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[16683] 【完結】雷落し【転生・恋愛・リリカル】
Name: チーカMA◆06189430 ID:79d4e75b
Date: 2011/02/18 18:04
とりあえず短編です。
カタチは転生。
原作とのかかわりはほとんどありません。

あと、くれぐれも短編です。
とんとん拍子で進んでいきます。


読みづらいと感じた人は戻るようにお願いします。
後、主人公は………一応変人デス。

主人公最強というわけではないです。
というか、戦闘シーンがほとんどないわけで…。
自分でも何を書いているのだろうと思う作品ですが。



以上が許容できる方はどうぞお楽しみください。



3/17 タイトルの『恋愛?』追加
3/21 08にお知らせ『登場人物の設定について』追加
4/15 番外編投稿



[16683] 01
Name: チーカMA◆06189430 ID:79d4e75b
Date: 2010/04/15 00:43
01







不思議な現象と出会った。
それは僕自身が体験したこと。
輪廻転生を体験した。

僕は一度死んで、また生まれた。
一度死んだ世界から離れた僕は次の生でまったく違う人間になった。
名前も、姿形も、そして世界の法則さえも。
生まれ変わって十余年。
僕は新たな世界の、新たなものに興味津々だった。

【魔法】
魔力をプログラムした術式に載せて発動する技術体系の総称。
それは日常的なことから戦闘に至るまで、あらゆるものに結びついていた。
あるところでは車の動力、あるところでは医療の技術、あるところでは戦う技能。
魔法はすでになくてはならないものとして世界に存在していた。
それはまるで、前世における化石燃料のように…。

元の世界を超える科学がそこにあった。
魔法と融和したその科学を僕の中では魔科学と呼ぼうと思う。
魔科学は日常に溶け込み、なくてはならないものだ。
だったら、魔力がなくなったらどうするのかと心配する人もいるだろう。
けれど、それは違う。
魔力がなくなったら……星がなくなったらというもの類の心配と同じことだ。

つまり、魔力と星の営みは同列に語ることが出来る。
そもそも魔力は何なのか。
僕はまずそれを知ることから始めた。
町の図書館にいってもそれほど詳しく書いてあるわけではなかった。
書いてあることは一般人でも知っているようなことばかりの美辞麗句。
まるで魔法で世界が回っているかのような言葉。
実際、そうなのだからタチが悪い。

僕にとって知識とは武器だ。
いつしか頭でっかちと呼ばれるようになっていた僕は管理局に入局した。
数年前に管理局に入局した兄から齎された情報で『無限書庫』というものがあるらしい。
そこには情報が膨大にある。
ただし、整理されていないのでどうしようもないほどのお荷物だったということ。
最近になって司書が現れたということで使われるようになったらしいけれど、それまではただの巣窟だったらしい。
そして僕はそれに食いついた。

一年後、僕は執務官になった兄の紹介で無限書庫配属として局員になった。
そして、そこは宝の山だった。
見渡す限りの本、本、本、本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本。

そこは本の山、いや本の海だった。
思わず光悦してしまった。
コレだけの本を読むのにどれだけの時間がかかるだろう。
コレだけの本の中にどれほどの情報があるのだろう。
コレだけの本があるならば俺の欲求を満たしてくれるのではないか?

僕は思わず地が出てしまったりしながら本の海に突貫した。
そして手当たり次第に読み漁る。
本をたくさん読むためにマルチタスクを鍛えに鍛え、その数二桁後半。
三桁の大台にたどり着くことはなかったが、かなり優秀な部類に入るほどの並列思考をすることができるようになった。
これもすべて欲望のなせる業である。
さらに同時に読めるようになる術式を探しだし、さらにそれを改良。
大量の本をスキャンしてその文章を保存用の大容量デバイスに保存。
それを鍛えに鍛えたマルチタスクを使用して理解していく。
一つの本に使う思考の量は大体3つ。
術式事態に十数個の思考を裂いているので同時に読める本は20冊程度。
同じ本を多角的に読むために裂いている思考を、量を読むほうにシフトさせれば一気に60冊読むことが出来る。
まぁ、それをすれば僕の脳の容量を超えるので絶対にしないが。

そんなこんなで僕は無限書庫の本を読んでは自分流に理解しなおしてもう一つの保存用のデバイスに記録していく。
保存用デバイスだけで今まで溜めに溜めた金とこれからの給料三年分(前借)が飛んでいったのはご愛嬌だ。
僕は良くまわされる司書長宛ての依頼を手伝いながら本を読み続けた。
司書長とは同じ本の虫として仲良くなり、お互いに議論を交わしたりした。
主にしょっちゅう依頼を持ってくる司書長のクソ上司について。

僕が配属されてから数週間後、十数人の司書が新たに配属された。
この人たちはその全てが僕よりも年上だ。
司書長が僕より一つ下だったので、気楽だった職場が緊迫したものとなった。
しかし、そんなものはものの一週間で吹き飛んだ。

新たな司書が配属された次の日。
司書長のクソ上司が資料を要求してきたのだ。
そしてそれは全員で取りかからなければ間に合わないような量と期日だった。
そのため全員で作業に取り組み、何とか期日に間に合わせた。
司書長は瀕死の状態。
周りの司書たちも椅子にもたれてぐったりとしている。
死屍累々。
そう表すのにぴったりの光景だった。

危機を共に乗り越えたものには友情が生まれる。
それを見事に体現したのがこの無限書庫の司書の面々である。
年齢、性別がばらばらでありながら一致団結して司書長のクソ上司に対してストライキをしている。
休みをよこせ!給料を増やせ!仕事が多い!
と、この三拍子である。
もちろん、僕もこの仕事量は不本意なので同じように陳情は上げている。
本を読みながら。

まぁ、そんなわけで。
司書として働いて、司書仲間と苦楽を共にして、たまに司書長と酒を飲みにいって…。
そうしていきながら確実に知識を溜めていった。
そして知識を溜めれば溜めるほど、使いたいという欲求が沸いてくる。









「それにしても、ジンって知識を蓄えに蓄えて結局どうするつもりなんだい?」
「とりあえず、新しい魔法でも作ってみようかなって思ってる」



ユーノ司書長と共に久しぶりに無限書庫のある本局からミッドチルダのクラナガンに降りてきた。
司書長のクソ上司、クロノ・ハラオウン執務官に通信越しに直訴して見事三日間の休暇を勝ち取った。
しかし全員分の休暇を手に入れることは出来ず、二人分それもたったの三日ということになった。
いつか、あの提督シメテヤル。
で、他の司書たちに休暇を譲ろうとしたら司書たち全員が僕達二人に休暇を譲ってくれた。

曰く、「一番働いている二人が休んでください」(by司書一同)

そして僕達二人は適当にブラブラと歩いた。
最近は無限書庫に止まり続けていたので世情には疎くなっている。
知識を溜めるだけではダメだということが良く分かる。
ということで、一日目はクラナガンを散策した。
物珍しいものや、最近人気のスイーツなどを食べた。

そして二日目。
この日はお互いに合いたい人間がいるということで分かれて行動した。
ユーノ司書長は知り合いというエースオブエース(名前は忘れた)に会いに行くといい、俺は久しぶりに家に帰ることにした。
管理局に入局した後は一度も帰ったことがなかったので、こうやって帰るのは3年ぶりくらいだ。
ずっと無限書庫に篭っていたので一種の引きこもり状態だった。
何だかんだで僕は久しぶりの実家に帰ってきた。

「ただい、ま゛ぁぁあああああああああああああああああああああああああ!?」

綺麗にエコーが掛かって、僕の体は開けた扉からどんどん遠ざかっていく。
確か、ドップラー現象だっただろうか?いや、違うか。
集めた知識が多すぎてあんまり整理がついていないな。

「おかえり!おかえり!おかえり!!!」

僕のみぞおちに頭をジャストミートさせている少女、アリス。
僕の7つ下の妹で、僕達三人兄弟の中で最も魔力保有量がでかい。
順番的に言うとアリス(妹)>ユーリ(兄)>ジン(僕)といった具合だ。
アリスの魔力保有量は現段階でAAA、兄のユーリがA+で、僕がBである。
といっても魔導師ランクはユーリが一番上のAAA+、僕がB+、アリスが未判定である。
ということで、僕よりもよっぽど未来がある妹アリスはブラコンである。

兄と僕をとても慕っており、兄は定期的に帰ってきているらしいからこれほど激しい歓迎ではないのだろう。
つまり、僕に対してこれほど激しい歓迎なのは全然帰ってきていなかったからということに対する恨みと喜びということだろう。
こういう愛情表現は兄としては嬉しいが、人としては辛い。
主に鍛えていない人間としてはとても辛い。

「ぐぅ……アリス、ただいま…」

必死に痛みを我慢して答える。
それを聞いたアリスはとても嬉しそうにして僕に笑いかけた。

「お帰り~、お兄ちゃん!」

若干辛い思いをしながらも家の中に入る。
現在6歳の妹は今日も元気です。

それから僕は両親に帰ってこなかったことを一時間ほど怒られ、妹にせがまれて一緒に遊び、晩御飯を食べて風呂に入って疲れた体を癒した。
次の日はユーノ司書長との約束があるので、その日は早めに眠った。
アリスが散々せがんできたので絵本を読んであげたけど。

そして三日目、僕は母さん特製の朝食を食べて家を出た。
ユーノ司書長との待ち合わせ場所に到着。
先に来ていたユーノ司書長とクラナガンを散策、司書たちへのお土産をリストアップしていく。
僕の給料は前借をして保存用デバイスを購入したためにほとんどがなくなっていたはずなのだが、銀行で預金額を見ていると予想以上の金額が記されていた。
何でだろうと考えると答えは簡単だった。
あのクソ執務官がしょっちゅう持ってきた臨時の仕事のおかげで予想よりも圧倒的に速く返済が出来ていた。
そして時折出していた論文のおかげで予想以上の大金が入っていた。
おかげで財布事情はウハウハです。

その金とユーノ司書長の金で手当たりしだいにお土産を買っていた。
最終的に山のような数になったわけだが、そこは魔科学の結晶デバイスのすごさ、ユーノ司書長と俺が持っているデバイスの残りの容量を使用して持って帰った。

そして夜。
本局に帰る前に僕達は転送ステーション近くの屋台で酒を飲んでいた。
それはまたこの地に戻ってこようという誓いの酒であり、こんなことをしないとやっていられないという無限書庫の現実を表していた。
ああ、無情。



「新しい魔法?」
「ああ。既存の魔法体型のことは結構分かったからな。創ってみたい魔法もあるからな」
「創ってみたい魔法?」
「ああ、儀式魔法を創ってみたくってさ」

儀式魔法。
現代の魔法の中では一番進んでいない魔法の中の一つ。
魔法を使用するようになってかなりの時間が経っているが、一向に発達しない分野でもある。
それは昔からある程度の術式は存在したし、儀式魔法が使える魔導師にしても既存の魔法体型から組んでいるものばかりだ。
他の魔法、射撃魔法や強化魔法は需要が多いために常に研究の対象になっている。
時代の最先端をいっているのだ。

しかし、しかしだ。
儀式魔法はそうではない。
昔から使われている儀式魔法は時間がかなりかかる。
時間がかかる代わりに高威力広範囲の大規模な魔法になる。
しかし、その時間がかかるというのが最大のネックなのだ。
結局、時間に余裕がある時だけにしか使えない一種の形式的な魔法なのだ。

「儀式魔法って、また微妙な分野だね」
「微妙……かぁ。確かにそうだけど。やってみたいわけよ。男の子の夢って言うの?」

僕が持っている知識を総動員して作りたい魔法がある。
それが出来るのはやっぱり、儀式魔法しかないのだ。
他の魔法を考えてみても様式美と実績が伴っているのは儀式魔法しかなかったというのもある。
まぁ、ロマンという言葉で全てが解決する。

「夢……ねえ。まぁ、ジンらしいね」
「当たり前だろ。このために今まで知識を溜め込んだといっても過言ではない!」

酒の勢いで言っている気もするがすでに僕もユーノ司書長も酔っているので問題ない。
ふざけた目標にも見えるし、いま現在一生懸命魔法を研究している人間達に対しての挑戦にも思えるだろう。
だがしかし、僕にも譲れないものがあるのだ。
創りたい魔法。
そのためにはまだ足りない知識があるので無限書庫でさらに資料を探すつもりだ。

「まぁ、ほどほどにね。とりあえず、司書として働いてもらわないと困るから」
「だよな。くそ~、あのクソ執務官。いつかぶっ飛ばす!!!」

拳を大きく突き上げて宣言する。

「そうだね!クロノの奴、僕を都合のいい何かと考えているんだよ!」

ユーノ司書長も僕の拳に合わせて雄叫びを上げる。
僕とユーノ司書長はギリギリの時間まで騒ぎ続けていた。



ちなみにミッドの飲酒制限は15歳。
この時の僕は13歳、ユーノ司書長12歳の頃である。
変身魔法って便利だよね?









[16683] 02
Name: チーカMA◆06189430 ID:79d4e75b
Date: 2010/11/18 10:24
02






それから二年ほど。
僕達無限書庫司書は働きに働いた。
要望される資料を無限にある本の海から必要な資料を集めていき、それが終わった頃にまた新たに資料要求が降りてくる。

それが続いた二年間。
僕達はその中で瀕死の状態ながら僅かずつ学んでいた。
まず、ユーノ司書長と僕のチームに分けてローテーションを組む。
空いている司書は常に上に昇給と人員の増加の要望を続けて、残りの時間は趣味に走る。
僕とユーノ司書長が主に資料を集めて司書たちがそれを纏めていく。
そのパターンを行っていき、やっている途中に新たに要望が来ると空いているチームがそちらを担当する。

もちろん、このローテーションは僕とユーノ司書長が万全であることが絶対条件なのでそろそろ僕とユーノ司書長の我慢の限界が来ている。
連日の勤務時間外の仕事に自らの時間もなかなか取れない始末。
はっきり言って、僕もユーノ司書長も切れかけている。
一年前にあった増員の要請も結局却下され、未だに無限書庫は二十人にも満たない人数でやりくりされている。
はっきり言って死ねと言われているのではないだろうか?

「ねぇ、ユーノ司書長。休暇がほしいんだけど」

この二年間、一度も家に帰っていない。
はっきり言おう。
陸?海?空?何いってんの?一番の激務はこの無限書庫だ!!!
そんな気持ちを全員が持っている。
本局で海の奴らが時折愚痴っているのを聞くと殺意が沸いてしまう。
犯罪者が多い?
はん!休みがあるだけマシだろうが!!!
命の危険があるだと?
それをいうなら不眠不休で働かなくてはならない僕達は何なのだと?
なんで文官が自分の命の心配をしなければいけないんだ!?

「それは僕もだよ。はっきり言ってそろそろ体も限界だ」
「だよなぁ……」

僕達がすでにおかしい精神状態にあるのは分かりきっていることだ。
ちなみにこの会話、無限書庫で資料を集めている時に行われている会話だ。
受付の人間さえも動員しての資料まとめ。
その上、まだ三つほど資料集めるように言われている。

「それでさ、兄さんから聞いた話なんだけど。あのクソ提督、休暇取ったらしいぜ?」

クソ提督、名をクロノ・ハラオウン提督。
二年前の僕達の休暇があったすぐ後に提督になったらしい。
そして今集めている資料の両方がクソ提督から求められているものであり、残っている三つのうち二つが海、もう一つが珍しく陸からの要求。

「「「「「「「「「ふっざけんなぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」」」」」

司書絶叫。
その時から僕達の戦争が始まった。









「さて、みんな。良く聞いて欲しい」

ユーノ司書長が浮遊魔法でみんなに声をかける。
幸か不幸かこの場には無限書庫のすべての人員が集まっている。

「僕達は司書だ。この地獄、無限書庫で死と隣り合わせに働いている」

みんなが頷く。
その間も全員の手が止まらない。
全員が全員、その演説に耳を傾けながらも働いている。
この五年間。
全員がマルチタスクの数を増やしている。

「それなのに!それなのにだ!僕達には休暇がない!来る日も来る日も資料と戦い、海の資料請求に答えている」

ユーノ司書長が大きく腕を広げた。
演説自体はみんな聞いているがその姿を見ているものはいない。
いるとすれば、僕ぐらいだ。
もちろん、僕もユーノ司書長もその間も仕事は続けている。

「海の人間達には休暇がある。そう、休暇だ。僕達が求めてやまない理想郷だ」

ユーノ司書長はみんなに言い聞かせるように声を出す。
僕達の心に理想郷の姿が思い浮かぶ。
全員が全員、マルチタスクを一つ使って自分の休暇の様子を思い浮かべていた。

「奴らは僕達の苦労など知らないで自らはその悦楽を貪り食っている。これを許せるか?」

「「「「「「「「「「「「否!」」」」」」」」」」」

全員の声がハモる。
そろそろ資料を纏め終わらせそうだ。
次の仕事を持ってくるように、司書の一人に声をかける。

「だから、僕は思う。このまま、海の人間の言いなりでいいはずがないと。使い潰されることは許されないと!」

ユーノ司書長もそろそろ今やっている仕事が終わりそうだ。
さて、残りの仕事も終わらせてしまうべきだろう。
自らの趣味に費やしていたマルチタスクもすべて仕事のほうに回す。

「みんな、僕はここに宣言する!」

ユーノ司書長も次の仕事に取り掛かった。
僕もすでに取りかかっている。
全力でやっているので、今日中に終わるだろう。
残っている一つの仕事は僕とユーノ司書長で力をあわせればすぐに終わるだろう。

「今日中にこの仕事を終わらせ―――」

ユーノ司書長と視線があう。
この人との付き合いも計五年。
案外長く続いているのはやっぱり、お互いに波長が合うのだろう。
視線が合った時にお互いの意思も確認しあい、同調している。
さぁ、ここからは戦争だ。

「―――ストライキを決行する!!!!!!!!」

「「「「「「「「「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」」」」」」」

かくして、僕達の十五日戦争が開始された。









ジンのストライキ日記帳


:一日目

仕事を終わらせて一日目。
僕達は鍛えに鍛えたマルチタスクを使って綿密に計画を立てていった。
ストライキをするには海の高官達を敵に回す必要がある。
奴らは僕達の重要性を理解していながら、それを気にしていない。
今回は目に物見せてやるということで僕達は綿密に計画を立てていた。
まず、ばれないように転送所の使用許可を取る。
ここにいるほとんどの者がミッド出身だったりするので、ミッド行きの転送所を予約する。

「さて、みんな。今日まで良くやってくれた」

そして今、決行するためにユーノ司書長は演説を行っている。
僕はというと、ユーノ司書長の演説を聴いているみんなのダミーを魔法で作っている。
この前、兄さんが差し入れを持ってきてくれたときに頼んでおいたデバイスを使用している。
そのデバイスには集めた資料から創った試作型の幻影魔法だ。
デバイスのみで使用する魔法で、魔力を込めておけば魔力の分だけ動き続ける使用になっている。
魔力は時間をかけて十二分に込めた。
そして魔法の方も準備は万端。
後は決行を待つだけだ。

「さぁ、みんな。ストライキだ!」

そして戦争の一日目は始まった。

それからの行動は迅速だ。
魔法は時限式で僕達がこの場を去った数分後に発動するようになっている。
僕達は全員で堂々と歩いて転送所に向かう。
途中で誰かに出会わないように細心の注意をしながら。
そして転送所に着いた。
僕達はミッドに降り立った。

0/19


:二日目

二日目。
僕は自宅にいた。
通信用に購入したデバイスからは連絡が相次いでいる。
一日。
たった一日司書たちがいなくなっただけでコレである。

「まぁ、なるようになるか」

僕はアリスの髪を櫛でときながらそんなことを呟いた。

2/19


:三日目

再び自宅。
アリスももう九歳だ。
愛らしい表情がさらに愛らしくなってきている。
どうやら、僕もシスコンらしい。
といっても、僕だけではなく兄もそうらしいから重症だ。

「アリスはかわいいね~」
「お兄ちゃんはかっこいいのかな?」
「グッ………いうようになったなぁ~」

妹の成長が恐ろしいです。
ちなみに身を隠しているので部屋から出ていません。
あれ?何のためにストライキをしたんだろう?

3/19


:四日目

今日は外にでた。
と、それと共に局員に追われた。
いきなりのことだったので、転移魔法を使用して逃げに逃げた。

「ああ~、そういうこと」

街の広報版というか、掲示板にデカデカと書いてある文字。
『この顔に見覚えがあったら局員へ連絡をください』
そこにあったのは僕やユーノ司書長そして、司書たちの顔。
指名手配?と思ったのは仕方がないことだろう。
全員で19人、そのうち三人には赤でバッテンが入っている。
これはすでに捕まえられたということだろうか…。

「あ~、ご愁傷様。そして僕も逃げなきゃね」

後ろに迫った局員集団。
それも本来ここにいるはずのない海の局員。
いずれもエース級の人材ばかり。
だが、捕まえられるわけには行かない。
コレはストライキ。

「これは……僕達(無限書庫司書)と管理局との戦争だ!!!」

その言葉と共に僕は転移魔法で別次元に逃げた。

4/19


:五日目

予想外はどこにでもあることで。
無限書庫の司書たちは意外に奮闘していた。
今のところ捕まったのは四人。
現時点での逃走者数は十五人だ。
みんな一生懸命逃げ続けている。
最悪、僕とユーノ司書長さえ逃げ切れば何とかなる。
ということで僕は管理外世界に来ていた。

「さて、思いっきり研究が出来る!」

二年越しに儀式魔法の研究が出来ることにこの時の僕は喜んでいた。

6/19


:六日目

まず、資料を纏めることから始めた。
今までは徹底的に集めることばかり考えていたのでそれほど纏めることはしなかった。
もちろん、そのときその時に纏めてはいたが本ごとにある程度の纏めていただけだった。
ということで、内容ごとにまとめて行こうと思う。
とりあえず、構成術式の種類が多すぎるのでそこからにしよう。

6/19


:七日目

いつの間にか朝になっていた。
情報が入ってこないから良く分からないが、まあみんなうまく逃げているだろう。
さて、次は魔法の歴史の方を纏めていこう。
ミッドよりも古代ベルカ式を見ていこうかな。
儀式って言うからには昔の術式に結構いいものが見つかったりするし…。

7/19

:八日目

ストライキが始まってから八日目になった。
つまり、それだけの時間無限書庫が動いていないということ。
苦しむのは海の人間だけだからいいけど。
むしろ、溜めていた仕事は終わらしてやったんだから感謝して欲しいくらいだ。
さて、今日も研究を始めよう!

10/19


:九日目

そろそろこの日記を書くのも面倒になってきた。
資料が多すぎてそっちに気を取られてしまうからだ。
何だかんだで資料まとめに時間をかけているので、肝心の研究が出来ていない。
まずい、はやくなんとかしないと…。

11/19


:十日目

書くのが面倒になったのでしばらく保留。
とりあえず、あの三日で資料を纏める。

10/19


(日記は少し飛んで、十四日目)


:十四日目

資料を纏めるだけで九日も掛かってしまった。
まさかコレほど掛かるとは思わなかった。
でも、そのおかげでこの五年間に溜めに溜めた資料は漸く形になってきた。
流し読みしていた資料の中にもなかなか使えるものもあった。
ただし、その代わりにデバイスの容量がほとんどなくなってしまった。
ということで一日かけて必要な資料を選別した。
おかしいな、研究しにきたはずなのに全然出来ていない。

あと、ストライキする前と今がほとんど変わっていない気がする。
今は自分のためだからいいけど。
男はロマンでいきてい――(以降線が延びているだけで文字がない、眠ってしまったようだ)

17/19


:十五日目

さて、久しぶりに食事をしようと思って街に出た。
僕がいるのは管理外世界のとある街だ。
まぁ、何の因果か前世にすんでいたのと同じ名前の国にある、似たような街だ。
名前は違うし、いる人も違うけれど。

資料はすべてデバイスの中にしまってある。
昨日の資料の整理と同時にやっていた術式の根幹部分の組み立てを再び頭の中でやりながら街をあるいた。
この世界ではやっぱり僕の前世と同じでこの時間帯は僕と同年代の人間はなかなかいない。
なぜなら学校に言っているからだ。
その成果、時々見られたりする。

だけど、久しぶりに寝た僕はかなりハイになっていたので気にせずに街を歩いた。
そして、とりあえず適当な店に入って食事を取ろうと思ったところでその店を見つけた。

喫茶翠屋。
そこで昼食を取った。
食事は久しぶりだったので、メニューにあるものを適当に頼んだ。

そして目の前に並べられたものは手当たり次第食い漁った。
食後のコーヒーを飲んだところでゆっくりと落ち着いた気持ちになったのだ。
そこで、自分の視界に変なものがあることに気づく。

それは翡翠色の髪。
どこぞの執務官長のような綺麗な髪。
ただし、今の俺にとってはその色は絶望の―――(再び、線が無軌道に延びている)

19/19



こうして、無限書庫ストライキ戦争事件は終わった。








[16683] 03
Name: チーカMA◆06189430 ID:79d4e75b
Date: 2010/03/21 20:33
03





かの無限書庫ストライキ戦争事件から4年。
つまり、僕が19歳になった。
あの事件からあのクソ提督も少しは学んだらしく、一年に一度は誰もが休暇を取れるようになった。
ただし、有給は皆無に等しい。

「なぁ、ユーノ司書長」
「なんだい。ジン副長」

ちなみにこの五年間で僕は無限書庫副司書長、つまり無限書庫という部署の中で二番目の地位に着いていた。
実質的には数年前からそんな立場だったわけだったのが、漸く名実共に副長の任に着いたことになる。
かといって何かが変わったわけでもない。

それとは別に、ついに僕は無限書庫に来た目的を果たした。
星式多重魔法陣を使用した圧倒的な威力を保有した広域儀式魔法『雷落し』。
かなりの時間をかけて漸く完成した魔法はやはり発動に桁外れの魔力と時間が必要な実用性皆無の魔法となってしまった。
つまり、何のために創ったのか分からないような役立たずな魔法になってしまったわけだ。
魔法創りはコレで懲りたので大人しく無限書庫で知識を溜めることにしようと誓った。

後、うちの兄さんことユーリ提督が結婚することになった。
数ヶ月前に聞いた時には驚いたが相手の人が副官ということでみんなが納得した。
ちなみにその報告の時も僕は無限書庫にいたので本人達が報告に来た。
兄ユーリ・テスタメントとその婚約者エリー・ヒューズ。
この二人は何かと無限書庫に足を運んでいたので、無限書庫の司書たちの中で知らないものはいない。
さらに言うなら婚約者のエリーさんは無限書庫ではかなりの人気を博している。

「はい、ジン君。これでよかったよね」
「ありがとうございます。エリーさん」

なぜなら良く差し入れをしてくれるからだ。
この人は料理やお菓子作りがとても上手く、兄が何かと僕の様子を身に来る際に一緒に来て差し入れを置いていってくれる。
それも僕の分だけではなく、司書たちの分までだ。
そのおかげもあって兄であるユーリ提督よりもエリーさんの方に人気があったりする。
何だかんだでファンの奴もいたわけだけど、残念無念というわけだ。
それを本人に言ったら「あの二人が一緒にいるからいいんじゃないですか!」と力説された。
何だかんだでいいやつばかりの司書軍団である。
その目が血走っていたのは徹夜が続いたからだと信じたい。

そして結婚式当日はみんなで仕事をボイコット。
結婚式場の出口に全員で集まってこのために創った魔法を使用した。
全員の魔力球を使用して花火のように打ち上げて破裂させる。
音と共に光が破裂してかなり綺麗だった。
本来こういうことを止める立場にいるユーノ司書長でさえノリノリでやっていたのでみんな気分がハイだったのだろう。
僕自身、兄のエリーさんの結婚式ということで結構ハイになっていた。

「「「「「「「「「「「「「お幸せに~!!!」」」」」」」」」」」」」

最後に全員で特大の花火を打ち上げて、僕達はその場から逃走した。
もちろん、顔はばれていたので後でクソ提督が来て文句を言ってきたけれど。
魔法って普通の場所では使っちゃダメなんだよね。









「新年明けましておめでと~」

「「「「「「「「「「「おめでとーーーー!!!」」」」」」」」」」」

無限書庫休憩室。
それなりに大きな部屋は所狭しと司書達が集まっていた。
それぞれの手には酒がなみなみと入れられたコップが掴まれており、全員がそれを高く持ち上げていた。
それを全員が一気に飲み干して、酒に弱い何人かが酔いつぶれていた。

「でも、僕たちまで飲んでいいのかな?」
「ユーノ司書長、それは今更すぎるよ」

ユーノ司書長と僕の手にもちゃんとコップに注がれた酒が入っていた。
僕のコップには第97管理外世界から取り寄せたらしい日本酒が注がれており、ユーノ司書長のコップにはミッド原産のビールが注がれていた。
僕達は休憩室の端っこでちびちび飲んでいた。
飲むペースは遅めだが確保したテーブルの上にはエリーさんの差し入れの料理と高級な酒が置かれている。
他の司書たちはすでに宴会状態で獰猛になっているので確保したものを守るために魔法さえ使っている。
ユーノ司書長と僕で開発した隠匿魔法。
半径一メートルほどの結界を張ってテーブルを隠していた。

「でも、去年は大変だったね~」
「君は年をごまかしているんじゃないかと思うときがあるね」
「僕はまだ19だよ」

新年だからということで、仕事はすでに終わらせて全員での宴会。
本来なら僕達、司書長副所長はどちらかが常駐しておかなければならないんだけど、それを無視して僕達はサボっている。
それは司書たち全員が承知していることで、無限書庫はすでに僕達の城で自治区とかしている。
クソノ提督もさすがにこんな日に仕事をまわさないだろう。
まわしてきても断るけれど。

「19歳がこんな退廃的な生活をしてていいのかな?」
「それをいうなら18歳がなんでこんな重労働しているのかな?」

僕達はお互いに皮肉を言い合いながら少しずつ酒を飲んでいく。
今日は元日、所謂無礼講だ。
このテーブル以外ではすでに暴走している司書たちが騒ぎに騒いでいた。
僕とユーノ司書長はどちらからともなく防音結界を張った。

「そういえばユーノ司書長はよかったの?こっちに来て」
「うん。みんな忙しいしね」

ユーノ司書長。
PT事件、闇の書事件に関わった人間で魔導師としても優秀。
闇の書事件の時の功績により、無限書庫の司書長として………か。

「へー。やっぱり、エリートさまは忙しいんですね~」

ユーノ司書長のお友達というのはエリートばかりだからな。
突然入ってきた声に心の中で相槌を打っておく。
無限書庫の司書の一人、ラック・トーンが椅子を持って僕達のテーブルにやってきていた。

「あはは。まぁ、ね」

ユーノ司書長は苦笑して答えた。
彼自身、エリートと知り合いということに対しての負い目があるのだろう。
彼がそんな思いを負う事になったのは四年前。
あのクソノ提督が結婚することになった時の話だ。

「しかし、エースオブエースねぇ」

また一人、僕達のテーブルに司書がテーブルに着いた。
司書たちは自分の魔法を使って自分の椅子を持ってきている。
浮遊魔法が便利に使われているのだ。

「けっ、どうせお高く止まった阿婆擦れだよ」
「なのははそんなんじゃないよ!!!」

ガタッ、と大きく後ろに椅子を仰け反らせて立ち上がるユーノ司書長。
集まってきた司書たちは驚いた顔をしていた。
それはそうだ。
ユーノ司書長は温厚な正確をしていて、激情なんて普段の彼を見ている人間なら予想も出来ない。
僕はこの話題に触れないほうがいいのは分かっていたので一人でちびちびと飲んでいたわけだけど。
司書たちは自ら地雷を踏みにいったのだ。

「あー。ユーノ司書長はそのエースオブエースと幼馴染なんですよね~?」

と、そこにまた一人司書がやってきた。
数少ない女性司書である彼女はかなりの噂好き。
多分、そう言ったところに関しては誰よりも情報を持っている。
それはもちろんユーノ司書長の事に関しても例外ではない。

「ほー。司書長、話を詳しく聞こうか」
「当たり前だ。裏切りは許さない」

ドンとジーク。
二人の司書が僕達のテーブルに着いた。
そうしている間にも司書たちはどんどん集まってきて、酔いつぶれている司書以外は全員が集まってきてしまった。
総員十五名。
二十五人いる無限書庫のうちの半分以上だ。

「いや、それは…」
「ユーノ司書長のご友人の高町なのは一等空尉とはどういうご関係ですか?」

さっきの女性司書が声を大にしてユーノ司書長に訊く。
彼女はこういった話に関しての欲求は自重しない。
僕は溜め息をつきながらこの場をどうやって収集するか考えていた。
魔法を使ってしまうのが手っ取り早いだろうか。

「司書長、素直に吐露すれば今なら査問会を開く程度で許してやろう」
「だから僕達は…」

哀れユーノ司書長。
酒の力も手伝ってすでに司書たちは暴走を開始している。
僕とユーノ司書長だけの平和なテーブルが今ではバカな司書たちの追及の場になっている。
そしてこうしている間にもエリーさんの差し入れはなくなっている。
ああ、僕の好物のミートパイが!?

「いい加減うるさい」

「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」

デバイスを取り出して魔法を展開。
術式をミッド式に設定して全員のみぞおちに魔力球を撃ち込む。
非殺傷設定なので死にはしないが、たらふく食べて飲んだ胃には大ダメージだ。
全員がうずくまり吐き気を必死にこらえていた。

「ジン、容赦ないね………」

僕のミートパイを奪った奴らには当然の罰だ。
それだけ言って僕はその屍たちを踏み越えて休憩室の扉から外に出る。
このままここに居てもすっぱいにおいがするだけなので、今日は帰るとしよう。

「久しぶりの帰省だな。アリス、元気かな?」

僕はかわいい妹の反応を楽しみにしながら無限書庫を出た。








[16683] 04(微テイルズクロス)
Name: チーカMA◆06189430 ID:79d4e75b
Date: 2010/11/18 10:25
04





「だからお願いや。ジン君の魔法を貸してくれへんか」

僕が無限書庫から機動六課に転属してから幾つもの時間が起きて今、最大級の戦いが始まろうとしていた。
僕は破壊された六課から地上本部に来ていて、たまたまであった部隊長八神はやてさんとの愚痴を言い合った。
本来、文官であり階級が遥か下である僕が彼女と愚痴りあうなんてことあり得ないんだけど、今回は現状が現状なので緊急措置みたいな感じだった。
そして事件が起こり、グリフィス部隊長補佐の手伝いをしていた僕に八神部隊長から連絡が来た。

「魔法………ですか?」
「そうや、君の魔法が必要なんや」

僕が保有している魔法は、補助や生活に利用するような魔法がほとんどで攻撃系の魔法はたった一つしかない。
今、八神部隊長の求めているのはこの攻撃魔法だろう。

「どこでそれを聞いたんですか?」
「ユーノくんから聞いたんや。高出力、高威力、広範囲。三拍子そろった魔法を開発したらしいな」
「はい……まぁ…」

僕は戸惑いながら肯定した。
ユーノ司書長の紹介でやってきた六課なので、ユーノ司書長のことを知っていることは分かっていた。
けれども、まさかユーノ司書長が僕の魔法のことを話しているとは思わなかった。

儀式魔法『雷落し』
僕が開発した大規模な魔法で効果範囲も普通の儀式魔法よりも圧倒的にひろい。
ただし、そのせいで呪文の節も多く、さらには必要な魔力はオーバーSランクでも魔力枯渇を起こす。
つまり、使いようのない魔法。
対外的にはそういうことにしてあった。

「それを使ってほしいんや」
「それは………僕に死ねってことですか?」

オーバーSランクでも魔力枯渇起こして衰弱死を起こす。
そんな魔法をBランクである僕に使えという八神部隊長。
顔が悲痛に満ちているということは彼女も十分に考えてのものなのだろう。
それは上に立つものとして正しい判断だ。

「そうや。クロノ提督が発案しているアルカンシェルでの一斉攻撃やったら、多くの問題が起こる」
「予想されているものだけでも、次元震や環境の変化、ゆりかごの破片によるミッドの市街地の被害も膨大なものになる可能性があります」

グリフィス部隊長補佐の情報補完によって僕は正確な情報を得た。
戦場にいる彼女がこうやって通信をしているだけでも十分な覚悟を持ってやっているんだろう。
そしてさっきの話で分かった被害に比べれば僕の命なんていうものはそれほど価値があるものではないのだ。
価値の比重。
小を捨てて大を取る。
人間として真っ当な考え方だ。

「―――わかりました」









「時間はあんまりない。早急にはじめてや」
「はい、わかってます」

僕は飛行魔法で空中に浮いていた。
周りでは魔導師たちが必死に戦っていた。
映像の向こう側でしか知らないガジェットドローンという機械に戦慄する。
目の前で起きていることに現実味がない。
僕がここにいるという現状がひどく歪な感じがする。

『フラグメント司書、本当にいいのか?』
「あ、クソノ提督」
『クロノだ。そんなことはどうでもいい。君はいいのか?』

クソノ提督が通信を開いて僕に聞いてくる。
何を今更といった感があるのだが、それにしてもその通信を見ている八神部隊長の顔が邪魔者を見るような感じなのはなぜだろうか。

「いいんじゃないでしょうか。僕一人の命でミッドが救われるなら」
『君の家族はどうする。ユーノは?ユーリ提督とエリー副官は?君がいなくなって悲しむ人間はたくさんいるぞ?』
「………ああ、そうですね。でも、いいんじゃないですか?」

これまで生きてきて僕は前世の感覚を思い出してきた。
いや、もともと僕はこういう人間だったのか。
僕は前世で破滅した。
人として生きていて破滅した。
そしてまた、僕は破滅するのだろう。
人として生きて、人として破滅する。

『君は!それで、本当にいいというのか!!!』
「いいと思いますよ?僕みたいな人間なんて死んだほうがいいのかもしれません」

人間としての価値が限りなく低いジン・フラグメントは生きている価値もないのだろう。
そして僕は人に望まれて死ねるのだ。
だったら、本望だ。

『君はどうしッ』

通信が途中で切れた。
切ったのは八神部隊長。
その顔をゆがめて忌々しそうにゆりかごを見ている。
そして背中で僕に早く魔法を使うように促していた。
つまり、僕に早く死ねといっていた。

「儀式魔法『雷落し』展開」

魔方陣が展開される。
巨大な魔法陣、僕の魔力光『翠』に彩られたミッド式でもベルカ式にも当てはまらない五法星の術式。
コレで第一段階。
これから時間をかけて過程をこなしていく。

「第二術式を展開、多重魔法陣を形成」

この段階で魔方陣を完成させる。
星式多重魔法陣。
星の魔力を使って発動するので、自分の魔力を枯渇させることはない。
これが対外的にはといった理由だ。
しかし、これでも十分に問題がある。

星の膨大な魔力を受け皿である術者の体が持たない。
それがこの魔法を使うことが出来なかった理由。
この術式によって圧倒的な魔力運用は出来るようになったが、使うたびに死んでいたのでは意味がない。
だから、僕は使わないことに決めたのだが………。

「魔力流を確認、術式を構築」

すでに十分以上が経っていた。
術式に構っていると時間の感覚がおかしくなっていた。
僕の周りには魔力飽和を起こした星の魔力が、空間に光を伴って存在している。
それは小さな粒子として僕の周りで浮かんでいた。

「エイギス・アルティス・オド・ヴァルギス」

詠唱開始。
術式構築完了。
魔力注入を開始。
予測現象の変化なし。

「イギル・ディオン・ハルト・バイドン・ルキル・アジス・キリオス・ハール・レギオル」

限界魔力量到達。
飽和魔力による身体障害が発生しました。

「オル・イ・ティオン・ユ・ヴァルト・エイギス・オド・ルキル・キリオス・サルマ・クライン」

身体能力の低下を確認。
魔力による強化を開始。
詠唱の最終段階に移項。
飽和魔力の変換を開始。

さて、僕がこの魔法を創った過程で最も重視したのは様式美だ。
それはつまり、既存のものを使用することを嫌ったということ。
そしてもうひとつ、僕が転生者であることが重要になってくる。

転生者の利点とは何か?
僕は考えた末に一つの結論を出した。
その世界に存在しない知識を保有することが転生者の利点ではないか、と。
つまり、前世とこの世界の創造物の差異が転生者の利点であると思う。

だから、僕はそれを利用した。
自分の持っている知識の中から取捨選択して既存の魔法では無理だった魔法を作り出した。

『天光満つる処に我は在り』

魔力流に上昇し、ゆりかごの上で集まっていく。
僕の手の平にはその魔法の発動術式が輝き始める。

『黄泉の門開く処に汝在り』

魔力が巨大な塊となっていき、雷を形成していく。
この魔法は魔王を退ける伝説の魔法。
俺が憧れた究極の魔法。

『出でよ、神の雷!』

雷がその巨大さを増し、掌の術式がさらに輝きを増す。
僕の命を表すような強烈な輝きに目がくらみそうになる。

「これで最後だ!」

発動術式を上に掲げ、術式が展開される。
たまりに溜まった雷がその猛威を振るうのを今か今かと待ち構えていた。
その巨大な魔法を発動させる。
最後の言の葉。

『インディグニション!!!』











「………夢、か」

ガバッと体を起こす。
ベッドから体を下ろして軽くストレッチをするとボキボキと余りいいとはいえない音がした。
新年。
去年とは違ってちゃんと休みを取って帰ってきた昨日は同じく帰ってきていた兄さんと酒を酌み交わしていた。

その時、僕の恋愛の話しになったりしたけれどまったくそんな浮いた話がなかったのは言うまでもない。
兄さんといい、父さんといい、僕に何を求めているのだろうか。
僕自身、そういう機会がないことに問題があるとは分かっているんだけれど。

「いい初夢ではなかったかな」

少なくとも自分が世界のために死ぬというのはいい夢ではないだろう。
夢というのは記憶の整理と言われているから、多分去年起こったJS事件を整理したんだろう。
まぁ、それを知ったのが数日前。
事の顛末だけを聞いただけなんだけど。

「道理で仕事が多かったわけだよ」

軽く溜め息をついて部屋からでる。
下の階に下りるとすでに父さんと母さんにアリス、エリーさんがいて兄さんだけがいなかった。
僕の姿を見るとあけましておめでとうとみんなが言ってくれ僕の同じくあけましておめでとうと返す。
その後朝食を食べ終わった頃に兄さんが降りてきた。

「うぁ~、頭いてぇ~」

そんな声と共に席に着いた兄さんはエリーさんに渡された水を飲んでいた。
この兄さんがJS事件で多大な功績を残したとは思えないような姿を見てしまった。
少なくとも、あのガジェットを一人で何体も破壊して指揮系統を纏めて等。
クソノ提督と同じく一種の英雄として担がれている人物とは思えない。

「飲みすぎだよ」
「お前が言うな」

僕が言った言葉に即座に返すということはある程度回復しているのだろうか。
まぁ、確かに兄さんが言ったとおり僕が飲んだ量は兄さんよりも多い。
酒の肴だけはたくさん合ったので僕と兄さんと父さんは飲み比べをしていたんだけど。
一番につぶれたのが兄さん、次に僕、そして父さんの順で。
僕が知る限りには父さんはまったく酔っていなかった。
僕が潰れた兄さんを上に運んでいったときにもまだまだ飲んでいたのでどれだけ酒豪なのか。

「だけど、僕は元気だよ?」
「お前は父さんの血が強いんだろうな。俺は母さんの方が………」

僕達の両親は父さんが枠、母さんはとても酒に弱い。
甘酒でさえ酔ってしまう母さんは僕達が子供の時に飲んだ酒で悪酔いしたらしく、それ以降禁止令が出ている。
その血の割合が大きい兄さんは悪酔いこそしないものの酒は僕より弱いのだ。

「で、どうするんだ?」
「何が?」
「昨日の話だよ」

酒に酔っていながらしっかり覚えているのはその生来のしっかりした正確だからだろうか。
兄さんが言っているのは僕に身を固めないのかということだ。
僕は去年で21歳、数え年で22歳になる。
就職年齢が低いミッドでは結婚も比較的低い年齢で結婚するものもいる。
そして僕の今の年齢は結婚適齢期なのだ。

そういえば、ユーノ司書長も最近あのエースオブエースと付き合い始めたと報告してきた。
同じく司書たちも職場内恋愛をしたりして、時々ピンクな領域を休憩室で発生させている。
無限書庫でも恋愛ブームが来ているのだ。
もちろん、その発端はユーノ司書長とそれを言いふらした僕にあるのかもしれないが。
僕がいつ付き合うのかとトトカルチョが発生したりもしている。
僕自身は21歳で賭けているので今年はがんばらないといけないのだ。

「といってもね。出会いがないんだよ」
「そこで、だ」

後ろから父さんが現れた。
兄さんは父さんのほうを見ていたので、すでに気づいていたのだろう。
僕は父さんのほうを振り向いた。

「ジン。お前にいい話がある」
「そうよ、いい話。逆玉よぉ~」

父さんの言葉にキッチンから出てきた母さんが合いの手を打つ。
僕は溜め息をつきながら「それで?」と先を促した。
ところで兄さん、どうしてそんなにニヤニヤしてのるかな?

「お前の上司のユーノ司書長からの話でな。お見合いだ」
「お見合い?てか、ユーノ司書長………」

あの人は一体何をしているのか。
あまりのことに頭痛がしてきた。









「ねぇ、ユーノ。ホントにこれで大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。ジンはそういったことは気にしないし、フェイトは十分綺麗だから」

なのはとユーノの自宅。
そこでフェイト・T・ハラオウンは居た。
彼女は今日行われるお見合いのために珍しく、とても珍しくおめかしをしていた。
部下のシャーリーに手伝ってもらって普段は行かないところに服を買いに行ったり、エステに行ったりと普段では考えられないようなことをした。

その原因はなのはとユーノにあるのだ。
最近付き合い始めた二人を見ているとようやくくっついたという感想が出てくると共に自分のことを考え始めたのだ。
自分はどうなのだろうか、と。

高町なのはは最近、よく服を買いに行く。
エステにも行くし、有給を取ってユーノ・スクライアとデートに行ったりする。
その姿は完全に恋する乙女である。
フェイトはいつか、なのはに聞いたことがある。
「急にどうしたの?」と。
それに対するなのはの答えが「ユーノ君に可愛い姿を見てもらいたいから」と、惚気られたのだ。

そのことでフェイトは一気に焦りだした。
確かに同じ幼馴染の八神はやては未だにそう言った話はない。
しかし、彼女の周りには優秀な男性がいたりする。
そして今回のなのはの言葉。

もしかして男っ気がないのは自分だけではないのか?
そういった疑問が浮かんできたのだ。
そして男友達であるユーノに相談してこういうことになった。

紹介された相手の名前はジン・フラグメント。
ユーノが司書長を勤める無限書庫の副司書長であり、優秀な人間であるらしい。
周りの評判もそこそこ良く、クロノに訊くと優秀な部下ではあると言われた。
クロノはその後、どうしてそんなことを聞くのかとしつこく訊いてきたがなんとかごまかしている。

「大丈夫だよ、フェイトちゃん。とってもかわいいよ」
「ほ、ホントに大丈夫かなぁ………」

フェイトは自分の姿を鏡で見れば見るほど自信がなくなっていく。
海鳴で過ごしていたときもこういったことはまったくしなかったのが、今はこうしてやっている。
お見合いというある意味一段階飛ばしたことをしたのは早まったかもしれない。
と、こういった思考が頭をグルグルと巡っていた。

「もうすぐ時間だから、そろそろ行ったほうがいいと思うよ」
「え、もう!?」

フェイトは焦った。
自分に自信がないのだ。
それなのに、時間だけが刻々と流れていく。

「ほら、場所までは連れてってあげるから!」
「いこう。フェイトちゃん」

なのはとユーノ。
二人に連れられてフェイト・T・ハラオウンはお見合いの場所に行くことになる。






======================================================




初あとがき

本当はこの話で終わらすつもりだったんですけど書いていたら続くことになりました。
多分、次で終わります。

はやてに関してはジンの想像なので本人はそれほどひどくはないと思います。
次はお見合い当日の話。

レス返し

>>かか◆79a51bda

まともな人間では耐えられない職場。
それが無限書庫。
完全なブラック企業ですねw


>>1p◆0b14728a

ユーノが脱走しました。
それまで捕まっていた全員が共犯。
海の人間達の目を盗んで全員で脱走しようとしたら警備兵が待ち構えていて誰か一人でも!
というドラマがその間にありましたw


>>海のり◆2ac4a1d0

戦え、無限書庫は戦争だ!
強靭な肉体と精神を持った司書たちですねwww
少しだけ、待遇は改善されました………よね?


>>日ノ本春也◆06204c16

まず、ありがとうございます。
実はお見合いの話。
プロット段階ではまったく考えておらず、適当なところでオチをつけて終わるつもりだったのをこの感想を見てこの話を思い浮かびましたwww
しかし、成功するかはまた別の話w


>>ちびだぬき◆417a05a1

クロノは優秀な人間です。
アニメ本編でも優秀な人間であることは分かりきっていたので、こういった先を読むということに長けていると思ったのでwww
つまり、使える人材が多い無限書庫の上司になってしまえば仕事がはかどるとわかっていた訳です。
正確にはユーノの上司ですがw



[16683] 05
Name: チーカMA◆06189430 ID:79d4e75b
Date: 2010/03/21 20:34
05




「おーい、ジーン!」

ミッド、クラナガン。
巨大なこの街の中には様々な場所があり、特に治安が悪いところもあれば、治安がいいところ、平凡に暮らしているものたちがいる地域もある。
そんな中の一区域、特に治安がいい区域のオープンカフェが待ち合わせの場所に指定されていた。

僕は兄さんに拉致られるように連れてこられた。
場所自体は聞いていたのだが、生来のもので仕方がないことであるのだが僕は軽度の方向音痴である。
もちろん慣れ親しんだ場所ではそれほどの問題は起きないのだが人よりも迷いやすかったりする。
そのことを良く知っていた兄夫婦によって遅刻しないようにと半ば強制的に連れてこられたのだ。

その際にエリーさんに注意された。
「女の子を待たせるなんていうのは男の子として最低のことだよ」と。
そう言っていたエリーさんの顔色をうかがうようにしていた兄は弟として情けなかった。
きっと、こういうところは兄弟似るものなんだろう。
転生したからといって、此方の生活はすでに前世で生きた時間と同じくらいの時間を過ごしている。
前世だからといって特別視することなく、結局は僕の中の一部になっていた。

「おはよう、ユーノ司書長」
「おはよう………って、昼前だよ?」

呆れながらやっていた友人ユーノ・スクライア司書長。
その後ろにはこの前付き合い始めたと言うエースオブエース高町なのは一等空尉と―――。

「―――なるほど。逆玉ね………」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」

フェイト・T・ハラオウン。
ハラオウン家のご令嬢で執務官をやっており熱心な仕事姿勢とそれなりに訊く機転、何よりも家の名前ということで有名な人物。
本人が美人であるということもあってこういう話は山のようにあるのだろう。

そのうちの一つが僕ということだ。
彼女はユーノ司書長の紹介と言われたので、両親や兄夫婦は知っていたようなんだけど。
僕は現場で顔合わせ、それまでの情報は一切なしという理不尽な内容だったので、いざ出てきたらこの人というのは予想外だった。
有象無象のうちの一人ということで、僕程度の人間ならばすぐに飽きられて捨てられるのが関の山だろうけど。

「こんにちは」
「………こんにちは」

最初から諦めた心境の中で挨拶をするとハラオウンさんもそれを察したのか小さな声だった。
ユーノ司書長の紹介とは言え、それが必ず成功するとは限らないのだ。
相手が余りにも上流階級の人間であることもその理由のうちではあるのだけれど。

「始めましてですね。ジン・フラグメントです。無限書庫の副司書長をやっています」
「僕の部下でダメ人間だね」
「人のことをいえるのか?」

自己紹介にチャチャを入れるユーノ司書長にカウンターが入る。
もちろんユーノ司書長も最近はしっかりと休暇をとって高町一等空尉とのデートに行ったりしているのだ。
しかし、それ以外は僕と同等かそれ以下。
時々無限書庫の片隅で「発掘に行きたい、発掘に逝きたい、発掘に征きたい」と呟いている。

「はじめまして。高町なのはです。プライベートだから階級とかを言うのは変かな?」
「ああ、それはそうですね。それに、お二人は有名ですから」

暗に言う必要がないくらい有名であることを示しておく。
そのことにユーノ司書長が恨みがましい視線を向けてくるのが余りにも的外れだと思う。
少なくともこの程度で嫉妬をするのは器が知れる。

「ほら、フェイトちゃんの番だよ」
「え!?………うん」

蚊の鳴くような声で返事をするハラオウン執務官。
ユーノ司書長がとりあえず座ろうということで、先ほどまで僕が座っていたテーブルにみんなが座る。
僕の正面にハラオウン執務官、右横にユーノ司書長、左横に高町一等空尉。
お見合いである以上、僕とハラオウン執務官が対面に座って喋る必要があるんだろう。
あくまでもお見合い。
それ以上でもそれ以下でもないのだ。

僕が振られてそれで終わり。
確かに綺麗な人だ。
こんな美人と付き合えたら嬉しいなとは思うけれど、そんなことはありえない。
僕の友人にユーノ司書長がいたからこそ、この機会を作ることが出来たわけで、ユーノ司書長には感謝しておこうと思う。
けれど、同時にこんなどうしようもない現状を作り出すことになったユーノ司書長に恨み言を言いたいのも事実だ。
母さん、逆玉は成立しようがないから逆玉っていうんだよ。

「フェイト・T・ハラオウンです。よろしくお願いします」

そういったハラオウン執務官の表情はビクビクしていた。
僕はいい加減、この状況を作り出した本人つまり友人であるユーノ司書長に対して何らかの文句を言おうと思っていた。
僕が感じているハラオウン執務官の印象は先ほどの先入観から、僕程度の庶民なんて対して言葉を交わす必要がない人間程度に見えているのだ。
俯きぎみなのは僕程度を視界に入れる必要がないと考えていると思っている。

もちろんこれは僕の勝手な想像でしかない。
もし違うならばそれは僕の彼女に対する侮辱でしかないんだろう。
けれど、この時の僕はそう思っていた。

「じゃあ、ジン。僕達はここらでお暇するね」
「そうだね。後はお二人に任すということで」

そう言ってユーノ司書長と高町一等空尉は去っていく。
その後ろ姿はありありと悪戯心が見て取れ、かすかに聞こえてくる会話はどこに行こうかという恋人同士の会話だった。
その後ろ姿を見ているのが僕だけではないのを気づいたのはほんの偶然だったと思う。
ふと、横を向くと僕と同じように目では二人を追いかけているハラオウン執務官の姿が。
そんな彼女の姿に僕は思わず噴き出してしまった。

「ふぇ!?」

奇声を上げて僕の方を見るハラオウン執務官の姿は本当に驚いているようで。
だけど、僕の笑いは止まらず少しの間ハラオウン執務官は不思議な目で僕のことを見ることになる。
しかし、それよりも恥ずかしかったのはハラオウン執務官が注文した品を持ってきた店員に変な目で見られたことだ。
世間体にうとい僕でもこういうことにたいして恥ずかしいと思う心くらいは持ち合わせている。

「………す、すみません。あまりにおかしくて」
「はぁ………」

ハラオウン執務官は僕のようやく収まってきた笑いをなおも不思議そうな目でみている。
それはそうだろう。
自分を置いて去っていった親友達を見ていると急にお見合いの相手が笑い出したのだ。
戸惑わないほうがおかしい。
僕ならばドッキリなのかと焦るだろう。
極端な例だけど。
ただ、今回ばかりは勘弁してほしい。
予想外も甚だしかった。
僕は一方的に勘違いしていたらしかった。

「ハラオウンさんが捨てられた子犬みたいな顔をしてなので。ちょっとびっくりしました」
「え、私そんな顔してたんですか!?」
「はい。それはもう……」

事実とはちょっとだけ違うことを話す。
もちろん今行ったことも事実だけれど、正確に言うならばびっくりしたのではなく面白かったということだろう。
まさかエリートである執務官の人が一般人である自分と一緒にいる程度のことであんな顔をするとは思わなかった。
ユーノ司書長の恋人である高町一等空尉もその類の人間だと思っていたけど。
だけれど、どうやらそうではないかもしれない。
緊張していた心がほぐれていくのが分かった。

「恥ずかしいです」
「僕としてはいいものを見せてもらったと思ってますよ」

女性に言うのもなんだが。
ハラオウンさんも僕が笑った理由言った前と後で全然違った。
どうやら彼女も僕と同じで緊張していたらしかった。

「そういうことは女性にいうものではないと思います」
「それもそうですね、すみません」

素直に謝る。
確かにこういうことは本人に言うのは礼儀知らずだろう。
でも、そのおかげで緊張が取れたのも確かだ。
世の中何が功を奏するかはわからないものだな。

「食べましょうか、丁度昼ですし。その後、歩きながら話でも」

僕は目の前に並べられた料理を見ながら言う。
そこにはユーノ司書長が頼んだ料理が並べられており、食べずに去ったあの二人に恨みが積もる。
時間的には昼には少し早いのだが、あの二人は昼丁度になるように期待していたのだろう。
その証拠に醒めてもおいしい料理しか頼んでなかった。
あの二人にしてやられた気がした。

「はい、そうですね」









食事の間にお互いのことを話したりした。
同じ管理局の所属で、海の人間であるということである程度話も弾んだ。
特に僕のクソ上司、クソノ提督のことではいろいろと話した。

「お兄ちゃん、そんなことをしてたんですか!?」
「うん。おかげで僕達がストライキを起こしてね。ほら、有名じゃないかな?」
「あ、その話なら。私も駆り出されましたし」

そんな昔話に花を咲かせたりした。
それにしてもやはりあのストライキ戦争に関しては海にとっては一大事だったらしく、あのときのことは話題としては十分だった。
今ではそのことは笑い話だがその時は必死だったこともお互いに話した。
最終的にすべてクソノ提督が悪いということで落ち着かせたけど。

その会話が一段落したところで僕達はオープンカフェを後にした。
そのときにはすでに2時を回っていたので腹ごなしといには少し遅かったが歩こうということになったのだ。
なんともお見合いらしいといえばらしいのだが、始まりからしてどうなんだろうと考えさせられる。
僕の知識が偏っているだけなのか、お見合いってこんなのだっけと話しながら考えたりした。

「それにしても、以外だったな」
「何がですか?」

人ごみの中でお互いに聞こえる程度の声で話す。
僕が切り出した言葉はありきたりなものだった。

「ハラオウンさんってこんなにとっつきやすい人だとは思わなかった」
「それって、私がお堅い人だと思ってたってことですか?」

お互いに笑いあいながら会話を続ける。
笑いあいながらの会話というのはとても楽しい。
楽しいから笑い、笑っているから楽しい。
不のスパイラルならぬ正のスパイラルだ。

「それは海の執務官といえばね。それにハラオウンさんは報道とかでも有名ですから」
「う………。それを言われると弱いです」
「まぁ、実際のハラオウンさんは凄く楽しい人でしたけど」
「それはどういう意味でしょう?」

笑いの中に黒いものを感じる。
僕は地雷を踏んだかな?と思いながら思いのうちを吐露した。

「まさかあのハラオウン執務官が捨てられた子犬のような表情をするとは思わなかったな」
「………まだ、引きずります?」
「人をからかうのって楽しいですよね?」

まぁ、あまり心象がいいセリフとは思えないけれど。
ここで殺し文句の一言でも言えば惚れられたりなんてするのかもしれないなんてくだらない妄想をする。
でも、僕にそんなことを言えるような度胸はない。
だからこのまま楽しく会話していればいいかと思考を纏めて楽しい会話に意識を向けた。

「そういう人、嫌われますよ?」
「ハラオウンさんは僕を嫌いになります?」
「真正面からそういうのは卑怯だと思います」

まぁ、確かに真正面から自分のことを嫌いかと聞かれて嫌いだと答える人間は珍しいだろう。
少なくとも人のよさそうなハラオウン執務官がそう答えるとは思えない。
だからこそ、僕はそう聞いたのだし。
嫌いだと答えるとしてそれは冗談の中でだろう。

「僕は卑怯な人間ですよ」
「ダメじゃないですか」

ハラオウン執務官は笑いながら僕の隣を歩く。
これだけ見たらその姿はどう映るのだろう。
友達だろうか、カップルだろうか、一つ跳んで新婚さんだろうか。
個人的には二番目だと思うのだ。

そんな取りとめのない思考を展開していると突如爆音が響いた。

「な、なに!?」

街行く人も何事かと辺りをキョロキョロと見回している。
何が起きているのかわからないので、とりあえず情報を集めようとした矢先にハラオウン執務官のデバイスに通信がきた。

『フェイトさん!』
「え!?シャーリー!?」
『今、どこにいますか?』

通信の向こう側にいる人間の名前はシャーリーというらしい。
知らない人間の名前だけれど、ハラオウン執務官の同僚だろうか。

「えっと………」
『あ、此方で確認取れました。今、その近くで立てこもり事件が起きています。先ほどには質量兵器の使用も確認されています!』
「ホント!?」
『はい。フォワードもすでに出動しています。フェイトさんはいけますか』
「え………」

ハラオウン執務官は通信の途中で僕の方を見た。
局員としては向かうのが正しい。
個人としてはどう思っているのだろうか。
だけど、それを理由にしてできることをしないのはいけないだろう。
少なくともユーノ司書長ならば、高町一等空尉に行くように言うだろうし、兄さんも同じく向かうだろう。
あの二人は根っからの善人だ。
そして僕はそんな二人を見てきた破綻者だ。

「行こう」
「え?」

ハラオウン執務官は驚いて僕の方を見る。
僕は爆発音のあったほう、煙が立ち昇っている方向に向かう。
まぁ、僕の魔法はスピードを上げたり空を跳んだりという移動系の魔法は転移魔法程度だから魔法を使ってはいけないけれど。
歩きながらハラオウン執務官に声をかける。

「執務官ならこういったときには行かないといけないでしょ?僕も手伝うよ」
「え、はい!」
『フェイトさん、どうしたんですか?』
「あ、シャーリー。今、現場に向かうよ」

ハラオウン執務官は先ほどまでの女性の顔から執務官の顔になる。
一足先に行くと言葉を残して魔法の仕様許可を取ってバリアジャケットを展開して飛んでいった。
僕は人ごみの中を野次馬と一緒に歩いていく。

こういった突発的な事件には当然といったように報道局が現れて一番前で報道をする。
何度か無限書庫の無駄にスキルが上がった司書たちが地上から通信を回してテレビを見ていたことがある。
もちろんそれはデバイスを使用したもので、普通なら出来ないことのはずである。
無限書庫は一体ドコに向かっているのだろうか。

「でも、迷惑って言えば迷惑だな」

人が楽しく過ごしていたというのにテロを起こしてその時間を潰してくれた。
まったく困ったものだ。
珍しい休日に珍しい機会。
複数個あるデバイスを連動させて一つのプログラムを始動する。

「とりあえず、これでいいだろ」









「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」

僕がねぎらいの言葉をかけると逆に感謝されてしまった。
テロの現場は銀行があるビル。
犯罪者が考えることはどれだけ手っ取り早く金を手に入れることなのだろうか?
どこの世界でもその思考だけは変わらない。
何をなすにも金次第。

「いえいえ、武装局員の方々がいなかったらどうしようもなかったですから」
「でも、お手伝いしていただいたおかげで早期解決できたのも確かですから」

丁寧な言葉で会話しているのは僕とハラオウン執務官だ。
先ほど犯人達が陸士たちに連行されていったのを見てハラオウン執務官に話しかけた。
辺りの様子は野次馬が多く、局員達がそれをキープアウトと書かれたテープで入らないようにしている。
犯人達が連行されたとはいえ、起きてしまったことは変わりがない。

今回の被害者は男性が15人、女性が9人。
職員がほとんどであり利用客が少なかったことが幸いした。
ビルの4階、オフィスとして使われているフロアが質量兵器である爆弾で破壊されている。
その下のフロアもムチャクチャにされ、今も濃く残っている魔力粒子が高ランクの魔導師がいたことを示している。

「フェイトちゃ~ん!」
「あ、なのは!」

人ごみから吐き出されるようにして一人の女性が出てきた。
その後ろから謝罪しながら出てくるユーノ司書長。
高町一等空尉がハラオウン執務官の元まで走ってきた。
その後ろから軽く息を切らせながらユーノ司書長が現れる。

「遅かったな」
「気づいた場所が遠かったんだよ」

僕の言葉にユーノ司書長は苦笑しながら答える。
ユーノ司書長の話を聞くと、結構遠くの所にいたらしく報道を見て事件がおきたのを確認したらしい。
爆発音を聞かなかったのかと聞いたらゲームセンターにいてうるさかったから聞こえなかったと答えられた。

「なんでゲームセンター?二人ともゲームなんてしなさそうだけど」
「なのはがコレが欲しいって言ったからね」

そういってユーノ司書長は持っていたバッグからヌイグルミを出す。
フェレットを模したようなヌイグルミで一昔前にミッドではやったものだ。
これを手に入れるのにちょっと使っちゃったよと言ったユーノ司書長にどれくらい?と聞くと答えを窮していた。
一体いくら使ったのか気になる。

「で、事件の方はどうだったの?」
「特に何の問題もなく………っていうのは不謹慎か。被害者は出たけど、及第点ってところかな」
「そう」

ユーノ司書長はビルに視線を向けた。
僕もそれを追ってビルに目を向けるとそこには生々しい爆発の跡。
ミッドは決して完全な安全地帯ではない、日常の中にも必ず危険が潜んでいる。
そして平穏を脅かす人間達がいる。
そんなことを再認識させられた。

「あの、フラグメントさん」
「あ、どうでした?」

高町一等空尉と共に現場から戻ってきたハラオウン執務官。
あまり顔色が良くないのはその惨劇を目にしたからだろうか。
僕も映像としてみたけれど、あまり気持ちのいいものではなかったからな。
執務官とはいえ女性が見て気分を崩さずにいられるほうがおかしいんだろう。

「すみません、今日は」
「いえ。ハラオウンさんのせいでは」
「そういえばユーノ君。ジン君ってフェイトちゃんのこと、ハラオウンさんって呼ぶんだね」
「ジンは基本的に相手のことをファミリーネームで呼ぶよ」

僕がハラオウン執務官にフォローを入れようとした矢先に高町一等空尉に横槍を入れられた。
ユーノ司書長の言葉を聞いた高町一等空尉は何か言いたげな顔で僕を見てきた。
僕は思わず後ずさりする。

「ねぇ、ジン君。どうしてフェイトちゃんのことを名前で呼んであげないのかな?」
「―――は?」

高町一等空尉は笑顔で近付いてくる。
しかし、それは母さんやアリアが無理をしすぎた時の僕に怒るようなプレッシャーが存分に感じられた。
目が笑っていない。
後ろでユーノ司書長は苦笑しているし、ハラオウン執務官はおろおろとしている。

「お見合い相手なんだから呼んで上げなきゃダメだよ?」

お見合い相手を名前で呼ぶ決まりなどあっただろうか。
少なくとも初めて会う人間を名前で呼ぶ常識なんて僕の中には存在しない。
仲良くなった気もするけど、それでも名前を呼ぶほどではないと思う。
ハラオウン執務官に助けを求めるように視線を向けると視線を逸らされた。

「ねぇ、オハナシしないとダメかな?」
「よろこんで呼ばせていただきます」

降参。
心の中で白旗をあげる。
ユーノ司書長、無限書庫の司書たちの持つ情報網の中で聞いた言葉。
『エースオブエース高町一等空尉にオハナシだけはさせるな』
それは教導隊の中にもある絶対の掟らしい。

ユーノ司書長の話しによると高町一等空尉のオハナシとは圧倒的な魔力と共に与えられる教え。
自らの意思を押し通す砲撃。
かつてのPT事件、闇の書事件でもそのオハナシをしたらしい。
ユーノ司書長が酔って話した時に震えていたのを覚えている。

高町一等空尉はハラオウン執務官の背中を押して僕の目の前にまで連れてくる。
ところでだ。
今、僕達がいるところはドコだと疑問がよぎった。
先ほどから移動はしていない。

ということはだ。
僕達がいるのは事件現場。
もちろん野次馬はいるし、検査をしている局員達もいる。
そんな中で僕達はこんな会話をしていた。

「あの………」
「はい」

僕は焦りに焦って言葉が思いつかない状態だ。
ハラオウン執務官も戸惑っているようで顔が赤い。
僕は決意する。

「―――転移プログラム発動!」

「「「えぇ!?」」」

逃げることにした。
転移の際の魔力光と共に僕とハラオウン執務官の姿が掻き消え、残されたのは僕達のそばにいたユーノ司書長と高町一等空尉のみ。
ちなみに市街地での無断で魔法を使うことは禁止されている。









「―――っと、すみません」
「いえ、私のほうこそ」

僕の転移魔法は少し特殊、というほどではないが標準的な転移魔法ではない。
まず対象者が自分と触れているもの。
もっと直接的に言うならば僕がその手で触れているものに限られる。
僕自身とその限定されたものにすることで処理能力を上げ術式の発動を早めているのだ。

そしてその転移場所がここ、ミッドの居住区の端。
オフィス街との間にある川原である。
ミッドでは珍しく植物が多く、自然な形での川原が残っている。

僕達はそんな場所に転移してきた。
そして僕は触れていた彼女の体から手を離す。

「あの、ごめんなさい。なのはがあんなに強引で………」

ハラオウン執務官が申し訳なさそうに頭を下げる。
そんなことないよ、それなら止めなかったユーノ司書長の方が悪いと言って責任を転嫁しておいた。
そのまま川原を歩きながら会話に花を咲かせる。
先ほどの事件のことを忘れるように会話をして、日が傾き始めた頃になるまで話し続けた。

「そろそろ帰らないといけないかな」

今日で休暇は終わりである。
明日の最初の便で本局に帰って無限書庫に行かなければならない。
名残惜しいけれど、今日はこの辺りで帰らないと荷物を纏めたりする時間がなくなってしまう。

「そうですか……。残念です」

ハラオウン執務官もどうやら別れを惜しんでくれているようだ。
僕自身、これほど楽しい時間を過ごせるとは思っていなかったので今となっては別れが惜しい。
このことに対してだけはユーノ司書長に感謝していいかもしれない。

最近は考古学、つまり遺跡探査の方にも出かけるようになったユーノ司書長はよく無限書庫を離れる。
確かに最近は司書たちのスペックも上昇してストライキを起こした頃よりは仕事環境は良くなっている。
しかし、だ。
それでも仕事が多いことには変わりがない。
ここ数年は新しく入る司書もおらず、無限書庫の運営は一定を保っている。
それは仕事が増えればてんてこ舞いであることを示しており、海からの仕事が時折大量に持ち込まれることもある。
つまり、徹夜の激務があることもざらだったりするのだ。

「あの、また会えますか?」

このセリフは勘違いしていいのだろうか?
今回はお見合いということで、目的が目的なのだ。
付き合うとか、恋愛とか、結婚とか。
そういった目的であったわけであって、先ほどまではそう言った雰囲気ではなかったけれど。

前世からの知識でこういったことには疎いわけではないのだ。
だから分かれるときの言葉は記憶の強く残るのも知っているのだ。
今日だけの付き合いだと思っていた僕は激しく動揺した。

だけれど、同時に嬉しかった。
僕みたいな破綻者がこうやってこんな綺麗な人と会えることだけでも幸せだ。
そしてこんな人にまた会えますかなんていう言葉をかけてもらえるのは最高に幸せだ。
無限書庫のトトカルチョのことなんてどうでも良くなっていた。

「はい。よろこんで、フェイトさん」






======================================================




あとがき


かなりの難産でしたw
なんというか、そういった経験が少ないので想像で書くしかなく。
まぁ、現実ではありえないよね。
そしてデート(?)が何事もなく終わるのも何か違うと思ったので。
主人公は普通に主人公できてるかな?
とりあえず鈍感という主人公補正はテンプレすぎて嫌だったので。
あくまで一人の男の子としての反応を求めました。
思春期(?)男子は想像しすぎくらいがいいと思います。



※なのはのオハナシに関して

二次創作において有名すぎるオハナシ。
まぁ、なくてもいいと思ったんですけど。
ネタと表記をしているからには入れた方がいいかなという深夜テンションで入れちゃいましたw

以下レス返し

>たわし◆1d8cd98f

これからが本編だったら短編にならなく………(汗)
たわしさんがテイルズ好きなのは確定ですね。
03と04の間がJSで合ってます。
この作品は基本的に原作には関わらない方向だったので。


>良◆cfcf1c48

雷落とし→フェイトが一目ぼれ
一目ぼれはありえないだろうなぁ~と思ったのでやめました。
あくまで恋愛をw
ニコポ、ナデポはありえませんw
クロノって嫌われてるのかなぁ?


>日ノ本春也◆06204c16

主人公はフェイトを落とすことができるのか!
司書たちは確実にチャチャを入れてくるでしょうね、トトカルチョ的な意味でw
ユーノとなのはは………結婚するんですかねぇ?
如何せんあの二人、晩婚しそうだw






[16683] 06
Name: チーカMA◆06189430 ID:79d4e75b
Date: 2010/03/21 20:35
06




新しい季節が来て、無限書庫も新たな風を迎えることになった。
昨年話題となった起動六課は解散し、各々希望する部署に入ったらしい。
そして我が部署、無限書庫も大きな変革期を迎えていた。

異動。

恐ろしい言葉である。
二十五人しかいない無限書庫の人員のうち、四人が異動。
そして新人の目処はたっていない。

ここ数年での無限書庫の人員増加はない。
そしていま減少が起こってしまった。
二十五人から二十一人。

それだけで無限書庫は絶望的な状況になる。
まず、無限書庫の司書の能力は他の部署に比べて格段に高い。
それは日々の激務を何年もこなしてきた一種の兵士だからだ。

仕事の量が他の部署の数倍から十数倍。
仕事が常駐する無限書庫の司書たちは休みなく書類と戦い続けている。
魔導師であるならば、そのマルチタスク数は仕事の量に追いつくために各々のペースで増やしている。
強制的に上昇するマルチタスク数は最も少ない司書でも二十は超えており、これは戦闘をする魔導師と比べても十分にある。

そんな無限書庫に目をつけたクソノ提督は人員の引抜を行った。
しかし、そんな計画を兄さんから聞いた僕はユーノ司書長と結託して抵抗する計画を立てた。
そのおかげで十人と予定されていた移動人員が四人に減らすことが出来た。
その四人の変わりに入ることになっている人員はゼロ。
もちろん予定段階であるので出る人間は確定しているが、入ってくる人間は今後変えることが出来るかもしれない。

「これより、第四回無限書庫会議を始めたいと思います」

ユーノ司書長が議長席。
二十五席ある椅子のうちほとんどが主を持たず、ディスプレイによる通信で顔だけが移されている。
ユーノ司書長を含めて数席だけ埋まっており、僕を含めた大多数がディスプレイ越しの会議だった。

「まず、今回の主題にして絶対の題目。『無限書庫の追加人員について』」
「それに関しては此方の資料をご覧ください」

会議室(休憩室)に巨大な立体画面が浮かび上がり、数値が次々と浮かんでいく。
それはここ数年、より正確に言うならば僕とユーノ司書長が無限書庫に勤め始めてからの正確な司書数だ。
さらには仕事の稼働率に徹夜率、休暇数も表示されておりその異様な数値がコレまでの悲惨な現状を語っていた。

「これが示していますように、司書数の減少は無限書庫の運営に多大な影響を齎す可能性が十分に考えられます」
「僕もこれには頭を悩ましている。現在の運営でも休暇が他の部署よりも少なく、尚且つ仕事は減るところを見せない」
「つまり、司書数を増やすしか僕達に残された道はないということだな」

ユーノ司書長の言葉に俺が補足を入れる。
結論は最初からみなの中にあるのだ。
司書数を増やさなければ自分達が過労で倒れる。
もちろんクソノ提督が把握しているものでは生かさず殺さず僕達は搾り取られ、働かされるのだろう。
しかし、僕達も素直にそれを受け入れるほど安い人間ではないと自負している。

すくなくとも戦場を立ち回るエースオブエースたちにも負けない働きをしていると思っているくらいだ。
情報とはあればあるほど有利になる。
危険なロストロギアの情報を多く得ることが出来ればそれだけその対処に時間がかけられる。
それだけの価値を持っている無限書庫の司書たちは搾取される側となっている。

だから、僕達は立ち上がる。
一週間後の人員異動会議。
それぞれの部署の部長が参加して本局、ひいては海での人員の動きが決定される。
前もってある程度の異動は決められているが、この無限書庫の部署は増員が存在しない。
しかし、それだけは許されない。

今でさえ、休暇はあれど有給というものは存在しない。
地獄の無限書庫の名は伊達ではない。
ミッドへの情報漏えいはかなり厳しい具合に取締まりされている。
無限書庫の雇用は人権的に問題があると考えていいのだ。

しかし、それは僕達の望む結果ではない。
そんなものを借りて僕達は勝利したいのではない。
僕達の勝利条件はただ一つ。
人員の増加をし、有給を勝ち取る。

そのために何でもしていいのではなく、自分達が同情される形をとることは絶対に許されない。
あくまでも正攻法で。
与えられるのではなく、勝ち取る。
無限書庫とはそんな戦士達の戦場なのである。

「そうだ。だからこそ今度の人員異動会議、僕達は勝ちに行かなければならない」

そのユーノ司書長の言葉で今回の会議は締めくくられた。









「ということがあったんだ」

通信越しに笑っている彼女は少し疲れているようだった。
元気付けようにも楽しい話というものは無限書庫で働いているだけの僕にはそんな引き出しはない。
どれだけ知識を溜めようと人を楽しませることができないと痛感しながら思いついたことを話していた。

昔から話すことはきらいじゃない。
誰かと話すと自分が馬鹿ではないと確認できたから。
自分はこんな底辺の人間とは違う。
僕は転生者だ、他の人間とは違う特別な人間だ。
心の根底にそんな感情が確かにあったのだ。

今でこそ、そんな感情は薄れ純粋に会話を楽しめるようになったのだけれど。
昔の自分を思い出すと、どれだけ自分が子供だったのか思い知る。
だけど、今はそんなことは忘れて彼女との会話を楽しむとしよう。

「お兄ちゃん、そんなことやってたんですね」
「優秀な人だとは思うけどね。生かさず殺さず、理想的な統治の仕方だ」

それが圧倒的な権力の上にあるもので、下の人間が反骨心を持っていなければの話だけど。

「でも、大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと新人は入ってきたから」

ユーノ司書長の必死の説得によって新人が五人、そのうち一人が魔導師である。
対して抜ける人員は魔導師二人に非魔導師二人。
無限書庫の運営に多少の影響は出るだろうが、人数でカバーできるだろう。
少なくとも魔導師であるその一人はかんりのマルチタスクを得ることになると思う。

確か、書類では武装隊志望だったらしいがマルチタスクがまともに使えない不良品と書いてあった。
そんなのを無限書庫にやるクソノ提督は意地が悪いと思うのだが。
それでも、人間には生存本能というのがあって死に掛ければ否が応でも能力は上がるだろう。
死にさえしなければ。

「そっか。それで、次はいつ会えるかな?」
「今度の休暇がいつになるかは分からないけど………。本局内でなら会えるんじゃないかな?」

休憩室で行うべき通信を堂々と仕事中に行っている。
無限書庫においての一種の暗黙の了解として、仕事と同時に出来るのなら何をやってもいい。
つまり、犯罪スレスレのことでさえ仕事をおろそかにしないならばしていいのだ。
これはユーノ司書長もやっていることで、よく高町一等空尉と通信をしている。

ほとんどの司書たちは最初の頃こそ仕事に追われて何も出来なかったが、最近は仕事の脇で自由にやっている。
こんなことでもマルチタスクの訓練になるのだから世の中何が功を奏すか分からない。
最近入った司書たちは四苦八苦して自分達の分の仕事をやっているが、慣れるまでにかなりの時間を要するだろう。

僕やユーノ司書長にとって片手間である仕事も彼らにしてみれば圧倒的な量なのである。
無限書庫は地獄。
地獄の中でもしたたかに生きられるのが人間なんだなぁ……、と最近痛感している。

「じゃあ、食堂ででも会えるかな?」
「分かった。じゃあ一時間後ぐらいに食堂で」
「うん。じゃあね」

通信が切れてそれに費やしていたマルチタスクを仕事の方に向ける。
ふと視線を向けると、古参の司書たちがニヤニヤと僕を見ていた。

「何?」

手元にある資料をさっさと纏めながら視線だけ向けて聞く。
古参の司書たちはニヤニヤしながら「別になんでもありませんよ?」と、楽しそうな視線を向けている。
まるでデバガメだな。
僕は自分の中だけでそんな思いを呟く。

手元にある仕事が終わるのと同時に次の仕事が回ってきて、いつになったら終わるのかと考えてしまう。
しかし、一時間後に会うことを約束しているのだからそれに会うように仕事を終わらせなければならない。
ユーノ司書長は休憩中でどうせ高町一等空尉と会話しているのだろう。
無限書庫を出たという連絡はないから、休憩室で長距離通信をしているといったところかな。

「ふくちょ~」

下のほうから名前を呼ばれる。
視線を下に向けるとそれは新人のうちの一人、非魔導師であるバーティ・キンだった。
どこか間延びした声をしている彼は魔導師でないというハンデを負いながらも必死に仕事をこなしている。
といっても他の新人も十分に戦力として成り立っていないので仕事が忙しいのだけれど。

司書たちが数年前の自分を見ているようでほほえましいような目で見ている。
しかし、実際新人達にとっては死に物狂いで仕事をこなさなければ寝られないような状況だ。
一週間前に配属された新人達が自室に戻ったのは一度か二度だろう。
そんな状況にいる新人たちが一体何のようだろう。

「何か用?仕事は手伝わないよ?」

その言葉にバーティ司書はあからさまに絶望したような顔をした。
その手には書類のタワーが出来ていた。

「それ、期限いつまで?」
「み、三日後です!」

三日後。
この量を終わらせるのにバーティ司書の処理能力から考えて五日は掛かるだろう。
そうなれば無限書庫の評判は落ちる。
仕事もまともに出来ない無限書庫。
その名前を得てしまうことは無限書庫にとってもユーノ司書長にとっても、そして何より僕にとっても好ましくないことである。

「よし、誰かに手伝ってもらうといい」

僕には関係のないことである。
ここにいる誰かに頼めば一日や二日で出来るだろう。
しかし、それではバーティ司書の能力向上、いや無限書庫の戦力増加にはならない。
出て行った四人分の能力を新人五人で補ってもらわなくてはならない。

配属して一週間の五人では一人分の仕事も満足で出来ていない。
もちろん、誰かが監督するべきであるけれどそれが出来るほど無限書庫に余裕はない。
皆が皆、自らの仕事と内職に忙しいのだ。

「そ、そんな!?」

再び絶望した顔になるバーティ司書。
無限書庫は戦場である。
無限書庫は地獄である。
これは変えようのない事実で、僕達古参の司書でも仕事が多い際には徹夜や不眠不休は当たり前の時もあるのだ。
そしてそれは確実に司書たちの怒りをクソノ提督に募らせている。

『ユーノ司書長』
『何?』
『新人が仕事終わらせられないようだったら手伝ってやって』
『いいの?』
『もちろん仕事は増やすよ?』

念話でユーノ司書長に通信を入れてその場を去る。
後ろからブーイングが聞こえてきたり、はやし立てる言葉が聞こえきたりする。

「賭けは勝たせてもらうよ!」

振り向いてそれだけ言って僕は走り出した。









「結婚式?」
「こ、声が大きいよ!」

本局にある食堂の一角。
人の多いところを避けたせいで端の端になってしまい、選んだ場所に着くまでに時間がかかって料理が冷えてしまっている。
ハラオウン執務官が食べているのはオムライス。
そして僕が食べているのはとんかつ定食。
お互いに醒めてしまった食事を食べながら最近のことを話しているとそんな言葉をハラオウン執務官が上げてきた。

「ゴメン。でも、結婚式って誰の?」
「なのはとユーノの結婚式だよ」

ユーノ司書長と高町一等空尉の結婚式。
二人が付き合い始めたのはJS事件が終わってすぐのころだ。
弱っている高町一等空尉にユーノ司書長が付け込んだといえば聞こえが悪いが単純に心配してそばにいただけ。
それで衝動に任せて告白をしていい返事をもらえたということ。

ハラオウン執務官が言うには前々から二人はいい雰囲気だったらしく、だからといって何かがあるわけでもないという微妙な距離だったらしい。
ユーノ司書長が勇気を出したのを見て昔からの友人達はやっとかという気持ちになったとか、ならなかったとか。
僕はそういった話をユーノ司書長とはしなかった。
話をしても仕事や魔法のことばかりで、そう言った話は最近になってから。
さらに言うならば僕が創りだした魔法が危険だったというのが発覚してからのことだ。

「あの二人、結婚するの?」
「するとは思うんだけど、いつかは分からないんだ。それとなく聞いてはいるんだけど」
「ユーノ司書長を見てる限りはそうは思わないんだけどな」

少なくともこれから結婚するような人間には見えない。
なんと言うか、付き合っている段階で幸せ、先のことは考えていないように見える。
こうやって会っている僕とハラオウン執務官も恋愛だなんだと話してはいても一線を越えない辺り、同じ穴の狢だ。
僕はハラオウン執務官のことはきらいではない。
むしろ好きの部類に入る。
けれど、それを自覚したところでそれをどうにかする術が分からない。

お見合いという形から入ってしまったのが失敗だったのか。
どうも距離感を掴み損ねている。
素直に好きと言えばいいのか、だけどそれは変ではないか?
もともとお見合いという形で出会ったんだからそう言ったのとは別に―――。
という具合だ。

僕やハラオウン執務官の方もユーノ司書長と高町一等空尉と同じように問題を抱えているのだ。
目の前で親友のことを本気で悩んでいるハラオウン執務官にはそんな自覚はなさそうだけど。
僕のことをどう思っているんだろう。

「なのははヴィヴィオもいるんだから結婚は早めにしてしまった方がいいと思うんだ」
「ちょっと待って。ヴィヴィオって誰?」

聞いたことのない名前が出てきた。
僕は手元のカツを口に運んで咀嚼する。
ハラオウン執務官はそういえば言ってなかったねと、大雑把に説明してくれた。
曰く、JS事件の際に保護した子供であり、保護責任者が高町一等空尉である。
同時にその後見人がハラオウン執務官であると。

「へぇ~、ということはフェイトさんの子供でもあるんだ」
「うん、そうだよ」

最近になってようやくこの呼び方にも慣れてきた。
最初に言った時には恥ずかしくて火が吹きそうだったけれど。
僕としてプレイボーイでもないのにかっこつけようとするから自業自得だとどこかで言われていそうだと思う。
ハラオウン執務官も最初の頃は顔をほのかに赤くしていたけれど、最近ではまったく動じない。

「だったら早く結婚したらいいのにな。周りから何かしないとだめかな」

ユーノ司書長の姿を思い浮かべる。
あの司書長はどこか浮世離れしている節がある。
付き合えばそれだけでいい、結婚なんて考えたこともない。
なんてことを口走るタイプだ。
それはハラオウン執務官も考えていることらしく、どうにかして二人を結婚させるつもりらしい。

「いっそのこと、こっちで企画してあげたらいいのかな」
「それはそれで問題がある気がするけど」

主に二人の親族の問題が。
ユーノ司書長はスクライアの出だからたいした問題はないと思う。
あそこの族長は寛大な人でユーノ司書長が一族に断りを入れれば付き合うのを反対しないだろう。
と、ユーノが付き合う際に言っていた。
付き合うのところを結婚と置き換えても大丈夫だろう。
問題は高町一等空尉のほうだ。

「高町一等空尉の方はどう?」
「なのはの方はね、お父さんとおにいちゃんが………」

ハラオウン執務官が言いよどむ。
よほどの傑物なのか、堅物なのか。
年頃の娘や妹の結婚に反対するのはやはり父親の性なのだろうか。
話を聞く限りは子煩悩であり、人並みに娘を愛しているらしい。

「だったら問題ないだろ。ユーノ司書長も高町一等空尉も結婚を考えていないだけで、しないわけじゃないだろうし」

お膳立てさえ済ませれば後は結婚するだろう。
高町一等空尉とユーノ司書長がセットでいるのを見たのは前のお見合いの時が初めてだけど、あの二人は案外そう言ったことに疎そうだ。
ユーノ司書長も考えてはいるのかなと思わせるような発言はするけど、それだけ。
根本的に勇気がない人だ。

「じゃあ、こっちでお膳立てだけしちゃおうか」
「二人に任せた方がいいと思うけど。そういうところも含めて結婚じゃない?」
「でも、そうならいつまでも結婚しないと思うよ」
「それは大丈夫。こっちでユーノ司書長を焚きつけるから。そっちも高町一等空尉にそれとなく頼む」
「う~ん、………分かった」

その話はそこで終わり。
僕とハラオウン執務官はその後は自分の分の食事を早々に終わらせて世間話をしていた。
最近のミッドはどうだとか、本局の高官の不倫がどうだとか、クソノ提督からの仕事が多いとか。
僕の愚痴をハラオウン執務官が聞いてくれたり、ハラオウン執務官の近況を僕が聞いたり。
それなりに楽しい時間を過ごした。

「じゃあ、また今度」
「うん、またね」

僕達はその場を後にした。
ユーノ司書長と高町一等空尉の結婚の話。
僕達はお互いの微妙な立場の上で言っているわけだけれど。
彼らのことよりも自分達のことの方を先に片付けた方がいいのかな。

「ほんと、どうしよう」

仕事は出来ても恋愛となったらからっきしだ。









「ふ~」
「フェイトさん、お疲れですか?」

椅子の背もたれに体重を任せると疲れがどっとやってきた。
どうも彼と話すのは疲れる。
いや、悪い意味じゃなくてすごく気持ち言い疲れなんだけど。
何を自分で自分に言い訳しているんだろう。

彼と話すのは上の人間と話すのと違った疲れ、気持ちいい緊張がある。
自分が恋する乙女をやっているのはおかしいけれど。
それでも、ああやって一緒に話していられるのはすごく楽しい。

「大丈夫だよ。ティアナ」
「そうですか?でも、すごく楽しそうですね」

ティアナの入れたコーヒーを受け取って一口飲む。
最近ティアナが私の好みを把握してきたみたいで、いつ飲んでも少し甘めだ。
部下として優秀なのはいいけど、優秀すぎるのもどうだろう。
執務官補佐として連れてきたのはいいけど、教えられることが少ないと教える側としては悲しいな。

「そ、そうかな?」
「はい。頬が緩んでますよ?」
「うぅ、ティアナ意地悪だよ」
「フェイトさんが分かりやすいんですよ」

これでは上司の面目が立たないではないか。
それにしても私はそんなに解りやすいだろうか。
コレでも執務官になってから数年経って、さまざまな事件を経て成長したはずなのに。

でも、確かにこのごろの私は解り安すぎるのかもしれない。
この前、なのはとあったときにも簡単に当てられてしまったし。
どうしよう、このままでは仕事に支障をきたしてしまう。

ならどうすればいいのだろう。
彼と会わないようにすればいいのだろうか。
それは無理だ。
出来る自信がない。
彼と話しているのは楽しい、多分コレが好きだという感情なんだと思う。
けど、それを制御できないせいで仕事が出来なくなるのはダメだ。

「ティアナ。私、どうすればいいのかな」
「何をですか」

机にうな垂れてティアナに聞いてもいい言葉はもらえない。
すっかりぬるくなったコーヒーを口に含んでも微妙な甘さが口を満たすだけで何もいい案が浮かばない。
ダメだなぁ、私。

「ホントどうしよう」
「フェイトさん、大丈夫ですか?」
「でも、それよりまず、なのはとユーノのことだよね」
「は?なのはさん?」

あの二人を結婚させることが重要だ。
思い立ったらすぐ行動しよう。
まず、はやてと連絡を取って相談して。

「よし、がんばろう!」
「私、フェイトさんのことが分からなくなりそうです」

そうやって私の夜は更けていった。






======================================================




あとがき


恋愛って難しいですね、書いててどう表現するか迷う迷う。
いろいろ多角的に書いてみたいと思ってるんですけどwww

※ネタバレというか、この作品の裏事情

実はこの作品、書いているうちに裏設定が出来る出来るw
出来た設定を頭の中で集めていると主人公がリリカルの本編に参加できないようになってました。











[16683] 07
Name: チーカMA◆06189430 ID:79d4e75b
Date: 2010/03/21 20:35
07




「良かったのかな」
「当たり前だろ」
「でも、僕たちだけ休暇を取るなんて」
「あいつらが僕達に仕事を押し付けた報いだよ」

真夏の太陽を大きめのパラソルで防いで出来た影の中でユーノ司書長と意味もなく喋っていた。
男というのはどうも不遇な目にあうことが多い。
例えば今、力仕事はすべて僕達にまかされて女性陣は更衣室に行った。

いや、僕とユーノ司書長も着替えているのだから時間的には十分のはずだ。
しかし女性というのは性なのか、着替えるのに非常に時間がかかるらしい。
これは僕の妹、アリスと買い物に行った過去の話ではあるが、かなりの時間を待たされたことがある。

僕とユーノ司書長は女性陣、高町一等空尉とハラオウン執務官、そして二人の娘であるヴィヴィオちゃんを待っている間、不毛な会話を続けていた。
海水浴場であるこのビーチには多くの人がいる。
カップルや家族連れなど、あとナンパしに来たと思われる男。
大型の海水浴場と比較すれば十分に少ない部類に入るのだが。
人気がある海水浴場であるらしく、基本的にはカップルや家族連れが多い。

「ユーノくん、お待たせ」
「なのは!」

海の家の方から現れたのは高町一等空尉とその娘さんのヴィヴィオちゃんだ。
ヴィヴィオちゃんは今日始めてあったのだけれど、いい子ではあった。

「あれ?フェイトはどうしたの?」
「ユーノ司書長、それはアウトだ」

ユーノ司書長の言葉に高町一等空尉はお怒りの様子………ではなかった。
どうやらユーノ司書長のことを良く理解しているらしい。
ただ、不満そうな顔をしていたけれど。

「え?ああ、………なのはが可愛いのは当たり前じゃないか」
「え、そうかな?」

嬉しそうに顔を赤らめているのを見てユーノ司書長はどこのジゴロかと苦笑してしまった。
ユーノ司書長のこの惚気を他の局員達に聞かせてやれば、袋叩きにされるだろうな。
そんなことを思いながらこのカップルの様子を眺めていると視界の端に入った女性に目を奪われた。

白い肢体を覆う群青のビキニ、その上にパーカーを羽織り、柔らかそうな金色の髪に麦藁帽子が載せられている。
お見合いのときの私服と制服以外の姿を見るのは初めてだけれど、これはすごい。
なんというか、言葉が出ない。

「ジン、………どうかな?」
「あ、えと………」

なんと言えばいいのだろう。
期待に満ちた目で見られているのは解る。
ここでなんといえばいいのかもわかる。
けれど、言葉が出ない。

「………すごく似合ってる。なんていうか、かわいい」

最後の方はかなりの小声になってしまって自分でも聞き取れるか聞き取れないかぐらいのものだった。
それでも勇気を振り絞っていったのだから許して欲しい。
誰に許しを請うのかは別として。
目の前にいるハラオウン執務官の姿を直視できない。
というか、顔が熱い。
下を向いてなんとかごまかしているけれど、すごく赤くなっているだろう。

「うん」

ハラオウン執務官の返事も頭の中に入ってこない。
というか、その姿しか映らない。
自分はこんなに初心だっただろうか、確かにこういった付き合いはなかったけれど。
でも、まさかこんなことになるとは思わなかった。

マルチタスクを総動員して何か別のことを考える。
しかし、すべての思考にハラオウン執務官の水着姿が焼きついていて離れない。
ユーノ司書長や高町一等空尉、ハラオウン執務官、果てはヴィヴィオちゃんまで心配そうに僕を見ている。
さすがにこのままではマズイ。
僕は意を決して顔を持ち上げた。

「えと、遊ぼうか?」
「そ、そうだね」

どうやらハラオウン執務官もかなり戸惑っているようだ。
僕はおどおどしながら立ち上がって、それに気が付いた。

「荷物番………どうする?」
「「「あ」」」

ユーノ司書長、高町一等空尉、ハラオウン執務官から同じ言葉が出た。
ヴィヴィオちゃんは何のことだかわかっていなさそうで、首をかしげていた。
これは誰も考えていなかったようだ。
海で遊ぶにしても誰かが荷物番をしていないといけない。
まぁ、実際に忘れたままで遊んでいたらと思うと恐ろしいけど。
実行してしまう前に思い出してよかったと思う。

楽しみにしていた高町一等空尉、ハラオウン執務官に荷物番をさせるわけにいかない。
かといってヴィヴィオちゃんにさせるには幼すぎるし、ユーノ司書長は論外だ。
今回の旅行はユーノ司書長と高町一等空尉の中をさっさと進めるためのものだ。
ユーノ司書長はそれとなく煽っておいたし、ハラオウン執務官の方も高町一等空尉にそれとなく言ってくれたはずだ。

このことから必然的に荷物番は僕になる。
どんなに理論的に考えたところで一個人の主観が入ったただの逃げだけど。
別に泳げないわけじゃないんだ。
ただ、余り塩水は好きじゃないだけだ。

「僕がやるからみんなは遊んできてよ」
「ジン、いいの?」
「ユーノ司書長は高町一等空尉と遊んでくるといいよ」

僕は再びパラソルの影の中に座り込む。
ハラオウン執務官がなんともいえない顔をしているけれど、それはどういった感情だろう。
ヴィヴィオちゃんは状況がわかっていないようだが遊んでいいということだけは解ったらしい。
高町一等空尉の手を引いて海へと向かった。

ユーノ司書長は僕の様子を見て諦めたらしく、大人しく二人を追っていった。
これで残ったのはハラオウン執務官だけだ。
僕が動かない様子を見ると、諦めたような顔をして僕の隣に座り込んだ。

「いいの?」
「何がですか?」
「ほら、せっかく海に着たのに」
「それはジンも同じでしょ」
「なるほど」

僕達は座り込んだまま、海辺で遊んでいる三人を眺めていた。

「ねぇ、ジン」
「何かな?」
「ジンはどうしてユーノやなのはのことを階級で呼ぶの?」

時間が止まった気がした。
もちろん、僕の中で。
常に稼動しているマルチタスクの全てが一時的に停止してその言葉の理解を拒否した。

僕はたっぷりと時間をかけて思考の停滞を解いていった。
ハラオウン執務官が何故そんなことを言ったのかを考え、それを放棄。
次に僕が何故彼らのことを階級付けで呼ぶのかを考えようとして拒否。
最終的に僕が出した答えは―――

「ごめん。言えない」

―――だった。

「そっか………。私、ジュース買ってくるね」
「………うん」

ハラオウン執務官はそう言って影から出て海の家の方へ向かっていく。
僕はそれを見送るのではなく、海の方をただボーっと見ていた。
何故、階級で呼ぶのか。
そんなの解りきっている。
僕が破綻しているからだ。

思考の一本化して腐り落ちるような感覚。
ここ数年、いやこの世界に生まれてから初めてだろう。
僕が僕であるために存在する核。

僕がことあるごとに言う「僕は破綻者だ」という言葉には意味がある。

ハラオウン執務官が疑問に思っていることはこれに直結することでもある。
僕は破綻者だ。
それに固執している。
いや、依存していると言ってもいい。
僕は何よりもこの言葉を必要としている。

この世界に生まれて、両親に育てられて、兄さんがいて、アリスがいて。
僕は変わった―――。

―――表面上は。
僕は破綻者であることを止めたと思っている。
だけど、それは表面上のことで心の奥、核心に迫る部分では未だに破綻者だということに依存している。
それが悪いとは思わない。

不器用な人間だと、僕は僕を評価する。
不器用な人間なりに不器用に生きている。
僕が破綻者であることに依存しているのはその結果だ。

「だからといって何かが変わるわけでもないか」

今まで上手く生きてこれたのだ。
これからもそうなるように。

「祈るだけ」

それでいい。

「何をだい?」
「ユーノ司所長」
「やぁ、ジン」

先ほどまで海で高町一等空尉と遊んでいたはずのユーノ司書長がそこにいた。
僕はどうかしているのだろうか。
最近、とみに感覚が鈍っている。
前まで普通に気づいていたことに気づけない。

ダメだ、僕は一体どうしたのだろうか。
その原因に心当たりがありすぎる。

「なんでこんなところにいるんだ。高町一等空尉は?」
「君がつまらなさそうな顔をしているからね」
「そんな理由でか?」
「君こそ、フェイトを楽しませないとダメだよ」

ユーノ司書長の言葉を僕はどこか他人事に感じていた。
何をやっているのだろう。
僕はこんなところで何をやっているのだろう。

「なぁ、ユーノ司書長。僕、フェイトさん好きなのかな?」
「何、今更」
「なんか、全部滅茶苦茶にしたい気分になってきた」
「ダメだよ。そういうのは」
「そっか」
「そうだよ。それにね―――」

ユーノ司書長は僕の隣に座り、たっぷり時間を使った後言った。

「―――ジンは、ただ変わるのが怖いだけなんだ。本質的なところでね」

その言葉はストンと僕の中に落ちてきた。

ユーノ司書長はなんでもないように言った。
なぜユーノ司書長がそんなことを言うのかさえ解らなかった。
彼の目は先ほどの僕のように海辺で遊んでいる高町一等空尉とヴィヴィオちゃんを見ている。
その目は澄んでいて、別人のように見えた。

僕は破綻者だ。
その言葉に依存して逃げている。
それがユーノ司書長には解っていたのだろうか。
僕が見ている彼はとても大きく見えて、彼が大人に見えた。

「………そう、かな」
「うん。そうだよ」

そうか。
そうなのか。
僕は怖いのか。









彼は怒ったかだろうか。
私の態度を見て怒ってしまったかもしれない。
そんな恐怖が私を覆った。

「ダメだな、私」

人の内側にズケズケと入っていってしまうのはなのはの影響だろうか。
それに私自身、触れられたくないところだってあるのに。
本当に彼に嫌われてしまったかもしれない。

「はい、お嬢ちゃん。オレンジジュース、二つ」
「ありがとうございます」

さっさと受け取ったジュースを持ってパラソルの元に戻ろう。
そして謝ろう。

そう決意して少し足を速める。
言えないと言ったジンは何か苦しんでいるような気がした。
そんな彼に私が何を出来るだろう。

私も彼のように触れられないところがある。
彼がそれに触れてきたときに、私は彼を拒絶せずにいられるだろうか。

なのはやユーノは知っているのに、ジンだけが知らない。
それを私は許せるだろうか、彼がそれを許してくれるだろうか。

怖い。

最近になってだろうか。
最初に会ったお見合いの時、彼はユーノの言っていたような人だった。
次にあった本局の中で彼は少し違って見えた。
それから会うたびに少しずつ彼は変わっているようだった。

でも、私はそれが気のせいだと思った。
彼は不思議の人だったから。
私が出会ってきた中でも特別不思議な人でドコを見ているのか解らない目をしていた。
だから私は気のせいだと思った。

けど。

「今日は変だったな」

そう。
今日の彼は変だった。
不思議ではなく、変。
どこかいらだっているような、でも落ち着いているような。
まるで母さんを見ているようだった。

「フェイトさん!」
「ジン!?………どうしたの?」

目の前に現れた彼は走ってきたようで、肩で息をしていた。
かなり疲れている様子だったから、駆け寄ってジュースを渡す。
受け取ったジンは一気にそれを飲んでしまった。

せっかく買ってきたのだからもう少し味わって欲しかった。
と、どうでもいいようなことを考えた。

それよりもどうしたのだろう。
ジンが息を切らせて走ってくるなんていうことをしそうにないことをしたのだ。

「フェイトさん」
「な、なに?」

思わず、ドキッとした。
とても真剣な目だった。
今まで見たこともないような目だった。

「僕は、………俺はあなたが好きです!ずっと一緒にいてください!!!」









「僕は、………俺はあなたが好きです!ずっと一緒にいてください!!!」

この人がたくさんいるビーチで、俺は叫んだ。
俺はフェイトさんが好きだ。
好きになっていた。
だから怖かった。

破綻者だということに依存していた。
それが僕の心の拠り所だったから。

変わることが怖かった。
自分の中にある特別の部分を壊すのが怖かったから。

僕は特別を望んでいた。
平凡な生ではなく、特別な人生を。
誰でも出来ることじゃなくて、僕にしか出来ないことを。
そう望み続けていた。

だけど、吹っ切れた。
ユーノの言うとおりだった。

俺は今までの自分を手放すのが怖くて、何かを受け入れることが怖かった。
ただ、自分の殻に閉じこもっていただけ。

そんな僕から変わろうと思う。
僕が変わる原因、フェイト・T・ハラオウンを好きになってしまったこと。
彼女と話すことが楽しくて、一緒にいると嬉しくて、どうしようもない感情が芽生えて。
これが好きなんだってわかった。
それを受け入れようと思う。

俺はフェイトさんが好きだ。

「………えっと、こちらこそよろしくお願いします」

そういった彼女の顔は赤に染まっていた。







======================================================




いろいろと考えて逆に何を書いているのかわからなくなるような話でした。
とりあえず作者の力不足のため補足が必要な話なので補足。

主人公は破綻者破綻者と言っていますが実際は特別であることを望んでいるただの子供です。
それが前に出るか出ないかの話。
あと、自分の心の動きについていけていないので言っていることが意味不明に。
真ん中くらいのところの破綻やら依存やらと言っているところはそういうことです。



それは置いておいて。

この作品、ユーノってすごく大人なんですよね。
自分で書いていてユーノってこんなキャラだっけって思うように………。
とりあえず作品としてもっと上をいけるようにがんばりたいと思います。

………自分で書いててフェイトの水着姿を見たジンが羨ましい。









[16683] 08
Name: チーカMA◆06189430 ID:79d4e75b
Date: 2010/03/21 20:36
08




空に高く投げ上げられたブーケ。
それを目で追い、花束を手に入れようと声が上がる。
遠巻きに見ている分には式の一興として楽しめる。
けれど、ブーケを必死に追いかけている女性たちの形相を見ると男としてはげんなりとするものがある。

俺の回りには男連中が集まっている。
軽く見回してみると、各々思うところがあるのか、それとも現実を否定しているのか。
様々な感情がありありと浮かんでいた。

「しかし、あの二人もとうとう結婚か」

隣にいる男、クロノ・ハラオウン提督。
新郎新婦と古くからの付き合いがあり、現在新郎の上司にして心労の原因。
ついでに言うなら、無限書庫での憎い人間ランキング堂々の第一位。

「遅いと思います?」
「あの二人ならいつくっついても、おかしくないとは思っていたよ」

俺もそうは思っていたが、かのJS事件が終わるまでは連絡もまともになかったと言っていたが。
そんな二人がどんな紆余曲折を経て付き合うことになったのだろう。
まぁ、終わった後は頻繁に会うようになっていたからある意味必然かもしれないが。

この世界。
否、この星でこの二人が出会ったのは必然あったのだろうか。
ならば、その後に起きたすべての事件もまた必然?
俺自身がここまで来たのも必然だったのだろうか?

「いや、考えても意味ないか」
「なんだ?」
「なんでもないです」

そう、俺が考えたところで何も変わりはしない。
今わかっていることは、ユーノと高町さんが幸せであるということくらい。
いつか、俺もあそこに立つことになるのだろうか。

魔法で強化されていたのか、遥か高く上がったブーケが落ちてきた。
集団の中心辺りに落ちたブーケは誰が掴んだのだろう。

歓びの声と共に周りからは残念そうな声が聞こえてきた。
男性陣はそんな女性陣の様子に苦笑し、新郎新婦は楽しそうに笑っている。
自分達の幸せのおすそ分け。

たしか、ブーケを手に入れた人は次に結婚ができる………だっただろうか?
だったら、どうしてクロノ提督の奥さんがあの人ごみの中にいるのだろう。
あの人、もう結婚してるよな。

「クロノ提督、あの―――」
「言うな。言わないでくれ」

どうやら、クロノ提督も俺と同じことを思ったらしい。
自分の妻だからこそだろうか。

そしてブーケを手に入れた女性が集団から現れた。
その人はとても嬉しそうな顔で此方に向かってきて―――

「―――やったよ、ジン!」
「ああ、よかったね。フェイト」

思いきり突撃の姿勢をとって胸に飛び込んできた。
それをはやし立てるような周りの声、男性陣からは羨望の目、女性陣からも羨望の目。
新郎新婦は苦笑しているが。
そして隣ではクロノ提督が非常に不満そうな顔でこちらを見ている。

「おー、お二人さん。熱々だね~」
「それはあっちに言ってください」

クロノ提督の奥さんがはやし立ててきたので、新郎新婦を指差す。
すでに女性陣の興味は新郎新婦に向かっているし、俺達を見ているのはクロノ提督とクロノ提督の奥さん、エイミィさんくらいだ。
つまり、この二人しか俺達を気にはしていない。

新郎新婦がこの場から去っていくのをここにいる人々はとても輝いた目で見ている。
それは憧れだろうか。
祝福だろうか。
俺の横で二人の背中を見ているフェイトの目は憧れだった。
だったら俺の目はどんな感情を表しているだろう。









披露宴も終わり、二次会さえ終わった後。
三次会に高町さんの実家が選ばれ、一同がそこに向かっている。
といっても、二次会の場が高町さんの両親が経営している翠屋なのだから、押して謀るべきだが。

すでに正装から普段着に着替えたユーノは同じく普段着に着替えた俺の隣を歩いている。
無限書庫の司書たちは仕事があるので、クロノ提督に連れて行かれ、その監督としてクロノ提督も去っていった。
今いる男性陣といえば、俺とユーノ、フェイトが保護責任者をしているエリオ君、そして高町さんの親族の二人だけだ。

対して女性陣は多い。
前を歩いているメンバーだけでも新婦やフェイトを入れた五人組み、さらに高町さんの姉、そしてフェイトが保護責任者のキャロという子。
それなりに大所帯だ。

しかし、はっきりと男女が別れてしまっている歩き方。
いや、エリオ君だけは女性陣に混じっている、顔を赤くして下を向いて歩いているが。
男性陣は結局、俺とユーノ、そして高町さんのお兄さんだけ。

「なぁ、ユーノ」
「なんだい、ジン」
「今、幸せか?」
「ああ、最高に幸せだよ」
「そっか、それは良かった」
「君はどうなんだい?」
「最高に幸せだよ」
「フェイトと一緒にいられて?」
「そうだろうな」

最近、自分の中で確固たる自意識、つまり前世の人格が失われつつあるのを感じる。
それは俺が変わる決意をしたからなのか、それとも破綻者から変わる決意をしてそれが少しずつ影響しているのか。
少なくとも、俺は昔ほどどこか危ない感じはしないと兄さんに言われるようになった。
そして自分でも変わったという自覚はある。

「ただ、このままでいいのかなとは思うよ」
「このままって?」
「俺がフェイトと一緒にいていいのかなって」

あの時、あの夏の日。
俺はフェイトにずっと一緒にいてくださいと言った。
それにフェイトは答えてくれた。
しかし、それは一緒にいるだけなのだろうか。

わからないけど、それでいいと思う。
相手のことをすべてわかる必要なんてない。
フェイトがどう思っているかはわからないけど、それでも俺はフェイトが好きだ。
そしてフェイトもそれに答えてくれた。

「なんで?好きだっていったんだろ?」
「ああ、けど。言葉にしては言われてないんだよな」
「それは君がフェイトちゃんのことを信じ切れていないということじゃないかな?」

後ろで俺達の話を聞いていた高町さんのお兄さんが会話に入っていた。
信じきれていない?確かにそうなのかもしれない。
俺はフェイトが好きだ、けど、フェイトはどうなんだろう。

好いてくれているとは思う。
けど、それを言葉にして聞かないと安心できない。
ああ、信じきれていないのか。

「そうですね。信じられてないようです」
「それを肯定するのはかっこいいことじゃないよ?むしろ、かっこ悪いことだ」
「かっこ悪い………ですか?」

かっこ悪いのか。
俺はかっこ悪いのか。

「こんなときに言うことではなかったね。でも、一つだけ覚えておくといい」
「………はい」
「フェイトちゃんは強い子だよ」

フェイトは強い。
確かに魔導師として彼女は強い、でも彼はそのことをいっているのではないのだろう。
心が強い。

俺は彼女のことを知らない。
そう、昔のことなんてしならないし、時折見せる彼女の憂いの理由を知らない。
それでも俺の弱さを肯定して、包み込んでくれるような暖かさを持っている。
フェイトは強い、俺と比べ物にならないほど。

「そうですね。フェイトは強い」
「なのははもっと強いよ」

ユーノが自分の奥さんを自慢する。
いい雰囲気というか、いいことを言われていたのに。

「惚気るな、このボケ」
「きょ、今日ぐらい惚気たっていいだろ!」
「そうだな、ユーノ君。今日は君となのはが主役だ。存分に惚気ろ」

高町さんのお兄さんのその時の目は鋭かった。
恐怖で身震いがするくらい。
怖ぇ………。









三次会。
浴びるように飲んだ酒。
男集団で飲み明かした酒宴の後は、つまみや酒の空き瓶がテーブルに無造作に置かれて一種、惨状になっていた。
ソファーや床に倒れるようにして眠っているのはジンやユーノ、恭也や士郎など飲み比べをした男達。

「まったく、よくもまぁ。ここまで散らかせるもんだよね」
「まぁまぁ、なのは。でも、みんな幸せそうに寝てるね」

なのはとフェイト。
二人で部屋に散らばったゴミを次々と片付けていく。
その二人と共に台所で片付けているのは高町桃子。

なのはは飲むだけ飲んで眠ってしまった男連中にあきれ果て、それをフェイトがなだめる。
ユーノやジンが絡むとこんな形になるのが定番と化してきた。

「ねぇ、フェイトちゃん」
「何、なのは?」
「フェイトちゃんはいつ結婚するの?」

フェイトの動きが止まる。
なのはは相変わらず散らかされた缶ビールやつまみをひょいひょいとゴミ袋に入れていく。
その動きにはよどみがなく、慣れているようにも見えた。

「け、結婚!?」

ようやく再起動したフェイトは眠っている男連中が起きそうなほどの音量で叫んだ。
時間はすでに深夜、近所迷惑になるとなのはは駆け寄ってフェイトの口を塞ぐ。
ムグムグとフェイトが抑えられた口からなのはの手を離そうとしたところでなのはは手を離した。

「フェイトちゃん、いきなり大きな声はダメだよ」
「ご、ゴメン」

肩を落として謝っているフェイトになのはは少し大人びた視線を向けた。
結婚した、その事実が今のなのはの中での成長に一役買っているのだ。
二人ともすでに二十歳だ。
こちらの世界でも成人として認められるのと同時に、大人としての風格が徐々に出てくる時でもある。

しかし、幼い頃から管理局で仕事をしてきたなのはやフェイトはさらに成長が早かった。
大人たちが多くいる中での生活は彼女達に大きな影響を与え、同時に成長を促した。
それの弊害として成長が遅れた部分ももちろんある。

子供から大人への成長の中にある変化。
急激に成長したなのはやフェイトにはその期間が極端に少なかった。
幼い頃から他人に迷惑をかけないようにとある種、歪な成長をしたなのは。
プロジェクトFによって歪な生まれ方をし、同じく歪な成長をしたフェイト。

彼女達は社会、または人への適応力を上げる弊害として大人と呼べる者たちに備わっているべき、『強さ』というものが欠如していた。
いや、彼女達の中には『強さ』というものはあるだろう。
しかし、それは多くの大人たちの持つ強さとはどこか違うものだった。

彼女達は芯が強いと表現される部類の人間だ。
それは強い力を持ち、それを必要されることが立脚点であったから。
なのはならば自らの“魔法”を役立てること。
フェイトならば、自分の“存在”を必要としてもらうこと。
その想いが強いが故に彼女達は正しくあり、そして強い。

しかし、それだけではダメなのだ。
人間は正しいだけでは生きていけない。
なぜならば“責任”があるからだ。

誰かと関わることで生まれる絆、そして何かを得ることで発生する“責任”。
それが二人になかったと言えば嘘になる。
しかし、彼女達が真に強いかといえばそれも嘘になるのだ。

「私はね、結婚するのが怖かった」
「なのは?」

フェイトはなのはの様子が何時もと違うことに気が付いた。
どこか、とても大きなものを見ている気がする。

「今までも確かに責任というものを感じてたんだよ」
「なのは、どうしたの?」
「でもね、ユーノ君に結婚してくださいって言われて怖くなった。私はこのままでいいのかなって」

なのははフェイトの言葉に返事をせずに独白を続ける。

「私なんかがユーノ君と一緒にいていいのかなって」
「………なのは」
「私はこんなにも弱いのに、ユーノ君と一緒にいていいのかなって」

高町なのはは弱い。
それがなのはが自分に対して下している評価である。
確かに魔導師としては一流だろう、なのはは自らの上司から言われたことがある。
そしてその言葉にこう続くのだ。
だけど、お前は子供だ。

「私、子供なんだなって良く思うの。とくにユーノ君と一緒にいるとき」

迷い、揺らぎ、思春期特有の不安定さがなのはの中で生まれたのは最近だ。
本来ならばもっと早くに起きたはずのその揺らぎは、なのはのような特殊な状況、大人と対等に仕事をするという状況においては発生しづらい。
したとしても、それはどこか歪な価値観が生まれてしまう。

「でもね、ユーノ君は言ってくれたんだ。一緒に大人になろうって」

その言葉がすごく嬉しかったんだ、となのははテレながら言う。
その独白と一通り聞いたフェイトはなのはの顔をじっと見ていた。
何かを探すような顔で。
自分はあんな顔が出来るだろうか、と内心で思う。

「だから私はユーノ君と結婚できたの。一緒に大人になって、一緒に年をとろうって」

ユーノのプロポーズの言葉。
一緒に大人になって、一緒に年を取ろう。
ずっと一緒にいよう。

ジンとユーノはどこか似ている。
それはなのはやフェイトも同じ、どこか似ていて、でも決定的に違うところがある。
ユーノやなのははジンやフェイトの一足先を行く。

「フェイトちゃんはジン君と結婚しないの?」

なのはは再度そう聞いた。

「なのは、フェイトちゃんももう遅いから寝なさい。後は私がやっておくから」

フェイトが言葉をつむぐことが出来ず、それでも何かを言おうとしたところで高町桃子が現れた。
彼女はなのはとフェイトの背中をその朗らかな笑顔で押して、寝室へ行くように促す。
そして居間の扉から二人が出て、足音が遠くなったのを見計らって口を開いた。

「ジン君だったわよね。あなたはどう思ってるの?」
「バレてました?」
「ええ。これでも私、すごいのよ?」
「確かに高町さんの母親だけはありますね」

ジンが仰向けに倒れていた床から上半身を起こす。
彼が起きていたのは途中から、ちょうどなのはの独白が始まった辺りからだ。
動くに動けなかった彼はそのまま目を閉じて彼女達の会話を聞いていた。

「それにしても、ユーノがそんなことを言ったとは」
「ジン君はフェイトちゃんの恋人………だったかしら?」

その柔らかな笑顔をジンに向けている桃子の顔はおせっかいな母親のものだった。
しかし、そこには確かに若人を思う大人の優しさがあった。
桃子が片づけているのを見て、ジンは手伝いますとテーブルの上を片付け始めた。

「俺は恋人だと思ってます」
「あら、俺はってことはフェイトちゃんは思ってないのかしら?」
「いや、そういうことじゃなくて。向こうも思ってくれてると思うんですけどね」
「確信がない?」
「まぁ、そういうことです」

ジンは手を止めて桃子の方を見る。
相変わらず桃子は笑顔をその顔に乗せ、片づけを行っている。

「フェイトちゃんは貴方のこと好きよ?」
「それはわかってるんですけどね」
「なら、何が不満なのかしら?」
「なんというか、言葉にしてもらわないと不安なんです」

ジンの言葉に桃子の笑みが深まる。
その目はほほえましいものを見ているような、そんな目だった。

「あら、子供なのね」
「そうですね。俺は、子供です」










======================================================




あとがき


文才をください。
書いてて意味不明の話。
前回の終わり方が終わり方だっただけにどうにも続きが………。
でもこういう話は書かなければ終わりに向かっていかない。

ということで次回完結予定
終わるかな~、多分終わる?

いろいろと決着というか
恋愛ものはよほど文才がないとダラダラと続くだけになってしまうなァ~、と書いてて思いましたw

とりあえず、文才がないから補足

ジンは少し成長しました。
ジンからフェイトへ好きとは言ったけれど、フェイト自身は「好き」とは言っていない。
あくまでジンの告白を受け入れただけ。
文中でその描写がうまく表現できなかったのがくやしいですね。






ここからはレス返し

>細川◆9c78777e

あの話、もともとはユーノのプロポーズを書くつもりでした。
紆余曲折のうちにこんなことに………。
ジンは幸せ者ですよねwww


>reki◆29d9cc4f

タイトルですか………w
もともとは04で終わらせるつもりだったので魔法『雷落し』からタイトルを取ったんですよw
アレが書きたくて書いたssだったりしますw
それが、どうしてこうなったんだろうwww







[16683] 09
Name: チーカMA◆06189430 ID:79d4e75b
Date: 2010/03/21 20:58
09




結婚式の翌日。
深酒をした面々が起きたのは昼を過ぎた頃。
新郎新婦は明日からの新婚旅行のための最終調整に忙しく、他の面々は各々の仕事や用事に取り掛かっていた。

そして俺、ジン・フラグメントと言えば結婚式の手伝いのために多めに取った休暇が残っており、高町家にお世話になっている。
目を覚ました時点でほとんどの人が起きており、寝ているのは俺とユーノだけだった。
遅めの昼食を食べた頃には女性陣とエリオ君はすでにおらず、いるのは高町さん一人、その高町さんもユーノを連れ立って先ほど出て行った。
こうして、この家にいるのは俺と高町恭也さんの二人だけだった。

さらに言うなら酒に強い俺でも飲みすぎたせいで軽い二日酔いに悩まされているのに対して恭也さんはまったくその様子がなかった。
酒に強いのかと聞いてみると、鍛えているとの言葉が返ってきて、鍛錬してくると道場に向かっていった。
居間に一人残された俺はソファーに腰掛け、恭也さんに入れてもらった水を飲んでいた。

「どうしようかな」

誰もいない高町家の居間でどうするべきか悩む。
フェイトと何処かへ行こうにもそのフェイトがいないし、この海鳴市の地理関係を良くは知らない。
地図は一通り、この街に来る前には頭の中に入れてはいるが、知識と経験は違う。
そもそも、方向音痴とまでは行かないけど疎いといえば疎いのだ。
帰って来れる自信もないのに、迂闊に外に出ることが出来るだろうか。

「ただいま~」

そんな風に思考で遊んでいると、玄関の方から声がした。
女性の声、誰だろうか。
この時間だと、高町夫妻はないだろう、同じ理由でユーノたちもありえない。
とすれば高町さんのお姉さんだろうか?
いや、この声は違うだろう。
マルチタスクを使って同時に考えながら心の中でははっきりと答えは出ていた。

「お帰り、フェイト。って、他人の家でこれも変かな?」
「ただいま、ジン。どうだろうね?」

お互いに笑顔でそんな会話をする。
フェイトが手に持っているのは、スーパーの買い物袋だろうか?
もしかしたら昨日食べ過ぎたせいで冷蔵庫の中の食材がなくなった………とか?
確かに俺とユーノ、恭也さんで食べ比べに飲み比べはしたけど。

「フェイト、それってもしかして―――」
「男の子ってあんなに食べるんだね。エリオも良く食べるけど、みんながそうだとは知らなかったな」
「ごめんなさい。反省してます」

買ってきた食材を冷蔵庫に入れているのを身ながらふと思う。
ここって高町家だよな?なんで、フェイトが当たり前のようにやってんだ?
それを聞こうとして。

「なんだ、フェイト。戻ってきてたのか」
「恭也さん。お邪魔してます」

恭也さんが道場から戻ってきていた。
彼はフェイトが冷蔵庫に買ってきた食材を入れているのを見て罰の悪そうな顔をした。

「すまんな。客にそんなことをやらしてしまって」
「いいんですよ。私も好きでやってることですから」

恭也さんはすまなさそうな顔をしている。
フェイトはそれに笑顔で返している。
ただ、それだけだ。
ただ、それだけのことなのに………。

気に入らない。

「フェイト、ちょっといいかな?」
「何?」
「それが終わった後でいいんだけど、この街案内してもらえないかな?」
「え?でも、一度来たことあるんじゃ」
「いや、その時はまともに観光なんてやる暇なかったし………」

俺の言葉にフェイトはしばし考えるしぐさをすると、少し待っててねと言って冷蔵庫に向かった。
そのやり取りを見ていた恭也さんは、得心の言った顔で俺の方を見ている。
彼の何か言いたそうな顔がひどく癇に障った。

「何ですか?」
「いや、なんでもないぞ。しかし、若いのはいいことだ」

そう言って少し汗を流してくるかと再び道場に向かってしまった。
自分が子供だと言われているようで釈然としない。
俺も一応男なのだ、子供だなんて言われて素直に納得できるはずがない。
つまり、ただの嫉妬だ。

「なんだかな………」

ソファに深く座り込んで溜め息をつく。
いつからこんな人間になってしまったのだろう。
昔は多少人間味が薄かったとはいえ、この程度のことで心を揺らすことはなかったというのに。
これが俗にいう弱くなったと言うことなのだろうか。

「どうしたの?」
「ふぇ、フェイト!?」

目まぐるしく回る思考から現実に目を向けると目の前にフェイトの顔。
ちょうど覗き込むような視線で俺を見ているので、顔がひどく近い。
心臓が飛び跳ねるような感覚と共にばねのように俺は顔を離した。

「人の顔を見て驚くのは失礼だよ」
「ごめん」

どうも頭が上がらない。
昨日の会話を聞いてしまったからだろうか。
彼女が俺をどう思っているのか、知りたくて仕方がないのに怖くて聞けない。
何より自分が不安定な彼女を支えてやるべきだ、だけどそこまで気が回らない。
自分の器の小ささに苛立ちが募る。

「終わったから、いこっか」
「あ、ああ」

俺はフェイトに連れられて高町家を出た。









商店街、高台、図書館を徒歩で回った頃に夕日が傾き始めた。
しかし、フェイトはまだ行く場所があるといって俺の手を握っている。
フェイトがここまで積極的なのは珍しい。

ミッドでのデートでもそれほど積極的ではなく、二人でなんとなく歩いて話す。
そんな何時もの光景ではなく、今はこうして俺が手を引かれている。
男としてこれはどうなのだろう。

両親や兄さんが見たら笑われてしまいそうだ。
そんなことを考えながら、フェイトの足並みにあわせて歩いていく。

「ねぇ、ジン」
「な、なに?」

こちらに向いたフェイトの行動は早かった。
商店街にあった女性が好みそうなかわいらしいものがある店で買ったチェックのハンカチを取り出し、俺の目を隠す。
それをする際、フェイトより幾分かは背が高い俺はフェイトに抱えられる形になった。
人が余りいないところで行われたのでそれほど奇異の目で見られることはないだろう。
けど、そんなことは関係ないくらい恥ずかしい。

当たっているのだ。
その、フェイトの胸が………。
フェイトの行動が早く、避けることが出来なかった俺は速やかに抱え込まれた。
頭を押さえつけられるようにして前のめりになったのだ。
そして俺の目をハンカチで覆い、それを後ろで持っていたピンで留める。

どうして後ろに回らなかったのか聞きたいところだけど、それを聞いたらマズイ。
何よりも俺が変態と思われてしまう。

「これでよし」
「何がよしなんだ!?」

思わず叫んでしまう。
人の気配がわかるほど敏感でもないので、魔法でサーチャーを出そうとするがフェイトに止められる。
一体、どうしろと?

そう思うとまたフェイトに手を引かれた。
今度は慎重に、ゆっくりと引いている。

「ふぇ、フェイト?」
「少しの間、それでいて?」

すごく甘い声で囁かれる。
心臓がバクバクと擬音が聞こえそうなくらい高鳴った。
これは一体どういうことなのだろうか?

思考を無理やり逃げる方向にシフトして、現状の把握から意識をそむけた。
俺も一応思春期を迎えたし、前世での知識もある。
これはそういうこと?
いや、でもフェイトに限って………。

今までの経験からフェイトがやりそうなことを考える。
しかし、答えはついぞでない。
そもそも、恋愛ごとは未だに苦手なのだ。
フェイトと一緒にいる時だって不安だし、こうやって目を隠されてしまうとさらに不安になる。

「フェイト、いるよな?」

心配になって聞いてしまう。
ああ、なんて情けない。

「いるよ」

また甘い声で答えられ、少し笑われた気がする。
ふふっと、すごく楽しんでいる様子でだ。

「なぁ、フェイト。これ外して」
「ダメだよ、目的地までは」
「も、目的地?」
「そう、目的地。あとちょっとだから」

そういってフェイトは手を握っているだけだった状態から腕を組んだ。
また心臓が飛び跳ねる。
それを気取られないように必死に自制心を働かして、体に出ないようにする。

フェイトは何を考えているのだろう。
昨日の話の中で、フェイトは何を考えたのだろう。

結婚。
それをフェイトとするのかと聞かれれば、俺もわからない。
考えたことは………ある。
けれど、それは現実味があるといえるようなものではなくて―――。

そう、まるで夢物語のようだった。
誰かを好きになって、こんなにも思いつめるのは初めてだ。
それがいいことなのか、悪いことなのか。
そんな感情さえも忘れてしまうほどの感情の迸り。

ユーノはそんなものを味わったのか。
子供、その言葉が俺の中で反芻される。
そう、俺は子供だ。

周りの人間に比べれば、俺はただ前世の記憶を持っているだけの子供。
思考の放棄ではない。
やることなすことじゃなく、感覚が子供なのだ。

きっと、俺の姿を見て大人だなと思ってくれた人もいる。
けど、俺はユーノほど優秀じゃないし、あそこまで世界をまっすぐに見れない。
どこか自分の理想で世界を語り、自分の内側に逃げる。

独り。
そんな言葉に悦に入り、快楽という麻薬に浸っていた。

「ついたよ」

突然、目隠しが外された。
先ほどから、かすかにしていた潮のにおいが今ははっきりとわかる。
そして視界に広がったのは海に沈む夕日をバックにこちらを見ているフェイト。
どこか幻想的な光景だった。

「私ね、ジンのこと好きだよ」

突如、その言葉がフェイトの唇から零れ落ちる。
それは俺がずっと望んでいた言葉。
だけど、いざ言われてしまうとその言葉はひどく安っぽいものに聞こえてしまう。

「私はジンのこと、好き。ジンは?」
「俺もフェイトのこと、好きだ」

自信を持って、だけどどこか流されるように。
そう答えた。
フェイトが好きな気持ちは変わらない。
けど、それは―――。

「本当に?」
「当たり前だろ」

―――どこか虚構じみたもの。
人を好きになるのに、理由なんて要らない。
口先ではそういうだろう。

一目惚れじゃなかった。
けど、深い理由があるわけでもなかった。
ただ最初はかわいいなと思って、何度も会ううちに、話すうちにいつの間にか好きになっていた。

「ジンは私に言えないこと、たくさんあるよね」
「………うん、ある」
「それは私も同じ。私もジンに言えないこと、たくさんある」

フェイトは俺から視線を外し、沈む夕日に振り返った。
俺は動けず、いや動かずにその姿を眺める。
怖い、とその背中が語っていた。

「私はジンに私の全てを知って欲しいって思う。けど、知られてジンに嫌われることが怖い」

フェイトはほかに誰もいない場所で夕日を見つめている。
俺に何が言えるだろうか。
自分の好きな人が迷っている、苦しんでいる。
だけど、それは俺も同じ。
あの夏の日と同じ状況で、だけど決定的に違う。

あの時、俺達はお互いに好きという感情はあっても、それを表現することは出来なかった。
あの時、俺は自分のことしか考えていなかった。
あの時、俺はただ伝えることだけ、フェイトのことを考えていなかった。
あの時、俺達はお互いに気持ちを伝えていなかった。

そして何より決定的なのは―――。

「ジンはどう?」

―――あの時、ユーノがいた。

俺の親友で、俺よりも先に行っていて、そして俺を諭してくれた。
そんな親友が今はいない。
俺一人で考えて、それに答えを出さないといけない。
だれもアドバイスなんてくれない。
俺は俺の気持ちに俺だけの答えを見つけないといけない。









「俺はフェイトが好きだ」

私の想いを彼はどう受け取ったのだろう。

「フェイトが俺のことを好きだって言ってくれてすごく嬉しい」
「………うん」

彼は一体私になんと言ってくれるだろう。
心が昂る、だけどそれは喜びじゃなくて恐怖。
もし、彼が私の過去を知ったら、どういうのだろう。

―――私は創り物の人間なんです。

昔も今も、みんなこのことを否定してくれた。
けど、私の中で今でも決定的に残っているのだ、母さんの言葉が。
私はクローンだ。
創られた人間だ。
その事実は変わらないのだ、いくら否定したとしても………。

「だけど、俺はフェイトのこと全然知らない」

私もジンのこと、全然知らない。
私とジンはお互いに知らないコトだらけだ。

「それは俺がフェイトに言えてないだけじゃない。フェイトに知られて、フェイトになんて思われるのかって思うとすごく怖い」

さっき私が言ったことと同じだ。
私の全てを知って欲しい、けど知られて嫌われるのが怖い。
一緒なんだ、私とジンは。

「でも、きっとそれでいいんだ」
「え?」

思わず声が出てしまった。
彼の言葉を最後まで聞いていようと思ったのに。
それでも彼のその言葉に思わず声が、でた。

―――それでいい?私のこと、しらなくてもいい?

「俺はフェイトがどんな秘密を持っているのかは知らない、でもフェイトも俺の秘密を知らない」

知らず振り返っていた。
彼の顔は夕日に当てられて、赤く染まっている。
けど、その目だけはしっかりと私を見ていてくれた。

「独りよがりかもしれない、フェイトのことを正面から見ていないのかもしれない。けど―――」

彼が一歩前に出た。

「―――それでも俺はフェイトが好きだから」









「―――それでも俺はフェイトが好きだから」

そうだ、揺れる思いの中でもそれだけは確かなこと。
俺が彼女を好きなこと、それを疑う必要がどこにある。
自分を知ってもらうこと、確かにそれも大事だ。

「それだけわかればそれでいい。俺はフェイトと一緒にいたい。フェイトがいないとダメだ」

大事だけど、ただ大事なだけ。
お互いのことを知る。

確かに大切なことだ。
でも、それがどうした。
相手の秘密を知って、自分だけが知っていると優越に浸りたいのか?
自分のことを知ってくれている人がいることに安心したいのか?
そんなことのために俺はフェイトを好きになったのか?

違う。
そんなのはフェイトに対する冒涜だ。

俺は例えフェイトがどんな秘密を抱えていようが関係ない。
俺がフェイトを好きになったのだ。
だったら、その気持ちに従って俺はフェイトを好きでいたらいいんだ。

「俺は確かにフェイトのことで知らないことなんてたくさんある。けど、それをフェイトを苦しめてまで知りたいと思わない」
「………私は」

フェイトが言葉を紡ごうとする。
だけど、それは果たせない。
俺が先に言葉を紡ぐ。

俺は口下手だからうまくいえないけど、それでも俺の言葉を聞いて欲しい。
答えを求めるんじゃない、答えは決まっている。

「互いの秘密、知らなくてもいいだろ。フェイトが俺を好きでいてくれる。俺にはそれで十分だ」

お互い秘密があるのを知っている。
だけど、それをわざわざ詮索しない。
話したいと思った時に話せばいい。
相手が自分を嫌わないと思ったならば話せばいい。

何も全てに決着をつけないと前に進めないわけじゃないんだ。

これが俺の答え。
俺は決着をつけないことを選ぶ。

「フェイトは―――」
「好きだよ」

言葉が遮られる。
今度は俺の言葉が。

「私はジンが好き。ジンが私を好きでいてくれるだけでいい」

綺麗な笑顔だ。
金色の髪が夕日に当てられ、オレンジ色に輝く。
涙の溜まった瞳は、それでも笑っていた。
これまで見た中でもっとも綺麗な笑顔。

「俺もフェイトが俺を好きでいてくれるだけでいい」

一歩前に出る。
また一歩。

互いに前に出て、距離が近くなる。
唇が触れそうな距離にまでなった時にどちらからともなくその言葉がでた。



「「ずっと一緒にいてください」」










======================================================





あとがき



えー、終わりました『雷落し』
自分で言っていてこう実感がないんですが、終わりコレでよかったのだろうか?
文才がもっとあったら、構成もちゃんとしたいい話がかけるんでしょうが今はコレが精一杯です。

主人公に言いたいことを言わせようと無茶しました。
『すべてをきっちりしないでもいいんじゃないか?』
恋愛に関して、特にフェイトは自分がクローンであること、ジンは自分が転生者であること。
どちらも人と人との関係の軋轢になり得る秘密ですよね。

フェイトの方は理解者はいても、それがすべての人に理解してもらえるわけじゃない。
自分の好きな人に否定されたらどうしようというのはあると思います。

対してジンの場合は誰にも言っていない。
両親や兄弟は不思議な子で何かあるんじゃないかと思っていますが、はっきりはさせていない。
やはりフェイトと同じく否定されるのではないかと怯えている。

そんな二人の恋愛ですが、この形が一番理想じゃないかなって。

と、最終話の話はここまでにしておいて。


この物語『雷落し』ですが、題名に関しては前にも述べたとおり、04の某物語シリーズの技を出したいばかりにつけた名前であり、それに対する後悔はありません。
ただ、それから派生した恋愛シリーズですがいつしかそれがメインに。

ジンとフェイトの物語はコレにて完結ですね。
ネタがないですしw




以下、レス返し



>にょっき◆51cd04fc

ありがとうございます。
感想に関してはもらえるだけで嬉しいのでw
いい意味で裏切られたというのは最高の褒め言葉ですw


>日ノ本春也◆06204c16

恋愛編を始めてから絶対にやろうと思っていたユーノとなのはの結婚。
これなくしてジンとフェイトの発展はないと思っていたのでw
喜んでいただけて幸いですw







※お知らせ

登場人物の設定などを書こうかと考えているんですがどうでしょう?
作品に出ているキャラなら本編に出てきていない設定があったりしますw
ただキャラの設定を忘れたりしてそうなので、ただ書くだけなら『ジン』『フェイト』『ユーノ』くらいになると思います。
実は詳しい設定があるのが『ジン』と『ユーノ』だけだったりwww
感想で書いて欲しいキャラを上げてくれると嬉しいです。






[16683] 設定
Name: チーカMA◆06189430 ID:79d4e75b
Date: 2010/04/15 01:35
登場人物設定

特殊付与とは………『トリッパーが保有する世界からの贈り物。原作に関わらないものに対しては恩恵となり、原作に関わるものに対しては枷となる』

名前:ジン・フラグメント
性別:男
肩書き:無限書庫副司書長
特殊付与:『成長』
≪本編の主人公、原作と関わらずに過ごしたため、特殊付与は強力な物が与えられている。
学べば学ぶだけ、鍛えれば鍛えるだけ成長する。ただし、本人は学業方面にのみ特化している。
原作終了後に初めて原作勢と関わることになる。
破綻者であることに拘る『僕』から強くあろうと決意し一人称を『俺』と改める。
ただし思考の方向性から『僕』『俺』の使い分けは存在する。
初心ではない。
自らの恋心を自覚しても行動に移すという勇気はない。
発破をかけられて初めて動く受動的なタイプ。
家族構成は両親、兄、妹の五人家族。
シスコン。
優秀すぎるために無限書庫からの異動は認められず、本人も望んでいない。
ストライキの際にユーノを焚きつけ、自分は最後まで生き延びた。
魔導師としては二流。
本編終了後、フェイトと籍を入れることになる≫


名前:ユーノ・スクライア
性別:男
肩書き:無限書庫司書長
特殊付与:『精神制限』
≪ジンの親友。実は転生者。
最後まで生かすことのなかった設定ではあるが、特殊付与に『精神制限』が架せられている。
原作を忠実に再現するために世界から与えられた枷。効力は思考の制限。
無印、A’s終了後、この付与による制限は弱まることにある。
StS時に再び起動。
原作終了後に特殊付与は消滅、その後抑えられていた成長が再び促進することになる。
本編で一番頭がいい。
恋愛編におけるキーパーソン。
彼いなくしてジンの成長はなかったとさえ思える人物。
ちなみに転生前は三十路の所帯持ち。
なのはのことは一目惚れ≫


名前:フェイト・T・ハラオウン
性別:女
肩書き:執務官
特殊付与:なし
≪恋愛編ヒロイン。
原作終了後にユーノとなのはが付き合うことになったifの可能性の人。
恋愛ベタ?改悪だったと反省してます。
特に設定らしい設定がない人。
作者の経験値上げに一役買ってくれた人でもある≫


名前:高町なのは
性別:女
肩書き:一等空尉
特殊付与:なし
≪ユーノの恋人、後の妻。
原作終了後にユーノに告白され、受け入れる。
その後、フェイトのことを気にしながらも自らの幸せを手に入れる。
本編には関係ないが、高町恭也と月村忍の結婚式でブーケを取ったのはこの人。
優秀なエースオブエース。
現在溜まりに溜まった有給をユーノとの時間に消費中。
ユーノとの結婚でフェイトとの間に精神的に差がついた≫


名前:クロノ・ハラオウン
性別:男
肩書き:提督
特殊付与:『精神操作』
≪ユーノの上司、憑依者。
本編には出てこない設定その2。知らなくてもいい事実。クライド・ハラオウンが死亡した際に憑依した。
ユーノと同じく原作に関わるために特殊付与として『精神操作』が世界から付与される。
効力は読んで字のごとく、ユーノのよりも強力。
本編では無限書庫全司書の敵。
世間一般でのイメージは出来る人間。
無限書庫を生かさず殺さずで運営している人。
何気に作品中一番のハイスペック。
ただし、現在は妻に尻にしかれ、娘に振り向いてもらおうと必死な父親。
シスコン≫


名前:ユーリ・フラグメント
性別:男
肩書き:執務官→提督
特殊付与:なし
≪ジンの兄で理解者。
よき兄で幸せモノ。
途中からまったく出てこなくなった。
優秀な人間で在り、上の信頼も厚い≫


名前:エリー・フラグメント(旧姓ヒューズ)
性別:女
肩書き:提督秘書官
特殊付与:なし
≪ユーリの秘書官兼妻。
本編終了後にユーリとの間に二児を設ける。
無限書庫に良く差し入れを持ってきてくれるいい人。
無限書庫にファンクラブが存在する≫


名前:アリス・フラグメント
性別:女
肩書き:なし
特殊付与:なし
≪ジンとユーリの妹。
ブラコン≫


名前:バーティ・キン
性別:男
肩書き:無限書庫司書
特殊付与:なし
≪新人司書の一人、非魔導師。
親友のトーマスと日夜競っている≫





世界設定

リリカルなのはの二次創作。
主人公以外にも何人かのトリッパーが存在している。
転生の括りで15人、憑依の括りで5人ほど。
そのほかに迷い込みも数人。
本編にはトリッパーは4人登場している。


トリッパー

所謂オリ主。
世界観的に言うならば部外者。
世界を移動する際に何らかの影響を受けて、特殊性を持つことになる。

原作キャラに憑依、転生した場合は原作を忠実に再現するように強制される。
所謂歴史、物語の修正力。
具体的には精神干渉など。

原作に関係ないところに発生したオリ主ならば、逆に恩恵を与えられる。
所謂『最強』なんていうことができる能力を与えられる。
原作にまったく関わらず本編に関わらなかったオリ主の中には『魔力SSS』『空間干渉のレアスキル』といった所謂痛い人たちもいた。
本編に関わった場合ははっきりとした効果がでてこないタイプ。




*あとがき*


いわゆる変わった二次創作を書きたくて書き始めた作品。
最初の頃はただ『インディグネイション』を出したかったためにいろいろを設定を考え、StSに介入させようかと考えたりした。
でも世界観的に考えて原作に介入させるのは無理だろうと…。

無限書庫に入れたのはノリだったりする。
まず、『雷落し』という魔法から考えて、それを創るにはどうするかという形を考えこういう形にした。

無限書庫ストライキ戦争について

これについては多くを語るまい。
ただそれまでの仕事内容に関しては生かさず殺さずが当たり前だった。
原作よりひどくなっていると気づいたのは投稿した後。
二次創作に毒されている自分に気づいたので、後付け設定でクロノが優秀で無限書庫の有用性をっていうことにした。

恋愛に関しては本当にまったくといっていいほど考えてなかったりする。
感想があったので書いてみたけれど、自分の狭い見識の中で上手く表現できたかは謎。
フェイトはこんな子じゃない!という人はたくさんいたはず。

04の夢落ちについては、StSに介入は無理だと気づいて急遽書いた。
「そうだ、夢落ちにしよう」
風呂に入って思いついたりする。
風呂って偉大だw

すべての恋愛の話で悩まなかったことはないくらい、苦労した。
特にジンがフェイトに告白する話は特に苦労した。
何回も書き直して書き直して、気に入らなかったから全削除しての繰り返し。
かなり急いだ感があるけど、いいよね。
短編だから。


この作品を書くきっかけが『雷落し』だったのでタイトル変更はしません。

あと、この設定について。

本編のことが好きな人は読まないほうがいいと思うなw
設定を書いているうちにいろいろと台無しだ!と思ったりしたw

けど、反応が見てみたい気もするので投下します。
このあとがきを見て読者はなんて思うんだろう。



最後に

このような作品を読んでいただいたすべての読者に感謝を。
番外編は………あればいいな



[16683] 番外編 A rainy day
Name: チーカMA◆06189430 ID:79d4e75b
Date: 2010/04/15 10:20
番外編 A rainy day




その日は雨が降っていた。
空が泣いているみたいだと言うと、隣から笑い声が聞こえた。
何で笑っているのかを問うと詩人みたいだと笑いながら答えられた。
詩人、なんて似合わない言葉だと自分で思った。

せっかくの日曜日、それを潰されたのにそれほど苛立ちはなかった。
空は厚い雲に覆われて、太陽を覆い隠している。
そんな日もたまにはいいかなと心の中で呟く。
いつも快晴ばかりでは心が疲れる、たまには休みがあってもいいだろう。

「似合わねぇ………」

げっそりした顔で呟いた。
それを聞いたフェイトがまただといった風に呆れている。
どうも、彼女は俺のことを俺以上に知られているらしい。
最近ではプライベートという言葉が形式化しつつある。

束縛したり、されたりするのは好きじゃない。
それをどこかに飛んでいってしまいそうだと評されたこともある。
隣にいると不安になるそうだ。

いつの間にかいなくなってしまうんじゃないかって思うんだ。

同居を始めたその日に言われた言葉。
やけに頭の中に残っているのは、その時の顔が今まで見たことがないような顔だったからか。
どこか寂しそうな、何かを想っている顔だった。

「なぁ………、どこか出かけよっか」
「でも、雨が降ってるよ?」

俺の何気ない提案に、即答される。
確かに窓から見えている光景は雨一色だ。
そんなのわかりきっているけど、フェイトはその次の言葉を聞こうと思っているんだろう。
まったく、俺のことをわかっていると思わされる。

「車でなら出れるだろ?」
「運転、私だよね。それ」

ジト目で見られるけど、それほど責められている気はしない。
仕事の関係上なのか、本人の趣味なのか、フェイトは車を持っている。
それもかなりの高級車だ。
対して俺は仕事の関係上、車の免許なんて取る暇がなかった。
何よりほとんどが転送と公共の移動機関を使えば問題がなかった。

「フェイトの運転してる車に乗るの、俺好きだよ?」
「隣に座ってるだけだからね」

ハハハと笑って誤魔化す。
フェイトのジト目は変わらず俺を見ていたが、わかったと言って立ち上がった。
隣にいたフェイトの暖かさがなくなって少しもったいないような気がしたけど、提案した手前自分から取り下げるのはきまりが悪い。
フェイトが車の鍵を取ってくる間、十分ほどの時間を窓から外を見て過ごす。

二人して戸口に立ったときのフェイトは部屋にいるときのような無防備な姿ではなく街行く女性の姿だった。
化粧というのは本当に女性を変えるものだ、なんて思うのは男の勝手だろうか。
少なくとも、俺の周りに居た女性というのはほとんどが美人だったのでなんともいえない。
職場の男性陣が羨ましがることもあるくらいだ。

「しかし、案外時間掛かったな」
「何がかな?」

鍵を閉めているフェイトから言い知れぬ威圧感が生まれた。
そこで俺が失言をしてしまったことに気づく。
そして俺が意図した方向で取られたわけではないことにも気づき、フォローを入れる。

「俺達の関係」
「なるほど。………仕方ないんじゃないかなぁ」

俺の言葉をちゃんと理解してくれたようで威圧感は消えた。
ただし、その後の言葉が若干呆れているというか、諦めを感じさせた。
確かに俺とフェイトは、あのお見合いから約四年を経ってようやくだ。
対してユーノとなのはは付き合い始めてから一年も経たなかった。
あの二人を基準に考えるのは間違っているかもしれないけど。

「ほら、いこっ」
「うん」

差し出された手を取って歩いていく。
このマンションで一緒に暮らし始めて一年がたった。
といっても、俺もフェイトも本局で仕事しているし、お互いに忙しいから家で会うよりも本局で一緒にいる時間も多い。
お互い、休みの日にこの家に戻ってきては掃除して。
休みの日がそろったら二人でデートに出かけたりする。
そんな一年だった。

「ねぇ、どこにいくの?」
「うーん。考えてなかった………」

車に乗って車を出すところでそんな会話がなされる。
何それとフェイトから呆れられ、とりあえず適当に走ろうと提案する。
それからフェイトと俺、気の向くまま雨の街を走った。
俺達の住んでいるマンションがあるベッドタウンから街の方に出てきてからは、交差点に出くわすたびに右に行こう、左に行こうと言い合った。









「なんか、変な感じだね」
「うん?」

車を降りてカフェに入った。
ちょうど昼時だったから、腹持ちのいいものを注文する。
お互い特に何かを喋ることなく食事を終え、コーヒーを飲んでいる時にフェイトがそういった。

「こうやってさ。雨の日なのに外に出て、ぶらぶらするの」

確かにそうだ。
フェイトとデートなんていうと大抵が晴れの日。
雨の日は家の中で家のことをやるなんていうくらい、もしくは友人宅に転がり込むとか。
ユーノ宅に二人して転がり込むのは良くあることで、雨の日は特にその頻度が高い。
どちらからともなく行こうと言い出して、電話で確認を取って上がりこむ。

ユーノたちもそんな俺達になれてしまったのか、電話をするとすぐにOKをくれる。
そこになんというか、罪悪感を感じないわけではないけれど。
それでも止めないのは、甘え………だろうか。

「でも楽しいだろ?」
「うん」

会話もそこそこに店を出た。
この後、どうするかと考えながら駐車場に向かう。
結局、それらしい答えは出ずに二人で一つの傘に入って歩く。

フェイトも何も言わずに何かを考えているような顔でいる。
俺達は似たもの同士………なのだろうか。
そんなことを考えて歩いていると駐車場の横を過ぎてしまった。

「あ………」

フェイトの声で駐車場を過ぎてしまっている事に気づいた。
だからといって今更方向転換して戻るのもきまりが悪い。
俺はそんなことを思った。

「ちょっと、歩こう」
「………うん」

フェイトは少し迷った後、そう言ってくれた。
その後、なんとなく二人で歩く。
雨の中の街並みというのは、いつもと変わって見えた。
なんとなく沈んで見える。
けれど、同時に澄んでいるような気もする。

「ねぇ、ジン」
「何?フェイト」

歩いていくうちに、少し開けたところに出た。
ビルとビルの間。
その間に小さな公園がある。

「私ね、怖いんだ」
「うん?」

子供の頃を思い出してというと嘘になるけれど、大きな空洞になっている遊具の中に入った。
前世で子供だったときは友達とよく中に入って遊んでいたりした。
秘密基地だーッ、とか言って………。

「今、すごく幸せだよ。ジンが私を好きでいてくれることも、私がジンを好きでいられることも」
「うん」

ただ頷く。
これは俺が答えを出していいものではない、となんとなく察した。
きっとフェイトは聞いて欲しいんだと思う。
だから、俺はただ頷く。

「でも、その幸せは私が手にして良いものなのか。わかんないんだ」

それからフェイトは言葉を続けた。
時折、言葉を詰まらせながら。
涙を流しているわけじゃない。

ただ、とても苦しそうな表情なのはなんとなく察しがついた。
俺達の視線は外に向いている。
二人で寄り添うようにして遊具の中に座り込んで外を見ている。
俺にはそこが俺達だけの世界のように感じた。

ただ、俺達の世界の外は彼女の心を示すように雨が降っている。

「私の秘密。ジンに話してないよね」
「ああ」
「ユーノやなのは、私の親友は知ってるんだよ?」
「うん」
「悔しくないの?ジンは知らないんだよ?」
「悔しくないよ」
「どうして?」
「どうしてだろ?」
「疑問で返すのはずるいよ」
「フェイトもそういう言い方はずるいだろ」
「うん、ずるいね」
「ああ、俺達はずるいんだよ」

坦々と言葉をつむいでいく。
思ったことをポツリポツリと。
意味なんて、………ないのだ。

「ジンはあの時、私に話したくなったら話してくれたらいいって言ったよね」
「うん」
「ジンはジンの秘密、話したくなった?」
「どうだろうな」

雨の向こうには何も見えない。

「ジンは私のこと、どう思ってる?」
「好きだよ」
「うん、ありがと」
「フェイトは俺のこと、どう思ってる?」
「大好き」
「ありがと」

茶番だろうか。
こんなことを続けて、いつまでも続けて、死ぬまで続けて。
そうしてお互いの秘密を黙ったまま死んでいく。

別にそれでいいじゃないか。
仕事に影響しない、プライベートも表面上はうまく行っている。
お互い、好きあっている。
それでいいじゃないか。

お互い黙ったまま、雨の音だけが流れていく。
雨で冷やされた空気が遊具の中の空間を染めていき、次第に寒くなっていく。
俺とフェイトは無意識のうちに体を摺り寄せていた。
お互いが喋らなくても同じような行動をしている。

「明日、だよな」
「うん、明日だね」

俺の呟きに答えるようにフェイトが呟いた。
そうだ、明日だ。
そう思うと胸が熱くなる。
それだけじゃない、幸せな気持ちになってくる。
だけど、どうしてそれがフェイトがいう怖さにつながるんだろうか?

訊きたい。
そう、思ってしまった。

「フェイト」
「何?」
「………フェイトの秘密、教えてくれないか?」


―――雨はまだ降り止まない。









「そっか」

どちらからともなく、そんな言葉が零れた。
三十分、いや一時間、それとも二時間以上だろうか。
俺達はそこで身を寄せ合っていた。

そしてお互いの秘密を語った。
俺もフェイトも相手のことなんて考えてなかったと思う。
ただ、自分の身を守りたいと思ったと思う。

嫌われたくない。
そんな思いが終始胸の中に渦巻いていた。

「フェイトは強いな」
「ジンこそ、強いよ」

お互いに強い強いと言い合う。
そんなことはほんの数分で終わり、沈黙が場を支配した。

その中で考える。
雨は次第に小ぶりになっていき、厚い雲の切れ目から光が差し込みかけていた。
フェイトはどう思っているのか。
俺はフェイトをどう思うのか。

俺はフェイトが思っているほど、強くはない。
人を疑うことを知らないわけじゃないし、人を疑わないことを選択できるほど強くない。
何時も疑ってしまうし、人の話を信じることもできないような臆病な人間だ。
俺が集めた知識も自分のために使う。
そんな矮小な人間だ。

なら、フェイトはどうなんだろう。
フェイトは俺が思うほど、強い人間じゃないだろうか?
創られた人間だから、人間じゃない?
そんなわけがない、フェイトは俺以上に人間らしい人間だ。

ただ、一つだけ言いたいことが出来た。
それを伝えよう。

いや、伝えたい。

俺は隣に座っているフェイトの手を握った。
そして立ち上がる。
遊具は子供の大きさを想定して作ってあるので、成人男性の慎重を持っている俺には少しいやかなり小さい。
かがんだ状態でゆっくりと遊具の中から出る。
雨の小降りからほとんど止んだ状態になっていた。

ああ、状況は十分だ。
ここでいえなきゃ、男じゃない。

「フェイト」

握った手を離し、今度はその体を優しく抱きしめる。
周りには誰もいない。
この公園は俺とフェイトのオンステージだ。
誰にも邪魔はさせない。

「さっきの言葉、訂正するよ」
「さっきの言葉って?」
「好きって言葉」
「え?」

呆然とした。
で、いいのだろうか?
フェイトの反応はまさにそれだった。
俺の言っている意味がわからない、そんな風に思える。

腕の中のフェイトが暴れる。
信じられないものを見るような目で、俺を見ている。
拒絶された、そう目が語っていた。
恐れていたことは現実になってしまった、と。

多分、こうなると思っていた。
だから、俺はフェイトを抱きしめている。
逃がさないように。
この暖かさを俺の手から逃がさないように。

俺はフェイトを間違いなく傷つけた。
その埋め合わせはこれからいくらでも出来る。
俺は口下手だから、上手くいえなかった。
もっと綺麗に纏めたりできるならこんな思いをさせずに済んだだろう。
いや、そもそも思わなければよかったのかもしれない。

でも、俺の心は変わってしまった。
好きではなくなってしまった。
きっと、この気持ちは好きなんてものじゃなくて………。
もっと大切なもの。
この気持ちは―――

「―――愛してる」

その時、フェイトの動きは止まった。
もう一度、言おう。
今度はもっと気持ちを込めて。

「俺はフェイトのことを愛してる」
「……ぅ……あ」

フェイトが戸惑っている。
それがとてつもなく愛らしいと思う。
きっと、これからも俺は彼女のことを愛し続けるだろう。

それは最後の一線だったんだ。
お互いの秘密、お互いに踏み入れられない領域。
それが心の奥深くにあった。
それがわかっていたから、俺もフェイトもいえなかった。

それを知ってしまった時に相手に拒絶されるかもしれない恐怖。
そして拒絶された時に自分が傷つくのを恐れて。
なんて、利己的なのだろう。
けど、今は関係ない。

「ようやく胸を張って言えるよ。俺はフェイトのことを愛してる」
「………うん」

そこでようやくフェイトが答えてくれた。
空の雲は切れ間を見せ、その間からは光が差している。
そしてその光が虹を作っていた。

少しの間、お互いに黙っていた。
今日はどうしてこんなに沈黙が多いのか、なんてことも余裕ができた思考の端で考える。
そんな時間が少し続いた後、フェイトが俺の腰に手を回した。
これでお互いに抱きしめている形になる。

「あのね、ジン」
「うん」

ゆっくりと俺の方を向いたフェイトの顔は笑っている。
目の端に少しの涙をにじませて。
でも、その顔を今までみたどんな表情よりも綺麗だった。


「私、ジンのこと―――」










―――愛してる










それはある雨の日のこと。












おまけ

Next day




前日の雨のせいか、少し澄んだ空気の日。
朝早くから集まった人たちはロビーで談笑していた。
その中には管理局の高官もおり、新婦の兄となにやら会話をしている。

他には何時もならば仕事漬けである無限書庫の司書たちや、旧機動六課の面々たちも居た。
そしてそのメンバーのほとんどがユーノとなのはの結婚式に来ていた人間だったりする。
そんな大物や忙しい人間達を呼び寄せたのは今日の主役二人。
正確に言うならば、その主役達の親類が呼び寄せたわけだが。

主役達は自分達のことで手一杯であり、新郎の兄夫婦、新婦の母親に任せていた。
そうしたら、どういうことか親友や同僚だけでなく、管理局のお偉いさんまで来ることになってしまったのである。
新郎新婦もコレには驚いていたが、新婦の母親の楽しそうな顔を見ていると何も言えなくなっていた。

「ねぇ、なのは。これで大丈夫かな?」
「フェイトちゃんは心配性だね」

新婦の準備室とでも言おうか。
その部屋では新婦、フェイト・T・ハラオウンがウエディングドレスを着ていた。
自分の姿に戸惑っているのか、心配そうに変なところがないか親友の高町なのはに訊いている。
この部屋にいる親友達全員に聞いているくらいだからよほど自信がないのだろうか。

「あーあ、なのはに続いてフェイトが結婚しちゃうか」
「二人ともえり好みさえしなければ普通に恋人できるでしょうに」

アリサの言葉になのはが突っ込む。
二人の関係もこの数年でいろいろと変わったりしていた。
結婚したなのはがやけに大人に見えるのだと、フェイトに愚痴を言っていたりもしていたが、今日からはそれも出来ないだろう。
実際、なのはは結婚して子供も出来ているので大人の女性という風に見えるらしい。
少なくとも親友間では………。

「フェイト!」

バンッと扉が勢いよく開いた。
その扉から入ってきたのは彼女の使い魔であるアルフだった。
小さな子供の形態でいるのはフェイトの消費魔力を減らすためだとかなんとか。

「すごく似合ってるじゃないか!」
「ありがとう、アルフ」

とても嬉しそうにフェイトが微笑む。
それは本当に幸せそうな表情だった。

「あら、やっぱり私の娘だけあるわ」
「お母さん」

アルフがあけた扉から現れたのはフェイトの母、リンディだった。
その姿は未だに美しいという言葉を与えられるのにたる美貌を保っている。
新婦の母親というには些か若すぎると思われる容姿だが、年相応に落ち着いた雰囲気がちょうど良い綺麗さをかもし出していた。
そんな母親であるリンディがとても優しい顔でフェイトに聞いた。

「フェイト。あなた、今の心境はどう?」




「………すっごく幸せだよ」










===================================================


あとがき

お久しぶりです、チーカMAです。
番外編 A rainy day

いかがだったでしょうか?
久しぶりに筆?を取ったため、どうも書き方が前と変わってしまっているかもしれません。
この話は本編を書き終わった後、プロットというか、ネタだけ考えていたものです。

まぁ、本編のafterつまり、結婚式とその前日を書いたわけですけど。
この作品のコンセプトは愛してると言わせることでして。
そのために紆余曲折、書いては消し書いては消しとやりましたw

ちなみにおまけのnextdayはとってつけたような内容ですがとってつけたものです。
書いたはいいけど、扱いに困ったのでどうせなら乗せようと思いましたw

最終的にジンが出ずに母親であるリンディがフェイトに問う。
母は強しって奴ですねw
まぁ、この役目は母親の役目じゃないのかと思って書きました。

………ジンの方は?
男のなんて要りますか?


以上、番外編 A rainy dayでした



[16683] 君と俺との
Name: チーカMA◆3d9040a6 ID:6c698333
Date: 2010/12/07 05:31
01

最近になって導入した魔力電灯は今日も変わらず無限書庫の中を明るく照らしている。
徹夜による眠気で頭をゆらゆらとさせながら資料整理をし続けた。
この無限書庫は不思議な場所だ。
創設当時の資料が残ってないことから何かしら秘密があるのだろう。
いつのまにか増えている本は無限書庫でも不思議な現象として語られている。
いわゆるオカルトだ。

「うん。もうすぐ帰れると……思う」
『大丈夫?私が行ったほうがいいんじゃ』

椅子十時間ほど座り続けているので、身体のあちこちが痛い。
久しぶりの徹夜がきついと感じるのは自分が年をとったのかなと思う。
といってもまだ25歳。
働き盛りだし、まだまだ元気な部類だ。
きっと徹夜前にした遠出が祟っているのだろう。

「いいよ。まだ仕事あるし。後で兄貴に恨み言でも言っておくから」
『ふふっ。ほどほどにね』
「うん。じゃあ、後でね」
『後でね。旦那様』

プツンッと画面から映像が消える。
去り際になされた言葉が耳の中でリフレインされて幸せな気持ちにしてくれた。
ひとしきり幸せに浸かった後、いつのまにか増えている書類の山を見て頭を痛める。
ここ数日、放っておいたらこうなっている。
徹夜の原因の一端を担っているのだからたちが悪い。

「さて、やりますか」

軽く腕まくり。
外気に曝された肘から先の肌が感じる寒さは冬がきたことを知らせてくれる。
あの日から半年と少し。
季節は冬になっていた。

「って、詩人を気取ってる場合じゃないな」

目下やるべきことはこの文字通り山のような仕事を終わらせること。
フェイトと知り合って数年たった今では無限書庫の人員も潤沢とは言わないまでも十分な人数は割り当てられるようになった。
司書一人一人の能力も十分に高くなったし、異動いなくなったり、新しく来る人員のためのマニュアル作成もした。
つかの間ではなく、緩やかな時間を教えてくれる幸せ。
そんな数年間だった。

「ジン。君に客だよ」
「客?」

無限書庫に予算が新たに割り当てられて最初にしたことは司書室の増設だった。
ユーノ司所長と俺の事務室といったところか。
特に仕事をこなす量が多い俺たち二人の書類は邪魔だと司書たちからクレームが来たので急遽つくり上げたのが事務室。
司書たちからはその資料の多さから魔の巣窟なんて呼ばれてたりする。
実際、俺なら魔法関係。ユーノなら古代文明関係が多く、それらの多くは魔法に関わってるから言い当て妙だ。

机の上には書類、書類、書類。
顔を上げることをせずに書類の山を処理していく。

「あの、フラグメントさんでしょうか?」
「はい。無限書庫副司書長のジン・フラグメントでしたら私ですが」

若い女の声、二十歳前後だろう。
昔から特技というほどでもなかったが、声と顔で大体年齢を当てることが出来た。
前世からのことなので今は余りやっていなかったが、前世ではなんでわかるんだなんて言われるほどの的中率。
女性相手でもほとんど当ててしまい、気まずくなったことも少なくはない。

そんな無駄な俺の特技が教えてくれる相手の情報は、女、二十歳前後といったことくらい。
書類越しの会話なんて気持ちがいいものではないので、緊急措置として通信ウィンドウを開く。

「えっと、これは」
「気にしないでください。書類が邪魔で顔が見えないのは失礼でしょうから」

といっても顔は上げてないから同じようなものだろうか。
そんなことを思いついたが気にせずに文字を書き込んでいく。
フェイトに誕生日プレゼントに貰った使い勝手のよいボールペン。
地球で買ったというのだからありがたい。
郷愁のようなものを感じたが今は単に使い勝手のいいペン。
いや、フェイトがくれた大切な物として大切に使うくらいの価値だ。

「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

第一に。
無限書庫に訪れる際、相手の名前は確認しなければいけない。
そして敬語。
無限書庫に足を運ぶ連中なんて大抵はある程度の階級を持った連中だ。
そして日ごろの司書たちの姿から勘違いしそうになるが別に無限書庫の司書は管理局内ではそこまで地位があるわけではない。
あくまでそこそこに、だ。
変なところでストライキとかを起こされては困るから、ある程度自由を認められているだけで。
基本的にここにくるのは階級が上の人間が多いのである。
例えば兄貴(クロノ)とか。

「ティアナ・ランスター執務官です」
「ああ。フェイトの同僚さん」

顔を上げてみるとそこには見たことのある顔。
特徴的なオレンジ掛かった髪をストレートに下ろし、気の強そうな瞳はギラギラと輝いていたことを主張している。
見たことある顔だと思い少し考え、すぐに結婚式に来てくれたフェイトの同僚だということに思い至った。
ユーノ司書長の結婚式のときにも遠目に見たような気がする。

「それで、そのランスター執務官殿は一体どのような御用でいらっしゃったのですか?」
「はい。本日より一週間ほどこちらの方に出向という形でお世話になることになりました」

そんな設定はなかったし、連絡もなかった。
制服のポケットを適当に探ってデバイスを出して、予定表を映す。
適当に数行見てみたがそんな文字は一文字もなかった。
完全に予定外。
もしかしてユーノ司書長なら知っているのではないだろうか。

「わかりました。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

ユーノ司書長に対して恨み言を言うためのリストを軽く上げていく。
もちろんその間も手は止めずにやっているが、いい加減書類の向こう側にいるランスター執務官の姿が気になった。

「それで司書長からはなんと?」
「ジン副司書長にお世話になるようにと」
「そうですか」

デバイスを一つ取り出して、思考操作。
並列思考の内、五つほどをそちらに費やして恨み言をメールにしていく。
もちろん頭の片隅でその作業をやっておき、目下ランスター執務官の処遇について考えることを優先した。
だが、何よりもまずこの書類を整理することからはじめないといけない。
書類が塔をなし、山と化している内の数分の一を魔法で部屋の隅にある小さな机に送る。

「それ、やっておいて」
「はい?」
「書類仕事は出来るよね?わからないことがあったら、そこの棚に仕事の仕方がかかれた指南書があるから」
「わかりました」

淡々と会話を進めていく。
どうやらこういったやりとりが出来る人らしい。
仕事に関してはシビアに淡々と進めるのが心情の俺としては、こういった人とは付き合いやすい。
ユーノのように仕事と趣味を両立させてやる人間も嫌いじゃないが、普通はそんなことは出来ない。
でも、仕事にも無駄な感情を入れてしまうと仕事の効率が悪くなる。
無限書庫ではそれが特に顕著に現れて、ひどいときでは納期に遅れてしまう。
一度そんなことがあった後、今では仕事はちゃんとやりましょうという空気が出来た。

書類の山と格闘すること数時間。
ランスター執務官が来たときは朝と昼の間くらいの時間だったのが、すでに昼時を過ぎてしまっていた。
それでも書類の山を片付けることが出来たのは御の字だったし、ランスター執務官も俺の数分の一とは言えかなりの量の書類を処理したとは凄い人だ。
フェイトと会うようになってから気づいたことだが、マルチタスクというのは人によっては伸びにくいらしい。
無限書庫ではそんなことは関係なしに、スパルタで鍛えているため苦手だからと言ってはいられない。
最近の無限書庫の余裕はそういった努力が実を結んだものである。

「お疲れさん。昼食とって後はユーノの指示に従って」
「はい」

ランスター執務官は疲れた様子でそそくさと部屋から出て行った。
その後ろ姿を確認してからポケットの一つからデバイスを取り出す。
プライベートの連絡先が入ったデバイスで、一番上に登録した人に通信をはかる。

『やぁ、遅かったね』
「ごめん。少し手間取ってさ」

通信越しにむくれた顔を見せてくれる最愛の人は相変わらず綺麗だった。
金色の髪をいじっている姿はとても絵になっている。
綺麗な肌はいまだ衰えを知らせずに、同年代では羨望の的になっているらしい。

「でも、今日の分は終わったからそっちに戻れると思う」
『わかった。お昼ご飯作って待ってる』
「うん。今から帰るよ」









昼食を食べ終え、ソファでゆったりとした時間を過ごしていた。
遅めに食べた昼食は、朝食も食べていなかったお腹に刺激を与えて思った以上に食べることとなる。
おかげでソファで休んでからということになり、次の予定に間に合うか間に合わないかの時間になってしまっていた。

「ほら、ジン。行こう」
「うん」

ソファから身を起こし、手を引かれて家から出る。
隣を歩くフェイトの顔をチラチラと眺めながら、幸せな気分を満喫していた。

仕事を午前で終えた俺たち二人はこれから四日ほど休暇を取っていた。
結婚後半年にようやく取れた休暇ということで、いろんなところを回ろうという話になったりしたが結局旅行にいくことで落ち着いたのだ。
少し遅い新婚旅行である。

「そういえばフェイトの同僚がうちに来てたんだけど。あれってなんなの?」
「ティアナのこと?」

ああ、たしかそんな名前だったな。
画面越しに見た顔を思い出しながら呟く。
結局まともに顔を見ていなかった気がする。
仕事を片付けるスピードはなかなかなものだったから、これからもいて欲しいけれど。
それは執務官には無理な問題だろう。

「ミスって言うほどじゃないんだけどね。一緒に捜査していた人の不注意をカバーするのに必死になったらしくて」
「怪我したの?」
「うん。全治一ヶ月だからそれほどじゃないんだけど。今はとりあえず大事をとって後方勤務だって」
「なるほど」

ここでどうりでどこか変だったわけだ、とか言えばかっこいいのだろうか?
残念ながら格闘家や漫画の中の凄い人ではない俺にはそんなことはわからない。
普通に歩いていたし、顔色も悪くなかった。
普通に仕事していたからまったく分からなかったわけだ。

「気にするだけ無駄かな」
「そういってすぐに考えるのやめるの。ジンの悪いところだよ」

腕を組んでいるので何かしらアクションがあったわけじゃないけど。
フェイトの言葉はそれなりに胸に突き刺さった。
確かに諦めがいいとは昔から言われていたな。

「ところでジン。まずどこに向かうの?」
「自然保護区」

そこにエリオとキャロはいるはずだ。
フェイトが保護者ということになっているので、俺も何回かは会っている。
けれど会っているだけでそれほど交友関係、よく言えば家族としていられているわけじゃない。
ということで最初の二日ほど、そっちで過ごしてから目的地に向かうという予定を立てた。
新婚旅行と銘打っているけど、あんまり気にしないのが俺たちらしい。

「そっか。エリオとキャロ、元気かな~」
「元気にやってるとは思うよ」

JS事件当時のことはしらないけど、あの二人も活躍したらしい。
フェイトやなのはさんの部隊に所属していたということだけでも驚きだが、当時十歳というほうが驚きだ。
俺も対して変わらない年齢から働いていたけれど。
それでもやはり驚くものは驚く。
よくよく聞けばフェイトは九歳かららしいけど。

「フリードがなぁ」
「ジン、竜苦手だもんね」
「苦手ってほどでも……ないと思うんだけど」

初対面で襲われたことは今でも覚えている。
キャロと初めて会った時にフリードも共にいて大人しい竜だと言っていたのにキャロの頭を撫でようとしたときに炎を吐かれた。
魔法で咄嗟に防いだけど、それでもあれは驚いた。
そして同時に俺に若干のトラウマを植え付けてもいる。

ミッドの中央にある転送施設。
予約時間まで受付の人に確認してもらってから、二人して部屋に向かった。

「さぁ、行こうか。奥さん」
「うん、行こう。旦那さん」

遅めの新婚旅行。
君と俺との新婚旅行。





[16683] 今のこの時間を
Name: チーカMA◆3d9040a6 ID:139b50b4
Date: 2010/12/08 18:45



02

昼を過ぎ、おやつに買ったクレープを食みながら歩いた。
空は生憎の曇天で雨の兆しはないものの、どんよりとした雰囲気がたちこめている。
腕を組んで歩いているので何時もよりも半歩ゆっくりと。
誰かの歩幅に合わせて歩くのは苦手だけれど、それが彼女のものならそれは嬉しく感じた。

「二人との待ち合わせは確か四時だったよな」
「うん。エリオとキャロ、大きくなってるかな?」
「成長期だからなってると思うよ。エリオには背抜かれるかもな」

自分の頭を軽く押さえてそんなことを言う。
まだ齢十五のエリオには負けていないが後数年すればきっと抜かれるだろう。
フェイトは今でも追いつかれている。
初めて会ったときはまだ小さな子供だったのに、今では思春期に突入した一人の男の子と女の子だ。
管理局ではけっして珍しくない年齢だとはいえ、高校や大学に行っていてもおかしくない年齢。
仕事をしながら勉強もこなしているというハードスケジュールには頭が下がる。
そういえば、俺は最終学歴が高卒免許取得だっけ。
小学校もまともに通っていなかった気がする。

「うーん。大人としては複雑だな」
「そうだね。でも、私は二人が大きくなってくれるのは嬉しいよ?」
「俺にとっては年の離れた弟って感じだけど。フェイトにとったら娘と息子か?」
「なのかな……。ちょっとわかんないや」
「そっか」

商店街だった街並みも変わって自然の多い場所にやってきた。
この世界は自然と融和した街が多いらしく、普通に街を歩いているだけでもなかなか赴き深いものが見られる。
ガイドブックに書いてあったことを思い出してみたが実際に見てみるのとでは大きく違うことがよく分かる。
新婚旅行といってもよく分からないまま予定を立ててしまったが、こういうところにこれたのはよかったかもしれない。
このまま何もなく……いや、このまま楽しい思い出を増やしていけるように。

「綺麗だな」
「そうだね。……あ、ほら。あそこ!」

そう言って指差した先には大きな鳥。
地球いる白鳥にも似ているが、細部は異なっていた。
何よりも外縁部とは言え都市部の一地区にいるのはおかしい。
でも、白と黒のコントラスト。そして赤を散りばめたその姿はとても綺麗だった。

「綺麗だね」
「うん」

腕に掛かっていた重みから肩にかかる重みへ。
体重を預けるようにしたフェイトを感じると、喜びが自分の中を満たしてくれることに気づく。
優しい体温に心地よい重み。
自分がこの人と一緒にいることを認められているみたいで、それが夢のようで。
ほんのりと香る甘い匂いが何よりも嬉しかった。

「約束の時間まであと少しだけど、もうちょっと回ろっか」
「うん」

二人で、歩幅をあわせながらゆっくりと。
街の中をぐるりと回った。
最後に着いたのは出店が多く出ている通りだった。
この通りを進んだ先にエリオとキャロと約束した待ち合わせ場所がある。

「何か買っていこうか」
「おみやげ?」
「それもある」

けど、せっかく来たんだからフェイトに何かプレゼントしたい。
その言葉は飲み込んでおいた。
なんとなく恥ずかしい。

道を歩けば、果物屋に宝石屋、アクセサリーショップに、何か怪しげな物を売っている店まで。
中には個人的にそそられる魔法系の触媒なんてのもあったけど。
適当に歩いたところである店が目に留まった。
それは小さな露店。
道の隅っこでほそぼそと出店していて、だけどなんとなく気になった。

「あそこ、行ってみよう」

フェイトの手を握って少し小走りに。
建物の間から吹く風がフェイトの綺麗な髪を揺らした。
髪を押さえる表情も可愛くて、それが自分のものだと思うとひどく愛おしかった。

「アクセサリーショップ?」
「露店っていうんだよ」

ミッドでは見かけないから分からないか。
俺が最後に見たのも前世で一度夜に見かけた店くらいだから滅多にないのだろう。
大きな街にはそこそこあるらしいけど、ミッドはそういうのが厳しいから見つからない。

「いらっしゃい。何か買ってくの?」

店主は小さな男の子だった。
黒々とした髪を深く被った帽子で隠して、長く伸びた前髪の隙間から赤々とした瞳が探るように覗いている。
所々薄汚れた服装をして、やけにサイズの合わないマフラーをしていた。

「二人へのお土産、どれがいいかな?」
「なんでも喜んでくれると思うけど」

それだと意味ないよね。
一生懸命考えるフェイトの隣で俺も考える。
露店にある品物はなかなか幅広い。
ピアスやリングからロケットや腕輪など。
金属系が多いが、他のものも品薄というわけではなさそうだ。

「エリオのはコレなんてどうだろう?」

俺が指を刺したのは黒を基調に金をアクセントにしたチョーカーでデザインが気に入った。
何より前に一度あったとき、雑誌に載っていたチョーカーをつけた男の子を凝視していたのを覚えている。
あの年頃の男の子にはアクセサリーは大人のアイテムに見えるんだろう。

「うーん。それかぁ、だったらキャロはこれだね」

フェイトが指差したのは俺がエリオにと言ったチョーカーに同系タイプの物。
女物らしく、白を基調に銀をアクセントした物だった。
これならエリオと似たようなものになってしまうが、案外あの二人だとお揃いだと言って好みそうだなと思う。

「そうだね。そうしよっか」
「うん。じゃあ、店主さん。この二つください」

提示された金額を払ってから商品を受け取る。
黒のチョーカーに白のチョーカー。
どちらも意匠を凝らしたもので、きっと気に入ってくれるだろう。
お揃いというところになんとなく考えがあるように思ってくれるだろう。
特にエリオは思春期男子だしな。こういうことには過敏に反応すると思う。

「それと」

先ほどから目に留まっていたものを買っておく。
フェイトは違う方向を見ていたようでこちらには気づいていなかった。

「待ち合わせに少し遅れそうだな」
「大変。急がないと」

と言いつつも少し早足になる程度でやっぱりそれほど速度は出さない。
これくらいのことならあの二人も許してくれるだろう。
街並みを眺めながら待ち合わせに場所に向かう。

今はこの大切な時間をフェイトと過ごしたいのだ。








待ち合わせの場所についてみると二人はもう来ていた。
ジンの言うとおり少し遅れてしまったみたいだ。
エリオもキャロもこっちには気づいていないみたいで二人で話をしている。
フリードがキャロの膝の上で眠そうにしていた。

「待たせちゃったね」
「まぁ、少しぐらい勘弁してもらおう」

笑顔で答えてくれるジンは少し大人っぽくなったと思う。
初めて会ったときから私の一つ上ということは分かっていたけど。
それでも最近、結婚したときくらいからなんだがひどく大人っぽくなった。

それに対して自分がひどく子供っぽく感じるときもある。
自分でそんな感じだなと思うときは大抵ジンがこういうのだ。
フェイトは可愛いな、と。
なのはに相談したら二人とも天然なんだねと言われた。
そんなことないよといっても自覚がないんだねと言われてしまうのだ。

「うん。せっかくの旅行なんだしね」
「こういうのも役得っていうのかな?」
「どうだろう?」

繋いだ手を強く握った。
ジンの手は暖かい。
いつも私を暖めてくれる、繋いでいてくれる。
握り返されたジンの手は大きくて、繊細だけど少し骨ばった手だった。
頼りがいがあるのか、ないのか。
きっとどっちもジンなんだ。

優しくて、強くて、でもどこか脆さがあって。
私と同じで。
似たもの同士で、だから惹かれて。

「「フェイトさん!ジンさん!」」

こちらに気づいた二人が駆け足でやってきた。
エリオは前に見たよりもさらに背を伸ばして、その体つきも少年から男の人へと成長しようとしていた。
キャロも肩口までだった髪の毛を背中にまで伸ばして、身体もさらに丸みを帯びてきている。
肌も何もしなくても綺麗で羨ましい。

「よっ、二人とも久しぶり」
「「お久しぶりです。ジンさん」」

繋いでいた手を離して二人の頭を優しく撫でたジンの手。
先ほどまで私の手と繋がっていたんだなと思うと不思議と二人が羨ましく思えた。
最後に頭を撫でてくれたのはいつだっただろう。

「フェイトさんもお久しぶりです」
「うん、二人とも大きくなったね」

私も頭を撫でてあげようかと思ったけど、エリオの背は私より大きくなっていてもう無理だった。
二人とも本当の子供じゃないけど、私の大切な家族だ。
エリオのいつの間にか抜かれた背も、キャロの女の子らしくなった体つきもなんだが時間を感じさせられる。
どこか自分が置いてけぼりにされたような感覚。
きっとそんなことはないのに。

「少し寂しい?」
「ジンには敵わないな……」
「大丈夫だよ。俺たちも俺たちの時間を過ごしてるんだから」

二人で一緒の時間を過ごしていこう。
耳元で、エリオとキャロには聞こえないように囁かれたジンの声音はひどく優しかった。
思わずジンの腕を絡めとり、ぎゅっと抱きしめる。
前を歩く二人の後ろで私たちはまた絆を深めた。

大丈夫、私はこの人と何時までも歩いていける。
この旅行で大切な時間を感じていこう。

ジンとの大切な時間を過ごしていこう。






===================================================


あとがき


書きたいことがたくさんあるのですが、やはりこういったほうがいいのでしょう。
ありがとうございます。
久しぶりに自分の作品を読み直すとなんだが気恥ずかしくなるものがあります。
そのたびに感想を読んで書いてよかったんだと思わせていただいています。
感想はもらえるだけで励みになりますよね。

この新婚旅行編?は今後も更新していくつもりです。
どこまで続くか分かりませんし、見通しも実はついていません。
前回と同様に見切り発進です。
でも、一区切りが着くまでは不恰好でも行くつもりですので宜しくお願いします。

またも時間を空けたから書き方が変わってしまった……。



[16683] 眠り姫
Name: チーカMA◆3d9040a6 ID:f18a94b2
Date: 2010/12/13 20:09





03

季節が季節だけに日が暮れるのも早い。
エリオたちが寝泊りする宿舎の近くにあるこの街では一番大きなホテル。
その一室で夕食を終えた俺とフェイトはまどろんでいた。
エリオとキャロも誘ったのだが断れてしまっている。
確かによくよく考えてみればこれは俺とフェイトの新婚旅行なのだから、あの二人は気を使ってくれたのだろう。

せっかくの旅行だからと今まで稼いだ金を使って豪勢に過ごせるようにしてみたが、スイートルームはやりすぎたかもしれない。
部屋を見渡しただけでも、二人で過ごすには大きすぎる部屋だ。
単純にベッドだけでも大きいのに、それが部屋の大部分を占めるわけでもない。
広く取られた部屋は歩いて移動するだけの広さを持っているのにそれが苦にならない程度の距離を保っていた。

「お酒美味しいね」
「あんまり強くないから飲み過ぎないようにな」

グラスの中で揺れる赤ワインを越しのフェイトの横顔を眺める。
ずいぶん気取った行為だと思ったけど、なんとなくしてみたくなった。
テラスから見える街は光り輝いていて、シックな街並みがその美しさを助長していた。
やっぱり似合わないなと自嘲し、街の方へと視線を向けた。

「……ねぇ、エリオとキャロ何かあったのかな」

フェイトの視線は彷徨っていて一点に留まっていない。
零れるように唇から紡がれた言葉は淡く、でも聞き取れる声は澄んでいた。
エリオとキャロの様子が変だといったのはフェイトだ。
もちろん俺にはそんなことはわからなかったし、年の離れた弟妹みたいなモノだと言ってもそれはこっちが勝手に思ってること。
相手がどんな風に思ってるかなんて想像もつかない。

フェイトにも言ったことがないことだが、俺は年下が苦手だ。
前世からの運命とでも言うのか、年下に対する距離感を計りかねるのだ。
今の人生でもまともな年下といえば妹であるアリスくらいで、後は数年前から無限書庫に年下が入るようになったこと。
それも仕事以外のプライベートでいうと本当にアリスくらいしかいない。
確かにフェイトやユーノ、なのはさんは年下かも知れないがそんなことを意識するほど離れてはいなかったし。

まともに年の離れた子供というのはエリオとキャロが初めてだった。
だからか、どうしても二人との距離感が取りづらい。
どこまで話していいのか、どこまで近づいていいのか。
それが分からないのだ。
人が苦手という人はきっとこういった感覚を誰にでも抱いているのだろうと勝手に考えたりもする。
不毛な思考の果てにこんな形となったのだから救いようがないだろう。

「元気なさそうというか、なんというか」

フェイトは手に持ったグラスを回すだけでその淵に唇を寄せることはなかった。
俺も同じようにグラスを回すだけで何もしない。
二人して少しブルーな気持ちになっていた。

「なぁ、フェイト」
「なに?」
「それはきっと俺たちが考えることじゃないよ。フェイトが悲しい顔してると俺も悲しくなる。それはきっと二人も一緒だ」

だから、明日は笑顔でいような?
二人のことなんて俺は全然分からないけど。
でもきっとフェイトが大切だという気持ちは一緒だから。

テーブルに置いたグラスから手を離して立ち上がる。
フェイトの座る椅子は意匠が凝っていて、それは俺が座っている椅子も同じだった。
そんな椅子の背から手を離してフェイトの後ろへ、そして壊れ物を触るように優しく、できるだけ優しく抱きしめた。

「大丈夫だよフェイト。きっと大丈夫だ」
「うん」

悩むだけ無駄なんて言葉はあるけど。
それでもきっと悩みたいことだってある。
でもそれを見ている俺は辛くて。
だからフェイトには笑っていて欲しい。

優しい時間はそれだけで価値があるものだから。









カーテンの隙間から入ってくる日差しは厄介な物で、安眠を妨害する。
顔に掛かった太陽の光が目蓋の奥を刺激して頭を無理やり起こした。
上半身を起こせばなんとか寝ぼけながらでも起きようという気になる。
隣で眠る幸せそうな顔の彼女を見れば、こっちまで幸せになった。

「おはよう、フェイト」

今までもなんども言ってきたことだけれど。
それでも今日のおはようは違う気がした。
それが何かはわからないけど、それでも彼女の寝顔を見ているだけで何かが違った。

ベッドから出ようと毛布をはがすと左手が動かない。
ああ、なるほど。
視線を移せば握られた手のひら。
がっしりと握られていてどうにも動きそうもない。
早々に諦めてフェイトの流れるような金髪を手で弄ぶことにした。

「綺麗だよな」

初めて会った頃から何も変わってない。
むしろ時間を経てより綺麗になってる気がする。
背中のラインで整えられたその髪は本当に繊細で触れてしまえば壊れてしまいそうだ。
その髪の一本一本を確かめるように触っているだけで背徳感と愛しさがこみ上げてくる。

うめき声にもならない音がフェイトの唇から時折漏れるが、気にしない。
閉じられた目蓋が時折揺れるのを見てどんな夢を見てるのかな、と考えた。
きっと幸せな夢だ。
俺もフェイトのそうだけど、秘密のせいで幸せということに敏感だ。
今ある時間を出来るだけ長く。
今にも壊れてしまいそうなガラスの幸せを少しでも長く。

だけど、それも終わったから。
ずっと一緒にいるって決めたから。

「愛してるよ、フェイト」
「……ジン」

唇から思わず零れた言葉に反応するようにフェイトから寝言が零れた。
思わずビクッとなるが起きてはいないようだ。
ちょっと安心したような、でも残念なような。

握られた手が緩んだのでゆっくりと起こさないように外していく。
はがされたフェイトの手が物寂しそうにかすかに揺れるのを見て自分の手を見ると同じように動いていた。
手に残る暖かさが消えないうちにベッドから這い出てシャワー室に向かった。

蛇口を捻れば熱い湯が降ってきて体から汗を流してくれる。
そんなことを考えながら入ったシャワー室はひんやりとしていて冬の寒さを教えてくれた。
夢心地だった先ほどまでとの差に少し不満を持って蛇口を捻る。
最初は冷たい水、そして徐々に温かく。
肌で触れても冷たくないと感じるようになるまで少し時間がかかった。

「あー、きもちー」

言葉になっていないけど、思わず口から零れ出る言葉。
もちろん独り言。
濡れた前髪が額に張り付くけど関係なしに湯を浴び続ける。
身体全体が程よく濡れて暖かくなってきたところで蛇口を閉じた。

近くにおいてあったバスタオルで身体を拭いてシャワー室から外に出るとまだ眠っているフェイトの姿。
その隣で着替えてしまってから時間を確認すればまだ二人との約束まで時間があった。
気持ちよさそうに眠ったフェイトを起こすのは忍びない。
でも、起きたときに自分だけベッドにいることが分かったらきっと不貞腐れるだろう。
ああ、そんな顔も見てみたいな。

部屋の中に一つだけあるアンティークな時計が時間を刻む。
ベッドの隣に持ってきた椅子に座ってフェイトの手を取ってみた。
暖かい手のひらが自分がここにいることを教えてくれる。

今も昔も。
俺は、僕は変わっていない。
フェイトと出会って変わった気になってるけど、芯の部分はなかなか変わらない。
知識を溜め込んでそれを使った。
かつては自分のために、今は人のために。
その準備もしてる、けどそれでも恐怖は消えない。

「君が支えてくれるおかげで俺は立っていられるんだ」

起きていたら恥ずかしくて言えないだろう。
フェイトも俺も、自分の存在理由を探してる。
口には出さないけど、けど分かる。
あの時の、あの公園の時のように。
君が俺に拒絶されることを恐れたように、自分の存在を拒絶されることがひどく怖い。
人に嫌われることが怖い。
だから自分がここにいていいのか、分からなくなる。

いてもいいんだよ。

あの日、あの時。
結婚式のあの日。
二人きりになったときにそう言ってくれた君にどれだけ救われただろうか。
フェイトの方が大きな苦しみを抱えていたはずなのに。
作られた命なんていうどうしようもない現実を抱えているのに。
どうして君は……。

「なんてわかってるんだけどな」

君は優しいから。
だから甘えさせてください。









僕はいてもいいのかな?

ぼんやりとした輪郭の中で誰かが言った。
その小さな子供は寂しそうな顔をしていた。
誰にも見せないその顔を私に見せていた。

「いてもいいんだよ」

迷うことなんてない。
誰でもこの世界に生きていていいんだ。
資格とか、権利とかそんなことは関係ない。
君は生きていていいんだよ。

そう教えてくれた人がいるから。
こんどは私が貴方に教える番。
貴方に甘えてもらう番。

「貴方はそこにいていいんだよ」

ほんとうに?

ぼやけた輪郭がさらにぼやけて、もう少年かさえ分からない。
でもそのぼやけた中でもくっきりと浮かび上がる瞳は揺れていた。

「うん。だから私とずっと一緒にいよう」

貴方がくれたものを私は貴方に与えたい。
甘えさせてくれるあなただからこそ、私は貴方に甘えて欲しい。
一緒に行こう。
ずっと一緒にいよう。

「ありがとう」
「うん、愛してるよ。ジン」

抱きしめてくれる人がいるから。
私たちはきっとこれからも一緒だ。
あなたは優しい。
だから私に甘えさせてくれる。
でもそれだけじゃなくて。
今度は私も貴方に甘えて欲しい。
一緒にいよう。
ずっと。









「あれ、……ジン?」
「おはよう。フェイト」

寝ぼけ眼で見つめてくる姿は無防備すぎる。
はだけた寝巻きから見える肌がやけに官能的で、さっきまではそんなことなかったのに思わず意識してしまう。
次第に焦点が合ってきて、ゆっくりと頭を回転させているのだろう。
羞恥に震えるとまでは言わないが、顔を半分シーツで隠す姿は子供のようだ。

「寝顔、見た?」
「見た。可愛かったよ」
「ずるい」
「ずるいかな?」
「ずるいよ」
「そっか。じゃあ今度はフェイトが早起きする番だね」
「……がんばる」

そんな会話の後、フェイトはベッドから起きだしてきた。
深い眠りの余韻はなかなか抜けないらしく、さきほどの会話でも節々で寝ぼけた声をしていた。
そんなものさえも愛らしいと感じるようになってしまったのはすっかりフェイトに染められてしまったということだろうか。
結婚という過程を経た後でも夫婦というものがいまいち分かっていない。
でもきっとフェイトも俺と同じようにこういうだろう。
そういうことは一緒に分かっていこう、って。
そんな確信は、ある。

「ほら、シャワー浴びておいで」
「うん」

ふらふらとおぼつかない足取りでシャワー室に向かっていった。
危なっかしいとまでは言わないまでもなんとも心配にさせてくれる。
シャワー室に入ったのを確認した後、上がってきた後のことを考えて荷物の中からいろいろと取り出しておこう。
ドライヤーや櫛なんてのもいるかな。
堂々とあの髪に触られるのはいいな。
そんなことを考える。
きっと今日も楽しい一日になるだろう。







===================================================



あとがき

という名の言い訳。
ちょっと時間が空きました、雷落し・新婚旅行編。
無謀ながらもスタートしたのが早くも行き詰まり、というわけではありません。
かってにキャラが動いてくれるので進むのですが、それでも書いては消し書いては消しはあります。
今回は筆(指?)が進まないのも手伝って全然時間が進んでなかったり。
次は一気に進めるつもりです。

文章構成が変わるのは……すでに仕様です。
昔どんな風に書いてたのかさえ思い出せない矮小な作者を許してください。
でもちゃんと最後まで書ききります。
どこまで続くかはわかりませんが。



[16683] 言葉にして
Name: チーカMA◆3d9040a6 ID:fa1e006d
Date: 2010/12/18 23:47




04




昼ごろを過ぎると、二人も仕事があるので別れた。
オープンカフェに残った俺とフェイトは二人の後ろ姿が見えなくなるまで、その方向を見つめ続ける。
人ごみの中でこうやって緩やかな時間を過ごしているのは不思議な感じがした。
仕事は休みを取れると二人でいろんなところに出かけたりする。
もちろん出かけずに家の掃除や、単純に二人でゆっくりしたりも。
けれど、こうして長期といわないまでも旅行という形でどこかへ泊りがけで行くのは久しぶりだ。
それがどこか俺の中に違和感を与えているのか。
マルチタスクを使用しないで考えるのはどうにもしっくりこなかった。

「そろそろいこっか」
「うん。そうだね」

勘定を終えて街の中をぶらぶらと。
エリオとキャロに教えてもらった街の名所を巡り、そこで写真を撮ったりした。
いざこうやって歩いてみると普段の運動不足が目に見えて現れる。
夕方に差し掛かる頃には、フェイトは楽に歩いていくのに俺は軽い疲労感を覚えていた。
魔力で身体強化、もとい疲労感を拭い去って歩く。
歩幅は俺の方が広いのに、歩くペースが負けているのは何故だろう。
現役の執務官には勝てないところが多いな、と軽く自嘲した。

「どうしたの?」
「なんでもないよ」

繋いだ手から伝わってくる温度が心地いい。
何時までも繋いでいたいと思った。
いくら管理世界とは言え、首都でもなければ古都といえるような街でもないここにはそれほど名所はない。
だから回れるところなんて高が知れていて。
二人で回るのにもペース配分を考えながら回っても、簡単に回ってしまった。
だからフェイトには内緒である場所に向かっている。

「ジン、こっち街外れだよ?」
「こっちでいいんだよ」

このまま少し歩けば野原がある。
エリオやキャロに教えてもらう前に調べておいてよかったと思いながらも、旅行好きという司書の一人に心の中で礼を言う。
普段は下世話なやつなのに、パーティはこういうところは仕えるやつだ。

「何があるのか、教えて欲しいな」

見上げるように、甘えるような声で。
危うくノックアウトされかける。
抱きしめたくなる衝動に駆られるが、理性が総動員されてそれを押し止めた。
初めてあった頃に比べてフェイトは甘え上手になっている。

あの頃はお互いに距離を測りながら手探りで接していたが、今はそんな距離は感じない。
隠し事なんてない、とは言わないが昔のような感じじゃない。
俺にとっては一緒にいてくれるから、甘えさせてくれるから。
依存しすぎないようにしないとな。
そんなことを考えながらフェイトの手を掴んでいた。

「ついてからのお楽しみ」

頭の中で今までのことを繰り返す。
鮮明に映るのはやはり初めて会ったときのこと。
一目惚れなんていうドラマチックなものではなかった。
きっとそれは俺たちらしいんだ。

街外れの野原。
日はまだ山の間に沈むこともなく、西の空で輝いている。
東の空にはおぼろげながらも月が見えていた。

ススキには季節がはずれていて、麦というには少し違う。
この世界特有の植物が群生しており、腰から下を隠していた。
冬の冷たい風が植物を撫で、そして俺たちの頬も撫でる。

マフラーから出た頬を撫でる風に怯えるようにマフラーをあげる。
フェイトのマフラーも同じようにあげてから、寄り添うように密着する。
服越しなのに腕から伝わる体温は暖かくて、何より安心させてくれた。

「凄いだろ?」
「凄い。……綺麗」

ここにきて数分。
太陽が山の間に入り、日の光が一層強く輝く。
その光で黄金色に輝く植物はまるで絨毯のようで。
西は日の光でオレンジに輝いて、東からは僅かに輝く月とそれを覆うように夜空の切れ端がやってくる。
昼と夜の空は見事なコントラストで空を彩り、黄金色の絨毯がそれを迎える。

幻想。

そういっても差し支えないくらい綺麗で儚い時間がそこにはあった。

「ジンは凄いね」
「そうかな?」
「うん、凄い」

何が凄いかは、あえて聞かないことにしよう。
そうして空が夜に覆われるまで、俺たちはそこにいた。









「それじゃあ、あれ見れたんですか?」
「うん。すごくきれいだったよ」

食事の席でその話をするとエリオが驚いた声を出した。
二人の話によるとあれは滅多に見れるものじゃないらしい。
何時ごろに見ることができるという周期はあるらしいが、実際に見れるかは運らしい。
その話を聞いて少しバーティを恨む。
もしかしたら見れなかったかもしれないのだ。
もしそうだったら、フェイトになんと言えばよかったのか。

「いいな~、フェイトさん。私も見たかったな~」
「じゃあキャロはエリオに連れて行ってもらうといい」
「そうですね。いつか連れてってね、エリオ君」
「え!?う……うん」

エリオとキャロを見ているとほほえましいものを見ている気がする。
もし、俺が普通に高校に行っていたらこういう光景もあったのではないか?
親しい女の子と一緒に昼食を食べたり、下校したり。
そんなことを考えてみても、その女の子の顔がフェイトになってしまうのでやめておいた。
妄想よりも現実の方が何倍も可愛いのだ。

「エリオに必要な物は度胸と甲斐性だな」
「甲斐性はあると思うけど」

二人を見て小声で話す。
自分たちが落ち着いたからか、二人の恋愛を見ていられる余裕が出来た。
家族の幸せは見ていて気持ちのいいものだ。
少なくとも、この二人はとてもほほえましい。

その後、店を出て光に照らされた表通りを歩いた。
年の瀬までもう少しのこの時期は人通りが多い。
休みが取れたのが不思議なくらいだけど、今は関係ないか。

「そうだ。エリオ、キャロ」
「なんですか?ジンさん」
「これ。俺とフェイトからのプレゼント」

ポケットに入れていたチョーカーをプレゼントする。
包装されているのは、ホテルの部屋でやったからだ。
ちゃんとした包装の仕方は知らなかったけど、無限書庫に来た物品の包装を解くときに覚えた。
ちょっと歪だけど。

「首輪ですか?」
「チョーカーだよ。エリオ君」

袋から取り出した中身を見た二人の言葉はこんな物だった。
といっても言葉だけで、顔はとても嬉しそうにしている。
その反応は、予想外なところから誕生日プレゼントを貰った子供のよう。
それでも嬉しそうに着けてくれるのは、逆にこっちが嬉しかった。

「「似合ってますか?」」
「うん。すごく似合ってるよ」

黒と白。
対照的だが、それゆえに近い色。
金と銀も気品を与えるような、そんな物。
黒に映える金と、白を彩る銀。
二人がつけたチョーカーはとても映えていた。

「ペアルックみたいだな」

俺の言葉に顔を赤くする二人は、とても初々しい。
狙って買ったわけだけど、実際ペアルックというわけではない。
似たようなものを買っただけなのだから。
それでも、この二人がつけるとそう思ってしまった。

「帰ろっか」
「うん」

二人を間に入れて。
フェイトと俺はホテルへと向かった。









一夜明けてしまえば、時間は簡単に過ぎる物で。
日本で言う師走の名の通り、走ってしまうように時間は過ぎていく。
月日でさえそうなのだから、時間ならばなおさらだろう。
先ほどまで朝だったようなものなのに、すでに時間は過ぎ。
昼前に差し掛かっていた。

「じゃあ、また今度ね」
「会うのは新年かな?」

この世界に来るときにも使った転送施設。
その前で仕事の前に来てくれた二人と別れを惜しんでいた。

「またきてくださいね?」
「待ってますから」
「うん。またね、二人とも」
「エリオ。しっかりやれよ」
「ジンさん!?」

頭を撫でてやれば、恥ずかしそうに俯く。
赤い髪がくしゃくしゃになるが、後でキャロが治してくれるだろう。
歳相応か、それ以上に精神年齢が高い少年も今はただの子供だった。

「うん。じゃあ、行くね」
「またな~」

フェイトと二人、手を繋いで施設の中へ。
カシュと空気が抜けるような音と共に扉が開いた。

「「いってらっしゃい。お父さん、お母さん」」

静かに扉が閉まってしまえば、フェイトは俯いたまま何も言わずに繋いだ手を強く握り締めた。
なんと言えばいいのだろう。
なんとも言えない感覚がこみ上げてきて。
それはフェイトも同じで。
それでも、ここは俺が言うべきところだ。

「行こうか。奥さん」
「……うん、行こう。旦那さん」

今日、二人の子供が出来ました。







[16683] 雷が落ちる場所
Name: チーカMA◆3d9040a6 ID:70efff11
Date: 2011/02/19 16:25

05




日記を書く習慣なんて持っていないのだけれど、この日程のことは自分のデバイスに書き込んでおくことにした。
出来れば紙媒体の方がいいのだけれど、形に残しておくのは少し恥ずかしかった。
何重にもロックを掛けて、最悪の場合は全てのデータを消去するようにしているデバイスだからこそあえて残そうと思う。

「気持ちいいね」
「うん。いい湯加減だ」

その理由はあえて言うなら他人に見られるのが恥ずかしいからだ。
浅ましいかもしれないが俺にも独占欲はある。
自分の大切な人のプライベートな姿、とりわけ自分にしか見せてくれない姿を他人に知られるのは嫌だ。
けれど、その瞬間のことを何時までも記憶していられるかと言えばそうではない。
だからあえて俺は日記という形で、誰にも見られないようにその時のことを残しておこうと思う。

ゆったりとした時間が流れて、景色は冬の山里らしく雪景色。
今もしらしらと振る雪は水面からむき出しになった肌については溶けていく。
貸しきり状態であるこの温泉はもともと家族風呂というわけではない。
この時期であるのにも関わらず人が来ないから、混浴が家族風呂のようにプライベートな空間に変わってしまっていた。
そんな湯殿で俺とフェイトは隣り合わせ、肩が触れるか触れないか程度の距離間で湯に浸かっていた。

「この景色だと酒が旨い」
「あんまり飲まないでよ」

湯に浮く風呂桶の中には酒。
とはいえ、風情を感じる程度にしか飲まない。
隣にいるフェイトもそれが分かっているからそれほど強く注意はしないし、微笑ましいものを見る目で俺を見ている。

あの二人と離れてから数時間、夜になってしまったのはいただけないが目的地にやってきたのは一時間ほど前のことだ。
管理世界であり、その端っこの方。
日本でいうなら片田舎とでも言うべきこの村に着いたのはほんの二時間ほど前。
小さな無人駅から歩いて一時間ほどした山の中にあったこの古びた宿は、そこを選ぶだけの理由があったとは言え温泉に浸かるまでフェイトに不評だったのは確かだ。
この宿を選んだのは俺なので、その理由をフェイトに教えていないからこそフェイトに不評だったのかも知れない。
無限書庫の片隅で見つけた小さなガイドブックに乗っていたこの宿は、それなりの曰くがある宿だった。
宿の名前は『朱嘴鸛』という名前で小さな宿。
近くに火山があるおかげで温泉が湧き、はるか昔には神様が浸かったなんていう伝説さえある宿である。
今では古い建物、よく言えば歴史がある、悪く言えば古臭い木造の建物がたまにくる客を迎える、寂れた宿だった。

「フェイトは綺麗だよね」

邪魔にならない程度に振っている雪の中、温泉に火照ってほんのりと赤みを帯びた身体を見て思う。
無限書庫に篭っているせいか俺の身体は細身で男性らしい体つきとは言いにくい。
それに比べてフェイトの身体は健康的で、しっとりとした肌を持っていて、なんというか健康的な色気がある。
普段はそういうところをあえて目を外しているのだけれど、今はなんとなく目に入った。

「恥ずかしいこと言うの禁止」
「フェイトだって時々言うじゃん」

人差し指で唇を押さえられる。
上半身だけ此方にむいたフェイトの身体は濁り湯で隠されており、上半分だけ湯船から浮き出た胸が強烈な色気を発していた。
心なしかくらくらする。

「私はいいんだよ~。ジンがかっこいいからね」
「だったら俺もいいんだよ。フェイトが綺麗だから」
「そっか」
「うん。そうだよ」

そっか、そっか。
お互いそんな風に納得して湯船に肩まで浸かる。
こんな風にゆっくりと湯船に浸かるのは久しぶりのことだ。
無限書庫で働いているときはそんなことはないし、あの結婚式の日からフェイトと纏まった休みで被ることもなく。
次の日仕事だからと流れ作業で風呂に入ることがほとんどだった。
この旅行の間も何だかんだで忙しなかったような気がする。

湯船の中で力の抜けた指先に、何かが触れた。
濁り湯で見えないそれはするすると手を確かめるように触れてきて。
それを指を絡ませるようにして捕まえると、それもまた指を絡ませて俺の手を捕まえた。

「幸せだね」
「うん、幸せだ」

なんとなく、さっきより距離は近づいて。
どちらからともなく肩が触れ合って体重をお互いに預けあう。
この感覚がなんなのか、未だによく分からないけれど。
それが不快なのではなく、幸せを与えてくれていることだけはよく分かった。









時間という物は無限にあるわけではない。
有限の時をどれだけうまく使うかで人の人生という物は変わってくるのだ。

「……なぁ、司書長」
「なんだい、副長」
「俺、転職しようかと思ってるんだけど」

あれから二ヶ月ほどした頃。
年を越えて二月の下旬。
首都クラナガンは一年中安定した気候を保っていたが、四季がある地域では寒さがようやく去っていった頃の話。
ジン・フラグメントは本局無限書庫内で尋問を受けていた。

「なんでこうなるんだ?」
「それは自分の胸に聞いてみるんだね」

ジンを椅子に縛り付けたバインドの光は翠。
ユーノ司書長によって作られたバインドは何重にもなってジンを拘束している。
その間にも無限書庫は稼動をやめない。
実際のところ、ジンを尋問しているのはユーノ司書長ただ一人である。

「俺はただ転職しようかと思ってるって言っただけなんだが」
「それが問題なのさ」

ジンとユーノ、彼らの付き合いもすでに十年を超えている。
彼ら二人は大半の時間を無限書庫で過ごしてきたとは言え、友情を育む時間は確かにあった。
そもそも二人の間には親友関係というものが築かれており、だからこそジンはユーノに一番最初にこの悩みを打ち明けたのだ。

「今の無限書庫から人を出すことは確かに難しくはない。でも、それが君となると話は別だ」
「いや、確かに……そうなんだけどさぁ」

はぁ、と深く溜め息をつく。
とり急ぐことでもないから別にいいか、と思考の端にそんな誘惑がちらつくがジンの思いの発症がそれを許さなかった。
無限書庫は激務である。
ここの仕事を経れば大抵の書類仕事など苦もなく終わらせることができるといわれるほどのもの。
その証拠として最近ではランスター執務官が後方勤務の一環としてここに訪れており、ほんの一週間ではあったが僅かながらにもその書類能力を上昇させている。

昔と比べれば無限書庫の実用性は天と地ほどの差がある。
ユーノ司書長とジン、そして数人の司書で回していた頃が嘘のような今の状況はジンに思考の余裕を与えていた。
もちろんその結果を導き出したのは司書たちの地道な努力である。
業務内容としてもかつてのストライキが起きた頃よりも遥かに軽くなってはいるのだ。
しかし、時折舞い込む海からの急な仕事は確かに彼らの余裕を奪っていた。

ジンとユーノ司書長でこの無限書庫は回っていると言っても過言ではない。
一週間ほどなら、急な仕事が入らない限り二人同時にいなくなっても大丈夫だろう。
しかし、それがずっととなると話は変わってくる。
彼らの戦力は相変わらず他の司書たちとは一線を画しており、ジンがいなくなればその負担がユーノに、ユーノがいなくなればその負担がジンにやってくるのだ。

「俺、地上に降りようかと思ってるんだよ」
「ジン、無限書庫がどんな状況か分かってて言ってるんだよね?」
「それはわかってるんだけどさぁ」

少なくともジンにとって無限書庫というのは宝の山でもある。
彼にとって知識とは渇きを癒す麻薬みたいなものなのだ。
そもそもジンが無限書庫に入ったのもそれが理由なのである。
故にそのジンが無限書庫を離れることを希望するというのは、一大事であるとユーノは考えていた。

「なんて言ったらいいのか、いまいち分からないんだけどさ」
「とりあえず話だけは聞いてあげるよ」
「俺、教師になろうかなって……」
「は?」

ユーノはまるで冷凍されたように動かない。
言うなれば空気が凍った状態である。
椅子に縛られたジンはそんなユーノのことなどお構いなしに話を進めていく。

「ずっと前から考えてたんだけどさ。自分のことよりも大切な人のことを優先したいなって」
「大切な人って……フェイトのこと?」
「ああ、フェイトのこと。無限書庫も好きだし、楽しいんだけど。地上の家にいようかなと」

ジンがポツリポツリと語り始めたのはこんな内容の話だった。
地上で借りているマンションは普段はジンもフェイトもいない。
どちらかが帰ると掃除しているが、それでも誰かがいるわけではない。
それはなのはやユーノも同じであり、彼らが住む場所も誰かが常にいるわけではない。
だから自分がそこにいるべきじゃないのかと。

「なんでいきなり……」
「別にいきなりって訳じゃない。前から考えてたことなんだけど」

本局で仕事する分にはお互い会う事も出来るし、それだけ時間が取れる。
そっちの方がいいのは明白だ。
しかし、ジンはそれよりも誰かが家にいることを選んだ。

「ジン。はっきり言おう。それだけじゃないだろ」

ユーノはバインドを外して、ジンの前に自らも椅子をもって座る。
それは真剣に離すときのサインであり、仕事さえ放って話すという意思表示でもあった。
ジンは自由になった手で髪をガシガシとかき回し、顔を上げてユーノに向き合う。

「だよな。分かった、ちゃんと言う」

じっとりとした空気が部屋の中に充満していた。
空調は相変わらず効いている、本を扱う場所なだけに普通の職場よりもそう言った設備は上等な物を使われている。
それなのに空気はどこか張り詰めていて、ジンとユーノ、二人の間にある空間は重く冷たかった。

「子供が出来た」

眼を逸らさずに言えたのは上出来だとジンは自分で思う。
なんというか友達というものが少ない自分はこういったことに不慣れである。
ユーノくらいしか友人と言えるものはおらず、無限書庫の後輩たちはバカ騒ぎはしてもやはり仲間であって友達ではない。

兄妹はいても、同世代の友達はいない。
だからこそ、そのたった一人の友人であるユーノと真剣に話すということはジンに後ろめたさを与えていた。

「……は?」
「だから、うん。そういうこと」

ジンは大きく息をついて下を向く。
言った、言ってしまった。
なんというか、自分らしくないと言えば自分らしくない。
フェイトとのことを散々相談したときとは確かに違うこの空気。
なんというか、自分はこういうものが苦手らしい。
ジンは確かにそんなことを思っていた。









冬というものは簡単に過ぎていく。
ほんの少し前までは雪が降っていたのに、その雪が霙になり、そして雨になる。
過ぎていった時間を懐かしむのは人の特権かもしれないが、それと同時にこれからの時間に思いを馳せるのも人の特権だろう。
あれからさらに二ヶ月。

ユーノの協力もあり、転職とは行かないがジンは地上の自宅からの出勤を許可された。
本局に泊り込むということが珍しくない状況だったのが、定時で帰ることを許されたのである。
かといって家に帰れば仕事が終わるのでなく、ユーノから送られてきた資料請求を家でうまくこなす、というのが日課になっていた。
しかし家に帰ることができるというのが効果覿面だった。
本局をでて家に着くのは時計の針が一日の四分の三を刻み、さらに三十分ほど回った後。

家に着けばフェイトが帰ってくる日はできるだけ気を使ってその補助を、帰ってこない日は教員試験の勉強をしていた。
大学を出ているわけではないが、試験資格を取ることができる。
その資格を早々にとってしまったジンは出来るだけフェイトに時間を割いた。

休日になれば妹や兄の奥さんであるエリーさんがやってきたりと忙しない。
アリスが来たときはジンそっちのけでフェイトに話を聞いたりと、ブラコンだった妹の姿はなくなり、どちらかというとシスコンのようだ。
対してエリーさんが来たときは経験談として様々な話を聞かせてくれて、大変助かっている。
特にフェイトがいらいらしている理由などを聞けば納得がいくものだった。
母というものは大変らしい。

「ありがと、クロノ。助かるよ」
『フェイトももう母親か。兄としては心配だったんだけどね』
「こんな男で本当によかったのかって。それ、何回も聞いたよ」
『ははは。まぁ、結果として僕よりもいい父親になりそうだが』
「クロノも後方勤務に回ればいいだろうに。そしたらエイミィさんと一緒にいられるだろ?」
『そうも行かないさ。僕は僕のやるべきことがある。僕は管理局員なんだ、エイミィもそれは分かってくれてる』
「あー、はいはい。のろけるなぁ」
『時期にジンもこうなるさ』
「なるのかなぁ」
『なるよ。僕だけじゃなくてユーリ提督もそう言ってる』
「兄さんまで言ってるのか」
『ああ、間違いない』

クロノとの通信も定期的に行っているが、大抵がこんな内容だ。
かつてはストライキ騒ぎで戦った仲だったが、今では義兄弟である。
人の縁とは不思議な物だ。

「誰かと話してたのか?」
「クロノとね。でも、何時まで立ってもクロノを兄とは呼べないや」
「無理する必要はない。お前はお前のタイミングでいいんだ」

いつまで経っても頭が上がらないのは生来の順位付けのせいだろうか。
ユーリ・フラグメントという男はやはり提督や上司という前に兄であるという認識が強い。

「そういえば、俺がいい父親になるってクロノと話したって」
「なれるかどうかはお前次第だがな。人のために何かしようという今のお前なら素質はあるだろう」

兄さんの言うことは間に受けてしまっていいだろうか。
そんなことを考えながら、ゆったりとした時間を無言で過ごす。
言葉がなくてもお互い気にせずにお互いの時間を使う。
よく考えてみればこうやって二人きりの時間というものは久しぶりではないのだろうか。

「しかし、よかったのか。お前が迎えに行かなくて」
「うん。まぁ、エリーさんなら安心できるし」

俺は俺でやることがあったからね。

無言を貫いた後の少しの会話。
兄さんは手元に本を持ってきて読んでいる。
音といえばページを捲る音くらいで、俺はとっくに醒めたコーヒーをちびちびと飲んでいた。


―――僕は不思議な現象とであった。
普通ならば出会うことのないだろう、不思議な現象。
そんな不思議な体験から、僕は何かを学ぶこともなく。
ただ好きなように生きてきた。
魔法と出会って、自分にしかできないことをしようとして、結局何かをなすことは出来なくて。

―――僕は彼女とであった。
きっとそれは偶然だった。
偶々僕はユーノと出会い、偶々僕は誰とも付き合っていなくて、偶々お見合いをすることになって。
きっと彼女と出会ったのも偶々だ。
僕が彼女と出会ったのは偶々でも、その偶々を逃さなかったのはきっと運命だ。

―――俺は彼女に告白した。
僕と決別して俺になる。
長い時間共にした友人はいつしか親友になり、そして彼は俺の背中を押してくれた。
俺は彼に勇気を貰い、その勇気と共に自分の思いをぶつけた。
きっとそれだけの物語。

―――俺は雷を選んだ。
きっとそれは運命だったのだろう。
俺がつくり上げた魔法が雷だったことは運命だったのだ。
彼女と出会う偶々を得るための運命だったのだ。

雷は落ちるものだ。
ゴロゴロと音を鳴らしながら、莫大なエネルギーと共にどこかに落ちる。
光と音と。

真っ暗だった僕の世界を光で照らして、耳を塞いでいた僕の手を優しい声でどかしてくれた。
優しい人だ。
あれだけ傷ついているのに、それでも直綺麗だと思わせるその姿。
だから僕は惚れたのだろうか。
だから俺は惚れたのだろうか。

心の中で呟く。

―――好きです。好きです。

今度は音にせず、唇だけを震わせて。

―――愛しています。愛しています。


きっとこの言葉は避雷針のような物だ。
彼女が道を間違えないように、降りてくる場所として彼女を待つのだ。
他の場所に彼女が間違えて下りないように。
この言葉で彼女を受け止めるのだ。

玄関の扉が開く音がする。
椅子から立ち上がって、足早にそちらに向かった。
そこにいるのは僅かにおなかを大きくした彼女。
初めて出会ったときはどこか少女の面影があった彼女も今では一人の母親だ。

「お帰り、フェイト」
「ただいま。ジン」

俺は避雷針。
この言葉は彼女が帰ってくる場所を教える魔法。
雷は落ちるものだ。
雷(フェイト)は空から避雷針(俺)に降りてくる。

抱きしめよう。
目の前の彼女を見てそう思う。

ああ、でも力を入れすぎると壊れてしまいそうだな。
おなかに悪影響があるといけないな。
そう思ってふわりと優しく抱きしめる。
エリーさんが笑っているけど、関係ない。

フェイトも何かを察したのか、優しく抱きとめてくれる。

「フェイト、愛してる」
「うん。私も愛してるよ」

雷が避雷針目掛けて落ちるように。
避雷針も雷を待っているのだ。
ずっと……。

でも、ひとつだけ我侭を言うのなら。

((ずっと一緒にいてください))






















おわり








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ぐだぐだな感じで終わりました、新婚旅行編。
蛇足と言ってもいいこれまで読んでいただいてありがとうございます。

書きたいことが途中で尽きてしまったせいで筆が進まなくなってしまい、これほど遅くなりました。
終わりに関しては書きながら考えた物で、インスピレーションで感じ取ってくださいとしか言えません。

雷がフェイトで、雷を落とすという話なんて感想で言われたのを思い出し、だったら主人公はなんなんだろうと思ったのがラストの原因です。

特に書くこともないこのあとがきですが、この場を借りて読んでくださった方、感想をくださった方々に感謝を送ります。

ジンとフェイトの話は一先ず終わり。
この先書くこともないでしょう。
少なくともこの先、ジンが教師になったのか、フェイトとの子供がどうなったかというのは書く予定はありません。

また、別の作品を投稿することがあったら駄作かもしれませんが読んであげてやってください。
喜んで続きを書くと思います。

それはで、この辺で。
ありがとうございました。



2/19追記

フェイトとジンが止まった宿『朱嘴鸛』、読み方はシュバシコウ。
コウノトリのことである。


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