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[8807] 獣と魔物と煉獄と…【迷宮探索学園?】【習作】 更新+微修正
Name: 63◆ce49c7d8 ID:f09c18c0
Date: 2009/09/18 18:05
アークライン特殊探索者養成学園

その名の通り《特殊探索者》――通称冒険者資格をとる為の千年帝国指定の専門教育機関

南方のザイン特殊探索者育成学校、東方のツキノワ特殊探索者育成学院と並ぶ世界三大冒険者育成機関の一つに数えられる
《千年帝国》が支配するこの大陸で最も名高い学園にして、古代遺跡を所有する事を許された数少ない公立機関

ザイン学園には広大な迷宮と幻影で探索者を惑わせる《ザインの夢幻迷宮》

ツキノワ学園には意思があるかの如く探索者を傷つける《ツキノワの人喰い樹海》

そして、ここアークライン学園には凶悪な魔物と罠が探索者を地獄へと導く《アークラインの煉獄塔》

通常各学園では12歳より座学及び教練を1年行い、その後2年をかけて各迷宮内での実地研修

最後に3年をかけて各迷宮内の規定階層へと到達出来れば晴れて《国家特殊探索者》の資格を取得して卒業となる





















「今日からこのパーティーのフォワードは彼がつとめるから、皆もしっかり面倒見てやってね!」

「僕はミカエル=プロミネンスです。第58期入学で皆さんの一期後輩に当たります。まだ未熟ですが、精一杯がんばりますのでよろしくお願いします!!」

日に日に暑さが増していく中、唐突にパーティー《金獅子》のリーダー アリス=ワールウィンドは唐突にそう発表したのだった。周囲の誰もが呆けているその間にリーダーたる《青い髪の女帝》は壁際にもたれ掛っている一人の男を指差し憎憎しげに言い放つ

「と、言う訳でアンタはもうお払い箱よ!! さっさとここから出て行きなさい!!」

「ちょ、ちょっとアリスいきなり何いってるのよ!?」

「スズカは黙ってて!! 聞いてるのジークフリート=フォートレス! アンタはもう《金獅子》の副リーダーじゃない・・・・・・いえ、《金獅子》のメンバーですらないんだから早く出て行って」

黒髪ショートの凛々しい少女が慌ててアリスを止めるが、逆にアリスは激昂してジークフリートと呼ばれた男に吠え掛かる
「まあ、リーダーがそう言うなら従うがね・・・・・・除隊の理由は?」

「決まってるじゃない、アンタが無能だからよ! 魔法一つまともに使えない、希少スキルを発現していない無能が後期カリキュラムまで進学出来たのは誰のおかげだと思っているの? それをアンタは当たり前みたいな顔をして!! 本当に鬱陶しかったのよ!」

その発言にジークフリートと呼ばれた青年は一度肩をすくめ、服の左胸に着けていた獅子の徽章を取り外しアリスへと放り投げる

それを受け取りながらアリスは口を開いた

「アンタが今使っている戦槌《黒ノ衝撃》と重装全身鎧《緋ノ残照》は没収だからね」

「へいへい、了解、了解っと」

そう言ってジークフリートはゆっくりと3年と6ヶ月を過ごしたパーティールームから出て行った。











ガラス越しの強烈な日差しを浴びながら大柄な青年は憂鬱そうに溜め息を吐く

「はぁ、雰囲気で出て来ちまったがこれからどうすっかねぇ・・・・・・武器・防具は無し。道具・アクセサリー類は何とか死守
出来た。金は・・・・・・今月の寮費で無くなっちまうな、こりゃ」

「おぉーっすジーク!! どうしたの、そんな顔をして!」

「のわぁっ!!」

唐突な言葉と後ろからの衝撃に思わず驚きの声を漏らすジークだが、背中から首に抱きついている少女の顔を確認した瞬間苦笑を浮かべる

「よ、フィリス、相変わらず元気そうだな」

「あったり前でしょう! 元気が私の取り柄だからね? それよりどうしたの、そんな怖い顔をして?」

「いや、とうとうパーティーを除隊になったんだが「ちょっと待って! 除隊になったってどういうことッ!!?」」

「・・・・・・まずは落ち着け、首が絞まってる!」

先程まで同年代の少女より幾分若く・・・・・・というか幼く見える相貌に天真爛漫な笑顔を咲かせていたフィリスと呼ばれた少女はジークの言葉を聞くなり、憤怒の感情を隠しもせず怒鳴る。

一方、首に抱きつかれている状態で怒鳴られたジークは顔を幾分蒼ざめさせて首に巻きつくその腕を引き剥がそうとする
「・・・・・・で、いったいどういう理由で除隊になったの?」

「いやな、俺の代わりに後期カリキュラムの一年坊を拾ってきたみたいなんだわ。それも希少スキル持ちの超が頭に何個かつくぐらいのエリートだなありゃ。で、パーティーの規定人数の5名を超えてしまったんで誰かが除隊になる必要があるんだが、後衛のアリス、アリサの魔術神術姉妹は外せないだろ。で、罠の解除から道具の鑑定まで何でもござれのカイトも必須。残るは前衛の俺とスズカ嬢だが、スズカ嬢の属性剣術と抜刀術に比べて特に希少スキルを持っている訳ではない俺じゃあどっちが出て行くか分かりきった事だろう?」

160㎝にも満たない少女に右腕を引かれて食堂へと連れて来られたジークは椅子に座ったフィリスに一息に説明をする
その表情は妙にすっきりしていて、事情を知ったフィリスが逆に驚いた表情で問いかける

「・・・・・・えらくすっきりした表情じゃない」

「まあな~。これ以上カイトとアリサに気を使わせるのも嫌だったしな。丁度いい機会だと思ってるよ」

「まあ、ジークがそう言うならいいんだけどね・・・・・・でも課題は如何するのよ? 私と同じ後期カリキュラム2年生だから後6ヶ月で60階層まで到達しないと退学になっちゃうよ?」

「《金獅子》が優秀だったんで現時点で60階層まで到達してるんで、そんなに急ぐ必要は無いし、情報を餌に他の奴等のパーティーに入れてもらうつもりだ。ま、その前に下層で金を稼いで武具をそろえなきゃならんがな」

「・・・・・・んふふ~、ジークちょっと待っててね」

そう言って大げさに肩を竦めるジークを見やり、フィリスは口元を歪めると壁際に設置されている一辺が1m~2m程の箱へと近づき、《学生証》をかざした。するとその箱の上部についている飾り石が輝き始め、数秒後にふっと消え去る

フィリスが鼻歌交じりにその蓋を開けると中には幾つかの迷宮探索用のアクセサリー、道具類に武器・防具までが所狭しと並んでいた。

フィリスはそこから一本のハルバートを取り出し、ジークの元に戻ってきた

「はい、ジーク、これあげるよ。30階層のボス《アベンジャーナイト》が落とした武器なんだけど大きさと重さから使えるメンバーがいなくて置きっ放しになってたんだ。銘は《銀氷の崩落》等級はⅥになるって」

「いや、フィリスもらえるのは有り難いが、貸しもないのにどうしてだ?」

「《シュレディンガーボックス》のスペースの確保と不要アイテムの再利用って事が1番の目的かな?」

「だったら売れば結構いい値段つくだろうが・・・・・・まあいい、ありがたく頂いとく。代わりに何か俺に頼みたい事が出来たら言ってくれ。可能な限り手を貸すから」

「あははは、その時は期待してるよ~。じゃあ頑張ってね」

真剣な顔で言うジークにフィリスは少し目線を逸らしながら言い返し、足早に去っていく

周囲で見ていた者達は、ジークを忌々しそうに見ていた。幼い容姿に見えて、実はスタイルがいいフィリスはその性格の良さも手伝って学園の人気ランキングTOP10から落ちた事がなかった

その周囲の視線を無視してジークは肩にハルバートを担ぎながら箱へと近づき首にかけてあった学生証を翳す

先程のフィリスの時と同様に飾り石が明滅し、蓋を開ける。中には数本の瓶に詰められたポーション類、指輪やネックレス、お守りといったアクセサリーの類が幾つか並べられていた

「とりあえず持てるだけ持って今日の夕飯代を稼ぎに行きますかね・・・・・・」

現状の厳しさに苦笑しながら、だが何処か楽しそうな光を目に宿しジークは《シュレディンガーボックス》を閉じて、《アークラインの煉獄塔》と呼ばれる古代遺跡へと歩を進めるのだった












「よう、ジークフリート! 今日は一人見たいだけど何かあったのか?」

「ああ、トールか。俺は見事に《金獅子》をクビになったんで、しばらくは一人ぼっちでの探索が確定しただけだよ。とりあえず今日の夕飯代でも稼ぎにいく所さ」

「はぃぃ? お前がクビ?」

《アークラインの煉獄塔》地下1階に設置されている転送室前にて数少ない友人と出会った。2m近い長身と筋肉の鎧で包まれた恵まれた体躯、精悍というよりは男くさいと言われる容姿をした男。ジークフリートも恵まれた体格をしていたが、トールと呼ばれた男はさらにその上を行っていた

「どういう事だ!? 同期フォワードで俺と唯一まともに打ち合えるお前が除隊だと!! クソッ、あのクソアマぶっ潰してやる!!」

「お、落ち着けって、トール!! スカウトされて来た新人は希少スキル持ちのエリートだから仕方ねぇって。というか、仮にもパーティー《白銀龍》のリーダーたるお前が《金獅子》とのPT間闘争を起こそうとするな!!」

「そんなもん知ったことかっ! 希少スキルを持っていない? それが3年以上共に闘ってきた戦友を追い出す理由になるってのかよ!? それ以前にお前はまだスキルが発現していないだけで今後発現する機会だって残ってるだろうが!?」

「そんな理屈があの青い女帝に通用するかよ。俺はカイトと違って女心が分からん唐変木なんでね、生理的に嫌われる事をやっちまった可能性があるしな。まあ、気にすんなや」

顔をりんごの様に真っ赤にして怒っていたトールも落ち着いた様子のジークをみて落ち着き始める

「ちっ、お前がそう言うならしょうがねぇ、今回は見逃してやらぁ・・・。その代わりにジーク、これを受け取れ」

「おい、代わりに受け取れって、おかしいだろう?」

「いや、俺は別にいいんだぞ? 受け取らなかったら《金獅子》カチコミかけるだけだしな」

「・・・・・・たちの悪い押し売りか。まあ、感謝しとくわ」

「おお、俺様に感謝しろよ!!」

そう言って、背中に背負った《ペナーテスの法袋》と呼ばれる内部に一部屋分の空間を持つ袋に手をいれ、一対の籠手をとりだした。どちらも銀灰色一色の継ぎ目が見当たらないその籠手は非金属特有の滑らかさと軽量感を醸し出していた
「おい、これは何だ?」

「岩石竜種の幼竜の革で作った特製の籠手、銘は《灰ノ鼓動》等級はⅥになるとさ。俺が後期1年時に使っていた籠手で斬撃・衝撃に強く軽いのが長所の防具だな」

「って、いいのか? 防具としては優良品の部類に入るだろうに?」

「ああ、俺はもう使わないしな。っと、そうだ仲間をまたせてるんだった。すまんが今日はここまでだ。じゃあな、無理するなよ!」

「ああ、サンキュー! この借りはいつか返すよ」

そう言ってトールは学園へと走っていく。その背中を見ながら、溜め息一つついてジークは目の前の扉を開いたのだった























能力表?



NAME:ジークフリート=フォートレス   AGE:17


 
CLASS:第57期アークライン修練生 PT《金獅子》副リーダー

   ⇒第57期アークライン修練生 ソロ挑戦者 


   
ABILITY: Str:B+  Con:B  Int:D  Dex:C+ Spr:B Agi:C  

      評価基準:S/A/B/C/D/E E=一般成人男性の能力
 


TACTICS: 剣D 槍C  斧C+ 弓D
 


SKILL:  インファイトC ガードC+ 護衛B 罠解除C 抗魔D+



最高到達階層:61階層
 

     
Equipment

武器:斧槍《銀氷の崩落》等級Ⅵ

防具

 頭 部 :なし

 体 部 :夏季制服

 腕 部 :革籠手《灰ノ鼓動》等級Ⅵ

 脚 部 :革靴

アクセサリー:力の指輪 鷹の指輪 梟の指輪 抗魔のお守り



ITEM:下級ポーション×10 中級ポーション×5 上級ポーション×1



支給品:《ペナーテスの法袋》《学生証》



評価

基礎能力は同学年の中でTOP10に入るが、スキル・戦術ともにごくごく平凡なものしか無い為、総合的な能力評価では学年平均辺りに属している。性格は温厚(微妙にバトルジャンキー気質有り)で周囲の信頼も厚い(極一部を除き)

戦闘スタイルは基本的にフォワードで囮・護衛役を務める事が多いが、その有り余る腕力を活かしアタッカーを務める事もある優秀な前衛と評価される一人

8代前から長年続いてきた《白銀龍》と《金獅子》の抗争を終息させた立役者、学園でも一部の者達にはよく知られている
その割りに交友範囲は狭く、友人と呼べる間柄の人間は両手の指でたりてしまうぐらいしかいない変わり者である










[8807] 2
Name: 63◆ce49c7d8 ID:f09c18c0
Date: 2010/06/25 16:21
思い出すのは初期カリキュラムに招かれた特別講師の言葉

冒険者の戦闘とはただ多数で戦闘するという事ではない

PTを構成する各個人が有機的に連携する事により加法ではなく乗法的な結果を引き出す事である

弓使いが敵の動きを止め、戦士が攻撃し、場合によって後衛を庇い、魔法を使う者が魔法で攻撃する

各々が自分の事のみを考えて行動すれば得られる結果はただの足し算

矢は払われ、剣は受け止められ、魔法は詠唱を邪魔され、人よりも強靭な魔物に対するダメージなど無いも同然

だが、連携出来ているPTならば矢が足を貫き、剣と楯が牽制し、魔法が止めを刺す事も可能だ

そう冒険者にとって一番大事なのはPTメンバー・・・すなわち《仲間》である!!

・・・・・・・・・ならば、その《仲間》から追い出された俺は冒険者失格なのだろうか?













暗闇を見通す《暗視》の効果を与える梟の指輪と視力を強化する《遠視》の効果を与える鷹の指輪を装備することで広がった視界に何処までも続くレンガ造りの通路が広がっている

離れた位置にポツンポツンと設置された精霊灯が周囲に陰影を与えながら、まるで恐怖に怯えるかの如くその身を震わしている

「ははっ、一人だとこんなにもプレッシャーを感じるんだな」

そう苦笑いをしながら独り言を呟き慎重に奥へと足を向ける。既に一度踏破した事があり戦闘能力では圧倒的に有利な30階層とはいえ、迷宮は時と共にその姿を千変万化させ新たな罠、新たな形状、新たな魔物を生み出し冒険者達を呑み込んでいく

さらに己一人では未確認の罠にかかっても助けは無く、モンスターに囲まれてしまえば幾ら戦闘力に差があっても負傷は免れない。そんなプレッシャーを感じてか歩みは自然と遅くなっている

だが、アークライン特殊探索者養成学園に在籍する何百何千というPTの中で最上級評価を受けたPTに所属していただけありゆっくりだが着実に歩を進め、遭遇したホブゴブリン、リザードナイト、コボルトアーチャーといった魔人種を撃破していく。この煉獄塔内で死した者は其の生命力を塔と殺した者に奪われ、生命の残り火たる魔力光を放ちながら消え……そして、喰われていく。その終焉の後の残るのは塔より生み出され彼等に与えられた装備と《結晶》と呼ばれる生命の残りカス

それらを回収しながらジークはゆっくりと奥へと探索を続けていく

「ん? ……これは…剣戟の音か? こんな中途半端な時期にまだこの階層で戦っているPTがいるのか?」

不意に響き渡る金属が不連続にぶつかる音に耳を澄ませ、独り言を呟いて発生源へと向う

そこには牛頭人身を持つこの階層ではボスを除いた最強のモンスター デミミノタウルスとそれ戦う紅髪の修練生の姿があった。デミミノタウルスが両手それぞれに持ったアックスを振り回すが、紅髪の修練生は右手に持った見事な装飾の施された長剣と楯で受け止ていく。が、圧倒的な腕力の差からか紅髪の修練生は徐々に壁際へと押されていく

紅髪の修練生が後ろを気にして戦うのが分かり、その方向へと目を向けると片膝つきわき腹を押さえながら気丈にも立ち上がろうとしている銀の髪の修練生の姿があった

共に薄暗く輪郭と色が分かる程度の遠距離でも分かるほどの目が覚めるような美しい髪を振り乱しながら必死に生き延びようとしている

「ルナ、早く逃げてっ! くっ、もう持たない!」

そう切羽詰った声で紅髪が叫ぶが銀の影はよろよろと立ち上がると戦闘態勢をとる。それを遠目から確認したジークフリートは頭を掻いて溜め息を一つ吐き、デミミノタウルスの気を引くために大声をあげる

「ふぅ、しょうがないか……第57期アークライン修練生 ジークフリート=フォートレス! アークライン学園修練規範に沿って、助太刀致す!!」

「ふぇ?」

そう宣言すると同時に魔力で強化を開始し、デミミノタウルスへと巨体を感じさぬ速度で接近し斧槍《銀氷の崩落》を横薙ぎに振るう。背後からの奇襲に動揺していたデミミノタウルスであったが、知性が低い事が幸いしたのか本能的に翳した両手の斧でその一撃を受け止めたのだった。

が、そこからの光景に紅髪の修練生は呆然とした表情で意味の無い言葉をもらしてしまった

横幅ではジークフリートの2倍、縦幅で1.5倍、重量では3倍はあろうデミミノタウルスが受けとめた筈の一撃で宙に浮き上がり反対の壁際へと吹き飛ばされて行く

その信じられない光景に意識をとられ、呆然としている紅の修練生に視線も向けず苛立ち交じりの怒声を浴びせる

「おい、何を呆けている!? 早くそっちの修練生をつれて逃げろ!!」

「……私は今の戦いで足をくじいていて走れません! どうかルナを…後ろの修練生だけでも連れて逃げてください!」

「…何だと? ちっ、もう起き上がりやがった。おい、紅いの、逃げるのはやめだ。俺がココでコイツを潰すが文句は言うなよ?」

「え? 何を言って・・・・・・嘘でしょ?」

ジークフリートが退却を提案するも庇った紅髪から背中越しの訴えにより却下となる。だが、そうこうしている間にも起き上がったデミミノタウルスが無粋な乱入者を怒りに燃えた目で睨みながら両手の斧を構える

その視線を真正面から受け止めたジークフリートは目的を「修練生の救出」から「デミミノタウルスの討伐」へと切り替えてデミミノタウルスと斬りつけあう

どちらともなく近づき、無言で己が生存の為に両の手を振るい相手の命を狙いあう。ジークの両手用のハルバートとデミミノタウルスの片手用斧2本が目まぐるしくぶつかり合う。手数では如何考えても2本ある片手斧の方が有利な筈がジークフリートは巧みに柄を使い手数の差を埋めていく。そこにはただ本能の赴くままに武器を振るう獣と過去より連綿と受け継がれてきた戦闘技術に基づく修練を積んだ人間の差が如実に出ていた

獣特有の本能的な感覚からか相手の強さを悟ったらしきデミミノタウルスは文字通り乾坤一擲の賭けにでた。この硬直した打ち合いの中で、一瞬間合いを空けると己の武器である斧の一本をジークの後ろで弱っている銀の修練生へと投擲する。

その斧を目の前の強敵が止めようとすればそれは致命的な隙になる。しかし、万が一止めなければ己の命が奪い取られるのだろうと大半を野性に占領された脳裏で予想する。そして、斧を斧槍で無理矢理弾き飛ばし体勢を崩した強敵へと斬りかかりながらデミミノタウルスの本能と僅かな理性は己を勝利を確信した

「人が武器だけで闘っていると思うのは甘すぎる考えだぜ!」
デミミノタウルスの目を勝利の確信がよぎった瞬間、そう叫びながら持っていた斧槍を手放し崩れた体勢の重心を上手く前へと移動させ、残った左の斧を振りかぶったデミミノタウルスの牛面へと硬く握り締めた右の拳を打ち込む

崩れた体勢を利用し己の体重を乗せきった拳をカウンターぎみに打ち込まれたデミミノタウルスはたまらずたたらを踏み後ろに下がってしまう

「今だ!」

「貰いました!!」

その隙をついて後ろにいた紅の修練生が一気に距離を詰めその剣でデミミノタウルスの頭部へ貫いた。次の瞬間、額から血と脳漿を撒き散らせ、断末魔を上げながらながらデミミノタウルスは魔力光を放ち消えていく

その断末魔が辺りに響き渡り、静寂が戻って来る頃に残っていたのは《結晶》であるデミミノタルスの角とクリスタルと呼ばれる魔力塊、そしてジークが弾き飛ばした斧だけであった

それを回収しながら今日の稼ぎの計算をしているジークであったが背後からの聞える切羽詰った声に振りむく

「ルナ、しっかりして、ルナ!」

「……おいおい、そんなに揺するな! って、女だったのか?」

振り向いた先には紅髪の修練生が倒れ伏した銀髪の修練生を揺すっていた。銀髪の修練生は――紅髪の修練生もだが――通常美人と呼ばれる範囲を逸脱した美女であった。二人に共通しているのは東方の最高級絹糸を思わせる銀と紅の髪に健康的なミルク色の肌、防具の上からも分かるメリハリのあるプロポーション。紅髪の修練生のさぞや男装が似合うだろう凛々しい顔立ちと可憐な騎士装備。そして銀髪の修練生は美の女神が肉体をもったならばこうなるだろうと思える程の絶対的な《美》を持っていた。理性には自信があるジークでさえも歓楽街で見てきた歌姫達の妖艶さとは次元の違う妖しい引力を持つ魅力に気を引かれてしまった。

が、その引力を振り切り溜め息を一つ吐くと揺さぶる紅髪の少女を引き剥がし、脇腹を最低限の力で触診し彫刻のような美貌の顔を軽くはたく

意識が混濁しいてたらしき銀の修練生は小さく口を動かし、次第に目の焦点があってくる

「痛いわよ…ノルン。後で覚えておきなさい。……ミノタウルスはどうなったの?」

「…ルナ! よかった!」

「ええい!! 揺するなと言ってるだろうが!! ミノタウルスは俺が倒したから安心しろ。それより早くポーションか神術を使え、肋骨が何本か折れてるし内臓に刺さってる可能性もある。…このままじゃ死んじまうぞ?」

はっきりと意識を取り戻したルナと呼ばれた銀髪の修練生に抱きつこうとするノルンと呼ばれた紅髪を無理やり引き剥がし、そう声をかける

「……どなたか知りませんが、お助け頂きありがとうございました。恥を晒すようで申し訳ありませんが、ポーションも神術もきらしておりまして、出きればお分け頂きたいのですが…勿論後日補償は必ずさせて頂きますので、お願いします」

「お願いします! ルナを助けて下さい」

「はぁ、取って置きだが仕方ないか…ほれ、飲め上級ポーションだ」

煉獄塔内での出来事は基本的に自己責任であり、瀕死の修練生にポーションを与え助けたとしてもほとんど場合は助けた修練生が事実を否定し補償をしない。それを分かっていても息も絶え絶え言ってくるルナと涙を流しながら頭を下げるノルンの姿に自分の甘さへの溜め息をついて、取って置きの上級ポーションを飲ませる。市場に流せば一ヶ月は遊んで暮らせる程の大金になる秘薬だけあり、数分も立たない内に半死人だったルナは回復し、自力で歩行できるまでになった

「・・・御挨拶が遅れまして誠に申し訳ありませんでした。私はルナ=カリストー、こちらは「ノルン=ウルザンブルンです」共にジークフリート様と同じ第57期修練生です。お助け頂きまことにありがとうございました。」

そう言って頭を下げる美少女二人に首を傾げるジークフリート

「助けた事は気にしてなくてもいいが、同期生? お前達みたいな美人なら一度くらい噂になりそうだが、聞いた事がないぞ? 本当に第57期生か?」

「はい、本当ですよ。ただ、私はとある事情で第56期からの編入、ノルンは第58期からの飛び級編入という形で先月より第58期生に合流した所ですが」

「…編入? 本気で言ってるのか?」

「「そうですけど、何か?」」

目の前で明らかにおかしい部分をしらばっくれる二人の美少女に対して認識を改めると共に嫌な予感によって引き起こされ、盛大に自己主張し始めた頭痛に対して、こめかみを揉む事で対抗しながら心の中で大きく溜め息を吐く

そして、現状を思い出し仲間が話していた東方ではこういう日を何というか、という話題が頭をよぎっていった

これがスズカが言っていた天中殺というやつか……

そんな思い出に苦笑しながら少女たちに背を向け斧槍を油断なく構えゆっくりと奥へと歩を進める。と、その背中に当の少女たちから声がかかる

「あの! すみません、今いいですかっ!?」

「ん? まだいたのか? 早く医者に連れてってやりな、上級ポーションとは言え万能じゃないからな」

「いえ、そのその事についてお願いがありまして……」

顔を赤くしてそう言ってくるルナとノルンに猛烈に嫌な予感が駆け巡る

「…な、何かな?」

「あ、あの、恥を忍んで頼むのですが…その私たちを転送機まで護衛して頂けないでしょうか? 勿論、先程のポーションとは別に報酬をお支払い致します!」

「……は? 護衛?」

冒険者の卵である修練生が同じ修練生を護衛として雇う。確かにアークラインでは試験対策として往々にして取られている抜け道的な処置ではあるが、それは絶対に信頼できる者でなければならない。何故ならば万が一護衛が裏切ったとしても煉獄塔内である限り殺してしまえば隠蔽は容易であり、高位修練生は低位修練生にそれを行う事ぐらいの容易いからであった

つまる所、たまたま煉獄塔内で出会った者に頼むような事ではないという事だ

「……あのなぁ」

「ダ、駄目でしょうか…」

「……はぁ。分かった、31階層の入り口の転送機まで護衛してやる。だから、その表情は止めてくれ」

肩を落とし、落ち込んだ表情の少女達を見て罪悪感が刺激されたのか渋々受け入れるジーク。対照的にジークの解答を聞いて、まるで花が咲くかのように嬉しそうに微笑む少女たち。元々が絶世と呼ぶに相応しい美貌であった為、その微笑みは見る者全てを魅了する魔性を秘めていた

もっともPTを追い出され精神的にダメージが大きく、生活費を考えると憂鬱になり、明らかに厄介事を引き寄せそうな美少女二人と関わる事になったジークにはその魔性も付け入る隙がなかったのだが…

そうして、彼は二人を引きつれながら30階層を踏破した。追記しておくと後ろの二人も中々の使い手であった。もっともお座敷剣法と試合式弓術にしてはと注釈がつくが…

そんなこんなで31階層へと到着したジークは、後ろからかかってくる声を振り切るように転送機へと飛び込み、逃げるかのごとく転送室を後にしたのだった















[8807] 3
Name: 63◆ce49c7d8 ID:f09c18c0
Date: 2010/06/25 16:23
冒険者を志す者の大半はこう己に言い聞かす
座右の銘は、虎穴にいらずんば虎子を得ず――命を賭けることでより大きな成功を得れる
目標は、大陸最高の冒険者――地元では天才と呼ばれていた故の自負
そう次代の英雄を夢みて入学した者達
だが、その現実に打ちのめされ、負けを受け入れ諦めていく
《才》はあれどもより大きな《才》に踏み潰され、己の《研鑽》を無駄と切り捨てていく
だが、数年に1人は圧倒的な《才》に刃向かう馬鹿が現れ、その中から十数年に1人は生き残り、世紀に1人は《英雄》へと歩みを進める者がいる
《才》に抗い、時に負け、そこから新たな術を生み出し、《才》を凌駕する
既に完成したしまったが故にそんな強さを持つ者達を《神》は愛し、そして己の権能を《才》として分け与えるのであった






《金獅子》を除隊になり、煉獄塔内において明らかに厄介事を背負っている美少女二人組みを助けた日より2日が経過した

その二日間は除隊の手続き、個人での煉獄塔内探索申請、57期主任教官と面談、関係各所への連絡と報告の為に学園中を走り回っていた

そんな忙しさが一段落着いたと判断したその瞬間を狙ったかのように例の二人組みがジークを襲撃してきた

「ようやく見つけましたよ、ジークフリートさん」

「何処へ行っても常に不在とはお忙しいご様子ですね」

学園内の食堂の窓際に陣取り、日を光を浴びてまったりと過ごしていたジークの背後からその言葉を受ける

その声に一瞬肩を震わせたジークが恐る恐る後ろを振り向くと、脳裏をよぎった予想通り煉獄塔内で出あったルナとノルンが並んで立っていた。ボロボロであった煉獄塔内でさえ際立っていた美貌は日の光のしたでより一層輝いて見えていた

光を受け輝く結い上げられた白銀の髪と無造作に纏めた朱金の髪、男女問わず視界に入った瞬間に引きつけられる容貌……彼女達の後ろには彼女達をみるだけの為に何十人もの修練生がついて来ていた。その野次馬の視線が一斉にこちらを向き、落胆と失望の色に染まる

「……胃が…胃が」

「どうかなされましたか?」

「……ぐぁ」

数十人の無遠慮な視線に晒されたジークは胃の辺りを押さえながら、肩を震わせる。その動きを心配したルナはその最高級のサファイアの如き瞳に明らかな心配の念を浮かべ問いかけてくる。その問いかけと同時に後ろの野次馬達からの圧力が一層増し、ジークの胃へと大ダメージを与えていく

「…大丈夫、何の問題もない。ああ、何の問題も無いんだ」

「…本当に大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だから、用件を言ってくれないか? 俺もせっかくの休憩をゆっくり使いたいんだ」

「あ、そちらの席をおかりしますね?」

「はい、ルナ椅子を取ってきたよ」

「……ここは一人用の席だぞ」

一人用の小さな円形テーブルの周囲にジークフリート、ルナ、ノルンの三者が座る。周囲からの視線はきつくなる一方で居心地悪い事この上ないが、現状で逃げてしまえば周囲の修練生に何をされるか分かったもんじゃない為、逃げずに大人しくテーブルを挟み向かい合う

どうしても彼女達に見惚れてしまいそうになる自分を胃の痛みと強靭な理性で押さえ込みながら二人に問いかける

「さて、確かルナさんとノルンさんだったかな? わざわざ俺を探していたみたいだけど、何の用かな?」

「…そう警戒しないで下さい。前にお約束した補償と報酬の件ですよ」

「あんな口約束を守るつもりか? 正直、俺としては黙殺されるのを覚悟していたんだがな」

「ふふふ、確かに煉獄塔内における契約の大半は無視される事が多いと聞きますが、私達はそのような義にもとるような事はしませんわ」

「救って頂いた恩を仇で返すような事は家名に誓って致しません!」

修練生の大半が聞けば鼻で笑うような奇麗事を当たり前のように言ってのける二人組み。そんな二人を珍獣でも見るかのような眼つきで見ながらジークは処置無しと肩を竦める

「正直に言えば財布が心許無いんで報酬はありがたいな」

「つき返されず私も安心しました。これが頂いたポーションと護衛して頂いた報酬になります」

「どうぞ」

「……本気か?」

そう言って目の前のテーブルに置かれたのは高級ポーションを10本買ってもお釣りがくる程の金額が記入された小切手であった。そんな大金を持った事がないジークは目を白黒させて小切手と正面の二人を交互に眺め、考え込み、何かを思いついたように顔をあげ二人に向って口を開こうとするが、それを遮るかの如くルナが言葉を放つ

「勿論、謝礼金だけでこのような金額をだした訳ではありません。一つジークフリートさんにお願い……有態に言えば依頼したい事がありまして、その前金を含みこの金額を出させて頂きます」

「…失礼ながら貴方様の事を調べさせて頂きました。教官陣からの評価は学園歴代最強と名高い《金獅子》元副リーダーにして戦闘評価では学園上位にくい込む重戦士。学園都市首脳陣からは仲が悪い《教官室》《生徒会》《商工会》の三者間での揉め事を上手く纏める事が出来る唯一の人物。一般の修練生からは希少スキルを持たず、仲間に寄生して上位評価をとっている運だけの男という評価。はっきり言ってどれも曖昧で何が正しいのかわかりませんでした」

「…一番最後の評価があってるんじゃないか? 実際《金獅子》を追い出されたしな」

ノルンが語る己の評価を無表情に聞き終わり、無表情かつ投げやりにそう告げる。その顔は無表情ではあったが、何処か物悲しげであった

「しかし、それではデミミノタウルスの件は説明がつきませんわ。あのデミミノタウルスを後ろに私達という荷物を抱えたまま凌ぎきり打ち倒したその腕はすばらしい物でしたし」

「あの場合はあんな抜群のタイミングで攻撃してくれるノルンさんが優秀なんだろ?」

「あれだけお膳立てして頂ければ素人でも致命傷を与えられますよ」

三人が三人とも口元に小さく威嚇の笑みを浮かべながら互いを褒めあう。もっとも三人とも腹の中は違う事を考えているようではあったが…

「さて、依頼という話だが、この場で断りを入れさせてもらおう。この大金に見合う依頼というと拘束時間が長いか、もしくは命懸けになるからな。君子危うきに近寄らずって奴だな」

「あら、内容を聞く前に断っていいのですか?」

「まあ、報酬は惜しいが仕方ないだろう? 自分の出自を隠して依頼をかけてくる領地持ちの上級貴族様の依頼なんて恐ろしすぎて受ける事なんて出来ないな」

「なっ、どうし「ノルン、落ち着きなさい」…はい。ごめんなさい、ルナ」

「あのなぁ、幾ら俺が鈍くても気づかない筈がないだろう? まず煉獄塔で聞いていた家名が有名すぎるし、貴族は血筋が王族に近ければ近いほど先祖返りを起こして美しくなるといわれてるしな。馬鹿でも怪しいと気づくだろうよ。後は伝手を使って少し調べればそちらの素性ぐらい予想がつくさ、カリストー公爵家御令嬢とウルザンブルン辺境伯家御令嬢?」

「こんな短時間に良くそこまで調べあげましたね」

「色々と面倒事を解決してると知らない間に伝手が広がったんだよ。後はウチの……もう、そう言えないか。《金獅子》から受け継いだ人脈と情報網も持ってるしな」

腹を括ったのか正面から交渉を始めるジークとルナ。遠巻きに眺めてるいる野次馬はその表情を見て一層聞き耳をたて始めるのだが、それに気づいたノルンが肘でルナをつつき、周囲の状態を伝える

「そこまで知られているのなら依頼の情報と目的も検討はついているのでは?」

「ははっ、公爵家と辺境伯家の防諜体制を甘く考えない方がいいよ。俺が掴めたのは二人の素性のみで何でこんな場違いな場所にいるかなんて分からないし、知りたくもないね」

「…これは是非とも依頼を受けて頂かないといけなくなりましたね」

優れた個人戦闘技能だけなく優秀な情報網を持ち、各所にシンパを抱え本人もそれを上手く使う術も引き際さえも心得ている。こんな優秀な人物が何故この時期にPTをほとんど身一つで追い出されたった一人で煉獄塔を探索しているのだろう

そんな疑問とそんな人物と引き合わせてくれた運命の神と己の守護神に心の中で感謝を句を唱え正面からジークを見つめ、ありったけの誠意を込めて交渉を再開する

「ではこうしましょう。この小切手は助けて頂いたお礼として差し上げます。ですので、依頼について真剣に考えて頂けないでしょうか? 勿論、真剣に考えて頂いた結果、無理だと判断したのならば私達も諦めます」

「ちょ…ルナそこまでやっていいの?」

「ほう、そこまで譲歩していいのか? それだと俺にしかメリットはないぞ」

「まずは話を聞いて頂かない事には何にもなりませんし、今まで話した上での判断です」

「……ああ、もう! これだから嫌なんだよ! ったく、しょうがない。依頼の内容を……その前に場所を変えたほうがいいなここは無粋な耳と目が多すぎる」

周囲を一睨みした後、席を立ち二人を促し食堂の外へと歩を進める

神代の遺産である《アークラインの煉獄塔》と学園各所を結ぶ渡り廊下をジーク達三人があるいて行く。先頭をジークが、その後ろを2人が並んで少し早足気味に進んでいく。先程の野次馬の大半は食堂においてこれたが、未だ数名がこそこそと着いてきているのが分かる、というか尾行者達も隠すつもりないようだ

もっともその行為をする気持ちもジークはある程度理解は出来る。渡り廊下をは挟むように設置された運動場と闘技演習場――大層な名前だがモンスターを模した人形、練習用トラップ等が置いてあるだけの広場――で練習していた男子修練生が遠目にもかかわらずつい見惚れてしまう程の美貌をもった少女達をこんな無能と評判の男が連れまわすなど彼等にとって罪悪にも等しく、何かあれば直ぐにでも助けに入る騎士気取りなのだろう

そんなある意味正直な男達でがあったが、ある程度距離がつまり先頭を歩く青年が誰か分かった瞬間、反応は3つに割れた

1、相変わらず首を傾げありえないと呟く者達・・・これが全体の5割近く

2、ジークフリートに対して侮蔑・嫉妬といった視線を送る者・・・これが3割程

3、ジークフリートを見るなり体ごと反転し視線を決して合わせようとしない者・・・これが2割

どれも反応を送られた本人からすれば溜め息を吐きたくなるようなものばかり。当のジークフリートもたぶんにもれずつい溜め息ついてしまった

「あの、ジークフリードさん。どうかされましたか?」

「・・・・・・ん? いや、周りの視線が痛いな、と思ってな」

「へっ? 視線?」

ジークの溜め息素早く反応した輝くような銀髪の少女ルナが心配そうに声をかける。少し眉根を曲げ下から振り向いたジークを見上げるその姿を見れば世の大半の男性は恋に落ちるだろうと思われたが、その視界の映像よりも周囲からの呪いの視線に意識の大半を持っていかれているジークフリートは見事にスルーして胃のあたりを押さえ込む

そんなジークの言葉に反応したのはもう一人の少女だった。さき程からルナの背中を護るように歩いて来ていたノルンが上質のアンバーを思わせる瞳で周囲を見回す。

その視線にジークを睨んでいた男子どもは我に返ったように己の鍛錬を再開していく

その光景に小首をかしげる少女達と胃を抑えるジークであったが、ジークが学舎へと足を向けると少女達は無言でついてきた。どうやら、ジークの無言の背中に何か感じるモノがあったらしい・・・・・・



















アークライン特殊探索者養成学園いう名前とは裏腹にこの学園は学園という枠を逸脱し、一つの都市国家と言っても良いほどの軍事力、経済力、文化力を持っている

それもそうだろう非常に高い戦闘能力を誇る修練生が数千名とそれを管理する選りすぐりの教師達、強靭な武器防具を製作する職人、回復薬等を作成する錬金術師、大怪我をした修練生が入院する為の病院、生活するための食料を提供する市場・・・・・・例を挙げればきりが無いほどの膨大な数の人間によって《アークラインの煉獄塔》は管理され続け、人々は《アークラインの煉獄塔》の恵みによって日々の糧を得ている

そうして長い年月をかけて多くの人が集まることによって一つの経済圏が出来上がりアークライン特殊探索者養成学園の学舎と《アークラインの煉獄塔》を中心とした学園都市アークラインが形成されていった

そんなアークライン学園から西へと数分歩いた路地裏にあるひっそりと佇む《秋桜の夕暮れ》という名の喫茶店にジーク達三人の姿はあった。ここに来るまで人込みを縫って歩いたり、知り合いの店舗を通り抜けたりしながら、通常の3倍の時間をかけ尾行する男子修練生をまいて到着したのだった

シックな調度品でまとめられた落ち着いた雰囲気の店内。その奥の窓際に設けられたテーブル席に向かい合う形でジークとルナ・ノルンが座り無言で紅茶とケーキを口へと運んでいく。そうして三人のカップが空になり、手元でする事がなくなると三人は視線を合わせ話し始める

「さて落ち着いたところで本題に入ろうか?」

「…そうですね。それで依頼についてどの辺りから話しましょうか?」

「ふむ、ならば依頼の内容・目標・期間・報酬、ついでに禁止事項を教えてくれ」

「……依頼の理由は聞かないのですか?」

「はっ、御貴族様の醜聞に首を突っ込むつもりは欠片もない。正直、それを聞いたら嫌でも依頼を引き受けないといけない状況になりかねんからな」

「……その通りですね」

まず、先制攻撃といわんばかりにテーブルに片肘を立て頬づえついているジークが自分が関われる範囲を宣言する。これ以上の事が関わるなら俺は依頼は受けないとはっきりと二人に対して意思表示をしてみせた

「それでは依頼ですが煉獄塔内で私達の護衛兼引率者をして頂きます。目標は学院との往復以外は階段利用で60階層到達、期間は今年度中には必ず到着しなければ成功とみなせません。報酬は先程と同じ金額と私が個人所有している等級Ⅲのネックレス《紺碧の女王》です」

「等級Ⅲというと物によっちゃ国宝クラスの道具だろうが、何で個人で所有してるんだよ!」

「公爵家には色々な所から借金の無心やご機嫌伺いで付届けがきます、そういった物には結構な掘り出し物が混ざりこんでいるんですよ。その中の一つをお爺様から祝いに頂きまして…」

「ははっ、公爵様ともなると色々あるんだねぇ。まっ、それは置いておいて依頼について確認だ。その依頼だが俺以外の協力者はいるのか? いないとしたら、誰かを引き込む事は問題ないのか?」

「前者はNO、後者は限定条件付でYESです」

「と、いうと?」

「依頼の条件の一つに他所のPTからの引き抜き禁止があるんですよ。つまり、ソロやペアで探索している修練生ならばPTに入れても問題ないのですが、3名以上でPTを作っている人は禁止です」

その言葉を聞いて大げさに驚いたふりをしながら肩をすくめ、小さく嘲笑を浮かべる

「ハハッ、なんでそんな面倒な事をしないといけない」

「……それが依頼の条件だからです」

「ふぅ、怪しさ満点って奴だな」

「無理を言っているのは承知ですが、どうか引き受けてもらないでしょうか」

そう言って頭を下げるルナを見て目を白黒させるジーク

「上級貴族が頭を下げる、か。……今の時期から今期中に60階層到達というと相当なハードスケジュールになるぞ? 後、俺は卒業が一番の目的なんだ。60階層後の最終課題まで二人は手伝ってくれるのか? その辺りを教えて貰いたいんだがね」

てっきり拒否の言葉が出てくると思い、最悪色仕掛けまで考えていた二人は唖然とした表情で顔を見合わせる。家族同然に育ってきた為発達したアイコンタクトでお互いの意思を確認し、同時に頷く。

目の前でコーヒーをかき混ぜながら返事を待っているジークに自分でも分かるぐらいの満面の笑みで言葉をはっした。

「勿論、大丈夫です!」

「私達は今期の目標さえ達成できれば卒業までお付き合いします!」

その笑顔に顔を少し赤らめながら、ジークは一つ頷き、小さく声をだす。

「ならば、契約成立だ。明日から相当忙しくなるから覚悟しておいた方がいいぞ」

その頬にうかぶ不適な笑みをみて、ルナとノルンは笑顔を強張らせ「もしかして選択を間違ったのかも…」と内心で不安になったりしていた。

その表情を楽しげに見ながらジークがふと思い出したと言わんばかりに口を開く。

「編入といったがPT登録とPT探索許可はとったのか?」

「……個人分しかとってないです」

「こんなに早くスカウトが出来るなんて予想してなかったもんね」

目の前が顔を見合わせる二人の美少女を見ながら眉間のしわを伸ばすジーク。

「なら、早い所登と申請を済ませる必要があるな。まあPTに所属していないフリーかつ個人許可が出ているからその場でPT探索許可が出るだろうし早めに申請に行くことをお勧めする」

「……申請?」

「PTリーダーが申請するのが筋だろう?」

「私は自分とジークフリードさんの能力差ぐらいは分かってますから、リーダーを名乗るなんて事は出来ませんよ」

ごくごく当たり前の事言わんばかりにジークへとリーダーを振るルナ。そのサファイアの瞳にはどこまでも真摯な光が宿り、ジークを信頼したいという気持ちが出ていた。

その瞳に押されるように一度小さく頷き、己の決心を乗せて二人に向かい力強く言葉を放つ。

「そこまで言ってくれるならば俺がリーダーを引き受けよう。だが、申請の前に一点だけ決めなければならないことがある」

「それは?」

「…PT名だ。俺達だけの一代限りのPT名になるか、それとも引き継がれていく《名》となるか。それは分からないが俺達が己の命と目標を共有するという《意志》を周囲全てに示す為、俺達だけの《名》を決めなければならない!」

「《名》ですか? ……それなら今ここにいる三人を表すPT名にしませんか?」

「いいですね! 私達が個ではなく群という事を示すにはそれが一番分かりやすいもんね」

そう言って判断を求めるようにジークを見つめる二人。その二人に面白いといわんばかりに口元をゆがめジークは頷く。

「いいね、その案で行きますか。じゃあ順番に言っていこうか?」

「まずは私です! 私は我が一族の髪の色であり、家紋にも使われている《紅》です!」

「なら私は、私の母と《守護神》から頂いた髪の色《銀》ですね」

「《紅》《銀》ときたか…さて俺を表す言葉、か。……ククッ、《PT》っていう群れから弾き出さたって意味で《狼》だな。追い出された孤狼は新たな群れと巡り合い再び群れをなした。ははっ出来すぎだろう」

そうして三人はどこかくすぐったい様な表情を浮かべ互いの顔を見つめ、小さく笑う。

「俺はPT《紅銀狼》リーダー:ジークフリート=フォートレス。これから命を共有するんだ、気軽にジークとでも呼んでくれ」

「私はPT《紅銀狼》構成員:ルナ=カリストー。二人よりも年上だけどルナと呼び捨てでお願いします」

「私はPT《紅銀狼》構成員:ノルン=ウルザンブルン。私が一番年下だし呼び捨てでお願いしますね。って今更かな」

そう言って三人はうち合わせたかのようなタイミングで一斉に声を放つ
「「「これからよろしく」」」









サッカー決勝T進出おめでとう
とりあえずの大幅改訂(改悪?)
まあ、こんなもんさorz









[8807] その日の《金獅子》
Name: 63◆ce49c7d8 ID:f09c18c0
Date: 2009/08/19 09:40

その日の《金獅子》









《金獅子》というパーティーネームはアークライン特殊探索者養成学園においては特別な意味を持つ

というのも《金獅子》はアークライン特殊探索者養成学園創成期に結成され、それ以降常にその時期のトップクラスのパーティに受け継がれているパーティーネーム、さらに前パーティーが残した強力な武器防具秘薬などが次代に引き継がれる為、他のパーティーに比べダンジョン探索が有利になるという点も魅力的な点である

また、歴代の《金獅子》からは《英雄》や《偉人》と呼ばれるに相応しい業績を残した者達が排出されこのパーティーに名を連ねる事で卒業後の進路さえ変わってくるとも言われている

もっとも、パーティーネームの引継ぎは前パーティーリーダーから次代のパーティーリーダーへの指名となっているのでそれなりの実力を見せつけなければ指名を受けることは出来ない

そして当代の《金獅子》メンバーはというと・・・



アリス=ワールウィンド

パーティーリーダー、希少スキル中の希少スキル《精霊の加護(全)》と膨大な魔力量を誇る100年に一人の逸材と呼ばれる強力な精霊術師



ジークフリート=フォートレス

パーティー副リーダー、希少スキルは発現していないが圧倒的な膂力で本職の騎士とも互角に戦える戦士にして、強靭な肉体と無尽蔵の体力で一人で戦線を構築すると言われる歴戦の勇士



カイト=ラインズバック

一応希少スキルに分類されている《知識神の蔵書》・・・通称《鑑定》スキルを持つが、それ以上に開錠・採集・罠解除等その技能の多さと高さで評価され、前衛・後衛とも行える事から《万能》とも呼ばれる戦士



スズカ=ハヤシザキ

東方のツキノワ特殊探索者育成学院より交換留学で来ている修練生。金属を嫌う精霊を刃に宿らせる事を可能とする希少スキル《属性剣術》と東方独特の刀術を駆使し、圧倒的な剣速と攻撃力を両立させた剣士



アリサ=ワールウィンド

リーダーのアリスの姉にして、希少スキル《地母神の加護》と《癒し神の加護》という希少スキルを2つも持っている大陸でも類稀な才能を持つ神術師、メインは回復系の術だが幾つかの攻撃系の神術も使える正真正銘の怪物



5人中4人までが希少スキル発現済みという歴代でも最も才能に溢れたパーティー。周囲からは《奇跡の世代》とよばれその評価にたがわず30階・60階という試験合格ライン最速到達という偉業を達成している

そんな彼等であったがプライベートでは上手くいっているわけでは無かった。と、いうのもパーティーリーダーのアリスと副リーダーであるジークフリートの仲が日に日に悪化している事が原因である

アークライン入学後、座学を共に学び最初の探索でパーティーを組んだ当時からその片鱗はあったが、ここ最近ではアリスが一方的にジークに捲くし立てている光景がよく目撃されるようになった

その原因は不明であるが多くの修練生から見れば《有能》なパーティーリーダーが《無能》な副リーダーを叱咤激励しているように見え、それに対するジークフリートの態度に憤りを感じることが多かった

そして、《その日》とうとう《金獅子》の長い歴史の中で初めて脱退者が出ることとなった

「で? アリス? 勝手に副リーダーを追い出したことに対する弁明はないのか?」
                
「弁明? 何で私がそんな事をする必要があるの? 私は《金獅子》の今後の事を考えて無能な者と有能な者を入れ替えただけよ?」

「はっ、お前のはただの嫉妬だろ? 元々お前の憧れだった前パーティーリーダーからの指名を受けてたのがジークで、希少スキルが発現していなかったからお前がパーティーリーダーを引き受ける事になった事が気に入らないんだろうが!」

均整の取れた体躯と甘いマスクをした青年がアリスへと食って掛かる。その舌鋒は鋭く普段の彼――カイトを知る人物ならば目を丸くして驚く事だろう

カイトに痛い所を突かれたアリスが少し涙目になりながらカイトを睨む。だがその視線は間に入ったスズカによって遮られる事となった

「カイト、それは言いすぎです!!」

「・・・・・・確かに言い過ぎた事は謝る。もう手続きの大半が終わっているからどうしようもないが、俺は今回の件に関して一切納得していないからな!!」

「でも、《炎神の加護》をもった新人さんが入ればそれだけ殲滅力があがるんだからメリットは大きいよ?」

「はっ、殲滅力? 笑えるね? 今でも十分な攻撃力がある《金獅子》にこれ以上いらんだろう? それよりもこれからどういう戦い方をするか決めた方が良いんじゃないか? 何せ戦線維持をしていたジークがいたからこそスズカの《属性剣術》やアリス・アリサの術の発動時間が稼げていたんだぜ?」

その言葉に後衛の二人はどこかきょとんとした表情で首をかしげ、スズカは顔を真っ青にしてアリスに詰め寄る

「ちょっと待ってください! その新人は勿論重戦士ですよね?」

「え、あ、ミカエルはその魔法剣士に分類される筈だけど・・・」

「あー、もう! 嘘でしょう!? 信じられない!? この時期にまた一から戦術組みなおし?」

「え? え?」

いつものスズカらしくなく動揺しているのか地団太を踏みながら叫ぶの見て、焦るアリサ

「何よ二人して? ミカエルに重戦士の戦い方を教え込めばいいだけじゃない? 半年もあれば十分育つだろうし、その時のために《黒ノ衝撃》と《緋ノ残照》没収したんだから」

「ええい、フォワードの苦労を知らない癖に語るな! それ以前の問題として剣士をしていた奴がアダマンタイト製の《黒ノ衝撃》と《緋ノ残照》を装備して戦闘が出来る訳ないだろう!?」

「・・・・・・カイト意見に賛成です。あんな馬鹿みたいな重量の武器防具を装備して戦闘可能なのは《白銀龍》のトールかジークぐらいのものね」

その言葉が意外だったのかポカンと口をあけて間抜けな表情をするアリス・アリサ

「・・・・・・一度そのミカエルとかいう新人の能力を確認しに行きましょうか?」

「だな、戦闘能力がわからないと連携もとれないしな」

「何時行きます? 私としてはなるべく早い方がいいかと・・・」

「パーティー新規登録ならまだしもメンバーの入れ替えを行うんだから今日明日って訳にはいかんだろう。まあ、5日後の正午でどうだ?」

「・・・・・・そんなにかかるの?」

アリスの事務手続き――PTの脱退・再登録の手間――を全く分かっていない言葉をコメカミを揉み解しながらカイトが仏頂面を浮かべながら口を開く

「今まで事務手続きを全くしてこなかったパーティーリーダーは黙っててくれるかな? 俺の我慢の限界がそろそろ来てるんだがね?」

「カイト、落ち着いて下さい。アリス、今日明日中にそのミカエルとかいう新人に5日後の正午に40階層で戦闘力確認を含めた試験を行うと言っておいて下さい。・・・・・・いいですね?」

「今日明日中に? ・・・・・・わかったわ、今から伝えて来る」

そう言って冷ややかな目で見るカイトとスズカから逃げるように部屋から出て行く

扉が閉まり足音が遠くに消えて行ったのを確認してから、カイト・アリサ・スズカは備え付けのテーブルに無言で座り、顔を突き合わせながら溜め息を吐く

「・・・・・・正直、アリスがこんな性急に動くとは思って無かったわ」

「同感だよ。どうしようか?」

「・・・・・・・・・どうしようもないだろう。おそらくジークも戻ってくるつもりは無いだろうし、アリスも戻ってくるのを許す訳がないしな。とりあえず、5日後の結果次第で《煉獄塔》の探索はしばらくお預けになるな・・・・・・」

「この時期に何を考えて脱退させたのかしらね」

「アリスの事だから希少スキル持ちでフォワードやってる子がいたから衝動的に誘ったんじゃないかな? あの子能力が無駄に高いから、問題が起こっても行き当たりばったりで解決できるせいで昔から計画性ってものが欠けてるのよ」

難しい顔をして話し合っている中で唐突にアリサが遠い目で言い募る。その言葉に対して思うところがあるのか、スズカとカイトも深く頷いている。と、急にカイトが顔を上げ切羽詰った声で二人に話しかける

「ちょっとまて! ジークがいないって事は《教官室》《生徒会》《商工会》との調整・報告は誰がするんだよ!? リーダーだからってアリスにやらしたら一日で根こそぎ奪われかねんぞ」

「「・・・・・・カイト、頑張ってね(下さい)」」

「・・・・・・・・・そうなるよな」

満面の笑みを浮かべた美少女二人から言葉にカイトはテーブルに突っ伏しながらそう漏らした。その姿を見ながらアリサとスズカは一度視線を合わせた後、同時に溜め息つき気だるそうカイトの左側へと視線をむけた

そう主の体格に合わせて周りの椅子より一回り大きく作られた椅子へ・・・・・・


そしておそらく主が二度と座る事が無くなった椅子へと視線を合わせ、再度溜め息を吐く

そうして、日に日に暑くなっていくその日は終わった

3年を共にした戦友が消え、これから先への不安が積もる。だが、これからも彼等は《煉獄塔》を探索するだろう。なぜならば、彼等は《金獅子》なのだから・・・・・・








   
あとがき

うん、書いてみた。書いてみたけど、また戦闘無いんだよ・・・ごめんなさい。本当にごめんなさい

それと一週間ぐらい前には書きあがってたんだ。うん、正直読んでくれている方々いるか不安だったし、それ以上に今回の話が面白いのか判断できずグズグズしてたんだ。申し訳ない

今回のは感想くれた方々、誤字・矛盾点指摘してくれた方の為に書いてみました。感想等頂き本当にありがとうございます。











おまけ



能力表?



NAME:ミカエル=プロミネンス   AGE:15


 
CLASS:第58期アークライン修練生PT《銀剣》リーダー

   ⇒第57期アークライン修練生PT《金獅子》メンバー


   
ABILITY: Str:C+  Con:D  Int:D  Dex:C- Spr:E Agi:C+  

  評価基準:S/A/B/C/D/E E=一般成人平均 C=二流 A=達人
 


TACTICS: 剣C- 盾D+ 炎剣(神)B
 


SKILL:  インファイトD+ ガードD+ 炎神の加護 抗魔D



最高到達階層:28階層
 

     
Equipment

武器:火属性片手剣《紅ノ漆》等級Ⅶ

防具

 頭 部 :革兜

 体 部 :強化革鎧《白ノ鼓動》等級Ⅷ

 腕 部 :革籠手

 脚 部 :強化革靴

アクセサリー:抗魔のお守り



ITEM:下級ポーション×20 下級マナポーション×5



支給品:《ペナーテスの法袋》《学生証》



評価

基礎能力・スキルとも同学年の中でTOP3に入る。特に希少スキル《炎神の加護》により火属性限定だが高い攻撃力防御力誇っている。またこの時点でC+という評価があるのは相当優秀である。火属性片手剣《紅ノ漆》と特殊SKILL炎剣の相性もよく、破格の攻撃力を誇っている

性格は明るくポジティブでリーダーシップとる事も多い。ただいささか視野狭窄を起こす事、英雄願望が強い事等が心配事項として各教官より挙げられている。戦闘スタイルはフォワードでアタッカーを務める



炎神の加護

炎を司る神ヴァランの加護を受けた者に現れる希少スキル

スキル効果は強力な耐火能力と火属性攻撃の強化(共にB相当)、特殊Tactics・Skillの発現、成長促進等の効果

このスキルを持つ者の中には《焔の始祖》ヴァランタイン、《中興帝》イグルシードⅢ世など武名名高い者が多い

加護スキルは強力な《力》を持つ者に与えてくれるが、その中でも炎神ヴァランは圧倒的な破壊力と殲滅力を誇る





[8807] 4
Name: 63◆ce49c7d8 ID:f09c18c0
Date: 2010/06/25 16:25
アークライン特殊探索者養成学園を卒業するためには3つの関門がある

まず、後期カリキュラム1年、2年、3年において各規定階層に達している事

もう一つは各学年において《学科》と呼ばれる講義による《単位》が規定以上ある事

そして最後にアークライン特殊探索者養成学園への年度初めの受講料と月毎の寮費の支払いが完了している事

その三点の内、どれか一つでも未達成だった場合には修練生は退学となる

この三点で一番脱落者が多いのが実は3点目の《受講料》及び《寮費》だったりする

その結果、修練生は迷宮探索以外にも探索と勉学に影響がでない範囲でのアルバイトが認められている















学園都市アークライン 東部商業区内 Ⅶ等級寮《楢の猟場》 ジークフリート=フォートレス自室

木製の古びたテーブルと椅子、壁際の本棚と小さなクローゼット、窓の傍にあるベッドでもう部屋がいっぱいの小さな部屋を物珍しそうに見回すノルンとルナ。その頭の動きに合わせて美しい紅のポニーテールと銀の長髪が左右に揺れ動き、好奇心満々な目で周囲を観察する目と合わせて、冷たい印象与えがちな二人の美貌に何処か子供っぽい印象を与えていた

もっとも現在部屋の中にいるのは二人だけの為誰も其れを見たものはいなかったが・・・・・・

と、彼女達の後ろの扉が開きのっそりとジークフリートがその姿を現す

「っと、まだそこにいたのか? とりあえずそこの椅子に座っててくれ、いま飲み物入れるからな」

「え? ・・・・・・ぷっ」

「・・・・・・・・・・・・クス・・・ククッ」

「・・・・・・遠慮せず笑え、我慢は身体に悪いぞ」

ジークの言葉に思わず振り返り、神速の速さで元の体勢に戻り肩をふるわせ始める。その二人を見ながら憂鬱そうな顔で溜め息と一緒に言葉を吐き出した

「・・・・・・もうダメ! アハハハッハハハハハ!!」

「ノ、ククッ・・・・・・ノルン! 失礼で・・・しょ!」

「・・・・・・いい、もうその反応は慣れた」

そう言って全く似合っていないバイト先の白シャツとギャルソンエプロン(しかも微妙に小さめのサイズ・・・)己の黒の短髪を順番に無念そうに弄くると、未だ苦しそうにしている二人を置いてテーブルへと向かい片手に持っていたティーセットをおいた後、椅子を引く

「・・・どうぞ」

そう言って二人に対して一礼する。本人はお遊びのつもりだったのだろうがその動きは十分様になっており年季を感じさせた――ただ服装はあいかわらず似合っていなかったが・・・・・・

その姿がきっかけになったのかノルンは笑うのをやめ、優雅に引かれた椅子に腰掛ける。やはり帝国貴族の一員だけあってぼろい椅子とテーブルのセットであっても気品を感じさせた

同様に椅子を引いて欲しそうなルナの視線に負け椅子を引き、ルナが優雅に座る。ニコニコという音が聞えてきそうなほどの笑顔でジークを見る二人。その横で無言無表情でカップに紅茶を注ぐジークだったが、その顔はほんのりと赤くなっており照れているのが丸分かりだった

「・・・・・・で? 単位は足りているのか?」

「はい。《ブリザイア大学院》で取得した単位は全てこちらで使えるとの事でしたので後期カリキュラム2年の必要《単位》の9割は取得済みです」

「私はだいたい8割くらいかな?」

「・・・・・・うん、二人とも優秀だな。じゃあ、アークラインで比較的に簡単に《単位》くれる講義と融通の利く教官を教えるからそこから単位をとっていく事。それとこれから一服したら《煉獄塔》へいくぞ?」

「先程新規パーティー登録終わった所なのにもう探索ですか?」

「君等の《目標》に対する時間の関係上可能ならば迷宮の閉鎖日程以外は毎日探索したいがね? 正直それでは体が持たないからな、限界を知る為にも二人の体力・戦闘力の確認だけは先にしておきたいんだが・・・・・・幸い今は《下弦の月》頃だからモンスターも凶暴じゃないし二人の試験に丁度いい時期だ」

「《下弦の月》?」

「ん? ああ、そうか《ブリザイア大学院》の《迷宮》は日数タイプだったな。簡単に説明するとだ、《煉獄塔》は《月齢》に影響を受けるタイプの《迷宮》でな。《新月》時には迷宮が更新される為に閉鎖、《三日月》のあたりから《迷宮》探索が許可、《上弦の月》《十三夜の月》とどんどんモンスターが凶暴になり、《小望月》《満月》《十六夜月》の三日間には10階層毎に《ボス》と呼ばれる馬鹿みたいに強いモンスターが出現する」

「・・・・・・ちょっと待ってください! 頭の整理が追いつきません・・・」

「はぇ~、《アークラインの煉獄塔》ってすごいね。モンスターの強さが変動するって・・・・・・」

ジークの説明をルナがいきなり遮り、コメカミをほぐしながら自分の常識を確認している。その横ではノルンが紅茶のカップを持ちながらコクコクと頷いている

「正直、経験則からの発見で原因・理由は全く不明だがな。おっと、続きだな? 《満月》の前後三日が終わると次は《立待月》《下弦の月》と月齢を経るごとにモンスターは落ち着いてくる。《暁月》が一番再弱でこの日以降しばらく迷宮は閉鎖、《三十日月》を経て再び《新月》で迷宮の更新、《下弦の月》って具合だな」

「えっと、それじゃあ《下弦の月》から《暁月》に探索するのが一番効率がいいの?」

「ん~、ノルンそれはちょっと違うんじゃないかな? その辺りだとモンスターは弱いけど既に迷宮が探索されつくているから宝物はとり尽くされている筈よ?」

「でも罠もほとんど解除されている筈だし一番安全だよ?」

「二人とも良い所に気がついたな。安全って事だけを考えるとノルンが正解だ。罠もなくモンスターも弱いから到達階数を稼ぐならその辺りが一番いい。が、はっきり言ってこの時期はうまみが無い。モンスターはほとんどアイテムを落とさないし、モンスターの生命力が弱いから能力も上がりづらい、さらに宝物はとり尽されているから資金稼ぎにも使えない時期だ」

そこで一度言葉をとめて二人を見る。ルナ・ノルン共に興味津々の瞳でジークの顔を凝視しており、早く次を話せといわんばかりに目配せをしてくる

「そこで閉鎖が解除される《三日月》を考えるとこれもまたモンスター関連はそれほどうまくない。が、未探索区域ばかりの為、宝物が見つかる可能性が高く人気はそこそこだな。で、一番人気はやはり《上弦の月》あたり。モンスターがそこそこ強暴だがリターンも期待でき、探索区域が階層深部になるから高等級宝物も見つかり易い」

「じゃあ、私たちもその時期に?」

「・・・はずれ。俺達はその時期だけ探索しても間に合わんぞ? さっきも言ったとおり可能な限り毎日探索だ」

「勿論です! 3ヶ月の間に60階層まで達成する為ならどんな事だって頑張ります!!」

「・・・・・・えらい気合だな」

「・・・・・・・・しょうがないよ。あれと婚約なんて私も絶対嫌だしね」

「ん? 何か言ったか?」

「あはは、なんでもないよ?」

「二人とも何してるんですか! 早く迷宮探索に行きましょう!」

後ろに炎を背負っている幻影が見えるほど気合が入っているルナに対して呆れるジークだったが、もう一人の傍観者であるノルンはなぜか同情と共感の視線を彼女に送っていた

そうして、三人は本日のメインイベントである迷宮探索へと向っていった。勿論、ジークは制服に着替えてからだったが・・・

















《アークラインの煉獄塔》 第33階層

《教官室》で探索許可とパーティー変更後の《学生証》の受け取りの際、既に61階層に到達しているジークがパーティーリーダーの為、《紅銀狼》に特例として40階層までの階層移動権が認められたりと一悶着とあったが、とりあえず無理をせずに33階層へと三人はやってきた。

ルナは白を基調とした動きやそうな長ズボンと金属強化された長袖に右手が小盾になっている特徴的な籠手、さらに帽子と口元を隠すような布で美貌の大半が隠れていたが、スタイルが丸分かりになる装備の為どこか妖艶な雰囲気になっていた

一方ノルンはというと、同じく白を基調とした動き易そうな装備だが所々に鮮やかな紅の金属で強化されていたり、金属で編まれた鎖で強化されていたりと前衛向きの装備となっていた。頭は金属製の兜で覆われているがルナとは逆に顔が全て見えている為、コロコロと変わる表情が魅力的な容貌に凛々しい雰囲気を加えていた

そんな魅力的な二人の姿であったが《教官室》での騒動で精神力を多大に消耗しているジークは軽く褒めるのみだった。もっとも二人のお嬢様は血気に逸っておりそれどころではないようだったが・・・

「さて、この階層のMAPは既にあるんで早速モンスターとの実践試験と行こうか?」

「わかりました」

「はい! ・・・・・・でも試験って何をすれば?」

「一緒に戦えば大体分かるから戦闘を行うのみだ。おっとその前に二人の得意な武器と距離、ついでにスキル系統を教えてもらえるとありがたいが・・・・・・」

そう言うとルナは《学生証》の中の能力評価項目内スキル部分を開きジークに見せながら答え、次にそれを真似てノルンがジークに答えた

「私は見ての通り弓と双剣をメインで戦いますので、特に得意距離はありません。評価はそれぞれ弓B 双剣C+ 快癒魔術Dといった所で、希少スキルは《月神の加護》を発現しています」

「私も片手剣と盾、それから魔術を使うから得意距離はないです。評価は片手剣・盾がC-、炎魔術がCで、一時的に戦闘能力を増大させる希少スキル《戦乙女の凱歌》が使えます」

「・・・・・・二人とも希少スキル持ちかよ。上位貴族だからそうだろうと思っていたが・・・・・・落ち込むな、これは。って、二人ともいくらパーティーメンバーでも簡単に《学生証》を見せないように!!」

二人の能力評価を確認したジークは壁に手をつき落ち込んでいたが、急に顔を上げると二人に二人に対して注意の言葉を放つ

「いいか、《学生証》には修練生の全情報が記載されている。姓名性別年齢身長体重etc・・・の万が一他人にばれたらまずいスキルや情報が記載されている可能性があるし、何よりこれは学園都市の《修練生》だという事を公式に証明する唯一の証拠なんだ。見せるなとは言わないが公式な場か第三者の目がある場所だけにしろ、分かった?」

「えっと、顔が怖いですよ?」

「・・・・・・分かったな?」

「「はい」」

「よろしい」

どこか刃物を連想させる笑顔を二人に向けるジークに必死に頷いてみせる。それに満足したのかジークの雰囲気が通常モードに戻り、プレッシャーから開放された冷や汗を拭く

そんなやり取りをしながら探索を続けていると通路の奥からゴブリンの集団がこちらに向ってきているのが確認できた

「さて、本番だ。準備はいいか?」

「勿論です!」

「頑張ります!」

「俺が最前線で戦うから、それぞれの判断で戦ってくれ! 何かあればフォローはするからな・・・いくぜ!!」

そう言って前回の探索の回収品であるデミミノタウロスの斧を持ち、こちらに走ってくるゴブリンの集団に向けてぶん投げる
十数キロもある金属の塊がいい感じに回転しながら先頭のゴブリンにぶち当たり、後続を巻き込んで吹き飛ばす

先頭のゴブリンはその一撃で生命力へと変換され淡い光になっていく

「いきます!」

「ジークさん、ノルン援護します」

投擲されたと同時に弾ける様に駆け出していたノルンが立ち上がったホブゴブリンを斬り捨てていく。美しい軌道を描く正統派の剣術により次々とゴブリンが光へと変わっていく

そのノルンの横をすり抜けるように次々と矢が放たれ後衛で魔術を唱えていたゴブリンマジシャン、矢で援護しようとしていたゴブリンアーチャーを射抜いていく。

「ノルン、一旦下がれ! 交代だ!」

「クッ、お願いします!」

業を煮やしたゴブリンナイト、ゴブリンファイター数匹がノルンを取り囲むように動く。それをルナの援護と己の斧槍で邪魔をしながら、上手くジークフリートとノルンがスイッチする

前線へとだたジークは雄叫びと共に放った一薙ぎでゴブリンナイト、ゴブリンファイターどもを吹き飛ばし前線の構築に成功する。横から回り込もうとするゴブリンはルナの矢に貫かれるか、ノルンに斬り捨てられる

残ったゴブリンナイト、ファイターも斧槍で貫かれるか叩き切られていく。その圧倒的な戦果の差に恐れをなしたのか数匹のゴブリンが背を向けて走り出す

「チィッ! 逃がすな! 援軍を呼ぶつもりだ!!」

「ノルン、お願い!」

「了解! フレイムアロー!!」

10匹近く残っているこの時点でゴブリンが逃走を図る筈がないと判断しジークが舌打ちする。ダメ元で指示を出してみるが予想を裏切り、ノルンが無詠唱かつそこそこの威力のフレイムアローで背を向けた数匹のゴブリンを燃やし尽くす

そうして数分後、戦闘は終了した。今回の戦利品は剣と杖が一本ずつ、とゴブリンの角3本と20体ほどの集団を倒したわりには収穫が少なかった

だが《紅銀狼》にとって今回の戦いは多くの収穫を得れた。特にパーティー構成員が前衛・遊撃・後衛というバランスが良い戦闘スタイルと言う事が確認でき、かつまだ声掛けが必要ながら初回では考えられないほど上手く連携とれている事も確認できた事が最大の収穫だっただろう

その後幾度かの戦闘を行い連携の練度を高め本日の探索を終了した。そうして、それぞれ今後の展望が見えてきた事に希望を感じながら帰宅の途に着いたのだった

















あとがき

豚もおだてりゃ木に登る。そんな気分の63です。

皆様沢山の感想ありがとうございます。最高のカンフル剤でした。

ええ、驚きましたよ、最後確認した時はまだ30ぐらいだった筈が何時の間に感想50超えてるし!

後、作者自身が駄文と書いた事ここで陳謝致します。まことに申し訳御座いませんでした。

楽しんで読んでくれている方に失礼でした、本当に申し訳ない。

それと女性陣の装備ですが某魔物狩りゲームの雌火竜装備一式の剣士・ガンナー装備を金属っぽいのにした感じが作者の想像です



質問にあった事ですが、ジークの能力評価ですが、通常卒業時点で得意がB、苦手がD+~Cと言うのが平均ですので後1年半残したこの時点での能力としては相当高いと思っていただきたいです。あと、持久力とか戦闘センスとか評価に現れない部分での評価も入っています

というか、ここまで続きを書く予定が無かった為、設定に矛盾が出てきそうで怖いんですが・・・その時はその時で改変上等という事でお許し下さい



追伸

ぜろぜろわんさん、レゴさん、誤字・脱字・語句抜け・同じ表現の指摘ありがとうございます。後、登場人物の表現が全然足りていないという指摘が的を得すぎです。読み直して作者自身orzしてしまいました。これから直していくようにしていきます

・・・・・・・・・日本語って難しいですよね~←意訳:ホント馬鹿だろう俺

追伸の追伸
捜索掲示板でおすすめしてくれたマチさんありがとうございます。ただ作者名:69ってwwなんかやらしいww見た瞬間吹いたんで記念に追伸しました。



[8807] 設定+おまけ
Name: 63◆ce49c7d8 ID:f09c18c0
Date: 2010/06/25 16:27
感想で各キャラクターの容姿等を知りたいとの事だったので設定資料を書いてみました

容姿等を上手く文章内に織り込めずまことに申し訳ない

作者の脳内設定をつらつらと並べているのでネタバレがあるかも知れませんが、お許し願いたいです

あと、シャド○ハーツは良作だよね・・・特にネタとシリアスとダークのバランスが絶妙な所が良かったと思う





名前:ジークフリート=フォートレス

年齢:17歳

出身:大陸中央部 皇帝直轄領セントフレイズ

髪色:黒に近い茶 

髪型:短髪 

瞳色:黒

外見イメージ:シャド○ハーツ1&2 ウルム○フ=ボ○テ=ヒュウガ(+筋肉)

設定

とある商家の次男坊だったが《冒険者》であった叔父の影響から自身も《冒険者》を志す。頭もそこそこよく、体格も十二分で、さらに叔父より色々と鍛えられてきた為、アークライン入学後すぐに頭角を現す。が、模擬戦で希少スキル持ちの同期に連敗し一時スランプに陥るが、愚直に鍛錬を重ねた結果、《金獅子》前パーティーリーダー ユリアンの目にとまるまでに成長した

その後、順調に成長するも《生徒会》に目をつけられたり、《風紀委員会》と全面対決をしたり、あわや大惨事となりそうだったパーティー間抗争を決闘でカタをつけたり、《商工会》の不正を暴いたりとある意味で有名になってしまった。本人としては早く一人前の冒険者となって未発見の《遺物》を見つけ歴史に名を残したいと思っている





《紅銀狼》



名前:ルナ=カリストー

年齢:19歳

出身:大陸北方部 カリストー公爵領

髪色:銀 

髪型:肩甲骨ぐらいまであるストレートロング(探索時は団子に纏めている) 

瞳色:蒼

外見イメージ:シャド○ハーツ1 ア○ス=エリオット(+スタイル)

設定

千年帝国がまだ小国だった頃から続く超名門貴族カリストー公爵家三女。ただ母が後妻として嫁入りしてきた下級貴族であったため継承権は低く押さえられている。幼少の頃よりその容姿と教養で貴族社交界では相当の人気を誇るも、本人は社交会より狩りや小旅行好んでいる。結果ついた渾名が《月下美人》――美しく着飾った姿を見れるのは年に一度という意味を含め――という物であった。

現当主である祖父アルフレッドに一番可愛がられているが、あまりの寵愛ぶりに暗殺さえも噂され安全確保の為、ウルザンブルン辺境伯領で生活していた。ただ、本人は堅苦しい公爵家より辺境伯家の方を好いている模様

北方の《ブリザイア大学院》にて在学中、講義に来た《冒険者》の話を聞き《冒険者》を志した。その後、とある理由から《アークライン》へと編入し現在に至る





名前:ノルン=ウルザンブルン

年齢:16歳

出身:大陸西方部 ウルザンブルン辺境伯領

髪色:紅
 
髪型:肩にかかるくらいの長さのポニーテール 

瞳色:茶

外見イメージ:シャド○ハーツ2 カレ○=ケーニ○ヒ

設定

5代前までは騎士階級でしかなかったウルザンブルン辺境伯家長女。新興貴族の筆頭に数えられるが、当のウルザンブルン家は権力欲なく有事の際の《剣》と《盾》の役割に殉じている。元が騎士だったからか、この家では男女関係なく剣術を叩き込まれる。そうした環境で育ったノルンも裁縫道具より剣の方が使い慣れている女傑となった

ノルンが《ブリザイア大学院》に入学したのは姉妹同然のルナが心配だったからである。が、日常生活では常識というものがずれていたりする為、ほとんどルナに頼って生活していたりする。ルナのいる所にノルンありとも言えるくらい行動を共にしており、《アークライン》への編入の際も当然のように同行する事となった。

実は結構人見知りするタイプだったりする







こっから《金獅子》



名前:アリス=ワールウィンド

年齢:17歳

出身:大陸中央部 皇帝直轄領セントウィンド

髪色:青 髪型:ショート 瞳色:灰

外見イメージ:シャド○ハーツ・フロ○・ザ・ニュー○ールド ヒル○ガルド=○ァレンティーナ(髪色変更)

設定

過去に何人もの大神官を輩出している名家ワールウィンド家の次女。親の意向としてはどこかの神殿で巫女をして欲しかったのだが、本人は幼い頃に見た魔術師に憧れている。魔術技能を教えているのが、貴族用の《大学院》と魔術師ギルドの《学び舎》以外では特殊探索者養成学園しかなかった為、アークラインに入学する

アークラインを選んだ理由は、単に実家に一番近い特殊探索者養成学園だったからとの事。少々自己中心的なところも見受けられるが、高い能力と確かな実績がある為、問題になった事は特になし

《金獅子》前リーダー ユリアン=クレイズに探索実習中に助けられた事があり、恋にも似た憧憬を抱いている





名前:アリサ=ワールウィンド

年齢:17歳

出身:大陸中央部 皇帝直轄領セントウィンド

髪色:薄茶 髪型:ショート 瞳色:灰

外見イメージ:シャド○ハーツ・フロ○・ザ・ニュー○ールド ヒル○ガルド=○ァレンティーナ(髪色変更+落ち着き)

設定

過去に何人もの大神官を輩出している名家ワールウィンド家の長女。元々は親の期待に沿って神学校へと進む予定であったが、アリスとの関係上紆余曲折ありアークラインに入学。普段はパーティー内でも一歩引いた位置にいるが、肉親の情から何かあった場合にはアリスをフォローする事が多い

ただ、ジークフリート関係の騒動ではアリスを叱り、説得するも逆に感情的にさせてしまい本人としては不本意な結果になり落ち込んでいる。卒業後は姉妹とも言われている《癒し神》と《地母神》の両方の神殿で巫女として働く事が決定している

「その日の《金獅子》」以降はジークに脱退時点での正当な報酬を渡そうとカイト・スズカと共に画策している





名前:カイト=ラインズバック

年齢:17歳

出身:大陸西方部 ラインズバック子爵領

髪色:金 髪型:肩に届くぐらいのロング 瞳色:碧

外見イメージ:シャド○ハーツ1 キ○ス=○ァレンティーナ

設定

西方の歴史だけはある弱小貴族ラインズバック子爵家長男。本来なら家を継ぐはずなのだが傾き掛けた家の状況をつぶさに見てきた為、継承を拒否し弟に押し付ける。色々と問題が起こったが両親と交渉を重ね、ついにアークライン入学許可を手に入れる

ただ交渉の結果、修練生には難しい程の金額を家に仕送りをする約束があり、本人は相当な苦学生だったりする。その為、軽々しく迷宮探索を止められない立場にある

「その日の《金獅子》」以降はジークに脱退時点での正当な報酬を渡そうとアリサ・スズカと共に画策している





名前:スズカ=ハヤシザキ

年齢:17歳

出身:大陸東方部 ヒノモト太閤国

髪色:黒 髪型:ベリーショート 瞳色:黒

外見イメージ:シャド○ハーツ2 ○神=蔵人(+TS要素)

設定

東方のツキノワ特殊探索者育成学院よりの交換留学生。抜刀術と呼ばれる特殊な剣術を生み出したハヤシザキ家に生まれ、当然の如く抜刀術を教えられていた。才能もあり道場での位階では常に上位に位置していたが、女性という事が災いして皆伝以降の武技は教えてもらえなかった為、出奔し己の腕を磨く為《冒険者》を目指す事にした

鍛錬と称してジークやカイトと半ば本気の死合をおこなったりと実は《金獅子》メンバーでは一番のバトルジャンキー

ジークの一件は納得していないが、アリス・ジークの頑固さを知っている為、すでに諦めている

「その日の《金獅子》」以降はジークに脱退時点での正当な報酬を渡そうとアリサ・カイトと共に画策している





名前:ミカエル=プロミネンス

年齢:16歳

出身:大陸中央部 プロミネンス侯爵領

髪色:赤茶 髪型:短髪 瞳色:赤

外見イメージ:シャド○ハーツ2 ニコ○=コンラド(+若さ)

設定

軍人貴族の名門プロミネンス侯爵家五男。上の兄達が軍人として高い功績を挙げて近衛騎士となっており、本人も将来は近衛騎士となる事を望んでいる。兄達の実戦経験と指揮経験が積めるという勧めでアークラインへと入学を決めた

《大学院》に行かなかった理由は、同じ学ぶならば最高峰の学府で学び、そこでトップに立つ為との事。《金獅子》入団の条件として次代のリーダーとして指名を約束させている

彼がリーダーをしていた《銀剣》は現在探索中止となっており探索再開の目途はたっていなかったりする





他登場人物(?)



名前:トール=フロリディ

年齢:17歳

出身:大陸北方部 カリストー公爵領

髪色:金 髪型:ドレッド 瞳色:灰

外見イメージ:シャド○ハーツ2 ヨア○ム=○ァレンティーナ

設定

カリストー公爵家に代々仕えてきた騎士であるフロリディ家の次男。11歳で出奔し、アークラインの入学試験をうけ、親の支援無しに無理やり入学したある意味馬鹿。面接で入学の理由を聞かれた際、「俺の戦闘技能も鍛えた肉体も全ては戦う為にあるのに、血が滾るような戦争は起こらず、戦闘はあってもせいぜい盗賊退治ぐらい。しかし、《冒険者》になれば本物のモンスター相手に存分に戦うことが出来るっていうじゃないか! こんなに楽しそうな事に参加しない手はないだろう!?」と答える程の生粋のバトルジャンキー

同属嫌悪かスズカとは「羊頭狗肉の剣」「筋肉達磨」と罵り合う程の犬猿の仲





名前:フィリス=ブランドウッド

年齢:17歳

出身:大陸中央部 皇帝直轄領セントフレイズ 

髪色:茶 髪型:三つ編みを左右で輪状にまとめている 瞳色:碧

外見イメージ:シャド○ハーツ2 アナ○タシア(+グラマー)

設定

とある都市の名士の長女として生まれる。幼い頃より好奇心旺盛で故郷の都市からなかなか出られない事を常々嘆いていたが、《冒険者》となれば出入り自由と聞いてアークラインへ入学を決意する。フィリスを可愛がっていた親は反対するもフィリスに押し切られ入学を許可

好奇心の赴くままアークラインを調査している内に何時の間に情報収集ネットワークと情報発信ネットワークが出来上がり、情報屋兼マスコミのような存在になってしまう。本人としては望む所らしく張り切って行動していたが、とあるイリーガル情報を入手してしまい命を狙われる事となってしまった。

しかしながら《生徒会》からの依頼を受けたジークが大元のとある商会を潰し事なきをえる

それ以降、イリーガルな情報へは手をつけることは無くなった































おまけ





その日の《教官室》





その日、普段は何かと騒がしい《教官室》が沈黙の海に沈んでいた。それも当然といえば当然であった、なぜならば本来ありえない時期に学園トップクラスパーティー《金獅子》から副リーダーが脱退、さらにそれにタイミングを合わせるかのように一期下のトップパーティー《銀剣》からリーダー脱退

これが平均的なパーティーであれば修練生の自主性に任せると名目で問題にならないだろうが、《金獅子》と《銀剣》の場合ではそうもいかず対策会議が開かれているのだった。いや、《金獅子》と《銀剣》単位でならば誤魔化しが効いたのだろうが、今回の当事者が最悪だった。学園内の各所にシンパを持つジークとトップクラスの貴族を親にもつミカエル、下手に対応すれば内憂外患となる事が目に見えてる分、教官達は悩んでしまっていた

そんな雰囲気を吹き飛ばすように上座に座っていた髪全体が灰色に染まった初老の男性が少ししゃがれた声を搾り出す

「さて今回の件で何か意見は?」

「・・・いっそジークフリート退学させてしまうというのはどうでしょう? 確かにシンパはいるでしょうが《教官室》の権限を使用すれば・・・・・・」

「一度死んでから出直してこい、この馬鹿が。そんな強権とおしてみろ、それこそ帝国行政府の介入を招くだろうが? それ以前に《生徒会》《商工会》《風紀委員会》から相当な突き上げがくるぞ?」

血気盛んな赤毛の若い男性が提案をだすが、即横に座っている黒髪の中年教官に否定される。その否定のされ方に顔を真っ赤にして、中年教官へと怒鳴り散らす

「シド教官、それは私への侮辱ですか!?」

「・・・勿論、そうだが? というか周りを確認してみろ、それでお前の評価が分かる」

飄々と怒りを受け流しながら顎をしゃくるとそこには冷たい視線を放つ数十の瞳があった。上座の初老の教官からも同じ視線が投げかけられおり、その視線の圧力に負けるように若い教官は黙り込んでしまう

「・・・・・・ふむ、ではシド教官何か良い案でもあるのかな?」

「いやね、皆さんが何をそんなに慌ててるのか不思議でしょうがなくてね? 今回の当事者はあのジークフリート=フォートレスですよ? いつもどおり我々《教官室》や《生徒会》《商工会》《風紀委員会》といった全部を含めたベターな解決策でも引っさげて報告に来てくれますって」

「・・・かもしれんが、何もせん訳にもいかんだろうが」

「じゃあ、こういうのはどうです? 奴が何らかの解決策を提示して来た時の為に、関係各所との連絡と書類の準備をしておくってのはどうですか?」

「ムムム」

初老の教官がそう言って黙り込むと再び沈黙が辺りを包む。と、次の瞬間その沈黙を打ち破るようにノックの音とこの会議の題目となっている青年の言葉が響く

「すいません、《煉獄塔》使用申請をしたいんですけどいいですか?」

「・・・・・・ほら、もう来た」

「しょうがない、入って来たまえ」

「失礼しま・・・・・・教官方が全員首をそろえて如何したんですか、ジム副教官長?」

シドが小さく呟き、観念したように初老の教官――ジム副教官長はジークの入室を許可した。入室した瞬間、自分に向けられる視線に若干引きながらジム副教官長へと質問する

「・・・緊急会議を開いておってな。で、ジーク君、先程《煉獄塔》使用申請と言っていたが、君個人には既に許可を出したはずだが・・・・・・」

「ああ、まだ書類回ってないんですね? 一応、俺新しいパーティーを結成する事になりまして、そのパーティー分の使用許可をとろうかと思いまして」

「ちょっとまてジーク。お前脱退した所だろ? この時期にパーティー結成なんて・・・・・・いやまてよ、確か《ブリザイア大学院》からの編入生がいたな?」

「相変わらずシド教官は察しがいいですね。ええ、その通り編入生のルナ=カリストーとノルン=ウルザンブルンとパーティーを組む事になりまして・・・・・・ええ、色々あったんですよ」

急に立ち上がったシド教官の方へ顔を向け説明するジーク。朗らかだったその顔が一瞬暗くなり胃の辺りを押さえながら色々あったと呟く

次の瞬間、急にシド教官が弾ける様に笑い始めた

「ハハハハハハハハハハハハハッ、ハハハハ、は、腹が痛い。名だたる教官が雁首そろえて困っていた問題が、パーティー組むだけで解決かよ?」

「どういうことですか!? シド教官!?」

「今、こいつが言っただろう? カリストー公爵家の秘蔵っ子とウルザンブルン辺境伯家の姫騎士とパーティーを組むんだとさ。つまり、貴族サイドからの介入はこれで無理。仮にジークに対して何か言ってきたとしても、カリストー公爵家とウルザンブルン辺境伯家に情報を回せば、名誉を重んじる貴族様達は動けなくなるだろうよ」

「・・・・・・・・・え~と、俺の使用許可は?」

「無論許可しよう・・・そうだ、君は確か61階層まで到達済みだったな。よし、私の権限で君たちのパーティーには40階層までの移動権を出そう」

「その気遣いは嬉しいんですがちょっと訳ありで階段利用しないとダメなんですよ。本当に面倒ですけど」

「…ならば現在の月齢での40階層までの地図を支給しよう。これがあれば40階層まで二日もあればいけるだろう」

「いいんですか? そんな一人の生徒を優遇するようなまねをして?」

「これが私の権限のだよ!」

事態についていけず周りを見回しながら呟くジークであったが、その呟きさえ見逃さず即座に許可をだし、さらには40階層までの移動権を与えるジム副教官長

その顔にはこれで問題が解決したという満足げな笑みが浮かんでいた

「ま、まって下さい!! それで今回の件が解決する訳では・・・・・・」

「じゃあ、お前はどんな案があるんだ?」 

「そ、それは・・・・・」

「え~と、確か剣戦闘担当教官の・・・・・・サイ教官でしたっけ?」

「そうだが、なんだね?」

「一つ伝言を預かっておりまして」

「伝言? 誰からだ?」 

急に焦って大声を上げる赤毛の教官を視界に入れると何処か楽しそうな笑顔で話しかける。その笑みを見た特定の数人の教官が顔を真っ青にしてジークの視界外からブロックサインでサイと呼ばれた赤毛の教官へと黙れと伝える

が、既に手遅れだったらしくジークが爆弾を破裂させる

「サイ教官がデュバル商会から接待を受けていたレストラン《鏡ノ水仙》オーナーからですよ。「前回酔って壊された調度品の請求書はデュバル商会が支払い無理な模様ですので、学園へと送っておきました。今月末までにお支払いお願いします」だってさ。というか接待受ける所を修練生に見られてる時点で終わりだよね」

「なななななな」

「だいたいさぁ、デュバル商会も馬鹿ですよね。せっかく《風紀委員会》が前回の摘発時に勧告だけですませてたのに、わざわざ接待に賄賂だろ? ああ、買収してた自警団に期待しても無駄ですよ? 学園生活に関する犯罪行為は《風紀委員会》に優先権がありますし、買収に応じた自警団員含めてデュバル商会は逮捕されてるだろうから」

「なななななななん、なんだ・・なにが」

「残念だ・・・・・・本当に残念だよ、サイ教官。とりあえず事実確認がとれるまで拘束させてもら・・・逃がさん」

物凄くいい笑顔で混乱したサイ教官を見ながら次から次へと爆弾が破裂していく。周りの教官さえも唖然としてしまっていただがいち早く自分を取り戻したシドがサイを拘束しようとした瞬間、彼は身を翻し《教官室》から逃げ出していった

それを追いかける各教官達が走っていく。おそらく遠からず数の差に負けてサイ教官は捕まるだろうな、と考えながら教官室から出ようとしていたジークにジム副教官長が独特のしゃがれた声で質問してきた

「全部計算済みかね?」

「・・・・・・サイ教官の件は前々から教官長を含めた関係各所と計画してましたけど、《紅銀狼》の件は完全な偶然です。その偶然を利用した事は認めますがね」

「《紅銀狼》? ああ、君の新しいパーティーネームか。・・・・・・ふむ教官長も了承済みならば仕方あるまい。あと、ああいった小物は逆恨みするだろうから気をつけたまえよ」

「御心配ありがとうございます。デュバル商会関係者も含めて気をつけるようにしますよ」

「・・・・・・言うまでも無い事だったか。いっていいぞ、大貴族のお嬢様方を待たせてるのだろう」

「そうですね。では、失礼致します」

そう言うと同時にジムに向って一礼し、歩き去っていくその影が窓ガラスの先へと消えていくのをみながら、ジムは深く深く溜め息をついた。そうして首を回して周囲を確認するといつの間にか《教官室》には普段以上の喧騒が戻ってきていたのだった











あとがき



ここまで読んで頂きありがとうございした。

初めは軽めの設定だけのつもりが予想以上に長くなってしまった。しかもおまけのつもりが結構な文章量とか後から確認したらありえんと思った。

後、多くの感想頂きましてまことにありがとう御座います。

今回の設定とおまけは感想で依頼があったんで書いてみました。皆さんが満足してもらえるものかはわかりませんが・・・・・・

誤字等ありましたら、指摘お願いします(1話でのスズカの髪型は修正してます)





追伸

まだしばらくはチラシの裏にいるつもりなんですが、題名変えた方がいいですかね? 投稿時点では続けるつもりがなかったんで何も考えてなかったんですが・・・・・意見もらえると嬉しいです

追伸の追伸
ぜろぜろわんさん、指摘ありがとうございました。修正しました。

追伸の追伸の追伸
ぜろぜろわんさん、誤字指摘ありがとうございました。
マスクさん、koedaさん、連絡ありがとうございます。すぐに習作といれるようにします。
そして、管理者であるmaiさんにこの場を借りてお詫びします。まことに申し訳ございませんでした。



[8807] 5
Name: 63◆ce49c7d8 ID:f09c18c0
Date: 2009/09/18 18:05
《アークラインの煉獄塔》《ツキノワの人喰い樹海》《ザインの夢幻迷宮》を代表とする《迷宮》を持つ学園都市

それらは同じ学園都市でも《大学院》の名を持つ都市が持つ《迷宮》とは性質が全く違うモノである

《大学院》とは基本的に《封建貴族》《大商人》の社交場であり、《軍人貴族》《騎士》の修行場であり、《法務貴族》の実務を学習する場であり、《魔術師》の研究の場であり、高位《神官》の布教の場であるからだ

勿論、《大学院》にも《迷宮》は存在するものの、それらは《アークラインの煉獄塔》等に代表される神代の《遺産》ではなく、古代の魔術師達が《遺産》を模倣して作成した《贋作》にしか過ぎないモノである

しかしながら、優れた《贋作》が《真作》に近い高評価を受ける事があるのと同様に、それらは多くの恵みを《千年帝国》にもたらしている事も確かである

では《神代の遺産》である《三大迷宮》とそういった《遺跡》の最大の相違点は何か?

―――それは《神代の遺産》である《迷宮》からは《奇跡》と呼ぶに相応しい事象を顕現させる《遺物》が発見される事があるという事である

《煉獄塔》では死した者を自在に操れる《カドゥケウスの魔杖》、

《人喰い樹海》では空を自在に駆け巡り、火と風を自在に操る事が出来るようになる《ナタクの仙靴》、

《夢幻迷宮》では使用者の生命力を糧にどのような病・傷を癒す《アスクレピオスの聖杖》、

それぞれが発見され、統一戦争において実際に使用され絶大な効力を発揮した

しかし、使用した国家・使用された国家共に多大な犠牲を支払う事となり、戦争の交戦ルールを定めた協約が結ばれていく事となる

最終的には《大協約》という名を世界共通の交戦ルールとなっていったのだった

















学園都市アークライン南部商業区 繁華街内レストラン《朝陽ノ稲穂》

そこは小さな部屋であった

6畳の程の空間に掘りごたつ型の机と壁には墨彩画で今にも飛び出してきそうな虎が描かれている掛け軸があった。その机の上には綺麗に並べられた色とりどりの食器が自己を主張するかのように存在していた

「あの、ジークさん? 私はこういったヒノモト式のレストランは初めてなので、マナーなどが全く分からないのですが?」

「ん? ああ、俺もスズ・・・前のパーティーメンバーに連れられて来ただけだし、正式なマナーなんざ知らないよ。今日は45階層到達記念の祝いで来たんだから、面倒な事は気にせず飯を食おうや」

「ん~、そういわれても・・・」

「まあ、食べ始めたらわかるよ。ほれ、座った座った」

入り口で悩んでいる二人の頭を軽く撫で、着席を促す。どこか納得できなさげな二人であったが、ジークから促されたまま席に着く

ジークは魔獣系モンスターの革で出来たジャケットを脱ぎ、ハンガーに掛ける。その下はTシャツのみであった為、絞り込まれた鋼のような筋肉が姿を現す。その圧倒的な威容に息を呑む少女二人であったが、じろじろと見るのは流石に失礼かとおもったのか、すぐに目を逸らす

それぞれが席に着き、しばらくすると次々と料理が運び込まれ、最後に酒が入った小さな陶器の壷が運ばれてくる

一応、それなりに高級な料理屋なので客をじろじろと観察する事はなかったが、それでも貴族然とした容姿と服装の少女二人と普段の生活が滲み出ている色あせたTシャツとジーパンの男という、明らかに不釣合いな容姿をした三人組の客に興味はもっているらしい目で見られていた

「・・・・・・はぁ、俺はいつまでこの視線と付き合えばいいんだ」

「・・・まだ、女性は全身を嘗め回すような視線で見ないだけでも良いですよ」

「いや、まあ、その男達の気持ちも分からんでもないが・・・・・・やはり、最低限のマナーは持ちたいよな」

「あら、ジークさんはそういった視線をほとんど向けてこないから安心していたんですけど?」

驚いた表情でジークの顔を見るルナとノルン。その視線に対してジークは恥ずかしそうな、それでいて何処か困った表情で二人を諭す

「まあ、あれだ。俺も男だし、二人みたいな美人が傍にいればそういう気持ちを持ってしまう事も、正直に言えばある。だが、今の俺には二人をどうこうしたいとか、どういう関係になりたいとかいうのはない。というか、仕事が多すぎていっぱいいっぱいなんだよ! ちくしょー! 《生徒会》も《風紀委員会》も《商工会》も《教官室》いいかげん自重しやがれ!!」

「あ、あの~、ジークさん、落ち着いて」

「・・・クスッ、ジーク様、なにかカワイイ」

「ちょ、ルナ趣味悪いよ・・・」

「・・・・・・いいじゃない。普段は凄く頼りになる男性が弱い所を見せてくれてるのよ? 女としても、仲間としても、それはとても光栄な事じゃない」

そうルナとノルンがこそこそ話してる間にも、ジークは一人「俺は《冒険者》になりたいのであって、《政治家》や《商人》ましてや利害調整役になりたくないんだよ・・・・・・なのに、なのに・・・」とぶつぶつ呟いていた

そんなある意味不気味なジークに対してルナは笑顔でお酒を注ぐ。その壷から出てきた透明で普段飲んでいるワインとはまた一風違った香りのお酒に驚きながらも、笑顔を崩さず注ぎきった

「ジーク様、どうぞ。それにしてもこのお酒は透明なんですね」

「・・・ああ、ヒノモト産の酒で米から作られる《清酒》ってよばれるお酒らしい。前に来た時に気に入ってな、それ以降ここに来る時は毎回頼んでるんだ」

「結構高そうな雰囲気だったのに、ジークさん、よく来れますね?」

「祝い事の時にしかこないよ。まあ、ここの女将――ここのオーナーの意味らしい――と紹介してくれたメンバーが同郷でな、その縁で結構割り引いてくれるようになったんだ」

そう言って清酒を飲みながら和やかな雰囲気で話をしていく。スキヤキと言われる肉と野菜を煮こんだ料理に舌鼓をうったり、菜食の一種と思っていたライスが小麦と同じく主食となりうると知って驚いたりと色々あった

そんな中、ルナは黙り込むとジークの顔を真剣な表情で確認すると、頭を下げる

「・・・・・・ジーク様、本当にありがとう御座います。たった三ヶ月で迷宮を60階層まで踏破するなんていう難事に対して、心の何処かに諦めと絶望がありました。でも、今はたった一月間で45階層まで踏破して、不安もありますがそれ以上に希望の方が多くの割合を占めています。どうぞ、これからも私たちを見捨てず、よろしくお願いします」

そう言って頭を上げたルナが見たものは同じように頭を下げているジークの姿であった

「・・・俺が君達とPTを組んだのは《大貴族》の君達を利用するつもりだったから、君達自身を見て、評価してPTを組んだ訳でなかった。・・・本当にすまない」

「・・・いいです、許します。ジークさんにとって、あの時点で私達を評価できるのはウルザンブルンとカリストーという家名だけだったのですから・・・・・・」

「そうか・・・もう一点謝らなければならない事がある」

頭を下げたままの二人に語りかけるジーク

「・・・俺は君達を全く信頼していなかった。そう、二人を唯単なる数合わせと罠に対する救助要員としてか考えていなかったんだ。無論、三ヶ月で60階層到達はかなえようと思っていたが、それが免罪符にならない事は俺が一番分かっている。本当に申し訳ない」

「・・・・・・・・・今はどうなんですか?」

「信じてもらえないかも知れないが、信頼している。俺が出した条件もしっかりとまもり、かつ戦闘力も十分ある。元々、俺は君達が根をあげると思い、探索も三ヶ月で60階層のペースより厳しく行った。だが、君達はその無理難題も完璧以上にこなして見せた。それだけでも絶大な信頼に値する」

「・・・・・・・・・顔をあげて下さい」

ルナの言葉に顔を上げるとそこには何時の間にかルナとノルンがおり、ジークの頬へ手を伸ばしていた

「ひぃたたたたた・・・・・・」

「・・・ただで許すとジークさんが気にしてしまいそうなので、これで全部チャラにします。だから二度と私達を信頼しないなんて言わないで下さい」


「・・・これからも一緒に《煉獄塔》の探索よろしくお願いします」

「ああ、ありがとう。これからもよろしく頼む」

先程までの何処か陰鬱とした雰囲気を吹き飛ばすような明るい笑顔で三人は顔を見合わせ、タイミングを合わせたかのように笑い出す

そうして、今度は己の生い立ちやこれからどうして生きていきたいか等、よりプライベートに踏み込んだ事を話し合った。

そうやって楽しい時間も終わり三人は連れ立って店を出て、家路へとつく。余りに話し込みすぎた事で時間も時間になってしまった為、少女二人だけで帰らせる訳にも行かず、ジークも家の近くまで送っていく事になった。もっともジークが同行する最大の理由は、うざいナンパを避ける為の虫除けだったりするのだが・・・・・・

そうして三人は並んでゆっくりと歩き始める

「それにしてもこんな時間でもここは賑やかなんですね」

「まあな、ここをさらに南下れば歓楽街になるからな。って、なんだありゃ?」

「・・・・・・喧嘩ですかね」

三人の視線の先にはアークラインの学園制服を着た少年二人が同じく制服をきた少女を庇いながら、明らかに正業には就いていないだろう男達――5・6人ほどいるだろうか――が睨みあっていた

「どうやら肩がぶつかったとかで、学生の方から絡んでこんな事態になってるみたいですけど?」

「どうします?」

「放っておけば……って、相手はジェイルさんかよ……やばいな、あの人手加減が出来ないからな」

「知り合いですか」

「ああ、俺らの2期先輩で繁華街の顔役の息子さんだ。元々《風紀委員会》で風紀委員をやってた人だから荒事にも強く、裏社会のも詳しい頼りになる人なんだが……」

そこで一旦言葉を切り、言い難そうに視線を彷徨わせる

「なんだが……の続きは?」

「・・・バトルジャンキーなんだ。それも俺が知ってる限りTOP3に入るぐらいのな。しかも、頭も良いから余計に質が悪くて、目をつけられたら最後、逃げれない状況を作り上げてまで戦わせる怖い人だ」

一度ジークの伝手で《白銀龍》のトールと顔を合わせた時の事を思い出し引き攣った笑顔を浮かべるルナとノルン

そうこうしている内に制服の少年達が剣の柄に手を掛ける

「……すまんが、ルナとノルンは先に帰っててくれ。下手に目をつけられるとお前達にも迷惑「そういう事は言わないで下さい。私たちはパーティーなんですから」・・・だが「さっきも言いましたけど、私達を信頼して下さいね」…はい」

二人を帰そうと話しかけるが、生き生きとした笑顔で拒否され、逆に説得されてしまうジーク。長身で体格がいいジークがしゅんとなっている姿はどこかコミカルな印象があり、二人はつい笑ってしまう

「じゃあ、行ってくる」

「ええ、何かあれば私もすぐにフォローしますよ」

「ジークさんは丸腰なんだから、気をつけて下さいね」

二人の言葉に軽く手を上げて答え、ジークは今にも斬り合いになりそうな場へと入っていく

「はいはい、こんな場所で剣を抜こうとしない! そっちの方々もこんな餓鬼相手に意地を張ったて良い事はありせんよ?」

「なんだ、てめぇ! ぶっ殺すぞ!?」

「もう、いい加減に止めなさいよ! ほら、ストームもジンを止めて!」

「・・・・・・ジークフリートか? 久しいな」

「ええ、お久しぶりです先輩。そちらの方々は先輩の部下ですか?」

吠え掛かる制服の少年達を少女が必死に止めようとするが、酔っているらしい少年は止まらずジークへと罵詈雑言を吐き続ける。もっともジークはジークで彼等を完全に無視し、ジェイルとの交渉に入る

「ああ、俺の部下だ。お前はそっちの餓鬼の知り合いか?」

「いえ、こんな馬鹿餓鬼の知り合いはいませんし、どうなろうが知ったことではないんです。ただ、こんな繁華街で斬った張ったの大事を起こされると、周りが迷惑しますし、何より俺が《風紀委員会》から、また仕事を押し付けられますので、両者共にひいて頂きたいんですがね!」

「てめぇ! 人の話を聞きやがれ!! 俺たちを誰だと思ってやがる!? 第58期トップパーティー《銀剣》のジン様だぞ、このクソ野郎が!?」

「……どうやら我々の後輩に当たるらしいんで何とか見逃して貰えませんか? ジェイルさんもこんな事で無駄な手間を増やしたくないでしょう?」

「確かにな。……いいだろう、一つ条件をのめるならそこの餓鬼どもを見逃してやろう」

「で、条件とは?」

「ふっ、簡単な事だ。最近、俺も戦闘と呼べるだけの戦闘がなくて鈍って来ていてな、一度誰か腕を立つ奴と試合をしたいと思っているんだ」

「わかりました。トールかスズカと戦えるように手筈を整えておきます。日時はおって連絡しますので・・・」

目から凄く戦いたいオーラをジークに照射しているジェイルを丁重に無視しながら、同じトップレベルバトルジャンキーの名前を挙げ、彼らに押し付ける気が満々なジークであった

その言葉に納得したのか、ジェイルは周囲の部下に「いくぞ」と声をかけ、身を翻して歩き去っていく

それを見ながら、ほっと安著の溜め息を吐くジークにルナとノルンが声を掛ける

「ジークさん、良かったです」

「ええ、喧嘩にならず本当によかったですね」

「ああ、えらい美人じゃねぇか? へへへっ、どうだい今から俺たちもしっぽりと・・・」

「黙れ、このクソ餓鬼が……誰のせいで面倒が増えたと思ってやがる」

「ひぃっ!」

今度はルナとノルンに絡もうとするジンを振り返るジーク。その表情は正に鬼面と呼ぶに相応しい激怒の表情、それを直視したジンを止めようとしていた少女が怯えた声を漏らす

「……いいか、お前達には二つの選択肢がある。一つはこのまま何も言わずこのまま指導室まで歩く選択肢、もう一つは俺に撫でられて気持ちよく眠りながら《風紀委員会》の指導室へと放り込まれる選択肢だ」

「ああー、ふざけてんじゃねぇぞ? 俺達をおまえみたいな奴がどうこう出来ると思ってんのか?」

「ひっく、ジンもうやめておけ」

「うるせぇ、俺の好きにさせろ!!」

「じゃあ、後者の選択肢という事で」

今まで無言だったもう一方の少年が止めようとするも、意味はなく逆にとうとう剣を引き抜く事になった。そして、結局ジークの鉄拳が振るわれる事になった

ジークは一気に少年の懐へと踏み込むと無造作に剣を握った右手の手首を左手で握る。ただそれだけで余りの痛みの為にジンは剣から手を離して跪いてしまった。そうして鬼面からいつもの表情に戻ったジークはその口元に笑みを受かべるとじんの右手を手放し、跪いたジンへと強力な右アッパーを叩く込む

ジンは綺麗な放物線を描きながら雑貨店の雨避けにバウンドして、野次馬の列へと落ちる

「そちらのお二人はどっちの選択肢をえらぶのかな?」

繁華街から音が消えた中、ジークの何処か楽しそうな声が響く

そうして、残りの少年と少女は周囲の予想通り前者を選び、自分の足で学園へと歩いていく事となった。しかも完全に伸びてしまったジンを少年と少女の二人で引きずりながら

それを横目に見ながら、《紅銀狼》のメンバーは未来へと思いを馳せていく。そうこの晴れ渡った夜空に浮かぶ星の煌きの数ほどの希望があると信じながら……



















後書き

うん、迷宮進めようかな~と思っていけど感想見て、妄想が膨らんでついやっちゃたんだ

ごめんね。ホントごめんね。

一応、現在は彼らは一月で45階層に到達。異常な速度で成長し、探索範囲を広げております

料理とか酒については適当だから突っ込みは無しの方向でお願いします



皆様、多くの感想本当にありがとうございました

今回更新した話も大半は皆様の感想から生まれたネタと作者の妄想で構成されております

意見・誤字脱字・感想があれば感想版のほうへよろしくお願いします

9/18修正しました



[8807] 6
Name: 63◆ce49c7d8 ID:f09c18c0
Date: 2009/10/04 06:34


久しぶりの更新なのですが、一点ご注意



今回は実験的にシリアス解除しております。



イメージが崩れたりしても作者は責任はとりませんし、賠償もしませんが、謝罪は致します。



申し訳ないorz(←ヘタレの予防線)



大丈夫だという方は下へどうぞ









































《アークラインの煉獄塔》 第50階層  月齢:《小望月》

相変わらず最低限の休暇と座学以外は《煉獄塔》へと詰めるPT《紅銀狼》であったが、45階層からこの50階層に到達するまでに約2週間という時間をくっており、徐々に進行スピードが遅くなって来ていた

さらに月齢も《小望月》とモンスターが凶暴になっていく為、思うように先へと進めずにいた

「ちっ、すまん、一匹そっちに抜けちまった」

「了解。私が対処するわ、ノルンは敵後衛の牽制をお願い」

「わかった」

前線でジークに抑えられていたオークの影を縫うように現れたゴブリンナイトが、ジークの横をすり抜けていってしまう。最前線で斧槍を振り回し筋骨隆々の魔物オーガと豚頭のオークを吹き飛ばしているジークが激しく打ち合いながらも、後ろの二人に伝える

次の瞬間、弓を背中のホルダーへ収めたルナが腰の双剣を引き抜きゴブリンナイトへと切りかかっていく。あでやかな容姿から判断したのかゴブリンナイトは左手の盾を構え、雄叫びと共に一直線に突進を仕掛ける。が、その先にルナの姿は無く、見事に回避されたたらを踏む事となった

当のルナはまるでダンスを踊るかのようにゴブリンナイトを回転しながら避け、無防備なその背後にたった。そして両手に構えた剣を分厚い鎧に守られていない首筋と腰の継ぎ目から刺し込み、切り裂いてしまう

魔人種モンスター大半にとっての急所を抉り取られたゴブリンナイトは耐え切れず魔力光を放ちながら《煉獄塔》に喰われて行く。後には、その存在があった事を示す盾が乾いた音を立てて地面へと転がるだけであった

その頃になるとオーガ一体とオークアーチャー1体を残し全滅しており、ジークがオーガと、ノルンがオークアーチャーとそれぞれ戦闘を行っていた

もっとも、力任せにしか戦えないオーガと歴戦のジークでは技量が高い分ジークが押しており、足の遅いオークの弓使いが接近された時点でノルンの勝利は確定しているのだが

ルナがそう考えながら双剣を鞘に収め、背中の弓を再度取り出し矢をつがえようと構えたとほぼ同時にオーガとオークアーチャーが光を放ちながら消えていく

「……終わったようだな」

「みたいですね」

「まだほんの3ルームしか進んでいないのに消耗が激しいわね」

そう言いながら、ルナは矢を回収しながら《結晶》を拾い集めていく

「ああ、幾ら《小望月》とは言え、このモンスターどもの凶暴性は異常だな。……嫌な予感がしやがる」

「でも、引けませんよね? 正直このごろ迷宮攻略スピードが落ちているので余裕をもって探索したいです」

周囲を警戒中しているノルンを横目に床に散らばった武器・防具を回収していくジーク。生物以外の多種多様な物を保管できる《ペナーテスの法袋》唯一の弱点が、入れた物の重量は変わらず持主の負担となるという点である

その結果、基本的に軽い《結晶》の類はルナ、杖やローブといった軽装備はノルン、剣槍斧金属鎧といった重量級の武器防具はジークが回収を担当する事となった

「それは確かだが、死んだら意味がないだろう。っと、この盾なかなかの良品……って、俺が欲しいのは金属鎧なんだよ。いらない時には無駄にドロップする癖に欲しい時には全くドロップしてくれないんだよな」

「って、ジークさんの鎧もう傷だらけじゃないですか!?」

この階層を探索する前の打ち合わせで嬉しそうに金属片を打ちつけた強化革鎧お披露目していた彼を見ていたルナがその革鎧の傷跡をみて驚く

金属部分はまだマシなのだが革の部分が矢の痕、剣で斬られた痕がしっかりと残っており今日が初めて使用したようには見えない程、消耗していた

「ははっ、何時もの癖で回避より攻撃での前線維持選択したらこのざまだよ。やべぇ、ポーションと鎧のメンテナンス代金を考えると本気で泣けてくる」

「ああ、ジークさんそんなに動かないで下さい。私の快癒魔術は範囲も回復量も少ないんですから、動かれてしまうと止血ぐらいにしかならなくなってしまいます」

《結晶》を回収し終わったルナがスキルを使いヒールをかけていく。本人が言うとおりの効果しかない術の為、戦闘中の使用は不可能で、効果も下級ポーションと同程度とはっきり言って薬箱程度の扱いだったりする

もっとも資金不足に喘ぐ《紅銀狼》にとってはありがたい品物の為、重宝されていたりもするのだが……

「ルナ、もう大丈夫だ。そろそろ、移動しようか」

「わかりました・・・・・・ん~、右と左どっちに行きます?」

「学内報によれば、どっちでも階段まで行けるみたいですよ」

「学内報って、それは信用できるのか?」

そう言ってルナが持っている紙を覗き込むと、そこには確かに現状と同じマップが記載されていた。それを見て感嘆の溜め息を放ち、道順を確認していく。

幸いどちらのルートも罠の類は確認されておらず、注意すべきはモンスターだけのようだった

「これは有り難いな・・・・・・今は北を向いてるから、最短ルートだと左ルートを通って次のルームで北に向って2ルーム移動で階段部屋だな。右ルートだと、どん詰まりまで行って北に4ルーム、西に5ルーム、南に1ルームで到着と」

「明らかに左ルートの方が早いですよね・・・」

「ただこの階段前の大広間が怪しいな。今までのパターンからすると高確率でボスモンスターのお出ましだ」

「どうしましょう?」

そう言って顔をつき合わせて首を傾げ悩むルナとジーク。そんな二人を指差しながらノルンが決断を迫る

「ここで悩んでたって仕方ないでしょう!? ここはさっさと多数決で決めましょう。私は左ルートを推します。理由はもし大広間にボスが居たとしても、戦うなり、突破して階段に逃げ込むなり、ここまで逃げて来るなりすればいいからです」

「むっ、確かにそれはそうだが、万が一退却も許してくれない場合もありうるし、俺は右ルートかな」

「・・・・・・期限も迫ってきておりますし、時間短縮優先で左ルートをお願いします」

というわけで、女性陣の選択によって左ルートを行く事になった。塔内は基本的に小部屋・大部屋を人が三人並んで通れるぐらいの広さの通路が繋いでおり、通路の途中でも罠やモンスターと対面する事は良くある事であった

見た目はレンガ造りの通路なのだが、馬鹿みたいに頑丈な素材で出来ているらしく武器や魔法で破壊される事はほとんどなかった。もっとも歴代の修練生の中には大広間の床の大半を爆砕した天災級の魔術師や希少スキル《破砕の眼》を使用して壁をぶち抜いた怪物はいたりするのだが・・・

「ここにはモンスターは無し、か」

「やっぱり次のルームですか・・・・・・」

「だろうな」

左ルート一つ目のルームにはモンスターはおらず、部屋の中も特に異常は無かった。その中心で三人は顔をあわせて相談するが、ここまで来たら行くしかないと結論に達し、北へと向う通路へと足を踏み入れる

そのまま3分ほど進み問題の大広間を視認出来る位置へと辿り着き、三人は溜め息をついた

「・・・いないみたいだな」

「心配して損しました」

「早く51階へ向いましょう」

そう言って《紅銀狼》の三人が大広間に足を踏み入れた瞬間、大広間の出入り口が塞がれてしまう

「なっ、罠!?」

「ククク、引っ掛かりましたね!?」

「グフフフ、このテイドのワナにカかるとはナンとテイノウなモノタチなのでしょう」

「ムッムッムッ、我等のワナ素晴らしかっただけであろう」

「うわぁ、マジで伝説の三匹かよ。てっきり都市伝説か何かとおもってたのに・・・・・・」

「というか、あの三匹はなんなのですか!? おかしいでしょう!? とくに真ん中のオーク! 首から上を外せば唯の変態じゃないですか!!」

次の瞬間、周囲に響いた声と同時に天井から部屋の中心へと三つの影が飛び降りる。その言葉を聞いた瞬間、ジークはTPOを忘れその場に跪きうなだれてしまう。見事なorzであった

次に起きたのは三体の影を姿を直視したノルンの錯乱であった。その三体はゴブリン、コボルト、オークであった。だが、その装備が明らかにおかしい。三匹とも赤を主体とした色のピッチリとしたスーツに身を包み、眼には大きなゴーグル手足には白い手袋と白いブーツ・・・明らかに防御力は無さそうであった

ノルンもまだコボルトとゴブリンだけであったのなら、まだ耐え切れたのだろうが三匹の中心に立つオークはダメであった。というのも、どうやら三匹のスーツはほぼ同じ物で、オークの体積はゴブリン・コボルトの2倍~3倍ある。そう、オークはピッチピチの赤スーツに身を包んでいたのだ。どれぐらいピッチピチかというとオークの腹の毛の数を数えられるくらいにピッチピチだった

「ククク、どうやら恐怖で錯乱したようですね。15年前は登場した瞬間に爆砕され、20年前は変態の一言を残して逃げられ、30年前は出口を閉め忘れたせいで突破された我等トリプルヒーローズにもとうとう勝利の時・・・」

「クフフフ、そう苦節30年、とうとう我等にも勝利の時がくるのだ」

「ムッムッムッ、ようやく我等のちか「死ね、豚がッッ!!」あ・・・あれ?」

「フフフ、ジークフリート様? 早くあの腐れた汚物を取り除いて下さいな、フフッ、フフフ」

大広間中心でポーズをとりながら自分たちの言葉に酔っていた三匹、特に中心に居たオークへと矢が突き刺さっていく。初めは額に、次は喉と胸部に突き刺さっていく。それを呆然と眺めるジークであったが、後ろからの小さな声で我に返る

「了解いたしました!」

「フイウちとはヒキョウなり! レッド、ダイジョウブか!?」

「すまんヴァーミリオン・クリムゾン、俺はここまでのようだ・・・・・・俺の仇を頼む!」

「・・・レッドォォーーーー! 貴様等ぁゆるさんぞぉぉ!!」

「……煩いわね」

光へと変換されていくオークを抱きながら怒りの咆哮を上げるコボルトに対して冷ややかな微笑と侮蔑の視線を浴びせ、一言でその怒りを切り捨てるルナ

それを冷ややかさを背中にひしひしと感じながら敵へと一目散に吶喊を掛けるジーク。正直目の前のボスモンスターよりも後ろで冷ややかな狂気を放つルナの恐ろしく感じていたりするジークであった

「ほら、ノルン、一番の汚物は取り除いてあげたのだから、いい加減正気に戻りなさい? あんまり手間を掛けさせるようなら明日からの御飯はピクルス尽くしにするわよ?」

「それはヤメテ!! って、何でルナの《月神の加護》が発動してるのよ!?」

「フフフッ、そんな事はどうでもいいじゃない。それよりもアレを処分してきて、ね?」

「分かったから、その笑いはやめて!」

そのやり取りの間にもコボルトとゴブリンが虚空より取り出した剣と激しい打ち合いをしているジーク。1対2でしかも相手はボスモンスターであったが、恐怖に駆られたジークの後先考えない攻撃で一応の均衡は保たれていた

そこへ長剣を振りかざしてノルンが割り込んでくる。その援護攻撃に礼をいうより先に、ジークは真顔かつ小声でノルンへと問いかける

「…ノルン、あの状態は何だ?」

「……あれは《月神の加護》の特殊スキルが発動してるの。発動条件は精神的に大ダメージを受けた時、発動中は月と狩猟の女神セレネの狂気と冷酷さに影響されるのよ」

「だから、あの状態なのか・・・」

「ナニをこそこそとハナしている!?」

「征くぞ、ヴァーミリオン! 合体攻撃だ!!」

「おう、我等のちk「五月蝿いッ!!」」

ノルンにジークが色々と確認しているのを見て馬鹿にされていると逆上したコボルトとゴブリンが必殺技っぽいモノを放とうとした瞬間、苛立ちを込めて投げたジークのトマホークがコボルトの頭にスコンという良い音と共に直撃する

「バ、バカなタめのアイダはコウゲキされないハズ・・・ヴァーミリオン・・・・・・ヴァーミリオーーーン!!」

「で、続きは」

「えっと、スキル効果はPTの弓矢・投擲武器・魔術――遠距離攻撃の威力・命中率のU「それよりも発動を終わらせる方法は!?」って、ショック状態から落ち着い「フフフッ、ジークフリート様、ノルン、余裕ですか?」ごご、ごめんなさい、今すぐ倒します」

「同じく頑張ります!! ・・・・・・ん? コボルトは何時の間に倒したんだ?」

「………気づいてなかったんですか」

「何がだ? っと、それより後1匹潰せばこの状態から抜けれるんだ! ノルン、いくぞ!!」

「勿論です」

「サキにイったドウシタチよ、どうかワタシにチカラを」

一気に間合いを詰める二人を見つめながら、そう言って剣を振りかざすゴブリン。その言葉に従って空中にオークとコボルトの亡霊が現れ、ゴブリンの中へと入っていく。次の瞬間、ゴブリンの小柄な身体を黒い靄が囲い、中から骨と肉が軋む音が辺りへと響き渡る。ちなみにルナは亡霊となったオークをみて小さく舌打していたりする

そうして、靄が晴れたそこにはコボルト程の身長の三面六臂のゴブリンがいた

「クフフフ、どうだ、これがワタシタチのサイシュウオウギ、トリプルヒーロズverアシュラだ!!」

その六本の腕に一個ずつ武器を持ち、紅いスーツの上に豪奢な金属鎧を装備したゴブリンが声を張り上げ、誇らしげに《紅銀狼》へと武器を突きつける

「気持ち悪い」

「腕の稼動域が狭まりすぎだろ、常識的に考えて・・・」

「……汚物は消毒しないとね?」

「え? ウソぉ・・・」

次の瞬間、《紅銀狼》に散々言われ、斧槍の嵐に吹き飛ばされ、剣と炎の乱舞焼き刻まれ、止めに矢の豪雨に降られ、六臂あろうとも意識が一つでは防ぎきれず、圧倒的な物量差によって殲滅された

塞がれた通路も開き、三人は無言で残された武器を回収していく

「早く帰ってねよう・・・」

「…………ええ、今日は帰りましょう」

「あぅぅ、ジークさんの前でやっちゃったぁ・・・」

階段の上にある51階転送機に辿り着いた三人が放ったその言葉が本日の最後の会話となったのだった













あとがき



最後まで読んで頂きありがとうございました。

今回は戦闘をちょっとコメディっぽくしてみたつもりですが、作者の筆力ではこれが限界でした

お許し下さい



後、毎回多くの感想を下さる方々本当にありがとうございます。

リアルで色々と事情が重なり更新がおざなりになっておりまして、申し訳ない(不景気のバッキャロー!



今後も細々と更新は続けていくつもりですので、何卒よろしくお願いします









おまけ

今回のBOSSモンスター

名称:トリプルヒーローズ

概要:
   
オークヒーロー:レッド コボルトヒーロー:ヴァーミリオン ゴブリンヒーロー:クリムゾンの三体から構成されるボスモンスター

戦闘力は三体揃っていれば全能力A判定だが、一体でも欠けるとCまで弱体化してしまう。英雄といえども所詮は低級魔人種である

過去、3回しか確認されていないレアモンスターだが、見た目から全力で戦闘を拒否されるか、初めから無視されてしまい、戦闘になる事すら稀なモンスター

あまりのインパクトの為に、アークラインでは都市伝説として代々語り継がれている(作中のジークの伝説~はこれ)


PS
修正しました。遅くなって申し訳ないです



[8807] 7
Name: 63◆ce49c7d8 ID:f09c18c0
Date: 2009/10/25 03:21
アークラインの――いや、全ての学園都市の修練生にとってパーティーの繋がりは基本的に縦社会である

そもそも前代のパーティーリーダーの指名が次代のリーダーを決める為、どうしても縦の関係性が強くなってしまう

勿論、思春期真っ只中の年齢層である為、理性より色恋沙汰が優先されてしまいPT継承が途絶えたPTも数多くある

だが、それ以上に次代へと引き継がれていくPTが多かった

なぜならば、次代のパーティーリーダーが失敗をするとそれを指名した前リーダーにまでOBより批判をうけてしまう

つまり、指名とは前リーダーと次代リーダーがリスクと責任を共有する義務を持つ行為であった

その義務から逃れられるのは、新規PTを結成した初代だけであった

そうある慣例により、リーダー就任がOBによって取り消された《金獅子》という例外が生まれるまでは……

















学園都市アークライン アークライン特殊探索者養成学園 第三大講義室

百人はゆうに入れる巨大な講義室の窓側最後尾、そこに《紅銀狼》の構成員三名の姿があった

壇上では教官が大声で開錠技術についての講義を行っている中、並んで座る三人であったがジークはうとうとと船をこぎ始め、ノルンに至っては夢の世界へと旅立っており、ルナも眠そうに小さく欠伸をしていた

「で、あるからして、30階以降の宝箱の鍵を開けるために………」

「いつの時代の話なんでしょうか」

「ん~、ふぁ、あの教官はアークラインの創立期に解除の技術の基礎を作り上げた人物らしいぞ。現在の各階層専用の開錠道具の基礎をつくったんで、そこに敬意を表して講師をしている訳だ。もっとも、教官も学生側からすればそんな古臭い話をきいたとしても、何の意味も無い事も知っているからとりあえず参加されば単位をくれるみたいだな」

「それでいいんですか?」

「良いも悪いもないさ。単位が貰えるから人気がでる、ただそれだけの事だろうよ。あ、そうそう講義が終わったらちょっと《教官室》まで付き合ってもらっていいか? 何かPTメンバー全員揃って来いってジム副教官長から連絡があったんだ」

「この時期にですか? ……分かりました」

「悪いな。その後、どっか場所をとって飯でも食べながら今後の予定を決めよう」

「いいですね。正直、50階層以上敵については噂程度しか知らないので、是非とも詳しく教えて下さい」

「くーーーすぴーーーーむにゃ、ルナ、人参は勘弁…して………くーーー」

気持ちよさそうに寝ているノルンの横で、ジークフリートとルナは顔を寄せ合いながら小声で話し合っていた。そんな二人の姿は傍目から見れば恋人同士が肩を寄せ合っていちゃついているしか思えないものであった

何より一月ほど前から学園の各所で噂されるようになった美女が親しげに髪もぼさぼさで無精ひげもそのままの男と仲よさげに話している姿は学園の男子の悔し涙を誘っていた

無論、白薔薇のような優雅で妖艶なルナには空気を読まず、勇敢にもアタックをかける男も居たが、大半がノルンに阻まれ、ルナと話せた少数もまともに相手にしてもらえず、すごすごと退散していくのみであった。稀に暴力に訴えようとした頭の悪い馬鹿や権力を使おうとする阿呆貴族もいたらしいが、《風紀委員会》によって即日捕縛され、翌日に停学になり、芋づる式に過去の犯罪暦を調べ上げられ3日後に退学となったらしい

裏でルナの実家であるカリストー公爵家が動いたとか、《風紀委員会》が一罰百戒とする為に処罰したとか、ジークフリートが己の人脈を使い陥れたとか、多くの情報がアークライン権力中枢に近い場所で噂されたが、結局その答えは出なかった

結果、ルナに手を出そうとする人物はほぼ皆無となり、周囲の男子修練生は唯一笑顔で対応されているジークフリートへの嫉妬の涙で枕を濡らす事となった

そんな周囲の視線などものともせず、というか故意に無視しながら話をしていると大鐘楼から授業終了を意味する鐘の音が聞えてきた。もっともこの鐘の音は正午から夜六時まで一時間に一度なる為、日々の生活の指標として使われて居たりするのだが…

「終わったみたいだな。さて、それじゃあ《教官室》へ向うか」

「ええ、分かりました。ほら、ノルンいい加減起きなさい」

「……ふにぁ、んっんんーーーーー! おはよう、ルナぁ」

「ほら、涎を拭いて!」

まだ眠そうに目を擦っているノルンの口元をハンカチで拭い、乱れてしまった髪の毛を整えるルナ。その姿を見ながら、世話焼きの姉と甘えん坊の妹というか、母親と子供というべきだよな、と考えてしまったジーク

「…………ジークさん、何か失礼な事を考えていませんでした?」

「ハハ、ソンナコトナイヨ? ホントダヨ?」

視線を横で眠気覚ましに背伸びしているノルンへとずらしながら答える。勿論、そんなジークをジト目で見るルナであったが溜め息一つ吐いた後、笑顔へと戻る

「全く…それでは《教官室》へといきましょう」

「了解」

「はーい!」

そう言って講義棟から学園中心部へと暫く行った所にある《教官室》へと三人並んで歩いていく

アークライン特殊探索者養成学園は学園都市アークラインの中央に位置する一大教育施設であり、学園都市の要でもある大施設である

そのアークラインの中心に聳え立つのが《煉獄塔》、その周囲には運動場・闘技演習場等の運動施設が取り囲み、さらにその周囲を囲むように《教官室》と《教官長室》がある教官棟、《生徒会》と《風紀委員会》が入っている生徒本部棟、《商工会》の運営委員会と彼らが運営する店舗が軒を並べる商業棟、アークラインに住まう者の生活の基準である大鐘楼、そして各パーティーに一室ずつ与えられるパーティールームがある拠点棟が並んでいる

そうこうしている内に教官棟へと辿り着いた三人

「失礼します。PT《紅銀狼》構成員3名、ジム副教官長からの呼び出しにしたがい、出頭しました」

「ああ、待っていましたよ。ん、ちゃんと3名で来てくれたみたいですね」

「ええ、念押しされていましたからね」

「ふふふ、そんなに警戒しなくてもいいぞ? 今回は依頼や処罰等ではないからな」

「……その言葉を信じられる要素がありません。今までの体験からその笑顔の時は何か裏がある筈です!」

《教官室》に入るなり表情を硬質のものに切り替えたジークにジム副教官長が笑顔で宥めるものの、それを一瞬にして切り捨てるジーク

その言葉にどこか面白そうな表情を見せるジム副教官長であったが、表情を真剣なモノに切り替えると机の引き出しより、書状と鍵を取り出し、ジークへと差し出した

「PT《紅銀狼》、パーティーリーダー ジークフリート=フォートレス、並びに同副リーダー ルナ=カリストー 同構成員 ノルン=ウルザンブルン、貴殿等のPTが50階層を突破した事を確認しました。この実績と修練規定によりPT《紅銀狼》にパーティールームを貸与する事とする。これがその貸与証明書と部屋の鍵である、紛失等についてはすぐに連絡してくるように」

「へ?」

「……ああ、そういえばそうだった。ありがたく頂戴致します」

「うむ。部屋は拠点棟の旧館2Fの一番奥になる。少々古いが清潔だし、メンバー3人のパーティーには勿体ない広さの部屋だ。………ここで言うべきでは無いかも知れないが、空いている部屋の内《金獅子》が入っている新館の部屋から最も遠い部屋を選ばせて貰った」

「………お気遣いありがとうございます」

言葉と共に差し出された鍵と貸与証明証を受け取りながら思い出したように呟くジーク。ルナは驚きで口元に手を当て、ノルンはぽかんとした表情でジークの背中を見る

当のジークは未だに警戒を解いていない表情であったが、ジム副教官長の言葉に苦笑しながら感謝の言葉を返す

「うむ。それではパーティールームの引継ぎがあるので、早速パーティールームへと向ってくれ。現地で担当の者が各書類と使用条件などを説明してくれるよう手配してあるのでな」

「今からですか?」

「うむ。何か用でもあるのかね?」

「いえ、無いですが…」

「ジークさん、私達の拠点を見に行きましょうよ」

「そうですね。担当の方を待たせるのも悪いですし……」

「わかった、わかったから引っ張るな。ったく、ノルンは行動が幼くなってないか?」

「ふふっ、素のノルンを見せ始めただけですよ。家族以外でここまでなついたのはジークさんが始めてかも知れませんね」

「君達、仲がいいのは分かったが《教官室》で見せ付けるのは勘弁してくれないかな。独身者の目の毒だよ……」

やれやれといった表情でじゃれあう《紅銀狼》へというジム副教官長。その言葉に反応して周囲を見回す三人、その視線とぶつかり合うように《教官室》の各所から嫉妬や懐古を含んだ生暖かい視線が三人へと注がれていた

「「「失礼しました」」」

その視線の意味を理解した三人は羞恥心から真赤になると誰とも顔を合わさないように、視線を下げいそいそと《教官室》から出て行った。その背中をしてやったりという表情で見ていたジム副教官長の視線に気づかないまま……





《教官室》から徒歩で約5分の場所にある拠点棟はアークライン特殊探索者養成学園内に現在残っている施設の中で最も古い建築物の一つであった。まだ《煉獄塔》が魔物が湧き出す魔の塔と呼ばれていた頃に監視用の砦として作られたのが拠点棟の始まりである。もっとも数百年を数える歴史の中で戦争で焼け落ちたり、天災で崩れ落ちたり、老朽化の為、建て直されたりしており、現在拠点棟は2つの館から構成されている

1つは新館と呼ばれる3年前に完成したばかりの5階層からなる巨大な館。ここには歴代の修練生によって引き継がれてきたPTが優先的に入居しており、《金獅子》《白銀龍》といった超名門PTもこの塔の5階に居を構えている

もう一つはジーク達が入居する事となった旧館と呼ばれる館。こちらは監視用の砦だった頃の建物とその後継ぎ足した増設部分が混在する建築物。もっとも砦時代の部分は過去の資料という事で保存が決定しており、立ち入り禁止となっている

「これが旧館か、初めて入るが思ったよりも綺麗じゃないか」

「そうですか? 傷も目立ちますし、ボロボロじゃないですか」

「そうね。漆喰もところどころムラが出来て来てますよ? ちゃんと手入れがされてないみたいですね」

赤レンガで造られた玄関のガラス扉を開けて入ってきた三人の初会話で意見が食い違った

この意見の差も普段生活を営んでいる住居の差が大きいのだろうな、と頭の片隅で考えながらジークは苦笑する。彼が住んでいる酒場の2階の安宿では漆喰が剥がれているのが当たり前で、入居した当初は窓もひび割れておりそれを修繕するのにえらく苦労した事を思い出し、さらに苦笑を深める

「まあ、古いんだから仕方ないだろう、そんなに怒りなさんな。それより早くパーティールームへ行こう」

「……別に怒ってません」

「私も怒ってはいませんよ。ただ、少し悲しかっただけです」

「悲しい?」

「ええ、この建物は外から見ただけでも戦乱期を含めて幾つかの時代の建築様式が合わさっているのが分かります。そんな建築物は帝国中探しても片手に満たないぐらいしか思いつきません。そんな貴重な物がぞんざいな扱いを受けているのが、悲しいのですよ」

「・……むぅ、建築様式が違っているのさえ分からん」

ゆっくりと玄関横の階段を昇りながら、眉根を寄せるノルンとルナに話しかけるジーク。ノルンのほうはジークの予想通り古い建物を宛がわれた事に対してわだかまりあるようだったが、ルナの理由は少し違っていた

ある意味で名門貴族らしいその理由にまた苦笑してしまうジーク。とりあえず住めればいい、壊れてなければいいといったジークの考えとは全く正反対の答えに育ちの違いを感じてしまった

「っと、この部屋みたいだな」

「扉が開いてるって事は、先に担当の方が来てるみたいですね」

「みたいだな。じゃあ、どんな部屋か拝見するとするかね」

「はいっ!」

目的地の部屋に到着するとそこの扉は半開きになっていた。どうやら先に担当の人が来ているらしいと見当をつけた三人は何の躊躇いも無く扉をくぐり、中へと入る

中は驚くほど綺麗で新しく塗られたらしい白い漆喰が窓からの光を弾いていた。急な光の変化に三人が目を細めながら、部屋の中央にたたずむ人影へと視線を注ぐと、どこか気障な雰囲気でその人影が振り向いた

「うむ、遅かったな、ジークフリート」

「……ユリアン先輩?」

「うむ、貴様の大先輩であるユリアン=クレイズだ。さて、《金獅子》脱退の件含め色々と話を聞かせてもらおうか?」

懐かしき先輩、というよりも天敵の蛇を目の前にした蛙の様な態度で硬直したジークにグレーの髪のユリアンと名乗った青年が声をかける

これが、ある意味においてジークフリートがもっとも苦手とする人物との1年半ぶりの再会であった













後書き
ごめんなさい、力尽きました






[8807] 8
Name: 63◆ce49c7d8 ID:f09c18c0
Date: 2010/10/19 19:52
ユリアン=クレイズ

大陸中にその名を知られた有名な冒険者の一人

周囲360度全ての事象を知覚できる希少スキル「森羅万象の瞳」を持つアークライン卒業生

一説によるとその知覚最大距離は1キロメートルを越えているとも言われる

その原因として挙げられるが、【クライストの乱】と呼ばれる反逆貴族との戦場でみせた圧倒的な采配であった

当時、まだ修練生であった彼は特殊探索者資格法に則り戦力として徴収され、戦場へと赴いた

その戦場で彼は同じ立場の500の修練生を率い、縦横無尽に駆け巡り、奇襲、強襲、偽装撤退からの逆襲、浸透突破、補給線の寸断等ありとあらゆる戦法を駆使し敵軍を撃破し続けた

結果、【クライストの乱】は1月もかからず鎮圧され、他の不平貴族が不穏な動きを見せる事さえ出来なかった

彼はこの戦功により皇室直属の帝国騎士に任命されるも、冒険者としての生活を求め宮廷務めは断った

栄達を求めなかったその態度が逆に、彼と彼がリーダーを務める《金獅子》の名を大陸中に鳴り響かせ、一時は演劇の題材としても使用されるほどの英雄となった

もっとも、本人を知る人物からの評価は腹黒、ドS、策士、暗黒騎士等と世間一般の意見とは正反対であったが……

















その光景は見るものが見れば卒倒ものの光景であった。このアークラインにおいて無くてはならない利益分配機能を持ち、裏表関係なくある意味でアンタッチャブルな存在なジークフリート=フォートレスが硬い床に正座して首を竦めている

それを横で見ることとなったPT《紅銀狼》の残りの2人、ルナとノルンは呆然とした表情でそれを見ていた

「で? 《金獅子》をやめたのは何時なのかな?」

「え、約二ヶ月前になります……」

「ああ、そう言えばそうらしいね~。しかも辞めて数日後に新PT結成したとか?」

「あ、そ、それは…色々偶然が重なって、渡りに船だったので…」

「ははは、そうかいそうかい。でも、辞める時もそうだが、新PT結成の時も俺に連絡が一切無かったのは解せないな」

「も、申し訳ないです」

床に正座させられたジークを言葉でチクチクといたぶるユリアン。その姿はネズミを捕まえた猫が最後の抵抗をするネズミいたぶっている姿と何処か重なってしまう

「何で連絡が無いのかな? 俺はちゃんと《金獅子》の事をお前に頼んで言ったはずだがな」

「……あの、横からすみません。その、今回の脱退の件ならばどちらかと言えば現リーダーであるアリスさんに原因があると判断致しますが?」

「うん、そうだよ! リーダー権限で急に脱退させられたと言うじゃないですか!? その件でジークさんを責めるのおかしいと思うんですけど!?」

「……そういう問題じゃ無いんだよ、ルナ、ノルン」

ジークの助けに入った二人であったが、その言葉を遮るかのように助けられたジークが二人を止める

「まあ、そちらのお嬢さん方の主張の通り今回の件は明らかにアリス嬢の独断専行だ。それは認めよう。だが、《俺》が認め指名したリーダーはお前だったはずだ、ジーク? ついでに俺が受け継がせた人脈をつかえば脱退の件は覆す事も出来た筈だがな。……正直、俺はお前が何を思って唯々諾々とアリス嬢の主張を受け入れたかが分からん。あと、直接の先輩である俺に連絡が無かったも気に入らんな」

「いや、先輩には手紙を送ったんですよ? ただ先日宛先不明で戻ってきてしまいまして。他に連絡をとる手段がないのでどうしようもなく…」

「………仮免研修が終わって引っ越したのを連絡し忘れてたか。そっちはそれで納得できたが、自分で決定を覆さなかったのは何故だ?」

「……リーダーとして学園から公式に認められているのはアリスです。ついでにユリアン先輩以外のOBや学園の全修練生からもそう認識されています。仮に自分がリーダーの座を奪っていたとしても、ユリアン先輩以外のOBの反対と修練生が反発して現状と同じ結果になるだろうし、何よりその騒動の間で《煉獄塔》を探索出来なくなってしまうじゃないですか?」

相変わらず正座のまま目線を微妙にずらし、己の主張を述べるジーク。緊張しているのか微妙に言いにくそうだが己の判断と行動をしっかりと述べていく

ユリアンも矛盾点や問題点をあらい出すためにしっかりと耳を傾ける

「ふむ……お前達のパーティーは既に規定階層の60階の探索を終えていたのだろう? ならば数ヶ月休暇をとっても問題はなかろうに」

「いや、別に規定階層が問題ではなくてですね、パーティーに探索が出来なくなると必要最低限の稼ぎというか……実家への仕送りが不足してしまう奴がいましてね」

「あー、カイトの奴か」

納得したといわんばかりに頷くユリアン

「お前は身内に入れた人間にはとことん甘いからな……せっかく俺がつくったコネクションと調べあげた各スキャンダルを引き継がせたのに殆ど利用しないんだから」

「勘弁してくださいよ、《アレ》を使ったら良くて学園都市の上層部の首が幾つか飛ぶ程度、最悪でアークライン自体が帝国直轄にされてしまいますって!?」

「いや、それを使うんじゃなくてだな上手く匂わせておくだけで……っと、部外者の前だったな」

体勢を変える事無くどす黒い雰囲気をかもしだし始めたジークとユリアン。もっとも、ポジティブブラックなユリアンとは正反対に、その情報の影響力の大きさに辟易としているネガティブブラックなジークという二極化はあったが……

そんな二人の洒落にならない言葉に少々引き気味のルナとノルンに気がつき、話を一度きるユリアンであった

「そんな引いた顔をしないでくれないか? こんな程度の話ぐらいなら君達の実家もやっている筈だよ?」

「確かに私の実家は得意かもしれませんが……そんな堂々と話す事は……ねぇ、ノルン」

「………私の家はそういった事はあんまり得意じゃないんで話を振られても困るよ、ルナ」

「ふむ、こちらのお嬢さん方は帝国貴族にしてはマシな家に育ったようだな」

「………まあ、そうですね。自分や先輩が関わった貴族というと与えられた権力を自分の物だと勘違いしている馬鹿か、権力を得る為に裏で醜い策謀を巡らしている阿呆ぐらいしかいなかったですよね」

「ジーク、一度帝都に行ってみろ。お前が見てきた以上のド阿呆と腹黒貴族がごろごろ転がっているぞ? 俺も騎士叙勲の時に少し見ただけだが、あれは本当に酷かった」

嫌悪の表情を見せながら貴族について話すユリアンとジーク。どうやら過去に何度か帝国貴族関連で問題があったらしい……

碌な事ではないのだろうと予想しながら、口元を引き攣らせるノルンとルナ

そんな中、大鐘楼の鐘の音が響いてくるとユリアンが顔を上げ窓から見える大鐘楼の大時計へと視線を向ける

「む、もうこんな時間か。ジーク、時間を取らせて悪かったな。最後に確認するが、お前は《金獅子》に戻るつもりは無いんだな?」

「ええ、その選択はありません。正直、メリット・デメリットを考えれば、《金獅子》に残った方がいいのでしょうが、この時期にパーティー内の不和で探索できないってのは問題ありますし、何より敵を作りすぎます。元々色々と敵を作ってますからね、俺」

ジークのその宣言を聞いて、ルナは大輪の花の様な華やかな笑顔を浮かべ、ノルンは心底ほっとしたような表情を浮かべる

「ククッ、確かにな。まあいい、一応お前の一連の行動には納得はしておいてやる。っと、そうだっだ。ここの使用条件についての説明だが、ジム副教官長の好意により使用料金は無しでいいとの事だ。設備関連については改装OK、防犯系の設備は最高級の物を設置済みらしい」

「そんなにして貰っていいんですか?」

「そうだな、えこ贔屓も甚だしいが、教官室からすればジークが臍を曲げて各機関にこの件を訴えでもしたら相当面倒な事になるだろうからな。ま、御機嫌取りって所だろうよ。最後にこの書面にPT全員の署名とこっちの魔法機械に《学生証》を翳してくれ、それで《学生証》がこの部屋の鍵になるからな」

「了解」

「わかりました」

「はい」

そう言って三人は順に署名を行い、《学生証》に鍵機能を付加していく。それを確認したユリアンは一つ頷き、ジークへと視線を合わせ、先程までとは違う真剣な表情で告げる

「ジークフリート=フォートレス! 貴公は《アークライン特殊探索者養成学園》の歴史にPT《紅銀狼》の初代リーダーとして正式に名を刻まれた! 過去から連綿と繋がれた修練生の歴史に新たな名を刻んだ名誉と責任を胸に一層の努力を期待する! また、初代パーティーリーダー就任に際して、一人の先輩として心からの祝福と共に一つの言葉を贈らせてもらう。常に己が本分を全力で全うし、その息が止まる時まで全力で生き抜け!! 以上、OB達の意見を覆せなかった頼りない先輩の俺からのお前に贈る最後のお世話だ……頑張れよ、ジーク」

「…はい、俺を鍛えてくれた先輩の恩を忘れず、己が本分と生を全うします!」

ユリアンの言葉に直角に頭を下げながら、答えるジーク。それを確認し、一つ頷き出口へと向うユリアン

その口元には嬉しそうな、だが寂しそうでもある笑みを浮かべていた。そうして、ルナとノルンの横を通り過ぎ廊下へと出た彼はその笑みを消し、小さく呟く

「………次は《金獅子》の馬鹿達か。この時間ならパーティールームで会議の時間だな」

部屋の中で浮かべていた笑みとは全く違う獰猛な笑みと醒めた瞳で新館へと歩を進める。途中、何人かの修練生と出会うも彼等はユリアンの顔を見るなり、即踵を返して逃げるようにその場を去っていった










《金獅子》サイド

明るい日差しが窓から入り込んで来るものの《金獅子》のパーティールームは沈鬱な空気が充満していた。そんな部屋の中央に置かれた円卓の上で顔を合わせる5名の人影、その顔に笑みは無く部屋と同じく沈鬱な表情が刻まれていた

「それでは《金獅子》の定例ミーティングを始めます。今回の進行役は俺、カイトが勤めさせてもらう事になった。第一の議題は新人のミカエル君の戦闘評価及びPT内の役割について。俺の評価としては前期カリキュラム生にしては優秀、後期カリキュラム生と比較すると平均よりちょっと上って所かな。まあ、知識や機転等の経験が必要な物は別とすればもうちょっと評価は上がるけどな。PT内の役割としては俺と同じ前衛遊撃役が一番あっていると思うんだが、皆はどう思う?」

「私も同感ね。アタッカーとしてはレアスキルを使用してもちょっと威力が足りないからね」

「…僕のあの炎剣でも威力が足りませんか?」

カイトの意見に真っ先にスズカが賛成の意を見せる。その言葉に当のミカエルは不安と不満を混ぜた表情で質問するが、アリサが素早くフォローをかける

「ミカエルさんの炎剣は良いスキルではあるのですけど、使っている武器の性能が足りませんね」

「カイト、うちの武器で火属性の剣は?」

「無いよ。火属性の槍や弓ならあるけど、残念ながら剣は無し。ついでに言っておくけど、等級が高い無属性の武器も全部換金しちゃったんで無いから」

「は? 何で換金なんてしたのよ?」

「……アリスが設備の更新するからってOB達の許可を取ってきて売却したんだろうが」

「そうだったけ?」

「そうだったんだ。まあ、武器の件は商工会に何とかしてもらうようにしておく。次の議題に入ってもいいか?」

苦虫を噛み潰した表情でアリスに答えるカイトと困ったもんだと顔に書いてあるアリサとスズカ。ミカエルはミカエルで自分の力が足りてない事にショックを受けているのか沈鬱な表情をしていたが、何とか頷いた

「次の議題だが、一番重要な戦術についてだ。現状のPT構成では軽装前衛3名、魔術後衛1名、神術後衛1名、前衛後衛のバランスは良いが、攻撃力に偏っている編成だな。この二ヶ月間の戦闘からよかった戦術としてあげるなら俺とミカエル君が敵の足止め役兼アタッカー、スズカがアタッカー、アリス・アリサがそれぞれ魔術・神術での援護って所か?」

「それじゃあ、ミカエルの長所が生かせないでしょ。私が魔術で弾幕を張って足止めも兼任すればミカエルはアタッカーに専念できないかな」

「アリス、それだと貴女の消耗が激しくなるけど良いのかしら?」

「余裕よ、余裕!」

自分の魔力に絶対の自信を持つアリスはアリサの心配をよそに胸を張って引き受ける。それを心配そうに見ながら小さく溜め息をつくカイトとスズカ

「では、足止めはカイトとアリス、アタッカーは私とミカエル君、魔術援護アリス、神術援護アリサでいいんですね?」

「ちょっと待ってくれ、ターゲットになるのが俺一人だけじゃあ乱戦時回避しきれなくなってしまうだろうが、それとも何かお前達は俺に死ねとでもいうつもりか?」

焦った表情でそう言うカイト。というか、対集団戦闘において前線で軽装戦士が一人で戦線を支えきれる筈がない事は分かりきっている為、本人も必死になるだろう

「じゃあ、敵の数が6体未満であればアリスの提案した戦術、6体以上又は大型のモンスターが複数含まれる場合であればカイトの提案した従来どおりの戦法で戦うというのはどうでしょうか?」

「……そうね、私はアリサのその提案に賛成よ」

「…むぅ、まあいいわ。私もアリサの案で妥協する」

円卓を囲む他の4人の意見が何とかまとまったのを確認してからカイトは嫌々ながらも了承の意思と今後の予定を告げる

「ちっ、わかった。俺もその案に乗る。じゃあ明日からその戦術で探索再開……は出来ないな。明日は商工会へ行ってミカエル君の武器を探して来るから、最速でも明後日からだな」

「ああ、カイト、すみませんが、明後日はちょっと用事があって探索に参加出来ないのですが」

「スズカが用事というと、模擬戦でもやるのか? ……まあいいか、では明々後日の午後より探索を開始するという事でいいかな? …あ、ミカエル君は明日俺と一緒に商工会に来てもらうよ、自分の武器なんだから自分である程度選んで貰わないといけないしね」

「は、はい。わかりました」

ミカエルがそう頷いたとほぼ同時にパーティールームのドアがノックされる音が響く

「こんな時間に誰かな?」

「さあ? どうするアリス」

「ん、入ってもらったら良いんじゃない?」

扉の方向へと歩きながらアリスに確認を取るカイト。アリスは興味なさそうに投げ遣りに答え、図書館で借りて来た魔術書を開き始める

そんな姿を視界の端に捉えながら、とりあえず扉を開けるカイト。そうして、扉の前にいる人物を確認し、彼の顔色は一気に青白く染まっていった

「……カイトか…ひさしぶりだねぇ、他のメンバーも皆いるかい?」

現状で彼が、というかミカエル以外の《金獅子》が最も顔を会わし難い人物――そう前《金獅子》リーダー ユリアン=クレイズが酷薄な笑みを浮かべそこにいた

その姿を確認した瞬間、ページを捲る音も、刀を手入れする音も、神に対する祈りの声も、鎧を磨く音も、全てが止まり静寂が部屋を包んだ











続く(と思う)









あとがき

塔内探索場面入れたかったが、作者の文才では無理だった。申し訳ない。

次回はおそらくその日の《金獅子》以降の《金獅子》サイドの話になると思います。(予定は未定ですが…)

あ、後《紅銀狼》の読み方は「コウギンロウ」でお願いします

毎回沢山の感想を頂きありがとうございます。皆様の感想が作者のモチベーションに繋がっております。更新が遅くなっていますが、何卒今後もよろしければ感想・指摘よろしくお願いします

また、誤字脱字も指摘頂きありがとうございます。毎回思うんですが自分の誤字脱字が多さにはちょっと凹みます



PS.

ユリアンの名前の元ネタ知ってる人が結構いてびっくりしました。元々連想で、優等生⇒某銀河ヒーロー伝説のミンツ⇒有名すぎるのでもっとマイナーなのを⇒ロマ○ガⅢのユリアン⇒苗字が分からず断念⇒本棚の赤い両目を発見⇒そういやユリアンいたよなと採用

適当すぎる? うん、本人もそう思ってるから勘弁してやって下さい





後付設定

《金獅子》のパーティーリーダー指名の事件流れ

ユリアン卒業時、ジークを指名⇒ジークがレアスキル無しの為、OB(複数)が反対⇒レアスキル慣例をたてにアリスがリーダー襲名⇒ユリアン切れてOB達に色々とえげつない仕返し⇒OB、ユリアンの怒りに焦り、副リーダーをジークにするという条件で和解提案⇒ジーク本人からの依頼もありその条件で和解⇒結局ジーク本人が甘いのが一番の原因だったりする

現在、OBの大半はユリアンの報復を恐れ身を隠そうか迷っていたり、実際に少数は身を隠していたりする

















今回の更新の流れ

忙しさとスランプで作製中断⇒そういや誤字脱字修正してない事を思い出す⇒感想版で誤字脱字確認する⇒感想№179kkk氏の安西先生ネタが何故かツボに入る⇒なぜか笑いと共にモチベーションUP⇒一気に書き上げる

うん、作者○んだほうがいいね、と自分でも思ったりした





[8807] その日からの《金獅子》
Name: 63◆ce49c7d8 ID:343c248d
Date: 2010/06/25 16:35
それは、鍛え抜かれた刃と積み上げられた鍛錬の舞踏

稲妻の如き速度で全てを切り裂いていく刀

しかし一つ一つの動きは蝶のように優雅に舞踊るが如きもの

完全に違うテンポなのにどこか調和を感じさせる動き

つま先から脳天、さらに無機物である筈の刃先までが調和しながら美しき死刃の舞踏を舞い踊る

精霊灯の揺らめきの中、その光景をミカエルは呆然と眺めていた













その日からの《金獅子》













《アークラインの煉獄塔》 第40階層  月齢:《下弦の月》⇒《暁月》

ミカエル=プロミネンスのPT加入手続き及び、PT再登録、《煉獄塔》の使用許可申請及びPTルーム登録手続きと手間ばかりかかる諸々の書類を片付けようやく《煉獄塔》へと鍛錬に来た《金獅子》一行の姿があった

チェインアーマーと革鎧を着込み、指が出るタイプの金属製ガントレットとリベットブーツという出で立ちのカイトを先頭に、鉢金と壮麗な装飾が施された胸当て以外は普段と淡い青色の胴着袴姿のスズカが続き、色違いの装飾がされたローブを羽織ったアリス・アリサ姉妹、革製の装備に身を包んだミカエルが塔の中を歩いていた

先頭をいくカイトと最後尾のミカエルは緊張した面持ちで周囲を警戒しているが、中盤の女子三名はどこか気の抜けたような表情でカイトの背中を追いかけるように歩いていく

というのも、月齢が月齢の為モンスターは殆ど徘徊せず、出会ってもすぐに逃げていくという始末。例え戦闘になったとしても61階層まで到達している《金獅子》が居る限り、40階層の敵の殲滅ぐらい容易いものであった為、罠と奇襲を警戒する役目のカイトと初めて40階層に挑んでいる為緊張しているミカエル以外は油断しきっていた

「おっ、ようやく手ごろな敵発見だ。……コボルトソルジャー・アーチャーが3体ずつとデミミノタウルス1体、見た感じミノタウルスがリーダーみたいだな」

「この距離から分かるんですか?」

「当たり前だろ、モンスターの体と武器の輪郭さえ分かれば大体の判断はつくからな。もっとも、これだけ距離があると伏兵やら増援やらが居るのかは分からないけどね」

十字路を右に行った先にある大部屋を覗き込んだカイトとその後ろから同じ様に覗き込んだミカエルが話し合う。今回の件で色々と思う所があるカイトではあったが、いささか短慮だが真面目な後輩に対してそれを表に出すような事はしなかった

まあ裏では色々と画策してはいるのだが……

「まずは…どうしよう?」

「こういう場合はいつもジークが突っ込んでいたよな……」

「いなくなった奴の事なんかどうでもいいでしょ! じゃあ私が魔法で攻撃するから近づいてきたモンスターから倒して」

顔を見合わせて判断に迷っているカイトとスズカに対して、アリスは次善の策を用意する。元々、モンスターの巣窟や多数の敵と戦闘しなければ進めない場合に多用していた〝釣り待ち〟の戦法を選択した

この戦法は一見有用に見えるのだが煉獄塔内に限っていうならば《時間がかかる》という一点で効果は低い戦法であった

まず第一に煉獄塔内で長時間の戦闘行為をおこなった場合、戦闘音・血液臭・魔力変動等に誘われて周囲のモンスターが引き寄せられてくる。特に月が満ちた頃に〝釣り待ち〟を行うのはただの自殺行為だと各教官・先輩より教えれていた

つまり、煉獄塔内での理想の戦闘とは"奇襲殲滅〟であり”一撃必殺〟であるのだった

第二に煉獄塔内の特性――そこにある指向性がない存在力を喰らっていく――にあった。つまり、千年帝国で最もポピュラーな遠距離攻撃手段である魔法は煉獄塔において一定以上の距離があると威力が激減してしまうのであった。勿論、制御が上手い者、神や精霊の恩恵を受けた者、魔力が大きい者等の例外はいるが、煉獄塔内においては弓やボウガンといった武器の方が一般的に有用な遠距離攻撃手段となっていた

翻ってその弓やボウガンがモンスターに有効かといえばそうではなかったりする。ただの弓矢は高階層の敵に対して威力が足りず、ボウガンは集団戦では全くの役立たずであった

第三にこの戦法はこちらが先に敵を発見している場合にしか使えないという点である。煉獄塔内では段差や物陰から奇襲、曲がり角での遭遇戦等はよくある話であって、そういった不測の事態対しての装備を用意する方が稀にしか行われない〝釣り待ち〟の装備を用意するより大事であった

以上3点が〝釣り待ち〟使われない理由なのだが、《金獅子》においては一人の規格外の修練生によってその常識は見事に覆されたのであった

規格外の名はアリス=ワールウィンド。神々の加護と並んで煉獄塔で優良とされる希少スキル《精霊の加護》、その中でも希少中の希少である《精霊の加護(全)》を持ち、宮廷魔導師にも匹敵する程の魔力をその小さな身体に宿す少女

彼女は希少スキルと膨大な魔力を使う事で遠距離攻撃と殲滅に必要とする威力を両立するに至ったのだった

「集え鋭き風の精よ! 我が命に従いて敵を切り裂け! エアカッター!!」

そう朗々と唱え魔法を発動させると、遥か先にうっすらと影が見えるモンスターの内、小柄な影が唐突に歪み、ずれていく。その常識では考えられない攻撃範囲と威力を初めて見るミカエルは口をあんぐりと開けてしまう

「……言っておくが、これはアリス=ワールウィンドだから出来る事だ。俺が知っている限りでは、アークラインの他の誰にも出来ない事だから、真似しようと思ったり、勘違いするのはやめてくれよ?」

「こういうのを規格外とか天才とかいうの。貴方も高い能力はあるんでしょうけど、ワールウィンド姉妹の得意分野で勝ちたいとか思わない方がいいわ」

「……何よ、カイトもスズカもちょっと酷くない?」

「え? 姉妹って事は私もですか?」

溜め息をつきながらしみじみと言うカイトとスズカにくってかかるアリスであったが、ミカエルから見た場合カイトとスズカの意見の方が圧倒的に正しいと思えたらしくしきりに頷いている。その横ではこの異常なまでに才能が集まったPT内においてもっとも異常で、神聖で、畏怖される才能を持つアリサが首を傾げる

そういうやり取りをしている間にも残りのモンスターがデミミノタウルスを先頭に一斉にこちらにかけて来ており、その距離は弓矢のとどく範囲になっていた

「って、敵が来てますよ!!」

「ん? ああ、来てるな。んじゃ、ミカエルのテスト開始だ。残りは……デミミノタウルス1、コボルトソルジャー2だけだ。厄介なコボルトアーチャーはアリスが倒したみたいだし、これぐらいなら軽いだろ?」

「……え?」

「私たちは手を出さないから上手く斬り抜けてね?」

「一応私の《祝福》で身体能力を強化しましたので頑張って下さいね。あ、もし怪我をしても大丈夫ですよ、即死さえしていなければ私が何とかしますから」

「ほら、実力を見せ付ける良い機会よ! 大丈夫、私が見込んだんだからミカエルならやれるわ!!」

どうやら彼等の中では目の前に迫ってきているデミミノタウルス達は試験に使えるぐらいの強さしか認めていないらしい。ミカエルにとって彼の年代では未だ到達できていないこの階層の敵を簡単に片付けろというその常識が信じられなかった。というか、頭のネジが飛んでるんじゃないかと本気で思った。

怒り狂ったデミミノタウルスが正面から突っ込み、それから少し遅れてコボルトソルジャーがサイドから挟み撃ちを狙って襲い掛かってくる。

まずは正面から圧倒的質量で押しつぶさんと迫ってくるデミミノタウルスの唐竹割を大きく左に踏み込むことで回避し、さらにその踏み込みでコボルトソルジャーを己の攻撃範囲に入れる

「戦闘では弱いものから死んでいくんだよ!」

そう言ってさらに加速しソルジャーの喉へと火属性片手剣《紅ノ漆》を突き入れる。うっすらと赤い靄をまとうその刀身が人型生物共通弱点へと飲み込まれ、反対側へと突き抜けてその生命を塔へと捧げる。

一体を奇襲で倒したミカエルの耳が後ろから風きり音を捕らえる。その瞬間彼は何の躊躇いも無く前方へと飛び込むように前転を行う。その彼の背中の上をデミミノタウルスの豪快な裏拳が通り過ぎていく
「…危ない!」

「危険察知は能力はまあ合格点って所だね。戦闘能力はどうみる?」

「私の私見でいいかしら?」

「というかシズカが一番見る目あると思うけどね」

「そう言ってもらえると嬉しいわアリサ。まあ、まだ希少スキルはまだ使ってないみたいだけど見た感じ力・技巧より速度に特化している感じね。身のこなしも基本が出来てるし、戦闘者としての勘も悪くないみたいね。後は…デミミノタウルスをどうするかって所かな?」

《金獅子》メンバーが和気藹々とミカエルの評価?をしている内にミカエルは再度デミミノタウルスをかわし、コボルトソルジャーを倒していた。そしてデミミノタウルスがミカエルと睨み合い、その後ろから《金獅子》のメンバーが挟みながら見ているような状況になった。

「……僕の切り札をお見せします! 全てを燃やし尽くす猛き炎神ヴァランよ、汝が加護を受けし児が請う! 全てを焼き尽くす焔の権能を我に貸し与え給え!! 炎剣発動!!」

「へぇあれが…」

「そう、あれが最も有名な希少スキルの一つ、炎神の加護。複数与えられる能力の一つ《炎剣》よ!」

「…? あれ? ミノタウルス系っていうと火炎系に耐性もってなかったっけ?」

「それはちょっとまずくない?」

「ほら、圧倒的じゃない! 何をいらない心配をしているの!?」

圧倒的な熱量を宿すその刀身をデミミノタウルスへと突きつけるミカエルを見ながらふと思い出したようにカイトが呟く。一瞬PT全員の視線がカイトに集まり一気にミカエルへと振り向く

そこには速度差を上手くつかい幾度も幾度もデミミノタウルスを斬り付ける。その圧倒的な手数をみて安心したような声を上げるアリスを横目にシズカが抜刀体勢をとる

「急所を上手く守ってやがるのか? いや、一撃が軽いのか!」

「…いや使っている剣が悪いんじゃない? まあはっきり言えば鋭さも打撃力も焼切るだけの火力もないから急所をまもられるとまずいわね。もう大体判断は出来たし私が刈るわ、反対は?」

「「ないね(わ)」」

アリス以外の二人が当たり前のようにシズカの質問に答え、その言葉が放たれた瞬間シズカの姿が掻き消え、デミミノタウルスの背後から一撃を入れる。…いや、その一撃は2連の斬撃であり、速度と武器の反りにより生み出された加速、その剃刀のような切れ味を最大限に引き出す技巧が合わさったそれはたやすくデミミノタウルスの両腕を肩の付け根で切り飛ばしデミミノタウルスが痛みを感じる前に放たれた三撃目がその首を跳ね飛ばした。

「試験はおわり、明後日の定例会議で総括するわ。今日は疲れてるでしょう? 早く帰って体を休めましょう」

そう氷のような美貌の東方の少女は常と変わらない態度で締めり、ミカエルは自分が致命傷を与えられなかった魔物を軽々と切り裂いた圧倒的な力量とその美しい立ち姿をぼんやりと眺め小さく頷いただった。









既に半分伝説とかした彼は現代の《英雄》であった。騎士爵の授爵を断りただ己の信念に従い冒険者として戦い続けるその姿を人は《自由騎士》とよび周囲の敬意を集めていた。

そんな《英雄》が何の脈絡も無くPTルームに現れた瞬間全ての音が消え、ミカエル以外の顔色が一気に青白くなる。

「フフッ、そんなに緊張しなくてもいいぞ? ただOBが後輩が頑張っているかを確認しにきただけだしな」

「ユリアン先輩、お久しぶりです」

「…今日はどのような御用事でしょうか?」

「俺の大事な後輩が頑張っているか確認しようと思ってね…」

アリスの顔が蒼白となっている横からカイトとスズカが恐る恐る確認をとる。

「まあ、その大事な後輩の確認はもう終わったから今からは後は不肖の後輩に一言言っておこうかと思ったんでね」

「………あ」

「俺に対して何も連絡無く俺が《指名》した男をPTから追放とはやってくれるよね? ここまで虚仮にされたのは初めてだよ」

口元を歪めながら冷たい瞳で彼らを見下しながら一言はなつ。

「ははっ、まあアイツはアイツで納得しているみたいだが、それじゃあ俺の気がすまないんでね。少しお前達に悪戯を仕掛けさせてもらったよ」

「…何を?」

「何俺の知り合いに今期の《金獅子》については特別扱いしてなくていいと言ってきただけさ」

「……《生徒会》? 《商工会》? まさか《教官室》って事はないですよね?」

「全部だね」

「…全部?」

「うん全部だ。それに《風紀委員会》と含め幾つかの組織に言っておいたから、直接的な危害はそうそうないと思うが今までのような待遇が続くとは思わない方がいいぞ?」

「今までってそんなに待遇よかったんですか?」

不思議そうにアリサが首を傾げる。カイトは蒼白を通り越し土気色の顔色となり、スズカは顔を顰める。

「つまり、今後の塔内での取得物売買、各種申請に時間がかかるってことですか!?」

「訓練施設の優先使用が出来ないってことですよね?」

「んー、それはどうだろうね? 俺はただ特別扱いをやめるように言っただけだから俺よりお前達との人脈の方が大事だと思ったんならお前達の方が優先されるだろうさ」

当たり前のようにそう言い捨てるユリアン。その言葉に絶望を感じるカイト&スズカ、自分達の名前も十分売れてはいるが目の前の最も新しい《英雄》に比べれば月とすっぽんというに相応しい差があり、当然その影響力にも差があったりする

まあ、たとえ卒業した後でもこのアークラインの大半はユリアンに弱みを握られている為、正直どれだけ《金獅子》を助ける人がいるかは不明だったりする。

正直、ユリアンからの報復があるとは予測していたが直接的な物ではなくこうも遠回しに手を回してくるのは予想外だった。

「俺からはただこれを伝えたかっただけだ。まあ、《金獅子》の名を汚さぬよう頑張ってくれよ」

そう言ってその身を翻し、出口へと歩いていく。そうして、最初から最後までアリスを完全に空気として扱ったままユリアンはその場を去り、部屋の中には重苦しい雰囲気のみが残っていった。











やっつけ9話orz




[8807] 9
Name: 63◆ce49c7d8 ID:d8d25ce5
Date: 2010/10/19 20:21
好事魔多し、月に叢雲は花に風

好い事には何かと邪魔が入りやすいという諺

修練生にとってこの言葉は常に頭の隅に置いておかなければいけない警句

迷宮においてどれほど順調に探索出来ても、どれほど敵を容易く倒せようともこの言葉を忘れた者から塔に喰われてしまう

そう、煉獄塔は少しでも隙を見せればその凶悪な牙を剥き立て襲い掛かってくる

たった一歩の歩みの差でトラップでなくなる者、紙一重の差で魔物の毒矢にあたる者

刻一刻と千変万化を続けるこの煉獄塔において警戒を怠る者から脱落していくのだから…





















《アークラインの煉獄塔》 第52階層  月齢:《三日月》⇒《上弦の月》

激しい足音を響かせながら一つの影が下層へと続く階段部屋に踊りこんでくる。その影は部屋の中に設置された転送装置の傍まで走りよると力尽きたかのように膝を突いた。

「はぁはぁ…ここまでくれば一安心か」

「…ジーク…さん無理…を……しないで…早く処置を…」

「…いくら……撤退するからって…クッ…あの数の魔物の中を…突破するなんて!」

「ツッ…仕方ないだろ、あのままだったら囲まれて終わりだったんだから」

魔獣の毛皮で出来た合皮の鎧には生々しい傷跡が残り、露出している肌には大きな火傷、頬には鋭利な刃物で切られたかのような傷跡から血が流れ出ている。だが、その両腕の中に抱きしめられた二人の少女はほぼ無傷、しかしながらジークに治癒魔術をかけようとする手は傷がある頬まで上げられず震えるのみであった

自分の体が自分の物でないような不思議な感覚と目の前で血塗れになりながらも自分を守ってくれている男を癒す事さえ出来ない焦燥感に苛まれながら必死に声をかける

目標達成まであと一踏ん張りという時点でこんな事態になってしまった原因は51階層から出現し始めた昆虫系モンスターであった。昆虫系モンスターとはキラーアント属を初めとする金属鎧にも匹敵する強固な外骨格と自身の数倍の重さの物を持ち上げる強靭な筋力を持ち、さらに種類によっては麻痺・毒・睡眠等のバッドステータスを与えてくる戦士系修練生の天敵であった。もっとも昆虫系モンスターは魔力攻撃に弱く、精霊魔法・神聖魔法が使えるPTであればさほど梃子摺る事はないモンスターである。

だが困ったことに《紅銀狼》の構成員は三人が三人とも戦士系修練生であり、ノルンが一応火系の攻撃魔法を少し習得しているのみで、ルナは回復補助系の魔法のみ、ジークに至っては論外であった。

今回の失態では後方からの奇襲によって機先をとられ、まずルナが運悪く麻痺で行動不能、ついでノルンも詠唱の隙をつかれ麻痺してしまい二人を守りながらジークが戦闘を続けるも続々と魔物が集まってきているのを確認し、最終手段として二人を抱え撤退に移ったのであった

「そんな事より早く治療をしないと…私の腰のポーチに回復系ポーションを入れてありますから、早く使ってください!」

「…すまん、貰うぞ」

「いいから早く飲んで! 手遅れになったら後遺症が残るんだよ!?」

「……今までの経験からみてもまだ余裕はあるから大丈夫だ」

顔を蒼くしている二人の横で悠々とポーションを出して飲み干す。取り出す際にルナの身体の微妙な部分触れてしまい動揺して手を戻してしまうというトラブルがあったが、即ルナとノルンから「そんな事より早く回復しなさい」と異口同音にお叱りを受けて飲み干した。勿論、対麻痺毒のポーションも用意してあったので二人に口にポーションの瓶の口を突っ込んでおいた

しばらくするとジークの流血が止まり瘡蓋が出来はじめ火傷の痕もうっすらと新しい皮膚に覆われ始める。それとほぼ同時に麻痺していた二人も快復し顔をつき合わせて今後の相談を始める

「とりあえず今日はこの辺で帰ろう。俺の装備もオシャカになったし、全員の疲労もたまっているからな」

「それには賛成ですが、今後の事はどうしましょう?」

「今のままじゃ探索を続けるのは正直厳しいですよね…」

そういって難しい顔をするルナ。期限が迫ってきている中で一階でも早く上層を目指したい気持ちと今回のように一歩間違えれば全滅しかねない状況に対する恐怖の板ばさみになっているのだった。ノルンも同じように眉間に皺をよせて難しい表情をしていたが、ジークの顔を見て首を傾げる

「ジークさん、どうしたんですかそんな嫌な顔をして?」

「……いや、少しな。まあ今後の対策も考えるのに時間も必要だろ? 今日は一旦外に出て解散して、明日の講義はサボって対策会議をしよう」

「え? 講義でなくてもいいんですか!」

「こら、ノルン! そんな事で喜ばないの!」

「ハハハ、まあ明日の講師は寛容な人ばっかりだし普段から出席してるから今日中に《教官室》に申請をだしておけば問題ないだろうさ。まあ、何回も使える手じゃないから最後まで残して置きたかったんだがなぁ。まあ仕方ないさ、それより帰るぞ」

「あ、待ってくださいよ」

「こら、ノルン逃げないの!」

講義を合法的にサボれると聞いて喜ぶノルンに教育ママも顔負けの説教を始めるルナ。さっきまで死に掛けていた三人とは思えない切り替えの早さであったが、そういった切り替えが出来るのも一流の《冒険者》になる為の素質の一つであるのだった

そうやってじゃれ合いながら三人は転送機へと入り、《煉獄塔》から出て行ったのであった













翌日 アークライン特殊探索者養成学園 拠点棟内PTルーム 月齢:《三日月》⇒《上弦の月》

先日まで家具も何もない殺風景な部屋だったその部屋は見違えるように美しく変わっていた。部屋の壁にはクリーム色の壁紙と新たなタイルが貼られ、窓にも外からの視線避けレースカーテンと遮光カーテンの二枚が備え付けれている。また壁際には装備が架けられる特殊なマネキンと整備用の道具、道具を保管する為の《シュレディンガーボックス》もしっかりと備え付けられている。

しかしそれら以上に目を引くのは部屋とは不釣合いな中央のテーブルであった。一見ただの円形テーブルにみえるそのテーブルには精緻の極みと呼ばれるに相応しい細かな意匠が彫りこまれ、さらには所々には金や銀の螺鈿が施されている見るからに逸品といわんばかりの物であった。

そんな机に両肘を付き頭をかかえながらブツブツ呟いているジークを部屋に入ってきた二人が不思議そうに見る

「……どうしたの?」

「あの、ジークさん?」

「いや、ちょっと悩み事がな…」

ジークには珍しい明らかな困った様子にルナとノルンは顔を見合わせる

「まあ、座れ。《煉獄塔》攻略について絡んでくる事で相談したい事がある。」 

「はぁ、今日は今後の相談だって昨日いってましたが、何かあるんでしょうか?」

「それも一緒に説明するさ。とりあえず、飲み物入れてくるわ」

「あ、ならミルクたっぷりの紅茶でお願いします! お菓子はクッキー焼いてきたので一緒に食べましょう!」

「はは、了解。ミルクと蜂蜜たっぷり入れておくさ」

「もう、ノルン!」

そう言ってPTルーム入ってすぐに設置された炊事場とその横の戸棚から紅茶のセットを用意し手馴れた動作で淹れていく。その手つきは飲食店でバイトをしているからか全く淀みなかった。それぞれの前に紅茶が、テーブルの中央に白磁の皿に盛られたクッキーが置かれ今後の相談がはじまったのだった。

「さて、それじゃあ《紅銀狼》の会議を始めよう。まずは、51階層以降の探索、特に昆虫系モンスター対策についてだな。一晩時間があったが何か良い案でも思いついたか?」

「はい! 二人が火魔法を覚えればいいと思います!」

「却下だ」「却下です」

「えーなんでよー」

「まず俺は魔法系の才能が全くない! 魔力は人並みぐらいにはあるんだがそれを上手く変換できないし、各精霊との相性も最悪なんだよ。一時期魔法覚えようと思って専門の講師について学んだが全く意味がなかったな」

「加護神様の影響で私は火精霊魔法とは相性が悪いですし、今から学んでも付け焼刃過ぎて役に立たずに期限がきちゃうわよ。時間があるなら相性が良さそうな闇や氷の精霊魔法を覚えてもよかったんですが…」

ノルンの案を即答で却下する二人。不満顔でぶーぶー言うノルンに向かいジークは爽やかな笑顔―目は笑ってないが―で自分の才能の無さを暴露し、ルナは残念そうな顔で否定する。

「じゃあルナとジークは何かあるの?」

「えっとじゃあ私からの提案ですが、魔法の品には魔法と同じ効果を引き出すアイテムがあると聞きました。それを商業棟で買えば良いんじゃないかと…」

「足りないから持ってくる案か…ふむ、考慮に値する案だな。おっと、最後は俺の番か。俺の案はルナの案によく似てるんだがアイテムじゃなくて新しいPTメンバーを探さないか?」

「新メンバーですか!?」

「ああ、はっきり言って3人だと純粋に手が足りてない。例えば、昨日の件であればあと一人いれば俺が粘っている間に対麻痺毒ポーション飲ませれば問題なかっただろうし、それ以前の話で索敵が上手い修練生がいれば奇襲を受けることさえなかっただろうしな」

「でもこの時期から参加してくれる修練生っているのかな?」

「そうね。それにもしいたとしても本当に役に立つかどうか分からないしね?」

「まあな。この時期に別PTからの引抜じゃなくて新規参加メンバーとなると問題児の可能性が高いな。誰でも良いってなら何人か当てがあるが、依頼にあった条件で考えると厳しいな」

「んーここで考え込んでても何も変わらないしさ、さっきの二案とも試してみない?」

「と、いうと?」

「だってさ、せっかく自由な時間とったのにこのままじゃもったいないでしょ? だったらマジックアイテムを探すなり、新しい人員探すなりしてみれば良いんじゃないかなって思ってね?」

紅茶を一気に飲み干すと急に椅子から立ち上がり、二人に対して提案するノルンに初めは疑問顔だった二人もその前向きな態度に苦笑しながらも頷き返す。

「ふふ、ノルンらしいわね。いいわ、私も今から行動するに賛成するわ」

「だなぁ…ここで悩んでいても変わらないしな。全く俺も消極的になりすぎてたかな?」

「PTリーダーだから石橋を叩いて渡るぐらいの気持ちでいいんじゃないですか? 消極的になり過ぎてたら私達が色んな提案していきますしね!」

「はははっ、ありがとうな。しかしノルンに慰められる日がくるとはなぁ…」

「あーその言い方ひどい!」

「ふふふ、二人ともそんな事で喧嘩しないで。それより向かう場所は商業棟でいいんですか?」

じゃれあうジークとノルンの横目に笑顔でいるルナが向かう場所の確認とティーセットの片づけを始める。一緒にいる時間が長い為忘れてしまいそうになるが国内でも最大級の土地持ち貴族にして最上級の家柄出身のお嬢様にしては家事万能というスキルをもってるいるルナをジークは不思議そうに見つめる

「…そんなにこっちを見ないで下さい」

「いや、何と言うか、家庭的でいいなぁと…痛い」

「ふーんだどうせ私は子供っぽいですよ!」

「まったく、そういう意味で言ったんじゃないぞ。っと、目的地だが商業棟でいいぞ、その後に《生徒会》によって現在スカウト出来る人の名簿を見せてもらえばいいんじゃないかと」

「分かりました。ほら、ノルン拗ねてないで行きましょう」

「ジークなんて置いていっちゃうもんね!」

「こら、人の脛を蹴っといてそれかよ。まったく、初対面の頃の毅然とした態度は何処へ行ったのやら」

「ふふ、こっちがノルンの素の姿ですよ。ジークさんにそれだけ懐いたって事なんですから喜んで下さい」

「ほら、ルナ置いてくよ~」

既にPTルームから出て廊下を走っていっているノルンがルナを呼ぶ。その声に顔を見合わせ、何故か同時に笑顔を浮かべて頷くと戸締りと防犯装置を作動させノルンの背中を追っていく二人。その二人の背中は重苦しい雰囲気はなくいつもと同じ自然体で、いつもよりも少し距離が近かかった

















あとがき

前回sage更新してみたが結構早くに発見されてて本気でびびった作者です。

久しぶりに感想欄みたら大量に感想が増えてたので投稿してみました。ええ、何か久々すぎて話が全然違う方向にのびてしまった

ような気もしないでもない。

まあ、違和感があったら反省します。後、更新が遅いとか投稿が遅いとか色々反省点はあります。

だが、私は謝らない(キリッ



































PS.だが、私は(ryをやりたかっただけなのは秘密



[8807] 10
Name: 63◆ce49c7d8 ID:d8d25ce5
Date: 2010/11/06 14:43
商業棟

そこはある意味で最も学園都市らしく、そしてもっとも学園都市からかけ離れた空間

外部の人間が学園内に入り込めるほぼ唯一の空間であり、そうであるが故に常に人で溢れ活気に満ちた学び舎

そこで販売されている物は《煉獄塔》で奪取された装備、道具、素材だけではなく

それらから街の住人によって作り出された薬品、魔法具、改良装備等の多種多様な―雑多という方が適正な―品物

この棟内で行われる売買は基本的に『自己責任』であり騙した方が悪いよりも騙された方が悪いとなる

が、下手な事をすれば一晩もかからず悪評が学内及び街全体に駆け巡り風評で店をたたまざる終えなくなるという一面もある

そして極々稀な例だが、周囲の手に余るほど悪質であれば《商工会》から適切な処置が行われる……

この棟と《商工会》とはアークライン特殊探索者養成学園内にありながらある意味で独立した組織となっているのだった



















アークライン特殊探索者養成学園 商業棟前

そこは学び舎というよりも関所や城壁と呼ぶに相応しいつくりの施設であった。レンガが高さ7~8m奥行き5mほどのレンガ造りの壁が見える限りずっと続き、レンガ部分の上に人が住んでいるおぼしき簡素な建物が並んでいる。その建物は一切の窓が無く建物というよりもレンガと続いた壁のように遠目からは見えていた

「ここが商業棟だ。二人は入った事はあるか?」

「私はまだです。ノルンは?」

「ずっと一緒にいるのに私だけ入れる訳ないよ、ルナ」

「それもそうね」

「了解、二人ともこの中は《学園》とは別世界……そうだな《煉獄塔》と同じくらい危険な場所だと思って行動してくれ。ある意味ではこのアークラインで一番の危険地帯だから、そこら辺の露天で簡単に物を買わないように!」

「大げさだねぇ」

「……そんなノルンに少し小話をしてやろう。2792、これが何の数字か分かるか?」

「え? え? んーPTの数?」

「残念、この数はこの商業棟関連でアークラインを去らなければならなくなった修練生の数だ。一番多い理由は異性に貢いで学費が払えなくなった馬鹿。ついで詐欺で学費がなくなった阿呆。三番目がここでの取引で失敗してアークラインで暮らせなくなった外道だな」

「そんなにいるんですか?」

「そんなにいるんだ。ついで言うがこれは今年だけの数だからな!」

「今年だけで!? うわー……」

ジークの小話に聞き入っていた二人はその数を聞いて顔を見合わせる。そう簡単に自分達が詐欺にあったり貢いだりする事はないだろうとおもっているが、そんな人数がこの街で失敗を犯して逃げていくと聞いて驚愕の表情を隠せないようだった

「はは、脅かしすぎたか? まあこの中にある店でアークライン学園の校章を掲げている店では安心して買い物してくれてもいいぞ。そういった店舗の売買代金がだいたい現在の平均的な価格とみていいし、学園と《商工会》の公認店って証明だから変な商売は出来ないからな」

「そうですよね! 危ない店ばっかりじゃないですよね!」

「もう、怖がらせないでよー」

「ははは、まあさっきの例は本当だから気を抜きすぎないようにな。もっとも今日の目的地じゃあそんな店が集まる危険区域は通らないから、大きなバザーだと思って面白い物があれば買ってみればいいさ」

「ちょっと楽しみになってきました」

「ほんとだよね! 私達ってバザーは見た事はあるけど参加したことがないからじっくり見てまわりたいね」

「まあ《生徒会》の手が空く夕方近くまでは時間があるから中に入ってからゆっくり見ていけばいいさ」

そう言って壁のど真ん中にある大きな門へと歩み寄る。門自体は金属製で見るからに重厚なつくりなのだが、何故か学園側にカンヌキが設置されている。どうやらこの施設も学園創設以前の物らしく無駄に頑丈なつくりになっているようであった

「…近くで見ると中々凄いですね」

「まぁな。先輩によるとこの壁は《煉獄塔》封鎖時代に塔の周りをぐるっと囲んでいたものを改修して作ったらしいぜ。元々が対魔物用だから馬鹿みたいに頑丈で大戦争時代にこの《煉獄塔》の占拠目的で襲ってきた軍が門も壁も壊せずに逃げていったらしいからな。まあ逃げた理由は壊せないからじゃなくて、沸いて出た魔物に兵を喰われたかららしいけどな」

「今では考えられないことですよね」

「だな。その頃の資料は学園にもほとんど残ってないがそりゃあ悲惨な戦場だったらしいぞ、ここ。今でいう50階層ぐらいまでのモンスターが各エリアのボスに引き連れられて襲いかかってくるんだぜ? しかも対魔物戦術は殆ど構築されて無いし、モンスターのデータもなし、さらに使える装備は粗悪な鉄製の装備だけ……そりゃあ地獄とか煉獄って呼ばれるようにもなるさ」

「そんな昔話はいいから、早くいきましょ!」

「へいへい、全くせっかく雑学を披露したのになぁ…」

そう言ってノルンを先頭に門番が開けた扉へと入っていく三人。両側をレンガ造りの高い壁と壁の間を歩き門をぬけた其処には一つの町が存在していた。金属を鍛える甲高い音や何かの爆発音、各所から上がる細い煙と美味しそうな匂い、周囲をぐるりと囲む壁とその上の建築物によって遮られたここがアークラインにおいて《煉獄塔》の恵みを最も受けた土地《商業棟》であった。

はっきり言って場所はそれほど大きくないにもかかわらず人の賑わいが凄まじく、今も大通りには普通に歩けば肩がぶつかり合うほどの人が行きかい、小さいながらも馬車さえ行きかっていた

「ここが《商業棟》…《煉獄塔》の希少な資源が唯一外界とやりとりされる場所だな。知ってるかもしれんがここで商うことが許されているのは《生徒会》《教官室》《商工会》の三者が許可をだした者のみ、まあ一定以上の成績をとっている修練生ならば結構簡単に商売は許されるけどな。まあ興味本位で手を出してPT潰した奴もいるくらいだからあんまりオススメはできんな」

「すごい…王都の市場にも負けないぐらいの活気があるよね、ここ」

「ええ、学園内にこんな場所があるなんて…」

「ははっ、学内での物は購買で売買した方が楽だし安定してるからここにわざわざ入って商売する奴らは少ないぜ? それにここで商売するにはそれなりの成績と実績が求められるからなぁ…」

そう言って大通りを歩く三人。その周囲を雑多な服装の人々が行きかい、呼び文句が周囲に響き渡る。何処向いてものぼりや露天商と売買している人しかいない程活気と欲望が熱気をはらみ渦巻いていた。

両側に露天が立ち並ぶ大通りを抜けるとそこには中央に巨大な漆黒のモニュメントがある大きな広場についた。その広場からは今通ってきた通りを含め4本の大き目の通りが十字を描くかのごとく伸びている。また、それぞれの通りからも碁盤の目状になるかのごとく比較的小さな通りが張り巡らされていた。この商業棟を真上から見ることが出来るのならばこの広場を中心に通りが張り巡らされいることが分かるだろう

「さてさて、ここが今回の目的地、その名も商業棟中央広場―通称モニュメント広場って所だ。ここの広場に面している店は全て校章を掲げている店でな、この広場内ではお馬鹿な商売はしないっていう暗黙の了解があるんだ」

「…通称は中央広場いいんじゃないの?」

「突っ込むところはそこかよ。ったく、つまりだこの広場なら安全に買い物出来るんって事だ。二人はバザーとか露天とか来たこと無いんだろ? 試しに行って来い」

「あのジークさんはどうするんですか?」

「昔馴染みの店を幾つか周ってきて良い物があればキープしてくるつもりだ。その最終判断は二人にも手伝ってもらおうと思っているよ」

「でも、ジークさん一人に任せるのは…」

周囲の露天を無言のままキラキラした目で見回してるノルンと迷ってはいるがチラチラと露天を見ているルナ。そんな二人を微笑ましそうに見ているジークだったが、自分も初めてユリアン先輩に連れられて商業棟に来た時はもっと酷かった事を思い出してしまい顔を真っ赤にしてしまう。そんなジークの仕草を不思議そうにみるルナ…もっともノルンはそれ所ではない様子だが。周囲の人も三者三様の行動をとる絶世の美女二人と野獣一人に不思議そうな視線を送ってしまう。だがジークを知っているらしき数人の商人は頬を引きつらせてすぐに視線を逸らしていったが…

「どうしたんですか?」

「いや、俺が初めてここに来た時のことを思いだしただけだ。今思うと恥ずかしいが、それ以上に純粋だったなぁと思ってな」

「あの、純粋とは?」

「私達が世間知らずって言いたいんですか?」

「いやいやそうじゃない。ただ二人はそのままでいて欲しいなと思っただけだ。つまり、何と言うか…俺みたいに世俗の垢にまみれず、純粋にここを楽しんでいられる心を持って欲しいなぁ、とな。俺の精神衛生上それが一番癒されるんだ」

切実な表情で二人にしみじみと話しかけるジークに頬を引きつらせる二人。その表情に対してどう対応すればいいのか分からず顔を見合わせて互いにジークに話しかけろと目で牽制しあう。そんな二人に気づかないままジークはしみじみと頷きながら二人に対して語りかけてくる

「まあ、そんな感じだから二人を馬鹿にしたって訳じゃないよ。それじゃあ俺は店を回ってくる…二人ともこの広場内にいてくれよ? 下手に動かれると探せなくなっちまうからな…」

「え? あ、はい」

「う、うん分かった」

「じゃあ行って来る。1時間ぐらいで終わると思うからな」

そう言って二人に背を向け広場にある一番大きな建物に向かって歩き出した。その背中には《ぺナーテスの法袋》が風にあおられゆらゆらと揺れており滑稽だがどこか寂寥感をもかもし出していた。そんな背中を見送りながらルナとノルンは引きつった頬を互いに一度抓り、強制的に気を取り直し微笑みあう。そして一度うなずくとどちらからともなく広場の露天目掛けて歩き出していったのだった。勿論そんな二人をナンパ目的らしき男どもが見逃すはずもなく、撒き餌にくらい付く魚群の如くいっせいに群がっていったのだった。









アークライン特殊探索者養成学園 商業棟 商業棟中央広場北側 オークションハウス《千年の天秤》

その建物の豪奢な扉の脇には屈強な門番が二人並び、周囲を常に伺いながら入場者のチェックを行っていた。周囲では露天でのバザーが行われているのにその一区画のみは全く別の雰囲気をかもしだした。もっともそれの雰囲気さえジークには慣れたもので何のためらいもなく扉へと入ろうとする。

「お待ち下さい! 入館するには招待状かメンバーズカードを提出して頂きます!」

「えっと、俺も必要なのかい?」

「勿論です」

「んー、ジークフリート=フォートレスが来たって言ってもかな?」

「…関係ございません」

そう無表情で断言する門番。その顔を見ながら困ったように頭を掻くジーク

「とりあえず俺の名前を支配人に言ってくれないか?」

「しつこいですね。はっきり言いましょう、ここはオマエみたいな貧乏人が来る様な場所じゃないんだよ! うせろ!!」

「ほうほう、貧乏人ねぇ…まあ否定できないが、ここは修練生なら入館制限なかった筈だがな」

「しつこい! オマエのような貧乏人が入れる格の商館ではない。だいたいオマエみたいな奴が修練生かも怪しいしな。どうせロクな仲間も持たないドロップアウト組みだろ! これ以上手間をかけさせるなら実力行使で排除するぞ!?」

そう言って手に持ったハルバートを構えジークへと突きつける門番。左側にいる門番も同じようにハルバートをジークにへと向ける。その行動に貧乏人と罵倒されても微笑みさえ浮かべていたジークが目を細め睨むような顔になっていく。その表情のまま目の前にあるハルバートの穂先と門番を交互に見た後、《煉獄塔》での戦闘指揮をとっている時と同じ硬質な声で周囲にも聞こえる声で宣言する

「アークライン学園第57期修練生ジークフリート=フォートレス、修練生規約に従い自己防衛の為戦闘を行う! 異議があるならばこの地の管理団体《商工会》及び修練生上位団体《生徒会》へと届出よ! またこの戦いにおける怪我・補償に関する一切の責任は免除される事もここに合わせて宣言する!!」

「なっ…」

「おい、あれ見ろよ!?」

「喧嘩か? 武器持ち対素手かよ…」

声量は大きく無いがよく通るその声に引かれるように周囲の視線がジークへと集まる。その大半は野次馬目的であったが向かい合ってる三人を見た瞬間、つまらなそうな顔をする。それはそうだろう、完全武装の一流商店の門番―基本的に冒険者崩れが多い―2名対素手の修練生、装備も経験も差がありすぎるように見えるからだ。だが、次の瞬間彼らの目は驚愕で見開かれることになった。

「とりあえず飛べ」

「うわ…あ…」

「ありえないだろ、あれ」

流れるような足捌きで右門番が突きつけているハルバートの内側に滑り込み左手を支点、右手を力点、さらに足払いとその際の体重移動を利用し門番を投げ飛ばしたのだった。フルプレートではないとはいえ金属のチェインメイルと兜を装備した成人男子が軽々と浮き上がり野次馬のいる方向はへと飛んでいく。落下点にいる野次馬はあわててその場を飛びのきそのあおりを受けて転倒する者もでた。

そんな阿鼻叫喚を前に左門番はその役目を果たすべくそのハルバート振るいジークへと襲い掛かる。が、動揺が出ているようなハルバートの一撃をくらうようなジークではなく当たり前の如く回避する

「オマエも一応飛んどけ?」

「うわわわ」

大ぶりな振り下ろしの一撃を再度懐へ入り込み柄の部分を左手受け止めながら今度は上体が泳いだ左門番の肩口を右手でつかみ今度は横に投げ飛ばす。勿論その着地点には落下の衝撃で転げまわる右門番がおり、門番二人は見事に衝突し痛みから気絶へと逃避していった

「まったく手間かけさせんなよ。アンタもそう思わないか、トーマス?」

「……ハハハ、随分とご機嫌斜めなご様子ですが」

「ハァ? 教育されてない門番さんのせいで俺のご機嫌も急降下に決まってるだろ。つーかよ、《千年の天秤》程の規模の商会が仮にも《商工会》監査委員の名前を門番に伝えてないってのどういう事だ? ん? 俺が《金獅子》抜けたからって監査委員である事は変わりないし、権限もある。あんまり調子に乗ってると裏帳簿暴露して商会潰すぞ?」

「ハハ、これは失礼致しました。どうかお怒りをおさめくださいませんか」

何時の間にか開いた扉の向こうに姿を現した恰幅のいい中年の男性に《紅銀狼》の二人には見せたことも無い表情と口調で脅しをかけるジーク。基本的に事なかれ主義であるジークではあるが初対面の冒険者崩れの門番に自分だけではなく仲間まで罵倒され事で悪童だった頃の口調がでてきていた。

その迫力は百戦錬磨の商会の主であるトーマスでさえ及び腰になるものあり、さらに厄介なのが怒ってはいるが己の権力・権限・商会の弱点を最大限に活用してくる冷静さを忘れず保っている点であった。

「……まあいい。それより中に入らせてもらうぞ? 嫌とは言うまいな?」

「はい、ありがとうございます。どうぞこちらへ」

まるで主に仕える使用人の如く恭しくジークを案内するトーマスであったが、近くに居た使用人を呼ぶと小声で入り口で伸びている二人を回収にしておくように言いつけ、忌々しそうに門番二人を睨み付ける

そして憂鬱そうにため息をつくとゆっくりと女中に案内されて奥へと消えていく大きな背中を追っていく。その胸中に今まで見た事も無いほどの怒りを顕にしたジークへの恐怖を浮かべながら…





















後書き

業者か荒らしか知らんがメンドイのがいるのでイライラして書いた。

反省はしているが、後悔はしていない。

管理人の舞様、お忙しいところ対応お疲れ様でした。






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