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[9514] 【習作】巻き込まれ型の典型(リリなのオリ主)
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/08/11 21:05
本作は魔法少女リリカルなのはの二次創作になります。所謂トリップモノというやつです。

原作をカナリと無視して書いている節があります。

流れとかめちゃくちゃかもしれません。

そして何より作者の趣味により特定のキャラへの優遇や不遇がみられます。

オリキャラが主人公です。ボンクラです。デバイスは毒舌です。

基本的にオリ主視点で話が展開していくので、どうしても原作キャラよりも前に出てしまう形なります。

そんなSSですがお気に召したら読んでやってください。



[9514] 第1話 「非日常の始まり」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/06/12 21:55
「目的はわかっているわね? デバイスの使用法でわからないことがあれば彼女に聞けばいいわ」

「ジュエルシードを集めてくればいいんだろ? 封印の仕方も聞けば教えてくれるのか?」

『ご希望とあらば今すぐお伝えしましょうか、マスター』

薄暗い明かりが僅かに射すだけの場所で三つの声が響く。

女の声が一つ、少年の声が一つ、そして少女の声が一つだ。

「いや――――そのときになったら教えてくれ。今聞いてもすぐに忘れる自信ありだ」

『情けないことを偉そうに言わないでください。このへぼますたー』

辛辣な物言いに男の顔が引き攣る。

「・・・・・・・これは本当におまえが作ったものじゃないんだよな?」

「違うわよ。私にだってどうしてデバイスがこんなに毒舌なのかわからないわ」

『それだけ私が高性能だってことです』

えっへんと身体があれば偉そうに胸を張ったであろう少女の声に少年がゲンナリとする。

「・・・・・・・とにかく行ってくる。敵はフェイトとアルフに任せて、オレはこっそりと回収に回ればいいんだろ?」

「そうよ――――――――あなたには期待しているわ」

「・・・・・余計なお世話かもしれないけどさ、それフェイトにも言ってやれよ」

「そんなもの必要ないわ。あなたとの契約に反しているつもりはないわよ?」

冷たい笑顔で、拒絶するような物言いに少年は諦めたように女から視線を逸らす。

「・・・・期待には答えよう」

その言葉を最後に少年の姿を黄金の光が包み、それが完全に消えた後には女が一人残された。






如月瑞樹は普遍的な高校生のつもりである。

かなり過激で乱暴でエキセントリックな幼少期を過ごしてきたが、今となってはただの学生。

少なくとも本人はそう自覚していたのだが――――何の因果か運命か、またしてもおかしなことに巻き込まれてしまったようだ。

バイトの帰り、急に通り道に現れた黒い裂け目に吸い込まれて気がついたら見知らぬ場所に立っていた。

そして現在、瑞樹の前には杖を持った女が冷たい笑みを浮かべている。

彼は友人に、おまえは巻き込まれ型だ、と常々言われており本人もそれを自覚していた。

・・・・・・・・だが、さすがにここまで理解不能な事態に巻き込まれるとさすがにどう反応していいかわからない。





「ようこそ、異世界からの来訪者」

「異世界・・・・・・?」

「あなたには二つ選択肢があるわ。私に協力するか、ここで朽ち果てるか」

いきなりか。

そして、それは断じて選択肢とはいわない。

選ぶ権利があるといっておきながら、事実上選択の余地が無い。

これはただの脅迫だ、と瑞樹は心の中で呆れる。

「私に協力しなさい。悪いようには「いいぞ」・・・・・・」

瑞樹の返事に今度は女が眉をひそめた。

「・・・・・・私が言うのもなんだけど、あなた正気かしら?」

「正気かって・・・・そもそもあの二つじゃ、他に選びようがないだろ」

「それは・・・・そうだけど・・・・」

女が言いよどんだ。

自分が無理難題を押し付けたことは自覚はしているようだ。

「なんだか知らないが協力はしてやる。だから情報をよこせ。オレは未だにちっとも現状が理解できないぞ」

歩いていたら吸い込まれて、気がついたら目の前にはコスプレっぽい女が立っていて、ここはどこかの研究所だった。

むしろこの現状を理解できたらそのほうが問題だと思う。

自分を脅迫している相手だろうがなんだろうがかまわない。

今はとにかく現状の情報がないと何も始まらない。

「とりあえず自己紹介しておこうか。オレは如月瑞樹。自分では割と普通の高校生だと思っている」

「高校・・・?それにしてはずいぶん小さいわね」

・・・・・・小さい?

そんなはずはない、と思う。

高いほうではないが、低いといわれるほど低いつもりも無い。

180cmはさすがにないが、四捨五入すればそのくらいはある。

どちらかといえば高いはずだ。

「・・・・・っ!!?」

なん・・・・だ、これ・・・・・。

瑞樹は近くにあった試験管に映る自分の姿を見て目を剥く。

鏡ほどの反射率ではないが、それでも自分の姿を確認するには十分だった。

「縮んでる・・・・?」

今の瑞樹はよくて小学校高学年、下手すればそれ以下の程度の身長しかなかった。

身体中を隈なく見渡したがどうやら小さくなっていることに間違いはない。

瑞樹は自分がけっこうな面倒事に首を突っ込んで――――いや、巻き込まれたことを自覚している。

しかし先ほどから起こっている事態は、彼の予想の範疇を軽く飛び越えてその上ループまで決めてしまっている。

今まで培ってきた経験が役に立たない。

今起きていることに比べれば、一昔前に戦車と砂漠をフルマラソンした記憶なんていっそ微笑ましい。

「まぁ・・・・いい。とりあえずあんたの名は?」

悩んでいても、わからないものはわからない。

考えたところで元のサイズに戻るわけでもない。

瑞樹は、とりあえずは深く考えないことにした。

「私はプレシア。プレシア・テスタロッサよ」






プレシアが瑞樹を召喚した理由は、協力者を求めてのことだった。

正確にいうと瑞樹を召喚したのは彼女ではなく、いつの間にか瑞樹が握っていた鍵(?)だそうだ。

言ってしまえば、鍵がたまたま召喚した瑞樹を利用しようとしているだけである。

プレシア曰く、瑞樹は鍵に選ばれたらしい。

『――――説明は以上です。ご理解いただけましたか、マスター?』

「一応・・・・理解はできたと思うが――――すまん、自信ない」

『つまりマスターはこの私にまた説明をしろと? マスターの乏しい理解力のせいでこの私が重労働を強いられる。なんて不条理で理不尽なんでしょう』

・・・・勝手によんでおいてその物言いと態度は不条理かつ理不尽ではないのか・・・・・?

アイリスフィールと名乗る毒舌デバイスに、瑞樹は心の中で突っ込みを入れる。

瑞樹は理解できなくて混乱しているのではない。

彼の記憶が正しければ、ここはリリカルなのはの世界だ。

プレシア、デバイス、その他もろもろのキーワードを聞いてピンと来た。

まさか自分自身が世間で言うところのトリッパーになるとは思ってもいなかったが。

魔法の存在も確かめた。

確固たる人格を持っているアイリスは恐らくインテリジェント・デバイスだろう。

それにしてはなのはやフェイトが持っているデバイスに比べて人間くさすぎる気もするが、こんなものだと納得するほかない。

理解はした。

だが今後どうしていいのかわからない。

とりあえずはおとなしく協力するしかなさそうだが、その後は?

プレシアのサイドは所謂犯罪者サイドだ。

原作ではフェイトとアルフはうまくとりなしてもらっていたが、イレギュラーである自分がどうなるはわからない。

何より持っている原作の情報を教えるべきか、否か。

・・・・・状況に流されるしかないか。

とりあえずはそう結論付けて瑞樹は理解したことを挙げる。

「要約するとここは異世界で魔法があって、プレシアはオレにジュエルシードを集めて欲しいわけだな?」

『ぶった切って言えばそういうことです』

わかってるじゃないですか、とアイリスが満足げに言う。

ぶった切りすぎだと思うが、余計なことはいわないでおく。

納得しているのだからいいだろう。

「プレシアの目的はわかった。詳細は後で詰めよう。おまえは?」

瑞樹はアイリスに向けて言った。

『・・・もしかして私にきいてます?』

「・・・・・おまえ以外に誰がいる」

瑞樹は『はぁ』とため息をつくと続けた。

「プレシアは目覚めたおまえがよんだオレを利用しようとしているだけ。だとしたらおまえにはおまえの、オレを召喚した理由があるんじゃないのか?」

『・・・・・・・・・』

瑞樹の質問にアイリスは黙ったままだ。

・・・・・別に変なことはきいてないよな。

『・・・・いえ、特にこれといっては・・・・』

「・・・・・・・・・・は?」

瑞樹は今度こそ本気で脱力しそうになった。

「すると・・・なんだ。アイリスはオレにして欲しいことなんか何もないってことか・・・?」

『そうなります』

「そうなりますじゃねぇよ。だったらおまえは何でオレをよんだ?」

『何故だかわかりませんが急に目が覚めてしまって、起きたからにはマスターが欲しいなー、なんて思って適当に覗いた世界にあなたがいたものですから、この人でいいや、えいっ――――と』

「マテや」

瑞樹は可愛らしく『えいっ』なんていっているこのデバイスを海に捨ててやろうかと思った。

つまり瑞樹は適当に目に付いたから、などという適当な理由で連れてこられたことになる。

「誰でも良かったってことかよ・・・・」

『それは違います』

脱力する瑞樹にアイリスは即座に否定する。

『素質のある人間しか私の召喚に応じることはできません』

「・・・・・・・・・・・素質って?」

もはや疲れきった瑞樹がなんとか質問を返す。

『魔力を持っているか、魔術を上手く使えるかなんてことは当然として、何より力を求める強い意思が私のマスターになるための最低条件です』

瑞樹はハッと顔をアイリスに向ける。

心当たりがあった。

力――――それは何より望んだもの。

何かを得るために、何かを守るために、それは絶対に必要なモノだ。

常に強く不屈の勝者でいろ。

まだ幼かったころ、瑞樹はそう強く何度も言い聞かせられた。

それは瑞樹が強く実感し、ひどく共感した言葉でもあった。

『マスター。あなたは力を望みますか?』

「・・・・・・・・・・オレは」

力が手に入るなら。

今度こそ負けない力が手に入るなら、オレは――――――――。

「――――誰よりも、何よりも勝利が欲しい。そのための力が――――オレは欲しい」

『では契約を―――――我が新たなるマスターとして如月瑞樹をここに認めます。如月瑞樹、私をあなたの剣にしていただけますか?』

「ああ――――認めるよ、アイリスフィール」







カッ――――眩い光が瑞樹とアイリスを包む。

『これにて契約は成りました。これからよろしくお願いしますマスター。くれぐれも私の足を引っ張らないでくださいね』

「一言よけいだ――――ってこれは、エクスカリバー・・・・?」

光が収まり、いちいち余計な一言を挟むアイリスに突っ込みを入れたところで、瑞樹は右手が握っているものとその先に輝く黄金の剣に気がついた。

まさしくエクスカリバー。

某運命の名を冠するゲームに登場するはらぺこ騎士王の剣そのものであった。

『エクスカリバーというのですか?マスターの中にあった最強の武器をイメージしたのですが』

ああ、なるほど。

瑞樹は納得した。

最強のキャラは誰かと聞かれればドラゴンボ○ルの誰かだが、最強の武器と聞かれれば今のところエクスカリバーだ。

一番最近に友人に借りたゲームなので、一番記憶に残っているし何より印象が強い。

「これってオレの中にあるイメージ通りなのか?」

『マスターの中にある剣をそのままイメージしました。能力もそのままのはずです』

つまり真名開放すれば敵をまとめて一掃できるし、鞘のほうを使えば最強の防御結界が展開できるわけだ。

しかも風王結界(インビジブルエア)で刀身が隠れているから不意打ちも可能だ。

「無敵じゃないか。すごいな、アイリスの能力は」

『当然です。マスターのへなちょこイメージからここまで強く再現して見せた私の能力に、深い感謝と強い尊敬の念を示してください』

「はいはい――――ってあ・・・・」

『どうしたんですか? そんなに間の抜けた顔をして』

この際アイリスの毒舌はおいといて、瑞樹は大変なことに気付いてしまった。

「オレって剣なんて持ったこともないなぁ・・・・・」

ナイフや包丁ならともかく、こんな西洋の剣など触ったことすらない。

つまり瑞樹はせっかくの武器があってもうまく使うことができない可能性大である。

「ハッハッハ・・・・・さてどうしよう」

『な、何を考えているのですか!? これではせっかくの剣も意味がないではないですか!!!』

「お、オレのせいかよ!?つーかイメージを勝手に実体化させたのはアイリスだろうが!!」

『そうですか。マスターは私のせいにするというのですね。こんなにも一生懸命になってあなたに奉仕しようとしている私のせいに・・・・。そうですね、私が悪いんです。まさかマスターが剣も使えないヘタレ野郎だとは思いもしなかった私が悪いんです。空が青いのもポスト赤いのも全部私のせいなんです・・・・・・・』

少し暴走気味のアイリス。

何やら変な方向にスイッチの入ってしまった彼女に、瑞樹は思わず―――――。

「いや・・・・その・・・すまん。オレが悪かった」

『そうですね。やっぱりマスターが悪いということにします』

「うぉい!!」

切り返しはやっ!?

「・・・・・・・もういいかしら?」

今までずっと黙っていたプレシアが口を開いた。

いきなり始まった漫才じみたやりとりに意味を見出せずに止めに入ったのだ。

「ただの人だったあなたにいきなり魔導師と戦え、なんていわないわ。それに実戦の前にそれなりの戦闘訓練は受けてもらうから安心なさい」

『良かったですね、ぼんくらますたー』

「ぼんくら言うなっ!!」

こうして瑞樹の異世界での生活が始まったのだ。

彼は元の世界に戻れるのか。

それとも戻る気がないのか。

「ところで―――これ、どうやってしまうんだ?」

『四次元○ケットにでも突っ込んでおいたらどうですか?』

とりあえず、どこにいようと瑞樹の人生に平穏の二文字はなさそうだ。







こんにちわ、クロロです。

お引越ししてまいりました。

改訂とかいいつつあまり中身が変わっていない摩訶不思議。

慣れるまで不思議な改行など、お見苦しいところをお見せするかもしれませんがご容赦くださればと思います。

でわでわ。



[9514] 第2話 「出会い・・・・空を自由に飛んでみよう」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/06/12 22:18
「フェイト・テスタロッサです、よろしくお願いしますっ。こっちは使い魔のアルフです」

「・・・・・・・・・」

なんかアルフに睨まれているような気がするが、それも仕方のないことだろう。

いきなり助っ人として現れた見ず知らずの魔導師をそう簡単に受け入れるはずもない。

「如月瑞樹、こんなナリしてるけど17歳。こっちは相棒のアイリス。魔法に関して全力全開で素人だから基礎から教えてほしい」

『私の紹介が少ないですよ。ちなみにへぼいのはマスターだけですので』

「へぼとか言うな・・・・・」

『こんな彼女いない歴=自分の年齢なマスターですが、なにとぞお願いします』

「大きなお世話だ!!」

「と、とにかくデバイスを起動させることから始めましょう」

そう簡単にできるのものなのだろうか。

瑞樹としては宇宙の始まりよりもよっぽど気になる疑問だ。

思わず手に持ったアイリスをじぃっと見てしまう。

『そんなに見つめられても、マスターのことは愛せそうにないです』

「そんな・・・・・って違う!!どうやって起動させるんだ・・・って珍しく真剣に悩んでたんだよ!!」

「け、けんかしないでくださいっ。ちゃんと教えますからっ!」

『ほら、フェイトさんに気を遣わせてしまったじゃないですか。反省しなさい、このダメますたー』

「おまえが・・・・いや、いい」

これ以上何か言ってもフェイトに気を遣わせるだけだろう。

それにこのままじゃれていては、いつまでたってもデバイスすら起動できない。

『まじめな話、指示をいただければ起動は私のほうで勝手にやります。マスターはバリアジャケットのイメージを描いてください。なるべく戦いやすいものがいいです』

「イメージねぇ・・・・自慢じゃないが、美術の成績は非常に悪かった」

真面目に書いた絵がピカソの再来だと言われて褒められた時は軽く死にたくなった。

『本当に自慢になりませんね。その貧困な想像力を限界まで駆使して何か思いついてください』

そう言われても何も思いつけないから想像力が貧困だというのではないだろうか。

むしろよけい頭が真っ白になっていく。

落ち着け、と瑞樹は自分に言い聞かせる。

漠然とものを考えていても何も思い浮かばない。

ええい、この際なんでもいいだろう。

「・・・・・・・・いいぞ」

『ではいきます』





カッ――――瑞樹を黄金の光が包み込む。まばゆい光が薄暗い結界内を照らした。

光が収まると、そこには―――黄金の剣を携えた白い騎士がいた。

白を基調とし、蒼いラインが刻まれたバリアジャケット。

肩全体を包むようにして、足元までをも覆う白い外套。

頭部全体を覆う表情の読めない仮面。

そして何よりも、

「オレ、でかっ――――――!?」

どうにも視界が高いと思っていたら、小さかった自分にさようなら、いつの間にか瑞樹は一分の一スケールに完全復活を遂げていた。

『・・・・マントが邪魔そうですね』

「オレがでかくなったことにはノータッチですか!?」

「そうですね・・・少し邪魔そうかも、です」

「腕とか出しづらくないかい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

本人を除く全員に身長のことをスルーされ、瑞樹は自分の身長について何か言うのを諦めた。

祝、身長を取り戻しました記念パーティーを開きたかなるくらい嬉しかったのだが。

「腕は・・・別にそうでもないな。剣を振り回しても問題なさそうだな」

腰に差してあった鞘から剣を抜き、ブンブンと振り回してみる。

「・・・・邪魔にはならないけど、これで戦うとなると少し重たいな。すぐに疲れそうだ」

振りぬいてモタモタしているうちに撃ち落とされて終わりそうである。

『運動不足ですね。なんて手のかかるマスターでしょうか』

「使えないねぇ・・・・」

「あ、アルフ・・・・」

使い魔をたしなめるフェイトの優しさにぐっときたのは秘密だ。

「文句、言うだけなら簡単だぞ・・・・どうにかならないか?」

『強化魔法を使います。魔力で強化すれば、運動不足のもやしっ子でも腕相撲の世界チャンピオンが目指せますよ』

「それは、遠まわしにオレが運動不足のもやしっこだと言いたいのか?」

『よくわかりましたね。因みに遠まわしではなく限りなく真っ直ぐに伝えたつもりです』

「うぉい!!」

アイリスの物言いは少し・・・いや、かなり気になるが、きりがないから放置しておく。

それにしてもこれでようやく準備が整った。

「とりあえず・・・・・もう空とか飛べたりするのか?」

『飛べるわけないでしょうが』

・・・・・・先は長そうだが。





魔法―――それは当たり前ながら、瑞樹にとって未知なる領域である。

今までまったく魔法というモノに触れてこなかった瑞樹に、付け焼刃な戦闘技術だけでは実戦に出ても死ぬだけである。

だからとにかく逃げることを最優先した。

空を飛べれば行動範囲はグンと広がる。

それだけ敵から逃げられる確率も上がるだろう。

だから順序がいろいろと間違っていても、飛行魔法を教えようとしたのだが―――――――。

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ・・・・!!!」

『マスター・・・ちっとも浮いてません』

「いや、今ほんの少しだが浮遊感が『気のせいです』・・・・・さいですか」

――――――ちっとも上達しない。

アルフは飽きてどこかに行ってしまった。

「少し、休憩しましょう?」

フェイトはそう切り出した。

「ん、ああ・・・・・・ふぃー、疲れたぜ」

『何を一仕事終えましたー、みたいな顔で浸ってますか。心地よい疲労感に身を任せるのは一ミリでも浮いてみてからにしてください』

「そう簡単に言うなよ。これが今まで触れたことのない感覚で、なかなかに掴みづらいんだよ」

『当たり前です。それを踏まえた上でさっさと上達しろと言っているのです』

「・・・・・厳しいねぇ」

例えば、はやく走れるようになるためにはどうしたらいいか。

答えは至極簡単――――速く走れるように、走るという行為を繰り返せばいい。

肺活量が増え、筋力が増え――――理由は多岐に渡るだろうがいずれさらに速く走れるようになる。

ならば、どうやって走ればいいのか。

こんなことを真面目に質問する者はいないだろう。

人は成長の過程で自然と走れるようになる。

速く走るための術を自然と学ぶからだ。

魔法も同じ。

魔法を上手く使うためには、もっと魔法を練習すればいい。

ならば、どうやって魔法を使うのか。

もし瑞樹がミッドチルダ出身で、魔法という存在を常識の一部として触れてきたのならば、それは愚問なのかもしれない。

しかし、違う。

瑞樹はつい先日まで何の変哲もない一般人Aだった。

初めて自転車に乗ってバランスが上手くとれないのと同じだ。

未知なる感覚に、身体がついていかない。

「・・・・うーむ・・・・難しい」

瑞樹は仮面をはずすと、額の汗をぬぐう。

転がした仮面が乾いた音をたてた。






フェイトは目の前で難しい顔をしている瑞樹をぼうっと見ていた。

母親に紹介されたジュエルシード集めの人手。

彼に魔法を教えてほしいと頼まれた。

プレシアが言うには、異世界からやってきた都合のいい駒。

それが瑞樹だった。

他ならぬ母親の頼みだ。

会うのは今日が初めだが、断れるはずもない。

第一印象は不思議な人、だ。

魔法のない世界から来たというのに、やけに落ち着いている。

魔法という存在に驚いた様子もない。

それどころか、彼のデバイスであるアイリスとじゃれ合う余裕さえある。

未だに難しい顔で唸っている瑞樹を知らず知らずのうちにじっと見てしまう。

瑞樹についてほかに何も聞いていない。

だからなのか、フェイトは自然と瑞樹の名前を呼んでいた。

「瑞樹さん」

「ん?」

反応は早かった。

無意識のうちにかけた言葉だったから、思わぬ返事のはやさにフェイトは慌てた。

「い、いえ・・・なんでもないです」

「そうか?言いたいことは言ったといた方がいいぞ。ため込むと体に悪い」

「なんでも、ないんです」

あなたのことが少し気になりました、なんて恥ずかしくてとても言えなかった。








「さて、休憩終わり。さっさと空を自由に飛ぶとしようか」

『私もいい加減に飽きてきました。あと2秒以内に終わらせてください』

「いや、無理だから」

散歩にすら飽きたアルフは、フェイトの傍らで瑞樹を観察している。

「あ、そうだ。フェイト先生に一つ質問」

「せ、先生・・・・な、なんですか?」

「魔法を使うときってどんな感じになる?」

「感じ、ですか・・・・神経が研ぎ澄まされるような、そんな感じです」

「あたしは身体が熱くなってくるね。こう、カーってさ」

二人の、正確には一人と一匹のアドバイスによると、魔法とはやはり感覚的なモノであって説明はなかなかできないものらしい。

「(とりあえず気張らずに集中してやってみるか・・・・・)」

言うほど簡単ではない。

集中、何に対して集中するのかといえばそれは自分自身。

自分の中にあるリンカーコアの存在を意識的に追ってみようとする。

ドクン―――ドクン――――。

これは心臓の音。

魔力の源ではない。

探せ。

あるはずだ。

探せ。

アイリスと契約できたのならば、この身体のどこかに魔力が――――――。

・・・・―――・・・・―――――――・・・・

あった。

瑞樹が立ちつくしたまま動かなくなり、しばらくした後に変化が訪れた。

「魔力が・・・・・」

初めに気づいたのはフェイトだった。

瑞樹から魔力が流れ出ている。

今まではその片鱗すら感じ取れなかったのに、ここにきて瑞樹は魔力を感じさせた。

『・・・・やればできるじゃないですか』

そう憎まれ口にように言うアイリスはどこか満足そうだった。

「う、浮いたよっ!!」

アルフが歓声を上げる。

瑞樹の体はゆっくりとだが確かに上昇していた。

「え、マジで!?っておおおおおお!?!?やっぱオレって天才・・・ッアダ!!」

「『「あ」』」

集中を途切れさせたせいか、瑞樹はあっさりと落下した。

「だ、大丈夫ですか・・・・?」

「まったく・・・少し見直したと思ったらこれだよ」

心配そうに駆け寄るフェイトと、やれやれと言った様子でフェイトに続くアルフ。

『ところでマスター、魔力の存在は感じ取れましたか?』

「ああ・・・・・これが魔法を使うってことか」

落ちたというのに、瑞樹の声はどこか満足そうだった。

あれはもうだいぶ昔、何階転んでも懲りずに自転車の練習をしていたある日、誰の手も借りずに少しだが前に進むことができた。

そのときも、こうやって倒れたまま空を仰いだ。

この満足感はあの時のものに似ている。

自分が少し大きくなったような気がした。

自転車で走った先には自分の知らない世界があった。

「魔法は、オレにどんな世界を見せてくれるんだろうな・・・・・少し楽しみになってきた」







「・・・・・・・すまん、もう一回言ってくれ」

「これが今日の晩御飯です」

フェイトがそう言って差し出したのは――――カロリーメイト。

その大きさからは信じられないようなカロリーを秘め、最近では好みに合わせていろんな味が楽しめる、災害時と緊急時の友。

因みにフェイトの手に乗っているそれはミックスフルーツ味、そしてそれは本日の晩餐のメインディッシュらしい。

「晩飯が・・・・カロリーメイト一つ・・・・・?」

瑞樹にとっては料理の師匠となる、前の世界にいたときのお隣さんのヒゲ爺に強制され、より美味く、より栄養価が高く、よりバラエティーに富んだ食生活を営んできた瑞樹からは考えられないほどの暴挙。

仮に彼の師匠がこの場にいたら、瑞樹は夜空の星の仲間入りを果たしたに違いない。

茫然自失とは正にこのことか、といった具合の瑞樹にさらなる追い討ちがかけられる。

「何を驚いてんのか知らないけど、フェイトはこれのときが多いよ?」

狼に戻ったアルフがドッグフード齧りながら言った。

「んなっ・・・・・・」

さらに愕然とする瑞樹。

犬の分際で人間様よりいいもの食ってやがる・・・・って違う違う。

「ちゃんと栄養は取れてますし・・・・あ、それにいろんな味があるんですよ?」

そうじゃない。問題はフレーバーじゃないんだッ・・・・・!!

『・・・・・・マスター?』

黙り込んでしまった主に珍しくアイリスが心配そうな声を掛ける。

「ふふ・・・・ふは・・・・ふはは・・・」

「み、瑞樹さん・・・・・?」

茫然として黙り込んだと思ったら、急に笑い出した瑞樹にフェイトは言いようのない不安を覚える。

「フェイト!!!」

「は、はい!?」

急にガバッと肩を捕まれ、フェイトは思わず身を縮める。

「オレが真の食事ってものを教えてやる」

「は、はぁ・・・・・・」

いきなり何をいいだすのだろうか、この人は。

夕食は何かと聞かれたから、その簡易性から自分が割と好んで食べているものを出したのだが、間違っていたのだろうか。

そもそも栄養を補給するだけなのに、真も偽もあったものではないと思う。

「少し外に出てくる。30分くらいで戻るからおとなしく待機しているように!!」

「え、あの、瑞樹さん・・・・?」

「アイリス、一番近いスーパーは何処だ!?」

『ポイント209 220 339 です』

「わかるか!!」

『マスター、お金は大丈夫ですか?』

「余裕だ!」

トリップしてきたときにポケットに入っていた財布には幸いなことにそれなりの金があった。

同じ通貨でよかったと思う。

「行ってくるぞフェイト!!」

そういい残して瑞樹は荒々しく部屋を飛び出していった。

「あのっ・・・・どこに・・・・・?」

フェイトの疑問に答えるものは生憎いない。

残されたのは困惑するフェイトと唖然とするアルフと、嵐が去った後のような静けさだけだった。






「ただいま!」

『お帰りなさいませ』

きっかり30分後に帰ってきた瑞樹は、両手に抱えたビニール袋をそのまま台所まで運ぶ。

アイリスのボケにも反応せずに、戸棚を開けては閉め必要な道具が揃っているかを確認する。

小奇麗な台所は使われた形跡が一切なかったが、それでも調理をする最低限の道具は揃っているようだ。

「この材料と・・・・調理時間から考えると・・・・・くっ・・・・」

買い時を逃したのが痛かった。

特売なんてとうの昔に終わっていたし、主婦という名の夕刻のハイエナに襲われたスーパーには碌な物が置いてなかった。

『マスター、この状況だとカレーが適切かと』

「それしか手がないとは言え・・・たった一品、しかもそれがインスタントだとは・・・ノォウッ!!!」

カレールーを手に天を仰ぐ。

何故かアメリカン風味に。

瑞樹は基本的にカレールーを使わない。

自分で買い集めたスパイスを調合してルーを作る。

忙しくてどうしようもないときのために、バーモ○ドカレーはストックしているが、結局は使わずじまいの場合が多い。

今はまさに忙しくてどうしようもない時ではあるが、躊躇われるものは躊躇われるし、嘆きたくなる気持ちは抑えられない止まらない。

『本格的な買い物はまたにして、今日はカレーで手を打ちましょう。それに誰が作っても同じような味になるインスタントだからこそ、料理人の腕が問われるのではないですか?』

「ああ、今のオレたちに選択の余地はない」

微妙に息のあった二人に、フェイトは未だにどうしていいかわからないでいる。

そもそもこんなに息があった二人をフェイトは見たことがなかった。

会ったばかりだが、いつもはアイリスが瑞樹をからかって、それに瑞樹が突っ込みをいれるか、疲れた反応を示すかのどちらかだったはず。

いったい自分のいない30分で何があったのだろうか。

フェイトは助けを求めるようにアルフを見るが、彼女の忠実なる使い魔は、これから瑞樹がすることに興味津々で他のことまで目がいかないようだ。

「至高のカレーを作ってやるぜ」

『その意気ですマスター』

――――――――こうして瑞樹の戦いは始まった。

瑞樹が台所でせわしなく動いているのを、フェイトとアルフは時間を忘れて見続けていた。

何をしているのかはよく見えなかったが、瑞樹はとても楽しそうで長く見ていても飽きなかったのだ。




「カレールー完成! 御飯は――――よし、時間通り!」

『マスター、スプーンが人数分見当たりませんがどうします?』

「そんなことだろうと思ってちゃんと買ってきた。パーティー用の使い捨てだが間に合わせにはなるだろ」

『いつの間にそんなものを・・・・・』

「おまえが魚肉ソーセージに気を取られている隙にな」

『なっ・・・! べ、別にマスターには関係ないでしょう?』

「ああ、この際スーパーどうでもいい――――っと盛り付け完了。フェイト~!」

一心不乱に瑞樹を見つめるフェイトに声を掛ける。

「は・・・はい、なんですか?」

はっと我に返ったフェイトは慌てて返事を返す。

「テーブルと椅子ってある?」

「ありますけど」

「用意してくれる?オレとフェイトと、後アルフのも」

「わかりました」

なんだか分からないけど、とりあえずフェイトは瑞樹に言われたとおりテーブルと椅子を並べる。

アルフは先ほどから漂ういい匂いに、知らずと目がトロンとしていた。

瑞樹はすばやく配膳を済ませると、フェイトとアルフを座らせる。

「時間も材料もなくて納得のいく出来とは言えないけど、これが一般的に言う夕食ってやつだ」

「フェイト! これすごくいい匂いだよ!!」

アルフは興奮気味に彼女の前に置かれた皿を凝視している。

耳と尻尾が激しく動いていることから、その高揚感がわかるが――――――。

――――犬ってカレー食えたっけ?

『(大丈夫じゃないですか?・・・・・たぶん)』

「(おわっ!?・・・どこからともなくアイリスの声が・・・?!)」

『(これが念話というやつです。便利なのでこの際に覚えてください)』

「(これが念話か・・・・・)」

魔法とはつくづく便利である。

『(本来ならばタマネギがアウトですが、使い魔ですし大丈夫でしょう)』

「(これでアルフが死んだら、正直オレはどんな顔をしていいかわからないぞ・・・)」

『(笑えばいいと思います)』 

下らない会話――――念話だが――――をしつつまだ混乱気味のフェイトにカレーを勧める。

因みにお子様テイストに合わせて甘口だ。

「フェイト、とりあえず食べてみろ」

「は、はい、いただきます」

フェイトはスプーンを握り、おずおずとカレーを口に運ぶ。

「・・・! 美味しい・・・・」

目を見開くフェイトに瑞樹は、してやったりとばかりに口を歪める。

「カロリーメイトどっちが美味い?」

「そんなっ、比べられませんよ!」

こっちのほうが断然美味しいですっ、と力説するフェイトに瑞樹は笑みをさらに深くする。

「アルフは――――って聞くまでもないか」

アルフは周囲を豪快に汚しながら黙々とスプーンを口に運び続けている。

掃除は大変そうだが、あれだけ一心不乱に食べてもらえると、料理人としては嬉しいものがある。

「さて――――オレも食うか」

一通り反応を確かめた瑞樹はパーティー用のプラスティックで出来たスプーンを手に取った。

「お代わり!!」

早いなおい――――心の中で苦笑しながら瑞樹は二杯目を渡してやる。

「むぅ・・・・やはりバーモ○ドではこれが限界か・・・・」

瑞樹はカレーを咀嚼しながら呟く。

自分好みに味をアレンジできる自家製、と市販のレトルトを比べる時点で間違っていると思うが、彼としてはそんなこと理由にならないらしい。

『レトルトでこれだけの味が引き出せれば十分かと。私としたことがマスターを尊敬してしまいました。一瞬とはいえ一生の不覚です』

「褒めてんのか貶してんのかわからなねぇ・・・・・・・っていうかおまえ食ってないのに何で味が分かるんだ?」

『勝手ながらマスターと感覚をリンクさせていただきました。副作用はないはずですから心配はいりません――――たぶん・・・いえ、きっと』

「ちょっ・・・おまっ・・・!?」

『――――それよりマスター?目の前のお嬢さんが何か言いたそうにしてますよ?』

「目の前――――フェイト?」

「瑞樹さん・・・わたしにも・・・・・・」

顔を赤くして、少し恥ずかしそうに空になった皿を、瑞樹のほうに指でそっと押すフェイトに瑞樹は自然と口元が緩むのを感じる。

「オーケーオーケー。たくさんあるからな、いくらでも食べてくれ」

「瑞樹、お代わり!!」

「おまえは少し落ち着いて食え」

早くも二杯目を平らげたアルフに冷静な突っ込みを入れると、瑞樹はフェイトの皿に二杯目を、アルフには三杯目を盛る。

「これからはオレが食事を統括するからな。二度とカロリーメイトが夕食だなんて言わせないぞ。味気のなさそうなパンとスープのみってのも禁止だ。ついでにいうならパンを主食にする場合、ジャムはかならず三種類以上はテーブルに並べるぞ」

カレーを差し出しながら瑞樹はフェイトに長々と宣言する。

「え・・・でも、迷惑じゃ・・・」

やはりフェイトはどこか遠慮したように口ごもる。

「オレがそうしたいんだ」

瑞樹は笑顔でフェイトをまっすぐに見据え――――――。

「いいだろ?」

「よ、よろしくお願いします・・・・」

「ああ――――それと、その敬語はやめよう。オレのことも瑞樹さん、なんて呼ばなくていい。今のオレはこのナリだし」

「でも、瑞樹さんは私より年上です」

「まぁ・・・確かに一般的に年上には敬語を使うものだが、世の中にはかならず例外が存在するわけだ」

「例外、ですか?」

「確かにオレは年上だが――――オレたちは仲間だ」

――――――仲間―――――――

フェイトは初めて聞くその言葉の響きにくすぐったくなりながらも、それが胸を暖かく満たしていくのを感じた。

『マスターの言葉を分かりやすく説明するとこうなります――――確かにオレは無駄に歳食って、おまけに水をやり忘れたまま夏の終わりを迎えようとしている向日葵よりも精神的に枯れてはいるが、それでもフェイトには名前で呼んで欲しいんだ。呼んでくれないと大声で、それこそみっともないくらいに泣くからな――――以上です』

ご丁寧に瑞樹の声で、アイリスは独断と偏見とほんの少しの悪意に満ちた音声を吐き出す。

「・・・・人が珍しく感動的なことを言っているときに茶々を入れるなド阿呆」

――――――とにかく、と瑞樹はフェイトに向き直る。

「フェイトはどうか知らないけどさ、オレはフェイトを仲間だって思ってるんだ――――――――だからさ、遠慮したような喋り方はやめようぜ、な?」

瑞樹の屈託のない笑顔にフェイトは顔が熱くなるのを感じる。

フェイトはそれをごまかすように黙々と手を動かす。

そして――――小さな、本当に小さな声で呟いた。

「・・・・うん」

それを満足したように頷く瑞樹。

「瑞樹、おかわり!」

「もうねぇよ」

「!?!?」

「いや、そんなに驚かれても・・・・大半はおまえの胃袋の中に収まったよ」

「・・・・・・・・・・・・」

「ちょっとマテ・・・・なぜスプーンを片手にオレの方に近づいて・・・・・・・」

無言。

「なんか言えよ!?こ、怖くはないが、無暗に人にプレッシャーをかけるのはどうかと思うぞ・・・?!」

無言。

ただジリジリとアルフは瑞樹を壁際へと追い詰めていく。

「・・・・あ、アイリス、マスターのピンチだ!今こそデバイスがその役目を果たすと『ご冥福をお祈りしています』言い終わる前に見捨てられた!?」

しかもすでに死んだことにされている。

「あたしのカレーをかえせぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

「む、無茶いうなぁぁぁぁぁぁ!!!!・・・・ごふっ」






クロロです。

少し改訂しました。

しばらくは改訂しつつも小出しに、テンポよくいきたいと思います。

でわでわ。



[9514] 第3話 「DVなんて流行らないぜ、事はスマートに運びましょう」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/06/14 18:33
「昼間からこうやってダラダラしていられるなんて最高だ。こんな日がずっと続いてくれればいいのに」

心地いい日差しに照らされ、気持ちのいい風に吹かれながら、瑞樹はダメ人間の世界チャンピオンになりつつあった。

『マスターの過去を見る限るそれは無理だと判断します』

「そう言うなよ。むしろこれまで激動の日々だったんだから、これからは老後の猫のように過ごしたい」

『バナナに滑って転んでそのまま死んでください』

「いや、さすがにそれは・・・・・」

己のマスターを罵倒しながらもアイリスは周囲への警戒を怠らない。

ここにはただゴロゴロしにきたわけはないのだ。

平和そうな顔でぐでーっとしているマスターの姿を見ているとすごく不安になってくるが、とにかく違うのだ。

『フェイトさんから連絡があるのかもしれないのですよ?』

フェイトは先ほどジュエルシードの反応を感知して、アルフを連れて行ってしまった。

戦闘の役には立たない―――むしろ足を引っ張りかねない―――瑞樹はお留守番・・・というわけでもなく、必要があった場合のみ出撃することになっている。

「ん~・・・・フェイトは優秀だからなぁ・・・・・・ない可能性に5円」

『安い自信ですね・・・・・・・・・』

「う~む・・・・じゃあ、こうしよう。出撃することを前提に、アルフとフェイトのどっちから要請があるか当ててみようじゃないか」

『まぁ・・・・このままマスターをゴロゴロさせておくよりは、少しでも何かさせた方がいいですね』

「心が広いオレは先行を譲ってやろう。おまえのターンッ」

『ドロー・・・とでも言えばいんですか?』

「わかってるじゃないか」

ニヤリとする瑞樹は放置してアイリスは考える。

と言っても、こんなものは最終的に運任せでしかないのだが。

『・・・普通に考えればフェイトさん、でしょうね』

「だったらオレはアルフで」

『この際だから何か賭けましょう。そうですね・・・・ありきたりですが、負けた方が勝った方の言うことを、何でも一つ聞くということで』

「いいぞ。後悔するなよ」

『後悔するのはマスターのほうです』

「フッ・・・・分の悪い賭けは嫌いじゃない」





「・・・・・・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・・・・・・・』

その場のノリで賭けに乗ってみたものの、いつまでたっても連絡が来ないと勝負はどうなるんだろうか。

「・・・・時間制限でも設けておけば良かったな」

『時間制限のある賭けなんかありませんよ』

やり始める前は、結果が出るまで寝てればいいなんて思っていたが、一つの可能性を考えてしまったのだ。

アイリスが不正をしないか、と。

瑞樹が寝ているのをいいことに、『結果ですか?私の勝ちでしたよ。今日からマスターは私の奴隷ですね』なんて言いかねない。

マスターなんだから自分のデバイスを信じろよ、と天使が囁くが疑心暗鬼の悪魔がそうはさせまいと邪魔をする。

疑心暗鬼というのは一度陥ってしまうとなかなか抜け出せない。

しかし何もせずにただ待つというのは、以外と辛いものだ。

ぶっちゃけ、飽きてきた。

「・・・・一つ提案がある」

『・・・なんですか?』

アイリスが瑞樹の様子を窺うように返す。

どうやらアイリスはアイリスで瑞樹を警戒していたようだ。

この二人は本当に主従なのだろうか。

信頼関係が紙ヒコーキよりも軽い気がする。

「(おのれ、アイリス・・・・・・・・)」

自分のことをエベレストよりも高い棚に上げて、瑞樹は心の中で毒づく。

『マスター?提案とは・・・・・・・まさか何か企んでいるのではないでしょうね?』

「このままだと時間を無為に過ごすだけだ。そこでこっちから連絡を取ってみようと思う。二人に同時に話しかけて、先に答えた方がアルフだったらオレの勝ち。フェイトだったらお前の勝ちだ」

『・・・・・・・・・・・』

しばしの沈黙。

『・・・・・いいでしょう。かならず同時に話しかけるという条件さえ守れば私に異論はありません』

長考した結果、アイリスは瑞樹の条件を呑む。

『少しの時間差も許しませんよ?』

「あいよ」

アイリスは念を押すが、こちらから声をかけるという条件をアイリスに呑ませた時点で、瑞樹の勝利は確定していた。

「(フッ・・・・・見るがいい、これがオレの全力だ!)」

瑞樹は一息つき、放つ。

勝利のワードを――――!!

「(アルフ~)」

「(ん?瑞樹かい?)」

『んなっ!?』

「(あれ・・・瑞樹、念話の使い方間違えたの?)」

この時点で、勝者は確定した。

名前を呼ばれ、いち早く返事をしたアルフ。

単純すぎる故に予想外なチートに慄くアイリス。

瑞樹はまだうまく魔法が使えないんだ、と間違いを正そうとしてくれる純粋なフェイト。

『な・・・・ななな・・・・・・』

言葉にならない声を上げてフリーズしているアイリスに、瑞樹はフフンと勝利の嘲笑をくれてやってから、フェイトに話しかける。

「(何事もなく終わったのか?)」

「(うん。少し邪魔が入ったけど、大丈夫だった)」

「(邪魔・・・?)」

「(白い魔導師がジュエルシードを集めてるみたいなんだ)」

白い魔導師――――このタイミングで出てくる魔導師なんて白くなくても一人しかいない。

フェイトはなのはと遭遇したようだ。

だが今の時点では、まだなのははフェイトの足元にも及ばない。

瑞樹がいなくても大丈夫だろう・・・・・いてもいなくても同じかもしれないが。

「・・・・・・・・・・・・・・」

少し鬱になる。

暗い考えを振り払って、そういえば他に誰かいたような気がすると思い立つ。

えーと・・・確かもう一人・・・いやもう一匹なんかいたような・・・・ゆー・・・ユー・・・・。

「(・・・・っ)」

思考に耽っていた瑞樹は、フェイトの痛みを堪えるような声で現実に引き戻された。

「(どうした?怪我でもしたのか?)」

「(う、ううん。何でもない。だいじょうぶ)」

少し、様子がおかしい。

「(・・・・・・・・・・)」

直接見ていなくてもわかるくらい、アルフも何やら殺気立っている。

「(・・・・・ん、まぁいいや。終わったなら早く戻ってこいよ。飯作っとくから)」

二人からの返事を待って、瑞樹は念話を終える。

「ふぅ・・・・アイリス、少しやることが・・・・・はっ!?」

一息ついたところで、瑞樹は強烈な殺気を感じた。魔王ですらデコピンで殺せそうな殺気である。

『ふふふ・・・・マスター・・・・覚悟はよろしいですか?』

「え、ちょっと待ってくださいよアイリスさんあんなのただのジョークじゃないですかいえスミマセンちょっとしたでき心だったんですごめんなさいッッッ!!!」

『あなたは・・・・私を怒らせた』

瑞樹の断末魔が空に吸い込まれた。







夕食後、瑞樹はプレシアに会いに来ていた。

アルフがまたもや暴走して二次災害を受け、もういろいろと投げ出してベッドにダイブしたいところだったが、どうしても早くやらないといけないことがあった。

「・・・・・・・・・・・」

相も変わらず薄暗い。

陰鬱な気分になりながらも瑞樹はプレシアのいるであろう玉座へと歩みを進める。

暗い玉座、そこには孤独の女王が佇んでいた。

「あんたとの契約の詳細を詰めに来たぜ」





「いきなり話があるというから何かと思えば、契約も何もあなたは命と引き換えに私に協力しているのではなくて?」

「初めはそうだったよ。今はどうかな」

プレシアは瑞樹の言葉に訝しげな顔をする。

その仮面の下の表情は伺いしれない。

ただその声から妙な自信が見える。

「呼ばれたばかりのオレは無力。だが、今のオレには力がある」

それを聞いてプレシアは思わず噴き出しそうになった。

目の前の勘違い男は、たかだがデバイスと少しの魔法を使えるようになったくらいで、天下をとったつもりでいるのだ。

フェイトに密かに取らせた瑞樹のデータを見ただけでも、技術的にも経験でもプレシアの足元にも及ばない。

それは例えこの身が病に冒されていたとしても、だ。

「ふふふ・・・・馬鹿な子。その程度の力で私と対等になったつもり?」

「何を勘違いしている」

「聞こえなかったのかしら?その程度の力で・・・・」

同じことを繰り返すプレシアを、仮面の騎士はハッと笑い飛ばした。

「管理局に駆け込む」

「・・・・っ!?」

「さぞ面倒なことだろうな。管理局の介入は確実にあんたの目的を阻害する」

――――なぜ、ついこの間までただの一般人に過ぎなかったこの男が、時空管理局なんてモノの存在知っている。

如月瑞樹の世界は魔法文明が発達していた?

いや、それはない。

リンカーコアだってデバイス起動と同時に覚醒していた。

それは今まで魔法に触れたこがない証拠だ。

ではなぜ――――?

プレシアは思わぬ反撃に内心で動揺しつつも、表情には余裕のある笑みを張り付ける。

「―――それはわかりきっていたことよ。このままあなたが何もしなくても、管理局はいずれ介入してくるわ」

「違うな、間違っているぞプレシア・テスタロッサ」

しかし、瑞樹はそんなプレシアを鼻で笑う。

「考えろ。管理局がただ介入してくるケースと、オレというこちらの情報を持った裏切り者が管理局に接触するというケースの違いをな」

「・・・・・あなたがこちらの情報を売れば、管理局は直接ここに踏み込んでくるわね」

「そういうことだ。ここの座標はアイリスの中にすでに記録されている」

仮面の騎士は――――――。

―――さぁ、どうする―――?

そう言わんばかりに大仰に両手を手をかざしてみせる。

「関係ないわ。有象無象が寄り集まったところで、私を倒すことはできない。邪魔者を消してからアリシアを蘇らせるとするわ」

「それは無理だな」

「この私が負けるとでも?それは面白い冗談だわ」

「違うな。おまえには管理局の相手をしている時間はない、という意味だ」

「・・・・っ!?」

今度こそ、プレシアは余裕の表情を崩すことになる。

瑞樹の言葉の意味を正確に理解したからだ。

「・・・・・どこで私の情報を手に入れたのかしら?」

「その質問に意味はない。結果としてオレは知っている。それだけだ」

「私が今この場であなたを消してしまうとは思わなかったの?」

「このオレが、何の策もなくあんたとサシで交渉なんてするわけないだろう。オレが死んだら情報は自動的に管理局に発信されるようになっている」

「・・・・・・・・・・・・・ふぅ」

プレシアは深いため息をつき、呆れたように正面を見る。

仮面の騎士が、憎らしい笑みを浮かべたような気がした。






バクンバクンバクン――――!!!

心臓がヤヴァイ音を立てて鳴っている。

原作の情報を使い、はったりと虚勢でなんとかここまできた。

これでようやく対等。これでやっと交渉に入れる。

因みに、瑞樹が死んだら情報が発信されるうんぬんは嘘っぱちである。

そんな能力も知識も瑞樹にはない。

本気でプレシアが瑞樹を殺しにかかってきたら、アヴァロンでもなんでも使ってなりふり構わず逃げるつもりだった。

格好の悪いことこの上ないが、結果的にプレシアに殺される心配はなさそうだから良しとする。

はったりだろうが虚勢だろうが、相手が信じればそれは立派な戦術だ。

「オレの要求は一つだけだ。なに―――――別に無茶なこと要求するつもりはない」

「・・・・・なにかしら?」

瑞樹はあくまで余裕そうに言う。

この精神的優位を逃すわけにはいかない。

全ての面においてプレシアは瑞樹を上回っている。

この瞬間を逃したら、もう瑞樹にチャンスはない。

「あんたの目的にオレ便乗させてくれ。オレにも生き返らせたい人間がいる」

「あなたも・・・・・・?」

プレシアは瑞樹を見やる。

もう瑞樹が何をどこまで知っているか、なんて聞くつもりはない。

「・・・・失ってしまったモノは戻らない――――だから仕方がない。生憎とそんなふうに考えられるほどオレは人間ができていない」

プレシアは黙って瑞樹をただ見つめている。

「オレにとってあんたとの出会いは運命にも似たものだった。オレが諦めかけていた望みを、諦めずに叶えようとしている人間がいる」

「・・・・・・・・」

「・・・・・悪いが便乗させてもらうぜ。オレは諦められない・・・・あんただってそうだろう?」

「・・・、・・・・・」

「その代り、オレにできることは何でもしよう。目的のためにジュエルシードが必要な幾つでも持ってくる。だから―――――――――」

沈黙。

プレシアは瑞樹の真意を測りかねているようだ。

あれだけ脅しておいて、ほいほい信じてくれというのが無理な話だ。

「・・・・いいでしょう。同じ目的を持つものを見捨てるなんてできないわ」

ややあって、プレシアは答えた。

「ああ・・・・感謝するぜ。オレは今まで通りジュエルシード集めに専念すればいいのか?」

「ええ、後は・・・・あなたのデータを取らせてもらえるかしら?」

「なんでだ?」

「あなたのそれはどうも特殊なデバイスのようだから、あなたの健康上何かあるかもしれないでしょう?初めは何かあっても使い捨てにすればいいかと思ったけど、そうもいかなくなったから詳しいデータが必要なのよ」

「使い捨てってオイオイ・・・・・・あ、そうだ。ジュエルシード集めを円滑にするために一つ提案」

「・・・まだ何かあるの?」

「あんた、フェイトに八つ当たりして虐待してるだろ」

「あの人形が何か言ったのかしら?」

「そういうわけじゃないけどな、戦ってる様子とか見てるとなんとなくわかるんだよ。今日だって何の傷も負ってないはずなのに動きがちょっとな・・・・・」

もちろんこれも嘘だ。

戦っている様子を見るどころか、瑞樹は戦場に出てすらいない。

ただ念話のときのフェイトとアルフの様子を見て、たまたま原作でそういえば、と思いあたっただけだ。

「オレは戦闘能力的に当てになるとは言えない。だからフェイトに八つ当たりすることで、ジュエルシード集めがかなり遅れる。・・・・今まではあんたとあの娘の問題だと思ってたんだがな、それによってジュエルシード集めが遅れるなら黙ってみているわけにはいかない」

「・・・・・・・・・・・・」

「少し優しくしてやったらどうだ?」

「あれは人形よ。アリシアの、出来そこないでしかない」

「わかってるよ、だから少しでいい。せめて虐待はやめろ。それでフェイトのやる気がなくなって、投げ出されたらどうする?」

フェイトの母親を慕う気持ちを考えば、そんなことはまずありえないが、それをプレシアは知らない。

否、知ろうともしない。

「目的のために手段を選ぶなよ。フェイトのやる気は高ければ高いほどいいだろう」

「・・・・・・、・・・・わかったわ。あくまで表面上だけよ」

――――そこまでフェイトが嫌いか、自分で造ったのに勝手な話だな。
「それでいいさ。契約成立、だな」

「ええ、そうね」

お互いに信頼が伴わない関係だからこそ、利害の一致は唯一信用できる契約。

瑞樹は契約通り、プレシアにデータを取らせてから玉座を出た。







『マスター・・・・・お疲れ様です』

毒舌スキルEXを持つアイリスが思わず労ってしまうほど、今の瑞樹は疲弊していた。

「痩せた・・・・絶対に物理的に痩せたぞこれは・・・・・・」

『ダイエット成功ですね』

「こんな身体に悪いダイエットは断じてダイエットとは呼ばない・・・・・・」

『今にも死にそうなマスターに追い打ちをかけるようですが、マスターとプレシアさんの望みがかなう可能性はほとんどありません』

ジュエルシードの力で虚数空間を作り出す。

しかしその先にかならずアルハザードあると誰が言ったのか。

物的証拠は何もない。

所詮は伝説でしかないのだ。

「ん・・・ああ、別にいいけど。つーかそんなところに行くつもりは毛頭ない」

『はぁ!?だったら今までのやり取りは何だったのです!?久しぶりに更新した内容は無意味ということですか!??!』

「いやいや、落ち着け。あのやり取りの意味はだな、フェイトへの虐待を止めさせることにある」

『え・・・・・・・・?』

アイリスは耳を疑った。

今聞いたことが幻聴でないのならば、瑞樹の目的は話の内容と全く違ったものになる。

終盤に提案としてチラッとでた補足的なものが、実は本当に目的であったなんて誰が予想できるか。

瑞樹は気づいてかどうか知らないが、フェイトに戦闘の傷とは明らかに違った傷があったことをアイリスは知っていた。

しかし、言い方は悪いかもしれないが、そんな些細なことのために瑞樹が何かをするとは思わなかった。

瑞樹は巻き込まれただけ。

「普通に言ってもやめてくれそうにないからなー・・・・面倒なことをする羽目になった」

『それだけのために・・・・?あんなに危険なことを・・・・・・?』

「それだけのためって言うな。一度気になったらどうにかしないと気が済まないんだよ」

むすっとする瑞樹に、アイリスは深い深いため息を吐いた。

『マスターの巻き込まれ型体質の原因は・・・・・・その大半がマスターにあるような気がしてきました』


「ん、今なんていった?」

『いえ―――他にも方法はあるかもしれないのに、こんなわざわざ自分が警戒されるような手段を取るマスターはお馬鹿だなぁ、と』

「これしか思いつかなったんだよ・・・・・・」

『・・・・・・マスターは馬鹿ですよ。私の想像の斜め上をバレルロールして飛び回るくらいの』

「・・・・オレもそう思うよ。あー・・・・・つかれた」







[9514] 第4話 「サッカーか・・・・実は得意だったりするのだよ」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/06/14 19:27
唐突だが我らが主人公、如月瑞樹の日曜日の行動を推測してみよう。

推測するまでもないな、とは言わずに少しの間だけ付き合ってほしい。

如月瑞樹は基本的にグータラである。

普段からニートしているくせに、土日祝日ははことさら休みたがるという救いようのないニートである。

実は家事をしているので専業主夫と言えなくもないが、アイリスに『マスターはフェイトさんのヒモですね』と言われた段階で本人はいろいろとどうでもよくなったらしい。

開き直ったともいう。

そして本日は日曜日。

瑞樹が一週間の中で最もグータラになる日でもある。

フェイトを起こし、アルフを蹴り起こし、朝ごはんを作り食べたらそのまま一日ゴロゴロしている。

本来なら一日寝ているのだが、放っておくとフェイトはまたカロリーメイトを主食にしかねない。

というわけで、まぁ普通に予想通りなのだが、作って食べる以外はベッドと一体化しているのが、瑞樹の正しい日曜日の姿である。







「それがッ・・・・!!何でッ・・・!!こんなところでボールを蹴っているッッ!?」

「またあいつかーー!!」

「誰か止めろー!!!」

空には太陽、温度は20度前後で湿度はこの季節に適切な数値だった記憶している。

要するに晴れ、ということだ。

そしてグラウンドを快走している瑞樹は、走りながら自分に自分で突っ込みを入れるという器用な技を披露していた。

『いいことですよ。やっぱり外出して正解でしたね』

「DA☆MA☆RE!!!」






何故か知らないが、久しぶりに日曜日に外に出ようと考えたのだ。

平日だろうが休日だろうが、ジュエルシードを探しに西へ東へと奔走する働き者なフェイトを、酒瓶片手に見送るダメ亭主ぶりを発揮していた瑞樹にしては奇跡の思いつきである。

そんなわけで昼食を食べた後に、フェイトが家を出るのと一緒に散歩に出かけた。

途中まではフェイトの後についてウロウロしていたのだが、途中でフェイトがはぐれたのだ。

断じて迷子になったのは自分ではない、と瑞樹は語っている。

だが別にはぐれたところで、これといった問題はない。

特に二人で何かをしようとしていたわけではないし、いざというときには念話で落ち合えばいい。

瑞樹はそのまま適当にぶらぶらすることにした。

適当にぶらつき、少し疲れてきたところで、ちょうどいいところにある喫茶店が目にとまった。

『翠屋』と看板に書かれた店からは、疲れた瑞樹を誘惑する甘い匂いが漂っていたのだ。

店からただよう甘い匂いに惹かれ、瑞樹はそこが白い魔法少女の実家だということも忘れて入った。

余談になるが、アイリスはこの時点で気付いていたが、おもしろそうだったから黙っていたらしい。





「・・・・ここのシュークリームはマジで美味いな。料理の腕ならわからないが、菓子作りは完全にオレの負けだ」

『(お菓子なんて作れたんですか?)』

アイリスの声が頭に響く。

さすがに街中でデバイスと堂々と会話するわけにはいかない。

アイリス的にはしてもいいのだが、その場合瑞樹が可哀想な人として世間に認識されてしまうだろう。

「(一応な。あくまで趣味の領域だから売り物になんかとてもできない)」

『(売り物にしようという前提が間違っていると思いますが・・・・・・)』

そしてこの紅茶がまた美味い、そして上手い。

「(どうやったらこんな紅茶を淹れられるのか、訊いたら教えてくれないかね)」

『(普通は企業秘密とかじゃないですか?)』

「(うむむむ・・・・・・仕方ない。頑張って盗む)」

残り少なくなった紅茶をチビチビ飲む。

お代わりはただですよ――――とかないものか。

瑞樹の国庫(財布)も無限大ではない。

プレシアから幾らか金を巻き上げたが、それもまた無限ではない。

それにフェイトとの共有資産なのだから、自分勝手にたくさん使うわけにはいかない。

『(マスター、お客さんのようですよ)』

「(うるさい、オレは今この紅茶の味を解明するのに忙しい)」

『(いいから前を見てください)』

「(黙っていろ、プレ○テ5が出るまで)」

『(いつですか。どうでもいいから前を見なさい)』

「(チッ・・・・いったいなんだって・・・・)」

「あのー・・・・相席してもいいですか?」

「・・・・・・・ぶほぉっ!?!??!?」

瑞樹はあまりに予想外な人物の登場に紅茶を思いっきり噴き出した。





「うわっ!ちょっとあんたっ、危ないじゃないの!!」

「にゃー・・・少しかかったちゃったよぉ・・・・・」

「だ、大丈夫だよっ、これで拭いて・・・・」

な、ななななな・・・・・なぜ・・・・・?!

瑞樹はショックのあまりフリーズ。

紅茶が口元からポタポタと零れているが、それも気づいていないようだ。

「声をかけただけで紅茶を吹きかけてくれたあんたは、なのはに言うことがないわけ?」

「ああ・・・・オレの紅茶が・・・・」

「違うでしょ!!!」

瑞樹の前には三人の少女。

ぶっちゃけ、見覚えがあり過ぎる。

誰がどう見ても高町なのはと愉快な仲間たちだ。

とりあえずボケては見たものの、内心ではアリエナーイと冷や汗ダラダラである。

「(オイ、アイリス!?これはどういうことだ!?!?)」

『(黙っています。プ○ステ12が出るまで)』

「(人生が先に終わるわ!!!)」

『(・・・・マスター、まさか本当に気づいてなかったんですか?)』

「(何を!?)」

『(喫茶翠屋はなのはさんの実家ですよ?ここに来れば遭遇確率はグッと上がるに決まっているじゃないですか。・・・・・まさかこんなにピンポイントにイベントが発生するとは、さすがマスター。ハプニングの星の元に生まれた男)』

学校が終わった時間帯で、なのはたちの塾が休みで、たまたま翠屋の席が全て埋まっていて、なのはたちが瑞樹に相席を希望してくる可能性は、いったいいかほどになるのだろうか。

さすがは巻き込まれ型と言わざるを得ない。

「そ、そうだったぁぁぁぁーーーーーー!!!!」

あ、声に出てますよ?と笑うアイリスが憎らしかった。






「・・・・で、だ。なし崩し的に相席してしまったわけで・・・・いやまぁ、新しい紅茶とおまけにケーキまでご馳走になってしまって大満足なオレなんだが、そこんとこどうよ金髪」

「どうって・・・・別にいいじゃないの?あんたがなのはに紅茶をかけたこと以外はね、変人」

「オレは変人じゃないぞ」

「紅茶を吹いたと思ったらいきなり悶え始めて、おまけに叫べばもはや変人よ。因みに私は金髪じゃなくてアリサ・バニングス」

「月村すずかです」

「高町なのは、です」

「オーケー。よろしく、すずかになのはに金髪ンデレ」

「わかったわ、あんたアホね?馬鹿なのね?」

アリサの鋭い視線を受け流して、瑞樹は紅茶を口に含む。

うむ、美味い。

予想外の事態――――アイリスは予想していた上にこの状況を楽しんでいるが――――だったがなんとかボケ返せるくらいには落ち着いてきた。

アイリスはあとで燃えるゴミの日にでも出すとして、今はこの状況をなんとかするしかない。

瑞樹にできることと言えばさっさと食べてこの場を退散することだけだ。

このまま調子に乗って居座り続けたらさらなる厄介事が待ち受けているの違いない。

例えば、瑞樹を探しにきたフェイトがうっかりばったりなのはに遭遇。
そんな未来は断じていらない。

「というわけで、オレは行くぞ。邪魔して悪かったな」

「食べるのはやっ!?」

「何がというわけなの?」

「にゃはは・・・もう少しゆっくりしていけばいいのに・・・・」

瑞樹としては急いで食べたため味を盗めなくて残念だが、本格的にそうも言ってられなくなってきた。

「(この視線・・・・・オレの不幸センサーがビンビンに反応してやがる・・・・)」

『(マスター、頭がおかしいですよ)』

「(頭!?)」

『(すみません。顔色の間違いでした)』

「(どんな間違いかただよ!?・・・・・そんなことより感じろ、この嫌な予感しかしない視線を)」

『(・・・・・確かにカウンターの方から露骨に熱視線を送っている人がいますね。これは・・・・あれですかね、マスターを視線でローストしようとしているのですか?)』

「(ねぇよ、なんでだよ。・・・・・・つーかなのはパパ(名前忘れた)はオレに何か用事でもあるのか?)」

『(高町士朗さんです。そんなことよりマスター?)』

「(なんだ?)」

『(その士朗さんがついに動き始めたようです)』

「なんだと!?」

「あんたは・・・・・黙りこんだと思ったらまた・・・・・本当に変なやつね」

―――黙れツンデレ。今はおまえに構っている暇はないっ・・・・!!

「あのっ・・・・急に叫ぶと、他のお客さんに迷惑だよ?」

―――正論だ!?

「にゃはは・・・・そうだね。えーと、そういえば名前とか聞いてなかったよ」

―――のんびり自己紹介なんてしてる暇はない・・・っていうか今さら!?

「紅茶のお代わりはどうだい?」

―――ガッデム!!遅かったっ!!!






ティーポット片手に近づいてきた士朗を警戒する瑞樹。

ここまできてしまったら、もはや不退転の覚悟で敵を迎え撃つしかあるまい。

いかなる隙も見せない。

今の自分なら7人の侍に囲まれても、108の必殺技を駆使して瞬殺できる・・・・はずだ。

『(・・・・マスター、ティーカップを差し出してますよ)』

「(しまった!?)」

訂正、隙だらけだった。

「ははは、うちの紅茶が気に入ってくれて良かったよ」

瑞樹のカップに紅茶を注ぐと、士朗は近くの椅子を持ってきて瑞樹のそばに陣取る。

「・・・・・近くないか?」

距離が。

「そんなことないさ。ところで君に少しお願いがあるんだ。これでも食べながら聞いてくれるかな?」

そう言って士朗が取り出したのは、シュークリーム×2。

「フッ・・・・このオレが食べ物で釣られるとでも思ったか」

「あんた・・・・手が出てるわよ」

「こ、これはもらうけどお願いを聞いてやるとは言ってないぞ。あくまで話をきくだけだ」

瑞樹はシュークリームを齧る。

「ぐっ・・・・・今ならどんなお願いでも聞いてしまいそうだ・・・・・」

シュークリーム同様、甘くなってしまいそうである。

『(缶ジュース買ってこいや)』

「(おまえに対してじゃねぇよ!!)」

「それは良かった。では、君を我が翠屋JFCの臨時メンバーとしてスカウトしよう!!」

「・・・・・・・は?」







『ずいぶんと長い回想でしたね。というか回想だけで半分以上きてませんか?』

「(余計なお世話だ!!・・・・って何でさっきからオレばっか走らにゃならんのだ)み○きくん、パ~ス」

「ぼ、僕は○さきじゃなくてさと・・・・」

みさ○くんが何やら言っているが瑞樹は聞かないふりをして、さらに前に上がる。

瑞樹の背番号は10番。

何でこんな重要なポジションが腹痛で欠席なんだ、と不平を漏らしていた瑞樹だったがその役目をしっかりとこなしている。

「(アイリス・・・・)」

『(何ですか、つ○さくん)』

「(誰がだ!?・・・・・フェイトはどうしてる?)」

『(街中をお散歩中のようです。・・・・少なくともこちらに来る心配はありませんよ)』

それを聞いて安心する。

ここまで来られるとなのはと遭遇してしまう可能性がある。

というか、瑞樹の今まで運のなさを考えると絶対に遭う。

「つ○さくん、行ったよ!!」

「誰がだ!!・・・・ってまたオレか!?ええい、面倒なッ・・・・!!」

瑞樹は受けたボールを蹴りつつ突っ込みを入れつつも、敵の守りを器用に抜けていく。

『(どうでもいいですが、無駄に運動能力高いですね、マスター)』

「(相手は小学生だぞ!?負けたらさすがにやばいだろ・・・・・・)」

といっても今の瑞樹は体格的には彼らと同じなわけで、普通なら取ったり取られたりするだろう。

しかし瑞樹は人の間を縫って、スイスイと前に進んでいる。

サッカーに集中するあまりそのことに気づいていないのか、単純にお馬鹿なのかは知らないが、本当に瑞樹はおかしなマスターである。

普段はただのだらしないグータラでしかないのに、プレシアのときといい今回といい妙なところで妙な実力を発揮する。

しかも発揮した実力が自分を苦しめていることに気づいていない。

今だって―――人数合わせなんだから適当にやればいいのに、全力でやって、なまじ実力があるから結果的にチームから頼られボールがやたらと瑞樹に集まる。

ボールが集まる場所には必然的に人は集まるわけで、要注意レッテルを張られた瑞樹の周りには敵も集まってくる。

「ぬぁぁぁぁぁぁっ!?!?貴様らオレに何か恨みであるのかーーーー!??!」

「上がってよつ○さくん!!」

「つ○さを止めろ!」

「○ばさくん、オーバヘッドキックやってよ!」

「「「つば○くん頑張って~!!」」」

「しかも呼び方定着してるし!?」

突っ込みは本能なのか脊髄反射なのか、本気で器用である。

アイリスが思わず感心してしまうくらい、瑞樹はすごい勢いでチームに馴染んでいった。

そしていつの間にか味方に指示を出すようになり、後半戦が始まるころにはちゃっかりチームの中心になっていた。

相手の領域に踏み込んでも嫌な顔をされず、その場に居座り続けながらも嫌悪感を抱かせない。

瑞樹の人柄がそうさせるのか、単純に周りにいるのが子供だからなのか、アイリスにはわからない。

でも、そんな彼を見ているとどうしても―――――を思い出してしまう。

アイリスは脳裏に浮かび上がったものをさっと消し去ると、たくさんの敵味方に囲まれながら奔走している瑞樹にやわらかく微笑んだ。

――――ま、テキトーに頑張ってくださいね。

「(なんか言ったか!?)」

『(いえ、何も。ほらほら、もっと早く走らないと取られちゃいますよ?)』

「もう絶対に日曜日は外にでないからなぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」







「バイバイ、つ○さくん。また一緒にサッカーしようね!」

「今日はありがとう、○ばさくん!」

「かっこよかったよ!」

試合終了後、口々に瑞樹に声をかけて帰る翠屋JFCのメンバーたち。
誰一人として『つばさくん』の本当の名前を知らないまま、それぞれの両親に手を引かれ帰っていく。

「・・・・もはや突っ込む気力もないが、最後に一つだけ・・・・これだけは言いたい」

『(聞いてあげましょう)』

「・・・・伏せ字にする意味、もはやアリのコンタクトレンズほどもないよな」

『(そうですね。つばさくん)』

「おまえ・・・・・いや、もういい・・・・・・」

今日は疲れた、と芝に寝っ転がる瑞樹。

「(ところでフェイトは?)」

『(先に帰しましたよ。マスターを探しにきそうな勢いだったので、上手く言いくるめておきました)』

「(ん・・・・・ごくろー)」

唯一の懸念事項が解決し、瑞樹は心おきなく芝生にだれる。

そんな瑞樹に士朗が笑顔で寄ってきた。

「いや~、お疲れ様。君のおかげで助かったよ。チームの皆もやけに気合いが入っていたしね」

「・・・・・本当に疲れたぞ。これは帰りにシュークリームを包んでもらうしかないな」

「はっはっは。君には無理を言ってしまったからね。良かったらうちで夕食でもどうだい?」

なのはがおとうさん、と駆け寄ってきた。

アリサとすずかはもう帰ったようだ。

「なのははつばさくんと一緒でもいいかな?」

「ばんごはん?いいよ」

なのはも笑顔で答える。

しかし、瑞樹にはその申し出を受けるわけにはいかなった。

「・・・・せっかくだけどやめとく」

「え、どうしてだい?付き合わせてしまったのだから、ご両親には僕から言うよ?」

「・・・・そーじゃないよ。オレが戻らないと飯を作る奴がいなくなる」

「君が作るのかい?ご両親は・・・・」

士朗の問いに曖昧に笑ってみせ、瑞樹は立ち上がって服についた芝を払う。

「今日は楽しかった。んじゃ、またな」

そのまま振り返らずに帰る。

今度――――近いうちにフェイトも連れて皆で来よう。

だから、今は帰る。

家には―――――瑞樹の帰りを待つ人がいるはずだから。







そのころのフェイトさん(蛇足)


「瑞樹のやつ帰ってこないねー・・・・・・もしゃもしゃ」

「うん・・・・お腹すいたな・・・・」

「・・・・フェイト、何であたしの手元を凝視して・・・ってまさか」

「アルフ・・・どっぐふーどっておいしい・・・・?」

「ってダメだよフェイトッ!!それはいくらあたしでも止めるからね!!!?べ、別にあたしのご飯を取られるとかじゃなくて・・・できればフェイトにもわけてあげたいけどっ・・・・!」

「うん・・・・・瑞樹、早く帰ってこないかな・・・・・」






こんにちは、クロロです。

どうやらカロリーメイトは家から排除されてしまったようです。

でわでわ。



[9514] 第5話 「デビュー戦・・・・『我が名は、ゼロ』とか言ってみてー・・・」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/06/15 21:43
「戦闘に出てこい?」

「うん・・・あんたが魔力の制御も上手くできなくて、まだ弱っちぃことは知ってるんだけどさ・・・」

「大きなお世話だ!!」

『ですが事実です』

瑞樹の魂の叫びと、しれっと言うアイリスに苦笑してアルフは困ったように続ける。

「あたしが何度言ってもフェイトは無理ばっかりするんだよ・・・・・・」

『確かに・・・あれだけ広域探索魔法を乱発しては、本人の負担は相当になっているはずです』

「そうなのか・・・・?」

今のところ自力では飛行魔法しか使えない瑞樹としては、どの程度の負担なのかがいまいちわからない。

『マスターの功績で食事に睡眠は取っていますが・・・・・・・』

食事はともかく、睡眠は強制的に取らされたともいう。

フェイトの休息時間があまりに短いことに気づいた瑞樹は、フェイトにちゃんと一日6時間は眠るように言った。

しかしそこは己の使い魔の言うことも、柳に風の如く受け流して働きに出る困ったフェイトさん。

瑞樹の言うこともヒラリヒラリとかわしていた。

だが一度気になったことはなんとかする、そうはさせないのが瑞樹のクオリティー。

就寝時間になったら問答無用でフェイトをベッドまで運びこむ。

そして椅子を持ってきてベッドのすぐ近くにセット。

そのままフェイトが寝付くまで、いつまでも居座り続けるのだ。

初めは「瑞樹が体調をくずしちゃうよ・・・・」とか「わたしはだいじょうぶだから、ね?」といろいろ言ってみたフェイトだったが、暖簾に腕押し=瑞樹に進言、な状態なのでいつしか諦めてちゃんと休むようになった。

文句を言わずにちゃんとフェイトが寝付いた日は、達成感のあまり少しはめを外しヒャッホォウと騒いしまい、せっかく寝付いたフェイトが飛び起き、瑞樹はアルフにありがたい強パンチをもらった。

『よく考えてください。睡眠と食事以外の時間は、だいたい9時間ほどですか。マスターは残りの15時間をマラソンし続けられますか?それも毎日』

「寝続ける、であれば余裕だ」

『フェイトさんはそれを毎日やっています。これはマスターが考えている以上の負担ですよ』

「無視かよ・・・・いや、まぁそれはいいとして」

瑞樹はふむ、と顎に手を当てて唸る。

「・・・・その広域探索魔法とやらはオレにはできないのか?」

『無理です。来世からやり直しても』

「そうなんだよ・・・・瑞樹には無理だろうからせめて戦いで盾になってもらおうかと・・・」

「・・・・・・・・・オイ」

瑞樹はふぅ、と息を吐く。

言い方は悪意に満ちていたが、彼女たちの言っていることは正しい。

だから決して悲しくなんかはない。

思わず涙腺が緩んだりなんか断じてしていないはずだ。

「・・・で、技術的には不完全だが戦闘に出ろ、というわけか」

『そうです。弱っちいなりに役に立てということです』

「まぁ、そういうことだね」

「・・・いい加減泣いていいか?いいよな!?」

そんなわけで、だいぶかかったが瑞樹のデビュー戦がやってきた。







夜の街。

普段歩いている風景とは何もかもが一変した世界。

そんな世界においても異色なモノがあった。

白を基調とし、要所要所に蒼い線の入ったバイアジャケットを身に纏い、全身をすっぽり覆う白い外套を風になびかせている白い騎士。

頭部を覆う大きな仮面で、その表情はうかがい知ることが出来ない。

瑞樹はビルの屋上から、交差する人並みを見、呟いた。

「・・・・・・・さむくね?」

今晩は風が強った。

『・・・・・・・・・少しはカッコよく決めようとかそういうあれはないんですかあなたは』

呆れたように言うアイリスだが、瑞樹の本心を理解しているから罵倒はしない。

瑞樹は緊張している。

柄にもない、と言われればなんとも言い返せないのだが、初の実戦で若干気が逆立っている。

それゆえに場違いなことを言い、緊張をまぎれさせようとしているのだ。

「(間違いなくなのはとぶつかるだろうなぁ・・・・・)」

『(おそらく・・・・ですが。ぶつかったとしても数ではこちらが有利です。数で上回ることは戦争における基本戦術ですよ)』

「(戦争の規模小さっ!!ポケッ○の中の戦争!?)」

『(とにかくマスターは迂闊に前に出ないように。ここぞという時以外は気配を消して闇夜のゴキブリの如く密かに隠れていてください)』

「(オレはゴキブリか・・・・・)」

『(むしろ今はそのゴキブリに習いなさい。というかマスターはなのはさんとご自分のスペックの差を自覚してください。チワワが恐竜に挑むようなものなんですよ?)』

「(勝率ねぇよ!!)」

『(当たり前ですよ。勝とうなんてことは、私抜きで魔法の一つでも使えるようになってからにしてください)』

「(自力でも飛ぶくらいは・・・・・)」

『(あんなフラフラ飛んでいてもただの的ですね。ゴキブリだってもっとまともに飛べますよ)』

「(オレは・・・G以下か・・・・・)」

飛行能力うんぬん以前に、いろいろとショックである。

『(もう一度言いますが、数では勝っているのです。マスターの仕事は、封印の段階で少しでもなのはさんの注意をそらすことです)』

瑞樹の仕事はいたってシンプルだ。

というかシンプルなことしかできないのだが、まぁそれは置いておいて。

さすがのなのはでも瑞樹の相手をしながらではジュエルシードの封印はできないだろう。

つまり戦わずとも、適当になのはの気を引いてあとはフェイトに任せればいい。

封印が終われば逃げるだけ。

そればかりに集中してきたおかげか、瑞樹の飛行能力は単独で戦線を離脱できるくらいにはなっている。

もちろんそれはアイリスのサポートを含む。

よほど下手をしない限り、十中八九はこちらが勝てる。

「みずき・・・本当に大丈夫?」

瑞樹が一言も喋らないことに心配したフェイトが傍らに寄る。

「別に緊張してるわけじゃない。オレの立ち位置と振舞い方についてアイリスと最終調整を少し、な」

「むりは絶対にしないでね。ダメだと思ったらわたしをおいて先に・・・・・わぷっ」

言いかけたフェイトの髪をくしゃくしゃと撫でて、瑞樹はさえぎる。

「アホなこと言ってんじゃねぇよ、このガキンチョは。お前をおいて逃げ帰ったんじゃ、オレは何のためにここにいるのかわからなくなるだろうが。フェイトこそオレが足を引っ張ったら捨てて帰れ」

「で、でもっ・・・」

瑞樹の手から必死に逃げて、頬を少し赤くしたフェイトが抗議する。

「そう心配するな。オレは――――不可能を可能にする男だぜ?」

フェイトはポカンと瑞樹を見上げる。

そんなフェイトの頭にポンポンと手を乗せ、瑞樹は脳内で『それ死亡フラグですよ?』と余計な茶々を入れるアイリスに「ウルサイダマレ」と返した。






「見つけた・・・・・」

フェイトが呟いき、アルフがそれに応じ封印のために強制発動に入る。

その瞬間、辺り一帯が鈍い色の光に包まれた。

フェイトが瑞樹を振り返る。

瑞樹は首を振ってみせる。

何故かアメリカンなポージング付きで。

言わなくても分かると思うが、オレじゃないよつーか結界なんて張れるか、という意味である。

瑞樹は瑞樹でアルフのほうに顔を向けたが、彼女は牙を見せて唸るだけだ。

「あちらさんも見つけたみたいだよ」

誰を、とは言わない。

今更である。

「フッ・・・・ではオレは隠れていよう。サラバだ諸君」

『・・・・・偉そうに情けないことを言わないでください』





臨戦態勢に入ったフェイトとアルフから離れ、瑞樹は彼女たちをビルの屋上から見下ろしていた。

ビル街に潜んだジュエルシードは生物に侵食していないらしい。

なのはがフェイトに向かってなにやら叫んでいるが、残念なことにこの位置からでは聞こえない。

すでに接触はしたようなのだが・・・・・・少し念を入れて距離を取り過ぎたか。

そう思い、カサカサとビルからビルへと伝い距離を近づける。

『・・・・本当にG化してませんか?』

そんなセリフをさらっと流して耳を澄ますと、なのはがフェイトに自分がジュエルシードを集める理由を叫んでいた。

その真摯な叫びにフェイトは思わず口を開きかけるが、アルフがなのはの願いを一蹴する。

後のことを考えると、なのはとフェイトには仲良くなってもらっていた方が都合がいいのだが、ここで瑞樹がしゃしゃりでると作戦が台無しになってしまう。

歯がゆい思いをしながらも、瑞樹はひたすら闇夜に潜み続ける。

『(チャララー。マスターのスキル『闇夜のゴキブリ』がレベル2になりました)』

「(ちょっ・・・ただ息を殺し続けるのも神経使うんだから遊ぶなッ・・・!!)」

低い位置にあるビルの屋上に体を張り付けて、瑞樹は心の中で絶叫する。

真剣に余裕がなさそうなのでアイリスも黙って事の成り行きを観察することにした。

魔導師が、どこぞのZ○士のように『この気はッ・・・!?』とか言って気配を察知できるのかどうかは知らないが、もしそれがなのはにもできるのだとしたら瑞樹は、動き出すその瞬間までなるべく魔力と気配を抑えておく必要がある。

こんなことまで配慮するのは無駄かもしれないが、なのはにもゆー・・・ゆー・・・なんとかにもまだ見つかっていないことを祈りたい。

這いつくばりながら思考にふける瑞樹を、アイリスの機械的な声が現実に引き戻した。

『(マスター、出番です)』

「(・・・・・行こうか。慎ましく、な)」

瑞樹は眼下になのはの姿を収める。

使い魔のほうはアルフがどうにかしているとして、瑞樹はなのはの注意を引けばいい。

さっと意識を奪えればベスト。

瑞樹は黄金に輝く剣を抜き放つと、フェイトとジュエルシードを奪い合っているなのはに―――――

『マスター!!!』

「・・・・っ!!」

――――斬りかかる瞬間にアイリスの緊迫した声で、何事かと踏みとどまった。

ジュエルシードの様子がおかしい。

重なり合った二つのデバイスの中心にあるジュエルシードから、どうみてもいい予感はしない光があふれ出ている。

ジュエルシードがひときわ大きな光を放ち、それが爆発力に変わるのは時間の問題だった。

「フェイト!!」

「なのは!!」

お互いの使い魔が、それぞれの主を呼ぶ。

二人の魔法少女は正反対の方向に飛ばされ、なんとか地に足をつけたようだ。

どうやら二人とも無事なようだが、デバイスのほうはそうもいかなかったらしい。

フェイトがバルディッシュを待機モードに戻すのが見えた。

――――って呆けている場合じゃない。

「あーあ・・・・ちっとも慎ましくならんな・・・・」

「え・・・・?」

瑞樹のぼやきに反応しなのはが振り向く。

「悲しいけど、これって戦争なのよね」

振り向いたなのはに、エクスカリバーの柄ですかさず当て身をくらわせ意識を奪う。

崩れ落ちるなのはを優しく横たえると、半ば発動しかかっているジュエルシードに向きなおる。

「なのはっ・・・・!!君もあの子の仲間なのか!?」

ゆー・・・なんとかが叫ぶ。

『(いい加減にしましょうか。ユーノさんです)』

ようやく突っ込んだアイリス。

ユーノの質問には答えず、瑞樹はジュエルシードに向かおうとしているフェイトの前に立ちはだかる。

「・・・・念のため聞きたいんだが、まさかデバイス無しでアレを止めるつもりか?」

「うん、そう・・・あうっ」

コンマ0.1秒で頷くフェイトの額にズビシィッとチョップ。

「またしてもアホなことを・・・・・そんなことばっか言ってるとアホの子フェイトと呼ぶぞ?」

「・・・・そ、それはイヤだけど・・・・でもっ」

「オレがやる・・・・というかここでやらなかったらユーノと同じ運命を辿りそうだ・・・・」

アルフと追いかけっこをしていたユーノは、瑞樹の登場に気を取られ思わず質問したはいいが、無視されたあげくアルフにガブッとやられたらしい。

瑞樹はアルフの口元で、きゅ~とくたばっているユーノを見て冷や汗を流す。

「・・・・・食べちゃダメだぞ?」

念のため言っておく。

「いいからさっさとやりな」

怖かった。

未だに瑞樹を見あげながら、う~う~と唸っているフェイトは恐怖故に目に入らない。

「・・・・というわけでアイリス、よろしく」

『釈然としませんが・・・・いいでしょう。マスター、剣の先端でジュエルシードに触れてください』

言われた通りにする。

『もっと集中してください』

集中する。

『・・・・ここからが重要なところです。私の指示に従い、忠実に実行してください。失敗は許されません』

ゴク・・・・と生唾を飲み込む。

『まずは足を肩幅に・・・・そう、そのくらいです。次は空いている手を腰に当てそのまま前屈姿勢を取りそのまま膝をゆっくり曲げてください・・・・・・はい、けっこうです』

体勢的にかなり辛いポーズなのだが、瑞樹はふるふると震えながらも体勢を維持する。

『そして叫んでください・・・・・『ハ~イ、ど~にでもな~れ♪』』

「は、ハ~イ、ど~にでもな~れ♪」

カッ―――と黄金の光が瑞樹から、正確にはエクスカリバーから溢れる。

ジュエルシードは何事もなく、剣の先端から吸い込まれていった。

『くくっ・・・・封印完了です。ぷぷぷ・・・・御苦労さまでした』

封印は成功した。

した・・・・のだが若干気になることがあった。

「・・・・・一つ聞きたいんだが」

『くくぷっ・・・な、なんですか?』

「・・・・・・・あのポーズと台詞に意味は?」

『ありません』

「こいつ最悪だっ!!!!?」

この性悪デバイスはなんという恐ろしい真似をするのだろうか。

純粋無垢に指示に従う己のマスターをまさかはめるとは、デバイスの風上におけないやつである。

『ぷくくっ・・・・語尾に♪マークとかっ・・・ぷぷっ・・・』

「お前がやらせたんだろうが!??!」

言われるとすごく恥ずかしくなってきた。

確かに冷静になって考えるとあんなアホな封印方法はないんじゃないか、と考えることもできる。

しかし瑞樹にあの状況でデバイスを疑うという考えがあろうはずもない。

『マスター・・・・世界は厳しく、とても冷酷なのです。信じる者は――――』

「・・・・救われてないが?」

『足元を掬われます』

「・・・・・・・・・・・」

『まぁまぁ、ちゃんと記録にも残しておきましたのでどうぞご安心を』

「ちょっ!?・・・・な・・・・なんてこったぁぁぁぁぁっっ!!?!?!」

こうして瑞樹の黒歴史に新たなる一ページが誕生した。




第5話です。

デビュー戦でした。

とはいっても戦闘らしき戦闘は皆無ですね。

少し改訂・・・かな?

でわでわ



[9514] 第6話 「シスコンはヤバイですね・・・・・世界を狙える右でした」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/06/17 01:52
言葉を以てしてわかりあえないとき、その相手とはどうわかりあえばいいのだろうか。

力を以てしてわかり合う。

否、それは単なる屈伏、服従にすぎない。

しかし、時には力で解決することもある。

世の中は綺麗ごとだけでは回っていかない。

そうしないと解決できない事柄もあるからだ。

だからお互いの主張がぶつかりあい結果的にそうなってしまったのならば、それは仕方のないことだ。

でも―――――相手のことを何もわからないまま力を行使しするのは、少し違うような気がするのだ。

「・・・・んゅ」

「目が覚めたか?」

「ふぇ・・・・・・?」

なのはは頭上から響いた聞きなれない声に、おぼつかない視界で相手の顔を見ようとする。

「目が覚めたんなら起きてくれ。足が痺れてきた」

「・・・?」

しばらくは無言で目を擦っていたなのはだったが、相手の顔を確認すると―――

「つ、つばさくん!?」

「あー・・・・・ん~・・・まぁ、いいか。気分はどうだ?」

「えと、えと・・・・まだちょっと眠いかな・・・・?」

「そりゃそうだ。何をしてたのかは知らないが、こんな時間まで起きてるからだ」

「・・・・ってはわわわわっ!!ど、どうしてつばさくんがわたしの部屋にいるの!?」

「いやいや・・・ここはなのはの部屋じゃない。名もなきベンチの上だ。そしてなのははオレの膝の上を占拠してるわけなんだが・・・・・あー、痺れる(足が)」

「ご、ごめんなさいごめんなさいっ!なんだかよくわかんないけどごめんなさいっ!?」

「やれやれ」

あわあわと飛び起きて謝り出すなのはに肩をすくめるのはいつぞやのサッカー少年。

何でこんなところに、どうして自分は膝枕されていたのか、などと疑問は尽きないが上手く頭が回らなくて慌てるだけになってしまう。

「(なのは・・・大丈夫?)」

「(ユーノくん?どこにいるの??)」

「お・・・・さっきのネズ公じゃないか。おまえまだ帰ってなかったのか」

「キュー・・・」

「ユーノくん、そんなところにいたんだ」

ベンチの裏にある茂みから顔をだしたユーノになのはは安堵の表情を作る。

「知り合いだったのか、だったら話は早い。そいつに礼を言っておけよ。お前が路地でぶっ倒れてるのを見つけられたのは、そいつがそばでうるさくキューキュー鳴いてたからだ」

「そうなんだ・・・・ありがとう、ユーノ君」

「(気にしないで、なのは。それより怪我はない?)」

「(うん・・・あの白い仮面な人が優しくしてくれたみたいだから)」

一瞬のことだったから、チラッとしか見えなかったが、意識がなくなる前に見えた人物は白い仮面と白いバリアジャケット。

「(何者なんだろう・・・・あのフェイトっていう娘の仲間なんだろうけど・・・・・)」

「(ジュエルシードは・・・・・・)」

「(たぶん・・・取られちゃった・・・・ごめん、僕も彼女の使い魔にやられて・・・・)」

「(そっか・・・・うん、わたしこそごめん)」

「・・・・って何で二人して示し合わせたようにしょんぼりしてやがりますか?ま、まさかオレは除けものですか?!・・・・しょんぼりだ」

「ち、ちがうよっ。つばさくんを除けものにしてわけじゃなくて・・・え~と・・・・」

魔法のことを秘密にしないといけないなのはとしては、一般人であるつばさにどう説明していものかわからない。

「・・・というか、だ。何でこんな時間にあんな場所で寝てたんだ?」

「え、え~・・・それはですね・・・・にゃはは・・・・」

――――こ、こまったなぁ・・・・。








「つ、つまりですね、夜の散歩中に白い変な人に襲われまして・・・・・」

「白い変な人・・・・・」

「そ、そうなのっ!それはもう変だったんだよ?全身がヘビの抜け殻みたいに真っ白でっ!変なマスクも真っ白でっ!!」

「真っ白・・・・マスク・・・変・・・・・」

「でも何事もなかったみたいで良かっ・・・・・・どうしてつばさくんが落ち込んでるの?」

「・・・・・ほっといてくれ」

何故か遠い目で夜空を眺め始めてしまった彼を横目にとらえつつ、なのはは携帯をとりだし時間を確認する。

「(う、うわ~・・・・ど、どうしよう・・・)」

家を出る時も遅かったのだが、今はさらに遅い。

普通に小学生が一人歩きするような時間帯ではなくなっている。

しかも着信履歴が何度もコールがあったことを無慈悲に通告していた。

「(にゃはは・・・・外出禁止になっちゃうかも・・・・・・・)」

「とりあえず帰ろう。家まで送る」

「うん・・・・・」

気が重い。

きっと兄は玄関の前で仁王立ちしているだろう。

しかし帰らないわけにもいかない。

なのはは足取り重く、つばさに手を引かれて帰路についた。








修羅がいた。

もしくは地獄魔王超神蛮勇帝王とかそういうケッタイな名前の裏ボス的存在が。

なのはが震えている。

手から伝わる振動は震度いくつを計測しているのだろう。

少なくともその威力は地球を7回は軽く破壊できると見た。

こうしてなのはの兄、恭也と玄関先でにらみ合うこと数分。

まさか高町家の玄関がデスタムーア○終よりも恐ろしい魔王のでるダンジョンのラストエリアだったとは、さすがの瑞樹も予測していなかった。

ぎゅっ、さらに強く握られるなのはの手。

その手のぬくもりだけがこの状況において唯一の救い―――――

「(ギロッ)」

――――訂正、どうやら滅びへのプロローグだったようだ。

視線と殺気がきつくなり、瑞樹はどうしたものかなー・・・と頭を悩ませる。

『(マスター・・・・お葬式には出ます。しかしその場合お金はどこから捻出すれば・・・・)』

頼れる(はずの)相棒はこの通り、すでに己のマスターの死後を心配している。

助ける気ゼロである。

コレは本当に自分のデバイスなのだろうか。

よく考えたら助けられた回数より、はめられた回数のほうが圧倒的に多い気がする。

「恭ちゃんどうし・・・・ってなのは!?帰ってたの・・・」

ガラガラと扉を開けて救世主・・・もとい美由紀が顔を出す。

「えっと・・・あの・・・・ただいま」

気まずそうにする挨拶をするなのは。

「もぅ・・・・電話にも出ないからみんな心配してたんだよ・・・その子と遊んでたの?」

「ち、違うよ・・・つばさくんは「オレがなのはを連れまわしていた」・・・・え」

バキッ――――!!!

瞬間―――鈍い衝撃を頬に感じ、瑞樹は地面に転がった。

「お兄ちゃんやめてっ!!つばさくんは関係ないの!!!わたしがっ―――――――っ!?」

すっと手をかざして制した瑞樹に、なのはは口をつぐむ。

「っ・・・携帯に出れなかったのは地下のゲーセンにいたから。つい時間を忘れて遊んでしまって・・・・家族に心配をかけたのは済まないと思う」

「何やら騒がしいな・・・ってなのは、帰ったのか。それに君は・・・・」

「あなた、どうかしたの?」

なんだなんだと高町家の面々が次々に集まってくる。

「恭ちゃん、さすがに殴り飛ばすのはやりすぎじゃ・・・・」

「・・・・妹の心配をしない兄がどこにいる」

ぼそっと呟かれたそれには、確かに安堵の響きが感じ取れた。

問答無用でなのはと同じくらいの歳の少年を殴り飛ばしてしまうほど、恭也も妹が心配だったのだ。

なのはを叱りつけている両親も、その目は安堵と優しさで満ちている。

「・・・・・・・・・・・・・・家族、か」

瑞樹は小さく呟くと、立ち上がり泥をぬぐう。

殴られた頬とは別にナニカがヒリヒリと痛んだ。

「まぁ・・・・立ち話もなんだし、中に入ろう。ほら、つばさくんも」

さっさと帰ろうとしていた瑞樹を、笑顔の士朗がすかさず捕獲する。

「・・・ってマテや。何であんたは、自分の娘を悪の道に引きずりこもうとしていたと思われる不良少年を家に上げようとする!?つーか力強っ!?」

「まぁまぁ、なのはを送り届けてくれたんだろう?娘を無事に届けてくれた恩人をもてなすのは当然だよ」

「・・・・恩人じゃな・・・・いや、いい。少しだけだからな」

何を言っても無駄。

そう判断した瑞樹は大人しく士朗に引きずられることにした。







「あの娘の帰りが遅いのはここのところずっとでね・・・・」

「ああ・・・・・」

「僕としては心配なんだけど・・・・・」

「ああ・・・・・・・・」

「はい、お茶。つばさくんもどう?」

「もらう・・・・・」

「ああ、ありがとう桃子。でね・・・・・」

「おー・・・・・・・・」

瑞樹はもうどうでもよさそうに返事を返す。

失礼だと思われるかもしれないが、さっきから同じ話を延々と繰り返されれば、さすがに辟易してくる。

酔っているのか、とも思ったが士朗の前にあるのは湯呑。

中身は緑茶。

酔っぱらう要素は欠片もなかった。

夕飯は既に済んでいるからフェイトがドッグフードに手を出す危険性はないが、瑞樹がいないことをいいことに夜更かしでもしているかもしれない。

夜更かしをして遊んでいるならまだマシなのだが、フェイトの性格を考えてそれはまずない。

フェイトにはちょっと買い物をして帰ると言ってきてある。

実際は買い物もするが、一番の目的は気絶させてしまったなのはを送り届けることにあった。

そのまま放置して警察に連絡が行ったら、さすがになのはには外出禁止令がでてしまうだろう。

それでは困る。

なのはにはまだやってもらわないいけないことがある。

送り届けたし怒られたし土産に熱い拳ももらったことだからさっさと帰ろうと思った。

流されて家に上がったのが間違いだったのだろうか。

フルマラソンだって42.195キロ先にはゴールがあるというのに、この二人の話には終わりが見えない。

そしていつから自分は高町家のご意見番になったのだろうか。

自問してみる。

「だからなのはには小さいころから苦労を・・・・・・・」

答えは当然帰ってこない。

「あの娘が何を抱えているのかは知らないけれど、自分から話してくれるまで私たちは待とうと思うの」

「でも僕としては・・・・・・」

永遠かとも思われるリピート。

まずい。

そろそろフェイトの寝る時間が迫ってきた。

――――早く帰らねば・・・・・!

「そろそろ遅いから「おお、もうこんな時間か。せっかくだから今日は泊っていくといい」は!?」

「そうね。客間のほうに布団を敷いてあるから。良ければ今日は泊っていって」

「なっ・・・・・・!?」

あまりの用意周到さに瑞樹は絶句する。

そして気づいた。

この二人は初めから瑞樹を帰らせるつもりはなかったのだ、と。

士朗が延々と同じ話を繰り返していたのは、桃子が客間を整える間、瑞樹を引き留めておくため。

あとは瑞樹がお暇しようとしたら、それに合わせてせっかくだからと話を進める。

「・・・・・・・・」

なんていうか子供相手に、あまりな知略の無駄遣いにため息すら出てこない。

普通に考えて、子供一人引き留めるのにここまで策を弄する大人がいるだろうか。

というかそれ以前に目的が分からない。

とにもかくにもわからないことだらけだが、ここまでされれば非常に断わりづらいのは事実。

年相応の子供ならば、何も考えずに頷くだろう。

「ご両親には僕から連絡しておくから、ね?」

「ね?じゃねぇ・・・・・いや、いいから。オレが自分でするから電話を片手ににこやかに近寄ってこないでくれ」

ついでに連絡先まで押さえるつもりだったのだろうか。

残念そうな高町父の顔を見ていると、ついしょうもないことでも邪推してしまう。

「・・・・・・・はぁ」

ようやく出たため息に、高町夫婦は笑顔で答えた。







「(・・・・・なのはの家に泊まることになった)」

「(ど・・・・どど、どうしてそんなことになってるの!?)」

フェイトのおおいに狼狽した声が脳内にキンキンと響く。

気持ちはものすごく分かるが、どうしてこうなったのかは瑞樹自身も誰かに聞きたかった。

さしずめこんなトラブル発生率の高い人生を歩ませている神サマに、ダイナマイトを片手に詰問しに行きたい。

「(ごはんの買い物に行ったはずなのになんでっ!?)」

「(・・・・・・・なりゆき?)」

「(わ、わたしにきかないでっ!)」

フェイトにしては珍しく怒っているようだ。

念話越しだが、わずかな怒気が伝わってくる。

いつものようにおふざけでごまかすのは無理。

アイリスはさっきから大爆笑していて役に立たない。

ありえねぇよと言いたくなるような状況を簡単に呼び込む瑞樹にツボったらしい。

「(すまん、としか言いようがないな。明日はおかずを一品増やすから許してくれ)」

「(そ――――――――――んなことじゃ誤魔化されないよっ)」

少し心が揺れたようだ。

「(明日、すぐに帰る―――――心配かけてごめんな)」

「(みず――――――――――)」

瑞樹は内心でも謝りつつ念話を切り、自分の行動を少し振り返ってみる。

なのはが外出した原因は瑞樹のせいになった。

高町家の人間がなのはの行動に何を察しているのかは知らないが、瑞樹のせいになっている以上なのはの外出を止めるようなことはしないだろう。

そもそも止めるつもりがあったのかどうかは微妙だが。

なのはにはこのままフェイトに干渉し続けてもらわなくてはならない。
残酷な言い方かもしれないが、フェイトの望みは叶う可能性が低すぎる。

仮に原作通り母親という支柱を失ったときに、友達というなのはの存在は大きな支えになってくれるはずだ。

『これからどうしますか?』

「なんだよ・・・・・ようやく気が済んだか」

『フェイトさんの望みは叶いませんよ。プレシアさんはアリシアさんのことで頭がいっぱいです』

「いや・・・・・・少しの望みはあるだろう」

『こればかりはマスターがいくら策を弄しても無駄、と断言しておきましょう』

「フン・・・・おまえは何かいいアイディアでもあるっていうのか?」

『ありますよ。単純かつ明快な方法が』

「言ってみろよ」

『―――――プレシアさんを殺しましょう。どうせ最後には彼女は消えるのです。彼女の口からフェイトさんを人形と言わせる前に消してしまいましょう』

「・・・・・・・確かに、単純で明快だ」

『意味もなくフェイトさんに傷を負わせる必要はありません。どうせ消えるのなら余計なことをされる前に退場してもらいましょう。人形と言われた上での退場か、何もせずに消えてもらうか・・・・マスターはどちらがいいと思いますか?』

「・・・・・そういう考え方をしたら後者、だな」

生きていれば幸せ、そんなものは嘘だ。

プレシアを投降させたとしても、次元規模で犯罪を犯した人間にまともな余生が用意されているとは思えない。

時空管理局に裁かれれば、普通に考えて死罪。

よくても、永久凍結刑だろう。

フェイトとプレシアが平和に暮らす未来図など、万に一つもありえない。

『裁判になればフェイトさんもその罪を問われます、ジュエルシード回収の実行犯として。・・・・・・マスターは脅されていたとでも言えばいいでしょうが』

フェイトも脅されていた、無理やり集めさせられていた、とでも言えば多少の酌量はしてもらえるだろうが、フェイトが嘘でも自分の母親を悪く言うとは思えない。

「・・・・・・・」

『そうなる前に・・・・・・マスター、プレシア・テスタロッサは排除するべき対象です』

昨日のジュエルシードの暴発で、時空管理局はこの世界に介入を開始するだろう。

しかし今ならまだ間に合う。

現状をまだ把握しきれていない管理局なら、なのはも言い含めることでどうにも言い訳できる。

なのはは優しい娘だ。

事情を話せば協力だってしてくれるだろう。

プレシア・テスタロッサさえ排除すれば・・・・・・・。

「・・・・・、―――――アイリス、一ついいことを教えてやる」

『なんですか?』

「オレはな・・・・・・原因を根絶することで問題を解決しようとする考え方は大嫌いだ」

『それはプレシアさんを殺さずに原作通りの流れを再現するということですか?」

「原作通りに進めるつもりはない。だが、プレシアを殺すつもりもない」

『では・・・・どうやって?』

どうやってプレシアを殺さずに、事を丸く収めるのか。

このまま原作通りに進めば、プレシアは当然ジュエルシードを使いアルハザードに行こうとするだろう。

まだ管理局に詳細を知られていない今だからこそ取れる策だ。

プレシアに義理はない。

汚い考えかもしれないが、責任を押しつけて死んでもらえば、情状酌量もずっと楽になる。

それが瑞樹にもわからないはずはない。

しかし瑞樹はどうしても首を縦に振らなかった。

「・・・・・・・」

『明確なプランもないのに現状維持ですか?』

「そもそも、オレがプレシアに勝てるはずがないだろう・・・・・・・・」

『そうですか?・・・・手段を問わなければ、苦労はしても、どうにもならないことはない気がしますけど』

「・・・・・・・さてね」

「『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』」

しばし二人は無言でいた。

睨み合っている、ともとれる。

多少のいざこぞはあっても、こうして真っ向から意見が対立するのは初めてだった。

「・・・・アイリス、現状維持だ」

言い聞かせるように、瑞樹が呟いた。

『――――――――ま、いいでしょう。私はデバイスです。自分が選んだマスターに従いますよ』

先に折れたのはアイリスだった。

『最後に一つ聞かせてください』

「なんだ」

『あなたは・・・・・・』

――――何がしたいんですか・・・・?

『・・・・・なんでもないです』

「・・・・・・・・・」

瑞樹は目を閉じ、暗闇の世界に身を委ねた。






またしても少し改訂。

意味があるのかはわからないです。

でわでわ。



[9514] 第7話 「・・・・もうアイリスなんて信じない・・・・グスッ」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/06/17 17:29
「みずきっ、きいてるの!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

返事は、ない。

さきほど瑞樹から一方的に連絡が断ち切られ、繋ごうにも向こうが返事をしないのでどうにもならなかった。

「~~~~~~~~~~~っっ!!!?」

「ふぇ、フェイト、落ち着きなよっ。枕に罪はないよ・・・・・」

バスバスと枕を殴りつける己の主を、アルフは戸惑いつつも諌める。

「だって・・・・・」

危険なことをするなと言うくせに、自分は敵のど真ん中に突撃するとは何事か。

しかもなりゆきで泊ってくるなんて常軌を逸している。

そもそも朝食の買い物のために出て行ったのに、どうしてなのはの家にいるのか。

なのはが悪い人間だとは思わない。

でもその関係者全員がいい人だとは限らない。

なのはが何もしなくても、瑞樹が常に危険にさらされている状況にあることにかわりはない。

もし瑞樹に何かあったら―――――――。

そう考えるとフェイトはいてもたってもいられらなくなる。

今すぐにでも瑞樹の元に駆けつけたい衝動に駆られてしまう。

「あいつなら大丈夫だよ。何でか妙にしぶといところがあるし・・・・それにこれだって何かの作戦かもしれない」

そんなフェイトをアルフが止める。

そしてあてずっぽうにしては、微妙に的を射ている。

「アルフ・・・」

「フェイトはちゃんと寝るのが仕事だよ。瑞樹がいないからって無茶はしようとしてもあたしが許さないからね」

「しないよ・・・・・ちゃんと寝るから、アルフももう休んで」

「ダメだよ。あたしはフェイトが寝るまでここにいるからね」

そう言ってアルフは、いつも瑞樹が座っている椅子を引っ張り出してきた。

「うん・・・・わかった」

フェイトはそんなアルフに苦笑すると、ベッドに潜り込み天井を見つめる。

そうだ。

瑞樹のことだから大丈夫。

彼は自分が思っている以上に強い。

アイリスもいるし、逃げてくることくらいはできるはずだ。

なのに、何故か胸のあたりがもやもやする。

大丈夫だとわかっていても、瑞樹がなのはのところにいると思うと、どうしようもなく嫌な気持ちになってくる。

「・・・・・・・ね、ねれない・・・・・・・っ」

瑞樹のことばかり考えてしまって、フェイトはいつまでたっても寝付けなかった。

「・・・・・・・・・・」

アルフは椅子の上で器用に寝ていた。

それぞれの夜は更けていく。





「つばさくん・・・・・・」

「む・・・・・この家の人間は朝が早いんだな」

さっきはランニングに行く恭也と美由紀にあった。

家人が起きる前に帰ろうと思ったのに、出かける寸前になって今度はなのはにつかまった。

「もう行くの・・・・?」

「ああ、良い子は学校に行ってこい」

「つばさくんは?」

「オレは・・・・・いいんだよ。悪い子だからな」

「つばさくんは・・・・悪い子じゃないよ」

「ふむ・・・・・・少し歩くか。まだ学校まで時間があるだろう?」

このまま立ち去るつもりだった。

しかし、なのはの顔を見ているうちに少し気が変わった。






昨日の公園のベンチまでやってきた。

道中、なのははずっと何かに思い悩んでいるようで、終始無言だった。

ランニングで公園を使用する人間は多いようだ。

なのはが口を開くまでの暇つぶしに、朝の風を浴びながら通りすがる人たちをぼんやりと眺める。

「ん・・・・?」

「かお、大丈夫?」

なのはの手が瑞樹の頬に優しく触れる。

冷たい感触が心地いい。

「ん・・・・大した傷じゃない。なのはの兄貴が手加減してくれたようだ」

「ごめんね・・・・・」

「なのはが悪いわけじゃないだろう。悪いのは・・・え、え~、白い・・・変な、奴だ」

自分で言っていて泣きそうになってくるが、グッとこらえて笑顔を浮かべる。

「うん・・・・」

「んで・・・・・オレに何か話があるんじゃないのか?」

「にゃはは・・・・迷惑じゃなかったら少し聞いて欲しいの」

打って変わったような決意に満ちた表情を見せるなのは。

話の内容は、だいたい理解している。

卑怯だが、ここは手を回させてもらおう。






瑞樹の予想通り、なのはの悩みはフェイトについてだった。

魔法うんぬんは上手く誤魔化していたが、要するに友達になりたいけどなれないというものだ。

「わたし・・・・どうしたらいいのかな・・・・・」

弱気だな、と瑞樹は思う。

原作でのなのはは、躓くことはあってもその道を諦めたりはしなかった。

今こうしている弱いなのはがイレギュラーである瑞樹のせいだとしたら、上手く方向修正できるのはやはりイレギュラーな存在だけだろう。

「迷うことないだろ」

「え・・・・」

「なのははその娘と仲良くしたいんだろ?だったら迷わずに思いを伝え続けるしかない」

「でも・・・・もし上手くいかなかったら・・・」

少し背中を押すだけでは足りないほど、なのはは自信を喪失している。
これがなのは曰く『白い変人』の登場によるものだと思うと少しばかり罪悪感が疼く。

「『絶対に大丈夫』だ」

「ぜったいにだいじょうぶ・・・・?」

「とある魔法少女の無敵の呪文だ。くじけそうになったら唱えるといい」

真面目な顔で気休めにもならないことを言う瑞樹になのはは呆けてしまう。

瑞樹はいたって真面目なのだが。

「よーするに、諦めなければ最後にはどうにかなるってことだよ。『絶対に大丈夫』だ。オレが保証する」

「うん・・・・・」

一応頷きはしたが、曖昧な笑顔だ。

無理をしているのが丸わかりである。

これではまたすぐに折れてしまうだろう。

「なのは・・・・・」

「うん・・・・・」

「どうしても・・・・またくじけそうになったら、オレが助けにくる」

「うん・・・・・えっ?」

「呼んでくれればどんなときでも、オレはなのはを守るよ」

「えっ・・・・えっ・・・!?」

突然の宣言になのはは顔を赤くして狼狽する。

ぼぼぼっと顔を真っ赤にしたなのはの反応に、ヤッベ選択肢ミスったとばかりに瑞樹が目を逸らす。

「・・・・いらないなら、別にいい」

「そ、そんなことないよっ・・・!」

「・・・・・そうか?」

「うん。ありがとう、つばさくんっ」

満面の笑み。

良かった。

これで、大丈夫。

「ああ―――――やっぱりなのはは笑顔が一番綺麗だ」

「わ、わたしっ、もう学校にいかなくちゃ!!ま、またねっ、つばさくん!」

大いに慌てて、途中ですっ転びそうになりながら走り去るなのはを、瑞樹も満足げでいて、どこかほっとしたような笑みで見送る。

余談になるが、そのむず痒すぎるやり取りに、アイリスが人知れず悶絶していた。






『とりあえず、生存フラグが一つ立ちましたね』

「ああ・・・・なのはが原作通りフェイトを管理局に引っ張り込んでくれることを祈ろう。・・・・・ところで、アイリスよ」

『なんですか?』

「オレは自分でも上手くやったと思う・・・・・なのになんだろう。さっきから猛烈に嫌な予感がするんだが・・・・・」

『生存フラグと死亡フラグは表裏一体ということですね』

「なに言って・・・・・はっ!?!?」

今まで気付かなかったことが不思議なほどの強烈な怒気が、グワァッと瑞樹に牙を向いた。

恐る恐る背後を振り返ると―――――――――。

また―――――――修羅がいた。

今度は金色で、下手をするとスーパーサイヤなんとか4より恐ろしい死神が。

「おかえり、瑞樹」

ああ―――――死んだな、こりゃ。








フェイトは笑顔だ。

今まで一番サイコウの笑顔だ。

普段は薄らとしか微笑まないフェイトだから、満面の笑みというのはとてもレアで価値のあるもののはずなのだが、何故だろう・・・・・・何をやっても死以外の未来が視えてこない。

「すぐに帰るって言ってたのに・・・・・・そんなになのはと仲良くなったの?」

「な、仲良くといいますか・・・・その、これは、生き残るために必要な・・・・・」

『ぶっちゃけ最後のセリフは余計でしたけどね』






瑞樹がなのはに何かされてたらどうしよう。

また余計なことをしてトラブルを呼び込んでいたらどうしよう。

考えていたら、いつの間にか朝が来ていた。

そんな眠れぬ夜をすごし、フェイトは朝日と共に起き出し瑞樹を探しに行った。

たまに自分でも散歩に来る公園に差し掛かると、見なれた男の子の後姿が見えてきた。

その姿を見たとき、フェイトは安堵のあまり少し涙ぐみそうになってしまった。

瑞樹が無事に帰ってきたことは、フェイトにとってそれくらい感動ものだったのだ。

しかし―――――現実はあまりに無情だった。

はやる気持ちを抑えて早足に駆け寄ろうとすると、見せつけられたのがなのはと瑞樹の、聞くに堪えない悶絶モノのやりとりだなんてもうなんてことだろう。

苛立ちなんてとうに通り越して、フェイトは怒りも限度を超すとワラエてくることを実感した。

「す、すまん・・・・・・」

「・・・・・いいもん。みずきはなのはと仲良くしてればいいんだ」

「ぬあっ・・・・だから別に仲良くしてたわけじゃ・・・・」

「してたよっ」

『してましたね』

「ぐぅ・・・・・・」

ぐぅの音しかでない。

むすっとして、すっかり拗ねてしまったフェイトの機嫌はなかなか直りそうにない。

頬をちょいちょいと突いてみるも、ふるふると顔を振られてしまう。

ぺしぺしと優しく当たるツインテールにした金糸の髪がくすぐったい。

「フェイト・・・・悪かったって」

「・・・・・(むぅ)」

普通に謝っても効果なし。

強いていうなら、頬がさらに膨らんだ。

フェイトが怒ると怖いというよりはむしろ微笑ましくて可愛いのだが、それを本人に言うと無表情になってしまって、本気で怖いので絶対に言わない。

可愛いならいいじゃん、とそのままにしておくわけにもいかず、瑞樹はご立腹なお姫様のご機嫌をなんとか直そうとする。

「ごめんなさい、もうしません!!」

「・・・・・・(ぷい)」

そっぽを向いてしまう。

「(アイリス・・・・・どうにかしてくれ・・・・・)」

『(おやおや、この局面で私に頼ろうとは・・・・マスターはそんなに修羅場がお好みですか?)』

「(違うわッ!!なんだかわからんが、フェイトはご立腹だ・・・・原因がわからん以上オレにはどうにもできん・・・・・)」

アイリスははぁ?と抜けた声を上げそうになった。

――――とぼけている?

いや・・・・ボケに命をかけるほど瑞樹は平和な人生を送ってきていない。

まさか・・・・本当に気づいていない・・・・・・いやいや、いくらなんでもそれは―――――――。

『(・・・・一応確認しておきますが、フェイトさんはマスターがなのはさんの家に泊まったことで怒っています。何故だがわかりますか?)』

「(さっぱりわからん。今回のはおおっぴらに言えないが『ツライ現実を生き残れ、負けるなくじけるな作戦』の一環だったはず・・・・・なぜフェイトが怒る?)」

『(作戦名のセンスのなさはこの際タナに上げておきましょう。なのはさんは今現在ではジュエルシードを奪い合う敵です。いわば高町家は敵の本拠地、ガン○ムで言うところのア・バ○ア・クーです)』

「(いや、あれは・・・・・まあいい。それで?)」

『(そんなところにヘボでろくに戦闘のもできないマスターが拉致されたとなれば、普通はいてもたってもいられないでしょう。下手に戦闘状態になれば、マスターの負けは火を見るより明らか。どんなに頑張ってもボ○ルじゃデビ○ガンダムは落とせないのです)』

「(拉致されたわけじゃ・・・・というかシリーズ違うぞ。ゴ○ラとウルト○マンの共演が不可能なように、それはありえない組み合わせだ)」

『(そして高町家に襲撃をかけてしまいそうになる気持ちを抑えてマスターを迎えに来たら、聞こえてきたのは聞くに堪えない悶絶トーク。・・・・・ここまで言えばフェイトさんが何故に怒っているのかおわかりでしょう)』

はぁ、とため息をついたアイリスの説明でなんとなくはわかった。

フェイトは魔法については半人前以下の瑞樹が、なのはにボコボコにされてしまわないか心配だったらしい。

なのははそんなに悪い娘じゃないというのに、まったくフェイトは心配症である。

瑞樹はやれやれとばかりに笑った。

『(・・・・・ちっともわかってやがりませんねこのダボハゼマスターは。ふざけるのもいい加減にしないと本気で血を見ることになりますよ?)』

「(だ、ダボハゼ・・・・・それは困る。なんとかしてくれ)」

『(・・・・・・・・仕方ないですね。今から私が言うセリフをリピートしてください)』

「(お、おう!ありがとう!)」

無邪気に喜ぶ愚かなマスターにアイリスはフッと邪悪にワラう。

他にすがる藁がないからとはいえ、アイリスに頼ってしまったのは一生の不覚だったと、後に瑞樹は語った。






『(フェイト・・・・少し話を聞いてくれないか?)』

「フェイト・・・・少し話を聞いてくれないか?」

瑞樹はむっとしたままのフェイトの正面に回って、脳内で響くアイリスのカンペ通りに言う。

「・・・・・・(むー)」

膨れてはいるものの、ぷいとそっぽを向かれることはなかった。

そのまま話せということだろう。

『(フェイトには余計な心配をかけた。悪かったよ、ごめん)』

「フェイトには余計な心配をかけた。悪かったよ・・・・ごめん」

「・・・・・本当だよ」

心配したんだから、と拗ねた顔でいうフェイト。

『(フェイトがそんなにオレのことを心配してくれたなんて嬉しいよ。ありがとう)』

「フェイトがそんなにオレのことを心配してくれたなんて嬉しいよ。ありがとう」

「みずき・・・・ううん、いいんだ。わたしのほうこそ怒っちゃってごめんね・・・・」

あっという間にフェイトの機嫌を取ってしまった。
さすが策士アイリスである。

このときばかりは瑞樹も、普段の行い(主に嵌められたこと)を忘れてアイリスを拝み倒したくなった。

しかし、緊急時でもないのにアイリスが何のメリットもなく瑞樹を助けるはずがないと、ここで彼は気づいておくべきだったのだ。

そう、このまま終わるはずないと。

『(でもわかってくれ。あのままなのはを放置しておくわけにもいかないだろう?風邪でも引いたら大変だ)』

「でもわかってくれ。あのままなのはを放置しておくわけにもいかないだろう?風邪でも引いたら大変だ」

「うん・・・・・」

『(しかも放っておいたら誰かに誘拐されるかもしれない。なのはは可愛いからな)』

「しかも放っておいたら誰かに誘拐されるかもしれない。なのはは・・・か、可愛いからな」

「かわいい・・・・・」

『(ああ、なんていうか・・・・大事にしてあげたくなるような娘だよ)』

「ああ、なんていうか・・・・・だ、大事にしてあげたくなるような、ならないような・・・・娘だよ」

なんか方向性ずれてる気が・・・と思った瑞樹だったが、ここは大人しくアイリスを信じることにした。

こくこくと素直に頷いていたフェイトはまた不機嫌そうな顔になる。

こうまで手放しになのはを褒められたら当たり前だ。

というかケンカを売ってるとしか思えない。

「・・・・、・・・・瑞樹は、なのはとわたしのどっちが大事なの?」

案の定、フェイトがむくれながら言ったとき、アイリスは誰にも気づかれぬように、心の中でキタ――――――!!!!とガッツポーズを決めていた。

弁解するに留まらずなのはを褒めまくった理由はここにある。

全てはこのときのため。

なのはを露骨に褒めることで、フェイトの嫉妬心を刺激するためだ。

もちろんこれは瑞樹をさらなる修羅場に陥れるための序曲。

覚悟するがいいですニブチンマスター、とアイリスは某特務機関指令ばりの子供が直視したら気絶しかねないほどの邪悪っぷりでほくそ笑んだ。

「(あ、アイリス・・・何やら雲行きが怪し・・・・つーか話題が変わってないか!?)」

『(首尾一貫していますよ。それよりリピート・アフター・ミー)』

「(う、うむ・・・・)」

雲行きが怪しいどころか、ところどころに雷雲が立ち込めているような気がしてならないが、初めに頼ったのは自分だし、と瑞樹は続行することにしたようだ。

『(大事、か・・・・そんなことは言わなくてもわかってもらえると思ってたんだけどな・・・・)』

「大事、か・・・・そんなことは言わなくてもわかってもらえると思ってたんだけどな・・・・」

物憂げな表情で視線を微妙にそらしなさい、というアイリスの細かいに指示も忠実に再現して見せる。

「みずき・・・・?」

『(オレは・・・・・最初からずっとフェイトのことしか見てない)』

「(って明らかにおかしいだろーが!!!)」

『(中途半端にすると本当に死にかねませんよ?)』

「(やればいいんだろ!!!)」

もうやけくそじゃー!!と心の中で絶叫する瑞樹にアイリスは成功を確信する。

「オレは・・・・最初からずっとフェイトのことしか見てない」

「え・・・・・・!?」

突然カミングアウトした発言に驚いたフェイトは瞳を大きく見開く。

『(フェイトとなのはを比べるなんてできないよ。オレはフェイトが大好きだ)』

「ふぇ、フェイトとなのはを比べることはできないオレはフェイトが大好きだ」

なんだかもうだいぶ棒読み臭くなっているが、瑞樹のキャパの限界が近いと納得していただきたい。

フェイトはフェイトで顔を真っ赤にして俯いてしまっている。

悪戯心全開でこの場を楽しんでいるアイリスも、ある意味でいっぱいいっぱいだ。

主に、笑いを噛み殺すことに。

『(フェイト・・・・・・・)』

「フェイト・・・・・・」

「う、うん・・・・・・・・」

フェイトの表情にはどこか期待の色が伺える。

幼いなりに次の瑞樹の言葉が予想できたのだろう。

『(・・・・愛してるよ。この地上で誰よりも・・・・)』

「・・・・愛・・・アイシテ・・・・って言えるかあぁぁああァァアァァァァァァッ!!!!」

「きゃっ!?」

ぬあぁぁぁぁぁ!!!と朝日に叫び始めた瑞樹。

ペタンと座り込んで呆然としているフェイト。

通行人はなんだなんだと、叫び始めた瑞樹を遠目に眺めている。

そしてチッと凶悪な舌打ちをしたアイリス。

もう少しでさらに面白い展開になったというのに、不完全燃焼である。

まぁそれでも十分に面白かったし、記録にもちゃんと残してバックアップも取っておいたことだしいいか、と納得することにした。

「なんでだろう・・・・どこからあんな話になったんだ・・・・教えてくれウーフ○イ・・・・ゼロはオレに何も答えてはくれない・・・」

『まぁ・・・さすがの私もゼロシ○テムは積んでませんからねー』

積んでいたとしてもマトモに使用されるのかどうか非常に疑問だ。

というかきっと当然のように悪用するだろう。

断言できる。

「・・・・なんか朝から激しく疲れた。フェイト、いつまでも座ってないで帰って飯にしようぜ」

「あ、うん・・・・・・・あの、瑞樹・・・・お買い物は・・・・?」

『「あ」』

その日は朝から外食になった。








[9514] 第8話 「勢いでやった。後悔はしていない・・・・・でも痛いものは痛いDEATH」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/06/21 01:46
前回の戦いから、瑞樹はちょろちょろフェイトのサポートに回るようになった。

といってもまだ戦力として数えられるかどうかは微妙である。

ゴキブリの舞い蚊のように刺す、程度の活躍はしていると本人は自負しているらしい。

因みにその自負に対して某毒舌デバイスは『この駄犬が』と辛辣にコメントした。

今は戦果報告に時の庭園まで足を運んでいる。

手土産には翠屋のシュークリーム。

フェイトに一回食べさせてみたらその美味さにえらく感動したらしく、ぜひ母親にも持っていってあげたい言い出したのだ。

『どこで買ったのっ?え、言えない・・・・な、なんで!?どうして!?』

瑞樹を押し倒しかねない勢いで迫るフェイトに、瑞樹はいつしかのように壁際まで追い込まれた。

つい『なのはの家』とか言ってしまいそうになったが、これまでの巻き込まれ人生で無駄に培われた危機察知能力が当然のように警報を発し、のどもとでなんとか踏みとどまった。

またもやアイリスは瑞樹を陥れ――――もとい、瑞樹で遊ぼうとしていたみたいだが、瑞樹にも学習能力はあった。

えー・・・・と渋る瑞樹に、フェイトは自分で探しに行こうとするが、見つけられてもヤバイので瑞樹が翠屋に足を運んで入手したものだ。

昼過ぎに行ったはずなのに、帰る頃には日が沈みかけていた。

言うまでもなく恭也を除く高町ファミリーにつかまっていたせいである。

たかだがシュークリーム数個買うだけにこんなにも時間がかかるとは、いつものことと言ってしまえばそうなのだが、最近は普段に増してイベント発生率が高いような気もする。

やはり運命の女神に核ミサイルでも担いで家庭訪問でもするべきだろうか。

「・・・・というわけで時の庭園までやってきました。なんていうか、これもある意味で家庭訪問?」

『あなたがを教師にしたら世界が滅びます』

「そこまで!?」

「ぐずぐずしてないでさっさと行くよ!フェイトには悪いけど、あたしはあの女のいるココがキライなんだ」

「アルフ・・・・・」

ふん、と鼻を鳴らすアルフにフェイトは悲しげな顔をする。

「・・・・・そう言うなって。プレシアはフェイトの母親だぞ?」

「母親だったらフェイトにあんな酷いことできるわけないっ!」

「んー・・・・それでもフェイトはプレシアが好きなんだろ?」

「うん、わたしは母さんが好き・・・」

「だったらオレはフェイトを応援するぞ。家族ってのは大事にしないとな」

「みずき・・・・ありがとう」

瑞樹は照れ隠しにフェイトの頭にポンポンと手を乗せると歩き出した。







「・・・・とまぁ、戦果はこんな感じか。このまま邪魔が入らなきゃ全部集めるのも夢じゃないと思うぞ」

「そう・・・・白い魔導師に奪われた分を取り返す算段もついてる、そう判断していいのかしら?」

「そう判断してかまわない」

尤も、それを実行するつもりは無いが。

フェイトは先ほどから何か言いたそうな顔をして瑞樹の傍らにいた。

プレシアと話をしたいのだが、話しかけるふんぎりがつかないようだ。

瑞樹のバリアジャケットの裾をぎゅっと握りしめながら、不安と期待が入り混じった表情で話を聞いている。







報告はフェイトではなく瑞樹がやっている。

これといって目立つ動きはしていないので、今はまだ嘘をつく必要はないが、これからは管理局も絡んでくることになる。

時には嘘や方便も必要になってくるだろう。

それも即席で考えた嘘だと見抜かれる可能性が高い。

今のうちに自分が以後動きやすいように話を作り上げる必要があった。

「・・・問題は管理局だが、こればっかりはどれくらいの規模で干渉してくるのかわからないから、なんとも言えないな」

「それについては問題ないわ。こちらもただ手を拱いていたわけではないの」

「・・・・?何か隠し玉でも用意してるのか?」

プレシアの手駒は、瑞樹たちを除けば傀儡兵くらいだ。

ここにきてその他の戦力の増強とは、少なくとも原作にはなかったはず・・・・たぶん。

よく覚えていから自信がない。

「あなたもよく知っているモノよ。・・・・それはいいとして、フェイト」

瑞樹の傍らで、プレシアに話しかけたそうにしていたフェイトに、プレシアが自分から声をかけた。

「は、はい、なんですか・・・・母さん」

「よくやったわね。さすが私の娘よ」

「っ!!あ、ありがとうございます、母さん」

フェイトとしては、にわかに信じられないことだったのだろう。

その表情は喜びと驚きが半分ずつ伺える。

プレシアから声をかけてもらい、さらにさすが自分の娘だと褒めてもらえることなんて、今までなかったのだろう。

アルフはアルフで唖然としている。

こちらは完全に信じられない、といった様子だ。

フェイトの表情から驚きは少しずつ消えていき、やがてその全てが眩しい向日葵のような笑顔になった。

―――――これで、いい。

瑞樹は一人、心の中で呟く。

フェイトがこんなに風に笑ってくれるなら、無理をしてでもプレシアを説得した甲斐があったというものだ。

例えこれが瑞樹によってもたらされた偽りのものだとしても、これが何かのきっかけになってくれれば、いつかはプレシアもフェイトのことをまっすぐに見ようとしてくれるのではないか。

今はまだ無理かもしれないが、アリシアのことになんらかの決着がつけば、プレシアもフェイトを本当の娘として見るようになるかもしれない。

こんなにまで一途な思いだ。

思いはいつか形になる、そう信じたい。

『(マスター・・・・あなたは甘すぎです。あなたの考えはあまりに都合のいい理想論です)』

「(好きに言ってろ。あの母娘のためにオレはここにいる。そのためならなんだってするさ)」

『(・・・・・・・マスターなんて理想に溺れて溺死しやがれ、です)』

「(本望だ)」

「あ、あのっ、母さん・・・・」

「何かしら?」

「これっ、その・・・シュークリームっ・・・・お土産です」

「あら、ありがとう。後でいただくわ」

「は、はいっ!」

一生懸命になって母親に話しかけるフェイトと、それを笑顔で受けるプレシアを視界に収めながら、瑞樹は母娘にささやかなエールを送った。








「・・・・・・ふぅ」

「疲れてるじゃねエか。仲良くしてるように見えたんだがな」

低い男の声が、王座に座るプレシアの耳に木霊した。

「気のせいよ。あくまで表面上・・・・・・・全てはアリシアのためよ」

「ハッ・・・・あんたもつくづく救えない。・・・・で、オレはまだ表舞台に上がらなくていいのか?」

「上がってもらうわ。近いうちに、否応なく、ね」

「願ったり叶ったりだ」

「そのためのあなたよ。目障りな羽虫は全て殺しなさい」

「一人で全部やれってか。なかなか無茶なことをいう」

「それだけの力は与えたわ。あなたなら、簡単なはずよ」

「フン・・・・・了解だ、我が創造主」










「バルディッシュ・・・・!」

『Yes, sir』

「お願い、レイジングハート!」

『All rigth, my master』

金とピンクの魔力光が飛び交うのを、瑞樹は少し離れた木の上でポテチの袋を片手に観戦していた。

「いや、だってオレにできることってねーし?」

『そんなことはどうでもいいですけど、ベトベトした手で私に触らないくださいね』

「しっかし・・・なのはは強くなったねぇ」

魔法に目覚めたのはほぼ同時だというのに、なのははすでにフェイトとまともにやりあえるレベルになっている。

瑞樹については言うまでもなく、こうしてガチファイトが始まってしまったらフェイトの応援くらいしかできることがない。

一応、瑞樹はジュエルシードを封印するためにいるのだが、ビックトレント(ジュエルシードを飲み込んだ樹)を倒してもらわないことには、引き続き観戦モードでいるしかない。

「いけっ・・・そこだ!・・・あ、アルフ!おまえそこは違うだろ!?」

『・・・・もはや完全にプロレス観戦している親父ですね』

「うっさいわ!!」

『発明は1%の才能と99%の努力だ』なんて言ったのは一体誰だったか。

嘘つくなよコノヤロウ、と声を大にして叫びたい。

世の中には努力じゃどうにもならない、PCの取説よりも分厚い壁があるのだ。

てっとりばやい例を挙げるなら、どんなに努力してもペンギンは空を飛べない。

「魔力量的には大して差はないはずなんだけどなー・・・・」

『技術に差がありすぎます。マスターの場合は魔力から魔法に繋がるエネルギーの変換効率、とでも言った方が正しいのでしょうが、この際なんでもいいでしょう』

「・・・すまん、もう少しわかりやすく言ってくれ」

『つまりですね、マスターの魔法は下忍時代のナ○トが忍術を使うようなものだと言っているのです。例えば、ある魔法を使うために5の魔力が必要だとします』

「ずいぶんしょぼい魔法だな」

『黙って聞きなさい―――――――なのはさんやフェイトさんは普通に5の魔力を使って5の威力、もしかしたらそれ以上の威力を発揮できます』

「オレは?」

『マスターの場合は5の魔力では不発に終わるだけです。同じ魔法を発動したいのなら、7は必要ですね』

「マジかよ・・・・」

『そして7を消費しても発揮できるのは頑張っても3・・・・よくて4です』
「どんだけ弱いんだオレは!??!」

『こればかりは地味な練習を積むしかないですね。というか魔法というのは、本来そうやって学んでいくものなんですよ。なのはさんがご都合主義すぎる存在なだけです』

珍しくアイリスが瑞樹を慰めた。

その前までボロクソ言っていたが。

「わかったよ・・・・オレは大人しくポテチ食ってる・・・・」

『ってベタベタヌルヌルした手で私に触らないでくださいと・・・・ああっ!だからってバリアジャケットで拭かないでください!!!』

お前はお母さんかよ、と言いたくなる気持ちを抑えて再び観戦に戻る。
そういえばクロノはいつごろやってくるのだろうか。

ビックトレントが意外にも粘っていることもあるが、別に倒されたら転移してくるとは限らない。

しかし魔力反応を確認してくるのだとしたら、少し遅すぎる。

先日の次元震をスルーしたのか。

それともビックトレントを倒し、片方が片方を倒してから、疲弊したもう一方を軽く捻って二人を拘束した上で、あわよくばジュエルシードまでもっていこうとしているのか。

もし後者であるならば、クロノは目的のために手段を選ばない最低野郎として瑞樹が自ら・・・・えーと、どうにもできそうにないが、アイリスがきっとどうにかしてくれると思う。

「お、ようやくやったか」

フェイトとなのはを相手に頑張っていたビックトレントが、ようやくジュエルシードを吐き出した。

『転位反応です』

「ってマジかよ。あのムッツリ執務官・・・・二人に接触するために邪魔だったビックトレントが片付くの待ってたのか」

悪態をついてみたが、クロノとなのはを同時に相手にするプランも考えてある。

とりあえずフェイトにクロノを任せて、アルフにはきついだろうがなのはを抑えてもらう。

そしてその隙に瑞樹はジュエルシードを封印、離脱。

プランでも何でもない総当たり戦かもしれないが、考えておくのとおかないのでは実際での動きが違う。

ケース想定はできる限りしておくべきである。

クロノがフェイトとなのはに割って入ったのが見えた。

なのはは突然のクロノの登場に呆然としているが、前もってその可能性を瑞樹に示唆されていたフェイトの動きは早かった。

すぐさまクロノから距離を取っている。

「行きますか・・・今回もあっさりと終わってくれることを祈るよ」

樹の枝から、瑞樹が腰を上げた瞬間だった。

『無理っぽいですよ・・・・・マスター、新たに転位反応です』

―――――瑞樹のシナリオに、罅が入る。









「格好のマトだな」

黒いマントを翻し、ここにイレギュラーが降臨する。

「理想主義者様がいないのが気になるが・・・・・・順番はどうでもいいか」

どうせ同じだ、と嗤う。

黒を基調としていて、凶々しい紅いライン迸らせたバリアジャケット。

「全員まとめて―――――――消えるがいい」

『―――――レディー』

ジュエルシードとそれに群がるモノたちに、黒い闇が牙をむいた。








『アレがプレシアさんが言っていた隠し玉とやらですかね。なんかバリアジャケットのセンスがマスターに似てますが・・・・』

「・・・・・・、・・・・・」

アイリスの言う通り、恐らくあれが隠し玉だろう。

このタイミングで出てくるイレギュラーなど他には考えられない。

しかし、何故だろう。

プレシアがよこした助っ人ならば味方のはず。

なのに現れた黒いイレギュラーは、どこか不穏な気配を纏っている。

瑞樹が成り行きを見守る中、黒のイレギュラーをが漆黒の剣を振り上げる。

収束していく光。

不穏な気配はますます大きくなる。

遠い昔、どこかでこんな気配を感じていたことがあったような気がする。

気分が悪い。

魚の骨が喉に引っかかったようで、思い出せそうで出てこない。

「・・・・・・・」

漆黒の剣を振り上げたまま、黒のイレギュラーの視線ががまっすぐに瑞樹をとらえた。

「・・・・・・・・・」

――――こちらに気づいている・・・・?

「・・・・・・・フ」

仮面の下で、奴の口元が不自然に歪んだように見えた。

「・・・・ッ!!!」

『フェイト!!今すぐにそこから離れろ!!!!』

『・・・・・・・』

返事は、ない。

『・・・・あのデバイスからジャミングが発せられています。アースラがあれを見つけてもクロノさんに伝えることはできませんね。・・・・というかマスター、何をそんなに焦っているのですか?』

「クソッ・・・・!!用意周到じゃないか・・・・!!!」

アイリスの質問は答えず、瑞樹は黒いイレギュラーめがけて一直線に飛ぶ。

『い、いったい何をしようとしているのですか!?』

「少し黙ってろ!!」

思い出した。

あの不穏な気配の正体。

長く平和ボケしていてすぐに気付かなかったことが悔やまれる。

あの不穏な気配。

そして先ほどの背筋に電気が走ったような、ビリッとした感覚。

アレは――――――――――――――殺気だ。








『ジャミング・アウト』

「――――――ダークネス(闇より暗き)―――――」

黒のイレギュラーが剣を振り上げる。

「―――――カリバー(漆黒の剣)――――!!!!」

そして闇の奔流は放たれた。








「・・・・・っ」

フェイトがその大きな魔力に気づいたとき、ソレはすでに眼前で迫っていた。

なのはの砲撃の数倍の威力はあるであろう、暗い底知れぬ黒光。

アレはきっと、どんなシールドをもってしても防げない。

本能がそう感じさせるほどの大きな絶望。

フェイトは、無駄だと知りつつも、自分の心の中にいる少年の顔を思い描いてしまう。

瑞樹の能力は自分より下だ。

碌にシールドも展開できない彼にアレは防げない。

それでも――――――

「みずきっ・・・・・」













「―――――アヴァロン(全ては遠き理想郷)―――――!!!!」







カッ―――――!!!

眩い黄金の光が、鞘を構えた瑞樹を包み込む。

黒い光は瑞樹にぶち当たった先から、射線上にいたフェイトたちを避け、左右に分かれて散っていく。

ドゥン―――――――――――!!!!!

分たれた黒の残滓はそのまま地面に直撃し、爆音と共に大地を深々と抉った。

立ち込める土煙。

誰一人として動かない。

否、動けない。

いったい何がどうしてどうなったのか、誰もが理解できていない。

いきなり現れたイレギュラーたちに、反応できないでいる。

「フン・・・・・・・・やりそこねたか」

晴れた先で、誰ひとりとして地に伏していないことを視界に収め、そしてそれを成した白騎士を見据え、イレギュラーは吐き捨てた。

「みずきっ!!」

近くまで降りてきた瑞樹にガバッ、とフェイトが抱きつく。

たぶん、本人に大胆な行動を取っている自覚はない。

つり橋効果とか、その他いろいろの勢いだろう。

「・・・・オーケー、フェイト。防いだとはいってもあんまり状況は改善してないんだ・・・・とりあえず離れてくれ」

「あぅ・・・・・・」

顔を瞬間的に赤くし慌てて離れ、もじもじと手を後ろで擦り合わせるフェイトにはものすごく萌えるが、今はそんなことをやっている場合ではない。

なにせさっきから全身が、強烈に痛い。

どこが?と問われると答えにくい・・・・というか全身としか答えようがない。

『(・・・時間がないので簡潔に説明しましょう。アヴァロンの反動です)』

簡潔すぎた――――――――というかそんなことは言われなくてもわかる。

「(いやいやいやッ・・・・!!それにしてはこう・・・脳とか頭とかだけじゃなくて全身が痛いのですがッ!?)」

『(何を言っているのですか?レベル合わない魔法の使用は、術者の精神にこそダメージを与えはしても、脳や頭が限定的に痛くなることはありません。・・・・まぁ、結果的には痛むようですが)』

「(精神じゃなくて身体がッ・・・・!!物理的に痛いのですが!?!?)」

『(はぁ・・・・あなたはどうやって精神の痛みを感じ取るというのですか?精神に明確な痛覚というものは存在しません。しかし身体が危険な状態にある以上、それをなんらかの形で警告する機能が何にでも備わっています。それが精神のもたらす痛み―――――今マスターが感じているものです)』

故に全身を漠然とした強い痛みが襲うだけで、どこを撫でようが殴ろうが痛みは揺るぎなく感じる。

治癒するためには精神とやらの回復を待つしかないのだろう。

ということは、この局面はこのまま乗り切るしかないということだ。

瑞樹は悲鳴を上げ続ける身体に鞭打ち、頭上の黒騎士をにらみつける。

「なんで・・・・フェイトを、巻き込もうとした?」

「あの距離から敵をまとめて消しさる技をあれしか知らなかったんでな・・・・・どうせ喰らっても死にはしない」

非殺傷設定だしな、と笑う黒騎士。

だがあれだけ不穏な気配をまき散らしていた一撃だ。

喰らったとしたらただではすまなかっただろう。

「おまえ・・・・・・」

「フン・・・・相手を間違えるんじゃねェ。今は邪魔者を消して、ジュエルシードを持って帰るのが最優先事項だろうが」

『非常に気に入りませんが、正論ではあります』

「とはいっても――――貴様は鞘の反動で動けねェだろうし、オレが適当にやるからそこでガキと乳繰り合ってろ」

「なんでおまえが鞘のことを―――――っ・・・・」

ヤバイ。

一瞬目の前が白くなり、重力に身を任せてしまいそうになった。

これは思ったよりも重症なようだ。

楽になるどころか、時間が経つにつれどんどん悪くなっている。

「みずき、無理しないで・・・・・っ!」

フェイトは空中でふらつく瑞樹をすぐさま支える。

『マスターは鞘でも抱えて大人しくしていなさい。あれには治癒効果もあるはずです。少しくらいなら精神に余裕も戻るでしょう』

「あ、ああ・・・・・」

悔しいが今の瑞樹にはアイリスの言うとおり、黙って回復を待つことしかできることがなかった。

ジュエルシードに向かって飛んでいく黒騎士を見送り、もどかしい気持ちで全身を支配する鈍痛が引くのを待った。




クロロです。

長くなったので半分にわけました。

でわでわ。



[9514] 第9話 「マスター、知ってますか?二兎を追う者は一兎も得ないんですよ」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/06/23 00:47
黒騎士は、フェイトに支えられる瑞樹を鼻で笑うと、ジュエルシードに向かう。

「そこまでだ」

クロノはジュエルシードを奪おうとしている黒騎士の前に立ちはだかる。

状況も敵もまだ不透明だが、黒騎士はジュエルシードに向かって飛んでいる。

他はまだわからないが、少なくとも黒騎士は自分が捕縛すべき対象だ。

「あぁ・・・?今までいるだけで何の存在感もなかった執務官サマが、オレを止められると思ってンのか?」

「・・・・・僕が管理局の人間だということは知っているようだな。ならばそれ以上の暴言は、君自身に余計な罪を増やすことになるぞ」

「ハッ・・・・このオレに勝ったつもりでいやがる。それじゃあ――――お強い執務官様に少し胸をお借りしましょうかねェ」

嘲笑う黒騎士に、クロノは問答無用でスティンガー・レイを撃つ。

「この程度の威力か・・・・・・・」

それを黒騎士は剣の一振りで薙ぎ払ってみせる。

落下するスティンガー・レイの残骸には目もくれず、黒騎士はクロノに向けて黒い魔力を圧縮した魔力刃を続けて放つ。

「くっ・・・・・・」

スティンガー・レイとほぼ同様な速度で迫るそれを、なんとかよけるとクロノは続けてスティンガー・スナイプを放つ。

これは誘導弾だ。

避けても無駄、そう判断した黒騎士は迷わず受け止めることを選ぶ。

「チッ・・・・・・伊達に執務官を名乗ってるわけじゃ『敵影』・・・・あぁ?」

デバイスの声に反応して振り向くと、なのはが杖をこちらに向けているのが目に入る。

いきなり現れて素性もなにもわからないという点では、クロノも黒騎士も同じだが、なのはは問答無用で全員を攻撃してきた黒騎士のほうを攻撃対象として選んだらしい。

「事情も何もわかってねェガキが・・・・邪魔するんじゃねェ!!」

黒騎士が空いている手をなのはに向けて、パチンと指を鳴らす。

「え・・・・えっ・・・?」

なのはの周囲を、明らかに彼女のではない闇色の魔法陣が展開する。

「三種類の魔法を同時に発動だと!?」

それに驚いたのはクロノだ。

現在彼らは空で戦っている。

故に飛行魔法は当たり前のように使用している。

しかし黒騎士は空を飛びつつ、一方の攻撃を受け止め、さらにはもう一方に全く違った魔法を使おうとしているのだ。

魔法の構成というものはそう簡単にはできていない。

どれか一つでも構成の維持が甘くなれば、黒騎士は重力に身を任せ地に落ちるか、クロノが放った誘導弾に貫かれるはずだ。

捕縛目的とはいえ、クロノは手加減した覚えはない。

しかし黒騎士は地に落ちもしなければ、シールドの強度を脆くするわけでもない。

つまり全ての魔法を並行処理していることになる。

今まで管理局の魔導師として様々な敵と杖を交えてきたが、こんな荒技を成し遂げる魔導師は初めてだった。

「消えな」

『強制転移』

なのはの周囲の魔法陣から生まれた闇がなのはを包み込む。

その闇はやがて小さくなり、なのはは闇とともにその場から姿を消した。

「フン」

それを確認すると、黒騎士はだいぶ威力の弱まったスティンガースナイプを、剣の一振りでかき消す。

「邪魔だ」

そして先ほどと同じ、黒い三日月の形をした魔力刃をクロノに向けて飛ばした。

「くっ・・・・・!!」

「受け止めると大変だぜ?」

「なっ・・・・・・!?」

魔力刃の速度と大きさから、かわすより受け止めることを選んだクロノだったが、魔力刃はいつまでたっても消える気配を見せず、クロノのシールドに喰らいついて離れない。

そしてそれは、黒騎士にとっての狙いでもあった。

飛行魔法、防御魔法を行使したままでは、さすがの執務官といえど他のことにまで対応できない。

先ほどクロノ自身が驚いたように、三種類の魔法の同時発動は、下手をすると全ての魔法を中途半端なものにしてしまう恐れのある荒技なのだ。

何よりもクロノに喰らいついている黒い牙は、構成を甘くして防げるシロモノではなかった。

故に、今のクロノはあまりに無防備だ。

「つまり―――――――こういうこった」

ガシッ――――――。

黒騎士はシールドで覆われていないクロノの後頭部を鷲掴みにすると―――――。

『魔力収束』

「―――――ダークレイ(闇魔光)――――――」

掴んだ手のひらから黒光が、クロノに放たれた。

バリアジャケットで覆われていない頭部を直接掴まれているクロノは、防御はおろか回避も出来ない。

「ハッ・・・・これが執務官か。脆すぎだ」

落下していくクロノを黒騎士は、嘲笑と冷たい視線をもって見送る。







一瞬だった。

黒騎士はあっという間にジュエルシードを集めるための障害を全て排除してしまった。

「(ちょっ・・・・・明らかにオーバースペックじゃないか!?)」

『(クロノさんも伊達に執務官を名乗っていないというのに・・・・しかもあの短時間で他人を強制転位させる魔法なんて聞いたことありません。レアスキルですかね)』

瑞樹の知らない言葉が飛び出してきたが、疑問はあとで解決したほうがよさそうだ。

黒騎士がこちらに接近してきている。

「よォ、調子はどうだ?相棒」

「誰が相棒だ。・・・・まぁ、おかげで多少は楽になった。そこは感謝しておく・・・・」

瑞樹は警戒心を解かずに、一応感謝する。

なのはの行方が気がかりだが、助かったことは事実だ。

クロノは・・・・まぁ、大丈夫だろう。

執務官だし・・・・・たぶん。

「・・・・・・くだらねェ」

未だにフェイトに支えられている瑞樹を見て、黒騎士は失望したような笑みを浮かべる。

「・・・・・・?」

自嘲するように言った小さな呟き故に、後半の方はほとんど聞き取れなかった。

『マスターをイジメるのはそれくらいにしてください。というか名前くらい名乗ったらどうですか?』

「いや・・・・別にいじめられてないが・・・・・?」

『マスターは黙っていなさい。私はこの黒いのに話をしているのです』

デバイスなのにマスターに命令口調だった。

いや、まぁ・・・・・アイリスの発言が傲岸不遜で大胆不敵なのはいつものことでもはや突っ込む気もしないが、それよりもアイリスの口調がいつもよりトゲトゲしていて、なんとなく怒気を感じさせることの方が瑞樹は気になった。

まさかアイリスは、味方と言っておきながら瑞樹に不必要なダメージを与えた黒騎士に怒ってくれているのだろうか。

ついにアイリスにも、デバイスとしてマスターを敬う自覚が――――――――――――。

「アイリス、おまえ・・・・・・」

『マスターをからかって遊んでいいのは私だけです。それをあなたは・・・・・・いったい何様つもりですか』

「・・・・・・・・・・・・」

――――――そんなこったろうと思ったよっ・・・・!!

『マスター、何をそんなに肩を震わせているのですか?面白いんですか?是非とも精神科に行くことを推奨します』

「悲しんでるんだよッ!!おまえこそいったい何様!?」

『もう一度聞きます。あなたはいったい何者ですか?』

無視された。

もう、黙っていよう。

これ以上は無駄に心の傷を広げるだけだと思った瑞樹は、支えてくれるフェイトの優しい感触に身を任せることにした。

「はぁ・・・・オレに優しくしてくれるのはフェイトだけだよ・・・・本当に、いやマジでありがとう」

アイリスは主を主と思わないどころか、基本的に面白い玩具としか見てないし、アルフは食欲魔獣だし自分で食べたくせに飯がなくなったとか言って暴れるし、こんな理不尽な世界でもはや瑞樹のアヴァロン(心の安らぎ)はフェイトしかいない。

やけに熱の籠った感謝の言葉に、フェイトは顔をぼっと赤くしてあうあうと困り出す。

しかし困りながらも、ちゃんと瑞樹をまっすぐに見上げて―――――。

「そんなことないよ。瑞樹はわたしが困ったときにいつも助けてくれるから、瑞樹が困ったときはわたしが力になってあげたいんだ」

心なしか、瑞樹のバリアジャケットを握る手にぎゅっと力がこもる。

「・・・・・・マジで感動した」

瑞樹はおもむろにフェイトを抱きしめて髪をそっと撫でる。

「みっ・・・みみみみ、みずきっ!?」

瑞樹の突然の抱擁に焦り、顔色を赤から朱まで昇華させるフェイト。

「ありがとう、フェイト。その言葉だけでジオ・・・・・・オレはあと10年は戦える」

「みずき・・・・・。ううん、みずきは一人で頑張りすぎだよ。もっとわたしを頼って欲しいな」

「それをフェイトに言われるとは・・・・だが、そうだな。心にとめておくとする。・・・・アリガトウ」

最後の方は少し照れくさくなって、声が小さくなってしまった。

それはフェイトも同じようで、困ったようにはにかんでいる。

ただし、ぎゅっと握る手の力は変わらなかった。





「『・・・・・・・・・・・・』」

「ん、なんだ。二人は何か話をしてたんじゃないのか?邪魔者のことはかまわず話を続けてくれ」

無視されてフェイトの優しさに逃げた瑞樹だったが、ふと感じた視線のほうに言う。

感じる二つの視線は、黒騎士とアイリスのモノ。

いつの間にか二人は話をやめて、心なしか冷たい視線を瑞樹とフェイトに向かって送っていた。

『いえ・・・・・むしろこちらこそ邪魔をしてすみません』
「これが・・・・・こんな奴が・・・・・・・・・」

アイリスはいつになく殊勝に謝っているし、黒騎士は何やら猛烈にショックを受けて暗い影を背負っていた。

『・・・・・・とにかくいつまでも抱き合っているのはどうかと思うのですよ』

「ぬあっ・・・・・!?」

「あ・・・・・」

ようやく冷たい視線の正体に気づいた瑞樹は、慌ててフェイトを自分から離す。

まだ少しふらつくが、どうやら一人で飛んでいられそうだ。

フェイトは少しなごり惜しそうな顔をしていたが、黒騎士の視線を感じると赤い顔をして照れ隠しするようにジュエルシードのほうに飛んでいった。

『はぁ・・・・・つい先ほどまでヒーヒー呻いたのに、どさくさにまぎれてフェイトさんといちゃつくとは・・・・・マスターも大概に空気が読めていませんね』

「・・・・・まさかとは思うが、記録には残していないだろうな」

『勿論』

残しました―――――というか途中から知っていて放置していました。

そんな事実は心に秘めつつ、アイリスはさも悔しそうな声を演じてみせる。

『くっ・・・・マスターがところかまわずいちゃつく変態だったとはっ・・・!これではいつ記録開始をしていいかわからないじゃないですか』

「フッ・・・・今回はオレの勝ちのようだな」

実際は負けているのだが、知らないほうが本人にとって幸せだろう。

如月瑞樹の一生、みたいな形でいずれは黒歴史が公開される日が来るのだとすれば、それはあまりに短く儚い幸せだが。

黒騎士の素性よりも瑞樹で遊ぶ方が優先という思考回路を持つアイリスは、やはりいろんな意味で危険なデバイスである。

「そんなにお人形遊びにはまったのか?」

「なんだと・・・・」

唐突に、嘲笑うように黒騎士は言った。

「何をそんなにふぬけてやがる。オマエは目的のために、緩い手段をチンタラ取っているような奴じゃなかったはずだがな」

「まるでオレの事を知っているかのような言い方じゃないか。おまえみたいな変態仮面とは今まで会ったことがないはずだが?」

『毎日鏡を見ることをお勧めします』

黙れ。

「・・・・気づいてやがらねェときたか。まぁ、いい。一つ聞かせろ、如月瑞樹」

「・・・・?」

「プレシアはフェイトを娘と認めるつもりは・・・・・今のところはまだない」

前回の報告のときに少し改善が見られたと思ったが、やはり本心ではなかったようだ。

―――――さすがにすぐにわだかまりが解けるはずもない、か。

「今はまだ、な。あの母娘には時間が必要だよ」

「理解できねェな。オマエは何をしようとしている?わざわざプレシアとフェイトをナカヨクさせようとして、そんなことをする必要がどこにある」

「・・・・・・・フェイトの幸せを願うならプレシアは必要だろ」

「プレシアの幸せにフェイトはいねェんだよ。オマエだってわかってるだろうが」

「だからオレがどうにかするんじゃないか」

「・・・・・・・・・・・・・チッ」

言い切った瑞樹に、黒騎士は忌々しげな舌打ちで返した。

「どうやら予想以上に脳が緩んでるやがるみたいだな・・・・・・プレシアのシアワセとフェイトのフコウは表裏一体だ。両立なんかできねェよ」

プレシアが目的を果たした瞬間に、彼女にとってフェイトは用済みとなる。

原作の流れ通りに進むならば、フェイトが望む未来は間違いなく得られない。

フェイトの望みはプレシアとの母娘としての良好な関係。

しかしそれを叶えるためには、プレシアが望みを捨てなければならない。

「・・・・プレシアを殺せと?」

「誰かがシアワセになれば、別の誰かがフコウになるモンだ。世の中そうやって回ってる―――――――――言うまでもねェことだ。オマエは今までの人生で何も学ばなかったのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「―――――選べよ、今すぐに。フェイトとプレシア、どっちのシアワセをオマエは取るんだ?」

黒騎士は剣を瑞樹に突き付けて迫る。

彼の言うことはもっともだ、とアイリスは思う。

フェイトとプレシアのことに関してだけ言ってしまえば、幸せの両立は不可能だ。

誰もが納得できる結末なんて存在しない。

ならばどちらも中途半端に不幸してしまうよりは、どちらか一方を切り捨てて一方を幸せにするほうが現実的である。

アイリスだって前に瑞樹に進言した。

プレシアを排除しろ、と。

しかし瑞樹はプレシアを殺さずに現状を維持することを選んだ。

黒騎士の味方をするわけではないが、彼の意見のほうがずっと現実味を帯びている。

だからこそアイリスは瑞樹の答えを予測できていた。

何が瑞樹をそうさせるのか、過去に何があったのか、まだ何も知らないが、これだけは言える。

瑞樹がプレシアをただ切り捨てることはありえない。

「悪いが、どっちも選べないな・・・・いや、オレはどっちも選ぶ」

予想通りだ。

答えた瑞樹を、黒騎士は剣を突き付けたまま睨みつけている。

「・・・・・オマエは神にでもなったつもりか。全てを救うなんて馬鹿げた真似はできねェよ」

「フェイトの幸せのためにはプレシアが必要なんだよ」

「・・・・・・何を言っても無駄みたいだな」

黒騎士はふぅ、とため息をついて――――――

「じゃあ、死ねよ」

―――――剣を振り下ろした。






ガキン―――――!

「・・・・・・邪魔をするのか」

剣と瑞樹の間に割って入ったのは、フェイトだった。

瑞樹が反応するより早く、バルディッシュをもって黒騎士の一撃を受け止めている。

「あなたが誰なのかは知りません。たとえ、母さんが送ってくれた援軍だとしても・・・・・みずきを、傷つけるのは許しません」

強い意志のこもった瞳で黒騎士を見つめるフェイト。

黒騎士はそれを仮面の下からにらみ返す。

カチカチと、しばし金属音が鳴り響く鍔迫り合いが続いていたが、それは黒騎士が剣を引くことで終わりを告げた。

「フン・・・・・・・命拾いしたな」

黒騎士は剣を収めると、黒い外套を翻して背を向ける。

そして、振り返らずに飛び去って行った。










「お帰りなさい・・・・・・・彼はどうだったの?」

「予想以上に腹の立つ野郎だった。あんたが言うなら今すぐにでも消してやるよ」

忌々しげに吐き捨てた黒騎士に、プレシアは満足そうに微笑む。

「ふふ・・・・・それでいいのよ。私の言うことをちゃんと聞いていれば、ちゃんとあなたの爆弾ははずしてあげるわ」

愉快そうに言うプレシアに、黒騎士は胸を抑え舌打ちをする。

プレシアは、黒騎士を創り上げたときに、リンカーコアにある仕掛けをした。

自分の意思にそぐわない行動をした時に、いつでもリンカーコアを崩壊させることのできる起爆式の術式を埋め込んだのだ。

「あの子のように余計なことは考えず、迷わずに私に従っていなさい」

「誰にモノを言ってやがる。・・・・・・・オレは迷わねェよ」

黒騎士がゆっくりと仮面をはずす。

「どこぞの阿呆と違って損得の勘定はできるし、切り捨てるべきモノも理解できてる」

手から滑り落ちた仮面が、暗い玉座を乾いた音で満たす。

「それならいいのよ。ふふ・・・・あなたは私が創った中で一番優秀みたいね。くれぐれも、選択を間違わないことね」

「フン・・・・あんたの望みは、ちゃんとオレが叶えてやるさ」

――――は髪を鬱陶しそうにかきあげ、不機嫌そうに答えた。




こんにちわ、クロロです。

後編です。

ストーリー的に少し改訂。

後の展開が大幅に変わりそうで怖い・・・・・・。



[9514] 第10話 「回想・・・・・厨二臭いとか言わないでっ」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/06/28 02:06
時空管理局の執務官であるクロノ・ハラオウンは、後頭部に走る鋭い痛みで目を覚ました。

まず目に入ったのは、洗いたてのシーツのような白い天井。

次に周囲を確認する。

隣にベッドが見える。

そばには体温計やらが乱雑に置かれた棚。

どうやらアースラの医務室のようだ。

クロノは自分がどこにいるかを把握すると同時に、自分がここでのんびり寝ていなくてはならなくなったのかを思い出した。

いきなり現れた黒騎士―――――――その圧倒的な戦闘力を前にクロノは敗北したのだ。

地球に来る前に確認したデータには、あんな存在の記録はなかった。

ジュエルシードをめぐって争っていたのは、二人の魔法少女。

それがいったいどういうことなのか、素性の知れぬ魔導師がぞくぞくと現れ、あっという間に倍になっていた。

いきなり攻撃してきた黒騎士と、ソレから全員を守った白騎士。
しかも二人の姿は、色を除けばほぼ同じ。

敵同士が同じバリアジャケットをイメージするだろうか。

否、普通に考えればあの黒白騎士は互いに味方、ということになる。

なのに行動は互いに敵対している。

わけがわからない。

それでも伊達に執務官を名乗っていない。

混迷に落ちた現状でなんとか敵味方を判断し、とりあえずジュエルシードに向かおうとしていた黒騎士を捕縛することにした。

しかし、結果は惨敗。

意表を突かれたとはいえ、執務官である自分がこうまで無様を晒すことになるとは思わなかった。






クロノは起き上がると、ざっと身体の状態を確認する。

「・・・・・・・・・・」

零距離で攻撃を受けた後頭部が、まだ鈍い痛みを発してはいるが、それ以外に目立った外傷はないようだった。

最後のあれには、正直肝を冷やした。

咄嗟に三日月状の魔力刃を受け止めていたシールドをキャンセルし、黒騎士と自分の間に無理やりシールドをねじ込んでいなかったら、非殺傷設定だったとはいえどうなっていたかわからない。

ここに至る経緯をざっと振り返り、己の迂闊さを今一度反省してから、次は先のことを考える。

あの後いったいどうなったのか。

覚えているのは白い魔導師の少女はどこかに飛ばされ、自分を撃墜した黒騎士がこちらを嘲笑していたことくらい――――――。

「・・・・・・・・・」

いかん、頭に血が昇ってきた。

落ち着け、落ち着くんだクロノ・ハラオウン。

そもそも相手は表情の読めない仮面で頭部を覆っていたではないか。

黒騎士が自分を嘲笑ったのかどうかの判断などつかないはず。

いや、だがあれは確実に馬鹿にして――――――。

「・・・・・・とりあえず現状がどうなったのかを確認するか」

自己暗示のように落ち着け落ち着け、と呟きながらクロノはそばにかけてあった上着を着る。

残った白騎士と黒い魔導師の少女。

あとはどこかに飛ばされた白い魔導師の少女も探さなければ。

クロノは極力、黒騎士のことは思い出さないようにして、足早に医務室を出た。







「こちら今回のロストロギア、ジュエルシードの回収を手伝ってくれる、民間協力者の高町なのはさんよ」

「よ、よろしくお願いしますっ」

「・・・・・・・・・・」

・・・・落ち着け・・・・落ち着くんだクロノ・ハラオウン。

お前はいつだって冷静さが売りの管理局きっての執務官だぞ。

母さんが無茶をするのは今に始まったことじゃない。

普段から緑茶に砂糖とミルクを投入するという無茶苦茶っぷりを披露しているんだ。

それに比べれば・・・・・って問題の規模がまるで違うじゃないか!!

こんな民間人の娘を勝手に――――――。

「あの・・・・クロノくん、でいいんだよね?わたし、高町なのはです。よろしくね」

・・・・・・・・・・・・か、可愛いなんて思ってないぞ・・・・ってだから落ち着け僕!!?微笑まれたくらいで赤くなるんじゃない!!!

「あらあら、クロノったら・・・・顔色が信号機みたいよ?・・・・・やっぱり働き過ぎかしら・・・・」

お茶、飲む?と自分の湯呑を差し出すリンディ。

飲んだら顔色が緑色に変色して、しかも戻らなくなりそうなので断固拒否だ。

少し残念そうにしている母親を尻目に、もう一度自己に落ち着け暗示をかける。

自分がちょっと寝ている間に、ちょっと予想外な事態が起きていたとしても、それに慌てずにむしろ笑顔で受け入れるような能力こそ執務官には必要―――――――。

「ってなわけあるか!!!」

「あら、一人突っ込み?」

「母さん!これはいったいどういうことですか!?」

「だから僕となのはが民間協力者として・・・・・・・」

「何でこんなところにケダモノが!??!」

「ひどっ!!」

「ゆ、ユーノくんもクロノくんも・・・・お、落ちついて・・・・」

落ち着きのおの字も見られないほどエキサイトして盛り上がる艦長室。

どうやらクロノはリミッターという名の頭の螺子がどっかに飛んでしまったしい。

ユーノはユーノでここのところずっと空気扱い。

ようやく認識されたと思った矢先にケダモノ扱いで、待遇改善を求めてストライキする薄給労働者の三倍はヒートアップしている。

懸命に場を鎮めようとているなのはだが、クロノとユーノのギャーギャーと言い合う声にかき消されてしまっている。

うぅ~・・・と、少し泣きそうである。

「あらあら・・・・・話が進まないわねぇ」

リンディは騒ぐ三人をのんびりと眺めながら、甘い緑茶を啜った。








「みずき・・・・ほんとうに大丈夫?」

黒騎士もいなくなり、ジュエルシードも回収して帰路についた瑞樹一行。

重い足取りとふらつく視界を、根性とやせ我慢で乗りきってようやく住処まで帰ってきた。

「んー・・・・・まだビミョーに足元がふらふら・・・・っとと」

瑞樹はよろけて左隣を歩いていたアルフのほうに倒れ掛かってしまう。

「まったく・・・・・気をつけなよ」

「わりぃ・・・・・・」

アルフは瑞樹を支えながら、その身体の軽さに驚いていた。

瑞樹が現れてから主であるフェイトの食生活は改善し、半ば強制的にだがちゃんと休むようになった。

アルフが常日頃から遺憾に思っていたプレシアの態度も、ここのところ改善が見られるようになった。

どうしてかは知らないが、瑞樹が何かをやったと結論付けるのは極めて自然だろう。

だから驚いたのだ。

自分がやりたくてもできなかったことを何でもないかのようにやってのけた、そんな頼りになる存在のあまりの軽さに。

「こんなに、小さかったんだね・・・・・・・」

実年齢が10代後半を自称しているだけあって、瑞樹の行動は自然と大人びたものになっていた。

フェイトとじゃれる瑞樹を見て、下手をしたらプレシアなんかよりもずっとフェイトの親らしい、とすら感じていたほどだ。

瑞樹は、もっと大きいと思っていた。

しかし、こうして弱った瑞樹に触れて実感する。

こんなにも小さい――――――。

外見年齢ならばフェイトとそう変わらない。

フェイトがそうなように、まだ両親に甘えていたい年頃の子どもだ。

なのにこうして触れてみて小ささを実感するまで、瑞樹の存在を無意識に大きく感じていた。

例えて言うなら――――――大きくなった子供が母親の小ささに驚いた時のように。

常に自分より大きい存在であり、いつも守ってくれたはずの強い母親の存在が、存外に小さく見えてそのギャップに戸惑う。

今アルフが感じているのはまさにそれだった。

「そういえばさ・・・・・・あたしはあんたのことを何にも知らないんだよね。その、あんたがここに来る前にどうしてたのか、とか」

「そりゃー・・・・まぁ、聞かれなかったし話さなかったし・・・・・」

というよりそんなことをのんびり話している暇なんて、瑞樹にはなかったように思う。

突然飛ばされた異世界。

魔法という未知なる技術との邂逅。

フェイトとの出会い。

展開は唐突で、しかもやることは後から後から溢れてくる。

のんびりと自分の昔話なんかしている暇があったら、諦めきれないハッピーエンドに向けて小賢しい策を練っていただろう。

「聞いてもいいかい?」

「別にかまわんが・・・・・そんなにおもしろいモンでもないぞ」

「わたしも・・・・ききたい、な」

フェイトが、おずおずと言った。

「ぬ・・・・フェイトもか」

フェイトが珍しく自分から希望を口にしたことで、瑞樹は意外そうな顔をする。

こんなふうにフェイトが自分から、何かをしたいききたいと言うことはほとんどない。

人付き合いに乏しいフェイトは、どのくらい他人に踏み込んでいいものか測りかねているからだ。

母親は人との付き合い方を教えるどころか、まともに接することもなかった。

他人に臆病になっているフェイトは、それ故に我が儘を言わない。

「んー・・・・聞いてもなんも面白くないかもしれないけど、それでいいなら」

そんなフェイトが、もしかしたら瑞樹に嫌われてしまうかも、と不安を抱え、それでも抑えきれずに口にした初めての希望を、瑞樹は拒絶する術を持っていなかった。

「あんたは向こうに親しい人とかいるのかい?親とか友達とかさ」

「いたぞ」

「いた・・・・?」

「説明が面倒なんだよな・・・・・・・。まぁ、とりあえず親はいた。アグリムって名前のな」

『アグリム・・・・マスターは日本人ですよね?その名前はどう考えても日本っぽくないのですが』

「ああ、だから育て親。生みの親は・・・・・・オレがこうして存在するってことは、どっかにいるとは思う」

『つまり生みの親とは・・・・・』

「アグリムの話じゃ、オレは売られたらしいよ」

あっさりと出てきたとんでもない一言に場が凍りつく。

『マスター・・・・そんな重大なことをどうでもよさそうに言うのは如何なものかと・・・・』

「そう言われてもな・・・・・・別に珍しい話でもないからな」

売られた先が臓器売買関係でなかっただけありがたい、と瑞樹は思っている。

こうして五体満足で、ショ○カーに改造された後もなく生きているんだからかなりラッキーな方だ。

「まぁ・・・・その話も嘘なのか本当なのかわからないんだがな」

瑞樹は苦笑する。

過去に何度か訪ねたことはあったが、本当のところはどうなのか、結局はわからなかった。

「しばらく仕事の関係でアグリムといろんな国を回ってたんだけど、いろいろあって日本に渡った」

「いろいろ・・・ってなんだい?」

「一つは十分な金ができたこと。あとは・・・・アグリムが死んだから、かな」

ぼそっと呟かれたその一言に、またしても誰もが言葉を失う。

『死んだ・・・・んですか・・・?』

「ん、間違いないよ。オレが看取ったからな」

呆気なかった。

休んでいるところへ、不意の一発の銃弾。

それがあっさりと、自分の育て親の頭を撃ち抜いていた。

最後にかわした言葉はなんだったかな、なんて考える暇もないくらい、一瞬のできごとだった。

次の場所に移動するために別れなくてはならなかったときは、それなりに悲しかった。

仲間に無理を言って、瑞樹だけ遺体を埋めたときのことは今をもってまだ色褪せていない。

「日本に渡ったのは、オレの外見が東洋人っぽかったから。実は中国人だったとか、韓国人だったとか言われても驚かないぞ」

尤も、世界すら超えてしまった今となっては、もはや確認する術はないに等しい。

「幸い一人で生きていけるだけの能力はあったからな、用意してもらった偽造パスポートからなんとか戸籍をでっちあげた・・・・・・そのときたまたまパスポートにあった名前が如月瑞樹さんでした、と」

身元不明の瑞樹に、本当の名前などない。

アグリムは、瑞樹に名前をつけなかった。

オイとか小僧、としか呼ばれたことがない。

「そこから先は普通の暮らしさ。普通に学校行って、普通に遊んで、瑞樹くんは無事に大きくなりましたとさ・・・・まぁ、ニホンゴ覚えるの時間かかったけどな」

何故かまた小さくなっているが、そこはスルーを所望する。

瑞樹は昔話を懐かしむように、特に悲壮感もなく話しているが、オーディエンスは瑞樹の普通ではない人生に何て言ったらいいのかわからないほど、動揺していた。

「オレが言うのもなんだが・・・・そんなに暗くなるな。さっきも言ったんだが、別に珍しい話じゃない。この程度の不幸はそれこそどこにでも転がっている」

「みずきは、かなしくないの・・・・?」

今にも泣きだしそうな顔で、フェイトが尋ねる。

自分のことではないのに、本当に優しい娘だ、と瑞樹は苦笑した。

「悲しかったよ。アグリムはちっとも親らしくなかったけど、オレにとっては初めての家族だったからな」

今だって、もう一度話すことができたら、と思わないでもない。

「かぞく・・・・・・」

「そう、家族。ああ―――――――そうか。だからオレは―――――」

急に笑い出した瑞樹を、フェイトはきょとんと見つめる。

家族に未練があるからこそ、瑞樹はフェイトを放ってはおけない。

こんなにも一途に母親を思い続けている娘を、見捨てるなんて選択肢はどこにもない。

プレシアは、たとえ瑞樹が消えても探そうとはしないだろう。

彼女にそんな時間はない。

もともとアイリスの娯楽(と瑞樹は断言する)に便乗して瑞樹を利用しているだけだ。

監視はされるかもしれないが、管理局に接触しようとしない限り、無理に追ってはこない。

わかっていても、瑞樹はフェイトのそばに留まり続けている。

今になってようやく気付くとは、我ながら間抜けな話だ。

「家族ってのは大事にしないといけないよな」

「・・・・・?」

「幸せになれよ、フェイト。プレシアと仲良く、さ。・・・・・・・・オレはもう遅いけど、フェイトならまだ間に合うだろ?」

「うん、そうしたいな・・・・」

不安そうな顔で俯くフェイトの髪を瑞樹はくしゃくしゃと撫でる。

「そう不安そうにするな。オレが絶対にフェイトを幸せにするよ」

「~~~~~~~~~っっっ!!」

瞳を大きく見開いて顔を瞬時にぼぼぼっと赤くしたフェイトは、しばし赤い顔で瑞樹を瞬きもせずに見つめていたが、やがて髪を撫でるその手から逃げるように自分の部屋に逃げていった。

「フェイト!?」

アルフも急な主の行動に何を感じ取ったのか、駆け足で追う。

「あっれ・・・・・なぜに?」

ソニックムーブでも使ったのか、と言わんばかりのスピードで逃げてしまったフェイトと、その後を追っていってしまったアルフを見送る暇もなく、残された瑞樹は呟いた。

『さぁ、きっと疲れていたんですよ』

アイリスの声色はもの凄く楽しそうだった。

今代のマスターは本当に、見ていて退屈しないマスターである。

お喋りだと自覚している自分ですら、言葉を挟むのを躊躇って撮影に徹してしまったではないか。

またしても無自覚に放たれた、第三者が聞けば『プロポーズじゃねぇか』と突っ込みたくなるような発言。

録音♪録画♪と先ほどまでアイリスは黙々と、しかし内心では小躍りしながら、着実に瑞樹曰く黒歴史を増やしていた。

何も考えていないのか、考え過ぎている故に気づかないのか、いずれにせよ遊び甲斐のあり過ぎるマスターである。

「オレの過去って、やっぱり悲壮感漂うものなのかね・・・・・・」

見当違いだった。

いい加減にしてくれないと、死にそうだ。

それも笑い死にという、女湯を覗こうとしたら転落してそのまま死亡したのと同じくらい、不名誉な死に方で。

「それとも台詞が臭すぎたか・・・・・・」

惜しいっ!と思わず叫んでしまいそうになった。

いやいや、見当違いには違いないのだが、瑞樹にしては割と近いところまでいった、とアイリスとしては褒めてやりたい。

「ううむ・・・・・・わからん」

きっと瑞樹が気付く頃には、アイリスのメモリーは瑞樹の黒歴史でいっぱいになっているだろう。

よく言えば瑞樹との思い出ともいえるそれを、アイリスはなくさぬようしっかりと保存した。







クロロです。

改訂しようとして思ったのが、主人公の設定厨二の香りがプンプンですね。

読み返して思わず呻いてしまった作者でした。





[9514] 第11話 「閑話休題1。外伝ともいう」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/08/11 21:06
「シュークリームを買いに行こうと思う」

『翠屋にですか?』

「無論」

『あれはいいものですからね』

ちょうどフェイトもアルフも出かけているので、今はまさに好機といえるだろう。

ここのところ瑞樹が翠屋にお菓子を買いに行こうとすると、甘い気配を察知したのか、フェイトとアルフがいつの間にか後ろにいてお出かけスタンバイしていることがある。

ついてこられて、実はなのはと(アイリスが言うには)仲がいいことがバレてしまうと結構・・・・いや、かなりまずいことになる。

瑞樹としては不本意極まりなく、濡れ衣にもほどがあるのだが、普段の運の無さとアイリスの神がかったサポートにより封殺されることは目に見えている。

「今日はタルトも買おうと思う」

『お金は大丈夫なんですか?』

「・・・・・・やっぱり駄目だ」

『限りあるものですからね』

油断していると、財布というものはすぐに軽くなっていくのである。

活動資金としてプレシアから出させている金額もけして少なくないのだが、瑞樹がやたらと食事に拘るため、消費も激しいのだ。

『甘いものは別腹』の要領で浪費し続けると、瑞樹たちが満たされる代わりに、財布が飢え死ぬことになりかねない。

『この間みたいに財布を落として夕方まで探し回った挙句、なのはさんに助けられるなんて愉快なことはしないでくださいね』

「あ、あれはポケットに穴が空いていてだな・・・・!?」

『私はマスターの頭に穴が空いてるのかと思いました。ほら、ネジが抜けてしまった拍子に』

「上手いこと言ったつもりか!?」

『マスターの半分も生きてないなのはさんに助けらるとか、情けないにもほどがありますよ。しかもなのはさんとは一応敵対関係にあるんですよ?もはやギャグですね』

主に綺麗な宝石を奪い合う仲であるはずなのに、なのはと『つばさくん』は遭遇率の高さからか、なかなかに仲がよくなってしまった。

瑞樹としては出かけるたびに自分を見つけ出し、子犬のように走り寄ってくるなのはを、そう邪険にはできない。

今後のシナリオのことがあったとはいえ、後先まるで考えてなかったのが悪いのだが、守るだのなんだと言ってしまったわけだし、あからさまに避けるとなのはを傷つけてしまう。

ただいろいろと――――主に瑞樹にとって――――悲しい事態になりかねないため、見つけても自分からは声をかけないようにしているのだが、お前はどこのZ戦士だって勢いでなのはが瑞樹を見つけるのだから仕方ない。

そもそものエンカウント数が異常なのは今さらだからもっと仕方ない。

最近になってアリサとすずかとも仲よくなってきたことも含めて、フェイトには絶対に秘密である。

「おまえと話していると胃に穴が空きそうだ・・・・・・・・」

『死んだ魚みたいな目をしてないで行きますよ。マスターのことですから、今から出ても夕方までに帰ってこれるか怪しいものなんですから』
因みにまだ昼を過ぎたばかりである。

「死んだ魚・・・・・・」

『マスターと一緒にしてはお魚さんに失礼でしたか?』

「しらん!!」

帰ってきたフェイトのために『しゅーくりーむかってきます』と置手紙を残して瑞樹は家を出た。







『(予想通りですね)』

「ちくしょう!!なんでいつもこうなるんだよ!?」

『(声でてますよ)』

「むー・・・・そんなにつばさくんはなのはと会いたくなかったの?」

「いやいやいやッッ!!!だっておかしいだろ!?何で出かけるたんびに遭遇するんだよ!?おまえはスラ○ムか!??!」

『(合体すると可愛いですよね)』

「す、スラ○ム・・・・ス○イムも多いけどしまし○キャットも「きいてねぇ!!」にゃぅっ!?」

誰もエンカウント率の高さなんて聞いてない。

なのはには、はぐれ○タルくらいの慎みを持って欲しいものだ。

冒険者(瑞樹)を見たらサササッ!と逃げだすようなシャイな感じが欲しい。

『(どちらかと言えばマスターのほうがはぐれメ○タルっぽいですよね、すぐ逃げますし。常に回り込まれてしまうようですけど)』

「余計な御世話だ!!(つーか足の遅いはぐれ○タルなんて○ぐれメタルじゃねぇよ!!ただの経験値じゃん!!)」

『(攻撃力400近くなるとあの防御力も意味なくなりますしね)』

「悲しきはアイデンティティの喪失だな・・・・・・」

『(いやー、懐かしいですね。テ○ワン)』

「やってたのかよ!?(え、えええ??おかしくない?脳内で次元世界レベルの混乱を引き起こしてるのはきっとオレだけじゃないと思うんだけど・・・・・ッ!?!?)」

「にゃぁ・・・・・ときどきつばさくんがわからないよぉ・・・・・」

なのはが弱々しく嘆く。

彼女のアイデンティティであるおさげも、心なしか力なく垂れ下がっているように見えた。

「いきなりなんだ?」

「それはこっちのセリフだよっ。いきなり叫び始めたのはつばさくんのほうなの!」

『(だから言ったじゃないですか)』

「む・・・・・」

脳内でアイリスと会話していると、割と声に出して突っ込みを入れてしまうことがある。

それはいつもアイリスがとても自分に仕えるデバイスとは思えない行動や発言をするからであって、断じてオレは悪くないというかそれで変質者扱いされるのはオレか訴えるぞコノヤロウ。

「・・・・そんなにおかしなことを言ってた?」

「すごい変質者っぷりだったよ!」

確かにいきなり『余計な御世話だ!!』とキレ始め、『悲しきはアイデンティティの喪失だな・・・・』と涙ぐみ、最後に『やってたのかよ!?』とシャウト。

『(恐ろしいくらいの変態っぷりですね・・・・・我がマスターながらここまでの変態性を持っているとは・・・・戦慄します)』

「だッッ・・・・ッッ!!(だから誰のせいだよ!?)」

『(まー、いいじゃないですか。なのはさんが退屈していますよ)』

「くっ・・・・覚えてろよ・・・・」

「な、なのは・・・・そんなに怒らせちゃったかな・・・・・・」

「いやいやいやッッ!!違うから!!今のはなのはに言ったんじゃなくて――――ッ!!!」

悲しみにくれた表情でうつむき、今にも泣き出しそうな声で呟くなのはに瑞樹は慌てる。

なのはを泣かせるのは嫌だし、それ以上になのはが泣き出すことによって大魔神(恭也)が降臨してしまう。

「じゃあ、だれなの?」

「ぐっ・・・・・くっ・・・・・」

純真無垢な少女の視線が瑞樹に突き刺さる。

こんな目をしたなのはを騙すのは心苦しいのだが、まさか正体をバラすわけにはいかない。

というかこんなことでバレたらアホ過ぎるにもほどがある。

「森の・・・・・・・妖精さんかな・・・・・・・・」

「・・・・・・・んー」

「オイ・・・人の額に手を当てるな熱はない」

「・・・・・・・・だったらもっと危ないの」

た、確かに・・・・・。







「つばさっ、次はあんたの番よ!早く引きなさい」

「はいはいはいはい・・・・」

カード越しに見える強気な表情を、瑞樹がゲンナリと眺めつつ、やる気のない挙動でアリサの手からカードを一枚引き抜く。

「『はい』は一回でいいのよ!」

「はいはいはいはいはいはいはい・・・・・」

「何で増やすのよ!?」

「なんでこんなことになってんだよ!?!?」

「なにいきなりキレてんのよ!!」

ガン―――――ッッ!!

「・・・・・・・・・・・・スイマセン」

「あらあら、楽しそうね」

「どこが!?ポテトチップ(うすしお味)なんて運んでないで今すぐ眼科に行ってこい!!!!」

「うるさいわよ」

「・・・・・・・・・・・」

キッ――――!!と睨まれて黙る。

・・・・・・・理不尽だ。









説明するまでもないが、なのはから逃げきれるわけもなく、瑞樹はなのはに手を引かれ高町家に拉致された(間違いではない)。

翠屋に用があったわけだしいいか、と諦めたのが間違いだった。

今にして思えば何故そこでもっと抵抗しておかなかったのか悔やまれる。

瑞樹にサンダースマッシャーが直撃したかのような衝撃を与えたのは、家の前に着いたときになのはが言った言葉だった。

『アリサちゃんとすずかちゃんが遊びに来るんだよ。みんなであそぼっ』

逃げようとした。

ああ、逃げようとしたさ。

この流れはきっと碌なことにならない。

というか良いことがあったためしがない。

だいたいの場合が夕食時まで解放してもらえず、下手をすれば高町家の夕食に招待される。

普通は嬉しい誘いのはずなのだが、食事中常時恭也が殺気を飛ばしてくるので、食べた物が野菜なのか肉なのか辛いのか甘いのかさっぱりわからない食卓は地獄でしかない。

そして家に帰れば―――――空腹に耐えかねた狼が牙を打ち鳴らして待っている。

ここでどうにかして逃げない最悪だ。

だが、もう遅い。

すでに瑞樹はなのはの部屋まで引っ張り込まれてしまった。

魔王のラストダンジョンといったところだろうか。

途中で中ボス(恭也)に遭遇しなかったのは不幸中の幸いだが、これから起こることを考えただけでもめまいがしてくる。

『(無駄なあがきはしないんですね)』

「(もう・・・・諦めたよ・・・・・きっと魔王からは逃げられないんだ・・・・)」

弱々しくため息をつく瑞樹と正反対に、なのはにこにこと笑っていた。








「なぁ・・・・なのは」

「ん、どうしたの?」

「いい加減にトランブにも飽きてきたんだが・・・・・」

「にゃっ・・・・・そう、だね。そういえばもうずいぶんやってるもんね」

ババ抜きに始まり大富豪、7並べ、ポーカー、トランプを使ってできる遊びはあらかたやりつくしたように思う。

今はジジ抜きをしているところなのだが、基本的なルールはババ抜きと変わらないためどうしても飽きてしまう。

「そんなこと言ってもどうするのよ。何か別の遊びでもあるの?」

「そうだね。テレビゲームしてもいいんだけど・・・・・・」

すずかが気の毒そうに瑞樹を見る。

「なんだその憐みの視線は!?」

「あんたがあまりに弱いから可哀そうって言ってるのよ」

「なんだと!?」

『(・・・・・確かにマスターの下手くそっぷりは半端ねぇですね)』

「(うるせぇ・・・・ジャンルが違うんだ・・・・ジャンルが)」

この人数でゲームをやるのなら、回転率の速い格ゲーは最適と言えるかもしれないが、それしかないってどういうことだ。

人生ゲームとか、せめてぷよ○よくらいあってもいいのではないか。

『(マスターの得意なゲームって何ですか?)』

「(・・・・・・・・・・牧○物語)」

『(時間をかければアホでもできるゲームですね)』

「(謝れ!!全世界の牧物ファンに謝れ!!)」

確かにその通りかもしれないが、あのスローライフ感がたまらなくいいのだ。

羊毛のサイズが―――――――と語りだす瑞樹に、アイリスは何でこんな人が魔法なんか使って戦ってるんだろうと思った。

アルフの毛でも狩ってればいいのに。

「あの・・・・つばさくん」

今まで黙っていたなのはが、おずおずと口を開く。

「にわとりが・・・・・・なんだ?」

「まーじゃん、できないかな・・・・?」








なのはによると、ときたま高町家で麻雀大会が開催されるらしい。

高町家の面々はそれなりにルールを理解しているのだが、なのはだけは知らないそうだ。

周りをチョロチョロしては聞いてみるのだが、聞いているだけではわからなかったらしい。

「麻雀か・・・・・あまり健康的とは言えないんだが、できることはできるな」

「ほんと!?おしえてくれないかな・・・・・・?」

「えぇぇぇ・・・・・」

精神年齢は二十歳に近い瑞樹だ。

できることはできるのだが、はたして小学生に教えていいものかどうか悩む。

一般的に健康的な遊びとは言えないし、それをわかっているから高町夫妻もなのはにちゃんとルールを教えようとしなかったのだろう。

何よりルールが複雑な分面白いからハマる。

ただでさえ運動音痴でゲーム大好き、インドアの素質に溢れすぎているなのはに麻雀なんて教えていいものだろうか。

『(ネットで麻雀ができることを知ったら家から出てこなくなるんじゃないですか・・・・?)』

何でアイリスがそんなことを知っているのかは置いておいて、それは非常に困る。

『ジュエルシード?うるさいのっ!今オーラスなのっ!!』なんて言われた日にはもう全てが終わる気がしてならない。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・ぐすっ」

「っ!?わ、わかった!教えるから泣くな!?」

「ほんとっ?やったぁっ、えへへ」

フェイトにも言えることなのだが、泣くのはずるいと思う・・・・。






「この形がピンフ・・・・慣れるまではこれと、さっき教えたタンヤオを狙っていくといい」

「頭は何でもいいの?」

「ピンフを付けたいなら自風牌と三元牌はダメ」

「それだけで役になるから?」

「鋭いな、すずか。まぁ・・・やって覚えるのが一番早いから、説明はこの辺にしてやろうか」

ちょうど4人いることだし、できるならどんどんやったほうが上達する。

なし崩し的にアリサとすずかにも教えることになってしまったが・・・・アリサやすずかは引き籠りになってしまわないだろうか。

なのはの親友を名乗っているだけに心配である。

『(・・・・なんだかんだでちゃんと遊んであげるんですよね)』

「(何か言ったか?)」

『(いえいえ何も)』







元々頭のいい娘たちだったのだろう。

あっという間にルールを覚えた三人は、すでに引きこもり特有の不健康な気配を漂わせるくらいにまで上達していた。

いや、してしまった。

「(やはり何か取り返しのつかないことをしてしまった気が・・・・・・・)」

そんなことを思ってみたところでもう遅い。

「ロン!ピンフ、タンヤオ、イーペーコー、ドラ3だよっ」

「え・・・ふぇぇっ」

高らかに勝利宣言をするなのはと、振り込んでしまったすずかは若干涙目だ。

「うわっ・・・・・ダマで跳満とか・・・魔王じゃ、魔王がおる・・・・・」

「危ないわね・・・・止めといてよかったわ」

「え・・・・アリサ、当たり牌とかわかるの?」

「表になってる牌を見てればだいたいわかるわよ」

「それ麻雀初日の奴が吐くセリフじゃないからな!?」

ジャラジャラと牌をかき混ぜながら、当たり前のように言うアリサに瑞樹がたまらず叫ぶ。

本当に・・・・とんでもないことをしてしまったのではないだろうか。

持前の爆運で高い手を次々あがるなのはと、コンピューターのような正確な読みであがれるときに確実にあがっていくアリサ。

すずかは―――――――。

「・・・・・(ん?)」

何か一瞬だけどすずかの手が霞んで見えた。

普通に牌をツモって手元に――――――って河の牌変わってない!?

すずかの手が通り抜けた後をよく観察すれば・・・・いや、よほど注意深く観察しなければわからないのだが、河の牌が明らかに変わっている。

「す、すずか・・・・・」

「どうしたの?あ、リーチです」

「もしかして・・・・・やってる?」

というかやってるだろ。

「やる・・・・・ああ、うん。つばさくんがやってたから真似してみようかなって。これ便利だね」

「(うぉぉぉぉぉいいい!?!?そんなにあっさりやられても困るんだけど!?オレがどんだけ練習したと思ってるの!?!?)」

えへへ、と少し恥ずかしいそうに笑うすずかにくらっときたのは内緒だ。

『(・・・・・・というかマスター。何を初心者、しかもこんな歳下の女の子たち相手にイカサマしてやがりますか?)』

言外に恥を知れ腐れ外道と言われているが、これについては反論しておきたい。

初めは誰かが突出して勝つことがないように、勝ったり負けたりして場を上手くコントロールすることに徹しようとした瑞樹だったのだが、半荘を2回も回すとそうも言ってられなくなってきた。

ぶっちゃけてしまえば、本気でやらないと勝てなくなってきたのだ。

そのために少しイカサマ――――けっこう練習した――――をバレない程度に織り交ぜつつ苦しくも場をコントロールし続けた。

『(見事にすずかさんに全部パクられてますね・・・・しかも何気にマスターよりも上手いし早い気がするんですけど・・・・・・)』

・・・・・本当である。

すり替わっていく河、そして微妙に位置のずれた山になのはとアリサは気づかない。

瑞樹だって気をつけてないと気がつかないほどの手際の良さである。

イカサマの概念などない二人は気づくはずもない。

すずか自身も別にイカサマをしているという自覚はないようだ。

瑞樹がこっそりやっていたから真似しているだけで、イカサマもルールの一部だと思い込んでいる。

だからこそ罪悪感もなくガンガン使ってくるだけに手に負えない。

・・・・しかも早いし上手いし。

「つばさくんはわかっちゃったんだね・・・・もっと練習しないと」

意気込むすずかに瑞樹は泣きそうになった。

「何の話?」

「ううん、何でもないよアリサちゃん。あ、それロンだよ」

「え・・・・すずか、さっきこれきってたじゃ・・・・・ってないじゃない」

すずかの河を見て、見間違いだったのかしら・・・と首を傾げるアリサにも瑞樹は泣きそうになった。

主に恐怖的な意味で。

バレたら間違いなくミンチにされる。

「つ、次いこう!次!!」

「え、うん。次は負けないからねっ!」

ふぅ・・・・と肺から息を吐き出しつつ、瑞樹は真剣に手を組み立て始めた。

なぜ遊びで始めた麻雀なのにこんなに必死になっているんだろう、と頭の片隅で思いつつも自分がトンデモナイことをしでかしてしまった感が否めない瑞樹は全力にならざるをえなかった。

自分が大勝ちすれば、もうこの娘たちは麻雀に手を出さないのではないか、そんな淡い希望を持ちながら。

『(メインキャラ補正って物語とは関係ないところでも働くんですね~)』

「(・・・・・目から汗がでてきたぜ)」






で―――――――結果。

「むぅ・・・・つばさくん、つよすぎるよ」

可愛らしく頬を膨らませて呟くなのは。

「勝てなかった・・・・・」

どこか呆けつつも、こんなものかという表情をしているすずか。

「なんで勝てないのっ!?つぎっ!つぎは負けないからっ」

最後の瑞樹のあがり牌を睨みつけつつ、さらなる闘志を燃やすアリサ。

そして―――――――。

『(マスター・・・・・なんていうか・・・その、お疲れ様です・・・・・・・)』

「へへ・・・・・燃え尽きたゼ・・・・真っ白にな・・・・・」

執念のツモで勝利をもぎ取った瑞樹。

しかしその代償に精根使い果たしたようで、試合の後のジョ○みたいになっていた。

あのアイリスは罵倒の言葉もないほど、疲弊して全体的にすすけていた。

一気に老けこんでしまったように見える。

『(まるで試合の後のホ○―――――ハッ、なるほど。つまり戦いぬいたジ○ーと○セがフュージョンしようとした結果、失敗したら今のマスターのようになるわけですね)』

「ああ・・・・・もうゴールしてもいいかな・・・・・」

アイリスの言葉を聞いている余裕もないらしい。

虚ろな表情で危険なことを口走っている。

「あ・・・・もうこんな時間なんだ。今日はこのくらいにしておこうか」

なのはが部屋の時計を見上げて言った。

「さすがにそろそろいい時間ね・・・・いいわ、今日はこのくらいにしておいてあげる」

アリサは次は負けないからっと瑞樹に向って付け足した。

まったく聞こえてないが。

「次はもっと上手くできるかな・・・・・・」

『(いったい『何を』上手く、なんでしょうねー、マスター)』

「・・・・・・・・・・・」

『(返事がありません。ただの頭の悪い死体のようです)』

「パトラッシュ・・・・・・・・・天使だよ、天使がみえるよ・・・・・」

『(・・・・・これは重症ですね)』

「ほら、意味わかんないこと言ってないで、いくわよつばさっ」

アリサに支えられながらもふらふらと立ち上がる瑞樹。

「あ、アリサちゃん、あぶないよ」

立ち上がりつつ、すずかはさりげなく反対側から瑞樹を支えた。

その後、なのはに玄関まで送ってもらい、瑞樹たちは高町邸を後にした。

尋常じゃない瑞樹の様子に、さすがの桃子も声をかけるのを躊躇ったようで、瑞樹は無事に解放(間違ってない)された。

――――余談ではあるが。

なんとか家まで辿り着いた瑞樹を迎えたのは、前門の狼と後門の死神だったそうだ。

シュークリームを買ってこなかった――――正確には余裕がなかったのだが――――罪は重かったらしい。









どうも、お久しぶりです。

クロロです。

わりとギリギリですけど生きてます。

テストとか死ねばいいですよね・・・・・これで単位こなかったら本気で泣きます。

しかもしこたまレポートを書いたあとは、上手くSSが書けないという反動がッ・・・・・!!

言い訳です、スイマセン。

今回は麻雀の話です。

あまり明るくない方はゴメンナサイ・・・・読み流してください。

咲を読んでいたら突発的に描きたくなってしまいました。

反省はしている。

後悔は反響しだいです・・・・・。

でわでわ。




[9514] 第12話 「考察・・・・・できなかった」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/08/14 10:16
創り出されてから一週間。

目的はジュエルシードをより円滑に集めるため、プレシアの願いをより迅速に叶えること。

やり方が手緩い如月瑞樹に業を煮やしたプレシアがかけた保険でもある。

能力を200%完全に出せるように創りだされた黒騎士は、へっぽこ魔導師代表である如月瑞樹とは違い、文句無しで最強クラスの力をもった魔導師だ。

しかしその反面、無理をすれば容易に身体にガタがくる。

戦闘中は痛覚がとぶように創られているから、身体が上げる悲鳴には気づけないが、そもそも人間として人生を歩むために創られていない黒騎士は自分の身体がいつまでもつのかすらわからない。

黒騎士はプレシアの願いを叶えるためだけにいる。

つまり―――それまでもてばいいのだ。

そのあとの黒騎士の人生など、プレシアは知ったことではない。

だからこそ、その造りは適当でしかるべき。

完全に戦闘用として創られた黒騎士は人としてあまりにも不完全過ぎた。

だが――――――――――それでもかまわない。

やるべきことを理解しているからこそそう言いきれる。

今後のシナリオも、そのために取るべき手段も頭に入っている。

それこそどんな手段使っても―――――――。

「・・・・・・チッ」

瑞樹の顔が脳裏によぎり、黒騎士は酷く苛立った。

フェイトとプレシアの両方を救おうとしている瑞樹。

自身の存在の全てが、それは不可能だと断言している。

無理なことを無理だと諦めずに突き進む無謀さは、残念ながら持ち合わせなかった。

なぜアレは平気な顔をして、あんなことを言えるのだろうか。

無理とわかっていてなお突き進むのはある種の諦めだ、と言っていたにも拘わらず、だ。

如月瑞樹は矛盾している。

普通は無理だと悟ったなら別の方法を考えるのが道理。

そのはずだ。

いや――――――――そのはずだった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

理解できないことが激しく黒騎士をイライラさせる。

救うと言っておきながら、どちらも救えていない如月瑞樹の矛盾が、どうしようもなくイライラする。

考えても答えは一向に出てこなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・チッ」

空に月が出ていないことに舌打ちする。

夜は、まだ更けたばかりだ。







「・・・・ところで、非常に今さらなんだが・・・・結局あのターミネーター(仮)は誰だったんだろう」

瑞樹が唐突にそんなことを言い出したのは、ある日の朝食のことだった。

『なんていうか・・・・本当に今更ですね。本当ならまっさきにしなくてはいけない話だというのに、マスターの嬉し恥ずかし恋の話なんてしているから・・・・』

「マテ、勝手に事実を改竄するな」

話していたのは過去のことである。

因みに本日の朝はパンに簡単なサラダと野菜のスープ。

体調を考えて昨日はフェイトより早く寝てしまったから、痛みと疲れはなくなったものの抜け切ったかどうかは自分でもわからない。

それ故の簡単なメニュー。

「・・・・・やはりジャムはイチゴがベストだ」

「そうかい? あたしはこの前のほうが美味いと思うけどね」

アプリコットである。

「ふむ・・・・フェイトは?」

「わたしはオレンジかな」

「・・・・・見事なまでにバラバラだな」

『どうせなら全部作って出せばいいじゃないですか』

「それができれば苦労しない。これ以上作ると収納スペースが足りなくなる。無理に詰め込めないこともないが、それだと他のものを出すときに時間がかかる」

「上の棚は空いてたよ?」

「・・・・・・・背が足りないから届かないんだ」

「あ・・・・・・」

いまやミニサイズの瑞樹にとって、台所は前以上に激戦区である。

小さな体で行っては帰り、水の入った鍋を持ち上げるもの一苦労。

さらに背が足りず、上方の空間を使用できないため、収納には気を配ら
なければならない。

そしてどんなに上手く仕舞えても、収納できる総量は減ってしまうから大変である。

『そんなに気を落とさないでください。小さいほうが得なこともあるでしょう?』

「例えば?」

『電車を子供料金で利用できます』

「料理関係ねぇよ・・・・」

『バスもですよ?』

「同じだっ!!」

すぐにボケと突っ込みの応酬を展開する瑞樹とアイリスに、フェイトはサラダに手を伸ばしながら苦笑する。

その時、同じくサラダをとろうとしていた瑞樹と手が触れ合い、目が合ってしまった。

ぼぼぼぼっと顔が熱を持つのを感じて、思わず目を逸らしてしまう。

「む・・・・フェイト、顔が赤いぞ・・・・まさかオレがいなかったのをいいことに、また夜も活動してたんじゃ・・・・・」

「ち、ちがうよ・・・・ちゃんと寝たよ」

「ならいいんだが・・・・・」

そうは言っているもの、納得はしていませんという顔の瑞樹。

微妙に不満そうな顔をしつつも、自分の分までサラダをとりわけてくれている瑞樹に、フェイトは内心でほっとしつつも少しがっくりときていた。

「(みずきは・・・・・・なんとも思ってないのかな・・・・・)」

瑞樹が自分の過去を語った後に、とても優しく『幸せにする』と囁いてくれた。

そんなストレートな告白を受けたのは、言うまでもなく生まれて初めてのことだ。

しかも相手が気になっている男の子とあっては、悶々と考えてしまい、あまり眠れなかったのも仕方がないことだろう。

瑞樹が早く寝てしまってよかったと思う。

あのままいつものように、寝付くまでそばにいられたら、それこそずっと眠れなかっただろうから。

「・・・・・・あぅ」

考えていたら、また顔が熱くなってきてしまった。

フェイトは火照った顔を、ペチペチと叩いて冷まそうと試みるが、熱は一向に収まらない。

自分は今真っ赤になっているんだろうな、と自覚してしまい手に感じている熱が温度を上げる。

「フェイト、やっぱり「ち、違うのっ、これは違うからっ」・・・・あ、うん、そうか」

ふるふるふる、と勢いよく首を振るフェイトに、今度は困惑したような動揺したような瑞樹。

ジャムが乗ったバターナイフをとり落としている。

やべっティッシュティッシュ、とわかりやすく動揺している瑞樹を見ていると、フェイトは一人で悶々と悩んでいることが恥ずかしく感じると同時に、目の前の鈍感過ぎる少年に小さな怒りを覚える。

瑞樹が来てから、何かにつけてフェイトは心を乱されれっぱなしだ。

初めはちょっとした興味だったはずなのに―――――。

次元迷子とは思えないほどの落ち着きと順応性。

食事の楽しみを教えてくれたこと。

少し前向き過ぎる気がしないでもない、その性格。

世話焼きなところ。

―――――そんな少しずつの『ちょっとした興味』が、いつの間にかこんなにもいっぱいに自分の心を満たしている。

でも、イヤな気持ちじゃない。

どちらかというと、くすぐったいようなあったかいような、春の陽だまりの中で昼寝をするように満たされた感じ。

「みずきは、ずるいよ・・・・・」

無意識にぽろっと零れた、小さな小さな恨みごと。

こんなに瑞樹のことで心を乱しているのに、そんな自分の心にちっとも気づいてはくれない。

今もフェイトの心など知らず、瑞樹はパンにジャムを塗る作業を続けている。

フェイトは、むぅ・・・・・・と少し不満げに頬を膨らませ、そんな瑞樹を見つめていた。








アイリスはいち早くマスターである瑞樹の変調を感じ取っていた。

というか第三者的な立場でこの場を観察したら、まずは初めに気づくと思う。

瑞樹の持つパンに山盛りになった赤いゲル状の物体。

今は朝食の場であり、今朝のメインはパンであり、故にその乗った物体はジャムであることが予想できるのだが・・・・・・・・。

・・・・・・・塗り過ぎである。

よく土台となっているパンがへし折れないな、と思うくらいの量だ。

すでにぬる、という言語表現の領域から遠く離れ、盛るという表現が適切だろう。

瑞樹は甘党だったのだろうか。

いや、それにしてもこの量は異常だろう。

まともな味覚を持っている者なら、間違いなく見ているだけで気持ちが悪くなるはずだ。

「ちょっと、瑞樹・・・・・あんたそれ以上ぬると頭以外のところも悪くするよ・・・・?」

「あ、あたまはすでに悪いってのかよコラー」

――――なんという気の抜けた突っ込み。

普段の無駄にスバラシイ切れ味はどこにいったのだろうか。

下手をすると放送事故で片づけられてしまいそうななまくら具合だ。

というか明らかに違うことに気を取られ過ぎている。

ふむ・・・・と周囲に気を配ってみると、何やら視線だけで瑞樹をローストできそうな、熱い熱視線を感じた。

「・・・・・・・・・・・」

対面からじぃぃぃぃぃぃっっと擬音が付きそうなほど、フェイトが半眼で瑞樹を見つめて――――――否、睨みつけている。

どこか不満そうな顔で、しかし紅茶に砂糖を入れる手は休めずに。

無意識なのか、ポチャンポチャンと次々投入されていく砂糖。

今にも溢れそうな、濃いオレンジ色の液体。

こちらもこちらでエライことになっていた。

『フェイトさん、そんなに見つめていてはマスターがローストチキンになってしまいます。というか、砂糖入れ過ぎですよ』

「っ・・・・・・・・」

アイリスの声で現世に回帰したフェイトは、椅子に座ったまま器用にぱたぱたばたばたと謎の行動を取り始める。

本人は、いろいろと誤魔化しているつもりらしい。

「・・・・・・・・・・・・」

瑞樹はといえば、どうやら言語機能を失ったよーだ。

普通なら『チキンじゃねぇよ、焼かれてもねぇ』くらいは言い返す瑞樹なのだが、今はただのジャム盛りマシーンとなり果てている。

そんな瑞樹に軽く失望し、後で気が済むまで弄ってやろうとオリハルコンよりも固く誓ったアイリスは、赤い顔であうあうしているフェイトの答えを待つ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・み、みてないよ」

長い沈黙の後に、フェイトはすっ―――と目を逸らして、聞こえるか聞こえないかくらいの音量で呟いた。

『うっ・・・・・ぐっ!・・・・・くっ・・・・!!』

うそつけぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!?!?と、界○様の背に手を当て全世界に向けてオンエア突っ込みしたい衝動が溢れて止まらなくなりそうだったが、なんとか堪えてみせる。

かつてこんなにも爆発してしまいそうな、堪え切れない衝動があっただろうか。

今この瞬間、人生(デバイスだが)で最も忍耐力を試されている気がする。

おしとやかで冷静なデバイスと有名な私がそんな野性的な突っ込みはできませんそんなのはマスターの仕事です、とアイリスは滾るパトスをなんとか抑えつけ――――――――。

『いやいや、そんなグラビームという名の熱線よりも熱い視線を送っておきながら何を言いますか。それで誤魔化しきれるのは精々マスターか・・・・・・・・・・マスターくらいですよ』

さすがに、ここまで露骨に『突っ込me!!』と太字で書かれ、ご丁寧にアンダーラインまで引かれているようなリアクションで誤魔化しきれる人物は、瑞樹以外に思いつかなかったらしい。

瑞樹の場合は誤魔化される、というよりは押し切られる形になるような気もするが。

「ほ、本当にみてないよ・・・・・?」

おずおずと、自信なさげに言う。

上目使いで相手を窺うようにしているフェイトからは、悪いが信憑性のしの字も見えてこなかった。

『いえ・・・・ですが視線を浴び続けたマスターは3死した挙句に、こうしてジャム盛りマシーンに成り果ててしまったわけですが・・・・・・』

モリモリ、と盛り続ける瑞樹。

すでに高さはギネスを狙えるくらいになっていた。

あまりに下らな過ぎて誰も挑戦しようとしないギネスであることは間違いない。

「み、みずきっ、ジャムぬり過ぎてるよっ!」

『あなたも砂糖の入れ過ぎです』

「わっ・・・!?」

いつの間にか表面張力という名の物理法則の限界に挑んでいた紅茶に驚き、フェイトは思わずカップを空に投げ出してしまう。

瑞樹以外の全員の視線を集めながら、カップはなんとか不時着に成功した。

―――――――――瑞樹の頭の上に。

「「『あ』」」

「あ・・・・あ・・・・アッつぁぁぁぁあァァァァアァァァァ!?!?!?!

魂の咆哮っぽい叫びが響き渡った。








「・・・・・・死ぬかと思った」

『食事中に死にかけるなんて異業を遂げられるのは、世界広しといえどマスターくらいでしょうね』

「・・・・・・・・それは褒められているのか?」

『貶しています』

だよなー・・・・と瑞樹はため息し、エベレスト山脈になったジャムパンをどうしようか考えて、もう一つ深いため息。

朝食は終わった。

しかし片づける段階になって、これをどうしようかという問題が発生したのだ。

捨てるのもあれだし、だが食べるにもふん切りがつかない。

「・・・・・・・話を戻そう。あのターミネーターについてだ」

瑞樹はエベレストジャムという名の現実から逃避することにした。

とりあえず、ジャムパンを視界に入らないように横に寄せておく。

「その前に、あんたに聞きたいことがあるんだけど」

「なにを?」

「あの黒い奴の攻撃を防いだあれは何だったんだい?あんたは確かシールドを張れなかったはずじゃないか」

「あー・・・・アヴァロンな。厳密に言えばあれは一種の結界なんだけど・・・・アイリス、よろしく」

途中でどう説明していいかわからなくなった瑞樹は、こういうときは頼れる相棒に丸投げする。

『はぁ・・・・・自分で生み出した宝具の説明すらできない単細胞マスターの代わりに、この優秀完璧無敵デバイスである私が説明してあげましょう』

・・・・いろいろ言いたいことはあるが、ここは黙っておく。

だが、一つ。

一つだけ言わせてもらえるのなら、アイリスは自然に主を罵倒する癖を止めた方がいいと思う。

主に、砕け散ってしまいそうな自分の精神のために。

『簡単に説明しますと、ある条件下においては、術者を害するあらゆる干渉をシャットアウトする・・・・まぁ、要するに何でも防ぐ絶対に壊れないシールドですよ』

「条件?」

これは、瑞樹も初耳である。

アヴァロンは何でもかんでも防いでくれるご都合主義万歳のステキアイテムじゃなかったのか。

『そんな都合のいい話がありますか。本来の使い手が使用するならともかく、この世界の一般の魔導師にすら劣るマスターが使うのですよ?不発に終わらないだけラッキーだと思ってください』

「えー・・・・マジかよ。なんか生存へのハードルが一気に上がったような・・・・・」

『マスターの持つ鞘の防御力は、発動時に込めた魔力の量によって決まります』

「強度が変わるってこと?」

『そう、ですね。相手の攻撃を防げるかどうかは、全て魔力の使用量によって決まるということです』

例えば先日の黒騎士の攻撃に、5の魔力が込められていたとする。

瑞樹はそれを5の魔力を使用したアヴァロンで迎撃する。

その結果、防御に成功する。

つまり使用魔力量が攻撃と同じか、それ以上ならば防げるが、それ以下ならば術式は崩壊し押し切られてしまうというわけだ。

『見極めが重要になるわけです』

「危なそうな攻撃には、いつも魔力をたくさん使えばいいと思うな」

『・・・・・そうできれば苦労しないのですが』

露骨にため息をついてみせるアイリス。

誰に向かって、とは言うまでもない。

ただでさえ身体に負担がかかる技に、常に大量の魔力を使用し発動した場合、術者へ与えるダメージは計り知れないものなる。

技術的に未熟な瑞樹は、普通に発動しようとしても魔力を多めに必要とする。

その上でさらに上乗せすることは不可能ではないが、発動後はまともに戦闘が継続できなくなるだろう。

先日、身をもって知ったことである。

『簡単にまとめると、魔力使用量が同じかそれ以上なら絶対に抜かれませんが、それ以下ならばアウト。負担を考えるとそうホイホイ使えるモノでもないということです』

汎用性のことも考慮すれば、それは下手をすると普通のシールドよりも使えないことになる。

「だがまぁ・・・・・そう悲観することもないか」

魔導師は防御壁を展開する際に、かならず足が止まる。

移動しながらはじき返すことも、理論的にはできなくないのだろうが、力負けしてしまった場合は自分がはじかれることになる。

決定的な隙を見せるくらいなら、止まり、足場を固めてから、受け止めるなりはじくなりしたほうが安全なのだろう。

この点において、アヴァロンは有利である。。

あらゆる干渉から術者をシャットアウトできるアヴァロンならば、衝撃を受けることもはじかれる心配もない。

敵の攻撃のただ中を突き進んでいたとしても、条件を満たしている限り瑞樹は風すら感じないだろう。

たかが一瞬の隙、と馬鹿にはできない。

両者の実力が伯仲している戦いにおいては、この差はとても大きいものになる。

何事も前向きに、誰にも真似できないメリットがあるならそれいいか、と瑞樹は考えることにした。

いや、マテ――――――。

「そうなるとエクスカリバー(真名解放)をぶちかました後はどうなるんだ・・・・・・」

鞘とは違い特殊な武装ではないにしても、純粋な破壊力と魔力消費量はエクスカリバーの方が圧倒的に上だろう。

分不相応な魔法を使っている負担も考えると・・・・・・・あれ・・・死ぬんじゃないか?

『・・・・・無事ではいられる可能性はあまりに少ないです。とりあえず私がどうにか殺させはしませんが、最悪の場合・・・・・・』

普段とは違い、押し殺したように言うアイリスからは嫌な真剣さが伝わってくる。

無事ではいられないという言葉は決して冗談ではないのだろう。

「(・・・・逆に言えば一回ならいけるってことか)」

ならば一回までの使用も視野に入れて、戦術を組み立て――――――。

「ダメっ!!」

「うおっ!?」

瑞樹が今後のことを頭の中でいろいろとシュミレーションしていたら、いきなりフェイトに飛び付かれた。

「な、なにがですか・・・・・?」

初めて見せる本気で怒った顔のフェイトに圧倒され、瑞樹は敬語になっていうことにも気づかず返す。

「なにが、じゃないよっ・・・・そんなに危ない魔法は、絶対に使わないで・・・・っ!」

「え・・・・な・・・・?」

一瞬、何を言われているのかわからなかった。

考える暇もなく、瑞樹はフェイトの瞳からとめどなく溢れる滴によって、まともな思考力を奪われていた。

頭の中では、顔のない子供たちが『なーかしたー、なーかしたー、せーんせいにいっちゃーおー』と大合唱する。

いらない記憶が蘇り、その苦い思い出のおかげで瑞樹はなんとか思考力を取り戻した。

「いやいや、フェイトさんや。私めがそんな危ない魔法を使うわけなかとですよ?」

しかしいきなりフェイトに泣かれた―――――断じて、泣かせたわけではないのだと本人は語る―――――動揺は収まらず、言葉使いがおかしなことになっているが。

「うそだよっ、いま絶対に使おうって考えてたっ!!」

うー、と今にも噛みつきそうな勢いで迫るフェイト。

零れた涙も拭かずに、ただまっすぐ瑞樹を睨むように見ている。

―――――――な、なぜわかる・・・・・・・・?

いや、合っているのだが、瑞樹としては何も言っていないのに、こうもあっさり見破られたことが不思議でならない。

『愛は無限大です。不可能はないのです』

アイリスはアイリスでまたわけのわからないことを口走っている。

愛ってなんだ、愛って。

いや、そんなことよりも今はフェイトだ。

さっきからアルフがボキッ!ボキャッ!!と拳を鳴らして、フェイトの後ろからイイ笑顔で瑞樹を睨んでいる。

何がなんだかわからないままだが、どうにかフェイトを慰めないことには、このままだとエクスカリバー云々の前にアルフに殺られる。

「(あ、アイリス・・・・・・・マスターがピンチだよー・・・・)」

学習能力がないのか、またしても縋ると逆に絡みつかれて溺れる藁に縋ろうとする瑞樹。

『(フェイトさんに好きですって言ってください。年上のお姉さんに初めて告白するような少年の気持ちになって)』

そして己のマスターを、助けるどころから逆に沈めようとする藁である。

「(アホか!!)」

『(何か問題でも?)』

「(問題しかねぇよ!!!)」

どさくさにまぎれてなんていうことを言うのだ、このデバイスは。

たまには、ここのところトラブル続きで大変なマスターを助けようとする温かい心はないのだろうか。

『(少しは自分で考えなさい)』

冷たかった。

ううむむむむ・・・・といつも以上に唸って、瑞樹の胸に顔を埋めているフェイトの髪を、いつものように優しく撫でる。

「あー・・・・とりあえず泣きやんでくれないか・・・・」

「・・・・・・・・」

無言。

某使い魔からの殺意という名のプレッシャーが増したような気がした。

「その、なんだ・・・・フェイトが悲しむようなことは絶対にしないからさ、泣きやんでくれると助かる」

「・・・・・・ほんとうに?」

フェイトは顔を上げないまま、ただ瑞樹の服をぎゅっと握りしめ、言う。

「ああ、フェイトに泣かれるとオレも悲しい。なんて言うか・・・あんまり見たくない、かな」

頭をかきながら言う瑞樹に、ようやく顔をあげたフェイトは拗ねたような怒ったような顔をした。









「・・・・・・(むー)」

だったら物騒なことは考えないでほしい。

瑞樹はいつも自分のことをたくさん考えてくれている。

それは純粋に嬉しい。

でも自分のことをまるで考えていないように見えて、ときどきどうしようもなく不安になる。

具体的にどんな魔法なのかは知らないけど、危ないモノだということはわかったエクスカリバー。

アイリスが危ない、と警告したにも拘わらず普通に使おうとしていた。
その結果どうなるか、瑞樹もおぼろげにはわかっているはずだ。

どうなるかわかった上で、使おうとするのだからたちが悪い。

瑞樹が自分のことを考えているように、また自分も瑞樹のことを考えていることを分かってくれない。

「ふぇ、フェイトサン?何でそんなに怒り顔に・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・」

返事なんてしてあげるもんか。

「・・・・・・(ぷい)」

「そっぽを向かれたっ!?」

こんなに心配をかけておいて、自分がどれだけ不安になったのか瑞樹はちっともわかっていない。

「フェイトサーン・・・・」

「・・・・・(ぷい)」

冷や汗を流し始め顔を覗き込んでくる瑞樹に、フェイトはまた顔をそむける。

「わ、わかった・・・・何でもフェイトの好きなようにするから、頼むから機嫌を直してくれ」

何でも、という言葉に反応して、つい瑞樹の顔を見つめてしまう。

「・・・・・そんなことじゃ誤魔化されないから」

思いっきり反応してしまったことが少し恥ずかしくなって、半ば八つ当たり気味に瑞樹を睨む。

ようやく絞り出した言葉は、誤魔化しと、自分の気持ちにまるで気づいていない瑞樹への不満が半分づつ込められていた。

「え、えー・・・・といってもこれ以上、オレに出せるものなんてないんだが・・・・・」

「・・・だったら、一つ約束して」

「ああ・・・・いいけど、何を?」

「絶対に危ないことはしないで。危なくなったら逃げて。絶対に・・・・・いなくならないで」

声も小さく呟いただけの二つ目のお願いは、瑞樹に届いてかどうかわからない。

届いてほしいな、と思う反面、届かないでほしいとも思うフクザツな二
極相反。

「わかった。絶対に、だな」

答えはどちらともとれるようなものだった。

聞きなおすなんて、できるはずがない。

精一杯の勇気を振り絞った、精一杯のわがままだったのだ。

「待てよ・・・・ということはエクスカリバーの使用は?」

「ダメ」

「あ、危なくなったら一回くらいは・・・・・・」

「絶対に、絶対にダメ」

念を押された。

「やばくなったらどうにかできる自信がないんですけど・・・・・・」

「わたしが瑞樹を守るからだいじょうぶ」

「そ、それはそれでどうもなー・・・・・・」

守る立場にあったはずが、守られるというのは、なんていうかフェイトの負担が増えるだけで存在の意味が問われ始めるのではないだろうか。

確かに戦力的にフェイトには圧倒的に負けている。

戦闘でもこれといって役に立っていない。

というか基礎的な魔法もまだほとんど使えない。

「・・・・・・・・・・・・・」

・・・・・ちょっと自分の存在意義について考えたくなった。

いやいや、だからこそエクスカリバーはいざというときの必殺技、という感じにとっておきたいのだが――――――――。

「みずきっ・・・・・・」

「・・・・・絶対に使いません」

懇願されるように言われてしまったら、もはや瑞樹に抗う術などない。

条件は厳しくなってしまったが、フェイトを悲しませるよりは全然いい。

『話が終ったところで、このエベレストジャムをどうにかしたほうがいいと思います』

「・・・・・・フェイト、さっそくピンチだ」

「は、半分にして食べよう・・・・・?」

ここは大人しくフェイトの優しさに甘えることにする。

情けない、ということなかれ。

いざ実物を目前にすると、きっと瑞樹の心境がわかるだろう。

「「甘い・・・・・・・・」」

むしろ苦い顔をして、仲良く食べきったそうだ。






アイリスの独り言、という名の愚痴。

結局、黒騎士さんについての話はできませんでしたね。

事態は状況すらつかめていない状況だというのに、こんなにのんびりしていていいのでしょうか。

プレシアさんが放ったイレギュラー・・・・この存在でマスターの原作の知識という優位点は消えましたし・・・・。

だからさっさと殺しておけばいいものを・・・・・って今さらいっても仕方がないですね。

私はまがいなりにもマスターのデバイスですから、主の決定には従いますよ。

ええ、従いますとも。

ときどきその愚鈍にイラッときてついやってしまうときも、ごく稀にありますが、基本的には忠実です。

あんなヘッポコの判断に従うなんて、なんという薄幸で従順なデバイスでしょう。

それに比べてマスターにはもっとマスターとしての・・・・・・・。





クロロです。

うpできるときにしておこうと思います。

感想をくださった方々へのレスですが、いろいろ考えまして、これからはこの場で返していきたいと思います。


ああああさん>>>

ご指摘ありがとうございます。

そして申し訳ないのですが、これからさらにオリキャラが出しゃばる予定になってます。

お見苦しいかと思いますが、これからもよろしくお願いします。


天狐さん>>>

はい、ありがとうございます。

更新が遅い作者ですが、なんとか完結までもっていきたいです。


レネスさん>>>


良作と言っていただけると本当に励みになります。

何をするにしてもモチベーションって大事ですよね・・・・近頃すごく実感しています。


レンさん>>>

人としての機能を排除した結果の強さ、ということで納得してくださいませ。

今の時点では赤い弓兵さんですけど、後半で差異を見せていきたいと思います。

ご指摘ありがとうございました。


本城さん>>>


実はいずれフェイトを交えて今回のような話を書こうと思ってまして、そのときにすずかのイカサマについて主人公には不幸なめにあってもらおうかと思ってますww

「うるさいわよ」

この台詞ですけど、作者の脳内では一応アリサのセリフになってました。

表現不足で申し訳ないです。

誤字の指摘ありがとうございます。

じっくり読んでくださっている読者様がいると思うと、意欲も湧きますw


今回は割と長めです。

新しい設定作るたんびにどきどきです。

それにしても今回もおまけみたいな話だな・・・・・。

でわでわ。



[9514] 第13話 「まだ序盤!?」『マスター・・・不可能って言葉をry』
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/08/14 10:06
海鳴の近海でジュエルシードの反応があった。

しかも多数である。

すかさず飛び出していこうとするフェイトを、瑞樹はガシッと掴んでストップをかける。

「フェイト、一人で全部封印するつもりか?」

「うん、一気に起動させ「お馬鹿!」あうっ・・・・み、みずき・・・いたいよ・・・?」

またしても一人で突っ走ろうとしているフェイトに、瑞樹はデコピンを三連発。

フェイトは涙目でうー、と少し赤くなった額を両手で押さえる。

「何するの、じゃねぇよ。六個も一気に起動させたらそれだけでグロッキーだろーが。それでどうやって封印するよ?」

「それはっ・・・・そうだけど・・・・・」

なんとか反論しようとするも、尻すぼみになってしまう。

「六個だぞ?しかも海の上だぞ?落ちたら休むところも身を隠すところもない。オレだったら一人じゃ絶対に無理だ」

『10人いても無理ですよ』

「うっさいわ!!・・・って何をそんなに不思議そうな顔をしているんだねフェイトさん?」

「どうして瑞樹はジュエルシードが六個だってわかるの?」

「・・・・フェイトはわからなかったのか?」

「うん・・・・もうすぐで起きそうな子の反応が、たくさんあるのはわかったけど・・・」

数までは・・・・、とフェイトは言った。

「いや・・・そ、それはだな・・・・・」

「それに場所まで・・・・」

不思議そうに瑞樹を見つめるフェイトに、瑞樹は内心で冷や汗を豪快にかいていた。

もちろん瑞樹はジュエルシードの数どころか、どこで発動しそうなのかの場所すら曖昧にしかわかっていない。

ただ時期的にこれだけ大量のジュエルシードが発動する場所は、海鳴の近海以外にありえない。

フェイトは普通に探知魔法か何かで、場所も数も特定しているものだと思い込んでいたが、どうやら違ったらしい。

つい興奮して余計なことを言ってしまった。

『今はジュエルシードが優先です。話は後にして回収に向かいましょう』

「うっ、うん・・・そうだね」

慌てて瑞樹から離れると、フェイトはバリアジャケットを纏う。

「(アイリス・・・助かった)」

『(貸し、一つですね)』

「(貸しとか借りとかあるのか!?おまえ、オレのデバイスじゃ・・・・)」

『(魔法のアシストならともかく、迂闊なマスターの尻拭いはデバイスの領分ではありません)』

尤もであるが、アイリスには少し優しさが足りてないと思う。

せめてバファリンの半分でもいいから優しさがあれば、なんて思うが怖いので口には絶対に出さない。

「い、いったい何を要求されるんだ・・・・・・・・」

フフフフ・・・・・と邪悪な笑いを響かせるアイリスに、戦々恐々としながら瑞樹もジャケットを纏い、フェイトに続いた。









「起動しそうなジュエルシードを多数確認した?」

「うん、場所はここね」

エイミィがマーカーで示した画面の地点を、クロノは彼女の横から覗きこむ。

「どうする?相手の出方をみる?」

「いや・・・・・結局あの連中が仲間なのかはわからないが、仮に仲間同士だと仮定すると、戦力的にはこちらが不利だ」

「そうね。先手を打ちましょう」

リンディの言葉で取るべき行動は決まった。

クロノは念話で、艦内に待機しているなのはをブリッジに呼び出す。

「ジュエルシードを多数確認した。君たちは僕と一緒に回収任務について欲しい」

「うん、わかったよ」

「僕も手伝うよ」

「・・・・・・・君もいたのか」

「ひどっ!?」

相変わらず空気的扱いなユーノに、なのはがにゃはは・・・、と苦笑する。

いつも一緒にいるなのはとしては、別にユーノの存在は軽くも薄くもないのだが、得意な魔法が主にサポート全般であるため、あまり目だって活躍できるないユーノはアースラの中では存在感が薄い。

エイミィのように優れたオペレート能力があれば別だが、突然そんなスキルが身につくはずもない。

「フェイトちゃんと白い変態さんは・・・・・」

「黒い陰険仮面も、だ。連中が来る前に終わらせたい。というか変態にさんをつけるのはどうかと思うんだが・・・・・」

そういうクロノも勝手に名前をつけていた。

「ただの変態じゃないよ。わたしたちを守ってくれたから、いい変態さんだよ」

「いや、それは・・・・・・」

と、言いかけてクロノは深い息を吐く。

白い仮面騎士が変態だろうが変態さんだろうが、ぶっちゃけどうでも良いじゃないか。

というか変態に良いも悪いもあるのだろうか。

・・・・・・やめだやめ、連中のことを考え出すと胃が痛くなってくる。

クロノはポケットに忍ばせている胃薬を口に含むと、

「さぁ「クロノくん、悪いんだけど」なんだ」

行こう、と言おうとしたところで、エイミィに勢いを削がれる。

「もう来ちゃったみたい・・・・・」

スクリーンには白騎士と金の魔法少女と使い魔の姿が映っていた。








海上に到着。

ジュエルシードなんて危険物が沈んでいるとは思えないほどの、穏やかな波模様。

若干曇ってはいるが、むしろ太陽が隠れて涼しいくらいだ。

それがあっという間に豪雨に変わり、季節はずれの竜巻まで起きるのだから、つくづく魔法というものは便利であり厄介なものであると思う。

一気に発動させると言ってきかないフェイトを、やめてください災害がっ竜巻がっ、と宥めすかしてやってきた海鳴の近海。

座標軸の固定から、転送に関わる何から何までを全てフェイトに任せたため、具体的な場所はわからない。

じっと目を凝らせば、陸がなんとか見える位置にはいるようだから、いざとなったら泳いで帰ろう。

戦闘能力的に瑞樹が一番海にたたき落とされやすい。

「・・・・?急にどうしたの・・・?」

いきなり身体を動かし始めた瑞樹に、フェイトは小首を傾げる。

「や・・・何でもない。強いて言うなら、オレの運の悪さを考えて今のうちにできることを、だな・・・」

「よくわからないけど、もう始めてもいいかな?」

「一個ずつな!絶対だからな!?」

「うん」

必死に言う瑞樹に、大丈夫と微笑んで見せて、フェイトは一つ目のジュエルシードを起動させた。





身体を動かしていると、ふと頭によぎった考えがあった。

この場には瑞樹がいてアルフがいる。

どこにいるのかはわからないが、場合によっては黒騎士も回収に参加するだろう。

原作とは違いこれだけ戦力が揃っていれば、フェイトが魔力切れを起こすことはまずない。

そうなるとなのはがフェイトに魔力を渡す必要もなくなるわけで。

自動的に二人の共同作業もなくなる。

接点がないまま事は終わり、互いに立場は敵同士のままである。

「(やば・・・・なんか重要なフラグを叩き折った気がする)」

『(え、今更気づいたんですか?というか今のところ、フェイトさんはなのはさんに対して、悪い印象しか持ってないと思うのですよ)』

「(なぜだ!?オレはあんなに頑張ったはずだぞ?!)」

変態と罵られ、熱い一撃をもらってまでもなのはのフォローをして、フェイトを上手く引き込んでくれるようにしたというのに、あの努力は全て無駄だったというのだろうか。

『(マスターの活躍(?)でなのはさんはフェイトさんと友達になろうとしています)』

「(何でフェイトのほうは違うんだよ)」

『(マスターが高町家にお泊りなんぞするからです)』

「(ああ・・・・・・ってそれだけ!?)」

『(それ以外に何がいりますか。フェイトさんの中では、高町家はマスターを連れ去ろうとした悪の総本山的なイメージがありそうですね)』

「(連れ去ろうとって・・・・いや、確かに高町夫婦はそうかもしれんが・・・・・)」

『(なのはさんだろうが士朗さんだろうが、フェイトさんにとっては一緒ですよ。嫌ってはいないにしろ、警戒はしている考えるのが自然です。これもマスターの迂闊さ故、ですね)』

「ば、ばかな・・・・・」

ショックのあまり声にだしてしまう。

そしてショックが大きすぎて、さりげなく瑞樹に責任を擦り付けたアイリスに気付けなかった。

ぶっちゃけた話、黒歴史のために瑞樹に思わせぶりな発言をさせ、フェイトをさんざん煽ったアイリスが諸悪の根源である。

おかげでなのはに原作とは違った妙ななライバル心を持ってしまった。

「ふぇ、フェイト・・・・・」

「どうしたの?あっ、もう2つ終わったよ。今から次もやるから・・・」

「そ、そうじゃなくてな・・・・えーと・・・んー・・・いったい何と言ったらいいものか・・・・」

「・・・・・?」

「あー・・・・・なのはのことどう思う?」

ストレートすぎた。

一瞬フェイトは何を言われているのかわからなくなってしまった。

「え、な、なのは、のこと・・・・?」

それはいったいどういう意味なんだろう・・・・。

フェイトは思わず作業する手を止めて、真剣になって考え始める。

こんな時にこんな状況で、いきなりなのはの話。

何か重要な意味でも含んでいるのだろうか。

――――――も、もしかして瑞樹はなのはが・・・・!?

ハッとフェイトは瑞樹を見上げた。

いきなり上目使いの直撃をもらった瑞樹は、何事!?と空中で器用に一歩身を引いた。

『や・・・違います。少しは責任を感じたので言いますが・・・フェイトさん、マスターに限ってそれはありえません』

「そ、そうなんだ・・・・でもアイリスはどうしてわたしが考えてたことがわかったの・・・?」

『見ればわかります・・・・というか隠しているつもりだったんですか?』

「あぅ・・・・・」

今度は赤くなってしまったフェイトに、そんなに難しい質問だったかなー・・・と瑞樹は首を傾げ始めた。

因みにアルフは、ここのところ似たようなやり取りが頻繁に勃発していたため、この期に及んでわざわざ口を挟む気はないらしい。

狼の形態のまま、あくびをかみ殺している。

「フェイト的になのははどうなんだ?」

『友達として、です。無理やりですが、ジュエルシードとか魔法とか全部抜きにして考えてください』

いつも言葉が足りない瑞樹に、アイリスが補足する。

積極的に援護しているところを見ると、少しは原作の流れをかき乱した責任を感じているらしい。

「なのはは、いい娘だと思う・・・わたしのこと、知ろうとしてくれたから・・・・」

戸惑いながらも、フェイトは言葉を紡ぐ。

「普通に出会ってたら・・・ともだちになれたかな・・・・・」

普通。

それはジュエルシードを奪い合っているという現実がある以上、絶対に叶わない理想。

普通に学校に通い、普通に出会い、自然と友達になる。

「そんなこと言ってもしかたが「仕方なくない」え・・・・?」

「フェイトは知らないかも知れないがな、普通に出会ったところで友達になれるかどーかなんて、本人たちにもわからならいんだよ」

普通にであっていたところで、それで友達になれるのならば、今頃人類はみな兄弟である。

なのはは学校で毎日、たくさんの生徒に出会っているだろうが、その全てと友達なわけではない。

肝心なのは出会い方よりもそのあとなのだ。

「出会い方は関係ないんだよ。・・・・・フェイトはこの戦いの後とかって考えたことあるか?」

ちょっ・・・それ死亡フラグっ・・・!?と叫んでいるアイリスは華麗に無視。

「ううん・・・考えたことないよ。でも・・・・・」

大好きな母親の望みをかなえることばかり考えていたフェイトは、その後のことなんか何も考えていなかった。

「なのはと・・・ともだちになれるかな・・・・・」

「なれるさ。なのはは別に管理局の局員ってわけじゃない。それこそ終わったら魔法抜きの普通の友達になればいい」

問題は不法にロストロギアを集めている罪のありどころだが、原作通りに事が運べばフェイトが罪にとわれるようなことはないはずだし、瑞樹自身そうならないように全力を尽くすつもりである。

「ともだち・・・・・うんっ」

フェイトは温かいその言葉を何度も反芻し、笑顔で頷いた。

が、ふと思案顔になる。

「みずきはどうするの・・・・?」

「え・・・オレですか。んー・・・・どうしようかな」

「やっぱり・・・元の世界に帰っちゃうの・・・・・?」

隠しきれない不安を露わにして、フェイトは瑞樹を見上げる。

「や、どうだろう・・・・帰りたい、と思わなくもないけど・・・・」

「・・・・っ」

無意識のうちに、フェイトの手に力が入った。





「んー・・・・・」

実際のところどうなんだろうか。

自分でもよくわからないのだが、とりあえず帰る必要性は感じていない。

微妙な言い回ししかできないのだが、そうとしか言いようがない。

帰ったところで、瑞樹には家族はない。

友達はけっこういたが、深く付き合ったことのある、所謂―――親友と呼ばれる類は一人もいなかった。

ただの一介の学生に過ぎない瑞樹を、何の関係もないのに探そうとする者はいないだろう。

捜索願いくらいは出されているかもしれないが、それで見つからなかったら捜査はすぐに打ち切られる。

なにしろ失踪の痕跡は何もないのだ。

警察もそんなに暇じゃない。

そういう意味で、瑞樹は別に帰らなくてもいい。

誰も瑞樹を知らない世界という意味なら、向こうもこっちも大して変わらない。

だから帰る必要性を感じていない。

帰りたいか、と聞かれても同じだ。

少しくらいの未練はあるが、微々たるものである。






そんな瑞樹の胸中を知らず、フェイトは無意識のうちに全身に力を入れて瑞樹の言葉を待っていた。

まるで瑞樹の言葉で、フェイトの運命が決まってしまうかのような真剣さだった。

「オレは・・・・・」

ビクッとフェイトがふるえる。

しかし―――――――――

『お話はそのくらいにしてください。お客さんの到着ですよ』

―――――――答えを聞く時間はなさそうだ。







プレシアは一人、集まったジュエルシードを眺め、薄い笑いを浮かべていた。

アリシアの出来そこないとは違い、あのクローンは非常に有能だ。

ヒトとしてのリミッターをはずしてある分だけ戦闘能力は格段に高い上に、常に合理的思考を元に動いているから操りやすい。

今はいつ起動されかねない爆弾を抱え、殺されないように利用価値を見せているといったところか。

それ以前に、いつ肉体が崩壊するかもわからないのに、必死に生にしがみ付くとは滑稽な話だ。

「フフ・・・・・」

プレシアは冷たく笑うと、黒騎士を呼び出した。





「何か用かよ」

黒の甲冑は纏わずに黒騎士はプレシアの前に立つ。

脳裏にはリアルタイムで、瑞樹たちのジュエルシード回収の映像が映し出されている。

デバイスのジャミング能力を応用した、オリジナルの魔法である。

やろうと思ったらできたのだ。

きっとそういう風に創られているのだろう。

その代償が何なのかなんて、吐き気がするほど考えたくない。

「(チッ・・・・・もたもたしやがって)」

せっかく管理局の介入を、転位座標を狂わせることでジャミングしてやっているというのに、瑞樹もフェイトも何やら話しこんでいるだけで、回収は遅々として進んでいない。

「(シナリオ変更か・・・・・・面倒な)」

「聞いているのかしら?」

「・・・ああ、オレも行けばいいんだろう?」

「あなたが戻り次第、アリシアを蘇らせるわ」

すでにプレシアの目にはアリシアしか映っていない。

黒騎士は無駄だと思いつつも、聞いてみた。

「フェイトはどうする?」

「殺すのも面倒だわ・・・・あなたの好きにしていいわよ」

冷めた目で言うプレシア。

予想していた答えだったから別に動揺なんてしない。

これが瑞樹だったら、どうだったかなど考えるまでもない。

本当にプレシアを説得できるつもりでいるらしい奴に、今の発言をいやってほど聞かせてやりたかった。

「わかった。あんたは何も気にせずアリシアのことだけを考えていればいい」

「フフ・・・いい子ね」

いや・・・無駄か、と黒騎士は嘆息する。

誰が何を言おうとも、瑞樹はプレシアをも救おうとするだろう。

迷いもせずに、助けると断言するだろう。

なぜならプレシアもまた―――――フェイトと同じだからだ。

「・・・・・・・・・・チッ」

ならば勝手にすればいい。

その代り―――――こちらも勝手に動かせてもらうだけだ。

「行ってくる」







「だ、だいぶ時間がかかっちゃったね・・・・」

「目の前で怪獣が口を開けていた時は、さすがに死ぬかと思ったよ・・・・・」

黒騎士のジャミングによって座標軸を狂わされた管理局一同は、転位するたびにワケノワカラナイ場所に飛ばされ続け、戦う前から精神的に疲弊していた。

「・・・・休むのも文句を言うのも後だ。今は任務を遂行しよう」

疲弊していても、しっかりと切り替えができるのは、さすが執務官といったところだ。

バリアジャケットが全体的に焦げているのは、不意打ちに食らった怪獣の火炎攻撃によるものである。

いや、どうでもいいが。

クロノの一言で、なのたちの顔も引き締まる。

目の前には、会いたかった魔法少女の姿と・・・・・・・・・使い魔に胸倉を掴まれている白騎士の姿があった。

「あんたがモタモタしてるから管理局が来ちゃったじゃないか!!」

「お、オレだけピンポイント!?フェイトとアイリスは!?!?」

『いいえ、話を始めたのはマスターです。というわけでマスターが全面的に悪いです』

「うー・・・みずきは帰りたいのかな・・・・でもでもっ・・・・あぅぅ・・・・・」

アイリスは早々に主を売り、フェイトは深い思考の底から戻ってこない。

裏切り1、中立1、で瑞樹の味方は0だった。

「神は死んだ!!」

ドギャーン!!と効果音をバックに絶望のポーズ。

とりあえず状況はかなりカオスっていた。

―――え、え~と・・・・攻撃していいのかな・・・・・?

なのはは躊躇った。

こちらの存在をまるで無視しているかのような言動。

隙だらけ過ぎて戸惑い、逆に躊躇った。

しかし、ふと――――――ある考えが脳裏をよぎった。

「よし、さっさと殺ってしま「クロノくん、ちょっと待って欲しいの」・・・なぜだ?」

なのはとは違い、戸惑いも躊躇もしなかったクロノは、隙だらけの瑞樹たちを一気に掃討してしまおうとする。

普通は降伏勧告から入るのだが、胃薬にまで頼るようになったクロノの最近のストレス状況は、彼の頭の中から警告という言葉を奪い去っていた。

「ごめんね、でも少しだけだから・・・・」

「・・・・早くしてくれ」

クロノが渋々と杖を収める。

なのははクロノより一歩前に出て、強い意志を込めた目で、前を見据えた。





「フェイトちゃん!!!」

「ち、ちがうよっ・・・!み、みずきが行くならわたしもっ・・・・な、なのは・・・?」

ようやく現世に帰ってきたフェイトは驚愕する。

―――いつの間になのはが・・・・・?

「いやいや・・・さっきからいたから」

『知っていて漫才してたんですか?お馬鹿ですね・・・・・呆れて物も言えません』

とか言いつつけっこう好きなことを言っているアイリス。

「あんた、死ぬよ?」

呆れた口調で言うアルフ。

「おまえらがやらせてたんだろうがッ!!!」

再びシャウト。

二回戦が始まるかと思われたが、なのはがそうはさせなかった。

「フェイトちゃん教えてっ!どうしてジュエルシードを集めてるのっ!?」

「(えっ!?まだそこ!?)」

原作で言うところの序盤である。

『(マスター・・・・これは本気でダメかもしれませんよ・・・・)』

言わなくてもいいと思うが今は割と終盤である。

心の中でギャーギャーと騒ぐ二人とは違い、フェイトの心は静かに、しかし確かに揺れ動いていた。

なのはの本気の叫びは、ちゃんとフェイトの心に届いていたのだ。

「みずき・・・・・」

不安そうに、窺うように、フェイトは瑞樹を見上げる。

「別に隠しておく必要なんてないだろ。フェイトのことを知りたい、友達になりたいって言ってくれてるんだぞ?」

「う、うん・・・・・・」

フェイトは戸惑いつつも、しっかりとなのはの目を見て、

「わたしがジュエルシードを集めるのは母さんのため。母さんの願いを叶えてあげるためにも、これは・・・・絶対に渡せません」

少し頼もしく見えるフェイトの後姿を見ながら、瑞樹は満足そうに頷いた。

「うんっ!わたしも負けないよ。フェイトちゃんにジュエルシードは渡さないから!」

敵対宣言をされたにもかかわらず、なのは嬉しそうに言い返す。

今この瞬間、二人の魔法少女はしっかりとお互いの方を向きあった。





こんにちわ、クロロです。

いやー、時間の自由をかみしめながら改訂、投稿しております。


ディオンさん>>>

指摘されて、あ・・・・って思うことって結構あります。

作者同様、二人とも気付かなかったことにしていただければ幸いです。


天狐さん>>>


今のところ他の宝具が登場する予定はないです。

というよりも作者の未熟さがたたってできないとも言えます。

いろいろ出すと書いてても楽しいんですけど、バランス取るのが難しくなっちゃうんですよね・・・・・。

精進します。


本城さん>>>


ありがとうございます!

フェイトの可愛さのあまりに書き始めたSSだけに、フェイトを可愛いと言ってもらえると本当にうれしいです。

大きすぎる力って扱いづらいですね。

使う主人公もですけど、書く作者もない頭使ってます。

誤字報告感謝です!

前回の分は直させてもらいました。



[9514] 第14話 「激突、白と黒」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/11/01 22:52
フェイトとなのはが、海上で魔法の応酬を繰り広げている。

普段ならすかさず援護に入る瑞樹なのだが、今回はそういうわけにもいかない。

ここにいるからにはやらなければならないことがある。

「覚悟してもらおう。今日の僕は容赦という言葉はないぞ」

クロノの相手である。

「ディバイィィィィン!!!バスターーーー!!!」

ドカーンとかチュドーンとかジャキーンとか、まるでマンガみたいな擬音が背後で響いている。

「・・・・・・・・・(汗)」

決して全力全壊でバンバン撃ってくるなのはに恐れをなしたわけではない。

魔法の撃ち合いは・・・そう、一種のコミュニケーションなのだ。

なのはとフェイトの会話の場を邪魔するわけにはいかない。

いかないったらいかないのだ。

だいたい危険度で言えば、何故か知らないうちにキレかけているクロノの相手も同じようなものじゃないか。

うん、逃げてない。

こ、怖くもない。

『とりあえず震えてる足をどうにかしてからにしてください』

「む、武者ぶるいだ」

「声も震えてるよ。だいたいあいつはそんなに強くないんじゃないかい?」

アルフが瑞樹の傍らで言う。

瑞樹を一人にしておくことが不安だったフェイトは、アルフに瑞樹のそばについているように言ったのだ。

故に今回ばかりは、主のもとを離れて瑞樹のお守りに回っている。

それってフェイトの助っ人的にどうn・・・・という指摘はしないでほしい。

『颯爽と現れたくせにあっさりやられたからあいつ弱いんじゃねぇ?とか考えていると痛い目を見ますよ。あれは黒騎士さんがハイスペック過ぎるだけです』

クロノは別に弱くない。

というか後頭部にアレをくらって、未だに生きている時点で十分に強い部類にはいるだろう。

「えぇぇ・・・そいつをこれからオレは足止め・・・しなきゃならないわけだよな?」

『そうですね。自分で決めたことくらいやり遂げませんと』

「あたしもついてるし、死にゃしないよ」

軽いノリで生き死にの話をされるのはとっても微妙な気分だが、グダグダ文句を言っていても瑞樹のやることに変化の兆しが訪れるわけでもない。

『マスターはやればできる子ですよ』

「・・・・・そこまで期待されちゃ仕方がない。やってやるさ、今度こそ――――慎ましくな」








「ハッ・・・!!」

ガキン――――!!

鈍い金属音が、瑞樹の剣から響く。

「くっ・・・・・・!!」

瑞樹の不可視の剣に対して、うち合っているのはクロノのS2U。

意外なことにクロノが瑞樹に力負けし、押される形となっていた。

『(マスター、ついに剣に魔力を維持できるようになったのですね・・・・・私のサポートなしで)』

アイリスが、情けなかった我が子の成長ぶりを喜ぶ母親のように言う。

「(今さらっとトンデモナイこと言わなかった!?!?)」

訓練のときと同じように魔力が上手く剣に乗らない、と瑞樹も薄々とは感じていたのだが、なんとアイリスがサポートの一切を放棄してたらしい。

相変わらずデバイスとは思えないデバイスである。

『(そう言われてもですね、訓練と実戦は勝手が違います。私も私でやらないといけないことがあるのです)』

例えば空での姿勢制御。

ただ飛んでいる分にはアイリスのサポートなしでも落ちはしない。

しかしそこから打ち合う、急な回避を行う、等と複雑な行動をとれば、その分魔法の制御には気を使わなくてはならない。

アイリスはまだそのレベルまで達していない瑞樹の代わりに、イメージ通りに動けるように代わりに飛行魔法を制御している。

その他にも、瑞樹がすぐに魔力切れを起こさないように、いちいち全力で攻撃しようとする瑞樹の魔力の出力を制限し、適切な量に調節しているのだ。

他にも瑞樹には至らない点が多く、全部挙げ始めるとキリがないので割愛するが、アイリスは別にサボってるわけではない。




「こっちも忘れてもらったら困るよ!!!」

「忘れるか!!」

クロノはエクスカリバーを受け流して、間を置かずにアルフの拳をシールドで受け止めた。

二対一だというに、クロノは瑞樹たちの攻撃を完璧に捌いている。

しかしクロノ本人に、そう余裕があるわけでもなかった。

まず厄介なのが、刀身の見えない白騎士の剣。

長さがわからないから間合いが掴みにくい。

何回か受けて、だいたいの長さは掴めたが、それでも戦いづらいことには変わりない。

そして重い。

どういう理屈なのか、打ち合うたびに杖がはじかれそうになる。

しかし幸いなことに、使い魔と白騎士は各々勝手にスタンドプレーをしているだけで、連携をまるで考えていない。

これで連携を取られたら厄介だったが、これならまだ勝機はある。

あまり攻撃できないことが逆に魔力を温存できるというアドバンテージになっている。

このまま持久戦に持ち込めば、やがて白騎士の魔力は尽き、勝手に勝利が舞い込んでくる。

しかし――――そんな思惑は、黒のイレギュラーによって唐突に狂わされることとなった。








人には生まれた意味がある。

それぞれに役目がある。

黒騎士はプレシアにジュエルシードを集めることを求められている。

それが与えられた役目であり、存在の意味。

その役目を全うしなかったとき、黒騎士は仕掛けられた首輪に絞め殺されることになるだろう。

――――――ならどうする。

「愚問だな」

黒騎士は立ち上がり、黒い魔法陣を展開する。

「ハッ―――――――知ったことじゃない」

――――黒騎士は歪に笑う。

やることなど決まっている。

この身が生まれ落ちたその瞬間から、それは消せない傷痕のように、この身に刻み込まれている。

例えプレシアが刻んだ模範解答をはずれた先に、自らの死が待っていようとも、やるべきことをやらないまま無為に生きる人生に意味はない。









さあ――――――――――――――始めよう。








『ジャミングアウト』

「チンタラしやがって・・・・・」

忌々しげに呟くと、ダークネスカリバーを持っていない方の手をクロノに向け、指を鳴らす。

「なっ・・・・・・・・?!」

クロノは急に自分の周りに現れた黒い魔法陣に驚き、すぐに黒騎士の姿を視界に捕らえた。

しかし、遅い。

「消えろ」

黒い魔法陣から生まれたブラックホールは、クロノを飲み込んで消滅した。

黒騎士は状況が掴めていない瑞樹を放置したまま、今度はなのはと戦っているフェイトの方にまっすぐ飛―――――

「・・・・・・邪魔だ」

「おまえがな」

――――ぼうとした瞬間、黄金の剣を持った白騎士が立ちはだかる。

瑞樹の敵は、フェイトとなのはの邪魔をする全ての存在である。

黒騎士が誰かは知らない。

味方かもしれない。

しかし、たとえ味方だろうと、クロノを片づけてくれたとしても、フェイトの邪魔をさせるわけにはいかない。

「生きてるうちに消えろ」

「いきなり現れて勝手なことを・・・・・オレの予定を狂わせるな」

互いに一歩も引かない。

白騎士は右手に剣を、黒騎士は左手に剣をそれぞれ携え、互いに切っ先を向けあい、合わせ鏡のように立つ二人の騎士。

「イレギュラーは自分だけで十分、か?」

「・・・・・・・?」

「・・・・・さぁな」

疑問符を浮かべ、瑞樹の顔を覗き込むアルフ。

瑞樹は表情を隠してくれる仮面に感謝した。

今の一言は例えブラフだとしても――――――――いや、ブラフではない。

直感でしかないが、黒騎士は瑞樹の事情を知っている。

それも異世界から来た瑞樹の事情ではなく、原作を知っている瑞樹の事情を、である。

追及はしない。

しても無駄だろう。

そんなことよりも今は、余計なことをこれ以上喋られる前に、こいつを黙らせるほうが先だ。

「悪いが退場してもらう」

「オマエがな」







「弱いな・・・・・」

「ぐっ・・・・・!!」

元々、瑞樹の勝ち目などなかったのだ。

魔導師としての戦闘能力を200%引き出している黒騎士と、魔導師としてはまだ未熟で、通常戦闘もアイリスのサポートに頼っている瑞樹。
瑞樹には勝機の一欠片もなかった。

それでも瑞樹が引かなかったのはフェイトのため。

小さな幸せを手に入れようと必死に頑張っているフェイトのことを思えば、引く理由などありはしない。

少しでも時間を稼げればそれでいい。

ガキン――――!!!

ついには力負けし、エクスカリバーを持った腕ごと弾かれ、体勢を崩される。

「―――――ダークレイ(闇魔光)―――――」

「しまっ・・・・!?!」

カッ――――!!

鋭い闇の光が視界を支配する。

かざされた掌から、いつかの闇色の閃光が迸る。

あまりの衝撃に、仮面バラバラに砕け散った。

全身に絡みつく空気の抵抗に、自分が落ちているのだと理解する。

アルフがバインドを躍起になってはずそうとしている姿を最後に、瑞樹の視界は完全に黒く染まった。








「・・・・・・・・・・」

闇に呑まれた瑞樹を、黒騎士はしばし見送るように眺めていた。

瑞樹が黒騎士に勝てるはずがない。

わかっていて挑んできた。

一瞬の躊躇いもしなかった。

瑞樹は、フェイトのためにあっさりと自分を捨て石にしようとした。

黒騎士には、そんな自己犠牲的な思考は存在しない。

「・・・―――――・・・なのにな」

瑞樹が消えた空間に向かって、誰にも聞こえないくらい小さな声で、小さく呟いた。












なのはとフェイトが戦っている様子を尻目に、黒騎士は黙々とジュエルシードを回収する。

アルフは海から上がってこないし、ただ黙って二人の決闘を見ているのもアホらしい。

一応ジャミングをかけてあるが、いつ瑞樹が戻ってくるかもわからない。

万全の態勢が整っているのなら、事は急ぎ過ぎるくらいがちょうどいい。

ほどなくして回収は完力。

認識阻害の結界を応用した目晦ましにより、二人は黒騎士の動向に気づいた様子もない。

恐らく瑞樹がどこかに飛ばされたことにも、二人は気づいていないだろう。

もし気づいていたら、フェイトが戦い続けていることはありえない。

何よりも最優先で瑞樹を探そうとするだろう。

「(頃合いか・・・・・・・)」

黒騎士はタイミングを見計らって、なのはとフェイトの間に割って入る。

「そこまでだ」

「っ・・・・あなたは・・・・・」

「え・・・・・・・・・?」

すかさず距離を取り、黒騎士をキッと睨みつけるフェイト。

対してなのはは戸惑っている。

「下がっていろ」

「・・・・・・・・」

「フェイト・・・そう睨まないでくれ」

「・・・・・・?」

声、振り返る姿、仕草、その全てに、フェイトもまた不思議と既視感を覚える。

何の根拠もなく、ただの思い違いでしかないかもしれない。

でも――――――。

「っ・・・あなたは・・・・誰なんですか」

「・・・・・ジュエルシードは全て回収した。このまま引くならば見逃して・・・その気はないみたいだな」

フェイトの質問には答えず、ただ背を向ける。

レイジングハートを突き付けるなのは。

強い意志が籠った目だ。

「あなたは、だれですか・・・?」

同じ質問。

黒騎士は答えずに、ただ剣の切っ先をなのはに向ける。

「もう一度だけ言ってやる。銃を引け・・・・怪我をする前にな」

「・・・レイジングハート!!」

『Yes my master』

今度はなのはが答えずに、ディバインシューターを飛ばす。

誘導弾が素早く黒騎士を襲うが、黒騎士はその場から一歩も動かずに、全てを高速の剣撃で叩き落とした。

「言うだけ無駄か・・・・」

疲れと呆れを感じさせる響きだったが、それとは裏腹に黒騎士は、しょうがないとでも言うように苦笑でわずかに顔が綻んでいた。

黒騎士は唐突にフェイトを振り返り、そばに寄る。

「・・・・・・」

警戒を解かないフェイト。

かまわずに黒騎士はフェイトの耳元までより、

「――――――――。」

そっと囁いた。

「っ・・・・・・・・はい」

フェイトは一瞬だけ目を見開き、神妙な顔をして頷き後ろに下がる。

黒騎士はクツクツと笑うと、なのはに向きなおり、スッと剣を振り上げる。

「では、いくぞ?」

黒騎士は黒い刃を飛ばす。

機動力の鈍いなのはでは、受けるという選択肢しかない。

「フッ・・・・・・」

なのはが黒刃の足止めを受けている隙に、クロノの時と同じ要領で背後に回り、手をかざ――――。

「させない!!」

「チッ・・・・・この空気小動物がッ・・・・!!!」

―――そうとして、全身から感じる圧迫感に舌打ちする。

なのはではない。

肩に乗っていた(すっかり存在を忘れていた)ユーノのバインドだ。

瑞樹であるならばともかく、この程度で戦闘不能になるほど黒騎士は弱くない。

いざとなったら力づくで引きちぎることもできる。

しかし―――――そのために致命的な隙を、なのはに作ってしまった。

「ディバィィィィィィン!!!バスターーーーーー!!!!!!」

「なっ・・・・・・」

今度は黒騎士が驚く番だった。

いくらなんでもチャージまでの時間が早すぎる。

恐るべきなのは、彼女の才能。

―――――あとは、他人を親身に思いやれる優しい心、か。

それがここまでの成長速度と強さを誇る理由だろう。

人の感情は時に限界以上の力を発揮させる。

「オレにはわからないが・・・・・・・なッ!!」

自嘲気味に呟き、黒騎士は魔力を多めに通したダークネスカリバーを盾にするように構える。

ドン―――――!!!

強い衝撃が襲う。

魔力を多めに通しても、これだけの衝撃。

弾き切れていない。

黒騎士は魔力の密度をさらに高める。

「オ・・・オォォォォォォッ!!!」

渾身の力を込めて、剣を振り抜く。

「ふぇっ!?」

自分のほうに真っ直ぐ戻ってきた砲撃に、なのはは咄嗟にシールドを張ろうとするが、間に合わずに桃色の奔流に呑まれる。

「(・・・・殺すわけにはいかないか・・・・・)」

『ダークプリズン』

無機質な機械音と共に、なのはの身体が黒い球体に閉じ込められる。

「・・・・・飛べ」

パチン、と指を鳴らす。

少し面白い場所に飛ばしてやった。

ささやかな嫌がらせだ。

「ぐっ・・・・・・つっ・・・・」

不意に襲う目まいに、視界が白く染まる。

――――少し、無理をしすぎた。

陳腐な作りのリンカーコアが悲鳴を上げている。

常人の数倍以上の出力と魔力量を誇るリンカーコアだが、逆にその分気をつけて魔力を制御しないと、少し無理をするだけで簡単にガタがくる。

「(くっ・・・・不味い、な・・・・・)」

空中での姿勢制御すらままならなくなってきた。

降りて休むという選択肢はない。

ここは海の上だ。

しかし黒騎士の心配は、本人のとっては意外な形で杞憂に終わった。

「・・・・・・どういうつもりだ」

「わかりません・・・・・」

落ちそうな黒騎士をフェイトがそっと支えていた。

先ほどまで、これでもかというほど警戒していたフェイトが、である。

問いつめる黒騎士に、フェイト自身が誰よりも困惑した顔で呟く。

「えと・・・えと・・・よくわからないよ・・・・どうしてなのかな」

「いや・・・オレに聞かれても・・・・・・・」

黒騎士はたぶん生まれて初めて、どういう顔をしていいかわからない状況に遭遇した。

「・・・・・たーみねーたー、さんはみずきを傷つけようとした悪い人なのに・・・・・」

――――た、ターミネーター・・・・。

別の意味で滑り落ちそうになった。

自分は彼女たちにそういう視点で見られているのだろうか。

しかも発音が拙かった。

たぶんフェイトはターミネーターとは何なのか理解できていない。

恐らく瑞樹が言っていたから真似しているだけなのだろう。

「・・・ずいぶんと、懐かれたじゃないか」

無意識のうちに声に出していた。

「なにが、違うんだろうな・・・・・・」

隠しきれなかった心の叫びが零れた。

「ふぇ・・・?」

フェイトが小首を傾げる。

「何でもない。もう大丈夫だ」

「あ・・・・・」

フェイトの腕を無理やり振りほどく。

「(そんな顔、するんじゃねェよ・・・・・・)」

子供が親の体温を求めるような、フェイトの少し寂しそうな顔。

これ以上、見ていられなかった。

「フェイトーーーーーー!!!」

遠くからアルフの声が向かってくる。

ようやくバインドから逃れたのだろう。

構成を甘くしたつもりはないから、今までかかったのも無理はない。

黒騎士は、フェイトの視線がアルフにいった隙に、どこかへ姿を消した。







――――冷たい雨が全身を容赦なく叩きつける。

雨が降っていてもなお鼻につく、火薬と焦げた肉の臭い。

どこへ行っても同じ光景。

あの頃の―――にとって当たり前のセカイ。

――――また同じ夢を見ている。

忘れたくても、こうして脳裏に鮮明に焼き付いている記憶。

仮初の父親が、死んだ日のこと。



幼い――――を、大きなオレが見ている。

雨の中立ちつくし、自分で作った墓ともよべぬ墓標を、ただ見ている。

銃が濡れる。

かまわなかった。

涙は出たのだろうか。

光景は焼き付いているのに、感情が思い出せない。

ただの映像を流し見ている気分だ。

立ちつくす――――の後姿に尋ねる。

おまえは――――――ちゃんと泣いていたのか。

今のオレは―――――――――。


『マ・・・・タ・・・・き・・・・・マスター!!!』

「う・・・・・・あ・・・・・」

脳内をガンガンと刺激する優しくない声で、瑞樹は無理やり覚醒させられる。

「あい、りす・・・か・・・・?」

『マスター・・・良かった。ご無事だったのですね』

「あんまり、無事ではないがな・・・・・」

雨が降っていた。

ずきずきと痛む頭に、容赦なく降り注いでいる。

額に手を当てると、無骨な仮面の感触ではなく、体温のある人間の感触。

黒騎士の攻撃で仮面は破壊されたのだ。

「死んでないだけマシか・・・・いや、生かされたのか・・・・」

『恐らくそうでしょう。アレの攻撃力をもってすればマスターを再起不能にすることも可能だったはずです』

「再起不能って・・・・怖いこと言うなよ」

『それだけ無謀なことをしたのはどこの誰ですか?』

「お、オレだけど・・・・ってなんか怒ってないか?」

『当たり前です。この際だから言わせてもらいましょう。あなたはご自分の命をかる―――――っ!?』

言いかけたアイリスが、急に口をつぐむ。

何かアリエナイモノを見たような、そんな様子だった。

迂闊だったのだ。

この場に、瑞樹以外には誰かもいないと―――――――いったい誰が保障したというのか。

「つばさ、くん・・・・・・・?」

振り返ったその先に―――――――アリエナイはずの存在が―――――なのはが、呆然と立ち尽くしていた。

「・・・・な、の・・・は・・・・・・?」

瑞樹は掠れる声で呟く。

雨は、まだ止みそうになかった。




どうも、クロロです。

相変わらずの不定期更新でスイマセン・・・・・。

もうあの作者死んだんじゃね?とか思われてもしかたないと思いますが、ひっそりしっかり生きてます。

改訂は殆どなし・・・・だと思います。


本城さん>>>

いきなりぶっKILLモードだったクロノくんですが、胃へのダメージが相当なものだったんですね。

問題の黒い奴のチートっぷりに、作者もどうしていいかわからないという最悪の事態です(ぇ

ノリで書くからこういうことになるんですよね・・・・何とかしたいと思います。

>>いい変態は存在します、頭にパンツ被って網タイツをはいた変態はいい人です。

良い人かもしれないですけど、魔法がどうとか以前に普通に捕まりますよね!?(笑)

でわでわ。



[9514] 第15話 「ばーれちゃったーばれちゃったー・・・・どうしよ」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/11/18 03:01
幻想は―――――――――――――――冷たく暴かれる。






「つばさくん・・・・なの・・・・・?」

降り注ぐ雨で張り付いた前髪が、白い騎士服を纏った彼の表情を隠している。

背格好も声も違う。

幼い少年の声ではなく、声変わりした青年の声だった。

しかし、一瞬だけ除いた顔、目。

「うそ・・・・だよね・・・・・?」

その疑問は確認にも似たものだった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

瑞樹は答えない。

ただ沈黙を保ち、悲壮に染まったなのはの顔を見据える。

「答えてっ・・・・!!」

雷音と重なった慟哭。

「・・・・・・・・・・そうだよ」

瑞樹は濡れた前髪をかき上げ、口を動かす。

いつものように、なのはの記憶の中で困ったように苦笑している少年の顔で。

「オレが―――――『つばさくん』さ」

「・・・・・・っ」

なのははショックを隠しきれず、トスン、と力が抜けたように座り込む。

心のどこかで否定されることを望んでいたのだろう。

それがありえないことだとは分かっていても、そうあって欲しくなかった。

なんで?

どうして?

なのはの頭がたくさんの疑問符で埋め尽くされる。

サッカーが得意で、よく店にも来てくれる常連さんで、両親にとても気に入られている少年。

困った時は助けてくれると言ってくれた。

どうして優しくしてくれるのか不思議だった。

だから、ちょっとだけ気になっていた少年。

「どうしてっ・・・・どうしてつばさくんがそこにいるの!?」

しかし、『つばさくん』は白い騎士だった。

金色の少女を護る、白い騎士。

なのはを守ってくれるはずの存在は、同時になのはに立ちはだかった存在でもあった。

「守るってっ・・・助けてくれるって言ったのにっ・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「うそつきっ・・・・ひっく・・・うそっ・・・えぐ・・・つき・・・・」

なのはは泣いている。

肩を震わせて、子供のように。

誰が彼女を泣かせた。

問うまでもないことだ。

撃たれた頭以上に、軋んだ心が悲鳴を上げた。

「・・・・・・・守るよ。助ける」

「もう・・・・うそ・・・つかないで・・・・っ・・・・・」

座り込んで俯いた少女に、瑞樹はゆっくりと歩み寄る。

「嘘じゃない」

「うそだよっ!!だってつばさくんはフェイトちゃんの―――――――っ」

「なのはも守る。なのはも・・・・大切だ」

瑞樹は、そっと――――泣きじゃくるなのはを抱きしめた。

「あ・・・・・」

「だからさ・・・・・できれば、その・・・泣かないでくれ」

なのはは泣くのも忘れ、呆けたように瑞樹を上目で見る。
「つらいんだ・・・見てて、つらい。だから、頼むから・・・泣きやんでくれないか」

瑞樹はさらにぎゅっと、なのはの小さな身体を抱きしめる。

困っている全て、等と傲慢なことは言わない。

ただ、自分の周りの人たちは守りたかった。

その人たちがみんな笑ってくれれば、それでいいのに――――――。

「どうしてだろうな・・・・・どうして、上手く・・・いかないんだろうな・・・・・」

「つばさ、くん・・・・?泣いてるの・・・・・・?」

「雨だよ」

なのはは瑞樹の腕の中でもそもそと動くと、身を乗り出して瑞樹の頬をぺろっとなめる。

「うにゃ・・・・しょっぱいよ」

「そっか・・・・・きっとなのはが泣いてるからだな」

「わ、わたしは泣いてないよ」

「む・・・だったらオレも泣いてない」

「ないてたよ」

「泣いてない」

「「・・・・・・・」」

雨が降り続く中で、二人は顔を突き合わせ、苦笑する。

「つばさくんは意地っ張りだね」

「む・・・なのはだってそうだろ」

「そんなこと・・・くしゅんっ・・・・にゃぁぁ・・・・」

なのはが小さなくしゃみをして、情けない声を出す。

瑞樹の胸に顔を押しつけてぎゅっとしがみつくなのはに、しばらく何事
かと首をかしげていたが、ほどなくして寒いのだと気付く。

こうも雨を浴び続けていたら、身体も冷えるだろう。

「すまん・・・気が利かなかった。とりあえず雨をしのげるとこを探すか」

「うん・・・・・」

瑞樹はなのはが雨に濡れないように外套を被せる。

「洞窟かなんかあるといいんだがなー・・・・つーか今さらだけど、ここどこだよ・・・」

瑞樹はなのはを抱き上げると、ふらつく足取りで歩きだした。









運よく洞窟を見つけることができた。

とりあえず火を起こす。

普通なら、こんな雨の中じゃいくら洞窟の中とはいえ火など起きない。

魔法の力は偉大だ。

「アイリス、転位はできないのか?」

『ジャミングされています。あの黒騎士の仕業ですね』

「・・・・・・あんのヤロウ、何を企んでやがる」

今までの行動を振り返っても、黒騎士の目的が見えてこない。
わざわざ飛ばして隔離する理由はなんだ。

戻ってきてほしくないのなら、殺してしまった方が楽なはずだ。

しかし瑞樹は生きている。

確かに凄まじい威力の攻撃だったが、殺すつもりはなかったのだろう。

殺さずに生かしたまま、わざわざジャミングまでかけて隔離する理由が、きっとどこかにあるのだろうが・・・・・・・わからない。

現時点では情報が少なすぎる。

「くしゅんっ」

その音で意識が現実に引き戻される。

『まったく・・・つくづく気が利かないマスターですね。こういうときは黙って外套を肩にかけてあげるものです』

「む・・・それもそうか」

外套を肩から外して、なのはの頭からかぶせてやる。

「い、今のは誰の声なの?」

「ん、ああ・・・・アイリスのことは知らなかったっけ。アイリス、自己紹介」

『一応、このボンクラのデバイスなんかやってたりします。アイリスフィールです。アイリスと呼んでください』

「た、高町なのはです」

いきなり己のマスターを罵ったアイリスに少し引きながらも、なのははレイジングハートの紹介も済ませた。

「一応って何だ、一応って。しかもボンクラかよ・・・・まぁ今更だし、いいけどよ・・・・」

あっさりと黒騎士に返り討ちにされた瑞樹では反論できないのかもしれないが、言い訳をさせてもらえるならあの黒騎士がオーバースペック過ぎるだけと思う。

技術など比べるまでもない。

剣で打ち合っても力負けする。

「・・・・って待てい。何でクロノには力負けしなかったのに、奴にはするんだよ」

『・・・・恐らくですが、黒騎士さんも剣に魔力を通していたのでしょうね』

「んなアホな。アレはエクスカリバーの特性だろ。簡単に真似できてたまるか」

『・・・・・、・・・・ですから、恐らくの話です。確証など何もありません』

「結局、わからないってことだな・・・・・・」

それっきり考え込むように黙り込んでしまったアイリスに、瑞樹も思考の海に沈み込む。

パチパチ、と火が燃料である枯れ木を燃やす音だけが、洞窟の中に響く。

雨はまだ止んでいない。

もうすでに夜かもしれない。

空が雨雲に覆われているおかげで、正確な時間もわからなかった。

「あの・・・・・」

ふいに、なのはが口を開いた。

「・・・・ん?」

「つばさくんは、どうしてフェイトちゃんのお手伝いをしてるの?」

「唐突だな・・・・・別に知らなくても困らないと思うぞ」

「困るよ・・・・理由もわからずにつばさくんと戦うなんて嫌だよ・・・・・」

泣きそうな顔をするなのはに、瑞樹はぐむむと唸る。

「そうか・・・・じゃあ、暇つぶしに聞いてくれ」

「うん・・・・」

なのはは聞き安いように、瑞樹の向かいから隣に移動する。

身体が密着して、なのはの温かさが肩越しから直接伝わってくる。

「オレは、巻き込まれ型の典型でな・・・・・」










「んでオレは・・・・・・・・・寝たのか」

いつの間にか瑞樹の肩を枕に寝ているなのはに苦笑する。

「ふぅ・・・・・・・・」

なのはを起こさないように壁に寄りかかると、瑞樹は深く息をついた。

まったく歯が立たなかった。

『黒騎士さんのことですか?』

「ん、ああ・・・・よくわかったな」

『一応あなたのデバイスですから』

「・・・・なぁ、アイリス」

『なんです?』

「オレはあいつに勝てそうか・・・・?」

黒騎士は瑞樹とは違う思惑で動いている。

ここでこうしてなのはと閉じ込められていることでそれは明白だ。

だとすれば、いずれまた近いうちにまた黒騎士とぶつかることになるだろう。

そうなったとき、今のままでは同じことを繰り返すだけだ。

「正直な話、あれはフェイトとなのはが組んでも勝てるかどうか怪しいと思う。そんな相手にオレは勝てるのか?」

あの二人は強い。それこそ瑞樹では遠く及ばない程に。

だけどその二人が組んだとしても、黒騎士が負けるビジョンが浮かんでこない。

原作でヴィータがなのはに悪魔と呼んでいたが、黒騎士はそれ以上に悪魔じみた強さを誇っていると思う。

なのはには敵であるヴィータを思いやる心があった。

それはもしかしたら付け入る隙になるかもしれない。

だがそれが黒騎士に関しては見えてこない。

隙どころか黒騎士の目的すら明らかにできていないのだ。

『勝てるわけないじゃないですか』

一蹴された。

「・・・・・・おまえな。もう少し考えてくれよ」

『考えろと言われましてもマスター一人じゃどうにもなりませんよ。フェイトさんとなのはさんが味方にいれば、あるいはとは思いますが』

「・・・・・・・」

『あ、一つ訂正します』

「勝てるのか!?」

『マスターが一人、ではなく100人いてもどうにもなりませんでした』

「・・・・・・・・・・」

このデバイス・・・・本当は精神攻撃系のデバイスなんじゃないのか・・・・。

『マスターは弱いです』

グサッ――――――!!

『今はまだ・・・・・ですけどね』

「・・・・・?」

『何がそんなにショックをだったのかは知りませんけど、素人のあなたがアレに一人で勝てるわけないじゃないですか』

当たり前のように言うアイリスの言葉を、ただ瑞樹はぽかんと聞いていた。

『あれは生物として異常です。瞬間的な魔力の爆発力が常人を遥かに超えています。こればかりは才能でどうにかなるはずないのですが・・・・・・』

人が人であるために、生物としてのリミットがある。

いかに魔力に愛されていても、人である限り魔導師といえどもそれは変わらない。

アイリスは生物として異常と言った。

それは黒騎士が人の領域にはいないということだ。

人の領域を超えたモノに、人である限り勝利を掴むのは難しい。

「オレには才能がないのか・・・・?」

『ちゃんと話を聞きなさいこのぼんくらマスター。それにあなたは勘違いをしてますよ』

「かんちがい・・・?」

『マスターは別に才能がないわけじゃないですよ』

「え」

驚いた。

何にって、アイリスから罵倒もされずに誉められたことに。

才能あることには驚かないのかって言われそうだが、そう言われてもなー・・・・・。

いくらあるって言われても、フェイトとかなのはくらいしか知り合いの魔導師がいないこの状況じゃあってもなくても同じというかなんというか・・・・・。

『・・・・何か失礼なことを考えている気配がしますがいいでしょう。いいですか?世の中には空を飛べない魔導師もいるのです。それは適正の問題で本人の努力でどうにかなる問題ではありません』

「え、何それ。初耳なんだけど・・・・・」

『その「オレ普通に飛んでるだけど・・・・」と言いたそうな顔をやめなさい。基礎的な知識はまた別の機会に教えますが、とにかくそうなんです。その時点でマスターは空を飛べない魔導師より才能があると言えます』

「・・・・確かに飛べないより飛べたほうがいいな」

飛べる分だけ戦略の幅も広がる。

『飛ぶ練習と軽い模擬訓練しかしてないのに、未だにマスターが野垂れ死んでいないのは一重に魔力を扱う才能があるからと言えるでしょう』
そもそも才能があるから私と契約できたんですけど、と続ける。

「でもなのはに勝てる気がしないんだけど・・・・・」

フェイトとか黒騎士とかクロノにも・・・・あれ、誰か忘れてるような・・・・まぁいいや。

『だーかーらー、当たり前ですっ。誰がなのはさんに勝てる程の才能があるなんて言いましたか。マスターの才能なんてあると言っても、ヤム○ャ以上サイバ○マン以下くらいですよっ!』

ちょっと傷ついた・・・。

「・・・・・・ヤ○チャだって地球人にしては強いんだからな」

『でもその程度ってことですよ』

「じゃあどうしろと!?」

それじゃあ結局誰にも勝てないということじゃないか。

『だから――――――強くなりましょう』

「は・・・・?」

『今すぐじゃなくてもいいんです。訓練して、少しずつ強くなっていきましょう?クリ○ンを見てください。彼だって才能自体はきっとヤ○チャとどっこいどっこいですけど、最終的には地球人の中なら最強になったじゃないですか』

「た、確かにそうだけど・・・・」

そう考えるとコミックにして42巻分の時が経たないと強くなれないんじゃないか・・・・・?

・・・・・・・・いつだよ。

『とにかくです、現時点ではマスターは誰にも勝てません。足止めが精一杯です』

「あ、ああ・・・・」

「生き残りたければいつもように小賢しく頭を使ってください。今回みたいに正面対決なんてことは絶対にしないように!」

「・・・・へーい」

長々と説教されてしまったが、言われてみればもっともだ。

そんなに都合よく手に入る強さなんてない。

魔法なんてモノが使えるようになっただけでも十分ラッキーな部類だ。

それ以上に強くなりたければ、地道に努力を続けるしかないだろう。

じゃああれは・・・・?

黒騎士は一体なんだんだ・・・・・・?






「はっ・・・」

『どうしました?』

「・・・・・ピッコ○さんは地球人なんだろうか」

『あれはナメック星人でしょう』

「だけど地球生まれの地球育ちだぞ。本人も地球人を舐めるなとか言ってたし、国籍・・・いや星籍的には地球人なんじゃ・・・・・」

『例え話にそこまで細かい突っ込みを入れるマスター最低ですキモイです死ね』

「そこまで!?!?」












『マスター、少しやってもらいたいことがあるのですが』

「ん、何を?」

『マスターの視界からは2時の方向に、岩が転がっています』

肩によりかかり眠るなのはを落とさないように視界を回す。

割と大きな岩が目に入った。

「ん・・・ああ、あれか。それがどうかしたか?」

『アレを転位させてください。マスターの横に転位させれば、よりかかれます。その体勢でも眠りやすくなるのでは?』

「確かに・・・この体勢じゃ眠れはしても疲れはとれそうにないな・・・・・」

『私もアシストしますので、やってみてください』

そんなことができるのかどうかわからないが、アイリスがアシストしてくれるのならばできるだろう。

「・・・・・・・・・・」

瑞樹が意識すると、黄金の魔法陣が距離にして5メートルはある岩の周囲に展開する。

次の瞬間には岩が瑞樹の横に場所を移動させていた。

「意外にもあっさりできたな・・・・・というか失敗なしに、新技を成功させたのはこれが初めてじゃないか?」

『当然です。私が全力でコントロールしてできないことなどありません』

誇らしげにアイリスが言う。

口は少しアレだが、デバイスとしての能力は折り紙つきだ。

「まだオレだけの力でってわけにはいかないか・・・・・ううむ、精進する」

『マスターにしては上出来ですよ。さっきも言いましたが少しずつ進歩すればいいんです』

「む・・・・アイリスに褒められるとは、意外というか・・・・不気味だ」

『失礼なマスターですね。私だって褒めるときは褒めます。罵られているのは、普段のマスターがお馬鹿な行動しかとらないからです』

「・・・・・そうか。そういえばアイリスはいつ頃から生きてるんだ?」

『なんですかいきなり』

「いや、それだけひねくれ・・・・・・感情豊かなデバイスってインテリジェンスでもそうないだろ?何年くらい生きたらそうなるのかな、と思って」

『私自身、どのくらい長い間この生を生きているのか覚えていませんよ。マスターを探し、マスターが消えれば再び彷徨い、探し続ける。ずっとそれの繰り返しでしたからね』

「マジかよ・・・・おまえは何のためにマスターを探してるんだ?おまえを作ったやつががそう命令したのか?」

『・・・・・・何故でしょうね』

感情なく話していたアイリスの言の葉に、僅かに感情が乗った。

「いや、何故でしょうって・・・・・」

『創造主は――――私の最初のマスターは、私が何のために創りだされたのか・・・・・結局教えてくれませんでした』

物には生み出される理由がある。

サッカーボールであるなら、サッカーをするため。ゴールに向かうためだ。

自動車なら人を運ぶため。

役割のない物に価値はない。

理由なき物に存在は許されない。

理由も価値もなく、それでもなおかつ存在を認めらるのは――――――それこそヒトくらいだ。

『大切にされなかったわけではありません・・・・むしろ、創造主は私を必要以上に愛でてくれました。それこそご自分の娘のように』

しかし、そんな創造主もアイリスに生まれた理由を与えてはくれなかった。

デバイスとして命をもらった、しかし――――デバイスとしての存在理由はもらえなかったアイリスフィール。

『私がマスターを探し続けるのは・・・・自分の価値を、存在理由を―――――誰かに求めているから・・・・・・・なのかもしれませんね』

心なき者として生み出されたのならば、そんな感情は持たなかっただろう。

しかしアイリスはインテリジェンス・デバイスだ。

生まれたときから感情は人間のように存在する。

そして存在意義が見つからぬまま、悠久の時を生きてきたのだろう。

「・・・・わるい、今は上手いこと・・・言えそうにない」

瑞樹は絞り出すように言った。

物として永遠の命を持ちながら、人間同様の感情も持つ。

それは想像を絶する孤独だろう。

せめてどちらか一方に存在が確定していたならば、まだ救いがあったものの――――――――。

『当たり前です。この私がずっと悩み続けている人生の命題とも言える事柄に、マスターのような若造が答えをだせるとは思っていません』

「まぁ・・・・そうなんだけど、オレにできることがあるなら何かしたいじゃないか」

『・・・・・・・・・』

「胡散臭そうにするな・・・・・普通はアイリスが困ってたら助けたいって思うぞ」

『何故ですか?』

純粋な疑問。

瑞樹がフェイトを助ける理由はわかる。

プレシアを助けたい理由も、わからないでもない。

しかし何故そこに自分が入ってくるのか、アイリスには理解できなかった。

「何故ですかって・・・・はぁ・・・・・・・・・アイリスだってオレの家族だろーが。助ける理由なんぞいらん」

『家族・・・・ですか・・・・・?』

呆けたように言葉を紡ぐ。

しかし、むっとした表情の己のマスターは、まるでアイリスのほうがおかしなことを言っているような口ぶりで続けた。

「そうだよ。フェイトと、アルフと、アイリスと、オレ。一緒に暮らして、一緒に飯食って、これだけ過ごせば十分だろ?つーか何を今更・・・・」

『わたし・・・・デバイスですよ?』

「だからなんだ。デバイスだろうがなんだろうが、ちゃんと感情持ってるし喋りもする。犬だって家族認定されるような時代だぞ?デバイスだって同じようなモンだろーが」

マイスター瑞樹にしてみれば、犬もデバイスも同じ『家族』らしい。

言いたいことはわからないでもないが、細かいことを気にしないというか、相変わらずよくわからないマスターだ。

しかしその言葉でアイリスは、抱えていた心の重りが少し軽くなったような気がした。

『道具を家族扱いして、何かしようだなんて・・・・・・・相変わらずとんでもないお人好しです。そんなことではいつ敵に不意を突かれるかわかったものじゃありませんね』

「あー・・・・そうだな」

ははは、と困ったように瑞樹は笑う。

『・・・・・・ほんとうに、ほんとうに仕方のないマスターです』

「自覚してるよ」

『はぁ・・・・・・私がマスターのデバイスであるうちは、マスターを守って差し上げます。マスターがボンクラでその上お人好しとあっては、私がしっかりするしかないですからね』

疲れたよう言うアイリスだが、その口調は本人も知らず知らずのうちに弾んでいた。














アイリスは一人、思考の海に身を落とす。

瑞樹が寄りかかって寝ている大岩。

どうしても確かめたいことがあった。

黒騎士の魔力の波動を直接受け続け、確信にも似たヴィジョンが浮かんでいたのだ。

―――――意外にもあっさりできたな―――――。

瑞樹の言葉が脳裏に蘇る。

大岩を転位させたとき、確かに瑞樹はそう言った。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・』

そんなはずはない。

あっさりできるはずないのだ。

だってアイリスは魔力の制御どころか、術式には一切触れていないのだから。

あれは間違いなく、瑞樹が一人でやってのけた。

『やはり彼は・・・・・・・・』

そもそも自分を転位するのならばともかく、他のモノを転位させることは難しい。

強制転送とでも呼ぶべきだろうか。

そもそも転移魔法には時間がかかる。

さらに言うなら転移させるモノの意思を無視した転送は難しいというのに、瑞樹はそれをあっさりやってのけた。

しかしアイリスは、それに驚いたわけではない。

瑞樹に元々そういうレアスキルの才能が眠っていたのならば、強制転送が容易くできたとしても、そう不思議ではない。

問題は――――――――その次だ。

どこかで似たような技を使っていた魔導師がいなかっただろうか。

瑞樹がやったように、容易く他者を別の空間に転送していた―――――――――――黒い魔導師が。

レアスキルとは通常、まったく関係のない別の人間同士が同じスキルを発現させることはない。

それ故に個人が持つ唯一無二の特殊能力は、レアスキル(稀な術)と呼称されるのだ。

つまり―――――白の騎士と黒の騎士は―――――――――――――。

『同一人物・・・・・・・黒の騎士は、マスターの・・・・クローン』









少ない会話から。

不可解な行動から。

知りえないことを知っている知識から。

黒騎士は瑞樹と何らかの関係がある、とアイリスは睨んでいた。

同じく飛ばされてきた瑞樹と同じ世界の出身者だろう、くらいに思っていた。

最悪でも瑞樹の近しい知人。

瑞樹のことをよく知っている人物――――――それでいて欲しかった。

しかし現実は最悪を軽く飛び越えていった。

瑞樹の敵は―――――――――――――――自分自身。

クローンであるとすれば、あの異常な魔力の爆発力にも納得がいく。

恐らくは創る段階で生物としてのリミッターをはずしてしまったのだろう。

だからきっと・・・・・・黒騎士はもう長くない。

リミッターを外して、それを常に容易く振り切っている人間が、いつまでもヒトの形を保ってなどいられない。

きっと真実を知れば・・・・・・・瑞樹の手は鈍る。

ただでさえお人よしなマスターだ。

敵であるはずなのに、なのはの遊びに付き合ってあげたり、フェイトはおろかプレシアまで救おうとしている。

黒騎士は瑞樹が手加減して相手にできるほど弱くない。

もし迷いがあるまま、また戦いになったら―――――――――――。

―――――――――――――――――――今度こそ瑞樹は死ぬ。

黒騎士はもう長くない。

それを彼は知っているだろう。

知っていて、それでもなお戦場に出てきている。

自分が朽ち果てても、成し遂げたい目的と覚悟あるのだ。

ただでさえ実力の差は明白。

そんな相手に心でも負けていたら、勝てる要素など微塵もなくなってしまう。

『・・・・・・・・・・・・・・』

伝えるべきではない。

知らなくても困らない。

何も知らないまま、黒騎士の正体は不明のまま自壊して死ぬ。

それでいい。

瑞樹を守るためにはそれしかない。

『・・・・・・・私も運命の女神とやらに核を撃ちこみたくなりましたね』

アイリスの呟きは、誰の耳に届くこともなく―――――――闇に消えた。











「ふぇ、フェイト・・・・無理なんだ・・・拗ねてもらってもこればっかりは・・・ハッ・・夢か」

「・・・・・どんな夢見てたの」

何故か逆さまのなのはが、冷たい目で瑞樹を見上げていた。

「いや・・・・ゼリーはすぐに食べれないんだ。原液を作った後に冷やすという工程が・・・・・・」

『寝ぼけたふりはやめなさい。なのはさん、もっと蔑むようにマスターを見てください。こう、ブタを見るような目で』

「いやいや、全力で遠慮したい・・・・っていうか足が痺れ・・・・?」

よく見ると、いつの間にかなのはの頭が滑り落ちて、瑞樹の膝の上に乗っていた。

「にゃはは・・・つい・・・・・」

気まずそうになのはが苦笑する。

確かに昨晩は寒かった。

温もり求めてすり寄っているうちに、ずり落ちて膝枕状態になったのだろう。

「別にいいさ。なのはがそれでよく眠れたならな」

「うん・・・・ありがとう」

『そうですよ。マスターはいつもフェイトさんに膝枕やら腕枕しているのですから、こんなの日常です』

「え・・・そんなアダルティな日々を送った覚えは・・・ってアダダダダダダ!?!!?」

「・・・・・・えっちなのはダメなの」

笑っているようで笑っていないなのはが、容赦なく痺れている瑞樹の足に肘をグリグリとねじ込んでいた。

「ぐはっ・・・それは反則だろ・・・ッイダダダダダダダ!?」

拗ねた目で瑞樹を見上げるなのはに、至近距離で心を爆撃された瑞樹は悶える。

ついでになのはの肘アタックで。

『朝から元気ですねー』

全てに見ないふりを決め込んだアイリスが爽やかに言った。











『マスター、ジャミングが解かれています。座標軸固定、転位可能です』

「おぉ、やったな。しかもばっちり朝じゃないか。オレの体内時計も馬鹿にできないな」

『毎日同じ生活を繰り返していたら、ダチョウだって立派な体内時計を持てますよ』

「ダチョウ・・・オレは馬鹿にされたのか?」

『褒めています』

「ハッハッハ、よせやい」

「ち、違うと思うよつばさくん・・・・・」

何はともあれ、ジャミングは消えた。

用が済んだのか、それとも魔力が切れたのか。

いずれにせよ転位できるらしい。

「問題はフェイトがちゃんと夕食をとったかだな・・・・・冷蔵庫を漁ってくれればいいが」

ラップした料理が入っているはずだ。

『またドッグフードを食べようとしていたらどうしましょうか』

「ど、ドッグフード!?フェイトちゃんそんなもの食べてるの!?!?」

ドッグフードを言えば犬のエサである。

言うまでもなくヒト科が食べるものではない。

「いや、食べてない。ギリギリセーフだった」

『タイムリーでしたね。まさに齧る寸前でした』

思い出して冷や汗をぬぐう瑞樹と、あの夏のメモリアルを振り返るような遠い声で言うアイリス。

「か、齧る寸前までいったんだ・・・・・・」

どれだけ追い詰められたら、ドッグフードを食べたくなる心境になるのだろうか。

なのははフェイトのことが少しわからなくなった。

「じゃあ、オレは行くよ」

なのはが振り返ると、瑞樹は白騎士としての姿で立っていた。

すでに『つばさくん』の姿はない。

「うん・・・・次あったら、また戦うのかな」

沈んだ顔で、なのはが呟く。

『そうとは限りませんよ』

「え・・・・・」

「そうだな。なのはがフェイトと友達になってくれれば、オレはなのはと戦う必要はなくなる。オレはフェイトの味方だからな」

そうなったらなのはも友達だ、と仮面の下で笑った。

「だから頑張れ。もし泣きたくなったら―――――――」

瑞樹の周囲を黄金の魔法陣が紋様を描く。

「―――――オレがなのはを助ける騎士になるよ」

「約束・・・だよ?」

光が収束する。

眩い光がなのはの目を塞ぐ。

「ああ、約束だ」

力強い言葉。

信じさせてくれる響き。

それを最後に、白騎士の姿は見えなくなった。

「・・・・・・・・・」

なのははしばらく誰もいなくなった空間を、ただ眺めていた。

「うん・・・約束。今度破ったら、ディバインバスターふるぱわーっ!だからね」

もう一度呟き、少しおかしそうに、なのはは笑った。











クロロです、こんにちわ。

せんせー、気が付いたら1万字越えてましたー。

今回はけっこう長めです。

どのくらい長いかと言うと、短いときの倍近くあります。


タートルさん>>>

まったくもってその通りでした。

後先考えないで書くからこういうことになるんですねー・・・・修正可能かはわかりませんが今後は意識して執筆していこうと思います。

ご指摘ありがとうございました。



マコトさん>>>

ありがとうございます!

読者さんの感想が一番の励みになります。



本城さん>>>

正体がばれた主人公は同時攻略に走りました(笑)

銃を・・・・の下りですけど、とる足らないような伏線だったりそうじゃなかったりするので気にしないでくもらえば幸いです。

誤字脱字の報告ありがとうございます~。



今回は芝居で得たストレスをぶつける形で、割とはやく更新できました。

このままだと終わるまでにもう一回くらいできるかな・・・?

でわでわ。



[9514] 第16話 「・・・・・・ばれたな」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/11/20 03:37
夢を――――――――――――――見ていたんだ。











「フェイト、起きろー」

ゆさゆさゆさ、誰かが身体を揺する。

「ふみゅぅ・・・・・・・・・」

フェイトはその手に抵抗するように、掛け布団の中に潜り込む。

「こらこら・・・・朝飯が冷める前に起きてくれよ」

「あさ・・・ごはん・・・・・・・・・」

もそもそ、と金糸の髪が温かい誘惑と外界の間を揺れ動く。

悩んでいるらしい。

「みずき・・・・おはよう・・・・・」

しばらくして、寝ぼけまなこのフェイトが顔を出した。

どうやら掛け布団の心地よさと朝ごはんの戦いは、朝ごはんの魅力が勝ったらしい。

瑞樹はまだ寝起きでふらふらしているフェイトの髪を優しく梳くと、フェイトに笑顔で言った。

「ああ、おはよ」







フェイトが着替えて食卓に着く頃には、アルフがすでに座って待っていた。

「・・・・・・・・・」

「アルフ・・・・?どうしたの?」

「え、あ、フェイト・・・・・・」

アルフはじぃぃぃぃっっとサラダを取り分けている瑞樹を凝視して首をかしげている。

「みずきがどうかしたの?」

「いや、んー・・・どうもしないんだけど・・・・」

アルフは自分でもなぜ瑞樹を見ているのかわからないようだ。

しきりに左右に首を振って考えている。

「アルフにはシーチキンを多めに盛っておいたぞ」

「本当かい!?」

アルフはテーブルに身を乗り出して、取り分けられるシーチキンを輝いた瞳で見つめる。

疑問は吹き飛んでしまったようだ。

「今日はパン?」

「ああ、フェイトはイチゴのジャムがお気に入りだったか」

「え・・・わたしはオレンジが一番すきだよ?」

「ぬ・・・すまん、少しぼうっとしてるかもしれないな。最近忙しかったから」

「ふぉう・・・ふぁんふぁふぃふふぃふぃふぁふぁ・・・・」

フェイトがパンをもふもふと齧りながら言う。

「あはは・・・・なんて言ってるか全然わからないぞ」

フェイトは慌ててパンを飲み込むと、頬を少し赤く染めた。

「あんまり無理しないでって言ったのっ・・・・もうっ、みずきはすぐ
に無理するんだから・・・・」

「いやいやいや、フェイトも大概に無茶だと思うんだが・・・・」

「くちごたえしないのっ」

「・・・・・・はい、すいません」

だいたいみずきは・・・となおも続けるフェイトに、瑞樹は苦笑すると、オレンジのジャムを塗ったパンを口に放り込んだ。

「・・・・・・・・?」




「みずき、今日は散歩にいかないの?」

昼下がり、フェイトはふと思いついたように聞く。

瑞樹は昼食を終えると、散歩に出かけることが多い(日曜日だけは何故か頑なに外出を拒むが)。

思いついたようにふらふらと出かけて、何故か疲れた顔でお菓子を持って帰ってくる。

瑞樹が散歩に行っている間、いつもはジュエルシードを探していた。

でももうその必要もない。よくわからないけど母さんがもういいと言っていた。

「ん・・・・・ああ、どうしようかな・・・・・」

「わたしもみずきとお散歩に行きたいな」

声が自然と弾んでしまっても仕方ないと思う。

本当はもっと前から瑞樹と散歩に行きたかった。

初めて誘われたときの、すごく嬉しかった気持ちは、胸の一番奥にしまってある。

その時はやることがあったから仕方ないけど、今なら瑞樹と一緒に散歩に行ける。

「んー・・・・そうだな。じゃあ今日の午後はフェイトとデートということで」

「で、デート・・・・!?」

「ああ、デートだろ?」

「・・・・・・・・・・」

恥ずかしさでまともに瑞樹の顔を見れなくなってしまった。

フェイトは顔を赤くして俯いてしまう。

「ひょっとして嫌なのか?」

残念そうにして、背を向ける瑞樹にフェイトは焦る。

怒らせておいていかれてしまったら、そう思うと胸のあたりがどうしようもなく痛くなった。

「ち、違うよっ・・・・わ、わたしだってみずきと・・・・でっ・・・で、でーと、したい・・・・」

必死になって言うフェイトに、瑞樹は振り返って笑いかけると、そっと髪を撫でる。

「すまん・・・少しからかってみた」

「ふぇ・・・・?」

「だから、からかっただけだ」

「・・・・・・・・・(むー)」

フェイトは言葉の意味を理解すると、ぷいっと顔を背け拗ねてしまった。

「みずきはいぢわるだ・・・・・・・」

「くくっ・・・・悪かったって」

頬を膨らませながら言うフェイトの頭を撫でつつ、瑞樹は笑いを噛み殺しながら謝る。

「もうっ・・・ちっとも反省してない・・・・」

「悪かったよ。フェイトが可愛過ぎて少し意地悪してみたくなったんだ」

「か・・かわいい・・・・・」

何度も反芻するように呟き、フェイトはさらに赤くなる。

瑞樹は面白そうにコロコロと表情を変えるフェイトを眺めていたが、狼形態で寝ているアルフを目にとめると、脇腹に爪先をグリグリと押し込む。

「アルフ、寝てないで行くぞ」

「んむむ・・・?瑞樹じゃないか・・・まちなよ、今おおきな骨付き肉が・・・・」

「幻想だ」

グリッとさらに爪先を押し込むと、ようやくアルフは大きな欠伸を一つして頭を起こした。

「ふぁぁぁぁ・・・・・なんだい・・・どうでもいい用事だったら、食うよ?」

骨付き肉の夢を見て原初の本能が目覚めたのか、両眼をギラッと光らせてアルフは唸る。

「今から散歩に行くんだが、おまえもついてこないか?」

「散歩!?いくいく!!あたしをおいていったら噛みついてやるところだよ」

ものすごい食いつきっぷりだった。

瑞樹のそで口に齧りつき、そのまま外に引っ張り出そうとしている。

アルフもフェイトと同様に、瑞樹と散歩に行きたかったのだろう。

「引っ張るな・・・って聞いちゃいない。フェイト――――」

瑞樹はすっと、フェイトに手を差し出す。

「行こう」

「・・・・・・・・」

フェイトはしばらく差し出された手をじっと見つめていたが、

「うんっ」

やがて満面の笑みを浮かべ、そっと――――――自分の手を重ねた。














「みずきはいつもどこを散歩してるの?」

「ん・・・そこらへんをぶらぶらとテキトーに、だな」

「そこらへん?」

「テキトーだ」

住んでいるマンションを出て、さらに都心を抜けて郊外のほうにでる。

少しずつ多くなっていく緑を見るのが好きだと瑞樹は言っていた。

今度はフェイトも一緒にいこうな、と笑顔で言ってくれた。

走っている若者、散歩に来ている老人、手をつないで歩いている恋人。

瑞樹とフェイトはその中に混ざって、歩調も静かに歩いていく。

特に目的もなく、いつまでに帰らなくてはならないということもない。

「少し休むか」

瑞樹は近くにベンチを見つけると、フェイトの手を引き座らせ、隣に自分も腰掛ける。

「あんまり遠くに行っちゃダメだよ」

子犬形態ではしゃぎまわるアルフは、フェイトに鳴いて返事をすると、転がったり跳ねたりと遊び始める。

「ふぅ・・・・このまま永遠にぼうっとしていたいな・・・・」

「えと・・・・うん、そうだね」

ぐでーとする瑞樹の横で、フェイトは投げ出された瑞樹の手をチラチラと覗き見ている。

差し出された手は暖かくて、そして優しかった。

恥ずかしくなってすぐに離してしまったけど、今となってはなんて惜しいことをしたのだろうと思う。

歩いている途中も、何度となく瑞樹の手を握るチャンスを窺っていたのだが、残念なことに瑞樹はポケットに手を入れて歩いていたのだ。

これは腕を組むしか・・・・と思い経ったあたりでフェイトは頬が熱を持つのを感じ、脳裏をかすめた考えをぶんぶんぶん!!と頭から追い出した。

ハードルが高すぎたらしい。

「疲れてないか?」

「だ、だいじょうぶだよ。次はどこにいくの?」

話しつつも、フェイトは瑞樹の様子を窺うことをやめない。

瑞樹は何もない空間を、ぽーっとみている。

要するに何も見ていない。

そんな瑞樹に、フェイトは何かを決意した顔つきになり、そーっと手を伸ばし―――――。

「そうだな・・・・フェイトはどこに行きた・・・って何をそんなに慌ててるんだ?」

「な、なんでもないっ、なんでもないからっ!」

――――くるっと突然こちらを向いた瑞樹に、慌てて手を引っ込める。

「いや・・・そんなエライ勢いで言われても・・・・・・」

「・・・・・なんでもないのっ」

「・・・・・さよか」

手をぱたぱたさせながら言われても説得力は皆無と言っていいが、顔を赤くし、ジト目でこれ以上踏み込むな触れるな離れろ、と警告じみた言われ方をされてしまったら何も言えなくなってしまう。

瑞樹は視線を、芝生の上で別の犬と戯れているアルフにやる。

「・・・・・・・」

再び投げされた瑞樹の手。

フェイトのすぐ真横にある、優しい手。

「・・・・・・こんどこそ」

フェイトは小さく呟くと、今一度、標的に手を伸ば――――――――――。

「ボールとってくださーーーーい!!!」

「あいよー」

「・・・・・っ!!!?」

――――そうとした瞬間に、瑞樹が立ち上がって転がってきたボールを、グローブをはめた子供に投げ返す。

「~~~~~~~っっ!!?!?」

何もないベンチの肌をバッチンと叩いた姿勢のまま、ぷるぷると小刻みに身体を震わせるフェイト。

「・・・・・・?どうし「なんでも、ないよ?」・・・・そ、そうか」

少し引き攣ったフェイトの笑顔から、何やら言いしれぬプレッシャーが迸り、瑞樹を襲った。

「・・・・あ、あー・・・いい天気だー」

何でもないと言いつつ、隣からゴゴゴゴゴゴゴ!!!と擬音が付きそうなプレッシャーをかけられ、瑞樹は完全に棒読み状態である。

フェイトは何度トライしても逃げられる、手強過ぎる標的をうー・・・と睨みつける。

折れそうになる心を奮い立たせて、自分に言い聞かせるように呟く。

「・・・・・・まけないもん」

少し涙目になっていた。

フェイトはいざ、と獲物に狙いを定め―――――。

「えいっ!」

―――ついにそれを手に取った。

「は・・・え・・・ってイダダダダダッ!?!?!」

そして思いっきり握りしめた。

フェイトとしては、絶対に逃がさない、という意思の表れだったのだろーが・・・いかんせん瑞樹の手はそんなに頑丈にできていなかった。

「ちょっ・・フェイト!指はそんな方向に曲がらなッ・・・!?!?関節がッ!!関節がッ!?!?」

瑞樹の手がバキッ!メキャッ!とレクイエムっぽい悲鳴を上げているが、幸せいっぱいのフェイトには当然のように聞こえていない。

「・・・・あったかいな」

それどころかとてもご満悦のようだった。

ほくほくした笑顔でぎゅっと、両手で包みこむ――――――――関節的には無理な方向で。

「んっ!?つぁっ・・・ちょぎっ!?」

満たされた笑顔のフェイト、顔色がおかしなことになっている瑞樹。

フェイトが瑞樹の様子に気づくのは、瑞樹の意識が成層圏を突破しかけたころだった。









結局、日が暮れるまでずっとそうしていた。

公園のベンチに座り、いなくなっていく人をただ見送り続ける。

アルフも遊ぶことに疲れたのか、ベンチの足元で身体を丸めている。

一緒に遊んでいた別の犬の飼い主が、未だにアルフにじゃれつくその子犬を連れ帰るのを最後に、公園には誰もいなくなった。

「あのとき・・・・みたいだね」

フェイトは誰もいなくなった公園で、そっと呟く。

なのはと瑞樹が楽しそうに話していたベンチ。

あのときはただ後姿を見ていることしかできなかった。

でも、今はこうして瑞樹の隣にいられる。

知らず知らずのうちに、フェイトは顔をほころばせる。

「あのとき・・・・ん、ああ・・・・そうだな」

微妙な表情で返す。

「みずき、きいてもいい?」

「ん・・・まぁ、物による・・・というかオレに答えられることなら」

「やっぱり、元の世界に帰りたい・・・・?」

前にも一度聞いた疑問。

あの時はタイミングが悪くて答えをもらえなかったが、あれからずっと気になっていた。

でも勇気がなくて聞けなかった。

帰る、というのが普通なのだ。

瑞樹は巻き込まれただけで、ここにいてほしいのと思っているのはフェイトの勝手な願いでしかない。

だから怖くてずっと聞き直せなかった。

もし帰るって言われてしまったら・・・・・・・フェイトには瑞樹を引き留める術などないのだから。

「・・・・いや、オレはここにいるよ」

その言葉にフェイトは目に見えて安堵したと思う。

「ほ、ほんとうに?本当に、本当にいてくれるの?」

「ん・・・帰りたいって気持ちがなければ、そりゃ嘘になるさ。でもフェイトやアルフとも一緒にいたい。どっちも取ろうだなんて無理な話だからさ」

「う、うん・・・・・」

違和感。

遠くを見つめて話す瑞樹の横顔に、ほんのわずかだが違和感が横切る。

「何かを得ようとするなら、何かがかならず犠牲になる。世の中、そういうモンだろう?」

フッ、と自嘲気味の笑いを浮かべる瑞樹に、フェイトは困惑する。

確かにそうかもしれない。

瑞樹の言ってることは、どうしようもないくらい正論だ。

「みずき・・・・・・?」

だけど、らしくない。

そんな当たり前の正論を掲げるのは、ちっとも瑞樹らしくない。

「そ、そうかもしれないけど・・・・・・」

「理想をかかげるのはいい・・・・が、理想と現実は違う。できることと、できないことがある」

「うん・・・・・」

「だからオレは、絶対に迷わない」

瑞樹は迷いのない目で、フェイトの目を見る。

「・・・・・っ・・・・・、・・・・・・・」


















その迷いのない眼差しで―――――――――――――気づいてしまったんだ。












朝から感じていた小さな違和感。

少しずつ大きくなっていく歪。

それが――――その正体が、わかってしまった。

残酷な真実。

できれば――――知りたくなかった事実。


















「あなたは・・・・だれですか・・・・・・?」

瑞樹の笑顔が凍りつく。

















夢(幻想)が―――――――――――――――音を立てて、崩れ去った。













「フェイト?オレはみず「違うよ・・・あなたは、みずきじゃない」・・・・・・」

フェイトは悲しげに顔を歪ませて、瑞樹から静かに離れる。

「瑞樹は・・・あなたみたいにどっちか、なんてことは言わないよ・・・・」

例えば、フェイトとプレシア――――その両方を救ってみせると言いきるように。

「たくさんたくさん、大変な思いをして・・・・捨てちゃったら楽なのに、でもどうしてもできなくて・・・・最後まで両方のために、瑞樹は頑張るんだ」

「それのどこがいい?無理をして、どっちも得られなかったら?」

「それでもっ・・・・わたしは、諦めない・・・がんばってるみずきが好きなんだっ・・・」

「・・・・・・・・そっか」

諦めたような、何かをふっきったような表情。

そして瑞樹は―――――――仮面を被ることを止めた。

「まいったな・・・・これでも上手く演ってたつもりだったんだが?」

ガラッと口調を変えた青年はため息をはき、指を鳴らして少年の瑞樹から青年のミズキの姿になる――――いや、戻る。

「あなたは・・・・たーみねーたーさん、ですか?」

「ああ、オマエらはそう呼んでたな。一応、名乗っておこうか。オレは如月瑞樹のクローン、プレシアがかけた保険ってところか」

「みずきの・・・・・クローン・・・・・」

呟くように反芻して、フェイトは目の前に立つ青年を見やる。

確かにその姿は瑞樹の成長した姿そのもの。

前に一度だけ見たことがある、仮面を外した瑞樹の素顔と恐ろしいほどよく似ていた。

ただ瞳はフェイトと同じ深い紅、そして黒いはずの彼の髪は、色が抜けてしまったかのように白だった。

「名前はないから好きに呼べばいい」

瑞樹と同じ顔で、瑞樹ではありえない冷笑を浮かべる青年に、フェイトは寒気を覚える。

「ミズキ、さん・・・・って呼んでもいいかな」

「好きにしろ」

「アレは・・・・どういう意味なんですか?」

彼があの黒騎士なら、フェイトには聞かなければならないことがあった。

海の上で、黒騎士はフェイトにそっと囁いた。

『オマエの母親のことを教えてやろう。オマエが知らない、オマエ自身のこともな。だから邪魔をするな』

「・・・・・・教えてください」

「ああ、教えてやるよ。・・・・・よくぞ見破った、という意味も込めてな」

ミズキは再びベンチに座り込むと、語り始める。

「プレシアの目的はアリシアの復活だ」

「アリシア・・・・・?」

「お前の姉・・・・というかオリジナルだな。プレシアはアリシアの代わりとしてお前を創った」

「代わり・・・・・」

「そう、オレと同じクローンだ。尤も、お前はオレとは違って大切に創られたみたいだけどな」

自嘲するように笑う。

「自分でも違和感はあったろう。知らない誰かの夢を見ていたりな。それはお前に残ったアリシアの残滓だ」

「・・・・・・・・」

無言は肯定の証だ。

「ジュエルシードは全て揃った。オレが揃えた。これから・・・というかすでにプレシアは始めてるだろうな」

――――誇大妄想に取りつかれた、愚かで無意味な真似を。

「・・・・・・・・」

フェイトは無言で丸くなって寝ているアルフを抱きかかえると、すれ違う際にミズキの方をチラッと見上げる。

「プレシアのところに行くのか?」

「うん・・・・あなたが嘘を言っているとは思えないけど、母さんの口から直接聞きたいんだ」

「行ってもオマエにいいことなんかない。最悪の場合は・・・・・」

――――母親の口から直接拒絶される。

「それでも、わたしは行きたいの」

「・・・・そうか」

強くなったものだ、とミズキは複雑な心境になる。

ミズキの記憶の中にあるフェイトは、こんなにはっきりと自己を表現できるような娘じゃなかった。

オリジナルから別れて、時間が人を変えるほど日が経ったわけじゃない。

変えたのは、間違いなく瑞樹だ。

「・・・・っと、最後に聞きたいことがある」

「なんですか?」

「いつからオレが瑞樹じゃないって気づいてた?」

「初めから、なんとなく変だなって思ってたんだ」

「変?」

「アイリスが一言も喋らなかったし・・・・・」

「あー・・・・そうだな」

ミズキは首から下げていたアイリスに似た鍵を弄る。

「いくら似せても所詮はコピーか・・・・」

「あとね・・・」

「あん?」

「イチゴのジャムが好きなのは、わたしじゃなくてみずきだよ。みずきはいつもジャムはイチゴしか使わないから・・・」

今朝、ミズキがパンに塗ったのはオレンジのジャム。

オリジナルとクローンが全く同じということはありえない。

性格が違うように、好みもまた違う。

「・・・・・・・・・・」

ミズキはイチゴよりオレンジが好きだった。

甘ったるい味より、少し酸味がきいていた方が味がしまっていい。

先にフェイトに会っていたのが、瑞樹ではなくミズキだったらどうなっただろう。

同じ好みのジャムの話で盛り上がりでもできただろうか。

「・・・・・そんな仮定に意味はないか」

まいったな・・・とミズキは苦笑し、小さく呟く。

「・・・・・?」

「気にするな・・・・んで、行ってこいよ。自分の目で、自分の耳で確認してこい」

「うんっ・・・・・・・ありがとう」

最後に微笑んで―――――――フェイトは去っていった。










「あーあ・・・・ダメだな。どうにも感傷的になってやがる・・・・」

残されたミズキは、座り込んだまま一人ごちる。

元々一日だけと決めていた。

だったらそれでいいじゃないか。

論理的思考がそう言うが、感情がうるさく悲鳴を上げるのだ。

ミズキは叫ぶ感情を黙らせて、代わりにわざと大きく声に出して言う。

「やることはやった。細工は完璧だ。文句のつけどころもない」

ミズキの予想通り、フェイトはプレシアの元に向かった。

これが最後のチャンスになる。

フェイトにとっても―――――――――プレシアにとっても。

『ジャミングは消してしまってもよいのでは?』

耳にぶら下げている黒い翼の形をしたデバイスが言った。

オリジナルが帰ってこれないように、ジャミングをかけていたことをすっかり忘れていた。

忘れてしまうほどに、楽しかったのだ。

たとえそれが偽りのシアワセだったとしても、ミズキは満たされていた。

「ああ・・・・今からアイツが何をしても間に合わないからな。別にいいだろうよ」

『ジャミングアウト』

あとは、成り行きを見守りつつ若干の修正を加えていけばいい。

完璧だ。

あんな理想論者なんかよりよっぽど現実的な策を、ミズキは練り上げた。

誰がどう考えても、瑞樹よりもミズキの方が実現性のあるいい行動をとったというだろう。

それでも―――――――――フェイトは瑞樹を選んだ。

ミズキはフェイトさえ幸せなら、例え世界の全てだとしても笑って切り捨てられるのに。

「ままならねーなぁ・・・・・・・・ままならねーよ・・・・・・・・・・・」

いつの間にか、空には月が顔を出していた。

零れた心の叫びを、黒い翼だけが無言で聞いていた。




こんばんわ、クロロです。

最近深夜から明け方にかけて更新する私ですが、健康に悪いことこの上ないですね。

かつてない更新スピードに自分がびっくり。

さていつまで維持できるのやら・・・・・。

でわでわ。




[9514] 第17話 「下剋上」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2009/12/25 03:48
「ただい―――――マッドサイエンティスト」

『おかえりなさ―――――いくら何でも無理がありませんか?』

「おまえもな」

互いにダメだししつつ、瑞樹は異様な静けさに眉を顰める。

普段なら、瑞樹が帰ってくるなり『おかえり、みずきっ』とかなんとか言いながらフェイトが駆け寄ってくるはずなのだが、今日はフェイトどころかアルフすら出てこない。

『愛想をつかされたのでは?これで外泊は事実上2回目ですし、しかも今回は連絡すらしていませんよね』

「冗談でもヤメロ。そもそもあの状況で冷静に連絡なんぞできるかっ!!」

なのはに顔を見られた時はカナリ焦った。

すぐに開き直って、正体も何もかもぶちまけてしまったわけなのだが、その後もいろいろと考えてしまったため、連絡のことは脳裏に掠めもしなかったのだ。

「つーか言い訳どうしよう!?神はまた・・・・フェイトに無言のまま睨まれ続ける時を過ごせと言うのか・・・・・・」

あれはいつだったか。

脳が思い出すことを懸命に拒否しているため、正確には思い出せないが確かフェイトにケーキを焼く約束をしていたときのことだった気がする。

よく思い出せないが結果的にそれは叶わず、瑞樹は実に健康によろしくない時間を過ごすことになった。

『マスターがケーキを焼き上げるまで、一言も口をきいてもらえませんでしたね。というかよくそんなに早く焼けましたね』

「何も言わないけど半眼で四六時中睨みつけられるんだぞ!?全力で焼いたに決まってるだろうが!!!」

無表情に見えるが、少しだけがっかりしたことが見て取れるフェイトの表情に、心のファイヤーウォールはあっさりと突破された。

もはや神が立ちはだかろうとも、ケーキを焼かないという選択肢はなかったと断言できる。

「・・・・・・・・そんなわけでフェイトに睨まれるのは御免だから早いところ謝ろう」

『そうは言ってもどこにいるんでしょうね』

瑞樹は適当に部屋を歩き回り、扉を開けて回る。

まずはフェイトの部屋。

「・・・・・いないな」

『留守・・・・なんでしょうか』

まさか未だに瑞樹を探して回っているということはないだろうか。

瑞樹は念話を使いフェイトに呼びかけてみる。

『・・・・・・返ってきませんね』

「妙だな・・・・・・」

念話にも返事がないとなると、これはもう不自然の一言で済ますには楽天的過ぎる。

何かあった――――――あまり考えたくないが、そう思うのが自然だ。

「・・・・・・・・」

瑞樹は知らず知らずにうちに足早になり、残りの部屋も片っぱしから探していく。

「・・・・・・・フェイト?」

いた。

フェイトは何故か瑞樹の部屋で、アルフに膝に乗せて座り込んでいた。

とりあえずフェイトの姿が確認できたことに瑞樹は安心するが、どこかおかしい。

フェイトは座り込んだまま、じっと壁の方を向いている。

瑞樹が声をかけても無反応。

「フェイト」

もう一度呼びかけてみる。

「・・・・・・・・・」

返事は、ない。

気づいていないのか、瑞樹の方を向きもしない。

「フェイト!!」

「あ・・・・・みずき・・・・・・」

近寄って肩大声を出すと、ようやくフェイトはこちらを向く。

虚ろな表情で、力を失った瞳で。

『マスター!!アルフさんがッ・・・・!?』

「アルフ・・・・・!?」

「・・・・・・・・・」

フェイトの膝の上でぐったりとしているアルフは、全身がひどい傷で覆われていた。

「何があった?!」

「・・・・・・・・・・」

フェイトは何も言わない。

ただ、黙って瑞樹の顔を―――――――いや、その瞳には何も映っていない。

呆然と何もない空間を彷徨っているだけだ。

「くそっ・・・!!!」

瑞樹は毒づくとすぐにアイリスを起動させる。

エクスカリバーの鞘を、力無く項垂れるアルフに押し付ける。

淡い光がアルフを包み込むことを確認すると、瑞樹は再びフェイトに目を向ける。

「おい、フェイト!!いったい何があった!?あの黒騎士はどうした?!」

瑞樹が飛ばされたあと、あの場に残ったのはフェイトとアルフ、そして黒の騎士の三人。

あいつがアルフを傷つけ、フェイトをこんな状態にしたのだろうか。

だとしたら――――――――。

「オレは・・・オレは・・・!!何のためにここにいるッッ!!!」

『マスター・・・・・・』

フェイトを守りたいと思った。

ささやかな願いを胸に秘めて頑張る、この少女の心を守ってやりたと思っていた。

しかし、その結果がこれだ。

まったく守れなかった。

「う・・・・あ・・・・み・・・ずき・・・かい・・・?」

「アルフ!?いったい何があった!?!?」

「あの・・・・黒い・・・やつ・・・が・・・・・・」

「あ・・・あのヤロウッッ・・・!!!」

湧き出る黒い衝動。

味方なのか敵なのかわからなかったから放置していたが、これではっきりした。

アレは敵だ。

瑞樹は沸き立つ衝動をそのままに、黒い騎士を倒す算段を立てる。

戦力差――――――そんなもの知ったことか。

今更、実力が上の相手を恐れはしない。

最悪の場合エクスカリバーでもなんでも使って奴を殺――――――――。

『マスター!!少し落ち着いてください!!!』

「っ・・・・・」

『お願いですから・・・・落ち着いてください。それを使ってたとえアレを倒せたとしても・・・・フェイトさんは喜びません』

「・・・・・・・・・・すまん」

『いえ・・・・今はアルフさんの回復を待って、話を聞きましょう?動くのはそれからでも遅くないはずです』

「ああ・・・・そうだな」

アイリスに窘められ、瑞樹は深く息を吸う。

深呼吸すると、黒く燃え盛っていた感情が少し落ち着いた。

「・・・・アルフ、喋れるか?」

「う・・・・なんとかね」

少しは回復したのか、アルフはフェイトの膝元から起き上がる。








黒騎士が瑞樹になりすまし、瑞樹のいない一日をフェイトと共に過ごした。

そして正体が見破られ、黒騎士はフェイトをプレシアの元へと誘った。

もちろんアルフは止めた。

でもフェイトは耳を貸さずに、母親の元へ行った。

その結果がこれだ。

放心したフェイトを抱え、傷だらけになりながらも、アルフはなんとかここまで逃げてきた。

アルフの口から語られる事実を、瑞樹は静かに聞いていた。

「・・・・・そうか。フェイトは知ったのか」

「あんた・・・・・初めから知ってたんだね・・・フェイトのことも、あの女の目的も・・・・」

アルフの語気が荒くなる。

立ち上がることはできなくとも、その眼はギラギラと光を放つように瑞樹を睨みつけている。

「・・・何のことだ?」

「とぼけるんじゃないよ・・・・あんたは知ってたんだ。あの女がジュエルシードを使って何をしようとしていたのか・・・・・だからあんたもフェイトを助けてたんだよ」

憎しみすら籠った目で瑞樹を睨みつけるアルフ。

「・・・・・・・・・」

アルフは恐らく知ってしまった。

建前上、そうなっている事情をプレシアから聞かされたのだろう。

恐らくフェイトをさらなるどん底にたたき落とすために、プレシアがわざわざ言った。

「あんたは・・・・結局あの女の味方だったんだね・・・・・」

瑞樹がプレシアに協力するのは、目的を同じとしているから。

プレシア本人がどう考えているかは知らないが、表向きはそうなっている。

「それは・・・・・・」

――――違う、と言いかけて口をつぐむ。

何を今更、と頭の中でもう一人の自分が鼻で笑う。

すでにフェイトは心身喪失。

アルフは憎しみをもって瑞樹と対している。

何を言ったところで、もはや何も変わらない。

「あたしはいいよ・・・・でもね・・・・」

アルフは痛みを堪え必死に立ちあがり――――――

パンッ―――――――!!!!

「っ・・・・・」

――――――瑞樹の頬を叩いた。

「あんたまでッ・・・・!あんたまでフェイトを裏切ることないじゃないかッ!!!」

「・・・・・・・・・・」

「フェイトはね・・・・フェイトは、あんたのことを心から信じてたんだよ!?あんたのことが・・・・・あんたのことが本当に好きだったんだ!!!」

「・・・・・・・、・・・・・」

アルフは泣いていた。

瑞樹のバリアジャケットに縋りつき、肩を震わせて泣いていた。

そんなアルフを見て、ズキズキと心が悲鳴をあげる。

打たれた頬よりも、鋭く鈍い痛み。

直視できずに、目を逸らした。

「どうしたんだい・・・・?なんとか言いなよ・・・・・・・・なんとか言いなってばっ!!!」

見上げた瞳は、アルフは否定を求めていた。

そんなことはない――――――アルフはその一言だけを切実に欲していた。

長い沈黙、アルフの瞳は瑞樹と捉えて離さない。

「・・・・・・・・・・・わるい」

「そんな言葉がッ・・・・そんな言葉が欲しいんじゃないッッ!!嘘、だよね・・・・・?またいつもの冗談だって・・・・嘘だって言ってよ・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

無言。

瑞樹は、何も言わない。

アルフは絶望したように顔を歪めると、張っていた力が抜けたように膝をついた。










「・・・・・・フェイト、聞こえてるか?」

「・・・・・・・・・」

フェイトは何も答えない。

「そのまま聞いてくれ。オレはお前を管理局に飛ばすよ。なのはならきっと力になってくれるから」

「・・・・・・・・・・・・」

「いろいろ黙っててごめんな・・・・・もっと上手くできればよかったのに・・・・オレは、やっぱり誰も救えないらしい」

乾いた笑いが零れた。

「アルフもそれでいいか?」

「・・・・・勝手にしなよ。あたしはあんたと違ってフェイトの味方だからね。どこまでもついていくさ」

淡く苦笑すると瑞樹は、フェイトとアルフに手を掲げてパチンと指を鳴らせた。

黄金の魔法陣が展開し、二人を包み込む。

「・・・・・・ごめんな」













「・・・・・・・・・・・」

『マスター、どうして本当のことを言わなかったのですか?』

「言っても仕方ないからな・・・・・」

形は違えど、結局フェイトはプレシアから直に拒絶されてしまった。

瑞樹がどう取り繕ったところで、それはもはや変化しない。

「プレシアはいないけどオレはフェイトの味方だ・・・・・とでもいうか?そんなこと言ってもフェイトは救われない」

『・・・・・救われますよ』

「それが例え欺瞞でもいいと?母親に拒絶されて、拠り所を求めて、依存の対象がただオレに代わっただけだとしても?」

プレシアしか信じる相手がいなくて、盲目的にプレシアを信じていたフェイト。

信仰対象に否定され、空いた心の隙間をプレシアの代わりに瑞樹で満たすことに、本当に意味はあるのか。

「意味、ないだろ。拒絶された今となっては、もうフェイトには自分でプレシアを振り切ってもらうしかないんだよ」

安易な手助けは、むしろフェイトの自立を妨げることになる。

『勝手な言い草ですね。だからさっさと殺しておけと言ったではありませんか』

結果的に瑞樹がやったことは、結局フェイトを傷つけるだけとなってしまった。

皮肉なことに、黒騎士の言った通りの結末だ。

「それは・・・・もう何も言えないくらいオレが悪い。完全にオレの失策だ」

『失策とかそういう問題じゃありませんよ。初めから希望なんてなかったんです。自分のことばかり考え、フェイトさんを蔑しにしたプレシアさんなんて、さっさと殺しておけばよかったんです』

アイリスの棘々しい物言いに、瑞樹は複雑な顔をする。

「・・・・・何でお前もあの黒騎士も、そうやってプレシアを悪者にしたがるかなぁ・・・・」

『まだそんなことを・・・・では逆に聞きます。マスターはどうしてそうまでしてプレシアさんを庇うのですか?』

「プレシアはただアリシアを助けたかっただけなんだよ」

『実験の事故・・・・でしたか。自業自得じゃないですか』

「そうは言いきれない。研究の失敗がプレシア一人の性だと言えるのか?本当にプレシアの構築した理論に欠点があったのか?設備は?原因は他にあったんじゃないのか?」

『・・・・・・・・・・・・・』

「オレは資料を見ただけだから詳しいことはわからないけどな、事故の対応が早すぎる気がするんだよ。面倒なことを掘り起こさる前にさっさと処理してしまえ・・・・みたいにな」

『・・・・・・・それは、何かあったということですか?』

「推測で言ってるだけだ。実際どうだったかは知らない・・・が、オレが言ったことが本当じゃないって証拠もない」

『・・・・・わかりました。プレシアさんにも同情の余地があることは認めましょう。ですが、それは仕方ないことではないのですか?』

プレシアには悪いが、それはただ運が悪かったと言うしかないのではないだろうか。

それこそこの世界には、突然の事故で家族を亡くした人が大勢いるだろう。

『何も彼女だけが特別不幸だったわけではないでしょう。どうしようもない、数ある中の仕方がないことの一つです』

「・・・・・・・・」

確かに、アイリスの言っていることは正しい。

でも―――――――。

「どうしようもなくてもな・・・・どうしても、諦められないことだってあるんじゃないか・・・?」

『マスター・・・?』

「失ってしまったものは仕方がない。だから諦めろ?ああ、確かに正論だよ。オレの世界じゃどんなに頑張っても死体は死体のままだ。焼いてやることくらいしかできなかったよ」

だがここは魔法が存在する世界。

たとえ可能性がどんなに小さなものでも、アリシアを取り戻す方法が確かにあった。

「取り戻す方法がそこにあるなら・・・・どんなに可能性が低くても、それに縋りたくなる気持ちを否定なんてできない」

世界の全てを天秤にかけたとしても、その価値が揺らぐことはない唯一がある。

知らない世界に住む、顔も知らない他人なんて知ったことじゃない。

例えこの世の全てを犠牲にしても、どうしても取り戻したい。

プレシアはそう願ったはずだ。

かつての―――――のように。

「大勢と一人・・・・全と一。確かに普通は前者を優先させるべきだ。それが一般論だし、関係のない連中からしてみればふざけんなって話だ」

しかしとプレシアと―――――にとっては、前者と後者の間に絶対的な差があった。

心に空いた空洞に絶望し、理解した。

誰にも認められなくても、他の何を犠牲にしてもかまわない。

それほどまでに重かった。

大切だった。

数が例えどんなに圧倒的でも、天秤は『一』に傾く。

それが二人の共通点であり、真実だった。

「だけど・・・・オレはプレシアを責められない。あの時言ったことは全部が嘘じゃないんだ。諦めずに・・・・・・例え狂っていようが、燃え尽きることなくアリシアのために頑張ってるプレシアを・・・・オレは否定できないよ」

―――――は結局、諦めてしまったから。

『・・・・だからプレシアさんもフェイトさんも救おうとしたのですか?』

「ん・・・・そんなとこ。この際だからオレは両方から憎まれても構わない。ただ二人には普通の家族になってもらいたかった」

瑞樹を共通の敵として、プレシアとフェイトを結びつける手段もあるにはあったが、あの二人をまとめて相手にするだけの戦闘能力が瑞樹にはなかった。

『マスターは・・・・それでいいのですか・・・・?』

「・・・どこに文句のつけようがある?二人は仲良しで、ハッピーエンドだろ」

『そうではありませんッ!!マスターは・・・・マスターはどうなるのですか?』

瑞樹は努力していた。

叶わない理想に向かって、迷いながらも進み続けていた。

それなのに、最後はフェイトからもプレシアからも疎ましく思われたまま終わるなんて、あまりに報われないのではないか。

しかし瑞樹はいつものように、困ったように笑うだけ。

「ん・・・・わかんね。でもそんなモンだろ?傭兵って誰かを助けるけど、傭兵のことは誰も助けてくれないんだよ」

まるでそれが当たり前だとでも言うように。

『・・・・カッコイイつもりですか。そんな自己犠牲なんて「違う違う」じゃあ何ですか!!』

アッハッハと笑う瑞樹に、アイリスは口調を荒くする。

「別にさ、世界のために・・・とか、全人類のために・・・とか言ってるわけじゃない。ただ身近で親しい人の幸せのために、これが最善だと思ったからだよ」

溺れて死にそうな自分の子供を、親が命と引き換えに助けるのは自己犠牲だろうか。

いや――――――断じて否、だ。

きっとその親は命と引き換えにしてでも、子供の未来を守りたかったのだ。

「自分と引き換えにしてでもさ、フェイトの幸せな未来を見たかったんだよ。それだけの価値が、オレにはあったからな」

『・・・っ・・・・・、・・・・・』

「まぁ・・・・少しは自分に酔ってるのかもしれないけどな」

困ったように苦笑する。

そんな瑞樹に、アイリスは恨めしそうな声で呟いた。

『・・・・・・ばか・・・マスターのばかっ・・・・・そんなことを言われたら・・・・・何も言えないじゃないですか・・・・っ』

「ははっ・・・・否定できないなぁ・・・」

誰もいなくなった自分の部屋で、瑞樹は静かに立ち上がる。

やらねばならないことがある。

アイリスには、恐らく大馬鹿呼ばわりされるだろう。

だが、止まるわけにはいかない。

「アイリス、何を馬鹿なって思うかもしれないけど・・・オレの頼み、聞いてくれないか?」

『・・・・どうせプレシアさんに会いにいくとか言い出すんでしょう?』

「む・・・・・よくわかったな」

『わかりますよ。この期に及んでまだ諦めてないんでしょう?止めても無駄でしょうから、もう止めません』

「アイリス・・・・・・」

『でも、一つだけ約束してください』

「ん・・・なにを?」

『絶対に死なないでください。というか死んだら私が殺します』

「いや意味が・・・・」

『マスターが死んで地獄に落ちたら、そこからさらに奈落の地獄までたたき落として差し上げます』

「ははっ・・・・・・絶対に死ねないな」

瑞樹はふっと頬の端を歪める。

アイリスがかすかに微笑んだ気がした。

「んじゃ、行きますか」

『慎ましく、ですね』

黄金の光が瑞樹を包み込む。

眩い光が消え――――笑いが絶えなかった家から――――誰もいなくなった。









時の庭園。

まるで時間そのものが止まってしまったかのような、一切の変化が無い居城。

「よう、遅かったじゃないか」

聞きなれない声がこだまする。

常にプレシアが腰かけていた玉座に、―――――――――漆黒の騎士が膝を立て、乱暴に座っていた。

瑞樹の姿を確認すると、黒騎士は楽しげにくつくつと笑う。

今まで幾度となく瑞樹の予定を狂わせた敵。

「・・・・プレシアはどうした?」

「ククッ・・・・さぁな。強いて言うなら、下剋上ってやつだな」

「下剋上?」

「そうだ。玉座にオレが座っている。それが答えだよ」

「・・・・・・・」

のらりくらりと、瑞樹をからかうように黒騎士は答えをはぐらかす。

この場で消してしまいたい衝動を、胸の内に必死に押し込める。

そんな時間すら今は惜しい。

「・・・・・・今はお前に用は無い。プレシアはどこだ?」

「つれないな・・・・軽口くらい付き合えよ。これが最後になるんだぜ?」

クルクルと器用に剣を弄びながら、黒騎士は瑞樹に楽しげに言葉を投げる。

「もう一度言うぞ。プレシアはどこだ?答えればよし、答えなければ・・・・・・」

エクスカリバーに手をかける瑞樹に、黒騎士はさらに声を高くして笑う。

「クククッ・・・・力づくか。自分のことながら威勢だけは本当に良い」

「・・・・・・・・・さっきからわけのわからないことをッ・・・!」

『マスター・・・落ち着いてください』

「怒るな、怒るな。じゃあ特別に教えてやるよ」

カッ――――。

黒騎士は回していた剣を床に突き立てると、静かに、冷酷に言い放った。

「プレシアはな、そこで寝てるぜ」

突き立てた剣の柄に両手を乗せ、心底どうでもよさそうに玉座の横の、閉じた扉の先を顎でしゃくる。

「尤も――――もう二度と目覚めないがな」





クロロです。

第17話です。そろそろ終わるかな・・・・?




覇さん>>>

すいません。



東方の使者さん>>>

本当にままならないですね。

現実でも誰かの代わりになるのは無理なわけで。

それでも大切に思ってるから、やらないこといけないことがあるんでしょう。

ラストまでもう少し、頑張りますので応援お願いします!



本城さん>>>

ジャミングが解けた、ということでなのはも念話で連絡を取って回収してもらったということにしてください。

表現不足で申し訳ないw

指摘されるまで気づかないこともあるので、これからも指摘していただければ幸いです。

フェイト嬢、やはり攻撃を受けましたw

これからもフェイト嬢とアルフさんを可愛く描写していけたらなーと思ってます。

よろしければもう少しだけお付き合いください~。




でわでわ。






[9514] 第18話 「あの時の嘘がここまで引っ張るなんて、正直思わなかったんだよ・・・・・っ!!」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2010/01/30 04:41
薄暗い場所だ。

夢を叶えるための居城とは思えない、暗く光のない空間。

時の庭園。

全ての時が止まってしまった孤独の城。

その陰鬱さに舌打ちしたくなるが、自分たちのような日陰者には相応だと妙に納得できる。

「―――――ご機嫌だな」

「あら・・・・・あなた、まだいたの」

「ああ・・・・一部始終は全て見ていた。お前がフェイトにしたことも含めて、な」

仮面をはずした黒の騎士は玉座の下から、冷めたようにプレシアを見上げる。

自分のほうが上にいるにも関わらず、その見下されているような視線にプレシアは眉を顰めた。

「覗き見?私の作品の癖に趣味が悪いこと」

「ハッ・・・・・創造主サマに似たんだろうよ」

プレシアの顔が歪む。

もう用はないと思っていた人形が現れて、使い魔と一緒に何かを喚いたが追い返した。

これでようやく邪魔者はいなくなったと思った矢先に、ミズキが現れ―――――ずっといたらしいが―――――邪魔をしている。

アリシアはもうすぐそこだというのに――――。

プレシアの苛々は限界に達しようとしていた。

「すぐに消えなさい。今なら見逃してあげる」

慈悲をかけたつもりだった。

しかし、黒騎士は深くため息をつくだけで、その場から消えない。

「・・・・・・我ながらなんて馬鹿みたいに優しいと思いながらも、最後のチャンスを与えてやったんだがな」

「いいからさっさと―――――――」

「オリジナル(瑞樹)のやつに感化されちまったのかもしれない・・・・だけどな、一回くらいはお前にも機会を与えてやろうと思った」

「消えなさいと言っているのが、わからないのかしら?」

プレシアはミズキの中にしかけた爆弾の術式のスイッチに手をかける。

コレにも、もう用はない。

この駒は優秀だったが、用がなくなってしまえばあの出来損ないと同じ。

消えてしまっても、何の問題もないのだ。

しかし、目の前の黒騎士は喋ることをやめない。

「だけど・・・・結果はこれだ。オレとしたらわかりきった結果だったんだが・・・・何でこんな面倒で阿呆な真似をしたのか自分でもわからねぇ」

理屈じゃねぇのかな――――黒騎士は再び大きくため息をつくと、静かに、ゆっくりと玉座に近づいていった。

「・・・・っ」

何故かはわからない。

しかしその姿に本能的な恐怖を感じたプレシアは、ミズキの中の術式を起動させた。
















「ハッ―――――何かしたか?」

「ど、どうして!?」

嘲笑する黒騎士に、プレシアは何度も起動させようとするが―――――。

「どうしてリンカーコアが消滅しないの!?」

―――――黒騎士は表情を崩さない。

プレシアが仕掛けた爆弾が起動すれば、リンカーコアが消滅した無力な騎士が出来上がるはずだった。

しかしミズキは、漆黒のバリアジャケットを纏ったまま、悠々と佇んでいる。

「そんな忌々しい細工は、とっくの昔にはずしたに決まってるだろうが。このオレが首輪をつけられたまま、黙って言うこと聞いているような素直なニンゲンに見えたか?」

「そんなはずはないわ!!だったら外された瞬間に、私にもわか―――――っ!!」

言いかけて、プレシアは息を呑む。

「ようやく気付いたか。実に簡単な仕掛けだ」

「ジャミング・・・・ッ!!」

「結局はそれ、遠隔操作なワケだろ?時限式でないなら干渉は可能だ」

ミズキのデバイスの能力。

プレシアが、オリジナル(アイリス)の能力の代わりに、ミズキのデバイスに組み込んだ能力だ。

アイリスのフェイクであるミズキのデバイスでは、単純な破壊力を持つエクスカリバーならともかく、アヴァロンのような特異能力、絶対領域の展開や傷の自動再生などを再現できなかった。

その代わりに与えた高いジャミング能力。

転位魔法の妨害、念話の妨害、術式への干渉―――――――使い手の能力次第で、その力は幅広く汎用性に富んだモノになる。

そう、力を与えた本人すらも騙すことができる。

「こいつは優秀だよ。あのオリジナル(アイリス)のコピーとは思えないくらい無口だが、仕事はしっかりやるサイコウの相棒だ」

ミズキは嗤う。

首輪を外されたことがわからないように、首輪が付いているように見せかけていた。

先に何もない首ひもを握って、悦に浸っている飼い主の手をとうの昔に離れ、冷めた目で遠くから眺めていた。

「なぜ・・・何故なの!?あなたは私の作品!!私はあなたの創造主よ!?!?」

「バカか、誰もがフェイトのように従順で素直だと思うなよ。キサラギミズキは性根が悪い極悪人でね。それこそフェイトとは対極にあるような存在だ」

「っ・・・・・」

「自分で創ったから・・・・だから命令を聞くって?ハッ――――笑わせるなよ。クローンにだって意思はある。フェイトのように従順に従う奴もいれば、オレみたいに反逆しようともする」

―――――それが意志ってモンだろ?

ミズキは嗤う。

嗤いながら、確実にプレシアへの距離を縮めていく。

「それでもあなたは私の作品よ!私がいなければ生まれもしなかった!!」

プレシアが魔力弾を飛ばす。

しかし、黒騎士は容易く弾いて見せる。

衰えたプレシアの攻撃程度では、黒騎士は止まらない。

大型の魔法ならあるいは、とも思うがこの状況でミズキがそんな隙を見せるはずがない。

「だから何だ。生まれた後の意思はオレのモンだ。オマエでも、あいつのでもない」

「っ・・・・!!」

プレシアは次々と魔力を飛ばす。

しかし黒騎士の歩みは止まらない。

「創ってくれてアリガトウ、とでも言えばいいか?来世があるなら、そう言われるように努力しな」

そして、黒騎士は玉座に辿り着いた。

「ハハッ――――他に言いたいことはあるか?」

「・・・・・・・あなたは・・・私の・・・・味方じゃなかったの・・・・?」

縋るような瞳。

つい先ほどまで庭園の王者だった者は、もはやただ無力な女でしかなくなっていた。

「その味方を自分で消そうとしておいて何を今更――――――まぁ、一つだけ教えてやるよ」

オレはな―――――。

「この世界に生まれた瞬間(トキ)からずっと、フェイトだけの味方だよ」

結構露骨だったつもりなんだがな、と無慈悲に剣は振り下ろされた。










プレシアへの最後のチャンス。

それはフェイトに会うことそのものだ。

ジュエルシードを集め終え、目的に達したも同然のプレシアがもしフェイトを受け入れれば、ミズキは二人を助けてやるつもりだった。

ジュエルシードを集め終わり、気前が良くなっているだけでもいい。

アリシアまでもう少しで手が届き、機嫌が良くなっているだけでもいい。

プレシアがフェイトを受け入れるとしたら、このタイミングしかないとミズキは思った。

だから賭けてみた。

自分の中の理性が嘲笑ったが、それに勝る感情があった。

よくわからないままプレシアがフェイトを受け入れてくれるかも、と願ってしまった。

確かに理想ではある。

プレシアとフェイト、そして蘇ったアリシアが3人で仲良く暮らせるのならそれに勝るハッピーエンドはない。

原作では、フェイトはプレシアを乗り越えることで強くなったが、今はオリジナルの影響でおかげでそこそこ強くなった自我がある。

強くなり、母親とも別れない。

まさに、理想だ。

だが現実はそんなに優しくはない。

他でもない自分が否定したはずの叶わない理想。

どうしようもない矛盾だ。

ようやく理性が戻ってきたが、感情とはつくづく厄介な代物だ。

それもこれは間違いなくオリジナルの思考。

ミズキを形作る瑞樹の残滓が、まるで呪いのようにミズキの感情として理性を蝕んでいる。

最後のチャンス。

我ながら、呆れてため息すら出てこない。

「理屈じゃない・・・ってか。くそ・・・」

今まで否定し続けてきた、如月瑞樹の独善。

フェイトとプレシアを仲良く、などというふざけた理想。

どうあがいてもミズキは、ルーツである『如月瑞樹』から逃れられないということなのか。

「・・・・・・・・・・ざけんな」

否定してみせる。

フェイトは瑞樹を選んだ。

ミズキではダメだと言った。

『ミズキ』は『瑞樹』にはなれない。

「・・・・・・・・来たか」

瑞樹の魔力の気配を感じる。

自分とよく似た気配だから辿るのは容易い。

それでも全くの同一ではないのは、選ばれなかったことへの皮肉だろうか。

「ハッ・・・・今更だな」

ならば―――――徹底的に否定してやろう。

瑞樹とはかけ離れた全く別の存在として、オリジナルの望んだモノとは違う――――フェイトのハッピーエンドを見せてやる。

だって『ミズキ』は―――――――生まれた瞬間(トキ)からフェイトが大事で仕方がないのだから。












気がついたら何の策もなく黒騎士に斬りかかっていた。

アイリスの制止の声も聞いてはいられなかった。

「オレとまともに打ち合えるようになったとは・・・・大した成長速度じゃないか。なぁ相棒ッ!!」

漆黒と黄金の螺旋律。

その中心で暗黒が嘲笑った。

「誰が相棒だ!!!」

叫ぶと同時に、瑞樹は刀身に溜めた魔力を一気に解放し、黒騎士を弾き飛ばす。

「フン・・・少しはできるようになったか」

余裕そうに、剣を肩に担ぐ黒騎士に瑞樹は舌打ちする。

魔力のコントロールにはいい加減慣れてきた。

何回も死にかけて、これで何の成長も見込めなかったら泣くしかないと思ったが、なんとか黒騎士の足に喰らいつく程度の実力は身についていたようだ。

しかし―――――――それでもまだ足りない。

黒騎士の言うとおり、確かに瑞樹は成長した。

一般的な目で見れば、その成長速度は恐るべきものだ。

だが足りない。

今は黒騎士を凌駕するだけの力が必要であり、喰らいつくだけの半端さでは意味がない。

「・・・・・・・」

何か少しでも勝率を上げられるだけのモノを見つけ出せ。

打ち合ってついた傷を、アヴァロンに魔力を通し治癒しながら、相手をじっくり観察する。

肩口に傷、瑞樹がつけた傷だ。

自分の肩にも同じように傷があったが、それはもう鞘によって治癒して―――――――。

『(あるじゃないですか、付け入る隙)』

「(・・・・たぶん考えてることは同じだが、それは使いたくないな)」

『(何故ですか?恐らくマスターが彼に勝てる要素はこれくらいしかありませんよ?)』

「(いや・・・・そうかもしれないが、鞘の回復力に任せた持久戦で勝っても意味がないんだ)」

確かに鞘のオートリペア(自動回復)を使い、傷を受けた先から回復していればいつか黒騎士は地に伏すだろう。

しかしそんな勝利に意味はない。

瑞樹はプレシアに会うためにここに来た。

黒騎士はプレシアを殺した、と言った。

しかし瑞樹はあのプレシアがそう簡単に死ぬとは思っていない。

長く燃やし続けた黒い炎はそう簡単に燃え尽きない。

それもあと一歩で届くところまで来ていたのだ。

希望的観測かもしれないが、恐らくプレシアはまだ生きている。

『(ぶっちゃけてしまえば、信じてなきゃやってられないですよね)』

「(だからこんなところで時間かけてられるか。さっさと倒してプレシアのとこに行く)」

『(マスターの方が強いならその台詞も格好よく聞こえるのでしょうが・・・・・・ぼんくらマスターの有能なデバイスとしましては、鞘に頼るしか方法がないと思います)』

「(む・・・・・・)」

『(鞘の回復能力はマスターにだけ存在し、あの黒騎士は絶対に持ちえないものです。それ以外の点ではマスターに勝ち目などありません)』
アイリスは知っている。

黒騎士は瑞樹のクローンだと。

だからこそ言える。

似て非なる二人だからこそ、瑞樹にあってミズキにないモノを武器にするしかないと。

スペックも同等ならばまだ救いはあったのだが、何故かクローンはオリジナルの戦力を大きく上回っている。

ならばミズキになくて瑞樹にあるものは何か。

それは絶対に模倣することができないエクスカリバー(アイリス)の能力しかない。

それも『約束された勝利の剣』のような純粋な破壊力ではなく『全ては遠き理想郷』のような特殊能力。

そして持久戦にはもう一つメリットがある。

確証はないが、黒騎士はそう長い間は戦ってられないだろう。

それまで瑞樹がもたせれば、なんとか勝ちを拾えるかもしれない。

「相談は終わったか?」」

瑞樹は厭らしく笑う黒騎士を、憎々しげに見やり舌打ちする。

「チッ・・・・・・だったらさっさと立てないようにしてやるよ!!」

「ハッ――――――威勢だけで勝てると思うな!!」

黒白の騎士は再び剣を合わせた。












「・・・・・・・もはや何がなんだか」

「く、クロノ君!?それは致死量だから!!飲んだら物理的に胃が重くなるから!!」

胃薬をビンごとあおろうとするクロノを、エイミィが必死に止める。

普段なら煽るところだが、さすがにこれは冗談じゃ済まない。

この期に及んで執務官が腹痛で戦線離脱なんてしたら、それこそどんな顔をして笑っていいかわからない。

「気持はわかるけどさ、落ち着こうよ。ね?」

「・・・・・・・・とりあえず落ち着いた。彼女たちの様子は?」

「フェイトちゃん・・・・だっけ。あの娘はまだ・・・・・・。使い魔の方はなのはちゃんと話してる」

「・・・・・彼女のデバイスのデータはコピーしてあるな?」

「勿論だよ。今はプレシア・テスタロッサの居場所を解析中」

「攻め込む用意は終えたし・・・・・・今できることは待つことだけか」

クロノは自分に言い聞かせ、はやる心を鎮める。

暴力的なまでの力を持つ黒騎士に一方的に奪われていくジュエルシード。

それにもかかわらず、こちらは何の情報も手に入れられないという有様。

それがここにきて、一気に状況が変化した。

何故かはしらないが転移してきた少女と使い魔。

挽回のチャンスがようやく回ってきたのだ。

「・・・・・・・・・これを逃す手はない。この機会に僕は胃薬から一人立ちする」

「いやー・・・・・いろいろ台無しだね」














アースラの医務室のベッドの上では、虚ろな瞳をしたフェイトがただ座っていた。

医学的には、目を覚ましているし意識もはっきりしているはず。

「フェイトちゃん・・・・・・」

しかしなのが呼びかけても、フェイトは言葉を返すどころか何の反応も示さない。

聞こえていないのか、聞いていないのか。

見えているのか、見えていないのか。

いずれにせよ外からの全てを拒否していると言ってもいい。

なのはとアルフはそんなフェイトの傍らに佇み、ポツリポツリと言葉を交わしていた。

「・・・・本当、なんですか?」

「ああ・・・あたしはあの女から聞いたんだ。あいつは自分の目的のために、フェイトを利用してたんだよ」

力なくアルフがうなだれる。

「そんな・・・・・」

全ては自分の目的のため?

彼が見せたあの笑顔も、自分を抱きしめてくれたときに流した涙も、フェイトの友達になって欲しいという願いも、全ては嘘だったということなのか。

「・・・・・なにかおかしくないですか?」

なのははどうしてもアルフの話を鵜呑みにできなかった。

彼が嘘をついているようには思えなかったのだ。

「何がだい?」

「えっと・・・・わたしも考えが纏まってないんですけど・・・・・」

「なんだいそれは・・・・」

なのはは飛ばされた世界の先で、瑞樹のことを聞いていた。

どうしてフェイトのそばにいて、なぜ戦っているのか。

その話を聞く限りでは、彼の行動の起点は常にフェイトにあったような気がする。

ジュエルシードを集め、確かあのときも身を挺して黒騎士からフェイトを守り―――――。

「あっ・・・」

「ど、どうしたんだい?」

「もし・・・彼が自分のために行動しているのなら、なんであのときフェイトちゃんを守ったんだろう・・・」

「あのとき?」

「黒い騎士さんがいきなり攻撃してきたときです。もし本当にジュエルシードだけが必要なら、危険を冒してまでフェイトちゃんの盾になる必要はなかったんじゃないですか?」

「それは・・・・・」

確かに瑞樹はアヴァロンで黒騎士の攻撃から、その場にいる全員を守った。

そしてその反動なのか、家に帰ってからもつらそうにしていたのを覚えている。

「黒い騎士さんは、プレシアさんの味方なんですよね・・・?だったらおかしくないですか?」

「確かに・・・・・」

あれだけの戦闘力を持っている黒騎士だ。

一人でもジュエルシードを集めることができるだろう。

瑞樹の目的がジュエルシードにあるのだとしたら、終始黒騎士と対立する必要はない。

むしろ協力するはずなのに、瑞樹は黒騎士のことを嫌っていた。

「それに・・・・わたしに、フェイトちゃんの友達になってくれって言ってました。そんな人が・・・・そんな人がフェイトちゃんを騙すなんて信じられない・・・・」

「・・・・・・」

「きっと何か事情があったんじゃないですか・・・?」

「・・・・・あたしにはわからないよ」

「なにがですか・・・・?」

「確かにあいつの行動には矛盾がある。でも実際にフェイトを悲しませたのはあいつだ。それでも・・・あんたたちのところに行けって言ったのも・・・あいつだ」

結果論かもしれないが、フェイトは大事に保護されているし、アルフも傷の手当てをしてもらった。

「あんたが・・・・なのはが力になってくれるはずだからって・・・・・・」

「うん・・・・・・」

常にフェイトの傍らにいた白い騎士。

なのはにフェイトの友達になって欲しいと言っていた。

彼は自分を信じて、フェイトとアルフをここに送り出したのだと思う。

自分の何を信じて彼が送り出したのかなんてわからないけど、彼の期待に答えてあげたい。

何ができるかなんてわからない。

でも彼にできなくて、自分にできることがあるなら――――。

「あの人は・・・・きっともの凄く悩んだんだと思います」

なのはは真っ直ぐにアルフを見つめて言葉を紡ぐ。

「泣いている人を見るのが嫌で・・・・どうしてもなんとかしたくて、それでも上手くいかないの」

この言葉が、フェイトにも届いていると思いたい。

「くじけたくなるときだってあったと思う・・・・それでもあの人は、今もまだ皆のことを考えて頑張ってると思うの」

会って間もない自分を庇って助けてくれた。

兄が撲り飛ばしてしまったのに、気にするなと笑ってくれた。

くじけそうになってしまったときは、そっと背中を押してくれた。

―――――そんな彼を、今度は支えてあげられたらいいな、なんて。

「・・・・・・・・・・」

「だから信じてあげて欲しいの。もし本当に嘘をついていたとしても、何か――――」

『なのは、悪いけどきてくれないか?』

言いかけたところで、何もない空間からモニターが現れクロノの顔が映し出される。

「クロノ君・・・どうかしたの?」

『プレシア・テスタロッサの居所が割りだせた。すぐにでも乗り込みたい。作戦にはもちろん君も参加してほしい。だからこっちに来てくれないか?』

「うん、いいよ。すぐに行くね」

モニターが消える。

消えた先にあったアルフの顔を覗き見ると、複雑そうな顔をしてなのはの目を見返していた。

「その・・・・あたしも行っていいかな・・・・?」

「え・・・?」

「あんたの言うとおり、あいつはどうしようもない馬鹿さ。でも・・・・・あたしたちのことを大事にしてくれていたのは、一緒にいたあたしたちが一番知ってる」

「うん・・・・」

「でも・・・・やっぱり信じられない。あいつがフェイトを悲しませたのは事実だ。だから・・・・・確かめにいく」

アルフは立ち上がり、扉に向かう。

「もう一回会って、確かめたいんだ」

「クロノ君・・・・」

『はぁ・・・・わかったよ。主をこちらが保護している限り、彼女が害になることはないだろうし、好きにしていい』

再び現れたモニターの中では、クロノが嘆息している姿が映っていた。

「なんだ、いいところあるじゃないか黒いの」

『黒いのって言うな。それより来るなら早くしてくれ。時間が押している』

「ご、ごめんなさーいっ!」

なのは慌てて駆けだす。

そんななのはを見送りつつ、アルフはふっとフェイトの方を振り返った。

「フェイト・・・・あたしが絶対にあいつを連れ戻してくるからね」

もし本当にフェイトの敵だったら殴ってやる。

殴って、絶対に連れ戻して、フェイトに謝らせてやる。

「――――行ってくるよ」

言い残して、アルフは駆け出した。














『よいのですか、我が主』

静まり返った病室で、低い男性の機械音が響いた。

「・・・・・・、・・・・・・・・・」

その聞きなれない声に、フェイトは僅かに身じろぎする。

『主・・・・・今一度お聞きします。このまま・・・・あなたは何もしないままで、それでよいのですか?』

寡黙で、戦闘時以外はめったに口を開かないインテリジェント・デバイス。

バルディッシュ自身も、ここまで饒舌になった自分は今までにないと記録している。

「・・・・・・・・・」

『確かにあの方は主を騙していたのかもしれません』

「・・・・っ」

その一言で、今まで人形のようだったフェイトが確かに人間らしい反応を返した。

『その上で母上殿に拒絶されてしまった悲しみは「違うの・・・・」・・・・主?』

「わたし・・・・わからないよ。どうして・・・・・・」

ポタポタと、フェイトの手の上のバルディッシュに大粒の滴が降り注ぐ。

『主・・・・?』

「かあさんに・・・・・いらないって言われたとき・・・すごく悲しかった。でも・・・・・」

瑞樹が来てから、ずっと優しかった母親。

初めは戸惑ったけど、それでもやっぱり嬉しかった。

だから冷めた目で、もう必要ないと言われた時は悲しかった。

でも、それ以上に――――。

「みずきが・・・・本当は味方じゃないって・・・・っ!わたしのために一緒にいてくれたわけじゃないって聞いたときのほうが、胸が痛かった・・・・・・っ」

今までずっと考えないでいた。

瑞樹がフェイトの元に・・・いや、プレシアの元に留まる理由。

彼はフェイトのため、と言っていた。

その言葉だけで心が春の陽だまりのように暖かくなった。

だからこそ何も考えずに、そしてもその感情にも知らないふりをしていた。

「わたし・・・・わからなくなっちゃった」

プレシアのためにジュエルシードを集めていた。

彼女の願い以外のために、生きる理由も喜びもないと思っていた。

なのにどうして、プレシアに拒絶された痛みより、瑞樹に嘘をつかれたことの痛みが勝るのだろう。

「わからないよ・・・・いつからこうなっちゃったの・・・・・?」

プレシアのために生きていたはずの自分が、どうしてその手段でしかないはずの瑞樹にこうも心を乱されてしまうのか。

感情が幼い彼女はまだフェイトは、自分でのその感情の正体に気づくことができなかった。

見ないふりをしていた昨日までは平気だった。

でも見てしまったから、矛盾に気づいてしまったから、もう昨日には戻れない。

「バルディッシュ・・・・わたし、どうしちゃったんだろう・・・・・」

『私は・・・・デバイスの特性上、こういう人の機微には疎いのですが・・・・・』

困ったように、デバイスなのに人間臭くどもる彼に、フェイトはおかしくなって淡く微笑する。

「うん・・・・」

『主は・・・・・主は、あの方のことが好きだったのではないですか?』

「す、き・・・・?」

すとん、と落ちるものがあった。

機械音となり吐き出されたその言葉は、フェイトの空いていた心の穴にすとんと落ち込んだ。

『先ほども言いましたが私はデバイスですので、人の心の機微などはわかりかねますが・・・・きっとあの方のことを母上殿より大切に思っていたからこそ、そのように心が痛むだと思います』

「わたしが・・・・みずきを・・・・すき・・・・・」

『はい。その人にとって大切であればあるほど、嘘や欺瞞によって裏切られた際に心に深く傷を負う――――と、私のデータライブラリには記されております』

「・・・・・・・・・」

『主・・・・?』

「そっか・・・・わたし、みずきが好きだったんだ・・・・・」

言葉にすると気恥ずかしくなる。

不意に顔が熱くなってきて、フェイトは誰もいないのに隠れるようにシーツに顔を埋めた。

「うぅ~・・・」

でもそれはイヤな気持ちじゃない。

ほっとするような、心が落ち着くような優しい気持ち。

『主――――このままで、あの方と何も話さないままで良いのですか?』

「いいわけない・・・・ううん、絶対にいやだ」

フェイトはそっとベッドから降り立つ。

手に握りめたバルディッシュから、伝わる確かな鼓動。

「もう一度会いたい・・・・」

会って話がしたい。

ついさっき別れたばかりなのに、もうずいぶんと会っていないような気がする。

「みずきに・・・会いたい」

『Get set』

「バルディッシュ、一緒にがんばってくれるかな」

『Of course, Sir』

「うん、ありがとう」






クロロです。

一か月ぶりくらいの更新です。

相変わらずの不定期で申し訳ない・・・・。

今回でフェイトさん復活、プレシアさん死亡説浮上など、いろいろと急展開です。

自分でも無理やりな感じが・・・・スイマセン、精進します。

以下、感想を返します。



いくらさん>>>

た、確かに言われてみればカッコつけすぎた独りよがりかも・・・・・。

ご指摘ありがとうございます、と同時に申し訳ないのですが、、、

感想で本編の説明をするのはどうかと思うので、ここでは控えさせていただきます。

でもこれから指摘していただいた箇所を念頭に置きながら執筆していきたいと思います。

いくらさんが納得できる内容になるかどうかはわかりませんが、もう少しだけお付き合いください。



雷鈴さん>>>


誤字報告ありがとうございます!

17話・・・・ではないですよね?

結構前に書いた気がするフレーズでしたので、少し探してから直したいと思います。




shikiさん>>>

おぉ、本当だ・・・・。

報告ありがとうございます!




本城さん>>>

まずいですよねー・・・・無駄にカッコつけるからry

なんとかしたいと思います。

あと少しでどこまで筋の通った話になるかはわかりませんが、いつも読んでくださっている読者さんをがっかりさせたくないので、できるかぎり頑張ります!




ダンテさん>>>

はじめまして、クロロです!

マスターを罵るデバイスって萌えるよね?って感じで力を入れて書いていたので、面白いと言っていただけると嬉しいです。




終わると言ってなんだかんだ終わりそうにないですが、今回がここらで失礼します。

でわでわ。



[9514] 第19話 「ドッペルゲンガー」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2010/04/05 03:15
「ハハッ―――――どうした?ずいぶんと動きが悪くなってきたじゃないか」

「くっ・・・・・」

『やはり地力に差がありすぎますね』

「言ってる場合か!?」

黒騎士が余裕そうな笑いとは対照的に、瑞樹には余裕がなかった。

使い慣れない武器で戦う以上、どうしたって動きは粗くなる。

憎らしいことに黒騎士は剣での戦いにかなり慣れている。

必要以上に大きな動きと魔力で戦い続ける瑞樹と、最小限の動きと魔力で戦う黒騎士。

長期戦になるにつれて消耗度合いに違いが出てくるのは当たり前のことだった。

「隙あり・・・ってな!!」

ガキン―――――!!

「や・・・らせるかよッッ!!!」

『・・・・おかしいですね。そろそろダウンしてもいいはずなんですけど』

「あぁ!?まだまだいけるわ!!!」

『いえ、マスターのことではなく・・・・ってマスター、やせ我慢しても意味ないですよ?』

「へぇ・・・・オマエ、気付いたのか」

『ええ、つい最近ですけどね』

「何の話をしてんだ、よッ!!」

魔力を刀身に上乗せして一気に黒騎士を弾き飛ばす。

「おぉっと」

「はぁ・・・・はぁ・・・・っ」

「良い勘してるじゃないか。そいつのデバイスにしておくには勿体ないな」

『余計なお世話です』

「さっきから何の話をしてるんだ!?」

『いえ・・・・明日の天気の話などを少々・・・・』

「嘘をつけ!!!?」

「なんだ、オマエの主は知らないのか」

『・・・・・・・・・』

「へぇ・・・・」

ゲラゲラ、と黒騎士は愉快そうに笑う。

「・・・おいアイリス、さっきから何の話をしてるんだよ」

『・・・・・・・』

「アイリス・・・・?」

頑なに、剣呑な気配をにじませて押し黙るアイリス。

どうにも普段のアイリスらしくない。

瑞樹が死にかけても、どんなにピンチになったときも常に冷静だったアイリスが、ここまでわかりやすく感情を表に出すことは稀だ。

いや、もしかしたら初めてみたかもしれない。

「おまえ・・・・何を隠してる?」

『ですから何も・・・「いいじゃねぇか。教えてやれよ」・・・・あなたは黙っていなさい』

静かに怒気を放つアイリスに、黒騎士はますます笑みを深くする。

「デバイスがマスターに隠し事なんていけないねぇ。信頼できないパートナーに命なんて預けられないだろ?」

『・・・・不愉快です。マスター、さっさと片付けてください』

「おまっ・・・!オレだって好きでモタモタしてるわけじゃねー!!!」

「ハハッ、ずいぶん必死だなぁ相棒」

「このっ・・・・!!」

エクスカリバーに魔力を乗せ直し、剣を振りかぶる。

頭が一瞬白くなるが、気合いで持ち直す。

『マスター、過剰に魔力を使いすぎています。そんな使い方をしていると持ちませんよ』

熱くなってもサポートはしっかりできるようだ。

そこらへんはさすが、としか言いようがない。

「見てろ」

短く答えて瑞樹は地面を蹴って駆けだす。

黒騎士の足元に食らいつくくらいの低い姿勢からの大ぶりの攻撃。

さらには余剰魔力が刀身からオーラになって見える程の魔力が込められた一撃だ。

まともに喰らえば相当の必殺の一撃になりかねない。

ただ―――――。

「ハッ、そんな大ぶりの攻撃があたるか」

―――――当たれば、だが。

軌道も素直で虚実のない攻撃など、黒騎士にしてみれば止まっているにも等しい。

トン、と小さく後ろに跳んでかわす。

「やれやれ・・・やけくそに「甘い!!」・・・・なに?」

「おぉぉぉぉっ!!!」

――――気合一閃。

瑞樹は振り下ろした剣を、そのまま打ち上げるように黒騎士に向かって振りぬく。

エクスカリバーを覆っていた魔力が刃となって黒騎士を襲った。

「魔力刃だと・・・・!?」

ガン――――!!!

黒騎士は持っていた剣で迎撃しようとしたが間に合わない。

エクスカリバーから解き放たれた刃は、黒騎士の仮面に直撃した。

初撃を避け、すぐにカウンターの準備をしていたのが裏目に出た。

ある意味では仕方のないことかもしれない。

黒騎士は瑞樹を舐めていたし、瑞樹が魔力刃を飛ばして見せたのはこれが初めてだ。

『なるほど・・・・これのために余分に魔力を装填していたんですね。というよりマスター、よくできましたね・・・・』

「あいつがやってるのを見て、なんとなくできる気がした」

『なんとなくって・・・・』

「何回か見たしな。それに魔力を飛ばすだけだろ」

『・・・・・・そうですか』

同じ人間だから、特性も似ている・・・ということなのだろうか。

瑞樹はなんとなくできた、と言っていたが放たれた魔力刃はアイリスのサポートなしで放たれたものだ。

ぶっつけ本番で、しかもそれが黒騎士に対して攻撃として成り立っているのだから、本来なら異常である。

複雑ではあるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

『マスター、追い打ちです。一気に仕留めてしまいましょう』

「わかってる!」

再び刀身に魔力を纏わせると瑞樹は追い打ちをかける。

さっきの不意打ちでまだ体勢が崩れている黒騎士の頭上に剣を振り上げ―――――。

「もらった――――ッ!!!」

ガキン――――!!!

「・・・・いってぇな」

カラン、と黒い仮面が渇いた音を立てて落ちた。

伏せられた顔から呪詛の様な言葉が零れた。

悪態をつきながらも、黒騎士は瑞樹の攻撃に自分の剣を合わせている。

「いって・・・・さすがに今のは少し効いた」

黒騎士の顔が――――真っ直ぐに瑞樹を捕えた。







「え・・・・・・・・」

細く歪められた赤い瞳、くすんだ白い頭髪。

ただそれだけなのに、目に入った瞬間からどうしようもなく目が離せなくなってしまった。

心音がやけにうるさく感じる。

全身が一つの心臓になってしまったかのような錯覚すら覚えた。

『(マスター!!!早く追撃をかけてください!!!)』

アイリスが脳内で何か叫んでいるが、何も頭に入ってこない。

意識は完全に目の前の存在にとらわれていた。

黒騎士は敵だ。

実力は瑞樹よりも数段上をいき、瑞樹が攻めに転じるようなチャンスは二度とないかもしれない。

そしてそのチャンスは今だ。

今動かないでどうやってプレシアを救う。

動け、倒せ、と念じる。

なのに頭も身体も、一切動いてくれなかった。

ただ茫然と、黒騎士の顔を見続ける。

「チッ・・・・なんだよ、その顔は」

悪態をつき、憎々しげに瑞樹を睨む顔は―――――。

「オレ・・・・・?」

―――――まるで鏡で写したような―――――。

『マスター!!!』

「もういい、消えろよ」

―――――自分の顔だった。












「ディバイーーーーーン!!バスターーーーーーーー!!!!!」

桃色の奔流と共に、小型の傀儡兵が10体ほどまとめて薙ぎ払われる。

大物ではないとはいえ、覚えたての魔法で恐ろしい威力である。

しかも傀儡兵を飲み込んでもなお勢いが衰えなかった砲撃は、巨大な空洞を城の壁に作りだしていた。

クロノは背筋に嫌な汗が伝わったのをはっきりと感じた。

傀儡兵相手だから非殺傷設定ではないにしても、これが魔法を覚えたての少女が放つ威力だろうか。

「な、なのは・・・・・建物はあまり壊さないでほしい。生き埋めになったら元も子もない」

「にゃっ!?そ、そこまで強く撃ってないよ。ちゃんと手加減してるよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・そうか」

たっぷりと沈黙した後、目を逸らして言った。

クロノは薙ぎ払われた傀儡兵と、デカデカと横穴の空いた壁だったモノは極力見ないようにして、次の標的に目を向けた。

それにしても数が多い。

いったいこの城のどこにこれだけの数が配置されていたのかは知らないが、いくらなのはが普段より気合いが入ってるとはいえ、このままでは撤退を考えなくてはならないかもしれない。

アルフとユーノもいるが、それでも戦力は足らない。

かといって用意できた武装局員に余裕があるわけでもない。

『そんなクロノ君に良いお知らせだよ』

「エイミィか?戦闘中にいきなり割り込んでくるな」

『怒らない怒らない♪もうすぐなのはちゃんクラスの魔導師が援護に行くから、一気に突破しちゃって!』

「なのはクラス・・・・・?まて、いったい誰のことを――――――」

クロノの問いかけは途中で薙ぎ払われた――――――クロノごと、物理的に。

ゴゥッ――――――!!!

「少しやり過ぎちゃったかな・・・・・・・・」

瑞樹とは対照的な黒衣のバリアジャケットを纏い、金糸の髪の少女は戦場へと静かに舞い降りた。

「フェイト!」

「アルフ・・・・ごめんね、心配かけて」

「フェイトちゃん!」

「なのは・・・・・・」

味方として、初めて向い会う二人の魔法少女。

互いに話したいことはたくさんある。

言いたいこともあったはずだ。

しかしどうやって切り出したらいいものか、二人ともわからないでいる。

「・・・・・・・・こんなことをしている場合じゃないんだが」

「あ・・・・」

「く、クロノくん・・・?」

そんな微妙な空気に割って入ったのはクロノだった。

何故かバリアジャケットがところどころ焦げていて、どこかに転がりでもしたのかところどころに汚れが目立っている。

「あんたは・・・・・空気の読めない奴だねぇ・・・・・・」

アルフはそんなクロノを呆れた目で見る。

「は・・・・?まて、それはどういう―――――」

「はいはい、わかったからさっさと行くよ。遅れるんじゃないよ」

何故か偉そうに場を取り仕切るアルフに、状況が飲み込めていないクロノを除いた三人はついていく。

「僕か!?僕が悪いのか?!?!」

クロノの魂の叫びに答えるの者は誰もいないが、戦力も十分になったところで、クロノ率いるメインゲート突破チームは黒白の騎士たちのいる玉座へと、また一歩近づいていった。








『マスター!!』

ビシャビシャ、と夥しい量の血が流れ落ちる。

抜け落ちていく足の力を、なんとか留めて敵を見据える。

「ハッ・・・まだ生きてるのか」

仮面をなくした騎士が、瑞樹と同じ顔で嗤う。

ギリギリで、本当にぎりぎりのタイミングでアイリスが剣に残った魔力を噴出させることで、瑞樹の体勢を崩したのだ。

おかげで直撃には至らず、瑞樹はまだこうして息をしていられる。

だがそんなことにも気が回らないほど、瑞樹は激しく動揺していた。

「おいおい・・・・ふざけるなよ。こりゃ一体何の冗談だ!?」

「はじめまして、如月瑞樹。オレのオリジナル。オレはキサラギミズキ、おまえのクローンだ」

「オレの・・・クローン・・・・・・?」

「ああ、我が創造主様は大層用心深いお方でね。簡単に言えばオマエらの保険だ」

回らない頭で必死に考える。

黒騎士は瑞樹のクローンだった。

保険?ジュエルシードを確実に手に入れるための?

「まったく迷惑な話だ。適当に創られたから人間としての機能は不完全、戦闘だって無理をしたら長時間は耐えられない。おかしな話だよ。それが存在目的だってのになぁ?」

自分自身を嘲笑うようにミズキは毒づく。

「不完全・・・・・?」

「そうだ。まぁ・・・ジュエルシードが集まればオレは用なし。合理的ではあるな」

必要ないから創らなかった。

人間として活動させるためじゃないから、人としての機能はいらない。
ただそれだけのこと。

「・・・・おまえ、知ってたのか?」

『・・・・・・・・・・』

「いつからだ・・・・?」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「なんで・・・隠してたんだよ!?」

『・・・・そうやって、取り乱してしまうと思ったからです』

敵が自分自身、それを知ったら瑞樹は少なからず動揺するだろう。

自分と同じ顔をしたまったく別の存在に出くわして、心を乱さないものはいない。

しかもそれと、似て非なる存在と殺し合いをしているのだ。

知らないとはいえ、毎日鏡で見ている顔に剣を向けて、殺そうとしていたのだ。

「っ・・・・だからって・・・っ・・・」

それでもこのタイミングは最悪だった。

これなら事前に言っておいた方がまだましだ。

本当なら知らないままミズキの時間切れを待ちたかったのだけど、本当に殺意を覚える程に裏目にでてしまった。

―――――いや、考えている場合ではない。

『・・・・とにかく一旦引いてください。このままでの戦闘継続は危険です』

「ふざけてんのかテメ『ふざけているのはあなたです!!』・・・・っ」

『このまま戦って犬死にしますか!?ただでさえ及んでいないというのに、こんな状態で勝てるわけないでしょう!?』

「あ、アイリス・・・・?」

『・・・ここに来た目的を思い出してください。プレシアさんを救いに来たのでしょう?』

「・・・・・・・・」

『マスター・・・・』

「・・・・一旦ひくぞ」

苦い顔で瑞樹が言う。

こんなところでもたついていたら、プレシアが果ててしまうかもしれない。

だがこの状態で、この精神状態でまともに戦えるはずがなかった。

『了解です。転移魔法はスタンバイしてあります』

「すぐに転移だ。なるべく魔力反応の少ない場所を選べ」

『心得ています。行きます―――――ジャンプ』

広がった黄金の光は、瑞樹を包みこみすぐに消えた。








『よいのですか、逃がしてしまっても』

「いいんだよ。こっちにもまだやることが・・・がふっ、げほっ・・・!」

『マスター?』

「あーあ・・・・少し長く戦うとすぐこれだ。嫌になるぜ・・・・」

手のひらに染みついた血をバリアジャケットに擦りつけつつ、ミズキは忌々しげにつぶやく。

どんなに気をつけて戦っても、やはり長時間の戦闘ではどうしても身体に無理がくる。

「さて・・・・やることやっちまうか」








アイリスがいた。

キャンパスのような白い空間で、瑞樹の目の前にアイリスがふわふわと浮遊していた。

『キミは、この剣に何を望んだんだい?』

しかし響く声はアイリスのものではなかった。

少年のもののようでありながら、老人のもののような声。

耳が自分のものでないかのように、まるで判断がつかない

この白い空間が間隔を鈍らせているのかもしれない。

「力を・・・・無力なままじゃ勝ち取れない未来があるから。フェイトとプレシアが笑っていられる未来が欲しかった」

『ふむ・・・誰のために?』

「フェイトと・・・・プレシアのため」

『彼女たちがそれを望んでいた?』

「プレシアはどうか知らないけど・・・・少なくともフェイトはそう望んでいる」

『本当に?』

「どういう意味だ・・・ってさっきから誰なんだよ。アイリスじゃないんだろ?」

『私には、キミが願っていたことのように思うのだけどね』

「意味、わからねぇよ・・・・何が言いたい」

『つまり、本当に救われたいのはキミ自身なんじゃない?ってこと』

その言葉に何故かドキッとした。

―――本当に救われたいのはオレ自身・・・・?

『キミのことをまだよく知らないから、なんとも言えないんだけどね。キミがもしあの母娘を本当に救いたいなら、彼女たちの望みをもう一度考えてみるといい』

「まてよ・・・いい加減にはっきりさせようぜ。おまえは一体なんだ?」

『キミには期待してるんだ。あの娘がここまで入れ込む人間って初めてかもしれないんだから』

つくづく人の話を聞かない奴だ。

唐突に、すっと白い空間が消えていく。

直感的に、意識が戻るのだとわかった。

















『作業、終了しました』

「ああ。これだけ数があれば庭園ごとドカンだろ」

――――――――――こんな場所なくなったほうがいい。

フェイトが先へ進むには、母親を連想させる全てを消し去るべきだ。

だからイレギュラーが介入したことで崩れることのなくなった庭園を、ミズキはわざわざ壊す。

フェイトが新しい自分を始めるために、プレシアの存在が必要以上に残っていてはいけないから。

壊すだけ壊して、消せるだけ消してしまったら、後はもう丸投げだ。

所詮ミズキには壊すことしかできない。

フェイトのそばにはなのはがいるだろう。

彼女にはこれから先家族が増え、友達も増えていく。

苦虫をかみつぶすような話だが、なによりフェイトに選ばれたもう一人の自分もいる。

「まぁ・・・ここを生き残れたらの話だがな」

恐らくは―――いや、間違いなく瑞樹はもう一度現れだろう。

フェイトに選ばれた、だからといって手加減してやるつもりはない。

例え敗れるにしても、夢見がちな理想論者にはきっちりと現実を教えてやる。

もし、ここで瑞樹がミズキに負けるようであれば、それはフェイトの騎士たる資格はないということ。

中途半端に介入して、中途半端にフェイトの心の中に居座って、それでいつか力不足で死ぬようなら、今ここで殺しておいた方が幾分かマシだ。

いずれ悲しむことになるなら、その大きさは小さい方がいい。

「ごふっ・・・・がふっ・・・・!」

『血圧、低下しています』

「うるせぇ・・・・わかってるよ」

早く来い。

残された時間は、もうあと僅かだ。





クロロです。

相変わらず更新遅いです・・・・。

そしてなんじゃこりゃと思った方がいましたらスイマセン。

なんかよくわかんないキャラでてきたし・・・・展開が苦しいですね・・・。

もうどうやってまとめていいかわからないよーーーー。

泣き言はこれくらいにして感想をお返ししたいと思います。



いくらさん>>>


糧になってますよー!

自分では気づかないことって結構あるんですよね。

たぶん自分で書いてるからだと思うのですけど、指摘されるとハッとなって助かります。

もうどっちが主人公かわからなくなってきました(泣)

がんばります(汗)



ダンテさん>>>


いえいえ、こちらこそありがとうございます。

前回はフェイトさんスタンドアップでしたが、今回はあまり出番がありませんでした。

次回もなるべく・・・・なるべく早めに上げたいと思います。

指摘とかじゃなくても、純粋に面白いって言ってくださる方の感想って励みになるんですよねw

でもすいません・・・・更新速度に反映されるかはわかりませんです・・・・はい(汗)

これからもよろしくお願いします。

本城さん>>>


確かにチラ裏って早いですよね。

私もお気に入りのSSはけっこう検索かけてます(笑)

ふ、ふっきってるきがしますねー・・・どうしようかなー・・・・ははは。







今回は視点移動が多いので、読みづらいと感じた方がいれば申し訳ないです。

展開頑張って考えなきゃ・・・・。

でわでわ。





[9514] 第20話 「一つのゴールの形」
Name: クロロ◆8a8a15e6 ID:6e12e527
Date: 2010/04/05 03:16
「・・・・っ・・・・・う・・・つ」

『マスター、目が覚めましたか?』

「この声は・・・・アイリスか?」

『私以外の誰がいると言うのです』

いたんだよ、さっきまで・・・・とは言えない。

時の庭園の中にあんな白が無限に広がってできたような空間はない。

しかし夢にしてはずいぶんとはっきりした夢だった。

例えば空間。

こうして目覚めた今でも、はっきりと不純物の一切がない白の世界だったと言いきれる。

そして何より、夢の中であのアイリスに言われたことが、傷跡のように胸に残っていた。

―――本当に救われたいのはキミ自身じゃない?―――。

意味がわからない。誰だったのかもわからない。

結局あれはなんなのか、夢なのか、何もかもがわからない。

わからないのに、腹立たしい程に心に刻まれて消えない。

「なぁ・・・・アイリス」

『何ですか?周囲に魔力反応は・・・・・たぶんありませんよ』

「・・・・・マテ、たぶんってなんだ」

『これだけ魔力反応が溢れていては、さすがの私でも正確な探知はできないのです』

「偉そうに言うなよ・・・・いつつ」

『マスターこそ大人しく鞘でも抱えていなさい。動けるようになるまで、話くらいなら付き合ってあげてもいいですよ?』

「なんでそんなに偉そうなんだよ・・・・」

『いいじゃないですか。それより、さっき何を言いかけたんですか?』

「あ、ああ・・・おまえ、アイリス・・・だよな?」

『・・・・・はぁ?私がアイリスじゃなかったら、いったい誰がアイリスなんですか?もしくは私がダイコンにでも見えましたか?すぐに眼科に行ってください』

「なんでダイコン・・・・いや、いい」

どうやらこれは本当にアイリスのようだ。いや、疑っていたわけではないが。

単純にどうやって聞けばいいかわからなかったのだ。

白い世界でのアイリスは、間違いなく今ここにいるアイリスではない、
というよくわからない確信があるだけに余計わからない。

「む・・・・だったらおまえの中にもう一人のアイリスがいたりは・・・・?」

『もう一人のボク、とかいたらすごく便利でしょうね。あれって分類はスタ○ドでいいんですかね』

「いや・・・・どうなんだろう。守護霊的な意味では同じかもしれないな」

『・・・・というか、さっきから何なんですか?今更私に何か不満でも?』

不満・・・・私生活においては大いにあるが、それは置いといて。

「そういうわけじゃないんだけど・・・・・えーとだな」

『ですよね。私がマスターを不満に思っても、マスターが私に不満を抱くなんて生意気ですよね』

主を生意気と言いきったデバイスをこのまま使い続けてもいいのだろうか。

しかもさりげなく不満とかいいやがった。

「あー・・・面倒だからそのまま説明する」

仕方がないのでそのまま説明することにする。

なんだかアイリスの反応がすごく予想できて嫌だが、このままギャラリーのいないコントを続けていても意味はない。



『・・・・病院ですね。もうプレシアさんとか、もう一人のマスターに構ってる場合じゃないですよ!!』

「わかりやすい反応をありがとう。そしてさりげなくもう一人のマスターとか言うんじゃねぇ」

そういえばもう一人いるのはアイリスじゃなくて瑞樹の方だった。

笑えねー・・・・・。

『この期に及んでわけのわからないことを言っているからです』

「いや・・・・だって妙に鮮明だったし・・・・」

『それで、結局何が言いたいんですか?』

「要するにさ・・・・オレって何のために戦ってんのかわからなくなったっていうか・・・」

『はぁ・・・・プレシアさんのためじゃないんですか?』

「いや、そもそもはフェイトのためだった・・・と思う」

フェイトに普通の幸せを与えてやりたかった。

あの年頃の少女が親と一緒に暮らしたいと願いを叶えてやりたかった。

だからなんとしてもプレシアを助ける必要があった。

助けて、改心してもらわないと、フェイトの望みは叶えられない。

『そうですね。そのためにはプレシアさんをどうにかしないといけませんね』

そう、そのためにわざわざ危険を冒して単身で来ている。

管理局には協力を仰げない。

仰いだら彼らはプレシアを抹殺、もしくは捕獲する方向で動くだろう。

次元規模での犯罪者だから、その対処は当たり前なのだが瑞樹としては困る。

だからせいぜいフェイトを預けておくことくらいしかできない。

「そう・・・なんだけどさ・・・・」

『はい』

「本当にそれって正しいのか・・・・?」

黒騎士と初めて戦って、言われた時からずっと心に残っていた疑問。

瑞樹の目指す道は正しいのか、と。

それがあの空間であの声に言われたことで、鮮明に浮き出てきた。

フェイトの望みを叶えるためにプレシアを助ける。

しかしそれは、救われなかったあの時の――――の未練を抱えているだけなのではないか。

フェイトのためプレシアのためといいながら、本当は自分自身が―――――。

『あほですねぇ・・・・本当にあほですよ、ぼんくらマスター』

「は・・・?」

『あほだと言ったんです。ぼんくらとも言いました。訂正する気はないですよ』

どうやら聞き間違いではなかったらしい。

でもいきなり罵倒される理由は――――。

『あります。あなたは私を思いっきり侮辱しました』

――――憮然、として言い返されてしまった。

『おバカなマスターのために、この優秀な私がわかりやすく一から説明して差し上げましょう』

「どうでもいいけど何でおまえはいつも偉そうなんだ・・・・・」

『黙らっしゃい。まず、あなたは何のために私を求めたんですか?』

あの空間で聞かれたことと同じだ。

よくわからないまま答える。

「力を・・・・無力なままじゃ勝ち取れない未来があるから・・・・」

『そうですね、では次です。その勝ち取りたい未来とやらは、誰にとっての正義ですか?』

「オレ・・・・?」

『正解です。でももしかしたらそれは、もう一人のマスターや管理局にとっては違うかもしれませんね』

「あ・・・・・」

『ふぅ・・・・ようやくわかりましたか?』

露骨に溜息をつかれた。

『・・・こんな陳腐でありふれた表現を使うのは気がひけますが、全てのことは正しくて、間違っているのですよ』

瑞樹が目指したゴールはフェイトとプレシアが母娘として生きる未来だ。

確かにそれは遠すぎる理想だ。

でもミズキが笑って蹴飛ばしたような、間違いなんかではない。

ミズキが言っていたのはあくまで可能性と確率の話。

プレシアを早めに切り捨てた方が、それはそれでフェイトは立ち直るし、何よりプレシアを助けて説得するよりは可能性が高い。

確かに現状ではどう見てもその通りで、そういう意味ではミズキが言っていることは正しい。

何より原作の流れから、ミスをしても修正が効きやすいだろう。

しかしそれと瑞樹が間違っていることとは、けして同義ではない。

『マスターは間違っていません。自分のためだろうが何だろうが、プレシアさんが本当の意味でお母さんになってくれれば、フェイトさんだって喜ぶでしょう』

それはそれで『一つのゴールの形』ですよ、と続ける。

仮にそれが結果的に瑞樹自身のためになっているのだとしても、その過程でフェイトが救われたのなら、それはまた別の問題だ。

『力を使うのはあなたです。マスターが勝ち取った未来が、すなわち正義になります』

何が正しかったのか、なんてことは誰にもわからない。

世界が与えてくれるのは、いつもたった一つの結果だ。

終わってみた結果が最良であったかどうかなど、それこそ神様くらいにしかわからない。

だから乱暴な言い方をしてしまえば、得られた結果が全て正しい。

「あいつが勝てば・・・あいつが正しいってことになるのか」

『そうですね。ぶっちゃけてしまうと、能力や主張、可能性や確率を踏まえて客観的に判断しますとあちらさんの方が正しいなんじゃないかと思いますよ』

「おまえは・・・・」

どっちの味方だ、と言おうとして――――。

『でも・・・いくら可能性が低くても、客観的には向こうが正しくても、私はマスターを信じています』

――――ぐぅの音も出ない程に黙りこむことになってしまったのは、不覚と言わざるおえない。

『契約したその時から、私はマスターのデバイス。私にとっての正義はあなたです。私はあなたを信じてここまで付いてきているのですよ?』

瑞樹がどんな無茶を言おうとも、文句は言いつつも全力でサポートしてくれた。

主が死なないように、瑞樹のことを常に最優先に考えてくれた。

『それなのにマスターときたら・・・・ここまできて「オレは・・・正しいのか・・・?」なんて、何をふざけたことを抜かしてやがるんですか』

「・・・・・・」

『少なくともここに一人、マスターの無茶に付き合おうっていうデバイスがいるんです。それなのに、肝心のマスターがふぬけているなんて、私を馬鹿にしているとしか思えませんよ』

「・・・・運動を起こした扇動者が、真っ先に相手側に寝返るとか、そんな感じか」

『そんな感じです。恥を知りなさい』

「はは・・・・相変わらず、おまえは厳しいなぁ・・・・」

でも言っていることはいつも正しかった。

『愛情の裏返しです』

「即答されると嘘くせぇな・・・・・」

そんな言葉が出てくるけど、アイリスが本気で心配してくれていることくらいわかってる。

『大好きですよ、マスター』

「うわっ・・・寒気が・・・!?」

『・・・・失礼ですねー』

軽く笑い返しながら、瑞樹はよっと立ち上がる。

『もう、戦えますか?』

まだ傷は完全に癒えてはいない。

そんなことはアイリスも分かっている。

戦えるか、という問いかけはそういう意味ではない。

「それはそれで『一つのゴールの形』か・・・・。なぁ、アイリス」
『なんですか?』

「オレ・・・・正直な話、まだ自分が絶対に正しいなんて言えない」

『はい』

「でも・・・ウダウダしてるだけじゃ、何もできないよな」

『それでいいんです。またウダウダ言いたくなったら、いつでも私が叩きのめして差し上げます』

「ああ」

短く答え、すーと深く息を吸う。

「なんかすっきりした」

この道を取ったときから、やるべきことは決まっている。

できるかどうかなんてわからない。

ただ、できることはしたい。

「アイリス、あいつのいるところまで一気に飛ぶぞ」

『了解ですマスター。行きます――――――ジャンプ』





「戦力を分散する」

傀儡兵を粉砕しつつ、クロノが言う。

「どういうことだい、黒いの?」

「黒いの言うな。このままだと突破に時間がかかりすぎる。だからここで敵を引き付けるチームと、守りの手薄なところから攻めるチームに分かれよう」

このまま時間をかけて攻めていけば、いずれは制圧できるかもしれない。

しかしこの状況では、呑気に殲滅戦をやっている余裕はない。

ジュエルシードはすでにプレシアの手に渡っている。

多くの世界を巻き込む次元震が、いつ起こってもおかしくないのだ。

つまり時間に猶予はない。

「引き付けるのはなのはとユーノに任せる。フェイトとアルフは僕と一緒に前へ出るぞ!」

復活したばかりのフェイトを、それも敵だったフェイトを積極的に使うのは避けたい。

しかしなのはとフェイトの特性を比べてしまうと、どうしてもスピードが重視される突破組はフェイトが適任だ。

なのはは火力こそあれどスピードはそうでない。

同じくユーノも攻撃向きではない。

さらに言えば庭園内に関してはなのはよりもフェイトのほうが詳しい。

今のフェイトには皮肉かもしれないが、ここが本拠地だったのだから。

苦肉の策ではあるとはいえ、今は手段を選んでいる場合ではない。

最悪の場合に備えてクロノがフェイトとアルフに同行することで、問題はクリアされたするのが妥当だろう。

「わかった。気をつけてね」

「なのはも気をつけて。・・・・・・・・くれぐれも建物を壊さないように」

「にゃはは・・・・うん」

・・・・なぜ目をそらす。

こっちもこっちで心配だったが、なのはについては信用するしかなかった。

「クロノ、どこから入るの?」

「なのはの空けた大穴から中央に近づける道を探す。案内を頼んでもいいか?」

「うん・・・アルフも、いい?」

「あたしはフェイトについて行くよ」

「ありがとう。なのは・・・行ってくるね」

「うん、気をつけてね」

「なのはこそ」

交わす言葉は互いに短い。

この戦いが終われば、もっとたくさん話せる時間はきっとできる。

フェイトはなのはに背を向けて、上手く傀儡兵を避けるように飛んでいく。

「っ・・・・・・」

「どうした、フェイト?」

「う、ううん・・・・なんでもない」

先に行くぞ、と続けるクロノに言葉を返すことも忘れ、一瞬だけど確かに感じた気配を懸命に追う。

あの温かさを、春の陽光のような温かい感触をフェイトが間違えるはずもない。

「(フェイト、どうしたんだい?)」

アルフが語りかけてくる。

でも悪いけど今は返事なんてできない。

「・・・・・いたっ!」

思わず飛び上がってしまいそうになる。

顔が上気しているのが、自分でもすぐにわかってしまった。

それでも胸に溢れそうになっている感情を、懸命にこらえているのだ。

「アルフっ・・・あ、まちがえた・・・」

いけないいけない、とすぐ念話に切り替える。

「(アルフ、落ち着いて聞いてね)」

むしろ落ち着いていないのは自分だ。

さっきから心臓が自分のものじゃないみたいに高鳴っている。

「(なんだい?)」

「(みずきが・・・・みずきが近くにいる!)」







「なんだよ、ずいぶんと遅かったな」

「回復タイムだよ。地力が違うんだからそれくらい見逃せ」

『青春タイムの間違いではないですか?『オレは・・・正しいのか・・・?』・・・ぷっ』

・・・・このデバイス、さっきまであんなに良いこと言ってたのにもうこれだ。

それに恥ずかしさの度合いはアイリスも似たり寄ったりだった気がする。

「へぇ・・・別に俺は構わないがね。時間がないのはそっちであって俺じゃない」

『時間がない?どういうことです?』

「すぐにわかる・・・・ああ、意外と早かったな」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ――――――!!!!

「オイオイいったいなんの騒ぎだ!?」

ミズキの呟きを皮切りに、庭園内が激しく揺れ始める。

立っていることはかろうじてできる。

しかしこの揺れは尋常じゃない。どう考えても自然に発生したものじゃないのは明らかだ。

『あなたまさか・・・・っ!』

「ああ、さすがだな。もうわかったのか」

どうでもよさそうにミズキが口を開く。

「俺は優しいからな。集めたジュエルシードはプレシアの代わりに暴走させてやったよ」

『そんなことをしたらあなたも無事には済まないはずですよ!?』

「さあ、知らねぇな」

楽しそうな笑みを浮かべるミズキの本音を伺い知ることはできない。

ジュエルシードの数は原作よりも多い。

より大規模な次元震が起きることは間違いないだろう。

ただいずれにせよ、やることは決まっている。

「・・・・・・・」

『マスター?』

瑞樹は黙って剣を向ける。

「数も規模も関係ないな。やることに変わりはないだろ?あいつを倒して、プレシアを助ける。ついでに次元震も止めてやる。それで万事解決だ」

『ずいぶん簡単に言いますね・・・・』

「ウダウダ言っててもしょうがないっておまえが言ったんだろーが。オレはやるって決めた。おまえは黙ってついてこい」

『了解です。地獄の底までついていきますよ!』







「おい、フェイト!先行しすぎた!!」

「もっと早く飛びなよ黒いの!」

「無茶言うな!!っていうか君だって置いてかれかけてるだろ!?」

本気で飛んでいるフェイトには、さすがのクロノも追いつけない。

クロノはおろか、アルフすら置いて行ってしまいそうなスピードでフェイトは飛んでいる。

アルフはまだしも、庭園内の地理に疎いクロノは置いていかれたら合流まで痛い時間のロスになるため、必死さもことさらだ。

しかしそんな制止の声もフェイトには聞こえているのかいないのか、速度は変わらずに入り組んだ庭園内を飛び続けている。

「本当にこの道であってるんだろうな!?」

クロノはやけになったようにアルフに向かって叫ぶ。

「それは間違いないよ。このままフェイトについていけば、あいつのところまでいけるはずさ」

フェイトと同じくアルフも感じていた。

近づけば近づくほどに大きくなる瑞樹の魔力の気配。

会ったらどうしてやろうか。

まずは殴る。それでフェイトに謝らせる。

うん、それでチャラにしてやろう。そうしたらまた楽しく過ごせるはずだ。

黒いの・・・・というか管理局をどうにかしないとダメだけど、それだってなんとかなるはずだ。

いや、絶対になんとかしてみせる。

絶対になんとかして、あの生活を取り戻すんだ。

楽しかったあの日々を。

だが、現実はあまりに非常だった。

「っ・・・フェイト?急に止まってどうし―――――」

今まで後ろを振り返ることもしなかったフェイトが、長い通路の出口付近で止まっていた。

「フェイト・・・・?」

回りこみフェイトの顔を、窺うように覗き込んだ。

「あ・・・・いや・・・・いやぁ・・・っ!」

「どうしたんだいフェイト!?」

今にも泣きだしそうなフェイトに、尋常じゃないものを感じたアルフは、フェイトの視線の先を追って・・・・声を失った。

その部屋は庭園の王座だった。

しかし王座に女王たるプレシアの姿はない。

その王座へと続く道、そこには二つの影があった。

一つは黒。

この世の全てを喰らい尽くさんばかりの荒々しい闇。

もう一つは白。

フェイトは彼を春の陽だまりのようだと言った。

アルフも、そんな彼に輝くような白はとても似合うと思った。

「二人ともどうし・・・・・っ!?」

少し遅れてクロノが来るが、やはり絶句せざるおえない。





なぜなら――――。





「あぁ?なんだ・・・・来たのか」

ミズキが笑いながら顔を上げる。




――――黒い刃が白を貫き――――。




「少し遅かったな。もう終わった」





――――まるで白を塗りつぶすかのように、鮮血が彼を染め上げていた。









「みずき・・・・・みずきぃーーーー!!!」












お久しぶりですみなさん。

クロロです、なんとか生きてます。

今回は非常に難産でした・・・・・いろいろと考えてみたのですが、これが今の私の限界のようです。

良いこと言ってどーにかこーにか自分を納得させたのはいいけども・・・・結局負けるのかよ!(笑)みたいな。

自分でも突っ込みどころ満載な展開ですが、こっからさらに突拍子なくなっていくかも・・・・。

今から読者様の反応が怖い・・・・(泣)

アハハ・・・・以上、言い訳でした。

以下は感想をお返しいたします。



ダンテさん>>>


楽しみにしてくださるのはとても嬉しいです。

逆にこんなんでいいんだろうかと申し訳なくなってきたり(笑)

やはり更新がまばらですが、これからもよろしくです~。



いくらさん>>>


た、確かにその通りだ・・・・!

なのはwikiにて確認して参りました。

このクロノの思考はおかしいですね・・・・申し訳ない、作者が勉強不足だったようです・・・・。

すぐに直します!

クローンだから嫌い、というつもりではないです~。

ただ自分と同じ顔の人間に剣を向けたり向けられたりするのは、やはり躊躇いや生理的嫌悪感が付きまとうのか、と。

経験したことないからわからないんですけど、そんな感じです(汗)

ご都合主義だけは私としても避けたいところです・・・・力不足を痛感しているところではありますが頑張ります!



エンさん>>>


ありがとうございます~。

こんな無茶苦茶な展開ですが、最後まで頑張ります!



本城さん>>>


主人公復活です。

これもどうなのよー・・・・と思ったのですがこれが限界でした・・・。

やっぱり難しいです。

かたや復活した思われたフェイトさんは次回が心配です。

黒騎士さんについては悩みます・・・・なんか主人公よりも人気ありあそうで扱いが非常に難しいです(笑)

どうにかします!




本日はこの辺で。

でわでわ。


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