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[8004] 転生生徒 裕也(現実?→ネギま) 習作
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/10/22 23:38
・処女作です

・ネギまでオリ主物です

・原作とは色々ずれていきます

・原作の設定と誤差が生じてるかもしれせん

・ハーレムにはなりません、というか出来ません

・ネギまなのにオリ主が魔法を使わないかもしれません

・なので最強にはなれないかもしれません

・ラブひなも混ざるかも…

・携帯で投稿してからパソコンで編集するので少々見づらい状態の時があります

・以上のことを踏まえて読んで下さるのならどうぞ



[8004] 転生生徒 裕也 プロローグ
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/09/28 21:38
いつだっただろうか
この生が『二回目』なのだと思い始めたのは…


転生生徒 裕也
プロローグ

麻帆良大学工学部の研究室に彼はいた。
白衣を着た、黒髪黒目の青年

沙霧 裕也

まだ、大学一年の彼が大学の研究室を任される程の知識があるのには理由がある。
それは彼が俗に言う『前世の知識』というものを持つ人間だからである。

『前世の知識』といっても名前などを全て覚えているのではなくて思い出せると言った方が正しいかもしれない。


彼は幼稚園の頃は物知りな子として両親を含め大人からは誉められた。
この頃は『前世の知識』だとは知らなかったが思い出すのが楽しかった。

小学校には受験をして麻帆良に入学した。
理由は両親からはなぜか強く勧められたからというのと、麻帆良という世界的に大きな都市に関しては何も思い出せなかったから興味を惹かれたからだ。

中等部への進級を目前にした頃から両親と連絡をとれなくなった。
調べてもらったら、夜逃げしたとの事…
闇金などからではなく私から逃げたかったらしい。

この頃から裕也は家族というモノを欲していた。
当時の私はその事に相当追い詰められていたのだろう。
『前世の知識』を用いて人のようなロボットを作ろうなどと思ってしまったのだから…

中等部に進級してからは図書館島に通い詰めた。
『前世の記憶』から思い出せる知識ではどうしても足りない部分が出てきてしまったので、それを補う為に知識がさらに必要だったからだ。
知識の補完を終えるのに一年を全て使ってしまったが…

二年になってからは麻帆良大学の工学部でガイノイドのプロジェクトを立ち上げた教授の研究室に入り浸った。
定年退職間際の教授だったため人気は無く実質一人のプロジェクトだったが…
人手不足にほぼ毎日来るとあって、手伝いを頼まれるのに時間は掛からなかった。
見返りとしては本などからのでは得られない現場の知識という収穫があった。

高等部に進級すると同時にガイノイドのプロジェクトを一任された。
んな無茶な、と言ってはみたが既に学園長からの許可は取ったと言われてしまい何も出来なくなってしまった。
両親が居ない裕也が学園に居られるのは奨学金など学園側からの援助があるからでそのトップとなると反論なんて出来るわけもなく…

そして高等部に進級し、研究を一人で進めようとしている時にとある少女が研究室の扉を叩いてきた…

その少女は超 鈴音と名乗る初等部四年の生徒だった。

その名と噂は少なからず聞いたことがあった。
曰わく、「麻帆良の最強頭脳」少なくとも普通の初等部の生徒には与えられないような物ばかりだったが…


超 鈴音は挨拶もそこそこに本題を切り出してきた。
「ここに来た理由は…『とある研究』をするための場所を探しているネ」

「『とある研究』…ねぇ…少なくともこの部屋を明け渡せって言うならどんな条件でも断るぞ」
裕也は大人気ないと思いながらも先に釘を打っておく。

それを気にするでもなく超 鈴音は話を進めていく。
「私がしようとしている研究はアナタの進めている研究にとても有益な物ネ…。いや、アナタの目的に…と言った方が正しいかもしれないヨ」
一拍置いてから

人のようなロボットを造るという目的にネ

と言い切った。

誰にも話した事の無い目的を言い当てられ惚けている裕也に彼女は手を伸ばしてきた。
「今ここで私の手をとるかどうか答えてはくれないカナ?」

先程の発言を大人気ないと思っていたが、見当違いもいいところだった…
現実に超は裕也よりも何枚も上手なのだから。


結局、裕也は超 鈴音の手をとるという選択肢を選んだ。
いや…選ぶしかなかったと言うべきかもしれないが。

だが、此処に至った事で裕也は彼女にこの質問をする権利を得た。
「ところで…超 鈴音、君がしたい研究で私の目的に有益になると言う『とある研究』というのは何なんだい?」

その問いに対して超 鈴音はその幼い容姿に似合わないほどに人の悪い笑顔で
「私の研究…それは『魔法と科学のハイブリッド』ネ」
と笑顔のままだが、真剣な眼差しで答えた。


この後に超はそさくさと帰っていった。

今回の来訪の目的は交渉だけだったようで、帰り際に
「フルネームは長いから超でいいヨ」
との言葉を残して研究室から去っていった。

超が帰った後に何か酷くややこしい事に巻き込まれそうな予感という妙に細かい予感に襲われて研究が全く手につかなかったのは余談である。


そしてこの時から沙霧 裕也は『前世の知識』も生まれてから培ってきた常識も全く通じないであろうこの世界の裏側に足を踏み入れてしまったのだろう…



[8004] 転生生徒 裕也 第一話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/09/28 21:39


転生生徒 裕也
第一話

超は手を組んだ次の日から裕也のように研究室で生活をするようになった。

「そんな事をしても大丈夫なのか?」
と裕也が聞くと

「大丈夫、大丈夫。私もアナタと同じような『特例』ネ」
超はあっさりと答えてきた。

(私が気にしているのは世間体の方なのだが…)
裕也は引きつった笑みを浮かべながら思っていたが言葉にすることは無かった。


『特例』とは麻帆良に時々現れる天才と呼ぶに相応しい存在の才能の芽を摘み取ってしまわないようにしようという麻帆良独自の条例のようなモノであるが、ここでは細かいことは割愛させてもらう。

因みに、裕也が高等部に在籍しているにも関わらず、研究室を与えられプロジェクトを動かせているのもコレのおかげである。


この様な成り行きで裕也と超の奇妙な共同生活が始まった。
…断じて同棲ではない。

共同生活と言っても高校生と小学生のだから、色っぽい事など皆無で始めの内はほぼ一日中研究に関する会話ばかりだが…
この時はお互いに掴みかねている距離を誤魔化すための会話のネタだったのかもしれない。

しかし、裕也が超に起動を目前としたガイノイドの設計図と素体を見せたら一気に距離が近づいた。
というか…怒られていた。


見苦しいため会話のみでお送りします。

「なっ…どうしてロケットパンチが搭載されてないネっ!?」

「いや…戦闘は想定外だ」

「戦闘なんて二の次ネ。ロケットパンチは科学者のロマンヨ」

「生憎、その様なロマンは持ち合わせていないのだが…」

「嘆かわしいっ…裕也も小さい頃はスー○ー戦隊などの日曜日のスーパーヒーロータイムを見ていた事があるはずネ。そのロボット達や重厚ビー○ァイターに心惹かれたのではないのカっ」

「…すまないが、見ていなかった」

「………………」

「ちゃ…超?」

「このボケナスがあああぁああぁあぁ!!!!」

「なっ…」

「お前はわかってない!!わかってない!!!!」

「はぁ…」

「そもそも銃器にはロマンがない!!!ロボットに銃器を搭載できなくてもロケットパンチは搭載しろ!!例えスー○ー戦隊の人数が五人から減ろうとも!!絶対絶対これは科学者のロマンの鉄則だああぁあ!!!」

「お、おい…」

「いいかよく聞けモンキー。食玩とロボットの違いは何か。そう、ロケットパンチの有無だ。つまりロボットはロケットパンチがあって初めてロボットなのだよ!!!それを搭載してないなんてコレはロボットではない。食玩だあああぁ!!!つくった貴様を矯正するッ!!歯を食いしばれええぇええぇえ!!!」

「い、痛っ。手当たり次第に工具を投げるなっ」

「先ほどロケットパンチを引き合いに出したな。ここに『ロボット武装カタログ』があったとする。ロボットの武装と一言に言ってもその裾野は広すぎる。それについて今の貴様に講義することは魔法少女に熱血バトルアクションをさせることより困難この上極まりない!!だからここでは最も普及していると思われるガオ○イガーで説明する事とする!!!!ガオガ○ガーの三要素とは何か!!答えてみろ!!そうだな、合体、ロケットパンチ、ドリルだろう。なおガオ○イガーかスターガ○ガイガーかは個人の趣味とする!!どうだ、これだけで甘美な響きが……」

この後30分ほど続いた…


正気…もしくは猫を被り直した超は
「知識も技術も問題ないネ。寧ろこの分野だけなら私以上かもしれないガ…裕也には致命的にロマンが足りないヨ」
と至極真剣に話しながらビデオが大量に入ったダンボールを渡してきた。

「何だ…コレは?」
裕也は一応受け取りながら聞いてみる。

超は満面の笑みを浮かべつつ
「ガン○ムはOVA諸々含めて宇宙世紀全てと勇者シリーズも入れといたネ」

裕也が唖然としていると超は更に続け。
「私と一緒に研究していくならこれ位の知識は必要ネ。まあ…必要最低限の分しか入れてないガ」
と普通なら乗らないような挑発をしてきた。

だが、その時の裕也は残念ながら普通の状態ではなかった。
先のアニメや特撮のロボットについての熱弁(超が言うには固有結界)のせいで、徹夜明けのような妙なテンションになっており…
「最低限…だと?私を甘く見るなよ、超 鈴音。貴様が貯蔵しているビデオ全て持ってこい。悉く見きって私に無いというロマンを手に入れて見せよう!」
などと宣言してしまった。

その後はアニメ・特撮限定耐久マラソン視聴会の始まりだった…

その合間に魔法の存在についても説明を聞く予定だったのだが…
超の考えている「魔法と科学のハイブリッド」やその時に見ていたアニメや特撮のロボットをどうやったら実現性出来るかなどの方に話が逸れてしまった。
結局、研究に必要な範囲の事と、言い触らしてはならないという事位しか魔法については知れなかった。

二人で研究を進めていたある日

超が自称・吸血鬼の真祖を名乗る少女を連れてきた。
彼女が本格的に裕也をこの世界の裏側に引きずり込む存在だとはこの時は裕也自身考えもしなかった。




あとがき
お初にお目にかかります、TYです。
感想を受けてこれではダメだと書き直してしまいました。

感想レス
ヘタレ様
率直な感想ありがとうございます。
これからの展開でも感想にある内容を使わせて貰うかもしれないですがよろしいでしょうか?

青空様
一応、転生の設定を生かせるように考えてはいるのですがそこまでたどり着けるかどうか…ネギもまだ来てないのに…
が…頑張ります。

Explore様
期待を裏切らないように頑張らせていただきます。
俺、佐藤裕也(`ェ´)ピャーですが…知ってはいましたが、言われるまで思い出せませんでした



[8004] 転生生徒 裕也 第二話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/09/28 21:40


転生生徒 裕也
第二話

裕也は今、超が連れてきた少女と向き合っている。
最初の内は超が友達を連れてきたのかと思ってほっといたのだが、超に研究の協力者になるかもと言われお互いに自己紹介をするという流れになっていた。

「私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。『闇の福音』とも呼ばれてる吸血鬼の真祖にして最強の魔法使いだ」
何も知らぬ者がきいたら中二病全開な自己紹介をするエヴァンジェリン。

痛々しい空気が研究室を支配する中、なんとか平静を装い裕也も自己紹介をする。
「あ、ああ…この研究室の主任で高等部一年の沙霧 裕也だ。よろしく頼むよ、エヴァンジェリン。いや、マクダウェルと呼んだ方がいいかな?」

そうするとエヴァンジェリンは興味を無くしたのか
「どちらでもいい。好きにしろ」
と言って超が入れてきた緑茶を飲みだした。

会話が途切れてしまった裕也は隣で羊羹を切り分けている超に小声で
「彼女で本当に大丈夫なのか?」
と問いかける。

その問いに超は不思議そうな顔をして
「彼女は世界でもトップクラスの魔法使いネ。何か問題でもあったカ?」
とエヴァンジェリンに羊羹を渡しながら小声で返してくる。

裕也も超から羊羹を受け取りながら本題を切り出した。
「彼女は中二病を患っているようだが…本当に大丈夫なのか?」
と言い切った所で超と聞き耳を立てていたらしいエヴァンジェリンが茶を吹き出した。

奇しくも2人とも裕也の方を向いていたのでモロに浴びてしまう。

「き…貴様っ、この誇り高き悪の魔法使いの私を中二病扱いとはどういう事だっ!」
とエヴァンジェリンは机をバシバシ叩きながら抗議してきた。

「…すまない。中二病は中二病と言われるのを嫌がるんだったな。なに…中二病は症状の重さは人それぞれだが皆かかる精神的な病気だから余り気にするな」
と、浴びせられたお茶を拭きながら裕也が真剣に答えたら…

「だから、中二病では無いっ!ええい、貴様、超からこちら側の話はどの程度の事を聞いているっ!?」
うがぁーと物凄い剣幕でエヴァンジェリンが裕也に問いつめる。

少なくとも隠すような事は無いと判断し
「工学や科学に応用できる範囲と言い触らしてはならないと言った諸注意だ」
と裕也は答えた。

それを聞いたエヴァンジェリンは少し硬直してからまた問いかけてきた。
「な、ならば貴様が自己紹介する時に態度がぎこちなかったのは…」

流石に少し裕也は躊躇ったが
「いや…いきなり中二病全開の自己紹介をされて困惑してしまってな…」
と正直に答えた。

エヴァンジェリンは答えを聞き終えるか終えないかで鉄扇を取り出し超に殴りかかった。

いきなり鉄扇で殴りかかられたのに笑い転げている状態から反応出来ている辺りで超は武術の力量もかなりのものだと伺える
「ちょっ…エヴァンジェリン、いきなりなにするカ!」

「超 鈴音!貴様はコイツにはこちら側と私の事を教えたといっただろ!」
と、攻撃を止めることなく言い放つ。

「ああ、その事カ。いや~裕也とその類の話をしてるとどうしても趣味の方に行ってしまってネ…アナタの事を説明する前に満足して終わってしまうネ」
とそれを凌ぎながら超はお気軽に言ってのける。

「このっ!私が中二病扱いされてしまったのは貴様のせいだろ!」
エヴァンジェリンの猛攻は続く。

徐々に白熱していく戦闘、それに比例して散らかっていく研究室…。
その現状をほっといて裕也は研究に戻っていく。
(研究室は終わったら片付けてくれるのだろうか…)
などと微妙にズレた事を考えながら。

結局、二人の戦闘は裕也が起動させた試作ガイノイド一型『アイン』に止められるまで続いた。

「くっ…魔法さえ使えればこんな簡単には…」
とかエヴァンジェリンは悔しがっていたがスルーした。

裕也と超は試作ガイノイド一型『アイン』の問題点の洗い出しをしていた。

「やはり有線での電力供給だと動きに制約が出来てしまうな…いっそのことバッテリー型にしてみるか?」

「既存のバッテリーではアインの稼働に必要な電力を確保するだけでもかなりの大きさになってしまうネ。それに内蔵している光学兵器を撃てるだけの物となると…重量オーバーで満足に動くことすら難しくなるヨ」

「そうなってしまうよな…というか光学兵器は諦めろ。出力不足なのにかなり電力を喰うんだから」

「仕方ないネ…搭載出来るサイズに出来たことで今は満足しとくヨ。で、ここからが今日の本題なのだが…エヴァンジェリン、私達の研究はお気に召したかナ?」
と超は掃除中のアインを興味津々で見ているエヴァンジェリンに話を振った。

「ん…?ああ、確かにコイツには『人形使い』としては興味があるな。だが…協力するかと言うのとは話は別だ」

アインから超達に視線を移してエヴァンジェリンは
「何より…悪の魔法使いが何の対価や代償も無しに手を貸すと思っているのか?」
と交渉を持ちかけてきた。

「対価や代償…ねぇ。どうするんだい、超?」

「私に交渉を任せてくれるのカ?」
あっさりと自分に話をふってきた裕也に超は驚いたような表情をして見せた。

「君が連れてきたのだし君が交渉に当たるのが筋だろう。基本的に私は隣で聞いているだけだ」
(本音は私なんかよりも超の方が交渉が上手いだろうから任せたのだが…)
などと考えていることはおくびにも出さず裕也は答える。

交渉の結果は
・エヴァンジェリンは魔力機関と試作機たちの稼動実験につかう場所の提供。さらに魔法技術についてのアドバイス。

・最終目的の人のようなロボットの完成体の一体のマスター権限をエヴァンジェリンに渡す。
と大まかにはこのようにまとまった。

そろそろ帰るのかという頃にエヴァンジェリンが裕也に声をかけた。
「確か…沙霧 裕也とか言ったな」

「ああ、どうした?」

「その内に貴様を私がやらされている裏の仕事に連れて行く。超に聞いて武器やら体捌きを付け焼き刃でも良いから何とかしておけ」

「…それは今後に必要なのか?」

「当然だ。貴様が関わっていくモノなんだ。自分の目で見る必要がある」
との台詞を残して帰っていった。
「との事だが…超、どうしようか」
今すぐに先ほどの超やエヴァンジェリンのような立ち回りが出来るようになるなんて無理だ。

「武器はアインの武装を何個か裕也用に改造すれば何とかなるが…流石に体捌きや、裏の仕事に必須の『気』や『魔力』を用いた身体強化は今すぐには無理ネ」
との結論を出した。

「『気』や『魔力』を用いた身体強化…なあ超、強化をするのは生身で『気』や『魔力』じゃなきゃならないのか?」
裕也が思いついた事が可能なのか確認するために問いかける。

「それ以外に生身で裏の攻撃を耐えたり避けたりするのは…ん?生身じゃなければ…」
超も裕也と同じ事に気がついたようだ。

「そう、『気』や『魔力』ではなく『科学』用いた身体強化…いや、強化アーマーとでも言おうか」
裕也が超も思いついたであろう事を口にする。

「それなら対物理防御の問題はなくなるガ…対魔法防御が問題になるヨ」
と超は問題点をあげていく。

「それは…魔力・電力併用バッテリーでカバー出来ないか?」
魔力・電力併用バッテリーとは超の研究の過程で出来上がった電力を魔力に魔力を電力に変換でき、二種類のエネルギーを別々に蓄えて置くことの出来るバッテリーなのだが…

「ガイノイドに搭載するには不十分でも強化アーマーになら十分かもしれないネ。それに呪紋回路を用いた対魔法防御も可能になるヨ」

このバッテリーは超が言うようにガイノイドに搭載するには不十分である。
主な理由は10を変換すると4~5になってしまうという変換率の悪さである。

だが、強化アーマーにはエネルギー変換の機能は必要ない。
装着者の筋力を増幅させるための電力と呪紋回路を用いた障壁を張るのに必要な魔力を持たせるのが目的ならば十分だ。

「では…試作ガイノイド二型『ツヴァイ』の開発と同時進行で行くか」
と今後の研究の方向性を定めていく。

「そうするカ。幸いにして『ツヴァイ』には換装システムを実装する予定だったからネ。それも混ぜていければ多面的な作戦も攻略可能に…」
と、かなり乗り気になっている超を正気に戻して設計にとりかかる。

そして強化アーマーが完成してから1ヶ月後…裕也はエヴァンジェリンに連れられて夜の麻帆良に立っていた。




あとがき
今回から科学面でのオリ設定がかなり出てきます。
矛盾や語意的に変な所があったら指摘してください。

感想レス
beck様
唐突に感じてしまったのは作者の力量不足です…
両親の夜逃げについてはこれからの話しで説明していきます。

a様
文の量は徐々に増やせるよう精進していきます。

Marl様
こちらの不手際の報告ありがとうございます。



[8004] 転生生徒 裕也 第三話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/09/28 21:41


転生生徒 裕也
第三話

強化アーマー改め、正式名称・強化外骨格『陽炎』が完成してから実戦配備にいたるまで色々あった…主に装着者の裕也に。

エヴァンジェリンが所有している一時間が一日になるという別荘で稼働試験として裕也はアインと模擬戦をしていたのだが…

それを見ていたエヴァンジェリンが
「甘いな…」
と言い放った。

「ん…?どうしたネ、エヴァンジェリン」
それを聞き止めた超が聞き返す。

「いや…学園の奴らには私の従者として話を通すつもりなのだが…この程度のレベルでは話にならん」
とエヴァンジェリンは呆れ顔である。

「なら、エヴァンジェリン。アナタが鍛えてみるカ?」
と超がノートパソコンをいじりながら提案する。

「何?私はハイテクとかいう奴はよくわからんぞ」
エヴァンジェリンはどこか年寄り臭い台詞を返してきた。

「いや…裕也本人にネ。陽炎による身体強化と対物理・対魔法障壁は問題無く機能してるヨ。陽炎の強化より装着者の技量の向上の方が手っ取り早いネ」
超は噛み砕いた説明をする。

「…気は進まんが暇つぶし位にはなるだろ」

との成り行きで裕也がエヴァンジェリンに師事する事が本人の預かり知らぬ所で決まっていた。


エヴァンジェリンの修行の前に説明が始まったのだが
「貴様の魔力容量は並以下だから魔法使いには向かん」
と断言された。

「そうなのか…」
魔法技術には興味はあったが魔法を使ってみたいとは思わなかったから差ほど落胆はなかった。

「貴様には気を修得してもらう。まあ…ついでに付け焼き刃の体捌きも何とかなるだろ」
と修行の方針を続いて言っていく。

「今回の修行の最終目標は虚空瞬動の修得だ」
と説明を終了して本格的な修行に移って行った。

以下ダイジェストでお送りします。

「ケケケ、モタモタシテルト切リ刻ンジマウゾ」
殺戮人形に森の中を追いかけられながら気を修得…そして基礎体力の向上(二十日間)

「私の魔法は覚えたての気で防げるほど優しくないぞ!!」
エヴァンジェリンの放ってくる魔法の弾幕を避けきる為に瞬動を修得…ついでに体捌きも洗練されてきた(七日間)

「ほら、崖を上がってくるだけでいいんだ。前のに比べたら各段に楽だろ」
高速で崖を登るために虚空瞬動を修得…だが、エヴァンジェリンが魔法で弾幕を張っていたためより細かい制動と集中力がついた(三日間。撃墜された回数測定不能)

総修行日数三十日間
結果、裕也は気を用いた瞬動と虚空瞬動を修得した。


「まあ、何も出来ない状態からこれなら及第点はやれるな」
とエヴァンジェリンは血を吸いながら評価した。

「…マスター。毎日、血を吸うのは止めてくれないか?流石にキツいのだが…」
エヴァンジェリンを師事するにあたって彼女の事をマスターと呼ぶことになった。そして…

「授業料だと思って黙って吸われていろ」
日の終わりに血を吸われるのも日課となっていた。最初は採血だけだったのだが…

もう無駄かと諦めて今は別荘に居ない超の事を考え始める。
(マスターの説明を聞いている途中で何か閃いたようで陽炎を持ってさっさと研究室に戻って行ったが…)

裕也が思考を飛ばしているとエヴァンジェリンが
「貴様の両親は何をしている?」
と聞いてきた。

唐突に感じながらも大した事じゃないので
「何をしているだろうな…夜逃げされたから解らんよ」
裕也はあっさりと答える。

するとエヴァンジェリンは
「夜逃げ…か…本当にそうなのかな」
と裕也に聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。

「何か言った「おや、修行は終わったのカナ?」
裕也が聞き返そうとしたタイミングで超が別荘に戻って来た。

「ああ、初歩は叩き込んだ」
エヴァンジェリンは裕也の腕から口を離してから超に言う。

「ということは間に合ったみたいネ」
と安堵の表情を浮かべる超。

「何が間に合ったんだ?」
裕也が超に聞くと説明を始めた。
「本来、気と魔力は相応の訓練がなきゃ相反しあうネ。しかも余程才能があっても数ヶ月で習得出来る技じゃないヨ」
と更に続けていく。
「裕也の気を用いた身体強化は陽炎も強化すると同時に対物理・対魔法障壁の展開に必要とする魔力と相反してしまうネ。そこで私は呪紋回路の起動を音声認識システムにしてきたヨ」
と得意げにぺらぺらと語る超。

「気と魔力の相反はわかったが…何故、音声認識システムなんだ?」
と素直に聞く。

「口にした方が気での強化を解くのを忘れるという事が減るから最終確認の意味合いも含めてネ。」
少なくとも超は真面目に答えているように見える。

「で…その音声認識の言葉は何なんだ?」
嫌な予感がしつつも裕也は超に聞く。

「よくぞ聞いてくれたネ、それは勿論、プロテクトシェ…痛っ」
超が言い切る前に瞬動で一気に接近し叩く。

「ロマンを求めるのとネタに走るのは似ているようで違うぞ、超」
一応、忠告しておく。

「今の裕也に私の固有結界では…」
とかよく分からない事をのたまい始めたので超はほっておく。

「トコロデ御主人、コイツニ教エルノハ気ノ扱カイト体捌キダケデ良カッタノカ?」
とチャチャゼロがエヴァンジェリンに話しかけている。

「裕也がどんな武器を使うかわからんからな。変な癖をつけさせるよりはマシだ…決まってからでも遅くないしな」
裕也の修行方針について話し始めた。

「…私は技術屋なんだがな」
一応前々から思っている事を聞いてみるが

「こちら側に関わってくるんだ。自衛の手段はあっても困らんだろ」
と正論で返されこの会話は終わってしまった。

「修行は今出来る分は終わりだ。明日にはココを出るぞ」
と言い残しエヴァンジェリンはチャチャゼロを引き連れ塔に入っていった。

私と超は別荘から出れるようになるまで陽炎と試作ガイノイド二型『ツヴァイ』の武装について煮詰めていった。

別荘から出たら研究室に戻り、私と超は武装の開発に没頭していった。


そして今日、裕也は強化外骨格『陽炎』を纏いエヴァンジェリンの裏の仕事…麻帆良学園の夜の警備に連れてこられて居たのだが…
「マスター…何なんだ、この至る所から感じる視線は…」
あくまで気がついていない振りをしながら聞いてみる。

「ほう…気づいたか」
エヴァンジェリンは驚愕で目を見開いてから笑みを浮かべる。

「気がつかない訳ないだろ…で、何なんだ?」
と再度問う。

「悪の魔法使いとして名高い『闇の福音』が新しい従者を連れて行くと言ったんだ。この学園の『立派な魔法使い』にとっては見過ごせぬ事態だろ。改めて裕也よ、魔法世界の闇への道へようこそ。」
と言ってきた。

「闇への道…ね。どっちでも良いんだがな」
裕也は気にしてない風に流す。

「…まあ、いい。それよりも来てるぞ」
雑談を切り上げて眼前の十体程の鬼の集団に目を向ける。

「…マスター、どうすれば?」
この場ではエヴァンジェリンの立場が上であるから指示を仰ぐ。

「今回は術者も一緒のようだな…術者は殺さずに生け捕れ。殺すと周りがうるさい」

「…了解した」
それだけを聞くと陽炎の右腰アーマーに収納されているスチェッキン・オートマチック・ピストルを取り出し、集団に向かって掃射する。
20発撃ちつくすと同時に、左腰アーマーから取り出した予備の弾倉を補充しさらに追撃を加える。

「召喚された鬼の掃討と術者本体に負傷を確認。術者の確保に向かう」
と言い残し裕也は逃走した術者を追っていった。

「そこにいるのだろ?ジジイにタカミチ」
裕也が見えなくなってからエヴァンジェリンが声をかける。

「ふぉふぉふぉ、おぬしにはバレておったかの」

「久しぶりだね、エヴァ」
各々挨拶をしながら姿を現したのは
麻帆良学園学園長 近衛 近右衛門
麻帆良学園の魔法先生 高畑・T・タカミチ
の二人だった。

「学園のトップとAAAの出張帰りが直々に従者一人の初陣をわざわざ見にきたのか?」
とエヴァンジェリンは皮肉気に聞く。

「いや、ワシ等は気にしてないんじゃが…」
学園長の言葉に続けて

「他の魔法関係者はいきなり現れた君の従者が気になったんだろうね。それに良からぬ事をするのでは…と疑心暗鬼になって抑止力として僕等も出る羽目になったんだ」
とタカミチはタバコをくわえながら答えてくる。

「ふん…下らん奴らだ。ところでジジイ、沙霧 裕也について何か知っているか?」
エヴァンジェリンが聞く。

「ふぉ?ワシは特例という事と去年定年退職した西教授からの話ししか知らんが…どうかしたかの?」
と事実かどうか判断しかねる返答をしてくる。

「まあいい…む、戻ってきたようだが貴様等は居てもいいのか?」

術者を右手首から出ているワイヤーで簀巻きにして担いできた裕也が戻ってきたので確認する。

「ワシは一応顔見せをな…トップだし」
と学園長は答え

「僕は侵入者を引き取りらなきゃならないからね」
とタカミチが答えている内に裕也が近づいて来ていた。

「マスター、術者の捕獲に成功した。でこちらの方々は?」
新参者なので口調に気をつけながら裕也は問う。

「フォフォ、ワシは関東魔法協会の理事、近衛 近右衛門じゃ」

「はじめまして、高畑・T・タカミチだ。魔法先生をやっているよ」
自己紹介をしてくる。

「此方こそはじめまして。沙霧 裕也です」
と返答もそこそこにエヴァンジェリンに向き直り、
「ヒートワイヤーの電撃で意識を刈ったので外傷は初めの弾丸のものと火傷くらいです」
結果の報告をする。

「まあ…及第点だな。それはタカミチに渡してさっさと帰るぞ」
エヴァンジェリンはそれだけを伝えると返事を待つことなく歩き出した。

「わかりました。では高畑さんコレを」
裕也は捕らえた侵入者をタカミチに引き渡し、一礼をしてからエヴァンジェリンの後に続いて去っていった。


「で、君らは彼をどう見る?」
二人が去ってから続々と姿を現してきた魔法関係者に向かって学園長が聞く。

「体捌きは表の世界の達人にも劣るレベルでしょう。ですが…」
最近、西から東へ移ってきた葛葉 刀子の言葉に続いて

「瞬動の抜きと入りは見事だ」
深夜なのにも関わらず、サングラスをかけた強面の神多羅木が続ける。

「あの程度の気の強化で機関拳銃を片手で正確に撃てるとは思えないのだが…」
同じように銃器を扱うガンドルフィーニが疑問を口にする。

「それは着ていた強化服のお陰じゃないかな?見た感じだと他にも色々仕込んでそうだったし」
ガンドルフィーニの疑問に答えるのはポッチャリ系の弐集院 光だ。

「今の所、彼をそこまで危険視する必要は無いように感じられますが…」
とシスターシャークティが意見を述べる。

「いや…彼の研究室に天才・超 鈴音が入り浸っているとの情報があるから放っておく事はできないよ」
タカミチが注釈する。

「入り浸るというよりは共同生活…簡単に言えば同棲のような状況らしいですよ」
明石教授が補足する。

「ふぉ?それは初耳なのじゃが…」
学園長が明石教授に聞き返す。

「おや?結構学園内でも噂になってますよ。ねぇ、皆さん」
と明石教授が周りに確認する。

「ええ、男子が噂をしていたのを小耳に挟んでいました」
と葛葉 刀子。

「葛葉と同じで噂くらいなら…」
神多羅木も続く。

「私は書類で確認をしました」
とはガンドルフィーニ。

「僕もパソコンに入力する時に」
弐集院 光も。

「私は教会に来ている見習いから話を…」
はシスターシャークティ。

「あー、僕は先生方から」
最後にタカミチが。

「……知らなかったのワシだけ?」
との学園長の問いかけに周りの皆は目をそらすだけだった。


「で…初仕事はどうだったヨ?」
研究室に戻ったら布団に入ってる超に話しかけてきた。

「どうも何も、使った武装は携行していた銃とヒートワイヤーくらいだからな。急いで仕上げたガトリングガンも使わなかったし…」
と裕也は大したことでは無いように言う。

「…私が気になってるのは人に向かって引き金を引けたかどうかネ。術を施した弾丸は簡単に相手の命を奪える代物ヨ。稼働実験の時の様にダミーを撃つのとは全く意味合いが変わる」
何時になく真面目に超は問いつめてくる。

「何も感じなかった訳ではない。殺してしまうかもという恐怖もあった。だが、鬼を見た時には覚悟を決めた」
裕也は銃のメンテナンスをしながら話を続ける。

「命を奪い、奪われる覚悟をな…少なくとも鬼も一個の生命体だ。たとえ召喚を解かれ帰るだけでも、私が銃で撃った事には変わりない」
メンテナンスを終えた銃を陽炎の右腰アーマーに収納し、使った右手首のヒートワイヤーのチェックに移る。

「そんな風に考えてるといらないモノまで背負う事になるヨ」
超は布団から顔だけを出し裕也の後ろ姿を見ながら言う。

「そもそも、この世界の表側にも裏側にもいらないモノなんてのは無いんだよ、超。そろそろ寝ろ、明日も学校だろ?」
裕也はヒートワイヤーのチェックを終えたのか工具を片付け、寝間着に着替え始める。

「…そうするヨ。そうだ、裕也。気が滅入ってるなら一緒に寝るカ?」
超はニヤニヤ笑いながら言ってくる。

「少しは自分の年齢をわきまえろ…」
呆れながら裕也は隣の布団に入って、数分もしない内に寝息をたて始めた。

「少なくとも自分の行いから逃げずに向き合えているから私の協力者としては合格ネ。若干、重荷に感じすぎてる所もあるが…」
と呟いて超は眠りに堕ちた。


それから試作ガイノイド弐型『ツヴァイ』の完成を間近に控えたある日、一人に少女が研究室を訪ねてきた。

将来彼女が超をも凌駕するマッドサイエンティストになろうとは…




あとがき
どうも、TYです。
何か今回はツッコミ所満載のような気がしますが…よろしくお願いします。
近い内にガイノイドや強化外骨格についての設定も上げます。

感想レス
三輪車様
正直、失念しておりました。
なんとか矛盾のない設定でいける様に努力します。



[8004] 転生生徒 裕也 第四話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/09/28 21:42

転生生徒 裕也
第四話

裏の仕事を無事終わらせ、エヴァンジェリンの修行から抜け出せると思っていた裕也だったが…

「何を言っている。建て前でも私の従者を名乗るんだ。そんな中途半端を許すか」
との有り難い言葉を貰った。

「いや…私の修行はマスターの暇つぶしなのでは?」
裕也も一応足掻いてみるが…

「ああ、私もそのつもりだったが思いの外面白くてな。それに新鮮な血を飲める」
とエヴァンジェリンは満足げに言ってくる。

「そもそも私は研究での体力勝負の時のための基本的な体作りはしていたが、強化外骨格装着と戦闘の為にトレーニングをしていたのは三ヶ月程度なのだが…」
尚も言い募ってみる裕也に

「三ヶ月の下地と一ヶ月の修行で戦闘技術はともかく虚空瞬動を体得したんだ。少なくとも才能はある。いっそのこと、従者として1から鍛え上げてみるか?」
とエヴァンジェリンは恐ろしい事を言い始める。

「…一応私は技術屋なんだが」
最後の悪あがきを裕也はしてみるも

「貴様がそう思っていても学園側には既に私の従者だと言ってしまったからな。魔法関係者はもう、あの『闇の福音』の従者だという認識しか持たんよ」
とエヴァンジェリンは現実を突きつけてくる。

「私は…どうして、こんなところへ来てしまったのだろう…」
などと黄昏始めた裕也を無視して

「これからは付け焼き刃で何とかなるレベルではないからな…という事で裕也、近い内にテストを行う」
とエヴァンジェリンは決める。

「…テスト?」
現実に戻ってきた裕也が聞く。

「そうだ。貴様が建て前ではなく真にこの私の従者としてふさわしいかを見極める為のテストをな…合格の暁には私の従者として1から鍛え上げてやろう」
とのお達しを聞いてこの日は解散となった。


テストの事を考えて憂鬱になりながら研究室に戻ると

「流石は麻帆良の最強頭脳です!!こんな世界の科学力を遥かに超越しているロボットを作り上げるなんてっ!」
かなりテンションが上がっている眼鏡を掛けた三つ編みの少女と

「ふふふ…科学に魂を売り渡した私には造作もない事ネ」
などと本人は格好つけているつもりなのか、 裕也の白衣を着ている超がいた。無論、サイズが合うはずもなくダボダボだが…

「………」
研究室の現状を見て裕也が思考を停止していると

「おかえり裕也。ツヴァイの起動試験の準備は出来てるヨ。すぐに始めるカ?」
超が話しかけてきた。

「ああ…ところで超、その服装と彼女は?」
再起動を果たした裕也が超に聞く。

「これは裕也の白衣を拝借したヨ。いや~悪の科学者はやはり白衣ネ」
とよく解らない答えが返ってきた。

「悪の科学者か何かは知らないが…で彼女は?」
超の台詞は軽く流してもう一度聞いてみる、

「ん?彼女は「自己紹介は自分でやりますよ。超さん」
と超が紹介する前に少女が話に入ってきた。

「はじめまして。葉加瀬 聡美といいます」
と丁寧に挨拶をしてきた。

「こちらこそ、沙霧 裕也と言います。して…この研究室にどの様な用事で?」
最近の子供は油断ならないと超やエヴァンジェリン…は若干違うかもしれないが学習したので対応には気を使う。

「はい…ここの研究室の噂を聞いて超さんに頼んで連れてきてもらいました。」
超が連れてきたと聞いて自然と超の方に胡散臭い物を見る目を向けてしまう。

「ち…違うヨ、今回は本当にハカセから頼まれたんだヨ」
わたわたとダボダボの白衣の裾を振りながら言ってくる。

「…信じておくよ、超。で、用事とは何かな?」
超から白衣を奪い取り、葉加瀬に視線を移し聞く。

「はい、ここの研究を手伝わせて下さいっ!!」
と言われてしまった。

「…超、君に任せる」
と言って裕也はツヴァイの起動試験のチェックに移って行った。

「ちょっ…また私カ?」
とか超が言ってくる。

「私は何も問題ない。超が話し合ってOKなら良いんじゃないか?」
超に丸投げして換装パーツの確認に移る。

「との事ネ。少しお話しようか?ハカセ」

「はい、超さん」
と言って隣の部屋に二人で入っていった。

結果として葉加瀬 聡美はこの研究室の手伝いをする事になったが…二人で何を話していたか裕也はこの時、知ることができなかった。


ツヴァイの起動試験終了後、新たに加わった葉加瀬も含めて問題点の洗い出しを始めた。

「魔法…ですか。超さんの話を聞いた時は半信半疑でしたが、とても興味深いですね」
葉加瀬は初めて知った魔法に興味を引かれているらしい。

「実際に起動は問題ないのだが…やはりバッテリーによる稼動時間の短さが問題か」
裕也が問題点を口にする。

「やはりそこネ…いっそのことバッテリーも一から作り上げるカ?」
と超が提案してくる。

「いや…時間的に余裕はない。強化外骨格の新型の開発も進めているし」
裕也はその提案の問題点を上げる。

「むっ…確かにこれ以上時間を捻出するのは難しいヨ。こうなったら学校をサボるしか…」
と超が真剣に考え始めた。

「…そんな事をしていたら寮に連れ戻されるぞ、超」
元々かなり危うい均衡で保たれている共同生活だ。明らかな問題が露見してしまえば崩壊してしまう。

「それは困るヨ…もう千日手みたいになってきたネ」
八方塞がりに思えてきた頃に

「あの~、良かったら私がやりましょうか?」
と葉加瀬が言ってきた。

「…出来るのか?」
裕也が問い返す。

「ハカセは魔法関連の知識は持ってないが、科学や工学の知識は私たちとも引けをとらないヨ」
と超が答えてくる。

「それにガイノイドの設計図などをまだ把握してないのでガイノイド本体の開発にはまだ…」
葉加瀬がそれに続く。

「では、頼むよ。細かい仕様は超に聞いてくれ」
と再び超に丸投げにする。

「裕也…説明するの面倒くさいからって全て私に任せるのはどうかと思うヨ」
超に抗議された。

「……正直、説明や交渉事は超の方が上手だからな」
裕也はそれだけ言って研究室の片隅にたたずんでいたアインと片付けを始めた。

「仕方ないネ…ハカセ、今日は遅いから帰った方がいいヨ。細かいことは明日にしよう。それに…色々準備があるだろうしネ」
と超が葉加瀬に提案した。

「あっ、そうでしたね。では今日の所は帰ります。」
葉加瀬はそう言って帰っていった。

「超…葉加瀬の準備とは何だ?何故か嫌な予感がするのだが…」
裕也は一度、片付けの手を止め超に聞いてみる。

「ん?ハカセが研究に参加する為に出した条件ネ。なに…明日にはわかるヨ」
超はとても楽しそうに話してきた。

「…不利益にはならないんだな?」
一応確認しておく。

「勿論ネ。むしろ裕也には喜ばしい事かもしれないヨ」
と超はニヤリと笑いながら返してきた。


その翌日、私物を抱えて研究室に現れた葉加瀬が
「私も今日からここで生活します」
と宣言した。

「超…どういう事だ?」
隣で一緒に新しい武装の設計をしていた超に問いかける。

「…不利益にはなってないヨ?」
と目を合わせる事なくズレた答えを返してくる。

「風評被害は被っているんだが…最近この研究室がロリ研とか言われてるのを知っているのか?」
最近の悩みの種を聞いてみる。

「ああ、頻繁に私やエヴァンジェリンが…というか私達しか出入りしてないからネ」
と超が頷いていると…

「あれ?超さん、少し前に報道部の同級生の人にロリがどうのとか話してませんでしたか?」
葉加瀬が有力な証言をしてきた。

「…葉加瀬、それは本当か?」
露骨に挙動不審になった超を拘束してから葉加瀬に詳細を聞く。

「はい、超さんはどんな研究をしているのか~っていう質問に、ロリコンがロリなガイノイドを造ろうとしてるとか答えてましたよ」
葉加瀬の言葉を聞くか聞かないかで裕也は隣の部屋に超を引っぱって行った。


以下音声だけでお送りします。

「さて…超。覚悟はいいか?」

「ゆ、裕也少し待つネ。年頃の少女にこんな仕打ちは…」

「問答無用」
パチーン

「ひうっ!?ちょっ…待つネ」

「待たない」
パチーン

「ひゃんっ!?い、痛い…」

「当たり前だ」
パチーン

「ひゃっ!?反省したから止めて…」

「却下だ」
パチーン

「ひぎぃ、らめぇぇぇ」

「…余裕があるな」
バチーン

「…ちょっ…気で…強化…するのは…反則…ネ…」

部屋から裕也は妙にすっきりした顔で、超はお尻をさすりながら出てきた。

「沙霧さんはロリコンでオマケにSだったのですか…」
と葉加瀬は誰にも聞こえないように呟いた。


「で…葉加瀬もこの研究室に住むのは決定なのか?」
と裕也は改めて確認する。

「はい、学園側からの許可は得ています」
と返された。

「…超に任せたのは私だからな。今更文句は言わないよ」
裕也は許可するしかなかった。

「…その物分かりの良さを私の時も見せて欲しかったヨ」
と超が布団にうつぶせになりながら訴えてくる。

「それとこれは話が別だろ…超。少なくともロリコン扱いされた事に物分かりの良さは関係ない」
と生活スペースを考えながら超に対応する。

「…それでも気で強化してまでやる必要はあったカ?」
それでも恨みがましくこちらを見てくる。

「ネタに走るほど余裕があるのなら仕置きにはならんだろ…」
呆れながら超に反論する。

「でも…私達の年頃で異性からお尻ペンペンは精神的にキツいですよね」
そこに葉加瀬が超の擁護に回る。

「ペンペンなんてレベルじゃなかったヨ…やっぱり裕也はロリコンだったカ。服越しとはいえ未熟な肢体に触れていたいなんて…」
などと超は言い始めた。

「よし…超、陽炎を装着してくるから少し待ってろ。アイン手伝ってくれ」
とアインを引き連れて裕也が陽炎の装着に向かう。

「悪かったヨ、ちゃんと反則してるからそれだけは…」
珍しく超が焦って引き止める。

「仕方ない…今回はこの位で勘弁してやる」
とアインに中止を伝えながら戻ってくる。

「ところで…何でアインは喋らないんですか?」
と葉加瀬が聞いてくる。

「ああ…それは本来搭載される予定じゃなかったのがかなり幅を取ってしまってな…」
裕也は超を見ながら続ける。
「どこかの誰かが目からレーザーは当たり前ヨとか言い張ってスペースが無くなってしまってな…」
と呆れながら言うと…

「それは…当たり前じゃないですかっ!!」
葉加瀬に力説された。

「……はい?」
何を言われたのか理解できずに裕也は聞き返す。

「駄目ですね。ロボットへのロマンの追求がなっていません。一度だけ指導しましょう、いいですかっ!?そのレーザーは目から発射出来なくてはなりません。まず…」
と葉加瀬が続ける前に

「アイン、彼女の口を塞げっ!」
裕也の声に反応したアインに口を塞がれた。

「もがっ、むぐー。むぐぅ…」
葉加瀬はもがくがアインに勝てるはずもなく力尽きた。

「危なかった…また、あんなのを聞かされ続けるのは勘弁だ」
額の汗を拭いながら裕也は安堵のため息をもらす。

「二度目とはいえ固有結界の出だしを潰すとは…流石は私の共犯者ネ。ところで…そろそろ放さないとハカセが危ないヨ」
と超に言われるまで葉加瀬を解放するようにアインに言うのを忘れていた。


新たに葉加瀬 聡美を仲間に加え、下がっていく研究室の平均年齢とは裏腹にガイノイドの開発は順調に続いてく。

そしてエヴァンジェリンの正式な従者兼弟子入りのテストを受けることに…




あとがき
結構、間が空いてしまいました。TYです。
今回も今回でツッコミ所のオンパレードかもしれませんが…よろしくお願いします。

感想レス
123+様
ロボ娘自体を出すのは難しいですが後々にネタとして片鱗が見えるかもしれません。

スライムドス様
一応今回の話で裕也の身体能力について説明してみましたが…いかがでしょうか?
金髪幼女は本当に暇つぶしと裏を経験させるために建て前で学園側に従者だと言っただけだったのですが…説明不足でした。

ザクロ様
ありがとうございます。
経験不足でどこをどれくらい掘り下げて描写すればいいかわからない為に急ぎすぎてしまうのかもしれません。
精進して行きます。





[8004] 転生生徒 裕也 第五話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/09/28 21:43

転生生徒 裕也
第五話

裕也はエヴァンジェリンに呼び出され、ログハウスに来ていた。

「裕也、貴様のテストの内容が決まった」
到着してエヴァンジェリンが開口一番に言ってきた。

「…どんな内容だ?」
裕也は余り聞きたくなさそうに問い返す。

「簡単な事だ。私とチャチャゼロを相手にして半日生き延びるか、私に有効打を一撃加えるか…で合格だ」
と告げ、詳細を続ける。
「時刻は今週の日曜日の12時、場所は別荘。装備は自由だ」

「装備は自由…か。わかった」
裕也が反芻して確認する。

「色々準備があるだろうからな、今日は帰っていいぞ」
エヴァンジェリンが促す。

「ではマスター、日曜日に」
と裕也は言って帰っていった。


「と、言う事になった」
研究室に帰ってきた裕也は超と葉加瀬にテストの内容を伝えた。

「…かなり厳しくないカ?」
超が頬をひきつらせながら応じる。

「エヴァンジェリンさんがどの様な人かは知りませんが…スパルタですね」
と葉加瀬が言ってくる。

「そこでだ…試作ガイノイド三型『ドライ』の開発を先送りして、強化外骨格の方を優先したいんだが…」
裕也が本題を切り出す。

「仕方ないネ…裕也の命が掛かってるならそっちが優先ヨ」
超が了承する。

「そうですね」
葉加瀬も同意する。

「すまない…助かる」
と裕也は二人に頭を下げる。

「でも、あと4日間もないヨ。強化外骨格『不知火』は間に合わないネ」
と超が確認してくる。

「不知火の開発ではなく、設計段階の武装を完成させる」
裕也が武装の設計図を取り出してくる。

「武装なら設計段階のがかなり在りますからね。まあ、実戦証明の時間がないからぶっつけ本番になりますが…」
と葉加瀬が注意してくる。

「早速だが、葉加瀬は設計図から使えそうな物のピックアップを頼む。超は陽炎専用外装『薄刃』の完成を急いでくれ」
裕也はそう言ってアインを呼び寄せる。

「って、裕也は今から修行でもしてくるカ?」
超は機材の調節をしながら聞いてくる。

「いや、数日の修行なんて付け焼き刃ではどうにもならないだろ。それより使える手札を増やす方が確実だ」
と裕也は陽炎を装着し始める。

「沙霧さん、設計図にあるのは中・遠距離用のばかりですが…近接用はいらないのですか?」
葉加瀬が設計図のピックアップをしながら問いかける。

「ああ、マスターとの近接戦闘は今の所自殺行為だ。少なくとも『断罪の剣』とまともに打ち合える代物が無くては…」
裕也は陽炎の装備の確認をしながら返す。

「相転移と低温による二段階攻撃ネ…そんな物とまともに打ち合える代物なんて簡単には出来ないヨ」
と超が葉加瀬にわかるように注釈する。

「流石は魔法…ですが、そこで屈してしまったらマッドサイエンティストの名折れです。沙霧さんが生きて戻ってきたら作り上げてみせましょう」
何故かテンションと作業スピードを上げていく葉加瀬。

「………そうだ、ツヴァイ」
不吉なことをのたまう葉加瀬をスルーしてツヴァイに話し掛ける。

「なんでしょう、ドクター」
表情を変える事無く答えるのは最近起動したばかりの試作ガイノイド二型『ツヴァイ』だ。

「今回の件のために少し改造させてもらうがいいか?」
と裕也が聞く。

「はい、問題ありません」
ツヴァイが間髪いれずに答える。

「ツヴァイも戦闘に参加させるのカ?」
超が作業の手を止め聞いてくる。

「いや…ツヴァイは切り札だ。私だけで決められるなんて甘い考えは無いからな」
裕也はツヴァイをメンテナンスベッドに寝るように指示しながら答える。

「というか…ツヴァイを参戦させてもいいのですか?」
葉加瀬が今回は使わない設計図を片付けながら聞いてくる。

「ツヴァイは私の武装の一種として一緒に来てもらう。本当は物扱いしたくないのだが…」
着衣を周りの目を気にすること無く脱いでいるツヴァイを見ながら答える。

「裕也、薄刃が一応完成したヨ。微調整がしたいから装着してみて欲しい」
と超が手招きしながら裕也を呼ぶ。

「わかった。アイン、装着の手伝いを頼む。ツヴァイは少し待っててくれ」
裕也はアインを呼んで超の方へ行く。

「了解しました、ドクター。」
ツヴァイはメンテナンスベッドの上で裕也の方へ顔を向け答える。

「じゃあ、私も何個か武装を組み立て始めますね」
葉加瀬も機材を取り出し本格的に作業に没頭しだす。

「余り時間も無いからネ。キリキリとやっていくヨ」
超も薄刃を装着した状態のデータ取りを始める。

「そうだな…」
それだけ答えると裕也も作業に集中する。


そして日曜日11時55分、別荘内

「これから貴様のテストを開始する。私とチャチャゼロを相手にして半日生き残るか、私に有効打を一撃加えるかで合格とする」
エヴァンジェリンはテストの条件の確認をする。

「了解した、マスター」
胸部、腕部そして脚部に薄刃を追加している陽炎を装着した裕也が答える。

「で…あいつ等は何なんだ?」
エヴァンジェリンがこちらを遠くから見ている三人(?)を指差し聞いてくる。

「超 鈴音と少し前から研究に参加している葉加瀬 聡美、そして最近起動したばかりの試作ガイノイド二型『ツヴァイ』だが…何か問題でも?」
裕也はエヴァンジェリンから視線を外す事無く答える。

「騒がんならいい。そろそろだな…では始めるぞ。初手は貴様に譲ってやる」
とエヴァンジェリンは黒いマントを羽織る。

「久シブリノ戦闘ダナ。アッサリ殺サレンジャネーゾ」
チャチャゼロも身の丈の倍以上ある刃物を担ぎながら言ってくる。

裕也は両手に装着しているハンドキャノンでエヴァンジェリンとチャチャゼロをそれぞれ狙う。
先の言葉通りに先手はこちらからでいいと判断し引き金を引いた。

「そんな鉛玉で私を捉えられるか…っ!?」
エヴァンジェリンは真祖の障壁を四分の一程貫いた事に驚く。

「コリャア…カナリ術ガ施サレテンナ」
チャチャゼロは弾を避けながら言う。

「…やはり単発では貫き通せないか」
裕也はさらに追撃をしようとするが

「譲ってやるのは初手だけだ。行け、チャチャゼロ」

「アイサー、御主人」
とのエヴァンジェリンの言葉に応えてチャチャゼロが突っ込んでくる。

「くっ…」
チャチャゼロの斬撃を肩の補助アームに持たせている追加装甲で受ける。

「受ケテルダケジャ勝テネエゾ」
とさらに攻撃を続けてくる。

「まったくだっ!!」
チャチャゼロの攻撃に合わせて追加装甲を捨てる。

「ウォッ!?」
いきなり抵抗が消えて体勢を崩したチャチャゼロにハンドキャノンを打ち込もうとするが

「私を忘れるなよ、裕也。『魔法の射手・連弾・氷の29矢』」
とエヴァンジェリンが詠唱を完了させ魔法を撃ってくる。

「ちっ…遅かったか、だがっ!」
エヴァンジェリンの魔法が当たっているのを無視してチャチャゼロにハンドキャノンではなく、二の腕の薄刃に仕込んでいた飛針を放つ。

「ウゲッ…スマネェ御主人」
四肢と胴体を飛針に貫かれ身動きが取れなくなったチャチャゼロがエヴァンジェリンに謝る。

「術を施した針か。更に簡易結界も張っているな…だが何の力で張っている?」
エヴァンジェリンが問い掛ける。

「手の内を自分から教えるほど抜けてはいないよ」
エヴァンジェリンの魔法の射手によって破壊された部分を外しながら答える。

(両肩の追加装甲と左半身の薄刃は全壊。武器、左半身はヒートワイヤーを残して全滅、左腰部アーマーにある予備弾倉もダメ。右半身のハンドキャノンは弾切れ間近で飛針は打ち切ったが他は健在…)
今の装備の現状を確認していると

「それもそうだな。動かないなら私から行くぞ」
とエヴァンジェリンが『断罪の剣』を手に出し突っ込んでくる。

裕也はとっさに『断罪の剣』を避けきるが
「甘いな」
と魔力で強化した左手で胸部を突かれる。

「がっ……」
裕也は5メートル程すっ飛んでいった。

「ほう、今のは貴様を貫くつもりだったんだがな。とっさに自分から飛んだか」
エヴァンジェリンは感心している。

「……薄刃とハンドキャノンが間に無かったら貫かれてたさ」
と裕也は立ち上がり壊れたハンドキャノンを捨てながら答える。

「で、どうする?そこまで鎧を剥げば武器も残って無いだろ。『氷神の戦槌』」
言葉とは裏腹にエヴァンジェリンは警戒を解く事無く魔法を撃ってくる。

「!?」
裕也は迫ってくる氷塊から瞬動をつかって避ける。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 契約に従い、我に従え、氷の女王。来たれ、とこしえのやみ、えいえんのひょうが」
『氷神の戦槌』を放った後すぐにエヴァンジェリンは詠唱に入る。

「くっ…やらせん」
無事だった右腰部アーマーからスチェッキン・オートマチック・ピストルを抜くが間に合わず

「ほぼ絶対零度の150フィート四方の広範囲完全凍結殲滅呪文だ。逃げきれんよ」
足元から凍っていき身動きの取れなくなる裕也を見ながらエヴァンジェリンは詠唱を続ける。

「すべての命ある者に等しき死「ツヴァイっ!!」
凍結が進行しエヴァンジェリンの呪文が完成する寸前に裕也が声を張り上げる。

「了解しました、ドクター」
その声に反応してツヴァイの体中にバラして偽装していたバレットM82A1を組み上げエヴァンジェリンに向けて発砲する。

「な…何っ!?」
意識の外に置いていた存在からの奇襲にエヴァンジェリンは意表を突かれ詠唱を中断してとっさに障壁強化に魔力を回す。

「ぐうぅ…くっ」
呪文詠唱なしで純粋な魔力のみで障壁を強化しているため集中するために裕也から少し目を離してしまう。

「薄刃及び陽炎、全装甲強制解除」
エヴァンジェリンが目を離した隙に裕也は残っていた外骨格を強制解除して凍結から解放される。

「今のが切り札か…っ!?」
エヴァンジェリンが防ぎきる頃には虚空瞬動で裕也はゼロ距離まで詰め寄っていた。

「ああ…ツヴァイも私の装備だ。身に付けていなくてはダメとは言われてないだろ?」
と裕也はエヴァンジェリンの答えを聞かずにスチェッキン・オートマチック・ピストルを全弾撃ち込む。

「がっ…ぐ…」
血を吐いて落ちていくエヴァンジェリンが途中で蝙蝠になり裕也の後ろを取る。

「そうだな。そんな事は言っていなかったよ、裕也」
裕也を組み伏せ地面に叩きつける。

「…っ!?」
受け身を取れずに叩きつけられ裕也は絶息する。

「私は不死の魔法使いだ。術を施した程度の鉛玉では死なんよ」
裕也を組み伏せたままエヴァンジェリンは続ける。

「だが…私に一撃加えた事には変わりない。良いだろう、合格だ」
それだけ言うと裕也を解放する。

「では…これからもマスターと呼べば良いのか?」
何とか裕也も立ち上がりエヴァンジェリンに問う。

「ああ。名実共に私の従者に相応しくなる為に鍛え上げてやる。覚悟しておけ」
と言ってエヴァンジェリンはチャチャゼロを自由にしに行く。

「了解した、マスター」
歩いていくエヴァンジェリンに向かって裕也はそう答えた。


戦闘が終わったのを確認し超と葉加瀬、ツヴァイが二人に近付いてくる。

「ふぅ…なんとか裕也は生き延びたカ…」
歩きながら超は呟く。

「そうですね。でもかなりギリギリでしたよ」
その呟きに葉加瀬が答える。

「もう少し早くツヴァイを呼べばもっと安全に事を進めたヨ。って…ツヴァイそんなにそわそわしてどうしたカ?」
愚痴っていた超が妙に落ち着かないツヴァイに気づく。

「いえ、ドクターが心配なだけです」
とツヴァイが端的に答える。

「そうか…私たちは歩いていくから先に行ってもいいヨ」
超が許可をだす。

「そうですか。では」
それだけ言うとツヴァイは足早に裕也の方へ進んでいった。

「超さん…ツヴァイって今普通に『心配』って言いませんでした?」
葉加瀬がツヴァイの言動に呆気にとられながら聞いてくる。

「…………言ってたネ」
超もそれがどんな事かに気がつき足を止める。

「…戻ったら忙しくなりますね」
葉加瀬がしみじみと言う。

「今回の一件でかなりツヴァイの自我が進歩…いや進化しているからネ」
それだけ言うとツヴァイに続いて歩いていく。


そうして裕也はエヴァンジェリンに本格的に師事する事になる。

年を越し新学期を迎えて試作ガイノイド三型『ドライ』の稼働試験で事件が起きる…




あとがき
どうも、TYです。
初の戦闘シーン…難しい。
感想などその他諸々お待ちしております。

感想レス
023様
強化外骨格0…どこまでネタを広げていいのか手探り状態なので出せるかどうかは解りません。
続けば出てくるかも…





[8004] 転生生徒 裕也 第六話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/09/28 21:44

転生生徒 裕也
第六話

各々が進級を間近に控えた春休みの最中、裕也は学園長室に呼び出されていた。

「高等部一年、沙霧 裕也です」
裕也はノックの後に名乗る。

「開いとるぞい」
ドアの向こうから学園長の声が返ってくる。

「失礼します」
返事を確認してから部屋に入る。

「ふぉふぉふぉ。久しぶりじゃの、沙霧君」
入って早々に声を掛けてきたのは学園長 。

「久しぶりだね、沙霧君」
それに続くのは高畑・T・タカミチ。

「はい、お久しぶりです。で…今回の要件は?」
裕也は挨拶もそこそこに本題を聞こうとする。

「今回君を呼び出したのはちと話があっての」
学園長が口を開く。

「何か問題でも有りましたか?」
裕也が口を挟む。

「いや、そういった話しじゃないよ。どっちかというと進路相談みたいな物かな」
とタカミチ答える。

「そういう事じゃよ、沙霧君。で…君は将来どうするつもりかね?」
学園長が聞いてくる。

「将来…と言われても、今の所は研究を続けられる所なら何処でもいいとしか…」
裕也は相手側の質問の意図が掴めず曖昧に答える。

「ふぉふぉ、ならば麻帆良で先生を目指してみんかの?」
と学園長が提案してくる。

「麻帆良で先生…ですか?」
裕也が聞き返す。

「うむ、君は特例じゃから大学の単位を学年関係なく取れるしの。二年間で必要科目を習得すれば、君が大学に入る年には教育実習が可能になる」
学園長が説明する。

「ですが…教職になったら研究が」
裕也が難色を示すが…

「大丈夫じゃよ。麻帆良の教員…というか麻帆良に在籍しているなら研究室はそのまま預けよう」
学園長が破格の条件を提示してくる。

「……一応その道も行けるように準備します。今の所の返事はこれで良いですか?」
裕也は少し考えて答える。

「かまわんよ。今ワシが言ったのは沙霧君の数ある選択肢の一つじゃからの…ゆっくり考えて決めとくれ」
と学園長が返す。

「わかりました。では失礼します」
との言葉を残して裕也は学園長室を出て行った。


裕也が学園長室から出て行ってから学園長がタカミチに問いかける。
「で…最初の頃と比べて彼はどうかな、高畑君」

「かなり強くなっていますね。従者としての下地は十分でしょうが…」
タカミチはそこで言葉を切る。

「何と言っても彼のマスターにして師匠がエヴァンジェリンじゃからの…」
学園長も言葉を切る。

「ところで学園長、どうしてあそこまでの条件を出して麻帆良に引き留めようとしたんですか?」
タカミチは話の流れを変える。

「彼が天才であるという事も理由の一つじゃが…エヴァンジェリンの正式な従者という事もある」
学園長が答える。

「あの『闇の福音』の従者だと知れ渡れば彼は狙われますね…」
タカミチは合点がいったように頷く。

「更に彼の両親についてドネット君に調べて貰っているのじゃが…」
学園長が歯切れ悪そうに言う。

「確か夜逃げした…との話でしたよね」
タカミチが書類にあった情報を口にする。

「表向きにはの…現段階で彼の両親は時空魔法の違法研究者だったらしいとの中途報告書が来ておる」
学園長はその書類をタカミチに渡す。

「っ!?これは…」
タカミチは書類に目を通し絶句する。

「彼らは大量の赤子を実験体にしていたのじゃよ…並行世界、パラレルワールドとやらの知識を得る為にの」
学園長が怒りを隠しきれずに言う。

「な…という事は彼は…」
タカミチはある可能性に辿り着く。

「うむ、成功体の可能性がある。更に違法研究者達には独自の情報網がある…故にどこに情報が行ったか感知できん」
と学園長は続ける。

「………学園長、もう一度聞きます。何故彼を麻帆良に留めようとするのですか?その答えによっては…」
タカミチは居合い拳の構えを取りながら再度問いかける。

「断じて言うが知識を得るためではない」
学園長は揺らぐことなく答える。

「そうですか…失礼しました」
タカミチは構えを解いて学園長に謝る。

「気にせんでもええよ…ワシは彼やアスナちゃんの様な存在を守りたいと思っておる」
と学園長が言う。

「それは…「ふん、偽善だな」
タカミチの言葉に被せるように部屋に入ってきたエヴァンジェリンが言う。

「ふぉ、エヴァンジェリンか…」
学園長がエヴァンジェリンに視線を向ける。

「やはりアイツにはそんな裏があったのか…血の魔力に比べて使用できる魔力が少ないのもその実験とやらの影響か」
エヴァンジェリンが言ってくる。

「エヴァンジェリン、お主にも報告書は回す。この事を彼に伝える時期も任せる」
と学園長が伝える。

「当たり前だ。裕也は私の従者だからな。それに、アイツには私の従者として相応しい力をつけて貰うから貴様等が気にする事は無い」
エヴァンジェリンはそれだけ言うと学園長室から出て行った。

「偽善…ですか」
タカミチがエヴァンジェリンの言葉を呟く。

「そう見えるじゃろうな…彼が狙われる理由を作ったのも、それから守ろうとしているのも同じ魔法使いなんじゃからの」
学園長室に学園長の言葉が響いた。


所変わってロリ研…もとい研究室

「という事で…来学年から教員免許取得のため教育学部にも行く事になった」
裕也が戻ってきて試作ガイノイド三型『ドライ』の調整に掛かりっきりになっている超と葉加瀬に伝える。

「は?今度は教職カ。裕也、節操無いにも程があるヨ…」
超が呆れながら言ってくる。

「ガイノイドの研究とエヴァンジェリンさんの修行、更に教員免許取得ですか…正に三足の草鞋ですね」
妙に感心しながら葉加瀬が頷く。

「で…ドライの進捗状況はどうだ?」
二人の言葉をスルーしながら白衣を羽織り裕也は確認する。

「本体は完成してるヨ。飛翔ユニットとプログラムは一度飛ばして見なきゃなんとも…」
超は現状をそのまま伝える。

「そうですね…プログラムでは完璧でもそうなるとは限りませんからね」
葉加瀬も続く。

「マスターの別荘は改装中って事で使えないらしいからな…仕方ない、屋上で行うか」
裕也が提示する。

「屋上ですか。魔法技術は使わないで組み上げたので周りに見られても問題ないですが…」
葉加瀬は問題がないか考え初める。

「いいんじゃないカナ?アインは無理でもツヴァイの御披露目だけでも出来るからネ」
超は賛成する。

「ここの研究室はどこで実験をしているのかと噂になっているしな…アピールにはもってこいだろ。許可が取れたら早速行くぞ」
裕也は早くも携帯で連絡を取り始める。

「との事ネ。ツヴァイも準備を…ってもう終わってるのカ」
超がツヴァイの方を見ながら言う。

「はい、超 鈴音。屋上に行くとの提案があった時点で準備を開始していました」
とツヴァイは無表情のまま答える。

「やはり、加速度的に進歩していますね…」
葉加瀬が超に呟く。

「そうみたいだガ…裕也がいるとそんな片鱗も見せないヨ」
超も小声で返す。

裕也のテストが終わってからの精密検査ではプログラムには何ら変化は見られなかったが明らかに行動はロボットから人それに近づいている。

「許可は取れた。今から屋上に向かうぞ。ツヴァイ、ドライの飛翔ユニットを持ってきてくれ」
裕也は携帯をしまいながら周りに告げる。

「了解しました、ドクター」
ツヴァイは答えてまんまグレー○ブースターな見た目の飛翔ユニットを抱えていく。

「試作ガイノイド三型『ドライ』の本格起動完了…話せるかい、ドライ?」
裕也はドライの起動を終わらせ、話し掛ける。

「ハい、りカいできマす、どクター」
ドライは不安定な発音で答える。

「む…声は馴れていけば問題なくなるな。ツヴァイの経験をインストールしても良いんだが…自分で馴れていってくれ」
裕也はドライに教えていく。

「わカりまシた、努力しマス」
ドライもたどたどしく答える。

「では…早速だが屋上に向かうから着いてきてくれ」
ドライを引き連れて歩き始める。


ゆっくり歩くドライに合わせて来たためかなり時間を掛けて屋上に到着する。

「やっと着いたヨ…」
本来の倍以上の時間を掛けて来たためダレる超。

「飛行制御プログラムに気を取られ歩行プログラムを組み込むのを忘れるとは…」
葉加瀬は反省を口にする。

「…飛翔試験を始めるぞ。ツヴァイ、ドライに飛翔ユニットの装着を頼む」
裕也も若干疲れながらツヴァイに言う。

「はい、ドクター」
とツヴァイはドライの背中に飛翔ユニットを取り付ける。

「では…これから飛翔試験を行う」
と裕也は宣言する。

「ドライと飛翔ユニットの接続状況良好、数値は全て誤差の範囲内ヨ」
超が報告してくる。

「データ収集開始します」
葉加瀬も行動を開始する。

「行きマす」
まだ、しっくりこない発音のドライの掛け声と共に飛翔ユニットが火を噴き飛んでいく。

「…葉加瀬、どうなっている」
飛び立ったドライから目を離す事なく裕也は葉加瀬に聞く。

「今の所、予定通りです」
葉加瀬はデータ収集に集中しながらも答える。

「姿勢制御用バーニアも問題なく働いてるヨ。後はプログラムどうりに…ってハカセ、あのプログラムは抜いたカ?」
ドライの様子を見ていた超が慌てて葉加瀬に確認を取る。

「はい?あのプログラムって…まさかっ!?」
葉加瀬は超の質問を聞いて一気に顔を青くする。

「……どんなプログラムを仕込んだんだ、二人とも」
顔をひきつらせながら裕也は問い掛ける。

「いや…飛翔ユニットの見た目がグレートブー○ターになったからつい…」
と超は目を合わせる事なく答える。

「実際に射出出来るようにしてしまおうと言う話になって…プログラムをちょちょいと追加してしまいまして…」
超に続いて葉加瀬も視線を反らしながら答える。

「という事は…」
裕也が二人から飛翔試験中のドライに目を向けると

「飛翔ユニット射出シマす」
こちらへ一直線に突っ込んでくる飛翔ユニットと、推進力を無くし屋上まで戻れずにそのまま落下していくドライを見た。

「なっ…ドライっ!!」
それを認識した瞬間裕也は瞬動と虚空瞬動を駆使して自由落下を続けるドライへと急ぐ。

「ちょっ…アレと私達は無視カっ!?」
その裕也の背中に超の悲痛な叫びを上げる。

「今回ばかしは自業自得ですかねー」
葉加瀬は最早開き直っていた。


結果、飛翔ユニットはツヴァイのヒートロッドにより着弾寸前で迎撃され、ドライは裕也の文字通り捨て身の救助によりオートバランスシステムが破損するだけで済んだ。


「で…今回の事についての申し開きは?」
ドライの修理を終え、ツヴァイに色々教えるように言いつけた後の研究室で裕也は超と葉加瀬を正座させていた。

「う…今回は私と葉加瀬の悪ふざけが原因ヨ…」
と超がうなだれて言う。

「そうですね…少し調子に乗りすぎましたね」
葉加瀬も反省しているように見える。

「ほう…アソコまで飛翔ユニットに大量の花火を仕込んでいて少しか?」
裕也が机の上に置かれた大量の花火を指差しながら言う。

「いや…アレはただ突っ込んでくるだけじゃ物足りなさそうだったから…」
超がそわそわしながら答える。

「超さんがいっそのことス○ロボみたいにしようと言いまして…」
葉加瀬も答える。

「ちょっ…ハカセもノリノリでプログラムを組んでたじゃないカっ!?私だけ悪者にするのはズルいヨっ」
超が葉加瀬に抗議する。

「なっ…それは超さんもノリノリで花火を調達してきたじゃないですかっ」
と葉加瀬も反論する。

そこからピーピーギャーギャーと口論に発展する。

「どちらが悪い悪くないなんてどうでもいいっ!!」
裕也の一喝で口論が止まる。

「今回はツヴァイが迎撃したから怪我が無かったが、いつもこんな風に済むとは限らないんだぞ。ネタに走るなともリスペクトするなと言わないが…怪我をしかねない無理はするな」
それだけ言って裕也はドライの修理に戻っていった。

「…わかったヨ。これからは自重するヨ」
超は珍しく落ち込んで答える。

「そうですね…少し調子に乗りすぎましたね」
超と同じように葉加瀬も落ち込む。

「……超、葉加瀬。テストの時に破損した薄刃と陽炎の改修を頼む。それが終わったら飛翔ユニットの改善をするからな」
裕也は二人に背中を向けたまま話しかける。

「…わかったヨ。じゃあ早速設計していこうかハカセ」
超は直ぐに立ち上がって行動に移る。

「…そうですね。始めましょうか」
葉加瀬も動き出す。

「で、今度の飛翔ユニットはどんな型にしようカ…」
薄刃と陽炎の改修案を葉加瀬と編みながら超が葉加瀬に話しかける。

「そうですね…今度はウィング○ンダムみたいなのはとかはどうですか?」
葉加瀬もノリノリで答える。

「……大丈夫だろうか」
裕也は二人の会話を聞いて不安になる。

「大丈夫です、ドクター。あの二人はドクターのおっしゃりたい事は理解していますから」
とツヴァイは誰にも聞き取れないレベルで呟く。

「何カ言いマシたか?姉さン」
隣で発音の練習をしているドライが聞き返す。

「いえ、何でもありませんよ。さあ、ドライ練習を続けますよ」
とツヴァイはドライの発音指導に戻る。

「ハい、姉さん」
とドライも練習に戻っていく。

今の騒がしい研究室が裕也が求めているモノになりつつあった。


事故を起こしつつも何とか試作ガイノイド三型『ドライ』の飛翔試験を終わらせた研究室の面々。

そしてエヴァンジェリンの別荘の改装が完了し本格的に裕也の修行が開始する。




あとがき
少し頑張ったTYです。
自分でもややこしい事にしてしまったと…思わなくもないです。
感想その他諸々お待ちしとります。


感想レス
DDp様
編集中の不手際です。
指摘ありがとうございます。



[8004] 転生生徒 裕也 第七話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/09/28 21:47

転生生徒 裕也
第七話

裕也はエヴァンジェリンの別荘の前で足を止めていた。

「マスター…この城は何だ?」
裕也は別荘の後ろにある城を見ながら聞く。

「レーベンスシュルト城だ。貴様の修行を行う為に色々増やしたがな。ほらさっさと入れ」
とエヴァンジェリンは答えながら裕也を蹴り入れ、自分も入っていく。


「手前の転移魔法陣が城への直通で、四方のはそれぞれ修行場に行ける」
エヴァンジェリンは入って直ぐに説明を始める。

「修行場と言うと、城にくっついてた所か?」
裕也は周りを眺めながら聞く。

「そうだ。よし…裕也、今日は好きなところに入っていいぞ」
エヴァンジェリンは何か閃いたように言ってくる。

「…まだ、どんな所があるのか聞いていないのだが」
裕也は頬をひきつらせながら問い掛ける。

「知っていたらつまらんだろ。それに実戦では己が知りえない所で戦う事もザラだからな」
エヴァンジェリンはニヤニヤ笑いながら答える。

「その通りなのだが…先に入るぞ」
裕也は肩を落とし転移魔法陣に入っていった。


「暑い…というか熱い」
裕也が選んだ転移魔法陣の先は砂漠だった。

「当たり前だ。摂氏50度だぞ」
続けて入ってきたエヴァンジェリンが話し掛ける。

「何故そんな平然としていられるんだ、マスター」
汗だくになりながら裕也は問い掛ける。

「む…耐熱の術を使っているからに決まってるだろ。貴様もさっさと使え」
エヴァンジェリンが何を今更と言わんばかりに答える。

「…それはホイホイと出来るモノなのか?」
裕也が一応、気で強化しながら問う。

「そんなもの少し応用すれば出来るだろ」
エヴァンジェリンは呆れながらも教える。

「身体強化の応用の延長で出来るとは考えづらいのだが…」
裕也は気を色々な所に集中させる事を試しながら聞く。

「何?…もう一回言ってみろ」
エヴァンジェリンが聞き返す。

「だから身体強化の応用で出来るとは考えづらいと…」
裕也は素直に言い返す。

「アホかーーっ」
エヴァンジェリンはそう言いながら魔力で強化した右手で突いてきた。

「なあっ!?」
裕也はいきなりの攻撃にも対応し右の拳で反撃に移る。

「ちっ…今日はこのまま修行を始める。終了条件は打撃を私に一撃与える事だ」
エヴァンジェリンは裕也の拳を受け流し投げ飛ばす。

「そのまま組み伏せるつもりだったんだが、自ら飛んで回避したか」
エヴァンジェリンは着地した裕也に向かって言う。

「……せめてその耐熱の術とやらを教えてくれないか?」
裕也は瞬動で間合いを詰め殴り掛かりながら言う。

「ふん、これが終わって生きていたら教えてやる。リク・ラク・ラ・ラック・ライラック…」
エヴァンジェリンは不吉な事を言いながら裕也の拳を障壁で受け止め、詠唱を始める。

「な…魔法を使うのはズルくないかっ!?」
裕也は障壁を抜くのを諦め一気に距離を取る。

「実戦ではズルいも何も無いぞ。『魔法の射手・連弾・闇の17矢』」
エヴァンジェリンは抗議に耳を貸さず撃ってくる。

「くっ…足場が悪い。仕方ないか」
砂に足を取られ思うように避けられない分を裕也は白衣から取り出したデザートイーグルで迎撃する。

「やはり持っていたか。というかどこから買ってくるんだ、それ」
とエヴァンジェリンは距離を詰めながら聞いてくる。

「自前だ…っと」
裕也は答えながらリロードしエヴァンジェリンに向け躊躇無く引き金を引く。

「いつもより精度が甘いな。あの鎧を着ていなきゃこの程度か?」
エヴァンジェリンは障壁で受け止めるのでは無く、避けて更に接近してくる。

「いや…狙い通りだよ」
裕也は弾切れのデザートイーグルを捨て、気を右手に集める。

「ほう、なかなかの気の練りだが…遅い。リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来たれ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を…『凍る大地』」
が、エヴァンジェリンの呪文詠唱の方が早く終わり、出てきた氷柱に裕也は貫かれる。

「ぐ…が…っ」
貫かれた裕也は血を流すこと無く白衣を残して消えた。

「なっ…分身かっ!!」
エヴァンジェリンは一瞬気を取られる。

「独学だからか気の消費が半端じゃないがね」
と裕也がぼやきながらエヴァンジェリンの背後に立つ。

「ちっ…」
エヴァンジェリンは反撃は間に合わないと判断し障壁を張る。

「その障壁を…抜く!!」
ありったけの気を集中させている右手を手刀の型にして一気に突く。

「気の練りは良いがそれでは障壁を抜くには足りな…っ!?」
エヴァンジェリンは障壁を抜かれ呆気にとられる。

「抜いた…ぞ」
裕也はエヴァンジェリンの額に指先を当てるとそのまま崩れる。

「って…何故力尽きる」
とっさにエヴァンジェリンは裕也を支える。

「気を使い果たしたのと、熱中症が原因かと」
ツヴァイが推測する。

「……いつからいたんだ?」
エヴァンジェリンが裕也を担ぎ直しながらツヴァイに問い掛ける。

「あなたの『アホかーーっ』の辺りからですが、何か?」
ツヴァイはあっさりと答える。

「ほぼ最初からじゃないかっ!というか何故ここに居る!?」
エヴァンジェリンは妙なテンションになりながら問い詰める。

「超と葉加瀬から武装を使用しなければ自由に出歩いてよいと許可を得たのでドクターの後を尾行してここにたどり着きました。あ、そろそろ出なくてはドクターが危険です」
ツヴァイは質問に答えるとエヴァンジェリンから裕也を奪い、転移魔法陣に向かって行く。

「あ…こら、待たんか。このボケロボが」
エヴァンジェリンもツヴァイを追い掛け転移魔法陣に行く。


「で…どうやって私の障壁を抜いたんだ?」
城に戻り意識を取り戻した裕也にエヴァンジェリンが問い掛ける。

「拳の面じゃ抜けないから、手刀の先に力を集中させて障壁を貫いたんだよ。それとツヴァイ、もう大丈夫だ」
裕也はエヴァンジェリンに答えながら、ツヴァイに言う。

「了解しました、ドクター」
ツヴァイは冷やすのを止める。

「…影分身なぞいつの間に体得したんだ?」
エヴァンジェリンが聞いてくる。

「最近、超と葉加瀬が色々な所に顔を出し始めてな…実験の時に人手が足りなくなって分身とかできないかなーと色々試していたらな…」
裕也はエヴァンジェリンから目を反らしながら答える。

「そんなに軽く…というか理由が人手不足からというのがなんとも」
エヴァンジェリンも微妙な表情で返す。

「で…マスター、耐熱の術とやらを教えてくれるのでは?」
裕也が話を逸らす。

「ああ、そうだったな。少し待ってろ」
と言い残しエヴァンジェリンは城へ入っていった。

「ところでツヴァイ、何故ここにいる?」
裕也はエヴァンジェリンの後ろ姿を見ながらツヴァイに問い掛ける。

「超と葉加瀬が外出の許可をくれたので偶々見つけたドクターについてきました」
ツヴァイは淡々と答える。

「外出するならもっと他の所があるだろうに…」
裕也は呆れながら返す。

「……いけなかったでしょうか?」
ツヴァイが少し落ち込み気味に聞いてくる。

「いや…ツヴァイが自分で判断したのなら問題ないんだ」
裕也は若干焦りながら答える。

「裕也、ほれ受け取れ」
そうこうしてる内に城から戻ってきたエヴァンジェリンが一冊の書物を投げ渡してきた。

「む…これは?」
裕也は受け取り、内容を見ながら問う。

「私の手持ちで気の応用方について書いてある書物だ。読み解いていけば色々解ってくるだろ」
エヴァンジェリンが答える。

「読み解けるだろうか…」
ペラペラと捲りながら呟いた裕也に

「そんなに不安なら図書館島にでも行って来い。あそこの地下にならそういった手合いの入門書のようなのも置いてるからな」
エヴァンジェリンが答える。

「そうなのか、わかった。ところで今回の修行は…」
裕也は思い出して戦々恐々といった感じで問い掛ける。

「一応クリアにしてやる。倒れたと言っても障壁を抜いてからだったからな」
エヴァンジェリンが仕方なさそうに言う。

「ありがとうございます、マスター」
裕也はエヴァンジェリンに頭を下げる。

「ふん…ところで裕也、接近戦用の武器は何か無いのか?いつもいつも銃と言うわけにもいかんだろ」
エヴァンジェリンが問い掛ける。

「接近戦用と言われても…今の所は設計段階のも含めで何かあったか、ツヴァイ?」
裕也はツヴァイに確認をとる。

「今の所、三点ほどあります。読み上げますか?」
ツヴァイが聞いてくる。

「そうしろ。なるべくわかり易くな」
裕也ではなくエヴァンジェリンが答える。

「はい、まずヒートサーベルです。ブレード部を加熱し対象を溶断します」
ツヴァイが説明を始める。

「ほう…なかなか強力そうじゃないか」
エヴァンジェリンが関心したふうに頷く。

「ですが、ブレード部が脆いため、鍔迫り合いになると折れます」
ツヴァイが欠点を告げる。

「…次だ」
エヴァンジェリンが促す。

「はい、次は杭打ち機です。純粋物理衝撃のみで敵の魔法障壁を打ち抜けます」
ツヴァイが更に話しを続ける。

「で…欠点は何だ?」
エヴァンジェリンは聞いてくる。

「はい、反動が尋常じゃないレベルの為気で強力しても数発しか人体が耐えれません。あと、先端にドリルを上手くつけれないそうです」
ツヴァイが告げる。

「……最後は?」
エヴァンジェリンが呆れながらも聞いてくる。

「はい、最後はゴルディ○ンハンマーだそ「わかった、もういい」
ツヴァイの言葉を遮ってエヴァンジェリンが言う。

「…裕也、私の武器庫から後で何個か持ってくるからその中から選べ」
エヴァンジェリンはツヴァイから裕也に目線を向け言う。

「ああ…わかった」
裕也も申し訳なさそうに答える。

「あと…貴様等はまともな物を作れんのか?それとも作らんのか…」
エヴァンジェリンが疑いの眼差しを向けてくる。

「ヒートサーベルは私の、ドリル付属杭打ち機は葉加瀬、ゴル○ィオンハンマーは超の発案だ…」
裕也は己の疑いを晴らすために説明する。

「ゴルディオンハン○ーの欠点はゴ○ディーマーグが作れない事だそうです」
ツヴァイが先程言い切れなかった所を言えて少し満足げにしている。

「…………そろそろここから出れるから今日の所は終わりだ。来週までにはある程度気の応用を出来るようにしておけ」
エヴァンジェリンは疲れたように言う。

「了解した。ところでマスター、チャチャゼロはどこに?」
裕也は修行開始時から気になっていた事を聞く。

「先に行ってると言っていたが…あ、もしや…」
エヴァンジェリンは少し考えてからある可能性に思い至った。


「………御主人タチ遅エナ」
一方、別荘で一人沈み行く夕陽を眺めながら一人待ちぼうけているチャチャゼロがいたとかいないとか。


「では…研究室に戻っても2人ともいないのか?」
エヴァンジェリン宅から研究室の帰り道に裕也はツヴァイに聞いていた。

「その通りです、ドクター。超はお料理研究会に葉加瀬はジェット推進研究会にそれぞれ行っています」
ツヴァイが淡々と答える。

「そうか…私は少し寄り道してから帰るがツヴァイはどうする?」
裕也は少し考えてからツヴァイに話を振る。

「はい、よろしければドクターと一緒に行きたいのですが…」
ツヴァイは徐々に声を小さくしながら答える。

「別にかまわないが…あまり、面白くないかもしれないぞ」
裕也は了承すると歩き出した。

「どこに向かうのですか、ドクター」
ツヴァイは裕也の後を追いながら問い掛ける。

「ん?図書館島だよ」
何てこと無いように裕也は返し、歩いていく。


「ここに来るのも久しぶりだな…」
裕也は図書館島の扉をくぐりながら呟く。

「昔はよく来ていたのですか?」
ツヴァイが周りを気にしながら小声で聞いてくる。

「ああ、中一頃は足りない知識を得るために通い詰めていたからな。行くのは上階の工学系の書架ばかりだったから地下への行き方はわからないがな…」
地下への道を探しながら裕也は答える。

「お困りですか?」
裕也とツヴァイが周りを見渡していると背後にフードを被った人物が唐突に現れ話し掛けてきた。

「っ!?」
裕也は気配無く背後に立たれた事に驚く。

「おや、驚かせてしまいましたね。私はここの司書をしているクウネル・サンダースです、お見知りおきを」
フードの男は胡散臭い笑みを浮かべながら挨拶をしてきた。

「はぁ…どうも。私は沙霧 裕也で、こっちはツヴァイです」
裕也もつられて返事をし、ツヴァイは紹介に合わせて一礼する。

「ふふふ、困っていらっしゃるのならお手伝いしますよ?」
とクウネルは胡散臭い笑みを浮かべたまま提案してきた。




あとがき
どうもTYです。
最近、迷走し始めているように感じてきました…どうしよう
感想、ツッコミその他諸々よろしくお願いします。

感想レス
なななし様
学園側に正体を隠して従者だと通そうとしたが、正体が知られてしまい引っ込みがつかなくなったからエヴァンジェリンが半ば強制的に従者にしたという事で…
田中さんについては…色々考えてます。



[8004] 転生生徒 裕也 第八話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/05/14 16:28

転生生徒 裕也
第八話

裕也とツヴァイはフードを被った男、クウネル・サンダースの後に続いて図書館島の深部に進んでいた。

「で…どのような本をお探しですか?」
クウネルが話し掛ける。

「気の応用についての入門書のような本を探しているんだが…」
裕也は前を歩いてるクウネルから注意を逸らすこと無く答える。

「ふむ、ならもう少し下の階ですね。…なぜそんなに警戒するんです?」
クウネルが苦笑しながら聞いてくる。

「いきなり現れた得体の知れない魔法使いを初対面で完璧に信じれる程、人間出来ちゃいないんだ…」
と裕也は呆れながら言い返す。

「…ならばどうしてついて来るのですか?信じれないなら断ればよかったじゃないですか」
クウネルが問い掛ける。

「いや…なんか頼むまで何回も出てきそうな気配が…」
裕也が曖昧な答えを返す。

「………ふふふ、そんなギャルゲの必ず選ばなくてはならない選択肢みたいな事はしませんよ」
クウネルは一瞬硬直してからしゃべる。

「何だ、今の間は」
裕也はやはり胡散臭いモノを見る目を向ける。

「おっと、ここの書架ですよ」
クウネルが唐突に足を止める。

「…そうか、礼を言う」
裕也がそこの書架を見に行こうとすると

「そしてこれらがその本です」
クウネルが5冊程の本をどこからともなく取り出して言う。

「…………何が目的だ」
裕也は脱力しながら問い掛ける。

「いえいえ、目的だなんてとんでもない。純粋に厚意からですよ。ささ、どうぞ受け取って下さい」
クウネルは相変わらず胡散臭い笑みを浮かべながら答える。

「……わかった。有り難く受け取ろう」
裕也はクウネルから本を受け取る。

「それらの本は私の私物なので返却しなくて結構です。では私はこれで」
それだけ言い残すとクウネルは消えていった。

「ツヴァイ、これに発信機の類は着いてるか?」
裕也は受け取った本をツヴァイに渡し確認する。

「いいえ、科学的な発信機は確認出来ません」
ツヴァイは一冊一冊調べて答える。

「…用事はすんだから帰ろうか」
裕也はツヴァイから本を受け取り道を戻って行く。

「はい、ドクター。あと、荷物は私が持ちます」
ツヴァイも後を追っていく。


「失礼しますよ」
と断ってクウネル・サンダース、もといアルビレオ・イマが現れる。

「ふぉ?お主が学園祭以外に出てくるとは珍しいの」
一人書類仕事をしていた学園長が迎える。

「はい、沙霧 裕也について速やかに報告すべき事がありましたので」
アルはいつもの軽い雰囲気ではなく真面目な調子で告げる。

「…何かわかったのか?」
学園長も手を止め聞く。

「彼の人生の収集を完了し読んでみたのですが…無理でした」
アルがイノチノシヘンを取り出しながら言う。

「無理とはどういう事じゃ?記憶に何らかの呪術的な処理がされておるとかかの」
学園長が顎髭をさすりながら問う。

「いえ…読めるのですが、一気に何人もの人生が流れてしまうのですよ」
アルビレオがイノチノシヘンを見せながら答える。

「…一人の人間が全く関係ない複数の他人の記憶を受け入れる事は出来るのかの?」
学園長がイノチノシヘンを眺めながら聞く。

「受け入れる事は出来るのでしょうが…これだけの人数ならかなりの痛みを伴うはずです。これは仮説ですが、彼は無意識の内に自分の脳に魔力で何かしらの処理をしたのではないでしょうか」
アルビレオが説明する。

「必要ない知識を無意識に切り捨てておるのか?」
学園長も仮説を言う。

「はい、もしくはファイヤーウォールとプロキシサーバと言ったところですか…」
とアルビレオも続くが

「ふぁいやーうぉーるとぴろしきさーば…何じゃそれは?」
学園長には理解出来なかったようで聞き返してくる。

「おっと…そろそろ戻らせてもらいますよ。世界樹の魔力が充ちていないと結構キツいんで」
と言ってアルビレオは消えていった。

「おーい…せめて、ぴろしきさーばが何か教えてから帰っとくれ…」
一人残された学園長の声が虚しく響いた。


「呉氏妖炎拳?」
研究室に戻っていた超が聞き返してくる。

「ああ、図書館島の胡散臭い魔法使いから貰った本に書いてあるんだが…」
裕也はページを開いて超に渡す。

「むぅ…どこかで聞いたことはあるんだがどこだったカナ…」
超は渡された本を見ながら唸る。

「それよりも沙霧さん、ここの研究室は掛け持ちOKですか?」
葉加瀬が身を乗り出し聞いてくる。

「別に構わないが…どことなんだ?」
裕也は超から葉加瀬に意識を向ける。

「はい、ジェット推進研究会にも行こうかと」
葉加瀬が言ってくる。

「…そうか。葉加瀬、行ってもいいぞ。超も色々と顔を出してるみたいだからな」
裕也はあっさりと許可を出す。

「そうだ、裕也。私もちょっと話があるんだが…いいカナ?」
超は思い出す事を諦め裕也に話し掛ける。

「…少なくともゴ○ディオンハンマーはつくらないぞ」
裕也は妙に警戒しながら聞く。

「何故それを知っているのか気になるガ…そっちじゃないヨ」
超が顔の前でパタパタと手を振りながら言う。

「では何だ?」
裕也がもう一度聞く。

「ここの研究室の事ネ。裕也、この研究会の正式名称は何カナ?」
超が真面目に言ってくる。

「ガイノイド研究会だろ」
裕也が何を今更と言った感じに返す。

「そう…噂に疎い裕也の事だから知らないと思うが、最近ロボット開発研究会なるものを立ち上げようとしている輩がいてネ。その面子がここの研究室の乗っ取りを企てているヨ」
超がひそひそ声で話す。

「何故、今更になって…ああ、そうか」
超の話を聞いて考え込んでいた裕也が理解する。

「多分、ドライの飛翔試験の時にツヴァイが目についたんですね。御披露目も目的としていましたが嫌な方々に見られましたね」
葉加瀬もひそひそ声で参加してくる。

「オマケにここのパソコンのセキュリティーは我等三人によって完璧、常時起動しているアインとドライのお留守番組のお陰で侵入者は再起不能に…」
超はひそひそ声で続ける。

「どうりで最近、アインのロケットパンチが多用された形跡があったのか…そしてドライは索敵役か」
裕也は高性能AIを駆使した無駄にハイレベルなジャンケン勝負をしている二人に目を向ける。

「そう言うことですか…ハッキングもこそ泥も無理だったから私達の娘を権力で奪おうと言うんですね…」
葉加瀬が黒いオーラを発しながら呟く。

「おーい、ハカセ。なんかキャラ変わってるヨ」
超が若干引きながら声を掛ける。

「はっ!?うっかり暗黒面に堕ちるとこでした。で…どうするんですか?」
正気に戻った葉加瀬がやはりこそこそ声で聞いてくる。

「既に対策は打っているヨ。という事で裕也、説明よろしくネ」
と超は裕也に丸投げする。

「……何故私が?」
裕也が問い掛ける。

「いつぞやのお返しネ。どうせ私の対策がどんなのかおおよその見当はついてるのだろ?」
超がしれっと答える。

「まあ…ね。どうせ、研究会の名前を変えるのだろ?幸いにもウチの研究室では色々扱っているしな。今から立ち上げようとするよりも早く済む…と言うか既に手続きをしているな、超」
裕也が説明しながら確認する。

「という事は…ここの研究会の正式名称は何になるんですか?」
葉加瀬も超に聞く。

「よくぞ聞いてくれたネ…このガイノイド研究会は来月からロボット工学研究会として本格始動するヨ」
と超が宣言する。

「…まあ、妥当な所か」
裕也は少し考えてから口を開く。

「そうですね…超さんならもっとネタに走ると思ったんですが」
葉加瀬も続く。

「いや、G○Gとかネオ○オンにしようとしたら偶々出くわした明石教授に止められてネ…泣く泣くそれにしたんだヨ」
本気で残念そうに超が言う。

「で…本格始動と言うからには新しい事を始めるのだろ?」
裕也は超の危ない発言を無視して話を進める。

「非公式で進めていた強化外骨格をバージョンダウンさせた軍用強化服開発プロジェクトを私が、新型ロボット兵器開発プロジェクトをハカセが、そしてガイノイド開発プロジェクトを裕也がそれぞれ主任としていくヨ」
超がそれぞれに資料を渡しながら説明する。

「強化外骨格は魔法技術も使っているから公に出来ませんからね…と言うかモロに兵器と書いていいんですか?」
葉加瀬が資料に目を通しながら聞く。

「むしろ明記しておかなきゃいけないネ…と言うか意外といろんな研究室でロボット兵器開発が行われてるからアッサリ通ったヨ」
超が嬉しそうに答える。

「では…超の『魔法と科学のハイブリッド』はどうするんだ?」
裕也が資料を机に置いてから問う。

「それは今まで通りに秘密裏に進めて行くヨ…ただ、裕也の最終目標の『人のようなロボット』は学園長に許可を得なくてはならないがネ」
と超が言ってくる。

「…協力者がマスターだからか?」
裕也が聞く。

「その通り…彼女は元とはいえ凶悪犯には変わりないヨ。そんな彼女の扱いはかなりデリケートだからネ」
超も真面目に答える。

「…今日の所はここまでにしよう。少し疲れた」
と裕也が伸びをしていると

「ただいま戻りました。」
ツヴァイが何かを引きずりながら戻ってきた。

「お帰り、ツヴァイって…何だ、それは?」
裕也はツヴァイが引きずっている何かを指差しながら言う。

「私にトリモチなどを投げつけてきた不届き者です。せっかくドクターにオーバーホールしてもらったばかりなのに…」
ツヴァイがぶちぶちと文句を言いながら研究室の一室に放り込む。

「なるほど…調度良いな。超、葉加瀬、私は少し自主トレをするから先に寝てて良いぞ」
裕也は貰ってきた本を持って先程ツヴァイが何かを放り込んだ部屋に入っていく。

「ほどほどにネ…」
超は寝間着に着替えながら答える。

「沙霧さんも大概、親バカですね」
葉加瀬は布団を敷きながら言う。

「…ハカセもじゃないカナ?」
超がボソッとつっこむ。

「何か言いましたか?超さん」
葉加瀬が未だ続いてたジャンケン勝負を止めながら聞き返す。

「いや、何でもないヨ」
超はもそもそと布団に潜りながら答える。

「そうですか…って、超さん?そこは沙霧さんの布団では?」
葉加瀬が自分の布団に入りながら聞く。

「そうだヨ。裕也は何か手応えを得ない限り自主トレを止めないからネ。この時間から始めるとかなり遅い時間に…」
ニヤニヤと楽しそうに喋っていた超が唐突に口を閉ざす。

「どうしたんですか、超さん。何かありましたか?」
葉加瀬が不思議そうに聞く。

「イヤ、ヤッパリヤメテオクヨ」
超はギクシャクと自分の布団に移る。

「?そうですか…」
葉加瀬は首を傾げながら布団に潜り込む。

(ツヴァイに銃口を向けられたら止めるしかないヨ。というか開発者の一人である私に攻撃を加えようとするとは…本格的にチェックが必要カナ)
と超が考えていると

「ところで超さん」
布団に入った葉加瀬が話かけてくる。

「何カナ?ハカセ」
超は間延びした声で答える。

「さっき話をしてた時どうしてひそひそ声だったんですか?私も釣られてしまいましたが」
葉加瀬が何てことない事を聞いてくる。

「何となくネ…内緒話をするときはひそひそ声にならないカ?」
超は何時もより投げやりな調子で話す。

「そんなもんですかねー」
葉加瀬も半分意識を飛ばしながら聞き返す。

「そんなものネ」
超は寝言のように答える。

そうして超と葉加瀬は時折部屋から聞こえてくる音を無視して眠りに落ちていった。


「…裕也が魔力を使えないのは常に自分の脳に何かしらの魔法を使っているからと言うのか?」
エヴァンジェリンが碁石を置きながら問う。

「うむ、少なくとも何の処理も無しに膨大な知識を引き出そうとすればかなりの痛みを伴うはずじゃからの」
学園長は次の一手を考えながら答える。

「ふん、魔力が使えなくとも何も困ってないからいいんだがな…で、本題は何だ?」
エヴァンジェリンは茶を啜りながら聞く。

「ふぉふぉふぉ、バレておったか」
学園長が笑いながら碁石を置く。

「当たり前だ。タカミチにでも言えば済む程度の事でわざわざ呼び出したんだ…これで逆に何もなかったらくびり殺すぞ」
迷うことなく碁石を置いてじろりと睨むエヴァンジェリン。

「実は最近不審者が増えての…」
学園長が顎髭をさすりながら切り出す。

「不審者?暖かくなってきたから頭の沸いたヤツらが出てきたか…」
エヴァンジェリンは茶を自分で足しながら言う。

「その不審者は厄介な事にお主を目的に出るのが大半じゃ」
学園長は辟易しながら説明する。

「何?私が目的だと?」
エヴァンジェリンは茶を飲もうとしていた手を止めて聞き返す。

「うむ、何でもここから解放したいとか協力体制を築きたいやら従者にしてくれなどの…」
学園長はため息をつきながら言う。

「………アホかそいつらは。で、そのアホ共はどうしているんだ?」
エヴァンジェリンは何とも言えない表情で聞く。

「取り押さえられて地下におる。魔法関係者に絡んで返り討ちにあったり、不審者や銃刀法違反で通報されての」
学園長は長考しながら言う。

「私の結界に引っかからなかったのは…」
エヴァンジェリンが眉をひそめて考える。

「高度な魔力遮断のフードやら術式を使って敷地に入って来たらしいぞ」
やっと碁石を置いてから教える学園長。

「返り討ちはともかく…後の二つは何なんだ?」
エヴァンジェリンは呆れながらも問う。

「言葉通りじゃよ…フラグがどうのこうのと言って女子校エリアに入ってきたり、許可証も無いのに堂々と刀や銃を持っていたりの。これらは一般人からの通報ばかりじゃ」
机から茶受けの饅頭を取り出しながら学園長が答える。

「で…そいつらのレベルはどの程度だ?」
饅頭を口にしながらエヴァンジェリンは問いかける。

「魔力が膨大なだけな者が大半じゃな。だが何人かは「学園長!!」ふぉ?何事かな、ガンドルフィーニ君」
学園長の説明はいきなり入って来たガンドルフィーニの声に遮られた。

「要注意侵入者が地下から逃走しました!監視カメラの映像と取り調べ時の発言から推測するに目標は『闇の福音』の従者、沙霧 裕也かとっ!!」
ガンドルフィーニは言葉を切る事なく報告してくる。




あとがき
迷走から暴走に移行しつつあるTYです。
プロットに無い事が勝手に起きるのは何故だろう…
感想、その他ご意見、質問お待ちしております。

感想レス
ハクコウ様
ありがとうございます。期待に応えれるよう精進していきます。
ドリル付属杭打ち機はアニメや漫画ではなく、インパクトドライバーという工具が元ネタです。



[8004] 転生生徒 裕也 第九話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/05/16 20:30

転生生徒 裕也
第九話

白衣を着た裕也は考え事をしながら学園長室に向かって歩を進めていた。

(なんだったんだ、コレは…?)
裕也は簀巻きにして引きずっているモノに目を向けながらここに至るまでを思い返す。

裕也は呉氏妖炎拳のコツを掴んでから不届き者について調べていた。
だが、いくら麻帆良のデータベースをあさっても該当する者がいない。
仕方なしに学園長や形だけだが高校のクラス担任で魔法先生の葛葉 刀子に連絡を取ろうとしたがどちらも繋がらない。
いつまでも研究室に放置しておく訳にもいかないのでこちらから出向く事にしたのだが…

「自分の事を主人公とか…」
裕也は独り言を呟きながら簀巻きの言動をツヴァイがメモしたものを見る。

曰わく、「俺は主人公なんだぞ」
曰わく、「この世界で俺はハーレムを築くんだ」
曰わく、「俺はエヴァンジェリンの従者になる存在だ」
曰わく、「俺が覚醒すればお前なんて…」
曰わく、「仮契約さえしていれば…」
何故、ツヴァイに向かってトリモチを投げたかという問いには
「ロボ娘が欲しかった」との事…この時に呉氏妖炎拳のコツを掴んだのは余談である。

「……どこからがギャグなんだろうか?」
意味不明な言動を思い出しながら裕也は近道の為に林の中へ入っていった。


「で、逃走者の現在地は掴めておるのか?」
学園長がガンドルフィーニに問い掛ける。

「いえ…魔力遮断をして監視カメラの無い林や山を進んでいるのか地下入り口の映像を最後に足取りは掴めていません。現在、シスターシャークティが探索しています」
ガンドルフィーニは間髪入れずに答える。

「何故そんなに騒いでるんだ?ジジイ」
エヴァンジェリンが口を挟んでくる。

「わし等が要注意侵入者としとるのは一人だけじゃ…そやつは他の不審者より更に膨大な魔力で「学園長!!」ふぉ?今度はなんじゃ」
学園長の説明は駆け込んできた葛葉 刀子によって遮られた。

「先程、沙霧 裕也から連絡があました。別件の不審者を捕らえたので学園長室に向かって移動してるそうです。下手をすれば逃走者と遭遇する可能性も…」
葛葉 刀子が懸念を口にする。

「むむ…それはマズい。刀子君は沙霧君と逃走者の探索に加わってくれ。ガンドルフィーニ君はこれ以上逃走者が出んように手を打っとくれ」
学園長が指示を出す。

「「はい!!」」
二人は返事をすると学園長室から出て各々行動を開始した。

「で…お主はどうするんじゃ?」
未だに動こうとしないエヴァンジェリンに学園長が聞く。

「ふん…裕也自身はまだ基礎の段階だが、強化外骨格とやらを装着していればタカミチ相手にも引けを取らんよ」
余裕綽々と言わんばかりに茶をすするエヴァンジェリン。

「…その強化外骨格とやらは常に着ておるのか?それに逃走者はタカミチと一応対等じゃったぞ、膨大な魔力に物を言わせての戦い方じゃが」
学園長が素朴な疑問と情報を言う。

「…………さっさと行くぞ、ジジイ」
茶を飲み干したエヴァンジェリンが少し決まり悪そうに動き始めた。


裕也は林に入り少しして違和感を感じていた。
(妙だな…動物の気配が無い)
裕也が何があっても対応出来るように気を巡らせると

「『氷槍弾雨』」
いきなり上空から氷で作られた槍が雹のように降ってきた。

「なぁっ!?」
裕也はとっさに簀巻きを放り捨て回避行動に移る。

ドスドスと氷の槍があちこちに刺さる音が周りに響く。

「貴様が沙霧 裕也だな」
魔法を放ってきたフードを被った人物が降りてくる。

「…そうだと言ったら?」
裕也は氷の槍が刺さった簀巻きを気にしながら答える。

「我は闇之 氷夜、『闇の福音』エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの従者に最も相応しい者だっ!!」
フードを脱ぎ捨て名乗りをあげたのは明らかに薬品で染めた青髪と青のカラーコンタクトを付け、豪奢な刀を持つ男だった。

「…………」
裕也は無言で相手の様子を伺う。

「ふん…我が気迫に気圧されて何も言えんか。ならばそのまま死ね。『魔法の射手・連弾・氷の1001矢』」
氷夜は再び空に上がり無詠唱で狙いも付けずに魔法の射手をばらまく。

「むっ…」
裕也は魔法の矢を木の陰に隠れてやり過ごす。

「そんな所に隠れでも無駄だぞっ!!リンク・ランク・ラン・ランック・ラインラック 来たれ氷精…」
氷夜は裕也の隠れた木ごと吹き飛ばそうとするが

「遅いな」
裕也は白衣から取り出したデザートイーグルで狙い撃つ。

「っ!?ふん…この程度で我の障壁を抜こうなどと片腹痛い。闇を従え吹けよ常夜の氷雪。『闇の吹雪』」
氷夜は何てこと無いかのように言い、エヴァンジェリンのサイズの倍以上の『闇の吹雪』を打ってくる。

「ちっ…」
銃弾が防がれると裕也は逃げながら思考を進める。
(障壁は厚いだけでマスター程の硬さはないと見た。さらに先の仕草から見るに銃を撃たれたのも初めて…魔力の練りとやらはイマイチ分からんが…デカいな)

「地べたを這っていては逃げれんぞ!!リンク・ランク・ラン・ランック・ラインラック 来たれ氷精、大気に満ち…」
氷雪は再び詠唱を始める。

「だから、遅い」
裕也は足を止め予備に持っていたスタームルガー・ブラックホークも取り出し全弾撃ち尽くす。

「くっ!?貴様…そんな俗物でしか攻撃できんのかっ!!それでよく『闇の福音』の従者が名乗れるなっ!!白夜の国の凍土と氷河を…『凍る大地』!!」
先程よりは余裕が出来たのか、饒舌になりながら詠唱を完成させる。

「しまったっ!?」
裕也は氷柱は避けきったが足を地面に凍結れてしまう。

「鬼ごっこもここまでだな…沙霧 裕也よ。我が愛刀、草薙剣の錆となれ」
氷夜は『戦いの歌』を使いわざわざ刀で斬りかかって来る。

「ぐっ…」
裕也は二丁の銃を強化して受ける。

「その程度で我が刀が止められるかぁ!!」
氷夜は『戦いの歌』を最大出力にして押し切る。

「ぐぁっ…」
裕也は斬り裂かれるが白衣と銃の残骸を残して消える。

「分身だとっ!?卑怯なっ…!!」
氷夜は周りを見渡しながら叫ぶ。

裕也は木の陰で気配を絶ちながら考える。
(チャチャゼロとの鬼ごっこで身につけた気配遮断だ。ある程度は保つだろうが…これほど魔法を乱発しても誰も来ない所を見ると…)

「このまま救援を待っても無駄だぞ!!ここら一帯に我が作ったオリジナルの人払いの結界を張ってあるからな!!」
氷夜は空に上がり見かけだけの警戒しながら声を張り上げる。

(自分から種明かししてくれるとはな。だが、さっきの分身で気がかなり減ったし、手持ちの銃が一丁しか無い…迂闊にっ!!)
裕也が打開策を考えていると後ろに気配を感じて音をたてずに振り向くと

「私です、ドクター」
かなりの大きさの鞄を背負ったツヴァイが腹這いの体勢でいた。

「……何故ここにいる?」
裕也は未だに騒いでいる氷夜を警戒しながらツヴァイに話し掛ける。

「ドクターが発砲したら私達に連絡が来ようになってます。不測の事態に備え私が強化外骨格『薄刃陽炎』の運搬と装着の補助を、アイン姉様とドライが装着にかかる時間稼ぎをします」
ツヴァイが背負っている鞄から『薄刃陽炎』を取り出し告げる。

「何?アインとドラ「何だ!?貴様ら、我に楯突くとでも言うのか!!」っ!?」
裕也がツヴァイに問い掛ける声に被せるように氷夜が騒ぎ出した。

「標的を確認、アイン姉さん攻撃開始です」
飛翔ユニットを取り付け、両手にハンドキャノンを持ったドライの上に、強化外骨格用の装備を無理やり装着したアインが乗り氷夜に攻撃を仕掛けていた。

「ふん…命令された事しか出来ない人形風情がっ!!我をなめるなよ!!『魔法の射手・連弾・氷の1001矢』」
氷夜が無詠唱で魔法の射手を放つ。

「避けきれない分の迎撃を頼みます」
ドライがアインに持っていたハンドキャノンを渡しながら言う。

アインは頷き迎撃を始める。

「やめ「すみません、ドクター」むぐっ」
明らかに無理をしている二人を止めようと大声を出そうとした裕也のツヴァイが口を塞ぐ。

「何をする、ツヴァイ。あのままではあの二人が…」
裕也がツヴァイに抗議する。

「はい、姉様とドライが無理をしてまで時間を稼いでる内に装着を済ませます。そのまま、ドクターが出てしまうと危険です」
ツヴァイは有無を言わせない口調で答える。

「…わかった。手伝ってくれ」
裕也が上空の戦闘を気にしながら薄刃陽炎の装着を始める。

「了解しました、ドクター」
ツヴァイもそれに答え行動を開始する。


「飛翔ユニット燃料残り僅かのため射出準備開始。姉さんは先に降りて下さい」
ドライがアインに促す。

アインは頷くと弾を撃ち尽くした武装を氷夜に投げつけ、気を逸らしてから飛び降りる。

「ちっ…こんな物を斬るために草薙剣を振るうとは…」
氷夜は投げつけられた武装を切り捨てながら飛び降りたアインに目を向ける。

「飛翔ユニット射出します」
ドライがアインに気を取られている氷夜に飛翔ユニットを射出し自分も落下していく。

「この程度で我を打ち取れるとでも…っ!?」
氷夜は飛翔ユニットを斬った瞬間、爆発が起こる。

「超と葉加瀬に感謝です。花火ではなく爆薬を仕込んで…い……る…と…は?」
ドライは着地し立ち上がった瞬間、上から投げつけられた刀に胸を貫かれる。

アインが貫かれたドライに駆け寄ろうとするが…
「吹けよ常夜の氷雪。『闇の吹雪』!!」
爆発の煙の中から放たれた『闇の吹雪』を受け四肢をもがれて吹き飛ぶ。

「我をなめるなと言ったろ…人形がっ!!このまま叩き潰してくれるわっ!!リンク・ランク・ラン・ランック・ライ…!?」
氷夜の呪文詠唱を遮るように薄刃陽炎を装着し終えた裕也が殴りかかった。

「はっ、やっと出てき「少し黙れ」ぐがっ…!?」
氷夜が喋りきる前に裕也が炎を纏わせた拳で殴りつける。

「なっ…ぐおっ」
氷夜が口を開く隙を与えず一方的に攻撃を続け地面に叩きつける。

(呉氏妖炎拳…己の感情を炎とし体に纏うとはこの事!!)
怒りで理性が薄れた裕也は虚空瞬動で加速し一直線に氷夜に殴りかかる。

「このっ…我をなめるなぁっ!『断罪の剣』!!」
仰向けに倒れていた氷夜が『断罪の剣』を発動し突き出す。

「しまっ「ドクター、危ないっ!!」ぐっ」
『断罪の剣』の相転移の刃に貫かれそうになった裕也をツヴァイが体当たりをして押しのける。

「ちっ…まだ居たのか、この人形がっ!!」
氷夜は裕也をかばって『断罪の剣』に胴を貫かれたツヴァイを腕を振って両断する。

斬り捨てられたツヴァイの上半身が裕也の方に転がっていく。

「ツヴァ…イ?」
裕也は目の前にあるツヴァイの上半身を抱き上げる。

「ド…ク……ター、無………事で…」
それだけ言うとツヴァイは機能を停止した。

「ふん…人形なんぞに頼らなければならない時点で貴様は負けていたんだよ、沙霧 裕也。さあ、認めよ。我の方がエヴァンジェリンの従者に相応しいとっ!!」
氷夜は勝ち誇りながら『断罪の剣』を突き出す。

「…………」
裕也はツヴァイを静かに横たえて無言で立ち上がる。

「今更、怯えてもっ!!もういい、死ね…よ?」
氷夜が『断罪の剣』を振るった腕に違和感を覚え視線を向けると
「なぁぁっ!?我の腕がああぁぁぁ!?」
腕は完璧に炭化しており、地面に落ちて砕けちった。

「呉氏妖炎拳…この感情を一滴も外に漏らさず全て炎とすれば…これほどまでの火力になるか」
瞬動で氷夜の背後に回っていた裕也は鉤爪のよう開いた両手に黒い炎を纏わせながら呟く。

「ひぃぃ、来るな人殺しぃ!!」
氷夜は尻餅をつき、今までの態度からは考えられない程に怯える。

「………人殺し?それはお前だろ、闇之 氷夜。私はまだ、誰一人殺してはいない」
裕也は無表情のまま答える。

「我はまだ誰も殺してはいないっ!!」
氷夜は残っている腕を振りながら否定する。

「いや、殺したよ。アソコに在る簀巻きをね」
裕也は血だまりに沈んでいる簀巻きを指差し告げる。

「な…あれは貴様が…そう、貴様が連れていたんだ…だから貴様のせいで死んだんだ。我は悪くないっ!!」
氷夜は後ずさりしながら理論の破綻した事を喚く。

「正直…お前が人殺しかどうかなんてどうでもいい。ただ…」
裕也は言葉を止め、黒い炎を両肘まで纏わせる。

「何を言っている貴様。我は「黙れと言ったろ」がぐっ!?」
裕也は氷夜の膝を蹴り砕く。

「これはエゴだ…アイツ等を…私の家族を壊された事に対する怒り…」
裕也は両腕に纏っていた炎を右手に集中させる。

「あぐぁぁぁ、いやだぁ…」
氷夜は言葉にならない声を出しながら這いつくばって逃げようとするが膝が砕けているので思うように進まない。

「死「そこまでです」っ!?」
振り下ろそうとしていた裕也の右腕を葛葉 刀子が掴む。

「葛葉先生…何故?」
裕也は無表情のまま視線を移し問い掛ける。

「あなたとついでにソレを探していました。無駄に強力な魔力で張ってある結界を抜くのに少々時間を食いましたが…最悪の事態はギリギリ防げましたか」
刀子は現状を確認しながら言う。

「最悪の事態…!?やはりこの世界の意志は主人公である我を生かそうとするのだな!!さあ、正義の味方ならどちらが悪かわかるだろう!?」
氷夜が何故か強気に刀子に問い掛ける。

「正義の味方?あなたは何を言っているのですか?私は魔法先生ですよ」
裕也の右腕を離すことなく刀子は続ける。

「なっ…最悪の事態とは我が死ぬ事では…」
氷夜が愕然としながら問う。

「何を見当違いな事を…私達の最優先事項は沙霧君の無事救助。あなたは私の生徒に危害を加えようとした不審者に過ぎません」
刀子は裕也の状態を確認しながら言う。

「なん…だと?我はそいつに腕を焼かれたのだぞっ!?」
氷夜は口角を飛ばしながら喚く。

「何故、止めるのですか?葛葉先生…」
裕也は氷夜を無視して刀子を見ながら再び問い掛ける。

「私は形だけかもしれませんが…あなたの先生です。あの様なモノの為にあなたの手を汚させたくありません」
刀子は視線を逸らす事なく答える。

「そうだ。お前はまだ手を汚すことは無いぞ、裕也。リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来たれ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を…『凍る大地』」
どこからともなくエヴァンジェリンの声が続く。

「なっ…!?どうして…我の体…が凍って?」
いきなり体が凍りついた事に氷夜は愕然とする。

「マスターの魔法?どうして…」
裕也は効果範囲から離脱しながら呟く。

「エヴァンジェリンの魔法ですか…」
刀子は裕也の呟きを聞き止める。

「エヴァンジェリンだとっ!?どこだ、どこに我の主がっ!?」
凍結していない首を振って氷夜は周りを見渡す。

「貴様だな?勝手に私の従者を名乗っていた命知らずは…」
黒いマントを羽織ったエヴァンジェリンが裕也の側に降り立つ。

「あ、ああ…我が『闇の福音』の従者に最も相応しいから…そんな奴より我を従者に…」
氷夜は凍りついた寒さに震えながら支離滅裂な事を言う。

「ふん…貴様のような腑抜けな奴はお断りだ。そのまま凍えて死ね」
エヴァンジェリンはそれだけ言うと興味を無くしたのか氷夜に背を向ける。

「そん…な……我は…主……人」
氷夜は絶望仕切った表情を浮かべ力尽きる。

「アレは殺すなよ、裕也。いや…もう殺せんか」
裕也の方に向きながらエヴァンジェリンが言う。

「何故…ですか?」
裕也は拳を握り締めながら聞き返す。

「もう死んでいるからな。それよりも大切な事があるんじゃないのか?」
とエヴァンジェリンはツヴァイ達に目を向ける。

「あ…」
裕也はそれに気がつくとフラフラと四散しているパーツを集め始めた。





あとがき
やっちまった感じのTYです。
完全にプロットから逸れていく…組み直しかな
感想、批評その他諸々よろしくお願いします。


感想レス
テンプル様
不審者の扱いも考えなくてはならないのを失念していました…
ツヴァイというか、アインもドライも巻き込んでの死亡(?)フラグでした



[8004] 転生生徒 裕也 第十話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/05/22 22:07

転生生徒 裕也
第十話

戦闘の翌日、裕也は超と葉加瀬に事の顛末を説明し頭を下げていた。

「彼女たちが自分で決めて行動した結果なら…裕也が謝る必要はないヨ」
超はそれだけ言うとアインの状態チェックを始める。

「そうですね…生みの親を守ろうとしたんですから。沙霧さんは私たちに謝るのではなく三人を褒めてあげて下さい」
葉加瀬も責める事無くパソコンを起動する。

「だが…私は「沙霧 裕也!!」っ!?」
なおも謝ろうとする裕也に超が一喝する。

「裕也は彼女たちの行動を否定するのカ?」
超が裕也に向き直り問う。

「いや…そんな事は…」
裕也は目を逸らしながらもごもごと答える。

「ならばいつまでもウジウジするな!!彼女たちの残したデータで更に人らしいガイノイドを作ってやる位言ってみろ!!」
超が胸元を掴み無理矢理目線を合わせながら叫ぶ。

「…………やってやろうじゃないか。アイツらが残したものを根こそぎ使って…作り上げてやろう、アイツらがなれたかもしれない人のようなガイノイドを!!」
裕也が超や葉加瀬、そして何より自分自身に言い聞かせるように宣言する。

「ふふふ、それでこそ私の協力者…いや、共犯者に相応しいヨ。さあ、早速始めるヨ。まだ、彼女たちのリペアが不可能と決まった訳じゃないしネ」
超は胸元から手を放し裕也に工具を渡す。

「ああ…」
裕也もツヴァイの状態の確認を始める。

(なんて言うか…あの二人のさっきの体制は端から見たら小学生に無理矢理キスをされそうになってる高校生でしたね)
葉加瀬は一人妙な事を考えながら行動を開始した。


学園長室には主要な魔法関係者が集められていた。

「昨夜の逃走者と不審者ですが…共に死亡が確認されました」
刀子が皆に資料を配布しながら説明をする。

「死亡…ですか。逃走者はこの右腕欠損というのが死因かな?」
タカミチが資料を捲りながら聞く。

「逃走者の死因はエヴァンジェリンの氷結系の魔法です。腕の傷口は炭化していたため出血はありませんでした」
刀子が補足説明する。

「炭化という事は火か…それもエヴァンジェリンが?」
ガンドルフィーニが顎に手を当てながら問う。

「いえ…先に私が到着した時点で侵入者の腕は無くなっていたので、沙霧 裕也によるものかと」
刀子が昨夜の状態から推測する。

「そうですか…生徒が人を殺めるという最悪の事態は防げたが、本当にギリギリだったのか…」
ガンドルフィーニが深い溜め息をつきながら言う。

「彼の精神面は大丈夫なのですか?昨夜の状態から立ち直るには時間がかかりそうですが…」
シスターシャークティが懸念を口にする。

「それに関して我々に出来るのは見守る事だけだ。彼に近しい者以外が下手なことを言うと悪化しかねん」
神多羅木が腕を組んだまま言う。

「彼のマスターはあのエヴァンジェリンじゃ。穏便に…とはいかんが上手くやるじゃろ」
と学園長が続く。

「彼の件はエヴァンジェリンと彼女達に任せましょう。で、新たな不審者も…やはり今までのと同じような言動ですか」
明石教授が話の方向を戻す。

「そのようですね…彼から受け取ったメモを読む限りでは新手の不審者は気と魔力の存在は知っていたが使えなかったようです」
刀子は資料を見ながら答える。

「ふむ、始めの頃は中二病の類かと思っていたが…ここまで多いとなると裏がありそうですね」
弐集院が呟く。

「その事なんじゃが、ドネット君からとある案件の報告書が来ておっての…」
学園長が机から書類の束を取り出し続ける。
「並行世界、パラレルワールドの人格を憑依させる儀式魔法を使用していた違法研究者を確保した…との」
学園長は報告書の内容を告げる。

「パラレルワールド…ですか?」
シスターシャークティが半信半疑といった表情で聞き返す。

「うむ、本来なら当事者に説明してから話すべきなのじゃが…」
学園長が沙霧 裕也と両親について説明し始めた。


「アインのAIの修理は難しいヨ…四肢は見ての通りだが、頭部は見た目のダメージは少ないが中身がボロボロネ」
超がカルテを見ながら説明する。

「ツヴァイは…メモリー自体は無事だが人格プログラムが破損している。バックアップが間に合わなかったのだろう」
裕也はノートパソコンを操作しながら告げる。

「ドライですが…バッテリーが刀に貫かれてショートを起こしたため、回路が全滅。バックアップの回収も不可能でした」
葉加瀬がパソコンのデスクトップから目を離しながら言う。

「結局、誰一人直せないカ…少しばかりキツいヨ」
超が椅子に座ってぼやく。

「そうですね…って、沙霧さん何をしてるんですか?」
肩を落としながら葉加瀬が問い掛ける。

「いや、ツヴァイの残したフォルダの整理をしていてな…」
裕也はノートパソコンに向かったまま答える。

「そうカ……って、フォルダ!?バックアップは間に合わなかったんじゃないのカ?」
超が椅子から立ち上がりバタバタと裕也に近づく。

「ツヴァイが人格プログラムよりも優先してバックアップを取ったフォルダ…ですか?」
葉加瀬も裕也のノートパソコンを覗き込む。

「いや…初めからバックアップの中で作っていたファイルのようだ。余程大切なのか、見られたくないデータなのか…っと開いたぞ」
裕也は作業を続けながら言う。

「『Design figure』と『Diary』?」
葉加瀬が読み上げる。

「設計図と日記…カ。日記はわかるが設計図は何のカナ?」
超は意図的に興味を設計図に向ける。

「今、開くから少し待て」
裕也が『Design figure』のフォルダを開き
「『Project・Angraecum』…超、葉加瀬何か知っているか?」
後ろからのぞき込んでいる二人に問い掛ける。

「いいえ、私達は知りませんよ。ところで…アングレカムって何でしょう?」
葉加瀬が否定しながらも聞いてくる。

「アングレカムはマダガスカルに分布する蘭科の花の名前ネ。で、裕也中身は何の設計図カナ?」
超は葉加瀬の質問に答えながら裕也に問う。

「強化外骨格の機能を搭載したガイノイドの設計図らしいが…」
裕也が設計図に目を通しながら答える。

「強化外骨格の機能を搭載…と言うことはガイノイドを装着するんですか!?」
葉加瀬が目を見開きながら聞き返す。

「ああ、理論ではそうなってはいるが…この設計図は未完成のようだ」
裕也が画面を二人に見えるようにしながら告げる。

「む…ここまで複雑な代物を科学の力のみで作るのは今の時代では不可能ネ。というかここまで設計したのにも驚きヨ」
超が画面を睨みながら呟く。

「そうですね…ガイノイドを装着出来れば今設計中の『不知火』よりも理論上は高性能になるのですが…」
葉加瀬が残念そうに言う。

「…この設計図は科学の力だけでは無理だ。だが…超、出来るか?」
裕也が超に問い掛ける。

「私の知識では無理ネ…それこそ熟練の魔法使いでもなきゃ…ん?」
超が裕也の主語のない問いに答えてる内に何かに気づく。

「居るじゃないか…心強い協力者がな」
裕也が人の悪い笑みを浮かべながら言う。

「…まさか、エヴァンジェリンを利用するのカ?」
超が頬をひきつらせながら聞いてくる。

「利用するだなんて人聞きの悪い…少し予定が早まるだけだよ。っと、そろそろ出なくては修行の時間に遅れてしまう」
裕也はパソコンを超に渡して立ち上がる。

「……何で私に渡すのカナ?」
超は受け取りながら問い掛ける。

「言わなくてもわかるだろ?」
裕也は外出用の白衣を着ながら言い返す。

「…一応煮詰めてみるヨ」
超が溜め息をつきながら答える。

「頼んだよ。では、行ってくる」
答えを聞くと裕也は研究室を出て行った。

「いってらっしゃい……沙霧さん、無理してますね」
葉加瀬が裕也を見送ってから超に話し掛ける。

「当たり前ネ。私が少し発破かけただけで立ち直れるような図太い神経をしていたらあんな目標を掲げないヨ…」
超は設計図を自分のパソコンにコピーしながら言う。

「人のようなロボットをつくる…ですよね。私は細かい理由は聞いてませんが超さんは知ってますか?」
葉加瀬は作業の後片付けをしながら聞く。

「私は聞いてないヨ。ハカセ、ちょっと来てくれないカ?」
超は早々に話を切り上げ葉加瀬を呼ぶ。

「はい、何でしょうか?」
葉加瀬が片付けを終わらせ超の方へ行く。

「ここだが…ハカセの開発中の武装変形機構を使えないカナ?」
超が設計図を指差しながら聞く。

「そうですね…そこの噴射機構もドライのを流用できれば…」
と二人は設計図の補完にのめり込んでいった。


「…以上が彼と両親についてと追加報告書の内容じゃ」
学園長の説明が終わると辺りに静寂が訪れる。

「………彼は偶然成功した実験体という可能性が濃厚ですかね」
タカミチが眼鏡を押し上げながら言う。

「ならば、彼がガイノイドを作り上げる程の知識を持っているのは…」
ガンドルフィーニが誰にともなく問い掛ける。

「その平行世界の知識もあるかもしれませんが…彼自身の努力によるものですよ。ガンドルフィーニ先生」
明石教授が答える。

「化学の分野なら知識だけでもそこそこ戦えますが、工学や情報処理は実技も必要になってくるからねぇ…」
弐集院が明石教授の言葉を補足するように続ける。

「では、不審者が麻帆良の内情や人員について偏った知識しか持ち合わせていなかったのは…」
刀子が青筋を浮かべながら言う。

「ああ、調べたのではなく、知っていたのだろう。我々の世界に似ている何かがある世界の知識でな。あと…葛葉、ちょっと落ち着いてみたらどうだ?血管が浮いてるぞ?」
神多羅木が刀子をやんわりとたしなめる。

「これが落ち着いてられますかっ!!私はまだ交際相手すらいないのに既婚者扱いされ、オマケにバツイチとまで言われたのですよ!!」
刀子は素の性格丸出しで叫ぶ。

「それは…辛いですね」
シスターシャークティがしきりにうなずきながら肯定する。

「……では、侵入者の魔力保有量が総じて大きかったのは?」
ガンドルフィーニは女性二人の会話をスルーして話を進める。

「推測じゃが、沙霧君の成功例から一般人で保有量が多い者を選んだのか、魔法薬などを投与して底上げをしてたのじゃろ」
学園長がそれに答える。

「ですが…死亡した不審者は気も魔力も使えなかったそうですから、研究がさらに進んでいると見た方がいいですね」
タカミチも新たな情報を合わせて推測する。

「では、膨大な魔力に頼った戦いしか出来ていなかったというのも…」
明石教授が不審者の戦い方を口にする。

「不審者の大半…というか全員が独学だったからでしょうね。基礎が出来てないから発展まで持っていけなかったのでしょう」
弐集院がそれに答える。

「それに、いくら魔力を得たと言っても元々は一般人…実戦に通用する体捌きなど一朝一夕で身に付くものでは有りません」
正気に戻った刀子も口を開く。

「ところで…憑依された側の人の人格はどうなっているのでしょうか?」
シスターシャークティが問い掛ける。

「そこまではわからんのじゃよ…上書きされてしまったのか取り込まれたのか、それとも脳の一部に眠っているのか…」
学園長が目を伏せながら答える。

「その辺りの検査も含めて不審者らは本国に送還されるという措置になったのですか…」
ガンドルフィーニが呟く。

「本国の検査機関は魔法関連なら麻帆良以上だからね。僕らにはお手上げでも彼らなら何か掴めるかもしれない」
タカミチがガンドルフィーニの呟きに答える。

「…学園長、沙霧 裕也については本国からは何も言われてないのですか?」
神多羅木が学園長に問い掛ける。

「何も言われてない…と言えば嘘になるの。一部のお偉方からは彼の引き渡し要求もきておる」
学園長があっさりと認める。

「な…何故ですか?」
シスターシャークティが説明を求める。

「沙霧 裕也の両親は時空魔法の違法研究者であり、彼自身も実験体のため精密な検査をする…とか言っておったの」
学園長は髭をいじりながら答える。

「何ですか…その薄汚い欲が見え透いた要求は」
刀子は嫌悪を露わに言い捨てる。

「これこれ、刀子君。そんな事を言ってはならんぞ。まあ、エヴァンジェリンの名前を出しただけで引き下がったがの」
学園長が刀子の発言に注意しながら言う。

「はっ、失礼しました」
刀子は失言を詫び、引き下がる。

「エヴァンジェリンの名前を出したという事は結構な権力者ですか…」
タカミチが確認する。

「うむ、彼を無理矢理本国に連れて行けば彼のマスター、エヴァンジェリンが何をするかわからんぞ…と言ったらあっさりとの」
顎髭を撫でながら学園長は肯定する。

「エヴァンジェリンの名前で思い出しました。学園長、何故あのエヴァンジェリンが魔法を使えたのですか?」
ガンドルフィーニが学園長に問い詰める。

「ふぉ?その時は原因不明の停電が偶々起こっての…学園結界が落ちてしまったのじゃ」
学園長は悪びれなく言ってのける。

「…原因不明なら仕方ありませんね」
明石教授があっさりと同意する。

「大方、工学部の連中が無茶をやったのでしょう」
弐集院も続く。

「………はぁ、皆さんがそうおっしゃるならそうなのでしょう」
ガンドルフィーニもこれ以上追求出来ないと悟り引き下がる。

「ふぉふぉふぉ、それでは質問が無いのなら臨時集会は終了じゃ。では解散!!」
これ以上質問が出ないので学園長が解散を宣言し集会は終了した。


「ほう…昨日の今日のでしっかり来るとはな」
いつも通りに現れた裕也にエヴァンジェリンが言う。

「サボりでもしたら地獄を見るからな…」
裕也は少し前の事を思い出しながらいう。

「ふん、空元気でも立ち直っているには違いないな。今日の所は普通の修行にしといてやる」
と言ってエヴァンジェリンは城に入っていく。

「今日の所は……だと?」
裕也は嫌な予感を覚えながらもエヴァンジェリンに続く。

「そうだ、裕也。受け取れ」
エヴァンジェリンは裕也が入ってきたのを確認すると広辞苑並みに分厚い本を投げ渡す。

「うおっ!?何なんだコレは?」
いきなり投げ渡された分厚い本を眺めながら聞く。

「私の武器庫から持ってきた武器が収納されている本だ。全ページに入れてる訳じゃないから5、6分で読み終えて選べ」
エヴァンジェリンはあっさりと言ってのける。

「選べと言われてもだな、扱い方がわからないし文字も読め…マスター、この剣は?」
ペラペラと流し読みしていた裕也が唐突に手を止めエヴァンジェリンに確認する。

「ん?フランベルジュか。まあ、貴様が炎を操れるようになったら様にはなるな」
エヴァンジェリンは一人納得する。

「いや…特性とか何かあるのかを聞きたいんだが」
裕也は更に問い掛ける。

「暇だった頃に色々いじっていたような記憶はあるんだが…はて?何かあったかな…」
エヴァンジェリンは唸り始める。

「いや…思い出せないならいい。コレにするから」
裕也はあっさりと決断する。

「随分とあっさり決断したな。お前みたいなのは悩みまくると思ったんだが…」
エヴァンジェリンは若干拍子抜けしたように言う。

「いや、絵と読めない文字では直感が頼りだ。で…どうすればいいんだ?」
裕也は文字とにらめっこをしながら問う。

「本に触れてページと武器の名前を読み上げればいい。そうすれば空いてる手の方に出てくる」
エヴァンジェリンが何かを考えながら答える。

「それだけか…では『第16頁フランベルジュ』」
裕也が読み上げると炎のような波型の刃で刃渡り1.5メートル程の長剣が現れる。

「では武器も決まったからさっさと…って、何だその妙な気迫は」
エヴァンジェリンは若干引きながら裕也に問い掛ける。

「マスター…この本、マスターが作ったんだよな?」
裕也は引かれた分だけにじり寄りながら問う。

「あ…ああ、そうだが?」
エヴァンジェリンは更に引きながら言う。

「ならばっ!!」
裕也が一気に距離を詰める。

「なっ…ひいいっ!?」
修行の時よりも素早い縮地に…というか妙な気迫の裕也に怯えるエヴァンジェリン。

「これを文庫本サイズにしたのを作ってください!!」
裕也はその勢いでエヴァンジェリンに頭を下げた。

「……は?」
エヴァンジェリンは若干涙目になりながら聞き返す。

「だから、この本を文庫本サイズにしたのを作ってくださいと…」
裕也がもう一度言ってから頭を上げると

「紛らわしい真似をするな、このボケ弟子がーっ!!」
エヴァンジェリンが回し蹴りを放ってきた。

「ぐっ…いきなり何を!?」
裕也は防御しながら問う。

「黙れっ!!リク・ラク・ラ・ラック・ライラック…」
エヴァンジェリンは問答無用と言わんばかりに呪文詠唱を始める。

「…最近唐突に修行が始まるのは気のせいだろうか」
裕也はそう呟くとエヴァンジェリンにフランベルジュで切りかかっていった。





あとがき
プロット修正にてんやわんやなTYです。
魔法先生たちの口調が難しい…もう少し原作でも出番があれば…
因みに刀子先生が結婚してないのは離婚などの時間軸が把握出来なかったためのオリジナル設定なので悪しからず…


感想レス
Marl様
トリッパーには一応伏線を張っていたつもりだったのですが…
作者の未熟故に唐突に感じさせてしまったようです。
アイン、ツヴァイ、ドライはここでリタイアです。

ガッツ様
トリッパー(闇乃 氷夜)については意図的にそうしました。
上位悪魔を利用するというのも考えたのですが、どうしても納得のいく理由が見つからなかったためこの方法にしますた。
決してアンチトリッパーではありません。

天気は曇り様
ありがとうございます。
これからも面白いと言ってもらえるよう頑張っていきます。

モリヤーマッ!様
ツヴァイ達の話は外伝で補う運びになりそうです。
これ以上はネタバレになりそうなので勘弁を…



[8004] 転生生徒 裕也 第十一話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:ff915c0d
Date: 2009/05/31 21:40

転生生徒 裕也
第十一話

「魔力機関を今からもう一つ作ってほしいだと?」

「ああ、魔力機関搭載型ガイノイドの試作機用にな」

「試作機?そんな予定は無かったろ」

修行を終えた裕也とエヴァンジェリンはメイドドール達が用意した料理を食べながら今後の予定の確認を始めた。

「……魔法の直撃を受けたアインを分析した結果、プログラムに破損とは違った変化が確認された」

「む…そんな話をされてもわからんぞ。目的をわかりやすく言え」

「魔力機関がガイノイドに与える影響を調べたい。先の一件から得たデータでは情報が足りなすぎる」

ハイテク技術に弱いエヴァンジェリンの要求に応えて裕也は端的に告げる。

「必要なら用意してやるし、先程言っていた本も作ってやろう…が、私は悪の魔法使いだ」

「対価か…血でいいのか?」

ニヤリと悪役のような笑みを浮かべたエヴァンジェリンに裕也は嘆息しながら腕まくりをする。

「わかっているじゃないか。吸うのではなくて採取させて貰うぞ。貴様の要望の品を作るのにも要るからな」

「失礼します」

エヴァンジェリンに応じてそばに控えていた短髪のメイドドールが採血の道具を裕也に着け始める。

「彼女たちが魂を吹き込まれた人形か…興味深いな」

「ケケケ、妹達ニ欲情スンナヨ」

初めて間近で見るドールの事をつぶさに観察し始めた裕也に酒瓶を片手に現れたチャチャゼロが話し掛ける。

「流石に欲情はせんよ…というかチャチャゼロ、今までどこに居たんだ?聞きたいことがあったんだが…」

「俺ニ聞キタイ事?何ダ、言ッテミナ。答エルカドウカハ知ラネーガナ」

「フランベルジュという剣の扱いについてなんだが…」

床に座り込み酒を飲み始めたチャチャゼロに裕也はこれから扱っていくであろう剣の名前を出すが

「アァ?アレハ俺ノ趣味ジャネエナ。俺ハモット無骨ナヤツガ好キナンダ」

チャチャゼロがバッサリと切り捨てたため会話が途切れてしまう。

「まさか貴様、チャチャゼロに刀剣の扱いを教わろうと考えていたのか?」

「採血、開始します」

食事を続けていたエヴァンジェリンが血を抜かれている裕也に話し掛ける。

「ああ、そう考えていたが…何か問題でも?」

「当たり前だ…貴様は人間でコイツは人形、しかも体格も違う。根本的に違うヤツに師事しても結果は見えてる」

あっさりと答える裕也にエヴァンジェリンは呆れながらも説明する。

「だが、今日の修行で剣の扱いは素手と違って我流だと厳しそうに感じたのだが…」

「ならば他の奴にしろ。まあ…貴様が私の従者と知っていて稽古をつけてくれる奴がいたらだがな」

釈然としない表情の裕也にそれだけ言うとエヴァンジェリンは食事を再開する。

「他の奴…ねぇ。チャチャゼロ、誰か知ってるか?」

「外ジャ満足ニ動ケナイ俺ガ知ッテルワケネーダロ」

裕也も自由の利く方の手で器用に食事を再開しながらチャチャゼロに問い掛けるがにべもなく返される。

「それもそうか…ところでマスター、血を抜きすぎじゃないか?クラクラしてきたんだが」

「致死量まで抜きはしないから心配するな。ほら、終わったようだぞ?」

「せめて少し余裕を残してくれ…ごちそうさま」

採血を終えた裕也は立ち上がり、エヴァンジェリン達に背を向けてふらふらと城の方へ歩いていく。

「む、もう寝るのか?酒もあまり飲んでないだろ」

「……いつも以上に血を抜かれて具合が悪いから今日は先に寝させてもらう」

「ケケケ。妹ヨ、アイツガ途中デ力尽キ無イヨウニ支エテヤリナ」

「はっ、失礼します」

エヴァンジェリンの問い掛けに答えている間も足元がおぼつかない裕也を見かねてチャチャゼロが黒髪で長髪のメイドドールに命令する。

「すまない、えっと…」

「いえ、姉さんの命令ですので。ちなみに私の個体名はチャチャナです」

「そうなのか。改めてよろしく頼む」

「こちらこ「さっさと連れて行け!!」はっ」

裕也を支えたままの状態で話し込み始めたチャチャナはエヴァンジェリンの一喝を受けて城に入っていった。

「まったく、いつもなら命令を最優先でこなすのに」

「アイツカラ何カ妙ナ電波ガ出テンジャネーノカ?」

「まあ、その辺りはどうでもいい。で…どうだった?」

裕也とチャチャナが城に入っていったのを確認してからエヴァンジェリンがチャチャゼロに問い掛ける。

「良クナイ目ヲシテタゼ。マア、本人ハ気ヅイテネーダロウガ狂気ニ蝕マレテンナ…ッテ、御主人モワカッテンダロ?」

「当たり前だ。その狂気を乗りこなせなければ裕也は飲み込まれる。それだけだよ」

エヴァンジェリンは食後酒を飲みながらチャチャゼロに返す。

「ケケケ、ドウセ対策モ考エテアンダロ?」

「アイツは私の従者だからな。自らの狂気に飲まれて死ぬなんて無様な事は許さん」

「マサカ御主人、ソンナンデ死ナレルヨリ修行デ死ナレタ方ガマシ…トカ考エテネーダロウナ?」

「ふふふ…そう簡単に楽にしてやらんし、私の予測が正しければアイツは死ねんよ」

酒を飲みながらのチャチャゼロの問い掛けにエヴァンジェリンもワインをおかわりしながら楽しそうに返す。

「死ネナイ?御主人ミタイナ存在ニハ見エネーゾ」

「そういう意味ではない。説明するのも面倒だな…当日まで待て」

「仕方ネーナ…御主人ソロソロ酒ガ無クナルゾ」

「何っ!?それは私の秘蔵の日本酒じゃないか、せめて一杯よこせっ」

エヴァンジェリンがチャチャゼロに飛びかかり、二人はそのままもつれ込む。

「ナ…コレハ俺ヘノ報酬ジャナイノカ?」

「全部飲ませるわけが無いだろ。貴様は黙ってよこせばいいんだよ!!」

「誇リ高イ悪ガコンナガキミタイナ事スンノカヨ!?」

「これも誇りある戦いだ!!」

この夜、エヴァンジェリンとチャチャゼロの仁義無き戦いがおこったとか、おこらなかったとか…


「ほう、エヴァンジェリンの協力を取り付けたのカ。対価は…安くなかったようだネ」

修行を終えて研究室に戻ってきた裕也の報告を聞き超が頬をひきつらせながら答える。

「ですが、目下最大の問題点だったバッテリーの体積がクリアされましたよ。後は…」

「次の問題点は装着時の装甲の薄さとバッテリーの魔力と私の気が相反する可能性だな」

葉加瀬の言葉を引き継いで若干顔色が悪い裕也が超と葉加瀬によって修正されたツヴァイの残した設計図を眺めながら告げる。

「装甲の薄さは裕也の気の強化で何とかなるはずヨ。相反の方は…裕也、いっそのこと感卦法でも習得してみたらどうカナ?」

「究極技法とか言われてる『気と魔力の合一』をか?」

「あの、超さんに沙霧さん」

超の提案を本気で考え始めた裕也に葉加瀬が何かの設計図を引っ張り出しながら声をかける。

「何カナ?ハカセ」

「ガイノイドに魔力の制御を任せてはどうでしょうか?」

「魔力の制御を?そんな事が出来るのか?」

「陽炎の呪紋回路を音声認識にしてますよね。ここの辺りなんですが…」

陽炎の設計図を覗き込んでいる超と裕也に葉加瀬が説明を続けていく。

「音声認識で制御出来るのなら少し応用すればガイノイドのAIでも制御できるのでは?」

「音声認識…ああ、そんなシステムもあったな。全くと言っていいほど使ってなかったから忘れていたよ」

「制作者の私ですら忘れてたヨ…ならほとんどの問題点はクリアじゃないカ」

「ところで変形ギミックと装着方法はどうしたんだ?今のようにホイホイと応用出来る技術は無かったはずだが…」

陽炎の設計図から目を離し、超と葉加瀬が新たに書き足した部分を見ながら問い掛ける。

「フフフ、裕也。科学に魂を売り渡した我々が黙って言われた事しか研究しないとでも思ったのカナ?」

「全くです。沙霧さんが教職の講義を受けに行ったり、修行に行ったりしている時間を使ってちょくちょく進めてたんですよ」

「………その成果が武装変形機構と反重力発生装置か?ちょくちょくで出来上がるレベルではないだろ」

胸を張って堂々と言ってのける超と自慢気に言う葉加瀬に裕也はこめかみを抑えながら言い返す。

「なっ…反重力発生装置なんてダサい言い方はやめて欲しいネ。正式名称はミノフス○ークラフトにする予定ヨ」

「私の武装変形機構はまだ未完成なんですけどね。将来的にはやはりホイポ○カプセル並みの物を…」

「あー…まず超、ミ○フスキークラフトを名乗るならミノ○スキー粒子を発見してからにしろ。葉加瀬は…将来カプセルカ○パニーでも立ち上げるのか?」

裕也は超と葉加瀬の危ない発言にツッコミをしながら設計図の詳細な所に目を通す。

「確かに、ミノフ○キー粒子を使ってなかったらダメカ。一年以上かけて作ったのに…」

「未知の粒子を見つける前に改名をしなくてはなりませんね…私のは半年ちょっとしか研究する時間が無かったのが悔やまれますね」

「ちょっと待て。二人とも…まさかそれぞれが研究室に入り浸るようになってからすぐに始めていたのか?」

設計図から必要な部品の選定を行っていた裕也が二人の台詞を聞き問い掛ける。

「…何の事カナ?ところで裕也、エヴァンジェリンから何か武器をもらうとか言ってなかったカ」

「そうですよ。私達が弄ればさらに強力に出来るかもしれませんよ?」

「露骨に話をそらしたな…まあいい。貰った武器はマスターが色々いじるからと言って持っていったぞ」

裕也は呆れながらも、役に立っているので文句も言えず超と葉加瀬の話に乗る。

「で、何ていう武器を貰ったのカナ?ハンマー、モーニングスターそれともフレイル?」

「きっとロンギヌスの槍とか火尖槍、トライデントですよね?」

「………何だその偏ったチョイスは?貰ったのはフランベルジュと言う長剣だよ」

超と葉加瀬の偏った武器の名前に脱力しながらも裕也は律儀に教える。

「フランベルジュはブリテン王国のシャルルマーニュに仕えていた騎士、ルーノ・ド・モントヴァンが使用していた剣で今では儀礼用として…」

「普通の剣なんですね。魔法使いなら神話や伝承に出てくるような武器かと思ったんですけど…」

「いや…次に戻ってくる頃にはマスターが色々いじって普通の剣ではなくなっているだろう」

フランベルジュについて説明し始めた超に気づかず裕也と葉加瀬は会話を続けていく。

「少しも相手にされないと流石に寂しいヨ…」

「葉加瀬、この変形機構の部品なのだがやはり外注は無理か?」

「そうですね…これなら来月から私達の傘下に加わる研究室にやらせれば大丈夫じゃないでしょうか?」

「ならばそうし…葉加瀬、今何といった?」

「あれ?超さんから聞いてませんか?」

裕也と葉加瀬は研究室の隅っこでのの字を書いていじけている超に揃って目を向ける。

「…超さん、何をしているんですか?」

「いや、いじけてれば誰か構ってくれるかと思ってネ…どうかしたのカナ?」

「ここの傘下に加わる研究室があるとか葉加瀬から聞いたのだが…本当か?」

葉加瀬が声を掛けたらあっさりと立ち直った超に裕也が問い掛ける。

「言ってなかったカナ?」

「いくつか話がきているのは知っていたが…魔法関連の技術を扱っている事情で断るのでは?」

「魔法関連の技術を使うガイノイドの開発には直接関わる事は無いから問題無いヨ。強化外骨格とかの私用研究の予算の方もあては出来たしネ…」

超はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらよく解らないと言った顔の裕也に答える。

「今までやりくりして捻出していた予算が浮くのは有り難いがそちらに全額持ってもらうのは気が引けるのだが…」

「大丈夫ヨ。裕也にも色々と手伝ってもらう予定だからネ」

「もちろん私も手伝いますよ。と言うか超さん、この事も言ってなかったんですか?」

難色を示す裕也へ机の上に置いてあった書類の束を渡している超に葉加瀬が問い掛ける。

「いや…本当は昨日の内に話しとくつもりだったんだが色々あったからネ…」

「それは…仕方ないですかね」

「『超包子』…料理屋か?」

超と葉加瀬の会話を意図的に無視して書類を読み進めていた裕也が二人に問い掛ける。

「うむ、点心を中心にした店を考えているヨ。お料理研究会のメンバーの尽力もあり、まもなく一号店が開店するヨ」

「お料理研究会の人たちもかなり乗り気でしたからね。おかげで私達は路面電車屋台の改造に打ち込めしたし」

超と葉加瀬の二人はこれまでの事を思い出しているのかお互いに頷き合いながら話す。

「その路面電車屋台の改造とやらは…」

「大丈夫、料理に必要な器具の設営と調理しやすいように内装をいじっただけヨ…今の所は」

「そうですよ、いくら私達でも飛行機能を作ろうなんて考えてませんよ…今の所は」

葉加瀬の台詞にあった不安な言葉を聞き取った裕也が問い掛けに超と葉加瀬の答えは尻すぼみに小さくなっていった。

「………そうか。そうだ、超。麻帆良の中で刀剣の類を扱っている人を知らないか?」

「へっ?ガンドルフィーニ先生がナイフを扱っているとか言う情報でいいのカナ?」

裕也に改造の事で色々聞かれるかと構えていたが見当違いの質問をされ目を点にしながら超は答える。

「ナイフか…できれば刀とかを扱っている人の方が好ましいのだが…」

「刀カ…関西呪術協会なら京の深山に秘して伝わると言う神鳴る剣、神鳴流に深い繋がりが…ん?ハカセ、麻帆良の職員データを」

「はいはい、これですね」

裕也の要望に答えようと色々考えを巡らせていた超が唐突に葉加瀬にデータを開くように言う。

「いるじゃないカ…しかも裕也に少なからず縁のある人物ガ」

「誰の事だ?」

「神鳴流剣士にして裕也のクラス担任の葛葉 刀子ネ。西の長、近衛 詠春の依頼で娘の護衛と近状報告のために来たのだガ…」

「教職に目覚め、麻帆良で教職を続ける為に東西関係改善のための橋渡し役に志願。で今に至る…と」

超が見ていたデータを裕也も覗き込み、超が言いよどんだ先を続けて読み上げる。

「あー…よかったネ、かなり身近に望んでいるような人材がいたヨ。頼んでみてはどうカナ?」

「…そうだな。早速頼みに行ってみるか」

「あ…沙霧さんに超さん、それは無理ですよ」

データを見て何とも言えない表情を浮かべた超と真面目に考え始めた裕也に葉加瀬が話し掛ける。

「何でカナ?ハカセ」

「その葛葉先生ですが、昨日から京都に出張に行ってます。帰ってくる時期は未定との事です」

葉加瀬はパソコンに出した教員の予定表を超と裕也に見えるようにして説明する。

「そうカ…タイミングが悪かったネ」

「この話は葛葉先生が戻ってこなければ始まらないからな…」

「そうですね。でも、よかったじゃないですか。いつでも動けるようになったんですから」

意気消沈しかけている裕也に葉加瀬が声を掛ける。

「それもそうだな…では、設計図の細部を煮詰めて行くとしようか。反重力発生装置や武装変形機構についても聞かなくてはならんしな」

「そうしよカ。正式名称も考え直さなきゃならないしネ」

「私も武装変形機構のシュミレーションをしなくてはなりませんからね」

(そう言えば、マスターが週末は空けておけと言っていたような…まあ、いいか)

裕也は思考を切り替え超や葉加瀬に習って設計図に向き合っていった。
この日の研究室から明かりが消えることはなく、翌日に研究室の面々は揃って眼の下に隈をつくっていたのは余談である。


「何で……私は…こんな……所に…いるん…だ、マスター」

「修行の為に決まってるだろ」

その週末、薄着のまま雪山に立っている裕也はエヴァンジェリンに問いかけていた。




あとがき
更新が遅くなりましたTYです。
文体の方を変えててみましたが…どうでしょうか?
その内に文体をどちらかにまとめる為に書き直すかもしれません。
それでは本文の感想、文体に対するご意見などお待ちしております。
あと、設定?に時系列のようなものを足した方がいいでしょうか?

ユミル様
ツヴァイと茶々丸は別個の物として出すつもりです。
刀子先生はこの様な設定にしてみました。

モコ様
これからもトリッパーはちょくちょく出てくる予定です。
厨二病なトリッパーかどうかは未定ですが…

銃箱様
前書きの件については早急に手を打たせてもらいます。
トリッパーは矛盾が生じないように扱っていきます。

タナチュウ様
ありがとうございます。
これからも頑張っていきます。
アイン、ツヴァイ、ドライは…これから出てくるガイノイドの礎になってもらいました。

搭様
貴重なご意見と感想ありがとうございます。
文体の方をかえてみたのですが…いかがでしょうか?

ガウェイン様
茶々丸はこれから出てきます。
期待に答えれるよう、努力していきます。



[8004] 転生生徒 裕也 第十二話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/06/22 23:54

転生生徒 裕也
第十二話

時は少しさかのぼる。

裕也は未だ布団から出てこない二人に
「今日、明日と通して修行になるから帰ってくるのは明日の午後になる」
外出の準備をしながら話し掛ける。

「わかったヨ…私たちはそれぞれの来月から始まる研究の準備をし……」
超は裕也に自分たちの予定を話しきる前に力尽き、再び夢の世界に旅立つ。

「わかりましたぁ…でも路面電車屋台に飛行機能もつけなきゃ……」
葉加瀬も不穏な事を口走ってから再び布団に潜り込む。

「……今日の朝食と昼食は一応用意して冷蔵庫に入れておいたが、他は金を置いてくから作るなり買うなりしてくれ」
裕也は葉加瀬の発言を無視して食事について説明するが

「「……………」」
超と葉加瀬は布団の中でもぞもぞと動くだけで返事をしない。

「はぁ…では、いってくる」
そんな二人に呆れながらも律儀に声をかけて裕也は研究室から出ていった。

ドアの閉まる音を確認し布団から頭だけを出した超が
「……行ったカナ?」
隣の葉加瀬に話し掛ける。

「そのようですね。でも、本当にやるんですか?」
超に習って葉加瀬も布団から出ながら問い掛ける。

もぞもぞと布団から出た超が「裕也が確実に留守にするのはなかなか無いチャンスヨ」
寝間着から着替えながら答える。

続いて布団から出て来た葉加瀬が
「アインとツヴァイ、そしてドライのAIを統合して新たなAIに組み直す…出来ない事ではありませんが…」
二人分の布団を上げながらこれから行う事を確認する。

「うまくいけば…いや、うまくいってしまえば彼女たちの記憶の断片を…思い出を持ったAIが出来上がるヨ」
パソコンを立ち上げながら超が起こり得る結果の予測を口にする。

引き出しに隠していた書類を取り出した葉加瀬は
「でも、人格プログラムはみんなボロボロですし…アインとドライに至ってはかなり変化してしまいましたよ」
眉をしかめながら読み上げる。

冷蔵庫から裕也が朝食にと用意していたサンドイッチを取り出し
「それは仕方ないヨ…魔法の直撃を受けたんだから破損ですんだだけでもめっけものネ」
それを頬張りながら超がもごもごと言う。

「ドライもかなり強引に修理して取れるプログラムは根こそぎにしましたからね…」
葉加瀬もサンドイッチに手を伸ばしながら続ける。

「それも裕也への相談も無しにネ…怒ってもお尻ペンペンで済めばいいんだが…無理カナ?」
超は冷や汗を浮かべ自分のお尻をさすりながら問い掛ける。

「無理でしょうねー…と言うか、下手したら私もじゃないですか!?」
あっけらかんと言ってのける葉加瀬だったが他人ごとではないと気がつきうろたえだす。

超は起動したパソコンでプログラムを立ち上げていた手をピタリと止め
「フフフ…ハカセも一緒に新たなる世界を感じてみるカ?」
焦点の合っていない目のまま問い掛ける。

「いりませんよ!!そんなアブノーマルな世界は!!」
わたわたと腕を振り回しながら葉加瀬は抗議を始める。

「なぁに…痛いのは最初だけで、慣れてしまえば「超さん、なんか違う意味合いに聞こえてきますよ!?」おぉ!?」
未だ焦点を合わない目のままの超の言葉を葉加瀬の叫び声が遮る。

さっきので正気に戻った超は
「この事は考えないようにしようカ…さあ、我々には時間が無いヨ。今日中にシミレーションは終わらせなくては後々に支障をきたすヨ」
カタカタとキータッチを再開する。

葉加瀬はパソコンでプログラムを起動させ
「そうですね。万が一にも勝手にやって失敗しました、なんて言ったら…×××に移動しなきゃ描写出来ないような仕打ちが…」
最悪の結末を想像し青くなる。

「いくらなんでも小学五年生の私たちに欲情するほど裕也は変態じゃないと思うのだガ…それとハカセ、メタな発言は自重するヨ」
超が残っているサンドイッチに手を伸ばしつつ葉加瀬の発言を注意する。

プログラムの設定を終えた葉加瀬が
「いえ…そう言う方面ならいいのですが、何というか…違うベクトルに向かう可能性も…」
頬を赤らめながら言いにくそうに喋る。

「違うベクトル…っ!?まさか、エロエロじゃなくてグログロな方面カっ!?」
超は葉加瀬が言わんとしていることを察して驚愕を露わにする。

「もしくはその両方とか…ダr「わーっ!!」とか肉奴れ「わーっ!!」にされて沙霧さんの地下研究室で…って、超さんどうかしたんですか?」
子細を言っている途中で騒ぎ出した超に葉加瀬は訝しげに問い掛ける。

超は机に突っ伏し
「ハカセ…本当に自重して…くれ。ただでさえ…風当たりが…厳しいご時世なんだからネ…」
息も絶え絶えといった様子で答える。

「はぁ…?あ、シミレーションの準備できましたよ。超さん」
言っていることが分かってないような様子の葉加瀬は準備が整った事を告げる

それを聞いた超はむくりと起き上がり
「じゃ…始めるカ」
パソコンでプログラムを走らせる。

「はい…ところで超さん」
葉加瀬はパソコンに向き合いながら話し掛ける。

「何カナ?」
超は算出されてくる結果に目を通しながら聞き返す。

葉加瀬もプログラムに手を加えながら
「どうして新しくAIを作らないんですか?その方が手間のかからないような…」
話を聞いてから気になっていたことを問い掛ける。

「変形機構とか複雑なシステムを色々と搭載したガイノイドにまっさらなAIを積むと自我の確立が上手くいかないかもしれないからネ」
算出された結果からプログラムを組み替えながら超が答える。

「それで既に自我の確立されているAIを作り上げるのに効率の良い方法がこれ…ですか?」
葉加瀬も手を止める事なく聞き返す。

超はパソコンの画面から目を離し
「私は利用できるモノなら何でも利用するヨ…ハカセは反対カナ?彼女たちを利用するのは…」
真剣な表情で葉加瀬に問い掛ける。

作業の手を止めた葉加瀬は
「…やりましょう。彼女たちもこのまま死蔵されるより、形は違えど動ける方が幸せだと思いますから」
超から目を逸らす事なく断言する。

「この事で裕也に嫌われてしまうかもしれないが…いいのカナ?」
葉加瀬の躊躇の無い返答に面食らいながら最終の確認をする。

「沙霧さんはそこまで器量が狭く無いと思いますが…怒りはしても嫌いはしないかと」
止めていた作業を再開した葉加瀬が苦笑をしながら答える。

「おとなしい人程怒ったら怖いと言うじゃないカ…」
葉加瀬の対応に超は若干いじけながらも作業に戻る。

「超さんさっきから妙な所に拘りますね。はっ、もしかして超さんは沙霧さんの事が……」
葉加瀬はくわっと目を見開き超の方を見る。

「ななな何の事カナ。ほら、さっさと進めるヨ」
ビクリと肩を震わせた超はどもりながら急いで話を逸らす。

「仕方ないですね。追求は後ほどゆっくりと…」
葉加瀬はぼそりと呟きながら再びパソコンに向き直る。

「……ハカセ、なんかノリが普通の女子みたいヨ」
葉加瀬の呟きを耳聡く聞き止めた超はボヤきながら作業に戻っていった。


チャチャゼロを抱え別荘に向かっていたエヴァンジェリンが唐突に
「裕也、貴様は何故戦う?」
後ろについて来ている裕也に問い掛ける。

「む、何故…か?」
いきなりの問いに裕也は面食らいながらも考え込む。

「まあいい、考える時間はこれから沢山あるからな」
考え込んでいる裕也を放っといてエヴァンジェリンは別荘に入っていく。

「あ、マスター」
それに気がついた裕也も後を追って入っていく。

「今回は長期の修行を行う」
裕也が入ってきたのを確認しエヴァンジェリンは口を開く。

「長期と言うことは…まさか…」
裕也は自分で歩いているチャチャゼロに目を向けながら聞く。

裕也の視線に気がついたチャチャゼロが
「ケケケ、残念ダガ前ミタイナ鬼ゴッコハ無シダゼ」
ケタケタと笑いながら答える。

「今回は基礎の仕上げのようなモノだ。耐熱の術は出来るのだな?」
エヴァンジェリンは転移魔法陣の一つに向かって歩きながら問い掛ける。

「ああ。燃費は相変わらずだが出来る」
裕也は小首を傾げながらも答える。

答えを聞いたエヴァンジェリンは転移魔法陣の前で立ち止り
「ならば問題ないな。ほら、入れ」
裕也を手招きする。

「…マスター、そこはどこに繋がっているのだ?」
裕也は引きつった笑みを浮かべながら聞く。

ニヤリと笑みを返しながら
「教えてやると思うか?」
エヴァンジェリンは楽しそうに問い掛ける。

「いや…実戦では己の知り得ない所で戦う事もあるのだろ?」
裕也はエヴァンジェリンの答えを待たずに魔法陣に足を踏み入れる。

「わかっているじゃないか」
エヴァンジェリンは満足げにうなずきながら続いていく。

裕也は眼前の景色に呆気に取られながらも
「寒い…肌を…いや、骨を刺すような寒さとはこれの事か…」
身を縮め呆然と呟く。

「ケケケ、摂氏マイナス40度ノヒマラヤトカ言ウ雪山ラシイゼ」
エヴァンジェリンと一緒に入って来たチャチャゼロが呆然としている裕也に言う。

「……ここで何をするんだ、マスター」
ガチガチと震えながらも裕也は問い掛ける。

「特に何もしないぞ。ただ生き残ればいい」
エヴァンジェリンはあっさりと言ってのける。

「は?」
裕也は目を点にしながら間抜けな声を上げる。

ふわりと宙に浮いたエヴァンジェリンが
「1ヶ月…30日間生き残るだけだ。何、耐熱の術の応用から耐寒も出来るし炎もあるから余裕だろ」
楽しそうに笑いながら言う。

「マア、川ニ魚モイルシ食料モ困ンネーダロ」
チャチャゼロは飛びながらさりげなく助言する。

「ああ、ついでにさっきの質問の答えもその時に聞くからな。死んでいても墓くらいは建ててやるから安心しろ」
それだけ言うとエヴァンジェリンは裕也が何かを言う前に飛んでいく。

「寝床ハ横穴デ「チャチャゼロ!!」グェッ」
尚も助言を続けようとしたチャチャゼロはエヴァンジェリンの糸に簀巻きにされ拉致されて行った。

「……まず穴を掘るか」
耐熱の術から即興で作り上げた更に燃費の悪い耐寒の術を使いながら裕也は生き残るために動き出した。


「デ…御主人、アイツハドウスンダ?」
簀巻きにされ吊されたままのチャチャゼロがエヴァンジェリンに問い掛ける。

「どうもせんよ。私もやらなくてはならない事があるからな」
エヴァンジェリンはチャチャゼロに目も向けず答える。

「アァ?下手スリャ雪崩ニ巻キ込マレルナリ何ナリデ死ヌゼ」
チャチャゼロは脱出を試みているのかジタバタともがきながら言う。

「そうなったらそこまでの奴という事だ。それに…あの手の奴は一度死ぬ目を見なきゃ変わらんだろうからな」
チャチャゼロを糸から解放しながらエヴァンジェリンが呟く。

「ソーイヤ御主人、前二アイツハ死ナナイトカ言ッテナカッタカ?」
解放され自力で飛び始めたチャチャゼロがエヴァンジェリンに聞く。

「ん?ああ…そんな事も言ったな。その内にわかるから、あまり気にするな」
おざなりに返答しエヴァンジェリンは城に戻っていく。

「強ク生キロヨ…」
チャチャゼロは裕也が居るであろう方角へそう呟くとエヴァンジェリンに続いて行った。



裕也の雪山サバイバル生活

初日は慣れない術の長時間持続と炎の火力調節が上手く出来ず気を無駄に消費してしまい、横穴を掘り終えた時点で力尽きてしまった。

二日目、三日目の昼は地理の把握の為に散策を、夜は術の燃費向上などの改善にいそしんだ。
転がっていた木片を回収し、焚き火が可能になる。

四日目から見つけた川で魚をとろうと試みる。
が、術と身体強化を同時に使用すると効率が悪すぎて一匹捕まえるだけで力尽きてしまった。
この日は気を使いすぎたため術の開発は出来ず。

五日目、六日目、七日間は術と身体強化の併用を諦め術だけで身体能力の底上げ無しで魚の捕獲を試みるも収穫無し。
早々に諦め、横穴で術の改善と炎の調節に明け暮れる。

八日目、満足に食事をとっていなかった為、気が底を尽きるのが早くなる。
術の燃費は少しずつ向上していきたが、炎の制御もある程度は可能になる。

九日目、十日目で魚をとるコツを掴むも術を公使できる時間が更に短くなり、捕獲までには至らなかった。
徐々にではあるが気の効率的運用が出来てくる。

十一日目、吹雪が酷く魚とりに行けないので体力温存のために寝て過ごす。
術をギリギリ使えるレベルまでに気の回復量は落ちていた。

十二日目の朝、昨日の吹雪と寝ている内に気が底をついた為に体が凍りついてしまっていた。

(む…体が…動かない?気は…空っぽ…か?何だ…気とは別のモノが…)
自分の内を探っていた裕也は気とは違う何かを感じ、ソレを気と同じ要領で若干強引に体に巡らせる。

ビキリと音を立てて表面の氷を砕きながら体を起こし
「はぁ…はぁ…コレは…魔力?」
裕也は自分が纏っている靄のようなモノを見ながら呟く。

「死に瀕して力に目覚めるとは何てベタな…」
とは言っても気での身体強化よりは格段に劣るレベルである。

この日から魔力の制御も夜の日課に加わった。

十三日目から二十四日目までは酷く天候が荒れる事もなく、一日一匹ずつではあるが魚でエネルギー補給も出来ていた。
魔力も気には劣るが炎に変換する事が出来るようになった。

二十五日目、いつもの川から魚が居なくなり食料がとれ無くなる。
術の燃費が向上した為、切羽詰まった状況ではないと判断し、残り五日間を横穴に引きこもって過ごす事を決める。

二十六日目から二十八日目は最近の天候から一転し猛烈な吹雪になる。
横穴に吹き込んでくる雪を防ぐために、炎の制御する練習で炎の壁などを作るなど試行錯誤を重ねていた。

二十九日目の早朝、裕也は突然の揺れと轟音で目を覚ます。

(…雪崩っ!?また身動きがとれない…)
起き上がろうとしても全く身動きがとれない状態に愕然とする。

(いつぞやのように凍り付いている訳ではないな…どちらかと言うと埋もれてい…る?ならばっ)
裕也は薄目を開き眼前に雪しかない状態から自分の現状を推測して術を解き、気で身体強化して脱出を試みるが…

(無理か…これ以上の強化は現状では不可能だし…ろくに食事をとっていなかったツケがここでくるとは…)
予想以上の雪の重さに気による強化をもってしても動く事が叶わない。

強化から術に切り替え裕也は思考を巡らせる。
(残りの気を全て炎にすれば…いや、無理か。下手すればもう一度生き埋めになるな…では…)
幾通りの脱出パターンを組み上げてもどこかに穴が出来てしまい、実行に移せる策が出る事なく時間だけが過ぎていく。

それから数時間後、裕也の気は底をつき始めていた。

(ヤバ…い…術を…維持する…ので…すら…キツい…何か…ないか…何か助かる…方法は…)
意識が遠のいていくのを感じながらも裕也は思考を決して止めない。

さらに数時間が経過し、裕也の命は風前の灯火となっていた。

(私…は…死ねな…い……彼女たちが…命を…賭して…守って…くれたの…だ……それに…報いるまでは…)
気が底をつきたが、魔力による身体強化と気力でなんとか寒さに耐える。

(気は…すでに空…か…魔力もそう多くは…ん?まだ…ある…じゃないか…これなら…)
自身の魔力を探ると、何故か頭の方に流れていく大量の魔力を見つける。

(これを炎に…すればっ…)
裕也は深く考えずに魔力を片っ端から炎に変換し、自身を中心とした巨大な火の玉を作り、生き埋めから脱出するが…

「ぐっ…がっがあぁあぁぁ!!」
体が自由になるとすぐにうずくまり、獣のように絶叫する。

「頭がっ…割れ…るっ……何だぁ…こりゃ……私の…中に…他人が…沢山入って…くるっ」
頭をかきむしりながら裕也は息も絶え絶えと言った様子で悶え苦しむ。

「俺は…僕…は…儂…っ!?私は私だっ!!俺でも僕でも儂じゃないっ!!沙霧 裕也で他の何者でもないっ!!」
裕也は自分自身に言い聞かせるように叫びながら、炎で剥き出しになった地面を殴りつける。

「あああぁあぁあっ!!」
この日、裕也の叫び声は夜遅くまで止む事はなかった。




あとがき
試験やら何やらで更新が遅れてしまいました、TYです。
文体はこっちの方で統一していこうと思います。十一話は一段落ついたら直します。
修行の描写って難しいですね…もう少しなんとかしたいです…


感想レス

Marl様
ガイノイド開発はまだプロジェクトが本格始動に至っていないので動かせないんです。
これから本編開始までは開発と修行は6:4の割合で行く予定です。

ガウェイン様
超との関係はこれからどうなるかはぶっちゃけ書いてる私にもわかんないです…
とある魔術の禁書目録は戦闘描写の参考にしてます。



[8004] 転生生徒 裕也 第十三話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/07/15 00:04
転生生徒 裕也
第十三話

翌日、三十日目にエヴァンジェリンはチャチャゼロを連れて裕也を探して上空を飛んでいた。

「本当ニナンモ手助ケシナカッタナ、御主人」
コートを羽織り、前を飛んでいるエヴァンジェリンにチャチャゼロが話し掛ける。

「当たり前だろ。これはアイツの修行だ。それに、手助けしてやる義理もない」
エヴァンジェリンは振り返る事なく憮然と答える。

「ケケケ、ソー言ウ割ニハ徹夜デソレヲ作ッテタジャネーカ」
ケタケタと笑いながらエヴァンジェリンが持っている革張りの表紙をした文庫本サイズの本を見る。

「ふん…残しておくと面倒臭いからさっさと終わらせただけだ。む、居たぞ」
エヴァンジェリン不機嫌そうに答えながらチャチャゼロを待たずに、裕也が佇む山頂に降りていく。

山頂から景色を眺めている裕也は
「もう修行は終わりか…マスター?」
振り返る事なく問い掛ける。

「ああ、後はあの問いの答えを聞くだけだよ。では…裕也、貴様は何故戦う?」
エヴァンジェリンは裕也の態度を気にする事もなく問い掛ける。

裕也は振り返り、エヴァンジェリンの目を真っ直ぐに見捉えて
「死にたくないからだ」
はっきりと断言する。

「死にたくない…か。それは誰もが無意識下に持つモノだ。たった一度死にかけた位の脆い覚悟で他者のそれを踏みにじれるのか?」
エヴァンジェリンはプレッシャーを強め問い返す。

「マスター…私は物心ついた頃から知らない筈の知識を引き出す事が出来たんだ」
裕也はエヴァンジェリンの強烈なプレッシャーを気にする風もなく唐突に話し出す。

「…………」
エヴァンジェリンは怪訝な顔をしながらも無言で続きを促す。

「ずっとコレは『前世の記憶』だと思っていた…まぁ、最近は自分でも忘れかけていたがね」
裕也は自嘲とも苦笑ともとれる笑みを浮かべる。

「まさか、いつぞやの馬鹿共のように自分は主人公だ、などと言い出すのか?」
エヴァンジェリンは裕也を挑発するような内容で口を挟む。

裕也は眉をひそめるが、
「アイツ等の事は知らないが…私のは『前世の記憶』と言えるようなモノじゃない。コレは…他人の魂だ。しかも複数人、私の中に居るんだよ」
それ以上嫌悪を表さずにサラリと流して話の流れを元に戻す。

「何…?どういう事だ、何故そんな事がわかる?」
エヴァンジェリンはこれから話そうと思っていた事を先に言われ少し驚きながらも問い掛ける。

「修行中に魔力を扱えるようになって…頭の方へ流れている魔力を大量に使ったらなんて言うか…」
裕也は昨日、自分の炎が作ったクレーターの方へ目線を向ながら口ごもる。

「他人の魂と肉体争奪戦…と言った所か?」
エヴァンジェリンが裕也の横顔を見据えて言う。

「そんな感じだ…本当に酷かったな。何十人もの魂が一気に溢れ出してきて一瞬でも意識が揺らげば乗っ取られそうになるんだからな」
眉間に皺をよせたまま裕也は続ける。
「そいつらの人生と感情を情報として直接頭に叩き込まれて発狂する寸前だった…オマケに絶望とか不幸、死とかネガティブなモノばかりで鬱になりかけたぞ」

プレッシャーを収めたエヴァンジェリンは
「…そんな生々しい他人の感情を知っても、その覚悟は変わらんのだな?」
最終確認の意味合いを込めて静かに問い掛ける

「ああ、危害を加えてくる輩には一切合切容赦しない」
裕也はエヴァンジェリンへ向き直り答える。

「主語が無いのが気になる所だが…まあいい、受け取れ」
若干の不満を飲み込んだエヴァンジェリンは手にしていた本を投げ渡す。

「これは…作ってくれたのか?」
受け取った本をしげしげと見ながら裕也は問い掛ける。

「暇つぶしで作ってやっただけだ」
憮然とした表情のまま、そっぽ向いてエヴァンジェリンが答えるが

「連日徹夜シテタノニ暇ツブシトカ…天ノ邪鬼ニモ程ガアルゼ」
今まで黙って立っていたチャチャゼロがぼそりと呟く。

エヴァンジェリンは頬をひきつらせながら
「フランベルジュも入れといたから出してみろ」
チャチャゼロの発言には触れずに話を進める。

「わかった。『第1項フランベルジュ』…ってかなり外見が様変わりしてないか?」
前と同じように読み上げ、右手に現れた剣を目にして裕也が問い掛ける。

グリップの部分などは変わりないが刀身は血のような赤になり、白抜きでルーンが掘られてある。

「炎を蓄えれるようにしておいた。媒体にはお前の血を使ったから相性はかなり良いはずだぞ」
エヴァンジェリンは外見に一切触れずに新しく付加した効果を説明する。

「…蓄えれる上限とかはあるのか?」
両手剣なのに片手で振り回していた裕也が外見は割り切って細かい仕様を聞く。

「ルーンが黒に染りきるまるまで蓄えれるが…その辺りは追々掴んでいけ。さて…戻るぞ、料理を用意させてある」
エヴァンジェリンは転移魔法陣を展開しながらおざなりに答える。

「まともな食事が…ところでマスター、コレをしまうにはどうすればいいんだ?」
ひとしきり剣を振り終え、しまい方がわからない裕也が首を傾げて問い掛ける。

「…『収納』と言うだけでいい。それの扱い方も教えてやらねばな…」
エヴァンジェリンは答えて、今後の予定をぶつぶつ呟きながら転移魔法陣に入っていく。

「『収納』っと…本当にこれでしまえるのか…」
裕也も剣が手から消え、本に戻ったのを確認しながらエヴァンジェリンの後に続いて魔法陣に向かっていった。


京都 関西呪術協会 総本山

広間の上座に座っている関西呪術協会の長、近衛 詠春が口を開く。
「で…刀子君、急を要する報告とは何でしょうか?」

下座に座っている葛葉 刀子が一礼をしてから口を開く。
「はい、先月から頻繁に出没している不審者についての報告と東の長、近衛 近衛右衛門からその案件についての提案を伝えるために参りました」

「ふむ…では、報告からお願いします。情報の誤認があっては後々困りますから」
詠春は少し考えてから優先して聞くべき方を告げる。

「はっ、件の不審者は並行世界もしくはパラレルワールドの知識を持っているのでは…と、こちら側は推測しています」
書類の束を手渡しながら刀子は続ける。
「更に英国で並行世界ないしはパラレルワールドの人格を憑依させると思しき儀式魔法を使用していた魔法使いを捕らえたとの情報もあります」

「そうですか…こちらの不審者も資料と同じような言動、行動ですので関連性は十分でしょう」
刀子の報告と書類の子細な情報から関連性を見いだした詠春が応える。

「更に、何名かはお嬢様を狙って「刀子君」はい?」
公の資料に載せれない事を口頭で説明しようとしていた刀子を遮る形で詠春が話し掛ける。

青筋を浮かべ、殺気に近い気迫を放っている詠春が
「その不埒者の処遇はどうなっているのですか?」
無理矢理抑えたような声で問い掛ける。

「他の者とまとめて本国の研究機関へ移送となっていますが、何度か東の長が直々に調査をされていました」
既に予想していたのか遠回しな問いにもあっさりと刀子は答える。

「そうですか。では、その件は置いといて…話を戻しましょう」
それを聞いた詠春は納得したのか剣呑な雰囲気を収め平然と話の流れを戻す。
「不審者が並行世界もしくはパラレルワールドの知識を持っているという見解はこちら側も同じですが…儀式の効果は違うと睨んでいます」

「と…言いますと?」
刀子はわからないといった様子で問い返す。

「ここ最近、関西呪術協会が独自で続けてきた調査の結果、行われていたのは魂の召喚と上書きではないのかと見ています」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた詠春が答える。

「魂の召喚と上書き…と、言うことは元の体の持ち主はもう…」
刀子も眉をひそめ確認をとる。

問い掛けに頷きながら詠春は
「ええ…術の被害者と思われる人物からは魂が一つしか確認出来なかったので消滅してしまったのでしょう。細かい情報は書類にまとめて渡しますので御活用下さい。で…東の長の提案とは?」
話を次の内容へ変えていく。

「はい、こちらが東の長からの手紙になります」
それに合わせて刀子は懐にしまっていた手紙を取り出して手渡す。

「確かに承りました」
手紙を受け取った詠春は封を切って内容を確認し
「………わかりました。そちら側の方針に合わせるとお伝え下さい。書類と一緒に手紙をお渡しします」
少し考え込んでから了承の意を表する。

「はい」
刀子は一礼して口を閉ざす。

「ここからは私的な内容になりますが…今まで報告に使っていたルートが何者かに嗅ぎつけられてしまいまして…」
今までの威厳を持った態度を軟化させた詠春は普通に話しかける。

「未だに地盤は安定しないのですか?」
刀子も若干態度を崩して応じる。

「ええ…私の東に対する態度が気に食わないと思っている者が結構な数いましてね…っと、愚痴は置いといて、新たに報告のルートを検討しなくてはならなくなってしまいまして…申し訳ありませんが…」
詠春は本当に申し訳なさそうに言い淀む。

刀子は立ち上がり
「幸いに長期出張という扱いになっているので、新しいルートを準備しておきます」
これからの予定を告げ、一礼してから部屋の出口へと向かう。

「私個人の頼みのために貴女には心苦しい思いをさせてしまい…本当に申し訳ない…」
座ったまま詠春は刀子に謝罪の言葉を投げかける。

扉に手をかけたまま、刀子は振り返らずに
「麻帆良に行くきっかけは何であれ、残ると決めたのは私の意志です。たとえ影で裏切り者と罵られていようとも…この判断に後悔はありません」
それだけ言うと今度こそ部屋から出て行った。

「強いですね…ですが、私も負けてはいられませんか」
詠春は自分に言い聞かせるように呟いてから立ち上がり、東の長からの提案を通す為の算段をたて始めた。


日曜日の昼食時の研究室で超と葉加瀬は力尽きていた。

「ダメだ…いくらシミュレーションを繰り返しても上手く行かないヨ…」
机に力なく突っ伏しながら超が呟く。

「ベースが一緒だから簡単にいくと思ったんですが…ダメダメですね…」
葉加瀬も椅子の背もたれに全体重を預けながら言う。

超は過去の結果を見ながら
「どんなモノであれAIが完成する確立が約10%とカ…一人頭、何%を勇気で補えばいいのカナ?」
脱力して見当違いな解決策を喋りだす。

「私と超さん、沙霧さんの3人ですから単純計算て一人頭、30%ですよ…超さん、一度休憩した方がいいですよ」
単純な計算すら出来なくなっている超を葉加瀬が心配する。

「む…そうするヨ。こんな頭の状態だと致命的なミスをやらかしそうたしネ。葉加瀬はどうするのカナ?」
パソコンをスタンバイにして超は布団を敷き始める。

「私はボディの方を少しやってから休みます。変形機構にはまだ甘い部分が多いので…」
葉加瀬は設計図を取り出しながら答える。

「そうカ…じゃあ私は少し寝るヨ。何かあったら起こしてくれてもいいヨ…」
超はそれだけ言うと、布団に潜り込み寝息をたて始める。

そんな超の様子を見た葉加瀬は
「よほど疲れてたんでしょうね…昨日からずっとパソコンとにらめっこでしたから…?」
そう呟いて作業に戻ろうとして超のパソコンが起動している事に気がつき
「あれ…?超さん、消し忘れのかな…っ!?超さん、起きてください!!超さん!!」
ディスプレイを見て大声で超を叩き起こす。

「な、何事カナっ!?裕也が帰ってきたのカ!?」
葉加瀬の大声で超は飛び起きる。

「超さん、コレ!!コレ!!」
葉加瀬はディスプレイを指差し、超を呼び寄せる。

超は疑問符を頭に浮かべながら
「何カナ?……って、なんじゃこりゃあ!?」
フラフラと近づき、ディスプレイを覗き込んで素っ頓狂な声を上げる。

「…超さん、もしかしてAIの統合をシミュレーションじゃなくて既に実行したんですか?」
葉加瀬が黒いオーラを纏いながら問いかける。

「いやいやいや、流石にそんな事はしてないヨ!?」
超はわたわたと手を振りながら必死に否定する。

「じゃあコレは何なんですか!?『一人、15%ずつの勇気で補えばいけます…と言うか、いけました』って!!」
感情を爆発させた葉加瀬が物凄い剣幕で超を問いただす。

「知らないヨ!?私知らな…ん?」
超の必死の自己弁護を遮るかの様に研究室の備え付け電話が鳴る。

超は葉加瀬に待てのジェスチャーをして電話に出る。

「はい、ガイノイド研究会…って裕也カ。修行は終わったのカナ?」

『ああ、ついさっき別荘から出てきたんだが…超、何だったんださっきのメールは?』

「はい?メールなんて送ってないヨ?」

『む…だが、この試作型携帯電話でメールのやり取りが出来るのは研究室のパソコンだけで、アドレスは超のだったぞ』

「……裕也、メールがついたのは何時で内容はどんなのカナ?」

『メールが届いたのは5分程前で内容はアナタの勇気を少し貸して下さい…みたいな感じだったが…』

「裕也…今すぐに戻って来れるカナ?」

『ん?ああ、電車の時間帯も丁度いいから30分もかからないぞ』

「そうカ…なら、ちょっと重要な話があるから待ってるヨ」

『……わかった』

受話器を戻した超の並々ならぬ様子に葉加瀬は
「…どうかしたんですか?」
真面目な表情をして問い掛ける。

「ハカセ…大変な事が起きてしまったヨ」
超は葉加瀬の問い掛けに答えにならない答えを返して必死の形相でパソコンをいじり始める。

「えっと…超さん大丈夫ですか?」
超の鬼気迫ると言った気迫に押されながらも葉加瀬は再度問い掛ける。

「パソコンが勝手に再起動し、メールまで送るなんて事は有り得ないヨ…いや、有り得なくは無いがそんな事が起きうる原因で最も確率が高いのは…」
その二度目の問い掛けに答える素振りも見せずに超は独り言を続ける。

「はぁ…仕方ないですかね」
研究者にありがちな…というか、自分にも覚えがある態度に納得して葉加瀬は黙って後ろからディスプレイを覗き込む。

数分後…

「やっと見つけたヨ…」
超がキータッチの手を止めて呟く。

「超さん、コレって…」
後ろから覗き込んでいた葉加瀬が愕然としながら話し掛ける。

めぐるましく変化していくプログラムから目を離さずに
「うむ…見ての通り、何者かが勝手にAIの統合を始めているヨ」
超は答える。

「ですが…何が起こったのでしょうか?少なくとも勝手にプログラムが動き出す何て事は有り得ないのに…」
葉加瀬もプログラムから目を離すことなく違う方面の思考を始める。

「予測でしかないガ…3人のプログラムをひとまとめにしていたのが原因じゃないカナ?人格プログラムがダメになっていても基本的な部分は無事だったし…」
葉加瀬の言葉を耳に捉えた超が自分の仮説を喋る。

「ですが…人格プログラムの破損したAIは人間で言えば脳死状態のようなモノですよ?そんな理論的に不可能な「面白い事を話しているな」っ沙霧さん!?」
超の仮説に異を唱える葉加瀬を遮るように裕也が研究室に入ってくる。

「……出待ちカナ、裕也?それにまだ10分と少ししか経ってないが…」
超はとって付けたような笑顔で裕也を迎える。

「重要な話があると聞いてな。電車を使わないで最短距離を突っ走って来たら、なかなかどうして興味深い話が部屋から聞こえてきてな…つい、聞き入ってしまった」
いつも通りに外出用から室内用の白衣に着替えながら裕也は答える。

「あ、あの…沙霧さん。その…これは…」
なんとか説明をしようとするが葉加瀬の口からはうまい言葉が出てこない。

裕也は自分のパソコンを立ち上げ
「大筋の予測はついている。が…何故、私に言わなかった?そっちの分野なら私の方が得意だ」
何てこと無いかのように問い掛ける。

「………昨日までの酷い状態の裕也はこの事に堪えられないと判断したから…私とハカセの2人でやる事にしたんだヨ」
真顔に戻った超が少し躊躇してから口を開く。

「…そこまで酷かったのか?」
裕也はため息をつきながら聞き返す。

「気づいてなかったんですか?」
葉加瀬はきょとんとして答える。

「そういう内面の事は自分ではなかなかわからないからネ。で…その…勝手にやってた事についてのお叱りとかは…」
一人、納得していた超が顔を青くしながら確認する。

「あぁ…超さん、何で自ら地雷を踏みに行くんですか…」
超の言葉を聞いて滂沱の涙を流しながら葉加瀬が力無く呟く。

そんな二人の妙な態度に裕也は
「いや…私の事を思っての判断だったのだろ?それなら感謝こそすれ、叱るのは筋違いだろ」
頭を傾げながら続ける。
「それに、彼女たちの親は私達3人だから…やりにくい仕事だからと2人に押し付けるのは心苦しい」

「そう言ってもらえるのは有り難いガ…私達がやったのはシミュレーションだけで…」
超は叱られる心配が無くなったからか、いつもの調子に戻ってディスプレイを指差す。

「今やっている本番は勝手に実行されたんです」
葉加瀬も普段通りの態度に戻って告げる。

「ああ…一応聞いていたし、原因の見当はついている」
裕也があっさりと答えると

「「はい?」」
超と葉加瀬は揃って間抜けな声を出した。




あとがき
少し筆速が遅れてきたTYです。
内容に矛盾が生じないようにしていたらこんな事に…
何かおかしい所や変な所があったら指摘をお願いします。


感想レス

スピード卿様
更新は週に一話を目標にしています…一応。
指摘してくださった所は一緒に直しておきます。
感想と指摘、ありがとうございます。



[8004] 転生生徒 裕也 第十四話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/07/15 00:02

転生生徒 裕也
第十四話

勝手に進んでいくプログラムを少しほっといて裕也と超、葉加瀬は昼食を食べながら話をしていた。

「で…アレが勝手に動いている原因は何なんですか?」
葉加瀬がレトルトのカレーを口に運びながら問い掛ける。

冷凍のグラタンを食べる手を止め
「ヌルだ…」
裕也が口を開く。

「まあ、アイン、ツヴァイ、ドライときていたからヌルがいてもおかしくはないガ…何者カナ?」
カップ焼きそばをすすっていた超も会話に混ざる。

「元々は西教授が組み上げたプログラムったんだが…あの人もなかなかぶっ飛ん思考をしていてな」
裕也はため息をつきながらグラタンを口に運ぶ。

そんな裕也の態度に超は首を傾げ
「その口振りだと普通のプログラムじゃないみたいだガ…どんなのカナ?」
焼きそばに紅ショウガを足しながら問い掛ける。

「西教授が作ったのはAIを作り出すプログラムだったんだが…」
裕也は再び食事の手を止めて説明する。

「AIを作り出すプログラムって…何を思ってそんなモノを?」
葉加瀬も手を止めて聞き返す。

「人が人から生まれるようにAIというプログラムもプログラムから生まれるのが自然だ…と力説してな」
裕也は一度話を区切り、グラタンを咀嚼してから続ける。
「その時の私は手伝いに過ぎなかったからな…と言うかあの人は思い至ってからの行動が早すぎて止めれなかった」

超は頬をひきつらせながら
「まあ…良くも悪くも凡人とは違ったという事カ…」
擁護しているのかしていないはっきりしない言葉を口にする。

「それは私たちにも言える事ですけどね。で、AIを生み出すプログラムってどんなのだったんですか?」
葉加瀬は超にお気楽に答えると、話の流れを戻す。

「ああ、理論では周りのデータから学習してAIを組み上げるはずだったんだが案の定、失敗してな…シミュレーションも無しに実行したから仕方ないと言えば仕方ないんだが」
何かを思い出しながら裕也は溜め息をつき遠い目をして昔の事を語り始めた。


二年程前 麻帆良工業大学 研究室

「沙霧君、ワシは昨夜閃いたんじゃ」
今時珍しいモノクルをかけた白髪の老人、西教授が研究室に入ってきた裕也を確認するなり口を開く。

「はあ…今度は何ですか前みたいに時空接続システムを作るぞ、とか言い出すんじゃ…」
裕也はまたか…と溜息をつきながらぞんざいに返事をする。

「それは既に完成の目処がだったから大丈夫じゃ。概算で4年もあれば出来上がるじゃろ」
裕也の様子を気にする事もなく西教授はほっほっほっと笑いながら答える。

「…………で、何を閃いたんですか?」
藪をつついて蛇を出すのは勘弁、と言わんばかりに裕也は話の流れを戻す。

「おお、今はそっちの話では無かったな。昨夜、テレビで生命のドキュメントで人間の誕生までをやっていての…」
西教授は次々とフロッピーを差し替えてはパソコンをいじってを繰り返しながら続ける。
「AIをどうやって作るかを考えながら見ていたら閃いたんじゃよ。人間が人間から生まれるように、AIもプログラムじゃからプログラムから生まれるのが自然なのでは…との」

「………」
西教授の突飛な発想に呆気にとられ裕也はフリーズしてしまう。

「思い立ったら吉日と言うとおりに徹夜で組み上げたプログラムを今インストールしている所じゃ」
作業の手を止める事なく西教授は説明していく。

「ちゃんと動いてくれるんですか?聞いた限りだとシミュレーションやってないような…」
再起動を果たした裕也はこめかみを抑えながら問い掛ける。

「ほっほっほ、このワシが組み上げたプログラムじゃぞ?予想外の事が起こるのは当たり前、こちらの予定通りに動いてくれたら御の字じゃが全く動かん事は有り得んじゃろ」
何をわかりきった事をと言わんばかりの態度で西教授が答える。

「…せめてシミュレーションだけでもやってくれませんか?この前みたいに中途半端に成功して妙な世界に繋がったりするのは勘弁ですよ」
裕也は以前の実験結果を思い出し、半ば諦め気味に提案する。

裕也の提案を聞いた西教授は少し考える素振りをするが
「ふむ、確かにその意見も一理あるが…少し遅かったようじゃの」
あっさりと否定する。

「はい?どういう事なんですか?」
頬をひきつらせた裕也が若干引き気味に問い掛ける。

「もう実行してしまったからの。ほっほっほ」
裕也にディスプレイが見えるように体をずらし、笑いながら西教授が答える。

はじかれたようにパソコンを操作し始めた裕也が
「………教授、いったいどんな仕様にしたんですか?」
青ざめた表情を浮かべて聞く。

「インターネットなどを介して様々なデータやプログラムから学習、それを元に1からAIを組み上げる。その後ある程度成長するまで面倒を見ると言う仕様じゃ…まあ、寝ぼけ眼と最近酷くなってきた物忘れでどうなっとるかは保証できんがの」
裕也の切羽詰まった声のせいか、今までの笑い声をしまい真面目に答える。

「じゃあ…なんでデータファイルが破竹の勢いで消去されていってるんですかっ!?」
ものすごい剣幕で裕也はディスプレイを指差し問い詰める。

「なんじゃと?ワシの見積もりでは最悪、インターネットで最凶のネットワークウイルスを生み出すぐらいで済むはずなんじゃが…」
顎に手を当てながら西教授は考え込む。

「今は対処が最優先です!!重要度の高いファイルだけでも守らなきゃ…って、ああ!!駆動系の設計図が持って行かれた!!」
思考を始めた西教授に裕也は一喝しながらファイルを確保しようとするが間に合わず悲痛な叫びを上げる。

「む、設計図関連ならちゃんとバックアップをとっといとるからそんなに慌てんでもいいじゃろ」
自分の思考を邪魔されたからか、少し不機嫌気味に応じる。

「そのバックアップが今、私達の手元にあるなら慌てませんよ!!前回の実験で出来た穴から出てきた光で跡形もなく吹き飛んだのを忘れたんですか!?くっ…今度は回路系まで…」
ガタガタとキータッチを続けながら裕也は現状を告げる。

「む…そう言えば、量子力学研究会にその光が当たった一角を見て貰った結果が来ておったの。確かこの辺りに置いといたはずじゃが…」
奮戦している裕也を気にせず西教授は机の上に雑然と置かれている書類の山の切り崩し始める。

「教授!?その件は後でいいですから手伝って…ちっ、確保したファイルにまで手を出すか…」
助けを求めようにも少しでも意識をそらせるような状態じゃない裕也は一人孤独な戦いを続ける覚悟を決める。

裕也の悲壮な覚悟をよそに西教授はお目当ての資料を見つけ
「お…あった、あった。どれ…読み上げるからそのまま聞いとくれ」
そのまま続けていく。
「細かい話は端折って結論から言えば原子レベルで分解されてしまっていたらしい。まるで…というか、まんまメ○オウ攻撃をやられたようじゃの」

「メイオ○攻撃って…確か教授が時空接続システムを思いつくきっかけになったアニメのですよね…っと、これなら…どうだ」
少し余裕が出てきたのか裕也は質問をする。

「うむ、冥王計画ゼオラ○マーじゃ。あちらの次○連結システムは別次元…どちらかと言うと並行世界と繋げるモノのようじゃが、ワシが考えておる時空接続システムは異世界と接続するモノなんじゃよ」
西教授は自慢気に説明を始める。
「並行世界の間はそれ程はそれ程遠くはないから観測しようと思えば金と時間をかければ比較的簡単に出来る…まあ、一般人だけじゃと金は某国の国家予算レベルで時間は2、3世紀はかかるがの。じゃが、異世界となると話は変わってくる」

裕也は作業が終わったのか
「異世界と並行世界はこの世界との距離が違うと言う事ですか?まあ、距離という言葉で表して良いのかはわかりませんが…」
手を止めて西教授の方へ向き直る。

「大まかにはそんな感じじゃ。これはワシ独自の考えになるんじゃが、世界の流れはよく川の流れで例えられるように比較的に近い過去で分岐した世界を並行世界、世界の太源ないしは根源に近い部分で分岐したり、変化を促す存在の出現による急激な分岐、そもそも原初が異なる世界…それらを異世界と区分しとる」
西教授はホワイトボードにお世話にも上手いとは言えない図を書き始める。

「それなら変化を促す存在の出現による急激な分岐が近い過去ないしは未来で起こった場合、その世界はどちらになるんですか?」
裕也はプログラムの事はそっちのけで普通に討論を開始する。

「ふむ、それは時間の経過…というか分岐を続ける事によって並行世界から異世界へのシフトを急速にしていく可能性が大きい世界となる。例えば今、外宇宙から侵略者が来るという分岐がおきたとしよう。この時点で分岐した世界は侵略者が存在する世界…扱い的には並行世界となる。じゃが、その並行世界でその後おこりうる分岐は分岐する前…侵略者のいない世界では到底おこりえない分岐となる。その分岐を幾重にも重ねていくと…」
西教授は饒舌に話しながらも手は止めずに樹系図のような物にミミズの這ったような文字を付け加える。

「この世界との距離は加速度的に離れていき異世界となる…それなら今、並行世界である世界もいずれは異世界となるんですか?」
続く言葉を先取りしてさらに問い掛ける。

「なるにはなるじゃろうが…恐ろしい程の時間を要するぞ、それこそ永遠に近しい程にの。本来の分岐で違う選択をしてもほんの少しずつしか離れていかないんじゃからの。それに急激な分岐がおきた並行世界でも異世界に至るには数世紀は要す…ん?電話か。ほい、西じゃ」
西教授は説明を続けようとしたが途中で鳴り始めた電話にでる。

『ワシじゃ、西教授』

「おや、学園長が直々にこんな弱小な研究室に連絡とは珍しいの」

『それは世間の評価じゃろ。ワシは期待しとるがの…っと、世間話をしとる場合じゃなかった。西教授、至急女子中等部のパソコン室に来とくれ。最近入った君の助手も一緒にの』

「む…プログラム関連なら弐集院がおるじゃろ」

『その弐集院君が手に負えん状態なんじゃよ…ワシにはようわからんから一度かわるぞい』

『弐集院です。西教授お久しぶりです』

「うむ、久しぶりじゃの。して…どんな状態なんじゃ?」

『はい、目についたプログラムを片っ端から消去…いえ、吸収しているようでファイヤーウォールすら足止めにもなりません』

「ふむ…明石教授のワクチンも試したのか?」

『ワクチンの類はある分全て投与してみましたが…それすら取り込まれました』

「……少し待っとくれ」
西教授は電話を保留にして裕也の方を向き
「沙霧君…プログラムの状態はどうなっておるかの?」
冷や汗を垂らしながら問い掛ける。

「はい、ファイヤーウォールと我流のプロテクトで四重に囲って、あれ…いない!?」
ディスプレイを確認した裕也は物凄い早さでプログラムを探し始める。
「というかこのパソコン、空っぽですよ!!ほんの数分で脱出して根こそぎにしていくってどんだけスペック高いんですか!?」

「弐集院、今から行くから待っとれ。後、ネットワーク回線は遮断しておくのじゃ」
騒ぎ始めた裕也とは対照的に落ち着いた様子で西教授は電話に戻る。

『わかりました。迎えに高畑先生が行ってくれるそうなので10分後に工学部の正面玄関で待っていて下さい』

「うむ、でわの…さて沙霧君、出掛ける準備をするんじゃ」
ガチャリと受話器を置いた西教授は孤軍奮闘していた裕也に声をかける。

「え…どこにですか?」
諦めたのか机に突っ伏したまま裕也は問い返す。

「女子中等部じゃ。そこにプログラム…いや、仮称・自動自己進化型不定形プログラム『ヌル』がおる」
フロッピーやディスクをカバンにまとめながら西教授が答える。

「私もですか?というか学校の資料とかが関わってくるなら生徒は関わらない方がいいのでは…」
パソコンのデータを根こそぎにされたショックから立ち直れないのか裕也はやる気なさそうに返す。

「学園長が連れてくるように言ったんじゃ。別に構わんじゃろ」
パンパンに膨れたカバンを右手に西教授が促す。

「私としては無くしたデータの復旧作業を優先したいのですが…完璧に覚えている部分なんてそう無いですから早い内からやっとかなくては…」
なおも渋る裕也。

「はぁ…沙霧君、君はまだ頭が堅いの。ま、経験不足だから仕方ないと言えば仕方ないか…」
西教授はそんな様子の裕也に溜め息をついてから問い掛ける。
「沙霧君、何故君はデータが消去されたと考えるんじゃ?」

裕也は怪訝な顔をしながら
「何故と言われても…ここまで見事に無くなっていると消去されたとしか…」
ディスプレイを指差し答える。

「一般人の考え付きそうなありきたりな答えじゃの。じゃが研究者たる者、それ以外の可能性に気がつけなければならん」
西教授はモノクルをいじりながら続ける。
「データが空っぽになるのは消去された時だけかね?他にも色々考え付くじゃろ」

「む…確かに奪取されたなど他の可能性もありますが、少ない確率ですよ?」
釈然としないと言わんばかりに裕也が問い返す。

「そう…本来なら切り捨てるような数値じゃ。じゃが技術者や研究者は時に、その少ない確率を引き寄せなければならない時がある。故にどれほど小さな確率でも考慮しなくてはならん。そこまで思考を回せなくては二流、三流止まりじゃぞ。む、長々と話とったらこんなに時間が過ぎておる。迎えが来るまで後2分もないぞ」
懐中時計を見てからぼやいた西教授は、裕也の首根っこを掴んで引きずりながら出口に向かう。

ズルズルと引きずられたまま裕也は
「…教授、あなたは本当に来年に定年を迎える年齢ですか?これでも私は平均より背が高い方なんですが…」
疑惑の眼差しを向け問い掛ける。

「ワシらは体力勝負になる時も少なくないからの。基礎的なトレーニングなどは欠かしとらんよ」
西教授はほっほっほっ、と笑いながら何てことないかのように答える。

「基礎的なトレーニングの成果の範疇から逸脱してるような…」
結局裕也は待ち合わせ場所まで引きずられて行った。


「…え?ここで終わりですか?」
珍しく黙って聞いていた葉加瀬が問い掛ける。

「ああ、こっから先は色々面倒くさい展開になってな…結末だけ言わせて貰えば、自動自己進化型不定形プログラム『ヌル』の確保には成功、ただし学園のデータベースもほぼ壊滅。ふっ…復旧作業は地獄だったな…」
裕也は自分で事の顛末を思い出し薄ら笑いを浮かべ始める。

超は少し考えてから
「裕也、今データベースは壊滅と言ったガ…それはヌルによって消去されたのカナ?そしてヌルはその後どうしていたのかが気になるヨ」
必要最低限の質問を投げかける。

「データは全てヌルが吸収した。辛うじて残ったのは学園防衛システム…だったかな。ヌルはその後、西教授と弐集院先生、明石教授に私による複合八重防壁プログラムで厳重に封印して概算では10年は出てこられないと踏んでいたんだが…」
一時は正気に戻った裕也だったが今度は眉をしかめる。

「今ほど普及してないとはいえ、学園のほぼ全てのデータを吸収したらプログラム自体のデータ量が大変な事になるのでは?」
葉加瀬も矢継ぎ早に質問をする。

「それは圧縮と変換でどうにかしていたらしい。実際に吸収しているプロセスを確認できてないから確証はない。ただ、名前からわかると思うがアイン、ツヴァイそしてドライの人格AI基礎部はヌルをベースにしている。まあ、名前通りに原点となった訳だ」
裕也はついでと言わんばかりにヌルとアイン等の関係も説明する。

「学園防衛システムだけは死守したのカ。まあ学園結界が消失するよりはデータを手放した方がリスクは少ないからネ…もしかしたら、そのお陰でこの研究室に入り浸るまで魔法先生からそんなに目をつけられていなかったのカナ?」
裕也と葉加瀬のやり取りを聞いていた超が一人呟く。

耳聡くそれを聞き取った裕也が
「む…超、それはどういう事だ?」
説明を中断して問い詰める。

「……そろそろ頃合いカナ。裕也にハカセ、先に言っておくがこの話はボケじゃないからネ」
超は居住まいを正し、真顔で確認する。

そんな超の様子を数秒間観察してから
「ふむ…7対3で真面目な話のようだな」
裕也も居住まいを正す。

「超さんがこう言うときは大抵本当ですからね…」
葉加瀬も二人にならってそれなりに聞く体勢を整える。

「2人の私への評価が少しだけわかったヨ…まあ、その件は脇においといて。実は私は……」
超はあんまりな二人の対応にがっくりと肩を落としたが気を取り直し、たっぷりと間を取ってから
「何と火星から来た火星人だったんだヨ!!」
堂々と大声で告げる。

「あー………さて昼食を片付けるとするか。葉加瀬、もう冷めているかもしれんが食べてしまえ」
裕也は何を言うか迷い、目をあちらこちらに移した後に食べかけだった食事の話を振る。

「……そうしましょうか」
葉加瀬も少し迷ってから超の話を流す事にした。

「ちょっ!?その対応は酷くないカナ!?本当だヨ!本当に火星人なんだヨ!!」
そんな二人の対応にビシバシと机を叩きながら抗議する。

そんな超をほっといて裕也と葉加瀬は黙々と各々の冷めた食事を食べ続けた。


麻帆良学園 女子中等部 学園長室

学園長が一人黙々と書類を整理しているとノックも無しに少女が入ってくる。
「入るぞ、ジジイ」

「…せめて入る前に言っとくれんかの」
書類整理の手を止め入って来た少女、エヴァンジェリンに学園長が諦め気味に言う。

「ふん…裕也についての報告だ。なかなか面白い事がわかったぞ」
学園長の言葉を歯牙にもかけずにエヴァンジェリンは本題を切り出した。




あとがき
本当に遅くなりました、TYです。
西教授の並行世界と異世界の辺りは聞き流して下さって結構ですが、どこか変な所に気がついたりしたら指摘して下さい。
では感想、指摘などお待ちしております。
追記・十三話に欠落を発見、修正しました。


感想レス
鬨様
すみません、携帯で書いているので分割して投稿、その後パソコンでひとまとめにしているので編集中にあたってしまったようです。
なるべく間を置かずにするようにします。

自由な旅人様
主人公は原作を知らないままで行くつもりです。
主人公の中に入っている魂に関してはこれから作中で色々利用していく予定ですので。
これからも期待にそえるよう、努力していきます。

野鳥様
すみません…ご要望に答えることが出来ずに遅れてしまいました。
これからは少しでも早く投稿できるようにします。

秋刀魚様
AIが勇気で補える理由はこれから説明できるかと…
前世の知識(仮)に関しても次回あたりで説明します。

ガユス様
感想ありがとうございます。
これからもそう思って貰えるよう頑張っていきます。



[8004] 転生生徒 裕也 第十五話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/09/28 21:37

転生生徒 裕也
第十五話

仕方ないと言った感じの態度で聞いていた裕也は
「歴史の改変のために未来から来た火星人…ねぇ」
未だに半信半疑と言った様子で確認する。

「うむ、未来人である証拠は反重力発生装置とかの今の時代では再現不可能な未来技術ではダメカナ?」
ある程度落ち着きを取り戻した超は自分の話の証拠となりうる点を上げる。

「確かに少し冷静になれば、あれは未来技術と言うに相応しい代物ですね…むぅ、本当に未来人なんですね超さん!!」
葉加瀬は改めて驚き聞き返す。

「……本当に信じてもらえてなかったみたいだネ」
がっくりと肩を落とした超は力無く呟いた。

「では超、歴史の改変を何故行う?そして君はその果てに何を望む?」
裕也は未来人云々は納得したのか話を次の内容へ移していく。

超は一瞬口を開くのを躊躇うが
「…私がやろうとしているのは魔法使いの存在を世界に公表する事ネ。その果てには今の世界にあるありふれた悲劇がほんの少し減る…ただ、それだけだヨ」
それを振り払らい、真剣な面持ちのまま続ける。
「手段の方は時期が来たら教えるヨ。かわりと言っては何だが、タイムトラベルの方法は教えておこうかナ?」
おもむろに立ち上がった超は、確かその箱の中に…などと言いながら何かを探し始める。

「それは後にしてくれないか?目的はわかったが、まだ私の質問に答えていない部分があるぞ。超 鈴音が何故それを行い、何を得るのか…がな」
ごそごそと箱をあさっている超を制止して裕也も厳しい口調で再度問い掛けた。

動かしていた手を止め裕也の方へ向き直った超は
「む…女の過去を根掘り葉掘り聞くのは感心しないヨ」
へらりと真剣な表情を崩し茶化すように答える。

そんな超に裕也は溜め息をついてから
「そうではない。過去はどうでもいい…とまでは言わんが、私が聞きたいのは超自身の動機だ。協力出来るかどうかはわからんが、それ位は本人の口から聞いておきたい」
真剣な表情を崩さずに告げる。

「敵対…という選択肢は無いのカナ?」
崩ずした表情を再び引き締めた超がほんの少し震えた声で聞き返す。

裕也は目をパチクリとさせてから
「敵対?何故私が超と敵対しなければならない?」
何を有り得ない事をと言った態度で応える。

「裕也は将来、麻帆良の教員になるんだろ?そうしたら「そのつもりだが、私がなるのは普通の先生で魔法先生になるつもりは無いぞ」はい?」
どこかいじけた様に聞いてくる超の台詞にかぶせるように裕也は告げる。

「超さんは沙霧さんの事になると思考が鈍くなりますね…」
黙って脇で話を聞いていた葉加瀬が苦笑を浮かべながら言う。

「な…葉加瀬は知っていたのカ!?」
愕然とした表情で超は一気に距離を詰めて葉加瀬の胸倉を掴みガクガクと高速で揺さぶり始めた。

「ちょ…超さ…ん…止め…て…」
面白いくらいに顔を青くした葉加瀬が弱々しく静止を求めるが

「言ったら止めるから早く吐ヨ!!」
テンパってる超は葉加瀬の言葉に耳を貸さず更に加速する。

「吐く…本当に…吐いて…しま…い…ます…」

「超、少し落ち着け。そのまま続けると誰も望まないモノから先に吐かれるぞ」
本格的にヤバくなってきた葉加瀬を見かねて裕也が超を静止する。

「む…流石にそれは勘弁ネ。さ、止めたからキリキリ吐くヨ」
渋々と言った態度で超は葉加瀬を解放してから再度問い掛ける。

「はぁ…まだクラクラするんですが…ふぅ、沙霧さんが魔法先生に何故ならないか…という話で良かったですよね?」
自分のこめかみを抑えた葉加瀬は一度確認してから口を開く。
「まず第一に沙霧さんの関係者にあります。エヴァンジェリンさんは言うまでもなく、最近では私達も目を付けられてますからね…」

「何?それはどういう事だ?」
ぐるり、と葉加瀬から超の方へ顔を向けながら問い掛ける。

「あ…いや…ちょっと覗きをネ。でも、まだ疑惑のレベルで尻尾を掴まれてないから大丈夫ヨ」
裕也からの視線にわたわたと慌てながら超は釈明する。

「…疑惑をもたれた時点でアウトのような気がするんだが」

「凶悪犯…まあ、エヴァンジェリンさんに対してはそうでもないかもしれませんが、問題児候補の私達とモロに関わりを持ってるので機密情報のやりとりで問題があります。そして第二に学園長からの条件と沙霧さんの目的にあります」
何ともいえない表情を浮かべている裕也を無視して葉加瀬は続ける。
「研究に時間を割きたい沙霧さんに学園長の示した条件は麻帆良に所属している事のみです」

「なる程…せっかくの好条件なのに色々面倒くさい魔法先生になったら本末転倒になってしまうからネ」
葉加瀬に続いて口を開いた超がふむふむと頷く。

「まあ、私が持てる情報から予測できるのはこれ位ですね…あれ?話ではアインは超さんが手を加えたのは一部で…そうなら…」
説明の補足をしていた葉加瀬が途中から険しい顔をしてぶつぶつと何事かを呟きながら考え込む。

「大体あっているが…何か腑に落ちない事でもあったか?」
そんな葉加瀬の様子を不振に思った裕也が問い掛ける。

「あ、いえ…ガイノイドについて何ですが…アインの基礎フレームは西教授と沙霧さんだけで作ったんですよね?」
裕也に話し掛けられて意識を現実に戻した葉加瀬が問い掛ける。

「ああ、西教授と私だけだ。アインの基礎フレームの設計図に設計者の名前として書いておいたはずなんだが…見せていなかったか?」
あれ?と言った具合に首を傾げる裕也。

「いえ…見せてもらいました。だからこそ気がついたんです」
そんな裕也にビシッと指をさし続ける。
「あの設計図が書かれたのは2年前…ですが、その時代では存在しない技術…というか、出どころ不明な技術が随所に用いられています」

「え…そうなのカ?」

「そうなんです!!まずこの関節部分なんですが…」
キョトンとした超の質問に、わったわったと設計図を引っ張り出した葉加瀬がまくしたてるように説明していく。

「あー…言われてみればそうかもしれないヨ。てか私もよくわからない部分があるんだガ…」
設計図を改めて確認して冷や汗を浮かべながら呟く。

「なん…だと…!?」

「いや、ハカセ…そんなリアクションされても困るんだガ…」
目を見開き、愕然とした表情を浮かべている葉加瀬に若干引きながら超はツッコミを入れる。

「失礼、何故か言わなくてはならないような気がして…」
自分でもどうしてそんなリアクションをしたのかわからない様子で葉加瀬は首を傾げる。

超はそんな葉加瀬をスルーして裕也の方を向き
「今まで気がつかなかった私が言うのも何だが…コレは私のいた時代にも考案されていない技術ヨ。まあ…出来る限りでいいから説明してくれるカナ?」
いつも通り気負い無く問い掛ける。

「沙霧さん…この技術ははっきり言って異様です。何の脈絡もなく、実用化されている技術…流石に才能の一言で済ませるのは無理なレベルです。個人的にはかなり気になりますが…」
葉加瀬も初めの内はシリアスな感じだったが最後にはいつも通りに戻っていた。

「まあ、私は裕也がどんな生い立ちでも気にしないけどネ」

「超さん、それは私が言おうとした台詞なのに…」

「ふふふ…言った者勝ちヨ」
その超の言葉を皮きりに、喧々囂々と言った様相の口論が始まった。

初めの内はどうして今まで気がつかなかったんですかなどの普通の口論だったのだが…

数分後

「大体、人の台詞を奪ってまでフラグを立てたいのですかっ!?」
ドン、と机に拳を叩きつけた葉加瀬が立ち上がりながら叫ぶ。

それに呼応するように机を叩き、立ち上がり
「ハカセには必要のないフラグなら私に譲ってくれてもいいはずヨ!!」
負けじと超も一喝する。

フラグってなんだ?と一人悩み始めた裕也を置いてけぼりにして口論は続く。

「私は元々出番も見せ場も少ないんですよ!!その数少ない機会をあなたはっ…!!」
と親の仇を目にしたかのように超を睨みつける。

「うっ…それを言われると痛いネ…」
文字通り鬼気迫ると言った葉加瀬に当初の勢いが削がれる超。

ここが攻め時と一気に押し切ろうと更に攻勢に移る葉加瀬だったが
「それに、そのフラグが必要ないなんて言って…げふっ!?超…さん…何をっ…」
瞬動とまではいかないものの、高速で間合いを詰めた超の拳撃を鳩尾に受けて悶える。

裕也との距離を測り、葉加瀬のみに聞こえるような声量で
「後でお話しようカ?」
全く感情を感じさせない声で超が告げた。

「…何をしている?」
思考に没頭していた裕也だったが、ふと意識を向けると妙に距離の近い二人に問い掛ける。

息も絶え絶えと言った様子の葉加瀬にかわって
「ハカセがメタな発言をしようとしていてネ…とっさに動いてしまったんだヨ。すまない、ハカセ」
しれっと嘘をつく超。

「安易に暴力に走るのはいただけないぞ、超」
まだ苦しそうな葉加瀬の背中をさすってやりながら裕也は超に注意する。

「む…気をつけるヨ」
そんな二人の様子を見て少しつまらなさそうな顔をした超だったが素直に謝る。

「そうしてくれ。本当に大丈夫か?」
超が反省しているのを確認してから裕也はもぞもぞと動き始めた葉加瀬に問い掛ける。

「ええ…なんとか。で…私たちは何を話していたんでしたっけ?」
いてて…と鳩尾辺りをさすりながら葉加瀬が誰ともなしに聞く。

「私に聞かれても…」

「確か…AIに勇気とか抽象的なものが存在するのかと、確率を勇気で補えるのかじゃなかったカナ?」
一人違う事を考えていた裕也の答えに続いて超が素知らぬ顔で嘘を吐く。

「そう言われればそうだったような…でもその手の内容で超さんが本気で攻撃してくるのは珍しいですね。私は一体どんな事を…」
超に偽りの記憶を刷り込まれた葉加瀬は唸りながら考え始める。

「ハカセがEXAM○ステムとか第六○回路を作って搭載させようとか言い始めるからついネ」
これ幸いと事実を完璧にねじ曲げる超。

「…ノーコメントだ。というかそんな内容の口論なら私も参加していたような気がするんだが?」
裕也は若干顔をしかめて首を傾げる。

「細けぇこたぁ気にすんな」
そんな裕也に形容しがたい表情の超が左手を振りながら応える。

「………」

「…超さん、頭は大丈夫ですか?」
唖然としてリアクションの取れていない裕也に代わって葉加瀬が真顔で心配する。

「で、AIに勇気…というか感情でいいカ。それがあるのかだったネ」
と二人からの視線に耐えきれなくなった超が強引に話を進める。
「アインとドライは微妙だがツヴァイは確実に感情が芽生え始めていたヨ。これは私とハカセの共通の見解ネ」

「何?定期検査ではそういった結果は出ていないぞ」
正気に戻った裕也は目を見開き超と葉加瀬を交互に見る。

「気づかなかったのカ?まあ、ツヴァイは意図的に裕也の前でそういう行動をしていなかったように見えたから仕方ないと言えば仕方ないカナ…」

「私達も確たる証拠がある訳じゃないんですけどね。言動や行動から割り出した結果です」
一人で勝手に納得している超の後を引き継いで葉加瀬が続く。

「感情か…何故私には隠そうとしていたのだろうな…やはり私のよう「てい」痛っ!?」

「何一人でネガティブに入ろうとしとるカ。それとも本格的に中二病でも患ったカナ?」
自虐的な笑みを浮かべ始めた裕也の頭を超が小突いてから問い掛ける。

「超さん…そういうのは自覚が無いみたいですからそっとしといてあげましょうよ」
葉加瀬はついと裕也から目をそらし、やんわりと諭す。

「…そういえばいつだったかエヴァンジェリンに裕也もそんな事を言ってたネ。すっかり忘れてたヨ」
ぽんと手をたたいてから得心がいったように超が頷く。

「ちょっと待て2人とも、何故少しネガティブな発言をしただけで中二病呼ばわりされなければならない!」
ポカンと口を開けて惚けていた裕也が早口にまくしたてる。

「で…話を戻すが、AIに感情が芽生えたいうのはかなり強引だがツヴァイの話しで納得してもらうヨ」
そんな裕也を意に介さず超は話を進める。

スルーされた裕也は無視されるのがこんなに辛いとは…やら、後でマスターに謝っておくかなどと呟きどんよりとしたオーラを身に纏う。

「データで実証出来なかったのが悔しいですが、親としての贔屓目を抜いても彼女には感情があったと言えますね」
まあ、科学者としてはどうかと思いますがね…と苦笑いを浮かべながら葉加瀬も裕也には触れずに頷く。

「だが、肝心要のツヴァイのAIは大破…アインとドライはツヴァイより酷い状態だ。ヌルがアレをやっていると言ったが、長年封印していたのに感情があるとは考えづらい」

「立ち直りが早いですね…」
ついさっきまで発していたオーラが無かったかのような態度で話に混ざってきた裕也に葉加瀬がぼそりと突っ込む。

「そこで裕也の話していたヌルの行動が関係してくるんだヨ」
超は両方スルーして話を続ける。
「ヌルが学園の電子データを片っ端から吸収したと言てただろ?その時に麻帆良にいる電子精霊群も取り込まれただろうからネ。それが原因と考えれなくもないヨ」

「電子精霊ね…門外漢の私にはさっぱりだ」
お手上げと言ったジェスチャーをしながら裕也は告げる。

「右に同じく…」
葉加瀬も頬を掻きながら続く。

「まあ、ヌルにも感情が芽生える可能性があった程度の理解で構わないヨ。で…次に勇気で確率を補えるかだガ、裕也ならおおよその見当はつくんじゃないカナ?」
電子精霊について詳しく説明する気が無いのか、超はニヤニヤと笑いながら話を裕也に振る。

「…ノーコメントだ」
裕也は頬をひきつらせながら答える

「沙霧さん?」
流石に態度が変だと気がついた葉加瀬が首を傾げながら声をかける。

「ふふふ、聞いてやるなハカセ。それこそ裕也の中二病…黒歴史と言っても差し支え無い時期の産物だからネ」
最早、ニヤニヤではなくニタニタといった笑みを浮かべた超が裕也をいたぶるように言う。

「ぐっ…」
珍しく何も言い返せない裕也は己の過去の所業に臍を噛む。

「激しく気になるのですが…」
裕也の観察を終えた葉加瀬は超の方へ視線をやり続きを促す。

「あの頃の裕也が作ったのは熱血回…」
興味津々といった様子の葉加瀬に答えて説明をしていた超だったが途中で口を閉ざす。

「どうかしまし…」
唐突に黙った超に葉加瀬は首を傾げ問い掛けようとするが違和感に気がつき押し黙る。

超と葉加瀬はアイコンタクトで

(超さん、何か後ろから私でもわかる位のプレッシャーを感じるのですが…)

(振り向いてはいけないヨ、ハカセ。今そこには修羅がいる)

(修羅って…もしかして沙霧さんは真剣に私たちを殺る気?)

(いや…あれは無意識に溢れ出てるヤツネ)

(いやいやいやいや、無意識でそんなものを出すなら意識したりしたらもう毘沙門天とか出しちゃうんじゃ…)

(多分、あれは無意識だから出来ている技…今ならまだ引き返せるヨ)

(沙霧さんの黒歴史はかなり気になるのですが…命には代えられませんか)

(うむ、これの続きはまたの機会にするヨ…)

意思疎通を図りお互いの保身に走る。
因みにこの間わずか0.5秒であった。

「で…沙霧さん?」
何も気がついていない素振りで葉加瀬が裕也に話を振る。

裕也から発されていた強烈なプレッシャーは
「………はっ、なんだ葉加瀬?」
意識を取り戻すと同時に急速に収まっていった。

「本当に無意識だったのカ…」
それを見ていた超は頬をひきつらせながら呟く。

「そろそろ沙霧さんの話に戻さなくてはと言う話になったんですが…」
超の呟きが裕也の耳に入らないように葉加瀬がまくしたてる。

「…ああ、そんな事を話していたな」
すっかり忘れていたな…とぼやいてから裕也は姿勢を正し
「最初に言っておく。私もいまいち把握しきれていないからな」
との前置きをしてから裕也はエヴァンジェリンと別荘でした会話の内容を語り始めた。


学園長室で書類整理を中止した学園長とエヴァンジェリンが向き合っていた。

「面白い事の…おぬしにとっては面白くともわし等にも面白いとは限らんのじゃが…」
右手で自分の髭をいじりながら学園長がぼやく。

鷹揚に頷いたエヴァンジェリンは
「それもそうだが、かなり興味深い事であるのは変わりない。その前に…入ってきたらどうだ?タカミチ」
じろりと扉の方を睨みつける。

「いや…タイミングが悪くてね。入るべきか迷ってしまったんだよ」
はっはっは、と快活に笑いながら書類の束を小脇に抱えたタカミチが学園長室に入ってくる。

タカミチの持っている書類に目を向けたまま
「ふぉ?今日の書類は全て持ってきたと思ったんじゃが…」
学園長が問い掛ける。

「先程、工学部の事務から緊急の案件だと渡されまして…」
苦笑を浮かべたタカミチは書類を学園長に手渡す。

「それは珍しい。どれ…なかなか面倒くさい事になっておるの」
受け取った書類に目を通した学園長が溜め息をつきながらぼやく。

「おい、ジジイ。こっちの話を進めていいのか?」
若干イライラしているエヴァンジェリンが詰め寄りながら問い掛ける。

「ぬ…ちょっと待っとくれんか?おぬしにも関係のする事じゃしの」
ほれ、と読み終えた書類をエヴァンジェリンに見せる。

訝しげに書類を奪い取ったエヴァンジェリンだったが
「なんだ、この事か。何を今更…別に問題なかろう」
あっさりと興味を無くして机の上に放り投げる。

「いや…問題ありじゃろ。というか沙霧くんの研究に参加しておるなど初耳じゃぞ」

「何?隠れたりせずに堂々と研究室に出入りしているから既に知っているのかと思っていたんだが…」
冷や汗を浮かべながら否定する学園長に小首を傾げたままエヴァンジェリンはタカミチの方へ視線をやる。

「ま、まさか…」
それにつられてギシギシと油がきれたロボットのような動きでタカミチを見た学園長が呟く。

学園長の視線から目をそらして居心地悪そうにしたタカミチが
「あー…お察しの通りです」
気まずそうに事実を告げる。

「何故じゃ!?わしはあれから仕事をさっさとこなして時間をつくり各学区を歩いて噂などに取り残されないようにしてきたのに…っ!!」
それを聞いた学園長は拳を机に叩きつけ慟哭する。

いきなりの学園長の奇行に引きながら
「お…おい、タカミチ、何だアレは?」
エヴァンジェリンは恥も外聞もなく泣き続けている学園長を指差し問い掛ける。

「いや、沙霧君の初陣の後にちょっとね…」
タカミチはを口を濁した後に、はっはっはと渇いた笑いを発して追求を逃れる。

それを聞いたエヴァンジェリンは、すたすたと学園長に近づき
「ふん…どうせ下らないことなんだろ。おい、じじいさっさと話を進めろ」
特徴的な後頭部に鉄扇による情け容赦の無い一撃を叩き込む。

「ぐおぉおぉぉぉ!?傷心の老人に何をするか!しかもわしの後頭部がへこんだらどうしてくれる!!」
叩かれた所を抑えながら学園長は涙目になりながらエヴァンジェリンを睨みつける。

「貴様がそんな事をしても気色悪いだけだ。それに後頭部がへこむなら良いじゃないか。人間に戻れるぞ」
学園長の抗議を一蹴し、エヴァンジェリンはぞんざいな返事をする。

「おお、それは良い案…ってわしは元々人間じゃ!!」

「まあまあ、学園長…少し落ち着いて」
少しのってから目を見開きツッコミとは言い難い雄叫びを発する学園長をタカミチがなだめる。

「で、こちらの用件を話していいのか?」
そんな二人を無視してエヴァンジェリンは自分の為にお茶を準備しながら問い掛ける。

「ぬぅ、お主が手を貸している研究についての内容を詳しく聞きたいのじゃが…」

「そんなもん裕也から聞け。それが心許ないなら超 鈴音でも一緒に呼んでおけ」
未だに後頭部を気にしている学園長の意見をバッサリと切り捨て茶を飲む。

「なかなか簡単な問題じゃないんじゃよ…」
ぼそりと誰にも聞こえない声量での呟く。

「何時だったかの報告書で裕也は並行世界の魂を憑依させる儀式の実験体かもしれんとあったな」
エヴァンジェリンは学園長の呟きを気にせずに話し始め
「それは裕也に限ってはある意味で正解だよ」
よかったな、と続けニヤリと笑う。

「…ということは今の沙霧君は憑依した人格だというのかい?」
それを聞いたタカミチが渋面を浮かべ問い掛ける。

「人の話は最後まで聞けタカミチ。ある意味でと言っただろ」
タカミチの問いを軽く流し話しを進める。
「結論から言えば裕也は憑依した人格ではないようだ。まあ、普通とは言い難いがな」

「ふむ、そこだけ聞けば大して問題ないんじゃが…それだと儀式の説明がつかんしの」

「そこで終わらないから面白いんだろ。ジジイの気にしている裕也に施されたと思われる儀式の効果は当人からの話でおおよそだが仮説は立っている」
顎髭をいじりながら嘆息する学園長とは真逆に笑みを深めたエヴァンジェリンは
「魂の憑依は幽霊や精霊の憑依とは訳が違う。並大抵の人間ならば魂を上書きされ乗っ取られるか、1つしかない身体が2つ以上の魂に耐えれず廃人になるだろうな」
至極楽しそうに続ける。
「で…裕也だが、当人の話によれば『前世の知識』とやらを引き出せるらしい。最近は忘れていたそうだがな」

いくらか危機感を緩めたタカミチが説明の区切りに問い掛ける。
「前世の知識…記憶とかはどうなんだい?」

「個人情報などは無理だったそうだ。引き出すのも地名や数式などをキーワードに検索し、それに関する情報を閲覧する感じだと。確か、いんたーねっとみたいとも言っていたが…タカミチ、いんたーねっととは何だ?」
饒舌に答えていたエヴァンジェリンだったが、微妙な脇道にそれた疑問をタカミチに投げ返す。

「そうじゃ、高畑君。ふぁいやーうぉーるとぴろしきさーばとは何かの?喉に刺さった魚の小骨のように気になって仕方ないんじゃ」
ポンと手を打った学園長もタカミチに問い掛ける。

二人から微妙に難しい質問をされたタカミチは曖昧な笑顔を浮かべて誤魔化すしか出来なかった。




あとがき
約2ヶ月半ぶりの更新となるTYです。
書きたい事と書かなきゃならない事の折り合いが上手くいかずこの様な事態に…
遅れてしまって本当に申し訳ありません。


感想レス
クワガタ仮面様
良くも悪くもネギに関わろうとするトリッパーは出てくる予定です。
アンチと呼べる程に出来るか自信はありませんが…

懺稔マン様
酷評、ありがとうございます。
苦言として受け取り、糧にしていけるよう努力します。



[8004] 転生生徒 裕也 第十六話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2009/10/22 23:35
転生生徒 裕也
第十六話

どうにかそれっぽい説明で二人を満足させたタカミチが一息つく間もなく話は進んでいく。

「疑問が解消された所で話を戻そうかの」
何か憑き物が落ちたような晴れやかな表情で学園長が告げる。

「そうだな。で…どこまで話した?」

「沙霧君が知識を引き出せるという所までたよ…」
小首を傾げた状態のエヴァンジェリンに教えた後にタカミチは小さく溜め息をついた。

「裕也が何から知識を引き出しているとかその辺りの仮説は話してないんだな?」
問い掛けに頷く二人を確認してからエヴァンジェリンは続きを口にする。
「そこからか…裕也が取り出している知識にはこの世界と食い違っていたり、偏っている箇所が多数見られた。一例としては麻帆良という地名には何一つ情報が無いそうだ」

「世界でも有数な規模を誇る学園都市の麻帆良について何一つ?」

「ああ…ところで、だ。これらの名前に聞き覚えはあるか?これは引き出させた知識の一部を纏めてみた物だ」
タカミチの確認を肯定してから、エヴァンジェリンは服のポケットから取り出した数枚のメモを学園長に放り渡す。

メモを受け取った学園長は興味津々と言った様子で読み始める。
「それは興味深いの。風○学園、国立バ○ベナ学園、学○都市、洛○和高校、国立○宿小学校…どれも知らん名じゃのう。あと、学園とつく学校が異様に多い気がするんじゃが…気のせいかの?」
一通り目を通し、誰にも答えを求めない疑問を呟いてからタカミチにメモを手渡す。

「全竜交○部隊、○神院、神○館、我がカ○テル、ネル○、ジャスティ○アーミー、レプリ○ォース、裏新宿・○限城、ロボ○ボ団…こちらも聞いたこともない名前ですね」

タカミチがメモから目を離したのを確認してからエヴァンジェリンが口を開く。
「裕也が言うには身体に入っている魂からの引き出しているらしい。まあ、意識シンクロの魔法で確認したからほぼ間違いないようだがな」

「どうして沙霧君は自我を保っていられるんだい?複数の魂なんて入っていたら発狂してしまうんじゃ…」
タカミチがメモを学園長に返しながら聞く。

「あいつは無意識のうちに他の魂を封じ込めたんだよ。持ち前の膨大な魔力を使ってな」

受け取ったメモに再び目を落としながら学園長はエヴァンジェリンに問い掛ける。
「ふむ…そんな事をしてしまったら取り出す事など不可能なのではないかの?」

「そこでファイヤーウォールとプロキシサーバーの話になるんだろ。魔力で封じ込めた魂から必要な知識のみを取り出す…説明としては十分だろ」
なかなか上手い例を言う奴もいるもんだ、とエヴァンジェリンは関心したように頷く。

エヴァンジェリンの興味が上手い例を言う奴、アルビレオ・イマに向かう事を恐れた学園長は話題の転換を謀る。
「なる程の…そんな器用なことが無意識に出来るのならば魔法使いとしても大成するかもしれんの」

「…それは無理だ。精霊に嫌われすぎている」
エヴァンジェリンは少し考える様子を見せてから続ける。
「あいつは微妙にズレている。本来なら存在し得ないモノが身体の内にありすぎてな」

「精霊に嫌われる…そんな事もあるのか」
魔法にあまり深い知識を持たないタカミチが呟く。

「ああ…その辺りには疎いのか」

「いや、結界とか魔法の基礎の部分ならまだ解るんだけど少し踏み込んだ所はちょっとね…」
はっはっは、と笑いながらばつの悪そうに目をそらす。

「もうちとタカミチくんも勉強が必要じゃの。沙霧くんは魔法を使えんか…で、話はまだ終わらんようじゃの」
ふぉふぉふぉ、と笑っていた学園長が真面目な表情に切り替えてエヴァンジェリンに問い掛ける。

「そう急かさんでも話すさ…ついさっきだが、裕也をちょっとした荒技で立ち直らせてきた」

「ちょっとした荒技って…エヴァが言うなら余程の事なんじゃ…」
何てこと無いように告げるエヴァンジェリンに引きつった笑みを浮かべたタカミチが呟く。

「何、雪山に1ヶ月放置しただけだ。甘い方だろ」
しれっととんでもない事を言い放つ。

「いや…きちんとした装備がなきゃキツいじゃろ」
冷や汗を浮かべた学園長が即座につっこむが、歯牙にもかけず話を続ける。

「あいつは死に瀕して魔力を扱う術を身につけた。ただそれだけならわざわざ報告にくる必要は皆無だったんだが…」
ニヤリと笑みを浮かべたエヴァンジェリンは一拍間をおき
「崖っぷちの状況を覆す為に膨大な魔力の使用により魂を封じ込めていた魔力の枯渇、それによって溢れ出てきた魂共との肉体争奪戦…それによって裕也はどうなったと思う?」
意地の悪い問い掛けをする。

「あまり想像はしたくないの…下手をすれば肉体が乗っ取られてしまう」

「万が一に負けてしまっても魂と肉体が上手く適合しなければどうなるか…」
学園長とタカミチが各々に悲観的な想像をして青ざめる。

「安心しろ。負けて乗っ取られるなんて醜態は晒していない。乗っ取られるどころか打ち勝って逆に取り込んだしな」
エヴァンジェリンの何気ない回答が二人の不安という感情を違う方向に向ける。

「……なんじゃと?」
ぎしぎしと油の切れたロボットのような動きでエヴァンジェリンに顔を向けた学園長が口を開く。

「肉体を乗っ取られるなんてリスクを背負ってるんだ。それなりのリターンがあってしかるべきだろ」
ふん、と鼻で笑ってから答える。

「取り込んだというのは魂の事でいいのかい?それなら人格にかなりの影響を及ぼすんじゃ…」

「そのまま取り込んだのならな。裕也は己が打ち倒した魂は消滅したと思い込んでいた」
エヴァンジェリンはタカミチの問いに答えるついでに話を進める。
「魂は高いエネルギーを有している…流石にこれは知っているな?」

「まあね…でも、その利用は違法研究者たちでも成功したとは聞いたことはない」

タカミチの答えを聞いたエヴァンジェリンは頷き
「その通り…魂はそれぞれの色が強すぎる。肉体のしがらみが無い分か、余計に我を通そうする」
至極楽しそうに続けていく。
「過去に何処ぞの誰かがやった研究で魂同士を戦わせるというのがあってな…」

「それは知っとるよ。魂同士の戦いは意志の強い方が勝つ…そうじゃったな?」
学園長がセリフを少し強引に引き継ぐ。

「…ああ。確たる意識がある分、生に対する執着はそこいらの悪霊なんて比にならない程の意志を持つ魂共を裕也は打ち倒した」
ほんの少しだが不機嫌になったエヴァンジェリンだったが、話を続ける内に機嫌が戻っていく。
「で、ここから先が問題だ。本来、肉体が死んだ魂は肉体から解放され輪廻転生に加わる。だが、今回裕也に敗れた魂は解放されない」
裕也の肉体は生きているからな、と続ける。
「ならばその魂…正しくは魂が有していたエネルギーはどうなった?裕也のように消えたなんて言うなよ、タカミチ」

先程、知識不足が露呈してしまったタカミチは痛いところ突かれ苦笑いを浮かべてから口を開く。
「こちら側でも基本的にエネルギー保存の法則は通用するからね…ひねくれた考え方をしなくていいなら沙霧君は倒した分の魂のエネルギーを…まさか!?」

苦笑を愕然とした表情へと変えたタカミチを見て満足そうに頷き
「お察しの通り…裕也は膨大なエネルギーを喰らい糧とした。しかもまだ魂は裕也の内に残っているから伸びしろもある」
今回の話の本題を告げる。

「それをどうやって知ったんじゃ?」
いつものボケた雰囲気を感じさせぬ鋭い視線をもって学園長が問い掛ける。

「外からは余程注意深く観察しなければわからないが…気の密度やら魔力の総量は段違いになっている」
私は血を飲んだらからわかったようなものだぞ、とエヴァンジェリンは後者について補足する。

「少なくとも一目で見抜く事はできんのじゃな…全く、こんな事が本国のお偉方の耳に入ったらまたうるさくなるわい」
重々しい溜め息と共に愚痴を吐き出す。

「それに、自分以外の魂の利用に成功した知れば今まで興味を示さなかった輩も手を出してくるかもしれませんね」
タカミチも不安要素を挙げる。

「非合法な手段をとってくる奴らは無視してもいい。タカミチ程度の相手ならば装備が無くても逃亡くらいならできる…まだ勝てはせんだろうがな」
不機嫌な表情を隠そうともせずに忌々しげに口を開くエヴァンジェリン。

「一年もしないでそのレベルなら十分じゃないか」

「別荘もつかってるから既に一年は過ぎている。もっと修行をハードにしていくか…いや、総合力を上げるために巻物に放り込んでみるのも有効…」
タカミチのフォローを一蹴したエヴァンジェリンはぶつぶつと今後の予定を考え始める。

「その辺の話は本人も知っておるのか?それによって此方の対応も変わってくるんじゃが…」
会話に参加せず黙々と思考を巡らせていた学園長がエヴァンジェリンに問い掛ける。

「ん?喋っといたぞ」

「教えても大丈夫だったのかい?結構ショックが大きいような事だと思うんだけど…」
余りにもあっさりと答えたエヴァンジェリンにタカミチが聞く。

「あいつは心の強さだけなら私の従者として合格点をやれる。戦闘の方はまだまだだがな」
先程とは違い、少し誇らしげに答えたエヴァンジェリンは用は済んだと言わんばかりの態度で出口に向かう。

背を向けたエヴァンジェリンに
「そうか…では公の方への対策や情報統制はこちらがやっておこう」
学園長が告げる。

「ふん…」
明確な答えを返さなかったエヴァンジェリンだが扉を開きかけたところで立ち止まり
「じじい、余所よりも身内の方を心配してやれ。貴様の孫は何時か否応無しに巻き込まれるぞ」
振り返らずにそれだけ言うと部屋から出て行った。

バタンと扉の閉まる音がしてある程度時間が経ってから学園長が口を開く。
「ふぉふぉふぉ…痛いところを突かれてしまったの」

「エヴァがあんな事を言うなんて珍しいですね…」
普段の彼女らしからぬ言動に驚愕の表情を露わにしたままタカミチが言う。

「木乃香の事はワシも考えとるんじゃが…組織のバランスやら体面やら面倒くさいもんが多すぎるわい」
溜め息と共に自然と愚痴がこぼれる。

「ナギをも上回る魔力容量の持ち主と言うのもありますしね」
それ以上に孫バカというのも入っていそうだがタカミチは決して口に出さない。

「再来年には彼女もくる予定じゃからその辺が転機になるやもしれんが…今の所は打つ手無しかの」
そう呟くと今まで止まっていた書類整理を再開しようと判子に手を伸ばす。

それを見たタカミチは姿勢を正して口を開く。
「では、僕も仕事に戻ります」

「うむ。忙しいかもしれんが勉強もしっかりするんじゃぞ」
との学園長からの苦言を受けながらタカミチは学園長室を出て行った。


何時もより重い空気の研究室でその原因となる裕也が話を締める。

「以上が私が知っている私についての事だ…」
目を伏せたまま裕也は二人の顔を見ようとしない。

一瞬とも永遠とも思える間を挟んでから超が言葉をこぼす。
「なんと…」

「まさか…」
葉加瀬もそれに続く形で言葉を発する。

何を言われるのかと身を固くしていた裕也は
「「裕也/沙霧さんの両親がショッ○ーの研究員だったなんて!!」」
二人で図ったかのように声を揃えて叫んだ内容を聞いて盛大にずっこけた。

「…なんだと?」
なんとか体制を立て直した裕也が聞き返す。

「え…違ったのカ?じゃあゴル○ム?」
ぱちくりと目を瞬かせた超が首を傾げながら問い掛ける。

「超さん、年代が飛びすぎですよ。おそらくゲル○ョッカー辺りですよね」
これなら大丈夫と自信満々に言う葉加瀬。

「今の話のどこにそんな要素があった!?」
シリアスな流れがくるかと身構えていたら見事に肩すかしをくらった裕也が叫ぶ。

「人体実験をされた的なことを言ってたじゃないですか」
それに葉加瀬が即答する。

「あと変身機能も付いてると…」
超も補足するが…

「葉加瀬は間違ってはいないが超は合っている所がない!!本当に話を聞いていたのか!?」
あんまりな返答にテンションが変になりながらもツッコミは忘れない。

「実は話半分に聞いてました」
てへっ、とかわいい子ぶる葉加瀬と

「私はちゃんと寝ていたヨ」
どうだ、と言わんばかりに胸をはる超に

裕也の中で何かがキレた。

ふらっと立ち上がった裕也を不審に思った超が問い掛ける。
「…あれ?裕也どうしたのカナ?」

「きっと変身機能を見せてくれるんですよ」
ですよね、と裕也に話を振る。

「…………」
しかし裕也は無言のまま瞬動で超と葉加瀬の背後に回り

「ひゃぁ!?」

「にゃあ!?」
むんずと二人の首根っこを掴みあげ、まるで人さらいの山賊のように肩に担ぎ上げ黙々と歩を進めていく。

「ちょっ…裕也?あれ、もしかしなくてもマジギレカ?」
冷や汗を額に浮かべた超が恐る恐る問い掛ける。

「いや…場の空気を和らげる冗談だったんですよ?私は」

「ハカセ!?何1人だけ助かろうとしてるネ!!」
それを皮切りに、じたばたともがきながら口論を始める二人。

それを気にせずに裕也は目的地にたどり着くとそこへ二人を投げ入れる。

「おぉ!?」

「痛い!!」
超はちゃっかり受け身で衝撃を逃がしたようだが、武術の心得など無い葉加瀬はもろに腰から落ちてしまった。

そして裕也も入り、バタンと扉が閉まるとそこは完璧な密室となる。

「ここは…っ!!」
自分がどこに居るのかを認識した超は愕然とする。

「な、なんなんですかぁ~」
腰を打った痛みで涙声になりながら葉加瀬が問い掛ける。

「ハカセ…痛いのは初めてだけだから安心して欲しいヨ」
目のハイライトが消えて虚ろな笑顔を浮かべた超が葉加瀬の後方へ視線をやりながら噛み合わない答えを返す。

「は?何を言って…ふぁ!?」
ぽかんとして再度問い掛けようとする葉加瀬を裕也が後ろから抱え上げて腹這いの状態で膝の上に乗せる。

「え?あれ?まさか…ちょっ!?待って待って!!嫌ですよ!そんな…っ」
恐怖で表情をこわばらせ懇願する葉加瀬だが…

「さあ…お仕置きの始まりだ」
それは叶うこと無く、無情にも振り下ろされる裕也の手に抗う術はなかった。

その日、とある研究室から少女の悲痛な叫び声(?)が聞こえたとか聞こえなかったとか…

数十分後…

「全く…人が真面目に話していたというに…」
ぶつくさと文句言いながらいつもの白衣の代わりにエプロンを装着した裕也は晩御飯の準備を進める。
何時もならば三人で分担してやるのだが他の二人は後ろで何故かへばっていて戦力にならない為、一人でやっている。

「茶化したのは謝るガ…やりすぎヨ」
若干耐性があり、回復をしかけている超が隣に目をやりながら応じる。

その隣には布団にうつ伏せに寝ている葉加瀬がいた。
「…………」
話を振られても枕に顔を埋めたままリアクションが無い。

「む…葉加瀬相手の時には身体強化の類は使ってないんだが」
裕也は鍋がふきこぼれないように目をやりつつも、熱した油から次々と揚げ物を取り上げてそれに軽く塩をまぶしながら会話する。

「年頃の乙女が手込めにされたら仕方ないネ。無垢だった私も裕也の色に染められてしまったようにそのうちハカセも…」
ニヤニヤと歳に不相応な笑みを浮かべた超は葉加瀬を観察する。

そして先程とは違い伏せている顔…というか耳まで真っ赤に染まっている事に気がつき
(あれは、羞恥から来ているのは確かだガ…何か違う要素も見えるヨ。やはりハカセは要注意ネ)
と危険性を再認識していると

「その物言いは高確率で誤解を招く…というか誤解しか招かないからやめてくれ。ほら、葉加瀬もそろそろ料理が出来るから機嫌を直してくれ」
煮干しのだし汁に味噌を溶かし、あらかじめ準備していた豆腐とわかめ、ネギを投入しながら言う。

「むー…今日のおかずは何ですか?」
若干不機嫌そうな声色でだが葉加瀬が久しぶりに返事をする。

「かすぺの煮付けと唐揚げにサラダだ」
火から外した鍋から煮魚を一切れとゴボウ、人参を三枚の中皿に盛り付けながら答える。

「裕也に献立を任せるとほとんど和食になるヨ。ちなみに『かすぺ』とはアカエイの事でコリコリとした軟骨の食感のたまらない白身魚ネ。東北や北海道で主に食されており、地方によっては『かすべ』とも呼ばれているヨ」

「…誰に向かって話している?」
盛り付けを終えた料理をテーブルに並べなていた裕也が唐突に語り出した超に引きながら問い掛ける。

「一応知らない人の為にネ…」

「?まあいい。ご飯をよそえばもう食べれるから大根おろしを頼む」
遠い目をしている超の奇行をいつもの事と割り切り指示を出す。

「…なんか酷い事を思われた気がするヨ」
第六感的な何かで裕也の思考を感じ取りながら超は超・高速大根おろしマシーン~みじん切りもできるよ~(自作)に大根を突っ込む。

「さて…な。ほら、食べるぞ。煮魚はともかく唐揚げの方は温かいうちが美味しい」

「むー…まだ痛いですが我慢します」
幾分か顔の赤みが引いた葉加瀬がもそもそと起き上がり自分の席に座る。

「ほい、おろしも出来たヨ」
深めの皿に入った大根おろしを置きながら超も席に着く。

「唐揚げにはポン酢とおろしも合うからお好みでどうぞ。では…」

「「「いただきます」」」
三人の揃った挨拶で食事が始まった。

「かすぺなんてよく手には入ったネ。麻帆等ではなかなか見ないヨ」
煮魚と白米をむぐむぐと食べながら超が聞く。

「せめて飲み込んでから話せ…チャチャナさんが別荘から出るときに渡してくれたんだ。マスターが食べたいと買ってきたはいいが余ってしまった様でな」
おろしとポン酢を乗せた唐揚げを食べ満足そうに頷き
「それで以前に私の好物だと言っていたのを思い出したらしく少し多めにくれたんだ。今度は礼をしなくては」
何か持っていける物はあったか…などとお裾分けを貰った後の主夫のような独り言を呟く裕也。

「沙霧さんは全体的に味付けが濃いめですよね。ご飯が進みすぎて体重計が怖いです…」
機嫌の戻った葉加瀬も煮汁の染みたゴボウをお茶碗片手に食べながら懸念を口にする。

「そんな心配しなくても大丈夫ネ」
今度は唐揚げで白米を食べていた超が葉加瀬に応える。

「え?どうしてですか?」
まさか画期的な機械をつくったのではと期待がこもった…というか、溢れだしている視線を向ける葉加瀬。

興味が無いのか余り関心を持たずに一人で考え込みながら味噌汁をすする裕也。

そんな二人の様子を知ってか知らずか
「これから二週間とちょっとでガイノイド三体をロールアウトしなきゃならないからネ」
驚愕の事実を告げる。

「は?」
それを聞いた葉加瀬は目を点にして呆ける。

裕也は口に含んでいた味噌汁を吹き出しそうになるのをこらえてから問い詰める。
「な…なんだそれは!!」

「あれ…言ってなかったカナ?あ、ご飯おかわり」
超はお茶碗を裕也に渡してながら小首を傾げる。

「ああ」
自然にお茶碗を受け取った裕也は何も言われなくても一杯目より少な目にご飯を盛って返す。
「ほら…葉加瀬はどうする?」

「ん」
お茶碗を受け取り、再び煮魚に箸を伸ばす超。

「あ、お願いします」
話を振られた葉加瀬も空になっていたお茶碗を渡す。

「そういえば漬け物もあるが出し忘れてたな…」
葉加瀬のお茶碗にもご飯を盛っている途中で思い出したのか裕也が呟く。

「今日はもういいんじゃないカナ?」

「そうですね。おかずもまだありますし」
味噌汁を飲んでいる超とお茶碗を受け取った葉加瀬がざっと食卓を見て答える。

「まあ、すぐに悪くなるようなのじゃないから大丈夫か…」
裕也も自分の椅子に座りサラダに箸を伸ばす。

それからは時計の針が進む音と三人の食事の音だけが研究室に響いていた。

「って違うだろ!!」
小皿に取り分けたサラダを食べ終えた裕也が声をあらげる。
「超、後二週間とちょっとでガイノイド三体をロールアウトしなくてはならないとはどういう事だ!」

「はっ!!つい、いつもの雰囲気に流されてしまいました」
煮魚をつっついていた葉加瀬も思い出したのか叫ぶ。

「おお…その話の途中だったネ」
超は食事の手を止める事なく話始める。
「来月から私達は名称をロボット工学研究会に改めると同時に多数の研究会を傘下に加える事になるのは覚えてるカナ?」

「別荘に1ヶ月近く入っていたがそこまでボケてはいないぞ…」
じと目で超を見ながら裕也が答える。

「それなのに、完成体が一体もいないとなると組織のトップとして体面がよくない…という事ですか?」

「そーゆー事ヨ。しかも外部には三体のガイノイドが起動しているという情報も流れてしまっているしネ…おお、確かにおろしとポン酢も合うヨ」
葉加瀬の台詞を補足しながらも超の箸は止まらない。

「それならば仕方ない…最悪、マスターの別荘を借りるのも視野に入れておくべきか…」
頭の中で軽くスケジュールを組んでみた裕也が肩を落とす。

「そうとう決まれば行動開始です!さあ、片付けを終わらせて作業に移りますよ!!」
気炎を纏った葉加瀬が立ち上がり吼える。

「片付けると言っても料理はまだ残って「ごちそうさまでした」無い!?」
葉加瀬を諫めようとした裕也の発言を超の一言が破砕する。

「障害は無くなりました…さあ、手早く片付けますよ!!」

「超…なんか葉加瀬のテンションがおかしくないか?」
葉加瀬のアッパーテンションに引きながらこそこそと超に話かける。

「そんな事無いヨ。(裕也がご飯を作った時は)大抵あんな感じネ」
と超は心中で付け足しながら立ち上がる。

それに続くように片付けに移ろうとした葉加瀬を裕也が窘める。
「そんなもんか…葉加瀬、せめてごちそうさま位は言ってからにしてくれ」

「あ…そうでした。では、ごちそうさまでした」
指摘を受けていそいそと座り直して手をあわせて丁寧に言う。

「はい、お粗末様でした」

「むー…私の時には返してくれなかった…」
片付けをしながら葉加瀬と裕也のやり取りを見ていた超が不満の声をあげる。

「それはタイミングが悪かっただけだ…」
裕也もごちそうさまと言って立ち上がり片付けに参加する。

「どういったコンセプトで行く?」
泡を立てたスポンジで食器を磨きながら裕也が二人に話を振る。

隣で裕也から受け取った食器の泡を流水ですすぎ落としていた超が答える。
「そうだネ…原点に立ち返る意味も含めてアインに近い形でいいんじゃないカナ」

「そうですね。アインにツヴァイ、そしてドライのデータを用いれば全体的なスペックアップも可能ですし」
さらにその隣で食器をうけとり水気を拭き取っている葉加瀬が締める。

「必要な関連書類はもう提出したが、オープニング・セレモニーの準備もしなくてはならないしな…」
流れ作業の手を止めずに呟かれた裕也の言葉に

「あ…忘れてたヨ」
本気で忘れていた様子で反応する超。

「やんなきゃダメですかねぇ…」
葉加瀬は葉加瀬で先程のテンションが欠片も見られない声でぼやく。

「おい…」
本当にこんなのがトップに立って大丈夫だろうか…と自分の事を棚に上げながら考える裕也だった。


オマケ(蛇足とも言う)

エヴァンジェリンは困惑していた。
面倒な報告を終えて家に戻り明日が学校だと思い出し逃避のために再び別荘に戻った。
ここまでは問題ない。

世間的には問題あるかも知れないがここは無視する。

丁度、夕飯時だったのでドール達が作った食事の準備も万端である。
そしてチャチャゼロを呼んで食事が始まった。

食前酒はシャンパン。
軽く飲む分には丁度良い。
チャチャゼロは物足りなさそうだったが割愛する。

そしてオードブル。
野菜のマリネと薄切り肉の盛り合わせ。
食材に関しては少々値は張っても良いものを買っている。
しかもドール達の調理技術もあり十二分に素材の味も引き出されているから否の打ちようが無い。
肉をめぐってチャチャゼロと骨肉の争いが勃発しかけたが後ろに控えていた一体のドールの『肉を追加する』という機転で回避された。

続いてメインディッシュ。
本来ならば前にスープやパンが入るが正式なコースではないので省かせている。
今までの流れから見て魚料理がくるのは読めていた。
読めていたのだが…

「なぜ煮魚なんだっ!!」

ワインに煮魚…合わない訳では無いだろうが何かが違う。
しかも魚といってもそこいらの魚ではない。
かすぺと言う麻帆良にはなかなか出回らない魚だ。
確かに好みではあるがコースの流れをぶったぎってまで出して欲しい料理ではない。

「今日の料理の責任者はどいつだっ!?」

オッ、ウマイナコレなどと言いながらパクついてるチャチャゼロは完璧に思考の外に追いやる。

「私です」
と先程、見事な機転を見せたドール…チャチャナが前に出る。

「ほう…貴様か。何故、メインディッシュがコレになったか説明してみろ」
頬をひくつかせながらエヴァンジェリンが異彩を放つ和風の皿を指差し問い詰める。

「はっ。前々回に裕也さ…沙霧 裕也様がいらっしゃった時に美味しいと仰っていたので」
一部突っかかったが、表情を変える事なくチャチャナは答える。

「……では材料はどうした?買ってきた覚えはないんだが」
エヴァンジェリンは色々ツッコミたい気持ちを抑えて次の質問に移る。

「それは普通に買いに行って…あ、いえ、倉庫の奥にありました」

「今のは流石に無理があるだろ!!」
明らかにしどろもどろな解答をしてきたチャチャナに我慢しきれずに飛びかかり胸倉を掴み揺する。
「買い物ってここから出たんだな!?というか、どうして外で動けた!さあ、吐け!!」

「なナななな、何をおっしゃる。こねこさん」
ガクガクと揺さぶられながら平坦な声色で動揺を露わにする。

「誰が子猫かーっ!!」
うがーっと血相を変えて叫ぶエヴァンジェリン。

そこからはエヴァンジェリンが一方的に叫び続け、話がどんどん逸れていき真実は暴かれなかった。

それを端から見ていたチャチャゼロは
「ヤッパリアイツノ影響カネ。テカ煮魚ニワインモ悪クナイガ…日本酒ノ方ガイイナ」
いつの間にか日本酒を引っ張り出して一人で飲んでいた。




あとがき
どうにかこうにか今回は1ヶ月以内に更新できたTYです。
説明チックな内容になると話が進まない…
ネギが来るのが4年後とか…今年中にネギを出せるのだろうか。

設定?は色々といじるので一度下げさせてもらいます。
オマケは地の文を増やす練習の過程で出来たモノなのでアドバイス等ありましたら…




感想レス
モリヤーマッ!様
まさか通じる方がいるとは…
覇暗超を登場させ尚且つ活躍させれるような展開を、とも考えたのですがハードルが高すぎました。



[8004] 転生生徒 裕也 第十七話
Name: TY◆7afd6ba4 ID:b5f22841
Date: 2011/09/04 18:31
諸君、私は研究が好きだ…

諸君、私は研究が好きだ…

諸君、私は研究が大好きだ…

ロボット研究が好きだ。

量子工学研究が好きだ。

生物化学研究が好きだ。

エネルギー工学研究が好きだ。

物理化学研究が好きだ。

プログラミング研究が好きだ。

環境科学研究が好きだ。

知能機械研究が好きだ。

デバイス研究が好きだ。

屋内で 屋上で
深海で 宇宙で
平原で 砂漠で
地中で 水中で
北極で 火口で

この世界で行われるありとあらゆる研究活動が大好きだ…

必死になって組み上げてきた機械が轟音と共に起動するのが好きだ…
それらが自分の意図した通りに動いてくれた時など心が躍る。

自分の研究成果がパクリのプレゼンテーションを撃破するのが好きだ…
悲鳴をあげて野次が飛び交う会議室から出てきた盗作者を見た時は胸がすくような気持ちだった。

資料を纏めた若輩者達が過去の常識を蹂躙するのが好きだ…
緊張のしすぎで枷の外れた年少者が古きにしがみつく老人を何度も何度も否定している様子など感動すら覚える。

利己主義の産業スパイをネット上に曝し上げていく様などはもうたまらない。
泣き叫ぶヤツらが私の降り下ろした指先とともに公開される黒歴史の羞恥でばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ。

哀れなハッカー達が自作の雑多なプログラムで健気にも立ち上がってきたのを逆探知しコンピューターウイルスを送り込みデータを根こそぎ奪った時など絶頂すら覚える。

外国の研究機関に出し抜かれるのが好きだ…
必死に組み上げてきたプログラムの何世代も先を行くものを公開され、我々の努力が一蹴されるのはとてもとても悲しいものだ。

大企業の研究所に手柄をかすめ取られるのが好きだ…
圧倒的な資金力でプロジェクトチームを引き抜かれるなど屈辱の極みだ。

諸君、私は研究を、悪魔のような研究を望んでいる。

諸君、今日から私達の傘下に加わる諸君、
君達は一体、何を望んでいる?

更なる研究を望むか?
睡眠時間すら無い、地獄のような研究を望むか?
思い付くままに手を動かし、ロマンを体現しリアルを殺す…嵐のような技術革命を望むか?

今まで黙って聞き入っていた聴衆は一斉に立ち上がり、思い思いの道具を振り上げ口々に叫ぶ。

「研究!!研究!!研究!!」

壇上からその様子を見るように少し間を置いて

よろしい……ならば研究だ!!

ここに私はロボット工学研究会の設立を宣言するヨ!!

それに呼応するように参加者の雄叫びが地を揺らさんとばかりに轟いた。


6月1日 麻帆良大学 大ホール
この日、ある意味で歴史に残る超の演説からロボット工学研究会のオープニング・セレモニーは開幕した…


転生生徒 裕也
第十七話

「……本当に大丈夫なのですか?」
来賓席の列に座っていた刀子が隣にいる裕也に問い掛ける。

「私も今更ながら不安になってきました」
妙なカリスマを発揮して参加者を統率している超を見ながら溜め息と共に答えた。

「流石に女性陣は混ざってませんね」
明らかに温度差のある一段に目をやりながら葉加瀬が呟く。

「あんな面子だけで構成されてたまるか…技術面はともかく悪ノリが過ぎる」

「裕也さん、ちょっとあっち側のフォローをお願いして良いですか?私はこれからの準備があるので…」
しかめっ面をしている裕也に話に上がっている一団を指差しながら葉加瀬が申し訳なさそうに頼む。

「外部から来て麻帆良になれてない人もいるかもしれないからな…すみません、葛葉先生。お招きしておきながらちゃんとした対応もできず…」
後方に邪魔にならないように立ち上がった裕也は刀子に頭を下げる。

「いえ、気にしないで下さい。招待してくれただけでも十分です」

「そう言ってもらえると助かります…ではこれが終わったら世界樹の広場に」
頭を上げるように言う刀子に一礼してから裕也は麻帆良特有のテンションを目の当たりにして茫然としている一画に向かった。

「立ち直っているようで何よりですね…」
裕也の後ろ姿を見ながら一人呟く刀子だった。

更にその後ろで様子を伺っていた葉加瀬が
「…なんか嫌な雰囲気がします。まあ、裕也さんなら変なことはしないと思いますが」
ぼそりと呟いていた。


時は二週間ほど遡り、ガイノイド研究会

「では、1人1体ずつ設計図を描いてくる…でいいんだな?」
裕也は食後のお茶をすすりながら話を進める。

「そだネ…それを見てもらえば誰の傘下に加わるかも考えやすくなるだろうしネ。はい」
カステラを切り分けながら補足していく超。

「あ、どうも。でもわざわざ分ける必要も無いような気がするんですが…」
受け取ったカステラをむぐむぐと咀嚼しながら葉加瀬は疑問を口にする。

「3つのプロジェクトを同時進行させるんだ。命令系統に混乱が生じないようにしなくてはならないからだろ」
裕也もカステラを食べながら疑問に答える。

「それもあるが発注先が被らないようにとか満遍なくやることを回したり、予算の方にも影響があるヨ」

「あ!超さん、1人でザラメの部分を食べるのはズルいですよ!!」
うまうま言いながら薄皮部分を独り占めしている超に葉加瀬がつっかかる。

「くっ…バレてしまったら仕方ない…裕也はいいのカナ?」
しぶしぶといった様子を一切隠すことなく葉加瀬にも分けていた超が裕也に問い掛ける。

それを受けた裕也苦笑を浮かべ答える。
「ああ、私の分は喧嘩しないよう2人で分けてくれ」

「む…裕也さんから大人の余裕を感じます」
少し不服そうな顔をして葉加瀬が言う。

「そう思うならハカセも遠慮するカ?」
そうすれば全て私の物ネ、と上機嫌に続けた超が何か違和感を捉える。

「話をカステラから戻すが…これからの予定を確認する」
これ以上話が逸れるのを防ぐために裕也が強引に流れを戻し
「まず、今日から5日以内に設計図を描き上げる。そして30日までに完成させて、残りの日と製作の合間を使ってオープニング・セレモニーの準備を進めていく。かなりの強行軍になるが…」
心配そうに二人の顔を見る。

「大丈夫ですよ。5日もあればガ○ガーの設計図を描き上げる事も可能です」
えっへんと胸を張り自信満々に答える葉加瀬。

それに張り合うように
「私なんてのバッ○とタチ○マの両方を描き上げれるヨ」
超も余裕の発言をする。

「それは頼もしい…だが、先に口のまわりに着いているカステラのカスをどうにかしなさいな」
カステラに舌鼓をうちながら裕也はちょっと前から気にしていた事を指摘する。

「なあっ!?そう言うのは早く言って欲しいヨ」
急いで口のまわりを拭いながら文句を垂れる超。

「そうですよ…裕也さんも人が悪い」
葉加瀬も超に続く形で不満をこぼす。

「いや、美味しそうに食べている所に水を差すのはどうかと思ってな。というか手じゃなくてフォークを使って食べればそうはならないだろ」
若干呆れながら二人の不平不満に答える。

「むぐ…さっき終わったばかりなのに、また洗い物が増えると面倒じゃないカ」

「それもそうだが…行儀はあまりに良くないぞ」
少なくなっていたお茶を全員の湯呑みに足しながら裕也が注意する。

「何を今更…洗濯物も一緒に干してるような間柄じゃないですか」
葉加瀬の少々(?)羞恥心の欠けた台詞に頭を抱え脱力しながらつっこむ。
「葉加瀬…その発言は色々とダメだ」

「そうなんですか?」

「いや…私に振られてもネ」
そのまま疑問を投げつけてきた葉加瀬に対して視線をそらしながら超が微妙な反応をする。

「では今後はこんな感じでいくぞ。ああ、後…」
よっこいせ、と年寄り臭い掛け声と共に立ち上がった裕也は半眼で二人を睨んでから
「ちゃんと学校には行くこと。授業をサボって私が呼び出しをくらったり、先生から相談を受けるなんて事はもう勘弁してくれ…」
がっくりと肩を落として頼む。

「何の事ですか?裕也さん」
葉加瀬は露骨に視線を逸らしてしらばっくれる。

「全くネ。身に覚えもないヨ」
態度こそいつも通りだが、冷や汗をだらだらとかいている超が続く。

「ほお…超 鈴音と葉加瀬 聡美が学校に来ていないと連絡を受けて探し回った回数と先生に呼び出されて愚痴を聞かされた回数…合計したら余裕で3桁を超える」
そのおかげで大学の単位が危なかったんだぞ…と恨みがましい視線で二人を射抜く。

「さーて、カステラも食べたし早速作業を始めるカ」
これ以上は危険と判断した超がわざとらしく言う。

「そうですね。学校に行かなきゃならないとなると時間もギリギリになっちゃいますし…」
一緒のタイミングで立ち上がった葉加瀬もいそいそと準備を始める。

「まったく…その言いぐさからするとサボるつもりだったようだな」
裕也は葉加瀬のセリフを聞き逃さず、じろりと二人に疑いの眼差しを送る。

「あ…い、いやそんなことするわけないヨ。ね、ハカセ」

「そ、そうですよ。裕也さんには私達がそんなに信用なりませんか?」
しどろもどろに弁解を始め、揃って渇いた笑い声を上げる超と葉加瀬。

そんな二人の様子を見て呆れ顔をした裕也は片付けの為に立ち上がり
「信じるからな」
と背を向けてから裕也はギリギリ聞こえる程度に呟いた。

「…真面目にやろうカ」
少ししょんぼりした超が言う。

「そうですね…」
葉加瀬も同じように肩を落として応じる。

そのやり取りを盗み見ていた裕也は
(計 画 通 り)
ニヤリと、どこぞの新世界の神を名乗る男のような笑みを浮かべていたとかいなかったとか。


そして時はオープニング・セレモニーに戻る。

お約束の学園長や来賓の有り難いお話の間に、裕也と超、葉加瀬の三人は裏で各々の最終調整をしていた。

カタカタとノートパソコンで確認を行いながら
「で…超、あの演説はなんだったんだ?」
裕也は脇目もふらずに問い掛ける。

「ん?ああ…詳しくは2年後にわかるヨ」
以前作った強化外骨格のような外骨格型ではなく、衣服型の強化服を着込みながら答える。

それを聞いていた葉加瀬は
「やっぱりネタだったんですね。あと、その…裕也さんが居るのに平然と着替えるのはどうかと…」
配線を確認しながら頬を赤く染めてごにょごにょと言う。

「何を今更…というか小学生に欲情するほど堕ちてないぞ」
ため息をひとつ吐いて本気で呆れながら応じる。

「裕也は年上趣味なのカナ?私の演説そっちのけでお姉さんたちとデレデレしてたしネ…」
それに対してムッとした表情を見せた超は内蔵兵装を確認しながら言う。

「デレデレって…当たり障りのない会話をしていただけだろ」
作業がおわったのかノートパソコンを閉じながら答える裕也。

「どうだかネ。裕也も色々溜まってるかも知れないヨ」
バチリと雷撃を手のひらから発しながらぶつぶつと呟く。

「超さん、それは私達のせいでもあるから…あの、手伝いとか、その…」
あうあうと顔を先程以上に真っ赤に染めた葉加瀬がごにょごにょと言っているが

「あのな…それくらい理性で抑えれるだろ。獣じゃあるまいし」

「いやいや、その枷が外れたら獣以上になるかもしれないから尚更危険ヨ」
あーだこーだと話している二人の耳には届かない。

そうこうしている間に

『…以上で祝辞とさせていただきます』

来賓の話が終わり、祝電を読み上げる司会の声が聞こえてくる。

それを聞いた裕也は二人の方に向き直り口を開く。
「さて…そろそろ時間だな。略式ではあるが、ここに試作ガイノイド四型・フィーアの起動式を執り行う」

「起動式と言っても人格プログラムをオンにするだけなんだけどネ」
いつもより堅苦しい言葉遣いの裕也に苦笑する。

「私のTーANK型は装備の制御プログラムを積みすぎて人格プログラムを入れれませんでした」

「葉加瀬のプロジェクトを体現しているような仕上がりだな…っと、話が横道にそれた。それでは起動する」
カチリとスイッチを入れると静かな駆動音が鳴り始める。

ゆっくりと開かれた眼で三人を見回してから
「おはようございます。ドクター」
裕也に一礼する。

「ああ、おはよう。違和感は無いか?」
ざっとフィーアの動作を見ながら問い掛ける。

「はい、問題ありません」
抑揚の無い平坦な声でフィーアは端的に答える。

「そうか…早速ですまないが人前に立ってもらうぞ」
申し訳なさそうに予定を告げる。

「問題ありません。手順はどのようになっているのですか?」
フィーアは感情の一切感じられない表情のまま先を促す。

裕也はそんなフィーアの様子に一瞬だけ悲しそうな顔をするが
「私のプレゼンテーションはこの予定でいく。他の2人は手伝いはいらないそうだから、実質の出番は私の時だけだ」
すぐにいつも通りに戻りプリントを手渡す。

受け取ったプリントを数秒間凝視し
「了解しました」
それを返しながら答える。

「よろしく頼むぞ。で、そちらの方は大丈夫か?」
裕也はフィーアとの話を切り上げて超と葉加瀬に話を振る。

「ええ、こちらも問題なく稼働してますよ」
プログラムを確認しながら答えるのは葉加瀬。

「私も問題ないヨ」
超もそれに続いて答える。

『それではロボット工学研究会の概要についてそれぞれのプロジェクトリーダーから説明をして頂きます』

「タイミングも丁度のようだな。さて…行こうか」
司会の声が聞こえたのを確認した裕太は先陣を切って歩き出す。
その後ろに自然とリリスが続く。

「おお…裕也さんが珍しく積極的です」

「リーダーが先頭じゃないと示しがつかないからネ」
良くも悪くもいつも通りの調子で会話をしながら超と葉加瀬も後に続く。
ズシャンズシャンと重々しい足音を立てながらフードを被ったモノもついて行った。


壇上に三人が揃ったのを確認して司会は降りる。

司会からマイクを受け取った裕也が口を開く。
『では、自己紹介から始めさせて頂きます。私がロボット工学研究会の主任とガイノイド開発プロジェクトのリーダーを勤める沙霧 裕也です』

ざわざわと聴衆からは
麻帆良の最強頭脳任じゃなくて最驚頭脳の方が主任か、やら
アイツが噂のロリロボ…いや、漢のロマンの追求者か、やら
あ…さっきの子だ、やら
色々と聞こえてくるが
『私のプロジェクトについての説明は他の2人の後にさせて頂きます』
早々に話を切り上げて隣にいる葉加瀬にマイクを渡す。

『あー…私はロボット兵器開発プロジェクトのリーダーを勤むる…失礼、噛みました。えー…勤める葉加瀬 聡美です』
やはり葉加瀬が喋り始めても聴衆は囁き始める。
あれが最狂頭脳?やら
普通なかんじだよな、やら
幼女ハァハァ…やら
若干変態じみたのも混ざっていたが気にせずに
『早速ですが、私のプロジェクトについての説明に移らせてもらいます』
話を進める。

葉加瀬の声に応じて後方にリリスと並んでいたモノが前に出る。
そこで聴衆のざわめきが徐々に小さくなり、最終的には静まり返った。
聴衆は教授クラスから野次馬までと幅広いが、麻帆良大学工学部トップクラスだがあまり表舞台に立たない研究会の作品となれば傾聴に値する。

『これが私の新型ロボット兵器開発プロジェクトの根幹を担うTーANK型のプロトタイプです!!』
バサッと音を立ててそれが被っていたフードを取り払う。

そこに立っていたのはサングラスを掛け、筋骨隆々といったスキンヘッドの大男だった。
それを見て感嘆の声を出す者もいれば、隣に立っていたリリスのような容姿を期待していて落胆の声を出した者もいる。

様々な感情が混在している聴衆を尻目に葉加瀬は説明を続けていく。
『このプロジェクトは量産機からワンオフの専用機、TーANK型のような人型はては多脚型など様々なロボット兵器を作ることを主眼に捉えています』
その説明に合わせて様々な設計図や写真がプロジェクタで空中に映写される。

『プロトタイプのTーANK型にはロケットパンチ』
葉加瀬の声に反応してTーANK型プロトタイプが左腕を上げて拳を打ち出す。

偶々、射出された方向にいた聴衆が悲鳴を上げて逃げ惑う。

それを見た裕也は
「おい…大丈夫なのか?」
マイクに拾われない程度に声をかける。

『当たっても痣程度ですむから大丈夫です。続いてドリルパンチ』
いや、大丈夫じゃないだろと裕也を含めた極少数派の思いは届かず葉加瀬は次の指示を出す。

それに応えるかのように左腕を回収し終えたTーANK型プロトタイプは右腕を前に突き出す。

先程のようにいきなり飛び出してこないのを皆が訝しげに見つめる中、それは唸りを上げて高速回転し始める。

「おい…まさかとは思うが…」
再び嫌な予感に襲われる裕也。

「おお、ハカセはわかってるヨ」
それとは対照的に嬉しそうに何度も頷く超。

『それでは…発射!』
葉加瀬の言葉を受けて、再び聴衆に向かって放たれた腕は螺旋を描きながら突き進んでいく。

「流石にあれはマズいだろ!?」

「いや、ちゃんとリアクションを見るとそうでもないネ」
焦りだした裕也をいさめながら超は着弾先へ目をやる。

そこから聞こえてくるのは
回転をさせながらも直進させてくるとは…
ロケットパンチのみならずその先も既に搭載しているのか
有線というのもわかっているな…
といった余裕を感じさせるような言葉の数々。

それを見ていた裕也げんなりした様子で言葉を零す。
「順応性高すぎだろ…」

「普通の人間はこうではないのですか?」
黙って後ろに控えていたリリスが無機質な声で問う。

「あんな集団を基準にしないで…これからお前は様々な人間と触れあっていくんだ。そこから学んでいってくれ」
まだ何も知らないリリスを見て裕也の切実な思いが自然と口にされる。

「了解しました」
リリスはあくまでも淡々と答える。

『と、現在の武装はこれだけですがこれから更に充実化させて行きたいと思っています』
そんな二人のやり取りを尻目に葉加瀬は話を締めるために進めていく。
『将来的には変形、合体機能の搭載も視野に入れているのでロボット兵器のロマンを求める者は私のプロジェクトへ。これで新型ロボット兵器開発プロジェクトの説明を終わります』

それに応えるかのように拍手が鳴り始める。
あまりそういうのに慣れていない葉加瀬はテレテレと恥ずかしそうに下がっていく。

そして、葉加瀬とすれ違う形で超が前に出る。
それを見た聴衆の大半は何故か姿勢を正し直立不動となる。

それを満足げに見渡してから口を開く。
『諸君、私が軍用強化服開発プロジェクトのリーダーを勤める超 鈴音ヨ』

今までのリアクションとは異なり、微動だにせずまるで訓練された軍隊のような様相である。

「…また雰囲気に取り残されてどん引きしている一団が出来ているぞ」
先程フォローしてきた集団の方へチラリと目をやった裕也が呟く。

「そんなに早く慣れるのは無理ですかね…」

「当たり前だろ。麻帆良は良くも悪くも規格外な所だ」
小声で返してきた葉加瀬に裕也はその規格外の最たる例の方を見る。

そうは言うものの、裕也自身も色々な意味で規格外であるという自覚は皆無である。

そんな二人のやり取りを知ってか知らずか超は説明に移り始める。
『ではプロジェクトの説明に移らせてもらうヨ。軍用強化服開発プロジェクトは名前の示す通りパワードスーツの開発をやていく所ネ。まあ、言葉だけで理解するのは少々厳しいと思うから実演させてもらうヨ』

超のその言葉と同時に床から人形がせり上がってくる。

『今、私が着ているのが現在使用可能な強化服ネ。ここで動作原理やらを語っても良いのだが…』
ちらりと時計を確認して
『明らかに時間が足りないので性能だけを見せたいと思うヨ』
と言うと人形の説明に移っていった。


それを見ていた学園長が
「はて…あんな機能あったかのう?」
近くに座っているタカミチに問い掛ける。

「西教授が暇を見つけては学園中の至る所を改装…いえ、改造していたとは聞いていましたが…」
流石にここまでやっているとは思っていなかったのか引きつった表情で答える。

「他にもやってそうじゃの…その辺りは何も聞いとらんかの?」

「これ以上僕は何も…明石教授はどうですか?」
タカミチは学園長の質問を隣に座っている明石教授に回す。

「そう言えば最後の飲み会で、ワシの後継者に全て託したとも言っていましたね」
話を振られた明石教授は顎に手をやりながら答える。

「後継者というのは十中八九、沙霧くんの事じゃろうな。まあ、彼ならそこまで暴走せんだろうから大丈夫じゃろ」
いつも通りに妙な笑い声を上げる学園長。

「あの2人のストッパー役も勤めているみたいですしね」
先程からこめかみを抑えている様子の裕也を見ながらタカミチも頷く。

「麻帆良の最驚頭脳と言われてはいますがね…」

「それは耳にしとるよ」
明石教授の呟きに反応した学園長が嬉しそうに語り出す。
「工学部のとある研究会には最強、最驚、最狂の3人の天才がおるとの」

「言葉だけではなかなかわかりにくい違いですね…」
苦笑しながらタカミチも話に加わる。

「最強はどんなジャンルも完璧以上にこなす超 鈴音。最驚は到底考えつかない技術を平然と扱う沙霧 裕也。最狂は科学の進歩の為なら多少の非人道的行為もやむなしと公言してはばからない葉加瀬 聡美」

「わかりやすい事を言った者も居たもんじゃな」
明石教授の言葉に感心したように言う学園長。

「いえ…これのパンフレットに書いてあるんですが…」
そんな学園長へ言いにくそうにパンフレットの裏を見せながら言う。

「なんじゃと…」
そこに書かれた編集・超 鈴音の字を見て学園長は目を見開く。

「ならこれは自分たちで考えたんじゃ…」
タカミチの呟きによってそこには形容しがたい空気が漂っていた。


学園長たちがああだこうだと話している間に超の説明は佳境に入っていた。

『この様に非力な私でもこれを着れば大人顔負けな力を発揮できるようになるヨ』
と笑顔で告げる超の後ろにはプスプスと煙を上げる人形だった物が鎮座している。

初めに姿勢を正した面々はそのまま直立不動で聞き続け、テンションに置いていかれた者も真剣な表情で見入っていた。

『だが、察しの良い皆ならばコレにはまだまだ改良の余地があるのがわかるだろう。無論、私もこれで満足するつもりは毛頭無い!!』
超の言葉にどこからともなく感嘆のどよめきが走るが止まらず
『将来の展望は現状の衣服型から脱却し、外骨格型への発展を目指すヨ。そしてゆくゆくは…メタルヒー○ーシリーズのビー○ァイターカブトの強化服ネオイン○クトアーマーを実現させる!!』
力強く握った拳を高く突き上げた。

それに呼応するように聴衆も拳を突き上げる。
それにちゃっかり来賓席の一部の方々も混ざっていた…

『この想いに共感した、装着してみたい、製作してみたい…そんな熱い想いを持った者の参加を私は待っている!これで私の説明は終わらせてもらうヨ』

一礼して下がっていく超に惜しみない拍手が贈られる。

「私が本気を出せばざっとこんなもんネ。さて…締めは頼んだヨ、裕也」
裕也にマイクを手渡しながら超が囁く。

「頑張ってくださいね」
隣の葉加瀬も声をかける。

二人からの激励を受けた裕也は
「ああ…フィーア、行くぞ」
頷きリリスに声を掛け前に出る。

「はっ」
短い返事をしたフィーアは裕也の後に続く。

『自己紹介は既に済んでいるので早速、ガイノイド開発プロジェクトの説明に移らせてもらいます…フィーア、挨拶を』

裕也の言葉に従い、隣まで出てきたフィーアは丁寧にお辞儀をしてから
『はじめまして。試作ガイノイド四型・フィーアです』
平坦な声で自己紹介をする。

そこで聴衆はにわかに騒がしくなる。
研究者は口々に興味を持った部分についての話し合いを
他の面々…来賓や野次馬はただただ関心の声を

裕也は聴衆が静まるのを待たずに
『彼女…四型・フィーアは試作ガイノイド一型・アイン、二型・ツヴァイそして三型・ドライの集合体と言えます』
説明をきりきりと進めていく。
『リリスはAIもボディもまだまだ発展の余地があるので、当面はフィーアの改良を主軸に進めていく予定です』

それを受けて聴衆からは
あまり魅力を感じないな、やら
武装はどうなるんだ、やら
ロリ型はないのか、やら
肯定的とは言えない声が聞こえてくる。

『先の2つのプロジェクトに比べて地味であるのは否定しない…だが、扱う内容では負ける気はない』
それに裕也は萎縮せずに堂々と返し
『ガイノイド開発プロジェクトはただのガイノイドではなく心を持ったガイノイドを目指す。研究者として心なんて曖昧なものを求めるなんて馬鹿げてるかもしれないが…先の2つにはないロマンがあるだろ?』
滅多に浮かべない悪役のような笑みを浮かべて問い掛ける。

先程までざわめいていた聴衆も来賓席にいた学園長たちも予想していなかった言葉に呆気にとられる。

『さて…プロジェクトの説明はこれまでにして締めに移らせて貰います』
未だにぽかんとしている皆を気にせずに予定を進めていく。

「今日から私たち、ロボット工学研究会の傘下に加わる諸君…私たちからの頼みは一つだけだ!」
裕也はあえてマイクのスイッチを切り、声を張り上げる。
「研究者として己に課した課題を決して諦めるな!思考を…手を止めるな!」
いつもと違い、強い口調で続ける。
「それさえ守ってくれるのならば…私たちは君達に惜しみなく力を、知恵を、技術を貸す事をここに宣言する!!」

しんと静まり返った聴衆を見て
(リアクションが無い…すべったか?)
ポーカーフェイスを保ちながら内心は冷や汗ダラダラな裕也だった。




あとがき
今回はネタを増量してみたTYです。
冒頭の演説はネタですので実際の事象に何ら関わりはありません…一応、言っておきます。
一気に書こうとすると文章が荒くなってる気がする…


感想レス
波洵様
今回の話で研究の方を進める下準備が整ったのでこれから本格的にやれる…はずです。
ネタ切れする事は多分、無い。

PON様
超はともかく葉加瀬がヒロインてのはなかなか見ませんよね…
期待を裏切らないように努力していきます。

mizu様
煮こごりもいいですね。
でも実際につくるのは煮魚ばかり…

2011/9/4 試作型ガイノイドの名前をリリスからフィーアに修正



[8004] 転生生徒 裕也 第十八話
Name: TY◆3df3dcb4 ID:7181f3fb
Date: 2011/09/04 18:25


転生生徒 裕也
第十八話

オープニング・セレモニーから一夜あけ、裕也が居城としている研究室に目覚まし時計の音が鳴り響いていた。
川の字に敷かれている中央の布団から気だるそうな仕草で腕が伸び、近くにあった音源を停止させる。

目覚ましを止めた裕也はむっくりと起き上がると
「……2人とも起きてるか?」
両隣で動く気配もなく、丸く盛り上がっている布団に声をかけた。

「一応ネ……」
もぞもぞと掛布から顔だけを出した超が答えるが、いつ二度寝してもおかしくない様子。

それに続くようにもう一方の布団からは
「うーん……あと5分……」
お約束ともとれる葉加瀬の声が返ってきた。

そんな二人に溜め息をついてから立ち上がり
「研究室の都合で2日も休ませる訳にはいかないから、今日は学校に行ってもらうぞ」
そう言い残し、洗面所へ向かう裕也の背中にかけられるのは

「むぅ……前向きに検討するヨ」

「あと……10分……」
再び布団の中へと戻った超と先程よりも時間が増えている葉加瀬の返事。

やはり昨日は早く寝させるんだった、と少し後悔しながらも朝の支度を始める裕也だった。

この後、超と葉加瀬が自力で起きてくる事はなく裕也によって叩き起こされる事になるのは余談である。

「裕也、今日はロボット工学研究会の記念すべき第一回プロジェクトミーティングの日だヨ?」

「知っている」
朝食の席での不機嫌気味な超の問い掛けに三人分のトーストにジャムを塗る手を止める事なく裕也は淡々と答える。

「そうですよ、裕也さん。初回が重要なんですから万全を期して望むべきではないですか?」
つれない態度の裕也に葉加瀬も超の援護にまわるが、

「実験をやる訳じゃないからいいだろ。なにかしらのトラブルがあっても、本番のアドリブでどうにでもなる」
トーストにかじりついたまま受け流されてしまう。

「むぅ……それでも万が一ということが……」

「石橋を叩いて渡るような精神でいくべきです」

それでも食い下がってくる二人にジャムを塗ったトーストを押し付け
「いつも言ってるように義務教育中はしっかり学校に行ってもらうぞ。昨日、学園長からも注意を受けたからな」
呆れた様子ながらも裕也はしっかりと釘を差す。

「学校もつまらない訳ではないんだがネ。それよりも有意義な事が目先にあるとついそちらに行きたくなるのが人の性ヨ」
と、どこか遠くを見ながら超は答え

「そう言う裕也さんも学校には行ってないじゃないですか」
葉加瀬は頬を膨らましながら不満を漏らす。

「何を言っている。定期考査はしっかりと受けているし、書類を出せば出席日数もクリアするから通っていることになるだろ」
それに高校はともかく、中学まではちゃんと通っていたよと締めくくる。

裕也から譲歩を引き出すのが無理だと悟った超は
「……そんな味気ない青春を送たから裕也には友達がいないんだヨ」
トーストをかじりながら苦し紛れの一言を放つ。

超にとっては、いつもの戯れの中での一言に過ぎなかった。
どこか達観している節のある裕也ならばサラリと流すだろうと予測し、昨夜の宴会での魔法先生らとの会話の詳細を問い質す算段を葉加瀬とのアイコンタクトでとっていたのだが

「………………」
愕然とした表情で微動だにしなくなった裕也にそれは頓挫してしまった。

そこそこ長い時間を一緒に生活を送ってきたが、初めて見る予想外の態度に2人もフリーズしてしまう。

「えっと……裕也さん」
いち早く我を取り戻した葉加瀬がおずおずと口を開く。
「実は気にしてました?」

「っ!?そ、そんな事ないぜ!!私にだって同年代の友達くらい……」
テンパりながら指折り人の名前を呟いていくが、徐々に表情が曇っていく。

そんな様子に耐えきれなくなった超は
「裕也……私が悪かたヨ。だからもう……」
涙目で止めようとする。

かなりマジな超の静止を振り切り、脳内で人名の選別を続けていくが
「…………まだだ!まだ終わらんよ!!」
未だに思い当たる節が無いのか声は震え、焦りと若干の悲しみがにじみ出ている。

食事の席からガタンと音をたて荒々しく立ち上がった裕也は棚から書類を引っ張り出し始めた。

そこまでしなきゃ思い出せない人を友達とは呼べないということにも気づけず、裕也の足元には虚しく書類が散らばっていく。

「もういいんです……そんなに必死になっても……」
いないものはいないんですから、という葉加瀬の言葉は超の「ごちそうさまでした」という声によって遮られた。

バサバサと書類を漁り続ける裕也を意図的に無視して
「ハカセ、我らの友は事実という敵と孤独な戦いを始めたヨ」
超は朝食の後片付けをしながら告げる。
「この戦いばかりはいくら最驚を冠している裕也でも勝ち目がないネ」

「いや、最驚とか考えたのは超さんだから今は関係ないですよね?」

「現実に負けて打ちひしがれる裕也を見たい気もするが、そんなイジワルをして嫌われるのは本意ではないからネ」
葉加瀬のツッコミをスルーし、手早く食器をしまいながら続ける。
「それとハカセ、裕也が手渡してくれたトーストだから惜しいのはわかるが、そろそろ食べてくれないと学校に遅れるヨ」

「っ!?そ、そんな事は考えてません!」
超からのいじりで羞恥から顔を赤らめた葉加瀬はトーストにかじりつく。

「初々しいネ」
そんな葉加瀬をニヤニヤと眺めてから
「さて、そろそろ出なきゃ電車に乗り遅れてしまうヨ」
そう言い残しランドセルを取りに離れていく。

頬いっぱいに詰め込んだトーストをむぐむぐしながら葉加瀬が声をかけた。
「ひゃおしゃん、わしゃしにょもおにぇにゃいしましゅ」

「言いたいことは大体わかたが、ちゃんと口のなかのを飲み込んでから喋てほしいヨ……」
裕也が正気なら『はしたない』とか言って叩かれてたとこネ、と続けながら両手に教科書以外のモノを詰め込んだランドセルを重そうに持って戻ってくる。

なんとか口の中のを飲み込み一息ついた葉加瀬は
「ふぅ……でも、本当にいいんですか?」
超から受け取ったランドセルを背負いながら問い掛ける。

「うん?何がカナ?」
ランドセルを装着し終えてから、葉加瀬の顔を見て小首を傾げる超。

「何がって……あれ」
超が本気で聞いているのを察して『あれ』がある方につい、と視線をやる。

葉加瀬の視線をたどっていくとそこには尚も一心不乱に書類をあさっている裕也の姿が。
チラチラと見えてくる書類の中には裕也の若かりし頃の過ちの結晶や、超と葉加瀬によるネタ兵器の図面といった外部の人間に全く関係ないものまである。

「……さ、葉加瀬、学校に行くヨ」
私は何も見なかったヨ、と言わんばかりの態度で部屋から出て行こうとする。

あまりにも迷いなく背を向けた超。しかし、その後ろ姿からは年不相応な哀愁が漂っているように見える。
何かに取り憑かれたように鬼気迫る勢いの裕也。だが、それは今にも燃え尽きてしまいそうな蝋燭の最後の瞬きにさえ感じられる。

この二人によって作られている雰囲気によって、生活臭が漂う研究室が何故か荒廃した街の埃っぽい空気へと変貌していく。

雰囲気と言うには生ぬるく、すでに異世界のレベルに至っていた。

そんな二人の中間点で流れから取り残された葉加瀬が
「え、えっ?」
迷子のようにきょときょととしてしまうのは仕方のない話かもしれない。

しかし、何時までも呆けているわけにもいかずとりあえず流れに乗って
「すみません……裕也さん。私にはあなたを救う事はできませんでしたっ……」
と、言い残し既にドアノブに手をかけている超を追って駆け出した。

この時、葉加瀬の脳裏には
この二人、実は結託していて私をからかっているのでは?
という疑いを掠めていた。

「そんな事ないから嫉妬しなくても大丈夫ヨ」

「さらっと人の思考を読まないでくださいっ!!」

「おや?嫉妬は否定しないのカナ?」

「なっ!?揚げ足を取らないで下さい!」

「これが若さカ……」

「殴ったほうが良かったんですかね?」

コントのような会話を続けながら研究室のある麻帆良大学の工学部を駆けていく超と葉加瀬。

そして研究室に残る裕也。

皆が規格外で高校生一人、小学生二人というアンバランスな共同体の日常がそこにはあった。

棚にあった書類を全て散らした床にへたり込み、虚ろな眼で虚空を捉えた裕也がポツリと言葉をこぼした。
「大きな星がついたり消えたりしている……あれは彗星かな?いや、ちがう……違うなぁ……彗星はもっとばーっと動くもんな……」

訂正、一人だけは非日常を送っていた。

学生が昼休みという限られた時間内で思い思いの自由を謳歌しているころ、葛葉 刀子と学園長は工学部に出向いていた。

最近は学内の至る所に出没するようになった学園長とは違い、高等部で教鞭を取っている刀子が大学にくる事は滅多にない。
しかも工学部となると尚更である。

目的地への道中、目的地に近づくにつれ気が重くなってきた刀子はそれを紛らわすように口を開いた。
「あの、学園長?」

「何かな?葛葉先生」
学園長はいつも通りの調子で返す。

あまりに変化のない態度に毒気を抜かれつつ問いかける。
「今回の件は学園長が出向くほどの内容とは思えないのですが......」

「昨日の件は確かに葛葉先生だけでもよいのじゃろうが、それとは別の要件もあるからの。ついでじゃよ、ついで」

多くを語らずに歩を進め、これ以上の質問を言外に却下していく学園長に
「はぁ......」
なんとも気の抜けた返事が思わず漏れてしまった刀子であった。

昨夜、オープニング・セレモニーを終えた一団は今後の資金源となる予定の超包子に出向いて親睦会を開いていた。

開店セールも兼ねて本来の値段より格段に安くなっており他の一般客も多く、大変賑わいを見せている。

初めは研究会に参加する学生や教員と談笑しながら食事していたのだが、客の増加によって回らなくなってきた厨房へ加勢しに行った超。

それに習って葉加瀬も早々に話を切り上げて、ホールでの接客にあたり、フィーアは聖徳太子もかくやと言わんばかりの勢いで注文を捌いていき、ホールスタッフの心強い戦力となっている。

裕也も学園長を始め来賓として招待した方々の対応をしていたが、中座する。

しかし、店に背を向けて寂しく街灯が照らしていた人気のない並木道へと入っていく。

いつもならば皆の手伝いに加わるのだが、今回は先約を入れてあった。

誰ともすれ違わずに、黙々と歩いていた裕也は目的地に着くと唐突に口を開く。
「世界樹広場についたぞ」
これは完全な独り言で終わるはずだったのだが、
「あなたは1人で何を言ってるんですか?」
裕也の背後から女性の声で反応がくる。

まさかリアクションがあるとは思わず、油断しきっていた裕也はビクッと身を震わせ
「……早かったですね、葛葉先生」
平静を装った声色で返事をしながら振り返る。

そこには呆れた表情の葛葉 刀子が立っていた。

刀子はその表情のまま口を開く。
「まったく、あなたは色々と注目を集めているんですからもう少し言動には注意しなさい」

「すいません……」

「まったく、本当ならもっと言いたいことがあるのですが」
うなだれて謝る裕也を見て、刀子はこれ以上の小言は不用と判断し
「そういった話をするために呼び出したわけでもないでしょう。で、どのような用件です?」
話を進めるように促す。

「はい、そう言っていただけると話が早くて助かります」
そこで言葉を区切ると裕也は居住まいを正し、
「葛葉先生、私に剣術を教えて下さい」
深々と頭を下げた。

「……私でいいんですか?」
それを受けて刀子は困惑しながら問う。
「いや、違う……違いますね。そうじゃなくて......何故、私なのですか?」

よくわからない、と言ったような裕也の表情を見て刀子は続ける。
「あなたは既にエヴァンジェリンという屈指の強者に師事していて、彼女ならばどのような局面にあっても戦い抜けるよう鍛えてくれる。そんな事は聡いあなたなら納得はできなくとも、理解しているはずです」
ここで視線を逸らして言葉を切り
「それに……いえ、なんでもありません」
その後、数瞬迷ったが刀子は口を閉ざした。

「それはわかっています。それでも……」
裕也は眼光を鋭くし、拳を強く握り締めながら答える。
「これ以上、大切なモノを無くさないために……後悔を重ねないために、思いつく全ての事をやっておきたいのです」

「そう......ですか。わかりました」

この時、刀子の内心は穏やかなものではなかった。

裕也が答えた事は先程、口にできなかった
『間に合わなかった私でいいんですか?』
という問いに被るものがあったからである。

闇之 氷夜の一件は明らかに、一度捕縛した危険人物の逃亡を許してしまった学園側の落ち度から生じた事件である。

それに、生徒を危険から守るのは魔法関係者で有る無しに関わらず教職に携わる者の責務だ。

ここで言う危険とは身体的なものだけでなく精神的なものも含まれている。
と、武術を嗜み魔法などの裏側を知るからこそ刀子はより強く考えている。

あの時、現場に到着した刀子は裕也の身体も無事で逃走者の命もあった事から、最悪の事態は防げたと口にしてしまった。

定期考査など年に数えれる程度しか教室に現れないが、自分の生徒である裕也が殺人によって心に傷を負う事はなかった、と。

それは見当違いもいいところだったと気づかされる。

突如、会話に割り込むように放たれたエヴァンジェリンの魔法。

それの安全圏へと退避する際、腕を引っ張られるような形になっていた裕也は状況を把握しつつも、凍りついていく闇乃
氷夜を今にも焼き殺さんと言わんばかりに睨み続けていた。

それに気づいた刀子は腕を掴む力を強くする。

別に、裕也に気押されたということではない。
確かに鬼気迫るモノはあれど、歴戦の剣士である刀子を竦ませるには幼い。

だが、先生と言う面から見れば話は変わってくる。
守るべき生徒が黒い感情に飲まれていく。
激情に任せてあの侵入者を殺めたことがきっかけで狂気に堕ちてしまうかもしれない。

いくら研究室を任され、小学生2人の親代わりをこなしているとは言えまだまだ未完成な子供。
それだけは許していけない。

振り解かれないように、自分の大切な生徒を守るため、さらに力を込めた。

魔法の触媒であろう黒い外套を纏ったエヴァンジェリンが降り立つ。

死に瀕してもなお、喜色満面と言った表情もエヴァンジェリンと言葉を交わすうちに絶望に変わっていき、そのまま闇乃 氷夜は事切れた。

それを見て、刀子はやっと裕也の腕を放す。
足取りもしっかりしており、師であるエヴァンジェリンがいるから大丈夫だろうと判断したのだ。

裕也の方を向いたエヴァンジェリンは
「アレを殺すなよ裕也。いや……もう殺せんか」
挑発するような口調で声をかける。

「何故……ですか?」
言葉足らずの問いを返す裕也。

その内容は端から聞いていた刀子にも
『何故、私に殺させてくれなかったのですか?』
に近いものであろう事は容易に想像がついた。

そこで、刀子は一つの疑問を抱く。
裕也は何故、侵入者の殺害にこだわっているのか。

意味のわからぬ理由で命を狙われた憤りからか、初めての殺意ある者からの攻撃でタガが外れてしまったか……
など、色々選択肢を挙げてみるが釈然としない。

合流してからの様子を思い返してみようとしたところでエヴァンジェリンの言葉がそれを遮る。

「もう死んでいるからな。それよりも大切なことがあるんじゃないのか?」
そう言うとエヴァンジェリンはあるモノへと目をやる。

それにつられるように裕也だけでなく刀子も周囲に見る。

何らかの残骸が散らばっているのは気付いていたが、裕也の戦闘スタイルを又聞きしていた刀子は何らかの兵器のなれの果てかと当たりをつけていた。
だが、それは兵器と呼ぶには人の形に似すぎてる。

一つは四肢のほとんどが欠損したモノ。
右腕は肩から、左腕も肘から先がもがれ、両の足も胴体とは離れた所に落ちている。
表情は無表情。
されど、肘しか残されていない左腕は何かに向かって必死に伸ばされていたようにも見えた。

そのあったであろう腕の先にあったのは、背中から胸を刀に貫かれているモノ。
先程のに比べると素人目には形状は保っているが、動いていない所から内部への損傷があるのかもと思案する。
表情は困惑、とは言っても目を見開いているように見えるからそう感じただけかもしれないが。

最後のは腹部で両断されたモノ。
両断と言っても刀剣の類によってなされたものでは無いのは凍りつき、砕かれたような切り口からわかる。
しかし、表情には安堵。
三つの中でも際立って酷い状態であるに関わらず安心しきった顔は人間と遜色ないものであった。

コレの現状が理解できなかった刀子は声を掛けようとするが、
「あっ……」
裕也かがこぼした声に思わず留まる。
それはあまりにも弱々しく、一瞬誰が発したのかわからない程であった。

そこから裕也はエヴァンジェリンにも刀子にも目をくれずふらふらと動きだす。

横合いから刀子に見えた表情は、先程の静かに憎悪を燃やしていたものから一転し今にも泣き出しそうになっていた。

思わず、また腕を掴みそうになるが
「やめておけ」
とのエヴァンジェリンの言葉に制される。

「……どういうことですか?」

「何も知らずにズカズカと近づくな、と言うことさ」
ふん、と不機嫌気味に鼻を鳴らしてから続ける。
「今のアイツに何かを言ってやれるのは私の知る限りでは2人しかいないし、その中にお前は入っていない」

それを受けて刀子は閉口するしかできなかったが、苦し紛れの問いを出す。
「では、あなたは知っているのですか?」

「ああ、お前が知らぬ事も色々と知ってるよ。貴様がどうしてもと言って頭を下げるなら、暇つぶしがてらに今回の事は教えてやってもいいが?」
ニヤリと口元を歪め愉快気に告げる。

正義感の強い麻帆良学園の魔法先生ならば悪の魔法使いに頭を下げるのなど許せまい。
精々、その顔が屈辱に歪むのを楽しませてもらうか。
などと思考し、本当に暇つぶしの算段をたてていたエヴァンジェリンだったが、

刀子の行動は素早く
「お願いします。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。私に彼のことを教えて下さい」
かつ、予想に反して、深々と頭を下げていた。

「は?」
あまりにも予想外の展開についていけず間の抜けた声を出してしまうが、すぐに我に返って
「いや、待て!貴様には魔法先生としての教示はないのか!?」

「魔法先生なんて先生が魔法を使えるだけであって万人のヒーローなんかではないんです」
これは先程も言っていましたが、と繋ぎ
「私達、魔法先生は生徒の味方です。魔法使いで先生なのではなく先生で魔法使いだという事は知っておいていただきたい。まあ、言葉遊びに感じられるかもしれませんがね」
それに私は神鳴流の剣士ですし魔法使いではありません、と冗談かどうか判断しかねる言葉で締める。

ここでの議論は不毛と判断し、エヴァンジェリンは舌打ちを一つしてから口を開く。
「経緯は面倒だから結論から言わせてもらう。あそこにあるのはあいつが創った人形……ガイノイド?とか言うのだ」

刀子は無言で頷く。
研究の内容に関しては論文など、書類として必要なので目を通していたから知っていた。

「あいつはあれらを溺愛していてな。酒を飲ませていくと馬鹿のように……というか、親馬鹿丸出しでいらぬと言っても喋り続ける」
エヴァンジェリンはその場面を思い出したのかげんなりした表情を見せる。
「素面では歳に合わず生真面目で、いつも何かを考え難しそうな顔をしているあいつが酒を飲ませると年相応のガキみたいに笑う」
しかし、どこか面白いものを思い出すような雰囲気も混ざっている。

アインが
ツヴァイが
トライが
修行後の食事でこの言葉から始まる話を何度聞いたことか。

誰かに我が子の自慢をしたかったのだろう。
友達と言う存在がいなかった裕也にとってはエヴァンジェリンは師である以外に滅多に無い私的な会話のできる人物であった。

誰かに技術的な事でなくヒトとして、自分の大切な家族を自慢したかった。
身内である超や葉伽瀬に自慢してもしょうがない。
科学的な話であればこぞって学者や学生が集まるであろう。
しかし、裕也が望んでいたのは技術的な内容ではなく極ありふれた我が子の自慢。

常人は機械が家族という感情を共有できない。
ならば相手が常人でなければいい。
その点で言えばエヴァンジェリンは最適な人物だった。
不老不死である真祖の吸血鬼。
更に、チャチャゼロを筆頭とした自律した人形達の従者。
科学と魔法
アプローチの仕方に違いはあれど、裕也にとっては理想に近い存在だった。

初めは魔法のプロフェッショナルからの意見を欲して話をしていた。
人形に魂を吹き込むなど術式は理解できなくとも知識として聞いてみたかったからである。

落ち着いて話せる場など別荘での食事時しかなかった。
エヴァンジェリンは色気もムードも無い会話だ、など不満タラタラだったがなんやかんや言いながら付き合ってくれた。

この時、マスターに色気なんてあるのか?と真顔で聞いた裕也が糸で酷い目にあわされたのは余談である。

四散しているパーツを一つ一つ、丁寧に集めている裕也の背中を見ながら刀子は口を開く。
「未成年の飲酒に関して目をつむりますが、それならばアレらは彼にとって……」

「娘、みたいなと言うか愛娘そのものだ。知ってるか?あいつが研究を始めた理由を」
刀子が詰まった部分を告げてから、更に問う。

「............」

茫然とし、反応できないでいる刀子を無視して告げる。
「家族が欲しい。そんな幼稚な願望をよくもまあ面倒な方向から満たそうと思ったものだな。馬鹿となんたらは紙一重とはよく言うが......」

刀子にエヴァンジェリンの言葉はもう届いていない。

裕也の行動、その意味を、心の一端を垣間見た時、刀子の中で何かが音を立てて崩れた。

間に合ってなどいなかった。

守れていたモノなど無く、自分が見ていたのは都合のいい幻想に過ぎなかった。

彼は既に失っていたのだから。

真実に気がつき、茫然自失となった刀子は増援としてシスターシャークティが到着するまで、ただパーツを拾い続ける裕也を見続けることしかできなかった。

つらつらと昨日の出来事を思い出していた刀子は学園長の後ろを歩きながら覚悟を新たにする。

彼が望むのならば手助けをしよう。

守れなかった私が言うにはおこがましいかもしれないが。

彼が望むだけの力を、強さに到れるようできうる限りの事を。

ただ、その力を間違った方向に振るわぬよう、誤った強さにならぬよう気にとめなくてはならない。

力強く足を踏み出す。

早く行かなくては。

まだ、私を先生と呼んでくれる生徒の未来のために......

「おーい。葛葉先生、どこまでいくんじゃ?」

「......えっ?」
足を止めていた学園長が声をかけた時、既に刀子は目的地の研究室を1メートル程通り過ぎていた。


あとがき
えー……もう二年ぶりくらいの更新になるTYです。
申し訳ありません。スランプというか、まったく文章が纏まらずズルズルとここまで......
ちまちまと書き続けたモノなので展開とかに不備や違和感があるかもしれませんが、平にご容赦を......

どんどこどーん様
俺、沙霧裕也(`ェ’)ピャー

コジマ漬け様
恥ずかしながら帰ってまいりました。
これからの更新はもうちょっと早くしたいな......

西博士に関しては番外編とかでやりたいことがあるんですけどまだ無理っぽいです。

瓦様
このような稚拙な作品を見たいと言ってくれてありがとうございます。
原作は既に崩壊が始まっているのでもう手遅れですから気にせずいきます。


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