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[10864] 【完結】 私、高町なのは。●●歳 (リリカル 地球組魔改造)
Name: 軟膏◆05248410 ID:27935c7d
Date: 2009/11/24 01:33
 私、高町なのは。
 私立聖祥大附属小学校に通う、小学三年生だったものです。
 ここ、高町家においては、三人兄妹の末っ子さんです。

「おはよ~」

「あ、なのは。おはよう」

「おはよう、なのは」

 私の挨拶に、キッチンで朝食を作っていたお母さんと、テーブルで新聞を読んでいたお父さんが返してくれます。

「今日はちゃんと一人で起きられたなぁ。偉いぞ」

 この人が私のお父さん。
 高町士郎さん。
 駅前の喫茶店「翠屋」のマスターさんで、一家の大黒柱さん。
 最近は若い頃のやんちゃが影響してか、腰痛に悩まされているみたいです。

「朝ご飯、もうすぐ出来るからね」

 で、こっちがお母さんの高町桃子さん。
 喫茶「翠屋」のお菓子職人さん。
 優しい、なのはの大好きなお母さん。
 最近小じわが増えてきて困ってるみたいです。

 ちなみに、翠屋は駅前商店街の真ん中にある、ケーキやシュークリーム、自家焙煎コーヒーが自慢の喫茶店。
 学校帰りの女の子や、近所の奥様たちに人気のお店なの。

「あれ? お姉ちゃんは?」

「ああ、道場にいるんじゃないかな」

 お姉ちゃんの高町美由希さんは、ここ最近、よく道場で汗を流しています。
 昔はお兄ちゃんと一緒に稽古をしていました。
 でも、お兄ちゃんはもうお婿さんになって月村姓になったのでいません。




「う~ん、今朝も美味しいなぁ! 特にこのス……ス……炒り卵が!」

「本当ぉ? トッピングのトマトとチーズと、それからバジルが隠し味なの!」

 高町家の両親は、未だ新婚気分バリバリです。
 でも、もう十年以上たっているんだから、少しは自重するべきだと思います。
 お父さん、炒り卵じゃなくてスクランブルエッグだよ。

「……チッ」

 横で食べているお姉ちゃんを見ると、いつも以上に暗い目をしています。
 お兄ちゃんとお姉ちゃんはとっても仲良しでした。
 でも、お兄ちゃんが私の友達のすずかちゃんのお姉さんの月村忍さんと結婚してから、時折こんな感じです。
 こんな目をしているときは、昔を懐かしんでるみたいです。
 「あの女狐が……」とか、「お兄ちゃんどいて……」とかいってます。
 いつもは明るく、私にアラフォーの素晴らしさを語ってくれるんですけどね。

 愛されている自覚はありますが、この一家の中では、なのははもしかして、微妙に浮いているかもしれません。





「いってきまーす」

 お父さんやお母さんとは職場が違うので、二人よりも先に家を出ます。
 そうしてお店の前まで来ると、

「あ、なのは!」

 友達のアリサちゃんが私を見つけて声を掛けてきました。

「アリサちゃん、おはよ~。どうしたの? こんな早くから」

「今日は会議があるからね、早めに出てなのはのコーヒーでも飲もうかなって思ったのよ」

「うん、わかった」

 そして私は翠屋二号店の扉を開きました。





「相変わらず美味しいわねぇ、なのはのコーヒーは」

「にゃはは、ありがと」

 ケーキを焼きながら、アリサちゃんにお礼をいいます。
 お父さんにしっかり鍛えられたから、そういってもらえると凄く嬉しいです。

 アルバイトの子もまだ来てなくて、店内には私とアリサちゃんの二人しかいません。
 

 この翠屋の二号店は私のお店です。
 私も大人ですから、お母さんの跡を継いで翠屋の二代目をやるつもりでした。
 でもお母さんはまだまだ現役なので、私の出る幕がありません。
 なので、一号店ほど大きくは無いけれど、こじんまりとした翠屋の二号店の店長をやることにしたんです。
 駅からは少し外れているし、学校への通り道というわけでもないので、お客さんはあんまり来ません。
 ですが、このアリサちゃんみたいに常連さんはけっこういるので、それなりに儲かっています。


「ねえ、なのは」

「ん? なぁに? アリサちゃん」

「仕事大変じゃない?」

「ん~。確かに仕事は大変だけど、アルバイトの子もいるし、私は大丈夫だよ?」

「いや、そうじゃなくて」

「え?」

 どういうこと?

「誰か手伝ってくれるようないい男はいないのか、って言ってんのよ」

「あ~」

「全く、あんたはホントに鈍いわね」

「いやでも、忙しいから今そんな気には……」

「なに言ってんのよ。このままだと嫁き遅れるわよ」

「それは……」

 ちなみに、アリサちゃんもすずかちゃんも、もう結婚してます。

「とにかく、忙しいのはわかるけど、もういい年なんだし、少しくらいは自分から動きなさい」

「……は~い」

 それだけ言うと、アリサちゃんはお金を置いて仕事に行っちゃいました。

 さて、あんなことは言ったけど、そんなにすぐ見つかるわけでもないし、今日も一日がんばろう。





「ありがとうございました~」

 最後のお客さんを見送って、翠屋の看板の明かりを消します。


 家に帰ると、既に我が家の明かりは消えていました。
 最近はお父さんもお母さんも寝るのが早いです。

 部屋に戻って、今日の疲れを癒すために、日頃頑張ってる自分へのご褒美に買った芋焼酎の「魔王」を開けます。
 お猪口でチビチビと飲みながら、余り物のケーキを突付きます。
 ほろ酔い気分で窓から見える星を眺めていると、朝にアリサちゃんに言われたことを思い出しました。

「結婚、かぁ……」

 言われてみても、実感が湧かない。
 お姉ちゃんもまだ独身だし。
 自分が誰かと結婚するってイメージが生まれない。

 でも、もう私も32歳。
 そろそろ本気で考えたほうがいいのかもしれない。

「あ、流れ星……」

 空を見つめていると、夜空から小さな光が街に降り注いでいるのが見えました。
 今日は流星群が降るなんて聞いていなかったけど、とても綺麗です。

「えっと、恋人? 彼氏? う~ん、どっちでもいいや。男の子が欲しいです」

 酔っぱらった勢いで、流れ星に願い事をしてみる。
 流れ星はキラリと一瞬青く光っただけで、そのまま落ちていって見えなくなりました。

「まあ、そんな簡単に叶うようなことじゃないけど、ね」

 それでも星に願いを掛けるのは、別に構わないと思う。
 魔王を最後にもう一杯飲んで、もう寝ることにします。

 ベッドに潜り込む。

「お休みなさい」

 誰に言うでもなく、一人呟く。

「明日もいい日でありますように……」

 そのまま私は、深い眠りの中へ落ちていった。








『……誰か、僕の声を聞いて……。力を貸して……』





「うるさいなの」








あとがき

むしゃくしゃしてやった。
今は反省している。






[10864] 第二話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/08 13:30


 世界はいつだって、こんなはずじゃない事ばっかりだ。
 ずっと昔から、いつだって誰だってそうなんだ。





 そう





 こんなはずじゃなかったのに……。











 つまり









「み、水……」

 私が死にそうなほどの頭痛と吐き気に悩まされるのも、こんなはずじゃなかった事の一つなのだろう。







 朝起きたら酷い頭痛が私を襲った。
 飲み過ぎたのかもしれない。
 フラフラと転げ落ちそうになるのを必死で抑えながら階段を下りて行く。

「あ、なのは。おそよう! もうお昼だよ!」

「あああああああああっ!!!!」

 行き成り耳元で大きな声を出された私は、その場に蹲り、転げまわるしかできないのだった。
 自分が出してしまった声もプラスして、もう私は死ぬのかと思った。


「ど、どうしたのなのは!? 死にそうな顔色してるよ!?」

「お姉ちゃん……。しゃ、しゃべらないで……」

「また飲み過ぎたの? 駄目だよ、お酒は程々にしないと」

「そんなことはどうでもいいから、み、水を……」

「はいはい」

 そういってお姉ちゃんは水を取りに行った。
 この待っている間が、私にはとても長く感じた。
 実際は一分も経ってないだろうに。




 コップに並々と入れられた水をゴクゴクと一気飲みし、一息吐く。

「はぁ……。死ぬかと思った」

「本当に大丈夫?」

「水を飲んだら結構楽になったよ。ありがと、お姉ちゃん」

 実際、起きた時よりもかなり気分は良くなった。
 吐き気も消えたし。

「それは別にいいけどさ。さっきも言ったけど、お酒は程々にしたほうがいいよ」

「うん」

「今日は私も翠屋の方も休みだから別にいいけど、そんな飲んでばかりだからいつも朝起きれないんだよ」

「そうだね」

「それになのはは私みたいに特に運動とかしてる訳じゃないんだから、油断してると二の腕や脇腹とかに肉が付くよ?」

「……」


 32歳にもなって、酒の飲み過ぎで苦しんだ挙句、姉に助けられて説教されている駄目女の姿が、そこにはあった。
 っていうか、私だった。






「で、なのは。今日はどうするの? このまま家で寝てる?」

 説教が終わった後、美由希はなのはに今日の予定を聞いて来た。

「う~ん……。どうしようかな」

 まだ完全に体調が元に戻ったわけでもないし、それもいいかとなのはは考える。

「何もすることないなら、散歩でもしてきたら? いい気分転換になると思うよ」

「……そうだね。そうする」






 その後美由希に、散歩をするなら森林浴か、海辺を歩いて風に当たるのがいいんじゃないかと言われ、なのはは海鳴臨海公園へと足を伸ばした。
 風が潮の香りを運び、海鳥の鳴き声が耳に心地よく響いた。
 ここまで来ると頭痛は既に無くなっており、なのはは穏やかな気持ちで散歩をしていた。
 元々二日酔いを長く引きずるような体質ではないらしい。
 そうしていると、昨日の事を思い出す。

「昨日の流れ星、綺麗だったなぁ……」

 ふと、そこである事に気がつく。

「そういえば、昨日夢の中で誰かが話しかけて来た気がする」

 眠かったからか、うるさいと言って黙らせてそのまま眠ったのだ。
 そのときに、18年ぐらい前に自分の中でマイブームだった、語尾に「なの」とか付ける話し方をしてしまった気がする。
 今から考えるととても痛々しい。

『誰か……』

「そうそう、確かこんな感じの声だった気が……え?」

 最後まで言う前に気付く。
 誰かが助けを呼んでいることに。

「空耳?」

『……僕の声を……』

「また聞こえた!」

 空耳では無いと確信する。
 声が聞こえる方向を見ると、そこには森の中に作られた小路があった。


 声が聞こえる方へと走る。
 誰が呼んだのか、どうやって話しかけてきているのかは分からない。
 でもそんなことは脇に置いておいて、なのはは走った。
 声は近くなっているのにも関わらず、段々と声に含まれる力が弱々しくなっているのを感じたからだ。

「ここ……?」

 遂にその場に辿り着いた。
 しかし、辺りには人影らしきものは見えず、そのような気配もない。

「探さないと……」

 辺りの草をかき分け、誰かがいないかを探す。
 何も見逃さないように、慎重に。
 そして探していると、赤い光が目の端を掠める。
 そちらを見てみると、大きな木の傍に、赤いビー玉のようなものを持った細長い生き物が居た。

「イタチ?」

 その声に僅かにイタチは首をもたげ、なのはを見つめる。
 なのはとイタチの視線が交錯する。
 一瞬の後、イタチは目を閉じ、力を失って倒れ伏す。

「君が呼んだのかな?」

 抱え上げてみると、あちこちに怪我をしていて、綺麗であったろう蜂蜜色の毛並みも、泥に塗れて汚れていた。

「もう大丈夫だからね」

 気を失っているだろうイタチに向かって、安心させるように声を掛ける。
 聞こえていないだろうし、声も理解できるとも思っていない。
 それでも、なのはは腕の中の小さな動物に向かって声を掛け続けるのだった。









「へぇ、そんなことがあったのか」

「うん」

 家に帰り、夕食を食べ終えて、仲良く楽しい団欒の一時を過ごしていたとき。
 なのはは今日会った事を家族の皆に話していた。
 士郎が不思議そうな顔をする。

「しかし、イタチかぁ。珍しいな」

「槙原さんが言うには、正確にはフェレットらしいけど」

 麦100%生搾りを飲みながら、なのはが補足する。

「命に別状はないらしいけど、もしかしたら虐待されて捨てられたんじゃないかって……」

 この辺りに野生のフェレットが生息しているなんて聞いたことはない。
 件のフェレットも野生にしては毛並みが良すぎるらしく、誰かに飼われていたんじゃないかと言われた。

「可哀そうな話だな」

「うん」

「それじゃあ家で飼いましょうか?」

 そこで今まで黙っていた桃子が一言発する。

「え? でも母さん、飼うのは別にいいけど、家は喫茶店やってるんだし、毛とかの心配があるんじゃないの?」

 その言葉に美由希が懸念を挙げる。

「大丈夫よ。お店には連れて行かないし、お店では制服に着替えるんだから」

 それに、と続ける。

「本当に虐待されて捨てられたのなら、ちゃんとした飼い主が居た方が良いと思うの」

「そうだね……」

「なのははどう思う?」

「うん……」

 なのはは自分の腕の中で弱々しく鳴いたあの子のことを思い出す。

「私も皆が良いって言うなら、家で飼いたいと思う」

「じゃあ決まりね。私フェレットって一度見てみたかったのよ」

 そう言って桃子は喜んだ。
 なのはもそれを見ながら、あの子とまた会えることに笑みを零した。






 その後、皆が自室に戻り、なのはも寝床に入ろうとしていた時、またあの声が聞こえた。

『助けて!』

 その声になのはは踵を返し、玄関へ向かった。

「あれ、なのは? こんな夜中にどうしたの?」

「ちょっと……出掛けてくる」

「え? ちょ、なのは!」

 そのままなのはは美由希の制止を振り切り走りだした。








あとがき

まさかただの一発ネタがこんなに好評になるとは思ってなかった。
こんなに期待されたらまあ、書くしかないかな。

感想が付くのは嬉しいけど、メインで書いてるやつの息抜きなのに、メインより感想がつくスピードが速いのにはマジで凹んだ。

色々と予想を立ててくれていますが、この話の場合は地球だけ23年時間の流れが早かったと思ってください。
他の予想も面白かったですが。

蛇口の蛇様が仰っていた疑問には答えられたでしょうか。
朝起きられないのは酒好きだからです。
『~なの』は寝ぼけて言っただけです。原作でも次回予告でしか言ってませんしね。




[10864] 第三話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/10 16:34


 
 なのはは走っていた。




「ハアッ……ハアッ……」




 誰かがなのはに助けを求めているから。




「ゴホッゴホッ……」




 なのはは走っていた。




「ヒュー……ヒュー……」



 
 自分がこの声の主を助けたいと思ったから。




「か、身体……ゲホッ……き、鍛えとけば……ヒュー……よかっ、た」





 そして立ち止まった。





「もう無理」







 何かに呼ばれて家を飛び出したものの、ペース配分も考えずに全力疾走したせいでもう身体はボロボロだ。
 思えばもう10年以上もまともに走って無い。
 高校の時のマラソンを乗り切った後は、もう意地でも走るものかとそんな事とは無縁に生きてきたのだ。
 そのツケがこんなところで回ってくるとは思っていなかった。

「あ~あ、やっぱり」

「え?」

 振り向くと、そこには美由希が立っていた。

「だらしないなあ、なのはは。まだ10キロも走ってないっていうのに」

 どうやら美由希は、なのはが必死になって走って来たこの道のりを、汗一つかかず踏破したらしい。

「お、お姉ちゃ……、どうして……ここに……」

「あんなこと言って飛び出して行ったんだから、気になるに決まってるでしょ。だから、私も行くよ」

「え……でも……」

 言葉を続けようとした矢先、なのは達の耳に聞き慣れない轟音が響いた。

「今の……」

「この先からだ」

 美由希が眼鏡を外し、常ではあまり聞かない低い声を出して警戒する。

「行かなきゃ……」

 何かに急き立てられるようになのはは前に進む。
 その肩に美由希が手を添え制止する。

「なのは、行っちゃダメ!」

「でも……!」

 美由希に反論しようとするなのは。
 だがその時、なのはの視界の端を小さな影が横切る。

「あれは……」

「あれがなのはの言ってたフェレット?」

「うん。そうだけど……」

 そのフェレットは、なのは達のことになど気付いていないらしく、こちらに向かって走って来る。
 まるで、何かから逃げるように。
 近くまでやって来たフェレットを抱え上げると、何かに怯えるように震えている。

「逃げ出して来たのかな?」

「でも、檻の中に居たはずなのに、どうやって……」

 最後まで言葉を発するより前に、なのはが聞いたあの声が腕の中から聞こえてくる。

「来て、くれたんですね……」

「え?」

「しゃ、喋った!?」

 驚いて腕からフェレットが落ちそうになるのを慌てて抑える。

「なのは。とりあえず、この場から離れよう。ここは危ない」

「う、うん」

 美由希に促され、そこから走りだす。




「で、何が起きてるか分からないんだけど、君は何か知ってるの?」

 走りながら、美由希がフェレットに質問する。
 フェレットはなのはを指差しながら答える。

「この人には資質が有ります。お願いです。力を貸して下さい」

「ハァッ……ハァッ……し、資質……?」

 息も絶え絶えになのはが問い返す。

「僕は、ある探し物の為に、ここではない世界から来ました」

「別の世界? パラレルワールドとかそんな感じ?」

「今はそう考えて頂いて構いません。でもこの探し物は、僕一人の力では、想いを遂げられないかもしれないんです」

 だから、とフェレットは続ける。

「迷惑だと分かってはいるんですが、資質を持った人に協力して欲しくて……」

「なるほど」

 そこでフェレットはなのはの腕の中から飛び出し、なのはと目を合わせる。

「お礼はします。必ずします。ですから、僕の持っている力を、魔法の力を、貴女に使って欲しいんです」

「まほう?」

 なのはが胡散臭そうに目を細める。
 そこで上空から獣のような雄叫びが響き、なのは達目掛けて黒い光が飛び込んできた。

「なのは! 危ないっ!」

 美由希に抱えられ、その場から離脱する。
 黒い光はコンクリートを穿ち、地面に大穴を空けていた。
 衝撃で舞い上がった砂埃に、思わずなのはは目を閉じる。
 風が収まり、顔を上げたなのは達の目に映ったのは、黒い毛玉。

 ……

 ……

 ……


「私、飲みすぎたのかな? 今日は度数の低いお酒で済ませてたはずなんだけど」

「そんなこと言ってる場合じゃないよなのは! アレ私にも見えるよ!」

「えええええっ?」

 どうやらなのはが酔って見せた幻覚などではないらしい。
 しかし、毛玉としか言いようのない丸い体躯をしている。
 中心にはギョロギョロとした目のようなものがあり、周りにはなのはの胴体よりも太い触手のようなものが蠢いている。

「何アレ? あんなのが居るなんて聞いてないよ?!」

「それよりもアレ、こっちに来るよ」

 美由希が腕を振ると袖から飛針が2本飛び出し、それを投げつける。
 投げられた飛針はブレることなく直線的に進み、毛玉の手前の地面に突き刺さる。
 しかし毛玉は、威嚇目的で放たれたそれには目もくれず、身体を引きずりながら、尚もこちらへやってくる。

「なのは、アレは私が抑えるから、なのははそのフェレットをお願い」

「えっ? 危ないよ!」

「大丈夫。動きは遅いし、飛針を警戒しようともしない。あまり頭も良くは無さそうだ。あんなのにやられるほど柔な鍛え方してないよ、私は」

 そういってもう一度腕を振り、今度は4本の飛針を取り出す。
 その姿を見て、なのはも渋々頷く。

「わかった。けど無理しないでね」

「わかってるよ」

 美由希は前へ、なのはは後ろへそれぞれ走りだす。
 しかしなのはを制止する声が聞こえる。

「無茶です! あの人は魔法が使えないんでしょう!? 魔法の使えない人にはあの思念体は倒せません!!」

「大丈夫、お姉ちゃんは強いから」

 なのはは安心させるようにフェレットに言う。
 ある程度離れたところで、なのはは立ち止まる。

「それよりも魔法っていったよね? その資質が私にあるって」

「あ、はい」

「その魔法があれば、アレをなんとか出来るの?」

 フェレットはなのはを見つめ、静かに返す。

「貴女が力を貸してくれるなら、必ず……」

 なのははフェレットのその言葉に笑みを浮かべる。

「わかった。じゃあ私は何をすればいいの?」

「これを」

 フェレットは首に掛けられていた赤いビー玉を、なのはに見せるように掲げる。

「温かい……これは?」

 手に取ってみると、まるで生きているかのような温かみが感じられた。

「インテリジェントデバイス、魔法を使うための杖です」

「これが……?」

 杖と言われても、なのはにはただの赤いビー玉にしか見えない。

「今は待機モードの状態なんです。ですから、貴女の力で目覚めさせて下さい」

「え、どうやって?」

「目を閉じて、心を澄ませて、僕の後に続いて唱えてください」

「あ、うん」

 フェレットに促され、なのはは目を閉じる。

「我、使命を受けし者なり」

「(え? なにそれダサい)……わ、我、使命を受けし者なり」

 どもりながらも、なのはは答える。

「契約の下、その力を解き放て」

「契約の下、その力を解き放て」

 ドクン、と手に持つ赤いビー玉が、鼓動を始める錯覚をなのはは覚える。

「風は空に、星は天に」

「風は空に、星は天に」

 唱えていると、手の中の宝玉はドンドンと熱を帯びていく。
 火傷しそうな熱さを感じながら、それでもなのはは手放さない。
 それと同時に、手の中の熱と同種の熱が、身体の奥底から湧き上がるのを感じたから。

「そして、不屈の心は」

「そして、不屈の心は」

 なのははもうフェレットの言葉を聞いていない。
 聞かずとも、自然と、何を言えばいいのかが分かるから。






 ――この胸に――






「この手に魔法を! レイジングハート! セットアップ!!」

 唱え終わると同時に、桃色の光が天へ向かって迸った。











あとがき

一話に一回なのはさんに酒飲ませようかと思ったのに……なぜこんなことになったんだ。

なのはの容姿はsts時と変わらないとお考え下さい。
高町家はそれがデフォです。

レイジングハートの形状をちょっと変えようかなって思ってます。
候補は2つあるんですが、どちらが出るかはお楽しみに。


少し気になったレスに返そうかと思います。
ここで出なくても他の感想にも全て目は通していますのであしからず。

>ちょwwwww
魔王wwwwwwww

なのはさんは魔王が大好きです。

>芋焼酎「魔王」。チョイスがなんというか30代だ。
というか、焼酎のつまみがケーキって、悪魔的な組み合わせだと思うのだが。

悪魔ですから。

>この場合リリなのにスイッチしない純とらハ世界のなのはの未来の一例と言う事で良いのでしょうか

とらハだと父親の士郎が死んでいるらしいので、この話はとらハ世界ではありません。
あくまでリリカルの未来の一例です。

>この高町なのは(32)は、運動音痴なまま大人になった…んですよね?
……ソニックムーブとかで高機動戦闘したら、容易く腰が逝ってしまふのでは…?

逆に考えるんだ。
動かなければいいじゃないと考えるんだ。

>処女で30歳超えると魔法使いになるの?

もちろんです。魔法の力は男女関係なく与えられると考えています。

>ユーノ「すいません。チェンジお願いします(え~どう見ても二十代後半だよね?十代には見えないよ)」

見た目は余裕で十代です。

>え~出来ればユーノを見捨てる話を読みたかったです。

>逝き遅れで、二日酔いで普通に生活しているものが在っても良いと思う。

気が向いたらね。

>化物語か

なのはさん蕩れ

>なのはが32歳………あれ?じゃあ美由紀と桃子さんは(真っ赤な死体ぃぃぃぃぃぃ!

原作の場合、無印開始時点で美由希17歳、桃子33さ(真っ赤な死体ぃぃぃぃぃぃ!

>魔法熟女エロカルなのは、はじ(ry

君に「魔法熟女エロカルなのは」を書く権利を与えよう。

>少し細かいのですが、美由希は結婚しているはずですよ。
実はとらハ3の忍・ノエルルートのエンディングで、翠屋にアルバイトとして入った青年とゴールインしたとメッセージが出ますからね。

知らなかった。
まぁこの話ではまだ独身という設定でお願いします。

>なのはさんじゅうにさい

この話のネタを思いついたのはニコニコで「えーりんさんじゅうななさい」というのを見たからです。
さんじゅうにさいなのはなんとなく。

>二日酔いのその日の晩に、アルコールに手を出すとは流石なのはさん
真似できねー

真似しちゃいけません。

>たかまちなのは小学27年生www

それもいいかもしれないw

>とりあえず、なのはも最終学歴が中卒ではなさそうですね。やはり短大程度は出てるんでしょうね。

とりあえず高校は出ているはずです。

>あれということははやてさん32歳?

勿論。

>え~と、槙原女医がいくつぐらいになる設定かというと…。

教えて下さい。私には知ることが出来ませんでした。




ちなみに現在、体力的には、

stsなのは(めっちゃ体育会系)>A'sなのは(成長期)>無印なのは(初期状態)>この話のなのは(運動不足&酒でボロボロ)

となっています。




[10864] 第四話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/09 11:05


 世界はいつだって、こんなはずじゃない事ばっかりだ。
 ずっと昔から、いつだって誰だってそうなんだ。





 そう





 こんなはずじゃなかったのに……。











 つまり









「あ、なのは。これすっごい弱かったよ。小太刀使う暇も無かった」

 私があんな恥ずかしい思いをしたにも関わらず、見せ場が全然無い事も、こんなはずじゃなかった事の一つなのだろう。







「レイジングハート! セットアップ!!」

 歌うように、高らかに呪文を唱え終えた瞬間、私の身体から桃色の光が溢れだし、夜空をまるで真昼のように染め上げていく。
 その様はまるで光の柱のように見えた。

「凄い……。なんて魔力だ……」

 フェレットは予想以上のことだったからか、茫然としている。
 なのはは自分の様子に焦る。

「え、ちょ、コレやばいんじゃないの!? なんかドンドン溢れ出てるんだけど!?」

 その言葉にフェレットはハッとして、なのはに声を掛ける。

「落ち着いて下さい! それは貴女の魔力です。落ち着いて、イメージして下さい」

「イメージって何を!?」

 自分の身体に起こる異変のせいで、なのははもういっぱいいっぱいである。

「貴女の魔法を制御する、魔法の杖の姿を。そして、貴女の身を守る、強い衣服の姿を!」

「ええ!? それ自分で考えるの!? なんかこう、呪文を唱えたら後は全部やってくれるんじゃないの!?」

「なんでもいいんです! 後で変更出来ますから! 貴女が馴染みのある格好で構いませんから!」

「そんな、急に言われても……。えっと、え~っと……」

 フェレットに言われ、凝り固まった32歳の頭を回転させる。
 馴染みのある格好と言われ、一つの姿が脳裏をよぎった。

「と、とりあえずこれで!」

 なのはがそう言った瞬間、手の中の宝玉が輝く。
 なのはの身体が光に包まれ、次の瞬間には姿が変わっていた。

 小豆色のジャージの上下は、清潔感漂わせる白いブラウスと、赤いロングスカートに。
 無造作に後ろに流していた長い髪は、白いリボンでポニーテールに纏められている。
 そして身体の全面を覆う、「翠屋」と行書体でレタリングされた黒いエプロンをしていた。

 ぶっちゃけて言うと、ただの翠屋の制服である。


 そして、手の中にあった赤いビー玉もまた、変化していた。
 どこからか金属のような物質を集め、その周りを覆っていく。
 そしてなのはの手に収まったときには、既にビー玉とは言えない形状をしていた。
 金、白、桃色のトリコロールカラーの金属で構成された《魔法の杖》は、片手でも扱えるようにグリップが付いていた。
 《杖》の先には白金色の細長い金属が、流線型で放射状に広がり、先端で鋭く尖った一点に集約されたものが4つ付いている。
 人差し指に備えられたトリガーを引き絞ると、ドリルの如き形状をした『それ』が素早く回転する。
 まるで触れるもの全てを引き裂き、掻き混ぜ、ぐちゃぐちゃにしてしまうかのような、そんなフォルムをしていた。



「よし、行こう」

「え? ちょ、本当にそれでいいんですか!?」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ。急がないと……」

 フェレットが焦った声を出す。
 なのははフェレットを抱えて肩に乗せ、急ぐように走りだす。
 フェレットは急な事に驚き、なのはの肩から転げ落ちそうになるのを、しがみ付いて必死に耐える。

「待っててね、お姉ちゃん。今助けに行くから」

 今もまだ、あの凶悪な敵にたった一人で立ち向かっている姉の事を想う。
 手に持つ《魔法の杖》を、これから共に闘うことになる相棒を握りしめながら。


 そしてなのはが必死でさっきの場所まで戻り、そして見たものとは……。






「あ、なのは。これすっごい弱かったよ。小太刀使う暇も無かった」






 小太刀を手で弄びながら、不機嫌そうにしている美由希の元気な姿だった。

「え? お姉ちゃん?」

「何? なのは」

「あの、さっきの怪物……は?」

「ああ、これ」

 そういって美由希は己の足元を指さす。
 そこには黒い粘液のようなものがビクビクと蠢いていた。
 黒い粘液の間に青く輝く宝石のようなものが僅かに見え隠れしている。

「倒したと思わせて油断させるつもりなのかと思ったけど、こんなに無防備を装ってあげたのに全然攻撃してこないから、これで終わりなんじゃない?」

「ど、どうやっ、て?」

 なのはが信じられないものを見る目で美由希を見る。

「どうやってって、ただ鋼糸で動けなくしてから、飛針で中心を狙い撃ちにしただけだよ?」

「……」

「いやぁ、まさかこんなに弱いとは思わなかった。初めて見たやつだから警戒したんだけどね。技の一発も使う前に終わっちゃったから、ちょっと消化不良気味だよ」

「……」

「そういえば、なのは。いつの間に翠屋の制服に着替えたの? あとそれ、手に持ってるやつって泡立て器だよね? なんでそんな物持ってんの?」

「……」

 美由希の言葉には答えず、なのははその場に膝をつく。
 必死で走って来たなのはは、体力的に既に限界に達していたのだ。
 へなへなと崩れ落ちたなのはは、手に持つ電動泡立て器を投げ捨てる。
 肩に乗るフェレットの声も届かない。
 喉の奥から絞り出すように、なのはは小さく声を出す。




「空気読んでよ……」







あとがき

まあこんな感じになりました。短くてすいません。
40まで鍛え続けた美由希が、たかが毛玉相手にピンチになることなんてそうそう無いと思います。

レイハさんの形状は電動泡立て器です。
ちなみに、もう一つの候補は酒瓶でした。


二話でも書きましたが、この話の場合は地球だけ時間の流れが23年早かったとしています。
そのため、地球以外で生まれた人や、地球以外で起きた事件などは原作通りの年齢、時間の流れと考えて欲しいです。
つまりまだJS事件は起こっていません。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>なのはさんはSオーバーの魔力に加え、怨念のパワーたる童貞パワーならぬ処女パワーポイントも上乗せされる分けか。

勿論です。ですが、なのはさんは異性がいる相手に対する嫉妬の感情が薄いので、童貞パワーほどの爆発力はありません。

>32歳であの衣装は痛いと思います。

私もそう思います。ですのでなのはさんは翠屋の制服を着て貰いました。

>堅い楯と威力ある砲撃があっても、速度と手数でなぶり殺しにされるのがオチでは…。

相手が速いなら避けられない攻撃をすればいいじゃない。

>砲撃の反動の蓄積と緊急回避用のソニックムーブがトドメで『ぎっくり腰』になるなのはさん(32)の姿が見える…。

考えて置きます。

>みゆきよ39で独身でブラコンって...もしかして老化してる(一般人的に)の?

39歳じゃない40歳だ!

>原作のようにユーノを養子にしてお母さんって呼ばせるのもそれはそれでありだとは思う。

ありですな。でもユーノはスクライア一族がいるので、そんなことはないと思います。

>グレアムおじさんは下手すると監視したまま寿命が来てお亡くなりになってるんじゃなかろうか

ぐれ……あむ……?

>StS編の見た目なら・・・・ありだな

ありですな。

>なるほど、確かにある意味化物語ですね。期待しています。これからも頑張ってください。

年齢的に化物と申したか。
応援ありがとうございます。

>幼女はきらいだ
>むしろこのくらいのほうがそそるw

そそりますか。
私は幼女大好きですけど。


次回もお楽しみに。
やっとなのはさんに酒を飲ませられる。







[10864] 第五話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/10 09:28




「飲まなきゃやってられない」

なのはがその日、全てを終わらせてベッドに潜り込んだ時に呟いた言葉である。






姉が自分が思っていた以上に強かったことを知り、安堵したのも束の間。
フェレットがなのはの投げ捨てた泡立て器を拾ってきて、封印をしろと言った。
今はダメージを受けて一時的に機能を停止しているだけなので、封印をすればもう安心なのだとか。
その言葉に、俄かに自分の出番が廻って来たか、となのはは期待したものだ。

だが、フェレットの言うとおりに泡立て器を持って、姉の見ている前で

「リリカル・マジカル 封印すべきは忌まわしき器 ジュエルシード封印!」

という羞恥プレイをやらされたなのはは、帰り道でずっと鬱になっていた。
呪文を唱えたら、泡立て器がボタンも押してないのに勝手にクルクル回り出して、なんか桃色の光が回転しながら出て青い石にぶち当たったのは、いったいなんだったのだろうか。
封印し終わったなのはが、そのジュエルシードとかいうのを格納するとき、八つ当たり気味に、ジュエルシードに泡立て器を叩きつけたのは責められることではないだろう。






あれから警察のサイレンの音が響いて来たので、いつまでもそこにいるわけにはいかず、引き揚げることにした。
そして町はずれの公園にまで来たところで、やっと一息吐くことが出来たのだ。

「……」

なのはは無言でワンカップを開ける。
小銭しかないが、ジャージのポケットにお金を入れていた過去の自分に、今とても感謝していた。
このさびれた公園の片隅に酒の自販機が置いてあったことにも。
一気に呷りながら、隣で美由希とフェレットの会話を聞く。

「そういえば君、なのはの話だと酷い怪我だって言ってたけど、そんな動き回って大丈夫なの?」

「怪我は平気です。もうほとんど治っているので……」

そう言ってフェレットは身体を震わせ、シュルシュルと包帯を引き剥がす。
その下からは、綺麗に生え揃った毛並みが顔を覗かせていた。

「へぇ、本当だ。怪我の痕がほとんど消えてるよ」

「明日には全部治ると思います」

「魔法って結構凄いね」

「助けてくれたおかげで、残った魔力を治療に回せました」

チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。

「そういえば自己紹介してなかったね」

「あ、そうでしたね」

チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。

「私は高町美由希。高町が名字で、美由希が名前だよ。さっきの見て分かると思うけど、結構腕には自信があるんだ」

「僕はユーノ・スクライアといいます。スクライアは部族名なので、ユーノが名前です」

チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。

「へぇ、そうなんだ。ユーノ君、で良いかな?」

「あ、はい。どうぞお好きなように呼んで下さい」

「そ。じゃあよろしくね、ユーノ君」

チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。

「それにしても、凄かったです。まさか魔法も使わずにあの思念体を倒す事が出来るなんて……」

「大したことじゃないよ。あれぐらい家のお父さんやお兄ちゃんだって朝飯前だし」

チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。

「ええっ!? そうなんですか!?」

「そうだよ。で、あっちにいるのが妹の高町なのは」

「高町なのはさん……」

「呼ぶ時は名前の方で呼んでね。同じ高町だから。あの子もそっちの方が好きだし」

チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。

「わかりました。それにしても、貴女達を巻きこんでしまいました……」

「気にしなくていいよ。私は平気だから」

チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちて来ない。

「……」

ボタンから恐る恐る指を離すと、そこには赤い、とても紅い、なのはの大嫌いな言葉が浮かんでいた。

「売り……切れ……?」

そんな、馬鹿な……、とばかりにその場に膝をつくなのは。

「そうだ。ユーノ君、まだ怪我が全部治っている訳じゃないんだし、ここじゃ落ち着かないでしょ?」

「いえ、そんなことは」

「とりあえず、私達の家に行こうか」

「え、でも女性の家に上がるのは……」

遠慮しようとするユーノ。

「もう夜も遅いし、話は明日ってことで」

「は、はい……」

だが、美由希の勢いに押され、ユーノは頷いてしまう。

「よし、じゃあ帰ろうか。なのは、行くよ」

「……お酒……」


そして、この長いようで短い一日は幕を閉じたのだった。








あとがき

短くてすいません。
今回、二話も飲んでなかったのとやけくそなのとで、なのはは飲みまくってます。

気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>………これでフェイトと争うのか? マジで?

マジです。

>まずはなのははユーノに回復補助防御系魔法と固定砲台魔法を教えてもらった方が良いと思うよ。体力的に。

私もそう思います。

>そもそも40まで鍛え続けた美由希さんに勝てる存在がいるのだろうか

アルカンシェルならなんとか出来るんじゃないですか?

>「あ、泡だて器の魔王っ!」

そもそもそんな働かないと思います。
仕事あるし。

>泡立て器…砲撃の時は回るんですね、わかります。

回ります。めっちゃ回ります。
イメージが湧かない方は「ダイの大冒険」に出てくる「獣王激烈掌」みたいな感じと思ってください。

>そういえば前回美由希を美由紀と書いてしまった。

「みゆき」で変換しても美由紀にしかならないので面倒です。

>魔王呑んで泡だて器を回転させるとエヌマ・エリシュになるんですね?
>なのはさんにはエヌマ・エリシュを覚えていただいて対抗していただかねば。

そんな展開全然考えてなかった。

>PS.おたまとフライパンではダメですか?

レイハさんには射出機構はあれど分離機構は搭載されていません。
そのためデバイスで作っても、片方は何も出来ない張りぼてにしかなりません。

>なのは色々擦り切れてるなぁ。
>だが経年劣化したなのはさんもまたいい。

こういうのもいいですよね。

>酒瓶…
あるRPGで使ってるキャラもいたし主人公も装備できる武器としてあったから、
問題はなかったんだけどなあ…

マジでそんなキャラいたんですね。

>………なんか戦闘中に飛ばしそうだな…

やりそうですね。

>戦闘においては、バインドからのアルコールが効果的かと、とくに小さい相手には、

うちのなのはさんは他人に与えるアルコールなど持っていません。

>電動泡立て器・・・・ある種ドリルミサイルと化しそうだ。

化しそうです。

>なのはさん38歳……もしや、スバル助けたらゲンヤさんといい仲にとか?

そもそもミッドチルダに行かないということに。

>やっぱ、淫獣は一緒にお風呂入ったりして人間だったってばれたら折檻?

子供に折檻するほどうちのなのはさんは心が狭くありません。




[10864] 第六話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/10 09:28





  臨時休業のお知らせ

  誠に勝手ではありますが、
  店長であり喫茶「翠屋」2号店のシェフである私、高町なのはが急病のため、
  本日は臨時休業とさせて頂きます。

  尚、病気の快癒の暁には、お詫びとして翠屋商品全品に、
  2割から4割の割引セールを実施致したいと考えております。
  このセールは、本店である1号店では行われませんので、御注意下さい。
 

                           喫茶「翠屋」

                                                 』
 





 翌日。

「きゃー可愛いっ!」

 美由希がユーノを両親に見せると、詳しいことを説明する間もなく桃子にユーノが攫われた。

「結構賢そうだな」

 士郎がそれを横から眺めて感想を言う。
 桃子はまだ可愛い可愛いといいながらユーノに頬擦りしている。

「でも、このフェレットは怪我して入院していたはずじゃなかったか?」

「あら? そういえばそうだったわね」

 そこで桃子もそのことに気が付き、ユーノの身体を調べる。
 しかし、その身体には傷の痕などどこにもない。

「まあまあ、それを今から説明するから。ね? ユーノ君」

 美由希のその言葉にユーノは、桃子の腕の中から飛び出して、床に着地する。
 そして桃子と士郎の方を向き、言葉を発する。

「始めまして。僕の名前はユーノ・スクライアと言います」

「え?」

「喋った?」

 いきなりフェレットが人間の言葉を喋ったので、二人とも呆然とする。
 その表情に美由希が満足気な顔をする。

「驚かれるのも無理はありません。ですが、僕の話を聞いて頂きたいのです」

「あ、ああ」

「わかったわ」

 二人とも話を聞いてくれると判断したユーノは、何故自分がここにいるのかを話し始めた。

「まず、僕はこことは違う世界、別の世界からやってきました」

「別の世界……?」

「そんなものが、本当にあるというのかい?」

「はい」

 疑惑の視線を向ける二人に、ユーノは頷く。
 美由希がユーノに尋ねる。

「そういえば昨日もそんなこと言ってたね。詳しく聞かせてくれる?」

「わかりました。ではまず、次元世界という言葉からご説明します」

「次元世界? それは平行世界とは違うの?」

「次元世界とは、次元空間にある様々な『世界』のことを指します。
 それぞれが独立した歴史を持っていて、並行して存在します。
 次元空間を海、次元世界を島と考えて頂ければ結構です。
 昨夜美由希さんが言っていた、パラレルワールドという表現でも間違いはありません。
 ですが、世界がほぼ同じで、そこの住人もほぼ同じという鏡写しのような世界は、未だ見つかっていません。
 そのため、厳密には違う、と僕達は判断しています」

「なるほどねぇ……」

 美由希は納得したようにうんうんと頷く。

「続けます。
 そしてその次元世界には、余りにも文明が発達しすぎてしまい、戦争などが起こったときに、
 その進化し過ぎた技術が、周辺の世界までも巻き込んで滅ぼしてしまうことが時折あります。
 そんな高高度文明、超古代文明が残した遺産。それをロストロギアといいます。
 このロストロギアは、遺産と呼ばれるだけあって、現在の科学力などでは到底理解の出来ないほどの超技術で作られています。
 物によっては、それ単体で世界を滅ぼすことが出来るような、そんな代物です」

「それで? 次元世界というものはとりあえずは分かった。だがそのロストロギア、とやらがどう関わってくるんだい?」

 士郎がユーノに続きを促す。

「それが僕がこの世界に来た理由です。
 現在、この世界にはそのロストロギアがこの街の各地に散らばっています」

「何だって!?」

 士郎が声を出して驚く。
 桃子も美由希も、声には出していないが、困惑と驚愕がその顔に浮かんでいる。

「そのロストロギアの名は『ジュエルシード』……願いを叶える、魔法の種です」

「ジュエルシード……」

「これが、そのジュエルシードです」

 そう言ってユーノは、首に掛けられたレイジングハートから、ジュエルシードを1つ取り出す。

「このジュエルシードは、手にした物の願いを叶える魔法の石です。
 ですが、力の発現が不安定で、単体で暴走することもあれば、
 人や動物が間違って使用してしまって、それを取り込んで暴走することもあります。
 これは現在封印処理をしているため、今のところ危険性はありませんが」

「なんだ。じゃあもう大丈夫じゃない」

 桃子はホッと息を吐く。
 士郎は目を細めながら、ユーノに尋ねる。

「待ってくれ。今各地に、と言ったな? なら他にもあるというのか?」

 その言葉にユーノは首肯する。

「その通りです。このジュエルシードは、1つではありません」

「……幾つだ?」

 士郎は険しい目つきでユーノを見据える。

「全部で21個あります。今現在封印処理を施されているのは、今僕が持っている2つだけです。
 残りは19個。1つでも発動し、暴走を始めてしまえば、この世界は滅びます」

「何て……ことだ……」

 暗い声が士郎の口から洩れる。
 ユーノは決意の籠った声で、皆に向かう。

「お願いです! 身勝手なことだとは分かっています! ですが、このままジュエルシードを見過ごす訳には行かないんです!」

 ユーノは頭を下げる。

「お礼は必ずします。魔力が戻るまでの間でいいんです。一週間、いえ五日でいいんです。どうか、力を貸して下さい!」

「わかった」

 士郎がその言葉に即答する。

「桃子さんも、それでいいかな?」

「ええ、もちろん」

 桃子も微笑みながら首肯する。

「私達の街が危ないのなら、少しでも力になりたいと思うわ」

「うん、私も賛成だよ」

 美由希も頷く。

「……ありがとうございます」

 ユーノが礼を言う。

「君も、お礼なんてことは考えなくていい」

「そうだよ。困った時はお互い様なんだから」

「“困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるのなら、その時は迷っちゃいけない”だったかしら?」

「ああ、さすがは桃子さんだ。僕の言ったことを覚えていてくれるなんて……」

「あらあら、当然よ」

 そして士郎と桃子は笑い合う。
 先程までの重苦しい空気など無かったかのように。
 その言葉に、ユーノは先程とは別の意味で頭を垂れる。
 そこで桃子が気になる事を質問する。

「そういえば、どうしてそんなものがこの世界にあるのかしら?
 聞いた話だと、この世界にはそんなものがあるようには思えないのだけれど……」

「……僕の……せいなんです」

「どういうことだい?」

「僕は故郷で、遺跡発掘を仕事にしているんです。
 そしてある日、古い遺跡の中でアレを発掘して……。
 調査団に依頼して、保管してもらうことになっていたんですけど、
 運んでいた時空間船が、事故か、何らかの人為的災害に会ってしまって、
 その時に近くのこの世界に、降り注いでしまったんです」

「……それだと、話を聞く限り、君の所為ではないと感じるけど?」

「でも、アレを見つけてしまったのは僕だから……。
 全部見つけて、ちゃんと有るべき場所に返さないといけないから……」

 呟くようにユーノは答える。
 敬語を使うのも忘れているようだ。

「君は悪くないよ」

 そういって、フェレットには大きすぎる手で、士郎がユーノの頭を撫でる。

「君はこの世界を見捨てる事も出来た。けれどそれを良しとせず、何とかしようと行動した。
 一人でそんな事をしたのは確かに無茶だとは思うけど、その思いを踏みにじるようなことはしないさ。
 それに、君が見つけなくても、いずれ別の人がジュエルシードを見つけていただろう。
 それを考えると、君に見つけて貰ったのは不幸中の幸いと言ってもいい」

 士郎は立ち上がると、軽く背伸びをする。

「それじゃ、久しぶりに動くとしようか」

「お父さん、身体鈍ってるんじゃないの?」

「おいおい、確かに昔ほどの力は無いけど、それでも僕は御神の剣士だよ? 守るものがある時、御神流は絶対負けないさ」

「そうだったね」

「でもそうなると、お店の方は閉めなきゃいけなくなるわね」

 桃子が翠屋を開くことが出来ないため、悲しい顔をする。
 それに安心させるようにユーノが補足する。

「あ、ジュエルシードは今眠った状態です。
 そのため、今のままでは見つけることが出来ません。
 ですが、発動しても、暴走を始めるまでには時間があります。
 その間に封印を施せば大丈夫です。
 僕は発動を感知出来るので、それから動いて頂いて構いません」

「そうなの?」

「それなら、いつも通りの生活を続けていいということかな」

「はい」

「じゃあ、私達は仕事に行きましょうか」

「そうだな」

「私も仕事があるし」

 桃子の言葉に士郎と美由希の二人が返す。
 美由希はユーノに話しかける。

「ユーノ君はなのはと一緒にいてくれるかな? 一人くらいは連絡する人が必要だからね」

「はい、分かりました」

 そこで士郎が気付く。

「そういえば、なのははどうしたんだ?」

「まだ寝てるみたいね」

「お店の方には張り紙しておいたから大丈夫でしょ」

(……本当に大丈夫なのかな?)

 一人心配になるユーノであった。






あとがき

今回は説明の回ですね。
ユーノはアニメではなのは一人に全て任せてしまうことになるので遠慮していましたが、
この話では頼った相手が大人なので色々と話しています。

次回からタイトルの「一発」外します。
もう結構続いているので、一発ネタとは言えませんからね。

気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>一発ネタは一発だからいいんだと思います。
うけたからといって続かせようとするとたいていグダグダになっていくものです。

そうですね。ですがここまで書いてしまったので、せめて無印は終わらせようと思います。

>何本買ってやがるwwwww

とりあえず七本です。

>ちょっと待って欲しい
買いまくってるシーンあるけど、ほとんど飲んでねぇ

すいません。描写不足でした。
一本目のところでなのはさんは一気に呷って飲み干しているので、二本目からもそうだと言いたかったんですが。

>…あと月村さんとこのお子様たち(忍の子)が一体どうなっているのか。

忘れてた。まあ、登場しないと思うのでスルーの方向でお願いします。

>30超えてというか10代半ばからあのセリフを人前で言うって、
罰ゲーム以外の何物でもないんじゃ?

なのはさんもそう思っています。

>つまり愛さんはとらハ設定準拠だとアニメ原作時点で30歳。今作はその23年後ですので…。

なるほど、桃子さんの3歳下ですか。ありがとうございます。

>思った。グレアムさんは地球出身。
20年違うとクロノパパと接点が無くなるのではないか?

艦長と提督なら多少は接点が作られるのではないかと思います。

>桃子さん5〇歳になって『最近』小じわが気になり始めたって・・・・・・。
何年時を止めてるのかとww
そしてそれでも無印時と変わらない外見であると信じる自分がいるwwwww。

間違ってません。女性は好きな人の前ではいつまでも美しくありたいと願うものなのです。

>個人的にはなのはさん(32)の酒癖が気になるところ……なんとなく、絡み酒に一票。

私もそう考えています。けれど酔った状態で絡む相手がいないのが現実。

>とりあえず、酔ったフェイトさんが脱ぎ出すことにはついては議論の余地はないと思うのですが。

私もそれで間違いないと考えています。

>……年齢的にまだ飲酒できないのが悔やまれるところです。

ええ。本当に……とても悔しいです。

>……二日酔い解消の魔法とかあったら飛びつきそうだな。

砲撃以上の優先順位です。

>酔っているとふだんより、パワーアップするような設定などはあるのでしょうか?

酔っていると恥じらいが薄くなります。そのため魔法の発動がスムーズになるので、パワーアップすると考えて頂いて結構です。
次の日大ダメージを負うことになりますが。

>魔法(元)少女と言えばやはり羞恥プレイですね!

ですよね!

>それにしてもやさぐれ美女っていいですね、そそります。

そそりますよね!

>今気がついたがジャージか。……ジャージか……。

アズキ色ですよ?

>いやぁ、更新早くて面白いってのは最高ですね。これで長ければってのは言いすぎかな?

ありがとうございます。一話に一つのテーマみたいに書いているので、長い時もあれば短いときもあります。

>なのはさんにしろはやてさんにしろ32歳まで放っておくとは男の見る目ねぇな。

はやてさんはともかく、なのはさんは言い寄られている事に気づかないだけです。


あと黒詩さん。
そのサイト教えてください。
その設定使ってみたいです。



[10864] 第七話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/10 16:53





 コンコン

「すいませーん。ユーノですけど、なのはさん、起きてらっしゃいますか?」

 ユーノが扉を叩くと、中からゴソゴソと何かが這うような音がした。
 数瞬の後、ガチャリと扉が開き、中からなのはが顔を出した。

「……あれ? 誰もいない……」

「こっちです、なのはさん。下です」

 ユーノの呼びかけに、なのはは下を向く。

「……あ~。そうだったそうだった。ユーノ君フェレットだったね。忘れてたよ」

「いえ、僕は人間で、今は魔法でこの姿になっているだけなので、別にフェレットの姿が本当というわけではないです」

「どうでもいいや……」

 ユーノの発言をさらっと切り捨てるなのは。
 
「それより、なに? 今はちょっと、気分が悪いんだけど……?」

 凄く不機嫌な顔をして、ドスの聞いた声でなのはは告げる。
 十分寝たはずなのに、目の下には隈が浮かび、寝起きのせいで髪はボサボサになっていて、
 高町と左胸に刺繍された小豆色のジャージは、刺繍のところが僅かに綻んでいる。
 そのなのはが青い顔で、まるで虫けらを見るような目でユーノを見つめている。
 その目に射抜かれたユーノはしどろもどろになり、言葉が上手く出てこない。

「あ、いえ、その……」

「用がないなら後にして……」

「いえ! あの、調子が悪いのなら、魔法でなんとか出来ると思いまして……」

 なのはが扉を閉めようとするが、ユーノがそれを制止する。
 閉まろうとしていた扉がピタッと止まり、中からなのはの声が聞こえてくる。

「……それ、本当?」

「はい。体調を整える魔法がありますから、それを使えば……」

「……入って……」

 キィィィッ、と扉がゆっくりと開いていく。
 そしてユーノは、魔王の一室へと足を踏み入れたのだった。








「あ~すっきりした。魔法ってこんなことも出来るんだねぇ」

 ユーノの魔法によって、なのはの体調が万全になると、なのはは起き上がってユーノを肩に乗せ、洗面所へと向かった。
 顔を洗ってさっぱりすると、既にそこには、先程の悪魔じみた表情をしていた女性の姿は無かった。
 ちなみになのはの治療で、ユーノの魔力の回復が少し遅れたのは余談である。
 櫛で髪を梳かしながら、なのははユーノに話しかける。

「にしてもユーノ君、二日酔いに効く魔法なんて良いモノ知ってるね。ユーノ君もよく飲むの?」

「い、いえ。僕はお酒はちょっと……。あとこの魔法は体内の毒を解毒したりするものの応用です」

「ふ~ん」

「僕は遺跡発掘を仕事にしているので、侵入者を撃退するための罠などに遭遇することが多いんです。
 ですから僕達一族は、罠を調べるための探査魔法や、身を守る為のシールド魔法や、危機に陥った時の為の回復魔法が得意なんです。
 特に僕達スクライア一族は、転移魔法などで各地を旅しているので、転移時に気分を悪くすることもよくあるので……」

「なるほどねぇ」

 なのはは感心したような声を出す。
 だがそういうことはどうでもいいようだ。

「それでさ、ユーノ君。あの魔法、私にも使える?」

「え? ああ、構成自体は初歩的な魔法なので、なのはさんなら直ぐに使えると思いますよ」

「やった」

 なのははその言葉に満面の笑みを浮かべる。
 その笑みを見たユーノが、毛並みを僅かに赤くしたらしい。 




 なのはとユーノは部屋に戻り、なのはが寝ていて聞いていなかった説明をもう一度ユーノがする。
 時折頷いて相槌を打ちながら、最後まで話を聞くと、なのはもまた、ユーノを撫でた。

「やっぱり、ユーノ君のせいじゃないと思うよ。私も手伝うから、一緒にがんばろうね」

 そう言われ、自然とユーノは、再び頭を下げることになる。
 そこでなのはが、頬を掻きながら、ユーノに質問する。

「そういえばさ、あの呪文何とかならない? ちょっと恥ずかしいんだけど……」

 控え目に二度とやりたくないとなのはは伝える。

「それは大丈夫です。これを」
 
 そういってユーノがレイジングハートを掲げる。
 なのはがそれを受け取り、見つめる。

「セットアップと言ってください」

「えっと、セットアップ」

『Stand by ready. Set up.』

 するとレイジングハートから光が溢れ、次の瞬間には、なのはは翠屋の制服を着て 手には泡立て器を持っていた。

「僕達の魔法はプログラムみたいなものなので、ショートカットを組めば次からは簡略化して使うことが出来ます」

「え? じゃあ昨日はどうしてあんな事言わされたの?」

「あれは悪用されないための本人認証用の起動パスワードなので、最初は必ず唱える必要があります。
 あの時は僕がそれを教えたので、初めて使うなのはさんでも使用出来ました」

「じゃあ、もう唱えなくていいんだね?」

「はい」

 それを聞いてなのはは、これで心おきなくユーノの手助けが出来ると喜んだ。

「それで魔法のことですが、レイジングハートはインテリジェントデバイスという、人工AIを積んだデバイスです。
 その中でも祈祷型という分類になりますね」

「祈祷型?」

「ある程度の魔法を事前に組み込んでおくことで、術者の願いを感知して魔法の制御や発動をデバイスが行ってくれるんです」

「それは便利だね」

 そしてなのはは目を閉じ、少し考え事をすると、バリアジャケットは解除され、泡立て器も元のサイズのビー玉へと戻っていた。

「こんな感じ?」

「はい。あと、デバイスにも意思があるので、危険と判断したらデバイスが魔法の発動を抑えることもあります」

「ふ~ん」

 なのはは手に持つ赤いビー玉に目をやる。

「ただの道具ではなく、信頼関係の結ばれたパートナーと考えて頂けると嬉しいです」

「わかった」

 なのははレイジングハートを顔と同じ高さまで掲げる。

「ちゃんと挨拶出来なかったけど、これからはよろしくね、レイジングハート」

『こちらこそ、よろしくお願いします。マスター』

「マスター? 私が?」

『今のマスターは貴女です』

「僕にはレイジングハートは使いこなすことが出来ませんでした」

 少し落ち込んだ顔でユーノは呟く。

「ですから、レイジングハートをなのはさんに使ってもらいたいんです」

『私もそれを望んでいます』

「ん……。わかった。それじゃあ改めて。よろしくレイジングハート」

 そしてなのははユーノから首飾りをもらい、レイジングハートを首から下げる。

「どうかな?」

「綺麗ですよ、なのはさん」

「ありがと、ユーノ君。綺麗だってさ、レイジングハート」

『私ではありませんが』

「?」

 なのはが顔に疑問を浮かべていると、ぞっと背筋が冷える感覚がなのはを襲った。

「っ!? これって……!」

「ジュエルシードです! ジュエルシードが発動する前触れです!」

「近い……?」

 初めて味わう感覚になのはは戸惑う。

「美由希さんたちに連絡を!」

「わかった!」

 なのはは携帯で二人に電話を掛けながら、家を飛び出す。
 電話に出た美由希と士郎は、直ぐにジュエルシードの現場に直行すると返って来た。

「あの人達がいくら強くても、封印作業は僕達にしか出来ません。手遅れになる前に急がないと」

「分かってる」

 そしてなのはは、急いでその場へ向かうため、手を上げた。


「タクシーッ!!」







あとがき

なのはさんは二日酔い対策を手に入れた!
とまあ、そんな感じです。
前回は次元世界とロストロギアについて、今回は魔法とデバイスについての話になってますね。
あと今回大人にしか使えない移動方法を使用しています。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>…ところで、主人公って美由希さん(40)でしたっけ?

登場人物は全て主人公です、ということにしておいてください。

>しかしなのはさんもし魔法処女ならアレだけ酒飲みなのに酔いつぶれて、
>男性にお持ち帰りされた事無いとは不思議です。

なのはさんはワンカップ七本飲んでも普通に歩いて帰っています。
それに一緒に飲みに行く男性がいなかったんでは?

>ユーノ・・・月村さん家の3姉弟に出会っていればタイトルが「魔法少女剣士ヴァンパイア雫」になっていたのにw

月村さん家って三兄弟だったんですか? 
でも雫ももう成人してるんじゃ……。

>ここのなのはさんがモロにタイプなんですが。
>俺に下さい。お願いします(土下座

美由希「え? そういうことはまず私を倒してから言ってくれる?」

>「悔しい…でも飲んじゃう…!グビッグビッ!」

おそらく、「悔しい…だから飲んじゃう…!グビッグビッ!」だと思います。

>・・・高校指定の体育用をそのまま流用中ですねわかりまs(接続が中断されました!

そのとお(接続が中断されました!

>はやて

不憫ですねぇ。

黒詩さん
なんかよくわからないので、もう高町家の遺伝子が全部やってくれてるってことで。



[10864] 第八話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/11 02:41




「うそだ……」




 なのはは目の前の現実を認めたくなかった。




「そんな……」




 アルコールがまだ全て抜けていない可能性も考えられるため、自分では運転せず、タクシーを拾ってまで急いだなのは。




 しかし、現実は残酷だった。




「え? これ……登るの?」




 なのはが見上げる先には、数えるのも馬鹿らしいほどの数の石段と、遥か上空に聳える小さな赤い鳥居の姿があった。




「ねぇユーノ君。私ちょっと体調が悪いかな……って」




「何言ってるんですか!? さっきまで物凄い元気だったでしょう!?」




「やっぱり登るんだね……とほほ」




 そしてなのはは必死に石段を登り始めるのだった。




 なのはの敵は、どうやらジュエルシードではなく石段のようだ。









「ヒィッ……ハァッ……」

 あともう少しで登り切るところまで来たとき、なのはの足が止まった。

「無理ぃ……きついぃ……」

 なのはがタクシーまで使って温存した体力は、もう全て使い切ってしまったらしい。

「もう少し! あともうちょっとですから!」

「うん……」

 横からユーノが声援を掛ける。
 なのははそれに応えようとまた登り始める。
 しかし、最初のころの勢いは既になく、遅々としてその歩みは遅い。
 それでも尚なのはが登り、途中の踊り場まで辿り着いたとき、上から獣の咆哮が聞こえてきた。
 離れていてもビリビリと肌に突き刺さるような雄叫び。
 その雄叫びを聞いた小鳥や小動物が、一斉に飛び立ち逃げ出していく。

「なのはさん、気をつけて下さい!」

「うん、レイジングハート!」

『All right』

 その一言でなのはの胸の宝玉が光り輝く。

『Stand by Ready.Set up』

 なのはの身体を光が包み込み、緑屋の制服を着て、泡立て器を持ったなのはが現れる。

「来ます!」

 ユーノが毛を逆立てて威嚇する。
 鳥居の上に飛び乗り、なのは達の視線の先に現れた敵は、なのはの予想以上の姿をしていた。

「何、あれ?」

 犬、に見える。
 しかし、犬と本当に言っていいのか、とても難しい。そんな姿をしていた。
 爪や牙はサーベルタイガーのように鋭く尖っていて、四肢はなのはの胴体よりも太く、黒い外皮は鋼鉄の如き光沢を放っていた。
 青い宝石を埋め込まれた頭部には4つもの目が付いていて、その全てでなのはを睨みつけている。
 虎のように大きい身体は、一息でなのはを吹き飛ばすことなど容易いだろう。
 この姿を見たあとでは、昨晩のジュエルシードの思念体などただの毛玉でしかない。

「ジュエルシードが、この地の原住生物を取り込んだんです。
 実体がある分、思念体よりもずっと手強くなってます!」

「グルルルッ!! ガアアアアアッ!!!」

 暴走体は鳥居から飛び降り、なのは達のもとへとグングンと駆け下りて来る。

「え、ええと、ええっと?!」

「なのはさん! 僕の指示に従って下さい!」

「わ、わかった!」

 なのははユーノの指示に従うことにする。

「なのはさん、願って下さい。盾を。なのはさんを守る、何よりも強力な盾を!」

 その言葉に従い、なのははレイジングハートを正面に構える。

「お願い、レイジングハート」

『Protection』

 泡立て器のグリップの底部に付けられた赤い宝玉が光り輝き、白金色の先端が回りだす。
 そして先端から桜色の光が放射状に広がり、なのはを包むように壁を形成する。
 暴走体はその壁にぶつかり、弾き飛ばされる。
 なのはも衝撃で一歩後ろに下がったが、それだけだ。
 プロテクションは主を守り抜くと、光の粒子となって霧散していった。

「これは……」

 ユーノがその魔法を見て、唖然とした表情を浮かべる。

「プロテクションが4つも発動している? しかも反発していない。これはいったい……」

「どうしたの、ユーノ君? 次は!?」

 険しい顔でまだ動き続けている暴走体を見据えながら、なのははユーノに問いかける。
 その声にユーノは正気に返る。

「はっ! いえ、なんでもありません。なのはさん、次はバインドであの暴走体を拘束してください」

「わかった。レイジングハート!」

『Chain Bind』

 桜色の鎖が地面から出現し、暴走体を捕らえる……ことが出来なかった。
 暴走体は魔法の鎖を視認した瞬間、勢いよく後ろに跳び退る。
 対象を見失った鎖は、役目を果たすことなく消え去った。

「グルルルル……!」

 暴走体はなのはを睨みつけていたが、踵を返すと、石段を駆け上がり始めた。

「あいつ、逃げる気です」

「ええっ!? 私じゃ追いつけないよ、どうすればいいの!?」

 戸惑うなのはの肩に飛び乗ったユーノが返す。

「願って下さい! あいつに追いつくことを。空さえも飛べることを!」

「……わかった!」

 なのはは再びレイジングハートを構える。

「レイジングハート!!」

『Flier Fin&Flash Move』

 そして、なのはの姿が一条の光となって掻き消える。
 一瞬で何十段もあった石段を飛び越え、頂上に降り立つ。
 そこからは、走り去っていく暴走体の姿が見えた。
 そして、その先にいる気を失った女性の姿も。

「あいつ、あの女の人を襲うつもりだ!」

 ユーノが慌てる。

「危ない!」

 なのはが先ほどと同じようにプロテクションで女性を守ろうとする。
 しかしその発動よりも前に、暴走体は女性に躍りかかった。
 だが暴走体は何かに弾かれるように吹き飛ばされる。
 遅れてなのはの魔法が発動し、女性の周りに桜色の壁が出現する。
 二度も弾き飛ばされた暴走体は、ふらつきながらも再び立ち上がろうとする。

「駄目だよ……、そんなことしちゃ……」

 なのはが悲しげな顔で、暴走体に静かに語りかける。
 片手に持つレイジングハートに、なのはは尋ねる。

「ねぇ、レイジングハート。さっきのプロテクション、ドーム状に張ることは出来る?」

『No problem』

「そう。じゃあお願い。内側にね」

『OK.Circle Protection』

 そして、桜色の光が半球型に展開し、暴走体を包み込む。

「グルッ! ガアアアアアッッ!!」

 突如として自分の周りを取り囲んだ壁に、暴走体は苛立ちを見せる。
 壁に激突して破壊しようとするが、そのたびに弾かれ、中央へと戻されていく。

「レイジングハート」

『Chain Bind』

 そして、ドームの周りに再び桜色の鎖が出現し、ドームに巻きつく。
 すると、暴走体が何度突進を繰り返してもビクともしなかったドームが、鎖の形に締めあげられていく。
 当然、中にいる暴走体もろとも。

「グウッ! ガウッ! ガッ!」

 ゆっくりとなのはは歩いて暴走体に近づいていく。
 傍まで来ると、暴走体の様子が手に取るようになのはには分かった。
 締めあげられて身動きが取れなくなった暴走体を、密着しているプロテクションが弾き続けている。
 暴走体とプロテクションの境界から、硬質的でメタリックなイメージを抱かせた外皮が、段々と焼け焦げていく匂いがなのはの鼻を刺激する。
 それを見て、なのはは眉を顰める。

「ごめんね、私は用心深いの……」

 そしてなのはは、レイジングハートの先端を、プロテクションの上から暴走体の額に押し当てる。

「レイジングハート」

『Sealing』

 先端から放たれた光は、あんなにも暴走体を苦しめたプロテクションを、紙のようにあっさりと貫いて暴走体の額に突き刺さる。

『Receipt number XVI』

 そして、レイジングハートの無機質な声と共に、暴走体は消えていった。







あとがき

息抜きで書いていたこの話が、メインで書いていた話より感想が多くて涙目の作者です。

戦闘なんて初めて書いたからとても辛いです。
次に戦うのが犬だったのは覚えていても、場所が上の方の神社なのは忘れている人も多かったんじゃないでしょうか?

今回、チュートリアル、もとい犬フルボッコの回となっております。
この話でなのはさんが魔法の使い方を意識的に覚えます。
そしてアニメで見ていて思ったのですが、あの犬ってユーノが思念体より手強いとか言っていたけど、
自分からプロテクションに突っ込んで自滅したので、あんまり強さが分からなかったんですよね。
あんなに凶悪な外見しているのに、弾かれてすぐ終わりなんて、もったいないなと思いましたよ。
ですので、少し耐久力を上げてみました。
その分この話では酷い目にあったわけですけど。

そして気になるレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>急いでるからタクシー。
……それはわかる。わかるけど、シュールだなぁ
>タクシー……。タwwwクwwwシwwwーwww
>ごめん、タクシーのせいでヤクルト吹いたわwww
>タクシーw
>そうだよね大人だし急いでるなら使うよねww
>いい大人ならタクシー使いますよねーww
合理的っちゃあ合理的だがやはりシュールww
>タクシーwww
>一般人としては限りなく正しい判断だけど、おかげでむせて家族から変な目で見られたじゃないか。
>タクシー噴いたwwww
>#タクシーは吹く
>そしてタクシーの運ちゃんはノリノリで危険な場所に爆走していくんですね。
なのはの機動力が無い代わりに運ちゃんのドラテクで回避w
そして箱乗り状態でディバインバスターとか(ry

タクシー人気なようで嬉しいです。
あとヤクルト吹いた人と、むせて家族から変な虫けらを見るような目で見られた人、ご愁傷様です。

>というかなのはが飲める上限はどれくらいなのだろうか。

なのはさんは二日酔いに苦しむことはあっても、酔いつぶれたことはありません。

>やべえ次元世界なる物があると知ったらなのはさん各世界の酒蒐集に動きそうだなw

さて、どうでしょう。

>なのはが回復魔法の取得……不可能だな、うん(キッパリ)。
いえ、原作中ではそんな魔法を使った記憶がないもので。

ここのなのはさんの酒への執念を忘れてもらったら困る。

>とりあえずなのはさん(32)の間・入口を地獄門と名付けるのはどうだろう?

いいかもしれませんね。
それじゃあケルベロスを配置しないと。

>はやて
地球に闇の書が現れたのは、はやてが2X歳以降になってからと考えています。

>これで二日酔いも明日の店の事も気にせずさらに飲めますね

そうですね。

>32歳でお酒大好き+運動不足=下腹ポッコリ

高町遺伝子がそんな暴挙を許すことはしません。

>…今、たった今気づいたんですけど、泡立て器ってことは砲門(誤字?ありえんw)二門?

ノー。砲門は4門です。

>アニメ版ですね、わかりまs

そうです。


さて、初めて書いたので戦闘は分かりにくいかもしれませんが、どうだったでしょうか?



[10864] 第九話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/11 14:37

 なのはがジュエルシードを封印すると、あとに残ったのは小さな子犬と、封印を施されたジュエルシードだけだった。
 レイジングハートの中にジュエルシードを格納したなのはは、気を失っている子犬をそっと抱き上げる。

「こんな小さな子が、どうして……」

 痛ましい表情でなのはは子犬を撫でる。
 ユーノがそれを見ながら、自分の推論を述べる。

「多分、強くなりたいという願いを、ジュエルシードが叶えようとしたんじゃないかと」

「こんな叶え方は、間違ってるよ」

 子犬を撫でながら、なのはは断言する。

「これじゃあ、誰も幸せになんかなれない」

 そこでなのはは、子犬がお腹に怪我をしているのを見つける。

「これは……」

 薄茶色の綺麗な毛並みの一部が、僅かに焦げ付いていた。

「私がやったんだね……」

「それは……!」

「いいよ。事実だから」

 ユーノが反論しようとするが、なのはは首を振る。

「レイジングハート。この子の傷、治せる?」

『No problem』

「そう……」

 なのはの手に持つ泡立て器が、桜色の光を振りまきながらクルクルと回る。
 暖かな光は子犬に降り注ぎ、傷を癒やしていく。
 傷がふさがり、毛並みが元通りになると、子犬が身じろぎし、目を開ける。

「凄い……」

 ユーノがそれを見つめながら、ポツリと零す。

「僕はそんなこと教えていないのに……」

「これでいいかな?」

 そういってなのはが子犬を地面に降ろす。
 子犬は一度身体をブルブルと震わせて、キャンと一度鳴いたあと、走り去って行った。
 飼い主であろう、気を失っている女性の元へ。

「あの人、あの子の飼い主だったんだ」

「そうみたいですね」

 飼い主の頬をペロペロと舐めている子犬を、目を細めて見ながら、なのははユーノに尋ねる。

「……ねぇ、ユーノ君」

「なんですか?」

「あの子、もしかしてあの人を襲うんじゃなくて、ただ甘えたかっただけじゃないのかな?」

「わかりません」

「そうだね……」

 暗い顔でなのはは言う。

「もしかして、私は悪者だったのかな?」

「そんなことないです!」

 ユーノが首を振って否定する。

「なのはさんは凄いです。
 なのはさんは魔法に触れたばかりなのに、あれだけ使いこなせてたじゃないですか。
 なのはさんは応用を自分で考え付いたじゃないですか。
 なのはさんはさっきは僕が教えていない回復魔法まで使ってあの子犬を助けました。
 だから、だから……」

 言葉が思い浮かばず、だからと繰り返すユーノ。
 その頭を、なのはは優しく撫でる。

「ありがと、ユーノ君。慰めてくれたんだよね」

 ユーノは俯きながら、なのはに言う。

「もう終わったんです。それでいいじゃないですか」

「そうだね。もう終わったんだから……ね」

 そしてなのははバリアジャケットを解除する。
 翠屋の制服から元の服に戻り、レイジングハートも元の宝玉へと戻った。

「さて、帰ろうか。ユーノ君」

「あ、はい」

 なのはの肩に飛び乗ったユーノが、そこであることに気付く。

「あれ? そういえば美由希さんたちはどうしたんでしょうか?」

「来てたよ?」

「え?」

 なのはの言葉に、ユーノは疑問符を顔に浮かべる。

「あの犬が女の人に飛びかかったとき、私はまだプロテクションを張れてなかったよね」

「そういえば……」

 思い返して、そのことにユーノは気付く。
 なのはのプロテクションが発動したのは、暴走体が弾き飛ばされた後だった。

「あの子に向かって針が飛んで行くのが見えたからね。刺さりはしなかったみたいだけど。
 でも二人とも、少し離れた所から見てたんだと思うよ?」

「でも、どうしてそんなことを?」

「さあ? 
 来るのが遅かったのかもしれないし、私がどこまで出来るのか見ていたのかもしれない。
 二人とも仕事が忙しい中、わざわざ抜け出して来たんだからね。
 もう大丈夫だと分かったから、帰ったんじゃないかな?」

 なのはの知る高町家の皆は、自分が助けたからって自慢をするような性格はしていないのだ。

「何にせよ、随分と私は信頼されているみたいだね」

「なのはさん……」

 頼りにされていることに、なのはは少し気恥ずかしそうに笑う。

「さ、行こうか」

「はい」

 なのはは来た時とは違って、ゆっくりと石段を下りていく。
 急ぐ理由も無くなったからか、歩くことを楽しむ余裕が出来た。
 風に絡む髪を梳きながら、なのははのんびりと高台から見える海鳴の街を眺める。

「けっこう動いたから、喉がもうカラカラだよ」

「また飲むんですか?」

「当然。良い魔法も知ったし、これで休肝日を作らなくて済むよ。ありがとうね、ユーノ君」

「いえ、それは作ったほうがいいと僕は思います」

「ユーノ君も飲む? 甘酒作ってもいいけど」

「遠慮しておきます」

「何だ、残念。
 お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、皆あまりお酒飲まないからね。
 いつも一人で飲んでいるんだけど」

「……」

「ん? ユーノ君、どうしたの?」

「……一杯だけなら」

「そう。それじゃあ、腕によりを掛けて作るからね」

「ははは……」

 ユーノの乾いた笑いが響く。
 止めておけばよかったかな、とユーノはその日、フェレットサイズで見た、御猪口に注がれた酒の量の多さを見て、後悔することになるのだった。





「……あ、タクシーッ!!」






あとがき

これでアニメの第二話分まで終了です。
前回の話の補足みたいな感じなので短いです。

気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>階段登るだけで息切れするのは相当ヤバイ。

ヤバイですけど、全力で走って登ったら息切れすると思います。

>ミルフィーユシールド

アイデアありがとうございます。
ですが、なのはさんがそんなこと叫ぶことは絶対ないと思います。
自分で考えた名前を使うぐらいなら、余程酷くない限りはデフォルトの名前を使います。

>でも、離れた場所からビームを撃たない辺りに詰めの甘さが見えますね。

これは詰めが甘いんじゃありません。
この時点で、うちのなのはさんはまだ砲撃魔法というものを知りません。
だって泡立て器からビームが撃てるなんて想像出来るわけないじゃないですか。

>来たるちみっ子もこれで完封出来るのか?
見た目完全に普通の喫茶店店員ですから、油断するかもしれないですね。

どうでしょうか。

>とりあえず最大の敵は『階段』ですね。

私もそう思います。

>しかし、疲れてハァハァしてたなのはさん(32)に軽く欲情したのは内緒です。

書いてて私も軽くそんな気になりました。

>翠屋の制服着て泡立て器を持って飛ぶ32歳の飲兵衛魔砲処女…
シュールな画だな…

駄目ですかね。





[10864] 第十話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/12 16:01





「……レイジング……ハート」

『All right』





 なのはが魔法に出会ってから一週間。
 こうしてレイジングハートに毎朝の魔法を頼むようになってから、なのはは毎日気持ち良く起きることが出来ていた。

「やっぱり魔法って凄いねぇ……」

 猫のように背伸びをして、肩を軽く叩いてマッサージしながら、なのははポツリと呟く。
 服を着替えると、なのはは階段を下りて、洗面所で顔を洗う。
 冷水がなのはの意識をクリアにしていく。
 すると、後ろからこの一週間で聞き慣れてしまった声が、なのはの名前を呼ぶ。

「あ、なのはさん。おはようございます」

「あ~、ユーノ君か。おはよ~」

 のんびりとした口調で、鏡越しに見える小さなフェレットに挨拶する。
 寝ているときに乱れてしまった髪を、櫛でゆっくりと梳かしていく。

「そういえばユーノ君、ジュエルシードってあと何個封印しなきゃいけないんだっけ?」

「あと16個です」

「16個かぁ……。先は長いなぁ……」

 櫛を洗面台に戻して、ユーノを肩に乗せる。

「それじゃ、朝ご飯にしようか」

「そうですね」

 そして二人はリビングへ向かう。







「いただきます」

「いただきま~す」

 そんな声が朝の食卓に流れる。
 士郎はいつものように桃子の料理を褒め、桃子はそれに照れながらも笑顔で返す。
 それを眺めている美由希となのは、という構図が出来上がる。
 最近はこれにユーノを加えて食事をするのが高町家の朝の日常だった。

 朝食を食べ終えて、桃子は食器を洗いに行き、なのはは美由希や士郎と和やかな会話をしていた。
 すると、ふとなのははあることに気付き、ユーノに尋ねる。

「ねえ、ユーノ君」

「なんですか、なのはさん」

 ユーノはクッキーを齧る手を止めて、なのはを見る。

「魔法って他にどんなことが出来るの?」

「どうかしたんですか? 急にそんなことを聞くなんて」

 ユーノが首を傾げる。

「この間の子犬に取り憑いたジュエルシードの時は、ユーノ君の言うとおりに色々使ったけどね」

「ええ、格好よかったですよ」

「ありがと。それでね、あれから毛玉しか出てないから、お父さん達に一瞬で倒されて私は封印しかしてないでしょ?」

「そうですね」

 子犬に取り憑いた暴走体はなのはが一人で倒したものの、その後見つかった2つのジュエルシードは、普通の思念体だった。
 たかが毛玉ごときには傷一つ付けることなど出来ず、士郎達にあっさりと瞬殺され、なのはは封印作業を淡々とやっていただけだった。

「だから、私一人でもなんとか出来るようにしようかと思って。
 私のお店は、半分道楽でやっているようなものだから色々と融通が利くけど、お父さんやお姉ちゃんはそうじゃないし」

「そうですか……」

「そもそも魔法ってどんなものかよく知らないから、色々聞いてみたいなって思って」

「そうだな。魔法なんて専門外だから僕も興味あるし、ユーノ君、教えてくれないか?」

「あ、私も!」

 なのはの言葉に、士郎と美由希も賛成する。

「わかりました。それでは、僕の知っている事なんて僅かですけど、お話しようかと思います」

「よろしくね」

 ユーノは手に持っていたクッキーを横に置き、小さな身体を精一杯伸ばして、皆を見渡す。

「まず、魔法とは、身体にあるリンカーコアと呼ばれる器官を通して発動されるものです」

「リンカーコア?」

「はい。『連結する核』の意味で、魔導師が持つ魔力の源です。
 これがあるからこそ、僕たちは魔法を使うことが出来ます。
 大気中にある魔力素と呼ばれるものを取り込んで、魔力へと生成し、魔法として使うために外部に放出する器官です。
 ちなみに魔力の色は、僕なら翠色、なのはさんなら桜色といった感じに、人によって固有の色を持っています。
 この魔力光が一致するのは稀で、魔法を使った犯罪の調査にも使われています」

「へぇぇ」

 美由希は感心したような声を出す。

「なんか器官とか犯罪の調査とかいうから、あまりファンタジーって感じがしないなぁ」

「そういうな、美由希。たとえどんな力であっても、使うのは人間だ。そういうこともあるさ」

「僕たちの魔法は、あくまで科学の延長上にあるものだと、そう思って頂いて結構です」

「わかった」

 美由希が頷くのを見ると、ユーノはまた話し始める。

「そして肝心の魔法の種類についてですが、これは多種多様といってもいいです」

「主にどんなのがあるの?」

「そうですね……」

 ユーノは考えを纏めるかのように手を顎に当てて、少しの間思案する。

「なのはさんが使った魔法から説明することにします。
 まずなのはさんの身を守った、プロテクションなどの『防御魔法』があります。
 これはバリア系、シールド系、フィールド系の三種類に大別されます」

「プロテクションはどれに入るの?」

「プロテクションはバリア系に分類されます。
 バリア系は物理的な攻撃に強い防御力を誇りますが、魔法などには弱いです。
 それに対して、シールド系と呼ばれるものは魔法的な攻撃に強く、物理攻撃に弱いです。
 最後のフィールド系ですが、これはバリアジャケットのことです。
 このフィールド系はどちらの攻撃にも耐性を持っていますが、それぞれに特化した魔法ほどではありません」

「なるほど。後でメモを作っておいた方がいいかな?」

「必要があればまたお話します」

「ん、ありがと」

 そしてユーノはコホンと咳払いをして話を戻す。

「次に、『捕獲魔法』の説明をします。
 なのはさんが使ったチェーンバインドは、この中に入ります。
 相手に悟られないように、事前に設置しておくことも可能です」

「それは凄い」

 士郎が呟く。

「次は『補助魔法』を。
 補助魔法には飛行魔法で空を飛んだり、念話で遠くの相手と話したりすることが出来ます。
 転送魔法で指定した座標まで人や物を転送したり、探索魔法で探し物をすることも可能です。
 ジュエルシードを封印する魔法もこれに入ります。封印魔法は他に比べるとマイナーなんですけどね」

「ああ、あれね」

 なのはは飛行魔法で石段を飛び越えた時を思い出す。
 アレを最初から知っていれば、あんなに苦労することなどなかったと、後でしみじみと思ったものだ。

「でもあれを人目のあるところで使うと、フライングヒューマノイドとかいうUMA扱いされちゃうからなぁ……。
 もし捕まったりしたら、ジュエルシード探しどころじゃなくなるし……」

 なのはが悔しそうに言う。
 しかし、移動ならタクシーを使えばいいかと気を取り直して、ユーノに話しかける。

「そういえば念話ってのは初めて聞くね?」

「言ってませんでしたか?」

「聞いてないよ」

「そうですか、すいません。これは魔導師間のみでしか会話が出来ないので、今まで使う機会がありませんでしたからね」

「ふ~ん。……あ、もしかして最初に助けを呼んでたアレ?」

「そうです。普通は特定の相手に向けて使うんですが、あの時は助けを求めていたので全方位に送ったんです。
 そしてなのはさんが使った魔法で、最後は子犬の怪我を治したやつですね。
 これは言わなくても分かると思いますが、『回復魔法』に入ります」

「まあそうだよね」

「それ以外に回復なんて無いだろうしね」

「これは僕もあまり知らないので、詳しい説明は出来ないのですが、
 人の身体の新陳代謝を促進させたり、細胞に直接働きかけて傷を癒したり解毒をする魔法のことです。
 体調を整えるのもこれですね。
 もし極めることが出来たのなら、細胞をコントロールして老化を防止したり、若返ったりすることが出来ると言われています。
 まあこれは迷信ですけどね」

「そういうのは夢だよね」

「うん。いつまでも若くありたいっていうのは女なら誰でも思うことだしね」

「きっと切実な思いがあったんだろうねぇ……」

 なのはと美由希がうんうんと頷いていると、食器を洗っていた桃子が戻って来た。

「あら? 何の話?」

「……」

「……」

 桃子の姿を見て、二人は黙り込む。
 士郎がその二人を置いておいて、桃子に話しかける。

「桃子さん、今朝はまた一段と綺麗だね」

「ありがと。やっぱり化粧水を新しいのに変えたのが良かったかしら?」

 そういって桃子は手を頬に当て、はにかむ。
 ユーノは事情が理解できず、突然桃子の方を向いて固まってしまった二人を見て首を傾げる。

「……老化を防止……」

「……若返り……」

 ブツブツと呟く二人にユーノが話しかける。

「あの、どうかしたんですか?」

「……ねぇ、ユーノ君」

 美由希が静かな声でユーノに話しかける。

「は、はい。なんでしょうか?」

 なのはがそれに追従する。

「さっき、念話は魔法使い同士でしか出来ないって言ってたよね?」

「え、ええ」

 戸惑いながらもユーノは首を縦に振る。

「ちょっと、お母さんに念話で話し掛けてくれる?」

「え? でも桃子さんは魔法使いじゃないんじゃ……」

「いいから!」

「は、はい!」

 美由希に急かされ、ユーノは念話を使う。

『も、もしもし、桃子さん?! 聞こえますか?!』

 焦って話しかけたせいか、隣にいたなのはにまでユーノの大きな声が聞こえてきた。
 すると、士郎と楽しげに話していた桃子が、クルッと顔をこちらに向ける。

「あら? ユーノ君、どうしたの? そんなに大きな声を出さなくても、十分聞こえるわよ?」

 なのはは美由希の方を見る。
 しかし美由希はフルフルと首を横に振る。

「やっぱり……」

「お母さんって……」

 二人は思いもかけない事実に驚愕し、ユーノは桃子が念話に反応したことに驚いていた。




あとがき

驚愕の新事実発覚! とまでは行きませんが、今回は魔法の説明「防御・補助・回復」編です。
次回は、いよいよなのはさんに砲撃の存在を知ってもらうつもりです。

気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>タクシーw まー空を飛んで帰ればイイと思うよ!
>帰りもタクシーかいw
>またタクシー拾ったwwww
>またタクシーwww
>あwwwるwwwけwww
>帰りもタクシーだと……。ま、まぁ街中で飛べる訳無いしね発見されたらやべぇし。
>帰りもタクシーってwww
>また・・・タ・・・タクシーだと・・・

天丼は鉄板です。

>ユーノ君べとべと

なのはさんは乙女の意地に掛けてそんなことは起こしません。

>しかしそろそろフェイトも登場ですかねえ?

もうしばらくかかります。

>なのはさん(32)の声が某「般若の人」じゃなくて新谷涼子さんに変換されるのは仕様でしょうか。

なのはさんの声は皆さんの思い描く声です。

>しかし、なのはさん酒代やばそうだな。月いくら使ってるんだろ、この人。

小遣いの大半を使用しています。

>このリりなの世界には夜の一族やHGSや退魔師や化け狐がいるのかねぇ?

いるかも知れませんが、とらハを知らないので出てきません。

>10年後のなのはさんはセガールみたいなポジションに付くのだろうか

そもそも登場するかわかりません。

>ふと思ったのだが、なのはさんって格闘スキルあるんじゃないのかと邪推してしまう。

スキルは持っているかもしれませんが、いかんせん身体が……。

>微妙に不幸な彼女に愛の手をお願いします。

なのはさんは現在幸せです。

>俺には見える、4枚のシールドがミキサーのごとく回転して相手を攪拌していくホラーが……。

まあそれぐらい楽勝ですね。

>……まあそれはそれとして、無印主題歌をこの作品のなのはさん風味にしてみたら……はまり過ぎです。
部屋の片隅で(吐き気で)震えてたり、誰も知らない孤独(独身)の海とか……ヤバいですね。吹きました。

改めて聞いてみると、マジでピッタリですねwww




[10864] 第十一話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/13 00:48




「まさかお母さんが魔法使いだったなんて……」

 なのはがある意味納得した様子で話しかける。

「なんで言ってくれなかったの?」

 美由希が水臭いじゃないかと問う。

「え? 違うわよ」

 桃子がなんでそんな事を聞くのか分からないと首を振る。

「……え?」

「……え?」

 そんな言葉が、あの後交わされた。






 先程よりもさらに困惑した様子で、美由希が桃子に尋ねる。

「ど、どう言う事? お母さん」

「どういう事も何も、私は生まれてこのかた、魔法なんて使ったことないもの」

 桃子は断言する。
 そして美由希に逆に質問する。

「そもそも、どうしてそんな話になったの? 全然話が見えてこないんだけど……」

「えっと、それはですね……」

 ユーノが話に参加していなかった桃子に、もう一度同じ説明をする。

「……なるほど。私がユーノ君のその念話? に反応出来たから、私も魔法使いってこと?」

「そうだと思いました。
 そもそも若返りは、Sランク級の回復魔導師が何年も研究して、それでも駄目だったという論文が残ってますから。
 眉唾だとは思いましたが、魔法の使えない人がそんなことを出来るとは思えなかったので」

「そうなの……。……それにしても、酷いわ、なのはも美由希も。
 私だってそれなりに努力してるのに、魔法の一言で片付けようとするなんて……」

「うっ……」

「そ、それは……」

 なのはも美由希も、そうあって欲しいと思ったから、桃子が魔導師だとよく確かめもせずに決めつけてしまった。
 そのことに二人とも罪悪感を抱く。

「いえ、もしかしたら、なのはさんたちが言っていることもあながち間違いじゃないのかもしれません」

 そこにユーノのフォローが入る。

「あら? そうなの?」

「推論でしかありませんが」

「聞かせてもらえる?」

「はい」

 ユーノは頷き、自分の推論を話し始める。

「そもそも、魔法というものは遺伝によって発現しやすいのです。
 代々魔導師といった家系であるならば、それだけリンカ―コアを持った子が生まれる確率が高くなります。
 両親が魔法を使えなくとも、系図を遡れば魔導師に行きあたることもよくあります。
 しかし、そういった家系でなくとも、突然変異のようにリンカ―コアを持っている子が生まれることはあります。
 ですが、これはなのはさんと桃子さんがリンカーコアを持っていたことから考えて、違うと思います。
 これから考えて、なのはさんと桃子さんの先祖の誰かが魔導師であった可能性が高いです。
 過去にこの地球に魔導師がやってきて、それがなのはさん達の先祖となったのではないでしょうか?」

 桃子が疑問をユーノにぶつける。

「でもそれが私のこととどう関係があるの?」

「はい。先程、Sランク級の回復魔導師でも無理だと僕は言いました。
 ですが、それは現在知られている歴史の中でだけです」

「現在知られている?」

「それってどういう……」

「もしかして、次元世界のことかい?」

 なのはと美由希が頭に?を浮かべていると、横から士郎の声が入って来た。

「確か、次元世界では既に滅んでしまった世界が幾つもあるって、そうユーノ君は言っていたね?」

「その通りです。
 今の研究では無理だったことでも、かつて、どこかの世界では可能となっていた技術は数多くあります。
 そして、魔法文明でもっとも栄えた文明があります」

「それは……?」

 知らず、なのはは唾を飲み込み、ユーノの言葉に耳を傾けていた。
 ユーノは一息吐いて、深呼吸をすると、その名を口にした。

「時間さえも操り、死者さえも蘇生させることが可能と言われた、秘術の眠る地……『アルハザード』です」

「アルハ……ザード……」

「その世界ならば、若さを保つことなど造作もないでしょう。
 彼らが過去の地球に来た可能性はあります」

「その根拠は?」

「なのはさんの異様なまでの魔力量です」

「私の……魔力量が?」

 なのはは自分を指さす。

「そもそも、この世界を調査したとき、魔法の素質のある人間が生まれる素養のある世界ではないという結果が出ています。
 それなのに、なのはさんや桃子さんのような魔力を持った人間がここにいる。
 もしかしたら、なのはさんは先祖返りのようなものなのではないでしょうか?
 そうだとしたら、なのはさんがアルハザードの子孫であるというのなら、あれだけの魔力を持っていることにも説明が付くと思うんです」

「私に……そのアルハザードの人の血が?」

 自らの掌を見つめながら、なのはは呟く。
 その様子を見て、ユーノが付け足す。

「あくまで可能性です。深く考える必要はないと思います」

「うん……そうだね」

 手を握り、気を取り直すなのは。
 そこで、桃子が質問を変える。

「それじゃあ、私もなのはみたいに変身出来るの?」

「桃子さんが変身するのか。見てみたいなぁ」

 士郎がその様を思い浮かべて笑う。
 しかしユーノは首を振る。

「おそらく無理だと思います」

「あら? どうして?」

「桃子さんの魔力は、目の前にいる僕から見ても分からないくらい弱々しいものです。
 長く世代交代をしてきたためか、血が薄くなっているのかもしれません。
 ランク分けするなら、最低のFランク、良くてもEといったところでしょう。
 現に、先程の念話に反応しなければ、誰も気付くことなど出来ませんでした。
 これではバリアジャケットを構築することも出来ないと思います」

「そう……残念ね」

 桃子が目を伏せ、悲しそうな声で呟く。

「私もなのはみたいに変身したかったわ……」

 その言葉に、なのはと美由希の額から、汗がツーッと流れる。

「お母さん……年考えてよ……」

 なのはが呻くように言葉を漏らした。

「ああ……とても残念だ……」

「お父さん……」

 美由希が悲しそうにしている士郎から目を背けた。





あとがき

すいません。今回も短いです。
なのはさんに砲撃のことを知ってもらう予定でしたが、こうなってしまいました。
つ、次こそは教えますので。






[10864] 第十二話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/13 20:07



 場に気まずい空気が流れる。

「と、とりあえず! 話を戻しましょうか!」

 ユーノがその気まずい空気を吹き飛ばそうと、無駄に陽気な声で皆に話しかける。

「……うん、そうだね」

 なのはが俯いて暗い声を出しながら賛成する。
 その様子にユーノはさらに冷や汗を流す。

「でも、もうだいぶ魔法のことは分かったと思うけど、まだ何かあるの?」

「あ、はい。といっても、あとは射撃魔法と砲撃魔法くらいですけど……」

「え? それってどこか違うの? 同じに聞こえるんだけど」

 なのはが首を傾げる。
 ユーノがそれに答える。

「射撃魔法は魔力を弾にして撃ちだす魔法です。
 同時複数射撃、誘導による曲射、連射といった色々な効果を付け加えることが出来ます。
 しかし、一発一発の威力は低いです。
 これに対して、砲撃魔法は魔力をそのまま放出する魔法です。
 こちらは一撃の威力は高いんですが、射撃魔法に比べて誘導などの付加効果を付けるのが難しいので、ほとんどが真っ直ぐ進みます」

「一長一短ってことかな?」

「そうですね」

 そこまで話したところで、ユーノは一息つく。

「これで大体の魔法の説明はしたと思います。
 僕達の使う魔法は遠・中・近距離全てに対応出来ますが、近距離で戦おうとする人はほとんどいません。
 遠くから攻撃出来るのなら、そちらの方が安全ですからね。
 あとは周囲に被害を与えない為の結界や、僕が今使ってるトランスフォームくらいですが……」

「えっ? ユーノ君ってフェレットじゃなかったの!?」

 美由希の驚く声が上がる。

「え? ええ。僕は今魔力を節約するためにこの姿を取っているだけなので、本来は人間です。
 ですが、これを使っている人は、僕達一族以外ではあまりいません。
 この魔法は、僕達みたいに遺跡発掘などで狭い所を探索する以外では、ほぼ役に立ちません。
 魔力の節約という意味では有用性はありますが、適性がある人も少ないので、使える人はほとんどいませんから」

「なんだ。通りでフェレットにしては頭が良すぎると思ったよ。人間だったんだね」

「はい。というか、なのはさんには以前、僕が人間であることはお伝えしたと思いますが……」

「え? そ、そうだったっけ……?」

「はい」

 美由希と同じように驚いていたなのはが、ユーノの指摘にタラッと汗を流す。
 話を聞いたときに、二日酔いで苦しんでいて「どうでもいいや……」と切り捨てたなのは。
 今のなのはの頭には、そんなことを聞いた覚えなど無く、幾ら思いだそうとしても頭には出てこない。

「ま、まあそれは置いておいて。もうそろそろ私、仕事に行かなきゃ!」

 そういってなのはは立ち上がり、足早に家を出ていった。

「行ってきま~す!」

「……逃げた」

 後に残された美由希がポツリと呟く。
 ユーノはなのはが何故そんなことをしたのか分からず、釈然としない声で美由希に尋ねる。

「あの、どうしてなのはさんは逃げたんでしょう?」

「さあね。ちょっと前のことなのに、思い出せなかったから、老いでも実感したんじゃない?」

「はあ……」

 それでもユーノはまだ納得出来ないようだ。
 そうしていると、後ろから声が聞こえてきた。

「そういえば桃子さん。この間言ってた小じわ、消えてないかな?」

「あら? 本当だわ」

 そんな、いちゃつく声が聞こえたという。
 美由希がそれを聞いて、どんな反応をしたかは、誰にも分からない。












 なのはは翠屋二号店まで来ていた。
 仕事に行く、というのはあの場から逃げる為の方便だったのだが、それでも仕事が無い訳ではない。
 そもそもなのはの道楽でやっている店なのだから、開けるも閉めるもなのはの裁量次第でどうとでも出来る。
 ちゃんと売り上げは上げているし、商品の味を落としている訳でもない。新商品の開発も行っている。
 本店の翠屋ではなく、なのはがやっている小さな店だからこそ、出来ることもまたあるのだ。

「レイジングハート、だいぶ上手になったね」

『ありがとうございます』

 なのははバリアジャケットを展開し、レイジングハートでクリームを混ぜていた。
 そもそもが翠屋の制服をバリアジャケットに設定したのだから、そのままで店に立てるのだ。

「最初は回転が強すぎて、ボウルの中のクリーム全部吹き飛ばしちゃってたからね」

『すいません』

「気にしなくていいよ。誰だって最初は失敗するものだからね……」

 こうしてレイジングハートが張り切り過ぎてクリームが服についても、バリアジャケットだから展開し直せば元通りになる。
 バリアジャケットだから着替えや洗う手間が省ける。
 混ぜ終わったら、レイジングハートを待機状態に戻せば、泡立て器に付いてしまったクリームを落として全て使いきることも出来る。
 まさに一石二鳥にも、一石三鳥にもなる、なのはにしか出来ない裏技なのだ。

「レイジングハートも、こういう仕事の方がいいよね? 荒事なんかより、こっちの方が人を幸せに出来るもの」

『私はどちらでも構いません』

「そう? じゃあ今度は麺棒にでもなってみる?」

『そうですね……』

 そんな会話をしながら、なのははケーキを焼き上げ、クリームを塗っていく。
 甘い香りが、小さな店内に満ちていく。
 それが店から漏れ出し、近所の若奥様達を引き寄せるのだ。
 なのはが特に宣伝などしていなくとも、口コミで客は引き寄せられる。
 それが美味しいのなら、リピーターもまた増えていく。
 なのはの店は小さいのだから、良く注意して見なければわからない場所にある。
 けれど。
 雑誌などに載らなくても、なのはの作るお菓子を美味しいと言ってくれる人がいる。
 そしてそれを眺める自分がいる。
 それでいいのだ。
 これが高町なのはの日常。
 これこそが高町なのはの幸せ。






 だがその幸せは、思いも寄らないことで、容易く崩れ去ってしまう。








 なのはは昼休憩を取っていた。
 一人で厨房の仕事を全てやっているのだから、こうして休憩を取らなければ、なのはは直ぐに倒れてしまう。

「あ~、疲れた~」

 ふう、と溜息を洩らす。
 だが、その疲れは心地の良い疲れであり、全力疾走したり、階段を全力で登ったりした時の疲れとはまた違う。

「お酒飲みたいな……」

 だがまだ勤務時間内である。
 さすがに、酔っ払った状態で店を開こうなどとは思えない。
 ここは我慢して、家に帰ってからゆっくりと飲むのが一番なのだ。
 立ち上がり、さて始めるかと思ったとき、

「……っ!?」

 ジュエルシードの反応がなのはを襲った。
 慌てて店の外へ出て、ジュエルシードの反応を探る。

『なのはさん!』

 頭の中にここにいないはずのユーノの声が響く。
 これが念話というものだろう。
 耳に手を当て、ユーノの念話に集中する。

「聞こえてるよ、ユーノ君」

『よかった。分かっているかと思いますが、ジュエルシードが発動しました』

「うん、私もわかったよ。しかもこれ、移動してる」

 こうして話している間にも、ジュエルシードは移動を続けている。

『移動速度はそれほど速くありません。もしかして人が持っているのかも……』

「おそらく、そうだろうね」

『だとしたら危険です。
 子犬の単純な、漠然とした願いですらあんなことになったんです。
 強い思いを持った者が、願いを込めて発動させたとき、ジュエルシードは一番強い力を発揮します。
 それが人間ならば、一体どれほどの事態になるか……』

 最悪の事態を思い描いたのか、ユーノが身震いするのが感じられた。
 なのははジュエルシードの反応を確かめていると、それが一点で止まった。

「……止まった?」

 何故か、今まで止まらずに移動を続けていたジュエルシードは、とある場所で動かなくなった。

「信号にでも捕まったのかな。まあいいや、タクシー……っ!?」

 手を上げ、タクシーを呼ぼうとしたところで、なのはの身体に今まで以上の悪寒が走った。
 待機状態にして、首から下げていたレイジングハートを、泡立て器に展開し、握り締める。

『発動しました!』

 ユーノの声が聞こえると同時に、地震が発生する。

「きゃっ!」

 そのあまりの揺れの激しさに、なのはは立っていることが出来ず、思わずその場に片膝をついて目を瞑り、なんとかやり過ごそうとする。
 それと同時に、地面からコンクリートを突き破って、植物の根がなのはに襲いかかって来た。

『Protection』

 レイジングハートがなのはの魔力を使用して、その植物を弾き返す。
 襲いかかった植物は、なのはを狙っていたわけではないらしく、弾かれた後は別の方へと根を伸ばして行った。
 そのままレイジングハートは、なのはをプロテクションで守り続けた。 

 辺りが植物に蹂躙されていく。
 なのはの耳に、家が、道路が、悲鳴を上げているのが聞こえる。

 やがて、地震が収まり、なんとかなのはが立てるようになった頃。
 なのはが目を開けると、そこは既になのはの知っている海鳴の街ではなかった。
 辺りを植物に侵食され、道路は滅茶苦茶になり、もう車が走れるようにはなっていなかった。
 家々にも植物は巻きついており、中にはもう建て直さなければいけないような家もあった。
 そしてなのはが目を後ろへ向けたとき、




「あ……ああ……」




 なのはは再び、その場に膝をついた。




「お店が……」




 泡立て器の形をしたレイジングハートが、その手から離れ、カシャンと音を立てて零れ落ちた。




「私の……」




 茫然とした表情で、なのはは声を漏らす。




「翠屋が……」




 なのはの視界の先には、ジュエルシードが生み出した植物によって、見るも無惨に破壊された翠屋の姿があった。







あとがき

ついに魔法の説明編が終わって次が大樹編です。
サクッと終わらせたいですね。

気になったレス返しです。
前回忘れていたので、それも一緒にします。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>.無印放送時、主人公達じゃなくリンディさんや桃子さんなど人妻や未亡人を熱心に見てたのは内緒だぜwww

同士よ。

>しかしここのなのはさんは、かなり好みです。出来過ぎたガキよりダメな大人の方が好みなのですよ、このダメ人間は。

私も生意気な糞餓鬼よりこっちのほうが好きです。

>そんな私好みのなのはさんが、泥のように酔いつぶれるところが見たかったり。つか嫁に欲しい。

You書いちゃいなyo!

>魔法で老化を防止が迷信どころか体現してる人々が何人もいるような

気にしちゃいけません。

>こんな気軽にタクシーに乗れるなのはさんは店の常連にタクシーの運転手がいて、券をくれてたり・・・

どうなんでしょうね、本当にww

>・・・なんてマダオ(まるで、ダメな、おb(SLB

マダオは……お好きですか?

>エプロンはともかく、泡立て器はいい加減変えたげて…
レイハさん可哀そうです…

レイハさんもそれなりに気に入ってます。
張り切ってなのはをクリーム塗れにするくらいには。

>魔法少女リリカルももこ 始まり・・・ませんでしたorz|||

始まらせません。

>この話のなのはさん(32)は血縁者かもしれないフラグがwww

あくまで「かもしれない」といった程度です。

>ユーノが考古学者らしく言っているけど、よく分からんと匙を投げているだけにも見える。

その通りです。
桃子が若い、しかも魔力持ってる→桃子は違うと言っている→なら先祖に回復魔法を極めた人がいたんじゃね?
→しかし現在の技術じゃ無理→アルハザードなら出来るんじゃね?
そんな考え方です。
そもそも、たったあれだけで真相が分かる筈無いです。

>今更ですが、まだプレシアって御存命?

地球組以外は原作通りの年齢なので、血を吐きながらもまだ生きています。

>桃子を変身させて士郎は何をしたかったのか──

ナニに決まってr

>桃子さんの若作りの技術は魔法レベルなんだね!

そうかもしれません。

>あと、このままだとA's編って無理じゃね?

無理だと思います。

>ってことはstsまで続かないんじゃ…

私もそう思います。







[10864] 第十三話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/15 01:15









       「ゆるさない」











 なのははレイジングハートを拾い、探索魔法を発動させた。
 その目には、ジュエルシードによって破壊された、愛しい自分の店が映っていた。

「……レイジングハート」

『Area Search』

 レイジングハートが返事すると同時に、泡立て器の先端から光が溢れ、翠屋の中へ入って行った。
 サーチャーを放ったのだ。
 そして、なのはの視界が広がる。
 サーチャーの見る世界が、店の惨状を改めてなのはに伝える。

「酷い……」

 ジュエルシードは未だ暴走を続けている。
 しかし、先程までの勢いは無いようで、だからこそ、こうしてなのはが店を調べることも出来るのだ。
 なのははジュエルシードのことを一時置いておいて、店を調べていく。

 中には誰もいなかった。
 昼休憩ということで、店を閉めていたのが幸いしたらしい。

 しかし、

「あ……」

 なのはは見つけてしまった。

「あああ……」

 それを。

「ああああああっ!!!」

 紅い血を流す、その姿を。

 なのははサーチャーを解除した。
 途端に視界がなのは本来の状態まで戻る。
 もう、これ以上見たくは無かった。
 なのはは後ろを振り向き、彼方にある一際大きく育った大樹を見つめ、呟く。




「ゆるさない」




 そこでユーノから念話が届く。

『なのはさん! 大丈夫ですか!?』

「ああ……ユーノ君か。『私は』大丈夫だよ」

 自然と暗くなってしまった声で、自分が無事な事をユーノに伝える。
 ユーノはそれを聞いて安堵のため息を吐く。

『そうですか、よかった。それでなのはさん、あの大木についてなんですけど――』

「そのことなんだけどね、ユーノ君」

『はい?』

「あれ、私に一人でやらせて」

『え? で、ですが! 一人でやるなんて無茶です! せめて士郎さんか美由希さんに連絡を――』

「答えは聞いてないの」

 なのはのいつも以上に低いその言葉に、ユーノがたじろぐ。

『わ、わかりました……。ですが、どうするんです?
 あれだけのものだと、ジュエルシードがどこにあるかさえ分かりません。
 僕は探索魔法で探して、近くまでいって封印をした方がいいと思いますが』

「ああ、ユーノ君。それはいいね。一番現実的で、スマートだと私も思う」

『そ、そうですか。じゃあそれで――』

「でも却下」

『……え?』

 きょとんとするユーノの声に、なのはは言い聞かせる。

「ねえ、ユーノ君。
 人っていうのはね、例え疲れると、無意味だと分かっていても、それでも、その無意味な行為をしてしまう生き物なんだよ?」

『は、はぁ……』

「大人になれば分かるよ。大切なもの、譲れないもの、そんなものがユーノ君にも出来たら、その気持ちが理解出来るようになる」

『な、なのはさん……?』

「私はね、あの木のどこかにジュエルシードがあると思ってる。
 だからこんなにも木が成長してるんだよ。
 だからね……?」

『どうかしたんですか? なにかあったんですか? なのはさん? なのはさ――』

「あの木を全部吹き飛ばせば、ジュエルシードに辿り着くんだよ」

 そこでなのははユーノからの念話を強制的に切る。
 レイジングハートを片手に持ち、ふわりと浮きあがって、翠屋の屋根の上に降り立つ。
 そしてレイジングハートに話しかける。

「ごめんね、レイジングハート。
 私、あんなに偉そうなことをあなたに言ったのに、私の私怨であなたを荒事に使うことになっちゃって」

『お気になさらず。私も翠屋を壊されたことには憤りを感じています』

「そう。レイジングハートもなんだね。
 私も許せないよ、こんなこと。
 今回だけだから、憎しみだけで動くなんてもうしないから、だからお願いね、レイジングハート」

『ご命令を、マスター』

「終わったらまた、一緒にケーキを作ろうか」

『はい』

 そして、なのははレイジングハートを構える。
 街を蹂躙する植物を鋭い目で睨みつける。

「絶対に許さない。たかが植物風情が。枝も、根も、葉も、全て吹き飛ばしてダルマにしてあげる」

『Drill Shot』

 なのはの持つレイジングハートの四つある先端が切り離され、螺旋を描いて飛んで行く。
 それが街に存在する大樹の一つへと着弾すると、そのまま樹皮を巻き込みながら抉り、穴を穿っていく。
 そして貫通すると、その大樹にはポッカリと四つの綺麗な円柱状の穴が生まれ、そして大樹ごと消え去った。
 おそらく、ダメージが大きかったために、本体が切り離したのだろう。
 切り離された大樹は、ジュエルシードの恩恵を受けられなくなり、そのまま消滅した。
 それを見たなのはは、つまらなそうに呟く。
 
「ハズレか……」

『Recovery』

 レイジングハートがそう発言すると、先程全弾撃ち出したはずの泡立て器の先端が、再び出現し、元通りの形態に戻る。
 なのははレイジングハートを別の大樹へと向ける。

「次」

『Drill Shot』

『Recovery』

「次」

『Drill Shot』

『Recovery』

「次」

『Drill Shot』

『Recovery』

 なのはは淡々と樹木を撃ち貫いていく。
 なのはが大樹を消す度に、元に戻ろうとドンドンと別の大木が生まれていく。
 しかし、なのはは撃つ事を止めない。
 そうして撃ち抜く数が十を越えたころ、一つの大樹がなのはの攻撃に抵抗した。
 根と枝を伸ばし、なのはの攻撃の進路上に別の大樹を置いて、威力を弱めようとした一本があった。

「ミツケタ」

 なのはは撃つのをやめ、その一本を見据える。

「レイジングハート」

『Shooting Mode』

 レイジングハートがそう告げると、レイジングハート自身は何も変わらず、なのはの両手にデバイスと同じ素材で出来た装甲が巻きつく。
 なのはは肘まで鎧が巻き付いた左手をゆっくりと開閉し、動きに制限がないことを確認する。
 そして、右手に持っているレイジングハートに左手を添え、両手でしっかりと握り締める。

「よくも私の店を……」

『Count five』

 レイジングハートがカウントを始める。

「酒蔵を……」

『four』

 先端に桜色の光が灯る。

「ドンペリゴールドを……」

『Three』

 なのはの身体から溢れた光が、デバイスを通して先端に集まり、大きくなっていく。

「ロマネ・コンティを……」

『two』

 ある一定の大きさまで達すると、今度は逆に小さくなっていく。

「大吟醸を……」

『one』

 凝縮された光は、グルグルと回る四つの先端から、異なる回転を加えられる。

「コニャックを……!」

『Count zero』

 カウントがゼロになる。

「まだ飲んでなかったのにいいいっ!!!」

『Tornado Buster』

 なのはの魂の叫びと共に、先端から桜色の光が迸る。
 砲門となった四つの先端から発射された光は、それぞれが異なる回転をしながら、それぞれに絡み合い巻きつき、一本の砲撃となって突き進んでいく。
 まるで複数の竜巻が合流して、巨大な竜巻へと変化していくように。
 直進する先には大樹があった。
 ジュエルシードの本体ではない、盾にされた一本。
 それになのはのトルネードバスターが当たる。
 当たっても尚回転と直進を続ける光は、大樹を巻き込み、捻じ切っていく。
 千切れ飛んだ大樹など、元から無かったかのように進む光は、遂に本体へと激突する。 

「思い知れ、私の怨みをっ!!」

 なのはが一層レイジングハートに力を送る。
 光が更に強くなり、遂には本体の大樹を吹き飛ばす。
 ダメージを受けた大樹から、ジュエルシードが吐き出される。
 同時に光が止み、レイジングハートのグリップから、圧縮された魔力の残滓が放出されていく。
 蒸気のようなそれは、高熱になっているが、両手を装甲で保護したなのはに熱は伝わらない。
 なのはは片膝をつき、レイジングハートに命令する。

「はぁっ、はぁっ……レイジングハート、封印」

『All right.Sealing』

 そしてもう一度レイジングハートが桜色の光を発し、ジュエルシードが封印される。

『Receipt Number X』

 レイジングハートの声が響くと共に、周りにあった大樹が全て消え去る。
 それを見てなのはは、深いため息を一つ吐いた。

「終わっ、たぁ……」

 なのははその場にへたり込んだ。







 なのはが屋根から降りて、翠屋を見てみる。
 大樹が消えたあとは、もうボロボロになっていて、廃墟のようにさえ見える。
 今にも崩れ落ちそうな様を見ていると、本当は大樹が家を支えていたのではないか、と錯覚さえしてくる。

「地震保険……おりるかな……?」

 ぼんやりと、そんなことを呟く。
 しかし、地震保険で翠屋を立て直せても、この店の下に眠ってしまった酒は戻ってこない。
 なのはがバニングスや月村といったコネを使って、今まで蒐集し続けてきた酒の中には、姉美由希の結婚式用にと取っておいたものもあったのだ。
 それが、全て砕け散ってしまった。
 サーチャー越しに見たあの子たちの亡骸は、なのはに十分なショックを与えるものだった。

「レイジングハート」

『All right.Area Search』

 もう一度サーチャーを飛ばす。
 もしかしたら、まだ大丈夫な酒が残っているかもしれない。
 そんな悲愴な思いで、墓場を探索する。
 しかし見つかるのは、割れて中身が流れ出てしまった、なのはの愛しいものの亡骸のみ。
 もうやめようか、そう思い、サーチャーを消そうとしたとき、なのはの視界に一つの酒瓶が横切る。
 そう、酒瓶だ。
 砕けても欠けてもいない、まだ綺麗な形を保っている、酒瓶の姿がそこにあった。
 なのはは居てもたってもいられず、翠屋の中へと入った。
 上からパラパラと欠片が降り注いで来るが、レイジングハートがプロテクションを発動して防ぐ。
 一直線にあの酒瓶のところまで行くと、レイジングハートで周りの瓦礫を吹き飛ばす。
 そしてレイジングハートを待機状態にすると、両手で赤子を抱くように、それを抱き上げる。

「よかった……。本当によかった……」

 一本でも残っていてくれたことに感謝する。

「たとえ安酒でもいい。もう放さない。最後の一滴まで、絶対に飲み干してあげるからね」

 そう言ってギュッと抱きしめる。
 割れないように、力を加減して。
 そしてなのはは翠屋を出て、レイジングハートに話しかける。

「家に変えろっか」

『そうですね』

 そうしてなのはは、自宅へとタクシーに乗って帰って行った。







 その胸に「大魔王」を抱えて。









あとがき

これでアニメの3話終わりです。
いったいどれだけかかってるんだか。
一話一話が短いとはいえ、これじゃあ終りが見えない。
ちなみに魔法の名前は、全てレイハさんが考えたことにしています。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>お店が!?どうすんのこれから・・・
>これからどうするんだろう……。

とりあえずニートです。

>魔王降臨フラグが……!!
>ああ・・・魔王誕生フラグが
>なんだろう、とても嫌な予感がする。
こう、魔王とか冥王とか、そんな言葉が頭の中を横切りまくっている。
>なんだ、この後OHANASIが始まりそうなんだぜ。
なのは無双をー!。
>魔王降臨フラグと聞いて急いできましたよっとw(´・ω・`)b

あなたたちの勘は正しいです。

>もし、結界はる前でマスコミとか来てたら、事件解決後の新聞の見出しに【謎の魔法熟女出現!?市内の大木を吹き飛ばす!】とか書かれたり。

本当にマスコミ来てたら危なかったです。

>鬱展開とか……

なのはさんはマジ鬱になりました。
立ち直ってますけど。

>レイジングハートがカシナートにっ!?

正直言って、カシナートなんて名前、言われて初めて知りました。

>そんななのはさんのブチギレ砲撃、大樹は生き残る事が出来るだろうか、いや無い。

本編をご覧ください。

>それと(33)にすれば良かったのに。

なんとなくで決めたので、気にしちゃいけません。

>調理用のデバイスがあってもいいさ…
>ここのレイハさんは魔王の杖にならずに調理用デバイスで落ち着いてほしいです。

私もそう思います。

>そういえば、年齢一桁なのってフェイトだけか……。

一応ユーノもそうです。

>なのはさんのお店に入り浸ってた俺が大怪我してるな。

ロマネ・コンティさんですね、わかります。

>小じわが…消えただと…?

消えました。何故かはわかりません。

>クリーム的なモノをぶっかk

そのとおr

>なんか・・・ダメなのはさん(32)を生み出した作者なら何とかしてくれる様な気がするのは気のせいでしょうか・・・ゴクリ

無茶なネタフリしないで下さい。


そういえば前回忘れていましたが、
>高町家の出自はアルハザード説w

これは高町家だけでなく、地球出身の魔導師(なのは、はやて、グレアムなど)は全て魔力が高いので、
地球生まれの魔導師はアルハザードのような魔法文明の人間が先祖にいるのではないかという妄想です。


最後に、なのはさんは物凄く真面目にシリアスをやっているのですから、それを笑うのはどうなのでしょうか?
いえ、笑って頂いて結構なのですけど、ふとそんなことが頭をよぎりましたので。



[10864] 第十四話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/15 01:16




 暗闇の中に、一人の少女が静かに降り立つ。
 夜風が少女の金色に輝く髪を揺らし、たなびかせる。
 手には黒い斧を持ち、背には髪と共にはためくマントを羽織っていた。
 その少女の傍らには、赤い毛並みをした狼が控えていた。
 少女は傍らにいる狼に話しかける。

「ロストロギアは……この付近にある」

 少女は確認するかのように、探し物を口にする。

「形態は青い宝石、一般呼称はジュエルシード」

 右手に持つ斧の、刃の根元にある黄色い宝玉がキラリと光った。

「そうだね……直ぐに手に入れるよ」

 そして少女は飛び立つ。

「待っててね、母さん」

 直ぐに少女の姿は見えなくなった。


 ――オオオオオオオオオンッ!!――


 静かに眠る海鳴の街に、狼の遠吠えが響いた。








「~♪」

 なのはは上機嫌だった。
 店は破壊されてしまったが、保険は降りることになった。
 昨夜抱きしめて一緒に眠った大魔王は、とても美味しかった。
 そして今、なのははもっと笑顔になっていた。

「ふふっ……うふふふふっ……」

 いつものなのはを知っている人が見たら、気持ち悪いと言いたくなるような、不気味な笑みを漏らしていた。
 始まりは今日の朝。
 なのはの携帯電話に掛かってきた一本の電話だった。




『もしもし、なのはちゃん?』

「あ、すずかちゃん。どうしたの?」

 なのはの携帯に掛けて来たのは、なのはの幼馴染であり、親友である月村すずかだった。

『どうしたのじゃないよ。なのはちゃん、お店壊れたんだって?』

「さすがに早いね」

『だからなのはちゃん、落ち込んでるんじゃないかって』

「確かに落ち込んだね……」

 一晩たった今でも、なのはの内にはあの思いがグルグルと渦巻いている。

『そんななのはちゃんを元気づけようかと思って、家にご招待しようかと思うの』

「すずかちゃん……ありがとう」

 なのはを慰めてくれようとしているすずかに、なのはは込み上げてくるものを感じる。

「あ……でも私、店の後片付けとかあるから今日は……」

『そう? 残念だな。
 お仕事の関係でお酒を貰ったんだけど、私はあまり好きじゃないから。
 珍しいお酒みたいだから、なのはちゃんにどうかなって思ったんだけど』

「……何て名前?」

『えっと、ちょっと待ってね……』

 ごそごそと何かを探す音が、携帯を通してなのはの耳に伝わる。

『あったあった。えっと、「村尾」って書いてあ――』

「行く」





 そしてなのはは、いつものようにタクシーに乗って、移動していた。
 そんな、時折含み笑いを零すなのはに、質問したくなった人がいた。
 タクシーを運転している運転手だ。

「えらいご機嫌やね、店長」

「そう? わかる?」

 ふふふと笑うなのはに、運転手は汗を流す。

「な、なあ店長。店が壊れたのは悲しいことやと思うけど、自暴自棄になったらあかんよ?」

「そんなんじゃないよ。
 確かに、お店が壊れたのは悲しいけど、いつまでも引きずる訳にもいかないからね。
 今日は別の件だよ」

「そうか」

 その言葉に、運転手がひとまず安心する。
 そして話題を変えようと、明るい声で話しかける。

「そういえば、これから行くとこって、あの馬鹿でかい屋敷持ってる月村やろ?
 店長がそんなとこと繋がりがあるなんて思わんかったわぁ」

 タクシーを運転しながら、なのはに疑問をぶつける。

「あそこに住んでる人とは、小学校からの付き合いなの。
 それに、私のお兄ちゃんが婿入りしてるから、親戚になるのかな」

「へぇ……。小学校ってことは、ここらでいうと、聖祥大附属かな?」

「そうだよ」

 なのはは頷く。
 運転手は羨ましそうな声を出す。

「わたしは公立やったからなぁ。
 もしわたしが聖祥に通っていたら、わたしもセレブにお茶を飲めたんかなぁ」

 自虐的に運転手は笑う。

「どうだろうね。でも八神さんなら、きっと仲良くなれると思うよ」

 なのはは苦笑する。
 運転手はふとあることに気付く。

「そういえば店長は、これからどうするん? 店が壊れたんやったら、そのままやとニートまっしぐらやろ?」

「しばらくは本店の方を手伝うことにするよ。
 でも厨房には入らせてもらえないから、ウェイトレスくらいしかないと思うけど」

「厨房に入らせてもらえないって……仲悪いん?」

 なのはは首を振る。

「いや、仲はいいよ。
 でもお母さ……本店の店長はね、お菓子を作るのが好きだから、自分の仕事を取られるのが嫌なんだよ。
 私も同じだから、その気持ちはよく分かるしね」

「そうか。仲がええんやったら、それでええんよ。やっぱり家族は、仲よしさんが一番やからな」

 運転手は笑う。

「そろそろ着くで、店長」

「いつもありがとう、八神さん」

「気にせんでええよ。それより……」

「うん。いつもどおり、お代はケーキの無料券でいいかな? お店があんなだから、しばらくは使えないと思うけど」

「オッケーや。店長のとこのケーキは美味しいからな。それぐらいどおってことない」

 運転手はグッと拳を握り、親指を立てる。
 なのはは正直に言われた言葉に、思わず赤面する。

「ありがとう」

 そして月村の屋敷に着いたなのはは、タクシーから降りて、運転手に窓越しに話しかける。

「それじゃ、八神さん」

「ああ、わかっとるよ。いつもどおり、客が居らん暇な時は、翠屋の近くをグルグル回っとくから」

「うん、またね」

 そして去っていったタクシーに手を軽く振る。
 そしてなのはは月村の大きな門を見上げる。

「待っててね、すずかちゃん。『村尾』」

 どうやらなのはの中では、親友と酒は同列に扱われるようだ。







あとがき

ついにフェイトが登場します。
あと今回、あの人らしき人が出てきましたね。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>大魔王って焼酎本当にあるんだ…

あるみたいです。

>ドンペリゴールド,ロマネ・コンティ,大吟醸,コニャックときたら仕方ない。ああ仕方ないだろうよw 笑い事じゃないだろうけどね。

なのはさんの怒りが有頂天に達するのは仕方がありません。

>けど、トルネードバスターとか……原作より遙かに強力そうだな。

回転してる分、原作より強力にしています。

>残った酒は大魔王かよ。酒に対するなのはの愛を見た。

むしろなのはに対する酒の愛。

>そして、地球系でも高ランクじゃないゲンヤさんのこともたまには思い出してあげてください

スバルによれば「魔力ゼロ」らしいです。
なのでゲンヤの先祖に魔法使いはいなかったんじゃないかと思ってます。

>普段から店と家をタクシーで移動してたんでしょうか?

今回は疲れていたのと、落として割らないように安全を期してタクシーに乗っただけです。

>一体移動にどれだけ金掛けてるんですかね? このブルジョワめ

道楽で店やってる人にそんなことは今さらです。

>譲れないものって酒蔵かよ!

譲れないのは酒蔵ではなく、そこに溜めこんだ秘蔵の酒の数々です。

>さっき、更新のオチ読んだ時に吹いた俺の『白玉醸造 魔王』を返してください。

逆に考えるんだ。
それは一話でなのはさんが飲んでいたあの魔王だと考えるんだ。
つまり間接キ(ry

>流石のなのはさんも森伊蔵は持ってなかったかwww

今から村尾を飲みに行きます。

>てかなのはさん、美由希さんの結婚式用の秘蔵の酒って……麗しきは姉妹愛、ということですか。

実は高級酒を飲む口実を作りたかっただけだったりして。

>コネで揃えたとかどんだけ貢がせたんだろう・・・?

集めるのにコネを使っただけで、ちゃんとお金は支払ってます。

>大魔王wwwww。たしかにあまり高い物ではありませんが良い酒です。安酒ではありません。

なのはさんは生き残っていてくれたことに感動して言ったので、例えあれがワンカップでも同じことを言いました。




[10864] 第十五話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/14 16:14





 なのはは親友との久しぶりの再会もそこそこに、渡された村尾を開けていた。

「美味しい……」

 タダ酒はとても美味しいのだということを、なのはは再確認した。

「ふふっ。あいかわらず、なのはちゃんはお酒が好きだね」

 すずかが笑いながら、お盆を持って現れた。
 その手にはカステラが載っている。

「はい、カステラ。福砂屋のやつ」

「ありがと、すずかちゃん」

 そう言ってなのはは、一口大に小さく切られたカステラを口に入れる。
 フワフワと甘い生地が、なのはの歯によって抵抗なく千切られていく。
 底に付いているザラメは、僅かにひんやりとしていて、シャリシャリとした食感をなのはに与える。
 なのはは洋菓子が専門なので、こういった方面はあまり作らないから新鮮だった。
 ゆっくりと味わい、静かに飲み込む。

「ん~、おいしい。こういうのもいいねぇ」

「喜んでもらえて嬉しいよ」

 すずかがまた笑う。
 そしてすずかが立ち上がり、棚から別の酒を取り出して持って来る。

「なのはちゃん、はいこれ」

「え?」

 なのはがその酒瓶を受け取る。

「『梅錦』と『冬将軍』?」

「村尾の近くに、一緒に置いてあったの。梅錦は愛媛で、冬将軍は新潟の方のお酒みたいなんだけどね。
 ウチは私の他もあまり飲まないから。なのはちゃんにあげるよ、それ」

「あ、ありがとう」

 なのはは手渡された梅錦と冬将軍を眺める。
 梅錦は清酒で、透き通った透明感がある純米吟醸酒だ。
 それに対して冬将軍は濁り酒で、翠色の瓶の中に白い澱粉が沈殿している。

「飲んでみて、なのはちゃん」

「うん」

 すずかに促され、なのはは冬将軍を横に置き、梅錦を開けてグラスに注ぐ。
 トクトクと鮮やかな色をした、透明度の高い酒が流れ出てくる。
 同時に芳醇な香りが部屋に広がる。
 なのはがコクリとグラスを傾けると、冷たい酒がなのはの喉をさらさらと流れていく。

「美味しい……」

「よかった」

 なのはの顔が綻ぶのを見て、すずかが我が事のように喜ぶ。

「私、お酒は苦手だけど、なのはちゃんがそうやって、美味しそうにお酒を飲むのを見るのは好きだよ」

「そう? ありがとう、って言えばいいのかな?」

「そうだよ」

「そうなの?」

 なのははすずかとそう言って笑い合う。
 小学生の頃とは、互いに少し変わってしまったが、それでも二人の間には和やかな空気が流れていた。

「じゃあ今度は、こっちの冬将軍の方を飲んでみようか」

 そういってなのはは、もう一本へと手を伸ばす。

「お燗にしても美味しそうだね」

「じゃあそうしようか?」

 なのはの呟きに、すずかがそう返す。

「そうだね。それじゃ、そうしようかな」

「じゃあ待ってて。温めて来るから」

 そう言ってすずかは、冬将軍を両手で抱えて、部屋から出ていった。
 なのははそれを見送りながら、脇に置かれていた村尾をもう一度手に取る。
 清酒も濁り酒もいい。
 ワインもシャンパンもいける。
 だけどやっぱり、焼酎が一番好き。
 そんな事を思いながら、なのはは村尾を傾け、口へと含む。
 その時、なのはの近くに小さな子猫が近づいて来た。
 すずかが出ていった扉がちゃんと閉まっていなかったのだろうか。
 なのはが見たことの無い毛並みをしていたので、なのはがしばらくこない間に、新しく生まれたか、すずかが拾ってきたのだろう。
 子猫は初めて見るなのはに、興味津々で近寄って来る。

「君も飲む?」

 そういってなのはは村尾の注がれたお猪口を、子猫の顔の前に持って行く。
 子猫は鼻を近づけて、村尾の匂いを嗅ぐ。

「フギャァッ!?」

 子猫はその場から飛び跳ねて逃れ、踵を返して部屋から出ていった。

「フフフ……あの子にはまだ早いか」

 なのはは微笑ましそうに子猫の姿を眺めていた。
 それを見ていると、昔のことを思い出した。
 珍しく士郎が晩酌をしていて、珍しく遅くまで起きていたなのはが、それを見つけたのだ。
 なのはが興味を示した酒を、士郎は一口だけ、飲ませてくれた。
 あの時の士郎も、こんな気持ちだったのだろうか。
 なのはが飲んだのは確か……「大雪の蔵」といったか。
 士郎が言うには、友達が好きだった酒だという。
 他にも、「獺祭」という、当時のなのはには読めない字で書かれていた酒を、静かに飲んでいた時もあった。
 興味に惹かれて飲んだのはいいが、幼かったなのはには、美味しさが分からなかった。
 次の日、桃子に二人揃って怒られたのが懐かしい。
 今なら分かるのにな、と悔しい思いが湧きあがる。
 そういえば、初めて酒を飲んで吐き出してしまったとき、「なんでこんなのを飲むの?」となのはは聞いたことがあった。 
 士郎はそんななのはの様子を見て、微笑みながら「僕にも分からない」と言っていた。
 いったいあれはなんだったのだろうか。

 そんな、取りとめもないことを考えていた時、もう慣れてしまったあの感覚が、再びなのはを襲う。

「また? せっかくのいいお酒なんだから、静かに飲ませて欲しいんだけど……」

 そんな愚痴をいいながら、なのはは立ち上がり、ジュエルシードの発動地点へと向かって歩き始めた。






あとがき

すいませんが、お酒の紹介をするのはちょっと控えて下さい。お願いします。
感想欄が酒の紹介だけになるのはどうかと思います。
どうしてもなのはさんに飲んでほしいんだ!! って思うのでしたら構いませんが、飲んでくれるか(私が書けるか)はわかりません。
なにぶん、飲んだ事も、見たこともないお酒を飲む表現を考えるのは難しいので。
つまり、そのぶん今回みたいに酒を飲んでるだけで終わり、話が進まなくなります。
ちなみにまだ私は十代ですので、お酒を飲んだことは当然ありません。
ですので、ここおかしいと思った点があれば、ご指摘よろしくお願いします。
あと、私は福砂屋のカステラと最中が大好きです。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>タクシー!?
八神さんなにやってんのwww
>はやてが運ちゃんwww
料金はタダ券でおkとかw
>ただのタクシーの運ちゃんかと思えば、はやてかよw
なんかふつーに暮らしてそうだね、はやてさん。
>はやてさんなにやってんのww(心の声:ブライト・ノア)
>まさかのはやて登場ってタクシーの運ちゃんかよ!?
>まさかタクシーの運ちゃんがはやてさんだったとは意外です。

やはり人気ですね、はやてタクシー。
以前タクシーが超重要な伏線なんだろとか言われたんで絡めてみました。

>ところで、有頂天って怒りを表すときに使いましたっけ?

ブロントさん名言集でググって下さい。

>きっと見てて引くんだろうね、魔法使うおばs

箱入りのフェイトは、すぐ傍であんな派手な格好したおばさんを見てるので大丈夫です。

>しかし、これだとなのはさんはペトリュスあたりも隠し持っていそうな予感。
2000年もののボルドーなんてケース買いしてそう。
私にもちょっと分けてください。

全部砕け散って瓦礫の下です。

>作者の代わりに説明してみた。

代わりに説明していただけたのは嬉しいんですが、コメントへのコメントは荒れる原因になるので控えて下さい。
私としては、こういう互いに教え合うようなコメントは好きで、出来れば了承したいところです。
ですが、ここの場所を借りて投稿させてもらっている以上、ここの規約には従わなければいけませんので。

>つか、今までバーターで乗っていたのかww

後付けですけど、こんな感じでなんとかやってます。
ケーキって高いのだと一切れ三、四百円ぐらいしますが、タクシーは近場だと五、六百円ほどで済みます。
なのはさんは売り上げは二の次でやっているので、なのはがタクシーにお金を払って、はやてが普通にケーキを買うより、
こっちの方がはやてが得してます。

>なんかはやてのタクシーって某映画みたいな改造されてて庭園に突っ込んで来そうだ

個人タクシーですから、そんな改造をされてても納得出来ます。
しかし、描写が出来ないのでおそらく出てきません。

>実は既婚で子供も居たけど、夫と子供に先立たれて上に、
両親も亡くなって居る天涯孤独の身なのかと思ってしまったって言われても驚きません。

なにその超設定。
私に使えるんでしょうかそれは。
難しいと思います。




[10864] 第十六話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/15 01:14





 なのははレイジングハートを、待機状態のまま片手に握り締め、屋敷の外へ出る。
 ジュエルシードの反応は、極めて近い場所にあった。
 おそらくは、この広い月村邸の敷地の中にあるだろう。
 ここならば前回のように、人が手にしたことで大惨事になることもない。
 そういえばあの植物を発生させた人は、いったいどうなったのだろうか。
 のろのろと歩きながら、なのはは呟く。

「ゆっくりやろうかな?」

 暴走したところで、生まれるのはただの毛玉の形をした思念体のみ。
 なのはには、もう何度も封印を成功させたことから、随分と余裕が生まれていた。
 魔法の扱いにもそれなりに慣れてきたのだし、なのはが焦ることなどなかった。
 本来ならば。

「やっぱり、早く終わらせよう。すずかちゃんを待たせることになるし」

 そういって、森の中に入ったなのははレイジングハートを起動させる。
 歩きながら一瞬でバリアジャケットを展開し、翠屋の制服に切り替わる。
 手に持つ赤い宝玉は、虚空から金属をその周りに召喚し、先端が四つ付いた泡立て器の形に変わる。

「さて、ジュエルシードはどこかな?」

 見た目は普通にしていても、酔いが回っているのであろうか。
 なのははヘラヘラと笑いながら、まるでかくれんぼの鬼でもやっているかのように、草むらを掻き分けてジュエルシードを探す。
 その時、草むらからなのはの目前へと、小さな子猫が現れる。

「あれ? 君はさっきの……」

 その子猫は、先程なのはが酒の匂いを嗅がせて、驚かせて逃げられたあの子猫だった。
 子猫はなのはの顔を見ると、再び逃げ出した。
 なのははそれを見て苦笑する。

「あ~あ、嫌われちゃったなぁ……」

 当然だろうと思いながら、子猫を見送る。
 自分が何を探していたのかさえ、一時忘れて。

「……っ!? 待って! そっちは行っちゃ駄目!!」

 子猫が走り去った後に、なのはが遅まきながらそのことに気付く。
 子猫が走って行った先には、励起状態のジュエルシードがあるのだということに。
 慌てて子猫を追いかける。
 しかし、走り出したなのはの目に、青い光が飛び込んでくる。

「遅かった……」

 ジュエルシードは既に発動してしまった。
 それも、あの子猫に取り憑く形で。
 なのはは変な遊び心を出したことを、後の祭であるが後悔していた。
 光が収まり、子猫に取りついた暴走体が現れる。

「……あれ?」

 目の前には、先ほどの子猫より、二回りほど大きくなっただけの普通の猫がいた。

「えっと……この子猫の願いは大きくなりたい、だったのかな?」

 それにしては普通に願いが叶っている。
 子犬の時のように、行き成り襲い掛かって来ることもない。
 大きくなりたいという願いなら、てっきりサイズ自体が大きくなるものだとなのはは思ったのだが。
 これではただの成猫ではないか。

「ナ~オゥ……」

 若干低くなった声で、猫が鳴く。
 しかも、先ほどまでなのはから逃げていたのに、今はなのはの足に頭を擦りつけて、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
 首に付けていた鈴が、なのはに擦りつける頭に合わせて、カランコロンと鳴る。
 毛並みも成長したことで、フカフカとした触り心地になっている。
 何これ、普通に可愛いじゃん。
 なのはがこの可愛い生き物に、今から封印を行うということに躊躇う。
 凶悪な外見をしていた子犬の暴走体は、封印をすることに躊躇いはなかった。
 なのはの店を破壊したあの植物は、怒っていて封印などどうでもよかった。
 けれど、それなりの判断力を持った今の精神状態で、子猫を痛めつけることに抵抗を覚えるのだ。
 幸い、この猫はただ成長しただけで、暴走するような気配は欠片も感じられない。
 このままでも……いいかな……? 
 そんな考えがなのはの頭をよぎった。
 その時、

『Master!』

 レイジングハートの警告がなのはに届く。
 慌ててなのはが顔を上げると、なのはの周りが灰色になっていた。
 いや、なのはの周りだけではない。
 なのはの認識する世界が、色褪せたかのようにモノクロへと変わる。
 その中で、色を持っているのは、なのはと、なのはの足元にいる猫だけだった。

「これは、いったい何?」

『結界です、マスター』

「結界? これが……」

 確かユーノが言っていた、周辺に被害を与えないための魔法だった、となのはは思い出す。

「いったい誰がこれを――」

『Master!』

 手に持つレイジングハートから、再び警告が響く。
 なのはが最後まで言い切る前に、なのはの耳に少女の声と、男性的な電子音が伝わる。

「バルディッシュ。フォトンランサー、連撃」

『Photon lancer.Full auto fire』

 次の瞬間、なのはへ向かって、複数の金色の光弾が飛んできた。

「きゃぁっ!」

『Protection』

 慌ててレイジングハートを掲げ、プロテクションを発動させる。
 とっさに張られた桜色のプロテクションは、金の光が激突しても最後まで主を守り切った。
 しかし、いきなりのことになのははバランスを崩し、激突の衝撃でそのまま吹き飛ばされる。
 主を守り切ったプロテクションが、粒子となって霧散した。

「なに!? いったいなに!?」

 吹き飛ばされたといえど、特にダメージを受けたわけではないなのはは、突然のことに戸惑う。
 そのなのはの眼前に、黒い衣を纏った金の髪をした少女が、樹の上にふわりと音も無く降り立つ。
 少女がなのはを見つめる。
 その口が小さく動く。

「同系の魔導師……ロストロギアの探索者か」

「あなたは……?」

 なのはが突然現れた少女に問いを返そうとする。
 少女はなのはが片手に持つ泡立て器、そのグリップに付けられた宝玉に目をやる。

「バルディッシュと同じ、インテリジェントデバイス」

「バル、ディッシュ……?」

 おそらく、少女が手に持つ黒い斧が、そのバルディッシュなのだろう。
 少女の声に反応するように、斧の刃の根に付いた黄色のデバイスコアが煌めく。

「ロストロギア、ジュエルシード……」

『Scythe form.Setup』

 無機質な声が響き、斧の刃が上を向き、金色の光刃が発生する。
 大鎌へと変化を果たした魔杖を両手で構え、なのはに向ける。
 そしてなのはに、あたかも死神が死の宣告を告げるように、少女は呟いた。

「申し訳ないけど、頂いて行きます」

「あ……」

 寂しげな瞳をした少女は、こうしてなのはの前に現れたのだった。






あとがき

フェイト登場、次でフルボッコですね。どっちが、とはいいませんが。
あとはやてのタクシー業に関してですが、深く考えて書いたわけではないので、そんなに深読みしなくても大丈夫です。
まだ設定が固まってないので。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>リンディさん的には絶対に手放せない人材ですね。

そうですね。

>青森の田酒は癖が強めですがうまいです。
一升5800円しますので1年に一本しか買いませんが・・・。

……。あれだけ酒の紹介は控えてくれと言ったのに……。

>ところで、酒飲みながらカステラっていうのは間違ってると思うんだ
まあ、ケーキ屋で飲兵衛ななのはさんのことだから、酒+菓子の組み合わせは日常茶飯事なのかもしれないけど

すずかはお茶と一緒にカステラ食ってるからこれでいいんです。

>この世界でもプレシアが輸送船を攻撃し、結果ジュエルシードがばら撒かれたのだとすると間接的に酒蔵の仇となるわけですね…修羅場の予感。
>酒蔵を破壊したのがテスタロッサ一味の仕業と知ったときどうなるのかwktkしてますw

まだ決まってませんが、もしそうならプレシアの命がやばいです。

>作者さんは、ちゃんぽんも四海楼を選ばないで、中華園や江山楼を選びそうですねー

長崎に住んでいるわけではないので、ちゃんぽんはリンガーハットで済ませてます。

>子猫の願い=大きくなりたい=大人になりたい=お酒が飲みたい?

その考えはなかった。おかげで修正することになったじゃないか。まだ書いてなかったけど。

>……ごめんなさい。なんかもう、普通に酒飲んでるなのはさんイメージするだけでハッピーなんですが。

麻薬なんかよりこっちの方がよっぽどハッピーだよね。

>月村邸ではまったく原作と姿が変わらないノエル、ファリン姉妹が見たかったですが?

ノエルは恭也たちと一緒に外国にいってます。
ファリンは……どうしよう。

>ちなみにはやての足の状態は?

なのはよりはやく走れます。

>カステラも洋菓子のカテゴリーに入るのでは?

元はオランダの菓子みたいですが、今は日本にしかないようなので、洋風和菓子だと思ってます。

>まさかあの特撮を見ているのか!?

書いててとっさに思いついたので、「あの」と言われてもわかりません。
気になるので教えて下さい、お願いします。

>直にツッコミ(感想)を書き込めなかった事に悔しい!でも感じちゃうな感・・・・アバババババババ・・・

今でも受け付けてますのでどんどんツッコミを入れていただいて結構です。
話数を添えて頂ければ、わかりやすいですね。

>はやてはなのはさん(32)専用運転手化してそうだし大丈夫そうだな。

なのはさんに寄生していれば、とりあえず食費の心配はありません。

>すずかやアリサも独身なんだろうか・・・

一応一話で二人とも結婚しているとなのはが言っています。

>妹の心配をした兄が仕組んだ見合い話にでも成るかと思っていたのに(--;)

美由希をすっとばしてそんなことはしません。




[10864] 第十七話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/15 16:12



「はあぁっ!」

 少女が大鎌の切っ先を掲げ、樹の上から飛び立ち、なのはに向かって突っ込んでくる。

『Flash Move』

 足を掬うように振るわれたそれを、なのははフラッシュムーブで素早く後ろに退いて回避する。

「待って! ねえ、どうしてこんなことをするの!?」

 突然現れた少女の凶行に、なのはは戸惑う。
 レイジングハートが警告する。

『マスター、反撃を!』

「駄目だよ、レイジングハート。そんなことしたら、あの子を殺しちゃう!」

 なのはの持っている攻撃手段は、現在二つ。
 そのどちらもが、殺傷能力の高いものだった。
 ドリルショットは貫通性に優れている。
 もし少女に向けて撃ちこんだとしたら、大木を易々と貫く威力を持つドリルは、少女の身体に大きな風穴を開けるだろう。
 そしてトルネードバスター。
 こちらは溜めが長過ぎる。しかも回転しているのだ。
 もしまともに当たれば、少女の身体はバラバラに引き裂かれるだろう。
 五体満足でなどはいられない。
 魔法には非殺傷ということが出来る。
 これは魔力によるダメージのみを与えて、対象を殺さずに状況を収拾する事が出来る方法だ。
 しかし、ドリルショットのような物理攻撃を、非殺傷になど出来る訳がない。
 対して、トルネードバスターは魔力攻撃だ。
 しかし、これも駄目だ。
 魔力攻撃で大丈夫なのは、それがただの魔力によるダメージのみだからだ。
 回転はまた、別のエネルギーとなって対象を襲う。
 そのような危険な魔法を、なのはが少女に向けて使える訳がない。

 少女に向かって話しかけるものの、少女はバルディッシュを構えたまま、なのはの問いには答えない。

「バルディッシュ」

『Arc Saber』

 少女が鎌を大きく振るうと、刃が切り離されてブーメランのように飛行し、なのはに向かう。

「レイジングハート!」

『Protection』

 レイジングハートが光り、再びプロテクションを形成する。
 変則的な動きをして飛来する光刃が、なのはのプロテクションに激突する。

「えっ!?」

 弾かれると思っていた光刃は、プロテクションに当たっても弾かれることなく、獣の牙のように、そのままプロテクションに噛みつく。

「セイバーブラスト」

『Saber Blast』

「きゃああああっ!?」

 少女が告げると、光刃が爆発し、なのはを吹き飛ばす。
 吹き飛ばされたなのはは、後ろにあった樹に背中から激突する。
 バリアジャケットで守られたものの、衝撃になのはの呼吸が一瞬止まる。

「グッ……ゴホッ、ゴホッ……」

 ズルズルとなのははその場から崩れ落ち、肺から息を吐き出す。

『Device form』

 少女の持つ鎌が消え、元の斧へと変形する。
 少女はなのはの様子を見ると、クルリと踵を返してジュエルシードの封印に向かう。

「待って!」

 その足を、なのはが呼びとめる。
 少女が足を止め、振り向いて再びなのはを見据える。
 なのははガクガクと膝が震える状態で、なおも立ち上がっていた。
 そこで初めて、少女からなのはへ向けて言葉が放たれる。

「その様子では、もう戦闘は無理でしょう。ジュエルシードは頂いて行きます」

 息も絶え絶えのなのはが、それに反論する。

「そういうわけには……行かないよ……。なんで……こんなことをするのか、話して……貰わないとね……」

 なのはが辛そうにしながらも立ち上がる。
 樹にもたれかかって、身体を支えながら、少女に話しかける。

「答えても……多分、意味はありません」

 少女が意味は無いと否定する。

「意味が無いなんて事は無い! それは、大事な物だもの。勝手に持って行かれたら、困るんだよ」

「……」

「君、名前は? 私は高町なのはって名前なの。君の名前は?」

「……」


「ああ。これを構えてたら、話せないかな?」

 なのはがレイジングハートを待機状態に戻し、少女に話しかける。
 少女がその行為に目を見開く。

「どうして……?」

「ん? どうしたのかな?」

「……どうして、デバイスをスタンバイモードに……?」

「だって、そのままじゃ、君は話してくれないでしょう?」

 なのはが少女の問いに返す。

「ねえ、教えて? 君の名前を……」

「……フェイト。フェイト・テスタロッサ……」

 何度も問い掛けるなのはに、少女が静かに自らの名を名乗る。

「そう、フェイトちゃんか」

 なのはが、少女の名前を噛み締めるかのように、うんうんと頷きながら続ける。

「私は……」

 少女――フェイトが、ポツリとなのはに告げる。

「私は、ジュエルシードを集めないといけない。
 そして、貴女も同じ目的なら、私達はジュエルシードを賭けて戦う、敵同士だ」

 その言葉に、なのはは反論する。

「駄目だよ、フェイトちゃん。
 だから、そういうことを簡単に決めつけない為にも、話し合いっていうのは必要なんだよ。
 私達は何で言葉を持ってると思うの? 
 話し合う為でしょう?
 そんな、何でもかんでも戦いで決めていたら、いつまでたっても、寂しいだけだよ」

 その言葉に、フェイトは静かに目を閉じる。
 自分に言い聞かせるかのように、呟く。

「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ、きっと……何も変わらない」

 目を見開き、バルディッシュを構える。

「伝わらない!!」

「待って! フェイトちゃ――」
  
『Blitz Action』

 バルディッシュの言葉と共に、フェイトの姿が掻き消える。

「速いっ!?」

 背中に僅かな風を感じ、なのはが振り向く。
 そこには、先程までなのはの前にいたはずのフェイトがいた。

「はあああっ!」

 体勢を低くし、バルディッシュを逆手に持ち、石突でなのはの右脇腹を突く。
 なのははその場に崩れ落ち、うつ伏せに倒れて気を失った。
 フェイトは尚もバルディッシュを構えていたが、もう起き上がらないのを見ると、警戒を解く。
 その時、倒れたなのはに近づく影があった。
 ジュエルシードが取り憑いた、あの猫だ。

「ナ~オゥ……」

 猫はフェイトのことなど気にも掛けず、気を失ったなのはの頬をペロペロと舐める。
 フェイトはその猫にバルディッシュを向ける。

「バルディッシュ」 

『Sealing form.Set up』

 バルディッシュが伸び、刃が上を向く。
 杖の中ほどから、光が四方に溢れ出ていく。

「捕獲」

 バルディッシュから雷が放たれ、猫を狙い撃つ。

「ナ~オゥ!」

 猫が身体に走る雷に悲鳴を上げる。
 その身体から、青い石が浮かび上がる。

『Order?』

「ロストロギア『ジュエルシード』シリアルXIV……封印」

 バルディッシュが主に命令を尋ね、フェイトが命令する。

『Yes sir.Sealing』

 バルディッシュから放たれた光が、ジュエルシードに当たり、励起状態の輝きを打ち消す。
 コロンと地面に転がったそれに、フェイトがバルディッシュを近づける。

『Captured』

 バルディッシュの宝石の中にジュエルシードが格納され、圧縮された魔力が蒸気となって噴出する。
 あとには、ジュエルシードに取り憑かれる前の、小さな子猫が倒れていた。
 子猫は、なのはと折り重なるようにして、気を失っていた。

「……ごめんなさい」

 フェイトは一言だけ小さく呟くと、その場を去っていった。
 はたして、フェイトが呟いた言葉は、なのはと子猫、いったいどちらに向けて放たれたのだろうか。




 フェイトが去ったあと、そこにはなのはと子猫だけが取り残されていた。
 気を失っていたなのはの指が、ピクリと動く。
 ゆっくりと起き上がり、誰もいなくなった森を見つめながら、なのはは言った。

「駄目だよ、フェイトちゃん……」

 腕には子猫を抱えて、フェイトに打ち込まれた右脇腹を抑えながら、なのはは呻いた。








「吐きそう……」









あとがき

なのはさんフルボッコの回です。
今のなのはさんには強力な攻撃手段しかないため、人間相手に使えませんでした。
いや、シリアスは疲れます。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>異世界の酒を手に入れるために嘱託になるのはありえそうだw

とてもありえそうですね。

>フェイトの魔法も穿ち貫けるのか?

出来ますけど、やったらフェイトが死にます。

>ところでこのなのはさん(32)が今にも「永遠の(17)」と言い出さないかとwktkしているのですが。まだですか(笑)

あと五年ほど待って下さい。

>はやてはシッカリしてるから海鳴市のタクシー仲間のまとめ役もやってそうですね~

かもしれません。

>……まあ養子にしたらしたで世話を焼かれるのはなのはさんな気もしますけどね

私もそんな気がします。

>そういや翠屋って常連というか身内&親しい人限定裏メニューで店屋物オーダーできたっけ(爆

知らなかった。そんなのあったんですね。

>さて、この大人なのはが聞いたらどうなることやら。

なのはさんにはコネがあります。




[10864] 第十八話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/16 12:58


 なのはは子猫を抱えて、屋敷まで戻っていた。

「まさか電気ショックで起こされるとは思わなかったよ……」

 フェイトが子猫のジュエルシードを封印した時、なのははその近くに倒れていた。
 フェイトの封印は電気を伴うものだったため、傍にいたなのはまで感電したのだ。
 その大半は、気を失っても尚レイジングハートが展開し続けてくれたバリアジャケットで、なんとか防ぐことが出来た。
 だがその全てを防ぐことは、気絶していたなのはには無理だったらしい。
 気絶するのは初めての経験で、電気ショックで起こされるのも初めてだった。
 おかげでなのはにとっては、最悪に近い目覚めとなってしまった。

「痛っ……」

 おまけに、フェイトに肝臓打ちを喰らって吐きそうになるのを、乙女的な何かで必死に抑え込んだのだ。
 刃ではなく、石突の部分を使ったことが、フェイトがなのはに手加減してくれたものと信じたいが。
 起きてからは回復魔法で治したものの、なのはの魔法はまだ完全に回復が出来る程では無いようだ。
 肉体的にも、精神的にも、なのはの身体はボロボロだった。

「でもフェイトちゃんか……。ジュエルシードを集めて、いったい何がしたいのかな……」

 先程初めて会った少女の事を考える。
 寂しそうな目をした、とても綺麗な子だった。
 なのははその少女に、自分と似た物を感じたのかもしれない。

 なのはは小さい頃から良い子だった。
 否、良い子であろうとしていた。
 父、士郎が事故で寝たきりになってしまった時、母の店である翠屋はまだ開いたばかりだった。
 桃子は寝食を惜しんで店を切り盛りし、兄の恭也と姉の美由希はその手伝いに追われた。
 その間、なのはは一人だった。
 良い子にしていてね。
 そう言われた。
 なのはは子供なんだから、外で元気に子供らしく遊ぶと良い。
 そう言われた。
 それは桃子たちの愛情だったのだろう。
 自分達の都合で、子供に苦労など与えたくは無いという、そんな想い。
 しかし、その想いこそがなのはを傷つけた。
 なのははまだ小さいからと、店を手伝うことをさせてもらえなかった。
 なのははただ、苦しくても、辛くても、それでも一緒に居たかっただけなのに。
 遠回しの愛情などではなく、率直に愛情をぶつけて欲しかった。
 なのはは、ただ皆の近くに居られれば、それだけで良かったのに。
 小さいからという理由で、なのはは納得など出来なかった。
 しかし、なのはは言い付け通り、良い子であろうとした。
 幼いなのはには、言われたこと以外の方法を知らなかったから。
 良い子にしていれば、いつかは家族が振り向いてくれる。
 そう信じて、なのははずっと、ずっと良い子であろうとした。

 そんな孤独を、なのはが小さい頃に味わったあの孤独を、少女もまた、宿しているようになのはには感じられた。
 なのはがブツブツと呟いていると、聞き慣れた声が聞こえた。

「あ、なのはちゃん!」

 なのはの親友であるすずかが駆け寄って来た。

「どこに行ってたの? そんな恰好して」

「え? 何か変かな?」

 バリアジャケットは既に解除しているから、いつもの服装のはずだが。

「変っていうか、服に泥が付いてるし、何だかとっても疲れた顔してるよ?」

 そういって、すずかがなのはの髪に手を伸ばし、髪に絡まっていた葉っぱを摘んで取る。

「ありがと、すずかちゃん。ちょっとこの子が、木に登って降りられなくなってね……」

 なのはは腕に抱えた子猫を持ちあげて、すずかに見せる。
 疲れていたからだろうか、なのははとっさに嘘をついた
 ちゃんとした話はまた後日でもいいと思ったのだ。
 大体、魔法なんてものを使って変身して、日夜変な化け物と戦ってるなんて、そんな恥ずかしいこと言える訳がないし。
 笑われたりはしないだろうが、なのはが恥ずかしい。

「ああ、ご飯の時にいないから、どこに行ってたのかと思ってたんだけど、そんなところにいたんだね……」

 すずかはなのはから眠ったままの子猫を受け取る。
 すると、今までずっと寝ていた子猫が目を開ける。

「ニャァ……」

 なのはの方を見て、小さく声を上げる。

「あら? 起こしちゃったかな?」

「そうみたいだね。お腹空いてるだろうし、ご飯あげて来るよ」

「そう。いってらっしゃい」

「うん。それじゃ」

 すずかは子猫を抱えて、来た道を戻る。
 しかし、数歩歩いたところで、足を止め、なのはの方を振り向く。

「ああ、なのはちゃんのお酒は、さっきのお部屋に用意してあるから。ちょっと冷めてるかもしれないけど」

 そういって、すずかは歩いていった。
 なのははその言葉に目を見開く。

「そういえば私、すずかちゃんにお燗頼んでたんだった……」

 なのはにしては珍しく、酒のことを忘れていたことに気付くのだった。




 先程の部屋に戻ると、お酒の入れられた徳利が、テーブルの上に置いてあった。
 椅子に座ってそれを手に取ると、なのはの手に、ほんのりと温かみが伝わって来た。
 お猪口に注いで、口に持って行く。
 白いトロッとした酒が、なのはの口に入る。
 一口含むと、酒がなのはの身体を巡り、傷ついたところを癒やして行く。
 そんな感覚をなのはは覚えた。
 すずかはちょっと冷めてると言っていたが、人肌にほど近い温度になっているこのお酒は、今のなのはには丁度良いものだった。
 そのままグイッと飲み干し、徳利からもう一杯注ぐ。

「はぁ……」

「溜息なんかついて、どうしたの? 年寄り臭いよなのはちゃん」

「あ、すずかちゃん」

 なのはが顔を上げると、そこにすずかが立っていた。

「あの子は?」

「今は元気にご飯食べてるよ。よっぽどお腹空いてたみたい」

「そう……それはよかった」

 ジュエルシードの力など借りなくても、しっかり食べて、しっかり眠れば、いずれあの子は大きくなるだろう。
 なのははお猪口を揺らし、表面に立つ小さな波を見ながら考える。

「そうだ、なのはちゃん」

「ん? 何?」

 すずかが名案を思い付いたかのように手を叩く。
 なのははすずかの行為に首を傾げる。

「今日泊まっていきなよ」

「え? いや、私は……」

「うちの子を助けてくれたんだし、お礼がしたいの」

「お礼ならもう十分もらってるよ?」

 なのははそういって、手に取った徳利を、見せびらかすようにフリフリと軽く動かす。
 すずかは目を閉じて首を横に振る。

「駄目だよ、それじゃ私の気が済まない。
 服を汚してまで助けてくれたんだから、せめて綺麗にして返さないと、月村家の恥だよ」

「え? そ、そこまで言うの?」

 たかがちょっと服が汚れただけで、家の恥とまで言われるとは思わなかった。
 なのははすずかの新しい一面を見た気がした。

「飲み終わる頃にはもう日も暮れてるだろうし、泊まっていったほうがいいよ」

「いや、私はタクシーで――」

「帰りは明日、ファリンに送らせるから」

「う、うん……」

 すずかの勢いに押され、なのはは頷いてしまう。
 なのはは一つ溜息を吐くと、すずかに告げる。

「すずかちゃん、なんだか変わったね」

「そうかな?」

「うん。何だか少し……押しが強くなった」

「駄目……かな?」

 少し悲しそうな声で、すずかがなのはに聞く。

「いや、良いと思うよ」

「本当? 良かった」

 すずかは喜ぶと、なのはの持っていた徳利を自分で持ち、なのはの持つお猪口に注いで酌をした。





「はぁ……」

 あのあとずっとすずかに酌をされて飲み続けたなのはは、宛がわれた部屋で休んでいた。
 なのはは首に絡まらないように外して、ベッドの横のサイドテーブルの上にレイジングハートを置く。
 「お酒飲んでるから、お風呂は明日だね」ということで、風呂は明日にして、着替えてベッドに寝転んでいた。
 何度も断ろうかと考えたが、すずかに「駄目……かな?」と悲しい目をされると、頷かなければいけない気がする。

「すずかちゃん、本当に変わったな……」

 なのはは押しが強くなったと言ったが、正確には、強かになったと言った方が良い。
 自分のしたいようにするために、他人を都合よく動かすのが上手くなった気がする。
 今もなのはは、32歳にもなって、すずかに渡された猫柄のパジャマを着ているのだ。32歳にもなって。

「前はあそこまで世話好きじゃなかったと思うんだけどな……」

 結婚してから家事の楽しさにでも目覚めたのだろうか。
 そういえば、以前ファリンがなのはの店に一人で来て、珍しく愚痴を零していた。
 なんでも、すずかが家事を全部自分でやってしまうから、ファリンがすることがないと言っていた。
 おまけに、いつもラブラブなのを間近で見させられているから、一人身が寂しくなったとも。
 先程すずかから聞いたが、ここ数日、その旦那は出張でいないらしい。
 特に仲が悪いとは聞いていないから、本当に唯の出張だろう。
 だからすずかも寂しくなって、なのはを呼んだのだろうか。
 珍しいお酒が手に入ったといってなのはを呼んで。
 来たら更に別のお酒を出して。
 服が汚れたから洗うと言って。

「あれ? もしかして私、孫悟空?」

 釈迦の掌の上で踊っていた孫悟空のように、すずかに上手い事踊らされている気がする。
 しかもそれが別に嫌じゃない。
 勢いに押されたが、今思えば、家の恥だとかを持ち出したのは、唯の建前だったような…?。

「気のせいだよね?」

 なんだか少し怖くなったなのはは、別のことを考える気がする。
 そして思い浮かぶのは、やはり昼間なのはをボコボコにしたあの子のこと。

「フェイトちゃんか……ねえ、レイジングハート」

『なんでしょうか?』

 サイドテーブルの上のレイジングハートが、返事をするようにチカチカと点滅する。

「あの子のこと、どう思う?」

『そうですね……』

 僅かに思案したあと、レイジングハートは喋り出した。

『あれだけの技量を、あの歳で持っていることには、非凡な才を感じます。
 彼女は良い師に巡り合えたのでしょう』

「そうだね、凄かった」

 なのはは威力があり過ぎるということで、自分からは攻撃が出来なかったが、それでもあっさりやられてしまった。
 プロテクションに張り付くような魔法があるとも思っていなかったし、それが爆発するとも思っていなかった。
 動体視力には多少の自信があるなのはでさえ、最後は姿を見失ってしまったのだ。

「今度は対等に戦えるように、練習しないと……」

 人にも使えるレベルの、弱い魔法を覚えなければいけない。
 ジュエルシードを狙うのならば、またいずれ出会うことになる。
 せめて対等であるだけの力量を身につけないと、話を聞いては貰えないだろう。
 なのはは酒でぼんやりとした頭で考える。

「ねえ。レイジングハートもそう思うよね?」

『そうですね』

「うん。あの子――」

 なのははフェイトが名乗った時の顔を思い出す。

「――車みたいな名前だったね」

『What?』

 いきなり何を言い出すのかと、レイジングハートは戸惑う。

「うん。やっぱりあの目はそれでいじめられたからなのかな?
 『テスタロッサのくせに赤くない』とか言われて。
 それでジュエルシードを集めているとか?」

『あの、マスター?』

「名前を変えたいから、ジュエルシードを探してたのかな?
 『フェラーリ・テスタロッサになりたいんです』とかかな。
 でもジュエルシードは歪んで願いを叶えるから、そんなこと願ったら、本当に車になっちゃうかも……」

 なのははレイジングハートのことを無視して話を続ける。
 どうやら酔いがかなり回っているらしい。
 それからもブツブツとなのはは取りとめの無いことを言い続けていたが、しばらくすると静かになった。
 寝入ってしまったらしい。
 レイジングハートはそれを見ながら、デバイスにありえない溜息を洩らす。
 そして、この駄目人間でありながらも、人を思う気持ちに間違いはない主に声を掛ける。

『おやすみなさい、マスター』






あとがき

なんかすずかがおかしい。何故だろう。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>母性本能の固まりだな、と思いました。シリアスなのに和んだ私がいる。

桃子さんの子ですから。

>最後の台詞が台無しすぎるw
>最後のセリフが色々と台無しだけどw
>でも起きあがった後の一言は締まらないと言うか飲兵衛らしいというか……。

それこそがなのはさん(32)クオリティ

>いよいよ砲撃に目覚めるのかな。

もうワンステップ置くと思います。

>翠屋裏メニューの最多利用者は某長男。

なるほど。とらハは知らないんで、そんな事情があったんですね。

>それとすごい今更ですが、アリサとすずかの旦那さんてどんな人なんでしょうね?
 特にすずかの旦那さんは、夜の一族の設定ありだと色々と大変そうです。

アリサとすずかを嫁に貰うことが出来るような人格者です。
ですが、登場しても嫌われるだけなので出てきません。

>お酒の話、醸造酒である清酒と蒸留酒である泡盛では、根本的な製法が違うので比較にならないと思いますが? 
ワインとブランデーどっちが美味いか、みたいなものです。

えっと、なのはさんは全部の酒を愛しているということでお願いします。
ただ焼酎が一番好きなだけで。

>つ 仮面ライダー電王

おかしいな。電王見た事無いんですけど。
どっかでそのネタ使ったss読んだからかもしれません。

>cv.鈴村健一

好きなんですね、鈴村健一さん。

>ばんっきゅっぼん?

つ魔法少女リリカルなのはStrikerS 

>なのはさんが非殺傷設定を知らなかったが故の敗北だと信じたい。

あの二つは非殺傷が効きません。

>魔王らしからぬ平和的な説得のようですが・・・きっと覚醒してしまうのですねwww

どうなんでしょう。まだ決まってません。

>・R33オーテックバージョン(4ドアGT−R)
・C35ローレル改(RB26喚装済み)
・フーガ(333psバージョン)
・16系アリスト(80スープラ6速MT喚装済み)
大穴
・オペルベクトラ改(ヴォルケンリッターつながり。DTMのカリブラ並みに1万8回転オーバーなイカレポンチスペックなヤツ)

すいません。車にも詳しくないんです。
あなたの思い描く車にはやてさんは乗っています。



[10864] 第十九話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/17 12:19



 翌日、なのははファリンに送られて高町家へと帰還した。
 そして、居間でクッキーを食べていたユーノを見つける。

「ねえユーノ君」

「あ、なのはさん。おかえりなさい」

「うん、ただいま」

「昨日のジュエルシードはどうでした?」

「それなんだけどね……」

 挨拶を返したあと、なのははユーノに昨日あったことを話した。

「なんですって!? ジュエルシードを持って行かれた!?」

「うん……。ごめんね、私が駄目だったばっかりに……」

「……いえ、なのはさんのせいじゃありませんよ。
 僕もジュエルシードを狙う人が出てくるなんて、思ってもいませんでした」

 ユーノにとっても、これは誤算だった。
 ユーノが言った通り、ジュエルシードは魔力は膨大だが、力の発現が不安定だ。
 ロストロギアなのだから、現在の技術では理解出来ない上に、安全な使い方などが記されているわけでもない。
 そんなものを制御して、思いどおりの願いを叶えることなんて、出来る訳がない。
 そのためにわざわざ危険を冒してまで、ジュエルシードを奪いに来るとは思っていなかったのだ。

「そうだよね。あんなものを集めて、いったいどうするつもりなんだろう……」

 なのはは考える。
 既に酔いは抜けているので、昨晩言っていたようなトチ狂った考えをしている訳ではない。
 なんでフェイトが『フェラーリ・テスタロッサになりたいんです』という願いを持っていると考えたのか、自分でも理解に苦しむ。
 酔った頭で考えることに碌なことはない。
 そんなことを、なのはは久しぶりに思い出したのだった。
 レイジングハートの口が堅いのが、なのはにとって救いだったと言えよう。
 もしばらされたりしたら、なのはは恥ずかしさで悶絶することになる。

「それで、またあの子と会うことになるだろうから、ちゃんとした魔法を覚えたいんだ」

「わかりました」

 ユーノが頷く。
 そういうことならば、教えることに否はない。
 今までは今持っている魔法だけで十分だったのだが、それでは対抗出来ないなら、それ以外を考えるしかない。

「じゃあ、道場に行こうか」

「はい」

 なのははユーノを肩に乗せ、姉がいつも使っている道場へと向かった。
 道場の引き戸を開けると、中には木刀を振るっていた美由希がいた。

「あれ? お姉ちゃん?」

「あ、なのは。おかえり」

「あ、うん。ただいま」

 横目でチラリとなのはを見ながら、木刀はそれでも振り続ける美由希。
 その姿になのはは戸惑う。

「って、そうじゃなくて。お姉ちゃん、仕事は?」

「……何言ってんの? 今日から連休だよ」

 呆れた、といった声で美由希が言う。

「なのは、自分が仕事無くなってニートだからって、ゴールデンウィークを忘れるのはどうかと思うよ?
 毎日が日曜日だから、日にちの感覚が無くなるのは分かるけどさ」

「ちょ、それ酷くない?」

 なのはがニートなのは、店が壊れたからだ。
 働きたくないからニートをやっている、というわけでは決してない。

「……何か釈然としないけど、まあいいや。お姉ちゃん、ちょっと道場使わせてもらうよ」

「別にいいよ。もう上がるとこだったし」

 そういって美由希は木刀を振るうのを止めて、肩に掛けていたタオルで汗を拭う。

「それで? いったい何やるの?」

「魔法の練習だよ」

「魔法? なんでまた、急にやる気になんかなったの?」

 美由希の問いに、なのはは昨日あったことを伝える。
 フェイト・テスタロッサという名前の少女と出会ったことを。
 彼女がジュエルシードを集めていることを。
 なのははコテンパンにされてしまったことを。
 ジュエルシードを持って行かれたことを。
 美由希は真面目に聞いていたが、なのはがやられたところで噴き出した。

「なに? そんな小さな子にコテンパンにやられたの?」

「そう言わないでよ。凄く強かったんだから」

 なのはは顔を赤らめながら、小さく口を尖らせて美由希に反論する。
 美由希はゴメン、と謝りながら、なのはに質問する。

「でもそんなに強いなら、一度会ってみたいな。ねえなのは、そのフェイトちゃんって、いったいどんな子?」

「綺麗な金髪を頭の横でツインテールにした、とても可愛い女の子だよ。でもね、とても寂しそうな目をしてる」

 まるで昔の私みたいに。
 なのはは口に出さずに付け加える。
 そして、その空気を吹き飛ばすように明るい声で続ける。

「あ。あとね、すっごい服装してた」

「え? 服?」

「うん。バリアジャケットなんだろうけど、凄い際どい格好してて、見てるこっちが恥ずかしくなったよ」

「そ、そうなんだ」

「新体操のレオタードみたいでね、股のところはハイレグになってて、その周りはヒラヒラした布で覆ってるだけなの」

 なのはが手でその鋭角具合を示す。
 いわゆる「コマネチ!」というアレである。
 それを見ると、うわ……、と美由希は声を上げる。

「勇気あるね、その子」

「うん、私もそう思う」

「私だったら、もうそんな恰好出来ないよ。もしやったら捕まるね」

「私だってそうだよ。もう年だもんね」

「……さっき会いたいって言ったの、取り消そうかな……。何か見比べられそうで怖い。誰にとは言わないけど……」

「……うん。その方がいいかも……」

 二人してハァ……、と深いため息を吐く。
 会話していて、ドンドンと気分が鬱になっていくのが分かる。
 そこに、今まで仲間外れにされていた声が、おずおずと割って入る。

「……あの、そろそろ魔法の練習、始めませんか?」

 ユーノの顔は、僅かに赤くなっていた。
 どうやら、こういう話題は苦手らしい。




あとがき

次から魔法の練習始めたいと思います。
それで、なのはさんにレアスキル付けてみたいんですけど、どうでしょうかね?
別に無くても原作と同じになるだけですが。
言っときますけど、酒飲んで体力回復とかでは無いですから。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>駄目だ、酔っぱらいなのはさんが親父狩りにあって宝石とられたイメージがわいてくるw

レイジングハートが持ってるんでそんなことは無いと思いますが、私もそのイメージ湧きましたw

>非殺傷設定が使えない攻性魔法しか手元にないから困る。

本当にそうですよね。次で非殺傷の魔法覚える予定です。

>なのはさん(32)とすずかさん(32)の百合を創造してしまいました。
ごめんなさいwwww

書いててそっちの方向に行きそうになったのを慌てて止めたのは秘密。

>…ところで、アリサ(32)は?

……仕事じゃないですか?

>レイハさん公認駄目人間wwww
他の人達からの評価も駄目人間なんでしょうかね?

なのはさんの駄目っぷりはレイハさんも認めてます。
酒飲んでない状態で会ってるはやてさんとかは、まだそんな評価は下してません。

>なのがトチ狂ってるなの。

酒が頭にまで回ったんです。

>言ってしまった・・・作者様がOHANASHIタイムかATAMA★HIYASOUKAタイムに入ってしまう!

言ったのはなのはさんだから、俺は大じょ(ry

>『酒は百薬の長』にも程があるwww
まさか、なのはさんのレアスキルなのか?www

なのはさんがそう感じただけですww
でももしかしたら持ってるかもしれません。
ただ気づかれることは無いでしょう。

>テスタロッサは赤頭って意味だ。
つまり赤毛にならにゃならんだけだ。

そんな意味があったんですね。
乏しい英語力が恨めしい。

>ここのなのはさんがフェイトに勝つには、年の功を見せないとダメそうですね。

アニメみたいに真正面からいったら、なのはさんの腰が……。

>じつはなのはとアリサ、こうして時々すずかに噛まれてるとか?

月村が夜の一族設定を持っているかは決めていません。
ですが、もしそうだとしても、すずかはそれを使って無理に言うことを聞かせることはしません。
それは友達じゃありませんからね。
あくまですずかの話術などが効果を発揮しているだけです。




[10864] 第二十話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/19 02:35


「そ、それじゃあ始めましょうか」

「うん。ごめんね、長話しちゃって」

 ユーノが話題を変えて、なのはがそれに乗る。
 美由希と話していて、そもそもここへ来た理由を忘れかけていたので助かった。
 あのままだと、二人して落ち込み続けていただろう。

「私はここで見てるよ」

 美由希は道場の壁に背を預けながら言った。

「それじゃあまず、なのはさんが使う魔法を、ちゃんと発動させるところから始めましょうか」

「新しい魔法を教えてくれるんじゃないの?」

なのはが首を傾げると、ユーノが答える。

「それも必要ですけど、まず自分がどこまで出来るか、自分の魔法がどういうものかを自覚するべきです。
 無闇に数多く覚えても、咄嗟に使う時に、魔法の取捨選択が難しくなるだけです」

「それは道理だね」

 美由希が答える。
 身体を鍛えている美由希には、その選択がどれほど大切なことかが分かるのだろう。

「うん、わかった。それじゃあやろうか、レイジングハート」

『All right.Stand by ready.Set up.』

 なのはの身体が光に包まれ、翠屋の制服へと切り替わる。
 赤いビー玉は、四連装の泡立て器へと変わる。

「まずは、プロテクションを発動させて下さい。少し気になることがあるので」

「気になる事?」

 ユーノの言葉になのはは首を傾げるが、使えば分かるかと思い、レイジングハートに頼む。

「レイジングハート」

『Protection』

 グリップに付けられた赤い宝玉が煌めき、先端が回転すると、なのはの前に桜色の壁が生まれた。

「やっぱり……」

 ユーノはそれを横から見ながら、そう呟く。

「ユーノ君、やっぱりじゃ分からないよ。ちゃんと説明してくれるかな?」

「ああ、すいません。なのはさんの魔法は、少し普通と違っているんです」

「どう違うの?」

 なのはは自分以外で使った人を見ていないため、違いが分からない。
 これが普通と考えていたのだが、ユーノの言うことには、なのはの魔法は変らしい。

「例えば、空を飛びながら砲撃を撃ったり、プロテクションとバインドを同時に使ったりなど、魔法は同時に発動することが出来ます。
 そもそもバリアジャケットも魔法ですからね。
 マルチタスクという、練習すれば誰でも使える技術で、魔法は同時使用出来ます。
 ですが、同じ魔法を発動することはほとんどありません」

「それはどうして?」

「意味が無いからです。魔法の種類によっては、反発することも有り得ます。
 空を飛ぶ魔法を使っている時に、もう一度飛行魔法を使っても、既に飛んでいるので意味がありません。
 バインドを同時に使用すれば、拘束する鎖の数を増やせますが、それなら一つの魔法に魔力を多く注いだ方が効率的です。
 プロテクションに至っては攻撃を弾くので、同じ魔法を使ったら互いに反発して消えてしまいます」

 ユーノはなのはの肩から降りて、両手を上に掲げる。

「プロテクション!」
 
 ユーノが唱えると、フェレットの小さい両手から、翠色の光が漏れる。
 その手になのはと同じような壁が出来る。

「今、両手で二つのプロテクションを発動させました。
 これを近づけてみると……」

 最後まで語らず、両手を合わせる。
 すると、そこに展開されていたプロテクションが、バチバチと音を立てて消滅した。

「こんなことになります」

「消えちゃった……」

 ユーノの言っていたことが、見ていたなのはには良く分かった。

「なのはさんの魔法が少し変わっていると言ったのは、この反発して消えてしまうはずの魔法が、消えずに残っているからです。
 同時に四つものプロテクションが発動していて、それが幾つもの層を形成しているんです」

「あ、本当だ。ユーノ君のに比べると、なのはの魔法は分厚いね」

 横から見ていた美由希が感想を言う。

「おまけに何か波打ってるし……」

「ええええっ? 何でそんな事になってるの?」

 そんな事が自分の魔法に起きていたなんて、なのはには全然分からなかった。
 しかもこんなことになっていると、今まで使っていたのが本当に大丈夫だったのかと不安になってくる。
 もしこれに不具合があったのなら、なのはは大怪我していただろう。

「おそらく、デバイスがそんな形状をしているからだと思います。
 レイジングハートは祈祷型ですから、なのはさんの頑丈な盾が欲しいと願ったことを叶えるために、同時発動したのではないでしょうか。
 魔法の発動には問題は無いようですが、発動部分が四つもあるデバイスなんて見た事無いですから、そのせいもあるかと思います」

「え? 無いの?」

 なのは大丈夫だと言われたことに安堵しながらも、湧きあがって来た疑問をユーノにぶつける。
 ユーノは首を振って否定する。

「ありません。作ろうと思えば作れるでしょうが、これだと通常より魔力を大量に消費するでしょう。
 なのはさんみたいに魔力が多くある人はいいかもしれませんが、普通はそれ以外にリソースを割くと思います。
 一つでも大抵のことは大丈夫なのに、四つも使う人なんていませんから」

「そ、そう……」

 暗に、なのはは馬鹿なんだとユーノに言われた気がして、なのはは落ち込んだ。
 そんななのはの様子に気付かないまま、ユーノは話を続ける。

「それじゃあ次は、なのはさんの言っていた新しい魔法に移りましょうか?」






あとがき

遂に二十話です。夏休みだから出来ることです。
なのはさんにレアスキルを付けるかどうかですが、やっぱり付ける事にしました。
付けるといっても、魔法が原作とちょっと変わるだけです。
これがなのはさんの性格・行動に影響することは一切ありませんので。
あと、今回のプロテクションの複層に関しては、レアスキルで起きているわけではありません。
ただ発動部分が四つあって、なのはさんの馬鹿魔力に任せて発動しているので、偶々上手くいっているだけです。

それと前回の「毎日がエブリディ」に関してですが、修正しておきます。
響きが好きなのでそのまま使ったのですが、配慮が足りませんでした。
すいません。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>某プレシアさんが歳のわりにカナリ際どい格好を(ry
>年下のフェイトで見てて恥ずかしくなるんなら、プレシアを見たら何を思うんだろうかw

子「ママー、あのひとすごいかっこしてるよー」
母「見ちゃいけません!」

>レアスキル候補として、『スパイラル(螺旋)』なんてどうですか?

(; ̄Д ̄)

>そしてなにより10年後のスバルとの特訓姿がなんだかとってもウルトラマンレオなカンジなイメージ(杖でたこ殴り)

スバルと会うんでしょうかね、ここのなのはさんは。

>イメージ的には警備会社が警察官か自衛隊員かフリーの傭兵かと思ったんだけど。

普段から荒事やってるわけではありません。
仕事はまだ設定してませんが。

>なのはさんじゅうにさいだからA'sの「友達だ…!」の所はどうなるんだろう?

A'sが始まらないかもしれません。

>レアスキル:魔力変換資質・甘味料

どうやったら魔力を甘味料に出来るのかww
リンディさんがジュエルシードほったらかしでスカウトに来ますね。

>若さって何だ?

振り向かないことさwww
(「宇宙刑事ギャバン」より)

>な・・・ならば、『酒占い』とか『利き酒』、『黄金率(酒限定)』、『酒造の怒り』とか・・・あれ?酒だらけなのは気のせいだよね?
>いや。なのはさんなら、ウオッカ一杯を一晩の睡眠の代わりにできるにちがいない!
>お酒を飲むと魔力量増大、または自己ブースト(ブラスター?)
一杯飲めばブラスター1
ほろ酔いでブラスター2
ヘベレケでブラスター3
みたいな?
あと、酔うと無意識に酔拳の達人になって近接戦闘能力アップとか?
もう此処のなのはさん(32)だと自分には酒関係しかイメージできないや・・・・・

ちょっとやり過ぎたかな……。
まあいい。

>そうおいえば、はやてが運ちゃんやってるこの世界での闇の書ってどうなったのかな?

まだ鎖でグルグル巻きです。




[10864] 第二十一話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/17 18:53




「それじゃあ次は、なのはさんの言っていた新しい魔法に移りましょうか?」

「あれ? 他の魔法は確かめないの?」

 ユーノが言ったことに、なのはが首を傾げる。
 ユーノは頷いて続ける。

「それも必要ですけど、なのはさんの知っている魔法は、他にはバインドなどの拘束魔法や、飛行などの移動魔法です。
 バインドは拘束する対象がありませんし、飛行や高速移動なんかをこの屋内で行うのはちょっと……」

「そうだね。そっちの方が良さそうだ。それじゃ、そっちは夜に外でやろうか」

「はい」

 なのはは納得すると、新しい魔法を覚えることにする。

「でも、魔法を覚えるって、いったいどうすればいいのかな?」

「基本的にレイジングハートには、ある程度の魔法はプログラムされているので、今までのように願えば発動します。
 でも、何を願えばいいのかなんですが……」

 ユーノは唸る。

「僕には攻撃系の魔法の適性が無くて、あまり使えないんです」

「そうなの?」

「はい。完全に、というわけではないんですが、なのはさんのお手本になるような長距離攻撃魔法などは無理です」

「それでもいいよ。何かイメージの参考になるかも知れないから」

「分かりました」

 そういってユーノは、ポウッと手から光の球を出し、浮かび上がらせる。

「これが……ディバインシューターです。これは誘導制御型ですから……」

 ユーノはその翠色の光を動かす。

「こうやって、こんな感じに動かせます」

 自分の身体の周りを飛びまわらせて、その後は不規則な動きをさせたり、素早く撃ち出したりしてから消した。

「ふぅ……。適性のない僕には、これが限界です。上手な人は複数を同時に操れるんですが」

「わかったよ」

 なのはには、ユーノが少し青い顔をしているのが分かった。
 適性が無いといっているのに、なのはに見せて、イメージを掴ませるためにわざわざやってくれた。
 それが身体に掛ける負担がどれほどのものか、なのはには計り知れない。
 そもそも、ユーノは魔力を回復させるために、フェレットの姿をしているというのに、その魔力を使わせることをしているのだ。
 これに応えられなければ、なのはは自分を恥じるだろう。

「見ててね、ユーノ君」

 なのははレイジングハートを構える。

「お願いね、レイジングハート」

『All right.Divine Shooter』

 赤い宝玉が輝くと、泡立て器の先端に、桜色の光の球が浮かび上がる。

「やった。出来たよ、ユーノ君」

「おめでとうございます」

 なのはが喜び、ユーノはそれを祝福した。
 なのははそれを目の高さに上げ、先程ユーノがやったように、色々と動かしてみる。

「私の思い通りに動かせるみたいだね」

「魔法の構成にも、不具合は無いみたいですね」

 二人してその光球を眺めてみる。

「……で、さあ」

「……なんでしょうか?」

 なのはがそれを指さしながら、ユーノに尋ねる。

「何で回転してんの? これ……」

「さあ……?」

 二人の目の前には、ユーノが作り出した物とは違って、クルクルと回転する桜色の光球があった。

「本当に何なんだろう? これは」

「とりあえず、回転が止まるように願ってみたらどうでしょう?」

「そうだね。よし、止まれ~」

 なのはがそう願ってみるが、回転は止まらない。

「おかしいな。どうして止まらないんだろう」

「逆に、もっと回れって願ってみるとか?」

「う~ん?」


 ギュィィィイインッ!


 なのはがもっと回れと願ってみると、光球はドンドンと回転数を上げていった。

「こっちは効果あるんだ……」

「回ってるのがデフォルトみたいですねぇ……」

 二人して頭を抱える。

「ねえ、レイジングハート。あなたが回してるってことは無いよね?」

『違います』

 なけなしの考えで頭を搾るが、ハズレのようだ。

「やっぱりねぇ……。何なんだろうね、この回転は」

「レアスキルでしょうか?」

「何? その『レアスキル』ってのは?」

 なのはが新しく出て来た単語に反応する。

「魔法を使える人が、稀に持っている固有の能力のことです。
 さっき聞いた話だと、なのはさんが会ったフェイトという子も、魔力を電気にしていたんですよね?
 それも魔力変換資質という、レアスキルの一つです」

「ふうん。じゃあ私は、魔法が回転するレアスキルだってこと?」

「おそらく。そんなレアスキル、聞いた事ないですけど……」

「なんか微妙な感じ……」

 なのはの意思に反して、クルクルと回り続ける球を見ながら、ポツリと呟く。
 願うのを止めたので、先程のような、音を立てるほどの回転はしていない。

「じゃあ何? ドリルショットとか、トルネードバスターとか、あれは私が撃ったからであって、他の人には使えないと?」

「そうでしょうね」

「ということは、このレアスキルのせいで、私はボコボコにやられたわけ?」

 自分が反撃出来なかったのは、自分で制御出来ないレアスキルが邪魔をしていたから。
 それが分かると、なのはは始めて魔法の力を恨んだ。
 これがなければ、フェイトと話す時間がもっと取れたかもしれないのだ。
 これがなければ、フェイトに対等に見られて、フェイトがジュエルシードを集めている理由を、聞くことが出来たかもしれないのだ。
 そんな思いで光球を見ていると、何か黒い影が、放物線を描きながらなのはの横を通り過ぎる。


ヒュッ


バシッ!


ガッ!


「痛いっ!」

 その黒い影はなのはの目の前にあった光球に当たると、弾かれてなのはの顔面に飛んで来た。
 急に起きたことになのはが反応出来る訳も無く、なのはの頬にそれはブチ当たった。

「な、何!?」

 頬に当たったそれが、道場の床に転がる。
 拾ってみると、親指の先ほどの小さな石だった。

「ああ、やっぱり弾かれるんだね」

 後ろから、石を投げた張本人であろう、美由希ののんびりした声が聞こえる。

「お姉ちゃん!」

 なのはが石の当たった、ヒリヒリと痛む頬を押さえながら、美由希に詰め寄る。

「あ、なのは。やっぱりそれ、本当に回転してるみたいだね」

「そうじゃなくて! どうしていきなりこんなことしたの?」

 なのはの問いに、美由希はあっけらかんとして答える。

「いや、なのはは、もし当たっても大怪我しないような魔法を覚えたかったんでしょ?
 だから、当たっても大丈夫かどうか、石を投げて確認しただけなんだけど」

「私のほっぺたが大丈夫じゃないよ……」

 なのはは落ち込みながら言う。
 確かに、なのははフェイトに大怪我をさせないために、新しい魔法を覚えようと思った。
 だけれど、いきなり石を投げることは無いと思う。
 美由希はそんななのはの様子を見て、頬をポリポリと掻きながら謝罪する。

「それは悪かったよ。ごめんね、なのは。だけど、あんなに綺麗にヒットするなんて、思ってもみなかったし」

「それは……」

 なのはも先程のことを思い出す。
 石が飛んで来て、それが回転する球に当たって、それが弾き返されて、偶然近くにいた人の頬に当たる。
 いったいどんなギャグだ。
 そんなギャグが起こるなんて、誰も考えやしない。

「でもさ、その石削れたりとかしてないみたいだから、なのはの魔法は成功ってことでいいんじゃないの?」

「え?」

 美由希に言われて、なのはは手の中にある小石を見る。
 そこには、綺麗な丸い石があった。
 どこにも表面が削れた跡などは無い。

「そう……だね。成功したって言っていいのかな?」

「いいんじゃない?」

 最初に考えていたものとは、少し違ってしまったが、これでなのはは非殺傷の魔法を手に入れた。




 そして、




「それじゃ、実践と行こうか?」

「え?」




 そして、




「私が避けるから、なのははそれを私に当てる練習」

「でも……」

「大丈夫大丈夫」




 ――三十分後――





「ちょ、当たらないんだけど……」







あとがき

なのはさんのレアスキルは「回転」でした。
かっこよく「螺旋」にしたほうがいいですかね?
予想されたのが当たってたので、ちょっと焦りましたけど。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>闇の書は緊縛されてる上に放置プレイされているのですね?
……それなんてドM?

本にSM仕込むとか……どんだけ~。

>ユーノ君に馬鹿魔力で力技で魔法を成立させていると言われて落ち込むなのはさんかわいい。

ありがとうございます。

>レアスキル:永遠の20歳
効果:アル中でも見た目は10代…だとお酒が飲めないので20歳、飲めば飲むほど若くなる

いいですね、それ。

>…あれ?プレシア(60前ぐらい?)も若作りですね

多分アレです。電気で細胞を活性化させてるんです。

>そういえば、飲兵衛なおばs…おねえさんといえば某カロイドにもいましたね

最初何かわからず、赤い酔声で検索してやっとわかりましたよ。
そういえばあの人もそうでしたね。

>テスタロッサってイタリア語なのでイタリア語習得しているか、車に興味ないと
わからなくても仕方ないかと思います。

なん……だと……? ミッドチルダは英語っぽいので、ずっと英語だと思ってた。

>なのはと言えば大魔力。
ここのなのはさんはこの年まで驚異的なまでの魔力量を温存してたようなものですから、使い方を覚えれば怖いもの無しでしょう。
正に物量は力なり(違

そのとおり。ここのなのはさんは質・量ともに揃えてます。

>何せこのままでは飲酒運転ならぬ飲酒へんs・・・・・・何でもありません。

なのは「ちょっと……頭潰そうか」




[10864] 第二十二話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/19 02:35




「凄い……」

 ユーノは絶句していた。
 目の前の光景に。
 自分すら及ばないほどの大量の魔力を持ち、先天的に才能があるといってもいい、そんな人と巡り会えた。
 その人はちょっとだらしない駄目人間だったが、心根はとても優しい人だった。
 ユーノのお願いを笑って受け入れてくれた。
 そのことにとても感謝している。
 ユーノは、出来る限りのことを、彼女に伝えたいと思っている。
 彼女が怪我をしないように。
 彼女が悲しい思いをしないように。
 そう思って、今日の魔法の講義では、慣れない攻撃魔法まで使って見せた。
 彼女はそれに応えてくれた。
 そのことがとても嬉しい。
 レアスキルの発覚という、彼女にとっては嬉しいのか、嬉しくないのか微妙なことも起きたが、それはまあいい。
 これで彼女は、思いっきり戦うことが出来るということだ。
 なのに。
 ああ、それなのに。

「なんで当たらないんだろう……?」

 確かに彼女は全力でやっているはずなのだ。
 操作している誘導制御弾も、最初は一つしかなかった。
 それが今や、十個まで増えているのだ。
 それなのに、当たらない。
 いったいどういうことなのか。

「美由希さんって……いったい何者?」

 彼女が全力でやっているというのに、それを笑いながら全部避けて行く。
 おまけに、反撃と称して、小石を彼女の額に精確に当てている。
 高町美由希とは、いったい何者なのだろうか。





 五分くらい、なのはさんが操作するシューターを、美由希さんは避け続けた。
 最初は躊躇っていたなのはさんも、美由希さんが難なく避けるのを見ると、シューターを二つに増やした。
 それでも美由希さんさんには当たらず、なのはさんが焦れて来たころ。

「それじゃあ、そろそろ身体も温まって来たし、反撃しようかな?」

 美由希さんはそう告げると、先程なのはさんの頬に当たったよりももっと小さい小石を、懐から幾つか取り出した。

「お姉ちゃん、まだそれ持ってたの?」

 クルクルと自転する誘導弾を二つ制御しながら、なのはさんが呆れたように返す。
 美由希さんはそれを指で弾き、なのはさんの額に当てる。

「痛っ!」

 なのはさんは石が当たった額を押さえて、その場にしゃがみ込む。
 制御していた弾が、集中が途切れたことで、存在を保てなくなり消滅した。
 美由希さんはそれを見ながら、挑発するようになのはさんに話しかける。

「いいのかな? そんなに余裕持ってて。のんびりしてると容赦なく当てるよ」

「……わかったよ。全力全開で当ててあげる」

 そう言って立ち上がり、なのはさんは更に集中して、五個の光球を作り出した。
 先程までの倍以上、それをなのはさんは苦も無く操り、美由希さんに当てようとする。
 しかし、それも楽々と躱される。

「ほらほら、そんな遅くちゃ、誰にも当てられないよ!」

 美由希さんがそういう。
 僕からしてみれば、なのはさんの魔法は、動きが速い方だ。
 かなり上位といっても良い出来だろう。
 あれを避けられるのは、あまりいないと思う。
 なのに何で、魔導師でもない美由希さんが、あんなに易々と避けられるんだろう?
 最初にジュエルシードの思念体を倒したときも、汗一つ掻いていなかったし。
 どうやってやったのか聞いたら、ただ単に攻撃しただけで、ちょっと身体を鍛えているからって返ってきた。
 ちょっとのレベルで、あれだけのことは出来ない。
 美由希さんが聞いたら怒るだろうけど、美由希さんは化け物だ。

「まだまだぁっ!」

 なのはさんは更に倍の十個にまで増やす。
 僕を助けてくれた人達を、そう悪く評するのはどうかと思ったけど、なのはさんも十分化け物だと思う。
 でもそれ以外に、僕は相応しい言葉を思いつかない。
 案外、僕の言った空想の域を出ない、あのアルハザードの子孫って仮説も、あながち間違いじゃないのかもしれない。
 なのはさんはシューターを美由希さんの周りに配置する。
 前後、左右、上下、美由希さんを包囲する形で。
 けど、

「え?」

 美由希さんの身体が見えなくなり、次の瞬間には、なのはさんの後ろに立っていた。
 シューターが包囲していたところには、もう何もない。

「いや~、焦った焦った。今のはちょっと危なかったかな? 当たったら終わりだし」

「ど、どうやって……?」

 なのはさんも、訳が分からずにぼんやりとしている。
 横から見ていた僕も分からなかった。
 確かになのはさんの魔法は、美由希さんの周りを取り囲んだはずだったのに、どうやって抜け出したんだろう。

「“ちょっと”速く動いただけだよ」

 美由希さんは笑いながらそういった。
 この人に僕の常識は通用しないのかもしれない。

「なのは。数を増やすのはいいけど、最初より動きが単調になってるよ」

 そう指摘して、美由希さんは小石を構える。

「それじゃ、続けようか?」

「っ!? レイジングハート!」

『Flash Move』

 美由希さんがそう言うと、なのはさんはフラッシュムーブで大きく後退する。
 近くにいたら、身体を鍛えていないなのはさんには不利だ。
 そのなのはさんに、美由希さんは小石を、先程よりも速く投げた。

「レイジングハート!」

『Protection』

 しかし今度は、なのはさんも警戒していたからか、なのはさんが発動した、複層の波打つプロテクションに小石は弾かれた。
 複層になっているのは、デバイスの形状が特殊だからなんとなくわかった。
 それとあの波打ってるのは、おそらくなのはさんのレアスキルが影響しているんだろう。

 なのはさんのレアスキル『回転』
 なのはさんが発動した魔法は、発動した時点で回転を始める。
 なのはさんの意思で回転数を上げることは出来るが、回転を止めることは出来ない。
 回転を止めることが出来るのは、何か固定された物質を起点として発動した魔法のみ、ということだろうか?
 なのはさんはプロテクションを、魔法で作る壁と認識しているらしい。
 だから魔法は、地面からせり上がるように壁が生まれる。
 そのため、地面を起点として発動した魔法は、地面に固定されて回転を行うことが出来ない。
 プロテクションが波打っているのは、それでも回ろうとして魔法が足掻いているように見える。
 そういえば、同じようにチェーンバインドも回転は起こらなかった。
 この仮説は正しいのかもしれない。

 なのはさんの魔法は、とても強い。
 強力過ぎて、優しいなのはさんには使えないものもある。
 対人戦闘で使えば、最強だろう。
 あのシューターだって、回転数を最大まで上げて、相手にぶつければ、それでなのはさんは勝てる。
 たった一つでだ。
 たった一つで、防御もバリアジャケットも、紙のように吹き飛ばしてしまうことが出来るだろう。

 物には回転しやすい形というものがあるのだ。
 例えば、なのはさんの作り出したシューターのような球形、ラウンドシールドのような平たい円形などだ。
 ミッドチルダ式の魔法陣は真円だから、なのはさんのレアスキルとの相性は抜群なのかもしれない。
 だが、相性が良すぎるというのも考え物だ。
 回転し続けるということは、なのはさんの魔法は、大抵の魔法が非殺傷の効果を発揮しない。
 もしかしたら、ただのリングバインドでさえも、人を殺せるかもしれないのだから。
 どうしてあんな、過ぎた力を持ってしまったのだろう。

 なのはさんはレアスキルが分かったとき、喜ぶのではなく、微妙な顔をしていた。
 不便にも程がある、まるでそんな顔をしていた。
 なのはさんは、そのことが分かっていたのだろう。
 あの力は凶悪すぎる。

「なのは、さっきの光の球、消えちゃってるよ? ちゃんと集中しないと駄目じゃない」

「えっ?」

 美由希さんの指摘に、なのはさんがハッとする。
 道場の中を見ると、さっきまで展開していたはずの十個のシューターが消えていた。
 なのはさんは避けるのに精一杯で、魔法の維持を忘れていたらしい。
 なのはさんは、慌ててもう一度魔法を発動させようとする。
 しかし、美由希さんが走り、一息でなのはさんの直ぐ目の前まで辿り着いた。

「魔法もいいけど、私の事も忘れちゃ駄目だよ?」

 ピシッ

「あうっ!」

 美由希さんがデコピンをなのはさんに軽く放つ。

「れ、レイジングハート!」

『Flash Move』

「まだまだ、だね」

 もう一度フラッシュムーブを使い、なのはさんは大きく距離を取る。
 その動きについていく美由希さん。
 やっぱり化け物だ。
 それから何度か、なのはさんと美由希さんは、道場の端から端まで行ったり来たりを繰り返した。
 いったい、いつまでこの実践練習は続くのかと思っていた。
 なのはさんの魔力は膨大で、美由希さんの体力も底なしだ。
 かなり長く続くだろうと思っていた。
 しかし、終わりは以外にも早く、あっけなくやって来た。




 グキッ




 嫌な音が、聞こえた。
 聞こえるはずもないのに、なぜか聞こえた。
 それと同時に、なのはさんがその場に崩れ落ちた。
 美由希さんは何もやっていないのに、だ。

「お、おおおお……あああ……ああ」

 倒れたまま、なのはさんが呻く。
 徒ならぬその様子に、美由希さんも何事かと、なのはさんに近寄っていった。
 僕も急いで走りよると、なのはさんは途切れそうな声で、一言だけ漏らした。

「こ、腰が……」

 後ろで美由希さんが呟いた。

「やり過ぎた……」

 そんな声が聞こえて来た。
 僕は、この状況をいったい、どうすれば良いんだろう。






あとがき

今回は、美由希tsueeeeee! の回でした。
これぐらい楽勝だろう、という感じで書きました。
もう美由希じゃなくて、MIYUKIとかにしたほうがいいのかな?
さて、なのはさんの明日はどうなる!?

なのはさんのレアスキルですが、そのまま回転にしました。
螺旋だと格好いいけど、なのはさんがそんな格好つけた名前、嫌がると思うので。
それに、そんな華麗な感じじゃ無いですからね、うちのなのはさんは。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>ディバインシューターを複数制御できるようになると、御神の剣士達が回避の鍛錬のために利用するようになるような気がする……。

今回利用してます。

>闇の書の侵食によって足が動けなくなっても車の運転自体は問題ないようですね。

はやてさんはなのはさんより速く走れるんですよ。

>後はそれをギュッととどめて相手にぶつけるだけではないですか!四代目も真っ青な習得スピード!!!

なのはさんはもう使えます。けどやりません。

>ならば次はプロテクションを回転させて、『常時八卦掌回天』を!!
(螺旋の力で全てを弾く!!うかつに触れば死ぬ)
そして、ディバインシューター改『スパイラルシューター』で自在にオールレンジ攻撃!!
高速回転・収束させる事で破壊力も限り無く上がるため、バリアなんぞ紙のように破る!(当たり所が悪ければ死ぬ)
射出速度・リロードが早い『ドリルショット』で牽制し、(螺旋の力で殺傷力抜群・当たれば死ぬ)
溜めは必要だけど破壊力・貫通力は最大の『トルネードバスター』で全てを打ち抜く!!(もちろん当たれば死ぬ)

どんだけなのはさんに人殺しをさせたいのかと小一時間(ry

>なのはさんの非殺傷設定はダメージの代わりに相手を悪酔いさせそうだ………

死なないレベルで回転させられたら酔います。

>ここは「螺旋」でせうよw

すいませんが、上に書いたとおり、なのはさんは螺旋を嫌がる気がするので、回転に決まりました。

>これで必(非)殺技「バインド大回転」の完成に一歩近づいたわけですね。

バインドで回転させるんじゃなくて、バインド自体が回転してるだけです。

>回転の力で半身不随を治したり物体を平らにしたりするんですね、わかります。

さすがになのはさんがイメージ出来ないことは無理です。

>ここのなのはさんは螺旋などという格好良いものより泥臭い回転の方が合っていると思う。
>変に「螺旋」なんてネタに迎合する名称にする必要も無いと思います。

私もそう思いました。

>敵の魔法弾を回転ではじいたりもできるんだろうか?

出来ます。

>某英雄王のごとくデバイスの四つの発動体をそれぞれ回転させて馬鹿魔力を相手にぶつける必殺技を夢想しますた。

むしろ前に書いたとおり、ダイの大冒険の獣王激烈掌を想像して頂ければ。

>コマネチwwwwww

説明するときにあれほど分かりやすいネタは無いと思います。

>お店壊れたのにニート扱いは酷いよ美由希さんw

分かったうえでからかってます。

>ここのなのはさんだと湯船で熱燗、風呂上りにビール、宴会でもちゃんぽんで飲みまくりになりそうですw

容易に想像出来ますな。

>二人ともいい歳のせいか、言ってることに慎みがありませんねw

そうですね。少しスレてますから。
やっぱりおばさ……おや? 窓の外に桜色の光が見え(ry




[10864] 第二十三話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/19 02:34



 なのはの身体が魔女の一撃を喰らい、破滅の序章を刻んだ日。
 なのははベッドで寝たきりになっていた。

「痛い……」

 横向きに寝っ転がって、背中を丸め、膝を抱えているなのはが呻く。

「まったく、なのはは体力無さ過ぎだよ」

 美由希が袋に入れた氷を、タオルで包んでなのはの腰に当てる。
 なのはを部屋まで運んだ後、汗を掻いたなのはの服を着替えさせたり、動けないなのはのために水差しを用意したりと、美由希は色々としていた。
 ちなみにユーノは、なのはが服を着替えるときに部屋を出て行った。

「いくら激しく動いたからって、その歳でぎっくり腰とか、運動不足にも程があるよ」

「うう……返す言葉も無い……」

 顔を伏せて、痛みと情けなさでさめざめと泣きながら、なのははまた呻く。

「これに懲りたら、治ったら少しは運動しなさい」

「ジュ、ジュエルシードを全部集め終わった後なら……」

「どうしてそこで、治ったらすぐ始めるって言葉が出て来ないのかねぇ……」

 美由希はこめかみを押さえて溜息を吐く。
 とても呆れているらしい。

「まあいいや。ユーノ君の話だと、魔法で治療すれば2~3日で完治するらしいから、それまで大人しくしてなさい」

「うん……」

 なのはは魔法の存在を、人生で二回目に感謝した。
 美由希はなのはの腰を見ながら、ポツリと呟く。

「にしても……これじゃあ温泉いけないね……。ぎっくり腰のときに、お風呂に入ったりしたら地獄だって言うし……」

「うん……そうだね……」

 なのはは腰の痛みから、どう考えても無理、と判断した。
 なのはたちは毎年、この時期の連休を使って海鳴温泉に行く。
 明日がその出発日だったのだ。
 だがなのははぎっくり腰でこの有り様である。

「それじゃあ、今年は無しかな?」

「私のことはいいから、お姉ちゃんたちだけで行ってきてよ」

「でもさ……」

 なのはが美由希たちを温泉に行かせようとする。
 しかし美由希はあまり乗り気ではないようで、なのはの言葉に反論しようとする。
 だが美由希が最後まで言い切る前になのはが話し始める。

「せっかく以前から準備してたんだし、予約も取ってたんだから、私一人のために久しぶりの連休を潰すのは悪いよ……」

「でもさ、なのはが苦しんでるのに、私らだけでのうのうと温泉を楽しむのもね……」

「大丈夫だよ。私だってもう子供じゃないんだから」

「トイレもまともに行けない、今のなのはは子供以下でしょうに……」

「うう……」

 美由希のツッコミに、なのははまた凹んだ。

「でも、せっかくの予約を無駄にするのもどうかと思うし、お父さんたちだけでも行って貰おうか?」

「うん……そうだね」

 美由希の提案に、なのははそれなら、と頷く。

「偶には夫婦水入らずで、温泉に行くのも良いと思う……」

「それじゃ、私はお父さんたちに話してくるよ」

 美由希はなのはの部屋から出て、階段を下りて行った。
 なのははそれを見送ると、レイジングハートに頼んで回復魔法を発動させた。
 美由希が話していたように、早めに治るのなら、それに越したことはない。

 ユーノによると、回復魔法は難しいらしい。
 人によって効果の度合いが異なるし、人の身体に詳しくないといけない。
 擦り傷程度の外傷なら、誰が使った魔法でも大して差は無い。
 だが内部の物となると、いったいどこにどんな痛みが発生しているかは、見ている側には分からない。
 そのため、的確に患部を見極める観察眼が必要となるのだ。
 だがユーノはそこまで回復魔法に詳しい程ではないと言っていたし、ぎっくり腰用の治療魔法なんて覚えていないだろう。
 だから、なのはが自分で治療を施しているのだ。
 本人なのだから、どこに魔法を掛ければ良いかは分かるし、何か異常が出れば直ぐ分かる。
 日頃から体調管理の魔法で、自分の身体を調べていたことが功を奏した。
 なのはの腰に、展開された魔法陣から柔らかな光が降り注ぐ。
 その光がなのはの身体に沁み込むように消えると、なのはは腰に感じる痛みが少し和らぐのを感じた。

「やっぱり魔法って凄い」

 しみじみと実感する。

「でもこれも回ってるんだろうな……」

 なのはからは見えないが、今この瞬間も、なのはの腰の上に展開された小さな魔法陣は、クルクルと回っている。
 プロテクションやディバインシューターなどの、魔法を使って物理的に干渉するものを使っていたが、それは全て回っていた。
 まあなのはのプロテクションは固定された壁なので、回転出来ずに波打っていただけだったが。
 だが魔法陣がそのまま盾になっていたので、魔法陣が及ぼす効果にまで考えが及ばなかった。
 展開された魔法陣から発生する効果は、回転の影響を受けないのだろう。
 魔法陣が回っているせいで、スプリンクラーのようにその効果は撒き散らされてはいるが、効果自体はそのままだ。
 もしその効果まで回転を始めていたら、なのはの身体が無事では済まなかったのではないだろうか。
 ユーノの言った、魔法の発動には問題が無いということに、なのはは改めて安堵した。
 そんなことをつらつらと考えていると、トントンと階段を上がってくる音がする。
 扉ががちゃりと音を立て、美由希と、その肩に乗ったユーノが顔を出す。

「なのは、お父さんとお母さん、行くの渋ってたけど、何とか行かせることを納得させたよ」

「そう、良かった」

 なのはは本心からそう言った。
 なのはは昔ほどの、どうしても良い子でいなければならない、といった強迫観念に苛まれているわけではない。
 もしそうならば、ここで何が何でも皆を行かせただろう。
 今はそれ程でもないのだが、それでも両親が温泉に行ってくれることに、安心をしたのは間違いない。
 分かってはいるが、悩みから解放されても、長年培った性分はどうしようもないのだ。

「ねえ、お姉ちゃん。私、少し眠るよ」

「それがいいよ。なのはは疲れてるんだし、ベッドに転がっててもやること無いだろうしね」

 美由希が苦笑する。
 なのははそれを耳で聞くと、目を閉じる。

「それじゃ、おやすみ。レイジングハート、魔法の維持、お願いね」

『All right』

「うん、おやすみ、なのは」

 そうして、疲れの溜まっていたなのはは、夢を見ることもない深い暗闇へと、静かに落ちて行った。







あとがき

やっぱりぎっくり腰は好評だったようですね。
以前から言われていたんで、いつかは使いたいと思っていたんです。
ここで使ったのは、これより後になるとシリアスが続くでしょうから、流石にそれはどうかと考えたので。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>御神を修めた美由紀さんは強い!!才能なら、恭也以上だと言われた姿が今、ここに現れた~~!ぶっちゃけ人外ですからね、さすが高町家です。

鍛えてますから。

>ふと変身音叉で変身してバチを打ち鳴らす美由紀さんが脳裏をよぎった。

響鬼ですね、わかります。
今回は何とかわかったぜ。

>PS:As編でヴィータにおばさん呼ばわりされて魔王と化すなのはさんっていうのもアリかも?

はやてさんもおばさんです。自分で自分の首を絞めるヴィータの姿が目に浮かびます。

>つまりチェーンバインド改『チェーンソーバインド』な訳ですね!
チェーン一つ一つが視認出来ない速度で超高速回転しているため、触れたモノ全てをきれいに断ち切る。(当然当たれば死ぬ)
相手を捕らえるなんぞ不可能だぜ!締めたら相手はスプラッタに!
設置型も可能?

だから何故なのはさんに人殺しをさせようとするのか。
魔法は発動した時点から回転を始めますから設置型でも回ります。

>ふむ、気○斬ですね。防御魔法すら攻撃魔法にするなんてさすがです。

気○斬ほどの切れ味はありません。なので、気○斬みたいにスッパリではなく、ガリガリと削り取ります。

>イタリア語の名前については同じフェラーリの中にモンディアルとかスカリエッティとかがありますよ。

なるほど。やっぱり車なんですね。

>あとケーキの回転台の代わりにシールド使うとか

店が直ったらなのはさんは使います。

>シグナムやヴィータのあからさまに物理攻撃っぽい必殺技でも大丈夫なんだから
回転ドリルでもなぜか魔力ダメージだけで死なないようなきがしないでも

シグナムやヴィータの攻撃は、叩き切る・叩き潰すです。
対してうちのなのはさんは削り取ります。

>よっぽど考えられた修行をしてたんだろうなぁ。

恭也の教えの賜物です。




[10864] 第二十四話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/19 14:02




 なのはが目を覚ましたとき、日は既に落ち、辺りは真っ暗になっていた。
 寝起きの頭でぼんやりと辺りを見つめる。

「寝過ぎたかな……?」

 腰の痛みは大分消えていた。
 流石は魔法といったところか、となのはは感心する。
 それを理解すると、なのははベッドに寝転がったまま、手を伸ばして水差しを取り、水を口に含む。
 生温い水が喉を流れていくのに、僅かな不快感を感じる。

「お酒が飲みたいな……」

 キンキンに冷えたビールを、ジョッキで飲みたい。
 そう思うが、なのはは現在、身体を動かすのも辛い状態にある。
 皆は既に眠っている時間であろうし、わざわざ起こして酒を取りに行かせることも出来ない。
 そもそも、今の状態では酒が飲みたいと言っても、取り上げられるのがオチだ。
 なのははこの生温い水で、明日まで我慢しなければいけない。

「早く治さないと……」

 でなければ、なのはは何も出来ない。
 改めてがんばろうと思い、なのははもう一度寝ようと目を閉じた。
 そのとき、なのはの身体に悪寒が走る。

「っ!? ジュエルシード!」

 慌てて飛び起きる。
 なのはがこの反応を探知したということは、フェイトもこれを分かっているはずだ。
 ジュエルシードを巡る限り、フェイトとはまた会う。
 起こり得ることなのだ。
 会いに行かなければいけない。
 なのははその為に、フェイトにもう一度会って話を聞く為に、美由希を相手に実戦練習を積んでいたのだから。
 だが、忘れてはいけない。
 なのはの身体は、未だ完治してはいないのだ。
 つまり、




 グキッ





「あ……」

 再発することもまた、起こり得ることなのである。









 夜の森の中に、一人の少女が佇む。
 金の髪をなびかせ、その身を黒衣に包んで。
 その隣に、一人の女性が降り立つ。
 橙色の髪をした、狼の耳と尻尾を併せ持つ女性だ。

「ねえ、フェイト。やっぱりこの先に、ジュエルシードはあるみたいだよ」

「そうだね、アルフ。私にも分かるよ」

 まだ発動していないから、ちゃんとした場所は分からない。
 だがこの近辺にあることを、フェイトは研ぎ澄まされた感覚で捉えていた。

「じゃあ、行こうか」

「そうだね、フェイト」

 アルフと呼ばれた女性が、飛び立つフェイトの後ろに続き、自らも飛び立つ。




 ジュエルシードが沈んでいるであろう池、そこに掛けられた小さな橋の上に二人は降り立った。
 静かに待っていると、池の水底から青い光が溢れだす。
 青い光は天へと立ち昇り、見る者を魅了する、不思議な輝きを放っていた。

「うっはぁ。凄いねぇ、こりゃ。これがロストロギアのパワーってやつ?」

 その光が発する力に、アルフが驚嘆の声を上げる。

「随分不完全で、不安定な状態だけどね」

 フェイトは冷静にその光を眺めている。

「あんたのお母さんは、なんであんな物を欲しがってるんだろうね……」

「さあ……。分からないけど、それは関係ないよ。母さんが欲しがっているんだから、手に入れないと」

 アルフの呟きに似た疑問に、フェイトは首を横に振る。
 だがその後に放たれた言葉に秘められた意志は、とても強いものだった。
 フェイトは右手を掲げ、そこにいる相棒に声を掛ける。

「バルディッシュ、起きて」

『Yes, sir』

 フェイトの呼び掛けに応え、フェイトの右手のグローブから男性的な声が響く。
 グローブの金の台座に乗った、三角形の黄色い宝石が煌めく。
 宝石が天へと昇り、漆黒の杖となってフェイトの手に収まる。

『Sealing form.Set up』

 再び男性的な声が響くと、杖の先にゆっくりと斧が形成される。
 そしてその中心に、金の宝玉が生まれる。
 宝玉には猫の瞳のような模様が浮き出る。
 そしてフェイトが、未だ水面から立ち昇る光に向かって、斧の先端を差し向ける。
 羽のように四枚の金の光が生まれ、中心から光球が生まれる。
 フェイトは水面を睨みながら、アルフへと声を掛ける。

「封印するよ。アルフ、サポートして」

「へいへい」

 アルフが気だるげに返し、手のひらを水面へと向ける。

「チェーンバインド!」

 その手から光の鎖が飛び出し、水面に、その中にいるモノへと突き刺さる。

「よいっしょおっ!」

 鎖を掴み、掛け声とともに、一気に中にいるものを釣り上げる。
 アルフの鎖が絡みついたモノは、未だ青い光を身体から洩れさせていた、大きな魚だった。
 魚といっても、この近辺に住みつくようなものでは決してない。
 もっと深い、日の光が届かないほどの暗闇に潜む、そんな醜悪な深海魚の姿だった。

「う~わ。気持ち悪……」

 アルフはその外見に、嫌そうな顔を隠そうともしない。
 釣りあげられた魚は、フェイトたちから少しはなれた場所へと落下した。
 魚はギョロギョロとしたその目で、こちらを見つめている。
 フェイトはそれに向かって、封印の光を放つ。
 しかし、魚に到達する直前で、その光は掻き消された。

「っ!? 弾いた?」

 フェイトはそれを見て、目の前の生物への警戒を強める。

「あらら、生意気にもバリアなんか張っちゃって……」

 アルフがそれを見て、橋の欄干からひらりと降りる。
 狼の獰猛な笑みを、その顔に浮かべる。

「良いねぇ良いねぇ、活きが良いねぇ!」

 そして魚へと走り出す。

「そんなにも活きが良いと……」

 一息で魚の元へと到達すると、橙色の光に包まれた右の拳を、魚に打ち込む。

「ガブッと行きたくなるねぇっ!!」

 魚は再びバリアを張ろうとするが、アルフの拳には通用しない。

 バリアブレイク
 
 アルフの得意とする技によって、魚の身を守るバリアは、軽い音を立てて砕け散った。

「フェイト!」

 アルフは後ろにいる主へ向かって呼び掛け、素早くその場から飛び退く。

「分かっているよ、アルフ。次は外さない」

 フェイトは既に次弾を形成し、構えていた。

「ジュエルシード、シリアルXⅠ、封印!」

 杖の先から再び光を放つ。
 遮るモノのない金の光は、今度は確実に対象へと当たった。

『Sealing』

 バルディッシュの声と共に、魚は光に包まれ、その中から青い宝石が生まれる。
 ゆっくりと落ちて来るジュエルシードを、フェイトは掴む。

「二つ目」

『Captured』

 手を離して落ちていく宝石は、ふわりと浮かび上がって、バルディッシュの中へと格納された。

「いやぁ、あっけなかったねぇ」

 近寄って来たアルフがぼやく。

「楽なのは良いけど、もうちょっと手応えが欲しかったよ」

「そんなこと言っちゃ駄目だよ、アルフ。私達は早くジュエルシードを集めなきゃいけないんだから」

「わかったよぅ、フェイト」

 好戦的なことを言うアルフを、フェイトが窘める。
 叱られたことで、アルフは少ししょんぼりとする。
 それを表すように、耳が下へと垂れ下がっている。
 アルフは話題を変えるように明るい声を出す。

「それじゃ、帰ろうか。ずっと張り込んでたから、もうお腹ペコペコだよ」

「そうだね……」

 フェイトは頷く。
 だが飛び立とうとしたところで、バルディッシュを見やると、フェイトは飛ぶのを止めた。

「……フェイト?」

「……バルディッシュ、エリアサーチ」

『Yes sir.Area Search』

 バルディッシュからサーチャーが飛び出し、辺りを探索する。
 数分、辺りを探したところで、フェイトはサーチャーを消した。

「……いない、か……」

 目を閉じ、心なしか残念そうに、ポツリと呟く。
 それを獣特有の聴覚で聞きつけたアルフが、フェイトに尋ねる。

「何がいないんだい?」

「何でもないよ。帰ろうか、アルフ」

 フェイトはそれだけ言うと、飛び立った。
 アルフは釈然としない顔をしながらも、フェイトの後を飛んで追いかける。
 そして二人は夜の闇へと消えていった。














 そのころの高町家。

「ああああ……」

「このバカッ! まだ完全に治っていないのに、そんなに勢い良く動こうとしたら、悪化するに決まってるでしょうが!!」

「うううう……」

「……ジュエルシードの反応が消えた。なのはさんの言っていた、フェイトって子が持って行ったのかな?」

「い~た~い~……」

 こんな感じである。






あとがき

二度目のフェイトとの出会いは無くなりました。
アルフとの出会いも見送りです。
このために最初の話し合いで、なのはさんは4~5話分、ベラベラと喋っていたんですけどね。
今回はアニメでは一瞬で終わったシーンを作ってみました。
一瞬で終わらせると余りにも短いので。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>思うとsts編でのなのはさんは42歳!
なんかもう周りのメンバーとの年齢の差がとんでもないことに(泣)
いや!はやても同じくらいだし別に……
だめだ、二人どっかの居酒屋で愚痴こぼしてる光景が……(笑)

だからstsは始まらないかもしれませんって。
はやてとの愚痴はあると思いますけど。

>とうとうなのはさんも要介護者か…

歳ですからねぇ……。

>なのはさん日頃の不摂生のせいで温泉で一杯というのを逃してしまい残念でした。

心の底から楽しみにしていたでしょうにね。

>時空間だけでなく、なのはさんの腰にも衝撃がはしりそうだ。
(なんせデバイスを思いっきり打ち合わせて、さらにジュエルシードの衝撃もはしっていたし。)

もうあんな無茶はしないと思っていたけど、それがありましたね。
やばい、どうしようかな。
シリアスなシーンでやりたくないし。

>そういや作者さんのレスの『はやてさんもおばさんです。』の一言で
「よろこべ!絶滅タイムだ!!死だ!!」
とか覚醒状態(リーンとの融合状態)で叫んでいらっしゃる はやてさんが脳裏に浮かびましたとも。
う~ん、奇しくも『闇の皇』ならぬ 闇の書の主たる『夜天の王』だけのことはある。

またネタが分からない。
畜生……。



[10864] 第二十五話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/20 11:40

 なのはが魔女による二撃目を喰らった翌日。
 当然のことながら、なのははまだ寝込んでいた。

「痛い……」

 ぎっくり腰が再発しなければ、魔法治療で今日にはもう歩けるようになっていただろう。
 だがそれはただのIFでしかない。
 それを幾ら論じたところで、現実は変わらない。
 なのはのぎっくり腰が再発し、今なのはがベッドに寝たきりになっているのは変わらないのだ。
 そのなのはの耳に、階段をトントンと上がってくる音が聞こえた。
 姉の美由希だ。
 扉を開けて入って来た美由希は、手に氷の入った袋を持っていた。

「まったく!」

 その袋を、なのはの腰にベシッと押し当てる。
 昨日と比べて、行動が刺々しい。

「いぇあ゛あ゛あ゛っ!?」

 急に腰に当てられた冷たさと痛みと驚きで、なのはが奇声を発する。
 そんななのはの様子を見ながら、美由希が氷袋を更にグリグリと押し当てる。
 ちなみに、昨日は氷袋をタオルで包んでいたが、今日は直である。

「私、大人しくしてろって言ったよね? 何でこんなことになっているんだろうねぇ?」

「痛い痛い痛い……」

 なのはは壊れた機械のように、痛い痛いと繰り返す。
 美由希も怒っているのだ。
 魔法で直ぐに治ると思っていたら、治る直前で急に動いて台無しにした。
 おまけに最初より悪化していると来た。
 確かに美由希にも、なのはにどんな思いがあって、どうして練習をしていたのかは分かっている。
 その思いを叶えるチャンスが目の前にあったのなら、思わず掴み取ろうとしてしまうのも分かるのだ。
 だが、だからこそ、病気を悪化させたなのはに、美由希は怒っているのだ。

「ご、ごめんなさい……」

 消え入りそうな声で、なのはが美由希に謝る。
 それを聞いて美由希は、氷をグリグリと押し当てるのを止めた。
 はぁ、と溜息を吐く。
 美由希は寝たきりのなのはの髪を、指でそっと梳きながら、なのはの行動を窘める。

「ねえ、なのは。なのはが焦る気持ちは分かるよ。
 ジュエルシードは危険な物だし、それを誰かが、何の目的で持って行こうとしているのか、それが気になるのも分かる。
 でもね、完治もしていないのに戦いに赴いて、それで勝てるほど弱い相手じゃないでしょ?
 今の状態で行っても、また負けるって分かっていたよね?
 それが分かっていながら、まずは完治させることを第一に考えるべきだって分かっていながら、なのはは自制を忘れたね?
 もう32歳なのに、今の状況をちゃんと判断出来なかったのは、駄目だって私は言ってるんだよ」

「……うん」

 顔を伏せて、美由希の言葉に頷く。
 ギュッとレイジングハートを握り締め、なのははフェイトの事を思い出す。

「分かってる。ううん、分かってると思ってた。
 フェイトちゃんは、私が怪我してるからって、ジュエルシードを渡してくれるようなそんな子じゃないだろうし。
 攻撃手段が無かったとはいえ、それでも私は、あっさりやられちゃったから。
 だから早く元気になって、フェイトちゃんに認めてもらって、それで話を聞くんだって、そう思ってた。
 でも、昨日のジュエルシードが発動したとき、会いに行かなきゃって思った。
 分かっていると思っていたのに、全部どっかへ行って、他には何も私の頭には無かった。
 ただ会いに行こうとして、それでこの有り様だよ」

 なのはは自嘲の笑みを浮かべる。
 そこで言葉を一端止め、水差しを手に取って口の中を潤し、なのはは言葉を続ける。

「フェイトちゃんってね、昔の私に似てる気がするの。
 まだ一回しか会ったことないけど、あの目が、あの寂しそうな目が、とても気になるの。
 多分、またジュエルシードが発動したら、私はもう一度同じことをするんだろうね……。
 意味がないと分かってても、身体が動いちゃうんだ。
 ごめんね、お姉ちゃん。心配掛けちゃって。
 こんなこと、今まで無かったんだけどな……」

 なのはは顔を上げて、天井を眺めながらポツリと呟く。
 美由希はそれを聞いて、顔に苦笑いを浮かべる。

「まったく、なのはのそれは、幾つになっても変わらないね。
 こうと決めたら一直線で、他の何も目に入らなくなる。
 まるで猪か、闘牛みたい。ひらりマントが欲しい所だよ。
 その性格はなのはの良い所だとは思うけど、同時に悪い所でもあるよね」

「そうかな?」

「そうだよ」

「でも人の性分は、そう簡単には変えられないよ?」

 なのはの言葉に、美由希が頷く。

「分かってるよ。
 そんな簡単に変わるようじゃ、性分とか言わないしね。
 だから必要なら私が、無理矢理縛り付けてでもなのはを抑える。
 なのはが無茶をし過ぎないように、私が引っ張り戻す。
 それで良いんでしょう?」

「うん。……ありがとう、お姉ちゃん」

「家族だもの。これ位はどおってことないよ。私は鍛えてるからね」

「それ関係あるの?」

「あるよ、大ありだ」

「へぇ、そうなんだ」

 なのはが感心する。
 そんななのはに向かって、美由希はニヤリと笑い、話を続ける。

「だいたい、鍛えてないと猪なのはの突進なんて、受け止めきれないでしょ?」

「ちょ、酷くない? 猪って……」

「事実でしょうが。後先考えずに突っ走ろうとして、出鼻を挫かれたのは誰だっけ?」

「……」

 なのはが黙り込む。
 その場には、先程の重苦しい雰囲気は何処かへ消え、和やかな空気が流れていた。

「ま、今度こそ大人しくしときなさい。でないと、言葉通りに縛り付けるよ」

「うん。……そうだ、お父さん達は?」

 なのはは頷き、そこで初めて士郎達のことに気付く。
 痛みで今まで考えが及ばなかったらしい。

「もう温泉に行ったよ」

「そう」

「大丈夫。なのはみたいにならないように、二人にはよく言っておいたから」

「私みたいに、って……?」

「腰は大事にするように言っただけだよ。
 なのははこの家で一番若いのに、この家で一番年寄り臭いからね」

「酷い……」

「事実でしょうが。還暦迎えてるのにまだ元気なお父さんより、先に腰が逝ったなのはに、何か反論することはある?」

「……ありません。うう……」

 美由希の言葉に涙目になるなのは。
 美由希はそれを見て笑い、ゆっくりと立ち上がる。

「なのは、喉渇いてるでしょ? 水、冷たいのに取り換えて来てあげるよ」

 なのはの枕元に置いてあった水差しを持ち上げる。

「あっ!?」

「ん? なのは、どうかしたの?」

 その水差しを見て、なのはは驚きの声を上げる。
 それを美由希に尋ねられて、なのはの額から僅かに汗が流れる。

「い、いやその、まだいいよ。
 お姉ちゃんの手間になるだろうし、そんなに喉渇いてないっていうか……。
 だ、だからそれはそのままで良いよ」

「……なのは?」

「うん、私生温い水好きだし、私、そんな冷たいの飲んだらお腹壊すから。だからその……」

 なのはの視線は、美由希の持っている水差しに注がれている。
 美由希も手に持つ水差しを見やる。
 そこには、透明な液体がなみなみと入った、普通の水差しがあった。
 
「……ねえ、なのは」

「な、何かな?」

「これ、私が昨日淹れて来たのより、多く入っているような気がするんだけど?」

「き、気のせいじゃないかな? ほら、記憶なんて曖昧なものだし!」

「これ、水にしては少し、匂いがある気がするんだけど?」

「き、気のせいじゃないかな? ほら、上等な水って、良い匂いがするものだと思うし!」

「なのはの顔、少し赤い気がするんだけど?」

「き、気のせいじゃないかな? ほら、私って元々顔が赤かったし!」

「へえ……」

 苦しい言い訳を続けるなのは。
 美由希は水差しの蓋を開けて、指を中の液体に浸す。
 それをペロリと舐めて、中のモノの正体を確信する。
 既になのはは、傍から見て分かりやすい程に汗を流している。

「これ、お酒の味がするんだけど?」

「……う」

 なのはが口篭もる。
 美由希がなのはに詰め寄る。

「ねえ、なのは。正直に言って? この中に、いったい何を入れたのかな?」

 なのはは黙秘権を行使しようとしたが、美由希の視線に耐えられず、おずおずとその中身のことを口に出す。





「……く、薬?」





 その日、高町家で何かの悲鳴が聞こえたが、それを聞いたのは小さなフェレットだけであった。






あとがき

次の戦いどうしようかな、本当に。
もの凄く悩んでます。
原作と大して変わらないことになるかも。

あ、ついにPV十万突破しました。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
これからもなのはさんのことを応援してあげて下さい。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>ところで、リリなののカップリングには『ゲンはや』というジャンルがあってだな……

オジ婚ですね、わかります。
でもミッドまで行かないと接点がないんですよね。

>日々の酒÷日ごろの運動不足=・・・
・・・絶対に摂取カロリーと消費カロリーがあってないと思うw
リンディさんは魔法の消費カロリーが高いとか屁理屈捏ねれるけど
ここのなのはさんは魔法覚えるまで余剰カロリーどこに消えてったんだw
桃子さんよりも不思議の塊だw
二日酔い回復の魔法は気にしてもダイエット魔法(無駄にカロリー消費とか)気にしてないみたいだしw

なのはさんの体重はstsから変わっていません。
余剰カロリーについては……リンカ―コアの成長と魔力の生成に使われるということで。

>そういえば、闇の書事件ではヴィータに吹っ飛ばされてビルに突っ込まれてたような・・・
突っ込んだ先がなのはさんの第二の酒蔵ではありませんように・・・

それいいかも。
事件が起きたらの話ですけど。

>そんなアッシは、「スカなの」なるジャンルが好物だったり・・・?
やぁ、あの敵幹部と繋がって、味方欺きながらの『愛(注:ドロドロ?)』という展開に快感を覚えましてなぁwww(下衆

まさかそんなものがあるとは……。

>ちょ!なのはさん!!なにフェイトフラグ回避してるんですかwww
>なのはさんが腰を痛めたために温泉行きは無しですかw これではフェイトとのフラグが立たないぜw
>フェイトと絡まなくなっちゃうよ~!

フラグ回避ではありません。
ただ出会ってないだけです。

>強敵との壮絶な戦いで深い傷を負ってしまった高町なのは、次第に激しさを増す戦いに彼女の体は耐えられるのか

本当に、耐えられるんでしょうかね、彼女は。

>右手から左回転のトルネードバスター、左手から右回転のトルネードバスター、その二つの砲撃の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間はまさに歯車的砂嵐の小宇宙!

トルネードバスターは四つの回転が絡み合って前方に直進する魔法です。

>「当たったら確実に死ぬ」攻撃って非殺傷が基本のミッド魔導師にはなじみが薄いだろうから、当たらなくても自分に向かって撃たれるだけで相当なストレスだろうし。

管理局員は犯罪者相手に大立ち回りをやっているので、大して変わらないかもしれません。

>もしこのぎっくり腰の場面、恭也が見ていたらどうなるんでしょうか。
運動不足のなのはを叱るのか、
この状況を読めなかった美由希をどつくのか、
反応が気になります。

その両方をやった後で、死ぬまでからかいます。

>わかるライダーネタは響鬼のみですか………

すいません。終わったら全部見ようかと思います。

>おばあちゃんが言っていた・・・
寧ろ早く接骨院行け・・・と。

あのおばあちゃんは万能ですね。
カリム以上に全ての状況を予知していますし。
なのはさんは病院嫌いです。




[10864] 第二十六話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/21 01:09



 なのはが美由希に、水差しに仕込んだ酒のことがばれて説教を受けてから三日。

「治った」

 痛みをこれ以上味わいたくなかったなのはは、膨大な魔力に任せて、昼夜問わず回復魔法を掛け続けた。
 そのおかげで魔法も上達し、なのははなんとか問題無く歩ける程にまで回復した。
 悪化してもっと長引くところを、酒に対する愛で治したのだ。
 軽く動いて屈伸運動などをしても、腰に痛みが走ることは無く、もう大丈夫と言っていいだろう。

「長かったな……」

 なのはは遠い目をして、この三日間を思い出す。
 美由希に説教を受けてから、なのはと美由希の戦いが始まった。
 一度飲むと決めたなのはは、例え説教を受けようと、何が何でも飲むという覚悟を決めたのだ。
 ベッドの下に隠していた酒を飲む事2回。
 魔法を使用して、部屋に隠していた酒を取りよせる事3回。
 ユーノを説得して酒を取りに行かせる事2回。
 ユーノを買収して酒を取りに行かせる事1回。
 ユーノを脅迫して酒を取りに行かせる事1回。
 ユーノを誘惑して酒を取りに行かせる事1回。
 成功率は低かった。
 そのほとんどを、何かの気配を感じ取ったのか、ユーノの手際が悪くて感付かれたのか、美由希がやってきて取り上げていくのだ。
 最初は素直に聞いていたなのはだったが、何度も飲む直前で取り上げられたことで爆発した。
 なのはは主張した。
 酒を飲めば身体が温まり、傷が治る感覚を覚えるのだと。
 美由希は反論した。
 身体が温まるのは酒を飲めば誰でも起こることで、消毒は出来ても酒で傷が治るなんてことは無いのだと。
 そして四時間にも及ぶ激闘の末、妥協案で養命酒ならば、と何とか説得したのだ。
 しかし、養命酒だけではなのはも飽きる。
 だがなのはも、美由希との口論で妥協案を受け入れた以上、別の酒を飲むことは出来ない。
 だからこそ、こうやって治るのを心待ちにしていたのだ。

「これで、心置きなく飲める……」

 もはや誰にも文句は言わせない、と手をギュッと握り締めて固い決意を抱く。
 早速冷蔵庫で冷えたビールを飲もうと思い、階下に下りる。
 キッチンに行き、ガチャッと冷蔵庫を開けると、なのはの顔に冷気が当たった。
 ずらりと並ぶビールの缶を、どれにしようかなと一本一本手に取りながら、じっくりと品定めをする。
 なのはの顔には、歓喜の表情が張り付いていた。
 そして、その中の一本を手にする。

「ヱビス、君に決めた」

 黄金に輝く表面を、なのはは愛おしそうに撫でる。
 冷蔵庫で冷やされて表面に結露を浮かべるその姿が、なのはにはあの寂しげな目をした少女の姿に見えた。
 プルトップに指を掛け、缶を開けようとしたなのはだったが、そこであることに気付き、指がピタリと止まる。

「どうしようかな……」

 数瞬悩んだ後、なのはは結局ビールを開けずに冷蔵庫に入れて、そのまま閉めた。

「やっぱり、そっちの方がいいよね」

 決意を固め、なのはは素面のまま、風呂場へと向かった。
 服を脱いで浴室に入ると、シャワーを流す。
 適温になるまで待ちながら、なのははポツリと呟いた。

「うん。やっぱり、身を清めてからにしよう」

 水垢離では風邪を引くので、温かいシャワーで。
 折角の完治祝いである。
 万全の態勢で、なのはは挑みたかった。
 なのははこの後来る至福の瞬間の為に、敢えて飲むのを後回しにしたのだ。

「早く済まそう。ビールが待ってるんだ」






 アルフがおやつとしてドッグフードをぼりぼりと齧りながら、フェイトの部屋に入る。
 部屋の中には、使い魔であるアルフの主のフェイトが、ベッドに横になっていた。

「あ~っ! また食べてない!」

 アルフがベッドの横のサイドテーブルに置いておいた食事を見て言う。
 ベッドに腰かけたアルフは、横向きに横たわっているフェイトの頭を撫でながら注意する。

「駄目だよ、ちゃんと食べなきゃ」

 フェイトはアルフに頭を撫でられるがままにしている。

「少しだけど食べたよ。大丈夫」

 それを聞いてアルフは、もう一度残されたままの食事を見る。
 確かに、フェイトの言うとおり、パンは僅かに欠けていて、スープを飲むのに使ったスプーンも僅かに濡れていた。

「こんなんじゃ食べた内に入らないよ。もっと、せめて半分だけでも食べないとさ。元気になれないよ」

「大丈夫だよ、アルフ。私は元気だから」

 もぞもぞと身動きすると、フェイトは身体を起こした。
 その背にはまだ新しい、何かで叩かれたような痕が、数多く残っていた。
 アルフはそれを見て顔を顰める。
 フェイトはアルフの方を見て、行動を始めると告げる。

「そろそろ行こうか。次のジュエルシードの大まかな位置特定は済んでるし……」

 そこでフェイトはアルフではなく、前を見て続きを語る。

「あんまり、母さんを待たせたくないしね……」

 アルフはそれを聞くと、下を向いて、足をブラブラとさせながら愚痴を言う。

「そりゃまあ、フェイトはあたしのご主人様だし、あたしはフェイトの使い魔だから、行こうって言われりゃ行くけどさ……」

 アルフのその様子を見て、フェイトはクスリと笑う。

「それ、食べ終わってからでいいから」

「え?」

 フェイトの言葉の指し示す先をアルフが見やると、アルフの持っているドッグフードがそこにあった。
 慌ててアルフがそれをフェイトから隠す。
 そしてフェイトに向き直る。

「そ、そうじゃないよ。あたしはフェイトが心配なの。
 広域探索の魔法は、かなりの体力使うのに、フェイトってば碌に食べないし、休まないし。
 その傷だって、軽くは無いんだよ!?」

「平気だよ。私、強いから」

 フェイトは首を振り、何でもないことのように言う。
 その言葉に、アルフはそれ以上、何も言えなくなってしまった。
 フェイトは両手を重ね、バリアジャケットを形成する。
 立ち上がり、魔力でマントを作ると、それを体に纏う。

「フェイト……」

 アルフが消え入りそうな声で、もう一度フェイトを止めようとする。
 だがフェイトは歩きだした。
 傷を負った身体で、物憂げな顔をしたアルフを脇に従えて。

「さあ、行こう。母さんが待ってるんだ」





あとがき

本当にこの後どうしようかな。
全然面白そうなことが思い浮かばない。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>変なにおいがする液体。わたくしはそれを要介護者であるなのはさんのお小水かと推察しました。そりゃ恥ずかしいよねと……w

書いててそんな想像する人が絶対いるだろうなと思ってました。

>なのはさん(32)にとって酒は魔力の源であり治癒の効果も持つ飲み薬だったんだ!
「「「な、なんだってぇ!」」」
まず、酒で摂取したカロリーまた各種酒の栄養素がリンカーコアを育成する。
この育成の段階で微々たる物ではあるが身体能力が鍛えられているわけだ!
酒を飲まなかった場合のなのはさん(32)では走る・急な階段20段以上を上る事は無謀だった訳だ!寧ろ死んでいたかもしれん!

「「「な、なんだってぇ!」」」
それで行きましょうか。
どうせ酒を飲まなかった場合の未来なんて分かりませんし。

>ニッポンハ蛇口ヒネレバ、オ酒ガデルノデ~スネ☆

ノー。蛇口ヲヒネレバ、オレンジジュースガ出テキマス。
(探せばあります)

>それと「ぎっくり腰」は冷やすより温めながら牽引するリハビリに通う必要がありますよ(経験者)

炎症を起こしているので、最初は冷やすほうがいいらしいです。
でなければ風呂が地獄とは言われないと思います。

>そこまで酒を愛していますか、さすがなのはさん(32)です

ベストフレンドです。
酒蔵の酒たちは我が子同然に扱ってました。

>どんだけここにライダーファンがいるんだ………

何故か多いですね。
なのはさんが「答えは聞いてない」って一度言っただけなのに。
意図してやったわけでもないんですけどね。

>・・・ダメだ・・・このなのはさん・・・なんとか・・・しようがないですね♪

ないですね♪

>それはともかくバインドがどれも回転してるというんだったらむしろトルク強化で関節技開発に走れば良いのではないだろうか。

なのは「とる……く……?」

>なのはさんとお酒に全く違和感を感じなくなりました。
責任取って下さいw。

最後まで書きあげるので、それで責任を取ることにします。

>……こうして、高町なのはさんは無料で機械の身体をくれるというスカリエッティ研究所を目指して時空鉄道999に乗って金髪の美少女と共に旅立ったのでした。
そんなStSはどうでしょう?

その考えは無かったわ。
でも転位魔法あるし、一日で終わりそう。

>あと、どうやら呑めば呑むほどリンカーコアの生成に効くようですね。

ネタで言ったんですけど、もうそれでいいです。
うちのなのはさんの魔力が尽きるとこなんて、私が想像出来ないし。



[10864] 第二十七話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/21 16:16


 暗くなり、街灯の明かりで街が照らされるころ。
 一つのビルの屋上に、フェイトとアルフは降り立った。

「大体この辺りだと思うんだけど、大まかな位置しか分からないんだ」

「はあ……。確かに、これだけゴミゴミしてると、探すのも一苦労だあね」

 フェイトの言葉に、アルフがうんざりとした溜息を洩らす。
 狼が素体のアルフは、その耳や鼻で、要らないものを捉え過ぎてしまうのだろう。
 フェイトは、斧へと変化したバルディッシュを掲げ、魔力を先端に灯す。

「ちょっと乱暴だけど、周辺に魔力流を撃ちこんで、強制発動させるよ」

「あ~待ったっ! それ、あたしがやる」

 フェイトが魔法を発動させようとしたとき、横からアルフがそれを制止する。

「大丈夫? 結構、疲れるよ?」

「このあたしをいったい誰の使い魔だと?」

 フェイトの心配する声に対し、アルフは挑発的に返す。
 その言葉に、フェイトはバルディッシュを下げる。

「じゃあ、お願い」

「任せて。そんじゃあっ!!」

 アルフが気合いを入れると、足元に橙色の魔法陣が浮かび上がる。
 魔法陣から光が溢れだし、天へと昇る。
 すると、月が隠れ、雷雲が辺りに立ち込める。
 雷があちらこちらに降り注ぐ。
 そしてある一点に雷が落ちると、アルフが発した魔法とは異なる、青い光が天へと昇る。

「見つけた!」

「フェイト! 誰かが近くにいるっ!」

 アルフの言葉にフェイトが目を凝らすと、何者かが発動した結界が辺りを包んでいく。

「これは……」

 フェイトの脳裏に、一度だけ会ったあの人の顔が浮かぶ。

「アルフ、注意して。多分、以前言ったあの人だ」

「本当だったのかい!? 前の時に現れなかったから、てっきり管理局とかとは関係ないと思ってたんだけどね」

「多分、それはアルフの考えてる通りだと思う。あの人は、管理局だとか、そんなものじゃなかった」

 敵を前にして、デバイスを待機状態にする人が、管理局員な訳がない。
 いや、魔法を知っているものからすれば、自殺行為でしかないのだ。
 それなのに、あの人はそれを行った。
 まだ魔法に触れて日が浅いに違いない。
 話からして、おそらくは現地協力者。
 単独でジュエルシードを集めているはずだ。
 
「急ごう。向こうも近付いて来てる」

「ああ!」

 フェイトはバルディッシュを構え、飛び立った。






 なのはは風呂から上がると、一直線にキッチンへと向かった。
 冷蔵庫からヱビスを取り出して、立ったまま缶を開け、グイッと一気飲みした。
 冷たいビールが喉を流れていき、胃に入るとカッと熱を帯びる。
 全身へとその熱エネルギーが循環して行き、身体から力が泉の如く湧き出て来る。
 そんな感覚を、なのはは味わっていた。
 これがあるからこそ、酒は止められないのだ。

「ああ、美味しい……」

 心の底からの言葉である。
 三日も飲めなかった。
 その上、風呂上がりで身体が水分を欲しているのだ。
 もっと飲まなければならない。
 なのはは冷蔵庫を開け、次はザ・ブラックを取り出し、プシュッと缶を開ける。
 一息に飲み干すと、そこではぁっと酒気の混じった息を吐く。

「これが……有頂天なんだね……」

 なのはは悟った。
 この喜びは、まるで天にも昇る程の心地と言っていい。
 この三日間の苦労を考えると、尚の事酒が美味い。
 誰にも邪魔はされない。
 美由希はもう連休が終わって仕事に行った。
 ユーノは最近は、翠屋の店頭で客引きをやっているのだから。
 そんなことを考えていると、なのははある事に気付いた。

「そういえば……レイジングハート」

『何でしょうか?』

「バリアジャケット、変えようと思うの」

『分かりました』

 レイジングハートが赤く煌めき、なのはの身体がいつもの翠屋の制服へと変化する。

「もうね、あんな思いはしたくないの。だから、腰の周りにコルセットを付けてくれる?」

『分かりました』

 なのはの腰周りに、黒いコルセットが増える。

「ああ、それと、スカートも変えよう。
 お父さんみたいにズボンにしようかな。
 宙に浮くこともあるし、こんなの誰も見たくないだろうしね」

『わかりました』

 なのはが着けている赤色のスカートが、なのはのイメージに合わせて、藍色のジーンズへと変化する。

『これでよろしいでしょうか?』

「ん……」

 なのはは部屋の中を歩き回り、軽く体操をする。
 動きに支障は無いと分かると、冷蔵庫から琥珀を取り出してから椅子に座る。

「いいね。次からはこれにしよう」

『それでは、次からはこれを、バリアジャケットとして登録します』

「うん」

 そしてバリアジャケットを解こうとしたとき、ジュエルシードが発動する感覚をなのはは捉えた。
 なのはの周りの物以外が、灰色へと変わる。
 そのとき、ユーノから念話が届く。

『なのはさん、ユーノです』

「ああ、ユーノ君か」

 なのははそれに応じる。

『分かっているように、ジュエルシードが発動しました。
 しかも、魔力を撃ちこんで、強制的に発動させたようです。
 これでは例え封印出来ても、周りに出る被害が大きすぎます。
 ですから、周辺に被害が出る前に、結界を張りました。
 僕は結界の維持をしなければいけないので、ここから動けないんです。
 ですから……』

「うん、分かった。私が封印に向かうよ」

『お願いします。
 これはおそらく、貴女の言っていた、フェイトという子がやったはずです』

「そう」

 なのははユーノとの念話を切る。

「フェイトちゃんが来たんだ……」

 なのはは琥珀を気付けに飲み干し、立ち上がった。

「行こうか、レイジングハート。フェイトちゃんに会いに行かなきゃ」

『All right』

 そしてなのはは、相棒と共に家を飛び出した。
 最近は誰かが結界を張るものだから、移動にタクシーを使えないのが悩みである。




あとがき

フェイトとの戦いはあと三回。
いったい何をなのはさんは言うんだろうか。
書いてて自分でも分からない。

前回、なのはさんはユーノをかなりパシリにしました。
いったいどうやったのか。
それは、なのはさんとユーノだけが知っています。
なのはさんに対する愛があれば、真実に辿り着けるのではないでしょうか?
私はまだ辿り着けません。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>(このコメントは妄想とアルコール150%で出来てます)

妄想1、アルコール149%でよろしいか?

>だが相変わらずこの美女なのはさんはいい。

ありがとうございます。

>やっぱり綺麗な女性は18過ぎてからだよね!32にもなると外連味とかがでてなおよし。可愛い人である。

綺麗、というとやはりそれ位は要りますね。
それ以下だと、可愛いが先に来ますから。

>なのはさん(32)への御見舞品は『養○酒』なのかなぁ?www

森伊蔵辺りが喜ばれると思います。

>なのはさんをデートに誘いたいんだけど、酒代にいくらぐらい予算組めばいいのかな?^^

なのはさんは安酒でも心が籠もっていれば喜んでくれるでしょう。
ですがデートに誘う以上、なのはさんに飲んで貰い、喜んで貰いたいと願うならば、それ相応の酒を用意するべきでしょう。

>もしかして酒とつけばなんでもおいしくいただけるレアスキルでももってたりしてw

あるかもしれません。

>蜜柑ジュースですよ?

そっちだったか。畜生……。

>ヱビス呑み損ねフラグですかw

そこまでSじゃありません。



[10864] 第二十八話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/22 00:31




 なのはは飛んでいた。
 普通ならばタクシーで現地に向かう所だが、ここは結界の中である。
 魔力を持っている者しか入る事の出来ない空間だ。
 誰にも見られることがないから、飛行魔法を使用しても問題は無い。
 空高く浮かび上がり、青い光が立ち昇っている場所を視認する。
 そしてレイジングハートを構え、フラッシュムーブで直進する。
 なのはが腰を痛めたのは、魔法によって身体に負荷が掛かっている時に、全く違う方向へと何度も方向転換をしたからだ。
 ただ直進するだけならば、なのはの腰に負荷が掛かることはない。
 とはいえ、なのはの腰が、爆弾を抱えていることに変わりは無い。
 なのはにとって直進でしかフラッシュムーブを使えないのは、戦闘手段の減少という面から見てとても痛手だろう。
 そんななのはが急いで封印に向かっていると、前方斜め前から金と橙の光が、青い光へと向かっていくのが見えた。

「あれは……フェイトちゃん!」

 目を凝らして見ると、なのはと戦ったあの少女が、赤い狼を伴って、空を駆けていた。
 とても速いスピードで、ジュエルシードに向かっていく。
 なのははフラッシュムーブを使うのを止め、地面に降り立つ。
 地面に足を着けて身体を支え、レイジングハートを構えて呼び掛ける。

「レイジングハート!」

『All right』

 なのはの呼び声に従い、レイジングハートの先端に桜色の光が灯る。
 向こうもなのはの行動に気付いたのか、空中に留まり、金の光を集めていく。

「封印!」

 なのはの声と共に、先端から桜色の光が放出され、直進していく。
 フェイトも同時に金の閃光を放ち、ジュエルシードへほぼ同時に着弾した。
 青い光は金と桜色の光に掻き消され、封印が完了する。
 それを見届けると、なのははゆっくりと歩き出す。
 前方でバルディッシュを構えたまま、こちらを警戒しているフェイトに向かって。
 二人の視線が交わる所まで進むと、なのはは足を止めた。
 フェイトを見上げ、なのははにっこりと笑う。

「また会ったね、フェイトちゃん」

「貴女は……」

 そこで初めて、フェイトが声を発する。
 なのはの姿を目にして、フェイトの目に僅かに動揺が走る。

「貴女は、どうしてまた、私の前に現れたりしたんですか」

「決まってるでしょ?」

 なのはは当然とばかりに返す。

「フェイトちゃんと、もう一度お話したかっただけだよ」

「話を……?」

「そう、お話。出来ればこんな所じゃなくて、もっと別の場所で、のんびりとお話したいんだけどね」

「それは……出来ません。私には、やることがあるから」

 なのはの提案に、フェイトは首を横に振る。

「そう。それじゃあ、仕方ないかな」

 なのはは僅かに目を細め、残念な声を出す。
 だが直ぐに気分を変えて、再度話しかける。

「そういえば、フェイトちゃんはこの間会った時、言ってたよね?
 『話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ、何も変わらない』
 そう言っていたね?」

「……」

「でもね? 違うんだよ。
 話さなきゃ、言葉にしなきゃ、伝わらないこともきっとある。
 確かに、言葉だけじゃ何も変わらないかもしれない。
 言葉だけじゃ、想いは伝わらないかもしれない。
 でも、だからって、それを切り捨てたら、伝える努力を放棄したら駄目なんだよ。
 それこそ何も変わらないし、何も変えられない」

「……それは」

「あ~もうっ!! グダグダグダグダと、うるさいねアンタはぁっ!!」

 フェイトがなのはに返そうとした瞬間、フェイトの傍に控えていた狼が飛び出して来た。
 なのはに向かって来た狼を、咄嗟に張ったプロテクションで弾く。
 弾かれた狼は、地面に爪痕を残しながらも、その四肢で元気に立ち上がる。

「君は……?」

 なのはは初めて見た顔に、戸惑いの色を浮かべる。
 そのなのはを見て、狼は唾をペッと吐き捨てる。

「あたし達は忙しいんだよ! おばさんの戯言に付き合っている暇は無いんだ!」

「アルフっ!」

「フェイト! 
 こんなやつ放っといて、サッサとジュエルシードを確保しな!
 こいつはあたしが抑えるから!」

 フェイトは僅かに逡巡した後、ジュエルシードの確保へ向けて飛び出す。
 それを見たなのはが、飛行魔法を発動して、追いかけようとする。

「フェイトちゃん!」

「行かせないよ! アンタなんかに、フェイトの邪魔はさせない!!」

 アルフがなのはの行く道を阻もうと、なのはに向かって突進して来る。

「邪魔なのは――」

『Divine Shooter』

「君だぁっ!」

 なのはから桜色の光球が十個生まれ、半分はアルフへ、もう半分はフェイトへと向かった。
 アルフは近くまで来ていて、シューターを避けることが出来ず、まともに当たって吹き飛ばされた。
 フェイトはシューターによって進むのを阻まれ、今一歩の所でジュエルシードに触れる事が出来ない。
 そうしてフェイトとアルフの両方を牽制し、なのはは飛行魔法でフェイトのもとへと飛ぶ。

「フェイトちゃんっ!」

 なのはが先にジュエルシードを取ると思ったのだろうか。
 なのはの方を向いたフェイトは、なのはの足元に魔力弾を撃ち込み、その進行を止める。

「私は、ジュエルシードを集めなきゃならない」

 決意を秘めた目で、なのはを睨むフェイト。

「私もだよ。でもね、理由も分からずに、ぶつかり合うなんて事、私はしたくない。
 だからこそ、話し合いが必要なんだ。
 このジュエルシードは危険な物なの。
 それはフェイトちゃんにも分かっているはず。
 これは、たった一つの暴走で、大切なものを容赦なく奪ってしまう」
 
 なのははすぐ傍に浮かんだままのジュエルシードを見つめる。

「これは私の友達が見つけた物なの。
 でも事故でこの街に散らばってしまった。
 だから私は封印をして回っている。
 あるべき所へ収めなきゃいけないから。
 これが、私がジュエルシードを集める理由。
 フェイトちゃんは? 
 あなたは、どうしてジュエルシードを集めるの?」 

 なのはは一片の迷いも無く、フェイトを見つめる。
 なのはの視線に射抜かれ、フェイトが動揺する。
 その口元から、ポロリと秘していたことが零れる。

「私は……母さんが……、母さんが欲しがっているから……」

「そう。どうして欲しがっているのかな?」

「それは……」

「フェイトっ!」

 なのはの問いに、フェイトは口篭もる。
 そのフェイトに、吹き飛ばされたアルフが叫ぶように呼び掛ける。

「そんな奴の言葉になんか耳を貸すんじゃない!
 どうせそんなやつ、薄っぺらい言葉しか使わないんだ。
 上っ面だけ良い人のフリして、心の中ではあたし達のこと嘲笑ってるに決まってる!
 そんな偽善者、信じる事無いよっ!!」

「そんな……」

 なのはがアルフの言葉に、悲しげな顔をする。

「アルフ……」

 フェイトもアルフの言葉に、戸惑いの色を浮かべる。
 なのはは僅かに迷った後、フェイトに尋ねる。

「……それじゃあ、私はどうしたら良いかな?」

「え?」

「私は上っ面だけじゃなくて、心の底から、フェイトちゃんと仲良くなりたいんだ。
 だから、私はどうしたら、フェイトちゃんに認めてもらえるかな?」

「……」

 なのはの問いに、フェイトは少しの間、目を閉ざす。
 そして目を開けると、なのはに向かってバルディッシュを構えた。

「賭けて下さい。お互いのジュエルシードを一つずつ。
 一対一で戦って、私と対等であると証明して下さい」

「そう……。やっぱり、それしかないんだね」

 なのはは分かっていた、とでも言うかのように、静かに頷いた。

「気は進まないけど、フェイトちゃんがそれでいいなら、何が何でも認めさせて上げる」

 なのははレイジングハートを掲げる。

「それじゃ、始めようか」

 それが、開始の合図だった。





あとがき

上手く書けない。
あとアルフが邪魔。もの凄く邪魔。空気読め。
ユーノがいれば何とかなるのに。
やっぱりユーノにも戦わせるべきだった。

前にも言いましたが、コメントへのコメントは規約違反ですし、荒れる原因になりやすいので控えて下さい。

あと明日は更新出来ないかもしれません。
おそらくいるであろう、Gの退治をしないといけないので。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>・・・まさか、戦闘中にリバースとかないよね?

さすがにシリアスでそんなこと出来ません。
というより、そんなことした後で話を収拾出来るとは思えません。

>このなのはさんはスピリタスを飲めるのか少し気になりました

なのはさんは全ての酒を愛しています。

>最近、なのはさん=酒飲みってイメージが定着しはじめて他SSでも抜けない……これがなのは性アルコール中毒か……

誰か他にも書いて欲しいものです。
真ジャンルとなってくれれば嬉しいんですが。

>これだけ飲酒した後に慣れない空戦なんてすると吐くぞwww

よく読んで下さい。
まだ三本しか飲んでません。

>しかし!ジーンズから浮き出るパンティラインが残っている!神は!希望は!まだ死んでない!

わかっているじゃないか。

>ロストロギアにソーマ、ネクタルと言った神話の酒があったら、管理局滅ぼしてでも手に入れかねないぞ。

もしそうだったら、法の塔は虚しく真っ二つになります。

>そういえば、原作のなのはさんのBJの腰のところにも金属製のパーツが付いてましたね

あれが幅広くなって腰周りを覆っているんです。

>うちにある「百年の孤独」10本一緒に飲みたいですと伝えてください。

分かりました。
翠屋まで届ければ飲んでくれますよ。

>ちなみに作中で出てきたコルセットですが、使用すると確かに腰の負担は減りますが、
同時に腹筋や背筋を鍛えないと筋肉が衰えて逆に症状が悪化したり、
コルセットが一生手放せなくなったりするので注意が必要とかつて整形外科の先生に言われたことがあります。

なのはさんがコルセットを着けている時間は、戦闘中の僅かな時間だけなので大丈夫だと思います。

>甥や姪には見せられないですね。

両親ともども外国なので大丈夫です。

>さーて来襲のなのはさんは?
「フェイト、酔っ払いにからまれる」
をお送りします。

間違っちゃいません。
ただ、なのはさんはビール三本程度で酔う事は無いですが。

>ところでユーノ一体何があったんだろうか?

なのはに酒を渡さないための監視とでも思っていただければ。



こんなところでしょうか。
今回感想で多かった意見には、敢えてコメントをしませんでしたが、どうかご了承下さい。
私も恥ずかしいんです。





[10864] 第二十九話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/22 20:24


「フェイト!」

「アルフ、手を出さないで」

 呼び掛けるアルフを、フェイトは手で制止する。

「でも……」

「これは私の戦いだから」

 フェイトはそう言って飛びあがり、バルディッシュを握り締める。

「バルディッシュ、フォトンランサ―、連撃」

『Photon lancer.Full auto fire』

 斧の先から、金の光弾が槍のように撃ち出される。

「レイジングハート!」

『All right』

 なのははそれを、空高く飛び上がって回避する。
 そしてディバインシューターを五つ出現させ、フェイトに向けて三つ射出し、遅れてもう二つを射出した。
 フェイトはそれをひらりと避けるが、前三つの影となって飛んできたもう二つに目を見開く。

「バルディッシュ!」

『Round Shield』

 手を差し出し、その手に盾を形成する。
 なのはのシューターは、それに弾かれて消滅する。

『Blitz Action』

 なのはが一度は見失った速度で、フェイトは再びなのはの後ろに回り込む。
 しかしあの時とは異なり、斧の刃でなのはを攻撃する。

『Protection』

 だが、レイジングハートが張った桜色の防壁に阻まれ、フェイトの攻撃はなのはまで届かない。
 なのははフェイトに避けられただけで、まだ残っていたシューターを操り、フェイトの後ろから攻撃する。

「くっ、バルディッシュ!」

『Scythe Form』

 慌ててその場から離脱し、フェイトは光鎌を作り上げる。
 なのはに誘導されて、フェイトの後を追いかけて来るシューターを、フェイトはその鎌で切り裂き消滅させる。

「アークセイバー」

『Arc Saber』

 大きく鎌を振り上げ、刃をなのはのプロテクションへ向けて飛ばす。
 弧を描きながら飛ぶ刃は、獣のようになのはのプロテクションへ噛みつく。

「セイ――」

「レイジングハート!」

『Barrier Burst』

 フェイトがセイバーブラストを発動させる前に、なのはがプロテクションを自ら爆破する。
 外側に向けて爆風と衝撃が走り、フェイトがその衝撃で吹き飛ばされる。
 数メートル飛ばされたところで、急いで体勢を立て直すが、顔を上げた時には、既になのはの姿は無かった。

「いないっ!?」

「ここだよ、フェイトちゃん」

 フェイトの後ろから声が聞こえ、慌てて振り向くと、そこにはレイジングハートを振りかぶったなのはの姿があった。
 叩きつけるように振り下ろされたそれを、掲げたバルディッシュの柄で受け止め、ブリッツアクションで後ろに距離を取る。
 フェイトがなのはを睨みつける。
 前回使った技は、全て避けられ、防がれた。
 なのはは確実に強くなっていると気付いたのだ。
 そこでなのはが、フェイトに話しかけて来た。

「どうかな?」

「え?」

 なのはの言葉にフェイトは呆けた声を出す。

「私は、フェイトちゃんに認めて貰えるかな?」

 そこでフェイトは、なのはが戦う前に言っていたことを思い出した。

「……認めます。貴女は上辺だけで戦うような人じゃない」

「そう、良かった。それじゃあ……」

「でも――」

 フェイトがなのはの言葉を遮る。

「ジュエルシードは、渡さない」

 ギュッとバルディッシュを握り締め、フェイトはなのはの一挙一動に目を走らせる。

「……そっか」

 なのはもだらりと下げていたレイジングハートを、再び構える。

「それじゃ、続けようか」

 なのはがそう呟き、再び戦闘が始まろうとした時、


 カッ!


 見慣れた青い光が天へと昇った。

「この光は……」

「ジュエルシード!? そんな、封印はちゃんとしたはず……」

 なのはが驚愕の声を上げる。
 封印は確実に発動したジュエルシードに当たったのだ。
 だが現に、ジュエルシードからは、発動時の青い光が漏れ出している。

「そうか。二つの封印魔法が同時に当たったから、互いに打ち消し合って、上手く封印が出来なかったのか。
 それが私達の戦闘の魔力を吸いこんで、また発動したんだ」

 フェイトは何が起きたのかを自分で納得すると、ジュエルシードへ向かって飛び出した。

「あ、フェイトちゃん!」

 なのはの制止も聞かず、フェイトはジュエルシードに向かって飛ぶ。
 再びジュエルシードを封印しなければいけないから。

「バルディッシュ!」

『Yes sir』

 直進するフェイトの周りに金の光球が浮き、ジュエルシードに向けて撃ちだす。
 だがジュエルシードはフェイトの魔力をも吸い込んで、更に光を強める。
 それを見たフェイトは、バルディッシュを両手で握り、ジュエルシードに切り掛かる。
 ある程度のダメージを与えなければ、封印は出来ないから。
 そしてフェイトの攻撃がジュエルシードに届く。
 青い光が一瞬消え、フェイトが僅かに気を抜く。
 その瞬間、


 カアアァァァッ!!


 ジュエルシードから今まで以上の魔力が放出され、フェイトを吹き飛ばす。
 バルディッシュに罅を無数に入れる程の強力な力で。

「フェイトぉっ!?」

 離れて見ていたアルフが、ビルの外壁に叩きつけられたフェイトを見て悲鳴を上げる。

「く……あ……」

 フェイトが落ちてその場に膝を着く。
 しかし、その目は未だ輝きを失わず、ジュエルシードを睨み付けていた。
 尚も封印をしようとバルディッシュを見る。
 だが、バルディッシュはその身に、数え切れない程の罅が走り、形状を保っているのさえやっとな状態だった。

「大丈夫? 戻って、バルディッシュ」

『Yes sir』

 バルディッシュの宝玉が煌めき、待機状態へと戻る。
 右手の台座に収まったのを確認すると、フェイトは飛行魔法でジュエルシードまで飛ぶ。
 大量の魔力を放出したジュエルシードは、先程までのような静けさを保っていた。
 フェイトはそれを、両手で握り締める。

「ぐぅっ……く……うう……」

「フェイトっ! 駄目だ! 危ないっ!!」

「フェイトちゃんっ!?」

 アルフとなのはの声が聞こえるが、フェイトはそれでも封印を続ける。
 その場に崩れ落ちて、膝を着きながらもその手は放さない。
 だがなのはとの戦いと、先程の事で魔力を失ったフェイトには、デバイスも無しで封印が出来る程の魔力は残っていなかった。
 バリアジャケットは破けて、腕を伝ってポタポタと血が流れ出す。
 それでも尚、両手で包んだジュエルシードからは、青い光が漏れ出していた。

「あ……」

「フェイトっ!」

 アルフが走り寄り、倒れそうになったフェイトの身体を支える。
 そして、そのままフェイトの気が遠くなったとき、誰かがその手を払った。

「バカッ! そんな事したら、死んじゃうでしょう!?」

 フェイトの手を払ったのは、なのはだった。

「で、でも……封印を……」

「そんな身体で、どうやって封印が出来るって言うの?」

「そうだよ。もうフェイトは傷だらけじゃないか……」

 人間形態になったアルフが、フェイトを両手で抱えて涙を流す。
 確かに、フェイトの身体はもうボロボロだ。
 バリアジャケットは衝撃であちこちが引き裂かれていて、両手からは血を流している。
 相棒のバルディッシュも、もう封印作業をすることが出来る程の状態じゃない。

「よくがんばったね。ごめんね、遅くなって……」

 なのはは、フェイトの頭を軽く撫でる。

「後は、私がやるから」

 そしてなのはは立ち上がり、フェイトを傷つけたジュエルシードを見据える。
 片手に持つ相棒に声を掛ける。

「レイジングハート、これぐらい大丈夫だよね?」

『No problem』

 レイジングハートは、なのはの問いに当然とばかりに応える。
 そしてなのはから、大質量の魔力が噴き出し、ジュエルシードにぶち当たる。
 あれほど暴れまわったジュエルシードは、なのはによって、呆気ない程に容易く封印を完了した。
 なのははそれを手に取ると、踵を返してフェイトのもとへと、ゆっくり歩いて行く。

「レイジングハート」

『All right.Put out』

 レイジングハートが輝き、中に格納されていたジュエルシードを、一つだけ排出する。
 なのははそれも手に取ると、フェイトの前まで歩き、止まる。
 なのはは、ジュエルシードが二個乗った手を、そっとフェイトに差し出す。

「はい」

「これは……」

「あげる」

「え、でも……」

 なのはは手を差し出すが、フェイトは中々受け取ろうとしない。
 それに少し困った顔をしたなのはは、フェイトを支えているアルフにその手を向ける。

「あなたが預かっていてくれる? フェイトちゃんは、両手に怪我してるから」

 アルフは僅かに戸惑いを見せた後、強奪するかのように、なのはの手からジュエルシードを奪う。
 そして、なのはを睨み付けて言った。

「アンタなんかの施しは受けない。これは、フェイトが勝ち取った物だ!」

 なのははそれを聞いて、クスリと笑う。

「うん、そうだよ。
 あなたの言う通り、それは全部、フェイトちゃんが頑張ったから。
 だからそれは、フェイトちゃんが受け取るべきものだよ」

 そのなのはの笑みに、アルフは毒気を抜かれる。

「はぁ……。何なんだい、アンタは」

「見ての通り、ただのケーキ屋さんだよ」

「訳分かんないよ」

 バリアジャケットのエプロンを指さすなのはに、アルフは呆れて、再び溜息を吐く。
 そのアルフが、フェイトを抱き抱えて宙に浮く。

「帰るよ、フェイト」

「それじゃ、また会おうね、フェイトちゃん。今度は負けないから」

 なのはは手を振る。
 ボロボロのフェイトは何も返せず、そのまま空を飛ぶアルフに運ばれて、段々と見えなくなっていった。

「……ふう、疲れたな」

 それを見送ったなのはは、バリアジャケットを解除して、溜息を吐く。
 肩をグルグルと回して、緊張で凝り固まった身体を解しながら、自分が来た道を戻る。
 結界は既に解けているから、飛ぶ訳にもいかない。

「結局、ジュエルシード渡しちゃったけど、まあいいか」

 楽天的に考えながら、なのははフェイトとの再会を期待する。

「次はいつ会えるのかな?」

 静かな夜の道を、なのははフェイトの事を考えながら、ゆっくりと歩いて行く。

「今日はフェイトちゃんとたくさんお話出来たし、帰ったら祝杯でもあげようかな」

 僅かに歩くスピードを上げ、なのははニコニコと笑いながら家に帰って行った。









「やあ、お客さん。夜道の一人歩きは危ないで。乗ってかへん?」

「乗る」








あとがき

やっぱり戦闘は難しい。
そんでやっぱりアルフが邪魔。
というか三人以上いると、誰に話をさせればいいか迷う。
それにしても、今回でなんとか、原作と同じ数に帳尻合わせる事が出来ました。
温泉の話スルーしたので、どこかで数を合わせなきゃと思っていたので、なんとか出来てよかったです。
ちょっと展開に無理があると思うけど、まあいいか。

あと書き終わってから気付いたんですけど、レイハさんよりバルディッシュの方が良く喋ってるんですよね、今回。
なのはさんは詠唱とか、ほとんど省略してますから。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>このセリフを吐いたアルフが、般若の形相のなのはさんに拳で撃墜される映像が脳裏を過ぎりったのですが…

私も最初は、これを言った直後になのはさんの裏拳で殴り飛ばされるアルフを幻視したんですが、
なのはさんの細腕では無理だろうと判断したので、泣く泣くお蔵入りです。
お蔵入りといっても、そもそも書いているわけではありませんが。

>大人だけあって我慢したのか、脳内検閲に引っかかって聞かなかったことになったのかはわかりませんが

フェイトとのお話を優先させただけです。
あとなのはさんは、酒以外の事柄には寛容な性格をしているので、酷い事にはならないと思います。
終わった後で、軽く窘めるくらいはするかもしれませんが。

>今のなのはさんは知る由もないでしょうが、リンカーコア持ちであるはずの
はやてのタクシーは実は結界内に入れるのでしょうか?
>つまり、翠屋&高町家周辺を流しているであろう、某個人タクシーの運転手さんは天翔る酔っぱらいと第三種宴会遭遇するのですね。

ご都合主義的に考えて、戦闘中は他の客の運送をしているはずです。

>逆に考えるんだ、アルコールを与えてしまえばいいと。

なのはさんは他人に与えるためのアルコールなど持ち合わせていないんです。

>ところで、このなのはさんはクロノを逆光源氏するのだろうか・・・
だって、小さいころの恭ちゃんに似ているらしいから

既に働いている彼に、そんなことはしないと思いますが。
エイミィもいますし。

>さて、まじでなのは性アルコール中毒が抜けないから、酒好きなのはSSを俺も書いてみようかな……大学受験終わったら

お待ちしております。




[10864] 第三十話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/23 18:47




 遠見市 住宅街にて



 アルフはフェイトの手の傷の手当てをしていた。
 手を消毒してガーゼを当て、上から包帯を巻くだけのお粗末なものであったが、それでもやらないよりは遥かにましだった。

「つぅっ……」

「ああっ! ごめんよ、フェイト。ちょっと我慢して」

 フェイトが手の痛みに声を漏らす。
 アルフはそれを悲しく思いながらも、手に巻く包帯の手は止めない。

「平気だよ。ありがとう、アルフ」

 手を開閉させ、大丈夫だとアルフに見せる。

「明日は母さんに報告に戻らないといけないから、早く治さないとね……。
 傷だらけで帰ったら、きっと心配させちゃうから……」

「心配……するかぁ? あの人が……?」

 フェイトの言葉にアルフが顔を顰める。
 そんなアルフをフェイトは窘める。

「そんなこと言っちゃ駄目だよ。母さんは、ただ少し不器用なだけだよ。私には……ちゃんと分かってるから」

「報告だけなら、あたしが行って来れればいいんだけど」

 アルフはソファーに深く腰掛け、深刻な顔をする。

「母さんはアルフの言う事、あんまり聞いてくれないものね……」

 フェイトは包帯を巻かれた手で、アルフの頭を軽く撫でる。

「アルフはこんなにも優しくて良い子なのに」

「ま、まあ大丈夫だよ。こんな短期間でロストロギア、ジュエルシードを四つも集めたんだし。
 これで褒められこそすれ、叱られるようなことはまず無いもんね?」

 アルフはそう言ってフェイトを元気づける。
 フェイトもそれを聞いて、薄く微笑む。

「うん。……そうだね」

 部屋に飾っている、母と自分が写っている写真を眺めながら、フェイトはそう返した。







 同日 同時刻

 海鳴市 高町家にて


「あ~、やっぱり動いた後のビールは美味しい」

 なのはは先程ビールを三本しか飲めなかったので、その続きを飲んでいた。
 なのはは帰ってから、ユーノにどうなったか問い詰められたものの、負けたと言って何とかごまかした。

「ユーノ君、ごめんね。ジュエルシードを賭けて戦ったんだけど、また負けちゃったよ」

「そうですか……。なのはさんがまた負けるなんて、そんなに強かったんですか?」

「うん。強かったよ、とても……ね。やっぱり、一朝一夕で勝てる程甘くはないね」

 そういうと、ユーノは怪我が無くて何よりですと言って、客引きで疲れた身体を休める為に直ぐに寝床に着いた。
 なのはがフェイトと戦ったのは事実だし、なのはがフェイトに負けたと感じたのも事実だ。
 あの時、フェイトは自分の身体が傷つこうとも、それでも封印をしようとジュエルシードに向けて一直線に走った。
 それは、今のなのはには無理な事だ。
 あれ程の向こう見ずな若さを、なのははもう持っていないから。

「若いよねぇ。フェイトちゃんも、わざわざこんな所まで一人で来るユーノ君も」

 今の自分ならば、一瞬躊躇してしまう。
 そのせいで、ジュエルシードに向かって一直線に飛ぶフェイトを、なのはは茫然と見送るしかなかった。
 ビールの缶をプシッと開ける音を聞きながら、ポツリとなのはは呟く。

「フェイトちゃんには認めてもらったけど、やっぱり最後のアレが効いたのかな?」

 アレとは、なのはがフェイトの真似をして、後ろに回り込んでからデバイスで殴り掛かったものだ。
 アレで前回なのはは、フェイトにノックダウンさせられたのだ。
 だから、同じ事をやればインパクトが強いと思い、なのはは同じように行動した。
 なのはの腕力の貧弱さや、レイジングハートの殴り掛かるには不適切な形状など、問題はあった。
 これではダメージなど与えられないという問題が。 
 しかし、元々なのはは、フェイトを傷つけたくて戦っていた訳ではない。
 ただ、認められる方法が、戦って実力を見せろというものだから、仕方なく戦っただけ。
 ダメージを与える必要など、最初から無かった。
 認められるかどうかなのだから、なのはの攻撃が、より相手に印象強く残ればそれで良いのだ。

「でも、ただ認められただけだし、まだまだジュエルシードの取り合いは続くんだろうねぇ」

 残りのジュエルシードの数を指折り数えて、うんざりとした溜息を洩らす。
 その気持ちを洗い流すかのように、なのははグイッと缶を傾ける。

「ぷはっ。……にしても、お母さん……ねぇ」

 なのははフェイトの事を考える。
 フェイトは母がジュエルシードを欲していると言っていた。
 だが、なぜジュエルシードが欲しいのかは言ってはくれなかった。

「どうしてお母さん自身が取りに来ないんだろうねぇ」

 なのはには其処がどうしても解せない。
 必要ならば自分で取りに来れば良いのだ。
 最初に会った時のフェイトの反応を思い出す限り、現地で集めているなのはの存在を知っていたようにも思えない。
 フェイトをあそこまで育てた人が、ジュエルシードを集めることに苦労するとも思えない。
 それなのに、実際はフェイトがジュエルシードを探しに来た。

「何か理由が有るのかな? でも、あんな危険な物の蒐集を、フェイトちゃんに一任するのに、いったいどんな理由がある?」

 危険な物を集めるのに、自分が安全な所で高見の見物を決め込むとは思えない。
 娘のフェイトを見れば、そんな事は分かる。
 あんな良い子なのだ。良い親に育てられたに違いない。
 酒もう一本取り出しながら、なのはは考える。

「病気? それとも事故? それが理由で探しに来れないから?」

 缶を開けて、なのはは次のビールを口に含む。

「じゃあ考えを変えて、ジュエルシードを集めて、いったい何がしたいのかなぁ?」

 願いを叶える宝石で、人が願うことを考える。

「やっぱり、アレだね。願いを叶えるって言うなら、シェンロンとかから考えた方が良いかな?」

 なのはは昔に読んだ漫画から、具体的な事を考える。

「確か、あの漫画の中で叶えられた願いは、結構あったよね。
 富と名声、永遠の若さ、世界征服とか……最後のは無理だったような気もする。
 でもそんな所だよね。
 病気や怪我の治療のために、シェンロンに頼るってのは有ったかな?
 ……そういえば、身長を伸ばしたいって言っていた人もいたね」

 流石に、身長を伸ばしたいが為に、わざわざジュエルシードを集めるとも思えない。

「あとは……そうだね――」

 なのははそこで、一番多く叶えられていた事を思い出した。



「――死者蘇生とか?」



 なのははそこまで考えて、自分の考えに笑う。
 
「馬鹿馬鹿しい……」

 随分と酔いが回っているみたいだ。
 酔っている時には、突拍子もない考えに行き着くことがある。
 だが、幾らジュエルシードが人の願望を叶える物だったとしても、そんな事は無理だ。
 そもそも、ジュエルシードは思った通りの事が叶うとは限らない。
 猫の時は成功したかもしれないが、普通は歪んで叶う物なのだ。
 例に上げた漫画だって、所詮は漫画。
 人の考えた空想でしかない。
 そもそも、あの漫画は生と死の境界が曖昧過ぎる。
 生きているのに閻魔に会いに行ったり、死んでいるのに下界に降りて行ったり。
 そんな事が日常茶飯事に起きている世界で、死ぬということがどれほどのことなのだろうか。
 あんな世界ならば、死んだ人にもまた会えるような世界なら、死者の蘇生なんてものを願う人は減るのかもしれない。

「もう寝ようかな。こんな訳の分からないこと考えていても、正解になんか辿り着けないし」

 なのははもう寝床に着くことにする。
 これ以上考えても、実のある考えにはならないと判断したからだ。
 飲み終えた空き缶を始末し、部屋に戻った。
 長年愛用しているベッドに潜り込みながら、なのはは誰にともなく呟いた。

「おやすみなさい。明日も良い日でありますように」

 そしてなのはの意識は、深い場所へと静かに落ちていった。





あとがき

今回、別の漫画を引き合いに出していますが、多分有るだろうと考えて登場して頂きました。
龍球陣と美由希が戦ったらどうなるかと考えるのも面白いかもしれません。

前回なのはさんが殴り掛かったことに違和感を覚えた人がいたので、ちょっと説明を加えてみました。
そもそもノリで書いているので、後付けたっぷりです。
ですから、そんな深く考えずに、ユルイ気持ちでご覧下さい。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>最後のはやてに全て持っていかれた。
>ちょwwはやてwww
>はやてさん、卑怯すぎますぜw
>ていうかいたのかよ!?
>そしてはやて、レアスキル「蒐集」はリンカーコアが対象だ、タクシーの客じゃない
>ベストタイミングで登場して、いかした気遣いを見せるはやて(運ちゃん)に惚れたw
>ナイスすぎるタイミングのはやてタクシー。
>はやて、いい仕事してるwwww
>さすがだね、はやてさん(32)
>はやてがメッチャかっくいい!
>にしても、はやてさんもいいなぁ。
>考えてた感想が全部はやてで吹っ飛んだけどね!!

やっぱりはやてさんは人気ですね。
まだ八神さんとしか呼ばれてないんだけど。

>前回でBJをスカートからズボンに履き換えてたけどスパッツがよかったな・・・お尻のお肉的にw

Youその設定で書いちゃいなyo

>そう言えば流石になのはさんでも、料理の材料に使う酒まで手を付けたりしないよね。

そんなことするわけ無いじゃないですか。
同じのを買って飲むか、味見をちゃんとするだけです。

>やっぱなのはさんは強いですねぇ。アメリカには最強のコックがいて日本には最強のケーキ屋一家がいる。この世界は平和です。

ええ、とても平和ですね。

>脳内ではやてがドア開けてルーフに肘おいて立ちながら親指立ててニヒルに笑ってました

それで概ね間違っていないと思います。

>なのはさんフェイトちゃんに治癒魔法かけてあげてつかーさい……

アルフ「施しは受けない!」
だそうです。

>…32歳魔王様のスタイル想定すると乗ったときのほうが危なく感じる!
胸的な意味で!!

流石にそんなことは……無いと思います。

>だけどそのセリフ、おれはナンパ調で言って欲しかったよ、はやてさん

どんな感じで言えば良かったんですかね。

>はやてじゃない新キャラだったら大爆笑。

オリキャラは一人もいないので、多分彼女で間違いないと思います。

>冷静に考えてみたら、この当時のフェイトって九歳ですよね。

促成栽培されている可能性もあるので、本当はもっと年下かもしれません。

>アームドでもバルディッシュみたいな魔力刃でもない杖で殴ってもなのはさんの腕力じゃバリアジャケットすら抜けなさそうな気がしないでも
>泡立て器で殴りかかっている事とか、2戦目にして既にフェイトと同等あるいはそれ以上に渡り合っている事とか、なんか色々つっこみたい

これで納得して頂けたでしょうか。
そうでないなら、私の文章力の低さが原因です。すいません。
フェイトと同等なのは、なのはさんは美由希が投げた飛針が見える程の動体視力と、
ブリッツアクションで後ろに回ったフェイトに反応出来る程の反射神経を持っています。
ただ、普段は身体がついていかないだけなので、それを魔法でカバー出来るならこれぐらいは出来るかと思いました。




[10864] 第三十一話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/24 09:53




 翌日 AM8:17

 遠見市 住宅街 マンション屋上にて


「お土産はこれでよし、と」

 フェイトは手に持つケーキの箱をしっかりと持つ。

「甘いお菓子か……。こんなのであの人は喜ぶのかねぇ?」

 アルフがそれを片手に持って、ブラブラと軽く振りながら、疑問を呈する。

「アルフ、その辺にして。中身が崩れちゃう」

「あ、ごめんよフェイト」

 フェイトの言葉に、中身が柔らかいケーキであった事を、アルフは思い出した。
 ケーキの入った箱をフェイトの手の中に戻しながら、アルフは尋ねた。

「でもケーキって……あの女の影響かい?」

 昨日のジュエルシードの争奪で、アルフ達が会ったあの女――なのはは、自分のことをケーキ屋だと言っていた。
 フェイトはそれに軽く首を上下させる。

「確かに、ケーキにしようって思ったのは、あの人がそう言っていたからだよ。
 あの人はそんなに悪い人じゃないと思うし」

「それはそうだけどさぁ……」

 アルフも、いかにもお人好しそうな面をしたなのはが、悪い人とは思えなかった。
 あの時、フェイトは力を示せと言って、なのははそれに応えたのだ。
 フェイトはそれでなのはを認めたのだから、アルフもそれに歯向かうことはしない。
 フェイトは言葉を続ける。

「でも、お土産を持って行こうって思ったのは、私の考えだよ。
 母さんが喜んでくれるか分かんないけど、こういうのは気持だからね」

「気持ちねぇ……。フェイトの気持ちが籠ってるんだから、さぞ美味しいんだろうね」

 アルフの言葉に、フェイトはクスリと笑う。

「それじゃ、行こうか」

「私がやろうか?」

「ううん。いいよ、私が届けたいんだ」

 アルフが代わりにしようかという親切を、フェイトは静かに首を振って断る。

「次元転移。次元座標、876C、4419、3312、D699、3583、A1460、779、F3125」

 静かに呪文を唱えるフェイト。
 二人の足元に、金の魔法陣が浮かび上がる。

「開け、誘いの扉。時の庭園、テスタロッサの主のもとへ」
 
 唱え終わると同時に、魔法陣から光が溢れ、二人を包みこむ。
 数瞬後、光が消え去ると、そこには既に二人の姿は無かった。






 同日 同時刻

 次元空間内 時空管理局 次元空間航行艦船『アースラ』にて


 カツカツと歩く音を静かな空間に響かせながら、一人の女性が歩いていた。
 どこかの組織の青い制服を纏い、鮮やかな翠色の長い髪を、後ろでポニーテールに結んだ女性だ。
 その女性が、この次元空間航行艦船「アースラ」の、ブリッジに続く扉を開ける。
 その先にあった一番近い椅子に片手を掛け、ブリッジの中に居る人々へ声を掛ける。

「皆どう? 今回の旅は順調?」

「はい。現在、第三船速にて航行中です。目標次元には、今からおよそ160秒後に到達の予定です」

「前回の小規模次元震以来、特に目立った動きは無いようですが、二組の捜索者が再度衝突する危険性は非常に高いですね」

 女性の言葉に、ブリッジに座る二人の男性が答える。
 女性はそう、と言って、手を掛けていた椅子に座る。
 そこに、紅茶の入ったカップを持った、まだ少女といってもいいくらいの別の女性が現れる。

「失礼します、リンディ艦長」

 そういって、リンディと呼ばれた女性の前に、紅茶の入ったカップを置く。

「ありがとね、エイミィ」

 リンディは紅茶を運んで来た少女――エイミィに礼を言って、紅茶を手に取る。
 リンディはその細波の立つ水面を見ながら、ポツリと呟く。

「そうね……、小規模とはいえ、次元震の発生は……」

 紅茶を一口口に含み、言葉を続ける。

「ちょっと厄介だものね。危なくなったら、急いで現場に向かって貰わないと。ね、クロノ?」

 そこでリンディは、クロノと呼ばれた、バリアジャケットを着込んで立っていた少年を見る。
 少年はリンディの言葉に振りかえる。

「大丈夫。分かってますよ、艦長」

 まだあどけない顔をした少年は、自身の満ちた声で返す。
 翼が付いた十字架がデザインされたカード型のデバイスを持ち、クロノは言葉を続ける。

「僕は、その為にいるんですから」

 その目には、強い意思が感じられた。




 同日 同時刻

 海鳴市 高町家にて

「おはよう、なのは」

「……ああ、おはよ~」

 まだ半分寝ぼけたまま、のんびりとした声で、なのはは朝の挨拶を桃子に返す。
レイジングハートと魔法のお陰で、今は二日酔いに悩まされることは無くなったが、相変わらず朝が眠いのは変わらない。

「なのは、これ持って行ってくれる?」

「うん」

 桃子から朝食の乗ったお盆を渡され、なのはは僅かにふらつきながらテーブルまで運ぶ。

「ふぅ……」

 なのははテーブルに突っ伏して溜息を吐く。
 昨日はそれなりに飲んでいたから、また深く考え込んでしまった。
 なのはは、いつもは特に何も考えず、酒の味を楽しむことにしている。
 だが、何か悩みや気掛かりがあると、酒が変な方向へとなのはを導くのだ。
 基本的に、鬱鬱とした酒は嫌いなのだが、自然とそうなってしまう。
 その方向は、例えばこの間の、フェイトに初めて会ったとき。
 あの時はジュエルシードを奪われ、気分も最悪だった。
 だからその日の夜は、なのは自身でも、摩訶不思議な思考回路になっていたと思う。
 そして昨日のこと。
 昨日はそれなりに良い気分ではあったが、酒と一緒に別のスイッチも入ってしまったらしい。
 昔、今となっては義姉となった兄の妻の忍に、小さい頃に見せられた漫画の知識から、現実を考えようとしてしまった。
 空想を現実に当て嵌めても、特に何が変わる訳でもないのに。
 こんな感じの、なのはに何か悩みがあると、頭の回転が速くなるのだ。
 だが、頭の回転が速くなったことが、正解を弾き出す訳でもない。
 例えるなら、テストの時に計算を二段三段飛ばして解答を書きこむことが出来るだけで、それが間違っていることは多いのだ。
 おまけに、飛ばして書きこむから計算式が残っておらず、後から見ても、自分でどうしてこんな結論に至ったかは分からない。
 極稀に正解する。
 180°、あるいはそれ以上に捻じれている考えなど、その程度だ。
 もっとも、いつもはこんな考えを抱く事は無い。
 そんな暗い気持ちで飲んだ翌日は、決まっていつも二日酔いで、頭痛に悩まされる。
 それでのたうち回っている内に、そんな悩みなどどうでもよくなるからだ。
 あの頭痛と吐き気の前では、ほとんどの悩み事が、些細な事に成り下がるから。

 なのはが昨日のことを考えていると、


 ピンポーン


 と、聞き慣れたインターホンの音がリビングに響く。

「なのは、私は今手が放せないから、代わりに出てくれる?」

「うん、わかった」

 なのはは立ち上がり、玄関まで行って扉を開ける。

「どちら様ですか?」

「宅急便です」

「あ、はい。ちょっと待ってて下さいね」

 なのはは今来た道を取って返し、判子を取りに行く。

「お母さん、判子どこ?」

「あら、宅配便?」

「うん」

「判子ならいつもの引き出しに入れてるわよ」

「わかった」

 なのはは判子を取り出し、再び玄関に向かう。

「すいません、お待たせして。はい、判子」

 業者の差し出す紙に判子を押し、なのはは荷物であるダンボールを受け取る。

「割れ物ですので、気を付けて下さいね」

「はい、ご苦労様です」

 そう言って受け取った荷物は、ずっしりとした重みがあって、なのははその重さに少しよろめく。

「いったい何が入っているのかな?」

 差出人の名を見ると、アリサ・バニングスとあった。
 そして宛先は高町なのはとなっている。

「アリサちゃんが私に? いったいどうしたのかな?」

 リビングまで持って行くのも面倒なので、その場で開けることにする。
 ガムテープで閉じられた箱を開けると、中には更に小さな箱が入っていた。

「……お酒?」

 取り出して見ると、それは確かに酒だった。
 その箱をさらに開けると、中には上品な紙で包まれた酒が入っていた。

「……『百年の孤独』」

 なのははその酒の銘を読み上げ、送って来たのがアリサだということを思い出す。
 そのアリサは、最近は店に来ない。
 また仕事で、どこかを飛び回っているのだろう。
 この酒からして、九州の宮崎の方に違いない。
 なのはは珍しい物を送って来てくれたアリサに感謝した。
 だが同時になのはは、最後にアリサが来た時に言っていたことも思い出した。


『このままだと嫁き遅れるわよ』


 ……つまり、


「……え? 何? もしかして……皮肉?」


 珍しいお酒が手に入ったことは喜ばしいが、敢えてこの酒を送って来たことの真意に、なのはは悩むのだった。
 また今夜も、頭の回転は速くなるのかもしれない。






あとがき

アースラ組はアニメそのままです。
飛ばそうかとも思ったんですが、行き成り戦闘中に現れるのもどうかと考えたので書きました。

あと前回なのはが読んだと言っていた漫画に関してですが、勝手なことですが、きゃゆさんの感想を使わせて頂きました。
もし不快な思いをなされたのなら、直ぐにその箇所を削除いたしますので、一言お願いします。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>この世界にもあったのかド○ゴン○ール…。
てか、なのはさん内容をかなり知ってるようだし読んでたのか?

あるという事にしています。
そういう娯楽は、大半は同じだろうと考えていますので。

>ちょwww魔王様!!一番有名な「ぎゃるのぱんてぃ」忘れてる!!

なのはさんは「ぎゃるのぱんてぃ」に魅力を感じることが出来なかったようです。

>それにしても、ジュエルシードに「ギャルのパンティおくれ」と願ったら何が起こるんでしょうか?

誰かは忘れましたが、以前この理想郷でそれを願った人がいましたね。
結果は……私の口からは言えません。

>お酒飲むとシリーズに追加能力ですか?
『推理能力か予知能力・直感上昇』とかwww

能力は上昇しますけど、なのはさんがその事に気付いてません。

>なのはさん(32)は年で身長縮んだとしても158cmのスリーサイズ87/60/85な魅惑ボディだと俺は信じてる!

つ 魔法少女リリカルなのはStrikerS 

>なのはさんならジュエルシードに頼む願い事は80%以上の確立で酒ですねww。

なのは「インチキで手に入れた酒は美味しいとは思わない。飲むけどね」




[10864] 第三十二話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/24 18:44




 高次空間内 時の庭園にて


 次元の狭間に漂うこの時の庭園に、普段とは異なる音が響く。
 いつもは静かなこの空間は、今は騒がしい音に支配されていた。
 何かを叩く、鋭い音に。
 そしてそれに付随する、少女の悲鳴に。
 それは時の庭園の奥、玉座の間からその声は聞こえて来た。

 ビシッ!

「あぅっ……」

 バシッ!

「うぁっ……」

 その声を上げていた少女は、先程まで明るい声で、アルフに話しかけていたフェイトであった。
 紫色に光る鎖に両手を拘束され、倒れることも出来ずに、ただ鎖にぶら下がっていた。
 その身体には無数の細い傷跡があり、本来身体を守る為のバリアジャケットは、既に用を為していなかった。
 そのフェイトに静かに話しかける声があった。

「たったの……四つ?」

 フェイトに冷ややかな声を掛けるその女性は、露出の多いドレスを纏い、手には杖を持ち、玉座に座っていた。

「これは……余りにも、酷いわ」

 フェイトはその声に反応して、俯いていた顔を僅かに上げる。

「ごめんなさい……母さん……」

 フェイトに母さんと呼ばれた女性は、スッと立ち上がり、ゆっくりとフェイトに近寄っていく。

「いい? フェイト。あなたは私の娘。大魔導師プレシア・テスタロッサの一人娘」

 自らの名をプレシアと言った女性は、フェイトの顎に手を掛け、上を向かせる。

「不可能なことなどあってはならぬ。
 どんなことでも。
 そう。どんなことでも、成し遂げなければいけないのよ」

「……はい」

 フェイトはプレシアの目を見ながら、かすれた声で小さく返す。

「こんなに待たせておいて、上がってきた成果がこれだけでは、母さんはあなたを笑顔で迎える訳にはいかない。
 分かるわね? フェイト」

「はい……分かります」

「だから。だから……覚えて欲しいの」

 プレシアがフェイトの耳元で囁く。


「二度と、母さんを失望させないように」


 プレシアは僅かに離れると、その手に持つ杖を黒い鞭へと変える。
 それを見たフェイトは、虚ろだった目を見開き、その目に恐怖の感情を浮かべる。
 プレシアが鞭を振り上げ、フェイトは目を瞑る。
 再び、鞭で叩く音と、少女の悲鳴が響いた。



「なんだよ……。いったい何なんだよ、これはっ!?」

 離れた場所で、アルフは蹲り、耳を押さえながら叫んだ。
 耳を押さえても、アルフの鋭敏な聴覚は、主の悲鳴を聞きとってしまう。

「あんまりじゃないか、あの女……!」

 そこで再び聞こえた、一際かん高い悲鳴に、アルフは身体を丸めて縮こまる。
 もう耐えきれなかった。
 アルフにはその場から離れる事しか出来なかった。
 ガンッ! と壁が音を立てる。
 拳にジンジンとした痛みが広がる。

「あの女の……フェイトの母親の異常さとか、フェイトに対する酷い仕打ちは、今に始まったことじゃない……。
 けど、今回はあんまりだっ!
 いったい何なんだ!? 
 あのロストロギアは、ジュエルシードは、そんなに大切なもんなのか!?」

 拳を叩きつける。
 ここまで無力な自分が恨めしいと思ったことが、アルフは今まで一度も無かった。
 今はそれが十分に理解出来る。
 感覚リンクを通して、フェイトの悲しみが、恐怖が伝わって来るのだ。

「フェイトを、娘を鞭打ってまで、手にいれる程の価値があの石コロにあるのかっ!?」

 無い。
 そんな物は無い。
 あるわけがない。
 もしもそんな物があったとして、だからはいそうですかと、納得する事など出来る訳がない。

「フェイト、どうして……。どうして……あんな女に従うんだ……」

 アルフの嘆きに、答えをくれる者はいなかった。



「ふん……」

 ある程度フェイトを鞭打って気が晴れたのか、プレシアは鞭を下げ、再びフェイトに話しかけた。

「ロストロギアは、母さんの夢を叶えるために、どうしても必要なの」

「はい……母さん」

「特にアレは、ジュエルシードの純度は、他の物より遥かに優れている。
 あなたは優しい子だから、躊躇ってしまうこともあるかもしれないけど、邪魔するものがあるなら、潰しなさい。
 どんなことをしてでも!
 あなたにはその力があるんだから」

 プレシアは鞭を元の杖へと戻し、フェイトを吊り下げていた鎖も消した。
 重力に従って、床に倒れ伏すフェイト。

「行って来てくれるわね? 私の娘……可愛いフェイト」

 フェイトは手を付いて無理矢理顔を上げ、プレシアに答える。

「はい……出来ます、母さん」

「……しばらく眠るわ。次は必ず、母さんを喜ばせてちょうだい」

「はい……」

「……」

 プレシアは踵を返し、ゆっくりとその場から立ち去って行った。
 後に残されたフェイトは、身体を起こしてなんとか立ち上がる。
 顔を横に向けると、プレシアに毛ほどの価値さえも見出されなかったケーキの箱が、そこにあった。

「ケーキだけじゃ、駄目なんだ……」

 フェイトはその場を後にする。
 痛みに疼く身体を引きずりながら。




 外で待っていたアルフの耳に、フェイトが足を引きずりながら歩く音が聞こえた。

「フェイトッ!」

 急いで主の元へ駆けつけると、アルフの姿を目にしたフェイトは、そのまま前向きに倒れ込む。
 それをアルフは手を伸ばして支える。
 アルフはフェイトを座らせ、フェイトの傷に顔を顰める。

「フェイト、ごめんよ。身体は大丈夫?」

「なんで? なんでアルフが謝るの? 私は平気だよ、全然……」

 フェイトはアルフの顔を見ないまま、平気、平気、と繰り返している。
 それを見て、アルフの目に涙が浮かぶ。

「平気なもんか! そんな傷で、そんな身体で! 平気な奴なんているもんか……」

 アルフの頬に涙が一筋伝う。

「こんな……こんな事になるなんて思わなかった。
 ちゃんと言われた物を手に入れて来たのに……。
 あんな酷い事されるなんて、思わなかった……。
 知ってたら、絶対に、絶対に止めたのに……」

 膝から崩れ落ち、悔しさと悲しさと怒りで、床に拳を叩きつける。
 フェイトはアルフの頬に伝う涙を、破けて剥き出しになった指で拭う。

「泣かないで、アルフ」

「フェイト……?」

 アルフは涙を流すのを止め、フェイトを見る。

「酷い事なんかじゃないよ。母さんは、私の為を想って――」

「思ってるもんか、そんな事! あんなの、あんなのただの八つ当たりだ!」

 アルフは叫ぶように言い捨てる。
 だがフェイトは、それに小さく首を横に振る。

「違うよ。だって……親子だもん。
 ジュエルシードは、きっと母さんにとって、凄く大事な物なんだ。
 ずっと不幸で、悲しんで来た母さんだから、私、何とかして喜ばせてあげたいの……」

「だって……、でもさぁ……!」

 アルフには、フェイトを説得するだけの言葉が思い浮かばなかった。

「アルフ、お願い。大丈夫だよ、きっと。
 ジュエルシードを手に入れて帰って来たら、きっと母さんも笑ってくれる」

 フェイトはアルフの頬に手を添える。

「昔みたいに優しい母さんに戻ってくれて、アルフにもきっと、優しくしてくれるよ。ね?」

 アルフは、フェイトのその目を見て、その頬笑みを見て、もう何も言えなくなった。
 フェイトはアルフの身体を支えにして、自分の身体を持ち上げ、ゆっくりと立ち上がる。

「だから、行こう」

 魔力でマントを作り、それを羽織る。

「今度はきっと、失敗しないように」

 フェイトは痛む身体を押して歩きだした。

「母さんに、笑ってもらうために……」

 アルフはそれを、ただ見つめる事しか出来なかった。






あとがき

プレシア登場シーンです。
ほとんど内容はアニメと変わりません。
ちょっと言葉を付け足しただけです。
なのはさんはいません。
歳と同じ三十二話ですけどいません。
今回は時の庭園組だけの出演です。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>年齢的になのはさんと釣り合う男が現時点でほとんどいないことが問題だ。
実際そろそろ結婚しないとヤバイw 候補はいるけど、23歳差はちょっと……w

そうなんですよね。候補はいるんですけど、なのはさんが誰かと付き合っているのが想像出来ないんですよね。

>来た!リンディ艦長来た!コレで勝つる!
我が世の春が来たぁぁぁぁぁぁ!

果たしてあなたの思っているリンディ艦長かな?
……すいません、理想通りに書けるかわかりません。

>そして、アリサへのOHANASHIタイム&SUKOSHI★ATAMAHIYASOUKAタイムの始まり始まり。
罪状!『年齢計皮肉罪・魔王様侮辱罪』
判決!『死刑』
なのはさん(32)『悪魔の様に殺してあげるわ・・・』
以上脳内裁判でしたw

だから、なのはさんは寛容な性格をしていると何度も言っているでしょう。
ある事を除いて。

>そういえば、海鳴市の地酒はないのでしょうか?
山もあるし、そこそこ美味い酒が作れると思うのですが・・・

あると思いますけど、流石に登場してないですからね。
架空のお酒は馴染みがないですし。
(私はどれも馴染みなんてないんですけど)

>百年の孤独はうちの宮崎の知り合いの家系が代々作ってるよなのはさん

送ってあげたらうちのなのはさん、喜びますよ?



[10864] 第三十三話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/25 12:09



 さして時間をおかず、フェイトとアルフは再び海鳴の街に降り立った。
 海から吹く潮風に髪をなびかせながら、二人は感覚を研ぎ澄ませていた。
 フェイトは右手に目をやる。

「バルディッシュ、どう?」

『Recovery complete』

「そう。がんばったね、偉いよ」

 フェイトは左手を添え、バルディッシュを軽く撫でる。
 アルフは耳を立て、低い声を出す。

「感じるね……あたしにも分かる」

「うん……。もうすぐ発動する子が……近くにいる」

 顔に掛かる髪を払いながら、フェイトは確信を持って答える。

「行くよ、アルフ」

「……ああ」

 そして二人は飛び立った。






『おそらく、それは使い魔ですね』

『使い魔?』

 なのはが首を傾げる。

『はい。動物と契約して、主従の関係を結んだものです。
 なのはさんの話からすると、その使い魔は狼を素体としているみたいですね。
 使い魔は主人から魔力を与えられて生きているので、主人が死ぬと使い魔も死にます。
 一心同体なんですよ』

『ああ、だからフェイトちゃんと一緒にいたんだ』

『でしょうね。そのフェイトという子をサポートするためでしょう』

『なるほど』

 なのはは納得し、頷く。

『それでね、ユーノ君に頼みがあるの』

『僕にですか? でも、僕は戦闘をするのは難しいんですけど……』

『そんなんじゃないよ。私が動き回るために、結界を張って欲しいんだ』

『分かりました。それなら出来ます』

『うん、お願いね。それともう一つ、出来ればで良いんだけど……』

『はぁ……。それで、僕はどうしたら良いんでしょうか?』

 なのはの頼みに、今度はユーノが首を傾げる。

『ユーノ君には、そのアルフって子を惹き付けておいて欲しいの』

『僕が……ですか?』

『うん。結界の中にお姉ちゃん達は入れないし、頼めるのはユーノ君くらいだから……』

 その言葉に、ユーノは僅かに思案する。

『……分かりました。いくらなのはさんでも、二人を同時に相手にするのは難しいですからね』

『ありがとう。でも、無茶しないでね』

 なのはのその言葉に、ユーノは照れ臭そうに頭を掻く。

『分かっています。なのはさんも、やりたい事があるんでしょう?』

『うん……。私はフェイトちゃんと、二人っきりでお話したいんだ』

 なのはがユーノと話していると、前方からなのはに声を掛ける者がいた。

「随分と仲が良さそうやなぁ」

 バックミラーでなのは達をチラチラと眺めながら、タクシーの運転手が声を掛けて来る。

「え?」

 ユーノと今まで念話で会話していたなのはは、いきなり掛けられた言葉に驚く。

「そんなに仲良さそうに見える?」

「そら、ずっと見つめあってたらなぁ。誰でも仲良いと思うわ」

「あはは……」

 ユーノとの念話は、傍から見ていた運転手にはそう感じたらしい。

「にしてもその子、本当に頭良いみたいやな。全然暴れへんし」

「ユーノ君は私達の言っている事が分かるからね」

 何しろ人間だし。
 そんなことはおくびにも出さず、なのははユーノの頭を撫でる。
 ユーノは大人しく撫でられながら、キューキューと小さく鳴く。

「毛とかが飛び散ると掃除が大変やから、遠慮したかったんやけどね。
 でも、その様子やと大丈夫そうやな。
 店長の言ってる事も、あながち間違いじゃないっぽいし」

 運転手はハンドルを切ってカーブを曲がる。
 そのまま少し走ると、運転手はブレーキを踏んで、ゆっくりと車を停車させる。

「ほら、着いたで。海鳴臨海公園まで」

「うん、ありがとう。それじゃ、これ」

 なのはは翠屋の無料券を差し出す。
 運転手はそれを懐に入れると、ボタンを操作して、なのはから一番近いドアを開けた。
 なのはがタクシーを降りると、窓を開けて運転手が顔を出して来た。

「毎度おおきに。今後とも御贔屓にお願いします」

 そういって運転手は去って行った。
 なのははそれを苦笑いで見送る。

「さて、ここにジュエルシードがあるみたいだね」

「はい。もう直ぐ発動するようです」

 ユーノはなのはの肩から飛び降りる。

「封時結界!」

 ユーノが右手を地面に向け、呪文を唱えると、地面に翠色の魔法陣が描かれる。
 そしてそれが広がり、結界が辺りを覆い、灰色の世界となる。
 同時にジュエルシードが青く光り、木を素体とした暴走体が生まれる。

「なのはさん、これで大丈夫です」

 ユーノは振り返り、なのはに顔を向ける。
 しかし、直ぐに顔を曇らせる。

「なのはさん……?」

 ユーノの言葉に、なのはは反応しない。
 ただ、目を見開き、目の前の暴走体を見つめ続けている。

「なのはさん、どうしたんですか!? 早く封印をしないと!」

「……あの、き……?」

「は……?]

 なのはがポツリと零した、言葉とも取れない言葉に、ユーノが首を傾げる。
 だがなのはに、そんなことを気にする余裕はないようだ。

「あれは……私のお店を壊した……あの樹……?」

「え?」

 ユーノがなのはの視線の向く先を見ると、ジュエルシードを取り込んだ樹は、今や大樹と言っていい程に成長していた。
 それがなのはのトラウマを刺激する。
 なのはの目にはアレが、大切な物を奪っていった、あの憎き植物の姿に見えた。






あとがき

次回、再び大樹フルボッコです。
性懲りもなくあんな姿してるから悪いんですよ。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>なのはさん(32)ならアリサに連絡付いたらこう宣いそう
「アリサちゃんこれだけ(100年)嫁き遅れるのならこの量じゃ足りないよ、
もっと送ってね。(ニッコリ)」

ありそうですねぇ。

>泡立て器で殴りかかるってのはシュールな光景ですなw

かつてそんななのはさんを見たことがあるだろうか。

>前から思ってたんですが、惨劇に挑む“彼女”に合っていると思う、そう言えば彼女も酒好きでしたよね?
ワインですが…ここのなのはとはよい酒飲み友達になれそうなのですよ、にぱー。

鉈女発言したあの子ですか。
確かに仲良くなれそうです。
中の人的にも。

>全力でお付き合いさせていただきます。

なのは「お仕事は何をなされているのですか?」




[10864] 第三十四話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/25 16:42



「なのはさん! しっかりして下さい!」

「店……私の店……お酒……ドンぺり・ゴールド……」

 ユーノの呼びかけにもなのはは応えず、尚もブツブツと何事かを呟いている。
 その間にも大樹は成長を続け、その幹にまるで人間のような顔が生まれる。

「っ!? 危ないっ!」

 なのはに向かって、コンクリートを突き破って出て来た大樹の根が、鞭のように襲いかかる。
 ユーノはなのはの前に飛び出て、プロテクションでその攻撃を凌ぐ。
 ユーノがもう一度なのはに呼び掛けようとしたその時、金色の光が幹に向かって飛来する。
 無数のその光は、大樹になす術もなく、まともに当たると思われた。
 しかしその光の槍は、大樹に当たる直前で、青い光を放つ膜に防がれる。

「あれはっ!?」

 ユーノが声を上げる。
 光が飛んで来た方向を見据える。
 ユーノとなのはから少し離れた場所に、黒い衣を纏い、赤い狼を伴った、金の髪の少女が其処に立っていた。
 その少女――フェイトは、大樹が張った光の膜に、低い雄叫びを上げる大樹に、軽く舌打ちをする。

「また、か……」

「あいつも、生意気にバリアなんか張っちゃって」

 尚も元気に動き回る大樹に、アルフは苛立ちを隠そうともしない。

「強いね、今までのより。それに……」

 フェイトは横目で、プロテクションに守られたなのはの姿を確認する。

「あの人もいる」

『Scythe form.Setup』

 構えたバルディッシュが、光の鎌を形成する。

「バルディッシュ。アークセイバー、行くよ」

『Yes sir.Arc Saber』

 フェイトの声に反応して、バルディッシュの宝玉が煌めく。
 フェイトはバルディッシュを振り回し、鎌をブーメランのように飛ばす。
 飛ばされた鎌は、コンクリートの地面を容易く突き破った太い根を切り裂き、大樹へと飛んでいく。

「セイバーブラスト」

『Saber Blast』

 大樹が張ろうとしたバリアを、フェイトが鎌を爆発させて破壊する。
 爆風と衝撃で、大樹が僅かによろめき、手のように分かれた枝を振り回して、不快そうに声を張り上げる。

「あれが……なのはさんの言っていた……」

 ユーノがその光景に見入る。
 遠距離から射撃魔法で攻撃し、バリアで防がれると分かったら、即座にそのバリアを破壊しに掛かる。
 フェイトの手際の鮮やかさに、ユーノは状況も忘れて、凄いと感心した。
 その後ろから、ブツブツとした低い声は、未だに漏れ続けていた。

「ロマネ・コンティ……大吟醸……コニャック……」

 茫然としていたなのはの目に、炎が灯る。

「レイジングハート」

『All right.Stand by ready.Set up』

 なのはが一瞬で、いつもの翠屋の制服姿へと変わる。

「……そんなに私が……面白いの……?」

 片手をゆらりと持ち上げ、レイジングハートを構える。

「顔なんか作っちゃって……。そんなに私を哂いたいの?」

『Drill Shot』

 四つの先端が切り離され、螺旋を描きながら飛んで行く。
 それはユーノのプロテクションを内側から破り、閃光となって大樹の幹に突き刺さる。
 突き刺さった先端は、そのまま樹皮を巻き込んで突き進み、破裂するような音を立てて貫通する。

「なのはさん! 大丈夫なんですか?」

「うん。ごめんねユーノ君、心配かけて。ちょっと、嫌な事思い出してね」

 なのはが頬を掻きながら、苦笑いをユーノに返す。

「もう大丈夫だから」

『Recovery』

 そういってなのはは、再び元の形に戻ったレイジングハートを構える。
 それを見たユーノは、焦って忠告する。

「駄目です! アレはバリアを張れます。あの子がやったように、まずはそれをどうにかしないと……」

 ユーノの言葉に従うかのように、大樹は再び青い光を発し、今度は大樹全体を覆う程のバリアを張る。
 それを見たなのはは、クスリと先程の苦笑とは違った笑みを浮かべる。

「大丈夫だよ、ユーノ君」

『Drill Shot』

 レイジングハートが赤く煌めくと、桜色の光を纏った閃光が迸る。
 大樹の張ったバリアなど、どこ吹く風とばかりに容易く突き破って、大樹を貫通する。

「バリアなんて、突き破ればそれで良いんだから」

『Recovery』

 再びレイジングハートが元の形へと戻る。
 なのははフェイトによって切り飛ばされ、自分の周りに転がった根を見る。

「この根っこ、邪魔だよね」

 なのはは必死に再生を続けて、穴を修復しようとしている大樹を見る。
 おそらく数分とかからずに元通りになり、なのはに向かって再び襲いかかって来るだろう。

『Drill Shot』

「でも……」

 なのはがレイジングハートを僅かに下げ、大樹の根本へ砲門を向けて発射する。

「切り離しちゃえば、それでいいか」

 身体に開いた穴で、自重を支えられなくなった大樹は、メキメキと大きな音を立てて根本から倒れる。
 切り離すというより、チェーンソーで伐採したような状況だ。
 そのなのはの所業に、倒れた大樹を見ていたユーノが思わず尋ねる。

「……なのはさん。もしかして、怒ってます?」

「ううん。さっきまでは怒ってたけどね」

「さっきまでは……ですか」

 それはつまり、もうスッキリしたから怒っていないという事だろうか? 
 爽やかな笑顔を浮かべるなのはに、ユーノは初めて樹に同情した。
 そんななのはとユーノが話していると、空からフェイトがバルディッシュを構えて飛来する。

「バルディッシュ」

『Sealing form, set up』

 バルディッシュから四枚の光の翼が生え、先端から封印の光が溢れる。

「ジュエルシード、シリアルVII、封印!」

 横たわったまま蠢く大樹に、フェイトから放たれた金の光が当たる。
 暴れていた大樹にはなす術も無く、ジュエルシードが封印される。
 光が収まった時には、そこには細い木が一本倒れていただけだった。
 なのははその姿を眺め、にこやかな笑みを浮かべる。

「こんにちは、フェイトちゃん。また会ったね」

 なのはの呼び掛けに、フェイトは静かに振り返る。

「今日は封印はしっかり出来ているみたいだから、いっぱいお話出来るね?」

「……」

 フェイトは何も答えない。

「両手の怪我の具合はどう? なんなら、私が使える回復魔法で治療しようか?」

「……」

 フェイトは何も答えず、バルディッシュを向ける。
 それを見たなのはは、はぁ、と溜息を吐く。

「やっぱり、また争うんだね?」

「……賭けて下さい。貴女の持っている、ジュエルシードを……」

「分かったよ。互いの持っているジュエルシードを一つと、そこにあるもう一つ、賭けようか」

『Recovery』

 なのははレイジングハートを構える。
 互いに見つめ合い、相手の出方を見る。

「はああああっ!!」

 最初に動いたのはフェイトだった。
 後ろに回ることは通じないと悟ったのか、一直線になのはまで飛び、正面から斧の形をしたバルディッシュを振りかぶる。
 なのはもそれに合わせて、レイジングハートを振り上げ、迎え撃とうとする。
 そして両者が激突する、その直前。



「ストップだっ!!」



 両者の間に水色の魔法陣が生まれ、そこから杖を持った一人の少年が現れた。
 少年は自らの杖でフェイトのバルディッシュを受け止め、なのはのレイジングハートをその手に発動させたシールドで防いだ。

「え?」

「……」

 いきなり登場した少年に、二人は戸惑いの表情を浮かべる。

「ここでの戦闘は危険過ぎる!」

 少年は目で二人を警戒しながら宣言した。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」

「時空……」

「管理局……?」

 フェイトとなのはが眉をひそめる。

「詳しい事情を、聞かせて貰おうか」

 クロノの言葉に、二人は何も言葉を返せなかった。




あとがき

予告通り、木フルボッコの回です。
なのはさんは八つ当たりですが、これでトラウマも乗り切れたと思います。
あと遂にクロノが登場。
空気が読めないよね。
せっかく二人が頑張ってるところに割り込んで来るんだから。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>なのはさーん!宮崎から黒霧島・宗一郎・飫肥杉が届いたから一緒に飲もう!!

翠屋まで持って行くと一緒に飲んでくれますよ。

>はやてが毎回出番の度に良い仕事しやがる・・・
もう、はやてがなのはさんの夫でいいよ!

運転手としか表記していないのに……。

>32歳で、魔法少女wwwwちなみに今までの公式の魔法少女で年くってるのは、たぶん『奥様は、魔法少女』というアニメのです。

見てましたよ。
あのキスすると魔法が使えなくなるとかいう訳のわからない設定のアニメですよね。
でもあの人は27歳で、なのはさんより年下です。

>ユーノ君とクロノ君とフェイトちゃんに合いそうなカクテルを選んでみた。
ユーノ君にはバージンメアリーを、クロノ君にはシャーリーテンプル。
そしてフェイトちゃんにはシンデレラ。
すべてノンアルコールカクテルです。

使う機会があったら、使わせて頂きます。

>次回、戦慄の魔法〇女現る! ですね、わかります。

そこに○を入れるとは、分かってるじゃないですか。
それなら消されませんものね。
そこに入るのは、やっぱりじゅk(ry





[10864] 第三十五話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/26 23:05



「現地では既に、二者による戦闘が開始されている模様です」

「中心となっているロストロギアのクラスはA+です。
 動作不安定ですが、無差別攻撃の特性を見せています」

「次元干渉型の禁忌物品。回収を急がないといけないわね」

 二人のオペレーターからの情報に、リンディの目付きが険しくなる。

「クロノ・ハラオウン執務官、出られる?」

「転移座標の特定は出来ています。命令があればいつでも」

 クロノの自信のある返答に、リンディは頷く。

「そう。それじゃ、クロノ。
 これより現地での戦闘行動の停止と、ロストロギアの回収。
 両名からの事情聴取を」

「了解です、艦長」

 クロノは杖を立てて、命令を受け取る。
 リンディはそれに満足気に頷く。

「気をつけてね~」

 リンディがハンカチを振ってクロノを見送る。

「はい……行ってきます」

 そのリンディの行為に、クロノの気が抜ける。
 クロノが転移すると、リンディはハンカチをしまう。

「これで肩から余計な力が抜けると良いんだけど」

 リンディはそう言ってクロノの心配をする。
 いくら力を認めていても、子が心配なのは変わらない。
 リンディはモニターを見る。

「あんな事が出来るのだもの。あまり、敵対したいとは思えない相手だしね」

 そこには、二者によって切り倒され、悲鳴を上げている大樹の姿があった。







「まずは二人とも、武器を引くんだ」

 二人の攻撃を受け止めたクロノは、両者に警戒の視線を送る。
 その言葉に、なのはとフェイトはゆっくりと武器を降ろす。

「このまま戦闘行為を続けるなら――」

 そこでクロノは話を中断する。
 そのクロノに向かって、上空から橙色の光が降り注ぐ。
 いち早くその事に気付いたクロノは、左手をかざして、なのはの攻撃を防いだ水色のシールドを再び作り出す。
 そのシールドに光は命中し、全てがクロノに防がれる。
 クロノが光の飛んで来た方向を見やると、赤い毛並みを持った狼が宙に浮いていた。
 その狼、アルフはフェイトに呼び掛ける。

「フェイトっ! 撤退するよ、離れてっ!」

 そして自らの周りに光の球を作り出す。
 フェイトはジュエルシードに目を向ける。
 この騒ぎなど関係ないと、ジュエルシードはまだ空に浮かんだままだった。
 フェイトはそれを確保するために飛ぶ。
 それを邪魔されないようにと、アルフが光弾を放つ。
 光弾は地面に当たると、砂埃を巻き上げて煙を発生し、皆の視界を塞ぐ。
 フェイトはジュエルシードに手を伸ばす。
 だが、煙の中から飛来した水色の光が、ジュエルシードを取る為に無防備になったフェイトを襲う。

「フェイトっ!?」

「フェイトちゃんっ!?」

 バリアジャケットがあるとはいえ、まともに食らったフェイトはそのまま落下する。
 アルフは慌てて地面に先回りし、落ちて来るフェイトを受け止める。
 煙が晴れた時、其処にはクロノが杖を構えて立っていた。
 クロノは杖に光を集め、アルフ達を狙う。
 そして光が放たれ、アルフ達に当たる、その時。

『Protection』

 クロノとアルフ達の間に桜色の壁が生まれ、クロノの攻撃を受け止める。
 攻撃がぶつかるその音に、フェイトが気を取り戻したのか顔を上げる。
 だがその目の焦点は合っておらず、荒い呼吸を繰り返している。

「逃げるよフェイト。しっかり掴まって!」

 そしてアルフはそこから逃げ出した。
 一方クロノは、戦っていた相手を庇ったなのはに、厳しい視線を向ける。

「……何故彼女を庇ったんです?」

「当然でしょ。いきなり現れた子が、いきなりあの子を傷つけようとしたんだから」

「……貴女は彼女と戦っていたんじゃ無いんですか?」

 なのはの言葉に、クロノが首を傾げる。

「そうだよ」

「では何故?」

 クロノが疑問をぶつけると、なのははレイジングハートを構えながら言った。

「君より、あの子の方が信用出来るから、かな?」

「何……?」

「だって、あなた達の事なんて、私は知らないもの。
 だから、そんな人達より、あの子の方がよっぽど信用出来るから」

「時空管理局を知らない……と?」

「そうだね」

 クロノの言葉に、なのはは頷く。
 その時、横から女性の声が割り込む。

『あらあら、それじゃ、仕方ないわね』

 クロノとなのはの横に、平面のモニターが浮かび上がる。
 そこには、リンディの顔が映し出されていた。

「ああ、艦長。すいません。片方逃がしてしまいました」

『ん~、ま、大丈夫よ。クロノ、お疲れ様』

 そこでなのはがリンディに質問する。

「どちらさまですか?」

『あら、ごめんなさいね』

 リンディはなのはに軽く謝る。

『私はリンディ・ハラオウン。
 時空管理局、次元空間航行艦船「アースラ」の艦長をやっています』

「……ハラオウン?」

 なのはが訝しげな顔をする。
 リンディはそれに気付いたのか、言葉を続ける。

『そこのクロノとは親子、ということになりますね』

「そうですか。こんなに大きなお子さんがいるというのに、お若いですね」

『あらあら、そうでもありませんよ。私なんか、もうおばさんですから』

「いえいえ。二十代と言っても、まだ十分いけますよ」

『そうですか? ありがとうございます』

 なのはの社交辞令に、リンディが謙遜して返す。
 放っておけばずっと続くと感じたのか、そこにクロノが割って入る。

「あの、艦長。そろそろロストロギアの回収をしたいのですが……」

『あら、ごめんなさいね。クロノ、回収を』

「あ、待って下さい」

 ジュエルシードを取りに行こうとしたクロノを、なのはが制止する。

『……なんでしょうか?』

 リンディが僅かに目の端に険を寄せる。

「あなた達の事を、私はまだ信用出来ていません」

『……では、私達はどうすれば、貴女に信用してもらえるのかしら?』

「そうですね……」

なのはは少し考え込む。

「あなた達がその――名前から大体は想像が付きますけど――時空管理局の局員である証拠を見せて欲しいんです」

『証拠ですか? そうですねぇ……』

 リンディが僅かに考え込み、自分の服を指さす。

『これは時空管理局の制服なんですけど、これでは駄目ですか?』

 なのははその服を見つめる。
 そのまま、近くに避難していたユーノに念話を飛ばす。

『ねえ、ユーノ君。この人達、信用出来ると思う?』

『えっと、制服は本物だと思いますけど……』

『偽物の可能性は?』

『低いと思います。
 管理世界ならともかく、ここは管理外世界です。
 なのはさんのような時空管理局を知らない人を相手に、わざわざ名前を騙るメリットは、あまり無いと思いますし』

『そう……。分かった』

 なのははレイジングハートを降ろす。
 そしてリンディに笑いかける

「分かりました。疑ってすいません」

『いいえ。時空管理局を知らないのなら、そう思うのも仕方がないですから』

 リンディも笑い返す。

『それでは、私達の船に来て頂けますか? そのロストロギアの事を聞きたいので』

「分かりました」

『案内はクロノに任せます。クロノ』

 リンディはクロノに呼び掛ける。

「はい」

『そちらの彼女を、私達の船に招待して下さい』

「了解しました」

 杖を立てて、クロノは命令を受け取る。

『あ、ロストロギアの回収、忘れないでね?』

「分かっています」

 それに満足したのか、空中に浮かんだモニターは消えた。
 クロノは今度こそジュエルシードを掴む。
 ジュエルシードを自らの杖であるS2Uに格納する。
 すると、クロノは気が抜けたのか、ふぅ、と肩の力を抜く。
 そうして振り返り、なのはの方を見つめる。

「それでは、僕たちの船へ案内します」

「うん。分かった」

 こうしてなのはとユーノは、アースラへと招待されることになった。






あとがき

頑張って書きました。
キーを叩き過ぎて指が痛いです。

それにしても難しいです。
リンディ茶までいけると思ったんですけど、無理でした。
今回、まあこれくらいは警戒するんではないかと。
それなりに有名なら、名前を使う偽者とかが現れるのは当然ですし。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>アースラで行われる母の会?、何故か一触即発な雰囲気が・・・・ww

アースラまで辿り着けませんでした。

>次回!
『甘党妙齢艦長vs酒豪魔法美女〜砂糖が上か酒が上か〜』
おたのしみに!

これも次回です。
出来るかは別ですが。

>なのはさんもドンペリの段階でどんだけお金を酒につぎ込んだんだ?

小遣いの大半を使用しています。

>心眼です<●><●>クワッ

目が怖いです。こっち見んな。

>娘との語らいを邪魔するとは・・・

まだ娘じゃないです。
……こんな事言うと、また揚げ足取られそうだな……。

>地味にリンディさんが飲んでたの、緑茶じゃなくて紅茶なんだよなぁ・・・リンディさんに何が?

お茶を入れたのはエイミィですから。
リンディさんだって紅茶くらい飲みます。



[10864] 第三十六話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/26 23:45




 クロノの導きに従い、なのははユーノと一緒に、アースラの中へ来ていた。
 クロノはあそこにいたのは、なのはだけだと思っていたらしい。
 転移時にユーノが置き去りにされかけたものの、ダッシュしてユーノは転移魔法陣に間に合う事が出来た。

「付いて来て下さい」

 クロノが先導して歩いて行く中を、なのはは後ろからゆっくりと付いていく。
 なのはは初めて見る建造物の中を、キョロキョロと見まわす。
 見たことも無い材質で作られた壁を眺めながら、ユーノと念話で会話する。

『ユーノ君。私、転移魔法って初めてなんだけど、ここがそのアースラって船の中で良いんだよね?』

『そうだと思います』

『聞きたいんだけど、時空管理局っていったい何?』

 なのはにも時空管理局という名前から、先程のジュエルシードの回収の時の会話から、大体の事は想像出来る。
 だが、知っている人間に、直接聞いた方が早いだろう。

『時空管理局とは、今回みたいに、それぞれの世界に干渉し合うような出来事を管理しているんです。
 ここは管理外世界で、基本的に不干渉なはずです。
 ですが、ジュエルシードのように、他の世界にまで影響がある物の反応があったから、調査に来たんだと思います。
 さっき、ハラオウン艦長が、ロストロギアの事を聞きたいと言っていました。
 彼らもまだ、ジュエルシードがいったいどういう物なのか、知らないみたいですね』

『ふぅん……』

 なのはは顔には出さないものの、納得したような、納得していないような微妙な返答を返す。
 ある程度まで歩くと、クロノが立ち止まり、なのは達に振り向いた。

「ああ、いつまでもその格好というのも、窮屈でしょう?
 バリアジャケットとデバイスは、解除しても平気ですよ」

「……そうだね。それじゃあ……」

 平気なのはそっちだけだ、となのはは心の中で突っ込む。
 だいたい、人にはそう言っておいて、自分は解除しようとしないのは、いったいどういう事なのか。
 なのはは、レイジングハートだけを待機状態に戻して首に掛ける。

「? バリアジャケットは解除しないんですか?」

「中は寝巻きを着ていたからね、あまり見せたくないの」

「そうですか……」

 クロノはそうなのかと頷く。
 未だに警戒されていることに気付いていないのか、それともその表情は演戯か。
 クロノはユーノの方を向いて、言葉を続ける。

「君も、元の姿に戻っても良いんじゃないか?」

「ああ。そう言えばそうですね」

 ユーノが自分の事を思い出す。

「もうずっとこの姿でいたから、元に戻るのを忘れていました」

「そう言えば、変身魔法でフェレットの姿してるだけで、元々人間だったね」

「ええ。あの世界は僕と体質が合わなかったので、魔力の節約の為にこの姿をしていたんですが……」

 なのはも、言われなければ忘れてしまう程に、ユーノはずっとフェレットのままだった。
 クッキーばかり食べていたから、太っていないか心配である。

「ここなら魔力が削られることも無いでしょうから、今戻りますね」

 ユーノの身体が光を帯び、目を開けていられない程の光が辺りに広がる。
 とっさになのはは、光で目を焼かれないように、瞼を閉じた。
 光が収まったことを瞼の裏で認識すると、ゆっくりと目を開ける。
 そこには、金の髪を持ち、どこかの民族風の衣装を着た少年が立っていた。

「はぁ……。久しぶりに戻ると、視点が高くなって良いですね」

 ユーノは軽く身体を動かして、人の姿を堪能している。

「ね、ねえ……?」

 なのはがユーノを指さしながら、恐る恐る聞く。

「き、君って……子供だったの?」

「あれ? 言っていませんでしたか?」

 ユーノがなのはの問いに、首を傾げる。

「聞いてないよ。変身魔法でフェレットになっているのは聞いたけど……」

「ん~?」

 ユーノがこめかみに指を当てて考え込む。
 年齢のことなど気にしていなかったからか、ユーノはそのことは言っていなかったと思い出す。

「すいません。言ってませんでしたね。僕は9歳です」

「9歳!?」

 なのはが驚く。
 それで開いた口が塞がらなくなっていると、横からクロノが声を掛けて来た。

「あの、ちょっといいですか?」

「え、何?」

 なのははクロノがこの場に居た事を思い出す。

「あなた達の事情は良く知りませんが、艦長を待たせているので、出来れば早めに話を聞きたいんですけど……」

「あ、ごめん」

「すいません」

 なのはとユーノは謝る。

「では、こちらへ」

 クロノは再び歩き出す。

「この話は後にしようか」

「そうですね」

 なのはとユーノは、それで意見が一致した。
 そのまま付いていくとクロノは、ある所まで来ると立ち止まった。
 すると、壁と思われる程に、周りとの違和感が無かったドアが左右に開く。

「艦長、来てもらいました」

「……は?」

 なのはの目の前には、こんな船の中にはとても似合わない、和風の部屋がそこに広がっていた。
 壁には盆栽が並べられ、茶道の道具が置かれ、更には意味も無い鹿威しまであった。
 その中央に、モニター越しに見た女性が正座して座っていた。
 その女性がにこやかに笑う。

「お疲れ様。まあお二人とも、どうぞどうぞ。楽にして下さい」

「……はあ……」

 なのはは部屋のインパクトに負けて、呆けた状態でそのまま素直に頷いた。





あとがき

次回! 次回こそ始まりますから!
すいません、中々話が進まない物で。
キリよく終わらせようとすると、ここで切る事になったんです。
続きは今日中に書きますから、見捨てないでください。

初っ端からなのはさんが、リンディさんにイニシアチブを取られました。
ですが、次回なんとかすると思います。
……書けると良いな。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>ただそんな簡単に知らない人にホィホィついてっちゃっていいんだろうか・・・?

めちゃめちゃ警戒しています。

>このなのはさんとリンディの会談はもちろん紅茶でしょうね?
ブランデーを入れるか、ジャムがついてくるかの違いで。

そんなことしたら、ブランデーに紅茶入れる事になるじゃないですか。

>既婚で子持ちの美少女戦麗舞パンシャーヌ(27)よりも年上ではないか……

27歳なんてまだまだじゃないですか。

>なのはさん娘を傷物にされたんだからもっと怒らなきゃ!!

だからまだ娘じゃないと(ry
警戒具合からして、静かに怒ってるんじゃないですか?

>なにこのババア二人の会話。
何故か萌えるんだけど

ありがとうございます。
こういうお世辞とか苦手なんですよね。

リンディ「あなた、ちょっと表に出なさい」

>なのはさんのことだから砂糖とミルクじゃなくてお酒入れそうだね。
むしろ酒要求しそう。
>日本酒に緑茶は似合うよね。後は・・・わかるよな?

そんなことしたら、酒に緑茶入れる事になるじゃないですか。

>ようやくリンディさんと対面か永かったな・・・
2次SSでのお約束?の身分証明の不備は兎も角、主婦の井戸端会話inアースラが楽しみww

上手く書けるか分かりません。

>執務官なんだから身分を証明するための何かしらを当然もっててもいいような気もします

持っているでしょうけど、それを見せてもなのはさんは信用しないでしょう。
どっちでも良いんです。
この場合は、ユーノが遠目からでも確認出来る、制服で納得しただけですから。




[10864] 第三十七話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/26 15:38



「なるほど、そうですか。
 あのロストロギア、ジュエルシードを発掘したのは、あなただったんですね」

 ユーノの話を聞き終えたリンディは、クロノがお茶菓子として出した羊羹を切り分けながら言った。
 ユーノは俯きながら続きを言う。

「それで、僕が回収しようと……」

「立派だわ……」

「だけど、同時に無謀でもある」

 リンディがユーノの行為を、感心した声を出す。
 しかし、クロノは逆に険しい顔で警告する。

「あ……」

 ユーノは項垂れる。
 なのははそれを見て、リンディに話しかける。

「あの、ハラオウン艦長」

「リンディで構いませんよ。ハラオウンだと、クロノと同じですから」

「ではリンディ艦長。そういう注意は私が既にしました。
 この子も既に、その事は十分反省していますし、これ以上責めるのは止めて頂けませんか?」

「あら、ごめんなさい。
 責めてなんていなかったんですけど、クロノの言い方がきつかったかしら?」

 なのははユーノに目を向ける。

「この子がいなければ、私達の世界は既にありませんでした。
 現に私も、ジュエルシードの被害で、大切な物を失いました。
 それはとても悲しいことです。
 ジュエルシードがこの世界に落ちなければ、こんな事にはならなかったでしょう。
 ですが、彼が居てくれた事で、それだけの被害で済んだのも事実です」

 なのはの言葉に、リンディが眉をひそめる。

「……あの、言いたくない事でしたら構いませんが、貴女が失くされた物とは?」

 なのはは目を閉じ、亡くなってしまった彼らの事を想った。

「……お店です。私が開いた……小さなお店です」

「そう……ですか……。もしかして、そのバリアジャケットは……」

「私のお店の制服です」

 その言葉に、リンディが顔を顰める。

「……ごめんなさいね。
 私達の動きが遅かったせいで、貴女の大切な物を壊してしまった。
 それに、貴女達の事情も考慮せず、その子の行為を、無謀の一言で切り捨ててしまって」

「いいえ。言ったのは僕です。すいませんでした」

 リンディが頭を下げ、それに追従する形で、クロノが横で頭を下げる。
 それを見てなのはは、この人達は信用しても良いのかもしれないと考えた。
 なのはは小さく首を振る。

「……良いんです、もう。お店はまた、建て直せば済む話ですから」

 なのははユーノの頭に手を乗せる。

「それに、この子が私と出会ってからは、ずっと私が封印作業を行って来ました。
 出来る限り無茶はさせないよう、私が守って来ました。
 ですから、この子をあまり責めないでやって下さい」

 リンディは頷く。

「分かりました。ではその話は、これで終いということで。
 ジュエルシードの話に戻りましょうか」

「そうですね」

 なのはも頷く。
 それでリンディは言葉を続けた。

「貴女達が探しているジュエルシードは、彼の話とこちらの調査の結果、次元干渉型のエネルギー結晶体と判明しました。
 幾つか集めて特定の方法で起動させれば、空間内に次元震を引き起こし、最悪の場合次元断層さえ巻き起こす危険物です」

 クロノが後に続き、言葉を繋げる。

「こちらで、昨日の夜頃に起きた震動と爆発、あれが次元震です」

 なのはは昨日、フェイトが封印に失敗した時の事を思い出した。
 激しい衝撃が走り、フェイトは吹き飛ばされてビルの外壁に叩きつけられた。
 その上、レイジングハートのような不思議な金属で出来ている、デバイスのバルディッシュがボロボロになった。
 持って見れば分かるのだが、デバイスはかなり固い金属で出来ている。
 だというのに、それが一瞬でボロボロになってしまったのだ。
 ジュエルシードがどれほどの物か、なのはは改めて恐ろしさを再確認した。

「たった一つのジュエルシードで、全威力の何万分の一でも、あれだけの影響力があるんです。
 複数個集まって動かした時の影響は、計り知れません」

「聞いた事があります。旧暦の462年、次元断層が起こった時の事を……」

 ユーノがその言葉を、己の知識と照らし合わせる。

「ああ。あれは酷い物だった」

「隣接する並行世界が幾つも崩壊した、歴史に残る悲劇……」

 クロノとリンディは目を伏せる。
 そしてリンディは、砂糖壺から角砂糖を一つ、スプーンで掬う。

「繰り返しちゃいけないわ……」

「え゛……?」

 リンディはそれを緑茶の中にポチャンと入れる。

「あの……何してるんです?」

 なのはは思わず尋ねた。

「え? 砂糖を入れているんですけど?」

 リンディは、何故問われたのか分からないと、不思議な顔をする。

「普通、緑茶に砂糖は入れないんですよ?」

「あら、そうなんですか? こんなにも美味しいのに……」

 リンディは更にもう一つ砂糖を入れ、それを飲む。
 その姿に、なのはは絶句した。
 有り得ないものを見る目でリンディを見て、これが異世界人の味覚なのかとなのはは疑う。
 そういえば、ユーノもずっとクッキーを食べていた。
 もしかして、なのははまだ飲んでいないが、なのはの目の前に置かれたお茶にも、既に砂糖が入っているのかもしれない。
 飲むのは止めよう、そうなのはは思った。
 本当に異世界人の味覚はおかしいのか、となのはが思い始めた時、目の端にクロノの姿が映った。

「……クロノ君は、砂糖、入れないの?」

「……僕は甘いモノが苦手です」

 この人と一緒にしないでくれ、と目でなのはに懇願するクロノ。
 その言葉と様子になのはは、やっぱりリンディが変わっているだけなのだと理解した。
 あと少しクロノに好感を持った。
 しかし、外国でも緑茶に砂糖や蜂蜜を入れる事があると、なのはは聞いたことがある。
 そう考えれば、リンディの行為も、あまり目くじら立てるものでもないだろうと、なのはは自らに言い聞かせた。
 リンディはお茶を飲み干すと、音も立てずに湯飲みを置いた。

「これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については、時空管理局が全権を持ちます」

「え?」

 ユーノが驚きの声を上げる。

「あなた達は今回の事は忘れて、それぞれの世界へ戻って、元通りに暮らして構いません」

「ですが……」

 ユーノが反論しようとする。
 クロノはそれにきっぱりと断りを入れる。

「次元干渉に関わる事件だ。民間人に介入してもらうレベルじゃない」

「う……」

 ユーノはそう言われれば、何も言い返せなかった。
 その姿を見かねたのか、リンディが助け舟を出す。

「まあ、急に言われても、気持ちの整理が付かないでしょう。
 今夜一晩、ゆっくり考えて、二人で話し合って、それから改めてお話をしましょう」

 クロノが立ち上がる。

「送って行きましょう。元の場所で構いませんね?」

「……はい」

 なのははそう言った。
 ユーノは何も言わなかった。




 クロノによって、元の海鳴臨海公園にまで、二人は転送された。
 なのはは其処で、ふぅ、と大きく息を吐いた。

「緊張したねぇ」

「……そうですね」

 ユーノが暗い顔で返す。
 これ以上関わるなと言われたことがショックだったのだろう。
 責任感の強いユーノからすれば、それはとてもつらいに違いない。

「……そういえば、ユーノ君って、九歳だったんだよね」

「え? ええ、はい」

「私驚いたよ。年下だとは思っていたけど、子供だとは思わなかった」

「もしかして、怒ってたりしてます?」

 ユーノはなのはが怒っている所を間近で見たので、少し顔を青ざめさせる。
 しかし、なのはは首を振る。

「ううん。そんなに小さかったとは思ってなかったから、驚いただけだよ」

「すいません」

「謝るのはこっちだよ」

 なのははユーノにごめんね、と頭を下げる。 

「ユーノ君、発掘の指揮を執っていたって言っていたから、もうとっくに大人なんだと思ってた。
 だからお酒一緒に飲もうかって言ったんだけど。
 そうだよね、九歳じゃほとんどお酒なんて飲めないよね」

「いえ、言わなかった僕が悪いんです。
 それに、一族の中では、もう大人として扱われていますから。
 僕は大人として扱って欲しかっただけなのかもしれません」

 ユーノは首を振ってなのはの言葉を否定する。
 しかし、なのはもまた、ユーノを窘める言葉を発する。

「駄目だよ、ユーノ君。
 身体が成長しきる前に、お酒飲んだりしたら、身体を壊しちゃうよ。
 そういう事は、大きくなるまで待たなきゃ」

「すいません」

 ユーノも頭を下げる。
 そして、互いに頭を下げ合っている状況に、互いが同時気付く。
 二人共がクスリと笑みを浮かべた。

「……帰ろっか?」

「そうですね」

 ユーノは頷くと、再びフェレットの姿になる。
 そしてなのはの腕を伝って、肩の上にまで昇る。

「しばらくは、またこの姿でいようと思います。
 こちらの方が、便利ですから」

「分かった。話の続きは、晩御飯を食べてから。それから、ゆっくり考えようか」

 そしてなのははユーノを肩に乗せて、家に向けて歩き出した。











「おねーさーん、今からわたしとお茶しなーい? 代金はおねーさん持ちやけどな!」

「それ、新しい言い回しだね? どこで覚えて来たの?」

「漫画のやつをちょっと改変してな。でもわたしにはシブタクほどのウケは狙えんな」

「そう……」

「で、どうする?」

「乗るよ。私が淹れればタダだしね」








あとがき

疲れた。
リンディとの会話はこれが精いっぱいです。
もっとドロドロの腹黒い話を読みたかった人はごめんなさい。
なにか気になる人がいても、最後でそんな気になることを吹き飛ばしてくれたら。
そんなことを彼女に期待している私です。




気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>事情を知る高町家にとっていい酒の肴が増えたw

酒の肴は増えますが、なのはさんしか酒を飲まないんですよね。

>9歳児の美少年を酒のために誘惑したとか、お姉ちゃんとお兄ちゃんに知られたらいじり倒されるぞw

ユーノは自分のプライドの為に、その事は墓の中まで持って行く所存です。

>それと、こちらのなのはさんは家飲み派でしょうか?
よそで飲んでいる描写がいっさい無いので・・・。

一緒に飲みに行く相手がいないだけです。
すずかやアリサの家にはバーカウンターくらいありそうですし。




[10864] 第三十八話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/26 23:02



「凄いやぁ、この二人!」

 なのはとフェイトが戦っている映像を見ながら、一人の女性が歓喜の声を上げる。

「こっちの小さい子、AAAクラスはあるよ!」

 金の光が飛び交い、時折僅かに桜色の光が混じり合う光景は、見ている方からすれば綺麗なのだろう。

「エイミィ、遊ぶな」

「遊んでないって。クロノ君は厳しいなぁ」

 傍にいたクロノが、楽しげな声を上げていたエイミィを窘める。

「この黒い服の子の魔力の平均値は143万で、クロノ君より多いね。
 しかも、最大発揮値はその3倍以上だなんて」

「エイミィ。それより、そっちのエプロンを付けた女性の方は、いったいどれくらいなんだ?」

 クロノはなのはの映像を見て、険しい顔をする。
 映像の中のなのはは、右手に構えたデバイスから弾を発射し、大樹に貫通させていた。
 エイミィはなのはの映像を見て、眉をひそめる。

「それがさぁ……」

「なんだ?」

「良く分かんないんだよね、この人の魔力量」

「……どういう事だ?」

 一瞬言われた事が分からなかったのか、クロノが聞き返す。
 その眉間には、皺が寄っていた。

「この人、クロノ君の攻撃をプロテクションで受け止めた時の分しか、計測出来なかったんだよね」

「そんなバカな。現に、この時に魔法を撃っているじゃないか」

 クロノが画面のなのはを指さす。
 エイミィも頷く。

「そうなんだけどねぇ。
 プロテクションを使った時の平均魔力量は、少なく見積もっても400万はあるんだけどね。
 こっちの射撃魔法? の時は魔力が多すぎて、人間用じゃ計りきれないんだよ。
 ちゃんと知りたいなら、それなりの研究施設とかで調べないと無理じゃないかな?
 本当、不思議だね。
 どうしてこんなになるまで、大丈夫だったんだろう?」

「どれ程の魔力を秘めているというんだ、あの人は……」

 クロノが頭を抱える。
 魔力は多ければ多い程良い。
 それが普通の見解だ。
 実際、クロノは魔力が少なくて、それこそ血の滲む努力を重ねて今のランクまで上がったのだ。
 だが、魔力が多すぎれば、それは毒となる。
 発散されない魔力が身体に溜まり続ければ、それは身体に悪影響を及ぼすのだ。
 魔力の多すぎる世界に住む物は、総じて大きな身体を持つものだ。
 例えば、アルザスの竜。
 彼らは長い間、高濃度の魔力にさらされ続け、それに耐えうる身体を持つために、あれ程の強靭な肉体を得た。
 だが、なのはは違う。
 ほっそりとした身体で、どちらかと言えば小柄と言っても良い。
 なのに、竜に匹敵する程の魔力を持っているという。
 それほどの魔力を持っていれば、何処かに弊害が生じるはずだ。
 けれど、クロノが見た限り、どこにもそんなそぶりは無かった。
 エイミィが二人を眺めながら、クロノにからかうように声を掛ける。

「二人ともクロノ君より、魔力だけなら上回っちゃってるね」

「魔法は魔力値の大きさだけじゃない。
 状況に合わせた応用力と、的確に使用出来る判断力が必要なんだ」

「それは勿論、信頼してるよ。
 なんてったって、アースラの切り札だからね、クロノ君は」

「分かっているならいい」

「でも、このエプロンの人に本気で守りに入られたら、クロノ君、どうにか出来る?」

「……やって見なけりゃ、分からないさ……」

 クロノがそう呟いた時、後ろでドアが開く音がする。
 クロノとエイミィの二人が振り返ると、其処にはリンディが立っていた。

「何を見てるの?」

「先程の戦闘データです」

「ああ、あの二人のやつ」

 エイミィの答えに、リンディが納得する。
 エイミィの後ろにリンディが立ち、その映像を眺める。
 知らず、リンディはエイミィの座っている椅子を握り締めていた。

「……確かに、凄いわ。二人とも」

「これだけの魔力が、ロストロギアに注ぎ込まれれば、次元震が起きるのも頷ける。
 唯一の救いは、注ぎ込まれた魔力が、この黒衣の魔導師の分だけということか」

「そうね。この人の魔力まで注ぎ込まれていたら、今頃どうなっていた事やら……」

 リンディはその事態を想像し、鳥肌が立つのを感じる。

「あの人のジュエルシードを探す理由は分かったけど、この子が探す理由は何でなのかしらね」

 リンディがフェイトに視線を向ける。

「随分と必死な様子だった。何か余程強い目的があるのか……」

 クロノは顎に手を当て、思案する。

「目的ねぇ……」

 リンディが呟く。

「まだこんなに小さな子なのに。
 普通に育っていれば、まだ母親に甘えていたい年頃でしょうに」

 眉をひそめ、リンディも黙り込む。
 エイミィはそれを聞いて、暗くなった空気を吹き飛ばそうと、明るい声を出す。

「で、でも、こっちのこの人は民間人なんだし、私達と敵対することは無いから良いんじゃない?
 ほら、もしかしたら、こっちに協力してくれるかもしれないし……」

 エイミィが振り向き、クロノ達の苦笑いを見ようとする。
 だが最後まで言葉は続かなかった。
 クロノとリンディの二人は、エイミィの言葉を聞いても、暗い顔をしていたからだ。

「ど、どうしたの?」

「……エイミィ。この人はまだ、僕達と敵対しないとは限らないんだよ……」

「え? ええ? ど、どういう事?」

 頭にはてなを浮かべるエイミィ。
 リンディがその理由を述べる。

「彼女は、私達が出したお茶にも、お茶菓子にも一切手を付けなかった。
 まだ私達のこと、警戒しているのよ」

「それだけじゃない」

「ほ、他にもあるの?」

 エイミィが恐る恐る聞く。

「彼女たちと会っていないエイミィには、分からないかもしれないけどね。
 彼女と、彼女と一緒に居た、ジュエルシードを発掘した少年。
 僕達が現れてから、一度も互いの名前を口にしなかった。
 勿論、名乗ってもいない。
 少年の方は発掘をしていたというから、おそらくはスクライアの一族だろう。
 でも彼はこちらを信じている節があった。
 だから、名前を呼ばないように指図したのは、こちらの方だろう」

 クロノはなのはを見上げる。

「今は良いけど、もし意見が別れたら、敵に回るかもしれない」

「おまけに、これだけの魔力。
 もしかしたら彼女は、一人ででも戻れる自信があったから、わざわざアースラにやって来たのかしら?」

「そ、そんな……」

 エイミィの顔が青ざめる。
 先程まで凄いとベタ褒めしていた相手が敵に回るかもしれない。
 おまけに切り札であるクロノは、やって見なければ分からないと、多少弱気だ。
 エイミィのその様子を見て、クロノは苦笑する。

「そこまで深く考えなくても良い。
 これはあくまで、可能性なんだから。
 それに、まだ敵対すると決まった訳でもない」

 その言葉に、リンディも頷く。

「そうね。まだそう決まった訳でもないのに、そうだと決めつけるのは良くないわ。
 そうやって早合点して、逆に敵を増やす羽目になるかもしれないんだから。
 けれど、調査は慎重にね?」

「は、はい。分かりました」

 エイミィはデスクに向き直り、キーに指を走らせ始めた。






 その頃

「ねえ、八神さん。今日緑茶に砂糖を入れる人に出会ったんだけど、どう思う?」

「は? ありえへんわ。その人舌イカれてるんちゃう?」

「だよね。……よし、決めた」

「ん? 店長、どうかしたん?」

「その人の味覚、もしかしたら私が治せるかなって」

「へぇ……。そんなん出来るか分からんけど、頑張ってな」

「うん」

 そんな感じの一時でした。







あとがき

なのはを強くし過ぎた気がするけど、寧ろこれじゃ足りない気もする。
いったいどうしたらいいんだ。

さて、クロノが登場してから、なのはさん達が念話以外で、名前を呼んでいないことに気付かなかった人はいるでしょうか?
いたのなら、嬉しい限りです。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>ユーノが9歳だと知ったら客引きフェレットは廃業ですね。労基法違反になってしまう。

お手伝いなら……お手伝いならなんとかなる……!

>シブタクってまさか某死神ノートのあいつか?
 このあと八神さんは交通事故にでも遭うんだろうか…

あいつです。でもノートは無いので事故には会いません。

>八神…………夜神!?
ダメーーーーーーはやてさん子供にDQNネームつけちゃダメーーーーーーーー!!!!!!!

やべ、そのこと思いつかなかった。
そういえば読み方一緒ですね。

>せめて「砂糖にお茶を入れる」リンディさんが見たかった……ッ!!

クロノが自重させたんじゃないですか?

>失ったものって正しくはお店<お酒ですよね?
ああ、本音と建前ですねわかります
>ちょっと待て!言葉が足りないぞ!
「お店です。私が開いた、小さなお店です」とあるが真実は
「お店(にあったお酒)です。私が開いた、小さなお店(に置いてあった大量のお酒)です。」
じゃないのか!?

嘘は言っていません。
なのはさんは十分店のことも悲しんでいますから。
建前ってのは人間関係を円滑にするために必要なものですから。

>綺麗なお姉さんを軟派してこそ関西人や!!(間違った関東人の思いこみ)

私もなんかそんなイメージ持ってます。

>酒とフェイトの笑顔を力に変えてプレシアを跪かせるなのはさん
アリシアに拘り続けるプレシアに一括した後
「そんなお寝坊さんは気付けの一杯で目を覚まさせるの!」と
アリシアの口に一升瓶を突っ込んで治療魔法をかけるなのはさんを
妄想した(いかん、疲れが貯まっているようだ…)

今までのシリアス台無しじゃないですか。




[10864] 第三十九話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/27 09:32



「く……うぅっ……」

 ソファに身体を預け、フェイトが苦悶の声を漏らす。
 身体にはいたるところに包帯が巻かれており、その様はとても痛々しいものだった。
 アルフがフェイトのその額に浮かんだ球の汗を拭う。

「フェイト、もう駄目だよ……」

 アルフはフェイトの熱を帯びた頬に手を当てる。

「あの高町なのはだけでも手一杯だったのに、時空管理局まで出て来たんじゃ、もうどうにもならないよ」

 アルフは目を伏せる。

「逃げようよ、フェイト。二人でどっかにさ……」

「……それは、駄目だよ……」

 フェイトはゆっくりと首を振る。

「なんでさ!? 雑魚クラスならともかく、あいつ一流の魔導師だ!
 あたし達じゃ、敵わないよ……。
 あの女みたいに、あたし達のこと見逃してくれる訳無い。
 本気で捜査されたら、ここだっていつまでばれずにいられるか……」

「……大丈夫だよ」

「そんなの分かんないよ!
 あの鬼婆……アンタのお母さんだって、訳分かんない事ばっか言うし!
 フェイトに酷い事ばっかするし!」

「……母さんの事、悪く言わないで」

 フェイトはアルフの手に、自分の手を重ねる。
 だがアルフは首を大きく振る。

「そんな事出来ないよ!
 だってあたし、フェイトの事が心配なんだ……」
 
 アルフはフェイトから手を放し、両手を抱えて胸に当てる。

「フェイトが悲しんでいると、あたしの胸も千切れそうに痛いんだ……。
 フェイトが泣いていると、あたしも目と鼻の奥がツンとして、どうしようもなくなるんだ……
 フェイトが泣くのも悲しむのも、そんなのあたし、嫌なんだよ!」

 フェイトはアルフを見つめる。

「……ごめんね、アルフ」

 フェイトは痛む身体を押し上げ、ソファにもたれていた身体を座らせる。

「私とアルフは、少しだけど精神リンクしてるからね。
 ごめんね。アルフが痛いなら、私、もう悲しまないし、泣かないよ」

「違う! そんなの違う!!」

 アルフは涙交じりの声で叫んだ。

「あたしは、ただフェイトに笑って、幸せになって欲しいだけなんだ……。
 なのに、何で?
 何でフェイトは、分かってくれないんだよぅ……」

 床に突っ伏して、アルフは子供のように泣きじゃくる。

「あたしは、そんなフェイトが見たくて契約した訳じゃないのに……。
 そんなフェイトが見たくないから、ずっとそばにいるって契約したのに……!」

「……ありがとう、アルフ……」

 フェイトは手を伸ばし、アルフの頭を撫でる。

「でもね、私は、母さんの願いを叶えてあげたいの。
 母さんのためだけじゃない。
 これはきっと、自分のため……。
 だから、あともう少し。
 最後までもう少しだから、私と一緒に頑張ってくれる?」

「……約束して」

 小さな声でアルフが言う。

「あの人のいいなりじゃなくて、フェイトはフェイトの為に、自分の為だけに頑張るって。
 そうしたら、あたしは必ずフェイトを守るから。
 だから……」

 最後まで言葉は出なかった。
 だがフェイトはそれを察し、小さく、それでいて力強く頷いた。







 その頃。

 なのははレイジングハートを通して、アースラへと連絡を取っていた。

「……ですから、そちらに協力させて頂きたいと……」

『協力……ねぇ……』

 レイジングハートから、クロノの声がする。

「あの子から聞いたんですけど、私みたいに魔力を多く持っているのは珍しいそうですね?
 そして、私には及ばないまでも、あの子達も強力な魔法を使用出来る。
 ですから、そちらは私を上手く使えば、良いのではないですか?
 ジュエルシードの回収、あの子達との戦闘。
 私がいれば、それらがスムーズに進むと思われますけど?」

 なのははアースラに協力することにした。
 何より、内に何か含む物を持っていたとしても、彼らは基本的に善人だと判断したからだ。
 信じても良いとなのはは思った。
 そして何より、味覚矯正をするためには、向こうからも信用してもらわなければならない。
 食べ物なのだから、ちゃんと相手がなのはのことを信頼出来なければ、口に含むことはしてもらえない。

『……うん。中々良い提案ですね』

 リンディがなのはの提案にそう返す。

『母さ……艦長っ!?』

『大丈夫よ、クロノ。こちらとしても、切り札は温存しておきたいものですし……』

「では、私の提案は受け入れてもらえると?」

『そうですねぇ……。貴女の提案自体は嬉しいのですけど……』

 リンディは口篭もる。
 ああ、やっぱりな。
 なのははそう思った。
 やっぱり、なのはの事は警戒されている。
 こちらとしても、最初は信用が出来なかったから、あんな態度を取ったのだ。
 向こうにもそれはお見通し。
 フリだけでもいいから、あの恐ろしさを漂わせる飲み物を飲んでおくべきだった、となのはは思った。
 だがなのはには、切り札がある。
 リンディならば、これを聞けば快く了承してくれるだろう。 

「ところでリンディ艦長?」

『なんでしょうか?』

「私がお店をやっていたことは、覚えてらっしゃいますか?」

『……ええ。確か、ジュエルシードの被害によって、建て直さなければいけなくなった、と』

「そうです」

『それが何か?』

 なのはが何を言いたいのか、リンディはまだ理解出来ていないようだ。
 だがそれでいい。
 この段階で理解されると、インパクトが薄くなるから。

「そのお店、実は喫茶店でしてね。コーヒー以外に、ケーキとかも取り扱っているんですよ」

『っ!?』

「ですから、もしそちらに協力させて頂けるなら、出来たてのケーキを御馳走し――」

『分かりました。認めましょう』

 リンディは即答した。

『ちょ、艦長っ!?』

 横からクロノの焦る声が聞こえる。

『やあねぇ。冗談よ、クロノ』

『冗談に聞こえませんでしたよ……』

 クロノの憔悴した声が聞こえる。

『ですが、協力を認めるのは構いません』

「そうですか。では――」

『しかし、条件があります』

「……条件、とは?」

 なのはの顔が僅かに強張る。

『一つは、貴女の持っている情報を、此方へ渡す事。
 主に、あの黒衣の魔導師について、貴女の知っていることを全て話してもらいます』

「……分かりました」

 やっぱり気付かれていたか、となのはは思った。
 しかし、話すのはやぶさかではない。
 もう信用しても大丈夫だと判断したのだから、話して一緒に対策を考えて貰おうとなのはは考えた。

『それと、もう一つ』

「まだあるんですか?」

 次は何が出て来るか、そう警戒する。
 それを見て、リンディがクスリと笑う。

『名前を教えてください。協力をするのに、いつまでも貴女のままでは、仲良くなれませんから』

 なのははそれを聞いて、自分が名乗っていなかったことを思い出した。
 リンディに続き、クスリと笑う。

「分かりました。お教えします」

 レイジングハートを通して聞いているリンディ達に、なのはは自らの名を名乗った。

「私の名前は――」







あとがき

なのは、リンディを買収するお話。
これで警戒はだいぶ解けたと思います。

なのはさんの魔力についてなんですが、好意的に受け止めて頂けたようで嬉しいです。
もうなのはさんは、お酒があれば魔力量無限大ということで構いませんか?

感想で指摘してくれたマシさん、ありがとうございます。
何度も見なおしたんですけど、どうしても作者だと見落としがある部分が出てきますね。
修正しました。
出来れば、「こいつこんな偉そうなこと言っているくせに、間違ってやんの。ダッサwww」とか言わないで頂けると嬉しいです。

それと今回感想で、レス番号の477が二人いた事に驚きました。
とても仲が良いのですね。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
今回は、過去最長ではないかと思われるほど感想数が多かったので、ここも長くなると思います。

>正直変にアンチ寄りな方向にならなくてホッとしましたw

アンチとか苦手です。
そういうのは読んでてつらいので、良い話を書きたい自分としては、寧ろキャラをより良く書いて話を進めたいものです。

>台湾では普通に緑茶に砂糖を入れます。
正確には砂糖じゃなくてシロップなんですが……

台湾は甘いらしいですね。
私も以前ニュースで、アメリカ辺りで砂糖入りの緑茶を買っている外国人を見た事があります。

>ラストの崩壊していく時の庭園の中にも、「なんや大変そうやなぁ、乗ってくか?」とか言って登場しそう。

さすがにそれはちょっと……。
地続きじゃありませんし、最後は車が走れる路面じゃないでしょうから。

>それにしても更新速度が凄まじい…投稿開始からまだ2週間経ってないのにこの話数ww凄まじく尊敬しますw
>つか……更新早っ ∑(゚Д゚;)
(量的にも質的にも)
>「早い、早すぎるよスレッガーさん!」
カイ・シデンのセリフが脳内で自動再生されるくらい早い更新ですね

ありがとうございます。
夏休みで時間があるからやっているだけなんですけど、気分的にはあの人目指していますので。

>あの行動はこのための伏線(勘違いフラグと味覚矯正フラグ)だったのか!
>これはなのはとアースラ側の駆け引きがどう転ぶか、原作との展開の異なり方が気になりますね。

そこまで深く考えた訳ではないんですよね。
ただクロノが出て来たときに、名乗らずに話を進めて見るか、となんとなく思っただけですから。

>季節の変わり目なので体調に気をつけて怒涛の更新がんばってください(ぇ

ずっと部屋の中ですから、そんなこと関係ありません。

>この場合問題なのは日本かぶれっぽい様子を見せた(過去の地球人が持ち込んだ文化なのか?)
リンディさんが日本人の前で緑茶に砂糖を入れて飲んだということなのでわ?

日本文化に理解を示したはずのリンディさんが、そんなことを知らないとも思えないんですよね。
つまり、それを知っていてなお、砂糖を入れる結論に達したということでは?

>酒=魔力ならこんなもんじゃない。もっといくはずw

エイミィは言ったはずです。「少なくとも」と。

>リンティさんの味覚矯正はミラクルフルーツ渡しとけば円満解決。
・・・とりあえず外見上はw

外見上は……ね。

>リンディさん糖尿にならないか心配です。

御都合主義という便利な言葉があります。

>なん・・だと・・・?
>は? シリアス? そんなものがどこに?
>え?えーと・・・うん!タブンソウダトオモウヨ。

何を言っているんですか。
お暇ならもう一度読み返してみて下さい。
彼女達はいつだってシリアスを続けているじゃないですか。

>ところで、このなのはさんのSLBはアルカンシェルとどちらが強いのでしょうか?

今現在ではアルカンシェルです。
アルカンシェルは空間歪曲と反応消滅で対象を殲滅するものらしいですから、互いに撃ち会ったらアルカンシェルの方が強いです。
ですが、やろうと思えば同じことくらいは出来ます。

>P.S.なのはさんにとって、ウーロンハイや緑茶ハイは邪道ですか?

なのは「それも一つの楽しみ方」

>最近、読んでないと落ち着かない小説が多いなぁ(訳:この小説は大好物なので、つい中毒になっちゃうんだ♪)

ありがとうございます。




[10864] 第四十話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/27 18:45




 エイミィ・リミエッタの高町なのは観察日記。



 一日目。

 今日から、例のあの人が私達の艦で寝泊まりすることになった。
 昨日聞いた通り、名前は高町なのはというらしい。
 クロノ君はまだ警戒してるけど、私は大丈夫だと思うな。
 私も警戒してたけど、住所まで教えてくれたので、これは信用しても良いと思う。
 他の人達とも、自己紹介して仲良く喋ってた。
 高町さんって呼んだら、なのはで良いよって返って来た。
 初めて会ったのに、下の名前で呼んで良いって、優しい人なんだなって思った。
 だから私もエイミィで良いですよって返した。
 そうしたら、エイミィさんって呼ばれた。
 正直、エイミィさんとか言われ慣れてないから、とても気恥かしくて、くすぐったかった。
 だから、呼び捨てで良いって言ったのは間違いじゃないと思う。
 エイミィって呼ばれると、とてもしっくり来たから。
 あとなのはさんは、手作りのクッキーを焼いて来てくれた。
 リンディ艦長が凄く喜んでた。
 全部一人占めしようとしたリンディ艦長を、なのはさんが柔らかく窘めてた。
 ……大人だ。
 私も少し分けて貰った。
 もの凄く美味しかった。
 やっぱり良い人だと思う。

 ……でもなんでなのはさんは、あんなにリュックいっぱいに水筒を詰めてやって来たんだろう?
 中にいったい何が入ってるのかな?



 二日目。

 今日はジュエルシードが発動した。
 なのはさんが一人で出かけて行って、あっさり暴走体を倒して帰って来た。
 鳥に取り憑いていたから、けっこう苦戦するかとも思ったけど、そんな事は無かった。
 確かに初めの一、二分は戸惑っていたけど、直ぐに立てなおしてた。
 空中にバインドを設置して、シューターで自分から其処へ飛びこむように誘導して捕まえた。
 これでシリアルVIIIのジュエルシードをゲットした。
 あの鳥速かったと思うんですけど、なのはさんよく捕まえられましたね。
 帰って来たなのはさんに、そう言った。
 そしたら、なのはさんは動きが遅かったから簡単だったよって言ってた。
 あれで遅いって……いったい普段何と戦ってるんだろう?
 それと、凄いですねって言ったら、私なんかまだまだだよ、って返って来た。
 あれでまだまだってことは、これ以上成長すんの?
 それって、凄くやばいんじゃない?
 あと、そう考えるってことは、なのはさん以上の人がいるってことだよね?
 なのはさんの事が、ますます分からなくなった。

 あと今日は、定番のショートケーキを作ってくれた。
 リンディさんが、自由に厨房を使っていいって許可を出したらしい。
 これも美味しかった。
 リンディさんも至福の表情をしてた。
 厨房で作っているなのはさんを見てたけど、お菓子作っている時の方が楽しそうにしてた。
 あと料理長から、何か細長い瓶を貰って嬉しそうにしてた。



 三日目。

 今日もまた、ジュエルシードが発動した。
 ……なのはさんがお菓子を作っている時に。
 プリンを作る予定だったらしいけど、ジュエルシードが暴走したせいで食べれなかった。
 なのはさんも怒ってた。
 暴走してたあの猿っぽい動物も空気読んでほしかった。
 散々暴れて逃げ回った後、なのはさんに瞬殺された。
 これでシリアルIXの封印が終わった。
 その怒り具合から、怒らせちゃいけないと思った。
 そのことをなのはさんと一緒に居た、ジュエルシードを発掘したユーノ・スクライア君に話してみた。
 でもユーノ君は青い顔をして、なのはさんは本気で怒ったらこんなものじゃないと震えていた。
 いったいどれ程怖いのか、ちょっと興味がある。
 怖いモノ見たさってやつだね、これは。

 終わった後になのはさんと愚痴をこぼしながら、色々と盛り上がった。
 その時に、リンディ艦長のことを聞かれた。
 何か探ってるのかと思った。
 でもお茶にどれくらい砂糖を入れるのかとか、そんな質問だったから答えた。
 そんな事を知っても、何かの脅しのネタになる訳でもないしね。



 四日目。

 やられた!
 ジュエルシードを持ってかれた!
 二日続けて発動したから、流石に三日連続はないと気が抜けていたらしい。
 強制発動させて、急いで封印をしたみたい。
 慌ててこっちが向かった時には、とっくの昔に逃げられてた。
 勿論、ジュエルシードを持って。
 なのはさんは出動の機会が無かったから、厨房でずっとお菓子作ってた。
 私がその事を話すと、なのはさんは会えなかったことに残念な顔をしていた。
 前にも聞いたけど、その子、フェイト・テスタロッサはお母さんに言われて集めているらしい。
 でもどうして集めるのかはわからないんだって。
 其処までしか聞き出せなかったみたい。

 今日のは、甘さ控えめの抹茶ケーキだった。
 なのはさんが、クロノ君でも食べられるようにと作ったらしい。
 クロノ君も最初はケーキだってことで嫌がっていたけど、一口食べたら大人しくなった。
 そのあと黙々と食べてたから、やっぱり美味しかったみたい。
 だけどリンディ艦長は、ちょっと不満そうだった。
 いつもより多く砂糖をお茶に入れてたから。



 五日目。

 今日はお仕事で忙しいからなのはさんの観察は無理だった。
 なのはさんが言っていた、フェイト・テスタロッサについて調べていたから。
 クロノ君が言うには、かつての大魔導師と同じファミリーネームなんだって。
 その人は、だいぶ前にミッドチルダの中央都市で、魔法実験の最中に次元干渉事故を起こして追放されたみたい。
 何か関係がありそうだし、その事もちょっと調べてみないと。

 今日は作るところは見れなかったけど、ティラミスをなのはさんは持って来た。
 エスプレッソの香りが良い感じ。
 ケーキは甘いのに、少し苦みがあって大人の味がした。
 クロノ君も食べてた。
 リンディ艦長はお茶に砂糖を入れてた。
 別に苦い食べ物が駄目とかいう、子供みたいな味覚じゃないのに、どうして入れるんだろう?
 こうして見てるとリンディ艦長の方が、観察していて何か新しい発見をしそうだ。
 そろそろ体重計に乗るのが怖い。



 六日目。

 今日、ジュエルシードが発動した。
 また前と同じ鳥型。
 なのはさんは前のでコツを掴んだのか、封印には苦労してなかった。
 というより、虚を突いて封印したと言っても良い。
 なにしろ、転移して空中に出された後、地面に降り立つまでに捕縛、封印とやってのけたから。
 鳥型の暴走体は、なのはさんを認識する間も無かったんじゃないかな。
 ともかく、これで三つめ。
 シリアルXIIの封印が終わった。

 あ、今日はフルーツが多めに乗ったタルトだった。
 さっぱりしていて、やっぱり美味しい。
 なのはさんはニコニコとしていたけど、少し溜息を吐いているのを見かけた。
 それが少し気になった。



 七日目。

 読み返してみると、何か別のことも結構書いてるな、私。
 クロノ君とかリンディ艦長とか、そっちの事とお菓子の事ばっかりだ。
 別に悪い人じゃないって分かったし、もう書く必要もないんだけど、面白いから続けよ。
 だから今日は、本来のなのはさん観察日記に戻ろう。
 とりあえずは、なのはさんに密着取材でもすることにする。
 といっても、なのはさんは普段はほとんど厨房に居るから、そこに座って眺めることしかやる事が無い。
 だから、なのはさんに頼んで一緒にお菓子を作らせてもらった。
 なのはさんは快く了承してくれた。
 っていうか、一人で全部作るのはちょっとつらかったみたい。
 私が手伝うって言ったら、凄く喜んでくれたし。
 で、手伝ってみた。
 料理は結構得意なつもりだったけど、お菓子となると難しい。
 ちゃんと配分を決めて、きっちり作るのは結構神経を使う。
 家庭料理とはまた違った出来あがりだった。

 出来あがったシフォンケーキを、二人で一足先に食べてみた。
 自分で作ったこともあって、とても美味しかった。
 その時、なのはさんがまた溜息を吐いたので、どうかしたのか聞いてみた。
 すると、驚くべき答えが返って来た。
 なんとなのはさんは、リンディ艦長に緑茶に砂糖を入れるのを、止めさせようとしていたらしい。
 確かに、あの量は異常だと思うけど。
 でもリンディ艦長は、これが正しい飲み方なのよって言ってたんだけど。
 それを聞いてみたら、そんな事は無いらしい。
 少なからずそういう飲み物はあるけど、基本的に緑茶はそのままで飲むのだそうだ。
 リンディ艦長はさも当然のように入れていて、その文化を知らなかった私達は、それを正しいと思ってたみたいだ。
 なのはさんは、お茶にあんなに砂糖を入れたら、砂糖の味しかしなくなると言っていた。
 確かにそう思う。
 私も最初、言われるがままに同じだけ入れて飲んだから、その気持ちは良く分かる。
 入れるのは構わないけど、限度を考えるべきとなのはさんは主張していた。
 頑張って欲しいな。
 クロノ君とか、見ているだけでつらそうだし。
 なにより、砂糖の消費量が馬鹿にならないから。



 八日目。

 また持ってかれた。
 かなり高性能なジャマー結界を張っているみたいで、気付いた時には遅かった。
 おかげで捕捉したジュエルシードを横取りされた。
 問題はフェイトちゃんじゃなくて、そのサポートをしているアルフって狼の使い魔の方が厄介だ。

 そのことをなのはさんに報告に行くと、また会えなかったと沈んでいた。
 なのはさんはリンディ艦長のこともそうだけど、あのフェイトちゃんと仲良くなりたいだけらしい。
 何でも、昔の自分に似ているからだそうだ。
 昔のなのはさんがどんなだったのかは、ちょっと話して貰えなかったけど、きっと優しい子だったんだろうなって思った。

 あと色々と悩んでいるみたいだ。
 
 どうしたら砂糖を入れるのを止めるのか、色々試しているみたいだけど、それが実を結んではいないみたい。
 そう考えると、私達は実験台ということになるのかな?
 ……美味しいからいいけど。
 なのはさんはどうしたらいいのかな? って私に聞いて来た。
 どんな物を作れば、リンディ艦長がお茶に砂糖を入れるのを止めるのだろうか?
 でもそんな事私が分かる訳も無いし、適当に発想を逆転させてみたらどうですか? って言ってみた。
 すると、何かに気付いたのか、なのはさんはまた厨房に入っていった。

 あと少しお酒の匂いがした。
 行き詰ってヤケ酒でもしてたのかもしれない。



 九日目。

 いつもの時間になっても、なのはさんがお菓子を届けに来ない。
 その事で、皆が少しピリピリしてる。
 そもそも、アースラにはお菓子職人がいない。
 料理人はいるけれど、お菓子を専門に作る人はいないのだ。
 なにより、お菓子職人の管理局員がいない。
 だから、食べたい場合は料理長に頼むか、自分で作るしかない。
 それか、長持ちするものを航行前に買いだめしておくくらいだ。
 なにしろ次元航行艦船だ。
 時には戦闘も行うからか、わざわざ乗りたいと思う人は少ない。
 けれど、最近はずっと出来たてのお菓子を食べる事が出来た。
 短い期間だけれど、私達はそれの虜になってしまったらしい。
 艦長程ではないとはいえ、私達はみんな甘いモノが大好きなのだ。
 つまり、いきなりそれが途切れれば、心配になるのも仕方がない。

 なのはさんの事が心配になったので、厨房まで行ってみると、そこには惨状が広がっていた。
 辺り一面に甘い匂いが立ち込めて、クロノ君だったら立ってられないくらいの強い匂いだった。
 その中心でなのはさんが、レイジングハートを握り締めて、何かをずっと掻き混ぜてた。
 鬼気迫る物を感じて、ちょっと怖かった。
 恐る恐るなのはさんに尋ねると、良いアイディアが浮かんだから、ずっと試作を繰り返し作り続けているらしい。
 そして、その甘い匂いに惹かれたのか、いつまでたっても来ないからか、リンディ艦長が自ら来た。
 その艦長に、なのはさんはこれでも舐めてて下さい、って言って角砂糖を一袋渡していた。
 リンディ艦長は泣いていた。



 十日目。

 その日、アースラが震撼した。




「か、母さんが……」




 クロノ君は信じられない目で、リンディ艦長の姿を見ていた。




「砂糖を入れずに、お茶を飲んでいるだと……!?」









あとがき

止めときゃよかった。
凄くめんどくさい回だった。
エイミィの餌付け日記みたいになったけど気にしない。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>「わたしの名前は八神なのは(仮)」です
>だめだ名前を言ったら「友人帳」に載せられてしまうww
(いや別に「瓢箪の中」でも構わないとは思いますが)
>名前で引っ張られるとどうしても偽名名乗ってるイメージがwww

ただ普通に高町なのはですといっても収まりが悪い気がしたので、そうしただけです。

>そういえば、序盤に活躍した美由紀さんがいない…

結界内に魔力を持たない人間は入れませんから。

>なのはさん!お店再建したらオリジナルブレンド呑ませて!

お店まで来てくれたら大丈夫です。

>…やっぱ無理かな

地球上なら何とか出来たと思うんですけどね。

>それにしても八神タクシィのタイミングが絶妙すぎる。ま、まさか・・・
既に闇の書の主として覚醒してて全てまるっとお見通しですかHAYATEさん!

覚醒しているなら守護騎士が出て来ているはずです。



[10864] 第四十一話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/28 14:21



「馬鹿な……!」

 クロノはその光景に目を見開く。
 なぜなら、リンディが先ほどから、砂糖壺に手を伸ばそうとしないのだ。
 なのはが持って来たお茶を、何も加えずそのまま飲んでいる。

「いったい……何が起きたんだ……」

 そのクロノを見て、リンディの横に立っていたなのはが、計画通り、とニヤリと笑った。
 そしてなのはは何も言わず、厨房に歩いて行った。
 後には、何が起きたのか分かっていないクロノ達ブリッジクルーと、静かにお茶を啜っているリンディだけが残された。

「か、艦長……?」

 エイミィが恐る恐るリンディに尋ねる。
 目を瞑って味を楽しんでいたリンディが目を開ける。

「あら? どうかしたのかしら? エイミィ」

「いや……その……砂糖は、入れないんですか?」

「あら、どうして?」

 リンディがエイミィを見て、何故かと問い返す。



「こんなに美味しいのに、どうして砂糖なんか入れなければいけないの?」



 リンディのその言葉に、アースラの全クルーが絶叫した。






「なのはさんなのはさんなのはさ~ん!!」

 エイミィが仕事を放り出して、厨房に向かって爆走する。
 厨房に辿り着いてもう一度呼びかける。
 なのははその声を聞きつけて、厨房から顔を出した。

「エイミィじゃない。どうかしたの?」

「どうかしたのじゃないですよ! 何なんですか、アレ!? あのリンディ艦長、もの凄く気持ち悪かったんですよ!」

「……エイミィ、何気に酷いこと言うね」

 なのはがエイミィの言葉に苦笑いをする。

「エイミィにも言ったでしょ? リンディ艦長に、お茶に砂糖を入れるのを止めさせるって」

「え? あの話本当だったんですか!?」

 話半分に聞いていたエイミィが驚く。
 なのはは満足げに頷く。

「そうだよ。私の思ったとおり、リンディ艦長は入れるのを止めたね」

「ど、どうやって……?」

「僕もそれは聞きたいな」

 後ろから高い声が聞こえてくる。
 エイミィが振り向くと、そこにはクロノが立っていた。

「クロノ君? どうしたの?」

「エイミィと一緒だよ。あんな物を見せられて、気にならない方がおかしい」

「そうだよね。あんな事前代未聞だもんね」

 エイミィは頷く。
 そして振り向いてなのはに問い詰める。

「それで、なのはさん?」

「分かったよ。ちょっと待ってて」

 なのははそう言うと、厨房に入って行った。
 そして、一切れのケーキを持って戻って来た。

「これだね」

「……これが?」

 エイミィがケーキを眺めるが、見た目は普通のショートケーキでしかない。
 なのはが来てから二日目に作ってくれた、あのケーキと同じに見える。
 これのどこが、リンディの行為を止めさせる事に繋がるのだろうか。

「どういう事なんですか?」

「食べてみれば分かるよ」

「じゃ、じゃあ……」

 エイミィがなのはから渡されたフォークで、ケーキを一口大に切り分ける。
 ケーキの柔らかさが違ったりとか、実はケーキの形をした別物だとか、そんな事もないようだ。
 フォークで持ち上げ、匂いを嗅いでみるものの、甘い匂いが鼻につくだけだ。
 恐る恐る口に近付けていく。
 そして口に入れるとき、なのはが言葉を付け足した。

「でもちょっと気を付けてね」

「え……?」

 エイミィの指がピタッと止まる。
 なのはのその言葉で、エイミィの額から僅かに汗が垂れる。
 どうしよう、とエイミィの指が震える。
 リンディが何故あんな事になったのか知りたい。
 だけど、なのはが言った、気を付けろ、という言葉が凄く気掛かりだ。
 知りたい。
 でも知るのが怖い。
 そんな思いがエイミィの指を彷徨わせる。
 そしてエイミィの指と視線が、ある一点で止まる。

「えいっ!」

「なっ!? エイミ……もぐぉっ!?」

 近くに居たクロノの口に、エイミィはケーキを放り込んだ。
 エイミィがフォークをクロノの口に入れたままなので、クロノは吐き出す事も出来ず、それを味わうことになった。
 そして、クロノはなす術も無く、そのケーキを飲みこみ、音も無く沈んだ。

「ちょ、クロノ君っ!? ま、まさかなのはさん、貴女もしかしてクロノ君に毒をっ!?」

「いやいや、何を言っているのエイミィ。クロノ君に食べさせたのはエイミィでしょ?」

 なのはが手を横に振って否定する。

「気を付けてねとは言ったけど、まさか甘い物が苦手なクロノ君に、それを食べさせるとは思わなかったよ」

「へ?」

 エイミィはなのはの持っているケーキを見る。

「それじゃあ、これって……」

「ただのケーキだよ。普通よりかなり甘くしてあるけどね」

「そんな……じゃあどうしてクロノ君は倒れたりなんか……」

「食べてみれば分かるよ」

 そういってなのはは、ズイッとケーキをエイミィの前に差し出す。
 恐る恐るケーキをもう一度フォークで切り取り、持ち上げる。
 今度は食べてくれる人はいないし、エイミィは覚悟を決めて口に含んだ。

「……」

「どうかな?」

「……甘ぁぁいっ!!」

 エイミィはそのケーキが持つ、あまりの甘さに悶絶する。
 覚悟はしていたが、それを裏切る程に、予想の斜め上を行った。
 クロノが倒れるのが理解出来る程に、そのケーキは甘かった。

「何これっ!? スポンジもクリームも果物も全部甘いよ!?」

 どれもこれもが甘すぎる。
 特に果物なんかは、見た目は普通で触感も普通なのに、ジャムを更に煮詰めたように甘いのだ。
 いったいどうすればこんなものが出来上がるのか。

「リンディ艦長は美味しい美味しいって言って食べてたよ。ワンホール」

「嘘っ!?」

 一口でこれなのに、それをホールケーキで食べたというのか、あの人は。

「で、でもこれで、どうしてリンディ艦長が、お茶に砂糖を入れなくなったんですか?」

 確かにこれは殺人的な程に甘い。
 だがそれだけだ。
 クロノは倒れたが、それは甘いものが苦手で、耐性が無いからだ。
 覚悟をしていれば、食べられないことは無いと思った。
 流石にホールでは無理だが。

「そこからなんだよね。ちょっと待っててくれる?」

「あ、はい」

「ついでにコーヒー淹れて来るから、その間にクロノ君起こしておいて」

「分かりました」

 なのはは厨房に消えた。
 エイミィはクロノを揺すり起こす。

「ううっ……酷い目にあった……」

「ご、ごめんね、クロノ君」

「まったくだよ。もうこんな事は無しにしてもらいたいね」

「うん。ごめん……」

「だいたい君は――」

 エイミィがひたすら謝っていると、なのはが急須と湯呑みとコーヒーをお盆に載せて戻って来た。

「お待たせ。はい、クロノ君」

「ありがとうございます」

 なのははクロノにコーヒーを手渡す。
 クロノはそれを受け取ると、口の中を洗い流すように、コーヒーをグイッと口に含んだ。
 火傷しないかとエイミィは心配したが、それは無いようだ。
 クロノはふぅ……、と大きく息を吐いた。

「何とか収まった。でも、まだ口の中が甘い……」

「すぐ取れるよ……多分ね」

 なのはが自身なさげにそう言って、クロノを慰める。
 クロノの様子を見て、大丈夫だと判断したなのはは、湯呑みを持つ。

「さて、最初から行こうか」

「お願いします」

 エイミィが姿勢を正して、なのはの言葉を拝聴する。
 なのはは頷き、話し始めた。

「まず、私はリンディ艦長の、砂糖の量の異常さが気になった。
 別に入れるのは構わないんだよ?
 人の好みはそれぞれだから。
 けど、あれじゃ砂糖の味しかしないからね。
 だから、砂糖を入れないでお茶を飲ませようと思ったんだ」

「それは聞きました」

「僕は初めて聞いたな」

 クロノはそう言った。

「エイミィには何度か一緒に話す機会があったからね。
 ……続けるよ。
 だから、まずはいろんな人と仲良くなって、リンディ艦長のことを聞いた。
 特に料理長とは仲良くなってね、秘蔵のお酒を分けてもらったりしたし。
 それで、リンディ艦長がどれだけ入れるのかを確認した」

 いろいろと歩き回って、自己紹介していたのはそのためだったのかとエイミィは気付いた。
 あちこちにお菓子を配っていたのは、情報を引き出すためだったのだと。

「そうしたら、結構入れてるのが分かって、改めて驚いたよ。
 だからね、甘いものばかり食べてても駄目だから、お菓子の甘さを控えてみたんだよ」

「抹茶ケーキとかティラミスですね?」

「うん。あとフルーツ多めのタルトで、さっぱりとしたお菓子の美味しさとかを教えて、砂糖を入れるのを制限しようかと思ったんだ。
 でも逆効果だったみたいで、もっと砂糖入れるようになったんだよね。
 だから、もう一度よく調べてみたんだ。
 そしたら、お菓子と一緒にお茶を飲むときは、砂糖はだいたい二杯。
 お茶だけのときは、砂糖は三杯から四杯にミルクも混ぜる。
 そういう事に気付いた。
 だから、無意識に砂糖の量を調節しているんじゃないかな?」

「そんな法則が……!?」

 エイミィ驚愕の新事実である。

「だからどうしようかと悩んでいたんだけど、エイミィが言った発想の逆転が目から鱗だった。
 逆の事を考えて、ついでにどうしてそんな事をしようと思ったのかも思い出した。
 ありがとうね、エイミィ」

「はぁ……」

 エイミィが呆けた声で、返す。
 適当に言った事で感謝されても、あまり実感など湧かないものだ。

「で、逆転の発想で辿り着いたお菓子が、それだという事ですか?」

 クロノがケーキを指差す。
 なのははそれに頷いた。

「うん。今までとは逆に、これでもかというくらいに甘くしてみた。
 私が思いつく限りの方法で、甘さを濃縮したケーキがそれだよ」

 なのはは急須からお茶を注ぐ。
 そしてそれに、リンディさんが入れていたように砂糖を二杯、三杯と入れる。

「な、なのはさん?」

 エイミィがその行為に眉をひそめる。
 なのははその湯呑みをエイミィの方に差し出す。

「エイミィ、ちょっとこれ、飲んでみて」

「ええっ!?」

「さっきのケーキ程じゃないから、多分大丈夫だよ」

「じゃ、じゃあ……」

 エイミィはそれを受け取り、僅かに口に含む。

「やっぱり甘い。っていうか、これだけ入れたら、砂糖の味しか分からないじゃないですか」

 やっぱりリンディの味覚は異常だと判断した。
 なのははそれを見て、

「じゃあ、ケーキを食べてみて?」

「え? またですか!?」

「必要なことなんだよ」

「エイミィ、さっき僕にかなり多く食べさせたよな?」

「……分かりました」

 クロノの追い打ちに、エイミィはちょこっとだけ、ケーキを食べた。

「うげ……やっぱ甘い」

 エイミィは舌を出してもう無理と全身で表わす。

「それじゃ、もう一度このさっき飲んだお茶を飲んでみようか?」

「え~?」

 もう嫌だったが、湯呑みを手に持たされて、期待の目を向けられては、エイミィも飲まずにはいられない。
 それを口に含むと、さっきとは違った衝撃が、エイミィを襲う。

「うわっ、何これ!? さっき飲んだのと全然違う、っていうか渋い!」

 湯呑みをマジマジと見ながら、エイミィが言った。
 特に何かした訳ではないのに、先ほどよりもよっぽどお茶の苦みや渋みが増している。
 いったいこれはどういうことか。

「さっきのケーキのせいで、エイミィの味覚が麻痺してるんだよ。
 だから砂糖の甘さは感じなくなったけど、それ以外がきついぐらいに感じられるんだよね」

「だから母さ……艦長は、砂糖入りを飲まなくなったと?」

 クロノの言葉になのはは頷く。

「ただの味覚の麻痺だから、一時的なものだけどね。
 でもその間は、砂糖入りは飲めない。
 そして、その間に、お茶の良さを教える。
 私がありとあらゆる方法で甘くしたケーキに敵う甘さは無い。
 だからリンディ艦長は、砂糖を入れなくても感じる、お茶に含まれる仄かな甘みを逃すことはしない。
 そのためにアレックスさんに頼んで、甘みを感じるお茶を買いに行ったんだから」

 なのはは懐から、玉露と書かれた袋を取り出した。
 これがそのお茶らしい。

「でもどうして、なのはさんはそこまでするんですか?」

 エイミィが尋ねる。
 なのはは頬を軽く掻きながら苦笑して、エイミィの問いに答えた。

「私は一度決めたことは、出来る限り妥協しないことにしてるんだ。
 それに、そもそも私が砂糖を入れずにお茶を飲ませようとしたのは、身体を気遣ったとかじゃないんだよね、実は。
 ただ私は、砂糖なんかに頼らなくても、お茶にはお茶の自然な甘さがある、ってことを気付かせたかっただけなんだ」

「そうだったんですか……」

 エイミィは感心する。
 そのためだけにあちこちを回って、さらにはお茶の買い出しまで、自分で買いに行った。
 それは素直に尊敬出来ることだと思う。
 なのはは目を光らせる。

「昨日一日使って、舌触りとかに違和感を感じさせないように研究したから、これからしばらくはリンディ艦長の分だけ激甘になるよ。
 でも、何日か続けて、徐々に甘さを減らしていけば大丈夫。
 そのころにはリンディ艦長も、普通のお茶を飲むようになってるはずだから」

「は、はは……頑張ってください」

 なのはの先を見据えた熱意の籠もった発言に、エイミィは頑張れとしか言えなくなった。
 これなら誰も損をしないから、大丈夫だろうと思ったのだ。

「良かったらお手伝いしますから」

「ありがとう。何かあったらお願いするね」

「はい」





 こうして、アースラを震撼させた事件は終わった






あとがき

長かった。
もっとあっさり終わらせる予定だったのに……。
今回のお話、予想された人の中に正解がいて驚きました。

実は今回の話、元ネタがあります。
真・中華一番という漫画がそうなんですが。
この漫画の中で、カニ料理で対決する話があったんですよ。
味方は旨そうなコロッケを作ったんですけど、敵は普通のかに玉とスープでした。
それなのに、敵の方が勝っちゃったんですよね。
この話はとても記憶に残ってまして、それから今回の話となりました。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>PT事件が終わる頃には、アースラの皆さん(リンディさんを除く)は確実に体重が増えているんでしょうね。
ジュエルシード横取りされていったのも、案外なのはスイーツに気をとられていたから。とかなんとかでしょうか。

案外そうかもしれません。

>あと、リンディさん、クッキー独り占めとか自重しろw

美味しい甘味に飢えていたんじゃないですか?

>次回、「アースラの奇跡」解決編に乞うご期待!!

こんな感じになりました。

>多分、このエイミィの観察日記は後にプロジェクトX的な番組の資料になるんでしょうね

おそらくレティとかによって作られると思います。

>で、なのはさんが持ち込んだ水筒の中身はお酒でFA?
でも酒瓶ごと持ち込んだってよかったと思うんですが……

酒瓶は重いんですよ。
なのはさんの非力な力じゃ多く持ち込めません。

>…はっ!もしかしたらミッドの酒を大量にお持ち帰りなのか?!

水筒は再利用できるからいいですよね。

>そのお茶はきっと水やお湯ではなく、シロップで淹れられているんだよ。

もしそんな設定で書かれていたら、絶対怒ります。
今までの展開全部無視してますからね。

>なのはさんの酒成分が足りない!こんなの俺のなのはさんじゃない!

書けばいいじゃないか。
あなたのなのはさんを。

>書き方が悪かったこともあるでしょうが、もしご気分を害されたようでしたら謝罪させて頂きます。
申し訳ありませんでした。

いえ、そんな深く考えずとも……
むしろネタフリというか……。
こちらこそすいませんでした。

>マイマイ

マイマイ氏が読んでくれてる……だと……?
奇縁譚三次のあなたの作品はいつも楽しみに読ませていただいてます。



[10864] 第四十二話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/28 14:22




 フェイトは海を見据えながら、静かに佇んでいた。
 隣にはアルフが控えている。
 そのアルフは感覚を研ぎ澄ませ、ジュエルシードの気配を探る。

「フェイト、駄目だ。空振りみたいだ」

 だが気配は感じ取れず、アルフは首を振る。
 フェイトはそれを聞いて目を細める。

「そう……」

「やっぱり、向こうに見つからないように、隠れて探すのは中々難しいよ」

「うん。でももう少し、頑張ろう」

 アルフの言葉にも、フェイトは挫けない。

「あとは、この海だけ……」

 目の前に広がる、青く深い海をぼんやりと眺めながら、フェイトはポツリと呟いた。

「必ず見つけて見せる。残りの六つを……」









「残り六つ……見当たらないわねぇ……」

 リンディがモニターに表示された、海鳴周辺の地図を見ながら言った。
 ユーノの証言では、ジュエルシードは海鳴の街に散らばったという。
 だが数が合わないことから、周辺の市内も捜索してみた。
 結果は空振り。
 何も見つからなかった。
 捜索した範囲は塗りつぶされており、海鳴の周辺だけ真っ赤になっている。
 それを見ながら、クロノがリンディに言った。

「捜索範囲を、地上以外にも広げてみます。
 海が近いので、もしかするとその中かも……。
 例のフェイト・テスタロッサと合わせて、エイミィが捜索してくれています」

「そう……わかった」

 リンディはなのはの入れたお茶を飲みながら、静かにそう答えた。
 なのははリンディを見つめながら、そのお茶について尋ねる。

「リンディ艦長。今日のお茶はどうです?」

「美味しいわ。
 お茶がこんなに奥が深いモノだったなんて……。
 なのはさんが私の為に作ってくれた特製のケーキも凄く美味しい。
 なのはさんには、ジュエルシードの事を抜きにしても、うちで働いて欲しいわね」

 リンディはお茶を口に含み、舌の上で転がすようにしてその味を味わう。
 なのはは顔に出さないように、心の中でほくそ笑んだ。

「それも良いかもしれませんね」

「そう? それじゃあ――」

「でもそういう訳には行きません。私にも海鳴での生活がありますから」

「……残念だわ」

 心の底から、本当に残念だ、とリンディが呟く。

「まあまあ、幾らかのレシピは、エイミィや料理長に教えてありますから。
 その中には日本の料理もありますし、しばらくは楽しめると思いますよ」

「そうかしら? でもなのはさんの技術には敵わない気がするわ」

「御自分の船のクルーを信じてあげないでどうするんですか。
 信頼すればこの人達は皆、リンディ艦長に応えてくれますよ」

 リンディがなのはに依存しかかっているのを、なのはは優しく突き離す。
 その時、周辺を調べていたエイミィの声がブリッジに響いた。

「海上に巨大魔法陣の存在を感知! モニターに映します!」

 エイミィが察知した魔法陣が、モニターに映される。
 そのあまりの大きさに、ブリッジのあちらこちらから驚愕の声が生まれる。
 だがしかし、なのはの目には魔法陣ではなく、その中心にいる一人の少女の姿が目に入った。

「フェイトちゃんっ!?」

 空中に浮かぶ舞台で、黒衣を纏った少女が舞っていた。








「アルカス クルタス エイギアス」


 バルディッシュを構え、フェイトは呪文を詠唱する。


「煌めきたる天神よ 今導きの下降り来たれ」 


 大規模な儀式魔法による、ジュエルシードの強制発動。


「バルエル ザルエル ブラウゼル」


 海に沈んだジュエルシードを見つけるには、もうこれしか無かった。
 フェイトの呼び掛けに従い、雷雲が辺りに立ち込める。
 魔法陣の周囲に雷が降り注ぐ。
 離れて見ていたアルフがフェイトを見つめる。

「海に電気の魔力流を流し込んで、強制発動させる。
 フェイトのそのプランは間違ってない。
 でも、無理だ。
 全てのジュエルシードを叩き起こすために、これだけの魔力を使ったんだ。
 その全てを封印なんて出来る訳が無い!
 絶対に、フェイトの限界を超える。
 だから……!」

 アルフはフェイトにその真意を隠す。
 何よりもフェイトを助けたいがために。

「誰が来ようが、何が起きようが、あたしが絶対守ってやる!
 だけど、フェイトが倒れたら……。
 その時は、あたしがフェイトを連れて逃げる。
 ジュエルシードなんてどうでもいい。
 あの鬼婆もどうでもいい。
 こんな世界なんて、知ったことか!
 ……だから、フェイト。
 あたしが必ず、助けるからね……」

 狂信にも似た思いで、アルフはフェイトを見つめる。
 そんなアルフの思いなど露知らず、フェイトは詠唱を続ける。


「撃つは雷 響くは豪雷 アルカス クルタス エイギアス」

 
 フェイトの頭上に、魔力で出来た巨大な球体が生まれる。
 そしてその中心に、眼が開く。
 連鎖するように、フェイトの周りに眼が幾つも発生し、それぞれが雷で繋がる。

「はああああっ!!」

 フェイトが斧を構え、大きく振りかぶって魔法陣の中心に突進する。
 斧が魔法陣に突き刺さり、魔法が完成する。
 轟音が響き渡り、海が泡立つ。
 そして、海中から発生した、六つの青い光が天へと迸る。
 フェイトは息を切らしながらも、その光を睨みつける。

「はあっ……はあっ……見つけた、残り六つ!」

 そしてフェイトは、強風が吹き荒れる海の上を、風に逆らいながら立つ。

「アルフ、空間結界とサポートお願い」

「ああ、任せといて!」

 アルフが了承すると、フェイトはバルディッシュを構える。

「行くよ、バルディッシュ」

『Yes sir』

 今やただの青い光ではなく、水を巻き込んだ竜巻へと成長したジュエルシードに向かって、フェイトは飛んだ。





あとがき

ひさびさのフェイト登場かな?
なのはは順調に調きょ……味覚矯正を進めているみたいです。

ハゲネさん、誤字の報告ありがとうございます。
修正しときます。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>中華一番キターーーーー。
アレっすよね、スープが超濃縮カニスープだったってヤツ。

それです。
あんなので負けた味方が哀れでなりませんでした。

>このなのはさんのことだから、お酒入りのケーキやブランデー垂らした紅茶といった「砂糖の代わりにお酒使った」系の方法を取ったのかと予想していたのですが、そっちだったか!

一応皆仕事中ですから。
なのはさんも仕事の時は飲んでいませんし。
そこらへんはプロ意識の問題ですね。

>あの作品で一番旨そうなのはビックバンシューマイ。異論は認める。

塩釜の鳥料理が旨そうだったのを覚えてます。
烏骨鶏料理とか……鳥ばっかだな。

>なるほど、船の中ですしねwww

そういえばそうでしたね。
単純に思い付いたネタなのに、何故か符号が一致するんですよね。
何故だろう。

>流星炒飯(コメットチャーハン)まーだ?

さすがに投石機で飛ばす必要性が感じられないので出て来ません。
中華一番は炒飯多いですよね。
あんかけ炒飯や梅干し入り炒飯など。
最後は万里の長城で炒飯作ってましたからね。





[10864] 第四十三話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/28 18:44



「何とも呆れた無茶をする子だわ!」

「ええ、無謀ですね。このままでは間違いなく自滅します」

 リンディがフェイトの行った凶行に目を見開き、クロノはそれに同意する。

「あれは、個人の出せる魔力の限界を超えている」

「フェイトちゃん……」

 なのはが見つめる先には、フェイトが息を切らしながら、竜巻に向かっていく姿があった。
 自らが放った魔法によって雷を帯びた竜巻に、フェイトは翻弄され続けている。

「私、行きます」

「その必要はありません」

 なのはの言葉を、クロノが却下する。

「何故っ!?」

「放っておけば、彼女は自滅しますから。
 仮に自滅しなかったとしても、力を使い果たした所で叩けば良いだけです」

「そんなっ!?」

「今の内に捕獲の準備を」

「はい」

 クロノがクルーに向けて指示を出す。
 その様子になのはが絶句していると、リンディが口を出す。

「なのはさん。
 私達は、常に最善の選択をしないといけません。
 残酷に見えるかもしれないけれど……これが現実です」

「……違う」

 なのははそれを否定する。

「そんなの違うっ!」

「なのはさん……」

 後ろで控えていたユーノが思わず声を漏らす。

「あの子は疲れ切っている。
 私の知っているフェイトちゃんなら、こんなに手こずる筈がない」

 なのははモニターの向こうのフェイトを見つめる。
 なのはが出会った頃のフェイトとは、スピードや技のキレが、一目で分かる程に落ちている。

「未だにあの子は、一つもジュエルシードを封印出来ていない。
 このままでは、あの子が自滅するまで待っていては、次元震が起きることも予想されます」

「それは……」

 リンディはなのはの言葉に押し黙る。

「だからリンディ艦長。
 優先されるべきなのは、あの子の捕獲よりジュエルシードの封印です。
 そしてこの場合の最善は、私が現場に行って封印を施すことです」

 リンディは僅かに考え込むが、静かに首を振る。

「……駄目です。
 確かに貴女の言う通りですが、まだその時ではありません。
 私は艦長として、局員を可能な限り、危険にさらす訳にはいきません。
 なのはさん、幾ら貴女が力を持っていたとしても、認める事は出来ません。
 これは規則です。
 貴女も今は臨時局員として、私の管轄下にあるんですから」

「……そうですか」

 なのはは落ち込んだ声を出す。

「では勝手に行きます」

「は?」

 なのはの足元に、翠色の魔法陣が浮かび上がる。

「これは……転移魔法陣っ!?」

 リンディが驚く中、なのはは平静な顔で後ろを振り返る。

「ユーノ君か。私の考えてる事、良く分かったね?」

 そのなのはの言葉に、ユーノはにっこりと笑う。

「なのはさんが何を考えているかなんて、直ぐに分かりますよ。
 何だかんだ言って、もう結構長い付き合いですから。
 なのはさん、本当は時空管理局の事も、ジュエルシードの事もどうでも良いんでしょう?」 

「……うん、そうだよ」

 なのはは、ユーノが指摘した事に、何の気負いも衒いもなく答える。

「私は、私の周りに居る人達と、いつまでも一緒に笑い合っていたいから。
 だから、その為にはジュエルシードが邪魔なだけなんだよ」

 なのはが平穏を噛み締め、幸せを感じる一時を味わう為には、この地球が無くてはならない。
 そしてなのはの幸せを、ジュエルシードのような石コロなんかに潰されたくは無い。
 だからなのはは集めていただけ。
 誰かがそれをやってくれているなら、なのははそんな事も知らず、家でのんびりと酒を飲んでいただろう。
 だが知ってしまったのだ。
 そしてなのはは、それに対処する力を偶々持っていただけ。
 子供みたいな英雄願望なんて無い。
 何が何でも、自分がやらなきゃいけないんだ。
 そんな事、なのはは思っていない。
 時空管理局が現れた時点で、なのはは手を引いても良かった。
 専門にしている人達がいるなら、自分がその仕事を奪うことに抵抗もあった。
 だからジュエルシードなんて、もうどうでもよかった。
 しかし、なのははここに居る。
 その理由はフェイトだ。
 あの寂しい目をした少女。
 昔の自分と、同じ目をした少女。
 彼女と話をしたい。
 そう思った。
 だから、

「時空管理局も、その規則もどうでもいい。
 私はただ、フェイトちゃんとお話したいから、仲良くなりたいからここにいるんだ。
 だから、フェイトちゃんを助けに行く事を邪魔されるなら、直ぐにでもこんな組織抜けるよ」

「やっぱり、そうなんですか」

 ユーノは自分の考えが当たっていた事に、納得のいった顔をする。

「でも良いの? フェイトちゃんと話したいのは、私の我が儘。ユーノ君とは関係ないのに」

 ユーノはなのはの言葉に頷く。

「確かに、関係は無いかもしれません。
 だけど僕は、なのはさんの力になりたい。
 なのはさんは、困っていた僕を助けてくれました。
 だから、なのはさんが困っている時は、僕もなのはさんを助けたい」

「ユーノ君……」

 ユーノはなのはを見ながら、ある言葉を言った。

「『困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるのなら、その時は迷っちゃいけない』」

「それは……」

 なのはが目を見開いて驚いているのを、ユーノはしてやったりと笑った。

「それを教えてくれたのは、なのはさん達ですよ」

「……ありがとう、ユーノ君」

 なのははユーノに感謝の言葉を告げる。
 そしてなのはは、リンディへ向き直った。

「それではリンディ艦長。
 これより私は、時空管理局の臨時局員ではなく、海鳴市に住むただの現地協力者です。
 私に魔法を教えてくれたユーノ君は、ジュエルシードを見つけたら即座に封印しろ、と言っていました。
 そして、今私はジュエルシードを発見しました。
 ですから、ユーノ君の探しているジュエルシードを封印に行くので、邪魔をしないで下さい」

 リンディは立ち上がり、声を張り上げる。

「ま、待ちなさい! そんな屁理屈が通るとでも――」

「ああ、そうでした」

 なのはは思い出したかのように声を上げる。

「私はいなくなるので、もう特製ケーキは食べられないと思って下さいね?
 あれのレシピは、私しか知りませんから」

 リンディが絶望的な表情を浮かべる。
 なのははそれを後目に見ながら、転移魔法は発動した。
 そしてアルフが張った結界の中へと、なのはは転移するのだった。





あとがき

ユーノの影が薄いと言われたので、見せ場を作ってみた。
というより、原作の見せ場を取る事は、あまりしたくないですから。
私の文章力だと、複数の人間を一度に出せないので、大体はその場にいるはずです。
多く登場させても、合いの手を入れるだけになるんですよね。
もっと上手くなりたいものです。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>別次元に行ったらアリサやすずか経由でのお酒が手に入らなくなるかもしれないもんね。

その通りです。

>さて、そろそろシリアス全開ですね。お酒はしばらくお預けかな?
それともフェイト助けに行ってかけつけ一杯?

分かりません。

>ここまで調きょ、じゃなかった開は、でもなかった啓蒙されたリンディさんが桃子さんのケーキを口にしたりしたらどうなるんでしょう?
口から砲撃魔法をぶっ放す程度で済めばよいのですが

なのはさんが翠屋二号店の看板を背負えているのは、桃子さんから自分と同じレベルに達したとお墨付きをもらっているからです。
なのでそんなことにはなりません。
寧ろ好みが分かっている分、なのはの方がリンディにとって美味しいお菓子を作る事が出来ます。

>ところで、最近ユーノ君の姿が見えないのですが、彼は今どこで何をしているのですか?
個人的には次回フェイトさん@封印中に助力に行く際のイベントが、彼の無印最大の見せ場だったと思うのですが

忘れてたので書いて見ました。
リンディさんがOKを出すと見せ場が無くなるんでこうなっちゃいましたけど。




[10864] 第四十四話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/29 10:32




「いくよ、レイジングハート」

『All right.Stand by ready.Set up』

 空高くから落下しているなのはは、首に掛かったレイジングハートに話しかける。
 レイジングハートはそれに応え、桜色の光がなのはを包みこむ。
 一瞬の後、なのはの姿は翠屋の制服へと変わった。
 なのはは飛行魔法を使い、それ以上の落下を防ぐ。
 暴風が吹き荒れる中、フェイトの姿を探そうとしたとき、上空からなのはに向けて飛びかかろうとする影があった。

「フェイトの邪魔を……するなあああっ!!」

 その声を発したアルフが、なのはに食らいつこうとする。
 しかし、顔を上げたなのはは、掲げたレイジングハートからプロテクションを作り出す。
 プロテクションに弾かれたものの、アルフは空中で体勢を整え、再びなのはに向けて飛びかかる。
 なのはがバインドでアルフを抑えようとするが、その前に翠色のシールドによって、アルフの突進は止められる。
 それを為したのはユーノだった。

「ユーノ君っ!?」

「こちらは任せて、なのはさんはあの子を!」

 追いついたユーノが、アルフを惹きつける。

「分かった!」

 なのはは頷き、フェイトに向かって飛ぶ。

「待ちなっ! フェイトの邪魔はさせるもんかっ!」

「そうはさせない!」

 ユーノからなのはに攻撃目標をかえようとするアルフを、ユーノ目の前で遮り抑える。

「話を聞いてくれ! 僕達は、君達と闘いに来たんじゃない!」

「なんだって!?」

「まずはジュエルシードを停止させないと、まずい事になる」

 ユーノは飛び上がり、印を組んでチェーンバインドを発動させる。

「だから今は、封印のサポートを!」

「あ……」

 ユーノが構築した魔法陣から六つの鎖が生まれる。
 鎖は竜巻を拘束するために伸び、竜巻を絞めつける。
 そして海の荒れを僅かに抑えた。

「くっ……!」

 しかし長くは続かず、暴れる竜巻に鎖が解かれかける。
 そのとき、橙色の鎖が横から伸び、竜巻に更に巻き付く。

「アルフっ!」

「勘違いすんなっ! あたしはフェイトを助ける為にやってるだけだ!」

 ユーノの歓喜の声を、アルフはお前の為じゃないと切って捨てる。
 アルフの助力によって、竜巻の荒れは弱まった。
 そのおかげで、なのはは海上に留まっているフェイトの元へと直行することが出来た。

「フェイトちゃんっ!」

「……貴女は……」

 フェイトは目を見開いている。

「ごめんね、今日はお話している時間は無いの。
 手伝って。
 まずは一緒に、ジュエルシードを止めよう」

 なのははレイジングハートを掲げる。
 すると、レイジングハートから桜色の光の帯が伸び、フェイトのバルディッシュに注ぎ込まれる。
 フェイトの驚く声がする。

「これは……」

『Power charge』

 バルディッシュは弱々しかった鎌を再び再構築する。

『Supply complete!』

 レイジングハートは魔力の供給を完了したことを、自慢げに宣言する。
 なのはは戸惑いの表情を浮かべるフェイトに声を掛ける。

「フェイトちゃん、二人で半分ずつ、きっちり分けよう。
 ユーノ君とアルフさんが抑えているから、今の内に」

「……」

「私はあの竜巻を吹き飛ばすから、フェイトちゃんは封印をお願い。
 終わったら、またお話しようね」

 なのははフェイトの言葉は聞かず、その場を離れた。
 聞かなくても分かると言いたげに。
 なのはは、青い雷が襲って来るのを、華麗に避けていく。
 そして全ての竜巻が、視界に入る程度の距離まで辿り着く。 

『Sealing form, setup』

「バルディッシュ……?」

 フェイトが命令していないにも関わらず、バルディッシュはシーリングフォームを取った。
 斧が槍のような形状へと変化する。
 フェイトはなのはを見る。
 離れてはいたが、フェイトの視線に応えるかのように、なのはは軽くウィンクした。
 それを見て、フェイトはバルディッシュを握り締めると、横に離れたなのはとは異なり、上空へと昇った。




 離れた位置に移動したなのはは、レイジングハートを構える。
 なのはは右手に持つレイジングハートに語り掛ける。

「久々のトルネードバスター、行けるね?」

『All right.Shooting Mode』

 なのはの露出していた肘までを、デバイスの機構が取り囲んでいく。
 籠手のように、鎧のように身体を保護する。
 なのははレイジングハートを構えたまま、エプロンから小さな水筒を取り出す。
 左手だけで器用に蓋を開けると、中に入っている酒を一口含む。
 刺されたような痛みと、焼けるような強烈な熱さが、なのはの舌を刺激する。
 しかし、それが通り過ぎると、舌に甘みが広がる。
 なのはは水筒をエプロンに戻して、大きく息を吐く。

「ふぅっ……。レイジングハート、それなりのパワーで行くよ。壊れないでね」

『No problem』

 レイジングハートは、なのはの心配に大丈夫だと宝玉を煌めかせる。

『Count five』

 レイジングハートがカウントを始める。
 なのはは全身が熱くなるのを感じた。

『four』

 身体の中で、グルグルと酒が回っているのを感じる。
 レイジングハートの先端に、桜色の光が灯る。

『Three』

 身体の中で暴れ回っている酒の熱は、全身を巡り、胸のある一点で止まる。
 レイジングハートに灯る光は、更に大きくなる。

『two』

 胸のある一点に留まった熱は、更に更にグルグルと回転数を高めていく。
 そこは確か、ユーノの説明によれば、リンカーコアのある位置だっただろうか?
 なのはから流れ出る光が溢れ、レイジングハートに灯る光が、なのはの身体よりも大きくなる。

『one』

 それまで大きくなっていた光は膨張を止め、一瞬にして拳大にまで集束し、先端に絡みつく。
 四つの先端が回転して、その光をグルグルと掻き混ぜる。
 なのはは左手をレイジングハートに添え、両手でしっかりと握り締める。

『Count zero』

 カウントがゼロになる。

「――撃って、レイジングハート!」

『Tornado Buster』

 砲門から放たれた桜色の光の竜巻はは、ジュエルシードが生み出した竜巻など屁とも思わない、螺旋を描きながら直進する。
 横からの砲撃を受けた竜巻は、光と水を撒き散らしながら、あっさりと消し飛ばされる。
 そして、中心にあったジュエルシードが露出する。
 それを見たなのはは、上空で準備をしているフェイトに呼び掛けた。

「フェイトちゃんっ!」





「見つけた、残り六つのジュエルシード!」

 フェイトは上空からなのはの砲撃を見ていた。
 あの威力には戦慄させられたが、今はそんなことを考えている時ではない。

「行くよ、バルディッシュ」

『Yes sir』

 フェイトは足元に魔法陣を展開する。
 四枚の光の翼を広げたバルディッシュを掲げ、軽やかに舞う。

「サンダァァァ――」

 呪文を唱え、バルディッシュを振りかぶる。

「レイジーッ!!」

『Thunder Rage』

 フェイトがバルディッシュで、魔法陣の中央を突き刺す事で魔法は完成する。
 ジュエルシードのみを標的とした雷は、一直線にジュエルシードへと向かい、直撃した。
 なのはの砲撃で疲弊したジュエルシードは、フェイトの雷にとどめを刺され、あっけなく沈黙した。



 こうして、ジュエルシードの封印は全て完了した。




あとがき

海上決戦終わりです。
今回なのはに隠されたレアスキルが登場しました。
皆さまから見たら、今さらだろうとは思いますけど。


そういえばもう感想数が500、PVも十六万超えたんですよね。
こんなの初めてです。
超えたときに言おう言おうと思ってたんですけど、毎回それを言うのをうっかり忘れてまして。
すいませんでした。
これからも、よろしければお付き合い下さい。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>さてリンディ艦長。絶望の表情の理由を指定語句をつかって25字以内で説明していただこうか?
指定語句→特製ケーキ

リンディ「だ、だってなのはさんが特製ケーキ作ってくれないから」(25文字)

>いくらリンディさんだってケーキのために違反はしない……ヨ?

わかりませんよ?
なにしろ特製ですから。

>依存症こわい

駄目、ゼッタイ。

>ここら辺から、管理局ヘイトやリンディヘイトに繋げる作品を多く見てきましたが、この作品がそうならない事を祈っています。

ヘイトは嫌いです。
アンチはそれなりの筋が通っていればいいですけど、苦手なのは変わりません。

>勢いのある作品なんで、完結したときにでも、本板へ移動して欲しいですね~。

完結したら移動しようと思います。
いつになるかは分かりませんけど。

>それはそれとして、なのはさんの言動が私のソレと微妙に被るので、なんとなく、その他の登場人物たちから責められているような気分になります……。

普段からお酒大好きだと言っていると?

>きっとリンディさんのNANOHA様勧誘方法は数多の次元世界からかき集めたお酒…?

なのはさんはまだ、お酒が大好きだと知られていないんですよね。
エイミィが、なのはが駄目人間だと気付いてないことからも分かります。

>ケーキで調教しておいてそう来ますかなのはさん、もうリンディさん涙目
さすがは白い悪魔です、魔王です
>餌付けは計画通り(ニヤリ
相手の弱みを確実にモノにするなのはさん(32)に惚れる!痺れる!憧れるぅ!

それがなのはさんです。

>艦長としてのリンディさんの立場なら原作どおりの対応になると思います
私人としての立場だったら違うのでしょうけれど

まあリンディさんも個人としては助けに行きたかったんでしょうね。

>次回、魔法酒豪リリカルなのは『決戦は同意の上でなの』
※なんとなくノリで次回予告っぽいの作ってしまった。
反省もしている後悔はメチャクチャしてる。

好きにして頂いて結構です。
代わりにサブタイでも付けてくれると嬉しいです。
むしろもっとやれ。




[10864] 第四十五話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/29 14:48




 最初に見たとき、とても綺麗な子だと思った。
 水晶のように、純粋に透き通った目をしていたから。
 でも、透き通っているだけに、とても寂しげな目をしていることが直ぐに分かった。

 フェイト・テスタロッサ

 昔の私に似ている。
 そう感じた女の子。
 あのとき。
 フェイトちゃんを初めて見たとき、昔の私を、彼女の顔に重ねた。
 そんな彼女を、私が攻撃する事なんて出来なかった。
 それは、過去の自分を攻撃する事と、同じ事だから。
 一人ぼっちのフェイトちゃんを、一人ぼっちだった私が、過去を忘れて今の自分だけで相対しちゃいけない。
 そう思った。
 今の私は、一人ぼっちなんかじゃない。
 だから、一人だったときの、あの寂しさは理解できるから。
 フェイトちゃんは、自分が寂しさを感じている事に、自分で気付いていないんじゃないかな。

 次に会った時、フェイトちゃんは赤い狼を連れていた。
 アルフと呼ばれていた使い魔。
 それを見て、私は少し安心した。
 傍にいてくれる人がいたから。
 でも、それでも、フェイトちゃんの目は寂しげなままだった。
 もう一人ぼっちじゃないのに。
 それでも哀しい顔で、ジュエルシードを集めるんだ。
 どうして、そんなに寂しい目をしているの?
 どうして、それを押し隠そうとしているの?
 いったい、何がフェイトちゃんをそうさせるのか、私には分からなかった。
 だから聞いた。
 どうしてジュエルシードを集めるのかを。
 フェイトちゃんはポツリと零したね。

「母さんが欲しがっているから」

 そう言った。
 でも私には納得出来なかった。
 あれから何度も何度も考えた。
 どうしてフェイトちゃんが集める必要があるのかを。
 お母さんが自分でジュエルシードを集めようとしない理由を。
 フェイトちゃんが自発的にやっている事なら、それでいい。
 自分の意思で、悪い事だと分かっていて、それでも集めようとしたのなら分かるんだ。
 でも、フェイトちゃんは言ったね。
 私にバルディッシュを突き付けて、「申し訳ないけど」って、そう言ったんだ。
 自分の意思で集めようとしたのなら、そんな事は言わない。
 覚悟を決めて奪おうとしているなら、そんな事は言わない。
 何より、とてもつらそうな顔をしていたもの。
 そしてその顔が、必死に無表情を装っていたのが、私には分かったから。

 ねえ、フェイトちゃん。
 アルフさんは言っていたね。
 私は偽善者だって。
 良い人なのは、上っ面だけなんだって。
 言われた時は悲しかったよ。
 でもね、今はそれでも良いと、そう思ってるんだ。

 私は偽善者なのかな?
 それでも良い。
 フェイトちゃんと仲良くなれるなら、そう呼ばれても構わない。

 私が良い人だって言われるのは、それが上っ面だけだからなのかな?
 それでも良いと思うんだよ。
 私は上辺だけでも、フェイトちゃんに良い所を見せていたいから。

 これは自己満足なのかな?
 それでも構わない。
 だって、自分さえ満足に出来ないなら、いったいどうやって他人を満足させられるの?

 ねえ、フェイトちゃん。
 私は我が儘なんだ。
 偽善者で、上辺だけでも良い人を装って、自己満足に浸る。
 そんな意地汚い、どこにでもいるような普通の人間なんだよ。
 そのくせ、自分の思い通りにいかないと、不機嫌になるような子供で……。
 そんな私は、フェイトちゃんに会って思ったんだ。
 フェイトちゃんの笑顔が見たいって。
 そして決めたんだ。
 私の我が儘で、私の勝手で、フェイトちゃんの笑顔を見るって決めたんだ。
 フェイトちゃんが笑顔になれるようにがんばろうって、そう決めたんだ。
 フェイトちゃんがそんな寂しい目をしているのを、私は見たくないから。
 だから、私が幸せになる為に、フェイトちゃんには何が何でも笑って貰わなきゃいけない。
 もう決めたんだ。
 私は一度決めた事は妥協しない。


 だから、





 私は飛んで、フェイトちゃんのところまで向かう。
 ジュエルシードを回収しに降りて来たフェイトちゃんは、やって来た私に気付いて警戒する。
 ジュエルシードを挟んで、私達は相対する。
 浮かび上がるジュエルシードは、鏡のように私の顔を映す。
 警戒しているフェイトちゃんを見ながら、レイジングハートを待機状態に戻す。
 目をパチクリさせているフェイトちゃんに向かって、私はゆっくりと右手を差し出す。



「だから、私は何度でも手を伸ばすよ、フェイトちゃん」



 フェイトちゃんは私の言葉に、戸惑いの表情を浮かべた。





あとがき

久々のなのは視点。
短いなぁ。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>なのはさん娘との初めての共同作業ですね。

だからまだ娘じゃないと(ry

>カートリッジの薬莢代わりにワンカップ(お手製)を排出するレイハさんとそれを一気するなのはさん(32)を幻視した。

常にレイジングハートの中に酒を仕込んでいる訳ですか。
それもいいかもしれません。

>初感想がこれってorz

お気になさらず。
しれっと混ざっていればいいんですよ。



[10864] 第四十六話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/29 22:02



 なのはの手に応えるように、両手でバルディッシュを持っていたフェイトが、ゆっくりと右手を放す。
 それがなのはの右手に触れようとした時、海に落雷が落ちた。
 紫色の雷は、幾つも幾つも海に降り注いでいる。
 フェイトがその雷が降って来た方を向いて、驚きの声を上げる。

「母さん……?」

「お母さんが……?」

 フェイトのお母さんがこれをやったの?
 そうなのはが口にしようとした時だった。
 なのはが反応する間もなく、紫電の光がフェイトに直撃した。

「うああぁぁああっ!!」

「フェイトちゃんっ!?」

 悲鳴を上げて気を失い、落下するフェイト。
 呼び掛けたなのはの方にも雷は飛び火して、なのはは弾き飛ばされた。
 レイジングハートを手に持っていなかったから、とっさにプロテクションも張れなかったのだ。
 慌てて体勢を整え手を伸ばすが、遠くに弾かれたなのはには、落ちていくフェイトを掴むことは出来なかった。
 フェイトは静かに落ちていく。

 下へ。

 下へ。

 そして海に沈んでしまうと思われたその時だった。

「フェイトぉぉっ!!」

 アルフが高速で追いついて、フェイトを海に落ちる前に掬い上げた。

「はぁ……」

 フェイトが助かったことに、なのはは胸を撫で下ろす。

「フェイト! 大丈夫かい!? フェイトっ!」

 アルフの呼び掛けに、フェイトはうっすらと目を開ける。

「アル、フ……ジュエル……シードを……」

「何言ってんだい、こんな時に!?」

「おね、がい……」

「……くっ」

 アルフはフェイトの願い通り、ジュエルシードに向けて飛ぶ。
 そしてアルフがジュエルシードまで辿り着き、手を伸ばした。
 だが、割り込んで来た杖に、アルフはその手を阻まれた。
 ジュエルシードの前に立って、アルフの動きを止めたのはクロノだった。

「邪魔をぉぉぉ……!」

 アルフの手に橙色の光が灯る。

「するなぁぁっ!!」

「っ!? うあああっ!」

 アルフが手から放った魔力弾で弾かれたクロノは、追い打ちにアルフの回し蹴りが入って海に叩きつけられた。

「!? 三つしかない……」

 アルフが浮かんでいるジュエルシードを見て、愕然と呟く。
 慌てて蹴り飛ばしたクロノを見ると、その手には掠め取ったジュエルシードが三つ握られていた。
 そのジュエルシードがクロノの持つ杖に格納される。
 アルフはこれでクロノが持って行ったジュエルシードを手に入れる事が出来なくなった。

「ううううっ!!」

 アルフが唸り声を上げ、片手を大きく掲げる。
 その手にクロノを吹き飛ばしたのと同じ、橙色の光球が生まれる。

「うあああああっ!!」

 ドバンッ!! とアルフは海にその光球を叩きつけ、衝撃で大量の水飛沫を上げる。
 それは煙幕のように皆の視界を奪い、それが晴れた時には、そこにはアルフとフェイトの姿は無かった。

「逃げられたか……」

 クロノが悔しそうに呟く。
 しかし、三つは確保することが出来たと安心する。
 そこに、クロノへ念話が届く。

「艦長? ……はい……はい」

 クロノは念話を聞きながら了承する。
 しかし、その顔はとても嫌そうだ。

「……わかりました」

 クロノは念話を切ると、なのはに向かって飛ぶ。
 近くまで来ると、なのはに話しかけた。

「なのはさん」

「……何かな? クロノ君」

 フェイトが消えた方向と、紫色の雷が降って来た方向を、交互に眺めていたなのはが、ゆっくりとクロノを見る。

「艦長が話があるみたいです。
 命令を無視したことは不問にするので、アースラまで来て欲しいそうです」

 その言葉に、なのはは苦笑する。

「私はもう臨時局員じゃないよ。
 さっきも言った通り、ただの現地協力者。
 だから、命令だとか、そんなことを言われる筋合いは無いよ」

 なのはが言ったその言葉に、クロノが僅かに上を向き、眉間に皺が寄る。
 再び念話を受け取ったのだろう。

「……艦長からの言葉です。
 ジュエルシードを封印することに協力してくれた、高町なのはさんを表彰したいそうです。
 ですから、これからアースラまで来て下さい、だそうです」

 なのはは軽く首を横に振る。

「いやいや、私は表彰されたいから、ジュエルシードの封印をしていた訳じゃないからね。
 その表彰は、謹んで辞退させてもらうよ」

 なのはのその言葉に、クロノの眉間に更に皺が増える。
 なのははクロノに、その先にいるリンディへと話しかける。

「結局、何が言いたいんですか? ねえ、リンディ艦長?」

 にっこりと笑みを浮かべるなのはに、クロノがはあ……、と溜息を吐く。
 そして嫌そうに、心底嫌そうにクロノは重い口を開いた。

「……艦長からの言葉です。“お願いです。もう一度ケーキを作って下さい。”……だそうです」

 なのははクロノのその言葉に苦笑し、納得したように頷く。

「分かったよ。それじゃあ、アースラに行こうか」

 なのはが了承したことで、クロノはこれで肩の荷が下りた、と気を抜いた。
 そこに、離れていたユーノが近寄って来る。

「……なのはさん、良いんですか?」

「良いって、何が?」

 なのはの返しに、ユーノが戸惑う。

「え? だってあんな事を言って出て来たのに、そんなにあっさり戻って良いんですか?」

「ああ、それはね……」

 なのははその事に、何でもないように返す。

「言ったよね? 
 私は時空管理局の事なんて、本当はどうでもいいんだって。
 だからね、さっきの事もどうでもいいんだ。
 どうでもいいから、私は戻る事に対して、特に確執がある訳でも無いんだよ」

「そう……なんですか……?」
 
 ユーノは釈然としない顔をしている。

「そうなんだよ。だから、ユーノ君も普通にしていれば良いんだよ。普通に、ね」

「……はい」

 そう言われても、なのは程切り替えが上手くないユーノは、そんな事が出来るか不安だった。

「それに……」

「……なんですか?」

 なのはの続けた言葉に、ユーノが首を傾げる。

「それに、まだ味覚の矯正が、最後まで済んでいなかったのを思い出したからね」

 そのなのはの言葉に、ユーノは苦笑する。
 なのははクロノに顔を向ける。

「待たせたね。それじゃ、行こうか」

「分かりました。今転移魔法を使用しますから」

 こうして、なのはとユーノとクロノは、アースラに帰還した。









 この後、艦内に戻った三人が、翠色の長い髪を振り乱して、綺麗に土下座する人を見る事になるのは余談である。









あとがき

最後の人が誰なのかは、言うまでもありませんね?
ともかく、これでやっとアニメの第9話が終わりました。
あと四話分、頑張って書きたいですね。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>つまりアレか!レアスキルは実は「回転」ではなく「酒」で
魔法が回転するのは酒が回るという基本的な作用によるスキルの基礎部分だと(ry(←なんでもかんでも酒に関わらせればいいってもんじゃない

いえ、その可能性は十分にあります。
正しく調べた訳ではないので、そういう事なのかもしれません。

>さて、次のシーンフェイトは墜ちるんかねぇ?
ここのなのはさんならあの砲撃も防いでしまいそうだなぁ

墜ちました。
なのはさんはデバイスを待機状態にしていたので防げませんでした。

>なのはさんスキットル常備とかマジパネッス
当然中身は当然スピリタス(96%)ですよね!

わざと中身は書かなかったのに、何故当てれる!?

>フェイトきゅうさい→昔のなのはに似ている
よって
フェイトさんじゅうにさい→「やっぱりお酒がなきゃ執務官なんかやってられないね」
なんですねわかります

そういうこともあります。
決まってませんが。

>ほほぅ――“まだ”と言う事は、予定としては在りうると・・・(ニヤリ

可能性は無限にある。
昔の誰かはそう言いました。




[10864] 第四十七話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/30 18:30



 なのは達はアースラへと帰還した。
 アースラも同時期に攻撃を受けていたらしく、あちらこちらで人々が復旧作業のために、忙しく走り回っていた。
 色々な事が起きたため、なのは達にも疲労などが溜まっていた。
 そのため、再びなのは、ユーノ、クロノ、リンディが集まったのは、復旧作業が終わる三時間後だった。

「それでは改めて、なのはさんとユーノ君にはお礼を言っておきます。
 お二人はそんな事はいらないと仰っていましたが、形式的なものですので、どうか受けて頂けるとありがたいです」

「そう言われるなら……」

 リンディとしても、民間人に闘わせた上に、礼の一つも無いままでは、艦長としての面子が立たないのだろう。
 なのははそれを受ける事にした。
 復旧作業で忙しかったリンディの膝に、僅かに埃が付いている事には誰も何も言わない。

「先程の魔力攻撃については、貴女達も気になっている事でしょう。
 あれは、別次元からの次元干渉によるものです。
 それによって、我が艦のシステムに多少の異常が見られましたが、現在は復旧しています。
 人的被害はありません。
 これを行った者、事件の大元についてですが、クロノ、何か心当たりは?」

 リンディが壁際に立っていたクロノに声を掛ける。
 クロノははい、と返事をして、壁から背を離す。

「エイミィ、モニターに情報を映してくれ」

『はいは~い』

 通信管越しに、エイミィの軽い声が聞こえる。
 それと同時に、なのは、ユーノ、リンディが座っていたデスクの中央に、球体のモニターが現れる。
 そこには、一人の女性が映されていた。

「あら?」

 リンディが不思議そうな顔を浮かべる。
 クロノは言葉を続ける。

「そう。僕達と同じ、ミッドチルダ出身の魔導師『プレシア・テスタロッサ』です。
 専門は次元航行エネルギーの開発。
 偉大な魔導師でありながら、違法研究と事故によって、放逐された人物です。
 管理局のデータバンクにある登録データと、先程の魔力波動も一致しています」

「テスタロッサって、フェイトちゃんと同じ……」

 なのはがプレシアの顔を見つめながら呟く。

「あの時、あの攻撃に、母さんって言っていた……」

 フェイトのすぐ近くに居たなのはは、確かにその言葉を聞いたのだ。

「親子……かしら?」

 リンディが厳しい目付きをしながら、静かに呟いた。

「でも……いえ、ここで考えていても仕方が無いわね。
 エイミィ! プレシア女史について、もう少し詳しいデータをお願い。
 放逐後の足取り、家族関係、その他何でも構いません。
 私の権限で、管理局へのデータバンクへアクセスして下さい」

『分かりました。直ぐに調べますね』

 エイミィも気になっていたようだ。
 その声には、わくわくとした気持ちが漏れている。
 リンディはエイミィに告げる。

「調べたらこちらへお願いね」

『分っかりましたぁ!』

 エイミィは元気よく返事をした。





「まずはこれを見て下さい」

 エイミィの声でモニターの映像が切り替わる。
 球体モニターの中には、宙に浮かぶ星のようなモノが映される。

「プレシア・テスタロッサ。ミッドの歴史で、26年前前は中央技術開発局の第三局長でした。
 ですが、当時彼女の開発していた、次元航行エネルギー駆動炉『ヒュードラ』使用の際、
 違法な材料をもって実験を行い――」

 エイミィの声が段々と沈む。

「――失敗」

 モニターの中の、ヒュードラと呼ばれた物の表面に、罅割れが生じる。
 その罅割れはあちらこちらへと広がっていき、内側から光が段々と漏れていく。
 そして、ヒュードラが音を立てて、自らの重みでガラガラと崩壊していく。
 最後には、ヒュードラは内部から爆発して弾け飛び、後には何も無くなった。

「これは……」

 なのはがその光景に絶句する。

「サルベージしたヒュードラの最後の映像です」

「そう……」

 リンディが顎に手を当てる。

「あの、艦長?」

「……ああ、エイミィ。私の事は気にせず、続けてちょうだい」

「あ、はい。それでは続けます。
 結果的に、中規模次元震を起こした事が元で、中央を追われて、地方へと移動になりました。
 随分もめたみたいですね。
 失敗は結果に過ぎず、実験材料にも違法性は無かった、と。
 辺境に異動後も、数年間は技術開発に携わっていました。
 ですが、しばらく後に行方不明になって、それっきりです」

「そうか。エイミィ、ありがとう」

 クロノがエイミィに礼を言う。
 エイミィもクロノに、軽くウィンクをして返す。
 リンディは、エイミィが言わなかった事について尋ねる。

「家族と、行方不明になるまでの行動は?」

 エイミィが顔を顰める。

「その辺のデータは、きれいさっぱり抹消されちゃってます。
 今、本局に問い合わせて、調べてもらってますので……」

「時間はどれくらい掛かるの?」

「一両日中には、と……」

「そう……」

 エイミィの言葉に頷き、リンディはブツブツと呟く。

「プレシア女史もフェイトちゃんも、あれだけの魔力を放出した後では、早々動きは取れないでしょう。
 その間に、アースラのシールド強化もしないといけないし……」

 黙って聞いていたなのは達に、リンディは声を掛ける。

「なのはさん達はどうされますか?
 貴女達は民間人だと言いました。
 ですから、私達がなのはさん達の行動を制限する事は出来ません。
 私としては、ここに留まって頂きたいのですが……」

「そうですね……」

 なのはは僅かに思案し、リンディに答える。

「私は帰ろうかと思います」

「……えっ?」

 リンディが悲しげな声を出す。

「ケーキの材料が少なくなって来ましたから。それに、家にも一度帰りたいので……」

「あ、そうですね」

 リンディがホッと胸を撫で下ろす。

「それに……」

 なのはがモニターに目をやる。

「私をこれ以上、この件に関わらせたくないのなら、こんな物は見せないでしょう?」

「……」

 リンディは何も言わなかった。

「それでは、私は一度帰りますから」

「え、ええ……」

 なのはは立ち上がり、ユーノを連れて会議室を出て行った。
 後に残されたリンディは、再び表示されたプレシアの顔を見つめる。

「プレシア女史……。いったい、貴女に何があったというの……?」

 リンディの問いに答える事も無く、映像の中のプレシアは静かに佇んでいた。




あとがき

前回の最後は、ほぼ無かったことにされたようです。
誰も見たく無かったみたいですね。
多分、次はフェイト達がメインで、なのはさん達は出てこないと思います。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>沖縄のアメリカ軍の中やケーキを作り上げ売っている店のケーキをリンディが知ったら?

まあ喜ぶでしょうね。
でもなのはさんのケーキの方が甘いと思います。

>前回コメでフェイト=大酒呑みって書いたら、無性にそれを書きたくなった
だめだ、なのはさんのほうを含め受験終了まで我慢だ!

待ってますからね。

>俺もなのはさん(32)に調教されているのか?!

調教ではありません。矯正です。

>ってことはA'sのなのはさんを助けたときのフェイトさんの台詞は決まったようなものですね?
>ここのフェイトさん、原作通りハラオウン家に養子になるのではなくNANOHAさんの養子になりそうな…。
A’sでの介入時には「友達だ!」→「娘だ!」みたいな?w
>「友達だ!」が「娘だ!」になるとか言う以前に、ここのなのはさん(32)がヴィータにボコられるシーンが全く想像できないのですが;
A's編を書き渋られる理由を垣間見た!

今のままでは始まらないんですよね。
続ける気もありませんし。
だからA’sは無いと思って下さい。

>しかし大人なのはと子供フェイト…フェイトにとって人生初の友達はできずか。

そうですね。
でも他の関係が出来るかもしれません。
友達は……ユーノとかがいますから大丈夫でしょう。

>リンディさん、提督辞めれば
人命よりも任務よりも、ケーキが大事なら管理局辞めて一般人になってケーキショップでも通ってろよ。

息抜きを入れようと思っただけのですが、不快にさせてしまったのなら申し訳ありません。

>クロノ介入の辺りから管理局アンチな展開に陥って、ガッカリさせられてしまう作品は多いですね。

うちのなのはさんは、基本的に時空管理局の事なんてどうでもいいので、嫌うなんて疲れるような事しません。

>ここのなのはさん(32)がいくら無茶なことをしても納得できそうなのは何故だ?

最初からNANOHAですから。




[10864] 第四十八話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/08/31 08:53




 バシッ!



「ああっ……!」


 バシィッ!


「ううっ……!」


 音が鳴り響く度に、フェイトは痛みに呻く。
 紫色の鎖に吊るされたフェイトの目は、苦痛に閉じられている。

「はあっ……はあっ……!」

 その前に立つプレシアは、鞭を片手にフェイトを睨みつけている。

「あれだけの好機を目の前にしていながら、ただボウッとしているなんて……!」

「ごめん……なさい……」

 フェイトは掠れた声で謝る。
 プレシアはフェイトを見つめ、低い声で問い質す。

「酷いわ、フェイト……。あなたはそんなにも、母さんを悲しませたいの?」

「ちがい……ます……」

 フェイトのその言葉に、プレシアが目を見開く。
 右手に持つ鞭を、大きく振り上げる。

「違うと……言うのなら!」

「ひっ……!」

 フェイトの目に、怯えが走る。


 バシィッ!


「あああっ!」


「どうしてあなたは!」


 ビシィッ!


「うあああっ!」


「私の言う事を!」


 バシィィッ!!


「ああああっ……!」


「聞けないの!?」


 プレシアが鞭打つ度に、フェイトは悲鳴を上げる。
 鎖に両手を縛られ、倒れることさえも出来ずに鞭を打たれ続ける。


「ああああああああああっっっ!!!!」






「畜生っ! 畜生ぉぉぉぉっ!!」

 アルフは吠える。
 アルフはフェイトと共に、ジュエルシードをプレシアに渡しに来ただけなのだ。
 持っていても良い事など何一つ無く、厄介事を引き起こす物でしかないからだ。
 21個あったジュエルシードも、これで全てが回収された。
 フェイトが回収出来ていない、残りのジュエルシードは全て管理局が持っていった。
 だから、これを渡したら、もうプレシアとは縁を切る。
 そして、フェイトと一緒に何処かへ逃げようと、アルフはそう思っていた。
 だがプレシアは、アルフが渡した三個のジュエルシードを見た瞬間、杖から放った魔法でアルフを弾き飛ばした。
 そんなアルフを、バインドで縛った後には目もくれず、プレシアはフェイトを睨みつけた。
 そしてフェイトを吊るし上げ、拷問が始まったのだ。

 アルフはプレシアによってバインドで磔にされ、フェイトが鞭で叩かれ、悲鳴を上げる様をずっと見させられた。
 その目は限界まで見開かれ、フェイトの顔を見続ける。
 その耳は、聞きたくなかったフェイトの悲鳴を聞き続ける。

「なんでっ!? なんで外れないんだっ!?」

 必死に抵抗するが、アルフがどんなに頑張っても、プレシアの強固な鎖は砕ける気配を見せない。

「フェイトが、フェイトがあんなにも苦しんでいるのに……」

 足掻く。
 だが、腕一本上がる事は無い。

「あんなにも泣いているのに……!」

 足掻く。
 だが、鎖は軋むばかりで千切れる事は無い。

「どうして外れないんだよ! 畜生おおおおおっっ!!」

 アルフの咆哮が、時の庭園に響き渡る。
 声も嗄れよと言わんばかりに、アルフは泣き叫ぶ。
 アルフの目は、フェイトを見続ける。
 フェイトの笑顔をこの目で見たいと思っていた。
 だが、今ほどこの目を抉り出したいと思った事は無かった。
 アルフの耳は、フェイトの悲鳴を聞き続ける。
 フェイトが腹から笑う声を聞きたいと思っていた。
 だが、今ほどこの耳を毟り取りたいと思った事は無かった。
 精神リンクによって、恐怖が、悲しみが、苦痛がフェイトから伝わって来る。
 それがアルフの心と混ざり合い、バラバラになりそうな痛みを与えるのだ。

「うあああああああっっっ!!!」

 鎖はまだ、外れない。






 プレシアがフェイトを鞭打つ事に飽き、回廊の奥に消える。
 それと同時に、フェイトとアルフを縛る鎖は消え去った。
 フェイトはその場に倒れて気を失った。
 そしてアルフは、気絶したフェイトに走り寄った。

「フェイト! フェイトぉっ!!」

 うつ伏せに倒れたフェイトを抱き抱える。
 上を向かせ、身体を軽く揺するが、フェイトが目を開ける気配は無い。

「ああ……ああああ……」

 全身余す所無く痣が刻まれ、フェイトは気絶していても、痛みで顔を顰めている。
 声無き悲鳴を上げるフェイトを、アルフは精一杯優しく抱きしめる。
 ゆっくりとその場にフェイトを横たえ、寒くないようにと、自らのマントを掛ける。
 そしてアルフは立ち上がった。
 低い声で唸り声を上げながら、喉の奥から搾り出すように声を出す。

「……あの……!」

 アルフは回廊に続く扉を睨みつける。
 その先には、主を傷つけ悲しませた、憎き相手がいるから。

「クソババアぁぁぁっっ!!」

 アルフは駆け出した。







「たった、九つ……」

 フェイトが集めて来たジュエルシードを浮かべ、プレシアは呟く。

「これでは次元震は起こせるけど……『アルハザード』には届かない……」

 願いを叶えるには、これでは力不足なのだ。
 ジュエルシードは単体でもかなりの力を秘めている。
 それでも叶えられない程の願いとは、いったい何なのだろうか。
 その時、プレシアが目を見開く。

「うっ……ごほっ……ごふっ……」

 ビシャッと赤い血がプレシアの口から吐き出される。
 そのまま身体が傾き、倒れそうになるのを、杖をついて防ぐ。
 口を押さえる手も、真っ赤に染まる。
 プレシアはぼんやりとした目で、それを見つめていた。

「もう……あまり時間が無いわ。私にも……『アリシア』にも……」

 誰かの名前をポツリと口にした時、後ろで轟音が響いた。
 プレシアが後ろに目をやると、そこにあった扉は強引に破壊され、濛々と煙が立ち込める中にアルフが立っていた。
 アルフはプレシアを見つけると、有無を言わさず飛びかかって来た。

「ふん……」

「ぐぅっ!」

 しかし、プレシアが張ったバリアに、アルフは弾き飛ばされた。
 だが上手く着地を取ったアルフは、再びプレシアのバリアに挑む。

「ぐぅ……うう……」

 プレシアの張るバリアに負けないようにと踏ん張りながら、アルフは必死に手を伸ばす。
 伸ばした腕のあちらこちらから、皮膚が裂け、血が噴き出す。
 それでもアルフは拳を握り締め、突き進むのを止めない。

「ぁぁああっ!」

「ぐっ!?」

 アルフの執念が勝ったか、アルフはプレシアのバリアを打ち砕く。
 その勢いのまま、アルフは振り返ったプレシアの顔を殴り飛ばし、その胸ぐらを掴んで引き寄せる。

「何で……何であんな事が出来るんだ!?」

 アルフはプレシアに問い質す。

「アンタは母親で! あの子はアンタの娘だろう!?
 あんなに頑張っている子に……あんなに一生懸命な子に……!
 何であんな酷い事が出来るんだよ!?」

 アルフのその言葉に、プレシアは何も応えない。

「何とか言ったらどうだい!?
 アンタが……アンタみたいな下衆が、どうしてあの子の母親なんだ!?
 アンタは知っているのか!?
 アンタに鞭打たれた背中が痛んで、あの子はまともに仰向けで寝る事さえ出来ない事を!
 アンタがその石コロが欲しいって言ったから、デバイスがボロボロになった時、素手で封印しようとした事を!
 それを、アンタは知っているのかって、聞いてんだよ!! ええ!?」

 尚もアルフは叫び続けるが、プレシアは何も応えない。

「このまま放っておいたんじゃ間に合わないんだ! このままじゃ、あの子が手遅れになる。だから……!」

 アルフはプレシアを殴ろうと、再び拳を振り上げる。
 しかし、プレシアは目を見開き、手をアルフの腹に添えた。
 そして、その掌から迸った紫色の光が、アルフを吹き飛ばす。
 アルフの拳は、誰を殴る事も出来ずに地に落ちた。
 プレシアの低い声が、庭園に響く。

「……さっきから聞いていれば、ごちゃごちゃとうるさいわね……。
 あの子は本当に使い魔の作り方が下手ね。余分な感情が多すぎるわ……。
 それにあの子は、犬の躾もまともに出来ないのかしら?」

 コツ、コツ、と音を立てながら、プレシアはゆっくりとアルフに近づいていく。
 アルフはプレシアに打たれた腹を押さえ、血を吐きながら、近づいてくるプレシアを睨みつける。

「フェイトは……アンタの娘は、アンタに笑って欲しくて、優しいアンタに戻って欲しくて、あんなに……!」

 最後まで言う事が出来ず、アルフは苦痛に呻く。
 プレシアはアルフを見つめ、静かに言葉を口にする。

「人形をどうしようが、私の勝手でしょ……」

「にん、ぎょう……?」

 アルフがその言葉の意味を理解出来ず、プレシアに問い返す。
 しかし、その事にプレシアは何も答えず、杖をアルフに向ける。

「邪魔よ、駄犬が……消えなさい!」

「くっ……!」

 その杖に魔力が灯るのを見たアルフは、咄嗟に地面に魔法陣を描き、爆発させる。
 時の庭園に穴を開けて、アルフは高次空間内に落ちて行った。

 下へ。

 下へ。

 アルフは落下しながら考える。

「どこでもいい、転移しなきゃ……。ごめんよ、フェイト……。少しだけ待ってて……」

 アルフは無我夢中で転移魔法を使用する。
 その時、フェイト以外の女性の姿が、一瞬だけ脳裏をよぎった。



 アルフが落ちて行くのを見届けたプレシアは、ジュエルシードを魔法で運びながら、フェイトの元へと向かった。
 プレシアが玉座の間へ着いた時、フェイトは未だ気絶したままだった。
 プレシアはフェイトに声を掛ける。

「フェイト……起きなさい、フェイト……」

「……はい、母さん……」

 プレシアの言葉に応えるため、フェイトは目を開けた。
 フェイトが目を開けたのを確認すると、プレシアはジュエルシードを掲げ、話し出した。

「あなたが手に入れて来た、ジュエルシード九つ。
 これじゃあ足りないのよ。
 最低でもあと五つ、出来ればそれ以上。
 急いで手に入れて来て、母さんの為に……」

「はい……」

 フェイトは身を起こし、プレシアの期待に添おうとする。
 そこで初めてフェイトは、自らの身体に掛かっているマントに気が付いた。

「アルフ……?」

 フェイトはマントだけで、姿の見えないアルフを探す。
 そこに、プレシアの声が耳に入る。

「ああ、あの子は逃げ出したわ。怖いからもう嫌だ、って言ってね」

 プレシアはしゃがみ、フェイトの肩に手を置く。

「必要なら、もっと良い使い魔を用意するわ。
 忘れないで。
 あなたの本当の味方は、母さんだけなのよ……。
 良い? フェイト……」

「……はい。母さん……」

 フェイトはプレシアが掴む肩が痛む事も言い出せず、静かに目を逸らしながら言葉を紡いだ。




「はあっ……はあっ……」

 アルフは歩いていた。
 痛む身体を引きずりながら、獣になる事も忘れ、人型のままでずっと歩いていた。

「行かないと……アイツの所へ……」

 必死に身体を支え、歩き続ける。
 余分な事を考える暇など無く、ボロボロの身体はゆっくりと前に進む。
 もうどれ程歩いただろうか。
 一時間だろうか。
 二時間だろうか。
 あるいは、もう何日も歩いているような錯覚さえ覚える。
 
「ぐうっ! あ……ああ……」

 普段ならどうってことない程に小さな段差に躓き、アルフは情けなく転んだ。
 再び立ち上がろうとするが、力が入らない。
 だが、それでもアルフは、這ってでも前に進もうとする。
 そんな彼女の姿を、見過ごす事が出来なかったのだろう。
 一人の小柄な女性が、倒れたアルフの元へと近づいて来た。

「お、お姉さん……だ、大丈夫ですか……?」

「うるさいっ! あたしに構うなっ!」

 アルフは女性の気遣いを切って捨てる。
 腕を振って、女性の差し伸べた手を振り払う。
 女性はいきなり大声を上げたアルフに、ヒッと小さく声を出す。
 だがそんな事など気にせず、アルフは身体に力を入れる。
 実際、そんな事を気にしている余裕など、今のアルフには無いのだ。

「早く……行かないと……」

 アルフは転移の時、一瞬だけ脳裏によぎったその人の姿を思い浮かべる。

「アイツの……高町なのはの所へ……」

 アルフが頼れるのは、もう彼女しかいなかった。
 藁にも縋る思いで、アルフは彼女に助けを求める。
 ずっと時の庭園に居て、交友関係の狭かったアルフには、彼女しか思いつかなかったのだ。
 敵なのにフェイトに情けを掛けるような、そんなお人好しにしか頼れないと思ったのだ。
 彼女なら、フェイトを助けてくれると信じて……。

「……えさん。お姉さん!」

「……なんだいっ!?」

 先程の女性が、再び声を掛けて来る。
 もう消えたと思っていたのに、まだ懲りていなかったのか。
 何度も呼びかけられ、アルフは遂に振り向いてしまう。
 イライラとした声音で、今にも咬み付きそうな顔でアルフは振り向いた。
 これでこのうるさい女も、どこかへ消えるだろう。
 そう思って。
 だがアルフの期待は、女性の言葉によって変に裏切られた。

 そこには、先程アルフが視界の端に捉えた、小柄な女性が立っていた。
 その小柄な女性は、帽子を片手に持っていた。
 その帽子をクルクルと回し、スポンと頭に乗せる。
 そしてアルフに向けて、その女性はにっこりと笑った。

「お姉さん、何や訳有りみたいやなぁ。どや? そんなに急いでるんなら、わたしのタクシー、乗って行かんか?」

「……は?」

 その女性の言葉に、アルフはその時の状況も何もかもを一瞬忘れて、呆けた声を出したのだった。





あとがき

長かった。
二話に分けようかと思ったのですが、長さが中途半端になるのでこうなりました。
そして今回は、前回言った通り、なのはさんは出て来ませんでした。
代わりに、スーパーはやてタイムを用意しました。
おそらく、これが彼女の最大の見せ場となるのではないでしょうか?



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>なのはさんが家に帰るのはケーキの材料が少なくなったからでも家族に会いたいからでもなく、酒のストックがなくなったからだとみた!

それは流石に……ありそうですね。

>なのは、リンディの一連のやり取りが面白かったです。

そう言って頂けると嬉しいです。

>それにしてもさすが「翠屋2号店店長」。
リンディの味覚を矯正できたなのはの腕は「お見事!」の一言でした。

上手く書けたか自信は無いのですが、伝えたい事が伝わったようで嬉しいです。





[10864] 第四十九話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/01 06:08





 なのはが軽くなった水筒を大量に抱え、我が家へと帰って来た時、家の前にはタクシーが一台停まっていた。

「あれ?」

 なのはが呼んだ訳ではないのに、タクシーが停まっていた事に違和感を覚える。
 特にここ最近はアースラに寝泊まりしていて、移動も転送ポートを使用していたので、タクシーは使っていないからだ。

「どうかしたのかな?」

 なのはは不思議に思い、タクシーに近づく。
 車内を覗き込んで見ると、運転手は居らず、代わりに後ろの席に、なのはの予想だにしなかった人物が居た。

「アルフさんっ!?」

 タクシーに乗っていたのは、フェイトの使い魔であるアルフだった。
 気を失っているのか、なのはが思わず上げた大声にも、何の反応も示さない。

「……ああ、おったおった」

 そこに車内を覗き込んでいたなのはに、後ろから声が掛けられる。
 なのはが振り向くと、そこにはなのはがよく見るいつも通りの格好で、運転手が立っていた。

「いやあ、呼び鈴鳴らしても誰も出ぇへんから、焦っとったんや」

「八神さん、この人……」

 なのはが運転手に話しかける。
 しかしその言葉は、運転手がなのはの目の前に出した手で遮られた。

「話は後や。この人怪我してるみたいなんよ。店長、手当てすんの、手伝ってくれへん?」

「うん、分かった。とりあえず、私の家に上げよう」

「そのつもりやで」

 なのはと運転手は互いに頷き、タクシーのドアを開ける。
 二人で車からアルフを引っ張り出し、必死で家の中まで運んだ。


 非力な女性の力では、気を失った人間一人を運ぶ事は困難だった。
 おまけにアルフは二人よりも身体が大きく、腕を肩に回しても、足を引きずる程だった。
 しかしなんとか、人を寝かせられる広さのある居間まで運び、なのはが客人用の布団を奥から取り出して来た。
 そこにアルフを寝かせる。
 そして、日頃父の士郎や、姉の美由希が使っている救急箱を持って来た。
 寝ているアルフの身体のあちらこちらに付いた傷を、一つ一つ丁寧に消毒し、包帯を巻いていく。
 なのはは小さい頃から、何度も兄や姉が怪我をするのを見ていた。
 少しでも力になりたいと願っていたなのはにとって、ただ包帯を巻くだけでも手伝う事が出来たのは嬉しかったのだ。
 だから、何度も何度も手伝いをしてきたなのはは、その手際もまた見事だった。
 一緒に居た運転手は、こういう事には慣れていないのか、最初は手間取っていた。
 だが、しばらくしてコツを掴んだのか、元々器用なのか、直ぐになのはが認める程に上達した。
 そして見えている場所の怪我を全て治療し終わった二人は、アルフをそのまま寝かせ、近くのテーブルへと移動する。
 なのはがキッチンで普通のお茶を淹れ、運転手に差し出す。
 運転手は礼を言って受け取り、お茶を啜る。
 なのはも自分用に淹れた、普通のお茶を一口飲む。
 そして二人とも同時に、安堵の溜め息を吐いた。

「ありがとうね、八神さん」

「なあに、気にせんでええよ。あんな怪我して歩いてるのを見過ごせるほど、わたしは非情やないしな」

「そう……酷い怪我だったね……」

「そやな……どうしたらあんな怪我するんかなぁ……」

 二人は再びお茶を飲む。
 なのはがそこで、運転手に気になった事を尋ねる。

「ねえ、八神さん」

「んあ? 何や?」

 目を閉じてお茶を味わっていた運転手は、なのはの言葉に目を開ける。

「どうしてあの人をここに連れて来たの?」

 運転手は、なのはの問いに目を見開く。

「は? あの人、店長の知り合いやろ?」

「うん。それはそうなんだけど……」

 なのはは少し言い澱む。

「あまり、仲が良かった訳でもないから……」

 正確なことを話せないなのはは、そう言う言い方しか出来ないのだ。

「店長とあの人の間で、いったい何があったんかは知らんけど、あの人は店長に助けを求めとったからな」

「私に……?」

 首を傾げるなのはに、運転手は頷く。

「そや。必死に歩きながら、高町なのはの所へ行かなきゃいけないんだ、って言ってたんよ。何度もな」

「そう、なんだ……」

 今は深い眠りの中に居るアルフの顔を、なのはは複雑な気持ちで見つめる。
 頼ってくれた事に、なのはは素直に嬉しい気持ちを感じている。
 だがしかし、それと同時に別の気持ちも感じている。
 敵であった――少なくともアルフはなのはに敵意を持っていた――筈なのに、その敵に頼る程の事態だ。
 いったい何が起きたのかと、気になるのは仕方がないだろう。
 使い魔は主の傍にいることが多いと聞いたのに、フェイトが居らず、アルフだけがここに居る事も気掛かりだ。
 その上、純粋にアルフの怪我を心配する気持ちもある。
 そんな、幾つもの感情がなのはの目に浮かんでは消えていく。
 その目を運転手はずっと見ていた。
 なのはがその視線に気付き、運転手を見遣る。

「ん? どうかした?」

「いや、店長の目は分かりやすいなぁ、って思ってな」

 運転手はなのはを微笑ましそうに見ながら言う。

「どうして?」

「どうしてって言われてもな……心配しています、って考えているのが丸分かりやで」

「そうかなぁ……」

 なのはは自分の目の上に手を当て、瞼の上から眼を軽く揉む。
 運転手はニヤッと笑いながら、なのはに尋ねる。

「店長、交渉事とか苦手やろ?」

「そうなんだよねぇ……。
 最近さ、そういう事をやる機会がちょっと有ったんだけど、もういっぱいいっぱいで……」

 なのはがリンディとの会話を、オブラートに包んで軽く説明する。
 運転手はうんうんと聞いていたが、なのはの話が終わると、ポツリと呟いた。

「……そんな事があったんか。面白そうやな」

「面白そうって……」

 なのははその様子に呆れる。

「こっちは面白くなんか無かったよ。
 もうね、ポーカーフェイスとか無理だから。
 むしろずっと愛想笑い浮かべてたから。
 そういうのは私、苦手だよ。
 ……やっぱり、料理の研究の為に、一時期引き篭もってたのが悪かったのかなぁ……?」

「何や、店長。元ヒッキーか?」

「そこまで言われる程でも無いよ。
 ただ、新しいケーキを作る為に、一週間程家から出なかっただけだから」

「……十分ヒッキーやん」

 なのはの言葉に、運転手が呆れたような声を出す。
 その後、二人で笑い合った後、はやてが真面目な顔をする。

「……で、本題に入ろうか」

「……そうだね」

 なのはも顔を引き締める。

「あの人に付いてる耳と尻尾、本物やったな?
 コスプレかとも思ったけど、実際に動いてるしな……」

 運転手は寝ているアルフの耳を見る。
 その耳は、運転手の言葉に反応するかのように、時折ピクピクと動いている。

「偽物やったとしても、あんなに精巧な偽物が作れる技術を、寡聞にしてわたしは知らん。
 もしそんな技術が有ったとして、わざわざあんな無意味な程に自己主張している耳を付ける意味が分からん。
 そういう趣味と性癖が有るんなら、まあ分からんでもないんやけどな。
 でも、もしあれが大事な技術だったとして、それをあんなに無造作に扱っている事にも納得がいかん。
 ……そして、あれが本物やった場合、いったいあの人は何者や?
 あれも分からん、これも分からん。わたしには分からん事ばっかりや」

「そ、そう……。何か凄い空想だね?」

「空想どころか妄想やな、これじゃあ……」

 なのはが冷や汗をたらりと流す。
 運転手も、自分の考えに疑問を持っているようだ。

「それで……な?」

「な、何かな?」

「店長は、あの人があんな耳してる事に対して、何の疑問も持っていない。わたしにはそう見えた」

 運転手はなのはに鋭い視線を向ける。

「さあ、店長。キリキリ吐いてもらおうか。なに、隠すのが辛いなら、全部ゲロったら楽になるで?」

 運転手のあまりの言いように、なのはが苦笑する。
 だがその苦笑にごまかされる事無く、運転手はなのはを見つめる。

「……その……」

「その?」

「えっと……」

「何や?」

 運転手が身を乗り出して、なのはの答えを待つ。
 だがなのはは、運転手の思いも寄らない事を言った。

「……き、禁則事項です?」

 なのはが頬に指を当てて、可愛らしく言った言葉に、運転手は思わずずっこける。

「何や、それは……。ここまで引っ張っておいて、オチがそれって……」

 ずっこけた運転手が、転んだ時に打ったのか、肘をさすりながら立ち上がる。

「……だいたい、それはわたしが以前貸した本のセリフやないか。何だってこんな時に、ソレを持って来るんや?」

「え? だって八神さん以前『こんな可愛い事言われたら、何も知らなくても従ってしまうわ』って……」

「本に言った事を本気にせんといて……」

 もう一度椅子に座った運転手は、汗を浮かべてなのはの言葉を否定する。
 そして運転手は深い溜め息を吐く。

「分かった分かった。もう聞かんよ」

「え?」

 なのはは先程の言葉が本当に効いたのかと疑った。
 運転手はなのはのその視線の意味に気付き、違う違うと首を振る。

「元々、話してくれないのが分かっとっただけや。
 そもそも、ただの興味本位やしな。
 そこまでして隠す程重要な事なら、わたしは知らん方が良いんやろうし。
 それに、話してくれへんのを、無理矢理聞き出した所で面白くも何ともないしな」

「そうなの?」

「そうなんよ。あくまで、相手から自発的に話して貰うのが一番」

 なのはとしては、先程のは自発的とは言い難いと思ったのだが、運転手からしたらそうではないらしい。
 運転手はニヤッと笑う。

「ま、タクシーの運転手として、客のプライバシーは詮索しないのがわたしのポリシーやからな」

「……え? じゃあさっきのは?」

 それでは先程と矛盾する。
 詮索しないのがポリシーと言っておいて、滅茶苦茶詮索していたようになのはには思えた。
 運転手は笑いながら説明する。

「あれはただの暇つぶし。
 さっきも言ったように、どうせ話してくれないと思っとったからな。
 もし、本当に話そうとしてたら止めとったよ。
 まあ、店長が他人の事情を勝手に話すとも思えんから、その辺の心配はしてなかったけどな」

「……」

「だいたい、無茶苦茶な考えばっかりやったやろ?
 それに自分で妄想とも言ったし。
 あれはな、真剣な顔してる店長を見る為の方便」

「なにそれ……」

 なのはは絶句する。
 その様子に、運転手は更にケラケラと笑う。

「いやあ、それにしても、面白いモンが見られたわ。
 まさか店長があんな事言うとは、流石のわたしでも思ってもみなかったしな」

「あう……」

 なのはは今更になって、先程の「禁則事項」発言が恥ずかしくなってしまった。
 顔が赤みを帯びるのを、なのはは自覚した。

「にしても店長、これぐらい見抜けへんと、この先苦労するで?」

「そんな事が起こるのは避けたいなぁ……」

 なのはが希望的観測を持って、そんな事を呟く。
 運転手はチッチッチッと指を振り、そんな考えを切り捨てる。

「甘い甘い。そんな考えは砂糖なみに甘いで、店長。
 人生なんてものは、自分の望み通りに行く事なんて、ほとんど無いんやからな。
 備えはきっちりしといた方がええんやで?」

「それは分かってるんだけど、ねぇ……」

 なのははまた溜め息を吐く。

「そんなに溜め息ばっかり吐いてると、幸せが逃げるで?」

「逆だよ。幸せが逃げるから溜め息を吐くんだ」

「それもあるなぁ」

 運転手はうんうんと頷く。
 そして立ち上がると、なのはに向けて言った。

「それじゃ、わたしはもう帰るわ。あんまり長居するのもどうかと思うしな」

「そう? そんなの気にしないのに……」

「いやいや、わたしが気にするんよ」

 運転手はそういって傍らに置いていた帽子を手に取った。

「それじゃ、玄関まで見送るよ」

「ああ、ええよ、それは」

 立ち上がろうとしたなのはを、運転手が手で制止する。
 どうやら、なのはの見送りを遠慮したいらしい。

「わたしなんかより、その人に付いとってあげた方がええわ。
 だから、見送りとかいらんよ。わたしは勝手に帰るから」

「でも……」

「でもやなくて、店長にはその人が逃げないように、見張っといてもらわんといかんのよ。
 お代はその人が起きた時に、その人から貰うからな」

「お代なら私が払うよ?」

 運転手はなのはの言葉に首を横に振る。

「そうやないんよ。わたしは客を運び、客はそれに代金を支払う。
 その綺麗なサイクルの中に、別の人を割り込ませたくない。
 例え別の人が払ってくれても、それじゃしっくり来ないんや
 だからわたしは、出来る限り本人から代金をもらうことにしてるんよ」

「そう……。分かった」

 立ち上がりかけたなのはが、再び椅子に座る。

「それじゃあ、またね。八神さん」

「またな、店長。お茶御馳走様。美味しかったで」

 そういって、運転手は高町家から出て行った。
 見送りは出来なかったが、なのは運転手がタクシーで走り去るの音を聞いた。
 そして、ポツリと呟いた。

「敵わないなぁ……」







あとがき

はやて無双の回。
色々言ってたけど、結局何も知らずに帰って行っただけ。
結構盛り上がった。書くの楽しかったし。
もうずっと運転手でしたけど、構いませんよね?


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
と言っても、今回ははやてさんの事しか皆さん言ってくれなかったんですけどね。

>はやてさんwwwwまた良いとこ取りwwwww
>このタイミングで登場とははやてタクシー!さすが美味しいところは外さない関西気質!!
もうレアスキルが「客蒐集」じゃなくて「神出鬼没」とか「物語介入」とかそんな感じに思えてきた
>はやてさんマジぱねぇっす!
>はやてさんあんた神だw
>待て、何ぞはやてが最高過ぎるwwwww
微妙に堕ちた感があるのにこの格好良さは何?wwww
>はやてえええええええええええええ
いいとこ取りしすぎやぁぁ
>はやてタクシー恐るべしwww
>はやて「通りすがりのタクシードライバーや!」
>流石なのは御用達の八神タクシーw
「何処へでも参ります。お代はなのはさん持ちで」
と言う感じでしょうか。

やっぱりはやてさんの人気は高いですね。
登場時の感想がはやて一色になりますから。
特に、前回あれだけ色々と起きていたのに、そこ以外には誰も突っ込んでくれないんですから。

>もうレアスキルが「客蒐集」じゃなくて「神出鬼没」とか「物語介入」とかそんな感じに思えてきた

夜天の魔導書には、蒐集行使というものがあるらしい。
後は……分かるな?

>はやてタクシーを最終決戦に連れてく方法

これってリンディさんのケーキと、アルフがタクシーに乗る事の関連性が全然無いと思うんですけどww

>はやて「海鳴に!移動を望む!人あらば!いいとこどりや!はやて推参!」
てな感じの矜持がありそうですね
ちなみに和歌です

プライドを持って仕事してますからね。
そんな物を持っていると思います。

>何か「たいせつなもの」を全て持って行く……いや運んでいくのですな。

笑いと幸せを運ぶはやてタクシーを、どうかよろしくお願いします。

>幾ら個人経営のタクシーだからって、そんなにタダ乗りさせてると
三人娘とペット一匹養えなくなるぞ

まだ一人暮らしですから大丈夫です。

>今回、原作ではアリサが拾ってきた部分ですが、この流れだと
アリすずは絡んでくる部分があるんでしょうか?

まずありませんね。




[10864] 第五十話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/01 23:30



 アルフがなのはの家に運ばれた翌日。
 なのはがアルフの血が滲んだ包帯を取り換えていると、アルフの目がうっすらと開いた。

「……あ、起きた?」

「あたし……は……?」

「まだ起き上がらない方が良いよ。私も回復魔法掛けて治療したけど、完全に治った訳じゃないから」

「アンタは……!」

 アルフがなのはの姿を見て、驚く声を上げる。
 そして、目だけで辺りを見回す。

「ここはいったい……?」

「私の家だよ。アルフさんがここまで運ぶように頼んだんでしょ?」

「……そうか……そうだったね……」

 アルフは昨日の事を思い出し、納得する。
 しかし、同時にそれ以上の事を思い出し、アルフが咄嗟に起き上がろうとした。
 それをなのはに押さえつけられる。

「ちょっと、アルフさん!? まだ寝てないと――」

「そんなことより、フェイトが大変なんだ!」

「え……?」

 なのはが思わず力を抜く。
 アルフが起き上がり、なのはの腕を掴んだ。

「お願いだ! フェイトを、あの子を助けて……」

 力の籠もらないアルフの手では、なのはの腕が痛みを覚える事は無かった。
 だが必死にしがみ付くアルフの手を、なのはが振り切れるはずも無い。
 なのはの目が険を帯びる。

「……詳しく話してくれる? フェイトちゃんは、いったいどうしたの?」

「話すよ。全部話すから。だからフェイトを……」

 アルフの泣きそうな声に、なのははアルフの腕を握る。

「分かった。時空管理局の方にも連絡しようか?」

「ああ。頼むよ……」

 なのははレイジングハートに連絡を頼む。
 程なくして、クロノが通信に出た。

『時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ。
 ……どうも事情が深そうだな。
 正直に話してくれれば、悪いようにはしない。
 君の事も、君の主である、フェイト・テスタロッサの事も……』

「……分かった。だけど、約束して。フェイトを助けるって。あの子は何も悪くないんだよ」

『ああ、約束しよう。エイミィ、記録を』

『してるよ』

 クロノは傍らに居るエイミィに話しかけ、エイミィもそれに応える声が聞こえた。

『話してくれ』

 クロノの呼び掛けに、アルフは重い口を開いた。

「……フェイトの母親、プレシア・テスタロッサが、全ての始まりなんだ……」

 アルフは、今までの事を話し始めた。
 プレシアとフェイトの関係。
 ジュエルシードを欲するプレシア。
 母に元に戻ってもらいたいと願うフェイト。
 ジュエルシードを集めて来たフェイトに、プレシアが行って来た残酷な仕打ち。
 それでも、フェイトはプレシアに従おうとする事を。
 アルフは話し続けた。
 プレシアの事を話すときは怒りを、フェイトの事を話すときは、悲しみの籠った声で。

「……これで、終わりだよ」

 アルフが全てを話し終えて、静かに息を吐く。

「そうだったんだ……」

『なるほど。そのせいで弱っていたからか。
 あれだけの力を持っていながら、僕のあの程度の攻撃が避けられないのはおかしいと思っていたんだ』

 なのははそれを見つめ、フェイトがどんな思いをしていたのかを知る。
 クロノは最初に放った牽制用の魔法に、フェイトが引っ掛かった事の理由が分かって納得する。

「……それにあのババア、最後にフェイトの事、人形だって言ってた」

「人形?」

『……どういうことだ?』

「知らないよ。あたしが知るもんか。
 ただ『人形をどうしようが私の勝手だ』って、そんな事言ってただけだ……」

『……エイミィ』

クロノは傍らに居るエイミィに話しかけた。

『はいはい、何ざんしょ?』

『プレシアの家族関係のデータ、出来る限り急いで送ってくれるように言ってくれ』

『オッケー』

エイミィは軽い感じで返した。

『その「人形」とやらについては、こちらでも調べておこう』

「ああ……」

 アルフは静かに返す。
 クロノが話を聞き終わり、アルフに告げる。

『どうやら、なのはさんの話と現場の状況、そしてアルフ、君の証言に嘘や矛盾は無さそうだな』

「嘘なんか言うもんか!!」

 アルフがクロノに怒鳴る。
 そして、思いの丈を吐き出す。

「あたしは、ただフェイトを助けたいだけなんだよ……」

 それを聞いたなのはは、クロノに話しかける。

「……ねえ、クロノ君」

『何ですか?』

「この場合、どうなるの?」

『プレシア・テスタロッサを捕縛します』

 クロノは言いきった。

『アースラを攻撃した事実だけでも、逮捕の理由には十分ですから。
 だから、僕達は艦長の命が有り次第、任務をプレシアの逮捕に変更することになります』

「そう……」

『なのはさんはどうするんですか?』

「私はフェイトちゃんを助けるよ」

 なのはは即答した。

「アルフさんの話で、色々と納得がいった部分もあるしね。
 これは、アルフさんの願いでもあるし、同時に私の願いでもある。
 私は、フェイトちゃんには笑ってもらいたいんだよ。
 だから助けたいんだよ、哀しい事からね。
 まだ分からない所も有るけど、それでも、私がフェイトちゃんを助けたいのに変わりは無いから」

 どんな思いを持っていようと、フェイトを助けたいという想いに違いは無い。
 なのはは強い意志を固めてクロノに答える。

『……分かりました。
 こちらとしても、貴女の魔力を使わせてもらえるのは、ありがたい事ですからね。
 フェイト・テスタロッサについては、なのはさんに任せます。
 アルフも、それで良いね?』

「ああ。……アンタなら、酷い事にはならないだろうからね」

 アルフがなのはを見ながらポツリと零す。
 なのはがその言葉に笑みを浮かべる。

「それは、信用してくれるって事かな?」

「……それでいいよ。敵の前でデバイス解除する馬鹿を、信じてみても良いかと思っただけさ……」

「……馬鹿ってのは酷くない?」

「馬鹿だろうに。まあ、そんな馬鹿だからこそ、あたしが頼ろうと思ったのかもしれないけどね」

 なのはが複雑な顔をしているのを、アルフが生来の闊達さで笑い飛ばす。
 それでなのはも馬鹿らしくなったのか、一緒になって笑った。
 そこにクロノが割り込む。

『アルフ、ちょっと良いか?』

「どうかしたのかい?」

 アルフがクロノに聞き返す。

『アルフ、君はジュエルシードの数が少ない事に、プレシアは怒っていたと言ったな?』

「……ああ」

 アルフの声が沈む。
 昨日のフェイトの姿を思い出したからだろう。

『ならば、もう一度来る筈だ。次は僕達のジュエルシードを奪いに……』

「そうだね……」

 なのはも同意する。

『早ければ今日、遅くても三日以内には、もう一度現れると思います。
 ですから、なのはさんがそれをおびき寄せている間に、僕達はプレシアの居場所を掴もうと思います』

「分かった」

 なのはは頷くが、アルフが疑問を呈する。

「待っとくれ。時の庭園の在り処なら、あたしが知ってるよ?」

『……おそらく、アルフの知っている座標じゃ、時の庭園には辿り着けないだろう』

 クロノが苦虫を噛み潰したような声で言った。

『時の庭園は移動要塞だ。
 高次空間内を漂っているのだから、既にアルフの知っていた場所にはいないだろう。
 だから、なのはさんがジュエルシードを持って、フェイト・テスタロッサと闘って下さい。
 そうすれば、二十一個全てのジュエルシードが有ると分かった彼女は、間違いなくもう一度出て来ます』

「なるほどね」

 なのははクロノが立てた作戦の囮をやればいいという事だ。
 なのはならば、以前みたいにデバイスを待機状態にしていなければ、あの雷も防げるとクロノは判断したらしい。

「分かったよ。その役、頑張ってこなしてみせるから」

『お願いします。プレシアがしびれを切らして出て来るまで、闘いは出来る限り長引かせて下さい。
 ……ああ、そうそう……』

 クロノが何かを思い出す。

「? なにかな?」

『艦長からの伝言です。「ケーキを……」だそうです』

「あ、そう……」

 クロノはもう開き直ったらしい。
 伝言が先程と比べて、明らかに事務的な口調だからだ。

『それでは、闘いに備えて、英気を養っておいて下さい』

 そういって、アースラとの通信は終わった。
 アルフは、なのはに不思議な視線を送る。

「……艦長のセリフがケーキだけだなんて、アンタいったい何したんだい?」

「私はケーキを作ってあげただけだよ。でも――」

 なのはの頬に、汗が一筋流れた。
 そして、ポツリと呟いた。

「……ちょっと、やり過ぎたかもしれない……」








あとがき

フェイトとの闘いまでのつなぎの回。
あと一話入れてから闘い始まるよ。多分。

そしてついに50話になりました。
これからもお付き合いをよろしくお願いします。


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>素敵な脇役過ぎるだろwwww

ありがとうございます。
ここまで人気出るとは思わなかったです。

>はやて、かっこいいぞ、かっこいいんだ……でも、はやてが言うとなぜかちょっと笑いが……これがはやて補正!?

そうです、はやて補正です。

>はやてならさりげなーくアルフの胸を揉んだに違いない

改めて言わなくても……分かるな?

>乗った客以外からは金を貰わないなんて、素晴らしい考えだ!

乗せた客にはちゃんと払ってもらうというのがポリシーです。

>や、わざわざ普通であることを強調せずとも……リンディ茶の後遺症か…ん?それとも酒が入ってないって意味なのか?

一応ずっとアースラに乗ってましたから。
なのは自身も研究のために砂糖入りを飲んでいたので、それに毒されていないと言いたかっただけです。

>この分で行くと、ヒロインがツンデレで中の人が某釘嬢のライトノベル3作品もきっとあるw

おそらくあります。

>「観光から護送まで、海鳴に来たら八神タクシーをご利用下さい」

護送はまだ無理ですね。
狙われない技術なら持ってると思うんですけど。

>ちょw何ですかこの漢女は!?

それが、はやてさんクオリティ

>はやてさんは出オチとしての威力がありすぎるんだよw

明らかに前回は出オチじゃないくらい出張ってます。

>子供の頃から読書家だったけれど、三十路過ぎてもラノベを読んでいるのは、かなりオタク寄りな趣味じゃないかと思ったw

流行の最先端を突っ走っているだけです。
色々なお客さんと話を合わせるのに必要なんだとでも言っておきます。


このなのは世界は、だいたい私たちと同じ漫画、アニメ、小説、ゲームがあると思ってもらって結構です。
ただ、このなのは世界に存在しないものも当然あります。
ある漫画(リリカルやとらハでは勿論ありませんよ)だけはありません。
この世界と同じ世界としましたから。
それだけは現時点で決めています。
というか、次でその話を出す予定にしたので、なのは世界から無くなっただけなんですけどね。

よかったら、次の話を見るまでに考えてみてください。



……次、はやてさん出るからね。




[10864] 第五十一話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/02 12:59




「八神さん、海鳴臨海公園までお願いね」

「まかせとき」







 なのは達が準備をしていると、微弱な魔力反応を感知した。
 恐らくフェイトがこの世界に来たのだろう。
 こんなに早く来る事になった事に、なのはは微妙な焦りを感じた。
 そんななのは達が、タクシーで目的地へと向かっている時、クロノから念話が掛かってきた。

『なのはさん、今いいですか?』

 なのはは運転席を一瞬見やり、クロノに答える。

『今は移動中だから、ずっと念話でなら良いよ。ああ、アルフさんにも繋いでね』

『分かりました』

 そして念話はアルフも聞く事になった。

『僕が今朝、プレシアについての情報をエイミィに催促したのを、なのはさんは覚えていますか?』

『ああ、そういえばそんな事も言ってたねぇ……』

 横で聞いていたアルフは、その事を思い出したのか、念話で間延びした声を出す。

『実は先ほど、その情報が届きました』

『そう……。それで、どうだったの?』

『その事なんですが、あまり良い情報ではありませんでした』

『なんだい、その良い情報じゃないってのは?』

 アルフがクロノのその言葉に食いつく。
 だが、クロノの口は重い。

『それがですね……その……』

『あ~もうっ! まだるっこしいね! 男ならさっさと喋んな!』

『まあまあアルフさん、落ち着いて』

 なのはがアルフを抑える。

『それで……クロノ君、その良い情報じゃないっていうのは、情報が信用出来ないって事?
 それとも、その情報は確かで、知らない方が良いような情報だって事かな?』

『……後者です』

 クロノは答えるのも億劫そうに言った。

『正確には、知ると気分が悪くなるような情報です』

『気分が……悪くなる?』

 なのはは顔はそのままに、眉だけ僅かにピクリと動かした。

『これから闘うなのはさんや、アルフは聞かない方が良いかもしれません』

『あたしも? あたしはフェイトの使い魔だよ。それでも聞かない方が良いってのかい!?』

 アルフは喉でグルグルと低く唸る。
 なのははそれを再び抑えるように手で示した。
 幸い、何も言われなかったが、おそらく聞かないふりをしてくれているのだろう。

『使い魔だからこそ、聞かない方が良い事かもしれないんだ』

 クロノはそう言った。
 その言葉に、なのはもクロノが知った情報の事が段々と気になって来た。

『ねえ、クロノ君。私にもその事、教えてくれる?』

『……ですが、これから貴女はあの子と闘うんですから、その集中を解くかもしれない事は……』

『そんなにも隠されたら、そっちの方が気になって逆に闘えないよ。
 ……それに、どんな事を知ったからって、私がやる事に変わりは無いから』

『……分かりました』

 クロノは渋々従う。
 そこにアルフが割って入る。

『あたしにも教えとくれ』

『アルフ……』

『アルフさん……』

『……あたしは、使い魔だ。フェイトの使い魔なんだ。
 だから、例えそれがどんな酷い事だって、あたしは知らなきゃいけない。
 ……そんな気がするんだ』

 強い意志を秘めた目で、アルフは言い切った。
 その言葉にクロノも絆されたのか、軽い感じで返す。

『分かった。でも、聞いた後に、聞かなきゃよかったと愚痴らないでくれよ』

 アルフも軽口で返した。

『あたしはそんな、器の小さい事はしないよ』

『それじゃ、話します』

 クロノが一呼吸おいてから、なのは達に話し始めた。

『……最初の事故、ヒュードラの事件の時に、プレシアは実の娘を亡くしています。
 その娘の名前は、アリシア・テスタロッサ』

『アリシアちゃん……ね』

 なのははその名前を記憶する。

『このアリシアという少女、亡くなった時はまだ5歳だったそうです。
 誰に対しても物怖じしない性格で、研究所では大人たちに、マスコットとして可愛がられていたみたいですね。
 散逸した当時の研究者の手記にそうありました。
 ……ですが、この少女の容姿が問題なんです』

『その問題って?』

 クロノは静かに答えた。

『かろうじて残っていた彼女の写真のデータを見ると、フェイト・テスタロッサと瓜二つなんです』

『何だって!?』

『……でもそれだけじゃ、ただの良く似た姉妹ってだけだと思うけど?』

 なのはもクロノの言葉に、嫌な予感が走った。
 出来れば否定して欲しいと思って。
 そんななのはの疑問に、クロノは答えた。

『ここからが確信です。プレシアの研究は多岐に及んでいました。
 ですが、彼女が最後に行っていた主な研究は二つです。
 使い魔とは異なる、使い魔を超える人造生命の生成。
 そして……死者蘇生の秘術です』

『……つまり』

『ええ。フェイト・テスタロッサは、アリシア・テスタロッサのクローンのような物、と考えられるのではないかと。
 アルフが言っていた、プレシアの「人形」という発言は、ここから来ているのかもしれません。
 その言葉は、彼女が自然に生まれた存在ではない、という事を示しているのではないでしょうか?』

 クロノの言葉に、なのはは顎に手を当て考え込む。
 それを察したのか、クロノも黙り込んだ。
 しかし、静かに話を聞いていたアルフは黙っていなかった。

『なんだい、そんな事か』

『アルフ? 君、もしかして知って……?』

『知らなかったよ、そんなの』

 アルフの口調に、知っていたのかと問うクロノ。
 だが、アルフはそれを否定した。
 クロノの言った言葉を鼻で笑う。

『あたしはもっと、聞いた瞬間にあのババアを殺したくなるような、そんな胸クソ悪い話が飛び出すと思ってたんだよ。
 でもアンタの言葉じゃ、フェイトが普通とはちょっと違う生まれ方をした、ってだけじゃないか。
 ただそれだけの事だろ?
 それに、そのアリシアってやつが居なくならなきゃ、あたしはフェイトと会えなかったしね』

『……君は……』

 クロノがアルフのあっけらかんとした答えに絶句する。

『……そうだね。フェイトちゃんの生まれがどうこうって事は、あまり問題じゃないし』

 なのはもアルフの言葉に同意した。

『フェイトちゃんはフェイトちゃんだからね。
 どんなに似ていても、アリシアちゃんじゃないから。
 だから、問題はそこじゃない』

『……そうですね』

 クロノも同意した。

『問題はそんな事をしたプレシアの方ですから』

『そうだよ。そっちの方が重要だね』

 ただ子供を産んだだけなら、それで構わない。
 自分が何らかの理由で子供が作れないから、別の方法に頼って子供を欲するのはよくある事だ。
 だが、プレシアは違う。
 その別の方法で生まれたフェイトを、アリシアとして扱うつもりだった。
 しかし上手く行かなかったから、フェイトに辛く接するようになったのだろう。
 アルフの言っていた証言の中に、フェイトは昔は母さんは優しかったと言っていた。
 だからフェイトは、その時の記憶を信じて、今もまだプレシアに従っているのだろう。

『ともかく、調べられた情報はこれで全てです。あとはなのはさん任せになります。頑張ってください』

『分かったよ。じゃあね』

 そしてクロノとの念話は終わった。

「……話は終わったんか?」

 そこで運転手から話しかけられた。
 まるでエスパーのように出番を待っていたかのようだ。
 そのタイミングの良さに、なのははもしかして今の話を聞かれていたんじゃと不安になった。
 だがそんな事は無いだろう。
 この世界で魔力資質を持っている人間が、そうそう転がっているはずがないからだ。
 いきなり話しかけられ、なのはは動揺する。

「え、あ、いやその……」

 しかし、運転手はなのはのそんな様子はどうでもいいのか、言葉を続ける。

「この間のフェレットの時も思ったけど、いつの間に店長はアイコンタクトで長話出来るようになったんや?」

「えっと……それは……」

「まあええわ。もし良かったら今度教えてな」

「き、機会があったらね」

 なのははそんな事を言って誤魔化した。
 運転手はそれに満足したのか、今度はアルフに話しかけた。

「確か……アルフさん、言うたな?」

「ああ、あたしかい? それでいいよ」

 アルフは話を振られて応対する。

「昨日、凄い怪我しとったけど、もう大丈夫なん?」

「平気だよ。あたしの身体は頑丈なんだ」

 アルフは軽く腕を曲げ、力こぶを作る真似をした。
 それに気を良くしたのか、運転手は尚も話しかける。

「そらええ事やな。それでアルフさん、車に酔ったりとかはしてへんか?」

「ああ、それは大丈……そういえばこれ、全然揺れないね」

 アルフは座席をポフポフと叩く。
 運転手はアルフのその不思議そうな顔を見て、ニヤッと笑う。

「せやろ? なんせわたしは、水を入れた紙コップを、一滴も零さずに山を往復出来るからな」

「それは凄いね。それも何かの漫画の受け売り?」

 なのはが今度はどこから仕入れて来たのかと尋ねる。
 だが運転手は前を見ながら、首を軽く横に振る。

「ちゃうちゃう。これは知り合いから教えてもらった技術や。
 その知り合いは豆腐屋やっててな、そうやって走れば配達する時に豆腐が崩れないんやって」

「へぇ、そうなんだ」

 なのはが感心する。
 基本的になのはは店から動かないため、そうやって配達をする人の苦労などは知らないのだ。

「その知り合い、無茶苦茶速くてな。競走しても誰も勝てんかった。
 しかもやり方がえげつないんよ。
 別に卑怯な事やないんやけど、普通やらんやろって事平気でやって来るキレた人でな。
 溝にタイヤ落として内側走るわ、後ろにおったらライト消してプレッシャー掛けてくるわ。
 しかもそれが成功すんねん。本当にありえへんやろって感じの人やったわ」

「す、凄いね、その人」

 なのはは汗を一筋流す。
 運転手は昔の事を思い出して気が大きくなったのか、更に喋る。

「最近はもう会いにいってないなぁ。それなりに遠いから仕方ないんやけど」

「何かあったの?」

 運転手の少し沈んだ様子を見て、なのはは尋ねた。

「それがな、一度その人と勝負した事があるんよ。でも、負けてしもうてな。
 それからやな、何か熱が冷めたのか、あんまり行かなくなったんよ」

 その時なのはは、運転手の目に怒りが灯っている事に気付いた。

「……それもこれも、あのクソ本のせいや!」

 運転手はハンドルを握りながら、忌々しげに叫んだ。
 アルフがその声に小さく飛び上がる。

「ど、どうかしたの?」

「どうかしたの? じゃあらへんよ!」

 運転手は前を睨みながら言葉を続ける。
 叫んで少しは落ち着いたのか、なのは達は話を聞く事が出来た。

「……わたしが勝負したのは十年くらい前なんやけどな。
 その時、下り、上り、下りの三回勝負やったんよ。
 最初の下りはあの人が勝って、次の上りはわたしが勝った。
 だから、最後の下りの勝負、それで全てが決まるはずやった。
 でもな、わたしが前に躍り出たとき……事件は起きた」

 なのはもアルフも、静かに話を聞いていた。
 邪魔をしてはいけないと感じたからだ。

「わたしの目の前に、黒いモノが現れたんよ。
 目の前って言っても、車の目の前で子猫が横切ったとか、そんなレベルやない。
 文字通り、顔の目の前や」

 運転手は、それを教えるように、片手で顔の前をひらひらと扇ぐ。

「いきなり現れたそれが、わたしの顔面に激突してな。
 おかげで、わたしの外人みたいに高かった鼻が、鼻ペチャになってしもうた」

 それは元からなんじゃないか、と思わずアルフが突っ込もうとしたが、なのはが念話でそれを抑えた。

「事故ったりはせえへんかったけど、それでわたしの車はスピンしてもうて、それで負けたんよ。
 結果は結果やからな。
 それで以前みたいな熱は冷めて、タクシーの運転手やろうって思ったんやけど、まあそれは別の話やな。
 勝負の後で、わたしにぶつかって来て、わたしの視界を奪ったそれは、鎖で雁字搦めにされた本やった」

「なんでそんな物が……」

「わたしが知るわけないやろ。
 そもそも鎖で読めへんようにされてたら、本の意味無いやんか。
 鎖を解く鍵穴とかも無かったし、ペンチで切ろうと思っても無理やった。
 気味悪かったから、近くの寺に持っていって供養してもらったで」

「ふうん……」

「その寺の坊さんが『破ァッ!』てやったら砂になって消えてったから、やっぱり悪いモンやったんやろな」

「そうなんだ……」

 なのはがそう相槌を打つと、タクシーは停まった。

「変な話に付き合ってもらって悪かったなぁ……。海鳴臨海公園、着いたで」

 運転手の言葉に、なのはが顔を外へ向けると、そこはもう海鳴臨海公園だった。
 なのははアルフにお金を渡し、念話で言付ける。

「それじゃ、ありがとね」

 なのははそういって降りた。
 アルフは少し首を傾げたが、なのはからもらった諭吉を運転手に渡した。
 そして、なのはから言われた言葉を、そのままアルフは繰り返した。

「えっと……釣りはいらない、取っときな!」

 それを聞いた運転手は、先程までの暗い顔では無く、パアアッと明るい笑みを浮かべた。

「おおきに……」

 運転手は感慨の籠った声で言った。
 アルフはそれを聞いて気分が良くなり、勢い良く車から飛び降りた。

「また利用してなぁ!」

 そういって車は走り去って行った。



 なのはは深呼吸を一つして、気を引き締めた。

「ここなら、結界を張れば大丈夫だよ」

 誰もいないような静寂が包む中、なのはは呼び掛けた。

「もう、出てきていいよ。フェイトちゃん」

 風がなのはの髪を揺らす。
 静かに待っていると、後ろに今までとは違う風を感じた。
 なのはが振り向くと、黄色い光を出す電灯の上に、フェイトは立っていた。

『Scythe form』

 フェイトは何も言わず、ただバルディッシュを構えた。
 そのフェイトに、傍らに立つアルフは呼び掛ける。

「フェイト……もう止めよう? 
 あんな女の言う事なんて、もう聞いちゃ駄目だよ。
 このままじゃ、フェイトは不幸になるばっかりじゃないか。
 だから……」

 フェイトは静かに頭を振る。
 小さな声で、フェイトは言った。

「……それでも私は、あの人の娘だから……」

 なのははその言葉に、先程のクロノの言葉が脳裏をよぎる。
 そして顔を僅かに顰めた。
 しかし、それも一瞬の事。
 一度目を閉じ、なのはは気持ちを切り替える。
 首に下がっているレイジングハートが赤く光り、なのはの姿はいつもの翠屋の制服へと切り替わった。
 泡立て器と化したレイジングハートを、右手に握る。
 なのはが目を開け、静かにレイジングハートを掲げる。

「ただ捨てれば良い訳じゃないんだ。そして、逃げれば良い訳でもない。
 逃げる事が悪いとは言わないよ。でも、逃げてるだけじゃ何も変わらない。
 例え怖くても、どんな想いを持っていても、立ち向かわなきゃいけない時は必ず来る。
 そして、今はその時。だから……」

『Put out』

 レイジングハートの声と共に、なのはの周りに12個のジュエルシードが浮かぶ。

「賭けようか。お互いの持つ、全てのジュエルシードを」

『Put out』

 バルディッシュの中に格納されていた、9個のジュエルシードがフェイトの周りに浮かぶ。
 なのははフェイトに話しかける。

「ねえ、フェイトちゃん。
 この間はクロノ君に邪魔されて、決着は着かなかったよね。
 だから、もう一度やろう。
 あの時と同じ、この場所で」

 フェイトは何も答えない。
 だが、その目はなのはの事をずっと見ていた。

「私達は、まだ数える程しか会っていない。
 でも私は、フェイトちゃんの事はよく知ってる。
 これは不公平だと思わないかな?
 だから今度は、フェイトちゃんが私の事を知ってくれると嬉しいな。
 後の事はそれからだよ。全部、それから……」

 なのははレイジングハートをフェイトに向ける。
 フェイトは何も言葉にしないが、バルディッシュを構えて警戒する。

「始めようか、本気の勝負を。
 私の力は、ちょっと凶悪だから……死なないでね、フェイトちゃん」

 そして、二人の激闘が始まった。





あとがき

という訳で、頭文字Dがこの世界にはありません。
同じ世界という設定ですが、もう出て来ません。
なのはさんではなく、はやてさんの方に関わっていたんですね。
このおかげで、はやてさんの車は揺れが少なく、お年寄りにも大人気となっております。
分かった人……いたかな?
いたら凄いですね。

あと今回、はやてさんがやばい事してますが、あまり気にしないで下さい。
べ、別にA's始められそうもないから、フラグを片っ端から折ろうとか思ってないんだからね!
……本当ですよ?

そして次回、遂にフェイトとの決戦です。
スターライトブレイカー、出るかな?


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>はやての登場は
なのは「八神さん!海鳴臨海公園まで!」
だとみた!

使わせて頂きました。ちょっと変えましたけど。

>りんでぃさんは もはや なのはさんの いいなり で ぜったいふくじゅう ですね
なのはさんがフェイトを養子に迎えたいとか言ったら、ケーキを代価に嬉々として各種の手続き・工作を行なってくれるんだろうな
そして、「フェイトさんの様子を見るのが条件ですので」とか嘯いて嬉々として海鳴に移住して翠屋に入り浸るんだろうな
もうとっとと引退するべきですね
アンチやヘイトは数あれど、こんなにひどいリンディさんにはそうそうお目にかかれないと思う

ちょっと悪ノリが過ぎましたか。
安易に笑いが取れるので、ネタで使い過ぎましたね。
キャラが崩れてしまったことは否めません。
不快な思いをされたのでしたら、すいませんでした。
これからは自重します。
リンディさんが出撃する所とかで、もっとかっこよく書けるようがんばります。

>まあ、リンディの甘味への執着も有る意味凄いですが、
これはなのはが酒へ執着するのと同じようなもの、とおもえば充分ありだと思います。
原作一期でもわりとお茶目なシーンはちらほらと有りましたし。

そういって頂けるとありがたいです。

>なのははプレシアに会って、その言を聞いて何を想うのでしょうか。
フェイトの生い立ちを知った後の反応が見ものですね。

とりあえずやる事は変わらない、と言っていました。

>なのは世界に無いものですか……
要る物が時の庭園にたどり着くための空間移動機能、と考えると、
ヤ○ト・9○9・エ○ラルダス等の松本○士作品が思い浮かんでくるのですが、
どうでしょうか……

タクシーが時の庭園に行く為のものじゃありませんww

>50回おめでとう御座います。
>最後になりましたが、50話突破おめでとうございます。
この先もお体に気をつけて、執筆がんばって下さい。

ありがとうございます。
書いて投稿して、様の反応を見ない事には次の話が書けない自分としては、ここまでモチベーションが続くのは珍しいです。
最近はちょっとスピードが遅くなっていますが、頑張りますので応援よろしくお願いします。





[10864] 第五十二話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/03 14:39




 母さん。

 私の母さん。

 いつも優しかった母さん。

 私の名前を優しく呼んでくれた、母さん。

 そんな母さんが、私は大好き。

 ほら、今もこうして私のために、綺麗なお花で冠を作ってくれるもの。

 綺麗な花冠を掲げて、私の名前を呼んでくれるもの。

「ね? とても奇麗でしょう? アリシア」

 え?

 アリシア?

 違うよ、母さん。

 私の名前は、フェイトだよ?

「さ、いらっしゃい、アリシア」

 母さんは近寄った私に、冠を頭に乗せてくれる。

「ほら、可愛いわ、アリシア」

 母さんが私に微笑んでくれる。

 私の口からも、今まで出した事が無いくらい、大きな笑い声が溢れる。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……まあ、いいのかな。

 母さんは笑ってくれてるし、私も嬉しいから、それでいいや。

 私は、優しい母さんが大好きだから。






「はあああっ!」

 フェイトは真っ直ぐなのはに向けて飛ぶ。
 何よりも速く、直進して一撃当てればそれで終わる。
 しかし、なのはが掲げたレイジングハートが、とっさに張ったプロテクションに防がれた。
 それを見てとったフェイトは、なのはが張ったプロテクションを蹴って、空中で一回転してその場から離れる。

「バルディッシュ!」

『Blitz Action』

 フェイトの姿が一瞬掻き消える。
 姿を見失う程の速さで、フェイトはなのはの後ろに回り込む。
 死神の鎌でなのはの首を狩ろうとするが、またしても防がれる。

「くっ、また……!」

 フェイトが小さく舌打ちして、再び空中に飛んで距離をとる。
 それを見ていたなのはが、空にいるフェイトに話しかけた。

「フェイトちゃんってさ、良く後ろに回り込もうとするよね?
 正直だから、どこから来るか分かりやすいんだよね。
 それじゃあどんなに速くても、来る場所が分かれば私には防がれちゃうよ?」

『Divine Shooter』

 なのはの周りに五つの魔力弾が生じる。
 それが撃ち出され、フェイトに突き進む。
 フェイトはそれを避けたが、なのはに誘導された魔力弾はフェイトを追い続ける。
 フェイトは同じ魔力弾を放って相殺し、相殺出来なかったものは鎌で切り裂き消滅させる。
 しかし、五つの魔力弾を消滅したフェイトの目の前に、五つの魔力弾が待ち構えていた。
 慌ててブリッツアクションでその場を離れる。
 フェイトを囲むように待ち構えていた魔力弾は、それぞれがぶつかりあって消滅した。
 フェイトは地上にいるなのはに向けて、バルディッシュを向ける。

『Photon Lancer.Full auto fire』

 槍のような魔力弾が形成され、なのはに向かって飛来する。

「レイジングハート!」

『Round Shield』

 桜色の環状魔法陣がなのはの前に現れる。

「フル回転」

 なのはの言葉に従い、ラウンドシールドは扇風機のように残像を残しながら回転する。
 そこにフェイトのフォトンランサーが降り注ぐ。
 しかし、なのはの回転するラウンドシールドによって、方向を捻じ曲げられた光槍は辺りの地面に突き刺さった。
 一発も当てられなかったフェイトは、なのはを見ながら歯噛みする。

「強い……」

 最初に会った時はなら、既に決着は着いていただろう。
 なのははフェイトのスピードに付いてくる事は出来ず、防御する間もなくやられていたはずだ。
 だがなのはは、まだ立っていた。
 無傷のままで。
 そして見ていた。
 フェイトの動きの一挙一動を、その目で全てを見ていた。

(初めて会った時は、魔力がただ強いだけの人だったのに……。
 けど今はもう違う。とても強い。おまけに防御が固すぎる。
 攻撃はまだ一種類しか使っていないから分からないけど、あの魔力弾はとても重かったし)

 なのはの魔力弾は回転している。
 僅かにでも気を抜けば、回転する魔力弾に弾かれて、バルディッシュが手元から離れてしまう事も考えられるのだ。
 今まで見たことも無いほどの厄介な相手だ。
 何より、

「まだ一歩も動いていないなんて……!」

 なのははまだ空を飛んでいないのだ。
 だがこれは、なのはがフェイトを侮っているからではない。
 逆なのだ。なのはがフェイトの速さを警戒しているからとも考えられる。
 通常、陸戦よりも空戦の方が強いとされる。
 それは空の方が、陸で闘うよりも自由に動き回れるからだ。
 空中を移動する以外の魔法を、同時に行使出来るからという事もある。
 空中ならば遮蔽物などなく、避ける事も容易い。
 だから、空中に比べて逃げ場の少ない陸戦は、普通は空から狙い撃ちにされるだけなのだ。
 普通ならば。

 だが、なのはは普通じゃなかった。

 その堅牢な防御の前に、避ける事など不要。
 全てを受け止めた上で、相手を叩きのめす。
 なのはの戦闘スタイルはそういうものだ。
 しかし、なのはが人間である以上、死角となる部分は存在する。
 魔法の無い世界で育ったなのはにとって、普段意識しない方向からの攻撃は、何よりも怖い。
 それは普通はない真上からの攻撃であり、自らが踏みしめている地面よりも真下からの攻撃だ。
 だからこそ、なのはは空を飛ばないのだろう。
 自らは動かず、固定砲台として下から対空射撃をする。
 飛ばないからこそ、なのははフェイトの動きを目で追いかけられるのだ。

「でも……負けられない!」

 フェイトはジュエルシードを集めなければならないのだ。

「空中戦ならこちらが有利だし、飛ばないなら、飛ぶように仕向ければ良いんだ」

 集めて、そしてもう一度プレシアに笑ってもらうという目的があるから。

「バルディッシュ!」

『Photon Lancer Multishot』

 フェイトの周りに、複数のフォトンスフィアが生成される。

「また?」

 なのはがそれを見て眉をひそめる。
 攻撃が効かなかったのは、先程のフォトンランサー・フルオートファイアが散らされた事で証明している。
 だというのに、数の少ないマルチショットを選択したフェイトに、なのはは疑問を覚えた。
 だがフェイトはなのはの疑問には答えず、バルディッシュの先端をなのはの方へと向ける。

「レイジングハート」

『Round Shield』

 なのははまた同じようにラウンドシールドを出現させ、回転させる。
 それを見ても、フェイトは呪文を止めようとはしない。

「ファイア!」

 フェイトの掛け声と共に、フェイトの周りで待機していたフォトンスフィアが撃ち出される。
 それは再び、なのはのラウンドシールドに防がれると思われた。
 だがしかし、それはなのはの張るシールドでは無く、その手前の地面に着弾する。
 叩きつけられたフォトンスフィアは、轟音を上げて炸裂する。
 衝撃で地面を抉り、砂煙が撒き上がる。

「これはっ!?」

 なのはは視界を塞がれ動揺する。
 しかし、直ぐに思い直し、張ったままだったラウンドシールドを更に回転させる。
 グルグルと回転するシールドによって、なのはの周りの砂煙は吹き飛んでいく。
 だが遅かった。
 地面にへばり付く程に体勢を低くし、鎌を構えたフェイトが砂煙の中に潜んでいた。
 なのはがそれを視認すると同時に、フェイトは鎌でなのはの足を狩る。
 それがなのはの足に当たる直前、またしても桜色の壁が邪魔をする。
 だが――

「ブラストォッ!」

 フェイトがバルディッシュに付いたままの鎌を爆発させた。

「きゃああっ!」

 咄嗟に張った構成の荒いバリアでは防げず、なのはは上に吹き飛ばされる。
 そのままでは海に墜落するため、なのはは空中で飛行魔法を使い制止する。

「!? フェイトちゃんはっ!?」

 なのはが自分を吹き飛ばしたフェイトの姿を探すが、先程の場所には既にその姿はない。
 だが、なのはの耳に、フェイトの声が聞こえた。

「撃ち抜け、豪雷」

『master!』

「え?」

 なのはがレイジングハートの警告に従い、上を見上げる。
 そこには、なのはの頭上に金の環状魔法陣が設置されていた。

「サンダースマッシャー!」

『Thunder Smasher』

 なのはよりも上空にいたフェイトが、バルディッシュの刃をその環状魔法陣に叩きつける。
 その先には、なのはがいる。

「ああああああっ!!」

 雷を纏った砲撃を至近距離で放たれ、なのはは痛みと感電で絶叫する。
 そのまま海面に叩きつけられ、海に沈んだ。

「はあっ……はあっ……」

 フェイトは荒い息を吐きながら、海を見つめる。
 なのはを空に飛ばした事は成功だが、フェイトにも代償はあった。
 通常、鎌は飛ばしてから爆発させる所を、バルディッシュに繋げたまま、フェイトは爆発させた。
 幾ら保護していたとはいえ、爆風を浴びたフェイトとバルディッシュも無事では済まない。
 その上、なのはが気付くよりも速く、上空まで先回りして魔法を撃たなければいけない。
 それは、フェイトであっても、かなりの体力を消耗するものであった。
 あれだけの砲撃を間近で受ければ、普通ならばただでは済まない。
 だが……、

「やっぱり、これでもだめか……」

 フェイトは、まだ信じていなかった。
 なのはがこれで終わるという事を。
 あれだけ粘り強い相手を、これで倒す事は出来ないと分かっていた。
 フェイトの言葉通り、なのはは上がって来た。
 フェイトと同じ高さまで上がって来たなのはだったが、無傷という訳にはいかなかったようだ。
 バリアジャケットの翠屋の制服は、あちらこちらがボロボロになっていた。
 なのはは何も言わない。
 ただ、フェイトを見つめている。
 フェイトの撃った魔法の残滓か、なのはの周りにパリパリと電気が残留している。
 それがなのはの怒りを表しているかのようで、フェイトを焦らせる。
 次で決めなければいけない。
 そんな思いを抱いた。
 だからこれが、フェイトの全力全開。
 フェイトは後方に大きく距離を取った。
 そしてバルディッシュを両手で持ち、呪文を詠唱する。

「アルカス クルタス エイギアス 疾風なりし天神 今導きのもと撃ちかかれ バルエル ザルエル ブラウゼル」

 フェイトの足元に巨大な魔法陣が形成され、フェイトの周りには大量のフォトンスフィアが生成させる。
 5……10……20……まだまだ増え続ける。
 そして、遂に増加が停止した。
 フェイトが生成したフォトンスフィアのその数、実に38基。

「フォトンランサー・ファランクスシフト」

 フェイトの最大魔法にて、なのはを今度こそ沈める。
 最大魔法である以上、魔力を大量に使う。
 これを避けられれば、フェイトに後は無い。
 だが、フェイトは避けないと確信していた。
 フェイトはこれまでの闘いから、なのはは攻撃を受けた時、回避ではなく防御に重点を置くと気付いていた。
 なのはは避けず、全てを受け止めた上で反撃をしようとすると、そう理解していた。
 だからバインドなど使わず、なのはに向けて魔力を込める。
 全てを打ち砕く、この魔法で勝負を決める。

「撃ち砕け、ファイアー!!」

 38基のフォトンスフィアから、毎秒七発の一斉射が4秒間。
 合計1064発の魔力弾が、光の尾を引きながらなのはに叩きこまれる。

「くぅっ……!」

 フェイトは必死で魔法を制御する。
 同時発動・制御の苦手なフェイトにとって、とても辛い作業だった。

「あああっ!!」

 なんとか4秒間の制御に成功し、魔力弾は全てが撃ち込まれた。
 全てを撃ち終わって縮小したスフィアを掻き集め、一つの球にした後はそれも投げつける。
 フェイトの魔法が炸裂して、なのはの周りには黄色い煙が発生し、なのはの姿は見えなくなった。







「うっひゃあ~、すっごいね、あの子」

「ああ、あれは僕にも出来ない芸当だな」

 モニターでなのはとフェイトの闘いを見ていたエイミィとクロノが、フェイトを称賛する。
 クロノはなのはやフェイトと違って、魔力がそこまで多くは無い。
 だからこそ、技巧で攻めるやり方を得手としている。
 フェイトがやったような、大量の魔力によって掃討する方法は使えないのだ。

「前にも聞いたと思うけど、クロノ君、あの子と闘って勝てる?」

「大丈夫だろう。まだそれほど、制御技術も高くないみたいだからね」

 だが、だからといってクロノが弱い訳ではない。
 技術という面では、魔法に関わったばかりのなのはや、未だ制御技術が未熟なフェイトとは比べ物にならない。
 その上、執務官としての経験とそれに裏打ちされた自信がある。
 フェイトとクロノが闘えば、まずクロノが勝つだろう。
 だがクロノはアースラの切り札。
 早々動く訳にはいかない。
 この後にプレシアの逮捕もしなければいけないのだから。

「なのはさん、大丈夫かなぁ? さっきも近くから砲撃もらって海に落ちたし……」

「大丈夫だ。あの人の防御の固さは折り紙付きだし、攻撃にしても、まだアレがあるしな」

「アレ? クロノ君、何か知ってるの?」

 意味深な言動をするクロノに、エイミィが尋ねる。

「知っているというよりも、この間の海で、あの人が撃った魔法があっただろう?」

「ああ、トルネードバスターだっけ? あれも凄いよね。人に撃ったら死ぬんじゃない?」

 四つの回転する光が直進する様は、見ていて圧巻だった。
 あれを人が受けたら、身体が捻じ切れるとエイミィは思ったのだ。
 クロノも頷く。

「そうだ。あの人もそれが気になっていたみたいでね。
 だから、どうにかして威力を弱体化する方法を考えていたらしい。
 尤も、あの人はバリエーションと言っていたけど、もう既に別の魔法になっているけどね」

「ふぅん……?」

 エイミィは再びモニターを見やる。
 クロノもそれに倣う。

「何でもいいけど、もうどちらも長くは持たないだろう。
 そろそろプレシアが手を出して来るはずだ。
 エイミィ、逃がすなよ」

「分かってるよ」

 エイミィとクロノは、二人の闘いを見つめていた。






 フェイトは煙を見つめていた。
 正確には、その中にいる高町なのはを見つめていた。
 もう出せる手は全て出しきった。
 後は、どうなっているかを見極めるだけ。
 そう思ったとき。
 フェイトの背筋が粟立つ。

「くっ!」

 慌てて下に逃れる。
 ゴヒュッ! という空気を切り裂く音を立てて、桜色の閃光が一つ、フェイトの頭上を越えて行った。
 その音にフェイトは戦慄を覚える。
 あれだけの攻撃力を未だ隠し持っていた事に。
 そして、それが当たった時、自分がどうなるかという事に。

「はっ!?」

 そんなフェイトの身体が、再び危険を察知する。
 フェイトに向かって、なのはが射出した回転する先端が、二つ向かって来ていた。
 その様に、フェイトは思わず守りに入る。
 逃げるのが得策だと分かっていたのに、動きを止め、シールドを張ってしまった。
 シールドを張った左腕に、衝撃が走る。
 目を瞑り、自分がその先端に貫かれる様を想像した。
 だがいつまで経っても痛みは訪れず、フェイトは目を開けた。
 そこには、シールドに突き刺さった二つの先端があった。

「防げた……?」

 そう思ったとき、先端の一つが発光する。
 そして、フェイトの全身を包みこむ程の、大きな桜色の球形が出来ていた。

「これは、プロテクション!?」

 なぜ今更こんなものが、それもフェイトの方に張られたのか分からず、フェイトは混乱する。
 だが、まだ終わってはいなかった。
 慌ててそれを破ろうとバルディッシュを構えたフェイトだったが、残っていたもう一つの先端が発光する。
 今度は複数の環が生まれ、フェイトを包むプロテクションごとフェイトを拘束した。
 プロテクションは、外から力を加えられるがままに形を変えて、フェイトの動きを制限する。 

「今度はリングバインド!? いったい……?」

 フェイトは動けない状態のまま、空を仰ぐ。
 既に風によって煙は払われ、ボロボロになったなのはがそこに居た。
 手には先端が一つまで減ったレイジングハートを持っている。
 なのははフェイトを見ながら言った。

「今のは焦ったよ。何せ、回転するシールドさえ突き破る程の大火力だとは思わなかったから」

 なのははレイジングハートを構える。

「本気でやるっていったもんね。だから、恥ずかしさとか捨てて、呪文の詠唱もする事にするよ」

『Spiral Breaker』

 レイジングハートに、周りから光が集まっていく。
 辺りに散った魔力を、なのはが掻き集めているのだ。
 そして、なのはがその魔法を発動する呪文を、朗々と歌いあげる。


「彼の者に 破砕の光を 星よ集え 全てを捻じ切る力となれ」


 なのはの詠唱に従い、周りから魔力が集まり、光がドンドンと大きくなっていく。
 魔力が集束していくその様は、まるで流星のように星の光となる。
 なのはの身体よりも大きく膨れ上がり、その光の球は完成する。


「貫け 閃光」


 その光は、グルグルと回転するレイジングハートの先端によって、回転を加えられる。


「一撃必倒! スパイラルゥゥゥ――」


 そして、回転が臨界を越えた時、その魔法は発射された。



「ブレイカァァァアアアッ!!」



 何とか逃れようとする、その努力を嘲笑うかのように、桜色の光の魔砲は、フェイトを包みこんだ。








あとがき

なのはさんが悪役に見えた人、挙手をお願いします。
私はそう見えました。ノ
書いててこれやばくね? と思いましたが、気にしない方向で行きます。
本当はもっと色々やろうかと思ったんですけど、上手く出来なかったので没です。
なのはさんに太陽拳やらせたり、フェイトに「目が、目があっ!」って叫ばせたりとかです。
リングバインドで人間独楽回しとかもやろうかな、と思ったんですけど無理でした。

今回スターライトブレイカーが回転してスパイラルブレイカーにパワーアップしました。
掛け声が一撃必殺じゃないのは、殺したら駄目だろうというなのはさんの配慮です。


前回、凄く感想が増えたので狂喜乱舞しています。
内容については、坊さんの正体と、闇の書の行方についてが多かったので、一応軽く説明します。

まず寺の坊さんの正体について。
これは多くの人が気付いていると思います。
分からない方は、「寺生まれのTさん」でググってみて下さい。
読んだあと、あなたは必ずこう思うでしょう。
寺生まれってスゴイ、と。


次に闇の書のその後についてです。
これなんですが、どうなったのかは正直考えていません。
設定を考えないのは、皆様のご想像通りでいいかと思っているからです。
ですから、闇の書がこれで消滅したと思う人はそれで構いません。
これでは闇の書は転生するだけだろ、だからまたはやての所に現れるんだと言う人もそれで良いと思います。
そして、これで浄化されて夜天の書に戻った。その後はやての所に現れるんだと言う人も有りです。
皆様がこうしたいと願うその通りの結末になったと思って下さい。
これで無印で出て来ることは無くなった。
今分かっていることはそれだけです。
よかったら、私の代わりに続きを書いて下さい。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>にしても、そうなるとグレアム提督どうなるんだろうw
>どちらにしろグレアム+ぬこ姉妹南無だなww

出現して直ぐ消されたので、まだ探しまわっているはずです。

>ちょ、っと……?

謙遜です。

>そしてなのはさん、その、フェイトちゃんを死なせないようにね!

色々と頑張ってます。

>このタクシー、後ろ半分が変形して空飛んだり…
しませんよね?(汗)

今のところその設定はないはずです。

>はやてさん、アンタなんばしよっとねー!?

いきなり現れた得体のしれない本、普通は気味悪がると思います。

>それよりはやてが走り屋だったとは・・・
きっと高○涼介に最速理論を叩き込まれているに違いないwww

当然ですな。今はタクシーの運転手ですけど。

>それにしてもDとのバトル中に乱入するリィン・・・構ってもらえないからって事故死させる気かwww

乱入したときに丁度バトルしていただけです。

>ただ、壊れながらも締める所ではきちんと締めるキャラが多い中で、砂糖中毒が仕事に悪影響を与えているリンディさんに少し呆れてしまっただけなのです。
そして、公私の分別を弁えたプロ意識の強い人物の多いこの世界においては、このリンディさんはもう管理局員として「終わってる」んじゃないかと思っただけなのです。
リンディさんという人は、外道・腹黒・子煩悩・天然などと様々な味付けをして描かれる人ですが、凌辱系の話でもない限り、基本的に私情で仕事に関する判断を左右されることの無い人物として扱われていると思います。
それがこのありさまだと、自分には幾許かの違和感があったのです。

そういうことだったんですね。
分かりました。
もっと公私の区別を付けるようにします。
ケーキの話は勤務時間外にしましょう。
……あれ?
航行中の艦長に勤務時間外なんて無いんじゃ……どうしよう。

>スターライトブレイカーというよりドリルブレイカーとか言い出して撃ちそうなんですがw

残念! ドリルは既に使われているのでスパイラルブレイカーです。

>ちょっww八神さん、豆腐屋と勝負したことあるんかいwww

一時は勝利するかと皆が思ったその瞬間に、闇の書が転移してきたんですよね。

>ハチロク(航空機ではない)で配達する某豆腐屋がいるなら、モータースポーツ絡みできっと猫実工大とかも存在しているような素敵世界なのでしょう。

いるかなぁ?
女神様とかがいたら乱入してきそうな気もしますけど。

>……まさか幼い頃に両親を無くし、孤独な少女時代を過ごした反動で、若い頃はグレてレディースやってたとか?

はやてさんの過去は謎に包まれています。

>九歳の少女を本気で叩きのめそうとしているさんじゅうにさいって、その事実だけ抜き出すとプレシアママンのことを非難できないですねw

気にしちゃいけません!
対等の状態で闘っているので大丈夫だと思います。

>そういえば重要なことに気付いたのですが、日本では結婚経験のある人でなければ、
養子を取ることが出来ないと思うのですが……(出典は某ひぐらし)、

なん……だと……?
そこの法律だけ、都合良く無かったりしないかなぁ。

>取り敢えず、リインⅠ殺した坊さん出てこいや。
地獄通信使って生きたまま地獄へ落としてやる。

あの人はもの凄く善行積みまくってるんですよね。
なんか地獄に落ちてもあっさり帰って来そうな気がします。



[10864] 第五十三話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/04 01:18


 母さん。

 私の母さん。

 こうして私を抱きしめてくれる、優しい母さん。

「もう、フェイトは甘えん坊さんね」

 そんな私は、キライ?

「いいえ。大好きよ、フェイト」

 エヘヘ。

 とても温かい、私の母さん。

 ギュッて抱きしめてくれる、私の母さん。

 ねえ母さん。

「なぁに? フェイト?」

 大好きだよ。








「ん……?」

 フェイトは静かに目を開ける。

「私……は……?」

 全身が鉛のように重く、上手く動かせない。
 だというのに、身体は何か温かいモノに包まれ、フェイトの眠気を誘う。
 自分の事が把握出来ず、ぼんやりとした視線を虚空に投げる。

「あ、起きた?」

 そんなフェイトに、話しかける声があった。
 フェイトはその声の主に尋ねる。

「だぁれ……?」

「なのはだよ」

 なのはは小さく笑いながら、フェイトの顔を覗き込んだ。
 その顔を見て初めて、フェイトは自分がなのはに抱きかかえられている事に気付く。

「大丈夫? ちょっと、やり過ぎたかな?」

「いえ……」

 フェイトはゆっくりと頭を振る。
 なのはの顔を見て、もう全てを思い出した。
 自分がどうなったのかを。

「それじゃあ、私の勝ちで良いかな?」

「はい……私の……負けです」

 フェイトは負けた。
 だがその心の内は晴れやかだった。
 全力を出し切ったからだろうか?
 それだけの相手と闘って、真正面から打ち砕かれた。
 それで、自分があれだけ執着していた事が、すっきりと無くなってしまったように感じる。
 何をそんなに焦っていたのかと、自分でも不思議な程に。

「あの、どうして私は生きているんでしょう?」

「ん? ああ、さっきの事?」

「はい。あれだけの威力だったから、死んでもおかしくは無いと思います」

「そうだね。私もそう思う」

 なのははフェイトの言葉に頷く。
 なのははフェイトを抱いたまま、フェイトの膝の裏に回していた腕を持ち上げる。
 そこには、元通りの砲門を四つ付けた形へ戻ったレイジングハートがあった。

「フェイトちゃんも気付いていたと思うけど、私の魔法は、何故か回転するんだよね」

「はい……」

 なのはの回転するラウンドシールドに、フェイトはとても手こずらされたのだ。
 レイジングハートがクルクルと回る。

「だからね、この四つの砲門で砲撃を撃つと、凄く危ない事になるんだ。
 それぞれが回転してるから、もし当たっちゃうと、身体が捻じれて千切れるかもしれないからね。
 だからまず砲門を一つにまで減らして、回転する方向を一つに絞ったんだ」

『Spiral Breaker』

 レイジングハートが先端を三つ切り離し、フェイトを撃ち落とした時と同じになる。

「魔力はフェイトちゃんが使ったものだけを再利用したよ。
 だから、あまり強くなりすぎて、暴発するようなことも無かったんだよね」

 レイジングハートの先に、先程フェイトを撃ち落とした時と同じ光が灯る。
 しかしその光は先程とは異なり、ピンポン球ほどの小さな塊だった。

「そして最後、さっき切り離した先端を支点にして、プロテクションでフェイトちゃんを包む。
 その上から、リングバインドでフェイトちゃんを拘束する。
 私の魔法は回転してるから、こうして間に何かを挟んだ方が良いんだよね」

 レイジングハートよりも少し離れた所に、切り離された先端が浮き、プロテクションが発生する。
 その上からリングバインドが巻きついて、プロテクションが楕円形になった。

「これで、フェイトちゃんのバリアジャケットも含めて、何重にもガードした事になる。
 この上からスパイラルブレイカーを当てて、フェイトちゃんを衝撃だけで気絶させる事に成功」

 先端から回転する砲撃が突き進み、プロテクションを包みこむ。
 それが過ぎ去った後は、ボロボロになったプロテクションが有った。
 その後、音も無くプロテクションは消滅する。

「これで、分かったかな?」

 フェイトは言葉も無く頷いた。
 自分がやられた事を、目の前でミニチュアで再現されて納得したのだ。

「そう、良かった。フェイトちゃん、飛べる?」

「あ、はい」

 まだなのはに抱きかかえられたままだった事に、フェイトは気付いた。
 その事が恥ずかしくなり、慌ててフェイトはなのはの腕から逃れる。
 だが……

「きゃっ!」

 可愛らしい悲鳴を上げ、フェイトは落ちる。

「危ないっ!」

『Flash Move』

 落ちていくフェイトを、なのはがフラッシュムーブで先回りして拾い上げた。
 上手く掬い上げられた事に、なのはは安堵の溜め息を吐く。

「はぁっ、危なかった。……フェイトちゃん、本当に大丈夫?」

 なのはがフェイトの顔を覗き込む。
 どうやら飛ぶ事さえ難しい程、魔力を使い果たしたようだ。
 再びなのはに抱かれることになり、フェイトは縮こまった。
 小さく縮こまったフェイトは、なのはの胸に顔を押し付けて、赤くなった顔を見せまいとする。
 その様子に、なのはは微笑んだ。
 フェイトはそのまま、片手に持つバルディッシュに声を掛ける。

「……バルディッシュ」

『Put out』

 バルディッシュの男性的な声が響き、格納されていたジュエルシードが放出される。
 なのは達の周りを、九つの青い宝石が取り囲む。

「これは……」

「私達は、ジュエルシードを賭けて闘ってましたから……」

 フェイトは静かに言った。

「そうだったね、うん。それじゃあ……」

 なのははジュエルシードに手を伸ばす。
 だがその時、空が歪んだ。
 空間が歪み、そこから紫色の雷が姿を見せる。

「あれは……」

「……母さん……」

 その雷が、なのは達に襲いかかる。

「レイジングハート!」

『Sphere Protection』

 なのははフェイトを抱き、身体を丸める。
 その周りを球状の魔法が覆った。
 全方位に向けてガードした事によって、なのは達は雷をやり過ごす。

「く、うぅ……!」

 なのはは必死に魔法を維持する。
 フェイトの魔法とは比べ物にならないほどの威力、圧力を感じる。
 そして何より、フェイトの魔法からは感じられない、悪意がその魔法には込められていた。

「ジュエルシードがっ!?」

 なのはが顔を上げると、ジュエルシードが物凄いスピードで、一直線に空間の歪みに向けて飛んでいく。
 追いかけようと手を伸ばすが、雷はまだ降り続いており、腕の中にはフェイトがいた事を思い出す。
 目の前で奪われた事に舌打ちをする。
 なのはに取って、ジュエルシードはどうでもいい。
 だが、フェイトとジュエルシードを賭けて闘い、そしてなのはは勝利した。
 だからなのはは、ジュエルシードを受け取る必要があったのだ。
 ジュエルシードの受け渡しを済ませた事で、勝負は全ての決着が着く。
 それを横から掻っ攫われたら、誰だって舌打ちの一つもしたくなるだろう。
 雷が止み、なのははプロテクションを解く。
 その時、なのはに向けて念話が届く。

『なのはさん、聞こえますか?』

『ああ、リンディ艦長ですか』

 念話を掛けて来た相手は、リンディだった。
 なのははそれに向けて、悔しそうに告げる。

『すいません、残りのジュエルシード九つ、奪われました』

『そうですか。おそらく、事前に自分の所へ戻って来るように、プレシアが仕掛けておいたんでしょう』

 リンディの言うとおり、ジュエルシードの動きは一直線で、決められた通りの事しか設定されていないようだった。

『なのはさんがジュエルシードを持っている以上、まだ追撃があるかもしれません。
 そこにいるのは危険です。こちらの転送用意は整っているので、急いでアースラに避難して下さい』

『分かりました』

 なのははフェイトを抱きしめる。
 安心させるように、なのははフェイトに話しかける。

「それじゃ、アースラに行こうか。大丈夫、皆良い人達だからね」

「……はい」

 なのはの服をしっかりと握りしめて、フェイトは小さく頷いた。







あとがき

今回はフェイトが何故生きているかという説明回です。
なんだか着々と距離感が近づいてますねぇ。

このスパイラルブレイカー。
実のところ、なのはさんはフェイトが撒き散らした魔力を使っているので、魔法の制御にしか魔力を使っていないんですよね。
書いてて自分でもまだ底が見えないんだけど、どうしよう。

明日の更新は難しいかもしれません。
……あれ? もう明日だ。じゃあ大丈夫ですね。

養子に関しての説明をしてくださったtmtdk様、蓑亀様、kyoko様、ありがとうございます。
まだどうなるかは私にも分かりませんが、良い結果になればと考えております。

あとプチ魔王様、笹身様、私より上手いです。
どうでしょう? 私の代わりにA’sを書いてみては?
それと笹身様、その内容、少し使わせて頂きました。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>とんでもない魔王っぷりを披露するなのはさんですが、高町家においては戦闘能力で底辺に位置することを考えると恐ろしいですね

そうなんですよね。桃子さん以外では、なのはって一番弱いんですよねぇ。

>何、このラスボス
>悪役全開ですね。なのはさん(32)
>まあ、悪役でもいいんじゃないかな
>原作以上に凶悪な攻撃になっていますねw フェイトさん大丈夫か?
>あらゆる攻撃を鉄壁の守りで打ち崩し、そのまま大火力で制圧する……
なんという大魔王の風格。まさにラスボスとしか言いようがない。

本当に、何なんでしょうね、このラスボスは。心優しいはずなのに。

>イメージ的にはごんぶと魔貫光殺砲でおk?

おk。

>なのはさんならゆりかご外から壁抜き4番スナイプ逝けると信じてますw

酒さえあれば、ゆりかご真っ二つも出来るはずなんですけどねぇ。

>無印終わったぐらいにもう一回転移してきそうだね。闇の書。
>そして、あっさりと浄化された「闇の書」
もうチョット根性みせんかい!
まあ、はやての相方だからこの後も美味しいところに出てきて、きっと笑いを取ってくれるに違いない(断言)

なるほど、出待ちという事ですか。

>『八神はやて、貴方と手合わせしたい』

お前は……まさか……。

>なのはさんが引き取ることが出来なくても、桃子さんが喜んで引き取りそうだな。
士郎もなんだかんだ言って子供に甘いし………
孫が海外にいるし、その分の愛情を過剰に注ぎそうだ。

そういえば孫も海外って設定でしたね。
いかん、自分の設定忘れかけてる。

>しかしフェイトはなのはさんより御神流の相性が良さそうだな。
真ソニック&神速のコンボとかやられたら、将来スカ博士泣くぞ。

果たして教える事になるのか、そもそもまだ決まってませんからねぇ。

>ググってみましたが寺の息子凄すぎw グレアム一味とハラオウン親子がこの事知ったら唖然呆然でしょうなw

真実は闇の中です。

>ちなみに今回、最後にどういうわけか
「なのはの魔法を浴びた後、酒に酔ったような状態になったフェイト」
という姿を幻視しました。

以前たしか言った気がします。
なのはさんは他人に与えるアルコールなど持ち合わせていない、と。

>あとなのはさん、ボロボロになっても見えてませんよね??

あれだけボロボロと表記したのにも関わらず、エプロンとかジーンズの裾が解れただけという所に、監督の悪意を感じます。

>ACS使ったら大変なことになりそうだ……主になのはさんが。

A.C.Sドライバーですか。まんまドリルになりますな。
なのはさん自身が回転するかもしれないから使えないのかな?

>そういえば、A'sエンディングのなのはさん15歳の時点で、リンディさんは艦長職を辞して本局で内勤になってましたね。
闇の書事件でグレアム氏が失脚すれば、席に1つ空きが出来るわけで……
あとはわかるな? (A's編書いて下さいお願いします)

だが断る!
正直展開が思い浮かびません。
もし思い浮かんだら……それでも無理かな?

>このなのはさんに足としてパーフェクトドライバー八神タクシーが加われば、驚異の移動砲台と化すのではなかろうか。

陸戦最強になります。




[10864] 第五十四話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/04 15:56


 なのは達はアースラへと転送された。

「フェイトちゃん、大丈夫?」

「はい。もう平気です」

 その後、なのははアースラに常駐している回復魔法の専門家である医者に、フェイトの身体を診せた。
 もう抵抗するとは思えず、なのはも自分の攻撃で、フェイトが酷い怪我を負っていないかと心配だったからだ。
 リンディからも通達は行っていたらしく、医者はすぐに診てくれた。
 その結果、フェイトの身体は魔法的なダメージで衰弱しており、身体に受けた鞭の傷が熱を持っていた。
 治療によって、歩けるほどにまで回復したものの、まだまだ完治とはいかない状況だった。
 その時フェイトは、ボロボロになっていたバリアジャケットを脱ぎ、白い簡素な服を着させられた。
 囚人のようなその服になのはは抗議をしたが、フェイト自身がそれを受け入れた。
 自分は負けたのだから、と。
 なのはもそれに渋々納得した。
 何もフェイトの言葉を全面的に受け入れた訳ではない。
 バリアジャケットはボロボロだし、それをもう一度着るのは魔力を消費する事にもなる。
 だから簡素でもいいから、ただの服を着ていた方が良いと思ったのだ。
 その上アースラには、子ども用の服など常備されていない事もあり、なのはは納得せざるを得なかった。
 その後、リンディに呼ばれ、なのはとフェイトはブリッジへと足を運ぶ事になった。
 ブリッジに入ると、なのははリンディに呼びかける。

「リンディ艦長、フェイトちゃんを連れて来ましたよ」

 リンディは座っていた艦長席から腰を上げ、なのは達に近づく。

「ああ、ありがとうございます、なのはさん。それと、お疲れ様でした」

「いえ、私がしたくてやった事ですから」

 なのはは首を横に振る。
 リンディはフェイトに顔を向けると、膝を曲げ、目の高さを合わせる。 

「フェイトさん、だったわね。初めまして。私がこのアースラの艦長の、リンディ・ハラオウンです」

「……フェイト・テスタロッサです」

 フェイトはなのはの陰に隠れながら、小さな声で返した。
 その様子に、リンディは苦笑いを浮かべる。

「嫌われちゃったかしら?」

「人見知りしてるだけじゃないですか?」

 なのははフェイトの頭を優しく撫でながら言った。
 バリアジャケットも着ていない今のような状態では、どうにも不安なのだろう。
 その手はなのはの服の端を、しっかりと握りしめていた。

「それじゃあ、慣れるまではなのはさんと一緒にいた方が良いわね」

「そうですね」

 その時なのはに向けて、リンディが念話で呼び掛けた。

『なのはさん、先程私達は、武装局員をプレシアのアジトに向けて送りました。
 フェイトさんに母親が逮捕されるシーンを見せるのは忍びないです。
 ですから、どこか別の部屋へ、彼女を移して頂けますか?』

『はい』

 なのははフェイトの手を握る。

「フェイトちゃん、私の部屋へ行こうか?」

 フェイトがなのはを見つめ、その手を握り返そうとした時、目の端に飛び込んできたものがあった。

「母さん……?」

「……フェイトちゃん?」

 なのはが疑問の声を上げる。
 しかし、フェイトは何も反応せず、ただ目は見開かれている。
 その目が向かう先をなのはが見ると、前方の大きなモニターにプレシアの顔が映っていた。
 フェイトはリンディを見ていたため、モニターの事は今まで気付いていなかったのだろう。
 だがなのはやフェイトの思惑など知った事ではないと、事態は進んでいく。




 玉座の間へと侵入した武装局員達が、プレシアへ宣言する。

「プレシア・テスタロッサ。時空管理法違反、及び管理局艦船への攻撃容疑で貴女を逮捕します」

「武装を解除して、こちらへ」

 その呼び掛けにも、玉座に座っているプレシアは、薄く笑みを浮かべたまま何も答えない。
 しびれを切らした武装局員達は、プレシアを取り囲む。
 そのまま幾人かの武装局員は、玉座の間の裏にある扉を見つける。

「そっちを固めろ!」

「待て! この裏に何か有るぞ!」

 その扉を開いた彼らは、そこにあったものを見つめ、プレシアの捕縛任務さえ忘れて絶句した。

「こ、これは……」

 一人の武装局員がポツリと零す。
 その先では一人の少女が、培養液に満たされたポッドの中に浮かんでいた。
 その時、彼らを紫色の雷が襲う。
 ドサリと音を立て、呻き声を上げながら彼らは崩れ落ちた。
 それを邪魔な蝿でも見るかのように、プレシアは見つめる。

「……私のアリシアに、近寄らないで!」

 憎悪と妄執の籠った低い声で、彼女は言った。
 アリシアと呼ばれた少女を背にして、プレシアは立つ。

「くっ、撃てぇぇぇっ!」

 後続の武装局員達が警戒し、一人の掛け声と共に幾条もの閃光がプレシアを狙い撃つ。
 しかし、それはプレシアの手前で発生した、歪んだ空間に掻き消され、一つもプレシアには届かない。

「うるさいわね……」

 ゆらりと、とても億劫そうに片手を持ちあげ、その手に膨大な魔力が集まっていく。
 次の瞬間、時の庭園全体を揺るがすような雷が迸る。
 武装局員達は悲鳴を上げて、バタバタと倒れていった。
 バリアジャケットに守られてはいるものの、身体のあちらこちらから煙が立ち昇っている。
 すぐに治療しなければ、間に合わなくなる程に危険な状態の者もいた。

「フフフフ……ハハハハ……アッハハハハハ……!」

 無様に這い付くばるその様を、プレシアは嘲笑する。







「アリ……シア……?」

 フェイトは呆然とその光景を見続ける。
 リンディが声を上げてエイミィに呼び掛ける。

「いけないっ! 局員達の送還を!」

『りょ、了解です!』

 エイミィの声がブリッジに響く。
 武装局員達が一撃でやられてしまった事に、なのはは声が出ない。

『座標固定! 0120 503!』

「固定! 転送オペレーション、スタンバイ」

 そんな事がすぐそばで行われていても、フェイトには聞こえず、ただじっとモニターを見ていた。
 
「なのはさん! フェイトさんを!」

「は、はい!」

 リンディに声を掛けられ、我を取り戻したなのはは、フェイトをこの場から遠ざけようとする。
 
「フェイトちゃん。私の部屋に行こうか? ね?」
 
 しかし、フェイトは石像のように固まって、その場から動こうとしない。
 その間にも事態は動いていく。
 モニターに映るプレシアは、アリシアの浮かぶポッドを愛おしげに撫でる。
 アリシアを見つめながら、プレシアは呟いた。

『もう、駄目ね。時間が無いわ。
 たった九個のロストロギアでは、アルハザードに辿りつけるかどうかは、分からないけれど……』

「アルハ……ザード……」

 なのははその言葉に反応する。
 どこかで聞いた事のある言葉だ。
 この言葉はいったい、どこで聞いたのだろうか?
 そんななのはなど気にせず、プレシアは語り続ける。

『でも、もういいわ。終わりにする。
 この子を亡くしてからの暗鬱な時間も、この子の身代わりの人形を、娘扱いするのも……』

 その言葉にフェイトは息を呑む。

『聞いていて? あなたの事よ、フェイト。
 せっかくアリシアの記憶を上げたのに、そっくりなのは見た目だけ。
 役立たずで、ちっとも使えない、私のお人形……』

「……うるさい」

 フェイトの隣から、低い声が聞こえる。
 その声を発したのは、なのはだった。
 プレシアがグルリと顔をなのはに向ける。

「何が役立たずだって? 誰が人形だって? 
 この子は……フェイトちゃんは、貴女に笑って欲しいから、ただそれだけの為にジュエルシードを集めたのに。
 それを貴女は役立たずだと言うの?
 こんなにも温かくて優しい心を持っているこの子を、貴女は人形だと言うの?」

『その通りよ。
 色々試したけれど、やっぱり駄目ね。
 ちっとも上手く行かなかった。
 出来たのは、出来そこないのガラクタだけ。
 作り物の命は、所詮作り物。
 失ったモノの代わりにはならないわ』

 モニター越しに自分を見ているフェイトを、プレシアは睨みつける。

『アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。
 アリシアは時々我が儘も言ったけど、私の言う事をとても良く聞いてくれた。
 アリシアは、いつでも私に優しかった』

 アリシアの入ったポッドを、プレシアは愛おしげに撫でる。

『フェイト。やっぱりあなたは、アリシアの偽物よ。
 せっかくあげたアリシアの記憶も、あなたじゃ駄目だった』

「……偽物な訳が無い。
 例え記憶が与えられたものだったとしても、この子が貴女をお母さんって想う気持ちは本物だよ!」

 なのはが厳しい声で反論する。
 だがプレシアには、なのはの声は既に届かないのだろうか。
 プレシアはそのまま話し続ける。

『アリシアを蘇らせるまでの間に、私が慰みに使うだけのお人形。
 だからあなたはもういらないわ。
 どこへなりと……消えなさい!!』

「あ……」

 フェイトの目に涙が滲む。

「貴女は……!」

 なのはが怒りを露わにする。

『フフフフ……アッハハハハハハ!』

 その様に、プレシアは哄笑する。







 母さん。

 私の母さん。

 いつも優しかった母さん。

 私の名前を優しく呼んでくれた、母さん。

 そんな母さんが、私は大好き。

 ほら、今もこうして私のために、綺麗なお花で冠を作ってくれるもの。

 綺麗な花冠を掲げて、私の名前を呼んでくれるもの。

「ね? とても奇麗でしょう? アリシア」

 え?

 アリシア?

 違うよ、母さん。

 私の名前は、フェイトだよ?

「さ、いらっしゃい、アリシア」

 母さんは近寄った私に、冠を頭に乗せてくれる。

「ほら、可愛いわ、アリシア」

 母さんが私に微笑んでくれる。

 私の口からも、今まで出した事が無いくらい、大きな笑い声が溢れる。

 ……。

 ……。

 ……。

 この思い出が、全部、偽物……?
 
 私の名前を優しく呼んでくれる、優しかった母さんは、いったいどこ?

「アリシア」

 違う……。

「可愛いわね、アリシアは」

 違う……。

「もう、アリシアったら」

 違うっ……! 

 ……無い。

 無いっ……!

 どこっ!? 

 どこにあるのっ!?

 私との、フェイトとの思い出は、いったいどこにあるの……?

 私の大好きな母さんは、いったいどこに行ってしまったの?







『フッフフフ……良い事を教えてあげるわ、フェイト。
 あなたを作り出してからずっとね、私はあなたが――』

 プレシアはフェイトに、自らの内に秘めていた思いを吐き出す。
 
「止めて……もう止めてっ!!」
 
 なのはが目を潤ませながら叫ぶ。
 だがプレシアは言葉を続ける。
 それがフェイトを、最も傷つける事になると分かっていながら。



『大嫌いだったのよっ!!!』



「あ……ああ……」

 フェイトは音も無く崩れ落ちる。
 両頬には一筋の涙が流れた。

「フェイトちゃんっ!?」

 なのはがフェイトを抱きしめる。
 だがなのはの行為など焼け石に水とばかりに、フェイトには届かない。

「フェイトちゃんっ! フェイトちゃんっ!!」

 何度も何度も呼び掛けるが、ただ静かに涙を流し続けるだけで、フェイトは何も反応を返さない。
 まるでプレシアが言った通り、人形になってしまったかのようだ。
 その手から、相棒のバルディッシュが零れ落ちる。
 共にあるはずのデバイスを、握る気力さえ無くなってしまったというのか。

『た、大変大変っ! ちょっと見て下さい!』

 その時、ブリッジにエイミィの声が響く。

『屋敷内に魔力反応、多数!』

『何が起こっているんだ……』

 クロノの動揺した声も混じる。

「プレシア・テスタロッサ……いったい、何をするつもり!?」

 






「私達の旅を、邪魔されたくないのよ……」

 アリシアの入ったポッドを、固定していた植物が剥がれ落ちる。
 それを浮かせて引き連れながら、プレシアはゆっくりと玉座の間へと歩いて来た。

「私達は旅立つの……」

 広げられた両手から、ジュエルシードが零れ落ちる。
 宙に浮かんだジュエルシードは、青い光を放ちながら回転する。


「忘れられた都――アルハザードへ!!」


 プレシアの顔に狂信的な笑みが浮かぶ。


「この力で旅立って、取り戻すのよ!」



 そして、歓喜の入り混じった声でプレシアは叫んだ。





「全てをっ!!」








あとがき

スーパープレシアタイム。
やっぱりこの演説は要るよね。
なのはさんも反論したけど、全然聞いてませんね。

遂にPV二十万超えました。
ありがとうございます。
アニメで言ったらあと二話ほど。
完結までどうかお付き合いください。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>五十三話の最後あたりの二人のやりとりが親子のようで少し微笑ましい気持ちになったなぁ。
>なんだこの親子最高すぎるんですが。朝一で読んで悶絶してベッドから落ちたじゃないか。

ありがとうございます。

>冒頭ですが、どう見ても言動が9歳相当とは思えないフェイトと言えども
内面はやはり子供でした、というところ。
いくら大人びていても、そういうところは持っていて然るべきでしょうね。

やっぱりそういうところは必要ですよね。
今回もちょっとそういうところを書いてみました。
ほんの少しですけど。

>あと、失脚以前に提督さんは事が発覚するまでもなく次の機会を伺うべく転生先を探すウチに老衰死しているんでないかな?

そういえばグレアムも二十三歳歳とっているわけだから、その可能性はありますね。
A'sの最後でかなり年老いてましたから。

>スパイラルブレイカーと聞くたびに銀の螺旋に思いを描く、うなれ正義の大回転なエロゲを思い出すのですが気のせいでしょうか

気のせいです。エロゲはやったことありませんので。

>なのはさん地味にフェイトに酷いこと言ってる……

なのは「フェイト如きじゃ私に傷一つ付けられないんだよ」
こうですか、わかりません><。

>フェイトはなのはさんの養子になれなくてもさざなみ寮ならなにも問題なく迎えられる気がするな
あそこは代替わりしてても海鳴トップクラスの魔境だからフェイトも違和感ないしね
そしてなによりも那美さんが帰ってきたときの久遠との絡みがみたい

細川様が、さざなみ寮をメインに書けば良いんじゃないですか?

>1期DVDを借りてSS書こうかな・・・ユーノくん淫獣ものでw

このなのはさん相手にですか? 勇気がありますね。
自ら挽肉になりに行くなんて。

>赤く塗られた般若のお面を付けたなのはさんが、
『わーい☆お酒だお酒だ~♪』
と子供の様にはしゃいで・・・・・・熱で幻覚でも見たかなぁ・・・?

その夢、書いてみる気はありませんか?




[10864] 第五十五話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/05 16:37



 クロノは走っていた。
 プレシアの凶行を止める為に。
 それは執務官としてのクロノの責務であり、クロノ自身がプレシアの主張に怒りを感じているから。
 だからクロノは走る。

(忘れられた都――アルハザード。
 もはや失われた禁断の秘術が眠る街。
 そこで何をしようっていうんだ?
 自分が失くした過去を、取り戻せるとでも思っているのか!?)

 クロノはS2Uを取り出し、放り投げる。
 カード型のデバイスは、回転しながら杖へと形を変えた。

「どんな魔法を使ったって、過去を取り戻す事なんか、出来るもんか!!」

 クロノが走っていると、前方から見覚えのある人影が現れた。

「あ、クロノ君……」

「なのはさん達ですか……」

 クロノが見たのは、フェイトを抱きかかえて医務室へと向かうなのは達だった。
 後ろにはアルフとユーノもいる。

「どこへ行くの?」

「現地に向かいます。元凶を叩かないといけませんから」

「私も行くよ」

「僕も行きます」

 クロノの言葉に、なのはとユーノが同行すると言った。
 その決意の籠った目を見て、クロノは頷いた。

「……分かりました」

 なのははアルフに向き直る。

「アルフさん、フェイトちゃんをよろしくお願いします」

「ああ。任せといて」

 なのはが抱えていたよりもずっとしっかりと、アルフはフェイトを抱き上げた。
 まだ虚ろな目をしたままのフェイトの髪を、なのはは軽く撫でる。

「ごめんね、フェイトちゃん。
 ちょっと、前が見えなくなっちゃった人の目を、覚まさせて来るから。
 すぐ戻って来るからね」

 なのはは手を離すと、アルフはフェイトを抱いて医務室へと走って行った。
 アルフのその背中を見ながら、なのはは懐からスキットルを取り出す。

「なのはさん、なにを……?」

 クロノが尋ねるのも無視して、なのははそれを開けた。
 蓋を開けた途端、辺りに濃厚な酒の匂いが広がる。
 なのはの知る中で、最もアルコール度数の高い酒がその中には入っていた。
 海上で6個のジュエルシードを封印する時は、一口だけしか口に含まなかったそれ。
 だが今、なのはは躊躇う事無く、その中身を一気に飲み干した。

「なのはさん!?」

 初めて見るなのはの飲酒に、クロノは戸惑いの声を上げる。
 空になったスキットルを見ながら、なのはは眉を顰めた。

「……不味い」

 なのはが知る中で、ここまで不味いと思った酒は初めてだった。
 酒の味が分からなかった子供の時でさえ、もっと美味しく感じていたように思う。
 いつもならば楽しむ余裕さえある刺されたような痛みも、全身を巡る強烈な熱も、今は不快としか感じられない。
 まさに最悪の気分と言ってよかった。
 原因は分かっている。
 フェイトを悲しませたプレシア。
 そして、その現場をただ見ているだけだった、間抜けな自分。
 それらに対してのやり場のない怒りが、なのはを支配している。
 ヤケ酒をしても忘れられそうにない、嫌な事だった。
 そしてなのはは頭を上げ、クロノを見つめる。

「……行こうか、クロノ君」

「で、でもそんな状態じゃ……」

 クロノは酒を飲んだなのはを止めようとする。
 だがなのはは静かに首を横に振る。

「ただの気付けだから大丈夫。量も少ないし、これで足手まといになる事は無いよ」

 未だに戸惑っているクロノの肩に、ユーノが手を置いた。

「ユーノ?」

「大丈夫だよ、クロノ。なのはさんは飲んでる時の方が強いんだ」

「……はあ?」

 クロノは素っ頓狂な声を上げた。

「じゃ、行くよ」

「はい」

「あ、待って下さい! 僕を置いて行くな!」

 走り出したなのはにユーノが追従し、クロノはそれを追いかける形となった。
 勿論、すぐ追い抜かれたのだが。







「次元震発生! 進度、徐々に増加しています!」

「この速度で進度が増加していくと、次元断層の発生予測値まで、あと三十分足らずです!」

 アレックスとランディが時の庭園での次元震の規模を報告する。
 そこに通信で、エイミィが補足を入れた。

『あの庭園の駆動炉も、ジュエルシードと同系のロストロギアです。
 それを暴走覚悟で発動させて、足りない出力を補っているんです』

 エネルギーの余波で、時の庭園はあちらこちらが瓦解していく。
 それを見ながら、リンディが呟いた。

「初めから、片道の予定なのね……」

 プレシアの凶行に、リンディは改めて戦慄を覚える。
 そしてクロノ達へと通信を繋ぐ。

「クロノ、なのはさん、ユーノ君。
 私も現地に出ます。
 あなた達はプレシア・テスタロッサの逮捕を!」

 了解、と三人の揃った声が返ってくる。
 次にリンディはエイミィに呼びかける。

「エイミィ、アースラからの魔力供給の準備を。
 庭園内でディストーションシールドを展開して、次元震の進行を抑えます」

『了解!』

 エイミィが了承の意志をリンディに伝える。
 リンディは頷くと、転送ポートへと足を踏み入れる。

「絶対に抑えてみせます。プレシア・テスタロッサ、貴女の好きにはさせません」

 リンディの身体が光に包まれ、その身体は瞬時に時の庭園へと転送された。






 なのは達は時の庭園へと転送されると、目を見開いた。
 辺り一面を巨大な鎧を着たモノ達が取り囲んでいたのだ。
 ユーノがそれを見ながら、静かに言った。

「……いっぱいいるね」

「まだ入口だ。中にはもっといるよ」

 クロノは杖を構える。
 剣やハルバードなどの殺傷能力の高い武器を持った彼らを、なのはが警戒する。

「……クロノ君、この人達は?」

「近くの相手を攻撃するだけの、ただの機械です。遠慮は要りません」

「そっか。なら安心だ。じゃあ――」

 なのはがレイジングハートを構える。
 だがそれは、横から手を出して来たクロノによって遮られた。

「なのはさん。貴女の魔法は少し、無駄が多すぎます。
 この程度の相手に、バカスカと魔力を使っていては身がもちません。
 いくらなのはさんの魔力が多くとも、いつかは底を尽きます。
 ましてや、貴女は先程フェイトと闘って消耗しているはずです。
 だからここは、僕に任せて下さい」

 クロノは杖を高く掲げる。
 
『Stinger Snipe』

 杖から聞き覚えのある女性の声が響き、杖に水色の光が灯る。

「はぁっ!」

 クロノが杖を大きく振ると、杖の先から光弾が迸る。
 光弾は近づいて来た傀儡兵を破壊しながら直進し、ある程度の魔力を失うと、上空にて螺旋を描きながら待機する。

「スナイプショット!」

 クロノがキーワードを告げると、魔力を再チャージされた光弾は、加速しながら何体もの敵を穿つ。
 まるでなのはのドリルショットのように。
 だがその光弾は、最奥に控えていた斧を持った傀儡兵には効かなかった。
 唯一破壊できなかった、その巨大な傀儡兵に向けてクロノは飛ぶ。
 斧を振り下ろす攻撃を、無駄の無い動きでクロノは避ける。
 傀儡兵の頭頂部に着地すると、S2Uを傀儡兵に押し当てる。

『Break Impulse』

 数瞬クロノが動きを止める。
 それは傍から見たら隙を見せているとしか思えない状態だった
 痛みを感じない傀儡兵が自らを巻き込んで頭部を殴れば、クロノは大ダメージを負う事になるだろう。
 だがそんな事にはならなかった。
 次の瞬間、傀儡兵はクロノに送り込まれた震動エネルギーによって、内部から粉砕された。

「凄い……」

 なのはは呟いた。
 自分のような魔力に頼った闘い方でも、フェイトのような速さを追求した闘い方でも無い。
 だが、とても堅実的な戦い方だった。
 技量と言う面で言えば、なのはは集束以外ではクロノの足元にも及ばないだろう。
 なのはは魔力を再利用する事は考え付いたが、一つの魔法で効率良く敵を倒す事は思い付かなかった。
 魔法は一度使えばそれまでなのだと、なのははそう思っていた。
 大量に魔力を持っているなのはは、その魔力量故に、その事に気付けなかったのだろう。
 傀儡兵を破壊し尽くしたクロノは、危なげなく降り立つと、なのは達へ振り返る。

「ボーッとしてないで! 行きますよ!」

「あ、うん!」

 クロノを先頭にして、なのは達は走り出した。
 時の庭園を進んで行くと、崩れた床の下に、黒い泡のような物があるのを、なのは達は見た。

「黒い空間がある場所は気を付けてください!」

 クロノが走りながら、後ろにいるなのはに向けて呼び掛ける。

「え?」

 ちょっと疲れて来たなのはが、飛行魔法で後を追いかけながらクロノに聞き返した。

「虚数空間です。あらゆる魔法が、一切発動しなくなる空間なんです」

 横に居たユーノが説明する。

「飛行魔法もデリートされます。
 もしも落ちたら、重力で底まで落下します。
 二度と上がって来れなくなりますよ」

 クロノが気を付けるようにと念を押す。

「分かった。絶対落ちないようにしないとね」

 黒い空間を警戒しながら、なのはは頷いた。
 やがて三人は扉へと辿り着く。
 クロノがその扉を蹴り破ると、中には先程以上の傀儡兵が待ち構えていた。

「ここから二手に分かれましょう。
 なのはさん達は、最上階にある駆動炉の封印をお願いします」

「え? クロノ君は?」

「プレシアの下へ行きます。それが僕の仕事ですから」

 なのははクロノの言葉に眉をひそめる。
 確かに、駆動炉の封印はしなければならない。
 だが自分は、プレシアに会う為にここに来たのだ。
 プレシアに会って、その悪酔いしている頭を引っ叩いて、頭を冷やさせる為に来たのだ。
 しかし、クロノに反論している暇も無い。

「……分かった」

 なのはは怒りをねじ伏せ、内にしまい込む。
 クロノが正論を言っているからだ。
 例え怒りをぶつけるにしても、クロノが逮捕した後にすればいいと、自分を無理に納得させた。
 だがその怒りが収まった訳ではない。
 未だ収まらない熱が、その内にはグルグルと渦巻いているのだ。

「2分で終わらせて後を追うよ。クロノ君こそ、遅れないでね」

「え?」

『Spiral Breaker』

 クロノの戸惑いをよそに、レイジングハートが輝き、先端に魔力が籠もる。
 なのはは横を向き、ユーノに話しかける。

「ユーノ君はクロノ君を手伝ってあげて」

「え? しかし……」

「私は一人で大丈夫だから」

「……はい」

 なのはの言葉に、ユーノは渋々頷いた。
 なのはは右手に持つレイジングハートに語りかける。

「本日三度目、大丈夫だよね? レイジングハート」

『No problem』

 力強く答えるレイジングハートに、なのはは微笑む。

「じゃあやろうか。さっさと終わらせて、プレシアさんの所へ殴り込みに行こうね」

 なのははレイジングハートを天井へと向ける。
 時の庭園の魔力を全て食い尽くすかと思われる程の勢いで、魔力が集束していく。


「全力全開、スパイラルブレイカー」


 なのはの静かな言葉とは裏腹に、暴発しそうな程にまで成長した魔力が、螺旋を描きながら撃ち出される。
 次の瞬間、音が消えた。
 ……いや、違う。
 正確には、クロノ達には遅れて音が聞こえて来たというべきか。
 なのはの撃ったスパイラルブレイカーによって、庭園の天井には風穴が開いた。
 その後、クロノ達の鼓膜を破らんばかりの轟音が、辺りに轟いたのだ。

「じゃあ、また後でね」

 クロノ達に話しかけた後、なのはは一人、遮蔽物が全て消し飛んだ空へと飛び立った。








あとがき

場所がコロコロ変わるから書きにくい。
今回どうしようか迷ったんですけど、なのはさんには駆動炉の封印に行ってもらいました。
この時点ではプレシアが虚数空間に落ちるなんて誰も思ってませんからね。
でも2分で封印終わらせると言ったので、おそらくクロノ達よりも早くプレシアの所まで辿り着くと思います。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>なのはさん、アルハザードってユーノから聞いてたよね?

とっさの事で思い出せなかっただけです。

>『スパイラルブレイカー×4(勿論絶賛高速回転中)を対象を中心に正三角錐の頂点に配置。
→スパイラルブレイカー×4を基点にして結界を形成。脱出不可能の牢獄に。
→結界内の魔力を捕らえた対象の魔力ごとスパイラルブレイカー×4で根こそぎ奪い、完全無力化する。同時に周囲の魔力も掻き集める。対象はバリアジャケットはおろか、デバイスの起動すら不可能に。ここで一応降伏勧告する。一応。
→スパイラルブレイカー×4を、結界内で対象に炸裂させる。結界のおかげで結界外には何等影響無し。結界内の対象はチリすら残らない……。
こうなりそうな予感。
スパイラルブレイカー×4の相乗効果で、どこまで威力が跳ね上がるのか楽しみですね!

こんなの思いつきませんよ。
ていうか、なのはさんが結界使ったことはまだ無かったはずですが。

>つーか、接近戦苦手なんだよな。このなのはさん。

元から苦手だったと思いますが、このなのはさんはもっと苦手です。
出来ない訳ではないんですけどね。
プロテクション張りながら近づいて、相手にレイジングハート押し当てて魔法使えばいいだけですから。

>つ、通じなかったか・・・・・・。やっぱり一部のライダー好きじゃないと一発で分からないか・・・?
あ、あと気が向いたら書いてみようかな~とか思ってますw

すいません。ライダーはほとんど見てないんです。
完結したら見ます。
あなたが書いたやつを読める日が来るのを楽しみにしています。

>前から思ってたけどほんとにどんだけライダー好きがここに………やはり「答えは聞いてないの」のせいでしょうか?

おそらくそうでしょうね。
その一回しか使ってないのに、何故か増えました。
狙ってやった訳ではないんですけどねぇ。

>実はこのなのはさんとプレシアさんって結構似てるんじゃないだろうか。
人の意見を聴かない所といい目的に向かって一直線なところといい。

似てますね。
プレシアは突き抜けちゃっただけだと思います。

>最早、なのはさんが
「福岡を本拠地とする若鷹軍団の現役最高齢にして最強の真性アルコール中毒者な一撃必殺の代打の神様」
のごとく、レイハさんのグリップに口に含んだスピリタスを
「プオォッ!」
と吹き付ける姿しか想像出来ない。

そんなことしたら、なのはさんがスピリタス飲めないじゃないですか。




[10864] 第五十六話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/06 21:49




「ねえ、フェイト……」

 医務室に運んだフェイトを、アルフは隣に座って見つめていた。
 だがその声にもフェイトは何の反応も返さず、ただ天井を見上げているだけだった。

「フェイトはさ、もう闘わなくていいんだよ」

 虚ろな目をしたままのフェイトに、アルフは言った。

「あの女はあいつらが何とかしてくれるさ。
 フェイトに勝つくらい強いんだもん。
 責任感の強いフェイトは、何でも一人で済ませようとしちゃうよね。
 でも、偶には良いんじゃないかな?
 後の事を、安心して誰かに任せちゃってもさ。
 だから、フェイトはもう、何もしなくていいんだよ」

 フェイトのすべすべとした頬を、アルフは撫でる。
 フェイトはそれでも、何も反応を返さない。

「痛い思いも、苦しい思いも、悲しい思いも、フェイトはもうしなくて良いんだ。
 だから、ゆっくりで良いんだ。
 ゆっくりで良いから、あたしの大好きな、本当のフェイトに戻ってね。
 フェイトは、もっと我が儘になって良いんだ。
 これからは、フェイトの時間は全部、フェイトが自由に使って良いんだからさ」

 アルフは、ダランと垂れ下がったフェイトの手を持ち上げる。
 それを痛くないように加減をしながら、ギュッと握った。

「あたしはずっと、フェイトの傍にいるからね。
 フェイトがずっと笑っていられるように。
 例え魔法が使えなくなっても、フェイトがずっとそのままだったとしても。
 それでもあたしは、フェイトの傍にいるよ。
 だってあたしは、フェイトが大好きだから。
 強くて、優しくて、でもちょっとだけ意地っ張りな、そんなご主人様が大好きだから」

 その時アルフは、フェイトの手を握っている自分の手を、小さな力が握り返して来るのを感じた。






 母さんは、最後まで私に微笑んでくれなかった。
 私が生きていたいと思ったのは、母さんに認めて欲しかったからだ。
 どんなに足りないと言われても、どんなに酷い事をされても……。
 だけど……笑って欲しかった。
 ただ笑って欲しくて、それだけの為に頑張ったのに。
 こんな事だから、私は捨てられたのだろうか?
 私が、アリシアじゃないから。
 アリシアみたいに、優しく笑えなかったから。
 ……駄目だな、私は。
 あんなにはっきりと捨てられた今でも、私はまだ母さんに縋りついてる。 
 こんなんじゃ、捨てられても仕方がないのかな。
 私は……フェイトは、アリシアには成れなかった。
 アリシアとして、母さんに笑ってもらえなかった。
 ただそれだけ。
 それだけなのに、どうしてこんなに悲しいんだろう。
 世界がぼやけてて、良く見えないんだ。
 母さんの顔が、これじゃ良く見えないよ。
 私は、一人ぼっちなのかな。
 母さんが私を捨てた今、私には誰もいない。
 生きる意味を見失った私には、何も無い。
 空っぽだ。
 これだから、私は人形だって言われるのかな。
 言われるがままにジュエルシードを集めて。
 言われるがままに母さんに捨てられた。
 だから……私は人形なんだね。
 偽物の紛い物だから。
 だから……捨てられたんだ。

 だから……。

 だから……。

 だから……。

「ねえ、フェイト……」

 ……アルフ?
 そうだ、アルフがいた。
 ずっと傍にいてくれたアルフ。
 言う事を聞かない私に、きっと随分と悲しんでた……。

「フェイトはさ、もう闘わなくていいんだよ」

 え?
 アルフ、何を言っているの?

「あの女はあいつらが何とかしてくれるさ。
 フェイトに勝つくらい強いんだもん。
 責任感の強いフェイトは、何でも一人で済ませようとしちゃうよね。
 でも、偶には良いんじゃないかな?
 後の事を、安心して誰かに任せちゃってもさ。
 だから、フェイトはもう、何もしなくていいんだよ」
 
 ……そうなのかな。
 誰かに、任せちゃっても良いのかな。
 私はもう、傷つかなくて済むのかな。
 ……でも、何かが違う気がする。

「痛い思いも、苦しい思いも、悲しい思いも、フェイトはもうしなくて良いんだ。
 だから、ゆっくりで良いんだ。
 ゆっくりで良いから、あたしの大好きな、本当のフェイトに戻ってね。
 フェイトは、もっと我が儘になって良いんだ。
 これからは、フェイトの時間は全部、フェイトが自由に使って良いんだからさ」

 ……そうだね。
 もう私は、捨てられたんだもの。
 私は、私の好きにすれば良いんだよね。
 でも私は、いったい何をすれば良いんだろう。
 ……そうだ。

「あたしはずっと、フェイトの傍にいるからね。
 フェイトがずっと笑っていられるように。
 例え魔法が使えなくなっても、フェイトがずっとそのままだったとしても。
 それでもあたしは、フェイトの傍にいるよ。
 だってあたしは、フェイトが大好きだから。
 強くて、優しくて、でもちょっとだけ意地っ張りな、そんなご主人様が大好きだから」

 アルフ……。
 ごめんね、一人ぼっちだなんて思って。
 アルフは、ずっと傍にいてくれるって、そう言ってくれたのに。
 そんな事、ずっと前から分かってたのに。
 そんなアルフに、私は甘えてたのかな。

「アルフ……」

「フェイト……?」

 アルフが呆けた顔で私を見てる。

「ごめんね、アルフ。私も、アルフの事が大好きだよ」

 ギュッと、その気持ちを込めて手を握る。
 アルフも私の手を握り返してくれた。

「フェイト……まだ寝てないと……」

 起き上がった私を、アルフが心配する。
 でも、寝てる訳にはいかないんだ。

「アルフ。私……母さんに会いに行こうと思う」

「だ、駄目だよ、フェイト!」

 アルフが目を見開いて、大きく首を横に振る。

「あの女がどれだけ酷い事をフェイトにしたのか、忘れた訳じゃないだろう!?」

「うん……」

 忘れた訳じゃない。
 忘れられるはずがない。
 でも、違うんだ。

「アルフはさっき、言ってくれたよね。
 私はもう、何もしなくて良いって。
 でもそれは、違うと思うんだ」

 私は首を横に振って、それを否定する。

「あの人達は強いよ。
 けど、だからってあの人達に全部を任せたままだったら、私はきっと後悔する。
 他の人に任せて、私がただ寝ているだけなんて、しちゃいけないと思う。
 痛い思いも、苦しい思いも、悲しい思いも、私はしたくないよ。
 でも、だからってそれを、誰かに任せちゃいけないんだ。
 だってそれは、私の想いだから……」

「フェイト……」

「だから、母さんに会いに行きたいんだ」

 生きていたいと思ったのは、母さんに認めてもらいたいからだった。
 それ以外に、生きる意味なんか無いと思っていた。
 それが出来なきゃ、生きていけないんだと思ってた。
 でも、今は違うと思うんだ。
 アルフと目を合わせて、私は喋り続ける。

「このまま、終わらせたくなんかないんだ、アルフ。
 このままここに居て、ただ流されるだけじゃ駄目なんだ。
 戦いに行く訳じゃない。
 ただ、母さんともう一度、話がしたいんだ。
 アルフ、お願い。
 私の我が儘を、聞いてくれる?」

「……それが、フェイトをもっと傷付ける事だってあたしには分かる。
 それなのに、それをあたしに認めろって、フェイトはそう言うのかい?」

 アルフは泣きそうな顔で私の手を握る。

「約束してよ、フェイト。
 どんな結果になっても、また笑えるようになるって。
 すぐじゃなくて良い。
 何年掛かっても良いから、幸せになるって。
 お願いだから、約束して……」

「うん。約束する」

 私の手を握っているアルフの手に、もう一方の手を乗せる。

「守るよ、絶対に」

 ベッドから降りる。
 そして、ポケットに入ったままだった、バルディッシュを手に取る。

「バルディッシュも、心配掛けてごめんね」

『……』

「こんな私だけど、まだ一緒に居てくれる?」

『get set』

 バルディッシュは、デバイスフォームへと変化した。

「……ありがとう、バルディッシュ。
 お前も、このまま終わるのなんて、嫌だよね」

 バリアジャケットを展開して、白い服から黒い服へと着替える。
 その時、モニターに映るあの人の姿が、顔を上げた私の目に入った。
 あの人……高町なのは。
 ジュエルシードを賭けて、何度もぶつかったあの人。
 初めて私と対等に闘って、真っ直ぐ向き合ってくれたあの人。
 何度も出会って、闘って、私の名前を呼んでくれて、そして、手を差し伸べてくれた。
 何度も……何度も……。
 私も、あの人みたいになれるのかな。
 私も、あの人みたいに出来るのかな。

 嫌な事、怖い事、辛い事、悲しい事。
 それを、ただ捨てれば良い訳じゃない。
 そして、逃げれば良い訳でもない。
 あの人は逃げるなとは言わなかった。
 でも、逃げてるだけじゃ何も変わらないって、そう言っていた。

「例え怖くても、どんな想いを持っていても、立ち向かわなきゃいけない時は必ず来る。
 そして、今はその時。
 だから、立ち向かうんだ。
 母さんと。
 そして、今までの自分と……」

 マントを身に纏い、バルディッシュを携える。

「行こう。アルフ。バルディッシュ。
 私の、フェイト・テスタロッサの我が儘を叶えに……」

 転移魔法陣を足元に展開し、私達は時の庭園へと飛び立った。






あとがき

フェイトのターン。
ちょっと立ち直り方が違いますが、まあ良いでしょう。
お話は次回かな?
肉体言語かもしれないけど。

コメントへのコメントは出来る限り控えて下さい。
規約違反に成りますので。

気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>……うん、なんかいいな。元気な子が精神的に弱ったり、一部崩壊したり、病弱になったり、死掛けてたりするとかわいいよね。
>幼児退行したままの方が萌えないか?

いいですよね。萌えますよね。そそりますよね。

>最初、時の庭園の入り口から駆動炉に砲撃かまして早々に終了するのかと思ってました。

駆動炉ごと消し飛ばそうかと思ったんですけど、危ないので止めました。

>グレアム提督についてよくよく考えてみれば、ヘタすりゃクロノが生まれる前に引退していてもおかしくない(爆死

でもそうすると、クロノがこれだけ強いのが分からない。
別の人に鍛えられたのかな?

>しかし2分とは動力炉まで行く気ないな…
砲撃位置確保してそのまま砲撃にて破壊、速攻でプレシアの元へって感じかな?

封印するまでに掛かる時間が2分という事です。
プレシアの所へむかうのはそれからです。

>ただ、今回は応用できる時間があるかどうか……

感心しただけなので、相変わらず力押しです。

>酒を飲むと強くなるなのはさん、中身はやはりアルコール度数96%のスピリタスでしょうか?

なのはさんが知っている中で最も度数の高いモノなので、スピリタスだと思います。

>それと養子の件について、私が余計な疑問を呈したために、作者様を混乱させてしまったようで申し訳無い。
まさかひぐらし作者の勘違いだとは思わなかったです。

同人とはいえ商売をしている人が間違えるとは、私も思ってもいませんでした。

>さて、まもなく完結のようですね。素晴らしい更新速度で一気にゴール
お疲れ様です。

出来ればそれは完結まで待って下さい。
楽しみが減るので。

>ちらしの裏規約の「20話程度を目安に、あるいは完結したら本板に移動」ってのが在りますので完結記念に「とらは板」お引越ししましょう。

完結したらお引っ越しします。
チラシの裏から始めたので、チラシの裏で完結させたいんです。

>なのはさんに…俺を飼ってほしい////

なのはさんにそんな趣味はありません。
……無いはずです。



[10864] 第五十七話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/07 14:06



「くっ……来たのね……」

 時の庭園を揺らす衝撃に、プレシアはよろめく。

「だけどもう間に合わないわ……。ね? アリシア……」

 プレシアはポッドの中に浮かぶアリシアに話しかける。
 アリシアはそれに答える事は無く、ただ静かに浮かんでいた。

「ああ、アリシア……」

 プレシアの周りに漂うジュエルシードが、プレシアの願いに応じて光を放つ。

「あともう少し……」

 プレシアはアリシアを見つめながら、静かに待つ。
 その時、時の庭園を揺るがせていた地震が、段々と勢いを無くしていく。

「これは……」

「プレシア・テスタロッサ」

 動揺するプレシアに、声を掛ける者がいた。
 リンディだ。
 リンディはその背に四枚の光の羽を広げ、巨大な環状魔法陣を敷いていた。

「もう終わりです。次元震は私が抑えています」

 それはプレシアにとって、一番聞きたくは無い言葉だった。

「駆動炉も既に封印されました。
 貴女のもとには、執務官が向かっています。
 忘れられし都、アルハザード。
 そしてそこに眠る秘術は、存在するかどうかすら曖昧な、ただの伝説です」

「……違うわ」

 プレシアは咳込みながらも、リンディに反論する。

「アルハザードへの入口は次元の狭間にある。
 時間と空間が砕かれた時、その狭間に滑落していく輝き……。
 道は、確かにそこにある!」

「随分と、分の悪い賭けですね……」

 リンディは目を眇めてプレシアを見る。
 その時、天井から一筋の光が轟音を上げて、リンディ達のいる地面へと突き刺さる。
 ガラガラと崩れさる天井から降りて来たのは、なのはだった。

「本当だね。リンディ艦長の言う通りだよ」

 辺りに低い声が響く。
 なのはがプレシアに向けて言ったのだ。

「初めまして、かな? プレシア・テスタロッサさん。高町なのはです。
 貴女に言いたい事があって、殴り込みに来ました」

 降り立ったなのはは、プレシアに向けて歩きながら、静かに話しかける。

「私に……近づくなぁっ!」

 プレシアが杖から雷を発し、なのはに向けて放つ。
 しかし、それはなのはの張ったプロテクションに弾かれた。
 そのままゆっくりと近づいていくなのはに、プレシアの顔が焦燥を帯びる。
 なのははゆっくりと歩き、プレシアの目前まで辿り着いた。
 そしてなのはは、プレシアに向けて、にっこりと笑った。

「はぁっ!」

「がぁっ!?」

 拳を固め、プレシアの頬めがけて、なのはは左手で殴り飛ばした。
 なのはの腕力では、アルフのように吹き飛ばす程の効果は生まれなかった。
 だがその場に崩れ落ちる程の力はあったようだ。

「ごほっごほっ……」

 プレシアは激しく咳込む。

「……痛い?」

 右手で左手をさすりながら、静かになのははプレシアに聞いた。
 本来の利き腕である左で、なのははプレシアを殴り飛ばしたのだ。
 プレシアはなのはを睨みあげる。
 それをなのはは見下ろした。

「でも大好きだったお母さんに、あんな事を言われたフェイトちゃんの心は、もっともっと痛かったはずだよ」

「……」

 何も言わず、ただなのはを睨むプレシアの服を掴み、無理矢理なのははプレシアを立たせる。

「何とか言ったらどう?
 殴った私の手は、こんなにも痛いのに……。
 フェイトちゃんにあれだけの事をして置いて、貴女は全然心が痛まなかったって言うの?」

「……だったらどうだって言うの。
 あなた、まさかあの子に同情したの?
 だったらあんな人形、くれてやるからとっとと何処かへ消えなさい」

 プレシアのその言葉に、なのはの目に浮かぶ怒りが更に増す。

「まだそんな事を言うの!?
 あの子は……フェイトちゃんは、泣いてたんだよ!
 貴女に大嫌いだって言われて! 消えろって言われて!
 フェイトちゃんは涙を流してたんだ!
 それを、悲しむ心を持ってるあの子を、人形だなんて言わせない!」

 なのはの頬から一筋の涙が流れる。
 だがそんな事など気にせず、なのはは喋り続ける。

「同情が無いって言ったら嘘になる。
 これが自己満足の偽善じゃないって言ったら嘘になる。
 でも、それでも貴女よりマシだよ。
 前を見ていない、死んでしまったアリシアちゃんしか見ていない。
 アルハザードなんて遥か昔に無くなったものを探して、フェイトちゃんを見ようとしない。
 そんな貴女なんかよりも、ずっと……」

「アルハザードはあるわ……。伝説なんかじゃない!」

 低い声でプレシアはなのはの言葉を否定する。
 なのははそれにかぶりを振る。

「伝説だなんて言ってないよ。
 アルハザードは貴女の言う通り、確かにあったんだろうね。
 でも、それは今は無い。
 でなければ、私はここにいないもの」

「なに……?」

 プレシアが目を細める。
 なのははそれを見ながら、プレシアに驚愕の事実を伝える。

「だって私は、アルハザードの人間の子孫なんだから」

「……なん……ですって……?」

 その言葉に、プレシアが目を見開く。

「なのはさん。貴女……」

 リンディも息を呑む。
 なのはは言葉を続けた。

「アルハザードは無くなった。
 でもそこに住む人達が、全員いなくなった訳じゃない。
 今よりも遥かに技術が進んでいた世界なんだ。
 全ての人が、同じ世界にいたはずが無い。
 何かの事情で、別の世界に行っていた人達もいたんだ。
 そしてアルハザードが無くなった。
 残された人達は、別の次元世界に移住して、そこに住みついたんだ」

「それが、貴女達の世界だって言うの……?」

 なのはを睨みながら、プレシアは問う。

「そうだよ。
 私達の世界に、魔力を持っている人は基本的にいない。
 でも私は、ここにいる。
 その人達の血が流れているから。
 でもその人達は、それだけの技術を持っていながら、それを残さなかった。
 もう一度アルハザードを作る事が出来たのに、それをしなかった。
 現地の人達に混じって、消えて行ったんだ。
 何故だか分かる?」

 なのははプレシアに問いかける。

「その人達は、もうそんなもの必要無いと思ったからだよ。
 貴女の行くところに、アルハザードはあるかもしれない。
 けど、それはただの跡地でしかない。
 そこに貴女の求めている、死者蘇生の技術なんて残っていない!」

「……嘘だ」

 プレシアが言葉を吐き出した。
 なのはは首を横に振った。

「嘘だと思いたいんだろうね。
 でもね、アルハザードは、もう無いんだよ」

 一言一言区切るように、なのははプレシアに言い聞かせる。
 プレシアはブツブツと一つの言葉を繰り返す。

「嘘だ……嘘だ……」

 なのははプレシアを見て、そしてアリシアを見る。

「アリシアちゃんも、このままじゃ可哀想だよ。
 自分が死んで、お母さんがいつまでも泣いたままじゃ。
 生き返らせようとして、前を向こうとしないままじゃ、いつまで経っても成仏出来ない」

 なのはの言葉に、プレシアの目に火が灯る。
 憎しみの火だ。
 なのはをその目で睨みつける。

「……お前が……アリシアを語るなぁぁっ!!」

「っ!? きゃあああっ!!」

 プレシアが膨大な量の魔力が溢れ、アリシアを見ていたなのはは吹き飛ばされる。
 だがなのはの事など気にせず、プレシアはアリシアの入ったポッドを抱き締める。

「アルハザードはある。
 必ずあるのよ。
 あんなのは嘘っぱち。
 ただの戯言よ。
 そうよ、私は知っているんだから。
 ねえ、アリシア。
 貴女なら分かってくれるわよね?」

 プレシアはアリシアに話しかける。
 だが、死んでいるアリシアが、プレシアのその問いに答える事は無い。

「貴女は、そこに行って、何がしたいの?
 失った時間と、犯した過ちを取り戻すの?」

 リンディがプレシアに問い掛ける。
 プレシアはアリシアを見つめたまま答えた。

「そうよ。私は取り戻す。
 私と……アリシアの……過去と未来を!
 取り戻すのよ。
 こんなはずじゃなかった、世界の全てを!!」

 その時、壁の一部から水色の閃光が迸る。
 その光によって貫かれ、内部から破壊された壁は、ガラガラと音を立てて崩れ去った。
 そこに立っていたのは、あちらこちらがボロボロになった、クロノとユーノだった。
 クロノはプレシアを見つめる。

「世界は、いつだって、こんなはずじゃない事ばっかりだよ!!」

 プレシアは目を見開く。
 クロノの言葉にではない。
 空に自分が知っている姿を、フェイト達が降りて来るのを見たからだ。
 クロノもそれに気付きながら、尚も言葉を続ける。

「こんなはずじゃない現実から、逃げるか、それとも立ち向かうかは、個人の自由だ!
 だけど、自分の勝手な悲しみに、無関係の人間まで巻き込んで良い権利は、どこの誰にもありはしない!!」 

 フェイトはクロノとプレシアの間に降り立ち、プレシアを見つめる。
 プレシアはフェイトを睨む。

「うっ……ごほっ、げほっ……」

 だがそれも、プレシアが激しく咳込んだ事で視線は外された。

「母さんっ!」

 フェイトはプレシアに向けて走り寄る。
 プレシアは低い声で吐き捨てる。

「何しに来たの……?」

 しかし、プレシアの言葉でフェイトは足を止めざるを得なかった。

「消えろと言ったはずよ。もうあなたに用は無いの……」

 フェイトは足を止め、杖によりかかったプレシアを静かに見つめる。

「貴女に、言いたい事があって来ました……」

 フェイトは目を閉じる。
 そして手を胸に抱え、静かに言葉を紡いだ。

「私は……アリシア・テスタロッサじゃありません。
 貴女が作った、ただの人形なのかもしれません。
 だけど、私は……」

 フェイトは目を開け、プレシアを見つめる。

「フェイト・テスタロッサは、貴女に生み出してもらって、育ててもらった、貴女の娘です!」

「……フフフフ、アッハハハハ……」

 プレシアはフェイトの言葉に哄笑する。

「……だから、何? 今更あなたを、娘と思えと言うの?」

「貴女が、それを望むなら……」

 フェイトは強い意志を秘めた目で、プレシアを見つめる。

「それを望むなら、私は世界中の誰からも、どんな出来事からも、貴女を守る」

「……」

「私が、貴女の娘だからじゃない。貴女が、私の母さんだから!」

 フェイトは近づき、手を伸ばす。

「貴女が大切な人だから……。だから、私は手を伸ばします。何度でも……貴女へ向けて」

「……」

 フェイトは近づく。
 手を伸ばす為に。
 差し伸べた手を、プレシアのもとへ届ける為に。
 そして、プレシアのもとまで辿り着いた。

「母さん……」

「……」

 フェイトは母を見上げる。
 プレシアも、右手を持ちあげた。
 フェイトの顔に喜びの色が浮かぶ。
 だが……、

「くだらないわ」


 パンッ


 プレシアの手は、フェイトの差し伸べた手を弾いた。

「あ……」

 弾かれた手に、フェイトは悲しみを浮かべる。

「ふん……」

 プレシアはニヤリと笑い、杖で突いて足元に紫色の巨大な魔法陣を生み出す。

「母さ……きゃっ!」

 フェイトはプレシアの杖から放たれた魔法で、遠くに弾き飛ばされた。
 プレシアはそれを見て、吐き捨てる。

「くだらないわ、本当に……。
 私はアリシアとアルハザードに行くのよ。
 あなたなんか要らない。
 母親が欲しいなら、そこの女と仲良く家族ごっこでもしてれば良いわ」

 プレシアはなのはを見る。
 なのはは厳しい目でプレシアを見つめた。
 プレシアの発動させた魔法によって、辺りに地割れが起きる。

「あ、ああっ!」

 次元震を抑える為に魔法を使っていたリンディも、魔法を維持できなくなる程だった。
 そこに、アースラから見ていたエイミィの声が響く。

『艦長、駄目です! 庭園が崩れますっ! 
 戻って下さい! この規模なら、次元断層は起こりませんから!』

 エイミィの焦る声が、皆の焦燥を掻きたてる。

『クロノ君達も脱出して! 崩壊まで、もう時間が無いの!』

「了解した!」

 クロノがそれに答える。

「フェイト・テスタロッサ。……フェイト!」

 クロノが何度も呼ぶが、フェイトはプレシアを見つめたまま応えない。
 プレシアはポッドに寄りかかり、言葉を紡ぐ。

「私は向かう、アルハザードへ!
 そして全てを取り戻す!
 過去も、未来も、たった一つの幸福も!
 無かったはずの未来さえ、私は掴んでみせる!!」

 プレシアの立っていた足場が崩れ、プレシアも下へと落ちていく。

「母さんっ!」

「駄目だ、フェイトっ!」

 後を追おうとしたフェイトは、アルフによって止められた。
 フェイトはそのまま、プレシアが落ちていく様子をずっと見ていた。



 プレシアは次元の狭間へと落ちながら、共にいるアリシアへ語りかけた。

「一緒に逝きましょう、アリシア。今度はもう、離れないようにね……」

「……」

 アリシアは応えず、ただそこにいるだけだった。



「フェイト! 早く逃げよう!」

 アルフがフェイトの隣で叫ぶ。
 崩壊は既に止められない程まで来ていた。
 逃げなければ、二人は死んでしまう。
 だが崩壊は、二人を引き離した。

「フェイトっ!? フェイトぉっ!!」

 遠くへと離されたアルフがフェイトを呼ぶ。
 だが、フェイトは地震の影響で上手く立つ事も出来ず、ただしがみ付いていた。

「フェイトちゃんっ!!」

 そこに、声を掛ける者がいた。
 フェイトが顔を上げると、なのはがフェイトに向けて、手を伸ばしていた。

「飛んでっ! 手を伸ばしてっ!」

 フェイトはその手を見る。
 次にプレシアの落ちていった地面を見つめ、僅かに逡巡した後、フェイトはなのはに向けて飛んだ。
 そして手を伸ばす。
 なのはは伸ばされたフェイトの手を、しっかりと握った。
 プレシアに弾かれた手は、なのはによって繋がれた。
 
 なのははフェイトを引き寄せ、腕の中にしっかりと抱いた。

「急いで脱出するよ。フェイトちゃん!」

「……はいっ!」

 フェイトもなのはの腰に手を回して、しっかりと抱きしめた。
 そして、崩壊していく時の庭園を、なのは達は脱出したのだった。







あとがき

スーパーなのはタイム。
スーパークロノタイム。
スーパーフェイトタイム。
ようは演説タイムです。

いきなり殴り飛ばすなのはさん。
よっぽど怒っていたみたいですね。

さて、最後のプレシア、アニメとはちょっと違う事言ってましたね。
果たしてこれはどういう意味でしょうか。
それは……秘密ですね。
好意的に解釈していただければ結構です。

完結まであと数話といったところですね。
何事も無ければ、今週中には完結すると思います。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>フェイトのなのはの見方がやっぱり少し変わって大人を見る感じになってますね。いい感じでした

ありがとうございます。

>フェイト、強い子になったね・・・物理的に、じゃなく心がさ。
自分の意思で立ち上がった今のフェイトに敵は無い!(なのはさんを除く。だってねぇ、アレはさ・・・・チートって言葉が生易しく感じるんだよw)

それが、なのはさんクオリティ。

>なのはさんの養子……には日本国法ではなれないか。

魔法なんてものが存在する世界です。
やろうと思えば不可能では……ない!

>そしてなのはの言動・姿勢がフェイトに多大な影響を及ぼした模様。
このなのはのあり方をみてれば、フェイトはきっとたくましく育つことでしょう。

強く育ってほしいですね。

>なのはさんを飼いたい。

なのはさんにそんな趣味はありません。
もしあったとして、なのはさんを養うだけのお金はいくら持っているんですか?

>もう・・・ゴールしてもいいよね?

まだだ! まだ終わらんよ!!

>つまり娘になってなのはさんの優しさの秘密を知ってなのはさんみたいになりたいんだな!

さあ、どうでしょう。




[10864] 第五十七話IF
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/07 17:30
 本編とは関係ないですよ。











「フェイト! 早く逃げよう!」

 アルフがフェイトの隣で叫ぶ。
 崩壊は既に止められない程まで来ていた。
 逃げなければ、二人は死んでしまう。
 だが崩壊は、二人を引き離した。

「フェイトっ!? フェイトぉっ!!」

 遠くへと離されたアルフがフェイトを呼ぶ。
 だが、フェイトは地震の影響で上手く立つ事も出来ず、ただしがみ付いていた。

「フェイトちゃんっ!!」

 そこに、声を掛ける者がいた。
 フェイトが顔を上げると、タクシーに乗ったなのはが身を乗り出し、フェイトに向けて手を伸ばしていた。

「乗ってっ! 手を伸ばしてっ!」

 フェイトはその手を見る。
 次にプレシアの落ちていった地面を見つめ、僅かに逡巡した後、フェイトはなのはに向けて飛んだ。
 そして手を伸ばす。
 なのはは伸ばされたフェイトの手を、しっかりと握った。
 プレシアに弾かれた手は、なのはによって繋がれた。
 
 なのははフェイトを引き寄せ、腕の中にしっかりと抱いた。

「急いで脱出するよ。フェイトちゃん!」

「……はいっ!」

 フェイトもなのはの腰に手を回して、しっかりと抱きしめた。

「八神さん! 出して下さい!」

「おおよ! まかせとき!」

 なのはの言葉に従い、タクシーの運転手は車を発進させる。

「あのアルフさんも拾って行くで!」

「あ、お願いします」

 フェイトは思わずそう頼んだ。
 ドリフトをかましてアルフの所まで辿り着いたタクシーは、アルフを中へ引っ張り込む。

「さあ行くで! しっかりつかまっときや!」

 タクシーは崩壊を始めている時の庭園の中、揺れる地面をモノともせずに進んで行く。

「あの……どうしてこんなところに車が……?」

 フェイトは運転手に疑問を投げ掛ける。
 運転手は前を向いたまま、左手の親指をグッと立てて見せる。

「野暮な事は言いっこ無しやで、お嬢ちゃん」

「は、はあ……」

「移動を望む人がいるならば、何処へでも駆けつける。それこそがわたしのポリシー」

「そうなんですか」

 フェイトは凄いなぁ、と感心した。
 どうやってここに来たのかとか、今まさに地面は滑落して行っているのに、どうやって走っているんだろうとか。
 そんな事を思ったりもしたが、何だか凄い事をやってるんだなと納得した。
 だがそんな事を思った時、前方で天井が崩落し、道が塞がれた。

「危ないっ!!」

 フェイトは叫んだ。
 このままではぶつかる。
 そう感じた。
 だが……、

「跳ぶで。シートベルトはしっかりな」

「え?」

 タクシーはウィリーを初め、障害物となった天井の瓦礫を乗り越えていく。
 そのまま瓦礫の山をジャンプ台にして、タクシーは空高く舞い上がった。

「ええええっ!?」

 フェイトは目を見開く。
 自分の知識では、車にこんな事が出来るとは知らない。
 だがこれで終わりでは無かったらしい。
 僅かにバウンドしただけのタクシーはそのまま走り続ける。
 今度は先程タクシーの上に瓦礫が降って来た。

「まだまだぁぁ! わたしのターン!」

 タクシーは今度はスピンターンを繰り出し、落ちて来る瓦礫を弾き飛ばす。
 それだけではなく、タクシーは今度は壁走りを繰り出した。

「嘘おおっ!?」

 フェイトは自分の常識が間違っていたと、根底から覆された気分だった。
 おまけにこれだけ動いているのに、シートベルトをしている自分達はほとんど揺れを感じないのだ。
 このベルトに衝撃や重力を緩和するような魔法が掛かっているとしか思えない。
 いや、そうだとしても、これだけの動きで発生する衝撃をほぼゼロになど出来る筈が無い。
 しかもそれを運転手はこともなげにやっているのだ。

「フッ……トロパイオンの塔の頂に立つ、車の王やったわたしに、この程度の悪路なんて目や無いで!!」

 ニヒルに笑う運転手に、フェイトは首を傾げる。

「あの、トロパイオンって何ですか?」

「速さを競う若者達の遊びや。ま、わたしからしたら、皆車の良さにも気付かないヒヨッコなんやけどな」

 でももうわたしは引退したしなぁ、と運転手は語る。
 速さを競うという言葉に、フェイトの魂に火が付く。

「あの、それ私にも出来ますか?」

「勿論や。でも18歳になってからな。
 免許取ってから存分に目指せばええよ。
 その時はわたしがみっちり教え込んだるわ」

「はいっ!」

 フェイトはその顔に喜色を浮かべる。
 タクシーはそのまま走り続け、時の庭園を飛び出し、高次空間へとその身を投げた。
 勿論、高次空間内もそのまま走り続けたのだが。

 こうして、アースラまで到着したなのは達は、なんとか時の庭園を脱出したのだった。
 料金に関しては、なのはが運転手に無料券を渡してなんとかなった。

「おおきに。また利用してな」

 去り際に運転手はそう言って、タクシーは走り去って行った。




あとがき

もうはやては出てこないと思うから、リクエストにお答えしてみました。
一時間も掛からずにあっさり書けました。
だけど正直良く分からなくなった。

嘘みたいだろ? このはやて、車で学校の外壁登れたりするんだぜ?






[10864] 第五十八話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2010/03/17 17:58


「庭園崩壊終了。全て虚数空間に吸収されました」

「次元震停止します。断層発生はありません」

「了解」

 リンディは上がって来た報告に返事をする。
 第三船速でこの空域を離脱するアースラの中で、リンディは艦長席に背を預けた。

「……はぁ」

 深い安堵の溜め息を吐く。

「こちらに死者は無し。次元断層も発生せず。
 プレシアを逃したのは痛いけれど……それ以外ではベストな展開だったわね。
 それにしても、今回は本当に疲れたわ……。
 今すぐにでもなのはさんのケーキが食べたい……」

 額に手をやり、うっすらと浮かんだ汗を拭いながら、リンディはポツリと呟いた。

「でも聞かなければならない事もあるし、まだまだそんな事は出来そうにないわね……」

 今回の事で捌かなければならない書類の量を頭に浮かべる。
 どうやら、ケーキはしばらくお預けのようだ。
 先程局員が、気を利かせて淹れてくれたお茶を、リンディは飲む。
 なのはがどこからか探して来たこのお茶は、甘みを仄かに感じさせ、リンディの心を落ち着かせる。
 だが、なのはのケーキと一緒になってこそ、このお茶は真価を発揮するのだと、僅かに不満が残る。

「いったいいつになる事やら……」

 リンディはモニターを眺める。
 そこに時の庭園の姿はもう無く、何も無い空間がそこにあるだけだった。





 アースラに戻ったなのは達は、クロノと話していた。

「クロノ君、怪我大丈夫?」

「大丈夫です。ユーノが守ってくれましたし……」

 なのはの心配に、クロノは笑って答える。
 見た目はボロボロでも、怪我は酷くは無いらしい。
 クロノは顔を引き締めると、フェイトに顔を向ける。

「フェイト・テスタロッサ。早速で悪いが、護送室へ連行させてもらう」

「そんな……!」

 なのはが叫ぶ。
 フェイトは暗い顔で頷いた。

「……分かりました」

「フェイトちゃんっ!?」

 なのはが傍らにいたフェイトに目を向ける。
 未だ握ったままだったなのはの手を、フェイトは握り返す。

「……大丈夫です」

「フェイトちゃん……」

 なのはがフェイトを見つめる。
 それを見ていたクロノが、咳払いを一つした。

「あの……別に悪いようにはしませんから……」

「え? そうなの?」

「ええ。重要参考人ですから、しばらく隔離になりますけどね。
 今回の事件は、一歩間違えれば次元断層さえ引き起こしかねなかった、重大な事件です。
 時空管理局としては、関係者の処遇には慎重にならざるを得ないんです」

「……そうだね」

 なのはは頷く。

「ねえ、クロノ君。面会は出来る?」

「……すいませんが、それも控えて下さい」

 なのはの問いに、クロノはゆっくりと首を横に振った。

「重要参考人に、民間人が易々と会えるようにしては駄目ですから。
 それに、あんな事態の中で、彼女に監視を付けなかったのはこちらの落ち度です。
 ですが、保護という名目でアースラに連れて来た彼女は、一度脱走してますし……」

「やっぱりか……」

 分かっていたとなのはは俯く。

「クロノ君。フェイトちゃんは、これからどうなるの?」

 管理局の事に疎いなのはが、クロノに尋ねる。

「……事情があったとはいえ、フェイトが次元干渉犯罪の一端を担っていた事は、紛れも無い事実です」

「あ……」

 フェイトがなのはの手を握る力を強める。

「重罪ですからね。数百年以上の幽閉が普通なんですが……」

「そんなっ!?」

「なんですが!」

 なのはが反論しようとするのを、クロノが抑える。

「状況が特殊ですし、フェイトが自らの意思で次元犯罪に加担していなかった事は、プレシアとの会話からもはっきりしています。
 あとは、偉い人達にその事実をどう理解させるかなんですけど……。
 その辺はちょっと自信があります。心配しなくても良いですよ」

「クロノ君……」

「何も知らされず、ただ母親の願いを叶える為に一生懸命なだけだった子を、罪に問う。
 時空管理局は、そんな冷徹な集団じゃありませんから……」

 クロノはなのはを元気づかせようと声を掛ける。

「大丈夫です。また直ぐに会えます」

「本当?」

「ええ。絶対です」

 クロノは確信をもって応える。

「それじゃあ、また……」

 フェイトは名残惜しげになのはの手を放す。
 そしてフェイトは、武装局員の一人に導かれるがまま、護送室へと向かって行った。
 あとに残されたなのはは、それを見つめる。

「どっちが年上か分かんないな……」

 なのはは、自分からは手を放せなかった。
 安全だと分かっていても、放して本当に大丈夫なのか、と不安になっていたというのに。
 フェイトが強い事を、なのはは改めて確認した。
 そしてなのはは、クロノに向き直った。

「クロノ君、ありがとう」

 なのははクロノの頭に手を当て、撫でる。

「優しい子だね、クロノ君は……」

 クロノの顔が真っ赤に染まる。
 慌ててなのはの手を払い落して、その場から後ずさって距離を取った。

「し、執務官としての当然の発言です! 私情は別に入ってません!」

「別に照れなくて良いのに……」 

「照れてません! あと子供扱いしないで下さい! 僕はもう14歳なんですから!」

 クロノの言葉に、なのはは一瞬キョトンとする。
 そして、小さく噴き出した。
 そのセリフは、子供が背伸びをしたい時に言うセリフだからだ。
 本当の大人はむしろ、まだまだ自分は未熟で子供なんだ、と言う所なのに。

「14歳って言ったら、私の半分以下じゃない。私からしたら、まだまだクロノ君も子供だよ」

 そういって、なのはは微笑みながら歩いて行った。
 あとに残されたクロノは、なのはの言葉に呆然としていた。

「……え? 僕の年齢が半分以下って事は、つまり僕の倍以上って事で……。
 つまりなのはさんは最低でも28歳以上って事に……。
 でもなのはさんはどう見ても、僕のちょっと上ぐらいの十代だし……」

 混乱した頭で、クロノは考える。
 だが、爆弾を投下していったなのはは既におらず、クロノはその場にただ立ち竦むのみだった。

「……え?」







 そして数日後。
 なのははまだ、アースラの中にいた。
 次元震の余波が収まるまでは、アースラで待機するしかなかったからだ。
 その間になのはは、艦内を走り回っていた。
 プレシアの攻撃で怪我をした武装局員の為に、下手ではあるが治療を手伝った。
 仕事で疲れた表情をしていた人達の為に、ケーキを作って配り歩いた。
 なのはにとってはどうでも良い事だったが、表彰されたりもした。
 そうして過ごしている内に、いつの間にか数日経っていたのだ。

 そして今、なのははユーノと共に、食堂で緑茶を飲みながら一服していた。
 なのはがユーノに愚痴を言う。

「そろそろ帰りたいな……」

「そうですね……」

 別にもう大人なのだから、いくら外で何日泊まろうと構わない。
 だが、連絡さえも出来ない状況は、家族を心配させたくないなのはとしては困ったものだ。
 ユーノとしても、もう長い事地球にいたので、そろそろ帰りたいと思っていた。
 はぁ……、と深い溜め息を吐く。

「ごめんなさいね、二人とも……」

「あ、リンディ艦長」

 溜め息を吐いていた二人の前に、リンディが現れた。

「次元震の余波は、もうすぐ収まります。
 ここからなのはさん達の世界になら、明日には戻れると思います」

「本当ですか!? 良かった……」

 なのはが安堵の溜め息を漏らす。
 いつ帰れるのかと日程が分かっただけでも、心の余裕は全然違う。

「ただ、ミッドチルダ方面の航路は、まだ空間が安定していません。
 しばらく時間が掛かるみたいです。
 数か月か、半年か……。安全な航行が出来るまで、それくらいは掛かりそうね」

 ユーノにリンディが告げる。
 ユーノは俯く。

「そう……ですか……。
 まあ、うちの部族は、遺跡を探して流浪している人ばっかりですから。
 急いで帰る必要も無いといえば無いんですが……。
 でもその間、ここにずっとお世話になる訳にもいかないし……」

 どうやらユーノは、帰れない事ではなく、ここにずっといる事になるのに抵抗を覚えているようだ。
 そこに、なのはが口を挟む。

「じゃあ、家にいれば良いよ」

「え? 良いんですか」

「ユーノ君さえ良ければ、だけどね」

「えっと……それじゃ、お世話になります」

 ユーノは申し訳なさそうに、なのはに言った。
 なのはは頷いたあと、ユーノが考えているだろう事に訂正を入れる。

「迷惑になるって思うなら、そんなの気にしなくて良いよ。皆喜ぶから」

「そう……ですか?」

「うん。ユーノ君も、もう家族だからね。家族に遠慮は要らないよ?」

 なのはとユーノが出会ってから、まだ一月程しか経っていない。
 だがなのはも、その家族の高町家も、もうユーノを高町家の一人として扱っていた。
 それを言われたユーノは顔を赤らめて、再び俯いた。
 なのははそれを微笑ましい気持ちで見ながら、言葉を続ける。

「家に居た時はずっとフェレットで、クッキーばかり食べてたから、普通の食事はした事無かったよね?」

「……そうでしたね」

「だから今度は、皆で一緒にテーブルを囲んでご飯を食べよう。
 もう魔法を使う事も無いだろうし、ユーノ君も魔力の温存の為にあの姿になる必要も無いでしょ?」

 ジュエルシードがいつ発動するか分からない、なんて不安に怯える事はもう無い。
 つまり、必死で魔力の流出を抑える必要も無い。
 だから魔力が多少削られても、人間らしい生活が出来た方が良いと、なのはは思ったのだ。
 それを聞いてユーノは頷き、話は丸くおさまった。
 そこに、リンディが声を掛ける。

「それで、なのはさん。貴女に聞きたい事があるんですけど……」

 リンディがなのはを見つめる。
 その真面目な目を見て、なのはも居住まいを正す。

「貴女がプレシアに、自分はアルハザードの人間の子孫だと言っていましたね?」

「ああ、そういえばリンディ艦長も、あの場所にいましたからね」

 なのはがあの時の事を思い出す。
 確か自分はかなり怒っていて、プレシアの事しか目に入っていなかったように思う。
 だがそんな時でも、周りの事はちゃんと見ていたらしい。

「あの、どういう事でしょう?」

 ユーノが首を傾げる。
 ユーノはクロノと一緒にいた為、その時の会話は聞いていなかったのだ。
 なのはがその事を軽く説明する。

「私がアルハザードの人達の子孫だから、アルハザードはもう無いんだよって言っただけだよ」

「……なのはさん、まさか……」

 ユーノが目を見開く。
 これだけでなのはが言った事の意味を理解したらしい。

「それで、なのはさん。どうなんですか?
 貴女は確か、ユーノ君に教わるまで、魔法とは一切関わらなかったと聞いていますが?」

 リンディが険しい顔でなのはを問い詰める。

「そうですね。私は確かに、この年になるまで魔法は知りませんでした」

「では何故、あんな事を?」

 なのははお茶を一口口に含む。
 ふう、と息を吐くと、なのははリンディを見つめる。

「そんな事もあるかもしれませんね」

「え?」

 リンディが眉をひそめるのを見ながら、なのはは喋る。

「だってそうじゃないですか。
 ユーノ君から聞いてましたけど、今以上の技術を持っていたんでしょう?
 だったら、このアースラみたいな、次元航行技術だって持っていたはずです」

 あらゆる魔法が究極の姿に辿り着き、その力を持ってすれば、叶わぬ望みは無いとされた、アルハザードの秘術。
 ならば次元航行技術でさえ、今以上の精度でもって存在していただろう。

「それなら、一つの次元世界に、アルハザードの人達が全て集まっているのはおかしいです。
 アルハザードが消滅した時、他の世界に居た人達もいると考えた方が自然じゃないですか?
 だから、アルハザードが無くなった後、地球に移り住んだ人達が居ても良いと思うんですよ。
 タイミングの良い事に、地球で魔力を持っている人は少ないと聞きました。
 私の魔力が多いという事も丁度良かったですね。
 だから、私の先祖にその人達がいた、とでも言えば信じてもらえるかなと思ったんですが……」

 なのははそう語る。
 リンディはその言葉に、頭を抱えながらなのはに聞く。

「……つまり、全部嘘っぱちだ、と?」

 なのははリンディに苦笑を返す。

「いやですね、方便と言って下さい。嘘だなんて、そんな人聞きの悪い……」

 さらっと返したなのはに、リンディが深い溜め息を吐く。
 気が抜けたのか、テーブルに突っ伏したリンディのその口から、ボソリと愚痴が零れる。

「色々と考えて損したわ。甘いモノが食べたい……」

「じゃあ作りましょうか? いつものケーキを」

「本当!?」

 リンディが飛び起きる。
 なのははそれを見て微笑みながら、立ち上がってケーキを作る作業に入るのだった。
 いつもの、となのはは言ったが、実は徐々に砂糖の量は減らしている。
 確実に甘さは控えられて行っているのだ。
 それなのに、リンディが未だ気付いていない事に、矯正の効果は出ていると思う。
 なのはが作る物という事で、なのはのケーキ=とても甘い、という思い込みも入っているのだろう。
 仕事でとても疲れているようだから、いつも以上に腕によりを掛けて作ろうかな、となのはは思ったのだった。






あとがき

なのはさんの話はほとんど推測でしかなかったという事ですね。

あと……二話かな?
はやてさん登場を考えれば三話ですね。

はやてさん、要ります?
必要なら家に帰るまでに乗せようかと思ったんですけど。
その場合は闇の書復活になりますがね。



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>なのはさんとプレシアのお話を見て小学生なのはとアリサの喧嘩を思い出した…

それを意識して書きましたから。
なのはさんはやる事は変わらないんでしょうね。
今回は仲良くなる事は出来ませんでしたが。

>まさか、プレシアさんを殴るとは・・・さすがです、なのはさんw
回り道をしたのにユーノとクロノよりも速く到着するとはw

よほど怒ってたみたいです。
クロノ達よりも速かったのは、砲撃で一直線に穴を開けて降りて来たからです。

>なのはさんアルハザートの末裔説がここに来て生きるとは。
地球には末裔がいると思うな。そう、夜の一族と呼ばれている彼らだよ。だってさ、人狼、吸血鬼、自動人形とかあるんだよw

もしかしたら本当にそうかもしれませんね。

>プレシアを殴り飛ばした時にプレシアの顔面の骨が砕けたと思ったのは俺だけじゃないと思うwww

なのはさんは非力ですからね。利き腕の左を使ってもこの程度です。

>はやて自重しろW
>いや、いくら何でも「無双」過ぎだろはやてさんwww
>そしてタクシー自重w
>むしろはやてがアルハザードの遺児でいいと思うよ

ここまでの活躍はもう無理でしょう。

>プレシア「……アルハザードまで……」
はやて「おおよ! まかせとき!」
こうすれば良かったんだよ、プレシアさん。

IFなら本当に出来るんですけどねぇ。

>ちょ、ちょっと待てwムリあり過ぎるからなww
>いや、嘘だろwww

十代の子供に出来る事が、はやてさんに出来ないとでも?
そもそも高次空間を走っている時点で無理があるんですから。

>こうして、速さに目覚めるのか・・・A’sやSTSは一流のレーサーを目指すフェイトの成長記ですね。勿論ライバルはヴァオルケンズ、そしてDrスカリエッティ率いるナンバーズなのですね、わかりますw

IFならそれでもいいんですけどね。
書けませんから。

>スバルと言えば、このはやてさんはクイントさんと知り合いでもおかしくないですね。AT的に考えて。
年齢差を考えれば、はやては先輩か師匠に当たるのでしょう。
或いは、車の王の後継車がクイントさんなのかもしれないですね。
さあ、StSの種も蒔かれました。続編プリーズ! m(_ _)m
>更にデロリアンとナイトライダーとボンドカーを足してキャノンボール仕様に魔改造した何でもありの外伝をプリーズ!

無理っす。

>はやてすごいですね。こちらが本編では?

あくまでIFです。

>なのはさんはなのはさんというか年とってもやることかわんないっすね
やることが変わらないなら結末も変わらないという

成長しても根本的には変わってませんから。

>stsのラストシーン、聖王のゆりかご脱出の時に颯爽と現れて、見せ場を全て奪っていくはやてさん(42)が容易に想像出来るのは俺だけだろうか?
「わたしは運ぶ事しか出来へんけど、それで店長が助かるなら。わたしは自分を誇りに思うんや。」 by八神さん

もうそれで良いです。

>シートベルトなんだがなのはさんが膝の上にフェイトを抱いててもOKだと思うんだ

おk。

>もうアルハザードが滅んだ原因は住人が酔った拍子になんかやらかしたで良いよ、もう。

酔っ払って地球破壊爆弾なみの自爆ボタンでも押したんでしょうね。





[10864] 第五十九話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/09 00:00





 翌日。
 なのははユーノを連れて転送ポートまで来ていた。
 なのは達の見送りに、リンディやクロノもいる。

「今回は本当にありがとうございます」

「協力に感謝します」

 クロノの差し出した手を、なのはは握り返す。

「こちらこそ、ありがとうございます」

 何だかんだと色々あったが、地球が崩壊する事は無くなったのだ。
 なのはは心の底から、リンディ達に感謝していた。

「フェイトの処遇は、決まり次第連絡します。決して悪いようにはしませんから」

「うん。ありがとう」

「ユーノ君も、帰りたくなったら連絡してね。ゲートを使わせてあげる」

「はい。ありがとうございます」

 そんなやり取りをしていると、転送の用意をしていたエイミィが声を掛ける。

「じゃあ、そろそろ良いかな?」

「うん」

 なのはは頷いた。
 その時クロノが、気まずそうになのはに声を掛ける。

「あの……」

「ん? 何かな? クロノ君」

「いえ、その……」

 クロノは頬をポリポリと掻きながら、なのはに尋ねる。

「なのはさん、本当は幾つなんですか?」

 その言葉に、なのはは噴き出す。

「フフッ……クロノ君、まだ気にしてたの?」

「あんな言い方されたら、誰だって気にしますよ……」

「そう。でもね、クロノ君。女の人に歳を聞いちゃ駄目だよ」

「そうよ、クロノ。誰にだって、言いたくない事はあるんですからね」

「そうだよクロノ君! デリカシー無いよっ!」

「そんな……」

 なのはだけでなく、リンディやエイミィからも責められ、クロノは縮こまる。
 その様子を見て、なのははまた笑った。
 ユーノも、クロノの様子を見て笑っている。
 最後までしまらないな、となのはは思った。
 そして落ち込むクロノに、なのはは声を掛けた。

「クロノ君、最後に良い言葉を教えてあげようか?」

「……何でしょうか?」

 クロノは顔を上げ、なのはを見る。
 その目を見ながら、なのはは言った。

「『A secret makes a woman woman』だよ」

「は?」

「フフフッ……それじゃあね」

 クロノの戸惑う声を背に、なのは達は笑いながら海鳴へと転送された。







「よっ、と……」

 なのは達は海鳴臨界公園に降り立った。
 この場所に来たのも、もう大分昔の事のようになのはは感じた。

「じゃ、帰ろうか、ユーノ君」

「はい」

 なのははユーノを引き連れて、てくてくと歩いて行く。
 そのまま公園の外まで歩いて行くと、丁度良くタクシーがなのはの目の前に停まった。
 それは、なのはがいつも乗っているあのタクシーだった。

「やあ、お客さん。わたしのタクシ―、乗らへんか? 乗り心地抜群やで?」

「乗ろうか」

 なのは達はタクシーに乗り込んだ。
 そして運転手が行き先を聞こうとした時、目を見開いた。

「珍しいやんか。店長が男の子連れてるやなんて」

「そうかな?」

「そうやって。……もしかして、若いツバメか?」

「そんなんじゃないよ」

 なのはは運転手の言葉に苦笑を返す。
 そこにユーノが尋ねて来る。

「あの……鳥がどうかしたんですか?」

「ユーノ君は知らなくて良いよ」

「はぁ……」

 なのはの言葉に、ユーノは釈然としないながらも頷く。

「ツバメって言うんはな? つまり愛じ――」

「八神さんっ!」

 面白半分に教えようとした運転手を、なのはは窘める。
 運転手は肩を竦めて、それ以上言うのを止めた。
 だが運転手は、尚もユーノに興味があるらしく、今度は名前を尋ねて来た。

「なあなあ。自分、名前何て言うん?」

「あ、ユーノ・スクライアです」

「ほほう……。ユーノ君……ね」

 運転手はユーノの名前を聞いた瞬間、目を光らせる。
 その様子に、なのはが首を傾げる。

「どうかしたのかな?」

「いいや、何でもあらへんよ。何でもな……。
 そういえばこないだ、店長が連れてたフェレットも、同じ名前やったなぁって思っただけやからな」

「あっ……」

 なのはがその事に気付く。
 以前にもなのはは、ユーノを連れてこのタクシーに乗った事があった。
 その時になのはは、ユーノの事を頭の良いフェレットだと紹介していたのだった。
 やってしまった、となのはの額から汗が一筋流れ落ちる。
 気が抜けていたなのはが、どうしようかと焦った時、

「ま、ええわ。そんなんどうでも」

「は?」

「それで店長、今日はどこまで行くん?」

「……私の家までお願い……」

「まかせとき!」

 運転手はユーノの事をさらりと流し、なのはに行き先を聞いて来た。
 元気な運転手とは対照的に、なのはは疲れがドッと溜まるのを感じた。
 動き始めたタクシーの背もたれに、なのはは身体を預けながら、やっと全部終わったのだと安心する。
 こういう実感はアースラでも体感したが、海鳴に帰って来ると、また別の味わいとなって感じるものだ。
 そうして目を閉じ、ぼんやりとしていると、車の僅かな揺れになのはは眠くなって来る。
 すると、運転手はそれを悟ったのか、いつものように話しかけて来る事はなかった。
 そうしてしばらく走っていると、急にタクシーが急停車した。

「ふぎゃあっ!!」

 という、まるで猫が尻尾を踏まれたかのような悲鳴と共に。
 シートベルトをしていたなのはは、急停車の衝撃で、前方に投げ出されるような事にはならなかった。
 だが、それでも胸を締め付ける不快さに、なのはは目を開ける。

「いったいなに?」

 何が起きたのかと、なのはは前を見る。

「え?」

 そこには運転手が、鎖の巻き付いた本を顔に張り付かせていた。

「どういう状況?」

 なのはは混乱した。
 いったい、彼女は何をやっているのかと。
 そうして見ていると、運転手が動き出した。
 
「こ……の……!」

 運転手はブルブルと震える手を、ゆっくりと顔にやる。

「天丼とはやってくれるやないかっ! このクソ本がぁっ!!」

 ベリッと本を顔から引き剥がし、運転手は誰もいない助手席にバシッとその本を叩きつけた。
 運転手のその目とその顔、その声には、怨みともいうべきモノが籠もっていた。

「わたしのっ! 仕事の邪魔をしてっ! 何がしたいねんお前はっ!
 そんなにわたしを事故らせたいんかっ!?
 たかが本のくせに、ええ度胸しとるやないか!!」

 運転手は叫びながら、本をバシバシと殴りつける。
 本に当たり散らす運転手を見て、なのはは少し引き気味だった。
 その勢いを止めることも出来ず、そのまま運転手の怒りが収まるまでなのはは待った。
 やがて飽きて来たのか、運転手は本を叩く手を止めた。

「大丈夫?」

「……ああ、うん。あんまり大丈夫やないけど、大丈夫やで……」

 どちらなのか良く分からない返答を、運転手はした。
 それになのはが心配をするが、何を言っても聞きそうにないなと感じた。
 そして、運転手が叩いていた本を見遣る。

「それ、いったい何なの?」

「ああ、これな……」

 運転手は本を睨みながら、苦々しげに言った。

「これはな、以前店長にも言うたと思うけど、わたしの邪魔をして寺で供養されたあの本や」

「え? でもあれ、たしか砂になったって言ってたよね?」

「そのはずなんやけど……どうやら復活したみたいやな」

「復活って……」

 なのははその本を見る。
 鎖が巻きついている以外は、何かがあるようには全然見えなかった。
 運転手は溜め息を吐く。

「今日は厄日やなぁ……。
 明日もっかい寺に持ってって、ちゃんと供養してもらうわ。
 このままやと、捨ててもまた出て来るやろうし」

「そうだね……。そうした方が良いよ」

 なのはとしても、魔法ならともかく、こういう超常現象には対応する事が出来ない。
 自分がどうにか出来る物でも無いだろうし、それは専門家に任せた方が良いと思ったのだ。
 運転手は愚痴を言いながら、車を発進させる。

「まったく、明日は誕生日やってのに、どうしてこうなるんやろ……?」

 そう言われても、なのはにはそれを説明など出来ない。
 ユーノなら何か分かるかとも思って、なのはは隣を見る。
 だが……、

「あれ? ユーノ君も寝ちゃってる……」

 あれだけの事があったのに、ユーノは寝ていた。
 頭が良くても、まだまだ子供という事だろうか。
 こうなれば、ユーノに聞く事も出来ない為、なのはは静かにタクシーに乗っていた。
 そして、なのはの家の前までタクシーは辿り着いた。
 運転手は車を停めると、なのはに向けて謝る。

「ごめんな、店長。乗り心地抜群とか言っときながら、あんな事になってしもうて……」

 なのはは首を横に振る。

「ううん、良いよ。あんな事、予想しろって方が難しいんだし」

「そやけど……」

 運転手は自らの誇りに掛けて、自分の言った事が守れなかった事が悔しいのだろう。
 小さく歯噛みしている。
 それを横目に、なのははユーノの方を見る。

「ほら、ユーノ君もまだ起きていないんだし、八神さんの運転が悪かった訳じゃないから」

 なのははそういって運転手を慰める。

「それじゃあ、私達は降りるから」

「……分かった」

 運転手がドアを開け、なのははユーノを背負う。
 そして財布から、諭吉を一枚取り出して、運転手に手渡した。

「お釣りは要らないから。元気出して、ね?」

「うん……おおきに……」

 そういって運転手は、暗い顔で俯きながら、ノロノロとした動きで、そのお札を懐にしまった。
 なのは達がタクシーを降りると、タクシーの窓から運転手が顔を出して来た。

「また、利用してや……お願い……」

 運転手は小さな声でそう言って、タクシーは走り去って行った。
 もしかして、なのはが渡したお金は、運転手には手切れ金に見えたのかもしれない。
 だがそんな事を知らないなのはは、事故しないだろうかと不安になりながら、タクシーが見えなくなるまで見送る。
 そのまま見えなくなると、なのはは安堵の溜め息を漏らす。
 そして踵を返して、家の扉を開けた。

「ただいま」

「あ、なのは。おかえり」

 なのはの声に、美由希の返事が返って来る。

「その子誰?」

「ユーノ君だよ」

「……え? ユーノ君ってこんなに小さかったの!?」

 美由希の目が丸くなる。
 それを見て、なのははクスリと笑った。


 こうしてなのはは、無事日常に帰還したのだった。




あとがき

これで本当にはやてさんは最後だと思います。
今回ははやてさんにユーノを若いツバメ発言してもらうのと、天丼でキレてもらいたかっただけです。
遂に闇の書は蘇ったみたいです。
復元に十年も掛かったようですね。


あと二話。
次は日常編かな?


気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>はやてなしにこのSSは成り立たないでしょう。参加を希望
>ここの皆ははやてを待ち望んでるから登場プリーズ
>はやてさんの登場を期待!

リクエストにお応えして。

>ついに終わりが見えてきましたね、寂しいです。お酒飲むなのはさんみれなくて

見れないなら書けば良いじゃないか。

>もしかして、このクロノはなのはさんを自分よりも少し年上くらいに思っていたのか。ほのかな期待を持ちながら・・・w

そのとおりです。

>はやてがいなけりゃなのはは現場につけないというジンクスが発生しかけてる状態で!
このSSは酒50% はやてタクシー40% その他10%で構成されていると騒がれているこの状況で!
はやての不参加認めないぞぉぉぉぉぉ!

ちょ、酷くね?
あれだけ書いたのに酒とはやてタクシーが90%とかwww

>IFのはやてカーはもしかして、闇の書が擬態してはやてに憑いているのか?
もしそうなら、実は不可視化したザッフィーが車を引いてたりして……

それは分かりませんが、はやてさんは車を運転しているので、ザッフィーが引いてるというのはありません。

>終わりも近いし、やっぱり次かその次あたりで本当の年齢とかレアスキルとか駄目人間とかがアースラ陣にバレるかねぇ?w

このままだとバレませんねぇ……。
回転はバレてるんですけど、それ以外は気付きませんから。

>なのはの酒豪体質はアルハザード人譲りの隔世遺伝かもしれないのかw

確証はありませんけどね。
でも桃子さんが飲まないので、もしかしたら違うかもしれません。




[10864] 第六十話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/09 12:05




 なのはに日常が戻って来た。
 もう戦う必要は無く、存分にお酒が飲めるのである。
 だからだろうか?
 酔っ払った勢いで、あんな事をしようとしたのは……。




 なのはは自らの部屋に籠り、レイジングハートを掲げる。

「レイジングハート、準備は良いかな?」

『All right』

 了承の声を聞き、なのはは魔法を発動させる。

「ラウンドシールド」

『Round Shield』

 レイジングハートが赤く輝き、地面と平行になるように円形の魔法陣が展開される。
 なのはのレアスキルによって、それはクルクルと回り続ける。
 そのラウンドシールドに、なのはは近くで買って来た物を袋から出して、その中央に載せた。

「次。リングバインドとディバインシューター」

『Ring Bind&Divine Shooter』

 桜色の光の環が、シールドに載せた物をゆっくりと締め付ける。
 そして同時に出現した光の球は、上空からそれにゆっくりと迫り、その形を歪めて行く。

「くっ……これ、結構難しい……」

 とても繊細な作業なため、初めてのなのはには難しいモノだった。
 だがそれでもへこたれず、なのはは魔法を操作する。
 そして、遂にそれは完成した。

「おお……出来た……!」

 なのはがそれを、感嘆の声を出して見つめる。
 未だ回転を続けるラウンドシールドの上に、それは鎮座していた。

「こういうのも、結構良いかも……」

 なのはがそれを眺めながら、静かに微笑んだ。
 なのはの趣味に、陶芸が加わった瞬間だった。



 なぜ陶芸をしようと思ったのか、それはなのはにも良く分からない。
 ただ、いつも通りなのはは酒を飲みながら、今までの事を思い出していた。、
 自分が魔法というものに関わりを持ってから、今までの事を。
 魔法によって生まれた出会い、そして別れ。
 それを自分が使った魔法と共に思い浮かべていた。
 だがそうしていると、いきなりなのはの頭の中に、

「そうだ、陶芸をしよう」

 というお告げのような考えが浮かんで来たのだ。
 おそらく、回転するラウンドシールドが、陶芸に使うろくろに見えたのが、そのきっかけなのだろう。
 酔っ払った勢いで、近くのホームセンターまでタクシーで行き、粘土を買って来て始めてみた。
 だがやってみると、これが中々面白い。
 ラウンドシールドをろくろに使い、リングバインドとディバインシューターを両手の代わりに使う。
 魔法で作るから、自分の手は全く汚れない。
 おまけに、使うのは柔らかい粘土だから、高い操作性を要求される。
 魔法の操作を誤れば、即座に粘土の形が崩れるのだ。
 これは魔法の操作技術の向上の練習として、とても有効なのではないかとなのはは考えた。
 これで全く同じ物を作る事が出来れば、新しく皿を買う必要も無くなる。
 店が壊れた時に、店に置いていた皿も軒並み壊れた。
 だから翠屋が建て直されるまで、せっせと皿を作り続けようとなのはは思った。
 そうすれば無駄な出費を抑えられるから。
 そしてなのはは勢いに乗り、粘土を掻き混ぜ、捏ね回し、皿を作り始めた。
 だが、五つほど皿を作った時、なのはは初めて気付いた。

「焼く為の窯が……無いっ!?」

 なぜ五つも作るまで、なのはは気付かなかったのだろうか。
 やはり酔っているからか、自分がしたいと思った事以外は、頭から抜けていたのだろう。
 焼いて固くする事が出来ないのならば、これらの皿は、皿の形をしたただの粘土の塊である。
 粘土も切れた為、それ以上なのはは作る事が出来なくなった。

「今度窯を買いに行こ……」

 途中で断念させられたなのはは、疲れでやる気を無くした。
 皿の形の粘土を放置したまま、なのははベッドにもぐりこみ、寝る事にした。

「おやすみなさい……」

 大きなあくびを一つして、なのはは夢の中へと旅立った。




 翌日。
 なのはは翠屋のホールでウェイトレスをしていた。
 店が壊れてから、なのはは翠屋を手伝うと言っていた。
 だがジュエルシードの事や、、時空管理局が出て来た事などから、結局一度もやってなかった。
 それを美由希に指摘されて、なのはは初めて気付いたのだ。

「だからなのははニートなんだよ」

 そう言われると、なのははグゥの音も出なかった。
 働くと言っておきながら、なのはは結局働いていなかった。
 他の理由があるから出来ませんでした、というのは結局のところ、なのはの甘えでしかないからだ。
 美由希にそれを言われ、なのはは初めて思った。

「リンディさんから、給料貰っておけばよかった……」

 取引に使った事は認めるが、なのはがお菓子を色々作っていたのは、なのはの純粋な好意である。
 材料費は向こうが出してくれたが、材料だけあれば誰にでも作れるという物でも無い。
 なのは達はその技術で商売をしているのだ。
 自分からやったのだが、給料を貰っておけばその事にも反論出来たのに、となのはは後悔していた。

 美由希からは、働いていない事を指摘されたものの、働けとは言われなかった。
 自分から働きに出ようとする、なのはの自主性に任せたのだ。
 だがなのはにとって、ここで無理に働けと言われるより、それを言われない方が辛かった。
 それを言ってから、美由希が何だかなのはの事を、生温かい目で見守ろうとするのである。
 大丈夫、私は分かってるから。私はなのはの味方だよ。
 そんな感じの目をされると、ニートでは無いと自称するなのはとしては、余計にキツイものがある。
 だから、朝っぱらから酒を飲むのを止め、こうして翠屋で働いているのだ。
 だがこうしてやってみると、なのはのウェイトレス姿も、なかなか様になっていると言えよう。
 実年齢はどうあれ、見た目は二十歳前後なのだ。
 おまけに、大人の落ち着きを併せ持った雰囲気を、なのはは醸し出していた。
 それが男性客から、少なくない人気を博していたのだ。
 その時、客が店に来店した時に鳴る鐘が、カランカランと鳴った。
 なのはが応対しようと顔を向けると、そこにはなのはの親友の姿があった。

「アリサちゃんか……」

 そこに立っていたのは、片手に大きめのバッグを持っているアリサだった。

「久しぶりだ――」

 なのはは、最後まで言う事は出来なかった。
 ズンズンと近づいて来るアリサの額に、青筋が立っているのが見えたから。

「ちょっと来なさい……」

 低い声を発したアリサは、なのはの耳を掴んで引っ張る。

「え? なにアリサちゃ、ちょ、痛い痛いっ! 千切れるっ! そんなに引っ張ったら千切れちゃうっ!?」

 なのはが悲鳴を上げながら、アリサに店の外まで引っ張られて行く。
 その様は、まるで売られて行く子牛のような、そんな憐れみを見ていた客に抱かせた。




 店の外、周りに誰も居ない所まで連れ出されたなのはは、そこでやっと耳を放してもらえた。

「もうっ! いったいなんなのアリサちゃんっ!」

 なのはが引っ張られていた耳を撫でながら、アリサに尋ねる。

「なんなのじゃないわよ……」

 アリサが尚もなのはを睨みながら言った。

「なのは、なんで言わなかったのよ」

「へ? 言わなかったって何を?」

 主語が無い為、なのはにはアリサがいったい何の事を言っているのか分からない。
 それにアリサが苛立ったのか、なのはの胸ぐらを掴んで言った。

「アンタの店の事よ!!」

「店……? ……あ」

 なのははそこで、アリサが何を言っているのか気付いた。
 なのはの翠屋二号店が壊れた事を、アリサは言っているのだ。

「ああ、ごめんごめん。言ってなかったっけ?」

「聞いてないわよ!」

 アリサが叫ぶ。

「久々にアンタの店に行ったら、店はボロボロに崩れ落ちて撤去されてるじゃない。
 それを事前に何の情報も無しに見た、私の気持ちが分かる!?」

 コーヒーを飲んで、親友と語り合おうと思っていたのに、その店が無くなっていた。
 その店の店長である親友からは何の連絡も無い。
 おまけに、なのはを探しまわったアリサの目は、なのはが翠屋で元気に働いている姿を見つけた。
 怪我などをしていない事に、アリサは安堵した。
 それと同時に、何事も無かったかのようにウェイトレスをしているなのはの姿に、沸々と怒りが湧いて来たのだ。
 こんなにも心配させたなのはに、アリサがキレるのも当然と言えよう。
 それが分かったからこそ、なのはは謝った。

「ごめんね、アリサちゃん。連絡もしないで」

「本当よ。次からちゃんと連絡しなさい! 良いわね?」

「うん、分かった」

 アリサの念入りとも言える言葉に、なのはは頷く。

「でも、もうこんな事無いと思いたいけどね」

 なのはは苦笑した。
 ジュエルシードの暴走で崩れ落ちた翠屋が、もう一度壊れるという事にはなって欲しく無かった。

「そうね。今度は壊れないように、私が地震なんかじゃ壊れないくらいに頑丈なの建ててあげるわ」

「え? アリサちゃん、そっちの方にも手出してたっけ?」

 アリサは得意気にニヤリと笑みを浮かべる。

「私は何でもやってるのよ」

「そうなんだ……」

 なのはは幅広くやっているアリサの手腕に感心する。
 ただの喫茶店をしているだけのなのはには及びもつかない事だ。
 その時、なのはは疑問を持った。

「でも私のお店が壊れた事、すずかちゃんは知ってたけど……。そっちからは連絡無かったの?」

 なのはは連絡していなかったが、すずかは知っていたのだから、そこから連絡は行かなかったのかと。
 アリサは首を横に振った。

「無かったわ。すずかの奴、最近黒くなってきたから、私にも何考えてるか分かんないのよね」

「そうなんだ……」

 アリサは嘆息する。

「まったく、昔の気の弱かったすずかが、強かになってくれたのは良いけど、ちょっと変わり過ぎじゃない?」

「それはあるかもね」

 なのはとアリサは顔を見合わせ、二人して笑った。
 そしてひとしきり笑ったあと、アリサは片手に持っていたバッグを開ける。

「はいこれ」

 そこから取り出したのは一本の酒瓶だった。
 それを受け取ったなのはは、ラベルを見て眉をひそめる。

「『田酒』? これって青森の方だよね? アリサちゃん、宮崎の方に行ってたんじゃなかったの?」

「土地開発でね、そっちの方にも行ったのよ」

 アリサはこともなげに言う。
 そんなものかとなのはは納得し、田酒を抱え込む。

「ありがとう、アリサちゃん。一緒に飲まない?」

「別にいいわ。私はワインぐらいしか飲まないから」

 なのはが提案するものの、アリサはそれを辞退した。

「それにアンタみたいな化け物に付き合ってたら、私が太るでしょうが」

「酷いよアリサちゃん……」

 なのはが目を潤ませる。
 だがそれをアリサは切って捨てる。

「事実でしょうが。私の家に置いてあったお酒、アンタが全部飲み干したのを、私はまだ忘れて無いのよ?」

「うっ……」

 なのはは口籠る。
 昔、酔っ払って箍が外れた時に、アリサの言った事をした事がなのはにはあるのだ。

「それにアンタ、酒と一緒にケーキ摘まんでるでしょ。
 そんな事長年やっておいて、全然体型変わらないっていったいどういう事よ!?」

「そんなの知らないよ……」

 アリサが先程とは別の理由でキレたのを、理不尽だとなのはは思った。
 だがそれを声に出せるはずも無く、ただ小さく反論した。

「ケーキ、美味しいのに……」

「酒の肴が欲しいなら、塩でも舐めときなさいよ!」

「そんなぁ……」

 そういって言い合っていると、その場に別の声が響く。

「あの、なのはさん?」

 ピタリと言い合いが止まり、なのはとアリサがその声の主の方を見る。
 そこには、小さいエプロンを付けたユーノが立っていた。

「友達みたいな人に連れてかれたって聞いたんですけど、どうかしたんですか?」

「ああ、何でも無いよ。ちょっと久しぶりだから、会話で盛り上がっていただけ」

「そうですか」

 なのはの言葉に、ユーノは頷く。

「それは良いですけど、お客さん達が待っているので、早く戻って下さい」

「ごめんね、すぐ戻るよ。それまでホールの方、お願いね」

「分かりました」

 そう言ってユーノは翠屋の店の中へと入って行った。
 それを見送り、なのははアリサを見る。

「アリサちゃん、そういう事だから、今日はこれぐらいに――」

「あの子、いったい誰?」

 アリサがなのはに尋ねる。
 なのははユーノの事を説明していなかった事に気付き、アリサに説明する。

「ユーノ君だよ。今一緒に住んでるの」

「……一緒に?」

「? うん」

「歳は……?」

「9歳だよ?」

 アリサの言葉に首を傾げながらも、なのはは答えた。
 この時、なぜアリサがそんな事を聞いたのか、なのはは気付いていなかった。
 ブルブルと震えるアリサに、なのはは声を掛ける。

「あの……アリサちゃん? どうかした――」

「このバカチンがっ!!」

「痛いっ!?」

 アリサがなのはの頬をバシッと叩く。
 アリサはそのまま、なのはの胸ぐらを掴んで睨みつける。

「私はたしかに男作れとは言ったけど、あんな小さな子に手を出せとは言ってないわよっ!!」

「ええっ!? ちょ、ちがっ!」

 なのははアリサが誤解している事に気付いた。
 だがなのはが気付いた所で、アリサの誤解は止まらない。

「なのはがそんな犯罪に手を染める奴だとは思わなかったわ! 修正してやるっ!!」

「だから違う――」

「問答無用っ!!」

 なのはの言葉を聞かないアリサが、なのはを前後にガクガクと揺する。
 なのはがアリサの誤解を解く事が出来るのは、もう少し先の事であった。






あとがき

なのは、陶芸に目覚めるお話。
そして一話以来のアリサの登場。

恭也は盆栽、美由希はガーデニング、なのはは陶芸。
これで高町家の兄妹は、皆年寄り臭い趣味を持つ事になりました。


あと一話。
次で終わりです。
その後は番外編で、別の作品とのクロスを、嘘予告として一話書こうと思います。
それと、良かったら地球組の設定みたいなものを、完結後に書こうかと思います。
移動するときには前書きも追加した方がいいですよね。
なのはさん、強くし過ぎましたから。
どうでしょうか?



気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

>なのは、あの発言はやっぱり引っ掛けでしたか。
それでも心のどこかに「これで止まってくれれば」の思いがあったんでしょうね。
残念ながらそれはかないませんでしたが。

もうプレシアは止まれる所を通り過ぎてしまいましたからね。
悔みながらもなのはは見送りました。

>闇の書、お前どんだけ執念深いのよw 屋根ぶち抜くエネルギーを持って突貫してくるとか。

ぶち抜いたんじゃない。はやてさんの目の前に突然現れただけです。

>はやてさん再登場or闇の書復活!
ヴィータ最初の襲撃で再建した二号店がまた壊されて、どこぞのラ○ールのように超魔王降臨するかも!!
プロットを考えたら海鳴が焦土になる未来しか思い付かなかった。

せっかくプロット考えたんですから、書いてみたらどうでしょうか?
ちなみに、なのはさんは海鳴が大好きですから、そんな事にはならないと思いますよ?
せいぜい一人が消し飛ぶくらいです。

>誕生日明日とかwwwヴォルケン今夜が正念場wwwww

今夜出現して、今夜のうちにはやてさんを説得しないといけないので、正念場ですね。

>A's編ですが、事件発生前に守護騎士となのはさんが早々に顔合わせする可能性が高く、
そもそも事件らしい事件も起こさずに、まったり解決してしまいそうな予感はしますね。
成程、それではドラマチックな展開など望めませんね。
でもそれでいいじゃないかと。
酒とタクシーと独身の母が織り成す海鳴の日常……すごく、見たいです……

書けば……良いじゃないか……。

> あなたに言われたから……と言うのも変ですが、作者様の一言が私がここに投稿を始めるきっかけになりました。
ここまで影響された作品は……いや実はいっぱいあるんですが(某菌糸類様のとか色々)、
しかし私の作品のなのは像は確実にあなた様の書かれたなのはさんが基になっている……予定です。
必ずや酔いどれ天使ななのはさん(19)を! そして退廃的な色気のあるイイ女フェイトと
マジで清濁合わせ飲むタイプの不敵な捜査官はやて、ついでに苦労性ながら周囲を完璧にフォローするクロノとユーノをおお! 
……いや、オリ主モノですがね。

私の言葉が届いたようで、とても嬉しいです。
作品は教えて下さいね。
感想板では別の名前を名乗っていますが、必ず読みますから。
あと最後に、お酒は二十歳になってから、ですよ?

>構成、内容、文体、どれも大変参考になる素晴らしい作品でした。

語彙の少なさに泣かされていたので、参考になるとまで言ってもらえて嬉しいです。

>さて、A'sのフラグも無事にたった事ですし(勘違いじゃないよね?)今後の『高町なのは。●●歳』ワールドも楽しみだ。

立てっぱなし、という言葉があるんだぜ?

>もしかしてユーノも小学校に通う→後日フェイトも、な流れか?

そんな事もあるかもしれません。

>闇の書、復活!?っていうか八神さんが選ばれる理由が分からない。
だって足は不自由じゃないですよね?タクシー運転してますし。

別に足が不自由な事が、闇の書に選ばれる理由じゃないですから。
はやての足が不自由なのは闇の書の影響であって、選ばれる素質はそれ以外にある筈です。

>無印で終わると思ってたらエース編まで突入しますか

いいえ、終わります。




[10864] 最終話
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/10 09:27




「よし、これでいいかな」

 なのはは手を拭き、椅子に座る。
 今日、翠屋は定休日である。
 現に店頭には、本日定休日と書かれた札が掛かっている。
 それなのに、なのはがこの翠屋にいるのは、待ち人が来るからだ。

「早く来て欲しいな……」

 なのはがそう呟いた時、カランカランと客を知らせる鐘が鳴り響く。
 なのはがそちらを見ると、なのはが待っていた人々の姿があった。
 なのはは立ち上がり、彼女たちを迎える。

「やあ、いらっしゃい。フェイトちゃん達」

 そこに立っていたのは、フェイトとその使い魔アルフ、リンディ、クロノ、そして迎えに行かせたユーノだった。
 彼女たちを見て、花のような笑顔を浮かべ、なのははゆっくりと手を伸ばす。

「ようこそ、翠屋へ。歓迎するよ」




 今日、彼女達をなのはが迎える事になったのは、数日前になのはに掛かって来た一本の電話からだった。
 酒を飲んでいたなのはは切ろうと思ったが、相手が時空管理局だったので出る事にした。、

『もしもし、なのはさんですか?』

「あ、クロノ君? どうかしたの?」

 電話の相手はクロノだった。

『はい。フェイトの処遇が決まりました』

「本当っ!?」

『さっき正式に決まりました』

 なのはが盃を置く。
 両手を携帯電話に添えて、クロノの言葉を待つ。

『フェイトの身柄は、これから本局に移動。それから、事情聴取と裁判が行われます』

「うん」

『フェイトは多分……いいえ、ほぼ確実に無罪になるでしょう。大丈夫です』

『クロノ君は、あれからず~っと証拠集めしててくれましたからね』

 エイミィが横から割り込んで来た。
 クロノがそれを窘めているのを聞きながら、なのはは微笑む。

「二人とも、仲良いね」

『いやぁ、それほどでも』

『エイミィ、余計な事は言わなくて良い!』

 なのははその様子に、再び笑みを浮かべる。
 クロノは咳払いすると、話を続けた。

『それで、聴取と裁判、その他諸々は、結構時間が掛かるものです。
 ですからその前に、一度フェイトと面会する事が出来そうなんです』

「本当にっ!?」

 なのはがその顔に喜色を浮かべて聞き返す。

『ええ。フェイトもなのはさんに会いたいと言っているので、良かったら……』

「会うよ。絶対会いに行く」

 なのはは確信を持って答えた。

『そうですか。出発は三日後なので、それまでに一度、面会の場を作ろうと思います』

「うん」

 なのはは頷いた後、一つ尋ねた。

「ねえ、クロノ君。それって、どこで会うか決まってる?」

『いえ、まだ決まってません。ですが、海鳴臨海公園を予定しています』

「そう。あのね、その場所、少し変えてもらえないかな?」

『? 別に構いませんが、いったいどこに……?』

 クロノが問い返す。
 なのははフェイトの事を想い、そしてしてあげたいと思った事を伝える。

「お店だよ。私の店は壊れちゃったけど、私のお母さんがやってる本店があるから。
 そこで、私の作ったケーキを、フェイトちゃんに食べてもらいたいんだ」

『……分かりました。そうしましょう』

 クロノが了承する。
 なのはは喜び、電話が切れた後、祝杯を上げた。



 クロノの気遣いと、なのはが桃子に定休日に店を使わせてもらうように頼んだ事で、場は整った。
 ユーノに案内されて来店した彼女たちを、なのはは微笑みを持って迎える。

「はい、どうぞ」

 なのははフェイトの前に、小さなショートケーキを置く。
 薄黄色のスポンジケーキの周りに真っ白なクリームが塗られ、上には紅い苺が載っていた。

「自信作なんだ。食べてくれる?」

「……はい」

 フェイトは小さく返事をして、フォークでケーキを切り分ける。
 小さく切ったケーキを、フェイトは口に入れた。
 ゆっくりと咀嚼し、ごくりと飲み込む。

「……どうかな?」

 なのはがその様子をじっと見つめ、ケーキを飲み込んだフェイトに尋ねる。
 顔を上げたフェイトは、ジッとなのはを見つめる。

「美味しいです。とても……」

 その言葉を発したフェイトは、花のような笑顔を浮かべていた。

「……笑った……」

 隣にいたアルフが呟く。
 そして、じわじわとアルフの顔に喜びが生まれる。

「フェイト、今笑ったよねっ!?」 

「え?」

 フェイトがアルフに言われ、自分の頬に手を当てる。
 そして、そこで初めてフェイトは気付いた。
 意識したわけでもないのに、口角が吊り上っている事に。
 自分が笑っている事に。
 フェイトは顔を横に向け、アルフに尋ねる。

「ねえ、アルフ。私……ちゃんと笑えてる?」

「うん……うんっ!」

 アルフは首をブンブンと縦に振る。

「ちゃんと笑えてるよ。あたしが見たかった、最高の笑顔だっ!!」

「うぁっ!」

 アルフが感極まって、フェイトに抱きつく。
 倒れそうになったフェイトを、横にいたクロノとユーノが慌てて支えた。

「良かった……本当に、良かったよ……。フェイトが笑えるようになってくれて……」

 アルフはそのまま泣きじゃくる。
 その頭をフェイトは撫でる。

「ごめんね、アルフ。待たせちゃって……」

「良いよ、そんなの。あたしは全然気にしてないからさ……」

 抱きついたまま、アルフはフェイトに言った。
 狼でありながら、猫のように擦り寄るアルフ。
 なのは達はそれを、万感の思いを込めて見つめる。
 そしてなのはは、フェイトに食べさせたものとは別の物を取り出す。

「ユーノ君達もどうぞ。みんなに合わせて作ってあるから」

 なのはの持つお盆の上には、色とりどりのケーキが載っていた。
 そしてユーノにはモンブラン。
 クロノには抹茶ケーキ。
 アルフにはシュークリーム。
 リンディにはフェイトのケーキと見た目が同じで、ちょっとだけ甘みが強いショートケーキを渡した。
 そしてなのはは、フェイト、ユーノ、クロノの前に、それぞれ別の色をした飲み物を置く。

「これは?」

 クロノがなのはに尋ねる。
 なのははこともなげに言った。

「カクテルだよ」

 その言葉に、クロノが眉をひそめる。
 それに気付いたなのはが、言葉を付け足す。

「大丈夫。アルコールは入って無いから、ただのジュースと同じだよ」

「そうなんですか?」

 クロノ達は目の前に置かれた、冷たさで表面に結露を浮かべているグラスを見る。

「フェイトちゃんにはシンデレラ。ユーノ君にはバージン・マリー。
 クロノ君にはシャーリー・テンプル・ブラックが合うと思ったんだ。
 私の勝手なイメージだけどね」

 珍しげに眺めているフェイト達を見つめ、なのははリンディとアルフに尋ねる。

「リンディさんとアルフさんは何を飲みますか? お酒も用意してますけど……」

 その問いに、リンディは首を横に振る。

「私はいいわ。一応まだ勤務時間ですから。なのはさんが何度も淹れてくれた、あの緑茶をお願い出来る?」

「分かりました」

「ああ、あたしも要らないよ」

 リンディに続いて、アルフも辞退した。

「ここじゃ20歳以下は飲んじゃいけないんだろ? あたしはまだ2歳だしね」

「え? そうだったの?」

 なのはが目を見開く。
 赤くなった目を指で押さえながら、アルフは頷く。

「ああ。だからあたしに、さん付けとか要らないよ。
 前からむず痒く思ってたんだよねぇ」

 アルフはそう言った。
 そして、良い事思い付いたと手を叩いた。

「そうだ。どうせならあたしにも、フェイトと同じ物くれるかい?
 どんな味なのか、あたしも気になってるんだ」

「分かったよ、アルフ」

 なのはは手早く緑茶とシンデレラを作り、二人の前に置いた。
 なのは自身も、緑茶を淹れて飲む。
 そのままケーキを食べ終えるまで、和やかに雑談が続いた。
 その中で、静かにケーキを食べ、シンデレラを飲んでいたフェイト。
 食べ終えるとなのはに声を掛けた。

「あの……」

「何かな? フェイトちゃん」

 なのはは振り向く。

「わ、私、貴女に言いたい事があって……その……」

 どもりながら、フェイトは言葉を探す。
 だが上手く言葉が見つからないのか、声が段々と尻すぼみになって行く。
 その様子になのはは微笑み、助け舟を出す。

「フェイトちゃん、何も難しい事は言わなくて良いんだよ」

「え?」

「たった一言で良い。それだけでも、気持ちは伝わるから」

「あ……」

 フェイトは息を呑み、おずおずとその言葉を口に出す。

「ありがとうございます、なのはさん……」

 なのははフェイトの言葉に、笑みを浮かべた。

「どういたしまして。やっと名前で呼んでくれたね、フェイトちゃん」

「え?」

 フェイトが首を傾げる。

「貴女とかじゃなくて、ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を呼ぶの。
 それが、仲良くなる為の第一歩だよ。フェイトちゃん」

「なのはさん……」

「うん」

 なのはは頷く。

「それで良いんだよ。それじゃ、仲良くなる為のレッスンその2に行こうか」

「え?」

 疑問を浮かべているフェイトに向けて、なのはは両手を伸ばす。

「手を繋ごう?」

 なのはの言葉に、おずおずとフェイトが両手を伸ばした。
 それがなのはの手に触れ、しっかりと握りあった。

「こうして手を繋ぐとね? 相手の事が良く分かるんだ。
 手から伝わって来る温もりが、相手の気持ちを教えてくれる。
 それで私達は、もっと仲良くなれるんだよ」

 なのははギュッと、フェイトの手を握る。
 フェイトも、なのはの手を握り返した。

「なのはさんの手、温かい……」

「フェイトちゃんもね」

 その時、ポロポロとフェイトの目から涙が溢れだす。

「あれ?」

 フェイトが自らの手に落ちたそれを見て、不思議な声を出す。
 自分が何故泣いているのか分からない、といった不思議な顔をして。

「どうして……? 私は悲しく何かないのに……こんなにも嬉しいのに……」

 止め処なく溢れ出る涙を、フェイトはゴシゴシと拭き取る。

「駄目だよ、そんなに強く擦っちゃ……」

 なのははその頬に手を当て、フェイトの涙を指で優しく拭った。

「ねえ、フェイトちゃん。嬉しい時にも、涙は出るんだよ?」

 なのはの言葉に、更にフェイトの涙が溢れる。
 ヒックヒックとしゃくりあげながら、フェイトはなのはに言った。

「私……このケーキの味……絶対に忘れません……」

「うん。ありがとう」

 なのはがフェイトにハンカチを渡す。
 フェイトが涙をそれで拭いていると、なのはがポツリと呟いた。

「でも、フェイトちゃんとしばらく会えなくなるから、寂しくなるね」

「はい……。あ、でも!」

 フェイトが顔を上げる。

「もう一度、必ず会いに来ます。……絶対に」

 その言葉に微笑んだなのはが、フェイトに尋ねた。

「ねえ、フェイトちゃん」

「はい……」

「良かったら、一緒に暮らさない?」

「え?」

 フェイトは目を見開いた。
 なのはは言葉を続ける。

「もう時の庭園は無くなっちゃったから、フェイトちゃん、他に行く所無いでしょ?
 だから、裁判が終わって、無罪になって、そして自由になったら……。
 その時は、私と一緒に暮らさないかな、って」

「あ……」

 フェイトの顔がカアッと赤みを帯びて行き、まるでリンゴのようになる。
 そして、逃げだした。

「か、考えさせて下さいっ!!」

「あ、フェイトっ!?」

 アルフが店の外に逃げ出したフェイトを追いかける。

「まったく、何をやっているんだ、フェイトは……」

 クロノが逃げだしたフェイトを見て、小さくぼやく。

「母さ……艦長。一応フェイトが、どこかへ行かないように見て来ます。そろそろ時間ですし……」

「そう。行ってらっしゃい」

 リンディが手を振り、クロノもフェイトを追いかけて行った。
 リンディがポツリと呟く。

「若いわねぇ……」

「そうですねぇ……」

 なのはもそれに同意した。
 リンディがなのはの方を向いて尋ねる。

「ねえ、なのはさん」

「何ですか?」

「貴女、もしかしてフェイトさんを養子にするつもり?」

「どうでしょうね……」

 なのはは口篭もる。

「フェイトちゃんと一緒に暮らしたい、というのは本当の事です。
 ですが、養子にしたいというのは、まだありません。
 別に、フェイトちゃんを養子にしたくない、という訳ではありません。
 フェイトちゃんの母親になれるのなら、それはとても誇らしい事だと思います。
 私はそう思っていますが、私の中の何かが、それは違うと感じているんです」

 なのはは緑茶を一口口に含む。

「……フェイトちゃんは、お母さんを亡くしたばかりです。
 それなのに、そのすぐ後に私がお母さんだと言うのは、何か違う気がするんですよ」

 フェイトはプレシアに拒絶され、死に別れたばかりである。
 表面上はそんなそぶりは見せまいとしているが、行動の端々にそれは垣間見えるもの。
 その別れが、フェイトに影響を与えているのは間違いないのだ。

「ですから、フェイトちゃんがプレシアさんの事に折り合いをつけるまで、私は待とうと思います。
 もし、フェイトちゃんが折り合いをつけて、それで私をお母さんと呼んでくれる時が来たなら……。
 もし、そうなったなら、その時初めて、私はフェイトちゃんの母親になろうと思います。
 それまでは、仲の良い家族でありたいと考えています。
 別に、フェイトちゃんが私を母親と見なくても、私は姉として傍にいようと思います」

 なのははリンディを見据え、そう言った。
 リンディはなのはを、厳しい目で見ながら言った。

「……子供を一人育てるという事は、並大抵の苦労ではありませんよ?」

 なのはは頷いた。

「分かっています。
 子供がペットが欲しいから飼う、という事と同列に扱う訳ではありません。
 覚悟は……正直、出来ているとは言えませんね。
 重要な事ですから。
 その覚悟を決めるためにも、この一時的な別れは必要な物なんだと思います。
 でも、そうでなくても私は……」

 なのははそこでいったん言葉を区切った。
 そして、深呼吸をして、想いを口にする。

「私は、フェイトちゃんの成長を、隣で見守って行けたら良いな、と思っています」
 
「……そうですか。分かりました」

 リンディは頷いた。

「正直、あっさりと覚悟を決めていたら、私は貴女を怒ったでしょうね。
 子供を育てる事を、いったい何だと思っているんだ、と。
 でもその事もちゃんと、貴女は考えているみたいですね」

「子供を育てた事の無い者の、ただの戯言ですけどね」

 なのはは苦笑する。

「あら?」

 リンディが茶目っ気を込めて、なのはを見る。

「でも貴女は、それをただの戯言で終わらせる気は無いんでしょう?」

「勿論です」

 なのはは力強く頷いた。
 そこでなのはは、ユーノが自分を見ている事に気付いた。
 ユーノのその目に、羨ましそうな視線が混じっている事にも。
 なのははクスリと笑って、ユーノに尋ねた。

「ユーノ君も、うちの子になる?」

「あ、いえ……」

 ユーノは顔を真っ赤にして、下を向いた。

「か、考えさせて下さい……」

 それは奇しくも、フェイトと同じリアクションだった。
 その事に、なのはとリンディが噴き出す。
 ひとしきり笑った後、リンディが外を見て声を発する。

「どうやら戻って来たみたいですね」

「あ、本当だ」

 なのはが入口の扉を見遣ると、フェイトが頭を半分だけ出して、こちらを窺っていた。
 フェイトのその顔は、まだ赤かった。
 逃げる時に走ったせいか、先程以上にその顔は赤かった。

「それじゃ、そろそろ私達は行きますね。あまり長い事、アースラを放っておく訳にもいきませんから」

「分かりました。今日来れなかったエイミィ達にケーキを包むので、どうか持って行って下さい」

「あら、本当? ありがとう、なのはさん」

 リンディが我が事のように喜ぶ。

「それと……」

 なのはは懐から、一つの手帳を取り出す。

「これをエイミィに渡してくれませんか?」

「これは?」

「幾つかのケーキのレシピです。以前教えると言ったけれどそんな暇が無かったので」

『クロノ君用に作って上げられる物を、多めに書いていますから』

 念話でリンディに伝えると、リンディが頷いた。

「ありがとう。エイミィも喜ぶわ」

『二人の仲が進展したら教えますね』

『よろしくお願いします』

 なのははリンディに手帳を渡した。
 リンディはそれを懐にしまう。
 互いに含みのあまり無い、にこやかな笑みを浮かべていた。
 そして、別れの時間が来た。

 なのはは、まだ顔が赤いフェイトに話しかける。

「フェイトちゃん」

「な、何でしょうかっ!?」

 キョドっているフェイトに、なのはは一枚のメモを渡す。
 そこに書かれている言葉に、フェイトは首を傾げる。

「あの、これは……?」

「私のお店の住所だよ。
 今は建て直している最中だから、今日はここを使わせてもらったんだけどね。
 今度フェイトちゃんが戻って来る頃には、もう完成してると思う。
 だから今度は、ここを訪ねて来てくれると嬉しいな」

「……分かりました」

 フェイトはそのメモを丁寧に折りたたんで、ポケットに入れた。
 地面に転送の魔法陣が生まれる。
 なのはは一歩下がると、彼女たちに声を掛ける。

「それじゃ、クロノ君。リンディさん。アルフ。フェイトちゃん」

 なのはは手を振る。

「またね」

 フェイトも手を振り返した。

「また……」

 転送の光が辺りに広がる。
 光が消えた時、フェイト達の姿は、そこにはもう無かった。

「なのはさん……」

「うん」

 ユーノの呼び掛けに、なのはは頷く。
 そして、カウンターの下から、魔王を取りだした。





「よし、飲もう!」





 そしてなのはは、魔王を空けた。












   私、高町なのは。●●歳






                    









 運転手は気合いを入れていた。

「よっしゃあ! 今日も稼ぐでぇ!」

 気分は絶好調、信号以外で誰もわたしを止められない、と運転手は意気込んでいた。
 その時、運転手の乗るタクシーの窓を、コンコンと叩く音がする。
 運転手が顔を向けると、そこには、金の髪を風に靡かせた少女が立っていた。
 運転手がドアを開けると、少女はするりと中に入って来る。
 そして、懐から一枚のメモを取り出し、運転手に差し出した。

「あの……ここまでお願いします……」

 消え入りそうな程に小さな声で、少女は言った。
 運転手がそのメモを受け取り、場所を確認する。

「ああ、ここやな……」

 その住所は運転手にとって、とても身近な人が経営している喫茶店だった。
 半年程前の地震で倒壊し、つい先日建て直されたばかりの店だ。

「あの……」

「ああ、まかせとき。ちゃんと送り届けたるさかいな」

 運転手は車を発進させる。
 運転手は車を走らせながら、バックミラーでチラチラと少女の事を窺った。
 窓の外を眺めている姿は、とても絵になるものだった。
 透き通るような白磁の肌。
 陽光に照らされてキラキラと輝く金糸の髪。
 黒いシックな服が、それらをより引き立てていた。
 その様子は可愛いというより、綺麗といった方が相応しい気がした。

(まるでビスクドールみたいやな……)

 運転手はそう思った。
 同時に、彼女が何故、自分の知っているあの店へ行きたい、と言うのか気になった。
 あの店は、特別どこかが目立つ、という外見をしている訳ではない。
 店はあまり目立たない場所にあるし、同じ名前ならもっと有名な本店がある。
 それなのに、彼女はそこに行きたいと言う。
 店の住所が書かれたメモまで持って。
 何かがある、と運転手は察知した。
 店ではなく、そこにいる人にこそ、この少女は用事があるのだと。

「なあ、お嬢ちゃん」

「……何ですか?」

 窓の外を見つめていた少女は、運転手の声に反応して、ゆっくりと前を向く。

「いやな、この行き先の場所、喫茶店なんやけどな?
 もしかして、お嬢ちゃんがそこに行くのは、そこの店長に用事があるからか?」

「そうです」

 少女は頷く。
 自分の考えが間違っていなかった事に、運転手は上機嫌になる。

「そか。実はな、わたしはそこの店長と顔見知りなんよ。
 でもお嬢ちゃんとは、今まで会っとらんからな。
 だから、お嬢ちゃんは店長といったいどんな関係なんかなぁ、ってちょい気になってな」

 その言葉に、少女は俯く。

「えっと……その……」

 少女はまごつく。
 視線はあちこちを彷徨い、その頬は赤く染められた。
 その様子に、人形のようだと印象を抱いた運転手は、その感想を訂正する。
 とても人間らしい、可愛らしい少女だという感想を抱いたからだ。
 運転手は車を運転しながらも、時折バックミラーで少女の顔を窺う。
 すると、小さな声で、少女は言った。

「……です」

「へ? 何や?」

 あまりの声の小ささに、思わず運転手は聞き返す。
 その間もハンドルは放さない。
 だが耳だけはとても集中して、少女の声を聞いていた。
 少女は再び言った。





「……母さん、です……」





 閑静な海鳴の住宅街に、一台の車のクラクションが鳴り響いた。




                                    完






[10864] あとがき
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/10 10:21



 皆様、これで私の「私、高町なのは。●●歳」は完結となります。
 一話の投稿から完結までの35日間、お付き合い頂きありがとうございました。
 連日で投稿していたのは、投稿が止まると、もう書けないんじゃないかという思いがあったからです。
 ノリだけで書いていたものですから、その勢いを止めたくありませんでした。
 私が夏休みをフルに使い潰して書きあげたこの作品、楽しんで頂けたら感無量でございます。

 敢えて今回、法律の事は無視しました。
 フェイトとなのはの気持ちの方が、法律より重要だと思いましたので。
 養子に関しての説明をして下さった方活用出来ずすいませんでした。

 最初の方から居た方はご存知だと思いますが、この作品は一発ネタでした。
 よく魔王だと言われているなのはさんに、じゃあお酒の魔王を飲ませてみようという、ただそれだけのものでした。
 しかし、stsでもなのはさんは19歳なので、日本の法律では飲酒は禁止されています。
 なので、最低でも20歳以上にしなければなりませんでした。
 そこで、何歳にしようかという事になったのですが、ニコニコ動画で東方の幻想入りを見ていると、登場キャラが言いました。
 「えいりんさんじゅうななさい」と。
 そこから、なのはさんじゅうにさいという、32歳のなのはさんが生まれました。
 32歳にしたのは、ただの気分です。
 それを書いてみたら他の美由希などは丁度40歳だったので、流行に乗ってアラフォーとか言わせてみました。
 もともと一発ネタだったので、キャラの負け犬っぽさを出そうと思っていたんです。
 アラフォーだとか、スイーツだとか、自分へのご褒美だとか。
 そんなものを出していたんですが、続く事になりましたのでそういう事はほとんど無くなりました。
 一話の時点ではヤンデレ属性だった美由希が、そんなそぶりを欠片も見せなくなりましたし。
 他にも一話と二話以降で、変わっているものもたくさんあります。

 このお話は、9割が後付けです。
 キャラのレアスキルも、職業も、全てが後付けです。
 はやてさんが最初タクシーの運転手という設定や、なのはさんが酒で魔力無限という設定もありませんでした。
 なのはさんが泡立て器で戦うのは私が考えた設定ですが、それを飛ばして戦うという考えは感想から取り入れたものです。
 そこからレアスキル「回転」が生まれましたし、なのはさんがあんなノリで戦う事も出来ました。
 ネタのきっかけを考えたのは私ですが、それらを実現まで持って行けたのは、ひとえに皆様の感想のおかげです。

 この話はここで終わりです。
 続きはありません。
 もし三次創作書きたいと思う人がいるなら、どうぞお好きに書いて頂いて結構です。
 その時はこの話の作者ではなく、一人の読者として読ませて頂きます。

 本編で明かされなかった地球組の裏設定などもいくつかあります。
 美由希は御神流を極めていて実はなのは達みたいに若々しい、などです。
 なのは、はやて、桃子が持つレアスキルの事についても説明しようと思います。
 暇な時は読んで見てください。
 もし、これが知りたいという事があれば、言って頂ければ書けるかもしれません。
 説明が上手く出来ない事もあるかもしれませんが、その時はご了承ください。
 最終話は今日9月10日の投稿ですが、設定は数日後に投稿しようと思います。
 それまで質問は受け付けております。
 どうぞガンガン聞いて下さい。
 書けるかは分かりませんが……。

 とらハ板に移動するのは、三日以内にしようと思います。
 設定、番外編の投稿もその時にします。



 ここからは六十話に付いた感想の、気になったレス返しです。
 ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。

 >なんという魔法の平和利用w
 こういうことに使えるなら、私もミッドの魔法を覚えてみたいです。

 ミッドの魔法を覚えても、回転しないので無理です。

 >アリサ・・・・なんで素直に連れ子とかと思わないのだろうか?

 一話で会話した時に、男を作れとアリサは言いました。
 そして、次に会った時に知らない男の子がいて、一緒に住んでいるとなのはは言いました。
 なので短絡的に、自分の言葉とイコールで結ばれたんです。
 誤解は声のキャラ的にもよくある事ですから。

 >無印で終わるなら、三次おkにすると神曲○界ポリ○ォニカワールドのようにarcadiaで高町なのは **歳 ワールドが展開されるかも。

 そうなると嬉しいですね。
 書いてくれる人がいれば絶対見に行きます。

 >ヴィーダ嬢をハリセンで叩いてタクシーに乗せて人生を語る(説教ともいう)はやてさん(32?)も見てみたかったですが……

 you書いちゃ(ry

 >受験が終わったら、フェイトinさざなみ寮で書く約束は、守りますぜ
 名前は変えませんので、その時はよろしくお願いします

 お待ちしております。
 ……とらハやらないと……

 >一話から読み直してみたら、なのはさんの願いは叶いましたね、男の子→ユーノ。

 叶ってますね。なのはさんは忘れてますけど。

 >なんというか、序盤〜中盤までのほのギャグ空間に戻って、懐かしい気分になった
 おかしいなぁ...それほど長い間ではなかった筈なのに......

 それがなのはさんの日常ですから。

 >すずかが黒いとか、何気にアリサさん酷い事を言うw

 言ったところで傷つかない程度の、可愛い悪口です。
 もう何十年と付き合っていて、その程度の言葉くらい、互いに許容出来るようになっていますから。

 >下手をしたらフェイトのクラスメイトに八神ヴィータがいるやもしれんww

 ……ありですね。

 >まさかの32歳のなのはさん、酒を飲んで強くなったり、いろいろすさまじい設定でしたが、とても面白かったです。
 途中からはやてのほうが人気で出したような気もしますが、それはおいといて。
 まあ、この作品は終わりだそうですが、他の作品でもいいので、何か書いてくれると嬉しいです。

 ありがとうございます。
 私も、まさかはやてが、あそこまで人気出るとは思っていませんでした。
 一応赤松板で、メインの方を書いています。
 ネタが尽きているので、今は更新停止状態ですけど。

 >浮かべたシールドの上に皿をのせて球体のシールドで包んで中で炎熱変換で燃やせば全部魔法でいける!…かなあ
 皿を作っていたと思ったら杯が出来ていたとかありそうですね

 なのはさんは炎熱変換出来ないので、一人だと無理ですね。
 杯はありそうです。

 >しかしアリサも32歳になっても変わらないものですねー……三つ子の魂百まで?

 成長しても、芯は変わらないんでしょう。

 >……ちなみに、私は名前同じで投稿してます。
 とらハ版(長編)とチラ裏(ネタ)に一スレずつ立ててますので、稚作ですがおヒマな時にでもぜひ

 軟膏は投稿用の名前ですので、別の名前になりますが、必ず読ませて頂きます。

 >魔法陶芸か。なんと高度な魔法の応用なんだ。感動した。将来は立派な陶芸家になるに違いない。

 いずれは複数同時に作る事が出来る筈です。

 >最後にアリサがおいしいところに出てきたな。

 一話で色々言っていたので、出さなければいけないと思いました。

 >男見つける前に娘引き取ったとか聞いたらどんな反応するんでしょうね。
 もう結婚は諦めたと思われてもおかしくない?

 またキレるでしょうね。
 なのはさんは一足飛びに話を進めますから。

 >その後は他クロスおよび外伝ということで、原作Sts編終了後とのクロスとかも読みたいと思った自分がいますw

 無理っすww

 >if世界のフェイトさんは将来、はやての愛弟子として立派な走り屋に成長しそうですねw 
 例の黒いスポーツカーで峠を攻めまくってそうだw

 いいえ、フェラーリ・テスタロッサです。

 >なのはを自分とそんなに変わらない歳だと思い込んでいたクロノ、
 自分の母親という前例があるのに気付かなかったのだろうかw?

 母親は身近にいるので気にしていないんです。

 >そーいやアリサもすずかも子供は産まれていないんですかね? 
 いたら後々フェイトと良き友人になれると思います。

 二人とも色々と飛びまわっているので、まだいません。
 ですが、将来的には産まれると思います。

 >なのは、日常に戻る。の巻。
 何だ神田言ってもなのははアリサ・すずか達と海鳴でワイワイドタバタやってる方が良さそうな気がします。
 ケーキを作り、酒を呑み……

 それがなのはの日常、なのはの愛する平穏ですから。

 >ちなみに私も、今現在ちょっとした嘘予告風のプロットを一つ考えているのですが、こちらのネタを少し拝借させて頂いてもよろしいでしょうか?

 好きにやって頂いて結構です。

 >リンカーコアが完成したはやてなら足の心配は・・・

 まったくありません。

 >たぶん寺のTさんのお父さんなら完全浄化できたんじゃないかな。

 そうですね。Tさんはまだ未熟ですから。

 >第一話が投稿された時は、どこからどう見てもネタ作品以外の何者でもなかったんだがなぁ。
 酒、八神タクシー、回転、ケーキと、面白いネタを逐次投入しつつかなりのペースで進行してましたな。
 文章も読みやすいし、実に完成度の高い作品だったと思います。
 ありがとう御座いました。

 こちらこそありがとうございました。
 今でもネタ作品だと思っています。

 >そういえば、とうとうろくろ代わりに使われたなのはさんの回転魔法、何故に回転してるのか、というのは、特に理由もないのでしょうか。

 レイジングハートが回っていたから、というのが元々の理由なんです。
 でも、今となってはレアスキルですから、なぜ回るのかと問われても、レアスキルだからとしか言えません。









 この話を書き始めてから、他の人の作品を、感想以上に楽しめなくなったという弊害もありました。
 ですが、なんとか無事に終わる事が出来ました。
 今まで本当にありがとうございます。
 皆様がいたからこそ、このお話は完結する事が出来ました。
 こういう時に上手く言えない、語彙の少ない自分に腹が立ちます。
 それでは皆様、本当にありがとうございました。



 最後に、なのはさんはは俺の嫁。


 そして、お酒は二十歳になってから。



 ありがとうございました。



[10864] ありえたかもしれない番外編
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/11/24 01:32



 なのはは、仲の良いタクシーの運転手と共に、近くの居酒屋に来ていた。
 彼女たちは、こうして飲みに来る事が偶にある。
 だが運転手は、遅くまであちらこちらを文字通り走り回っているため、中々こういう機会は巡って来ない。
 だからこそ、彼女たちはその巡って来た機会を、存分に楽しんでいた。
 もっとも、普段から良く会う彼女たちが、酒を身体に入れて改めて話す事など、愚痴くらいしかないのだが。
 ちなみに、子供は早寝早起きは一番という事で、フェイトとユーノは既に寝かし付けてある。
 


 運転手は生中をグイッと一気飲みし、プハァっと酒臭い息を吐き出す。

「まったく! 今日の客は最悪やったわ!!」

 運転手は空になったジョッキを、叩きつけるようにドンッと置く。

「どんな人だったの?」

 横で話を聞いているなのはが、同じように大ジョッキに入った生ビールを飲み干しながら運転手に尋ねる。
 その問いを待ってました、とばかりに運転手は話し始めた。

「あのおっさん、車ん中でタバコ吸おうとしやがったんよ。
 今は全車禁煙やってのに、それを分かってへんねん!
 おまけに、それを注意したら、『うるさい、黙って運転しろ』やって」

「うわ……それは酷いね……」

「ホンマやっ! 
 こっちは煙たいわ、イライラさせられるわで踏んだり蹴ったりや。
 おまけにあのおっさん、灰落として行きやがったんやで!?
 なんやねん! あのハゲチャビンがっ!!」

「それは災難だったね……。あ、店員さん。ビール追加で」

 なのはが運転手の愚痴を聞きながら、酒のお代りを頼む。
 嫌な事は飲んで忘れるのが一番だ、となのはは思っているから。
 再びテーブルに置かれたビールを飲み、やきとりを摘まむ。
 運転手は、今度は机に突っ伏して泣きだした。

「それだけやないんよ……」

「どうかしたの?」

 なのはが運転手の背中を撫でながら尋ねる。

「ヴィータがな……」

「ヴィータ?」

 ヴィータというのは、運転手の家にいる小さな子だったはずだ。
 赤毛のおさげが似合っている、可愛らしい子だ。
 最初に会った時、いきなりハンマーを向けられて、驚かされた記憶がある。
 尤も、すぐに運転手に拳骨を食らい、頭を押さえて涙目になっていたが。
 今ではよく運転手に連れられて、なのはの店に来てから、ケーキを頬張っている。
 もう常連と言って良い程に、なのはは彼女と仲が良かった。

「ヴィータが、どうかしたの?」

「それがな……」

 運転手はグズグズと泣きながら言った。

「学校で何言われたんか知らんけど、わたしと一緒に風呂に入りたくないって……」

「……ああ、それはキツイね……」

 運転手を見るなのはの目に、憐れみが籠る。
 愛娘からそんな事を言われたら自殺モノだろう。

「家は元々、お風呂は別々だからそんな事は無いけどね。
 でも、もしそんな事をフェイトに言われたら、私は立ち直れないかもしれない……」

 そろそろ温かくなってきたというのに、なのはの背筋が冷える。
 運転手は尚も愚痴る。

「確かに、わたしん家の風呂は狭いわ。
 わたしとヴィータの二人で入るのが精一杯や。
 せやけど、そんな事を理由に拒絶されたら、わたしは何も言えんやないか。
 ヴィータのアホゥ……なんで分かってくれないんや……」

「大丈夫だよ、ヴィータが八神さんの事を嫌いになる事なんて無いって」

 なのはは背中をさすりながら、運転手が愚痴を吐き出すのをずっと聞いていた。
 そのままポツポツと言葉を続けていた運転手だったが、急に愚痴が止まった。
 なのはがどうかしたのか、と運転手の顔を覗き込む。
 運転手は、なのはの顔を見ながら言った。

「なあ、店長ぉ……」

「何? 八神さん」

 突っ伏したままの運転手は、店長に言った。

「子育てって、難しいなぁ……」

「……そうだね。とても難しいよ」

「でもなぁ……」

「うん?」

「とっても、楽しいんや……」

「……そうだね」

 なのはは頷いた。

「子供達の成長を見守る事が、こんなに楽しい事だったなんて、全然思わなかったよ」

 初めて会った頃と比べ、今のフェイトは明るく笑うようになった。
 今までの時間を取り戻すように、フェイトはよく笑う。
 箸が転んでもおかしい年頃、と言って良いのかもしれない。
 その隣で、あたふたと慌てるユーノを見るのも良い。
 そんな彼女達を見る事が、なのはにとって、これ程楽しいとは思わなかった。

「ねえ、八神さん」

「……」

「八神さん……?」

 なのはが再度呼び掛けるものの、運転手が応える事は無かった。

「寝ちゃったか……」

 相変わらず運転手は、酒は良く飲む割に、酔い潰れるのが早い。
 元々飲める酒量が、なのはに比べて少ないのだろう。
 おまけに、二日酔いはあまり経験した事が無い、という事がなのはには羨ましい。
 なのはは懐から携帯電話を取り出し、運転手の自宅へと掛ける。
 待ちかまえていたのか、ワンコールで相手は出た。

「もしもし。高町ですけど、八神さんのお宅ですか?」

 電話を掛ける時の定型文をなのはは言い、相手側の反応を待つ。

『ああ、高町さんですか。どうかされたんですか?』

「うん。八神さんが酔いつぶれちゃったから、良ければ迎えに来てもらえるかな?
 私だと、人一人を運ぶのは難しくて……」

『わかりました。シグナムをそちらに送りますね』

「うん。場所は――」

 なのはは居酒屋の場所を教える。
 そしてなのはは電話を切った。
 その時、嘆息したなのはに、横から声を掛ける者がいた。

「すいません、隣よろしいですか?」

 なのはが顔を上げて、声の主を見る。
 そこに立っていたのは、黒い服に身を包んだやせぎすの男だった。
 黒い服の内側に、花柄のシャツを着ており、服と同じ黒い帽子を被っていた。

「構いませんよ」

 なのはは隣の椅子に置いておいたジャケットを取って、自分の膝の上に載せる。

「ありがとうございます」

 男はなのはに礼を言って、隣に座る。
 ここは小さな居酒屋ではあるが、中々人気があり、結構満員気味なのだ。

「店員さん」

 男は店員を呼ぶと、メニューを見せた。
 そして、そこに書いてある酒の名前を、上から一撫でした。

「ここからここまで、全部持ってきて下さい」

「え?」

 なのはは驚く。
 一度にそんな頼み方をする人には出会った事が無かったからだ。
 男の注文に、店員も目を丸くしていた。

「あの、本当に良いんですか?」

 おずおずと店員が聞き返す。
 メニューに書かれている物を一種類ずつだとしても、かなりの量となるからだ。
 だが男は、店員の予想とは異なり、ニヤリと笑った。。

「ンフフ……大丈夫ですよ。だから、持ってきて下さい」

「は、はあ……」

 店員も呆れているのか、はっきりとしない返事を返しながら、酒を取りに戻って行った。
 それを見送る男に、なのはは声を掛ける。

「お酒、好きなんですね」

 なのはが話しかけて来るとは思っていなかったのか、男が僅かに目を見開く。
 だが男は、直ぐに相好を崩すと、なのはの問いに首を縦に振る事で返事をした。

「ええ。三度の食事よりお酒が好きです」

 男はまるで、新しいおもちゃを与えられた子供のように、キラキラと目を輝かせていた。
 その様子になのはは感心する。

「それはまた、凄いですね」

 だが、指をピッと男の前に立てて、一言注意する。

「でも、食事はきちんと取った方が良いですよ。
 健康な身体を保っていないと、長くお酒は楽しめませんから」

 窘められた男は面食らったのか、僅かに後ろに身を反らす。
 だがそんな男には構わず、なのはは尚も持論を展開する。

「お酒はとても美味しいですけどね。
 でもお酒以外にも、美味しいものはたくさんあるんですから。
 それらを楽しまない事には、お酒を真に楽しむのは無理なんじゃないかと思ってます」

 観ようによっては、なのはが男にくだを巻いているようにも見える光景だった。
 だが男は迷惑な顔一つせず、なのはの言葉を聞いていた。

「なるほど。それは道理ですね」

 説得が届いたのか頷いた男に、なのはは上機嫌になる。

「でしょう? ですから、色々と美味しい物を食べる事も、お酒を飲むには大切なんですよ」

「それじゃ、僕も何か頼もうかな……」

 男はメニューを手に取る。
 そこに、なのはが横から口を出した。

「やきとりが美味しいですよ。特に、ネギまとレバーがお薦めですね」

 レバーの串を手に持ちながら、なのはが言った。
 それを頬張るなのはの姿に影響されたのか、酒を持ってきた店員に、男も同じ物を頼んだ。
 そして、テーブルの上にずらりと並べられた酒を手に取り、なのはに差し出す。

「一緒に呑みませんか?」

「え? でも……」

 なのはが遠慮しようとする。
 この酒を頼んだのは男なのだから、自分が飲む訳にはいかない、と。
 だが男は、にこやかな笑みを浮かべて酒を差し出す。

「お酒は共に呑む人がいると、もっと美味しくなるんですよ」

「……そうですね。私なんかでよければ……」

 男の言葉に、なのはは酒を受け取った。




 そのまま二人で、競うように酒を飲み干し続けていると、運転手の家族が運転手を迎えにきた。
 赤みの強い桃色の長髪を、後ろで一纏めのポニーテールにした、凛々しい女性である。
 キョロキョロと辺りを窺っている彼女に、なのはは手を振って居場所を教える。

「シグナム、こっちこっち」

 手を振るなのはに気付き、、シグナムと呼ばれた女性が近づいて来る。

「久しぶりだね、シグナム」

「お久しぶりです。店長」

 運転手は、いつもなのはの事を店長と呼ぶからか、シグナムもなのはの事を店長と呼ぶ。
 何度か名乗ったのだが、もう定着してしまったらしく、なのはももう良いかと思っている。
 そのシグナムはなのはに尋ねる。

「それで、母はどちらに?」

「こっちだよ。連れて行ってあげて」

 なのはの陰に隠れて、テーブルに突っ伏して眠っていた運転手が、ごそごそと動く。
 どうやらテーブルの枕は、寝心地があまり良くないようだ。

「お代は幾らですか?」

 シグナムが懐から財布を取り出す。
 子猫の絵が付いており、以外と可愛らしい財布だった。
 それをなのはは手を振って断る。

「良いよ。八神さん、あまり飲まないうちにダウンしちゃったし。今日は私が、代わりに出しとくから」

「しかし……」

 シグナムが食い下がる。
 こちらが呑んだのに、代金を支払わないのは収まりが悪い、と思っているのだろう。
 古風な感じのする女性だからこそ、その考えがなのはには見て取れた。

「それじゃあ、お代は今度、八神さんに払ってもらうから。
 私に奢られるのが気に入らないなら、八神さんが自分で払いに来るだろうから大丈夫だよ」

「……分かりました」

 シグナムは渋々と財布を懐に戻す。
 そして眠っている運転手を背負う。

「それじゃ私はこれで――」

 シグナムが最後まで言う前に、その背に乗った運転手が言葉を発する。

「ヴィータ……どうしてや……」

 シグナムがその事を聞いて眉をひそめる。
 なのはがその事に付け足す。

「八神さん、ヴィータにお風呂一緒に入ってもらえなくて、拗ねてたんだよ」

「ああ、なるほど……」

 合点がいったとシグナムは頷いた。

「ヴィータも素直じゃないですから」

「何か知ってるの?」

「ええ……」

 シグナムは頷く。

「ヴィータは、いつも遅くまで仕事をしている母が、とても心配なんです。
 だからせめて、風呂くらいはゆっくりと入らせてあげたかったみたいです。
 自分が一緒だとはしゃいでしまって、母の疲れが取れないから、と言っていました。
 それを素直に言えば良いのに、遠回しにさり気なく伝えようとして失敗した、といった所です」

「そうだったんだ」

 なのはは運転手の眠っている横顔を見つめる。

「愛されているね、八神さんは」

「ええ。自慢の母ですから」

 その時、運転手がもぞもぞと動き、言葉を発した。

「絶対……いつか絶対……でっかい風呂の付いた豪邸を……建てたるからな……待っとれよ、ヴィータ……」

 その様子に、なのはは噴き出した。
 シグナムも、寝言で宣言した運転手を、微笑んで見ている。

「こんな人だから、皆八神さんの事が好きなんだろうね」

「はい。私達は皆、母の事が大好きです」

 シグナムは照れも無く言いきった。

「でも、どうするの? 八神さん、寝言とはいえ、絶対その願いを叶えようとするよ?」

「問題ありません」

 シグナムはこともなげに言った。

「私達がそれを、全力で支えれば良いだけの事ですから」

 シグナムはなのはを見つめた。

「私達は家族です。家族とは、支えあうモノなのでしょう?」

 シグナムの言葉に、なのはは真面目な顔をして頷く。

「そうだよ。どっちが強くてもいけない。
 幾ら強くても、一人じゃ人生つまらないしね。
 それに、そんな人は、脆くて崩れやすいんだよ。
 人一人に出来るような事なんて、たかが知れてる。
 そうやって支えあって、人は生きていけるんだから」

 なのはの言葉に、シグナムは頬笑みを浮かべて店を出て行った。
 その時、なのはの隣にいた男が呟いた。

「良いお話ですね」

「そうですね」

 なのはも頷いた。
 男は立ち上がると、なのはに声を掛けて来た。

「どうです? どこか近くで呑み直しませんか?」

「いいですね。そうしましょうか」

 なのはも立ち上がった。
 もうこの店の酒は、二人で粗方呑み尽くしたからだ。
 それに、この男に付いて行く事も、吝かではない。
 酒を飲みながら話したなのはは、男が悪い人間では無いと気付いていた。
 もし男が悪い人間であったとしても、特に問題は無い。
 なのはにはレイジングハートが常に傍にいる。 
 叩きのめしてから、それを肴に酒の続きを飲めば良いだけの事。
 恐れる必要など全くないのだ。



 会計を済ませ、二人は外へ出た。

「ンフフフ……どこへ行きましょうか?」

「お酒が楽しく呑める場所なら、どこでも良いんじゃないですか?」

 変わった含み笑いをする男と、隣を何も考えずに気楽に歩くなのは。
 その足取りは、酔っているとは言い難い、しっかりとしたものだった。
 二人は足の向くままに目的地も決めずに歩いていく。
 そして二人は、さびれた公園に辿り着いた。

「あれは……」

 そしてその公園の端に、一本の桜の樹が立っていた。
 なぜ桜と分かったのかというと、それが咲いているからだ。

「綺麗ですね」

「ええ」

 一本だけが咲いているという神秘性に、なのはは見蕩れた。

「この一本だけが咲いているのは、少し不思議ですけど」

 なのは達が近づいて見てみると、桜はまだ七分咲きといったところか、未だ咲いていないつぼみが所々に見える。
 この桜の樹だけ、他の桜よりも早起きだったのかもしれない。
 他の桜は、未だつぼみも見えず、ただ立ち尽くすのみだから。

「ここで呑みませんか?」

「ここでですか?」

 男の提案に、なのはは首を傾げる。

「丁度ベンチもありますし。それに……」

「それに?」

 男は桜を見上げる。

「僕達だけが、今この桜を独占しているんです。
 ならば、僕達だけで一足早い花見をするのは、中々に乙なものだとは思いませんか?」

「……そうですね」

 なのはは頷いた。
 だがそこで気が付いた。
 花見をするのは良いが、ここには酒が無い事に。

「お酒が無いですね。どこかで買ってきましょうか」

「ああ、それは問題ありませんよ」

 男は懐を探ると、蓋の付いた瓢箪を取り出した。

「お酒なら、ここにありますから」

「……どこから取り出したんです?」

 なのはが目を丸くする。
 その瓢箪は大きく、男の細い身体に隠されていたとは、とてもではないが思えなかった。
 男は再び、特徴的な含み笑いを漏らした。

「ンフフフ……手品ですよ。タネはありませんけどね」

「へぇ……手品ですか。それは凄いですね」

 なのはは素直に感心した。
 男は自慢げに鼻を鳴らす。
 だがそこで、男は別の事に気付いた。

「ああ。でも杯がありませんね」

「それなら私が……」

 なのはは手荷物を漁り、新聞紙に包まれた平たい物を取りだした。
 新聞紙を取り除くと、中から杯が一つ出て来た。

「これで飲みませんか?」

 男は杯を受け取り、手に取って見る。

「可杯ですか」

「はい。私、陶芸に嵌まっているんですよ。
 あまり大きいと重いので、小ぶりにしたんですけどね」

「長く楽しめそうですね」

「ええ」

 こうして、酒と杯、両方が揃った。
 花見を邪魔する者は誰もいない。
 男は瓢箪を開けると、中からえも言われぬ芳醇な香りが辺りに広がった。
 男は、その香りを放つ酒を、トクトクと惜しみなく杯に注ぐ。
 そして、それをなのはに差し出した。

「まずは一献」

「承りました」

 なのははそれを両手で受け取る。
 顔の前まで持ってくると、その香りはますます強さを増した。
 なみなみと揺れる琥珀色の表面を見ていると、芸術のような美しさを感じる。
 飲んでしまうのが惜しい。
 なのはは本当に、心の底からそう思った。
 だがいつまでもそうしている訳にも行かず、覚悟を決めてなのはは酒をグイッと飲み干した。
 口の中に広がる酒の味に、なのははクラクラとした感覚を覚える。

「美味しい……」

 飲み終わったなのはは、それだけしか言えなかった。
 今まで飲んだ事のないような極上の酒であった。
 過去、なのはが我が子のように可愛がっていた彼らでさえ、これ程では無かっただろう。
 なのはは杯を男に渡し、瓢箪を手に取った。

「今度は、此方から……」

 なのはは杯を手にしている男へと、酌をする。
 男は礼を言い、それを一気に呑み干した。
 そのまま二人は、互いに酒を酌み交わし続けた。



 しばらく静かに酒を酌み交わしていたが、なのはがある事に気付く。
 瓢箪を持ったまま、なのはは男に言った。

「そういえば、私達ってまだ、互いの名前も知りませんでしたね」

「そうでしたね」

 男も、そこで初めて気付いたのか、目を丸くした。
 何をやっているのかと、なのははおかしくなった。
 酒で陽気になったなのはは、自分から名乗る事にした。

「私は高町なのはって言うんですよ」

「そうですか。僕は――」

 男も、それに自分の名を名乗る事で返した。
 あまり聞いた事の無い、その名前になのはは尋ねる。

「珍しいお名前ですね。外国の人ですか?」

「いや、生粋の日本人ですよ。これは仕事の時の名前だと思って下さい」

「仕事? 何をされてるんですか?」

「ゲームクリエイターです」

「へぇ……それは凄いですね」

 なのはは感心した。
 ゲームというものは、作るのにとても時間の掛かる物だ。
 ストーリーを決めて、キャラクターを作り、システムを考え、音楽を入れる。
 とても難しいものだ。
 称賛に値する職業だと思う。
 なのははがそう思っていると、男は話を続けて来た。

「しかし、高町さんは良い人ですね。
 最近は忙しいですから、ここまで酒が楽しく呑めたのは久しぶりです」

「えっと、どういたしまして?」

 なのはは少し疑問形で聞き返す。
 さらっと良い人と言われても、なのはにはピンと来なかったからだ。
 なのははただ、酒が楽しく飲みたかっただけなのだから。
 だがなのはの様子は気にも留めず、男は喋り続ける。

「貴女なら、娘たちとも仲良くなれるでしょうね」

「娘? 娘さんがいらっしゃるんですか?」

 なのはの問いに、男は頷いた。

「ええ。可愛い子供達がいます。
 でも、気難しい子ばかりでしてね。
 時々扱いに困ってるんですよ」

「そうなんですか……」

 苦労しているんだな、となのはは思った。

「会ってみたいですねぇ」

 なのははそう呟いた。
 男はなのはを見ると、尋ねて来た。

「会ってみますか?」

「え? ええ、そうですね」

 なのはは頷いた。

「では……」

 男は立ち上がる。
 これでお開きか、となのはも立ち上がろうとした。
 だがそれは叶わなかった。
 なのはは立ち上がろうとした。
 だが、手をついた所が無かったのだ。
 正確には、手をついたその瞬間に、その場所が無くなったのだ。

「え?」

 なのはは下を見下ろし、呆然と呟く。
 そこには、暗い穴のようなものが、空間の裂け目のようなものがあった。

「そういえば、私の名前ですけど……」

 男は何事も無いように、なのはに言った。

「呼びにくいなら、『神主』と呼んで頂いても結構ですよ?」

 なのはは呆然としたまま男を見ながら、急速に広がった穴の中へと落ちて行った。
 その手に、酒の入った瓢箪を握り締めて。





 そして……。







「え? ここどこ?」








 高町なのはin幻想郷





あとがき

番外編という事ですが、嘘予告だと思って下さい。
続きません。

最初の方で、八神家となのはがどう関わったのか、少しはわかりましたでしょうか?
ほのぼので戦いなんか全く起こらなかった事は確かです。

今回クロスという事だったんですが、東方とのクロス、というよりZUN氏とのクロスでした。
あの人も酒とは切っても切れない縁があるので、想像出来た人はいたかな?
ちなみに、このなのはさんと相性が良いのは、萃香と雛だと思っています。

さて、なのはさんは幻想郷で、いったい何を見るのか。
誰を娘にするのか。
娘ハーレムは完成するのか。
続きはwebで!
……というか、誰か書いて下さい。
東方はやった事無いんで、私は東方キャラを出せないんです。



すいませんが、設定集はまだ書けて無いので、もう少し待って下さい。






[10864] 設定集 高町なのは
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/13 23:32


これは地球組(地球生まれ)の設定です。
ネタばれだらけなので、本編を読んだ後にご覧ください。
ありえないぐらいのチート設定のオンパレードなので、ネタとして楽しめる方のみが読んで下さい。
とても痛々しいですから。
三次創作を書きたいという方は、この設定を無視して頂いても構いません。
魔導師の持つレアスキルと、一般人でも持てるスキルや資格などは、一纏めにスキルで統一してあります。
量が多くなったので、とりあえず今回はなのはさんだけです。



それでは、始めます。






高町なのは


称号 翠屋二号店の店長、化け物、偽善者、酒の女王

魔力量 S 飲酒時に限りSSS

魔導師ランク 暫定AAA+

スキル 魔法回転、アルコール変換資質、カロリー変換資質、永遠の若さ、リンカ―コア成長限界(壊)
    利き酒、酒占い、管理栄養士、調理師、製菓衛生師、食品衛生責任者、防火管理者、MT車の免許



御存知本編の主人公。
お酒大好きで運動嫌いの、平穏を愛する32歳である。
ここの設定では、本当にアルハザードの子孫という設定である。

幼少期は家庭の事情により、一人ぼっちで過ごす事が多かった。
そのため、良い子でいて欲しい、という家族に言われた言葉を叶えようと良い子であり続けた。
言われた事には逆らわず、家族の望み通りの姿を演じようとしていた。
その時の孤独があったからこそ、なのははフェイトの目に宿る寂しさを見抜く事が出来た。
だが無理があったようで、中学二年生の頃に、今まで押さえつけていたものが爆発する。
家族との壮絶な口論の末、互いに裡に秘めていた事を全て吐き出し、それがきっかけで家族と更に仲良くなった。
「~なの」口調はその反抗期の頃、可愛いと思ってやっていた黒歴史である。

高校卒業後に専門学校に通い、管理栄養士の免許を取得。
その後、翠屋二号店を開く為に、家業を手伝いながら、調理師他様々な資格を手に入れる。

翠屋二号店の名を貶めないほど、桃子と調理技術が拮抗している。
特に一番美味しいのはショートケーキ。
基本のケーキだからこそ、一番試行錯誤して作り続けている為。
この点では、桃子も負けを認めた。
今も時折、桃子と新作の菓子で競っている。

20代の頃に、酔っ払った勢いで宝くじをランダムで買い、何故か悉く大当たりして一攫千金を手に入れた。
その貯えがあるので、一生働かなくても生きていける。
これがあるため、無理に働けとは言われず、金にはあまり頓着していない。
店をやっているのは道楽と言いきったように、翠屋二号店は金を稼ぐ為では無くただの趣味。
宝くじを当てた当初、なのはは金を家に入れようとしたが、士郎達が断った。
士郎は、「なのはが本当に必要になった時に、そのお金を使いなさい」と言って、受け取らなかった。
そのため、その宝くじの金は全てなのはの口座に入っており、金額は凄い事になっている。
だが、アリサやすずかはそれ以上稼いでいるので、なのはにはあまり凄いと思えない。
店と酒はその金を使って手に入れたもの。

車の免許を持っているが、ATでは無くMTである。
これはアリサ達と同じ物を、と思い何も考えずにMTを選択したため。
ATにしておけば良かったと後悔しながらも、意地で二年間かけて何とか取得した。
だが、その祝いの席で酒の味に目覚めてしまい、以来酒ばかり飲んでいる為、免許取得後はほとんど乗っていない。
この祝いの席が、アリサが第六十話で言っていた、アリサの家の酒を全て飲み干した事件である。
初めての大量飲酒に箍が外れ、その場にあった酒を全て飲み干した。
なのはは、この事件により、自らは幾らでも酒を飲めることに気が付いた。
だが、大量に飲むと二日酔いが酷くなり、いつも際限なく飲んでいると酒が無くなるため、普段は自重している。

寝る時は、高校の体育の時に使っていた、小豆色のジャージを着用している。
その胸の所に書いてある「高町」の文字は、長年使用していた為刺繍が解れている。
なお、本来の利き腕は左だが、矯正しているので両利きである。
戦闘時は右にレイジングハートを持っている。
これは、本来の利き腕である左の方が魔力の巡りが良い為、威力が強くなるからだと考えられる。

なのはの平均魔力値は、エイミィ曰く、「少なくとも400万はある」らしい。
だがこの数値は、なのはの飲酒によって値が変わる。
エイミィがこの魔力値を計測していた時、なのはは飲酒をしていなかった。
そのため、これは平均魔力値ではなく、最低魔力値だと思われる。

バリアジャケットは、身近な衣服をとユーノに言われた為、翠屋の制服に設定している。
その後ぎっくり腰や空を飛ぶ事があった為、腰にコルセットを増やし、えんじ色のスカートから藍色のジーンズへと変更された。
着替えや洗濯する手間が省ける為、店をやっている時にはこれを着用している。
なお、普段は後ろに流している長髪は、この時は一纏めのポニーテールにしている。

三十年以上も常識的な生活をしていたため、常識人の思考が頭に染みついている。
そのため、移動にタクシーを利用したりしている。
だが、この常識人的な考えが、時として邪魔をする事もある。
例をあげれば、危険な物であるジュエルシードを素手で封印に行ったフェイトや、娘であるフェイトにしたプレシアの攻撃などがある。
常識的な考えに凝り固まっているため、予想していなかった突然の事態には、初動が遅くなる傾向がある。
戦闘では、普通の人間が注意していないような、真上や真下から攻撃される事を嫌う。
ほとんど飛ぼうとせず、どちらかといえば、陸戦で下から誘導操作弾で撃ち落とす方法を好む。

美由希が投げた飛針を見る事が出来る動体視力を持っている。
攻撃を見た後に祈祷型のレイジングハートに頼り、それから動きを間に合わせる戦い方をする。
だからなのはと闘う場合、煙幕などで視界を防ぐ攻撃が有効であるが、魔法によって吹き飛ばされる事が多々ある。

魔導師ランクは、暫定的にAAA+となっている。
これは、はっきりと魔力量が計測出来ないため、アースラ組が勝手に付けたもの。
ランクがSに届かないのは、なのはの魔法技術が集束以外では低く、強引な魔力で無理に魔法を形成しているため。

なお、なのははアルコール変換資質などを持つので、その逆の魔力を別のモノへと変換する事は難しいようだ。
なのは本人も、フェイトの魔力変換資質はレアスキルだと思っており、学習で覚えられるかもしれない事を知らない。
シグナムの戦闘を見た事もないので、魔力変換資質に他の種類がある事も気付いていない。

なのはは度重なる飲酒により、魔力の成長限界が壊れている。
酒を飲んでいる時には魔力の限界が無く、幾らでも魔力をリンカ―コアに溜める事が出来る。
だが、誰もその事に気付いておらず、なのはは酒が気を高ぶらせているだけだと思っている。

飲酒をしている状態では、頭の回転が早くなる。
だが、あまり多く飲み過ぎていると、訳の分からない答えが唐突に飛び出す事がある。
たまに一足飛びで正解に辿り着く。
しかし、それほど頭が回転する程酔っていると、翌日なのはは二日酔いで苦しんでいたのであまり意味が無かった。

戦いが終わった今、ぎっくり腰の時に美由希とした約束を果たすため、身体を鍛える事にしている。
しかし、なかなか上手く行っていない。
サボろうとタクシーを捕まえようとするのを、美由希に食い止められる事が良くある。
最近は、趣味で陶芸も始めた。
この陶芸は魔法を使って作るため、手が全く汚れず、菓子を作るなのはでも大丈夫となっている。

自分はどこにでもいる普通の人間だと、なのはは思っている。
気に入った相手の前では良い姿を見せたい、と考える偽善者。
目の前に飢えている人がいれば、食事を振舞って自己満足に浸る人間。
そういう人間なのだと、なのはは自分の事を認識している。

全てが終わった後では、フェイトとユーノの母親をやっている。
慣れない子育てに、東奔西走する毎日を送っている。
ちなみに、なのは達は知らないが、はやてとは再従姉妹という設定。



なのはの愛杖 レイジングハート

形状 泡立て器

彼女がこの作品の中で、最も被害を被っていると思われる。
未だかつて、武器として泡立て器の形状を思い浮かべられたのは、彼女以外にいない。
しかし、杖から泡立て器へと変わったモノの、性能は杖よりも高い。

待機モードとデバイスモード、シューティングモードの三形態がある。
魔法はデバイスモードで全てまかなえるため、シーリングモードは無い。
デバイスモードが優秀なため、シューティングモードは二回しか使われなかった。
そのシューティングモードも、形状が変わる訳では無く、なのはの腕を保護するだけの物。
使わなくても砲撃は撃てるのだ。

しかしトルネードバスターを使用した時に、シューティングモードは出て来た。
これは、なのはが大きい砲撃を撃つのなら、それなりの反動があるだろうと考えた為。
そのために腕を保護したのだが、実際はちょっと熱くなるだけで、反動がほぼ無いのでほとんど意味が無かった。
ちなみに、なのはの腕を保護するこのモードは、肘までを覆う鎧としても使える。
翠屋の制服は、ケーキを作る時に邪魔にならないよう、肘までの長さしかない。
だからその剥き出しになった部分を、このモードでさらに保護しているのだ。
バリアジャケットが服を着ていない部分にも作用する事を、なのはが事前に知らなかったからというのもある。

なのはの砲撃にも耐えられるハイスペックであり、なのはの意志によって最初の形状が決まるため、ロストロギアではないかとの疑惑がある。
初期設定では、酒瓶という形状の候補もあった。
だがなのはは体力が無いので、泡立て器へと決まった。
今後、形状が泡立て器から麺棒になる可能性もある。

ちなみに、ドリルショットやトルネードバスター、スパイラルブレイカーなどの名前は彼女が考えている。
自分で考えた魔法を高らかに宣言するのが嫌な為、なのははそのまま使用している。

マスターであるなのはの事は、酒好きの駄目人間と評価している。
だが同時に、性根は良い人間だとも判断しているので、快く協力している。
毎朝なのはに、二日酔いに効く魔法を使用している。




スキル説明

魔法回転

初期にレイジングハートが発動時に回っていたため、そこから思い付いてなのはのレアスキルという事になった。
なのはが作り出した魔法は、ある程度の形状(魔法陣など)を形成した瞬間、全てが回転する。
一定の速さで回っており、速度を上げる事は可能だが、回転を止める事は不可能。
圧縮や集束をすると、自然と回転数は高まっていく。
この回転は、魔法の種類によっては、回転を止める事が出来る。
地面などの固定された場所を、魔法発動の基点として発動された魔法は、回転が止められる。
その代わり、何もしていなくても、うねうねと動くようになる。
これは何とか回転をしよう、という魔法側の足掻きである。
だがこの回転は、ディバインシューターのように、通常時では石を弾く程度の弱い回転しかない。
そのため、実体化する程に強く固められたバリアジャケットなども、回転は止められている。
そして、この回転は、あくまで魔法にしか作用しない。
魔法で生まれた効果までは回転しないのだ。
つまり、魔法自体は回転しているとはいえ、回復魔法や封印魔法などは普通に発動する。
なおこの回転は、回転しやすい円盤形や球形、ドーナツ型の時などに回転が速くなる。
円筒形はその次。




アルコール変換資質

感想で書かれて実現した物。
なのはは通常時でも魔力が枯渇しない程膨大な為、それが今更無限になっても構わないだろうとの事で実現した。
摂取したアルコールは全身を巡り、リンカ―コアへと到達する。
そしてリンカ―コアが回転し、アルコールを材料とした魔力の生成が瞬時に始まる。
アルコールはなのはにとって、大気中に漂う魔力素よりも変換効率が良い。
一本のワンカップに含まれるアルコールからでも、トルネードバスターを一回撃てるだけの魔力が生成される。



カロリー変換資質

余剰カロリーを魔力へと変換する資質。
アルコール変換資質の陰に隠れているが、これも立派になのはの体型を維持する効果がある。



永遠の若さ

この魔法は、地球に移住し、魔力を必要としなくなったアルハザードの人間が発明したもの。
魔力を使用して、全身の細胞を活性化させ、その状態の若々しさを保つスキル。
若さは見た目だけでなく、体内にも効果を及ぼす。
そのため、なのはの肝臓は綺麗なまま。
時限爆弾的なモノであり、身体が完全に成長し切った後に自動的に発動する。
20~25歳の間に発動し、その状態を保とうとする。
この魔法は、無意識的なものであり、なのはには制御が出来ない。
そして、魔力が眠っている者には完全な効果を発揮せず、徐々に年老いて行く。
これは若さを保つためだけの魔法なので、体型を維持する効果は無く、鍛えなければ相応に筋力も弱って行く。
寿命も人並み。ただ見た目が若いだけである。
なお、発動にはAランク程の魔力量が必要。



リンカ―コア成長限界(壊)

後天的なもの。
成長限界とは、魔力貯蓄容量、魔力生成量などが成長する限界の事。
成長した所で来るはずだったその成長限界が、なのはは度重なる飲酒によって破壊されている。
そのためなのはは、アルコール変換資質によって生成された魔力を、際限なくリンカ―コアに溜めている。



利き酒

一度飲んだ酒は忘れない。
匂いを嗅げば判別する事が出来る。



酒占い

酒を飲み、全身の感覚を鋭敏にする事で、明日の天気が分かる。
直感も上がる。





なのはの魔法

二日酔いを治す魔法

使用頻度 極高

本来は体調を整える為の魔法。
なのはが何よりも魅力を感じた。
これのおかげで休肝日を作らなくなった。



回復魔法

使用頻度 低

傷を治す魔法。
表面的な外傷には効果を発揮するが、人体の知識などがなのはには無いので、病気を治す高度な魔法は使えない。



封印魔法

使用頻度 中

ジュエルシードや駆動炉の核を封印した魔法。



飛行魔法

使用頻度 中

空を飛ぶ魔法。
なのはは主にこちらを使用している。
だがあまり飛ぶのは好きではないらしい。



フライアーフィン

使用頻度 極低

靴から光の羽を生やして空を飛ぶ魔法。
もの凄く恥ずかしい上に、羽が削られると機動力も落ちるので、以降はただの飛行魔法を使っている。



フラッシュムーブ

使用頻度 中

高速移動魔法。
直進的に移動するには速いが、方向転換を含めて続けて使うと、身体に負担を掛ける。
そのため、本編中でぎっくり腰になり、以降はあまり使われなくなった。



ラウンドシールド

使用頻度 中

円形の魔法陣による盾を形成する魔法。
魔法攻撃には、こちらの方で対処した方が安全。
回転の影響を強く受けており、フル回転させる事で、フェイトのフォトンランサーを弾く事が出来る。
しかし、一方向しか守れないので、フォトンランサー・ファランクスシフトには対抗できない。
暑い時の扇風機や、陶芸の時のろくろに使える。



プロテクション

使用頻度 極高

本編中、戦闘で最も使用された魔法。
四層構造になっている。
なのはが壁をイメージして作ったため、陸上では回転しない。
実は層が互いに反発して、発動した時から壊れかけている。
それを魔力を大量に注ぎ込んで壊れる端から修復し、強引に魔法として成立させている。
そのため、400万という数値が計測された。
物理攻撃に高い耐性を持ち、魔力攻撃も簡単なものなら弾ける。
様々なバリエーションがあり、半球のドーム状のサークルプロテクション、球形に張るスフィアプロテクションなどがある。
特に、サークルプロテクションは弾く面を内側に設定する事で、相手を閉じ込める擬似的な結界にも出来る。



チェーンバインド

使用頻度 低

非殺傷設定 可

鎖を形成して、相手を拘束する魔法。
地面から伸びた時は回転していなかった。
空中で形成した場合、鎖の輪がそれぞれ回転を始めるので、チェーンソーになる。



リングバインド

使用頻度 低

非殺傷設定 一つだと可、複数だと不可

ドーナツ型のリングを形成して、相手を拘束する魔法。
だが、全部回転しているため、この魔法で相手の四肢を拘束すると、捻じ切れてバラバラになる。
そのため、大きな環を一つ作るか、手足の一本だけの拘束ならば非殺傷になる。
陶芸の時は、器を外から押さえる手の役割を果たす。



ディバインシューター

使用頻度 高

破壊力 低

使い勝手 良

非殺傷設定 可

威力 C~AA

光の球を作りだし、誘導操作弾として撃ち出す魔法。
なのはが初めて、非殺傷で使えると判断した攻撃魔法。
名前はユーノが言っていたものなのでそのまま。
通常時は、小石が弾かれる程度の回転しかしていない。
しかし、やろうと思えば螺旋丸を、複数同時発動出来る。
現在、一度に操作出来る数は10個。
操作は面倒だが、殺傷する危険が無いので、使い勝手は良い。
誘導や操作を切り捨てて、ばらまくだけなら幾らでも出せる。
これで弾幕ごっこも安心である。
ちなみに、ばらまいた中に、誘導操作弾を混ぜる事も出来る。
陶芸の時は、内側から粘土を押さえる手の役割を果たす。



ドリルショット

使用頻度 高

破壊力 中

使い勝手 普通

非殺傷 低威力により可

威力 B~AAA+

レイジングハートの先端を切り離し、射出する攻撃魔法
初期は全力で撃っていたが、フェイトとの最終決戦の時には手加減出来るようになっていた。
そのため、バリアを張ればガード出来るレベル。
一度に同時に撃ちだせる数は四つ。
撃ちだす時に、切り離した先端に、別の魔法を一つだけ込める事が出来る。
込めた魔法はインパクト時に発動する。
全力で撃つと、貫通性が一番高く、まさに「抉り抜く」攻撃となる。



トルネードバスター

使用頻度 低

破壊力 高

使い勝手 最悪

非殺傷設定 無意味

威力 AAA~SS

ディバインバスター改。
先端に集めた魔力球を、レイジングハートと回転のスキルでかき回す。
その乱回転を加えた魔力球を四つに分け、四つの別の回転が生まれた砲撃四本を、纏めて同時に撃ち出す攻撃魔法。
撃ち出された砲撃は、蛇のように絡み合いながら、一本の砲撃となって直進する。
ドリルショットが「抉り抜く」攻撃なら、トルネードバスターは「削り飛ばす」攻撃になる。
たとえ非殺傷にしていても、回転によって相手は削られていくので、非殺傷は無意味となる。
この魔法は使い勝手が悪く、発動までに魔力抽出→魔力球形成→圧縮→回転追加→放出という工程を踏む為、5秒ほど時間が掛かる。
そのため、動く物に向けて撃つ事はまず無い。
発動部分を一つに減らして撃つ事で、手加減らしきものは出来る。
だが、元々圧縮して撃ち出しているので、減らしてもあまり意味が無い。



スパイラルブレイカー

使用頻度 低

破壊力 極高

使い勝手 悪

非殺傷設定 威力により可

威力 D~∞

スターライトブレイカー改。
大気中に散らばった魔力を掻き集め、集束して回転を加えて撃ち出す攻撃魔法。
集められるのは魔力であって、魔力素ではない。
そのため、大気中の魔力の薄い普通の状態で撃っても、威力は限りなく低い。
この魔法の特徴は、戦闘が長引けば長引くほど、場に散らばる魔力が増え、威力が高まっていく事になる。
使う魔力は周りにあるものであり、自分の魔力は魔法の維持と制御にしか使わなくて済む。
そのため、トルネードバスターより使い勝手は良くて魔力消費も少なく済む、実は楽な魔法なのである。
勿論、集めた魔力に、自分の魔力を込める事も出来る。
その場合、その砲撃は全てを消し飛ばす攻撃へと変わる。
自分の魔力を使わず、周りから集めた魔力を使うのは、相手の実力に合わせて威力を調整するためである。
人に向けて撃つ場合は、まず相手をプロテクションで閉じ込め、バインドでその上から動きを封じる。
そこにスパイラルブレイカーを当てて、相手をインパクト時の衝撃と、迫り来る恐怖で気絶させる方法を取る。
フェイトとの戦いでは、「本気でやる」となのはは言ったため、恥ずかしいのを我慢して呪文を詠唱した。
詠唱は下に記す。


「彼の者に 破砕の光を 星よ集え 全てを捻じ切る力となれ 貫け 閃光 一撃必倒 スパイラルブレイカー」


ちなみに、人に向けて撃つ時の掛け声は一撃必倒であり、一撃必殺ではない。
これは、相手を殺したくないというなのはの思いから、そういう掛け声になった。
全力で撃つ場合は、掛け声が全力全開になる。



なお、本編には登場していないが、「サイクロン」「ハリケーン」などの名を冠した魔法が、存在するかもしれない。






これでなのはさんの設定は終わりです。
多少は笑って頂けたでしょうか?

喫茶店をやるには、あれだけの資格があれば大丈夫なんでしょうか?
足りないなら追加しますけど。

それにしても、やりすぎた気がしないでもない。
こんなに多くなるとは思いませんでした。
設定考えるのも結構楽しいですね。


防火管理者の資格、追加しました。
EMAHON様、ありがとうございます。

flanker様
そちらの方が良いと判断したので、そうする事にします。
ありがとうございました。

宝くじのところを少し修正しました。



[10864] 設定集 海鳴の人々
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb
Date: 2009/09/14 08:02



高町美由希


称号 本編最強

スキル 御神流師範、永遠の若さ(偽)、AT免許、司書



40歳。
称号通り、本編中で最強の人。
なのはでも勝てない。
かすり傷さえ負わせる事が出来ない。
本気でやったら魔法を使う暇さえ無く、使ってもすり抜けて攻撃して来るので、なのははあっさり殺されるだろう。
魔力を持っていないため、結界内に入れず、後半は出番がほとんどなかった。
だが、結界を認識出来れば、切る事も可能なはず。
一話の時点ではヤンデレ設定だった。
二話以降もその設定はしばらく生きており、恭也の名前を聞くと病む予定だった。
だが、なのは達が意図的に言葉にしないように気を使っていたのか、一度もその設定は使われなかった。
なのは以上に嫁き遅れの人。
でも見た目はまだ若い。

料理が壊滅的に駄目と思われているが、普通に作れる。
アニメではA'sで桃子が腕を上げたと褒めているので、料理が特別出来ない訳ではない。
ただ、なのはや桃子と比べると、どうしても見劣りするだけである。

AT免許を持っているが、正直自分の足で走った方が速いと思っているため、ただの身分証明書にしかなっていない。

仕事として、読書好きが高じて、図書館で司書をやっている設定。
初期の頃は、同じ司書だったはやてと一緒に、なのはの代わりに海鳴温泉に行くネタもあった。


スキル

御神流師範

正式名称「永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術」
小太刀二刀を主に使い、鋼糸と飛針も使う。
美由希はもの覚えが悪かったものの、才能は天賦の才がある。
恭也の隅々まで気の行き届いた訓練により、その身体は40歳とは思えないほど引き締まっている。
飛んでくる銃弾を、目視した後に避ける事も可能。
美由希はこの流派を極めているので、師範を名乗っている。
本編で小太刀を使った戦闘シーンは、結局出て来なかった。
これは武器を抜く事を前提としているが、出来る限り抜きたくないという思いの表れと考えられる。



永遠の若さ(偽)

限界まで鍛え上げた肉体を持っているため、未だ若々しい肉体を手にしている。
それとは別に、なのはが「永遠の若さ」スキルも僅かに関係している。
なのはが使用するはずだった魔力だが、酒によって必要以上に生成されたため、余剰魔力を周りにまき散らしていた。
美由希はそれを、一番近くで浴びていた事も理由の一つである。
(偽)なのは、美由希はアルハザードの人間の血を引いておらず、そのスキルを持っていないから。
だが、例え(偽)であっても、見た目が若いという事だけが重要なのだ。細かい事は気にしなくてよろしい。




高町桃子


称号 翠屋のパティシエール、永遠の17歳

魔力量 A+

魔導師ランク 無し

スキル 永遠の若さ、調理師、製菓衛生師、食品衛生責任者



56歳。
高町家のヒエラルキーの頂点に君臨する人。
海外で武者修行をして一流のパティシエールになった。
彼女の作るシュークリームは絶品であり、未だになのはも真似出来てはいない。
しかし、ショートケーキはなのはの作った方が美味しいと認めている。
なのはと互いに競い合って、新しい味を作る事が楽しみ。
大阪出身であり、はやての親と従妹。


スキル

永遠の若さ

なのはが同じスキルを持っているのは、桃子からの遺伝である。
彼女もアルハザードの人間の血が流れている。
桃子の魔力量は、本来はA+だが、ユーノはEもしくはF程しかないと言った。
それは、このスキルが常に発動しており、ユーノの感覚では、それだけの魔力しか感知出来なかったからである。
この僅かしか魔力がないように見せて、無力で周りに溶け込むのが本来の機能である。
アルハザードの人間は、地球人に溶け込む為、多すぎる魔力は逆に邪魔だったのだ。
なお、本来永遠の若さを保つこのスキルだが、桃子のスキルは不完全だった。
その理由として、魔力が眠っていたからであり、桃子が魔力の存在を知らなかったからである。
それが本編中では、小じわという形で現れていた。
そのままゆっくりと老いて行くはずだったのだが、ユーノの念話によって魔力が目覚める。
それによってスキルが完全になり、本編で小じわが消える事となった。




高町士郎


称号 翠屋の店主、

スキル 御神流師範、防火管理者



60歳。還暦である。
高町家で一番権力が弱い人。
御神流は師範までいったものの、事故で引退している。
それでもなのはより強い。
コーヒーを淹れるのが上手く、なのはのコーヒーは士郎の味を受け継いでいる。
ユーノに色々格好良い事言った割に、活躍の場は全て美由希に取られている。
ちょっと腰痛に悩まされている。


スキル

御神流

美由希とあまり変わらないので割愛。




アリサ・バニングス


称号 大企業の社長、ツンデレ女王

スキル 帝王学、交渉術、勘違い、その他諸々



32歳。
既婚。
なのはの幼馴染。
一話でなのはに難題を持ちかけ、そのせいで再会した時に勘違いした女性。
全国を飛び回っており、なのは達とはあまり会えなくなっている。
各地から色々な酒をなのはに送っている。
それはなのはが喜ぶ事を知っているからであるが、他の意味もある。
なのはは際限なく飲む事が出来るため、放っておいたら海鳴全部の酒を飲み尽くしかねないと思っている。
そのため、珍しい酒を餌にして、なのはがあまり飲まないようにしている。
その酒が珍しければ、なのははそれを長く味わおうとするので、結果として酒量が減るという結論に達したからだ。
結婚しているが、その相手は、常にアリサの傍にいた秘書である。
今も一緒にあちこちを飛び回っている。



スキル

帝王学

金持ちの家の娘として生まれ、小さいころから叩きこまれたもの。
淑女の嗜みは心得ている。



交渉術

社長として、他の企業との交渉は特に強い。
日常ではあまり使用されない。



勘違い

キャラクター的にも良くある勘違いスキル。
これのお陰で、フェイトの話が出た時、なのはは死にかけた。



その他諸々

車の運転技術などから、相手を貶める策謀まで幅広く修めている。
その全ては説明が出来ない。




月村すずか


称号 月村家当主、腹黒、夜の女王

スキル 色々



32歳。
既婚。
なのはの幼馴染。
月村の家に良くいる。
昔と比べて、とても強かになったと言われる。
腹黒で何を考えているか分からないとも。
今も彼女の屋敷は、猫がたくさんいる。
結婚しているが、相手とは互いに一目ぼれだったらしい。
一番結婚が早かった。
その相手はなのはが屋敷に呼ばれた時は、丁度不在だった。
正確には、不在だったからなのはが呼ばれた。

アリサになのはの店が壊れた事を教えなかったのは、既に知っていると思っていたため。
自分が掴んでいるのだから、アリサも知っていると考え、わざわざ教えなくても、直ぐに帰って来るだろうと思っていたから。
別に深い意味など無かったが、日頃の行いのせいか、信じてもらえない。



スキル

色々

すずかのスキルに関しては、そのほとんどが謎に包まれている。




八神はやて


称号 謎のタクシー運転手、八神家当主、海鳴の母、裏の主人公

魔力量 ???

魔導師ランク 無し

スキル 直感、公道最速理論、送迎最速理論、ドライビングマスター、母の愛、永遠の若さ
    個人タクシー資格、MT・AT車その他各種車の免許



31歳。本編中に32歳になったらしい。
裏の主人公とまで呼ばれた彼女。
間違われやすいが一人称は「うち」ではなく「わたし」
ひらがなにしたのは、なのはと区別する為。
初めは欠片も存在が無く、出そうと思っても名前だけの存在だった。
初期の頃の設定では、図書館で美由希と一緒に司書をやっている設定だった。
そのころは車椅子に乗っている設定だった。
美由希と温泉に行く話は、はやては車に乗っている時に事故に会い、その時の古傷が痛むので温泉で療養するという理由だった。

本編中で地の文がずっと運転手なのは、名前を呼ぶのがなのはしかいないためである。
そのなのはも、「八神さん」としか呼んでおらず、はやて自身も改めて名乗っていない。
そのため、「はやて」の名が出て来ていないから、ずっと地の文が運転手なのである。

闇の書に選ばれただけあり、かなりの魔力を持っていると思われる。
だが、本編で使用した様子は無く、どれだけの魔力が眠っているのか分からない。

昔は走り屋をやっており、豆腐屋と双璧をなす存在だったようだ。
公道最速理論のもう一つの完成形。

なのはとは親同士が従妹であり、彼女もアルハザードの血を引いている。
だがこの設定は、誰も気付いていない。



スキル

直感

危険を察知して避ける、もしくは危険から被害を最小に抑える事が出来るスキル。
移動を望む人がどこにいるかが、なんとなくで八割方分かり、丁度良いタイミングで向かう事が出来る。



公道最速理論

10年程前に走り屋だった頃、高橋涼介(頭文字D)から叩きこまれた理論。
これによって、最速を目指していた。



送迎最速理論

はやてが藤原拓海(頭文字D)に教わった荷重移動技術、高橋涼介から教わった公道最速理論。
そして、はやてが独自に蒐集した知識と技術によって、完成形に至った理論。
はやては、海鳴と周辺都市の地図を全て頭に入れている。
そして渋滞の情報や、その日の天気などによる道路のコンディション、その他諸々の情報を把握している。
それらを有効活用し、いかに客を安全に、かつ迅速に目的地へと運ぶ事が出来るかを実践しているスキル。
なお、某財閥令嬢専属運転手の鷹嘴さんとは関係が無い。
同じ送迎を目的としているためか、名前が同じになってしまったと思われる。
使用している車種、送迎するべき相手など共に異なる為、それぞれの理論には食い違いがある。
ちなみに名前の由来は、「疾風の如く、最速を目指して」という意味があるらしい。
名前がひらがななのは、母親が漢字だと「堅い感じがする」と言って、ひらがなに変えたそうだ。



ドライビングマスター

はやてが乗り物だと認識しているモノは、どんな物でも全て運転する事が出来るスキル。
だが車と自転車と、せいぜい手漕ぎボートくらいしか操作した事が無いので、その真価は発揮されていない。
ちなみに、ゲーム「電車でGO!」では、停止地点に寸分違わぬ位置で止められる。



母の愛

八神家の母であるはやてが所有するスキル。
肝っ玉母さんと言って良い。
このスキルの前では、家族は彼女を母と認めざるを得ない。



永遠の若さ

はやてにもこのスキルは受け継がれている。
同じ説明なので割愛。




八神はやて(IF)

称号 謎のタクシー運転手、車の王、クレイジータクシー、アルハザードの遺児、自重ww

魔力量 ???

魔導師ランク 無し

スキル 直感、公道最速理論、送迎最速理論、ドライビングマスター、永遠の若さ
    個人タクシー資格、MT・AT車その他各種車の免許



IF編で一度だけ登場した彼女。
いったいどうやって登場したのか、作者にも理解できない存在。
何故か魔法が使えない虚数空間の上も、重力に逆らって走り抜ける事が出来る。
壁走り、スピンターン、ウィリーなども可能で、高次空間内も走れる。
そこに魔法の力は介入しておらず、走れるのは彼女の桁外れの技術が故である。
そして、彼女ならアルハザードまで、鼻歌混じりに行って帰って来る事が出来る。
アルハザードの遺児の称号はここから来ている。
それだけ出来るなら、せめてアルハザードが関係している事にしないと、理不尽だからという理由である。

他に誰も登りきった事の無いトロパイオンの塔を、頂まで上り詰めた過去がある。
車の道を極めた車の王であるが、今は引退している。
王であるがゆえに、彼女は高校生ごときのトリックなど朝飯前である。
垂直の壁を、車で登りきる事も可能。
なお、彼女が車で活躍しまくったため、今の海鳴にはエア・トレックを履く者がいなくなった。
「どんなにがんばっても、車には勝てないんだ……」と諦める者が続出したからである。

フェイトはこのはやてに魅せられ、いずれは二代目となる予定である。


スキル

同じなので割愛。
だが、ヴォルケンリッターがいないので、母の愛だけは持っていない。




T(特別出演)


称号 寺生まれ

法力 ???

スキル 破ぁっ!



10年前の時点で、闇の書をも一撃で砂に変える力を持つ坊主。
だが、砂に変えただけなので、Tさん自身は逃げられたと確信していた。
その力は、今では父親の力を上回ったと言われている。



スキル

破ぁっ!

これで倒せなかったモノは、僅かしかいない。




ZUN(特別出演)

称号 酒神、酒の王



アンサイクロペディア参照。






これで本当に終わりです。
これからの事は、皆様がご自由にお考え下さい。




美由希とはやてのスキルを修正しました。


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