いつだっただろうか
この生が『二回目』なのだと思い始めたのは…
転生生徒 裕也
プロローグ
麻帆良大学工学部の研究室に彼はいた。
白衣を着た、黒髪黒目の青年
沙霧 裕也
まだ、大学一年の彼が大学の研究室を任される程の知識があるのには理由がある。
それは彼が俗に言う『前世の知識』というものを持つ人間だからである。
『前世の知識』といっても名前などを全て覚えているのではなくて思い出せると言った方が正しいかもしれない。
彼は幼稚園の頃は物知りな子として両親を含め大人からは誉められた。
この頃は『前世の知識』だとは知らなかったが思い出すのが楽しかった。
小学校には受験をして麻帆良に入学した。
理由は両親からはなぜか強く勧められたからというのと、麻帆良という世界的に大きな都市に関しては何も思い出せなかったから興味を惹かれたからだ。
中等部への進級を目前にした頃から両親と連絡をとれなくなった。
調べてもらったら、夜逃げしたとの事…
闇金などからではなく私から逃げたかったらしい。
この頃から裕也は家族というモノを欲していた。
当時の私はその事に相当追い詰められていたのだろう。
『前世の知識』を用いて人のようなロボットを作ろうなどと思ってしまったのだから…
中等部に進級してからは図書館島に通い詰めた。
『前世の記憶』から思い出せる知識ではどうしても足りない部分が出てきてしまったので、それを補う為に知識がさらに必要だったからだ。
知識の補完を終えるのに一年を全て使ってしまったが…
二年になってからは麻帆良大学の工学部でガイノイドのプロジェクトを立ち上げた教授の研究室に入り浸った。
定年退職間際の教授だったため人気は無く実質一人のプロジェクトだったが…
人手不足にほぼ毎日来るとあって、手伝いを頼まれるのに時間は掛からなかった。
見返りとしては本などからのでは得られない現場の知識という収穫があった。
高等部に進級すると同時にガイノイドのプロジェクトを一任された。
んな無茶な、と言ってはみたが既に学園長からの許可は取ったと言われてしまい何も出来なくなってしまった。
両親が居ない裕也が学園に居られるのは奨学金など学園側からの援助があるからでそのトップとなると反論なんて出来るわけもなく…
そして高等部に進級し、研究を一人で進めようとしている時にとある少女が研究室の扉を叩いてきた…
その少女は超 鈴音と名乗る初等部四年の生徒だった。
その名と噂は少なからず聞いたことがあった。
曰わく、「麻帆良の最強頭脳」少なくとも普通の初等部の生徒には与えられないような物ばかりだったが…
超 鈴音は挨拶もそこそこに本題を切り出してきた。
「ここに来た理由は…『とある研究』をするための場所を探しているネ」
「『とある研究』…ねぇ…少なくともこの部屋を明け渡せって言うならどんな条件でも断るぞ」
裕也は大人気ないと思いながらも先に釘を打っておく。
それを気にするでもなく超 鈴音は話を進めていく。
「私がしようとしている研究はアナタの進めている研究にとても有益な物ネ…。いや、アナタの目的に…と言った方が正しいかもしれないヨ」
一拍置いてから
人のようなロボットを造るという目的にネ
と言い切った。
誰にも話した事の無い目的を言い当てられ惚けている裕也に彼女は手を伸ばしてきた。
「今ここで私の手をとるかどうか答えてはくれないカナ?」
先程の発言を大人気ないと思っていたが、見当違いもいいところだった…
現実に超は裕也よりも何枚も上手なのだから。
結局、裕也は超 鈴音の手をとるという選択肢を選んだ。
いや…選ぶしかなかったと言うべきかもしれないが。
だが、此処に至った事で裕也は彼女にこの質問をする権利を得た。
「ところで…超 鈴音、君がしたい研究で私の目的に有益になると言う『とある研究』というのは何なんだい?」
その問いに対して超 鈴音はその幼い容姿に似合わないほどに人の悪い笑顔で
「私の研究…それは『魔法と科学のハイブリッド』ネ」
と笑顔のままだが、真剣な眼差しで答えた。
この後に超はそさくさと帰っていった。
今回の来訪の目的は交渉だけだったようで、帰り際に
「フルネームは長いから超でいいヨ」
との言葉を残して研究室から去っていった。
超が帰った後に何か酷くややこしい事に巻き込まれそうな予感という妙に細かい予感に襲われて研究が全く手につかなかったのは余談である。
そしてこの時から沙霧 裕也は『前世の知識』も生まれてから培ってきた常識も全く通じないであろうこの世界の裏側に足を踏み入れてしまったのだろう…