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[4820] 紐糸日記(現実→リリなの) A’s編・完
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:3a338905
Date: 2009/07/09 09:55
 朝起きたらでっかい隕石が落ちてきて命中して、全身バラバラのスプラッタになっちまった。
 のを上から見ている、死んだはずの当の本人。

「惜しかった。もうちょっと石のサイズが小さかったら、頭に突き刺さってスーパー地球人になれたか
 も知れないのに」
「……生き返れると分かった途端、この余裕。地球人恐るべし」
「や。調査によると、こいつはいつもこうらしい」

 昔読んだ読み切り漫画を思い出していると、後ろから声をかけられた。感心してるようでバカに
してるのが天使な女の人で、明らかに呆れてるのが悪魔な男。

「いやいや、まさか生き返れるなんて! しかも何だか特典付きらしいし! ねぇねぇ、特典! 
特典って何? ていうか早くくれよ」
「……即死にしなけりゃ良かった」

 天使っぽいのから不穏な言葉が聞こえたような。天使なのにおかしいね。
 と思っていると、悪魔な人がポケットから手帳みたいな何か取り出した。

「天使の白はイメージ合うけど、悪魔さんが黒スーツ、ていうのは新鮮です」
「昨今は死人もグローバル化したからな。いつまでもボロ布一枚じゃ示しがつかん」

 納得です。

「念のためもう一度確認するぞ。氏名・玉坂恵人、男。享年19。親無し子無し度胸無し、序でに言えば金も無し」
「わー……無し無しですか。ナシナシだー、ナシナシだー」
「ふ、ふふwww俺自重www俺自重しろwwwwww」
「お前はむしろ自嘲した方がいい」

 振ってきたから乗ってやったというのに、この見下した視線はどういうことだろう。

「えー、貴君はこの度、我々の手違いによって小隕石が直撃、誤って死亡させてしまいましたほん
とうにごめんなさい」
「ついては謝罪を兼ねて、蘇生します…………特典付きで」

 天使の人はすごい嫌そうだった。

「で、何。早くくれよ」
「二者択一、選択権がある。超能力っぽいのを得て現世に留まるか、何も得ずに家族も友達もいな
 い今の世界にサヨナラするか」
「前者は、ワンダフォー。後者は、平穏無事」
「……後者って、それ以外に何かメリットあんの?」
「若返れるぞ。十年くらいだが」

 じゃあ超能力に決まってるだろJK。今さら子供とかやりたくないし。
 と言おうとしたんだけど、その前に黒い人が口を挟んだ。

「但し前者には、少々代償が必要でな。強い力を渡す以上は当然だが」
「ですよね」
「まぁ、安心しろ。人間だったら些細なコトだから」
「ならいいけど。で、何?」

 と聞くと、答えは早かった。

「チン毛だ」
「そか。なら確かに簡単――」

 なん……だと……?

「? どうした。たかが毛だぞ? ちなみに永久脱毛だからな」
「……『黒』は『穢れ』に繋がります。特に死の穢れの濃い、そこの毛を落とすのが条件です」
「それ以外の選択は無いからな。ナシナシだ。毛を落として現世か、異世界にサヨナラか」

 無毛……だと……?

「……何を……迷ってるの?」
「我々にも時間は惜しい。とっとと答えるんだ」
「ヌ……ヌゥゥ……」

 永久パイ○ン……だと……!?

「さぁ言え。ステイか! トリップか! はっきり声に出してもらうぞ」
「ヌゥゥゥ…………ウヌウウウゥゥ……!!」







「ということがあったんですよ」
「…………あ……アカン……アホすぎる……ハラ、よじれっ…………!」

 爆笑して息も絶え絶えになる、異世界の関西弁車椅子少女八神はやてさん。屈辱を感じざるを得ない。



(続く)

###########

2008/11/14
テスト板にて投稿開始

2008/12/12
とらハ板に移動、タイトルを修正

2009/07/09
A''s編おしまい。



[4820] その2
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:f506fd7b
Date: 2008/11/16 23:27
 人を笑うのにも限度ってあるよね。

「あんな笑ってたのがもう大人しくなった。流石みさえパンチ、何と言う威力」
「……いたいやんかぁ」

 話を聞いて大爆笑していたはやてが、頭を両手で抱えて蚊の鳴くような声で言った。

「命の恩人に何するんよ……」
「餓死寸前を救ってくれたのと、この一件とは話が別です。おでこ赤くなってら。やーいやーい」
「……夕飯、小麦粉だけでええか?」

 食事が粉末になってしまうので、床に額をこれでもかと擦り付ける。

「ま、冗談巧いんはともかくやなぁ」

 冗談ではないのですが。
 と思ったが、言葉にするのはやめておいた。他人が聞いたらただのホラにしかならん。

「お腹空いてたんなら、少し早いけどご飯しよか」
「早くしないと、俺の主食がそこの段ボールになる」
「醤油とお砂糖で煮てみよか? とろとろに甘辛に」

 冗談にマジレスしないでください。



 とかなんとかやり取りをしている相手が、この町在住の八神はやてさん。足が不自由らしく、車
椅子の女の子。
 いきなり飛ばされたどことも知れない土地で、飯も金もなく途方に暮れていた俺。それが自宅の
近くの公園に倒れていたのを見つけてくれた子だ。しかも持ってたお菓子を分けてくれたし。
 挙句夕飯までくれるって言うし宿までどうかって。

「すげー……世界が違っても、日本人ってすげー」
「何言うとんの?」

 食後満腹になって、しみじみと感傷に浸りながら食器を洗っていると(さすがに買って出た)、
後ろではやてが小さく噴き出した。

「日本人すごいよね。こんな怪しい奴にご飯くれるわ泊めてくれるわで」
「や、そら、人が死にそうな顔しとったら……」
「でも明らかに不審じゃん。何も持ってないし倒れてるし」
「子供に不審も何もあらへんと思うけど」

 ちょっとヘコんだ。
 そう言えばそうだ。体が子供からやり直しになったんだ……何てこった。

「ど、どないしたん? 床に手ーついて」

 はやてが心配そうな顔をした。

「…………ごめん……今まで黙ってたけど俺、俺、実は…………雑巾マンだったんだ!」
「正義の味方ゾーキンマン。床を見れば雑巾掛けポーズに即変身。水を吸ってパワーアップ!」
「天敵ギュニューマンだ! 液が床に落ちるとき、雑巾マンは恐怖におののく。悪臭的な意味で」
「ゲスト出演や! ギニュー特戦――」
「漫画がちがいます」
「ですよね」

 あまりにも下らな過ぎたため、二人揃って反省する。

「……あー、でもなんやろ。この気持ち」

 はやてがしみじみと呟いた。
 この台詞は……恋愛フラグ?

「恋だっ! 困るぞ!? 出会ってまだ一日も経ってない! 何と言う高速超展開!」
「ちゃうわ! そーやない! そうやなくてな、その、人とこうやって話すのが……久しぶりで」
「俺も久しぶりだ。白いのや黒いのとなら話してたけど、あいつら人間じゃないし」
「……ふふっ」

 冗談と取ったのか、はやては面白そうな笑みをこぼした。信じてもらえないって遣瀬無いね。

「親御さんはどうしたん?」
「居たらあんなとこで行き倒れてませんが」
「……そっ……か。なら暫く、うちに……居ってええよ?」
「それは困る。子供に養われるなど」
「今頷かないと、もれなく夕飯が段ボールになる予感」
「お願いします」

 嬉しそうに頷くはやてだった。



 にしても、八神はやてって。
 何処かで聞いたことあるような。



(続く)

##########

タイトル、及び表記を少し変更。



[4820] その3
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:e73d2e6a
Date: 2008/11/16 22:03
 自分の生活費を稼ぐためにアルバイトをしようと思ったのだが、子供の雇用は禁止されていると
いう恐るべき現実。

「労働基準法に喧嘩を売らざるを得ない」
「国家権力には勝てる気がしない」
「年齢を詐称せざるを得ない」
「身長的にできる気がしない」

 はやてにことごとく切り捨てられて、もう諦めざるを得ない。
 しかし筋力は落ちても知識はあるので、はやての家庭教師っぽいことをして少しでも恩返しする
ことに。

「『かぷかぷ笑う』ってどうやるんだろうね」
「え? うーん……水の中で口をこう、ぱくぱくさせてやな」
「ぱくぱく」
「ぱくぱく」

 やってて思ったけど、全く勉強になってない。

「なんでやろ。不思議やね」
「不思議というか何と言うか。どうしてなのやら」
「いつも変な振り方してくるからやと思うよ?」

 すみません。



 てな感じな居候ライフに四苦八苦していたのだが、さすがに子供に金銭面でお世話されるのは精
神的にとても辛い。
 はやては「同じ子供やのに何言うとんのぉ」とか言って全然気にしていない様子だけど、先述の
通り頭は大人だ。
 昔はアルバイトだってしてたんだ。お金の重みは身に沁みて分かっている。情けなさすぎて泣け
てくる。

「別にええやんか。住み込みのホームヘルパー、って思ーとってくれれば」
「でもなぁ」
「車椅子のも楽やし、お皿も洗ってくれるし。感謝しとるんよ? 私、ずっと一人やってん」
「……おばあちゃんがいる。何かこう、超優しいおばあちゃんがいる」
「誰がおばあちゃんや」

 子供に「おばあちゃん」は拙かったか、さすがにむっくりとふくれるはやてだった。

「とにかく! 何か引け目に感じるんですよ。そう、引け目! ん? 目って引っ張れるの?」
「引っ張れるんとちゃう? ほら、あの、ペンチみたいなの差し込めば」
「……ごめん、想像したら普通にグロかった」
「……あー、あかん、私も。目の奥が何か痛い」

 二人で想像して悶える。
 ひとしきり悶え終わると、はやては少し考える素振りをした。

「んー、近くに融通の利くところはあらへんし……せや!」
「何? 何か案ある?」
「私な、知っとんの。待遇よくて子供でも仕事できて、しかもここから近いとこ!」

 何だその好条件。最初から言ってくれよ。

「でもな、そこ1年単位とかで動いとるから、もしかしたら……ずっと行かなアカンかも」
「大丈夫じゃね。そこに決めた! 地図ちょーだい。明日行ってみる」
「ホンマ!? せやったらせやったら、お掃除とか洗濯とか家事一般やと思うけど大丈夫!?」
「どんとこい」
「なら今から1年、よろしくお願いします! 報酬は三食と宿で!」
「ん! 俺、頑張るよ!」
「門限は七時、必ず夕飯は一緒に食べること! ええな、約束やで!」
「よっしゃぁああ! みなぎってきたぜぇぇぇえ!」





「あれ?」
「♪」



[4820] その4
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2009/02/18 15:38
「車椅子ってさ、握りを持つと押したくなるよね。『射出!』って」
「やめて」
「うん、何か言ってたら押したくなった! すっごい押したい! ねぇねぇ、やっていい?」
「ならスーパーでカートでも押してき。ついでにこれとこれ、あと明日の朝のパン頼むわ!」
「御意」



 という訳でメモを渡されてお買い物です。
 スーパーで食料品の棚を漁り、なるだけ安くて旨そうなものを集めていく。ここら辺の技術は過
去の経験で習得済み。
 パンは、はやては「サクサクのクロワッサンがいい!」だそうだ。
 てっきり朝から焼きそばサンドでも食べるのかにゃーとか思ってたけど、関西人(というか関西
弁を話す人)に対する偏見だったと理解した。
 でも何だか悔しいので、置いてあったチョココロネを一つトレイに乗せておくことに決定。
 中身のチョコを全部お好みソースにして食べさせて、反応を観察してみたいと思う。

(名付けて、ソースコロネ。焼いた肉とかキャベツとか入れると尚良し。麺類とも相性抜群)

 あれ? 意外とイケるんじゃね?
 とか思ってる帰り道、一軒のケーキ屋さんにさしかかった。

(『翠屋』か……ん? シュークリームが三割引! 安い、安いぞ! 残りのお金で買ったろ!)

 決心して突撃。
 でもってカウンターにいた女の人に向かって、開口一番叫ぶ。

「シュークリーム! 四つありますか?」
「シュークリームを……ん?」

 隣の客と注文が被った。

「ん、あ、すみません。お先にどうぞ」
「っと、いや、済まない。そちらこそお先に」
「いえいえそちらが」
「いやここはそちらが」
「ジャンケンしよう」
「そうしよう」

 譲り合っていてはらちが明かないので、決着は運に委ねられた。俺の拳が光って唸る!

「パーですかそうですか」
「じゃあ失礼して。桃子さん、シュークリーム五つお願いします」
「はぁい……あら、丁度五つ……そちらの方、すみません。これで最後みたい」

 ニコニコして見ていた店員さんが申し訳なさそうに言うと、俺の視界は絶望の暗黒に染まった。
がっくりと項垂れる。

「あー……済まない。こうなるとは。少し多目だから、減らしましょうか?」
「……ありがとう。大丈夫、明日買いにくることにします」
「ごめんなさいね。もう少し多く作っておけば、こんなことには……」

 いえまた買いに来ますと言って、箱に詰められていくシュークリームを眺める。くそう。

「それ、ご自分で?」
「ん? いえ、主に母が……砂糖が主食で。たまに食べたいと言い出すんです」
「うちにも、ソースが主食の子が一人います」

 予定だけど。

「……昨今の食の乱れは深刻と聞いていたが、やっぱりか」

 お客さんA(仮)は深刻そうな顔をした。

「その辺どうです?」
「え? うちは……しっかり栄養考えて、片寄り無く食べさせてますよ」
「わー……母親の鑑だ」
「全く同感」
「ふふっ、褒めても何も出ませんよ?」

 店員さんは満更でもないようだった。もう一押しすれば、超特急で追加のシュークリーム作って
くれるかも!

「もう四つシュークリーム作ってくれたら、さらに褒めちぎるフラグが発生する、かも」
「あらあら」
「言ってしまったら意味が無いと思う」

 結局シュークリームは出てこなかったので、ずっと雑談していたのだった。





「ただいまー……く、クロノ君!? どうしてここに!?」
「ああ。シュークリームを買いにきたんだけど、なのはと同じくらいの年の、面白い客と鉢合わせしたんだ。思わず話し込んでしまった」
「ふーん……その人、もう帰っちゃったの?」
「ええ。門限七時って言って、慌ててらして。大丈夫だったのかしら?」





 もちろん間に合う訳がなく、そういう日の俺の夕食は段ボールだけになる。



############

度々の修正、申し訳ないです。
極一部を弄ってるので、台詞回し他はほぼ変わってないです。



[4820] その5
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2008/11/16 23:28
「その足治んないの?」

 居候が始まってからしばらく経つので、珍しく真面目に聞いてみた。

「白金の針探さないと元に戻らないんや」
「ブランクのことかー!」
「……わー、何や嬉しいわ。まさか通じるなんてなぁ」
「そりゃまぁ。そういえば、ゲームとかするの?」
「する。めっちゃする……あ、よく考えたら対戦できるやん! スマブラやろ! そこの棚ん中!」

 割とマジな話だったのに、どうして遊戯に移行しているのでしょうか。
 と思いつつも遊ぶ。遊んでみると、これがめっちゃ強かったり。

「ぅゎネスっょぃ」
「一人でずっと遊んどったからなー……あ、ハンマーもらい」
「引きが悪すぎて困る。つーかこっち来んな」
「ふっふーん、これで勝ち……あぁぁぁっ! 何でこんなとこに地雷が!?」
「ふふん」

 年長者の知恵を舐めてもらっては困るです。見た目は同年代だけど。

「あー! あー! 緑コウラ投げんなー!」
「ニヤニヤ」
「うぅぅぅううっ!」

 ステージから落下して敗北が決定すると、はやては心底悔しそうに呻きを上げた。

「悔しいね」
「うー! うーうー!」
「はやてがうー語を習得したようです。や、るー語かな?」
「るー☆」
「るー☆」

 最近よく思うんだけど、どうしてこうノリがいいのだろう。

「って! ちゃう! るー語ちゃう! もっかい、もう一回!」

 てな感じで延々と遊び続ける日曜日。



「で、ようやく訪れた本音トークの時間ですが」

 散々遊び遊ばれ、夕方になってようやく落ち着ける時間が取れた。スティックの使いすぎは指に
とって良くないようで、二人とも親指の腹を冷やしながらという情けない光景である。

「んー、足はなかなか治らんなー。原因不明みたい」
「病院とかは? 定期健診ないの?」
「あるよ、火曜日や。でも今は優秀なヘルパーさんが足になってくれるし、気にならんかもなー」
「人それをアッシーと呼ぶ」
「? ヨッシー?」

 意味もちょっと違うけど、それ以前にどうやら死語のようだった。

「そう。ヨッシー。でっていう。乗れるよね? だから」
「あー、なるほどー。足になるもんな」
「ということで車椅子には実は、『でっていす』という隠語があるのです」
「そうなん!? へぇ、初耳やわぁ」

 嘘って意外とばれないね。

「一家に一台でっていす」
「そのうちタマゴとか産みそうやな」
「いかん! その前にこのままだと、はやてがでっていすに喰われる予感! はやくこっち!」
「きゃー!」

 跪いて背中を差し出すと、嬉しそうな悲鳴を上げてはやてがのってきた。

「これで一回刺さっても大丈夫」
「乗り捨てヨッシーやな」
「ヨッシー不憫だよね。いろんなところで捨てられるし。マグマの中に落とされたりとか」
「よく考えたらなー。そしたらタマゴに逆戻りやろ?」
「ぬ、このままだとマリオに捨てられるやも。そうならないようにちゃんと走らないと!」
「わ、わ、こらぁ! もう!」

 と言いつつも、楽しそうなはやてだった。

「足治るといいねー」
「そうやねー」

 そんなことを言いながら、結局ずっと遊んでました。



(続く)

############

修正等お騒がせします。
HPのアドレスを追加しました。見ておくんなまし。



[4820] その6
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:5103f8b8
Date: 2008/11/17 16:45
「ふっふっふ……顔は嫌がっていても、期待しているんだろう? 更なる高みを」
「く……くやしいっ……でもカンしちゃう……!」
「ほうら……くくっ、見な。一枚めくった先はもう凄いことになってるぜ」
「ああっ……アカン、こ、このままやと……と……トんでまう……!」
「『カンドラ』はこっちのもんだ。さぁ、トんじまいな!」
「んんんあぁっ! とっ、トばされる――あ、あああああっ!!」

 モニターの向こう、相手の点数が反転した。
 俗に言うハコテンである。
 媒体はパソコン、種目は麻雀。無料で遊べるゲームサイトで、交代しながら牌を打つ。
 もちろんはやての身に何かあったわけでも、悔しくても感じちゃったわけでもない。フヒヒ。

「対戦相手の実況お疲れさま。というか進んでるね、最近の小学生」
「女の子なめたらあかんで。でもこのくらいのネタ、皆知っとると思うけどなー」

 異世界とはいえ、日本の未来はこんなんで大丈夫なのだろうか。



「という訳で、今日ははやてに何か芸を仕込もうと思います」
「どういう訳でそうなるのか、説明を要求する」
「や、気分的に。それに何か、イメージ犬っぽいし。ほら、お手」
「わん。わんわん」

 冗談で言ってみたら手に手を乗せてきて、やたら純真な瞳で見つめられた。いかん。かぁいい。

「一瞬見とれた。不覚なり」
「ふっふーん、どうだ参ったかー」
「君の瞳に惨敗」
「……うわ、何かイヤやなそれ」

 一文字変えるだけで、名台詞が台無しである。

「今回は車椅子を使います」
「でっていすやな」
「そのネタ引っ張るね」
「たまに乗り捨てしたいし。なーなー、また背中借りてええ?」
「いいけど。それはそれとして」

 閑話休題もいいところである。

「貴様が下だッ! はやてッ!」
「……あー、えと……そこだ『シルバーチャリオッツ』!」
「一発で分かるとか。もう愛してる。結婚してください」
「まあけーとったらいけないひと!」

 きゃっきゃ言いながら追いかけ回る二人だった。一人は車椅子だけど。
 ちなみに忘れられているかもしれないが、主人公の名前は玉坂恵人。

「ポルポル君、どうやって動いたんだっけ。車椅子のままジャンプしてたよね?」
「んー……何か、車体にバネみたいのを仕込んどいたとか。めっちゃ固いやつを」
「やってみたいね」
「やめとき。私が投げ出されて死んでまう」

 もっともなので諦める。

「芸ってこれのこと?」
「やー……正直、ここまでネタが豊富とは思わなかった。なめてました」
「私の瞳に惨敗」
「君の瞳に連敗」
「敗者に罰ゲーム! でっていす乗り換えや! ほら早く」
「でっていう」

 ひょーんとSEを真似しながら、はやてが背中に乗ってきた。でっていう。

「わ、背中あったかい」
「さっきの買い物、走ってったから」

 這いつくばりながら言うと、肩の辺りに何かが押し当てられた。

「……ん……」

 はやての頭だった。

「人間って不器用だね。寄り添わないと安らげない」
「ん……なに、哲学?」
「ごめん調子乗ってみた。あったかいです。落ち着く」
「それ見ー」

 はやては面白そうに笑った。
 その間に、両手足を伸ばしてうつ伏せになる。
 その上にはやてがうつ伏せになるという、何とも言い難いこの状況。

「お腹減ったね」
「ん、減ったね」
「動きたくないね」
「あったかいしなー……」

 同じ親無しのはやても、気持ちは一緒だったのかもしれない。

「人間ってあったかい。これ、豆知識な」
「またひとつ世界に新たなトリビアが生まれた」
「満開だね」
「満開やね」

 夕飯は少し遅くなりました。



(続く)

############

Q. ねえ! ここテスト板! とらハ板じゃないよ! ねぇどうして?
A. うん。台詞回しの練習だからだよ
Q. そっかぁ! でも平穏無事だから! 平穏だかまったりだから! 嘘つかないよね! 飛んだ場所厳しいけど大丈夫?
A. あぁ、厳しいけど大丈夫だよ
Q. よかったぁ! でも話進まないよ!? ホント遅いねぇ! ゆっくりゆっくりだね!
A. そうだね。ゆっくりだね

話数多いのに進まないのは会話をもっと練習したいから。
こんな感じのお話が書きたくなったので、練習にちょうどいいとばかりに拙い筆をとっています。
今のところ九割方がアホ話ですが……。

作者にお付き合い下さっている方々、本当にありがとうございます。少しでも楽しんでいただければ、これ以上の喜びはありません。
時間があるうちは、3日に1つ〜1日2つのペースで投下できたらいいなぁ。



P.S.
何故1日と経たずメテオストライクがバレるのやら。



[4820] その7
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:f0ddfa90
Date: 2008/11/18 17:57
「ハイパー割引タイムでシュークリームが美味い!」
「はむっ! はむはむはむっ!」

 そんな予行演習を経て、喫茶「翠屋」にリベンジすることに。
 本当は買いそびれた翌日に行こうと思ったのだが、割引タイムは毎週火曜日にあったらしく、先
延ばしになったりしていたのだ。
 ちょうどいいので、今度ははやてを連れて来てみることにした。
 きっかりお昼の時間なので、軽く何か食べたいし。

「いらっしゃ……あら? このあいだの……」
「超リベンジに来ました。こっちはうちの相棒です」
「あら、例の子? ソースばっかり食べてると体に悪いわよ?」
「……どういうデマ流してんねん」

 ぐにぐにとほっぺたを引っ張られる。

「はふぁひふぁ」
「人間語でおk」
「ふぁへふふぉ」
「聞こえんもーん。いと柔らかし。タテタテヨコヨコ」
「……」
「はっ!?」

 器用に舌を伸ばして反撃する寸前、はやてはひゅっと両手を引っ込めた。勘のいいヤツめ。

「あらあら、仲がいいのね」
「こう見えて乳首の友でして」
「ちゃう! 乳首ちゃうから! ていうかアカン! 何かそれやらしい!」
「間違えた。ちく……ばく……爆竹? 危ないね」

 店員さんが微笑み、はやては呆れたようにため息を吐いた。

「はぁ……すみません、いつもこんな感じで……えっと、ハムサンド二つと、テイクアウトでシュ
 ークリーム六つお願いします」
「かしこまりました。少し待ってて下さいねぇ」

 テーブルに案内して面白そうに笑いながら、奥の方に引っ込んでいった。
 程なくしてお冷やが運ばれて来て、二人してあおって一息入れる。

「わ。氷食べとる」

 待っている間が暇なので氷を噛んでいると、はやてが意外そうな声を上げた。

「堅いもの食べないと顎が鈍る」
「んー、そっかぁ。ほんなら、噛むのが大変なの使ってみよっかなー……」
「や、はやての飯は今のままがいい。一番美味い」
「ホンマ!? 嬉しいわぁ……『向こう』やと、ずっとコンビニ弁当やったりしたの?」

 最近のはやては俺が異世界出身であるという主張を、まぁネタ的には受け入れてくれているみた
いだ。たまにこうやって聞いてきたりもするようになった。

「チャーハンだった」
「……そら、たまにはチャーハンも」
「や、違う。お袋と親父と兄貴がいっぺんに死んだから、誰も飯を食わせてくれなかった。仕方な
 いから、全食ずっとチャーハンを食べてた」
「……どんくらい?」
「三年」
「………………」
「お蔭でもうこぼしません。チャーハン作るよ!」

 はやては笑ってくれなかった。

「その点、今の食生活はまさに至上。献立毎日違うし、何より味噌汁が飲める! しかも美味い」
「よく身体壊さんとおれたなぁ……こら、食事にはもっと気ぃ遣わんと」
「チャーハンがなめられてる。ここは自ら腕を振るい、良さをアピールせざるを得ない」
「星の目標は?」
「三つ以外に用はありません」

 偉そうに胸を張ると、はやては少しだけ笑ってくれた。

「お待たせしました。ハムサンドになります」

 会話が途切れたところにちょうど昼食が来たので、二人してもくもくと食べる。
 焼いたパンのサクサク感としゃきしゃきのレタス、ハムの風味がいい感じ。

「あ、おいし。たまには外食もええなぁ」
「なんか、いつもご飯ありがと。苦労かけます」
「何やの今さら。楽しい毎日と引き換えや、気にせんとき」
「御礼に明日の昼はソースチャーハンを……ん? チャーハンソースか?」

 ご馳走しよう、と言おうとしたら、付け合わせのプチトマトが音速で口の中に飛んできた。

「そういえば」
「むぐむぐ。ん?」
「聞かれへんなぁ。子供がこんな時間に、学校も行かず昼食べとんのに」
「はやてが休学中なのは話した」
「お宅の話やお宅の」
「越してきたばっかで、手続きがまだって言ってある」

 そういや学校行ってないな。手続きもしてないし。

「手続き自体はできるんだよね。白いのと黒いのが戸籍用意してくれてた」
「行かなアカンよ。私の分も楽しんでき」
「考えとく。今さら小学生とかヤダけどなー……家に居る方が楽しいし」

 全く。とはやては言った。

「帰ったら何しよか」
「桃鉄は飽きた。ロックマンにも波動拳覚えさせたし……スターフォックス撃墜数勝負しようぜ」
「エリア6がカギやな」
「最終防衛ラインも突破されました!」
「あいつだけ妙に楽しそうなんよなー」

 遊びの計画ばっか練ってる火曜日でした。ん? 火曜日?





「定期検診って今日の昼じゃね?」
「あっ」



(続く)



[4820] その8
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2008/11/19 21:39
 はやてにお小遣いを貰った。
 金額は野口さんが一枚と、五百円玉が一つ。

「あ……ええの? 嫌がるかもって思ってたんやけど」
「気持ちの問題だから。無下にしたら相手に失礼だし。複雑だけど」
「小学生に養われとる。やーい」
「黙らっしゃい」

 とか言いながら、余り物のビンにお金を入れる。そんなに使う機会がある訳でもないので、丸ご
とはやてに預けておいた。

「でも割としっかりしてるね。渡す額もそうだし……あ、生活費握ってるから当然か」
「浪費したらお仕舞いやからなー。お金は大事にせんと」
「ほうら明るくなつたらう」
「論外やな。使い方を知らん人間が金を持ったらあかん! っつーいい例や」

 お前小学生かホントに。

「もしここに百万円あったら?」
「貯金する」
「ですよね」
「でも今は車椅子押してくれる人おるし。旅行もいーかもしれへんなぁ」
「休学中だから暇だしね。でも小学生二人だと、宿に拒否られるやも」
「あー……なら、日帰りでいろんなとこ行ってみる。とか」
「舞空術か瞬間移動欲しい」
「どっかに筋斗雲落ちてへんかなぁ」

 などなどとりとめもなく話していると、電子ジャーから緑の大魔王が……
 ではなく。
 炊飯完了の電子音が響いたので、夕飯のカレーにありついた。

「結果まだ聞いてなかったけど、検診どうだった?」
「むぐむぐ。ん? ……むー。悪くなってへんけど、良くもならんなぁ」
「医療費も馬鹿にならんだろに」
「いつか無料にならへんかなー……」
「初の女性総理になって医療費無しにしようぜ」
「秘書として仕事全部やってくれるなら考えてもええよ」
「やっぱ撤回」

 働きたくないでござる。

「かくして女性総理の誕生は先のばしにされたのであった。どないしてくれる」
「カマがやればいいんじゃね」
「それ男性」
「じゃあ男女両方混ぜた新人類を総理大臣に」
「節子それ人間やないカタツムリや」
「エスカルゴって美味いのかな」
「茹で卵みたいって怪談で聞いた気がするわぁ」

 あんまり想像したくなかったので、ふたりしてカレーを口一杯に頬張った。

「あちぃ」
「あっつ」

 一緒に牛乳を一気飲みした。





「食事中に変な想像させんといて。はむはむ」
「正直反省してます。もぐもぐ」

 翠屋で買って帰ってきたシュークリームを味わいながら今日の反省会。
 と言いながらも、基本的に反省するのは俺である。

「どうしていつも考え無しなんやろ」
「考えるな。感じるんだ」
「何も感じんわ」
「不感症?」
「……意味は知らんけど何となくわかる。撤回した方が身のためと思うよ?」

 ものすごく怖いので、平伏して撤回する。

「今後、発言には気を付けるように」
「可能なら」
「何か不可能があるんか」
「俺が気を付けていても、俺の中の人が勝手に話すことがある」
「ほう」

 はやてが両手をパキパキと鳴らしはじめたので慌てて撤回すると、呆れたように息を吐いた。

「ったくもぉ……」
「とにかく。お小遣いありがとう。大事にします」
「無駄遣いせんように。大丈夫やと思うけど」
「全部チョコボールの購入に使う計画がある。金銀クチバシの検証動画作ってつべにうpする」
「そんな計画はせんでええ」

 はやてのグリグリはとても痛かった。



(続く)



[4820] その9
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:5ae433ae
Date: 2008/11/20 19:19
「布団と結婚しますた。今日は嫁と夜までハイパーイチャイチャタイム」
「残念やったな。布団は私の夫や」

 朝はささやかに抵抗するも、はやてが寝取りを画策してきて困る。

「寝取られ属性はない。何言ってんだ布団は俺の嫁」
「バカヤロウ布団は今私の隣で寝てるんよ」
「こうなったら二人とも布団様の奴隷で、ここに布団ハーレムが完成する」
「布団と合体したい……!」
「ンギモヂイィィィィィィィッ!!」

 アホ言っとらんと朝ごはんや。すみません直ぐ参ります。
 ということで朝食を済ませ、諸々の家事を終わらせて一服。
 翠屋のシュークリームが一個ずつ残っていたので、コーヒーと一緒にいただきます。

「うまうま。今日は服を買いに行くで。帰りにまた翠屋行きたいし」
「はやてがとうとう赤フンに手を染めるようです」
「お宅の話やお宅の」
「残念だけど褌はちょっと……」
「褌から離れなさい」

 呆れられた。



「という訳でデパートやな」
「車椅子って意外と便利だよね。荷物抱えてるだけでいいし」
「押す人が居れば、やけどな。あ、すみません。男の子用の子供服ってどこですか?」

 はやてが捕まえてきた店員さんに連れられて、子供服売り場までたどり着く。

「小さいね」
「小さいな」
「子供服だね」
「子供服やな」

 分かってはいたが、ショックなものはショックだ。

「そう落ち込んどるのを見ると、ホンマに十九かも知れへんと思えてくるわぁ」
「何なんだこの現実。飲酒喫煙解禁を今か今かと心待ちにしていたのに」
「あー。そら……本当やったら、不憫やなぁ」

 心底可哀想に思っているらしく、はやての視線は同情で満ちていた。

「何かメリット無いかね。体が子供に戻っちまった場合って」
「んー。銭湯の女湯とかは……保護者がおらへんし。無理やな」

 寿命は延びるけど、所詮は焼け石に水である。

「時間ができるのが唯一大きいかな。馬鹿でも百年あれば傑作小説が書けるかも!」
「勉強もラクやな。十浪くらいしてるようなもんやし」
「ていうか高校大学受け直しだよこんちくしょう。まだ大学二年だったのに」

 考えてみれば然程メリットがない事実。何てこった。こんなことがあっていいのか。
 とまぁ軽く打ちのめされながら、二人でセール品のカゴを漁っていった。

「下着とズボンと、あと靴下も足らんなー……」
「ブリーフテラナツカシス」
「あ、そういえば、男物の下着は二種類……何やっとんの」
「パンツは被るもの。でも袋に入ってて開かない」

 思い切り叩かれた。

「最近のはやては遠慮がない気がする」
「誰かさんが最初からクライマックスなせいやと思う」
「俺のクライマックスはまだまだこんなもんじゃないぜ!」
「短パンから手を離してとっととシャツ買ってこい」

 はやてのクライマックスはとても怖かった。



 何だかんだで時間がかかって、結局店を出たのは夕方になりました。

「最近思うんだが、こうまで世話になるのはやはり良くない」
「ふむふむ。で?」
「……良くない」

 だからといって対策があるわけでもなく、がっくりと項垂れる。

「元気出し。出世払いで待っとったるから」
「アルバイト解禁まであと五年以上……死ねる。精神的に」
「はっはっは。ほな、翠屋でケーキ食べて帰ろっか。私の奢りで」
「…………」
「ぐうの音も出てこーへん?」
「ぐう」

 そんなことを言いながら、いつものように翠屋のドアを開けるのだった。



「あっ。なのは、ちょっとお願い」

 ん?

「はいっ……いらっしゃいませ、二名さまで宜しいですか?」

 あれ。この子確かアニメの……。





 あるェー……?



(続く)



[4820] その10
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:a2d542b6
Date: 2008/12/25 14:16
「はぁ……アニメなぁ」

 翠屋で手伝いしていた子がアニメの世界の住人だってことを、はやてに正直に話してみた。

「しかもあの子主人公で、魔法使うんですよ」
「魔法! 魔法少女!?」
「うん。ピンクのビームみたいのをこう、どばばーっと」
「魔法……少女……?」

 はやては戸惑っているようだった。

「どうも信憑性薄いなぁ……」
「あ、何かはやても出てたよ。白いのをずばーんと撃ってた気がする」
「……マジやの?」

 マジです。

「覚えてるのはそのくらいなんですけどね。興味持って一度観たきりなんで」
「……とりあえずハッピーエンドかバッドかだけ聞いとく」
「『ちょっと寂しいけど、ハッピーエンド』だったような。雪が降ってた気もする」
「あてにならんなぁ」

 ですよね。



 とか言ってるはやて。内心半信半疑もいいところのようで、率直に言えば俄には信じられないよ
うだった。
 当然だ。「あなたはアニメの住人です」と言われて鵜呑みにするアホはそう居ない。
 しかしそれをまるっきり「馬鹿げた冗談」で切って捨てないのは、俺を信用してくれているから
なのかどうなのか。

「で、その……なのはちゃん? ってどんな子なの?」

 とか聞いてくる。そうすると、うろ覚えながら頑張って答えたくなるのもやむを得ない話。

「それがなぁ。三部作だと、確か……」

 確か。



無印 …これが私の全力全壊なの!

A’s…私、悪魔なの ←今ここ

StS…ぶるあああああああ!!



 だった気がする。たぶん。
 誰かが確かそう言ってた!
 目がギュピーンって光ってる画像も見たことあるぞ!

「将来が心配な子だね」
「どうしてそないなことになるんや……」

 何でそんな悲惨な未来を。
 お母さんはあんなに優しい、いいお母さんなのに。

「それで、ですね。はやてには味方ができるんですよ」
「ほほう。どないなの?」
「えっと、守護の騎士だかヴォル何たらだかで。面子は」



 おっぱい剣士、ロリハンマー、ドジっ子僧侶。
 あと犬が一匹。



「カオスすぐる」
「犬って何やの。騎士で犬って」

 しかも僧侶でドジっ子は笑えないぞ。
 ザオリクと間違えてザラキかけられたらどうすんだ! 大丈夫なのか?

「じゅもんが ちがいます」
「いみが ちがいます」

 とか話しながら、夕飯を一緒にパクつくのだった。
 ちなみに今日は皿うどん。二人してぱりぱりと麺を噛む。あんかけが美味。

「まーいいや。詳しく覚えてる訳でもなし。まったりまったり行きましょう」
「わー。てきとーやな」
「人間、死にさえしなけりゃ何とかなるものです。一度死んでみたら実感できると思うけど」
「そういえば、死因って何やったの? ありがちな交通事故とか?」
「や。何かの手違いで、隕石が間違ったとこに落ちたらしい。直撃して、こう」

 頭がパーン☆

「聞いた私が悪かったから止めて。食事中にする話とちゃう」
「ごめん」

 気分が悪そうに顔をしかめるはやてだった。

「……はっ! なーなー、ってことはもしかして、もしかしてなぁ!」
「何でしょう」
「その守護騎士さんたちって、うちに住むんとちゃう!?」
「そうですよ。かなり親しくしてたような……おぉ」

 今気付いた。
 家族増えるじゃん。

「このまま行けばね」
「なら! なら! 明日おっきな鍋買いに行こ! フライパンも新しいお皿も!」
「賑やかになりそうだ。家族が増えるっていいね」
「やろ!」

 とりあえず先のことは先のことと割りきって、翌日の計画を立てるのだった。
 展開とか結末とかは思い出せないけどその通りになるとは限らないし。

「しかもわんこ居るし! うち夢やったんや、賑やかな家庭にわんこが一匹!」

 はやても楽しそうだし。まあいいやね。



(まったりと続く)

###########

事情により本日の更新はナシです。

ちょっと修正。



[4820] その11
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:54171542
Date: 2008/11/23 13:09
 キラキラのリースやら何やらで、すっかりパーティーモードになったリビングで。

「……こーへん」

 フリフリの付いた三角帽子を被ったはやては目に半分涙を溜めて、こちらを見て訴えた。

「……こーへん」
「と言って恨みがましい視線を向けるはやてであった。へへん」

 はやてはぐにぐにとほっぺたを引っ張ってきた。

「……守護騎士さんたち、もうすぐ来るんとちゃうの」
「近いうちに来るふぁずはんですが」
「飾り付けまでしてもう準備万端やのに」
「部屋がクリスマスみふぁい」

 人の来ないパーティーほど寂しいものはないよね。

「一週間、こうしてずっと待っとるのに!」
「お陰で最近の夕食はとても豪華でしたね。うまうま」
「……今日は夕食抜き」

 と宣告するはやてに、絶望せざるを得ない。



 はやてに家族が出来るのは間違いないはずなのだが、如何せん知識不足のせいでそのタイミング
がまるで分かりゃしない。
 ものすごく期待していたはやては、ここ一週間ほどずっとお預けを食らった状態だった。目前に
餌を置いての「待て」ほど質の悪いものはない。

「ほら。ほら。あーんして。チャーハンですよー。ソースとか入ってないですよー」

 という訳で、昼食の時間ははやてのご機嫌を取る。
 超久しぶりの手作りチャーハン。こぼさず作った自信作だ。

「むー……むー」
「や。ホント、済まない。中途半端な知識なもので。ほら、口開けて。あーん。あーん」
「……むぁー」

 不機嫌そうにむーむー言いながら口を開けるものだから、何やら人間らしからぬ声が出ている。
 本来なら笑ってからかう所であるが、夕食が懸かっているので今回は自重する次第。

「ごめんね。詳しい日付とか覚えとけばよかった」
「むぐむぐ……ホンマや。毎日毎日、楽しみにしとんのに」
「夕食、ものごっつ張り切ってたよね。ドッグフードも買いに行ったし」

 マグロとか使った美味しいやつ。犬まっしぐら的なの。

「……一応、誕生日まで待っとく」
「誕生日? いつ?」
「来週や。言ってへんかった?」

 初耳です。

「漫画とかだったらその日っぽいけどね。『十四歳の誕生日、僕の中でもう一人の僕が』とか」
「し、鎮まれっ、静まるんや……私の右腕」
「くっ! 我ら邪気眼持ちは、人とはやはり相容れぬのか……!」
「共鳴が……アカン、暴走する! 離れろ! 離れるんや!」
「……はぁ」
「……はぁ」

 やっているうちにアホくさくなってきて、二人してため息を吐く。

「チャーハン美味い?」
「ん。美味しいよ」
「そいつは良かった。名残惜しいけどお焦げあげる」
「ありがと。ん、ぱりぱりやな」
「はやてもついに俺の料理の虜になったか」
「虜になっちゃうぅぅぅぅ!」
「こいつきめぇwwwwww」

 しこたま殴られた。
 しかし機嫌は少し直ったようで、ほっぺをうにうに引っ張ることも恨めしそうな目を向けること
もなくなってきたので一安心である。
 と思ってずきずきと痛む頭を押さえていたのだが、当のはやては何やら思案顔。
 どうしたんだろうと考えていると、ふとこんなことを言い出した。

「そういえば。その、例の、なのはちゃん」
「ん?」

 意外にも守護騎士の件ではなかった。なんだろう。

「今何とかしたら、悪魔チックな将来送らんでええんとちゃう?」
「……おぉ」

 確かに。





「店員さんの中に高町なのはさんはいらっしゃいますかー!!」
「ひぇ!? な、なのはは私ですけど……」
「アカンよ! 喧嘩の時は絶対に手加減せなアカン! 相手は優しく、優しく説得するんや!」
「えっ、ちょ、え、え!?」

 唐突にやってきた客に困惑するなのはだった。



(続く)

############

多忙のため更新速度が落ちそうです。



[4820] その12
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2008/11/25 23:40
 最近知ったはやての誕生日が三日後になったので、プレゼントをしようと思い立つ。

「何か欲しいものってある?」
「ググれ」
「じゃあ家で足りないものとか」
「ヤフれ」

 しかし聞いても聞いてもこんな感じなので、何を贈ればいいのやらと途方に暮れる。



 という訳でケーキの予約がてら、翠屋に相談に行ってみることに。
 何度か通ったおかげで桃子さんとは結構話したことがあるし、高町なのはという同年代の女の子
とも面識がある。

「……」
「そんなに警戒しないでください。もう騒いだりしませんから」

 ドアを開けると、応対していたなのはがじっとりとした視線を向けるも止む無し。突然意味不明
な事を喋くりながら店内に押し入った前科があるのだ。あの後ジュースだけ頼んで帰ったけど。

「お願いします。どうしても喜んでもらいたいんです」

 しかしこちらは割と真剣である。後ろに控えていた桃子さんにも向かって頭を下げる。
 するとようやく警戒を軽くしてくれたのか、なのはも桃子さんと一緒に相談に乗ってくれた。

「じゃあ、ケーキは準備しておくわね」
「プレゼントの予算って――」
「五百円玉は金貨」
「あ、あはは……えっと、アクセサリーとかは、興味ありそうですか?」
「あんまり着けてるのは見たことないなぁ」

 とか何とか、いろいろと(主になのはが)意見を出してくれた。さすがは接客業。ブツを探すの
に参考になる。
 と、しばらく喋っているうちに、桃子さんが温かいコーヒーを持って来てくれた。
 頼んでないんだけど。

「私の奢りよ。ずっと喋りっぱなしだから」

 すみません。

「しかし、子供の舌は苦味に弱くて困る。クリームこれですか?」
「……?」

 不思議そうに見るなのはだった。

「しかし、ぴったり『コレ!』というものが無くて悩む」
「編みものも、時間がないですし……うーん」

 席に腰かけて、子供二人して首をひねる。
 すると、横合いから聞いていた桃子さんが口をはさんだ。

「何でもいいんじゃないかしら」
「お母さん? どういうこと?」
「『何がいい』って聞いて、教えてくれなかったんでしょう?」

 こくこくと頷く。
 少しして、はっとする。

「……おお」
「ね?」

 今はもう死んでしまったけれども、子供のころには俺にも両親がいた。
 何か作ってあげたり、勿論なけなしの小遣い買ってあげたりすると、そういうもの全部を喜んで
くれる人たちだった。それがどんなに粗末でも、どんなにちっぽけなものであっても、笑って受け
取ってくれていた。
 つまりは、そういうことなのだろう。
 大切なのは「何を贈るか」ではないのだ。

「なるほど。殊勝なやつめ」
「でしょう?」
「え? ……え?」

 何やら通じ合った俺と桃子さんを前に、なのはは首をかしげていた。
 このままだと混乱するばかりでかわいそうなので、ちょっとからかってあげることにする。

「よっしゃ。じゃあ俺のチェリーでもくれてやりますか。な!」
「さくらんぼ……が、どうしたんですか?」

 後の魔王様は、今はまだ純粋であるらしかった。良く考えたら小学生だから当たり前か。





「チェリーっていうのは……」
「うちの娘に何を教える気だい?」
「あら、士郎さん」

 そして背後から聞こえてきた声に、俺の視界は絶望に染まった。



(続く)



[4820] その13
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:1af0f8e5
Date: 2008/11/27 17:01
「発布やっ‥‥即日施行っ‥‥福本口調条例‥‥発令っ‥‥!」
「朝食‥‥美味い朝食っ‥‥それは至福っ‥‥得難い幸福っ‥‥!」

 こんな感じで‥‥また一日が始まるっ‥‥!

「湧き上がる疑問っ‥‥朝食は何‥‥」
「今日は寝坊っ‥‥時間が足らへんっ‥‥よって朝食はコーンフレークっ‥‥」
「ボクの朝はいつも‥‥ケロッグコーンフロスティからっ‥‥グゥレイトォッ‥‥!」
「疲れるんでやめとこ」
「御意」

 条例は一分と経たず廃止された。
 でもって着替えた後、しゃくしゃくと朝食を食す。

「あ、ちょいと」
「んー?」
「後で時間ちょうだい。誕生日プレゼント作る」
「……ほほう」

 誕生日明日やけど何作る気やの。
 や、絵を描こうかなと。

「似顔絵?」
「鉛筆でね」
「主人公が前衛芸術に挑戦するようです」
「失礼な。こう見えても高校生の頃、美術と保健体育だけは5以外取ったことがありません」
「十段階評価やけどな!」

 五段階だよバーロー。

「お小遣い全部で何か買ってもいいんだけどね。それは貯めてまた来年にでも」

 と言って甘くなった牛乳を一気に飲む。うめぇ。

「前ばらしも甚だしいですが、モノがモノなので諦めて下さい」
「ん……ありがと。嬉しいわぁ」
「あと昨日翠屋行ったら、長めのロールケーキがあったから頼んできた」
「わたしらって最近、あそこの売上にずいぶん貢献しとるなぁ」

 同感です。



 とはいえ、人はプレゼントのみに生きるに在らず。
 手早く下書きだけ済ませてしまい、二人で洗濯物とか食器とかを片付けていく。
 それが済んだ後で線を入れ陰影の輪郭を描いて、そこら辺で小休止することに。
 今日も今日とて、二人でゲーム。

「膝太郎やな」
「なぜか扱いが不遇な主人公。でもちゃんと火力あるよ」
「じゃあ鳥にもきっと勝てるな! うん!」
「ちょっと待て」

 分かる人にしか分からない会話をしながら遊ぶ。毎日がこんな感じである。
 学校無いっていいね。
 良くないけど。

「俺、守護騎士来たら……学校行くよ……昔を懐かしみながら通うのも悪くないかもな……給食のコーヒー牛乳も飲みてぇ!」
「まだ来ーへんなぁ。誕生日明日やのに、残念や」
「まぁ、もし来なかったら……僕がずっと一緒にいてあげる(キリッ)」
「だっておwwwwwwwwwwww」

 はやてはバンバンと机を叩いた。コントローラー投げんな。

「というか、生活費を出世払いで返すまでは出られない。出る気もないけど」
「とりあえず利子は年50%で」
「どう考えても人生オワタ。会社再生法の適用を申請する」
「でも毎年誕生日プレゼントくれるんなら、特別に年0%のサービス制度や」
「ここはもう一声。せめてマイナス100%に」
「鳥に三連勝できたらええよ」

 徳政令への道は遠く険しかった。

「冗談抜きにして、別にええんよ? 返さんでも。毎日家事手伝ってもらっとるし」
「や、何というか。それでも一応、どうしてもけじめは付けたいので」
「そこまで言うなら止めへんけど……なら、待っとるわ」
「最悪、完全にはやてに身売りする可能性が無きにしもあらず」
「超戦闘力の借金執事がついにうちにも……!」

 どれほどの苦行を重ねても、そのレベルには絶対に達せる気がしない。

「ところで絵って、あれで完成やの?」
「や。もっと線足して影つける。背景もちょろっと描きたいし。夕方やるからまた時間ちょうだい」
「うん。ほんなら、楽しみにしとくわ……あー、楽しみ!」

 満面の笑みで、はやては言った。

「大事なことなので二回言いました」
「楽しみ! 楽しみ楽しみ楽しみー! たーのーしーみー!」
「とても大事なことなので連呼しました」

 喜んでもらえるっていいなぁと思いながら、また二人でコントローラーと格闘するのでした。



(続く)

############

>[50]
予想外過ぎて爆笑せざるを得ない。
>[60]
斜め上過ぎて腹が捩れざるを得ない。



[4820] 番外1
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/05/01 02:09
※このお話には卑猥な単語や話題が含まれている可能性が無きにしも非ず。
 ですので、その点を了承の上でごらんください。
 あと作者はどどどど童貞ちゃうわ!









 どうも、主人公です。
 ここ最近のネタがマンネリ化しているような気がしなくもない今日この頃。
 ということで今回は趣向を変えて、他の人の助けを借りることにしました。
 これはその試みを記録した、某巨大掲示板のスレッドのログだったりします。




小学生の同居人にアンカー指定でワッフルワッフル

1 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
最近遊びがワンパターンになってきて困るの。
なので、ちょっと知恵を借りたかったりするの。
手始めに>>10をやってくる

2 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
はいはい妄想乙

3 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
>>1
詳細うpれ
話はそれからだ

4 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
とりあえずksk

5 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
ksk

6 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
加速

7 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
かそく

8 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
ksk

9 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
ぶっかけ

10 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
ぶっかけ


もちろん白濁液的な意味で♪

11 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
ぶっかけちゃうぅぅぅぅ!!

12 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
ぶっかけ

13 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
何というぶっかけ包囲網www

14 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
こうまで容赦無しとはさすがだよな俺ら





「ぶっかけ……だと……?」





15 名前:1[]
やりなおし>>20

折角の精通は取っておきたいの。

16 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
>>1の詳細マダー?

17 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
>>15
童貞乙wwwwwww




未精通って何て言うんだっけ?

18 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
童貞以前の問題




だが童貞乙

19 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
こ れ は ひ ど い
>>17聖人

20 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
ksk

21 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
どっどどどど(ry

22 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
どっどどど童貞ちゃうわ!

23 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
通りすがりが童貞乙

24 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
チェリー チェリー





「何という童貞ども。この流れはこう書きこまざるを得ない」





25 名前:1[]
どどどどど童貞ちゃうわ!

やりなおし>>35

26 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
どどどど童貞ちゃうわ!

27 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
>>25嘘を吐くなwwwwwwwwww



待て、出さずにセックルの可能性も……

28 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
>>25どう見ても童貞wwwwwww

29 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
どっどどどど(ry

30 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
>>25そwwんwwなwwバwwカwwなwwww



童貞乙

31 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
以下、>>1に童貞乙を書き込むスレ↓

32 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
童貞乙

33 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
久々にワロタwwww
才覚溢れる童貞乙

34 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
童貞乙

35 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
童貞乙



~中略~



120 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
やりなおし>>130

130 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
はいはい童貞乙童貞乙



~中略~



698 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
もう最後にしたいやりなおし>>705

705 名前:私、名無しのなのはさんなの[]
最後にならない童貞乙





 結局このスレッドは容量の限界まで続き。
 1のアンカー投げと童貞乙の、終わらないいたちごっこが繰り広げることになった。

「何がいけなかったんだろうか……」
「なんやの?」




[4820] その14
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2008/12/03 15:15
 姉妹はここ最近非常に不機嫌であった。
 どのくらい不機嫌かというと、ネズミと間違えて某Gの付く虫を触った時くらい不機嫌だった。
 監視対象が妙に元気なのはまだいい。
 しかしその監視対象を、変な同居人が毎日そこらじゅう連れ回しているのはどういうことか。
 変身、もとい変装して今まで尾行を続けてきたが、猫の姿でいるのはこれでも疲れるのだ。
 デパ地下のお弁当売り場やら喫茶店の奥やらに潜入するこちらの苦労も考えてほしい。
 一体何度野良猫扱いされて、保健所の連中に追っかけ回されたことかわからない。
 捕まったらガス室行きなのだから逃げる側も必死だ。だからといって人前で変身を解くのは後が手間なのだ。
 今日という今日こそはあの妙な男児を誘きだし、こてんぱんのぼっこぼこのぎったぎたのけちょ
んけちょんにして、もう二度と監視対象に近づけなくしてやる。
 というか泣かす。
 本来負っている任務の為というより、彼女たち自身の健康のために、姉妹はそう決心していた。
このままだと疲れるどころの話ではない。心身の平穏が必要だ。
 序でに言うと魚が食べたい。焼き魚を作る暇も最近は無かった気がする。そう思うとさらに決意
は深まるばかりだった。
 ではとりあえず作戦を実行するとして計画段階、どうやって誘き出すか――何らかの材料が必要
である。あの少年が心牽かれる何かが。
 と思って窓から侵入したのが、およそ5分ほど前の話である。そして姉妹は「それ」を見つけた
時、これは、これこそはと確信した。
 喫茶「翠屋」のチラシ。
 シュークリームやらケーキやらの割引券である。
 ペンを取っていかにも「緊急サービス! 後から書き足しました!」的な感じで「男性限定!」
と付け加えた。
 これでもう間違いなく釣れるはずだ。最近の彼らの行き先にはあの喫茶店が何度かあった。しか
もその店舗を発掘したのは彼だそうではないか。食指が動くこと間違いなし。

 (……おなかへった)
 (シュークリームたべたい……)

 という個人的欲求を押さえ込んで、彼女たちはペンを置き息を吐いた。ぐうと腹がなるのは姉妹
で同時だ。そういえば今日は朝食も食べていなかった。おなかへった。くそう。

 許すまじ。と憎悪を深めつつ、もと来た道を姉妹が引き返す途中にそれはあった。
 窓際、彼女たちが入ってくるときは死角になっていた位置に、土鍋がおいてある。
 その中には何と、ちょうど子猫が二匹入れるだけのスペースがある。
 さらにはパック入りのおさかなが、これ見よがしに置いてあるではないか。しかも二尾。
 ごくり、と姉妹は生唾を飲み込んだ。
 どうしてこんな窓際にそんなものが、という疑問はこの際さて置く。
 さて置いて、これを見過ごしておけるだろうか。睡眠するにはうってつけの場所、しかもその中
央にはご馳走が鎮座している。
 繰り返すようだが姉妹はとても疲れていたしお腹が減っていたしでそれはもう大変だったのだ。
これを無視するのが無理な話である。
 姉妹はゆっくりと鍋の方へと歩を進め、前足を突っ込み、そして……





 ごとん。





「はやて! ぬこ! 土鍋にぬこ捕まえた! 料理してもらおう! ちょっとDIO様呼んできて!」
「にゃぁぁぁっ!?」

 トラップにかかっていた猫を蓋をした土鍋ごと持って行くと、中から驚いた猫の鳴き声がした。

「朝日が出てるから無理やと思う」
「きちんと突っ込んでくれるあなたが好きです」
「というかあかん! 料理したらあかんやろ! ほら、出ておいでー、こわくないよー、食べへんよー」
「……にゃぁ」
「……にゃー」

 はやてが蓋をあけると、ゆっくり顔を出すぬこたち。いいなぁ。かわいいなぁ。

「……じゅるり」
「にゃぁぁぁああっ!!」
「にゃああぁぁぁっ!!」

 可愛すぎて食べちゃいたいと誉めてあげたのに、ぬこたちは窓から何処かへ走り去ってしまった。

「あー! あほー! ネコさん行ってもーたやん!」
「うん。おかしいね」
「おかしいね、とちゃう! せっかく可愛いかったのに! エサあげてみたかったのにー!」
「そうだね。じゃあケーキ切る前にコーヒー淹れようね」
「話逸らすなぁ!」

 そんな感じで、はやての誕生日が平和にはじまったのでした。
 そういえば翠屋のクーポン、期限切れてたな。後で捨てとこ。



(続く)

############

再投稿です。
何があったかはHP参照。

14:20最後の修正。
15:10最後の最後の修正。



[4820] その15(前編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2008/12/03 22:27
 てな訳で誕生日だぜ!
 誕生日になったら守護騎士来ると思ってたけど、まだそんなことはないみたいだぜ!

「はやてが生まれたのって何時何分?」
「ん? そういえば……んー、時間まではわからんなぁ。今度調べてみる」
「その時間ピッタリか、日付が替わる頃が可能性あるかもね」
「せやなぁ」

 部屋の飾りつけは守護騎士歓迎シフトにより、もう長い間デフォルトになっているので必要なし。
 ついでに言えば予約しといた生クリームのロールケーキがこれまた綺麗だし、お菓子もしこたま
買い込んでおいたので準備万端。

「担当のお医者さんが来るって?」
「うん! 石田さんや! 夕方にな。『けーと君に会いたい』って言うとったよ」
「ん。しかしケーキは食べきれないと思うので、今のうちにふたりで一次会しましょうか」

 時間としてはまだ午前ですが、学校行ってないので関係なし。勉強したくないでござる。
 コーヒーメーカーからこぽこぽと出来上がった音がしてきたので、カップに注ぎケーキを切る。
 ロールケーキはこういうとき便利だ。食べたいだけ切っても見栄え新品だし。

「誕生日おめでとう! 乾杯!」
「ありがとう! 乾杯!」
「あちぃ」
「あつっ」

 一気に口に含んだコーヒーは熱かった。

「お間抜け誕生日やな」
「む? そういえば」

 いったん席を立ち、別室に置いてあった小箱を取って戻る。

「え? これ」
「誕生日プレゼント相談したら、気を使ってくれたみたいで。翠屋の、ほら」

 例の主人公さんから。

「主人公って……わぁ、クッキー! 手作りやん、お礼言わな!」
「伝言。『前回のことは水に流します。今度うちに遊びにきてね!』って」
「今日も誘ってみればよかったなぁ……あ、ちゃっかり翠屋の新しいクーポンがはいっとる」
「『遊びにくる』ってそういう意味じゃないと思う。多分それお母さんだな」

 正解である。
 てな訳で有難くもいただいたクッキーを皿に載せ、ケーキと一緒に二人で食べながらそれなりに
騒がしく過ごす。
 翠屋のケーキはやっぱり美味しくて、あまあまうまうま言いながら一切れ目を完食。
 今日だけは無礼講やー! というはやての一存もあり、お菓子もなんと食べ放題である。
 普段やらないことも今日はやる。羽目を外す時は外さないと。

「リミッターを外させてもらう」
「普段から外してるやろに」
「ですよね」

 そんな感じでさっき執り行われた「ポッキーのチョコだけ舐め取ってみよう競争」はなかなか
盛り上がった。
 でも舐めすぎで舌がなんか変。

「勝者のはやてには豪華賞品、大量のプレーンプリッツが贈られます」
「クリーム付けると美味しそうやな」
「よし。次は辛口醤油せんべいで同じことを」
「想像しただけで口の中が痛くなるからやめて」

 二人して顔をしかめる。

「石田さん来るまでまだまだ時間あるね。何する?」
「なら、クラッカー! クラッカーやろ! たくさん買ってある!」
「火薬とかって心惹かれるものがあるよね」
「一個残して全部放しなさい」
 
 そんな感じで遊び呆ける午前中でした。



(後編に続く)

############

ちょっと長めなので前後編に分割。
次で一段落、でしょうか。

前回分を修正したせいで消えてましたが、とりあえず20話まではテスト板で
投稿し続けることにしました。とはいえもうすぐ20ですが。



[4820] その15(後編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2008/12/05 11:19
 テンション上げて夕方まで遊びまくって、はやて担当のお医者さんが顔を出して帰ったあと。
 はやてが何やら言い出したのを聞く。

「症状は横ばいって、前回と一緒か。それがどしたの?」
「それが大変なん。今まで悪化する一方だったから、それが止まっただけでも凄いことなんよ?」

 石田さんの診断であった。
 はやての足の話である。

「天使様と悪魔様は超能力くれなかったと思いますが」
「んー……病は気からっていうし。最近けっこう外出もするしなー」
「俺が一回死んだおかげだな!」
「何かイヤやそれ」

 そんな感じで喋くりながら、何杯目かのコーヒーを二人で啜る。

「気づいたけど俺の誕生日は冬だから、しばらくははやてが年上だね」
「そーなん? いいこと聞いたわ。なら、ちゃんと普段からおねーさんの言うことを聞くこと!」
「うぬ。うぬぬ。本来こっちが年上なのに。言うんじゃなかった」
「ふっふっふー。これからは弟クンと呼ぶことにしよ!」
「年上ってつまり年増と同義だよね」

 ぼっこぼこにされた。





 とまれ平穏な誕生日のまま、遊び続けて夜まで至りました。
 守護騎士さんは結局まだ来てないけど、なかなか楽しい誕生日会になったように思います。

「で、ですね。遅れましたが、誕生日プレゼントです」
「おぉー……わ、ほんま上手やなぁ。意外と」
「意外とか言うない。美術5の底力ですぞ」
「……うん、ほんにありがとな! 大事に飾っとく!」

 あったかいココア(コーヒーは飽きた)を飲みながら、お待ちかねプレゼントタイム。
 受け取るはやては満面の笑みを向けてくれた。これだからやりがいがあるというものだ。

「簡単な額縁とかあればいいね」
「んー……あっ、ある! 部屋に確か……」
「おお。取りに行こうか」
「うん!」

 てな感じで、カップの乗ったお盆を持ってもらったまま、部屋に向かって車椅子をえっちら
えっちら押していく。
 と、その前のドアから漏れ出す光の奔流が。

「おぉ」
「……な、なぁ、これって……」

 急いでドアを開け、二人して中に入り込む。
 目の前にはなんと、風もないのに独りでに宙を舞う一冊の本!
 これは……魔法使いフラグ!
 
「キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!」

 などとはやては言っているものの、ここで何もしないというのは男が廃る。
 はじめましての挨拶はこう、インパクトが凄いのがいい!
 と思ったのではやてが手に持っていた、熱いココアがのったお盆を奪い取った。

 でもって下に反動をつけて、
 形を持ち始めた光の塊に向けて、
 お盆ごと





「そぉい!」





「あづっ! あづっづづづづあああぁぁっ!」
「えっ! え!? ヴィータちゃん!?」
「ヴィータ! どうした、大丈夫か!?」
「ココア空軍の急襲です。僧侶さん、はやく白魔法かけてあげて」
「あほー! 何してんのあほー!」
「……」

 いいなぁ。騒がしいっていいなぁ。



(続く)

############

管理人舞様、本当にお疲れ様でした。
お体にはくれぐれも気を付けてください。



[4820] その16
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2008/12/06 22:54
 あれからてんやわんやになってしばらく経ち、ようやく膝を突き合わせて守護騎士と話し合う。

「ココアで挨拶、名づけてココ挨拶でした。はじめましてごめんなさい。こめかみが痛い主人公です」
「ごめんな。この子いつもこうでなー、こうしとくから堪忍なぁ。うち、八神はやて。よろしゅうな」

 背後のはやてに現在進行形でぐりぐりされ続けて頭が割れそう。
 シグナムに抑えられているものの、ヴィータはまだ怒り心頭な目でじっと見てくる。

「……その顔止めろ。見苦しい」

 ヴィータが言うには、苦痛に歪む俺の顔は何かと見苦しいらしかった。

「火傷とかせーへんかった? ホンマに大丈夫?」
「大丈夫です。我らはそう軟弱ではありません」
「そう? ならよかった。痛かったら直ぐゆーてな? 火傷は痕が残るから」
「あ……あ、ありがと」

 まっすぐに言われると、ヴィータは何故か戸惑ったように言った。
 そういえば今まで大変だったんじゃなかったっけ。
 闇の書闇の書言われて管理局に追い回されたりしてたような。主にも恵まれなかったとか聞いた
ことあるぞ。あんま正確に覚えてないけど。

「はぁ……にしても、ホンマに来てくれるなんてなぁ……」
「ふふん。そろそろ俺の転生物語を信じる気になったか」
「ついさっきまで冗談か、面白い与太話やと思っとったのに。途端に現実味を帯びてきて困る」
「あの……話が見えてこないのですが……」
「つーかさっきからテメー誰だ」

 シャマルさんとヴィータさんが言うと同時に、四対の疑念の視線がこっちを向いてちょっと怖い。

「俺の名前は玉坂恵人。理不尽な死から奇跡の力で蘇り、時空を超えてやってきた――」
「やってきた?」

 やってきた……。

「――オリ主です」

 これ以外に単語が出てこなかった。
 きっと嘘は言っていないと思う。

「オリシュ? 何だそれは……?」

 犬形態ザッフィーが首を傾げた。

「電脳魔戦紀オリーシュ。消えゆく二次小説たちを救うため、各ジャンルのオリ主が電脳世界を走る!」
「何という混沌。二次創作界の明日はどっちだ」
「む。そういえばカタカナで『オリシュ』って入れると、ちゃんとグーグル先生が直してくれた気が」
「そうなん!? ……わ、ホンマや。人気なんやなぁ、オリ主」
「定番ですものね、オリ主」

 訳が分からなそうな守護騎士たちだった。





 唐突に始まった漫才はそこそこに、今度こそきちんと自己紹介をした。
 背と胸がおっきいのがシグナム、おっとりしてるのがシャマル、さっきから怒ってるのがヴィータで
青い狼がザフィーラ。やった覚えてた。うろ覚えだけどアニメの知識が役に立ったぞ!
 ていうかそういえばザッフィーって、大きくなれるんだよな。こう、「サクリファーイス!」って。
 今の身体って子供サイズだから、そしたら背中に乗れるかも!
 これはすごい、すごいぞザッフィー!

「ねぇねぇザッフィー、今度買い物のとき背中乗せてくれ!」
「却下だ」

 えー。

「主はやて。そろそろ真剣に、その者の素性をお聞かせ下さいませんか」
「え? うーん、何というか……色々知ってる人? って言ったらえーんやろか……」
「ふははは。お前たちの詳細は既に知れておる。何故なら私は全知全能のトリッパーだからだ」
「ですから、そのトリッパーって……」
「えと、えと、そうやなぁ、うぅー……」

 はやてもさすがに、
「実はここってアニメの世界で、現実世界から転生したんです」
とは言えないようで、説明に困っている。
 ならここは俺の出番!
 超絶明快かつ混沌に答えてやるっぜ!

『お風呂がわきました』

 と思ったら、空気を読めない機械音声が聞こえた。

「入ってきたら?」
「ん。そーする……ふわ……何か、眠くなってきたわぁ」
「俺も……くぁぁ」

 何かもう疲れて眠くなったので、もういいや。面倒なことは明日にしましょう。

「さっきまで遊んでたしね。じゃあ俺は後で」
「ならお先に。あ、みんなも入る? 話もできるかも知れへんし」
「あ……お、お供します」
「誕生日おめでと。追加のおっきなプレゼントよかったね。しかも四人」
「うん! 最高の誕生日やった! みんな、これからよろしゅうな!」
「え……あ、ああ……」
「は、はい……」

 戸惑いがちについていく守護騎士の背中を見ながら、ソファで横になるのだった。ぐぅ。



(続く)



[4820] その17
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2008/12/09 23:38
「つまり、次元漂流者か」

 というのは翌日、朝食を準備している時のシグナムさんの言葉である。
 さすがにアニメうんたらは言いにかったので、別の言葉で懇切丁寧に解説した結果こうなった。
間違ってないので、これでよしとしよう。

「この世界にたどり着く際に失ったが、以前は予知能力があったのだな」
「まぁそんな感じで」

 と昨晩説明したのははやてらしい。
 かなり無理矢理だけど、はやての言葉という一点でなんとか信用してくれてるみたいだ。

「この世界についても、我々についても知っているそうだな。なら……まさかとは思うが、この剣も知っているのか?」
「……レバ剣! レバ剣じゃないか!」
「レッ……!」

 嫌な略称だったのか、シグナムの動きが固まった。

「ごほんっ! とっ、とにかく、それについてはもういい。分かっているとは思うが、主はやての
 温情に預かっている以上は……」
「真っ白ごはんパカッフワッ」
「人の話を最後まで聞け!」

 律儀に突っ込んでくれるシグナムさんはきっといい人だと思う。

「ん? そういえば、俺魔法使えんのかな。ザッフィーザッフィー、俺ってリンカーコアある?」
「ない」
「ないの?」
「ないな」
「な……い……?」
「ないぞ」
「…………」
「…………」





「スーパー守護騎士歓迎タイムはじまるよー!!」
「イヤッホオオォォォウ!!」

 でもはやての号令で気を取り直してヴォルケン歓迎会だぜ!
 十日くらい待ってたのがやっと報われて、はやてのテンションもうなぎ登りだ。
 机の上にもこれでもかというくらいの料理、料理、料理!

「今日もおまつりやー! たくさん食べてな! ビーフシチュー、おかわりあるから!」
「バカヤロウその前にロクヨンのコントローラだ! 念願の四人対戦できるっぜ!」

 そんな訳で二人して最高にハイです。いつも通りじゃね? とか言わない。

「え、えっと……はやてちゃん、これって……」
「え? な、なんか不味かったん? そんなぁ……」
「いいいいえそうではなくてですねそのっ、こ、このパーティーって……」
「ハイパー歓迎タイム。主役は守護騎士の皆さんですが」
「そっ、そんな、そこまでしていただかなくてもっ!」

 シャマルさんは恐縮しまくりな感じで、手を横にぶんぶん振った。見れば隣にいるシグナムたち
も、慌てた感じで話しかけてくる。

「わ、私たちは臣下です。わざわざここまで……」
「えー……でも、これから一緒に住むんやし、家族になるんやし……」
「家族……い、いえ! 昨日申しました通り、私たちは貴女の僕! こうまでしていただく訳には!」
「ああっ! チャーハン作っとる! なぁなぁ、お焦げ! お焦げ作ってな!」
「は、話を聞いてくださいっ!」

 人数分のチャーハンを作っていると、必死そうなシグナムの声がした。

「とにかく! 歓迎会はこれでええのっ。一緒に暮らすんやから!」
「あ……は、はい……」

 嬉し恥ずかしな声だった。

「なら! ヴィータはお皿、シャマルはコップ! ザフィーラとシグナムは……」
「チャーハンできたよ!」
「盛り付け担当! ほな、急いで……わ、わ。すごい量。ようフライパンに入ったなー」
「か……かなり重いよ!」
「お、おい。大丈夫か? 危ないぞ」
「だ、だ、だい、じょう……」





                        ↓シグナム  
                      ミ 。・゚・。・。)
                      ミ 。・゚。・゚  )
                        | |  |
                       ( (   )
                         ̄  ̄
   アッ       ///
 ∑(    )o━ヽニニフ))
  (    ノ
  しー-J



(続く)

############

だってシグナムにぶっかけしろって誰かが言うから……。



[4820] その18
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:a4cd5b6a
Date: 2008/12/12 16:04
 家族が増えたのは大変嬉しいことなのだが、そのうちシグナムとヴィータには露骨に避けられて
いる気がする。

「ロッコツロッココロコロコロロ!」
「ロッコロッコツコロコロコロ!」
「ロッコツ!」
「ロッコツ!」

 はやてがノってくれるのは嬉しいけれど、残念ながら遊んでいる場合ではない。

「すごい警戒されてる気がするんですが。シャマル先生どうすれば」
「えっと……謝ったんですか? ココアとチャーハンの件は」
「バリバリ謝りました。これでもかと」
「でしたら、もう仕方ないかもしれませんね……」
「プレゼントにシュークリーム投げつけたら喜んでくれるだろうか」
「……反省する気あるん?」

 はやてが般若みたいな顔で怖いので、雪合戦ならぬシュークリーム合戦は諦めよう。

「そういや話変わるけど、その本って未完成なんじゃなかった? 何か集めなきゃいけないとか」
「蒐集の話? 止めとくって事にしたわ。魔力吸われるのは誰だってイヤやと思うし」
「そう? 俺にコアがあったら協力するのに。シャマル先生の鬼の手見たかったなぁ」
「……あ、あなたは何処まで知ってるんですかっ」

 吃驚した様子のシャマルさんだった。

「ふっふふ。恐れをなしたかシャマル先生。やった! やったぞ! フラグ立ったかも!」
「フラグ(笑)」

 せっかく喜んでみたのに、鼻で笑われて悲しかった。

「で、フラグまで行かなくていいからこう、侍さんとハンマー子さんとは仲良くしたいんですよ」
「んー。食べ物は逆に疑われるから、やめた方がええかもしれんなぁ」
「となると……一緒に行動するのが第一歩、でしょうか」
「はやて」
「何や」
「夕食食材メモ準備」
「承知」





「という訳でお買い物です」
「何なんだこれ! どうしてあたしが車椅子なんだよッ!」

 せっかく押してあげてるというのに、車椅子の上に縛り付けられたヴィータが五月蝿い。

「は、はやてっ、助けて!」
「まぁまぁ。本人反省してるんやし、少し付き合ってやってな?」

 ヴィータが助けを求めるはやては車椅子でなくて、ザフィーラの背中の上である。いいなあ。

「……本当に反省していたら、ヴィータを縄でがんじがらめにはしないと思います」
「抵抗してくれてもよかったのに」
「おっ、お前が言ったんだろッ! はやてがやれって言ったんじゃなかったのか!」
「幻聴?」
「ううううああああああっ!」

 やかましいなぁ。

「ともあれ、シグナムもヴィータも、すみませんでした。いろんなものぶつけて」
「……いや、私も大人気なかった。もう気にしていないぞ。熱かったが」
「……火傷とか大丈夫?」
「大丈夫だ。そも、魔力で保護するのが遅れた私が悪い」

 故意にチャーハンぶっかけた訳ではなかったからか、シグナムは割りとあっさり許してくれた。

「家でも避けたりしなかったら嬉しいです」
「お前がキッチンにいるとき以外なら善処する」
「済まないでござる」
「あ、あたしは許さないからなッ! 絶対!」

 なのにヴィータが強情で困る。

「許してくれるまで謝り倒すでござる」
「フン! 何されたって……」
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴ
メンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメン
ナサイゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメ」
「うううううわぁぁああッ!」
「わ、耳元でささやいとる。身動き出来んのに鬼畜やなぁ」

 新ジャンル「ヤンゴメ」に挑戦したところ、ヴィータはきっかり5分後に許してくれたのだった。



(続く)

############

2008/12/12 レスが20に達したので移動しました。



[4820] その19
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2008/12/14 16:01
※このお話には卑猥な単語が含まれている可能性があります。
 ですので、その点を了承の上でご覧ください。





「ヴィータさん最近警戒しないね」
「……お前に怒ってるとこっちの被害が多いからだッ!」
「や、ごめんね。本当にすみませんでした」
「ったく……」

 てな感じで仲直りして、最近は守護騎士の皆さんと仲良くやってます。

「……おい。これ、上手く持てねーぞ」
「ロクヨンのコントローラって最初は結構戸惑うよね」
「プレステに慣れとるとなー……あ、シャマルもやる? 4コン空いとるよ」
「あ、はい。えっと……こう、ですか?」
「十字キーとスティックの方持つ人って初めて見ました。久しぶりにネスで行こ」
「あ! 真似すんなー!」

 そんな土曜日の午前中でした。





 お昼を済ませた後は、皆でボードゲームに興じる。
 人数集まらなきゃできないから、家に二人しか居なかった頃はできなかった遊びだ。

「というか、守護騎士来たら学校行くんとちゃうの」
「行きたくないでござる! 絶対行きたくないでござる!」
「言ったことは守る。来週手続きな。ハイパー仕返しタイムの餌食になりたくなかったら」
「十万ドル徴収は勘弁して欲しいでござる」

 一人はいるよね。人生ゲームで妙に青マス止まるヤツ。

「あ、何か出たぞ。左隣と家を交換する……お前か」
「そんなの関係ねぇ! そんなの関係ねぇ!」
「ほら早く。順番つっかえてるんですから」
「負け犬乙」

 ちくしょう。

「不運やなぁ。頭に隕石落ちてくるのも納得や」
「ここは我が予知能力で、人生最大の賭けに挑まざるを得ない」
「……その件だが」

 シグナムが真面目そうな目でこっちを見てくる。

「主はやての未来で、知っていることはないか。我々も聞いておきたい」
「ん?」

 未来と言うと、StSだったっけか。

「んー、詳細までは覚えてない。とりあえず十年後くらいは元気でした」
「本当か?」
「うん。でも、ちょっとアホの子になって叩かれてた気はする」

 はやてと守護騎士は複雑そうな顔をした。

「ま、まぁ、その通りになるとは限らんと思うし」
「でもって、はやては守護騎士や仲間たちと一緒に、十年後にある犯罪者と戦うんですよ」
「次元犯罪者か?」
「多分。えっと、そいつの名前が……」

 ここで詰まった。
 思い出せない。

「じ……じぇ……ジェ……何だっけ」
「トムと?」
「ジェリー」

 違う。

「じゃなくて。す、す…………スカ、何とか。スカ……」
「スカ?」
「……マグロの脂の乗ったところは?」
「え? トロ……ですか?」

 シャマル先生が網にかかった。

「続けて言ってみ」
「え? 続けて……えっと」
「シャマル、ストップ。意味は知らんけど、どうせろくな単語とちゃう」

 単なる悪戯だったというのに、はやてから妙なオーラが立ち上ってて非常に怖い。
 具体的には死なされそうなレベル。

「さ、白状させたろか……どういう意味や?」
「……スタコラサッサだぜ!」
「こら逃げんな! ザフィーラ、ヴィータ! 捕まえて!」
「御意に」
「ウンコ! ウンコォォ!」
「このっ、てめー待ちやがれ!」

 迫る狼と幼女から逃げ回る午後だった。





「…………」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」

 言葉の意味をグーグル先生経由で知ったシャマルには、その後三日間口を利いてもらえなかった。



(続く)

############

この瞬間、後の第三期の黒幕は守護騎士たちに嫌悪の視線で見られることが決定したのである。



[4820] その20
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2008/12/17 11:43
「ザッフィーのカラーリングを変えてみたいんだがどうしよう」
「……藪から棒に何を言い出すか」
「ほら、あれだ。八神家にもホワイトプラン導入することになったからそれで」
「そんな話はしとらんよ?」

 こんな風に俺の目論見は最近いつも、颯爽とやってきたはやてに潰される。

「でも、そーやな……確かに携帯、必要かもな」
「明後日くらいに学校手続きするしね。外に出る機会は増えるけど、俺念話使えないし」
「……お父さんっ!」
「あ、主!?」

 人が振ったネタを横取りするのってどうなんだろうかね。

「で、学校どうするん?」

 と、ザッフィーとじゃれながらはやてが言う。付き合っている狼さんも嫌ではないらしく、胴を
撫でられると時折耳が動くのが分かった。

「近くの公立選んでみた。いくつかパンフ取ってあるから」
「……私立のしの字さえ出てこんのはどういうこと? 例の主人公さんに興味あらへんの?」

 あるっちゃあるが。

「私立やだ。学費高い」
「そういう理由で学校選ばんの。将来働いて返せばええから」
「はやてが浪費癖を身につけたようです」
「浪費ちゃう! 未来への投資である!」
「投資ではない! 教育費の過払いである!」

 漫才ではない。真剣な議論である。

「ていうかあそこ編入やってない気がする。はやてが入ったのは中学から……じゃなかったっけ」
「へ? 私、聖祥行くん?」
「ん? うん。確か……そうだったっけか。と思います」
「ふぅん……ま、ええわ。とにかく、情報は集めなならん。行くにしろ行かんにしろ」
「ふむむ。で?」
「実際に通ってる人に聞くのが一番。シグナムー、悪いんやけど電話の子機取ってくれへん?」
「ちょっ」





「こんにちはっ。この間は突然ごめんなさい、私八神はやて言います。改めて、よろしくなっ」
「あ、あはは、前回はびっくりしたけど……わたし、高町なのは。よろしくお願いします」
「で、そこ。何かくれてんの」

 所変わって高町家。魔導師に騎士はマズいから、はやてと二人なのはの部屋。
 出てくるだろう士郎さんがあまりに怖いので柱の影に隠れていたんだけど、はやてに引っ張り
出されたのでがたがた震えざるを得ない。

「戦闘民族サイヤ人に虐められるツフル人の気持ちがわかりました」
「はぁ。えっと、何かあったりしたんですか?」
「え? あの、特には……」

 目で威圧されただけだしそりゃわかんないよね。
 でも視線で人が殺せるレベルだったので、心的ショックも尋常ではないのです。

「誕生日は、クッキーありがとうな。美味しかったわぁ!」
「急だったから、あれくらいしか出来なくて……来年はちゃんと用意するから、楽しみにしててください」
「ホンマ? ありがと! ……と。それより先に一人おるな。誕生日いつやっけ」
「……実は俺の誕生日は108日まであるんだ」
「そっ、それ人間じゃないです!」

 まともに突っ込んでくれたのは久しぶりなので、少し感動した。

「知らないのか? よく訓練されたオリシュには誕生日が複数あるんだぜフゥーハハァー!」
「お……おりしゅ……?」

 後の魔王様を困惑させたと思うと、何だかとても楽しかった。





 で。
 あーだとかこーだとか騒ぎながら、本来の目的である(簡易)学校説明会へ移る。
 レベル高いしいいなぁって思ったけど、やっぱり編入は特例じゃないと認められないっていうか。
 今までそんなに例があるわけではないというか。

「出願は終わってますし。中学からの入学ならありますけど……」
「じゃあはやて、頑張ってね」
「お宅の話やろ。でも……あーあ、甘くはあらへんなぁ」

 とか言ってると、桃子さんがコーヒーとお菓子を持って来てくれた。

「あ、すみません」
「いただきます。うまうま」
「楽しそうね。アリサちゃんとすずかちゃんも呼んであげたら?」
「ううん。電話したんだけど、二人とも出掛けてて」

 アリサとすずか……あ、友達か。居たなぁ確か。釘宮と紫の子だな。
 ……くぎゅか。

「……このバカ犬!」
「ん?」
「へ?」

 言いたくなったので叫んでみると、奇異の視線が向けられた。

「このバカ犬!!」
「…………このバカ犬!」
「へ? へっ?」

 そのうちはやてが乗ってくれたけど、なのはは戸惑ってるみたいだった。

「こ の バ カ 犬 !」
「バカ犬! バカ犬ぅ!」

 二人して叫んでいると、何だか「やらなきゃKYなんじゃ!?」とか思われたらしい。

「え、えっと……ば、ばかいぬぅーっ!」

 田村さんボイスの罵りもなかなかのものでした。





『こ の バ カ 犬 !』
「うわ、ひでー。はやて、これは酷いって」
「…………」
「ああっ、ザフィーラ! 違う、違うんや。これはその……にっ、ニヤニヤしてないで説明しろあほー!」

 こっそり持ってったレコーダーの再生を聞いて、勘違いしたザフィーラ。誤解が解けるのには夜までかかった。



(続く)

############

チラシの裏なる素晴らしい場所ができたので、「体はネタで出来ている」的な当作を移動させるか悩んでます。
読者の皆様はその辺いかがでしょうか。
感想欄等でご意見いただけるとありがたいです。



[4820] その21
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:2276f7ea
Date: 2008/12/18 09:04
「……最近アイツのせいで、あたしたちが物凄く割を食ってる気がする」

 と言うのはヴィータで、目の前に居るのはシャマルとシグナムだ。場所は八神家キッチン前で、
聞いたふたりは曖昧に返す。

「聞けば、ザフィーラまで被害にあったって言うし」
「ま、まあ、単なる悪戯、スキンシップだと思えば」
「シャマルも怒ってたじゃんか。何日も口利いてやんなかったことあるだろ」
「あ、あれは、だって……だって、あんなこと言わせようとしてっ!」

 顔を真っ赤にするあたり、シャマルはあまりシモのネタに耐性がないらしかった。

「ヴィータ。ならば、どうする気だ?」
「決まってんだろ。一泡ふかせてやんだよ!」

 ヴィータはぱしんと拳を叩いた。幸い、謀略を巡らせるなら今だ。
 ザフィーラが護衛兼散歩でついていってしまったが、はやてと某オリーシュは小学校に手続きに
出掛けている。
 仕込みをするのにはもってこいだ。この機を逃す手はない。

「オリーシュって言うとなんか連想するな。アヤシイ格好でニッポンニッポン言ってるアニメのやつ」
「え? えっと……確か眼が特殊で、レアスキルみたいなのを持ってる?」
「あ! そうそう、そいつ! シャマル、名前覚えてねーか? どうしても思い出せなくてさ」
「何だったかしら……ル、何とか、だったような……」
「……仕返しをするのではなかったのか?」
「はっ! こ、こんなこと言ってる場合じゃねー! 帰って来ちまうって!」

 守護騎士の未来は大丈夫なのかと心配になるシグナムだった。





 という流れで、「最近調子に乗ってるあんにゃろうに目にもの見せてやる守護騎士の会」が発足
した次第である。
 チャーハン直撃以外は割かし被害の少ないシグナムはあまり乗り気では無かったが、比較的精神
ダメージの大きかったヴィータとシャマルはかなり張り切っていた。

「まずはアイツの弱点探しだな」
「食べ物だと、好き嫌いはあまりなさそうだし……」

 ヤル気に満ち溢れている。
 とまあ、そんな仲間たちの姿を見てしまっては、リーダー格のシグナムとしては協力するのもや
ぶさかではなくなってきた。

「本音言うと、興味あるだろ。面食らったアイツの顔」
「少しな」

 野次馬根性とも言う。

「が、これといって弱点らしい弱点は見当たらないな」
「……魔法で悪戯すんのは負けた気がして嫌だ」
「じゃあ、今度からあの子のネスだけ集中狙い……とかはどう?」
「主はやての漁夫の利か、あいつ自身から返り討ちか。二つに一つになるだろうな」

 いくら剣や魔法の腕が立とうとも、ゲームの一点では遠く及ばないのが悔やまれる。

「ヒモの一点を前面に押し出して攻めるのはどうだ?」
「それはアリだけど、普段から結構言ってるからな……慣れちまってるかもしれねー」
「パソコンのお気に入りに仕掛けをしておけば……」
「駄目だ。履歴も含めて全く記録は残さない奴だぞ? それに主はやてまで被害が及びかねん」

 言いながらシグナムは、この短い期間で随分変わった自分たちに思いを馳せた。
 以前までの、道具として生きてきた守護騎士なら、笑いあって過ごすこともこんな悪巧みをしよ
うとすることもなかった。
 そういう意味では主はやての優しさと同時に、あの気ままな居候にも少し感謝の念もわかないで
はなかったりするのだ。
 しかしそれとこれとは話が別で、弱点などまるで見当たらなくて困る。

「……あー、もう! あの野郎、何が苦手なんだよッ!!」

 そしてヴィータはキレる。

「仕込みをする前に、まず相手の詳細を見極める必要がありそうだ」
「データがゼロだから……しばらく観察するのが先かも」
「……なら、あたしが調べる。それとなく聞き出す」
「大丈夫か?」
「大丈夫だっ!」

 果たして。





「お、お、おい、お前!」
「はもう死んでいる。何?」
「べっ、べつに、興味なんてないけどっ……お、お前、こここ怖いものとかあるのかっ?」
「ん? んー……あるっちゃある」
「なっ、何だ、それ、ちなみに。お、教えろよ」
「チョコレートケーキ。こないだ行ったデパートのが。あぁ、怖いなぁ。もし食べたら気絶するかも」
「ふっ、ふーん、そっかー。あ、あたし、少し出掛けて来るからー」
「了解……あ、はやて。そういう訳でコーヒーお願い」
「ウホッ! いいお茶菓子……」
「食わないか」





「あっ! シグナム、シャマル! 聞いてくれよ、アイツの弱点分かった!」
「……ヴィータ、焦りすぎだ。お前の敗けだ」
「ヴィータちゃん、その……このページ、読んでみて?」
「は?」

 満面の笑みを浮かべるヴィータにシャマルが見せたのは、グーグル先生に「饅頭怖い」を
質問した結果だった。
 内容を見て、全てを悟ったヴィータ。
 その後怒りと悔しさを胸に、スマブラ勝負を挑んでいった。

「うわぁぁっ! な、何でこっちに戻って来んだよッ!」
「知らないのか。サムスの砲撃ってネスバットで打ち返せるんだぜ?」

 返り討ちにされたのは言うまでもない。

「あの……ヴィータちゃん、もう諦めた方が……」
「う、うるさい! うるさいうるさいうるさぁい!」



(続く)

############

主人公最強(笑)



チラ裏については書きながらしばらく考えます。
出来たばかりですし、「どちらでもよさそうだにゃー」が本音なのでw



[4820] その22
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:54171542
Date: 2008/12/18 19:59
〜概略・チャーハンの作り方〜
1 具材を用意する
2 フライパンを温める
3 強火で炒める
4 炒飯をブチ撒けろッ!

「特に4番、これ重要な。慣れるまでは省略不可」
「嘘を教えるな嘘を」

 折角シャマル先生にチャーハンの極意を教えていたのに、はやてが叩いてきて痛い痛い。

「嘘じゃねー。俺やってたし。昔はずっとやってたし」
「皆の昼ご飯台無しにせんといてくれる? 夕食をパセリだけにされたくなかったら」

 キアゲハの幼虫ではないので、素直に謝る。

「でも、よう教える気になってくれたなぁ。学校の準備もあるのに」
「最近ヴィータが俺の首を狙うので。少し遊びすぎたかと反省しますた」
「本心は」
「ご褒美としてオリシュの多くが一度は通る道、ナデポの機会を虎視眈々と。安西先生……ナ」
「あきらめたら?」

 台詞を言い終わらない内に切り捨てられて泣きそう。

「あの……『なでぽ』って?」
「レアスキル。おにゃのこの頭を撫でるとフラグが立つ、恐るべきスキル。それを今回は独自にアレンジ」
「アレンジ?」
「髪が摩擦で燃えるまで撫でまくる。頭がかっと熱くなり、受けた相手は骨抜きのメロメロに!」

 名付けて、ナデボ。骨抜きになるまで撫で続け、女の子の頭がボッと火を吹くのだ。物理的に。
 だが気が付けば、シャマル先生が怯えた目でこちらを見ていた。
 て言うか泣きそうだ。

「は、はやてちゃん助けてっ」
「節子、それメロメロちゃう。メラメラや」
「メラメラですか? 髪の毛禿げますか?」
「禿げます」

 残念ながら禿げ属性は持ってないので、名残惜しいけど諦めよう。





 とか何とか、いつまでもバカやってる場合ではないので本題。
 シャマル先生に料理を教える会。講師はやて、アンド俺。試食係八神家のみんな。
 言い出したのはシャマル自身である。なんでも、いつも料理をしているはやて(朝、昼、夕食担
当)と、一応俺(主にチャーハン担当)の負担を軽くしたいのだとか。
 でもって一回作ってもらって食べてみたら、正直味がかなり微妙というか何というか。食べられ
なくはないのだが。

「味付けさえ間違えへんかったら、基本的に食えるもんができるしな」
「ということで教材にチャーハンですか。チャーハン舐めてませんか」
「まぁまぁ、ええやんか。他の人のチャーハンも、食べてみたくあらへんの?」
「他の人はこぼすからやだ」
「どの口でそれを言う」
「自分でさっき推奨してたやろ」

 シグナムとはやてが、左右からぐにぐにと頬っぺたを引っ張ってくる。

「気付いたけど、味付け見てないで大丈夫なの? 塩胡椒の場所教えた?」
「ザフィーラが見てるから大丈夫や。材料とタイミング教えたし、間違ったら言うし」

 なら安心か。とばかりに、茶をすすりプチ饅頭を一口。横のシグナムも、一つ摘まんで食べてる。

「うまい」
「ああ、美味いな」

 落ち着きます。

「二人そろってじじくせぇ」
「ゲートボーラーがそれを言うか」
「っ! な、何で知ってんだよッ!」

 そりゃまぁ。
 ゲボ子だし。

「八神家も高齢化の波が押し寄せてきたみたいやなぁ」
「というか、守護騎士そのものが超高齢者な気がする。何年くらい生きてるの?」
「数えたことは無いが……気が遠くなるほど、だな」
「大変や! 八神家の半分以上が超高齢者!」

 頭を抱えたはやて。これは……フラグタイム!

「くらくらしますか? 頭なでなでしましょうか?」
「髪に火を点ける性癖はないのでお断りや」
「みんな、出来た! 出来たよーっ!」

 平和なお昼時でした。





「お焦げが無くてチャーハンと呼べるか! おのれ許さん、撫で焦がしてやるッ!!」
「きゃああぁぁっ!?」

 逃げ回るシャマルだった。



(続く)

############

調子に乗りすぎた

※ 「ナデボ」は危険なレアスキルです。決して真似をしないで下さい。
  恋愛フラグ破壊、復讐フラグ発生に対し、作者は責任を負いかねます。



[4820] その23
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:f6946965
Date: 2008/12/19 17:26
「シグナムがチャーハンの魅力に取り付かれたと風の噂で聞いたので、投擲用に作っておこう」
「そんなものは必要ない」

 手に持ったチャーハンを笑顔でそぉい! してみる計画は、シグナムによって未然の内に防がれ
てしまった。

「そんな……拒まれてしまった。チャーハン嫌いですか? ピラフの方がいいですか?」
「チャーハンだろうとピラフだろうと、顔面に直撃させる用途での調理は御免こうむる」
「じゃあちゃんと食用に作る。ただし、加熱されたザッフィーのお肉がアクセントとして」

 どこからか青い狼が追いかけて来たので逃げ回る。

「わ、わ。トムとジェリーしとる。ほら巣穴! 巣穴こっち!」
「ちゅー」

 ちゅーちゅー言いながら声の方向に飛び込むと、其処には子供が入れるサイズの段ボールが!

「主。ガムテープお願いします」
「なら、ザフィーラとシグナムは押さえてて。取ってくるわ」
「ちょっ」





「という訳で、ヒモからスネークにクラスチェンジしました」
「いや、スネークは外から封印されたりせんと思う」

 側面に物見の穴だけ開けてもらって、段ボール越しに会話をする俺。
 こんなことしてていいのだろうか。明日から晴れて小学生なのに。

「このまま段ボールで生活し、記録を『ホームレス小学生』として売り出せば億万長者に……!」
「漫画だとここに外から剣刺して、黒ヒゲっぽいことをやるんやけどな」
「シグナム。準備を」
「何時でもいける」
「ごめんなさい」

 ギャグ補正の限度を超えているので、素直に謝ると開けてもらえた。
 しかし開けられた穴が小さくて、具体的には頭しか出ない。

「身体が段ボール……アルの気持ちが分からないでもないです」
「鎧の錬金術師やな。鎧?」
「や、鎧と言うには小さいし壊れやすい。だからこう、もっと安っぽく、段ボールっぽく」
「脆いの錬金術師」

 誰が上手いこと言えと言ったか。

「シグナムやザッフィーと遊びたかったのに、身体を奪われ段ボールにされてしまった主人公です」
「遊びたかったのか。いや、てっきり悪事を働こうとしているのかと思ったが」
「悪事と遊びってどう違うの?」
「主、このまま宅配便に出しましょう」

 狼がクロネコを呼ぶとはこれいかに。

「やめ。宅配の人が可哀想や」

 危機は回避されたのに、この切ない気持ちは何なのだろうか。

「や、でも遊びたいのは本気ですよ? 明日から学校なので。少し家に居られなくなるので」
「もう遊んどるやん……」
「や! まだシグナムとザッフィーでそんなに遊んでない!」
「一文字おかしな台詞があった気がするが」

 シグナムがギロリと睨んできて、こわひ。

「が……ま、まあ、仕方ないな。そういう理由なら、遊んでやるのも吝かではないぞ。うん」

 しかしどうにかこうにか、遊んでくれるとシグナムが許可をくれた。

「ホントは一緒に遊びたかったんとちゃうの? 最近シャマルやヴィータメインやったし」
「わ、私はただ、単に家族とのスキンシップを」
「ならシグナムも段ボールに! そうすれば、真の箱入り娘への道が!」
「なら、モノポリーもってくるな! みんなでやろ!」
「私が。シグナム、二人を呼んでおいてくれ」

 無視されて悲しかった。






「ほな、次シグナム!」
「おい、2だ。1を2回だぞ。それ以外を出したら……分かってるな?」
「わかりますぇん」

 段ボールごとサイコロにされて、正直疲れた。

「少し溜飲が下がった気がするな。シャマルとザフィーラは?」
「あ、あはは……私も、少し……」
「因果応報だな」
「……はやて、助けて」
「次は私の番や! 独占がかかっとるんやから、ここは5や! お願いな!」

 誰か助けて。



(続く)

############

ミキタカ状態!



[4820] その24
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:de589f65
Date: 2008/12/20 20:08
 小学校(普通の公立)に行ってきたが、とりわけ何も報告することが無くて困る。どうせなら家
で待ってるはやてに、面白い土産話を持って帰りたかったのに。
 しかし収穫はあった。とりあえず給食の牛乳。先生に頼み込んで特別に貰ってきた(ビンは明日
返す予定)。
 俺の分まで持って帰ってきたから2本ある。小学校でお馴染みのビン入りだ、はやても喜ぶこと
間違いなし。

「そんなわけで帰り道におつかいがてらスーパーに歩いていたのだ」

 ふと見ると向かい側から三人の少女が歩いてきた。
 ウホッ! いい原作キャラ……

「そう思ってると突然その少女たちは、僕の見ている目の前でスカートのホックをはずしはじめたのだ!」
「外しませんッ!」

 ご存知アリサさんとすずかさんに挟まれたなのはが、律儀に反応してくれた。後の大魔王様も、
今はまだいい子だなぁ。

「よかったのかホイホイ突っ込んで。俺は悪魔だろうが魔王だろうが弄くり回す男なんだぜ?」
「……?」

 自分のこととはわからないらしいなのはさんでした。

「ついに出たわね……話は聞いてるわよ」
「風の噂の又三郎。はじめましてこんにちは、形式的にとはいえついに脱ニートしたオリ主です」
「おりしゅ?」

 すずかさんに通じないあたり、実はマイナーな言葉なのかもしれない。オリ主。

「ようツンデレ」
「……こっち見んなっ。誰がツンデレよ」
「くぎゅボイスはツンデレと相場が決まってる。という訳で……あれ? デレる相手居なくね?」

 ツンデレの定義を根底から揺さぶられて、何が何だかわからなくなってきた。

「……えっと、見ての通り、こんな感じの人で」
「噂のあの人です。いつも人生を楽しく過ごしてます」
「初めまして、月村すずかです」
「アリサ・バニングスよ」

 名前を交換して、ぺこりと一礼。

「噂の内容が気になるところですが」
「あ、あはは……学校、決めたんだ」
「相談乗ってくれてありがと。いつまでも待つのはアレなので、結局近くの公立にしました」
「え? あれ、家の方向が……」
「ちょうどお使いで。夕食の材料をちょこちょこと」

 手に持ってた小銭入れを見せると、なのはは納得したような顔になった。

「あの……はやてちゃんって、車椅子で茶髪の子ですよね?」
「です。知ってるの?」
「図書館で見かけるんです。なのはちゃんから聞いて、もしかしてって思ってたんですけど」
「遊んでやって下さい。そんなに外に出ない子なので、話しかけてくれると嬉しいです」
「喜んで!」

 月村さん家のすずかさんはええ子やなぁ。そういえば、アニメでもはやての車椅子押してたよう
な気がするぞ。

「あ。でも中学からだったら、ひょっとして編入するかも。二人して」
「ふうん。でも確か、試験かなり難し……何してるのよ。それ何?」
「残念ながらツンデレの知り合いは居なかったので、珍しさのあまり会話を録音してる」
「すんなっ!」

 アリサさんは久々に弄くり甲斐がありそうだ。こういうストレートっぽさがあるのが普通の反応
だよな。

「最近の八神家は耐性がついてしまったみたいで困る」
「一緒に住んでればそれは……」
「駄目だ。そこは『久々にワロタ』と返すのが正解」
「え、えっと……?」

 反応に困るなのはたちだった。ネタのレベルが高すぎたか。

「ここはやはり初歩、ツナギのホックを外すところから始めざるを得ない。ネタ講習を開始」
「え、遠慮します……」
「嫌な予感が……」
「バレたのか! 講習と称した実習で、冒頭通りスカートのホックを外させる完璧な作戦が!」

 と言った途端、アリサが顔を真っ赤にして追いかけてきたので逃げよう。





「おかえり……どっ、どうしたのっ、汗ダラダラやん!」
「釘宮病が感染して、目眩と高熱で死にそうなんだ」
「明らかに走った後だな。主、心配は無用のようです」
「そ、そっか。ならええんやけど……全く、初日からはしゃぎすぎやよ? 今日はコロッケやから、
 楽しみにしといてな!」
「キャベツはどうした」

 ずるずるとザッフィーに引きずってもらう俺だった。



(続く)



[4820] その25
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:a2d542b6
Date: 2008/12/21 22:51
「オリーシュ・ヴィ・ブリタニアの名において命ずる!」
「シグナム、そこの鏡取って」
「今夜の夕食はビーフシチューにノアアッ-!」

 という経緯があって、ギアス能力によって夕飯のビーフシチューの調理を強制されている次第。

「チャーハン以外の物を作る羽目になってしまいました」
「デミグラスソースの缶に作り方書いてあるから。ほな、勝手にアレンジとかせんよーに」
「よし。ならプロっぽく、味付けは全てフィーリングでやってみよう」
「その場合、夕食は一人だけ片栗粉のみになるから覚悟するよーに」

 ねりワサビを取り出したところ、はやてが脅迫してきた。仕方がないのでちゃんと作ろう。

「ったく。で、学校どうやったん?」
「帰りに主人公+αに会ったのが印象に残った。授業はやっぱ強くてニューゲームな気分で苦痛」
「我慢しー。ぼさっと聞いとったら、意外と足元すくわれるで?」
「あと、小学生の効果音はやっぱり『デュクシ! デュクシ!』だった」
「うわぁ」

 はやては何とも言えない顔で天を仰いだ。お前さんも小学生だろうに。

「あと給食が割かし美味い。ので、牛乳を持って帰ってきた。はやてのもあるよ」
「ホンマ!? 飲んでええの?」
「イッキ以外不可」
「アルハラ乙」

 とか言って、冷蔵庫に向かうはやて。
 とそこに、タオルを肩にかけたヴィータの姿が。

「お。あんだ、帰ってたのか」
「夕飯はビーフシチューだけど、ヴィータだけはうまい棒」
「やめろッ! ……ん? はやて、それ何?」
「んー? ビンに入ってるけど、普通の牛乳やよ?」
「残った一本、飲むならあげる……や、普通の牛乳だから。飲んでも耳から出てきたりしないから」
「信用なんねー」
「遣る瀬無し」

 でもはやてが安全を保証すると、腰に手を当てて一気に飲みはじめた。

「らめれおじゃるううう! ギニュー隊長ゴクゴクしちゃらめれおじゃるううううう!!」

 ヴィータの吹き出した牛乳を頭から被ったのは、きっと自業自得なんだと思う。





「――それで? それで? その後どしたん?」
「効果音が『デュクシ!』だけだとあまりにも語彙が貧弱なので、『メメタァ!』だけ教えた」
「いきなりコアな……」
「高難易度から入ると後が楽なんだ。明日は叫び声に『ポオオオオウ!』を広めたいと思う」

 で、夕飯。
 しきりにはやてが学校での出来事を聞いてくるので、話しながら熱いシチュー食ってます。
 守護騎士の皆さんも興味があるみたいで、俺の話なのに珍しく耳を傾けていた。

「不思議だ。普段なら無視られると思うのだが」
「日頃の行いが悪いな。お前の話を聞いていると大抵ろくな目にあわん」
「あたしもさっきやられた」
「またか」

 最初に反論して他の皆をうんうんと頷かせたザッフィー、珍しく人間フォームである。
 ビーフシチューなるものに興味があったみたいだ。実は誰よりも食が進んでいる。

「はやても最近はしゃぐようになったし、暇あったら顔出したら?」
「ん? んー……ええわ。階段とかで大変やし」
「シャマル先生、車椅子に二足歩行させる魔法とかないの?」
「えっと、人に見られたらマズいんじゃ……」
「むむ、くそ。出っ歯の亀太郎どもめ」
「それちゃう。公衆の面前や」

 とかやりとりしながら、楽しい夕食の時間が過ぎていった。





「ヴィータ」
「ん? あんだよ」
「牛乳あるよ。パックのがほら。飲んでみ」
「……」
「ホントに、ホントに旨いって! 一気に行くとなお旨い! だからさぁ、さぁさぁさぁ!」

 まだ何もしてないのに、追いかけてきて逃げざるを得ない。

「ふははは。牛乳ハンマー如きに捕まる我ではないわ」
「てめぇッ!」

 しかし結局捕まって、しこたま殴られた。

「メメタァ! メメタァ! ……あかんなぁ、通常打撃音はもっと簡単でないと……」

 見てる暇があったら、助けてほしいと思う俺でした。



(続く)

############

ギャグだけじゃなくてまったりな日々もたまには。
まったりなつもりでギャグが入ってくるのは仕方ないとして。



[4820] その26
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:e5297be3
Date: 2008/12/22 18:49
「何? 魔法を使いたい?」

 シグナムに相談してみたのだが、うむむと唸って黙りこんでしまった。

「無理かな。魔法世界に来たからには手を出してみたいけど」
「無理だろうな……リンカーコアが無くては」
「『缶のコーンスープの粒が一生出て来なくなる呪い』とか開発してみたいんです」
「地味だが強烈な嫌がらせだな」

 シグナムが嫌そうな顔をするあたり、相当効果があるのかもしれない。

「他にも、『食べたクッキーが歯の表面から取れなくなる魔法』とか」
「……お前の頭の何処からそういう発想が出てくるのか、時折不思議になる」
「でもそっか、やっぱりコア無いのか」
「お前に魔法を使わせると、我々の平穏が脅かされるからそれでいい」

 失礼な。

「でも退屈じゃないと思うんですよ」
「まあ、な。確かに、退屈ではないが」
「あ、コーヒー淹れるけど飲む? 皆飲むし、カステラもあるよ」
「すまんな。いただこう」
「よし、じゃあ全員揃ったし、塩コーヒーでロシアンルーレットごめんなさいやめときます」

 シグナムが行ってしまいそうだったので、謝って引き留める。でもってふつーにコーヒーを淹れ
てテーブルへ。

「妙な真似してねーだろうな」
「大丈夫だ。私が監視した」
「おのれ。魔法があったら、気付かれないように塩コーヒー作れたというのに」

 なら安心か、とヴィータが口に含んだ。続けて皆口をつけ、カステラに手を伸ばす。

「お料理お疲れさまでした」
「夕食お粗末様でした」
「今日は風呂担当シャマル先生か。先にスト2やってていい?」
「えーよ。ヴィータ、やる?」
「じゃ、やってる。今日こそはボッコボコにしてやる」
「ガイル使いますか? ザンギで滅殺してあげましょうか?」
「うるせ! 昨日みたいにはいかねーからな!」

 てな感じで、何だかんだで毎日楽しいです。





 で。
 はやてと本日の風呂世話担当のシャマルが風呂から上がり、シグナムが次に浴室に入っていった
時のこと。

「シグナム☆セッケンスタイル!」
「オリシュ☆エロスタイム!」
「アァン」

 訳すと「シグナムが風呂に入った→悪戯しようぜ→ぬふぅ」という、はやてと俺の会話である。

「でとりあえず、シャマル先生はどうでしたか」
「実はな、それが……」
「なななな何話してるんですかっ!」

 シャマル先生と一緒に風呂に入ったはやてに耳打ちで話してもらってると、真っ赤っ赤のシャマ
ル先生に妨害された。

「ちがうぞよ。まろはしゃまるぅのムネのさいずなんて聞いてないでおじゃる」
「き、聞いてるじゃないですかッ! ていうかどうしてはやてちゃんが!!」
「胸タッチでサイズが分かる。まさにゴッドハンドはやて」
「わー、照れるなぁ。そんな偉い称号もらってしもーて」
「偉くないですッ!!」

 二人して怒られる。怒られているのだが、怒ってるのか泣いてるのか恥ずかしがってるのか分か
らないシャマルが面白すぎた。

「身体が子供なせいか、性欲あんま無いんだよね。興味があるのは単に好奇心かな」
「やなー。それに私、女の子やし。百合属性あらへんし」
「おっぱい! おっぱい!」
「おっぱい! おっぱい!」

 二人で腕を振っていると、「誰か止めて」と言いつつ泣きそうだ。やめよう。

「だがサイズは聞く。はやて、いくつだったの?」
「わあああぁぁっ!」

 シグナムおっぱいは惜しいけど、シャマル先生からかってて楽しいからいいや。





「……あ。そういえばはやても、10年くらいで結構ナイスばでぃだった気が」
「なん……やと……?」
「ショックを受けている。どうして?」
「貧乳はステータスと聞いたので」

 世の悩める女性たちに謝れ。



(続く)

############

PCに触れないから最近はずっと携帯での更新です。
そろそろ親指が死にそう。



[4820] その27
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:e607fa0a
Date: 2009/01/03 22:29
「はやてがツンデレを練習するようです」
「何を藪から棒に」

 八神はやてアイドル化計画を発動したというのに、本人は至ってやる気がないからどうしようも
ない。

「や、身近に上質なツンデレがいるので。会話録音したけど聞く?」
「いらんけど。録音したのって、噂のアリサちゃん?」
「です。噂の天才さん」
「前人未踏の」
「空前絶後」
「天下無双の」
「針小棒どゎーい」

 とりあえずくるくると回って踊ってみたが、このネタはたぶんあまり分かって貰えないと思う。

「アホがタコ踊りしてやがる」

 でもって、後ろから言ってくるヴィータが失礼すぎて困る。

「あ。天才といえば、才能コンプレックスな子が将来、某白い悪魔に体で説教されてた気がする」
「怖っ! なのはちゃん怖っ! ぐ、具体的には、何されたん?」
「えっと、確か指を一本前に出して、ビームみたいなのを」
「……それって、もしかしてこれか?」

 ヴィータが持ってきた漫画には、なんと白い怪人のビームに胸を貫かれるM字禿王子の姿が!
 これだ! すごいぞ! ちょっと違うけどだいたい合ってる!

「それで怖い視線になって、『少し頭冷やそうか』って」
「戦闘力いくつだよ……ていうか大丈夫だったのかそいつ」

 あなたの部下です、とは言わないでおこう。

「これはマズいやろ……常識的に考えて……」
「そろそろ本格的に『高町なのは補完計画』を企画しようと思うんですが。今のうちに」
「それで人類はなのはちゃんを残して滅亡、世界は赤く染まって『気持ち悪い』。完璧や」
「何言ってるのかわかんねぇ……」
「惜しい。そこは『君が何を言ってるのかわからないよ、はやて!』と応えるべき」

 まだまだ修行が足りないヴィータだった。





「で、最近なんかおかしいと思うんですよ」

 夕食を済ませてテレビを見ている時、ふと思い立って切り出してみた。

「何がだ」
「いや、確か守護騎士って、俺の観たアニ」
「あに?」
「……アニ・ソンスキー式予言法によるとだな」
「……誤魔化すの、下手ですね」

 シャマル先生うるさいです。

「守護騎士って、はやての下でもちゃんと蒐集してた気がするんですよ」
「へ? でも、約束したから……それは無いと思うんやけど」
「だからおかしいのでござる。守護騎士さんたちが約束破るとは思えないし」
「予言自体が誤りではないのか?」
「だといいんだけど」
「というより、自分の存在がそれに反しとるってわかっとる?」
「……おお」

 確かに。

「よく言ってくれた。ご褒美に頭を撫で撫でされる権利をやろう」
「燃やされるからお断りな」
「そんな! 燃えたりしないって! 煙が出るだけで!」
「志村、それ焦げとる」

 バレたか。

「じゃあ、逆に考えるんだ」
「逆? ……そっか! 頭に氷嚢とかドライアイス当てて、燃やすんやなくて冷やしとけば!」
「そうじゃない」
「はやてちゃん、それ死んじゃう……」

 八神家にいると、もしかしたらいつか凍死させられるかもしれません。

「ではなく、逆ナデポ。撫で撫でするのではなく、される側に回るのだ」
「フラグの行方は?」
「ヒロインの逆ナデポにより、男たちの間で骨肉の死闘が演じられる。まさしく殺し愛!」
「……地味に怖いぞ」

 ザッフィーの言う通りだ。血みどろすぎる。

「逆ナデポは不成立、と」
「どうして頭を撫でる行為に拘るのか分からん」
「オリ主のロマンだから。あ、シャマル先生お茶入れるよ?」
「ありがとう」

 と言って、おかわりを入れてやる。
 でもって入れた後、何かを期待するキラキラした眼差しを向けてみた。

「わくわくわくわく」
「…………」

 無言で目を背けられた。

「いつの間にか嫌われていたらしい。ショックのあまり死にそうだ」
「き、嫌いとかそういうことじゃないですよ? でもほら、九歳児がストライクというのは……」

 確かに怖いな。この世が犯罪者でいっぱいだ。

「若いっていいことばかりじゃないね」
「それだけで犯罪のメインターゲットやからなー……世の中、変態さんは沢山やし」
「なら変態に負けぬよう、力つけよう。ということで、おにぎり作るけど食べる?」
「妙なことをしないなら、是非とも」
「じゃあシャマル先生、冷蔵庫から海苔を……やっぱヴィータ、お願い」
「おー。鮭も焼いとくぞー」
「なっ、どっ、どうして!」
「や。前回焼き海苔作ってって言ったとき、ごはんですよを火にかけたの思い出したから」

 しょんぼりしてしまったシャマル先生を、よしよしして慰めるはやてだった。


(続く)

############

ケータイ小説(笑)が続きます。
まぁPCでやってるのと変わりませんがw



[4820] その28
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2008/12/25 13:36
 はやてが起きない。その隣のヴィータも寝てる。
 朝食がもうすぐ出来るのに。八神家では全員でいただきますが基本なので、これでは食えん。

「シャマル先生、お水お願いします。少しでいいので」
「な、なんか……嫌な予感が」
「大丈夫、かけたりしないから」

 不安そうに返事をしながら、コップに水を入れてきてくれるシャマルさん。受け取り、手で皿を
作って入れてみる。

「シャマル先生、寝耳に水ってどういう意味?」
「え? 確か、予想外でびっくり、とか」
「不正解。寝耳に水とは――」
「とは?」

 水を掬った両手を傾ける。

「――寝てる人の耳に水を入れること」
「そのままじゃないですか」
「ですよね」

 実行。

「わわわぁっ! な、何するんやアホぉ!」
「み、水! 水だ!」
「お、雀だ! 雀が鳴いてる! 朝チュン? これ朝チュン?」
「い、意味が違いますっ」
「冷た! き、気持ち悪ぅ!」
「うあああ、ティッシュ! ティッシュどこ!」

 カオスな朝でした。







 で、学校へ。
 というのを詳しく描写してもつまらないので三行にする。



国  ニ  ッ  ポ  ン  !

 将来「こいつらの芸はわしが育てた」とか言いたいなと思いながら、勘違いしたクラスメートが
アメリカ好きになったりするかなー、まぁいいかと翠屋へ。待ってたはやてと合流する。車いすは
ここまでヴィータが押してきてくれたのだとか。

「待った?」
「ついさっき来たとこ。やから今北産業」
「オール
 ハイル
 オリーシュ」
「ん。ほな、行こか」

 今ので一体何が分かったのか戦慄しながら、なのはさんに会いに。

「桃子さん桃子さん、なのはさん1人テイクアウトで」
「あら……ごめんなさい、お持ち帰りはできないの。店内でご賞味……」
「お母さんっ!」

 ノリのいい桃子さんに、奥から突っ込みながら現れる白い悪魔。実はその手の才能があるかも。

「昨日電話したとおり、遊びに来ますた」
「こんちわ! 上がってええ?」
「うん!」

 てな感じでなのは部屋へ。

「それで、どうしたの? 何か、『大切な話があるから三人きりで』って」
「今日来たのはな、実はその……なのはちゃんを、赤い海の世界にひとりあたっ」

 違う。

「ごほん。本日はお日柄も良く、『高町なのは補完計画』を実行する絶好の機と相成りました次第」
「……ほ、補完?」
「とにかく! 何か悩み事あらへん? 最近イライラするとか、ずばーんと発散したいとか!」
「具体的には動けない青髪の女の子の目の前で、その相棒に魔貫光殺砲したくなったりとか!」
「ゲームで未来悟飯が使えたときは泣いたわ」
「あれは泣くだろ……常識的に考えて……」
「あの、話変わってるよね?」

 いかん。

「とにかく! 何があっても、人を傷つけちゃいかんと思うのですよ」
「それ、当たり前だと思うの……」
「あかん! その考えは幼い間限定や! いつか『気にくわないことは無理矢理』になる!」
「そ、そんなことしないよっ!」
「神に誓って?」
「神に誓って!」
「俺に誓って?」
「それはちょっと……」

 にょろーん。

「とにかく! 言質取ったから! パンツめくる症候群の女の子とか虐めちゃ駄目だから!」
「しないってば! ていうかそれ誰!」
「そやな! 何事も程々やな! てことで、なのはちゃんは少しサムス禁止!」
「えぇ! ど、どうして」
「少しそっち系から離れるべき」
「意味分かんないのっ!」

 補完計画の順調な船出を予感しつつ、皆でゲームで遊ぶのでした。



(続く)

############

オール・ハイル・オリーシュ!



管理人舞様、復旧作業お疲れ様でした。



[4820] その29
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:debc63c6
Date: 2008/12/25 12:56
 満腹。

「ホントに若返ってやがる! 仕方ない、小学生からやり直し……これ何てバーロー?」

 八分目。

「ていうかここ異世界なのか! の割に前と変わらないな! 日本とまるで同じだっぜ!」

 腹減った。

「良く考えたら、飯がないし宿もない……あれ? 俺かなりピンチじゃね?」

 空腹。

「…………」





 いかん。





 歩けど歩けど見知らぬ街が広がるばかり。
 平穏無事がやって来るはずなのにおかしい。このまま平穏に餓死しろというのか。
 当たり前だが金は無く、仮にレストランを見つけても泥棒扱いされること間違いなし。

「……お腹空いた……」

 考えてる場合じゃない! 早く何か食わないと!

「くさ うま」

 そんなわけで公園の草むらに倒れ伏しつつ、手近な野草をもしゃもしゃと食べていたのだ。

「うまうま。ん?」

 ふと見上げると、車椅子の少女がこちらを見つめていた。

「もしゃもしゃ」
「あ、あの……大丈夫……ですか?」
「心配はご無用。芋虫は草食なのです」
「い、いも……?」
「蛹になるために養分を蓄えている次第。そのうち糸とか吐かなきゃならないし」
「吐けるんですかっ!?」
「そんなわけないです。やーいやーい」

 少女はややあって、はっとした顔になる。からかわれたと分かったのか、ぷっくりと頬っぺたを
膨らませて悔しそうにした。

「フーセンガールガアラワレタ! 針とか刺したら破裂するかな? かな?」
「……ぅぅぅ」
「なきごえ! しかしうまくきまらなかった! ん? うまくきまらないってどんなだ?」

 さらに膨らむ。顔も赤いぞ。

「と、こうしてる間にも腹が腹が。もしゃもしゃ」

 再び草(タンポポ。本来天ぷらで食べたい)を食べ始めると、少女ははっとして、ポッケに手を
入れて出した。

「あの……要ります? チョコ、食べかけですけど……」
「ハッ! いかん! それは吉良に爆弾にされてるぞ! 爆発するッ!」
「ほな、さよなら」

 少女は背を向けた。いかん! 食事の機会が逃げていく!

「あむ」
「ひああぁぁっ!?」

 なので追いすがり、大口開けていただきます。だが間違えて、腕が口に入った。

「しまった。狙いが外れた」
「なっ、何するんですかっ、草食やなかったんかっ!」
「スピアーに進化して、何でも食べるようになった……ん? ハチってチョコ食べれんのかな」
「知りませんっ!」

 怒られつつ、チョコをいただく。ぺろりんちょ。

「ごちそうさまでした。ホント美味しかったです」
「ったくもー……お腹空いてたん? おうちは?」
「ダイワハウス製じゃなかったので、出てった」
「そんな家出の理由、聞いたことないわ……」
「Why Daiwa House?」
「や、ええから」

 止められた。

「いつもそんな調子なん?」
「大体は。ダイタイワハウス」
「はぁ……宿が無いなら、しばらくうち来る? 人居ないし」
「CMでやってたお菓子の家か! 是非行きます!」
「ちゃうわ!」

 車椅子を押して歩くのでした。





「てことは、最初からこうだった訳だな」
「初対面だろうが差別しない俺偉い。えっへん」
「えばるな!」

 シグナムの目の前で、はやてに頬っぺたを引っ張られた。



(続く)

############

出会い編。そろそろ30近くなってきた。
もう少しで時期も夏へ。
DVDもまた借り直さねば。

ネタや漫才もマンネリ化せぬよう飽きられないよう、精進します。
感想くれる方々、いつもありがとうです。



・追記

 ざっくり切りました。
 許可無く他所様の二次からネタを持ってくる、というのは自分の考えに反することでした。
 昨日の自分は一体何をやっていたのか、とおぞけにも似た感覚を覚えています。

 誰に指摘されたわけでもありませんが、不快に思われた方がいらっしゃいましたらすみません。
 ならびにKMQsoft様、本当に申し訳ありませんでした。以後このようなことが無いよう努めます。



[4820] その30
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:9dd4cd1a
Date: 2008/12/25 19:19
 もうちょいで夏休みだぜ!
 学校での記述が殆んど無いのは気のせいだぜ!

「の割にクラスメートの洗脳が進んでるのはどうしてだぜ?」
「洗脳ちゃう。芸仕込んどるだけやろ」
「ノー。最近ですが見事『オリーシュ』のあだ名を頂戴し、合衆国ネタをも浸透させた次第」
「その心は?」
「『オール・ハイル・オリーシュ』をも浸透させればいずれは皇帝か、オリ主初の総理大臣に!」
「こいつが総理大臣……日本終わったな」
「国会が面白くなりそうだな」

 ヴィータにはストレートに貶された。シグナムも笑ってはいるものの、どうも小馬鹿にされてい
る感が否めない。

「総理大臣になったら何したい?」
「ん? 前も言ったけど、とりあえず医療費何とかしたいなぁ。あと食材に消費税を何とか」
「魔法社会との交流って出来るもんだろうか。シグナム、そこんとこどう?」
「質量兵器満載のこの世界では、少し厳しいかも知れん。魔法はクリーンで売っているしな」
「悪魔の破壊光線の何処がクリーンなのやら」
「あれや。射線上が完璧クリーンになるからとちゃう?」

 苦笑する守護騎士たちだった。

「……そんなにひでーのか? その、白い悪魔って」
「機械人間に化け物呼ばわりされるくらいには。あと、身動き出来ないとこにかめはめ波撃つし」
「そ、それは……酷いかもしれんな」

 シグナムが引くあたり、相当ひどかったりすると思う。

「それで、矯正は上手く行きそうですか?」
「少しずつなー。具体的に言うとこっちが魔法関係者ってバレるから、だんだん刷り込んでく」
「こないだキューブのスマブラでドンキー使って、地面に刺さったとこに攻撃するの繰り返した」
「あれはへこんどったなぁ……暫くドンキー禁止令出たし」

 思った以上にこの主とオリ主、外道なのかも知れないと思う守護騎士だった。





 で、暫くまったりと。
 もう少しで夕飯の準備があるはやても、まだゆっくりしてたいのかテーブルから立たないままだ。

「夕飯何?」
「んー、一通りできるだけの材料はあるからなぁ。迷うんよ」
「手伝い要る?」
「あ。あたしもやる」
「ありがとなー。でもまだ決まらんのよ。希望とかある?」
「ねるねるねるね」
「うまい!」

 テーレッテレー!

「話は変わるけど、孔明って可哀想だよね」
「え? どうしてですか?」
「だって彼過去の人なのに。やることなすこと全部自分のせいじゃん」
「確かになー……今頃、草葉の陰でさめざめと泣いとるかも」
「故にこれからは『孔明の罠』ではなく、『馬謖の罠』で行こうと思う」
「味方引っかけてどーすんの」

 駄目だったか。
 とか雑談しながら、お茶をズルズルと。

「馬謖?」
「師の言に反し、禁じられた布陣を敷いた過去の文人だ。師により涙ながらに斬られたらしい」
「詳しいね」
「主はやてから幾つかお借りしてな。読み進めていた」
「泣いて馬謖を斬る、だったっけ?」
「泣いて玉葱を切る」
「ありすぎて困る件」

 いつもお料理お疲れさまです。

「玉葱ってあの、先の尖ってるっぽい野菜だろ? どうして泣くんだ?」
「ヴィータが玉葱をみじん切りたいそうです」
「よっしゃ。シャマル、冷蔵庫まで連れてって! シグナムはヴィータ連れてキッチン!」
「挽き肉あるしどうせだから、今日はハンバーグにしようぜ!」
「え? え?」





 十分後、そこには目を泣き腫らしたヴィータの姿が!

「う……うぅぅっ」
「孔明の罠やな」
「巧妙な罠です」
「いやこれは馬謖の罠」
「むしろ玉葱の罠だろう」

 ザッフィーの尤もな言葉を聞きつつ、ハンバーグのもとを皆でこねくり回すのだった。



(続く)



[4820] その31
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:e333fad4
Date: 2008/12/28 17:40
 サマーシーズン到来!
 ついに訪れた夏休み!!

「どうして私にも宿題があるんよ……」

 しかしはやては鉛筆を動かしながら、鬱屈とした声で訴えてくる。

「ほら。先生がプリント持ってってって言ってて」
「なら問題や! 今『て』を何回言ったか!」
「五」
「よっしゃ、5やな! ならとりあえずドリル5ページ任せた!」
「待て」

 などとなすりつけこすりつけしながら、粛々と問題を解いていく。
 今日の分を終わらせなければ遊べないというのが家長はやての決定だから仕方がない。決めなけ
りゃいいのに。

「このスターどうやって取んだろ」
「あ、それは確か、ステージに入るときの時計の針で……だったような」
「針が12の時に入るとステージの仕掛けが全部止まるから、それでオッケーや!」
「作業が全然ちっとも進みやしないのは、画面を見ながらだからだと思う」

 暇なヴィータが直近でゲームなんぞはじめやがるものだから、集中が途切れて効率が低下するこ
とこの上なし。

「やっぱ面倒くせーな。後ろ幅跳びでラス面行ってみる」
「そんなことしたらヨッシーに会えんやろ。ちゃんとスター探し」
「宿題に集中しないと、はやてのいちご味かき氷だけ練乳禁止令の発動を予告」
「シグナム! 私のぶん搾り出して!」
「無理です」

 ここぞとばかりに振ってみるも冷静に返されたので、仕方なく宿題に勤しむはやてだった。





 で、お昼を済ませて午後3時くらい。
 もう今日の夏休みの宿題が片付いたため、とっくのとうに遊びモードに突入していたがそれはと
もかく。

「かき氷の機械なんて、出すのが何年ぶりになるかもわからんなぁ」

 暑くなってきたので、早速おやつのかき氷。夏のお馴染みである。

「シロップよく残ってたね」
「ん。子供ひとりで使いきれる量とちゃうからなー」
「ところで閃いたんだが、メロンとブルーハワイ使ってポーション作れんじゃね?」
「味が濃すぎて劇薬になりそうやな」

 とか話しながら、台所の棚から機械とシロップ類を引っ張り出して運ぶ。

「はやてちゃん、氷ってこのくらいかな?」
「うん! お皿は6枚で……何や楽しいな! 道具一式、取っといてよかった!」

 楽しんでくれて何よりです。

「はやて、削るのやる! あたしがやる!」
「ヴィータのきあいため! ヴィータははりきっている!」
「あれってどーいう意味があるんやろな。そんなことする暇あったら攻撃すればええのに」
「実はシバがドSだった説が浮上……あ。ヴィータ、どこまで行った?」
「ん? 真っ暗なトンネルのとこ。明かり捜してんだけど、見つからなくて困ってんだ」

 フラッシュのことか。

「残念なお知らせだが、実はその時点では手に入らないんだ。ひでんマシン」
「うぇ! そうなのか!?」

 針にかかった。このまま騙そう。

「いいきずくすり大量に持って、手探りで階段探すのが吉」
「めんどくせー……夕飯食べてからにするか」
「かく言う俺も苦労したものだ。頑張って」

 ヴィータの背後ではやてが必死に笑いをこらえていて、気付かれるからやめて欲しい。
 で、そのヴィータがゴリゴリ削ったかき氷を食す。

「冷たいけど美味いな」
「あ。ザッフィー、ブルーハワイかける?」
「いや、結構だが……何故だ?」
「毛の色的に」
「そうだと思った」

 苦笑いしながらしゃくしゃくとスプーンを口に運ぶザッフィー人型形態。美味しそうだ。

「はやてはイチゴ?」
「ん! たっぷりかけて! こっちはメロンかけとくよー」
「食べた後の舌を楽しみにしておくがいい」
「あ。色、つくんですか?」
「ん? うん。それはそれはカラフルに」

 緑一色の舌を想像したらしく、シャマル先生が複雑そうな顔をした。

「待てよ。全身に浴びたら緑色の肌になって、いつかナメックっぽくなるんじゃね?」
「一体何リットル使うか分からんぞ」
「なら青のブルーハワイを浴びれば、今をときめくブルーマンの仲間入り!」
「それ、やってることの根本は変わらんなー」
「ですよね」

 雑談しながら、いただきます。

「はやて。そこの練乳取って」
「残念、練乳はすべてイチゴ味に嫁ぎましたー」
「メロンに練乳もいいと思わないか」
「それはちょっと。でも興味あるので、少しもらってええ?」
「そっちのイチゴミルクもくれるなら」
「はやてちゃん、こっちのレモンも食べる? 美味しいよ」
「うめー! 冷たいけどうめー!」

 大好評でした。





「食べ過ぎたわぁ……」
「……腹いてー……」
「俺も」

 八神家の小さいの3人がダウンしたので、夕飯は雑炊になりました。



(続く)

############

>ザッフィーに玉葱
食ったとき人型形態だったので、ご覧のとおり大丈夫でした。



[4820] その32
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:14d1127d
Date: 2008/12/29 20:36
「てンめぇぇぇぇッ!」

 まだ真っ昼間だというのに、ヴィータが鬼気迫る表情で追いかけてきて怖い。

「何を怒っているのやら」
「ふざけんなッ! さっき調べたぞ! イワヤマでフラッシュ使えんじゃねーかッ!」

 どうやら前回吐いた嘘がとうとうバレたらしい。捕まったらタダでは済まされなさそうなため、
とても恐ろしく逃げるしかない。

「じてんしゃはお金じゃ買えないのがバレたんじゃないのか」
「あ! ああぁぁっ! そんな! 騙してたんですねっ!?」

 追いかけているのはヴィータだけだったはずなのに、いつの間にかシャマル先生までもが追って
きて困る。
 でもって1対2で逃げ切れる訳がなく、暫くすると捕まった。
ヴィータに馬乗りに乗られて責
め立てられる。

「待てあわてるな。これは孔明の罠だ」
「てめーが騙したんだろーがッ!」

 ごもっともです。

「正直済まなかった。必死で取り組む姿が可愛かったんだ……キラッ☆」

 とか言ってみればオリ主補正により怒りは解け、逆にフラグまで立つかも! うっへへー。

「調子に乗んな」

 しかし現実はそう甘くなく、顔が腫れ上がるくらい殴られた。





「このレベル82のピカチュウくれんなら許す」
「じゃあ私は……このシェルダーで」
「何てこった。マシン抜きでかみなりとれいとうビーム覚えさせるの苦労したというのに」
「うるせぇ」

 ちくしょう。
 と思いながらもまた殴られたくはないので、仕方なしにケーブルを繋いで送り込む。

「つか、よくゲームボーイあったね。人数分じゃないけど十分だし」
「ん。カラーとかポケットとか、出るたびに買っとったからなー」

 とか言うのは面白そうに様子を見ているはやてで、こちらはこちらで遊んでいる。

「つーかこれだけ人数が居れば、八神家でポケモンリーグ開けるよね」
「うん。ヴィータたちが追い付いたらやけど」
「それをお前が妨害すんのが悪い」
「そうですよっ!」

 ごめんなさい。

「ポケモンリーグといえば四天王」
「一人だけジムリーダーより弱っちいけどなー。連れとるのが岩ポケ(笑)や格闘(笑)やし」

 残念なことにフォローのしようがなくて困る。

「四天王って凄いよね。何千何万回と主人公にやられても解雇されないし」
「ゲームやからな……それにしても、雇用条件良すぎやろ」
「しかし主人公に何百万と賞金を巻き上げられる可哀想な役職」
「……解雇された方が幸せに思えてきたわぁ」

 しみじみと言うはやてだった。

「まだそこまで行ってねぇ」
「今どこ? ゆうれいと格闘しようとかバカなことしてる?」
「するか! 今タマムシ。ふつーにスロットしてる」
「私はちょうど、カビゴン捕まえてるところです」
「は!? 何でそこまで行ってんだ! 昨日同じだったろ!?」
「え? えっと、スロットでは遊ばなかったから……」

 きっと真っ先にスイッチの方へ向かったのだろう。
 確かにギャンブルとかしなさそうだ、シャマル先生は。

「置いていかれたヴィータだった。プギャー☆」
「プギャギャー☆」
「ふ、二人ともうっさい!」

 はやてと一緒に囃し立てると、焦るヴィータが面白い。

「す、すぐ追い付くから待ってろ! ホントすぐだから!」
「シャマル先生、この先サファリパークだから。ケンタロス捕まえるといーよ」
「あれはチートやろ……取り敢えずはかいこうせんは鉄板やな」
「はやてちゃんも言うなら、嘘じゃないんだ。わかった、やってみる!」
「ま、待ってろったらッ!」

 焦りまくるヴィータだった。





「うわぁっ! こ、このピカチュウ全然言うこと聞かないじゃねーか!」
「ヴィータちゃん……それは、早くバッチを集めないと……」

 人呼んでこれを孔明の罠という。



(続く)

############

久し振りにやり直してます。
シャワーズの可愛さは異常。異論は認めない。



追記。

DVDとnanohawiki見てたら、無印との時期設定が間違ってる可能性に気が付いた。
すまんです。
確認でき次第修正するかも。特にクロノさんの当たり。



[4820] その33
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:3418217b
Date: 2009/01/01 10:34
「自由研究させるには学年低すぎだろ……常識的に考えて……」
「日記のめんどくささが異常すぎや……」

 はやてと二人して机に突っ伏す理由はただひとつ、夏休みの宿題が面倒くさいから。

「主、お茶とお菓子をお持ちしました」
「差し入れです。ほら、二人とも頑張って!」
「ありがとな……まぁ、日記のネタには事欠かんからええけど」
「俺のお陰だな。ふっふん」
「そーそーきみのおかげー」

 素直に誉められてないのはきっと気のせいではない。

「自由研究何にすればええんや……」
「男子の年齢と厨二病について」
「苦痛過ぎるので却下。他人の黒歴史ほど痛々しいものは他にあらへん」
「じゃあ女子の主要な購読雑誌と精神的腐敗速度の相関を」
「八神家の情操理念にそぐわないのでそれも不可やな」

 同感です。
 てな感じで意見を出し続けてみるも、なかなかいい考えは浮かばず、なし崩し的に休憩タイムへ
突入。シグナムが持ってきてくれたお茶をすすり、お茶菓子にと買っといた翠屋のシュークリーム
をいただく。
 とかやってるうちに、いつの間にかヴィータやザフィーラも散歩から帰ってきた。
 ので、そのまま皆でまったりと過ごす。夏休み長いし宿題は後回しでいいや。

「相変わらず美味しいですね」
「うん。そういえば、なのはちゃんの作ったのも紛れ込んでるって、桃子さんが言うとったなぁ」
「ひとつの手が破壊と創造とを為す……これなんて厨二?」
「一番厨二なのはお前の頭の中だろ」
「失礼な」

 でも本当に美味しい。確かに美味い。その点だけは同意だ。ちょい待て「だけ」って何ぞ。
 とか。
 家でシュークリーム作ってみる? 小麦粉と片栗粉間違えるからシャマル見学。ひぇぇぇんっ。
 とか。





「そーいや、割と順調です」
「んあ? 何がだ?」
「補完計画」

 完食してからは皆でゲームの時間になったので、コントローラをいじりながらふと思ったことを
言ってみた。

「続いていたのか」
「そりゃもう。未来のランスター家のティアナさんとか助けたいし」
「具体的に、成果ってあったのかよ」
「『当たらなければどうということはない』を刷り込んだ。今後砲撃の使用は躊躇するはず」

 おおっ、とどよめく。

「……もちろんどくどくかげぶんしん的な意味で」
「はかいこうせん当たっても、耐えきりさえすれば自己再生やしなー」
「やっぱり」
「気の毒ですね……」

 本気で気の毒そうな顔をつくったのは、実は昨日はやてに対戦を挑んで返り討ちにあったシャマ
ル先生だったりする。

「……まて。これは『避けられない状況を作れば問題なし』と思われるやもしれん」
「あ」

 ここにきて、致命的な欠陥が発覚してしまった。

「どうしよう」
「ど、どうしようって……どないなるんやろ……」
「……高町なのは、成人を前に緊縛プレイに目覚める」
「それはない」

 ないのか。鋼糸とか使う家系なのに。

「いや。戦闘民族ならきっと、夜の戦闘も凄まじいものにちがいない。もっと、アブノーマルな」
「小学生に夜の生活を語るとは。さすがオリーシュ、私らに出来んことを平気でやってのける!」
「そこにイラつく」
「ブチ切れる」

 シグナムとヴィータが親の仇とばかりに追ってきたので脱兎。

「D・V! D・V!」
「Dが足らへん」
「D・O・D! D・O・D!」
「鬱ゲー乙」

 突っ込んでいる暇があったら、さっさと止めてほしいと思った。まる。



(続く)

############

明けましておめでとうございます。
今年もまったりと続くです。よろしくお願いします。



[4820] その34
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:9e5be4f9
Date: 2009/01/03 22:10
 死ぬ前の世界がそろそろ正月だったとはやてに言ってみたところ、翌日の朝食でなんと丁寧なこ
とに、お餅を買って焼いてくれた。ゆっくり味わっていただくことにする。

「うまうま。よくあったね」
「たまたま置いてたんよ。あ、醤油もええけど。きな粉もあったから買ーてきたんやった」
「食わざるを得ない」
「そこの戸棚に入っとるよー」

 まぶして食す。うめえ。お餅マジうめえ。

「……すっげー食いにくい」
「えっと……ヴィータちゃん、醤油をつけるなら海苔を巻くか、お箸で持たないと……」

 でもってナイフとフォークで食べようとしてるヴィータは、凄いのか凄くないのかよくわからない。

「長生きなのにお餅が未体験だったとは意外な」
「食う暇もなく蒐集しとったみたいやし、仕方あらへんよ……」
「鼻の頭にきな粉つけてシリアスぶるのは止そうか」
「……し、シャマル、お茶淹れてこよか!」
「逃げんな」

 顔を赤らめてはやてが逃げる。
 それを横目に見ながらきな粉餅を一口。甘さがいい感じ。

「もふぁ、もま」
「なかなか飲み込めないのは分かるが、そのまま喋るのは如何なものかと思うぞ」
「……ふるへー」

 ザッフィーに突っ込まれたヴィータ、ごくんと一呑み。この調子で喉に詰めたりしないといいん
だが。

「で、何?」
「あぁ。これ、ここの正月の食いもんだって聞いたけど。ほんとか?」
「ん。割と一般的だけど」
「だったら、お前の世界の正月と何の関係があんだ?」
「うちの故郷、こっちと結構似てんの。正月も学校も夏休みもあるし。日本もあったし」

 魔法はないけど。

「そこまで似ている次元世界というのも珍しいな……帰りたくはないのか?」
「めんどい」
「めんどいってお前」
「や、ホントにめんどい。無理って言われたし……はっ!」
「どうした。何かあったか」
「しまった! ここで自分の不幸自慢しとけば、オリ主らしくフラグとか立ったのかも!」
「不幸自慢(笑)」

 ヴィータごときに一笑に付されて、どうすれば立ち直れるのかわからない。

「ちょっと待て。ごときって何だごときって。オイ」
「ヴィータごとき。つまり、ヴィータのレベルの低さを暗示。根拠は昨日のポケモン対戦とか」
「あっ、あれはその……な、納得いかねぇ! 何で同レベであんなにステータス違うんだっ!」
「ポケモンには努力値っていう、隠れステータスがあってやな」

 何ネタバレしてますかはやてさん。

「無数のコラッタとニドランの屍に合掌。ていうかなんで絶滅しないか不思議だ」
「ドラクエのはぐれメタルとかもなー。狩っても狩ってもまだ出てくるし」
「なっ、なあ! その、努力値って何だ!」
「し、調べてみますっ! ヴィータちゃん、パソコンつけといて!」

 俄に慌ただしくなる八神家である。これで原因が魔導師の襲撃だったりすればバトルアニメっぽ
いのだけれども、実際は単なるゲームの攻略法っていうのはどうなのだろう。

「うん? そういえば、シグナムやザフィーラはあんまりゲームせんなー。何で?」
「え? あ、はい。コントローラの操作が、どうも慣れなくて」
「私は、体がこれなものですから」

 確かに、携帯とかコントローラとか操作できる犬はCMの中だけでいいと思う。

「人化すればいいじゃない」
「それはそうだが……」
「なら、今からやろ! 今日は何処にも出ーへんし、丁度四人そろっとるし!」
「ソフト何にする?」
「簡単なの! 選んどいて!」

 とか言って、半ば強引にシグナムとザッフィーを誘うはやてだった。でもまぁいいか、嫌がって
なさそうだし。ってか微妙に嬉しそうだし。





「ザッフィーは何故三連赤コウラばかり引くのか」
「盾の守護獣だからな」
「あ、主……スタートダッシュ直後に左にジャンプしたら、こんなところに出たのですが」
「シグナム、それミスちゃう。ショートカットや」

 運が強すぎる。
 予想GUYです。



(続く)



[4820] その35
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2009/01/05 08:57
「宿題したくないでござる」
「絶対に宿題したくないでござる」
「というわけで遊びに来まし……あれ? 桃子さんと士郎さんは?」
「二人とも出掛けちゃってて。お兄ちゃんもお姉ちゃんも出てるから、今日はお留守番なんだ」

 今日も今日とてこんな感じに、高町なのは補完計画は進行中なのでござる。

「ツンデレの子とかは?」
「? ……あ。アリサちゃん? すずかちゃんもだけど、予定が……」
「何と、夏休みだというのに」
「逆やろ。夏休みやから忙しいのっ」

 もっともです。
 とか応酬しながら、なのは部屋。魔王様も暇してたらしく、さっそく三人で遊ぶのでした。持っ
てきてた格ゲーとかで。

「使用キャラが青子さんとかもうね」

 らしすぎて困る。

「でも全然当たんないの……わわっ! また外した!」
「ふふん。砲撃ぶっぱのブルーなぞ、マジカル☆アンバーの敵ではないわ」
「マジカル☆暗婆」

 いつかはやてはもしかすると、薬瓶持ったメイドさんに人体実験されてしまうやもしれない。

「また負けたの……うう、うぅぅぅっ!!」
「うー!」
「うー!」
「うー♪」
「うっうー!」
「うっうー!」

 しばらく唸りながら遊んでました。





「そろそろ、おやつ食べよっか?」
「あっ、持ってきてたんや。じゃがりことかトッポとか、車椅子んとこ!」
「取ってくる」

 ゲームも程々に、そんな感じで小休止。おやつをぱくつきながら、暫し談笑の時間を楽しむ。

「ゲージ技に頼りすぎてはいかんとお分かりになったでしょうか」
「うん……わかったのっ。今度からは小技も入れて、繋ぐようにやってみる!」

 刷り込み完了。計画通り。

「そうした方が、ラストの大技もカッコいいし映えるし!」

 計画……通り……?

「とまれ、こうしてまたオリ主の好感度が上がったのだ。光源氏計画だ! 十年後がすごいかも!」
「無理やな」
「なにをぅ。オリ主なめんな。アホの子はやて19歳も、銀髪オッドアイ中性的パワーでポポポのポだぜ」
「自分、普通の黒髪黒眼やろ」

 ですよね。

「……てか、想像してみたんやけど。はっきり言ってええ?」
「うん」
「きめぇ」

 当たり前やがな。
 居たら怖いって。

「しかしそれにしても、敵が強すぎて困る」
「厨二オリーシュの洗脳ごときに屈する私ではないわー!」
「なら、なのはさん。どうですか? 神秘的(笑)なオリ主に惚れたり、赤面とかしませんか?」
「え、え、えと……ご」
「ご?」
「……ごめんなさいっ」

 フリに見事に答えてくれた白い悪魔さん。天然なのかどうなのかはわからないが、何かの腕が上
がってるのは勘違いではなさそう。

「アルカイック・オリーシュには冬の時代がやってきたようだ」
「カヲル君はいつまでもエヴァの星だから大丈夫や」
「ノー! あれはオリ主でないのでノー!」
「『君が何を言っているのかわからないよ』。なのはちゃん、復唱。さん、はい」
「え? え? え、えっと……?」

 未来の魔王様は、まだエヴァには詳しくないらしい。

「今度借りて見せよか」
「却下。絶対に却下。士郎さんに殺される」
「どして?」
「最低だ……オレ」
「……あー」

 微妙に顔を赤らめながら納得するはやてである。

「はやてちゃん、どうしたの? 顔赤いよ?」
「ひゃっ! ちゃ、ちゃう! これはその、あのそのあのっ」
「ふふん。はやては我が必殺技、デレデレ・デーレ・ナデーポにとうとうかかったのだ」
「ちゃうわ」

 一気に冷静になったはやてに、ほっぺたをぐにんぐにんと引っ張られた。

「ひゃふひひゃふひひ」
「やーらか。なのはちゃん、触ってみ?」
「わっ、ホントだ。のびーる、のびーる……」
「いひゃいいひゃい」

 結局、こんな感じでふつーに遊んでました。こんなんで魔王降臨は止められるんだろうか。



(続く)

############

厨二をネタにするのはいいが、自分の黒歴史を直視させられて胃が痛い痛い。



[4820] 番外2
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/11/07 00:27
 何かいろいろあったけど、風の中のスバルの紹介で砂の中のギンガとも知り合って、順風満帆な
StSを楽しんでいた。
 そしたらある日、拐われた。

「ようこそ、我がラボへ……ああ、そう緊張せずに。寛いでくれたまえ」

 目の前には某スカの人。
 しかも縛られてるし。寛ぐとか無理です。死亡確定か。

「出来ることなら殺したりせず、ハガレンに出てくる獣人くらいの改造にして欲しい。どう?」
「ふふっ……さぁ、それは何とも」
「さもなくば、黒サレナとか使って逆襲しに来るやも。ぼぅっと光るのさ……漫画だろ?」
「現実だよ、とだけ断っておこうか」

 ですよね。

「生命系が専門だそうで。何の実験に使うの? 魔導師の素体とか無理だと思うけど」
「……変わってるね、君は。これから体の中までいじられると言うのに」
「普段からよく言われる」
「そうか……いや、愉快。君との会話は実に楽しいよ」
「会話の練習作ですから」

 よく分からなそうな顔をするドクターだった。

「最近は移植に凝っていてね。それにご協力願おうかと」
「移植? リンカーコアとかの?」
「察しがいいね。その通りさ。これがうまく行けば、複数コア持ちの人造魔導師も夢ではない」
「ローテーションさせてスタミナ温存ですね分かります」
「全てをフル稼働させて瞬発力も持たせられる。正に最強の魔導師だとは思わないか?」
「私ともあろうものが……ドキドキして参りました」
「君にはその礎となってくれると嬉しいよ」

 こっちは、実験やめてくれるともっと嬉しいなぁ。

「でも、キメラや機械鎧も魅力的だなぁ。そっちはやらないの? 同じ移植だと思うんだけど」
「む? ふむ……やはり一般の組織系統よりは、魔力関係の器官の移植がやりたいんだが……」
「むむ。ならいいや。無理言って悪かったです」
「と、済まない。こちらも、意に添えないで申し訳ない」
「なら、麻酔とかちゃんとして欲しかったり。あと、出来れば五体満足でいたいなぁ」
「そのつもりは無かったが、気が変わったよ。最善を尽くさせてもらおう」
「おー。できるの?」
「『無限の欲望』のこの腕を信用していただきたい」

 それは頼もしい。なんたってこの人、思想はアレかも知れないけど腕はやっぱいいらしいし。

「いつからやるの?」
「準備もある、半日後にしよう。軟禁扱いになるがその前に、持ち物を見せて貰えるかな?」

 と言って解放されたので、大人しくポケットの中身を出す。
 GBポケットとサイフしかないや。ケータイは拐われた時におとしたっけ。

「見学は?」
「その奥の部屋以外で、装置に触らないならご自由に」

 とはいえ、どうしよ。
 脱出とかめんどいし無理だしなぁ。

「あ。持ってたコレ、ゲーム機なんだけど。遊んでていい?」
「構わないが……ずいぶん古い型の機械だね」
「ソフトも旧式。よくあるモンスターコレクション型、その先駆け的存在。今も現役」
「ほう」

 ドクターが覗き込むのを横目に、ゲーム開始。
 言うまでもないがソフトはポケモンである。
 そして暫くすると、とてつもないアイデアが俺の脳裏を駆け巡った!

「……ドクター」
「何だい?」
「この、こいつ、作れたりしない?」

 俺の指の先には、図鑑150番のポケモンの姿が。

「ミュウツー。人造人間なんだけど」
「機人ではなく、純粋の人造人間……か。いつかやってみたかったテーマではあるな……」
「できるの!?」
「不可能ではないな。様々な魔法生物の遺伝子を用いれば、あるいは」
「なら、はやて! はやてに協力さす!」
「なるほど、蒐集か! 応用できるかもしれん」
「ドクター、はやてに連絡取ってくる! ここの電話番号教えて、また来るから!」
「わかった! さっそく取りかかろう。連絡先はこちらだ。管理局には知られないでくれよ」

 後のフジ博士誕生の瞬間であった。
 そしてスカリエッティのラボは、遠い未来ポケモン屋敷として残されるのである。







 という夢を見た。

「どう思います?」
「ねーよ」
「ありえへんわ」
「はやてちゃんっ、はやくユンゲラー送ってくださーい!」

 もちろん誘拐などされる訳がなく、今日も子供は子供らしく平和な一日でした。



[4820] その36
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:bd16b73d
Date: 2009/01/08 00:08
 夏だからといって調子に乗ってアイスやらかき氷やらを食い過ぎたせいなのか、歯が抜けた。

「肉体年齢9歳の身にして差し歯とは……あんまりだ」
「ん? お前、それ乳歯じゃねーのか?」

 しかし、ヴィータに言われてハッとした。確かにそうだ。今は子供なんだって。

「舌で触ってみたらちゃんと生えてきてる。よかった」
「どこが抜けたん?」
「上の。ほらここ」
「なるほどー。上の歯は、地面に埋めるんやったっけ?」
「ん」

 そういやそんなおまじないもあったなと思いながら、ちょっくら外に出て埋めてくる。

「てっきり虫歯でお亡くなりになったかと」
「アイスばっかり食べてるからですよー」

 シャマル先生にクスクスと笑われた。やかまし。

「というわけで、しばらく甘いものは控えます。新しい歯のためにも」
「目の前でダッツ食べたろ!」
「いい性格してやがる。そんなんだからちび狸言われるんだ」
「ちび狸?」
「そんな愛称で呼ばれる未来があって。例の、頭のネジが2、3本抜けちゃった未来」
「なら、もう未来とか変わったから大丈夫やろ」
「BUT... THE FUTURE REFUSED TO CHANGE」

 とか言ってると、ホントに冷凍庫から持ってきやがった。クッキー&クリームだし。好物だし。

「ギギギ」
「んー! うまうま!」
「一目見ただけで遊ばれていると分かった。このはやては間違いなくドS」
「うめー! はやて、これすっげーうまい!」
「やろ? シグナムも、どう? その抹茶味」
「美味しいです、とても」

 おのれこいつら。

「アイスを食う奴が相手なら、こちらも冷たいものを食わざるを得ない」
「甘いもの禁止はどーしたん?」
「甘くなければ問題なし。ということで、氷を食う」
「残念でしたー。氷はいま作っとるとこや」
「…………あむ」
「にゃああああっ!?」

 悔しかったので手に持ったアイスのカップにかじりついた。すると、その近くにあったはやての
手まで口に入った。

「ヴィータ」
「おう」

 瞬時に縛られた。





「ある朝オリーシュ・ヴィ・ブリタニアが、なにか気がかりな夢から目を覚ますと、自分が寝床の
 中で一匹の巨大な虫に変わっているのに気付いた」
「ザムザ乙」

 縛られて芋虫のように床に横たえられた俺のからだを、寝っ転がったはやてが横合いからつんつ
んとつついてくる。

「流石は文学少女。ごめんなさいほどいて」
「却下。夕飯までそのまんまや」
「ぬぬぬ。ニャッキになってしまった。このまま車に轢かれて、ぺったんこになる運命なのか」
「あれは子供向けなのにブラックすぎる」
「そしてはやては胸ぺったんこすぎる」
「まだ小学生やもん」

 だらだらと脈絡の無い会話をしつていると、はやてがダッツの残りを持ってきてくれた。誘惑に
は勝てないので、そのまま食べさせてもらう。うめぇ。

「だがもうすぐ夕飯なので、このくらいにしておこう」
「芋虫の夕飯……キャベツ?」
「キャベツと聞くと、某アニメで片手で真っ二つにしてたのを思い出す」
「……どういう腕力してんだよそれ」

 ヴィータがぼそっと言った。アニメキャラに突っ込まれるアニメって何なんだろうか。

「宿題やろ。手だけほどいて」
「しゃーねえな。あ、筆箱持ってくるか?」
「お願い。あとそこのノート取って」
「夕飯は今ので決めたけど、ロールキャベツやからなー」

 夕飯まで普通に勉強してました。





「ヴィータとシャマル先生がポケモン追いつくまで、スターフォックス64のハイスコアでも更新しよう」
「お前って結構日常的に不毛なことするよな」
「失礼な」

 というのは嘘で、ずっとゲームしてました。



(続く)

############

忘れてましたがチラ裏移転の件。
しばらくこのままとらハ板でお世話になります。

理由:ぶっちゃけどっちでもいいが報告等めんどいので

ですので、これからも我らがオリーシュを宜しくお願いします。



[4820] その37
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:e7388da7
Date: 2009/01/11 22:35
 夏も中頃を過ぎ、しかし宿題が終わらなくてげんなりする。

「しかしそれにしても、はやては何故もうほとんど終わっているのか」
「予定表のとおりに進めとったからかなー」
「計画表って、初日に作って一週間で破棄するものだと思ってました」
「少し反省した方がええと思うよ?」

 というわけで冷たいジュースを飲みながら、かりかりと鉛筆を動かす。ドリルの量もたまってる。

「どうせできるし、答えをまんま写そう」
「あかーん。ちゃんとやる!」
「いや、芸術の世界には模写という分野があってだな」
「同じように、試験の世界にはカンニングという不正があるんや」
「カンニングって、英語だと意味違うんだってね。Cheatingが正解らしい」
「まんまチートやん」
「その通り」

 てな風に話題をそらせようとしたのだが、無理だった。素直にやるしかない。めんどくさいどこ
ろの話ではない。
 しかし、はやても隣で頑張ってるので勉強せざるを得ない。それにこうしていると、たまにシャ
マル先生がお菓子を持ってきてくれるのでちょっと嬉しい。

「ふたりとも、差し入れですよっ」

 こんな感じに。

「買ってきたパウンドケーキに、バニラアイスとホイップクリーム……こ、こんな感じですよね?」

 不安そうに訪ねてくるシャマル先生。
 何を隠そう、実は目の前のお菓子はシャマル先生が作ったのである。
 市販のケーキに甘いものとか冷たいものとかを乗せただけではあるが。

「んー! つめた! でも美味しい!」
「うめぇ」
「ほ、ホントですかっ!?」
「今回は、クリームと牛乳間違えて泡立てなかったみたいで。よかった、よかった」
「あっ、ああああれはそのっ」

 あれはひどかった。だって泡だらけもん。

「ホントにうめーのか?」
「美味しいよー! みんなの分もある?」
「あ、はい! すぐ作りますっ!」

 シャマル先生は嬉しそうに台所に駆けていった。

「そうか。要するに味付けする必要がなく、混ぜたり乗せたりするだけなら大丈夫なのだな」
「なるほど……私は身体がこれだから口にしたことはないが、そこまで酷いのか?」

 どんなにシャマル先生に温情をかけても、ザッフィーの言葉には頷くしかない。
 昨日なんかあれだもん。ね。
 味噌汁がさ。甘酸っぱいの。

「とりあえず、ホットケーキとかやな。あれは味付けいらんし、混ぜて練るだけやからなー」
「暫くシャマル先生のおやつを、ねるねるねるねにしてみようと思う」
「そいつは効くかもな。粉と水だけだし」

 高町なのは補完計画と同時に、守護騎士の皆と一緒にシャマル先生のお料理訓練も進行中です。





 で、自由研究。
 はやては何やらペーパークラフトみたいなのを作るらしく日々作業していたのだが、こちらはま
だ何も決まっていない。どうしよう。

「やっぱ絵かなぁ」

 取り柄はそのくらいしかない。あとは、原作知識(笑)とか。

「鉛筆で何描こう。セミとか捕まえるの面倒だし」
「普段見るものとか人とかでもええんちゃう?」
「なら、はやてのヌードデッサンとか」
「やん」

 すぐさま追っかけてきた守護騎士たちは、はやてのノリのよさを見習ってほしいと常々思う。

「ぬぬ、ヴィータめシグナムめ。本当は脱ぎたくて脱ぎたくて仕方ないくせに」
「誰がだ誰が」
「や、世の中にはそういう人もいるの。脱げば脱ぐほど速くなる魔導師も広い世界には」
「あ、知っとる! 前聞いたわ、金髪ツインの子やっけ?」
「だが残念ながら、守護騎士にその趣味は無い」
「ですよね」

 けちょんけちょんにされた。

「すまんかった。似顔絵描くから許して」
「お? 確か、はやてのあの絵描いたのお前だったよな」
「あー! ずるい! 私もやろ!」
「面白そうだ。私も頼もう」

 結局今日も作業は進まなかった。これは夏の神様の陰謀なのだろうか。



(続く)

############

シャマルの お料理レベルが あがった!



[4820] その38
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/01/11 22:34
 台風がやってきた。

「台風一家。つまり、どたばた八神家みたいな」
「字がちゃうやろ! そんなことより、はやく洗濯物! 洗濯物入れて!」

 雨はまだ降ってないけど風がすごいことになってる。吹っ飛ばされたらえらいこっちゃ。

「もし見られたら大変だ。シャマル先生の、目ん玉飛び出るような勝負下着とか」
「そんなのありませんっ!」

 顔を真っ赤にしたシャマル先生に追われ怒られながら、急ぎ洗濯物を取り込んだ。
 と同時に、夕立のような雨がどばばーっと降りはじめる。もう外出不能ということが明らかにな
ったので、皆でジュースとか飲みながら談笑に耽る。

「ねぇねぇ」
「ん? あんだよ」
「アイゼン見たい。見して」
「えー……?」

 話しているうちに突発的にデバイスを見てみたくなったので、ヴィータに頼み込んでみる。
 そしたら、特別だぞと言ってグラーフアイゼンを見せてくれた。それはいいのだが、見ているう
ちにふつふつと自分も欲しくなってくるから困る。

「魔法欲しい」
「そればっかりはどうにもなんねーだろ。諦めろって」
「ううう、くそう。厨二みたいなジャケット組むのに。リミッターで邪気眼ごっこもできたのに」
「……もっとまともな使い方考えろよ」
「や、ふつーに空飛びたかった」

 神様のばかやろう。

「残された道は、このまま三十まで貞操を守るしかないか」
「ん? そういえば、前の世界だとどうやったん? 恋人さんとかおらへんかったの?」

 横の手合いからはやてが首をつっこんできた。

「浮いた話はこれっぽっちも」
「なら、今から魔法使いを目指そうとすると……通算、都合四十年になるな! これはすごい!」
「これはひどい」

 魔法使いへの道は諦めよう。





「雨やまないね」
「風も止まらんなぁ」
「今日晴れてたらセミを捕まえて、絵のモデルにしようと思ってたのに」
「これが本当のセミヌードやな」
「いかん。セミは生来裸なので、夏は街じゅうそこら辺にセミヌードにあふれていることになる!」
「何と卑猥な町なんや」

 とかアホみたいな会話をしながら、ばりばりとおせんべーをむさぼる。
 シグナムの希望で買ってきた醤油味だ。どうやらこれが結構好きらしく、願い出た本人もおいし
そうに口にしていた。

「こっちの塩味もイケるぞ」

 とか言いながらパリパリ食べるのはヴィータ。甘いものもだが、しょっぱいものもよく食べる。

「塩せんべいって塩味であって、サラダ味ではないよね。何でそう書いてあるかね」
「んあ? そっちの方が売れるってことじゃないのか?」
「ほら、やっぱり、ヘルシーに聞こえる方がいいじゃないですか」
「なるほどなー。サラダやと野菜やから、しお味より聞こえはええな」
「美味ければ名前とかどうでもいいがな」
「まったくだな」

 ザッフィーが核心をつき、シグナムがうんうんと頷いた。ほっぺにおせんべの粉ついてるよ。
 とか思っていると、稲光。
 遅れて、割と大きな音が轟いた。遅延の時間からするに、落ちた場所は遠いらしい。

「シグナムの未来のライバルが暴れているのだろうか」
「ん? 誰だそれは?」
「例の、見事な脱ぎっぷりの人。フェイトさんっていうんだけど、魔力を電気にできるらしい」
「それが、ライバルになるのか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」

 シグナムは小さく首を横に振った。

「戦うことになったら気を付けてね。装甲とか防御とか無視して、脱いでスピードアップするから」
「……まともな戦いになるのだろうか」
「ははっ、脱ぎバトルになったりしてな。脱衣トランプとか脱衣麻雀とか」
「あながち、笑えないかもしれない。戦闘行為中、脱衣せねば気が済まない子なので」
「……マジか?」
「冗談です」

 ほっと一息つく皆であった。

「脅かさないでくれ。長く生きてはいるが、真性のその手の者とは無縁で来たんだ。対処に困る」
「天下無敵の守護騎士にも、手に負えない人間がいたか」
「すでにお前ひとりで手に負えないしな」

 はぁと溜め息を吐かれた。失礼な。

「早く雨やまんかなー……」
「はやてが新ジャンル『ヤンデネ』に挑戦するようだ」
「聞きようによっては怖いぞそれ! 半分脅迫じゃねーか!」
「じゃあ、新ジャンル『ヤンデロ』はどうだろう」
「変わってないぞ」
「ばれたか」

 雨の日はいつもこんな感じです。早く晴れないかなぁ。



(続く)



[4820] その39
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/01/13 16:24
 やがて夏が終わる。
 と同時に、宿題の提出期日も迫っているわけで。
 何とかかんとか鉛筆を動かし続けて完成にこぎつこた訳だが、これでいいのかなぁ。

「はやてのペーパークラフト良くできてるね」
「こっちの似顔絵もなー。ザフィーラとか、毛並みまで迫力満点やし」
「本当、意外にも良く描けてやがんな。アイゼンとか難しいと思うけど」

 本来守護騎士の皆にあげるために描いた絵なのだが、宿題で提出したいと言ったら貸してくれた
のだ。返却されたらまた返す予定。

「セミヌードktkr」

 とか思ってると、はやてがぱらぱらとめくりはじめた。手元の画用紙にはセミの姿が。

「あ、こっちはなのはちゃんやな。いつの間に描いとったん?」
「昨日遊びに行ったとき、ちょちょいと」
「てか、これが未来の大魔王になるんだよな」
「見たところ、主と年も変わらぬただの少女なのだがな……」
「とんでもない。白い悪魔様には、数々の伝説が語り継がれているのだ」
「たとえば?」
「たとえば……」



 全盛期のなのはさん伝説

 ・3砲撃5カートリッジは当たり前、3砲撃8カートリッジも
 ・兵力差100倍、班員全員負傷の状況から1人で勝利
 ・眼前に立つだけで犯罪者が泣いて謝った、心臓発作を起こす者も
 ・見事なディバインバスターで敵を倒しても納得いかなければその上にSLB撃ち込んだ
 ・任務の無い休養日でも砲撃
 ・デバイス使わずに手で撃ってたことも
 (略)


「勝てる訳がない」
「敵うはずがない」

 ですよね。自分でも言ってて、どうやったら倒せるのかわからなくなってきた。

「敵対しないのが一番だな」
「次元犯罪者に明日はなさそうだ」
「いいこと思いついた。シャマル先生の料理ならなんとか勝てるかもしれない」
「……ぐすん」

 そんな感じのお昼過ぎ。





「髪伸びたなぁ」
「そっちこそ」

 気づいて、お互いに指を通してわしゃわしゃと弄る。

「割と癖っ毛やね」
「くりんくりんなので、鉛筆とか簡単に巻きつきます」
「というか、八神家はみんなサラサラやな。一人仲間外れ?」
「みたいだ。こうなったら、ザッフィーだけでもパーマかけて仲間にする」
「遠慮する」

 という訳で癖っ毛同盟ただ今ひとりぼっち。

「というよりも、犬のパーマは聞いたことが無いが」
「そう? でも、今ペットブームやからなぁ。どっかしらでやってるかもしれんよー」
「犬と言えば……最近白い犬のCMを見たんですけど。あれは犬用の携帯電話なんですか?」
「あれは創作なので気にせず、シュールさを楽しむものです」

 なるほど、とシャマル先生は頷いた。

「いずれにせよ、そろそろ切ろう。鏡はあったし、そのうちやろう」
「自分で切るん? 床屋行かんの?」
「てきとーに軽くするだけだし。はやては?」
「んー……伸ばすかこのままか、どっちがええと思う?」
「あえて言うなら五分刈り」
「アホ」

 本日二回目のグリグリがとても痛い。

「このままにしとこっかなー……あ、原作やとどんな感じやった?」
「ん? んー、セミロング? 肩のちょっと上くらいの」
「なら、そろそろ先っぽだけ切らんとな」
「切る?」
「丸刈りにされそうなので遠慮しとくわ」
「そいつは残念。バリカン取ってくるのに」
「……本当にする気やったんか」

 軽い冗談だったというのに、今日のはやては容赦がない。拳的な意味で。

「さらにくりんくりんにしたるわー」

 とか言っていつの間にか頭をくしゃくしゃにされるから困る。

「癖っ毛が強化されすぎて、そのうち頭の形がパフェになるかも」
「むしろ、とんでもない数の螺髪ができたりするかもなー」
「……想像したら楽しいような気がしてきた。はやて、はやて、やっていいか?」
「はやての許可以前に、拒否権を発動する」
「八神家常任理事国ではないので、拒否権は無効やな」
「なんてこった」

 俺の髪はおもちゃではないのだが、どうにも止められずされるがままでした。



(続く)

############

修正して再追加。



[4820] その40
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:16dd82bd
Date: 2009/01/14 01:30
 学校が始まってもあんまし気候に変わりはなく、要するにまだまだ暑い。

「でも相変わらず長ズボンなんだな。お前、全然変えてなくねーか?」
「短パンとか精神的に無理。学校の体育着で仕方なく、とかなら我慢するけど」
「私も、たまには長ズボンはこっかなぁ。車イスやけど」
「はやてが俺にパンツ一丁で学校に行けという! さすがはやて、変態のレベルがちげー」
「誰が変態や誰が」

 とか言いながら、今日も元気にいってきます。

「……で、どうして汗だくなんだよ」
「帰り道、例の原作キャラ三人娘に遭遇して」
「して?」
「アリサの背中に『この子の半分はツン、半分はデレでできています』って紙貼ったけどバレた」
「それは怒るやろ……」

 そんな感じに、今日も疲れてただいま。

「今日は何があったん?」
「お腹を空かせたネコさんたちがいたので、給食のパンをあげてきた」
「誉めてつかわす」
「恭悦至極」
「宿題とか出とる?」
「新しいドリルもらった。一学期使ってゆっくりやれって」

 でもって家に入る。夕方からは暇だ。暇で暇で仕方がない。
 なので今日ははやてと一緒に、チャーハン以外の料理を振る舞おうと思う。

「助手はシャマルな! ほな、お手伝いお願いなー」
「助手というかなんというか。邪魔ぷよ的なイメージ?」
「……うぅ」

 シャマル先生がしょげた。

「あまり落ち込ませても仕方がないので、作ろう。こっちでスープ作るけど、メイン何にする?」
「スパゲッティかなー……ヴィータは何がええ?」
「ん? えっと、み、ミートソース……とか」
「味覚が子供だ」
「うっ、うるせぇ! いいだろ、たまには!」

 今日も夕食は美味しゅうございました。





「今日もお料理お疲れ様でした」
「たくさんスープ作ったから、また明日も食べれるな!」
「何食くらいあるかね。明日の朝で終わりとみたけど」
「どうかなー。ちょっと減らせば、昼も飲めるんとちゃう? 8杯くらいありそうやし」

 夕飯を終えて後始末が完了してからは、八神家は大抵まったりタイム。皆でゲームしたりテレビ
を見たり、つらつらと雑談したり。

「シャマル先生が案外使えた」
「確かに。今日は上手やったよ?」
「よかったぁ……最近お二人の料理を見て思うんですけど、レシピってそんなに手を加えないんですね」
「ねるねるねるねは効果があったか」
「書かれた通りに作るものやからな。わかってもらえてホントによかったわぁ」

 ここにきて、他の騎士たちが反応した。

「あのスープ、シャマルとお前の合作だっけ。確かに、結構美味かったな」
「なかなか料理をする姿も様になっていたしな。あとは独自の味付けの問題だけか」
「からしは取り敢えず禁止だ。またソースと一緒に入れられては困る」

 ザフィーラが言うと、皆うんうんとうなずいた。シャマル先生だけがしょんぼりな感じ。
 でしばらくすると、シャマル先生が唸りだした。

「る……る……?」
「る? 何?」
「る、る……ルパン三世って、テレビでやりますよねっ」
「昨日終わりました。判定は?」
「アウト」

 残念。

「じゃあシャマル先生、アイス選択権最後ね」
「ず、ずるいです……る、とか無理ですよっ!」
「じゃ、私バニラで」
「あたしもバニラ」
「おっと残念。これでバニラは売り切れ」
「うっ、ううぅ……」

 怨めしそうなシャマル先生だった。



(続く)

############

頭捻ったけど書いてて楽しかったですw



[4820] その41
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/01/17 00:02
 休日は休日でいいのだが、今日も今日とてやることがない。やることがない八神家の面子には、
朝から昼はしばしば四方山話に花が咲く。
 具体的に言うと、皿洗い中のシャマル先生以外。食器洗浄機を使えばいいのにといつも言うのだ
が、常に直洗いだ。本人いわく、「何だか楽しい」とのこと。

「もし、この世に俺が二人いたとしたら。どうする?」
「ヴォルケン終了のお知らせ」
「お前が二人もいる光景など、悪夢以外の何ものでもないぞ」
「失礼な。こんなに日々円満な時間を提供しているというのに!」
「お前の功績じゃねーだろ」

 しょぼーん。

「だったら、例のフェイトが二人いたらどう?」
「いずれにせよ脱ぐのだろう」
「勝手にお互いで脱衣合戦とかはじめるんじゃないか?」
「裸身が二つに増えるだけの気がする」
「男性局員が狂喜乱舞やな」

 いつの間にか、彼女についてマイナスのイメージを植え付けていたのかも。
 でもまぁ、いいやね。嘘吐いてないし。

「なら、もし、なのはさんがこの世に二人いたら」
「次元犯罪者終了のお知らせ」
「というよりティアナ終了のお知らせやな」
「ティアナ……? 主、誰のことですか?」
「将来、なのはちゃんの部下になる子や。肉体的な意味で『おはなし』することになるんやて」
「……不憫な」

 同感です。
 とか言ってる間にシャマル先生の皿洗いも終わり、そのまま皆そろって雑談タイム。
 今日の夕食から未来の魔王まで、幅広い話題をカバーする八神家である。

「お昼どうしましょっか」
「スパゲッティ作ろう。歯が飛び出るの……あれ? 魔法だったらトニオ料理できんじゃね?」
「腹から内臓が飛び出ても無事回復するような魔法は、流石にないと思うが」
「開腹するだけに。今俺うまいこと言った」
「誰がうまいこと言えと言った」
「誰がうまいこと」
「だれ うま」

 おれ うま





 で、お昼の後。

「昼ご飯食べた後って基本的に眠いよね」
「ああ。気温もちょうどいいしな」
「目の覚める魔法ってないんやろか」
「寝首を掻く」
「掻いてどないすんの」

 そんな感じに、ソファでだらり。守護騎士の皆も何だかいい気持ちらしく、テレビの前やソファ
の上で各々休んでいる。

「寝首を掻く。と言っても首を切ろうとするのでなく、爪で掻いてやる。すると――」
「すると?」
「――気持よさそうに、ゴロゴロ喉を鳴らすこと請け合いである」
「寝たまんまじゃないですか」
「猫やないの」

 残念ながら、人間は寝首を掻かれても起きない。らしい。

「眠いわぁ。夕飯の買い物せなあかんのにぃ」
「出前でよくね。ピザでも食ってろはやて」
「草でも食ってろ居候」
「や、実際食べてたよ? 家族おらんゆーて、公園で手近な草食べとった」
「……」
「……お前、苦労してんだな」
「というよりも、よく生きてたな……その子供の身で」

 ヴォルケンの皆は複雑そうな視線を向けた。何か居心地が悪くて嫌。

「タンポポおいしかったです」
「苦そうな顔しとったくせに」
「お腹が減ると何でもおいしいんです。世の富豪どもにはそれがわからんのです」

 守護騎士たちは苦笑した。

「ということで、とりあえずはやての寝首を掻いてみる」
「ごろごろ。ごろごろ」
「するとこのとおり、はやてが猫になった。よって猫は猫らしく、今夜の夕飯は猫まんまに決定」
「夕飯が猫まんまになってしもた」
「何故わざわざ猫まんまにするんだ」
「サンマもつくよ?」
「だが断る」

 断られてしまった。今日は出前確定か。

「ねむい」
「ねむいわぁ」
「ねむいです」

 皆して、猫みたく丸まって昼寝した。したはいいのだが、猫なのに雑魚寝とはこれいかに。



(続く)



[4820] その42
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/01/20 20:21
 学校が始まって暫く経って、ようやく涼しくなってきた。

「生活が快適になってきた」
「あとは秋雨さえなければな。今日は晴れやからええけど」

 昨日一昨日と雨が続き、今日はちょっと懐かしい晴天が帰ってきた感じ。
 シャマル先生が嬉しそうににこにこして、シグナムと洗濯物を干しに行くのがさっき見えた。
 料理がちょっと上達してきた(もちろんサポートという名の見張りは必要だが)ことで、何だか
家事全般が好きになってきた模様。
 この調子だとはやても楽だ。シャマル先生様々である。

「……その割にシャマルで遊んでいるように見えるのは気のせいか」

 ザッフィーが横から言うも、きっと気のせいではないと思う。
 だって楽しいし。面白いし。

「今日は晴れなので、帰りにおつかいができる。何か買う?」

 実は学校帰りの買い物、結構自分の役目だったりする。
 今行ってる小学校は金銭持ち込み禁止だったりするけれどそれはそれ。

「夕飯メンチカツやから、ひき肉お願いな!」
「はやてが俺をミンチにしようとする。何という猟奇趣味、日本の小学生怖すぎる」
「お宅のお肉は美味しくなさそうなので却下や」
「確かにまずそーだ」
「煮ても焼いても食えないのは確実だな」

 はやてと一緒に好き放題言ってる守護騎士たちだけど、最近すごく失礼なんじゃないかと思うこ
とがあるんです。

「オリ主が蹂躙するのでなく、逆に蹂躙される。こんなことがあっていいのか」
「前者もあかんと思うけど」
「ということで、ささやかな復讐。ヴィータに布かぶせて吊るして、明日の晴天を祈ろう」
「てめー」

 朝っぱらからヴィータが怖くなり、追いかけっこが始まった。
 捕まったらきっと命が危険になるので、とっとと退席して行ってきます。お約束というか何とい
うか、まだトーストくわえたままだ。

「ハッ! ここでもし交差点とかに差し掛かったら……」
「転校生とのフラグではなく、車に轢かれるのに一票」

 さすがに二回も世界を移住したくはないので、通学路の交差点は慎重に歩きました。
 でも八神家ってミッドに移住すんじゃなかったっけ? どうなるんだろ。移動するのかなぁ。





 でもって帰り。
 はやてに頼まれたお使いに行こうとしたところ、途中まで来ていたホワイトザッフィー(街中で
青い犬はさすがに拙い、ということで)が、なんと背中にのせてくれた。

「速い、速いぞ! いいなあ、魔法っていいなあ」

 ちょっと揺れるのが難点だけど、すんごい速い。これはすごい。

「暇だったのでな。体を動かしたかったついでだ」
「あ、しかしなのはさんに見つかるとまずい。大丈夫かな」
「翠屋から距離はあるし、そのような愚は冒さん」

 頼もしい盾の守護獣である。

「戦うことになったら気を付けてね。最近どうしてか、ゲームでも小技でコンボ使い始めたから」

 ザフィーラは戦々恐々といった顔をした。犬だけど。

「凄まじい火力にコンビネーション……以前の話よりも、余計に質が悪くなっているのは気のせいか?」
「たぶん、まずい。技術的なことは諦めて、今後は精神的に魔王脱却を目指す」
「足掻きにしか思えんが。一朝一夕では無理だろう」
「来年からも計画は続くと思う。どうにかして『仲間って強いにゃー』って思わせたいんだけど」

 しかしこのままいくと、ひょっとしたら将来の称号、「魔王」から「大魔王」にするべきかもし
れない。

「いつか先の話、ティアナがシューター当たりすぎで死んじゃうかもしれない。何とかしないと」
「……時々思うんだが、部下ではなかったのか。扱いが酷過ぎるぞ」
「部下だろうがスカだろうが容赦ないのがなのはさん」
「冷酷無比にもほどがある」

 とか、そんな風に話して進んだ。人通りがあるので途中から念話に切り替えたが、これだと俺が一
人でぶつぶつ独り言を言っているようにしか見えないと思う。

「いつか悪い噂が立たないだろうか心配です」
『勘違いするな。もう立っている』
「あんだとう」

 こんな感じで話しつつ、スーパーまで走った。

「……おお、できた。完成してた」
『どうした』
「や、気にせず。こっちの話」
『?』

 夕飯は今日もおいしかったです。



(続く)

############

これは分かるまい。



[4820] その43
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:2276f7ea
Date: 2009/01/22 17:23
 姉妹は今、非常にお腹が減っていた。
 どのくらいお腹が減ったかというと、空にある雲が食べものに見えてよだれが出てくるくらいの
空腹であった。
 監視対象が元気なのはまだいい。
 しかし監視をしようとすればするほど、食事ができなくなるのはどういうことか。
 パンを食べようとすれば突風に飛ばされ、魚を食べればどこぞの野良犬にかっさらわれる始末。
 仕組まれたような不運の連続であった。
 ヴォルケンどもが蒐集を始めれば少しはこの町を離れられるのだが、まだそれが始まらないので
身動きができない。魔法の変装も解けず、ゆっくりご飯が食べられない。

(あ……おさかなさん……)
(わたあめぇ……おいしそう……)

 だいぶ頭がイカれはじめてきたらしい。白い雲がいろんな食べ物に見えてきた。しかしながら空
想で腹は膨れない。マッチの火は腹の足しにはならんのだ。

「もぐもぐ」

 ふと気付けば、へたりこんだ頭上で何かを食べてる音がする。

「……おぉ。鍋にし損ねた、いつぞやのぬこたちではないか」

 その言葉にびっくりして見上げると、棒みたいなパンをくわえた子供がのぞき込んでいた。
 監視対象の家に居候を決め込んでいる、例のあんちくしょうだった。

「うまうま。やはり、ツンデレから逃げた後のパンは美味いなぁ」
(パン…………パン!?)

 言っていることよりも恨めしい過去よりも何よりも、姉妹の目はその口元に、現在進行形で食わ
れるパンに釘付けになった。
 最後に炭水化物を採ったのはいつだったか。
 まともに飯を食う機会になぞ、滅多なことでは恵まれなかった。昨日だって一食もできなかった
のだ。そりゃあ涎も垂れるし生唾も飲む。視線も物欲しげになるだろう

「ぬこたちは仲間になりたそうな目でこちらを見ている!」

 違う。

「じゃない。何か欲しそうだ。可哀想だなぁ。パンとか食べる?」

 今の姿が猫であるのも忘れて、姉妹は首を縦にぶんぶん振った。演技もへったくれもない。

「ふふふ、よしよし。なら、三回まわってワンと言え」
「にゃっ!?」
「にゃぁっ! ふ、フーッ!」

 無理難題を吹っ掛けられて、軽く混乱&ぶちギレる姉妹の図。言っておくが姉妹は猫なので、当
たり前だがワンとか鳴けない。

「無理か。同じ四つ足の身なのにワンも言えないのか。情けないなぁ」
「フーッ! フーッ!」
「そいつは済まなかった。じゃあ、ワンはやめよう。これなら簡単、コケコッコーにする」
「フー――――ッ!!」

 鳥類ではないので、コケコッコーも無理である。

「そうこうしているうちに、ぱくりんちょ」
「!?」

 姉妹の目の前で、パンが完全に食われた。と同時に、まるでこの世の終わりが来たみたいな絶望
感に襲われる。

「むぐむぐうまい。ごちそうさま」
「…………」
「や、冗談だから。ほら、パンもいっこあるし」

 カバンの中からもうひとつパンが出てくると、蜘蛛の糸を見つけたカンダタみたく嬉しそうな顔
をした。

「あげる。……お、そうだ。料理作ってあげよう」

 パンを受け取り、再びでかじりついていると、ふとこんなことを言い出した。

「一度やってみたかった、『チャーハンメテオ』。すごい勢いで熱いチャーハンが降り注ぐのだ」

 皆まで言わせず、パンだけくわえて一目散に逃げ出す姉妹だった。





 とかいう事実を、はやてに話してみたりする。

「以来、たまに会うので餌をやってたりします」
「頭のええ猫さんやなぁ……昨日朝のパン持って行ったんは、そういうことなんか。なるほどー」
「ん? 何の話してんだ?」
「ヴィータより賢いぬこの話。ぷぷっ」

 殴られた。



(続く)

############

今後(文章的な意味で)遊ぶときは、後書きはノーヒントで。ヒントは作中にて匂わせます。
ちなみに、今回はしりとりも縦読みもないです。毎回やるほどドMではないですw



[4820] その44
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:f0d3aa45
Date: 2009/01/28 19:13
 宿題に出した絵が返ってきた。ので放課後、モデルになってもらったなのはさんに渡しに行く。
 ということで今現在、単独で魔王の根城に乗り込んでいる次第である。桃子さんに用件を告げる
と、自室にいたのを呼び出してくれた。

「仕上がりは見せてなかったけど、こんな感じになりました」
「わぁ……ありがと、大切にするね!」

 目をキラキラさせて、なのはは嬉しそうに言った。これが将来「ぶるあああああ!!」になると
いうのだから信じられない話だ。人間変わりすぎだろう。

「せっかくだし、上がってって!」
「ん? はやて居ないけど」
「けーと君に言って……ど、どうしたの? びっくりした顔して」
「や、あまりに呼ばれないので、自分の名前忘れてた」
「えと……オリシュ、だっけ?」
「やっぱそっちの方がしっくり来る」

 将来黒い仮面にマント羽織って合衆国作ろうかなと画策しつつ、勝手知ったるなのは部屋。

「なのはさんハウスだッ!」
「……私がうようよいるところ想像しちゃった! かなり怖いよっ!」
「部屋一面の敵なのは……怖すぎる。集団でなのなの言いながら、じわりじわりと殺されそうだ」
「怖いってば!」

 突っ込んでくれる人が居るといいなぁと思いながら、毎度のようにアホなこと話しつつ、五目並
べしたり漫画読んだりでのんべんだらりと過ごす。
 小学生の間はあんまし男女関係ないなーと思った。自分もそうだし、目の前のなのはさんも特に
意識してないっぽい。
 ……その割には確か原作、二十歳近くなっても浮いた話一つも無かったような。自分も人のこと
言えないけど何だかなぁ。

「はやてちゃん、元気にしてる?」
「ん? 元気。元気すぎて吐血する」
「元気なのか元気じゃないのか分からないよ……」
「冗談抜きに、元気。こないだは買い物で、たけのこの里安売りしててはしゃいでた」
「あ、たけのこ派なんだ。私とおんなじだね」
「違いの分かる人はきのこを選ぶ」

 とか話がシフトしつつも、はやての話をしてやると嬉しそうだった。会って間もないけど、すっ
かり友達なんだなと実感する。

「でも元気とはいえ、病気や怪我はやはり毎日大変です。なのはさんも気をつけてほしいのです」

 いつか撃墜イベントもあるらしいし、ちょろっと釘を刺しておこう。

「うん。最近、風邪はやってるしね」
「や、病気より主に怪我。いつか某メカニックに、リハビリ映像引っ張り出されたくないなら!」
「……何だか、すごい具体的だね」

 怪しまれたので自重する。

「なら別の例。パワプロサクセスで、ひじに爆弾抱えたまま変化球練習したりとか」
「人のトラウマ刺激しないでよぅ……」

 十分わかってくれたようだった。





 少し遊んで帰りにシュークリーム買って、魔王城から帰還。八神家の皆にも絵をプレゼントし、

「眠いのでもう寝る。ぐおー」
「起きて宿題しないと、シャマルルーレットの刑に処す」

 シャマルルーレットとは通常のおにぎりの中に、「好きなように作って」と言って作らせたシャ
マル製おにぎりを紛れ込ませる、いわゆるロシアンルーレットのこと。
 当たりを引くとゲロ以下の味のおにぎり(匂いは普通なので判別はつかない。タチが悪すぎる)
を食べねばならない、世にも恐ろしい刑罰である。
 最近のシャマル先生は料理レベル上がったけど、訳の分からん味を生み出す腕が鈍ってないから
すっごい困る。

「レシピ通りに作ると普通に美味いんやけど、調理自由にすると味までフリーダムになるしなー」
「塩チョコの何に感銘を受けたかは分からんが、前はおにぎりの具にチョコというのもあった」
「それはちょっと」
「発想のスケールで敗けた」

 シグナムに黒歴史を暴露されたシャマル先生がそろそろ泣きそうなので、弄るのは止めて大人し
く宿題しよう。

「なのはちゃん、どうやった?」
「お大事にって。今日は怪我の恐ろしさを教習しといたけど、結構わかってくれたみたい」
「おー、意外と順調なんだな。やるじゃんか」
「あと、実はたけのこ派ということが発覚した」
「やっぱり、きのこ派はマイノリティなんでしょうか」
「らしい。クラスでもたけのこ党が席巻してた」

 どうでもいいから、宿題をする。
 さっさか終わらせて夕飯タイム。
 夕飯食べたらまったりタイム。

「気になった。シャマル先生ばかりボコボコに叩かれてるけど、他の皆は料理するの?」
「作ったことはあるが……盛り付けがどうも下手でな」
「あたしも。レシピ通りに作るから、味は普通だけど」
「なら明日は土曜日やし、ケーキ焼こ。チョコとか残っとったし、美味しいもの食べよ!」

 嬉しそうに言うので、台所へ連れていってやった。
 なんか楽しくなってきたので、皆でニコニコしながら材料チェックしました。動画じゃないよ。

「とりあえず間違えないように、有塩バターは封印しよう」
「そうだな。それがいい。どこかの誰かがまた間違えるかも知れないしな」
「……」

 前科持ちのシャマル先生が拗ねたので、皆でお菓子を持ち寄って慰めた。



(続く)

############

落ち役・ネタ役にシャマル先生が便利すぎる件。
で、そろそろ本編時間が近いのに話が何も進まない件。
あと、きのこの山がおいしい件。



[4820] その45
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/01 02:35
 意外なようで意外でないようで、実ははやては腕力が強い。

「ほぼ互角とはいえ、さすがにショック。腕相撲強いね」
「鍋とかフライパンとか、しょっちゅう持っとるし」
「ぬぬぬ。このままだと、完全にはやてに負けてしまう。鍛えないとまずい。シグナム、鍛えて」
「いや、剣術なら兎も角、基礎筋力は私にはどうにも……」
「やっぱシグナムってあれか。おっぱいだけなんだ」

 発言を後悔する暇もなく、亜音速でぎったんぎったんにされた。

「全身の骨がみしみし鳴ってるんですが」
「そのまま折れろ。むしろ砕けろ」
「波紋呼吸法で痛みはないから大丈夫!」
「じゃ、息止まったら痛くなるんやな」
「名案です。では、試してみましょうか」

 多分痛覚のあまり考えるのをやめたくなると思うので、素直に謝って許してもらう。

「フーフー吹くなら私のためにリコーダーでも吹いてるのが似合っとるわー!」
「はやてが自分のリコーダーを使って間接キスを画策している件について」
「残念でしたー。まだ一回も使っとらん新品やもん」
「じゃあ悪戯しよう。中にカルピスの原液入れてやる」
「やめ」

 はやて部屋へ突撃しようとしたら、ぐいんと腕を引っ張られた。そのままソファに投げ出され、
何というか押し倒された感じ。

「そしてこのまま圧迫祭りや!」

 でもって車イスから乗り換えたはやての全体重が背中にかかってきて、小学生とはいえ結構重い。
ぐええ。

「圧力で内臓をやられた、そろそろ吐血とかして死にそうだ。せめて死ぬ前に蜂蜜が食べたい」
「袁術乙」
「そういえばあるよね、はちみつ。使って何か作ろうか」
「明日、朝のトーストに乗せたらどうだ?」
「おお……というか、意外にシグナム、パン食べるね。和食好きなイメージあるけど」
「お前こそ、普段はそんななくせに好き嫌いがないのは意外だ」

 とか話しているうちに、ザッフィーの散歩に行っていたシャマル先生とヴィータがそろって帰っ
てきた。

「帰宅早々目に入る光景が潰れたカエルってのはどうなんだろーな」

 誰がカエルやがな。

「八神家の不良ファイル圧縮中なんよー」
「なら、また前みたいに段ボール箱取ってくるか。宅配便の紙もあるし」

 コールドチェーンを体験したくはないので、頑張って身をよじる俺だった。





 夕食後、片付けなりその他家事なりを済ませたら、その後は皆で遊ぶのが八神家ハウスルールだ
ったりする。
 内容はそれこそPCいじりから、ゲームやら漫画やら結構種類もある。大抵は皆で遊べるテレビ
ゲームになるのだが、風呂で抜けたりしたら自然と携帯ゲーム機に移行することが多い。連休には、
ツタヤに行ってまとめてDVDを借りたりもするのである。
 余談だが先週は確か、劇場版のポケモン(第一弾)の上映回だった。はやてと俺は久しぶりにぐ
っと来ていたのだが、ヴィータとシャマル先生がぼろ泣きしてたのをよく覚えている。

「……その話すんなって言ったろ」

 別にからかってるわけでもないのに、この話題をしようとするとヴィータは頬を染める。染める
だけなら特に構わないのだが、それに物理攻撃が加わるので結構やめてほしい。具体的には首を極
められたりとか。

「まぁ、皆ポケモン好きということで。で、完成したの? 対戦用の6匹」
「いや、メンツが決まんねーんだ。最後の1匹なんだけど」
「意地でもリザードンを外さないヴィータに愛を感じた」
「最初から使ってたからな。今さら外せっか」

 最近は結構ヴィータのポケモンも強くなってきて、俺と対戦しても10回に3つは勝ち星がつく
ようになっていた。ハンデで3匹対6匹の対戦だけど、結構大したものだと思う。

「対するシャマル先生はお困りの様子」
「……聞いてないよ……消せないなんてぇっ……」
「初心者乙としか言いようがあらへん」
「初見では仕方ないと慰めるしかない」

 半泣きになってるシャマル先生のゲームボーイには、「かいりき」を覚えたケンタロスの姿が。

「同じこと昔やったな。リザードにいあいぎりとか」
「あたしは気付いたぞ。ってか、かいりき手に入れるまで行ったら気付くと思う」
「金銀に送って忘れさせるしかあらへんな。来週買う予定やから、それまで辛抱しー」
「……主力だったのに……うぅ」

 へこたれるシャマル先生。さすがに気の毒になってきたので、コーヒーとミニクッキーで慰めて
みる。

「お。このチョコクッキー美味いな」
「横から取るない……おろ、確かにうめぇ」
「お前も食ってんじゃねーか」
「はやてちゃん、これ、何処で?」
「駅のビルの3階になー。この間、シグナムと行ってきた時に買うてきたん」
「ああ、あの時でしたか。こちらのどら焼きも美味しいですね」

 シャマル先生にと持ってきたお菓子だったのだが、いつの間にか皆で食べていたのであっという
間に消え失せる。

「冷蔵庫にコーヒーゼリーあったの、食べよか」
「じゃ、あたしスプーン取ってくる」
「アイスでも乗っけるか。バニラあったし」
「あ! やります、私やりますっ!」

 ちょっと遅めのおやつタイムになりました。



(続く)



[4820] 番外3
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/05/01 02:06
※ 文字サイズ「中」でご覧ください。



「ね、ね、ティア。この部隊の、『最終兵器』の噂、知ってる?」

 本日午前分の訓練を終えて、腐れ縁の相方と一緒に昼食の注文を済ませて待っていると、この相
棒はキラキラしたいつもの目を向けてきて、出し抜けにそんなことを切り出してきた。

「あのねぇ……人を兵器呼ばわりは良くないわよ? ――部隊長だって、もし聞いたら……」

 言う言葉から、そこにあるべき固有名詞が抜けていることにティアナは気付く。しかしどういう
訳か、この時それを疑問に思うことは無かった。正面で話を聞いているスバルも、聞き返す様子は
何故かない。

「あ、違う。そうじゃなくて、その」

 ぶんぶんと手を振って、スバルはティアナの言葉に訂正を加えた。

「部隊長もそうなんだけど、更に奥の手がある……って聞いて」
「本当に? そんな人、聞いたことないけど」
「ホントだって。副隊長、言ってたもん。対戦しても勝率が3割割ってるって!」
「僕も……聞いたことあります。『あの人には絶対敵わない』って、ついこの間……さんが」

 皿を持って横から出てきて話の輪に加わるのは、赤毛の小さな男の子。ティアナの記憶にない少
年だった。やはりどういう訳かその言葉からも、人名にあたる部分だけがすっぱりと抜け落ちてい
る。
 愛用の槍型デバイスは、今は待機させているのだろう、外から窺うことはできない。その隣には
桃色の髪の少女も立っていた。その少年の言葉に対し、驚きの表情をつくっていた。

「えっ、――さんが? そんなことって」
「……単なる噂じゃないかもね」
「ね、すっごいでしょ! でねでね、午後は今日休憩だから、ちょっと探してみようと思って」
「やめときなさい。『秘密兵器』の秘密暴いてどうすんのよ」

 ぽこん、とスバルの頭を手の甲ではたく。スバルはあたっ、と声を上げてこちらを見た。どこと
なく恨めしそうな様子だ。ご飯を前に「おあずけ」を食らった犬っぽいようにも見えてくる。
 しかしまぁ、気持ちは分からなくない。
 部隊内でも存在そのものは秘密の扱いを受け、しかし隊長たちも隠し通そうとはしない人物。そ
んな魔導師がいただろうか。少なくともティアナの知る範囲で、そのような条件に該当する人間は
いない。この部隊に入ってからまだ日も浅いが、一応おおよその顔と名前は一致するようにはなっ
ている。

(……?)

 あれ? 私って今、訓練校にいるんじゃ……?
 という疑問が一瞬頭の中を過ったが、しかし直ぐに風に吹かれたようにかき消された。ひどく不
自然な消え方だった。意志の動きとは関係なしに、強制的に流し去られる思考。

(……ま、いいか)

 機会といえば、いい機会だ。後方支援に当たってくれる職員と交流しつつ、その存在を探してみ
るのもいいかもしれない、とティアナは思った。

「チャーハンできたよ!」

 と、そこに大きな声が。
 注文の品だ。自分とスバルが頼んだんだった。いつもスパゲッティばかりではアレだからという
自分からの提案だ。散々動き回ったし、大盛りにしたんだったっけ。
 そんなことを思っていたが、振り返った先にあったのは、ただ単なるチャーハンではなかった。
 到底厨房で使えないような、超絶巨大なフライパン。
 中で踊る、数々の具材。香ばしい良い香りを立てているが、いかんせん量がおかしい。人間の食
べれる量じゃない。
 というかちょっとしたベッドくらいは作れそう。

「重い重いぐらぐらぐら」
「ちょ、量! 量! ななな何やってんのよ!」
「……や、原作StSでは、大食らいが二人いるって聞いたので……」
「意味分かんないです!」

 超巨大なフライパン(というよりもう、フライパンというか単なる鉄板と呼んだ方がいい、とテ
ィアナは思った)をプルプル震える両手で支えながら、ぐらりぐらりと不安定極りない歩き方で接
近するこの男。言ってることの意味が分からない。

「とにかくそれ下ろして! って、こっち来ないでくださいっ! ああ危ないじゃないですか!!」
「た……だ、大丈夫だよ! すぐ盛り付けるよ!」
「何や、騒がしーなぁ。何やっとんの?」

 スバルとティアナは、声のした方を見た。
 我らが部隊のリーダーが、怪訝そうな顔で立っていた。救世主だ!

「ん? おー……お! な、な。ちょっと向こうむいてみ!」

 と思ったが、ワクワクうずうずした様子の関西弁の女性は、救いの手を差し伸べにきた訳ではな
いようだった。
 巨大なフライパンを持った男の背後にまわり、そして後ろから何事かを囁き始めたのだった。
 すると――








<ヌヌネネヌヌネノヌヌネネヌヌネノ

           。・゚。。゚。・。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚  
  ∧,,∧     。゚。・゚。。゚。・。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。         ∧,,∧
 (;`・ω・) ゚。・゚。゚。・゚。。゚。・。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。          (・ω・;)
 /   o━ヽニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニフ        |    |
 しー-J                                    しー-J







<ウ~ンウ~ンンンンンン~ウ~ンウ~ンン・ン・ン

           。・゚。。゚。・。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚  
  ∧,,∧     。゚。・゚。。゚。・。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。         ∧,,∧
 (;`・ω・) ゚。・゚。゚。・゚。。゚。・。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。          (・ω・;)
 /   o━ヽニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニフ        |    |
 しー-J                                    しー-J







< テ~ケテ~ケテケテケテン~テ~ケテ~ケテッテッテ

           。・゚。。゚。・。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚  
  ∧,,∧     。゚。・゚。。゚。・。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。゚。・゚。。         ∧,,∧
 (;``ω')) ゚。・゚。゚。・゚。。゚。・。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。           (・ω・;) ・・・?
 /   o━ヽニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニフ        |    |
 しー-J                                    しー-J







                     ┃         。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。。゚。・。
                   :'"|    。・゚。。・゚。。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。゚。・゚。。゚。・゚。
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   ∧,,∧ ラヴィ!!       ヽl ゚ 。 ゚。・゚。゚。              ∧,,∧
  (∩゚∀゚)^)           ゚・゚                  ( ω   )     
  /   ノ ノ                               |    | 
  しー-J                                  しー-J













「って夢見たの! ねぇ、ねぇティア、怖かった! すごい量のチャーハンが宙からこっちに!」
「っさい! どうして私と同じ夢……あああもう! こ、こっちくんな! ひっつくな!」

 そんな未来の一コマだった。



[4820] その46
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/05 23:27
 まだまだ季節は秋だけど涼しくなってきたということで、八神家にこたつシーズンが訪れた。

「てか、あったんだ。足に悪いかもと思って、てっきり無いものかと」
「逆や。冷やしすぎるとアレやからって。石田先生がゆーとったん」

 話を聞けば、今までは時期が来ると石田先生がやってきて移動と組み立てをやってくれてたとか。
 しかし今は人手があるので、皆してせっせと組み立て中。ちなみに自分の担当は組み立てでした。
足を付けたりコンセント繋いだり。

「そしてハイパーぬくぬくタイム」

 ぱぱっと終わらせて、完成させて早々に潜り込む。

「家主より先に入り込んどるとは何事や」
「八神家は合衆国ニッポンが制圧した。それに伴い、守護騎士を黒の騎士団と改名する」
「守護騎士総員でお断りします」
「改名お断りします」

 とりあえずすることが無いので、皆で足を突っ込んで雑談。
 シグナムが持って来てくれた醤油のお煎餅うめぇ。シャマル、コーヒー淹れんのえらい上手にな
ったなぁ、とか言いつつ思い思いのことを始めた。雑誌読んだりゲームボーイ弄ったりテレビとか
観たり。いいともやってら。

「てか、こたつ割と大きいね。ギリギリだけどこの人数で使えるとか」
「今年がこんなんなるとは思っとらんかったけどなー」

 それはそうだ。変な子供一人拾った挙句、本から人が出てくるような珍事態が一年に連続すると
は誰も思うまい。楽天と広島が同時に優勝するくらいに予想だにつくまい。

「みんなは、こたつ初体験やの?」
「はい。いいものですね、これは」
「気をつけよう。使い過ぎると出たくなくなって、新生物こたつむりに進化する。主に真冬」
「妙に実感がこもった言葉のようだが」
「根っこの部分は基本的に骨惜しみ野郎なものでして」
「そりゃーお前」

 言わなくても分かる、とはヴィータの回答。全員が同意したように首を縦に振るので、ものぐさ
人間認定されたようでちょっと傷ついた気がする。まあ事実だし、別にいいけど。

「でも足だけ突っ込んでるから、みんな逆向いちゃうのがアレやな」
「テレビつけるかゲームすればいいんじゃね?」
「そういえば、最近テレビでゲームやってない気がする。ゲームボーイばっかで」
「というかポケモンばっか。の割に、まだまだやりこみが足りないヴィータとシャマル先生でした」
「うっせ」

 ということになったもので、ゲームは具体的にはロクヨンマリオカートとか。バトルレース楽し
いです。

「ああああああっ! てっ、てめえ! スタートダッシュでぶつかってくんな!」

 キノピオを選んだヴィータが悪いんだけど、そんなこと気にせずドンキーでぼっこんぼっこんに
してやりました。





 で調子に乗って、遊び疲れた。

「そろそろ新聞の夕刊を取りに行きたいのに、しかしこたつから出たくない。どうしよう」
「あたしも……」
「というか、もう眠くなってきました……」

 守護騎士の皆も、何だかうつらうつらといった感じだ。
 まったりしすぎた、というかこたつの力に汚染されてしまったらしい。シグナムとか小さく寝息
立てて寝てるし、ザッフィーはザッフィーで丸くなってるし。

「はやて。はやて」
「んん……んぅ」

 ふと見るとはやてまで隣で寝てたので、取りあえず起こしておくことにする。夕飯の支度もある
し、一応足とか大丈夫かなと思ったので。

「むー」 
「むーじゃねぇ、はよ起きれ。足平気?」
「……あー」

 目がようやく開いた。

「おはようございます」
「んー、おはよー」
「おはようございました。ずいぶん入ってるけど、足大丈夫?」
「ん。よく訓練された足やから大丈夫」

 マヒしてるのに訓練とはこれいかに。大丈夫ならいいけど。

「ずいぶん寝てた気がしますが」
「ん? ……わ。もう四時やん! そろそろ支度せんと」
「なら、シャマル先生とヴィータが起きて……」

 る。と思ったら、仲良く寝てる件。二人ともよだれ垂れてるよ。

「シャマル先生寝ないで。寝たら進化するよ。こたつむりになるよ」
「ふぁい……」

 昼間の台詞とか忘れてるんだろうなぁ。まぁいいけど。

「で、今日の夕飯なに?」
「こんがりオリーシュの丸焼き」
「はやてが俺を焼き殺そうとする件」
「んー。でも、煮ても焼いても不味いような気がするわぁ」

 夕飯は二人で相談して、今日はオムライスにすることが決定。やっと覚醒したシャマル先生が付
け合わせのサラダを作るらしいので、それはそれで楽しみである。
 味付けする要素が無いので、万に一つの事故も無いから安心。

「希望者にはオムレツも作るけど、二人ともどないしよか?」
「オムライスの中身、はやてのチキンチャーハンの味が気になるのでステイで」
「すっごい手間だと思うんですけど……はやてちゃん、大丈夫?」
「そんな手間変わらんの。昨日のハンバーグ崩して使えるから」

 さすがはやて、とシビれてあこがれながら、料理組は今日もキッチンで格闘してきました。



(続く)

############

要約:いつも通り。



[4820] その47
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:8f4968af
Date: 2009/02/06 19:09
 はやてが風邪ひいた。
 熱が出て咳も出た。

「おおお落ち着け落ち着いて119番あわわあわあわわわわ」
「ゆっ、湯たんぽ! 私、湯たんぽ作ってきますっ!」
「シャマル先生やめて。前、湯たんぽの中に煮えたぎる汁入れたでしょ。たぶん死ぬから」

 とりあえず慌てたいのはこちらなのだが、テンパりすぎなヴィータとシャマル先生を見てて大分
落ち着いた。冷静なシグナムとザッフィーを見習って欲しいなーと思う。

「あかん……こたつのせいや……」
「昼間っから頭突っ込んで寝てれば風邪もひくわな。おかゆ食べる? ごはんですよ付けて」
「あー……ん。たべるー」
「ん。じゃ、ちょっと行って……」
「いや、私がやる」

 と言って遮ったのは、意外なことにシグナムでした。

「ん? どして?」
「人間の風邪はお前の方が経験者だ。主はやての傍にいてくれ。ザフィーラも、この場を頼む」
「心得た」
「さすがシグナム。出来る女はいざという時違う。……ねぇ?」
「……うぅ」
「……うるせー」

 ちょっとしょんぼりなシャマル先生とヴィータだった。少し反省してください。

「とりあえず、石田先生には連絡しといた。後で病院行こうね」
「はは……はー。ドジやな」
「あえなく天敵、風邪の餌食になったこたつむり。とりあえず体をあたたたたためますか?」
「あたたたたたたけほけほっ」

 まだまだはやてのノリが良いのは安心だが、咳が出た。ヴィータにものすごく殴られた。

「すまんかった。温めますか?」
「ん。温める」
「ん。しかしエロゲとかなら、たぶん今のでセクロスフラグな件」
「……そのフラグ、明らかに死亡ルートやと思うけど」
「同意。てか、アホだよね。どう考えても悪化するよね」

 頭はまだまだ働いているのに安心しつつ、シャマル先生に毛布を、ヴィータに汗拭きタオルを取
りに行かせたり。ザッフィーに冷蔵庫からポカリ持ってきてもらったりとか。

「みんな、すまんなぁ」
「普段のお返し。存分に甘えて下さい。何がいい? どんと来い」
「んー。なら、着替え」
「貧相なはやての裸体なんぞ見とうない。StSまで行ってから出直して来やがれ」
「……おっぱい星人、恐るべし。10年後覚えとり」

 そういや10年後って精神年齢29か。
 はやてが小娘に見えるかな、むしろ小狸か。とか思いつつ、着替えのためザッフィーと一緒に部
屋を出るのでした。





「風邪です」

 疾風迅雷、病院に一目散にすっ飛んでって、石田先生の診断はそんな感じ。
 水分きちんと取る。スポーツドリンク飲んでね。
 あと、身体をあったかくして寝るべし。とか。夜更かし厳禁で。とかとか。

「ということで、本は没収」
「ああぁ……今日読了する予定やったのにぃぃ……」

 夜になって、ちょっと持ち直したみたい。こんな感じに言葉から余裕が窺えた。ちなみにタイト
ルは天知人。来年の大河の予習らしい。

「はやて、大丈夫か……?」
「ん、何とか平気やよ。堪忍なぁ、こんなんなってしもて」
「じゃ、雑炊作っとくから……あ、シャマル先生。張り切んないでいいから。俺がやるから」
「そっ、そんなぁ……」

 がっくり項垂れるのを見ると悪い気もするけど、患者に危険物が25%くらいの確率で運ばれて
しまうため却下です。一時は150%だったんだからすごい進歩だけど。
 ちなみに150%とは、料理を口に含んだ瞬間目眩がして、介抱されてる時に水でなく、オリジ
ナルのシャマルドリンクを飲まされる確率が50%の意味。

「一度で済むんだし、あたしも夕飯それにする」
「ヴィータの心意気に男気を感じた。蟹缶使ってちょっと賑やかな雑炊にしよう」
「おー。美味しそうやな」
「てか皆、それでいい?」
「いいですよっ」
「私も構わん」
「私もだ。ただし、劇物でないならな」
「病人に食わせんだから劇物なわけあらんがな常考」

 軽口叩きながらも、こいつらやっぱ良い奴らだなぁと思う。

「早く治さないと、シャマルルーレットの刑」
「オリーシュが家主に反逆しはじめた件」
「まさに反逆のオリーシュ。そのうちギアスとか使えるようになるかも」
「それはない」
「天地が引っくり返ってもそれはない」
「残念だ……ん? ギアスで『風邪治せ』って命令したら効くんかな」
「どうやろなー。でもそれやと、『不老不死になれ』って命令したらえらいことに」

 まぁいいや早く治してね。すぐ元気になるでなー。てな感じで、今日の夕飯の雑炊うまうま。



(続く)

############

こたつむりノックアウト編。
全国のこたつむりの皆様もお気をつけて。



[4820] その48
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/08 00:03
 何かマズい気がする。
 でも特に問題ない。
 問題ないのにマズい気がする。

「はやて。アホがうなってる」
「朝っぱらから何やっとんの」

 妙な胸騒ぎを感じて布団の上でうんうん言ってると、起こしにきたはやてとヴィータが変なもの
を見る目を投げかけていた。

「あれはやて。もう風邪いいの?」
「おかげさまでな。今日は快気祝いで、夕飯豪勢にするよー」
「で。お前、何考えてたんだ?」
「えと、何かあれ。うんこついてないのにうんこくさい的な感じ」

 二人してじりじりと距離を取った。

「いや別にうんこは比喩で。何かこう、虫の知らせ的な」
「馬鹿言ってないで着替えろって。朝ご飯できてるぞ」
「朝ご飯……ザッフィー用の煮干しか!」
「それでええなら、一人だけ煮干しにしよか」

 朝食が貧弱すぎてかなり悲惨なことになりそうなので、止めてもらう。
 着替えて出てってテーブルにつき、皆そろっていただきます。

「……どうした? 考えごとか?」

 ぽけーっとご飯を食べていると、向い側のシグナムに話しかけられた。怪訝そうな視線でこっち
を見ている。

「何かマズい気がする」
「? 何がだ」
「んー……や、わかんないけど。なけなしの原作知識を鑑みるに」
「当てにならん知識なんやし、そんなに重要視してもしょうがないと思うけどなー」

 はやての言ってることは分かるんだけど、感じてしまうものは仕方ないのである。必死こいて思
い出そうとするんだけど、どうにもこうにもいかないというか。

「……気になったのだが。ひとついいか?」
「シグナムが俺に気があるという。唐突な愛の告白に困惑のオリーシュ。モテる男はつらいぜ!」

 冗談に対して割と殺気こめて殴りかかってくるのは止めてほしいと常々思う。

「知識、とは以前も聞いたが……予知ではないのか? 怪しいとは思っていたが」
「あー、うん。かいつまんで話すとですね」
「話すん?」
「ん。別に、家族に隠すことじゃないし」

 てな訳で、出身世界のことをかくかくしかじか。ここって実はアニメ世界だよーってことをまる
まるうまうま。

「はぁ……アニメですか」
「あんまし驚いた風じゃないね」
「証拠はないが、お前が嘘を吐くメリットも見当たらない。予知能力と見ても大差がない訳だ」
「てかその知識って、お前がここにいる時点で微妙に意味なくなってねーか?」
「確かに、そうなんだけど」

 ちょっと不安だったけど、守護騎士の皆はそんな感じに流してくれてよかった。ごめんね隠し事
とかしちゃってて。

「それでだ。お前の懸案事項と、その知識。一体どう関係があるんだ」
「何か、問題ないのにマズい気がする」
「……現状特に問題はないが、知識によるとそろそろ重大なイベントがある、ということか?」
「そう、それ。そんな感じ。それ起こってないとマズい気がして。エンディング来ないじゃん」
「エンディングまで、観るんじゃない」
「はやて。それキャッチになってない。名作保証しても誰も観てくれない」

 ちょっと真剣な話し合いをしていたつもりだったのに、いつの間にかgdgdになってる八神家
の面々が恐ろしすぎる。何か一気に雑談モードに入っていく。

「……おかしい。妙だぞ」

 ま、いっか。と思いはじめていたのを引きとめたのは、食事を終えていたザフィーラだった。

「以前、私と念話で話したことがあったな?」
「んー……ん?」
「買い物に行った時だ。背中に乗って走っただろう」

 言われて、はたと思いだす。
 そういえば、そんなこともあったような、町中でザッフィーが喋ってるの聞かれるとまずいから
って、確か念話で話してたっけ?

「予知関連の能力かと思っていたが……リンカーコアも無しに、どうやって念話をしたのだ?」

 ん?

「シグナム。リンカーコアないと、念話ってできないんやっけ?」
「……ええ、基本的には」
「じゃあ、異系統魔法のテレパシーとか」
「その能力に覚えがあるなら、そうかもしれんが。だが――違うのだろう?」

 ……んん?







「すなわちこれは! 『魔法が使えないフリして実は使える』というオリーシュ定番の覚醒フラg」
「それはねーよ」
「どう考えてもありえん」
「いずれにせよ、体内にコアはない。お前が魔法を使えないのだけは確実だ」
「覚醒(笑)」

 全俺が泣いた。神様訴えてやる。



(続く)

############

そろそろA’s入ります。導入編開始。
覚醒フラグ(笑)はまぁ、楽しみにしててくださいw

感想欄>>[550]様
修正をしなかったのはそんな訳でして。
申し訳ありません。話題が話題でしたので、返信さえできませんでした。遅れましたが、心よりお詫び申し上げます。
致命的にミスったり設定忘れてたりしてたもの以外は、ご質問にはこれからも作品内で回答できるようにしていきたいと思います。ではまた。



[4820] その49
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/08 22:36
 とりあえず割と苦労もなく、俺がトリッパーってことは納得してもらえた。
 理解してもらったのだが、「じゃあ何か能力ついてんじゃね?」という疑問はどうやら晴れなか
った。特にザフィーラあたりが食い下がってくる。
 ので、疑念を晴らすことにする。

「よし分かった。俺が万能オリ主じゃねーってこと証明してやる。オリ主とは違うんですよ!」
「ほう。具体的には?」
「具体的には……」





オリ主とオリーシュの違い

ナデポして落とすのがオリ主、ナデボして燃やすのがオリーシュ
ナイフを投げるのがオリ主、さじを投げられるのがオリーシュ
小太刀が好きなのがオリ主、こたつが好きなのがオリーシュ
オリ主は格好いいデバイスを持つが、オリーシュは学校行きたくないでござる
オリ主はオリーシュになりたくないが、オリーシュはオリ主すらネタにすることがある
オリ主はみんなでドラゴンと戦い、オリーシュはみんゴルでドラコンを競う
勇敢に敵と戦うのがオリ主、夕刊はてきとーに読むのがオリーシュ
オリ主は大抵魔法を使えるが、オリーシュの相手は大抵アホ疲れる
オリ主は模擬戦が好きだが、オリーシュはえびせんが好き
秘密兵器なのがオリ主、秘密(にしないと恥ずかしい)兵器なのがオリーシュ
世界になかなかいない金髪オッドアイのオリ主、異世界に移動して金銀持ってないオリーシュ
オリ主は野生の動物に好かれるが、オリーシュは野生の植物で飢えをしのぐ
ほっぺたを赤くさせるのがオリ主、ほっぺたに赤い痕をもらうのがオリーシュ
オリ主は空を飛び、オリーシュはホラを吹く
女の子にもてるのがオリ主、フライパン持ってるのがオリーシュ
チャージして砲撃するのがオリ主、チャーハン作って砲撃するのがオリーシュ
オリ主はブリザードを多用し、オリーシュはふぶきを多用する
デバイス使って破壊光線撃つのがオリ主、ケーブル繋いではかいこうせん撃つのがオリーシュ





「こいつの特徴眺めてるとひどすぎるんだが」
「というかあれやな。もう『違い』ってレベルとちゃうな」
「こうして見ると、完全に別の生き物ですね」

 如何にオリーシュが普通のオリ主とは違うかを説明したかったのだが、これだと自分を貶めてる
だけなのでなんか泣けてきた。

「何が悲しくて自分で自分の悪評を広めねばならんのか」
「ま。とりあえず、お前に特殊能力とかないのはわかったからいっか」
「そうだな。良く考えればお前の場合、そう言うものを持っていたら悪戯に利用するしな」

 失礼なそんなことするわけないではないか。嘘吐け普段からして悪事だらけじゃねーか。
 てな感じにやり取りしている間に、ぶっちゃけなんだかもうどうでもよくなってきた。そろそろ
皆お腹がすいてきた雰囲気なので、昼ご飯を食べることに意見が一致。胃袋は正直である。
 でもって、お昼のテーブル。
 シャマル先生が自分の料理を食べた時、事件は起こった。
 以前の反応からすると、今日もどうせ「うンまァ~~イ!」って感じかなと思ったら。
 どういう訳か、渋柿食ったみたいなすんごい顔になったのだ。

「っ……に、にがいれふ……」

 でもって、俺たちは鳩が豆鉄砲くらったみたいなすんごい騒ぎになる。

「ばっ、馬鹿な! 苦しんでいる! シャマル先生が自分の料理に苦しんでいる!」
「おっ、おい、おかしいって。今まで食ってたじゃねーか、酸っぱい麻婆豆腐とか苦い蕎麦とか!」
「待て。今日は台風だ。遅めだが嵐が来るんだ。きっとそうに違いない」
「あああ……雷落ちたりするんかなぁ。私、すっごい苦手なんよぅ」

 八神家の面々にものすごい勢いでリアクションされて、軽く死ねそうなレベルで凹むシャマル先
生だった。再起不能になられては困るので、皆でよしよしして慰めた。

「わっ、わたしだって……わたしだってっ……」
「ひとりでできるもん!」
「そう、ひとりで……ちっ、違いますっ! それ小学生の料理じゃないですか!」
「でもスタートはあそこからだよな」
「小学生の私に料理の腕で負けとった大人が何を言うか」

 はやて、やめてあげて。そろそろ本気で泣き出すから。ね。

「黒歴史の抹消は諦めろ。最近の料理の上達は目覚ましいが、それ以上に今までの行いが悪すぎた」
「でも、不味いと思いはじめたんだね。最近まで普通に食ってたのに」
「うぅぅ……はい、少し前から……みんな、こういう味に感じてたんですか」
「料理レベルが上がったのは、味覚が改善されてきた証だったのか」

 とまあこんな感じに、再び話し合い開始。

「感覚にこうも変化が出るとは。味覚のプログラムが変更されたのか?」
「だったら他の部分にも影響出ないか? バグだけ除去されるってことはねーって」
「そういうもん? 自己修復じゃね。不良セクタだけ検出して修復したとか」
「転生はするが……そこまで細かい再生はしない。現に、シャマルの味覚はずっとこうだったしな」
「闇の書、何か変なものでも食べたんちゃうかなー?」

 そう言ってはやてが、ヴィータの持ってきた闇の書を持ち上げた。当然ながら、蒐集してないの
でページはまっさらなままである。

「まあ、いい傾向には違いない。お前の予感もきっと気のせいだろう」
「そんなはずはない。そんなはずは……なくていいや」
「とりあえず、今日の夕食決めよか。久し振りに、お寿司でも取る?」

 はやてからの魅力的な提案に、一も二もなく頷く八神家の連中だった。



(続く)

############

文章に何か仕込みたかったけど、コピペ改変する方が楽しくて忘れてましたw



[4820] その50
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/10 23:18
 何かシナリオに関係する大事な事件があったような気もするけど、そんなことは無かったぜ!
 ということにはなったけど、闇の書に何らかの変化があったことは確からしい。ので、守護騎士
みんなで念入りにチェックすることになった。しかし一向に結果が出てこないようだ。

「いやー、それにしてもあれやな。全ページ真っ白だから、何もわかりようがあらへんっていう」
「ええ。蒐集すれば、以前との違いも分かるかも知ませんが……その気はありませんし」
「あ。外した」
「やった! 勝った! 6対6で初めて勝った!」
「ふぶきのミスが響きましたね……だったら、私もっ」

 横でGBとかいじってるから、もう結構諦めムードなのは察してもらえると思う。
 ちなみに初めてヴィータが俺に勝った(もちろんポケモン的な意味で)のを見て、ならばと挑み
かかってきたのはシャマル先生。
 ケンタロスとフリーザーで美味しくいただきました。ラッキー使ってる人久しぶりに見たなあ。

「俺の懸念は何だったんだろ。なんかすごいシリアスな異常事態だった気がするんですが」
「この八神家に緊急事態とは、何とも想像しがたい光景だな」

 湯呑みにお茶を注ぎながらシグナムが言うあたり、たぶん誰が見てもそう思う気がする。

「実際、どんなんだろ。その緊急事態って」
「なのはさんのリミットブレイクで海鳴滅亡とかどうやろ」
「八神家のピンチどころか街が消し飛んでしまう件」
「というより、本当に覚えていないのか? 事前に分かればいくらでも対策できるだろうに」

 GBの画面を横目に見ながらザッフィーが言うも、どうにも思い出せないので首を横に振るしか
ない。ついでに言うと「こいつ使えねー」的な視線を向けられて不快。そういうのは万能オリ主の
役目だって。

「結局、何も分からんね」
「仕方ないか……主。悪いことではありませんし、このまま様子を見ましょう」
「せやな。確かに、シャマルの味覚改善は大きいしなー」
「というかどこにもデメリットないよね。今のところ」
「いや。シャマルルーレットが効くようになったのは、シャマル自身にとってマイナスだろう」
「……シャマル先生、どう? 八神家恒例行事に初参加してみない?」
「え、遠慮しておきます……」

 残念です。
 という感じになっていて、ぶっちゃけ調査とかいいんじゃね? 結果出ないし。という雰囲気。
 まあ確かに、変化という変化はシャマル先生の味覚が直ったくらいで、それ以外には特に何もな
いのだ。別にこのまま無視して日常生活エンジョイすればよくね。てな感じ。

「あ、はやて。足の定期健診どうだった?」
「ん? ああ、そうそう! 何やわからんけど、上々やて。ええ具合らしいんよ」
「おお。完治が見えてきた」
「えっ! はやて、歩けるようになるのか!?」
「それは気が早すぎよ。でも、希望が見えてきたーっていう話にはなってきとるなぁ」
「じゃあ、じゃあ! 歩けるようになったら海行こう、海!」
「……聞いとらんし」

 でも、はやてもまんざらではないらしい。楽しそうにニコニコしているのを見ると、足と一緒に
機嫌も上々のようであった。
 と、そこに電子レンジから出来上がりの音。休日ということで、ミニクッキー作ってたんだ。プ
レーンとチョコチップのおいしいやつ。

「じゃあ、次のも焼いてくるからなー。シャマル、手伝って」
「はい。では、お先にどうぞ」

 で、早速ヴィータが一口。それを横目に、話を続ける。

「何か話が上手い方へ上手い方へと行ってる気がする。こういう時は揺り返しが怖い」
「病気が治るなら、それに越したことはあるまい。気にし過ぎではないか?」
「歩けるようになるまで、大変なイベントの連続な気がするんだが。まぁいいけど。俺も食べよ」
「おお、そうだな。私もいただ……ヴィータ?」

 話を切り上げ、顔を向ける。
 そこにはクッキーの半かけを口にしたまま、硬直してしまったヴィータの姿が。

「ペロッ。これは……」

 その食べかけを取って、少しなめてみると。

「クッキー……クッ……キー……?」

 あれ。
 これって。





 はやて製のはずなんだけど。





 で、夜。

「……こういう形で非常事態が発生するとは思わなかった……」

 はやて抜き(もう寝た。一緒に寝てるヴィータはこっそり出てきた)の八神家緊急家族会議開催。
 議題は勿論、はやて製クッキーのあのお味について。ちなみに夕飯は嫌な予感がムンムンしてた
ので、シャマル先生に

「私はもう! 誰にも不味いって言わせたくないから! だから……料理したいんです!」

ってお願いさせたので事なきを得た。
 はやては「少し……お肉焼こうか……」って言って下がってくれたのでよかった。ちなみに今回
はアタリじゃなかったのでよかったよかった。

「……あー、塩入れてる」
「黒ゴマのつもりだと思うが……あれは黒コショウか。ヴィータが耐えられないわけだ」
「あの、キッチンの映像がどうしてここに……うぅ、はい、すみませんです……」

 疑問を呈したシャマル先生だったが、「お前を監視するためだ」と言わんばかりの視線で射抜か
れて、小さくなって沈黙した。今回は別の形で役に立ってるけど。

「さて。ということで、はやての身に重大な問題が発生したわけですが」
「お前の懸念がこんなところで当たってしまうとは」
「……当たんない方がよかった」
「それだけは同感。これから三食どうすんだよ……」

 はぁ、と憂鬱な溜め息を吐きつつ、議論する。どうしてこうなったのかな。シャマル病が伝染し
たのかなかな。

「あれ。でも映像見てると、味見してるよね」
「何?」
「ほら。これ」

 中空に浮かぶウインドウの中には、クッキーの生地を少し取って舐めるはやての姿が。
 うんうん頷いてるし。これならオッケーって感じだし。それで焼いたらそりゃこうなるわな。要
するにつまりこれって、

「以前のシャマルと同じだよな。味見はするが、味覚そのものがフリーダムなので逆効果」
「ああ……もしや、シャマル症候群が伝染したのか」
「シャマル症候群。原因、シャマル菌。味覚神経に影響する。すべての味覚のバランスを崩壊させる」
「うわ寄るな来んなシャマル菌がうつる」
「小学校行ってるとリアルにある。バリア張った。はいバリア張ったー」

 シャマル先生がかなり凹んでしまったので、これ以上いじるのはやめておく。

「運動神経が小康状態になった代わりに、味覚が犠牲に……あり得るのか?」
「……シャマルの味覚が直ったと思ったら、今度は主はやてがこんなことになるとは」
「どうかね。闇の書の変化と今回の一件と。偶然の時期の一致かね」
「時期だけでは判断がつかんが、変化の対象が二人とも味覚だ。偶然とは思えない」
「闇の書のささやかな復讐だったりして。みんな美味しいもの食べやがって的な」
「そんなわけ……ない、のか?」

 という話になった時、ふと頭の中をよぎるものがあった。

「ああ、それでか」
「何かわかったのか?」
「いや。ヴォルケンってアニメだと蒐集してたんだけど、きっかけ何だったかと思って。これかも」
「……蒐集すれば治るものなのか? 本当に闇の書の所為なのか……?」
「いや、何とも。でも蒐集してたのは確かなので、とりあえずのご報告」
「こんな理由で約束を破って蒐集するとは……」

 ザフィーラの嘆きの声がひどく物悲しかった。しかし「こんな理由」って言うけれど、ヴォルケ
ンと俺にとっては死活問題である。
 朝食はシリアル、昼食はオリーシュチャーハンでしのげるかもしれないが、夕食だけはどうにも
ならん。シャマル先生や俺が代役をやろうにも、はやての役割として固定されちまってるので焼け
石に水だ。食わなきゃいい話と思うかもしれないが、たぶんはやてが泣くので無理だし。

「するの? 蒐集」
「とりあえず、石田先生に相談だ。原因が不明なら――可能性はそれだけだ。やるしかない」
「そこに、希望があるなら……」

 実際には希望ではなく、待っているのは美味い飯。ただそれだけだが、どんなにありがたいか。

「蒐集するなら、ミジンコとかから取ってくればよくね?」
「蒐集の対象はコアだから、そういう訳にはいかねーんだよ……努力値とか溜まりそうだけどな」
「やるなら、できれば人間は駄目。後で管理局怖いから! あれ。でも原作だと何とかなった気が」
「今回も何とかなるとは限らん。切羽詰まっているわけでもない。とりあえずは明日だな」
「じゃあシャマル菌を落とすため、風呂に入ろう。俺入ってないから、行ってくる」
「おー。ってか思ったけど、シャマルから注射器でワクチン取れたりしねーか?」
「それだ」
「それしかない」
「それがいい。シャマル先生、取っていい?」
「取れませんッ!」

 涙目になるシャマル先生だった。



(続く)

############

迫りくる恐怖。シャマル菌的な意味で。



[4820] その51
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/12 22:46
 結論から言うと、蒐集することになりました。

「人間禁止の約束破って、ヴィータがなのはさんに手を出さないかwktkしてるんだが」
「出すわけねーだろ。見かけたら迷わず逃げるって」
「ぬう、残念。脱衣魔との2ショット、録画して欲しかったのに」
「底知れぬ破壊力を持つ魔王と、脱いでスピードアップするその手下……ですか」
「タッグの相性が最高すぎる。相手にしない方が無難だな」

 あれ? でも原作だと戦ってたな。魔王と戦うとか原作の私たちはどんだけアホなんだ。と。
 でもとりあえず最初は、出来る限り地球上で蒐集するってことになった。効率は良くないけど、
ちょっとだけ蒐集してみて、はやての舌が治るようならそれでいい。焦ってないから別にいいか、
って。
 でもって、行ってきますのヴォルケンの皆。俺も見学に行ってみたかったけど、明らかに足手ま
といなのでやめた。
 なのはさん襲ってきたら怖いし。脱衣魔のアーマーパージは興味あるけど。
 あ、性的な興味ではなくて。
 まだ見ぬ原作キャラ&生の変態に会える! 的な意味で。恐いもの見たさかな。

「それでもってヴィータは何故まだ家に居るのか」
「全員出てったら怪しまれるだろ」

 という訳で現在八神家には子供が三人いるだけである。
 気づいたが出てった方の三人、ドラクエ的に考えてバランスがよかったりする。シグナムはガン
ガンいこうぜ、シャマルはいろいろやろうぜ、ザフィーラがいのちをだいじに。完璧じゃないか。

「ザフィーラの散歩がてら健康診断かー。フィラリアとか、気をつけなあかんな」

 はやてへの説明は、そういうことになってます。一応。

「金銀買ってきたから、帰ってきたらシャマル先生に渡してあげよう」
「ああ、間違ってひでんマシン使ったんだっけ。ケンタロスに」
「ていうかヴィータ、いつの間にかシャマル先生追い越してるよね。一時期逆だったはずやのに」

 会話からお察しの通り、暇なのでまたポケモンやってます。中古で安く金銀が買えたので、そち
らの方を最初から。直近のジムまでタイムアタック勝負中。

「宿題やったん?」
「やった」
「はや」
「知識便利だよね。漢字書き取りとか完全に作業だし」
「若返りの数少ないメリットやな。飲酒解禁直前で逆戻りはキツいけどなー」
「そういや、お前本当は歳19だったよな。ゲームの内容熟知してるわけだ」
「それに勝るとも劣らない知識量のはやてが恐ろしすぎると最近気づいた」

 結果ははやて1着、ヴィータ2着、エンカウント率の高さに苦労した俺が3着でフィニッシュ。
 でもってやることが全くないため、そのままゲームボーイからテレビゲームに突入。スーファミ
やらロクヨンやらキューブやらプレステやら、止める人がいないのをいいことに心行くまで遊ぶ。
 というか遊ばせる。時折ヴィータと目配せをして、時計を気にしつつ遊ばせ続ける。そして、

「あー、疲れたー……ああっ! も、もうこんな時間! 夕飯作らな!」
「しまった、しまった。仕方がない。もう結構遅いし、外食でどうよ」
「んー。あたしはいーけど……あ。今念話で、みんな食べてから帰るってさ。ちょうどいいな」
「うう、ごめんなぁ。じゃあ今日は外に食べにいこ!」

 計画通り。





 近くのファミレスで夕飯を済ませ、帰宅する。デニーズ使うの久しぶりでした。
 すると程無くして、シグナムたちも帰ってきた。皆でテーブルを囲んで、お茶などすすりながら
一服つく。

「それで……はやてちゃん、どうでした?」

 ちょうどはやてがシグナムと風呂に行ったので、この隙に報告タイム。蒐集はバレてないようで
ほっと一息ついていたら、シャマル先生から切り出した。

「今日は外食した。スパゲッティミートソースに首かしげてた」
「ぱくぱく食べてたから……手遅れじゃないと思う。まだ、だけど」
「こちらも、蒐集対象がなかなか見つからなくて……」
「人間から蒐集しないと決めた以上、仕方あるまい。次は他の次元世界を回ることになるが」

 皆から複雑な息が出てとても辛気臭い。

「皆から辛気ガスが発生。換気しよう」
「というか、何か焦げ臭くないか? ふつーに」
「前回の残りのクッキー使って、はやてがさっきデザート作ろうとしてた。味の素とフライパンが
 見えて、嫌な予感がしたので止めといた。その名残り」
「……マズいかも知れんな。色々な意味で」
「はやてぇ……どーしちまったんだよ……」

 換気のつもりが、さらに辛気ガス発生。
 ええい、吉報はないのか! 一瞬で蒐集全部完了とか!

「そういえば今日の夕食、よく外食になりましたね」
「外食になったというか、外食にしたんだよ。ゲームに熱中させて、手遅れな時間帯にして」
「よく計画に気付いてくれた。ヴィータナイスすぐる」
「褒めちぎれ。てか、テレビ点いた瞬間に時計が表示された時は焦ったな」
「あれは気付かれるかと思った。部屋の時計も移動しておこ」

 いろいろ考えといた方がいいかも知れない。はやてクッキング回避法。

「何か、シャマル先生と立場が全く逆になってきたね」
「蒐集で治ればいいのだがな……」
「ていうか蒐集で治らなくても、闇の書完成させたら自分で治療できるからな。何ページ行った?」
「まだ、2ページ目の途中です。次元世界移動すれば変わってきますけど……」
「……どっかの次元世界に四天王いないかね」
「居たら苦労しないっての……」

 とか言ってるうちに、脱衣所から音が。はやて出てきたみたい。シグナムと一緒に。

「あ、はやて。明日はシャマル先生がご飯作りたいって」
「たまには休んだ方がいいってことになったんです。はやてちゃん、いいかな?」
「ホンマ? ん! なら、お願いな。何作るん?」
「ドリア。味付けは俺が横で教えるから。はやてはサラダお願いします。簡単に」
「了解や。シャマルの味覚が直ってホントによかったわぁ」

 知らないって幸せだにゃーと思いました。八神家の食卓、ただ今先行き不透明。



(続く)

############

こんなまったり蒐集していていいんだろうか。



[4820] その52
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:b5322dd6
Date: 2009/02/14 02:09
 うんどうかいが やってきた!

「借り物競走で『家族』引いたので、車イスにはやて乗せてマリオカートできた。余は満足じゃ」
「でも順位は5位やったから、ゲームやとリタイアやな」
「会場喝采だったからいいじゃない。てか、最下位じゃなかったね。何でだろ」
「6位の子は『二千円札』だったって聞いとるから、それが原因やな」
「どう考えても酷すぎる件」

 うんどうかいを やっつけた!
 てな訳で今日は振替日、ゆえに学校はお休みでした。宿題もないし一日じゅう暇です。いつも通
り? またまたご冗談を。
 ただ珍しいことに、ヴォルケンのみんなは全員出払ってて家に居ません。
 違う次元世界で蒐集することになったので、とりあえず最初は用心して4人で行動するらしい。
はやてには「魔王の根城がどんなもんか偵察する、ついでにちょっと遠くまで行ってくる」という
ことにして誤魔化してある。

「心配やなぁ。見つかったらどないするん? マズいんとちゃう?」
「はやてには言ってなかったけど、人相書いて渡しといた」
「この顔にピンときたら110番……あ。交番吹っ飛ばしておしまいやな」
「なのはさんが連れて行かれた交番に両津勘吉がいたようです」
「……ちょっと見てみたいかもしれん」

 という感じに、お茶とおせんべ置いたこたつで話す。
 この会話って生産性無いね。何や今さら。というやりとりから、内容はお察し。そういや最近二
人になることなかったなーと思いながら、はやてが美味しそうに食べてた激辛せんべいにチャレン
ジしてみたり。舌がヒリヒリするけど割と旨かったと思う。

「こたつがいつの間にやらデフォになっとるなぁ」
「秋だしね。前の世界だと一人暮らしだったので、出すの面倒だったから布団が嫁でした」
「バツイチオリーシュがこたつに乗り換え。前妻の布団も交えて家具による修羅場が成立」
「前妻は隕石落ちてきたときに破壊されているような」
「自宅に落ちて来たん? そらまた……あれやなぁ」
「自宅ってか、アパートだけど。頭ぶっ飛ばした後、PCまで直撃してくれたのは助かったなぁ」

 マズいの入れとったん? とニヤニヤしながら言いやがるので、とりあえず次回のポケモン対戦
ではミュウツー6体でボッコボコにすることが確定。

「歌舞伎揚げうめぇ」
「お茶なくなった。次の淹れよか」
「作りおきのほうじ茶あったから、あれ温めればよくね。レンジ使うよ」
「済まんねぇ」
「気にするねぇ」

 そんな感じ。お昼は手の込んだものはめんどいので、餃子の皮にケチャップとチーズとサラミと
お好みで乗っけて焼いて食べました。うまうま。





 でもって夕飯。
 当たり前だが、ヴォルケンの皆はこの時間にはまだ帰ってない。今日も夜は要らないということ
は出かける時に伝えてった。大丈夫だからと言っておいたけど、出掛けにシグナムが痛ましい目で
こちらを見ていたなぁ。

「もしゃもしゃ。こたつで夕飯も久しぶりだね」

 でもふつーに食ってたりします。

「ホンマやな……あー、よかった」
「あぐあぐ。何が?」
「ここんとこ、みんな外食続きやろ。ひょっとしたら料理しとって、変なもの作ったかと思うて」
「またまたご冗談を」

 はやての予感は当たってて、実際妙というか非常に個性的なお味のパスタに仕上がっていたり。
例えるなら「ジェノベーゼっぽい何か」。表現しきれないほろ苦さが何ともね。
 ただオリーシュの舌をなめてはいけないのです。タンポポの葉っぱとかそこらへんの野草とか、
生で食べてたし。大概は何とかなります。
 でもシャマル先生のは例外。
 あれは、何だかね。何というか。エイリアンの食べ物的な感じがするので無理。

「てことは、みんなが外に出るようになったんは……闇の書関連? シャマルの味覚も直ったし」
「ん。ちょっと内緒の調査中みたい。はやてに心配させたくないって言ってたし、多分」
「そうやったん……気ー使わせてしもたな」

 本当のようで嘘のようで。
 99%の本当に混ぜ込んだ嘘はバレないって聞いてたけど、割と正しいんだなあ。

「夜も家から出てることがあるのは、そういうことなんじゃないかと思うけど」
「わかった。せやったら仕方あらへんな」

 ということでヴォルケンの安全はほぼ確保される運びになって俺偉い。





「お、全部食ってある……今日のは美味かったのか。食べてみよっと」

 10秒後、そこには帰宅早々身動きのとれなくなったヴィータの姿が。
 アホだなあと思いつつ、デザートのゼリーの微妙な味を楽しんだ。失敗したコンソメゼリーみた
いな感じだけど食える食える。



(続く)

############

タンポポ食ってた? って人はその29参照。
筆者が子供の頃かじったタンポポは吐き出しちゃったけど、今のはどうなんだろうと思ったり。
花とか天ぷらにすると美味いそうですが。

餃子の皮でピザは昔TVでやってたが、実際パリパリしてて滅茶苦茶うめぇです。



[4820] その53
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:994d3cd9
Date: 2009/02/15 12:26
 午前授業なので学校から早めに帰宅すると、はやてが倒れてた。





「はやて、出ておいでー。昼ごはんできたよー、にんにくチャーハンおいしいよー」
「んー……ねーむーいー」

 主にこたつむり的な意味で。

「どうだ?」
「駄目だった。何というか、非常におねむの様子」
「夕べの夜更かしのせいか……ずっと皆でボンバーマンだったしな」
「みそぼんでヴィータ集中狙い楽しかったナリ」
「うっさい! お前らグルになってずりーぞ!」

 てな感じに昨夜の遊びを思い出し、原因はそういうことになった。
 夜更かし自体はけっこうやってたけど、足が元気になってきたので少し調子に乗ってしまったら
しい。今日は皆早めに寝ようということに落ち着いた。
 ていうか、守護騎士って夜更かししてもピンピンしてるなぁと感心する。原作でも蒐集は夜から
夜明けまでやってたんだっけ?

「とりあえずこたつでチャーハン食べてるから、飢え死にはしないので安心して」
「そうか……夕方には復活しているといいのだが」
「近くで銀チャリレクイエムでも発動してるんじゃねーか?」
「や、それだと俺まで寝て……ってかたぶん、俺とはやての魂入れ替わる」
「……そ、想像したらこの世の終わりに思えた。どうしよう」

 最近のヴィータはつくづく失礼な気がするが、自分で想像してもこの世の終わりに思えてくるの
で深くは突っ込めない。
 まぁともあれ、ちょうど都合がいいので蒐集の報告会に話題がシフトする。シグナムと一緒には
やての様子見てきたけど、お腹いっぱいで余計眠くなったのか、こたつに突っ伏して幸せそうに寝
てました。起こすと悪いし静かな会議。

「具合はどう?」
「蒐集そのものは順調だ。管理局にもバレた様子はない。ただ……」
「ただ?」
「……闇の書、なんですけど。ちょっと見てください」

 シャマル先生が取り出したる闇の書には、たくさんの文字が書かれていた。
 白紙のページがまだかなりあるけど、少しずつ埋まってきてるみたいだ。

「文字なんて読めやしないので非常に困る。何も問題なさそうに見えますが」
「全体を見ればな。だが……ここを見てみろ」
「ん? んー……あれ。文字抜けてる」

 ページ一面に書き込まれた文字の中に、不可解な空白があいているのが見える。

「ここだけじゃねーんだ。所々、書の書き込みが飛んでいる場所があって……」
「シャマル菌の極秘データかね。シャマル先生、心当たりある?」
「しっ、失礼なぁ!」

 とりあえず見当もつかないので、遊んでみた。ぷんすか怒るシャマル先生だった。

「何ともわからんね。今のところ、蒐集とかに影響あるの?」
「特にはねーんだ。でもこんなこと、今まで一度もなかったから」
「無害なら無視でおk。とりあえず、近くで蒐集する時に念話くれたらはやての様子は見とくよ」
「わかった。頼んだぞ」
「どういう訳か念話聞こえるのが役に立つな。でも、返事できなくないか?」
「町内に響く大声でぬるぽって叫ぶから、それが返事ね」

 守護騎士総員でガッされた。
 まぁそんな感じで、実害ないならいいんじゃね? 不思議だけど分析とか無理だし。
 という結論に落ち着きまして候。実際俺も想像くらいしか出来ないし。

「あれ? ヴィータは?」
「はやてちゃんと一緒になって、こたつで寝てると思います」
「疲れたかね。てか、皆お疲れ様。今日ははやて寝てるし、俺が夕飯作るけど。秋刀魚焼こうか」
「おお。それは……楽しみだな」
「シグナムとはやては大根おろし使うっけ。後で買ってこようかね」
「乗って行くか?」
「ありがと。お願いするです」

 そんな感じにしばし、蒐集とか忘れてまったりとする。あっちのスーパーの秋刀魚は美味かった
とか、でもこっちではお肉のタイムサービスがすごかったとか、魔法使いとは思えない内容の話が
飛び交った。えらく庶民的な騎士たちだこと。

「んぅー」
「あ、はやてちゃん。起きたの」

 だらだら雑談してると、いつの間にか車イスに乗ったはやてが来ていた。まだ顔が寝惚けてて、
目がとろとろして眠そう。

「ばくだん……なげるぅ」
「まだ半分夢の中ですか。ていうか夢の中でもボンバーマンか」
「はやてちゃん、冷えますよ。お布団に行きましょう」
「んんぅ」

 ベッドへ連れていかれながら爆弾爆弾言うはやてに、皆で顔を見合せて苦笑するのでした。



(続く)



[4820] その54
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/16 00:37
 はやてと一緒にいる平日はともかく、最近は休日、昼間っから夜まで守護騎士の皆がいないこと
が割と多い。ということで、結構な頻度ではやてと翠屋に赴き、ケーキを買ったりなのは部屋で本
読んだり遊んだりする。
 今日も今日とて高町家に遊びに行ったのだが、その日はなんと珍しいことに、ツンデレアリサが
後からやってきた。どうやらなのはが誘ったらしい。すずかも声をかけたのだが、予定が合わなか
ったとか何だとか。

「かっ、勘違いしないでよね! ここここれは偶然、そう偶然なんだからね!」
「誰の真似してんのよッ!」

 挨拶の軽いジャブのつもりだったのに、強烈なストレートが返ってきた。前者は単なる比喩なの
だが、後者は物理的な意味なのでとても痛い。

「ったくもう、コイツは……」
「アリサちゃん、いらっしゃい! はやてちゃん、アリサちゃん来たよ!」
「はじめまして、八神はやて言います」
「はじめまして、アリサ・バニングスよ。そこのアレから話は聞いてるわ」
「そこのアレ扱いされるとは心外なり! 某の名誉を賭けて、ぷよぷよ3本勝負を申し込む次第!」
「画面の見えない所使って19連鎖組むヤツにどうやって勝てって言うのよ……」

 3本勝負はともかく、ちょうどいいからと皆で普通にぷよぷよしました。上級者の俺は右腕の中
指と人差し指以外使用不可のハンデ付きだったけど、それで割といい勝負になった。やったこと
ない積み方試したりもしたけど。

「もし、ぷよぷよの顔が全部明石家さんまだったら」
「……プッ。て、あ、あー! あーっ! ああっ!」

 ちょっとなのはに負けそうになってたので、気を逸らす作戦を実行。案の定引っかかってくれた
ので、一気にたたみかけて逆転勝利。
 
「ひっ、ひどいよっ! 卑怯だよっ!」
「卑怯じゃないデース。よくある戦術のひとつデース」
「ペガサス乙デース」
「ずるいずるいずるいってば! あ、アリサちゃんお願い、返り討ちにしてッ!」
「……アンタ、いつもこんなんなの……分かってたけど」

 アリサが微妙に馬鹿にしてる気がする。

「ツンデレ如き、オリーシュのマインドスキャンでちょちょいのちょいデース」
「ぎったんぎったんデース」
「え……と。けっちょんけちょんデース」
「二人ともうるさいっ! なのはも真似すんなっ! どっちの味方してんのよッ!」

 キャッキャ言いながら遊んでました。ツンデレが一人で突っ込み役こなしてくれるから、いつも
よりメリハリのあるひと時でした。





「てか、蒐集ってどんなのからするんだっけ。やっぱファンタジーっぽく、ドラゴンから?」

 でもって帰宅して、夜。今日も一日お疲れ様的な雰囲気の中。
 ふと興味がわいてきたので、はやてがシャマル先生と風呂に行った隙に訊いてみる。

「何故ドラゴンに行く」
「や、なんとなく。具体的にはどう? 他の世界だとツチノコとかいたりする?」
「形が似てるのはいるな。蒐集すっかはコア次第だけど」
「竜もそうだが、毎回相手にはしていられん。中型の野獣なり魔法生物なりが大半だな」
「じゃあ、ドラゴンもいるんだ。いいなぁ、見てみたいなぁ」
「お前の場合、近づく前にブレスでこんがり焼かれそうだけどな」

 なんだとう。と言いたかったが、少なくとも近づけば即死は確実なのであまり言い返せない。

「ところで、闇の書って今何ページ?」
「タウンページ」
「ハローページ」
「俺の名はペイジ」

 返答は上から順にシグナム、ザフィーラ、でもってヴィータ。こいつらもう駄目かもわからんね。

「血管針乙。冗談はともかく、どこまで行ったの?」
「昨日と一昨日で結構行ったが、まだ51だ。完成まではまだかかるな」
「はやては変わりないみたい。でも蒐集した直後だけ、普通の醤油のお煎餅に手が伸びる気がする」
「舌が普通の味付けのものを求めてんのかもな。じゃあやっぱり、蒐集で治るものなのか」
「治るかは解らんけど、関係はあるかも。少なくとも」
「このまま続けてみるか……少しでも変化があったら、できるだけ早く報告してくれ」

 ちょうど風呂場からはやてとシャマル先生が出てきた音もしたし、そんな感じに報告会は終了。
こたつに入って新聞読んだりオセロしたりゲームしたり、思い思いに好きなことを始める。

「リンゴ剥こうと思うんやけど、みんな食べるー?」
「いいですね。私も手伝います!」
「食べるー」
「ついでにヨーグルト出そ。メープルシロップかけて、リンゴ乗せて食おう」

 居候の身で勝手に冷蔵庫開けてデザート作りに勤しんでるけど、まぁはやても何も言わないし大
丈夫だとは思う。こんだけ好き勝手してるオリ主も珍しいとは思うけど。

「もっと好き勝手するオリ主なら、会うなり私のことナデポでオトしにかかると思うから平気や」

 思考読むな。つか、原作キャラがオトすとか言うな。

「リンゴ入りヨーグルトうめぇ」
「おい、そこのいちごジャム取って。かけてみたい」
「あ、じゃあ次は私な! こっちのマーマレードと一緒に混ぜてみる!」

 ちなみにはやて作のミックスヨーグルト、いろんなフルーツの味がして案外おいしかったです。



(続く)

############

要約:あんま進んでない。



[4820] その55
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/17 01:01
 本日はヴィータとシャマル先生で蒐集に行っているので、本日の八神家はNOTゲーム派の守護
騎士とゲーム派する子供たちという微妙な組み合わせだったりする。

「……てか、学校どうしたん」
「や、今日は開校記念日でして。お休みなの言ってなかったっけ」
「あ、そうやったん。てっきり、サボったりしとるのかと」
「人にお金出してもらってるのをサボる程落ちぶれちゃいませんぜ」
「落ちぶれていない割には、話によるとずっとヒモのようだが」
「黙らっしゃい」

 とか言いながらやってるのは、4人でできるトランプだったり。他にもモノポリやら人生ゲーム
やら、ウノとか花札とかいろんなものがこたつの周りに散乱してたりする。シグナムたちもゲーム
はできるけど、どっちかというこっちの方が好きらしいので。

「イレブンバック」
「んー? それ、無し! ルール外!」
「なん……だと……じゃあ、階段革命とかエンペラーとかはどうすんだ」
「訳の分からんルールを持ち出さないで貰いたいものだな」
「まったくだな……さて、私の上がりだ。クイーンのペアだ」

 ローカルルールの壁は厚かった。てか、世界が変わると大貧民のルールも変わるのか。

「ルールの違いに翻弄されまくりなんですが」
「10戦してまだ1位になっとらんってどんだけ」
「ビリが4回か。次の最下位でシャマルルーレット1回分になる訳だ」
「リアルに生命の危機を感じ始めた。ってか、今回シャマル先生に頼むおにぎりってなんだっけ」
「『ヘルシーおにぎり』やな」

 どう考えてもヘルシーになれないのは気のせいではないと思う。
 あれだ。「ビタミン豊富!」とか言って、梅干し入りのまわりにレモン汁たっぷりかかってそう
な気がする。想像しただけで口の中が酸っぱい。

「……モノポリに変更しよう」
「3人でカルテル組むけどええ?」

 独占禁止法の適用を申請せざるを得ない。

「ぐっぐぐぐ。このままでは負ける。おいはやて、次ビリになれ。さもないと……」
「サモンナイト」
「アティ先生かわいいよね……あれ、違うぞ。何という言葉の罠。恐るべしはやての誘導尋問」
「勝手に嵌っただけだろうが」
「やな」

 うるせぇ。シャマルおにぎりぶつけんぞ。

「ぬぬぬ。仕方ない。ここで5連勝とかするしかない! はやて、早くカード配って!」
「でも前回ビリやったから、1位にカード渡さなあかんけど」
「……何枚だっけ」
「強い方から2枚やな」

 オリーシュは めのまえが まっくらになった!





 で、夜。蒐集に出かけてたヴィータとシャマル先生が、夕飯時から時間をずらして帰ってきた。
 しかし帰ってきたはいいのだが、二人ともなんだかちょっと浮かない顔。

「お帰りマイナスイオン。夕飯食べる? 娼婦風スパゲティー作るけど」
「誰がマイナス……って、お、お前! そんなもん作れんのか!?」
「自分で食いたかったので、トニオさんの真似して練習した。残念ながら虫歯は出てこないけど」
「た、食べる! 食べるって! すぐ手洗ってくるから!」

 そんなわけで、ヴィータはすぐに元気になった。シャマル先生の方は誤魔化すのが割と上手なの
で、はやてがいる前では気取られずに済みました。

「で、どうしたの? マズいことあった?」

 でもって、帰宅した二人だけ遅めの夕食時。ちなみに今日はオリーシュ製のスパゲッティなので、
一応舌にも胃袋にも安心の品となっております。
 ヴィータはうまうま言ってて事情を聞ける状態じゃないので、はやてとザフィーラがこたつでゆ
っくりしてる隙に、シャマル先生に聞いてみた。

「すっごくすばしっこいのが居たんです。魔力も大きかったんですけど、取り逃がしちゃって」
「シャマル先生の鬼の手で取り逃がすってどんだけですか」
「一応、あたしも追い込んだんだけどな。素早すぎたんだ」
「口の周りがソースだらけ。前髪にもついてるよ」
「……うるせー」

 ティッシュで拭いてやった。味は気に入ってくれたみたいでよかったけど。

「ってか、美味いな! こういう味なんだ」
「チャーハン専門で数年間来てたのに、最近いろんな料理するようになっててびっくりです」
「……今度、作り方教えてもらえませんか? 私もやってみたいですっ」
「食材の名前、ややこしいから頑張って覚えてね。ケッパーとかアンチョビとか」
「イタリアって国のなんだよな。初めて食べたけど、イタリア人は毎日こんなの食ってるのか」
「聞いたところによると、イタリア人は性欲よりパスタを選ぶとか」

 ていうか、魔力補給に良かったりするんですよね、パスタ。イタリア人天才だよね。手間かかん
ないし安くて美味いし。
 てな感じに話しているうちに、食の力は偉大というか何というか。帰ってきた時はちょっぴり浮
かない雰囲気だったのが、直ってきたみたいでよかったよかった。

「あれ? はやては?」
「風呂だ。シグナムと一緒に入りに行った」

 というのはさっきまで横になってテレビを見ていたザフィーラ。のどが渇いたらしいので、お皿
に水と氷と入れてあげた。

「それにしても、逃げられるとはな。信じられん話だ」
「本当です。あとちょっとだったのに」

 シャマル先生も心外だったらしく、ちょっと悔しそうだった。そんなに大物だったのか。

「どんな奴だった? まさかポケモンに出てくるやつ? ケーシィとか、すぐ逃げるけど」
「そうだったらはやても連れて見せに行ってるって」
「銀色の、小さくて平べったい魔法生物です。金属生命体みたいな」

 ん?

「……それって、もしかしてこいつ?」

 取り出したるはお馴染みゲームボーイ。ソフトはドラクエモンスターズ。
 画面の中には高経験値のレアモンスター。確かにベギラゴンとかイオナズンとか使うし、MPは
ずば抜けて高いけど……?

「ど、どうして知ってるんですか? これ……えっと、名前……『はぐれメタル』?」
「そ、そう! こいつだ! 何なんだこいつ、火炎やら爆発やら使って……お、おい。どうした?」
「……」





 はぐれメタルが あらわれた!

「シャマル先生ピオリム! シグナムは火炎で焼いて! 確かDQ3でドラゴラム効いたから!」
「あたしはどーする?」
「まじん斬r……じゃなく。避けられていいから会心の一撃だけ狙って、全力でぶっ叩いて!」
「おっしゃぁあ! 行くぜアイゼンッ!」

 という訳で連れてきてもらって、ただ今はぐメタ狩りの陣頭指揮取ってます。経験値うめぇ。



(続く)

############

「しはいのとびら」24Fあたりでは大変お世話になりました。
しかしそれにしても、狩っても狩っても絶滅しないのはなんでだぜ?


追記。
番外は本当に好き勝手やると思うので、前回のAAみたくトラブル出たらあれかにゃーと思う
ので自サイトで掲載することにします。一覧から削除しましたが、保管庫にはちゃんとありま
すのでw



[4820] その56
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/17 17:18
「おっしゃああ! はぐれメタル狩りで経験値ゲット&魔法習得キタあああああああああ――」
「蒐集!」
「ああああ……経験値が……メラ習得が……」

 はぐれメタルたちを やっつけた!
 とはいっても実際倒したわけではなく、抵抗するのをかいくぐって蒐集で魔力貰ってるだけ。
 なので、やっつけたといっても倒してない。経験値もらってるのは闇の書(蒐集的な意味で)で
あって、俺にまで入ったりはしてねーです。
 よって、はぐれメタル狩りしてるのに俺まだきっと多分レベル1。
 ステータスとか弱っちいんだろうなぁ。逃げ足は速くなった気がするんだけど。

「はぐメタ狩りでオリーシュ覚醒……そう思っていた時期もありました……」
「でも、すごい! すごいですよ! 1匹あたり18ページも埋まってます!」
「冗談ではない効率だな……ところで、その妙な仮面は何だ。テレビで見た気がするが」
「ゼロの黒仮面。ようやくバトルにデビューできたので、戦いに参加する時は付けることにする」
「後方指揮だけで参加してねーじゃんか」

 という感じにだらだら喋ってる辺りから、皆に余裕が出てきたのはわかっていただけると思う。
ちなみに今日はザッフィーがお休みなので、狩りのメンバーはヴィータ・シグナム・シャマル先生。
それぞれFW、MF、DFって感じで結構バランスが良かったり。俺は死んだら終わりのGK。
 もうこれで3匹狩り終わったから、元々蒐集してた分と合わせて100ページを超えた。これは
予想以上に早く完成するかもわからんね。

「その分俺の頭の上がどんどん重くなってるんですが」

 仮面つけた俺の頭の上には、蒐集させていただいたはぐれメタルが座布団みたく重なって乗っか
ってたりする。非常に重たい。

「蒐集で弱ったところを、他の魔物に襲われたら後味が悪いからな。頼んだぞ」
「魔力回復したらあっと言う間に俺が焼き殺される気がする」
「逃げようとしないし、大丈夫だろ。案外懐かれてるんじゃねーか?」
「蒐集のお礼にお弁当分けてやってるのが効いたかも。てか、そろそろお昼食べよう」

 かれこれ1時間くらいは歩き回り探し回っているので、ここらでそろそろお昼のご飯タイム。
 本日の昼食は、料理スキル向上後のシャマル先生による手作り弁当。妙なことしないか後ろから
見てたので、味はしっかり保証つきです。実際、唐揚げとか玉子焼きとかがかなりうめぇ。
 頭の上からはぐりんたちが顔を出すので、玉子焼きとか放ってやると美味しそうに食べはじめた。
本当によかったね。昔のシャマル先生製じゃなくて。

「ピクニックにでも来ている気分だね……」
「爆弾スタンド使い乙。ってか、こいつら結構愛嬌あるな。あたしも唐揚げあげよっと」
「あ、ヴィータちゃん、余分にありますから。こっちをあげてください」
「金属食ってるイメージあるけど。案外こういうのも食べるんだね」
「……不思議だ。この身体でどうやって消化しているのか」

 細胞っぽく、体内に膜でも作って包み込んでたりするのだろうか。ファンタジー面白いなぁ。

「ほら、あーんしろ。あーん」
「むぁー」
「お前じゃないっての」
「のどかだな……蒐集中とは思えん」
「そうですねぇ」

 それはいいんだけど、頭の上からはそろそろどいて欲しい。重たい。







 結局この日は数多くのはぐメタたちのおかげで、夜までに一挙300ページほどの蒐集に成功。
 それに比例して俺の頭の上もどんどん重くなったのだが、さすがに拙いと思ったのだろう。シグ
ナムたちが蒐集のペースを落としてくれた。正直な話とても助かった。
 で。

「懐かれたんですが」

 お約束というか何というか、最初の3匹が一向に離れようとしないので困る。
 そろそろ首とか結構やばいかも。2匹両肩に移動したんだけど、そっちもかなり凝ってきた。

「連れて帰りたいなあ。でも、蒐集してるってはやてにバレるかもしれないし」
「その割には、さっき名前をつけてなかったか」
「上からはぐりん、スタスタ、ゆうぼう。原作でつけたのと同じにした」
「あのゲームで3匹も仲間にするとか……ああ、ひとしこのみか」
「ん。2匹くらいなら根性でいけるんだけどね」

 裏技おいしいです。最近は新しいゲーム機に移植されたらしいし、また遊びたいなーと思ったり。

「オリーシュ、メタルモンスターに粘着されるの巻。このままだと触手凌辱とかされる、やも」
「……想像したら吐きそうになった。こっち来んな」
「でも、本当にどうしましょう。離れる様子もありませんし……」
「このまま身体にくっつけて隠して、はぐれメタルの鎧と兜と盾になってもらうとか」
「それDQ4だろ。ってか、防御力がすごいことになる件」

 3匹だったら何とか……なる、か?
 とか思っていたら頭から肩から、するりするりとはぐりんたちが降りてきた。
 賢い子だなあ、どうやら空気読んでくれたみたい。名残惜しそうにこっち見てるけど。

「……明日もここで蒐集の手伝いしちゃ、ダメかな」
「ああ、構わん。また弁当でも持ってきてやろうか」
「マジで! やった!」
「蒐集終わったら、はやて連れてこようぜ。ピエール好きだったから喜ぶと思う」
「はぐりんたち用に余分のおにぎり作って、豚肉と鮭も焼こう! 3匹分!」
「……聞いてねーし。ま、いっか」

 何かやったら微笑ましい目で見られた気がするけど、嬉しくて特に気になりませんでした。







「あ、艦長。管理外世界で休暇中の友人から、気になる情報が上がってるんですけど……」
「あら? えっと……特定の魔法生物の……リンカーコアに異変? んー」
「どうしましょっか? 調査してみます?」
「そうね……裁判も終わったし、あの子たちに行ってもらいましょうか。親睦会も兼ねて!」



(続く)

############

(誰も気にしてないかもしれない)オリーシュのステータス


オリーシュ  LV. 1       HP     15 
E ひのきのぼう         MP      0
E はぐれメタルよろい こうげき力     9
E はぐれメタルヘルム しゅび力   207
E はぐれメタルのたて すばやさ     8
E くろかめん       うんのよさ  777 (成長限界:255)


レベルは上がってないけど防御力上昇。既に覚醒してるのは気のせいでしょうか。
でもってこのSSって、いつの間にハイパードラクエタイムになったんでしょうか。



[4820] その57(前編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/18 15:40
 翌日、朝。再びはぐりんたちのもとを訪れると、すんごい俊敏な動きで嬉しそうに寄ってきた。

「おー、おー。飛んできた。ちゃんと覚えてるし。ああ、可愛いなあ。これで重くさえなければ」
「ちゃんと頭と胴体と腕にひっついてるな」
「防御力がすごいことになってそうです」

 シャマル先生がそう言ったように、はぐりんたちはちゃあんと定位置についていた。頭の上がは
ぐりんで肩から腰がスタスタ、腕のがゆうぼう。結構な筋力が付きそうな素敵な重さです。

「重ひ」
「……ここで待ってた方がいいのではないか? 何かあれば連続べギラゴンで追い払えるだろう」

 子供の身には結構な重量なので悶絶していると、シグナムから魅力的な提案が。
 ちなみに、蒐集の面子は昨日と同じ。
 はやてクッキングの餌食になるザッフィー大丈夫かなと思ってたけど、良く考えると彼の場合は
ドッグフードという逃げ道がありました。それでどうにかなったので、今日も留守番で平気だとの
こと。ごめんね。

「闇の書、あとどんくらいだっけ」
「残り半分を切った。ともすれば、今日で終わるな」
「うーん……重いのでやっぱ待ってる。ごめん」
「わかりました。キングスライム出たら、写真取っておきますから。安心してください」
「ホイミンに会ったら蒐集よろしく。はやてがベホマズン使えるようになるかも知れないので」
「全員全回復とかチートだろ……」

 ということで、ただ今はぐりんたちと戯れながら待機中。ブルーシートとか敷いて、お弁当置い
て待ってます。
 スタスタあたりが興味津津といった様子で見るので、余分に作ってきたぶんをちょっとつまみ食
いさせてるけど。作りすぎたみたいで、シグナムたちが食べてもかなり余るなぁ。

「そういえば、高校時代はずっと早弁してたっけ」

 中身全部チャーハンだったけど。横から見られて引かれてたなぁ。とかそんなどーでもいいこと
を思い出しながら、ゆで卵を箸でつまんであげたり、やたらメタリックな枕と一緒にお昼寝したり。
非常にまったりしてて平和です。

「あの……」
「んー……。ん?」

 とろとろと気持ちよく眠っていて、どのくらい時間がたっただろう。
 頭上で声がした。眠い眼を開くと、黒い仮面越しに誰かが覗き込んでるのが見える。

「……おはようございました!」
「お、おはようございます」
「おやすみなさい!」
「おやす……えっ、ええっ!?」

 現地で見かけない金髪の子供だったけど、まあいいや眠いので寝るぐおー。

「寝ないでくださいっ! そ、その、えと、お聞きしたいことがあるんですっ」
「はあ……はぁぁ。おはようございました」
「あ……おはようございます」
「おやすみなさい!」
「おや……おっ、起きてくださいっ、起きて、お願いっ」

 半泣きになって訴えられたので、仕方ないから起きてあげよう。
 ……何だか、シャマル先生と似た匂いがするなぁ。気のせいかな。

「こんにちは、今日はいい天気ですね。お弁当食べますか? それともはぐりん触りますか?」
「あ、えと……その子、たしか……」
「ん?」
「あっ、いえ! その、可愛いですねっ」

 金髪の子は何かを隠すようにあたふたした。気になるところだけどまあいいか。
 とか思ってると、その子の後ろから黒い髪の男の子が。お連れさんかな。

「こんにちは。少し、お話を聞いてもよろしいでしょうか」
「お面付けたまま失礼。いいですけど、折角なのでお茶でもどうぞ。そっちの子も」
「あ、すみません。申し訳ないです」
「い……いただきます」

 そのままだったらカオスな空間になってたことだろうが、黒い子の登場で場がようやく終息した。
金の子のほうは何か警戒してるみたいだけど。
 とりあえず、水筒に入れてきたあったかいコーヒーと、余分に作ってきたお茶菓子(ヴィータが
せがんだプリン。もちろんホームメイドのンまァーいの)を皆で食す。仮面は下半分が外せる自作品
なので、とりあえず上半分はつけたままにしてもぐもぐと。
 はぐりんたちも最初は警戒してたけど、おいしいお菓子をあげるとすぐニコニコして食べ始めた。
かわいいなぁ。

「おいしいです、こっちのプリンも……差支えなければ、ひとつ頂いても……」
「あ、どうぞ。お土産ですか?」
「はい。母が……砂糖が主食で。たまに補給しないと、禁断症状が」
「うちにも、ソースが主食の子が一人います。冗談だったけど、最近は冗談じゃなく……あれ?」

 ん?

「……失礼ですが、どこかで……会ったことが?」
「そんな気もする。けど……そんなことない、気もする」

 黒い男の子と二人首をひねるけど、どうにも思い出せなくて諦める。

「まぁいいや。思い出せないものは仕方ない。気のせい程度の知人ということで」
「はは……その子たち、種族は?」
「はぐれメタル。物理防御、魔法防御、回避と魔力がパーフェクトなモンスター。魔法も使う」
「魔法……」
「火炎とか、爆発とか。地獄の雷もできるかも。まだちょっとレベル足りないけど」

 さすがにジゴスパークとかマダンテはなぁ。今の段階で使えたらそれはその、あれだ、怖い。

「お二人はどうしてこちらに? 旅行?」
「あ、それは……」
「……まぁ、似たようなものです。仲間が後から来るんですけど、それまで時間があって」
「ですか。俺も割と同じような、同じでないような……あ、いれます。そっちの子も」
「あ、と。すみません、お願いします」
「……お願いします」

 コーヒーを注ぎ直し、皆で飲む。女の子の方はちょっと苦い顔をしてたので、今度はお砂糖を入
れてあげた。

「……二人とも、どっかで見たような気が……うーん」
「え? わ、私も……ですか?」
「まぁいいや、気のせい気のせい。お仲間さんはいつここに? お弁当余ってるけど」
「あ、いえ、そこまでしてもらうわけには」
「まぁまぁ気にせず。余分に作りすぎたけど、こいつらだと食いきれないので」

 自家製プリンがおいしい、気持のよいお昼時。
 何かを忘れてる気がする、うららかなお昼時。



(続く)

############

ストックが余ってたので投稿。
後編に続く。なんだこれ。




修正。
お面かぶったままだとコーヒーぶっかけでした。笑えばいいと思うよ。


2009/02/18 15:38
F5か何かで上げてしまいました。ごめんなさい。本当にごめんなさい。



[4820] その57(中編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/18 20:34
 もうちょいでお昼なのに、シグナムたちが帰ってこないのでどうにも動けない。

「お腹すいたので、先に食べちゃおう。お二人もお弁当どぞ」
「っと、済まない。いただきます」
「い……いただきます」

 結構限界が近かったので、帰ってくる前だけどお昼ごはんを食べることにした。
 シャマル先制作のおいしいお弁当だ。お客さん2名の分も差し出して、生姜焼きかじったりおひ
たし食べたり。

「で、なんだっけ。この地域で暴れまわってるのがいて……生き物に被害?」
「はい。何か、妙な話を聞いていたら」
「妙な奴ならここに一人ほど居ますが」
「いや、それはもう明白なのでいいです」

 黒い子にあっけなく切り返されて、ちょっと寂しいような気がしなくもないです。

「んー、特にはなぁ……俺たちもちょっと追っかけ回してるけど、元気になるまでは面倒みてるし」
「ああ。それで懐かれてるのか」
「世話してたら頭やらに乗ってきて。ちょうどあんな感じに」
「あっ……ちょ、こっ、こらっ! ひゃっ」

 横を見てみると、髪の毛やら頭やらがはぐメタ塗れになってる女の子の姿が。
 はぐりんたちの警戒が解けたはいいものの、何か興味を覚えてしまったらしい。金髪が銀髪にな
ってたり、頭の上を占領されたり、服の下で動かれたりして大変そう。てか重そうだけど大丈夫か。

「おっ、重!」
「子供やってる間にちょっとした筋力が付きそうな、素敵な重量だったりします」

 大丈夫ではなさそうなので、パンパンと手を叩く。するすると降りて来て、お弁当の残りを食べ
始めた。

「すみませんです。うちの子が」
「あ……えと、ありがとう」
「出会って日が浅いのに、よく躾られている……鳥獣使役? いや……」
「ん?」
「あ、いや、すまない。独り言を」

 とまれ、楽しい楽しい昼食会は続く。はぐりんたちにちっちゃな火を出してもらって、ちょっと
した芸の発表会してみたり。この世界についていろいろと、情報交換してみたり。

「魔物が落とした珍しいアイテム持ってったら、道具屋のおっちゃんがお金をくれたもので」
「それで、いろいろと買ってみたのか。これが薬草、どくけし草……これは?」
「それ、すばやさの種。はぐりんたちが持ってた。炒って塩ふって皆で食べる。きっと美味い」
「……」
「道具屋のおっちゃんがジョークでくれたガーターベルトに興味津津の九歳児であった」
「……うええっ!? こっ、これはっ、こっちじゃなくて、そっちのビンの中身見ててっ!」
「将来が心配だ。昨今の性の乱れは深刻であるらしい」
「だっ、だからっ、そっちじゃなくてっ! ちっ、違うんですってば!」

 女の子はわたわたと手を振って弁解する。この子、リアクションおもしれー。ツンデレアリサと
はまた別方向の面白さ。
 と、そのうちお弁当を食べ終えたので、残ったコーヒーを皆で飲む。仲間のぶんがなくなるので
はと男の子は言ったが、予備の水筒にいっぱい入れてきたので問題なし。
 ごちそう様でした、すごい美味しかった、と口々に言うので、常時ポケットに忍ばせているレコ
ーダーでこっそり録音しておいた。八神家以外に食べてもらうのは初めてなので、シャマル先生が
聞いたらきっと飛び上がって喜ぶと思う。

「十四歳! はー。俺まだ九なのに」
「……とてもそうは見えないな」
「よく言われる。で、そっちの子が同い年……仲間もみんな同学年か。大変でしょう、お兄さん役」
「まったくだ。無茶が好きな子供ばかりで困る」
「いるよね。無鉄砲な子供って」
「ああ、いるな。無鉄砲な子供」
「あう……ご、ごめん、クロノ」

 何か、黒い髪の子(年上ってわかったけど、あちら側もあんまり気にしてないみたい)とちょっ
と意気投合した感じ。あったかいコーヒーを飲みながら、そんな風に話して笑い合った。横で肴に
された女の子は恥ずかしそうにしてたけど。
 とか思っていたのだが、今の台詞の中に、妙な単語が混じってたのに気付く。

「んー……ん? クロノ?」
「あ……済まない。名乗っていなかった。クロノ・ハラオウンだ」
「……えっと。オリーシュ・ヴィ・ブリタニアです」

 言いながら、考える。クロノって……あのクロノ君?

「……そっちの子は?」
「フェイト。フェイト・テスタロッサ、です」

 フェイト……ああ!
 脱ぎ魔じゃん! 魔法先生ヌギま!

「……じゃあ、後から来る子って。ひょっとして」

 あんまりにも虫が知らせまくるので、恐る恐る聞いてみる。
 果たして、答えは必要では無かった。俺の背後から、とある女の子の声がしたのである。

「クロノくーん、フェイトちゃーん! 遅れてごめーん!」







 /(^o^)\



(続く)

############

後編に続くといったような気もしますが、もう一回かかっちった。てへ。
後編に続く。てへ。



[4820] その57(後編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/20 04:00
 所変わって、某町のすごろく場。

「3! 3出ろ! 3なら上がり……ああぁぁ! 4かよッ!」

 そこには、モンスターからせしめたすごろく券で遊びまくるヴィータの姿が!

「あああああもう! 銀のロザリオまであと一歩だったのに!」
「あの、ヴィータちゃん? そろそろ戻った方が……」
「そろそろ昼食だぞ。あいつも待っているだろう」
「いやだっ! あれは絶対取る! はやてにプレゼントするんだっ!」

 もう一回! と入り口にもどるヴィータだった。先延ばしになる昼食に、はぁと溜め息を吐く二
人だった。





 という守護騎士の現状も知らず、ただ今俺の状況えらいこっちゃ。えらいこっちゃ。

「なのはっ。アルフも、ユーノもっ」
「はぁ、はぁっ……ご、ごめんね。学校終わるの遅くって」
「……フェイト、誰そいつ? 変なカッコだな」
「あ、うん。この人、オリ……」
「おっ、おおお、おっお、オリ・ガミスキーと申しまして候!」
「ん? 先ほどは……」
「ほほ本当の名はお二人に教えてあるのですが、名を教えるのは日に二人までという掟があり!」
「……具体的な掟だな」
「でっでででもホント紙折るのうまいよ! そこのはぐりんの王冠も自作だしほらそのあの」
「え? ……は、はぐれメタル! もしかしてもしかして、ここって、ええっ!?」

 やばいやばいやばい。仮面でまだなのはに顔はバレてないけど! バレてないけど! 残りの四
人が不審物発見の表情で俺を見る!

「ととと取りあえず、プリンどぞ。いやー助かった、こいつらだけじゃ食いきれなかったし!」
「は、はい。どうも」
「あ、これ、美味い! 美味いよ、フェイトっ」
「……ホントだ、すごくおいしいっ。お母さんのとは、また違った感じで……」

 よく見たらこれってフルメンバーだし。クロノにオハナシに脱衣にわんこ。巷で淫獣呼ばわりさ
れてる不運な子もいるぞ!
 ヴォルケン戻って来たら逃げ切れないじゃんか! どう考えても頭数が足らん!

「……あのー……」
「ななな何でしょう」
「すみません、その……どこかで会ったこととか、ありませんか?」
「なのはも……? 僕もそうなんだが」
「ふぇ、クロノ君も?」

 誰か男の人呼んでぇぇぇぇ!! と叫びたい気分だが致し方なし。ヴォルケン戻ってこなさそう
だしどうしようもない。念話が使えるならまだ違ったんだろうけど!
 ここは何とかやり過ごして、最悪でもはち合わせだけは防がないといかん。オリーシュがオリ主
でなくオリーシュたる所以が一、その話術! その一端を今ここで見せつけ……

「ここで隠しデザート、プリン・アラモードの登場ッ! こいつを食うことは至福を意味するッ!」
「……なんだか、どこかで聞いた話し方なんだけど……うーん」

 てはいけなかった。いきなり墓穴掘った。

「とにかく! ユーノにアルフになのは? 仲よさそうだなぁ! 勇者パーティーですか?」
「えっ、やっぱり……勇者、いるんですか! 魔王とかも!」
「うん。ちっこいのなら今ここにも。天地魔闘の構え使えるのが」
「……?」

 だから。そうじゃなくて。

「違くて! 魔王は知らんけど、モンスターはいっぱい。こいつらもそうですが」
「って、本当にはぐれメタルだ……すごいなぁ。この子たち、仲間なんですか?」
「最近懐かれましてどうも。ああこら、そこ。また纏わりついてるし」
「ひゃっ! だっ、だからっ、どうして私にだけっ」
「ふぇ、フェイトちゃん! 大丈夫!?」
「こ、こら! こいつら、フェイトに何してんだッ!」
「遊んでるつもりみたい。でも良い子の目の毒ですので、そろそろ下がって。ね」

 またうねうねぺたぺた絡まれていたので、とりあえず止めさせる。
 2匹で足首手首固定してるとことか転生前なら垂涎ものだったんだろうけど、今のオリーシュは
肉体の若返りとともに常時ハイパー賢者タイム発動中。この程度はどってことなし。





 しかしまぁ、魔法少女ヌギま! がはぐメタ塗れになってくれたおかげで、何とか話題を変える
ことに成功。

「アルフ……だっけ? これ食べる?」
「おおっ、それ……クッキーみたいだけど。いいの?」
「うん。ちょっと食べてみて。感想聞きたい」
「ん……ん! おいしい! おいしいよっ、焼き加減もいい感じ!」
(シャマル先生製のアヤシイやつだったんだけど。大丈夫だったのか)

 そんな感じにアルフを実験台にして、食べても大丈夫と証明されたものを皆にもお薦めしていく。
 話して食べて飲んで、時折クロノにはぐメタについて質問されたり。

「これ……珍しい靴ですね。触っても?」
「あ、うん。ちょっと貴重なので。はぐりんたちがくれたんだけど、しあわせの靴って言うみたい」
「しあわせの……はいてたら、何かいいことがあったりするのかな?」
「わからない。とりあえずはいてみて悪いことがあったら、ふしあわせの靴と改名する予定」
「……呪いの装備みたいですね」
「呪いだろうが毒だろうが解除してくれるここらへんの教会すごいです」

 ユーノはどうやら、そこいらに置いてあるアイテムに興味津津の様子だった。
 確か考古学の人だったっけ。そういえば第三期でもなんか、マイク持って喋ってたような。色々
聞いてくるので、知ってる範囲で答えてあげた。初めて見るアイテムだったらしく、ふんふんとし
きりに頷いていた。
 そんな風にしていると、時間の経つのは早いもので。
 すごろく場とかがあるという話をしてあげると、ちょっと町の方にでも行ってみようという流れ
になった。これはフラグ回避来たかもわからんね。

「ごちそうさまでした……でも、よかったんですか? 僕たちだけ食べて……」
「いや特には。こっちの連れも帰ってきてないので、ちょうど話し相手によかった感じ」
「あ……そうだ。ここで少し待ってもらえれば、何かお返しのものを持ってくるが」

 クロノはそんな風に申し入れてきたが、いやいやそこはと丁重に辞退しておいた。ヴォルケンが
戻ってくるタイミングとかち合ってしまえば、それこそはいお終い、である。

「急いだ方がいいかも。すごろく場終わるの早いから」
「うぅ……スライムに遊ばれた記憶しかないよぅ……」
「その……フェイト、大丈夫だったかい?」

 フェイトはしょんぼりしてるけど。ともあれこれで一件落着っぽい。
 何か片付けとか、出立の支度とかしてるし! これはもう危機回避とみていいだろう、うん!

「じゃあ……お互い気のせいの知人に会えたのに、名残惜しくはあるが」
「や、ホントに、どこで会ったのやら。縁があったら、いずれまた」

 本当にどこかで会った気がするので、クロノとはそんな感じに会話。
 実際、何処で会ったんだろうかね。海鳴近辺に住んでるわけでもないし、こっちはこっちで全く
記憶にないし。
 とにかくそんな感じで、お別れの挨拶。一緒に来ないかという申し出も連れがいるからと断って、
完全にもうさようならの雰囲気。
 やった! やったぞ! これで勝った! ヴォルケン帰還と同時に、速攻で家帰って今日はもう
蒐集おしまい! 第三部完!
 と俺は思った。
 思ったんだよ。
 思ったんだけどね。



 油断しちゃって。



「本当にごちそうさま、楽しかったですっ! 今度来たら、うちのお菓子も持ってくるねっ!」
「カスタードは食べ飽きた! 今度はシューアイスがいいかもって桃子さんに言っといて!」
「うん、わかった! じゃあまた……ん?」

 やっちゃったわけですよ。

「あの……ちょっとこのお面、失礼します……」

 ってなるわけで。





「(´・ω・`)やぁ」
「あ、あれ? ……ええっ? ええええっ!?」
「なのは? 知りあいなの?」
「だだだだってだってそのあのえっと!」
「ようこそバーボンハウスへ。このコーヒーはサービスだから、まず飲んで頭冷やそうか」
「冷えないよっ!」

 ですよね。



(続く)



[4820] その58
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/21 20:16
 大魔王からは逃げられなかった……!
 というわけでなのはに正体がバレてしまい、急きょ敵本拠地(アースラ)に連れて行かれて事情
を聞かれている次第。折角の親睦会だったらしいのに、何か悪いことしちゃったかも。
 数多のデバイス持ちオリ主がその実力を披露した船なんだろうにゃーと思いながら、執務官とか
何とかっていう役職のクロノと話す。

「はぁ。つまり、変な鏡のようなものを通ったら、次の瞬間にはあの世界に?」
「そう。そうそう。そんな感じ」
「……」
「本当、本当! そんな感じだよ! ほんとだよ!」

 何かいかにも訝しそうな視線で見られてどうしよう。そりゃ怪しさ満開なのは否定しませんが!

「ねぇ、どうして最初から名前言わなかったの? すぐ帰れたかもしれないのに」

 と聞いてきたのは、そんな様子を横で見ていたなのはである。こちらは心底心配そうな目を向け
てくるので、だましだまし喋っていることにちょっと罪悪感。

「こっちに知り合いができたし、何か楽しかったし。もうちょっと遊びたかったもので」
「気持ちはわかるけど……でも、心配してるよ、はやtもあっ!」

 出てくるとマズい名前が出てきそうなので、口にゆうぼうとスタスタを貼り付けて黙らせる。

「んー! むー、んむーっ!」
「怪奇、妖怪メタルマスク。鼻から下がメタリックだ! ちょっとかっこいいかも!」
「んんん――っ!!」

 カッコいいのは構わないが、結構重そうだし鼻まで塞がれそうだ。引っぺがす。

「なのはにははぐメタ装備は早かったか」
「装備じゃなくて! そのまま貼り付けただよっ、これ!」
「でも俺の場合実際に防御力が上がったし」
「うそっ、本当? ……レイジングハート、ちょっとジャケットにつけてみよっか」
「つけるなら、肩当てとかだとかっこよく……あれ、クロノ。どうしたの」
「……何だかもうどうでもよくなってきた」

 会話を聞いていたクロノはなんか非常に脱力した感じ。具体的にはもうどうにでもなーれという
雰囲気。

「という訳で。ここにいる皆全員魔法使い?」
「そうだよっ……て、そんなに驚かないんだね」
「はぐりんの火炎とか見たし、それ程は。便利だにゃーってくらいかね」

 本当は原作見て知ってたからだけど、そういうことにしておこう。

「ていうか、その子たち……ついて来ちゃったんだ」
「服にくっついてはがれなかったので。返した方がよかったかね」
「そちらの方が良いと思うが、はがそうとすると空気がパチパチ鳴るからどうしようもあるまい」
「……鳴ってた?」
「ああ。プラズマのような音だった」

 ジゴスパークの片鱗が見えたけど気のせいだと信じよう。

「とにかく! なのはの知り合いということだ。責任を持って現地に送り届けることを約束する」
「ありがとう。とりあえず艦内では大人しく、なのはで遊ぶことにする」
「わっ、わたし、おもちゃじゃないよっ!」
「そうか。じゃあ、フェイトで遊ぶことにする。はぐメタ的な意味で……あ、逃げてる逃げてる」

 金髪の子を探そうと辺りを見回すも、既にはぐりんたちに追いかけられてるし。

「どうしてあんなに懐いてるんだろう……」
「『なんだか遊びやすそう』というスタスタからのお言葉が」
「えっ、言いたいこと分かるの!?」
「だいたいは。雰囲気とかから」
「ふっ、二人とも! 話してないで助けてっ!」

 半泣きになって椅子の上に避難するフェイトさんでした。椅子の足にはぐりんたちがうねうね近
づいてて、ホラー映画の一幕みたいだけど実際はそんなことねーです。





 何とか無事に銀のロザリオを手に入れたヴィータ。
 ほくほく顔でようやく集合場所に戻ってみると、そこに残っていたのは三人分のお弁当、そして
紙切れ一枚であった。周囲に人の気配はどこにもなく、食事用に広げられたシートが風にこすれる
ばかりである。
 少年は何処に消えた。米でも炒めて盛大に投げつける機でも窺っているのだろうか。
 と、最初は楽観視していた守護騎士たちであるが、次第に様子がおかしいことに気付く。余分に
作った弁当の全てが消え失せているのである。少年一人に連れ三匹を計算に入れたとしても、到底
食しきることができるような量では無かった。
 物取りの被害にでも遭ったか。
 少年の身に何らかの災禍が降りかかったのかと、騎士たちは刹那蒼白になった。しかし、その想
像にはいくつかの疑問がある。少年と共に居た魔物には、最初は熟練の騎士たちでさえ苦戦した。
それが三匹も護衛についていた上、物取りならわざわざ人数分の弁当が残されているのは不自然で
ある。
 と、そこでシグナムは初めて、残された紙を手に取った。裏側には色々と多くの書き込みがされ
ており、表面にはわずか五文字が並んでいる紙であった。
 情報の量としては普通、比べるまでもないことであろう。しかし騎士たちは皆、表面の文字に目
を釘づけにされた。守護の騎士たちにとってその一言は、裏に書かれた手紙よりもある意味衝撃的
であったのである。
 紙には、次のように書かれていた。





 プリン 抜き





 騎士たちは絶望した。



(続く)



[4820] その59
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:b9a8cd2c
Date: 2009/02/24 12:52
 アースラに来て事情説明が完了して、親睦会の続きとばかりに食堂でまったりすること暫し。砂
糖が主食と評判の艦長やオペレーター、クロノたちに案内された食堂のコックさんとかと話してい
るうち、なんかおかしいことに気付いた。
 脱ぎ魔が脱いでない。
 親睦会続行中の皆さんと一緒にお茶やお茶菓子囲みながら、ふと疑問に思って考える。常に脱ぎ
たがるんじゃなかったっけ? それとも脱ぐのは戦闘中だけだったっけか。
 多分そうだな。というか9歳やそこらで脱衣癖持ちって将来えらいことに。とか考えているとい
つの間にやら、そのフェイトと視線がはたと合ってしまった。

「……な、何?」

 いつ脱ぐの?
 と問う訳にも行かないので、咄嗟に別のことに話題をそらす。

「本当、すみません。うちの子が」
「……いえ……」

 フェイトは諦めたように返事をした。
 その頭の上にははぐりんが帽子みたいにちょこんと鎮座していたりして。こっちの頭にもゆうぼ
うが乗ってるのでお揃い状態。

「フェイト、大丈夫? それ、重くない?」
「大丈夫だよ、アルフ……あ、やっぱりちょっと重いかも」
「悪い子じゃないので。遊んであげたりしてください」
「いいなー、いいないいなー。ねぇ、おいで。こっちおいでっ」

 目をキラキラさせて言うのはなのは。よく知ってるキャラクターだけあって、何かすっごい楽し
そうだ。

「なのはがスタスタを呼び寄せて食おうとする。何という雑食、魔法使いこえー」
「しないってば! ……あぁ、逃げちゃった……」

 スタスタが向かいのユーノのところに逃げてしまい、非常にしょんぼりな感じになったなのはさ
ん。
 仕方がないので自分の頭の上からゆうぼうを下ろし、クッキーの袋を渡して餌付けを任せてあげ
た。ニコニコしながらあーんしてるし。嬉しそうだなあ。

「実際は魔法使いの天敵ですがな」
「あ、魔法効かないんだったよね。確か」
「本当か? ……後で調査に協力してもらっても?」
「うん。叩かれると厳しいけど、それより早く連続イオナズンぶっ放す。逃げ足速いし」

 勝てないんじゃね実際。そんなことないよっ……えと、多分。とかいう会話。ヴォルケンも三人
がかり+後方指揮で戦ってたくらいだし。

「てか、魔法ってどんな感じ? 転送は分かったけど。ギガデインみたいな?」
「えと……それはフェイトちゃん。私は、その…………ほ……」
「ほ?」
「ほ……ほ、砲撃とか! かめはめ波みたいなのっ!」
「……」
「そ、そんな目で見ないで! 最近は誘導弾とかだって練習してるんだからぁ!」

 必死な様相で否定するなのはだった。そりゃあビーム撃つのは知ってるし、練習してるのも知っ
てるけど。
 魔法少女が砲撃はやっぱり。ねぇ。

「仲、いいんだね」

 と言うのは横で聞いてたフェイト。ちょっと羨ましそうと言うか何と言うか。

「玩具二号です。ちなみに、一号はうちの家主」
「お……おもちゃって、おもちゃって! そんなのになった覚え無いし!」
「このお菓子美味いね。どこの?」
「あ、それ。スクラ……故郷で取れる木の実なんだ。厨房に持っていったら、味付けしてくれて」
「むむむ無視しないでよっ! ユーノ君も乗っちゃダメ!」

 ぶんぶん腕振ってるなのはおもすれー。

「……」
「『こんななのはは初めて』という表情でフェイトが俺を見る」
「あ、はい、あの……その」
「なのはのイメージが崩れた、とな。面白し。このままあること無いこと吹き込んで誤解さs」

 言い切る前に顔真っ赤のなのはに頬っぺた引っ張られて痛い。

「ところで、この後どうする? ずっと船内座談会?」
「ああ……そうだな。少ししたら、場所を変えるか」
「別の次元世界に行くなら、なのは部屋に押し掛ければ良くね。シューアイス食いてえ」

 とか話してみるのでした。脱衣魔のアーマーパージ、楽しみなんだけどまだかね。やっぱ模擬戦
させないと見れないかね。



(続く)



[4820] その60
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:e607fa0a
Date: 2009/02/25 14:29
 何か遊ぶもの欲しいよね。じゃあゲーム持ってこようか。という訳で、勝手知ったるなのは部屋
からゲームを持ち出す運びになった。
 それはいいのだが、そういやヴォルケンがほったらかしなことに気付いた。無事と分かる書き置
きは残してきたけど、なんだかなぁ。ちゃんと家に帰ってるかなぁ。

「そんな訳でして」
「省略乙」

 とは電話口のはやての言葉。なのはの転送に着いていって、高町家で借りて使ってます。

「事情聞いたと思うけど。ごめんねピクニック連れてかなくて」

 ヴォルケンにはそういう風に伝えるよう書き置きを残しておいた。つまり、



ピクニック→管理局の人がこっち来る!→俺が時間稼いでやるっぜ!



で逃げおおせたという説明。
 どうやらきちんと伝わっていたみたい。ヴォルケンも帰ったそうだし、とりあえず安心か。

「むー。私も行きたかった」
「そこはその。いっぱいプリン置いてったのに免じて」
「おっぱいプリン?」
「おっぱいプリン」
「おっぱいプリン! おっぱいプリン!」

 はやての壊れっぷりが最近すげぇ。

「ま、えーわ。次は必ず連れてくこと! あといろいろ奉仕すること!」
「性的な意味でか! あな恐ろしや、はやてが俺を性奴隷に!」
「願い下げな件」
「願い下げですか? 肉奴隷要りませんか?」
「要りません」

 そして切り返しも相変わらず。

「てか、プリンどうした? ザッフィーと二人で食べても余るかもだけど」
「ん? 食べとるよ。ゆっくり味わっとるから、結構食べれる。安心しー」
「ンまい?」
「ん! 美味しいよー。なんかこう、幸せな気分!」

 とか言いつつ、アースラで原作キャラとの親睦会続行のお許しをいただけました。良かった良かった。

「ちょっくらオリ主らしくハーレム狙ってくる」
「オリーシュの分際で何を。そういう台詞は私を骨抜きにしてからやな」
「物理的な意味で?」
「こわっ! 骨抜きこわっ!」

 そんな軽口。







「あれ。リンディさんが神隠し」
「仕事が入った。僕も少ししたら抜ける」
「主食の砂糖でも補給してんじゃね? 山盛りシュークリームとかで」
「……最近、母の健康がさすがに心配になってきたんだ」

 アースラに戻り、クロノとはそんな会話。壁に寄っ掛かって本読んでたけど、母親の危機にちょ
っと鬱入ってる気が。
 はぐりんたちに人気のフェイトには、ユーノと一緒にゲーム機コントローラ講習がはじまった。
 アルフは美味そうに翠屋のお菓子食ってた。はぐりんたちも餌付けされてるし。

「どうする? ぷよぷよしよっか」
「勝負にならない気がする」
「なら、ハンデ! 手で操作するの禁止!」
「どうしろと言うのか」
「ほら、こう。足で、こんなふうに」

 なのはが俺を曲芸士にクラスチェンジさせようとするのだがどうしよう。
 しかしまぁ、フェイト相手にぷよぷよやってみると、意外といい勝負だったりしました。慣れて
くると連勝もできたり。

「物理的縛りプレイもなかなか楽しい件」
「……よく操作できるね。すごいや」

 ユーノがしみじみ言う横で、頑張って階段組んでます。

「フェイトちゃんそこ、そこ緑! 緑で3連鎖だよっ!」
「え、えっと、えっと、か、回転……あぁっ、逆だったっ」
「フェイト、楽しそうだなー。次、わたしもやっていい?」
「てか、こんだけ人数いるならスマブラチーム戦しね? クロノもほら」
「ん? ああ、そうだな。やり方を教えてくれ」

 初心者も上級者もみんな一緒に、そんな感じでゲームして親交を深めてました。

「ずっとプリンばっか使ってるとイライラするんですが」
「ハンデだよっ。ネス使っちゃダメ!」

 今日はやけにプリンが絡むなぁ。







「あー、プリン美味しい! おいしーっ!」

 八神家のその頃。
 そこには美味そうにプリンを食うはやてと、指をくわえてるザフィーラ以外の騎士たちの姿が!

「は……はやてちゃんっ……!」
「あ、主、その……」
「…………は、はやて。それ、ちょっと」
「うまうま。おいしいなー。市販のとはやっぱり違うんやな。とろける美味しさやわー!」

 はやてのささやかな仕返しであった。

「……う、うう、うわああああんっ!!」

 ヴィータは にげだした!



(続く)

############

プリン無双。
舌がおかしい筈のはやてがうまうま言ってた件は次回。



フェイト脱がないね。何でだろうね。



[4820] その61
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/02/26 22:50
「はやてがプリンをうまうま言いながら食べてたそうで」

 帰宅してからヴォルケンに問うてみるが、ザフィーラ以外はなんか恨めしそうな表情。プリンの
恨みこえー。

「……食いたかったのに」
「まあまあ。また作るから。生クリームのせた美味いやつ」

 特に拗ねまくりなヴィータをなんとか諌めて、話を続ける。
 どうやら昼、はやてがぱくぱくプリン食べてたらしい。舌がおかしいのに何でかね。

「甘いものは別……とかでしょうか」
「蒐集の効果かもしれんな。微妙な気分だが、お前の言った通りになったか」
「そういやプリンのお礼にはやて製のチョコもらったけど、普通に結構うまかった」
「昨日今日で、蒐集の残りは200ページを切ったしな。とりあえず、明日は休みか」

 なので一仕事した達成感とともに、皆でこたつでぐてーっとする。
 何だかんだで昨日は走り回ったし、今日は今日でどたばたしてたし非常に疲れました。

「ほら、ほら。みかんあるよー。あーん、あーん」

 でもって何だかんだではぐりんたちは着いてきてて、今ちょうどはやてがみかんあげてます。

「で。飼っていいの? 散歩とか俺がするし。勝手に着いてくるだけだけど」
「こんな可愛いペットなら大歓迎! ドラクエ世界ってあるんやなー。私も行ってみたい!」
「何か足の具合良さそうだし。もうそろそろ行けるんじゃね?」
「カジノのポーカーとか、すごろくとかやりたいなー……あ、ヴィータ。これ、ありがとな!」

 はやての手の中には銀のロザリオが。何かヴィータがすごろくで取ってきたらしい。待ち合わせ
場所に戻ってこなかったのはそのせいだとかなんだとか。

「さっきはごめんなー。でも、私も皆と外に行きたかったんよ」
「あ、うん。その……ごめん、はやて……」
「正直すまんかった。闇の書の異常も調べてたので、秘密にしときたかったのです」
「その割にはすごろくやらはぐれメタルやらでお遊び要素満載な件」

 頭の上ではぐりんを遊ばせたはやてが全てを見透かす目でこちらを見る。こわい。

「じゃあ日曜、も一回すごろく行こう。管理局のマークあるけど、そのくらい後なら大丈夫でしょ」
「いや……大丈夫か? 三日後だが」
「収穫無かったから他の世界を調べる的な会話を、調査に協力したはぐりんが聞いてたみたい」
「ホンマ!? なら、またお弁当作って! 私も食べてみたい!」

 そんな感じ。まあ、一応穏便に済んだみたいで。良かった良かった。





「フェイトが脱がなかった?」

 で、今日の親睦会の報告へとうつる。具体的には原作キャラの動向とそれを元にした推察を。
 主な議題は、

・割と大人しい魔王様
・前にクロノと会った気がする
・脱がない脱ぎ魔

の三本立て。
 クロノ関連は気のせいじゃね? ということに落ち着いて、魔王様は補完計画が上手く行ったん
じゃないかって感じでこれまた決着したのだが。最後の一個だけはどうにもわからん。

「脱衣脱衣詐欺……だと……?」
「そんなはずない。だって脱げば脱ぐほど速くなった! ホントに!」
「……本当なのか? その情報」
「うん。シリーズ放映の度にぽんぽん脱いで……た? ……はず。うん。そう。うん」

 最終形態は何だったっけ。露出癖持ちならそりゃーお前全裸だろ。いやいやさすがに全裸は放送
できない。胸と股間に絆創膏が限度やな。という意見交換。

「……19歳の女の子が脱ぐとか。あまり世間様に放送できんような気がするんやけど」
「でも確かにそんな感じだった。2期で脱いでたのは覚えてるので、とりあえず脱衣癖は確実」
「にしても、脱がなかったのかー……戦わないと脱がないのか?」
「かも知れない。模擬戦とかあればよかったんだけど」

 さすがに「模擬戦やってみて」=「フリでいいからケンカしてよ」とは言い出せませんでした。
ゲームしてる間ずっとまったりな雰囲気だったし。さすがに、ね。

「あとはもう、ヴォルケンが一戦交える覚悟でカメラ持って突貫するしか」
「却下。魔王までオプションでついてくるだろ」
「補完されてるよ? 天地魔闘とかきっと使わないよ?」
「かめはめ波は?」
「撃つ」

 じゃーやだ。ですよね。という結論。
 ならしょうがない、またの機会にカメラ持って行ってみる。ということになり、もう八神家会議
はおしまい。夕飯までゆっくりした時間になりました。
 はぐりんたちは今度は、料理当番でないシャマル先生に遊んでもらってます。ねこじゃらしとか
振ると神速で追いかけたり。小魚を上に持って行くとうにーって背伸びしたり。

「でもやっぱ、お前に一番なついてるな」
「後のモンスターマスター・テリーの誕生であった」
「となるとミレーユって……私かも! マルタに行く準備せな!」

 ほしふりの夜の大会が来たら、ダークドレアム3体にこっちがけちょんけちょんにされる予感。

「今日の夕飯は久々のはやて製ですな」
「ドリアにしてみたんやけど……ど、どうしたん、皆。急に真剣な顔して」
「い、いえ、主。楽しみです」
「う、うん。その、久しぶりだから、びっくりした」

 動揺を見せる守護騎士たちだったけど、今日の夕飯は普通に食べられました。やっぱ味覚ちょっ
と直ってたのか。

「でもなんか、ちょっと味違う気がしたな」
「だが問題は解消した。書の文字が虫食いなのは気になるが……いずれにせよ、ゆっくり完成させればいいだろう」
「ゆっくり蒐集していってね!」
「ゆっくりしたいんです!」
「ゆっくりデザートつくってみました!」

 はやてがシグナムと風呂に行っている間に、そんな感じに会議してました。ということで蒐集は
ちょっとお休み。

「ん? 今なんか、猫の首輪の音がしなかったか?」
「あ。そういえば最近、いつもの猫にエサやってない」

 思い出したけど、あいつら餓死してないだろうか。そろそろエサあげに行ってやろうかな。



(続く)

############

脱がしたいはやく脱がしたい。



[4820] その62
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:e757d09e
Date: 2009/02/28 13:42
 姉妹は非常にお腹が減っていた。
 闇の書から出てきたアイツらがやっと蒐集をはじめたのはまだいい。
 だが監視をしている間溜まりに溜まった仕事に忙殺され、監視をお休みしても炭水化物どころか
脂肪もタンパク質もまるっきりだしおさかな食べたいおさかなおさかなおさかなおさかなおさかな
 きゅう。

「はぐはぐはぐはぐはぐ!」
「あむあむあむあむあむ!」
「おー、おぉー。食いっぷりすげぇ。しばらくエサやってなかったし、待ってたのか」

 唯一まともにご飯が食べられた場所へ、最後の希望とばかりにたどり着く。そこへやって来た救
いの手。手にした箱には山盛りの炒飯。
 たかがチャーハンと侮るなかれ、されどチャーハンと心得よ。
 空腹は最高の隠し味。がつがつと食い続ける姉妹はこの時、ただの米がまるで後光でも差してい
るかのように見えたという。前回逃げ出したチャーハンメテオでも、今なら喜んで受け止めそうな
気分である。

「そろそろ煮干しが欲しいよね。3回まわってワンと言え」
「わん!」
「わん!」

 要するにこいつら現在全然頭動いてない。

「ん? ……いいや、ほら煮干し。じゃあ次はニャースっぽく、人語いってみよう。『ぬるぽ』」
「ぬるぽ!」
「ぬるぽ!」
「惜しい、正解は『ガッ』と答えるべし。罰として煮干しはおあずけ」
「やっ、やだっ……やだぁ!」
「おさかな、おさかなたべるっ!」
「……むむ。仕方なし。くれてや……ふぁぁ。それにしてもねむい」

 そして同じく、徹夜直後で頭が回ってない我らが主人公。
 昨日ははやてとラブラブラブラドール、ではなくポケモン通信やりすぎた。何か違和感あるけど
まーいいや眠い、という感じ。つまり半覚醒。

「あー……あ、はぐりん用にリンゴ買ったんだった。食べる?」
「た、たべるっ、たべますっ」
「よし。切ってるからこれ食ってれ。使って余った鮭の切り身」
「はむはむはむはむはむ!」
「あぐあぐあぐあぐあぐ!」

 食糧難でもう頭が回らないぬこ姉妹。久々の餌付けはやたら騒がしいまま、手持ちの食料が尽き
るまで続いたのでした。時間にして30分ほど。





 で、メインディッシュがあらかた終了した後。
 やっと念願の食事にありつけた感じで、食い終わったぬこたちがすんごい幸せそうな顔でおすわ
りしながらこっち見てる。

「何かこいつら、食ってるとき妙な言葉をいろいろ口走ったような……」

 と疑問の視線でみるとものっそい挙動不審になるんだけど、餌付け中の細かい記憶があんま残っ
てないので何とも言えない。芸をさせたことは覚えてるんだが。

「まーいいやね。すまんかった。随分時間空いてしまいましてどうも」

 そう言って、デザートのヨーグルトを振る舞ってあげた。口のまわり真っ白にしてぱくぱく食べ
てるし。かわいいなあ。
 と思っていたのだが、あんまりこうしてはいられないことに気付いた。明後日ははぐりんたちの
故郷でピクニックの予定である。
 はやてとシャマル先生が弁当を考えて(俺が考えると9割がチャーハンになり非常に不評だった)
いるので、こっちは必要な備品を買いそろえにゃならん。前回より大きめのビニールシートとか。

「あー。次回はあれだ。ちょっと出てるから、三日後くらいまで待っててほしい」
「ええっ!?」
「そっ、そんなぁ……」
「すまん。でもその代わり、料理は腕によりをかけて……ん? 何だ今の声」
「にゃっ、にゃあ!」
「に、にゃー、にゃー!」

 何か誤魔化されてる感じがするけれど、何なんだろう。まぁいいか。じゃあまた。と別れる。
 姉妹はぽつねんと残された。





 どうしよう。
 姉妹は考える。
 先ほどまで腹ペコとご飯の興奮で頭が回っていなかったが、今になってようやくまともな思考が
できるようになってきた。危うく正体ばれそうになるところだったが何とかセーフである。
 昨日空腹を堪え、八神家の庭に忍び込んで聞いた話によると、蒐集はしばらくお休みするらしい。
問題は解決した、とひとりが言っていた。
 闇の書を完成させてもらいたい自分たちとしては、非常に困った話である。
 前回は何やら急いで蒐集していたし、どういう訳か人間からの蒐集がなかった。なのでエイミィ
経由で情報をリークし、管理局とはち合わせから蒐集の加速をもくろんだのだが……次回のピクニ
ックとやらで同じことをしても、蒐集を急ぐ様になるとは到底考えにくい。もう面倒だし蒐集は先
延ばし、という雰囲気だった。
 あの騎士たちに平穏を許す気はないし、目的のために手段を選ぶ気もない。
 必要なら八神はやてを人質にとり、闇の書の蒐集を強要するくらいのことはしてやってもいい。
 しかしそうなると、八神家の緊急事態だ。おいしいごはんにありつける唯一のチャンス、つまり
あの少年が会いに来てくれる機会が消えてしまう予感がする。と同時に、自分たちの命も風前の灯
になることは間違いない。餓死フラグ的な意味で。
 しかも次回のごはんは三日後と来たものだ。要するにピクニック時に事件をおこしてしまうと、
それから先エサをもらえる可能性は激減するに違いない。
 ……それだけは困る。
 とりあえず何をするにももう一度、もう一度だけ味わってからにしたい。
 どうするかはそのあと考えよう。行動をおこすにしても起こさないにしても、少なくとももう一
度エサをもらってからにしよう。
 姉妹はそう思ったのである。





「あれ。いつものぬこたちだ」
「……にゃー」
「にゃぁ」
「何で? ……ま、いいか。おやつ多めにあるから、ちょっとあげよう」

 ということでそれから二日後、花見の場所取りよろしくいい場所を探す、ピクニック先遣隊の
主人公とはぐりんたち。その傍らには姉妹の姿もあったのである。



(続く)



[4820] その63
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/03/01 00:56
「つまみ食いこそ弁当の華」

 中学高校ではよく早弁したものである。昼休み前は妙に上手かったのは何故だろう。
 という訳でピクニックの場所はビニールシートを敷いて確保して、早々と弁当の試食会を開催。
持ってきたのははぐりんトリオ用の手作り菓子とかだが、今回はどういう訳かぬこ2匹が混ざって
いたりして。

「前回のこともあったし多目に持ってきたけど、奏功したかな。まずはおやつのプリン食いねぇ」

 容器に顔まで突っ込んで食い散らかす姉妹、はぐりんたち以上の食いっぷりである。顔をあげる
とプリンまみれになっていたが、表情はこの上なく幸せそうだ。
 ここ一週間ほどの姉妹の食生活からすれば無理もない。
 その日を動けるだけのエネルギーを摂取するのに精一杯だったのだ。二日前に補給できはしたが、
昨日は結局食にありつけなかった。
 我慢も限界である。加えて出てきたのは夢に見たお菓子、しかもどうやら自作らしく滅茶苦茶う
まい。もう頭など回らない。まともに回るわけがない。

「うまい?」
「うん、うんっ!」
「おいしっ、おいしいっ」
「おお、喋った。ホンヤクコンニャク……じゃないよなぁ」

 だから今度こそバレたりもする。

「とりあえず、昨日ヴィータに頼まれてトニオ料理真似したんだが。子羊背肉のリンゴソース」
「ひつじ……お、おにく!?」
「ん。腸は飛び出ないけど、ソースが巧くいったので。盛り付けるから、皆おすわり」

 はぐれメタル3匹とぬこ2匹が整列してる様はなかなかシュールでした。
 で、食べさせる暫し。

「お話しようよ☆」

 結構な量を食べさせてから、どういう訳か喋ってたぬこ2匹を問い詰める。
 知らんぷりしてるけどあからさまに挙動不審である。尻尾が不安そうにふらふら揺れてるし。
 ちなみにはぐりんたちはぬこたちに遅れて、まだ今最後の一皿を食べてるところだったりする。
 それだけのハイペースで食い散らかしていったぬこたちである。しかしその間、新しい料理を出
すごとにしゃべりやがるのでもうネタは上がっている。レコーダーに記録も取ったし。

「事情を話せとは言わないが、口くらいは利いてもらいたい。さもないと、小魚はおあずけ」
「そっ、そんなぁっ……」
「ほら喋った。今明らかに喋ったでしょ。こら鳴いて誤魔化すんじゃない。にゃーじゃない」

 暫くぬこたちと押し問答してました。





「こ、このことは……内密にお願いします……」
「おk。秘密にはしておく」

 奮闘の結果、ぬこたちの口を開かせることに成功。ご褒美の焼き鮭が効いたらしい。
 どういうわけか食べ物にありつけず、お腹がすいて散々な目にあっていたと聞いた。俺が餌やら
なかったら今頃大変なことになってたらしい。今までありがとう、だって。
 深い事情までは無理? えっとそれはそのえっと。ああ、話したくないならまぁいいや。お腹減
ったら遠慮なく食べに来なね。
 という感じで質問も終わり、この頃になるとこっちのお腹も減ってくる。
 そういや食べさせてばっかで何も食べてなかった。なのでこちらも試食もとい、ハイパーつまみ
食いタイム。肉うめぇ。

「うまうま。これはヴィータが喜びそうだ。来るまであと30分、まだかかるかね」
「あ……」
「ん? 食い足りないとな。結構作ってるから大丈夫だけど、もっと食べる?」
「あっ、えと、そういうことじゃ」

 今までの極限飢餓状態を解消するように食いまくり、さすがの姉妹ももうお腹いっぱいだったら
しい。確かにめっちゃおいしい肉だけど、ボリュームあるし食べるの大変かもしれない。

「ここへはどうやって? やっぱ魔法?」

 少々戸惑っている様子だったが、こうなった以上隠しても意味はないと悟ったのかも知れない。
複雑そうに顔を見合わせた後、二人そろってこくんと頷いた。

「そっかー……いいなー、魔法いいなー。やっぱ便利だよなー、俺やっぱコアないの?」

 こくこくと頷かれた。
 分かってはいたけどやっぱキツい、だって猫でも魔法使えるのに。猫と俺の間には越えられない
壁があるというのか。ていうか俺もしかして猫以下か。

「あ、そうだ。名前とかは?」
「あの、それも……」
「あー、そうかー、駄目かー。いいや、宴会まで時間あるし、はぐりんたちと模擬戦どう?」

 一度やってみたかったモンスターバトル! ハイパー魔法大戦でアニメなんて目じゃないっぜ!
 と楽しみにしたのだが、ぶんぶんぶんと首を横に振られた。魔法無効かつ大魔法持ちに挑むのは
さすがにイヤということらしい。やっぱ魔導師の天敵なのか。

「はぐメタを連れて管理局に潜入、圧倒的な攻撃力・防御力で制圧。まさに反逆のオリーシュ」
「本体叩けば終わりあぐあぐあぐ」

 両手でクッキー持ってる片方のぬこに突っ込まれてやるせなし。というか食いながらしゃべんな。

「じゃあ、ちょっと買い出し行ってくるけど。来る?」
「あ……はいっ」
「ん、ならシートはこのままで。まわりに聖水かけときゃモンスターも来ないし」

 そんな感じで近くの町へ買い出しに出るのでした。食い物屋でちょっと買いたかったけど、お店
今日は開いてたかなあ。







 どうしよう。
 姉妹は考える。
 先ほどまで腹ペコとご飯の興奮で頭が回っていなかったが、今になってようやくまともな思考が
できるようになってきた。結局正体ばれちゃったけど秘密にしてくれるらしいし結果オーライである。
 ついさっき、美味しい料理を食べながら聞いた話によると、もうすぐ騎士どもがこっちに来るら
しい。あと30分、と具体的に情報も得られた。
 繰り返すがあの騎士たちに平穏を許す気はないし、目的のために手段を選ぶ気もない。必要なら
八神はやてを人質にとり、闇の書の蒐集を強要するくらいのことはしてやってもいい。
 しかしそうなると、この少年にもなかなか会えなくなる。次にいつご飯をもらえるかも分からな
くなるし、こっちはこっちで蒐集を早めるべくいろいろ手を打たねばならない。。そうなったら餓
死一直線間違いなしである。それだけはどうしても嫌だ。
 ……それだけは困る。
 「騎士どもに蒐集をさせる」「ごはんを貰う」――両方やらなくっちゃいけないのである。どっ
ちが欠けても願いは果たせぬ。
 何かうまい手はないだろうか、両方成立させるうまい手が。
 そう考えて……やがて姉妹は、結論したのである。





 遅れてやってきた八神家の面々。
 ピクニックを楽しみに集合場所に行ってみると、残っていたのはいくつかの料理の箱と、そして
紙切れ一枚であった。周囲に人の気配はどこにもなく、食事用に広げられたシートが風にこすれる
ばかりである。
 少年は何処に消えた。今度はプリンでもぶちまけるつもりなのか。
 と、最初は楽観視していた守護騎士たちであるが、次第に様子がおかしいことに気付く。料理の
箱が全て空になっていたのだ。皆が楽しみにしていた肉や魚やデザートが、どういう訳かどれもこ
れも空になっていたのである。こんなはずはない、だってシートの周囲には聖水がふりまかれてい
てモンスターは近づけない。
 蒼白になったところでヴィータは初めて、残された紙を手に取った。表面には何の書き込みもな
く、裏にはわずか五文字が並んでいる紙であった。
 紙には、次のように書かれていた。







 犯人は なの







「いきなり襲われる覚えはないんだけどっ、どうしてこんなことするのっ!」
「あたしのプリン食ったのはお前かああああああああああああッ!」
「話してくれないと……え?」
「絶ッッッッッ対に許さねえ! 闇の書のエサにしてやるぅぅぅうっ!」
「ええええっ!? ななな何それっ!?」

 その晩、マジ泣きのヴィータが高町なのはへの突撃を敢行し、後のリリカルなのはA’sの幕が
切って落とされたのだった。



(続く)

############

導入編・完。
流れは導入編開始時から決まってたんですがね。にしても疲れた。

A’s編もやるよー



[4820] その64
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/03/05 01:06
 結局待ち人との合流は果たせず、はやてと守護騎士たちは様子がおかしいということで、とりあ
えず家に戻る運びになった。
 ぶっちゃけて言うと料理の大部分がかっさらわれてしまったことで全員萎えた。
 はやてなどは今回のピクニックをとても楽しみにしていたらしく、帰って無事だった弁当を食べ
るなりこたつでいじけて不貞寝する始末である。

「捜索に行ってきます。あの場所から近くの町で、目撃情報があったと聞きますし」
「……むー」
「主。その……必ず見つけてきます。この事態に至った経緯を、説明させなければ」
「……んー、お願いなー……」

 という感じ。なんだか聞いているシグナムたちまで気の毒になってくる声である。

「にしてもなぁ……なのはちゃんが犯人て、絶対ありえやんと思うんやけど」

 とはやては言っていたが、それは守護騎士も同感である。今回姿を消したあんにゃろうは、確か
にたまにふらっと外出してはネタを仕入れてくる(漫才的な意味で)ことがあった。
 今回も何か面白いものを発見して、ふらふら行ってしまった可能性はある。はやてもその辺りを
わかっているのだろう、心配はしているがそのうち顔を出すだろうと思っている節があった。
 それに、オハナシ大魔王があの場所にいる理由はない。仮に管理局の捜査に加わっていたとして
も、別の世界が対象となっているはずだ。はち合わせする確率はといえば、例のチャーハンマスタ
ーがチャーハン調理に失敗する確率と同じくらい。つまり限りなく低い。

「連絡を待ちましょう。一応、またアースラに行っている可能性もありますし」

 というシグナムの台詞が、万が一程度の可能性であることも知れていた。
 ただヴィータだけは、置いてあった紙切れの内容を鵜呑みにしてすっ飛んで行ってしまったが。
 もう陽も傾いているが、今頃結界でも張って勝てない勝負を挑んでいるところだろうか。
 止めても無理っぽい雰囲気だったし実際制止も振り切られてしまった。大魔王に勝てるとは到底
思えないが、しかし返り討ちにされた後、管理局が出張ってくると非常に困る。

「厳しそうなら援護に向かうぞ。主はちょうどお休みだ。好都合だな」
「心得た。捜索の方は、取りあえずは私が行こう」
「うぅぅ……プリンがぁ……」

 と机に突っ伏しているのは、明らかに凹んでいるシャマルである。

「い、言うな、シャマル。私だって食べたかっ……く、くそっ! またこのような目にっ」

 今後の行動を決める二人の前で、大いにへこたれるシャマル。その姿を見て思い出したのだろう、同じ
くまた食いっぱぐれたシグナムも心底悔しそうだ。唯一それほどダメージが大きくないのは、はやて同様
既に味わっているザフィーラだけである。

「ずるいっ」
「……そう言われてもだな」

 言っておくがザフィーラに料理スキルはない。何も出せないので致し方なし。

「あいつを連れ戻して真犯人を叩き潰した後、思う存分作らせるしかあるまい」
「捜索、私も行きます。道具屋の店員さんに、お話とか聞けるかも」
「そしてヴィータは肉体的お話し、か」
「……魔王対策に、ついでに光の玉でも探してこようか。無駄とは思うが」

 と言ってヴィータの身を案じながらも、すでに通夜ムードな守護騎士たちだった。





 で、当のヴィータ。
 今彼女の眼前には白いバリアジャケットに身を包んだなのはが、弱々しく身を震わせていた。
 ジャケットにはそこかしこに裂け目が入り、愛用のデバイスも激しく損傷している。全てヴィー
タの猛攻によるものであった。結界を張ってから激昂に身を任せグラーフアイゼンで殴りかかり、
カートリッジまで使って得た戦果である。
 プリンを根こそぎ食われた仕返しは果たされたと言えよう。
 だがヴィータは内心冷や汗ダラダラだった。

(やっちまったやっちまった魔王に手を出しちまった! まままままずいってアイツの話だと死の
淵から回復したらサイヤ人みたいに強くなる戦闘民族だし! 今勝ったって目をつけられて物理的
にオハナシされてお話されて天地魔闘ハイパー頭冷やしタイムあうあああうあうあうあうあうう)

 気が付けば恐ろしいことに、死亡フラグと逆襲フラグがまさかのスタンディングオベーション。
平静を装っちゃいるけれど、背中を冷たいものが伝ってくるのが止まらない。

『勝つとは思っていなかったが……いずれにせよ同じことだな。強化して逆襲か』
『しっ……シグナム! い、今から謝って許してくれるよな! そそそそそうだよな、うん!』
『墓はあの教会に頼むか。呪いの装備さえ解除するのだ、成仏できよう。シャマル、任せた』
『だだだっ、誰の墓だよそれッ! たっ、頼むから助けてくれよっ』

 念話で必死に救いを求めるヴィータだったが、シグナムから帰ってくる返事はそんな感じであっ
た。具体的には「ご愁傷さま」という印象だ。どうやら助けは期待できないらしい。

「どっ……どうして……こんな、こと」

 そして正面からは悲しそうな目を向けてくる満身創痍の高町なのは、もといオハナシ大魔王。
 結界内部で散々打ち合い撃ち合いしたを続けたため、当たり前だが顔なんかはもう完全に覚えら
れちまってやがるに違いない。
 要するにつまり、もう逃げ道はないのである。大魔王からは逃げられない。

(うわああああんっ、死亡確定じゃんか! アイツのトニオ料理、まだ全部食ってねーのにっ!)

 心底泣きそうなヴィータだった。



(続く)

############

案外早くに固まり始めたので。
ゆるりと始動します。



[4820] その65
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:97158d40
Date: 2009/03/09 08:32
 度重なる攻撃によりジャケットは傷だらけ。レイジングハートは損傷、自動修復で直る範囲と見
られるが即時回復は不可能。魔力も防御に回したおかげでかなり使ったし肉体的疲労もある。精神
力的にはまだまだ戦えても物理的に厳しい。
 活路を見出そうと分析したなのはが得たのは、現状の厳しさの再確認。ただそれだけであった。
 要するにポルナレフ的三択が頭に浮かぶ状況である。
 諦めや絶望を友にした記憶はないが、目の前にある現実……というより少女が熱烈におすすめし
ているようだ。
 あまりそうされる覚えはないのだけれど。襲ってくる動機もわからないし。

(プリンがどう、って言ってたけど……)

 自分はスマブラだとむしろピカチュウ使うので関係なし。
 というかプリンで思い出したけど、最近よく遊ぶあの子が作ったプリン、お母さんに負けないく
らい美味しかったなぁ。
 そんなふうに思っていると、今までの思い出が、やりたかったことが心の中から次々溢れ出す。
走馬灯っていうのかな、と震える心で思った。
 優しかった両親。愛した兄と姉。フェイトちゃんとは折角友達になれたのに。アリサちゃんやす
ずかちゃんともっと遊びたかったし、ユーノ君やクロノ君やともお喋りしたかった。はやてちゃん
にもまた会いたかった。
 同居人のあの男の子は――

(……ドラゴンボールとかかき集めてくれる気がする)

 何となくだが。
 でもあの騒がしさも、もうすぐ聞こえなくなってしまうのか。
 そう思うと、ふっと寂しさに襲われた……要するに運命を悟っていたのだ。やっぱり諦めたくな
いけれど、現実がどうしようもなくそれを強いていた。
 だからこそ――自分を襲った少女の次の言葉には、吃驚したし困惑もした。





「ごっ、ごご、ご、ごめんなさぁいっ!」
「……え?」





 で、高町家。
 何かいきなり謝りはじめた女の子と相対して、事情を話してもらっているなのはであるが。

「……はぁ。その、つまり。プリン、を食べた……犯人? って紙に書いてあって」

 わけわかんないし。
 つまるところ人違いじゃん。

「『なの』って書いてあっても『なのは』じゃないし」
「そっ、その……ごめんごめんなさいっ! まままま前も食いそびれてあのえとだから」
「……むぅぅ」

 とりあえずほっぺたぷくーってして怒ってみる。そのくらいの権利はあると思う。

「わっ、わ、わわっ! ごっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

 でもそうするとひたすら平伏してくるので、何か怒る気も失せてきてしまった。

「その……レイジングハート、もごめん。大丈夫か?」

 点滅する赤い宝玉からは損傷軽微、自動修復で大丈夫との言葉と、続いてお叱りの言葉が一言二
言。しゅんとするヴィータ。
 どうやらなのはに代わって怒ってくれているらしい。つくづくいい相棒をもった、と思うなのは
だった。
 そう考えると、何だか優しい気持ちになってきた。もともと怒るのが得意なキャラじゃないし。

「今度からはしっかり確認すること! でもってぼーりょく振るわない! って、約束してねっ」
「え? ……えっ? ゆ、許してくれるのか?」
「うん。怪我してないし……ど、どうしたの? わたし、変なこと言ったっけ」
「だ、だって……その。『怒らせると死神と閻魔とが二人三脚で泣いて逃げ出す』って話が」

 身も蓋も無さすぎて、誰が流したか一目瞭然のデマであった。あのはぐりんマスターとはいつか
タイマンで話し合わねばならない。

「あっ……プリン食べ損ねたなら、うちにもあるよっ。お母さん作の、食べる?」
「えっ……い、いや、そうまでして、えと」
「今なら10%オフだけど、お代金はきちんといただきます」
「ですよね」

 きっちりしているなのはさんだった。





「なのはっ、遅れてごめ……あ、あれ? なのはは?」

 うっかりしているフェイトさんだった。



(続く)

############

また脱がし損ねた。



[4820] その66
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445a8e21
Date: 2009/03/27 14:02
 両手に翠屋のロゴ入りビニール袋をぶら下げて、八神家に無事帰還したヴィータ。
 五体満足で帰ってきたことを驚きつつ喜びつつ、さっそく桃子さん特製のプリンを皆でぱくつき
ながら報告会。内容は主に、戦闘の経過から帰還までの流れについて。

「……で、釈放か。よく無事に済んだものだ」
「はぁ……優しいんですね、なのはちゃんって」
「こればっかりはアイツに感謝だ。補完計画がなかったら手足引きちぎられてたと思う」
「首から下が砲撃で吹っ飛んでいたのは確実だな」

 
本人が聞いたらぶんぶん首を横に振りそうな台詞だが、もうこれが八神家の常識になっているの
で致し方なし。

「そんでザフィーラ、シャマル、プリンマスターの捜索はどうやったん?」
「……見つかりませんでした。可能性のある場所は全て潰したのですが……」

 日中あの野郎を探し回ったザフィーラとシャマルだったが、結局のところその努力が功を奏する
ことはなかった。
 さらわれたのか。いやいや無理だろう、はぐメタ三匹ごととか神業すぎる。とか考えてみたのだ
が、答えは出ない。護衛の三匹が強力すぎるうえ、そもそもさらっていく理由がこれといって思い
つかないのだ。
 ヴィータのようにすごろくやら何やらで遊んでいる可能性もあるが、その手の施設はザフィーラ
がもう探しているのでどうも可能性が低い、護衛のおかげで身に危険が及ぶことは考えにくいが、
今まで連絡が皆無なので心配だ。

「コーヒー淹れましょっか」

 しばらく皆で知恵を絞っているとシャマルが言った。
 頭が回らなくなってきたので、ちょうどいいとばかりに一服つく。ヴィータは苦味がアレなので
、牛乳と砂糖でカフェオレに。

「ブラック無糖でプリンが美味い!」
「プリン状態!」
「ヘブン状態!」
「プリウマ状態!」
「かっ、カフェオレで悪かったなっ!」

 振ったはやて自身、こうまでノリがいいとは思っていなかったりする。

「ま、天使様と悪魔様から保証されとるし。平穏無事におると思うけどな」
「というよりあの子なら、何があっても何だかんだで安全そうです」
「今ごろドラクエ3の女勇者見つけて追っかけてたりして」
「というか、プリン美味しいなぁ。翠屋のやったっけ」
「うん。アイツのもこんな味なのか……って。プリンの話してる場合じゃねー」

 いつのまにか普通の雑談になっているのに気付き、反省する。

「コア持ちなら探知魔法に引っ掛かるのですが……とりあえず、明日も捜索は続けてみます」
「お願いなー」
「気を付けろ。今回の一件で管理局に我らの存在はバレたかもわからん」
「むしろ海鳴を警戒してくれるなら、あっちの世界のオリーシュ捜索はやりやすそうじゃね?」
「転移魔法さえバレなければな。個人転送で行けるのが幸いだったか」

 皆してカップを傾けるのでした。
 で、しばし。

「じゃあ今日は私が、グラタンとスープ作ってきますねっ」
「ならば、試食役を決めようか。シャマルの料理は、まだ一定確率で舌が死ぬ」
「とりあえずドッグフード食えるザフィーラが適任だな!」
「だが断る」
「あー……シャマル、頑張ってなー」
「……」

 最近はけっこうマシになっているもののまだ信用されていないシャマルが、いいもんいいもんと
拗ねながら台所に向かう。続いて渋々ザフィーラも、監視兼試食係としてシャマルの立つ方へ歩い
ていった。

「マカロニとちくわ間違えんなよー!」
「いや待て、もしかするとうまい棒と間違えるかもしれん」
「むしろドーナツ買ってきて放り込んだりとか」
「もっ、もう! もう! そんなことしませんってば!」

 これ以上やるとぷんすか怒るかも知れないので、シャマルいじりはこのくらいにしておいて。
 残ったシグナムとヴィータ、そしてはやてが、テーブルを挟んで席につく。

「こんなにまったりしてていいのでしょうか……」
「ま、紙に書かれたの見ると安心やしな」

 テーブルの中心には、唯一の手がかりとなった書き置きの紙切れ。
 一部が焦げ付いており、そこには本来書かれていた、こんな文字が炙り出されていた。





「犯人は なの








 P.S. えびせんは二番目の棚です。
 進研ゼミの漫画は読むから捨てないでね」





「確実に無事やしなー……」
「切迫詰まってたら、こんなもの書く暇ねーしな」

 そんな感じなので、あまり心配しすぎない八神家であった。



(続く)

###########

来るたび来るたび楽しく読んでましたあの漫画。



管理人舞様、復活作業お疲れ様でした。
これからも宜しくお願いします。



[4820] その67
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:97158d40
Date: 2009/04/02 10:42
 その翌日。海鳴に管理局の捜査網が敷かれることは今はまだない。
 戦闘行為そのものは結界の存在により割れているかもしれないが、どうやらなのはが上手く誤魔
化してくれたらしい……というのが八神家の結論であった。
 管理局に戦闘の際の映像を撮られたわけではないようだ。レイジングハートから記録を読み込め
ばいずれ、戦った相手が闇の書であることはバレるかもしれないが。

「き……来ちゃいましたね」
「ああ。着いちまった」
「ね、ね、ねぇヴィータちゃんっ、やややっぱり今度にしませんか? 今日はあの、お日柄が」
「知らなかったのか? 大魔王からは逃げられない……!」

 そのなのはの根城(翠屋)前には、戦々恐々としたヴィータと涙目でビビりまくりのシャマルの姿が。

「今なら逃げれるじゃないですかっ! ていうかそもそも私が来る必要ないしっ!」
「ジャンケン負けただろ! 誰か一人来なきゃいけないんだっつーの!」
「あの、お店の前だから……とりあえず、上がってもらえますか?」

 ドアの間からひょっこり顔を出したなのはが言うので、反省しながら店内に入る。

「こ、この間はその、ごめんっ! こ、これ差し入れでっ、やっぱ怪我とか心配になってっ」
「あの、す、すみませんでしたっ! うちの子がおお、お嬢さまと喧嘩をしてしまいまして!」
「そ、そこまだ入口ですよっ! お客さん見てますってば!」

 という訳でヴィータとシャマル(保護者役・ジャンケン敗北者)が、念のため再び謝りに来たの
である。昨日はサイヤ人もびっくりな空中戦をしていた訳であるが、なのはの父・士郎は、こうい
うことについては恐ろしく勘が良い。さすがに事実は言えないので、問いただされたらこう誤魔化
すということはヴィータとの間で予め決まっていた。
 が、しかし翠屋はまだ営業時間のため衆人環視。ふたりして赤面し、小さくなりながら店の奥に
入る。

「よかったのに……でも、ありがとう。私はケガしなかったし、大丈夫だよっ」
「その……それで、レイジングハートは?」
「自己修復中。部品が足りないって言ってるから、修理を頼みに行こうと思ってるの」
「その、ごっ、ごめん。費用とかかかったら、小遣い貯めて返すから!」
「だ、大丈夫だよ、そんなっ」

 とはいえまだまだ恐れが抜けておらず、魔王様を前にしてひたすら平伏するヴィータであった。

「そ、そ、そのこれ、よろしかったら。お、お口に合うか分かりませんが……」
「そんな……あの、すみません、わざわざ」
「ぷ、ぷ、プリン美味しかったですっ、ごごごごごちそうさmけほけほっ」
「わ、わ! お母さんっ、お水お水!」

 魔王の親=大魔王という認識のため、いざ相対すると恐怖で呂律が回らないシャマルだった。





 で、所変わってなのは部屋。
 おやつのクッキーを一緒に食べているのは、なのはとヴィータの二人である。ヴィータはまだま
だ緊張がほぐれないようだが、なのははもうすっかり友達気分であった。
 ちなみにシャマルはというと、まだお店の方に居たりする。桃子さんのご厚意により、客足が減
ったらお菓子作りを教えてもらえることになったとか。

「昨日のプリン、ごちそさま。すっごい美味かった!」
「今後も翠屋をご贔屓にお願いします。何か、ごめんね。わざわざ来てくれて……」
「本当に勘違いだし……あたしが全面的に悪かったから。それと」
「それと?」
「……『右の頬叩かれたら左の死角からレーザービーム』って聞いたんだ。ほ、ホントか?」

 嘘に決まってるので訂正する。訂正しながら、この調子だとアリサやすずかまで被害にあうんじ
ゃないかと危惧するなのはであった。
 実際もうフェイトについては手遅れであるのだが。

「というか、昨日聞きそびれちゃったんだけど……けーと君とは、どんな? お友達なの?」
「……誰それ」
「あ。ほ、ほらあの、オリーシュ。たまに仮面被ってる」
「ああ、そうだったあいつの本名! いやすっかり忘れてたっ!」

 本人がしっくりくるなら別にいいけど、これでいいのかなぁとたまに思うなのはである。

「あ、あいつは……んー、んー、えと、えっと、一緒に遊んで、それで、その」

 はやてとの関係がバレる可能性があり、迂濶なことは言えないヴィータである。管理局に見つか
りさえしなければこのままひっそり平和に暮らしていけるかもしれない。はやてが書の主というこ
とだけは隠さなければならないのだ。

「……今本気で思ったんだけど、あいつをどう表現すればいいのか全然わかんねー」
「あー……あ、あはは……わからなくも……ない、かも」

 だがなのはと意見が完全に一致したので、追及は弱まった。ラッキーである。一気に煙に巻く。

「それで、たまに料理食わせてくれんだ……プリンは食いそびれたけど」
「あ、ゲームとかする? 将棋とかオセロもあるよっ」
「てか、ポケモンがある……ま、魔王もポケモンするんだ、本当だったんだ」
「……ま、魔王?」

 慌てて誤魔化して、プレイ開始。通信とかして交流する。

「あいつとも、通信とかするのか?」
「うん、たまにね。他にも、一緒に遊びに来るはやてちゃんとかとするかな」
「ふーん……あ、こ、このっ! はかいこうせんばっかか! トレーナーまんまだな」
「ちゃ、ちゃんと小技も使ってるってば! バリアとかリフレクター、技に入れてるし!」
「昨日のお前とどう違うのか分かるように説明してくれ」
「あ……え、えとその、あ、あう……」

 そんな感じで遊ぶ子供たちだった。人間じゃないことはもうバレてるかもしれないけど、これで
仲直り+友達になったのかな、と思うヴィータだった。





(……てか、魔王の友達って)

 割とすごい気がした。



(続く)



[4820] その68
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:debc04f8
Date: 2009/04/04 22:27
「……い、生きて帰ってこれたのか。ゆ……幽霊ではないな、うん」
「おいコラ」

 帰宅したヴィータとシャマルに、まずシグナムが浴びせた第一声であった。今ここに命があるこ
とに心底驚いたという様子であり、聞く側としては突っ込まずにはいられない台詞である。

「でもご両親も、普通の方でしたよ? ケーキの焼き方教わっちゃいましたっ」

 と嬉しそうに言うのはシャマルである。
 戦闘民族戦闘民族と散々聞いていたのだが、良い意味で裏切られたようだ。今は早速、教わった
お菓子を作ってみたくて仕方がない様子。

「私も、未来の魔王って言う割には本当に普通だったな。ゲームとかオセロとか、楽しかったし」
「……本当に魔王になるのか? 補完計画が上手く行っただけなのか?」
「よくわかんねー。砲撃は好きみたいだから、アイツの情報もまるっきり間違いじゃないけど」

 ソースはポケモン対戦である。覚えさせている技を見せてもらったところ、可能な限り全てのポ
ケモンの技に「はかいこうせん」が入っていた。流石である。

「お帰り。どやった? 許してくれた?」

 とか話していると、後ろからひょっこり人影が。車イスに乗ったはやてだった。後ろから人型ザ
ッフィーが押している。

「うん……普通に優しくて、逆に拍子抜けした。将来若本ボイスになる、とか信じらんねー」
「ん、そっかー……そこらへん、もう一回確認せなあかんな」
「この分だと、フェイトちゃんの脱衣癖も少々怪しくなって来たかもしれません」
「伝説の魔法使いヌギ・ストリップフィールドは幻と消えるのか」
「ヌギステル・サギと申したか」
「今シグナムとザフィーラが滅茶苦茶上手いこと言った件」

 しかし好き放題言いながら思いが至るのは、やはりあの姿を消した少年一人。

「今日も捜査、駄目だったんですか」
「周辺の町にも目撃情報が無い。目立つことこの上ないと思うのだが」
「あのゼロ仮面着けてたら一発なんだけどな」
「はぐれメタル引き連れとる時点で目立ちまくりやと思うけど……本当、どこに行ったんやろ」

 ちゃんとお風呂入っとるかなぁ、と心配そうに言うはやて。少年の料理スキルについては熟知し
ているので、食に困る可能性は皆無なのだ。

「ロマリアの王様になって内政(笑)とかでもやってんじゃねーか?」
「いや、あいつは確か機械系がダメだ。産業革命(笑)ができるほど器用ではあるまい」
「それよりむしろ、城下町で定食屋さん、とかの方がありそうです」
「昼時になると炎の飯粒が飛び交うわけか」
「それに、絶対に強盗の被害にはあわんやろな。イオナズン的な意味で」

 しかし料理は美味しそうなので、隠れ家的レストラン(笑)くらいにはなれるかもしれない。

「特技はイオナズンとありますが」
「……はやて。アイツの場合、それ全然嘘になってない」
「あれあれ? 怒らせていいんですか? 使いますよ、イオナズン」
「面接官終了のお知らせですね」

 心配しながらも、案外いつも通りの八神家でした。





「闇の書?」

 と首を傾げるのは、魔王らしくねーと現在進行形で評価されている、高町なのはその人である。
 レイジングハートの修理兼、(レイジングハート自体が要求した)部品のグレードアップのため
アースラに赴いた彼女が聞かされたのは、聞いたこともないロストロギアの名前だった。

「……君が戦った相手だ。第一級の捜索対象……最高に危険な代物だよ」

 レイジングハートから映像データを受け取り、解析するクロノの横顔は険しい。なのはが今まで
に見たことの無い厳しい眼光が、その危険さを無言のまま物語っている。
 なのはは知らぬことであるが、クロノにとって闇の書は父親を、すなわち母から夫を奪ったロス
トロギアだ。公私をわきまえたこの少年であるが、瞳に感情が乗りもするものだ。

「でも、その……人違いっていうか、手違いって言われて。何にもされなかったんだけど」
「……そのあたりが、僕にも本当によく分からない」

 クロノは心底不可解な顔をした。
 なのはの言葉が嘘でないのは信用できるし、レイジングハートのデータから裏もきっちり取れて
いる。
 しかしそれでも、闇の書の過去の行動を考えると信じがたい。高い魔力を保有する相手を、たと
え人違いであっても打ち負かしておきながら、それに次いで蒐集を行わないとは非合理的にも程が
ある。全くもって訳が分からないのだ。

「クロノ」

 と、あーでもないこーでもないと首を捻るクロノの眼前に、ぱっとウィンドウが開く。エイミィ
からの通信だった。

「呼び出しだよ。グレアム提督が、お会いしたいって」
「わかった。すぐ行く」

 と言い、席を立つ。知り合いなのかと問うと首を縦に振り、今回の件かと言えば横に振った。





「使い魔……僕の魔法の先生でもあるんだけど。行方不明らしいんだ。捜索を頼まれた」

 事態はちょっとずつ、おかしな方向へ進みつつあった。



(続く)

############

マギステル・マギ→ヌギステル・サギ→脱ぎ捨てる詐欺



ちょっと気に入った。



[4820] その69
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:14d1127d
Date: 2009/04/09 14:28
「ていうかよく考えたら、あいつ念話は聞こえてるんだよな。返事できないけど」

 朝食を済ませて家事を終え、さて今日の捜索はどうするかと皆で考えていると、ヴィータが思い
出したように言った。

「あ」
「……あっ、そう! そうじゃないですか!」
「そやった? 記憶にあらへんけど……」
「はい。確かに以前、私の声が届きました」

 覚醒(笑)フラグじゃないかどうなんだ、と以前は散々騒いでいたわりに、完全に忘れ去っていた
八神ファミリーだった。ヴィータのお手柄である。

「よーやってくれた。褒美になのはちゃんと砲撃撃ち合いする権利をやろう」
「撃ち合いとかいう以前に、今度手を出したらさすがにごめんなさいでは済まない件」
「大事な大事な、アタックチャンス!」
「赤のヴィータちゃん、なのはちゃんの射程に飛び込んだっ!」

 いつのまにか全員の口調が児玉清に変わっていたので、ひとしきり反省する。

「向こうの世界に行って、呼んでみましょっか。『聞こえたら前のピクニック場所に集合』って」
「……いや、待て。この2日間、あいつはあの場に戻らなかった。動けるならそうしている筈だ」
「隠しすごろく場で徹夜プレイの可能性が残っているのでは?」
「似た例が一人おったらしいしなー」

 全員の視線が集中し、小さくなるヴィータだった。

「てか隠しすごろく場って、しんりゅうに頼まないと遊べない気がするんやけど」
「もえさかる火炎ではぐれメタル終了のお知らせ」
「あの子だったらむしろ、普通に仲良くなって願い事聞いてもらえそうな気がします……」
「……おかしい。どうして否定できない」

 ヴォルケンのオリーシュに対する評価はだいたいこんな様子である。
 具体的には「何この変な生き物」という、珍獣を見かけたときのあの気持ち。

「とりあえず、行って参ります。ザフィーラ、留守を頼む」
「結構」
「少し希望が見えてきました……もしかしたら、今日見つかるかもしれませんねっ」
「そこは『必ず連れ戻す』とお答え頂きたかった」

 そんな感じに、いつもユルユルな八神家である。





 でもって、はてさて例のドラクエ世界。
 着くなりいきなりシグナムとヴィータが「今すぐ戻って来なかったら即刻シャマルルーレット」
やら「むしろ自分がカートリッジと空の薬莢でリアルロシアンルーレット」やらと念話を飛ばす。
 相変わらず自分の料理がネタにされることにしょんぼりするシャマルだったが、いつものことな
のでそれはさておく。

「……もう、いいです。全部美味しいケーキにして、ルーレット不成立にしますから」
「ま、待て。やめてくれ。八神家から恒例罰ゲームを奪うというのか」
「ホント面白いんだよな。『全部一口で食う』の縛りがあるから、当たった時の顔がものすごく」

 同じ守護騎士なのに、この扱いの差はどういうことかとシャマルは時々思う。

「……? 何か、近づいて来ます」

 とそこに、上空から接近する何者かの魔力の気配が。

「ついにオリーシュが舞空術を会得……じゃないよなぁ」
「勇者を乗せた不死鳥ラーミアさん、でもなさそうです」
「念話を飛ばしたのが仇になったな」

 どうやら、局員が網を張り直していたらしい。この世界では結構な回数の蒐集をしていたため、
やはり目をつけられていたかとシグナムは分析する。

「……とうとう、バレちゃいましたね。レイジングハートからデータを読み込んだんでしょうか」
「そうかもな……で、どーする?」

 ヴィータは振り返った。視線を向けたその先で、シグナムが首を横に振る。

「ヴォルケンリッター……いや八神家には、伝統的な戦いの発想法があってな」
「……それは」
「『逃げる』」

 戦う気など毛頭ない守護騎士たちである。

「……いま気付いた。はぐれメタルから蒐集してきたが、そろそろ主の素早さがすごいことになる」
「……冗談でなく逃げ専門の魔導師が完成するな。魔法防御も半端ないんじゃねーか?」
「しかもイオナズンとかの大魔法がありますから、蒐集が終わったら超高速の移動砲台に……」

 えらいこっちゃと騒ぐ守護騎士たちの目の前に、やがて一人の魔導師が現れるのだった。





「時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッ……」
「ぬ……脱ぎ魔……だと……!?」
「ちょっ、か、カメラ! カメラ用意して!」
「だっ、駄目ですよっ! もし本当に脱いだら、お嫁に行けなくなっちゃうじゃないですか!」
「え? ……え?」

 颯爽と登場し、いきなりうろたえるフェイトだった。



(続く)

###########

※注 原作は熱血バトルアニメーションです。



[4820] その70
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:1f083032
Date: 2009/04/13 22:27
「こほんっ。じ……時空管理局、嘱託魔導師のフェイト・テスタロッサです。ご同行を」

 思わぬ反応に取り乱してしまったフェイトだが、咳払いをしてなんとか気持ちを鎮める。完全に
とは言わないが、落ち着いた口調が戻ってきた。

「お断りします」
「お断りします」
「お断りします」

 返事は思わずフェイトがたじろぐくらい、完全な異口同音だった。

(ところであの黒い外套の下、先程からずっと気になって仕方ないのだが。どうなっているのか)
(……あいつが改変してた、しっとマスクが「WELCOME」って言ってるAA思い出した)
(さっ……さすがにいくらヒロインでもっ、ていうかヒロインだからこそアウトですよっ!)
(全裸に絆創膏より明らかに危険だろう……下手をすると法律に触れるのではないか)

 ついでに言えば念話でこんなことを話している始末。当たり前だが内容は戦闘とはまるで関係が
なく、不真面目ここに極まれりと言わざるを得ない。

「……ゴクリ」
「?」

 布一枚の下を想像して畏怖の気持ちがわき起こり、思わず生唾を飲み込む守護騎士たちだった。
相対するフェイトは首を傾げるばかりであるが、もし彼女に他者の思考を読み取る能力があったな
ら、自分のあまりの痴態にきっと卒倒していたに違いない。
 シグナムたちの脳内で繰り広げられていたのはそれほど凄まじい、全裸よりいやらしいレベルの
光景だったのである。

(でっ……でも、まだ可能性はありますよっ! 変態さんじゃない可能性……!)
(た、確かに……そ、そうだ、うん。なのはも、あいつが言うほど邪悪じゃなかったし)
(そ、そうか。確かに、そうだったな……よ、よし)

 しかし、そんな感じに思い直す。
 高町なのは嬢が思いのほか優しい少女だったことにより、守護騎士たちの間では「オリーシュの
原作知識は割といい加減」という認識が芽生えつつあった。はからずも正解であり、フェイトをこ
のまま真性扱いし続けるには若干の疑問が残る。
 ならば、怯えている場合ではない。話をできるだけ引き延ばし、隙を見て転送魔法。一発帰還で
さようなら、である。シグナムは勇気を振り絞り、目の前の少女に向かって口を開いた。
 開こうとした。
 だがそれより早く、空気がその色を変えた。

「フェイトっ。合図通り、ユーノと結界張り終わったよ! これでこいつら逃げらんない!」

 遅かった。そうこうしている間に、フェイトからこっそり指示が飛んでいた。一仕事終えたアル
フが、ユーノと共にやってくる。

「なん……だと……?」
「こっ、この結界、強力ですっ! ちょっとやそっとじゃ、破れそうには……!」
「あああっ、しまった! くっ、くそ! アイツが余計なこと吹き込むから!」
「……何か、すっごくドタバタしてるけど」
「フェイト、こいつら本当に敵なの?」
「えっと、その……たぶん」

 合流したユーノとアルフの言葉を聞きながら、複雑そうな顔をするフェイトである。

「と……とにかく! 今からアースラにて、事情聴取を……」
「だが断る」
「だが断る」
「そういえば取調室のカツ丼って、実は奢りじゃないんですよね。ちょっとびっくりしました」
「そっ、そうなのかっ! そんなの初耳だよ、私っ!」
「こっ、こらっ、アルフ!」

 あんまりにも緊張感のない空気だったため、思わず世間話に突入しそうになったアルフである。
止めたフェイトは何だかもう、けっこう一杯一杯といった様子。
 というかちょっと泣きそうだった。
 フェイトにとって、今回が嘱託魔導師としての初仕事だったのだ。冷静な彼女にさえ、任務の前
にはちょっとした高揚感があった。幼心ながらに、微かな期待があった。
 それがいざ現場に来たらこの有り様である。ただひとつの救いは、ユーノがぽんと肩を叩いて慰
めてくれたことくらいか。

「……うっ……うぅぅ……」

 でもそれも逆効果だった。ますます悲しくなってくる。

「りっ……リーダー! 泣いちゃいますよっ!」
「あ、そ、その……す、済まない。今まで真性扱いしたのはそのあの、妙な噂を聞いていて……」
「しっ、シグナムそれ禁句! 禁句だから!」
「しんせい? 何それ?」
「いや! なっ、何でもないっ! 忘れてくれっ」

 とことん噛み合わない両陣営だった。



(続く)

############

いつの間にか70を突破。今後も頑張ります。



[4820] その71
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/05/01 06:48
 闇をたたえた夜のような、夜を包んだ闇のような。
 ほのかに優しく温かい、どこまでも続く瑠璃色の闇。その真ん中に浮遊して、少年少女が向かい
合う。

「オリーシュの顔が見たいと誰かが言うので」
「だからってザフィーラとお昼寝中の私の夢に出てくるのはどうかと思うんやけど」

 端的に言うと夢の中でせっかく会えたというのに、何やら複雑そうな顔をするはやてである。

「何故であるか。もっと喜ぶと思ったのに」
「や、もう、何か。夢で会いにくるとか、普通ありえんやろ」
「何でだろね。俺特殊能力ないはずなんだけど」
「存在そのものが特殊やから、似たようなもんやな」

 誉められているのか貶されているのかわかんない。
 で、お互い何でだろう何でだろうと言いながら、互いにつぶさに観察する。こういう夢イベント
は素っ裸が多いらしいけど、二人とも服は着たままでした。ちょっと安心。

「あ。足動いてる」

 夢なら痛くないよねと言ってお互いにほっぺたぐにぐにしていたら、視界の隅っこで普通に動い
ているはやての足を発見。

「夢やしなー……そういえば、検診行ったんよ。また良くなった」
「早く治すでござる。某無免許医師みたく、自分で自分の足手術するべし」
「俺の『赫足』も……ここまでか……!」
「いつもと同じでネタ満載のはやてさんでした」
「いつもと同じでネタ漫才のお時間でした」

 夢の中でまで何やってるんだろう自分等。

「少し生産的な話をしようか」
「了承。で、今どこにおるん?」
「それを言ってはつまらない。自力で頑張って探して下さい」
「喧嘩を売っているのか」

 足が動くからと、はやてが四の字固めをかけてきた。夢の中だからやっぱり痛みはないけど、何
だかちょっと新鮮である。

「まぁ、誘拐された訳ではないので。その点はご安心を」
「書き置きの追伸から明らかやったんやけど」
「ゼミ漫画、今月の分がそろそろ来る気がして。行方の詳細よりそっちを書いてしまいました」

 感覚がないのをいいことに電気あんまされた。らめぇ。





 でまぁ、なるようになるよねと二人で納得して、暫し明晰な夢の中で空中散歩を楽しむ。
 昔は舞空術に憧れたりもしたけど、今回のこれはむしろプールの中にいるような感覚だ。手で平
泳ぎとかしてみると、ゆっくり加速がついていくような感じ。

「これだけはっきり分かる夢も珍しいなー」
「魔法か何かかね。はやてが無意識に魔力使ってるとか」

 ちょっとよくわからない。楽しい空間には違いないのだが。

「眠い」
「夢の中で寝るとかどんだけ」
「昼寝中やもん。身体が睡眠したいってゆーとるのっ」
「ザメハ」
「マホカンタ」

 いつもの軽口。

「闇の書の影響かもしれへんな。ひょっとしたら、やけど」
「そういえば、原作でも夢イベント……なかったっけ?」
「ここまで肝心なことを何一つ覚えとらんオリ主も珍しい気がする」
「誉めるなよ」
「照れるなよ」

 最近ははやてと話してないので、何だか懐かしいやり取りに思えてくる。

「なら、早く帰って来たらええやん」
「や、なんと言うか。誘拐じゃないんだけど、ちょっと動けない状況にありまして」
「シグナム達が念話飛ばしたらしいんやけど、それは? 聞こえとったん?」
「けっこう前から寝てるから、夢の中でさっき聞いた」
「……本当に人間なんやろか」

 失礼な。

「ごはん、ちゃんと食べとる?」
「悟飯ちゃん……や、さすがに同じ鳥山絵とはいえ、ドラクエ世界でDBクロスはちょっと」

 真面目に答えなかったので、狼牙風風拳が飛んで来た。つまり動きは激しいんだけど、感覚ない
から痛くない。

「食べてます。食べてますよー、今日は朝まだだけど」
「早く帰ってき」
「はやてはオリーシュが恋しいようです。いや、ちょっと動けないことに変わりはなくてですね」
「相棒おらんと調子が出んの。移民の街で内政(笑)とか?」
「オリーシュに内政スキルがあると思うのか」
「せやな」

 はやての目が覚めるまで、ずっと雑談してました。

『…………』
「ん? なんやろ、見られとるような……」
「伏線来た! 原作の夢イベント!」
「当てにならん件。そういえば、なのはちゃんとフェイトちゃん。ホンマに魔王と脱衣魔になるん?」
「ゼロの脱衣魔。正式名称、着衣ゼロの脱衣魔」
「真面目に答えんか」

 そんな感じ。



[4820] その72
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/05/01 02:07
 捜索対象ロストロギア、闇の書。その関係者の可能性を持つ三名を発見してから、およそ一時間
が経ったアースラ艦内。

「……うぅっ……ぐす……」

 そこにはバリアジャケット姿のままの、半べそをかいているフェイトの姿が!

「ふぇ、ふ、フェイトっ! あ、あれはその、もう仕方ないって! うん!」

 アルフが必死に慰め、なのは(レイジングハートの様子を見に、たまたま乗艦していた)たちも
なんとか元気づけようとしているのだが、まったく効果がないままである。

「……ユーノくん、聞かせてくれる? 何があったの? フェイトちゃん、怪我はないのに……」

 関係者三名を結界に閉じ込めてから、その内部の情報はシャットアウトされていた。まだ報告は
なされておらず、そのため中で何があったかはわからない。

「何があった、っていうか……何もされなかった、っていうか……」
「わかるように説明してくれフェレットもどき」
「フェレット違う! え、と。まずフェイトが、長身の女性を確保しようとして……」





 戦いがはじまった。
 そもそもフェイトが請け負ったのは闇の書、及びその関係者の確保である。なのはの証言によれ
ば現在結界に閉じ込めている三人のうち、少なくとも赤毛の少女は当たりだ。隣の二人も何らかの
情報を持っているとみてよかろう。
 説得に応じてくれたなら戦闘行為は必要でなかったが、眼前で逃げ出す算段を相談されては放っ
ておけない。とりあえず妙なアクションを起こさぬように牽制しつつ、バインドをひっかけて足止
めをせねば。
 先ほどまで泣きそうになっていたフェイトだが、もうこうなったら任務に集中するしかない、と
半ば開き直っていた。相手のペースにはまっちゃいけない。そう自分に言い聞かせながら、バルデ
ィッシュの刃を振るう。

「あ……当たらない……っ」

 しかし、フェイトの攻撃がシグナムに届くことは無かった。
 アルフとヴィータ、フェイトとシグナムが向かい合い、ユーノとシャマルが司令塔――そんな構
図の戦いになっている。アルフとヴィータにはまだけん制以上の動きはなく、明らかに動きがある
のはフェイトとシグナムの組だけだ。
 だがその動きも、それが「交」戦状態であるかは怪しいものだ。なぜならシグナムはまだ、愛剣
レヴァンティンを鞘から抜き放っていない。一切の攻撃行動を取らず、フェイトの攻撃、その全て
を回避し続けているだけだ。
 フェイトにとっては驚きであり、衝撃であった。
 機動力には自信があったのだ。それが反撃こそ受けぬものの、繰り出す技がことごとく空を切る。
非殺傷設定にして攻撃力は落しているが、速度までは削っていない。最大戦速で攻めているつもり
なのに、追う相手にはまだ幾分かの余裕があるようにすら見えた。

「――っと。なかなか……」
「リーダー、本当に戦わないんですね」
「みたいだな。アイツがいたら、『絶対に戦いたくないでござる!』って連呼するかも」
「……やめてくれ。幻聴が聞こえてきそうだ」

 というよりこういう会話が出てくるあたり、明らかにまだ大丈夫である。

「何で、どうして……!」
「悪いが、『速さ』に相当慣れているからな。お前より速い者たちを散々相手にしてきた」
「対はぐれメタル戦、初動に失敗するとべギラゴン集中砲火でしたからね……」
「べギラゴン?」
「はい。その……必ず先制攻撃するうえ、ノーモーションで大魔法でしたから……」

 言っていることの詳細は分からないけれども、煤けた表情から大変だったということは分かる。
今のところあまり彼女たちが悪い存在だとは思えず、シャマルにちょっとだけ同情の視線を向ける
ユーノである。

「はぁ、はぁ……っ」
「フェイトッ! 大丈夫!?」
「うっ、うん……でも……」

 一方フェイトは、アルフの声に答えつつも息を切らしていた。目の前のシグナムもやや汗をかい
ているようだが、立て続けに攻撃を加えているフェイトの疲労はその比ではない。
 彼女は今、弱気になっていた。
 ショックだった。自分のスピードが、魔法が、全く通じない相手は初めてだ。いかなる技を繰り
出そうと、当たらなければ意味がない。その上相手はまだ、反撃すらしていないのだ。

(でもシグナム、カートリッジ無しでまともに交戦したら、たぶん互角か6:4くらいだよな)
(回避能力が向上してるだけですから……)
(……言うな)

 実際はそんな念話があったのだが、フェイトたちはそれは知らない。
 シグナムがまともに攻撃行動をとればまた別の結果が生じる可能性はあった。攻撃があれば多か
れ少なかれ隙が生じる。フェイトの速度があれば、そこに斬り込むことだってできただろう。逃げ
に徹していることがシグナムの助けとなっていた。攻撃と防御を同時に行うか、それとも回避に徹
するか――どちらがより安全かは言うまでもない。

(脱いで速度が上がれば話は別だがな)
(この分だと、それもないみたいですね)
(カメラ用意したのに……無駄になっちまったか)
(だっ、だから、撮っちゃダメですってば!)

 こんな念話ももちろん届かない。

「こらーっ、とっとと捕まれッ! フェイトが疲れるだろっ!」
「何という理屈」

 苦笑しながら冷静に突っ込むシグナムであった。





「……全然、通じなかったのか」
「うん。それどころか、まだ少し余裕があったみたいで」
「……? でもそれなら、どうやって逃げたの? 結界は壊されてないよ?」
「それは、その……何というか……」





 しばらくしてから口を開いたのは、後方で控えていたシャマルであった。

「……逃げる方法、思いついちゃいました」
「!?」

 さりげなくぽつんとこぼした一言に、フェイトの攻撃の手も、シグナムの足も、その他総員の動
きもぎしりと固まった。

「……この結界は壊せないと思うが」
「だろ。三人がかりでも無理じゃねーか?」

 と思ったらいつの間にか、シャマルの両隣りに移動しているシグナムとヴィータ。すごいのかす
ごくないのかよく分からない。

「フェイトッ!」
「フェイト、その……大丈夫?」
「うっ……うん。なん……とか」

 にらみ合っていたヴィータとシャマルがいなくなった隙にと、アルフとユーノはフェイトに駆け
寄った。汗だくになったフェイトは、苦しそうに息を荒げている。

「それ、より、あの人たちを……!」
「っ、そうだ。『逃げる』って……?」
「大丈夫だって! この結界、ちょっとやそっとじゃ破れないし」

 自信満々のアルフである。それもそのはず、今彼女たちを取り巻く結界はユーノとアルフが協力
して張った特別頑丈なものだ。ちょっとやそっとの攻撃では破れる訳がない、という自信がある。

「……だそうだが」
「いえ、その……ほら二人とも、今まで蒐集してきた相手、よく思い出してください」
「ん? いや相手って、蒐集したのって……あッ!」
「どうしたヴィータ? 蒐集は確か、ほとんどがはぐれメタルから……ああ、なるほど」

 妙に納得顔のシグナムとヴィータである。逃がすわけにいかないフェイトたちの間に、焦りを含
んだ空気が流れる。

「ていうかこいつら今、『蒐集』って……」

 さりげに疑惑の一言である。

「ページをちょっと消費しますけど……行きます、『闇の書』!」

 そして本らしきものを掲げてシャマルが叫んだ、この一言は決定的であった。
 であるが、それを指摘している時間はフェイトたちにはない。どんな攻撃魔法が飛んでくるかも
分からないのだ。当然ユーノとアルフはフェイトの前方で、彼女を守る構えを取った。
 しかし――敵の取った行動は、全く予想外のものであった。本の周囲に閃光が走り、三人の体を
つつんだ後……





 ヴィータは にげだした!
 シグナムは にげだした!
 シャマルは にげだした!

「えっ、ちょ、ちょっと……」

 ヴォルケンリッターは いなくなった。

「えっ、えっ? ええっ!?」
「きっ……消えた……! て、転送じゃないよ、今の!」
「結界の中にいない……にっ、逃げられたのっ!?」





「逃げられちゃったし、その魔法も、全然、効かなっ、うっ、うう……ぐす……うん」
「あ、あわわ……フェイト、元気だして! あああああれは何かの間違いだって、うん!」
「だっ、だって、はんげきされなくて、おしゃべり、してたのにっ、うっ、うぇぇ……ぇんっ」

 泣き始めてしまったフェイトをどうしたものかと、途方に暮れるアースラクルーであった。



(続く)

############

のらりくらりな不真面目騎士たちでした。


はぐメタ蒐集はこの時のため。
Lv99の勇者パーティー相手でも逃げ切れるスペックってすごいなと思います。個人的に。



[4820] その73
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:994d3cd9
Date: 2009/05/01 02:07
 ほぼ毎回はぐれメタルから蒐集してきたことが功を奏し、フェイトたちからまんまと逃げおおせ
たヴォルケンリッターご一行。
 逃走計画発案者のシャマルをシグナムとヴィータで誉め称えつつ、さっさと海鳴へ帰還。無事に
八神家の敷居を跨ぐことができた。

「んー……あっ、おかえりー」

 するとリビングでははやてが、丸くなったザフィーラに身を預けている。何やら思案に暮れてい
るようだ。

「シグナム、汗かいとるけど……どうしたの、何かあったん?」
「捜索中、管理局に感づかれまして……撒くのに少々手間取りました」
「例の、脱ぐって評判のフェイトってヤツ。脱がなかったけど」

 ホンマに脱ぐ脱ぐ詐欺やったんか、とはやて。対してこくりと頷くヴィータである。

「いいなー、私も会ーてみたかった」
「それよりはやてちゃん、どうしたんですか? 何か困ったことが?」
「ん? あ。いや、ちょっと妙な夢を見てな。ザフィーラと話し合っとったん」
「ちょっくらゲンガー呼んでくる」
「私のHPを何だと思っているのか」

 すぐ話がそれる仕様の八神家である。

「あのな。夢の中で、その……会ーてきたんよ。信じられやんかもしれんけど……」
「会ってとは、誰…………まさか」
「そのまさかや。雑談して終わったんやけど」
「あいつは本当に人間だろうかと、主と話していたところでな」
「人間っつーかなんつーか」
「あの子の行動だけは全く予測できないです……」

 皆してはぁとため息を吐き出すのであった。無理もない話である。

「で、そん時な、『誘拐されてないけど動けない』ってゆーとったん」
「それだけだとやっぱり、ぜんぜん状況が掴めませんね……」
「しかし、安全は確認されたか」

 とりあえず無事ということだし、全国探せばきっと見つかるだろう。管理局の捜索の手がゆるみ
次第また行くか、という結論に達する。

「じゃあとりあえず、シグナム、シャワー使う? もうすぐおやつの時間やし」

 八神家では3時きっかりに総員でおやつを食すのが基本である(普段学校がある約一名はいつも
これを残念そうにしている)。その前にとはやてが勧めると、シグナムははいと頷いた。それを聞
いたはやては、それならば自分の着替えも頼むと言う。妙な夢だったせいか、少し寝汗をかいてい
たらしい。

「今日こそシグナムの背中を流して、八神家の面子はコンプリートや……!」
「しかし記憶によれば、約一名が未完了な件」
「あの子は別やよ。『一山いくらのオリ主用イベントなんていらねー!』って言うもんやから」
「妙なところでこだわりますね……」

 だがアイツらしい、と言うザフィーラには皆頷いたのであった。





 で、おやつ時。

「……」(微妙な感覚が顔に出るのを堪えている)
「は……はやてちゃん、テレビかえてもいいですか?」(別のことで気を紛らわせている)
「……」(絶対顔に出すまいと、ポケモンやりながらちょっとずつ食べている)
「がつがつがつがつ」(無言で市販の犬用ビスケットを貪っている)

 そこには、はやて印のクッキーの微妙な味を堪えているヴォルケンリッターの姿が!

『……これってやっぱり、書の魔法を使ったから……でしょうか』
『もうページを消費したりしないよ』
『すっかり忘れていたが、これがあった……闇の書、さっさと完成させた方が得策かもしれんな……』

 念話で緊急会議を開き、再び蒐集を考えはじめる守護騎士であった。

『うまいぞ。いるか?』
『いらんがな』

 ザフィーラに冷静に切り返すヴィータだった。



(続く)

############

犬用の卵ボーロは甘さ控えめでイケるんだぜ。



でもドッグフードは勘弁な!



[4820] 番外4
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:404e2d95
Date: 2009/05/01 06:49
「はぁ……おなか、すいたよぅ……」
「きゅる……」

 険しい山道を連れだって歩く、一人の少女と一匹の竜。
 名前はキャロとフリードリヒ。高すぎる能力ゆえに故郷から恐れられ、まだ子供の身で追い出さ
れてしまったのである。
 というわけで非常にお腹が空いていた。手持ちの食料は尽きているし、路銀はあれど店がない。

「朝ごはん、少し取っておけば……ごめんね、フリード」

 そのように考えるのだが、朝三暮四という言葉を知らない年頃である。

「きゃっ」

 しまいには小石に蹴つまづいて、どてっと転んでしまう始末。

「……はぁ……」

 うつ伏せになりながら、自分はこのまま死んじゃうのかなぁ、などと考えたのである。
 その人に出会ったのはそんな、非常に辛い旅の途中であった。

「おお、恐竜だ。ちっこい恐竜がいる。トリケラトプスっぽい角もある! 将来が楽しみだなあ」
「きゅる?」
「ふえ?」

 二人旅のはずが、唐突に声をかけられて驚く。がばっと顔をあげると、そこには若い男が立って
いた。しゅたっと手をあげて挨拶してくる。

「おーす! みらいのチャンピオン!」
「ちゃ、チャンピオン……?」
「ん? むしろ、モンスターマスターと言った方がいいかも。俺がモンスターじいさん役か」

 一人納得する男であった。全然話が飲み込めない。

「とりあえず、こんにちは」
「……こっ、こんにちは」
「なんだか辛そうだ。疲れてるようにも見える。お約束くるかな? お腹の虫が鳴いたりとか」
「きゅるる」
「文字の上では同じだが、今のはこいつの鳴き声でした」

 キャロの腹の虫ではなく、フリードリヒがいいタイミングで鳴いただけである。

「冗談はともかく。お腹すい……」
「え? い、いえ、そんなっ」
「たなぁ。ご飯でも食べよう。あれどうしたの。ぶんぶん手なんか振って」

 ニヤニヤしながら男が言うので、からかわれたと悟るキャロ。真っ赤になってしょげる。

「まあ遊びはさておき。あんパンどうぞ」
「あ……! その、い……いいんですか?」
「中の餡だけ」
「健康に良くないですっ!」
「むかし餡だけ抜いて、お好みソース詰め込んだことあるなぁ。あの時のヴィータは怖かった」

 と言いつつも男は、持っていたふくろからパンを出した。包みを開けてひとつをキャロへ、ひと
つをフリードへ。
 地べたに座り込み、両手で持ってぱくつくキャロ。
 ちょっとこみあげた。
 旅が始まってからは人に会うのもはじめてだったし、渡されたパンも、空きっ腹には天国の食べ
物みたいな味だったから。

「いやー、よかったよかった。な!」
「はっ……はい! その、ありがとうございますっ!」
「きゅる!」
「いや、こっちも困ってた! さっきから変な恐竜に懐かれて追いかけられてさ。あの巨体でじゃ
れつかれたら軽く死ねるけど、こっちにも恐竜がいれば怖くないさな!」
「……え?」

 さぁっ、とキャロの顔から血の気が引く。そして図ったかのようなタイミングで、その頭上に陽
光を遮る巨体が!

「おお、見つかったかね。しかも群れで来たか。20はいるなぁ」
「わっ、わわわっ! にっ、逃げ、逃げましょうっ!」
「あ! やせいのきょうりゅうが とびだしてきた! いけっ! フリード!」
「行っちゃダメ! ていうかどうして名前知ってるんですかっ!?」
「原作知識って便利だよね」
「意味不明ですっ!」

 急ぎパンだけ引っ付かみ、走り出す。ティラノサウルスみたいなでっかい恐竜の群れが、嬉しそ
うに追いかけてじゃれつこうとしてきた。フリードリヒで対抗しようにも、圧倒的に多勢に無勢で
あった。

「きゃぁあああっ!!」
「きゅるるぅぅ!!」
「すげー、恐竜すげー! あれ仲間になるかなぁ。玉乗り仕込みたいね」
「そんな暇ないです!」

 必死に逃げ回るヘンテコパーティーだった。



(続かない)

############

突発的に書いた。

番外もarcadiaに持ってくることにしました。今夜中に作業しておきます。

05/01 2:22
以下の作業を終了しました。

・既に掲載していた番外4を本編71へ移動
・それに伴い、既に掲載していた本編71~のNO.をひとつずつ変更
・今回の番外を4番に差し替え

+番外を再びArcadiaの方にも掲載させていただくことにしました。本編内での
番外ネタへの言及がまたあるかも知れないので。
上げてしまってすみませんでした。ではまた。

05/01 6:50
追加し忘れてた71番を追加。ご指摘感謝です。



[4820] その74
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/05/04 23:48
「……むー」

 本日のおやつタイム終了後、休憩とばかりにこたつでくつろいでいると、はやてがむーむー言い
はじめた。聞きつけたシャマルが問いかける。

「はやてちゃん、どうしたんですか?」
「何かなー……調子が出ーへんの。相棒おらんとどうもなぁ」

 相棒とはもちろん、行方不明の某人のことである。
 多かれ少なかれ、それは守護騎士たちも同じであったようだ。常日頃から生活そのものを引っか
き回しているだけあって、居なくなった時に感じさせられるものがあるのだろう。

「はっ。もしかして、これって……恋やろか?」
「変です」
「変だな」
「変かと」
「ですよね」

 三連続の絶妙な突っ込みが入り、はやてはちょっと満足そうである。

「さっき夢で会えたのは嬉しかったけどなー。近くにおらんと、やっぱりちょっとアカンな」
「念話の呼び出しが聞こえたそうですから……何とか動けるといいんですけど」
「待つしかないかもな。てか、アイツを釣る方法を今考えてたところでさ」
「翠屋のケーキ詰め合わせで釣れるかも知れん」
「ヤツの嗅覚が化け物染みていないと効果が無いぞ」

 とか言っていると、そろそろ買い物の時間になってきた。大抵は学校帰りのオリーシュがついで
に済ませてくれるのだが、今は家にいないのでちょっと手間がかかる。
 今日はここ最近でようやく「料理できる組」の仲間入りを果たしたシャマルが着いていくことに
なった。実際は今現在、八神家で最も料理ができる人間になっているのだがはやては知らない。
 味付けに変なものを買ってこないよう、守護騎士念話会議により、全会一致で監視が決まったと
いうことも。

『それにしても……今回は、少しまずいことになるかもしれんな』

 その念話による会話の途中。やや弛緩した空気が流れる中、ぽつんとシグナムが言いだした。

『何が? そりゃ、あいつは訳わかんねーけど。いつものことだし』
『いや、それはそうだが……違う。我々が逃走に使用した、闇の書の魔法のことだ』

 魔法というより特殊な技能に近いものであろうが、それはさておく。シグナムの言葉にヴィータ
が疑問を呈し、返事の後からザフィーラが話に割り込んで、感慨深げにつぶやく。

『それにしても……こうもあっさり頁を使うとは。しかもまるで悔いがないとはな』
『……私たちも、ずいぶん変わったなー』

 しみじみと言うヴィータであった。それには皆同意である。

『話を戻すぞ……管理局にはあれが、はぐれメタルの蒐集によるものだとは直ぐ知れよう』
『確かに。で、それが?』
『アースラの眼は誰に向くと思う? 一人いるんだぞ、海鳴とあの世界で存在が確認され、はぐれ
 メタルと近しくある人間が……一人だけ』
『……なんてこった』

 言わずもがな、例のあんにゃろうである。闇の書関係の情報を得ようとすれば、そちらにも捜査
の手が伸びることは必定。
 さらになのはが知らせれば、この八神家にも捜査のメスが入る可能性さえある。いきなり局員が
どかどかと上がり込むことはないだろうが、知り合いのなのはやフェイト、ユーノやアルフたちを
送り込んでくる可能性はあるのだ。

『あの子を巡って、管理局とまさかまさかの争奪戦……になるんでしょうか』
『すごく……やりたくないです』
『そうならないことを祈りたいものだ……』

 口々にこぼす仲間たちであった。





 そしてシグナムの懸念は悪いことに、半分的中していた。

「闇の書の主……まさか、彼が……」

 とはミーティングでのクロノの言葉であるが、見解としてはアースラのクルーたちも同じである。
 蒐集対象がはぐれメタルであることは、ユーノの証言(傷心のフェイトとそれを慰めるアルフは、
それができる状態になかった)からもう知れていた。それと密接な関わりを持ち、何故か異世界に
移動していたこともある人間。疑いの目が向けられるのはある意味当然である。

「でも……けーと君、リンカーコア持ってないはずなんだけど」
「……それだ。だから断定できないでいる」

 唯一それだけが、彼の嫌疑を「疑わしい」の段階にとどめている材料であった。シグナムの予想
が外れた、その半分というのはまさにこれだ。
 コアが闇の書の影響で縮小している、というのならまだ話はわかる。
 だが彼の場合は縮小でなく、体内にコアそのものが存在しない、以前アースラに乗り込んだとき
の検査でそう判明していた。闇の書の主に限ってそれはあり得ない。それに加えて、どうも彼が書
の主というのはしっくり来ないのだ。

「しかし、捜査の対象にするには十分か……なのは、君が海鳴へ戻るなら……」
「うん。一度、お家に遊びに行ってみようかなって……あれ、ところで、フェイトちゃんは?」
「……よほどショックだったんだろう。アルフと一緒に、気分転換で外出しているよ」
「困ったわね……養子縁組の話、いつ切り出そうかしら」

 指をあごにあてて、うーんと零すリンディ提督。クロノも気にしているようであった。悩めるハ
ラオウン一家である。

「とっ……とにかく! 少ししたら、会いに行ってみるよっ。おうち知ってるから!」
「任せた。僕たちの方は、しばらくこの世界を中心に網を張ってみよう」

 守護騎士たちが知らぬ間に、来襲の日が迫っているようであった。

「じゃあ、来週の日曜日に行ってみるね!」

 来週だけに。



(続く)



[4820] その75
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:f0ddfa90
Date: 2009/05/06 21:57
 一日の時が過ぎたが、事態はまだ進展していない。
 捜査線上に浮上したひとりの少年は、足取りがまだ掴めぬままだ。管理局側は即座に捜査網を張
ったが、ヴォルケンリッターの誰もまだ引っかかっていない。パトロールにあたっている局員から
も、特に異常があったという報告は上がっていなかった。
 それもそのはず。守護騎士は現在、海鳴にて全員が待機中であった。少し活動を自粛することが
守護騎士念話会議により決定済みであった。管理局に遭遇した翌日に、再び姿をさらすほど馬鹿で
はないのである。

「書を完成させるぞ」

 場所は八神家、はやてが寝しずまった頃。シグナムは食卓にて、一堂に会した仲間に告げる。

「まぁ……はやてちゃんの。ひいては、八神家の食卓の為ですからね」
「闇の書のページを補充しねーとな。今日はシャマルが三食作ったから助かったけど」

 最近レベルアップが著しいシャマル先生だったが、そのおかげで騎士たちは随分助かっていた。
「はやてに上達を見てもらう」という名目が通じるため、一日くらいなら台所を一手に引き受ける
ことができるようになったのだ。以前にはなかった技能である「味見」を覚えてくれたため、毒見
の必要性がなくなったのも大きい。
 味見の時には既に毒として完成されており、作った本人が自滅することはたまにあるが。

「はやてちゃんがお礼に、新しいエプロン買ってくれるって言ってくれましたっ」

 今日は頑張ったので、はやてから誉めてもらえたシャマルである。話す声は実に嬉しそうだ。頑
張って良かった感が全身からあふれ出している。

「シャマルの裸エプロンと申したか」
「味方陣営からついに脱ぎ魔の仲間入りを果たす者が……」
「はっ、果たしてませんっ! どうしてそっちに行くんですか!」

 だがそれさえも仲間内で遊ばれて、真っ赤っ赤になるシャマルだった。

「話を戻すぞ。蒐集はする、考えるのはその先だ」
「先? ……蒐集する相手のことか」

 ザフィーラの言葉に、シグナムは小さく頷く。

「仮の話にはなるが。もしあの世界に、探索の魔法を持つモンスターがいれば……」
「ああ。アイテムならあるよな。ふなのりの骨だっけ」
「あの子が幽霊船に乗り込んだ図を想像しちゃいました」
「骸骨軍団と肩を組んでタップダンスしそうな気がするな」

 冗談のつもりで言ったザフィーラであったが、その図は容易に想像できてしまった。骸骨の群れ
と踊る少年にはあまりにも違和感がなかったため、守護騎士としては戦慄を禁じ得ない。

「……ゾンビ軍団仲間にしたら、マイケルジャクソンの真似ができそうな」

 ヴィータがぼそっと言ったが、一旦聞いてしまうと見たくてたまらなくなるから不思議である。

「で、何だっけ。探知魔法? ドラクエで」
「ああ。私はあまり詳しくないが……心当たりはないか?」
「んー……ないと思う。ドラクエの魔法って、ほとんど戦闘用だからさ」
「そうか……」

 当てが外れたシグナムだった。蒐集が進む上に尋ね人も見つかる、良い解決策だと思ったのだが
しかたがない。実現可能なものを模索するしかない。

「またはぐメタ蒐集で良くね?」
「そうなりますね。一番効率がいいですし」

 シャマルとヴィータで話が進んでいるが、見守る二人も同じ考えだ。所謂ハイリスクハイリター
ンだ。管理局が予測して狙ってくる可能性はあるが、現状では最速の集め方でもある。それにあの
世界を訪れる回数は、出来れば少ない方がいい。ある意味この帰結は当然であろう。

「またベギラゴンを避ける作業がはじまりますね……」
「あいつらどうして連発できんだよ……」
「……やめてくれ。危うく丸焼きにされそうになったのを思い出しそうだ」

 別の意味でもリスクが大きいようだった。





 空が茜色に染まる頃、フェイトはひとり草原をとぼとぼと歩いていた。
 気分転換の外出許可はクロノからの、完全敗北のショックが抜けていない彼女への気遣いであっ
た。できることならとっとと任務を説明し、捜索対象を教えて持ち場に配置したいのが彼の本音だ
ったが、今のフェイトは精神的に参っている。この状態で戦場に出そうものなら、本来の力を出し
きれぬまま重大な事故へ繋がりかねない。フェイトのメンタル面がさほど強くないことを、彼女の
過去から知っているクロノには、それがよくわかっていた。

「……はぁ」

 しかしその気遣いは同時に、フェイトに現実を突き付けることにもなった。
 すなわち、自分は負けたこと。まだ任務を与えられていないのは、打ちのめされているのが目に
見えて分かるからだ、ということをだ。
 つまりフェイトは今、母の死のショックほどではないにしろ、深い失意の底に居た。
 友達になりたいと言い、その意味を教えてくれたなのは。自分の裁判のために走り回ってくれた
クロノ。彼らもそうだし、もっと多くの人の力になることが、償いになるのだと信じた。しかし敵
は強く、己の刃は届きすらしない――。

「……はぁ……」

 ため息ばかりがこぼれてくるのも仕方のない話であった。歩けど歩けど気は晴れず、鬱屈とした
気分が胸の底にたまっていくばかり。自然と顔は伏せがちになっていた。

「わっ」

 そうしてそのうち、ぶつかった。顔を上げると自分と同じ、子供くらいの背中がある。

「ごっ、ごめんなさい。その、前を見ていなくて……」
「後ろに目がついていると申したか」
「いや、その、そういうわけじゃ……えっ?」

 聞き覚えのある声。おどけた口調。フェイトは驚いて顔を上げた。目の前に立っていたのは――

「お、見つかった。こんちあ。久しぶり」
「こっ……こんにちは……え? あ、あれ?」

 例のあの人だった。



(続く)

############

>>[1442]なんかに当てられるなんて……くやしいっ! でも書いちゃう……!

>>[1465]修正しました。ありがとうございます!



[4820] その76
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:0d16b962
Date: 2009/05/07 11:37
 今、フェイトの目の前にはオリーシュがいて、その肩の上にははぐりんたちがいて、風が涼しく
て、草が揺れていて、空は燃えていた。

「俺、逃げた方がいいですか? バインドで捕縛しちゃいますか?」
「えっと、大丈夫……かと。って、どうしてここにっ! 地球に戻ったはずじゃ……」
「正直に話すと、ピクニックしに来た。さる事情により果たせず、今まで動けなかったのだけど」

 訳が分からないという顔をフェイトは作った。まぁ確かに意味不明だわな。

「そういうお主も、何故ここに。オリ主恋しさのあまりか! 確かここは初めて会った場所!」
「え? あ、その……こ、恋しくは……ないです。ここに来たのもその、偶然で」

 フラグって難しいなぁ。

「とりあえず、何か食べる? ぬこたちの昼食作ってたから、余ってるんだけど。おにぎりとか」
「あっ、う、その……す、すみません」

 断られるかもと思ったけど、差し出したおにぎりはわりと素直に受け取ってもらえた。後から聞
いた話だけど、この時は昼から何も食べてなかったのだとか。

「ふふふ、腹が減っているのか。なら食べるがいい。ただし、巻いてある海苔は残すこと」
「そっ……それ、すっごく難しいと思う……」
「昔はよくやったけどなぁ。やらない? きのこの山、チョコだけ取り外したりとか」
「え、と」

 やったことはないようだった。今度フェイトには、何かお菓子を買ってやらねばならんかも。
 ともあれ、おにぎりを食べさせる。朝作ってきたやつなので少し時間経ってるけど、塩加減とか
はぬこ姉妹のお墨付きである。実際ぱくぱく食べてくれて満足だ。はやてが作った方が美味いかは
わからんけど。

「で、ですね。そろそろ、お話しましょうか」
「え……?」

 食べ終わりを見届けて、切り出してみる。まかり間違っても魔王的な意味ではない。はぐりんた
ちが居る今なら肉体的お話も無理ではないのだが、今言っているのはまっとうな意味でのお話であ
る。魔法とか出ない。

「あの……どうして」
「何やら落ち込んでいる気配がしたので」

 と言うと、あからさまに慌てるフェイトである。

「え、えと、えと……なっ、何でもないですっ、うん」

 とか何とか言いながら、手をぶんぶん横に振っている。
 完璧にバレてるの分かってなさそうだ。仕方がないので、カードを切ろう。

「どうせ長身の謎の女性剣士に負けたのを気にしているのでござろう」

 見ていて面白いくらいフェイトが飛び上がった。隠し事は絶対無理そうだなと内心思う。

「どっ、ど、どうして……!」
「や、まぁ。はやてが起きた後も、あの夢の中ではいろいろ知ったので」
「は、はぁ……」

 やっぱり意味不明な顔をするフェイトだった。





「アルフ、君には先に説明しておく。捜索対象についてだ」
「前回逃げてった三人じゃないの?」
「それらに加えて、少年をひとり探すことになった……以前アースラに来た、彼のことだ」
「ん? ……そいつ今、フェイトと会ってるみたいなんだけど」
「……え?」





 さすがにあそこまで言ったので、フェイトもぽつぽつと話してくれた。
 それによれば、全然攻撃が当たらなかったとのこと。そりゃ、はぐメタたちのスピードに慣れて
ればそうなるわな。一緒にいてわかったけどこいつら、リアル瞬間移動のレベルだし。

「と思っていたら、いつの間にかまたペタペタ絡まれているフェイトであったとさ。めでたし」
「めでたくないです! ふぁ……そ、そんなとこ、ひゃぁんっ」

 前回はぐりんたちには女性のデリケートな部分(胸とか太ももとか)を教えておいたのだけど、
逆にまずかったかもわからんね。うなじの辺りとか背中とかを這われて真っ赤になってるし。この
まま開発され尽くしちゃうんじゃなかろうか。

「はっ……はふ……」

 面白いので少し見ていると、首筋から肩に至るまで上気して、トマトみたいな色になって座り込
んでしまった。目が虚ろで、口が半開きになってるし。ちょっとお子さまには見せられないね。

「まっ……毎、回……こんなっ……」
「なつかれてるね。魔物使いの才能があるのかも」

 しかし将来、ないすばでぃになった時どうなるんだろう。今からかなり心配である。男性局員は
かなり喜びそうだけど。

「で、何だっけ。スピード負け? 攻撃当たらないんか」
「……ふぁ……?」
「……もうちょい待とうか」

 今のうちにはぐりんたちを叱りつけておいた。えー、とか遊びたいー、とか目で言ってる気がす
る。それはそれでいいのだけれど。でも手加減してあげようね。
 でもってしばらくすると、ようやくフェイトが復活した。
 さすがに気恥ずかしそうにしている。はぐりんたちにごめんなさいをさせて、話を戻す。

「速さが足りない、とな」
「は、はい。その……全部、当たらなくて」

 しゅんとなってしまうフェイト。多分、当時の状況を思い出しているのだろう。もともと速さに
自信あったっぽいし、そりゃ落ち込みもするだろう。
 ……と、ここで閃いた。これって、チャンスじゃなかろうか。
 最近ヴォルケンたちに、「オリーシュの原作知識はあてにならん」と認識されているのを思い出
したのである。
 ここは汚名返上のまたとない機会!
 俺の手で、立派な脱ぎ魔に育ててやるぜ!

「防御を捨てればいいじゃない」
「防御を……?」
「そう。ジャケットね。つまり、ジャケットに使ってる魔力、全部ブースターに回したら」
「あの……それだと、範囲魔法で一巻の終わりになっちゃいますけど……」

 相手はちょっと手強かった。

「なら、必要な時だけパージすればいい。リミッターみたく……って、まだ使ってないっけ」

 こくこくと頷くフェイト。リミッター云々は第三期だったか。

「それに古来、アーマーパージして負けたヒーローはそんなに居ない。言わば勝ちフラグでもある」
「ほ、本当ですか!?」

 本当は居るかもしれないけど、面白いのでこのままいこう。

「例えば、ダイ大のヒュンケルとか。あれスゴかったなぁ。鎧脱いだまま無双乱舞してたし」

 とか言っていると、フェイトは顔を伏せた。何やら考えているらしい。
 あとちょっと、もう一押しだ!
 もう少しで理想の脱ぎ魔が完成するフラグが立つっぜ!

「フェイトっ、フェイト―っ!」

 と、そこに、空からさし込む黒い影。
 見上げた空には、一直線に飛んでくるわんこの姿が!

「おっ、お前! またうねうねやってたのか! 感覚共有したら大変なことになっただろ!」
「そいつは済まんかった。で、何? そんなに慌てて」
「あっ……そうだっ。フェイトっ、離れてっ! 闇の書の主かもしれないんだよっ、そいつ!」

 何だそりゃ。

「え? ほ、ホントに……って、居ない!?」
「にっ、逃げられた……くそっ! あいつらと同じことばっかしやがってっ!」

 面倒くさそうなので、さっさとキメラの翼で逃げる俺だった。



(続く)

############

むしゃくしゃしてやった。反省しようと思う。



[4820] その77(前編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:8f4968af
Date: 2009/05/10 17:07
 さて、お待ちかねの日曜日。普段ならばこっそり魔法の練習をしていたり、翠屋のお手伝いをし
ていたりするなのはであるが、今日の彼女は妙にやる気に満ちた表情をしていた。
 なにしろ今から、闇の書の主かも知れないあの少年への家庭訪問である。
 映像によれば、守護騎士たちには明らかに攻撃性が無い。さらに言えば、これから会おうとして
いる少年は温厚そのもので、とても争い事とは縁がなさそうな印象がある。
 だが相手は、何を隠そうあの玉坂恵人である。
 何せ自分より一枚も二枚も上手(舌の回り方的な意味で)であり、今まで散々自分を玩具にし続
けてきた少年だ。しかも向かった先には家主である、八神はやての援護もついている。正直言って
勝てる気がしない。
 闇の書の件をちょっと問い詰めても、いつも通り飄々とした態度でのらりくらりとかわされそう
だ。ついでにからかわれ遊ばれる公算も大である。身構えずにはいられないだろう。
 ……最近は、あの子に遊ばれるが楽しいかも、とか思ってますケド。ちょっとだけ。

(でも確か昨日、向こうの世界で、フェイトちゃんが会ったらしいんだけど……)

 クロノから飛んできた不可解な通達を思い出す。しかし「また」世界を移動していたのなら、帰
ることもできているだろう。それはともかく、八神家へ向かう。
 はやてには既に連絡済みである。昨日、今日遊びに行くことを電話口にて伝えると、快く了承し
てくれた。彼にもバレているかもしれないがそれはそれだ。翠屋新商品の美味しいシューアイスを
持ってきたから、きっと釣れる。そんな気がする。
 あと、電話の向こうで何者かが大騒ぎしていたような気がするけど。テレビで観ていた野球の音
だったと説明された。ちょっと怪しい。
 手にさげたビニールの中に、桃太郎印のきび団子……ではなく箱詰めされた桃子印のシューアイ
スを持ち、そんなことを思い出しながら歩いていると、やがて八神家の前までたどり着いた。何気
に来るのは初めてだったりするので、そういう意味でも緊張していたり。

「こっ、こんにちは!」

 インターホンを鳴らし、とりあえず挨拶。

『10秒で45連打すると扉が開く仕組みになっております』
「連打パッドが無いと無理だよぅ……」

 インターホン越しに応対したはやては、早速遊びたいようだった。

『ちょっと動けんから、上がってくれるー? 鍵開いとるから』
「それじゃあ……はやてちゃん、大丈夫ー?」

 大丈夫やよーという返事を聞いて、とりあえず玄関先へ。バリアフリー住宅ってどんなんだろと
思いながら、ドアを開けて中の様子を伺う……あれ?

(あれ……靴、ひとつしかないけど。どうしたのかな……?)

 と不思議に思いつつ、揃えて靴を脱ぐ。脱いだところで奥の方の扉から、はやてがひょっこり顔
を出した。

「おじゃましますっ」
「おじゃまされますっ」

 で、中へ。壁面に手すりとかがついてるのを見ながら、リビングへと歩を進める。部屋では、車
椅子のはやてが待っていた。とりあえず他に人影は見当たらない。

「いらっしゃい。来てくれてありがとう!」
「アリサちゃんとすずかちゃん、後から来るって! あとこれ、お母さんからなんだけど」
「わぁ、シューアイスやん! ありがとな、後でみんなで食べよ!」

 はやてはニコニコと嬉しそうだ。別目的はあったけど、これだけでもう、遊びに来て良かったと
思える笑顔だった。

「と……ところで、けーと君は?」

 ある意味核心である。はやては口を開いて、

「オリーシュは皆の心の中に一人ずつおるよ」
「何かの妖精みたいだね」
「…………」
「…………はやてちゃん。その、ごめん……」

 おとぎの国っぽい小さくて可愛い妖精の、首から上だけをすげ替えた図を想像して、二人でうな
だれるのだった。

「冗談はともかく。どうしたん? まさか……恋?」
「それはないです」

 にべもない返事に、つまらなさそうな顔をするはやてである。

「色々あるけど、とりあえず……」
「とりあえず?」

 闇の書のこともあるが、やはり先にこれだろう。

「……うん。名誉毀損の件について、ちょっとお話ししようと思ってたの」

 居候の少年にいつの間にか砲撃フラグが立っていたと知り、内心で冥福をお祈り申し上げるはや
てだった。





 所変わって、アースラ艦内。
 お昼の賑わいを見せる食堂の中には、食事をとっているフェイトの姿が。

「なのは、大丈夫かな……」

 フェイトは、思い出していた。闇の書の主と言うわりには、先日極めてフレンドリーな姿を見せ
た少年。
 既存の判断材料に加えて、逃げにおける鮮やかな手並みがフェイトとアルフにより証言された今、
アースラの中では彼を書の主である見なす人間が、さらに多数を占めるようになっていた。リンカ
ーコアの有無やその他諸々の不自然な点を投げ掛ける者もいないではなかったが、それでも大勢の
考えをひっくり返すほどではない。少なくとも、闇の書に何らかの関わりを持つこと、調査に一定
の価値があることは、見解として共通のものとなっている。
 それはフェイトも例外ではなかった。疑問はどうも拭い切れないが、彼が何かを隠しているのは
間違いなさそうだ。
 今までの彼の態度や、なのはとはそもそも知り合いであったことから、彼女に危害が及ぶとは考
えにくい。だが闇の書は立派な、超危険なロストロギア。その持ち主か
もしれない人間に会いに行くと言うのだから、心配なものは心配だ。バルディッシュを改造に当て
ているのがもどかしい。
 そう、バルディッシュは今、新たな力を得るべく、しばしフェイトの手から離れているところで
あった。

(……あの人が、何を考えているのか……ちょっとわからないけど)

 なのはへの心配から、その面会相手へと意識が移る。
 ちょっと怪しい、あの少年。しかし自分にくれたアドバイス自体は、フェイトに今後を考えさせる材料になっていた。
 なのはの力になりたい。そのためには、もっと強く、速くならなくては。

(とりあえず、装甲だけど……カートリッジを使うときに切り替えるって、使えるかもしれない)

 思案に暮れるフェイトだった。それがまさか、とんでもない結果を呼ぶとは知らずに。





(続く)

############

ヴォルケンリッターは にげだした!



同日のお話がまだ続きます。



[4820] その77(中編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/05/18 21:58
 騎士たちは草原に向い合い、ある者は浮かない表情で肩を落とし、またある者は不安げに視線を
さまよわせていた。

「はっ、は、はやてちゃん、大丈夫でしょうかっ! ももももし、なっ、何かあったら……!」
「シャマル……何かあったら、お前が直ぐ我々を転送する手筈だろう。落ち着け」

 あたふたするシャマルを諌めるシグナムだったが、もちろん彼女も内心、とても平静を保つどこ
ろの話ではない。他の騎士たちは落ち着いているように見えるが、しかし心の中は同様だ。
 何しろ今、八神家に残されたはやてが単独で面会しているのは、高町なのはその人なのだから。

「闇の書はあたしが持ってるし……バレないと思うけど……」
「主はやてに念話を覚えていただいて正解だったな……」

 仕方ないことではあった。
 ザフィーラ以外のヴォルケンリッターの顔はなのはに知られている。レイジングハートも修復が
終わっている頃だから、犬形態ザフィーラのみを置いておいても、ただの犬でないことがバレるの
は時間の問題だ。騎士が一人でもはやてと一緒にいれば、疑いの目は避けられまい。

「一人の方が逆に安全、ということはあるだろうが……」
「言い出したら聞きませんでしたから……『バレたらヴィータがハチの巣にされてまう!』って」

 赤面して小さくなるヴィータ。「守護」騎士の名はしばらく名乗れそうにもないのだった。





「ゆ……ゆくえふめい?」

 遅れてアリサ、すずかがやって来て、はやてとすずかがはじめましてを済ませた後。
 ここにいない少年について色々と事情を聞いたなのはは、はやての口から告げられた事実に対し
て目が点になっていた。良く見るとぽかんと口が開いている。
 すずかも心配そうな表情になり、アリサでさえ驚きに目を見開いていた。まさか身近に、そうい
う状態にある人がいるとは思わなかったからだ。

「そうなんよ。せやから、どーしよっかと思って」
「ほっ……本当なら、捜索届とか、出した方がいいんじゃ……!」
「でも、夢で会いに来てくれたからなー。大丈夫やって言われたし」
「……アイツ、行動がだんだん人間離れしてきてない?」

 あきれ顔のアリサである。常日頃から数々のアホなふるまいを目撃しているだけあって、感想は
守護騎士たちのそれと全く同じものであった。

「なので心配いらんよー。そのうちひょっこり帰ってくるんちゃうかな」
「帰ってこない方が平和じゃない。しばらく間が空いた方がちょうどいいわよ」

 はやて・アリサ組は全く心配していないようだ。それを聞くすずかも、「二人がここまで言うな
ら大丈夫かも」とか思いはじめていた。彼については確かに、危険が自分から避けて通りそうな気
配すらある。危ない目に遭っている所が想像できない。

(ゆっ、行方不明って……それじゃ、それじゃあ、もしかしてホントに……?)

 しかし、少年が闇の書の主かも知れないと聞いているなのはは別である。
 八神家を拠点にしこそすれ、よもや家に戻らず行方不明になっているとは考えてもみなかった。
 そうなってくると、ますます怪しく思えてくる。八神家を出ているのは、海鳴外での活動を強化
するためではないのか。はやてに迷惑がかからないようにするため…という説も考えられてくる。
リンカーコアが無いから、きっと違うのだろうと思っていた。しかし状況的には彼がアヤシイ。ク
ロノが言った説が正しく思えてきてしまう。

「はやてちゃん、このおうちに一人で……?」

 心配そうに言うすずかであるが、はやてはあっけらかんと答えた。

「ん? うん。たまに親戚が来るから、寂しくはないけどなー」

 気にせんといて、と明るく言う。
 大人用の服やら何やらが洗濯物に混ざっているのを見られたらマズいので、「完全に一人ぼっち」
と言ってはいけない。ただこう言っておけば大丈夫で、割と抜け目のないはやてだった。ちびだぬ
きの片鱗はこういうところに現れているのかも知れない。

「じゃ、とりあえずゲームしよか! 負けた人から罰ゲームで!」
「今日は馬鹿みたいに強いのがいないし、いい勝負になりそうね」
「そんなに強いの?」
「う、うん。けーとくん、対戦ゲームだと負けるとこ見たことないし」

 少々困惑しながらも、なのはも遊びに加わった。最近は友達とよく遊ぶようになったので、魔法
の訓練以外の遊び方が分かってきたなのはである。
 トイレに行ったとき、修復完了したレイジングハートにこっそり聞いてみたが――今ここに闇の
書の存在はないらしい。同時に、はやてにリンカーコアがあると教えられたが、それは判断材料に
はならないだろう。今あれこれ考えても仕方がない。
 アリサの言った通り、対戦ゲーム最強の約一名が不在のため、ゲームはハンデ等の必要も無く、
割と穏便に進んだ。
 なのはもこの時ばかりは、用事を忘れて楽しむことにした。恥ずかしい話の暴露やらスベらない
話やらの罰ゲームをかいくぐり、時には結託したアリサとはやての罠に嵌められつつ、すずかと組
んで逆襲を挑んだりとか。
 そうしてそのうち、お昼時。
 ちょうど3時を回ったほどである。そろそろおやつの時間、と言わんばかりに小腹が空いてきた。

「クッキー取ってこよ。なのはちゃん来るとき、ちょうど焼いておいたん」

 おおっ、と喜びの声が上がったのだが、何気にちょっとピンチである。味的な意味で。

「あ。じゃあ、取ってくるね。キッチンにあるの?」
「ん? あ。ありがとなー。じゃあ、オーブンの上にあるから、お願いな」

 はやてが移動するためには、車椅子を使わねばならない。それを考慮しての、なのはのささやか
な気づかいだった。はやてもその辺りを分かっているのだろう、遠慮することはしなかった。

(それにしても、行方不明なんて……)

 そうして場を離れてから、なのははひとり思案にくれた。
 当てが外れたとはこのことである。
 けっこう遊び遊ばれた仲である。闇の書の主の容疑がかけられていることは知られていないはず
だから、自分と会うのを避ける理由はないはずだ。はやてに嘘をつくよう頼む必要もなさそうだか
ら、行方不明というのは本当であるらしい。
 クロノは、管理局は、この事実をどう考えるだろうか。蒐集に集中するために姿をくらませてい
る――そう考えることは、十分あり得るのではないだろうか。

「はぁ……」

 疑いを晴らすつもりだったのに、不利になるかも知れない。要するにお先真っ暗。なのはは溜め
息を吐きつつキッチンの奥へと歩いた。

「どこに行っちゃったんだろう……」





「やっぱ味が微妙……これははやての為にも、客には食わせられんだろむしゃむしゃむしゃ」
「…………あっ……ああっ!?」
「あっちのとすり替えよう。あとついでに、翠屋のシューアイスを失敬……おろ。久し振り」
「えっ! え……ああぁああっ!!?」

 ここにいました。



(続く)

############

王の帰還。



[4820] その77(後編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/05/19 01:09
 とある目的により八神家にこっそり帰還したはいいが、親切心のまま行動するあまりうっかり見
つかってしまった。客がいるのは靴でわかったけど、なのはだったとは。これは知らんかった。
 でもって大声を出されてしまい、それを聞き付けたのか足音がする。
 これは見つかったか、と思ったのだが、なのはに強引に引っ張られた。どこに行くのかと思いつ
つ身を任せていると、物置代わりの空き部屋に入っていく。そして言う。

「けーとくん……ちょっと、二人っきりで! お話が! あるんだけどっ!」

 句切り句切りで、なのはは言った。言葉に力を込めようとしたのだろう。頑張って「怒ってるん
だぞあぴーる」してるのがよくわかる。

「何ぞ。悪いことしたかね」
「したかね、じゃないよ! わたしが魔王だ何だって言いふらして! 名誉毀損だよっ、これ!」

 あぴーるしたのは本当の感情だったようで、珍しいことに、なのはは顔を赤らめて、ぷんすかぷ
んすか怒っていた。
 具体的に言うと、今にもほっぺたぷくーが出そうな感じ。さすがに、魔王にクラスチェンジする
前に言いふらしすぎたかもしれない。ちょっと反省しつつ、このままではマズいのではと気付く。

「すまんかった。でも名誉毀損より、むしろ侮辱罪か風説の流布じゃね?」

 このままだとぬこまっしぐら、ではなく砲撃まっしぐら。それはさすがに命がヤバいので、なん
とか煙に巻こうとする。経験の差を生かし、難しい単語を使ってみることにした。もちろん用法は
知らん。てきとーに思い出した言葉を言ってるだけなので、読者の人たちは突っ込まないでね。

「え……ふ、ふーせつ……?」

 聞きなれない単語に、なのはは思わずといったふうに首をかしげた。ここだ、押し込め!

「だから甲が乙で丙が丁で! 知る権利と報道の自由が裁判員制度でマツケンサンバなんだよ!」
「え、え? えと、えと」

 言ってることの意味は全くわからないし支離滅裂なのでどうでもいい。
 しかし所々聞こえる単語が難しくて、というか最後以外全部分からなくて、自分の知らないもの
だったことになのはは戸惑った。
 あれ? 言ってること、単語がわかってない?
 まさか、実はわたしって……けーとくんよりアホなの?

「どうしたの」
「ううぅ……ほっといてよぉ……」

 何を感じたか分からないが、どんよりとしょげるなのはだった。どうやら窮地は脱したようなの
でいいけど、明らかにヘコんでいるのでよしよししておいた。

「まぁいいや。ちょっと用事があって帰ったんだけど、果たせなさそうだし。そろそろ帰るね」
「うん……じゃあ…………じ、じゃあ、じゃなくてっ! わたしも用事あるよっ!」

 しょげるついでにスタコラサッサと行きたかったが、そうは問屋がおろさなかった。服を掴まれ
て止められる。そして、ゆっくりと言う。

「あのね、けーとくん。その……わかんなかったらいいんだけど。闇の書って……持ってる?」

 どうやら真剣な話題だったようだ。今までとはちょっと目が違う。
 ので、こちらも真剣に考える。真剣とか今までやったことないので不真面目が度数60くらい混
じるけど、できるだけ真剣に考えることにする。
 闇の書の主は間違いなくはやてである。
 でもはやてには平和に暮らしてほしいので、関係ないということにした方がいい。
 ということは! ということは! ここで俺が主って言ったら丸く収まるかも! 後のことはど
うなるかわかんないけど!

「そう! そう、俺! 俺闇の書持ってるよー。めっちゃ所持者だよー」
「……じとー」

 なのはは「うそつき!」と言いたげな目でこっちを見た。やばい、何か知らないけど信じてくれ
ない。このあふれ出る真剣オーラが感じられないのか。ならもっと演技するしかない!

「ふ、ふははは。よくぞ見破ったな高町なのは。こっ、これからお前は闇の書のエサとなるのだ」
「ねえ。もしかして、誰か……かばってる?」

 やばい。

「くっ……きょ、今日は……このくらいにしておいてやるっ!」
「わたし、何もしてないんだけど……」
「べっ、別に、秘密がバレそうだから逃げるんじゃないからね! 勘違いしないでよね!」
「秘密?」

 これ以上喋ると次々ボロが出そうなので、窓をバタンと開け放ち、キメラのつばさで逃げるのだ
った。





「という感じだったんだけど」
「……シロ、かな」
「シロかもね」

 翌日話してみたところ、フェイトたちの感想はなのはと同じだった。

「僕もそう思うけど……クロノ、どう?」
「……本当に訳が分からなくなってきた……」

 ユーノの問いかけに対して、頭を抱えるクロノだった。



(続く)

############

ストックしていたオリーシュ逃走編でした。
誰もこの連続更新は予測できまいフゥーハハァー!

うっすらとあった紐糸A’sの終わらせ方が、頭の中で像を作ってだいぶ固まってきています。
会話の練習ではじまった本作ですが、とっくのとうに通り越してこんなところまで来てしまいました。
……本音を言うと当初、A’s本編はキングクリムゾンするつもりだったのですが。どこで道を誤ったのかw

でももうちっとかかるんじゃ



[4820] その78
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/05/31 18:45
 あれから何日かの時が流れたが、ヴォルケンリッターに動きはない。例の主候補も八神家から失
踪したまま、その行方をくらませていた。つまり事態にはまだ進展がない。
 正式にこの事件の担当となったアースラクルーにとっては、不気味であることこの上なかった。
何しろ、今までぽつぽつと続けられていた蒐集の痕跡さえ、ピタ
リと止んでしまっているのだ。嵐の前に風が凪ぐというが、彼らはそれを身を持って味わっていた。
 疲労が積み重なり、仲間たちの表面にも吹き出しはじめているのを、クロノやリンディは鋭敏に
察知していた。ピタリと動きがないだけに質が悪かった。「何があっても」と思っていても、ふと
した瞬間に「次は何が」と勘繰ってしまう。精神的によろしくない。

「また見つかるとアレだし、蒐集も捜索も中断しようぜ。しばらく家で待機でよくねーか?」
「仕方ありませんね……でも、どうします? 料理はわたしが頑張るとして、捜査の方は?」
「管理局が見つけてから横取りする。どうせ結界張るから、すぐわかるだろ」
「なんという鬼畜」
「まさに外道」

 ヴォルケンリッターの間でそんな会話があったことは、もちろん管理局の知るところではない。

「不気味すぎる……派手に動きがあった方がまだマシだ……」

 自分にあてがわれた部屋で書類をまとめていたクロノは、思わず口走っていた。一枚の末尾にサ
インをしながら、指でトントンと額を叩く。十代前半の子供の仕草じゃないよ、と背後に控えるな
のはは思った。何でもできてすごいなぁと以前から思っていたが、デスクワークの様子もこれまた
堂に入ったものである。

「それで、再び逃走した、と……魔法も使わずにどうやって?」
「ちっちゃな羽みたいアイテムで。窓を開けたと思ったら、しゅーって飛んでいっちゃったの」
「相変わらず、魔力所持を示唆する材料はゼロか……」

 会話からわかるように、クロノはなのはの証言をもとにして報告書を作成中であった。提出用で
あり、クロノたちのためでもある。事件や捜査においては、たとえ小さな情報であっても、後から
大きな意味を持つことが稀にあるのだ。特に捜査の材料に乏しい今回の案件では、いかなる見落と
しも許されまい。そう理解しているだけに、八神家訪問の際の様子を思い出すなのはも真剣だった。
レイジングハートにも音声や映像の記録は残っているが、しかしアースラクルーの中で唯一、なの
はだけが例の重要参考人と友達付き合いをしていた。その言葉が持つ重みは決して軽くはない。

「それで、それで! はやてちゃんのクッキー、全部食べちゃったんだよ。楽しみだったのにっ」

 つまりこういう話を聞いていると、彼がますます「闇の書の主」から遠ざかっていくから困る。

「……よし、このくらいでいいか。そろそろ行こう。フェイトが待ってる」

 バインダーに書類を挟んで、クロノは椅子から立ち上がった。完全復活しパワーアップまで果た
したレイジングハートに続き、その日はフェイトが自主的に行っていた、バルディッシュの完成が
もう目の前まで来ていた。その時にはぜひ立ち会いたいと思っていたのである。サポートに回って
いるエイミィが昼過ぎにはと言っていた。そろそろいい頃合いだ。

「うん。じゃあ、行こう?」
「楽しみだな」
「そうだね!」

 なのははひまわりのような笑顔を見せた。近いうちに我が妹となる少女はどうやら、友達思いの
いい親友を得たらしいと内心思う。
 友達だと言っていた例の捜索対象の話をしている時も、表情が生き生きと変化していた。そう考
えると、彼が書のマスターでない方がいいのかもしれない。クロノは思って、わずかに微笑んだ。
 そして気付いた。

「……ところでなのは、その本は? 何か参考書のようだけど」

 なのはの手の中には、何冊かの本がある。すべてがわかる訳ではないが、そのうち一番手前にあ
る一冊の表紙には、絵のようにカラフルな文字が並べてあった。それが地球の数字であることをク
ロノは知っている。他の本にも、かくばった文字(おそらくなのはが言う「漢字」だろう)の羅列
がちらりと見えた。
 そう思って尋ねたクロノであるが、対する返事はこうだった。

「……あの子には絶対に負けたくないって、心の底から思ったの」

 背を向けたなのはの表情は窺えないが、声にはやる気と闘志とが満ち溢れていた。





 所変わって八神一家、すなわち闇の書御一行。
 今日も朝から夕方まで家事なり談笑なりで過ごし、気が付いたらお腹がぐぅと鳴く時間になって
いた。全体にピリピリした緊張感漂う管理局側とは違って、こちらはまったりしたものである。

「シャマルもやるようになったものだ……」

 台所ではすでに夕飯の準備がはじまっていた。奥のコンロでことことと何かが煮えている。季節
はもう冬。足をこたつで温めながら、向かいのヴィータと将棋をさす。

「今日はシチューだそうだ」

 炬燵の横合いで声がした。盤面を覗き込むザフィーラの、青く毛並みが揃った頭部が見えている。
さっきまでは珍しいことに人間形態だったのだが今は戻っていた。手伝いに具材をざくざく切って
いたらしいから、どうやら間違いなさそうだ。

「シグナム、そっちの番。ていうか、それ二歩じゃねーか?」
「……おかしい。こんな位置に歩は置かなかったはずだが……」
「あの一瞬でよく手が動いたな」
「へへっ。器用だろ」

 自慢げに言うや否や、その額に歩兵の駒が張り付いた。投げたのはもちろんシグナムである。

「だって、あたしじゃ勝てねーって。アイツが帰ってくるのを待ってなよ」
「思わぬところで弊害が出たか……」

 失踪中のあの少年、精神年齢19というのはまんざらウソでもないらしく、テレビゲーム以外に
将棋や囲碁などもそれなりにできる。将棋を覚えたシグナムが勝負を挑むにはちょうどいい相手で
あり、たまに付き合ったりもしていたのである。だが今、彼はこの家にいない。
 キッチンからははやてとシャマルの、ふたりぶんの楽しそうな鼻歌が聞こえていた。はやての味
付けミスをシャマルがこっそりフォローするという形になっているが、最近の八神家の食卓は非常
に安定している。
 しばらくはやての手作りご飯にありついていないわけだから、あの少年にも食べさせてやりたい
ものだ。最近腕前が上がってきたシャマルも、「絶対美味しいって言わせる」と燃えに燃えていた。
しかしその夜、焼き魚を焦がして皆の笑いを買ったのは御愛嬌である。燃やすのは闘志だけでいい、
と言うとしょんぼりしながらしおしおとしおれていた。

「早く帰ってこねぇかな……残ったトニオ料理、コンプリートしたいのに」
「一体どこをほっつき歩いているのか。魔王にでも捕まったか」
「むしろ魔王に懐かれているかもしれん」
「……絶対にないと言い切れないから困る」

 実際未来の魔王候補とは割と仲良くやっているので、あながち間違いでもないのだった。





 緊張感に包まれた時空管理局と、まだまだのん気な闇の書パーティー。
 その最大の捜索対象、八神家最後の一員が再び表舞台に姿を現したのは、それから三日が過ぎて
からのことである。
 その登場はアースラクルーを、驚愕と混乱のさなかにたたき落とした。

「南の町に、仮面をつけた少年が、はぐれメタルを連れているとの目撃情報が! 」
「北西にも一人。内容は全く同じです!」
「真東の山間部でも、同様の報告が上がっています!」

 頭を抱えるのを通り越し、クロノは今度こそ頭痛を覚えるのだった。



(続く)

############

魔王が懐くといっても仲間になるんじゃなく、

りゅうおう「おまえに せかいの はんぶんを やろう!」
オリーシュ「しのびねえな」
りゅうおう「かまわんよ」

という程度がヴォルケンリッターの想像です。



[4820] その79
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:debc63c6
Date: 2009/06/01 13:41
 ついに表舞台に姿を現した、闇の書の持ち主候補。
 しかしそのあまりの突拍子のなさと、意味不明な情報の錯綜によって、アースラは混乱の最中に
叩き落とされた。何せ、同じ内容の報告が――重要参考人目撃証言の情報が、同時に三か所で上が
ったのだ。戸惑うなというのが無理な話である。

「けっ、け、けっ、けっ、けーとくんが、けーとくんがさんにんもあわわあわあわあわわわわっ」

 そしてその最たるは、あからさまに右往左往しているなのはだった。まだ戦闘はおろか出撃すら
していないのに、すでに会話すらままならない。良く見ると漫画みたいに、目がぐるぐる回ってい
るのもポイントだ。

「な、なのは、とりあえず落ち着いて」
「そっ、そんなに焦らなくても……」
「だって、だってだって! 国語も社会もあんなにお勉強したのに! 3人だよ、さんにんっ!」

 ばたばたと腕を振るなのはであったが、こうまで騒ぐのには彼女なりの事情がある。実は八神家
訪問のあの日から、例の捜索対象との舌戦に勝つべく、ひそかに特訓(という名の猛勉強)をして
いたのだ。
 煙に巻かれたのがそれだけ悔しかったのであるが、とにかくなのはは頑張った。具体的にはボキ
ャブラリーを増やすべく、苦手な国語の教科書やら参考書やらを必死こいて読み込んだ。漢字の問
題集に至ってはすでに書き込みだらけで、使い込んでいるのが目に見えてわかる。
 しかしあちら側の口が三つに増えたら流石に勝てまい。うーうー唸っているのを見ると、よほど
勝ちたかったのだろう。じたばたしたくなるのも無理のない話ではあった。

「……三人まとめて相手にしろとは、僕は一言も言っていないぞ」

 なのはをどうやって落ち着かせようかとあたふたするフェイトやユーノたち。そこに現れたるは
皆のまとめ役、クロノ・ハラオウンその人であった。

「クロノ、だ、大丈夫?」
「明らかに疲れてるよね」
「……言わないでくれ。言われると余計に自覚する」

 いつもの毅然とした立ち振る舞いも、言葉の中の覇気も見当たらない。憔悴しているのが見てい
てわかった。アースラ全体が混乱の渦に巻き込まれているのだから、艦長であるリンディやそれを
補佐するクロノの心労は蓄積する一方である。

「クロノくん! どういうこと、今の?」
「三か所別々に出現したのだから、少なくとも同時に三人と相対することはないだろう」
「……あっ」

 そこまで思考が届かなかったなのはである。オリーシュ三連続出現の衝撃が大きすぎて、明らか
に頭がバカになっていた。全員から何とも言えない視線が集中する。あたふたしていたのを恥じる
ように、しおしおと大人しくなるなのはだった。

「というわけで君たちには、三地点それぞれに向かってもらいたい。任務内容は参考人の確保」

 任務、という言葉にフェイトが反応した。前回は散々な結果だったが、今はあのときとは違うの
だと強く思う。ヴォルケンリッターはまだ現れていないが、きっとまた戦うことにはなるだろう。
パワーアップしたバルディッシュの力を使う時が来たのだと、固く拳を握りしめた。

「なのは・ユーノ組は南、海の方だ。東にはフェイトとアルフで行ってくれ」

 この振り分けはクロノの配慮だった。戦闘になった場合、砲撃メインのなのはには遮蔽物のない
海上が動きやすかろう。

「もう一ヵ所は?」
「僕が出る」

 正直こちらの方が気は楽なので、ありがたいとも言えた。アースラに残る母には申し訳ないが。

「よっ……よし、ひとりならなんとか……」
「彼が相手ならいいけど、ヴォルケンリッターが出てくる可能性は高い。皆も気を付けてくれ」
「く、クロノ、無理しないでね」
「それはなのはと君自身に言ってやってくれ」

 割と正論だった。





 海沿いの町に向かったなのはとユーノであったが、目的の少年はすぐに見つかった。
 純白の魔導衣に身を包んだなのはを見掛けるや否や逃げだしたのだが、仮面のせいでどこにいて
も目立つ。少し見失っても通行人が覚えているから、追いかけるのは楽だった。

「結界張るよ!」

 大体の位置さえつかんだら、ユーノお得意の技で一撃捕縛である。異色の空間が世界を、空間を
切り取った。逃げていた少年は観念したのか、足を止めて振り返る。

「念話で、閉じ込めたって伝えておいたよ」
「うん。……私が、説得に当たってみるの」

 無人の街に、少年がひとり。正面に相対し、なのははゆっくり口を開く。

「久しぶりだね、けーとくん……偽者さんかもしれないけど」

 こく、と頷いたのは挨拶なのか、それとも後者の肯定なのか。

「一緒に来てほしいんだけど、駄目かな?」

 言うと、少年は背中から何かを取り出した。
 大きな長方形。スケッチブックだ。そういえばいつか、絵を見せてくれたっけとなのはは思い出
す。その目の前で、一枚目が開く。

『バインドされて魔貫光殺砲されるからやだ』
「しないよっ! わたし、そんなに野蛮じゃないよぅ!」

 ぶんぶん腕を振るなのはだった。

「あれ? ところで、どうして書いてるの? 喉痛めてるの?」

 ページを一枚めくり、またしても文字を見せる。

『契約の代償に声を失ったんだ』
「作品違うでしょ」

 いい突っ込みである。

「なのは、アルフから連絡。あっちも結界に閉じ込めたけど、似た調子みたい。クロノはまだだよ」
「ううう……本物かどうか、分かんないよぅ……」

 口を開かないなどの不自然な点は多いが、基本的に会話の展開が本人とそっくりだ。これだけで
見分けるのは無理だろう。

「もっ、もう! もう! とにかく、連れていくよっ! 案ずるより……何だっけ。えと、えとっ」

 カッコよく決めようとしたなのはだったが、少々知識不足だったらしい。尻すぼみになって止ま
ってしまう。

「……とっ、と、とにかく! 一緒に来るのっ!」

 少年とユーノに見つめられ、なのはは発熱したようになった。つまり首から頬まで真っ赤っ赤。
 しかし少年、首を横に振る。そうしてから背を向けた。どうやら逃げるつもりらしい。なのはと
ユーノはあわてて追いかける。
 しかし束の間、その前方に何かが躍り出た。
 ユーノは首を傾げたが、なのははさっと青ざめた。彼が連れていた魔物をよく覚えている。飛び
出したのはまさにそれだった。
 一体の魔物、名をはぐれメタルと言う。魔法の一切が通じない、魔法使いの天敵であった。



(続く)



[4820] その80
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/06/07 14:29
 大陸東部の草原地帯で、標的を発見したフェイトたち。すぐさま説得を試みたのであるがしかし、
飄々と流されては失敗に終わった。
 フェイトにとって少年は、それほど付き合いが長いわけではない。彼が何故今現れたのか、どう
やって三人に分身しているのか(守護騎士がらみの可能性はあるが、その場合は人数が合わない)
など疑問はあるが、基本的に彼女にとって、説得失敗という結果は決して想定を出てはいなかった。
スケッチブックによる筆談を終えて少年は逃走する。アルフとフェイトは言うまでも無く、その背
を追いかけようと地を蹴った。
 そして一歩踏み出した瞬間、それは閃光のように現れた。
 「速さ」「硬さ」「魔力」それらを極限まで凝縮した純粋な存在。瞳の向こう側に窺える重厚な
完成度。いかなる魔法をも弾き返す圧倒的な装甲。
 フェイトたちにもなじみのあるモンスター。一体のはぐれメタルが眼前に立ちふさがった。いつ
もの無邪気な気配は瞳に無く、静かな決意がありありと読み取れる。少年のもとには一歩も通さな
いと、無言だが雄弁に伝えていた。

「フェイト……」

 敵はたかが一体。しかしその戦力の大きさを悟ったのだろう。指示を待つアルフの声からは、彼
女がすでに臨戦態勢に入っていることが知れた。戦闘に際したとき独特の、充実した緊張感が伝わ
ってくる。フェイトはこくりと頷いた。
 現れた白銀の魔物に、フェイトは心から戦慄した。目の前に立ちふさがった速度は、まさに雷光
と言うべきそれだったから。気配を感じたと思ったら眼前にいた、という表現がぴったりだろう。
これほど高速で動く存在を、フェイトは相手にしたことがない。
 だが慄きこそすれ、決して敵わないわけでもない。
 追えなくもない――そんな確信めいた感覚があった。以前の自分ならまるっきり敵わない、手も
足も出ないと諦め膝を折った相手かもしれない。しかし新たな力を得た今、フェイトには見えてい
た。神速とも言うべき動きの一つ一つを、視認することができていた。

「アルフ、行って」
「フェイト! だってこいつ、魔法が……!」

 確かに、そうである。この魔物が魔法の一切をはじくのは、以前行われた調査で証明済みだった。
カートリッジシステムを搭載したなのはの砲撃ならあるいは可能かも知れないが、兎に角並大抵の
魔法は完全にシャットアウトされてしまう。
 しかし、それはアルフがいようがいまいが同じこと。忘れていけないのは今回の目的が、この魔
物の打倒にはないということだ。作戦達成はあくまで少年の確保に他ならない。二人でかかりきり
になっている間に、時間は刻々と過ぎていくのだ。

「私が……引きつけるから」

 決意を込めたフェイトの一言。
 アルフはもう、これ以上声をかけることはなかった。対峙する二人から、横方向に飛び出した。
少年の進む方向へは、迂回して少年を探す気である。
 それを見過ごすまいと白銀の閃光が迸る。
 しかし行く手を、黒金の戦斧が遮った。

「いくよ……バルディッシュ!」

 静かに、そして確かに宣言する。その手には新生した相棒が、しっかりと握りしめられていた。

「……」

 警戒し、そして無言で構える。スタスタの脳裏には、主人から言い渡されていた任務が思い起こ
されていた。

『脱ぐまで時間稼ぎ。脱いだら撮って。成功したら焼きプリン』

 白銀のボディにこっそり包まれたミニカメラが、ひそかに撮影のチャンスを待っていることを、
フェイトはまだ知らなかった。





 一方クロノはようやく、山岳地帯のとある町に辿りついていた。
 他の二人に比べてここまで時間がかかったのは、町そのものが山中にあって入りにくかったのが
大きい。人間が飛行する習慣のない世界だから、いきなり空中から登場して現地住民を混乱させる
わけにはいかないのだ。山の中腹までは飛んでいくことができたが、山間にもかかわらず割と人通
りの多い場所であったため、目立つ行動は避けねばならない。

「なのは、効いてない! 砲撃が全然効いてないよ!」
「かっ……カートリッジロード! 限界まで!」

 町に着いてからなのはとの交信を試みたところ、帰ってきた返事はそんなものであった。取りあ
えず戦闘が始まっていることは間違いない。急ぎアースラと通信すると、フェイトの方でも交戦が
開始されていると知れた。

「酒場か……」

 呪文が効かない相手だ。あらかじめそう分かっているものの、あまりにも相性が悪すぎる。ぐず
ぐずしていられないとばかりに、情報を元にクロノは走り出した。
 あえて結界を張ることはしなかった。
 使用した瞬間にこちらの存在がバレるという、結界のリスクを考えてのことだった。またアイテ
ムを使って逃げようとしても、それより早く結界を張る自信もあった。捜索対象になって居る彼な
ら、少なくとも一般人に危害を……などという愚行はしない、そう確信しての選択でもある。そう
いう人間ではないとわかっていた。
 酒場に入る。
 入口では誰にも止められなかった。この世界で飲酒できる年齢が低いのは調査済みだ。そのまま
まっすぐ、奥へと向かう。カウンターに座っている男のうち、真ん中の一人に話しかける。

「彼は?」
「二階のテーブル、南東の隅に」
「同行してくれ。説得後確保する」
「了解」

 言わずもがな、アースラクルーの潜入である。管理局員は割とスゴかった。伊達に多数の世界を
統括してはおらず、様々な文化・習慣に精通しているのだから、言語さえ何とかすれば溶け込むの
に訳はない。
 そうして、木組みの階段を二階へと上がる。
 そこには確かに、少年がいた。標的の少年が仮面をつけている。テーブルの上には例の銀色の魔
物もいた。餌をやっていたのだろう、いくつかの皿には食べかけの料理が盛ってあった。
 ……今までの心労を鑑みるに、この少年には少々文句を言っても問題なかろう。
 そう思いつつ近づくと、少年は顔を上げた。例の仮面越しに口を開く。

「来たか……」

 クロノは思った。こいつ偽物だ。

「他を当たるぞ。僕はなのはの援護に行く。君は艦に戻って報告にあたってくれ」
「ええ。そうしましょう」
「まっ、待ってくれ。どうして偽物だとわかったんだ」
「だって……」

 最初から口調が違う。というか全体的に雰囲気が違うのである。

「……ま、まぁ、いい。時間は稼げた……」
「時間?」

 偽物のその発言の直後、同伴した魔導師に通信が入る。
 聞き終わると驚き焦った様子で、クロノにこう伝えた。

「ほっ、報告! 北の方向に、四つの強大な魔力反応! 海上を西に飛行中です!」
「四つ……ヴォルケンリッター!? 何故その位置に……」

 突然の事態にも、クロノの頭脳では急速に思考が展開されていく。
 主候補に見向きもせず、まったくあさっての方向に向かう理由は二つ考えられる。ひとつは彼が、
本当は主ではないという可能性。もう一つは今出現している者より重要な何かがある可能性である。
しかしどちらにしろ、答えは一つ!

「なのは、フェイト! 北にヴォルケンリッターと思しき四名が向かった!」
『え!?』
『バルディッシュ、カートリッジロード……えっ!』
「嵌められた。全部偽物だったんだ! 可能な限り早く行ってくれ、僕もすぐに出る!」

 もうこうなったら、時間との戦いだ。一階に下りる間も惜しいとばかりに、魔導師たちは二階の
窓から飛び出すのだった。
 それを見送り、少年は仮面を外す。同時に変装が、変身の魔法が解け、その正体が露わになった。

「私たちにできるのはここまでだ……うまくやれ、少年」

 テーブルを立った壮年の男はそのまま酒場を出ると、一体の魔物を伴ったまま、人ごみの中へと
消えていった。



(続く)

############

という訳で全部ニセモノでした。
ヌギま!今回も脱ぎませんでしたがそろそろ脱ぎます。楽しみです。
というかついに80まで来ましたね。ずいぶん遠くへ来たものです。



[4820] 番外5
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/06/12 00:12
 例の事件の後もちょくちょく八神家に遊びに来るようになった、某高町さん家のなのはさん。
 休日になるたびゲームしたり魔法の訓練を鑑賞したり、いろいろやって仲良く過ごしてます。
 でもこのなのはさん、一年に何回か、ある時期が来るとちょっと変化が訪れたりもする。

「いっ、いくよっ……せーの、はい!」
「はい」
「それ、見せてないよっ! 点数のところにシール貼っちゃダメ!」

 ある時期とは、つまり学期末のこと。この時期が来ると学校では当然テストラッシュがあるのだ
が、この点数で一対一の対決を所望してくるようになったのだ。はやてのいないときに個人的にや
ってきて、見せ合いっこをしては帰っていく。今日がその三回目である。

「ひゃっ……ひゃくてん……」
「こっちは95。吹き出しにセリフを入れる問題で遊んでしまいまして候」

 社会と国語の点数を見て、呆然とするなのはだった。行ってる学校違うからとは言ったのだが、
それでもと言うので。結果こうなる。
 言っとくけどオリーシュも一度は大学行っていたので、小中高までなら大体覚えてる。完全に暗
記してないとはいえ、そこらの小学生には負けないのです。
 普段の言動とかから信用されないかもしれねーけどな!

「そう言う高町なのは嬢、79と81。上々じゃあないか。ミス差し引けば5点くらい上がるし」

 めっちゃ努力したのだろう、なのはの点数も前回よりかなり伸びていた。前は70前半くらいだ
ったのだ。伸び方がイイ感じ。

「えっ、本当?」
「本当。こことここ、漢字と語彙で引かれてるだけ。よかったよかった」
「うん! もうすぐ九十……よっ、良くないよ! わたし、これで三連敗だよう!」

 一瞬ほころんだような笑顔を見せたのだが、すぐ消えた。それを上回る悔しさがあったらしい。

「お、やってるやってる。どーだった?」

 すると部屋に、ヴィータが入ってきた。闇の書事件以来、守護騎士たちの中でもなのはと割と仲
がいい。なのはがちょっと秘密にしたいこういう場にも、「はやてに言わないなら」という条件
でなら許してくれたりもする。

「……うー……うぅぅ……ずるいよぉ……」

 打ちひしがつつ、恨めしそうにこちらを見ているなのは。これはもう一目瞭然であった。

「こうして、世の理不尽をまたひとつ知るなのはであったとさ」
「一歩大人に近づいたのだった。どんとはれ」
「どんとはれ……?」
「おしまい、の意味。東北の方言。昔話の語り手の人が使ってたって以前どこかで……どうしたの」

 どういう訳かはわからないが、なのははショックを受けてさらに硬直した。

「それにしても、どうして俺と競うのか。アリサはともかく、すずかやフェイトそんでいいんじゃ」
「けーとくんじゃないとダメなのっ! わたしはっ、きみにっ! 勝ちたいんだってばっ!」

 問いかけてみると復活し、語気を強めて言う。いつの間にやらライバルフラグが立っていたらし
く、何かしたっけと首をひねる。心当たりはこれといってないんだけど。

「確かに、こいつに負けてるのは納得いかないっていうのは分かる。勉強だと特に」
「でっ、でしょう! そういうことなのっ!」

 なのははそういう気はないんだろうけど、ヴィータからは間違いなく鼻で笑ってるような気配が
ある。何てやつだ。

「というわけだから、来学期こそ勝つからねっ! ぜったい勝つから!」
「そうして再び、『一矢報いる』を『ひとやむくいる』と読んでしまうなのはさんでした」
「どんとはれ」

 めでたしでは終わらず、ぷんすか怒ったなのはさんにヴィータと二人で追いかけまわされました。



(続かない)


############

本編一回休みで番外書きました。次回更新で本編やります。



[4820] その81
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/06/14 00:43
 目標変更の指示は迅速に、艦長リンディからクロノへ。クロノから現地各位に飛ばされた。
 なのはもフェイトも戦闘を中断。それぞれのパートナーを連れて、再び大空へ舞い上がる。

『けーとくんは? このままでいいの?』
『構わない。99%偽物だ! 不自然過ぎる、ヴォルケンリッターが見向きもしない!』

 魔導師サイドを全て追跡に回せば、偽物は全員逃げ出してしまうかもしれない。なのはが抱いた
その懸念を、クロノは重々承知の上であった。
 仮に。もし仮に、3体のどれかのうち1人に、本物が混ざっていたのだとしても。ヴォルケンリ
ッターがそれを無視して別方向に移動している以上、そこには「彼」以上に重大な何かがある可能
性が高い。逆にクロノの洞察通り、これら3体が全てニセモノであっても同じことだ。これらの目
的は十中八九陽動にある。いずれにせよヴォルケンリッターの向かう先に、何かがあるのは間違い
ない。
 協力者は捕まえられないということになるが、そもそもの捜査対象であるオリーシュ(アースラ
で本人が最初に名乗ったおかげで、艦内ではこちらの方が通りが良かった)が、闇の書の主である
という確固たる証拠はない。思い違いをしてはならないのは、捕捉すべきは書の主であるより以前
に、闇の書そのものだということだ。確実に闇の書とつながっているのは、今はヴォルケンリッタ
ーだけである。
 それに、全員の戦闘を中断したのには、もう一つ理由がある。

『全員、全速で追ってくれ。何があるかはわからないが、こちらが先に押さえる』
『間に合うかい?』
『ヤツらが逃げる前ならいいんだ。頭数はこちらが上だ!』

 飛行するヴォルケンリッターは四人。こちらの追っ手は五人である。一人が一人を押さえれば、
数で上回るのはクロノたち管理局側なのだ。この上に協力者がいる可能性もまだ無くはないが、そ
れでも空中で戦闘に持ち込めば、頭数では有利が取れるのである。

『目的って、何だろう?』

 なのははふと思い立って、飛びながらユーノに念話を飛ばしてみた。下方に距離を取って飛行す
るユーノが、ちらりと視線を投げて答える。

『わからない……進行方向には町がなくて、一面がただの湿地帯。変なモノはなさそうだけど』
『ホンモノのけーと君が来てるのかな?』
『そうかもしれない。今回出てきた3人が、本当に全部ニセモノだったとしたら』
『けーと君が書の主じゃなくて、本当の持ち主さんが待ってたりして』
『……そっ、それは、あり得るかも』

 ぽっと出たなのはの一言だったが、妙に納得できる意見だ。うーん、とユーノは唸る。しかし考
えても、実際のところどうなのかはわからない。
 結局のところ、何が待っているのかは、騎士たち以外は知らないのだ。ただ一つ言えるのは、そ
れが囮を3体も使うほど重要な何かであり、接触しようとしているのが闇の書であるということだ
けである。今なのはたちにできることといえば、ヴォルケンリッターに追い付くこと。それが全て
だった。

『なのは!』

 前を向くなのはに向かって、思念が投げかけられた。
 首だけで振り返ると、後ろからぐんぐんと迫る影がある。視認してすぐに、それがフェイトだと
知れた。見慣れた黒衣のバリアジャケットに、なびく金髪がよく映えている。その僅か後方にはア
ルフの姿もあった。合流が果たされたのである。

『クロノは……まだ先?』

 かなりの高速で飛行中ゆえ、声は届きにくい。念話での会話である。

『うん、先行してる。でも……まだ、追い付いてないみたい』
『そっか……あ。その、あと、聞きたかったんだけど』
『え?』

 フェイトは思い返して言った。

『あの銀色のモンスター……魔法、効かなかったよね。私は速さ勝負で行ったけど、大丈夫だった?』
『ううっ……砲撃したけど、全然効かなかったの……』
『魔法は全部無効って、予め知ってたんじゃないのかい? どうして砲撃なんてしたのさ』
『わかってたけど、全力で撃てば、少しくらい通ると思って……うぅ、反撃されなくてよかった……』

 ちょっと凹んでいるなのはである。カートリッジまで消費して砲撃を試みたのだが、結果はそれ
さえも無効化するという理不尽。手も足も出ないとはこのことである。相性があまりにも悪すぎた。
 しかしここで、ユーノにはピンと来るものがあった。
 速さ勝負に持ち込んだとフェイトは言っていた。はぐれメタルの本領は、鉄壁の楯の向こうから
打ち出される数々の大魔法。それを使わず、わざわざフェイトに合わせるとは。なのはに反撃が来
ない時点で疑念が頭をよぎっていたが、それは既に確信へと変わりつつあった。
 あのモンスターたちはつまり、完璧に命に従っている。一人の意志に従うよう、高度に教育を受
けている。それをやってのけるのはやはり、捜索対象のブリタニア王。その指示でヴォルケンリッ
ターたちの囮をやっていた以上、彼が闇の書の関係者であるのはもはや決定的であった。

『……追いついたぞ』

 飛行を制御しつつ思考にどっぷりと漬かっていたユーノの頭脳に、その声が現実を呼びさました。
考えるのは後でいい、と首を振って目を覚ます。
 クロノの通信だ。全員に向けられているらしく、四人が四人表情を変えた。緊張するなのは、よ
しと拳を握るアルフ。静かに次の言葉を待つのはフェイトだ。まっすぐに前を見据えて次を待つ。

『残りの三人が逃げている。できるだけ急いでくれ。会話によると、目的地までは遠くない』

 全員の表情が、わずかに強張った。時間はそれほどないらしい。

『間に合うかな……』

 奥歯に力をこめて、ユーノが言う。言葉の中には疑問でなく、否定の意味が僅かに含まれている。
そのことには聞いている誰しもが気付いていた。
 今までだって、距離がそれほど大きく詰まっているわけではない。
 そもそもヴォルケンリッターとなのはたちでは今、移動速度はそれほど大きな差があるわけでは
ない。今現在まで追い上げていたのは、適度な戦闘で体が温まっていたことに起因する。既に身体
が魔力の放出に慣れ切っていたため、加速も最大速度もかなり良好だったのだ。
 それだけでは駄目だと、ユーノの頭脳が警鐘を鳴らしていた。
 この差は目的地までには詰まるまい。目的地が近いというならなおさらで、予感はある種の確信
に変わっていた。
 ユーノのそんな考えを、なのはもアルフもおおよそ察していた。否定しなかったのは、それが正
しいのだと気付いていたからである。まだ速度を上げることは確かにできるが、それでも焼け石に
水だろう。
 いっそこの場所から、クロノを射線から外したうえで、長距離砲撃で足止めを狙った方が。
 そうなのはは思ったが、距離がまだ遠い。そのうえ標的の数は3。たとえ1人の足が止まっても、
次弾の溜めが終わるまでに、2人目3人目は逃げていく……。

『違うよ、ユーノ』

 焦りの気配が僅かに過った、三人の心。
 その裡に静かな声が割り入った。確信のようなものを含んだ、冷静な声であった。
 声色から声の主を悟り、三人は一瞬遅れてはっと目を向けた。声の主がフェイトであることに間
違いはないが、その内には彼女が見せたことがないほどの、確固たる意志の響きがあった。

『間に合うかな、じゃない』

 それはおそらく人が、自信と呼ぶ意識。

『間に合ってみせる。私の、新しい力で!』





 それから30秒と経たぬうちに、空中で対峙するクロノとザフィーラの直ぐ近くを、稲妻のよう
な閃光が駆け抜けた。
 ザフィーラは何が起こったのか分からず戸惑いを見せたが、クロノは予め知っていただけに、僅
かな動揺を見せるにとどまることができていた。
 ただし、そのクロノも数秒後、脳裏に残った映像を思い出し、同じ道をたどることになる。
 女性用レオタードをベースに、腰回りに背中。可能な限り装甲を限界まで削り、速さのみを追求
した姿。それは配色こそ違うものの、この世界の情報を集めて知った、ひとつのアイテムと一致し
ていたからであった。

『あぶない水着……』

 義妹の将来を思って、さすがのクロノも動揺を禁じえなかった。



(続く)

############

DQ世界に戦場設定した理由の半分以上はこれです。笑えよベジータ。



[4820] その82
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:576be8f4
Date: 2009/06/15 11:31
 時間は少し遡る。アースラのメンバーが三人の偽物の方へ向っているその時、ヴォルケンリッタ
ーもまた現場に到着していた。
 しかし騎士たちは魔導師たちとは違い、まっすぐにその三方へ飛んでいくことはしなかった。
 彼らはクロノの予測通り、三ヶ所に現れた仮面の少年がニセモノであるとあらかじめ知っていた
のである。かつその目的が陽動にあり、実は本物が別の場所にいることも理解していた。

「まさか、あたしの夢にも出てくるとか」
「久しぶりに料理のお話でからかい倒されました……」
「私には正しいちゃぶ台返しの作法を熱弁していたな」
「お父さん犬ストラップが欲しいと頼まれた。どうにもならぬと言うのに」

 要するに、そういうことだった。かの奇っ怪かつ面妖な少年は、主人と一緒にお昼寝中の守護た
ちの夢枕に次々と立ったのである。
 これから囮が現れるけど、本物がこっちにいるから闇の書持ってきて。一人また一人と伝えてい
き、それが終わると雑談したり遊んだりで帰っていった。いくら念話が使えないとはいえ、あまり
にもアレな通達である。むしろ訳のわからなさではこちらが上だ。
 一度はシカトを考えた騎士たちであるが、しかし無視して何かあったらマズいし。それに彼が騎
士たちにマイナスに動くことはするまい、という信用なら一応ある。ここはとりあえず言うとおり
にして、ついでに迎えに行ってやることになった。

「実はあの子って、妖怪か何かなんじゃないでしょうか……」
「はやての夢にも出たっていうし、むしろ五番目の騎士だったりして」
「…………」
「…………」
「……ごめん忘れてくれあたしが悪かった。ホントにマジで悪かった」

 さっと青ざめるシグナムたちを見て、この時ばかりは素直に謝るヴィータだった。言ったことを
自分で考えてみて、空恐ろしくなったということもある。

「それより、協力者って……またモンスターを仲間にしたんでしょうか?」
「偽物に変装でき、かつ魔導師相手に逃げ回れる魔物か。相当な実力を持っていそうだ……」
「協力者という言い方が気になるな。魔物以外の可能性もある」
「賢者だらけの勇者パーティーと仲良くなったんじゃねーか?」

 色々と想像しながら、とりあえず指定の位置へまっすぐ向かうのだった。そのうちバレるという
ことは分かっているので、最初からかなり本気で飛んでいく。
 そうしてしばらく飛んでいると、二か所の結界が解除されるのをシャマルが感知した。同時に五
つの大きな魔力が、騎士たちの方へと相当な速度で向かってくる。
 そのうち一人は最初からかなり近くにあったため、それほど時間を置かずにかなり接近してきた。
全力を振り絞ったのだろう、ぐんぐんと距離が詰まってくる。それを感じてザフィーラが、四人組
の編隊を離れた。

「……お前たち、先に行け。ここは私が食い止める」
「ザフィーラに死亡フラグが立った件」
「誰が死亡フラグか」

 という訳で、海を通過し丘にたどり着く頃には、四人は三人に減じていた。目的地までもう少し
といったところである。

「ん? あれって……」

 するとここで、地を見ていたシャマルが何かに気付いた。ちらりと光るものが見えただけだが、
騎士たちはすわオリーシュ発見か、とにわかに色めき立った。当然のように地上へと向かう。

「ん? こいつ……あっ、思い出した。久しぶりだなぁ」

 地上に降りて辺りを見回してみると、なんと草むらからひょっこりスタスタが顔を出した。

「ということは、やはり近いな。この辺りにいるのか」
「そーみたいだな」
「ひょっとしてこの子、迎えに来てくれたんでしょうか?」

 シャマルがよしよししながら言うのは、この小さな魔物の主が普段からそれくらい複雑な指示を
出していたからであった。どう考えても長年しつけをしないとできないような難しい仕事を、言葉
一つで完璧に実行させていたのである。それも、ユーノの想像のような訓練を一切せずに。
 例としては、はやての車イスの車輪をロックしたり、棚から鍋を出させたり。しかも何も指定せ
ずとも、その時に適したサイズのものを選ばせたりとか。それほどのことができれば確かに、シグ
ナムたちの案内などは造作もないに違いない。

「ん? 何これ、あたしに?」

 しかし、用事は少なくとも、それだけではないらしい。うにょーんと背伸びをしたスタスタは、
ヴィータの手に何かを渡してきた。

「……カメラ?」
「デジタルカメラ、ですね」
「ああ。普通のカメラ……まっ、まさか」

 シグナムが何かに気付き、にわかに動揺する。
 するとその上空から、まるでタイミングを見計らったかのように、騎士たちを呼ぶ声がした。

「止まってください。時空管理局です!」

 騎士たちは空を見上げて、そして知る。
 オリーシュの原作知識が、決して間違っていなかったことを。
 世界には彼らの想像を、斜め上でぶっちぎる人間がいることを。

(これはひどい)
(ああ。これはひどいな)
(フェイトちゃん、あなたに一体何が……)

 ゆっくりと舞い降りるフェイトを、騎士たちは戦慄とともに見つめていた。



(続く)

############

騎士サイドでした。
今日もう一回更新できるかもでござる。



[4820] その83(前編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/06/15 22:19
 騎士たちは戦慄した。
 確かに、楽しみにしていた時もあった。事件があると一回は必ずアーマーパージをすると聞いて、
是非見てみたいと語り合ったこともある。
 しかし実際に目の前に現れてみると、想像するのとはやはり違う。
 限界まで薄くした漆黒のレオタード。その程度ならまぁ想定の範囲内だったのだが、肌の露出が
半端じゃない。色白の腰やお腹、大きく開いた首から下が、目にまぶしいほど映えていた。布地を
切り詰められるだけ切り詰めた努力も、もうありありと目に取れる。
 公衆の面前でこんな格好になるとか。管理局の嘱託魔導師すごすぎる。

『……これは記録に残さざるを得ないだろ』
『ああ。あいつの言葉に間違いはなかった、脱衣魔は本当に実在したのだ』
『フェイトちゃんっ……ごめんなさい、もうフォローできません……!』

 既に観察モードに入り、一挙一動見逃すまいとするヴィータとシグナム。ヴィータに至っては先
ほど受け取ったカメラを、シグナムの陰からこっそり構える始末である。多少のアーマーパージだ
ったらかばってあげようと思っていたシャマルは、己の無力を嘆くばかりだった。ここまで脱衣魔
の名に相応しい格好をされては、もう弁護できる余地はない。

「……?」

 そう思われているとも知らず、フェイトは騎士たちの硬直(視線をフェイトに固定したまま、そ
の場から一歩として動こうとしなかった)を不思議に思いながら、彼らのいる地面へと降り立つ。
 あまりに速く追いついたため、あっけに取られているのだろうか。
 そうかもしれない、とフェイトは思った。クロノと騎士の一人が対峙していた場所から、この陸
地まではまだかなりの距離があった。それを一分と経たずゼロに縮めたのである。
 まだ誰にも見せたことが無い、ぶっつけ本番の賭けであっただけに、フェイト自身が受けた衝撃
も並大抵のものではなかった。実際それを使われた側が、身動きできないほど驚いても不思議はな
い。フェイトはそのように納得することにした。
 事実は想像以上の脱ぎ姿に硬直&釘付けになっていただけなのだが、それを知らぬのは本人ばか
りである。

「時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ――」

 バルディッシュの刃を向けたところで、ヴィータがこっそりシャッターボタンを押す。

「――あなたたちを、アースラに連行します」
「…………」
「…………」

 その恰好でその台詞は、と思わなくもない守護騎士たちであった。表情に出さないのに苦労した
のはここだけの話である。

「お断りする。我々はやるべきことがある。あの者を連れ戻さなければならないからな」
「なん……だと……?」
「リーダー、それ、別に義務とか使命というわけじゃ……」
「…………確かに。別にやらなくとも、勝手に帰ってきそうではあるが……」

 格好よく言い放ったシグナムであるが、仲間たちの反論を聞くと、ちょっと力が抜けた顔をした。
フェイトはますます訳が分からなくなるばかりである。

「……とっ、とにかく! 大人しく従ってやることはできん! 力で押し通すがいい!」

 シグナムは誤魔化すように言った。折角きっぱり啖呵を切ったのに、これではまるで漫才である。

「……以前の私とは、違いますよ?」
「いや、それは一目瞭然だろう」

 レヴァンティンを構えつつも、反射的に突っ込むシグナム。彼女はさらにこう続けた。

「テスタロッサ。一つ、お前に言わなければならないことがある」
「え?」

 シグナムはこほんと咳を払って、心底申し訳なさそうに言う。

「す……済まなかった。いつぞや詐欺師扱いしたこと、悔やんでも悔やみきれん。申し訳ない」

 首をかしげるフェイトだったがしかし、カメラを構えるヴィータはそれを聞くと、いかにも重々
しく頷くのであった。





 外見に似合わずと言うべきか、はたまた脱ぎ魔の真骨頂というべきか。
 以前より圧倒的に速度を増したフェイトは、息つく間も無くシグナムを攻め立てた。蒐集の時に
速度に馴れてはいたが、はぐれメタルとはやはり少々勝手が違う。あちらの攻めてはほぼ魔法のみ
に限定されていたが、フェイトの場合は高速での近接戦闘も考慮しなければならない。やはり勝手
が違うのだ。前回それでも対処できていたのは、今回ほどスピードがなかったからにすぎない。
 そして前回、シグナムがフェイトにしたのと、全く逆の現象が起きていた。今度はシグナムの一
撃が、フェイトに対して掠りもしないのである。速度ははぐれメタル以上とは言わないもののそれ
に迫り、またフェイトにはかの魔物にはない、飛行というスキルを持っている。視認して防御する
のが精一杯であった。防戦一方、シグナムには苦しい。

「……ん? あのスライムどこいった?」
「あれ? さっきまでここにいたんですけど……」

 手伝おうにも本人から念話で一対一だと釘を刺され、ヴィータは撮影に、シャマルは他の魔導師
の探知に専念していた。そんな中気づいたヴィータが、辺りを見回してぽつりと言う。親切にもカ
メラを持ってきた銀色のモンスターは、いつの間にやら忽然と消え失せていた。

「ま、いっか。それよか、他の魔導師はどこらへん? あとザフィーラは」
「ザフィーラは離脱して、こちらに向かってます。他の子たちは……もうすぐこっちに来るみたい」

 あまり時間も無いようだった。撮影に時間を食ったが、メモリーのほとんどを埋め尽くすくらい
(渡されたカメラはフィルム式ではなくデジタルカメラだった)撮り終えた。僅かにデータの空き
が残ってはいるが、結構色んなアングルから撮ったため、撮影を心待ちにしていたヴィータとして
はもう満足である。いい画が撮れた。
 幸いなことに、目的地まではここからそれほど遠くない。魔導師が飛んで行かずとも、人が走っ
て五分で行けるくらいの距離だった。これから行ったとしても、時間としては十分だろう。転送で
逃げ切れるかどうかはシグナムとザフィーラ次第だが、まあその時はその時である。

「やっほ。おー、脱いでる脱いでる。ここまでとは正直予想外でござる。やはり脱ぎ魔恐るべし」

 と、出発しようとしたシャマルとヴィータの背後から、聞き覚えのある声がした。

「出たな妖怪」
「なにか用かい」
「だまれ妖怪」
「左様かい」

 こうして、再会が果たされた。



(続く)

############

後編へ続く。



[4820] その83(後編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/06/15 23:23
「にしても、お前の原作知識も案外馬鹿にできたもんじゃなかったな」
「でしょ。でもって確か、巨大なバットで悪の科学者をホームランする画も観たことある」

 戦闘中だけど再会できたし、とりあえず雑談モードに片足を突っ込む俺たちである。写真はもう
撮り終えたみたいだし、まぁいいさね。シグナム頑張ってるけど。

「科学者ってまさか……」
「ん。例のスカさん。スカなのにホームランとはこれ如何に」
「誰が上手いこと言えと」

 そんな感じが挨拶代わり。

「待ちくたびれて来てしまいました。脱衣魔があまりに斜め上だったとスタスタも言うので」

 と、その肩にはいなくなった銀色のスライムの姿があった。先ほど姿を消したのはどうやら、こ
の少年を呼びに行っていたからのようだ。

「闇の書持って来た?」
「持って来たぞ。ていうか、お前そろそろ家に帰ってこい」
「そうです。私、けっこう料理上達したんですよ?」
「夢の中でも聞いたけど、それだけは何故か納得できない」
「あたしも当初合点がいかなかったのは認める」

 いきなり二人がかりでしょぼーんにされるシャマル先生だった。

「……さて。じゃ、ちょいと動きましょうかね。後続が続々と来るようだし」
「どっ、どうして分かるの?」
「囮から戻ってきたはぐりんたちからの報告で。クロノとなのはと、わんことユーノだっけ」
「一人だけわんこ扱いとか」
「あの耳にこっそり洗濯バサミをつけてやるのが最近の目標です」

 露骨に痛そうな顔をするヴィータたちだった。
 そうこうしているうちに、後続の魔導師たちが続々と空からやってくる。

「……ん? その袋なに? たくさんあるけど」
「秘密兵器。まぁ見といて。あとシャマル先生、全員ついたらこっそり結界準備してくんない?」

 猛スピードで追ってきたのだろう、結局クロノとザフィーラも、なのはたちとほぼ同着であった。
 そして到着するのを見計らって、魔導師たちに声をかける。

「ちょいと話し合いの場を設けたいんですが構いませんねッ!」
「パンナコッタ・フーゴ乙」
「パンナコッタってナンテコッタに似てるよね」
「改名した場合ひどい名前になる件」

 律儀に反応してくれるヴィータマジで大好きです。
 というのはともかく、魔導師たちの目が一斉にこっちを向く。クロノたち管理局員は「やっぱり」
といった顔をし、なのははおろおろとうろたえた。

「お前、いつ来ていた」
「ついさっき。シグナムお疲れ様」
「……攻撃も激しかったが、目を開けているのがかなり大変だった」

 肌色と黒のコントラストは意外な効果を及ぼしているようだった。

「話し合い?」

 クロノが冷静に目を向ける。ここら辺はできる男の片鱗か、とか思いながら話を進める。

「そう。ちょいと平和的に。闇の書についてなんだけど」
「……けっ、けーとくん、やっぱり闇の書の持ち主なの……?」

 言っていると、なのはが横から口を挟む。心底心配というか信じたくないみたいで、声がちょっ
と震えている。

「何でお前があたしたちの主になってんだ」
「詳しく事情を聞かねばならんな」

 ヴィータとシグナムに、両側からほっぺたを引っ張られた。事実を正しく認識したようで、ほっ
と胸をなでおろすなのはだった。

「持ち主では……なかったのか……」

 クロノは大きくため息を吐きだした。やっぱり容疑がかかっていたみたいだが、何だか疲れてい
る様子。大丈夫かな。

「協力はしてるけど所持者ってわけじゃ。それで話っていうのは、その闇の書についてなんですが」
「嫌疑がかかっていることには変わらない。艦でゆっくり聞かせてもらおう」

 だろうと思った。

「ということですので、皆さんに素敵なプレゼントを用意しました」
「……なんだ? その袋は」
「宝石。たくさんあります」
「えっ……わ、ホントだ。こんなにたくさん……」
「生きてるけど」

 クロノの顔がさっと青ざめた。と同時に、シャマル先生の結界が完成。逃走妨害用にユーノもこ
っそり準備していたみたいだけど、こちらの方が早かった。これでもうみんな逃げられない。
 そして一瞬の隙をついて、袋の中から宝石たちが飛び出した。
 でもって人をおちょくってるような顔まで出てきて、袋ごとうねうねぐねぐね踊りだす。

「宝石が踊ってる……こっ、これって!」
「……ふしぎなおどり?」
「ご明察。あれって確かMP下がるよね」

 真っ先に気づいたのはなのはとヴィータ。近くで見つけたモンスター、踊る宝石の特技である。
 磨いてあげたら懐かれたので、ちょうどいいからご協力願ったのであった。MPを下げる踊りを
持ってたので、魔法とか怖い俺にとっては渡りに船だったりする。

「すっ……吸われてる……!」
「ちょっ……あ、あたしたちまで魔力減ってるぞ!」
「何ぃ!?」

 ただし効果は無差別です。そこらじゅうにあらかじめ伏兵として配置しといたので、見ないよう
にするとか絶対無理だし。


「50匹以上いたから、1回踊っただけでも魔力カラでしょ。シャマル先生、結界GJ」
「くっ……くそ……してやられたという訳か……!」
「魔法とか怖いし痛いし。双方魔法使えなきゃいいんじゃないかと思いまして」
「……お前、それならシャドーとか呼んできてくろいきり使えばいいじゃねーか」

 ヴィータからまともな考察が飛び出したけど、そうは問屋が卸さないのである。

「魔王っぽいのが1人いるでしょ。いてつくはどうで解除されたら困る」
「まっ、また人のこと魔王って……もっ、もう! もお! もぉぉっ!」

 さすがに魔力切れで魔法が使えないので、近づいてきてうーうー言いながらぽこぽこ叩いてくる
なのはだった。将来の魔王候補も、こうなってしまうともうただの人だぜフゥーハハァー。

「ジャケット解けてる。こりゃ全員魔力尽きたかね」
「……話し合いに乗るしかない、という訳か」
「後から艦の魔導師が来ても、またぐねぐね踊って二の舞になるでござる」
「まんまと嵌められた……あっ、あたしとしたことが!」
「じゃあとりあえず、近くの町に食堂あるからそこで。わんこ用の肉とかいっぱいあるよ」
「肉!?」

 アルフはお腹が空いていたらしい。

「じゃあシグナムもフェイトそんも、戦闘とりあえず切り上げて……ん?」

 と言って目を向けると、何だかあり得ない光景が見えたような気がした。
 ちょっと目を疑いながら一応そっぽを向いておいて、隣のシャマル先生に話しかける。

「シャマル先生。バリアジャケットって確か、消滅しても着てた服が出てくるだけだよね」
「そうですよ。じゃないと、使うたびに素っ裸になっちゃいますし」
「……じゃあ、たとえば、そもそも服着てなかったら? 極限まで軽くしようとしたりして」
「そう言う場合は、流石に何も残らな……え?」

 そうしてようやく、シャマル先生が気付く。他の守護騎士たちも魔導師たちも、何だか雰囲気が
おかしいことに気がついて、全員でその視線を追った。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「おっ、お前ら見るなっ! お、お、お、男連中! こっち見るんじゃない!」

 さすがに微妙に布地が残ってて、見せられないよ! な部分は隠れていたためよかったです。
 そもそも魔力が残り少なかったためか、魔力切れで気を失ってくれてたのは本当に幸運だったと
思います。少なくともフェイトにとっては。

「さすがのあたしもこれはシャッター押せねーって……」

 とヴィータが良心を振り絞ってくれました。よかったね。



(続く)

############

脱ぎ捨て祭り・完。



[4820] その84
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/06/17 01:53
 協力してくれたおどるほうせきたちに礼を言って回り、お菓子をあげると喜んでくれた。こんな
もので手懐けるとは、とクロノがやるせなさそうにしていたが、なつくものはなつくので仕方なし。
お疲れ様をして、しばしの別れ。
 その後魔力切れの魔導師とはぐメタたち(巻き添え)、そして魔法使えないでござるなオリーシ
ュ(元から)は、近くの町へと足を運んだ。
 この町は一応下見が済んでいる。一行を引き連れて、真っ直ぐ酒場へと向かうのだった。本来大
人しか入れないんだけど(クロノの年齢でもギリギリ駄目らしい)そこは交渉段階で押し通してあ
る。取ってあった広い部屋に皆を通す。

「……け、けーとくん。大丈夫? わたしたち、ここのお金持ってないけど……」

 なのはが心配そうに言った。こういうところに気が回るのは、さすが商売人の娘さんである。

「こまけぇこたぁいいんだよ!」
「よっ、よくない! 細かくもないよっ!」
「いやまぁ、お金なら結構貯まってるから。前持ってきた食材、こっちの店が買ってくれて」
「具体的には?」
「カップヌードルが評判だった」

 お湯を注ぐと食えるようになる、という発想がウケたらしい。作り方を聞かれたのだが、既製品
なので何とも答えようがなかったのが残念。

「まさにフリーダム……」

 ヴィータが割と上手いこと言った気がする。

「あれ? フェイトちゃんは?」
「店の人に頼んで、別室に寝かせてあるよ。アルフが一緒だから心配ない」
「これが噂の別室行きか! 確かにあそこは衣服が禁止!」

 吹き出しそうになったのはヴィータのみ。ネタがマイナーだったかもわからんね。
 という感じに席へ案内して、取りあえずみんな座ってもらう。テーブルが円卓だったので、ヴォ
ルケンサイドと管理局サイドで半分ずつに配置した。俺はちょうど片側の境界に座して、話し合い
を開始する。

「闇の書を起動!?」

 切り出すと、クロノからやっぱりな反応が帰ってきた。

「そう。そうそう。ページ埋めて、完成させて」
「危険性を知って言ってるのか!? 起動すれば所持者が……そういえば、所持者は誰なんだ?」
「実はそこのなのはさん。さすが我らの大魔王、闇のアイテムとか似合いすぎだぜ!」

 所有者をなすりつけようとしたところ、怒りのばってんマーク付きのなのはにほっぺた両方つね
られた。口がスライムの口みたくなって、しゃべりにくくて仕方ない。

「まぁとにかく、所有者さんには悪影響ないので。裏道あるから、融合事故はご心配なさらず」
「…………そこまで知っているのか。一体どうやって……」
「ちょっと前に、闇の書子さんと話したことがあるんだ」

 守護騎士全員がむせた。

「おっ……おっ、おま、おまっ」
「後で話すから、今はちょっと」

 と言うと、仕方なしに口をつぐんでくれた。怪しいものを見る視線に貫かれて、大変居心地がよ
ろしくない。

「闇の書の悪い部分だけ、切り離して壊せばいいと思って。それがちょっと大変でして」
「…………それで、協力か」
「話が早くて助かるでござる。俺がやりたいけど、砲撃とか使えないし」

 クロノは複雑そうな顔をした。仕方ない話である。ぬこたちから聞いた話によると、闇の書とは
浅からぬ縁があるらしいし。

「……やはり、どこか変になっていたのか。ページの白抜けはそのせいか?」
「いや、それとは別のところ。白抜けは逆に、治療に欠かせないと言うかなんと言うか」

 シグナムが問いかけてくる。説明が苦しくて大変そうにしていると、そうか、と引き下がってく
れた。また今度聞き出すことにしたらしい。

「協力してくれた場合、今ならはぐりんたちが管理局で、短期のアルバイトしてくれるそうです。
 魔法犯罪者もお手の物! 白い悪魔の砲撃も効かないっぜ!」
「~~~~……っ」
「あれ、なのはが怒らない。どうしたの」
「お……おっ、怒らないよ? わたし、怒ったりしないもん」

 なのはは我慢している。方針を少し変えてみたらしい。「大人のよゆー」を見せつけようとして
いるのかも。

「わ……わたし、大人だもん。そんな、いちいち怒ったりなんか」
「ことわざ忘れた。案ずるより、何だっけ。案ずるより、うーとえーと」

 なのはは真っ赤になって、両手でぎうぎう頬っぺたをつねった。計画はあっという間に瓦解した
らしい。ついでに言うと握力鍛えてないらしく、頑張ってるのは分かるんだけどそれほど痛くはな
かったりする。

「……物証が何もない現状、回答はできない。艦長も同じ答えを出すだろう」

 やや空気が和んだようで、クロノが水の入ったグラスに手を伸ばしながら言う。

「が、嘘を吐くメリットもないか。単純に逃げたいなら、書の魔法でさっさと逃げるんだろう?」

 すげぇ洞察。決裂したらそのつもりだったし。

「ページを増やすのはどうするつもりだ? 一時的とはいえ、蒐集は他の生物に害だ」
「蒐集以外に手がありまして。それも含めて、またの機会に。土日は家か翠屋かなのは部屋に入り
 浸るつもりなので、そこでまた話し合えれば」
「逃げはしない、と」
「こちとら消化器系の平和がかかっているので」

 クロノは首をかしげたが、騎士たちはうんうんとうなずくのだった。

「翠屋か……懐かしいな。あの面白い客と注文が被って以来、足を運んでいなかったが」
「そうそう。俺が確か、グーで負けたんだよね」
「ああ、そうだった。それでちょうどお終いだったんだな」
「うん。まあ、その次の日買ったからいいけど……ん?」
「え?」

 あれ。

「………………あっ」
「………………ああ。あの時の」
「き、君だったのか……いや、その、あの時は済まなかった」
「いや、その、ジャンケンで決まったことですし」

 二人して思い出しました。妙な巡り合わせだと思います。



(続く)

############

奇妙な再会でした。何があったかはその4参照。
その4とか懐かしすぎて思わずじんと来てしまいました。



オリーシュが何やら企んでたり暗躍してたり誘導してたりしてますが、次以降でちょっとずつ
明らかにできるかなと考えてます。今回も色々言ってはいますが、それもその時にじわじわと。



[4820] その85
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:5ae433ae
Date: 2009/06/19 21:06
 とにもかくにも、お話はおしまい。会話は常備してあるレコーダーに録音しておいたので、急い
でアースラに戻る必要もない。ということで早速お店の人を呼んで、皆に料理を出してもらう。
 食べてもいきなり戦ったりしないでねと、クロノに一応釘を刺しておく。しかしそれも要らぬ心
配だったようで、あっさり約束してくれた。
 シグナムたちが闇の書の一部として、クロノの親父さんの死について謝っていたのも大きかろう。
 どうすることもできなかったと頭を下げる一同を制し、母にも一度会って欲しいとクロノは言っ
た。そのときの表情はやっぱり複雑だったけれど、水のように静かな視線が印象的だった。

「クルトンでも食ってろヴィータ」
「ドレッシングでも飲んでろオリーシュ」

 とりあえずサラダが出てきたので、安心していただきます。食べながらてきとーにヴィータと遊
んでみたが、あまりにも不毛なやり取りだったのでやめておく。

「ところでクロノ、さっきの何? 知り合いだったの?」
「いや、知り合いと言うか……一度会っていただけだが、たった今思い出して……」

 隣のユーノから問いかけられて、珍しく答えにくそうにするクロノだった。たしかに知り合いに
してはよく覚えてたけど、友達と言える付き合いがあったわけでもない。微妙な関係である。

「食に問題有りの家族を持つ仲間です」

 視界のすみっこで守護騎士がうなずいたのは内緒である。シャマル先生だけは身に覚えがあるら
しく、目に見えてしょぼくれていたけど。

「なのはつながりでアースラで会った、あれが二回目だったのか」
「そだね。あの時はまさか、今日みたく対戦することになるとは思わなかった」
「僕も、今日がこんな日になるとは夢にも」

 おとりを使った追いかけっこに十面埋伏、でもって和睦の食事会である。確かに予測できまい。

「……僕は君が、あんなにすごい魔物使いだったとは知らなかったな……」

 と、クロノの隣のユーノがぽつりと言った。なのはが餌付けしているはぐりんたちを、視線の先
に見つめている。ダーマの神殿とか行ったことのないオリーシュだけど、いつの間にやらてんしょ
くしていたのかと胸が踊る。

「それはないと思います」
「ヒモの分際で転職とは片腹痛いわ」

 シャマル先生とザフィーラに二人がかりで速攻否定された。やるせなくて死にそう。

「まぁ、あれはてきとーにお願いしただけなので。本職はただのヒモです」
「本職ヒモって……」
「でも、魔物は何故かなつくんだよな。ヌギ……ネギま! の世界だったら、地底のドラゴンとか
 京都の巨人とかどうなるんだろ」
「ドラゴン……?」

 ユーノは首をかしげた。言い間違えたのは気にしない。

「ていうかお前転職しないでいいから、命名神に頼んで名前変えてもらってこいって」

 ヴィータが葉っぱをむしゃむしゃしながら横から言った。

「……………………その発想はなかった」

 不覚にも一瞬本気で実行しようと思ってしまった。恐るべきはヴィータである。





「戻ったよ。肉はまだ残ってるよね?」

 雑談していると、そのうちアルフがもどってきた。聞くとフェイトの看護が終わったらしく、そ
ちらもすぐ来るとのことである。ちょうど肉やらスープやらパンっぽいのやらが大皿で運ばれてき
たところなので、タイミングとしてはちょうどよかったかも。

「目は覚ました?」
「ん。大丈夫だから先に行っててって……ん? 何してんの?」
「お手。ほら、お手」

 さっそく遊ぼうとしたら、アルフ本人から拳骨が飛んできた。はぐりんマスターたるオリーシュ
といえども、人の使い魔は懐柔しにくいらしい。

「トレーナー戦でモンスターボール投げるようなものなのか。ドラクエモンスターズだと、他国マ
 スターのパーティーから懐かれたりするのに」
「何の話だっ!」

 アルフはご立腹のようだった。

「あっ、あの……アルフは、モンスターじゃ……」

 そしてフェイトも現れた。
 もちろん脱ぎきったまんまではなく、今は近くの店で買った天使のレオタード……はなかったの
でぬののふく。羽織ってる上着は俺が着てたやつである。

「…………」
「…………」

 おっぱい星人のオリーシュはあくまで脱衣という過程を評価するのであって結果は興味ないんだ
けど、ユーノとクロノはそうもいかなかったみたい。恥ずかしそうに顔を背けた。これは仕方ない。
フェイトの脱ぎっぷりのせい。

「……?」

 視線を外す二人の様子を見たフェイトは、しかし理由が把握できてないみたいだった。
 ……着てなかった服を着てる時点で、何かあったと気付くと思うんだが。どうしたんだろ。

(アルフもしかして騙してる?)
(……な、何のこと?)

 こっそりアルフに訊いてみると、尻尾がくりくり不審な動きをした。どうせバルディッシュが最
後の魔力を使ってついさっきまでジャケット維持してくれてた、とでも説明しておいたのだろう。
わかりやすいわんこである。

(……バルディッシュさん、略してバルサン)

 虫タイプに強そうだ、と思う。言わないけど。

「フェイトちゃん……そっ、その、お疲れさま。り……料理、まだ来たばっかりだよっ」

 なのはは誤魔化すように言う。アニメによると親友だったらしいけど、それでもさすがに動揺は
しているようだった。脱ぎ方が脱ぎ方だし仕方のない話である。

「ヴィータちゃん、ヴィータちゃんっ!」
「あっ、あわ、あわわっ」

 そしてヴィータはシャマル先生に言われて慌てて、デジカメを隠していた。家に帰ってからにしな
さいっての。
 とか色々と挙動不審だった一同であるが、理由を知らないフェイトは特に追及することなく部屋
に入る。

「みんな……ごめんなさい。私だけ倒れちゃって……」

 そしてしゅんとした。結構こたえていたみたいだ。結果的に足止めには成功したものの、その後
魔力枯渇に疲労が重なって行動不能。しかもそれが自分だけときたも。気にするのも無理はない。

「テスタロッサ、そう気に病むな。お前は確かに速かった。私が守勢に追い込まれるほどにな」

 慰めという訳ではないが、とシグナムは続ける。脱ぐ脱がないはともかく、あのときのフェイト
の実力は認めているようだった。

「あれほどの苦戦は初めてだった……私も、まだまだ未熟者らしい」

 そりゃそうだ。あぶない水着の相手は初めてでしょうに。

「はい……あっ、あなたは……」
「おろ」

 なんか呼ばれた。嫌な予感。

「あの……ありがとうございましたっ! 私、アドバイス通りに……」
「そぉい!」

 知られるとちょいマズいので、氷を入れ物ごとひっくり返して誤魔化す。

「にゃぁぁあっ!?」

 宙を舞った氷たちは、なのはの服の背中やら首筋やらに入った。

「つっ、つめ、つめた、つめたぁっ!?」
「なっ、なのは、大丈夫!?」
「脱いだら直ぐに取れるやも。ハイパー脱衣タイム始まるよー! 魔王がついに脱ぎ捨てタイム!」
「ぬ、脱がないよっ! けーとくんのばかばかすけべ!」

 真っ赤になったなのはに追い回されて追い付かれ、馬乗りになって背中を叩かれた。



(続く)

############

脱ぎ捨て祭の後始末。



[4820] その86
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/06/21 17:21
 お話はまた明日翠屋で。ということになり、その日はお開きと相成った。食事のカロリー摂取の
おかげで多少なりとも魔力が回復し、クロノやフェイトたちは艦へ戻って行く。これからこのやや
こしい事態を説明しなければ、と言うクロノはだいぶ疲労がたまっている様子だった。今度なにか
美味しいものを御馳走して労をねぎらってやろうと思う。

「じゃあまたね。明日何か作ってくるよ」
「ありがとう。できれば砂糖が入っていないものを頼む」

 そんな感じに言って別れる。俺が闇の書の主でないことは少なくとも明らかになったので、まだ
事件解決に至ってないけどちょっとだけ親交が深まった感じである。
 しかしやはりと言うべきか、無条件で解放してくれる訳ではなかった。なのはとなのはの護衛の
ユーノ(攻撃面ではなのはに劣るが、いざという時の防御の要としては抜群に優れている)が、八
神家にお邪魔することになりました。いらっしゃいませ。

「オリーシュ確保! 確保しました!」

 八神家に帰還するや否や、ヴィータがリビングに突撃した。

「…………にゅー……?」
「人間語でおk」

 ソファに横になるはやては、上半身だけを起こして何か言ってきた。お昼寝したばかりで寝ぼけ
ていたようだ。声が珍獣の鳴き声みたいになってる。

「ブリタニア王復活ッッ! ブリタニア王復活ッッ! ブリタニア王復活ッッ!」
「そう考えて……時期が……むー……」

 俺がネタを振ると、はやては眠い目を擦りながらぽつぽつ口を開いた。いまだ覚醒しきらぬまま
ネタに反応するのは、ある意味驚異的と言えよう。

「おっぱい! おっぱい!」
「お……ぱい。おっぱい」
「おっぱい! おっぱい!」
「おっぱい! おっぱい!」
「シグナムがナチュラルテイスト製法に挑むようです」
「嘘ぉっ!?」

 なので、起こすのは割と簡単だった。シグナムに超強力アイアンクローされたのが痛かったけど。

「……けーとくん、家でもこうなんだ」

 おっぱいおっぱい言ったため顔を真っ赤にしているなのはが、やるせなさそうな表情で俺を見る。
隣のユーノもなんだか気まずそうだった。でも八神家ではいつも通りなので気にしない。

「あれ……あ。おかえり」
「ただいま。お久」
「待たせてからに。用事は済んだん?」
「おおまかには。ちょい残ったけど」

 帰還の挨拶は割とあっさりしてました。夢の中で会ったこともあるし、まぁこんなもんだろう。

「心配かけてからに」
「そいつはすまんかった」

 一応心配してくれてはいたらしい。

「はやてちゃん、こんにちは。お邪魔してますっ」
「こんにちは。初めまして」
「あっ、なのはちゃん。……と……えと?」
「ユーノ・スクライアです。なのはの、友だちで」

 なのはは以前遊びに来たことがあるけど、ユーノは会うのは初めてのはやてだった。まさか護衛
と言う訳にもいかないので、遊び友達ということで誤魔化したみたい。

(脱ぎ捨て写真鑑賞会はまた今度かね)
(だな。万が一なのはにバレて、没収されたら元も子もねーし)

 ヴィータと内緒の談合を取り行ってから、とりあえずキッチンへ。八人分のお茶を用意し、シャ
マル先生がお盆に載せて持って行く。こたつに入る場所がなさそうだったので、ソファで落ち着く
ことにした。なのはと違ってこたつに慣れていないユーノもやって来て、とりあえず一休み。
 魔力も体力も使ったし、今日は疲れている様子のなのはたちである。そのなのはが皿の上のお菓
子を持って、目で問いかけてくる。頷いてやった。

「ほら、あーん。あーん」
「ついにはぐりん三匹が八神家の一員に……!」

 なのはにおやつをもらうはぐりんたちを見て、はやては感極まった様子だった。それを見ながら、
ユーノが尋ねる。

「あの子たちは、そういえばいつから仲間なの? アースラでは見かけたけど」
「や、艦に乗り込む前日に懐かれて。だからその時は、まだ会って日が浅かった」
「じゃあ、最初っからもう言うこと聞いてたんだ。すごいなぁ」
「発掘作業のお供にいいかもね。細かい穴にも入れるし、トラップとかあっても安心だし」
「トラップはともかく、僕も変身すれば隙間には入れるよ。なのはから聞いてると思うけど」
「確かに。それに良く考えたらはぐりんの場合、毒沼入ったらアウトだったわ」

 割と和やかな空気がそうさせるのか、あんまり話したことないユーノも色々喋ってくれました。
遺跡の話になったりしたんだけど、何か結構面白い。古代遺跡だとアイテムが見つかることもある
そうだ。トレジャーハント、面白そうだなぁ。

「やってみたいなぁ。毒はともかく、炎とかのトラップならはぐりんも何とかなるかも」
「トラップもそうだけど、魔法の類が全然効かないし。よく考えたら反則じゃない……」
「でも重い。装備は難しい」

 話を聞いていたらしく、ヴィータがうんうんと頷いた。手に乗せると持ち上げるのに苦労する重
量だ。銀色のボディしてるけど、マジで銀でできてるんじゃないかと勘違いする。

「頭に乗っかられて、重そうにしてたよな。動けなくなるくらい」
「そうそう。そこをフェイトとクロノに見つかって、あれよあれよと言う間に魔王軍が勢揃い」
「だからっ! ま、また人のことっ!!」

 こたつに足だけ入れて温まってたなのはが、ほっぺぷくーしながら正面にやってきていた。両手
で耳たぶを掴んで両側に引っ張られる。しかし腕力が全然ないので、やっぱりあんまり痛くない。
 しばらくしていると全然堪えていないのが分かったようで、悔しそうにするなのはだった。縦横
縦横にぐりぐりされたけど、こうかはいまひとつのようだ。

「タテヨコタテヨコ」
「いひゃいいひゃいいひゃひゃひゃ」

 シグナムに抱っこされたはやてが背後に回って来ていて、今度は背後からぐいぐいされた。フラ
イパンとか鍋とか毎日持っているだけあって、こっちはかなり痛かった。

「いつの間にかなのはちゃんとえらい仲良くなっとる件」
「仲がいいとな。最近しょっちゅう叩かれたり引っ張られたりしてる気がするんですが」
「わっ、わたし、魔族じゃないもん! 魔王なんかじゃないんだってば!」
「な、なのは、わかったから落ち着いて……」

 混沌とした八神家でした。



(続く)



[4820] その87
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:061ecb1b
Date: 2009/06/22 11:53
 今日は疲れたし、もう帰るのも面倒だよね。
 ということで、なのはとユーノが八神家に宿泊することになりました。もともとユーノはフェレット形態で高町家にお邪魔
するつもりだったみたいだけど、なのはが宿泊することになったため、一人で行く訳にもいかず自動的にこっちに。

「ほら、ムチ。ムチ使ってるし。スクライアの皆さんもこんな感じ?」
「い、いやぁ、ここまでは……でも魔法は使うから、似たり寄ったり……なのかなぁ?」

 借りてきたインディジョーンズのDVDを見せ、地球の遺跡発掘アドベンチャーを紹介したとこ
ろ、ユーノは首をかしげてみせた。イメージがあまり合わないらしい。

「地球にもこういう遺跡あったらなぁ。他の世界にはいっぱいあるの?」
「うん。次元世界は星の数ほどあるから、やっぱり滅亡した文明とかも多いし」
「ナデシコの火星の遺跡は、管理局的にどういう扱いになるんだろうか……」
「?」

 とか話していると、キッチンのシグナムから通達が。もうすぐ夕飯ができるから、手伝ってくれ
とのことだった。
 今日のキッチンは賑やかだった。今日こそ俺の舌を唸らせてやると息を巻いてたシャマル先生、
サポート役のはやてに加えてその検分役にシグナムが入っている。さらにはそれをなのはがちょこ
ちょこ手伝っていた。冷蔵庫からお皿を出したり、味見をしたり。

「てきぱきしてるね」

 ユーノに棚からグラスを探してもらっていたところ、ぱたぱた動くシャマル先生を見てそう言っ
た。誤った印象を持たれてはアレなので、多少の注釈を加えておこう。

「今でこそ手際のいいシャマル先生。しかしこう見えても、数ヵ月前はスパゲッティ茹でるときに
 塩と間違えて砂糖を入れちゃうドジっ子でした」
「嘘っ!」
「ほんまやよー。あれはすごかったわぁ」
「凄い味が逆に新鮮だった。いや不味かったけどさ」
「スイート(甘)」

 キッチンから離れて、いつのまにか来ていたはやてやヴィータと好き放題黒歴史を暴露してみる。最後のヴィータがとどめだったらしく、シャマル先生がシグナムに泣きつくのが壁越しに聞こえた。

「いや、事実だろう」

 シャマルは絶望した。





 夕飯はハヤシライスでした。
 面子が8人となると食卓が手狭なので、こたつの隣にもうひとつ小さなテーブルを出して食べる。

「……おぉ」

 固唾を呑んで見守るシャマル先生の視線に居心地の悪さを感じながら、一口食べてみた。

「うまい」

 普通に美味かった。

「や…………やっ、やった! やったぁ!」

 シャマル先生が飛び上がって喜ぶ。満面の笑みを浮かべて、隣のシグナムに抱きついていた。

「一体何が。何が起こった。これが噂のドナルド☆マジックか」
「これが事実だ。認めてやってくれ」
「なんと! じゃ、じゃあ、シャマルルーレットはどうなる? 罰ゲームの定番の!」
「低確率になってしまったが、放置すると当たりはまだ出るぞ」

 ザフィーラが教えてくれたので、安心する俺だった。シャマル先生は今さっきまで喜んでいたは
ずなのに、ため息まで吐いて落ち込んでたけど。

「けーとくん、ユーノくんっ。こっちのサラダは、私とはやてちゃんが作ったんだよっ」
「わ、すごい。この細い麺は?」
「春雨。つるつるしてて美味い」

 とかそんな感じに、楽しい楽しい夕飯タイム。懐かしの八神家での夕食、しかもさらに賑やかと
きたものだ。何だかちょっと嬉しかったり。

「で? 向こうの世界では何しとったん?」

 それぞれ席が近い相手と雑談しながら食べていたのが、はやての一言によって止められた。はや
ての声そのものはそういう意図があった訳ではなかったんだと思うけど、皆気になっていたのか興
味があるのか。話を止めて耳を傾けている。

「持ってた食材を売ってお金にしたって言ったよね」
「ああ。カップヌードルとかか」
「そ。それが王様に見つかって。調子に乗ってチャーハン作ったら、えらく気に入られたらしく」
「しばらく料理人をさせられていた、と」
「手持ちの米が尽きるまでやらされた。報酬もらったけど」

 ということで取り出したるは、紙に包まれた小さな箱。
 はやてが開けてみるとそこには、金貨や銀貨と一緒にちっちゃくてきれいな石ころが!

「賢者の石です」
「誰かヴォルデモートさん連れてきて」

 額にサンダー型の傷とかもらいたくないので、丁重にお断りしました。

「ならば、身動きできなかった、とは?」
「人質を取られまして。そいつら猫のくせしてめっちゃ強いんだけど、マタタビくらっちゃって」
「ね……猫?」

 なのはが首をかしげた。信じられんという様子。

「つまり、家に居るときと変わらんかったんやな。チャーハン作って寝んねして」
「だっこして」
「おんぶして」
「また明日」

 夕飯はおいしゅうございました。





 遊びに遊んで夜も更け、はやてたちが寝静まった頃。
 子供みんなで布団を繋げて雑魚寝していたのだが、頃合いを見計らって脱出。こっそりリビング
に行くと、既に騎士たちが集まっていた。

「お待たせ。あと改めてただいま」
「おう、おかえり。で、そろそろ話は聞かせてもらえんだろーな」
「ん」

 やっぱり夕食の時の話には裏があるとバレていたようで、寝る前のすれ違い様、シグナムに出頭
を要求されたのである。こちらとしても話すつもりだったので、まぁ確かに丁度いい。

「まずお城で料理人してたのは本当です」
「………………やりかねないとは思っていたが」
「嘘じゃなかったんですか」

 意外さの中に一種の諦念が含まれた声だった。

「でも、解放されたのは結構早かった。んでそのちょっと前に、闇の書子さんと夢で面会しまして」

 いろいろ教わったと言って、話す。
 夢の中に出てこれた理由。
 闇の書の文字の白抜けの正体。
 そして書を救う、残された方法の一つ。

「……いや、まぁ、お前がいいなら、それでいいけど」

 聞いたヴィータが、若干戸惑っていた。後押しするように、こくんと頷いてやる。

「いいですので。思いっきりやっちゃってください」
「本当にいいのか。お前は……」
「本当でござる」

 選択の余地なし、と意志を告げる。

「そんなものは二の次。それより自分が大事だ……!」
「赤木しげる乙」

 あんまり締まらなかった。ヴィータがネタを知ってるのが悪い。



(続く)

############

次回は翠屋会合編。
後の翠屋事件である。嘘。



[4820] その88
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:404e2d95
Date: 2009/06/25 11:06
 翌日。翠屋。超盛況。

「シュークリーム祭りやー!」
「チョコシューうめー! マジうめぇ!」

 朝起きてからもしばらく皆でテレビ観たりしてくつろぎ、お昼を食べてから子供全員で(何故か
ヴィータが混ざってた)昼寝。2時を過ぎ3時になって、おやつが欲しくなる頃合いで翠屋へ特攻。
 フェレットユーノはなのはの姉さんらしき人に連れていかれ、なのはも一端それに続き、自分の
部屋に着替えに戻った。クロノたちはもうちょいしたら来るらしいので、久しぶりにシュークリーム

頂く。めちゃうま。

「うめぇと書くとらめぇに見える俺の頭は大丈夫だろうか」
「大丈夫じゃない気がします」
「中にクリームが入っているんじゃないか?」

 最近ザフィーラが本気で容赦なくないか。

「ん? あれ。これ、頼んでないような」

 結構いろいろ注目したのでお皿は多いけど、ケーキは頼んでなかったはず。
 皆でにぎやかに食べていて、俺だけが気付いた疑問には、桃子さんが答えてくれました。

「サービスです。玉坂くんには、お礼をしなくちゃと思っていたから」

 誰の名前だ?
 ああ、俺か。

「思い当たる節は特に何も。何かしましたっけ」
「最近なのはが、苦手の国語を一生懸命勉強してるの。何かと思って聞いてみたら、負けたくない
 子がいる、って言うからびっくりし……」
「わっ、わわ! わわわっ! おかあさんっ!!」

 いつの間にかやって来たなのはが真っ赤っ赤になって止めていたけど、一応ほとんど聞き取れま
した。内緒の秘密だったみたいだけど。
 知らぬ間にライバル視されていたらしい。
 トリッパーに対抗意識を燃やし、勝負を挑む原作キャラ。
 これは……フルボッコフラグ!

「どうした。神妙な顔をして」
「ちょっとクロノが可哀想になって」

 よく分からない顔をする騎士たちだった。

「呼んだか?」

 噂をすれば影とはよく言ったもので、ちょうどクロノが現れた。フェイトを連れたリンディさん
も入ってくる。わんこはきっとアルフだな。

「あ、来た来た。はいこれ。手作りお菓子のポテトチップス」
「本当に作ってきてくれたのか。ありがとう」
「ただし塩と砂糖を入れ間違えた」
「残念だが受け取れない」

 冗談です。と言うと受け取ってくれた。リンディさんの甘いもの離れに貢献できれ
ばいいんだけど。

「シュークリーム、六つお願いします」

 早速注文してるのを見ると、やっぱり無理そうな気がするのでした。

「あ、はじめまして。八神はやていいます」
「クロノ・ハラオウンだ。よろしく」
「で、こっちがフェイトちゃん? 意外やわぁ、もう少し露しゅもあっ!」

 はやてが危ういことを口走りそうになったため、シュークリーム突っ込んで黙らせる。はやての
口の回りがクリームだらけになって怒られたけど、背に腹はかえられない。

「その子が?」

 クロノが聞いてくる。目がまっすぐ真剣だった。ヴォルケンリッターがにわかに警戒心を高める。

「いやまぁ、今日言うつもりだったしバレていいけど。いつわかったかね」
「昨晩考えた結論だ。消去法でな」
「なんの話?」
「はやての話」
「せやから、なんの話」
「こまけぇこたぁ気にすんな!」

 のけ者にされたことをお怒りのようで、はやてにほっぺたむぎむぎされた。





「……という訳でして」

 ヴォルケンリッターとクロノに確認を取って、今までの色々なことをはやてに説明した。
 闇の書がちょいバグってて、このまま放置するとはやてにも良くないこと。書の持ち主容疑かけ
られて、管理局と追いかけっこしてたこと。今は取りあえず休戦して、闇の書なんとかしようぜ。
となっていること。それにそもそも、実は蒐集やってたってこととか。

「蒐集しとったん。どして?」
「やらないとひどい目に合うことがわかったので」

 主に胃袋的な意味で。こればっかりは首を傾げる一同であったが、騎士たちはうんうんと頷くば
かりだ。食は時として生死に直結するのである。

「あっちの世界に行ってたのって、このためやったん」
「ん。はぐれメタルで経験値稼ぎ。ちゃんと回復まで面倒みたけど」
「申し訳ありませんでした」
「全員後でシャマル水イッキ飲みの刑」

 騎士たちは絶望した。

「で、本題なんだけど。闇の書を直そうなお話」
「へ? 闇の書、壊れとるん?」

 シャマルの味覚とか最初おかしかったけど、というはやてに、しゅんとなるシャマル先生だった。
ナチュラルにシャマル弄りをしていることには戦慄を禁じ得ない。

「はやての足もそのせいらしい。最近闇の書子さんのおかげで、足への影響は小さくできたけど」

 そうやったんか! と驚くはやて。なのはも目を丸くして聞き入っていた。クロノや後からやっ
てきたフェレットユーノは想像がついていたらしく、リンディさん同様静かに聞いていたけど。

「そこまではわかった。問題はこの先、書を起動し、バグを取り除く……どうやる気だ?」

 そのうち、間を置いてクロノが尋ねる。

「蒐集はこいつで」

 靴を脱いで持ち上げる。

「? その靴、どこかで……向こうの世界のものか?」
『あっ、見たことある! しあわせのくつ、だったよね?』

 フェレットユーノが念話を飛ばしたらしい。一応他のお客さんもいるのに配慮したのである。

「……?」
「ああ、聞こえてないか。ユーノからの念話だ。しあわせのくつ、というのか?」
「うん。ああそうか、前見せたか」

 一瞬首を傾げる騎士たちだったが、すぐ納得した顔になった。会話の違和感にすぐ気付くあたり、
聡いなぁと思う。

「何と、歩けば経験値がたまるという優れ物」
「それで一体何をするんだ」
「経験値は闇の書のページに転換されます」
「あ……ありのまま、昨晩起こったことを話すぜ!」
「しばらく確認してなかったら、ページが残りあと20でした」
「何を言っているのか分からないと思うが、私たちも何が起きたかわからなかった」
「……何でもありだな」

 呆れたようにクロノが言った。

「しかし、君のレベルと、闇の書のページが何故つながる?」
「それは……まぁ、最後にわかると思います」
「言う気はない、か」
「はやてと騎士たちには関係ない、としか」

 うーん、と考えるリンディさん。クロノも思考の中に入っていくようだった。

「は……」

 とここで、なのはから声がする。
 何だろう、と思っていると、こんな言葉が飛び出した。

「は、は、はやてちゃん、闇の書の主さんなの!?」
「そぉい!」
「そぉい!」

 今ようやく現実に回帰したらしいなのはの口に、はやてと二人してミニシュークリームを突っ込んだ。

「……な、なにするのっ、二人ともいきなり……」
「おそぉい!」
「うるそぉい!」

 食べきってからさらにやってみた。その後なのはに二人して怒られたけど、口のまわりがクリー
ムだらけだったのでちっとも怖くなかった。

「まずは口を拭くがいいでござる」
「はい鏡」

 真っ赤になって口をぬぐった。それから二人まとめてぽこぽこ叩かれたけど、残念ながら全然痛
くなかった。



(続く)



[4820] その89
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/06/28 14:48
 Q.バグを破壊する方法は?
 A.物理的に出現するので、魔法でぶっ叩いてください。
 Q.はぐれメタルは魔法が効かないが、それを蒐集した書もそうなっているのでは?
 A.そのためのオリーシュです。
 Q.答えになってない。
 A.うん。

 とか色々協議に協議を重ねて、なんとか信用を得ることに成功。また近いうちに話を……という
ことにはなったけど、その日の翠屋での会議は解散と相成った。皆と別れ、八神家に帰還する。

「まさか蒐集しとった挙げ句、なのはちゃんたちと追いかけっこしてたとは」

 するとすぐさま、はやてによるお説教。隠して騙してたのはこちらなので、ヴォルケンリッター
の皆と一緒に、ここは素直に謝っておく。

「正直すまなかった。しかし脱衣魔の真の姿をデジカメに収めておいたから、それで許して欲しい」

 いきなりはやての機嫌が、目に見えて良くなった。シグナムにノートパソコンを、俺にブツを持
ってくるように言う。そして見る。

「……わー……うわぁ……うわー……」

 大変刺激的だったようで、はやてはほっぺたを赤く染めてうわうわうめいた。

「おわぁ」
「おわぁ」
「おわぁぁ、八神家の主人は病気です」
「足的な意味で割と間違っとらん件」

 首を傾げる守護騎士たちだったが、おかしいのは多分ネタがわかるはやてだと思うんです。

「あぶない水着とはまたえらいものを……ああぁ、おへそも腰回りも見えとるし」
「正直これは予想外だったとしか言いようがない」
「写真撮影しててこんなに楽しかったことはなかった。また脱がねーかな」
「第三期が楽しみ。フェイトさんがえらいないすばでぃーになってた筈なので」
「そうなるともはや犯罪の域に達する気がするな……」

 実際に間近で見ていたシグナムが言うのだから、きっと真実なのだと思う。

「コーヒー淹れてきました。お菓子もありますよー」

 ナイスタイミングでシャマル先生がやってきた。手にしたお盆には人数分のカップと、買い置き
のチョコがいくつか。その後ろからはぐりんたちが三匹連れだって、ちょこちょこ這ってついてく
る。お菓子でももらっていたのだろう。
 PC上に取り込んだ写真を皆で見ながら、夕飯前のコーヒータイム。フェイトの脱衣でチョコが
うまい!

「そういやさ、お前の原作知識なんだけど。フェイトはともかく、なのはは当てはまんないな」
「確かに。なのはちゃん、面白かったなー。補完計画がいつの間にか機能しとったんかな」
「最近のなのはは完全に俺のおもちゃ。本人も、本気で嫌がってはいない気が」
「勘違い乙」
「自惚れ乙」

 夕飯までの時間はそんな風に話しながら、皆でまったり過ごすのでした。





 夕食後は夕食後で、やることが一つ二つあったりする。
 しかし今は特になかったりするので、てきとーにザフィーラとふらふらお散歩行ってきました。
はぐりんからもらった例の靴、歩かないと経験値はいんないし。

「今日は翠屋までの往復で結構歩いたけど、1はぐりんには届かなかったね」
「でも残り12ページになっちゃいました。1日8000歩とすると、あと2日……」
「歩数調整したかったら手伝うぞ。背中に乗れ」
「ありがと。助かるです」

 身体が芯から冷える、冬の夜だった。手の指がキンキンと冷たい。さっそく熱い湯で洗って、ぽ
かぽかしたままこたつへ直行する。全身まるごと潜り込もうとすると、頭になにか柔らかいものが
あたった。

「ここは満員だ。入ることは……できねーぜ」

 先に占領していたはやてだった。

「無駄無駄無駄無駄無駄」
「オラオラオラオラオラ」

 しばし暗闇の中でぽかぽか叩きあってから、疲れたので二人ともこたつから顔を出す。

「そういえば昼間、闇の書子さんってゆーとらんかった?」
「ん?」

 シャマル先生が持ってきてくれていた冷たいお茶を飲んでいると、はやてが思い出したように尋
ねてくる。

「言ったでござる」
「闇のしょこたん……だと……?」

 はやては厨ニ病チックな何かを感じ取っているようだった。念のために言っておくけど、はやて
の想像は絶対間違ってる。

「多分すっごいしょこたんを想像してると思うけど、そうじゃなくて闇の書の中の人です」
「えー」

 はやてはちょっとがっかりな顔をした。

「で、闇の書の中の、って?」

 アニメの住人から中の人という単語が出てくるとはオリーシュも結構びっくりです。

「実は、闇の書から出て来れない人が一人いるんです」
「なんと」

 新たな事実を知り、はやては驚きの表情を浮かべた。

「何で出て来れんの?」
「バグ持ちなので、このままだとちょっと危険みたい。それを直すのが今回の計画」
「会ってみたいわぁ……そのバグって、直るん?」
「抗体みたいなのが入ってきて、そのおかげで別の場所に移せたって言ってた」
「関係あらへんけどグロブリンって名前、何かグロテスクな感じがせーへん?」

 むしろこの年でグロブリンとかいう単語が口から出てくるはやての方が恐ろしい気がする。

「免疫グロブリン知ってるとか。どれだけ本を読みあさってたのだろう」
「あ。足がコレやから、なんでやろと思て。本読んだり、テレビの教育番組観たりとか」

 納得です。

「逆に私も、話が通じたのが結構驚きなんやけど。ホンマにトリッパーやったんやなぁ」
「大学受験を経験したオリーシュに死角はなかった」
「なのはちゃんはそうとも知らず、頑張って勝負を挑もうとしとるのか……」

 不憫な、とはやてはつぶやいた。

「あとその足、最近よくなってきてるけど、書のバグ取ったら完全に治るらしいよ」
「ホント!? ほな、温泉行こ、温泉! しょこたんも一緒に!」
「しょこたん違う」

 嬉しそうにするはやてだった。



(続く)

############

闇のしょこたんと書くと、実物をちょっと見たい気がしなくもない吉宗であった。



[4820] その90
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/06/29 23:32
「井上」
「はい」
「臼井」
「はーい」
「オリーシュ」
「倍プッシュだ」
「オリーシュオリー……先生思ったんだが、スマップスマップみたいでかっこいいな」
「オーダー! おいしいコーヒー牛乳一本!」

 学校に復帰すると、ようやく日常に帰ってこれた気がするオリーシュですこんにちは。
 その日は、再びクロノたちとの話し合いの日。会場は前は翠屋だったということで、今度は八神
家にて行われた。
 とはいえ話せることはそんなに残っておらず、決戦当日の段取りを決めるだけである。それも、
歩数がピッタリになったらはやてが闇の書を起動し、露出した部分を指示どおりに魔法で撃ち抜く
……としか説明できない。要するにあんまり話すことが無い。

「はい? 編入試験とな」

 と思ったら全然関係ない所にありました。話がはじまるその前に、リンディさんとフェイトから
相談を受けたのだ。
 なんでもフェイトが、聖祥への編入を狙っているらしい。そのためにはもちろん勉強をしなけれ
ばならないわけだが、いかんせん世界が違うので勝手がよくわからないそうだ。
 なのはに聞けばと思ったのだが、当の魔王様は最近、俺への挑戦(勉強的な意味で)にご執心。
俺の方が知識量が多いというのは知れていて、それでこっちに聞きに来たのだろう。

「なるほどなるほど。ならば、テストで超簡単に1番が取れる方法を教えて進ぜよう」
「ほっ、ほんと!? そんなのあるのっ!?」

 正面にいるフェイトとリンディさんよりも、横で聞いていたなのはの方が食い付きが良かったの
は御愛嬌である。

「答案を白紙で提出します」
「0点やろ」
「そう、その通り。帰ってくる答案は当然0点。しかしこれは、すなわち下から1番!」

 大いに期待していたらしいなのはが、がっくりと肩を落としてユーノに慰められていた。

「まじめに答えんか」

 はやてに久しぶりにぐりぐりされた。握力が上がっているようで、こめかみが非常に痛い。

「魔導師=理系のイメージがあるので、国語と社会メインやった方がいいかも」
「フェイトちゃん、家にある参考書貸したるよー」
「あっ、ありがとう……」

 フェイトはまだ八神家の面子に慣れていないらしく、正面から話すとこんな感じに口数が少なく
なる。
 と思っていたがそれは、なのはやクロノたち以外について共通だったようだ。翠屋で桃子さんに
話しかけられているのを見たことがあるけど、似たような感じだったのを覚えている。

「社会は法律とかまで食いこんでないし、まぁ大丈夫なんじゃなかろうか」
「せやなー。取りあえずは漢字からがええかも。教科書にいっぱい出てくるし」

 とか言いながら、シグナムの持ってきた教科書を二人で吟味する。吟味するのだが、少しすると、
いい解決策があることに気がついた。

「よく考えたら、なのはと一緒に漢字ドリルをやるのがいいんじゃあないか。レベル的に考えて」
「バカにされてる気がするよう……」

 ソファに座ったなのはが、恨みがましげな目で俺を見る。

「どうしたアホの子」

 怒ったなのはがやってきて、俺のほっぺたをぎりぎり引っ張った。

「……いつも、こんな感じなのかな」
「そうみたいよー。この間の翠屋での写真、何枚かあるけど。見る?」

 ほっぺたを右にひねられ左に回され、喋れないで苦労している俺だった。その横ではやてとフェ
イトが、勝手に仲良くなっている。はやてにダシにされているようで、何となく面白くない。

「ははふぃへ(放して)」
「そっ、その前に、てーせーしてよっ! わたし、アホの子じゃないもん!」

 冥王様になったならともかく、最近のなのははどうも補完計画が成功しているらしく怖くない。
 ということで、なのはのくせに生意気である。こちらからもむぎむぎやり返すことにした。お互
い変てこな顔になりながら、相手の頬っぺたを捻りまわし引っ張り伸ばす。

「何という間抜け面……これはすずかちゃんに写メせんと」
「はやてはやて、デジカメ持って来た」
「にゃぁっ!? ふぉんな……ふひゃっ! はっ、はふぁひて、ふぁはひてよーっ!」

 情けない顔を友達に写メられるまいと必死に身をよじるなのはだった。もちろんすんなり放して
やるわけがなく、解放は散々焦らせておいてからでした。

「はやてちゃんのばかばかばかばかばかぁっ!!」

 解放されてから俺はもちろん、はやてにもぽこぽこぱんちを浴びせるなのはだった。





「闇の書の残りが5ページくらいになりました」

 ぱらりと分厚い書をめくると、クロノが珍しく驚愕の表情をつくった。

「蒐集せず集めるってのが信用されてなかった気配がする」
「まるごと信じられるわけがないだろう……本当にやってのけるとは」

 クロノの主張はごもっともでした。

「もうちょっとで完成ですね。今までの歩数から計算すると、あと五千歩くらいでしょうか」

 はぐりん三匹を連れて、シャマル先生がコーヒーを持って来てくれた。スタスタに砂糖のビンを
持ってもらっている辺り、こいつら三匹の八神家への溶け込み具合のすさまじさが窺えよう。

「決戦はどこでもいいんですが。結界張って海鳴海上とかどうでしょう」
「無人の次元世界の方がいいのでは?」
「んー……まぁどこでもいいんだけど、何かちょっとしたイベントがあったような気がして」

 海鳴住人となのはの間で、最終決戦直前に何かあったような気がしたんだけど忘れた。忘れるく
らいなので、きっと物語にはさして変化はない気がする。

「ずいぶん適当な……」
「まぁ、何とかなるって。万が一の場合は、最終手段も頼んであるし」
「最終手段?」
「そうそう。某双子のお知り合いに、エターナルフォースブリザード的なのを」
「つまり相手は死ぬん?」

 横から突っ込んできたはやては、厨ニ病にも造詣が深いようだった。

「それはクロノたちがしくった場合くらいのもんなので。あんまり心配してないけど」
「言ってくれるじゃないか」

 と言って、クロノは不敵に笑った。出会った当初は事務的な印象を受ける子だったけど、最近よ
く話すようになってからは、ちょっとずつ表情を見せてくれるようになってきたと思う。

「ターゲットを狙って、確実に砲撃するだけだし。多分大丈夫でしょ」
「ついになのはちゃんのごん太ビームが見れる……!」

 はやてが恐れおののいて見せると、なのははちょっと傷ついた顔をした。

「頑張ってね。狙うの大変だと思うけど」
「そんなに小さい的なのか?」
「いや、サイズはボールくらい。でもちょっと躊躇するかなと思って」
「躊躇……?」

 フェイトが少し不安げな顔をした。

「実は的はオリーシュでした、とか」
「そんな訳あるかばかやろう」

 はやてが横合いから口を挟む。俺になのはさんビームを受けろと言うのか。

「出てきてからのお楽しみ。最初に撃った人には、トニオ料理をプレゼント。プリンもあるよ」
「あら。じゃあ私も……」
「リンディさんの場合、プリンはカラメルソース抜きです」

 本気でショックを受けているリンディさんだった。



 そんな感じに時は流れ、てきとーに歩数を稼ぐ毎日が続いた。
 残り五千歩と言ってもあっという間に減っていき、一週間もすると三桁台へと突入する。ここか
らはページ残量を減らし過ぎるとまずいので、外出する時は靴を切り替えることにする。
 クロノたちとの話合いも決裂することはなく、なんとか信用を獲得。気がつけば歩数は残り二桁
へ。追いかけまわせないのをいいことに、わざわざしあわせの靴装備でなのはをおちょくったりし
て、のんべんだらりと時を待つ。

「そして十年後」
「そこには、元気に訓練場を走り回っとるなのはちゃんの姿が!」

 ではなく、二桁突入から三日後。
 ついに闇の書を巡る一連の事件に、終止符が打たれる時が来た。


(続く)

############

物語はついに、「その時」を迎えます――。



[4820] 番外6
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/07/02 00:13
 唐突だが時は流れ、リイン2号が誕生した。
 ちょうど今日は、二人で留守番。力の1号、技の2号というフレーズがあるのを思いだし、さっ
そくそのスキルを試してみようと思う。主にネタ的な方面で。

「おいちみっ子。何か出せる? 空裂眼刺驚とか」
「リイン、吸血鬼じゃないです。出せるといったら、エターナルでフォースな猛吹雪なら……」
「相手は?」
「死にます!」
「こやつめハハハ!」
「ハハハ」

 既にはやてにネタを授けられていたようだ。この子とはウマが合いそうだ、と直感的に察する。

「不思議と、このリイン2号とは初めて会った気がしないオリーシュであった」
「んー……リインも、けーとさんとは以前、何処かで会った気がします。生前からの宿縁的な何か
 があったのかもしれません!」
「生まれる前から」
「好きでしたー!」

 こいつおもしれぇ。

「……はっ! あ、あわわっ、い、今のは無しです! 無効です! つい口が動いたんです!」

 リインは恥ずかしそうにしながら弁解した。

「そうだね。今のは違うんだね」
「……はっ! その生温かな視線から察するに、リインがわんこ扱いされています!」
「そうだね。わんこっぽいね」
「肯定されました! 愛玩動物リインの誕生です! そのうちCMとかに出演しちゃったりして、
 どうする、タミフル? とか言っちゃうに違いありません!」
「言いません」
「そうですかー……」

 リインはしょんぼり寂しそうにした。

「ところで昨日寝てる間は何処にいたの? 見てなかったけど。はやてのふとんの中?」
「昨日はリインハウスで寝てましたっ」
「貴様の城は電子ジャーがお似合いだ」
「リインの肌は緑じゃないですよ?」

 このネタはヴィータが仕込んだに違いない。

「口から卵は?」
「生めませんっ」
「融合するのに?」
「……まいりました!」

 強引に押し通すとリインは、一本取られた、という時の清々しい顔をした。

「あなたと合体したい……」
「告白されました! さっきがリインの本心とすると、相思相愛です! びっくりです!」
「てか、融合ってどんなん? やっぱ気持ちよくて叫んじゃったりするのか」
「えと、気持ちいい訳ではないです。髪の色とかが変化しますけど」
「……あれ。リインの口調が普通になってる」
「いつもはこんな感じですよ。普段のリインは真面目さんなんです」
「今は?」
「らんらん気分だからです! けーとさんとお話ししてると、なんだか楽しくて!」

 リインはにこにこと笑った。満開の桜のようだった。
 意外にも普段は至って普通とのこと。羽目の外し方がすこぶる上手らしい。

「じゃあ皆帰ってくるまで暇だから、翠屋のシュークリーム買ってこよう。留守番いい?」
「はいっ。任せてください!」
「でもってそのシュークリームのクリームを抜いて、それがリインの晩御飯」
「お菓子の家……ちょっと楽しみ、です!」
「こやつめハハハ!」
「ハハハ」

 八神家は今日も平和です。



(続かない)

############



( ^o^)……



/(^o^)\



[4820] その91
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/07/03 01:10
 闇の書のページは、残り1ページ。というか残り1歩ぶん。
 という訳でしあわせの靴を少し封印していたのだが、ついに再び使うときが来た。決戦の当日
である。

「何か忘れているような……本当に海鳴じゃなくていいんだろうか」

 と、ぼやくはオリーシュ。決戦場が海鳴市でなく、無人の次元世界になってしまった件である。
 何かイベントがあった気がするのだ。しかしどうにも思い出せないので、きっと重要なものじゃ
ないんだと思う。

「真っ黒しょこたん! 真っ黒しょこたん!」

 ウキウキ気分のはやてが横でうるさい。楽しみにしてるのはにこにこしてるからわかるけど、今
のうちに名前考えてあげてください。

「この辺りは無人だし、見渡す限り平原だ。砲撃が山に当たることもないし、申し分ないだろう」

 クロノが言うように、大地には草原が地平線の果てまで続いていた。遮蔽物など見当たらない。
格ゲーで言うなら、なのはさんステージ! という感じ。

「ついになのはがレーザービームとな」
「グッとガッツポーズしただけで五人くらい吹っ飛ぶのか」
「自分の砲撃に乗ってアースラまで行くファンサービス……!」
「そんなのできないよ……」

 ヴィータとはやてが囃し立てたが、なのはは眉毛を情けないハの字にした。要求が厳しすぎたら
しい。

「全盛期は十年後か。声変わり気をつけてね」
「わっ、わたし、男の子じゃないよ! 女の子だよう!?」
「知ってるけどその凶悪さゆえに、ベガ様やバルバトスと同じ声になってしまう可能性がある」
「凶悪って……ま、また、またぁっ……!」

 ぷっぷくぷーななのはさんだった。これ以上遊ぶとレイハさんでぶっ叩かれそうな予感がするの
で、このくらいにしておこう。

「確認が終わったぞ。ここら一帯に人はいない」

 そこに、シグナムが空中から声をかけた。アルフとフェイト(脱いでない)の姿もある。
 最後の安全確認だった。これからビームやらレーザーやらが飛び交うのだから、万が一にも結界
に人が入ってきてはいけないのである。無人世界とはいえ安心してはならない。そこら辺のオリ主
がいきなりトリップしてくるかもしれないし。

「君みたいなのがひょっこり顔を出すかもしれないしな」

 クロノが俺をオリ主扱いしやがる。

「オリーシュはオリ主でなく固有名詞だと何度言えば! ええい許さん、チャーハンぶつけんぞ!」
「準備に入ろう。バラけるより陣を組んだ方がいいか」

 華麗に無視されてしまい、何というか非常に切なかった。

「あとはやて。しょこたん言ってるの教えたら、中の人が微妙な雰囲気してたからやめたげて」
「えー」

 この呼び方が気に入っていたらしく、はやては残念そうにした。

「我々はインペリアルクロスという陣形で戦う」
「ロマサガ乙」
「むしろこいつ真ん中にして、鳳天舞の陣使おーぜ。囮役にさ」

 オリーシュはパリィとか使えないので、ヴィータの提案は全力でお断りするのでした。





「俺、この戦いが終わったら……」
「終わったら? 何するん?」
「……ケーキ焼くんだ」
「いつもと変わらんやん」

 みたくはやてとアホなやりとりをしているうちに、配置があっという間に決まっていく。
 アンチされた闇の書の……

「八神家がえらい目にあう件」

 じゃなくて。
 安置された闇の書を前に、左右両翼をヴィータとシグナム。中央前衛をフェイトとクロノ、アル
フのハラオウン組。そのちょっぴり後方になのはが構えていた。ハンターシフト、と言えば通じる
人には通じるかも。
 でもってその後ろにシャマル先生とザッフィー、ユーノがサポートに回り、魔法何それおいしい
の? なはやてが最後衛。はぐりんズの護衛つき。
 全員バリアジャケットを装備し終えていて、もう戦闘準備は万端だ。魔導衣やっぱかっこいいな。

「一部を除いて超豪華ラインナップ……」
「一部っていうのは私のことかー!」
「いやオレだよオレ」
「私やよ私」

 最後衛でははぐりんと一緒の二人が繰り広げる、オレオレ詐欺と私私詐欺。
 ということから分かるように、退避指示が出ているのにオリーシュまだ逃げてない。

「聞かせてくれ。どうして下がらなかったのか」
「そっ、そうだよ。危ないって!」

 さっき迎えの局員さんが来てたんだけど、その人を押し留めて、今俺はここにいる。
 ちょっと後方まで下がって、クロノが尋ねた。ユーノも後ろを向いて声を上げたし、なのははそ
れを心配そうに見守っている。

「いやそれが。俺がいた方がいいんですよ。今回限りですが」
「……どういうこと?」
「もう今になったから言うけど、闇の書と俺ってちょっとつながってまして」
「またまた御冗談を」

 横のはやての突っ込みが的確すぎて困る。AAの手を上げた猫みたいな顔してまったく。

「そっ、それでは……」
「いやいや、別にバグぶっ飛ばしたからって死にはしないのでご安心を」

 慌ててクロノが尋ねるも、それは見当違いなのでちゃんと否定しておく。一瞬蒼ざめていた面々
だったが、それを聞くとほっとした顔になった。

「……あ。じゃあさっき、しょこたんが微妙な顔してるってゆーたんは……」

 はやてにしては鋭い指摘だった。普段色々てきとーやっているようでも、意外とちゃんと覚えて
いるのだから恐ろしい。ていうかしょこたん言うな。

「まぁそういうことで。通信っぽいのはできたりしてます。念話だっけか」
「念話? 念話はリンカーコアがないと使えな……」

 クロノがそこで、はっと表情を変えた。さぁっと顔色が蒼白になっていく。他の皆はわからない
みたいだけど、さすが出来る子。頭のキレが違う。

「……まさか! まさか、君のコアはまさか、闇の書の!」
「話が早い。その通り。どういう訳か書の中にはいっちゃってて」

 ここまで来ると、他の皆もようやく状況が飲み込めたみたいだ。あらかじめ知っていたヴォルケ
ンリッターの面子以外、驚愕と恐怖で表情が再び急変した。普段からしてゆるゆるで通っているは
やてですら、驚いてぽかんと口を開けている。

「あたしたちの通信だけ受信できたのも、夢の件も、まぁそんなに不思議じゃなかったんだよな」
「変な形で入ってたから完全に通信は無理だったけど。それより皆! プリン! プリン!」
「ああ、一番最初に撃ったら手料理だったか。あまり気乗りはしないが、お前がそれでいいなら」

 少々躊躇したような言い方をするシグナムだった。何度もやっちゃってくれとは言ったのだが、
まだちょっと踏ん切りがつかないでいたらしい。

「けっ、けーとくん待って! 撃ち抜く的っていうのはそれじゃ、それじゃあっ!」

 焦燥に駆られて、なのはが声を絞り出した。事ここに至って、こちらの意図を察するに至ったら
しかった。必死の様相を呈した、それは切なる叫び声であった。
 ちっちゃなボールくらいの大きさで、攻撃にためらいを覚えるかも知れない類のもの。
 知りあいのリンカーコアだったら、そりゃまぁ躊躇もするだろう。

「バグ吸ったコアだけ抜き出してぶっ壊す。ついにシャマル先生の鬼の手が見れるかも!」
「……ええの? そんなことして。コアないと、魔法使えへんって……」
「それで一発解決するらしいから。じゃあ最後のステップ。はい一歩」
「まっ、待て! 待つんだ!」
「クロノ、大丈夫大丈夫。けっこう分離してるから、ぶっ壊れても本体に影響ないみたいだし」
「それもある! だがっ……だ、だから待て、待てと言っているんだ!!」

 クロノが叫び、こちらに飛ぶ。なのはとフェイトがあとを追ってきた。しかしそれも間に合わな
い。フェイトが脱いだら間に合ったかもしれないけど。

「はじめのいーっぽ!」
「まっくのーうち! まっくのーうち!」

 はやての声をBGMに、靴をはき替えた俺は、最後の一歩を踏み出したのだった。



(続く)

############

ところがどっこい……モンスターボールじゃありません……!
オリーシュコアです……! これが現実……!



[4820] その92
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/07/06 00:57
 闇の書が輝きはじめた。
 あらかじめ決めてあった手筈通り、はやての意志によって既に起動がはじまっている。
 コアぶっ壊すと聞いて躊躇するかと思ったけれど、どうやらそうでもなかったらしい。

「もう今さらやけど、ええの? ホントに」
「いいよー。ちょっと残念ではあるけど、まぁ問題なし」
「んー……ま、オリーシュに魔法は似合わへんか!」
「今になって下の毛が抜けてしまっても困るので」
「ああ。そういえば、そういう話もあったなぁ」

 闇の書の下にあるのと同じ、白色の魔法陣の上に立ち、はやては優しい目をしてからからと笑っ
てくれた。視線には信頼があったように見えた。なんだかちょっとうれしかった。
 遅れて前方から、クロノが飛んできた。なのはとフェイトが追い付くのを待たずに、切羽詰った
様子で話し出す。

「わかっているのか! 自分が今、一体何をしているのか!」
「呼吸」

 クロノがとても怖い視線を向けるので、ふざけるのはやめておこう。

「ほらほら。早く戻らないと。陣形崩れてるし」
「ぐ……っ」

 言うと、クロノは言葉に詰まった。背後では書が、徐々に輝きを増している。
 今回はバグが完全にコアに吸収されているため、今まで幾度となく繰り返してきた起動とは勝手
が違うらしい。起動完了まで時間がかかるというのが書の中の人からの連絡だった。はやてを核に
したりはしないのはいいけど、完了まではもうちょいかかるみたいだ。

「まさか、狙っていたのか? 後戻りできないこの状況下、君の言う通りにするしか……!」

 Exactly(その通りでございます).

「時間あげちゃうと、バグとコアの分離方法とか調べられちゃうかもしれないから」
「どうしてそれが! 分離できるなら、それに越したことは」
「いや。魔法は欲しいけど、やっぱ性に合わないっていうか」
「八神家の平和のためにもその方がいいとは思うな」
「変な魔法開発されちゃうかもしれませんし……」

 やや近くに位置しているザフィーラとシャマル先生が、苦笑交じりに付け加えた。シャマル先生
の言ってるのはまさに図星だった。前思いついた「缶のコーンスープの粒が一生出てこなくなる呪
い」などのほかに、「バナナの皮があると必ず踏んでしまう呪い」とか「シャンプーを使うと必ず
目に入ってしまう魔法」とかできないかなと考えていたのは秘密である。

「あとそれだと、書が助からないらしいし」
「しっ、しかし、書のバグを吸い尽くす程のコアだぞ! それほどの容量が、力があれば……!」

 魔法の力で人がたくさん助けられるかもしれない、というのは分かる。お父さんを亡くしてるク
ロノのことだから、きっとその思いは強いんだろうとも思う。
 非常にわかるし、どっちが正しいとは言えないんだと思うけど。でもこっちの方が、自分にとっ
ては大事なわけでして。
 あと魔法手に入れちゃったりしたら、それはもうオリーシュではないような気もするし。

「手術せずに臓器移植してあげられる、って気分で考えればまぁいいかなと」
「あ、それ、何となくわかる気がするんやけど」

 体切られると思うと実際やる段になって怖くなるんな、とはやては言う。大体そんな感じで正解
です。今回のケースだと魔法が使えなくなるだけだし、体を弄られるっていう恐怖が全くない。

「けーとくん、どうして……これで、これでいいのっ、本当に!」

 クロノの後方で話を聞いていたなのはが、引きとめるように訴えかけてきた。

「ああ……掛け値なし……! 俺はこのまま失いたいのだ……!」
『この状況で自殺フラグ立たせるのは危険な気がするんだけど』
「マーシトロン乙」

 かなり前の方で聞いてたヴィータは念話で、隣のはやては肉声で突っ込んできた。
 最近よく思ってはいたんだけど、こんなネタまで知ってる八神家の面子って一体なんなんだろう。
はやてはまぁいいけど、特にヴィータ。お前表に出てきてから一年経ってねーだろ。何でそんな細
かく覚えているのか。

「レーザービームに期待してます。遠慮なく撃っちゃって……って、無理かね」
「当たり前だよ……だっ、だって、こんな」
「男には必ず戦わなきゃならない時があるんだ」
「わっ、わたし、男の子じゃないよっ。おっ、女の子……おんなのこだよぅ……!」

 いつの間にか半べそをかいているなのはだった。いつの間にかフェイトとユーノが隣に立ってい
て、ぽんぽんと肩を叩いてあげている。

「だっ、だって、ともだちが……ともだちなのに、こんなのって」

 とか言ってくれるのを聞いていると、友達思いのいい子だなぁ、と思う。というより、はっきり
友達だと言ってくれたのは初めてな気がする。
 でもその友人を、自らの手で魔法の世界から蹴落とせと言っているのだ。
 敵や犯罪者と戦うのとはわけが違うか。いくら本人の意志があるからと言って、そんなに簡単に
心の整理がつくわけがないだろう。

「でももし撃たなくて作戦が失敗に終わったら、ぬこ姉妹が俺ごと冷凍処分する算段になってるし」
「……え?」

 シャマル先生に手を振ってサインを送ると、大きなウインドウを一つ開いてくれた。
 するとそこには、現在地のはるか後方、デュランダルを装備してスタンバイ中のぬこ姉妹の姿が!

「あっ……アリア、ロッテ!? 二人ともいつの間に!」
「まぁ、こういうことでして。もう後戻りはできませんフゥーハハァー!」
「自分を人質にする気か!? ……いや、それ以前に、グレアム提督まで引きずり込んだのか!」

 見覚えのある姿に、クロノから驚愕の言葉が出た。そういや知り合いだってぬこたちが言ってた
っけ。クロノのことをクロスケとか呼ぶヤツ初めてだったなぁ。
 本当は、闇の書全部ぶっ壊したかったらしいけど。でも散々ご飯食べさせたし、お城では人質に
なって働かされたので、お詫びに何でもひとつ言うことを聞くと言ってくれた。ということで、最
後のバックアップをお願いすることにしたのである。バグ持ちコアとその持ち主が凍れば、書とは
やては守られるという寸法。提督さんも一応知ってる。
 でもさすがのオリーシュも氷漬けとか寒いからイヤなので、シグナムたちにはちゃんと撃ってく
れるよう念入りにお願いしておいたけど。

『封印するつもりだったのに……!』
『失敗しろ失敗しろ失敗しろぉ……!』
「また美味しいもの御馳走するから。勘弁してくださいです」

 モニターの中でぶつぶつ文句や恨みごとを言う姉妹(人間フォーム)だった。こっちも半泣きに
見えなくもない。
 それでもちゃんと付き合ってくれていた。闇の書キライ大キライとか言ってたけど、今から約束
を破る気はないみたいだった。根っこの部分はやっぱり善人なんだなぁと思う。

「……わかった」
「くっ、クロノ君!?」

 すると、しばし顔を伏せていたクロノが顔を上げた。なのはが驚愕の表情でそれを見る。

「いいの? 気が引けるなら、シグナムたちがちょっと限界突破すれば何とかなると思うけど」
「ちょっと待て! お前どういうことだそれ!」

 ヴィータが向こうでうるさいけど気にしない。

「……気が引けるのは確かだ。避けたいと心から思う。でもそれ以上に、傍観者になるのは御免だ」
「悪いね。嫌でしょうに」
「もしやらなかったら、見たくもない君の氷のオブジェを拝むことになりそうだし」

 その言葉は諦めが混じっていたが、しかし確固たる意志があった。表情からも戸惑いが薄れてい
るように思えた。タフな性格してやがる。

「……尊敬するよ。この場所に至った君の決断と、その勇気を」
「じゃあ敬語とか使ってみようか」
「お断りだ」

 話す二人の様子を見て、なのはははっとしたように息を呑んだ。そうして今度は言葉を発さずに、
その姿をしばらくのあいだ黙って見つめていた。
 自分に当てはめて考えてみると、何も言えなくなってしまったのだ。
 なのはにとって魔法が占めるウェイトは、今それを手放そうとしている少年のそれとは全く違う。
ひとりぼっちの時間を長らく味わったなのはが見つけた、たったひとつ自分が持つ大切なものだ。
 それでも、魔法か家族、どちらかを選べと言われたら。
 たとえ何がどうなっても、どれほど悩み苦しんでも、きっと最後に選ぶものは、彼と同じなので
はないか?

「……書から通達。もうちょいで起動完了らしい」
「いきなりコアが出現するのではないんだったな?」
「ん。中身が出てきて、その奥に入ってる。そこをシャマル先生が、鬼の手で引っ張り出すから」
「地獄先生しゃまると申したか。バリバリ最強……にはならんよーな」
「今日から一番かっこいい……のか?」

 はやてと俺で首をかしげていると、向こう側のシャマル先生から微妙な気配が伝わってきた。あ
まり気に入ってはくれなかったようだ。

「……ん?」

 とここで、横の方からじっと向けられる視線を感じた。
 なのはだった。意を決したように拳を握りしめている。目は少し赤くなっていたが、もう後から
涙が出てきてはいなかった。

「撃ってくれますか」
「……うん」
「本当にやってくれますか」
「うん」
「あなたと合体したい……!」
「うん……ちっ、違うよっ! どさくさにまぎれてヘンなこと言わないでっ!」
「合体失敗、アクエリオン分離しました!」

 ばっさり切り捨てられた挙句、隣のはやてにまで遊ばれて悲しい。
 と思ってややもすると、なのはが口を開く。
 決意に満ちた声で、こんな風に告げてきた。

「わたし、約束するよ。ともだちになった子に杖を向けるのは……これが最初で、最後だから!」
「……あれ。ということは、これから何回なのはをおもちゃにしても砲撃されないということに!」
「なのはっ。もど、戻ろうっ」
「そっ、そろそろはじまるって! 行こうっ」

 レイハさんでびしびしばしばし叩こうとするなのはさんを必死に止めて、二人で前線に連れて行
くフェイトとユーノだった。

「……リンディ提督と話はつけておいた。後でたっぷりお話を、だそうだ」
「了解。まぁ仕方ないかね」
「プリンにカラメルソース追加で手加減してあげるとも言っていたが」
「黒酢で作って噴出させてやる」

 クロノもそう言い残して、再び配置に戻っていく。
 そうしてややあってから、書が激しく輝き始めたのだった。





「髪が銀色……」
「というか身体も銀色だぞ」
「これはどう見てもダイ大のアルビナス……!」
「明らかに魔法跳ね返しそうな……」

 そして現れた、闇の書の中の最後の一人。
 てっきりメタルキングとか出てくるかなと思ったけど、実際現れたのは全身メタルマリオ状態の
あの子でした。この装甲で飛行するとか厄介どころの話じゃなく、はぐりん蒐集を本気で後悔した
瞬間でした。



(続く)

############

なのは・クロノ説得編。
トリッパーの説教とか好きくないので注意して書いたのですが、読者の方々にはどのように見えるでしょうか。
率直にご意見いただけると嬉しいです。



[4820] その93(前編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/07/06 23:33
 しょこたんが強すぎて手に負えない。

「はっ、速……くっ!」
「うわああっ!」

 バグ吸ったコアが中にある限り、防衛本能というかそんなようなもので襲いかかってくる。とい
うふうにわかっていた書の中の人だけど、その戦力ははっきり言って圧倒的だった。前衛ではシグ
ナムとヴィータが何度も挑んでいるものの、そのたびに千切っては投げ千切っては投げされている
ばかり。

「く……まっ、まだまだぁっ!」
「レイジングハート、もう一回カートリッジロードっ!」

 その隙をついて奇襲をかけるハラオウン組や、射線を確認して絶賛ビーム発射中のなのはの攻撃
も、ほとんど掠りもしなかった。たまに当たっても効きやしないし、あちら側の魔法の方が早い。

「これは負けかもわからんね……」

 はぐりん蒐集、やめときゃよかった。メタル状態のしょこたんの前には魔法も歯が立たず、逆に
高速で火炎や爆発の呪文を連発してくる始末。

「あっ、あつ、熱つつあぁあ!!」

 赤い色に触発されてか、ヴィータが比較的よく狙われているみたいだった。ジャケットで守られ
てるから助かってるけど、このままじゃジリ貧である。

「メタルキングとか蒐集しなくてよかった」
「あと、戦士っぽいモンスターとかもそうやな。さらに手がつけられんかったかもしれへんし」

 とはいえ、救いもある。ひとつは、直接攻撃力がとっても低いこと。
 スピードはえらい速いんだけど、腕力そのものは大したことないらしい。一瞬格闘に持ち込むこ
とができたアルフからの報告だった。とはいえ接近できたのは一回だけで、その時はすぐに逃げら
れちゃってはいたけど。
 もう一つありがたいことに、蒐集した個体のレベルが低かったためか、ジゴスパークやビッグバ
ンといった大技が飛んで来てはいなかった。
 これについては本当に助かった。あれが出てきたらさすがに敗北を覚悟せざるを得ない。威力と
か今のイオナズン以上だし、連発されたら耐えられるとは思えない。

「残像が見えそうでござる」
「はやー……」

 速度で撹乱しようにもあっちの方が速過ぎる。はっきり言ってフェイトでも追いつけてないみた
い。
 今は脱いでないし、広範囲魔法がバンバン飛び交う今、装甲を薄くするのは自殺行為だ。それを
分かっているためか、フェイトは脱ぐにも脱げずにいた。ちょっと残念な話ではあるが、どうせ今
撮影係のヴィータは手一杯だしまぁいいや。
 でもって一般人の域を出ない俺が、そんなもん視認できる訳も無く。
 ジャケットを着てないはやても、現状ではまだふつーの女の子。何が起こっているのか分からず、
これはちょっと手を出せそうにない。

「倒し方があるんじゃないのか!」
「けーとくんのウソつきぃぃ!」

 クロノとなのはから必死の叫びが届いたが、ちょっとこれは無理っぽい。

「いや、その、シャマル先生がコア引っ張るまで、時間稼げればいいと思ってて」
「適当に持ちこたえとったらええ、って高をくくっとったわけやな」
「交代で掻き回して、危なくなったらなのはが撃ってモーション潰す、でいいと思ったんだけど」

 クロノに伝えてあったその戦法では、残念ながら間が持たなかった。相手が速過ぎるため、引き
つけを全員で行わなければならないからだ。
 しかしそれをやってなお、あちらの方が手数が上である。力の差がありすぎだ。魔王とかそんな
次元じゃない。

「このままぬこ姉妹に氷にされてしまうのか」
「かき氷にしたら不味そうな」

 はやてがさりげなく酷くて泣きそう。

「シャマル先生、鬼の手まだ?」
「まっ、まだ……もう少し、もう少しなんですけど……!」

 それでも今まで、要のシャマル先生をよく守って来てはいた。
 今回の任務内容はコアを引っ張りだすまでの時間稼ぎと、そうして出てきた核を吹っ飛ばすこと。
その前半部分を担うのがシャマル先生だった。ここを落とされたら話にならない。
 現在シャマル先生は強力結界持ちのユーノ、さらにザフィーラの援護付きである。万が一に備え
てのことであるが、しかし相手のレベルを考えるとこれでも足りないくらいだった。だがこれ以上
人員を割くと、今度は攻めの手が足りない。ギリギリのラインだった。

「早くしないとはやてが、よだれ垂らしたシャマル先生のお昼寝姿をアースラに大公開するって」
「ほらこれ」
「きゃあああっ!?」

 ぺらぺらとはやてが写真を見せると、シャマル先生がものすっごくうろたえた。
 と思ったら、後頭部を何か固いもので殴られた。人間フォームのザフィーラに拳骨を落とされた
みたい。

「余計に時間を使わせてどうする」

 正論でした。
 でもそれなら、はやてにも天罰が下っていいと思うんですが気のせいでしょうか。

「ところで、お前は大丈夫なのか。何一つ防具も無しに」

 涙目になってはやてから写真を取り上げてるシャマル先生を横目に、ザフィーラが続けて問いか
ける。
 言ってることは本当で、今現在普通の服以外は何防具を身につけてないオリーシュでした。仮面
も今は外してあるし、いつも護衛してくれているはぐりんズは、万が一があったらさらにマズいは
やての護衛についている。

「大丈夫。あれ今使ってるの、実は俺のコア産の魔力みたいだから」
「……何? それはどういう――」
「危ない! 一発行ったぞ!」

 ザフィーラが聞き返そうとしたその時、クロノが叫ぶのが聞こえてきた。
 ベギラゴンでも撃ったのだろう、もの凄い勢いの火炎の奔流が向かってくる。皆の間に緊張が走
った。躱すのは不可能――!

「マッガーレ!」

 しかし、その瞬間!
 俺の叫びとともに火炎が突如としてその軌道を曲げ、あさっての方向へ飛び去ったのである!

「……ま、曲がった……?」
「自分の魔力だから。『こっちくんな』って思ったら曲がってくれます。こんな感じに」
「……ならば、シグナムたちを助けてやることはできないのか」
「そうしたいんだけど、自分に飛んでくるものじゃないと無理みたいでして」

 唖然としているユーノの前で、ザフィーラはあからさまに溜め息を吐いたのだった。それはいい
けど、これからどうしよ。



(続く)



[4820] その93(中編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:d8d9ecb8
Date: 2009/07/07 15:15
「鬼の手が無理とな」

 流れ弾をやり過ごしたりあれこれ策を考えていたりしていると、シャマル先生がそんなことを言
い出した。
 何か失敗フラグ的な発言で怖いけど、とりあえず問い直してみることにする。

「はっ……はい。あ、あの子の体、魔法に異常に強くて、その……」
「鬼の手が通らない、と」
「すっ、すみませんっ、あのクラスのコアを引っ張るのは難しくて、魔力をもっと削らないと……」

 シャマル先生が言うには、体の魔法遮断能力が高すぎるうえ、引っ張り出そうとするコアの魔力
もめちゃくちゃ大きいとのこと。
 というわけで作戦遂行は、二重の意味で難しいらしい。ボディとコア、どちらか片方でも弱体化
できれば話は別らしいんだけど。

「…………」
「…………」
「ごっ、ご、ごめんなさぁいっ……」

 はやてと俺とでしらーっとした目をすると、シャマル先生が半泣きになって謝ってきた。
 しかしそれで事態が打開できるわけではなく、これはちょっとマズいかもわからん。俺がかき氷
になる未来がかなり現実味を帯びてきた気がする。

「ていうか、そんなに容量あったんか。Sランクに手が届いたかもしれへんなぁ」
「夢はでっかくSSSランク」
「さらに突き抜けてSSSSSSランク」
「SSSSSSSSSSSSごほごほっ」

 はやてと一緒にエスエス言ってみたらむせた。状況が状況なので自重する。

「コア捨てるのやめた方がよかったかもしれへんな。未練でてきた?」
「今更やがな。ところでシャマル先生、じゃあコアの魔力が許容範囲になるまであとどのくらい?」
「い、今のペースだと、少なくとも10分くらいは……」

 と聞いて、前線に目を向けてみる。
 戦い馴れしているクロノやアルフ、百戦錬磨のヴォルケン組、速度でそれらを上回るフェイトは
今のところ、驚異的に凌いでいた。
 10分持たせるのでギリギリといったところみたいだ。根性見せてくれるに違いないし、まぁそ
こは期待するしかない。

「っ……まだ、まだぁっ……!」
「なのはっ、しっかり!」

 問題は、意外にもなのはだった。隣のユーノが歯痒そうな表情で見つめる、その立ち位置は非常
に危うい。
 防御力は高いらしいから大丈夫かと思っていたが、ところがどっこいそうもいかないみたいだ。
敵の攻撃力と手数が、単純にそれを上回っているのだ。回避もフェイトほどではないみたいで、火
炎の直撃を受けるのも何回か見た。
 なのはが戦えなくなれば、こっちの手数は減るわけで。そうなったらもう3分ともつまい。これ
はちょっとマズいかも。

「戦場からお前以外が離脱したらどうだ?」
「あっちも休息とるだけだと思う」
「……ならば、お前が盾になればいいのでは」
「予定調和っぽくてやだ」

 何だそれはとザッフィーが言うけれど、そんな気がするのだから仕方ない。

「それにあいつ戦闘センス高いから、多分他を集中狙いに……何?」
「意外と考えているんだな」

 意外とか言うな意外とか。

「こうなったら、はぐれメタルの弱点を突くしか」
「弱点なんてあるの!?」

 あった。確かあった。はぐメタもシリーズによっては、決して無敵じゃなかったはず!

「……DQM仕様だと、ギガスラッシュなら効いた気が」
「いなずま斬りとマヒャド斬りとしんくう斬りが足らへんな」

 いまから習得するのは不可能かと思われる。

「さそうおどりなら」
「誰が踊るんだ」
「リリカルなのはの世界にマイケル・ジャクソンがやってくるんやな」

 確かにあの人ならやってくれそうだ。

「マイコー……」
「マイコー……」

 しょぼーんな感じになる俺とはやてだった。

「……で、どないするん? 前線は大苦戦、魔力削りとか無理やし」
「お前に全部魔法攻撃が向くようになればいいんだが」

 そうそう。そうなったら全部当たらないし……ん?

「それだ」
「ん?」





 なのはは挫けそうだった。
 魔法は効かないわ飛ぶのは速いわ、ノータイムで大魔法が飛んでくるわ。しかも闇の書を片手に
暴れまわる、あちらの体力が尽きる気配がない。これだけの戦いを繰り広げておいて、疲れる様子
がまったく見えないのだ。敵は圧倒的に強かった。

(てんいむほー、だっけ)

と、最近覚えた熟語が頭をよぎった。漢字は忘れてしまったけれど、意味はよく覚えている。
 その事実に加えて、自分がより多くの攻撃を受けている現状が、なのはから体力と精神力を奪っ
ていた。
 砲撃が効かない以上、それ以外の選択肢に乏しいなのはの不利は明らかだ。そのあたりを本能的
に察してか、敵も攻撃の手を意図的に集中させている気配がある。囮と言えば格好はつくが、実情
はそれ以下だ。要は倒しやすいから狙われているだけのことだった。
 しかし、負けるわけにはいかない。
 友だちのかき氷を見たくないというのもあるが、それ以上になのはを奮い立たせるのはやはり、
魔法を捨てると迷いなく言い切った、少年の行為そのものだった。他でもない自分たちに、彼は己
の未来を委ねてくれた。その決意に報いたかった。

「珍しい。魔王が膝ついてる」
「だっ、だからっ、魔王じゃないって何度も……え?」

 だから背後から、その少年の声がした時は、正に驚愕の一言であった。魔法が使えずジャケット
もない。護衛のモンスターも連れていない!

「けっ、け、けーとくん!? あ、あ、あぶないよっ、下がってないとっ!」
「大丈夫。今から時間稼ぐんで。ちょっと休憩取っててください」
「じっ、時間って……ええっ!」

 戸惑い慌てるなのはが止めるのも聞かず、少年は側方のスペースに向かって走り出す。
 そして立ち止まると口を開き、大声でこう叫んだ。

「闇のしょこたん! 闇のしょこたん!」

 メタル戦士の動きが止まった。

「俺に近づくな……くっ、う、腕が……俺の腕がギザ震えまくりんぐ……」
「…………っ」

 メタリックなリイン1号は耳をふさいで、いやいやをするように首を振った。火炎も撃ってきた。

「アッガーレ! サッガーレ!」

 でも炎はぐいんと上に曲がったり下がったりで、決して当たることはない。
 どういうことなのとユーノに尋ねるなのはが横目に見えた。そりゃあ傍目には異常だしなぁ。

「はぐメタだけにwwwトゥットゥルーwwwドラクエだけにwwwトゥットゥルーwwwwww」
「……! ……!!」

 結局しょこたんは見事に挑発に乗り、そのまま無駄に魔力を使うのでした。
 念話できるから知っていたことだけど、実ははやてに闇のしょこたん闇のしょこたん言われて気
にしていたらしい。しょこたんと厨二病について、ネタを教えておいてよかった。

「……」

 休みながらも、やるせない表情のなのはだった。



(続く)

############

説教臭い判定、ありがとうございました。概ね大丈夫みたいでほっとしております。

14:57 修正しました。英文字が入らなかったみたいです。
15:15 HPのリンク入れ忘れてたので入れました。上げてしまってすみません。ついでに修正。



[4820] その93(後編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:74c43ade
Date: 2009/07/08 10:55
 そのまま時間稼ぎと戦闘行為を繰り返し、結局なんとかなりました。
 シャマル先生がコアを引っ張り出してくれて、ただ今攻撃組が全員で魔力チャージ中。様々な色
の光が集束していく様は、まさに圧巻の一言である。

「この光景は第3期で観たような気がするんだが……微妙に違ったっけ……?」
「オリーシュが3期ラスボスと申したか」

 そんなはずはない。と思う。
 というかそれはすなわち、某博士に人体実験とかされてしまうフラグ。ナノマシン突っ込まれた
り特に味覚が駄目になったりするのはイヤなので、正直勘弁してほしい。

「じゃあみんな、チャージ終わり次第やって下さい。容量あるみたいだし、思いきり」

 話題を切り替え、皆に通達。砲撃の準備が徐々に整いつつあった。
 魔力使いまくりで疲労の色が見えていた闇の書の中の人は、シャマル先生がオリーシュコアを抜
いてから気を失ってしまっていた。ので、はやての座る隣に寝かせてある。メタル化は解けていて、
見ていると綺麗な女の人だった。

「……いいの? いらないの? 本当に」

 というわけでふよふよ単独で浮かんでいる、輝きを放つ小さな球体。それに杖を向けながら、な
のはがそっと訊いてきた。後押しするように頷いてやる。

「嫌な役目だったかね。ごめん」
「……ううん、任せてくれてありがとう。信じてくれたんだよね?」

 と言って、なのはは笑ってみせるのだ。おふざけ大好きな自分としてはこういう真面目な雰囲気
に馴れてないので、何か恥ずかしい気がする。顔を背けた。

「……あ、照れてる? ねぇねぇ、照れてる?」

 にこにこしてるなのはが生意気なので、ツインテールになった髪の房をかた結びにしてやった。
その上で口の中に指を突っ込み、外側に向けてぐいぐい引いてやる。

「学級文庫って言ったら許してやる」
「ふゅーっ! ひはふぅぅう!!」

 砲撃チャージ中なのをいいことに遊びまくってやったが、クロノに見つかって怒られた。残念な
がら作戦失敗はイヤなので、しぶしぶ解放することにした。

「もっ、もう! もう! さっきは助けてくれたのにっ! お礼言ってあげないよっ、もぉ!」
「救い料百億万円。ローンも可」
「あげないよ! ブタにコバンだよ!」
「猫に真珠と申したか」

 間違いに気付いたらしく、なのはが真っ赤っ赤になった。

「うー…………うぅ……」
「オリーシュがなのはちゃんを首まで真っ赤にさせとる件」

 書の中の人の面倒を見ていたはやてが、横からそんな風に口をはさんだ。言葉通りにとらえると
フラグの香りがするのだが、事実に即すると色気なんぞ欠片もない。

「作戦終了までやっている気か」

 いつの間にか飛んで来ていたクロノにがみがみ叱られた。





 コアがぶっこあれた。

「欠片みたいな光が書の中に入っていったが……」
「あ。それ、白抜けのところ。バグ直して帰ってった」
「白抜けってバグ部分だったんですか……」
「ホントだ。今は全部黒文字になってら」

 ヴィータがぱらぱらと書のページをめくった。抜けていた文字は全部埋まっていて、本来あるべ
き状態になっていた。文字の中身は相変わらず読めないけど。

「……君のコアは一体何だったんだ……」

 一体どんなレアスキルが、とクロノは言った。俺の推測だと、治療関係だったんじゃなかろうか。
あるいは魔人ブウ見たいに、他のものを吸収して強くなったり。

「…………」

 コア捨てて良かったかもしれん。特に後者。下手するとえらいことになった気がする。

「あっ、ああー――っ! 全員でやっちまった! 一番最初に撃ったら料理だったのに!」

 ヴィータが思い出したように言って、ものすっごく悔しそうにした。あんまりにも悔しそうなの
で、仕方ないから週末に作ってやろうと言ってやる。

『あ。それなら、私もそのとき……』
「いいでござる。今度遊びに来てください」

 クロノと通信していたリンディさんが、また食いついてきた。この人にはクロノのためにも、砂
糖と塩を入れ間違えたプリンを作って差し上げようと思う。

「……茶碗蒸し?」

 はやてが言ったけど、そんなに美味しいモノにはどうやってもならないと思うんだ。

「お疲れ様でした。作戦成功、皆ありがと」
「……頭を下げるな。何かを失ったのは君だけだ」

 お礼を言って回る。クロノは止めたけど、けじめはけじめ。

「……なっ、何?」
「いや、結局悪魔モードが見れなかったと思って」
「そっ、そうだよ。悪魔なんかじゃないよ? 分かったでしょ?」
「ドラクエ世界から悪魔の尻尾を持ってこようと誓うオリーシュだった」
「逆に弱体化するんとちゃう? ここは般若の面の方が……あ、同じやった」

 なのはがシャマル先生に泣きついた。何故シャマルと思ったが、よく考えると類友でした。

「原作通りになったのは脱ぎ魔だけか……」
「ん? しょこたんは?」
「……助からなかったみたい。今思い出したけど、お別れイベント、確かあった」

 横になった中の人の髪を撫でながら、そか、とはやては言った。

「帰ったら美味いもの食わせてやろう。はやての手料理食べたい食べたい言ってた……し……」

 そういや忘れてた。
 はやての舌、これで戻ったんだっけ。あと足も完治するような気が。

「まぁその前に、目を覚ましたら名前決めないと」
「しょこたん違うん?」
「割と本気で嫌がってたから変えてあげて」
「えー……」

 はやては残念そうにした。

「事情聴取、早く終わるといいですね」
「まぁ終わらんかったら、アースラでお疲れ会すればええか!」
「早く帰りたい……こたつに入りたい……」

 鑑識の魔導師さんたちがやってくるのをみて、俺はぽつんと呟くのだった。



(続く)



[4820] その94
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:f0ddfa90
Date: 2009/07/09 09:49
 身体検査身体検査身体検査身体検査身体検査身体検査身体検査身体検査身体検査。
 事情聴取事情聴取事情聴取事情聴取事情聴取事情聴取事情聴取事情聴取事情聴取。

「……もう寝たい……」
「血も抜かれとったしなー。夕飯食べる?」
「疲れすぎて食ったら死ぬ。明日に……明日にしたいです」

 時刻はまだ夕方だけど、泥のように疲れて眠い。明日は明日でまだ聴取あるし軽く死ねる。

「とりあえずリイン寝かせるのが先なー」

 と思っていたのだが、はやてからおあずけが下った。めっちゃ強い魔導師たちを相手によっぽど
魔力を使ったらしく、しかも体の一部分を抜かれたに等しいため、リインはまだ目を覚まさない。
なので、シグナムが背負って運んでいた。アースラの人の見立てだと、もうちょいで起きるらしい
んだけど。
 ちなみにはやて、ちゃんと名前をつけてあげました。リインフォースというらしい。確か原作で
も同じだったような気がする。第3期だとちっこい妖精みたいなのが、リイン2を名乗ってたし。

「俺はミュウがいいと言ったのに」
「そのちっちゃい妖精さんがミュウツーになるやろ。却下」
「ミュウツーがいやならミュウミュウにすればいいじゃない」
「ぬー♪」

 とか言ってる間に皆で玄関を通りすぎ、やっと帰宅いたしました。リインをソファーに横たえて
こたつへ直行。
 かなり疲れていたみたいで、はぐメタたちもぺたーっとなっていた。はやての護衛お疲れ様。

「……おー。足の感覚が鮮明に。あったかいって分かる!」

 書の悪い部分が片付いたので、はやては徐々に良くなっていくそうだ。さっきまで分からなかっ
た温度の違い、今は感じるみたい。歩行訓練とか必要かもしれないけど、この調子だと回復は早い
かも。

「男の子に電気あんまをする夢がついに……!」

 はやてが俺を見てすごいことを言う。ひどいことをされる気がして、嬉しいのに嬉しくない。

「はやてちゃん、お疲れさまでした」
「お前も、今日はよく動いてたよな」

 二人してうつ伏せになってぐでーっとしていると、シャマル先生がはやてに、ヴィータが俺にマ
ッサージしてくれた。はやてはともかく、俺にまでとは珍しい。

「ひゃぁぁ……」

 はやての口から変な声が出て吹き出した。

「な、な、なんやー! き、気持ちよかったんやから、しかたないやろあほー!」
「気持ち良かったとな。なら『らめぇ』と叫んで海老反りになれ」

 はやてに首を、ヴィータに足を、シグナムに腕を極められた。ザフィーラがはぐりん三体を乗せ
たみたいで、重くて死にそう。

「らめぇぇぇえぇぇ! 意識とんじゃううぅぅぅ!!」

 はやてに落とされて気絶する。





 ぱかっと目が覚めた。
 もうさすがにみんな疲れたみたいなので、布団も敷かずに雑魚寝状態だ。俺以外の全員が寝てい
る。全員何だか幸せそうで、これを見ただけであと十年は戦える気がする。

「……やぁ。起きたの」

 きょろきょろと周囲を見回すと、正座しているリインが目に入った。いつの間にか起き出してい
たみたい。俺たちの目覚めを待っていたのか。

「……すまない……お前のコアは、やはり再生は……」
「細けぇこたぁ気にすんな!」

 謝ろうとしているのを制して、とりあえず冷たいお茶を入れてくる。少し寝たからか、目が冴え
ていた。時刻は六時過ぎだから、二時間くらい寝ていたのか。

「あ。はやてが名前考えてくれたよ。本人から後で聞くといいでござる」
「………………」
「しょこたんではないからご安心を」

 リインはほっと安堵の表情になった。

「どう? 調子は」
「…………良い。今までより、身体が軽くなった」
「そいつはよかった」

 具合はいいようで安心した。これで不調とかが残っていたら俺が報われない。

「……お前のコア、ここに破片が残っている。……機能は皆無だが、どうする?」
「キラキラしてる。記念品にするかね」

 小さな瓶を持ってきて、光る欠片を入れてみた。
 長い旅行を終えて、いいお土産ができた。そんな感じでちょっと嬉しい。

「……ありがとう」

 頭を下げるリインに、ひらひらと手を振ってやった

「さて。じゃあ皆起こすか」
「……ね、寝ているのに、それは……」
「せっかく家族が増えたのに、寝ているなどとは言語道断。俺もだけど」

 立ち上がる少年を、リインは追いかけることが出来なかった。少年の言葉が胸を打っていた。ま
るで縫い止められたように、ソファーに座った身体が動かなかった。

「…………」

 一人の少年と、眠りこける家族の顔を見て、リインの唇が弓を引く。
 生まれてきてよかった。
 一瞬ではあったものの、その口元は、わずかに微笑みをかたどっていた。

「目覚ましにはこいつが特効薬」

 あと、八神家の新メンバーに洗礼をしなくては。
 キッチンに向かった俺はコンロにフライパンをのせ、冷蔵庫から残りのご飯を取り出した――。



(A's編 おしまい)

############

原作第2期おしまい! 
オリーシュお疲れ。超お疲れ。

続きは書きたいですが、少しお休みをおいて。A'sのその後とStSまでの空白期、あとStSをやろうと思います。
番外にしようかとも思いましたが、本編として書くことを計画中。
多分新スレを立てると思うので、その時にお会いしましょう。

ご愛読ありがとうございました!


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