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[9087] Fate/Monster Hunter【ネタ・サーヴァント達のモンハンプレイ】 七話分開始
Name: ロボ2号◆20e538c7 ID:ab7b2f81
Date: 2010/01/19 18:24
よくあるFate二次創作です。
気をつけてはいますが、キャラ崩壊注意。

謎の時系列にて、サーヴァント達がモンハンに興じるというお話。
登場予定は五名ほど。……嘘、ガンガン増えそう。
あれだ、これだ、ご意見ご感想お待ちしています



[9087] 序章:サーヴァントだってヒマなときはヒマだ
Name: ロボ2号◆20e538c7 ID:ab7b2f81
Date: 2009/05/26 14:29
 ――夜半の教会。
 12時を回ったばかりの礼拝堂には、人が殆どいなかった。
 シンと静まり返った神秘的な空間は、針を思わせる程に研ぎ澄まされている。
 ある種の、魔界。本来、神の住まう場所である筈の教会は、そう形容できた。
 それは、今時分の成せる業か、それとも――

「……ち、やりやがる」

 そんな教会の礼拝堂に、一人の男が座っていた。
 ウェイターが着用するような衣服を身に纏い、青い髪を逆立て、銀のピアスを片耳にだけ着けた、美丈夫。
 先に述べた教会の雰囲気の中にいるそれは、またある種の神秘さを纏っていた。
 それは絵画のような、もしくは良く出来た銅像のような、人ならざる神秘。
 それもその筈、彼はかの有名な英雄、光の皇子クー・フーリンその人だからだ。
 神の血を継いだ彼は、人間の姿をとりながらも、人間には出せない美しさを保持している。
 そんな彼がこの美しい魔界に存在しているのだ。絵にならぬ筈が無い。

 ――その手に持っているモノを、視界に納めなければ。

 クー・フーリンの手にはあるモノが握られていた。
 青く輝く、独特の材質で出来た、手の平サイズの物体。
 楕円に近い平面をとり、中央部には絵を写す液晶がはめ込まれている――
 ……所謂、PSPというモノであった。

「……そらぁ!」

 クー・フーリン――今は、ランサーと呼ばれている――が声をあげ、○の描かれたボタンと△の描かれたボタンを押す。
 画面に映った小さき人は、槍を構えて龍へと突進していく。
 愚直なまでに真っ直ぐと向かった槍兵は、あらかじめ定まっていたかのように、赤い龍を突き刺した。
 刹那、龍が断末魔の叫びを上げ、画面に文字が現れる。

 ――目標を達成しました、と。

 そう、クー・フーリンことランサーは――
 モンスターハンターポータブル2ndGと呼ばれるゲームをプレイしていたのだ。
 ぶっちゃけ、こうなると神秘さもクソも無かったりした。

「どうだ、見たかぁ!」

 ランサーは大きく声をあげ、PSPと己が視線を上げる。
 その声は、誰が聞いても喜びを感じ取るに十分なものだった。

 アイルランドの光の皇子が、楽しそうにゲームをプレイする。
 なんだか、幻想をぶっ殺されそうな、みもふたも無い光景であった。

「~♪」

 だが、ランサーはそんな事はお構いなしに、再びPSPと視線を下げた。
 討伐後にする事といったら、コレしかないだろう?
 彼の背中がそう語っていた。
 ランサーは、作業に没頭している。
 故に、後から近づく影に気付かなかったのは、仕方が無いだろう。

「……おい、ランサー。
 何をしているのだ?」

 一人の青年が、ランサーに呼びかける。
 美しい金髪に、黒のライダースーツを着込んだ、美しい青年。
 その美しさはランサーに勝るとも劣らない。
 ランサーがクー・フーリンであるように。この青年の名は、かの有名な英雄王ギルガメッシュといった。

 耐性の無い者が聞けば、卒倒しかねないカリスマに満ちた声。
 1000人がいれば、1000人が振り返るほどの圧倒的な威厳――

 それでもランサーは彼の声に気がつかない。
 英雄なのに、と言うべきか。英雄だからこそ、というべきか。
 ランサーは龍の亡骸の上にキャラクターを移動させ、ひたすらに○ボタンを押していた。
 ギルガメッシュの額に、青筋が浮き上がる。

「――無礼者! 我が呼びかけているのに、無視をするとは何事か!」

 激昂しているのだろう、射殺さんばかりの視線をランサーへと投げかける。
 プライドの高い――いや、プライドの塊であるような彼にとって、無視されると言うのはあってはならないことなのだろう。
 しかし、ランサーも叫ばれた事によってギルガメッシュに気付いたようだ。
 視線をギルガメッシュへと向ける。

「お、いたのか。
 悪い悪い。ちょいとこっちに夢中になっちまってな」

 悪びれる様子も無く笑うランサーに呆れつつ、一応は謝られた事によって機嫌を少し戻したギルガメッシュが、PSPを覗き込む。
 そこには突撃槍を携えた戦士が映っている。
 不機嫌を興味が上回ったのだろう。
 元の不遜な態度を取り戻したギルガメッシュが、ランサーへと言葉を投げる。

「……ふん、わかればいいのだ。
 ところで、ソレは何だ? 見たことも無い機械だが」

 腕を組み、視線でPSPを指す。
 ランサーは一瞬だけ何かを考え、あぁコレか、と呟いた。

「ガキ共と遊んでるワリには、結構疎いのな。
 PSP……あー、ソフトの方が有名か?
 モンスターハンターってんだよ、新作な。まぁ、玩具みたいなモンだ」

 青く輝くPSPをひらひらとさせながら、ランサーは答える。
 興味ありげにソレを覗き込むギルガメッシュだが――
 やがて興味をなくしたのか、礼も言わずに振り返る。

「ふん、くだらん。
 英雄がおもちゃ遊びか」

 若干の嘲笑が含められた言葉。
 英雄が放つとはいえ、英雄に向ける言葉ではないが――
 ランサーは気にした様子も無く笑っている。よほど機嫌が良いのだろう。

「まぁ、お前ならそう言うと思ったけどな。
 ほれ、もう用は済んだろ? 行くならとっとと行きな」

 しっし、と腕をふるうランサー。
 ギルガメッシュの機嫌を損ねるには十分すぎる仕草だが――
 今まさに激昂せんとするギルガメッシュにすら、ランサーが溢れんばかりの機嫌のよさを振りまいていることは理解できる。
 牙を抜かれたような気分になったギルガメッシュは、何も言わずに礼拝堂を後にし、自室へと向かう。

 わずかな明かりが照らす通路を歩きつつ、ギルガメッシュは呟いた。

「……PSP。
 モンスターハンター、か。
 おい、言峰! いるのだろう!」

 英雄が、夢中になる玩具。
 久々に宝物庫に加わるかも知れぬナニカに期待を抱きつつ、ギルガメッシュは通路を歩いていった……








「全く、何を言い出すかと思えば……
 かの英雄王が、ゲームとはな」

 黒衣に身を包んだ大柄な男性が、若干の呆れ顔で呟いた。
 その言葉は隣にいる金髪の青年、ギルガメッシュへと向けられている。

 ――ここは、言峰教会の中に位置する、言峰綺礼の自室。
 狭いとも広いとも言えぬそんな部屋に、二人は集まっていた。
 豪華絢爛な金髪と、ある意味枯れているとも言える黒髪の二人組み。
 見るものが見れば、まず違和感は感じるであろう組み合わせだ。

「何、ただの暇潰しよ。
 ランサーの奴が熱を上げている玩具が、どれほどのモノか気になっただけだ」

 長方形の箱の梱包を解きつつ、ギルガメッシュが言う。
 視線は、長方形の箱に描かれた黒い獣へと注がれている。
 呆れを隠すことなく、言峰はギルガメッシュを見ていた。ギルガメッシュの金髪の様な金色のPSPを、趣味が悪いと思いつつ。

「良し、開いたぞ。
 ……ふむ。コレをこの中に入れるのだな……おぉ!」

 なんだかんだで子供のようにはしゃぐ英雄王を見て、呆れの色を強めつつ言峰は溜息を吐いた。
 ――快・不快のチャンネルがズレた彼にとって、ギルガメッシュの仕草は、見ていて気持ちの良いものではない。
 やれやれ――と、言峰は部屋を後にしようとする。

 そんな時だった。

「おい、言峰。どこへ行く。
 疾く我をサポートせぬか。なにせ、右も左も分からぬでな」

 ギルガメッシュが、視線を動かすことなく言峰を呼びつけた。
 言峰は視線を動かし、モンスターハンターの箱へと移す。

「説明書が入っていただろう。
 新品が良いと言ったのは誰だ」

 もはや呆れを隠すこともせず、言峰は嫌そうに呟いた。
 ギルガメッシュは「何を言っているのだ」と言わんばかりの表情で、言峰を睨み付ける。
 
「ふん、愚問だな。
 我にそんな物が必要あると思うのか?
 貴様はそれほど愚かでもないと思っていたのだがな」

 暴君、健在。
 言峰は「必要あるから私を呼び止めたのだろう……」と呟きつつ、結局は部屋の中へと踵を返していった。
 その背中は、酷く哀愁に溢れたものであったことを記しておこう。

「我は適当に進めて行く。
 言峰、お前は我が進むにつれて生まれた疑問に答えれば良い」
「……私もお前と同じ程度には分からんぞ。
 それこそ右も左も分からん」

 やや不機嫌そうに、言峰は後手に腕を組む。
 言峰の言葉を受け、ギルガメッシュは表情を変える。
 ――それこそ、「きょとん」と言った具合だ。

「貴様は先程から何なのだ。
 あまり我を失望させるな。
 なんの為の説明書だというのだ!」

 理不尽に怒るギルガメッシュ。
 もはや、不条理を感じざるを得ない。
 確かにサーヴァントは人間から見て不条理の塊の様なモノだが……

「了解した。
 地獄へ落ちろ、英雄王」

 結局、これ以上何を言っても無駄だと判断した言峰は、しぶしぶながらギルガメッシュの戯れに付き合うのであった。




[9087] 第一話 きっと誰もが一度は思う、仕様です
Name: ロボ2号◆20e538c7 ID:ab7b2f81
Date: 2009/05/29 18:25
 一人の青年が、座っていた。
 整った顔に青髪。大柄とも言える高身長を持った青年――ランサーだ。
 着ている服は普通のエプロンであり、家庭的からは離れた外見のランサーには、似合うとは言いがたい。
 ――否、ある意味非常に似合っているのだが……それで良いのか、英霊。

 兎も角、彼は上機嫌だった。
 理由は色々あるが、その中でも最新のモノがランサーの隣にあった。
 
 色取り取りの花が咲き乱れる、花壇。
 計算された種の蒔き方により、花は黄色い下地に、赤い一本線を描いていた。
 彼の愛槍、ゲイボルクを模した模様であった。
 予想よりも出来が良く咲いたので、彼は上機嫌だったというわけだ。

 が、直後に少しだけ機嫌は損なわれることになる。

「ランサー! ランサーは居るか!
 収獲の時ぞ!」

 花壇の前で物騒な事をのたまいながら、ずんずんと進んでくる金髪が見えたからだ。
 言うまでも無く、ギルガメッシュであった。

「……なんだよ、なんか用か?」

 不機嫌を隠すこともせず、ランサーはギルガメッシュへとジト目を向ける。
 ギルガメッシュで言う「不敬」であるが、ギルガメッシュの表情は尊大な笑顔のままだ。
 嫌な予感がしなくも無いが――

「ふ、我は言ったぞ? 収獲の時、とな」

 腕を組み、ギルガメッシュはその尊大な態度を更に強める。
 一瞬なんの事か分からなかったランサーだが――
 ふと、自分の隣を見て、ゲイボルクを構えた。

「……花壇に手ェ出すってんなら、容赦しねぇぞ」

 意外と花壇にかける情熱は熱いものだったようで、ランサーが戦闘態勢に入る。
 二人が本気で戦えば、花壇どころか教会も危ないということは、失念しているようだ。

「ふむ……まぁ、それも良いのだがな。
 今日は別の用件だ」

 聞き捨てならぬ言葉を聴きつつも、ギルガメッシュに花壇を荒らす意思が無いことを確認し、ランサーは槍をその手から消した。
 戦闘態勢が解かれ、緊迫した空気が戻っていく。
 何かに疲れたのか、ランサーが大きく溜息を吐く。

「……はぁ。
 んじゃ、なんだってんだ。
 コレでも趣味で忙しいんだぜ、俺は」
「趣味、趣味か。
 ならば何の問題もあるまい。
 我がお前を誘った理由は、まさにお前の趣味の事で用があったからだ」
「……? 言ってる意味が、わからねぇな」

 疑問を浮かべるランサーとは対照的に、自信満々のギルガメッシュ。
 花壇の前に居る美青年二人、と書くとあらぬ誤解が起こりそうだが――
 この空気は、そんなモノとは無縁だった。

 なにせ、自信満々のギルガメッシュの懐から取り出されたのは――
 趣味の悪い、金色のPSPだったのだから。

「……PSP?」

 思わず、ソレの固有名称を口に出すランサー。
 無理もあるまい。
 ある意味、ソレから一番遠いところに居ると思っていた男が、PSPを取り出したのだから。

「お前、それ如何したんだよ」

 次いで、ランサーは疑問を口にする。
 如何した、の中には入手経路・入手動機・ソレを持って何をするか、が含まれている。

 ランサーの疑問に対し、ギルガメッシュは何かをかみ締めるように目を閉じた。

「ふ、如何もこうもあるまい。
 先日、言峰を連れて買いに行ったまで」
「……そりゃあ、また急だな」
「思い立ったが吉日、とは良くぞ言ったものよな。
 なに、少し興味を引かれたのだ。
 英雄が夢中になる玩具が、どれほどの物か、な」

 くつくつと喉を鳴らすギルガメッシュ。
 サマにはなっているが、ソレがゲーム関連のことだと思うと少し情けなくなるランサーだった。

「んで、本題の方は何なんだ?
 まさか俺でも持ってるようなモンを、ただ見せびらかしに来たワケでもねぇだろ?
 『限定版だ、いいだろ』とかはナシな」

 相変わらずジト目を向けるランサー。
 何故だか勝ち誇るギルガメッシュ。
 非常に可笑しな図であった。

「何、貴様の言っていたゲームとやらを買って、言峰に説明書を読ませていたら面白いことが分かってな。
 このモンスターハンター? だったか。どうやら共闘が出来る様ではないか。
 身近に居て、且つコレを所持する者と言ったらお前くらいしか思い浮かばなかったものでな。
 お前を我を守る騎士に任命してやろうと思い立って、わざわざ足を運んでやったのだ。感謝しろ」

 得意げに言い終わったギルガメッシュは、再び喉を鳴らす。
 ランサーはというと、半ば呆れ顔だった。
 とはいえど……。ランサーは、目を瞑って考える。

 ランサーは、モンスターハンターをそこそこプレイしていた。
 ゲーム内での階級を表す「ハンターランク」というモノで言えば、9のうち8に位置する。無論、高い方が高等なハンターだ。
 8といえば、一日二日で到達できる等級ではなく、大体脱・初心者と言える頃合だろうか。
 しかし、だ。
 ランサーは、そこに至るまでモンスターハンター(以下、モンハン)の最大の楽しみとも言える「マルチプレイ」を経験したことが無かったのだ。
 マルチプレイとは、先にギルガメッシュのあげた『共闘』のことである。
 プレイヤー達で協力し、大きなモンスターを討伐する――ソレこそが、モンハンの醍醐味なのである。

 言い方はギルガメッシュらしく、気持ちのいいものではなかったが、コレは紛れも無い「お誘い」であった。
 マルチプレイもやってみてぇなぁ、なんて考えていたランサーにとっては、渡りに船である。
 ほぼ一瞬で、異常の思考を完遂し、ランサーは目を開く。
  
「……まぁ、俺もマルチプレイしてみたかったしな。
 いいぜ、せいぜい守ってやらぁ」

 一応、ギルガメッシュに比べればランサーは上級者と言えるだろう。
 初心者とのプレイだと思えば、守るというのはなんら可笑しくは無い。
 ただ――

「無礼者! 我を守ってやるとは何事か!
 お前風情の力、我は必要とはせん!」

 ギルガメッシュ自体が、大分可笑しかった。
 コレってアレか、ツンデレとか言う奴なのか……
 ランサーは予想の出来ないギルガメッシュの思考に、初めて眼の前の青年に対し若干の恐怖を覚えた。

「OK、せいぜい頼りにさせてもらうわ」

 眉間を押さえつつ、ランサーは声を絞り出す。
 ギルガメッシュは「うむ!」と胸を張っている。
 大丈夫なんだろうか、コレ。

 しかし、ランサーの頭には、ある考えがあった。
 ソレは――

 強力な装備を持つ自分が、下位のクエストに行けば、「強敵と戦う」という楽しみが殺されてしまうということだ。
 今、ランサーが下位のクエストを受注すれば、ギルガメッシュがよほど足を引っ張らない限りは圧勝してしまうだろう。
 それでは、ダメなのだ。
 強敵と戦い、時には完敗し、自らを練り上げてリベンジを挑む――
 コレこそ、モンハンにおけるシングル・マルチ共通の楽しみ方なのだ。
 故に、今自分がギルガメッシュについていったところで、自分もギルガメッシュもモンハンの楽しさを感じることは出来ないだろう。

 ランサーは、ここに決意を固める――

 ある意味廃人の証となる、セカンドキャラの作成を――!

「よし、ランサー。
 そうと決まれば早速狩りに出かけようではないか!」

 ……などと、自分の考えに浸っていると、珍しくにこやかなギルガメッシュがPSPを掲げていた。
 近所の子供達のほうが、まだ大人っぽい。
 ランサーは、不安を覚えつつ、ギルガメッシュを諭す。

「その事なんだがよ、ちぃとばかし待ってくれねぇか?
 お前に合わせて、新しくデータを作ろうと思ったんだが」

 なるべく当たり障りの無いように、ランサーは提案した。
 が、ギルガメッシュはソレさえも気に入らないようで、凄まじい勢いで青筋を量産していく。
 コレは不味い、とランサーは判断。
 ギルガメッシュが言葉を発する前に続きをつむぐ。

「あー……いや、ホラ。
 このまま始めてもよ、装備の関係で俺のデータの方がずっと強いんだわ。
 それってなんとなく嫌じゃねぇか?」
「……む」

 敢えて、彼の自尊心に触れるように説得する。
 プライドの高い彼への効果はてきめんのようで、釣り上がったギルガメッシュの眉が段々と下がっていく。

「お前、そういうの嫌だろ?
 だからスタート時点なら共に最低水準だし、丁度いいんじゃねぇか、と思ったんだよ」

 ポーカーフェイスを保つランサーの説得に、ギルガメッシュの眉が標準に戻る。
 なにやら色々考えているようで、ギルガメッシュの顔は七変化を行っていた。
 やがて、彼なりの答えを出したのか、釣り下がった眉でギルガメッシュは答えた。

「……よい。
 我を待たせることを許す、ランサー」

 なんとか英雄王の機嫌をとる事に成功し、胸をなでおろすランサー。
 別に、ランサーは戦闘になってもそれはそれで良かったのだが――
 折角出来るマルチプレイの相手が居なくなる。それだけは、避けねばならなかった。

 ――ここに、とても英雄とは思えない二人による、最強のタッグが結成された。
 





 所変わり、ここは教会内の礼拝堂。
 昼間だというのに人は一人もおらず、夜半と同じ静寂に包まれている。
 それでも、何故だか明るい印象を受けるのは、わずかに差し込む太陽の光の所為なのか――
 
 と、状況の説明は以上。
 例によってダメサーヴァント二人組みが屯しているので、神秘的な雰囲気等はとっくに崩壊していた。
 ランサーは既に定位置となったコンセントの前を陣取り、PSPの電源を入れる。
 白い画面に映る、PSPの三文字が美しい。人の娯楽にかける情熱は凄まじいモノだと言うことを思い知らされる。

 ランサーは、やがて映るPSPのホーム画面、XMB(クロスメディアバー)を操作し、モンスターハンターを起動する。
 読み込みは少し長いが、この後を考えれば苦は感じない。
 ……まぁ、感じる人もいるのだが。

「……ただ待っているのは暇だ。
 故に、我も新しくキャラクターを作ることにした」

 こういうダメ英雄王とか、うっかり英雄王とか、金ぴかがその良い例だ。
 ランサーは苦笑しつつ、キャラクターの外見を決めていく。
 外見に拘らない性質なのか、ランサーは手際よくキャラクターの外見を決定した。
 次いで、カーソルを上へと戻し、名前を入力する。

「……ほう、Setanta、か。
 成る程、な」

 いつの間にか画面を覗き込んでいたギルガメッシュが、愉快そうに声を漏らした。

「まぁ、いつまでもHunterじゃ味気ねぇからな」

 屈託の無い笑顔を作る。
 なんだかんだで、彼はキャラメイクを楽しんでいた。

「真名を明かすのは愚行と言えるかもしれんが……
 この冬木の空気では、ソレぐらいが丁度よいのかも知れぬな。
 ……よし」

 ギルガメッシュも、何かを思い立ったのか名前の入力を始める。
 英字を入れる作業に没頭していたのだろう、ほくそえむ様なランサーの笑みに、彼は気付かない。

「G……i……くっ、相も変わらず分かりづらいな」

 なれないうちは、PSPの文字入力というのは意外に分かりづらい。
 ギルガメッシュも例外ではないらしく、文字を入力するのに手間取っている。
 しかし愚痴るものの手は止めず、英字を入力していく――が。
 最後の九文字目で、ソレは起きてしまった。

「……? ぬっ……くっ……
 おのれ! 一体如何したというのだ!」

 突如、ギルガメッシュが叫ぶ。
 ランサーは相変わらず、ニヤニヤと微笑んでいる。

「くそ……! ランサー!
 お前、何か知っているな!?」

 そんなランサーの表情に気がつき、ギルガメッシュはランサーへと向き直る。
 ギルガメッシュの様子が可笑しいランサーは、口元を隠して笑う。

「ぷっ……くっくっく……!
 いやな、ギルガメッシュ。
 このゲーム、名前8文字までしか入んないんだわ」
「は……謀ったな! ランサー!」
「いやいや、俺は何も自分の名前を入れろとは言ってねぇぜ?
 いいじゃねぇか、ギルガメス。なんか可愛いじゃねぇか?」
「おのれ……! この屈辱、忘れぬぞ……!」

 ランサーは、必死にPSPを操作するギルガメッシュを尻目に、笑い続けている。
 本来の彼ならランサーに死刑を課しているかもしれないが……
 生活が長い分、冬木の空気に一番馴染んだのは彼なのかもしれない。

「くそ……カプ○ンめ……我に恥をかかせおって」

 結局、ギルガメッシュは名前を「Gill」に決定し、キャラクターを設定した。
 余談だが、二人とも訓練所・ムービーは飛ばした。

 さて、コレより始まるは珍妙な二人組みの狩猟生活。
 憤怒と歓喜、絶叫に満ち溢れたハンターライフを、彼らはまだ知るよしも無い。



[9087] 第二話 ドスギアノス急襲。と、将来を憂うランサー
Name: ロボ2号◆20e538c7 ID:ab7b2f81
Date: 2009/05/27 20:15


 クエストの準備中です。
 ドスギアノス急襲
 クエストを開始します。

 流れるように、読みやすい長さの文章が移り変わってゆく。
 PSPを覗き込む二人のダメ英霊の間に、緊張の様なものが流れた。

 ――ドスギアノス急襲。
 集会場の依頼を進むハンター達が、最序盤にクリアするであろう、☆3クエスト。
 ☆の数は、難易度を意味していて、多いほどに高い。
 その中でも、ランサー達が受注したクエストは、下から三つ目のモノであった。

「そういえば、ギルガメッシュ。
 お前、このゲームはどれくらいやった?」

 視線を動かさないまま、ランサーはギルガメッシュに問いかける。
 相手の目を見ずに会話する、というのは失礼に当たるのかもしれないが、PSPをプレイしている際にはむしろ基本形である。
 ランサーの問いかけに、ギルガメッシュもまた顔を動かさずに答える。

「訓練所とやらを終わらせた程度だ。
 基本操作はマスターした、と思って構わん」

「(マスター、ねぇ……)……成る程な。
 んで、訓練で使った片手剣を使ってるわけか?」

「否だ。
 我に合いそうな、武器がコレくらいしかなかったものでな。
 なんだ、ハンマーとか狩猟笛とは。美が無い!」

 少し長めなロード時間を、会話して過ごすランサー達。
 話に聞くマルチプレイから推察するに、ランサーが抱くギルガメッシュのイメージは「大剣で勇者様」であった事を考えると、少し意外であった。
 一方で、片手剣は使いやすいし良い武器を選んだな、とも思う。

 少しばかりの逡巡を終えると、画面が切り替わる。
 夜の月に照らされる雪山が見える。
 ――始まった。

「まぁ、余裕が出来たら色々な武器を使ってみるのもアリだろうさ。
 と、いうか。お前一応アーチャーじゃなかったか?
 おっと、支給品忘れんなよ」

 会話を続けつつ、エリアの出口に向かってもうダッシュするギルガメッシュに釘を刺す。
 序盤は何かと金欠に悩まされるゆえに、支給品の回復アイテムは貴重なのだ。

「ぐ、分かっておる。
 ……我がアーチャーではないか? との事だが……
 ソレを言うならば、あのフェイカーもそうであろうよ」

 苦々しげに呟くギルガメッシュを、眼球の動きだけで一見する。
 その後赤い弓兵の姿を思い出し、確かにと小さく呟くと、ランサーは支給品をあさる。
 ギルガメッシュが初心者であることを考え、自分のポーチへと移すものは最小限だ。

 応急薬×1
 携帯食料×1
 携帯砥石×1
 ペイントボール×1
 解氷剤×1
 ホットドリンク×2
 以上が内訳である。

「支給品も久しぶりだな……」

 上位以降での狩りが長いため、思わず呟くランサー。
 自分に向けられた言葉では無いと知りつつ、興味を示したギルガメッシュは疑問を口にする。

「どういうことだ?」

「ん、あー。
 ゲームが進んで上位クエストってのを受けられるようになるとな、支給品が届くまでに時間がかかるんだわ。
 つっても、1、2分で来るときもありゃ終わるまでこねぇ時もある。
 要するに、アテに出来なくなるんだな」

「な……職務怠慢ではないか。
 敵が強くなれば成る程、救援物資を送らぬとは、なんという組織だ」

 思わず、不条理を訴えるギルガメッシュ。
 確かに考えれば可笑しな話ではあるが……
 まぁ、その辺りはゲームの世界独特のいい加減さに依る物なのだろう。

「ソレは俺も思ったな。
 大方その強くなった敵が厄介で、物資が運べない、とかじゃあねぇのか?」

「ふむ……ソレならば理解できぬことも無いか。
 細かい事は置いておいた方が良いな……と、ホットドリンクとやらを飲まねば」

 キャラクターを洞窟の前まで動かしたギルガメッシュが、ふと立ち止まる。

「おぉ、ちゃんと訓練終わらせたんだな」

「……お前、我をどのように思っているのだ?」

 訓練等、まどろっこしい物は全部すっ飛ばしそうなギルガメッシュが、きちんと訓練を受けていたことに驚くランサー。
 ギルガメッシュは、やや機嫌を落とし、ジト目を向ける。

 ロード時間の関係か、一拍遅れて洞窟の前へと到達したランサーも、ホットドリンクを使用した。

「分かってるとは思うが、一々雑魚を相手にしていたら時間がかかるからな。
 序盤はそれでも良いかもしれねぇが……まぁ雑魚の素材が欲しけりゃ、素材クエにでも行った方が早いだろう」

「ふん、元より雑種程度に向ける刃など用意しておらぬわ。
 それよりも疾く、ドスギアノスとやらを刈り取ってやろうぞ」

 冷静を装うギルガメッシュだが、はしゃいでいるのは誰が見ても分かってしまうだろう。
 子供のように目を輝かせるギルガメッシュを見て、ランサーは苦笑した。
 本当に今更ではあるが、子供ギルの方がよっぽど大人っぽい。

「あせらなくても、次のエリアには出るさ」

 GillとSetantaは、歩調を合わせながらガウシカの群れをスルーしていく。
 向かうは、洞窟の出口。
 洞窟を抜けると、そこは雪山だった。
 雪の積もった地面に、ガウシカの群れ。
 しかし、お目当てのドスギアノスは居なかった。

「どういうことだ、ランサー。
 居ないではないか」

 再び機嫌を落としていくギルガメッシュ。
 ランサーは、そんな彼を面倒くさい奴だな……と苦笑していた。

「いや、少し待てば来るさ。
 ドスギアノスはこの辺りのエリアをグルグル回ってんだ。
 どうしても、ってんなら追いかけてもいいんだが――」

「却下だ。
 下級モンスター、雑種に少々色がついた程度の者を、なぜ我直々に迎えねばならぬ?」

「……はぁ、だよな。
 だったら大人しく待とうや。
 ヒマだったら、採集するのもいいと思うぞ。
 俺はそうする」

「王の行動ではないが……
 折角の仮想現実だ。ここは郷に従うとしよう」 

 だったらドスギアノス追いかけてもいいじゃねぇか。
 ランサーは心中で呟いた。
 そこから先は、少しばかりの無言。
 採集中は何故か無口になる二人であった。

 しばしの平穏。
 雪山草を、薬草を。二人が摘んでいく。
 モンスターハンターどこ行った、と言いたくなる風景だが、コレも狩りの為には必要な事だった。

 が、そんな平穏も長くは続かない。
 画面に映る二人のキャラクターの横に、黄色いマークが現れる。

「来たみたいだぜ」

 ランサーは採集に夢中になるギルガメッシュを呼びつける。
 気がつけば音楽すら変わっているのに、暢気なものだ。
 エリアの入り口へと視線を送れば、一風変わったギアノスのような生物が雄たけびを上げていた。

「ん、おお。
 コレがドスギアノスか……
 ふむ、爪とトサカ以外はギアノスとそう変わらんな」

 ギルガメッシュは冷静に敵を観察する。
 確かに、ドスギアノスはギアノスのトサカと爪を伸ばし、一回り大きくしたような風貌をしている。
 中々良い観察ではあるが……ランサーはギルガメッシュの言葉に違和感を覚える。

「確かにそうだが……
 お前、訓練終わらせたんだったらコイツと一回やってるだろ?」

 そう、訓練の中にはドスギアノスの討伐も含まれているのだ。
 しかし、ギルガメッシュを見る限り、彼はコレがドスギアノスとの初邂逅だろう。
 だがまぁ、考えればすぐにたどり着くことである。

「うむ、飽きたのでな。
 我の一存で終わらせた。
 それがどうかしたか、ランサーよ」

 そう、彼の性格を考えれば。
 まともに訓練を終わらせた、なんて言うほど胡散臭い言葉は無かったのだ。

「……まぁ、んなこったろうとは思ったけどよ。
 んじゃ、一つ忠告しといてやらぁ。
 アイツが吐く雪に気をつけろよ」

「ふ、あんな雑種が吐く雪程度、この英雄王には通じん!」
「オィ、何故PSPを手放す」

 ギルガメッシュが目を閉じ、腕を組む。
 無論、PSPを置いて。
 初歩中の初歩とはいえ、ボスモンスターと対峙した際にとる行動ではない。

 故に――

「なっ!? 我の分身が雪達磨に!
 どういうことだ、ランサー!」

 ドスギアノスに雪を吐かれ、彼が無様な雪だるまへと変わってしまったのは必然と言えよう。

「いわんこっちゃない……
 さっさと解氷剤を使いな。
 このままじゃ、攻撃もアイテム使用もできねぇぞ」

「う、うむ。
 ……これか!」

 ギルガメッシュは、アイテム欄から解氷剤を選び、使用する。
 すると、どうだろう。Gillを縛っていた氷は一瞬にして砕け、Gillは手を天に掲げ、喜びを体現した――
 
「……素晴らしい! 一瞬で氷が砕け……アッー! 何をする雑種!」

 のだが、Gillが手を天に掲げた直後だった。
 ランサーの足止めを逃れたドスギアノスが、再びGillに向かって雪を吐いたのだ。
 当然、Gillはまた雪達磨に逆戻りである。

「わりぃ、火力足らなくて足止め出来なかったわ。
 序盤は怯み値足んなくてなぁ。
 まぁアイテム使用の隙を付かれるなんて、モンハンじゃよくあることだし、割り切ったほうがいいぜ」

 通称、ハンターのKY行動。
 ランサーは真面目な声で言うが、ギルガメッシュの様子を見て笑いを堪えるのに必死だ。
 一応、大国の王たるギルガメッシュが、ランサーの笑いに気付かぬ筈が無い。
 ギルガメッシュは歯を食いしばり、叫ぶ。

「ぬぅぅ……良い!
 こうなれば、後は我一人で片付ける事で恥辱を晴らしてくれようぞ!
 良いな、ランサー!」

「……あ?
 あぁ、練習にゃ丁度いいかもな。
 んじゃ、俺はジャマにならないよう、隅っこで見てるわ」

「ふ……見せてやろうぞ、ドスギアノス!」

 キャラを移動させるランサーと、雑種呼称をやめるギルガメッシュ。
 彼が雑種という呼称をやめたのは、ドスギアノスを強敵と認識したからに他ならない。
 装備が初歩の初歩とはいえ、ドスギアノスに苦戦する英雄王に、ランサーは涙を禁じえなかった。

 だが、筋はいい物を持っているようだ。
 ギルガメッシュは、苛烈な勢いで攻めつつも、ドスギアノスの引っかき攻撃を巧みにかわしていく。

「おお、中々上手いじゃねぇか」

 初心者ながらに中々良い動きを見せるギルガメッシュを見て、素直に感嘆を漏らすランサー。
 だが、ランサーは気付いていない。

「何!? フフ、ハハハハハ!
 そうであろうランサーよ! ようやくお前にも我の……うおぉ!? またもや雪達磨に!
 おのれ、ドスギアノスゥゥゥゥゥッ!」

 目を瞑り、高笑いをするギルガメッシュは、再び雪だるまの洗礼を受ける。
 ……そう、ランサーは彼の「スキル:うっかりEX」を失念していたのだ。

「く……疾く解氷剤を……無い!?
 た、助けろランサー!」

 そして、彼の持ってきた解氷剤は、二つ。
 雪だるまは、三回目。
 雪だるまを解くには攻撃を食らうか、走り回るしかない。

「しゃあねぇ奴だな……
 待ってろ、今ドスギアノスを――」

「ならん! 奴は、この我が倒す!」

「……」

 意地を張る英雄王に、思わず溜息を漏らす。
 ランサーは、再びしゃあねぇな、と呟き――

「動くなよー」

 Gill目がけ、突進を開始した。
 ランスの△+○である。
 先述したとおり、雪だるま状態は攻撃を受ければ解ける。
 たとえ、それが味方によるノーダメージ攻撃だったとしてもだ。
 
「な……!?」

 そして、攻撃はGillに的中。
 Gillは、無様に転げまわる。
 対価として、己に付着した雪を落としつつ。

「我に刃を向けるとは、どういう心積もりだ、ランサー!」

「いや、解氷剤が無いような状況だとコレしかないんだわ。
 でも、雪は解けたしダメージはないだろ?」

「……む? おぉ! 我を縛る雪が砕けている!
 良くやった、ランサー。褒めてつかわすぞ!」

「そりゃどうも」

 素直な笑顔で、感謝を表明するギルガメッシュ。
 そんな感謝を受けたランサーは、笑っていた。黒い笑顔で。
 察しの良い方はお気づきだろう。
 確かに、雪だるまは攻撃を受ければ解けるが――
 別に、ダウンするほど強力な攻撃でなくても解ける。蹴り位の小さな攻撃でも良い。
 それでもランサーが槍による突進を選択したのは――
 茶目っ気と腹いせ。この二点に尽きる。

 兎も角、ランサーは再び高台の上へと昇り、戦いを観察し始めた。
 戦闘の途中、ギルガメッシュが雪を回避したのを見て、舌打ちをしたのは彼だけの秘密。

「む……何!? 我から逃げるか、ドスギアノス!」

 戦闘は進み、ギルガメッシュが押し始めた頃、ドスギアノスは体の向きを変え逃亡を始める。
 逃げたことに対し怒りを訴えるギルガメッシュに、ランサーは告げる。

「体力が少なくなったんだな。
 このまま追って、止めを刺すんだ。
 でないと、アイツは回復していくぜ」

「何だと……ええい、追うのは性に合わんが……
 付いて来い、ランサー!」

「ヘイヘイ、っと」

 別に、ランサーは付いてこなくてもなんら問題は無いのだが……
 序盤ではドスギアノスの素材も貴重だ。
 素材が欲しいランサーは、逆らうことなく付いて行った。

 二人そろってエリアを移動し、索敵を開始する。

「……む? 居ないではないか」

 ギルガメッシュが前を見て、一言。
 一拍遅れて入ってきたランサーが、言う。

「あぁ、こういう時は大抵――後だな」

「な――いつの間に後を!?」

 ランサーに言われ、あわてて後ろを向き、ドスギアノスの雪を回避するギルガメッシュ。
 移動したモンスターを追いかけていくと、割とよくある事なのだ。
 ランサーはそう説明した。

「……まぁ良い。
 決着の時ぞ! ドスギアノスっ!」

 一人勝手に最終決戦に挑むギルガメッシュ。
 相手がドスギアノスであると、哀愁を誘う。

 そして、決着の時は訪れる。

 ドスギアノスが、死力を尽くして飛び掛る。
 Gillはそれを防がず、横に回避することで凌ぐ。
 そして、無常な回転斬り(○ボタン)が行われ――

 ドスギアノスは、無様に吹き飛んだ。

「ふ、フフ、ハハハハハ!
 やったぞランサー! 我は遂に、成し遂げたのだ!」

 天高く右手を掲げ、勝利を叫ぶギルガメッシュ。
 最初のボスでこれかと思うと、後々を考えてランサーは泣きそうになった。
 まぁ、自分が居るから大丈夫だろう、多分。

 目標を達成しました。
 一分で村に帰ります。
 順番に、文字が現れる。
 この一分は長いといつも感じるが――

「おっと、ちゃんと忘れずに剥ぎ取れよ。
 ギアノス装備は結構強いからな」

「分かっておる分かっておる。
 くくく、強敵と出会うなど滅多に無いゆえ、なかなか楽しめたぞ」

 狩りの余韻で会話しつつ、素材を剥ぎ取るには丁度良い時間なのかもしれない。
 彼らは、仲良く――ドスギアノスの上に乗っかり、素材を刈り取り始めた――




おまけ:剥ぎ取り中にて

「おい、ランサーよ。
 このドスギアノスの頭と言うのは何だ?」
「おぉ、ドスギアノスのレア素材だな。
 序盤に入手できりゃ心強いが――
 って、手に入ったのか?」
「うむ。しかし、レア素材か。
 我の威光にあてられ、引き寄せられてきたというわけか」
「運の良い奴だぜ……たしか剥ぎ取りで2%だっけか?」
「お、もう一つ来た」
「ンだと!? 全く、コレも黄金率の影響か?
 ……あ、クソ。ギアノスの鱗来やがった」
「くくく、幸運の低いサーヴァントは苦労するな? ランサーよ」
「……なんか、納得いかねぇ」

 こんなやり取りがあったとさ。
 しかし、ギルガメッシュは気付いていない。
 黄金率の限界が、せいぜい巨大なくちばし程度だということに。

 モンハンの物欲センサーを突破するには、EX相当の神秘が必要なのだ。






[9087] 第三話 先生! お願いします!
Name: ロボ2号◆20e538c7 ID:ab7b2f81
Date: 2009/06/12 18:02
「おい、そっちはどうだ?」

 教会に、青く澄んだ声が響き渡る。
 昼の光が差し込む教会は――否、もはや皆まで言うまい。
 もはやおなじみといえるが、言峰教会礼拝堂にはダメサーヴァント二人組みが屯っていた。
 決まった時間に、決まったメンバーでモンハン。
 学校などでよく見られる社会現象は、冬木在住の英霊達にまで流行していた。
 手の汚れないお菓子などを持ち込み、その姿は学生となんら変わりない。

「……うむ。
 我の方はギアノスシリーズが揃うだけは溜まったぞ。
 そちらはどうだ? ランサー」

「……ちっ、ダメだ。
 後一つ、ギアノスの皮が足りねぇ」

「む、相変わらず幸の薄い男よ……
 良い。一つ恵んでやる故、集会所まで足を運べ」

「本当か? ……悪いな、序盤は割りと入用だってのに」

「構わん。お前に渡したところで、後三つは余るのでな」

「……この天然チートドロップ野郎め。
 まぁ、恩には着とくぜ」

「ふははは、今の我には挑発にすら聞こえんな」

 和気藹々と笑いあう二人のダメ英霊。
 つい一週間までの険悪な空気は二人の間に無く、彼らはどこからどう見ても仲良しであった。
 事実、モンハンを始めてからの三日で、互いの認識は友人一歩手前まで移行している。モンハン恐るべし、だ。

 集会場に集った二人は、相手のキャラクターのローディングを完了させるまで走り回る。特に意味は無いのだろうが、やった事がある人も大勢居ると思う。
 そしてローディングは完了し、Gillからアイテムが差し出される。

 アイテムを受け取ったことを示す文字が現れ、Setantaが片腕を上げるモーションをとる。

「ん、悪いな」

「良い良い。
 我は我が認めた者は、丁重に扱う事にしているのでな。
 せいぜい失望させてくれるなよ、ランサー」

「おう。
 ま、せいぜい期待に答える様にすらぁ」

 尊大な態度のギルガメッシュと、それを受け流すランサー。
 軽く笑いあい、二人は集会場を後にする。

 ――しばしの沈黙が流れる。
 GillとSetantaが個々のポッケ村へと戻り、各々の作業をしているのだ。
 やがて、再び集会所へと二人は集い、ランサーが言う。

「兎も角、コレでようやく揃ったな。
 ギアノス装備」

「うむ。
 ペアルックというのは少々気に入らんが……致し方有るまい」

 PSPに目を移せば、おそろいの装備に身を包んだGillとSetantaが集会所の椅子に座っていた。
 苦笑しつつ言うギルガメッシュだが、その言葉からは嫌気は感じない。

「序盤はどうしてもこうなりがちだから仕方ねぇな。
 んだが、この辺からどんどん個性が出るようになって来るぜ」

「それは楽しみだな。
 ……で? 集ったからには、何かを狩りに行くのだろう?」

 挑戦するような目つきで、ギルガメッシュが言う。
 ランサーもその視線を受け、ニヒルに笑う。

「察しが良いな。
 次に挑むのは初心者の壁――
 先生こと……イャンクックだ!」

 Setantaの名の横に、紙の様なマークが出ると同時に、ランサーは宣言する。
 イャンクックといえば、モンハンを触ったものなら一度はお世話になる「壁」のような存在だ。
 とはいえ、コレが初プレイのギルガメッシュは顔をしかめている。

「なんだ? イャンクックとは……」

 ランサーは目を瞑り、昔を懐かしむようにして語る。

「あぁ、イャンクックは恐らく一番最初に戦うであろう大型モンスターだ。
 人によっちゃ最初はババコンガとかダイミョウザザミかもしんねぇが、俺はコイツが最初だった。
 何故先生と呼ばれ、最初の大型モンスターに選ばれるかは、その『先生』という異名が全てを語っている」

 買っていた缶コーヒーを一口飲み、一拍を置くランサー。

「コイツの動きはな、後の飛竜種の動きの基本となっているんだ。
 突進、ブレス、尻尾……上げるとなると、そのくらいか」

「ふむ……成る程。
 つまり、練習台とも言うべき相手。
 最初に選ぶに相応しい敵というわけか」

 ギルガメッシュは不敵に笑う。
 それもそのはず。
 この三日で、彼はドスギアノスを一人で、簡単に討伐できるようになっていたからだ。
 要するに、初心者にありがちな無駄な自信がついてしまったのだ。

 それを見越したランサーは、ギルガメッシュに釘を刺す。

「あぁ……確かに練習台となる、基本のモンスターだ。
 だがな、決して油断するんじゃねぇぞ。
 ここから先の、大型に分類されるモンスターの強さは、ドスギアノスやドスランポスの比じゃあねぇ。
 舐めてると、早々に一死を貰うぜ」

「ふん! 我を誰だと思っている!
 我は英雄王、ギルガメッシュなるぞ!」

 ギルガメッシュが胸を張り、その自信を口にする。
 そんな彼を見たランサーは、もはやオトモとなっている不安の溜息を、静かに押し出した。

 なんやかんやで受注を終わらせ、クエストが開始される――
 そして、ギルガメッシュはこう呟いた。

「む、我は砥石を忘れたぞ、ランサー。
 よく見てみれば回復薬も少ししかない」

「――戻るぞ。
 はぁ、本当に大丈夫なのかよ……」

 二人は揃ってクエストリタイヤを選択し、まだ見ぬ強敵の前から逃げ去っていった――




 クエストの準備中です。
 怪鳥イャンクック襲来!
 クエストを開始します。

「ふむ……先程は直ぐに帰還したゆえ、気にも留めなかったが……
 この場所は初めて見るな。沼地、と言ったか?」

 ギルガメッシュはPSPの十字を押し、視線を回転させる。
 全体的にくすんだ灰色で構成された、雨の降る沼地――それが、彼らの現在地だった。
 支給品を取り出し始めたランサーは、考える。

「……そういやお前、雪山以外のマップは初めてか」

「ああ、そうだ。
 ……む? ランサー。この地図の位置に映る印はなんだ?」

 ランサーの問いかけに答えるギルガメッシュ。
 そのギルガメッシュは、言葉の途中で新たな問題を提議する。

 ギルガメッシュが指し示した印は、モンスターの位置を記す物だ。
 ギアノスシリーズを装備することにより、探知スキルが発動した故の事だった。

 ランサーはそれを簡潔に説明し、携帯食料を使用し始める。

「さっきはエリア8――一番上に居たが、多分俺達が着くまでには移動を開始するだろう。
 俺達はその隣、6番を目指すぞ」

「分かった。
 ふ……イャンクック。どれほどの物か、我が見定めてやろう」

 数秒遅れで携帯食料を使用し終えたギルガメッシュが、言う。

「では行くぞ、ランサー!
 イャンクックとやらを、我らが英雄叙事詩の1ページに加えてやろうぞ!」

「その意気込みはともかく……
 空回りしなきゃいいんだがなぁ……」

 コレだけ釘を刺しても油断をやめないギルガメッシュに、忠告しようとするが……
 たとえ忠告しようと、「慢心せずして何が王か!」と返ってくる事を理解しているランサーは、何も言わず移動を開始した――





「……お、居たな……」

 エリア6への移動を終えたランサーは、小さく呟いた。
 こちらに気付いていないボスの前では、何故か現実世界ですら忍んでしまうのはきっと彼だけではないはず。
 タッチの差で、ギルガメッシュもその巨体を視界に納める。

「アレが件の大怪鳥か……確かに、鳥というにはあまりにも大きいな」
 
 赤い甲殻に覆われたその体を見て、呟く。
 個々から先は、ドスギアノスに行うような、所謂「ごり押し」では通用し難い。

「さて、どう攻める? 英雄王さんよ」

 挑発的な口ぶりで、ランサーは呟いた。
 ランサーの言葉を受けたギルガメッシュは、不敵に笑う。

「どう攻める、だと?
 愚問よ、ランサー。
 我に有るのは、制圧討伐のみ!
 征くぞイャンクック!」

 ギルガメッシュがRボタンを押し、Gillはイャンクックへと駆ける。
 振りかぶるは、青い刀身を持つ片手剣、「スネークバイト」。
 黄金率があったからこそ短期間で作れた、序盤では強力な片手剣だ。

「その首、すり切ってくれようぞ!」

 そして、Gillはダッシュからのジャンプ斬りを見舞う。
 スネークバイトの刃が到達するか否かの所でイャンクックは二人の存在に気付く――
 だが、時は既に遅く、スネークバイトの一撃は、イャンクックの頭部へと吸い込まれた。

 それくらいで怯むイャンクックではないが、それでも良好なファーストアタックには違いない。
 勢いに乗ったGillは、ジャンプ斬りからの連続攻撃を叩き込んでいく。

「ふ、見たかランサー!」

 回避によってモーションの大きい攻撃の隙を消し、Gillは再び攻撃に移る。
 振り向きなどで小さなダメージは食らっているが、まだ問題はないレベルだ。
 だが、それを見たランサーは、苦々しい顔でその攻撃を評価する。

「頭を狙うのは中々だと褒めたいが……
 気を抜くには早いぜ。大型モンスターは、ドスギアノスなんかとは比べ物にならないくらい怯みにくい。
 あんまり、調子に乗ってっと――」

 突如、イャンクックの体がねじられる。
 その長い尻尾は、遠心力によりしなり、Gillに叩き込まれる――!

「おぶふ!?」

 予期せぬダメージに、ギルガメッシュは奇声を上げた。
 モンハンをやっていれば、良くあることである。
 苦笑いで、ランサーは言葉を続ける。
  
「手痛いダメージを食らう。
 大型モンスター戦の基本は、ヒット・アンド・アウェイだ。
 敵の攻撃の隙を見つけ、叩くのを心がけな。
 でねぇと、そんな感じに地面を転げまわることになるぜ」

 イャンクックの尻尾を食らい、地面を転がるGill。
 無様なその姿に、怒りを覚え顔を歪めるギルガメッシュだが――
 直後、その顔は驚愕に歪む事になる。

「な……!? なんだ、このダメージは!?」

 大型モンスターの洗礼、その1。
 中型クラスのボスとは比べ物にならない火力を、ギルガメッシュはその身で体験する。

 ドスギアノスの攻撃を食らっても、HPはそこまで大げさに減ることは無い。
 しかし、この一撃でGillのHPは、MAXの三分の一近く減ってしまったのだ。

「く……なんて一撃だ――!
 装備を整えていなければ、半分は持っていかれたやも知れぬ……!」

 その威力に、ギルガメッシュは歯噛みする。
 マフモフ装備のまま突っ込んでいたかもしれない、という自分を考え、若干の恐怖を覚える。
 先日の出来事になるが、ドスギアノスを倒して調子に乗ったギルガメッシュは、初期装備のままイャンクックに挑もうとしていたのだ。
 まぁ、ランサーに釘を刺され、そればかりは未然に防げたが――

 イャンクックは、Gillを飛ばした後もなお尻尾を振っている。
 攻め難い――ギルガメッシュは、ぎりと歯を噛み締める。
 そんな彼の様子を見てか、ランサーは快活な声でアドバイスをする。

「頭を狙うのは確かにいい――アイツの、弱点だからな。
 けど、最初のうちは無理をしないでアイツの左側をキープしろ。
 クックの尻尾は必ず左回りに振られるんでな。
 アイツの左をキープすりゃ、尻尾にぶっ叩かれる可能性も減る筈だぜ」

「成る程――! 良いぞ、ランサー!
 では早速、奴の左を――おぼふ!?」

 勢い良く飛び出したGillは、言われたとおり左を陣取り、攻撃を開始する。
 ただし、それは――「向かって左」であった。
 要するに、Gillはイャンクックの右を陣取ったのだ。

 あまりの理不尽に、ギルガメッシュは叫ぶ。

「ランサー! 話が違うぞ!」

 攻撃を再開し、早速元の位置に叩き戻されたGill。
 物事を自分中心で見る、ギルガメッシュらしいミスであった。

「お前……そっちは向かって左、だろうが……
 ――っと、あと一発食らえば死ぬな……おい、一旦エリア移動して回復して来い」

 ランサーが確認すれば、Gill残りHPはもはや風前の灯火となっている。
 それこそ、雑魚の一撃で死にかねない。
 ギルガメッシュは、ランサーの言葉をうけ、唸る。

「ぐぐ……ランサー! 我に引けというのか!?」

「一時撤退だよ。それくらい大国でもやるだろうが」

「く……言われればそうだが……」

 ここ三日、ギルガメッシュの扱いが上手くなってきたランサーは、なんとか移動を促す。
 ギルガメッシュはしぶしぶ、と言った形で移動を開始する。

「おのれイャンクック……! この屈辱、決して忘れぬぞ――!」

 それは、かつて某オレンジ髪の投影魔術師に向けたほどの憤怒の視線であった。
 ランサーはそんなギルガメッシュの様子に苦笑しつつ、イャンクックを付き続ける。
 ガードの後は見られる物の、ランサーはほぼノーダメージだった。
 ついばみを回避するため正面を外しつつ、突いては右ステップ――地味には見えるが、着実にダメージを与えていく。
 
 ランサーは過去、イャンクックに負けたことを思い出す。

「(思えば、俺も強くなったな……装備はあの頃と変わらないはず。
 それでも負ける気がしないのは、技術の向上か)」

 昔を懐かしみつつ、ただ突く。
 ――そんな瞬間だった。
 ランサーが、その文字を視認したのは。

 Gillが力尽きました。

「……あ?」

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。
 ギルガメッシュは確かに、エリア8へと移動した。
 そこにイャンクックは居ない。なぜなら、ランサーが今まさに戦っているからだ。
 それにも関わらず、Gillはキャンプへと送られていく。
 ワケが、分からない。

「おィィ!? なんでそっちで死ねるんだよ!?」

「猪が……ファンゴが我を……!
 何たる屈辱――! 砥石の最中を襲うとは、恥を知らぬか!」

 ああ、要するにこういうことだろう。ランサーは察する。
 イャンクックを斬ってて、切れ味が落ちていた片手剣を研いでいたら、ファンゴに襲われたと。
 先述のとおり、GillのHPは尽きかけていた……ゆえに、一発で昇天してしまった?
 
「だからって、死ぬか? 普通……」

 隣で大口を開けて震えているギルガメッシュを見て、ランサーは今日一番の溜息を吐いた――
 
 




「なんであの体力で先に砥石を使ったのかは不問にしといてやるが……
 今度は、大丈夫なんだろうな?」

 視線は向けず、イャンクックと戦っているままに、ランサーは言った。
 そんな彼の言葉を受け、ギルガメッシュは怒るでもなく腕を組んだ。

「ふ……フン! 我こそは王の中の王、ギルガメッシュなるぞ!
 あのような怪鳥ごときに、遅れをとる筈がなかろう!」

 冷や汗を垂らしながら紡がれる彼の言葉に、強がりを感じない者は居ないだろう。
 それくらい、ギルガメッシュの言葉には自信が無かった。
 対照的に、ランサーは快活な声で言う。

「まぁ、俺一人でも何とかなるから後ろに下がっててもいいぜ」

 と。
 ギルガメッシュは、その言葉に目を丸くする。

「嘘をつくな、ランサー!
 あのような化け物、貴様一人で何とかなるものか!」

 焦りを感じる声で、ギルガメッシュは叫ぶ。
 先程から騒がしい奴だな、とランサーは思う。
 それを裏付けるかのように、礼拝堂から言峰教会に続くドアの前には、なんとも形容しがたい表情の言峰が佇んでいた。
 言峰は、ギルガメッシュを睨んでいる。その表情からは「少し静かにしろ」という負のオーラをありありと感じた。

 が、ランサーは見てみぬフリをして、ギルガメッシュに言葉を返す。

「いいや、嘘じゃあねえさ。
 時間はかかるが、イャンクック程度なら一人でも倒せるぜ?
 まぁ、人が多いに越したことはないがな」

 飄々と言うランサーに、歯を食いしばるギルガメッシュ。
 そして目を見開き、凄まじい表情でランサー達を見る言峰。
 凄まじい光景である。

 ぐぬぬ、と唸った後、ギルガメッシュは叫んだ。

「……よかろう。
 我も後少しでそちらに到着するゆえ、前線で見てやろう。
 お前の戦いをな……!
 我を失望させるなよ、ランサー!」

 威勢良く、それでいて楽しそうな声であった。
 英雄王の声が響き渡り、教会の礼拝堂は昼間の広場を思わせる活気に包まれる。
 コレも、英雄王のカリスマがなせる技なのか――
 そして、凄まじい表情でランサー達を見る言峰。もはや哀れになってくる。

 一方Gillが不在の中、Setantaは英雄の名に恥じない活躍を見せていた。
 尻尾をかわし、只管に左足を突き続ける。
 やがて、ソレはやってきた。

 重なるダメージに耐え切れず、イャンクックは派手に転倒する。
 その好機を見逃さず、Setantaは槍の切っ先を、頭へと向ける!
 隙の少ない槍に依る、連続攻撃。
 見た目は地味でも、重ねればソレは、飛竜にすら死をもたらす鉄となる――!

「……よし! 耳壊したぜ!」

 死への手始めと言ったところか、襟巻きを思わせるイャンクックの耳が崩壊する。
 あちこちが破れ、裂け、立派にも見えたソレの面影はもはや無い。

「耳を壊した? ランサー、お前は一体何を言っ――
 うお、何ぞコレは」

 遅れてエリアに入ってきて、イャンクックの耳を確認するギルガメッシュ。
 一瞬の驚きを見せた後、高らかに笑う。

「ふ……ランサーの言葉に驚いてみれば、なんだその有様は!
 10年来の強敵かと思えば、所詮は鳥の類――かはっ!?」

 彼の笑いは、すなわち油断。
 言葉の最中で、Gillは突進によってそのHPを減らしていく。
 本日、三度目となる転倒だ。――否。ファンゴを含めれば四回目か。
 ランサーは、なんともいえない表情でコメントする。

「敵が自分だけを狙う分、一人のがマシかもな……
 おい、ギルガメッシュ! しゃあねぇ、シビレ罠を使うぞ!」

「し……シビレ罠? なんだ、ソレは」

「簡単に言えば、大型モンスターの動きを止めるアイテムだ。
 なるべく当てたい、一旦攻撃は中止だ! こっちに来い!」

「……本来ならば、我に命令するなと言ったところだが……
 お前の事だ。なにか考えあっての事であろう。
 ――良い、此度は従ってやろうぞ、ランサー!」

 言葉を交わし、微笑みあう二人の英霊。
 戦いの中に、遂に友情は芽生えていた。
 たとえソレがゲームによって育まれたモノであろうと、その友情は美しい。さりげなく近づいてきた、凄まじい表情の言峰が居なければ。

「よし、セット完了――! 来やがれ、イャンクック!」

 相も変わらず言峰をスルーし、ランサーが叫んだ。
 ソレと同時に、地面に稲妻の様なエフェクトを纏った装置が展開される。

 シビレ罠。素材を合わせれば三つまで持ち込める、強力なアイテム。
 序盤で考えると、少し値が張り、数も持ち込めないと言う手が出しにくいアイテム――
 しかし。その効果は非常に強力だ。何せ――

「く……ランサー! ヤツが此方に向かってくるぞ!
 本当に、大丈夫なのだろうな!?」

 イャンクックが、同じ場所に固まる二人のハンターを見て、突進を開始する。
 自らでも止まりきれない勢いのソレは、弱っているGillくらいなら確実に葬る。
 だが、それは起こらない。

 シビレ罠の上にイャンクックが乗った瞬間、イャンクックの動きが止まる。
 その仕草は余裕があるようには見えず、苦しそうだ。
 そう、シビレ罠の効果とは――大型モンスターの動きを、止めること。

「よっし、今だギルガメッシュ! 斬りまくれ!」

「成る程――! 良かろう。
 引導を渡してやるぞ、イャンクック!」

 二人の掛け合いで、一斉攻撃が開始される。
 それは、二人しか居ない筈の小さな戦争。
 しかしイャンクックの体から噴出す血液の量は、大戦争を想像させるに易い。

「よし、耳が閉じた! 後一歩だ!」

 やがて、凄まじい攻撃の中、遂にイャンクックは「弱る」。
 破れていて少しだけ分かりにくくはあるが、その立派な耳を畳んだ時こそ、イャンクックが弱ったと言う合図なのだ。

 だが、イャンクックもただで殺されるつもりは毛頭無い。
 怪鳥を拘束していたシビレ罠は遂に崩壊し、怪鳥が自由を取り戻す。
 しかし、イャンクックはGill達を攻撃する意思は見せず、脚を引き摺り歩き出す。

「不味いな、逃げるつもりか……!」

 ランサーが歯噛みする。
 別段、逃げてもたいした差は無いのだが――
 ハンターたるもの、やっぱりなんか逃がしたくない。

「おのれ――散々我をコケにして――」

 ギルガメッシュが、苦々しげにつぶやく。
 想うは、尻尾のこと。尻尾のこと。時々ファンゴのこと。
 頭が、怒りの赤い色に包まれる。
 そして――

「逃がすと、思うかぁ!」

 ランサーとギルガメッシュの声が、重なった。
 Setantaは槍を構え、Gillは逆に剣を仕舞う。
 正反対の動作をしながらも、二人はイャンクックに近づいていき――

 Setantaの突進が、イャンクックを突き刺す。
 そして、Gillの飛び掛り斬りが、イャンクックを転倒させる。

「今だ!」

 そう叫んだのはどちらか――白熱してるこの空気で、声の主は分からない。
 唯一つ分かるのは、言峰ではない事だけだった。

 二人の斬撃・刺突がもがくイャンクックを蹂躙していく。
 やがて、ソレは――

『目標を達成しました』

 イャンクックに、死を手向けた。

「や……やったのか?」

 恐慌状態が解けた兵士のように、ギルガメッシュはつぶやいた。
 隣に目を移せば、ランサーが笑っている。

 ――ギルガメッシュは、実感する。
 勝てるかどうか分からない敵を、あらゆる要素を持って打倒する。
 ソレが、モンスターハンターの醍醐味だと。
 人知れずギルガメッシュは微笑し、今はただランサーと喜びを分かち合った――

 結局、言峰は無視されたままであった。
 根が尽きたかの様に去っていく背中は、何よりも悲しいモノだった――





おまけ:踏み入れしモノたち




 薄暗い部屋に、その二人は居た。
 外はもう薄暗くなっていて、部屋の中を照らすのは、わずかな日の光とテレビの明かりだけとなっている。
 
「ねぇ、ライダー」

「何ですか、サクラ」

 二人とも、紫色の髪が特徴的な美女だった。
 それでも、外見に似通ったところは少ない。
 かたや、おっとりとしていそうな少女。かたや、美女と形容するしかない、目つきの鋭い女性。
 二人の手には、PS2のコントローラーが握られている。
 状況から察するに、二人でゲームをしているのだろう。

 そんな二人は、互いに目を合わせることも無くコントローラーを操作している。
 仲が悪いようには見えないが、二人とも目つきは鋭い。

「うん、エディは卑怯だと思うの」

 サクラと呼ばれた少女――間桐桜が、ポツリとつぶやく。
 テレビの画面には、目隠しをした黒尽くめの男性と、青髪の露出度が高い女性が映っている。
 ――所謂、格闘ゲームと言うヤツだ。
 桜が操作しているのは女性のほうで、ライダーが操作しているのは男性のほうだった。

「確かにエディは強キャラですが、ペットに比べればマシだと思いますよ」

 ライダーは、桜の言葉を気にする様子も無く、淡々と攻撃を繋げていく。
 途中で抜け出せない連続攻撃――コンボというヤツだ。
 左側の、青髪の女性の体力を現すゲージが、あっという間に半分ほど赤くなる。

 そして――
 
「あ」

 起き攻め。
 ダウンから復帰する際に訪れる、短い行動不能を突いた攻めが、青髪の女性を襲う。
 ほぼ同時に重ねられた中段と下段は、成すすべなく青髪の女性に突き刺さる。
 ――格闘ゲームには大きく分けて、しゃがんでいないとガードできない攻撃と、立っていないとガードできない攻撃がある。
 前者が下段、後者が中段と呼ばれるモノだ。
 ライダーの操る男性、エディはソレをほぼ同時に行うことが出来る。
 そこから導き出されるのは、擬似的な「ガード不能」と呼ばれる現象。
 読んで字の如く、ガードが出来ない事を指す状態もしくは技である。

 結局、何も出来ないまま青髪の女性は負けてしまった。
 対戦画面は、キャラクターセレクトへと戻る。

「ねえ、ライダー。ゲーム変えない?」

 うつむいたまま、桜はプレイするゲームの変更を促す。
 ライダーはそれに応じると、PS2からソフトを取り出し、箱へと仕舞う。

 テレビの下の台から、違うゲームを取り出し、PS2へとセットする。
 画面には、一世を風靡した漫画が原作のゲーム画面が映される。

「シングルバトルでいいよね?」

 桜は視線をライダーへと向けたまま、コントローラーを操作し、ゲームモードを選択する。
 ライダーは頷くことでソレに答えると、再びPS2のコントローラーを握った。

 そんな時だった。
 間桐家の長男、間桐慎二が現れたのは。

「さ……桜。そろそろテレビ変わってくれないかな?」

 ほんの一ヶ月前とは打って変わった弱気な態度で、慎二はつぶやく。
 桜もライダーも、その声を聞いてはいるが、無視をしていた。
 ちくしょおぉぉ、と叫びながら居間を後にする慎二を視界の端に収め、桜はほくそえむ。

 やがて、慎二が消えたのを確認すると、二人はキャラクターを選択し始めた。

「……サクラ。超4ゴジータは反則だと思いますが」

 ライダーが進言する。
 桜は、それを黒い笑顔で受け流し、言った。

「何? ライダーだって少年期超2悟飯使ってるじゃない。
 それに、ペットショップに比べればマシでしょう?」

「……いいでしょう、その勝負お受けします」

 ゲームをしながら、微笑む二人。
 だが、その間の空気はどこまでも黒く、暗いモノだった。

 試合は開始し、画面の中のキャラクターは忙しなく移動を開始する。
 
 ――試合展開は、一方的だった。
 先程とは打って変わって、ライダーは成す術が無い。
 お互い無言のまま勝負は続けられ、三戦ほどが終わった後に、桜はつぶやいた。

「対戦ゲームは、ダメだね」

 勿論、飛び切りの黒い笑顔である。怖い。
 だがライダーもなれたもので、冷静に返事を返す。

「ええ。私達はサーヴァントとマスターと言う関係ですから、争うのは好ましくありません。
 どうせなら、協力プレイが出来るゲームを探しませんか?」

 協力プレイかぁ……と桜はつぶやき、何かを考える仕草を行う。
 やがて、短い沈黙の後桜は言う。

「だったら、先輩が言ってたゲームはどうかな? 確か――」

 モンスターハンター。
 暗い部屋に、澄んだ声のみが響き渡った。
 狩りの輪は、広がっていく――






[9087] 第四話 黄金の衣を纏い、異臭を放つモノ
Name: ロボ2号◆20e538c7 ID:ab7b2f81
Date: 2009/06/20 19:48
 ――昼。
 言峰教会は、今日も静かだ。
 差し込む日の光に祝福され、教会を取り仕切る神父が、無言で箒を動かしている。
 孤独を愉しむ、というのか。神父・言峰の顔は何処までも満足げだ。

 だが、それも長くは続かない。

「おいおい……ポテトチップスはやめとけよお前……
 PSPが脂でギットギトになるぞ」

「む……ソレはあまり愉快とは言えんな。
 ……仕方が無い。今日のところは菓子は諦めるか」

 青と金、二人のサーヴァントが言峰の居る礼拝堂へとやって来る。
 手にはお菓子と缶ジュース。そして、PSP。

 言峰の目が、一瞬で見開かれた。

「……お前達。
 ここは掃除中だ。遊戯をするのならば、他の場所へ行くが良い」

 冷静を勤めてはいるが、その言葉からはありありと怒りを感じ取れる。
 だが、そんなことは意に介せず、ギルガメッシュは宣言する。

「戯け。我がこの場所を使うと言ったら、何があろうと使うのだ。
 と、言うよりだな。わざわざ毎日決まった時間に訪れているのだ。
 掃除を終わらせておき、早々に退散しているが礼であろう」

 当たり前、とでも言うように良い花放つ。
 事実、ギルガメッシュは思ったことをそのまま口に出しただけだ。
 このダメサーヴァント。言峰は心中で呟きつつも、諦める。

 言峰はギルガメッシュとの10年来の付き合いで、多少なりと彼を理解しているつもりだ。
 故に、これ以上何を言っても無駄と言うことを、彼は知っている。

「……了解した。地獄へ落ちろ英雄王」

 もはやお決まりとなった呪詛を呟きつつ、彼は礼拝堂を後にする。
 去っていく背中を見ることもせず、彼らは定位置へと移動した。

「先日の蟹は中々に手強かったな……怪鳥を倒した我には、児戯に等しかったが」

 一日前の激戦を思い出し、不敵に笑う。
 ギルガメッシュが思い出すは、ダイミョウザザミとの一戦。
 ボロボロになりつつも、何とか一死すらせず打倒した、盾蟹のこと。
 もちろん、ランサーは殆ど攻撃を食らってはいない。せいぜい、二回ほど小さな攻撃を食らった程度だ。

「飲み込みの速さは褒めるが……調子に乗って自滅するのが、お前なんだよな……
 まぁ、いいか。
 アイテムは持ったか?」

「あぁ、抜かりは無い。
 シビレ罠、回復薬、砥石――
 ……それと、状態異常生肉。一体、何に使うと言うのだ?」

 ポーチの中身を確認しつつ、疑問を口するギルガメッシュ。
 察しの良い方ならば、お気づきだろう。
 そう、今回のターゲットは――

「あぁ、ソレは次のターゲットに良く効くんでな。
 ……今回のターゲットは、桃毛獣ババコンガだ!」

 桃毛獣ババコンガである。
 桃色の毛を持つ、ゴリラのような牙獣種の一種だ。
 強靭な爪や大きな体重による攻撃、糞や屁などの悪臭攻撃を使用する、下品な獣。

「ふむ。ババコンガ、と言うか。
 察するに、異常が付着している事を分からず――若しくは、知っていながら肉を食らう、食い意地の張った獣と言うところか?」

 ギルガメッシュが腕を組み、見解を述べる。
 ソレに対し、素直に感嘆の声を漏らすランサー。

「良く気付いたな。
 そう。ババコンガは異常が付着した生肉を置いても、ソレで痺れようと眠ろうと関係無しにまた食っちまうバカだ。
 だが、油断はするなよ。
 今まで戦ってきたモンスターの中で、一番攻撃力が高かった筈だ」

 ババコンガの生態について、説明するランサー。
 対するギルガメッシュは、不遜な態度で聞いている。そこに、微塵の不安も無い。
 あるのは、絶対的な余裕のみ。
 言い換えれば、油断である。
 腕を組んだままに、ギルガメッシュは言う。
 それは、やはり油断と慢心を含んだ物であった。 

「ふむ……食い意地の張った下賎な獣等に不覚を取るつもりはさらさら無いが、忠言として受け取っておくぞ、ランサー」

「一々引っかかる言い方すんなぁ……ま、いいけどよ。
 そうそう、ババコンガの屁には気をつけな。
 くらっちまうと臭いが付いて、食べる・飲むアイテムが使えなくなっちまうぜ」

 一応忠告に言葉を足し、ランサーは準備を完了する。
 二・三、ギルガメッシュと言葉を交わしあい、ランサーは準備の完了を告げた。

「とことん下賎な……
 まぁ良い。さっさと出発しようぞ」

 一拍を遅れ、ギルガメッシュも準備を済ませたようだ。
 左上の紙のマークが点滅し始めたのを確認し、ランサーはクエストを開始させた――




 クエストの準備中です。
 いたずら好きの桃毛獣
 クエストを開始します。



「ふむ……ロードと言ったか?
 最初は長いと思ったものだが、やっている内に慣れてくるな」
 
 画面に現れる文字を見つつ、ギルガメッシュが言う。
 その言葉を受け、そういえば、とランサーは思案する。

 思えば、ランサーもこのロード時間は長いと思っていた。
 しかし、いつの間にかランサーも、この時間を長いとは思わなくなっていた。
 それは慣れによるものか、それとも――

「――いや、事実長いだろうさ。
 俺も一人の時は長く感じた。
 そう感じねぇのは、こうやって喋ってるからだと思う」

 近くに、話し相手が居るからこそ短く感じるのだろう。
 ランサーは、ソロプレイを思い出していた。
 BGMすら消えた、沈黙の時間。
 それが、一人の時のロード時間と言う物だった。
 沈黙と言うのは長く感じる物。それは、まだ見ぬ強敵に胸を躍らせているときでも変わりは無い。

「……成る程。
 まぁ、そういう物なのかも知れぬな……
 む、始まったぞ」

 ギルガメッシュに言われ、ランサーは画面を見る。
 場所は、沼地。ただし雨は降っておらず、代わりにどす黒い雰囲気が画面内を支配している。

「くっ……また沼地か。
 我はどうにも此処を好かん」

「まぁ、俺も嫌いなMAPの一つに挙げる程度には嫌いだな。
 言い忘れてたが、場所によっちゃ毒沼が噴出してる。気ィつけな」

「毒沼だと?
 ……あまりいい響きではないな。
 せいぜい気を付ける事としよう」

 沼地<夜>についての小さなレクチャーを行い、二人は歩き出した。
 エリアを移動する際、ギルガメッシュが毒沼を確認しておいたことを此処に記しておく。

「おっと、次でエリア8か。
 そろそろお出ましだぜ」

 マップの切り替え際の短いロード時間、ランサーが呟く。
 ギルガメッシュは頷くことでソレに答え、まもなくしてロードが終了する。

「あれがババコンガか……
 ――は! 品の無い顔をしている!」

 ババコンガの容姿を視界に入れ、ギルガメッシュは叫んだ。
 確かに、ババコンガは高貴な見た目とはいえない。
 だが、幾ばくの油断すらないギルガメッシュに、ランサーは不安を隠せない。

「確かに見た目はアレだが……
 まぁ、いいか。心配しててもはじまらねぇ!」

「お前も我を分かってきたな、ランサー!
 征くぞ! 我らに有るは、進撃・制圧のみ!」

 ギルガメッシュはRボタンを押し込み、Gillを走らせる。
 今回も幕を開けたのはGillの飛び掛り切りであった。
 ランサーは、少しだけデジャヴを感じた。それは、謎の不安感。

 ランサーはその不安感について考える。
 そして、ソレはすぐに答えが出た。

「……うげ、ちょいと待てギルガメッシュ!」

「えぇい! 今更待てん!
 事短に説明せよ!」

「ゲネポスが居る! 黄色いギアノスみたいなヤツだ、気を付けろ!」

 そう、エリア8には、ゲネポスが配置されているのだ。
 モンスターハンターをプレイしたことがある人間ならば、そのウザさは良く知っていることであろう。
 無論、ランサーはその邪魔さ加減を良く知っていた。
 なにせ、モンスターハンターでウザいモンスターと言えば、ある虫に次いで挙げられる名の一つだ。
 それへの注意を、ランサーは促すが――

「――ハ! 黄色いギアノスだと?
 今更、ギアノス如きが我の覇道を止められるモノか!」

「あぁくそ、止められるんだよ! どんな上級ハンターだってな!」

 ギルガメッシュは高笑いをしつつ、全く相手にしない。
 まぁ、ソレがどれほど恐ろしい事かは、後で理解することになるのだが。

「とにかく、気をつけろよな!」

 ランサーもこれ以上の説明を諦め、戦闘に参加する。
 ランスは機動力が少ない。
 すばしっこいゲネポスを、ギルガメッシュに狩って貰おうとしての進言でもあったのだが――
 半ば諦め、ランサーは戦闘を開始した。

 しかし――
 Gillの動きを見つつ、ランサーは考える。

 ほんの二三日前まで、ギルガメッシュは全くの素人だった。
 だと言うのに、かなり抜けすぎているところもあるが、その動きは洗練されつつある。
 たとえば、攻撃のターゲットになったとき。
 英霊であるゆえか、中々良い反応で攻撃を中止し、正面を避けている。
 初見であるためか、ババコンガへの反応はあまりよくないが、あと数回狙われればそのパターンに気付き始めるだろう。
 勿論、それはランサーが行おうとすれば、造作も無いこと。
 だが、昔の自分があそこまで動けたかと思うと――

 ランサーは、感情を隠しきれずに口を歪める。
 それは紛れも無い笑み。
 戦友の持つポテンシャルに対しての、期待。

 そして――

 その、戦友のお馬鹿さ加減。

「な……っ!? 体が……全く動かん!?
 我を助けて、ランサー!」

 ランサーは、盛大に溜息を吐いた。
 画面左上に配置された、Gillの文字の隣には、雷のマーク。
 察しのいい人ならお気づきだろう。

「だからゲネポスには気をつけろとあれほど……」

 ギルガメッシュは、ゲネポスの麻痺牙に掛かったのだ。
 再三に渡る忠告を無視し、ものの見事なまでに。

 ちなみに、ランサーは絶賛戦闘中。
 助けている暇は無い。

「さっきアレだけ忠告したろ。
 攻撃がこない事を祈りな」

「く……この薄情者がっ!
 もう良い! 我が自力で……アッー!
 何故こんな時に限ってくるのだ、この猿めがぁぁ!」

 動けないままに、ババコンガの突進を食らうギルガメッシュ。
 やられは吹っ飛びなので、麻痺は解けるが、手痛いダメージを食らう。

「なんたる屈辱――! えぇい!
 その下品な顔を見るのも汚らわしい!
 その首、すり切ってくれるわ!」

 回復薬を服用し、再びババコンガに切りかかるGill。
 そんなGillを見て、ランサーは再び忠告する。

「あ、おい。
 そろそろモーションの大きい攻撃は止めとけ。
 もうじき怒るぞ、そいつ」

「ふん! 注意するのは怒ってからでもよかろう!」

 ババコンガの怒り移行モーションは、他のモンスターとは違い、攻撃判定が付属している。
 ギルガメッシュの言葉は、ソレを知らぬが故の言葉であった。
 ランサーは溜息を吐きつつも、ソレを忠告しようとする。
 ――が、時は既に遅し。

 丁度、Gillの回転切り――○攻撃が炸裂する。そんな瞬間だった。
 ババコンガが立ち上がり、体を振るわせる。
 そして――

「――あ」

 ランサーが呟くと同時に、それは発射された。
 黄色い霧のような、靄。

 屁であった。

「何だとぉぉぉぉぉっ!?」

 そして、屁を纏い、吹き飛ぶGill。
 それがギルガメッシュの分身かと思うと、笑いが堪えきれないランサーであった。
 ちなみに、ランサーはバックステップで回避済みである。

 ゴロゴロと地面を転げ周り、Gillはようやく停止する。
 屁を纏ったギアノス戦士……序盤見がちな光景ではあるが、やはり滑稽である。

「くそ! 想像を絶する屈辱――!」

 右腕を握り締め、震えるギルガメッシュ。彼のプライドはズタズタだ。
 だが、そんなボロボロの彼の心に更なる追い討ちが加えられる。

「――! なんたるダメージ!
 ヤツの怒り状態がこれほどまでとは――!
 認めざるを得ないようだな――ババコンガ!」

 HPゲージの減りを見て、少し冷静さを取り戻すギルガメッシュ。
 その言葉には、強敵を認めるようなニュアンスが含まれている。
 凛々しい彼の声と合わせれば、ある種の格好良さすら感じる声だ。
 だが――

「悪臭を身に纏いながら言っても、格好よくねぇぞ……
 ほれ、エリア移動して消臭と回復して来い。
 ファンゴとかはいないから、死ぬなよ」

「くっ――! 覚えていろよ、ババコンガ……!」

 冷静なランサーに突っ込まれ、宿敵の名を呼びつつギルガメッシュは退散していった。
 さっきのデジャヴはこれか……と、ランサーは感じた。

 Gillがエリアを移動したのを確認し、次いでHPが回復していくのを見届ける。
 イャンクック戦とは違う結末に胸を下ろしつつ、ランサーは考える。

「(……とはいえ、ランスじゃあコイツ相手はちょいと厳しいな……)
 よし、ギルガメッシュ!」

「……なんだ、薮から棒に。
 心配せんでも、すぐそちらに向かうぞ。
 この場には、無礼な猪もおらんのでな」

 何かを決定し、ランサーはギルガメッシュを呼びつけ、説明を開始する。
 概要は、作戦の決行。
 ランサーはその作戦の効果を。
 ギルガメッシュは雪辱を想い――
 二人は、どす黒く笑い合った。

「んじゃ、作戦が決まった所でさっさと帰ってきな。
 あぁ、研ぐの忘れんなよ」

「ふふん、分かっておるわ。
 ……良し、研げた。今行くぞ!」

 二三の会話をかわし、ギルガメッシュがキャラクターを移動し始める。
 エリアの端で研いでいたのだろう、Gillがエリア8に移動してくるのに、そう時間は要らなかった。

「肉はあんまり端ッこで使うなよ! 斬ろうとしたらエリア移動、なんて目も当てられねぇ!」

 ランサーが叫ぶ。叫んだのは、戦闘中の昂ぶりからだろうか。
 ギルガメッシュはそれに頷くことで答え、アイテムを「痺れ生肉」へと移動させる。

「そうら、我が直々に振舞ってやろう。
 世にも珍しい死の味を持つ肉だ、存分に堪能するが良い!」

 威勢の良い言葉とは裏腹に、Gillは地味な作業で肉を設置。
 ランサーはそれを視界の端にいれ、一旦ババコンガから距離を取った。
 まもなくして、ババコンガは鼻を働かせ始める。
 そして肉への進路からSetantaが離れると同時に、肉に向かって猛突進を始めた。

「ハ――! 聞いていたとおり、食い意地の張った猿よの!」

 痺れ生肉に到達し、凄まじい勢いでそれをむさぼり始めたババコンガを、ギルガメッシュは笑う。
 ランサーは□ボタンで武器をしまいつつも、その猿にボコボコにされたのはどいつだ――と思った。

 が、逆上されミスをされても困るので、ランサーはそれを胸の奥にしまう。
 
 今は――

「よし、痺れたな!」

 痺れたババコンガを、斬ることだけ考えれば良い。

 Setantaはババコンガに到達するなり槍を構える。
 情け容赦など必要ない。今はただ動けぬ相手を斬れるだけ斬ればいい。
 まぁ、とはいっても――

「これは我の恨み! 我の恨み! これも我の恨みだ!
 そうら、たっぷりと受け取るが良い!
 は! 絡め手は好かぬが、中々に爽快なものよ!」

 元々情け容赦など持たない、大人気ない英雄王が隣に居るのだが。

「考えてみれば、恨みをほぼ全部自分で晴らすのは初めてか、コイツ」

 イャンクック戦でギルガメッシュが恨みを晴らしたのは、ランサーが耳を壊してから。
 今回のように健全な状態の怨敵を斬るというのは、何かが違うのかもしれない。
 実際、隣のギルガメッシュは楽しそうだ。
 楽しみ方はどうあれ、楽しむというゲームの最大の目的を果たせている以上、コレでいいのかもしれないが。

「おぉ! トサカが乱れたぞ!」

 なんて事をランサーが考えつつ槍で突いている間に、ババコンガの頭部が破壊された。
 二人がかりでボコボコにすればいつかは来ることなのだろう。

 だが、仮にもボスモンスターがこの程度で終わるはずはない。
 麻痺の拘束は、長くは持たなかった。
 ババコンガは身を震わすモーションを取り、その体から雷のエフェクトを振り払う。

「痺れが取れたぞ! また生肉を――」

 それを見てギルガメッシュに注意を促そうとしたランサーは、あることに気付く。
 それは、見覚えのあるモーション。

「チ――エリア移動か!」

「何!? イャンクックと言いどいつもこいつも――!
 誇りを知らぬか!」

 モンスターがエリアを移動する際に取るモーション。
 鼻をヒクつかせた後に、猛進を開始する桃毛獣の移動。
 ――基本的に、モンスターのエリア移動モーションには攻撃判定が付属する。
 付属しない場合でも、移動までが早いか、何かしらの要素が絡む。
 ババコンガもその例外ではなく、走っている最中には突進と同じ判定が生まれる。
 弱っていれば、その攻撃判定も消えるのだが――
 あいにく、ババコンガは健在の様子。新天地を求め、走り出した。
 ランサーはそれを知らぬであろうギルガメッシュに声を掛ける。

「ギルガメッシュ、一旦離れ――」

 が、願いむなしく。

「逃がすと思うか、汚獣め!
 我が立ちふさがる限り、貴様に退路など――オゥフ!?」

 ギルガメッシュが人の言葉を聞くはずも無く、Gillは気持ちいいくらいに吹き飛ばされた。
 それを気に留めることもせず、ババコンガはエリアを後にする。
 後に残るのは、槍をしまい終えたSetantaと――
 物言わず転がるGillだけであった。

「……」

「……」

 流れる沈黙。
 やがて、どちらとも無く口を開くと、礼拝堂に声のみが響き渡った。

「……追うぞ」

「……ああ」

 声は二種類、それがどちらがどちらのモノであったのかは、省くこととする。
 ただ、一つ分かるのは――

「おのれ牙獣――!」

 悔しそうなその唸りが、ギルガメッシュのものであったと言う事くらいだろうか。



「さぁ――最終決戦と行こうではないか、ババコンガ!」

 場面は、マップ中央やや上に位置する洞窟へと移り変わる。
 ホットドリンクを飲んでおいた英霊二人組みは、寒く薄暗い洞窟へと突入した。
 戦口上を上げる英雄王の姿は勇ましいとも言えるが、相手がピンク色のゴリラだと思うと情けない。

「気ィ付けろよ、左側にもう居るからな」

「む、何処に――そこか!
 ふふん、堂々と待ち構えるか、ババコンガ。
 良いぞ、最終決戦にはお誂え向きな構図よ!」

 高台で吼えるババコンガと、金の英雄王(装備はギアノス)。
 英雄叙事詩に出てきそうな一面である。相手が竜種であればだが。

「此処に逃げ込んだって事は、大分弱ってきてる筈だ!
 出し惜しみは良い、お前は持てる技術を全てつぎ込みな!」

 テンションを勝手に上げまくるギルガメッシュの横で、ランサーも叫び釘をさす。
 こうでもしないとギルガメッシュの耳には届かないと判断したらしい。
 ギルガメッシュは威勢良く返事を返し、片手剣を抜刀する。
 ――本当はしまって置いた方がいいのだが、彼なりの雰囲気作りなのだろう。
 空気を読んでランサーも槍を構えた。

「さあ、来るが良い――雌雄を決しようぞ!」

 ギルガメッシュが、叫んだ。
 それに呼応するかのように、桃色の獣も飛び掛る。
 剣を構え、それを向かい打つGillの姿はまさに勇者と言うに相応しい。――重ねて言うが、相手がババコンガでなければ。
 勝手に最終決戦を始める一人と一匹を見て、ランサーは溜息を吐く。

「そんなのと決するなよ……
 はぁ、ラージャンとか如何するんだ、コイツ……」

 既にG級半ばまでをソロでクリア済みの、中級者さんの心配であった。
 そんな物は何処吹く風でギルガメッシュは死闘を繰り広げている。
 ランサーはそんな彼に苦笑いをこぼしつつ、戦闘に混ざって行った。

 ――戦闘は、激化する。
 ランサーは痺れトラップの使用を考えたが、すんでで思いとどまる。
 確かに、エリア移動を済ませたばかりのババコンガが相手であれば、痺れトラップを無視される心配は無いだろうが……
 隣の友人(仮)が激闘を繰り広げているのだ、水をさすのは野暮と言うモノだろう。

「――ッ! 馬鹿め!
 二度も同じ手を食うか、猿!」

 ギルガメッシュが一撃を加えた瞬間だった。
 ババコンガが立ち上がり、独特のモーションに移行する。
 そう、英雄王が辛酸を舐めさせられた、怒りモーション。
 何度目かになるそれを、ギルガメッシュは遂に自力で見切ったのだ。

 心の中でランサーもそれに賞賛を送る。
 同時に、弟子の成長を見守るって言うのはこんな気分なのか――とも想った。

「ランサー! 話がある! そのまま聞け!」

 怒ったババコンガを捌きつつ、ギルガメッシュが叫ぶ。
 ランサーは無言で言葉の続きを待つと、意外な台詞が飛び出した。

「お前、痺れトラップを持っていたな!
 何とかして奴を罠に掛けろ! 我にはやりたいことがある!」

 それは、自らの激闘を中断させると言う指示。
 ギルガメッシュの言葉にランサーは一瞬だけ驚くが――
 今回は、彼を信じて見ることにした。

「――おう、任せろ!」

 笑みで答えを返したランサーは、隙を見つけ痺れ罠の設置に掛かる。
 ギルガメッシュのヘイトが溜まっていたのか、Gillは今だババコンガと交戦中だった為、罠はたやすく設置できた。
 後は、奴が掛かるのを待つだけ――
 罠を確認したギルガメッシュは、武器を収める。
 そして、こう叫んだ。

「よぅし、我を追って来い! ババコンガよ!」

 知ってか知らずかギルガメッシュは敵を罠に掛けるため、自分とババコンガを結ぶ線の中に、痺れトラップが入るよう移動した。
 モンスターを引っ掛ける際の常套手段だ。

 一部のモンスターは痺れトラップを回避するよう動くこともあるが、ババコンガにそのような知恵は無い。
 まもなくして、ババコンガは罠に掛かる。
 と、なればすることは一つ。
 ランサーはすかさずババコンガに切りかかろうとするが――

「良い、ランサー! 下がっていろ!」

 ギルガメッシュの指示で、それは中断された。
 どういうことかと聞こうとするが――
 ランサーは、すぐに彼の思惑に気付く。

「――成る程な!」

 ランサー、槍をしまい離脱。
 その瞬間、ババコンガの隣にタルが現れた。

 ――大タル爆弾。
 一瞬で大きなダメージを与える、いわばリーサルウェポン。
 その威力は凄まじく、相手の防御を無視し大ダメージを与える、いわば宝具のようなモノである。
 だが、序盤に使用するには思い切れないほど、それは高い。
 黄金率を持つギルガメッシュだからこそ、序盤に惜しげなく使える殺戮兵器なのだ。

 ランサーは笑う。
 敵を罠に掛け、爆弾。
 ある程度ゲームをやれば当たり前のことだが、始めて間もないギルガメッシュが考え付くとはたいしたものだ。
 友人(仮)の成長に、彼は笑みを隠せない。

 ――だが、一瞬にしてその笑みは凍りつく。
 それは、爆弾が二つ並んだ瞬間の事だった。

「食らえ!
 コレが我の新たな宝具――爆☆砕☆斬!」

 なんと、ギルガメッシュは距離を取ることも無く、飛び掛り切りを放ったのだ。
 無論、爆弾に向かって。

「オィィィィ!? ちょっと待てギルガ……」

 勿論ランサーは止めに掛かる。
 が、攻撃は出きっている。後の祭り。
 画面には、二種類の文字が順番に現れた。

 Gillが力尽きました
 目標を達成しました。

 ――通称、漢起爆。
 爆弾を自らの武器または脚をもって起爆し、自分ごとモンスターを滅する最終奥義。 
 ……知ってか知らずかギルガメッシュはそれを行ったのだ。――ペイントボールを持ちながら。

 後に残るは、呆けたランサー。
 ババコンガのこんがり死体。
 そして、やりきった顔のギルガメッシュだった。

「ふ……自己犠牲など、我らしくないことをしてしまったな……
 だがコレでよいのだ。
 ランサー、我は英雄のあり方を思い出した気がするぞ……」

 などと英雄王はのたまう。すっごく爽やかな顔で。
 正直、ランサーはもはや突っ込む気すら起きなかった。
 ランサーはあいた口を閉め、剥ぎ取りを始める。
 最後に、こういい残し。

「……それはいいんだが、お前。
 剥ぎ取り間に合わねぇぞ?」

 その言葉にギルガメッシュはぴし、と固まった。

「それを早く言わぬか、ランサァァァァ!」

 今日一番の大声でそう叫び、Gillは英雄のあり方そっちのけで走り始める。
 後には、なんともいえない空気のみが漂っていた――








おまけ  もんはん・ざ・くろいひと  ※時系列はギル・ランサー開始とほぼ同時

「あれ? ライダー、ハンマーなんだ。
 意外だなぁ。もっと軽そうな武器を使うと思ってたんだけど」

「えぇ、そういうサクラも。
 私はサクラは弓を使うと思っていたのですが、大剣とは。
 意表を付かれました」

 ――薄暗い屋敷の一室。
 間桐邸にて、黒い主従はモンスターハンターに興じていた。
 どこぞのダメ英霊’Sとは違い、ちゃんと場をわきまえてプレイしているあたりは微笑ましい。
 
 今回の会話は、初出撃による集会所でのもの。
 受注するクエストは急襲! ドスギアノスで、二人の会話は互いの武器についての事だった。

「うん、私も最初は弓にしようと思ってたんだけどね。
 兄さんも弓を使ってるみたいだったから、一緒は嫌だなぁ、って」

 桜の言葉に、部屋の隅っこに居た慎二が震える。
 ……桜は、慎二の存在に気付いていない訳ではない。
 それでもあえて言うのは、聞かせているからに他ならない。

「そうですね、シンジと一緒と言うのはいただけません。
 では、何故大剣を?」

 ライダー……かつて慎二に使えたこともある、長髪の美人も桜に同調する。
 無論、あえて言っている。慎二に聞かせるためである。
 慎二、という名前が出るたびに、慎二は震えていた。今までやってきたことを考えれば生ぬるいとも思えるが――
 それでも、彼に同情してしまうのは二人の発する恐怖故か。

「どうせなら豪快な武器の方がストレス解消になるかなって思ったんだ。
 ライダーはなんでハンマーを?」

「私も一緒ですよ、サクラ。
 ストレス解消です。……ふふ、やはり私達は、どこか似ている」

 はにかみつつ言う桜と、微笑を湛えたライダー。
 一見、微笑ましい会話。
 しかし、その言葉から発する黒いオーラは、海中でもないのにワカメを震えさせるに事欠かない。

 などと二人が会話に興じていると、ハンターの名を表す欄、Celsian・Yoshinoの下にblueという名が現れる。
 無論、部屋の隅っこに居る慎二のモノである。微妙に格好つけた名前なあたり、慎二らしい。

 ――が、二人はそ知らぬ顔で会話を続ける。

「……あら? ライダー、見慣れないハンターが居るね」

「……本当です。ああ、みすぼらしい名と格好だ。
 プレイヤーの顔がアタマに浮かんでくるようです。
 ……いえ、CPUなのでしょうか? 人数が足りないと補充してくれるのかも知れません。
 それならば、ブルーなんてありふれた名前も納得できる」

「そっかぁ。じゃあ使わせて貰おうかな?
 狩りの効率が良くなるのはいい事だよね」

 一言一言に、慎二が震える。
 だが勿論、彼女らはそんなモノを見なくてもプレイヤーの正体に気付いている。
 チクチクと言葉で苛めて、楽しんでいるのだ。

 慎二も慎二で逃げればいいのに、この場にとどまるのは単にモンハンの魔力に縛り付けられているからである。
 ヘタレが恐怖に耐えてでも、マルチプレイはしてみたいのだ。
 学校では女子限定で人気のある慎二だが、モンハン仲間は奇跡的なほどに出来なかった。

 そうして、狩りは始まった。

 真っ黒な二人組み+1に依る、ミラボレアスもビックリな黒い黒い狩猟生活が……


おまけのおまけ くろいひと・ざ・かりのにちじょう

「あ、ごめんなさいNPCさん。打ち上げちゃった」

「あぁ、すみませんNPC。叩き潰してしまいました。
 はは、気持ちがいいくらいに転がってますね」

「……( ゜д゜)」
「……(゜д゜)」

「こっち見ないでください、兄さん」
「目障りです、シンジ」

「……( ゜д゜)」
「……( ;д;)」


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またも一週間ぶり、バイト辛いヨー

自分ではちょっと飛ばし気味。ネタ切れが心配。
前にも書いたけど、オリジナル書きたい……
現代ファンタジーが良い、すっごい厨二病の……

とはいえ、次回分少し出来ております。
遂に赤いあの人が! 乞うご期待!
……あれ?乞うご期待って「期待してね!」って意味だよね? 大丈夫なんだろうか、俺



[9087] 第五話 新たなる戦い! 激突!雪獅子ドドブランゴ
Name: ロボ2号◆20e538c7 ID:ab7b2f81
Date: 2010/01/19 18:24
「く……思い出しても腹が立つ……!
 今しがたの砂竜、中々強かったなランサーよ」

「まぁ、今回ばかりは同意しとくぜ。
 男らしくないったらありゃしねぇ」

 そこそこ長いロード画面を経て、PSPの画面は集会所へと移り変わる。
 ギルガメッシュ・ランサーの二人組みは、砂竜を討伐して帰ってきたのだ。
 ちなみに、プレイヤー達の現在地は例によって礼拝堂。
 言峰ももはや諦めている。

「しかしあの砂竜とやら……
 逃げ回る意外は、大したことは無かったな」

 いつものように、腕を組み目を瞑るギルガメッシュ。
 ランサーは今の一戦を思い返す。
 確かに、苦戦はしていたが、死亡する事は無かった。
 初戦であることを考えれば、中々の成果かもしれない。

「確かに、な。
 だがまぁ、あんまりやりたいクエストじゃあねえわな。
 ……と、遂に来たか」

 ギルガメッシュに相槌を打ちつつ、ランサーはキャラを動かし「それ」を確認する。
 ギルド長の上に浮かぶ黄色い『!』マーク――
 緊急クエスト発生の、印だ。

「む? 何が来たというのだ、ランサー……
 ぬ、なんだこのマークは」

「そういやあ、お前は初めてだったな。
 いい機会だから説明しとくぜ。
 例外もあるんだが、今回は『緊急クエスト』が発生した知らせみたいなモンだ」

「緊急クエスト、だと? 通常のクエストと何か違うというのか?」

 素直に聞き返すギルガメッシュに、『緊急クエスト』を説明するランサー。
 そういえば説明書読んでないんだったな、と心中で呟きつつ、指示を出す。

「ああ。ちょっとステータス開いてみな……そこにハンターランク、HRって有るだろ?」

「ふむ――あぁ、これか。うむ、確かにあるな」

「そいつは、プレイヤーのハンターとしての等級を表す数字だ。高いほど良い。強いハンターと認められてるって訳だな。
 高けりゃ高いほど難しいクエストを受けれるようになって、必然と良い素材が手に入るようになってくる。
 ――ホラ、緑色の受付嬢とかいたろ? あいつらの紹介するクエストを受けれるようになる。
 緑は確か4からで、黄色の方は7からだったか?」

「む……要するに階級か。
 我は……1だと? 気に食わんな。最下級ということか?」

「最初は皆そうなんだよ。俺も今は1だ。
 その辺を今説明するわ。
 ……んで、ハンターランクの上げ方だが、一つしかねぇ。
 分かるか? ギルガメッシュ」

 指を立て、ギルガメッシュに質問する。
 ギルガメッシュは少しだけ考え、直ぐに答えを導き出した。

「そこで緊急クエスト、か」

「正解だ。
 緊急クエストは言わば、昇級試験みたいなモンだ。
 HR2に相当する難易度のクエストをクリアできりゃ、晴れてHR2の仲間入り、ってこった。
 まぁ、モンハンのストーリー的には違う意味合いなんだが……そう思っても多分問題無い」

「成る程な……つまり、次のクエストはその緊急クエスト、というわけか?」

「察しが良くて助かるぜ。
 そう、次のクエストは『激突!雪獅子ドドブランゴ』。
 ババコンガの一つ上くらいに位置する、牙獣種が標的だ。
 さっき言ったとおり、コレまでのクエストとは根本的な難易度が違うぜ」

「ババコンガの上……!
 ふ、血が滾るわ。我がその程度で怯むと思ったか? ランサーよ。
 言った筈だ。我らにあるは、前進のみだとな!」

 意地悪く微笑むランサーと、それを受けなお尊大な態度を見せるギルガメッシュ。
 『我ら』という表現を使っているあたり、二人の仲の向上が見受けられる。
 それに比例して、言峰との仲は更に悪化していくのだが……
 とはいえ、ダメ英霊’Sはそんなことは気にしない。
 GillとSetantaは集会場を後にし、個々の準備を始めた。

 農場へ、町へ、自宅へ。
 二人とも忙しなく画面を切り替えていく。
 二人とも準備が揃おうか――そんな時に、ランサーは思い出したように席を立つ。

「なぁ、ちょっと飲み物買って来ていいか?
 気分転換も兼ねて外出てぇんだ」

 準備を終えたギルガメッシュは、オンライン集会所へと移動し、顔をランサーへと向ける。

「別にいいが、何処に買いに行くのだ?
 それによっては買出しを頼みたい」

「あー、遠くまでは行かねぇよ。
 ちょいと下のチェ○オまでな」

「だったら、ついでにメロンソーダを頼む。
 あのわざとらしいメロン味が、偶に堪能したくなるのだ」

 100円玉を投げて渡すギルガメッシュ。
 ランサーはなんとも言えない顔をしつつ、その100円を受け取る。

「はあ……そういうモンかねぇ……っと。
 んじゃ、ちょっくら行ってくるか」

 快活な声で行動の開始を告げると、ランサーは教会入り口の扉を開けた。
 木の軋む独特な音が、ランサーを見送るかの様だった。

 
 
 ――自販機への短い道のりの中、ランサーは考えていた。
 思い出されるのは、ギルガメッシュとモンハンを始めてから今日までのこと。

「(あんなに気に食わねぇと思ってたヤロウと、一緒にゲームたぁな。
 俺もアイツも、変わりゃ変わるモンだぜ)」

 自嘲的な言葉ではあるが、それを思うランサーの顔は、楽しそうだった。
 事実、ランサーは心のどこかでギルガメッシュを友と認め始めている。
 今彼と戦えと言われても、前の様には戦えまい。

「(まあ……こんな街で、今更戦おうとするヤツなんかいねぇか。
 今度アイツも、釣りに誘ってみっかなぁ)」

 爽やかに笑うランサー。
 仮にも、美青年と言える容姿の微笑だ。
 神話時代の美しさに、通行人の何人かは振り向いているが、本人は気にしない。

 ――短い間とはいえ、ギルガメッシュとの思い出が頭に浮かぶ。

『何!? フフ、ハハハハハ!
 そうであろうランサーよ! ようやくお前にも我の……うおぉ!? またもや雪達磨に!
 おのれ、ドスギアノスゥゥゥゥゥッ!』

 ドスギアノス戦で、アイツは調子に乗ってたな。

『ふ……ランサーの言葉に驚いてみれば、なんだその有様は!
 10年来の強敵かと思えば、所詮は鳥の類――かはっ!?』

 イャンクック戦でも、調子に乗っていた。

『む、ランサー。盾蟹とは跳ぶのか?』
『おい馬鹿、離れ――』
『ハハハ、ランサー。
 この絶好調な我に命令す――オブゥ!?』

 盾蟹戦で、調子に乗っていた。

『く……この薄情者がっ!
 もう良い! 我が自力で……アッー!
 何故こんな時に限ってくるのだ、この猿めがぁぁ!』

 ババコンガ戦でも、調子に乗って痛い目を見ていた。

「……訂正、ロクなヤツじゃねぇわ」

 美しい微笑が、しかめ面に一瞬で変化する。
 思い返してみればなんだ、アイツ。調子に乗って失敗してばっかじゃねぇか。だからあの性能で、聖杯戦争を負けれるんだな。
 ランサーは、愚痴の様に思い浮かべる。
 だが、それすらも何処となく楽しそうなのは、微笑ましい。

「っと、物思いに耽ってたら、いつの間にか自販機か。
 相棒殿を待たせないよう、少しばかり急ぐかねぇ、っと」

 いつの間にか自販機にたどり着いていたランサーは、購入のための作業を始める。
 帰り道は少し急ぐか――なんて、考えながら。



「む? 思ったより早かったな、ランサーよ」

 礼拝堂に帰ると、ヒマそうにしていたギルガメッシュが視線を扉へと向ける。
 昔のギルガメッシュなら「我を待たせるなど――」と始まっていた事を考えると、凄まじい進歩だ。人間として。

「あぁ、帰り道はちょいと急いだ。
 炭酸を振らない程度にな。
 ……ホラ、このメロンソーダでいいのか?」

 メロンソーダを手渡しつつ、ランサーは定位置に座る。
 準備は先程済ませておいた。
 あとは、集会所に行ってクエストを受注するのみ。

「しかし、牙獣種か……良いぞ。
 相手にとって不足は無い。腕が嘶くわ」

 自身ありげに、ギルガメッシュは笑った。
 この笑いは、彼が油断しているとき特有のもの。
 こうなったら最後、ギルガメッシュは痛い目を見るまで慢心し続ける。

 ふと、ランサーは呟いた。

「……そうか。
 考えてみれば次はドドブランゴだったか……」

 その顔は、あまり明るくない。
 経験者ならば分かると思うが、牙獣種は素早いのだ。
 そのため、動きの遅い武器では若干の苦戦を強いられる。
 勿論、ランサーはランスでドドブランゴを討伐済みだ。
 それでも、若干の不利は揺るがない。

 そこで、動きの早い片手剣を装備する、ギルガメッシュが主力となるのだが――
 同時に、ランサーは先程思い返した思い出をリフレインする。
 しかも、ギルガメッシュは大絶賛慢心王モード中だ。
 そんなギルガメッシュに、エースを任せる――?

「不安だ……果てしなく」

 眉間の辺りを押さえ、不安を露にするランサー。
 ギルガメッシュは何を勘違いしたか、不安だろうが我がいれば大丈夫だ、等とのたまわっている。
 不安は加速度的に上昇していく――

 その時だった。

「お困りのようだな、ランサー」

 聞き覚えのある、ニヒルな声が教会に響いた。
 声のした方を向けば、教会の扉が開けられており、そこには一人の男がたたずんでいた。

「テメェは――アーチャー!」

「……フェイカー! 良くぞ我の前に姿を現したものだな!」

 赤い外套を纏った、赤き英霊。アーチャーのサーヴァント。
 彼らからしてみれば、ある種怨敵ともいえる、対立した敵の姿だった。

「やれやれ――嫌われたものだな。
 だが、今日は争いに来た訳ではない。
 ……いや、この冬木でわざわざ平穏を捨てるような酔狂な輩など、とうにいないか」

 敵意の視線をそらし、肩を竦めて見せるアーチャー。
 その姿に、戦いの日々を思い出される。
 ――だが、先にアーチャーが言ったとおり、ランサー達から仕掛けるつもりは無い。
 アーチャーの真意を測るため、ランサーが口を開く。

「相変わらず皮肉った言い回しだな、テメェ。
 ……んで? わざわざ来たからには、用が有るんだろう?」

「ふ――鋭いな。流石ランサーのクラスのサーヴァントだ。
 ……なに。見れば、お困りのようだったのでな。助太刀に参ったというわけだよ」

 若干の敵意を孕んだランサーの言葉を受け流しつつ、アーチャーは目を閉じる。
 食えないヤツだ――と、ランサーが思っていると、隣の相棒が激昂する。

「――なんだと。
 貴様ごとき贋作の手を借りるほど、我らは弱くはないわ!」

 射殺さんばかりの、視線。
 なんだかんだで、ギルガメッシュは聖杯の確執を捨て切ってはいないようだ。
 だが、アーチャーはそれすらもふわりとかわす。

「ふむ――では、ランサーはどうかな?
 随分と浮かない顔に見えたがね」

 心底を探るかのような、牽制。
 乗るのも一興か、とばかりにランサーは答える。

「さっき、助太刀に来たとか言ってたな。モンハンの事を指していると仮定して話を進めるぞ。
 正直に言えば、戦力不足を憂いているのは事実だ。
 ――だがな、テメェにモンハンで俺達を助けるだけの実力はあるんだろうな?」

 戦力不足、という言葉にギルガメッシュが驚いた顔をするが、口は挟まなかった。
 片目を瞑り、自身ありげな表情のアーチャーは言う。

「無論だ。これでもモンスターハンターには一日の長があるつもりだよ。
 生前、中々にやりこんだのでな」

 アーチャーの真名を思い出し、成る程――と頷くランサー。
 確かに、この時代の英霊ならばモンハンに触る機会もあっただろう。
 だが、その隣のギルガメッシュは浮かない顔をしている。

「……ん、どうした? ギルガメッシュ」

「――いや。少しな。
 おい、フェイカー。貴様随分と良いタイミングで現れたが、貴様どうして我らの遊戯を知っている?」

 そういえば、と視線をアーチャーに移すランサーと、自身ありげな笑みを消すアーチャー。
 少しの逡巡のあと、アーチャーから理由が語られる。

「それを君に聞かれるとは思わなかったな、ギルガメッシュ。
 ――この程度、アーチャーとしてのスキルを使えば造作も無い」

「つまり、ここ数日俺達を覗いていたと?」

 己の疑問をランサーが口に出す。
 対してアーチャーは平静を保ったままに答える。

「そういうことに、なるな」

「何故だ?」

「見知った英霊が、見慣れた遊戯に興じているのをたまたま見かけてね。
 少し観察しようと思ったまでだよ」

「……本音は?」

 ランサーが言う。それは、アーチャーの言葉に嘘がある、と語る台詞。
 問答が続くなか、ランサーは初めてアーチャーの言葉に異を唱えた。
 途端、アーチャーの顔に汗が浮き始める。
 焦っているのだ、錬鉄の英霊が。

 沈黙が、訪れる。
 蒼と金の視線は、赤へと注がれる。
 やがて、耐え切れなくなったアーチャーは、自白を始めた。

「……私も、仲間に入れてはもらえないだろうか。
 その、なんだ。次々と知った顔の中にモンハンが広がっていってな……
 入れてくれと頼めるのが、君達しかいなかったのだよ……」

 その言葉からは、嘘偽りの無い深い悲しみを感じた。
 枯れているのか、アーチャーの顔に涙は無い。
 しかし、ギルガメッシュとランサーは確かに見た。
 焼けた瞳から、見えざる涙が頬を濡らすのを……

「あー……そりゃ悲惨だったな。
 まぁ、確かに小僧やその知り合いにゃ、頼めねぇよなぁ……」

 心からの同情を言葉に隠すことなく混ぜる。
 枯れた赤い男は、続ける。

「ここ数日、君達を覗き見してデータの進行度は合わせている。
 聖杯戦争での対立は水に流し、どうか寛大な心を見せては貰えないだろうか?」

 切実な、懇願であった。
 ギルガメッシュは顔をしかめ、ランサーへと向ける。

「おい……ランサー。
 我は初めてこの男を哀れに思っているぞ……」

「流石に断れねぇよなぁ……
 まあ、いいぜ。此処まで一人で来たんなら、実力は評価出来るだろ。
 次はドドブランゴだが、その辺も分かってるんだろうな?」

 ランサーとギルガメッシュは、顔を合わせやるせない気持ちを共有する。
 目の前にいる哀れな英霊が、自分達を苦しめた錬鉄の英霊だと思うとやりきれなくなったのだ。
 一方、許可を得たアーチャーは素晴らしい笑顔を作り出す。それはもう、凛ルートの最後のような。

「ああ……勿論だ。
 君達の心遣いに、感謝する……!」

「ふん……モンスターハンターは人数が多いほど楽しいと聞く。
 ――今更聖杯戦争を始めるような輩もおるまい。
 フェイカー、せいぜい役に立ってくれるのだろうな?」

 試すような、ギルガメッシュの視線。
 アーチャーはそれに自身の笑みを浮かべ、はっきりと返した。

「……ああ。君達と組んだのならば、敗北などありえない。
 君達に――いや、私達の勝利を約束しよう!」

「へっ……! 調子のいいこと!
 んじゃ、サクっと行きますかね!」

 三人で拳を合わせ、男の友情を披露する三人。
 その後、定位置やアーチャーの赤いPSPについての会話などが執り行われ、新たな仲間を加えてモンハンは再開した。
 新たな戦いが、今始まる――!

「馬鹿な……増えている、だと……」

 言峰の新たな戦いも、始まった。





 クエストの準備中です。
 激突!雪獅子ドドブランゴ
 クエストを開始します。

「とうとう始まったか……マルチプレイは久しぶりだ。胸が躍る」

 やけにテンションの高いアーチャーが、抑揚を押さえ切れない声で言う。
 その気持ちを判りつつも、なんと無しにアーチャーをダメ英霊と判定する初代ダメ英霊’S。自らを棚に上げまくりである。

「予想通りっちゃ予想通りだが、テメェはやっぱり双剣か」

「まあ、な。弓も使えるのだが、序盤はどうしても素材に余裕が無いのでな……
 何、中盤辺りに差し掛かれば披露する機会もあるだろう。期待頂ければ嬉しいね」

 そう言って、一度だけ双剣を抜くアーチャー。意外にパフォーマーである。
  
「武器といえば……ギルガメッシュ、お前その武器――」

 ランサーは何気なしにGillを見た。
 相変わらず、その手には使い続けた片手剣が握られている――が、赤い。
 ギルガメッシュは「む、これか」と小さく答え、続ける。

「定期的に農場の猫を冒険に出していたのだが、ある時火竜の体液という物を献上してきてな。
 金も余っていたし、中々に良質な武器と見たので、作らせた」

 幸運+黄金率、恐るべし。
 現段階、火竜の体液は中々貴重といえる品なのだが――
 アーチャーとランサーは、渋い顔をあわせる。

「お互い幸運の低いサーヴァントは苦労するな、ランサー」

「全くだぜ……ったく、この幸運馬鹿が……」

「フハハハハ、何とでも言うが良い。EEコンビめ」

 笑いながら冗談を言いつつ、ランサーとギルガメッシュは支給品をあさり始める。
 ――が、二人のやり取りを見ていたアーチャーは自身のキャラクター、Archerと共に固まっている。
 ランサーが固まるアーチャーに気付き、声を掛ける。

「あん? 如何したんだよ」

「――いや。冗談でも馬鹿などと言われて、よく英雄王が怒らなかったな、と――」

 我に返り、自分の分の支給品を取りつつ、アーチャーは言う。
 その表情は未だに面食らったままだ。

「どいつもコイツも……我はそんなに怒りやすく映っているのか? ランサー」

「ああ、果てしなくな」

「く……即答とはやってくれる……!」

 ようやく支給品を取り終えるアーチャー。
 ギルガメッシュの変化に驚きつつも、三人で足をそろえて歩き出す。

 並み居る雑魚を無視し、洞窟の前でホットドリンク。
 ロード時間の差異により、多少タイミングにずれはあったが、ほぼ同時にソレは行われる。

「いつ見てもシュールだよなあ、この光景。
 間抜けっつーかなんつうか……」

「確かにな……だが、キャンプで使用して一人置いていかれるのも癪だ。
 仕方が無いことであろうよ」

「と、いうかだな。ホットドリンク等の味が気になるのは、私だけかね?」

「いや、皆一度は気にするんじゃねぇかな。回復薬とか、飲んでみたいね。
 なんでもマスカット味とか訊いたことあるが、何処で訊いたんだったかな……」

 和気藹々と雑談をしながら、洞窟を進む英霊達。
 とてもではないが、命を掛けて対立しあった仲とは思えない。 
 まぁ、ランサーは気に入った相手なら、夜通し飲み明かすくらいはするだろうが……
 やがて洞窟を進むうち、外の明かりが見えてくる。
 表情を引き締め、アーチャーは言った。

「……と、そろそろお出ましになる頃だな。
 無駄話はやめ……いや。コレが終わった後にしようか!」

 洞窟の出口で、促される注意。
 此処から先は、ドドブランゴの縄張り――いつそこの主に遭遇してもおかしくは無い。
 ギルガメッシュとランサーは、表情に笑みを貼り付けたままに気を引き締める。

「ふん、なかなか気の利いた冗談が言えるようになったではないか。
 ――よし、征くぞ!」

 ギルガメッシュの合図を契機に、エリアを移動する三英霊。
 予想の範疇、と言うべきか。
 洞窟を抜けた先には、白い毛並みの大きな猿ー―雪獅子、ドドブランゴが歩いていた。

「……早速居やがるか。
 ペイントボールは誰が行く?」

「私が任されよう。飛び道具に関しては、一日の長があるつもりだ。
 ま、今は双剣を使っているがね。
 ――よし、来るぞ」

 アーチャーが、ペイントボールを投げる。
 緩やかな速度を持ったペイントボールは、吸い込まれるようにドドブランゴに命中する。
 同時に、三つの名前の横に目を模したマークが現れる。

「始まったか! ギルガメッシュ! 何度も言うがこいつは相当早い! 気をつけろよ!」

「は――! 我を誰だと思っている! 我は英雄王ギルガメッシュなるぞ!」

 掛け合いつつ、ランサーとギルガメッシュが同時に斬りかかる。
 タイミングはギルガメッシュの方が若干早い。
 ランサー達に気がついたばかりのドドブランゴがその一撃をかわせる筈も無く、突きと斬りはその胴体へと吸い込まれた。

「慢心せずして何が王か、とは君の台詞だったかな?
 さて、私も参列するとしようか!」

 若干遅れて、アーチャーが行動を開始する。
 片手剣には劣るが、それでもシャープな挙動が見るものを魅せる。
 
「く――確かに、素早さは中々のようだな!」

 突進――ババコンガのモノと比べて鋭いモーションのそれに、ギルガメッシュが苦言を漏らす。
 回避と攻撃を兼ねたソレは、重い武器を装備するものにとっては中々厄介だ。
 そう、ランサーのような、槍使いにはとっても。

「えぇい! 狙うんなら俺を狙えよ! 追いつけねぇ!」

 時折、マルチプレイはこのような弊害を生み出す。まぁ、それでも楽しいのだが。

「ギルガメッシュ、アーチャー。今回俺はこの通りだ。
 主力はお前らに任せたぜ――!」

 武器をしまいつつ、ランサーが二人に思いを託す。
 正直、なんだか地味な光景だ。
 突いては逃げられ、武器をしまい追いかけてはまた突く。
 今回、一番苦労するのはランサーかもしれない。

「ふん、偶には頼られるのも悪くない!」

「任された。此度の戦は三人四脚……君の分まで死力を尽くすとしよう!」

 二人の英霊が、青い槍兵の願いを受け取る。
 誰かが力尽きれば、皆の敗北に繋がる。――故に、三人四脚。
 連帯感から友情が生まれようと――また、強まろうとしていた。

「――む、仲間を呼んだか。どうする?」

 突如としてドドブランゴが立ちあがり、咆哮を上げる。
 すると雪の中から三体のブランゴが飛び出す。俗に言うオトモブランゴだ。
 こうして召喚されたブランゴは雪玉を投げるという攻撃が追加し、好戦的になる。
 が、何故だかエリア移動をすると消滅するという特性がある。――あるのだが。

「移動して消したい所だが――三人も居ると、移動に時間が掛かるな。
 ――よし、雑魚は俺が引き受ける。お前らはドドブランゴに当たって、危なそうなら俺に注意してくれ」

 ランサーはそう告げ、雑魚の駆逐に当たる。
 雑魚の駆逐というと簡単そうに聞こえるのだが、コレが中々厄介である。
 最大の注意を、雑魚の方に向けなければならないからだ。
 うっかりすると、視界の外からボスモンスターの手痛い攻撃を貰うこともある。

「分かった――ふ、前線を譲っていただいたからには、相応の働きをせんとな。
 行くぞ英雄王、砥石の貯蔵は充分か?」

 ランサーの信頼を受け、アーチャーが微笑む。
 ギルガメッシュに喝を入れつつ、Archerはドドブランゴへと駆ける。
 ギルガメッシュは不遜な笑顔でソレを受け、共に駆ける。

「充分か――だと? 無論だ! 行くぞフェイカー!」

 片手剣と双剣の波状攻撃。
 奇しくも近い分類にある、最も素早い二つ――否、三つの刃がドドブランゴを襲う。

「む――ランサー!」

「あいよ!」

 連続攻撃の最中、ドドブランゴが体の向きを変え、飛び掛りの初期動作に入る。
 アーチャーはソレをランサーの名を呼ぶことで伝え、ランサーはSetantaの向きを変える。

 勢い良く飛び掛ってくるドドブランゴは、もはや回避できぬ位置に居た。
 ランサーは落ち着いてそれをガードし、硬直が切れるなりカウンターの突きを見舞う。

「そら! 返すぜ!」

 一、二、三。テンポ良く、上段突きが繰り返される。
 上段突きは、中段突きより若干威力が高い。
 見せ場なので、ランサーは少しだけ調子に乗っている――が、ギルガメッシュとは違い引き際は心得る。

「っと! 悪ぃが当たってやれねぇな」

 呼び動作の少ない引っ掻きを、バックステップで避ける。
 隙が小さい引っ掻きに攻撃で返すことをせず、見。経験に依る戦法だ。
 ランスで対するドドブランゴが、あまりよろしくない物であることは事実。
 押さえ気味に戦わなければ、手痛いダメージを貰いかねない。

「ランサー、近くに居たので最後の雑魚を駆逐した。
 今正にそうしている君に言うのも違和感を感じるが、前に出れるか?」

 仕事を追え、アーチャーがターゲットを再びドドブランゴへと移す。
 みれば、ギルガメッシュも同じだ。

「遅いと思ったら、雑魚をやってたのか……なんで二人なんだ?」

「マルチプレイでは雑魚の動きは同期しないのだ。
 私が戦っているブランゴが、ギルガメッシュに雪玉を当てたらしい。
 それで、ムキになって……ということさ」

「仕方ないだろう! 猿ごときにいいようにされて、黙っていられるか!」

「まぁ、いいけどな……――!
 切れたぞ!」

 再び戦線に戻ったギルガメッシュ達の連続攻撃に、ドドブランゴが咆哮をあげる。
 ランサーはそれを盾で防ぐが、残りの二人は耳を押さえた。

「グラビモスなどの咆哮と違って、あんまり状況が痛くないのがせめてもの救いか……」

 硬直が切れたアーチャーが呟く。
 一部のモンスターには咆哮後、耳を押さえるハンター達よりもずっと早く行動できるモノが居る。
 ドドブランゴの咆哮にはそう大きい拘束力はなく、アーチャーとギルガメッシュは胸を下ろす。

「ギルガメッシュ、怒ってる最中のアイツは動きが変わる。
 なるべく後に立たないようにしろよ」

「む……心得た。お前の忠告を無視して、よい事は起こらぬからな……胆に命じよう」

 明らかに素早くなったドドブランゴを見て、ギルガメッシュが今までの事を思い出す。
 蟹に押しつぶされたり、雪達磨になったり、痺れたり屁を食らったりがそれだ。

「英雄王がコレほどまで真摯に他人の話を聞くとは……
 語りつくせぬ事があったのだろうな……」

 ギルガメッシュに聞こえないような小さな声で、アーチャーが呟いた。
 耳に入れたランサーは苦笑する。

「はは、色々な……
 んで、分かってても失敗するのが――」

「ぬおぉ!? なんという行動の早さ!
 これが後ろに立つな、という事なのか!」

 ステップ後を隙と判断し、ギルガメッシュが後から飛び掛りを見舞う。
 ――が、牙獣種のバックステップは至極強力なものである。
 背後を取ると、狙ったようにバックステップを使用してくるのだ。
 結果としてギルガメッシュは地面を転げ廻り、半分近い体力を失った。

「アイツなんだよなぁ……」

 あまりに良すぎるタイミングで吹き飛ばされたギルガメッシュに苦笑する。
 つられてアーチャーも苦笑した。楽しそうである――が。

「く……来るな! ぬおぉ! 起き上がりを狙うとは卑怯な!」

 ただ一人、ギルガメッシュは瀕死で必死である。
 もはや数ドットしか残っていない体力に、アーチャーとランサーの表情も厳しくなる。
 
「ぐ――! 気絶だと!?」

 そして、もはや死の足跡とも言える間抜けな効果音がPSPから鳴り響く。
 当然のように、止めを刺すためドドブランゴがギルガメッシュへと体を向ける。

 ――だが、それを良しとしない英霊が、二人居た。

「させるかよ!」

「何処を向いているのかね!」

 蒼と紅。二人のサーヴァントだ。
 ランサーは突進でギルガメッシュを吹き飛ばし、アーチャーはドドブランゴに攻撃を加える。
 結果としてドドブランゴの引っかきは空を切り、ランサーは掠め取るようなカタチでギルガメッシュを跳ね飛ばしてゆく。
 アーチャーの一撃も功を無し、ドドブランゴは怯み動きを止める。

「ランサー……フェイカー!」

「もうお前が何をしようと予想の範疇なんでな!」

「助け合ってこそのマルチプレイ。これも楽しみの内さ」 

 驚いたように交互を見るギルガメッシュに、二人が笑いかける。

「話は後だ。今は回復してきたまえ」

「ファンゴは居ないし、死ぬんじゃねぇぞ」

 そう言って、二人はギルガメッシュを守るように戦う。
 ギルガメッシュは、二人の言葉に口の端を僅かにゆがめる。

「ふん……礼くらいは言っておいてやる……」

 その言葉に、ランサーとアーチャーは揃って驚いた。
 ランサーですら、礼は予想外だったらしい。
 蒼と紅は、共に口の端を歪める。

「さぁて、んじゃあコイツをなんとかするかね!」

 Gillがエリアから出て行ったのを見届け、ランサーが空気に喝を入れる。
 アーチャーは表情を引き締め、行動に含まれる攻撃の比重を上げる。

「そういや気になってたんだが……アーチャー、お前鬼人化は如何した?」

「ふ、鬼人化はコレといった隙にしか使わない様にしているのだよ。
 死んでしまっては、元も子もないからな。
 尤も、狂走薬でもあれば話は違ってくるのだが……序盤に使える品ではないからな」

 双剣の要とも言える鬼人化を使わないアーチャーに、疑問をあげるランサー。
 返ってきた答えは、彼を満足させるに足るものだった。
 苦戦しつつ、戦闘を続けるランサー。
 アーチャーは双剣だから良いが、動きの遅いランサーに、ギルガメッシュの抜けた穴は大きい。

 思わず、ランサーが舌を打つ。
 その時、それは丁度起きた。

 ドドブランゴが、大きく飛び上がったのだ。
 それは、エリアの移動を意味する。
 そして――

「ドドブランゴよ! 我は帰ってきた!」

 威勢良く、回復を終えたギルガメッシュも帰ってきた。
 なんとも言えないタイミングで。

「……む? ヤツは如何した?」

「……はぁ」

 蒼と紅の溜息が混じる。
 あとに残ったのは、なんとも言えない空気だけだった――





「此処に出会うは王二人――貴様は獣の王、我は人の王。
 王が場に求めるは話し合いか? 平和か?
 断じて否! 王二人が出会えば、闘争であろうよ!
 来い! ドドブランゴ! 雌雄を決しようぞ!」

「言っている事は威厳に溢れているのだが――」

「相手が猿じゃ、なぁ。
 まぁ、気にすんな。アイツ、毎回雌雄決してるから」

 エリア移動を済ませた後、視界にドドブランゴを入れた三人組のやり取りが始まる。
 先程までの緊迫は何処吹く風、思い思いを語り、場の空気は緩くなっていた。

「ぐ……うるさいぞ其処の蒼赤コンビ!
 我が折角作った空気を、台無しにしおって!」

「そういうのは、もっと後半に頼みたいね……
 それと、蒼赤コンビとは言うがな。君を含めたら信号機トリオだぞ、私達は」

「青黄赤、か。言いえて妙だな、そりゃ。
 っと、来るぞ」

 ランサーの言葉に、三人組が緊張を取り戻す。
 ドドブランゴは、既に攻撃態勢に入っていた。
 腕を振りかぶっての、突進。当たれば痛いが、警戒をすれば恐ろしい物でもない。

 三人はそれぞれの方向に散開する事でそれを避け、各々が攻撃に移る。

 その中でふと、アーチャーが呟いた。

「そういえばギルガメッシュ……君は、炎属性の武器を装備していたな?」

「く、っぬぅ……む? それがどうした、フェイカー」

 ドドブランゴの攻撃を何とか避けつつ、ギルガメッシュが苦しげに返す。
 そのギルガメッシュを見て、アーチャーが言葉を続けようとするが――
 ランサーがそれを、遮る。

「よしとけ、アーチャー。正直、それをコイツに任せるにゃちょいと不安が残る」

「む……序盤の入用には必要かとも思ったが……
 確かに、不安はあるな。仕方が無い、またの機会にするか……」

 二人は、どうやら話題を共通にしているようだ。
 で、あれば。分からぬのは自分だけ。
 ギルガメッシュは憤りを覚えつつ、なおも苦しげに叫ぶ。

「な……言わせておけば何を言うか貴様ら!
 呼びかけておきながら話し込みおって! ……のわっ!?
 く、この牙獣種めが!」

 引っ掻きを避けての、飛び掛り斬り。其処からのコンボ。
 片手剣の基本をその身に映しつつ、ドドブランゴの体に傷を増やしていく。

「はぁ……ま、知りたきゃ言うけどよ。
 知るとお前無茶しそうでなぁ……」

「無茶をせずして何がモンハンか! 良い、話せ!」

「んじゃ、言うがよ……
 お前、弱点属性ってのは知っているか?」

 溜息と共に、ランサーは語り始める。
 弱点属性、説明書を読めば存在くらいは分かる筈の、基礎知識が一つ。
 しかし、金の英雄王は誇らしげに叫ぶ。

「知らぬ! 語幹で分からぬことも無いが、話せ!」

「説明書読んでないとか言ってたしな……ま、いいか。
 弱点属性ってのは、モンスターに一つ一つ設定された、苦手な属性の事だ。
 イャンクックなら水や氷、ダイミョウザザミなら炎、ってな具合にな。
 ――まぁ、あらかた気付いていると思うが一応言う。
 ドドブランゴの弱点は、今お前が装備している火ってぇワケだな」
 
「ほう! それでは我が頼りと言う事か!」

「半分正解だが、続きを聞きたまえ。
 そこで、モンスターによっては弱点を攻めることによって特殊な挙動を見せる物が居る。
 まだ先の話になるが、クシャルダオラを除く古龍種や、ラージャンなどがそうだ。
 さて、本題に入ろう。
 眼の前のドドブランゴも、その一部のモンスターの中に含まれる。
 頭を火属性で攻撃することにより、ご自慢の牙を壊せる、というわけさ」

「すると、序盤に手に入りゃ心強い雪獅子の牙が手に入る。
 氷属性の武器を作る時に、必要になる場合が多いな」

「ならば――」

 其処まで言いかけたギルガメッシュを、ランサーが止める。
 ギルガメッシュは眉を歪め、言葉を一旦止めた。

「だが頭を攻撃する、ってのはアイツと正面から戦うって事だ。
 それだけ攻撃を貰う回数は多くなるし、基本的に正面きっての攻撃は避けにくい。
 ……正直、始めたばかりのお前がそれを成し遂げれるとはおもわねぇ。
 痺れ罠とかも、持ち合わせが少ないしな――」

 言いつつも、操作を完璧にこなすランサー。
 ここ数日、覗きをしていたアーチャーは想う。Gillを操作しているのがせめてランサーならば、と。
 何故だかなんとも言えない空気が満ちてくるのを感じ取り、ギルガメッシュが叫ぶ。

「く……ええい! 言わせておけば貴様らぁ!
 良い! では見せてやろうではないか――英雄王の手管をな!」

 そう叫んだ後、Gillは目に見えて狙いを、ドドブランゴへの頭に移す。
 ランサーは「だから教えたくなかったんだよなぁ」と小さく呟き、一旦槍をしまう。

 走り出したランサーは戦列に追いつくと共に、叫んだ。

「やるってんなら止めやしねぇ! だがな、やるからには成功させろよこの金ぴか!」

 半ばやけであったが、それは紛れも無い信頼。
 人間的に成長したギルガメッシュはその言葉を不敵な笑みで受け、返す。

「――おうともさ! 王は信頼する民を裏切りはせぬ!
 お前が我を信頼する限り、必ずや獅子の牙をヘシ折って見せようぞ!」

 当事者二人は気付いていないが、アーチャーから見ればそのやり取りは正に親友そのもの。
 アーチャーは自分の事を棚に上げ、「英霊がゲームごときで戦友とは……」と嘆いた。近い未来、彼がこの戦友の輪に加わることは、まだ誰も知らない。
 とはいえ――
 愉快な光景であるのも、事実。
 アーチャーは口の端をゆがめる。

「(コレだからモンスターハンターは面白い!)
 ギルガメッシュ! ランサー! ありったけの痺れ罠、行くぞ!」

 アーチャーの叫びに、二人は無言で「応!」と返す。
 英霊となってから久しい高揚感を覚え、アーチャーはサポートを開始する。
 道具によるアーチャーのサポートが終われば、次はランサーがサポートを始めるだろう。
 いまや、エースは完全にギルガメッシュとなっていた。
 それはランサーが忌避していたこと。だが、この場でそれを不満に想うものは誰一人としていなかった。

 しいて言えば、遠巻きに彼らを見つめる言峰が、彼らの存在自体を疎ましく想っているくらいだろうか。

「よっしゃ掛かったな! 行け! ギルガメッシュ!」

「言われずともそのつもりよ!
 折れろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 アーチャーの痺れ罠に掛かったドドブランゴを、ギルガメッシュが滅多切りにする。
 ランサーとアーチャーも戦列に加わっているが、痺れの効果時間の半ば、というところでアーチャーが離脱する。

「本来はあまり好きな手ではないが――
 この身はサポートに徹したモノ。卑怯という言葉も甘んじて受けよう」

 痺れ罠が破壊される時間を見計らい、アーチャーが再度痺れ罠を設置する。
 完全なタイミングで行われたそれは、ドドブランゴを二倍近い時間拘束することとなる。 

「中々やるじゃねぇか!」

「ふ、その言葉素直に受け取ろう」

 ランサーが感嘆の声を上げ、アーチャーが不敵な笑みを浮かべる。
 しかしこの英霊達、ノリノリである。

 ――だが、元来痺れ罠の拘束時間はそう長いものでもない。
 二つ続けて設置したとは言え、ドドブランゴをとどめておける時間には限界がある。

「ち、ぶっ壊れたか!」

 思わず、ランサーが歯噛みする。
 ――やろうと思えば、ランサーも痺れ罠を置くことは出来た。
 だが、彼は敢えてそうしなかった。
 何故か? それは切れ味の関係による。

 連続で攻撃していれば、それだけ武器の切れ味が落ちるのは早い。
 本来、モンスターハンターとは敵の僅かな隙をつき、反撃を受けない程度の小さな回数で敵を切り刻んでいくもの。
 それがコレだけ長い時間攻撃し続ければどうか?
 必ずや、武器の切れ味が落ちる。

「――チィ!」

 ギルガメッシュが舌を打ったのが、そうだ。
 彼の武器の切れ味は、およそ実戦で使うにギリギリのモノとなっていた。

「何とか隙見つけて研ぎやがれ!
 言い出したんだ、必ずブチ折ってもらうぞ!」

 再び始まったドドブランゴの猛攻、怒り状態の激しいそれを何とか避けるギルガメッシュに、ランサーが激励を飛ばす。
 ギルガメッシュはそれを苛立った様子で――それでいて楽しそうに――威勢良く返す。

「当たり前だ! 貴様は我を信じて、援護を続ければよい!」

 ドドブランゴの注意が逸れたのを確認したギルガメッシュは、己の武器を研ぎ始める。
 一方ランサーは、ドドブランゴが突進してきたのを見て、冷静に攻撃をガードする。
 アーチャーは機動力を生かして遊撃に当たっていた。
 チームプレイ、ここに生まれり。とてもではないが生死を賭けて争っていたとは思えない連携である。

「――よし! 研ぎ終わったぞ!」

「ようやくか! ラストの痺れ罠行くぜ!」

 巧みに攻撃を避けていたSetantaが、ドドブランゴから離れる。
 直後、ドドブランゴは腕を振りかぶり跳ねる。
 食らえば痛い攻撃、しかしそれはかわせば大きな隙となる。

 ランサーはその隙を見逃さず、痺れ罠の設置に入る。
 ドドブランゴはアーチャーを相手にしている。
 痺れ罠は、簡単に設置することが出来た。
 
 アーチャーはそれを確認し、武器をしまい走り出す。
 ギルガメッシュは既にランサーの隣に居る。
 あとは、ドドブランゴが引っかかるのを待つのみ。

「――行くぞ、付いて来れるか」

 ランサーたちを目掛け突進するドドブランゴを見て、アーチャーがふと呟く。
 行き先を指定されなかった言葉はしかし、ギルガメッシュに届いていた。

「愚問だ――貴様がついて来い、フェイカー!」

 ギルガメッシュが言い終わると同時に、ドドブランゴの体に電流が走る。
 痺れ罠が成功したのだ。

 その隙にギルガメッシュは頭を、残りの二人はギルガメッシュの邪魔にならぬ位置でドドブランゴを切り刻む。
 息も吐かせぬ連続攻撃――
 それは、軍の戦いともいえる激しい攻撃の嵐。

 しかして、ドドブランゴの牙を折ることはかなわなかった。

「クソ、駄目か――!?」

 ランサーが苦々しく吼える。
 ドドブランゴの身を震わすモーションが、諦めを流していく。

 だが、英雄王は諦めなかった。

「いい加減――沈め!」

 回転切り。片手剣の中で一番強い攻撃。
 それは、見慣れた爆炎のエフェクトを生み――

 また同時に、砕け散る石の様なエフェクトをも生み出した。

 ドドブランゴの牙を、遂にヘシ折ったのだ。

「は、はは――」

「――なんと」

 蒼と紅は、それぞれの表情で驚きを表現する。
 しかし、二人の笑みには勇者を称えるそれが混じっていた。
 牙折、ここに成り。三人の力をあわせた結果が、ここにあった。

「見たかランサー! フェイカー! 我は成し遂げたぞ!」

 攻撃を止めずに、言葉で喜びを表現するギルガメッシュ。

「やれば出来るじゃねぇか、この野郎!」

「いや――初心者と侮っていた。
 素直に賞賛の言葉を贈らせていただきたい」

 二人の英霊も、それを褒める。
 三人で生み出した結果に、三人で喜ぶ。
 人数は違えど、モンハンの醍醐味の一つである。

 ――だが、彼ら二人、蒼と紅は忘れていた。

 金色の英雄王は、ホメると調子に乗ると言うことに。

「ハハハ! 褒め称えよ! 我を!
 感謝せよ! 我――のぅあ!?
 雪だるまだと! 何が起きた!?」

 喜びに身を任せ、ブレスを避ける事もせずに浴びるギルガメッシュ。
 それと同時に、止めが刺され倒れるドドブランゴ。

 なんとも言えず、蒼と紅は顔を見合わせた。

 ――目標を達成しました。

「今度から、彼は叱って伸ばす事としよう」 

「同感だ……今回はまだ良いが、戦闘中にやられちゃハナシにならねぇ」

 なんとも言えない空気で剥ぎ取りを始めるランサーとアーチャー。
 二人とも呆れを隠しきれない表情だが、それでも非常に楽しそうであった。
 協力して困難を成し遂げたことによる、達成感。
 それは、筆舌に尽くしがたい心地よさを生むのである。

「ちょ……お前達助けろ! 剥ぎ取れん!
 我を助けろランサー! フェイカァァァァァァ!」

 そんな、達成感に包まれる二人を他所に、雪をまとって走り続けるギルガメッシュ。
 彼の悲痛な叫びが、教会に木霊した――

 余談だが、ギルガメッシュは途中でランサーに雪を蹴り割ってもらった。ランサーの優しさが身にしみたギルガメッシュだった。
 更に余談だが、言峰は胃に何か重いものを感じ始めた。コレが悪魔からのサインであることに、気付く者はまだ居ない……



おまけ

英霊達の装備品


ランサー/Setanta
武器:パラディンランス
頭 :バトルヘルム
胴 :ギアノスメイル
腕 :バトルアーム
腰 :ギアノスフォールド
脚 :ギアノスグリーヴ
備考:ガード性能+1を発動させた序盤で揃え易い装備。
    研ぎ師を発動させたかったが断念。さりげなく探知が発動している。

ギルガメッシュ/Gill
武器:レッドサーベル
頭 :コンガヘルム
胴 :ギアノスメイル
腕 :クックアーム
腰 :ギアノスフォールド
脚 :ザザミグリーヴ
備考:特に何も考えず、防御力を重視して組んだ装備。
    ランサー、アドバイスしてあげなさい。

アーチャー/Archer
武器:デュアルトマホーク
頭 :バトルヘルム
胴 :バトルメイル
腕 :バトルアーム
腰 :ギアノスフォールド
脚 :バトルグリーヴ
備考:此方は研ぎ師を発動させた序盤用装備。
    攻撃力UP小も付属している。

言峰
胃 :ポリープ
備考:もはや語るに及ばず。ストレス性。
    死神の足音は刻一刻と近づいている。



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やっとできたー!
週間ペースから若干外れての更新となります。

そこで五話終了&HR2記念にアンケート的なものをヴぁ。

1:コレからはキークエストを中心に進めて行く事になるのですが、その他キークエストでなくても見たいクエストとか有ればお聞きしたいです。
2:次回セイバー出そうかなぁ、と画策中なのですが、アーチャーが加入したばかりでちょっと早いんじゃないか? と思うか否か
3:見ておきたいキャラの死に様

1,3は文章で、2はYESかNOか、はいか、いいえか、その他もろもろでお答えくださると非常にコレからを決めやすくなりまする。




[9087] 第六話 荒んじまった心の末に。アレ思い浮かべた人、荒んでます
Name: ロボ2号◆20e538c7 ID:711ca10d
Date: 2009/11/10 21:10
「待たせたな。さあ、賞味するがいい」

「お、美味そうじゃねえか。
 遠慮なく食わせてもらうぜ!」

「ほう、我が宝物庫の食材を使わせてやったとは言え中々の出来だ。
 褒めてやるぞ、フェイカー」

「そう言ってくれれば作った甲斐があったというモノだ。
 ……さて、私も食べるとしようか」

 昼、言峰教会にある一室。
 ダメサーヴァントの面々は、礼拝堂から場所を移し、一同に集っていた。
 ――少し広めに作られた其の部屋は、ギルガメッシュの自室だ。
 空腹を訴えたギルガメッシュの言により、彼らは少し遅めの昼食をとっていた。
 
 食事とは元来ランサーとアーチャーには必要が無いものだ。
 とは言え、ランサーもアーチャーも、楽しみとしてならば食事をとることが出来る。
 ならば折角だし昼食を全員でとろう、という事になり今にいたったということだ。
 アーチャーも、普段は見る機会の無いような高級な食材を存分に調理できて嬉しそうである。

「あ、おいギルガメッシュ。ちょっとソース取ってくれよ」

「自分で取れ――と言いたいが、我が持っているのでは仕様が無い。
 ほれ、ありがたく思えランサー」

「うむ、やはり久しぶりにすると食事も良いな。
 ――いや、菓子ならばモンハン中にもつまんでいたか」

 和気藹々と会話しつつも、皿の上の食事は平らげられていく。
 男三人でテーブルを囲む風景は若干異質なものだが、友人同士の集まりとしてみればそれは自然なものだった。

「――それで? 今度は何に行くのだ。
 流石にもうドドブランゴは飽きてきたぞ」

「まあ、人数分受けなきゃならんのはメンドイよな。
 けど安心しな。此処からは遂に☆四つクエストを受けようと思ってたところだ」

「ようやくか……待ちわびたぞ!」

 とはいえ、集まっている理由が集まっている理由なので、会話の内容は自然とモンハンへと向かっていく。

「新しいモンスターとの戦いは胸が躍るからな……
 その気持ち、理解できるぞ英雄王」

 ――いつの間にか、すっかり溶け込んでいる弓兵が居たり、言峰教会は今日もカオスです。
 呼び方には若干の棘はあれど、もはや会話に厭な雰囲気は存在しない。
 それは、ギルガメッシュからアーチャーに対しても同じだった。
 ――ただ、この三人と言峰の溝は深まっている。理想の信頼関係は、もはや夢のまた夢である。

「しかし、何に行くかねぇ……ガノトトスはまだあの装備じゃキツそうだしな」

「かといってドスイーオスやヤオザミでは味気無い……
 ここは、一度キークエストから外れてみる、というのはどうだ?」

「む、となるとフルフルかゲリョス亜種ってトコか……フルフルでも行くかねぇ」

「……我、すっごい疎外感」

 ランサーとアーチャーの会議に、唯一初心者なギルガメッシュは付いて行けない。
 アーチャー手製の料理をつまみつつ、不貞腐れるギルガメッシュ。

 とはいえ、会議は長く続かなかった。
 不貞腐れたギルガメッシュにも聞こえるよう、ランサーが言う。

「よっし、んじゃ飯食ったらフルフル行くぞ!
 ギルガメッシュも、それでいいな?」

「む、ようやく我にもスポットライトが。
 良いぞ良いぞ、何が来ようと蹴散らしてくれるわ!」

「調子に乗って死なねばいいがな……
 まあ、期待している」

 ギルガメッシュは景気良く笑い、再び料理へと箸を向ける。
 此処最近、彼の扱い方が分かってきたランサーとアーチャーであった。




 クエストの準備中です
 洞窟に潜む影
 クエストを開始します

「む、沼地か……くそ、何度来ても好きになれん!」

「まあそう言うなって。今回は沼地より洞窟がメインだからよ。
 ホットドリンク買うように言ったろ? 今回はちょいと違う色の場所で戦うと思うぜ」

 昼食後、再開されるはモンスターハンター。
 無論、場所は礼拝堂へと移っている。コンセントが多いのだ。

 もはや諦めたのか、言峰の姿は無い。
 まあ、居ても居なくても誰も気には留めないのだが。

「携帯食料は多めに貰っていくぞ。
 スタミナは双剣の命なのでね」

「おう、持ってけ持ってけ。
 こっちはそんな頻繁に回復しなくてもいいから、肉があればいい。
 ――おいギルガメッシュ。お前念のため応急薬大目に持っとけ。お前が一番不安だ」

「――なんだと。まあ持っていくが」

 会話しながら支給品を分配する英霊達。
 PSPを覗く為、若干丸まった三つの背中が聖杯戦争の存在を怪しませる。
 
 とはいえ、支給品を取るのはそう長い作業でもない。
 支給品を終えた三人は、それぞれ携帯食料を使用し始めた。
 動きが揃っていて、奇妙な風景となっている。

「よっし、行くか!」

 全員のアイテム使用が終わったところで、ランサーが号令をかける。

「まあ、また洞窟の前でホットドリンクを使い、止まるだろうがね」

 それに茶々を入れるアーチャー。
 皮肉げな言葉ではあるが、言ったアーチャーも言われたランサーも、聞いていたギルガメッシュすら楽しそうだ。

「ああ――念のため言っておこう、ギルガメッシュ。
 フルフル戦はモンスターに発見されても黄色い目のマークが付かん。
 充分に注意することだ」

「――む? どうしてそれに注意せねばならんのだフェイカー」

「私も最初は君のようにそう言ったのだがな。
 黄色い目のマークがないと、緊急回避――背を向けて走っている最中に飛び込んで回避するヤツが使えんのだよ。
 うっかりすると、ブレスや飛びかかりに対して前転で避けかねん。
 一応注意しておくことだ」

「それは恐ろしいな……忠告褒め置くぞ、フェイカー」

 会話――と言うより、注意をしつつ行軍する三人組。
 ゲネポスなどのモンスターをスルーしつつ、進んでいく。
 勿論、洞窟の前ではお約束のホットドリンクタイムだ。

「さて、いるかねぇ……」

「いや、もう少し奥だった気がするな――っと、ペイントボールを忘れてしまった」

「心配するな、我が持っている。
 して、フルフルとはどんな見た目なのだ?
 なにやら、可愛らしい語幹をしておるが」

 洞窟を突き進むランサーたちに、ギルガメッシュから質問が投げかけられる。
 それに応えるため、ランサー達はソレの容姿を頭に浮かべるが――

「いやまあ、なんつーか……」

「口に出すのを憚るというか、卑猥というか……
 ま、まあ見てのお楽しみと言っておこうか……」

 視線を合わせ、言いよどむ二人。
 モンスターハンターをやったことのある人ならば、あの異名を思い出すだろう。
 なんというか、アレな見た目と共に。

「……? まあ良い。
 どうせもう直ぐ出会――うお、なんぞこの醜い巨体は!」

 などと、会話している内に視界に入るは、件のフルフル。
 白い――というには若干汚れた体皮に包まれ、おぞましい顔――というより、口を持った飛竜。
 フルフルのお出ましである。
 
「……これがフルフルか。名前と裏腹に醜いな……
 いやしかし、ごく最近何かで見たような気が……
 ……――ああ、アレか! ホラ、ランサー。一昨日見ただろう、エヴァンゲリオンとかいうアニメの劇場版に出てたアレだ」

 何を思い出したか、ギルガメッシュが叫ぶ。
 話題に上がったのは、一昨日DVDで見たアニメの話。
 意気投合した二人はモンハン以外でも趣味を楽しむことが増えたのだが――この英霊達、とことん駄目英霊である。

「あ? ――そういや似てる様な……羽とか口だけとか確かに……
 そういう見方もあったか」

 感心するランサーを他所に、アーチャーが叫ぶ。

「何? 二人でエヴァンゲリオンを見たと? 何故私を呼ばない!
 くそ――知っていれば家事を放って見に来たものを!
 ――しかし、なんだ。アレに見立てた私の心は荒んでいるのだろうか」

 此処にも駄目英霊が一人。
 コイツら、とことん駄目である。
 聖杯はきっと人選をミスしたに違いない。

「――いや、しょうがねえだろう。男なら。そう、男なら。
 ……とか落ち込んでる場合でもねぇか。ホラ、ギルガメッシュ、ペイント当てて来い」

「む……何を落ち込んでいるのだ? まあいい。
 そうら、受け取れ量産型!」

 ランサーとアーチャーが、なんとも言えぬ気分の落とし方をしている最中、戦闘開始は告げられた。
 緩やかに飛んでいくペイントボールが、フルフルの体に付着する。
 ランサーとアーチャーは気分を建て直し、戦闘態勢へと移行した。

 非常にゆっくりとした動きでフルフルはランサー達に視線を向け、ブレスの準備をする。
 三人は一様に視界の前からはずれ、走り出した。
 まもなくして、フルフルの口から電球が発射される。
 電球は誰にも当たることは無かったが、油断して大きい回避をとらなかったギルガメッシュはギリギリ電球と電球の間をすり抜ける形となった。

「ぬお、三方向とはやってくれる……イャンクックとは違うか!」

 予想外の攻撃範囲に蹈鞴を踏むギルガメッシュ。
 遠距離のブレスはこれが初体験。
 初めて攻撃を食らう前に注意できた形となった。
 やがて、三人はフルフルへと到達し、それぞれが武器を出す。
 
「今回はドドブランゴの様にゃいかねぇぜ!
 ランスの真髄、とくと味あわせてやらあ!」

 ドドブランゴ戦、若干引きぎみに戦っていたランサーが叫ぶ。
 動き回るドドブランゴがランスの天敵だとすれば、激しい動きの無いフルフルはランスにとってカモにすらなりえる。
 まして、ガード性能+1が付随している今、気をつけるのはブレスくらいしか存在しない。
 そんなこともあって、今回の主力はランサーである、といえた。
 此処数戦地味だった彼のテンションは上がっている。

「逆に私は少々引きぎみに戦った方が良いか――まあ、遅れを取る積りは無いがね、っと!」

 始動モーションを見て、放電を回避しつつアーチャーが呟く。
 ランサーは、しっかりとガードしたようだ。
 とはいえど、まあ――

「ぐおぉぉぉぉっ!? 放電!? なんだこの攻撃は!
 今までに無い攻撃! くそ……見た目に反して中々やる!」

 しっかり食らう英雄王が居るあたり、いつもどおりといった所か。
 幸い、すっ飛んでいったギルガメッシュに追撃が行われることは無かった。

「……!? くそ、コイツもまた攻撃力の高い……!」

 隙は大きくとも、フルフルの放電は中々厄介な攻撃力となっている。
 防御力で組んだ装備とは言えど、マトモに食らえば結構痛い。

「しばらく観察しててもかまわねぇぜ?
 落ち着いてみれば、結構防げる攻撃だからな……よっし!」

 再び行われた放電をガードしたランサーの槍が、フルフルを襲う。
 フルフルの放電はあんな見た目だが、一度食らうかガードしてしまえば攻撃判定が消失する。

 故に、ガードしても後退しないランスとガンランスにとっては大きな攻撃チャンスとなるのだ。

「む……いや、いい。今ので放電に移行する際の仕草は覚えた!
 二度同じ手は食わん!」

 起き上がったギルガメッシュが、放電の終わり際に叫んだ。
 割と見切りやすいモーションでは在るので、フルフルの放電は意外と避けやすいのである。
 それを理解したギルガメッシュは、飛び掛り切りで第二ラウンドの開始を告げる。

 三人、それぞれの攻撃がフルフルを襲う。
 突き、切り、斬撃と刺突のフルコース。
 それに耐えかねてか、フルフルが放電を行おうとする。

「食らわぬといったであろう、雑種――!」

 ギルガメッシュはそれを落ち着いて避け、攻撃範囲の外へと脱出した。
 割と威勢良く叫びつつ、放電の終了を待つ姿は意外にシュールであった。
 まあ、それはアーチャーも同じなのだが。

 やがて放電は終わり、再び攻撃のチャンスがやってくる。
 ――と、思われたのだが――

「……ち、一旦休みか」

 フルフルが、天井へと移動する。
 時たま――頻度の高い時もあるが――フルフルはこうして天井に張り付くことがある。
 こうしている間は、ほぼガンナーしか攻撃できず、剣士にとってはもどかしい時間である。

「む……? あれはどういった行動なのだ?」

「そうだな……天井に張り付いて涎を垂らしたり、押しつぶしで急襲したりと言った行動が多いな。
 真下は避けた方がいい。今の防具では、洒落にならないダメージを食らうこともあるだろう」

 アーチャーの講義に、ふむと息を鳴らすギルガメッシュ。
 そうこうしているうち、フルフルが涎を垂らし始める。

「お、落し物がでたな!」

「私は出ていないな……」

「なんだ? 落し物とは」

 それに合わせ、三種三様の声が礼拝堂に響いた。
 落し物とは、ボスモンスターが一定の行動をした後に現れるアイテムのことである。光るエフェクトがそうだ。
 基本的にはポッケポイントに換算するアイテムが出るが、偶にレアなアイテムが出ることもある。要注意である。

「って、こった。出てるなら拾った方がいいぜ。――安全な時にな」

 軽く説明をし、した傍から拾いに行くギルガメッシュにランサーが釘を刺す。
 フルフルが真上に居るにも拘らず、落し物を拾おうとしたギルガメッシュをとめるためだ。

「――わかっておる。ほんの茶目っ気よ」

 ややぶすくれた声で言うギルガメッシュに、説得力は無い。
 不満そうなギルガメッシュだが、数秒もしないうちに――

「降ってきたな。さて、戦闘再開と行こう」
 
 ランサーに感謝することとなった。
 人の話を聞くあたり、成長が伺える。

 回復はしていたものの、食らえば厄介な事になっていたな――と胆を冷やしつつ、ギルガメッシュはフルフルに切りかかる。

「っと、危ね!」

 ブレスが吐かれんとするフルフルの口を見て、ランサーが急いで回避する。
 その間、アーチャーたちはフルフルを切っていた。
 とはいえしっかり回避する当たり、ギルガメッシュとは違うといったところか。

「お返しだぜ!」

 再び戦列に並んだランサーの槍が、容赦無くフルフルを突き刺していく。
  
 ――さて、此処で少しモンハンの知識を披露しよう。とはいえど、少しかじった事があるなら知っていることだと思う。
 フルフルは、睡眠以外の状態異常が効き難いという性質を持っている。
 麻痺は効果が薄く、痺れ罠も長くは持たない。
 ならば、動きが止まりにくいかといえば、これが面白いことに頻繁に止まるのだ。
 フルフルは、転倒に対しての耐性、足の怯み耐性が非常に低いのだ。
 これにより攻撃力が不足しがちな前半でも、面白い様に転倒することが多い。
 つまり――

「よし、転倒したか!」

 三人で斬っていれば、あっという間に転倒するということ。
 転倒したフルフルは無様にもがき、大きな隙を晒す。

「どうした、ほうら、放電してみろ雑種!」
 
 大人げ無く切りかかる英雄王。
 三人組みの攻撃は、フルフルが転倒したことで激しさを増した。
 そこそこ長い時間なのだが、それでも罠に比べれば転倒している時間は短い。
 やがて立ち上がったフルフルは、白い息を吐き始める。

「……怒ったか。まずいっちゃまずいな。
 おいギルガメッシュ。こうなったフルフルは動きが速いから気をつけろよ」

「む? そんなに速いのか? ……あまり想像は出来ぬが、一応覚えておこう」

 怒ったフルフルの隙に攻撃を加えつつ、注意を受け取るギルガメッシュ。
 直後、フルフルは放電モーションに移行した。

「成る程! 確かに速いな!
 だが同じ技は我には通用――いやまて!
 引っかかった! 何だこの羽! タァァァァァイム! タイムだ雑――ぬおぉぉ!?」

 ――確かに、ランサーの忠告を受け取るようになって、なおかつ気をつける様になったギルガメッシュは人間として大きく成長した。
 だが、気をつけていても引っかかるのが彼なのだ。
 きっとこのうっかりは、未来永劫直るまい。
 ランサーとアーチャーは、彼のスキル欄に「うっかり:EX」を見た気がした――

 アーチャーとランサーの間に居るギルガメッシュ。
 その彼に「可愛そうなものを見る目」が交差する。
 しかし、こうしても居られない。戦闘中であることを思い出し、ランサーがいち早く正気に戻る。

「……と、脱力してばかりも――!?
 不味いぞ、アーチャー!」

 自らに気合を入れなおそうとするランサーだったが、言葉の途中で顔を青くした。
 その目に映るのは、フルフルのブレスの予備動作。
 そして、その口が向けられたのは――他でもないGill。

「――! くそ、なんとも運の悪い――!」

 ランサーの言葉に、視点を動かしたアーチャーも、それを確認する。
 知らぬは、ただ転がるギルガメッシュばかり。

「くうう……怒り状態の放電のなんとダメージの高いこと……!
 待っておれ雑種……必ずやこの恨み晴らしてくれようぞ……」

 闘志は衰えていないようで、そんな事を呻いている。
 だがまあ、そんな闘志ではどうにもならない事象が、モンハンには存在するのだ。

「……ぬ?」

 Gillが力尽きました。 
 所謂、起き攻め。
 起き上がりという無防備な時間に攻撃が重なることで、回避を至難とするモンハンにおける『ハメ』の一種である。
 こればかりは注意していても仕様が無く、上級者の死因の上位に挙げられる。俗に事故とも。

 ギルガメッシュが固まる。
 頭に耳を近づければ、カリカリと記憶のディスクに書き込む音が聞こえそうだ。大分旧式らしい。

「なぁぁぁにぃぃぃぃっ!?」

 一拍遅れで、教会に金色の声が大きく響き渡る。
 ランサーとアーチャーは、PSPから目を放さずも絶妙な表情をしている。

「おいランサー、なんなんだ今のは……
 心なしか我、台車で運ばれている気がするのだが」

 ギルガメッシュが、自らのPSPを指差す。
 何だか哀れなその姿は、英霊の目すらも背けさせた。
 行き場を失ったギルガメッシュの指は、ランサーを外れアーチャーに向かう。
 だが、ここでも視線は逸れてゆく。

「あー、なんだ。モンハンには起き攻め、ってのがあってな……アーチャー、後頼む」

 説明をアーチャーに任せるランサー。
 それもそのはず、彼は先程から最前線でフルフルを突いているからだ。
 手が放せない、ということなのだろう。説明をアーチャーへと託し、再び視線をPSPへと落とす。

「うむ、了解した。
 起き上がりの行動不能時間に攻撃を重ねられると、一部を除いて回避できなくなる、という仕様なのだよ。
 ガードが出来ない武器や、そもそもガードが出来ない技を重ねられると、君のようになる」

 ランサーに託されたアーチャーが、起き攻めについてのレクチャーを始める。
 死亡してたばかりである今、ギルガメッシュが燃え尽きずに、まともに言葉を拾っているのは成長かもしれない。

「つまり、放電を食らった時点で我の死は確定していたということか?」

「……まあ七割がた、だな。回避性能というスキルを発動させれば披弾率も下がる。
 他にはフルフルが怯めば攻撃を中断させることも出来るが――そう上手く怯んでばかりもくれん。
 これから最後まで付き合っていくであろう死因だ。頭の中に入れておけ」

「くぅぅ……分かった。留め置こう。
 しかし、動けぬ相手に追い討ちとはなんと卑劣な……」

「私達だって、罠を使うだろう。気持ちを切り替えて、その恨みをヤツにぶつけてはどうだ?」

「うむ、それもそうだな……
 待っていろフルフル――! 我の恨みと共に、ついでにアスカの件の憤りも晴らしてくれる……!」

 アーチャーの言葉に素直に従う英雄王を見て、ランサーとアーチャーは顔をあわせる。
 本来なら「意見をするな雑種!」と憤慨しそうなものだが……
 特に、その成長を傍らで見守ってきたランサーにとっては感慨深いものがあった。弟子の成長を見るとは、こんな気分なのだろう。
 一方、アーチャーはエヴァンゲリオンの件を根に持っていた。案外、本当にダメなのはこの男かも知れない。

「我、参上!」

 キャンプから走ってきたGillが、遂にフルフルのエリアへとたどり着く。
 だが、其処に広がっている光景は、ギルガメッシュの想像とは違うものだった。
 砥石を使用するArcherとSetanta。フルフルの姿は無い。
 だかおかしい。フルフルを示す、地図上のピンク色のアイコンは確かに自分と重なって――

「……おい、教えてやれよ」

 大きな溜息を吐くランサー。
 アーチャーもそれに返す様に溜息を吐き、ギルガメッシュへと語りかけた。

「うむ……仕方ないな。おい、ギルガメッシュ」

 察しのいい人はもうお気づきだろうが、フルフルはGillの真上である。
 溜息をついた英霊二人。それに気付かぬギルガメッシュ。
 その顔には微笑みを湛え、寛大そうな態度でアーチャーに返答する。

「なんだフェイカー? 申してみよ」

「死にたくなくば、右に避けろ」

「む……? 何を言って――おおぉッ!?」

 直後の事だった。
 降り注ぐフルフル。三割ほどのダメージと共に、前のエリアへ強制送還を食らうGill。
 英霊二人は再び大きな溜息を吐き、ギルガメッシュの怒りは頂点へ。

「ふ……ふふ。すぐ殺そう。凄く殺そう。
 ……――ええい! 蒼紅コンビ! 我の援護をしろ!
 すぐさまあの醜い巨体を血祭りにあげてくれる!」

 ギルガメッシュは笑顔。だが、それが愉快さによる物でないことは、赤子ですら分かるだろう。
 触らぬ神にタタリなし――というよりも、強制送還の理不尽さを知る二人は、同情の念を持って応える。

「ああ……了解した」
「今回ばっかは同情するわ……了解」

 万全を尽くす。それを意思表示するかのように砥石を使用し、気分を引き締めたGillが再度入場する。
 
「雌雄を決しようぞ! フルフルゥゥゥっ!」

 そして、もはやお決まりである雌雄決定戦。
 情けなき英雄の姿に、蒼紅が溜息を吐く。

「また決しようとしてるな」

「ああ、せめてアカムトルムまでは決さんで欲しい物だがな」

 聞こえるように放たれた、蒼紅に依る嫌味。息はバッチリであった。 
 本来ならギルガメッシュが激昂するに事欠かない1シーンだが、その怒りは全てフルフルに向かっていて底をついている。 

「ええい――そこ、うるさいぞ! 黙って援護しろ!」

 叱咤をもって戦列への再臨を告げ、再び戦闘が開始された。
 現在、フルフルは怒り状態に無い。
 それでも、放電のダメージは大きいし、ブレスなど位置によっては最悪即死の危険すらある。
 怒りに身を任せ、それでいて我を忘れることなく、ギルガメッシュが立ち回る。

「ほう……」

「素人にしちゃやるじゃねぇか」

 二人から感嘆の声が漏れる。
 言ってから拙い、調子に乗らせてしまう――と息を呑む二人だが、ギルガメッシュが調子に乗ることは無かった。
 凄まじい集中力である。いま、この場でセイバーが彼を褒めたとしても、彼がPSPから目を放すことは無いだろう。

 そんな最中、フルフルが放電モーションの初動を始める。
 ギルガメッシュは早めに回避を行い、余裕を持って離脱する。

「ふん……もうその技は食らわぬ! 今度こそだ!
 何も一気に斬り殺すことは無い――ゆっくりと擦り切ってくれる!」

 今までに無い集中の連続。
 ギルガメッシュとは思えぬ、念に念を重ねた慎重な立ち回り。
 まだまだつたない所はあれど、経験者であるランサーとアーチャーでさえ、息を呑む操作だ。

 ――ゆえに、二人の間には不安がよぎっていた。
 反動でなんか、ものすごーく、悪いことが起きるのではないか――と。

 転倒も順調にしている。先程から一つの被弾すらない。
 だからこそ――凄まじい事が起きるのではないか、と。

 事実、その予感は段々と確信に近づいてきた。
 ギルガメッシュの動きが悪くなってきたのだ。
 集中と怒りでとある-スキルを押さえ込んでいたギルガメッシュに、限界が訪れようとしていた。

 とはいえ、予感は予感。
 とりあえず、相棒の動きは良いに越したことは無い。
 アーチャーとランサーも、素直にいつもよりワンランク上のギルガメッシュを楽しむことにした。

「――! おい、ギルガメッシュ――」

「うむ……分かっておる。遂に怒ったのだな!」

 フルフルの口から、白い吐息が漏れる。
 それは、ギルガメッシュに決戦の時を告げていた。

 格段に速くなる各モーション。
 時たま来る咆哮に備えるため、Archerがやや後列へと移動する。

「く……悪いが、少し離れさせてもらう」

「わかった。無理はするなよ。
 ギルガメッシュ、アイツが息を吸い込む音がしたらガードしろ。
 コイツの咆哮を食らうと、行動不能が長いからな」

「肝に命じておこう!
 ……先程の雪辱、此処で晴らさせてもらうぞ!」

 しばしの会話。そして、今ギルガメッシュによって戦の再開が告げられる。

 熾烈な戦い。
 素早くなった放電を回避しつつ、敵を切りつけるギルガメッシュ。
 ――視界の端っこに、ガードしつつフルフルを只管突く楽そうなSetantaが見えるが、自らの自尊心の為に無いこととした。
 
 そして、遂にそのときはやって来る。
 ガード不可武器の死因No.1。
 首を引き、息を吸い込んだ後に行われるバインドボイス。
 ――咆哮の予備動作!

「ギルガメッシュ!」

 既に後退を終えたアーチャーが叫ぶ。
 だが、返ってくるのは不敵な笑顔。
 既にギルガメッシュは初動を読み取っていた。
 直後、咆哮が解き放たれ、フルフルがその醜い爆音を上げる。

 だが、ガードが出来ないアーチャーを除き、耳をふさぐ物は誰も居なかった。
 後ずさりしたものの、Gillは咆哮を完全にガードしていた!

「やるじゃねえか! 正直、最初は食らうかと思ってたぜ!」

「ふ……! 我にすれば造作も無いことよ!
 ――っと、喜んでばかりもいられぬな。どうやらヤツめ、我を気に入ったようだ!」

 その言葉の通り、フルフルはGillの方へと向き直る。
 一番苛烈に斬りつけていたGillを嫌ったゆえの行動か――
 なんにせよ、咆哮をガードしていなかったら非常に危なかっただろう。
 しかも、攻撃の選択はブレス――それも位置的に、三発同時に食らう即死範囲内。
 なんとか最大の危機は乗り越えた――

 誰もが、それを疑わなかった。
 だがそれで終わらないのがギルガメッシュの真骨頂。
 Gillは、ブレスの発射口を向けられているにも拘らず動こうとしないのだ。
 そう――盾を構えたままに。防御する気まんまんで。

「ギルガメッシュ! 避けろ!」

「何を言っているのだランサー。
 華麗な我の防御を見ていなかったのか?
 電撃球程度、我の優美な――」

 ギルガメッシュがそこまで言いかけたとき。
 教会の時が凍った。

 発射される電撃球。スローモーションでそれを確認するアーチャーとランサー。

 そして――――Gillが力尽きました。
 発射口に居たため、綺麗に電撃球を三発同時に被弾して。
 彼は器用に即死し、キャンプ行きの切符を手に入れたのだ。

 静まる教会。
 真っ白に燃え尽き、白く固まる我らがギル様。

 遂に押さえ切れなくなった最強のスキル――
 本日二回目のうっかり:EXが発動した瞬間だった。

「……こんなとき、どんな言葉を言えばいいのかわからねえの」

 ランサーが言う。某ヒロインのように。

「……あの馬鹿め、どういう技かも見切れんのか、だな」

 アーチャーが言う。某ライバルのように。

 後に残ったのは、なんともいえない静寂と。
 奇怪な表情で固まった、金髪青年の二つだけだった。  


 ギルガメッシュがキャンプに送られてしばらく。再びギルガメッシュはフルフルの居るエリアへ到達する――否か。フルフルの『いた』エリアへと到着した。
 ピンクの丸は今は沼地の中央――洞窟の外へと移動している。
 にも拘らず、蒼紅二人組みがそれを追わないのは、ギルガメッシュを待っているからであった。

 到着したギルガメッシュは、並び立つSetantaとArcherの元へと向かう。
 ――別に、ゲーム内でまでこうして集まる必要は無いのだが、なんとなくこっちの方が雰囲気が出るからである。

「……さて、言い訳を聞こうか」

 視点はPSPから教会へと移り変わり、ランサーが問い詰める。
 ギルガメッシュはというと、柄にも無く小さくなっていた。
 二度にわたる敗北で、いつもより多めに凹んでいるらしい。

 ランサーの話を聞き流し――否。自分の世界に入り込み、ギルガメッシュはぶつぶつと呟く。

「我が……英雄王たる我があのような醜い巨体に……
 ふふふ……戦に勝てぬ英雄が英雄王とはまこと笑わせるものよな……
 足手まとい、か……つい最近まで見下していたもの達のお荷物とはな……」

 凄まじいギルガメッシュのマジ凹みモードに、困惑するアーチャーとランサー。
 恐らく――というより、確実に。生前ですら彼のこのような姿はお目にかかれなかったであろう。
 それもそのはず、彼の味わう完敗らしい完敗は、ほぼこれが初である。
 ……セイバーに一度負けてはいるが、終始ギルガメッシュが押していたことを考えると、完敗というのは一段辛いものらしい。

「……なんか、調子狂うなぁ。
 おい、元気出せよギルガメッシュ。
 ガード出来ないって言ってなかった俺達も悪かったからよ。
 ――おい、テメェもなんか気の利いたことの一つでも言いやがれ!」

「わ、私もか!?
 ……う、うむ。そうだ。
 少し悪乗りをしてしまったが、我々が先に注意しなかったのも悪い。
 再び立ち上がり、フルフルを討伐しようではないか」

 ランサーとアーチャーにから、励ましの言葉が送られる。
 だが、始めての完敗を味わう彼に、その励ましはハゲ増しに他ならなかった。

「よいのだ二人とも……敗けた王などもう王ではないのだ……
 ふ、ふふ……これではセイバーが振り向かぬのも道理か……」

 うじうじと、椅子に指で見えない文字を書き始めるギルガメッシュ。
 いままで見たことの無い英雄王の姿に、蒼紅組は困惑を隠しきれない。

「いかん……どうするのだランサー。流石にこんな英雄王は見たことが無いぞ」

「俺に言われたってよ……こんなケースは初めてだからな……
 二人でも負けやしないだろうが、それじゃ意味無いしな」

 ちら、と横目でギルガメッシュを見る二人。
 相変わらず其処にあるのは白い灰。絶対勝利という尊厳を崩された英雄王。
 いかに彼らが英雄王の扱いに慣れたといえど、このような未知はいかんともしがたい。

 もどかしい二人。
 しかして、英雄たるものがこのまま終わるわけは無かった。

「ええい! しっかりしやがれギルガメッシュ!
 何が来ようと蹴散らすんだろうが! 俺達に後退は無いんだろうが!」

 ランサーが叫んだ。凛とした英雄の声は、静かな教会に何かをもたらした。
 肩をぴく、と振るわせるギルガメッシュ。
 ――肩の震えは、同時に魂の奮えを運んでいた。

「テメェも英雄の端くれなら、二言はねえ筈だ。
 ――ほれ、お前にはやることがあるだろう?」

「……端くれ、だと?」

 白く燃え尽きていたギルガメッシュに、色が灯る。
 その目に、もはや敗北は映っていない。
 あるのは、在りし日の英雄王――彼以外に知るよしは無いが――エルキドゥと戦って、共に倒れ、共に天を仰いで笑った時の光。
 だが、それが嘗て全てを統べた英雄の瞳であることは歴然であった。英雄王の復活を、ランサーは確かに感じた。

「我は英雄王! 全ての英雄の上に立つ、人類最古にして最強最高最大の英雄よ!
 付いて来い、二人とも――あの化け物の討伐をもって、それを示してくれる!」

 英雄王、凱旋。
 ランサーはその様を笑みで持って見送り、よし、と喝を入れた。
 笑い合う二人の姿は、正に英雄のモノ。
 彼らは歩をあわせ、洞窟を後にする。
 己の魂を取り戻すために。

 ――しかし、一方でアーチャーは絶妙な表情をしていた。
 これが戦の最中であるならば、これ以上心を奮わせるやり取りもそうないだろう。
 だが、彼らの手にあるモノを見て欲しい。
 ……そう、PSPである。

「む、どうしたフェイカー。涙など流して。
 我の威光に目がやられたか?」

「――いや、なんでもない。なんでもないよ……ああ、なんでもないとも」

 言い聞かせるようにして、自分もPSPを操作するアーチャー。
 溢れる涙が止まらない。かつて、命を賭けて聖杯をめぐり合って戦った金と蒼。
 それがいま、極東の教会で神父をないがしろにPSPをプレイし、このようなやり取りを繰り広げている。
 彼の――アーチャーの心に僅かに残った聖杯戦争の記憶が、目から涙として流れ落ちていた。
 アーチャーは思う。

「(これが、この二人が。
 私の未来の姿なのだろうか……)」

 それは、必ず的中する。そんな確信めいた予感がアーチャーにはあった。
 最近確実に、自分は彼らに毒されてきている。そんな、実感。
 ならばこの涙は、僅かに残った『常識人』としての矜持だろうか?
 更に言うなら、そうなった時アーチャーは自然に彼らのやりとりに参加しているだろう。
 そうなれば、もはやこうして涙を流すことすらかなわない。
 ならば、今流せるだけ涙を流そう――と。
 現在最有力のダメ英霊予備軍は、隠すこともせずに涙を流すのであった。





「ふ……まさか我が挑戦者とはな。
 世の中分からぬものよ」

 洞窟を抜け、ギルガメッシュが楽しそうに呟いた。
 その目に、顔に。怒りの色はもう無い。
 あまりにも爽やかな微笑。セイバーでさえ、今の彼を見れば少し見直すかもしれない。

 眼の前には、醜く、強大なモンスター。
 そして、その後に聳え立つ、初の『敗北』という現実。
 ギルガメッシュの頬に、汗が伝う。
 しかし、その顔に諦めは無かった。

 三人の英霊(の操作するハンター)は、潜むことも無く、足並みを揃えてフルフルへと向かう。
 それに気付いたのであろう、フルフルが体の向きを変えた。
 目のマークはついていない。だがブレスの予備モーションのみが、戦いの再開を静かに告げていた。

 英霊達がそれぞれの方向に散る。
 彼らの居た位置を電撃球が通り過ぎた後、何事かを考えていたランサーがギルガメッシュに語りかけた。
 
「一つだけ言っておくぞ、ギルガメッシュ」

「なんだ、ランサー。申せ」

「次誰かが死ねばこのクエストは終わりだ」

 ランサーの口から、思わしくない現状が語られる。
 その状況を招いたのは単にギルガメッシュの所為と言える――が、ギルガメッシュは表情を崩すことなく応える。

「……分かっておる。
 慎重に立ち回れ、と言うのだろう。
 言われずとも――」

 それはギルガメッシュとて自覚していた。
 後は無く、故に承諾しようとした指図。
 だが――

「違うな」

 ランサーの指示は、ギルガメッシュの予想とはかけ離れたものだった。

「負けても次があるのがモンハンだ。
 構うこたねぇ! 好きなように全力を出しな!」

 それだけを言って、ランサーはフルフルへの攻撃を開始した。

 ギルガメッシュの心で、熱い何かが震える。
 仲間の存在――まさか、それで魂を奮わせる事となるとは。

 ギルガメッシュの表情に、強烈な笑みが張り付く。
 どこか嬉しそうで、どこか楽しそうな。
 負の要素の一切が存在しない、快活な笑みだった。

「おう! 全力を尽くそうではないか!」

 ギルガメッシュも戦列に加わり、戦いは一層苛烈な物となる。
 英霊達の顔は、どれも楽しそうなモノばかりだ。
 ただ一人、アーチャーのみが複雑そうな表情も混じっているが、時間の経過と共に消えて行く。

「同じ手は食わんぞ!」

 フルフルがブレスのモーションに入り、ギルガメッシュが叫んだ。
 Gillはブレスを予見し、回避によって攻撃範囲の外に脱出する。

 気をつけていればブレスは当たり難い。
 もう、Gillがブレスの餌食になることは無さそうだ。

「――っ! 拙い!」

 場が一瞬の安堵に包まれた中、アーチャーが苦言を漏らす。
 フルフルが咆哮のモーションに入ったのだ。
 アーチャーとフルフルの位置は近い。
 ガードが可能なSetantaとGillはいいが、Archerはそうは行かない。
 眼の前からせまり来る死。敗北の危機。
 思わず、アーチャーの額に汗が浮かぶ。

 結局、攻撃範囲の外に出ることはかなわず、醜悪な爆音が放たれた。
 耳を抑えてうずくまるArcher。場の空気が緊張を孕む。

「――な、ギルガメッシュ!?」

 フルフルがブレスを吐かんとArcherの方を向いた瞬間、何処からとも無くGillが切りかかる。
 ただしそれは――Archerに。

 Gillに斬り付けられた事によりArcherが行動可能になる。
 二人は急いでブレスの攻撃範囲から離脱し、電撃球は遠くのコンガに命中した。

 そう――ギルガメッシュは、アーチャーを窮地から救ったのだ。

「英雄王――?」

 面食らった、というような表情で、アーチャーがギルガメッシュに視線を投げかける。
 視線を受けたことに気付いた英雄王は、僅かに表情を変え、それでも視線はPSPに落としたまま応える。

「フン! 礼は後に取っておけ。
 今はヤツだ」

 ギルガメッシュの言葉に、アーチャーは驚いた表情を更に強くした。
 だが、それは一瞬。
 アーチャーは息を漏らすと、表情を笑みへと変えた。

「フッ――ああ、そうだな!」

 再び戦列へと加わるアーチャー。
 よもや、下位でこれほど魂が高ぶるとは――

 アーチャーは、刻一刻とダメ英霊への階段を上っていた。
 無論、自覚は無しに。
 もはや、この場に突っ込めるのは言峰くらいかもしれない。

 苛烈な戦いが続く。
 攻撃を食らっては回復し。
 攻撃を当てては転倒し。
 両陣営の消耗が高まる。
 
 そんな中のことだった。
 フルフルが立ち上がると、醜い巨体の動きが止まる。
 アーチャーとランサーは、顔を見合わせる。

 アーチャーは何かを訴えるようにランサーを見やり、ランサーは顔の動きでそれに応える。
 攻撃を続けるギルガメッシュに、アーチャーが語りかけた。

「ヤツが弱ったようだな。
 私は罠を仕掛けよう。阻害しないように頼む」

「む、既に動いていないのに、か?
 ……まあいい、今回ばかりは従ってやろう!」

 攻撃を続けたまま、ギルガメッシュが言う。
 それをアーチャーは頷いて確認し、作業を始める。
 
 アーチャーが罠を設置し、他の二人がそれを邪魔しないよう攻撃を続ける。
 やがて罠は電撃を放ち、フルフルの動きを止める。
 
「やるなら徹底的に、だよな」

 ランサーが悪戯っぽさを感じる笑みを浮かべる。
 それにつられて、アーチャーも短く息を吐いた。
 分かっていないのはギルガメッシュだけだったが、今は攻撃に専念する。
 どうせ、すぐに分かるだろう。こいつ等の笑みは、そう言った感じだ。そう思い。

 事実、その笑みの意味はすぐ分かった。
 シビレ罠から脱出したフルフルは――あろうことか、また静止したのだ。

「こういうことか!」

 合点の言ったギルガメッシュは、愉快そうに叫んだ。
 他の二人も、楽しそうに笑っている。

 倒れては動きを止め。
 飛び立とうとしては倒れる。

 弱ったフルフルが陥る悪循環。
 慈悲か、意地か。
 抜け出でる方法は、それしかない。
 だが――

「ふ――貴様は中々の強敵であった。
 だがな、無礼は忘れぬ!
 なあ、今どんな気持ちだ? 今どんな気持ちだ?」

「(えげつねぇ……)」

「(大人気ない……)」

 少なくともこの金ぴかに、慈悲なんていう二文字は無かった。
 大事なことなので二度。すごく、大人気ない。さっきまでの雰囲気がぶち壊しである。
 罠など目ではない拘束の後、ついにその文字は現れる。

 目標を達成しました。

「やった――!?
 やったぞランサー! フェイカー! 勝ったのだ!
 我々は勝ったのだッ!」

 右手を天高く挙げ、体全体で喜びを表現するギルガメッシュ。
 教会に響き渡る勝ち鬨。

 だが、蒼と赤、二人の英霊は複雑な心境でそれを見ていた。

「さっきまではあんなに英雄してたのにな……
 G級のフルフルとか、今からすげえ不安だぜ」

「うむ……ショックで聖杯に還るかも知れんな」

 まだまだ、彼らはハンターとして駆け出しに過ぎない。
 尤もランサーとアーチャーは経験者なのだが――
 下位のフルフルで此処まではしゃぐ英雄王を見て、二人は凄く悲しくなったという。



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おまけ 


「な……今なんと……」

「ですから、早急に入院が必要なのです。
 明日……いえ、出来れば今日。出来るだけ早く準備を整えていただきたい」

 とある病院の診察室。
 黒のカソックを着た神父が、白衣を着た男と向き合っていた。

 ――胃に重い物を感じ始めた言峰。
 まさか、とは思っていた。
 胃薬でも処方してもらおう――と、軽い気持ちで病院に行き――
 緊急入院宣言。
 
「くっ……何かの間違いではないのか?」

「私も目を疑いましたが真実です。
 ……不幸中の幸いでしょうな、これほど早く気付けたのは」

 カルテを持ちながら、深刻な顔をする医師。
 真摯な態度が伝わってくる。
 それゆえに、分かってしまう。自分のおかれた状況を。

「私は、教会を空ける訳にはいかんのだ。
 あの馬鹿どもに明け渡す訳には……」

 思い浮かぶのは、教会の三人組。
 礼拝堂を占領し、好き勝手する英霊達の事。
 一応、これでも彼は神父だ。自分の教会に対する思いは、並々ならぬものがある。
 だが医師は、優しく、しかし残酷に宣言する。

「ダメです。教会よりも、貴方の命が先決です。
 貴方が倒れてしまったら、その教会に行くことすら間々ならないのですよ」

「――」

 医師は、そっと言峰に手を据える。

「がんばりましょう。時には、退くのも勇気です。
 体を直せば、また頑張れます」

 真実の善意から、医師が言う。
 多くの人を見てきたからこそ、言峰はそれが本心の言葉だと理解した。

 嗚呼――恐らく、この医師は自分の仕事に誇りを抱いているのだろう。
 人を本当に救済したくて、この職に就いたに違いない。

 気がつけば彼は――言峰は医師に感心していた。
 それはヒトとチャンネルがズレた言峰にとって、不快でしかない筈のこと。
 だがどうだろう。
 今、彼は意思に感心して――感謝していた。

「――すまない。迷惑をかける事となる」

「いえ――これが私の夢ならば、これが私の喜びなのですよ」

 医師に手を引かれ、言峰は診察室を出る。
 入院、か。
 まさか自分が病院の世話になるとは思わなかった。言峰は自嘲的に笑う。

 しかし、そうと決まったのならば早く体を直さねばな。
 生涯見せたことの無いような爽やかな笑顔で、言峰は笑みを浮かべた。

「あ、当然ですが食生活は此方に任せてもらいます。
 胃が弱ってらっしゃいますからね。
 麻婆豆腐とか、重たいモノは食べれませんよ」

 ――狙い済ましたかのような医師の言葉に、言峰は真っ白に燃え尽きた。
---------------------------------------------

超久々。一応生きています。
 正直、見放されても仕様が無いLvの遅れですが――アカムトルムまではが、がんばりたい所存……



※言い訳と近況(読み飛ばし推奨)

 はい、この遅れには一応理由があるのです。
 凄く暇で暇で仕様が無いかた、こんなワタシの言い訳でも聞いてくれると嬉しいです。
 ――さて。最後の更新の後。何があったか覚えていらっしゃいますか?
 ……そうです。モンハン3の発売です。
 ええ、凄くハマってました。非常に申し訳ないorz
 Wiiの画像処理力にテンション上がりまくりで、アホみたいにプレイしてました。
 だって凄いんですよモンハン! こんな小説書いちゃうくらい好きなのに新作って!オンラインって!

 ……ふう、まあ、とにかくこんなことがありましたとさ☆
 ごめんなさい、石投げないで……あ、漬物石はマジで死ぬんで……
 しかもですね、モンハン3をあらかたやり終えるくらいの丁度いい時間にイナズマイレブン2が発売しちゃって……もうホント神ゲーでして……
 更に言えば今更けいおん!ハマっちゃって……澪が可愛すぎて……
 そんな駄目スパイラルをようやく抜け、いまここに帰りました。
 待っててくれた人、本当にありがとう。ごめんなさい。

 これからは出来る限りがんばります。週一ペースに戻せたらいいなぁ……

 追伸。
 イナズマイレブン×けいおん!という謎のクロス書いてたりします。
 需要ゼロっぽいし、殆どの時間はこっちに当てるんで生き抜き程度ですがね!
 というか、自分の頭の中カッ開いて見たいクロスオーバーだなぁ……
 



[9087] いんたーるーど 外伝・おまけの詰め合わせ
Name: ロボ2号◆20e538c7 ID:cc614803
Date: 2009/11/11 18:42

「んじゃ、此処にメモ置いとくからな。
 俺はちっと出かけるぜ」

「うむ、任せておけ。
 ふふ……先のフルフルのような失態は、もう二度と犯さぬ!
 見ていろランサー、貴様が帰ってくるまでに、我は二周りは成長しているぞ!」

 休日――といっても、サーヴァントには用事らしいものも無いが――、世間的に日曜日と言われる日。
 ランサーはギルガメッシュの声を背に、出かけるため教会の扉を押し開いた。
 最近のこの時間はアーチャーを加え、ギルガメッシュとモンハンをしているのだが――
 今日はアーチャーのマスターである遠坂凛が休みのため、アーチャーは一日家事の手伝い。
 そのため、三人が揃わないためマルチプレイは無し、と言う事に相成った。

 たまにはモンハンから離れ、散歩でもしてみるか……と思い立つランサーであったが、ギルガメッシュはモンハンをやりたかったらしい。
 駄々をこねる彼に、村クエストの消化を申しつけ、言葉巧みにそれを承諾させ今に至る――というわけだ。
 上位に入ると敵は強くなり、グレードの高い食事を行わねば苦戦することも増えるので、今回の村クエ消化期間はある意味丁度良いとも言えた。
 因みに、ランサーは暇なときにちょくちょく消化している。現在は星三つまで進んでいた。

「とは言っても……なにすっかね。
 釣りはいま気分じゃあねえしなぁ」

 両腕を頭に組み、タバコなぞを咥えて街を闊歩する。
 前のバイト先にでも顔を出そうか……とも考えたが、各店長にでも見付かると色々面倒くさい。
 まあ、持ち合わせはそれなりにあるので、何をするにも困りはしないが――

 分かれ道が多ければ、それだけ一本を選ぶのにも時間が掛かる。
 ある意味、この状況は必然とも言えた。

「メシを食うには、アーチャーのメシを食ってた方が美味い。
 かといって、釣りは気分じゃない。
 バイト先に顔を出すにも店長に会うと面倒くせぇ。
 ……んだよ。八方塞だな」

 そうこう考えているうちに、冬木大橋に到着。
 ベンチに腰を下ろし、考える。

「なんか名案は無いかねぇ……」

 空を仰ぎ、手をベンチの背もたれにかける。
 長身の美丈夫である彼がそれをなすと、まるで映画のワンシーンのようである。
 
 ……案は、浮かばない。
 いっそこのまま空を見ているのも、一興か……なんて、思い始めた瞬間だった。

 視界の端っこに、小柄な少女の姿が映る。
 ようく整った――凛とした顔立ち、見覚えがある。
 ただ、見覚えが無いのは……

 その口が、おおよそ人間では不可能なほどに膨れていることだろうか。

「……お前何やってんだ、セイバー」

「むぐ……ふぉーいふらんはーほほ、はひほ?」

 口に鯛焼きを入れたままに、セイバーが何かを言う。
 言葉として成り立っていないため、返答しているのかも分からないし、ただ口の中の鯛焼きを冷ましているだけかもしれない。
 これも同じ英霊か……と、自分を棚に上げつつ、呆れた顔で再び語りかける。

「日本語を喋れ。ここはブリテンじゃねぇぞ。
 ま、ブリテンでも通用しねぇだろうけどよ」

「ごく……失礼な! いやまあ、行儀が悪かったのは認めましょう。
 さて、私が何をしているか……との事ですが、こうして散歩をしつつ食べある……ごほん。
 この冬木の町並みを観察していました」

「説得感ねぇなあ……まずその包みを隠せよ」

「ぐ……」

 からからと、快活に笑うランサーと、恥ずかしそうに顔を赤らめるセイバー。
 話題を切り替えたい――という気持ちを隠して(いるつもりで)、セイバーはランサーに先の言葉を通訳する。

「さ、先程はですね。
 ランサーこそ何を――と、言ったのです。日本語です。
 さあ答えて下さい。応えなさい」

 セイバーの顔は真っ赤だ。
 普段見せない姿を知り合いに見せてしまったのは痛かったらしい。
 ランサーはそれに対し苦笑いをし、あえてセイバーの言葉に答える事にした。

「んー……何してんだろうな。
 強いていや俺も散歩だな」

「おや、珍しいですね。
 貴方といえば色々な仕事を転々としていたり、釣りをしている印象がありますが……」

 本来の『話題をそらす』という己の考えを忘れ、セイバーは真面目に話しに乗る。
 まあ、話題をそらすことには成功しているのだが、当の本人はそれに気付くことは無い。
 少しばかり間の抜けた彼女にランサーは最近出来た二人の友人を思い出した。
 普段聡明な人間ほど、意外なところで気が抜けているものなんだな、と。

「そうさな。まあ、それでも良かったんだが――気分だな。
 んで、セイバーは何を?」

「私ですか? 私も散歩しつつ食べ歩きをしていまし――」

 ハッ、と息を呑む。
 それは話題をそらしたことを忘れていた彼女に対する、ランサーのちょっとした意地悪。 
 先程までのやり取りを忘れ、結局は自供してしまうこととなった。
 セイバーの顔が真っ赤に染まっていく。
 こういう会話のやり取りで、彼やアーチャー、アサシンなどに勝てるサーヴァントは少ない。

「な、なんと卑怯な!」

「さあて、なんの事かねぇ?」

 がおがおぎゃーぎゃー。
 顔を真っ赤にしてランサーに食って掛かるセイバーに、それを軽くいなすランサー。
 その光景は傍目に見れば、中の好い兄妹か、恋人。そんな関係に見える微笑ましさを孕んでいた。

「はあ……はあ……」

「落ち着いたか?」

 快活な笑顔で、ランサーがペットボトルに入った飲み物を差し出す。
 飲みかけだが、この場にそんな事を気にする人間は居ない。
 特に表情を変えることも無く、それを受け取り、飲み干すセイバー。

「……はあ。まあ、いいでしょう。
 元はといえば私の行儀の悪さです。此処は引きましょう」

 言っているそばから行儀悪く、近くのゴミ箱にペットボトルをシュートする。
 少し離れていたが、ちゃんと入れるあたりは流石英霊といったところか。
 落ち着いたセイバーを確認し、ランサーはベンチから腰を上げる。

「気にする必要も無いと思うがなあ。
 ……なあ、それより今、暇か?」

「む? ええ、暇ですね。ちょっと理由がありまして……」

 険しい顔をするセイバー。
 今は話さないが、その「理由」があまりいいモノではないと言うことは、セイバーの表情で感じ取れた。
 気を取り直して、とばかりに表情を変え、セイバーは言葉の続きを紡ぐ。

「兎も角、しばらくは暇ですよ。
 それは誘いですか?」

「ああ、偶にはアリかと思ってな。
 一人よか二人のが楽しい時もあるし、付き合えよ」

 意外な人物からの誘いに、目を丸くするセイバー。
 少し前までならありえない言葉。しかし、セイバーは戦争とは無縁なこの空気が気に入っていた。
 もの珍しさからその誘いを受ける旨の返事を返す。

「そうですね……聖杯戦争の対立は水に流しましょう。
 まあ、今更戦争を始めようとする者は居ないと思いますがね」

 楽しそうにセイバーは笑う。
 思えば、つい先日まで殺し合いをしていた仲。
 それが今や戦う気すら起きやしない。

 ランサーとセイバーは同じ事を思ったのか、顔をあわせて笑った。
 こんなことなら、二度目の生ってのも意外と悪くないのか……と。
 少しだけ、二度目の生を願う他の英霊の気持ちが分かったような気がした。




 日が暮れ始めるころ、新徒と冬木を巡ってきたランサーとセイバーは、再び冬木大橋のベンチに座っていた。
 二人とも、中々楽しそうな顔をしている。
 珍しいランサーの提案は、どうやら成功に終わったようだ。

「久しぶりに歩いた気がするな……楽しかったぜ」

「ええ、私も非常に有意義に過ごせました。
 きっと、友人同士で遊びに行くとはこういった感じなのでしょうね。
 ――素晴らしい時代です」

 ランサーはそれに同意で返し、ベンチに腰掛ける。
 セイバーもそれに倣うようにして、ランサーの隣へと腰を下ろした。

 ――夕日を見つめるその姿は、友人同士というより恋人同士に近かった。
 だが当の本人達にとってそんな考えは完全に思考の外であるというのが勿体無い。

「……そういや、セイバーよ」

「なんですか、ランサー」

 冬木めぐりの最後に購入した、大判焼きをほお張りながら返事を返す。
 
「さっき言ってた「ちょっと理由」って、なんなんだ?
 随分根の深そうな問題みたいだが」

「ああ……それですか」

 再び、セイバーの表情から明るさが消える。
 しかしその表情は深刻さよりも、セイバーの困惑を感じさせるものだった。

「実は……その。
 二日ほど前シロウが失踪しまして……」

「あー、小僧が……って、はあ!?」

 一瞬言葉の意味を理解できず、一拍を置いて叫ぶ。
 セイバーは顎に手を当て、今度は隠すこともしない困惑を見せる。

「あの野郎、マスターのクセに何やってんだ……」

「幸い私たちはサーヴァントです。
 食事をしなくとも生活は出来ますし、それで無くとも藤村組の皆さんのお陰で今までどおり食事は取れています。
 魔力の方も、聖杯のお陰で当分は持つのですが、やはりシロウが心配で……」

 説明は割愛するが、現在ギルガメッシュを除くサーヴァント達は聖杯からの魔力で現界している。
 故に、彼女のマスター『衛宮士郎』が居なくとも、彼女は通常通り(?)にニート生活を堪能することが出来る。

 しかし、急にマスターが居なくなっては流石に困惑するというもの。
 開いた口を何とか閉じ、ランサーはセイバーに聞き返す。

「小僧はなんか言ってなかったのか?
 旅に出る、とか。話せないけど必ず戻る、とかよ」

「それが全く……
 一応、書置きを残していったのですが……
 見せても構わないでしょう。これです」

 セイバーは、懐から一枚の紙を取り出し、それをランサーへと渡す。
 丁寧に折りたたまれたそれは、折り目がついているものの発見された時と同じ状態でランサーの手に渡った。
 ランサーは目で文章を読み上げる。

~親愛なるセイバーへ。~
突然居なくなってごめん。
この手紙を見る頃には、俺は衛宮の家には居ないと思います。
冬木は平和になったけど、俺はやっぱり正義の味方を諦めれそうに無かったよ。
けど、俺はアーチャーみたいになるつもりは無い。
たくさん修行して、自分の納得できる、自分だけの正義の味方になろうと思う。
見ててくれセイバー、俺は変わる。
凄く辛い修行だって耐える。
きっと俺は、SHIROUになってみせる。多分、異世界あたり行って来る。
じゃあ、また会う日まで。
~衛宮士郎より~

 文章を読み終えたとき、ランサーは固まった。
 確かに、あの小僧には理解できない部分もあった。有ったが――

「全く、要領を得ねえ……
 なんなんだよこの手紙」

「はい……いきなり行き先も告げず修行に出る、といったかと思えば、異世界。
 SHIROUという単語も分かりません。
 士郎の事を指してるのだとは思うのですけど……」 

「そしたらなおさら分からない、か……なんだよこりゃ」

 凄く微妙な顔で悩む二人。
 それもそのはずだろう。
 この手紙は、『この世界の人間』に分かるようには出来ていない。
 いや、この世界の人間でなくても要領を得ないだろうが。いろんな意味で。

 二人で悩んでいると、空の色は黒くなりかかっていた。
 そろそろ帰るか――と、ランサーが腰を上げた。

 そのときだった。

「おうい、ランサー」

 非常に見覚えのある青年が、PSPを片手に手を振っている。
 言うまでも無い、ギルガメッシュである。

「ギルガメッシュ」

 ランサーとセイバーの声が重なる。
 無論、セイバーはありったけの嫌悪をこめて。
 一方、ランサーの声は友人に語りかける程度には気楽なものだった。
 たしかランサーはギルガメッシュを嫌っていた筈――と、セイバーの顔がランサーの方へと、凄まじい速度で振り返る。

「む、まさかとは思ったがやはりセイバーか。
 まあ良い。今我が用を持つのはランサーだ」

 一方で、いつもはあれだけしつこく煩い、セイバーへの興味は今日は薄かった。
 そのことにも驚き、再びセイバーの顔は凄まじい速度で向きを変えた。

「俺か? てかよく此処が分かったな」

「うむ、近所の子供に聞いた。
 ほうら、呆けてないでさっさと帰るぞ」

 わいのわいの、とばかりに親しげに話す二人。
 セイバーの頭は破裂寸前だった。
 不倶戴天の敵とも言えたはずの、ランサーとギルガメッシュ。
 その二人が見て分かるほどの親しさで会話をしているのだ。

 それに、気になったのはギルガメッシュの手に握られたPSP。
 ランサーも明らかにそれに気付きつつ、ノータッチなのは慣れているからなのか――?
 セイバーは情報過多な己の頭を抑えた。

「そら行くぞ。やれ行くぞ。
 近所の子供から『ボマー』なるスキルを聞いてな、ババコンガを狩りに行きたいのだ」

「何……くそ、余計なモン教えやがって。
 まあいいか。んじゃ、帰るか。
 またな、セイバー」

 ひらひらと手を振り、帰っていく蒼と金。
 取り残されたセイバーは、からすの鳴き声で我に返った。

「あの会話……モンスターハンター、ですよね?」

 脳裏によぎるは、自宅にあるPSP。
 失踪直前まで士郎とプレイしていた擬似的な狩りの遊戯。
 士郎が居なくなったことで、一旦プレイをやめていたが、あれは凄く楽しかった。
 セイバーは想う。後日、教会へ脚を運んでみようかな、と。
 ギルガメッシュの変貌を探るためだ、と自分に言い聞かせつつ、とりあえずは帰ることにした。
 
 ――セイバーは、気付かない。
 そこが、教会があらゆる英霊をダメにする魔窟だということに。
 セイバーは、気付けない。
 自分自身に今、しっかりと建った強烈なダメ英霊化フラグに。




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いんたーみっしょん。いつもより短めなセイバー参戦フラグです。

聖杯から魔力云々~は、当たり前のように鯖が存在している現状のちょっとした理由に。
物語開始前、二次創作よろしくな再構成ル~トが行われて居たりします。多分。

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「つっ……腰打ったな……」

 しばらく続いた浮遊感の後、地面に腰を強打することで我に返った俺は呟いた。

 ──正義の味方になるために。
 セイバーを置いて、藤ねえに別れも告げず。家を出て四日。
 ついに俺は、異世界に渡ることに成功した。

『頼む! 俺を異世界に送ってくれ!』

『行き成りなんだ貴様は。
 ……否待て、遠坂の娘から聞いていた情報と一致する……
 まさか、貴様が衛宮士郎なのか?』

 大体こんな感じで、ゼルレッチを探し当てて空間の裂け目に突っ込んでもらって体感数時間。
 俺は、眼の前に広がる光景を見て呟いた。

「確かに日本じゃない、よな」

 見渡す限り、雲を纏った岩山がそり立つ。
 遠くに見える町並みは、古い中国のもので。
 ここは確実に冬木でなければ、日本でもなかった。

「まさか、本当に異世界に渡れるなんて……」

 衣服に付いた砂を払い、立ち上がる。
 元はといえば、土蔵の本が始まりだった。

 日本語で書かれた、しかしボロボロのその本は日本語で書かれていた。
 と、いうか。有体に言えばノートだった。
 そのノートに書かれていたのは、信じられない事ばかり。

 ――セイバーや俺の活躍。
 俺がなぞってきた道とは違う、聖杯戦争の流れ。
 そして、俺が異世界に行って強くなる――
 
 そう、書かれていたのは信じられないことの連続。
 けれど俺には、その本が嘘ばかりだとも思わなかった。
 筆跡は俺の知り合いのものではなく、それでいて俺たちしか知りえない情報が書いてある――
 俺は正義の味方を目指すのに、あの本を信じて従ってみよう、と思ったのだ。

 まずやるべきことは、ゼルレッチの捜索。
 あの手この手でゼルレッチを探していると、意外とアッサリ向こうから会いに来てくれた。
 意外と暇人なのかもしれない。

 そうして、次にすべきことはゼルレッチに異世界に送ってもらわなければいけないらしい。
 其処で俺は色々な経験をし、人の身でありながら英霊であるアーチャーに勝るとも劣らない力を身につけ、『SIROU』となるそうだ。
 『EMIYA』という単語もあったが、どう違うのかは結局分からずじまいだった。

 ――兎も角。
 俺はその二つの条件を満たし、異世界にいる。
 後は色々な人と会って、修行を積めば良いらしいが……

「なんだかんだで、結構途方にくれるな……」

 見渡す限りの広大な大地は、文明らしい文明を感じさせない。
 俺は此処でどうやって生活すればいいんだろうか――

 なんて、途方にくれているその時だった。

「うん? お兄さん、見慣れない格好だね。
 こんな道端で立ち止まって、どうしたの?」

 後から、少年の声が聞こえてくる。
 赤いバンダナに、赤を基調とした服を着た少年が、馬に乗って俺を見ていた。

 そういえば、あのノートに書いてあった。
 最初に出会う人間は、キーパーソンだと。

「えと、君は?」

「僕は劉昴星(リュウマオシン)!
 広州にある陽仙酒家に修行に行く最中なんだ。
 お兄さんは?」

 少年は自分の名を名乗り、目的をも明かしてくれた。
 名前からすると中国人……かな? 言葉が通じるのはゼルレッチの計らいだろうか。
 しかし――今、マオは修行といっていた。
 この少年についていく事こそ、今の俺に必要な事なのでは無いか?

「あ、俺は衛宮士郎。
 俺も修行がしたくてさ。よければ、一緒に広州に連れて行ってくれないかな?」

「道端で止まってたけど、目的は一緒だったんだね。
 いいよ、馬に乗りなよ。あ、饅頭食べる?」

 マオは、とても友好的に接してくれた。
 俺は彼の好意に与らせてもらって馬にまたがった。

 ――見ていてくれ、みんな。
 俺は、この土地で力をつけて、俺なりの正義の味方になってみせる!
 段々と近づく広州の街を見下ろし、俺は心中で決意を固めるのであった。
 


 ――後になって。
 俺がこの世界に来たのはゼルレッチの悪戯だったと気付いた。
 それに気がついたのは少し遠い未来。
 マオと共に特級厨師の資格を取ってからだった。

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シロウちゃんの行き先。
気が向けばおまけ枠で続く!
因みに、ノートの正体は時空を渡ってやってきた、誰かの黒歴史ノートである。

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「サクラ、あと一度叩けばスタンしますよ」

「じゃあ、多分これで怯むからその時にお願い……よし、いいよ」

 薄暗い屋敷の一室。
 真っ黒な二人組み+海草Aは電気もつけずにモンハンに興じていた。
 因みに、桜達に頼み込み、慎二も正式に参加した。
 まあ加入する際に名前をWakameに改めて最初からプレイしなおさせられたが……
 ともかく、正式に一員として認められることで、一々ビクビクしながらプレイすることは――

「兄さん、なにボサボサしてるんですか?
 何のために麻痺片手なんて連れてきてると思ってるの?」

「ちゃきちゃき働きなさいシンジ。
 あなたは私達に寄生してるのですか?」

「ひっ、そ、そんな積りはないって!」

 なくならなかった。
 何が恐ろしいってこの二人、一応プレイ時間100時間越えの慎二もびっくりなPスキルを持って居やがるのだ。
 怯み計算、スタン値計算。列挙すればキリが無い。
 なにが彼女達を此処までの高次元に引き上げるたのだろうか。

 しかし、今はそんな事を考える余裕は慎二に無い。
 というか、恐ろしければやめれば良いのに――とは、妖怪爺の言である。

「ま、麻痺ったよ」

 一応仕事はする慎二。
 対峙するモンスターはゲリョス。
 とは言え、半ばハメに近いような連続拘束でもうボロボロだった。
 立派なリーゼント状の頭は砕けて、脚を引きずっていた。

「(なんでコイツラこんなに上手いんだよう。
 絶対おかしいって)」

 心の中で愚痴りつつ、痺れたゲリョスに攻撃を加えていく。
 今回の目的は捕獲ではなく、討伐。まあ、どっちでもいいのだがぶっちゃけ気分である。

 因みに、桜の武器はガンランス。ライダーの武器はハンマーだった。
 先述の通り、慎二は片手剣だ。
 つまり、主力といえる二人の援護が主な仕事となる。
 それは慎二も理解していた。

 ――故に、それは全くの不幸だったといえる。

 片手剣の連続攻撃、そのフィニッシュを勤める○ボタンの切り払い。
 この攻撃には、時たまハンターへの吹き飛ばし食らいを誘発する事がある。
 
 まあ、有体に言えば、だ。

 慎二の切り払いは『偶然』龍撃砲チャージ中の桜にヒットし、『偶然』桜を切り飛ばした。

「――兄さん?」

「ひ、ヒィィィィっ!?」

 あふれ出る殺気。
 ガンランス使いにとって、龍撃砲は浪漫中の浪漫。
 それを当てるというのは至上の心地よさを生み、また確定状況に望む際には表情の緩みを生む。
 つまり、見せ場の一つ。ハンターでもプレイヤーでも、最も輝く一瞬なのだ。

 それを、慎二は邪魔してしまった。
 確定状況を。今放たれんとする瞬間にだ。

 もはやとめられない。
 PSPには『目標を達成しました』と表示されるが、リアルなモンスターは健在だ。

「兄さん、ちょっと、来てもらいます」

 PSPをスリープモードにし、桜は立つ。
 慎二の首根っこを引っつかんで。

 慎二はもはや、声一つ漏らすことは無かった。

 今に残ったのは、満足げなライダーと――

「掃除、儂がするのじゃがの……」

 桜のお仕置きによって動けなくなるであろう慎二の代わりに、押し付けられる掃除に溜息を漏らす臓硯の二人だけであった。

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これにておまけの詰め合わせ、終了!
次回から通常更新になります。
小話にお付き合い誠に感謝いたします。

見たい話が有れば、筆力の限りでチャレンジします。多分。



[9087] 第七話 四つ目の刃、捨て去られた誇りは水竜へ
Name: ロボ2号◆20e538c7 ID:b717ff62
Date: 2010/03/17 22:31
 とある町の、坂の上。其処には中々立派な教会が建っている。
 庭があり門があり、何よりも建物がとてもとは言えないが、そこそこ立派だった。
 しかしその教会に寄り付くものは、黒いシャツを羽織った褐色の青年以外に居なかった。
 理由は簡単、教会の神父が不気味だからである。
 そんな言峰教会の、昼。
 
 珍しく教会の庭の中には一人の少女が居た。
 金髪を後ろで編んだ髪の毛は金細工のよう。
 小柄な体躯、それでいて引き締まった身体は、見るものの心を奪う。
 何よりも、顔が非常に整っていた。エメラルドの瞳にシルクの肌。そして太陽の唇。
 これだけパーツが揃っているのだ、見とれない方が不自然と言う物だ。
 また、彼女の何かを悩んでいる表情が美しさを増長させていた。
 物憂げな表情というのは、持っている美しさを更に磨き上げる物である。
 
「どうしましょう……意を決して入るべきか……
 いや、しかし……」

 顎に手を当て、右往左往。
 神秘さを含みつつも、少女の仕草はどこか可愛らしい。
 ……もうお気づきだろうが、少女の名はセイバー。
 宿敵とすら言えたギルガメッシュの変貌を暴きに、この言峰教会までやってきた次第である。

 なれば、セイバーが突入を決意しない理由は何故か?

 言峰教会には、ギルガメッシュの他にもう一人サーヴァントが常駐しているからである。
 名はランサー。最も疾き槍兵だ。
 セイバーのクラスは聖杯戦争で最も勝利に近いクラス。
 それでも、二人のサーヴァントを一度に相手をするのは難しい。
 ましてギルガメッシュはセイバーと互角かそれ以上の戦力の持ち主。
 勇敢であり誇り高いセイバーと言えど、慎重にもなる物。

 ……と、いうのは彼女が自身の脳内で繰り返している言い訳だ。
 実際はもっと情け無い理由だった。
 ──そう。右手に握っている見慣れた機械を見てしまえば、一瞬で理解してしまうほど簡単で、情け無い理由だった。
 右手に握られるはPSP。我らが駄目サーヴァントの証である。

 要するにだ。
 セイバーは「入ーれーて」の一言を言うか言うまいかで悩んでいたのである。

 言ってしまえば、彼女は何かを捨て去ることになる。彼女はまだ知らないが、紅い弓兵のように。
 しかし、それを天秤に掛けてすら、誇りを捨てるのは容易すぎた。

「ぐ……モンハン。誇り。
 モンハン。プライド……」

 ついに悩みは声となって出始める。
 こうなってしまえばもう、後はもろい物である。
 セイバーの動きは奇しくも、数日前の──ランサー達の仲間に加わった際のアーチャーを再現している物だったからだ。

「ええい、ままよ!」

 そして、ついに彼女は教会の扉を押し開けた。
 自己の意思での、決定的な突入。
 
 喩えるのならば飛行機に搭乗する際くぐる、検問のアーチ。
 今、その検問に『誇り』という二文字が引っかかってしまったのだった。

「たのもう!」

 意を決しての突入。
 大切な物を捨て去って押し開けた、魔境への扉。
 其処には――

「ぬうう……ランサー! 我は……我はどうすれば……!」
「落ち着けギルガメッシュ! ――クソ! なんて厨パーティーだ……ランサー、君の意見を仰ぎたい」
「メタグロスとボーマンダ……これがタワークオリティーなのか!?
 ちっ……氷技が無いのが致命的だな。お互いに相談して対策をとるべきだったか……
 まもるとたすきが怖いがフレアドライブを使うしか無いと思うぜ、俺は。」

 仲良くポケモンに興じる、信号機の姿があった。

「それしかないのか……? いや、猫騙しを使っておくのはどうだろう?
 たすきを潰せるし、まもるを使われても……」
「いや、ボーマンダを縛れてない状況の今、どちらかは確実に落とさねぇと非常に厳しい。
 残念ながらマンダを確一、乱一で落とすのは無理だ……急所は期待できないしな。
 一方、こっちは猿とサンダース。お世辞にも耐久に優れてるとは思えねぇ。悪けりゃグロスの大爆発で――
 いやしかし、今はマンダがスカーフ型で無い事を祈るしかないか……
 ここはタワーだ、何が起こるかわからん……」
「我は、我のサンダースはどうすれば……」
「ええい、だからめざパくらい厳選しろっつったんだよ!
 氷だったらボーマンダは縛れたのによ……」

 白熱するポケモン談義。
 タワー攻略中の大きなお友達など、大体こんなもんである。
 因みにプレイをしているのはギルガメッシュとアーチャーで、ランサーはアーチャーの相談役としてDSを覗き込んでいた。
 
「あの……もし……」

 困ったのはセイバーだ。
 意を決して教会へ突入すれば、其処にはポケモンプレイ中の大きなお友達が三人。
 しかもバトルタワー攻略中である。
 セイバーは、ポケモンの事はあまり詳しく知らない。
 だが、過去にバトルタワー攻略中の士郎とイリヤに声をかけ、こっぴどく叱られたことが在るのだ。
 獅子の王を連想するかのような、二人の烈火のごとき怒り。
 それは数多の人間を統べ、倒し、見てきたセイバーですらも息を呑む恐ろしさであった。

 セイバーは冷静になる。
 今彼らに話しかけるのは得策ではない、と。

 何より、PSPを掲げつつ無視される自分の姿を冷静に鑑みて、恥ずかしくなったのだった。
 
「……出直そう」

 誰に向けるとも無くそう呟いたセイバーは、一旦PSPを懐にしまい、教会を一時後にするのであった。
 彼女は思う。
 これは退却ではない、一時的な後退なのだと。
 ……教会の敷地内に入った時点で全てに敗北した事を知らないのは、彼女にとって幸運だったのか。



「いや、悪かったなセイバー。
 まさか来てるとは思わなかったぜ」

 数分後の言峰教会。
 とりあえずの試練を乗り越え、朗らかになったランサーが快活に笑った。
 一応元は敵同士だったとは思えない歓迎振りに、セイバーは戸惑う。
 別にもてなされている訳ではないのだが、かつて近づくことすら宣戦布告になっていた時があったと思えば、考えられぬほどの好待遇だ。

 だが、セイバーにはそんな物よりももっと気になることがあった。

「……ふう。今回は駄目かと思ったが、意外と何とかなるものだな」
「うむ。控えが大したことが無かったのが唯一の救いであろう。
 そろそろ準伝説の育成も視野に入れておくべきか……」
「私もなりふり構ってはいられないな……ラティオスでも厳選してみるか……」

 それはこの紅と金の存在である。
 ランサーとギルガメッシュ以上に仲の悪い二人。
 それが今、仲良く隣に座りあって作戦会議を行っているのだ。
 平行世界を渡ろうと、この光景を見るのは生半な事では無いだろう。
 故に、ランサーへの返事が遅れたセイバーを、誰が咎めれよう。

 というかこの二人、いまだセイバーに気付いていない。
 今の彼らになら、気付かれる前のエクスカリバーぶっぱで勝ててしまうのではないか。そんな事がセイバーの脳裏をよぎった。
 まあ実際はそう簡単にはいかないだろうが、熱中している彼ら相手なら真名解放までなら気付かれなそうな気もする。

「――む、ああ。来ていたのかセイバー。
 私達に何か用か?」

 自らの思考に浸るセイバーだったが、当事者でも在るアーチャーの一声で我に返った。
 セーブをし終えたのだろう、見ればギルガメッシュもDSをたたむ動作の途中であった。

 混乱で飛びそうになる意識を何とかとどめ、セイバーはようやく本題に入る。
 ――入ろうとしたのだが。

「え、ええ。
 しかし、その。
 アーチャーはいつの間にギルガメッシュと――?」

 ついはぐらかしてしまう。
 いや、それもそれで気にはなるのだが。

 先ほどのギルガメッシュとアーチャーを見て、セイバーはいくらか冷静になってしまっていた。
 そう、自分の状況を再び理解してしまった。
 再び、言い出すのが恥ずかしくなってしまったのだ。

 心を読む事に長けるアーチャー、そして人間観察に優れるランサーは、セイバーが何かを隠している事を看破する。
 特にアーチャーは、数日前の自分と完全に重なるセイバーを見て、何を言い出したいのかを完全に握していた。
 しかし、助け舟を出すような事はしない。
 敵だった人間の助けを自分の意思で受けるような、生半なプライドを彼女は持っていない事を見越しての判断だ。
 まあ実際は自分の通った苦難の道を彼女にも歩ませたいだけだったのだが。英霊のくせに意外と人間臭い。

「ああ――つい数日前だ。
 何、話してみればこれが中々分かる奴でな」

 さて、はぐらかされた会話に乗ったのは、愉快そうなギルガメッシュだ。
 彼こそは、人の上にたった最古の英雄王。あわてる少女一人の胸中を探る事など容易い。
 要するにセイバーが話をはぐらかしたという事実は、教会の全員が知っていた。

 しかしまた此処でセイバーは冷静を失う。
 分かっていたとは言え、想像以上にギルガメッシュの言葉が柔らかい物だったからだ。
 喩えるのならば、友人をからかう青年のような、爽やかな対応だったのだ。
 前の彼ならば、上から目線で蔑むようなニュアンスが含まれていたはずの言葉。
 それがこない事で、セイバーの頭は更に混乱を極めていく。

「あ、え、は。
 そ、ソウデスカ。
 一体何をきっかけにして、その様に仲良くなられたのですか?」

 気がつけばセイバーは、自分でもよく分からない質問をしていた。
 まあ核心といえば核心に触れる話題なのだが、セイバーがそれに気付く事は無い。

 ここで、ランサーとギルガメッシュも大体あたりをつけた。
 このようにして教会を訪れる英霊など、友好を結びに来た――または、それに準ずる目的が在るものくらいだ。
 もし、彼らを倒すような事が目的ならば不意打ちを掛けるだろうし、英霊が三人も揃っている時に教会に踏み入るような事はしまい。
 しかも、内一人は最速のサーヴァント。もう一人は最凶のサーヴァントだ。いや、もう最凶とか似合わないにも程があるが。
 おまけに、最凶(?)のサーヴァントがいれば、それと互角程度の立ち回りは可能になるアーチャーがいる。
 バーサーカーですら、この状況で勝利を収めるのは不可能に近いだろう。

 では、セイバーは友好を結びに来たと仮定しよう。
 いくらプライドが高い彼女でも、友好を結びに着ただけでこのように恥ずかしがるのは不自然というもの。
 ならば、何か頼みごとがあって教会に訪れた、と考えるのも自然な思考の一つだろう。
 そこでギルガメッシュ達が思いつくのは一つしかなかった。
 
 モンハンである。

 それが抗いがたい魅力を持っているのは、ギルガメッシュ達だからこそ良く知っていた。
 実際、アーチャーが陥落している。で、あれば最近普通の少女(といっても根っこは英霊だが)と化してきているセイバーがこの様になるのも不思議ではない。

 それを知っていて、あえてセイバー自身に「入ーれーて」の一言を言わせるために。
 彼らは普通の会話を続ける。あたかもセイバーの目的に気がついていないかのように。
 ギルガメッシュ、ランサー、アーチャー。三人ともドSであった。

 それから話はしばし平行線を見続ける。
 何とか自分の目的を探らせようとするセイバーに対し、三人は知らん振りをした。
 その途中でセイバーはギルガメッシュの変貌に驚いたり。
 ギルガメッシュ達は徐々に赤くなるセイバーの顔に、笑いをかみ殺した。

 だがまあ、この世に永き平定などはなし。
 セイバーの突然の爆発で、平行線は形を大きく乱す事となった。

「ええい! 分かっててやっているでしょう!
 分かりました! 言えばいいのでしょう、言えば!」

 犬歯をむき出しにして叫ぶセイバー。
 この台詞に至る直前は、失踪したシロウについて話していたのだから何の脈絡も無い。
 延々と世間話を続ける三人の英霊に、とうとうプライドを金繰り捨てることを決めてしまった瞬間だった。

「ほう? 何を言うというのだ?
 此処まで秘めておいたのだ、さぞ愉快なものなのだろうな」

 もはや、笑いを隠し切れないギルガメッシュ。
 見れば、他の二人もまたくつくつと笑っていた。

 セイバーは、自分が大切な道を踏み外した事を少し理解する。
 だがもう今更止まれないのだ。

「くっ……その、私も仲間に入れてください……」

 PSPを差し出しながら、うつむいて言うセイバー。

 此処に契約は完了した。
 教会モンハン同盟四人目のメンバーが今決定し。
 同時に、セイバーのアホ毛がダメ英霊’Sの旗に変貌してしまった瞬間だった。
 


「これで……沈みなさいッ!」

 響き渡るは、凛とした声。
 少女独特の高さを響かせるそれは、今まで教会に屯していた三人のサーヴァントのモノとは似ても似つかなかった。
 それもそのはず、少女がこうして彼らに混じるのはこれが初。で、あれば教会に新しい音が加わった事に他ならない。
 
 少女の叫びは威力となって。倒れた雪山の主へと向かう。
 それは正に断頭の刃。命を擦りきる必殺の一閃である。
 死を運ぶそれを雪山の獅子が見る事はかなわない。もがき苦しむ彼は、現在の苦しみを耐えようとするばかりに、これ

から訪れる更に大きな苦痛に気がつかないのだ。

 そして、それは振り下ろされる。
 無慈悲なまでの鉄塊は、いま静かに──

 目標を達成しました

 振り下ろされたのだ。
 かくして、少女にとってはこれが初。三人のダメ英霊先輩方には四回目のドドブランゴ討伐を成し遂げたのであった。

「やりましたっ!」

 嬉しさから叫びを上げるセイバー。
 勝利など、アーサー王である彼女からすれば珍しいものではない。
 それでも嬉しさのあまりに声を上げてしまうのは、仲間と行う仮想の狩りの楽しさゆえか。それとも──

「よし、難なく討伐できたな。まあギルガメッシュが上達したなら、一人狩り仲間が増えてんだから当然っちゃ当然か」
「まさかこんなに早く、こやつの面を拝む事になるとはな。さすがモンハン、何が起こるかまるで分からぬ」
「これで彼女も正式に我々の仲間という事だな。おめでとうセイバー」

 それを祝福してくれる、かつての敵の姿が在るゆえか。
 現在時刻はセイバーの爆発から十数分がすぎたころ。
 画面に映るのは、緊急クエストの標的となった、倒れたドドブランゴだった。

「これで私も貴方達と同類と思うと、あまり嬉しくありませんが……お礼だけは言っておきましょう」

 PSPの画面を見て、意図的に三人の英霊と目を合わせないようにするセイバー。
 現在は、横たわるドドブランゴを剥ぎ取っている真っ最中だ。
 照れ隠しに獅子猿の解体とは、中々のシュールさをかもし出してはいるが、兎も角。

「これでようやく☆4のクエストが再開できるな」
「ええ、それについては本当に感謝しています。……ありがとう」

 快活に笑うランサーにつられ、セイバーが笑った。
 そうなのだ。セイバーは加入したばかりで、ハンターランクは未だに1。
 彼女が参戦した状況は正に、アーチャーが加入した際に酷似していた。

 そのため彼らは入団試験も兼ね、セイバーのハンターランクを上げる為の緊急クエストをクリアすることにしたのだった。
 そして今正に、ドドブランゴを打ち倒したのだった。
 因みにセイバーのプレイヤースキル、彼ら的には合格である。
 知識と経験では若干劣るが、天性の才能と直感で未体験の狩りでもある程度こなす、というのがアーチャーとランサーの見解である。
 今、鯖狩猟団(仮)でプレイヤースキルの格付けをしたとすれば、セイバーがいる位置はギルガメッシュより少し上といっ

たところだろう。ギルガメッシュは認めないだろうが。

 ともあれ、これで正式に四人目が加入したわけだ。
 新たなる仲間のクラスはセイバー。
 太刀と大剣をこよなく愛す、今は大剣使いの小柄な少女である。
 まあ、駄目英霊には変わりない。ご愁傷様。

「さて……では早速だが、何を狩りに行くか決めようではないか!」

 一狩りの後の恒例とも言える、次の標的の決定。
 それを告げたのは暫定リーダーとなるギルガメッシュだ。
 実力や誰を中心に集まったかを考えればリーダーはランサーだろうが……ランサーはあまり気にしていないし、何より本人がリーダーで無いとダダをこねるであろう事は周知の事実。
 暗黙の了解でアーチャーもランサーも、ギルガメッシュをリーダーと認めてはいる。一応だが。
 とはいえ一番近い二人の心境は師匠のようなものだろう。ギルガメッシュの技術と心の成長具合を見ていると、素直に楽しい──とは二人が釣りをしている際に苦笑しあった話題である。

 ギルガメッシュの話を受け、返したのはランサーだ。
 彼はそのことに付いて考えが在るらしく、不敵な笑みを覚える。
 
「そのことだが、実はもう決まってんだよな。
 なあアーチャー」
「うむ。新しい武器が手に入れば、それを振るいたくなるだろう。
 今回は私の提案で、ガノトトスを狩りに行く事にした」
「ガノトトス、とは?」

 横から話に参加したのは、セイバーだ。
 ガノトトスを知っているのは、この場ではアーチャーとランサーの二人のみ。
 ギルガメッシュとて知らぬモンスターでは在るが、久々のモンハンの興奮が冷め遣らぬゆえであろう、質問をしたのはセイバーだった。

「ああ、ガノトトスってのは水の中に住むモンスター……水竜だ。
 強敵には違いねぇんだが、初心者が何より驚く事が在るのはデカさと攻撃の判定だな」
「一部の巨大モンスターを除けば最大の体躯。
 攻撃範囲の割り出しにくい、尻尾による旋回攻撃。
 そして何より『亜空間タックル』と呼ばれるほど理不尽な体当たり。
 装備も揃ってきた事だし、ここらで強敵と呼ばれるモンスターに挑むのも、良いと思ってね」

 それに応えるは、やはりアーチャーとランサーだ。
 提案者であるアーチャーと、事情を知っているのであろうランサーの表情は楽しげだ。
 まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のよう──否。古い友人に再会したかのような、そんな表情だろうか。

 セイバーも二人の表情には気付いていたが、いずれ分かるだろう、と口を挟まない。
 それよりも彼女には、まだ見ぬ水竜の方に興味を引かれていた。
 まだ見ぬ強敵との邂逅──歴戦の勇士としては、表情が笑みに歪むのを止められない。

 だが、そんな笑みの広がる空間でただ一人、表情の浮かぬ者が居た。
 おなじみ言峰──は胃を患い入院してしまったので、それが誰かといえば、残った一人に自動的に決定する。
 そう、我らがリーダー、黄金の英雄王ギルガメッシュだ。

「む、どうしたギルガメッシュ。
 なにやら腑に落ちぬ、といった表情をしているようだが」
「……うむ。我にはどうも貴様の言葉が気になってな」
「と、言うと?」
「フェイカー、貴様は『ここらで強敵と呼ばれるモンスターに挑むのも』……と言ったな?」
「ああ、確かに言ったな。
 それがどうかしたか」

 アーチャーの言葉を一つ一つ確かめるように質問をするギルガメッシュ。
 彼の脳裏には、一体のモンスターが張り付いていた。

「ならばフルフルはなんだったという? 十分に強敵と言える強さを持っていたではないか。
 まさか、そのガノトトスというのはヤツを超えるモンスターだというのか?」

 そう、それは帯電飛竜フルフル──
 彼を苦しめた、沼地の王者(ギルガメッシュが勝手に思い込んでいるだけ)である。

 あれが強敵でなくては、ガノトトスとはどれだけの大物であろうか。
 ギルガメッシュの額に、冷や汗が浮かぶ。

 だがアーチャーはギルガメッシュの心中を察しつつも、なお笑みを浮かべこう言った。

「感じ方は人に依るだろうが、私もランサーもガノトトスの方が厄介な敵だと思うね」
「なんだと──!?」
「だが」

 ギルガメッシュの反応を分かっていたかのように──否。
 ギルガメッシュの反応を分かっていたアーチャーは、笑みを崩さずにこう言った。

「君はあの戦いで大きく力をつけたはずだ。
 ……それに、今は新しい仲間もいる。
 どうだ、これでも不安かね?」

 アーチャーの言葉に、ギルガメッシュはセイバーを見る。
 ランサーを、アーチャーを──そして、自分の分身たるハンターGillを。

 ふ、と。
 ギルガメッシュは自嘲的な笑みを浮かべた。
 まだ見ぬ敵に僅かばかりでも恐れを抱こうなどと、自分らしくも無い。
 かつての友に──今傍にいるヤツラに顔向けできぬわ。

 ギルガメッシュは眼を閉じ、鼻を鳴らす。
 
「……いいや、全く感じぬな。
 まさか贋作に教えられる事が在るとは──褒めて遣わすぞ、フェイカー!」
「ほう? それは光栄の極みだ。
 英雄王からの貴重な賛辞、素直に受け取っておこうか」
「へっ、てめえら話が長いんだよ!
 んじゃ、さくっと行ってさくっとやっちまおうぜ! 
 不安なんか、全く無いんだろう?」

 かくして、ギルガメッシュの顔に笑顔が浮かぶ。
 その笑みは、友への信頼。まだ見ぬ強敵への興味。
 美しい友情のあり方が、そこにあった。

 ……が、教会に在る笑みの数が変動する事は無かった。
 なぜならセイバーの表情から笑みが消えていたからである。

「一体ギルガメッシュは何処に行ったのでしょう。
 いいえ、ランサーもアーチャーもです。
 ここにいるのはきっとギルガメッシュ達ではありません。
 私は違う、私は……違う……」

 たかがゲームで、人(英霊)は此処まで変わってしまうものなのか。
 ギルガメッシュ達三人の変化に動揺を隠せないセイバーは、ただ只管そう繰り返していた──

 そんなセイバーに唯一気付いたアーチャーはこう思った。

「(セイバー、抗っているようだな。
  だが無駄な事なのだよ。長くても一ヵ月後には、私達の中に溶け込んでいる事だろう……私のようにな)」

 過去の自分をセイバーに重ねたアーチャーは、一人不敵に笑うのだった。
 そういえば、私もついこの間まで彼女のように困惑していたな……と、アーチャーは思い出してまた笑う。
 道連れは多いほうが良い。そんな不穏なことを、胸に秘めて。

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これまた酷い遅れ方だもうだめだ。
待ってなかった人は始めましてOr久しぶり。
待っててくれた人にはごめんなさい。ロボ2号です。

まだガノトトス書けて無いです……気分のったんで、近いうちにはガノ戦を上げたいです……orz
というか、更新二回分でクエストまで入れなかったの久しぶりかも。
 セイバーよりギルガメッシュのが影濃いし、なんだろうNE!



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