードに付いていけ無い訳ではない。一撃の威力が劣っている訳でもない。ただ、あの中に入れば自分が堕ちる事は解った。
私はリョウヤとコンビネーションの訓練をした事が無い。私はリョウヤの戦い方を知っている訳ではない。逆もそうだ。下手な援護は邪魔にしかならない。私にはただ見て居る事しか出来そうもない。
でも、ソレは嫌だから。何も出来ない自分は、もう嫌だから。私は一定の距離を取り他に援軍が居ないかを警戒する事にした。








(速い!!)

シグナムは素直に称賛する。直線的な動きでは自分よりも速い。先程まで戦っていたフェイト・テスタロッサと同じか、若干劣る程度の速さ。何よりも気迫が違う。血が滾る。間違いなく自分を殺しに来ている。
否、殺す気で責めてきている。

一合目、腹を狙った刺突を撃ち落とす。

交差。瞬間に反転打ち上げ。逃げられる。

静止。心が弾む。興奮が体を熱くする。突撃、連撃。

下がりながら交わし、剣で弾き、流す。それでも止まらない。

(速い…それでいて、何て正確な?!)

突きが放たれた瞬間に肩に魔力ダメージ。問題無し、騎士甲冑を抜ける一撃では無い。
突きがやむ事が無い。だが、連続した攻撃には必ず終わりがある。その隙が少なくても攻撃のチャンスが在る。
ソレを見逃さずに捌く。避ける。迎撃し少しでも相手に疲労を蓄積させる。

(弾け弾け弾け弾け!!)

敵は人間だ。バケモノでは無い。怪物では無い。故に完璧では無い!!

「そこぉ!!」

横薙ぎの一撃は明智を捕えたが、槍の柄に因って防がれた。吹き飛ばし、距離を開けて息を整える。

末恐ろしいとはこの事を言うのだろう。子供の肉体で身体強化の恩恵を受けて居る事を含めても四十七の突きは恐ろしいモノが在る。コレが、後十年…体が出来上がりリーチも伸び体力も付いた頃には一体どれほどの速度が…

「…やはり、防がれたか……」

だが、フェイト・テスタロッサと同じように速い分、装甲が薄い。






ジクジクと鈍い痛みが背中に、ジンジンと痺れる腕が横にダランと垂れ下がっているこの状況。嗤いたくなってくる。何もかもが違う。以前のシグナムとは全く違う。技術、膂力精神的タフさ。
以前とは全く違う。以前ならば、あの連撃に対して連撃で対抗しようとする筈だ。ソレが無理と解ってから今の反応ならば解る。だが、最初からあの対応は今までとは全く違う。自分の知るシグナムとの気性と全く違う。

『主?』

「…傲慢に成ったもんだな。自分の知る事が全て正しいとでも思っていたらしい。」

馬鹿馬鹿しい。ソレが本当ならば、今頃普通に暮らしている筈だ、自身の望みを叶えている筈だ。慢心だ。惰弱だ。弱く成ってどうする? 明智良哉!!

「往くぞ、シュベルト。自分の望みは自分で掴み取る。利用できるモノは何でも利用して下衆は下衆らしく目的を達しよう。」

『御意』

自分が出来る最大の踏み込みから跳躍、そのままSonic Moveで一直線に近づき急停止。相棒を突き出す。結果、弾かれる。
行動を止めずに薙ぎ払う。結果、避けられる。
薙ぎ払いを無理やり止めての打ち下ろし。結果、剣で流される。
全ての行動がシグナムの作る流れに吸収され、自然とシグナムが攻撃しやすい間が出来る。

風が巻き込まれ、叩き潰される様な音が体の横を通り抜ける。続けて打ち上げられる剣に冷や汗が止まらない。そのまま、薙ぎ払い柄で受け止めそのまま流す。戦いの流れを作れなければ何も出来ずに敗北するのが目に見えて居る。
剣を流し、体を流し、相棒を短く持って薙ぐ。其処に相手は居ない。動きを止めずに上昇する。一瞬前まで体が在った場所に回し蹴りが炸裂していた。恐ろしい事にシグナムの目は明智良哉を捕えたままだ。
其処には一片の油断も慢心もない。純粋に楽しんでいる意思が存在する。その事に怖気を覚える。戦いが楽しくて楽しくて堪らないとでも言いたそうにその目は明智良哉を見ている。
まるで、お前もそうだろ? と、友人に語りかける様な親しみの情まで見える様な、そんな瞳が明智良哉の目と合った。

「っ?!」

ブルリと背筋が凍りつく。それでも動くのを止めれば墜とされる。だから動かなくては成らない。明智良哉の奥底で何かが必死にそう叫ぶ。本当なら此処で逃げ出したい。戦いなんて下らない。
そんな事はしたくない。本音を言ってしまえばそうだ。臆病と馬鹿にされてもソレが一番良い。選べるのならばそうしたい。だが、その選択肢は選べない。

故に、明智良哉は動くのを止め待ちの体勢に入った。無防備に構える。一定の距離は保たれたままだ。

シグナムと明智良哉の差は大きい多少の自信が在ったスピードでは倒せず。力押しでは負け、技術の勝負では勝てる見込みが無い。負ける要因なら腐る程在る。記憶違いの能力は仮想敵として在ったシグナムの何倍も強い。

だからこその待ち。だからこその『後手』

どんな達人にも隙が在る。その小さな小さな隙を付けば勝ち。どんな勝負も拮抗すれば在る程度の美しさというモノが存在する。圧倒的な力が圧倒的弱者を打ちのめす瞬間は、第三者から見れば爽快な気分を見せてくれる事だろう。
だからこそ、待つ。攻撃を待つ。

「諦めたか?」

「何、少々飽きただけだ。」

シグナムは明智良哉の言葉に眉を寄せた。だが、直ぐに不敵な表情に戻り言う。

「良いだろう。互いに全力では無い。此処は一つ、その挑発に乗ってやろう。負ければ重傷、勝てばこの首くれてやる」

だから、失望させてくれるなよ?

言外の言葉が明智良哉に冷たい火を灯す。熱く無い。凍える様な冷たさを持った火を付ける。

「紫電―――」

その攻撃方法は文字通り一閃。

繰り出されるアクションキー。

「――――一閃!!」

完成されるスキルワード。美しい程に鮮烈な吹き荒れる火炎の魔力。もはやソレは爆発に近い。

横薙ぎの速く鋭い一閃、槍の柄を斜めにし流す。

『Blitz Action』

接触した瞬間に槍を回転、右から繰り出された一閃を柄で流し受けながらの一連動作。半回転した槍が縦に、石突が上に刃が下に。

繰り出すは打ち下ろし。超高速移動魔法の恩恵を受けたカウンター。ソレは当たり前の様に掲げられた鞘を砕くだけで終わった。

(この勝負。貰った!!)

全ては想定した範囲内。機械の様のに次の行動は速やかに、迅速に、精密に、流れる様に、まるで呼吸するかのように放たれる。





鞘を盾にし石突の一撃を防いだシグナムは笑いが止まらないとばかりに、内心では喝采を上げて居た。
興奮する自分と、冷静にソレを見る自分が存在しその冷静な自分は素直に称賛し、興奮するシグナムはソレを嘲った。確かに、このカウンターは素晴らしい。だが、経験が足りない。
この程度の事は在る程度の技術と胆力が有れば実行できるモノだ。そして、この程度では今の自分には届かない。それが、シグナムの下した判断だった。と、同時に目の前の少年が自分の主とさして変わらない年齢で在る事を思い出す。
自分が相手に求める実力を、十にも満たない少年に求める方がどうにかしている。そう考える。そう、考えると…この少年の実力は決して低く無いと認める。騎士の称号を与えても受け入れられるギリギリの力量はある。
多少劣っていたとしても、将来性がある。否、確実に今よりも強くなるのは明白。考えるまでも無い。

(此処で折れてくれるなよ…明智?)

流れた剣をすぐさま引き戻し、終わり。ソレが普通の筈だった。此処までくればソレが妥当で在った。これ以上ないぐらいのタイミングだった。

空気が抜ける微かな音が聞こえた。体が反射的に後ろに下がろうとする。

突然の衝撃。そうとしか言えない衝撃が全身を叩き、脳を揺さぶる。打撃も斬撃も喰らっていない。なのに全身を衝撃が打った。霞む視界の中、ソレを見つける事が出来たのは運が良かったのかもしれない。
明智良哉の騎士甲冑(BJ)の変化を発見した。兜だ。微妙に兜の形が変形している。口元が見えて居た筈の部分。狼の顎が閉じて居た。その代わりに、正面には空洞が在った。
頭の中には理解不能の文字が浮かぶ。視界が少し歪む。立てない事は無いが戦闘には支障を来す。そして、自分の体に起こった事を一つの違和感と共に理解する。

(耳が聞こえない?)

だが、ゴウゴウと風が吹く様な音が聞こえる。

(まさか?!)

驚愕の攻撃方法。その事に体が硬直する。その一瞬は致命的だった。明智良哉の槍は突撃槍に戻っていた。その厚い刃は幅が在り、斬られれば斬撃と打撃を同時に与える凶悪なものだ。
ソレが割れる。まるで、顎を開いた鰐の様に。

投擲される二又となった槍は、愛剣をその間に挟み過ぎ去っていく。

互いに素手の状態。相手の武器を奪うどころか自分の愛槍まで手放す事に理解が追いつかない。
空中に居ると言うのにダンと踏み込む音が聞こえる様な気がする、激しい踏み込み。瞬間姿を見失い、己の直感に従い後ろに跳ぶ。避けれると思った中段突きは拳一つ分の間を埋めれずに止まる。
それが、フェイクと気づくのが遅かった。途中から曲がる中段突き等ない。そんな拳は無い。本命は肘。更に一歩踏み込まれる。後ろに逃げるにも足元が覚束ない。空中だからこそ飛んで居られるのだ。
耳と一緒に平衡感覚も少し狂っている。後ろに飛んだつもりが全くと言って良いほどに飛べて無かった。振りぬく様な旋風が掠った。そう感じた。だが、結果は酷いモノだ。騎士甲冑が剥ぎ取られていた。腹の部分に横一閃の切れ込みが出来て居た。

(あの騎士甲冑はそう言う意味だったのか…ハハハ。面白い!! だが、拙いな・・・)

続けて放たれる蹴り。大きく飛ぶ騎士甲冑を斬られる。
止まらない回転。顔を横に倒し反り避ける。後ろに移動する事は常に行っている。頬に焼けつく痛み。
止まらない旋風。鋭い手刀。正しく剣その物。斜めに胸当てに傷が付く。
止まらない連撃。腕を掴まれた。引き寄せられる体。髪を掴まれ下へ。顔を狙う膝。中る前に髪を掴んでいる手を握り、明智良哉を飛び越すように前宙。
背中に痛み。擦られた様な痺れ。

右手に魔力を集中させる。本来ならば自害用の魔法。だが、それこそが切り札にもなりえる。勝負はまだまだ決まらない。決まる訳が無い。なぜならまだまだ自分達は全力で無い。
そんな思いが心を擽る。それは心地の良いむず痒さを伴い、まだ足りないと渇望する麻薬の様な思い。だが、それは求められなくなってしまった。

結界が壊される破砕音。同時に首根っこを引っ張られ息が詰まる。

時間稼ぎは終わった様だ。










クロノ・ハラオウンは周囲の捜索に集中していた。誰かに入れ込む事を任務中にする事は出来ない。故に明智良哉がシグナムと戦っているのを視界の隅に置いた後、無言で結界内を探し回った。
事前に闇の書と言うロストロギアをの情報を多少集められたのが良かったのだろう。

闇の書・守護騎士プログラム。雲の騎士団。ヴォルケンリッター。

烈火の将・剣の騎士、シグナム
鉄槌の騎士、ヴィータ
湖の騎士、 シャマル
守護獣、ザフィーラ

この情報は大いに役立つ。人数が把握できると言うのは現場で重要な事だ。コレに加え2~3人、人数を増やした人数が居ると過程して捜索を行う。闇の書のマスターは居ないかもしれないが、協力者がいるかも知れない。
だが、時空管理局に表だって喧嘩を売る様な組織は多く無い。其処まで大きい組織は柵によって行動を制限されている。動いているとなれば噂位は立つ。故に、協力者は少数と過程。
そして、ヴォルケンリッターが蒐集を行っていると判断するには、少し前から多発している衰弱事件との繋がりが多く。繋ぎ合わせれば納得してまう。最悪、別に犯人が居るとも考えているが、何故蒐集を行っているかが不明の為に考えるだけに止めている。

(ん? なのは…何を…まさか?!)

「あの状態で魔法を打つつもりか?! 」

だが、在る意味ではチャンスだと言う事も理解していた。今、この結界内で一番弱っている高ランクの魔力を保持しているのは間違いなく高町なのはだ。
ならば、この隙に蒐集に動くモノが居る筈。

(チッ…あの馬鹿は何をやっている。止める…いや、止めたんだろうな。)

気に入らないモノ同士だが、認めれる部分は認めている。それは一種の友情の様なモノなのだろう。ユーノ・スクライアは押しが弱い。高町なのはは押しが強く頑固だ。もしかしたら、鉄槌の騎士の足どめをしているからなのかもしれない。
フェイトも周囲を警戒しているのが見えた。その判断は正しい。あの二人。フェイト・テスタロッサと明智良哉はコンビネーションの訓練をしていないし、お互いの戦闘スタイルも理解していない。

組ま無い方が安全だ。

そして、高町なのはを蒐集と言う名の魔法が襲った。胸から生えるかのような女性の手、その反応を辿り発見。僅かな魔力に気づけた自分を褒めたいくらいだとクロノは思った。

「動くな!! 時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。管理外世界での戦闘に傷害行為、さらに最近多発している魔法生物衰弱事件への関与の疑いがいが君達には掛かっている!!」

「くっ?! 管理局!!」

「即時戦闘行為の停止!! デバイスの機能解除し投降しろ!! 話は艦の中で聞こう」

クロノの中で憎しみと言うモノが声を上げた。

そいつらは殺人犯だ

幾つもの世界を破滅へと追いやった。

幾人もの魔導師を再起不能にして来た。

家族を奪った!!

魔法を撃て!! 裁きを下せ!! 殺人には殺人を!! 報復だ!! 復讐だ!! 当然の権利だ!!

そう叫ぶ。クロノ・ハラオウンの中でその声が反響する。

叫んで、叫んで叫んで叫んで…反響し消えて行く。ただそれだけだった。

そんな事は絶対にしない。私刑等絶対にしない。復讐等してやらない。クロノ・ハラオウンは執務官だからだ。法の番人。法の狗。管理局の狗。好きな様に呼ばせれば良い。犯罪者には法の裁きを受けさせる。
執務官の仕事であり、誇りであり、義務だ。其処に私情を挟むなんてもってのほかだ。

ソレがクロノ・ハラオウンの建前だった。本音は年相応のモノ、ただ単にかっこ悪い姿を見せたくなかった。

不意に感じた僅かな危機感。今までの経験が咄嗟の防御を選択した。ガードの上から伝わる衝撃。一撃の重みは自分よりも上だと言う事が解った。
突然の不意打ち。その魔法の隠匿術は素晴らしいとしか言いようが無かった。魔法技術でも上だと認識。
視線が襲撃者を捕える。距離が離れてしまい。騎士の声しか聞こえない。襲撃者は仮面を被った男。自分の目はそう捕えるが、もしかしたら女かも知れない。
重い一撃を今まで一番の精度を持って受け流した。その事から違和感が湧いてくる。何かが違う様な気がしてくる。だが、その違和感が何なのかが解らない。だからこその違和感。しかし、今はソレを考えている時間が無い。

「っ、何者だ!!」

「時間は稼いでやる。さっさと逃げろ!!」

「っ………」

僕の言葉は無視しての行動に腹が立つがソレは当たり前の反応だ。直ぐに接近しバインドで拘束しようとするも、全てを紙一重で避けられる。まるで、何処に攻撃が来るのかを解っているかのように。
結果として、僕があの二人を捕える事は出来なかった。悔しいがあの二人、特に仮面を付けた魔導師は僕よりも数段上手だった。誤魔化す事はしない。

「クソっ…」





音を使った攻撃は巧く言った。これだけでも十分な報酬だ。明智良哉はそう思う事にした。出来ればまだ試したい事は在ったのだが、最後の最後で逃げられてしまっては仕方が無い。
ずきりと左手が痛んだ。手刀を使った時のミスが原因だろう、少々焦り過ぎたようだ。しかし、自分とシグナムの間にある差を考えると憂鬱になる。今回はお互いに顔見せの部分が強かったので良かったが、次からはもう無いだろう。
出来れば最初の一撃で仕留めたかった。
本当にアレは怪物だ。どうするべきか? 考える事はソレだけだ。正直な話、シグナムとはもう戦いたくない。十回戦っても一回勝てるか勝てないか程度の勝率しかない。アレはもう反則だ。

三半規管にダメージが在った筈なのに、必殺が出せない。視線で牽制された。そして、出せば必ず相討ち覚悟で攻撃してきただろう。そして、俺が倒れる。確実にだ。
最後の瞬間、出せるタイミングが在ったがその前に守護獣に持って行かれた。お互いに腹の内を見せずに済んだのを喜べば良いのか嘆けばいいのかが解らない。

『明智君、御苦労さま。直ぐに転送するわ。』

「了解です。」

空間モニター越しにリンディ提督に返事を返す。さて……これからどう動くか?













あとがき

クドわふたー…ふぅ。な、BINです。元気ですか? 作者は責任倍増給料微増でてんやわんやしてます。
今回はアレです。どれだけ戦闘を簡単に出来るかを考えたりしてました。どうだろうか? 
個人的にはこれ以上どうしようもないんですが・・・・苦手なんだもの。仕方がないよ…

なのはA`sの記憶がかなり薄れているので、自身は有りません!!また見ないとなぁ。




[5159] A´sの6
Name: BIN◆5caaab55 ID:784a3ac9
Date: 2010/08/27 20:45











『それじゃあ、私ははやてちゃんとお風呂にはいってきますね』

『なぁなぁ、偶には三人で入ろうやぁ』

『いえ、今日はシャワーで済まそうかと思っているので…また今度、ヴィータも誘って入りましょう』

『なら、銭湯か温泉に行くのもえぇなぁ』

数分前の八神家のリビングではそんな会話が在った。和気藹々という言葉が似合う幸せな光景。今は、ソファーに腰を下ろしたシグナムがカーテンを開けっぱなしにした状態で月を見て居た。
寒空の中、澄んだ空気のお陰でいつも以上に月がハッキリと美しく見える。

「…貰ったのか?」

そう、声を掛けたのは絨毯に寝そべっているザフィーラだった。彼は普段から獣の姿で過ごしている。ソレを望んだのがはやてであり、今では自分も今の姿で過ごしていた方が落ち着く様な気がしている。
深い蒼色の体毛が夜空の色に似ている。今更の事だがシグナムはザフィーラの姿を視界に納めてそう思った。
そこで考える。『雲の騎士』と言う自分達守護騎士が本当の意味で…と、ふと頭によぎった真実に表情を引き締め取り繕う為に口を開く。
仲間の中で一番敏いのはザフィーラなのだ。その真実は受け入れがたいモノでしかない。ソレを守護騎士を纏める者としては見過ごせない。知ってしまえば…シャマルは立ち直れないだろうし、ザフィーラも塞いでしまうだろう。

「あぁ、防いだと思ったんだがな。何、あの少女は良い魔導師になるぞ?」

シグナムがおどけて言うも、ザフィーラは視線は細めて言う。

「あぁ、確かに。今日で在った少年少女達は何れも素晴らしい魔導師になるだろうが……誤魔化すな。俺が何を言いたいのか解っているだろう」

その言葉に「確かに」と返す。考え無い様にしていたのに蒸し返されては、熱く滾るこの熱を解放しなければならない。直ぐに結界を小規模展開。薄い魔力の膜がシグナムとザフィーラの二人を包む、其処には直径二m程の異相結界が存在した。

その中でシグナムは立ち上がり上着を脱いだ。ブラジャーすらしていない、否出来ない。プルンと揺れる乳房、細く括れた腰のライン、それでも鍛え上げられ薄っすらと目を細めなければ解らない程に割れた腹筋。
その肌の白さも相まって。普通の男ならその場で襲いかかる様な妖艶さを秘めた肉体。その顔はザフィーラがゾッとするほどに妖しく、美しく薄っすらと笑顔を張り付けて居た。

腹を縦になぞる。其処でザフィーラは気づく、今まで傷一つなかった肌に線が浮かんだ。

「本当に才能が在る。フェイト・テスタロッサ…ヴィータは性格上戦わせない方が良いだろう。やるなら、私かお前とシャマルの二人一組が妥当だ。」

腕を組む。その大きな乳房が潰れ形を変える。

「あの結界を破った魔導師。お前では危ない。やるなら私かヴィータ…それかヴィータとシャマルの二人一組が良いだろう。」

組んでいた腕の片方、右腕を上げ自分の顎に当てる。片目を開けたその姿は挑発をしている様で、切れ長の目は少し潤んでいた。

「管理局執務官…シャマルの報告からして厄介だ。シャマル以外の我等は戦えるだろうが、恐らく前の二人より遣り難いだろう。一人よりも二人で掛かるか、不意を突くのが良い。」

「そして」

両手を広げ、揺れる放漫な乳房その儘に立つ姿には劣情等の類は抱けない程の堂々した格があり、その姿は仲間で在る筈のザフィーラでさえ威圧した。

「明智良哉」

パリッと音がした。其処で気づく完全に飲まれていて気づかなかった。アレは騎士甲冑の応用だ。ソレが解けた瞬間に現れたのはその白い肌に浮かぶ痛々しい傷。

腹に横一文字

左横腹から右胸に駆けての一閃

右肩から溝を少し過ぎたあたりまでの一閃。

クルリと背中を見せられれば背の半ばから首の付け根までの一閃。

目を凝らせば右腕は薄っすらと焼け、赤くなっている。

「…まて…ソレは…」

狼狽する。ヴォルケンリッターで一番戦闘力が高いのが目の前のシグナムだ。そのシグナムが本気では無かったとはいえ、此処まで傷を負うだろうか? 答えは否だ。

「魔力・技術・膂力は私が圧倒していた。確かに素早かった、技術はテスタロッサより上で戦い方も巧い。互いに本気では無かったとは言え素晴らしい!!」

シグナムの言葉は止まらない。

「お前も見て居ただろう? あの戦いを、生死を賭けた殺し合いを!! 素晴らしい!! 素晴らしい程にあの少年は生き汚い!! 躊躇しない!! ソレでいて驚くほどに潔い!!」

熱の籠った声は思いを乗せ、濡れた瞳は愛人に注がれるモノそのモノ。

「何よりも手段だ!! 奇抜だ!! 誰が考えた? 音を使うなど!!」

まるで恋人の事を語る様に口を開くシグナム。

「解るだろうザフィーラ!! 肉体強化に加え騎士甲冑内に別の魔導式を刻む!! その無駄な行為!! 誰かが考えた、だが無駄の多さに使うモノは居なかった!! 純粋な声故に騎士甲冑のフィールドは素通り!! 痛快だろ!! 清々しく成るぐらいにあの攻撃は奇策だ!! それ程までに強化された肉体の錬度、素晴らしい土台だ!!」

振りかざされた鋼の魔力色。元は鉛の様な鈍さだったモノは圧縮と集束される事により鋼に成っていた。

突き刺さる殺気の鋭さ。其処には何もない。無機質なただ殺すと言う意思しかなかった。

素晴らしい。素晴らしいとシグナムは絶賛する。

ザフィーラは思う。これ程までに手放しで称賛を贈られる少年は、如何にしてそれ程までに至ったのか。
何故に其処までの意思を持つのか?

ザフィーラが解ったのはシグナムと明智良哉の戦いに水を差しては成らないと言う事。
シグナムの変化…闘争心の増大とソレを抑え込めるだけの冷静さ。何よりも、今までとは違うと確かに言える落ち着きが在ると気づいた。今までも落ち着きが無かったという事はない。
今までも将として確かな落ち着きと冷静さを持って来た。ソレが更に深いモノに成っている。ソレと同時に内に秘めたる熱いモノまでもより大きく成っているのを確認した。

その事に不満は無い。自分とて滾るモノが未だに燻り続けている。

(ルーダー・アドベルト…)

四つの誘導弾を使用した攻撃。拳を良ければその先には誘導弾が在る。ソレを避けようとすればバインドが設置して在る。
あの場の流れを読んで居たのは確実にあの男だった。誘導するのが巧い。目での牽制などはソレが牽制かも解らない程に自然なモノだった。ルーダーよりも前から戦っていた使い魔を近くに待機させていたのも効いた。何よりもあの男はまだ何かを隠している。
ソレが理解できるだけの実力は持っているつもりだ。気に成るのはアレだけ近接格闘を行っているのに持っているデバイスはストレージの杖型だった事だ。

「シグナム」

「なんだ?」

ザフィーラは当たり前の様に言う。

「あの少年はお前に委ねる。だが、あの男は…アドベルトは俺の獲物だ。守護獣としては失格だが…俺は奴と最後まで戦いたい。」

「…良いだろう。そのように動けば良い。まぁ、そうなる様に動けるかはその時の状況によるが…」

「ソレで良いさ。我等の目的は主はやての平穏と幸せだ。」





























「それよりも、速く服を着ろ。風邪を引くぞ」

「解ってッユゥン!!」

ズズ

何とも言えない雰囲気がリビングを支配した。








次元空間航行艦船アースラ、メディカルルームでファラリス・アテンザは面相臭そうに髪を弄りながらカルテを見て言う。

「驚く位に健康体ね。」

「まぁ、打身ぐらいですからね。もう、治りましたし」

その言葉に明智良哉も答える。先の戦闘で行った手刀、僅かに緊張していたのだろう型を崩し真っ直ぐに伸ばしてしまった為に少々指を痛めてしまったのだ。それも、医療局員の魔法で直ぐに治ってしまった。

ファラリス・アテンザがアースラに居るのは彼女が管理局局員であり、アースラに搭乗しているスタッフの一人となっているからだ。ソレと同時に医療局員としての知識等もあり其処ら辺の医者より知識も技術もある。
これは昔、彼女が起こしてしまった自惚れが原因の大惨事の償いの一環であり、自己満足の一つでもある自身に対する罰の結果が身に成ったモノなのだが…その話は関係ない。
故に彼女は今まで明智良哉と言う人間を見て来た一人の医師(モドキ)であり、デバイスマスターであり、家族の様な姉の様な人物でもある。彼女が此処に居るもう一つの理由にはラプラスの存在もあるが、今回は『月村』に関する事の方が大きい。

その事に溜息が出そうになるも、コレも友人と目の前の少年の為と思えばそれ程嫌な事ではない。巧く行けばこの世界に定期的に来れるかも知れない。
ファラリスに取ってこの世界の日本のサブカルチャーは新鮮なモノが多かった。『魔法』が存在し大衆もその事を知っている。そんな世界では無い発想がこの世界には在る。ある程度の技術が在るのも良い。
ゲーム、マンガ、アニメ、小説。ドレをとってもこの世界で流行っているモノはミッドでも人気が出るだろう。何よりもミッドでは手に入り難くいがこの世界でなら友人の伝手を使えば簡単に手に入るモノが多い。
損得を考えても得のが大きい。失敗しても損害は少ない。
其処まで考えると、ファラリスは明智良哉に言う。

「高町なのはちゃんだけど軽傷よ。今は気を失ってるだけだから時期に目を覚ますわ。ユーノ・スクライアも無傷。フェイト・テスタロッサは軽傷だけど、貴方と同じでもう問題無いわ。クロノ執務官だけが何時も以上に難しい顔をしているわね。」

ファラリスの一言に明智良哉の表情がピクリと動く。

(目聡い子…まぁ、だからこそ話すんだけど)

「どうもね、今回の件は黒幕が居るのが確定しているみたいなのよね。後で私が知る限りの情報は送っておくからソレを見ておきなさい。たぶんだけど…今回の件は根が深いわよ?」

「解りました。」

明智良哉は表情を変えずにそう言うと立ち上がり、一礼すると部屋を出た。ファラリスはその後ろ姿を見送るとデスクに肘を付いて顎を乗せると詰まらなさそうに言う

「今回は使わなかったかぁ…実戦データが欲しいんだけどなぁ」

そう言う彼女は実年齢よりも幼く見えた。

「…お前、また何かしてんのか?」

シャーっと音を立てて無人と思われていたベットが顔を出し、その中に居たルーダーが目を細めて言った。

「良いじゃない隊長。今回のはあの子からの依頼よ。い・ら・い」

「…似合わねぇ」

そう言った瞬間にルーダーは腹に手を当てて体を丸める。

「お…おま…ソレは無しだろ」

「私のテリトリーで失礼な事言うからよ。それで? 何か解ったの? いや、何を知ってるの?」

その言葉を切欠に両者の目に真剣な光が灯る。

「根が深い。お前の言った事は合ってるさ、でもな…今回の件はお前が思っているよりも深いぞ?」

「どう言う事?」

ファラリスの質問にルーダーはベットに座り直して答える。

「今回の件…ロストロギアは『闇の書』で確定だ。奴さん等がヴォルケンリッターと名乗ったしな、それぞれの特徴も合致する。何て言ったって何十年も管理局がその前身と成った組織が封印出来なかったモノだ。そして…」

「そして?」

「被害者…遺族が多すぎる。もしも闇の書のマスターを確保出来たとしても…無事で済む可能性は低いな。アレに怨みが在る人間が多すぎる。アレに復讐したいと思っている人間も多すぎる。」

まぁ、俺もなんだがよ

と、ルーダー付けくわえると。ファラリスは苦虫を噛み潰した様な表情で「そう…」と答えた。部屋に落ちた沈黙が重々しく感じる。その中で再度ルーダーが口を開く。

「リンディ艦長は少々執務官に過保護な所があるのは知っているな?」

「? まぁ、今の堅物執務官殿を見てれば解るけど?」

「…クライド・ハラオウン。艦長の旦那の名だ。そして、俺の先輩っつーか…近所に住んでた兄ちゃんの名でも在る。先輩は闇の書に殺された。」

「……良い人だったよ、でもその最後はあっけなさすぎた。アルカンシェルでドンだ。怨まない筈が無いさ。艦長の過保護な所は先輩を失った恐怖から来てる。クロノ執務官のあの生真面目さもな。」

「でも、今回は…悪く言っちゃうけど私怨に奔った暴走は無かったわよ?」

「もう一人、ハラオウン親子と関わりが深い人間が居るんだよ。その人の権限…影響力もあるがソレを使っちまえば…最悪も在る」

「…誰?」

ファラリス達が最悪と考えているのは、今回の闇の書のマスターが善良な魔法の『ま』の字も知らない人間だった場合の事だ。強力な力を持てば人は変わる。殆どがそうで、自分を見失わないのは極一部でしかない。
何よりも、怨み・復讐の類が闇の書に向けば良いがマスターに向く可能性も多いに在るのだ。人は頭で理解しても感情が納得できなければ簡単に箍を外してしまう可能性のある生物である。
誰も彼もが理性的では無いのだ。

「『海の英雄』ギル・グレアム提督だよ。」

その言葉聞くと、ファラリスは安堵を覚えた。

ギル・グレアムと言う人物は、管理局の中でも紳士的であり、正義感があり、現場への理解もある、上司にしたい人物TOP10に入る程の人間である。
だからこそ、ルーダーも言葉にしたのだろう。まずは無いと言う人物として名を出したのだろう。だが、ルーダーは警告した

「それでも、もしもが在るかも知れないんだよなぁ」

ルーダーは頭を掻きながら思考を廻らす。このアースラの搭乗員は略ハラオウン派の人間である。そのハラオウン派はグレアム派の中にある派閥の一つでしかない。確かにギル・グレアムとハラオウン親子の間には個人的な繋がりも在る。
その為か、もしもギル・グレアムが復讐に奔った場合止める事が難しいのだ。ハラオウン親子が幾ら己を律した所でギル・グレアムが思いなおすという行動を取る可能性はかなり低い。
なぜならば、ハラオウン親子とギル・グレアムの繋がり。其処に在るのはクライド・ハラオウンという人物であり既に故人と成っている人物だからだ。話を聞けばギル・グレアムは才能があり正義感も強く誠実だったクライド・ハラオウンを息子の様に可愛がっていたと聞く。
実際にギル・グレアムには家族が居ない。独身であり、もしかしたらクライドを養子に…と考えて居たのかもしれない。
全ては推測の域をでない事だが、もし、そんな人間が目の前に憎い仇が現れたとして冷静でいられるだろうか? 


ルーダーはその事が不安で堪らなかった。

私情に奔る上司に巻き込まれる部下程死に易い。

今回戦ってみて解ったが、ヴォルケンリッターの戦闘能力は高い。一対一であの強さ、その海千山千の古兵がチームを組んで此方を襲ってくる。寒気がする。今の戦力では拙い。
一人ずつ当たり、各個撃破ならば相性を考えれば可能性は在る。実際に、あの盾の守護獣には高町なのはかフェイト・テスタロッサ、明智良哉を当てれば良い。他のメンバーの戦闘情報が無いから他の事は解らないがあの三人なら撃破出来るだろう。

「お願いだから変な事は起こらないでくれよ…皺寄せが来る方の身に成ってくれ…」

ルーダーの小さな呟きは虚空に消えた







明智良哉とクロノ・ハラオウンは久しぶりの再会を喜び、早速お互いが取得した戦闘情報の交換を行い。その姿を見て居たリンディ・ハラオウンとエイミィ・リミエッタに溜息を吐かれていた。

「もうちょっと、子供らしい反応を見せてくれても良いと思うんだけど…」

「クロノ君が増えた様に見える…」

「「???」」

何か残念なモノを見ている様な二人の視線に首を傾げる二人、そんな所だけが年相応の姿だった。


互いの情報交換の途中で、高町なのはが意識を取りもどしたとの報告が入りクロノ・ハラオウンは一旦席を外すことにした。明智良哉は明智良哉でアースラで保存しているヴォルケンリッターの情報提示をリンディに求める。
どの道その情報は伝える予定だったので、実際に戦ったモノからの意見も取り入れ今後の対策を行いたいリンディと供に各々の対策を考える。
実際に映像等を見て二人が共通して思ったのは手加減されていたという事だ。事実、蒐集目的でなければ出会って数分も経たずに終わってしまうだろう。その事を明智良哉は事前にリンディに伝えている。だからこそ余計にそう思えてくる。

「厄介ね」

「はい…特にこの紅い騎士」

そう言い、良哉が指摘したのは鉄槌の騎士・ヴィータだった。

「えぇ、一番に潰したい存在だわ。確かに闇の書を持っていた騎士も厄介だけど、この騎士はチームプレイの中核になってる可能性が高いわね。近・中、もしかしたら見せて居ないだけで遠距離も出来るオールラウンダー…」

「高町の話を聞かないとこの騎士の事は良く解らないでしょうが…個人の意見を捨ててチームで来られれば…俺は勝ちは無いと思います。」

実際の所ヴィータには突撃思考が在る為、自身の持ち味を生かし切れていない所がある。だが、ソレを差し置いてもその突破力は計り知れない。
剣士・シグナムは戦いたくない位に強い。

鉄槌・ヴィータも同じく強いが決して勝てないと言う訳ではない。

盾・ザフィーラも強いだろうが勝てる。だが、正面からいけば酷く時間が掛かるだろう。

最後の一人は良く解らない。だが、クロノ・ハラオウンと接触した時の反応を見れば戦闘タイプでは無い様だ。だからこそ、より警戒しなくてはならない。

そして

「仮面の男ですか?」

「えぇ、闇の書完成を目論んでいるみたいだけど…」

その事に疑問を覚える。クロノ・ハラオウンからの情報では、闇の書はそのマスターですら御せる事が出来ずに暴走し死に至るロストロギアとある。そして、それは何度も繰り返していて、一番ひどい時は四つの次元世界が虚数空間に消えたと在る。
そんなモノを操ろうとするだろうか? 操れるのだろうか?
そもそも、操る必要も在るのだろうか? そのメリットは? 
仮面の男、その目的は本当に闇の書の完成なのだろうか? もしかしたら、ソレは過程で必要な事だから援助しているのかもしれない。現に、湖の騎士が仮面の男と出会ったのは今回が初めての様だ

(さて、この事件。無事に解決する事は知っているが…どうするのだろうか?)

明智良哉は思考の海に入って行った。





リンディは思う。違和感が無い。

(……この子は)

ソレは異常だ。高町なのは、フェイト・テスタロッサ、と同じ年とは思えない程に落ち着いている。冷静と言えば聞こえは良いかもしれないが、何処か違う。

「俺ではシグナムは無理です。テスタロッサも危ない。俺の初撃に気づいた事から高町も危ない。クロノさんも無理でしょう。三人は欲しいです。あの紅い騎士を落とした後にも先にもシグナムをどうにかしないと直ぐに覆される。」

(あぁ、そうか。この子は余りにも第三者すぎるのか)

物事を客観的に見れる。ソレは良い事だ。だが、行き過ぎれば危ない。不安が鎌首を持ちあげる。以前は安心していた事柄だった。もしかしたら見誤ったのかもしれない。

(命の価値が恐ろしいぐらいに低いのかもしれない)

「そうね…でも、対策を練れれば在る程度の修正は出来るわ。良哉君…どれくらいなら時間を稼げるかしら?」

「やり方にも因りますし、相手の意図もありますから…本気で来ると過程して長くて十分程度が限界だと思います」

映像を少しでも見る事が出来ていなければ疑っていただろう。でも、見てしまっては信じるしかない。あの戦いは技術による殺し合いだった。

「…最短は?」

表情は苦笑だった。何処か諦めている様にも見えたが、それともどこかが違う。なんとも言えないズレが在る。

「一合目で終わりますよ。俺とシグナムでは技術の差が大き過ぎます。」

私はこの時ほどグレアム提督の存在を有難いと思った事は無い。既になのはさん達との面会の予定が入っている。その後に合って貰おう。グレアム提督は魔導師としても人間としても素晴らしい人だ。

「そう、ごめんなさい。嫌な事を聞いたわね」

頭を下げる私に少年は答える

「いえ、事実ですから」

其処に張り付いている苦笑は、本当にこの子が浮かべている感情なのだろうか?

そんな考えがリンディの頭に過った。







アースラの自室…と言えなくもない部屋が、アースラでの俺の拠点だ。最初からそうだった訳では無いが、どうもこの部屋は明智良哉の住処であるとアースラスタッフの共通認識に成っているらしい。
当たり前の様にユーノが訪れて来たのが三十分程前、事前に渡されていた魔導式の感想を聞かれた。その後は改良点等、こうしたいという望みを話し、ソレが無理かどうかをユーノが持つ知識を元に検証して貰ったり他の人間の情報等を聞いた。
やはり、マルチタクスが通常の人間よりも多く出来るのは凄いと素直に思う。そう思った事が口に出ていたらしく頬を染めながら謙遜し照れるユーノを見ると、本当にこいつは凄いと思った。遺跡、ロストロギア、過去に栄えた文明の歴史、それら全ての知識において俺やクロノさんは勿論、そこらの考古学者では敵わない。
何よりも、スクライアという一族が伝える魔法技術は日常においても、戦闘においても利用できるモノが多い。

(流石…としか言いようが無いな)

「どうしたの? 」

「いや、やっぱりユーノは凄いなと思っただけだ」

「も、もう。そんなに凄くは無いよ。なのはは僕の指導とかなしの感覚だよりで砲撃魔法とかの式を組み上げちゃたんだし…本当に、天才と思える人間に出会うと自分が如何に不概無いかが刻まれるよ」

アレは別モノだと思うが…戦闘能力だけで言えば高町なのは群を抜いている。魔力量の差も在るし、適性でもそうだ。だが、ユーノが高町なのはに勝てないと言う訳でもない。
実際に、パートナーとして連れて行くのならば高町よりもユーノを連れていきたいと思うベテランの方が多い筈だ。砲撃魔導師と組むのは本当に難しいし、下手したら巻き込まれる。(←実際に巻き込まれ乙あり)
そう考えると、組むとして一番に上げられるのはクロノさんかユーノの二人一組が良い。出来れば俺、クロノさん、ユーノの三人一組が理想的だと考える。
お互いの力量の問題もあるが、高町とのコンビはお断りしたい。高速戦闘は防御力が落ちるし魔力もそれなりに使うから短期決戦以外ではしたくない。そう考えると、テスタロッサとのコンビもそれなりに有りか…

「良哉?」

「ん? あ、すまない。今後の事について考えてた」

「…はぁ、良いけどね。それよりも、執務官から連絡が入ってるよ。何故か僕の方に…」

この後、管理局でも影響力の強い提督…「英雄」と面会する事に成るとは思ってもみなかった。





Side グレアム

「ありがとうございました!!」

明るいソプラノボイスが室内に響いた。

「ソレでは、僕も一度戻ります。忙しい中時間を作って頂きありがとうございます」

「何、私はもうロートルだよ? それに、忙しいと言っても舞い込んでくる書類仕事は簡単なモノだ何年もやっているとね。更に言わせてもらえれば、これから育つであろう若い子達と話す事も一つの仕事であり、娯楽だ。」

「はは、そう言って頂けると嬉しいです。」

「勿論君と話すのも楽しいよ、クロノ君。それでは、また」

「はい、また後で」

閉まる扉の音に私の心は少しだけ軽くなった。仕方が無いのかもしれない、あの子は顔つき等は母親に似ているがその中からも父親の面影を感じ取れる年頃に成った。
その事がどうしようもなく、あの時の事を思い出させる。罪悪感がある。それはとうの昔に自覚している。なぜ、私だったのだろうか…彼と最後に言葉を交わしたのが彼を殺した私なのだろうか?
その事も理解している。だが、どうも感情が納得していない。なぜあの時…

『提督、妻と息子を頼みます。』

怨み事を無念を叩きつけてくれなかったのだろうか?

『リンディは結構な強がりだから、時々で良いんで愚痴を吐きださせてやってください』

なぜ彼は、最後の最後まで世の理不尽を嘆かなかったのだろう

『ロッテ、アリアも頼むよ? 本当にアイツは強がりだから提督には愚痴れないかもしれないしね。クロノもまだまだ子供だから遊んでやってくれ』

(クライド、君は本当にソレで良かったのか?)

もう少し我儘になっても良い様な男だった。

『…っ…グレアム提督、本艦はこのままの進路を維持したまま進みます。予想以上に浸食が早いです。そちらの射程に入り次第…お願いします。はは、まさかあの封印を破るとは予想できなかったで』

私が聞いたのは其処までだった。既にエスティアの制御は奪われていた。周りは、仕方が無い、不幸だった。ソレに類似する言葉で私を励ました。当時、私はその言葉に救われた。私だけが救われた。

嫌に成る。自分だけが救われた言葉で彼女達が救われる筈も無いのに…私がソレに気づいたのはクライドの葬儀の時だった。彼女の作られた表情に私は打ちのめされた、私が彼女に言葉を掛ける前にその事に気づけたのが不幸中の幸いだったのかもしれない。
でなければ、今の様な関係は築けなかっただろう。あの時、私は彼女になんと声を掛けたのだろうか? 今と成っては思い出す事も出来ない。たかが十年、されど十年。
だが、あの時の私は心の底から掛け無しの本音を言ったという確信は持っている。我が事ながら恥ずかしい。あの時の焦りようは今思い出しても失笑モノだろう。

「そうか…もう、十年も経つのか…老いる訳だな」

深く腰掛けた椅子がギシっと音を立てる。昔なら、こんなに深く椅子に腰を掛ける事などしなかったのだが…今では、自然と深く腰掛けてしまっている。

目を瞑れば其処には消滅するエスティアが在る。

死体の無い棺桶を見ながら気丈に涙を堪える若い母親が居る。

茫然としている少年の顔が見れる。

幾つモノ不幸を生み出してきたロストロギア

幾つモノ悲しみを生み出してきたロストロギア

幾つモノ世界を崩壊させてきたロストロギア

(此処で終わりにしなければならない。)

目を瞑れば其処に現れる少女がいる。

事故で両親を失った哀れな少女。自分が情報操作し、居なくなっても大きな悲しみ大勢に与えない不幸な少女。自分がこの為に作りだした生贄の羊。

私は酷い事をしている。私は自分勝手な事をしている。

(だが、ソレがどうした。一人と大勢、天杯に掛ける事も出来ない。)

もっと良い手段は無かっただろうか? 今もそう考える。だが、私はソレを見つけられなかった。ならば、今在る最善を行うしかない。周りに伝えるにはもう遅い。

「私は地獄行きだろうな…」

「お父様?」

「アリアか…件の少年に付いてお前の意見を聞かせておくれ」

私が思考の海に沈んでいた時に入って来たのだろう使い魔に言葉を投げる。本当に年を取った。以前ならば気づけたろうに…

「良哉・明智。十歳。両親は既に亡くなっており、傭兵クラウンのデバイスを使用しています。」

空間モニターに映し出された戦闘データを見ながら、アリアの説明を聞く。

「最初の実戦は地球時間では7月、戦闘時間は合計一分弱。初戦闘にて犯罪者一名を無傷で捕縛、その後此方側の過失で一名を殺害。」

「…だからか」

心が歪んでしまっているのか、麻痺してしまっているのか…彼女、リンディ・ハラオウンが私に頼むと言う事はそれなりに根が深い事なのだろう。もしくは…その『何か』を今まで彼女に隠し通して来られた程に自覚があるのか…

「その後、地球の自宅にルーダー・アドベルト、ファラリス・アテンザ両名と共に降りています。報告書から、日本に在る戦闘術の師に出会い今も訓練を受けている模様です。」

画面が切り替わる。

「この画像から見て取れる様に獣型の使い魔を保持しているようです。また、この戦闘記録から見れる様に魔法式はベルカ式、ミッド式の両方を使い分けている様です。」

「まて、コレは古代ベルカ式か?」

「はい、元はデバイス『シュベルト・クロイツ』に記録されたモノを自分用にアレンジした物かと思われます。戦闘タイプは短期決戦型の近接ですが、遠距離からの攻撃も出来る事が今回の戦闘にて判明しました。」

「…アリア、この少年と戦う事を前提とした場合…勝てるか?」

「話に成りません。体も出来あがっていない子供、ソレも近接…確かに速度は脅威に成りえますがその分攻撃が直線的です。接敵擦る前に捕縛して終わり…それだけです。が、」

「が?」

「今回の戦闘が全てでは無いでしょう。お互いに本気では無い様に見えます。なのは・高町、フェイト・テスタロッサも後幾らかは見せて居ない魔法のストックは有るでしょうが過去の記録を見れば予想でき対応出来る範囲のモノです。しかし…」

「この少年は違う」

「はい、お父様はあの二人の少女と話されてどう思われましたか?」

どう思ったか…か

「素直な真っ直ぐな少女達だったよ。話した印象も過去の記録を見ても、少々純粋過ぎる所も有りそうだが彼女達ならあの子達を導いてくれるだろう。」

「はい、私もデータだけを見ればそう思います。同じくデータを見た限りで良哉・明智を見た所…危険、不可解です。」

「ほう?」

私とアリアの話し合いは三十分ほど続き、それから十分もしない内に面会の時間が来た。
直接顔を合わせるまで、私は少々明智良哉という少年に其処まで危うさを感じて居なかった。ただ、心の深い部分に傷を負ってしまった哀れな子供と言う印象が在った。

だが、ソレは違った。





Side out



「クロノ・ハラオウンです。良哉・明智を連れてきました」

クロノさんの声に俺は腹に少しだけ力を入れた。これから会う人物の事を考えれば誰だってそうなるのではないか? と思ってしまう程に立場が違い過ぎる人間だからだ。

(リンディさん…なんで、こんなとんでもない人と話さないといけないんですか?)

「御苦労、君は下がってくれ」

「ハッ!!」

綺麗な敬礼をして下がるクロノさんが、俺の横を通り過ぎる瞬間に小声で言う。

(心配無い、あの人は紳士だ)

そう言われ、部屋の中に入ってみれば其処には綺麗なスーツに身を包んだ壮年の紳士が姿勢正しくソファーに座っていた。唯それだけで、頭の中がスゥっと冷えて行くのが自覚できた。戦闘思考のスイッチが入りかけている。
それ程のまでの威圧感…否、威厳がこの紳士から迸っていた。

「はっはっは、そんなに緊張しなくても良いよ。さぁ、座ってくれ。」


Side out



在って見れば、その少年は何処にでもいる様な普通の少年だった。眼帯と煤けたような白髪さえなければそれなりに体も鍛えている何処か爽やかな少年と見えたのかもしれない。単純に、私はこの少年が心に傷を負って居ても仕方が無いと考えていた。
成人年齢から教育、常識までが違うのだ。確かにこの少年の年齢はミッドでも子供と呼べるモノだ。だが、教育と常識が違う。この世界、特に日本と言う国は今は戦争、テロリズムとは表面上かなり無縁な国と言って良い。
あの国の見せかけの平和とも言えなくもない平和は単純に素晴らしいとも思える。そんな国に生まれ、当たり前の平和の中で過ごしていた子供が殺人という大罪を犯さなければ成らなかった。傷ついて当然だ。歪んでしまっても仕方が無い。だからこそ、まだその歪みが小さい内に出来るだけ直さなくては成らない。傷を塞いでやらなければならない。

あぁ、確かに…コレは同じ世界の出身で尚且つ人生経験豊富で『日本』と言う国を知っている人間がやるのが適任だ。

(そう…だが、それも…)

最初に私が感じた事が正解だった場合の時の話だ。

違和感…そう、違和感が在る。簡単な会話から気づいたモノではない。彼の落ち着いた雰囲気は元々兼ね備えていたものと見ても良いだろう。周りの環境が彼をそう成らざるをえない状況を作ったと錯覚しても良いのかもしれない。
だが、違う。余りにも…いや、それさえも違うのかも知れない。

(これは強敵だぞ…リンディ君)

価値観の相違。恐らく、彼女が感じたのはそれだ。

最初の会話はなぜ管理局に入ろうと思ったのか? と言う簡単な質問だった。彼の家族構成はリンディ・ハラオウンからは知らされていない。もしかしたら彼と彼女の間に何か秘密が在るのかも知れない。

(いや、在るのだろうな…両親の事は聞かない方が良いか…巧くなったものだ。)

言い回しの問題だ。この言い方から想像出来るのは、両親が共に亡くなっているか、虐待が在ったのか、捨てられたのか…。アリアが『個人的』に調べた資料では二人の局員がこの少年に着いて地球に降りている。
さらに言えば、この少年は彼女達と知り合いでもある。気づかない筈が無い。ずっと監視していたのだ、アレが起動し守護騎士が現れた時から見張っていたのだ。罪悪感を感じていたのだ。

だが、この少年は剣の騎士に対して「初めまして」と言った。この少年には裏が在る。確実にある。気を許して良い人間ではない。私達的には有難い事だが、管理局側としては拙い事だ。
この事がバレればこの少年自身も危ない。なのに…なぜ、この少年は隠したのだろうか? 
それが解らない。

「この…俺の相棒と離れたくなかった、と言うのが最初の理由です。」

目を見ての会話。口はペラペラと嘘を語るが目は正直だ。この目さえ欺けるモノは一流の詐欺師の資質を持っているのだろう。私が見ている限り、嘘を吐いている様には見えない。

「他の理由を上げるなら…知ってしまったからでしょうか?」

「ほう、何を知ったのかな?」

広い世界か? 未知なる技術か? 我々が生まれた世界では御伽話でしかない魔法か? 

「恐怖を知りました。希望を知りました。憧れと尊敬を知りました。」

理解が出来なかった。だが、この少年のプロフィールを思い出すと最初と最後は見当がついた。恐らく前者はロストロギア、後者はクロノ・ハラオウン。彼女からの話でもこの少年とクロノ執務官の関係は微笑ましいモノだと聞いている。
まるで、兄弟の様で親友の様で互いが互いの事を尊敬出来る関係だと…そう聞いた。
その事に頬が緩みそうになるのを堪えながら私は口を開いた。

「…君は、執務官に成りたいのかな? クロノ執務官と同じ様な」

少年は即答する。

「はい。ですがクロノさんの様なでは無く、自分なりの執務官を目指すつもりです」


Side out



Side 明智良哉


「はい。ですがクロノさんの様なでは無く、自分なりの執務官を目指すつもりです」

気を抜けない。ソレがこの男を見ての第一印象だ。提督職に就き英雄とまで呼ばれる人間だ。それは当たり前なのだろう。

(目を離さないか…)

視線が合っている。これだけで視線を逸らせない様にしている。なぜ自分が其処までマークされているのかが解らない。彼以外にも視線を感じる…監視? それよりも観察という言葉の方が合いそうな絡みつく様な…そんな視線だ。

(恭也さんに師事していなかったら絶対に気づかないぞ…これ)

理由を考える。はっきり言って俺はこのギル・グレアムという人間との接点がない。同じ世界の出身と言うくらいだろうか? それ以外は思い当たらない。

『マスター、Yes、Noでお答えください。Yesならば指を一回、そうでないのならば二回』

トン

膝の上で指を一回だけ動かす。

『ありがとうございます。ギル・グレアムはマスターとなにか接点が在るのですか?』

トントン

不審に思われないように体を動かすのも面倒なものだ。

「自分なりの執務官…か。ソレはどんな執務官なのかな?」

『解りました。マスター、この男はマスターと同じ地球の出身。ならば、私を含めお姉さま達と調べる事も可能かと思われます。』

トン

「恥ずかしい話ですが、理想は見つけていません。でも、大勢を…より多くの人の笑顔を守れるように成りたいと思います。」

「…そうか。明智良哉君。君の言った道はとても厳しく険しく苦しいものだ。まず、私達が生まれたこの世界とミッドチルダでは似ている所も多少はあるが法律が違う。人種の違い出身世界の違いで起こる差別だって未だに残っている。」

真剣な顔でそう言う男を見る。視線は外せない、目は口よりもモノを言う。だが、その目さえも欺くのが相手…ギル・グレアムの居る階級の職務でも在る。故に…
全てを疑うしかない。

「執務官は法の番人だ。故に常に公平で成らなければならない、平等でなければならない。おかしな話だがね、良い執務官は二通り居る。一つ管理局の法を優先し常に管理局為に働く者。もう一つは、人としての良識を優先しながらも最低限の法は絶対に守り護らせる者」

それは、そうだろう。エリート達の殆どは前者だ。管理局は正義であり、管理局が定めた次元管理法は正しい。その認識を少なからず教育段階で植え込まれているのだから。

「失望するかもしれないが…執務官を目指すなら君は後者を目指す方が良いだろう。違う世界の常識に慣れるのにも時間が掛かるしどうしても違和感は残る。」

「…彼方がそうだからですか?」

カマを掛けてみる。それで、少しはこの男の事が解る。

「私が英雄と呼ばれるのはね、大きな事件を解決したからではないよ。確かにそれもあるが…私が若い頃は本当に青くてね…上司の命令でも正しく無いと思えば反抗していたんだよ。最初は独房十日間、次は一カ月の禁固処分。その次辺りからかな…裏側で動く事を教えて貰ったよ当時の仲間にね」

故に今の地位に昇りつめた…か。なんとも…敵にしたくない相手だ。海千山千の古兵だ。リンディ提督よりも上だ。

「それからだよ英雄と呼ばれる様に成ったのは。元は私に対する皮肉や嘲笑の言葉だったが功績を積んで行けば逆転だ。私は元々イギリス貴族の出でね、裏で動き方はなんとなくは知っていたのも功をそうした。話が逸れたね、昔はそうだったよ。今は自身が無いな。年を取り過ぎた。その分、クロノには期待しているがね」

あぁ、同意だ。あの人はきっと英雄に成れる。いや、成っていたと思う。

「だから、コレはアドバイスだ。本当に平等に成れる人間は居ない。ソレが出来るのならばソレは機械か、心が壊れてしまった人型だ。」

「確かに…そうですね。ありがとうございます。なんとなくですが目標が出来そうです。執務官になってからの」

「はっはっはっ!! そうか、執務官に成ってからの目標が見えてきたか…大いに頑張ってくれ。管理局は…私も含め、優秀な執務官なら何時でも迎え入れる!! 海に来るなら一声かけてくれ、悪い様にはしないよ。」

恐らく、コレは半分本気で半分嘘だ。確信する、この男は臭い。何よりも、一瞬だけ見せたあの目は昔見た事のある目だ。嫌に成る程見た事のある目だ。調べる必要が在る。
こんな時ほど、なぜちゃんと資料に目を通し記憶しなかったのかを知りたくなる。

「ん? そろそろ時間か、君とはもう少し話したかったんだが…残念だ。最後に一つ、コレは忠告だ。今回、君が関わってしまった事件はかなり厄介な代物だ。暫くはリンディ提督の所に居た方が良いだろう。私の方からも連絡を入れておこう」

「ありがとうございます。ソレでは『また』何時になるかは解りませんが…」

「そうだな。君とは話が合いそうな気がする。機会が有ればまたこの老い耄れと話してくれ」

ドアを開き、一礼してから退室する。直ぐ其処でクロノさんが待機していた。

「どうだった?」

「気さくな『良い人』でした。」

「そうか、あの人は僕の先生みたいな人でね。あの人の使い魔に戦い方を学んだんだ。機会が有れば紹介するよ。正確に難有りだが…絶対に為になる。」

その時のクロノさんの顔は何処か誇らしかった。俺はその表情がとても眩しく見えた。

(臆病者で結構。あの男は引っかかる、何かが引っかかる。『暫くはリンディ提督の所に居た方が良いだろう』? 絶対に…)



Side out





Side グレアム

「そうだな。君とは話が合いそうな気がする。機会が有ればまたこの老い耄れと話してくれ」

一礼して退室する少年を笑顔で送り出し、ドアが閉まるのを確認してから深々と椅子に座り込んだ。

(私も…馬鹿だな。)

あの時、私は本気で口にした。海に来るなら一声かけてくれと…彼がそうなった時には既に居ないのに

(期待したのか? 私は?)

あぁ、少年の語った事は素晴らしい。あの少年を彼女やクロノが導いてくれるならきっと素晴らしい執務官になるだろう。だが、今回の件はどうしようも無い。私自身が黒幕なのだ。最低でも死者は一名。自分達も感情に入れるならば二人と二匹だ。

(何処まで嘘で何処まで本当なのか…)

あの少年の目から嘘も本当も見つけられなかった。会話だけなら将来が楽しみな子供だ。しかし、どうも気に成るあの少年には期待しているのは確かなのだろう。だからこそ、裏側の事を少しだけ…入ってしまえば裏ですら無い事を話した。
あの少年の目には失望も絶望も怒りさえも見れなかった。隠しているのか、何とも思っていないのか…

「全く、イレギュラーだ。あの少年は油断成らない」

観察していたのに観察されていたなんて当たり前の事をされているかもしれない。
そう思える位には妖しい。何かが在る。絶対にだ。あの少年は何かを隠している。
引っかかる。戦闘の事も、リンディ君の彼に対する配慮も…

(臆病、卑怯、卑劣で結構。あの少年は絶対に…)


Side out



((裏がある))







おまけ


良哉を見たフェイトの行動



彼女が明智良哉を見たのはグレアムとの会話や高町なのはと話した後、少し時間が経ってからだ。お気に入りのヌイグルミを枕の横に置き、シャワーも済ませた後の事。
自分が確認できなかった、シグナムと良哉の戦闘データを見せて貰おうとリンディに頼みに行く途中だった

「?!」

目標はクロノ・ハラオウン、ユーノ・スクライアと談笑していた。同性同士なのだから話も合うのだろう。それは別に構わない。なんとなく解るからだ。
驚いたのは髪の色だ。戦闘の時は兜を付けていたから分からなかったが、黒では無く煤けた様な白髪に変わっている。見方を変えれば鉛様な鋼の様なそんな色。
フェイト全力でリンディの元へ向かった

そして、こう言った

「リンディさん!! 煤けた白色の生地って有りますか!!」

「へ?」

リンディがポカンとした表情で呆けた声を出してしまったのは仕方が無い。

一つだけ確かな事は、翌朝には髪の色の変わったヌイグルミが涎つきで在った。それだけで在る。







此処では無い。何処かでも無い。そんな所。


ソファーがその空間に在った。テーブルを囲むようにして其処に在った。その上に座り本を読む青年が居た。赤毛でローブを来た青年。特徴いえば、目が死んだ魚の様な目をしている事だろうか?
ページを捲り青年は一言吐いた。

「やっと…此処までか」

そう言った瞬間異音が響いた。青年が顔を抑えると、本に何かの欠片が落ちる。ソレと同時にまるで最初か其処に居たかのように、青年と全く同じ格好をした青年がテーブルの向こう側に座っていた。

「お前…?!」

「よう、良い夢見れたかよ。アギ・スプリングフィールド」

パラパラと顔から欠片が落ち、アギと呼ばれた青年が手から顔を話すと顔がポトリと床に落ち、砕けて消えた。青年をアギと呼んだ青年は気だるげに紫煙を吐きだしながら興味無さそうにアギを見た。

「お前が…お前がソレを言うかよ!! アギ・スプリングフィールド!!」

互いが同じ名前、似た背格好。だが、唯一違うのはその目だった。紫煙を吹かす後から現れたアギは濁った様な死んだ魚を彷彿させる目を半分開けていた。最初からこの空間に居たアギはギラついた光を灯しながらもネットリとした見られているだけで汗を掻く様な目をしていた。

「べっつに~? 俺がお前に何を言おうが勝手だし? 人の記録をちょこちょこ覗いてる奴が一人しか思い当たらないから、ちょっとむかっとしたから来ただけなんだけどねぇ。まぁ、すこし『お話し』しようじゃないの? 彼が居る世界設定的に考えて?」

其処に在るのは興味か、嫌悪か…ソレは彼にしか解らない。

(あ、武をゲーセンに放置してきちった…命も一緒だから良いか?)

まぁ、こいつは今も昔も駄目人間なのは変わらない。





あとがき


久しぶりです。遅れまくってごめんなさい。現在、骨折中のBINです。バイクに当てられました。なんか痛いなぁと思いながらも仕事が終わって病院行ったら

医者「折れてるね~」

BIN「マジで?」

医者「綺麗に折れてるから二週間もすればくっつくよ君なら十日位で治りそうだけど」

BIN「それはないwww」※軽トラに惹かれて軽く膝を擦りむいただけだった事が在る

医者「仕事は少し休みなさい。退院したのも少し前の事だし」

と言う会話が有りました。左手だけで打つって難しいね!!
あ、あと上司が変わりました。見た目がどうみても北の魔王に似ているのですが…どうしたら良いのでしょうか?
因みにこんな感じです↓
           ... -―……―- .. .
       . . : ´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`: . ..
      /.:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`: : ..
.     ,′:::::::::::::.  -‐…――- : . . .:::::::::::::::::::::::::::::\
    i::::::::::,. ´ (YY)-‐…‐-   .. .  `: : ..::::::::::::::::::::::ヽ    
    !:::::::/ , . :.(.ハ.).-‐…‐-... ,,_   ` : : . `: : .::::::::::::::!
.     \〈  ,. :':.:.:::::::::::::::::::::::三三二二D}  `: . `ヽ::::::j    
      Y.://三二ニ>''"Y  o`ヽヾハ;;;ー- .. ` 、}/
.      //ィi{  oY´  ( 八    ノ  〃;;:;:;:;:;:;:`ヽ__,′
     〈/l;;トヘ.___ノ}    `  二´     ;;:;:;:;:;:〃⌒ヽ       
       _从     トiへ.          ミ"// く:::{ j''ッ、      |           
     ( ヽ ''  ヾ} ン"               ノフ ノ  彡x   

      ヽ|     ______  ノ  xッ、ノィィ彡''⌒ヾ    ,,ミ、
        八             ノ               ,,z'
         ヽ        ,xミン′       ,, -‐''"
        /{::.、  ,.ヘ._〃      ,, -‐''"








今回キツイので何時もの無し。感想返しも遅れます





[5159] A´sの7
Name: BIN◆46522c0b ID:62bc3fb4
Date: 2010/11/24 23:35



一夜を昔過ごした部屋で過ごすと言うのは、何処かおかしな気分にさせてくれる。
例えば、普段なら気にも留めない事に気づいたり。
例えば、どうでも良い考えに思考を縛られたり。
プラスにもマイナスにも成る事を無意識に考え出す。

だからこそ、明智良哉も普段より思考の海に囚われて居た。



――――――――――――様に彼女達には見えた。

リーゼロッテ、リーゼアリア。彼女達は猫の素体から作られたギル・グレアムの使い魔だ。使い魔であるが管理局局員としてそれなりの地位も持っている。主が提督だからではなく彼女達自身の能力の高さによって勝ち取ったモノだ。
ソレ故に、其処にたどり着くまでに費やした時間は馬鹿に成らない。
経験とはそういったモノだ。学び、修めたのだ。だからこその間違いだった。


「…私にはどう見てもちょっとヒネた子供にしか見えないんだけど……警戒するほど子? この子」

「貴女もあの場に居たんでしょ? 守護騎士との戦闘は見なかったの?」

「それがねぇ、クロスケの奴結構成長しててさぁ。姿を隠すので精一杯だったよ…もともと守護騎士の中で一番警戒してたのも湖の騎士だったし。」

フリフリと尻尾を揺らしながら答えるロッテに、アリアは嘆息しながら答える。

「教え子に一杯食わされるなんて事には気をつけてねロッテ? あの子の此処最近で急激に伸び始めたみたいだから…」

「あぁ、そりゃ解ってるよ。うん、クロスケは成長したよ…本当に成長した。最後に見た時よりも強くなってた。」

無意識の行動だったのだろう。そう言いながらロッテは組んでいた足に視線を移した

「…記録では一撃も貰って無かった様だけど?」

「貰ってないよ? 貰っては…でもねぇ、ちょっと気が引き締まったわ。それで? この明智良哉君だっけ?」

面倒臭そうに頭を掻くその姿には、興味と言うモノが欠片も宿って居なかった。その事に不満は有るが、怒るほどの事でもない。アリアはそう考える。元々の気性も在るのだろうが、数十年の付き合いで慣れてしまったと言うのも在るのかも知れない。
その考えは危ないと自分でも理解している。だからこそ何時もの様に言うのだ

「…ロッテ」

「解ってるわよ、手抜きはしないわ。でもね、今の状況じゃ判断しきれないでしょ? 目的が見えない。もし、何らかの関わりが在るのなら数日後でしょ?」

「そうね…そうだわ。だからお父様は保護するように言ったわ。」

「なら良いじゃない。」

「戦闘記録は確認した? 接近されれば危ないわよ?」

楽観的な言葉に、アリアはロッテに確認を取る。

「…確かにね。だからって馬鹿正直に正面から行く訳ないでしょ…心配のしすぎよ。まぁ、ソレが良くも悪くも必要なのは解ってるけど」

「…そうね。リンディの方は私が調べるから、貴女は」

「クロスケの方を探るわよ。久しぶりに弄りたいしね」

「ほどほどにしないと、嫌われるわよ?」

「大丈夫、大丈夫。加減は解ってるから」













「…何だか嫌な予感がする」

「ちょっとクロノ君、不吉な事言わないでよ」

彼の感は結構冴えているのかもしれない。






そんな事を欠片も知らない明智良哉は、何もせずにただ横に成っていた。何も考えていないのではなく。現在持っている情報では何も出来ないからだ。それならば、無駄に動くよりもじっと体を休める方が良い。
事実、此処でギル・グレアムの事を調べよう等と思えば直ぐに足が付く。更に言えば此処から地球の回線に侵入しようとすれば直ぐに見つかってしまうし、ファラリスやルーダーと話をしようとすれば彼等も警戒され後々利用しにくくなる。
だから出来る事と言えば考える事か休む事しかない。

「………はぁ(今は…待つしかないか)」




どれだけ悩もうが、足掻こうが朝は来る。そして新しい朝が来たと言う事は明智良哉が月村邸に滞在する最終日が来たという事でも在る。そして、その事は当然月村すずかの耳にも入る。
月村忍の反応はいたって普通のモノだったが、すずかの方はショックが強かったのか顔を伏せている。その状況を見ながら高町恭也は心中で溜息を吐いた。
高町恭也でも索っせる程に明智良哉の説明は淡々とした事務的なモノだった。その事に怒る事も無いのは自分が知る限り明智良哉はそういう人間だからだ。意味のない事はしない。追い詰めれば無駄な足掻きもするが、追い詰め無ければ足掻く事もしない。
可能性が見えなければ潔く諦める。まるで次に託すように…模擬戦中でもそういった行動が見れる。最初はそれが模擬戦だから来る精神的余裕だと思ったが、そうではない様に感じる。感じるのだが…ソレが何なのかは解らない。
第三者、高町恭也から見ても月村すずかと明智良哉の関係はおかしいモノだ。一方的な愛情・友情を贈るすずかに、どうでも良さそうだが一定の距離を持って接する明智良哉。友情が在ると言えば在る。無いと言われれば何のかもしれない。
そんな二人の関係を表す様な光景だった。

「あ、あの…明智君」

「どうした?」

声を掛ける月村すずかの姿を見ると、恭也と忍は心から思う。強くなったと、心が強くなったと本当にそう思った。

「次は…何時会えるかな?」

「………速くても二、三週間は無理だな。薬が無くなれば取りに来なくてはいけないから…月に一回は来る事に成ると思う。」

「…そう」

「そうだ」

沈黙は重い。空気が重くなる、まるで離婚を切り出した夫婦が居る様な感じだったと、月村忍は語る。

「それじゃあ、またその時にね」

「あぁ、その時に時間が合えばな。出来る限りは調整しよう。」

そう言った、すずかは笑顔で。明智良哉は無表情…いや、少しだけ苦笑していたのかもしれない。少なくとも高町恭也にはそう見えた。

月村忍はハンドルを握りながら考える。後部座席に乗る少年の何処に妹が惚れる部分が在るのか? 無表情、無愛想でハッキリ言って第一印象は最悪の部類に入るだろう。何よりも高町なのは、アリサ・バニングスとの関係の悪さも在る。
将来の義妹でも在るなのはとの関係は険悪なモノとは言えないが、一方的なモノを感じる。妹の親友でも在り、企業としても信頼できる会社の責任者の一人娘でも在るアリサも少し気が強いが良い子だ。なのに、此方の関係は険悪だ。少なくともアリサ自身は明智良哉の事を嫌っているのは確実だろう。
その事を突っ込んで聞けないのは自分達が明智良哉を匿っているというのも在るが、今後の為の事でも在る。一族の事、企業としての発展…十年後百年後の事…
その事を考えればコレからが正念場なのだが…

「良哉君、一つ聞いて良いかしら?」

「何でしょうか?」

「…辛くない?」

ソレは、在る意味で自分の中で答えが出ていた疑問だった。過去の自分がそう思った答えだった。世間から、社会から逃げていた自分が出した答えだった。だからこそ、何処か違う人間である明智良哉に聞いてみたかった。

「それが何に対してかは知りませんが…“      ”としか言えませんよ」

「そう。」

その答えは、やはり私とは違った。この少年は薄い癖に堅く厚く重い様で軽くも見える。不可思議な人間だ。

(しいて言えばギャップ? すずかったらギャップ萌えとかいう奴なのかしら?)

少年がアイスを食べる様を思い出して、どうでも良い事を考えながら月村忍は車を走らせた。





管理局一行が海鳴に引っ越す。其処を拠点の一つに、保護している少女の情操教育の為にも友人が通っている学校に。私情が多いがリンディ・ハラオウンが海鳴に越して来た理由はそういったモノが上げられる、基本的に子供に甘い所が在るのが彼女の長所であり短所でもある。
故に、明智良哉を一時的に引き取る。一緒に暮らすという事はリンディ的には明智良哉の事を知っている分バッチ恋もといバッチコイである。他にも自身の息子であるクロノと明智良哉の関係、同じくフェイトとの関係もあるので寧ろ一緒に暮らしたい。何よりも今後の事を考えると…

(彼と親しくしておいた方が良い。私だけでなくクロノもフェイトさんも…)

「全部は話してからか…先が暗いのやら明るいのやら…」

そう言いながらリンディ・ハラオウンはダンボールを開け始めた。





リンディがバッチコイ状態でいる間、静かな混乱がマンションの一室に満ちていた。クロノ・ハラオウン、フェイト・テスタロッサ、アルフの三人である。
クロノからすれば弟分兼友人の良哉と同居…家族の様に過ごすのに問題は無い。執務官試験や次元世界での常識、暗黙の了解等、教える事はまだまだあるしヴォルケンリッターへの対処等話し合う事もある。何よりも話していて楽しい。
が、同じ年の異性も一緒に住むというのもどうかと思う。男女七歳にして席を同じくせずと言う言葉もこの国には在るし義妹の事を考えると二人を一緒にして良いモノかと考えてしまう。依存している部分がある。
高町なのはにもそうだが、明智良哉にもフェイトは依存している。正確には軽いPTSDへの対応策なのかもしれないが…将来が心配に成ってくる。

(これは…良哉に言っておいた方が良いな)

フェイト・テスタロッサの混乱は無自覚な思いの所為かも知れない。ハッキリ言って明智良哉がフェイトと共有した時間は少ない。魔法を教えて貰う時間と訓練で一緒に成った時や食事の時等、学校生活の共同授業が在った時は一緒程度の時間を過ごした位でしかない。
人間一番印象に残った時の記憶を覚えている事が多い。簡単に言えば有る事件で仏を見た時や明智良哉の裸を見た時や半裸を見た時や一緒に寝た時等だろう。
思春期に有りがちな事だ。吊り橋効果だ。そんなモノでしかない、そんなモノでしかないが本人の受け取り方ではそんなモノ扱いできなくなるモノだ。頼りには成るのだろう…明智良哉という存在はフェイト・テスタロッサにとって。
だが、明智良哉にとってのフェイト・テスタロッサはどうだろうか?
アルフはその事を考えながらソワソワと落ち着きのない主を見つめる。その姿を見て沸き上がるのは庇護欲ではなく言葉では言い表せない様な複雑なモノだ。事実、アルフ自身明智良哉の事は危険視している。其処まで深くは知らないがフェイトが知らない事を知っている。自身の両親の死を隠匿している事を知っている。
出来るだろうか? 十年しか生きて居ない人間がそんな判断を…出来るだろうか? 其処に何のメリットが在る? 思いつかない。故に解らない。明智良哉の内面が、人間性が解らない。だからこそ怖い。

(近づけたくない…でも、確認…知る為には近くに居るしかない!! 間接的にでもっ…!!)

そう思っても、現実は非常である。その日、高町なのはが親友を連れてハラオウン家を訪ねるほんの一時間前までリンディ・ハラオウン、月村忍、明智良哉が話し合っていたリビングには誰も立ち入れないくらいに黒かった。


「どうしたんだエイミぃ」

「いや…うん…世界って広いんだねぇ」

夕食前のクロノとエイミィの会話の一部である。


カチャリと食器とスプーンが擦れる音がする。マナー違反ではない。本当に小さな音だ。でも、その音が非常に大きく聞こえる。スプーンで掬い上げたスープから強い匂いがする。セロリだろう。他にも野菜の匂いを強く感じる。
メインのハンバーグからは鉄の香りが仄かにする。ソレと肉汁の脂っこい匂いだ。
ハッキリ言って食事の時間は辛い。味は感じない、食感は解る。匂いは解り過ぎて耳も聞こえる。味覚が殆ど無くなってから聴覚・嗅覚が鋭く成ったが聴覚の方は徐々にだが元に戻っている感覚がする。もしかしたら慣れてきているだけなのかもしれない。
その反面、嗅覚は鋭いままで触覚も前より鋭くなっている。

(視力半分、味覚略全部)

ソレを補う為に他の感覚が鋭くなったか…幸いな事に何時からか無愛想な顔になっているので表情が変わる事は殆ど無いのだろうが…顔に出て居ないかが心配だ。失礼になる。
が、それよりも視線が気に成る。

「ん? どうしたのリョウヤ?」

「いや…俺の気のせいだろう気にするな。テスタロッサ」

なぜ見られる?

(彼もまだその辺は子供と言う事かしら?)

(態とではなさそうですもんね…鈍い?)

(単純に興味が無いんじゃないのか?)

ヒソヒソ話す三人。残念ながらその会話は良哉の耳に聞こえている。

『…何を期待しているんだあの人達は』

『まぁ、そういう方面ででしょう。実際の所将来的には肉体的な意味では良いのではないのですか?』

『中身が付いてくる。面倒だ』

『……主、流石にソレは酷過ぎるかと』

実際の所、精通も来ていない人間にどうしろと? ハッキリ言って気持ち良くなりたいのならプロとした方が後腐れなくて良い。無暗に手を出して足を引っ張られるのは目に見えているだろうに…。

(あうぅ…何だか緊張して、ご飯の味がいまいち解らない…)

思いは擦れ違ったまま、時は流れる。






夜に成れば起きている人間は限定される。明日から高町なのはの通う学校に転入予定のフェイトはアルフと共に寝室に、クロノとリンディそれとエイミィは今後の行動を詰める為の話し合いとまだ終わっていない作業に。
明智良哉は先日の戦闘と引っ越し…急に変った生活環境に慣れる為に先ずは休養をと言う事で自分に宛がわれた自室へと引っ込んだ。部屋の中は殺風景としか言いようが無い。カーテンの色は青、ポツンと部屋の隅にある机の上にPCが一台。
寝る為のベットと部屋に備え付けられているクローゼットが一つ。TVやゲーム、娯楽本等は無く。其処はどう考えても子供の過ごす部屋では無かった。唯一明智良哉の部屋の中で異常なモノはそのPCだ。
地球産のモノだが中身は既にファラリスに魔改造済みの代物である。まぁ、その魔改造部分も簡単に言ってしまえばファラリス達と『プライベート』な通信できるというもので目玉な部分はデバイスと接続出来て従来のモノよりも格段に速く検索等が出来るという所だ。

『それで…調べて欲しいと?』

「はい。一応、此方側の事は自分で調べてみるつもりですが…どうしてもそちら側の事は調べられないので」

『…わかったわ。でも、あの人は英雄よ? 良識ある人物で慕う人間も多いわ、艦長達もグレアム派と呼ばれる派閥に居る事だし…ちょっと時間が掛かるわよ?』

「それでも構いませんよ。黒でも白でもどちらでも良いんです。灰の場合が一番面倒ですよ…白ならそれでOK。黒なら…まぁリンディさんに頑張ってもらいますよ。今後の為にも。」

『彼方っ?!……いえ、確かに展開を考えるとそうした方が…でもね。ソレは其処に達する過程でミスが有れば容易に結果は変わるわよ? どうするの?』

「その時はその時ですよ。無理そうなら諦めれば良いだけです。だって、俺はまだ管理局員では無いですし…ただの民間協力者で次元世界の事を良く知らない子供ですよ?」

『そう言えばそうだったわね。刺されないように気をつけなさい。それじゃぁ、お休み』

「はい、お休みなさい」

プツンと電源を切り、真新しいベットに横に成る。時計を見ればまだ12時にもなっていない。今日はよく寝れそうだ。




それぞれの夜が過ぎる。ソレは相手…ヴォルケンリッター達も変わらない。その日は一日中八神家にて待機をしていた。
もっと詳しく説明するならば、シグナムは掃除、ザフィーラは八神はやての護衛、ヴィータははやてにベッタリとくっつき、シャマルはカートリッジ作る片手間で調べ物をしていた。
ヴォルケンリッター達にもそれぞれ気に成っている事が在る。ヴィータならば明智良哉の事だ。敵対しているとはいえ本心では余り戦いたくはない。友達…その言葉一番しっくり来る人間がヴィータに取っては明智良哉だった。
同じような思考(アイス万歳)で有る程度の信用と信頼が出来て、尊敬出来る間柄だ。ヴィータはこの間の戦闘を見て明智良哉を下に…自分が守ってやるか…と思いながら付き合うのは失礼な事だと言う事を理解した。
あの年で、あの力量。異常だ…とは言い切れないがそれでも異常と普通は言いたくなるレベルだ。年齢を考えれば。しかし、その反面所々で脆い部分が在る様にも見えた。気のせいかも知れない。
あの時は其処までじっくりと見れなかったしその事に気が付いたのはシグナムに戦闘データを見して貰ってからだ。どうも…体が追いついていない様に思える。

「……解んねぇ。」

布団の中でヴィータはそう吐いた。


ヴィータがそう吐いた時、八神家のリビングに居たのはシャマルとシグナムの二人だった。

「仮面の魔導師…か。何者なのだろうな、シャマル」

「さぁ、でも味方で無い事は確かよ。そして今は敵では無い」

二人が話すのは先日、管理局の魔導師からシャマルを助けた魔導師の事についてだ。目的、性別、年齢、名前全てが不明。だが、予想する事が出来る。まずは目的

「闇の書が目的で確定だと私は思うけど…どう?」

「私もそう思うがな…それでは納得が出来ない。寧ろ、管理局を敵に回す程のモノだ『知らなかった』では済まされないだろう。それこそ本物の馬鹿だ。」

「「主」」

「ソレが…」

「一番の目的だろうな。」

闇の書はその主以外が使う事が出来ない。管理するモノが居るからだ。力を導く者が居るからだ。何よりも…

(今回は違うのだ。あの方が出てくる…)

「ねぇ、シグナム。あの仮面の魔導師は…はやてちゃんの事を…」

シャマルが不安を孕んだ視線を向ける。それはそうだろう、それは最悪の可能性への可能性だ。だからこそ、ハッキリと言わなくてはならない

「知っているだろうな。完全に…監視も付いている…いや、付いていたのだろうさ…」

「……最悪ね。四面楚歌、考えるのも嫌よ。」

下を向くシャマルに慰めの言葉を掛ける訳にはいかない。したくともしてはならない。ソレが彼女の役割だからだ。
ソレを常に意識しなくては成らないのが彼女の役目だからだ。

「なに、最悪…我等が闇の書もろとも消えてしまえば良い。下策中の下策だがな。」

「当たり前よ!! せっかくっ…!! せっかく家族が出来たって…一人じゃないって…はやてちゃんがやっと手に入れた幸せをっ!! 私達が奪う事は絶対に!!」

「…そうだな。解っているさ…だからこそ考えるんだ。それで? 解った事はあるか? シャマル」

蒐集をしなくては主の命が危険、蒐集をしていればその身柄が尊厳が危険。溜息が出てくる。

「はやてちゃんの支援者の事でしょ? 残念ながら匿名希望の足長おじさんよ…公式にはね」

「公式?」

「石田先生…はやてちゃんの主治医さんにも確かめたんだけどね、石田先生もはやてちゃんから聞いた情報ではイギリスに居る位しか解って無いのよ。はやてちゃんも亡くなったご両親の友人としか知らされていないみたいだし…だから」

「探ったんだな?」

「えぇ、探ったわよ。辿りついたら其処はイギリスじゃなくて日本、人物を調べたらイギリス人だったけどその人の親の代から日本で暮らしているわ。で、出来る限りの個人情報を漁ったけど海外に行った事も無いのよ。」

ふむ、つまり…

「両親か?」

「その通り、その人のご両親の口座に毎月一定額が入金されているわ。料金を引けば毎月はやてちゃんの口座に振り込まれているのと同じ額。で、そこからもう一歩先で漸く海外よ」

本当に疲れた様に息を吐くシャマル。相当面倒くさかったのだろう

「でも、スイスよ? さらに其処から調べて漸くイギリス。入金している人物を調べれば毎月の入金額を出せても自分が暮らすには足りない稼ぎ、就職先調べてピックアップしたらその人は伯爵位を持つ人、はやてちゃんのご両親と接点がまるで無いのよ年も離れてるし」

ビンゴか…確証はない。証拠だって有るとは言えない。本当に主はやてのご両親と縁が在る人物なのかも知れない。だからこそ

「名前は?」

「ギル・グレアム。イギリスの社交界では有名な放蕩貴族らしわ。何もかもを部下に任せて遊び歩いてる遊び人て噂が在るわね。情報社会って怖いわ、誰が流した情報かも特定するのには時間が掛かるし、誤魔化す手段も馬鹿みたいに有るモノ」

妖しいのだ。

「そうか、今日はこれまでにしよう。私は明日出かける。暫く…最低でも三日は蒐集は行わない。今まで離れていた分主はやての傍に居よう。」

「…そうね。お休み、シグナム」

「あぁ、お休みシャマル」

トントントンと階段を上がる音が聞こえなくなるのを待って私は息を吐いた。

「利用する為に保護をしていた…と考えた方が良さそうだな」

陰鬱な気分に成る。沸々と込み上げる殺意と怒気を抑え込むのも一苦労だ。

「さて…私も私で動かなければならないか。全く、貴女は何時まで経っても我儘なじゃじゃ馬姫だ。」

遥か過去を思い頬が緩んだ。ソレで良い、ソレで良いのです。唯の数瞬を、目の前を光が通り過ぎる様な瞬間の幸せを望んで下さい。
その権利が在る。ソレ位の我儘は有るのです

「明智か…決まり切った事だな。あの時からこの時の流れは定められていた。お前も、私もこの先の数年は大まかな事は変わらないのだろうさ…お前が訪れるあの時までは…」

月は雲に隠れている。ソレはまるで其処に辿り着くまでの過程を隠している様に見えた。

「大馬鹿者に恋をして、ソレとは違う大馬鹿者を愛した…か。嫌なモノだな…識ると言う事は」









此処では無いどこか


「有る所に青い鬼と赤い鬼がいました…泣いた赤鬼。知ってるだろ? アギ・スプリングフィールド?」

紫煙をだらしなく吐きながら、アギ・スプリングフィールドは言った。

「ソレがどうした…関係無い話をして何のつもりだ。アギ・スプリングフィールド…このイレギュラーが」

アギ・スプリングフィールドを睨みつけながら、アギ・スプリングフィールドは言った。

同じ名前を持ち、似た様な容姿をしている二人。決定的な違いはその目だろう。前者は死んだ魚のような覇気が全く感じられないダルそうな目。
もう一人は下から見上げる様な…全てを妬み憎んでいる様な淀んだ目ををしている。
この二人は、同一の存在ではないが元は同じ存在である。

「関係なくはねぇよ。この話の最後は赤鬼と人間が仲良しなりましためでたしめでたしだ…で? その後はどうなると思う?」

「何を言っているんだ」

二人の距離は離れている。一メートル二メートルの話ではない。お互いが豆粒に見える様な距離が在る。イレギュラーと呼ばれたアギがそうしたのだ。
その事に、イレギュラーと呼んだアギは腸が煮えくりかえる様な思いをしていた。

「① 鬼は死ぬまで人仲良く暮らしました
「② やがて人は再び鬼を恐れ、鬼を殺しました
「③ やがてその力を恐れられた鬼は村を追い出されました
「④ ある時、赤鬼は青鬼を馬鹿にされてしまいとある人間を叩いて殺してしまいました。その後鬼は人に襲われてしまい全ての人を殺してしまいました」

「さぁ…どれでしょぉ」

プヒーと煙を吐き出すアギに、もう一人のアギは怒鳴る

「だからソレが何だと言うんだ!!」

その怒声を聞き煙を吐き出すアギはケタケタと笑いながら行った


                                                                  だって、俺達の事だぜ?



別の話をしよう。

アギ・スプリングフィールドはとある世界の住人だ。そして、そのアギ・スプリングフィールドはその世界を漫画…娯楽の一つとして見れる世界から転生した存在である。
そして、主人公と呼べるネギ・スプリングフィールドの双子の兄として生まれた。
主人公と同じように村を悪魔に襲われ、魔法学校を卒業し物語の舞台へ上がる。
トラブルに巻き込まれ、再び悪魔に襲われ、魔法世界に行き、一度消え、再び現れた。

ソレはどちらのネギも同じである。


時期を除いてだ。

大まかな所は変わらない。時期が違うだけでだ。

そして、時期が違うのはシナリオが違った。

イレギュラーは最初に『色欲』に出会った。
もう一人は最初に『嫉妬』に出会った。

『嫉妬』に出会い、『嫉妬』に『嫉妬』し『そのシナリオを歩んだ』そういう世界に生まれおちた。

『色欲』に出会い、『色欲』に溺れ『色欲』に『色欲』を抱き『そのシナリオを歩んだ』そういう世界も在る。

なぜ、嫉妬の道をを歩んだ彼がイレギュラーとアギを呼んだのか?

人はそれぞれに役割を持って生まれる。ソレは嘘だ。
何かの中心人物の周りとその元凶は役割を持って生まれてくる。ソレが正解だ。
用意された道が在る。複数の分岐と可能性を孕んだ道が在る。誰かの役割を乗っ取る道が、誰かに何かを譲る道が、舞台から音も無く降りる道が、無限でないが、複数に分かれる道のドレかを歩む。

なぜ、イレギュラーなのか。

死んだ魚の様な目をして、体中からダルそうな雰囲気を出し、覇気もヤル気も無く自分が良ければソレで良いと言う人間が、自分が死ぬ事をもっとも怖がる人間が『色欲』足るだろうか?

彼等と他の彼等は幾つにも沸かれた破片の物語りの一つを生きた存在でしかない。欠片でしかない。大元は既にバラバラに成って消えて欠片しか残っていない。

さぁ、これで解るだろうか?彼等は十八のシナリオのドレかを生きる、生きたモノであり、そして、イレギュラーと呼ばれるアギは、有る筈のない十九個目の消されたシナリオを作り上げ生きた存在なのだ。

「何を言ってる!! 貴様は怠惰のシナリオを生き、消え、現れ、何時か死ぬ!! そういう世界に生まれた筈だ!! 訳の解らない事をベラベラと!! 此処で貴様を消してやろうか!!」

声を荒らげる『嫉妬』にイレギュラーは笑いながら続ける。

「バーカ。調子に乗るなよ勘違いが」

言葉は後ろから聞こえた。だが、目の前にアギは居る。豆粒ほど大きさに見える距離を置いてイレギュラーは其処にいる。後ろを向く事は出来ない。ソレをすれば何かをされる。
ソレは拙い。

(忌々しい!!)

「何が勘違いだと言うんだ? この気違い野郎…シナリオを破棄した外れモノが」

「シナリオが十八? 勘違いにも程が在るだろお前ら?」

「お前等…だと?」

嫌な汗が背中を伝う。

「お前を含めた大罪気どりの七人に正義の味方モドキの十一人ドレもコレも目糞鼻糞だぁねぇ。」

「お、お前っ……………ぁ」

「さてさて、な~んも知らないアギさんはぁ自分の好きな様に生きているのですよぉ。ねぇ、この意味解る? てっ、聞こえる訳ないか。」

めんどくさいねぇ

何も無い、何処でもない空間にアギの声だけが響いた。







後も書く

お久しぶりです。最初に遅れた訳を

入院→退院→後輩の反逆→ぼこる(精神的に)→出張→帰宅→PCが雨漏りの直撃に有っている→修理→金が無いので断念→MH3予約間に合わず→二百円のスクラッチ当たる→PC新調→再び入院。

今復活。

と言う感じです。災厄塗れの一年ですよ。本当に。まだ、仕事も多量に残ってるしなぁ…
まぁ、取りあえずはMH3が手に入るまでは、出来れば月2位で出来たらいいなぁ…結婚式も在るし…俺じゃないよ?

何時もの

シグナム
おっぱいでっぱい夢いっぱい
何やら知っている様子。
姫ってだれ?
色々と調べ回っている様子。

明智良哉
PCはメイドイン月村
魔改造はファラリス
ハラオウン一家と同居?
フェイトと同棲…だと?!

「食事が…凄く辛いです」

ざまぁww


ファラリス

PC魔改造。情報収集中
寝る前も良哉とお話し中


フェイト
良哉と同棲。緊張しすぎて眠れない。
ご飯の味も解らない。
でも、擦れ違い。相手が悪いよ。
良哉の事は秘密。なのはにも秘密

「良哉と私の秘密…秘密♪」


ルーダー

現在はアースラにて書類仕事中。
終わったら長距離通信で家族と会話。

「やったねマリア!! お兄ちゃんが出来るよ!!」

その後、奥さんに不倫疑惑を掛けられる。


こんなとこかな?

インフルエンザに気をつけてね!! 皆。
俺は福岡在住だからミサイルが怖い




[5159] A´sの8
Name: BIN◆46522c0b ID:62bc3fb4
Date: 2010/12/31 23:29






其処は赤茶けた大地が風に侵される死した大地だった。

其処は命溢れる緑の平原だった。

其処は雨が大地を削る荒れた大地だった。

其処は一面を水で覆われた白波の大海原った。

其処は光が一切届かない暗い空間だった。

其処は全てが無い無色の空間だった。

其処は全てが存在する混沌だった。

そんな場所に彼は落とされてきた。其処を認識できない、ソレに触れる事は出来ない。

ソレに侵されるしかない。飲みこまれるしかない。其処はそんな場所だった。

そんな場所から彼を掬いあげたのは彼を其処に落としたのは…

「アローアロー? 愚弟よりカワイイ義弟が気に成るので早めに終わらせようか? 勘違いの嫉妬モドキ」









明智良哉の睡眠時間は常人と比べれば短い。時計の短針は3の文字を少しばかり過ぎた頃だった。
向くりと上半身を起こした良哉に声を掛ける存在は三つしかない。

『Good morning.master』

『おはようございます、主。実質三時間弱ですか…慣れませんか?』

『ja』

「……あぁ。」

何に慣れないのか? と言われればそれは他人としか言いようが無い。月村邸の住人には慣れていた。
月村忍、さくらの存在には少しばかり時間は掛かったが広い屋敷の中では其処まで気にはならない。
高町恭也はその存在感すら限りなくゼロに出来る男であり師でも在る為か慣れていた。戦闘訓練のたまものだろう。
ルーダー、ファラリスには既に慣れていた事も在り近くに居ても大丈夫だった。
月村すずかに至っては論外である。彼女の血は良哉自身の体に多量に入っている為気にする事すら無かった。久遠も似た様なものである。
故に、何に慣れないと問われればハラオウン一家としか言いようが無い。気配が近づくだけで目を覚ます事七回。その気配が遠のくまでは絶対に眠れなかった。
十二時前に眠ったと言うのに、実際の睡眠時間はそれよりも短い。
その事に不満や文句はない。食事の時点でこうなるであろう事は考えていた。良哉はベットから降りると着替えを済ませ静かに部屋から出てマンションの屋上に向かった。
最近のマンションで屋上を解放している所は少ない。
飛び降りやら事故等が在るとそれはそのマンションのマイナスイメージと成ってしまい。入居者が減ってしまう。それではマンションの持ち主の不利益にしかならない。

そう言った事を考えるとなぜだか溜息がでた。

吐いた息は白い靄となって大気に消える。スゥと息を吸うとヒンヤリとした冷たい空気が鼻を通り喉を通って肺に入る。それだけで気が引き締まった。
やる事は決まっている。自己鍛錬以外に遣る事はない。

素手で構え

敵を幻想し

妄想し

突きを放ち

防ぎ

受け流し

ただ、それだけを機械の様に続ける。

少しの歪みをデバイス達が指摘し

どうすればより確実に攻撃を当てられるか

どうすればより確実にダメージを与えられる事が出来るか

考え、探りながら続ける。

マンション内で購入した飲料水は直ぐに空の容器に変わり、多量の汗を吸ったシャツが肌に張り付く。其処まで多い運動量では無い。重りも何も付けて居ない。
だが、その全ての動作に変わる所が無かった。同じ線を幾度もなぞり続ける。
正確過ぎる。ソレは実践の中では弱点にもなる。だからこそ鍛える価値が在る。微妙に違う軌道なぞればそれはフェイントにも成る。相手がそう勘違いしてくれる。
体が覚えてくれればソレは最悪の状況をひっくり返す最高の一手に成る可能性が十分にある。その逆もまた在りえる。
結局は状況が決めるのだろう。コンディションの問題も在る。ならば、その状況を作り出し、万全でいなければ成らない。情報を得なければならない。些細な事も全て、流石にソレは無理だ。人間には。
デバイスは違う。地形データーを入れておけば良い勝手に演算把握してくれるしその信頼性は高い、がソレをするとデバイス内の容量が大変な事に成る。
外に違うモノを作らなければならない。
だが、ソレをすると動きにも支障が出てくる。相手はソレを先に壊しに来るだろう。どうするか?

(俺では良い発想や考えは出てきそうにも無いな…原案がいる)

シュベルトを起動させ、槍を構える。

突き

薙ぎ

打ち下ろし

突き上げ

石塚での打ち下ろし

かち上げ

打ち下ろし

薙ぎ払い

確認作業を終えシュベルトを待機状態に戻す。

「時間は?」

『五時です』

ランニングに行くか







ヴォルケンリッター、雲の騎士達の朝はバラバラである。

シャマル、ザフィーラの両名は決まった時間かそれに±数分した時間に必ず起きる。
料理に目覚めたシャマルは朝食を作るのが個人的に好きでもあるし、ザフィーラは四季それぞれの朝の空気を好んでいる。
ヴィータは惰眠を貪るのが好きなのか、起きる時間はまちまちで遅い時は昼前に起きる事もあるし速い時は誰よりも早く起きる。姿形と同じような子供のソレと一緒だ。
シグナムは必ず早朝に起きる。冬ともなれば日がまだ出て居ない時間に必ず一度は起きる。
その後で二度寝をする事もあるが基本は鍛錬を行っている。柔軟から始まり素振りや徒手空拳も行う。
その後、見回り程度に軽くランニングを行うのだが、蒐集を始めてからは自重していた。
自重していたが体の奥に籠った熱が中々抜けない、そして僅かな希望がその頭の中に在った。

明智良哉

この少年のランニングコースは熟知している。一度はヴォルケンリッター総出でその痕跡を探ったのだサーチャーを付けた事も在る。
それだけならば希望等抱かないが、明智良哉と言う存在は希望に成りえる可能性が在る。
一度剣を合わせたフェイト・テスタロッサは純心で真面目で素直な人間なのだろうとシグナムは思う。
古い考えなのだろうが、百の言葉を交わすよりも一度剣を合わせた方がシグナム自身はその人間の在りようが解る。
フェイトを純心と感じた様に明智良哉に関して感じたのは、途方も無い暗さだ。それと同時に小さいが確かな光を見た。強烈なまでの虚飾を感じた。
アレは何かで自分を飾らなければ途轍もなく弱いのだろうと感じた。それが戦士としての仮面であれ、ヴィータを前にして見した悪党の仮面であれソレを剥いでしまえば……

(主……姫…全く、貴女は本当に…)





明智良哉、シグナムがランニングに出かけたのはほんの数分の差でしかない。ソレ故に彼等は出会う事に成った。
それを奇跡と呼ぶのか、偶然と呼ぶのか、それとも必然とほくそ笑むのか。それは人それぞれなのだろう。運の良い悪いで言えばどちらの人物も何とも言えない。
シグナムとしては幸運かもしれない。明智良哉からすれば状況次第では幸運だったのかもしれないし不幸だったのかもしれない。
町内にある何の変哲もない十字路。

「?!」

「まて、此処でやり合う気はない」

最初に交わしたのは到底信じ切れない言葉。

明智良哉は考える。今すぐにでも逃げ出したいのが本音だ。そもそもランニングに出かけたのは監視が有るか無いかを確認する為だった。その結果は黒。
つまり、自分は何者かに狙われているか疑われていると言う事だ。最悪、自分達が何処に居るのかもバレている可能性も出てきた。目の前にシグナムが居る。それだけで其処までの最悪が在る。
突然の強襲に今のメンバーで動けて戦力になるのはリンディ・ハラオウンだけだ。クロノ・ハラオウンはエイミィ・リミエッタを先ずは気が行くだろう。それは仕方が無い。
現状、シグナムに勝てる可能性が一番高いのがリンディだ。それでも接近されてしまっては危ない。自分ではシグナムには勝てない。
フェイト・テスタロッサも無理だ。海千山千の古兵を相手にするには経験が無さすぎるし体格の差もある。

(チッ、乗るしかないか)

一度シグナムの顔を見る、視線が合う。嘘を付いている様には見えないがそれだけなのかもしれない。そのまま、視線を逸らし角を曲がる。隣りに並ぶようにしてシグナムも角を曲がった。





一方シグナムも内心では若干の焦りと驚愕が渦巻いていた。シグナムは思う。

余りにも出来過ぎていると

偶然、奇跡、シグナムはどれも心の底から信じる事は無い。ソレが現実だからだ。この自分からすれば予定調和としか言えない状況。
誰かに仕組まれたのではないか? とさえ勘ぐってしまう。明智良哉は何も話さない。ただ視線が合った。その瞳には警戒の色が濃く広がっている。
そして、そのまま視線を逸らされた。自然とその視線を追ってしまう、其処には特に変わらない家の壁とブロック塀があった。塀の上に猫が居てクカァ~と大口を開けて欠伸をしているのが中々にキュートである。
再び視線を戻せば、明智良哉は既に走り出していた。直ぐにその後を追う。角を曲がるとゆっくりと走る明智良哉の隣りに並ぶ。
そこで気づいた。何者かに見られている。サーチャー等では無い。生の目で見られている様なこの感覚。久しく感じる事の無かったモノだ。
横目で明智良哉を見ると、規則正しく息を吐き出しながら私を横目で見ていた。視線が合うと前を向きコクリと小さく頷いた。

(コレか…)

監視を受けているのは明智良哉であるが、私もその対象である。

(仮面の男か…)

それぐらいしか思い浮かばない。もう一人居る事には居るが確証が無い。
考えるだけでイライラして来る。走りながら小さく頷く、さてどうしたモノか? コレが仲間も居る宮廷等ならばやりようも有るのだが、流石に孤立無援と言っても良いこの場でどうやって本題に入ろうか?
特に会話も無く思考に没頭しそうになる。その瞬間、僅かな魔力と殺気を感じる

(そう来るか!!)

瞬間、魔力刃を形成。伸ばし刻み相手の眼前に突きいれる。

私にも同じように魔力刃が突きだされる。

「殺気が消しきれてないぞ、戦士・良哉」

「…上の空のアンタになら不意打ちも成功すると思ったんだがな。騎士・シグナム」

お互い足を止め、眼前を向いたまま右手と左手を横に伸ばしている。正直な所、立ち止まるタイミングが遅ければ首から左耳まで貫かれていた。驚くほどに速い。
そして、やはり頭が回る。眼前の魔力刃に意図的に刻まれた数字の羅列…本当に、この男が成長するのが楽しみでしかたない。

「私は、話がしたいと思っていたんだが……此処で戦るか?」

「NOだ。不意を付けなかった以上俺の負けだ。第一俺にはお前の話を聞く気が無い。それよりも良いのか?」

監視は続いている。このまま別れた方が良さそうだな…お互いに

「ふん、今はまだこの地に留まっている方が良い。私達の事を知っているのはお前だけだからな。我等の首を手土産に伸し上がるつもりか?」

「御明察。少しでも早く上に行く為には功績が必要だ。生憎とコネと資金は無いんでな。こうする他に道はない」

「力の信望者か…屑め」

「屑とは酷いな…目的の為には権力が必要だったそれだけだ。所でエーリヒカイトと言う名に心当たりは無いか?」

「教える義理も無いな」

「…そうか」

いかん?! 本当に此処で始める気か。爆発的に膨れ上がった殺気に自分の中の闘争心が鎌首をもたげているのが解る

「じゃぁさよならだ!!」

盾を眼前に横に跳ぶ。瞬間に視界を光が包んだ。

(何処に?!)

周りを見渡せど姿は見えず。

「逃げられたか…此方側に引き込めればと思ったが…」

私はそう言い家に帰る事にした。

監視の目は途中まで私達を見ていた様だが、閃光が放たれる瞬間には消えた。さて、朝食後から本題に入るとしよう。

「ククッ……やはり、奴だけが空気が違うか」

次が楽しみだ。




















一方、光と共に逃げ出した明智良哉は民家の屋根を跳び移りながら人気の無い空き家の前に跳び下りた。身体強化とフィールド型のシールドを応用した光の屈折。先ず、一般人に見つかる心配は無い。
そう考えながらも、監視の目が離れて居ない事に少しばかり安堵した。
今はまだ、離れて貰っては困る。帰り着くまでは見張られていないとイロイロと拙い。伽藍洞な眼帯の下の意味が無い。其処まで期待はしていないが、得られるモノが在るのならば欲しい。
突かず離れずの距離ならばまだ気配を察知できるが、その外の気配は察知できない。ただ漠然と見られている事は理解できる。
高町恭也ならば相手をこの場で叩きのめせるのかもしれない。それだけの速さと機転がある。やろうと思えば出来るかも知れないが、明智良哉は高町恭也程に気配を探る事が出来ない。
未熟と言われればそれでお終いだが、高町恭也の方が異常なのだ。
そして、明智良哉が直ぐに帰らなかった理由はシグナム達の…正確にはヴォルケンリッター側の監視が在った時の為に備えてと言うのが理由の一つ。
もう一つは

「クゥゥゥゥ!!」

少々ご機嫌斜めなお姫様が居るためだった。

(…饅頭と甘酒でどうにかなるか?)

良哉からすれば割と厄介な問題でも在る。

そもそもの原因は昨日の戦闘の後、久遠を置いてけぼりにしてしまった明智良哉の過失が原因。
さらに付け加えれば、久遠に自分が何処に居るのかを連絡もしていない。うっかりと言えばそれまでだが、やられた方は堪ったものではない。

ピョン(ジャンプで良哉の頭え)

「クゥゥゥ!!」タシタシタシタシ(全力で良哉の頭に前足を振り下ろしている)

「………」

「クゥゥゥゥゥ!」

「………」

「くぅぅぅぅ…」

「……ごめんなさい」

機嫌が直るのに消費された甘酒は650ml、饅頭3個。約800円也。














「あの子…可愛い…」

どうでもいいが猫が子狐に母性を刺激されていた

















所変わって高町なのはは心を躍らせていた。漸く会えた友人が今日から同じ学校に通い、同じクラスで学べる事が出来る様になったからだ。
勿論、頭の片隅にはついこの間襲ってきた彼女達の事も残っている。
だからこそ、なのはの心の中は嬉しさに満ちていた。頼りに成る友人、魔法の事を知る仲間が来たのだ。その存在がなのはに安心を与えてくれた。

(フェイトちゃんもリンディさんもクロノ君もユーノ君も…明智君も居るんだ)

一つの問題を沢山の仲間と共に解決する。この事に高町なのはは自然と安心感を感じ頑張ろうとやる気を滾らせる。
そして、何よりも高町なのは以前自分自身に誓いの様なモノを立てている。

(名前で呼び合えるように…友達に成るんだ)

親友との最初の思いでは仲裁(肉体言語)で新しい友人との最初の思いでは戦闘(肉体的魔法言語)少ないが一緒の時間を共有しているのだ、共通点は有る。

「ん。フェイトちゃんに聞いてみよう」

そう短くはいてから行ってきまーすと、高町なのは家を出た。

もし、彼女に失敗が有るとすれば…





彼と彼等の裏側を全く知らない…感知できなかった事だろう。

だが、そんな事を知らない高町なのはフェイト・テスタロッサにこう聞くのだ。

「フェイトちゃん。明智君の事教えて?」



ハッキリと言ってしまえば、フェイト・テスタロッサは話したい。だが、話す事は出来ない。既に時空管理局嘱託魔導師として今回の事件に関わっているフェイトには情報漏洩を防ぐ義務がある。
ただし、コレは明智良哉から『お願いされている』だけで事件にかかわる様な事では無い。そう、個人と個人の口約束でしかない。何時までと期限を決められているわけでもない。
しかし、クロノが危惧したとおりの問題が在る。それは、明智良哉への依存。自分が殺した訳ではないが同じ年の少年が人を殺した。それは、それなりのショックを彼女に与えた。その当時フェイトは自分勝手な武装隊員に激怒していたからこそその衝撃は少なかった。
が、どうしても結果が…物証が其処に残ってしまっているかぎりそれは目につく。目、耳、鼻、口から黒く変色したモノを垂れ流した肉の塊が視界に入ってしまう。
コレが、首を飛ばされたモノだったら…まだ、マシだったのかもしれない。死体の状態は酷い。脳内に埋め込んでいたモノがショートし微弱ながら、それでも脳には強すぎる電流が一瞬でも流れれば脳神経はソレに反応する。
不自然に曲がる四肢、歪んだ形で硬直した表情。普通なら誰でも顔を背けたくなる様なモノだ。その場で吐かなかっただけでも優秀な方だ。
それだけ、その時フェイトの頭に血が上っていたのが幸運だったのだろう。
故に彼女は明智良哉と結果的に一緒に入浴してしまった時に辛く無いか?と問うたのだ。その返答は割り切ったと言う言葉だった。フェイト自身に掛けた言葉は忘れろと強く成れの二つだ。
忘れる事はまだ無理だった。目を瞑れば嫌でも思い出す。一人で眠れなくなる。だから勇気をだして恥ずかしかったが明智良哉に一緒に寝て貰った。悪夢は見なかった。精神的にも疲れていたからグッスリと眠れた。
その存在を感じれるモノが有れば落ち着けた安心できた。それを手放したら寝れなくなる様な気が今もしている。良哉の体温は暖かった、心臓が刻む音は心地よかった。何よりも頼れた。
前の戦闘でも自分は何も出来なかった。あの空間に入って行けなかった。足手まといと理解出来たからだ。
少し合わないだけで強くなっていた。怖く成っていた。前よりも、近くに居る事で感じる安心感が増していた。
依存である。アレが在るから大丈夫。アレが有れば大丈夫。
依存である。彼女には肉親と呼べる者がもう居ない。子供である彼女は親という者からの真の愛情を注がれた事が無い。彼女の母は娘を愛していたが故に彼女を愛するという選択肢が全くと言って良い程に無かった。
依存である。彼女は無意識に頼れるモノを探している。温もりを求めている。
依存である。愛される事に飢えているからこその依存が在る。
母に近しき存在は近くに在る。姉や兄に近しき存在も近くに在る。母、姉は温もりの象徴でもある。少しずつ…ソレは満たされている。
依存である。兄とは頼れる身近な象徴でありもっとも近い盾でも在る。
依存である。家族に飢えるからこそに足りないモノを求め必要とし縋ろうとする。
依存である。父というパーツが足りないのである。
厳しく、時に冷たく、時に優しく、見守ってくれる存在。恐怖の象徴でもありもっとも頼りになるモノの象徴。護ってくれると実感出来る、そこに居るだけで安心を覚えれる大きな柱の存在を求める。

リンディ・ハラオウンの母性、庇護欲は本物である。少しずつ、少しずつ彼女の心に浸透し暖かさを宿している。

エイミィ・リミエッタ、アルフ。彼女達は正しく姉という存在だろう。同棲であり方や過保護、方や放任気味な面が強いが両方とも面倒見が良く頼れる近しい存在

クロノ・ハラオウン。正しく彼は兄だろう。彼女自身の事を考え時に厳しいながらも初めてだからだろう不器用な優しさを示し、彼女の事を護ろうとする存在。頼りに成る兄貴分だ。

明智良哉。友人と言うには異性としては若干近過ぎる。兄と言うには優しさが足りないと思われる。誰にでも厳しいとは言えない。彼はユーノ・スクライアやクロノ・ハラオウンには優しい。
自分にはどうだろうか? そう考えるとどうとも言えない。同衾出来たのはアルフあっての事だと彼女にも考えれば解る。自分よりも強い。引かなければいけない時に引き金を引ける彼は彼女からすれば強いと思える存在である。
前回の戦闘でも結果的には守られている。あのまま続けて居れば自分の敗北は明らかだった。



安心感を覚えたのも、頼ってしまったのも巡り合わせの問題でしかない。

人はそんな巡り合わせでどうにかなってしまう。

故に、彼女の中でドレだけ大切な存在にでも約束を反故にすると言う選択肢は無い。

その日、高町なのはが得られた答えは「…良く知らない」と言う肩を落とす答えだけだった。

その日、フェイト・テスタロッサは友人に吐いた嘘に因って強い罪悪感とほんの少しの優越感を覚えた。



無知故に知ろうとする高町なのは。無知故にそう当て嵌めてしまったフェイト・テスタロッサ。

だが、一番優越感を覚えたのは…罪悪感を覚えたのは二人の話をたまたま耳に納めてしまった月村すずかだった。


すずかは知らない。良哉と姉が何を話しているのか、何を思って行動しているのかを。
すずかは別にそれでも良いと思っている。知らなければならない最低限の事は聞かされる。一族の為に。すずかは不用意に知ろうとは思わない。繋がりが切れてしまうのは嫌だから。

明智良哉は知っている。月村すずかの行為を。

明智良哉は勘違いしている。ソレは所詮は麻疹の様な一時的なモノでしかないと。



舞台の裏に潜むモノは全てを知っている。だからこそ、其処に立っている。其処に潜んでいる。だからこそ見ている。






ただ、楽しいから









此処では無い何処かで、二人のそっくりさんが対峙している。双子ですか? と言われても文句が言えない位に容姿が似ている二人はだけれど絶対に兄弟とは思われない。
違い過ぎる雰囲気は正に他人そのものである。

「あー…まぁ良いや。此処で消滅しちゃいなよお前。」

アギ・スプリングフィールドは至極真面目な顔で『嫉妬』に言う。
だが、そんな言葉に従うよな敵対者等居る訳が無い。

「消滅しろだと? このキチガイが!! お前が消えろ!!」

其処には山が在った。否、山の様に大きな体を持った何かが空間を割って現れた。

マガ

鰐の様な頭。過去に滅びた海竜の様な体躯。長い尻尾。一つ褒める点が在るとすればその存在は醜く矮小で卑屈な雰囲気を撒き散らしている事だろう。

マギ

誰もが思う。この存在を知れば心が軽くなる。自分はアレより酷くない。

ゴディア

自分はアレより全然マシだと確信できるからだ。

「殺せ!! リヴァイアサン!!」

マラスクス

「■■■■■■■!!」

その存在が吐きだした言葉何よりも醜かった。

「…はぁ。所詮は勘違いか…まぁ、そうだろうねぇ」

醜い叫びが一声。それ以上は続かなかった。なぜならその醜さを撒き散らす何かはただ一声上げた瞬間に消滅したからだ。

山より大きな空間の歪が存在した。其処からはみ出している頭は蛇に似ている。もう閉じられている口腔その隙間から火が僅かに漏れ、その鋭い犬歯を鈍く照らしていた。
鼻から細く上がる煙は黒く。首から下は見れない。だがその存在の首が解らなかった。何処からが首かが良く解らない。
大きな、本当に大きな顔の下と同じくらい大きな存在。
『嫉妬』は思った。鯨に似ている。だが、鯨の様な体躯ではない。途方もなく長いのだろう。ビキビキと空間から音を立てて這い出した尻尾の先端…そう、先端は天まで届くのではないかと思ってしまう程に長く大きかった。

「リ…リヴァイアサン?」

それが、彼の残した最後の言葉だった。



異形は問う。呼びだしたモノに。

「…折角の安眠を邪魔して、何の様だ」

呼びだしたモノは答える。

「勘違いを正しただけだよ。直ぐに戻すから暴れんなよ?」

まるで友人の様に話しかけるアギに異形は溜息を吐く様に火と煙を噴きだした。

「…九十九の者から伝言だ。マスターが寂しがって夜泣きしてますだと」

「ん~…ちょっとする事が在るから待っててって伝えて。」

「承知した…後だ…その…偶には私も混ぜてくれ」

そう言うと、その異形は還された。

「はぁ…結局は美徳も悪徳も捉え方なんだけどなぁ。ってももう意味無いか。されじゃ、良哉君には頑張ってもらうかね。実験、実験♪」

紫煙を吐き出しながら心底面白そうに笑ったアギは、子供の様にはしゃぎながらそう言った。






後で、影の中に勝手に潜んでいた嫁の一人からかわれて凹んだのは数瞬後の話である。

「実験実験♪ ケケケケ」

「らめぇ!! 黒歴史はラメナノォ!!」







あとがき


コレが今年最後の更新だ!!
良哉とシグナムは黒幕に近づく一歩位前
アギはいろいろと終わらせたよう
フェイトは依存が問題に?
なのはは良哉に近づこうと何かをする。
すずかは暗い喜びを少しおぼえて胸が痛く。
久遠はジャスティス!!


次回、そろそろ兄貴がアップ開始かな? 後、ユーノとかも?たぶん。


それでは、良いお年を…俺は明日も…ハァ



[5159] A´sの9
Name: BIN◆46522c0b ID:62bc3fb4
Date: 2011/03/27 16:24




汗を掻くと気持ちが良い。それが、自分で好んだ行動に因って掻いたモノならばソレが当たり前だ。だが、汗を掻いたままだと不快に成る。
それも当たり前だ、放っておけば乾くがその後に残るべたつきは不快だ。更に言えば細菌も繁殖し臭いの元に成る。肌が弱ければ痒み等も引き起こす。
何より衛生的に頂けない。ソレは、一つの家族の住処に居候させて貰っている身としては当たり前の事である。
つまり、明智良哉は久遠を伴って入浴した。勿論久遠は子狐モードである。広さ的に…
だが、一つハラオウン一家と共に決め忘れていた事柄がある。主に入浴に関してだ。
ハラオウン一家は男一人に女一人。関係は親子。母親の裸を見ても息子は何も思わないか気恥かしい位である。クロノに母親の裸を見て欲情する様な特殊性癖は無い。
だが、ソレは昔の話であって今では無い。
現在はフェイト・テスタロッサにエイミィ・リミエッタと女性を二人追加しなければならない。良哉を入れても男二人に女三人。大人一人にお年頃二人と言った女性陣に対し少年二人だ。
この輪の中では女性が強い。
救いが在るとすれば一人良い大人で、年の近い他のお年頃二人と少年二人の関係は親しいと言って良いモノであり(一人除く)どちらも良識がある。
何も言わずとも暗黙の了解が存在するのだ。一般常識的な意味で。
だが、人間とはやっぱり失敗を起こすモノ。明確にしておかなければ良かった。と後々思う事は私生活の中でも多々ある事だろう。
つまり、食事前等周りに人が居る状態で「お風呂に入る」と言っておけば二人知らなくても知っている人間が教えてくれる。

「…なので決して悪気が在った訳ではないんです」

「取りあえず出ろ。言い訳はそれからでも良いだろう、テスタロッサ」

「クゥー」

と、自分がなぜ異性の裸を除いてしまったのかを語ってしまうぐらいにパニックを起こしていたフェイト・ハラオウンが顔を洗いに洗面所兼脱衣所の扉を開いた午前六時四十分の事だった。

(うぅぅぅぅぅぅ!!あっ、リョウヤって足の付け根にホクロが三つ並んでるんだ)

恥ずかしながらもガン見してしまう九歳の朝からハラオウン一家の朝は始まった。







そんな前日の事を思い出した良哉は、ドアに入浴中の紙を張り付けて入浴する事にした。
シャワーを浴びながら考える。意外な事にシグナムとの連絡はとても有益なモノだった。ギル・グレアムが黒と確信出来たのだからこれは大きい。
序に自分で調べずに済んだ何処から足が付かは解らないのだから良かったのだろう
話はトントン拍子に進んだ。次回の蒐集予定日にメンバー…恐らく仮面の男とはリーゼ姉妹なのだろう。あの二人の事は良く知らない。

(クロノさんの先生…だったよな?)

力量の方は解らない。ただ強いのだろう、だがシグナムが協力してくれるのならば勝率はグンと跳ね上がる。
仮面の男の事は此方でも疑っているし、あちら側も警戒している。その場で化けの皮をひん剥いてやるのも良いかも知れないが…

(高町が居るとして…どれ程の犠牲がでるか)

どうにかなったという結果だった。今のままでもどうにかなるのか? 成ってしまうのだろうか? なんとなく、世界に対して憎悪が湧き出る。八つ当たりでしかないが…下らないか…

(どう思う? シュベルト)

『ギル・グレアムの目的ですか?』

(あぁ、恐らく…と言えるのは有るが、別の意見も在るのなら聞きたい)

『恐らく私が考えている事は主と同じでしょう。封印または破壊が目的と考えるのが妥当でしょう』

(そうなるか…封印の仕方はヴォルケンリッターを消した後で八神はやて事だろうな)

『そうでしょう。封印方法は空間凍結等の魔法でしょう、それ以外に考えつきませんし…破壊は無理なのでしょう?』

(あぁ、クロノさんから貰った情報や以前の事件等でも明らかに成っているが転生プログラムだったか? まぁ、ソレが在る限り破壊しても無駄だな時間稼ぎにしかならない。)

『本体を初期化してしまえば…』

(無理だな。接続出来るのは闇の書が選んだ契約者のみだし、そんなプログラムを作れる奴が今いるか? 碌な解析も出来て居ないのに)

『そう…ですね。だからこそあの男も最小の犠牲を選択したのでしょうし』

ギル・グレアムは正しい。俺はそう考えるしそう思う。もし、初期化出来るプログラムが在るならそっちを選んでいただろうとも思う。面識は殆どない。
ファラリスさんから得た情報を元にして思い描いたグレアムならそうするだろうと思えた。俺もそうするうだろう。立場や自身の事を考えればだが…
それを考えなければギル・グレアムと同じ事をすると思う。もっとも、グレアムは八神はやてに少なくとも多少の希望と幸せを与える様に配慮している様だが…

「…監禁と洗脳だな」

『はい?』

考えた事が口から零れた。

(いや、俺なら最初から希望なんて与えずにそうすると考えただけだ)

『…怒れませんね。ソレが一番安全です。ヴォルケンリッター達をどうにか出来ればですが。』

(ユーノに探って貰うか?)

『それが良いでしょう。無限書庫は彼からしてもメリットの在る場所ですし。』

「クー?」

「いや、何でもないよ久遠。それよりも、人型に成るな。洗う面積が増える」

「……自分で出来る」

「なら良い」

少し拗ねた様に言う少女を見ると年相応に見えてなんとなくだが和んだ。






そんな光景を想像も出来ない月村すずかは何時もより少し早く起きた。窓を開ければ体の芯から冷える冬の空気が髪を揺らした。

「うぅ…寒い」

ブルリと体を震わせる事に成ったが目は覚めた。目が覚めてしまうと少し憂鬱な気分になった。昨日の事だ。
優越感、そう明確な優越感を覚えてしまった。その事に大きな罪悪感と僅かな悦びを覚えた。喜びでは無く、歓びでも無く、悦び。
自分はこんなに彼の事を好きなのだと、その事に悦びを覚えてしまったのだ。

(駄目…コレは駄目)

恋愛の本だったか、もしかたら別の本だったかも知れない。でもその一文は覚えている。
恋愛をしている人間の脳の状態はコカイン中毒者の脳と同じ状態だと、ならこの状態は危ない。異常だと思った方が良い。
このままの状態だと何時ボロが出るかが解らない。

(それだけは駄目…繋がりを自分から壊す様な考えは駄目!!)

罪悪感を大切に、大切に包みこんで絶対に捨てない様に縛りつける。

(優越感を覚える必要はない。彼と私の関係はなのはちゃんやフェイトちゃんでは築けない私だけのモノ)

月村すずかと明智良哉だけの特別な関係。契約。

(私が私でいる限り。今関係は壊れない。壊れる時は私が駄目に成った時、彼が居なくなった時)

ぎゅっと目を瞑って、深呼吸をする。落ち着くのを待ってから部屋を出る。そしたら、何時もと同じ時間に成っていた。

「おやようございます。すずかちゃん」

「うん。おはよう、ファリン」

さぁ、何時も通りの月村すずかで居よう。






時に真っ直ぐな性根の人間は大きな成果を出す。それは良くある様で中々無い事でも在る。だが、一つの事に真っ直ぐ進んでいける人間は何処か跳び抜けている者が多い。
高町なのはも、その真っ直ぐな人間の一人だ。彼女は歪んでいる故に真っ直ぐなのかもしれないが、生来の気質からそうなのかもしれない。彼女の周りの人間は筋が一本通った人間が多い。
両親を含め兄弟、親友、近しい人物は皆筋が通った人間だ。彼等は諦めると言う事を知りながら諦める事の無い人間である。
挫折を知っている。嫉妬も知っている。諦める為の言い訳や、切欠を知っている。それでも彼等はその選択肢を選ばない。負けても這い上がる。挫けても立ち上がる。立ち止まっても歩きだせる。
そんな人物達に囲まれ、育った高町なのはは、中々弱音を吐けない。吐かないと言った方が良いのかもしれない。誰かに必要とされたい。そういう想いが彼女の心の奥に巣くっている。
幼少の頃の出来事が切欠だったのかもしれない。魔法を覚えたのは何故か?

才能が在ったから? 助けを求められたから? 助けたいと思ったから?

どれも正解なのだろう。無意識の内に魔法を使えれば必要とされるかもしれないと思ったからかもしれない。
助けてあげれば必要とされるかもしれない。
助ける事が出来れば頼りにされるかもしれない。
そんな想いが在ったのかもしれない。所詮無意識の事、故にそれは本人にも解らない。ただ、彼女が今思っている事はそんな事とは関係の無い事なのかもしれない。

(明智君…何処に居るんだろう?)

好奇心なのかもしれない。ただ友達に成りたい。それだけの理由で動いている彼女は送迎バスの中で普段より上の空だった。

「なのは?」

「なのはちゃん?」

「ふぇっ?! ど、どうしたの?」

友人二人からの声かけで高町なのははバスを降りなければいけない事に気づき、慌ててバスを降りた。
彼女が上の空に成っている原因は明智良哉に在るが、もう一つ理由が在る。兄が帰ってくるのだ。少し長く家を空けていた兄が帰ってくる。前の様に家族皆で食事を取る事が出来る。
ソレが嬉しい。

「どうしたのって…なのは。あんた昨日からちょっとおかしいわよ?」

「うん、何時もよりぽや~っとしてるよ?」

「そ、その…今日お兄ちゃんが帰ってくるから」

なのはの答えにアリサは初めて知ったと言う表情で言う。

「恭也さん出かけてたの?」

「うん。ちょっと前からすずかちゃんの所に」

その話に、すずかは成るほどと思う。それぐらいしか思えない。情報が足りない。明智良哉と高町なのはの関係を良く知らないからそれぐらいしか思えない。

「うん、お姉ちゃんベッタリだったよ」

「…相変わらずお熱いのねぇ」

「にゃははは…本当にねぇ」

やはり、家族でもあのアツアツっぷりはキツイらしい。すずか的にはああいう関係は少し羨ましいと思うが…姉とその恋人の立場に意中の人物を当てはめると全く想像が出来なかった。
その事がオカシクて頬が緩んだ。

「なのは!!」

その時にフェイト・テスタロッサがやって来た。少々頬が赤いのは寒いからだろう。

「あっフェイトちゃーん!!」

フェイトの声に嬉しそうに手を振るなのはを見てすずかは思う。

フェイトと明智良哉はどういう関係なのだろうか? 

直接良哉に尋ねれば教えてくれそうな気もするが、しようとは思わない。まだ、深く干渉するべきではない。そう思うからだ。
其処から教室まで他愛の無い話が続いた。主に勉強に付いてだ、友人達…特にアリサ・バニングスはオールラウンダーな才女だ。テストは毎回略満点かそれに近い。
だが、なのはは文系が弱い。自分は文系が強い。そしてフェイトも文系は弱い事が発覚した。その事になのはは、親近感を強くしたようだ。解らない所が在るなら教えるよ? 声を掛ける。
その事に嬉しそうにありがとうと返すフェイトを、すずかは可愛い人だなぁと思った。高町なのはとフェイト・テスタロッサは似ていると思った。だからこそ、直ぐ友達に成れるとも思った。
両方とも素直なのだ。裏など無く礼を言い感謝する。自然と言葉の裏を読もうとしてしまうのは家の事が在るからだろう。ソレはアリサにも在る。だからこそ親友と呼べる間柄になれたのだ。
隠し事はお互いに在る。ソレを含めて信用、信頼を置ける無二の友人。
だからこそ、胸の奥が痛んだ。




フェイト・テスタロッサは高町なのはの笑顔を見た瞬間に安らぎを覚えた。友人と呼べる初めての存在。高町なのはの存在は自分の中でかなりの大きさに成っている。その自覚は在る。
胸の奥がジクリと疼いた。鈍い、鈍い痛み。心の芯に来る痛み。その痛みが頭の中に一人の人物を浮かべる。

明智良哉

自分の中での良哉の位置づけは何なのだろうか? 安心出来る人物。家族とは違うでもソレに近い気もする。背中を押してくれた男の子。一緒に寝てくれた男の子。安心出来る、頼りに出来る人物。
裏切れない人物で在るのは確かだった。約束を破りたくない人物で在るのも確かだった。だが、本当に高町なのはに嘘を吐いてまで隠すべき約束をしただろうか?
お願いされた。命令でも無く、約束でも無く、お願い。
だからこそ悩む。このお願いと言うモノこそ守らなければ信用、信頼は無くなってしまうのではないか? そう考えてしまう。
言葉遊びなのかもしれない。自分の世界は狭いと言う事を自分は知っている。人が死んで行くのを見た。知っている人が人を殺すのを見た。クロノ・ハラオウンや武装隊の人間と共に行動し、黒い部分を見た。
少しずつ自分の世界が広がって行くのを自覚出来た。最初に広げてくれたのは初めての友人だ、暖かい世界を自分に示してくれた。
明智良哉では無い。だが、明智良哉も自分の世界を広げてくれた人間だ。冷たくて暗いモノを見た。見たくない恐怖が在った。それと同時に人の温もり、他に人が居る。よりかかれる暖かさを一番感じさせてくれたのは明智良哉だった。
どんどん広がる世界が楽しい。掛け無しの本音だ。だからこそ解らなくなる事が在る。自分は一体何が一番大切なのだろうかと考えてしまう。
友人と学校に通える生が楽しい。帰る場所に暖かい人達が居るのが嬉しい。友達の存在が嬉しい。頼れる人に頼りにされるのが嬉しい。寄りかかってばかりでなく、自分もその人の為に何かをしてあげる事が出来るのが嬉しい。








故に、この事に答えは出ない。今は、まだ…出せるだけの経験がない。経験が少ないが故の大胆さは在るだろうが、フェイト・テスタロッサにはまだ答えを出す事は出来なかった。








一方、高町なのは自分の友人達がそんな悩みや後ろめたさを抱えている事を知らなかった。それはそうだろう、自分が何気なく言った言葉。その言葉に還された言葉。
何処にでも在る様な問答に心を痛める様な人間は普通は居ない…と言うのは言い過ぎかもしれないが多くは無い。寧ろ少ないだろう。
何かに過剰出ない限りはそうだ。高町なのはにとって明智良哉はとは自分の不甲斐無さの象徴である。それと同時にそんな不概無い自分を許してくれた恩人でも在る。
少なくとも高町なのはの中ではそう成っている。なのはの知る限りではついこの間まで明智良哉はクロノ・ハラオウン達と一緒に居たと言うのが真実である。実は地球に戻っていたと言う事は知らない
高町なのはには絶対的に情報が足りない。知ろうとしても伏せられているモノが多い。彼女の為を思って伏せられている事もある。
高町なのはは努力している。彼女なりに努力をしている。
朝が弱いのに早く起き魔法の練習。長期の休みには明智良哉の家にも行ってみた。フェイトから送られて来たビデオレターにも欠かさず返事を返し、少しごたついたが親友達との関係も昔の様な間柄に戻した。
高町なのはに悪い所は無い。あえて言えば、運が悪かったのかもしれない。あの時、魔法に出会わなければ違ったのかもしれない。明智良哉に対する罪悪感やその他もろもろの感情は無かっただろう。
IFでしかない話だがそういう未来も在ったのかもしれない。

(…巡り合わせが悪いのかなぁ)

そんな事を考える。

(最後にお話しした時は普通に話せたし…)

自分が何か悪い事をしてしまったのではないか? 先ず其処から考える彼女は心根の優しい子なのだろう。良い子だ。先ずは自分に落ち度が無いか、相手に不快な思いをさせてしまったのではないか?
相手に何か原因が無いかを最初に疑わない当たり、少々善人過ぎる気質があるがコレは高町なのはの抱える爆弾だ。
幼少期の孤独がそれを作りだした。其処からの今に繋がる経験が彼女を作り上げたのだろう。実際の原因は良哉の幻痛なのだが…高町なのはがそんな事を知る訳もない。

(何してるのかなぁ…明智君)

会えないからこそ心に残る。罪悪感が在るからこそ頭から離れる事は無く、忘れる事も出来ない。
近づけない、触れられない。だが、その姿は見え追う事が出来残滓は掴む事が出来る。

その関係は、呪いに似ている。

在ってしまえばどうなるのか? 何も起こらないのかもしれないし、何かが起こるのかも知れない。
だが、ソレはまだ誰も知らない。







クロノ・ハラオウン、エイミ・リミエッタの二人はモニター越しにユーノ・スクライアと会話していた。エイミが居るのは二人の緩衝材に成る為と言うのが一つ。もう一つが…

「それで? そっちは何か解った事は有るんだろうな? 変態フェレット」

「有るに決まってるじゃないかシスコン執務官」

(おぉ~う…面白そうだなと思ったら予想以上に胃が痛い…)

まぁ、涙目である。自業自得なのかもしれないが。

「フン、ギスギスしてても隣の人に悪いし早く終わらせよう」

「あぁ、その点は同意だ。腹が立つな」

「まぁまぁ、二人とも」

エイミィが間に入り少しでも場の空気を良いモノにしようと努力するが、二人の掛け合いは喧嘩腰で逆に腹立たしくなってくる。
この理不尽な気持ちを視線に込めてクロノを見るが、ソレに気づかずに話を進めるクロノ。今にも舌打ちしそうな心を制御しながふと気づく。会話に罵倒や嫌味が混じって居るが何処となく楽しそうなのだ。

(男の子同士にしか解らないって奴なのかなぁ)

この二人の間に共通の友人である明智良哉を混ぜてみる。混ぜてみるが…

(…どうしよう。想像できない。えっ? 本当にどうなるの?)

「…つまり、彼等を倒すだけ無駄なのか?」

「そうだね。書が完成してしまえば無駄だよ。」

(喧嘩友達って奴なんだろうけど…良哉君ってこの二人の間に入ってどうしてるの?)

「書の所有者を最優先で確保する事が重要か…」

「だろうね。でも、その所有者を狙えば騎士達が出てくる。一番の狙い時は覚醒の瞬間、契約の瞬間だろうね。」

「馬鹿か君は? その所有者の足取りが皆無だから悩んでいるんだ。」

「それこそ理不尽だよ阿呆。僕が知る訳ないだろう。」

「もう!! 馬鹿でも阿呆でも良いから早く結論出してもう少し仲良くしなさーい!!」

エイミィ・リミエッタの堪忍袋の尾が切れるのも、まぁ仕方のない事だった。




エイミィの爆発から数分後、クロノとの通信を終えたユーノは椅子に座り直し背凭れに寄りかかった。

「…闇の書。闇の書かぁ」

資料を漁り、自分が考える限りの検索方法を試した結果がある。だが、これを伝えたとしてどうにもならない事は解りきっている事だ。
夜天の書。それが本来の名前で在る事を伝えたとしてどうなるのだろうか?
詳細を纏めた報告書は既に送って在り、届くのも時間の問題だ。誰かが改悪した、その事実がある。その誰かは解らない。
誰か達が自分の都合の良い様に変えて来た。その積み重ねがコレだ。重大なバグが発生し主人を貪り喰らう欠陥品をこの世に生み出してしまった。
幾度と行われた改変は改悪であり、それを唯一のオリジナルに施してしまったからには何処を修正すれば良いのかも解らない。時間も足りない。
奇跡的にその情報を所持しているベルカの遺跡が見つかったとしても、年単位での研究が必要なのは必須であり間に合わない。
もし、バグが在るから危ない等と正確な情報を相手に伝えられたとしてもそれを認められるかどうかが解らない。守護騎士達は無理だろう。
プログラムなのだから。自分達の大元が狂っていると言われても信じられる筈もない。クロノ・ハラオウンに頼んで入った無限書庫、そこで得られた情報がこの程度では情けないと思ってしまう。
他に調べられたのは夜天の書の他にも似た様な書が在ると言う事位だった。後は闇の書と呼ばれる様に成ってから起きた事件ばかりだ。その情報も送っているが対して参考にもならないだろう。
事件の解決には届く。だが、必ず犠牲がでる。通例通りにアルカンシェルでドンだろう。

「……キナ臭いなぁ。」

そも、今までの管理局のやり方は安全重視で一定の被害しか出ないよう巧く事を運んでいる様に見える。ソレは正しいと思う。思うけど…

(根本的な解決には至らない。)

聖王教会との連携で多少の情報は得られて居る様だが、其処から先に進めて居ない。調べて見れば努力の後は見える。何とか闇の書を『捕獲』しようと言う試みは行っている様だ。
どれも失敗に終わっているけど。
研究者達はどうにか封印する方法を試行錯誤している様だ。『空間凍結』どの研究者達もこの方法が一番可能性が高いとしているが、ソレには最低でも一人の犠牲が必要だ。
極悪な犯罪者とかなら罪悪感は殆ど無いけど…それは運任せでしかない。

「ん~…魔力資質の高い人間の元に行くんだから、その人物達を確保出来れば良いんだろうけど…」

無理だ。

無限に等しい次元世界。管理局が確認できている世界でもまだまだ砂漠の砂一粒程でしかない。無理だ。確実に僕達では知らない世界で闇の所は何らかの事件を起こしているだろう。
もしや、そう言った場所で改悪されてしまったのかもしれない。古代の超技術。現在の技術では再現できない古代遺産。だからこそ、ロストロギア。

「空間凍結の事も載せているけど…使える人間が居るかどうかだし。なのはやフェイトは使えないもんなぁ」

ガリガリと頭を掻く。使える可能性が在るのは氷結系の魔力変換体質の魔導師。魔導式を通して魔力変換が出来て尚且つ魔力制御が出来る高い魔力資質を持つ魔導師。

(クロノが妥当かな? でも、ソレが行える高性能のデバイスが必要になると思うし…良哉も可能性はあるかな? 魔力変換適性が全部平均だし、足りないのは知識と技量かな? ん~…でも魔力制御の訓練しだいでも在るし…)

「…いっその事、僕がどっちかの補助をすればできるかな?」

ユーノ・スクライアはそう零すと、何時も通りに無限書庫をでた。目的地は『地球』であり、友人の所。

明智良哉は尊敬を込めて彼を『天才』と言う。
クロノ・ハラオウンは顔を顰めて彼を『頼りには…成る』と忌々しそうに言う。
彼自身は自分の事を『僕なんかは凡才だよ』と苦笑しながら言う。
自分への評価が低いのは、素質あるモノを見てしまったからか? それとも罪悪感があるからか? 彼自身にさえ解らない。だが、確信して言える事がある。

彼は『非凡』である。自身が認めずとも周りがそう思える位には



あとがき

また時間がかかりそうです。ごめんね。


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