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[7317] グローランサー デュアルサーガ(旧題、異世界転生者の平穏)多重クロス(ネタ)
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2013/12/29 20:56
始めまして、神仁と申します。

このSSは現実からの転生?オリ主物で、更に色々な異世界にトリップしたり、ご都合主義最強物の上、何故かモテたりするという世間一般での最低物になる恐れがあります。

とりあえずネタに分類しておきました。

また、携帯投稿の為、一話一話が短く、話数が桁違いになり、原作によっては話が長くなる恐れがあり、キャラも原作から崩壊する場合があり、劇薬指定です。

とかく、最強系の完結を目指して書き出したモノなので、ハッキリ言って自己満足のネタ作品です。

また、作品によってはハーレムにならない場合もあります。

そういうのが嫌いという方や、厨二乙、ハイハイオリ主マンセー…という方、グダグダやってんな、見てられないからもうやめろ……という方は申し訳ありませんが、回れ右でお願いします。
自分、ガラスのハートな物で……本当にブロークンしてしまいますので。
m(__)m

しょーがねぇから見てやるよ。

という方は生暖かい眼で見守って下されば幸いです。

当方はまだ経験不足なドシロートな上、携帯からの投稿の為、文面が粗くなるかも知れません。
こうすれば良いという意見や感想、アイディアなんかもあれば有り難く戴きますm(__)m

一応長編にする予定ですがまだ解りません。
出来るなら完結させたいと思います。

それではお目汚しではありますが生暖かい眼で見守って下さいm(__)m

現在グローランサー編です。

プロローグから113話を微修正+追記しました。

嘘予告・異世界転生者と平行世界の破壊者に追記しました。

130話を更新しました。

嘘予告を投稿しました(;´д`)

※鋼鉄と杖の嘘予告〜を、ハーメルン様の方で内容を若干書き直して投稿しています。



[7317] プロローグ―ふわふわぴかぴか?―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/11/13 21:53

――突然だが、転生って信じるか?
よく二次創作小説のオリジナル主人公――通称オリ主が出てくる時に使われるアレだ。

大体が赤ん坊から始まるんだよな……んで、大概が事故死や病死――例外で死んでいないのに諸事情(神様の都合など)で転生したりする場合もある訳で。

これは数少な…くも無いが、そんな例外の一つ。
何が言いたいのかと言うと。

「ばぶ……ぶぶぅ……」

――気が付いたら、俺は赤ん坊になってました本当にありがとうございます。


……………。


………………。

「おぎゃああぁあぁぁぁぁっ!!?(なんじゃあこりゃあぁあぁぁぁぁっ!!?)」

(何コレ!?訳が分からないよ!?マジ?マジに転生なの!?てか――俺ってば、死んでないよな?)

大根が走り回る(大根RAN)状態を何とか抑え込みつつ、自身の記憶を呼び起こす。

――俺の名前は海堂 凌治(かいどうりょうじ)今年27になる平凡な企業戦士だ。


容姿は――自慢では無いが、まぁまぁ見れる方で、エリートという程じゃないがそこそこ仕事が出来る。

運動神経は良いと思う。

少なくとも喧嘩で負けたことは無いし、学校の体育の成績は5だった。

家族構成は親父とお袋、それに双子の弟が一人。

…うむ、間違いないな。

――彼女?

……年齢=ですが何か?
いや、モテなかった訳じゃないぞ!?

悪友や同僚と遊んでる内に女性関係に疎遠になっちゃっただけで…悲しくなんか無いんだからねっ!?

って、今はそんなことどうでも良いんだよ。
問題は、この現状……だよな。

「どうしたのかな〜、よしよ〜し♪」

……さっきから、俺を抱き上げ――あやしてくれてる女性……どうやら俺の母親らしい。

スッゴい愛おしそうに優しく抱いてくれている。
しかも、かなりの美少女なのだ。
一見すると、母親に見えない位に若々しい。

そして容姿以上に惹き付けられるのが、彼女の髪の毛だ。
何と言うか、銀髪って奴か?
それが何とも言えず綺麗で……。

「あぶ…」

思わず見取れてしまった。

「泣き止んだみたいだな……」

そのどこかホッとしたような声に、俺は視線を横に向けた。

そこには一人の男が立っていた。

何処か西洋風の装束がピシッとしていて、その衣服に負けない――かなりの男前だ。

明るめの茶髪を短めに切り揃えた、若き美男子。

この場にあの『悪友(バカ)』が居たら『もっげ〜ろっ!もっげ〜ろっ!!』とか言うレベルの。

「貴方も抱いてあげて?」

「なんか壊れそうで恐いな…」

どうやら彼は俺?の父親らしい。
成程、美男美女でお似合いの夫婦ってことだな。

彼は、俺を彼女から受け取ってゆっくりと抱き上げた。

その腕は彼女と違い筋肉質で、ゴツゴツしていたが――彼女と同様に優しく……しかし言葉通りに、どこかおっかなびっくりな感じで……抱いてくれた。

それを見て彼女は微笑み、彼は僅かな苦笑を浮かべた。

そんな何処か温かい空気の中、俺は開いていた窓の外を何気なく眺めた。

そこには、ぴかぴかと光る無数の光の球が――ふわりふわりと浮いていた。


…光の球?何処かで見たことあるような……?

その時の俺は、その光景に疑問を浮かべつつも、現実離れしたその光景の美しさに、釘付けにされてしまっていた。

故に、ここがかつてプレイしたことのあるゲーム――『グローランサー』の世界に大変酷似した世界だと気付くまで、暫くの時間が経ってしまったことは致し方無いことであろう。

とりあえず、今の俺がすべきことは……乳吸って寝て排泄し……やばい、軽く鬱になりそうだ……。




[7317] 第1話―チートボディなのに才能無いとか……イジメですか?―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/11/14 06:44

俺こと、海堂 凌治は『目が覚めると、身体が縮んでしまっていた!』なんて、某バーローの体験を軽く上回る珍事に見舞われ、大根が走り回ったりしながらも持ち前の適応力で、肉体的にも成長しつつ、何とかかんとか日々を過ごせる様になっていったワケだが――。

――あの珍事から、大体五年の月日が流れた。

何、時間が流れ過ぎ?
……出来れば赤ん坊時代のことは語りたくないんだよ。

……分かるだろ?

あんな美人からお乳を飲まされ、オムツに排泄行為をする…俺、中身は27の社会人よ?

恥ずかしいやら嬉しいやら屈辱やら…。

しかも、だ。

未だに彼女――母上は風呂へ俺と一緒に入ろうとする。

この身は嵐は呼ばないが、五歳児なので――それは不自然では無いんだけれども――。

俺は良識人なので、一人で入るか……父上が居る時は父上と一緒に入る。

母上は恨めしい顔をするが――気を許してはいけない。

この母上は……油断していると、風呂場に奇襲を仕掛けてくるのだ。

母上は美人だ。

しかも童顔なのも手伝ってか、24になった今も大変に可愛らしい。

しかも、スタイルも良く――出る所は出て、引っ込む所は引っ込む――と言った、世の中の奥様方も羨む様な体型の持ち主だ。

そんな母上に風呂場に入って来られて見ろ!

俺の○ークピッツがエレクチオンして、ド偉いことになるではないかっ!!

……………。

…………………。

ポークピッ○…orz


仕方ない…仕方ないんだ。

だって五歳児なんだもの……分かってるんだよ?
ポー○ピッツが幾らエレクチオンしようと……シャ○エッセンが限界だってこと位、さ……。

……ずっとこのままじゃ、ないよね?

かつての修学旅行で……畏敬の念を込めて『ガメラ』と呼ばれた俺の息子が………ハッ!?

は、話が逸れたな。

――あれから、月日が流れて行く内に色々なことが分かった。

まずここはバーンシュタイン王国王都、父はインペリアルナイト、外に浮かんでいるふわふわぴかぴかな光の球はグローシュというらしい。

…完全にグローランサーですねありがとうございま(ry

どうやら、俺はゲーム――『原作』に出てくるキャラクターであるジュリアン・ダグラスの父親――ダグラス卿が現役だった頃に転生したらしい。

現在、インペリアルナイトに籍を置いているのは――我が父上と、後のナイツメンバーであるジュリアンの父、ダグラス卿の二名だけらしい。

どうでも良い話だが俺の悪友はオタクだ。

ことあるごとに俺をその道に引き込もうとする。
そのせいか、俺も知識的な意味でかなり濃くなった。

最終的にはアイツと激論を交わせる位には。
そんな俺であるからして、グローランサーシリーズなども遊んだことがある。

なのでこの世界のこと等もすんなり理解出来た。

まぁ、理解は出来ても納得した訳じゃないんだが……そもそも死んでいないのに転生とかなんぞ?

二次ではそれなりにある設定だけどさ……。


皆、心配してるかな……元の世界に帰れるのかね、俺?
つか、帰れても何かしらの弊害がありそうだよなぁ……。

厳密に言えば、今の俺は海堂 凌治じゃねーし……。

まぁ、要するに何が言いたいのかと言うと…俺は今、貴族――それもかなり位の高い貴族になってしまった――ってこと。

つっても領地とかは無いけどね?

有るには有ったらしいのだが、我が家の御先祖様が国に返上したとか。

『何時いかなる時も、我らこそは王家の剣たれ!!』

というのが我が家の家訓らしいから。

王様の近くで何時でも駆け付けますよ〜だから領地はお返しします〜、ということらしい。

何と言うか代わりという訳でも無いんだろうが、王都の郊外にでっかいお屋敷があります。

ゲームでは存在しなかったんだがなぁ……これってバタフライなんたらとかタイムなんたらとか……そう言う奴か?

「シオン、今日もお出かけ?」

「ハイ、母上」

言い忘れてたが俺の『今の』名はシオン。

シオン・ウォルフマイヤー。

因みに父上はレイナード、母上はリーセリアと言う。

愛称は父上がレイ、母上がリースになっております。

愛称と言っても父上は母上に、母上は父上にしか使わない愛称みたいだが。

俺は一括して『父上、母上』だし。

この名前を名付けられた時の感想が、「それⅢのラスボスじゃね?」だった俺は悪くない筈だ……多分。

それと、今になって気付いたんだが、グロランの主人公のファミリーネームって確か……フォルスマイヤーだったよな。
……微妙にかぶらね?



そんな余計な心配をしながら、俺は執事さんやメイドさん、庭師さん等に挨拶をしてから、外に出る。

円滑な人間関係を築くには、挨拶は欠かせない物だと俺は思っている。

で、屋敷から出た俺が決まって向かうのは――森の奥、人が滅多に近付かない様な場所。


よく二次創作とかで、異世界に来たら有り得ない位の力を手に入れていた……なんて、ご都合主義がある。

俺もご多分に洩れず、そんなご都合主義な肉体持ちだった。

究極の肉体に至高の魔力…とでも言えば良いのか?

魔力はともかく肉体は無いよなぁ……俺ゲヴェルの複製戦士と違うんだがなぁ。

魔力に関しては検討がついてるんだが……実は俺、グローシアンです。
しかも皆既日食の。

これが、ゲヴェルの複製戦士では無いと言い切った理由である。

ハイ死亡フラグですね本当にありがとうご(ry

…バーンシュタインでグローシアンって…orz

いや、どうにもそれだけの気はしないんだが…単純な保有魔力だけ取ってもパネェ。
グローシアンの王?美味しいの?って感じだ。
いや、比べたことは無いから分からないんだけどさ。

これだけの能力を保持していると――。

『フハハハ!!俺Tueeeee!!これで勝つる!!!』

…とか、思う転生者(奴)も居るだろうが、そういう訳にもいかなかった。

ぶっちゃけ、俺には実戦経験は無い……喧嘩をしたことはあるが、命のやり取りをした経験なんて、一般的な日本人だった俺にあるワケが無い。

こんなありがた迷惑な身体を持つ以上、油断していては暗殺か実験台行きだ。
あの腐れ爺どもに、グローシュを提供して廃人なんざ願い下げだ。

俺は来たるべき、避け難い未来の為、訓練を重ねていた。

父上から剣を習ったり魔法を習ったり……何でグローシアンは武術を学ばないんだ?

そうすりゃ武術+魔法で最強じゃね?とか、思いながら。

しかし俺には才能が無かった。
それはもう致命的に。

成長しないワケじゃない。
身体能力は怖いくらいに上がる……何というか進化してんじゃね?
というくらいに。
だが、技を習得出来ないのだ!技を習得出来ないのです!!
……大事なことなので二回言いました。

冬木のブラウニーや史上最強の弟子が百を習い一を知る位の才能なら、俺は千を習い一を知る…とでも言えば良いのかね?
普通に練習しててもちっとも成果がねぇ。

魔法なんか発動せずに、ぽすん!とか情けない音が出る始末。

グローシアンなのにマジックアローさえ出やしねぇ。


身体はチート、才能は皆無……どんだけ〜…。


後にこの超無才能は俺の固有スキルとも言うべき能力の副産物であると判明するが、それを知るのはまだ少し先の話しである。


「ハァ…ハァ…ハァ…クソッタレっ」

今日も今日とて全力で修練を重ねる為に人目に着かない森の奥に来ていたが成果は無く、これ以上は逆に身体に毒と思い、ここで修練を中断する。

何故人目に着かない場所に来ているのか、だと?

幾らインペリアルナイトの息子でも、五歳児が神速で走り回ったりグーで大岩を粉砕したりしてたら……ヤバイだろ?

幾ら、ある程度は許容されるファンタジー世界でも、そんな現場を目撃されたら一発で化け物判定されるわっ!!

……なんでこんなチートボディなのに、技や魔法が覚えられないのか……小一時間程問い詰めたい。

「そう言えば約束があったっけか…」

そう言うとフラフラな足を引きずりながら、友人との待ち合わせ場所に向かう。

そこに向かうとソイツは既にやって来ていた。

「遅かったねシオン」

「ああ、待たせたなラルフ!」

俺の友人にして、バーンシュタインの豪商…ハウエル家の一人息子であるラルフ・ハウエルがそこにいた。


※※※※※※※※
ども、神仁です。原作キャラ、ラルフ君登場です。
少々マニアックなキャラかな…f^_^;
とりあえずラルフ君はグロラン編での主人公の相棒的立ち居ちです。



[7317] 第2話―友人・傲慢・前途多難―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/11/14 07:19

※※※※※※※

ラルフ・ハウエル、バーンシュタインの豪商ハウエル家の義理の一人息子。
そしてゲヴェルの先兵の一人。

今でこそ友人だが、最初は警戒していた相手の一人。

ゲヴェルの巣が近いこともあり、思念波だったか?
それの影響も強力だろうと推測出来た。

だがしかし、俺のグローシアンパワーはマジでパネェらしく、なんと王都全体をそのパゥワァで包めるらしい。

らしいというのはそれを意識して行ってる訳では無いからだ。
無意識でそれなら意識して使えばどんだけなのか…少なくとも覚醒状態ルイセやヒゲより半端ねぇだろうな……多分。

そんな俺だから早々に消されるかと考えたが、ラルフは俺より一つ下で、どうやら俺の波動に思念波を遮られながら成長した結果、一人で行動出来る位になった時には、既にゲヴェルが介入出来ない様になっていたみたいだ。

確信は無いんだが……な。


「どうしたんだい?僕の顔に何かついてる?」

「いやいや。少し考え事してただけだって♪」


ついじっと眺めてしまったが……。

友人になって分かったんだが、コイツ凄い良い奴なんだよなぁ…品行方正で優しく、俺が何かポカするとフォローしてくれたり……何より、インペリアルナイトの息子である俺と普通に接してくれる数少ない奴だ。

複製戦士だからなのか身体能力もそれなりにある。
英才教育の賜物か頭も良い。

通り縋りのお姉様に微笑んだらお姉様が赤くなる…こういうのをニコポって言うんだよな?
流石将来の美形…今は可愛らしい少年だが。
俺には真似出来ん。
まぁ容姿は俺も負けていないがな……。

母上譲りの銀髪と父上譲りの蒼い瞳と甘いマスク。

…これ何て名前のロストカラーズ?

声だけで絶対遵守させることが出来たりしねぇーだろうな……?

いや、俺は微笑んだりしないけどな……アレはカリスマ持ちにだけ許される技だと思うのよ。

狙って出来ることじゃない。

狙ってやろうとした奴は、大概ニコポ出来ないNotカリスマである。

二次創作の転生無いし来訪系非オリ主は大概このオチ。
なので、それは俺にも当て嵌まるだろう。
幻の美形を気取っていたら痛い目に遭う。

そもそも、自分がオリ主だっ!!とか主張するほど、俺の神経は図太く無いワケで。

それはともかく、コイツは死なせたくないなぁ……原作介入とか考えられないが、父がインペリアルナイトでオマケに俺はグローシアンだ。

ほぼ確実に俺は物語に巻き込まれる……俺は平穏に暮らしたいんだがねぇ。

生憎と俺には力がある…らしいし、知識がある。

正義の味方なんざ柄じゃねぇが、ダチを助ける位はしてやりたいよなぁ…こう考えるのは傲慢かね?

※※※※※※※

彼は不思議な人だ。

僕と彼が出会ったのは――二年くらい前だったかな?

父さんと街を散歩していた時に彼を見た。

輝く様な銀色の髪、澄んだ空の様な蒼い眼、何処か皆と違う纏った雰囲気……神秘的、とでも言うのかな?

そんな空気を感じた。

街のみんなは彼を見るとぺこりと頭を下げて挨拶している。

彼は苦笑いしながらも丁寧に挨拶を返してた。

父さんに「あの子は誰?」と聞いたら――。

「あの方はウォルフマイヤー卿のご子息だよ」

――と、言った。

ウォルフマイヤー卿と言ったら、史上最年少でインペリアルナイトになったということで勇名を馳せている人だ。

この国に住む人なら誰でも……子供だって知ってる最強の騎士インペリアルナイト。

男なら一度は憧れるヒーロー。

勿論、僕も憧れている訳で…父さんに武器の手ほどきを受けたりしているから……というのもあるからかもしれない。

父さんが言うには『商人たるもの自分が扱う商品には精通してしかるべきだ』……ということらしいけど。

「ん?」

こちらに気付いたのか、彼がこっちにやってくる。

「ハウエルさん、こんにちは」

「これはシオン様、お元気そうで何より」

「ハハハ……まぁそれだけが取り柄みたいな物ですから……そちらは?」

彼が僕に視線を向けた。

「ハイ、息子のラルフです。ほらラルフ」

父さんに促され僕は挨拶をする。

「ラルフ・ハウエルです!よろしくお願いしますシオンさま!」

ペコリと頭を下げると彼は一瞬眼を見開くと、近くに寄り僕をマジマジと見詰める。

……何だろう?

彼が傍に来たら胸の奥が暖かくなった……それになんだか、少し身体が重く感じる……けど、それは嫌な感じじゃあない。

「あの…?」

「ラルフ君…だったよね?君、歳は幾つ?」

「んと…んと…二歳です」

「そっか♪俺は三歳なんだ♪良かったら友達にならないか?」

その言葉に、僕は何故かすんなりと頷いてしまった。
父さんは滅相もない!とか、恐れ多いとか言っていたけど。

僕も勉強や訓練が多かったから、友達はすくなかったというのもあるんだけれど……。

結局父さんも彼に強引に押し切られたのか、最後は折れてくれたから良かったよ。

そんなことを考えてると、彼が僕を見てるのに気付いた。

「どうしたんだい?僕の顔に何か着いてる?」

そう尋ねると彼は……。

「いやいや。少し考え事してただけだって♪」

そう言って人好きのする笑顔を向けてくれる。

こういう笑い方は狡いと思う。
心の中に染み渡るというか、何と言うか。

彼は本当に仲が良い人にだけこの笑顔を向ける。

最初は僕にも、その笑顔は向けてくれなかった。
それを知ってるだけに僕は嬉しい。

それは本当に僕を友達だと思ってくれてるということだから……。

※※※※※※※

「それじゃあ何をしようか?」

「先ずは柔軟だろ?」

そう言って準備運動をする。
これから二人で剣の訓練をしようというのだ。

使うのは木剣。

さっきも訓練しただろ、だと?

それはそれ、これはこれ。

少し休憩したんだから良いんだよ。
才能皆無の俺にとっては修練は欠かしてはいかんワケだし。
何より対人戦訓練は一人じゃ出来ん。

ラルフの奴は才能がありやがるからか、単純な技術なら俺より上だ……四歳児のくせしやがって。

まあ身体能力では宇宙の帝王と猟銃持ったオッサン位違うから一撃たりとも貰わないがな。

…極端に言い過ぎか?

そんなこと無いよな?

……うん、長髪の野菜人と猟銃持ったオッサンにしよう。

「じゃあ始めるか?」

「今日こそ一本取らせて貰うよ?」

「やってみろ!!」

こちらから攻める……無論だが、身体能力はラルフと同じ位に抑えてある。
でなきゃ力押しで瞬殺出来ちまう。

あくまで技術の向上が目的だ。

「はぁっ!」

真正面から切り付ける。

「っ」

それをラルフは横に跳びかわす。
しかし俺はそれを読み、剣先を横に追尾させた。

それをラルフは木剣で受け流す。

再び俺が切り付ける。
ラルフが受け流す。

十合、二十合とそれを繰り返す。しかし…

「!そこだっ!」

単調なリズムになった所を、肩透かしを食らう形になった。
向こうがリズムを変えて来たのだ。

リズムを乱され不格好に体制を崩した俺を、隙有り!と追撃してくるラルフ。

「ヤバッ!?」

俺は咄嗟に力を込めてラルフの剣を迎撃した。

その剣閃は加速して力を増し、ラルフの木剣を見事に弾いてしまう。

「つぅ〜〜!」

「あっぶね〜…て、大丈夫かラルフ!?」

ラルフは利き手を押さえてその場に蹲り、俺は冷や汗をかきながらラルフの様子を伺った。

「うん、大丈夫。あーあ、惜しかったなぁ……」

苦笑いしながらも、快活に答えるラルフを見て……俺は安堵のため息を洩らした。

「たく、また腕を上げやがったな?冷や冷やしたっつーの」

「でも、今日も一本取れなかったよ……悔しいなぁ」

「ふふふ……一年とは言え、俺の方が年上なんだ。負ける訳にはいかんぜ!」

実際は遥かに年上だけどな……だからこそ余計に負けられないつーの。
精神年齢が30超えた男が、四歳児に負けたら立つ瀬が無いでしょうがよ。

「よし!訓練はおしまい!!これからはスーパー遊びタイムだ!」

「……よくわからないけど、分かったよ!」

その後、日が暮れる迄修練をし、そして遊んだ。
だって俺らお子ちゃまだもの。
遊ぶのも大切よ?
俺も童心に返って遊び、時刻は夕方近くになった。

互いに別れを告げそれぞれの家路へ……。

ちなみに今回した遊びはインペリアル・ナイトごっこ。
俺が悪役を演じて、ラルフがナイト役。
ラルフが必死にナイト役を志願した。

まぁ、訓練の延長みたいな遊びだが……しかし、ラルフ……あんなに必死になって…大人びていてもやはり子供よのう……。
将来、この話をネタにからかってやろうっと♪

――アイツは、もうゲヴェルに操られない…俺が近場に居る限り、俺のグローシュ波動が弱らない限り。

だが、それだけじゃ駄目だ……アイツを――俺のダチを何とか助けてやりたい。

けど――その為には……。

「パワーストーン…かぁ」

正確に言えばパワーストーンとその制御装置か……。

前途多難だなオイ……。

※※※※※※※

二人が子供らしくない感じですが、英才教育受けてるからということで、どうか一つ(--;)




[7317] 第3話―ラーニングとその代償―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/11/20 13:11
あれから十年……俺15歳、ラルフ14歳。

何?時間経ち過ぎ?

そう言われてもなぁ……特筆すべきことなんて、数えるくらいしか無い訳で。

武術の訓練、魔法の訓練、魔法理論の研究、指揮能力や策――軍隊運用のイロハ、教養や勉学を学ぶ。

勿論、ラルフを筆頭に友達連中と遊んだりもした。
まぁ、何が気に入らないのか……社交界で同年代の貴族のお坊ちゃんに絡まれたりもしたが――そこはリーマン時代に培った伝家の宝刀、スルースキルを炸裂させたりしたから無問題だ。

後は……母上との熾烈を極めた攻防戦……だろうか。


……未だに、母上は俺と風呂に入ろうと画策しやがる。

三十路も越えているというのに、まだまだ若々しく美人で童顔……しかもスタイルに衰え無し。

幾ら血の繋がりがあるとは言え、そんな美女が同じ風呂に入ろうとしたならば――冷静で居られる自信が無い。

――俺も、ポークピッ○からガメラに進化しているんですから……母上、自重してください。

いや、マジで。

――あ、そう言えば……父上がインペリアル・ナイツを辞めた。

まだ40代で、俺から見ても現役ビンビンだと思うのだが、後のことは後任に任せるとのこと。

因みにダグラス卿は、父上が辞める更に前に辞めている。

後任のナイツは三人。

優しげな微笑を浮かべる大鎌使い、オスカー・リーヴス。

一見すると優男だが、その実力はナイツになっただけはある――と、言える見事な物だ。

あの細身で、自身の身長より長大な大鎌を易々と振るう様は、それを可能とするだけの膂力が彼の身に秘められていることを意味する。

白い短髪に切れ長の紅眼…双長剣使い、アーネスト・ライエル。

威圧感たっぷりのその風貌通り――かなりの実力者で、件のオスカー・リーヴスより一段上の力を持つ。

元来、二刀流ってのは片方を攻めに、片方を守りに――ってのがある種のセオリーなんだが――彼にはそれが当て嵌まらない。

苛烈な迄の『攻め』の剣技――まるで嵐の様なソレは、敵対する者を容赦無く切り裂く――。

無論、守りの剣技が使えないのかと聞かれたら――そんなことは無いワケで。

そして……歴代最年少でナイツ入りし、その実力から大陸最強と謳われる。

インペリアルナイトの中のインペリアルナイト――ナイツを統率するインペリアルナイツマスターの任を授かった少年……それがバーンシュタイン王国王子、リシャール殿下である。

父上が保持していた最年少ナイツの記録を破った少年。

王家に連なる者ではあるが、ナイツが親の七光りでなれる様な甘い物では無いことは――国中の誰もが知る、周知の事実。

リシャール殿下の力は、達人の域に居る他二人と比べても――別格だと言って良い。

父上も剣を合わせたことがあるらしい。
善戦は出来たが歯が立たなかったそうだ。

まぁ、当然だな。

彼はゲヴェルが作り出した複製人間であり――尚且つ、色々な魔改造を施されているらしいからな。

原作でボスヒゲが言っていたことだ。


前述した様に、おおよそチートの塊の様なリシャールだが――。
仮に正面からぶつかり合ったとしても――俺なら打倒する自信がある。

と言うのも、それには幾つかの理由がある。

まず、俺が皆既日食のグローシアン(しかも、何故か覚醒ルイセやヒゲよりチートっぽい)であること。

恐らく、その気になれば――実力の半分も出させずに完封することが出来ると思う。

それが無くとも、身体能力的に差が有り過ぎる。

正真正銘の魔改造キャラ相手に、ソレを圧倒することが出来る自身の肉体のチートさに、全俺が咽び泣いた。

いや、咽び泣いたのは冗談だが。

技術面でも牽けを取らないしな?

あ、技術面で思い出したが――もう一つ大事件があったっけ。

俺がほんの少しだけ、調子に乗っているのも――このことが原因なんだけど。

俺の素敵過ぎる程の魔法、武術関連の才能の無さ――コレについて、理由が判明しました。

原因は、俺の固有スキルとも言うべき能力の副産物でした。


話は変わりますが――皆さん【ラーニング】って知ってます?

某最終幻想に出てくる青魔導師のスキルです。
敵の技を食らうとその技を覚えるという。



これが俺の固有スキルです。



いや正確にはそれを拡大解釈したようなスキルと言うか……。

俺の場合は相手の魔法を受ければその魔法を覚えます。
その魔力構成から発動式、発動理論、魔力消費量から弱点、改善点まで……事細かに。

武術系統に関しては体捌きからその流派の、或いはその人物の基礎技術、技、拳筋、剣閃、奥義……更には欠点や改良点まで――全てを己の技巧として体得出来る。

もっとも、奥義――技――に関しては魔法同様、個々に食らわなければならないという変な縛りがあるが……おそらく『必殺技』も同様と思われる。

ただ、その必殺技に必要なスキルをラーニングしていた場合はその限りでは無く、そのスキルを構築して必殺技を編み出すことも可能だ。

また、一度覚えた技や魔法を強化したり効果を付随することが可能になったり……というオマケが付いている。

要約すると――【技や魔法を食らいまくれば自分の物に出来るぜスキル!アレンジも出来るよ♪】

……そのまんまやんかorz

しかも知識や経験として蓄えられる為、体得したスキルは他者に指導することも可能。

何たるチートスキル……しかし幾つか制限がある様だ。

まず、アイテムなどに付加されてる効果は体得不可能。

例えるなら回復魔法【キュア】は受けたら覚えることは出来るが、回復薬を使っても回復薬の効果は体得出来ないということ。

型月運命で例えるなら、コジコジの燕返しやキャス子さんの魔術なんかは覚えられるけど、金ぴかの宝具の雨なんかを食らっても宝具の効果は覚えられない。

蒼い光の御子の槍技は体得出来ても、槍自体の効果は体得出来ない――みたいな。

紅い弓兵のあれは……どうだろう?
ん〜……正直、分からんな。

一応あれは宝具自体では無く、投影で生み出した魔術だからな……理論上は不可能じゃない筈なんだが……。

まぁ、アレは魔術とは言っても――言わば彼の心象風景の産物なワケだから、仮にラーニング出来たとしても俺には使えないのだろうが。

もう一つは――当たり前だけど……その攻撃で死んだら駄目。
試したことは無いけど、瀕死くらいならオッケーか?

――俺がこの能力に気が付いたのは、父上との稽古の時だった。

俺は、父上の身体能力に合わせて稽古をしていた。

ぶっちゃけ、身体能力自体は少年期の頃――既にに父上を上回っていた。

故に、加減しなければ技量の向上には繋がらなかった。

こう言っちゃなんだが、身体能力はともかく技量に関しては足元にも及ばなかったしな……俺。

それはともかく――あの時は木剣で打ち合い、俺に父上の剣が当たり、文字通り弾き飛ばされた。

その時だった――何故か、頭の中でパズルのピースが嵌まった…そんな感じがした。

俺は再び立ち上がり、父上に切り掛かる。

――今度は、父上が弾き飛ばされた。

その後は数十合と剣を交えた。

父上は驚いていた様だが、最後には『奥義』を放ち――それを喰らった俺は気を失ってしまった。

身体能力を父上に合わせていなければ、気絶なんかしなかったんだが……。
とか、負け惜しみ的な感情を抱いたのも、今は良い思い出だな。

――次に眼を冷ますと、俺は自室のベッドの上で――ふと、今まで散々練習しても使えなかった――『魔法』が使える様になっていたことを理解した。

近くで看病をしてくれていた母上に尋ねると、母上がヒーリングを掛けてくれたらしい。
ありがとうございます、母上。

……何故か、父上は床の上に正座させられていた。
こういう時は「父上乙」とでも言うべきかな?

普段はめがっさラブラブなんだけどなぁ、この二人…。


その後、俺はふと違和感を感じる。

何と言うか、頭の中に先程喰らった奥義、父上の技の全て――それらの欠点や改善点などが鮮明に浮かんで来たからだ。

魔法も似た様な物で、母上から掛けてもらったヒーリングのみだがその全てを理解していた。

使える、覚えたという確信めいた感覚はあったが――。

正直、半信半疑なのも否めず――故に、それらを試してみたくなった俺はいつも修練を積む森に向かった。

そして剣を振るう――鬼の様な訓練を積んでも振るえなかった父上の鋭い剣閃……それを、いとも簡単に自分の物にしてしまっていた。

ヒーリングも使ってみる……これまたアッサリと使えてしまう。

しかも模倣した訳では無く、完全に己の技巧として取り込んでしまえていたのだ……。


そんなことがあって今に至る訳だが……実は今現在、俺は王都に居るワケではなく――武者修業の旅をしております。


ある時、父上との模擬戦にて勝利した時の話しだが。

********

「士官学校…ですか?」

父上に書斎に呼び出され、告げられた。

士官学校に入らないか……と。
士官学校と言うと、原作でリシャールやライエル、リーヴス達が通っていたエリート騎士養成所――みたいな所だった筈。

確か、2のウェインやマクシミリアン等もそこに通っていた筈だ。

「そうだ…お前のその剣技、既に私を超えている。身体は勿論、心も決して弱くは無かろう?シオン、お前ならインペリアルナイトにもなれるだろう。私が保証する」

――等と言われた。

正直迷った……の、だが。

「それほどの評価を戴くのはありがたいのですが…私には、まだそこまでの力はありませんよ」

申し訳無いが辞退させてもらった。

まずは各国を周り、修練を兼ねながらも世界を知る為、見聞の旅に出たい。

みたいなことを言って煙に撒いた。

見聞を広めたいのもあるし、修練を積むのも本当だが……何よりこの旅は自分自身の…引いてはラルフやリシャールの為でもある。

アイツらを救うには、パワーストーンは絶対不可欠……。

この世界にあるのは、ベルガーさんが時空を超えて持ってきた一つだけ……しかも、今それはシエラさんの墓の中。

カーマインの代わりにラルフを連れていけば、シエラさんの幽霊が墓から出て来てくれて、パワーストーンをくれるかも知れん……と、一時は考えていたんだが―――この案は却下。

だって、んなことしたらカーマイン達が死亡フラグ乱立だし。

正味な話、パワーストーンの力が無ければ――カーマイン達は生きていられなかったと思う……。

流石にそれは寝覚めが悪い。

ならばと、パワーストーン精製装置に頼ることも考えたが、そもそも装置自体が行方不明。

何より、例えパワーストーンを精製出来たとしても、精製装置を使えばかなりの高確率で時空分裂が始まる。

時空分裂してもⅢに置いて、世界の異常は解決している筈なので、死にはしないのだろうが……それはかつての世界出身である『人間』と『フェザリアン』のみの場合だ。

――ゲヴェルという、両方の世界の合の子から生み出された複製人間である、カーマイン、ラルフ、リシャールがどうなるのかは――全く分からない。

なのでこの案もカット。
ぶっちゃけ、おっかな過ぎる……。

残る案は、主人公組と接触を計ること。

実はこれが1番の安全策で――極端な話、パワーストーンの代わりにカーマイン達の死亡フラグを叩き割れば、パワーストーンを使われずに済む――という考え。

とは言え、タイミングは重要だ。

『原作』の物語が始まるのは――大体、今から三年後の筈だが……俺というイレギュラーが居る以上、何がどう転んでもおかしくない。

まず、物語が始まる前に接触するのはマズイ。
怪しまれる可能性がある。

何しろカーマインは『世界を滅ぼす闇、世を救う光』などと言う――あまりにも極端な結果を占われ、その為に街からは一歩も出れないのだから。

まかり間違って、カーマインを闇に導く者と断ぜられたら……それこそ、最悪の未来しか浮かばんね――俺は。


……なんか、携帯電話のアプリでそんなのがあったような……。

―――まさか、『混ざって』ないだろうな?
それこそ最悪なんだが……。

――もしも、主人公組と接触するつもりならば、彼が旅に出た辺りからがベストだろう。

とは言え、原作には無い俺という存在が物語の本筋を捩曲げてしまう可能性は大いにある。

二次創作系は、オリ主の存在が物語の本筋を大きく捩曲げたりする。

考えてみたら当たり前なんだが――『原作』には居ない人間が絡んで、『原作』通りになるワケが無い――。

まぁ別段、俺は主人公とかじゃないんだが、ね。
あくまで例え話って奴だ――。

とまあ……そんな訳で、主人公組とのエンカウント率を上げる為――更なる強さを求める為、俺は旅に出た……!

「ふぅ〜……少し疲れたね。モンスターも結構な数が居たし」

「なら、今夜はこの辺りで野宿でもすっか?」

「ん〜…もう少し頑張るよ。グランシルも近いし、ね」


ラルフと共に。


えっ?拉致って来ましたが何か?


冗談です。
ちゃんと説得してますよ。

――ラルフ自身、見聞を広げる為にも旅にでたかったらしく、丁度よかったとか……使用人さんは『坊っちゃまぁぁぁっ――!!』と悲痛な台詞で泣いていたが。

目的地は今、言ったよな?
そう、『グランシル』だ。

「しかしお前……まーた腕を上げたな?商人という括りの中では最強じゃね?」

「僕なんてまだまださ…シオンの方が凄いじゃないか。グングン強くなって…まるで、一戦一戦――戦うごとに強くなってるみたいだよ」

いやいや、俺はそのチート能力でイロイロ取り込んでるだけですから。


基盤は父上の剣術だけどな?

いやぁ、流石は元インペリアルナイトだった父上。

剣術や体術も、中々パネェっす。

今でも、ライエル卿とは互角にやり合えるらしいからな……全盛期はどんだけ強かったのかと。

まぁ、確かに俺の身体はチートで出来ているから、力押しで圧倒出来ちまうけど……な。


むしろ、自力で『習得』している君の方が凄いとお兄さんは思う訳です。

――正直、少し羨ましいね。

とりあえず、商人という括りなら――グレンガルくらいだったら楽勝で倒せるんじゃねーかな?

「ここからなら……魔法学院を経由したほうが近いかな。……あぁ、コムスプリングスの温泉が恋しい」

「言うなよ……入りたくなっちゃうだろ……」

コムスプリングス――王侯貴族の避暑地として有名で、観光地としても有名であります。

日本で言うなら――軽井沢とか、そんな感じかね?

無論、俺やラルフも行ったことあるぞ?

「風呂か……そういえば最近入ってないなぁ」

野宿が続いたからなぁ……ファンタジーとは思えないくらい、この世界には色々なアイテムがあるが、ドラム缶とかは無いしなぁ……。
つか、微妙に臭わね?

「これは早急に風呂に入らなければなるまい……街に着いたら宿だな」

「そうだね…よし!もう一踏ん張りっと」

その後、俺達は先へと進む。

道中、現れたモンスターを蹴散らしながら……グランシルに向けて爆進っ!!!

粉砕っ!玉砕っ!!大喝采っ!!!

ワハハハハハハッ!!!


――いや、実際は普通に歩いて行ったけどね?

**********

しばらくして、眼前に街の出入口らしき場所が見えてくる。

「やっと着いたね……」

「先ずは宿だな。そして風呂だ!飯だ!!」

「賛成……流石に、もうクタクタだよ」

俺達はその足で宿に向かうが……ふと思う。

ここはグランシルだよな?

ということは、あの兄妹が居るんだよ、な……?

俺は出入口の門を抜けて――すぐ横にある一軒家を見る。
位置も大体ゲームの通り……む〜〜……。

「おーーいっ!何してるんだーいっ?」

先行していたラルフから声が掛かる。

「ああっ!今行く!!」

そう返事をして、俺はラルフの所まで駆けて行った。

まぁ……幾らグランシル在住とは言え、そう簡単にエンカウントはしないだろう。

そんなことを俺は考えていた……。

が、その後――そんな見通しが甘かったことに俺は気付く……敢えて言おう。

『世の中、こんな筈じゃなかったことばっかりだよっ!!』

……と。

※※※※※※※

修正してたら間違って消してしまった為に一から打ち直しました(T△T)



[7317] 第4話―O・NI・I・SA・N・暴・走―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/11/20 20:37

どうも――シオンです。

今、俺はグランシルの闘技場に居ます。
観客としてでは無く、一出場選手として――です。

それは良いのですが……俺の目的の一つでしたし。

……眼の前には大剣を構え、金色の手甲に白いプレートメイルを着込んだ男が――殺意すら篭った眼で俺を睨み付けて来て……おっかない……めがっさおっかないお兄さんと対峙しています。

「貴様にカレンは渡さんぞっ!!どうしてもと言うなら、俺を倒してからにするんだな!!」

何でこんなことに…………orz

ん?何でこんなに頭が痛たくなる状況になってるかと言うと……だ。

「知るかっつーの、この妹魂(シスコン)野郎め――っ」

これが今の俺の素直な気持ち……これで理解出来る……ワケもないよな?


これでは話が進まないので、何故こうなったか思い返してみよう。

あんまり、思い出したくは――無いんだけどな……。

※※※※※※※※※

宿に着いてから、それなりに疲れが溜まっていたのだろう――それぞれ、くたばる様に惰眠を貪った後……。

「ん〜!!……今日はいい天気だなぁ……絶好の商売日和だ!」

いやラルフ君?商売日和ってなんぞ?
まぁ、確かに天気は良いけどね。

「確かに天気は良いがな…さって、先ずは闘技場かな」

俺がグランシルを訪れた大きな理由として、闘技場での戦いが挙げられる。

俺のラーニング能力を有効活用する為には――戦う必要がある。
ラルフや父上などと訓練した結果、色々とラーニングをしたが、まだまだ覚える余地はある。

そんな訳で闘技場。

質はともかく量なら凄い。
何しろ、大陸中から猛者という名の暇人が集っているのだから。

まぁ、一攫千金を狙ったり、レアなアイテムを手に入れる為に参加する連中も、中には居るみたいだが。

というか、そう言うのが大半だろうな――。
俺の様に修行目的――なんてのはかなり珍しい――酔狂な部類に入るのだろう。

「うーん……僕は武具や、アイテムの仕入れ値の相場なんかを調べたいんだけれど……」

と、ラルフはおっしゃる。
いやね?このグランシル全体をグローシュ波動で覆うことは造作も無いので、別行動しても良いんだが……。

「仕方ねぇな……んじゃ、俺も付き合うぜ。それが終わったら闘技場な?」

念には念を…ってな?

「ありがとう……」

ラルフは眩しさ満開なナイス微笑みを俺に向けてくる。
止めて!そんな純粋な微笑みを俺に向けないで!!
溶けるっ!溶けてしまうぅぅっ!!


その後。

俺とラルフは店をあちこち梯子した。
商品の相場、質、流通ルート、etc……。

そんな中で街の郊外に薬草が生えてる場所があるという話を聞いた。

ラルフは、その薬草の群生地を見たかったらしいので――当然の様に俺も同行した。

薬草……街の郊外……橋……まさか、な?

確かに、『原作』で彼女とカーマインが再会する場所ではあるが――。

原作開始まで、まだまだ時間があるし……そう容易く、エンカウントしたりはしないだろう?



そう考えながらその場所に向かう。

「きゃあっ!?」

……って、おいおいこの声は!?

「悲鳴っ!?」

「行くぞ!!」

絹を裂くような女性の悲鳴――俺とラルフは直ぐ様駆け出すっ!!

――俺が若干ラルフから先行する形となり――前方に人影を捕らえた。

長い綺麗なブロンドヘアと、コアラの耳の様に纏めた髪。
間違いなく彼女だ……ってぇ!?

モンスターに囲まれてるやんっ!?

「先に行くぞ!」

ラルフにそう告げ、背中の鞘から大剣を抜き放ち、この身を加速させる。


この身は風の壁を突き破り、一陣の疾風(かぜ)となる!

今にも、彼女に襲い掛かりそうなモンスター……リザードマンが眼前にまで迫った。

そいつを光速の一撃にて切り捨てる。

モンスターは、断末魔の悲鳴を上げる間もなく真っ二つとなる。

俺は、彼女を守る様に――彼女の矢面に立ち止まり、残ったモンスター達を睨み付ける。
それに怯んだのか、モンスター達の動きが止まる。

「大丈夫か?」

俺は背後に視線だけを向けて、そう尋ねた。


※※※※※※※※


今日、私は日課にもなっている薬草集めに出掛けた。

家を出る時に兄が……。

「また、薬草取りか?最近あの辺りも、モンスターが出る様になったからな。もうそろそろ控えた方が良いんじゃないか?」

そう、言ってきた。

「もう、兄さんったら……少し足りない薬草があるだけだから……直ぐに戻ってくるわよ」

心配をしてくれるのは嬉しいけれど、私も――もう17歳なんだから……子供扱いはしないで欲しいなぁ――。

そして、私は何時もの場所に向かう。

グランシルの南の出入口を通って行く――。

眼の前には橋がある……この橋を越えた先にモンスターは棲息している。

何故かは分からないけれど、橋を挟んだコチラ側には滅多にモンスターは現れない。

モンスターは人の匂いに敏感だと言うし、街の周辺は在中の警備兵の人が、定期的に見廻りをしてくれているから――当然なのかも。

だから、兄さんの忠告を聞いていたにも関わらず……『この場所は安全だ』――そう、私は考えていた。



「それじゃあ、早速採取しようかな」

少しでも遅くなったら、兄さんが心配するしね♪

「あ、この薬草……こんな所にも生えてたんだぁ……採取しとこう。これも丁度少なくなってきていたし」

私は薬草採取に没頭する。

兄さんの忠告は、次第に頭の隅に追いやられて行き……。

それから暫くして……。

「うん♪これくらい有れば良いかな♪」

私は収穫内容に満足し、荷物を纏める。
これだけ有れば、兄さんが怪我して帰って来ても――ちゃんと治してあげられる。

「少し時間掛かっちゃったなぁ……兄さん心配してるかしら……」

――心配しているだろう。

兄さんは、凄く私を大切にしてくれている。
私が唯一の家族で血の繋がった妹だから……。

「……妹、かぁ……」

兄さんは私をただの妹としてしか、見ていないんだろうなぁ……兄さん、鈍感だから……。

「……わかってるんだけどなぁ……」

この想いが――抱いてはいけない物だってことは……。

けれど、それでも……私は……。

――そんなことを、考えてたからだろうか?

「え……?」

ガサッ……。

草木が動いたかと思うと、そこから現れたのは二足歩行の蜥蜴男…リザードマン。

「!モ、モンスター!?」

そんな…!こっち側までモンスターが来てるなんて…っ!!

私は一歩、後退る。

けれど、私は更にやって来た――他のモンスターに囲まれてしまう。

「あ……あ……っ」

私はまた更に、一歩後退る……。

けれど――。

「きゃあっ!?」

石に躓いた私は、その場に尻餅を着いてしまう……た、立たなきゃ……!

「痛っ!?」

右足から痛みが走る……今ので、くじいてしまったのだろうか……?

「GISYAAAAAAA!!!」

そこに一匹のリザードマンが襲い掛かってくる。


その剣を振り上げ、私を切り裂くつもりなのだろう……。

「い、や……だれ、か……」

(……嫌だ……誰か……助けて………兄さんっ!!!)

恐怖から、助けを呼ぶ声すら挙げられず――。

私は思わず眼を閉じる……最愛の兄に、助けを求め……。

ドサッ……。

……………?

いつまで待っても、私に降りかかる筈の、刃が届かない――それに、何かの音が……。

ゆっくり眼を見開くと――そこには、私を守る様に立つ男の人が居た……。


「…兄、さん…?」

一瞬、兄さんと見間違えた――でも、よく見ると違う……この人の鎧と武器――剣が、兄さんの使ってる物と似ているから、見間違えたのかな………?

その人は、兄さんと比べたら幾分背が小さい……けど、何故か凄く大きく見えた――。

兄さんより、筋肉質な身体をしていない……けど、細身なだけで筋肉はしっかり付いてるみたいで……。

それに……輝く様に綺麗な、銀色の髪……澄んだ蒼い瞳……何と言うか……凄く、綺麗な人……。

「大丈夫か?」

眼の前の男の人が、気遣うように尋ねて来た。

「は、ハイ!大丈夫です!」

その男の人に見取れていた私は、慌てて返事を返してしまった……う〜……なんか恥ずかしい……。

※※※※※※※※

Side:シオン

なんだ?顔が赤いぞカレンさん?

なんつーか……イイな。

艶の中に愛らしさがあると言うか……まだ、原作よりも可愛らしさが強い感じか?

今が、原作開始より三年前だから……カレンさんは17か。

なら、無理も無いか?

つか、カレンさんで――良いんだよな?

「――っと、今は先ず……オイお前ら……尻尾巻いて逃げるなら――見逃してやるぜ?」

更に殺気をぶつける。

その殺気を受け、モンスター達は震えている……。

野性に生きる者だからこそ、彼我の実力差を理解出来るのだろうか?

蜘蛛の子を散らす様に逃げ出すのに、さして時間は掛からなかった。

「おーーいっ!!」

そこにラルフが駆け付けてくる。

「遅いぜラルフ」

「シオンが早過ぎるんだよ……いや、僕が遅過ぎるのか……」

肩で息をしながら、何故か――自身の力の無さを軽く嘆いているラルフを見て、『相変わらず生真面目な奴だなぁ……』と苦笑しつつ――。

俺は剣を鞘に納め、カレンさんに手を差し出す。

「怪我は無いかい?」

「あの……貴方達は?」

俺の手を掴むかどうか、迷っているのか……手を差し出しかけながらも、困惑した表情で尋ねてくる。

俺は一回手を引っ込める。

先ずは自己紹介が先、かな?

「あ〜、自己紹介がまだだったっけな。俺はシオン。旅の剣士……と言った所かな?」

「僕はラルフ、旅の商人です」

「私はカレンと言います……危ない所を助けて戴いて、ありがとうございます」

ぺこりとカレンさんは頭を下げる。
実に礼儀正しい。

「いやいや、たまたま通り掛かっただけだし……無事で何より何より♪」

「僕は何もしていないんですけどね」

俺はカラカラと笑い、ラルフは苦笑いだ。

「それで……カレンさん?立てるかな?」

俺は再び手を差し出す。
カレンさんは赤くなりながらも、今度は俺の手を掴んでくれた。

「はい、ありがとうございま……痛っ!?」

カレンさんは立ち上がろうとしたが、再びうずくまってしまう。

……足を怪我しているのか?

「ちょいと失礼」

「あっ……」

屈んでカレンさんの足を取り、様子を見る。

足首が腫れてる……これは捻挫か?

歩くのは辛いのかもしれないな……。

「よし……ハイ、どうぞ」

「えっ…あの…」

俺は、カレンさんに背を向けて屈む。

「ほら乗って。家までおぶっていくから」

「えっ!え〜〜〜〜〜っ!?」

カレンさんは、真っ赤になって悲鳴じみた声を上げる……って何故?

いきなりプリンセス抱っこした訳でも無し……いや、やるつもりは無いけどな――プリンセス抱っこ。

あんなのは、カリスマBランク以上の特権です。

俺みたいな奴には無縁の産物です。

もしやったら、セクハラでタイーホされてしまう。

……どうでも良いが、はわはわしてるカレンさん、可愛いな。

「歩くの辛いんだろ?こうして出会ったのも何かの縁だ。頼ってくれると嬉しいんだが――」

そう言ってカレンさんを促す……やっぱり会ったばかりの奴を頼るなんて、無理かな?

とか思ってたら、怖ず怖ずと手を伸ばして来てくれた。

それは、俺を頼ってくれたってことで――素直に嬉しい。

「よしっ!それじゃあ案内してくれ」

「は……ハイ」

カレンさんを背負って立ち上がる……女の子特有の甘い香りが鼻を擽る――。

良い匂いだなぁ……って!違う!!

鎧を着けてたから、カレンさんのふくよかな胸の感触を味わえ無かったのが良かったやら残念やら……。

――いかんいかん!煩悩退散!煩悩退散!喝っ!かぁぁつっ!!

「んじゃ、行こうぜラルフ」

「分かったよ」

流石に怪我人を抱えながら、薬草の群生地を見ると言うのは常識的にアレなので、カレンさんを自宅に送り届けることにした。


(そういや……回復魔法を使えば良かったんとちゃうけ?)


最近、使わなかったしなぁ……てか、このタイミングでそれを思い出すとかどんだけ〜……。

俺はこの時……自分が回復魔法を使えることを失念していたことに――激しく後悔した……。

と言うか、ラルフも確か回復魔法が使えた筈だし、回復薬も常備している。

カレンさんもこの段階でキュアが使えた筈――か、どうかは分からんな。

確かにキュアは、カレンさんの初期習得魔法だが――アレは今から三年後の話だしな。

もしかしたら、カレンさんはまだ魔法が使えないのかも知れない。

――まぁ、カレンさんは何故かテンパっていたので、どちらにしろ気付かなかっただろうから、仕方がないけど――我ながら何と言う迂闊……。

キュアなり、ヒーリングなりを掛けて、カレンさんに歩いて貰えば良かったのだ。

そうすれば……。

「カレェェェンッ!!大丈夫かっ!!」

こんなことにはならなかったのに……。

「あ」

「?」

「…………」

「…に、兄さん?」

上から俺、ラルフ、ゼノっさんと思われる男性、カレンさんとなっております。


「……え〜っとぉ……」

何か、ヤバイ感じがするなぁ〜……確かゼノスってかなりのシスコンだったような……でも、話せば分かってくれる様な人だった筈……だよな?

「――兄さん?この人、カレンさんの「貴様ァアアアアッ!!カレンをどうするつもりだぁぁぁぁぁ!!!」――あっるぇぇぇぇぇ!?」

ちょっ待っ……って!!
この人剣を抜きましたよ!?

超弩級の弩シスコン――『妹魂』ですか!?

アンタは二次創作使用の高町家長男かっ!?

――二次創作の某白い魔王のお兄さんは、よく妹魂扱いされるが――実際はそこまで重度では無い。

って、現実逃避している場合じゃねーか……。

「待って兄さん!!この人達は私を助けてくれたの!!」

「な、何?」

カレンさんが説明をしてくれる。
薬草採取中にモンスターの群れに襲われたこと……。

あわやの所で俺が駆け付けたこと。

足をくじいて歩けないこと等。

「そ、そうだったのか…すまない、俺の早合点だった……危うく妹の命の恩人に切り掛かっちまうとこだった……」

剣を収め、俺達に頭を下げて来たゼノっさん。

やれやれ……穏便に済んで何より。

俺達はその後、ゼノスさんの家に招待された。

ゼノスさんが言うには……。

「妹の恩人をただで返す訳には行かないぜ。っていうか、勘違いして切り掛かっちまっうとこだったしな……借りを作りっぱなしってのは性にあわねーんだ。少しは返させてくれ」

ということだそうだ。

ゼノっさん……なんて義理堅いんだよアンタ。
これがゼノスの良いところなんだろうな……まぁ、その義理堅さに付け込まれて、シャドーナイツに引き込まれるんだから…皮肉と言えば皮肉だよな……。

あ、ちなみにカレンさんには回復魔法を掛けてあげましたよ。

何時までも、俺におぶられてるのは良い気分はしないだろうし、何より俺の煩悩が刺激されて大変よろしくない。

煩悩全開しても、どこぞの煩悩少年みたいにパゥワァは上がりませんよ、俺は。

念の為に、ヒーリングを掛けてから立たせてあげました。
一瞬、カレンさんが残念そうな顔をした様な気がしたが……ま、気のせいだろ。


そんなこんなで、ゼノスさん宅に上がらせて戴きました。

間取りなんかもしっかりした作りです。

ゲームには無かったんですが、ゼノスさんの部屋とかもあるらしいです。

そりゃあそうだよなぁ……幾ら傭兵とかを生業にしてるっつっても、実家に部屋くらいあるわな。

でなきゃあ、妹と同衾とかになっちまう……。
背徳の香りがプンプンします。

まぁ、実際には血の繋がりは無いんだし有り……なのか?

あのフォルスマイヤー兄妹も部屋は別々だし。

で、俺達は今――テーブルに座っております。

お茶なんか出されたりしてます。
お紅茶でございます。

「自己紹介が遅れたな…俺はゼノス。ゼノス・ラングレーだ。傭兵をやってる。んで、もう知ってると思うがこっちが妹の……」

「カレン・ラングレーです。改めて、先程はありがとうございました」

カレンさんが深々と頭を下げてくる。

「いやいや、頭を上げてくださいなカレンさん。あ、俺はシオンです。旅の剣士とでも言えば良いのかな?」

「僕はラルフと言います。旅の商人…いえ、商人見習いです」

俺達はそう自己紹介する。
ちなみに俺達が互いのファミリーネームを名乗らない理由は、有り体に言えば有名過ぎるからだ。

インペリアルナイトを父に持つ俺は言うに及ばず、ラルフの家――ハウエル家のネームバリューは凄まじい。

大陸一の豪商、その名は大陸全土に轟いているらしい。
原作でもウォレスがそんなことを言っていたからな……間違い無いだろう。

「へー…剣士に商人か…変わった組み合わせだが、二人ともかなりの腕前みたいだな?闘技大会…は今の時期じゃないな」

年に一回行われる闘技大会……しかし今は時期が違う。
つーか一目見ただけで実力の片鱗を掴むとか、この人も大概だな……俺は大幅に力を抑えてるけど。

「フリーの部門があるだろう?そっちに出るつもりさ」

一対一で、三戦三勝したら勝ち上がり――次のランクに上がるというシステム。

ちなみに殺しはご法度……事故という場合はあるが基本、故意の殺害は反則負け。

また、出場登録者以外にも闘技場側が魔物なども用意しており、出場選手扱いで出てくる。
この魔物も殺すのはご法度。


「僕は付き添いみたいな物です……仮に出場しても、彼と鉢合わせたら目も当てらませんから」

コラコラ、そんな大袈裟に言うんじゃない。
コレでも、ちゃんと加減してるんだから。

「そんなに強いのか?それは一度手合わせしてみたいもんだな……と、そうだ!まだ、飯食ってないだろ?良かったら食っていけよ」

貴方そんなにバトルマニアでしたっけ?
って飯だとぅ!!?
これはつまり……。

「よろしいんですか?」

「あぁ構わねぇぜ?てか、実は最初からそのつもりだったしな」

ゼノスの手料理フラグキタコレッ!!

つまりそうなると……。

「そんじゃ待っててくれ!今、美味いのを作るからな?」

ゼノスは張り切りながら台所があると思われる場所に向かっていった。

「あ、あの…カレンさん?」

「?何でしょうか、ラルフさん」

「料理を作るのは……もしかしてゼノスさん……なんでしょうか?」

やっぱりそうだよなぁ…普通は『逆だろ!?』とか思うよな?

だがなラルフ君。

これくらいで驚いてたら、多分……身が持たないぜ?

「ええ♪兄は凄く料理が上手なんですよ♪」

「そ、そうですか」

「それはそれは、楽しみですな♪期待しながら待ちますかね」

ラルフは少し引き攣った笑みを浮かべ、俺は期待しながら待った……出オチ的な意味でも。

その後、しばらく俺達は談話しながら時を過ごした……なんかカレンさんがチラチラこちらを見てくるが、もしやラルフに父親の面影でも感じ取ったか?

心なしか俺の方を見てる様な気もしたが……この銀髪が珍しいのかも知れんな。


そうこうしてる内に――遂に、奴がやってきた。

「よう!待たせたな!!」

「ぶっふぅぅうぅぅぇえぅっ!!!??」

あ、吹いた。

紅茶を飲んでる時なら、非常に(ネタ的な意味で)美味しかったのに……残念だったなラルフ君。

そういう俺も直視が出来ない。
チラッと見たがこれはかなり……。

鎧と手甲を外してエプロンを着けているゼノス。
一見普通の姿に思えるかも知れないが……このエプロンが、かなりのクセモノだ。

「せっかく客人が来てるからな!今回は少し奮発しちまったぜ!」

ラルフの異変に気付かずに、最終兵器(リーサルウェポン)は何かを言っている。

――エプロンの説明に戻るが――メイドさんが着けてるエプロンがあるだろう?

ひらひらした白い奴……カレンさんも着けてるんだけどさ。

ぶっちゃけ、カレンさんのエプロンとデザイン同じです。

それだけなら未だしも…その全身像がまた…。
防具を外しただけなので、腕のタイツ状にピチィッとしたモノが張り付いて筋肉を強調しまくっている……トドメにその顔だ。


目茶苦茶笑顔なのだ。


原作でも見れない位――ニッコニコなのだ。

「ゼ……ゼノス、さん……その格好は……」

俺は敢えて尋ねた。
自爆覚悟で。

「ん?これか?カレンが作ってくれたんだ。可愛いだろう?」

「ふぐっ!??」

ラルフは必死に笑うのを堪えている。
分かる、分かるぞラルフ……俺もやばかった……原作をプレイして、オチを知っていなければ……堪えられなかっただ――。

「うん♪やっぱり兄さんにピッタリ♪凄く可愛いよ♪」

「ロボフッッ!!!!?」

ちょっ!?カレンさん!?
それは予想外だぜぇ!?
眼科っ、眼科医さんはいませんかぁっ!!?


「そうか♪ありがとうなカレン」

ゼノっさん…そ、そこで頬を赤くしないで……満面の笑顔であ、あ赤くならんといて〜……っ!

もう止めてぇ〜っ!俺のLPはとっくに0よぉぉぉっ!!?


ラルフを見ると、顔全体を真っ赤にしながら必死に堪えている。

ふと、ラルフと視線が合う。

(もう……俺、ゴールしても良いかな……良いよね……?)

(!?駄目だシオン!堪えるんだ…堪え…)

再び脳内でリフレイン。

アーンドリピート。

((ッッッッッ!!!!?))

その時に……俺達の心は一つになったのだろう……。


俺達が落ち着く頃には、料理は全て並べられていた。

最後まで堪え切る――という偉業を成し遂げた俺達を褒めて欲しい。

流石……あのティピに兵器と言わしめた男……強敵だったぜ。

因みに、料理は大変美味しく戴きました。
ウチのお抱えのコックにも負けてないんじゃないか?

食後のお茶を戴きながら談話する。

「いや〜美味かったよ、ご馳走様でした」

「本当に美味しかったです。ご馳走様でした」

「そう言って貰えたら、作った甲斐があったってもんだぜ」

満足気に頷くゼノス。
いや本当に美味かった…しかし逆に悪い気もしてくる。

確か、ゼノス達は金銭的に裕福では無かった筈……だからこそゼノスは傭兵をして稼いでるんだからな。

「そうだ、御礼に二人のことを占ってやろうか?」

「?占いですか?」

「ああ、俺の占いはよく当たるって地元では有名なんだよ。な、ラルフ?」

俺はラルフにアイコンタクトを取る。
どうでも良いが俺は早速タメ口を使っている……さっきの談話中に許可は貰った。

堅苦しいのは好かんのよ。

礼儀は守るけどね。

「ええ、僕も占って貰ったことがあるのですが…お陰で助かったことがあります」

そう話しを合わせてくれる。

とは言え、全くの嘘では無い。

実際、ラルフを占ったことはある……つっても占いなんか俺には出来ない。

俺が教えたのは――ズバリ『原作知識』だ。

多少細部をぼかしてだけどな。

それに、幾らなんでも有名という程じゃない。

てか、今までに占いをしたのって、ラルフだけだし。

「俺は占いなんて信じる質じゃないんだがなぁ…」

「良いじゃない兄さん。せっかくだから占って貰いましょうよ」

「カレン?まぁ、カレンがそう言うなら……」

おぉ?カレンさんが押し勝った?

「じゃあまずゼノスから」

「それは良いんだが、俺はどうすれば良いんだ?」

「そのまま普通にしてくれてれば良いさ」

ゼノスの顔の前に手を翳す……変に凝っても胡散臭いだけだからなぁ……適当に適当に。

「よし、オッケー♪」

「もう良いのか?」

「おう。んじゃ結果を言うぜ?見えたのは未来だ」

「未来?」

「まぁ、その可能性だな…良いか?『汝、世界を救う光なり…光は…金と銀を携えし光に出会う…やがて光はぶつかり合う……されど汝、光を疑うことなかれ、影は常に汝を狙っている……光を否定せしは影の道……影の謀略はやがて、汝の光のカケラと共に――汝を影へ飲み込むであろう』」

「は?何だそりゃあ?俺が世界を救う光?影が狙っているって何だ?」

「さて、所詮は占い。信じる信じないは自由さね…ただ、頭の隅には入れといた方が良いぜ?」

これで、少しでも未来が変わるなら良いが……無理だろうな。
ゼノっさん、占い信じる感じじゃないし。

「よく分からんが…とりあえず頭に入れとくわ。んじゃ、俺は食器洗ってくるぜ」

そう言って台所に向かって行った。
やっぱり信じてないか……当たり前だな、胡散臭過ぎだもんなぁ……。

「んじゃ、次はカレンだな」

「よろしくお願いします」

気を取り直して、先ずはゼノスの時と同じく雰囲気作り。

さて、どんなことを言ってやろうかなぁ……ベルガーさんのことは……今は置いておくか?

17の少女が知るには、ヘビー過ぎる。
やっぱりシャドーナイト関連かな?

後は……。

「よし、見えたぞ?『――汝は身近き光と共に運命の光と出会う……もし、運命に導かれたのならば、運命から離れぬ様…影は汝を狙ってる…影は汝を闇に捕らえん…さすれば、身近き光は影に堕ちるだろう…そうなれば全ては運命の光に委ねられる…運命を信じよ…それが汝を救う道であり、汝を祝福する道である――』……こんな所かな?」

「影……それって兄さんの占いにも出てきた……それに運命の光って……」

「さて?所詮は占い。関連があるかは分からないさ。でも――運命ってのは案外、生涯の運命の人かもね?」

「しょ、生涯の運命の人…ですか」

いやいや、出来れば影云々も気にして欲しいんだけど……いや、場を和ます冗談として、運命の人なんて言ったのは俺だけどさ。

……カレンさん?
何故赤くなりながらコッチを見るのかな?

そこはせめてラルフじゃね?

というか、そんなに見られたら……幾ら俺でも勘違いしてしまいそうになるんだけど?

確かファザコン&ブラコンだったよねカレンさん……うん、勘違い勘違い。

「………」

「………」

な……何だこの空気は……めがっさドキドキするんだけどさ!?

「なぁ、久々にデザートなんか作ってみたんだ…が……」

「あ……ゼノスさん……」

※※※※※※※※※

ここで、冒頭に戻る訳だ……ここまで説明すればオチが読めるよな?

ゼノスは何を勘違いしたのか大暴走。
デザートのシフォンケーキ(お手製)を投げ付けてきやがった。

勿論、そのケーキアタックは避けた――かったのだが、その延長線上にカレンが居た為――俺は甘んじて顔面にケーキアタックを受けた。

俺は、何とか場を修めようとしたのだが――余計に酷くなる有様で……ラルフも手伝ってくれたんだが……。

カレンも必死に、誤解だと説明してくれた……べ、別に悲しくなんかないんだからねっ!?

しかし、ゼノスは聞く耳を持たない。

俺も、つい売り言葉買い言葉になり……こうして闘技場でやり合う嵌めになった。

本当、こんな筈じゃなかったのに……。

ちなみに顔面に喰らったケーキは、実に美味かったことを明記しておく。

「行くぜ!!」

「来い!」

こうして、勘違いから始まってしまった戦いのゴングは――鳴り響いてしまったのだった……。




[7317] 第5話―シオンVSゼノスin闘技場―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/11/29 18:56

さて――幸か不幸か、俺達は一回戦からぶつかった。

こんな衆人監視の中で、かなり緊張してはいるが……俺としても、ゼノスの実力を知りたかったので、正直な話『渡りに船』って奴だ。

「でやあああぁぁぁぁ!!!」

「ハァッ!!」

鈍く、澄んだ金属音が響き渡る――。

重量級の一撃がぶつかり合い、周囲に衝撃が走る……成程、大した剛剣だ。

先ずは小手調べを――と思い、打ち合って見たが……中々どうして。

「セイヤァッ!!」

「ぐぅ!?」

俺は大剣を横薙ぎ――ゼノスを弾き飛ばした。
更にゼノスが体制を立て直す前に、袈裟掛けに切り掛かる。

――しかし、剣閃がゼノスを捉える瞬間――突然、ゼノスの身体が幾重にもぶれた。
まるで、分身しているかの様に――。

「なっ!?」

「おらっ!!!」

袈裟切りが手応えなく素通りし、武器を振り切って肩透かしを喰らった俺を、ゼノスが死角から切り上げる。

「くっ!」

それをスウェーで上体を反らし、避ける。

だが、それを読んでいたかの様に手首を返し、俺を追尾するように切り下げてきた。
それを読み、剣で受け流した……つもりだったが、その剣閃は俺を捉え――僅かだが、腕に傷を付けられた。

「くおっ!?」

更に、そこに蹴りが入り――蹴り飛ばされた俺は、無様にも壁に叩き付けられた。

――実力的には、俺の方が圧倒している筈だ。

しかし、こうも容易くあしらわれた――それは、純粋な経験の差から来る物だった。

気概、気迫、勘、機転――それ等、経験から来る物の絶対値が違う――。

そう、それは『分かっていた』ことだ――。

故に――。

※※※※※※

こんな物なのか……?

確かに、それなりには強いが――苦戦をする程じゃあない。

歓声に包まれ、周りからのゼノスコールの中、壁に叩き付けられたシオンをそんな思いで眺める。

地元だからってのもあるだろうが、俺はこの闘技場ではそれなりに顔が知られているからか、ファンって奴がそれなりに居たりする。

まぁ、傭兵の仕事が無い時は顔を出してる――常連だからな――っと、それは余談だな。



――あの時、初めこそカレンをたぶらかした奴として敵視しちまったが……冷静に頭を冷やせば別にアイツらがイチャついていた訳じゃないし、カレンにしろシオンにしろ誤解だとか言ってた気がする。

一方的に話しを聞かなかったのは、他でも無い俺な訳で……。

次の日には、完全に頭が冷えた。

てか、カレンに本気で怒られちまったし……。

後でラルフに聞いたら、確かに少し良い雰囲気だったらしいが、イチャつく様な激甘な雰囲気ではなかったらしい。

勢い余って決闘を挑んじまったが……悪ぃことしちまったと、今でも思っている。

俺はまた、妹の恩人に恩を仇で返すような真似をしちまった。

――じゃあ、何で決闘なんかをしてるのかと言うと……。


単純にシオンの力が知りたかった……というのもある。

初見でシオンとラルフを見た時、コイツらが相当腕の立つ連中だってのは直感的に理解できた。

少なくとも、俺と同格かそれ以上――。

――しかし、俺の見立てではシオンもラルフも、同程度の実力の持ち主であると予測していたのだが――。

そのラルフが、自身よりもシオンの実力が高いと評していた――。

予測を上回る実力――試してみたくなるのは当然――だろう?

――決闘を挑んだ側としては、引くに引けないというのもある。

……だが、何よりこれは――カレンの為だ。

冷静に考えた……考えた上で、気付いちまった。

――シオンの方はどうか知らないが、恐らくカレンは――シオンに好意を抱いている。

……自覚しているか、無自覚なのかは分からないが…。

カレンが危ない所を、直接助けたのはシオンだって話だし――カレンにとって、それは何よりも輝いて見えたのかも知れん――。


俺自身、アイツらと話したのはほんの少しでしか無いが、アイツらの人なりはそれなりに理解したつもりだ。

悪い奴らじゃない……寧ろ好感が持てる。

二人ともよく分からん魅力――こう言うのをカリスマってのか?そんな物を感じる。

だが、ソレとコレは別だ!

俺には、カレンを守る義務がある――故に、カレンを悲しませる様な奴にはカレンは任せられん!!

俺より弱い奴に、カレンを守れる訳が無い!

だが――もし仮に、仮にだが!

俺より『強い』なら、認めてやらんことは無いがな……。

まぁ、今鍔ぜり合った感じでは、到底俺には敵わな――。

「――そうか、今のが【分身】か――」

「ん?」

シオンが何かを呟いた――まだ戦えるってか?

面白ぇ!!そうこなくっちゃあなっ!!

「……成程、実戦に基づいた戦闘経験……そこから生まれる我流の戦技、か……『覚えた』ぜ――」

な、に……っ!?

直前――シオンの姿が、俺の視界から掻き消えたのは、正に一瞬の出来事だった――。

「ごあっっ!!??」

横から強烈な衝撃を受け、続いて側面に再び衝撃を受けた。


――気が付いたら、今度は俺が壁に叩き付けられていた。

喰らったのは――蹴り、か……?

全く、見えなかった……。

クソッタレ――味な真似してくれんじゃねぇかよっ!!

※※※※※※



さっきのお返しとばかりに、脇腹辺りを蹴り返してやった。

そうしたら、今度はゼノスが吹っ飛んで行った。

さっきまでは、敢えてゼノスの実力を計る為――ゼノスに身体能力を合わせていた。

そう、合わせていた筈だった……。

だが、実際はかすり傷とは言え一太刀与えられ、更に蹴りまで喰らわされた……。

身体能力を合わせる――等と言う慢心が、僅かなりとも油断を生んだ――それは事実だ。

だが、それ以上に――ソレは戦闘経験から生まれた差なんだ……。

あれが本物の戦士……父上達、騎士の誇りとはまた違う――生き残り、勝つ為の戦闘術……。

スゲェ――あれだけの力を、あの若さで、独力で身につけたのかよ……!?

正直、武者震いがした。

ゼノスの実力は、父上達――インペリアルナイトにこそ及ばないまでも、ソレに迫る物だ。

もし――もし、俺が【凌治】のままだったなら、ここまで到達しえただろうか……?


それは、分からない……試そうにも、今の俺は【シオン】だ……。

神懸かった――このチートな身体に、チートな能力……その代わり、独力で『習得』するのがほぼ不可能な身体……。

羨ましい、どうしようも無く羨ましい……。

父上も、ラルフも、ゼノスも……。

皆が皆、研鑽し、努力し――到達した。

騎士の誇りを守る為、真実武具を知る為、生き残る為――そこに至る迄の理由は違えど、その過程は輝いている――。

ソレは、俺には出せない輝きなのだろう……。

「立てよ……まだまだいけるんだろう?」

かつての俺では、届かなかったかもしれない……『英雄』とも呼べる男……。

「【全力】で来い……あるいは、この身に届くやも知れんぞ?」

とある運命の似非神父の台詞を吐く。

両手を広げ、挑発するような態度……。

周りの空気からも分かるが、超アウェー……闘技場内にはブーイングが響き渡り、いつ物が飛んで来てもおかしくない雰囲気――。

――良いさ。

ならば、俺は敢えて悪役になろう。

これは一種の暗示――【全力】は出せないが【本気】でやろう……。
羨望は胸に秘め、高揚感を前に出そう……【シオン】となった俺が、物語の英雄と戦える栄誉を賜ったのだ……ならばこそ、マジにならなきゃ漢(おとこ)じゃねぇ!!

「く、やるな……今までは本気じゃなかったって訳か……」

ゼノスが立ち上がり、獰猛な迄の笑みを浮かべながら立ち上がり、武器を構えた――先程までとは覇気が違う。

「なら、お望み通り……全力で相手をする迄だぜっ!!」

言うが早いか、勢いを乗せて踏み込んでくる。

踏み込む速度、体捌き、剣速……それらが全て、先程とはまるで別物。

「オラオラオラァァァァッ!!!」

ガァンッ!!ギャンッ!!ギィィィンッ!!

素早く、何より重い【連撃】を繰り出してくる。

――十合、二十合それと打ち合った。

その度に衝撃波が周囲に広がり、風が舞う。

やがてブーイングは止み、辺りには剣撃による金属音が幾度も響き渡る――。

ゼノスは両手持ちで、大剣を文字通りブン回す。
斬るだけでは無く、突きすらも繰り出し、そこに蹴りや――隙あらば体当たりを繰り出してくる。

正に、誇りもへったくれも無い――勝つ為の技術。

故に――強い。


しかし、俺はそれを既に【知ってしまった】……そう、欠点すらも……。

俺は同じ様な大剣を使いながらも、片手でそれを扱う。

なのに、パワーが違うからか……互角に競り合う。
――競り合えてしまう。

勝つ為のロジックも幾つか出来上がっている――身体能力全開を抜かすなら――例えば、魔法を織り交ぜれば楽に対処出来る。

他にも……。

ギィィィィィンッッ!!!
ギャリリリリリリ――!

「くっ……!!」

「それで全力か?」

こうして鍔ぜり合いに持ち込んだ時に、こちらから引いてやる――。

そうすると――。

「何ッ!?」

ゼノスはその体勢を崩す。

だが、体勢を崩しながらも、剣を横凪ぎに振るってきた――。
俺はそれを剣で受け流し、体勢が崩れている所へ――すれ違う様に膝蹴り。

重い、確かな手応えを膝に感じる。

「ぐ……はぁ……!?」

メキメキメキ………と、膝がめり込み、ゼノスの身体は若干くの字に曲がる。

すかさず、俺は空いてる左手でゼノスの襟首を掴み、引き倒すのと同時に足を払う。

「ヌオォォ!?」

強烈な衝突音と共に、地面に叩き付けられるゼノス。


その衝撃に一瞬、息が詰まった様になり――軽いブラックアウト状態に陥るゼノス。


その隙に、剣をゼノスの首に突き付けてやる……。

「…まだ、やるか?」

「……参、った――」

ゼノスが自身の負けを宣言した瞬間、俺に勝利の名乗りが挙げられ、会場は一気にヒートアップした。

さっきまでのブーイングも何処吹く風……ってな具合に沸き上がる歓声。

俺はそんな中で、溜め息を吐きながら剣を鞘に収めた。

「立てるか?」

俺はゼノスに手を差し出す。

「チッ……完敗、か。まぁ、これだけスパッと負けたら、案外スッキリするもんだ、な……っいつつ……」

俺の手を取って立ち上がると、ゼノスはその顔を歪め、脇腹を押さえる。

肋骨は折っていない筈だが……ヒビでも入ったか?

「……ヒーリング!!」

ゼノスを柔、らかな光の柱が包み込む。

すると、その光は見る見る内にゼノスに付いた傷を癒して行った。

「どうだ?楽になったか?」

「ああ、お陰で痛みも消えた。……にしてもお前、魔法まで使えるのかよ……」

「こう見えても、皆既日食のグローシアンだからな…ヒーリング位は使えるさ」

「皆既日食のグローシアンだぁ!?なんつーか……つくづく規格外な奴だな、グローシアンなのに剣士やってるなんて、初めて聞いたぞ俺は……」

「俺に言わせれば、グローシアンだからって魔法一辺倒なのはどうかと思うワケよ……と、そろそろ控室に戻ろうぜ?次の試合もあるしな」

「そういやそうだな……」

その後の残り試合に関しては……語る程の物は無い。

つーか、皆さん棄権されましたから。
どうやら俺とゼノッさんの試合を見て、肝っ玉縮んだみたいですね。

その後、賞品と賞金を受け取り……闘技場の入口に集合。

観戦していたラルフ、カレンとも合流した。
ラルフは心配はしてなかったと言ってくれた。

それだけ信頼してくれていたのだろう。

ありがたいこっちゃ。

カレンは……思いっ切り、心配していた。

ゼノスなんか、こんなところ(闘技場入口)で妹からお説教です。

「だいたい兄さんは…!!」

「勘弁してくれカレン……」

そんな様子を見ていた俺達は、(生温かい)微笑みをラングレー兄妹に向ける。

「兄弟か……良いね。僕は一人っ子だから羨ましいよ」

「案外、どこかに生き別れの兄弟とか居るかもよ?」

「ハハハ、まさかぁ」

いや、居るんだよ……お前の兄弟に当たる奴らなら沢山……まぁ、カーマインなんかもその一人だしな。

もし、カーマインと接触する時になったら――その辺の事実をでっちあげるかな?


うん、それも面白そうだ。


その後……。

「んじゃ、俺達は宿に戻るよ」

「そうか――お前ら、まだグランシルに居るんだろ?」

「ええ、暫くは滞在するつもりですよ。ねっ?」

「ああ、まだまだやることは残ってるしな」

闘技場フリー部門で、マスタークラスまで制覇しなきゃならん。

マスタークラスになれば、かなりの使い手が居るはず……そうなれば色々ラーニング出来そうだしな。

「そうか……俺は家を空ける時もあるけど、カレンはほとんど家に居る筈だから、良かったら暇な時に顔を出してやってくれないか?」

「に、兄さん!?」

おろ……これが昨日大暴走してた男か?

まるで、憑き物が取れたみたいに……もしかして、俺のことを認めてくれたのかな?


何か、嬉しい様な複雑な様な…。

戦士として認めて貰えたのは嬉しいけど……厳密に言えば、自分自身の力で認めて貰えた訳ではないからな……やっぱり複雑だぜ。

「ああ、そっちも暇な時は顔を出してくれよ?」

そんな気持ちをお首にも出さず、そう告げる。

「カレンも、薬草の採取位なら手伝えるからさ♪」

わざとらしい位に分かりやすく、ウインクをする。
元が良いから完璧とは言えなくても、そこそこ雰囲気を解すくらいは出来た筈だ……。

――某人生薔薇色ライダーズのヘッドみたいに超絶にウインクが下手では無い……と、思いたい。

「は、ハイ!その時は宜しくお願いしますね」

赤くなりながら、視線を逸らすカレンさん。

やべぇ……そんなに無様だったか?

やっぱり、慣れないことはするべきじゃないな……まさかと思うが――某人生薔薇色ライダーズのヘッド並にウインクがへ(ry

※※※※※※


シオンさんとラルフさんを見送った後、私と兄さんは家路に着きました。

さっきは少しびっくりしたなぁ……凄く大人びた雰囲気のシオンさんが、凄く綺麗な笑顔で……う、ウインクしてきて……。

何故か、胸の鼓動が強くなって、頬まで熱くなって……思わず視線を逸らしてしまった。
……変に思われなかったかなぁ……。

「良かったなカレン?少なくとも嫌われてる訳では無いみたいだぞ」

「兄さん!?もう!茶化さないでよ!兄さんが思ってる様なことは、何も無いんだからね?」

「とは言え、あれは相当鈍感だな。お前が視線逸らしたのを別の次元で勘違いしてるぞ、あれは……」

「だから違うってば……」

それに鈍感云々を兄さんが言わないで欲しい……私の気持ちにも、気付いてくれないんだから……これじゃあ、仮に兄妹じゃなくっても、永遠に片思いだったかも。

でも、シオンさん……かぁ……。

あの人を見ていると……心が掻き乱される。
まるで、初めて恋をしたかの様に……そんなこと、あるわけ無いのに――。

私の今の気持ちは……一体誰に向いてるんだろう…?

ゼノス兄さん?それとも――。

ふと、シオンさんの占いの時に言っていた――ある言葉を思い出した。

(運命の人…それは貴方ですか?それとも……)

運命という言葉――それが誰を指すのか――それはわからない。

けど――漠然と――。

この日、私の運命が変わったんだって――。

そんな――気がした――。

※※※※※※

後書き

キャラ崩壊が凄いことになってる…;




[7317] 第6話―主人公補正=朴念仁?―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/11/29 18:51


あのゼノスとの、小さな誤解によるバトルから暫く――俺達はこのグランシルに居を置いていた。


まぁ、ぶっちゃけ俺の我儘――闘技場で修行したいってのが理由――だったんだが……お陰様で、フリー部門のマスタークラスを制覇することが出来た。

因みに、ラルフもマスタークラス制覇者だったりする。

アイツ、メキメキと上達するんだもんなぁ……俺も幾らか指導したとは言え、今じゃあ単純な強さだけなら、現役インペリアルナイト三人組とタメを張るか――超えてるんじゃないか、と思う。


成長し、『習得』出来るってのは羨ましい限りだぜ……。

俺?俺もしっかりチートスキルを活用しましたよ?

お陰様で、グロランスキルは、ほぼ全てマスターすることが出来た。
覚えていないのは――テレポートと、一部補助魔法と――蘇生魔法のレイズくらいだと思うぞ?

――にしても、やっぱりマスタークラスは凄いな……インペリアルナイト並に強い奴らが、わんさか出て来るんだもんなぁ……。

原作では、正にキャラ絵がインペリアルナイツのまんまだったが、実際には違ったらしい。

少し考えれば当たり前だが……ナイツがこんな所に顔を出す程、暇な訳が無い。

休暇とかなら話は別だが……態々、貴重な休暇を闘技場で過ごす様な真似はしないだろう……まぁ、原作のジュリアンは例外だが。

――しかし、その強さはガチでした。

ラルフも、最初は敗戦したくらいだしな。

俺は――ストレート勝ちですよ?

まぁ、分かりやすく言うなら――レベルカンストした上でM2着けてる様な状態だからな――負けるワケが無い。


お陰で、様々な武器を扱える様になったさ。
その中でも特に気に入ってるのは――大剣と双長剣だな。

あ、双長剣ってのは、『ライエル式』の――長剣を二刀流する型のことを、俺が便宜上そう呼んでいるだけだから。

その後、何度か俺達はマスタークラスに顔を出し――最終的には荒らし回……席巻することになり、それに付随した賞金やアイテムのお陰で、かなり裕福にもなった。

装備も充実した……少なくとも、これは序盤の装備ではない。


闘技場――恐るべし。

とりあえず俺は二ヶ月、ラルフは半年で闘技場を制覇しました。

ラルフは闘技場に出たりしながら、商人としてのスキルにも磨きを掛けていった。

ハウエル家の名前を出さず、己の裁量のみを使って。

その手腕は見事なモノで、新たな流通ルートの構想や、商品の質の向上、いかに安く仕入れ利益を得るか、とか。

勉強熱心なのもそうだが、商人としてもかなりの才覚の持ち主だな――ラルフは。
まぁ、ハウエル家の英才教育の賜物でもあるのだろうが――。

それから、ラングレー家との関係も良好に進んだ。

ゼノスとは時々、一緒に訓練したり、料理を教わったりもした。

ただ、あのエプロンを着けるのは止めて下さい。
今でこそ慣れましたが、あれはワンキル決まる位の破壊力があるんですから。

しかし、あれだけ料理が上手いなら剣闘士なんかにならず、後にカーマインが貰う土地に店を出させて貰えば良いのに……流行るぞ。

だが、あの姿は見せては駄目だ……皆吹く。

笑いが原因か、吐き気が原因かの差はあるけど。

俺とラルフは前者、原作のティピは後者だったワケだな。


何故か、俺はゼノスに気に入られている……概ね仲は良好だ。

なんつーか、普段は冷静なんだが――所々で『アニキ』キャラなんだよなぁ……地が『アニキ』キャラなのか?

まぁ、精神年齢は俺の方が上だがな――シオンとして生きてる分も合わせたら……40代超えてるし。


カレンとの仲も良好……と、言って良いのだろうか?

よく、薬草取りに付き合ったりする。

護衛の為に……だぞ?

その際に、薬草学や調合術なんかも教えて貰った。

楽しそうに説明するカレンが――とても印象的だったな。

後は、買い出しに出掛けたりもした……荷物持ち的な意味で……だ。

何か凄く楽しそうで、幸せそうに微笑んでいたが……可愛いよなカレン……。

って!イカン!!俺がニコポされている!?

てか、勘違いだからな!!原作でファザブラコンなカレンさんがメロリンLOVE……とか無いからな!?

勘違いして、泣きを見るのは俺なんだからな……。

つーか、この時点ではゼノスにゾッコンの筈……。

――フラグか?

けど、フラグが立つんなら俺よかラルフだろ?
カーマインと同じ要素を持ってるんだからさぁ。

てか、ラルフよ…あからさまに気を使って二人きりにしようとするんじゃない!!

この御気遣いの紳士め!!


その後、ラルフも首根っこ引っつかんで連れていきました。
荷物持ちは多ければ多い程良いのだ!

――決して、二人きりだと気まずいからじゃないぞ!?

そして、大体のパターンとして俺達は家に招待されて飯をご馳走になります。
宿には寝に帰るしかしません。

まぁ、賑やかな食卓というのは良いモノだと思います。
とは言え……タダ飯を食らうつもりは無く、食材くらいは提供させて戴いています。

以前、飯代を払おうとしたら――『そんなのはいらないから』――と、断られたのでせめて食材くらいは……ということに。


大体、年月にして一年くらいグランシルに居ただろうか……?

約一年間、一緒に過ごしていたので、当然の様に誕生日を祝ったり、祝われたり――と、色々ありました。

俺が16歳、ラルフが15歳になりました。

ちなみにカレンは18、ゼノスは23になりました。

――そんな穏やかな時間を感じつつ――しかし、俺達はその穏やかな時間を断ち切って――グランシルを去る決意をした。

正直、此処は居心地が良すぎる……叶うなら、ずっとこうして居たい――と、思える位には。

だが、俺達の目的は各国を周り見聞を深めることだ。

――このままでは、旅に出ることを許可してくれた父上に申し訳が立たない。

ラルフも似た様な心境だったらしく、俺の提案をすんなり受け入れてくれた――。

その旨を、ゼノスとカレンにも伝える。

ゼノスが在宅中だったのは丁度良かった。

今まで、散々世話になっているのだ。
挨拶も無しに帰る様な、礼節を欠く様なことはしませんよ?

家柄のことは言わないで置く……この二人に限って有り得ないが――態度が変わり、色眼鏡で見られるのを防ぐ為。

――堅苦しいのは好きじゃないんだ。
今生の別れでも無いし――な?

ラルフもその案に賛成してくれた。
――やっぱり、俺らは友人としてありたいわけさね。

ゼノスは渋りながらも、仕方ないか……と、認めてくれた。
別に今生の別れになる訳でもないしな……と、俺と似た様な意見も溢していたし。

――ゼノス自身も傭兵なんかをしている為、家を空けることが多い――それ故、あまり強く言えなかったのかも知れない。

カレンは、少なからずショックを受けていた様だ……潤んだ瞳で見られた時はズキリと胸が痛んだ。

そうだよな……俺達が居なくなったら……また、一人で兄の帰りを待つ身になる。
ゼノスが居る時はともかく、あれだけ賑やかだった空気が静まる……それは辛く、悲しいだろうな……。

――原作の知識で知っていたが、こうして交流を持って改めて理解した。

カレンは普段凄くしっかりしているが、内面は脆く儚い、支えてあげたくなる女性。

原作でもカーマインの生まれや、父との関連性を知り、悩み、潰れそうになっていた……。

それに、今は年齢的にも女性というよりは――女の子。
精神的な脆さは原作以上……そんな感じがする。

或いは俺達と出会い、こうして生活していく内に、本来育まれる筈だった強さに歪みが生じたのかも知れない……。

「そんな……私……私……っ!」

「カレンッ!!?」

俺達から視線を逸らし、まるで自分に芽生えた不安を振り払うかの様に、その場から走り去るカレン。

それを見たゼノスが、直ぐ様カレンを追い掛ける――――――かと思われたが、立ち止まり、ギュッと拳を握りしめる……そして振り返り、真っ直ぐに俺を見据える。


「……シオン。お前が行ってやってくれ」

「!?俺、が……?」

「悔しいが……今のカレンに必要なのは俺じゃ無い……お前が行ってやらなきゃ……駄目なんだっ!!――頼む!!」

……驚いた。

あの妹命のゼノスが……自分では無く、俺に妹を追えという。

頭を下げて……己の不甲斐無さに憤慨しながら……。

俺は困惑した表情で、ラルフを見る……アイツは微笑を浮かべて頷いた。

――そんな風に頷かれたら――行くしかないよな?

俺はそれに頷きで返し、カレンを追い掛けたのだった――。


「全く……不甲斐無い兄貴だぜ」

「お疲れ様です、ゼノスさん」

「ラルフ……あいつは、カレンの気持ちに気付くかね?」

「ハハハ……それはどうでしょう?本人に自覚があるかどうか……」

「あの野郎、カレンを泣かせやがって……これ以上カレンを泣かせる様なら容赦はせんぞ……」

「ハハハ……(シオン…気付け――とまでは言わないけれど……上手く収めてくれよ――?)」

********


俺はカレンを追って、街の中に向かった……闘技大会の受け付け施設がある、少し開けた場所……時には、バザー等の催し物が開かれる場所――そこに、カレンは居た。

「カレン……」

俺はカレンに声を掛ける、びくりと一瞬カレンの身体が震えた。

「その、なんだ……別に一生のお別れって訳じゃないし……会おうと思えば何時だって会いに……」

俺の薄っぺらい言葉は、そこで止まる……振り返ったカレンが泣いていたからだ。

悲しげな表情を浮かべて……胸がズキズキと痛む……しかし同時に、不謹慎ながら思う。

――その泣き顔は、なんて綺麗なのだろう……と。

罪悪感を感じながらも、その顔から眼が離せない……『ふつくしい……』とか、某社長の台詞で場を濁すことも叶わない。

――言った所で、カレンには理解出来ないのだろうが。

「カレン……」

「……初めて貴方と出会った時のことを――覚えていますか……?」

「え……?」

「私がモンスターに襲われていた時です……私は逃げようとして躓き、足を痛めてしまって……心の中で、兄に助けを求めたんです。――もう駄目だって思いながら……そこに駆け付けてくれたのが……貴方だったんです」

「…………」

あれは単に近くを通りかかっただけだ。
運が良かったに過ぎない。

「……一瞬、兄さんが来てくれたと思ったんです。おかしいですよね?貴方と兄さんは全然似てないのに――でも、何よりもその時に感じた感想は、凄く綺麗な人だなぁ――だったんです」

「綺麗って、男としては複雑だな……」

「ふふふ……でも、本当にそう思ったんですよ?あとで、中身は凄く逞しい人だって……知ったんですけど」

これは……ヤバイぞ?
赤くなり、涙を拭いながらハニカむカレン……お持ち帰りしてぇ……。

「優しくて、不思議な雰囲気を纏ってて……気が付くと、何時も貴方を視線で追っていました……」

ちょ、待っ……今更気付いたが……カレン告白フラグですかコレ?

た、確かに俺に好意を持ってくれている――と、思っていたけど……せいぜい友達くらいが良いところで……って!

どんだけご都合主義だよ!?

誰かぁ!!カレンのステータス画面を持ってきてぇ!!(必死)

「俺は、そんな大層なモノじゃないよ……何処にでも居る様な、普通の男だって」

恰も平静に返すが――内心バックンバックンですよ?

忘れてる方もいらっしゃると思いますが、自分、彼女居ない歴=年齢ですよ?

チェリーボーイですよ?

え?ピンクなお店とか行かなかったのかって?

いやいや、やっぱり初めては好きな人とでしょ?
お陰で知識だけは豊(ry

落ち着け俺……素数だ、素数を数えるんだ。
素数は孤独な数字――こんな俺にも勇気をくれる……。

「いいえ、そんなこと――無いです。例え、そうだとしても……私には大きな意味があるんです……」

いや、間違いなくそうですって。
中身はただのオッサンですって……身体はチートですが。

「私には、好きな人が居たんです」

ハイ来たコレ!キタコレ!!スーパー告白タイムですよ……って、好きな人が【居た】?

「その人は私のすぐ近くに居たんです。でも、私の気持ちに全然気付いてくれないんです……」

あれれ?これってもしかしなくても……。

「仮に気付いて貰っても……それは叶わない恋なんです。永遠に私の片思いで終わる恋……」

ゼノっさんじゃんコレぇぇっ!?

何!?勘違い!?勘違い乙!?

チートボディだからって調子こいてた俺様思う壷!?

「でも、そんな私を救ってくれた人が居るんです。その人は私の側に居てくれました……その人の側に居るとドキドキして熱くなるのに、心の何処かでホッとするんです。凄く、安心するんです――」


成程……土器土器ですかぁ……縄文と弥生なら弥生だよねぇ………。
ふへへへ……笑えよ……この自惚れ屋を笑うが良いさ……殺せぇ!俺を殺せぇ!!

【雨音が――聞こえる……】

「わ、私はその人と過ごす内に、その人の心が知りたくなりました……その人の心の中に、私が居るのか知りたくなったんです…………?…シオンさん?っ!?」


そこでカレンが見たのは真っ白になった俺だったそうな。

【赤い、紅い、アカイ――】

「へへへ、燃えたよ……燃え尽きた……真っ白にな……」

「し、シオンさぁぁぁん!?しっかりして下さぁぁぁい!?」


それから、俺が再起動するまでに数分……。

「はて?俺は何をしてたんだっけ?」

「え゛っ゛……?」

確かカレンを追い掛けて……別れを惜しんで、泣いてるカレンが綺麗だなぁとか、赤くなりながらハニカむカレンかぁいいなぁ……お持ち帰りしてぇとか思って……そこから先はぼんやりとしか思い出せん。

思い出そうとすると――雨音の様なナニカが聞こえ――まるで霧に撒かれる様に、記憶が霧散していく。

人間の脳には自己防衛機能があって、あまりに辛いことをリセットするらしいが……何か辛いことでもあったのかね?

「大丈夫♪土器は弥生時代のが良いぞ?縄文はそれっぽすぎだしな?」

「ハ、ハイ?」

その後、何故か盛大に落ち込むカレンさんを連れての家路……道中に雑貨屋があったので立ち寄る。
確か、ここだったよな?

店員に聞くと、お目当ての物が丁度二つ残っているらしい。

うむ、ツイてるね。

「カレン」

「……何ですかぁ……?」

め、めがっさどよーんとしとる……。

「ハイ、コレ」

「えっ、コレって……」

「俺からのプレゼント――受け取ってくれたら、嬉しいんだが――」

それをカレンにプレゼントし、俺達は家路に着いた。
そのプレゼントを、カレンは思いの他喜んでくれた。

良かった――。

確かに泣き顔も綺麗だが――やっぱりカレンには、笑っていて欲しいからな――。



[7317] 第7話―原作開始!―カーマインSide―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:70e1dd4b
Date: 2011/11/29 19:01

――夢を見た。

男と女が居る……アレは…俺……?

いや、微妙に違う…な。

俺に似てはいるが――若干、老けている様にも見える。

ここは……岬か?

遺跡の様にも見えるが、遠くには塔の様な岩が斜めに立ち……その先には輪が掛かっている――いや、浮いているのか……?

女が、男に呼びだした理由を問う。

男は頭を掻く……どうやら、緊張している様だ。

――男は何かを決意したのか、一つの指輪を差し出した。

『これは…あなたが大切にしていた指輪…いつ見ても綺麗。不思議な光を放っているわ』

女が言う様に、不思議な指輪だ……指輪というより、指輪に着いている石か……何と言うか、暖かみのある光を放っている――。

『これを君に貰って欲しいんだ』

『えっ…それって…』

――成程、緊張する筈だな。
一世一代の大勝負……賭けという奴か。

『…俺はしがない傭兵だ…戦うことでしか金を稼げ無い男だ』

再び男は頭を掻く。
最後の一言を言う為に……自身の勇気を振り絞る為に。

『もし…もしよかったら、俺と…結婚して欲しい』

女は両手を口元に当て、男を見る――驚きに目を見開きながら。

けれど、それは直ぐに歓喜に変わる――頬を一筋の涙が伝い、女は男の気持ちに答えた――。

『うれしい…うれしいよ。私、ずっとその言葉を待ってた…』

『…シエラ…』

シエラと呼ばれた女が、歓喜のあまり男に抱き着く…男もそれを受け入れた……。

………。

……。

……ねぇ……。

……ん……?

…起きてよ…。

……おきる?……起きる?

――誰が?

……お兄ちゃん起きてよぉ!!
お母さんが呼んでるよ!

お兄ちゃん……?俺のことか……?お母さん……母さんか……?

もぉ……お兄ちゃん!?

そしてさっきから――俺を、お兄ちゃんと呼ぶお前は――誰だ?

……妹、だな。

俺には、妹しかいない訳だし…。

……ルイセちゃん、ここはアタシに任せて……。

とは言え、俺の安眠を邪魔する様な悪〜い妹なんてお兄さん知りません……て、誰だ今の声……ルイセじゃないよな?

…えっ、ティピ…?

こうやるのよ……せ〜のっ!

ティピ……?誰だよ?
…というか、何だ?何をする気…。

……あっ…!

あっ!ってルイセ?一体な…

「ティピちゃ〜〜んキーーーック!!」

ドガッ!!

「まそっぷっ!!?」

何だ、今の衝撃は!?

意識を覚醒させる(というか、させられる)と――そこには……。

「やっと起きたか!」

ピンクの長髪を、変則お団子ツインテールにした、可愛らしい我が妹と――似た様なピンクの髪をショートカットにした……ガラの悪そうな……妖精?が居た。

と、そうだ……さっきの衝撃は何だったんだ?

俺は視線を右往左往させる……だが、居るのはやはり我が妹のルイセと、頭にバッテンマークを立てた妖精?のみ。

「何キョロキョロしてんのよ!もっとシャキッとしなさいよ!」

「ふふふっ。何も知らないのに、いきなりそんなこと言っちゃ、お兄ちゃんが可哀想だよ?」

「ルイセ……」

言ってることはごもっとも……だが、それならば笑わないでくれ……俺はベッドから起き上がり、可笑しそうに笑みを溢す妹君を見やる。

「驚いた、お兄ちゃん?」

「当たり前だ……出来れば、説明してくれ……寝起きの俺でもわかる様、簡潔に……」

自慢じゃあないが、俺は朝が苦手だ……。
頭の回転は、それなりに速い方だと自負しているが――寝起きの時はその限りではない。

「詳しいことは下で教えてあげるから♪久しぶりにお母さんが帰ってきてるんだよ!」

「母さんが……?それは珍しいな……解った、軽く身なりを整えたら行く」

「早く降りて来なさいよ!」

そう言って妖精?とルイセは下に降りて行った。

「どうでも良いが……やけに偉そうだな、あの妖精……」

――俺は椅子に掛けてあった赤いジャケットを羽織り、袖に腕を通し――肩には袖を通さず、着崩す。

この着方にはよく意見されるが、これは俺なりのこだわりという奴だ。

だって――普通に着るより格好良くないか?

――俺の名前はカーマイン。

カーマイン・フォルスマイヤーだ。

ここ、ローランディア王都ローザリアに住み、ローランディア王国の宮廷魔術師を母に持つ……とは言え、実母では無いんだが……。

「……と、俺も下に行くか」

まだ、眠気が残る頭を軽く振り――夢の中の男がした様に、頭を掻く。

なんのことは無い――何となくの、気紛れって奴だ――。

ただ、不思議と眠気が晴れていく様な――そんな気がしたのだった。

*********


階段を降りて居間に向かう――するとそこには、我が妹……ルイセ・フォルスマイヤーとあの妖精?――そして、魔術師然とした妙齢の美女が居た。

――この人こそ、俺達の母にして、この国の宮廷魔術師でもある――サンドラ・フォルスマイヤーだ。

「おはよう。私が居ない間、何か変わったことはありませんでしたか?」

「いつも通りだったよね、お兄ちゃん?」

いつも通り……まぁ、そこの妖精モドキ以外に関しては……いつも通りだったな。

「あぁ、特に変わったことはなかったな」

「そうですか。それを聞いて安心しました」

「それより、マスター?そろそろアタシのこと紹介して欲しいんだけど」

「そういえば母さん、この妖精?は何なんだ?」

「……アンタ、なんで妖精の後に【?】が付くのよ……」

「……気のせいだ」

というか、自覚しろ。
そんな柄の悪い妖精は居ない。

多分……。

「まだ、自己紹介してなかったのですか?……彼女の名前はティピ。魔法で生み出されたホムンクルスです」

ホムンクルス…魔導生命――って奴か。

「ティピだよ☆よろしくぅ♪それで、アンタの名前はなんて言うの?」

「カーマインだ……宜しくな?」

中々、可愛らしいな。
元気があって大変宜しい。
それに中々フレンドリーな……。

「言いにくい名前ねぇ……やっぱり【アンタ】って呼ばせて貰うね」

……前言撤回。人の名前を小ばかにするとは……本当に母さんの作かコイツ?

カーマインという名は、母さんが俺に与えてくれた物だ――。

その名を貶すということは、自身の創造主(マスター)を貶すことと同意だろうに……。

というか、なら名前を聞くな。

「口の悪い奴だ……お前、本当に母さんの作か?」

「むか〜っ!コイツ、アタシに喧嘩売ってる〜!」

「喧嘩?羽虫なんかに喧嘩を売ったりするか……自分が惨めになってしまうだろ?」

「むっか〜〜〜っ!!!」

これくらいで怒るとは……沸点低いんじゃないかコイツ。
まぁ、裏表の無い性格なんだろうな……。

「あはは、は……ティピって妖精の格好してて可愛いよね?お兄ちゃん……?」

妹よ、ギスギスした空気に耐えられなかったんだな?

別に、俺は喧嘩売ってるつもりはないんだがなぁ……少し弄ってただけで。

とは言え、可愛いか……か?
中身はどうか知らんが……見た目だけで言うなら。

「ああ、可愛いと思うぞ」

「でしょでしょ♪マスターに感謝☆」

あ、機嫌が直った……何と言うか……単純な奴だ。

「さて、宮廷魔術師である私が、こんな時間に戻って来たのには幾つか理由があります」

確かに、こんな朝早くに帰って来るなんて珍しいよな……。

母さんは宮廷魔術師だ。

宮廷魔術師というのは、国の為に働く魔術師で……魔術師としての優秀な頭脳で国王に進言したり、様々な研究に着手したりする。

兵に魔法を指南したりもするので、正直忙し過ぎる職業だ。

簡潔に言えば、文官であり、参謀であり、研究者であり、魔法使いなのだ


故に、日々を半端なく忙しく過ごしており、家に帰る暇は殆ど無い……そんな母さんが……。

――母さんが言うには、理由の一つはルイセの『魔導実習』のためだ。

『魔導実習』とは、ルイセの通っている魔法学院のカリキュラムの一つで、高名な魔導師の元でその魔導師の魔導研究などを手伝う。

実習終了のレポートなどは、その魔導師が作成する。
それを、魔法学院に提出すれば晴れて実習終了――と、なる訳だ。

「わたしはお母さんが宮廷魔術師をしているから、得しちゃったな♪」


そう、母さんは紛れも無く高名な魔導師だ。

何しろ、ローランディアの宮廷魔術師=ローランディア最高の魔術師、なのだから。

だからこそ、ルイセはこうして実家に居る訳だ。

母さんの研究所は、ローランディア城内にあるからな……そして城と我が家は、文字通り眼と鼻の先である。

通い詰めるには、これほど最高の環境は無いだろう。

「甘えてはいけませんよ?実の子供だからこそ、手加減せずに指導しますからね」

「……はぁい……」

そう、幾らルイセが愛娘でも――そこは公私をしっかり分ける母さんのこと、手加減無しなのである。

少しルイセが凹んでしまった。

まぁ、頑張れ。

「それから……もう一つの理由ですが、こちらが本題なのです」

俺を見据えてから母さんが言う。

「捨て子だったあなたを私が引き取ってから、もう17年になりますね」

そう、俺は母さんの実子では無い。
ルイセが生まれる前に拾われ、この家にやって来たのだそうだ。

この17年、俺はこの王都ローザリアから一度も外に出されたことが無かった。

頑なに禁じられていた……その理由を話してくれるらしい。

――なんでも、俺が幼い頃に母さんが俺のことを占ってくれたらしい。

――ある時には『世を滅ぼす元凶となる』――またある時は『世を救う光となる』と出たらしい……それはまた、極端な……。

正直、訳が分からんな……。

母さんも判断が着かなかった為、俺がある程度成長して一人前になるまでは外界との接触を極力断つことにしたと言う……それが、俺が王都から出れなかった理由か。

普通は占いなんか……と、思うが――母さんは当時から優れた魔術師だった。

故に、それはある程度の信憑性がある占いだった訳だな。

「今日からあなたには、都の外に旅に出て貰おうと思います」

「随分と唐突だな母さん……とは言え、是非も無し。俺も外の世界には興味があったしね……まぁ、捜してみるさ。自分の進むべき道って奴を」


その答えに満足したのか、母さんが微笑みを浮かべる。
我が母ながら綺麗な人だな……と、つくづく思う。

********

母さんから旅の準備に……と、75エルム貰う……て、母さん、これは少なくないかい?

食料や薬草などを買う分には、十分過ぎる額だが――武器を新調しようとすると、どうしても足りなくなる。

一応、訓練用に使っていた青銅の剣を持ってはいるが――。
如何せん、ガタがきているので――旅には持っていけないだろう。

……仕方ない、ポケットマネーから出すか。

その後は、旅仕度の為に買い物に行く。

――何故か、ティピの奴も一緒に。

――先ずは、近場にある『スキマ屋』に寄った。

『スキマ屋』ってのは、読んで字の如く――建物の隙間で商売してる店のことだ。
店の親父さんはスペースの有効利用とか言ってるけど……。

その後も、色々あった。

スキマ屋を捜していた人にスキマ屋を紹介してあげたり、何故かマンホールに書かれていた暗号を解いて、変な本を拾ったり、塾の講師に出された問題を解いたり、困ってる女性を助けたり、子供の遊びに付き合ったり、喧嘩を仲裁したりもした。

そして宿屋でのことだが……。

「これからの冒険で楽しみなことってある?」

宿屋のおばさんに宿番を頼まれたんだが、ティピが真っ先に根を上げた。

「冒険の楽しみね……強いて言うなら、全てが楽しみだ。人との出会い、強敵との戦い、知らない土地巡り、己の成長……世界の動きなんてのも興味があるな」

なので、ティピが質問して俺が答える。
という、言葉遊びみたいなことをしている。

「じゃあさ?何か鍛えたりしてた?」

「色々やったな……剣に槍、ボウガンなんてのも。勿論、魔法もな?他にやることなんてほとんど無かったしな」

今では王都で1番強いと自負している。
外の世界は分からないけど、な?

「好きな戦い方は?」

「正々堂々正面から……まぁ、必要なら策を労するのも有りだけどな」

「好きなタイプは?」

ここで質問の意図を180°変えてくるとは……やるな。

「甘えん坊」

1番にルイセの顔が浮かんだのでそう答える。
ティピが悔しがってるが、そもそもこの街を出たことが無い俺に、大した判断規準は無い……母さん、ルイセ、ティピくらいだ。

この中ならルイセってだけの話。

ルイセは確かに可愛いが……。

なんて話していると何やら怪しい二人組がやってくる。

――こいつらが勝手に話した内容によると、どうやらカレンという女性を捜しているらしい。

で、宿帳を見せろとか言って来た。
しかし、宿のおばさんに『中は散らかっているから、入らないでくれ』と言われていたので、断った。

どのみち――こんな怪しい奴らの頼みなんか、断ったけどな。

揚句の果てには、金をちらつかせて来たのでキッパリと断ったさ。

すると逆切れして絡んで来た。

俺もいい加減、イライラし始めていたので、ボッコボコにしてやろうか――と思ったが、先にティピの逆鱗に触れたらしく……。

「ティピちゃ〜〜ん!キーーーック!!」

バキッ!!

と、こうなった訳だ。
まぁ、俺もスッキリしたしナイスだ!と言っておく。

※※※※※※

私は今、ローランディアの王都、ローザリアに来ている。
兄さんが傭兵の仕事関連で、ローランディアに用があったため、私も着いて来たのだ。

二年前に別れた、シオンさんを捜す為に……。
兄さんもそれを分かってくれていたからか、特に何も言わなかった。


私は胸のペンダントに触れる……あの日シオンさんがプレゼントしてくれた、誓いを遂げると願いが叶うペンダント…。

「シオンさん……」

私はペンダントを愛おし気に撫でる……あの人のことを思って……。

……?
何か外が騒がしいけど……。

『ティピちゃ〜〜ん!キーーーック!!』

バキッ!!

「な、何!?」

窓の外を見ると……そこにはここの宿のおばさんと……。

「え…!ラルフさん!?」

あの顔は間違いない……ラルフさんが居るということは、あの人もっ!?
私はその場から駆け出し――そこに丁度、おばさんが宿の中に入って来る。

「カレンさん?どうしたんです?」

「あの、今の人は」

「ああ、カーマインさんね……宮廷魔術師サンドラ様の息子さんさ」

「カー…マイン?」

人…違い……?

けど、どう見てもあの人は――。

一体、どうなってるの……?




[7317] 第8話―原作開始!―シオンSide―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/11/27 21:49

キングクリムゾンッ!!

……いや、言っておかないとなぁ……と、思って。

――カレンとゼノスと別れてから……大体二年が経ったか?

あれから俺達も成長し、俺が18歳、ラルフが17歳になった。
身長も185㎝と、ゼノスに近いくらいになったんだぜ?

確かライエルさんも、ゼノスと同じ――187cmくらいだったよな?

ちなみにラルフは175㎝と、カーマイン君の公式データより、3㎝程大きくなっております。

これが、俺との修行の旅に寄る影響なのかは――分からないが。

とりあえず、回想してみたいと思う。

**********

グランシルから旅立って一年間――この期間は色々な地を巡った。

傭兵王国ランザック……訪れたのはランザック領内の街――ガラシールズ。
駐在している兵ではあったが、その練度は中々の物だったな……。
ウェーバー将軍という優れた猛将も擁する――という情報も得られた。

駐在兵を基準にした判断だが――軍隊としてはバーンシュタインに一歩及ばないが、個々の実力ならひけは取らないだろう……まぁ、インペリアルナイツは例外だが。



ラルフは相変わらず商売の勉強に精を出してました。

この暑い中熱心だねぇ……お兄さんびっくりだぁ。

あちこち駆けずり回るラルフを見て、少し――『向こうの世界』のことを思い出す。

営業で外回りだった時なんか……特に夏場がキツかったなぁ……。


その後、スキマ屋にも顔を出す。

ラルフは痛く感銘を受けていた様だ。

――やめろよ、スキマ商売は……流行らんぞ?

原作知識だが、ローザリアでスキマ屋を営むオッサンも、客が来ないと愚痴っていた筈だ――。

ちなみに、ランザック王都には行かなかった。

――何が悲しくて、ボスヒゲ爺とエンカウントする確率をあげねばならん……まぁ、この時期は猫を被ってる筈だし、大した力も無い。

気にすることは無さそうだが……一応、念のためだ。

油断は慢心に繋がる……父上の教えだ。

あの爺のことだ……俺の――というか、力の強いグローシアンが近場に来ている事に――気付いている筈だしな。

てか、敢えて気付かせているんだが。

もし、俺を標的にすればルイセを狙わなくなる……ワケ無いな。

ルイセは、ヒゲのかつての弟子であるサンドラと親子関係だ――繋がりがある……幾ら俺のグローシュパワーの方が上でも、グローシュを奪うなら懐に入り易いルイセを選ぶだろう……とは言え、俺の存在は幾らかの抑止力になる筈だ……。

カーマインパーティーと合流出来たなら、尚更な。
あのヒゲもより慎重になる筈。

とりあえず、此処での目的は果たした。

**********

それからも、色々な場所に向かった――保養地ラシェル、ブローニュ村、鉱山街ヴァルミエ、メディス村にも。

ラシェルでは、入院していた女の子に花束を持ってお見舞いに行った……本来ならカーマインの役回りだが、知ってて見てみぬフリをするのは気が引けたからな……。

些細なことだが、俺達の旅の話とかをしたら喜んでくれた。
今度は、GLチップスをお土産に買ってこようと思う。

ブローニュ村は活気に包まれていた。
なんつーか村人達も皆フレンドリーで好感が持てた。
――アリオストとは出会わなかった。
きっと、魔法学院で研究に没頭していることだろう。

ヴァルミエには水晶鉱山を見に行きました。
いやいや…めがっさデカかったです。
俺、口ぽかーんでしたよ。
ラルフも実物を見るのは初めてみたいなので、

「凄いね……これが全部水晶だなんて……」

――と、感激してました。

これが――ゲヴェルを封印する為に、命を掛けたグローシアン達の……文字通りの『命の結晶』だと思うと、なんか胸に来る物がありました――。

――水晶鉱山を見た後、ラルフは商売人としての興味から、俺は魔導具の作成に使えないかと思い、魔水晶に興味を持ちました。

――が、ここで産出している魔水晶は魔法学院が管理していて手が出せません……チッ、あの爺が横流ししてる癖に……。

とりあえず、あの爺はどうにかしなきゃな。

メディス村は数々の薬草の産地でした。

質も良く、種類も豊富。

ラルフは早速、流通状況や等価などを調べてました……流石だねぇ。

――薬草、か。

……カレンは元気にしてるかな?
……会いに行った方が、良いのか?
とは言え、中々立ち寄る機会が無いんだよな……でも、手紙位は出そうかな?

……うん、そうしよう。
俺はそう決意して、早速雑貨屋で便箋を買った。


……一応、村の奥にも行ってみた。
そこにはやっぱり、段々になった花畑も、赤い屋根の小さな家も――無かった……。

「ここに何かあるのかい?」

ラルフがそう尋ねてくる。

「いや、もしかしたら――家でも建ってるかな…って、思ってさ」

「え?」

「何でもない……行こうぜ?」

俺は、あの狸爺はマジでどうしてくれようか……より一層強く考える様になった。

**********

……道中、俺は最悪のパターンを想定して、とある懸念を抱く。

俺はこの世界がグロラン1の世界だと思っていたが……本当に、グロラン1『だけ』の世界か?

……実はメジャーでは無いが、携帯アプリケーションにもグロランのゲームが存在する……。
――オリジナルの主人公で、1と同じ時間軸の物語……その名も、『グローランサー・オルタナティブ』……この作品で1番のターニングポイントと言えば、主人公のリヒターであると言わざる負えない。

普通の村人として育てられ、しかし戦闘狂の相棒と共に修練を積み、強くなっていった青年。

しかしその正体は、かつてフェザリアンがグローシアンに奪われた生体兵器……ゲヴェルに対抗するために生み出した『人型生体兵器』。

その戦闘能力も馬鹿に出来ないが、何より厄介なのが――対ゲヴェル用プログラム――【反転】だ。

これは、ゲヴェル細胞を持つ者のみに有効な機能で、相手の心の属性を反転させ、塗り潰してしまう能力だ。

簡単に言えば悪い奴を良い奴に、良い奴を悪い奴に変えてしまうという――はた迷惑な機能。

しかも、一度反転させられたらそのまま……つまり二度と元には戻せない様だ。

現に、グロランオルタではカーマインが反転させられ、ずっと元に戻ることが無かった――。

この機能は普段は使えない……だが、リヒターはゲヴェル細胞を持つ者に出会うと覚醒、問答無用で【反転】を使用する。

ある意味、俺以上のイレギュラー……それがリヒターだ。

仮に戦うことになっても、負ける気はしないが……もし、エンカウントなんてしてみろ。

ラルフもカーマインも、仮面騎士――ゲヴェルの尖兵に逆戻りだ。

相対したら【反転】を使われる前に、直ぐさま倒すのも手だが……彼の仲間達が、それを許さないだろう。
俺としても、そんなことはしたくないが………俺のダチを潰す様ならば……容赦はしない。

まぁ、それもこれも確認してみなきゃ始まらないんだが……アイツらが住んで居るのがクレイン村……原作でも、色々と悲劇に見舞われた村だ。

仮に、俺が出向いて確認しに行っても、ラルフが一緒ではリヒターが覚醒する恐れがある。
――かと言って、俺が離れたらラルフがゲヴェルに操られる可能性がある。

……俺のグローシュパワーから察するに、可能性は限りなく低いが――僅かでも可能性が残ってる以上は、危ない橋は渡れないのだ……何か、上手い手は無いかね?

**********

ローランディアには敢えて行っていない。

流石に、カーマインとエンカウントするのはまだ早い。

原作開始まで残り一年…見聞は深めた。

ならば、もうバーンシュタインに帰っても良いか?……答えはNO!

帰れば父上に士官学校へ入れられるだろう。
そうしたらラルフとは離れなければならない……俺のグローシュ波動はかなりの距離をカバー出来るが、ラルフは商人だ。

俺のグローシュ波動の範囲外まで行商にでも行かれたりしたら……それは避けねばならない。
少なくとも、死亡フラグを叩き折るまでは。

俺の最重要目的は、旅の序盤のカーマイン達にエンカウントすること。

そしてパワーストーン使用フラグを叩き折り、パワーストーンを入手……或いは使用させて貰うこと。

アレさえあればラルフを真実、人間にすることも出来る。
カーマインとリシャールも同様だ。

ただ、結局はタイミングが重要だけどな…タイミングを間違えたら最悪の未来になること請け合いだ。


そこで、俺は野営中にラルフと話し合うことにした。

実は最近、不穏な動きをする連中が現れた……という話を聞いた。
誰から聞いたかって?蛇の道は蛇……そういう情報筋も旅するには必要ってことさ。

「不穏な動きをする連中?何なんだいその連中は?」

「シャドーナイツって――知ってるか?」

「シャドー…ナイツ?」

「バーンシュタインには幾つか騎士団が存在するが……その中でも有名なのが第一近衛騎士団……インペリアルナイツだ」

「そんなの今更じゃないか。僕とシオンはバーンシュタイン出身、シオンに至っては父親が元インペリアルナイトなんだから」

そう、だからこそ良く分かる。
シャドーナイトの業の深さが……因みに、不穏な動き云々は間違いなく聞いた情報だが、シャドーナイトの情報自体は俺の原作知識からの抜粋だったりする。

「シャドーナイトはそのインペリアルナイトとは対極に位置する者だ。インペリアルナイトが光を象徴とするなら――シャドーナイトは闇」

薪を火に焼べながら話しを続ける。

「対極に位置する者……光と闇……」

「インペリアルナイトは、その一騎当千の力で戦場を支える光――対するシャドーナイトは戦闘能力云々よりも、謀略や暗殺などで敵を内から食い破る闇……と、言った所だな」

「謀略や、暗殺……?それは、本当なのかい?」

ラルフが少々の困惑と怒りを滲ませた瞳を向けながら聞いてくる。

ラルフは結構お人よしだからな……こういうのが許せないのは分かるが。

「マジだ。それで最近そのシャドーナイトが何やら暗躍しているらしい……何でも、実力のある奴をスカウトしているとか」

「スカウト……人員確保……いや、補給かな?」

中々に的確な所を突くじゃないか――ラルフ。

裏の仕事に着くということは、それ相応の危険が伴う……ある意味では、表以上の危険が……ならば、人員の損耗率も激しいことだろう。
……胸糞悪い話だが、要するに消耗品――それも、何かの部品の様な扱いってことだ。

「さて、そのどちらかは分からないが……スカウトの仕方も、勿論マトモじゃない。恐喝、脅迫……その上での自作自演も当たり前だ」

お話と言いながら、実はお話という名の砲撃だったりする様な物だ。

「そんな奴らが、バーンシュタインに存在していたなんて…」

「……でな?奴らのスカウト候補に、俺達のよく知る男がいてな。そいつは傭兵をやっててグランシル在住、可愛くて綺麗な妹と一緒に暮らしてる」

「!!もしかして…ゼノスさん!?」

「ご名答……そして、可愛くて綺麗な妹が居る……奴らが、どんなアプローチを取るか――想像着くだろう?」

そう、奴らはカレンを狙ってくる……最終的には……。

…俺は、相当凄い顔をしていたのだろうか?

ラルフが俺を見て、少々青ざめている。
少し、魔力とかを開放してしまったのかも知れないな。

「シャドーナイト……!シオンが以前ゼノスさんとカレンさんを占った時に出た【影】という単語…シャドーナイトのことだったのか?」

「さて、な――もしかしたらそうなのかも知れないし、そうじゃないのかも知れない――」

勿論、ラルフの言う通りだ……直接的には言えなくても、あの時の言葉で少しでも良い方向に改善してくれたら――と思って、『占い』という形で知識を伝えたワケだ。

「ん……!?」

人の気配……2……4……5人、か。
こっちに向かって来ている……殺気は無い様だが。

「――ラルフ」

「うん、分かってる――」

俺達は、一跳びで木の枝に飛び移ると、そのまま木の上を――気配を消しながら移動し、こちらへ向かってくる者達の下へ、向かった。

**********

気配の場所まで行くと、男が――五人居た。
一人は、まるでバイキングの様な装備を纏った男。
残り四人は盗賊みたいな感じだ。

(あのバイキング男……何処かで見たような?)

俺が男のことを思い出そうとしてると、件の男が喚き出した。

「あぁ!嫌だ嫌だ!!俺ぁつくづく嫌になったぜっ!!お頭の野郎!」

「お、オズワルドの兄貴ぃ…声がデカイですぜ…」

オズ、ワルド………こいつオズワルドか!?

そうだ、そうだ!!原作でも最後まで生き残った奴で……確かにこんな格好をしていたな。

……コイツをどうにかしちまえば、カレンも無傷で済むんじゃねーか?

……無理か。

コイツ、確か今の時点じゃ盗賊団の末端だしな……此処でコイツをどうにかしても、誰か代わりが送り込まれるのが関の山だ。

「うるせぃ!!これが叫ばずにいられるかってんだ!!俺らがヤバイ仕事をしても、儲けは殆どアイツに流れちまうんだぜ!?やってられるかよ!?大体、お前らもそう思ったから俺に着いて来たんだろうがっ!」

「そ、そりゃあまぁ……けど、これから俺達どうすりゃあ……」

ふむ、どうやら頭と金銭関係で衝突して喧嘩別れしたみたいだな………原作には無い展開だが――これは……使えるかも♪

「何なら俺が雇ってやろうか?」

ラルフに目配せをして、共に奴らの前に現れる。

「な、何だテメェら!?」

突然現れた俺達に、警戒しながら戦闘体制を取るオズワルド達。

俺は素晴らしい笑顔でこう言った。

「お前ら……正義の味方やってみない?」

――と。




[7317] 第9話―原作開始!暗躍!!頭領、就任?―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/11/29 19:07

あの後、どうなったかと言うと。

――ぶっちゃけ、オズワルド以下四名を雇いました。

悪どいことやって端金を得るのと、良いことやって大金を掴むのと…どちらが良い?

そう問いながら5千エルム程を見せると、彼等はゴクリと生唾を飲んだ。

何とも分かりやすいねぇ。

……てか、5千エルムでこの反応って……どんだけケチだったんだあの頭領……。

確かに5千エルムと言えば、中々の大金だが――裏の汚れ仕事――金品の強奪等をしていたならば、その分け前もそれ相応になる筈。


確か、頭はグレンガルの弟だったよな?

……あ〜……何か納得だわ。

グレンガルは金の亡者だからな……金を稼ぐ為に戦争時に暗躍して、死ぬ時まで金を求め、揚げ句ルイセに「悲しい人…」とか言われてしまった男……。

確かに、あのグレンガルが兄貴なら、弟も守銭奴な可能性はあるのか。
……金はあって困る物じゃないが、人の命を奪ってまで欲しいとは思わない。

俺は、ね?

金は天下の回り物。
あくまで金は使う物さね。

ちなみに契約内容は幾つかあって……。


①、俺らの依頼を受け、手足となって働いて貰う。
依頼を成功するごとに報酬を支払う。
報酬は依頼内容にも寄るが、5千〜2万程度。

②、継続雇用なので一定の給料を支払う。
各人に固定で5千。
これは依頼をミスしても支払われる。
しかし依頼をこなし、成功を積み重ねれば昇給も可能。

③、村とかへの略奪行為などの盗賊時代の悪行は厳禁。
絶対駄目。
やったら即リンチの上、犬神家の刑。

後、裏切りはご法度。
仮に裏切ったら死ぬほうがまだマシという目に合わせてやる……とかね。



大体こんな所だ。

この話しを請けるなら……この場で契約金&必要経費として、それぞれに5千エルムを支払う。

受けないなら、この話は無かったことにするだけ。

――ここで、俺が見せた金を強奪しようとしたり、金だけ貰ってトンズラしようとしたりしたら――少し【お話】をする必要があったがな?

まぁ、そんな心配は無用だった。

何故なら、彼らは直ぐさま了承の意を示し、それぞれに5千エルムが渡された時に咽び泣いていたからだ……そこまでドケチな頭だったとは……不憫な。


因みに、俺とラルフは闘技場で荒稼ぎしたり、旅の途中で遺跡荒――トレジャーハンティング等をしていたので、所持金額がそれぞれカンストしていますが何か?

んでは、早速依頼を頼むかね。

「へい!なんなりとおっしゃって下さいお頭っ!」

オズワルド……確かに雇ったのは俺だが、お頭って……原作では結構小狡い感じだった気がするんだが……なんか、アホっぽいなぁ…。


いっそのこと、騎士団を組織してゼロとか呼ばせてみようか?

したら、宴会(中略)大臣に任命してやろう。

……何故かしっくり来る気がする。

まぁ、中の人の声が同じだしなぁ……。

冗談はともかく、俺は一応説明した。

俺は盗賊団とか作るつもりは無いし、年齢的に頭という感じでは無い……(精神年齢プラスしたら話しは別だが)何より俺はそんな器じゃない。

しかし……。

「そんなことはねぇよ!アンタ達――特に銀髪の兄ちゃん――アンタはあのハゲとは違う!まぁ、金も貰えるし言うことはねぇぜ!それに何故か、年下のガキって雰囲気を感じないしな」

「そうですぜ!!アンタこそ御頭だ!」

「正義の味方…最高じゃないッスか!悪党に身を落とした俺……ここに来て光を放つ時が来たっす!うおぉぉぉぉっ!!」


あっっるぇぇ〜〜〜〜???

な、何故こんなことに?
お前ら俺を買い被り過ぎ…つか、説明ちゃんと聞いてました?
俺は雇うとは言ったが、お頭をやるとは言ってないんだぜ?

俺は疲れた顔でラルフを見遣る。

「彼らを雇うと言い出したのはシオンだし、僕が言うことは無いよ……お・か・し・ら?」

ブルータス……お前もか。

「てか、良いのかラルフ?もう見聞は充分広めた…これ以上は、余分じゃねーのか?」

改めて、先程聞いてなかったことを聞く。
もう、旅の目的は果たした…帰郷するには充分過ぎる理由だ

まぁ、一人で帰られたら困るのだが……ラルフなら……。

「ゼノスさんとカレンさんを守る為だろう?なら僕も手伝うよ……それに、親友を置いて帰るわけないだろう?」

おま…そんな感じのことを言うとは思ってたが……親友って、よくもまぁそんな恥ずかしげもなく…。

ったく、そんな清々しい微笑みを浮かべやがって……益々、こいつを死なせられないな。


その後、俺は訂正を諦め……オズワルド達に好きに呼ぶ様に言った。
頭領って柄じゃないんだがなぁ……ちなみにラルフは、旦那と呼ばれることに……もはや語るまい。

まず、オズワルドの部下二名――ビリーとマークと言うらしい――にクレイン村に向かって貰った。

まず、重要懸念事項である【リヒターの存在の有無】を確認してきてもらうことに。
無論、穏便にな。

残ったオズワルドと部下二名――ニールとザムという名前らしい――には別の依頼を頼む。

彼等がついさっき別れた、盗賊団の動向を探って欲しい……と。
オズワルドがこちら側に付いたとは言え、カレンの身に危険があるのは変わらない。

オズワルドが居なくなっても、他の誰かが実行犯となるだろうことは明白。

何より、こうして予想外なことが立て続けに起きている以上、原作のタイムテーブルが揺らぐかも知れない。
そうなると原作知識なんか殆ど当てにならなくなる。

その為の対策だ。

そして、俺とラルフはシャドーナイツの動向を探る……一応、原作開始時には介入する準備くらいはするが、それまでにシャドーナイツの動向を把握し、出来るならその企みを阻止する。

俺達なら奴らの動向を探るくらいわけないが……流石に、オズワルド達には少々荷が重そうだしな。

**********

それから俺達は精力的に活動を開始した。


まず一つ、懸念事項だった【リヒターの存在の有無】だが………。


……クレイン村にリヒターという奴は居なかった。



よっっしゃああああぁぁぁぁっっっ!!!


俺は思わず――心の底からガッツポーズを取った。

つまり、この世界にグロランオルタは絡んでいないことになる。


リヒターの存在云々で、これからの行動方針を大きく変える必要性も考えられたからな……。
正直、一安心だぜ……。


そして俺とラルフはシャドーナイツの動向を探っていた。

その際に面白い出会いがあったのだが、それはまた今度の話……ということで。

奴らの行動を追っていく内に、既にリシャールがゲヴェルの傀儡と化していることに気付く……胸がチクりと痛んだ……本当に、ままならない物だ――。

***********

そんなワケで、ここで回想終了っと。

かなり濃密な時間を過ごし、遂に原作開始時間になった――タイムテーブル通りなら、カーマインが『初めての旅』に向かった頃の筈だ。

そんな時、オズワルドから緊急連絡が来た。
連絡に来たのはニールだった。

「大変っす!大変っすよお頭ぁ!!」

なんか、ナチュラルにお頭とか呼ばれるのに慣れちまったなぁ……まあ、良いけど。

ニールの報告に寄ると――何でも、ゼノスが傭兵の仕事でローランディアに赴いているのだと言う…それだけなら良いのだが、カレンも一緒にやってきているのだと。

そしてそれを掴んだ盗賊団が動き出したとか……何でも、頭領自ら動くという……。
だから慌てていたのか……オズワルドの代わりに誰かが行くとは予測してたが、まさか頭領自ら動くとはな……。

まぁ、あの頭領は原作ではかなり強いみたいなことを部下達から言われていたからな……ライエルに一瞬で切り捨てられていたが……正直、今のカーマインでは厳しいかも知れん。

一応オズワルドには、奴らが動いた時には十中八九ゼノスの足止めに掛かるだろうこと……その場合は連中を抑え、ゼノスの援護をしてやってくれ、とは言っておいたが……。

「ラルフ、一応俺達も向かうぞ?」

「了解、それじゃあ行くとしようか?」

現在、俺達はコムスプリングスに居る。

……別に温泉に入りに来たワケじゃないぞ?
シャドーナイツのアジトの一つが此処にあるから来たのだが……。

どうも無駄足だったらしい。

誰も居ないでやんの。

まぁ、此処はアジトというより牢屋という面が強いからな……出来るなら此処が使われないことを願うばかりだ。

んで、俺達はニールの案内でローランディア王都、ローザリアに向かうのであった。

**********

俺たちが買い物から帰って来た後、ティピが俺に対する評価とやらを母さんに報告する。

何やら、かなり褒めちぎられていた……俺としては、当然のことをしただけだったんだが……ティピ的にはポイントが高かったらしい。


その後――母さんに、旅に向かうなら何処に向かいたいかを聞かれた。

色々行きたい所はあったが――気になったのが今朝、夢で見た場所だ。

俺には奇妙な能力がある……それは俺が見る『夢』だ。

能力と言うと大袈裟だが……俺の見る夢は現実を映し出す。

要は、正夢の類だ。

とは言え、見たことも無い隣の国の城とか……見たことも無い奴と修練してたりとか……なんとも珍妙な内容なんだが。

俺は詳しく夢の内容を話した……。
――塔の様な岩が遠目に見える古びた遺跡……そこに佇む男と女……。

指輪を渡し、思いを告げた男……それを受け入れた女……。

――男が少し、俺に似ていたことは――何故か言わなかったが。

そうすると、その場所について母さんが答えをくれた。

「……遠くに塔の様な岩の見える……古びた遺跡ですか……それならば、この都を出て北西に行った所の岬かも知れません」

「岬、か――」

「それほど遠い所ではありませんし、眺めも良い所です。まずはそこに行ってみるといいでしょう」

「分かった…とりあえず行ってみるとするさ」

確かに色々夢と符合するし……何より初めての『外の世界』だ……楽しみだな。

「いいなぁ……ねぇ、私も一緒に行っていい?」

待て……お前には魔導実習があるだろう。

「あなたは魔導実習があるでしょう?」

と、俺が言う前に母さんが言ったか……せめて課題を片付けた後なら、一緒に連れていってやったんだが……。

「でも……お兄ちゃん一人で大丈夫かな?」

――よし、妹よ。
お前とは、後でじっくりと話し合う必要がある様だな?

「そのためにあたしがいるんじゃない!というわけだから、よろしくね♪」

何が、というわけなのかは分からないが……コイツは、口は悪いが根は良い奴なのだろう……買い物に行っただけだが、それくらいは分かる。

だから――。

「……あぁ、よろしくな?ティピ」

素直によろしくしておくことにした――。

若干の不安は拭え無いけど……な?


「気をつけてね、お兄ちゃん」

「困ったことがあったら、いつでも戻ってきなさい」

ルイセと母さん――二人に見送られ、俺達は岬に向かった。
道中、一匹の緑で半透明な身体を持ったモンスターが居た。

ゲルだ。

『あの程度』の奴なら、無視しても良いんだが……。

「アンタ戦うの初めてよね?アンタの頼み方に寄っては、アタシが直々に、戦いのイロハってヤツを伝授してあげても良いけど?」

ティピの奴が、得意満面と言った風に何かをおっしゃっている。
なので――俺は一言。

「寝言は寝て言え」

…そう言ってやった。

「へぇ〜?随分自信あるじゃない。じゃ、アンタの戦いぶりをじっくり見せてもらうわ」

顔をひくつかせて頭にバッテンマークを貼り付けて、そんなことを言うティピ。
……まぁ、良いんだがね。


結論から言えば――勝負は一太刀で決まった。

素早く踏み込んで一閃。

――それだけだった。

初めてモンスターと戦ったが、呆気なかったな。

「……………」

ティピは呆然としている。

「……どうだ?それなりには出来るだろう?」

微かに笑みを浮かべてやると、ティピは慌てた様子で。

「や、やれば出来るじゃない。まぁアタシに言わせればまだまだだけどね!」

とか何とか言っている…負けず嫌いという奴か…まぁ、良いが…。

その後、しばらく歩いて――件の岬に着く。
そこで小さな墓を見付けた。

「『シエラ此処に眠る』だって。アンタが生まれる三年前に亡くなってるんだ」


シエラ……あの夢に出て来た女の名前だが……まさか、な。

先に進むと、そこには見晴らしの良い景色が広がっていた……夜ではないことを除けば夢の通りの光景だ……。

「あ、アレ!」

ティピが指し示した方向を見る。
その先には羽の生えた人間が空高く……あの塔のような岩の先にあるリングに向かい、飛んでいく姿があった。

「羽の生えた人だぁ……何だろ……?」

あれは確か……。

「彼らはフェザリアン。あまり地上には降りてこないからね。知らないのも無理はない」

「えっ?」

これが天才魔導研究者……アリオストとの出会いだった――。




[7317] ―みにみにぐろ~らんさ~♪パーソナリティはティピと………このネタを知らない人はゲームをクリアしておまけを聞こう♪番外編です―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2009/03/18 19:49
「「ミニミニ♪グローランサー♪」」


「みんな♪いつも応援どうもありがとう♪ティピで~す♪」

「今宵も貴方とシットリと濡~れ~る様なひと時を過ごしてイキたいと思います。Homoです」


………………

「ノンストップドラマチックRPG!グローランサー!好評発売中!って今更ですね」

………………

「はい!そう言う訳でね♪始まりましたけども♪」

「始まっちゃいましたね~♪ティピさん、このコーナーの主旨は何でしょうか?」

「えっとね~、このSSに登場する人物達をゲストに招き、色々聞いちゃったりするコーナーです」

「まぁ、本当は作者がリアルで忙しくて本編を書けないから、お茶を濁す為に出て来た企画なんだけどNE☆」


「ティ・ピ・ちゃ~~~ん……キィィィィックッ!!!」

「ユニバアァァァス!?」

バキャッ!!!ひゅ~~~………ズガァァァン!!


「そういう発言はNGだから…次言ったら四の字固め決めるわよ?」


「サーイエッサー…」

「さて疑問でランサーのコーナーです。今回のゲストは…華麗で華やかな影の主役…むしろメインヒロイン♪才色兼美な、みんなのアイドル♪ティピちゃんで~~す☆」

「さて♪始まったばかりですが…もうお別れの時間が来てしまいました♪」

「って待てぇぇぇぇい!!」


「こんなキャラをゲストに呼んでほしい、こんな質問をして欲しい、僕と濡れる様なひと時を過ごしたい方という素敵で奇特な方は、感想掲示板にて感想のついでに書き込んで下さい。それではスタジオにお返しします」

「無視するなぁぁぁぁっ!!」

どげしっ!!!

「ゴスペルっ!!?」

…………………

「少し人より優れた青年…人並みの生活を送っていた青年はある朝、目覚めたら…赤ん坊になっていた!?ノンストップドラマチックRPGグローランサー♪―異世界転生者の平穏―好評連載中~♪」


*******

忙しくて本編に手が出せなかったのでネタです……m(__)m
好評な様なら続けます。ただしこちらは不定期になりますが…(;¬△¬)



[7317] 第10話―運命に導かれ出会いし者達―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/11/30 05:17


――いつの間にか夜の戸張が降りて来ており、大きな月がその存在を主張していた……そんな中、俺達が声のした方に振り向くと……そこには眼鏡を掛け、長身で学者風の男が居り、その長髪を風に揺らしながら、翼の生えた人…フェザリアンが浮島へと飛翔していく様を眺めていた。


「いつ見ても美しい翼だね。君もそう思うだろ?」

フェザリアン、か……文献や物語を見て、知識としては知っていたが……実物はこれが初めてだった――実際に見ると。

「確かに綺麗だったな」

「アタシもそう思う」

俺とティピは自分の素直な意見を述べる。

「僕はいつか、フェザリアンの住むあの浮島に行ってやるんだ。だがそのためにはもっと研究をしなくては……」

「あなた、学者さんなの?そういえば、普通の人とはちょっと違うみたい?」

「ああ、そうだよ…君もただの妖精じゃないね?ホムンクルス?」

学者風――いや、自称学者の男はティピの正体に感づいたようだった。

「わっ、凄い!よくわかったね!アタシ、ティピ!よろしく♪」

「カーマインだ」

「僕はアリオスト。魔法学院で飛行の研究をしている」

「アリオスト…?魔法学院の天才魔導科学研究者の、あのアリオストか?」

「そんな大層なものじゃないんだけど……僕のことを知ってるのかい?」

「ルイセ――妹が話してくれてな」

そう、長い間俺は王都から外に出られなかった。
だが時折、休暇などでルイセが我が家に帰郷を果たすと、学院でのことをよく話して聞かせてくれたのだ。
……当時の俺にとっては、外の世界のことを知ることが出来る――数少ない方法だった。

「ルイセちゃんが?」

「ああ……まぁ、あいつのことだから退屈していた俺を元気付けよう――と、思って話してくれていたんだと思うが」

最初の頃はそうだったんだが、後の方になるとそれはむしろ口実だった様な気がする。
アイツは俺に甘えたがるからな……もう花も恥じらう年頃なのだから、そろそろ子犬の様に甘えるのは止めた方が良いと思う。

――要するに、兄離れをしなさいと言うことだ。

「ルイセ?君は彼女のお兄さんなのかい?」

「ああ…ルイセのことを知ってるのか?」

我が妹ながら、確かに可愛らしい容姿をしているが……差程、目立つ性格はしていないはずだが。

「彼女は有名人だよ。グローシアンだからね」

成程な、そういうことか。

「……ぐろーしあん?」

「何だ、知らないのか?」

知らなかったのか――母さん、せめて最低限の常識くらい教えてやれよ…ほら、ティピが阿呆の子みたいになってる。

アリオストがそんなティピの為に、グローシアンとは何たるかを説明する。

日食や月食の期間に生まれた者は特殊な魔力…【グローシュ】を得る。
その力を得た者をグローシアンと呼ぶ。

グローシアンの力は、月食、日食、皆既月食、皆既日食の順に力が強くなっていく。

ルイセは皆既日食の間に生まれた。
――つまりは、もっとも優れたグローシアンになる……あの甘えたがりが、そんな大層なものには見えないんだが……これは列記とした事実だ。

「へぇ〜…アンタ知ってた?」

俺にそう尋ねてくるティピ。

「当たり前だろう。何年家族をやってると思ってる……?」

というか、ルイセが生まれた時にはもう俺は居たのだから、皆既日食だって経験済みだ。

「それじゃ、アタシだけなの?もうっ、マスターも教えてくれればいいのにっ!」

それは俺もそう思う。

「ちなみに、グローシュは知ってるだろう?」

「……えへへ……よかったらそれも教えてくれる?」

……ティピ…お前本当に阿呆の子だったのか……?
まぁ、この場合まともな教育をしていない母さんに非があるわけだが――。

「お前も既に見ている……というかお前、俺が塾の講師の人と話しているのを聞いていただろうに――グローシュのことも話に出ていたぞ?」

俺はやれやれ…と、首を振るう。

「な、なによ〜、人をまるで馬鹿みたいに…塾の講師?…ん〜……何かそんなことがあった様な…」

…駄目だコイツ…早くなんとかしないと。

「お前が、ふわふわぴかぴかと言ってたこの宙に漂っている光の玉――これがグローシュだ」

「ああ!そうだったそうだった!」

どうやら思い出したらしい。
とりあえず思い出せたなら良いんだが。

「このグローシュは時空の不安定なところから、この世界に流れてくる魔力なんだ。つまり、これが多い場所ほど時空が不安定というわけだね」

俺の説明を継いで、アリオストがグローシュについて講義してくれる。

一般的に北へ行くほどグローシュが増え、南に行くとほとんど無い。
これが関係しているのかは分からないが、南のランザック王国は魔法技術に関しては遅れているらしい……優れた魔導師が生まれ育つにはグローシュも必要、ということなんだろうか?

その後、幾らかの雑談をした俺達はアリオストと別れた。
しばらくは王都の宿に泊まっているのだそうだ。


そして俺達もまた、帰路に着こうとした……。



その時……。



「あなた……来てくれたのね……」



「え?」

「む…?」

俺達はその声に振り返る………そこには……。


「ずっと…待っていました……」

夢で見た女性が…。

「あなたがここに来てくれるのを……」

慈母の様な微笑みを携えながら…愛おしそうに…俺を見ていた。


「待っていた……俺を……?」

「……はい。あなたがここへ戻ってくることを信じて……。もう……20年も経ってしまった……」

この女性は俺を……いや、俺を通して夢の中に出てきた男を見ているのだろう…と理解できた。

「…………」

ティピは彼女を…俺達を見ながらも、無言のままだった。
俺と彼女の放つ雰囲気から、何も言えなかったのだろう。


「これを……これはあなたが持っていて。」

そう言って女性が俺の手を取り、俺の手の平に何かを乗せる……。

それは夢の中で男が女性に渡した指輪だった。

「綺麗な指輪だね〜」

ティピがそんなことを言ってくるが、俺の耳には届かなかった。

夢の中に出て来た指輪……夢の通りなら、彼女にとっては何よりも大切な指輪の筈だ。


「この指輪はお返しします」


今なんて言った?この指輪を返す……誰に…?

「そしてあの子に会ったら、伝えてください。シエラは…母は今でも愛していると……」

「あの子って…」

「愛しているわ、あなた……あの子に、よろしくね……」


「!?――待ってくれ!!」


だが、俺の声は虚しく届かず、女性は霞の様に消えてしまった……。

「い、今のって……?」

「…今朝、俺が見た夢のことを話しただろ?…その夢に出て来た人だ…」

ティピは何やら驚いているが……俺の心中は複雑だった。
女性は俺を夢の中の男だと思い、この指輪を託したのだろう……罪悪感が胸を過ぎる。
――最初から人違いだと言っておけば良かったな…。
夢で見た様に、不思議な輝きを放つ指輪を握り締めながら、俺はそんなことを考えていた。

その後、俺達は帰路に着いた。

途中で行商人の男と出会った。
男が言うには王都方面で盗賊がうろついているらしい。
男はここで野宿するらしい……が、俺達はそうも言ってられない。
帰りが遅くなれば、ルイセも心配するだろうしな。

******


やっぱり気になる…。

遠目で見ただけだけど…あのカーマインという人、ラルフさんに似ている……ううん、似過ぎている。
宿のおばさんの話しを聞く限りだと、カーマインさんは昔からこの街に住んでいるらしいけれど……。

彼は、あの人……シオンさんのことを知ってるかも……。

他人の空似で、実際には関係なんて無いのかも知れない。
そう頭では理解してる筈なのに、心が叫んでる……会いたい、あの人に会いたいって…。



シオンさんが旅立ってから、ずっと音沙汰もなくて……毎日が不安で一杯だった。
時々帰って来る兄さんにも、心配させてしまった。
不安で胸が一杯になる度に、首からさげた彼との約束の証を握り締める。

――あの穏やかな日々は夢だったんじゃないか……って。

兄さんが居て、ラルフさんが居て――そして……あの人が、居た。

そんな温かな日々の思い出が、自分の想い描いた妄想だったんじゃないかって……そんな不安に駆られながら――。

そんなある日、彼から手紙が届いた。

内容は近況報告と、旅での色々な人達との出会い、出来事……そして、今まで顔を出せなかったことへの謝罪だった。
その便箋は可愛らしい感じのデザインで、彼には似合わない感じがした。
それでも、一生懸命選んで買った便箋なのだろう――そう考えると、思わず笑みが零れてしまった。

それからは、定期的に手紙が送られてきた。
その度に私の心は満たされていった……けど、同時に渇望もしていった。

不安は和らいだ……でも私は余計にシオンさんに会いたくなってしまった…以前よりもっと恋い焦がれる様になってしまった…。


それから私は、時折兄さんに着いていく様になった。
旅先でシオンさんの手掛かりを掴めるかと思って……。
こうしてローランディアまで来て、結局手掛かりを得られなかったと思っていた時に……カーマインさんが現れた。


私は結局、居ても立ってもいられなくなり、兄さんに書き置きを残して宿から飛び出してしまう。

……先程カーマインさんが追い払った筈の人達の視線にも――気付かずに……。
********


やれやれ…結局ローランディアでは正式に雇って貰えず、か。

まぁ、仕方ないな。

今のローランディアは温厚なアルカディウス王が統治する国だし……ローランディアに限らず、戦争でも無い以上は、傭兵みたいな職は求められていないのも道理。

やっぱりちゃんとした働き口が無いと、今後は辛いのかも知れないな……と言っても、個人で傭兵をやっている俺にはツテらしいツテも無いんだが――。

そういえば、そろそろ闘技大会の時期だな。

闘技大会には各国の御偉方が来賓としてやってくる。
その為に闘技大会で優勝した者は、国から正騎士として抜擢されることもある。

今年は傭兵業を一時休業にして、俺も出てみるかぁっ!
……どうでも良いが『アイツら』は出場したりしないよな?

あれから俺も腕を上げたが……シオンには未だに勝てる気がしない。
ラルフとはやり合ったことが無いから分からないが……苦戦は必至だろう。
アイツらも闘技大会に参加したことは無い筈だから、必然的に同じフレッシュマンの部になるだろう。
……まぁ、その時はその時だな。

というか、たまには顔を出しやがれってんだ!
カレンがすっげえ心配してたっつうのに。

そうこうしてる間に宿に着く。
宿のおばさんに軽く挨拶した後に部屋に戻る。

「カレーン。今帰ったぞ〜」

しかしそこはもぬけの殻だった。

既に外は夜で、窓の外の月明かりだけが部屋を照らしている状態だった。
それでも十分明るいのだが、部屋は薄暗くなっていた。
俺は明かりを着け、部屋を見回す。

すると、机の上に書き置きが置いてあるのを見付ける。

「何々…?」

『兄さんへ…少し出掛けてくるけど、すぐに帰ってくるから心配しないでね。

カレン』


「カレンの奴、こんな時間に出歩くなんて……いくらローランディアの治安が良いとは言っても、流石に危ないだろうが!」


俺は宿のおばさんに話を聞いてからカレンを捜しに行くことにした……そして、話を聞いて更に俺の不安は増すことになる。

「出掛けたのは昼から!?」

オイオイ!!
すぐ帰るとかの話じゃねえぞ!?


俺は宿を飛び出しカレンを追った。
これが数十分前までの話だ。

そして現在、俺は数人の男達に囲まれている。
見た感じ、盗賊――野盗の類いか?

「なんだお前ら――俺は急いでるんだ!道を空けろっ!!」

「へへへ…そう強がるなよ?妹がどうなっても構わないのかい?」

……コイツは今、何を言いやがった?

「貴様ら……カレンに何をしやがった!?」

「別に何もしちゃいないぜ?アンタが大人しくしててくれりゃあな…意味、分かるよな?」

「ぐっ……」

クソッタレ……これじゃあ手が出せねぇ……。

「――ハッタリは止めときな」

男の声が響き、盗賊達に一つの戦斧が襲い掛かった。




[7317] 第11話―強襲!盗賊団頭領!!―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/11/30 06:03


「ねぇねぇ!お月様が出てるよ!」

「ん?」

行商人の男の忠告を無視し、帰宅中……空を見ると確かに月が出ていた。

「きれいなお月様だねぇ……」

確かに綺麗な満月だ……だがティピよ……お前、さっきの岬でも月が出ていたのに気付かなかったのか?
本気で阿呆の子なのか…真剣に心配してしまう…。

とは言え、感激している様なので不粋なことは言わなかったけどな。

余程上機嫌なのだろう――ティピはまるで、踊る様に宙を舞う。
月明かりに照らされたそれは、何とも言えず幻想的で――俺は思わず魅入ってしまっていた。

「……アレ?ねぇ、あれ見て、アレ!!」


ティピが大声でまくし立てながら、指差す方向を見遣る……。

そこには……。



「フフン。なかなかカワイイじゃねぇかぁ……」

「な、何ですか、あなた達……」

「ちょいと俺達と、ククッ、来てもらおうか?」

女性が男達に絡まれている…長いブロンドの髪をし、後ろで髪を二房に分け、頭は動物の耳の様に髪がセットされている………服は所謂メイド服というのに近いか?

男達はいかにも盗賊です。
といった風体のが三人。
特に語るべくもないが。


「そんな……、どうして……」

「うっせぇなぁ!黙ってついてこい!あんまりうるせぇと、痛い目見るぜぇ?」

女性が恐怖からか後退り、男の一人が女性を脅し、威圧する。

「兄…さん……シ……さんっ……!た、助けて!」

それは女性にとって、必死の抵抗だったのだろう――声を震わせながらも、助けを求めた。

……と、冷静に状況を分析してる場合じゃないな。


「あの連中、無理矢理あの女の人をさらうつもりだよ!助けてあげようよ!」

ティピがそう提案するが…言われるまでもない。

「当たり前だ…」

この状況であの人を見捨てる程、俺は人間腐っちゃいない。

「そう来なくっちゃ!ようし!やっちゃえ!!」

おい……声がデカい――そんな大声出したら……。

「ん?声が……!?お、おい!あのガキに見られちまったぜ!?」

盗賊(断定)の一人がこちらを向く……言わんこっちゃない。

「チッ!こんな時に……お前らはあのガキを血祭りに上げろ!」

「任せとけ!」

「おうっ!」

ったく……こちとら対人戦は初めてだってのに…負ける気はしないが、いかんせん距離がある。
倒すだけならいざ知らず、あの女性を助け出すとなると…俺の足なら奴に追い付くのはわけないが……間に妨害が入れば話しは別だ。

俺は剣を抜き放ち戦闘体制に入る。
そして瞬時に戦闘のロジックを練る。

前二人をどうにかしていたら、残り一人に逃げられる……ならば無視して進むしかない。
ならどうする……周囲の林に入り、迂回すると時間が掛かる。
正面突破しかない。

俺の判断は盗賊二人を無視し、まずあの女性を連れ去ろうとする奴を倒すことだった。

この間僅か数秒程度。

俺は一気に駆け出した。
速度を上げ、あっという間に盗賊達との距離を縮める。

「は、早いっ!?だが、ここからは行かせねぇぜ!」

「邪魔されるわけにゃいかねぇからな!」

案の定間に入って来たな……。

「……どうすんのよぉ……」

振り落とされない様に、俺の肩に捕まってるティピがどんよりムードでそう言う。

「……こうするんだ」

「え…わきゃ!?」

俺は盗賊にあわや接触、というところで跳躍した……そう跳び越えたのだ。

「なっ!?飛んだだとぉ!?」

己に向かい飛来してくる俺を見て、女性を連れ去ろうとしていた盗賊が驚愕を露にする。


俺は落下しながらも、手に持っている剣を振りかぶる。


……この剣を振り下ろしたら、この男は死ぬ……だが、そうしなければ女性がどうなるか分からない……俺に見られた……それだけで俺を消そうとした奴らだぞ……?


……躊躇うな……迷うな――っ!!!


「はああぁぁぁあぁぁぁっっっ!!!」


迷いを消す様に、慣れない雄叫びを上げて己を鼓舞し、高速の刃を振り下ろした。

ズシャァァ!!

「ぐぉぁっ!!?」

俺の剣は肩口から切り掛かりその男に致命傷を与えた。
鮮血が――飛び散る。

「す、すんません…お頭ぁ……」

男は血を吐き、倒れて動かなくなった。

「ふぅ…」

「やったぁ!」

俺は一息吐くと、女性を背に残り二人を睨み付ける。
それだけで残りの二人は後退る。
ティピは喜んでいる様だが、俺は複雑な心境だ…何せ人を殺しちまったんだからな…。

「ね、大丈夫だった?」

「は、はい。助かりました」


「ん…?まだ気を抜くのは早そうだぞ…」

「え…?」

俺の声に女性は首を傾げる…というか、この女性…何故か俺の顔を凝視している。
まるで何かを確認するかの様に…。


「む?なんで娘がまだここにいるんだ?」

そこに現れたのは禿げ上がった頭に眼帯をした巨漢だ。
手には大斧を持ち、更には手下であろう盗賊を数人引き連れている。

「お、お頭ぁ!」

残っていた二人が情けない声を上げて男を見る。

お頭か…つまりこいつらのボスってわけか…。

「何をボケッと突っ立ってやがる!!せっかく奴を足止めさせて来たというのに!」

「す、すいやせん!」

「こうなったら、俺が直々に手を降すしかねぇなぁ!!」

男が大斧を構える……。中々強そうだな……それでも負ける気はしないが……この状況はマズい。
丁度挟み打ちの様な形になっている。
一人で戦うなら良いが、守りながらとなると……。

「どうやらあいつが親玉みたいね!」

「…見れば分かる」

アイツだけ、他とは空気が違うからな……。

「あ…あの、私はどうすれば…」

「彼女…どうする?」

俺は少し考えたが、その場に止まって貰うことにした。
下手に動かれると守り難い。

「彼女には、この場に止まって貰うさ…」

「そうね。変に動かれると守りづらいモンね!」

そういうことだティピ。

まずは、襲い掛かろうとしていた近場の二人を切り倒す。
我ながら、こうも早く思考が切り替わるとは……コレではまるで異常者ではないか――と、思わないでも無いが……やらなければやられるんだ。
ならば今は悩まずに奴らを倒す。

俺は増援に向かって駆け出す。

人数は十人と少し…どうということはない。

俺は向かって来た二、三人を切り倒す。
感覚が麻痺していく…まるで何かに導かれる様に……。


そこに……。


「お前が親玉か!お前、何の恨みがあって俺を…」

一人の男が現れる…体格が良く、白い鎧に金色のガントレットを着け、手には大剣を両手構えで持っている……この男…強い。
正直あの盗賊の親玉と比べても別格だ……まさか新手……。

「ぬぅ!?貴様!どうやって!?」

というわけではなさそうだ…一安心だな…流石にあの戦士まで向こう側に加わったら正直キツい……というか、勝ち目がかなり薄くなっていた。

「ゼノス兄さん!」

「カレン!?無事だったか……!?お前は!」

兄さん?どうやらこの女性の兄らしいな。
って、何故俺を見て驚愕の表情を浮かべる……?

「お兄さんなの?あなたの妹さんが、この悪漢にさらわれそうになってるのよ!」

「何だと…あの男の言ってたことは、やはり正しかったんだな…」

あの男…?何のことを言っているんだ…?


「おいお前!よくもカレンをさらおうとしてくれたな!この落し前はきっちり付けさせてもらうぜっ!!」

男――ゼノスが戦闘体制に入る。
溢れ出る空気……闘気という奴か。
これだけの男が味方なら、頼もしいことこの上ない。


「ちょっと待ってよ!今は協力するべきだと思わない?」

ティピがそう提案する。
確かに連携が取れた方が確実だ…もっとも、俺とこの男……ゼノスが居ればこいつら程度に遅れは取らないだろう。
なので……。

「自由に戦ってくれ。アンタくらいの腕なら下手に指示を出すより、その方がやりやすいだろ?」

「分かった!お前の実力は知ってるが、戦ってるところは見たこと無いからな…その実力を見せてもらうぜ!」

ん?…何を言ってるんだ?
まるで、俺に会ったことがある様な口ぶりだな?


そう言おうとしたが……。


「ふふふ…グハハハハハハっ!!馬鹿めっ!!この俺に何の策も無いと思うてかっ!!」

盗賊の頭領の笑い声に遮られる形になる。
策……この状況で何を……。

「!しまった!?カレン!?」

ゼノスが叫ぶ…俺は女性――カレンを見遣る。
……カレンの周りに敵はいない……カレンを守りやすくする為に戦端から離したのだが………まさか!?

「伏兵か!?」

「グハハハハハハハッ!!今更気付いても遅いわぁっ!!!さあ!その娘を捕まえろぉ!!」

カレンの身体がびくりと震える。


…………………。


……しかし何も起こらない。

「?何をしている!?さっさと出てこんかぁ!!」

「悪ぃがアンタの伏兵には眠って貰ってるぜ?もっとも、二度と目は醒まさないだろうがな?」

その声と共に現れたのは青い角着き兜と軽鎧を身に着け、両手に片刃のハンドアックスをそれぞれ装備し、髭をモミアゲから顎まで生やした男と……盗賊ルックだが、個性なのかそれぞれ赤、青、黄の衣装に身を包んだ男達だった。


「テメェは!オズワルド!?ビリー、マーク、ザム!?テメェらどういうつもりだ!何故、団を抜けたテメェらがここに居る!?」

頭領は頭に血を上らせながら叫ぶ。

「なに、仲間割れ?」

ティピがあの頭領と、オズワルドと呼ばれた奴が仲間同士という前提で考える。
だが……。

「違うみたい…だな…」

「えっ?」



「これでお前らも思う存分にやれるだろう!お嬢ちゃんは、こっちで何とか守ってやるからよ!」

オズワルドの檄が跳ぶ……正直見た目が小悪党で、信じられるかは分からないが、兄であるゼノスが……。

「言われるまでもねぇ!!」

とか、言ってるので問題は無いのであろう。


「ぬぅぅぅ!!だがそれでも人数はこちらが上!!お前ら!!やってしまえぃ!!」

そう言って襲い掛かってくるが、俺、ゼノス、おまけにオズワルドが加わった為、連中はあっという間にボロ雑巾です。

オズワルドが意外に強かった。

まぁ、そこの頭領程じゃないが。

結果、残った敵は頭領と盗賊二名の計三名のみ。

「か、かかか頭ぁ!!?こここ、このままじゃあ!!?」

「ぬぅぅぅ!!やむを得ん!引けい引けぇぇい!!」

盗賊達は林の中へにげて行った。

「待ちやがれっ!……逃げ足の速い奴だ」

ゼノスは追いかけようとするが、深追いは禁物と思ったのか追跡は諦める。

「兄さん……」

「大丈夫か、カレン。ケガは無いか?」

ゼノスはカレンに駆け寄り、安否を気遣う。

「ええ。この人が助けてくれたから」

「…この人?…ラルフのことか?」

ラルフ?俺のことか?

「ちょっと待って、ラルフってもしかしてコイツのこと?」

ティピが疑問をゼノスにぶつける。

「そうだが…って、なぁラルフ。さっきから気になってたんだが…お前何時から妖精と一緒に旅する様になったんだ?それに――シオンはどうした?」

「――質問に答える前に訂正しておこう……俺の名前はカーマイン・フォルスマイヤー。ラルフなんて名前じゃない。当然、シオンなんて奴も知らない」

俺はゼノスにそう告げると、ゼノスは苦笑いを浮かべる。

「おいおい…冗談だろ?」

「ううん…この人の言っていることは本当なの、兄さん」

「カレン?」

カレンがゼノスにそう告げて、続けて言う。

カレンは宿屋にいたらしいのだが、その時に宿の入口辺りから口論が聞こえたそうな…。
それで窓から様子を見てみると、俺が入口に居たということらしい。
それで、俺が余りにラルフという奴と似ている――ということで気になり、宿を出て街の人に話しを聞いて回っていたそうだ。

「しかし……そんなに俺と、そのラルフは似てるのか?」

「似てるなんてモンじゃねーよ!まるで鏡を見てる気分だぜ……」

「そのラルフって人、コイツとそんなに似てるんだ」

ティピがほ〜…とか、へ〜…とか言いながら頷いている。

「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はゼノス・ラングレー。君のおかげで妹も無事だった…礼を言うよ」

「私はカレン・ラングレーです。助けて戴いてありがとうございます」

ゼノスとカレンがそれぞれに頭を下げてくる。

「当然のことをしたまでだよね?」

「ああ…偶然通り掛かっただけだしな…気にしないでくれ。それより、あの男達に襲われるような心当たりは?」

俺はゼノス達に尋ねる。アイツらは明らかにカレンを狙っていた…。
何かしら理由があると思うんだが…。

「別に心当たりなんて……」

「俺にもないな…まぁ、その辺はそこに居る奴らが話してくれるさ」

ゼノスはオズワルドと呼ばれた男の方を向く。

「詳しい理由を説明してくれるんだろうな?」

「まぁ、構わねぇよ」

その後オズワルドは色々と説明してくれた。
以前、自分達はさっきの盗賊団に居たこと。
頭領のケチっぷりに嫌気がさして団を抜けたは良いが、これからどうすれば良いか分からず、途方にくれていたこと。
その時に、さっきゼノスが言っていた『シオン』って奴に拾われたのだとか。

その後は盗賊業からは足を洗い、シオンを頭と仰ぎ働いて来たとか。
そのシオンに言われて古巣の盗賊団に張り付いていたそうな。

「そんで、連中に動きがあったんで俺達がこうして動いてたって訳だ。連中がそこの嬢ちゃんを狙った理由は誰かに依頼されたからだが、誰に依頼されたか、どんな依頼内容なのかは分からなかった。もっとも、シオンの頭なら何か掴んでるかも知れねぇが……まぁ、そこの兄さんを足止めしてた事を考えると、嬢ちゃんを連れ去ることが目的だったってのは想像に難しくねぇがな」

オズワルドが説明する。
確かにカレンを連れ去る為にゼノスを足止めしてた……というのは理解出来る。
しかし何の為に…?

「いったい、カレンを連れ去って何をしようってつもりだ?」

「さてね…理由までは分からねぇよ。こればっかは依頼主も分からねぇ状況じゃあなぁ…」


「あ…あの…」

「ん?何だい嬢ちゃん?」

カレンがオズワルドに話し掛けた。

「あの人は…シオンさんは…?」

「頭か?一応、一人伝令に行かせたからこっちに向かってるとは思うが…今どの辺りかは分からんぜ?バーンシュタイン国内…コムスプリングス辺りに居たらしいんだけどな――」

「兄貴……そろそろ…」

「おう。悪ぃが、俺達もまだ仕事が残ってるんでな……この辺りで失礼させて貰うぜ」

そう言うとオズワルド達は、逃げた盗賊団を追うように林の中に入っていった。

「なんかさぁ〜…あのオズワルドとかいう奴。いかにも小悪党な顔してるのにさぁ〜…キャラ違くない?」

オズワルドに対して不満を零すティピ…人を見かけで判断するなよ…俺も少し思ったけど…悪い奴では無いみたいだし。


「それにしても、あの手勢を相手にできるなんて、お前も相当腕が立つようだな。やっぱり闘技大会に出るつもりか?」

オズワルド達が去った後、ゼノスが俺に尋ねてくる。

「闘技大会?」

ティピがクエスチョンマークを浮かべる。
俺も詳しくは知らないな……闘技場があるのは知ってるが。

「知らないのか?年に一度、グランシルにあるコロシアムで開かれる大会のことだ。優勝者は国から正騎士として抜擢されることもあるそうだ」

「成る程…つまり盛大な催し事な訳だ」

正騎士に抜擢される…ということは各国の重鎮や、軍の責任者なんかも来賓か何かで来るということだからな。

「そういうことだ。俺も今年は闘技大会に出るつもりだ。もしも参加するなら、その時は宜しくな…もっとも、優勝は俺が戴くがな!」

「もう、兄さんったら」

自信満々に言ってのけるゼノス。
それを見て苦笑を浮かべるカレン。
何と言うか、仲の良い兄妹だな。

「まぁ、その時は宜しく頼む…」

俺はそれだけ告げる……闘技大会か。
機会があれば出てみたいものだな。
ゼノスとなら良い勝負が出来そうだ。

「とにかく、今日はありがとう」

「本当にありがとうございました」

改めて礼を言われる…そんなに気にしなくても良いんだがなぁ…。

「二人とも気をつけてね!」

ティピと一緒に二人を見送る……二人は王都の方に帰って行った。

「仲の良い兄妹だね」

「そうだな…」

「アンタとルイセちゃんもあんな感じなの?」

そう聞かれて俺は考える…俺とルイセか…あんな感じ…いや、ルイセは甘えたがりだからな…あんな感じではないが……。

「まぁ、仲は悪くないな」

「へー、そうなんだ」

むしろ仲が良すぎるのでは無いかとお兄さんは思う訳だ……あんなに俺にべったりでは彼氏も出来ないぞ。
せっかく可愛いんだから、もっと青春を謳歌すべきだろうに……。

「さて、アタシ達も帰ろうよ!」

「ん…?そうだな…」

ティピに促される感じで王都に足を向ける。
あまり遅いとルイセや母さんも心配するだろうし…。




ズキッ!!!



「――――!!!?」

何だ…コレは……。

急に頭が痛んだと思ったら、目眩が起こり……気付いたら……。

俺は倒れていた…。

「どうしたの?寝るなら家に戻ってからにしなよ……」

ち、違……!?こ、声が出ない…!?

「ねぇ?ちょっと!?どうしちゃったのよ、ねぇ!!?」

ティピの声が……段々と……遠く…………。

「大変だ!人を呼んでこなきゃ!!」

…ティピが慌てて飛んでいくのが見えた……。

お前……ホムンクルスなら……母さんとテレパシーで繋がってるんじゃ………。

そんな声にならないツッコミを入れた所で、俺の意識は完全に途絶えた。








………奪え………。

……何だ…?

……奪え……。

…誰だ…何を言っている…?

…奪え…。

…何を…奪えというんだ…?

…奪えっ!

(何だ…急に視界が……)

真っ暗だった視界が急に光り輝き、はっきりとした輪郭を示した。

その光景は………。

(ここは……母さんの研究室…?…ん?人が倒れている…!?)

その姿を見ると、どうやらローランディアの兵士らしいが…血を流してぴくりとも動かない……死んでいる……のか……?

(助けなければ……!?身体が…動かない…っ!?)

「……」

身体が言うことを聞かず、声も出ない……俺はただその死体らしきものを冷ややかに見下ろすだけだ…。

その死体を素通りし、俺は研究室に入る…。




「おい、あったぞ!これがサンドラの魔導書だ」

「よし、すぐにここを立ち去るぞ」

…何やら話し声が聞こえるな…俺はその足を声のするほうに向けて進ませる……いや、勝手に進んでいるのか…?

「むっ!」

ほう…気付いた様だな……何だ…また、思考がまどろむ……。

「その魔導書を貴様らにくれてやるわけにはいかん。置いてゆけ」

【俺】は覆面の男達に告げてやる……威圧感を込めた声で……。

「ええい、貴様も外の番兵の様にしてくれるぞ!」

成る程……外の死体はコイツらの仕業か……

「フッ……。勇ましいな」

【俺】はいきり立つ男を嘲笑ってやる……その程度の力で何をいきり立っている……実力の違いも分からぬ愚か者めが……。

「この、ガキがっ!」

男が二刀を抜き放ち、切り掛かってくる。

中々に速い……が、【俺】にとっては遅すぎる。

奴の剣が【俺】を捉えるより先に――。

「グッ!?」

――【俺】は、剣を居合いの要領で抜き放ち男を切り裂く。
更に、男がすれ違うまでに幾度も切り裂いてやった……男は地に倒れ伏し、至る所から血を吹き出して動かなくなった。

雑魚が……粋がるからそうなる。

「な、何っ!?」

残った一人がたじろぐ。まさか仲間がやられるとは思わなかったのだろう……。
【俺】は何の感慨も無く、死体を一瞥してから残った奴に剣を向ける……この思考がまどろむ感覚……まるでいつもの夢の中みたいだな……にしては切り裂いた感覚がリアルなんだが……。

「お前もこうなりたくなければ、さっさと魔導書を置いてゆけ」

「くっ!」

覆面の男は敵わないと見たのか、そのまま窓ガラスに向かって突っ込み、ガラスを砕きながら外に離脱した。

「逃がすか!」

【俺】は勿論奴を追い掛ける……この【俺】から逃げられると思うなよ……!?

窓ガラスの前まで来た時、不思議な光を感じた……すると、身体が揺らいだ……。

「うぅっ!?こ、これは……」

何故か徐々に俺の思考がはっきりしてきて……そこで【俺】の意識は――再び途切れた。




******


再び意識が浮かび上がる……これは…いつもの夢だな。

「ん?」

「お前か。この辺りを嗅ぎ回っている男は」

崖があって…あれは滝か?
…そんな場所でレザースーツを身につけたガタイの良い長髪の男と、何やら鈍い銀色の刺々しい異形の鎧と仮面の様なヘッドギアを身につけた二人組が対峙している。

「何者だ。お前達に用はねぇ……道をあけろ!」

男は己の得物……大剣と大剣が柄の先と先で繋がった様な…珍しい武器を構える。

「そうはいかん。お前はここで死ぬのだ!」

そう言い放つと同時に鎧の男達が剣を抜き放ち、男の周囲を駆け回り始める。
中々早いな……隙をついて切り掛かるがそれを男は剣で打ち払う。

仮面の男達は、緩急を着けた連携で男を追い詰めていく――。

「くっ!…手強い……」

男が言うように、鎧の男達は中々に強い。
一対一なら男の方が上だろう……だが仮面の騎士達は強さもさることながら、その巧みな連携により男と互角以上に戦っているのだ。

「フン!」

仮面の騎士の一人が唐竹に切り掛かる。
しかし、男はそれを防いだ。

「でやっ!」

男は仮面騎士を弾いた…だが。

「もらった!」

仮面の男を弾き飛ばした僅かな隙――そこを突かれた男に斬撃が襲い掛かり――鮮血が飛び散った――。

「くっ、くそっ!……眼が……!?」

一瞬の隙を突かれ、もう一人の仮面騎士に顔を切り付けられる。
ギリギリで避けようとした様だが――避け切れずに眼を切り裂かれてしまった……。

「死ねぃっ!!」

ズシャアッッ!!!!

「ぐああぁっ!?」

そこをトドメとばかりに突かれ、男は武器を持っていた右腕を切り落とされてしまった……。

「……うぅ……」

男はフラフラと後退り…そして……。





そのまま崖の上から川の中へと落ちていった…。

仮面の騎士の一人が崖に近付く……そして仮面の様なヘッドギアを外した……!?

お、俺…だと…?

「クックックッ!利き腕と眼を奪われ、ここから落ちれば助かるまい」

仮面の騎士が崖下を見下ろしながら男を嘲笑っている……俺と、同じ顔で……そこで俺の意識は引き上げられていった。

******

「…うっ…ルイセ…?」

俺が眼を開けると、俺を心配そうに見下ろしているルイセの顔が見えた。

「あ、気がついた!大丈夫?お兄ちゃん?」

「…あぁ、大丈夫だ」

「よかったね、ルイセちゃん」

「うん!わたし、お母さんたちに知らせてくる!」

俺が大丈夫だと告げると、ルイセは安心したのか笑顔を見せてくれた。
どうやら下に母さんが来ているらしく、俺が眼を覚ましたのを知らせに行った。

「本当に大丈夫?」

「あぁ…少し身体が怠いが、問題無い」

「そう?なら、みんなも心配してるんだから、下に降りて、元気な顔見せてあげなよ」

ティピはそう言ってくる……そうだな。
そうするか。

「分かった。そうするとしよう」

俺は立ち上がり下に向かうことにした。
…最初に見た――生々しい夢のことも気になるし、な……。




[7317] ―ラングレー兄妹の憂鬱―番外編2―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/01 17:16

カーマイン達と別れた後、ゼノスとカレンは宿に戻っていた。

「さあて――明日は野盗退治の依頼があるからな。早いとこ寝ちまうか」

「ねぇ、兄さん…」

「ん?何だカレン?」

ゼノスは鎧と手甲を外し、愛用の大剣と共に壁に立て掛ける。
尚、此処はゼノスがとった部屋であり、カレンの部屋はまた別にある。

当たり前だが――。

「前にシオンさんに、占ってもらったでしょ…?」

「ああ…あの【影が狙っている】とか言うアレな?他には俺がこの世界を救う光だとか……それがどうかしたのか?」

「うん、あの占いと今回のことって……関係あるんじゃないかなって……」

カレンがそう告げるとゼノスは顔をしかめる。

「……お前もそう思うか?」

「…うん…兄さんの占って貰った一節に【金と銀を携えし光】…っていうのがあったけど、アレってカーマインさんのことなんじゃないかな?ほら、カーマインさんって金と銀のオッドアイじゃない」

「成る程な……けど、ぶつかり合うってのは……そうか!闘技大会か!…しかし光を疑うな…みたいなのもあった気がするんだが…これはどういうことだ?」

ゼノスは疑問を口にするが、カレンは首を横に降る。

「分からない…何かカーマインさんを疑う様なことが起きるのかも知れないけど……【影】っていうのはあの盗賊の人達かしら…?」

「どうだろうな……確かに奴らはカレンを狙っていたが…【影が狙っている】とか言うのは俺のとこにもあったし……というか、よくそんな細かく覚えてるな?」

「え!?だ、だって、何か意味深だったし…それに…」

「シオンが言ったことだから……か?」

「!?〜〜〜〜〜っ!!」

カレンはゼノスに言われて茹蛸みたいに真っ赤になってしまった。

「ヤレヤレ…最近更に反応が過剰じゃないか?」

「に、兄さんっ!!」

「ハハハ、悪ぃ悪ぃ。そんなに怒んなって」

「もう!知らない!」

プイッと顔を背け、そのまま部屋を後にする。
自分に宛がわれた部屋に戻っていったのだろう。

「ったく。アイツらが旅に出る前にさっさと告っちまえば良かったのに…その辺が初心というか、何と言うか」

一応、カレンは告白紛いのことをシオンにしていたのだが、【勘違いの勘違い】――というややこしい思考を働かせたシオンにより、肩透かしを喰らった形になってしまっている。

無論、そんなことをゼノスが知る由もないのだが。

「カーマイン、か……闘技大会に出てくるなら全力で迎え撃つ。確実に苦戦するだろうがな」

短いながら、共に戦って――カーマインのある程度の実力を把握したゼノスは、武者震いを止められない。

強い奴と戦う――それはこの上なく心が踊ることだ。
特に、自身と実力が拮抗した者と競うのは――。

だが実際のところ、ゼノスは【戦闘中毒】(バトルジャンキー)や、【戦闘狂】(バトルマニア)と言う程、重度では無い。

競うことは楽しいが、彼の性分は傭兵――故に、勝つこと……言い換えるなら生き残ることを至上とする。
だからこそ、勝つためのロジックを練り――それを確実な物とする為に、己を研く。

悪いが――優勝は俺が戴くぜ!

と、未だ実現するかも定かでは無い、カーマインとの戦いに意気込むが――チラリと、シオンとラルフのことが頭に過ぎる。


「……アイツら、出場したりしないだろうな?…まさかな……」

ハハハ…と、渇いた笑いを浮かべる。

ラルフとは戦ってみたいと思う。
その強さを、確かめてみたいと思う。

彼が懸念しているのは――ずばりシオンだ。

「アイツが参加してきたら―――駄目だ……勝てるイメージが浮かばねぇ……」

誤解から生じた、闘技場での勝負――結果は完敗。

あの時のイメージは、未だにゼノスの頭の中に焼き付いている――。
ゼノスもアレから更に腕を研き、実力を着けた自負はある。

だが、それでも自身の勘が告げる――未だ、届かないと。

無論、挑戦したい気持ちはある。
例え勝てずとも、どの程度通用するようになったか試してみたい、と。

だが、敗けを意識した時点で駄目なのだ。
その時点で、勝ちは――届かない位置にまで遠退くことを、ゼノスは理解していた。

「ったく……あんなにスッキリ負けちまったからな――余計に弱気になっちまう――」

(だが――それじゃあ駄目だ)

ただ競い合うだけなら良い――だが、これは闘技大会だ。
ゼノスには優勝して、何処かの国に仕官するという目的がある――。

故に負けられない――負けるわけにはいかない。
自身の為にも、そして何より――カレンの為にも。

「って、気が早いっつーの――まだ、アイツらが参加すると決まったわけじゃねーのにな」

自分は気が逸っていた様だ――と、その考えを一笑に伏すゼノス。

「仮にアイツらが参加したとしても、なる様にしかならないだろうしな――ったく、ますます俺らしくねぇ――」

負けるわけにはいかないが、張りつめ過ぎて試合に負けました――では洒落にならない。

(まぁ、いざとなったら――負けたことを口実に、シオンとカレンをくっ付けちまうのもアリだな――そうすりゃあ、俺も安心して……って、また負けること前提に考えちまってるな――)

いかんいかん――と、頭を振りつつも、先程まで張りつめていた空気は、既に霧散していた。

なる様にしかならない――最終的には開き直って、ゼノスは就寝するのだった。


*******


一方、カレンは……

「ハァ……」

ため息を吐きながらベッドに倒れ込んだ。

「…シオンさん…」

思い浮かぶのはシオンのことばかり…あの銀の髪…あの蒼い瞳…あの暖かい笑顔…。

「もう…兄さんがあんなことを言うから……」

夢想してしまう……あの人の声を聞きたい…あの人の顔を見たい…あの人に抱きしめられたい……あの人に……。

「うぅ……これじゃ眠れない…でも寝なきゃ……」

カレンは身悶えながらも、シオンのことを想って――何とか就寝する……尚、このシオンを想って――というのが影響していたのか、カレンはシオンと極甘ストロベリった夢を見て、寝起きに赤い顔でポケ〜〜としている所をゼノスに発見されることになるのだが……激しく余談である。

この夢が現実になるのか否か……それは神のみぞ知る――である。

*******

てな訳で番外編その2…幕間みたいなものです。
番外編なので短めでございます(--;)



[7317] 第12話―兄と妹と―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/01 17:49

俺が一階に降りてくると、母さんとルイセ…それに城の兵士が居た。

「大丈夫でしたか?」

「ああ……母さんにも、心配掛けたみたいだな…もう大丈夫さ」

心配そうに俺を見てくる母に俺は大丈夫だと伝える。
実際はまだ少し身体が怠いのだが、たいしたこともないので言わないでおく。
余計な心配を掛けたくないしな。

「なら良いのですが……それにしても、どうして私の研究室などにいたのですか?」

「研究室……?」

「君は城にあるサンドラ様の研究室の中で倒れていたんだよ」

兵士の人が、俺が発見された時のことを話した。

「…………」

研究室……確かにそんな夢も見たが…いや、アレは夢では無い、のか……?

「アタシから、もう一度説明するね?西の門の外で盗賊に襲われていた女の人を助けた後、アンタは突然倒れちゃったんだよ」

そこまでは覚えてる。
あの時の感覚は嫌な感じだったからな。

「それでアタシ、慌てて人を呼びに行ったんだけど、戻ったときにはアンタの姿はなかったの」

「ティピ。あなたには創造主である私と交信するという能力があったはずでしょ?」

「あ……忘れてた……すみません、マスター!慌ててたもので……」

ティピが涙目で母さんに謝罪する。
母さんも仕方ないと言って、咎めはしない。
ティピも必死だったのだろうから、俺も言及は控える。

「とにかく、倒れたのは西門の外。そして発見されたところは私の研究室……あなたはどうやってこの2ヶ所を移動したのですか?」

そうは言われてもな…未だに夢か現実か半信半疑な訳だし……。
まぁ……俺の意識がある内の話なら……。

「俺が気付いた時には研究室の前だったよ」


その後、研究室に賊の一人の死体が残っていたこと、俺の剣に血が付着していたこと、母さんの研究書が盗まれたことが告げられる。

「無くなった研究書と、君が倒れていたことから、賊は複数だったと考えられるんだ。何でも良い。思い出した事を教えてくれ」

思い出したことと言っても…な。
あの時の俺は……やたらと冷たくなっていく心に反して妙な高揚感があり……賊を切り殺した感覚が………ん?そういえば……。

「確か……一人は窓から逃げた様な……」

「やっぱりそうか!…しかし誰が、何の目的でサンドラ様の研究を盗んだのか」

母さんの研究は『魔水晶の魔力成分について』の物だ。
魔水晶とは、読んで字の如く…魔力が結晶化したものなんだが…とある場所で採れる魔水晶にはグローシュが含まれているらしい。

「グローシュって……」

「ティピ……昨日のことをもう忘れたのか?」

阿呆の子……というより、鶏並の頭かお前は?

「お、覚えてるわよ?確か……グローシアンが持ってる特別な魔力のこと…だったわよね??」

「自信なさ気に聞くなよ……まぁ、正解だが」

ティピは大はしゃぎだが、本気で心配になってきた……教養をキッチリ仕込むべきか?

「グローシュは普通の人には無いから、それを取り出すことが出来れば、魔導学は大きく変わる。お母さんはそれに成功したの」

ルイセが母さんの偉業について誇らしげに語る。

「ほとんどの人は忘れ去っていますが、私達人類は、本来この世界の住人ではありません。我々の居た世界は、ある理由で滅びの危機を迎えました」

母さんが言うには、500年前に人間の持つ魔法の力を結集し、人間はこの世界に渡って来た。

それまでは誰でも強力な魔法が使えたらしいが、この世界に来てからは僅かしか魔力が持てなくなってしまった。

それはこの世界にグローシュが無かったから。
元の世界には大量にグローシュが満ちていて、それを魔法に用いていたのだが、この世界では精神力――つまり、己の中の保有魔力だけで魔法を行使せねばならない。

例外はグローシアンのみ。

この世界は、元の世界との間の空間を歪め、二つの世界を重ね合わせて出来ている…。
だが空間の歪みは一定ではないため、たまに元の世界の影が現れることがある。

それが日食や月食として見える訳だが、この時に生まれた者は無意識にこの時の歪みを記憶し、自分の中に向こうの世界とのチャンネルを開ける様になる。

グローシアンはこのチャンネルを利用して、向こうの世界のグローシュを使うことが出来る。
これが例外の理由だ。


俺たち、通常の人間は保有魔力のみを利用するのに対し、グローシアンは元の世界からグローシュを引っ張って来て使うことが出来る。
理論上は元の世界のグローシュが尽きない限り無尽蔵に。

月食、日食、皆既月食、皆既日食の順にグローシアンの力が強まると言うが、これは一度にどれだけのグローシュを扱えるか……ということに繋がる。

月食のグローシアンは一度に扱えるグローシュは微々たる物だが、皆既日食のグローシアンともなればその扱えるグローシュの量は膨大だ。

我が妹ルイセも皆既日食のグローシアンなので、魔法の才で言えば母さん以上の物を持っていることになる。

「とにかく、グローシュを人工的に取り出し、活用出来れば、誰もが昔のように強力な魔法を使うことが出来るようになるはずです……多分、その方法を欲した者が私の研究を奪ったのでしょう」

と、こういう訳らしい。
兵士の人は盗まれた魔導書を取り返す為に城へ、母さんは研究書を書き直す為に自身の研究所に向かうことに。
これに際してルイセの魔導実習は一時中断の運びになった。

母さんが研究所に向かう前に俺は頼み事をされる。

「これをある人に渡して欲しいのです」

「これは……眼鏡…か?」

それは白い縁の真ん中に赤く半透明なガラスの様な物が端から端へと繋がっている。

「魔法の眼です」

「眼っ!?」

ティピが驚く…母さんが言うには、失った視力を魔法で多少戻してくれる物で、東のデリス村に住む剣士に頼まれて作ったらしいが……こんな状況なので代わりに行ってくれないか――とのこと。

その剣士とは、件のデリス村の宿で待ち合わせているらしい。
名をウォレスと言い、特徴は片腕が義手なんだそうだ。

「義手に義眼……凄い怪我でもしたのかな?」

ルイセが呟く。
……義手に義眼……か。
俺は何故か、今朝見た夢に出て来た男を思い出していた。


「まずは東のデリス村に行って、ウォレスさんに魔法の眼を渡すのね。それからはどうするの?」

「それは…」

「ねぇ、アンタ。犯人を見たんでしょ?だったら、他の兵隊さんより、アンタの方が見つけやすいと思うんだけど」

「それって、お兄ちゃんが犯人を捕まえるってこと?」

ティピが提案し、ルイセが俺に問う。
まぁ、最初からそのつもりだったが。

「言われるまでもない……しっかり落し前は着けさせてもらうつもりだ」

「やっぱり!お兄ちゃんならそう言うと思ってたんだ☆さぁ、行きましょ!」

って…待て。

「行きましょって、ルイセちゃん?」

「決まってるじゃない。私も行くの」

「だって、あの……」

「お母さんも忙しくて魔導実習が出来ないから、その間、私も一緒に行く!」


ルイセが仲間になった!


「って…待て待て。俺は許可した覚えはないぞ?」

危うく流される所だ。

「ティピ……お前もお前だ。キッチリ説き伏せるなり、強引に押し返すくらいしろ。あっさり押し切られてどうする?」

「それはその……その場の勢いというか……」

ったく、普段は意味もなく強気な癖に、不足の事態には対処出来ないんだからな…。

「良いかルイセ?昨夜忍び込んだ賊は、研究所の番をしている兵を手に掛けている。そんな奴らだ…仮に見付けられたとしても、魔導書を素直に渡すとは思えない。抵抗されるのはほぼ確実だ……俺は、お前をそんな危険な目に合わせたくない」

「大丈夫だよ!お兄ちゃんが守ってくれるんでしょ?ティピに聞いたよ、お兄ちゃん、襲われてた女の人を鮮やかに助けだしたって」


ティ〜ピ〜……お前という奴は……。

ガシッ!!

「はうっ!?」

俺はティピの後頭部を掴む。

「ちょ!アンタなに」

「……少し話しがある」

俺はそのままティピを引っつかんだまま、奥の寝室に向かう。

「あああアンタ…顔が恐いよ?…ごめんね?いや、ルイセちゃん心配してたし、何があったか聞きたがってたし…」

ガララっ…

俺は引き戸を開ける。

「ゴメンナサイ!?アタシが悪かったから許し」
ピシャリ。

俺は扉を閉めたのだった…………。


「うわきゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」


数分間…ティピの絶叫が木霊した。



その後……心なしかスッキリした俺と、俺の肩でぐったりしてるティピが寝室から出て来た。

何故かルイセは部屋の隅でガクブル震えていたが……何故だ?
不覚にも可愛いと思ってしまったが。

その後、ルイセの説得を試みる…。
ルイセは自分には魔法もあるし、決して足手まといにはならないと主張。
対して俺はルイセの身の危険、仮にルイセがどうにか出来ても相手を殺してしまう可能性…等を説いた。
俺はルイセのことを想って言ったのだが、ルイセには厳しく聞こえてしまった様で、とうとう涙目になってしまった。

「わたし……お兄ちゃんと……一緒に居たいだけなのに……それも駄目なの…?」

マズイ……泣きそうになってる……だがここは厳しく言ってやらないと………。

厳しく言って……。






結局、俺が折れる形になってしまった。
何故って……ルイセの性格をよく知ってるから――というより思い出したからだ。
仮に俺がここで断固として同行を許可しなくても、ルイセは隠れて着いてくる……昔からそうなんだあいつは……俺にベッタリで、何時も一緒で……何かと俺に甘えて来て……。

いつからだろうな……ルイセが俺に依存するくらいに、なってしまったのは。
今でこそ、俺の兄としての努力の賜物か、それは成りを潜めたが…。
時折こうして姿を現す。


だから決して俺が甘い訳では無い。
……多分。

俺達は街道を進みデリス村に向かって行った。

*******


え〜と……こういう時はアレだ。

あ、ありのまま起こったことを話すぜ!

俺とラルフとニールはカレンとゼノスの救援に向かう途中、盗賊の襲撃に合う。
楽勝で返り討ちにしたが、おかげで結局間に合わなくなり、ローランディアに向かう途中の山小屋で一泊することになった。

翌日、とりあえずローランディアに向かうか…と話してたら覆面の男が小屋に入って来て、俺達に襲い掛かってきたので、俺は思わず裏拳一発でのしてしまった。

気が変になりそうだ――。

フラグ達成とかイベントクリアとか、そんなちゃちなモンじゃあ断じてない。
もっと恐ろしい物の片鱗を垣間見たぜ……と言う所か。

まぁ、詳しく言うならば……シャドーナイトらしき奴をノックアウトして、サンドラの魔導書らしきものをゲットしてしまいました。

フラグブレイカーですね本当にありがとうございまry


――じゃねーよ。どうしよう…フラグ叩き折っちまったよ……。

******

12話完成です。次からはまたシオンが主体です。



[7317] 第13話―エンカウント、誤解されそうなシチュエーション―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/01 18:06

とりあえず、気絶しているシャドーナイトを縄で縛り上げておく。
因みにパンツ一丁だ……何故かというと。

「どうっすか頭、旦那?似合うっすか?」

俺が衣服を剥いでおいて、それをニールが覆面を除いて着込んでいたからだ。
…そういう趣味じゃないぞ?

「シャドーナイト相手に遠慮は無用。何を仕込んでいるか分からないからな」

案の定、二振りのブロードソードの他にも暗器や毒薬なんかも持っていた。
それらはしっかり懐に入れておいた…毒薬は別段珍しくもない物だったし、使わないから捨てたけどな。

「これって……強盗と大差無い様な気がする……」

「甘いぞラルフ。コイツは俺達に襲い掛かって来た……殺す気でな?しかもシャドーナイトだ…油断してたら寝首を掻かれるぜ?無力化しておくのは当然。剥いだアイテムも捨て置くのは勿体ないだろ?」

まぁ、俺とラルフが寝首を掻かれるなんざ無いだろうが、念の為にな。
アイテムは強いて言うなら、戦利品だな。
TRPGなんかでも剥ぐのは基本だしな。
……いや、資金的には余裕ありまくりだよ?
その気になれば装備を充実させるのはわけ無いし?

「いやぁ〜、中々良い装備っすね〜!軽くて丈夫で!」

シャドーナイト専用の大剣…シャドーブレイドと言うのが原作にはあったが……どうやら鎧も同じ材質らしい。

ちなみにこのブロードソードもシャドーブレイドと同じ材質で出来ている。
シャドーナイトも存外至れり尽くせりだな…。
俺やラルフより装備的に心許ないニールに武器を含めて持たせたが、結構気に入ったらしい。
丁度ニールも二刀流だったみたいだしな。
今度、剣術でも教えてやるか?

「さて、折角だしコイツから何かを聞き出すか?」

「何か話してくれると思うかい?」

「…手段を選ばなければ可能性はある」

しかし、コイツが心底シャドーナイツに『染まっている』なら……最悪、舌を噛み切るなりして自害される可能性もある。
一応猿ぐつわは噛ませてあるが。

「…僕は手荒なことはしたくないんだけど…」

「…それは俺も同じなんだがなぁ…」

というか、面倒事は基本ゴメンだ。

「もう一つ厄介なのが……コレなんだよなぁ……」

俺は手に持っている一冊の書を見やる。

内容はグローシュについての研究。
原作でグローシュを研究していた奴は何人か居るが……このタイミングでシャドーナイトが絡んでくる研究者は一人だけ。

「この男が持っていた物だね……魔導書…かい?」

「ローランディアの宮廷魔術師…サンドラ・フォルスマイヤー著のな」

「!……フォルスマイヤー……彼の……」

「そういうこと」



ラルフが驚愕の表情を浮かべている。

何故か?

――実は、ラルフには生き別れの双子の弟が居た……という話しを吹き込んでおります。
道中で情報を得て……両親は分からないが、その双子の弟がローザリアに住んでいる……と。
そういうご都合設定です。

勿論全部俺の脚本です。
実際には旅の道中で情報を入手した…というハッタリ。
いや、ハッタリばかりでもないか……兄弟みたいなものなのは確かだし。
かなり穴がある設定なんだが……ラルフの奴、一切俺の言うこと疑わないんだもんな……。

何故そんな嘘をついたか?
悲壮な現実より、少しでもハッピーな現実の方が良いだろう?
どうせなら、さ?

……ついでにカーマインとの接点も出来るしな。



さーて、どうしたもんかねぇ……サンドラさんに直に届けるかね?
俺もラルフも身元はハッキリしてるから、怪しまれはしても手酷い扱いを受けることは無いだろ。

「とりあえず尋問するにしても、この男をのしてしまったからな…起きるまで待つか……」

確か、魔導書を奪還するのにカーマイン達がやってくる筈だ……ルイセとウォレスが一緒だったか?
そろそろカーマイン達と接触するつもりだったし、彼らが来た時に返せば良いか。

「あの〜……さっきから頭や旦那が言ってるシャドーナイトってのは…?」

そういや説明してなかったな……あえて説明してなかったんだが……。

俺はニールにシャドーナイトについて話す。
俺達が奴らの動向を追っていることも。

「言わなかったのは、お前達では荷が重い相手だと思ったからなんだが……」

「つまり頭達はそんなヤバイ奴らを相手に立ち回ってたわけですか……くぅ〜!!感動っすよ!!」

いや、お前は何処のガソスタの店員だ?

「は、ハハハ……」

その様子を見てラルフは苦笑い。
いや俺も同じ気分だが……ニール、そのトランペットに憧れる少年の様な瞳をこっちに向けるのはやめい!
溶けてしまうだろ!!

「ん…?外に人の気配がする…」

「本当だ……この男の仲間かな?」

いや…気配は三つ…小さいのも入れると四つか。時間的にも考えて……来たか、グロラン主人公。

「ん!?なんすか?敵っすか!?……よし!なら俺に任せて下さいっす!」

ニールが覆面を着ける。
おい待て………お前何を……。

「これで敵を欺いてやるっす!!それで敵の情報を掴んでみせるッス!!お二人が影で頑張って下さってたんスから、俺もやるっすよぉぉぉっ!!」

ダダダダダッ!!バタンッ!!

ニールは外に出て行った!!


「…って、待たんかい!!?」

その格好で出てかれたら勘違いされるだろうがっ!?

「行くぞラルフ!!」

「う、うん、了解だけど…何をそんなに慌ててるんだい?」

慌てもするわっ!!このタイミングで外に出るとか、原作過ぎるだろ!
何か?世界の修正力とかそんなのか!?
……まぁ、説明してもラルフには分からないことなので言わないケド。

「…外に居るのが敵とは限らんだろう」

「…?……そうか!この男への追っ手…!」

「そういうこと。多分、この魔導書を取り返しに来たんだろうな…ニールがあんな格好してたら勘違いされる……ホレ行くぞ!」

俺はラルフを伴って外に出る。
余談だが、原作ではシャドーナイト以外にも盗賊風の男達が居た…恐らく雇われ者か構成員だと思うが…そいつらはどうしたか?

どうやら来る途中でノしてきた盗賊風の連中…どうやらアイツらがそうだったらしい。

余談終わり。

*******



ローザリアを出発してから色々あった。

まず、俺達は川に掛かる橋の下で剣を拾う。
古い剣だが、よく使い込まれ、丁寧に手入れされた剣だ。

橋の上に剣を捨てたと思われる奴を見つける。
ルイセとティピは落としたと思ってるみたいだったが……こんな大きな物を落とす奴はいない。

よしんば、落としたとしても気付く。

「それは……捨てたのだ……」

追い掛けて話し掛けると、予想通り捨てたと言われる。
若い男だが、どこか女の様な艶っぽさがあるな……こういうのを耽美って言うのか?
ルイセが何故捨てたのか、疑問を問い掛けるが……。

「お前達には関係無いだろう!貸せっ!!」

男は剣を引ったくる様に奪い取り、さっさと先に行ってしまった。

「なぁに、アレ?あったまにくるなぁ!!」

ティピが憤慨する。
ティピとしては折角、拾って届けたのに礼も言われずにあの態度……というのが気にくわないのだろう。

「きっと、何か事情があるんだよ」


「捨てたのを拾われ、尚且つ届けられたのだから、あの男にしたら大きなお世話なんだろうな」

ティピは納得してなかったが、いつまでもボケッとしてる訳にもいかないので、進路をデリス村に取る。

デリス村に着いた俺達は早速宿屋に向かうが、ウォレスという人はまだ来ていないようだ。
宿の人に聞いたら夕方くらいには来るらしい。

時間を潰す為にそれぞれ自由行動にした。
ティピは俺に着いてくるみたいだが。

その自由行動中、さっきの男を見掛けた。

「…?なんだ、お前達か…」

「お前じゃないよ、ティピだよ!ところで、アンタさぁ……」

「アンタじゃない。ジュリアンだ」

おっ?中々上手い切り返しだな…ここでしっかり言っておかないとずっとアンタで通すからな…こいつは。

ちなみに俺は諦めた。

「ムッ!…じゃあ、ジュリアン。何見てんの?」

「…………」

ジュリアンはティピの質問に答える様に、再び見ていた方向に顔を向ける。

そこには剣の稽古をする親子が居た……剣の稽古か……。

「…懐かしいな…」

「…えっ…?」

「俺もよく父さんに稽古を着けてもらったっけな……」

今は居ないけど…な……本当に懐かしい……。

ん?ジュリアンが俺を見てから再び押し黙ってしまう。

「?どうしたの?」

「……なんでもない。済まないが、一人にしておいてくれないか?」

俺はティピを伴ってその場を離れた……何か考えたいことがあるのだろう。

宿に戻ると先にルイセが戻っていた。
ウォレスという人はまだ来ていないとのこと。
と、話してると宿の扉が開く。


入って来た男を見て軽く驚いた。


右手に義手を着けて瞼は閉じられているが……間違いなく夢の中に出て来たあの男だったからだ。

まぁ、確信に近い予感はあったのだが――。


俺はまず、確認を取る。

「…失礼だが…アンタがウォレスか?」

「ああ、そうだが……お前達は?」


……達?目が見えている……?
――いや、気配を読んだのか。

「わたしたち、母の…サンドラの使いで来ました」

「そうか。サンドラ様のお子さん達か」

「あぁ……コレを、アンタに渡す様に言われて来た」

【魔法の眼】をウォレスに渡した。

「ありがとう。……うむ、これはいい」

早速魔法の眼を着けたウォレスが感想を述べる。

「それで本当に見えるようになるんですか?」

「以前のようには見えねぇがな……そうだな……人の影がぼんやり分かる程度だ」

「それじゃ、あんまり分からないね…」

「そうでもねぇぞ。今までは全く見えなかったんだ…それに比べれば雲泥の差だ。これで以前のように生活が出来る」

今までが酷すぎたのだろうな……人の気配は読めても、物はその限りじゃないからな。

母さんの頼みを終えた俺たちは、このまま賊探しに向かうことにする。
その際にウォレスにどうしたのかと尋ねられたので、理由を話す。
もしかしたら何か知ってるかも知れない。

「なるほど…そういえば、東の森にある山小屋に不審な人物が入るのを見たと、木こりが言っていたな」

「それよ!逃げられないうちに急ぎましょ!」

「ああ、待った。良かったら俺も行こう」

俺達を呼び止め、そう告げるウォレス。

「えっ?危ないかも知れませんよ?」

「早くこの眼と義手に慣れなきゃならねぇからな。それにサンドラ様の子供が危険な目にあったら大変だ。やっと、この腕が馴染んできたばかりで、戦ったことがない……腕前はお前より落ちるかも知れねぇが、人手は多い方がいいだろう」

「そうか…なら宛にさせてもらうよ」

夢で見たあの強さは、かなりの物だったからな――幾ら腕前が落ちていても、頼りになるだろう。

村から出ようとした俺達は、再びジュリアンに出会う。
どうやらまだあの親子を見ていたらしい。

「何を迷っている。俺で良けりゃ、話してはくれまいか?」

ウォレスがジュリアンに話し掛ける。

「……あなたは?」

「ああ、すまない。俺の名はウォレス」

「ウォレス?ひょっとして、放浪の剣士と呼ばれた、あのウォレスなのか?」

どうやらウォレスは、かなりの有名人らしいな。

ウォレスの話しは信念があれば迷わない…という一言だった。
多くを語らず、迷っているジュリアンに一石を投じた……年長者の重みという奴か。
後は、ジュリアン自身が答えを導き出すだろうさ。


俺達は件の山小屋に向かった。
山小屋を発見し、山小屋に近付く。

「待て!誰か来るぞ!」

ウォレスの言葉と同時に現れたのは……。

あの夜の覆面の男だった…。





[7317] 第14話―光と光が出会う時―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/01 18:24

俺達が外に出ると……居たよ。

グロラン主人公組。
カーマインは本当にラルフとソックリだなぁ……知ってはいたけど、実際見てみると気持ち悪い位に似ている。

……というか、結構強そうだな……この時点でゼノスやジュリアンと同等か……それ以上…って、んなわけないか。
M2装備じゃあるまいし。

その付近を飛んでる小さいのがティピか?
何やらバッテンマークを着けて怒っている。

「さっさと魔導書を返しなさいよ!」

――とか、言ってる。
ハハハ……やっぱり勘違いされてるよ……。
その後ろに居るのは、多分ルイセだな……背が小さいなぁ……まぁ、まだ14歳だし、あれくらいが普通か?


……やっぱりルイセはグローシアンなんだな……感覚で分かる。


なんかティピが子猫で、ルイセが子犬を連想させるなぁ………んで、その後ろにいるのがウォレスか。
X-MENのサイクロプスみたいな眼鏡を着けているから間違い無い。
確か魔法の眼…だっけ?

旅をしている間にも噂をよく聞いたっけな…放浪の剣士ウォレス……二年前からは噂もプッツリ途絶えたが……クレイン村の滝から落ちたんだよな。

「!?気をつけろ、新手が来たぞ!」

っと…気付かれたか。
流石ウォレス…一番に気付いたな。て、カーマインも反応早いな……。

「!?」

「…嘘!?」

「なんで、なんでぇ!?」
上からカーマイン、ルイセ、ティピの反応になっております……これは俺のオーラ力(おーらちから)に気圧されたんでありますな。

ごめんなさい。
言いたかっただけ……という程言いたかったわけじゃないけども。

そもそも、俺……今は戦闘モードじゃないから気迫で圧すなんて無理だし。


「……俺……だと…?」

「…本当によく似ている…君が…」

ぶっちゃけ俺の横に居るラルフを見ての反応だな。

「双方、剣を収めてもらいたい。こちらは争う気は無い……つーか、何か勘違いされてるみたいだし」

俺は事情を説明した。

俺達はローランディアへ向かう途中、この山小屋に立ち寄って身体を休めたのだと。

翌日になって、いざ旅立とうとしたら…覆面を着けた男が現れ、俺達に襲い掛かってきたことも……その覆面の男は、気絶させた上でふん縛って――パンツ一丁で山小屋の中に放置してあることも話した。

「その話を信じろってのか?」

「信じてもらうしかないな……って、ニール…いつまでそんな覆面着けてんだ……さっさと外せよ」

「は、はいッス!!」

ニールには覆面を外させた……いつまでもアレではややこしいことこの上ない。
ウォレスが疑ってくるが、正直、信じてもらうしかない。

ルイセは俺を見て驚いている。
ルイセも俺がグローシアンだと気付いたみたいだな。

「……アンタ……もしかしてシオンか…?」

カーマインが話し掛けてくる。

「そうだが……どうして俺の名を?」

オズワルド達と接触したからか?
……いや、カレンとゼノス経由かもしれん…。

「あぁ〜!!もしかして、カレンさんやゼノスさんが言ってた人?それじゃあ、こっちの人がラルフさんなんだ〜……ふぇ〜……確かにアンタそっくりだわ〜」

やっぱりカレンとゼノス経由か……。
二人とも…グッジョブ!!
お陰で疑いが晴れそうだよ!

「シオン……ラルフ……もしかして、白銀の閃光シオンと漆黒の旋風ラルフか?」

うわ!?ウォレスさん、なにその厨二臭漂う名称は……!?。

「…知ってるのかウォレス?」

「俺が旅をしていた時に何度か噂でな…」

「アンタの噂も色々聞いてるよ…放浪の剣士ウォレス…っと、立ち話も何だし小屋の中で話そうぜ?疑いも晴れたみたいだし」

ウォレスはまだ半信半疑みたいだったが、ティピとカーマインが信じてくれたので、話をする運びになった。


んで、山小屋の中。


「ほい、コレを取り返しに来たんだろ?」

俺は魔導書を渡す。
ちなみにシャドーナイトの男は、パンツ一丁の姿を見てルイセが真っ赤になって、きゃあ!とか言ってしまったので、外の木に足から吊して置いた。


「…確かに母さんの魔導書だ……済まない、礼を言わせてくれ」

「良いさ。偶然そうなっただけなんだから」

少しばかり都合が良すぎる偶然だがな……宇宙意思の御導きって奴か?

「ねぇねぇ、アタシ、シオンさん達に色々聞きたいことがあるんだけど?」

「何かな、可愛い妖精さん?」

「可愛い?えへへ〜♪やっぱり?やっぱり?」

可愛いって言っただけで上機嫌とは……なんつーか原作通りの性格だなぁ……まぁ、好感は持てるけどな。

「俺達に答えられることならなんでも…な?」

「うん、そうだね…先ずは自己紹介かな?」

俺とラルフは互いに頷き合う。

「俺はシオン。旅の剣士だ」

「僕はラルフ。旅の商人です」

「俺はニールッス!シオンの頭の下で働かせてもらってるっす!」


カーマイン達もそれぞれ自己紹介をしてくれた。

「さて、んじゃま…自己紹介も終わったことだし質問タイムといきますか」

「ハイハーイ!!じゃあアタシから!多分みんな気にしてると思うんだけど……ラルフさん、凄くコイツに似てるよね?何で?」


ティピがカーマインを指さしながら尋ねてくる。

「そんなに似てるのか?俺には影しか見えないからな…」

そうか、ウォレスには見えないんだよな。

「似てるなんてものじゃないよ!まるで鏡を見てるみたいなんだから!」

まぁ、何でと言われたら……言ってやりたまえラルフ。

「それは……僕とカーマイン君が生き別れた双子の兄弟だからだよ」

「ええぇぇ〜〜!?」

「そうなんですかっ!?」

ティピとルイセが驚く、カーマインも声には出さないが驚愕の表情だ。

「僕も、旅をしているうちに知ったことなんですが……僕には双子の弟がいるみたいなんです。その弟はローザリアに住んでるって……」

「それがカーマインだと?」

「ええ。僕もそうなんですが、君…誰かに拾われたとか…そういった話しは無いかい?」

「確かにお兄ちゃんはお母さんが連れて来た…って聞いたけど」

「ああ…俺は17年前に母さんに拾われたらしい……ん?僕も……?」

「そう…僕も17年前に今の家に拾われたんだ……だから本当の親の顔は知らない……けど、17年前に拾われたこと…それに何よりこの顔が双子の証明になるだろう?」

「………」

カーマインは呆然としている。
まぁ、そうだよな…いきなり双子の兄が現れたんだから……少しだけ胸がチクリと痛むが、流石に真実は教えられないだろ?


「さて…ラルフとカーマインの関連性はこれくらいで……他に何かあるかな?」


「え〜と…それじゃあ……あの…シオンさんはグローシアンですか?」

「ああ、そうだよ。君と同じ皆既日食のグローシアンだ」

ルイセの質問に答えてやる。
もっとも、厳密に言えば俺のグローシアンパゥワァは通常の皆既日食グローシアン以上だが。
今は幾らか抑えてますけど。

「そうだったんですか。さっきから強い力を感じてたから、もしかしたらと思って…」

覚醒前でもそういうのは分かるもんなんだな。

他にも色々話した。
俺とラルフが旅をしている理由(表向き)。
オズワルド達のこと…などなど。

「しかし、まさか【白銀の閃光】と【漆黒の旋風】がこんなに年若いとはな」

「その二つ名は止めてくれウォレス……背中がむずかゆくなる」

「僕も少し恥ずかしいです…」

いやマジで勘弁してください。


…大体は話したか?

「とりあえずはこんな所かな?」

「話は大体分かった」

「あの…皆さんはこれからどうするんですか?」

ウォレスがウンウン頷き、ルイセが俺達に尋ねてくる。

「とりあえずローザリアには向かうつもり。もしかしたら滞在してるゼノス達に会えるかも知れないし……ラルフも良いよな?」

「勿論。カーマインと色々話したいし…ゼノスさん達にも会いたいしね」

「だったらさ、一緒に行かない?アタシ達も後は帰るだけだし…ね?」

「ああ……そうだな」

「うん、そうだね。一緒に行こうよ」

「決まりだな」

俺達の予定を話すと、ティピがそう提案してくれた。カーマインも満更では無いようだし、ルイセとウォレスも概ね好意的に受け入れてくれた様だ。

「た、たたたたた大変ッス〜〜!!」

ん?ニールか?そういえばいつの間にか居なくなってたが…外に居たのか?

「どうしたニール?そんなに慌てて……トイレか?」

「それは今してきたっす!ってそんなことより大変ッスよ!!」

何だトイレしに行ってたのか……掛かった時間からしてビッグベンか?

「落ち着け…何が大変なんだ…?」

「そ、外に覆面の男が何人も!後、盗賊っぽいのも!!」

何んだそんなことか?
人の気配は既に感じていたりしたので、驚きは皆無なんだが……。
それに、『原作』では増援が来てたしな……『原作』では一人だったんだが……今回はそれなりに人数がいるな。

俺は窓から外を覗く。ずっと遠くの方に何人かの人影が見える。
目を凝らすと、確かにシャドーナイトだ。
四人か……後は盗賊みたいなのが十人ちょい。

「どうやら、お客さんみたいだぜ?」

「その様だな」

「ああ…どうする?」

「強行突破しかないだろうね…」

俺の台詞にウォレスとカーマイン、ラルフが反応する。

「あまり手荒なことはしたくないんだがね……まぁ、やるしかないわな」

正直、まだ人を殺したことの無い俺としては、対人戦は勘弁願いたい所ではある。

だから、いつも絶妙に手加減してるわけなんだからな。
後は力に溺れるのが恐いから……というのもあるけど。

……甘いというのは分かっている……やらなければ仲間がやられることもあると……けど、どうしても出来ない……それをしてしまうと、俺の中の何かを壊してしまいそうで…。

無論、覚悟はある。
仲間やダチに危害を加える様な奴には容赦しないつもりだ……が、本当に出来るのか?

……俺に。

――ったく、毎回戦闘前にこんなことを考えちまうなんて――幾ら身体はチートでも……所詮、中身は現代人ってことなのかね――長い間【シオン】として生きて来た筈なのに、【凌治】の頃の……日本人の倫理が抜けない。


要するにビビリなわけだ。


……よく、二次創作のオリ主が力を得た時、何の躊躇いもなく人を傷つけるが……力に溺れるからなんだろうか?


俺には……中々難しいな……未だにモンスターを相手にする時ですら僅かに躊躇してしまう。
人にも動物にも等しく命がある……命を奪うのは禁忌……。

この現代人の思考と感覚が、躊躇させてしまう……カレンを助けた時は無我夢中だったから気にしなかったが……カレンを運んだ後で手が震え出したからな…。
カレン達には分からない様に隠したけど…。


眼を閉じて、精神を集中し統一する……これで俺は初めて戦闘に臨める。

「よし……行こうぜ」

俺は皆を促す。
それぞれが各自の得物を取る。
カーマインとラルフは長剣、ウォレスは大剣が二つくっついた様な特殊投擲剣、ルイセは杖、ニールは双剣……俺は大剣を取る。


「ルイセ……お前は残ってろ」

「大丈夫だよお兄ちゃん!わたしも戦えるよ!」

「…なら、俺の傍を離れるなよ?街を出る前に約束したよな?」

「うん!分かってるよ、お兄ちゃん!」

「大丈夫、僕達もルイセちゃんを守るから。ね?シオン?」

ラルフが声を掛けてくる……ラルフとは付き合いが長い…だから俺の葛藤も知っている。
故に、この質問。

「当たり前だろ?誰一人傷付けさせやしないさ」

奪うためではなく守るために……詭弁だが、こうでも思わなければやっていけない。

「よ〜し!それじゃあ行きましょ!!」

最後にティピが気合いを入れる……ったく、益々ヘタレていられないな…。
ヘタレていたら、キックが飛んできそうだ――。

幾らか楽になった気持ちを胸に――僅かな笑みを浮かべた俺は、先陣を切って山小屋から出たのであった――。



[7317] 第15話―影の掃討と再会―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/01 18:43

俺達は外に出る。
お〜お〜、団体さんの御着きだぁ〜。

まぁ、この面子を相手にするには明らかに役者不足な団体さんだけどな。

「さて……んじゃ先ずは牽制だな」

俺は高速詠唱にて即行で術式を構築…端から聞いてたら何を言ってるのか聞き取れ無いだろう。
現にカーマインパーティーの中で、1番魔法に精通してる筈のルイセは眼を丸くしていた……というか、眼が点?

「あ…あの……その呪文は…マジックアロー……ですか?」

「ん?マジックアロー……の、アレンジ。バリエーションって言っても良いかな?」

へー…詳しく聞き取れなかった筈だけど……詠唱呪文がマジックアロー関連だというのは分かったんだな……なんつーか末恐ろしい才能だな。

今更説明するまでも無いが、俺はラーニングというスキルがあり、技や魔法を受けるとそれを覚えることが出来る……そして、『アレンジ』することも可能なのだ。

この高速詠唱も通常詠唱のアレンジなんだが…俺は詠唱時間短縮のスキルを覚えてるので、組合せれば呪文にもよるが、ほぼ一瞬で魔法を行使することが出来る。

――話を戻すが、魔法を例に挙げれば……術式の再構築に魔力構成の変更、属性の追加等々。

これから放つのはマジックアローのアレンジ……初級の魔法だからか――結構、術式や構成に穴があったから色々弄くらせてもらったが。



……あくまでオリジナルでは無いのが俺らしいな…。



あ、当然だが普通の魔法も使えるぞ?

「とりあえずいっとけ…【マジックガトリング】ッ!」

その一声を受けて頭上に魔法陣を展開…マジックアローの陣とほぼ同じ陣だ。
ネーミングが安直なのはご愛嬌。
こういうのは分かりやすいくらいが丁度良い。



魔法陣が光を帯び、そこから無数の魔力の矢が広範囲に放たれる。
その数は十や二十では効かないだろう。

「ぬぐっ!?」

「おわっ!?」

「ひぃ!?」

もちろん、俺に当てるつもりは無く、魔力の矢群は奴らの後方をことごとく吹き飛ばす。
仮に当たっても致命傷にはならない程度の魔力しか篭めていないけどな。

必然的に奴らは前に逃げた……狙い通りにな。
横に逃げられない様に横にも打ち込んでおいたからな。
つまり前方以外の周囲だな。前には必然的に俺達がいるわけで…。

「団体さんいらっしゃ〜〜い、ってか?」

「じゃあ…丁重にお迎えしなきゃね」

俺のやり方に慣れているラルフはちゃんと返してくれたが……他は少しア然としている。

「す、凄い……ナニアレ……」

ティピが冷や汗を流しながら呟く……だから手加減したっての。
本気なら更に数も多く、威力も上げられるし。

俺とラルフが駆け出したのを見て、カーマイン達も続いた。
動揺しながら走ってくる盗賊風の男を軽く殴り飛ばす。
……スーパー歌舞伎みたいに吹っ飛んで行ったな……手加減した筈なんだがなぁ……とりあえず、ラルフくらいに身体能力を下げてはいるが……あっ、ラルフの蹴りでスーパー歌舞伎ry……。

俺達は剣を抜き放つ。

俺の武器は大剣リーヴェイグ。

原作では現在HPの1/8を攻撃力にボーナスとして追加する魔剣だ。
実際は生命力が高ければ高い程切れ味と頑強さを増すという特性らしい。
究極の肉体……という神懸かった特性を持つ俺にはお誂え向き過ぎる剣だ。

正直、原作の最強大剣であるエクスカリバー(某運命の腹ぺこ騎士王の持つ約束された勝利の剣の様な、真名開放なんて破壊力抜群なことは出来ないが…一定時間毎にHPの5%を回復するスキル…リジェネレートを得、アイテムとして使えば、十字架状に聖なる光で敵を屠る魔法…ホーリーライトを詠唱出来る様になる優秀な大剣)を攻撃力的には圧倒的に凌駕しているだろう。


ラルフの剣はレーヴァテイン。



世界を焼き尽くす魔剣……と言われているが、この剣にはそこまでの力は無い。
北欧神話のスルトが持つ剣の様に……いや、杖か?

……まあとにかく、その刀身には神話の様に炎を纏っているが……これは刀身に炎属性があるのと、複数の炎の玉で相手を囲み、それをぶつけ合わせ、ある程度の範囲を爆発させる魔法……ファイアーボールを詠唱出来る様になるくらいの特性しか無く……あ、多少魔法の威力を上げる――杖の様な特性もあったか。

まあ、武器としても勿論優秀だが……当然、世界を焼き尽くしたりは出来ない。

そう言えば原作ではラルフが炎の刀身の剣を使っていたが……これも修正力って奴か?

それから乱戦になるが……ハッキリ言って勝負にならなかった。
何分も掛からなかったんじゃあなかろうか?

俺は敵の武器を切り捨て、剣の腹で敵を打ち飛ばしたり……武術なんかで戦ったりした。
リーダー格の相手もしっかりのして捕らえました。

なんつーか……全力なら七万の軍勢どころか、2000万の軍勢すら殲滅出来そうな肉体のチートさに、全俺が咽び泣いた。

ラルフも似たような戦い方だ。

剣で武器を弾いたり切り捨てたり……敵には肉弾戦で応対していた。
いや〜、強くなったねぇ……不殺を通すには圧倒的実力差が必要だからな。
その実力は推して知るべし……だな。

ニールは実力的には盗賊風の敵とどっこいどっこいだが、装備が良いのでなんとか倒していた。

カーマインは、三人程に囲まれたが大立ち回り……然程苦労せずに片付けた……てか、この時点にしては強すぎないか?

あれか?M2仕様か?

…って程大袈裟なものじゃないけどな……ジュリアンやゼノスと五分五分くらいか……充分凄いって。

絶対レベル二桁だって。

アレか?
俺が存在するための歪みか?


――んなわけねぇか、面識無かったカーマインに影響を与えるワケ無いしな。

ティピはカーマインの近くで応援している。
そこだーっ!やっちゃえーっ!!
とか……応援……なのか?

ウォレスは特殊両手剣を巧みに使い、接近戦では敵を切り裂き、遠距離においては剣をブーメランの様に投げ付けて敵を切り裂いた。
更には格闘戦もこなし、敵を殴り飛ばしていた。
動きはカーマインよりも鈍いが……原作でも身体だか勘が鈍ってるとか言っていたな。

だがそこは、その豊富な戦闘経験で補っている様だ。

ルイセは魔法による補助だ。
回復魔法を掛けたり、補助魔法を掛けたり……攻撃魔法も使っていたが……俺のやり方を見たからか、牽制に使っていた。


んで現在……周りは屍々累々……俺とラルフが相手をしていた奴らは一応は無事で、身ぐるみ剥いで簀巻きにして放置していたが……小数の…カーマイン達が相手していた奴らは……。

……こんなのが日常茶飯事な世界……とまでは言わないが、戦いが身近にある世界だ……割り切らなければならないし、俺のやり方を押し付けるつもりもない……俺もいずれは誰かを殺めるのだろうか……。

「…………」

ん?ルイセが少し青ざめてる、か?

当然だな……人の生き死にを……しかも自分が手を降した訳ではないにしろ、命を摘み取ったのだから……カーマインも少し顔を歪めているところを見ると、まだ慣れてはいないみたいだな……。

「む……これは……」

ん?また援軍か?
声のした方を見るとそこには……。

「ジュリアン?どうしてここに?」

「いや…加勢は多い方が良いだろうと思って追って来たのだが……どうやら遅かった様だな」

「もうちょっと早く来てくれたら良かったのにぃ」

応援に駆け付けたジュリアが……いや、ジュリアンだったな。
ティピと話している。

「迷いは断ち切れたのか?」

ウォレスがジュリアンに問い掛ける……そういやそんなイベントもあったな。

「あの時、聞き忘れたことがある。あなたを戦いに駆り立てる信念とは何なのか」

「……うむ。それを聞いて納得するなら、話してやる。十数年前、俺はある傭兵団にいた…だがある事故で傭兵団は壊滅してしまった。その時行方不明になった団長を探している」

ベルガーさんだな?
確かラシェルに行った時にそれらしい人は見掛けたな……あの妙に鍛えられた身体をした人がそうか?

「大事な人なのか?」

「恩人だ。元々団長に拾われた命、彼のために使おうと決めている」

「でももう十何年も探してるんでしょ?正直見つかると思えないなぁ……」

「ティピ!」

正直な意見を述べるティピをルイセが諌める。
ティピ君……君はもう少し空気が読める様になろう。
だからジュリアンに羽虫とか言われるんだぞ?

「分からないぜ?案外何処かで記憶喪失とかになってるかもしれないだろ?」

「そんなご都合主義、あるわけないでしょ!!」

と、突っ込まれてしまったが……あるんだよなぁ、そんなご都合主義。

「その事故とはいったい……」

外野は無視して話しを進めるか……てか、未だに俺達に気付かないとか……よっぽどウォレスの信念という奴が気になっていたんだな。

「俺達はバーンシュタイン王国にある水晶鉱山を警備していたんだが…ある時、化け物が暴れるという事件があった……警備についていた部下は全滅。化け物を追った団長はそのまま帰らなかった」

ゲヴェルのことか……実際に見たことは無いから何とも言えないが…確か、原住生物のゲーヴを基にして作られてるんだったよな。

「……そうか」

「ここまでみつからんと生きているのか……だが自分なりのケリが付くまで、俺は旅を続けるつもりだ。自分でそう決めたからな」

成程な……それがウォレスの『信念』ってワケか。

……今度、【占い】でもしてやろうかな?

「だが元の生活に戻る前に、鈍った体を戻さないとな」

「……私も……私もしばらく一緒にいて良いか?皆の生き様を見ながら、私なりの信念について考えてみたい」

「それは俺よりもコイツらに聞くべきだな」

そう言ってウォレスはカーマインとルイセに視線を送る。

「俺は構わない……気の済むまで一緒にいてくれ」

「そうだね。一緒に行こうよ」

カーマインとルイセは快諾した。何と言うか良い奴らだなぁ…。

「シオンさん達はどう?」

お、ティピが俺達にも聞いて来た。

「俺も構わない……つーか、俺達も着いていく立場だしな。偉そうなことは言えないさ」

「勿論、僕も良いよ。旅は道連れってね?多いほうが楽しいしね」

「俺もオッケーッスよ」

とりあえず満場一致ということで……。


「シオン……シオンだと!?」

ん?やっと気付いたか??

「久しぶりだなジュリアン……というか、気付くの遅いぞ?」

実は俺とジュリアンは知り合いです。
今明かされる衝撃の事実!!

というわけでもないな。互いの両親が元ナイツ同士なんだから…交流もあったワケです。
勿論、ジュリアンの秘密も知ってますが何か?

「す、済まない……話しを聞くことに集中していて……三年前にお前が旅に出て以来だな……元気にしていたか?」

「まぁ、ボチボチな。そういうジュリアンこそどうしたんだ?…って、さっきの話しから何と無く想像がつくが…」

「ねぇねぇ?シオンさんとジュリアンは知り合いなの?」

俺達の話しにティピが入ってくる。

「ん?あぁ、親同士が職場とかが一緒で懇意にしててな。その関係でな」

「そうだったんだ」

ルイセも話しを聞いていて納得したのか頷く。

「っと、本来なら直ぐにローザリアに向かうべきなんだろうが、つもる話しもあるし、少し中で休んでいかないか?」

「休むって?」

「この山小屋さ。何も無いところだが、疲れくらいは癒やせるだろ?つーか、昨日はここに泊まったんだし」

まぁ……やりたいこともあったし。

「そうだな……少し休んで行こう」

カーマインも承諾してくれたし、皆も不満はなさそうだ。
その後、皆は山小屋に向かった……俺はとりあえず残ったが。

「さて……始めるか」

俺は戦って死んだ奴らを一人一人埋葬してやることにした。
流石に吹きっさらしにしておくのはあんまりだろう……最悪、血の匂いに釣られてモンスターがやってこないとも限らないし――これも、所詮はただの自己満足なんだろうけどな……。




[7317] ―みにみにぐろ~らんさ~♪速報!作者はプロット変更を余儀なくされたようです。微妙にネタバレ注意―番外編3です―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2009/03/30 14:04
「どうも~♪パーソナリティのティピでっす♪」

「同じくパーソナリティのHomoです」

「そんなことより!速報~!速報~!!」

「なんですかティピさん?そんなに慌てて…」

「PSP版グローランサーの仲間キャラにインペリアルナイツが居るとの情報が入りました!!」

「なんだそんなことですか…」

「確かに、同行者になったリーヴスさんや、Ⅱで仲間になってくれるライエルさんは分かるけど……なんとあのリシャールが仲間になるのよ!?」

「…結構知ってる人は知ってると思いますけどね」

「なんでよ!?あのリシャールよ!?パッケージイラストにも出てたし、コムスプリングス辺りでにこやかに笑ってる立ち絵だってあったんだから!」

「いや、分かりますよ?私もそれは見ましたから。ストーリーの大まかな流れが変わってないのなら、ゲヴェル戦後くらいなんですかね?それより前ということは無いでしょうから」

「そうよね~…リシャールが宣戦布告する様に仕向けなきゃ、誰がやるんだ!って話しだし…でもそうしたらヴェンツェルのイベントとかは無しになってるのかな?」

「それは実際にプレイして見なければわかりませんね~。それで、それが速報ですか?」

「実はそれを知らなかった作者は、情報を知って急遽、今後のプロットの練り直しを余儀なくされたそうです」

「成る程、それが速報ですか。ちなみにどういう内容だったんですか?」

「色々あったみたいよ?パワーストーン使って人間にしたりとか、敵地に乗り込んだ時に副学園長直伝の身代わり人形を使うとか…どちらにしても物語終盤になってしまうみたい。だからこその練り直しね…と、ここで時間が来てしまいました♪」

「早ぇなこの野郎!」

「次回はこの物語の主人公のシオンさんを招いて色々聞いてみたいと思います♪ここまでのお相手はティピと…」

「Homoでした♪」


「「それでは皆さん、また次回でお会いしましょ~♪」」

*******

少年は青年になった…その特異な力を持って何を成すのか…彼は仲間との平穏を望む為に抗うのか……元の世界への帰還を願うのか?

グローランサー~異世界転生者の平穏~

連載中です。



[7317] 第16話―それぞれの価値観と少年との出会い―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/01 19:51

俺が死者を弔っていたら、そこに来たのは……。


「カーマイン…ルイセ…ティピ……それにラルフも……どうしたんだ?」

「……俺たちも手伝って良いか?」

死者を弔うのを手伝ってくれるという。

「…そうか。頼む」

その後、俺達は死んだ者達を埋葬し……墓を作った。
俺は墓に向けて手の平を合わせて祈り、ゆっくり頭を下げる……よく言う、拝むという姿勢だ。

「なぁに、それ?」

俺と付き合いが長いラルフはともかく、残りは不思議そうに俺を見ていた。
質問してきたのはティピ。
祈り終わった俺は皆に振り返る。

「これはある国の宗教の祈りの姿勢だ。死んだ人は仏様になるってな……あ、仏ってのは平たく言えば神様みたいなものだ。細かい定義やらなんやらはちょっと違うけど……こんなことしても、怨まれるのは明白なんだけどな」

要するに、我が心の母国……日本の一般的な宗教、仏教の祈りだ。
別段に仏教徒でなくとも、広く広まってるのは衆知だと思う。
他にも神道とかあるけど割愛。

ちなみに俺も仏教徒じゃない。

「……一つ聞いていいか?シオン……アンタは人をこうやって、死なせてしまったことは……ないのか……?」

またド直球な質問だなカーマイン君……。

「あぁ、無い。ラルフもそうだが俺達は人の命を奪ったことはない……と、言うか…よく分かったな?」

原作開始から間もないし、カーマインはそんなことが分かる程、修羅場を潜ってきてはいない筈だが……。

「ウォレスが言っていたよ……シオンの剣は凄いけど、雰囲気が綺麗過ぎるってな」

「……成程、流石は元傭兵。言うことが違うね……」

「でも、実際ヘンだよね?シオンさん、そんなに強いのに、わざわざ手加減して、こんな悪党達にお墓を作ったりするなんて」

「ティピ!」

カーマイン以上にド直球なティピを、ルイセが諌める。

「……人は皆、生きている。当たり前だよな?」

「そんなの当然じゃない」

それがどうかしたの?という顔をするティピ。

「……生きている以上、親がいる訳だ。家族も居て、子供だって居るかも知れない。それはこいつらにも当て嵌まるだろう……」

「…………」

ラルフは黙って俺の胸の内を聞く……そういえば以前、同じ様なことを愚痴ってしまったことがあったっけな……。

「誰かの命を奪うのはいけないこと……もし、俺が誰かの命を奪えば、その誰かの家族が、兄弟が、恋人が、俺を憎むだろう――怨みが恨みを呼ぶ復讐の連鎖だ……命を奪わずに済むならそれに越したことはない」

「けど、それは「それだけじゃない」……え?」

俺はティピの言葉を遮る。

「もし…誰かを死なせてしまったら……その命を幾重にも背負ってしまったら……【俺】という存在が消えてしまいそうで……それが恐いんだ……」

「「「……………」」」

周りがなんとも言えない、いたたまれない空気に包まれている……。

「……な〜んつってな♪」

「…は?」

そんな空気はぶち壊しておく。
こういう空気は好きじゃないんだよ。

「確かに、そういう感情も多々ある。けど、覚悟はある。もし仮に仲間を傷つける奴が居たら容赦はしねぇ……完膚無きまでに叩き潰す!!――だけどさ?命を奪う必要が無いのに奪うのは何か違くねぇ?その判断を降してるのは自分自身だけど」

お茶を濁す為に軽い口調で言う。
まあ、これも俺が思っていることなのだが。

「俺は俺の考えを押し付ける気は無いし、誰かに考えを押し付けられる気も無い。もし、仲間との二者択一を選ばなきゃならなくなったら……俺は仲間を選ぶってだけの話さ」

そう…、幾ら神懸かった力を持っていても、俺は神様じゃない。
全知でもなければ全能でもない。
全てを救うことなんて出来ない。
出来るのは眼の届く場所にいる奴を守るくらいだ。

「でも……もし奪うつもりはないのに、誰かの命を奪ってしまったら……シオンさんはどうするんですか…?」

ルイセが怖ず怖ずと尋ねてくる。

「例え、後悔しようと、心が磨耗しようと、【俺が】消えようと――大切なものは守る……それが俺の『信念』って奴だ」

もう、『誰か』を失うのは御免だからな……。

「まぁ、なんだかんだで、困ってる人がいたらつい手を差し延べちゃうけどな!」

いや、当然でしょ人として。

*******



「……相変わらず優しいな、あいつは……優し過ぎる、くらいに――」

窓からシオン達の様子を見ながら私はそんなことを呟いていた。

「……そうだな。だがそれは決して悪いことじゃない。戦場で生き残るには厳しいかも知れないが……」

ウォレスが私の呟きに相槌を入れてくれる。

「…それに関しては心配はしていない。彼の強さは折り紙付きだ」

私も訓練に付き合ってもらったことがあったが、まるで歯が立たなかった……当然だな。
三年前には既に父であるウォルフマイヤー卿を裕に凌ぐ実力があったと聞く。
私では歯が立たないのは道理だ。

「そっちに関しては俺も心配してねぇがな。あれだけの大立ち回りをやってのけたんだ。しかも、相手をした奴が誰も死んでねぇときてる。かなりの実力者なのは雰囲気でわかるぜ……その分綺麗過ぎる剣だが、汚れた剣に対処出来ないというわけではないらしいしな」

「では…何が……」

「強いて言うならシオンの在り方……って奴か。その優しさが戦場では仇になるときがある」

……そう、それは私も懸念の材料だったりする。
あの人の父上、ウォルフマイヤー卿と私の父はあの人をナイツに相応しい器だ。
と言うが、確かにあの人は心技体、全てにずば抜けた力がある。

技と力は言うに及ばず、その心――意志もまた高潔なモノだ。

――だが、ナイツになるということは一軍の将になるということ。

自ら戦うだけでなく、味方を指揮して戦わなければならない。
もし、味方に被害が出たりしたら……あの人の心が壊れてしまうのではないか……私は、それが恐いのだ。

そうなって欲しくはない――だって、あの人は私の―――。

******


俺達は小屋に戻って、軽く色々な話しをしていた。
内容はほとんどが、ジュリアンから俺への質問タイムになったが。

Q、今まで何をしていた?

A、見聞を広める旅に出て大陸中を回っていた。

Q、そっちの二人は誰だ?
一人はカーマインとそっくりだが……

A、カーマインにそっくりなのは、ラルフ。
カーマインの生き別れの双子のお兄さん。
俺の幼なじみ。
もう一人はニール。
俺達の部下…というか仲間だな。


等々等々……。

色々な質問をされた。
時にはルイセが、俺が使った魔法…マジックガトリングについて質問してきたのでそれに答えてあげたりもしたな。

後はカーマインとラルフが今まで、どう過ごして来たのかを語ったり、俺がウォレスに【占い】をしてあげた。

内容は『捜し人は人々の中。温かい日だまりの様。だが心は深い霧の中。その霧を晴らせるのは鈍く輝く銀の異形』

もっと長い話しをしてたけど、大体こんな感じ。
ウォレスが少し興奮気味に俺に詳細を聞いてきたが、所詮占いだからと言って言葉を濁す。
信じるも信じないのも自由ってね。

そんなこんなしてると、少しの内に回復したので早速村に向かうことにする。
そういえば村で何かイベントがあったような気が……確かエリオット登場だっけか。


しばらく歩くとデリス村にたどり着いた。

「どうだ、ジュリアン。少しは答えが見えたか?」

「……いいや。まだだ」

ウォレスがジュリアンに問い掛けるが、ジュリアンは浮かない顔だ。

「まぁ、時間はたっぷりあるんだ。焦らずいこうぜ」

俺はジュリアンをそう励ます。
と、言うかただ歩いて来ただけで答えなんか分かる筈もない。

「……ありがとう」

それにジュリアンは素直に礼を言ってくれる。
なんかくすぐったいな。

「きゃああっ!?」

と、いきなり女性の絹を裂く様な悲鳴が聞こえて来た。

「何、どうしたの?」

ルイセが困惑気味に辺りを見回す。
俺達も声のしたほうに顔を向ける。
――するとそこには、品の良い服を着た妙齢の男女……そして赤いジャケットを羽織った金髪の美少年。
まぁ、エリオット君だろうな。

そしてそれらを守る様に背に庇う――良く見知った面子…。

…って、オズワルド達じゃねーか。
原作では襲う側だったのにな……こんなに変わるとは……まぁ、原因は間違いなく俺なんだよな。
反省はしていない。

「ふん!この俺様から逃げられると思うなよ?」

「ちっきしょう…振り切れなかったかよ…」

そしてあのハゲでガタイが良い男は……確かグレンガルが原作であんな格好してたような…?
……いや、グレンガルはあんなダミ声じゃないしな。

……あっ、グレンガルの弟の盗賊団頭領か?
あのライエルの噛ませ犬の。

「仕方ねぇ……アンタらは逃げな!ここは俺達が食い止める!」

「だがそれでは…」

「構いやしねぇよ。元々こっちが勝手に首を突っ込んだんだ……それに、アンタら見捨てて逃げちまったら、シオンの頭に顔向け出来ねぇしな」

「バカめ!!オズワルドよ!このグレゴリー様に勝てるとでも思っているのか?それにむざむざ逃がすわけなかろう?こんな小さな村に逃げ込んだところで、村ごと滅ぼしてくれるわっ!!」

「させやしねぇ!例え勝ち目は無くても足止めくらいはやってやらぁ!!」

「俺達もいますぜ兄貴!!俺達も――やりますぜ!」

オズワルド……立派になって……すっかり別人でわないか。
ビリーにマーク、ザムまでやる気になって…。

つーか、あの頭領グレゴリーってのか…衝撃の事実!!

「あの親子が襲われている!?」

ジュリアンがその状況に憤る。

「ねぇ、あの男って、王都の西門でカレンさんを襲ってた奴じゃない?」

「あぁ……それにあの四人は確か…」

「そ、俺達の仲間」

どうやら面識があるみたいだな。

「兄貴!オズワルドの兄貴!!」

ニールが声を掛ける。

「この声は…………ニール、ニールじゃねぇか!!ってことは…」

「当然、俺達もいるぜ?」

「みんな、大丈夫だったかい?」

「シオンの頭!!ラルフの旦那!!」

さっきまで、悲壮な決意を秘めた表情をしていたオズワルド達が……希望に満ちた表情に一転した。

「貴様がオズワルドの言ってたシオンとか言う奴か……ふん!青臭いガキじゃねぇか!!」

「お初にお目に掛かる、グレゴリーとやら。ウチの仲間を随分と可愛がってくれたみたいだな?」

「なぁに、これからもっと可愛がってやるところよ。なんならお前も一緒にどうだ?」

「そこは丁重にお断りしたい……つー訳で、ちゃっちゃと帰ってくれんかね?今なら怪我せずに帰れるというサプライズが付くけど?」

「断る!!こっちも仕事なんでな……どうやら、この前邪魔してくれたガキも居る様だな……野郎ども!!纏めて片付けちまえ!」

こっちの誠心誠意の説得も通じず、結局はこうなるか。
ん?誠心誠意に聞こえなかった?
誠心誠意ですよ。
真面目にネゴシエーションモードで応対してなかったのは事実だが。
俺は喧嘩は好きだが、血みどろな殺戮劇は嫌いだ。

なので、多少は下手に出てみた。
だが、あの手の輩に頭を下げたりするのは個人的にはあまり…な?
それで解決するならそれも良いけど、大体が笑いの種にされるだけで結果は変わらない。

「ヘヘン!返り討ちにしてあげるわよ!」

ティピが威勢良くタンカを切った。
さて、不本意ながら開幕といこうか。

「……あの……話しが見えないんだけど……」

「戦わざるをえないってことだ」

「不本意ながら…な」

「まぁ、そういうことだな」

困惑の表情を浮かべて疑問を口にするルイセに、ウォレス、俺、ジュリアンがそれぞれ武器を構えながら答える。

カーマインとラルフ、オズワルド達も武器をそれぞれ構えた。




[7317] ―みにみにぐろ~らんさ~♪これが出た時は作者はリアルで忙しいと思って下さいm(__)m―番外編4です。
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2009/03/31 22:41
「ティピと!」

「Homoの!」

「「みにみに!ぐろーらんさ~~♪♪」」

「という訳で始まってしまいました三回目で~す♪」

「つまり作者さんがリアルで忙しいんですね分かります」

「なんでも、昨日は夜から昼近くまで仕事していたらしいです。帰って来て、最低でも一話くらいは上げなくては!!…って、気張ってたみたいだけど、16話を書き上げてる途中で熟睡してしまい、気付いたら4時だったという……ま、おかげでアタシ達の出番になったんだけどね?」

「まぁ、更新速度も一日一話くらいに下がるかも知れませんね……このコーナーは基本短いからまだ良いですけど。本編が一気に2、3話進んでたら「あ、コイツ休みだな?」とか思って戴けたら幸いでございます」

「さて、そんなわりかしどうでも良いことは置いといて!早速、新コーナー【疑問でランサー】のコーナーです。栄えある新コーナー第一回のゲストは…」

「俺は脇役!身体はチート、心はパンピー!この作品の無自覚の主人公、シオン・ウォルフマイヤーさんです」

「どうも、シオンです。っていうか此処は何処?某道場?」

「別に死んでないし、BADEND救済コーナーでもありませんよ?さて、時間も圧していますので早速質問に入りたいと思います」

「つーかティピと………誰だ!?」

「あ、私パーソナリティの一人のHomoと申します。宜しくお見知り起きを」

「…あ!もしかしてオマケのアレか!?グローランサー知らない人には全く分からないネタじゃねぇか!!」

「ハイ、それでは最初の質問です。シオンさんは究極の身体と至高の魔力があるらしいけど、具体的にはどれくらい凄いんですか?」

「ってシカト?スルー?てかさ、俺って今どんな状況なのさ?」

「まぁ、夢を見ている様なものだと思ってもらえれば良いんじゃないかと」

「それではシオンさん!どうぞ♪」

「……分かった。そういう物だと理解しておく。納得したわけじゃないけど…開き直ったほうが楽だ…えっと、質問の答えだったな。あれは漠然感じた感覚からの言葉だよ。実際、俺も自分にどんな力があるのか全部把握してるわけじゃない」

「至高の魔力……皆既日食のグローシアンだからってだけじゃないんでしょ?」

「グローシアンとしても別格らしいですけどね。本編にそんな記述がありましたし」

「実際、比べたわけじゃないから何とも言えないが、ヴェンツェルやアリエータ、覚醒ルイセを凌駕してるんじゃないかとも思う。少なくとも、俺自身としては覚醒前のルイセよりは圧倒的に多くグローシュを扱えるし……魔力保有量が半端ない理由に関しては分からないな……何かしら理由はあると思うんだが……」

「それじゃあ、究極の肉体ってのは?」

「ん~…武術の才能は皆無だったけど、肉体の成長速度は異常でな。終わりというものが感じられない。もう一つ気付いた力があるが…これはネタばらしになるからカットな。ただ、見る奴が見たら良くても最低オリ主乙……くらいは言いそうなのは明白だな」

「つまり、既にそれに関しては自覚してると?」

「漠然とな。誰かと修練する時とかは普通に使ってたから意識したことはなかったけど。最近になって、あ~…これはアレかな?…と」

「それじゃあ続いての質問です。シオンさんは新たなチート能力、アレンジ能力があることが発覚しましたが、シオンさんは魔法ならどんな物でもアレンジ出来るんですか?」

「出来るよ。とは言っても、元々のものからあまりに逸脱することは出来ないけど。マジックアローなら魔力弾であることは覆せないし、ヒーリングを攻撃用に改良したりは出来ない。あくまでも元の能力の延長線上でなければ無理。単純にアレンジってだけじゃなく、術式や構成を【体得】していじくった結果だから。あ、単純なスキルに必殺技や奥義なんかも同様な」

「次の質問です。ぶっちゃけカレンさんのことはどう「残念ですがお別れの時間になってしまいました」ってちょっとぉっ!!まだ途中!」

「仕方ないですよ、これでも初回なので、いつもよりは尺取ってるんですから。それではHomoと!」

「……ティピでお贈りしましたぁ」


「……なんだったんだか一体…」

「ちなみに次回は対談の続きです」

「はぁっ!??」

*********

本日の【駄洒落でランサーのコーナー】

「また怒られちゃった……シオ~~ン」

********

リアルで忙しい為にこんな有様……明日も早朝から仕事だ…(--;)



[7317] 第17話―デリス村の戦い―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/01 20:06



「うわ、来ないでください!」

エリオットを切り付けようとしていた盗賊の顔面に、軽く蹴りを叩き込んでやる。

「へぶっ!?」

またスーパー歌ry

「大丈夫か?とりあえず、アイツらはすぐに追っ払ってやるから――安心しなっ」

俺はエリオットにそう告げてやる。

「は、はい。僕より、父さんと母さんを……」

自分のことより両親の心配か……良い子だねぇ……なら、オッサンも少し頑張ってやっかな!

「俺に…いや、俺達に任せろよ。アイツらをけちょんけちょんにして、君ら親子を助けてやるからな?」

左手の親指でサムズアップしてやり、ニッ!と、力強い笑みを向けてやる。
……この顔なら、さぞかし微笑って奴が似合うのだろうが、元来、俺のスマイルはどちらかと言えば、某さすらいの修理屋ザ・ヒート寄りだ。

……もっとも、あそこまで暑苦しくはないけどな?
会社の連中からは親しみ易いって結構評判良かったし、シオンになってから…両親やラルフ達にも評判の笑顔なんだからな。

「は、はい!」

ほら、エリオット君も笑顔で答えてくれた。
やはり笑顔はLOVE&PIECEの象徴だな。
エリオット君の緊張が解れたようだ。

「そんなわけで、あなた方も後方に下がってて下さい。奴らは俺達が相手しておくんで」

「あ、あなた達はいったい……」

エリオット母が俺達のことを尋ねてくる。

「ただの旅人です。さぁ、早く」

「申し訳ない!」

エリオット父が頭を下げて後方に下がって行く。

「オズワルド、お前はビリー達と一緒にあの人達の守りに着いてくれ。……周りに十数人、伏兵がいる」

原作でオズワルドが伏兵置いてたので、このグレゴリーも同じ手を使うと思ったら……案の定、気配を多数感じるんだもの。
どうやら村に入って来る前には周囲を包囲させていたらしい。
…見た目や言葉遣いと違って、頭を使うらしいな。
まぁ、一つの組織を運営するんだから多少は頭が回らなきゃ、お話にならんのだろうが。

「伏兵…ですか。グレゴリーの元頭もワンパターンだねぇ…」

そう言うなオズワルド。
つーか、原作ではお前が好んで使った手だぜ?

「ジュリアンも頼めるか?コイツらだけじゃどうにも不安だからさ」

「わかりま……では無く、分かった。任せてくれ」

今、敬語を話しそうになったな?
……たく、未だに俺に敬意を表してくれてるらしいな……嬉しいが、なんだか複雑だぜ。

さって、戦況はっと……ウォレスが一人倒した……ルイセが上手く牽制している様だ。

カーマインとラルフは正に破竹の勢いだ。二人のコンビネーションは抜群で、実力的にもラルフがリードして引っ張っている感じだ。
もっとも、それに着いていけるカーマインも凄いんだが。

「貴様ら…俺様の邪魔ばかりしやがって……許さんぞっ!!」

「俺はお前さんの邪魔をしたのは初めてなんだが……いや、オズワルド達にフォローさせる様にさせたのは俺だから……間接的には二回目か?」

ふむ……どうやら沸点が低い奴らしい。
カルシウムが足りてないんじゃないか?
牛乳に相談しなさい牛乳に。

「まぁ、あまりよろしくないことばかりするお前らが悪い」

そこに偶然通り掛かる俺達もまた然別。
通り掛かかった以上放っておけないだろ?
普通。

「馬鹿野郎!これは仕事だっ!」

「仕事!?誰かに頼まれたんですか?」

怒鳴り散らすグレゴリーにエリオットが尋ねる。
原作だとオズワルドが対峙していたが……やはり今回も……。

「言えねぇなぁ!これ以上邪魔するっていうなら、こっちにも考えがある!!」

やっぱりな……この手の類が言うことはいつも同じ……正に『お約束』。
いや、アイツ風に言えば『テンプレ通り』……という表現だな。
正確には『テンプレすぐる』だったか。

あ、今のオズワルド達は除外ね?
今のアイツらは、なんだか全然違うから。

「おい、野郎ども!ここの村人も皆殺しにしろ!!」

「へっへっへっ!了解だぁ!!」

下卑た笑いを浮かべる手下ども。
やはりお約束の展開だが……。

「なんと卑劣な!」

ジュリアンが憤りを露にする。
口封じに誰かを消すというのは物語ではお約束だ。
俺は全能の神でも、正義の味方でもない……だが――気にいらねぇ。

「ゲスが…悪いが骨の二、三本は覚悟してもらうぞ…!」

俺は怒りを滲ませながらグレゴリーを見据える。

「フン……この俺様に何の策もないとでも?出てこい野郎どもぉ!!」

「へっへっへっ!」

「きゃあ!来ないでぇ!?」

林の中からグレゴリーの手下が現れる。
しかも村人の女性の前に。

「ああ、アイツの手下が!」

「村の人が危ないよ!」

ティピとルイセが伏兵に気付き、声を上げる。

「大丈夫、彼がこれくらい読めていない訳はない」

ラルフがティピ達を安心させるように言う。
まぁ、その通りなんだがな。

ドガッ!!

「ぐぼぁ!?」

今にも襲い掛かろうとしていた手下Aに一つの手斧が飛来し、手下Aの顔面に直撃……血をばらまきながら倒れた。

「悪ぃな。元は同じ釜の飯を食った仲だったが……むざむざやらせる訳にはいかねぇんでな!」

オズワルドだ。それだけじゃないぜ?

「悪党に情けは無用だ……ハァッ!!」

ズバッ!!

「グハァッ!そ、そんな……」

ジュリアンの斬撃により倒される手下B。

更にはビリー達には二人一組になって一人を相手させた。
オズワルドとジュリアンが倒し損ねた奴らをビリー達が倒す。
これにより、実力的に差が無くても有利に運べる筈だ。
戦いは数だよ!!と、某中将もおっしゃっていた。


……大体は質のほうでどうにかしちゃうのが俺達だったりするけどな……まぁ、イイトコ取りってことで。

「さて……じゃあ約束通り、骨の二、三本…覚悟してもらうぞ」

「舐めるな小僧が!!」

グレゴリーが裂帛の気合いと共に俺に切り掛かってくるが、俺はその場をほぼ動くことなく避ける。
今の俺はラルフ並の身体能力に抑えている。つまりラルフもこれくらいは出来るということだな。

「うぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁっ!!!!」

その手に持つ大斧で、切る!切る!!切る!!!
しかし俺はそれを避け続ける。
スウェーやステップ、跳躍などを駆使して。

「おのれちょこまかと!!」

当たりさえすれば……とか思ってそうなので、その考えを正してやるとしますか。

俺は愛剣リーヴェイグでそれを受け止める。

「ぐっくっくっ……俺様と力比べか。面白ぇ!!」

その台詞は死亡フラグだぜ?
殺す気は無いけど。

「はぁぁ…!?ぬぅ!?ヌォォォォ!!!」

奴は押し切ろうとするが、俺はびくともしない。
俺はかなり細身に見えるが、その実、体重は結構重い。
それは身体中が持久力と瞬発力を兼ね備えた筋肉……某ケンカ百段の酒の鬼いわく、全身ピンク色の筋肉という奴に変化しているからだ。
某哲学する柔術家と同じ仕様と言う訳だな。
筋肉というのは脂肪より重い……故に体重自体は結構あるわけだ。

「どうした?力には大層自信があったみたいだが?」

それでも、奴の方が重い筈ではあるが……何故動かないか。
実は丁度良い位置に石が埋まっており、それを踵で支えにしております。
単純な力では俺の方が圧倒しているので、後は梃子でも動かないだろうな。


「さて、それじゃあこっちも反撃に移らせてもらうぜ」


「ヌ、ヌオッ!?」

俺はゆっくり大斧を押し退け、弾く。

「ボディがお留守だぜ?」

「グボハァ!?」

体勢を崩した所に無数の拳打を加え、最後に蹴り飛ばす。
木に叩きつけられたグレゴリーは悶絶する。

感触からして、約束通り肋の二、三本はへし折ってやれた様だ――。

「さて……御縄を頂戴といこうか」

血を吐き、震えながら立ち上がるグレゴリーにそう言い放つ俺。

「ゴホッ!ガハッ……お、おのれ……一度ならず、二度までも……覚えていろ!!……後は任せたぞ!」

「へ、へい!」

「おいおい……逃がすと思うか?」

というか、残った人数はせいぜい二人…それを残して逃げるか。
…悪いが此処で逃がす訳にはいかない。
コイツを潰せば、カレンが襲われる可能性は減る。

まぁ、別の奴……もしくは別の組織に依頼される可能性もあるからな……絶対とは言えないが。

「へっ…!悪いが逃げさせてもらう。丁度迎えが来たみたいだからな……」

「何……!?」

「モンスター!?」

そこに飛来する一つの影…それは大きな飛竜……ワイバーンとそれに乗る男だった。

「やれ…」

男が命じると、ワイバーンは火のブレスを吐く。

「チッ」

俺は思わず飛びのいてしまう。
ブレスは避けたが、その隙にグレゴリーが連れ去られてしまう。

クッ……まさかモンスター使いが仲間に居るとは……原作には無かった展開だ……どうする?
魔法で落とすか?

「ウラァァァ!!」

そこへ残った内の一人が、背後から襲い掛かってくる。

「邪魔だ」

俺は裏拳一発でそいつを殴り飛ばした。

「チッ……逃げられたか……」

既に豆粒くらいになっている奴らを見て舌打ちをする。

――追えば追いつけるだろうが……。

「つ、強ぇぇ……」

ドサッ……。

最後の一人をカーマインが倒した所だった。

「やったね☆」

「……怖かった……」

ティピが勝利を喜ぶが、ルイセは震えて座り込んでしまう。
当然だな…実戦経験も少ないだろうし、何よりまだ14歳……だったよな確か。

「…よく頑張ったなルイセ」

カーマインがルイセの頭を撫でてやる。

「お兄ちゃん……」

ルイセが赤くなりながらも、カーマインに潤んだ瞳を見せる。
これが噂のナデポという奴か!
しかし、カーマインと言いラルフと言い……何でこうもポすることが出来るのかね〜?
これはベルガーさんもポ族だったのかも知れんな。

「大丈夫か、君?」

「怪我はねぇか坊主?」

近くで護衛していたジュリアンとオズワルドが、それぞれにエリオットへ声を掛けた。

「はい、おかげで助かりました。ありがとうございます」

エリオットが丁寧に御礼を言う。
と、俺達の所にエリオットの両親がやって来た。

「あの、お願いがあります」

「何か?」

俺はエリオット父へ応対する。
なんでも、エリオットをローランディアの王都に連れていって欲しいとのこと。
一緒に連れていくだけで構わないらしい。

「王都だったら、アタシ達も帰るところだけど?」

ティピがそう言う。
まぁ、構わないだろうな……現に俺達やジュリアンもその類なんだから。

「構わないが、あなた達はどうするんですか?」

カーマインがそう尋ねると、二人は急ぎの用があるとのこと。
ヴェンツェルに報告でもしにいくのかね?

「母さん…」

エリオットが悲しげな表情で母を見詰める。

「いいかい?ここに手紙をしたためておいたから、ちゃんとお渡しするんだよ」

そう言ってエリオットに何やら書簡……手紙を握らせる。
その表情はやはり悲しげだが、慈愛に満ちていた。

「今までお前と暮らせて、幸せだったぞ。元気でな」

エリオット父も優しい微笑みを浮かべながら、そう言う。

「父さんも、お元気で」

「愛してるわ、エリオット」

親子は別れを惜しみながらも、両親はこれ以上は辛くなるとばかりに、その場を走り去った。
母親は途中で一度エリオットへ振り返ったが。

こんなに良い人達なのに……後に敵対しなければならないなんて、な。

「………」

エリオットは、それをただじっと見送っていた。

「みんなも、無事か?」

「はい、無事です」

ウォレスが村人の安否を気遣う。
そういや、ウォレスは此処に住んでいたんだったよな。




[7317] 第18話―宴の夜とそれぞれの想い―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/01 20:22


その後、村に被害が出なかったことを村人達が心底感謝していた。
しかも宿にタダで泊まれる様に計らってくれた。

なんつーか、此処までしてもらうと逆に悪い気がしてくる。
更には宴まで催すというのだから、この村の村人達はバイタリティが凄いな。

「ふふっ、みんな喜んでくれてる。なんだか、こっちが嬉しくなっちゃうね?」

「……そうだな」

「確かに、そうかもしれないな」

ルイセが村人達の様子を見て嬉しそうに言う。それにカーマインとジュリアンが同意する。

確かにまぁ……な。
こういうのを見ると助けて良かった――って気になるよな。

その後、俺達はその宴に参加することになった。

せっかくの機会だし、楽しむことにしようか――。

*******


「うふふっ♪感謝の宴ってより、村のみんなが騒ぎたいだけみたいだけど、なんだか楽しいね!」

「そうだな……こういうのも悪くないな」

「もう、アンタは!楽しいなら素直に楽しいって言いなさいよ」

ティピ……それは俺のキャラじゃない。
とは言え、楽しいと感じるのは事実だ…。
各々がそれぞれ楽しんでいる様だしな。

********

ルイセの場合。

「あ、なぁに?」

「どぉ?楽しんでる?」

ルイセが居たので声を掛けてみた。
ルイセはルイセでしっかり楽しんでいるみたいだ。

「うん♪わたしね、あんまり大勢の人と話したことなかったから、楽しいんだ」

「えっ、どうして?学院にもいっぱい人が居るんじゃないの?」

この答えには俺も意外だった。
社交的という程ではないが、ルイセは嫌われる様な性格はしていない。
むしろ好まれるほうだろう。

「う〜ん、ちょっとね……ほら、わたしってグローシアンだから、みんな構えちゃうみたい」

成程…特別な奴は一目置かれたりするが、そういことか。
とはいえ、ルイセはグローシアンであることを除けば普通の女の子だぞ?
兄の口から言うのはなんだが、可愛いし、性格は優しいしな。

「まぁ、そのぶん楽しんでおけよ」

「うん♪」

*******

ジュリアンの場合

「ねぇ、ねぇ、ジュリアン!」

「どうした、羽虫?」

随分とストレートな言い方だな……まぁ、俺も最初に羽虫って言ったことがあるけど。

「ムカ〜!これでもアタシは、ローランディアの宮廷魔術師サンドラが作った、由緒正しきホムンクルスなんだぞぉ!」

「ほぉ、サンドラ様の作か。それにしては口の聞き方がなってない様だな」

…俺も最初はそう思ったが、慣れてくると気にならなくなったな。
付き合ってみると良い奴だったしな。

「放っといてよ!」

「私のことも放っといてくれ。今、少し考え事をしているんだ」

成程……少しピリピリしていたのはその為か。

「…答えは見つかりそうか?」

「ああ…もう少しで見つかりそうだ……私なりの答えが……」

******

ラルフの場合

「ラルフさん♪楽しんでる?」

「カーマインと……ティピちゃんだったよね?勿論楽しんでいるよ」

ラルフが柔らかい微笑みを浮かべながら俺達に応対する。

「今まであちこちを旅してきたけど、こんな風な宴って奴は初めてだからね……柄にも無く少し興奮してしまっているよ」

「ラルフさんって商人なんだよね?何処を旅して来たの?」

俺も少し気になるな……俺は外の世界を知って間もないからな。
やっぱり興味はあるさ。

「旅したのはこの大陸だけだけど、ローランディア以外はほとんどまわったんじゃないかな?」

「ふぇ〜〜、そんなにあちこちに行ったんだぁ…」

ティピは感心しっぱなしだ。
かくいう俺もだが。
俺もそれくらいあちこちに行ってみたいものだな。

「いつか俺も色々世界を回ってみたいものだ」

「機会があったら、色々案内してあげるよ。それくらい兄としてはしてあげないとね」

兄――か。
まだ実感が湧かないが――ラルフが兄貴で、良かったと思えている自分も居た――。

漠然と、この兄貴とはこれから長い付き合いになるだろうことを、俺は感じていた――。

******

シオンの場合。

「いや…しかしなんだな、ここの村人は凄いな。普通あんなことがあった直ぐ後では、こんな宴は開けないものなんだが……よっぽどの祭好きなんだな」

「でも、凄く楽しいよ♪シオンさんは楽しくないの?」

「いや、しっかり楽しませてもらってるさ。こんな宴は初めてだし、何よりこういう空気は大好きだからな」

ニッ!と快活な笑みを見せるシオン。
不思議と安心する笑みだ。
俺もこの空気は気に入ったよ。

「シオンさんってさ、旅の剣士なんだよね?でもルイセちゃんと同じグローシアン……なんだよね?」

「まぁ、な。普通、グローシアンはその性質上、魔導の才覚は並々ならぬ物がある。俺も一応皆既日食のグローシアンだ。魔導の才覚はかなりの物なんだろうな。何しろ魔導学院からスカウトが来たくらいだしな……色々あって今は剣士をしてるがね」

「その色々って……聞いても良い?」

「良いけどたいした理由じゃないぞ?幾つか理由はあるけれどまず第一に俺の意思だ。理由としては、その当時に必要なことをしたかったから。知識として何かを得られるのも魅力的だ……けど、それよりも木に触れて、野を駆け、大地や空を感じる方が有意義に思えたからな……あ、勿論勉学は嫌いじゃないぜ?ちゃんと勉学にも励んでたし、嫌いなら今、魔法を扱えたりしないしな。一応、頭の作りも半端無くてな……一度見聞きしたものは忘れないし」

成程……その当時に必要なことをしたかった……と言ってるということは、魔導だけでなく他にも色々学びたかったんだろうな……その気持ちはよく分かる。
俺も、そうだったからな……俺の場合、街の外に行けなかったから尚更な。
というか、一度見聞きしたことは忘れない……か、羨ましい限りだな。
激しく分けてやりたい……主にティピに。

「シオンさんはラルフさんと旅をしてたんだよね?」

「ああ。剣や魔法の修業と、見聞を広めるためにな。もっとも、ラルフと旅をしている内に商売に関しても詳しくなっちまったけど」

「そうか……俺も、シオンの様な旅をしてみたいもんだな……」

「何、カーマインの冒険は始まったばかりだろ?案外、望まなくても、騒動に巻き込まれるものだ。それが運命の星を持つ者なら尚更な」

運命の星――という言い回しはよく理解出来なかったが、言わんとしていることは分かった。

俺の旅は、まだまだ始まったばかりなんだ――ってな。

*******

オズワルドの場合。

「ん?何か用か?」

「一つ聞きたいんだけどさ?アンタは何でエリオット達と一緒に居たの?」

そういえば、その辺りの理由に関しては聞いてなかったな。

「そのことか。一言で言っちまえば偶然だよ。俺達は仕事先に向かってたんだが、そこにあの親子が逃げてきてな。追われてたし、見て見ぬフリは出来ねぇからな」

「それだけで助けたの!?その顔で?うっわぁ……似合わない……」

ティピが失礼なことを言う。
いい加減人を見た目で判断するのは止めろよ。
少なくとも身体を張って足止めしようとしてたんだ。
悪い奴じゃないだろ。

「悪かったな!この顔は生まれつきだ!」

「でもさ、でもさ!!なんか、向こうの盗賊の親玉とも知り合いみたいだし……もしかしてアンタ、スパイ!?」

いい加減に黙らせるか……流石にこれだけ言われたら良い気分はしないだろう。

「あぁ…そのことか」

しかし、別段気を悪くしたとかは無く、何故自分が盗賊の親玉と知り合いなのか、現状に至るまでを話してくれた。

「成る程ねぇ……アンタ達はシオンさんに拾われて、今こうしてるんだ」

「そういうことだ。シオンの頭には感謝してもしたりねぇ。下手すりゃ、今回あの家族を襲ってたのは俺だった……なんてことになってたかもしれんしな」

成程な……オズワルドが本気でシオンの下に就いているというのは分かった。
まぁ、確かにシオンには、何処か引き付けられるものがあるからな……分かる気がする。

「せっかく拾ってくれたんだからな……頭の為に目一杯働くさ」

「そうか……頑張れよ」

他にもウォレスやエリオットとも話した。
後は村の人達とも。


こうして夜は更けて行った――。

*******



俺達は宿に向かった。
皆はそれぞれに宛がわれた部屋に居る。

しかし、今日の宴は楽しかったな……最初は憂鬱だったんだが……ぶっちゃけ、死んだ盗賊連中を弔ったのは俺だったりします。
山奥に墓を作ってやりました。
生きてる奴らは身ぐるみ剥いでリリースしましたが何か?
傷付いた奴はヒーリングで強制回復させてからリリース。
まぁ、体ごと頭を冷やしなさいと。
ただの盗賊なんでろくなアイテムが無かったけど。

死者にはちゃんと冥福を祈りました……まぁ、んなことしたところで恨まれる……とか思ったが、ふと気付く。
今の俺はどうやら『見える人』らしい。

案外、霊力という奴もあるのかもしれない。
悪霊みたいな奴に襲われたこともあるからな…返り討ちにしたけど。

だが、こうして弔った奴らのそれは見たことがない……俺を恨んでないというのは違うかも知れないが、ちゃんと迷わずに逝けたのかもしれないな。

そんなこんなで、微妙に乗り気じゃなかった俺だが、色々な人と話せたから暗い気持ちも吹き飛んだ。

最初に話したのはウォレス。
ウォレスは俺に覚悟の程を問うてきた。
俺はカーマイン達に話した信念を聞かせた。
こういうことはベラベラ喋る物じゃないが、ウォレスになら話しても良いだろう。

ウォレスはそれがお前の信念なら、貫き通せよ……と、言ってくれた。
もしその時が来ても前にだけは進んでいこう。
そう改めて決意させてくれた。

次に話したルイセは、宴を楽しんでいる様だった。
普段はグローシアンとして人から距離を置かれているため、これだけ大勢の人間と話すのは初めてだと……。
だから嬉しいと。

それはよく分かる。
俺も似た様なモノだ。
グローシアンで、インペリアルナイトの息子だからな。
けど、友達がいたから寂しくは無かったな。
それが俺にとっては、ラルフであり、ジュリアンであった。
ルイセで言えば――ミーシャがそれに当たるのだろう。

オズワルド達はどうやらこの宴が終わったら、村を出て直ぐに任務に戻ると……そうしてくれるのはありがたいが、一日くらいゆっくりしていけば良いのにな……。
何しろ今回の殊勲賞は間違いなくオズワルドなんだからな。

エリオットは俺達が自分達を助けてくれたことを本当に感謝していた。
この礼節を守った振る舞い、英才教育の賜物だな。
けどやはりこういう宴は初めてらしく、少なからず興奮していた。

ジュリアンには話し掛けなかった。
例の自分なりの答えを模索しているのだろう、何か考え込んでいた。
それを邪魔するほどKYではないつもりだ。

ラルフも宴を楽しんでいた。
俺達の旅でもこういうのはなかったな……と、話した。
後はカーマインのことを聞いてみた。
ラルフは弟が居て、それを見つけられたのを心底喜んでいた。
それもテンションが少し高い理由の一つなのかもな。

最後にはカーマインとティピ。
カーマイン……というよりティピは、俺がグローシアンなのに、何で剣士なのかと聞いて来た。

なので質問に答えた。

後、カーマインが俺を羨ましがっていた。
色々と旅して来た俺を…。
けどカーマインはこれから、嫌という程に各地を転々とすることになるんだからな……流石は主人公だな。

「さて…明日もあるし、早く寝るかな」

コンコン……。

ん?誰だこんな時間に。

「誰だ?」

「私です…」

ジュリアンか?
ドアを開けると、そこにはジュリアンが居た。
って、何故ジュリアンが此処に?
今頃カーマインの所で話しを聞いてる筈だろ?

「少し、お時間宜しいでしょうか?」

というかジュリアン、敬語が出てるぞ?
断る理由は無いから良いが。

「ああ、とりあえず中に入れよ」

俺はジュリアンを部屋に招き入れたのだった。




[7317] 第19話―邂逅…師弟で主従な二人―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/01 20:34


ジュリアンを部屋に招き入れた俺は、部屋にある椅子を引いて座る様に促す。

「ほら、良かったら座れよ」

「ありがとうございます……マイ・ロード」

そう言ってジュリアンは素直に着席する。
俺はベットに腰を降ろしてジュリアンと向かい合う。
……今、聞き捨てならない台詞が聞こえたって?
OK、俺もさ。

「ジュリアン、前にも言ったけど君主(ロード)なんて柄じゃないって……一度そう言ったろ?」

「も、申し訳ありませんでした!マイ・マスター……」

ジュリアンが真っ赤になりながら訂正する………。
今、更に聞き捨てならない台詞が聞こえたって?
OK、俺もさ……。
誤解のないように言っておくが、別にマスター(ご主人様)と呼ばせて悦に入ってるわけじゃないからな?
この場合は別の意味がある。

「ジュリアン……いや、ここは敢えてジュリアって言っておくけど……もう最後に会ってから三年近く経ってるんだ。そのマスターってのは無しにしないか?歳だって一つしか違わないんだし」

精神年齢を加えたら激しく差があるけどな。
……よく、精神が身体に引っ張られるって表現があるけど……俺の場合あまり変化は無い。
多少は老成してるかもだが、実感という奴は無いんだなこれが。

「な、何を言うのですか!私に剣を伝授して下さったのは貴方……貴方は紛れも無く、私のマスターです!」

ジュリアは俺の言葉を必死に否定する。
俺こそが、自分のマスターだと。
そう、マスターとは【ご主人様】ではなく、【師匠】という意味の方である。
要するにサンドラがヴェンツェルをお師様と呼ぶのと同じだ。

紆余曲折はあったのだが、俺はジュリアと剣を交え、その結果、剣を教えることになり、マイ・マスターと呼ばれる様になったのである。

これで俺が、ご主人様と呼ばせて悦に入ってるドS変態ではないのが分かって戴けただろう。
そもそもマスターと呼ばせるのも最初は断ったんだぞ?
だがマイ・ロードがダメならこれだけは譲れないと、ジュリアの奴が涙目で訴えるから……その時のジュリアは、中々嗜虐心を擽られたと言うか、マスターと呼ぶのを許可してみたら結構ゾクゾクっとキタというか……いっそのことガチでご主人様とか……って違う!!
違うからな!?
俺は一応フェミニストだ!!

……って、そういえばカレンの泣き顔にもドキドキしたことがあった様な……その辺の記憶は曖昧なんだが……もしかして、俺ってS?
Mで無いのは間違いないが……いや、違うぞ?
俺はノーマルだ!!

「……まぁ、とにかくだ。どうしたんだジュリア、こんな夜更けに?」

そう、この時間ならカーマインに戦う理由というのを聞きに行っていた筈だ。
まさか、俺が剣術の師匠なんかやったから、結果が変わったのか?
原作崩壊キタコレ!
……いや、俺の存在自体が原作崩壊だから……俺自重。

「実は…マイ・マスターにお願いがあって来たのです…」

「お願い?」

お願いってなんぞ?

「貴方のことをマスターなどと言っておいて……こんなことを願うのはお門違いかも知れませんが………お願いします。私にインペリアルナイトを目指す許可を下さい!」

ん?
インペリアルナイトを目指す?
つまりそれは……。

「見つけられたってことか?自分なりの信念って奴を」

「ハイ!実は先程、カーマインの元へ訪れまして……彼の剣を振るう理由を聞いたのです」

ああ〜〜、成程、既にカーマインには会った後なワケね。
んで、寝る前に俺の部屋に寄ったと。

「彼は、力無き者の代わりに剣を振るうのだと……そう言っていました。もっとも、それは今回のことが大きく関係している……ということを言ってましたが」

「成程……今回の戦い、カーマインはカーマインで思う所があったってことか」

「貴方に影響された……みたいなことも言っていましたよ?この選択肢で、色々と後悔することはあっても、迷わず進んで行く…と」

俺に?
……もしかして、あの山小屋の時の話か?

「その時、気付いたのです……私の望む信念も、彼と同種のものだと。力無き者達を守るため、虐げられた者達の代わりに戦うのだと……だから…」

「だから俺に許可を貰いに来たと?」

「ハイ……勝手に貴方をマイ・マスターなどと呼んでおきながら、私は自分の想いを優先して国に仕えようと言うのですから……」

わざわざ許可なんていらないと思うんだが、律儀だなジュリアは……って待て。

「お前、その言い方だと俺に仕えていたみたいに聞こえるぞ?」

「!?いえ、これは!その…ち、違うんです!マスターはマスターです!マイ・マスターなんです!だから…!」

真っ赤な茹蛸みたいに顔を赤くしながら、しどろもどろに言い訳をするジュリア。
これは可愛いな……男装してても、少女らしい表情が……。
……ヤバい、またゾクゾク来た。
俺自重俺自重。

どうやらジュリアは【師匠】という意味と【ご主人様】という両方の意味を込めてのマイ・マスターだったらしいな……。

「まぁ……色々と突っ込み所はあるが、俺の許可なんか必要無いだろ?」

「い、いえ!これは私の気持ちの問題なのです……私は貴方の赦しが欲しいのです……どうか……」

そんな顔するなよ。
俺が断るとでも?
つーか、断る権利なんかねーし。
とは言え、ジュリアがそう望むなら仕方ないな。

「なら赦す。そのお前の信念、貫き通して見せろ」

「ハッ!我が剣に賭けて――必ず!」

ジュリアは俺に向かい跪ずき、騎士の誓いを立てた。
だからそんなの必要ないんだってばよ。

「まぁ、俺よりもダグラス卿を説得することを考えるんだな」

インペリアルナイトになる条件は、心技体……全てを兼ね備えた【男】であること。
つまり女は、インペリアルナイトになれないのである。
男尊女卑も甚だしいとは思うが、その掟は絶対だ。
もしジュリアが【女】だと知れたら、どんなに良くても御家取り潰しは免れない。

「私は必ずインペリアルナイトになってみせます。例え父上に勘当されることになろうとも……後悔しないとは言い切れませんが、前に進み続けます……貴方の様に」

「オイオイ、それは俺を買い被り過ぎだと思うぜ?大体、俺は眼の届く奴しか守れないし、身内を優先させてしまう」

「私は…貴方の信念も近しいと思うのです。身内を優先させても、眼の届く場所にいる限り、それが助けられる者なら貴方は助けるのでしょう……貴方は優しい人ですから」

だから買い被り過ぎだっての。
確かに困った奴がいたらつい助けちまうが、それは人として当然のことだろう?
俺が頭を掻いて、微妙な表情をしていると、ジュリアが表情を引き締めた。
心無しか顔も赤い。

「インペリアルナイトを目指すのをお許し戴いたのに、更に我が儘を言う様で恐縮なのですが……その……これからも二人きりの時には…マイ・マスターと呼ぶことを許可して戴きたいのです……身勝手なのは十分承知しています。ですが……」

「良いよ別に」

「……えっ?」

「本来なら呼び方を変えて欲しい所だが、また涙目になられても困るしな……ジュリアがそうしたいならすれば良いさ」

「あ、ありがとうございます!マイ・マスター!」

ジュリアが屈託の無い表情を向ける。
……こういう所は普通の少女そのものだよな……普通に可愛いって思うもんな〜…少しドキドキするし。

「……所で、マイ・マスターはインペリアルナイトにはなられないのですか?父上や、ウォルフマイヤー卿も貴方には期待なされていますが……」

ジュリアが俺に問い掛けてくる。
心なしか縋るような眼差しな気はするが……気のせいか。
というかナイツになれること前提で話して無いか?

「俺がナイツにか?柄じゃないって……そりゃあ父上にも進められたりしたが、ナイツってのはそこまで甘い物じゃないだろう?技と体はともかく、心に関しては自信ないしなぁ……」

少なくとも、悪党ですら手に掛けるのを良しとせず、仲間が倒した敵にすら罪悪感を抱いているような心では…な。

「そんなことは……貴方ならナイツマスターにすらなれると……」

「リシャール王子を差し置いてか?それは無いって」

そもそも、幾らナイツになれる素養が俺にあっても、そのリシャール王子が俺をナイツに入れるとは思えない。
ゲヴェルの傀儡と化している今のリシャールが、グローシアンである俺をナイツ入りさせるワケが無いのだ。
むしろ暗殺者を差し向けるだろうな。
無論、返り討ちにしてやるつもりではあるが。

「……そうですか。仕方ありませんね。………貴方とナイツになれるなら幸せだな……と思ったのですが………」

「幸せって……大袈裟だぜ?まぁ、もう少し見聞を広めてから、俺も挑戦してみるさ」

流石に何もしないのでは、父上に申し訳が立たないからな。

「!?き、聞こえていたのですか!?」

ん?
俺とナイツになれたらとか言う話?
勿論聞こえてましたよ?
つーか何故そんなに顔を赤くしてうろたえてるんだよ?
風邪か?

「まぁ、何だ。応援してるから、頑張って見ろよ」

「は、ハイ、マイ・マスター!!」

その後、俺はジュリアと別れ就寝することにした。
にしても、ジュリア……俺と一緒にナイツになりたいなんて。
そこまで好意を持たれてるとは……流石はジュリア、師弟関係を大切にするんだな。
いや、主従関係か??
さて、この後にはあのイベントが控えてるからな。
何時間眠れることやら…熟睡しない様にしなくちゃな…。

******


夢を見ていた……。

ここは何処だ?
城……?
それと何かの施設かな……?

何だ……?
妙に刺々しい異形の仮面と、鎧を着けた二人の騎士……なんか物騒な雰囲気だな……施設のバルコニーになっている部分に女性が一人……随分綺麗な人だな……。

ん!?
騎士二人が剣を抜いた!?
まさか――あの女性を襲う気か!?

くそっ!止めろ!!

う……意識が………。

******

「ハッ!?」

僕は思わず跳び起きてしまう。

「今のは……夢か……」

それにしては妙に生々しく、殺気を感じられた……くそ、何故こんなに焦りを感じるんだ……ただの夢の筈なのに。

「ラルフさぁぁん!」

この声はティピちゃん?

僕はベットから降り、ドアを開けると、ティピちゃんが凄い早さで飛んで来た。

「大変なの!アイツが夢を見て、マスターが危ないの!!」

随分慌ててる様で要領を得ないけど……夢……?

「もしかして、その夢って二人の仮面を着けた騎士が出てくる夢かい?」

「!?どうしてそれを!?」

「実は僕も同じ夢を見たんだよ……カーマインも夢を見たのか」

これは単なる偶然には思えない……僕達が双子だからか?

ティピちゃんが言うには今、現在進行系でその夢の通りのことが起こってるらしい。

「分かった、僕も直ぐに向かうよ」

「お願いね!アタシは他の人にも知らせてくるから!」

僕は置いてあった装備を身につけて、廊下に踊り出た。

******



「シオンさん!シオンさんったら!!」

ん…?
騒がしいな…この声はティピか……ってことは!

俺は跳び起き、ドアを開ける。
すると、ティピが飛び込んで来て事情を説明する。
やっぱり仮面騎士襲撃イベントか……。

「カーマインにそんな力があったのか……」

俺はあたかも知らないフリをする。
原作の知識としては知ってるが、実際に聞くのは初めてだし、嘘というわけではないよな?

「分かった。俺も準備して直ぐに行く」

「お願いね!アタシは他の人を呼んでくるから!」

ティピが出て行った後、俺は装備を調え、廊下に出た。
あ、ついでだしエリオットを叩き起こしておこう。
そうすれば二度手間にはならないだろ?





[7317] 第20話―闇の遣い、テレポート、ラーニング―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:2a54e692
Date: 2011/12/01 20:56

「たのもーーっ!!」

俺は隣の部屋に問答無用で踏み入り、エリオットを起こす。
流石に本気で叩き起こすのは、少々気が引けたので普通に起こしたが……。

「ん〜〜……はれ……?シオン…さん?どうしたんですかこんな真夜中に……」

眠そうに眼をコシコシしながら、俺を見やるエリオット。
恐らく、美少年好きのお姉様にはどストライクなんだろうが……俺にそっちの趣味は無い。

「何か大変なことになってるらしい……だから、エリオットも早く準備しな」

「……大変なこと……一体何が?」

どうやら眼が覚めたのだろう。
しっかりとした視線をこちらに送って来た。

「詳しいことは後だ。準備をしてからカーマインの泊まってる部屋の前に集合。急いでな?」

「は、はい!」

エリオットは急いで身仕度を始めた。
まぁ、あのペースなら間に合うだろう。
外で待ってたら案の定、一分も掛からなかった。

「お待たせしました。では行きましょう」

「よっしゃ!行くぜ!」

俺達は駆け足でカーマインの部屋に向かった。

お、皆さん丁度集まったところかね。
カーマインが部屋から外に出てくる。

「ティピに聞いたよ!お母さんが狙われている夢を見たって!」

「……ああ……」

問い詰めてくるルイセに、カーマインは苦虫を潰した様な顔をしながら事実を告げる。

「……ああ、お母さん……」

ルイセは顔面蒼白で、涙目になってしまっている……というか既に泣いている。

「話しは聞いたよ……その夢なら僕も見た……多分、全く同じ物だと思う」

「ラルフも……か!?」

ラルフの告げた言葉にカーマインが驚愕の表情を露にする。
……成程、確かにカーマインと同じ要素を持つラルフなら、ありえる話か。
しかし、カーマインのあの表情は実に珍しい表情だと思う。

まだ、カーマインとは面識が浅いが、ラルフに置き換えたら珍しい表情だと分かる。

「まさかお前達にそんな能力があるなんてな……」

「双子だから……か?……それだけでは無いような気がするんだが……」

ウォレスの、カーマイン達の能力に対する意見に便乗して、俺も意見を言う。
まぁ、本当の理由は知ってるんだがねぇ……言えないでしょ流石に。
少なくとも『まだ』。

「あの、一体何があったのですか?」

話の内容に全く着いていけないエリオット……仕方ないか、詳しい理由を説明してなかったんだし。

「かい摘まんで説明すると、だ……」

俺は簡潔に説明してやる。

カーマインとラルフが全く同じ夢を見る。
カーマインの母親、サンドラが仮面の騎士達に襲われる夢だ。
そして、サンドラが作ったホムンクルスのティピが、テレパシーでサンドラの様子を伺う。
すると、夢の通りの内容になっていたと。

「そ、それじゃあ、今その人が危険なんですか…!?」

「そういうこと」

簡潔な説明だが、聡明なエリオット君だ。
理解出来たようだな。

「……にわかには信じがたいが、疑っても仕方あるまい。とにかく急いで王都へ向かおう」

「…お母さん……」

ジュリアンが意見を出す。
ルイセはポロポロと泣いている……ズキリと胸が痛むが、ここは我慢だ……余計なことを言ってこの流れを崩す訳にはいかない。

「しかし実際問題として、今から急いで間に合うのか?この村が王都に一番近いと言っても、どれだけ離れている?我々が到着するまで、間に合うのか!?」

「それは…そうかもしれませんが……」

恐らく、俺が全力全開で身体能力を開放して走れば間に合うだろう……お釣りがくるくらいだ。
……だが、それは言えない……このイベントはカーマイン達の今後に大きく影響する……このフラグを折る訳にはいかない。

「…お母さん……」

ルイセが肩を震わせて俯いている……そろそろか……?

「でも、このまま見捨てるなんて出来ないでしょ!」

「ティピちゃんの言う通りだよ……可能性が僅かでもある限りは…」

「……母さんを信じよう。母さんは宮廷魔術師だ……きっと、俺達が行くまでの間は持たせてくれる」

「言い争ってもしょうがねぇな。すぐにでも出発しよう」

ウォレスがそういって締め括ろうとした時、力強い魔力の……グローシュの波動を感じ取る。
中々に強い魔力だな……流石と言った所か。
その発生源を見る……そこには……。

「……お母さんっ!!」

ルイセが眼を思いきり閉じて、母を思い浮かべて……なのかは分からないが、母の名を叫んだ。

「!!これは……!?」

俺達は光に包まれ……そしてその場から消えた。

そして気付いた時には……見知らぬ場所に立っていた。

「ここは……ここはどこだ?」

「……いったい何が起こったんだ?」

ジュリアンが辺りを見回す。
ウォレスも困惑しているようだ。
俺にも見覚えのない風景だが、話の流れからして、十中八九間違いなく……。

「あ、ここ、マスターの研究室の前だ!ってことは……」

……ということになる。
予想通りの展開だな。
まぁ、予想が外れては困るんだが。

「出来ちゃった…………テレポート……出来ちゃった……」

呆然としながらもルイセが呟く。
ちなみに、今ので俺もテレポートを体得した様です。
まだ使ったわけじゃないが、感覚で理解できる。

「これが…あの高位呪文、テレポート?それにしても、これほどの人数を、これほど遠くまで運ぶとは……」

「驚いてる暇はない。はやくサンドラ様を助けないと!」

「そうですね…急ぎましょう!」

ウォレスの台詞に我に返り、ラルフが応対する。

確かに、驚いてる暇はなさそうだな……上から感じる気配……一つの気配が徐々に追い込まれている……。

「急げ!どうやら追い詰められてるみたいだ!!」

俺は感じた通りのことを皆に伝える。
俺達はその場を駆け出し、一直線に屋上に向かった。

屋上に着くと、仮面騎士と数十には至るモンスターの群れに、サンドラは奥の方へと追い込まれていた。
ってか、俺の足が早かったのか、俺が一番乗りだし。
何だかんだで俺も焦っていたってことか…俺自重。
……つーことは、もう毒を喰らった後か。
こういう所で良い意味で原作と違ったりすると助かるんだが……ままならないものだな。

*********


「……まさか、私の魔法がほとんど効かないなんて……」

先程から全力の魔法を叩き込み続けているのに、あの仮面の騎士は全く堪えない。
出来たのは彼らが引き連れて来た魔物の数を減らす程度……。

「無駄なあがきはやめて、楽になれ。苦しむ暇もなく一撃で殺してやる」

「……このままでは……」

いずれ魔力が底を尽き、彼らの言う様に一撃で殺されてしまうでしょう……ルイセ……カーマイン……。

「うぐっ!?」

「何だ、この気は……!?」

諦め掛けていた私の耳に届いてきたのは、件の仮面騎士の苦痛の呻き……。
一体、何が…?

「悪いが、その人をやらせるわけにはいかないな……」

「な、何だ……貴様は……うぅ……」

「貴様らに名乗る名前はない……と、言うのがお約束なんだがな」


現れたのは非常に美しい青年だった……その鍛え込まれた、細くしなやかな身体に、月明かりに白銀の髪をたなびかせ、蒼天の様な蒼い瞳を輝かせて……。

仮面の騎士達は彼が近付く度に弱っていくようだった……その身に纏う魔力……なんて強大な……彼は巧みに押さえ込んでいるようだが、外に出している魔力から感じるに、彼の魔力は私の魔力を大きく超えている……恐らくルイセすらも……。

まるでそれは君臨者……絶対なるまでの存在感……。
なのに、沸いてくるのは安心感……恐らく、私は無意識に気付いているのでしょう。
もう、私を脅かす者はいないと……彼が居てくれれば……。

「サンドラ・フォルスマイヤー様ですね?」

「!?は、ハイ……そうですが、貴方は?」

私は見取れていた様です……年甲斐もなく、恥ずかしい限りです。

「俺はシオンと言います。貴女を助けに来ました」

********


「俺はシオンと言います。貴女を助けに来ました」

俺はそう告げる。
サンドラ様は驚いた表情でこちらを見詰める……心なしか顔が赤い様な……まさか、もう毒が回ってきたのか!?

いや……確か顔面蒼白になる筈だよな……?
むぅ〜〜?

何はともあれ、時間は掛けられないな。

「…そうか!?貴様……」

おっと?
仮面の騎士が俺の正体に気付いたかな?
そうです。
私がグローシアンです。
まあ、俺のグローシュ波動は普段の状態でも、街一個を包み込む位強いからなぁ…気付かないほうがおかしいか。

「……さて、お前達の闇の波動を完全に断ち切ってやっても良いんだが、既に弱り切ってるみたいだし……援軍も到着したみたいだな」

そう言うと、ほぼタイムラグ無くカーマイン達が駆け込んでくる。

「母さん!」

「お母さん!」

「マスター!」

カーマイン、ルイセ、ティピがサンドラ様に呼び掛ける。

「ご無事でしたか!」

「サンドラ様!助けに来ました!」

エリオットとウォレスも、サンドラ様の安否を気遣う。

「みんな……」

サンドラ様に安堵の息が零れた。
まぁ、これだけ大人数なんだしな。

「な、何だ、貴様らは……」

俺のグローシュ波動ですっかり弱り切ってる仮面の騎士達は、俺達にそう聞いてくる……ルイセが来たことにより、相乗効果でより地獄だったりしてな?

「貴様らに名乗る名などない」

「悪いけど、そういうことだから……」

ジュリアンがお約束の台詞を言い、ラルフも憤りを隠せない様だ。

「邪魔をするな!」

「それはこっちの台詞だ。大人しくお縄に着くなら痛い目に合わせたりしないけど?敗色濃厚なの理解してるだろう?」

「くっ…戯れ事をほざくなぁ!!」

まだ叫ぶ元気があったとはな……その仮面騎士の檄が戦闘開始の合図になった。

俺はまず奴らが連れて来た小型の飛行モンスター……名前をグレムリンと言うが……そいつを切り付ける。
そいつを真っ二つにした後、高速詠唱……敵の群れにマジックガトリングを放つ。
今度は威嚇では無く、全開で。

無数の魔力の矢が雨になってグレムリン達に降り注ぐ。
魔力の矢群はグレムリン達を穿つ!穿つ!!穿つ!!!


そこには運よく免れた数匹と仮面騎士のみ。
群れは矢群に呑まれてちぎれ消えた。

「突破口は開いた……一気に行くぞ!ルイセはそこから魔法で援護、エリオットはルイセの護衛に着いてくれ」

「分かりました!」

「任せて下さい!」

まぁ、ぶっちゃけ二人には最前線は酷だろうと思っての采配です。

「残りは臨機応変!適材適所!行くぞ!!」

俺とラルフ、カーマイン、ジュリアン、ウォレスはそれぞれ敵に向かって行く。
俺は目前のグレムリン三匹纏めて切り裂いて、直ぐさまサンドラ様の元へ駆け付ける。
俺が1番足が早いみたいだし、適任だろ?

仮面騎士はカーマイン達に任せる。
弱っているし、今のカーマイン達なら余裕だろう。

「お怪我はありませんか?」

俺はサンドラ様に駆け寄る…すると。

「ぐぁぁ……」

断末魔のその声に振り返ると、仮面騎士がジュリアンの一太刀で致命傷を受け、その肉体を崩壊させていた。
たく、ラルフと声同じだから紛らわしいったらねぇ……。

「うひゃっ!?溶けちゃったよ……」

そう、溶けたという表現が1番合っている。
見てて気分の良いものじゃねーが…。

「!?この消え方……フレッシュゴーレム?」

フレッシュゴーレム……死肉を寄せ集めて作ったゴーレムのことだ。
まあ、その推測は外れるワケなんだが……。

「マジックアロー!」

「ええいっ!」

ルイセはマジックアローでグレムリンを攻撃し、そんなルイセに襲い掛かる一匹をエリオットが小剣で迎撃していた。

「ハァァ!!」

「ハッ!!」

ザシュ!ザシュ!!

カーマインとラルフはそれぞれグレムリンを手際良く切り捨てる。

「ぬぅん!!」

「くぅ……!?」

ウォレスは残った仮面騎士と切り結んでいた。
今の仮面騎士は弱り切ってるから、腕が鈍ったというウォレスでも倒せるだろう。
もともと、そんなに強くない仮面騎士が送り込まれたみたいだしな。

「ん?この感触は……もしや……俺の腕と目を奪った奴か!?それにしては弱すぎるような……別人か!?」

「何をごちゃごちゃと……たかが人間風情がぁ!!」

仮面騎士がウォレスを力ずくで押し切ろうとするが……弱ったお前じゃ。

「!せやぁ!!」

ズシャ!!

勝負にならんよ……。
仮面騎士は逆にウォレスに押し切られ、体勢が崩れた所に袈裟掛けに一太刀…身体の真ん中辺りまで切り裂かれてしまっている。

「うおぉ………」

仮面騎士はまた断末魔の呻きを上げ、その肉体を溶かしてしまった。……なまじ、奴らの正体を知ってるだけにやりきれねぇな……カーマインとラルフ……二人にはあんな風に消えて欲しくはないな……。

「やったぁ☆」

ティピが勝利を喜ぶ、何故か語尾に☆マークが着いてるように感じるのだが、俺の気のせいか?

そんなことを考えてると……。

「お母さん大丈夫?あ、血が出てるよ!?」

こちらにカーマイン達が駆け付けてくる……ルイセが、いの一番にサンドラ様に駆け寄る。
俺も確認したが、確かに腕の辺りから血が流れている。

「ここへ逃げて来る途中で、ちょっと。でも、かすり傷です」

「待って下さい……失礼します」

俺はサンドラ様の腕を取る。

「あ……」

「じっとしていて下さい」

俺はまず、【ファイン】という、瀕死以外を治す補助魔法……それのアレンジ版を使う。名はシンプルに【ディスペル】とした。
解呪の意だが、様は瀕死以外を…ゲームではステータス異常というが、そのステータス異常を……例え呪いであろうと解呪させるというものだ。
ぶっちゃけファインの強化版だな。


本来はカレンへの保険のつもりだったんだが……ここで使うことになるとはな。

何故普通にファインを使わなかったのか?
この時期、ルイセは既にファインを覚えている筈なのだ。
原作ではプレイヤーの裁量次第なんだが……恐らく、ルイセはサンドラ様が倒れた時、ファインを掛け…それでも効果が無かったから医者を呼んだ……と、俺は睨んでいる。
憶測に過ぎないが。
だからファインより強力な効果を持つディスペルを使用した。
治癒して解呪する……俺の膨大な魔力もあり、治せない状態異常は無いと自負する……もっとも、それも自惚れに過ぎないかもしれないが…。

「これは……ファイン……ですか?」

「その改良版とでも言いましょうか?あの手の賊は毒を仕込むくらいはやりそうですから…念の為にですよ」

流石はローランディアきっての宮廷魔術師サンドラ…術式の構成から、ディスペルがファインがらみだと見破ったよ…。
俺は最後にキュアで傷口を塞ぐ。

「これで良いです」

「あ、ありがとうございます……それで、あの…お願いがあるのですが……」

サンドラ様は赤くなりながらモジモジしている……ってヤバい。
ギャップがヤバイんですけど……中々破壊力が……。

「なんでしょう?」

俺はそんな内心をおくびにも出さずに、応対する。

「そろそろ……手を離して戴けると……ありがたいのですが……」

あ……そうだった……つい。

「すいませんでした…気付かずに……」

俺はサンドラ様の腕を離した。
何故かジュリアンが複雑な表情でこちらを睨んできたが、身に覚えが無いので気にしないでおこう。

「無事で何よりです、サンドラ様」

ウォレスが安否を気遣う。

「とにかく、大事が無い様で安心しました」

ラルフもホッと一息ついた。
……ん?サンドラ様の視線がカーマインとラルフを行ったり来たりしている……まぁ当然か。

「……これは……どういうことですか……?カーマインが二人居るなんて……」

「申し遅れましたサンドラ様……僕はラルフと申します。彼……カーマインの双子の兄です」


「双子の……兄……?」

ラルフは自分の身の上を話す。
自分も17年前に今の家に拾われたこと。
そして旅の途中で得た情報で、自分には双子の弟がいるらしいこと。
そしてそれがカーマインなのだと。

「そうでしたか…そんなことが…」

「実の両親がどこに居るかは分かりません。別段どうこうしようとは思っていませんし……ただ、知っておきたくて……サンドラ様は何かご存知ですか?」

「いえ……私もこの子を引き取ったのは、人づてからなのです……そこまではなんとも……」

「そうですか……ありがとうございます」

ペコッと頭を下げるラルフ。
……なんつーか…胸がズキズキ痛むぜ…両親……つーか、親があれだからなぁ……。

「そういえば、あなた達、どうやってここに?」

「それがねマスター!ルイセちゃんが皆を連れてテレポートしたの!」

ティピがまるで自分のことの様に、自慢げに……嬉しそうに話していた。
こういう所がティピの良い所なんだろうな。

「わたし、よく覚えてないけど、夢中で……」

「そうですか。この人数をここまで……とうとうグローシアンとしての力に目覚めてきたのですね」

サンドラ様は感動している。
そりゃあそうだな……愛娘の成長を知ることが出来たわけだから。

「そうか、彼女はグローシアンだったのか。なるほど、これで納得できた」

「ついでに言えば、皆既日食のな?」

「つまり貴方……シオンと同じというわけだな?」

ジュリアン……危うく敬語を使う所だったな?
だから敬語じゃなくても良いって言ったのになぁ……。

「サンドラ様、グローシアンとは?」

お?長く旅していたウォレスでも知らないことがあったのか……というか、グローシアンの存在ってこの世界の常識じゃねーのか?

「日食や月食の期間に生まれた者は、特別な魔力が宿るのです。その能力を宿した者をグローシアンと呼びます。その能力は月食、日食、皆既月食、皆既日食の順に強くなります。ルイセは皆既日食に生まれたグローシアン。一番強い魔力を秘めているのです」

正確にはこの月食や日食は、地球でのそれとは違い、時空の歪みにより、元の世界の影と重なるから出来る物なんだよな。
つまり時空の歪みが強くなればそういう現象も起きる。
だから特別と言っても、月食や日食のグローシアンならそれなりの数が居る…皆既月食や皆既日食は指で数えるくらいしか居ないが。

…しばらくしたらグローシアン失踪事件が起きて、ほとんど居なくなるんだがな……。

「そういえば、シオンさんも皆既日食のグローシアンなんだよね♪」

「ん?ああ、一応な」

ティピの質問に答える。
グローシアンパワーは他者の追随を許さず!ってくらいある。
一応と言ったのは、そのグローシアンパワーだけ取っても、ヴェンツェル、アリエータ、ルイセを足してもまだ届かないくらいなのに、通常の保有魔力からして桁が違う……この身体、魔術回路とかリンカーコアとか埋め込まれてるんじゃあるまいな………ハハハハハ……マジ笑えねぇ……orz
物凄くありそうで……まぁ、魔術も知らないし、デバイスなんてのも無いから確認しようが無いワケだし……。
ただ単に、突然変異な可能性もある。

「そうでしたか……道理で……」

サンドラ様が俺に視線を送ってくる。

俺に惚れたら――火傷するぜ?



嘘ですごめんなさい言ってみたかっただけでry

まぁ、冗談はともかく……多分、俺の魔力に触れてその大きさを何となく理解した……って所だろう。

「へぇ〜〜、シオンさんもルイセさんも凄いんですね!」

エリオットがキラキラした瞳で俺達を見る。
止めてくれ!
オッサンをそんな目で見ないでくれっ!!
溶ける!
溶けてしまうぅぅ!!

……って、実際に今さっき溶ける奴を見てしまったから、なんかこのボケは微妙だな個人的に。

「まだ勉強中の身だけどね☆」

ルイセは照れ臭そうにそう言う。

「ルイセのテレポートと言い、シオンのあの魔法と言い……グローシアンってのは凄い力を持っているんだな」

マジックガトリングのことを言ってるのか?
まぁ、マジックアロー系の中じゃあ威力高いほうだし、あの魔物の群れを一掃したのだからそう思われても当然か。

「とにかく、一度、部屋に戻りましょう」

サンドラ様に促され、俺達は下の階に降りた。
その後、サンドラ様の自宅……つまりカーマインとルイセの家でもあるわけだが。

そこに俺達は泊まることになった。
そして翌朝……。

「夕べは大変だったね」

ティピがしみじみと語る。
確かにな……なんつーか短い間に色々あった気がする。

「はい、お母さん。取り戻した研究書だよ」

ルイセがサンドラ様の研究書を手渡した……つーか、研究書を取り戻したのは間接的とは言え俺だったりするんだよな…まぁ、言わないけど。

「それじゃ……そうですか、これを取り戻しに行っていたのですか」

「実は偶然シオンさんが取り戻してくれてたんだよね。本当、助かっちゃったよね♪」

あくまで偶然だよ偶然……どっかの誰かが、この世に偶然は無く、全てが必然……みたいなことを言っていたが。

「ところでサンドラ様。命を狙われるような心当たりはありますか?」

「特にありませんが、この研究書が奪われたことと関係があるかも知れませんね」

その推論は当たらずとも遠からず…って所なんだがな実際。

「それに先程襲ってきた者達ですが、人ではないようです」

「そうだよね。普通の人ならドロドロに溶けたりしないもんね」

「多分、フレッシュゴーレムかと」

「死体の肉で作ったゴーレム……気持ち悪いなぁ……」

気持ち悪いと言いながら、しっかり知識は溜め込んでいるルイセは凄いと思う。
とは言え、死肉の寄せ集めゴーレムが、あそこまで精巧な身体を持って、尚且つ意思を持って活動するなど有り得ない!
…ということには気付かないんだな?
これはサンドラ様にも言えることだが……。

「魔導を研究する者ならば、他人の研究は気になるものです。それを奪おうと考えたりはするかも知れませんが」

「まさか命まで取ろうとする者はいないでしょう。自分に不利益をもたらすほどの者でなければ……」

前者はこの間のシャドーナイツ、後者は今回の仮面騎士にそれぞれ当て嵌まるな。

「とにかく、みんなのおかげで助かりました。もう一度、お礼を言わせてもらいます」

サンドラ様は改めてみんなにお礼を言った。

「おい、ちょっと良いか?」

ジュリアンがカーマインと、俺を指名する。

ジュリアンは皆から少し離れ、俺達もそれに続く。

「お前の言った通りだな……人々を守る。これからはそのために剣を振るおう。もう迷わぬ……例えその道半ばで後悔に苛まれても、真っ直ぐ進んで行く」

「そうか……頑張れよ」

ジュリアンの決意を聞いたカーマインは、ジュリアンに応援の言葉を送る。

「ああ、ありがとう。さて、私はそろそろ自分の家に戻る。今まで世話になったな」

「上手く説得出来ると良いな。応援してるぜ」

「ありがとう……シオン。必ず、また会おう」

俺もジュリアンに応援の言葉を送る。
ジュリアンはジュリアンで、俺に名残惜しげな表情を向けていたが…決意を新たに旅立って行った。





[7317] 第21話―サンドラを救え!―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/01 21:06


みんなでジュリアンを見送った後、再び話す。

「研究書も戻ったし、これで明日からまた魔導実習だね」

「そのことで話があります」

「えっ?」

ルイセはまた、これから魔導実習かと思っていたらしく、多少なりとも意気込んでいたので肩透かしを喰った様だ。

「今回の事といい、あなたは短期間の内にかなり成長しました。実習などを受けるより、実践で覚える方が向いているのかも知れません。これからもみんなと行動して、実践で魔法を鍛えなさい」

まぁ、確かに……武術でも基礎訓練を行うより、組み手なんかをする方が成長は早いらしいしな……身体を壊す確率が多いから、結果的には効率が悪く危険だったりするがな。

「それって、一緒に行ってもいいってこと?」

「やったね、ルイセちゃん!」

「うん☆」

ルイセとティピは喜んでいるが、カーマインを見ると内心複雑なのか微妙な表情をしている……大事な妹を、危険な目に合わせるかも知れないのだから当たり前か。

「それに……私は……うぅ……」

サンドラ様がふらつく……顔色は差程悪くない……まさかとは思うが……。

「サンドラ様、どうかしましたか?」

ラルフがその様子を見てサンドラ様に声を掛ける。

「だ、大丈夫です。夕べの件で、疲れが溜まっているのかもしれませんね……」

…どうやら相当我慢してるらしいな。
ったく、無茶をする……とにかく確認だな。

「……サンドラ様、夕べ治療した傷痕を見せて戴けませんか?」

「そ、それなら……貴方が治療してくれましたから、もう大事はありません……」

「……失礼します」

俺は多少強引にサンドラ様の腕を取る。

「あ……」

「チッ……やっぱりか……」

俺は思わず舌打ちをしてしまう。
夕べ治療した、傷口があった部分が腫れて来ているのだ……原作のルイセが言うほど、異常な腫れ方はしてないが……それと掴んだ腕が異様に熱い……間違いない。

「自分の身体が、毒に侵されているのを黙っていましたね……?」

「えっ!?」

「……………」

俺の台詞にルイセが驚愕の表情でサンドラ様を見る。
サンドラ様は俯いて黙ったままだ。

「だが、昨日……シオンが母さんの治療をしていただろう?あの時の母さんの調子は良さそうだったが……」

「そうよ!シオンさんがこうピカーって治したじゃない!」

「……ああ、そうだ。あの呪文は外部から受けた類の毒物なら、一発で治せる……」

カーマインとティピの問いに答える。
その自負はあった……回復系統の魔法だから加減は不要……魔力も十分に注いだし、術式構成も間違いない筈だ……どんな強力な呪いでも、どんなに未知の毒でも……例えゲヴェルの毒でも治せる筈……やはりそれは自惚れだったのか……?

いや、何か原因がある筈だ……術式構成などに間違いない以上、何かが……。

「……少し失礼します」

「あ……はい……」

俺は再びサンドラ様にディスペルを掛ける……今度はサンドラ様の体内の魔力の流れを意識して……。

サンドラ様の表情が和らいでいく……つまりは効いているということだ。
体内の魔力の流れは……急速な勢いで解呪して………ん……?
この魔力の流れは……………そうか!?
そういうことだったのか!!!

「ルイセ、この街の医者の居場所は分かるか?」

「え……知ってますけど……」

「だったら急いで薬を貰って来てくれ!!!毒消しの1番強い奴だ!!」

「は、ハイ!」

俺の様子に、ルイセが慌てて医者に向かって行った。

「一体、私の身体は……?」

随分、楽になった表情でサンドラ様が俺に尋ねてくる。

「詳しい説明は後でします……今は安静にして戴きます……失礼」

俺はしゃがみ込み、サンドラ様を抱き上げる。
所謂、お姫様抱っこだ……普段ならこんなこと絶対にしないんだが、緊急を要するんだ。
四の五の言っていられるか。

「カーマインはベットの用意をしていてくれ!ラルフは水の用意を!」

俺は二人に指示を出す。
二人を選んだのは特に意味はない。
強いて言うなら1番近くに居たからだ。

「あの……私はもう一人で歩けます……ですから、降ろしては戴けないでしょうか…?」

サンドラ様が赤くなりながらしどろもどろになる……その仕種はかなりクるものがあるが、今は関係ない。

「アンタは病人なんだ。だったら大人しく俺に抱かれてろ!」

「!!……は、ハイ、分かりました」

つい地が出ちまったが……素直にサンドラ様は頷いてくれた。
……何故か更に赤くなっているが。

「何がどうなってるか説明してくれるんだろう?」

ウォレスが聞いてくる。
それは勿論だ。

「勿論……だが先ずはサンドラ様を横にしてからだ」

俺達は、ベットの用意が出来たと言うカーマインに促され、部屋に入る。
おそらくサンドラ様の部屋だろう。

そしてサンドラ様をベットの上に寝かせ、布団を掛けた。

「それで……一体何が……」

「信じられないかもしれませんが、この毒物には指向性があります」

「指向性……ですか?」

「えぇ……この毒物は魔力を関知すると、その魔力を糧に更に進化する様です……一見、昨日の段階で完治していた様に見えましたが、実際は僅かですが体内に潜んでいたみたいですね…そして、僅かに残っていた俺の魔力の残滓を糧に再びここまで拡大した……」

この毒物の毒性はかなり強い……俺のディスペルを受けながら、僅かなりとも体内に残ってしまったのだから。
普通はそこから更に身体自体が毒素を駆逐していくんだが……。
恐らく、ゲヴェルの体組織から作られた毒なんだろうと推測出来るが……ここまで強力なんて……。

「えっと……エリオット、理解出来た?」

「いえ……恥ずかしながら……」

「……俺も分からんな」

「俺は辛うじて理解出来たが……」

「僕もカーマインと同じだよ……」

みんなが、わけワカメな感じだ……ここは分かりやすく説明しておくか。

「分かりやすく言えば、この毒には魔法は効かないってことだ。いや、効くことには効くが、生半可な回復魔法では逆にその魔力を餌にされ、更に毒が進行する」

「つまり、昨日の治療は逆効果だったのか?」

ウォレスが疑問を口にする。

「いや、そうじゃない。少なくとも、あの場においてはあれが最善だった。あのまま放っておいたら、サンドラ様は今頃は倒れていただろうからな……単純な毒としてもこの毒はかなり強力だ。……俺のディスペルは強力だが、魔法だったからな。毒も予想以上にしぶとくなったのだろう」

「じゃあさ、シオンさんがまたその魔法を使えば良いじゃない?完全に治るまで」

ティピが何かを言うが、俺はそれを否定する…つーか、もっと分かりやすく言わなきゃ駄目か……。

「つまり、あの場限りでは良かった。だが、これ以上は返って逆効果になってしまう。何故ならこの毒は魔力を餌にしているからな。魔法で回復させる限り、ドンドン強くなり、終いには手が着けられなくなる」


「それじゃあ、どうしようもないんですか……」

エリオットがうなだれる……直ぐに−思考に陥るのがエリオットの悪い癖だな。

そんなことを話していると、ルイセが医者を連れてやってくる。

「おお、サンドラ様!ささ、万能毒消しですぞ」

ラルフが用意した水に粉薬を溶かした水薬をサンドラに差し出す。

「ありがとう………ふぅ……」

「お母さん…どう?」

「ええ……大分良くなったわ……」

サンドラ様が水薬を飲む……これで毒の進行は抑えられるだろう……だが。

「いや、恐らく殆ど効果は無いだろう」

「そんな!この毒消しは今ある物の中では1番の物なんですぞ?並大抵の毒はすぐに消えるはず……」

俺が事実を突き付けると、医者が反論してきた。

「この毒は並大抵の物じゃないからだ……」

「えっ…どういうこと……?」

ルイセと医者にも、皆にした説明をする。
その説明を聞いた医者が愕然とする。

「そんな……そんな毒が存在するなんて……」

「俺もその毒消しについては知っていた。俺も薬学にはそれなりに知識があるからな……だからその薬を頼んだんだ」

原作知識も確かにあるが、カレンに薬学を軽くとは言え、教わったのが役に立ったな。

「でも……幾ら1番強い薬でも、効果がないんじゃあ……」

ルイセが涙目になる……が、狙いはその薬で治すことじゃない。

「全く効果が無いわけじゃない。毒の進行を遅らせることは出来る……」

「もしかして……それが狙いか?」

カーマインが俺の狙いを言い当てる。

「正解。つまりそういうことだ。サンドラ様……サンドラ様には定期的にこの毒消しを飲んで、安静にして戴きます。そうすれば毒の進行を遅らせることが出来ますから…」

「分かりました……そうしましょう」

サンドラ様が静かに頷いた。

「だがどうする?このままではいずれ……」

ウォレスが疑問を尋ねてくる……確かにこのままだと最悪の未来は免れないだろう。
だが……。

「俺がディスペルをサンドラ様に再び掛けたのは、毒の特性を調べるのと、限り無く全快の状態に近づけてから毒の進行を遅らせるため……この状態なら最低でも半年は持つ」

原作では衰弱仕切った所で進行を遅らせていたので、一ヶ月が山だと言われたが。
それを回避する苦肉の策だ。

「実際問題としてどうする?シオンの魔法が通用しないって言うんじゃ……」

「……必要なのは、俺のディスペル並に強力な毒消し薬……でなければ効果は望めないだろう」

ラルフの疑問に答えながら考える……やはり彼らに頼るしかないのか?

「……。今の人間にはこれ以上の薬は作れない……。だけど……人間以上の知識を持つ存在だったら……」

「やっぱりそこに行き着くしかない……か。ままならないな…やはり……」

俺とルイセはそれぞれ答えにたどり着く……まぁ、この世界の常識の一つだな。

「!そうか……フェザリアンだな」

カーマインも答えにたどり着いたみたいだな。

「フェザリアン?」

ティピがクエスチョンマークを浮かべる……オイオイ……知ってる筈だろ?
原作でアリオストに説明を受けた筈……それとも説明されてないのか?

「……そう。彼らなら、治す方法を知っているかも」

「正直、藁をも掴む話しではあるが……その藁に縋るしかないのが現状だ」

俺とルイセが、フェザリアンに賭けるしかないことを説く。
すると皆が一様に頷いた。

「他に方法はなさそうだな。俺も力を貸すぞ」

ウォレスが最初に名乗りを挙げた。

「勿論、僕も協力させてもらうよ。黙って見過ごすなんて出来ないしね」

ラルフも当然名乗りを挙げる。

「俺も力を貸させてもらう。こんな状況、人として黙っていられないだろ?」

当然、俺もだ。
サンドラ様が無事に助かる可能性は高いが、既に原作から徐々にズレ始めてる……何が起きるか分からない以上、俺も同行するが吉だ。
本来の目的である、パワーストーンフラグを叩き折るチャンスでもあるし……な。
何より、俺はこの人を死なせたくない。

「ウォレスさん、ラルフさん、シオンさん……三人ともありがとう」

ルイセが御礼を言ってくる。

「みんな……ありがとう……」

サンドラ様も感謝の念を送ってくる。

「あの……皆さん。僕は……」

「エリオットは残るんだろ?王様へ書簡を渡さなきゃならんのだし」

「すみません、本当なら僕も行きたいのですが、皆さんの足を引っ張ってしまいそうで……」

「気にするな。お前はお前のやるべきことを果たせよ」

もう少し肩の力を抜くんだな。
未来の王様。




[7317] ―みにみに!ぐろ~らんさ~♪パーソナリティはティピと…………アレ?―番外編5です―(楽屋裏ネタ注意)
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:14d59433
Date: 2009/04/05 23:48
「「みにみに!ぐろ~らんさ~♪♪」」

「みんな~♪いつも応援ありがとう♪ティピで~す♪」

「おはようございます♪それともこんにちは?こんばんは?パーソナリティのルイセです♪」

「って…ルイセちゃん?Homoの奴はどしたの?」

「えっとね?『ウホッ!良い男♪辛抱たまりませ~ん♪』とか言ってシオンさんを追い掛け回してるみたい。ねぇティピ、どういう意味なのかなぁ?」

「あのガチめ……道理でシオンさんも居ない訳だ……ルイセちゃん、世の中には知らない方が良いことはいっっっっぱいあるの!……で、シオンさんはどうしてるの?」

「???よく分からないけど、分かったよ。シオンさん?シオンさんは逃げながら迎撃してたよ。全力全開で」

「ぜ…全力全開……あの温厚でNot殺しなシオンさんが……」

「凄いんだよシオンさん。『来るなぁ!!俺にそっちの趣味はなぁぁぁいっ!!』とか言いながら、まだ本編でも使わない様な魔法を次々使って……マジックガトリングは言うに及ばず、なんか凄い光の砲撃みたいなのとか、小さな太陽みたいな」

「ストップルイセちゃん!!!それ以上は駄目!!楽屋裏ネタはともかく、本編のネタバラシは駄目っ!!!良い?」

「う、うん……ごめんなさい……」

「全く……まぁ、シオンさんには同情するけど……今回はシオンさんへの質問の続きだったんだけど……これじゃあ予定変更かなぁ」

「大丈夫だよティピ!此処に作者さんから貰ったあんちょこがあるから!わたしも頑張ってパーソナリティやるよ!」

「いつに無く張り切ってるわねルイセちゃん……それじゃあ今回は少し突っ込んだ話題も出来るんのね?」

「うん!任せて!」

「それじゃあ最初の質問。この作品のコンセプトって何?」

「えっとね……最強主人公物の完結……みたい。作者さんは最強主人公物が好きみたいなんだけど、そういう作品って完結しないで停滞してる物が多いとかで、なら自分で書いちゃえ!って」

「要するに恐いもの知らずの自己満足かしらね?」

「ティピ……その言い方は酷いと思うよ?」

「冗談だってば♪それじゃあ次の質問。シオンって名前の元ネタは何?これはⅢのラスボスじゃないわよね?まさか……メモリ○ズオ○とか……」

「これはねぇ……メ○ゾー○23PARTⅢに出てくるシオンさんから取ったんだって。……元ネタ分かる人居るのかなぁ……?」

「な、中々マニアックね……確か彼は山ちゃんボイスなのよね。あ、こっちのシオンさんは違うからね?じゃあ次の質問行ってみましょうか?えっと…シオンのハーレムにルイセやティピは入らないんですか?……ハーレムって……」

「えっとね~…わたしはやっぱりお兄ちゃんとセットにしか考えられないそうです。なので基本原作的にはわたしルートだそうです……なんか恥ずかしいなぁ~~♪♪♪ちなみにティピはまだ未定だそうです」

「未定って……そりゃあシオンさんは格好良いし、誠実そうだし、頼りになるけど……まだ会ったばかりだし、それにそれならアイツも負けてないし………」

「ちなみにわたしとシオンさんの関係は……あ、これネタばれ注意って書いてある。これじゃあ言えないかな?ごめんなさい……」

「どれどれ?これくらいなら別に言っても良いんじゃないの?まぁ、これは案外早く本編で明らかになるだろうから良いけどさ。じゃあ次の質問です。シオンは本当に他の異世界に跳ぶんですか?……コレは……また随分直球ね。というか、グロラン世界だけにしておいたら?数少ない読者さんが離れちゃうわよ?」

「残念だけど、これは異世界に確実に【飛ばされる】らしいです。メジャーな所からマイナーな所まで…既に幾つか決まってるらしいです。先ずは……」

「って!ルイセちゃん!本編バレは駄目だってば!!」

「ティピ…でもこれネタばれ注意って書かれてないよ?」

「嘘!?あ、本当……って!大きく赤ペンで囲ってネタばれ厳禁!!って書かれてるじゃない!」

「あ……」

「危ない危ない……あ、コッチのボツって書かれた奴なら大丈夫じゃない?」

「そうか、こっちの『行かない世界』なら平気だよね。それじゃあ……まずは恋○無○、真・恋○無○。理由は作者さんがプレイしたことが無いからだそうです。二次創作や同人誌は好きで読んでるみたいだけど。ティピ、同人誌って何?」

「それも知らなくて良いことよルイセちゃん。他にはあるの?」

「後はメジャーな所で遊○王かな?理由は、デュエルモンスターズのルールとか細かい部分は忘れてるからだそうです」

「それ関係の二次創作は読んでるのにねぇ……あ、この模索中ってのは?重要度低い奴なら言えるんじゃない?」

「うん……えっと、南国○年○プワ。理由は華がないから……唯一と言って良い女の子はクリコちゃんだけだもんねぇ……」

「っていうか、そんな世界にシオンさんを放り込んだら秘○眼とか覚えてきそうで恐いわね……まぁ、ガ○マ団の刺客なんて片手で捻りそうだしあの人。なんかシ○○ローと一緒に突っ込み要員してそうだし……」

「模索中なのは、カタツムリさんの声がウォレスさんと同音域だからなんだって。確かにそうだね」

「アレがカタツムリさんなんて可愛らしい物なのかしら…?てな所で時間が来てしまいました♪」

「まだまだネタはありますけど、続きは本編でお楽しみ下さ~い♪」


「次回はシオンさんの相棒、ラルフさんに色々聞いてもらいたいと思います♪」

「それではティピと」

「ルイセでした♪」

「「また見てね~~~♪♪」」



[7317] ―ジュリアン・ダグラスの憂鬱―番外編6―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/01 21:11



私は彼らと別れてから、我が家を目指していた。

――ダグラス家。

そこが私の家……インペリアルナイトを多く排出してきた家柄……名門と言っても良いだろう。


多くのダグラスの名を受け継ぐ者たちが、インペリアルナイトの称号を戴いている。

我が父も、数年前までナイトを務めていたのだから、その優秀さは推して知るべし……だ。

「ふむ……今日は宿に泊まるとするか…」

私は道中にあった宿に泊まることにした。
もう夕暮れだしな……。
随分歩いたから当然か……。

私は宿に入り、部屋を取る。
私は部屋に入ると、ベットに腰掛けた。

「ふぅ……明日には家に着けるな……」

私は服を脱ぎ、胸のさらしを緩めた。
……また、大きくなってきたな……。
私は何気なく自分のそれに触れる。

「……マイ・マスターは大きい方が好きなんだろうか?……なら……嬉しいのだが……」

これがマイ・マスターの手なら…こう……動かし…て………ハッ!?

わ、私は何を考えている!?

私は直ぐにその手を離した……はしたない。
……これもあの方のせいだ。
……あの方がサンドラ様に触れていた時、私は羨ましかった……。

分かっている――あの方はサンドラ様の治療をしていただけだ。

……不謹慎だとは思う……でも、私にも触れて欲しかった。
あの方に望まれたら、どんなことでも出来るのに。
どんなことでもしたいのだ。

「我がマイ・マスターは鈍感過ぎる……いや、もっと私が積極的にならなければならないのか……」

例えば……愛の言葉を告げるとか……駄目だ!
恥ずかし過ぎる!
ある意味ナイツを目指すより困難かもしれない……。
しかし!くじけてはいられない!

「あの方はこれからも、二人きりの時にはマイ・マスターと呼ぶのを許可してくれた……二人きりの時は、私のこともジュリアと呼んでいただけているのだし……」

その上、見聞の旅が終わればインペリアルナイトを目指すとも言っていた……マイ・マスターなら先ず間違いなく、ナイツ入り出来るだろう……些か優し過ぎるのが欠点……いや!あれは長所だ!
だが騎士としては……。
だが、あの方と私が共にナイツになれば、より多くの者達を守ることが出来る………それに、一緒にいる時間も増える……。


いや、これはついでだぞ!?
……本当なんだからな……?



……私は誰に言っているのだろう……?


私は、ふと思う。

以前は、自分が女であることに絶望していた……もし、マイ・マスターに出会わなければ、今もそうだったかもしれない……。

だが、むしろ今は女であることに感謝している……ナイツになるには障害だが、女の身ならばあの方と添い遂げることも出来る……添い遂げる………あっ…♪
……駄目ですマイ・マスター……お戯れを……♪

「い、いかんいかん。心頭滅却!心頭滅却!喝!」

あの方から教わった、心に平静を与えるまじないを唱える。
あの方は煩悩退散という、まじないも言っていたんだが……わ、私のこれも煩悩という奴なんだろうか……。

「やはり……もう少し大胆になろう……こうして悶々としているよりは、余程健全だろう」

先ずは父上を説得してマイ・マスターとの仲を認めて戴い……て、違う!!
ナイツを目指すのを認めてもらう為に……私の信念を貫く為に……説得をするのだ。
間違えてはいけない……。

「やっと見つけた私の信念なのだから……真っ直ぐに貫くと――誓ったのだから……」

見ていてください……マイ・マスター……私はやり遂げてみせます…!

そんなこんなで、一日が過ぎていったのであった。


*******

番外編、ジュリアンの憂鬱編です。
ジュリアンとシオンの過去話はまたいずれ。



[7317] 第22話―魔法学院、寄り道、カレンを救え―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/03 17:14

俺達はエリオットを見送り、サンドラ様にしばしの別れを告げてから――家を出た。

その際サンドラ様に改めて、必ず解決策を持って戻って来ますから、待っていて下さいね。
的なことを真面目な顔で言った。

そうしたら、少し赤くなりながら……。


「ハイ、貴方達を信じて待ちます」


……と、言ってくれた。
病は気からとも言う。
これで少しは勇気付いてくれたら良いんだけど……。

さて、家を出たのは良いんだが。
ここで重大な問題が発生した。
フェザリアンに会う為の手段が分からないのだ!!!

……いや、俺は知ってますよ?
アリオストに会って協力してもらう。
これが1番の解決策だ。
けど、ここでそれを告げるのは不自然でしょ?
アリオストに会ったこと無いんだから、俺。

ラルフ、ウォレスも知らない筈。

ルイセは……面識はあるかも知れないが、アリオストが、フェザリアンの住むフェザーランドを目指そうとしてるのは知らないと思われる。

飛行機械の研究をしているのは知ってるかもしれないが……。

後はティピとカーマインか……ティピは………ゴメン、無理か。
付き合いは短いが、既に忘れているだろうことは、何と無く理解出来る。

ティピはアリオストという人物と出会ったことは覚えてるが、アリオストがどんな研究をしているか、その研究でフェザリアンの島を目差している……なんてことも忘れている筈。

すると、必然的にカーマインになる……このカーマインは結構優秀だからな……多分……。

「あの時の学者……確かアリオストと言ったな。アイツに会いに行こう……確か、今は宿屋に居たよな?」

「?お兄ちゃん、アリオストさんと知り合いなの?」

ルイセが首を傾げる。
ルイセは知らないんだから無理もないか。

「この前ちょっと……な。ルイセ……アリオストは何の研究をしていた?」

「えっ?確か飛行の……あっ、そうか!」

つまり、そういうことだ。

「う〜……よく分かんない!分かるように説明してよぉ!アリオストさんがどうしたのよぉ!」

ティピ……やっぱりなのか……仕方ない。

「そのアリオストって人は、空を飛ぶ研究をしていたんだろう?なら協力してもらえれば、フェザリアンの住む浮島に行けるんじゃないのか?」

「あ、そっかぁ!そうだよね!」

どうやらティピも思い到った様子。
俺達は一路、宿に向かった……が、宿の人に聞くと、アリオストさんは既に帰ったんだそうだ。

やっぱり擦れ違いかぁ……こういうのに限って原作通りだからな。

「アリオストさん…学院に戻ったのかなぁ?」

「それじゃ、魔法学院に行きましょうよ」

ティピが提案する。
そして俺達はその提案を受け入れる。
というか、これが最善の方法だし。

「異議無し。まぁ、魔法学院にいるかは分からないが、居場所くらいは分かるかもしれないしな」

「僕も異議無いよ」

俺とラルフもその案に賛成する。

「決まりだな。魔法学院はデリス村の先にあるブローニュ村から、さらに東へ行ったところだ」

俺達は魔法学院を目指して街を後にした。
それから俺達はデリス村を経由して、ブローニュ村に向かう道にある橋に差し掛かる。

……なにやら、気配を感じる。
モンスターか?

「どうも様子が変だな」

「ウォレスもそう思うか?」

ウォレスとカーマインも気付いた様だな?

「何か居るね……」

「ああ、飛び切りデカイ奴がな」

ラルフと俺も一応警戒しておく。
一応というのは、気配自体はデカイが、決して強いものでは無いからだ。

俺達が歩を進めると……そこには幾らかのモンスターが居た……と。

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ………。

巨大な何かが転がる音がする。

山から転がって来たそれは……。

「なに、アレ……」

とてつもなく大きな……。

「気持ち悪〜い」

ゲルだった。

ゲル……まぁ、他のRPGではスライムとも呼ばれているが、要するに雑魚だ。
俺とラルフも、旅の途中で何度も遭遇したモンスターである。

もっとも、こんな大物は初めてだが。
俺は、こんなイベントもあったなぁ……と、懐かしんだりしていた。
コイツはデカイだけで大して強い敵じゃあないしな。

最初は驚いていたが、戦闘は呆気ない物でした。
ウォレスが自身の得物である、特殊両手剣を投げ付け、それがデカイゲル……略してデカゲルのコア迄切り裂き、デカゲルは見事に飛び散った。

残りの敵も軽くあしらってやった。
正直、役者不足な感は否めなかったな。

まぁ、あの圧迫感は中々の物で……。

「やっと片付いた……」

「怖かった〜……」

「……しかし、ゲルってあんなにデカくなるんだな……」

「僕も初めて見たよ……旅先でも、あんなのにはお目に掛かれなかったし……」

「俺もあれだけデカい奴は初めて見たが……思わぬ所で戦いを強いられたものだな……」

「強さはともかく、圧迫感があったからなぁ……なんつーか精神的に疲れたな……」

と、それぞれに感想を漏らした。
誰が誰だか分かるよな?上からティピ、ルイセ、カーマイン、ラルフ、ウォレス、そして俺の順だ。

俺達はそのまま洞窟の中へ進んだ。
洞窟の中は薄暗く、先が見えない感じだ。


俺は呪文を唱える。


すると、周囲が明るくなって行き、終いには洞窟全体が明るくなった。

「それは?」

カーマインが尋ねてきたので答えてやる。

「これは【ライト】って言ってな。洞窟などの暗い場所を明るく照らし出す魔法。俺のオリジナルさ」

正確にはオリジナルでは無いのだが……元ネタは昔、【ライ○ファンタジー】という題名のRPGソフトが発売されていたのだが……それに出てくる明かりを点す魔法……それがライトだ。
これはそれの応用で、この魔法は術者の周囲を照らし出すことが出来る。
ただし、その者の魔力の強さで点す明かりの明るさ、照らせる明かりの距離が決まる。
しかも、一回の魔力の消費量はマジックアローより少ないが、効果はあまり長くなく、長時間使用しようとするのなら、送り込む魔力を維持し続けなければならない。

これは一応、アレンジとかではなく、完全な創作魔法だが、術式が単純で、概念も明かりを点すだけ……と、簡単な物なので、オリジナルとは言え、才能が皆無に均しい俺にもなんとか覚えられた魔法だ。

まぁ、俺の魔力なら洞窟全体を、昼の様に照らし出す位は造作も無いけど。

「さて、先まで見えるようになったんだし、行きますか」

俺が皆を促す。
洞窟の中には骸骨の戦士スケルトン、幽霊タイプのモンスターであるレイスなどが存在し、俺達はそれらを蹴散らして進んで行った……。
こうして出口に近付いて来た……その時。

「ん!?」

「どうしたの、ティピ?」

何かに気付いたのか、ティピが止まる。
ルイセはティピに問うた。
……そういえば、ここが第一関門だったな。

「今、何か聞こえなかった?」

「別に聞こえなかったけど……」

遂に来たか……俺の目的の一つ……。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

「ほらっ!」

ティピが言うが早いか、ほぼ同時に落石が俺達に襲い掛かる!

「きゃあーーっ!」

「いやーー!つぶされちゃうーっ!!」

やらせるかよっ!

「破っ!!!」

ドドドンッ!

俺は少〜しだけ本気を出し、身体を加速させ、一行の眼には止まらぬ速さで動き、跳躍。
蹴りと拳で落石を文字通り粉砕した。

「みんな無事か?」

俺は着地した瞬間、みんなの安否を気遣う。

「…ああ、なんともない」

「助かった〜……」

「あ、アレ?岩が無くなってる??何で???」

「何だかよく分からんが、とにかく助かったんだ。それで良かったじゃねぇか」

どうやら皆、気付いてないみたいだな……ウォレスやカーマイン辺りは気付くと思ってたんだが……。

「今のは……シオンが……?」

「へ〜、よく気がついたなラルフ……まぁ、皆が無事で何より何より♪」

ラルフは俺が修業をつけてやったからな……気配の読み方なんかもバッチリみたいだな。

「なんか…益々シオンの底が知れなくなって来たよ……」

ハハハ……と、ラルフが苦笑い。

苦笑いしたいのは俺だっての。
久しぶりに身体能力を少〜し開放してみたけど……相変わらず、チート臭過ぎる身体能力だぜ……なんつーか、少年時代より上がってる様な……そりゃあ基礎トレーニングは欠かしていないが……これ以上どうしろと?

俺達はその場を後にした。

その後……洞窟から出てから徒歩で十数分……程なくしてブローニュ村に辿り着く。
……途中、行商人が紛れ込んでいたりした。

なんでも、安全に旅をするために俺達の後ろから着いて来たのだとか……そのくせ、商品は決して値引きしないとか、どんだけ〜。

まぁ、何はなくとも、ブローニュ村を後にする。泊まるか、とも考えたが、まだ暗くはなっていなかったので先に進む。


あ……そういえば……。
俺はローランディアに向かったもう一つの理由を思い出した。

カレンとゼノスだ。
結局行き違いになっちまったからなぁ……此処からならグランシルも近いし……駄目もとで聞いてみるか。

「なぁ、みんな……少し寄り道したいんだが、良いか?」

「寄り道って、何かあったの?シオンさん」

突然の申し出に、皆は頭にクエスチョンの様だ。ルイセが俺に聞いてくる。

「ん〜…ここからなら、グランシルが近いだろ?だからさ――」

「そうか、ゼノスさんとカレンさんに会いに行くんだね?」

ラルフがズバリ言い当てる。
まぁ、付き合い長いからなぁ……。

「あの、その人達って?」

「実はな、ルイセ……」

カーマインが、何かを説明する。
恐らく、最初の外出の夜に二人と出会ったいきさつ辺りを説明しているのだろう。

ついでなので、カーマインと一緒に俺達側の説明をする。

「……と、言う訳で、結局行き違いになっちまったからさ……出来れば挨拶しておきたいんだ。あ、無理なら良いんだ。急いでるのは分かるし、な」

「俺は構わない……少しくらいの寄り道なら、な」

「急ぎではあるが、焦っても仕方ないからな。それに日も傾いて来たから、宿に泊まるのも悪くないだろう」

男性陣は許可をくれた。

「わたしも構わないよ。シオンさん」

「アタシも良いよ。っていうか、この状況で断ったらアタシが悪者みたいじゃない!」

どうやら皆、許可してくれた様だ。
最悪、自分一人で行こうかとも思ってたし。
俺は皆にありがとうと、言葉にした。

その後、俺達はグランシルにたどり着いた。
俺は早速ラングレー家を訪ねる。

俺は扉をノックすると、直ぐに家主が出て来た。

「誰だい?」

「よ、久しぶり」

「お久しぶりです、ゼノスさん」

俺達は軽く挨拶をする。

「シオン!ラルフ!お前ら今まで何処に……カレンが心配してたんだぞ?今は手紙を出してる様だが、ちゃんと顔を出しやがれ!」

「すまなかったな……まあ色々あってさ、細かい話は後ほど。それで、そのカレンは?元気にしてるんだろ?」

俺はゼノスに何気なく聞く……しかしそこで俺は気付く。
……確か、このタイミングは……。

「ああ。今は居ないけどな。今は薬に使う薬草を採りに南の森へ出掛けててな」

……やっぱりかよ!!クソッ!!

「前モンスターに襲われていたのもあの場所だし……そういや、お前達がカレンを助けたのもそこだった………ん?シオン?……消えた…だと……?」

俺は既にその場に居なかった。
俺は光と化し、カレンの元へ向かった。
街の屋根伝いを爆走しながら。

カレンの気配を探った……既に何人かに囲まれている様だ……クソッ!!間に合え!!

俺はさらにスピードを上げる。

仮にカレンが毒を喰らっても直ぐに直せる……だが、ゼノスを奴らの人形にさせられない。
カレンに苦しい思いはさせたくない――!





[7317] 第23話―……慟哭……―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/03 18:36
*********



「くっそ……切りがねぇ!!」

俺達はそれぞれに任務に着いた……任務とか、中々格好良いじゃねーか。
今は懐もあったけぇし、シオンの頭万歳!!
正義の味方万歳!!
糞喰らえ!!
グレゴリーのケチ野郎!!

……まぁ、金のことはついでだがな……一旦、堕ちる所まで堕ちる寸前まで行った俺が……再びこうして理想に燃える日が来るなんてな……と、んなこと考えてる場合じゃねーな。

「オイ、ビリー!ニール!気合い入れろよ!?」

「了解っす兄貴!」

「とは言え、流石にキツイっすよ…」

確かにな……さっきからモンスターが引っ切り無しに来やがる。
最近、古巣の盗賊団にモンスター使いが加わったって話だが……そいつの仕業か?
奴らの目的は、間違いなくカレンっていう嬢ちゃんだ……俺達を足止めしておく算段みたいだが……。

「モンスターに任せて、テメェは高見の見物かよ……気にいらねぇなぁ!!」

俺は手近に居たモンスターの頭をカチ割る。
だが、一匹倒しても、また一匹出てきやがる。
一応、マークとザムを先に向かわせたが……どうにも嫌な予感がしやがる……!!

「そこをどきやがれ雑魚どもがぁぁぁぁ!!!」

早く向かって、アイツらの救援にいかなけりゃあ……!!

*******


「あ……あ……」

今、私の目の前にはシオンさんの仲間の人たち……マークさんとザムさんが居る……ボロボロの姿になって……。

「く……くぅっ……」

「……この男……強い……」

彼らの見据える先には一人の男性……黒いフードとコートを着た人が剣をダランと構えて立っていた。

「フン……モンスター使いには戦闘能力が無いとでも……?救いがたい愚者共だ……貴様ら程度、レブナントの力を借りる迄もなかったな」

彼の後ろには数人の盗賊と、大きな飛竜。
盗賊達は私たちの様子をにやけた表情で嘲笑う。

「ハァ……ハァ……舐められた――ものだな……!!」

「……まだ、倒れる訳には……」

二人は再び立ち上がる。……ボロボロになりながら、私を庇って……。

「も、もう良いです!もう良いですからっ!!」

私は彼らに懇願する…これ以上、私を庇って彼らが傷付くのは見ていられない……。

「そういう訳には行くか……アンタを守るのが俺達の仕事なんだからな……」

「……しかし、あの飛竜が邪魔だな……嬢ちゃんを逃がしたら絶対嬢ちゃんを追っていくだろうな……」

マークさん達がそんなことを話してると、黒いフードの人がため息を吐く。

「もう良い……戯れにも些か飽きた。レブナント、餌だ。存分に喰らえ……女は喰うなよ?」

「GOAAAAAAAA!!!」

飛竜の咆哮が周りに響く。
……恐い……圧倒的な威圧感……絶望感……。

「……俺はまだ死にたくないんだがな……」

「俺だってそうだ……だが、仕事だから――な。逃げたら、シオンの頭に顔向け出来ないし……」

「……言ってみただけだ……」

「ならもう少し、建設的な意見を所望する……」

彼らが軽く言い争っている……けど、彼らの足が震えてる……怖いんだ……でも逃げ出さない……私のせいで……そんな私も身体中が震えて、座り込んでしまっている……怖い……怖い……!!

私は……首から掛けたあの人からの贈り物……プロミス・ペンダントを握りしめる……お願い……助けて……助けて……!!

――私は今、この街に居るゼノス兄さんでは無く、何処に居るとも知れない……あの人に……助けを求めてしまった……幾らあの人でも、そんなに都合よく助けに来てはくれない……でも、私はあの人を想い描いてしまった………。

……シオンさん……シオンさん……!

私は涙を滲ませてしまう……目の前ではマークさんとザムさんが、震えながらも、その場から逃げ出さずに武器を構えている。

飛竜は一瞬、眼を細め……カッと見開き、襲い掛かって来た。

駄目……二人が…二人が死んじゃう……!?

「いや……助けて……助けてぇっ!!シオンさあぁぁぁぁぁぁんっっ!!!」

私は心の底から叫んだ……涙を振り撒きながら……来る筈のない愛おしい人を……。

「呼んでくれたなら……応えなきゃなっ!!」

声が聞こえた……力強く、優しい声――。
声と共に降り注ぐのは、赤い閃光――。

「!?GUGYAAAAAAA!!!??」

あれは……赤い、マジックアロー?
その赤いマジックアローが飛竜の顔に刺さり、炎が燃え上がる。

あの声は……間違い様が無い……!!
私が何時も想っている、人……!

「……今の声は……まさか……」

「ああ……!間違いない……!!」

マークさん、ザムさんも気付いた様だ……あの人の声だと。

スタッ!

空から飛来したのは、一人の男性……銀の髪が陽光に輝く……あぁ、間違いない…本当に助けに来てくれた…。

「ベタベタ過ぎるシチュエーションだが……間に合ったみたいだな」

「シオンっ……さんっ……」

私は人目を憚らずに泣いてしまう……ピンチの時に駆け付けてくれる……正義の味方みたいな人……私の大好きな、愛しい人の名を呼びながら……。

********



間に合って良かったぜ……竜の咆哮みたいのが聞こえた時は焦ったが、この身体で爆走したんだ。間に合わない筈がねぇ。

「レブナントっ!?レブナントォッ!!?」

飛竜は苦しみもがいていた……顔の炎を消したいが、息を吸い込めば炎が口から入ってくる……つまり息が出来ない。

マジックアローのアレンジ……【ファイアーアロー】……炎のマジックアローだ。
ファイアーボールが範囲魔法なのに対して、これは単体魔法。
密集戦なんかで役に立つ。

俺は更に、別の詠唱をする。
勿論、高速詠唱を用いて瞬時に終わらせる。

「ウォーターアロー」

バシャバシャァ!ジュウゥゥゥ……。

苦しみもがいている飛竜に、水の矢が襲い掛かる。
しかし、それはぶつかるが、たいした威力も無く、炎を消しただけ。
俺が威力弱めに撃っただけなんだがね?

【ウォーターアロー】

読んで字の如く、マジックアローのアレンジで、水の矢だ。
しっかり魔力を込めれば対象を貫ける力がある。
これは、これから起きるであろうイベントの対策として作った魔法だが、実戦にも対応出来る。
火属性の敵には効果抜群だろう。

余談だが、前述のファイアーアローと、このウォーターアローは野宿の時には非常に重宝する。

「貴様……よくも我が友を……許さん……絶対に許さんぞぉ!!」

黒フードの男が喚き出す。
こっちはワザワザ炎を消してやったんだ……感謝してもらいたいな?


「絶対に許さん……か」

俺は後方に眼を向ける……膝を着いて荒い息を整えるボロボロなマークとザム……そして、恐怖からか、泣きじゃくるカレン……やっぱり涙を流すカレンは綺麗だ……とか、考える俺はドSなのだろうか?

……なんてのは、今はどうでもいい。

「グローヒーリング」

俺はこの世界で最高の回復魔法……グローヒーリングを唱える。
これは一度に大勢を完全回復させる魔法だ。

「お…?」

「…傷が…」

二人が負っていた傷を癒す。
完全にだ。
メジャーな所で言えば、ドラ○エのベホ○ズンみたいな物だからな。
このグローヒーリングは。

「二人とも、よく逃げずにカレンを守ってくれた……礼を言う」

「……礼を言われる必要は無い……当たり前のことを……」

「しただけ……ですから……まぁ、給料分くらいは働かないと、ね」

二人が俺に最高の笑顔を向ける。
俺も最高の笑顔で迎える。
俺達の間ではナイススマイルは必須スキルだからな。
目指せヒートスマイル!!
……だが、何故か俺は上手く決まらない……暑苦しさが出ないんだよな……今、1番ヒートスマイルに近いのはオズワルドだったりする。

「貴様!!聞いてるのかぁ!!」

黒いフードの男が五月蝿い。
だが無視する。

「カレン……」

「シオンさん……」

俺は最高の笑みを浮かべて告げる。

「少し待ってろよ。今すぐこいつらをブチのめして、家に連れてってやるからな?」

「は、ハイ!!」

涙を流しながらも、笑顔を向けてくれた……確かにカレンの泣き顔は綺麗だが……それを、俺以外の奴が泣かせたってのは――許せないな……。

「おのれぇぇ……この様な屈辱は初めてだ……レブナント!!アイツを喰らえ!!」

だが、レブナントと呼ばれた飛竜は動かない……震えているのだ。

「どうしたレブナント!?お前に恥を掻かせた者が居るんだぞ!?何故動かん!?」

それは無理だ。
何故なら俺が飛竜へ直に殺気をぶつけているからだ。
この身体から発する殺気は、原初の恐怖を相手に抱かせる。
つまり喰うか喰われるかの、弱肉強食の恐怖を……だ。
しかも今はこの飛竜に一点集中で浴びせてるのだから。
コイツには己より巨大な竜にでも見えるのかもな。

まぁ、どうでもいい。

「おい、トカゲ野郎……」

俺が一歩を踏み出す……すると飛竜はビクリと身体を震わせ、その身を後退る。

「やるってんなら相手になるが……今度はきっちり焼肉にするぜ?それとも細かく切り刻んでやろうか?安心しろ……ちゃんと骨まで喰らい尽くしてやるから」

更に殺気を強くしてやる……すると……。

「GYAAAAAAAA!??」

飛竜は混乱……いや、恐慌状態に陥る……しかし逃げることも叶わない……殺気にやられ飛ぶことも出来ないか。

俺は怯える飛竜に近寄り……その顔を撫でてやる。

撫でている俺の掌が光る。
キュアを掛けてやったのだ。
火傷が徐々に癒えていく。

「大人しくしていれば危害は加えない……分かるな?」

俺は優しく諭す様に話し掛ける。
飛竜は不思議そうに見ていたが、やがて震えが止まり、まるで了承したと言わんばかりに後方に下がる。

「良い子だ……」

「レブナント!!何をしている!!早くそいつを……」

「ギャアギャア喧しい奴だな……飛竜の背中に隠れないとマトモに戦えないのか?」

「なにぃ!?」

「そいつは試してるのさ……俺を強者と認めたそいつは、お前が本当に主足り得るのか――」

俺は背中に背負った大剣を抜き放つ。

「そいつとの絆を取り戻したければ、テメェの覚悟ってモンを見せな。それとも、弱い者虐めしか出来ねぇか?」

……俺が言えた台詞じゃねーな。
俺も広義的な意味では弱い者虐めしかしてねーし――。

「ふざけるなぁぁぁ!!!」

黒いフードの男が俺に切り掛かる。
俺はそれを軽く受け止める。


「ぐぅ……がぁぁぁ!!!」

黒いフードの男が怒涛の攻撃を仕掛けてくる。

激しい金属音が周囲に響き渡る――。

ま、俺にとってはスローモーションみたいなものだが。

当然、全部弾く。
つーか、弾くのも面倒になってきたな……。

そう思った俺は、敵の攻撃をかわし続けることを選択する。
奴の剣撃を紙一重に――避けて避けて避けまくる。

「成程……」

「ハァ……ハァ……おのれぇ…」

男は息が荒く、俺は涼しい顔で男を見下す。
殺すつもりならもう何十回も殺せた。
まぁ、そのつもりは無いけど。
コイツは原作には居ないキャラだからな……実力を測るに越したことはないし。

「お前の強さはオズワルドと同じ位だな……中々に強いが……上には上がいることを知るべきだ」

別に俺じゃなくても、カーマイン、ウォレス、ラルフ、ゼノスにインペリアルナイツ……etcetc……。

コイツ以上なんてゴロゴロいる。

原作に出て来たシャドーナイツ所属のモンスター使いよりは――強いかもしれないがな。

「それじゃあ、実力も分かったことだし……アイツらを傷付けた礼、カレンを泣かせた礼――きっちり返すぞ?」

俺はゆっくりと奴に近付く……威圧感と殺気をぶつけながら……。

「ヒッ…!?」

奴を始め、盗賊連中の動きが止まる。
一歩……また一歩と近付く。
盗賊の一人がそのまま気絶する。
また一人……また一人と。

俺がやってるのは【気当たり】と言う奴だ。
本来、動物ってのは本能的に天敵を感じ取ったりするが、人間にも少なからず、そういう感覚が残っているものらしい。

優れた達人同士の戦いでは重要な要素で、フェイントに使ったり、牽制として相手の動きを封じたり出来る……とは、某史上最強の弟子の師匠、喧嘩百段の空手家様がおっしゃっていたことだ。

まぁ、格上相手には通じないがな?
しかし逆に、格下相手だと今みたいに気絶させたり出来る。

……そう考えると、は○めの○歩に出てくる、某浪花の虎が使う、殺気のフェイントも――この気当たりに分類されるんだろうな。

なんて、考えてる内に盗賊どもは全員気絶していたが。

「……俺の気当たりをマトモに受けて、気を失わないのはたいしたモノだが……」

「ハァ……ハァ……ハァ……!」

このモンスター使い、かなり気合い入ってるな……足は震え、身体中汗だくになりながらも、立ち向かおうとしている。

「悪いが、俺も少しカチンと来てるんでな……懺悔の時間と行こうか?」

因みに後方のカレン達には殺気を飛ばしていないので、何事も無く無事だったりする。

「……私は……私は!友の信頼を勝ち取らねばならんのだ……故に、倒れる訳には……いかん……のだ……!」

男は剣を振りかぶって来る……だが俺の剣は、奴の剣の刃を文字通り切り捨てた。
魔剣リーヴェイグ……俺が持っている限り、切れないモノは――無い。

ドスッ!

切り飛ばされた奴の剣の刃が、奴の後方に突き刺さる。
俺は奴に剣を突き付けた。

「彼女の前で残酷シーンは見せたくない……見逃してやるからとっとと失せろ」

もっとも、カレンが見ていなくても、残酷シーンを行うつもりはないんだがな。

「……くっ!!おのれぇ……我が名はエリック……この恨み、忘れんぞ!!」

エリックと名乗った男に、ド三流な捨て台詞を吐かれる。
ワザワザ名乗るとは、ありがたいことで。
そこへ、さっきの飛竜が近付き、エリックに頬擦りした。

「…レ、レブナント……?」

「良かったな。お前の根性は、相棒にも伝わったみたいだぜ?」

そう、圧倒的に負けていたが……その戦いぶりに改めて主人と認めた……のだろう。
普通は見捨てていても可笑しくはない。
所詮この世は弱肉強食……って奴だ。
俺はそういう考えは好かないが、それが一つの真理であることは事実。

モンスターや動物などの野生生物には、特にその傾向が強い。
例え躾られていても、原初の恐怖に抗うのは中々出来ることじゃない。

それだけ、絆が深いのかもな。
もしかしたら、この飛竜は主人の本来の気性を見たかったのかも知れないな……まぁ、野生の世界でも、妙な例外があったりするからな。
草食動物の子供を、肉食動物が守ったり……な。

「……レブナント……俺は……俺は……っ!!」

男が泣きながら飛竜に抱き着く。
飛竜はそれを優しげに見守っている。

「よぉ……俺を許さないそうだが……リベンジしたいなら俺の所に直で来い。そん時は相手してやるよ。……だが、もし今度仲間に手を出そうとしたら……お前らの存在を塵芥一つ残さず消してやる……覚えとけ」

俺は飛竜と男に、殺気をぶつけながらそう告げる。
……まぁ、まだまだ人を殺めることは出来そうにないからな……ぶっちゃけハッタリです。
気概自体はハッタリでは無いし、その覚悟もあるが……土壇場ではどうなるかは分からない。

思ったより簡単に出来るかも知れないし、躊躇してしまうかもしれない。
やはり俺は甘いのかね……。

「良いだろう……修練を積み、再び見えてやる!!貴様を倒すのは俺……いや、俺達だ!!」

「GOAAA!!」

飛竜と男は殺気を押し退けて宣言する。
良い気概だ……中々どうして、これが絆の力ってか?
……悪くはないな。

「おう!喧嘩なら大歓迎だ!また喧嘩――しようぜ!!」

俺は男と飛竜に最高の笑顔を向ける……やはり暑苦しさが足りない。
少しムカッ腹だったのは事実だが……まぁ、仲間に手を出さないと誓ったなら良いさ。

「フン……その余裕、必ず打ち砕く!行くぞレブナント」

男は飛竜に乗って上昇、そのまま飛び去って行った。

「やれやれ……終わったぜ?」

俺は後方で待機していた三人に近付きながら声を掛ける。

「流石はシオンの頭、あの男を――あんな簡単に退けるなんてな」

「俺に言わせるなら、お前らの鍛え方が足りないんだ。もう少し鍛えろ。あのレベルの奴に二人掛かりでボロ負けしてたら、これから先キツイぞ?」

「……反論出来ない……な……」

俺の戦力批判に、二人が冷や汗を流している。
いや、マジな話しだぜ?
俺としても仲間に死んで欲しくは無い。

そんな二人を尻目に、しゃがみ込んでしまっているカレンに近付く。

「終わったぜカレン……大丈夫か?」

「は、はい。貴方の御蔭です……貴方がいなかったら…わたし……」

カレンが頬を赤く染めながら、潤んだ瞳で俺を見つめてくる……風邪か?
……なんか、前にもこんなことがあった様な……?

「気にするなよ。カレンがピンチなら、この星の裏側からだって直ぐに駆け付けて来るさ」

俺はカレンにそう言ってやり、手を差し延べる。
何と言うか不安を消し飛ばすつもりで言ったのだが……。

「シオンさん……わたし……」

何故か余計に赤くなってしまった……何故だ?
っていうか、何か勘違いしてしまいそうだ………やはり、前にもこんなことがあったような……既視感?

「……まぁ、そのなんだ?立てるか?」

「……ゴメンなさい……情けない話ですが、腰が抜けてしまって……」

まぁ、仕方ないよな……カレンは可憐な女性だし……駄洒落じゃないぞ?
本来、心が強い人でもあるんだがな。

「そうか……ホラ、おぶされよ」

俺は背中を見せてしゃがみ込む。
以前もこうやって背負って行ったっけな……プリンセス抱っこはセクハラの罪に問われます。

サンドラ様の時?

あの時は緊急事態だったんだから、仕方ないだろう。
普段は絶対にしない…………ん?
カレンが来ない……?

俺は振り向くと、カレンが頬を膨らませて不満そうにしていた……うっ、可愛い……けど何故に?

「……あの、宜しかったら腕で抱き抱えて欲しいのですが……」

はっ?
何を言っちゃってるんでしょうかこの娘は?
それはつまり……プリンセス抱っこって奴でしょうか?

「……それとも……わたしでは重いから嫌ですか……?」

「いや、そんな訳無いだろ?カレンが重いわけない……つーか、重くなかったしな」

以前背負った時はむしろ軽いくらいだった。
もしかして不本意に重く……?
……とかは言わないけどな。
流石に俺でもそれくらいのデリカシーは弁えてる。

「仕方ないな……じゃあ、少し失礼するぜ?」

俺はカレンを抱き上げようと手を伸ばした。

********



「ふふふ……あれが特異点の一人か……中々強いみたいだけど、あの程度の輩に手間取る様じゃ、まだまだかな?」

ボクは遠目に写る男を嘲笑う……インペリアルナイツくらいには強いかも知れないな……まぁ、ボクの敵じゃないね。
しかし、彼は中々面白い力を持っている様だ……あの火と水のマジックアロー……この世界の魔法を改竄する力か……欲しいなぁ……あの力。

「にしても、誰も殺さずに勝っちゃうなんてね〜〜。まるで英雄……いや、この場合は正義の味方かな?ん〜〜、よく考えたらこれじゃあ彼の実力を正確に計れないよなぁ〜〜。……よし、やっぱりアレを使おう♪」

ボクは呪を唱える。
あそこで気絶している奴の一人に、細工しておいたんだよね〜♪
さ〜〜て、君の力を見せて貰おうか?
特異点君?

********



「?何だ…!?」

これは……魔力か!?
何処だ……何?

俺が魔力の出所を探ろうと、カレンに差し出した手を止め、気配を探るが……突然、気絶していた盗賊の一人が立ち上がる。

もう気がつくなんてな……だが、今はお前の相手をしている暇はないんでな。

「寝てろっ!!」

俺は立ち上がった男に殺気をぶつける。
だが……。

「微動だにしない……だと!?」

幾ら全力の殺気じゃないとは言え……さっきはこれで気絶したんだぞ?

「うぐぅぅぅ…………」

……?
様子が変だ……目が白目を向き、顔に血管を浮かべて……。

「ガアアァァァァアァァ!!!」

!?早い!?
奴が襲い掛かってくる……その加速は達人のそれ。
この動き、カーマインやゼノスクラスか!?

俺は奴の繰り出すナイフを避ける。
チィッ……これだけの力を隠し持ってたってのか?

まぁ、それでも俺には通じないが……カレン達に襲い掛かられても、厄介だ。

「くっ……仕方ない、少し痛い目にあってもらうぜ!!」


俺は鳩尾に拳を叩き込む。
更に奴の身体がくの字に曲がった所を蹴り飛ばす。
奴は派手に吹っ飛び、地べたを転げ回る。

マズい……今のは肋骨が何本かいったな……加減したつもりだったんだが……あまり良い気持ちはしない……な!?

「グゥゥゥゥゥ……」

奴は何事も無く立ち上がる……馬鹿な!?
肋骨が折れてるんだぞ!?
普通なら激痛で動けない筈……。

「頭――コイツは俺達が……」

「…流石に少しは働かないとな…」

マークとザムが駆け付けて俺の前に来て武器を構えるが、俺はそれを押し止める。

「来るな!!カレンを連れて逃げろ!!コイツはお前らじゃ……!?」

「ガアアァァァァアァァッッ!!!」



奴がこちらに踏み込んでくる……更に早くなった!?

加速した奴の凶刃が、マークとザムを捉えた―――!!!

「があっ!?」

「ぐぉっ!?」

マークとザムは男に切り刻まれる。

「マークっ!ザムっ!!このぉ!」

俺は先程より更に力を込めて殴り付ける……奴は咄嗟に防いだが、奴の腕の骨がグシャグシャに砕ける音が、手に響く。

「マーク!!ザム!!………致命傷は無い……が、出血が多いか……グローヒーリング!」

俺は再び二人の傷を癒す……二人はゆっくり起き上がろうとする。

「無理するな……幾ら傷を治したって言っても、失った血が戻る訳じゃないんだ」

「すんません……お頭……」

「…………」

二人は面目なさそうにうなだれる。

「シオンさん!!?」

カレンが叫んだ……俺はカレンの指し示す方を見ると……。

「な………に……?」

そこにはあの盗賊の男が立っていた……しかも、砕けた腕を再生させながら……なんだコイツ!?
人間じゃない……のか!?
ゲヴェルの複製人間だってこんな回復力は無いぞ!?

これじゃあまるで新型ゲヴェル……ヴェンツェル並の回復力だ……。

「グゥォオゥゥゥゥ……」

コイツ……いや、もしかしてさっきの魔力の主が何かしやがったのか……?
場所は既に把握している……そいつを潰せば……。

「ウガアァァァァァァ!!!」

「!?チィ!!」

今度は俺に襲い掛かってくる……コイツを無視して向かえばカレン達が危ない!
クソッ!!
これじゃあ原因を潰しにいけねぇ!!

*******



「フフフ……リミッターも強制解除して、限界を取っ払い、強制的に回復力も上げている……致命傷を与えなければ何度でも立ち上がってくるよ……さぁ!さぁ!!君の力を見せてくれ!!!」

ボクの弄った玩具が彼と戯れている……インペリアルナイツ位の力があれば殺せるんだからね……ボクを失望させないでよ?

*********



くっ……なんなんだコイツは!?
俺の攻撃を喰らいながら、何度も立ち上がってくる……致命傷にならない様に加減して戦ってはいるが、普通なら気を失うなり、苦しみ呻くなりする……だが、コイツは立ち上がる……何事も無いかの様に……立ち向かってくる……。

俺は恐怖した……コイツにでは無い。
この状況を打開する策が一つしかないことに、だ。
コイツは誰かにおかしくさせられている……。
なら、その術者をどうにかするか?

それは無理。

理由は術者がこの場所から、かなり離れた場所にいるからだ。

俺の足なら、直ぐに駆け付けて倒すことは出来るだろう……だが、俺の後方に居るカレン……血を減らして身動きがとれないマークとザムが狙われる……。
テレポートを使うには、明確に場所をイメージしなくてはならず、奴の居場所は知っていても、居る場所を見ていない俺では、テレポートを使っても奴の居場所へは辿り着けない。

……ならば方法は一つだけだ。

「……殺るしかない、のか……」

俺はリーヴェイグを握り締める……。
まさかこんなに早く決断を強いられるなんてな……。
奴は再び傷を再生させていく。

覚悟を決めろ……迷うな……退くな……!!
俺が逃げればカレン達が危ない……!

「すぅ……ふぅ……すぅ……ふぅ……」

心を研ぎ澄ませ……集中しろ……奴は化け物だ……人間じゃない……人間じゃないんだ……。

人間じゃなければ傷付けて良いなんて、そんな道理は無い……だが、こうして自己催眠でも掛けないと……自分をごまかさないと、やり切れない。

「ガァアァアァァァァァ!!!!」

傷を再生させた奴が、向かってくる。
……済まない……せめて、苦しまない様に一撃で決めてやる……。

俺は剣を片手に持ち、駆け抜ける。
奴のナイフが俺に襲い掛かる。
だが俺は超神速とも言えるスピードで、奴の目の前で斜めに跳ぶ。


俺は木を蹴り加速、奴に襲い掛かる。

その剣は飛竜の爪の如く――飛竜が羽ばたくが如く襲い掛かる……我が父の奥義が一つ……その名も。

「【飛竜翼斬】」

分かりやすく言うなら、大剣を使った【空飛拳】と言った所か。
もっとも○空みたいに空力を使うそれでは無く、身体能力に任せた力技だが……その一撃は正に必殺。

故に、実戦で使うには躊躇した技……。

「!?」

奴がこちらに振り向く……このスピードに気付いたのは見事だが、もう遅い……。

「……せめて苦しまずに――逝け……!!」

俺の剣閃が奴に食い込む瞬間……再び魔力の本流が……。

「……は?俺」

!?眼に光が……正気に
――。

ズシャアアァアアアァァァ!!!!!

「は……何だ……コレ……?」

俺の手は止まらず、擦れ違いざまに……袈裟掛けに男を真っ二つに切り裂いていた……。

ドチャァ……グシャア……!

俺の後方で、何かが嫌な水音と共に崩れ落ちるのが聞こえた……。


………俺は何をした?



……化け物になった人間を倒した。



……オレはなにをしタ……?



……意識ヲ取り戻した化け物を殺シタ……。




………オレハナニヲシタ………?




………ニンゲンヲ……コロシタ……ニンゲンヲ……ヒトヲ……。


コロシタ……殺した……殺した……?
死なせてしまった……?

「あ……」

愛剣のリーヴェイグを見ると……そこには血は着いていない……なら俺は斬らなかったんじゃないか?

……そんなわけ無いだろうっ!!!
血が着いてないのは、それだけの早さで剣を振りきったからだ!!
この手には感触が残っている!!
剣が肉に食い込み、切り裂く感触が!!

後ろから漂う血臭は!?
どうやって説明するつもりだ!!?

「……俺が……殺した……のか……」

俺は剣を取り落とし、膝を着いてしまう………手が……身体中が震える……。

「あ………あ………あぁ……うわあああああぁぁぁぁぁっ!!!」

俺の中の何かが……音を立てて崩れていくのを感じた……。

********



「これは驚いた……今の剣撃から推測すると……インペリアルナイツマスター……確かリシャールだったね。彼を超えている……」

これは予想外だ……まぁ、それでもボクには及ばないケド♪

「少なくとも、モブキャラを倒しただけであんなに取り乱す様な奴には――負ける気はしないなぁ♪」

ボクは特異点の彼を見下しながら感想を言う。
ボクは親切心から、あの盗賊の意識を戻してあげた。
優しいでしょ?
なのに彼はそれを殺した。
酷いよね〜?
しかも勝手に取り乱してるんだもん、馬鹿じゃないの?
って感じだね。

「もう面倒だから、ここで彼の力を戴いちゃおうかな〜………ん?アレは……」

何やら街の方と森の方から数人ずつ、あそこに向かっているみたいだなぁ……ちょっと面倒かな?
ここは消えるが吉……かな?

「やっぱり、もっと舞台は華やかな方が良いしね♪ここは幕引きということで」

ボクはその場を去った……再び彼と見えるその日を楽しみに……ね♪

願わくは、彼にはこんなところで壊れないで欲しいものだ――。

――僕が壊す楽しみが――無くなるからねぇ♪

********



「ウワアアァァァァァァァァァッッ!!!?」

シオンさんが……叫んでいる……涙を流しながら、頭を掻きむしる様に両手で掴みながら……。
伝わって来る……悲しみが……怒りが……嘆きが……後悔が……。

「シオン……さん……」

わたしは立ち上がり……シオンさんに近付く……。

「俺は……俺はあぁぁぁぁ!!」

駄目……このままじゃあ……シオンさんが……。

「シオンさん……」

「人を……殺しぃ……!?」

シオンさんが……壊れてしまうっ!!

「シオンさんっ!!」

「!?カレ……ン……」

わたしはシオンさんを抱きしめる……頭を手繰り寄せて包み込む様に……。

「大丈夫です……大丈夫ですから……」

わたしは彼の髪を撫でる。
……凄いサラサラしてる……。

「でも俺……俺は……人を……」

「……それは確かに辛いことかも知れません……けれど、おかげで私たちは助かりました……」

「あ……」

「貴方が来てくれなければ……私たちは助からなかったかも知れません……人の命を奪うのは、してはいけないことですし、悲しいことです……けれど、私たちは貴方が助けてくれたんです……だから……自分をそんなに責めないで……」

「カレ……ン……う……ぐうっ……うあああぁぁぁぁっ――!!」

彼はわたしに抱き着いて、再び涙を流す……今度は自分を責め壊すものじゃない……吐き出す為のもの。
今のわたしには、これくらいしか出来ないから……。

********



俺は泣いた……泣き続けた……。
人目を憚らずに泣いた……恥も何も無く、カレンの胸の中で……。

しばらくして……なんとか平静を装える位には精神が安定した時に、俺は今、とんでもないことをしていたことに気付いた。

カレンに抱き着き、胸の中で泣いていたのだ……あのふくよか過ぎる胸の中で……コレってその……パフパフって奴になるんじゃあ……。
こんなことを考えられるくらいには、回復してる……俺も存外異常なのかもしれん……いや、現金とも言うが。
カレンの温かさに包まれたおかげで……壊れずに済んだ……。

俺はゆっくり離れようとする……が、カレンは離そうとしない。

「あの……カレン……もう大丈夫だから……」

「ハイ……でも、もう少しこのままで……」

カレンは赤くなりながらモジモジしている。
息遣いも荒い……。
何だと思って視線を動かすと………何か………手の様なモノが横の、山になっている膨らみにある……。

ふにょん♪

「あっ……ん♪」

なんか聞いてはいけない声が聞こえた……。
どうやら俺の手がカレンの胸を掴んでいるらしい。
ハイ、本当にありがとうございます……………って、待てぇ!!!

俺は無理矢理カレンを引きはがし、勢いのままに立ち上がる。

「カカカカ、カレン!?君は何をやって……」

「いえ!違うんです!……わたしはシオンさんが辛そうだったから……その……思わず抱きしめてしまって……そうしたらシオンさん……泣きながら……その……胸を……」

カレンの声が尻窄まりに小さくなっていく……顔は真っ赤だ……。

つーかマジですか?
つまり何か?
俺はカレンに抱き着いて泣いただけでは飽きたらず……その豊満な胸を揉み倒したと?

何だソレは!!?
何してんの俺!!
どさくさに何してんの俺!!?

「ゴ、ゴメン!!カレンは俺を慰めてくれてたのに、こんな……」

「いえ、良いんです……(それに嫌じゃないですし……むしろもっと……)」

「そうか…なら良いけど……って、良くないから!!……それに、こんな状況じゃ素直に……ん?」

俺は辺りを見回す……死体が無い……それに気絶していた盗賊達も……血溜まりの後があるから、俺が斬り殺したのは確実……認めたくはないが……。
思い出すとまだ震えが止まらない……。

流石に取り乱したりはしないが……っていうか、マークとザムは?

「頭!!」

「?オズワルド……?一体何が……?」

オズワルドが説明してくれる。
モンスターに足止めを喰っていたオズワルド達だが、ある時を境にモンスター達が一斉に散って行ったそうだ。
チャンスと思い、突っ切って此処に向かって来たのは良いが、到着して見えたのは、気絶している盗賊達……真っ二つに切り裂かれた死体……そしてカレンに縋り付き、泣きわめく俺と、バツの悪そうな顔をしていたマークとザムだったそうな……その直ぐ後に、ゼノス含むカーマイン達が来たらしい……。

カーマイン達も何だかいたたまれない空気になり、(ティピは何やら気になって騒いでいたみたいだが、カーマインに折檻されたらしい)俺達を置いて先に家に帰ったそうだ。
盗賊達はしょっぴいて、死体はカーマイン達が埋めたとか。

ならばオズワルド達はと言うと……。

「こんな状況で邪魔する程、俺達は野暮じゃありませんぜ!!」

グッ!
ニコォ!!
と、俺にナイススマイルを向けてくる……す、素晴らしく暑苦しい……。
まぁ、そこで俺もナイススマイルを向ける。
それが俺達の流儀だから。

「……早速で悪いんだが、調べて欲しいことがあるんだ……」

「へい!なんなりと!!」

俺はあのモンスター使いのことを調べてもらうことにした……原作には居ないキャラ……何と言うか、……原作から随分変化してきたようだな……俺のせいか?
後はあの術者……か。

「んじゃ、俺達はこれで!!」

オズワルド達が俺の依頼に答える為にこの場を去る。

「っと、そうだ頭。一つ言っときたいことが……」

と、オズワルドが立ち止まる。

「?何だよ?」

「まぁ……頼りないでしょうが、俺達も居るんで、気張り過ぎないで下さいよ。では!」

……ヤレヤレ……心配掛けちまったな……。

俺はカレンに手を差し出す。

「……帰ろうか?」

「はい!」

カレンはその手を取り、俺達は帰路に着いた。

……俺はこの命を守れたんだ……命を奪ったのは良くないが……その代わり、カレン達を助けられた……後悔していないと言ったら嘘になる……だが後悔しようと、先に進む……そう誓ったのは何より俺自身なのだから……。

心の奥にしこりを残しながら、俺は先に進む……仲間を……ダチを助ける為に……ふと、横にいるカレンを見る。

俺を見ていたらしく、視線が合った。
カレンは赤くなりながら俯いてしまった。

「……どうした?」

「い、いえ!なんでもないです!!(シオンさん……大好きです……愛して、います――まだ、言えないけど……いつかは――)」

「そうか……」

繋いだ手から伝わる温かさは、不安を和らげ……震えを抑えてくれた。
その温かさを何故か……貴いモノだと、理解していた……。




[7317] 第24話―ラングレー家での優しい時間―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/03 22:15


俺達はラングレー家に戻ってきて、お邪魔していた。
帰って来てから、繋いでいた手を離す……よし、もう震えない!
俺は手を握ったり開いたりしながら頷いた。
ちなみに、手を離した時、カレンが残念そうにしていたが………何故に?

んで、先に戻っていたカーマイン達とゼノスを交えて色々と話す。
つっても、主にこれまでのいきさつを……俺とラルフがグランシルを離れてからの話をした。



――今現在はカーマインとルイセの母、サンドラ様が賊に襲われ、現在の人間には解毒不可能な毒を受けて床に伏している。
そこで藁にも縋る思いで、人間より優れた英知を持つフェザリアンを訪ねることにしたが、フェザリアンの住む浮き島への行き方が分からず、飛行の研究をしているという魔法学園の学者、アリオストを訪ねることに……。

「で、その途中、俺のワガママで此処に来たってわけさ」

「そうだったんですか……」

「それでお前達は行動を共にしてるって訳か――」

俺達の長い説明を聞いて、カレンもゼノスも納得したようだった。

「弟のお母さんなんだ……いや、そうじゃなくても放っておけないだろう?」

ラルフがそう言うが、俺もそう思うぞ。

「なんつ〜か……相変わらずなんだなお前らは」

ゼノスは苦笑いを浮かべる……相変わらずって何さ?

「ねぇゼノスさん?相変わらずって、シオンさん達とは結構付き合い長いの?」

ティピが『身体は好奇心で出来ています!』
――と、言わんばかりに顔を寄せてくる。

「そうだなぁ……今から丁度、三年前くらいか。今回みたいに、カレンが襲われていたんだよ。もっとも、相手は人間じゃなくてモンスターだったけどな……だよな、カレン?」

「えぇ……あの時は本当に駄目かと思いました……けれど、そこに駆け付けて来てくれたのが、シオンさんだったんです……」

「はぁ〜……何と言うか、そんな馬鹿な!って思うタイミングの話でも、シオンさんなら納得しちゃうのよねぇ〜」

二人の説明にティピがしたり顔で頷く。
……いや、何でだよ?

「僕も向かったんだけど、シオンの足が速くてね……結局、僕が駆け付けた時には全て終わった後だったよ」

「……シオンは昔から強かったのか?」

ラルフが、かつての自身の不甲斐無さに苦笑いを浮かべ、それにカーマインが疑問を問う。
まぁ、実際……今よりは弱かったな。
使える武器は大剣と長剣。
後は格闘術。
魔法に到っては、ヒーリング、グローヒーリングに補助魔法を少々……だったしなぁ。
攻撃魔法の殆どはグランシルの闘技場で【ラーニング】して覚えました。

「うん、強かった。というか、僕の剣の師匠はシオンだし」

「えっ、そうなんですか?」

ラルフの暴露にルイセがクエスチョンマークを浮かべる。

……まぁ、事実ではあるが……最初からそうだった訳じゃないぞ?
才能という意味ではラルフの方が上で、【ラーニング】能力に気付くまで……父上の剣術を【ラーニング】するまでは、身体能力をラルフに合わせて試合したら、負けそうになることもしばしばだったんだからな。

……だから、ラーニング能力に気付き、父上の剣術を体得するまでは、専ら力押し。
無論、負けそうになった時限定だし、ラルフが怪我しない様に身体能力はラルフより、ちょい上くらいにしかしていないが。

「でも、シオンの強さならゼノスさんの方が詳しいかもね……ね、ゼノスさん?」

「ラ、ラルフ……お前性格悪ぃぞ……あの時はちょっとした行き違いでだなぁ……」

ラルフの含みのある物言いに、ゼノスはピクピクしながら弁解。
何と言うかバツが悪そうだ。
まぁ、あの時はこんのドシスコンが!!
とか本気で思ったし……何故か今はそうでもないが……カレンを大事にしているという意味では、変わらないんだけどなぁ……。

「実は兄は、シオンさんと戦ったことがあるんです……闘技場で、ですけど」

「ほう、結果はどうだったんだ?……まぁ、何と無く予想は着くが」

カレンの説明に、ウォレスが食いついた。
……ってかウォレスよ……何故チラリとこちらを見る。
つーか、予想って何よ?
その辺を小一時間問い詰めたい。

「惨敗だったよ。ゼノスさんがね?」

「ぐぅ……事実なだけに反論出来ん……」

ラルフがすかさず言葉の矢を放つ。
それはゼノスにクリーンヒットだったらしい。
つーかウォレス……『やっぱりな』……みたいに頷くな!

「……ゼノスが負けるなんてな……今ならどうなんだ?ゼノスもそうだが、ラルフも強いだろう?」

カーマインが疑問を浮かべる……多分、ローザリア西でカレンが襲われた時に、ゼノスが戦うのを見たからなんだろうが……その疑問に答えたのが……。

「確かにあれ以来、特にシオン達が滞在していた一年間は、シオンが稽古を着けてくれたりしたから確実に強くなったが……正直、未だに勝てる気がしねぇ……」

「僕も同感。自分ではそれなりに強くなったつもりだけど、シオンの戦いを1番多く見て来た者としては、全然追いつけていないのが良く分かるよ」

いや、二人とも十二分に強いって。
ラルフに到っては、インペリアルナイトとタイマンしても勝てるくらいには強くなったぞ……多分。

「まぁ、俺もなんだかんだで、成長しているっつーことで――」

そう、武術や魔法を【習得】するには悲しい位に才能は無いが、【ラーニング】能力により、様々な技や魔法を【体得】し、知識に関しては一度覚えたら忘れない……という素晴らしい頭脳があるからな。

……まぁ、この記憶力に関しては実は以前から……まだ、俺が日本人だった頃からあったもので、この記憶力があるからこそ未だに原作知識を覚えていたりする。
普通なら細かい記憶は摩耗して、風化しているだろうな……何しろ生まれ変わってから18年だ――そう言う意味では、この記憶力は大変にありがたい代物だ。

後、筋トレなんかは確実以上に身になっている。
成長力が早い早い。
つーか、底がしれない。
なので、俺は見た目細身なのだが、筋力は洒落にならない。

「にしても、わざわざ顔を出した理由が、シオンが希望したからだったとはな……俺はてっきり闘技大会に出るもんだとばかり思ってたぜ」

「闘技大会?」

ルイセが首を傾げる。
まぁ、ルイセは知らなくても仕方ないのかも知れないな。
つーか、ルイセが闘技大会のこと知ってたらそっちの方が意外だ。

「何だ、知らないのか?年に一度、このグランシルの闘技場で開かれる大会のことだ。闘技大会で優勝出来れば、賞品の他に、武官として抜擢されることも多いって聞いてな。俺もそれに賭けている」

まぁ、傭兵家業は楽では無いだろうな……少なくとも戦争とかが無い今は、殆ど仕事らしい仕事は無いんじゃないか?

「しかし、ゼノスなら剣闘士としても活躍出来るんじゃないか?俺とラルフも荒稼ぎしたし」

そう、お陰で未だに懐は結構リッチマンだったりする。
つーか、オズワルド達に余裕で給料を払い続けるくらいにはな。

「確かに出来なくは無いだろうが……正直、マスターランクは俺にはまだ無理だ。それにあの辺りになると、賞金や賞品も破格だが、参加料も馬鹿にならないだろ?」

そういや、参加料があったな……俺はとんとん拍子で勝ち上がって行ったから、気にしていなかったが。

「やっぱり俺としては、安定した収入が欲しい訳だ。そうなると俺にはこの腕っ節しかないからな」

そうゼノスは言うが、あの料理の腕があるだろうに……まぁ、以前そのことについて聞いたことがあったが、ゼノス曰く、『あれはあくまでも趣味だ。実益に結び付けようなんて考えてねぇよ』……だそうだ。
なんとも勿体ない話しだ。

「……どうでも良いが、お前ら参加したりしないよな?」

ゼノスが俺とラルフ……特に俺を見ながら聞いてくる。
疑心に満ちた目だ。
つーか焦ってる?
そこは普通、『優勝は俺様がいただくがな』くらいは言うところだろう………そんだけ過大評価されてるのかねぇ……。

「ん〜……暇があったら出場してみたいな。こんな機会は滅多に無いし――」

「僕も出てみたいかな?自分の力がどれだけ上がったか試してみたいし……いつも比較対象がシオンだったからね……カーマインも出るんだろう?」

「そうだな……俺も純粋な腕試しはしてみたいな……シオンやラルフの本気ってのも見てみたいし」

結構みんな乗り気だな……流石は男の子!
………俺の精神年齢はオッサンだけど………。

「マジかよぉ……ヤバイ……優勝が遠退いて行く感じがするぜ……」

ゼノスが愕然としている。
まぁ、そうだろうな。
この面子、強さだけならエキスパートクラスだもんな。
ゼノスにも同じことが言えるが。
それが全員フレッシュマン部門からだもんな……。

「つっても、優勝したからって確実に仕官出来るわけじゃないんだろ?」

これは確かな筈だ。
現に原作では、優勝したカーマインとルイセにスカウトなんて来なかった。
サンドラ様の機転で、王に紹介する時に優勝した事実が使われただけだ。

「それはそうなんだがな……まぁ、仕方ない……腹を括るか!」

「って、アンタ達……マスターを治すのが先でしょう!……で、優勝の賞品って何?」

一転、覚悟を決めたゼノス。
そこにティピが俺達へ説教……かと思いきや、180°方向転換した――ワクワクが止まらないという表情で質問してきて――思わず俺達はズッコケる。
それはもう、ズルッ!とかズテーンッ!って感じで。

「エ、エキスパートの部は覚えてないが、フレッシュマンの部は確か……」

俺達の煽りを喰らって一緒にズッコケてしまったゼノス……合掌。

「確か……バーンシュタイン王国にある温泉街、コムスプリングスの旅行券だったと思います」

と、ゼノスの言葉を継いで話すのはカレン。

「?ってかさ、なんでカレンがそんなこと知っているんだ?」

俺は何と無く疑問に思ったことを聞いてみる。

「だって、毎年のことですもの、幾ら興味のない私でもそれくらいは覚えます」

そりゃあそうか。
そもそも、これはグランシルで行われる『祭』みたいな物だからな。
地元民のカレンが知っていても、不思議じゃないか。

「ま、それよりも俺は仕官目当てだから関係ないけどな」

「へぇ、温泉ねぇ」

つーか、原作では最初からゼノスに、優勝したらコムスプリングスの旅券をくれ。
と、頼んでおけば良かったのでは?
まぁ、原作のカーマインも腕試しをしたかったのかも知れないが……。

今、ふと思ったが……俺とラルフはコムスプリングスに行ったことあるんだよなぁ……。

んで、今の俺はテレポートが使えると。

……………。

………。

……。

…。

ぶっちゃけ旅券いらなくねぇ?




――まあ、それが無くてもシャドーナイツの横槍があるかも知れないから、どのみち闘技場には行くけどな。
カレンが無事な時点で、確率は減ったが……零になったわけじゃない。

一応ゼノスに占いと称して、それとなく原作知識を教えておいたが、カレンの例を考えると……まぁ、念のためだ。

「なぁ、お前らの母親を助ける為の方法探し……人手は多い方が良くねぇか?」

と、ゼノスが言ってくる。
ルイセは首を傾げる。

「?どういうことですか?」

「さっきから考えていたんだが、シオンやカーマインには、カレンの件で随分世話になっちまったからな……何とかして恩を返したいと思う。そしたら、俺にはこの腕っ節くらいしかないからな。良ければ使っちゃくれねぇか?」

要するに仲間になりたいと……そういう訳か?

「それは正直ありがたいが……良いのか?」

「勿論!闘技大会もまだ先だしな……それまで身体を鈍らせておくのは勿体ないからな」

カーマインの問いに快く応じるゼノス。

「カレン、お前も来るんだぞ?」

「えっ!?良いの……兄さん?」

カレンが驚く。
まぁ、確かに俺も一瞬、聞き間違いかとも思ったが……冷静に考えれば当然だ。
カレンが狙われている以上、近くに居た方が守りやすいもんな。

一人で留守番させる方が危険だろう――。



[7317] ―カレンの彼への想いはマキシマム!最初からクライマックスです!―番外編7―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/03 22:23


あれから色々あって、ゼノスとカレンが俺達の旅に同行することになった。
かなり原作からズレて来ているが――良い傾向なんだと思う。
で、なんだかんだ話してる内にすっかり日が暮れて……結局、ゼノスの家に止まることに。

そして夕食時に、例のアレが再び姿を現した訳ですよ……賢明な方なら理解出来ると思うので、何が姿を現したかは……敢えて言明はしない。

ただ、ティピがやはり兵器発言をしたことと、カーマインがラルフと同じリアクションをしたこと……無論、俺もだが。

カーマインともソウルメイトになれる気がする。

つーか、カレン。
アレを可愛い発言するのはやめて下さい……分かってても現物が眼の前にあるとヤバイんだから……腹筋が裂けるかと思いました。
ウォレスは見えなかったからまだ良かったが、ルイセは……。
――原作で起きたこのイベントでも、同席していたのに喋らなかったルイセだが……何故、一言も喋らなかったのか分かった……どうやら気を失っていたらしい。
立ったまま固まっていた。
その状態はリーサルウェポンが装備を外すまで続いた……。

因みに夕食は非常に美味かったと明記しておく。

******


私は、ルイセちゃん、ティピちゃんと一緒に寝ることになった。
男の人達は二つある客間と、兄さんの部屋を使って寝ることになりました。

兄さんの部屋には、兄さんとウォレスさん。
何でも、ウォレスさんは有名な人で、兄さんも話しを聞いてみたいんだそうです。

カーマインさんとラルフさんは客間の一つに。
これはお二人が双子のご兄弟なので、当然かも知れませんね。
改めて見ても瓜二つですもの。


そして……シオンさんは、客間に一人で寝ることになりました。
ウォレスさんや兄さん、カーマインさんにラルフさんがそう仕向けたみたいです。

シオンさんが居ない時に理由を聞きましたが、ウォレスさんが言うには、絶対に夜中にうなされるから、だとか……。



シオンさん……。



「……ンさん……カレンさん!!」

「エ!?あ、ハイ!なんでしょう!?」

「なんでしょう?じゃないわよ。どうしたの?ボーッとして」

ティピちゃんが私の態度に疑問を抱いたみたい……言えないよね。
シオンさんのことを考えていました……なんて。

「もしかして……シオンさんのこと考えてたとか?」

「えっ!?そそそそんなことは……」

何で!?
どうして分かったの!?

「ごまかしてもダ〜メ♪カレンさんの態度見たら分かるもの……あの、橋の前でシオンさんを抱きしめてたじゃない♪」

「ティ、ティピ!!」

ティピちゃんの追求をルイセちゃんが諌めようとする……あの橋の前で……私は……あの人を抱きしめて、あの人は私の胸の中で泣いた……あの人の壊れそうな心を繋ぎ止めることが出来て……本当に良かったと思う……ただ、シオンさんが……その……わ、私の胸を……わたしも、多分シオンさんもそんなつもりは無いのに、凄く気持ち良くて……シオンさん上手で……わたし……って、何考えてるのわたし!?
……う〜〜〜、恥ずかしい……。

「ホラ♪赤くなった〜♪」

「もう!ティピ!」

でも、私があの人に想いを寄せているのは事実……だから。

「えぇ……私はシオンさんが好きです……愛しています。それは事実ですから」

憚ることなく胸を張ろう……それは事実であり、誓いでもあるのだから。

「あ〜……そこまでハッキリ言われると、こっちが恥ずかしくなっちゃうよ……」

「カレンさん……凄い……」

……いえ、やっぱり私も恥ずかしいです……でも、これくらいで恥ずかしがってたら、想いを伝えることは出来ないもの……。
前は、なんでか伝わらなかったし……今度はもっとハッキリと伝えなくちゃ!!
私の全てを貴方に捧げます……くらいは……でも、やっぱり恥ずかしい!
全てってことは……心も……身体……も……!

だ、駄目!想像するだけで……恥ずかし過ぎる……いいえ、もっと勇気を持たなくちゃ!
これからは一緒に居られるわけだし……。

私は彼から贈られたペンダントを握り締める……そういえば、もう願いは叶っちゃったな……。

「あ、カレンさん、それってプロミスペンダントですか?」

ルイセちゃんが私のペンダントを見て、聞いてくる。
私は握っていた手の平を開いて、ペンダントを見せた。

「ええ……シオンさんが以前、この街を去る時にプレゼントしてくれたんです。再会の約束に……」

「良いなぁ……わたしもおにいちゃんに頼んでみようかなぁ……」

「なぁに、プロミスペンダントって?」

「学院の女の子の間で凄く流行ってる【願いを叶える】ペンダントでね、まずペンダントに【誓い】を立てるの。次にペンダントに【誓い】を果たした時の【願い】を決める。それでその【誓い】を果たした時に、決めた【願い】が叶うんだよ♪」

ルイセちゃんが嬉しそうにプロミスペンダントの説明をする。
ティピちゃんは興味半分くらいに……。

「へぇ〜〜、こんな石にそんな力がねぇ……ねぇ!カレンさんはどんな誓いと願いを掛けたの?」

……前言撤回します。
ティピちゃんは興味津々で私に聞いてきました。

「私は……【どんなことがあろうと、シオンさんを愛し続ける】ことを誓い、【シオンさんと再会して、二度と離れ離れにならない】ことを願いました……何だか恥ずかしいですね」

私はポリポリと頬を指で掻いた。
多分顔は真っ赤かも知れない。

「す、凄いLOVEパワー……これはマスターも危ういかも……」

「ティピ、お母さんがどうかしたの?」

「あ゙〜〜……それがね?どうも、マスターもシオンさんを好きになっちゃったみたいで……」

「え……えええぇぇぇぇぇっ!!?お母さんがぁぁぁぁぁ!?」

ピクリ!

………今、何か聞いてはイケないものを聞いた様な……。

「ほ、ホラ、シオンさんってまるで計ったみたいなタイミングで駆け付けるじゃない?足早いしさ?カレンさんの時もそうだったらしいし……マスターが襲われた時も、いの一番に駆け付けたでしょ?他にも色々あったみたいだけど……(何しろ、時々テレパシーで繋がって来て、シオンさんの顔を見せてくれ……とか言ってくるし、暇なのは分かりますけど、安静にしていて下さいマスター!)」

「それじゃあ……シオンさんがお父さんになる……なんてこともあるのかなぁ?」

ガシッ!

ルイセちゃんの呟きが聞こえた瞬間、私はティピちゃんを鷲掴みにしていた。

「ふへ!?あ、あのぉ……カレンさん?」

「ティピちゃん……その辺の事情を、もっと詳しく教えてくれないかなぁ?」

ニコッ♪

「ヒッ!?了解致しました!!」

やっぱり、人に何かを頼む時は精神誠意お願いするのが1番ですね♪

結果、分かったのはルイセちゃんのお母さんも、油断ならない強敵だということです。
あの人は無自覚だから、他にもあの人を想ってる人は居るかも知れません……けど、私は負けません!!
必ずシオンさんの寵愛を勝ち取ってみせます!!

*******

番外編です。またの名をカレンの決意編(-.-;)



[7317] 第25話―決意、新たに―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/04 22:16


あの後………ゼノス達が俺達に同行することが決定してからしばらく後、夜も深くなり、俺達は宿を取ろうとしたが、ゼノスとカレンは折角だから泊まっていけと言ってくれた。

結局、俺達はその好意に甘えることになるわけだが。

俺には一人部屋を用意された……以前、俺が使っていた客間だ。
何故、俺だけが一人部屋なのか……理由を色々説明してくれていたが……要するに、気を使ってくれたのだろう。
俺が……初めて自分の手を汚したのだから……。



その後、俺は就寝する……寝る前にルイセの叫び声が聞こえた気がしたが……お母さんがどうとか……サンドラ様がどうしたのやら……何か、緊急事態の香りがしたが、何と言うか……何故か危機感は感じなかった。
何か妙な寒気がしたのも確かだが……。

なので、そのまま睡眠タイムに移ることに。


*********

夢を見ていた………。

赤い世界……朱い世界……紅い世界………。

最初、俺にはそれが何なのか分からなかった……なので、俺はそれに触れてみる……。

それに触れた手は徐々に飲み込まれて行った……その感触はヌメッとしていて、纏わり付いてくる……その感じに不快感を覚えた俺は、そこから手を引き抜く……そこには俺の腕を掴む手……!

俺はその腕を振りほどこうとする……だが振りほどけない。
だから……俺は力任せに腕を引き抜いた……。

ズルリ………。

紅く赤く朱く染まった腕と一緒に出て来たもの……。

それは……。

上半身から下が無い……。

虚ろな瞳をした……死体、だった……。

「あ………あぁ………あああ……!!」

死体は下半身があった場所から………紅い…朱い…赤い『もの』を撒き散らして……俺は身体を震わせながら、それを振りほどこうとする…だが、それは決して離れない……。
離れない……離れない……!!

ギョロッ……。

突然、虚ろな瞳が動きだし、俺を睨み付けて来た……。

見るな……。

「……ぜ……した……」

止めろ…。

「なぜ……した……」

違う……違うんだ……。

「なぜ……殺したぁ!!!!」

「ガッ!!?」

死体が俺の首をしめる……なんて……力……。

「……仕方……なかったんだ……俺は……」

「死ね……しねぇ……シネェ…!!」

「…止めろ……止めて……く……れ……」


ギリギリギリ!!

首が軋む……苦しい……息が……。

「死ね死ね死ね死ね死ねシネ死ねしねシネシネシネシネ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねシネ死ねしねしねしねシネシネシネシネ死ね死ねシネ死ね死ね死ねシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ死ね死ね死ね死ねしねしねしねしね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねシネシネシネシネ死ねシネ死ね死ねぇっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!」


「アアアアアアアァァァアァァァアァァァァァッッッッッ!!!!?????」

ガバァッ!!

俺はベッドから跳び起きる。

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ………今のは……夢……か……?」

何で……俺……ッ!?首!?

俺は首を触る……だが、何処にも異常は見られない……霊力とか妖力とかの残滓も感じられない……。

――あぁ……分かっている……今の夢は怨みとかそういう物じゃない……あの盗賊は俺に怨みを抱く前に息絶えた……。

ならば今の夢は……?
――問うまでもない……。
俺の心の弱さが生み出した『幻像』だ……。

「震えは、治まったのに……いや、分かっていた……」

あれが一時的な物だと……現に今も震えが、止まら、ない……。

「くそっ!止まれ!!止まれよ!!」

心こそ、あの時の様に壊れそうな感じでは無いが……恐怖、後悔、絶望……そういった負の感情が拭えない……。

「くそっ………!」

俺は、壁に立て掛けてあった剣を持って外に出た……このまま寝ても、また同じ様な夢にうなされるに決まっている。
ただ起きていても幻覚に苛まれるかもしれない。
なら、身体を動かしていた方がマシだ。

ズバババババッ!!

俺は仮想敵を相手に切り掛かる。


相手は自分自身……こう言っちゃ自惚れも良いところなんだが、この世界で1番強いのは俺だと思っている……いや、実際は分からないが……今まで出会った人物の中に、俺を倒せる奴は居なかった……。
なので、自分を敵に想定して戦う。

常にイメージするのは最強の自分だ……と、運命の赤い弓兵は言っていた。
ならば、イメージする敵も最強の自分で問題無い筈だ……もっとも、あれは投影に関することだから直接的には関係無いが。

「ふっ!しっ!!」

先ずは軽く流す程度……身体能力も普段通りに抑えている……さて、身体も温まって来たし……そろそろ全力で行く……!?

俺はそこから踏み込もうと溜めを作るが、その瞬間……自分の手が視界に映る……赤い……血、の――!?

「うわっ!?」

俺は思わず剣を放り出してしまう……。
再び手を見ると……俺の手には血などついておらず、あるのは剣ダコくらいで、それ以外は至って普通の手だ。


「……ハハハ、満足に剣も振れないかよ……」

俺は渇いた笑いを浮かべ、その場にへたりこんでしまう。

「……カーマインやジュリアンに、偉そうなことを言っておいて……このザマかよ……何が覚悟はあるだ……何が真っ直ぐ進むだ……所詮は、ただの口だけ野郎じゃねぇかよ……」

俺は渇いた笑いしか出てこず、手で目元を覆い、壊れた様に笑っていた。

ガチャ……。

「ふむ……良い剣だな……しっかりと使い込んでいる……余程の鍛練の後が伺えるな」

「!?誰だっ!?」

馬鹿な!?
俺がこれだけ接近されて、気付けなかっただと!!?

「らしくないな。何をボサッとしているんだ?」

「ウォレス……」

そこに居たのは、リーヴェイグを拾って立っているウォレスだった。

「ほら、お前の剣だろう?」

ウォレスは俺に剣を差し出す。
俺は無言でそれを受け取り、鞘に納める。

「……見ていたんだろう……情けない奴と、笑いたければ笑えよ……人を一人斬ったくらいで、剣が握れなくなっちまうなんて……アンタに、デリス村で大言を吐いておきながら……このザマだ……」

「…別にそんなこと思っちゃいねぇさ。俺にも経験があるしな…」

「そうなのか……?」

「俺だって初めての実戦の時はそうだったさ……初めて人を殺した時、手が血だらけで真っ赤になった幻覚が見えてな……こいつが洗っても洗っても落ちないんだ」

ウォレスにもそんな時があったなんて……いや、考えてみれば当然か。
確か、原作でカーマインにも、新米傭兵時代の話をそれとなくしていた筈だ。

「俺は直ぐに慣れちまったがな……傭兵家業なんかやってれば仕方ないことかもしれんが……」

慣れた……か。
羨ましい限りだな……俺には到底無理だ……俺の根底は、やはり日本人だからな。
しかも一般市民……慣れる筈がねぇ……喧嘩はしたが……それとこれとは別問題だ。

「――何か勘違いをしてるのかも知れんが、お前は俺なんかよりずっと強いんだぞ?」

は?
何言ってんだ?
俺の力の事を言ってるのか?
……そんなの、結局は宝の持ち腐れじゃないか……。
俺の心は弱いんだから……。

「昔、ある男が言っていたんだがな……。『死に慣れるな……戦場で相手の命を奪ったなら存分に生き抜け……その奪った命の分まで背負って生き抜け』……ってな」

それって……。

「結局、俺は逃げ出しちまった……奪った命の分は生きて来たつもりだが、命を奪うことに慣れてしまい、それを背負って生き抜くというのは、文字通り荷が重過ぎてな……無論、命を軽んじてるつもりは微塵も無いが」

命を背負って……生き抜く……。

「だが、俺と違ってお前は死に慣れるのを良しとせず、なるべく命を奪おうとせずに、『そういう戦い』をしてきた。シオン、お前も旅をしてきたそうだが……殺しこそしなくても、旅先で誰かの死に目にあったことも――あるんじゃないか?」

確かに……それはある。それが病気だったり、盗賊に襲われたり……色々あるが、誰かの死に目にはあって来た……だが。

「確かに、ああいうのにも慣れなかったが……それとこれとは話が違うだろう……」

「違わねぇさ。そういうのを目の当たりにすれば、人間ってのは普通、ある程度慣れちまうもんだ……というか、お前はもう既に命を背負ってる様に思ったが?」

「……俺が?」

「モンスターを倒す時、表情が一瞬悲しげに歪む……とか聞いてるぞ?ラルフからな」

ラルフの奴……妙なことを吹き込むなよ。

「俺も雰囲気から何となく分かるんだが……その時のお前は、何かを決意している様に思える……何を考えている?」

「……それは……あ……」

「……今回の件もそれと同じ様なことじゃないか?……人間とモンスターの命を一緒くたに考えること自体、間違いなのかもしれないが……どちらにしろ、お前は奪う為ではなく、守る為に戦った。だからこそ、お前は決意を固めるんじゃないのか?」

そうだ……モンスターとの戦いで、俺は未だにモンスターの命を奪うのを躊躇う……慣れないんだ。
命を奪うという行為に。


――俺は仲間を守る為に戦い、そして相手を傷つけてきた……。
その度に俺は誓った……お前達の命……無駄にはしないと……許されるとは思わないが、お前達の分まで生きる、と………。
だからこそ、自分を貫き通すと誓ったのに……人間もモンスターも、命の重みがあることに変わりは無い……そんなこと、気付いていた筈だったのに……。


俺は確かに人の命を奪った……けど、そのかわりマークとザムを助けられた………カレンを……救えた………。

(貴方が来てくれなかったら……私達は助からなかったかも知れません……貴方が私達を助けてくれたんです……)

ああ……そうだ……分かっていた筈なのに……。

(……だから……そんなに自分を責めないで……)

そうだよな……いつまでも俺がこんなんじゃ……また、カレンに迷惑掛けちまうもんな……。

俺は浮かんでいた涙を拭い、しっかりと前を見据えた……。

「どうやら、答えに気付けた様だな?」

「あぁ……俺はこれからも迷い続けるし、後悔もし続けるだろう……けれど、俺は改めて誓う……俺は真っ直ぐに進み続けると……。例え、後悔しようが、絶望しようが……心を擦り減らせようが……俺は俺の信念を貫き通す……必ずだ」

「そうか……なら、もう俺が言うことは無いな……どれ、もう一眠りするかな……」

ウォレスはわざとらしく欠伸をして、来た道を戻る。

「……済まなかったなウォレス。気を使わせちまって……」

「なんのことだ?俺はただ、用足しに来たらたまたまお前を見つけたんで、少し昔話と説教をしたくなっただけだぜ?」

「わざわざ外まで用足しに来たのか?夜じゃあ、ほとんど見えないんじゃないのか?」

「そういえばそうだったな……すっかり忘れてたぜ。まぁ、以前は全く見えなかったんだ……今は、月明かりがあれば昼間より若干見えにくいが、見えるからな……問題無い。じゃあ、また明日な」

そう言ってウォレスは去って行った……。

……ありがとう、ウォレス。

その後、俺は中途半端だった訓練を再開、久しぶりに全力で訓練、しかし今日は軽い時間で収めた後、部屋に戻って就寝することにした。

「……なんつーか……この世界の過酷さを改めて理解したな……とは言え、ここは第二の故郷なんだ……出来る限りみんなが平穏にくらせる様になったら最高だよな……そういえば、俺って元の世界に帰れるんだろうか……?」

元の世界に執着が無いと言えば嘘になるし、この世界に愛着が無いと言うのも嘘になる……そもそも、今の俺はシオンなんだから……元の世界に戻ったらどうなるんだろう?

「まぁ、良いか…今は、まだ……」

俺はそのまま眠りに着いた……ちなみに、あの夢を再び見ることは――無かった。



[7317] 第26話―登場!妄想少女ミーシャ!―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:f619fa38
Date: 2011/12/04 22:37


――翌日、俺達は準備を整えて、朝食を摂ってからラングレー家を後にする。
目指すは魔法学院!

……ちなみに朝食は俺が作らせて戴きました。
だって、朝からゼノスのアレは中々にキツイぜ?
カレンが率先して手伝ってくれたから、調理は手早く済んだ。

一応言っておくが、カレンも料理出来るぞ?
ゼノスのインパクトの強さに目が行きがちだが、考えてみたら当たり前なのだ。
ゼノスが傭兵家業で遠出した時、留守を預かるカレンが自炊も出来ない筈が無いんだから。

ん?俺?
以前グランシルに居る時にゼノスから教わりました。
こと戦闘技能以外は【凌治】の頃同様、ソコソコ才能があるみたいです。

この旅には勿論、カレンとゼノスも一緒だ。
道中、モンスターに遭遇するが、俺が睨み付けたら逃げていきました……いつもこうなら楽なんだが……中には錯乱して襲い掛かってくる奴もいるからな……そういうのと出くわしたら戦うしかない。

この面子では、遅れを取りたくても取れないだろうがな?

**********

んで、着きましたよ魔法学院。
なんつーか、建物デケェ……高さだけなら城よりあるな。

「へぇ〜……此処が魔法学院か」

「ゼノスも初めてか?」

「なんつーか、俺には縁が無い場所だからな」

そりゃそうか。
ゼノスは魔法が使えないし、研究をする程に頭が良い訳じゃない。
もっとも、原作でシャドーナイトだった時に、オズワルド達を指揮していたのなんかを考えると、頭が悪い訳じゃないみたいだが……多分、思考のベクトルが違うんだろう。

「ここがわたしが通ってる魔法学院だよ。お兄ちゃん、学院について詳しく聞きたい?」

「そうだな……聞かせてくれないか?」

お、どうやらルイセが何やら学院について説明してくれるみたいだ。

「シオン、ここは僕達も拝聴させてもらおうよ」

「そだな、そうするか」

ラルフがそう言うので、それを肯定する。
原作知識として知ってはいるが、改めて聞くのも悪くはない。
つーか、俺達は旅をしていた頃はここに立ち寄らなかったしな……理由は幾つかあるが……一般人である俺達が立ち寄る意味が無かったのと……あのジジィに眼を着けられない様にする為だ。

……本当は今もあまり乗り気じゃないんだぞ?
とは言え、来なければ話は進まないし……な。
それに生であの【おとぼけ眼鏡っ娘】を見てみたい……というのもある。

「ここはね、ローランディア王国とバーンシュタイン王国が共同で作った学校なんだよ」

「へぇ。どうして2つの国が共同したの?」

ティピが疑問を問う……。
まぁ、それには幾つか理由があるんだがな。

「知識の独占を防ぐためだって言ってたよ。魔法は便利だけど、危険なものだから、それを集中して管理するのがこの学院の目的なの」

「なるほど」

ウォレスが納得する。
まぁ、後は才能ある者を学ばせる為でもある。
両国共同なら、どちらかのみに才能を眠らせておくことはない。

「ここで研究されて新しく見つかった魔法とか技術は、両国に報告されるんだ」

「これは、両国の発展にも影響するから……当然かな?」

ラルフが頷く。
まぁ、それが優れた技術であろうと、必ずしも平和利用される訳では無いのが悲しい所だな……。

「そう。そして基本的には学院が許可したもの以外は、外に持ち出してはいけないことになってるの」

魔法技術管理法……通称、魔技法って奴だな。
どうでも良いが、俺のアレンジした魔法って殆ど魔技法に引っ掛かるんじゃねーか?
メテオやソウルフォースのアレンジ魔法はマジで洒落にならんからな……余程じゃない限り使わん……てか、何であんなのをアレンジしちまったかなぁ……元から十二分以上に強力なのに……あ、メテオは弱体版アレンジもしたっけ?

まぁ、一言で言えば、若気の到りって奴だな――。

「学校と言うより、研究機関って感じだな…」

カーマインがそう言う。俺には、時空管理局ならぬ、魔法管理局に思える。
まぁ、アチラさんみたいに世界を管理している……とか大袈裟な物じゃないが。

「ふふっ、そうだね」

ルイセの魔法学院の講義を終え、内部に入ることにした。

とりあえず、俺達はルイセにアリオストの研究室に案内してもらうことにした。
そして研究室前。

「……………」

ティピが何かを見ている……視線の先には送魔線を眺めている爺さんが居る……アレって確か……。

「どうしたのティピちゃん?」

「いや、変な人だな〜、って。あんな柱を見て面白いのかしら?」

カレンがティピに聞く。
つーかティピ……お前そんな言い方したら……。

「だ、誰じゃ?ワシの新型送魔線にケチをつける奴は?」

やっぱり、送魔線技師だったか……後々のキーマンになる人だな。

「ご、ごめんなさい。ティピ、ダメよそんなこと言っちゃ!」

ルイセがティピを諌める……なんつーか、ティピって怒られてばかりだな……サンドラ様、マジで一般教養を教えていないのか?

「おお、ルイセ君か?その変な虫は、サンドラ先生が造ったのかね?」

「……虫?」

ティピが虫呼ばわりされ、頭にバッテンマークを着ける。
原作でもジュリアに羽虫呼ばわりされてたしな……てか、この前のデリス村の時にも言われてたんだっけ?

……実際、その場に居なかったから分からないんだが……。

「送魔線も知らないような奴は、虫で十分じゃ!そもそも、グローシュという言葉自体、知っておるのか?」

「ふっふっふっ!グローシュくらい知ってるわよ。この『ふわふわぴかぴか』のことでしょ?」

ティピは得意満面に、空中に漂うグローシュを指し示す。

「ほほう……。ではなぜ、地域によってグローシュの量が異なるか知っておるか?」

「うっ…………何だっけ?」

忘れるの早っ!?
原作では確かサンドラ様か、アリオスト辺りから説明を受けていた筈だが……てか、身体も小さいから頭に入る量も少ないのか……?
仕方ないな……。

「んじゃ、説明するけど……この世界は非常に不安定な時空に存在している……正確には二つの時空が重なって出来ているんだが……この辺は長くなるから省くぞ?で…だ。二つの時空の隙間がデカい場所は、その隙間から魔力エネルギーであるグローシュが流れ込んで来る量も、また多いのさ」

「それじゃ、グローシュがいっぱいある場所って危ないんじゃない?」

「まあ、そうじゃな。この辺りでは、北に行くほどグローシュが多く、南に行くほどグローシュが少ない。つまり北ほど時空の狭間が大きいということじゃ。そしてその隙間は、同じ場所でも微妙に変化する。つまりグローシュの量もわずかだが日によって違うのじゃ」

「ふ〜ん、面白かった。じゃあね、おじさん」

いや、顔は笑ってるが……絶対面白いとか思ってないな。
かったるくなったんだろうな……。

「ちょ、ちょっと待て!この送魔線の話を聞かんでいいのか?な、中身の回路が新型なんじゃぞ?」

「どうする、このオヤジ?」

「ティピ……お前が最初にあんなことを言ったのが始まりなんだ……責任持って聞け」

カーマインの至極真っ当な意見に、ティピは渋々納得する。
んで、説明の続き。

「このグローシュとは、実は純粋な魔力エネルギーでな。とっても貴重な物なのじゃ」

「で、このグローシュを集めて、必要な場所へ送る装置が『送魔線』ってわけだ。もっともそれは以前の呼び名で、今はその形状から『集魔柱』って呼ばれてるらしいがな」

「ほう、お主……若いのに中々博識じゃのう」

「まぁ、俺も魔道具の作製をしたりするんで……送魔線に関しても学んだりしましたから……ちなみに、送魔線から送られる魔力は魔法機械を動かすのに使われるのが殆どだ。サンドラ様の研究室にも実験装置があったりしただろう?」

「あ…そういえば」

ティピが思い出したかの様に呟く。
ちなみに、この世界には冷蔵庫的な物や、電灯的な物――等の生活用品が存在し、それらも魔法機械に分類される。

街中にも送魔線があるのは、この為だ。

「グローシュを溜めておける方法は、サンドラ先生が研究しておったりするが……今の所はこうやって送魔線で集めるしかない。して、この新型回路なんじゃが」

「うん、うん、凄い凄い。だからもう説明いらない」

喜々として語ろうとした技師を、バッサリ切り捨てたティピ……技師はショボーンとしてしまった。

「まぁ、御高説の続きはまた時間がある時にでも……」

魔道具製作に活かせそうだしな。

「ふむ!君は最近の若者には珍しく熱心じゃの。名前は何と言うのかね?」

「シオンと言います」

「そうか。ではシオン君、またいずれ送魔線について熱く語ろうじゃないか!」

俺達は送魔線技師と別れ、アリオストの研究室を訪ねた………が、留守の様なので、結局探すことに……居場所は分かるんだが、どのみちジジィとエンカウントしなくちゃならなくなるわけだし。

道行く学生に聞いたら、図書室でアリオストを見たという。
眼鏡っ娘遭遇フラグですねありがとうございry


とりあえず図書室に向かうことに……。

んで、四階の図書室……エレベーターに乗って来ました。
しっかし、あるのは知っていたが……こんなファンタジーの世界に来てエレベーターに乗れるとはなぁ……冷蔵庫や電灯(魔力で動いてるんだから魔力灯か?)もあるんだから、エレベーターがあっても不思議じゃないのかも知れないが――なんか懐かしく感じちまうなぁ……。

「アリオストさん、どこかな?」

「アリオストってどんな奴なんだ?」

ルイセがキョロキョロとしている中、ゼノスが聞く。
俺は勿論知ってるが、会ったことのない俺が言える筈が無い。

「えっとね、水色っぽい色をした長髪で、眼鏡を着けたスラッとした体型の人だよ」

ゼノスの問いにティピが答える……そういうことは覚えてるんだな。

ドンッ。

「うぎゃ」

「っ!」

バサバサバサ……。

「ん?」

何やら話しを聞いていたら、カーマインに誰かがぶつかって来ていた。
……いや、誰かは分かり切っているんだが。

「ミーシャ!」

「イッタ〜イ……!」

ミーシャと呼ばれた少女が、頭を抑えて痛みを訴えている。

「大丈夫、ミーシャ?」

ルイセがミーシャを心配して気遣う。
しかし、ミーシャはルイセに気付いていない様だ。

「だいたい、何でこんなところに立って……」

ミーシャはカーマインに文句を言おうとするが……。

「……?俺の顔に何か着いてるか……?」

「!!……えっとぉ〜、あの……ごめんなさ〜い!」

ぴゅ〜〜んっ!

そんな擬音が似合う感じで図書室の奥に逃げていった……顔を赤くしながら……これが一目惚れという奴だな。

「ちょっと、ミーシャ!ごめんね、ちょっと待ってて!」

ルイセはミーシャを追っ掛けて行った。

「何と言うか……」

「にぎやかな娘だな……」

ゼノスとウォレスはそれぞれ、ミーシャに対する意見を述べる。

「彼女、カーマインを見て走って行ってしまったみたいだけど……何か顔に着いていたのかな?」

「……さっぱり分からないな……ラルフ、何か着いてる様に見えるか…?」

と、何故ミーシャが逃げて行ったのか分からない、ラルフとカーマインは互いに話し合っていた。

「この朴念仁兄弟め……」

ラルフ達を見て、俺は思わずそう呟いた。

「……それを貴方が言いますか?」

何故かカレンに恨めしそうに睨まれた。
上目使いでのその仕種は、結構来る物があったが……。

「何で俺に振るんだよ?」

「…知りません!」

プイッ!と、そっぽを向かれてしまった……何故に?

それから少し待つが……戻って来ない。

「ああもう!何してるのよあの二人は!こうなったら呼びに行くわよ!」

ティピが我慢を切らせてしまい、二人の様子を見に行くことになった。
まぁ、原作通りなら間違い無く妄想に浸ってるんだろうがな……。
やっぱりカーマインはモテるんだな……羨ましい限りだぜ……。




[7317] 第27話―ミーシャ大暴走!二人のお兄さま☆―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:f619fa38
Date: 2011/12/04 22:51


「……はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……はぁ〜〜………」

様子を伺うが……何やら息を整えてる様子。
とりあえず此処からはノンストップでお送りします。

「誰だろ、今の人……。この学院の人じゃないよね?…あぁ〜…素敵な人だったな………」

「……ミーシャ?」

「思い出したら、ドキドキしてきちゃった……。ひょっとして、これが恋かも……って、やっだ〜、ハッズカシィ〜!」

「ミーシャ?」

「でもでもぉ!これってリンゴの花だし……ってことはやっぱり?これって、運命!きゃ〜〜〜っ☆」

「……あの、ちょっとミーシャ?」

「チェッ!こんなことなら、せめて名前だけでも聞いておくんだったなぁ!」

「ミーシャってば!」

「きゃあっ!?……あー、びっくりした〜!………あら、ルイセちゃんじゃない。どうしたの?」

「それはこっちの台詞!呼び止めてるのに、走って行っちゃうんだもん!」

「……あ、ごめ〜ん、気づかなかった……それより、聞いて、聞いて!さっきね、すっごく素敵な人に会ったの!」

「へっ?」

「ちょうど角を曲がったときにぶつかっちゃってさ〜。これって、運命の出会いよね!……ああ、もう一度会いたいなぁ……」

「……あ、あのね……」


以上、妄想眼鏡っ娘と真面目で優しい親友の会話――でした。
とりあえず言えることは……妄想少女、恐るべし……。
思ってることが全部口から出てくるとは……。
某煩悩少年を彷彿とさせるな……。

つーかリンゴの花とか何処から出した!?
……突っ込みどころに困らん娘だわぁ……。

「恋する女の子って……皆、ああなるのか……?」

「そんなことは………無い…筈です……」

俺の疑問にカレンが答えるが……何故か徐々に自信なさ気になってくる……まあ、カレンも原作ではゼノスの絵を肌身離さず持っていたくらいだからな……今でも持ってんのかな?

「ちょっと、いつまで待たせるのよ!」

ティピが怒鳴り込んで行く……どうでも良いが、図書室って静かにするもんじゃないのか?

「っ!」

「あ、ごめんね、すぐ戻るから!」

とりあえず俺達はエレベーター前に戻ることにする。

「ルイセちゃんっ!!」

「きゃあっ!急に大声出さないでよ!」

「んなことは、どうでもいいの!―――誰、誰、だれ、彼っ?」

「もう、ちゃんと紹介してあげるから、こっちきて!」

「ルイセちゃんの知り合いなんて、ラッキ〜☆」

どうでも良いが、こっちまで漏れ聞こえてるぞ……図書室使ってる奴らから大顰蹙じゃね?

あ、こっち来た。

「紹介するね、こっちがウォレスさんとティピ、それからゼノスさんとカレンさんに、シオンさんとラルフさん。それと、うちのお兄ちゃん」

「カーマインだ……宜しくな」

そうミーシャに俺達を紹介して、俺達も自己紹介をするが……明らかにカーマインしか目に入ってないな。
もしかしたらカーマインの自己紹介しか聞こえていないのかもしれない。

「彼女は私の友達で……」

ガバッ!

おお?ルイセを押し退けて前に出た。

「ミーシャです!お兄さまと呼ばせてもらえますか!?」

「お、お兄さま……?」

カーマインは困惑している。
そりゃあ唐突にお兄さまじゃなぁ……。

「……ルイセちゃん。彼女って、いつもこう?」

「う〜ん、否定は出来ないけど……もうちょっと、まともだったような気が……」

実に酷い言われようだな……これがミーシャクオリティか。

「お兄さま……か。良かったじゃないかカーマイン?可愛い妹がもう一人増えて」

「茶化すなよラルフ……」

ピシッ!

あっ、ミーシャが固まった。
どうやらようやっとラルフを視界に入れたみたいだな。

「え、えええぇぇぇぇ〜〜っ!?お兄さまが二人ぃ〜〜〜!?」

いや、本当に今更だな。
恋する乙女は盲目らしいが……どうなんだかな。
てか五月蝿い。

「あ、あのねミーシャ」

ルイセがラルフとカーマインについて説明しようとするが……。

「こ、これは……いつも頑張ってる私に、神様がご褒美をくれたに違いないわ!!……右を向いてもお兄さま……左を向いてもお兄さま……あぁ〜♪幸せ……♪」

い、いや……それはどうなんだ?
つーか、神様がそんなに殊勝な奴なら、俺はこの世界に転生なんかしていない……って、趣旨が違うよな。
なんつーか、出会ったばかりなのにどんだけポジティブなんだよ。

「……良かったなラルフ、可愛い妹が出来て」

「あはは…さっきの仕返しかい?」

カーマインの返しにラルフが苦笑いを浮かべる。
もっとも、二人とも嫌がってるわけじゃないみたいだが。

「こんな運命があったなんて……クールな雰囲気のお兄さま……優しい雰囲気のお兄さま……正に両手に花?いや〜ん、ミーシャ困っちゃ〜〜う☆」

……とりあえず現実に引き戻してやるか。
でなきゃ話が進まん。

「ティピ〜♪ちょ〜〜っと良いかな?」

「ん?どうしたのシオンさん?」

この時の俺の背後には、某奈落の大佐が降臨なされたとか。

「……やっちゃいNA☆」

「……オッケ〜〜☆」

ティピは実に良い笑顔で答えてくれた。
やっぱりフラストレーションが溜まっていたのだろう。
この世界のカーマインは優秀だから蹴れないだろうしな。

標的はクネクネ身もだえながら、妄想を垂れ流している眼鏡っ娘。

「そんな♪駄目ですお兄さま〜〜♪そんな二人一緒になんて〜〜♪あ、でもでも!これじゃあ将来重婚なんてことに」

「見敵必殺っ!!ティピちゃあぁぁ〜〜〜んっ!キィィィィィィィッッック!!!!」

ドゲシッ!!

「ふぎゃっ!!」

ビッタァーンッ!!

あ、壁に顔面から突っ込んだ。

ズズズズズズ………。

しかも顔面を基点に、ズルズルと下がって行く……けし掛けた俺が言うことじゃないが……ぶ、無様だ……むしろ哀愁が漂うくらいに。
皆も何と言えば良いのか分からず、固まっている。
てか、眼鏡は大丈夫か?
顔面からモロだったけど……。

「ああ〜!快・感♪最初に蹴ったのがコイツを起こす時、そして次に蹴ったのが盗賊の下っ端……それ以来全く!蹴って無かったから……靴を磨いて待ってた甲斐があったわね☆ありがとうシオンさん♪」

ティピは大変満足そうだ……笑顔がキラキラ輝いている。
此処まで喜んでくれると良いことをした様で気持ち良いな。

「どう致しまして。良かったな、ティピ」

俺もティピに答える様に、満面の笑みで返す。

「ぜ、全然良くないぃ〜………」

ペタン。

と、顔面から地に着いたミーシャが呻く様に言う。
しかもケツが上を向く感じで。
形にしたら↓の感じだ。

_∧。

何と言うか本来なら、かなりけしからん体勢だが、状況が状況だけに、笑いと哀愁しか湧いてこない……申し訳なく思う気持ちは勿論あるのだが。

「だ、大丈夫、ミーシャ!?」

「い、痛いよぅルイセちゃん…」

ようやっと思考が起動を開始したルイセが、慌ててミーシャを助け起こす。
ミーシャは鼻とオデコが真っ赤になっている……眼鏡は壊れて無いんだな……鼻に掛ける様な小さいサイズだからか?

「しかし、これでやっと話せるな……計算通り」

ニヤッ……と、邪悪な笑みを浮かべる俺。

「も、もしや全て計算づくか?お、恐ろしい奴……」

ゼノスが顔をひくつかせながら、ズサッ!と後退る。
俺とティピに抗議しようとしたルイセも、それを見て涙目になってしまう。
……て、そんなにアレだったか?

「なぁ、そんなに怖かったか?」

俺は手近に居るカレンに聞く。

「は、ハイ……その、ドキドキしてしまいました……(何故かしら……あの冷たい感じのシオンさんも……良いかも……)」

……そんなにか。
やべぇ、少し凹む。
てか、計算通りとか言う奴って……頭脳は優れていても大概は迂闊者やん。
反逆の黒の皇子しかり、新世界の神を気取ったムーンさんしかり。

こうして、なんとかラルフのことを説明出来た……が、なんか恐ろしく長く感じた……これがミーシャクオリティか……。

「つまり……ラルフお兄さまはルイセちゃんのお兄さまじゃないけど、カーマインお兄さまのお兄さまで、カーマインお兄さまはルイセちゃんのお兄さまなんだね!」

言ってることは確かに合ってるんだが……非常に分かりにくいのは何故だ……答えは簡単。
それはシンプルな答え……お前はお兄さまと言い過ぎた。
てか、カーマインとラルフにお兄さまと付けるのは、既にデフォらしいな。

「う〜〜ん……どうなんだろう?ラルフさんはお兄ちゃんのお兄ちゃんだから……私にとってもお兄ちゃんに……なるのかなぁ??」

「僕はルイセちゃんのこと、妹みたいだって思ってるよ?」

素で返すラルフ……ルイセが照れてる。
微笑ましいなぁ……それを見てさりげなく微笑むカーマインも流石だ。

「そういえば、ルイセちゃんはお母さんのところで実習してたんじゃなかったの?」

「う〜ん、ちょっと用事でね」

ルイセは、心配掛けたくないんだろうな…。
詳しい事情は説明しない。

「用事?なあに?」

「ねぇ、ねぇ。アリオストさんって、知ってる?」

「アリオスト先輩?さっき研究室の入り口でぶつかったけど……」

「ぶつかった?」

何故か、気まずそうに眼を反らすミーシャの反応に、ウォレスが疑問を尋ねた。

「あは…あはは……」

返って来たのは渇いた笑いだった…。

「それじゃ、アリオストさんは今、研究室に居るの?」

「擦れ違いになった、ということでしょうか?」

ルイセはミーシャに聞き、カレンは疑問を口にした。
何しろ今さっきアリオストの研究室に寄ったばかりだしな。

「ううん。なんだか急いでフェザリアンの遺跡へ向かったけど……」

「南の?」

「そう。南の遺跡。『あれがあれば、完成するんだ』とか、興奮してたけど……」

アレ……飛行機械に取り付ける奴か。

「急げば遺跡の中で会えそうだね」

「ルイセちゃんたちも行くの?」

「うん。またね、ミーシャ」

「うん、またね!本当は一緒に行きたいけど、今、急いでるから。気をつけてねぇ」

さて……いよいよあのジジィと御対面ってわけか……ミーシャを通じて俺達のことは筒抜けだろうし、お目通り願うとしますか。

……と、その前に。

俺はミーシャの対面にしゃがみ込み、書類を集めだす。

「ふぇ?」

「手伝うよ。急がないと怒られるんだろ?」

原作をプレイしてて思ったことなんだが……書類拾うのを、手伝ってやれば良かったのにな〜……と。

「いやぁ、そんな悪いですよ〜」

「さっきティピをけし掛けちまったしな……そのお詫びってことで」

俺はわざとらしく、ウィンクなんぞをしてみた。
おどけて見せれば、少しは落ち着いてくれるかと思ってそうしたんだが……。

「は、はい!じゃあ、お願いしますっ!」

何故か更にテンションが上がってしまった……何故?

「……あたしはお兄さま一筋……あたしはお兄さま一筋……アレ?でもお兄さまは二人いるから一筋じゃない?う〜ん……でも、お兄さま達に負けず劣らず……格好良いかも〜♪でで、でも運命の人はお兄さまで、これは白薔薇だもん!だから――」

なんか、色々悩んでるみたいだな。
ラルフとカーマイン……二人同時に現れたわけだしな。
悩め少女よ……それも青春だ。



……ん?

ふと見ると、カレンがしゃがみ込んで、同じく書類整理を手伝い始めた。

「わ・た・し・も!手伝います。良いですよね♪」

「ん?サンキュ♪助かる」

カレンがやる気を出してくれてる。
皆も手伝ってくれりゃ良かったのに……何故かこっちに近づいて来ない。
なんだか怯えてるみたいだが……何故に?




[7317] 第28話―学院長(クソヒゲ)との邂逅―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/04 23:02


――んで、俺達は学院長に遺跡に立ち入る許可を貰いに行ったが……不在だった。
ちなみに、学院長の秘書は原作でも言われている通り、かなりの美人だった。

「どうしたのアンタ?鼻の下伸びてるわよ?」

ティピがカーマインをからかうが、カーマインは何処吹く風。

「そんなことは無い……というか、そういうことは俺じゃなくゼノスに言え」

「な、なんで俺に振りやがるっ!?」

そりゃ、あんだけガン見してりゃあな……当然だろ?

「ゼノスさんってば……実は結構……♪」

「あのな、あんだけの美人だ。多少なりとも興味が沸くのが男ってもんだ!な、シオン?」

ここで俺に振るか?
まあ、良いけど。

「そりゃあな?ガン見したりはしないが、美人がいるなら、男としては――何となく気になりはするけど」

あくまで、俺の基準の話だから参考にはならないだろうが。

「……つまり私は美人じゃないと?」

カレンが何故かどよーんとしながら聞いてくる。皆は何故か怯えてるみたいだが……何故に?。

「?なんでそうなるんだ?カレンだって美人じゃないか」

俺にしてみれば何を今更って感じだが、カレンは目を丸くしている。

「……え……だって……」

「さっきのはあくまでも例えだ。カレンが美人じゃないなんて一言も言ってないぞ?」

「それじゃあ……その……」

カレンがモジモジしている……ヤバイ……なんかクるモノがあるな。

「まぁ、カレンだって綺麗で可愛いんだし、気にすることないさ。少なくとも俺はそう思ってるし」

「は、ハイ……ありがとう……ございます」

カレンは真っ赤になりながら俯いた。
ん〜、なんか悪いこと言ったか俺?

「どうした?何をごちゃごちゃ言ってるんだ?」

「あのね、受付の女の人があんまりきれいだったから、ちょっと……」

確かにこの人も綺麗だ。ゼノスが、ガン見するのも分かる気がする。
カレンとはまた違ったベクトルの綺麗さなんだよな。
カレンはなんつーか、癒し系だからな。

「ほほぅ、そんなにきれいなのか!くそっ!目が見えりゃあなぁ……」

「本当よ!赤くて綺麗なピアスが似合ってて、もう凄くセクシー」

本気で悔しがるウォレスに、ティピが秘書の特徴を説明してやっている。
そう、所謂クールビューティって奴だ。
何と言うか……サンドラ様が彼女と近い感じだが、もう少しクール度を強めた感じ……だろうか?
というか、応対が全部無表情……とは言え、感情が無いわけじゃない。
原作で狸ジジィを先に倒すと、仇を討とうと気合いを入れるし……。
つーか、原作じゃ分からなかったが……この秘書さんも胸がデカイ……ミーシャもそうだったし……あの狸ジジィの趣味か?

「ほほぅ、もう少し詳しく教えてくれ……」

喰いついた……ウォレスも結構好きなんだな……もしかして、目が見えてたら温泉イベントにも参加してた……無いか。
これは秘書が綺麗だって言うから興味が沸いたんだろうし……冷静に考えたら、眼の保養ということがウォレスには出来ないんだよな……ふむ、魔法の眼の改良を計画してみるか……。

「えっとね、ピアスはルビーのティアドロップだよ。で、口紅の色がね〜……」

「申し訳ありませんが、用が無いのでしたら、お引き取り願えますか」

ぐだぐだ言ってる俺達を、バッサリと切り捨てる様に言う秘書さん。
仕方ない、ウォレスには後で、俺が補足をしておいてやろう。

「あ、あの……院長先生はいらっしゃいますか?」

「学院長は、今、屋上の方にいます」

「屋上ですか……」

「はい。時空の歪み計を見に行っているのです」

ルイセは怖ず怖ずと狸ジジィの居場所を尋ねる……そういや、屋上がファーストコンタクトだったよな。

んで、屋上に来た訳だが……居たよ狸ジジィが。

「学院長先生!」

「おお、ルイセ君。どうしたのかね?」

「実は学院長先生を探しに来たんです」

「ワシをか?ならば詳しい話は部屋で聞こう。ワシは先に戻っているぞ」

こうして狸ジジィ……マクスウェル学院長は部屋に戻って行った。
……なまじ原作を知ってるだけに、あのジジィの態度が白々しく感じるぜ……。

と……ティピが眼の前にある機械に興味を示した。
「何、これ?」

「これはね、時空の歪みを測定するための装置だよ。エレベーターの上にあるセンサーが捕らえた歪みをここで記録しているんだ」

「時空の歪み?」

ティピは時空の歪みとは何か、疑問に感じたらしい。
似たような説明は今までにも受けて来た筈なんだが……学院の教授さんは親切に答えてくれた。

「我々の世界は、無理矢理2つの時空を重ねることで成り立っている。つまり非常に不自然な世界なのだよ。この2つの時空が離れるということは我々にとって死活問題だ。だから観測を怠るわけにはいかないのだよ」

「もし、2つの時空が離れたらどうなるの?」

ティピが当然の疑問を口にする。
まぁ、答えは簡単なんだがな。

「元の世界へ戻ることになるだろうな。だが元の世界は、太陽が異常をきたしたため、死の世界となってしまった」

正確にはⅢのラスボスが暗躍してたせいなんだがな……。
ちなみにソイツは、俺と名前が同じだったりする。
髪の毛の色も似ているが、当方は一切関係ございません。

「死の世界に帰るってこと!?」

「そうなるな。その兆候が起きないか、常に監視しておるのだよ」

「うひゃ〜、そんなに大切な物だったんだ!おじちゃん頑張ってね!」

ティピが教授にエールを送る。
だが、実際……元の世界に戻っても、太陽の異常はとっくに解決されている……なので、ほとんど無問題なんだがな。
もっとも、カーマインやラルフはその限りじゃないんだが……。

そんな訳で、絶対に時空分離だけはさせてはならない。

んで、再び学院長室前。
ようやっと許可証が手に入る。
秘書さんに話し、中に入れさせてもらいました。

「おお、来たな。で、ワシに用とは、何かな?」

「実は、南の遺跡に入る許可をいただきたいのです」

「南の遺跡?最近流行っておるのか?今日はもう1人、許可を取りに来たやつがおってな。知っているじゃろ。アリオスト君じゃ」

「やった!やっぱりそこだったんだ!実はアリオストさんを探してたんだ」

「ん?こ、これは……」

ガシッ!

「きゃっ!」

マクスウェル学院長がティピを掴み取る。

「……ふむ、ふむ!」

「何すんのよ!放せ、バカ、エロじじい!!」

学院長は興奮気味にティピをじっくりと観察する。

「ほぉ〜、良くできたホムンクルスじゃ。これは、やはり……」

「はい。お母さんの作です」

「サンドラ殿のか。さすが良くできておる」

頷きながら感心する学院長……駄目だ。
やっぱり白々しく聞こえる……顔には出してないが、嫌悪感が拭いきれねぇ……。

「いい加減はなせぇ〜っ!」

「思い出すのぉ、彼女がまだ学生だった頃を」

「テ…ィ…ピ…ちゃ…ん……キーーーック!!」

ドゲシッ!!

「ほげっ!!」

おっ、良い角度で蹴りが顔面に入ったみたいだな。
へっ、ざまぁ。

「ティピ、ナイスキックだ!」

俺はティピにサムズアップしてやる。
するとティピも、それにサムズアップして答えてくれる。

「当〜〜然っ!乙女を鷲掴みにした罰なんだから!というわけで、さっさと許可証を出しなさいよ!」

「バカ!さっさとあやまれ!」

ウォレスが諌めるが、謝る必要はないだろ?

「そんな必要ないだろ。大体、ティピを物みたいに扱うのが、そもそも間違いだと思うが?幾ら造られたと言ったって、命は命だ。ティピは生きているんだからな」

サンドラ様が創造したホムンクルスなのは分かる……分かるが、まるで物みたいに扱ったり、誰々の作だとか言う言い回しは気にいらねぇ……。

「いやいや、君の言う通りじゃな。年甲斐も無く興奮してしまった様じゃ……ほれ、許可証じゃ」

苦笑いを浮かべながら許可証を渡してくる。
俺はそれを受け取った。

「すみませんでした、院長先生!」

ルイセはティピのしたことについて謝る。

「よいよい、ワシの方に非があるのじゃから、気にせんように。早くアリオスト君のところへ行ってやりたまえ」

俺達はその場を後にした……たく、あのジジィ白々し過ぎだ。
1ミクロンもそんなこと思ってないくせによ……。

「ったく、ヒドイ目にあったわ!」

外に出てから、ティピは先程のことについて憤慨する。

「学院長って、どんな人なんだ?」

「マクスウェル学院長?悪い人じゃないんだけど、ちょっと研究熱心っていうか……」

「研究熱心というより、変態っぽかったぜ……アレは」

「何と言うか……集中すると周りが見えなくなるタイプだね」

それぞれが意見を述べている。順番はウォレス、ルイセ、ゼノス、ラルフだ。


「で、どんな研究をしているんだ?」

「いろいろ手広く研究してきたみたいだけど、メインは『グローシュと通常魔力の差違について』だったかな……」

「ふ〜ん、グローシュねぇ……ルイセちゃんも研究材料にされないよう、注意しなきゃね!」

「えっ!?」

ティピの言葉にルイセは衝撃を受ける……将来的には当たることなだけに……笑えねぇ……。

「さっきのアタシみたく捕まって、あんな事やこんな事……」

「……うぅ……」

「おまけにそんな事までされちゃったり……うわ〜、悲惨よね〜」

「…うぅぅ…………」

うわ……ルイセ涙目だよ……なんつーか、嗜虐心が擽られるのは分かるが……些かやり過ぎ感が漂う。

「おい、ルイセ泣きそうになってるぞ?」

「大丈夫ですよルイセちゃん。そんなことされる訳無いじゃないですか」

ウォレスが指摘して、カレンが慰めている……ルイセも幾分涙目が治まってきたようだ。

「う…うん……」

「それにしても、アンタ、本当に泣き虫ね〜」

「……うっ……」

ティピにバッサリと言葉で切り捨てられ、再び涙目になるルイセ。

「まぁ、実際用心しておくに越したことは無いけどな。……あの手のタイプは腹に一物持ってるのがお約束だし、な」

「……偉く辛辣だね?僕にはそんな人に見えなかったけど」

ラルフがそんなことを言う。
しかし原作をプレイした俺だからこそ、言えることだが……アレは相当の狸だ。
断言しても良い。

「あくまでも用心に、だよ。杞憂ならそれに越したことはない」

「……うぅぅぅ……」

あ、やべぇ……ルイセ本格的に泣きそう……。

「……大丈夫だルイセ、仮に何かあったとしても、俺が守ってやる」

カーマインがルイセの頭を撫でながら、力強く言ってやる。

「お兄ちゃん……うん!」

一気に明るくなったよ……流石お兄ちゃんLOVE……。

「どうでも良いが、俺もグローシアンなんだが……どうなんだその辺?」

「シオンさんは……仮に捕まっても自力で逃げ出しそうなイメージね。ていうか、相手返り討ちでしょ?」

ティピがそんなことを言う……そんなイメージだったのか。
まぁ、概ね合っているんだが。

「……それと、さ。さっきはありがとね」

「?さっきって?」

「ホラ、あの学院長にアタシのことを怒ってくれたじゃない。なんか、本気で怒ってくれた感じだったから……その、嬉しくてさ」

あぁ…アレか。

「俺は思ったことを言っただけ。だからあまり気にすんなよ?そのお礼の気持ちだけ、受け取っておくさ」

「う、うん!」

うむ、ナイス笑顔!若干顔が赤いが。

「……むぅ〜〜」

カレン……何故むくれているよ?

********

おまけ♪

「髪は金髪のセミロングで、ティピの言っていた様に赤いピアスをしていてな……見た目はクールな美人で、しかも胸がデカい。目測だが、90はあるんじゃないか?」

「成る程な……それから?」

「後は……」

「なぁ、シオンとウォレスは何をやってるんだ?」

「さっきの学院長の秘書についての詳細を教えてるんだとよ」

外野(カーマインとゼノス)が五月蝿いが、気にしない様にしよう。

「………(……シオンさんのバカ!私だって…胸なら……)………」

………何故か、カレンからの視線がめがっさ痛いが……気にしない様にしよう。
それから俺は約10分近く、ウォレスに学院長秘書の詳細を語ってあげたのだった。




[7317] 第29話―南の遺跡、天才学者アリオストとの出会い―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/04 23:14


俺達は一路、南のフェザリアン遺跡を目指す。

そしてフェザリアン遺跡に到着、番兵をしている男に許可証を提示。
中に入ることに成功する。

「へぇ、ここがフェザリアンの遺跡なんだ。ルイセちゃん、案内してよ」

「ゴメンね。わたしも入ったのは初めてなの」

ティピがルイセに提案するが、入ったことが無ければ案内のしようがないよな。

「本当にゴメンね。でも授業で少し習ったから、何かあったら説明くらいは出来るかも……」

「うん、期待してる!さ、アリオストさんを探そ!」

ちなみに、原作ゲームと内部構造が同じなら、俺にも案内くらいは出来るが、必ずしも同じとは限らない。
むしろ原作は省略している部分があるからな……ゼノスの家なんかが良い例だろう。

まぁ、仮に原作と同じでも、内部に入れない筈の俺が内部構造を説明したら怪し過ぎるから、説明しないけどな。

それから、アリオストの捜索が始まった。
結論から言えば、遺跡の構造は原作に近かった。
近いと言うのは、部屋数などは変わらないんだが、規模が違うからなんだ。

ハッキリ言ってこっちの方が広い。
そしてモンスターが多い!
ゴーレムやスケルトンなんかの、生きているタイプじゃないモンスターが多かったため、俺としてはありがたかったが。
遠慮せずに叩きのめせるからな。

まぁ、この面子相手では、所詮は烏合の衆……蹴散らしながら奥まで進みましたともさ。

道中、ルイセとカレンに簡単な魔法講座をしながら進みましたが。

この遺跡にはウィル・オー・ウィスプというモンスターがいまして、こいつが通常攻撃をほとんど受け付けない。
まぁ、俺、ラルフ、カーマイン、ゼノス、ウォレス辺りは力押しでどうにか出来ちゃうんだが、ルイセとカレンはそうはいかない。

「もし現れたら、二人は魔法で攻撃する様にな?もしくは補助魔法とかで援護な」

俺がそう言うと、二人とも素直に頷いてくれた。
うん、いい子だ。

んで、話を戻すが……俺達は奥まで来たわけだ。
だが……。

「ん?殺気がする……」

ウォレスが殺気を感じたらしい……かくいう俺達もそんな空気を感じたわけなんだが……。
見ると、アリオストが部屋の隅まで追い詰められていた。
……あれがアリオストか……初めて見たが本当に美形だな。
カーマインやラルフに引けを取らないんじゃないか?
……なんでミーシャは靡かなかったんだ??
激しく謎だ……。

「くっ!ここまで来て……このままじゃ、こっちの命が危ないぞ……」

追い詰められながらも、冷静に状況を分析している……なんつーか流石だな。

「アリオストさん!」

「はっ!ルイセ君?」

「ああ、アリオストさんが危ないよ!」

ティピが焦りを現にする。

「せっかくここまで来て、死なれちまったら元も子もない。助けよう!」

「そうだな……待ってろ、今助ける…!」

ウォレスとカーマインも気合いを入れる。

「すまない!」

「気にすんな!すぐに済ますからよ!」

「そういうことです。だから待っていて下さい」

礼を述べるアリオストに、ゼノスとラルフも答える。
うし、オッサンも気合いを入れるとしますかね!

「さ〜て、一丁行きますかっ!!」

俺のその言葉を皮切りに戦闘が始まった。

「シオン!アリオストの護衛に着いてくれ!アンタが1番足が早い!」

カーマインから俺に指示が飛ぶ。
ん?
俺が指示しないのかって?
このパーティーのリーダーはあくまでもカーマインだ。
まぁ、時々俺が指示を取ることはあるが……基本はカーマインに任せている。
というより任せる様にした。
これから騎士になる奴が、指示の一つも出来ないのでは話しにならないだろ?

「了解!」

俺は敵の間を縫う様に駆け抜ける。
その際に敵を切り捨てるのも忘れない。
――そして瞬時にアリオストの前へ。

「お待たせ。後は任せな」

「すまない、助かるよ」

とりあえずこれでアリオストの安全は確保っと……アリオストに近付く敵は切り倒したし、俺はここで固定砲台しますかね。

「マジックフェアリー!」

俺は高速詠唱にて一瞬で魔法を展開、そして放つ。

【マジックフェアリー】

意味は魔法の妖精……まんまだな。
これはマジックアローのアレンジの一つで、追尾性をより追求したマジックアローだ。
分かりやすく言えば、ガ○ダ○シリーズに出てくる、ビットやファンネルみたいな物……正確に言うなら、ファンネルミサイルが近い表現だな……ちなみに俺はペーネロペー派。

威力自体は通常のマジックアローと大差無いが、それぞれに不規則な動きが可能であり、己の意思一つで、別々の軌道を取ることが可能。
乱戦には非常に適した魔法と言える。
ただ、この魔法を使いこなすには高い空間把握能力が必要であり、魔力の消費量もマジックアローより多い。
後は、ついつい『そこぉっ!』とか、『見えるっ!』とか言ってしまいそうになるのが欠点か。


魔力の妖精達は寸分違わずに敵を駆逐していった。

「それは……マジックアローかい?凄いな、初歩の魔法でこんなことが出来るなんて……」

「ま、そのアレンジなんだけどな?完成している物も、研究次第では応用が利くということさ」

アリオストが素直に感心してくれる。
詠唱は聞き取れなくても、頭上に展開した魔法陣は似たような物だしな。ネーミングセンスも安直だし。
ちなみに、フェアリーの形はまんまマジックアローのままでは芸がないので、蝶の様な羽みたいなものを形作っています。

……当初、ニ○デ○ハピ○スとか付けようかとも思ったが、流石に自蝶しておきました。
色、黒くないしね。

俺はそこで蝶砲台と化してた訳だが。

「1つ忠告がある。この部屋には色の違う床があるだろ?」

「この床が腐ってしまっている部分ですか?」

アリオストの言葉にカレンが答える。
ちなみにカレンはマジックアローで迎撃し、近付いて来た敵には魔法瓶を投げ付けていた。

魔法瓶とは、魔法の込められたカプセル状の瓶で、投げ付けて使用する。そうすると込められた魔法の力が炸裂する訳だ。
なお、原作では永続装備だったが、ここでは消耗品になっており、幾つかセットになっている。
まぁ、手榴弾や火炎瓶みたいな扱いと思ってくれて良い。
しかし、この魔法瓶を作れる者は少なく、ほとんど売っていない。
あと十数個くらいは残ってるみたいだが……一応俺が作れるし……今度、作ってやるかな?
もしくは闘技場で手に入れたアレを渡すか?

「腐った床がどうかしたのか?」

「そこだけは踏まないことだ。この塔のエネルギーがもれているらしくて、定期的に放電する」

「放電!?」

「そういうことは……先に言えってん……だ!!」

斬っ!!

ウォレスの疑問にアリオストが応え、ゼノスは悪態をつきながらも、襲って来たゴーレムを一刀両断にした。
流石だな。

その後、俺達はアリオストの忠告通りに、腐った床を避けながら戦った。
結果は言わずもがな。

俺はアリオストの近くで砲台と化し、近付く奴は切り倒す。
アリオストもアリオストで、剣を駆使して戦った。
アリオストって、剣筋は決して悪く無いんだよな。

カレンはさっき説明した通り。
ルイセも魔法を主体に戦った。
マジックアロー、時にはファイアーボールなんかを使いながら。
ラルフ、カーマイン、ゼノス、ウォレスは前衛で獅子奮迅の戦いぶりを披露した。
ラルフは、俺を抜かせば、このパーティー1の実力者である。
伊達にマスタークラスを制覇してはいない。
カーマインやゼノスは次点と言ったところか。
しかしその実力が半端ねぇのは確かだ。
ウォレスは腕が鈍っているらしいが、その戦闘経験は他の追随を許さず、何の問題も無く戦っていた。

「はっ!」

ガシュ!!

「GUGAAAAA……」

カーマインが最後に残った敵……アイアンゴーレムを切り捨てたところで戦闘は終了。
楽勝だな……この面子なら当然だが。

「やったぁ☆」

ティピが勝鬨?の声をあげた。

「大丈夫ですか、アリオストさん?」

「ふぅっ、助かったよ。ありがとう」

ルイセが心配して声を掛け、アリオストはため息をつきながらも、礼を述べた。

「よかったな。だが、どうしてこんな所へ一人で来たんだ?」

「それはこの奥にある物のためさ」

「この奥に……それは一体なんなんだ?」

カーマインが疑問を口にする。
アリオストは見た方が早いと言って、先に奥に向かった。
俺達はそれを追った……するとそこには……。

「すごい数の本……」

そう、魔法学院の図書室と同じくらいの蔵書がそこにはあった。

「これは……この遺跡に昔からある本なのか……凄いなぁ……これだけの数が風化せずに残っているだなんて……」

ラルフは偉く感動している。
まぁ、確かに分からなくはない。
紙ってのは劣化しやすいからな……案外この遺跡に、保存状態を維持する魔法か何かが、掛けられているのかも知れないな。

「何が書いてあるのかな?ね、ルイセちゃん、読んで☆」

「うん」

ティピの無茶振りに、ルイセは気を引き締めて頷く。
古代の遺物に触れるんだ……厳かな気分になるのも当然か。
……まぁ、オチは知ってるんだがな。

「……う…」

「?」

「…えっと、…あの……うぅ……」

「どうしたの、ルイセちゃん?」

ルイセの反応にティピが首を傾げる。

「……う〜…………」

「何、涙ぐんでるのよ!?そんなに怖いことが書いてあるの?」

「……読めない……」

ルイセが泣きそうな声でそう言う。

「はははっ、彼らの文字だからね。読むのは至難の業だよ。それにあまり利益はないと思う」

「?どういうことだよ、そりゃ?」

ゼノスが疑問に思ってアリオストに聞いた。

「なぜなら、彼らの本のほとんどは倫理について書かれた物だからね」

「倫…理?」

「嘘をつかないようにしよう。他人に迷惑をかけないようにしよう。要するに、生きていく上で必要なルールのことだな。もっとも、倫理感なんて人それぞれだけどな」

俺はアリオストの言葉を継いで説明してやる。
実際、俺にも俺の倫理感があるしな。

「なるほどな。知識が眠る場所というわりには、簡単に入る許可を出すと思ったぜ」

「倫理について……なんて読まれても困りはしないからな……」

ウォレスとカーマインは納得顔で頷く。

「だけど、僕の目指す物は書物ではない。こっちだ」

俺達はアリオストの後に着いていく……するとそこには用途不明の機械の山があった。

「うわ〜、すごいガラクタ……」

確かに価値が分からない奴には、ガラクタにしか見えないだろうが……。

「……これじゃない……これも違う……確かここにあった筈なんだが……」

「何を探しているんですか?」

「……ああ。僕が空を飛ぶ研究をしているのは知っているね?」

「はい。確か空に浮かぶ板の実験をしているところを何度か……」

空を飛ぶ板……と、聞くとエ○レカセブ○のリフボードが思い浮かぶよな?
俺だけか?

「過去、人間を支配していたグローシアンは空飛ぶ塔を持っていた。元々はフェザリアンから得た技術だそうだけどね。だが、彼らが消えたと同時に、その空飛ぶ塔も見られなくなったそうだ」

「でもそれは伝承で、正式な記録は残ってなかったはずでは……」

「そうだよ。もし彼らがその技術を残していてくれれば、僕の研究も楽だったのにね」

ルイセとアリオストの会話が続いている……実際に塔は存在するが、場所はラスボスしか知らない。

俺達はアリオストが最初に作った飛行円盤の欠点を聞いた。
曰く、浮かぶことは出来るが飛べはしない。
移動するには風の力に頼るしかないと。
アリオストはフェザーランドを目指してるからな…その円盤じゃ、ちと頼りないな。
その後、アリオストは捜し物を発見した。
推進機みたいだな。





[7317] 第30話―いざ、フェザーランドへ!―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/04 23:27


「それは……推進器か?」

俺はそのパーツの正体を言う。
まぁ、原作知識として知っていたし、パーツの形がいかにもな形だからな……確か、光の翼みたいなのを展開し、反重力力場らしきものを形成して飛んでた様に見えたんだが……。

「そうだよ、よく分かったね?この推進器を僕の飛行装置に取り付ければ、向かい風にだって進んでいけるよ」

「よかったな。これで俺達の目的も果たせるってわけだ」

「目的?」

ウォレスの言葉に、アリオストはクエスチョンマークを浮かべる。
その辺は説明しなければなるまい。

「実は、お母さんが今までに見たこともない毒を受けて、フェザリアンの住む所に解毒剤を取りに行かなくてはならなくなったの。……それで…その……、…早くしないと…お母さん……うぅ……」

「また、この娘は!すぐ泣くんだからぁ!」

ティピはそう言うが、実の母親が未知の毒に苦しんでるのだ……カーマインくらいの歳の男子ならともかく、ルイセくらいの歳の女の子にはショックが強すぎる筈。
元来、泣きやすいタイプなのかも知れないが……それでも、親友のミーシャの前では気丈に振る舞っていたんだから……むしろ、たいしたものだと思うよ。

「まぁ、正確には半年の猶予があるわけだが……喰らった毒ってのが未知過ぎる毒だからな……何がどう転ぶか分かったもんじゃねぇ……だからこそ、藁にも縋る気持ちでフェザリアンを頼ることにしたわけなんだが……」

俺はルイセに続いて説明する。
アリオストは少し考え込む。

「確かに僕達より科学や薬学に精通した彼らならば、治療法を知っているかもしれない……わかった。僕の飛行装置で連れていってあげよう。助けてもらったお礼だ」

「よかったね、ルイセちゃん」

「これで希望が見えて来ましたね」

「うん!」

ラルフとカレンがルイセを慰める。
ルイセは涙目になりながらも強く頷いた。

「一度、僕の研究室に寄ってくれ。そこでこの装置を組み込むから」

俺達は一旦アリオストの研究室に向かうことになった。
道中の敵は駆逐してきたし、たいした距離ではないので歩きでございます。

そして、アリオストの研究室。

「ちょっと待っててくれ。今、飛行装置に推進器を組み込むから」

そう言うと、アリオストは一つの機械を奥から持ってきて、作業台の上に置く。

……ふむ、あれがそうか。
成る程、背負う様な形になるわけだな。

「ふ〜ん。それがあれば空を飛べるの?……って、アタシは飛んでるけどね」

「動力は水晶のエネルギーを使う。この中に浮遊円盤を6枚格納していてね、それが力場を形成することで、この装置を浮かせることが出来る」

ティピの疑問に、アリオストはすらっと答える。
なんと言うか、講師みたいだな。

「エネルギーの量を調整すれば、高さを自在に変えることが出来るんだけど、さっきも話した通り、風任せで流されるしかないんだ」

「そこでその推進器ってのが必要になるのか」

ゼノスが推進器の必要性を確認し、アリオストが肯定する。

「そう。それほど力があるわけじゃないから、船や馬車を進ませたりは出来ないけどね。しかし、既に宙に浮いているものなら、比較的小さな力で移動させることが出来る。この小さな推進器でも十分なんだ」

「成る程……理に適っているな」

要するに、ホバークラフトの要領だな。
あれは地上や水上から浮かせることにより、プロペラの様な推進力で前に進む為の物だが、推進力自体はプロペラだったりするから、地に着いてたら当然進まないわけで。

何でそんなことを知ってるかって?
実は転生前の幼少時代に、ホバークラフトのラジコンを持っていてな……懐かしいぜ。

「ねぇ、ねぇ。難しい話はいいからさぁ。まだかかるの?」

「ああ、もうちょっと……ここをつなげば…………よし、完成だ!」

「おめでとうございます、アリオストさん!」

「これでマスターが助かるんだね?」

「うん!」

ルイセはアリオストの研究の完成を素直に労い、ティピと共にサンドラ様の治療に希望が見えて来たことを喜んだ……今からそれが不安に塗り潰されるんだよなぁ……もっとも、あれは原作のことだから、同じミスをアリオストがしているかは分からない……なので、やってみるまでは指摘するのは憚られるなぁ……。

「さて、まずは試運転を……」

「ワクワクするね!」

「うん!」

「何と言うか、世紀の瞬間に立ち会う気分ですね♪」

「装置を動かしたら、そのまま飛んでったりしてな?」

「それは大丈夫だと思いますけど……そうなったら笑えませんね」

上からルイセ、ティピ、カレン、ゼノス、ラルフになっている。
カーマインとウォレスも口には出さないが、内心は皆さん同じだろう。
期待に胸を膨らませている。

……俺?
俺は原作知識のせいでオチが読めてる部分があるので……どうかオチがありませんように。

カチッ!

アリオストが装置を起動させた……すると、装置が展開し……半透明な、黒い光の羽の様な物が現れ、そこから発生する力場が部屋をミシミシと軋ませた……。
――って、やっぱりこのオチかよ……。

「お、おい、これでいいのかよ!?」

お、ウォレスが焦ってる……珍しいな。

ミシッ!ミシミシッ!!

部屋の軋む音が益々酷くなる……放置してたら壊れるんじゃね?
部屋も装置も。

「きゃあっ!お兄ちゃ〜ん!」

ルイセはその恐怖から、カーマインに抱き着く。
ラッキースケベですねわかりま

「シオンさんっ!!」

す…って俺ぇぇぇええぇぇ!!?

ハイ、俺にカレンが抱き着いてますね本当にありがとうございます。

ゴメンなカーマイン……なんか、俺も人のことは言えないみたいだわ……。
カーマインはルイセを、俺はカレンを慰める。
……ちなみにその時のゼノスの様子を見ると、こっちに向けてサムズアップして、いかにも『グッジョブ!』って感じの笑顔を向けてきてやがった。
シスコン兄貴ぶりは何処へいきやがった?
とか、何に対して、誰に対してGJなのか……とか、色々突っ込みたい所だが……先ずはこの状況をなんとかするか。

「なぁ、もしかして回路の接続を間違ってないか?」

俺はアリオストにそう尋ねてみた。

「え?ああ、しまった!」

カチッ!

アリオストはスイッチを切った。

プシュン……という感じで機械が止まる。

「ごめん、ごめん。君の言う通り、回路を逆につないでいたよ…………ほら、これでもう大丈夫」

アリオストは回路を繋ぎ直し、今度こそ平気だとアピールした。

「だ、大丈夫って……」

皆が懐疑的な眼差しをアリオストに向ける……かくいう俺も。
原作知識があっても、幾ら本当に大丈夫だと分かっていても、あんなのを見せられたら、若干不安になるのは仕方ないだろう?

「本番では大丈夫だよ。心配いらないって」

「……う〜……」

アリオストはニコヤカに告げるが、ルイセはカーマインに抱き着いたまま涙目だ。
俺に抱き着いているカレンも、涙目にこそなっていないものの、若干震えている。

「ま、とにかく、西の岬に行こうか……と、その前に村に寄っていいかな?」

「村?どこの村だ?」

「ブローニュ村。僕の生まれ育った村だよ。ここからすぐ西に行ったところだし、通り道だから。そこに寄って欲しいんだ」

まぁ、確かに近いからな。
俺達はアリオストの研究室を後にして、ブローニュ村に向かった。
また近いからテレポートの出番は無し。

**********

そんな訳で、さしたる障害もなく、ブローニュ村に着いた。
道中、インプという小悪魔タイプのモンスターをチラホラ見たが、メンチビームを切ったらスタコラ逃げて行った。


「ここが僕の生まれ育った村だ。ちょっと失礼」

アリオストはそう言うと、何処かへ向かって行った……俺達は直ぐさま後を追う……そこには大きな墓があった。

「……行って来ます、父さん」

「アリオストさん?」

「ここにはね、僕の父さんが眠っているんだ」

かの名言を残した親父さんか……アリオストって今は確か25歳だよな……アリオストが生まれた時は、親父さん20代後半から30代前半くらいの時か?
……今生きてたら40代から50代半ばくらいか……?
随分若い時に亡くなったんだな。
……やっぱり、アリオストの母親……ジーナさんを無理矢理連れて行かれたのが原因だろうか?

「アリオストさんのお父さん?それじゃお母さんは?」

「これから会いに行くのさ」

「これから?て、ことは、まさか……」

ティピの疑問に答えたアリオスト。
そしてアリオストの言い方から、一つの答えを導き出したゼノス。

「ああ。僕の母さんは人間じゃなくてフェザリアンなんだ」

「うそ!?」

Ⅲのモニカと同じ立場なんだな。
モニカは羽が不完全だったが、アリオストは最初から無いのか――。
……アリオストが魔法を得意としながらも、魔力が低いのはこの辺りに原因がありそうだな。
羽が生えてないのを見ると、人間の血の方が強いみたいだ。
だから多彩な魔法を扱える。
けれど、同時にフェザリアンの血も受け継いでいるから、魔力は少ない。

「驚くのも無理はない。フェザリアンは我々人間とほとんど交流を持たないからね」

「初めて聞いた……」

ルイセが呟いた……魔法学院でも、有名人であるアリオストの知られざる秘密……という程大袈裟じゃないが、それを知ってしまったわけだな。

「そうだろうね。こんな事、話すのは君達が初めてだからね。さ、そろそろ行こうか」

それだけ俺達を信用してくれているってことか……。
さて……んじゃ岬に行きますか。
とは言え、とりあえずはローザリアに向かうんだがな。俺もルイセも、岬には行ったこと無いから、直でテレポートなんて出来ないしな。

「ルイセちゃん、テレポート宜しくぅ♪」

「うん!任せて!」

「あ、それなんだが」

俺もテレポート出来るから代わろうか?
と、聞こうとした時には既に光に包まれて飛ばされた……むぅ。
タイミング良すぎ……いや悪過ぎか?

そして着きましたよローザリア。
位置は東門前か。

「?シオンさん、今何か言おうとしてましたけど……」

「ん?まぁ、ちょっとな。意味がなくなったからまた今度な」

終始クエスチョンマークを浮かべるルイセを宥め、俺達は先に進む。

んで、岬まで来たわけだ……勿論ありましたよ。

シエラの墓。

だがゼノスは気付かず。
当たり前か……原作でも本当の母親のことは忘れてたみたいだし。

「さて、いよいよあそこへ行ける時が来たか」

「本当に大丈夫だよね?」

「ああ、絶対に大丈夫だ。ただし、見ての通り、この飛行装置は一人用だ。この補助ベルトを使えばもう一人だけ一緒に連れていけるけど……」

不安げなティピに、絶対の自信で答えるアリオスト。
何と言うか、とにかく凄い自信だ。

「全員は乗れないのか」

「アリオストさんが動かすから、あと一人……」

「だから、まず僕とルイセ君がフェザリアンの街へ行き、場所を覚える。それからテレポートを使えば全員が行ける様になる」

今さっき、テレポートを体験したアリオストだからこその発言だな。

「それじゃ、行こうか」

「で、でも…さっき……」

「だから、もう大丈夫だって。あの時動かしたから、間違いに気付いたんだ。だからもう大丈夫だよ」

失敗は成功の母である――とは言うが――。
ふむ……ルイセはかなり引いてるみたいだな……まぁ、元来の性格も影響してるんだろうがな。

「なぁ、要はテレポートが使えれば良いんだよな?」

「そうだな。とは言え、テレポート出来るのはルイセだけだからな……」

「俺もテレポート使えるけど?」

一瞬、周りが静寂に包まれた。





[7317] 第31話―I Can Fly!!到着、フェザーランド!―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/04 23:37


周りが静寂に包まれる……って、俺……何かしましたか?

「なんなんだ?俺、何か変なこと言ったか?」

「シオン……お前もテレポートが使えたのか?」

カーマインが尋ねて来たので、ちゃんと答えるとしよう。
……何か誤解されてる雰囲気だし。

「ああ……正確には『使える様になった』……だけどな?」

「どういうことだ?」

ウォレスが疑問を浮かべる。
俺にはラーニングって能力があって、それによってルイセのテレポートを覚えました♪
……なんて一々言うつもりは無い。
細かい説明は面倒だし、俺自身、どうしてこんな能力があるか分かっちゃいないから、その辺を突っ込まれたら説明のしようがない。
……何より、それを告げて皆に色眼鏡で見られたくはないからな。
皆、そんな奴らじゃないとは理解しているが……やはり臆病なのかね、俺は。

「どうも、ルイセが初めてテレポートを使った時に覚えたらしい……これは憶測だが、テレポートを使った時にルイセが大量のグローシュを開放した。
それと同時に、俺のグローシュと共鳴現象を起こしたんじゃないかな?
それに寄って、俺の中に眠っていた力も眼を覚ました。と、俺は考えてるけど?」

それっポイことを適当に述べる。
まぁ、大まかな流れに間違いは無いけどな。

「でもそれだと、グローシアンなら誰もが共鳴現象を起さないかい?今までに君達の様な前例が無かった……とも考えられるけど」

そこに異論を挟んだのはアリオスト。
流石は天才学者……とでも言っておこうか。

「あくまでも憶測さ……或いは、皆既日食のグローシアン同士だから起きた現象かも知れないし……まぁ、詳しくは分からないんだが」

「う〜〜ん……僕もグローシアンは専門外だからなぁ……何とも言えないんだけど……学院長なら何か分かるかもしれないなぁ」

アリオスト君……君は俺にあの狸ジジィの実験材料にされろと?
……絶対に御免だっての。

「な〜んだ♪アタシは、てっきりテレポートを前から使えたのに、それを隠してたかと思っちゃったわよ」

「……実は……わたしも……」

「……つまりアレかな?君達は、サンドラ様のピンチだった時に、俺がテレポートを使えるのに理由もなく、敢えて使わない様な、薄情な男だと……そう言いたかったわけかな?」

「うぐ……そ、そんなことは無いわよ?………嘘ですゴメンなさいチョロっと疑っちゃいましたゴメンなさい」

俺は言い訳するティピに、冷たい視線を送ってやる……すると、直ぐさま土下座に移行した……憎めない奴。
どうやらルイセとティピが、特に勘違いしてたみたいだな……つーか、そんな薄情なことする印象を与えてたのか?
……結構ショックだわぁ……。

「ご…ごめんなさい!そんなつもりじゃなかったんです!」

じゃあ、どんなつもりだったと?
……な〜んて、言わないけどね。
そんなこと言ったら、ルイセは泣いちまうだろうしな。
付き合いはまだ短いが、それくらいは理解出来る。
幾ら俺だって、そこまで空気の読めないことはしないって。

「いや良いよ。気にしないでくれ」

俺は気にしない様に言うが、些か凹んだぜ……。

「大丈夫です!シオンさんが優しい人だって……私はよく知ってますから……」

カレンが率先してそう言ってくれる。

「そういうことだ。あんま気にすんなよな!」

「シオンは気にし過ぎだよ。実際、皆そんなに気にして無いと思うよ?」

「ああ……少し気になっただけだからな……それ以上の他意はないさ」

ゼノス、ラルフ、カーマインもそれに続く……やっべ……目頭が熱くなってきた。
やっぱり持つべきものは友達だなぁ……。

「しかし、なんで今まで黙ってたんだ?」

「黙ってたんじゃない。言うタイミングが無かったんだ」

ウォレスの疑問に簡潔に答える。
現に、俺は何度かテレポートが使えることを告げようとした……だが、何故かタイミングよく……いや、悪くか?
告げることが出来なかったのだ。

「成る程な」

ウォレスも思い当たることがあるのか、納得したようだ。

「んで、話しを戻すけどな?俺もテレポートが使える訳だからして、無理にルイセに飛んでもらう必要は無いんじゃないかと」

要はルイセの代役を勤めようか?
という提案です。
正直、嫌々な所を無理に勧めるのは気が引けるし、原作では偏屈なフェザリアンに、言葉でベッコベコに凹まされたのか、涙目になりながら戻ってきたしな……ルイセは。
なら、俺が行ったほうが良いだろう。

こう見えても、元サラリーマンだ。
……エリートでは無かったケド。
しかし、現場回りで培った交渉術がある。
少なくとも、某全身黒ずくめで成功率5割の交渉人より、まともな交渉が出来る自信はある。

それに、生身で空を飛ぶというのは中々に興味を擽られる。
ロマンだよ浪漫!

……まぁ、俺も自力で『跳ぶ』ことは出来るが、自由自在な『飛行』は無理だからなぁ……いや一応、理論上は不可能じゃないが……あの魔法を使えば、某マフィアの高校生ボスみたいな『飛行』は可能だろうが……肝心の魔法の威力がパネェからな……被害が甚大だ。
つーか、地面になんか恐ろしくて撃てんわ!

「成る程……分かった。ならそれで行こう。それじゃあシオン君、こっちに来てくれ」

アリオストに呼ばれたので、アリオストの所に向かう。

「あの……ありがとうございます!その、わたしの代わりに……」

ルイセがしどろもどろになりながらも、礼を言って来た。
さっきのことをまだ気にしてんのか?

「まぁ、俺も空を飛ぶってのに興味があったし。気にすんなって♪」

俺は最高のスマイルと共にサムズアップしてやる。
「……ハイ!」

よ〜し、良い返事だ!
ウンウン♪
やっぱり女の子には笑顔が1番だな。
……まぁ、泣き顔も捨て難いが……て!?
違うぞ!?
俺はノーマルだ!

その後、俺達はカーマイン達に手伝ってもらいながら、飛行機械を装着した。

「それじゃ、アタシ達はお家で待ってるからね!いってらっしゃ〜い!」

「ああ、ちょっくら行ってくるぜ!」

アリオストが飛行機械を操作する……すると、飛行機械から光の翼が現れ、フワリと身体が浮かぶ……そして俺達はグングンと上昇して行った。

「……………」

んでもって、ただいま上空を飛翔中……下を見ると皆が豆粒くらいになってます。
ここは『人がゴミの様だぁっ!!』……という台詞が相応しいのかも知れないが、まかり間違っても仲間をゴミ扱いにしたくありません。
というか正直、言葉が出ません。
この絶景に……いや、それ以上に空を飛んでいるという感動から。

「どうだい?空を飛んでみた感想は?」

「なんつーか……言葉もねぇわ……」

強いて言葉をあげるなら、俺は今!
猛烈に感動しているぅ!!
……と言ったとこだな……。
……あっ!?
『I Can Fly』って言うのを忘れた!
空を飛べたら言おうと思ってたのに!?

そんなこんなで、俺とアリオストはフェザリアンの浮き島……フェザーランドに降り立った。

「さて……上手く薬を貰えたら良いんだが……」

「大丈夫、きっと話を聞いてくれるさ」

アリオストはそう言うが、なまじ原作を知っているだけに、ある程度は想像出来てしまう。
さぞかしムカッ腹が立つことだろう……しかし、こっちにも交渉材料はある……フェザリアンは人間に対し憎悪しており、上から目線で人間を小馬鹿にしている節があるが……フェザリアン自体は馬鹿じゃない……まぁ、女王辺りとなら、それなりの交渉が出来るだろう……さぁて……ネゴシエーションを始めようか?

*******



「たっだいま〜〜♪」

ティピが声高らかに告げる……そんな大声を出さなくても聞こえるってのに。

「後はシオンさんが戻ってくるのを待っていればいいんだね?」

「だな。薬を貰ってくるだけだ。早く済むだろうさ」

ティピの疑問にゼノスが答える。
確かに、薬を貰うだけならすぐに済むだろうが……アリオストが母親に会いに行ってるのだからな……しばらく時間が掛かるかもな。
とは言え、今日中には戻ってくるだろう。

「それよりサンドラ様の具合は大丈夫なのか?」

「シオンが言うには、半年は平気な筈ですから、大丈夫だと思いますけど……少し様子を見てみるかい?」

ウォレスとラルフが母さんの様子を気にする。確かに、時間的には余裕があるとは言え、気にはなる。

「そうだな……様子を見てみるか」

「それに、もうすぐお薬が届くことも、お母さんに伝えたいしね」

ルイセは母さんを安心させたいのだろうな……。

俺達は母さんのいる部屋に入る……。

「マスター、眠ってるね」

近くに控えていた医者の先生に聞いた所、今しがた眠ったばかりとのこと。
…なら起こすのも気が引けるな。

「お母さん……」

ルイセは眠る母さんを見て、再び涙が零れそうになる……本当、涙脆いよなルイセは……昔からちっとも変わらない。

「大丈夫だ。もうすぐシオンが薬を持って帰ってくるんだから……な?」

俺はルイセの頭を優しく撫でてやる。
ルイセはこれが好きだったからな……大概こうしてやれば、涙も治まるんだよな。

「お兄ちゃん……うん♪そうだよね!」

涙は零れずに、にこやかな笑みを浮かべる。
やっぱりルイセには笑顔が似合うな。

「……この人がサンドラ様……」

ん?カレンが母さんを見てる……そういえば、カレンとゼノスは母さんとは直接の面識は無かったっけな……。

「早く良くなって欲しいですね……サンドラ様とは、色々お話してみたいですし」

カレンが母さんと……?心配してるっていうのは、何となく伝わってくるので分かるが……。
母さんと何を話したいんだろうな……?

「シオンが薬を持ってくるまでだ。そのフェザリアンってのは人間よりも薬学が進んでるんだろ?それなら安心だな」

「そうですね……思ったより早く事が収まりそうで、安心しましたよ」

ウォレスとラルフが安堵の息を漏らす。
まだ、シオンは帰って来てはいないが、気分的には俺も同じだ。

「とにかく、ここで騒ぐのはやめようよ」

「そうだな……外に出よう」

俺達はティピの提案を受け入れ、外で待つことにした。
そして数分後……。

「あら、シオンさん。早かったのね。お薬は?」

「それが……ちぃっとばかし厄介なことになっててな……」

思った以上に早く戻ってきたシオンに多少驚きながらも、薬のことを聞く……が、どうやら薬は持っていない様だ。
何か面倒ごとが起きたらしいな。

「一体、何があったんだ?アリオストの奴が居ないみたいだが……」

「まぁ……その辺も関係しててな。……多少話は好転したんだが……何と言ったら良いか……半分は俺の責任と言うべきか……実際、あそこまでだとは思わなかったぜ……」

どうやら、話を上手く進めたのもシオンなら、ややこしくしてるのもシオンらしい……それ以上に、シオンの言い分を聞いていると、どうにもフェザリアンという奴は中々に気難し屋のようだ。

「まぁ、論より証拠。一緒に来てもらったほうが早いな……その為に戻ってきた様なものだし。場所は覚えてきたから、いつでもテレポートが可能だぜ?」

「分かった、早速行こう。皆も構わないか……?」

「もっちろん!早く行きましょ!」

「うん!」

「ああ、もちろんだ」

「ええ、急ぎましょう……!」

「準備はオッケーだ……行こうぜ!」

「シオンが一人で戻って来たんだ…その理由を確かめないとね」

皆それぞれ頷く。

「よし、テレポートするぞ」

俺達はそれぞれ光の球に包み込まれた…。




[7317] 第32話―交渉人シオン・ウォルフマイヤー?―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/04 23:47


俺達はテレポートでフェザリアンの浮島……フェザーランドに降り立った。

「ここがフェザリアンの世界……」

「案内する。こっちだ」

俺は皆を先導する。
しばらく歩くと広場の様な所に出た。
そこに居たのはアリオストと…背中から羽が生えた人々……フェザリアン達だ。

「アリオストさん!」

「ああ、君たち……」

不安げなルイセがアリオストに声を掛ける。
だが、そのアリオストも覇気が感じられない……先程まで期待に満ち溢れていた男とは思えないな……。
どうやら俺が皆を呼びに行っていた間に、軽く一悶着あったかな?

「来ましたか……」

「女王、こちらの二人が先程話した者達です」

俺はカーマインとルイセを紹介した。

「そなたらが……この度のことは災難であったな……いや、元を正せば落ち度は我らにあるのだったな」

女王がカーマイン達を労う様な態度を取る。
まぁ、こちらもジョーカーを切ったのだからな……原作と態度が違うのも分かる。

「え?」

「何の話だ……?」

ルイセとカーマインは首を傾げる。
しかし、俺はそこで女王に尋ねる。

「女王陛下……返答の程をお聞かせ願いたい」

「あの後、協議したが……薬は渡せぬと結論が出た」

「えぇぇえ!?な、なんでよぉ!!」

ティピが騒ぐが、女王はどこ吹く風。
平然としていた。

「それは、やはり人間は信用ならない……ということでしょうか?」

「仮に治療薬を渡したところで、今度はそれを巡って争いを起こすであろう。例えそなたの言うことが真実だとしても、かような種族に薬を渡すほど、我らは愚かではない」

「そんな……」

女王の言い分を聞いて、ルイセは涙目になってしまう……。

「それにその男が己の欲望を満たすためだけに造った飛行装置……それも、やがて悪用されるであろうな」

「そんな、悪用だなんて……」

「異義が、とでも申すか?そなたら人間は、自分の行いが他の者にいかなる影響を与えるかなど、考えもせぬ。それがために幾度となく戦争が起こってきたではないか?しかも、我らフェザリアンにまで被害を与えるほどのな……おかげで我らは地上を捨てざるを得ない状況へ追い込まれ、今のような生活を営むはめになった」

「………」

今までフェザリアンの良い部分しか知らなかったのだろうな……人間との間の確執には目を閉ざして来たのかもしれない……アリオストには衝撃が強い様で、何も言えない様だ…が!
俺は言わせてもらうぞ?
此処まで来て原作通り……というのも癪だしな。

「確かに……あの飛行装置を悪用……例えば軍事利用される可能性も無いわけでは無いでしょう」

「でも確か……そういうのは魔技法……というので禁止されてるんじゃ……」

ラルフが当然の疑問をぶつけてくる。

だがな?

「全ての者がルールを守るわけじゃない。中には甘い汁を吸おうって輩もいるだろうさ」

学院長とか、学院長とか、学院長とかな!!

「胸糞悪ぃ話だが、無いわけじゃない……か」

俺の説明に、ゼノスが納得した様に頷く……内心は複雑だろうが、これは傭兵にも言えることだからな。
大金を出されれば、喜んで雇い主を裏切る奴もいる……ということだ。
無論、ゼノスがそんな奴じゃないのは重々承知してるが。

「しかし、他者の影響を考えない……というのは人間だけでは無いのでは?特に今回のことに関しては……」

「………」

今度は女王が押し黙った……当然だな。
今回に限っては愚かしいのは人間だけでは無いのだから……もっとも、まだ切っていないカードはある。
もし頑なに断る様なら、そのカードを切るだけだ。
それでも駄目なら俺はビッ○オーをショータイムして、アクションしてしまいそうだが……フェザリアンはそこまで愚かじゃないだろう。
フェザリアンってのは、本来は理知的な種族だからな……根強い人間嫌悪を持つが、それ抜きで考えれば話が通じない相手じゃあない。

「……では、こうしよう。そなたら人間が、我らフェザリアンよりも優れていると思う点を一つ……一つで良いから提示してみよ。さすれば解毒薬を渡そう……それが我々の示せる、最大限の譲歩だ」

言ってることは一見、原作と大差無い様に感じるが……原作では優れている点を【証明】しろ……今のは優れていると【思う】点を提示しろ……内容的には結構違うよな?
しかも、解毒薬に一回分と言う区切りを付けてない……本当に最大限の譲歩なんだろうな。

「何だって……?」

ウォレスが眉をしかめながら、そんなことを口にする。

「それでよいな?さぁ、我の気が変わらぬうちに、地上へ帰るがよい」

「分かりました。近いうちに良い報告をしに伺わせて戴きますよ」

俺はナイススマイルで女王に告げる。女王は俺をチラリと一瞥したあと……。

「……期待せずに待つとしよう」

と、一言だけ告げてその場を去って行った。

「ムッカ〜!何、アレ!?頭に来るなぁ!」

「ま、仕方ねぇさ。だけど、こっちが優れてるって思う点を、一つでも示せれば良いんだろ?」

頭に来ているティピを、宥める様にウォレスが確認する。

「どうすればいいんだろう……?どうすればお母さんを助けられるの?……もしダメだったら……」

ルイセが泣きそうになっている……そんなに悲観することは無いと思うんだがなぁ……。
少なくとも、原作よりは確実に好転してるぜ?

「もう、この娘はすぐに悪い方へ考えるんだから!」

「……ぐすっ。で、でもぉ、どうやって証明したらいいのか……」

というか、泣いてるぞ……仕方ない。
フォローに入るとしますか。

「そんなに悲観することは無いんじゃないかな?」

っと?
ラルフがフォローに入ったか?

「どういうこと……?」

「良いかい?女王様は人間がフェザリアンより優れている……と【思う】点を【提示】しろと言ったんだ……つまり、確実に優れている点を証明しろとは言っていないんだよ」

泣きながら問うルイセに、ラルフは優しく諭す様に説明する。
うむ!ラルフ君大正解!

「!そういうことか……」

「成る程な…」

どうやらカーマインとゼノスも気付いた様だな……。

「つまり、どういうことなのでしょうか……?」

「アタシにも分かる様に説明してよ〜!」

カレンとティピはよく分からないみたいだ……ルイセは普段なら気付くかも知れないが、今は悲しみに暮れていたからか、必死に考えている。

「まぁ、ぶっちゃけちまえば、何でも良いから優れていると思う所を言いなさい。そしたら解毒薬をあげます。つーことだ」

俺が簡潔に説明してやる。

「つまり……適当に理由をつければ、今すぐにでも薬を貰えるってこと!?」

「薬を貰うだけならな」

興奮するティピに、俺は事実を教えてやる。

「じゃあ、今から適当に何か言ってお薬を貰おうよ!」

「ところが、そんな簡単なことじゃない」

「え……?」

ティピの提案を遮る様に、言い放つ……するとルイセは疑問を浮かべる。
母親が助かるかという瀬戸際だからな……仕方ないのかも知れないが……。

「確かに、適当な理由でも、彼らは約束を守ってくれるだろう……だが、その場合、彼らは軽蔑して、より一層人間を憎悪する様になるだろうな」

「つまり……何かしら探してくることを、フェザリアン達は望んでいると?」

「つーか、誠意を見せて欲しいんだろうな……人間が信じるに値するか、確かめる為……と言ったら分かるか?」

カーマインの疑問に俺は答える。
つまりはそういうことだ。
フェザリアン達も、口ではああ言うが、内心では古い風習に疑問を持っているのかも知れない……とは言え、今までの確執は簡単には拭えない。
不安なんだろう、また裏切られるのが……。

「結局、探さなければならないということですね……」

カレンの言う通り、そこは変わらない。
しかし、条件が優しくなったのは確かだ。

「まずフェザリアンのことを調べて、俺たちとの考え方の違いをしっかり知ることから、始めなきゃならねぇだろうな」

「何事も情報を集める所からだからな……フェザリアンの奴らのやり方は、ちっとばかし気にくわねぇが……ま、やるしかねぇな!」

ウォレスがやるべきことを提示し、ゼノスはフェザリアンに対して些か渋々だったが、結局はやる気を出した様だ。
流石はゼノス……兄貴肌なだけはあるな。

「………」

アリオストは未だに沈んだままだ。

「……あまり気にするなよ、アリオスト」

カーマインがフォローに入った。

「ああ……。だけどやっぱり気になるよ……僕は母さんに会うために研究をしたのに……それが……その行為自体が間違えていただなんて……」

やっぱりショックが強いみたいだな……当然か。
自分が頑張って来たことを全否定されたんだしな……。

「アリオスト……お前さんのやってきたことは間違っちゃいないぜ?」

「え……?」

俺は思ったことを言うことにした……女王の言い分は余りにも一方的過ぎるからな。

「確かに、お前の研究成果は、外に洩れれば軍事利用されたりする可能性もある。だが、お前は母親に会いたいという、欲望というには、ささやかな願いのために飛行装置を作った。世のため人のため……とか言うのよりは小さいかも知れないが、俺個人はそんなのより余程好感が持てる。なにより、その想いって奴は決して間違いなんかじゃない」

「……ありがとう」

アリオストはまだ完全では無いが、なんとか笑みを浮かべた。
微苦笑ってやつか?

「とりあえず、一度戻らないか?今後のことも考えたいからな……」

「……彼らのことなら、色々と書物を調べてみると、いいかもね」

「ああ、そうだね。大抵のことならそれで分かるだろう」

ウォレス、ルイセ、アリオストがそれぞれ意見を交わす……ルイセとアリオストはまだ、若干落ち込み気味だが、いつまでも落ち込んでられないしな。

「本がいっぱいある場所かぁ。退屈そう……」

ティピは心底辛そうに言うが、本も決して悪くは無いぞ?

「本がある場所か……となると、魔法学院かな?」

「……そうだな。城とかにも文献なんかはあるだろうが、自由な出入りは出来ないからな……よし、魔法学院に向かおう」

ラルフの提案に、カーマインが乗る形になった。
そして、俺のテレポートで一路魔法学院へ……ルイセはまだ落ち込み気味だったので、配慮した結果です。

んで、現在、魔法学院入口。

「そういえば、シオンさん……あのフェザリアンの女王様に何かしたの?」

「いや?強いて言うならネゴシエーションをしたか」

「……ねごしえ〜しょん……??」

ティピの疑問に答える……が、ティピはネゴシエーションの意味が分からない様だ。
これはこの世界共通なのか……それともティピの頭がアレなのか……俺は後者だと思う。
色々理由はあるが……。カーマイン達も普通に納得してるし。

「ネゴシエーションってのは交渉って意味だ。ちなみに交渉する人はネゴシエイターって言うんだぜ?」

俺は普通にティピへ説明してやる。

「へぇ〜、そうなんだ〜」

ティピも納得した顔をしている……どうでも良いが、直ぐに忘れん様にな?

「しっかし、あの連中相手にどうやって交渉したんだ?」

「詳しく説明しても良いけど、ちぃっとばかし長くなるぜ?」

ゼノスが俺に疑問をぶつけて来たので答えてやる……。
まぁ、長くなっても良いなら話すが………どうやら皆、異議はない様だ……皆、中々に物好きだな……まぁ、なら話すか……空白の数分間を……。
って、別にたいしたことはなかったんだがな?
本当だぞ?




[7317] 第33話―ネゴシエイター・シオンの交渉内容―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/04 23:57


で、まあ……説明なんだが……正直、大したことはしていないんだがな?

********

俺達はフェザーランドに降り立った後、広場の様な場所に出た。
そこには、居ましたよ羽の生えた人……フェザリアンが。

……よくよく考えたら、フェザリアンってのも安直な名前だよな……ま、分かりやすいから良いけどさ。

「!?人間だと……!?」

そうこうしている内に気付かれましたよ?
いや、気付かれる様に仕向けたんだがね?
こっちは交渉に来たんだからして、気配を消す必要はないしな。
アリオストも同様……というか、そもそも気配を消せないしな、アリオストは。

んで、あれよこれよと言う間に、フェザリアン達に取り囲まれましたよ。
ん〜……これはアレか?スーパーフルボッコタイムか?
……て、フェザリアンの性質上、そりゃあ無いな。
……争いが嫌いだからな、フェザリアンは。

「何をしに来た人間……」

おっ?
どうやら話は聞いてくれそうだな?
原作のイメージだと、一切取り合ってくれない感じだったからな。
話さえ出来るなら、リーマン時代に培った、口先の魔術師ですら驚愕する交渉術を駆使して、薬を貰ってやる。

「実はお願いがありまし――」

「薄汚い人間が……また我々から住み処を奪いに来たかっ!」

て、シカト!?
つーか、話を聞く気ゼロ!?

「あの……僕は」

「黙れ人間……空気が汚れる」

困惑しながらも、話を聞いてもらおうとするアリオスト……だが、一切取り合ってもらえない……つーか、空気が汚れるって、明らかに言い過ぎだろ?
テメェは息をしても空気が汚れないとでも?
ヤベェ……ビッ○オーを呼び出す○○ャーさんの気持ちが分かるわぁ……とは言え、交渉の余地無しと断ずるにはまだ早過ぎる……。

「この場を去れ……愚かな人間よ」

「人間が居ては、また争いに巻き込まれる」

ここまで確執が酷いとはな……ふむ……まともに攻めても無駄か……なら絡め手で行くか。

「あ〜あ〜!これが最高の英知を持つという、フェザリアンの本性ってわけだぁ!ガッカリだなぁ!!」

まともに交渉出来ないならば、押しても駄目なら引いてみな作戦。

「シオン君!?何を……!」

俺の喧嘩腰の態度に、アリオストが慌てて止めようとする……が、俺はアイコンタクトとサムズアップで、『任せろ』と告げる。
これは言わば禁じ手……交渉相手をけなすというのは、交渉成功率を大きく下げることになる……だが注目を集めることは可能だ。
発想の逆転って奴だな。

「なんだと……」

「我々を侮辱する気か!?」

食いついて来たな……ここから逆転出来るかは、俺の手腕次第……か。

「――そんなつもりは、毛頭ありません。こちらは交渉に来たのですから……しかし、話し合いを望む相手を囲んで、寄ってたかって罵声を浴びせる……これが理知的と言えるでしょうか?」

「そ、それは……」

喧嘩腰からネゴシエーターモードになった俺に対して、フェザリアンの女性が口をつぐむ……フェザリアンは一見完璧に見える……だが彼らには意外な弱点がある。
それは正論に弱いということだ。
原作でもそういうシーンは何度か見受けられたしな……。
あのまま喧嘩腰ならともかく、一旦熱を上げて、それから一気に頭を冷やさせる……すると、ご覧の通り……と言うわけだ。
こうなると、話し合いが通じない相手じゃない。
少々上手く行き過ぎに感じなくもないが……。

「先程の無礼はお詫びします………しかし、こうでもしなければ貴方がたは話すら聞いてはくれなかったでしょう」

「……むぅ……」

どうやら俺の意図は理解してくれた様だな……納得出来るかは話が別みたいだが。

「……これは何の騒ぎであるか」

「はっ…!?女王…!」

人垣が割れ、奥から長い金髪を携えた女性が現れた……身なりや、今の男の発言からするに、彼女が女王みたいだな……確かステラという名前だったか?
どうでも良いが綺麗な人だな……原作では顔グラの無い人だったが……何と言うか……円○皇女わる○ゅ〜○に出てくる皇女の中に、メームとか言う1番年長の皇女が居たが……その人に見た感じは似ている。

?何で俺がそんなことを知ってるのか……だと?
……見せられたからに決まってるだろう。
懐かしき我が悪友に……DVD全巻を持って我が家に来られた時には、流石に参ったね。
しかも悪友の解説付き……とりあえず、一期のラストに出て来たシロッ○○ハイムは格好よかった……とだけ言っておこう。

「人間……?何故、人間がここにいる……?」

「はっ、それが」

俺はすかさず女王へ向けて、ひざまづいた。
チラッと顔が見えたが、少々驚いていた様だ。

「シオン・ウォルフマイヤーと申します。女王陛下とお見受け致しましたが……」

「いかにも。……して、シオンとやら。そなたらはいかなる用件で此処へ参った?」

どうやら最初から話は聞いてくれるらしいな……女王だけあって、器量はあるということか――。

「実は折り入ってお願いしたいことがあり、馳せ参じました」

「願いとな……?」

俺は事情を話した。
仲間の母親が未知の毒に冒され、苦しんでおり、人間の作った薬では治らない……そこで、優れた英知を持ち、薬学に関しても一日の長があるというフェザリアンに、藁をも縋る思いで頼ることにしたと……。
勿論、毒の特性についても話しておいた……今の人間には決して精製出来ない物でもあると……。

「その毒はいかにして受けた?まさか自然に受けたわけではあるまい?」

「お察しの通り……賊に襲われ、その凶刃にて受けたものにございます……しかし、その賊という者が、また妙なのです」

「……妙とは?」

「先程ご説明申し上げた通り、この毒は人間に精製出来る物でも、ましてや自然に存在する物でもありません……そして、襲って来た賊もまた、人間ではありませんでした……人の姿をしてはおりましたが、倒した時には死体は残らず、その身体を溶かしてしまったのです……」

「身体を溶かす……?」

「フレッシュゴーレムではないか……との意見もあったのですが、死肉の寄せ集めにしては動きが機敏で、綺麗に人の形を保っておりました……なにより、フレッシュゴーレムならば、自らの意思で会話をしたりは出来ません……」

俺は一気に説明する……原作でこそ、フレッシュゴーレムというのは出てこないが、ゴーレムというからには、アイアンゴーレムなんかと大きさは変わらない筈だ。
他の作品でフレッシュゴーレムというのを見たが、スタイリッシュなモノでは無く、バイオなハザードに出てくる様なグロテスクなものだった。

「………」

女王は考えている……これが人間のエゴから来るものなら、きっぱり断るつもりだったのだろうが……だが、まだ自分達には関係ない……と、突き放される可能性もある……後、一押しか。

「そういえば、その賊が着けていた鎧もまた妙でして……何と言うか鈍い銀色で、刺々しい感じがして……まるで何かの化け物をモチーフにしてるかの様な……」

「……銀色の化け物?」

見た目や声の感じからして、まだ若々しい印象の女王様だ……ゲヴェル製作に関与してはいないだろうが、伝承……もしくは資料か何かで受け継がれている筈……フェザリアンの女王を名乗る位だ……フェザリアン達の性質上、その辺の知識が継承されていてもおかしくはない。
現に、女王の顔色が若干変わった。

「……何か心当りでも?」

「……そんなものは無い……」

白を切るつもりか?
……アリオストが居るからあまりこのカードは切りたくないんだが……このまま逃げ切られても癪だしな……切るか…ジョーカーを。

「……そういえば、以前に古代の文献に触れる機会がありましてね……かつて支配者だったグローシアンに対抗する為、フェザリアンは生物兵器を作ったとか……」

「……!何が言いたいのだ……」

あくまでも揺さぶり程度に留める……後で言い訳出来なくなっちまうし……。

「確かに人間は愚かだ……しかし、それは人間だけに当て嵌まることでは無いということです……仮に。その愚かしさが無関係の者を傷つけていたとしたら……貴女方は己の罪に眼を背けられますかね?」

細部をぼやかしての言だが、聡明なフェザリアンの女王のことだ……俺の言わんとするところは理解しただろう。
人間を愚か者と罵る以上、自分達のことのみを棚上げする……ということはしない筈だ。

……とは言え、これは脅迫の様でちっとばかし気が乗らない。

「……もう辞めにしませんか?」

「何……?」

「確かに互いに愚かしいことをしでかした……それが今、脅威となっているのも事実。だが、それは過去のことだ。過去を反省材料にするのは良い。しかし、それに何時までも囚われているのは、それこそ愚か者だと思いますが……」

歩き始める前に諦めるのは、愚か者のすることだ……というのはアリオストの父……更に遡ればブローニュ村の父とも言える男の言葉だ。
これは中々に良い言葉だと思う。
何事もチャレンジしなければ始まらないしな……。

「……そなたの言いたいことは分かった。協議をとりたい……しばし待たれよ」

「……それでは、当事者の子供達を連れて来たいのですが……どういう返事が戴けるにしろ、やはり当事者達にも聞く権利はありましょう」

「……良いだろう。連れて来るがよい」

「寛大なご処置、痛み入ります……じゃあ、俺は皆を呼んでくる……アリオストはどうする?」

女王が側近を引き連れて去って行った後、俺はアリオストに尋ねる。

「僕はここで待ってるよ。……まだ母さんのことを聞いてないしね」

「分かった……じゃあ、ちょっくら行ってくるぜ」

俺はテレポートを唱え、その場をあとにした。

*********

「と、まぁ……こんなことがあった訳だ」

長い回想という名の説明が終了した。
ご静聴、誠にありがとうございます。
ティピ辺りが質問攻めをしてくるかと思ったが、とりあえずは静かに聞いてくれていたワケだ。

「へぇ〜……要するに、シオンさんは凄く頑張ったんだね!」

ティピに凄く頑張ったの一言で片付けられてしまった……なんか尊敬の眼差しで見られているが。
まぁ、実際はかい摘まんで説明したからなぁ……。

「その、生体兵器……とか言うのは何なんだ?」

ウォレスが疑問を口にする。

「そうだね…シオン君は何か知ってる口ぶりだったし……少し気になるかな?」

アリオストも同様の疑問を尋ねてくる……まぁ、予想通りだな。

「俺も詳しくは知らないさ……ただ、フェザリアンがそういう物を作った……という文献を以前、遺跡に潜った時に見掛けたのさ」

「そういえば、そんなこともあったような……」

ラルフがそう言う。
何も、原作知識を絡めたハッタリというだけでなく、旅をしていた頃、原作には無かった未開の遺跡で、実際にそういう文献を眼にしたことがあったのだ。
いやいや、原作には無い、魔法学院も手付かずの未開の遺跡というのが、探したら結構あってな。そういうところで、トレジャーハントとかもしていたのさ。

ちなみに、Ⅱで出て来た仮面の眠る遺跡も見つけましたよ?
封印が緩んでいたんで、頑丈に封印し直しておきました。
ヴェンツェルでも解けないくらい強固な奴をな?マクシミリアンざまぁ。

「さて、長話も済んだし……本来の目的に戻るとしないか?」

「そういえば、フェザリアンのことを調べる為に、ここに来たんでしたよね」

そういうことだカレン。
焦る必要は無いが、何時までもここに突っ立ってるワケにもいかないからな。




[7317] 第34話―妄想少女と手掛かりと闘技大会―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:58429961
Date: 2011/12/05 00:07

そんなこんなで、俺達は図書室にやってきたワケだ。

「やっぱりいろんな本が揃ってるね」

「これだけあるなら、何か手掛かりを掴めるかも知れないね」

ティピとラルフがそれぞれの意見を出し合う。
確かに、一見すると何か手掛かりがありそうに見えるが……。

「ここでフェザリアンのことを調べればいいんだね?」

「大変そうですけど、頑張りましょうね」

ルイセとカレンはやる気十分だ。
いや、実に頼もしい……なら、俺も頑張らなきゃな。

「すまないが、本を調べるのは君たちに任せるよ」

「ん?君はどうするんだ?」

アリオストがそう言って、ウォレスが疑問を尋ねた。

「僕は父さんと母さんのことを調べてみる。フェザリアンが本当に人間を見下しているなら、僕なんかが生まれることは無かったと思うんだ」

「確かに、そうかもな。それに手分けした方が効率的だろう」

確かにな……原作においても、アリオストの父母はフェザリアンを説得する為の要だったりするからな……。

「わかった。ここのことは、わたしたちに任せて」

「何か分かったら、知らせに行く……研究室に行けば会えるか?」

ルイセとカーマインがそれぞれ、アリオストに告げる。

「ああ、頼んだよ」

アリオストはそう言い残して去って行った。

「さ、こっちはこっちで調べましょ」

んで……せっかく人数も居るんで、手分けして資料を捜すことにしたワケだが……。

「…………」

「何これ?」

俺は本の山を発見……とりあえず皆を呼ぶことに………そういえばこんなイベントもあったなぁ……。

「ヒドイなぁ、本が崩れてる」

「Zzz……Zzz……」

「!!中から音がするよ!?」

それはなティピ……いびきって言うんだよ。
いや、俺も信じられないがな?

「とりあえず、本を片付けるか……」

「このままだと本が痛んじゃうもんね」

カーマインの提案に、一同一丸になって片付ける。
結構量が多いからな。

「仕方ないわねぇ」

「そんじゃ、ちゃっちゃと片付けるとするか」

ティピは渋々と片付けを始める。
ゼノスはゼノスで、とりあえず本棚に入れているという感じだ。
んで、本の底から発掘されたのが……。

「ミ、ミーシャ!?」

「Zzz……Zzz……」

と、こういうワケである。

「ミーシャったらっ!」

ルイセはミーシャを起こしに掛かる……すると……。

「んにぃ……?んんん〜〜……っ…………あ゙っ」
寝ぼけ眼で、ゆっくり背伸びして、これまたゆっくり立ち上がる……そして周りを見渡し……。

「ああっ!お兄さま♪」

……こちらに気付いた。
この場合カーマインのことなのか、ラルフのことなのか……両方か。

「何なの、この娘は?変なところで寝る趣味があるのね」

「それは激しく同意する」

「……え〜と……」

ティピと俺の物言いに、ルイセは冷や汗を流すしか出来ない。

それがミーシャクオリティ。

まぁ、俺はミーシャが本の下で寝ていた理由を知ってるが……その理由も……なぁ?

「ねぇ、ミーシャ。ここで何してたの?」

「うんとね。上の方にある本を取ろうとしていたら、本が落ちてきて埋まっちゃったの」

「………」

それでも懸命に親友に問い掛けるルイセだったが、その内容を聞いて流石に絶句している。
つーか、呆れてる?

「ここって奥だから、呼んでも誰も気づかなくて。それで、何とかしなきゃって思ってたんだけど、重くて動けなくて、そのうち疲れちゃって……」

「……それで、寝ちまったと……」

「……何と言うか、スゲーな……」

ウォレスとゼノスも、呆れを通り越して、もはや可哀相な奴と見ているっぽい。

「……あはは、可笑しいね☆」

「おかしいのはアンタの頭の方よ!」

「……ふにぃ……」

ティピの鋭い突っ込みに、何処か哀れな小動物の様な雰囲気を醸し出すミーシャ……。

「ほら、ルイセちゃんも何か言ってやりなさいよ!」

「あ、うん……あのね、ミーシャ」

一同、少しはガツンと言ってやれ!
とか思っているのかも知れない……ルイセの台詞に集中している……まぁ、俺はオチを知ってますから、気を抜いてるわけですが。

「床で寝ると風邪をひくからやめた方がいいよ」

笑顔で優しく諭す様に言うルイセ……いや、皆そんなことを言って欲しいんじゃなくてだな……。

「そうです。風邪を引いてからでは遅いんですからね?」

「本よりは、ちゃんと布団で暖まった方が良いよミーシャちゃん」

カレン……ラルフ……お前らもか!?
違う!
論点が違ぁうっ!!

「「あ゙ぁぁぁぁ………!!!」」

俺とティピはあまりの焦れったさと、この面子の天然ぶりに歯痒い思いを……というより全身むず痒い感覚に襲われる……不覚にも俺まで……。

「もう、やめとけ。お前らのやりとりを聞いてたら、頭が痛くなった……」

「「……………」」

ウォレスが頭を抱えながら疲れ気味に言う。
カーマインとゼノスも同じ様に頭を抱え、ウンウンと頷いていた。
たちまち場の空気を緩ませる……ミーシャ、恐ろしい子!!

「ところで皆さんは、こんなところで何してるの?」

「ちょっと、フェザリアンについての調べ物をね」

「へぇ、そうなんだ。……あっ!アタシ、やることがあったんだっけ!助けてもらって、ありがとね!それじゃ!」

ズダダダダダ………。

そう言うと慌ただしい足音で走り去「あ〜ん、怒られちゃう〜ぅ!!」……訂正。
慌ただしい足音と、悲痛な叫び声を残して走り去っていった。

「よくわからん娘だわ……」

そのティピの感想に、俺とウォレスとゼノス、カーマインが頷いたのは仕方のないことだと思う。

んで、再び手分けして資料を捜すことにしたのだが、結局フェザリアンに関しての資料は見つからなかった……。
ルイセが言うには、重要図書閲覧室にならもしかして……とのこと。
まぁ、原作通りだな。
しかし、そのためには学院長の許可が必要になり、またあのヒゲに会わなければならないということになる。

……正直苦痛だ。

仕方ないか……どうせ、ミーシャを通して事情は筒抜けなんだろうから、準備万端スタンバってるだろうし……ハァ……行くか。

そして学院長室のあるフロア。

「どのようなご要件でしょうか?」

「重要書類の閲覧許可が欲しいのですが」

「かしこまりました。どうぞお通り下さい。」

相変わらずの秘書さんとの、淡泊なやり取りにて、学院長室への扉が開かれる。

「失礼します」

「おや、どうしたんだい?」

白々しいな……来訪の内容も知ってるだろうに……。

「フェザリアンの文献を調べたいのですが」

「そうか、閲覧室で借りたいのか……ほい、これを持っていきたまえ」

フェザリアン関係の閲覧許可証を手に入れた!
…て、偉く限定的だな……他にも○○関係の閲覧許可証……とかあるんだろうか?

「しっかり勉強するんじゃよ」

「ありがとうございます」

こうして聞いてると、好々爺に見えるんだが……原作と違って本当に好々爺だとか……ないよなぁ……。
分かってるけどさ……本当、あのヒゲはなんとかしないとな。

そして重要図書閲覧室に来た……んで、司書さんに許可証を提示。
案内された先でフェザリアンの資料に眼を通すことになる。

題名は『フェザリアンとその生態〜概略〜』とある。

「これだね!」

以下は本の内容だ。

*********

背中に翼を持つフェザリアンは、有翼人とも呼ばれ、我々人間とは別の種族である。

彼らは我々よりも精神的に進化した姿であり、全てにおいて合理的である。
また彼らの知識は、最盛期のグローシアンを凌駕しているのだが、これも合理さを求めることで得られる物なのだろうか?
または全く別の理由があるのだろうか?

私は彼らの生態を調べることをライフワークとしており、この本に書ききれなかったこともまだまだある。
それらについては次巻を待たれたし。

*********

「ここで終わり?これじゃわかんないよ!」

「だが、この本を書いた奴に会えれば、直接聞けるんじゃないか?」

「ええと、著者は『ダニー・グレイズ』住所は『コムスプリングス』だって」

「それじゃ、その人に会いに行きましょ!」

ルイセが読み上げた名前と住所を聞いて、ティピが早速と言った感じで言うが……そうは問屋が卸さない。

「ちょっと待て!『コムスプリングス』っていや、バーンシュタイン王国にある温泉で有名な街じゃねぇか」

「それがどうしたのよ?隣の国じゃない?」

「あのね、ティピ。お隣の国に入るには、通行許可が下りないとダメなの」

まあ、当然だな。
自由に行き来出来たら、情報も駄々洩れになるからな。

「面倒なのね〜!」

「そのことだけど…多分、大丈夫だと思うよ?ね、シオン?」

「まぁな……多分イケると思うぜ?」

ラルフの問いに俺は答える。
少し考えたら分かることだと思うが……。

「どういうこと?」

「僕達はバーンシュタインから来たんだ。だから、コムスプリングスにも立ち寄ったことがある……勿論シオンも」

「そうか!テレポート!」

ルイセがラルフの問答の答えに気付く。

「正解。俺がテレポートを使えば、通行許可なく、コムスプリングスに行けるってわけ」

「成る程な……そいつは盲点だったぜ……」

ウォレスが納得顔で頷く。

「それじゃあ、早速行こうよ!」

ティピが早速まくし立てる。
よっしゃ、なら行きますかね?

「ちょっと待ってくれ!」

「ゼノス兄さん?」

と……ゼノスがここで待ったを掛けた。
何なんだ一体?

「事情は大体分かったよ。そのダニー・グレイズって奴の所に行くのも反対はしない……ただ、その前に俺の用事を片付けさせて欲しいんだけどな」

「用事……そういえば、そろそろ闘技大会が始まる頃か!」

バタバタしてたんで、すっかり忘れてたぜ。

「こんな状況で我が儘だってのは分かってる……だが、俺はこの大会に賭けてるんだ……頼む!」

ゼノスが頭を下げてくる……むぅ、俺としては異存はない。
まだまだ時間的余裕もあるし、俺も出てみたいしな。

「どうするリーダー?」

「リーダー……って俺か?」

君以外に誰がいるよ?
カーマイン君。

「俺個人としては……俺も出場してみたいしな……構わないんだが、皆はどうなんだ?」

カーマインが俺達に意見を聞いてくる。

「俺もカーマインと同じ気持ちだからな……勿論オッケーだぜ?」

「焦っても始まらんしな……お前が良いなら、俺は構わんさ」

「僕も良いよ。正直、僕も興味あるしね」

男連中は概ねオッケーな様だ。

「ったく、男ってやつは……まぁ、シオンさんのテレポートがあるんだから、焦ることもないんだけどね」

「私も構いません……兄の我が儘ではありますけど、兄さんがこの大会に賭けていたのは知ってるから……」

ティピとカレンも、概ねオッケーみたいだ……後は……。

「……うん、大丈夫!わたしも良いよゼノスさん!」

本当は直ぐにでもコムスプリングスに向かいたいのだろうが、ゼノスの意気込みを知ってるからだろうな……明るく振る舞うルイセ。

「……済まん」

ゼノスは深く頭を下げた……まぁ、気にすんな。
その代わり。

「前にも言ったが、俺達も参加するからな?覚悟しておく様に」

「やっぱり……そこはマジなんだな」

渇いた笑いを浮かべるゼノス。
そりゃあ、マジですよ?
せっかくのお祭り行事なんだしな。




[7317] 第35話―いざグランシル!アリオストの祖父と父親―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:58429961
Date: 2011/12/05 00:21


「さて、ゼノス君の覚悟が決まったところで――」

「……しゃあねぇだろ……我が儘言った上、これ以上どうしろと……戦場に向かう時以上に覚悟が必要とか、どういうことだよオイ……」

何かぶつくさ言ってるのが一名いるが、気にしない気にしない♪
というか、気にしたら負けだよ。
ん?出場を辞退しないのかって?

そ ん な こ と す る わ け な い だ ろ ?

せっかくだから、グロラン・ザ・グロランを目指すのも悪くない。
……殺し合いは好きじゃないが、喧嘩は別なんだよ。
とは言え、今の俺では全力全開なんてしたら洒落にならん。
だから多少は自重しますがね。

「さて、グランシルに向かう前に少し寄り道して良いか?」

「どしたの?シオンさん?」

「ほら、ダニー・グレイズの件をアリオストに知らせておこうと思ってさ」

ティピの疑問に答える。
せっかく知った手掛かりだ……アリオストも喜んでくれるだろ?

「そうだな……アリオストは研究室に居る筈だったな……」

カーマインや皆も賛成してくれた様だ……。
んで、アリオストの研究室。
丁度出掛ける所だったみたいだな。

「やあ、君たち」

「アリオストさん、どこかへ行くところだったんですか?」

「ああ、ちょっと、学院長に呼ばれてね」

ああ……そういえばこんなイベントもあったな……出来ればこの流れをぶっ壊したいんだが……そうも行かないよな……今の段階でそれをすれば、俺の方が罪に問われるからな……マジであのヒゲはどうにかしないと…。

「!ああ、そうだ。君たちに話すことがあったんだ。その前に一緒に学院長の所へつきあってくれ」

「それくらいは構わない…じゃあ行くとするか」

カーマインの推しもあり、俺達は再び学院長室へ逆戻り。

で、再び学院長室。

「失礼します」

アリオストが入室の挨拶をする。
何気にルイセ以外の『失礼します』はレアだよな……とか考えてしまう件。

「やあ、来たね、アリオスト君。実は君の研究のことで、ちょっと話があってな」

「はぁ」

たく、このヒゲのせいでステラ女王の拉致が行われるんだよな……ここからしばらくは、ヒゲとアリオストだけの会話が続くので、しばらくは会話のみをお楽しみ下さい……って、俺は何を言ってるんだろうな?

「君の研究が完了したらしいとの報告があったのだが?」

「はい、成功しました」

「それはおめでとう。……だが教授会でいろいろ検討した結果、君の研究は戦争利用をされた場合、非常に危険であると判断されたのだ」

「はぁ……」

「そこで魔法技術管理法に基づき、君の研究成果はこの学院で預かることになった。しかし悲観することはないぞ?君は人が空を飛べることを証明したのだからな。これが規定の報奨金だ」

「はい……飛行装置は僕の研究室においてあります。飛行理論を記した研究書もありますので、よろしくお願いします」

「これにめげず、次の研究に励んでくれ」

「それでは、失礼します」

以上、会話終わり……ったく、聞いてて胸糞悪くなったぜ……。
危険なのはテメェだヒゲ!!

「何だかフェザリアンと同じ様なことを言われたな」

「ま、仕方ないさ。実際、この学院で開発される技術のほとんどはこうなるんだ」

どこか悟った様な感じのアリオスト……フェザリアンの時の様に凹まないのはたいしたものだな。

「それじゃどうして研究を続けるの?」

「それが『証』だからさ」

「あかし?」

ティピが興味津々な眼差しを向ける……まるでトランペットに憧れる子供みたいだ。

「詳しくは僕の家で説明するよ」

「アリオストさんのお家?」

「ああ。僕と父さん……それから母さんが数年間暮らした家だ」

「そうか。確かお前さんのお袋さんは……」

「シッ!それは、ここでは……ね?」

ウォレスがウッカリと、アリオストの秘密を話しそうになった……あっぶね〜……こんな所で秘密を話したらあのヒゲに、どんな実験をされるか……まぁ、大丈夫だとは思うが……あのヒゲの興味はグローシアンにしかないからな……。
だが、万が一ということもある。
ウォレス、マジ自重。

「す、すまなかった」

「どうして母さんが父さんと結ばれたか、知りたくないかい?そういうわけだから、一緒に村に行って欲しいんだ」

「そういうことなら、行かざるを得ないかな?」

ラルフが皆に確認を取る。
俺は勿論オッケー。
カーマイン、ウォレス、ルイセ、カレン、ティピも同様だ。
ゼノスは少々悩んでいたが、結局、納得したらしい……何をそんなに焦ってるんだ?

適正テストも始まった頃だろうが、まだまだ余裕はある筈だろうに。
俺達は一旦外に出た……学院内では強力な魔法は使えないらしいからな……俺やルイセはポンポンと使ってるが、テレポートは本来、最高位呪文に位置する魔法……当然学院内では使えない。

「それじゃ、今回はルイセに任せた」

「わたし?うん、分かった。テレポートするよ!」

今回はルイセにテレポート役を任せる……毎回、俺がテレポート使ってたら、ルイセの為にならないからな。
まあ、この距離なら歩いても構わないんだが、テレポートの方が確実に早い。

そんなこんなで、文字通り、あっという間にブローニュ村に到着。

「おーい!帰ったぞ!」

アリオストが声を掛けると、村人が集まって来た。

「おお、アリオストさんだ!」

「帰ってきたな、出世頭!」

「まあ、まあ」

アリオストは村人を宥める……そして村人の一人に、学院長から受け取った報奨金を渡した。

「はい、これ。学院から報奨金が出たんだ」

「いつもすまねぇな。これでまた村が豊かになるさ」

「いやぁ、僕はみんなみたいに村の仕事をしていないから」

「何言うさ。アリオストさんには才能があるんだから、そっちをやるのが当然さ。村のことはオラたちに任せておくさ」

「すまないね」

「なんの、なんの」

何と言うか……フレンドリーというか、カントリーというか……とにかく良い雰囲気の村人達だな。

「僕は先に家に戻るから、後から来てくれ。しばらく帰らなかったから、汚れているんだ」

「なぁ、お前の家ってどこなんだ?」

ゼノスが尋ねる。
そういえば、俺達……アリオストの家には行ったことないんだよな。
一応、位置的には原作と変わらない筈だが……原作には無い家とかもあるし……まぁ、他の村人も住んでるんだから、当たり前なんだがな。

「ここからでも分かると思うけど、近くに井戸があるから直ぐに分かる筈だよ」

そう告げると、アリオストは家に向かって行った……やっぱり原作とは大差無しか。

「アンタら、アリオストさんの友達け?」

「はい。魔法学院の後輩です」

「俺達は、まぁ…友達みたいなもんかな?仲間って方がしっくり来るんだが」

ルイセと俺はそれぞれにアリオストとの関係を話す。
俺は他の皆の分も含めての言だが。

「どうさ、アリオストさんは?」

「すごい人です。あの若さで自分の研究室をもらえる人は、そういないです」

「そうだろう?あの人はオラたちの希望さ。お父さんも凄い人だったけど、あの人も凄いさ」

ルイセの言葉に、満足気に頷く村人……そういや、ウォーマーってどうなんだろうな?

「アリオストさんのお父さんも魔法研究家だったの?」

「いいや、そうじゃねぇさ。オラたちがこうして生き甲斐を持てるのも、お父さんのおかげさ」

「どういう事かな?」

ウォレスが尋ねる。
まあ、確かに気になるよな。

「オラたちは親もなく、捨てられた存在だったさ。その日の飢えをしのぐのに人の物を盗んだり、悪いこともしたさ。だけどそんなオラたちを引き取って、この村に連れてきてくれたのが、彼のお父さんだったのさ。そしてオラたちに畑の耕し方を教えてくれたさ」

「ああ。そして採れた物を街で売って、金を稼ぐ。そうやって自分たちの力だけで生きていく事を教えてくれたさ。自分で何とかしようと努力すれば、どんなことだって出来るんだってね」

「アリオストさんのお父さんって、凄い人だったんですね……」

カレンは純粋に感動している様だ……気持ちは分かるよ。
そういうことは、やろうと思っても中々出来ないしな……普通に尊敬出来る人だよ。

「アリオストさんは頭がいいからこんな村、出ていこうと思えばいつだって出ていけるはずさ。だけど、自分が研究を続けられるのもオラたちがいるからだって、出ていこうとしないのさ」

「あの人が才能や運だけであそこまでになったなんて、誰も思っちゃいないさ。いつだってあの人は勉強している。それは凄いことさ。それどころか今日みたいに、学院から報奨金が出ると村のために回してくれるのさ」

「天才は一日にして成らず、か」

「真の天才とは、1%の閃きと99%の努力だ……とも言うけどな」

村人達のアリオストに対する、想いって奴を聞いて、ウォレスと俺はそれぞれ思ったことを口にする……いや、マジで凄いよアリオスト。
普段は涼しい顔をしているが、影では努力しているっていう……原動力は母への想いなんだがな。

「これからもアリオストさんのこと、よろしく頼むさ」

「ああ……勿論だ」

カーマインがそう締め括る……さて、んじゃアリオストの家に行きますか。

「おじゃましま〜す」

「やあ、来たね。楽にしてくれていいよ」

アリオストの家にお邪魔したワケだが……結構綺麗に片付いてるじゃないか。
必死になって掃除したか?

「さっそくだけど、『証』の事を教えてよ」

「ああ。だけど、その前にちょっと別の話……、僕の両親の話をさせてくれ」

「聞いたよ。お父さんって偉い人だったんだね」

「なんだ、村の人たちに聞いたのかい?」

照れ臭いのか、アリオストは少し顔を赤くしている。

「ええ、ちょっとだけ」

「聞いた話は一部だと思うけど、中々出来ることじゃないですよ」

ラルフもどうやら感心していたらしいな。

「それに、以前言っていたな。母親がフェザリアンだって」

「う〜ん、考えてみれば人間を嫌っている彼らが人間と結婚したなんて、変な話だよね。オッケー!話して!」

流石のティピも気になったか……そりゃあそうか。
あのフェザリアンが人間と愛し合っていた……なんて、フェザリアンと邂逅した身としては信じられないわな。

「この村はね、僕の祖父が何もない荒れ地を開拓して作った村なんだ」

「おじいさんが?」

「僕の祖父は若い頃、孤児たちを引き取って、ここに村を作った。孤児たちを養うために畑を作り、出来た物を売って暮らしの必需品を買った。それがこの村のはじまりだ。最初は養われることに甘えていた孤児たちだったけど、そのうち、自然と畑仕事を手伝うようになったそうだよ。僕の父も孤児の1人だった」

「それじゃ祖父といっても、血は繋がっていないのか」

「彼は僕たちみんなの祖父さ。言い換えればこの村の父親だね」

「創立者……ということか」

カーマインの言う通りなんだろうが、村の父親と言う方がしっくりくるな。

「話を続けるよ?成長した孤児たちの多くは自信に満ち、別の土地に散っていった。そこで成功を収めた者もいて、みんなの希望にもなった。一方、この村に残った父は、自分がそうだったように孤児を見つけてはこの村へ引き取った」

「……すごい……」

「つまりは爺さんの意思を、親父さんが受け継いだ形な訳なんだな……」

「だからアリオストさんが成功すると、皆さんも嬉しいんですね」

「ちょっと照れ臭いけどね」

本格的に照れ臭いらしく、アリオストは頬をポリポリと掻く。

「けど、僕が研究を頑張って来たのは、村のみんなのためじゃないんだ……僕は、母さんに会うために……ただそれだけの為に研究を続けて来たんだ……自分の欲のためだけに……」

アリオストは自身を責める様に言う……やっぱり気にしてたのか……。

「……研究者って言うのは、少なからずそういうものだろう?」

「そういうもの?」

「確かにそうだな。研究者が研究をするのは、それを成し遂げたという……満足感が欲しいんだろう?多かれ少なかれ、そういう部分はある筈だ」

「……そう言って戴けると助かります」

アリオストはカーマインとウォレスに礼を言う……まだ吹っ切れないだろうが……これなら大丈夫そうだな。

その後アリオストから、色々聞いた……アリオストの父が、傷ついたアリオストの母を助けたこと。
アリオストの母が父に興味を持ち、いつしか二人は愛し合うようになった……ということ。
原作でも触れていたが、アリオストの母……ジーナさんはアリオストの父親の優しさ、そして【歩き出す前に諦めるのは、愚か者がすることだ。人として生まれた以上、向かい風でもくじけず歩け】……という祖父から受け継がれた信念に触れ、興味を持ったのだろう。

俺達は俺達の調べ上げた成果を話す……コムスプリングスにいるダニー・グレイズという人が、フェザリアンについて何かを知っている……ということを。

で、俺のテレポートで行ける……というのと、ゼノスの希望で闘技大会に出ることも告げる。

ティピが【証】について聞きたがった為、アリオストは話した……自身の研究者としての誇り……信念を。

自分が研究をするということは、その研究を残すということ。
自分が研究を完成出来なくても、その研究は後世で役に立つ時が来る……。
それはつまり、自身が存在した【証】だと……。


やっぱりアリオストは大した奴だ……俺は改めてそう思った。

**********

俺達はアリオストと別れグランシルへ……。
で、ゼノスが慌てて何処かへ行ってしまった為、先に登録所へ登録しに向かう……誰と組もうか迷っていたら、ゼノスがやってきた。
なんでも、組むつもりだったパートナーが、既に他の奴とパートナーを組んでいたという。

既にカーマインとルイセは組んでいたため、選定外だったが、ならば俺達の中から組めばいいと言うウォレス……ちなみにウォレスは何回か出場していてエキスパートにしか出場出来ないため、俺達とは組めない。

そこでゼノスは、こともあろうにラルフと組みやがった!!
ラルフも承諾するし、俺はどうすれば良い!?
何ですか?
仲間外れですか?

って聞いたらカレンと組めば良いとか言う。

馬鹿なの死ぬの?

しかしどうやらマジらしい……カレンも何故かやる気を出してた為、俺はカレンと組むことに。

――どうしてこうなった?

……まぁ、良いか。
俺がカレンを守れば良いんだし……なんとかなるだろ。




[7317] ―ウォルフマイヤー夫妻の憂鬱……inジュリアン―番外編8―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/05 00:27


時は闘技大会開始より遡る……。

*******


初めまして、私はリーセリア・ウォルフマイヤーと申します。
シオン・ウォルフマイヤーの母です♪
って、私ったら誰に向かって話してるのかしら?

「それにしても、ジュリアン君は大きくなったわね〜♪」

「いえ、リーセリア様は以前とお変わり無く……」

今、目の前でお茶をしている男の子はジュリアン・ダグラス君。
私の主人、レイナード・ウォルフマイヤーのかつての同僚である、ダグラス卿のご子息。

以前は度々、我が家にダグラス卿と共に来ていたんだけど、ここ最近は顔を見せてなかった。
話を聞くと、諸国を巡っていたのだそう――。
……なんだか、うちの息子みたいねぇ……。

「それにしても、ジュリアン君……昔も女の子みたいだったけど、すっかり綺麗な男の子になっちゃったわねぇ」

ゴフッ!!

あら?
ジュリアン君ったら、紅茶が変なところに入ったのかしら?

「ごほっ!ごほっ!……き、綺麗と言われても、男の私としては複雑な心境ですね……」

「ゴメンなさいね♪変なこと言って♪」

だから紅茶を吹いちゃったのね……悪いことしちゃったかなぁ……多分あちこちで色々言われてるんだろうなぁ。
まぁ、容姿なら私の息子も負けてないけどね。
私とレイの良いとこ取りみたいな感じだし……あ、レイっていうのは主人のことね?

ガチャリ。

「済まない……待たせたな」

「あら、あなた♪」

そこにやって来たのは、私の主人のレイナードだ。
改めて見ても良い男よねぇ〜〜♪

「よく来てくれたねジュリアン君。それで、一体どんな用件かな?」

「はい、実は旅先での話ですが……ご子息であるシオン殿とお会いしまして……それをお知らせしようと」

あ〜〜、そのこと?
私はレイに視線を送る。
レイもそれに気付いて頷く。

「彼が旅立ってから3年……その間、音沙汰が無く……?どうしたのですか……その、申し訳無さそうな顔は?」

「その……実はだね?」

「あの子、定期的に手紙をくれるの……ついこの前も手紙をくれたのよ」

ズルッ!

そんな感じで肩透かしをくらうジュリアン君……あらあら、椅子に座りながら……器用ねぇ。

「そ、そうだったのですか……それでは差し出がましい真似をしてしまいましたね――」

「あら、そんなことは無いわよ?ね、あなた?」

「ああ、ジュリアン君……息子は元気そうだったかな?」

「……はい、私と一緒に国に戻らないかとお尋ねしたのですが、まだその時では無いと……」

「全く……昔から変に達観したところがあったからな、シオンは……アイツのことだから何かしら考えがあるんだろうが……」

そう、あの子は妙に達観しているところがある。
それが顕著に現れたのが、二歳くらいからだろうか?
それ以前から、話が出来ていたし、歩き回る様になっていた……読み書きを完璧に熟せる様になったのは五歳くらいからだけど……それでも早熟よね〜……?
何より、自由に動ける様になってから、一度も一緒にお風呂に入ったことないのよ!?
いつも逃げられて……そんなにお母さんとのスキンシップをしたくないのかしら……あ、思い出したら悲しくなってきた……。

オシメだって変えてあげてたし、お乳だってあげてたのに……愛情たっぷりで育てた筈なのに……何でお風呂には一緒に入ってくれなかったの……お母さん悲しい……。

「そういえば、今度息子は闘技大会に出るらしい……まぁ、息子のことだから心配はないだろうがな」

「そうなのですか?私も出るつもりだったのです……そうなると、彼とぶつかることも考えなければなりませんね」

うんうん♪
男の子してるわね♪
あ、そういえば……。

「そういえば、あの子ったら女の子と仲良くなったらしいのよ♪何でも、一時期お世話になったご兄妹の妹さんらしいんだけど……フフ♪隅におけないわよね♪」

ビキッ!!

「……その話……詳しく!聞かせて戴けませんか?」

「?ええ、構わないわよ」

私はその女性の話をした。
名前をカレンさんと言い、息子より二つ年上。
何でも、危ないところを息子が助けたらしい。
凄く綺麗なお嬢さんみたい。

「だが、仲の良い友達くらいの仲だと、手紙には書いてあったが……」

「そう言えばそうねぇ……てっきりあの子にお嫁さんが出来るかと思っちゃったわ……早とちりだったかな?」

「……あの人のことだ……無自覚に引き寄せたに違いない……とは言え、四六時中一緒にいる訳ではあるまい……」

「確か、今は兄妹と一緒に行動を共にしてるんだったな?」

「そうそう!ラルフ君の弟さん達も一緒に旅に出ているらしいわね?なんか賑やかねぇ♪」

ガタンッ!!

あら?
ジュリアン君が立ち上がったわ。

「こちらから訪ねて来て、大変申し訳ないのですが……急用が出来たので!今日は失礼させて戴きます……(マズイ……マズイマズイ!?マイ・マスターが何処の誰とも知れない者と四六時中……そんなマイ・マスター!?私を見捨てないで下さいっ!!)」

それから、挨拶もそこそこに、ジュリアン君は慌てて出ていってしまった……。

「……どうしたのかしらジュリアン君?」

「さてなぁ……急用みたいだったが……」

なんだか分からないけど大変ねぇ……。
シオンも頑張ってるのね……なら私も頑張らなきゃね♪

「ねぇ…レ〜イ♪」

私はレイにしな垂れかかる。

「!?な、なんだ……リース?」

「今度、シオンが帰って来る時に、驚かせてあげたいと――思わない?」

「ど、どういうことだ?」

「もう、鈍いんだから!もしあの子が帰って来た時に、弟か妹が出来ていたら……あの子も驚くでしょ?だから今夜……ね?」

「お、お前……自分の歳を考えろ……というか、俺の歳をだな……」

「あら?私はまだ綺麗なお姉さんで通るわよ?年齢もまだ30代前半だし……むしろ今を逃したらチャンスなんか無いわよ〜……それとも……嫌……?」

「!!……分かった。後で後悔しても知らないぞ?」

「後悔なんてしないわよ♪……愛してるわ、レイ♪」

「……私もだ、リース」

シオン……貴方が何をしようとしてるのか……お母さんには分からないわ……。
けれど……精一杯頑張りなさい。
私……ううん♪
私達も頑張るからね♪
弟か妹か……今から楽しみね♪





[7317] 第36話―開催!グランシル闘技大会!未然に防ごう影の企み―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/05 00:57


そんなこんなで、やってきました闘技場。
にしても、賑やかだなぁ……一年を修業に費やした者……参加者が夫らしく、イチャついている夫婦……新魔法を試しに来た魔法使いの爺さん……参加者だけでも様々だ。

おっ?
ノミ屋まで出てるんだな?

「エキスパートの部、1番人気は去年の優勝者バズロックだ!2番人気は、去年のフレッシュマン優勝者ジュリアンだ!フレッシュマンは新進気鋭のダークホース揃いだ!さぁさぁ、己を信じて、でっかく賭けよう!!」

やっぱりジュリアンは参加するんだな……なら、エキスパートはジュリアンで決まりだな。
原作ではフレッシュマン優勝候補はゼノスだ……とか言ってたんだが、ゼノスもさっき出場登録をしたばかりだからな……こんな所にもタイムラグの影響が。

ティピとルイセが、ノミ屋って何?
と、聞いて来たが、ウォレスはやんわりと知らなくていいと言いました。
良い子の皆は、賭け事は大人になってからだぞ!
オッサンとの約束だ!!

んで、俺ら三組……受け付けを済ませます。
カーマイン組は左側、ゼノス組は右側の控室の様です。
原作通りですね本当にありがとうございます。

肝心の俺とカレンだが……左側らしい。
つまり、カーマイン達とは決勝でしか当たらないと言うワケか……まぁ、ゼノスとラルフに勝てれば……の話だが。
流石に組み合わせは分からんから、何とも言えないがな。

ゼノスにラルフとは、俺達が先にぶつかるかも知れないし、勝ち上がり方次第では先にカーマイン達とぶつかるかも知れない。

「俺は参加できないから、観客席にいくぜ。皆、後悔の無いようにな」

ウォレスの激励を受け、俺達はそれぞれの控室に向かう……その分岐路にて。

「改めて言うことじゃないが、勝負は正々堂々。手加減抜きだぞ?」

「皆には悪いけど、僕達が勝たせてもらうよ?」

ゼノスとラルフはやる気満々だ。

「こっちだって負けないからね!」

「やるからには勝たせてもらうぞ…」

ティピを筆頭に、カーマイン達もやる気十分だ……。

「あ、あの……お手柔らかに……」

……ゴメン……一人例外が居たわ。
まぁ……ルイセだしなぁ……。

「まぁ、ウォレスも言ってた様に皆、悔いが残らないようにやろうぜ?」

俺はそう締め括る。
結局は悔いが残るのが1番辛い……原作のゼノスみたいにな。
そういや、シャドーナイトは何か仕掛けてくるのか?
これは正直、微妙だと思っている。
ゼノスの出場登録は原作とは違い、俺達と一緒でギリギリに済ませた物だ。
なので、奴らがゼノス出場の情報を手に入れたというのは考えにくい……が、相手はシャドーナイツだからな。
用心に越したことはない……か。

とは言え、俺はカーマイン達と同じ控室だから、あまり干渉は出来ないんだが……。
まあ、ラルフが居るから心配はしていないがな?
後は、ゼノスが俺の占いをどれだけ信じてくれているか……だな。

「シオンさん、頑張りましょうね」

「勿論。まぁ、怪我のないように、俺達は俺達のペースでやろうな、カレン」

「そうですね……分かりました」

俺達は俺達なりに気合いを入れる……。
カレンは俺が守る……その上で優勝する。
その気になれば楽勝だがな……とか言える自身のチートさに全俺がry

さて、不安要素は一旦置いておいて……闘技大会の開会式が始まる。
開会式は出場者が整列することになっており、当然俺達も並んでいる。
俺達フレッシュマンは後方に並んでます。

「これより本年度の闘技大会を執り行う!今年は国賓としてバーンシュタイン王国の王子であり、インペリアル・ナイト・マスターでもあられる、リシャール殿下がお見えになられております」

闘技大会の開催責任者が、開会の挨拶を執り行う。
そしてリシャール……やっぱり来ていたか。
……と、なると……シャドーナイトの横槍はあるものと見るべきだな。
リシャールの顔に、カーマイン達は気付いてないな……まぁ、この距離だからな……普通は見えないよな。
しかし、よく似てるよな……流石はエリオットの複製体……か。

「我が国の民は知っていると思うが、私も国ではナイト・マスターをつとめ、剣術には興味があります。みなさん。悔いの残らぬよう、全力を出して戦ってください」

開催責任者に促され、開会の挨拶を行うリシャール……周りは歓声に包まれた。
この時点でアイツは既に、ゲヴェルの傀儡なんだよな……昔、父上の関係で、リシャールとは何度か会ったことがある……話してみると、やはりというか、良い奴だった。
……俺が旅に出ず、士官学校に入っていれば……多分、リシャールが最良の友になっていたことだろう……。

結局、俺は二者択一でラルフを選び、今に致る訳だが……改めて思う……幾ら戦闘能力がチートでも、俺は万能では無く、十全でも無いと……それでも、あの悲劇は回避したいな……その考えが、えらく傲慢だと理解しちゃいるが……な。

「次に、前年度、フレッシュマンの部優勝者、ジュリアンより、選手宣誓です」

「宣誓!我々は己の持てる力を出し切り、正々堂々と戦うことを誓う!」

「「「「オオオオォォォォォ!!」」」」

お、ジュリアンだ。
別れてから、まだ数日程度しか経ってない筈だが、妙に懐かしく感じるな。
ジュリアンの宣誓で、一気にテンションが上がった選手一同。
うむ、元気なのは良きことかな。

で、控室に戻り、早速適正テストに取り掛かる。
1番手は俺達らしい。
ちなみに適正テストの内容は、制限時間内に闘技大会側が用意したアイアンゴーレムへ、どれだけダメージを与えられるか計る……というもの。
因みに、ダメージカウンターの様な物がゴーレムに取り付けられており、200以上のダメージ値で合格だそうだ。

正に原作通り。

「ダメージですか……大変そうですけど、シオンさんならどうにかしてしまいますよね……なんだか、申し訳ないです……」

「気にするなって、適材適所……カレンには、俺を応援していてもらいたい……それだけで俺には力になる」

落ち込み掛けているカレンを励ます。
やはり、自分が足手まといだ……とか考えてるんだろうな。
だが、俺が励ましたらカレンの顔が赤くなった。
やはり風邪か?
益々、カレンを前線では戦わせられないな。
ここはもう一押し励ましを込めてあの台詞を!

……まぁ、俺が言いたいだけなんだが。

「ああ、そうだカレン。君に一つ聞いておきたいんだが……」

「は、ハイ!何でしょうか!?」

この台詞はキザに、ニヒルに、自信を込めて言わなければならない。

「ダメージを与えるのは良いんだが……別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」

そう、かの紅い弓兵のあの台詞……リアルに言う日が来るとは思わなかったが……言ってみると結構スッキリする物だな。

「…………ハイ!思い切りとやっちゃって下さい!シオンさん!!」

どうやら、元気になった様だな。
まだ顔が赤い……つーか真っ赤だが。
もう自分を卑下したりはしない様だ。
しかし、流石は紅い弓兵の台詞……大人しいカレンをも元気付けるとは……それじゃ俺も。

「では……期待に答えるとしよう」

マジでな?
いや、全力は出さないが……せめて一撃で決めるくらいは――良いよな?
……これで双剣ならバッチリだったんだが、贅沢は言わんさ。

ここからはノンストップ風にお送りします。

********

シオン、カレン組

ズバッ!!

ズズズン!!!

「まぁ、こんなものか」

「す……凄い……」

「言ったろ?倒しても構わないかって。俺は約束は守る主義なんだよ」

シオンWIN

TIME、一秒にも満たないくらい。

決め手、唐竹割りに真っ二つ。

カーマイン・ルイセ組

「ルイセは魔法で援護してくれ!」

「うん!お兄ちゃん!マジックアロー!」

ドガガッ!

「!今だ!」

「いっけえぇぇぇ!」

ズガカガガガッ!!ズシャァッ!!

ズズーンッ!

「やったぁ!」

「やったね、お兄ちゃん!」

「ああ……次もこの調子でいくぞ?」

カーマインWIN

TIME、本大会で三番目の早さ。

決め手、マジックアローで体制を崩した所に叩き込んだ連撃。

ゼノス・ラルフ組

「さて、どうします?僕が魔法で援護しましょうか?」

「そんなまどろっこしいのは無しにしようぜ?お互いに剣に自信があるんだ……なら!」

「正面突破…ですか。了解です……行きますっ!!」

ズバババババババババッ!!
ズガガガガガガガガガッ!!

ズズズーンッ!!!

「まっ、ざっとこんなモンだ!!」

「次もこの調子でいきたいですね」

ゼノスWIN

TIME、本大会で2番目の早さ。

決め手、二人掛かりでフルボッコ。

*******

と、そんなワケで俺達は難無く適正テストをクリアした。
まぁ、この面子だから当然だな。
むしろ、クリア出来ないほうがどうかしてる。

そんな流れで、俺達は予選に駒を進める。
予選は4組のチームが、時間内にどれだけのモンスターを倒せるかを競う。
本戦に進めるのは上位一組のみ。
ちなみに用意されたモンスターはゲルが五匹。

「さて……さっさと片付けるかな……マジックガトリング!!」

開始早々、俺はマジックガトリングを放ち、五匹纏めて吹き飛ばす。

「予選Aグループが終了しました!見事、本戦進出の権利を獲得したチームは……」

まあ、文句なしで俺達の勝ちだろ?

「勝者は【白銀の閃光】と名高いシオン選手率いる美男美女チーム!シオン選手、圧倒的な力の差を見せ付けてくれました!!これからの本戦、また素晴らしい戦いを見せてくれる事でしょう」

だからその厨二臭いネーミングは止めい!!
小っ恥ずかしいわっ!!
つーか、美男美女チームとか……まぁ、確かにそれなりに容姿には自信があるが……カレンも美人だしな。
だが、司会者よ……ネーミングが安直だ。
俺が言えた義理じゃないんだが……。
原作でも、カーマイン達を兄妹チームと呼んでたしな……この司会者。

「その……予選突破ですね」

「次もこの調子で行こうぜ……ん?カレン、また顔が赤くなってるぞ?やっぱり風邪か?」

「い、いえ!違うんです!その……美女なんて言われて……私なんて、そんなことないのに……」

「何を言ってるんだ?カレンは垣根無しの美人だと思うぞ?少なくとも、俺はそう思ってるけど」

そもそも、カレンが美人じゃなかったら、一般の方々はどうなる?
多分そんなこと言ったら睨まれるぞ?
正直、カレンは自分を過小評価してるよなぁ……って、カレン余計に赤くなったぞ!?

「ああああ、あの……その……そんなこと貴方に言われたら、私……信じちゃいますよ?」

「いや、まぁ……俺の個人的な意見だしな……けど、嘘は言ってないから……信じて良いぜ?」

「シオンさん……」

「…………」

って……なんだこの雰囲気……何だか、以前にもこんな雰囲気になったことがあるような……うっ!
そんな潤んだ瞳で見つめないでくれ……オッサン勘違いしちまいそうだからっ!!

「あ〜……こんなことを言うのは何ですが……次の予選も控えてますので、両選手、ストロベリるなら後でにしてください」

「「!!?」」

コホン……という申し訳なさそうな咳ばらいを聞き、カレンと……恐らく俺もだが、顔を真っ赤にしながらそそくさと控室に逃げ帰った。

って、違う!
違うからな!?
俺はストロベリってなんかいないんやあぁぁ〜〜!!?

ちなみにカーマイン達も予選を勝ち抜いた……当然だな。
つーか、控室に戻ってからも何か気まずい……恥ずくて顔が見れない…カレンも同じみたいだ。
うぐぅ…こんなんで俺、本戦で戦えんのかぁ…?

予選がとんとん拍子で進んで行く中、未だに俺とカレンは気まずい雰囲気を抱えたままだ。
イカン!
このままじゃイカン!!
あの有名な超人も言っている!
『屁の突っ張りはいらんですよ!』……と。
……意味分からん。

が、とにかく凄い自信に満ちた言葉だ!
今はこんなことをしてる場合じゃない!
そろそろ本戦が始まるんだからな。

「まぁ、その……なんだ、俺は基本、嘘はつかないからして……さっきのも本心からの言葉なワケだ……」

「ハイ……」

うぐぅ……まだ動揺が隠せない!
クールになれ……素数だ、素数を数えるんだ……。
そもそも、何を勘違いすることがある……そういう勘違いをして痛い目にあったことがあるだろ?思い出せ……あの灰色の日々を……。

…………(回想中)…………。

オーケー、クールになった……危うく、クールを通り越して鬱になる所だったが……。
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「カレンはもう少し自信を持つこと!カレンは美人で可愛い。俺が幾らでも保証する」

俺は最高の笑顔を向けた。
よし、いつも通りのナイススマイル!
やはり暑苦しさが足りないのが難点だが。

「ハイ……シオンさんがそう言ってくれるなら…信じます♪(貴方が……貴方だけがそう想ってくれるだけで私……嬉しいんです……)」

赤くなりながら、凄い綺麗な笑顔で答えてくれるカレン……うぐっ、不覚にもドキッとしてしまった。

「さて、そろそろ俺達の出番だ!気合い入れていくぜ!」

「はいっ!」

よっしゃ!いっちょ行きますかぁ!
何故かは分からないが、いつも以上に気合いが入ってしまう俺だった。

本戦一回戦目は、四組同時のバトルロイヤルだ。
最後まで残っていたチームが二回戦に駒を進めることになる。
非常にわかりやすいな。

「お、おい、あの【白銀の閃光】が居るぜ……?どうするよ?」

「どうするもこうするも……やるしかねぇだろ?」

「予選のアレ……とんでもなさすぎでしょ……?」

「だが、接近戦もヤバイぞ……適正テストのあのゴーレムを倒したのは3チームいたが……その中でも奴は一撃で切り捨てたらしいからな……」

「……先に潰しましょう。どうやら他のチームも同じ考えみたいだし」

「幾ら【白銀の閃光】が強くても、全員で掛かれば……ってことね?」

おおぅ?
何やら視線が俺に集まってる……こいつらまさか。

「それでは、試合開始!」

試合開始を告げられたと同時に、3チームが一斉に俺達に襲い掛かって来た。
やっぱりそう言う手段で来たか……どうする?
選択肢は幾つかあるが……。
防衛戦……大丈夫だとは思うが、カレンを危険に晒す可能性があるな。

魔法戦……勝てるが、相手が心配になるな。
上手く手加減しないと……これはどの案にも言えることだけど。

「よし、これで行くか……マジックフェアリー!!」

俺は魔力の妖精で、正確にそれぞれを狙うことにする……勿論、気絶する程度に手加減して。
この大会も当然、殺しはご法度だしね。

ズガガガガッ!!

魔力の妖精が自在に舞い踊り、それぞれに命中していく。

「ぐぇ!」

「うぉ!」

「きゃあ!?」

「ぬぁぁ!!」

「あうっ!?」

「きゃんっ!」

全弾命中……上手い具合に気絶してくれた様だ。
こういう時にデバイスがあればなぁ……便利だよな、非殺傷設定。

簡単にやってる様に見えるが、実は結構難しい。
手加減する程度なら簡単なんだが、攻撃魔法で手加減し、尚且つ気絶する程度のダメージを与える……と、なると綿密なコントロールと繊細な魔力の調整が必要になる。

「一回戦Bグループの勝者が決まりました!見事、二回戦進出の権利を獲得したチームは……【白銀の閃光】率いる美男美女チーム!流石【白銀の閃光】!またもや圧倒的な実力を見せつけてくれました!これは今後の試合展開も期待出来そうだ!」

だから……もう良いや【白銀の閃光】で……他が勝手に呼んでるだけだし。
気にするだけ疲れる……。

「……………」

「ん?どした、カレン?」

「い、いえ……何でもないです」

?……何やら複雑な表情を浮かべていたが……どうしたんだ?
俺は気になったが、いつまた司会者から突っ込みが来るか分からない……だから、カレンを連れて控室に戻った。

その後、カレンの様子はいつもと同じに戻っていた……俺の気のせいだったのか?

*******



私のことを、シオンさんは美人だって思っててくれた……それはその……凄く嬉しかった。
少なからず、そういう風に思ってくれているということだから。
頑張れば、シオンさんにも私の想いが伝わるかも知れないと分かったから……けど、さっきの試合で思うことがあった。

――シオンさんは、応援してくれるだけで十分だ……と、言ってくれたけど……本当にそれで良いのだろうか?

もし、私の想いに応えてくれたとして……その時に私は彼を支えてあげられるのだろうか……?

私は知っている……こういうお祭りとは違う、本当の戦いという物を――シオンさんが嫌っているのを……あの時の壊れかけたシオンさんのことを……今は立ち直ったけど、今尚、傷つき続けていることを……それでも彼は覚悟を決めた……躊躇いながらも、背負いながら進んで行くことを……私は、今のままで良いのだろうか?

守ってくれるのは嬉しい……けど、守られるだけは嫌……私は彼と……シオンさんと一緒に歩んで行きたい……。
隣で歩む……ううん!せめて後ろから支えてあげたい……シオンさんがそうしてくれる様に……私も。
その為にも今は……。

「シオンさん……この大会、絶対勝ちましょうね!」

「ん?おう勿論……どうしたんだ急に?」

シオンさんは不思議そうに首を傾げる……これは私の一方的な想い……でも、決めた。
強くなってみせる……貴方の傍を歩むに相応しい様に。
貴方と一緒に歩むために……今は応援くらいしか出来ないけれど……必ず!

……その前に、私の気持ちに気付いて欲しいけど……ううん!
こんなところで弱気になっちゃ駄目よ!
……もっと私がアプローチしなきゃ……ファイト私!

*******



なんか知らんが、カレンが急にやる気になった……正確にはやる気倍増!
……みたいな?

まぁ、元気になったなら何よりだけどな。
泣き顔も綺麗だが、やっぱり笑顔も綺麗だしな……って、何言ってんだ俺は!?

そうそう、カーマイン達とゼノス達も一回戦突破だ。
当たり前なんだがな……今、ふと思ったんだが、よく予選や一回戦でこの2組と当たらなかったな……これも宇宙意思とかいうのが働いたのかね?

二回戦からは二対二のチームバトルだ。
ガチンコバトルって訳だな。
ただ、特筆すべきことが無かったので、詳しい内容は省く。

ただ言えるのが、俺達全員が余裕で勝ち進んだことと、二回戦でも仲間内でぶつかり合わなかったことだ……運が良いのか悪いのか。
いよいよ次は準決勝か……トーナメント表を見たが、どうも俺達の相手はゼノス組では無いし、勿論カーマイン組でも無いらしい。
というか、この二組がぶつかり合うらしいし。
となると……アイツか。

*******



「ようウォレス!」

「ん?ゼノスとラルフか……」

俺達は観客席に足を伸ばした。
そこにはウォレスと……カーマインとルイセ、それとティピがいた。

………間違いなく本物だな。
俺はラルフに振り向くと、ラルフもしっかり頷いた。

「ゼノスさん、ラルフさん!二人もシオンさんの試合を見に来たの?」

ティピが問いかけてくる……その通りなんだが、念のため確認しておくか。

「まぁな……何しろ確実に決勝で戦う相手だからな……それよか、一つ聞きたいんだが……カーマイン、お前一人で俺の所に来たか?」

「?いや……俺はずっとルイセやティピと一緒だったが……?」

「うん、ずっと一緒だったよ?コイツがアタシ達から離れるとしたら、トイレくらいだけど……別にトイレには行ってないしね」

「それがどうかしたの、ゼノスさん?」

やはりか……じゃあ奴はラルフが言う通り……。

「何かあったのか?」

「実は、控室にカーマインによく似た男が来たんです……というより、カーマインそのものと言ったら良いのかな?服装も同じだったし、何より顔がそっくりだった……」

ウォレスの質問にラルフが答える。
そう、服装は言うに及ばず……なにより……顔がそのものだった……まるで……。

「それって、ラルフさんみたいに?」

「うん、全く同じと言って良い……僕も一瞬、カーマインかと思ったんだけど、側にルイセちゃんと……何よりティピちゃんが居なかったからね…妙な感じがしたんだ」

「大方、変装でもしてたんだろうけどな……流石にティピを真似ることは出来なかったって訳だ」

仮にルイセに変装は出来ても、ティピはサイズ的にな?
お陰で気付けたんだが…な。

「そのお兄ちゃんそっくりの人がどうしたの?」

「俺たちに飲み物を差し入れに来たよ……しかも、かなり特別な奴をな」

「特別な飲み物……まさか」

勘の良いウォレスが気付いたようだな……。
俺自身、シオンのあの占いがなけりゃ、今頃はどうなってたか……。

「毒だよ……しかも結構、強力な奴をね」

「な……っ!?」

「ど、毒ぅ〜〜!?」

カーマインとティピが驚く…っつーか、ティピの奴騒ぎ過ぎだ!!

「シッ!静かに……どこで聞き耳を立ててるか、分からないから……」

「ご、ゴメンなさい……」

ラルフの注意を素直に受け取るティピ。

「それで、その毒はどうしたんですか?」

「とりあえず、飲むフリをした後に捨てた。あの偽物野郎も、それを見届けてから帰りやがったしな」

「にしても、よく気付けたわね〜……」

ティピが感心した様に言う……実際、感心しているんだろうがな。

「まぁ、ラルフが気付いてくれたのと……シオンの占いのお陰だな」

「占い……そういえばそんなのが得意だとか言ってたな……俺も占ってもらったが」

「その占いの中に、この状況を示唆する様な文があったのさ……しっかし、あの占い、おっそろしい的中率だな」

そういうのを信じない俺でも、これからは信じちまいそうだぜ。

「しかし……その男は何者だ?大会出場者の関係者か……?だが、なら何故ゼノス達だけを狙った……?」

「その辺りについては、僕に心当たりがあります……とは言え、事は結構大きい話なので……この大会が終わった後、シオン達を交えて話したいのですが……」

「分かった……俺は構わない。皆はどうだ?」

カーマインが全員の意見を取る……どうやら満場一致の様だな。
俺はラルフからある程度の話は聞いてるからな……シャドーナイト……成る程、【影】か。

「さぁ、両チームが位置につきました」

「っと、どうやら始まるみたいだな」

今はコッチにも集中しなくちゃな。

「青コーナーはメディス村出身の戦士コンビ。特にニック選手の剛剣の噂は、このグランシルまで届くほどです」

「ほう……剛剣のニックか……」

「知ってるのかゼノス……?」

「ああ、結構有名な奴だぜ?だが相手が悪かったな」

カーマインの疑問に答える。
確かにソコソコ有名な奴だが…今回は運が無かったな。

「対する赤コーナーは旅の剣士シオン率いる、美男美女チーム。ここグランシルの闘技場のフリー部門にて、無双の強さを誇ったシオン選手……その時に付いた字が【白銀の閃光】!その字に負けない圧倒的強さで、ここまで勝ち上がってきました!」

さて、お前がどういう戦いをするのか……じっくり見させて貰うぜ。

**********



「準決勝戦Aグループ、試合開始です!」

司会者の声と共に試合が始まる。
それにしてもニックか……原作では何気に好きなキャラクターだ。
アイリーンがヒゲにグローシュを抜き取られて、廃人同然になってしまった時に、恋人であるアイリーンを助ける為、ヒゲの秘密基地に乗り込んで来た男……そしてヒゲのアイリーンへの仕打ちに怒り、ヒゲ軍団に挑んだ熱い男……怒りに駆られていたとは言え、『俺のアイリーン』と公然で叫んだ勇者だ。

……あの時は敢えてニックにヒゲのトドメを刺させたりしたっけな……。

あぁ、アイリーンってのはニックの恋人で、メディス村の医者。
カレンの治療を担当した医者で命の恩人………ん?
よく考えたら、アイリーンとカレンの接点をぶっこわしてるんだよな……俺。
そもそも、カレン襲撃事件を経て、アイリーンに治療してもらってからカレンは医者を目指していくわけで……それまでは傭兵業を生業にしていたゼノスの為に、薬学を学んでるだけの女性なんだよな。
だからⅡでも小さな診療所を開いてる訳だから…………俺ってば言霊の面に続いて、Ⅱのフラグを叩き折りました?


……ま、良いか。
さして問題あることじゃないだろ?

……多分。

「俺はニック……【白銀の閃光】……お前の力、見せてもらおうか」

お、戦う前に名乗りを上げるとは……中々、騎士道精神に溢れてるじゃないの……とは言え。

「その呼び方は好きじゃないんだ……ま、お手柔らかに頼む」

気配で分かったが、確かにニックは強い……が、俺は勿論、カーマイン、ラルフ、ゼノスには届かない……オズワルドよりは強いみたいだが……敢えて言うなら盗賊団頭のグレゴリーと同じくらいか?

「悪いがそれは約束出来ん……【白銀の閃光】相手だ……俺の全力を見せてやる!!行くぞ!!」

ニックが剣を構え、突撃してくる……だから俺をその名で呼ぶなと言うに……どうすっかなぁ……魔法で迎撃するのはたやすいが……。
ここは剣術の稽古と行くか。

……しかし、そうなると、あの弓兵が邪魔だな……俺がニックと切り結んでいる間に、カレンを狙われかねない。
もっとも、某錬鉄の魔術使いの様に百発百中というわけではないだろうが……やはりココは魔法で。

「……シオンさんは剣士の人を……私は弓の人を抑えます」

「カレン……?だがそれは……」

「私だって戦えますっ!……シオンさんなら、二人相手でも切り抜けられるかも知れません……でも、私だって戦えるんです!……お願いします、信じて……下さい」

カレン……もしかして、ずっとそんなことを考えていたのか……?
俺はカレンと視線を合わせる……強い眼差しだ。
俺なんかよりずっと強い……争いごとが嫌いなカレンを、ここまで奮い立たせる物……それが何かは分からない。
ただ、その信念を踏みにじってはいけない様に――俺は思った……。

「分かった……あの弓兵は任せる。ただ、危なくなったら横槍いれるからな?」

「はい、任せて下さい!」

「よそ見してる場合かぁ!!」

「おっと」

「!あの体制から、俺の剣を受け止めただと!?」

俺は背のリーヴェイグを抜き放ち、ニックの一撃を軽々と受け止めていた。

「そこそこ良い一撃だったが……まだまだだな」

「くっ!舐めるなぁ!!」

俺の態度が癪に障ったのか、猛攻を仕掛けてくるニック――。
それに対して、俺も剣を合わせていく――。

俺は身体能力をラルフくらいに抑えながら、しかし徐々に剣速を上げていく。
すると次第にニックが着いて来られなくなる……。

「く、くそっ!?」

「……どうやらこの辺りが限界みたいだな」

俺はこれで終いとばかりに、ニックの剣を跳ね上げる。

「ぐっ!?」

「終わりだ」

姿勢が崩れたところに、気合いを乗せた拳打を放つ。

「覇っ!!」

ズドォォンッ!!

「ぐっ!がああぁぁぁぁっ!?」

ドゴオォォォォォ……ン……。

闘技場の壁に叩き着けられたニック……やべぇ、やり過ぎたか?
手加減したから、大丈夫だとは思うんだが……。

********



私も戦う……あの人にそう告げた……なら、私の出来ることをする!

!弓の人がシオンさんを狙っている……!

「させません!マジックアロー!!」

ズドドドッ!!

「くぅ!?」

「あなたの相手は……私です!」

あらかじめ、マジックアローを詠唱しておいてよかった……なんとか命中してくれた。

けれど、私は攻撃魔法というのが得意じゃない……今の私じゃ、攻撃魔法はマジックアローくらいしか使えないし……それに魔力もルイセちゃんやシオンさんみたいに高くない……。

「くっ……やってくれたな……」

だから、弓の人がたいした傷を負う筈がない。
魔法瓶を使うしかないのかな……でも、これは使い捨てだから……あまり使いたくないんだけど……。

手が無いわけじゃない……覚えたばかりのあの魔法……あれなら弓の人を無力化することが出来るはず。
けど、覚えたばかりだから、上手く出来るかどうか……それにあの魔法はマジックアローよりほんの少し詠唱時間が掛かる……でも、やるしかないもの!
私が……抑えるって、やるんだって、シオンさんに誓ったんだから!!

「…………」

「呪文詠唱…!?させるか!!」

弓の人が向かってくる……あの距離からでは、弓の人の矢が届かないからだろう。
私は呪文詠唱を急ぐ……早く……早く!!

!弓の人が立ち止まった!?
そして矢をつがえる……ま、間に合わない!?
もう少しなのに……!!

「足を撃って動きを封じさせてもらうぞ……悪く思うなよ」

そんな……やっぱり、駄目なの……?

私では……あの人の支えにはなれないの……!?

私は歯痒い思いをしながら、しかしこのまま私が傷ついては、シオンさんを苦しませるだけだと悟り、詠唱破棄を実行しようとした。
けれど……。

「ぐっ!がああぁぁぁぁっ!?」

ドゴオォォォォォ……ン……。

「な、何だ!?」

何かが弓の人の横を通り過ぎて、壁に激突した……それはニックと呼ばれた、弓の人のパートナーの人だった……。

「う、うぅ……」

「ニ、ニック!?」

弓の人が後ろを向き、ニックさんに声を掛ける……!
弓の人の注意が逸れた!?

今っ!!

私はその隙を逃がさずに、呪文を完成させた。

「…………!」

「!?しまっ……」

もう遅いですっ!

「バインドォ!!」

弓の人の周囲に光の柱が降り注ぐ。
その光は地を這い、弓の人の足へ。
光は弓の人の足に絡まり、動きを封じる。

「ぐ……足が……!?」

【バインド】

人の運動神経にダメージを与え、軽い麻痺を起こさせる補助魔法……特にその麻痺は足下の自由を奪い、掛けられた者はしばらく下半身を動かせなくなる。

「これであなたは動けません……降参してください!」

「くっ!舐めるな!!例え足が効かなくとも……」

そう、この魔法は特に下半身へ麻痺を与える……が、上半身はたいした麻痺を受けないため、動かすことも可能。
けれど……。

「チェックメイト」

「っ!!」

弓の人の後ろには、いつの間にか移動して、剣を首元に突き付けたシオンさんが居た。

「相方は気を失ってるみたいだが……まだやるかい?」

「……ま、参った」

弓の人は弓矢を手放して降参を宣言した……。

「勝負あり!準決勝Aグループの戦いを制したのは、魔法剣士シオンが率いる美男美女チームだ!見事、あのニックを倒し、決勝へのキップを手にしました!!」

やった……私にも出来た……?

「お疲れ、カレン」

控室に戻って来てから、シオンさんが私を労ってくれる……ううん、違う。
私はまた……シオンさんに助けられたんだ……シオンさんが居なかったら……私はきっと……。

「そんな……私なんて、何も出来ませんでしたし……」

「何言ってるんだよ……」

ポン……。

「あ……」

「カレンは頑張っただろ?……ありがとうな、お陰で助かったよ」

そう言ってシオンさんが微笑みを浮かべて、頭を撫でてくれる……何時もは快活に笑う彼が……初めて見た……なんて綺麗なんだろう……。

「本当ですか……私、お役に立てましたか……?」

「勿の論!大体、こんなことで嘘をついてどうするんだよ?」

今度は何時も見せる清々しい笑顔……どちらの笑顔も暖かくて……染み込んで来る……。
あぁ……シオンさんの笑顔が暖かい……シオンさんの手が心地良い……シオンさんの言葉が……染み込んで来る……。

********


……良かった。
カレンが立ち直りそうで……。
実際、カレンが弓兵を引き付けてくれてたから、剣術の練習……なんて言う余裕が出来たんだもんな。
……最後は危ないっぽかったから、ニックを弓兵の近くへ殴り飛ばしたんだけど……にしてもバインドか……原作では使う機会が無かった……先入観からか、実戦でも使う機会が無かったからな……けど、考えたら、バインドは相手の動きを封じる便利な魔法だよな。
今度アレンジしてみるかな?

……………………………………………ん?

撫で撫で。

………………ん〜〜?………………

なでなで。

……………これは……つまり……ナデ?

そういえば………さっき微笑みたいなのを浮かべた様な……なんか知らんが、自然に出ちゃったんだよね〜〜〜。

………これって、ニコポナデポって奴?

………ハハハハハハハハハ……ハフゥンッ!!!?

や、やっちまったあああぁぁぁぁぁっっ!!!??
セクハラ!?
セクハラでタイーホされる!?

いやぁぁぁ!!
違う!
違うんや!!

なんか知らんけど落ち込んでるカレンを見てたら急に……!?
こう、身体が勝手にぃ!!

そう!
俺は知っている!!
二次創作で見たんだ……主人公でも無いやつがオリ主を気取ってこんなことをした時の末路を……。

ニッコリ♪→こいつキモッ!→冷たい眼差し→オリ主に痛い目に合わせられる→BADEND

ナデナデ♪→なにすんのよ!!→急所にキツイ一撃→悶絶→オリ主に痛い目に合わせられる→BADEND

オ・ワ・ッ・タ♪

ははは……マジで終わった……主人公でも無いのに何やってんだ俺……。
そういえばこの世界にオリ主とか居るのかね……?
居ようが居まいが結果は同じか……。
でも警察はいないから最悪は無いか………国家権力は居るか……兵隊さんとかね?
牢屋行きかな?
この世界では、セクハラとか無い筈だけど……まさかいきなり縛り首とかギロチンとか……ないよな…………無い……筈………。

……………。

…………。

………。

……。

…謝ろう。

そうだ謝っちまおう!!
某煩悩を力に変える霊能力者も、某もっこりスイーパーも、セクハラする度に平謝りしてるじゃないか………そして折檻を受けてるじゃないか……例題を間違ったな。
くっ、正直釈然としない物を感じるが……。
やむを得まい!
って、俺はいつまで撫でてんだ!!?

バッ!!

「あっ……」

「その、ゴメン!!頭撫でたりなんかして……」

「いえ!良いんです!!むしろ……その、もっと……して欲しいというか……」

「……えっ?」

今、なんて言った……?

「な、何でもないです!その、気にしないで……下さい……」

カレンが赤くなってる……赤く?
……ポされてる?

…まさかぁ♪
もしカレンがポされてるなら、俺ってばオリ主の立ち位置かよ?
ないない♪
俺みたいなのがそんな……無い…よな?

その後、何処かへ行っていたカーマイン達が戻って来るまで、口数が減っていたのは仕方ないことだろう?




[7317] 第37話―準決勝……そして決勝!!激闘の果てに―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/05 04:07


「オイッス」

「シオンとカレンか……」

俺とカレンは観客席に来た……まぁ、敵情視察には観客席から見るのが1番だろ?
それに……あのままだったら中々に気まずかったからな……カーマイン達が来てくれて助かったぜ……。

「さて、本日注目のカードな訳だが……解説のウォレスさんはどう見ます?」

「前評判ではゼノスとラルフが圧倒的だな……ゼノスにしろラルフにしろ、このグランシルでは知らない者はいないだろう」

「兄は地元だから分かりますが、ラルフさんってそんなに凄かったんですか……?」

カレンが小首を傾げる。
まあ、カレンが闘技場に足を運んだのは俺が知る限り、今回を抜かせば一回だけだからなぁ……俺とゼノスがガチンコした時です。
知らなくてもしょうがないか?

「ラルフは俺に付き合って、闘技場のフリー部門に参加してさ。最終的にはマスタークラスを軽々制覇するくらいになった……ま、俺を抜かせば大陸最強かもしれんな」

冗談めかしながら言うが、ラルフの力量は実際半端無い。
正直、あの原作魔改造キャラたるリシャールを凌駕している……気配の強さで分かるわけだが……つまり俺が魔改造してしまったわけですね本当にありがとうごry
ラルフも、なんだかんだで努力する奴だからなぁ……俺と一緒に地獄の特訓に付き合ったりもしたし……ちなみに史上最強の弟子形式ですが何か?
あと龍玉形式もちらっとやったっけな〜。
あれだけ強くなったんだ……オッサンも誇らしいですよ。
なんつーか、弟子みたいなものだからな。

「だから【漆黒の旋風】なんて呼ばれてるんですね〜……」

「らしいね。ラルフはそう呼ばれるのがこそばゆいみたいだけど……何気にファンも結構いるらしいぞ?」

主に女性のファンが多いな……耳を澄ませば聞こえてくる。

「いや〜ん♪次はラルフ様よ!わたし全力で応援しちゃう!」

「わたしはカーマイン様ね♪あの方のクールな表情……あぁ!いいわぁ♪そういえば、お二人はそっくりだけど……ご兄弟かしら?」

などなど……他にもラルフ様応援団……みたいな物も組織されている様だ。
カーマインも初出場ながらラルフに迫る人気らしい……まぁ、あの容姿であの強さなら仕方ないか。
ちなみにゼノスも大人気だが、比率的に女性三割、男七割という感じだ。
ゼノスも美形ではあるが、線が細いという訳ではなく、むしろガタイはマッチョ。
まぁ、どちらにしろ人気なのは分かるがな?

「……シオンさん、人のことを言えないのに気付いてますよね?」

「は、ハハハハ……」

思わず渇いた笑いを浮かべる俺……そう、信じられないことだが俺の人気も凄まじく、ラルフ同様応援団も結成される始末……。
しかも大半が女性という……皆、物好きだな……と言うか……アイドルってこんな感じなのかな?
そんなことを漠然と考えてしまう俺であった……。
ちなみにカレンやルイセなんかも、男連中に……それこそアイドルみたいな声援を受けていた。

「ルイセたんハァハァ……」
「カレンたんと合体したい!!」

……とか、言いながら危険な視線を撒き散らしガチで何かしでかしそうな連中が居たので、ボコッてひん剥いてゴミ捨て場にポイしておいた。
ひん剥いた時に、やっぱりありましたよ妙な薬。
媚薬らしき物、痺れ薬らしき物……何を考えてるんだか。
しかし、この世界にもいるんだな……ああいう奴ら。
興奮するのは良いが、良識を持って行動しろ……俺の悪友も言っていたぞ?

『現実とゲームを履き違えるのは愚か者だ!!ハァハァするのは画面の中だけにしろ!!』

……と。

……なんか違うか?

「それはともかく!……解説のウォレスさんはこの勝負をどう思う?」

「状況によるな……総合的な能力からすればゼノスのチームだが……」

だよね〜……俺の感じた気配では、ラルフが抜きん出ていて、カーマインとゼノスがほぼ互角……そこから超えられない壁を挟んでルイセ……みたいな感じだな。
もっともこれは単純な戦闘能力に限っての話だ……魔力という意味ではあの面子の中じゃ、ルイセが断然1番だ。
勝負に徹すれば、ゼノスとラルフが勝つだろうが……その辺が鍵になりそうだな。

「そういえば、さっきゼノス達が来てな……その時――」

「その話なら控室で、カーマイン達に聞いたよ……詳しい話は大会が終わってから……ということで」

「うむ……わかった」

何処で聞き耳立ててるか分からないしね……俺の意図をウォレスも理解してくれた様だ。
これで闘技場での目的の八割は果たしたな……後は……。

「あ、どうやら始まるみたいですよ?」

カレンの言う通り、選手入場が始まった……さて、どんな戦いになるやら……カーマインも何故か原作より強いし、ゼノスも毒を喰らってない全力全開状態……ラルフもどう動くのか、正直楽しみだぜ!

********



「いよいよだね!」

「ああ……」

ゼノス……そしてラルフ……二人とも俺と互角……いや、俺より上だと思ったほうが良い。
正直、この戦いにさして意味はない……コムスプリングスの旅券も、シオンが居る俺達には必要無い。
……だが。

「ラルフ!俺がカーマインの相手をする!!」

「僕はルイセちゃんを抑えれば良いんですね?了解です」

……どうやら一対一でやってくれるらしい……ありがたいことだ。

「そういう訳だ……ルイセは下がってろ。こっちから仕掛けなければ、ラルフも手荒なことはしないだろう……」

「……うん!気をつけてね、お兄ちゃん」

「……俺を誰だと思ってるんだ?」

俺はルイセに不敵な笑みを浮かべてそう言ってやる……自意識過剰?
こうして奮い立たせでもしないと呑まれる……それほどの相手なんだ。

「では、試合開始!!」

俺とゼノスは一斉に駆け出す……スピードは若干俺の方が上か。

「うおおぉぉぉぉっ!!」

「はああぁぁぁぁぁっ!!」


鈍い金属音と共に衝撃波が生じる……互いに正面からの全霊の一撃……パワーはゼノスの方が上か!?
僅かに俺が後方に圧される……。

「やはり強いな……」

「……そっちもな!」

俺は自分から後方に跳び、体勢を立て直す。

「行くぞ!」

「っ!?」

ゼノスが踏み込み、一瞬で間合いを潰してくる……俺は上空に跳び、それをかわしながら、下に向かい切り掛かる。

ゼノスはそれを迎撃、俺はそれに弾かれる感じで飛ばされる……強い……分かっていたが強い!

「面白い……!」

俺は空中で体勢を変え、激突しそうな壁を背にし、それを蹴る!
そしてその加速力のままゼノスに切り掛かる。

「ハッ!!」

ズガァァァッ!!

「何っ!?」

ゼノスの横を擦り抜け様に切る!
ゼノスも防ぐが俺は勢いに任せたまま、剣を滑らせた。
擦れ違い様にゼノスの篭手を切り飛ばす。
そして後方に着地し、その場で横の回転切り…ゼノスも同様の動きを見せる。

「ハアアァァァァ!!」

「ゼリャアアァァァッ!!」


俺とゼノスは互いに譲ることなく、切る!切る!!切る!!!

互いにそれを捌き、受け流し、隙を見つけては攻撃に移る。
互いに縦横無尽に駆け回り、打ち合う!

……初めてだ……初めて俺は全力で戦っている……今までも手を抜いたことはなかったが、全力で打ち合えた奴は初めて……。

「フッ……」

俺は自然に笑みが零れた……強い。
この強い奴相手に自分の力がどれだけ通じるか……試してみたい!
俺の中にこんな感情が眠っていたとはな……。

*******


チィッ……予想以上に手強い……。
剣速は互角、パワーは俺の方が上……だが、身のこなしの速さはカーマインの方が若干上回っている。
その若干がくせ者で、カーマインは縦横無尽に駆け回り、こちらを翻弄する……俺はそれを正面から追わない。
追っても追いつけないからだ……速さにもそれなりに自信があったんだがな……まぁ、幾ら速くても捕えられない程じゃない。

俺は上手く、足運びと体捌きで追従していく……実際、足運びだけで大分無駄は省ける。
……確かにカーマインは強い。
……だが、俺はもっと強い奴と戦ったんだ!
あいつと戦って負けて……俺は自分を鍛え直した……それが無ければ、カーマインには勝てなかったかもしれん……。
だが、アイツに比べたら……!

再び剣閃がぶつかり合う――。

これで何度切り結んだのか……十合、二十合……いや、もっとだな……。
互いに小さなダメージはある……だが、このままだとじり貧だな……悔しいが、ダメージ量は俺の方が多い……なら、一気に片を付ければ良いだけだっ!!

ガキャアアァァァン!!

俺は再びカーマインを叩き飛ばし、距離を取り構えを取る……チャンスは一度……乗るか反るかだ!!
俺はここで負けるわけにはいかないんだからな……。

********


二人ともやるなぁ……他の出場者とはレベルが違う……。

「あ、あの……ラルフさん?」

「何だい?ルイセちゃん?」

「本当に、わたしたち何もしなくていいのかな……?」

「ん〜……観客の人達も二人の戦いに熱中してるし……」

そう、最初こそ僕達が戦わないことで、ブーイングみたいなのも起きたけど、二人のあまりにレベルの違う戦いに会場は大興奮。
僕達は放置されちゃったわけだね。
シオンが言うには、あの二人はインペリアルナイトとも良い勝負をするらしい……気配を探れば分かるって言ってたけど、まだ僕は漠然としか分からないからなぁ……。
気配の強さは大まかには分かるけど……。

「それじゃあ何かする?結局、どっちが勝っても僕達がそれぞれ残ってたら勝負が着かないしね」

それが闘技大会のルールだからね……けど僕はルイセちゃんを傷つけたくは無いんだよなぁ……。まぁ、いざとなればどっちか降参すれば良いわけだし……。

「それじゃあ、あっちむいてホイでもしようか?」

「あっちむいてホイかぁ……昔、お兄ちゃんとよくやったなぁ……うん、あっち向いてホイしよう!」

うん、良い笑顔だ……なんかこっちまで穏やかな気持ちになるよ……。

「それじゃあ行くよ?」

「うん、負けないからね?」

「「ジャンケンポン!」」

*******


「……何やってるんだアイツら」

俺の視線には激しい戦いを繰り広げるカーマインとゼノス……から離れ、闘技場の隅っこで…あっち向いてホイに興じるルイセとラルフが映っていた……いや、なんぞそれ?

「……今のところ互角か……そういえば、ルイセとラルフはどうしたんだ?」

「……もうちょい右に視線をずらせば分かる」

「右?」

俺はウォレスにそう教えてやる。
するとウォレスは少し右に視線を動かした。

「……二人は何やってるんだ?」

「あっち向いてホイ」

「……あっち向いてホイ?」

「そっ、あっち向いてホイ」

「………………」

ウォレスが絶句した……だよなぁ……しかもあそこだけホンワカと言うか……空気が緩いし。

「ルイセちゃん、楽しそうですね♪」

「いや、楽しいんだろうけどさ?」

もはや闘技ですらない……いや、某番長のアレは例外だけどね?

「…どうやらゼノスが動くみたいだぞ?」

ウォレスに言われて見ると、ゼノスが闘気を纏っている……次で決めるつもりだな。

********



何だ……?
ゼノスの雰囲気が変わった……?
何かする気か?
……なら、その隙を与えなければいいだけだ!!

俺は駆け出した……すぐに間合いを詰める。

そして剣を勢いよく切り付ける……斜めに切り上げる感じだ。
ゼノスは動かない……何故だ?
直撃コースだぞ……!?
俺の疑問も虚しく、俺の剣はゼノスへと吸い込まれる様に――。

ブゥンッ!!

「っ!?」

剣が当たったと思った瞬間、ゼノスの身体がぶれ……剣は虚しく空を切った……これは……【分身】……。
俺の剣が振り切られた直後……俺の右側に回り込まれた……?

「終わりだ」

「くっ!?」

俺は咄嗟に方向転換……間に合わないか……ならば攻撃を防ぐ!
ゼノスの剣は打ち下ろし……俺は剣を構え防御の姿勢を取る……受け流して軌道をずらせば……!!

「でりゃああぁぁぁぁぁっっ!!」

ガッ……バキャアアァァァァンッ!!!

「っ!?」

剣が……砕け――っ!?

「せりゃぁ!!」

「がぁっ!?」

振り切った剣はそのままに……ゼノスは肩から当たって来た……!?
俺は後方に飛ばされながらも足を地に着け、踏ん張らせる……。

ズザザザザザッ!!

俺は壁に激突する寸前で立ち止まった……。
なんとか軌道はずらせた……もしあのままだったら、剣が砕ける所じゃ済まなかったからな……。

さて……どうする?
お互いが満身創痍、特にゼノスは今の一撃に全てを掛けていたのだろう……あれ以上追撃してこなかったのがその証だ。
それでもゼノスは息を整えながらこちらに睨みを効かせる……『まだ続けるか?』……と。

俺は眼を閉じ…そして考える…。
結果など、分かり切っている。
半分以上先が無くなり、ナイフみたいな大きさの刃になってしまった剣……。
戦えなくはないが……。

俺は剣を鞘に収める。

「……俺の……負けだ」

ここが戦場なら、俺はなりふり構わなかったかも知れない……だが、俺は一介の剣士として挑んだんだ……悔いはない。

俺の敗北宣言を聞き、ゼノスも大きく息を吐き出し、剣を収めた。

*********



「勝負あり……か」

「紙一重……だったんだがな」

原作では自動的に発動するスキルだった……【分身】……実際は自身の意思で使いこなす技能だ。
考えれば当然なんだがな……確率で発動とかゲームだけだって。

ゼノスのやったことは、俺と戦った時にやったことと殆ど同じだ。
違うのが、最後の最後まで分身しなかったこと。そして繰り出した一撃が、溜めを効かせた更に強烈な一撃だったことだ。

それを受け流したカーマインも賞賛に値する。
だが悲しいかな、武器がそれに着いていけなかった。
何しろカーマインの剣って、グラディウスなんだぜ?
下級兵士の基本装備として知られるそれは、扱いやすくはあるが、品質もそれなり。
何でも、初めて旅に出る時に買った物で、ポケットマネーまで出して買ったそうで、愛着があったとか。
手入れもしていたみたいだが……カーマインの力に武器が着いて来れなかったんだろうな。

こう言ってはなんだが、今のカーマインに見合った武器だったなら……勝負は分からなかっただろうな。

「ゼノス兄さんが……決勝戦の相手なんですね」

「まあ、そういうことだな……」

もっとも、ゼノスのことだ。
カレンは絶対狙わないだろうし、狙わせないだろうな……その場合ラルフにもよるが、二対一になるか。

ん?
ラルフとルイセはどうしたって?
カーマインとゼノスが決着付ける前に決着付けてます。
ラルフが勝ってました。
結構意外だったな……ルイセってあっち向いてホイが強い印象があるんだが……。
なんか、この前ティピ相手にあっち向いてホイしてたしな……。
いや、待てよ?
そういえばアレは不意打ちだったような……。
ちなみに、ラルフ対ルイセの内容はこんな感じだ。

*********

「「ジャンケンポン!」」

「あっち向いてホイ!やったぁ♪わたしの勝ち♪」

「強いねルイセちゃん……でも、次は負けないよ?」

「私だって負けないよ!行くよ〜?」

「「ジャンケンポン!あいこでショ!あいこでショ!」」

「あっち向いてほい。ふふ、僕の勝ちだね?」

「あ、あれぇ??よ〜し、次こそは!」

「「ジャンケンポン!あいこでショ!」」

「あっち向いてホイ……また僕の勝ちだね」

「うぅ…負けちゃった……」

「楽しかったよ。また機会があったらやろう」

「うん!」

*********

と、こんな感じで終始ほんわかしていた……あそこだけ空気がゆるゆるなんだもんな……何かお花が舞ってるような……いや、これ以上考えるのは止めよう……。

とにかく!

ゼノスとラルフが決勝まで来たのは事実なんだからな。

「さて、しばしのインターバルを挟んで、いよいよ決勝ってわけだな……俺達は控室に戻るよ」

「そうか……どちらかだけを応援することは出来ないが、ここからお前たちの戦いぶりを見させてもらうぞ?」

「OK!まぁ、それなりに頑張らせてもらうさ……行こうか、カレン」

「はい!」

俺達は、興奮覚めやらぬ観客席を後にした……。
そして闘技場内からは、ゼノスチームの勝利を告げる声が高らかに上がるのだった……。

そんで、控室。

「よう、お疲れさん」

俺は控室で休憩を取っていたカーマイン達に声を掛けた。

「あ、シオンさんとカレンさん」

「惜しかったな?正直、紙一重だったぞ」

「とは言え、負けは負けだ……言い訳はしないさ」

なんともまぁ、清々しい顔を浮かべて……悔いは無いって感じだな?
なら、そんなやり切ったカーマイン君に、オッサンから贈り物をさせてもらおうかな?

「ほら、これをやるよ……頑張ったで賞だ」

俺は持ってきた細長い、布で包まれた物を渡す。

「……これは……剣か……?」

包みを広げたカーマインは、黒塗りの鞘に納まった細く湾曲した剣を見て驚く……まぁ、ぶっちゃけ刀だな。

「それは妖魔刀って言ってな?東の果てにある国の名匠が鍛えた業物だ。その切れ味は、金属鎧すらスパスパ切れちまうんだぜ?使い手の技量にも左右されるけどな?」

「良いのか……?こんなものを貰っても?」

「構わねーよ。使わない物を持ってても仕方ないしな。いらないなら無理にとは言わないが?」

「いや、ありがたく戴くとするさ……ありがとう」

カーマインはそう言って受け取ってくれる。
まぁ、本当に使わなかったしな……使ってくれるならありがたい。

「ルイセにもあるんだ。コレなんだが」

「これは、召喚カード?」

「知ってるのか?なら、使い方も分かるだろ?それはフェアリーカードって名前のカードだ。何でも、隠された力ってのがあるらしいぞ?」

カードの力を使って二百の敵を倒すと大化けするカードです。
……そこまで使われる可能性は、殆どないだろうがな。

「でも、わたし殆ど何もしてないし……」

「そんなこと無いよ。ちゃんとカーマインをフォローしてたろ?

最後のあっち向いてホイはともかく。
それまでルイセがフォローしていたのは事実……カーマインもかなり動きやすかった筈だ。

「ああ……ルイセが居てくれたおかげで、俺は助かったんだぞ?」

「お兄ちゃん……」

おおぅ?
何だかまた空気が違うぞ??

「ねぇねぇ♪アタシには?」

「ティピか?ティピには………何も無い!」

スッテーン!

と、空中でずっこけるティピ……器用だなぁ。

「な、何じゃそりゃああぁぁぁ!!?」

「いや〜、何かあげたいのは山々だが、ティピに合うサイズのアイテムが無くってさ!今度、何か用意しておくからさ」

「むぅ〜〜、約束だからね?」

「了解♪」

用意しておくさ……取って置きの奴をな?

「あ、勿論カレンにも用意してあるから」

「わ、私にもですか?」

「ああ、カレンも頑張ってくれたしな……ただ、それは大会が終わってからということで……構わないか?」

「は、はい……ありがとうございます!」

うぉ!?
なんか素晴らしくキラキラした眼差し……あんまりたいした物じゃないんだがなぁ……。

それからしばらくして、カーマイン達は観客席で応援してる……と言って、観客席に向かった。

いよいよかぁ……さて、どうするかなぁ。
正直、勝つのはワケ無い。
自信過剰に聞こえるかも知れないが、それだけの力の差がある。

仕官を願うゼノスの為に、ゼノス達を勝たせるべきか……ただ、優勝したところで、確実に仕官出来るかと聞かれたら――答えはNOだ。
……原作のカーマインにも、スカウトなんて来なかったからな……。
とは言え、大筋は原作通りに進んでる……もし、サンドラ様を助けられたら、流れ的にゼノスが仕官出来てもおかしくはない。

あの戦いぶりが知れたならカーマインも……よし!
ここはワザと負けよう!
そうなると問題は負け方だよな……あまりにワザとらしいと、気付かれちまう……ここは途中まで互角に戦うというのがベストか。

「シオンさん、始まるみたいですよ?」

「ん?そうか……よし、行くか!」

俺はカレンを連れて闘技場内に足を踏み入れた。

「これより決勝戦を始める!選手入場!」

俺達は促され、所定の位置に。
ゼノス達も同様だ……無論、足取りがおかしかったりはしない。
休憩時間内にしっかり回復出来たみたいだな。

「青コーナーはゼノスとラルフの戦士&剣士コンビだ!!このチームは本大会優勝の有力候補!準決勝でのカーマイン選手との熱く激しい戦いは、闘技大会の歴史に残る物となったでしょう!」

「赤コーナーはシオン&カレンの美男美女チーム!このチームは本大会優勝の最有力候補です!!準決勝で強豪のニック選手を降したシオン選手!未だに底が知れません!!カレン選手もよくシオン選手をフォローしています!ちなみに、ゼノス選手とカレン選手は兄妹だそうです!!」

わあああぁぁぁぁ!!!
という感じで歓声が強くなる。
まぁ、どうせ負けるつもりなんだから……派手に行きますか!!

バッ!!

俺は右の拳を天高く突き上げた……俺に着いて来い!
的なパフォーマンスだ!!

「「「「ウオオオォォォォォ!!!!」」」」

「「「「きゃあああぁぁ〜〜ん♪♪シオン様あぁぁぁぁ〜〜ん♪♪♪」」」」

……何だか物凄い歓声だ。
こんなにド偉いことになるとは思わなんだ。

「……凄い人気ですね、シオンさん?」

カレンが何故かジト眼で俺を見てくる。

「そうでもないぜ?カレンも手でも振ってみれば分かる」

「え?……こう、ですか?」

カレンは観客に向けてひらひらと手を振る……すると。

「「「「ウオオオォォォォォッッ!!!カ・レ・ンちゅわあああぁぁぁぁぁん!!!!!!」」」」

ビクッ!!

思わずカレンがびくついた……いやぁ〜、野郎ばっかりってのが凄まじいねぇ〜……ストーカーみたいなのも出るんじゃなかろうか?
まぁ、そんなことをする輩は俺かゼノスがぶっ殺だがな。

「……分かったか?」

「は、はい……」

すっかり萎縮しちまって……可愛いなぁカレン♪
ちなみに、向こうも似たような感じなんで、内容は省きます。

そして決勝戦、試合開始のゴングは鳴った。

「行くぜシオン!!お前の事だ……余計なことを考えてるのかも知れんが、構わねぇ!全力で来い!!ワザと負けられても嬉しくないからな!」

……参ったねぇ……、こっちの思惑が読まれてるよ。

「買い被り過ぎだ……まぁ、お手柔らかにな?」

なら、俺のすべきことは一つ……か。




[7317] 第38話―激闘!!決勝戦!!それぞれの想いと漢(おとこ)の誓い―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/05 22:33


ゼノスは本気で来いと言うが……本気でやったら、比喩無しで闘技場吹っ飛ばしちゃいますよ?
どんだけだよって?
……俺もそう思う。

「行くぜラルフ!!」

「了解です!!」

やっぱり二人掛かりか……なら、身体能力をラルフ基準からチラッと上げた方が良いか。

「カレンは下がってろ……もし俺が危なくなったら魔法で援護!良いか?」

「分かりました……気をつけて下さいね」

「了〜解!」

まぁ、カレンの出番は多分無いだろうけど……念のためにな?
ん?
ワザと負けるのを止めたのかって?

だってゼノスがそう望んでるんだぜ?
なら、答えてみせるのが【漢】ってやつだろ?

全力は出せないが、本気でやってやるさ。

「ゼェリャアァァ!!」

「セェェイッ!!」

二人が渾身の一撃を叩き込んで来る……俺は剣を横に翳し、それを同時に受ける。

ギャアアアァァアァァァンッッ!!!

凄まじい金属音が会場に響き渡る……!!

「ゼノス……お前の望みを叶えてやる……後悔するなよ?」

一応言っておかないとな?
確認の意味を兼ねて……な。

********


「……後悔するなよ?」

ゾクゥッ!!

そう言ったシオンを見て、俺は言い知れぬ感覚を覚え、思わず後方に跳んでしまった。
ラルフも同様だったのだろう……同じ様に下がってしまう。

「……どう思うラルフ?」

「ゼノスさんの提案を受け入れてくれたんじゃないですか……?多分、全力は出さないでしょうけど……本気で来ますよ?」

言いたいことは分かる……シオンは致命的と言って良いほど優しい男だ……あの場面は俺も見たから分かる。
そんなシオンが仲間相手に全力を出す筈が無い……だが、本気で来るとラルフは言った……つまり、実戦のつもりで掛かってくるってことか……。

「……余計なこと言わなきゃ良かったかなぁ……」

「今から訂正します?シオンなら喜んで手加減してくれますよ?」

「……へっ!それこそ、まさかだぜ!!俺はこの日の為に訓練してきたんだからな!」

そう……アイツに負けた時から、ずっとな。
傭兵やりながらも剣の腕を磨き続けて来たんだ…。

「優勝は俺達が戴くぜ!!」

「分かりました……僕もシオンの本気は初めてです……気を引き締めて行きましょう!!」

俺とラルフは再び剣を構える……何だかんだでラルフも気合いが入ってるみたいだな!

「話し合いは済んだか?」

シオンは魔法陣を頭上に展開しながら俺達を待って………おい、待て。

「ならぶっ放すけど良いか?まぁ、答えは聞かないけど……マジックガトリング!!」

シオンが手を振り下ろす……ッて、マジかよっ!!?

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!!

無数の魔力の矢が降り注ぐ……まるで豪雨の様にっ!!

「ぐっ!!?」

「っ!?」

俺とラルフは縦横無尽に駆け回る……ち、近付けねぇ!!

降り注ぐ魔力の矢群……無論、全力で魔力が込められた物では無いらしく、何発か当たっちまったが、軽い痛みしか感じない……だが、まともに喰らい続けたらダメージを受けるのは眼に見えている!

俺達は避けながら、避け切れない物は剣でたたき落とす……初っ端からかましてくれるぜ!

矢の豪雨が止む……よし、次はこっちの――。

「よう」

「!?」

眼の前に……いつの間に!?

「ちぃ!?」

ガキャアアァァァァン!!


俺は咄嗟に剣でガードに入る。
シオンの剣がそこにはあり、一歩間違えればやばかった……。

「腕を上げたな……以前のままなら今のは防げなかった筈だ」

「こちとら……お前らがいなくなってからも、訓練は欠かさなかったんでね……!」

鍔ぜり合いに持ち込まれる……俺の方が見た目パワーも体重もある筈なのに……圧される……くそ!!
なんつー馬鹿力だよ……!?

「ハァッ!!」

ヒュカッ!!

「うぉ!?」

そこにラルフが切り掛かり、それをシオンはバックステップでかわす……助かったぜ。

「大丈夫ですか?」

「スマン……助かった……距離を離したら厄介だ!一気に攻めるぞ!!」

「了解!」

接近戦も遠距離戦も厄介に変わりは無いが、離れればまた、トンデモ魔法が飛んで来る……なら接近戦の方がまだマシだ!!

俺達は直ぐさま追撃に掛かり……すかさず連撃を繰り出す。

ガギキキキキギギキキイイィィンッッ!!!

俺とラルフはひたすらに斬る!斬る!!斬る!!!
ただ斬るだけでは無く、突きも交え、縦切り、横切り、袈裟切り……様々な軌道の攻撃が飛び交う……なのに……!!

「届かねぇ……!!!」

「くっ……!!」

何故だ……その全てが、まるで吸い込まれる様に叩き落とされて行く……!?

「……そろそろこっちも行くぜ?」

ゾクッッ!!?

何だ……?

やばい…!

ヤバイ!?

シオンがこちらの剣閃を縫うように切り掛かってくる……一見、受け止められそうだが……あれは受けに行ったら駄目だ!!

俺とラルフは左右に別れ、それぞれ距離を取る。

「勘が良いな……今のを受けてたらお前、吹っ飛んでたぜ?」

「制空圏……かい?」

「制空……圏?」

なんだそりゃあ……?

「初めは大きく……後に小さく……制空圏って言うのは、その小さくしていく過程に見えてくる己の領域……だったよね?」

「やっぱり覚えていたか……流石はラルフ、お前もバッチリ自分の物にしてるみたいだな?」

「どういう……ことだよ……」

俺は息を整えながらも質問をぶつける……マジックガトリングの傷は癒えねぇだろうが……今のうちに身体を休めて、体力だけでも戻さなきゃあな……。

「簡単に噛み砕いて言えば、自らの攻撃が届く範囲……それによって形成される領域だな……この領域に入ったモノは確実に捌き、払い、打ち砕く……武術って奴の神髄の一つだ」

なんだそりゃあ……そんなの俺は知らねぇぞ?
……考えてみりゃあ当然か。
俺の剣は親父から教わった物を、実戦で磨いて来た物だ……その親父も傭兵をやってたって言うし、俺と同じ様な感じだろう……ならそんなことを知るわけが無い、か。

「普通は、それ相応の訓練を積まなけりゃ制空圏は見えない筈なんだが……それを本能だけで察知するとはな……ちゃんと師匠に師事すりゃあ――更に化けるかも知れないな……ったく、羨ましい限りだよ」

……俺のことか?
俺にまだ先が……?
限界まで鍛えたつもりだったんだが……というか羨ましいって、そんだけの力があって言うことかよ?

「何だか分からないが……要は弾けないくらいの威力の一撃を叩き込めば良いんだろ?」

「面白れぇ……やってみろよ」

身体も休まった……後はやるだけだ!!

「行くぞラルフ!!全力でやってやる!!」

「!……分かりました!」

どちらにしても、これが破られたら勝ち目はねぇ……なら、俺の全てを叩き込んでやる!!

*********


「……凄い……」

私は三人の戦いを見ていた……兄さんもラルフさんも凄い……私には動きがよく分からない様な速さで動いて……素人眼にも分かる……兄さん達は強いって……。

でも……。

シオンさんはそのことごとく上を行っている……んだと思う。
だって、ゼノス兄さん達の攻撃が通じていないもの……。

凄い……凄いとしか言えない……。

……さっきまでの私なら、また落ち込んでしまっただろうけど、私はあの人の……シオンさんの力になるって決めたんです……!!

背中を支えてあげられるくらいになるんだ……!倒れそうになっても、立ち続けるあの人の背中を……。
今は出来ることが無いかもしれない……それでも……!

私はこの戦いを眼に焼き付ける……争いごとは嫌いです……でも、私の誓いは揺るがない……何があろうと……。

********


「……アンタとの試合も凄かったけど……これはまた……」

ティピが絶句する……気持ちは分かる。
あの二人を相手に一歩も退かない……それ処か、逆に圧している……シオンの奴、ここまで……。

「ここまでの力を持っていたとはな……俺も気付かなかったぜ……この勝負、ゼノスたちに分はない……」

「でも、まだ分からないんじゃない?」

「俺は眼が見えない分、人の気配には敏感になっていてな……それで何と無く分かるんだ……ゼノスは全力、ラルフも全力……ラルフは団長並みか……?あの若さでとんでもねぇな……」

ティピの疑問に答えるウォレス……団長というのは、確かウォレスが捜している……。

「その団長さんって、強かったの?」

「当時の傭兵団で、俺は副団長をやっていてな……俺の他にも二人の副団長がいたんだが……俺達が纏めて掛かって、やっと互角だったな」

「ほえ〜……昔のウォレスさんって凄く強かったんでしょ?【放浪の剣士】なんて呼ばれてたくらいだし」

……そういうことは覚えてるんだな……ティピ。

「……そう呼ばれていたのは傭兵団が無くなってからだがな……だが、腕と眼が自前だった頃の方が腕が立ったのは確かだ」

「そのウォレスさんと同じくらい強い人が二人……その全員が纏めて掛かっても互角がやっとなんて……その団長さん凄かったんだね〜♪」

「一応、副団長という括りをしたが……一人は純粋な戦闘よりは頭や策を使う、傭兵としては風変わりな奴だったからな……無論、他の団員に比べれば腕は立ったが」

「とにかく……ラルフがその団長と同じくらいの実力があるということか」

それだけの力があるなんてな………待て……。

「すると、何か…?あの二人と互角処か、むしろ圧しているシオンは……」

「正直、俺にもシオンの底は見えん……ただ、言えるのは、あれでもシオンは全力じゃないということだ」

「アレ……でも?」

ティピが再び絶句する……アレでも全力じゃないだと……?

「……確かに、シオンさんが使ったマジックガトリング……お母さんを助ける時に使ってたのと威力が違ってた」

ルイセが冷静に言葉を紡ぐ……確かに……あの時の魔法はモンスターを吹っ飛ばすくらいの威力があった……。

「どうやら、ゼノス達が勝負を仕掛けるみたいだぞ?」

ウォレスに言われて、俺は再びこの戦いに集中する……シオンにしろ、ラルフにしろ、ゼノスにしろ……本当に俺は井の中の蛙って奴だったんだな……上には上が居る。
……俺もいつかアイツらと同じ高さに届くだろうか?

********


さて、加減はしつつ本気で戦ってるわけなんですが。
予想以上に二人掛かりってのが手強い……つい、制空圏を発動しちまうくらいに。
ちなみに元ネタは某史上最強の弟子の受け売りです。
出来ないかな?
……とか思ってたら出来たという……なんとも感慨の薄い結果だった……。

――まぁ、これは俺の隠された能力に関連してて……ぶっちゃけ俺、気が使えます。
使えると言っても、エネルギー弾を放ったり、空を飛んだりは出来ません……出来るのは気の強さを高めたり、特定の人物の気を感じたり、身体能力の調整が出来るくらいです。
全力全開なら身体を半透明な青白い炎みたいな物が包み込みます。

龍玉ですね本当にありがry

本・当・に・何・な・ん・だ・こ・の・身・体。
orz

気付いたのは一年前……ラルフと旅をしていた頃だ……俺は気配を感じたり、身体能力を調整したりを何と無くやっていたんだが…ふと、身体能力全開にしたらどうなるんだ?
と、気になった。

なのでやってみた。

後は言わなくても分かるだろ?
敢えて言えば、その時は森の奥に行って試したんだが……ラルフが居なくて助かった……とだけ言っておく。
その時ラルフがどうしていたか?
近くの街で、品物の仕入れ値を聞いたりしていたさ……。
俺のグローシュパワーなら多少離れていても、その距離が極端で無い限りゲヴェルの波動を遮断出来るからな。

……話が逸れたな。
つまり何が言いたいかと言うと、俺は気を読んで相手の動きを読める……その動きに合わせれば制空圏『みたいなこと』が出来るんじゃね?
……と。

つまり、俺のこれはアレンジ……言うなれば、【制空圏モドキ】と言った所……まぁ、効果としては本来の制空圏とほとんど変わらないんだが……流水制空圏は使えないだろうなぁ……あれは言わば明鏡止水の境地だからな……それこそラーニングでもしないと。

そもそも、俺自身、静のタイプなのか動のタイプなのか、判然としないしな……つーか、俺の体質上、その両方を有してる可能性大…………静動合一ですか?

と、長々と思考してる間にゼノスの闘気が高まり切った様だ……ゼノスも無意識かも知れないが闘気……要は気を操るんだよなぁ……本当、誰かに師事すりゃあ化けるぜ。

「準備は済んだみたいだな……?」

「ワザワザ待ってくれてたのかよ……ったく、ありがたいことだ、ぜ!!!」

ズドンッ!!

ゼノスが強烈な踏み込みで踏み込んで来る……速いな……だが、対応出来ないほどじゃない!

「クイック!」

「む?」

ゼノスのスピードが上がった……ラルフか。

【クイック】

原作では硬直時間と詠唱時間を短縮してくれる魔法……しかし実際にはその動きをも早めてくれる魔法だ。
なるほど……だが、それだけでは……。

「……グローアタック!……グロープロテクト!!」

!?高速詠唱だと!?
オイオイ……確かに教えはしたが、もう使いこなしてんのかよ!?
元々、剣士としての才覚は並外れていたラルフだが、魔術師としても並々ならぬ物を持っていた……流石にグローシアン程の魔力量はないが、魔法を巧みに使いこなす。

原作のカーマインを見れば分かると思うが、カーマインはメイキング次第ではあるけど、魔術師としての才覚があるのが分かる。
……ラルフは剣士としての才覚も、魔術師としての才覚も、両方を有していた。
だから、俺のアレンジスキルやアレンジ魔法も教えたんだが……まさか高速詠唱をマスターしていやがったとはな……。

今、気付いたんだが……カーマインもラルフと同じで、剣と魔法――両方の才能に満ち溢れているんじゃあ……まさかぁ!
そんなご都合主義………無いとは言えないよなぁ……俺自身がご都合主義の塊みたいなモンだからな。

「ウオオオォォォォォ!!!」

ゼノスが向かってくる……真っ向唐竹割りって奴か……この場合、縦一文字斬りか?
避けるのは容易い……けど、ここは真っ向から受けて立つのが漢気ってもんだろうが!!

「僕もいるのを忘れないで欲しいねっ!!」

ラルフも掛かってこようとする……忘れちゃいませんよ!

「バインドォ!!」

「なっ!?カレンさん!?」

「私がいるのを……忘れないで下さい!」

俺に集中し過ぎて、カレンのこと忘れてたろ?
イカンぜ?
状況はきっちり把握しなきゃ。

「二人一緒に相手しても良いんだが……やっぱ、全霊を賭けて挑んで来る奴には、それ相応の返礼をしなきゃ失礼ってもんだろ?」

俺は構えを取る……この世界に来て、唯一体得した奥義を……。

********


っ!!?
見たことの無い構え……。
俺の勘が警鐘を鳴らしている……アレはヤバイ、早く逃げろと……さっきもこの勘に助けられた……だが。

「今更……退けるかああぁぁぁぁ!!!!」

俺は渾身の力で剣を振り下ろす……普通なら問答無用で相手を絶命させる一撃だ……本来なら仲間に使う様な攻撃じゃない……だが、俺には漠然とした予感があった。

――これだけの一撃もコイツには通じない――と。

それでも、攻撃を止めなかったのは……意地だったのかも知れない。

「――飛竜――」

……竜……?

シオンの言葉と竜の幻影……俺が見聞きしたのはそれだけだった。

*******


「ファイン!!」

僕は直ぐさまこの状態を解く……迂闊だった……こちらから手を出さなくても、カレンさんが手を出さない保証は無かったのに……!
いや、今はそんなことよりゼノスさんを

ドゴオオォォォォォンッッッ!!!!

何だ!?

音のした方を見遣ると……そこには壁にメリ込んだゼノスさんが……。
!?……ゼノスさんの鎧が……粉々に……!?

「……参ったぜ、まさか一太刀貰うとはな」

シオンの声を聞き、僕はシオンに視線を向ける……すると、シオンの鎧に斬撃の痕が……。

*********

Sideシオン

いやはや……つくづく大したモンだ。
幾ら身体能力を大幅に落としてるって言っても、ゼノスを上回るくらいには調整したんだぜ……?
そんな俺に一撃くれやがった……。
俺自身、ゼノスを傷付けないように気を配ってたのもあるが………いや、言い訳はよそう。
俺に油断があった……俺が未熟だった……それだけだ。
あるいは……ゼノスの意地って奴か。

「さて、残るはラルフ……お前だけだが、どうする?」

「その前に一つ……ゼノスさんは大丈夫なのかい?」

「ああ、腹打ちだし……衝撃を鎧に這わせて後方へ抜ける様に打ち込んだからな……お陰で鎧は粉々だが、ゼノス自身に傷はほとんど無い。喰らった時の僅かな衝撃と壁に激突した衝撃で、気を失ってはいるがな?」

言うなれば【飛竜翼撃】って所だな。
要は【飛竜翼斬】のアレンジってわけだ……。

「また器用なことを……まぁ、シオンが仲間を傷つけるとは思ってなかったけど……」

「で、どうする?やるならやるが?」

「……やる!と、言いたい所だけど……」

ラルフは剣を納める。

「降参するよ……悔しいけど、僕もまだまだ修業が足りないみたいだから……」

いや、間違いなくお前は強いよ?
……つーか商人の枠を超えてるよ?
……俺なんかを基準に考えてたら切りがないぜ?

「勝負あり!そこまで!!」

しばらくは静かだったが……ゆっくりと拍手が巻き起こり……最後には割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。

結局、俺達が優勝か…。

「カレン、すまなかったな……大きな傷を付けることが無かったとは言え、ゼノスをぶっ飛ばしちまった……」

「いいえ……兄も……それを望んでいましたから……」

「……ゼノスの所に行ってやれよ。賞品の授与はやっておくから」

「……すみません」

幾ら無事とは言え、やはりカレンは心配なのだろう……ラルフにも頼んで二人にはゼノスに付き添ってもらう。

「勝者にはリシャール様より、バーンシュタイン王国コムスプリングスへの旅行券がプレゼントされます!」

さて……んじゃ、久方振りの再会と行きますか。
俺は檀上へ上がり、陛下の御前にて謁見を行う。

「おめでとう。きっと優勝は君たち……いや、君だと思っていたよ……久しぶりだな、シオン」

「リシャール陛下も、御健在の様で何よりにございます……」

「君が旅に出ていたことは、君の父上から聞いていた……私も君が健在で嬉しく思う。これで君が我が国に戻ってくれれば、私もより嬉しく思うのだが……」

「私ごときに勿体なきお言葉です……ですが無礼を承知で申し上げます……まだその時では無いかと……この見聞の旅が終われば……いずれその時が来れば、直ぐさま舞い戻りましょう」

「……そうか、なら仕方あるまいな…今回の所は諦めよう。これがコムスプリングスへの旅券だ。温泉にでも浸かって、この戦いの疲れを癒してくれたまえ」

旅行券を手に入れた!

「学院長に通行証を預けてあるから、彼から通行証を受け取ると良い……では、失礼するよ」

リシャールはその場を去って行った……フゥ、疲れた……にしても、ゲヴェルに操られている筈なんだが……やけに平然としてたな。
操られている状態では、俺が近付くだけでも苦しい筈なのに……もしかして、洗脳解けてた?
そういやぁ、原作でリシャールも言ってたっけな……自分の意識とそうじゃない意識が切り替わったりしていた……と。
末期になると、どっちが本当の自分か分からなくなっていたらしいが……。

俺はそんなことを考えながら、ゼノスの元へ……どうやら気がついた様だ。
「ゼノス兄さん!」

「気がついたみたいですね……」

「カレン…ラルフ…俺は……そうか、負けたのか」

ゼノスは自身の惨状……鎧粉々状態を目にして気付く。

「よお、無事か?」

「シオン……結局、届かなかったか」

「何言ってるんだよ……この傷が見えないのか?」

俺は自身の鎧の傷を指し示す。

「それは……」

「ゼノスの意地……確かに届いたぜ?」

「そうか……」

ゼノスは我が生涯に一遍の悔い無し!
……って顔をしている。
まぁ、鎧に傷ついただけなんだが……一撃貰っちまったのは確かだしなぁ……。

「今はゆっくり休めよ……行くぜカレン」

「?まだ何かあるんですか?」

あるんだなぁコレが。
俺はゼノスにヒーリングを掛けた後、カレンに告げる。

「最後にエキシビジョンマッチがあるんだよ」

「エキシビジョンマッチ……ですか?」

「これから決勝が行われるエキスパートの部の優勝者と、フレッシュマンの部で優勝した俺達との戦いだよ」

俺はカレンに説明してやる……まぁ、十中八九ジュリアンが出てくるだろうな………いや、原作と違って俺達が勝っちまってるんだ……まさかまさかのバズロックが出てくるとか……無いな流石に。
ジュリアン、短期間だが俺が稽古付けてやったから、原作より若干強めだしな。

「あの……エキスパートの優勝者って……凄く強いのでは……?」

「普通は勝てないらしいな。エキスパートの優勝者がどれくらい強いか示すための、余興の一つ……要するに俺達はスケープゴートってわけだ」

「そんな……!」

カレンがそれを聞いて愕然とする……争いごとが嫌いなのに、その上みせしめにされるとあってはな……。

「心配すんなカレン……シオンは負けねぇよ」

「ゼノス?」

ゆっくり立ち上がりながらゼノスが言う。

「コイツを誰だと思ってるんだ?この俺とラルフに勝った男だぞ……?まさか、ここに来てわざと負けるなんてないよな?」

「……当たり前だ。元来、負けず嫌いなんだぜ、俺は!……それにここで負けたら、俺に勝った奴は間接的にお前らより強いってことになっちまうもんな」

俺は拳を突き出す。
ゼノスもフッ……と笑い、俺に拳を合わせてくる。

「勝てよ?」

「傷一つ貰わずに勝ってやるよ」

俺も不敵な笑みで返す……と、俺の拳の上にトンッ……と言った感じで更に拳が置かれる。

「……頼んだよシオン?」

「おう、任せろ相棒!」

互いにニッ!と、笑みを浮かべる……よっしゃあ!
一丁いくかぁ!!

「行くぜ、カレン!俺達をスケープゴートにしようって奴らに、眼にもの見せてやる」

「は、ハイ!でも、相手も労ってあげて下さいね?」

「分かってるさ」

幾らなんでも全力全開なんてしねぇさ。
そんなわけだ…負ける訳にはいかねぇぜ?
エキスパートの優勝者さん?

俺達は再び控え室に戻り、取り留めの無いお喋りでもしながら時を待った。
ゼノスとラルフも観客席から応援してくれるらしいしな。
そして、俺達は衛兵に呼ばれ闘技場内に入る。
そこに居たのは予想通りの人物だった……。




[7317] 第39話―修羅場発生そして……魔王降臨!―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/06 19:46


やっぱりエキスパート代表はジュリアだったか……。

「久しぶりで……だな」

「やっぱり優勝したんだな……とりあえず、おめでとうと言わせてもらうぜ」

俺としては、前回優勝者のバズロックってのも見てみたかったんだがな。
つーか、また敬語話しそうになったな?

「ありがとう。君たちこそ、優勝おめでとう」

「あの……シオンさんのお知り合いですか?」

「そうか……カレンは知らないんだったな。彼はジュリアン・ダグラス……俺の親父と彼の父親が知り合いで……ま、昔馴染みって奴だ」

本当のことは言えないしなぁ……嘘は言ってないけどな?

「そうなんですか……私はカレン・ラングレーです。今は兄と一緒に、シオンさんと旅をしているんです」

「……ジュリアン・ダグラスです」

カレンは丁寧に頭を下げ、それにジュリアンが返事を返すが……何だ?
なんかカレンと俺を交互に見ている……なんだか恨めしそうだが。
……なんだ?

「その……不躾なことを聞くが……シオンと、貴女はどんな関係なんだろうか……?」

……何を聞いてくれちゃってますかこの子は?

「かか、関係って!?私達はそのぉ……」

「大事な旅の仲間だ……これで満足か?」

「………シ、シオンさぁ〜ん………」

?こ、今度はカレンが恨めしそうに俺を見て来たぞ?
つか、涙目!?
だから何故に?

「そうですか……いや失礼……私はてっきり……」

待てジュリアン……いやジュリア?
何その勝ち誇った顔は?
てっきりなんなんだ?

「貴女の様な女性なら、シオンと恋仲でも可笑しくないと思いましたよ……」

「そ、そんなぁ……♪恋仲なんて……♪」

いや突っ込むところソコ!?
って、なに顔赤くしながら頬に手をやり、身体をくねらせてるかなこの娘は?
オッサン勘違いしちまうだろう!?

「ま、しかし私の勘違いだったようです。やはりシオンの伴侶には……もっと強き女性のほうが似合うと思いますよ(私とか……申し訳ありません!マイマスター!出過ぎたことを考えました……でも……ああ……♪)」

ピシッ!!

あっ、カレンの動きが止まった。
お……プルプルしてる。

「……それは、私では役者不足だと……?」

「おっと失礼……つい本音を……」

髪をファサッ!とかき上げて、そんなことを言うジュリア……なんか某伝説の木がある高校に通う、某財閥の御曹司みたいだな……そういえばアレも女だったしな。

「確かに……私は弱いかも知れませんが……背中を支えるくらいは出来ます!」

何か、二人の間で火花を散らせてるような……なんぞこれ?

「支える?出来るかな、貴女に?私なら、隣にて共に戦うことを選ぶが――」

「貴方は!シオンさんの凄さを知らないから、そんなことを言うんです!」

「知っているさ。貴女よりはね?」

あ〜……えーと、そろそろ試合しない?
ほら、観客もシーンとしてるし、国賓で来てるリシャールも、目が点になっているという――非常に面白いことになってるぞ?

「何なんですか貴方は……まるでシオンさんを……その……男性なのに不健全です!」

「な、何を勘違いしている…!わ、私は純粋にこの方を尊敬しているだけであって……」

「なら、私にとやかく言う資格は無い筈です……!!私はシオンさんを……その……」

赤くなりながらチラチラ俺を見てくるカレン……俺を……なんだよ?
気になるだろう!?

「フッ……己の想いも素直に言い表せない者が、よく言う……」

「!!あ、貴方に言われたくありませんっ!!そもそも、シオンさんは女性が大好きな健全な人です!貴方みたいな不健全な人は駄目です!!禁則事項です!!」

か、カレンのテンションが高い……というか、俺を引き合いに出すな!
その言い方だと、俺が無類の女好きみたいじゃないかっ!?
――いや、人並みに女性は好きだけどな?
つーか、お前は某団員の未来人か!!

「くっ……言わせておけば!!だから違うと言っているだろう!!」

「シオンさんは私のことを……美人だって言ってくれました!それに……プレゼントだって……貰いました…!!」

「ふふん!それくらい私だって……私だって……………」

「どうしました?何も言えないみたいですね?」

「うぅ……私だって……」

勝ち誇るカレン……そしてチラリと俺を見てくるジュリアン……うむ、捨てられた犬みたいな視線を向けてくる……何故に?
……確かにプレゼントはしたこと無いが……プレゼントが欲しかったのか?
闘技大会優勝記念に何か買ってやろうかな?
う〜〜ん………って、何か険悪な雰囲気だな……。

「ならば……どちらが正しいか、証明しようじゃないか……幸いここは闘技場だ」

「争いごとで解決しようなんて……野蛮です……けど不思議ですね?私も同じ気持ちですよ……」

カレンは魔法瓶を両手に構え、ジュリアは剣を抜き放つ……って待て。
実力差は明らかだろうに……流石に止めるべきだな。

「お前ら少し落ち着け……」

「「シオンさん(マイ・マスター)には関係ないです!!引っ込んでいてください!!!」」

ぷちっ。

……なんだその言い草は……こっちは心配して声掛けてやったんだろうに……二人ともなんだか知らんが、俺を引き合いに出したあげく関係ないだぁ……?

ガシッ!!

俺は二人に近付きその首根っこを掴む。

「「な、何をするんでっ……ヒッ!?」」

俺を見て二人が短い悲鳴をあげる………フフフ、嫌だなぁ?

そんな恐がられるなんて心外な……。

俺は心に邪悪な笑みを浮かべながら、しかし顔は一切笑わず、冷たい視線と共に万感を込めて言ってやる。



「少し……頭、冷やそうか?」



「「ッッッッッッ!!??」」



それからしばらく……俺は二人とキッチリ『お話』しました……そしたら、ちゃんと分かってくれたよ。
やっぱり、人間……誠意を持って接すれば分かって貰えるものだ。
ちなみに、某管理局の白い悪魔の様なO・HA・NA・SI☆
では無く、普通のお話だからな?
……説教とも言うが。

「良いか、もう喧嘩しないな?」

「ハイィィ……もうしませんんん……!!」

「ゴメンなさい……ゴメンなさい……!!」

二人が涙目になりながら、謝罪してくる。
首根っこ掴んだままなんで、猫みたいだ。
というか、俺はちょろっと説教しただけなんだが……これでは俺が悪いみたいじゃないか。
まぁ……軽くイラッときたからか、少しイジメ過ぎちまったかも知れないが……仕方ないだろ、なんか知らんがゾクゾクしちまったんだから。
俺は二人を床にゆっくり下ろす。

「で、どうするジュリアン?一応コレ、エキシビジョンマッチらしいんだがな……やる?」

「うぅ……やりますぅ……やりますから……見捨てないで下さい……」

あ、やるんだ?
っていうか、涙目な上に敬語出ちまってるぞ?
さっきもマイ・マスターって口走ってたしな。

「つーか、見捨てたりしないって。ホラ、カレンも立って……」

「ご、ゴメンなさい……っ!お、お願いします…き、嫌いに、ならないで……」

こっちも涙目になりながら謝ってきてる……。
そんなに怖かったのか……?

「って、嫌いになんかなるかよ。ほら、二人とも……」

俺は座り込んでしまっている二人に手を差し延べる。
二人はビクビクしながらも、その手を取ってくれた。

「二人とも反省したんだし、俺はそれ以上言わないよ……だから、な?」

「「は、はい……」」

ようやく二人も落ち着いてきたようだな。

「んで、本当にどうする?乗り気じゃないなら止めても」

「いえ……コホン!いや、やらせてくれ!私もあれから修業したんだ……その成果をシオンに見てもらいたい」

お、言葉遣いが戻ったな。
なら、相手しようじゃないの……まぁ、ゼノス達の手前……負けてはやれないけどな?

「カレンは後方で待機……良いな?」

「は、はい!」

よし、なんかえらく時間が掛かった気がするが、やっと始まるな。

「あ、すいませーん!!もう始めちゃってくれませんか?」

俺は絶句しているアナウンサーに声を掛ける……どうやら気絶していたらしい……何で?

「ハッ!?え〜と……で、では、これよりエキシビジョンマッチを始めます。両者、宜しいか?……試合開始!!」

そのアナウンスで会場の者達も気付き、何事もなかったかの様に歓声が巻き起こる……どうやら八割近くが気絶してたらしい……それ何て集団催眠?

********


お、恐ろしい……カレンとあのジュリアンとか言う奴が言い争いを始めて、黒い何かを滲み出し始めた時もちっとビビったが……その後が問題だった……。

「怖いよぅ……怖いよぅ……」

「ア、アタシ……もう絶対シオンさんだけは怒らせない……」

「気を失ってたほうが……良かったかもな……」

「…だね…」

「……むぅ……これほどとはな……」

現状をかい摘まんで説明すると、ルイセは怯えて膝を抱え、その横でティピも膝を抱え、カーマインとラルフとウォレスは冷や汗ダラダラになりながらも、何とか堪えていた……かく言う俺も同じだ。
あの暗黒空間には近づきたくねぇ……。
例えるならそう……。

――魔王降臨――って感じか。

うぅ…俺も気絶しときゃあ良かった……。

「…どうやら試合が始まるみたいだな」

ウォレスが言う通り、試合が始まるみたいだ……さっきのはアレだ!
忘れよう!
記憶の彼方にしまい込もう……。

「勝てよ……シオン!」

俺は何事も無かったかの様に――いや、様にでは無く、何も無かったんだっ!!

とにかく!シオンの戦いを見守ることにした。


*********


えーと……今、ジュリアンと剣を合わせてるんだが……確かに強くはなったんだが……ゼノスと大差無い感じだな。

「どうした?次、行くぞ?」

ギキィィン!!

「くぅ……流石は……」

それに何故かどことなくぎこちない……もしかして。

「さっきのことを引きずってんのか?」

ビクッ!

「……図星か」

仕方ないな……このまま勝ってもなんだしな……。

「気合いを入れろ!修業の成果を見せるんじゃないのか!?」

「……は……はい……」

鍔ぜり合いで圧されながらも、何とか答える。
また敬語になってるし。
止むを得ないな。

俺はそのまま剣を弾く……そして一気に踏み込み、そこで方向を変え、後方に回る。
前方に剣を振り下ろしたジュリアン……しかし、既にそこに俺は無く、後方より、剣を首元に突き付ける俺がいた。

「これで……チェックだ」

「ま、参った……」

たく、これならゼノス達のほうが歯ごたえがあったぜ?

「おぉっと!ジュリアンが負けてしまった!エキスパートがフレッシュマンに負けるとは!これは前代未聞だ!」

まぁ、当然だな。
ジュリアンの奴、さっきのことを気にしてたからな……そんなに引きずることもないだろうに。

「今回のはノーカンにさせてもらうぜ……いずれ本気のお前と剣を合わせてみたいものだな……」

それが戦場で…というのは勘弁だが。

「ああ……また来年、今度はエキスパートの部で戦うことになるだろう……それまでに腕を磨いておくよ」

「良いのか?その頃、お前はインペリアルナイトになってるんだろう?忙しいナイトの身で時間が作れるかな?」

「ふふ……なれたら、の話しですよ……」

穏やかな笑みで小さく言うジュリアン……なれるさ。
俺が保証してやるって。

「これで本年度の闘技大会を終わります!またお会いしましょう!さようなら!」

アナウンサーの言葉に、俺達は惜しみない拍手と声援をもらった。
少し感傷に浸っていたら、ジュリアンに話し掛けられた。

「久々に会えたんだ。外でゆっくり話さないか?」

「そうだな、俺は構わないぜ?」

「それは良かった……その前に、カレンさんを少し借りて良いか?先程のことについて謝りたい」

カレンを?
まあ、カレンが良いなら構わないが。




[7317] 第40話―ジュリアンとの邂逅……決意と誓いと願い―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/06 19:56


その後、俺は皆と合流した。
カーマイン達は俺達を労ってくれた。

「やったな!」

「おめでとうと、言わせてもらう」

「流石シオン……だね」

「おめでとうございます!」

「ま、俺は始めから心配してなかったがな?」

「いや〜、魔王様降臨しちゃった時にはどうしようかと」

ピシッ!!

ん?
空気が固まった……何で?
というか、魔王様って何さ?

カーマインを始め、男連中は何故か汗ダラダラだ……あのウォレスまで。
ルイセはカーマインに縋り付き、涙目で「怖いよぅ…怖いよぅ…」と震えている……一体なんなんだ?

「ティピ……ちょっと来い……」

「あ、ゴメン!ゴメンなさい!!アタシが悪かったから許してっ!」

ティピがカーマインに鷲掴みにされて連れていかれた……どうでも良いが、ルイセにしがみ着かれながら歩く姿はかなりシュールだな……なんか、某音大を舞台にした漫画の先輩後輩みたいだ。
まぁ、そこはカーマイン。
あそこまで粗雑に扱わず、ルイセの歩幅に合わせてるのは流石だよなぁ。

「つーか、一体なにが…」

「いい!お前は気にすんな!な!?」

「……そういえば、ジュリアンが外で待ってるって言ってたぞ?カレンも一緒に行ってるが……」

ゼノスとウォレスに話を逸らされた―――あからさまに怪し過ぎる……だが、ここで何か追求するほど俺は空気が読めないわけじゃない。

「そうか、じゃあカーマインが戻ってくるのを待ってから」

『でっひゃあああぁぁぁぁぁ!!?』

……その叫びはあれか?某仮面のブラウン?

それからカーマインと合流、俺達は外に向かった……ちなみにティピはグッタリしていたのを明記しておく。

「やあ」

闘技場から出て、街中へと続く入り口でジュリアンとカレンは待っていた。

「おめでとう、ジュリアン。俺は眼はよく見えないが、お前の戦いぶりは良くわかったぜ。剣に迷いがなかった……もっとも、エキシビジョンの時には何故か迷いが出ていたが……」

「そのことは……追求しないでくれ……」

ハハハ……と、渇いた笑みを浮かべるジュリアン……いやマジゴメン。
だけど、お前らもイケないんだぞ?
公衆の面前で喧嘩なんかして……幾ら温厚な俺でも、チラッとくらい怒るよ?

「ウォレス……もしかしてエキスパートの試合も観戦してきたのか……?」

「ああ、お前たちの試合以外は見てて退屈しちまったからな……俺は目がよく見えないから尚更そう感じちまってな」

つまり、俺達の試合以外はエキスパートの試合を見に行ってた……と?
なんつ〜バイタリティ溢れるオッサンなんだ……同じオッサンとして見習いたいぜ……。

「ところでお前ら、何の話をしてたんだ?」

「内緒よ兄さん。心配しなくても喧嘩なんかしてないから……ね、ジュリアンさん?」

「ああ、先程の非礼を詫びたあと、少し話しをしてただけだ」

……俺が言うのも何だが、何でそんなに早く仲直りしてんの君ら?
さっきまで一触即発だったのに……そこは俺の説得が通じたんだろうが。
……なんか、背筋に寒気というか、くすぐったさというか……そんなものを感じる。
……なんぞコレ?

「そういや、自己紹介がまだだったな?俺はゼノス、そこにいるカレンの兄貴だ」

「ジュリアンだ。妹君には失礼なことを言ってしまった……すまない」

「いや、そうやって謝ってもらってるし、カレンも許したんだろ?なら俺が言うことはないぜ」

二人は握手なんかを交わす……う〜ん、青春の香りだなぁ……とか言っちまう俺は、改めて内面がオッサンなんだなぁ。

「せっかくジュリアンさんと再会したんだもん、ここで立ち話するより、街の方で話さない?」

そう提案してくるのは、脅えから立ち直ったルイセ。
流石はお兄ちゃんパワー……お兄ちゃん分を補充したんですね分かります。

「賛成!」

「そうだな、行くとするか」

俺達はそのまま街中へ……そして何気ない話しをしながら中央まで来た時……。

「つもる話もあるだろう。俺達は先に行っている……そうだな、街の入り口あたりで待っている」

「まぁ、久々の再会なんだろ?ゆっくり話して来いよ?」

「わたしも先に行ってます……それでは、また後で(頑張ってね、ジュリアさん!)」

そう言って、ウォレス、ゼノス、カレンが先に行ってしまった。

「気を使わせてしまったようだな……後で礼を言っておいてくれ(ありがとうカレン!恩に着る……)」

「ところでジュリアン、本当に迷いはなくなったの?」

ティピが質問をする……まあ、答えは分かってるがな?

「ああ。今までの私は、父に誉められるために剣術を磨いていた。確かにインペリアル・ナイトになることは名誉なことだが、本来は国と民を守るということだ。私はそれを目指してみたい」

「そうか…ジュリアンならなれるさ、インペリアル・ナイトに」

「そうそう。だって大会の優勝者でしょ?」

カーマインとティピがジュリアンに賛同する……まぁ、そこまで甘いものじゃないけどな。

「そう簡単なものじゃないけれどな。インペリアル・ナイトには、心技体全てに秀でた者しか叙任されないんだ」

「それ故に大陸最高の栄誉……なんて言われてるんだぜ?国民の憧れの的……国の象徴なんだからな」

「僕も小さい時は憧れたりしたよ……インペリアル・ナイトなんて、子供にとってはヒーローだからね」

ジュリアン、俺、ラルフの順で説明してやる。
一応、俺達はバーンシュタイン国民だしね?
これくらいは常識だよな。

「頑張ってね、ジュリアンさん!」

「インペリアル・ナイトになれるよう、陰ながら応援してるからな……」

「うん、僕も応援させてもらうよ」

「アタシも応援するからね!」

「そういうわけだジュリアン、これはプレッシャーだぞ?勿論、俺の応援も込みでな?」

上からルイセ、カーマイン、ラルフ、ティピ……それと俺だ。
幾ら原作では一時的に敵同士になるとは言え、ここまで夢に向かって強い希望を持つジュリアンを見てると、応援したくなるのさ。

「ありがとう……皆」

ジュリアンは、微かに微笑みを浮かべながら礼を言った……。

「ところで優勝の賞品はコムスプリングスだって?」

「そうだよ!あ、ひょっとして、一緒に行きたいの?」

「……(一緒に……マイ・マスターと一緒に温泉…お背中を流して……その後は……♪でも、彼らも一緒ではその作戦は使えない…カレンは『同盟者』だから良いが、流石に他のみんなには言えない……ここはカレンと協力して……どのみち無理か……やるなら温泉を貸し切らなければならないし…私の資金ではそれは出来ないし……うぅ、ここは諦めるしかないのか……)……いやいや、そんなわけじゃない。それに私はバーンシュタイン王国の人間だ。何度か行ったこともあるしな」

気のせいか?
原作より間が大きく感じた様な……ゲームと現実の差か?

「ちぇっ!羨ましがると思ったのにな」

「ハハッ。(羨ましいに決まっているだろう!……うぅ……せっかくのマイ・マスターへのアピールチャンスがぁ……)とにかく、楽しんでくるといい」

「そうだな……じゃあお言葉に甘えて……というのも変か、俺も行ったことあるしな!」

ハハハハ!と、皆から朗らかな笑いが零れる……ああ、のどかだ。

「さて、そろそろ私も戻らないと……また会えるといいな」

「そうだね」

「あ、ちょっと待って!」

「どうしたんだい、ルイセちゃん?」

ルイセはいそいそと、道具屋の前に向かった……この道具屋って確か……。
俺達はルイセの後を追った。

「ねぇ、お兄ちゃん。これ、買って!」

「あっ、コレってカレンさんが着けてた」

「うん、プロミス・ペンダントだよ♪」

やっぱりかぁ……そういえばこんなイベントもあったなぁ……俺も以前グランシルを去る時に、カレンへプロミス・ペンダントをプレゼントしたっけ……何だか懐かしいなぁ……。

「プロミス・ペンダント?」

「このペンダントに誓いを立てるの。そしてその誓いを実行できたとき、望みが叶うんだって。学院の女の子の間で流行ってるんだ♪」

「まぁ、願いが叶った例が近くにいるしねぇ……」

ん?
ルイセとティピが俺に視線を送ってくる……なんぞ?
しかしプロミス・ペンダントかぁ……本来はジュリアンがプレゼントするところなんだが……よし、決めた!

「お姉さん、それを二つ売ってくれないか?」

「かしこまりました♪」

俺は売ってもらったそれを、ルイセと、そしてジュリアに渡す。

「ありがとう、シオンさん!」

「その……私にも……か?」

「ジュリアンの優勝記念にな?何が良いか迷ったんだが、興味津々だったみたいだし、な?ルイセにも頑張ったで賞の、オマケだ」

そんなに高い買い物じゃないし、資金は大量に稼いでたから余裕あり過ぎなので問題無し。

「あ、ありがとう……あの、大事にし、させてもらうよ」

しどろもどろになりながらも、微笑と共に礼を言う……どうやら喜んでくれたみたいだな。
よかったよかった♪

「ねぇ、ジュリアンさんはどんな誓いをたてるの?」

すっかり上機嫌のルイセがジュリアンに尋ねる……ここは当然ナイトになること……だろうな。

「そうだな……私はこのペンダントにナイトになることを誓おう」

「それで、望みは?」

ここは当然、もう一度みんなと会えるように……だろ?

「そうだな……『もう一度、みんなと会えるように』これが私の望みだ」

「なんだか控えめな望みね」

「正確には、少し違うんだが……コレは今、口にしてしまうと叶わないような気がするから……それで、君は何を誓うんだい?」

ん?
一瞬ジュリアンが俺を見た気がするが……ま、気のせいだろ。
なんか原作と微妙に違うのが気になる……って今更かコレは。

「う〜ん……あ、そうだ!わたし、お兄ちゃんを泣かせてみせる」

「……なに?」

「カーマインを泣かせる…?」

「……あのね……」

上からカーマイン、ラルフ、ティピになっております。
カーマインなんか、ハァ?
という顔をしている。

「だって、わたし、お兄ちゃんの涙って見たことないんだよ?わたしのことは泣き虫っていじめるのに……」

「……それは昔の話だろう……」

「ハハハ……良いんじゃないかな?それで、何を望むんだい?」

ルイセの言い分に頭を抱え込むカーマイン……それを見て楽しげに笑うジュリア。

「ええと、『みんなが幸せになれますように』かな?」

「今度はずいぶん大きく出たな……」

「やっぱり、変かな……?」

「良いんじゃないか?何と言うか、ルイセらしくて」

というか、俺も似た様な願いをプロミス・ペンダントにしているしな。

「アンタ、今すぐ泣きなさいよ。それでみんなが幸せになれるんだから」

「……そう……言われてもな……泣く……泣く……むぅ……」

カーマインもほとほと困り果ててしまった様だ。

「……アタシが悪かったわ。でも、とりあえずアタシは、ルイセちゃんの味方をするからね?」

「なら、僕もルイセちゃん側に着かせてもらうよ」

「もち、俺もな?」

「…裏切り者どもめ…」

いやぁ、そう言われてもな?
君にとっては必要なことだぞ?

「わたし、絶対お兄ちゃんを泣かせてみせるからね?覚悟して!」

「大変なことになったな。彼女の意志は固そうだ。注意してくれよ」

何と言うか……孤立無援?

「……と、俺、ジュリアンと二人で話すことがあったんだ。悪いんだが、先に戻っててくれないか?」





[7317] 第41話―ジュリアの決意と想い―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/06 20:07


俺はカーマイン達を見送った後、ジュリアンと二人きりになる。
――どうしても、聞いておきたいことがあったからだ。
少し移動して、人気のない場所に来たんだが。

「どうしたのですか?マイ・マスター?その……私に話とは?」

「……言葉遣いが変わってるぞ?」

「も、申し訳ありま……コホン!すまない……それで、話とは?」

ジュリアは言葉遣いを直す……どこで誰が聞いてるか分からないからな……と、言うか偉く上機嫌だな……そんなにプレゼントを気に入ってくれたんだろうか?
さっきから時折、ペンダントを弄っている。

「ジュリアンに聞きたいことがあってな……聞かれて楽しいことじゃないんだが……」

「……それはまた意味深だな……何なんだ?」

これを聞けば、ジュリアは迷うだろうか……それとも、嫌悪感を示すだろうか……どちらにしろ、良い返事は期待出来ないか……。

「ジュリアンがインペリアルナイトになって……国に仕える様になった時……もし、俺が何らかの理由でバーンシュタインと敵対することになったら……お前は、どうする?」

「え……?」

そう、気になるのはそれだ。
今回のリシャールは正気だったみたいだが、直ぐにゲヴェルの傀儡に戻っちまう筈……リシャールを通して今回の戦いを……いや、今回だけじゃない。
カーマインやラルフを通しても見ていた筈だ……故にこちらの情報はゲヴェルに筒抜けであり、ゲヴェルにとって、俺が最も危険な相手だと認識されている筈……。

だからこそ、リシャールを通して俺を抹殺しようとする可能性がある……それがなくとも、反乱は起こされる。
ならば……ジュリアンと俺が戦う可能性は少なくない……。
俺が国に戻れば良いだけの話に聞こえるかも知れないが、そうなると俺の目的であるパワーストーンフラグを折ることは出来ない。
ラルフも、一緒に戻ろうとする可能性も捨て切れないが、カーマインパーティーに残ってもらえれば、ルイセがいるから問題は無い筈。

……結局のところ、二者択一しか俺には出来ない……幾ら人外染みた力を持っていても、な。

国も家族も大事だ……今の俺にとっては掛け替えの無いものだ……だが、今の仲間も俺にとっては同様だ。

だからジュリアンに聞いておきたかった……俺達……いや、俺の敵になるのか?
……と。
原作の通りなら、迷いなく言い切るのだろうな。

「な、何をたわけたことを……そんなこと、あるはずが」

「仮にだって。まぁ、国に仕える騎士になるんだ……答えるまでもないか」

原作では、ジュリアンは迷いながらも決意を胸にカーマイン達と敵対した。
戦う度に迷いは強くなっていった様だが……。
ならば今回も……。

「馬鹿にしないで戴きたい……ナイトになるということは、国に剣を捧げるということ……例え貴方と敵対することになろうと、私は……」

「……口調がまた変わって」

「――しかし、それは意味なき反逆の場合の話です」

その瞳に宿るのは揺るぎなき決意……紡ぐ言葉は偽りなき信念。

「貴方が意味も無く、そんなことをするとは思えません……剣は国に捧げますが、この身体と心は……貴方の物です……!貴方に真実があるというならば、私は貴方に従います」

ジュリアは顔を赤く染め、瞳を潤ませながら俺に告げる。
つーか、端から聞くとコレ……ジュリアフラグ?
いやだからオッサン勘違いしちまうって!!?

「その〜……なんだ……仮に、の話だぞ?」

「あ……そ、そうですよね?ははは……私としたことがその……」

「口調、口調」

まぁ……幸い近くには気配は感じないから、良いんだがな。

「す、すまない……しかし、シオンも人が悪いな……そんな質問をするだなんて」

「まぁ、今は平和な世の中だが……騎士なら最悪の事態も想定しないとな?」

ジュリアはああ言ってくれたが、実際に部下を持つ立場になれば、ジュリアの性格上、部下を置いてはいけまい――。

「そうか……シオンは私の気を引き締めようとしてくれたのだな……すまないな」

いや、違うんだが……勘違いしてくれてるなら、そのほうが良いか。

「改めて言うが……頑張れよ?俺が帰国するまでにはナイトになってろよ?」

「ああ、約束しよう……貴方に戴いたこのペンダントに誓って……必ず……!」

互いに握手を交わす……青春を感じるんだが、なんかピンクな感じに感じてしまうのは……イカンイカン!!
煩悩退散!
煩悩退散!
喝!!

その後、俺とジュリアは待っていたカーマイン達と合流……ジュリアとはそこで別れる……お互いの再会を信じて。

「さて、野暮用も済んだし、あとはコムスプリングスに行ってフェザリアンの話を聞き出すだけか」

「シオンさん、肝心なことが抜けてるんじゃない?」

ティピの質問に、俺は首を傾げる。

「何かあったっけ?」

「もう!ゼノスさんに毒を飲ませようとした犯人について……だよ!!」

「冗談だよ!ちゃんと覚えていたんだな?」

一般常識とかは直ぐに忘れるのにな……。

「立ち話もなんだから、俺の家に行こうぜ?」

ゼノスの提案に頷いた俺達は、ゼノスの家で話しをする。
そこで、俺とラルフは旅の道中、集められる限り集めた、知り得る限りの情報を皆に話す。

バーンシュタイン王国には影の実行部隊である、シャドーナイトが存在すること。
奴らのやり口、その特性……。
そのシャドーナイトが、人員補給の為に優秀な人材に唾をつけていたこと。
その中にゼノスの存在があったことが挙げられる。

「ちなみに、サンドラ様の魔導書を盗んだのも奴らだ」

「あの時の……!?」

「だが解せんな……すると研究書はバーンシュタイン王国が盗ませたことになる……だが、一体それが何の得になる?」

「その辺は僕達にも分かりません……ただ、奴らが動いたのは事実です」

ウォレスの疑問に答えるラルフ……俺はまぁ、『原作知識』があるから――ある程度は理解しているが……流石にコレは言えないしな。

「あの盗賊連中もシャドーナイトに雇われた奴らでな……カレンを拐おうとしたのは、妹を人質にしてゼノスに言うことを聞かせようとしたんだろうな」

「そうだったんですか……」

「今回……俺に化けて接触してきたのは……?」

「大方、仲間であるカーマインに不信感を抱かせる為だろうさ……そして、そこを上手く丸め込もうとしたって所だろう」

俺はカーマインに説明してやる……。
まぁ、本来は更にカレンを毒に冒し、それを助けて恩を売るという自作自演効果をプラスしようという腹だったみたいだが……俺がその企みを粉砕しちまったからな。

「くっ……そんなことの為にカレンを……許せねぇ!!」

「とは言え、僕らの掴んだ情報はこれくらいしか無くて……」

殆ど証拠を残さない奴らを相手に、コレだけの情報を得られたんだ……むしろ褒めてくださいな。

「影の実行部隊……シャドーナイトか」

「今すぐどうこうって話じゃない……ただ、頭の中には留めておいてくれ」

俺は皆にそう言い渡す……すると一様に皆が頷いた。
俺はそこでシャドーナイトの話を締める。
とりあえず、今言えることは全て話したからな。

そして俺達は早速コムスプリングスへ……と、その前に。
魔法学院に向かうことに。
確かにテレポートで行けるが、一応、顔を出しておかないと、色々面倒なことになりかねない。

なので、通行許可証を受け取りに来た。
せっかくだから、アリオストを呼んでやろうと言う理由もある。

ルイセのテレポートにて魔法学院に……さて、まずはヒゲに顔を出してそれから――。

「お兄さま〜っ!」

タタタタタタタ……!

「お仕事大変ですね。何かあったら、遠慮なく呼んでくださいね。それじゃ、失礼します」

タタタタタタタ………!

「何なのかしら、あの娘……」

「……さあ?」

これは何か?
自分も連れていけ……とかそういうことか?

まぁ、ミーシャの件は一旦置いておいて……先ずはクソヒゲに謁見申し上げるとしますか。

「失礼します」

「おお、来たな。君たちが優勝するとは思わなかったわい………これが通行証だ」

奥から通行証を持ってきて、それを手渡して来た。

「では、失礼します」

ルイセが応対し、そのまま部屋を退室――。

「そうそう!言い忘れる所だった。旅行が終わったら、その通行手形はわしに返してくれ。数に限りがあるんだよ」

「まったくセコいわねぇ……」

「いいじゃない、ティピ。別にそれほど面倒なわけじゃないし……」

俺かルイセがいればテレポート出来るしな?

「それじゃ、忘れずに頼むよ」

そうして俺達は学院長室を後にした……で、入口前で。

「待ってよ〜!」

「ミーシャ!」

やっぱり来たか……ミーシャが大急ぎで走って来た。

「温泉に行くんだって?」

「どうして知ってるの?」

「闘技大会で優勝したって聞いたよ?」

「結構広まってるのね」

いや、幾らなんでもこんなに早く広まるわけ無いだろ?
この世界にテレビみたいな情報媒体があるなら、話は別だが……今はせいぜいグランシル内でしか話題にはなっていないだろう……外に情報が伝わるには、まだ幾らか時間が掛かる筈。

「だってお兄さまたちのことだもん☆」

「ハ…ハハ……」

「相変わらず独特のテンションだな……この娘は」

「なんか、馴れたらあまり気になんねぇもんだな」

渇いた笑いを浮かべるティピ、もはや呆れを通り越して感心しているウォレス、もう馴れたというゼノス……これが真実なら、ワザワザ闘技大会に観戦しに来たことになる………なんか、違和感無いな。
【お兄さまLOVE】という鉢巻きを付けて、旗を振りながら応援してる姿がすんなり頭に浮かんだ……これがミーシャクオリティか。

「で、ご一緒していいでしょ?」

「え〜っ?」

うわ、ティピ嫌そう……まぁ、気持ちは分からなくはない。

「9名様までOKって聞いたけど」

「はぁ!?」

「うそっ!?」

俺とティピは、ほぼ同時に声を上げる。
待て、原作では確か5名様だった筈だぞ!?
俺は貰った旅券を見る……そこには。

「……本当だ。9名までって書いてある」

……どういうことだ?
俺が存在することによる弊害か……?
原作と現実の差異か?
これも宇宙意思の御導き……って奴か?

俺が思考の海に沈む中、とんとん拍子で話が進んでいく。
学院長がミーシャの身元引受人で、ミーシャがおじ様と呼んでいること……なんかも説明された。

「どうするの、シオンさん?」

「え……あ、何が?」

「ミーシャちゃんを連れていくか?だよ。優勝したのはシオンとカレンさんなんだから……」

「カレンは良いのか?」

「私は構いません。大勢の方が賑やかで、良いと思いますよ?」

つまり俺に決めろってか?
……むぅ、何だか分からないが、旅券の使用人数も変わっていたし……俺がテレポートを使う意味がほぼ無くなったんだよな?
ヒゲは嫌いだが、ミーシャは嫌いじゃないし……俺がグローシアンであることを告げなければ……いや、むしろ俺がグローシアンであることをバラすのもありかもな……どちらにしろ、今すぐさして状況が変わる訳でも無し……なら。

「ああ、良いんじゃないか?旅は道連れ世は情け……とも言うからな。カレンの言う様に、大勢の方が楽しいだろうしな?」

「やったぁ♪ありがとう、シオンさん♪」

「よかったね、ミーシャ」

「うん!向こうに行ったら、お背中、流しっこしようね♪」

平和だねぇ…裏にヒゲの打算が無ければ、オッサンも素直に頷くんだがねぇ……。
……よもや、女風呂を覗く為にミーシャを寄越した訳ではあるまいな……あのヒゲ。





[7317] ―カレンの思考……同盟結成の巻―番外編9―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:13726dc9
Date: 2011/12/06 20:18


私はシオンさんにお礼を言うミーシャちゃんを見て思う……。

(どうやら、ミーシャちゃんはシオンさんには興味がないみたい……というより、カーマインさんとラルフさんに夢中なのかな……?)

いや、分からないですよね……だって、前にシオンさんのことをそういう眼で見てたみたいだし……でも、今は安心かな?
でも、一人でも協力者がいた方が良いような……気もしますけど。
けれど、ミーシャちゃんが誰を想うかは自由だものね?

*********

闘技場東側控室にて。

私はジュリアンさんに呼ばれて、東側の控室に来ていた。
私に謝りたいということだけど、本当にそれだけなんだろうか……?

「最初に謝らせて欲しい……すまなかった、貴女を侮辱するようなことを言ってしまって」

「そんな……私こそ売り言葉に買い言葉で……」

頭を下げて謝るジュリアンさん……何だかこっちが恐縮してしまいます。

「それと……誤解を解いておきたいと……思ってな……」

?ジュリアンさん……どうしたんだろう……何だか迷ってるみたい……。

「あの……言いにくいことなら……」

「いや、貴女には聞いて欲しい……同じ想いを抱く貴女には……」

「……同じ想い……?」

「私は……貴女の言う通り、あの方……シオン様に想いを寄せている。私の全てを捧げても良いくらいに……」

!やっぱり……そうだったんだ……私と同じ……でも、やっぱり男の人が男の人をなんて……。

「それで……その、貴女は私が男だと言ったが、違うのだ……」

「え?」

「私の本当の名はジュリアンではなく……ジュリアという……」

それから私はジュリアン……いえ、ジュリアさんから全てを聞きました。

ジュリアさんは貴族の家柄で、父親はインペリアル・ナイトだったこと。
ジュリアさんが生まれた時に娘だったことに落胆され、物心ついた時から、父親に嫌われない様に剣術を学び、男として振る舞って来たと……そんな時に出会ったのが……。

「シオンさんだった……と?」

「ああ……最初は父上に連れられて行った彼の実家で出会った……彼は不思議な雰囲気を持っていた……大人びているというか、達観しているというか……年齢に見合わない人だったな……」

その後、自分が女性であることが、シオンさんにバレてしまう。
その時のことは頑なに話してくれなかったが、何となく想像がつくから構いません。

そして、一緒に遊んだり剣の修業をつけてもらったりする内に、彼に惹かれていったのだとか。

「それ以来、父に誉めて欲しいという願望は変わらなかったが、女であることに絶望はしなくなったな……私があの方に女としての情恋を抱いているのに、ハッキリと気付いた時にはもう手遅れだった……私は、あの方無しでは――いられなくなったのだ」

……分かる。
私も同じ気持ちだから……。

「私はある時、あの方に決闘を申し込んだ」

「け、決闘!?」

「……私にとっては自分より強い、というのが重要だったのさ……私が男として育って来たからかもしれないな……私の中の女が激しく求めても、私の中の男が納得しなかった……もっとも、直ぐに納得することになるが」

その後、ジュリアさんの申し出を受けたシオンさんと決闘になった……勝負は直ぐに着いてしまったみたいだけど。
ジュリアさんは思ったそうだ……生涯仕えるならこの方しかいない……と。
そこでジュリアさんは【マイ・ロード】と呼ばせて欲しいと頼んだそうだけど、シオンさんに断られたそうだ。

『自分は君主って柄じゃないから』

……と。

けれどジュリアさんは諦めず、それなら【マイ・マスター】と呼ばせて下さいとお願い。
最初は渋ったみたいだけど、結局シオンさんが頷いたらしい。
シオンさんは【師匠】という意味で捕らえたみたい。
けどジュリアさんは【師匠】と言う意味合いもあったけど、何より【ご主人様】という意味合いの方が強かったらしいです。

ご主人様かぁ………良いかも……シオン、様……♪ハッ!?

じゃなくて!

それからも度々会っていたけど、シオンさんは旅に出てしまったという。
ジュリアさんも色々あって家出……でも旅先でシオンさんと再会したりして、三年間経っても想いは消えず……むしろ、より深い想いを抱く様になったということ。

「ここまでが、大まかな顛末だ……私が女であることは、両親を抜かせば弟と家の使用人――そしてマイ・マスターしか、知らない――」

「……あの、なんでこのことを私に?」

「……貴女が同じ想いを共有するから……だろうか?単純に誤解を解きたかったからかも知れないが……」

「私が告げ口するとかは、考えないんですか……?」

「その心配はしていない……何しろマイ・マスターが仲間と言うくらいだからな……マイ・マスターが信頼する者なら、私も信頼出来る」

この人は……本気でシオンさんが好きなんだ……だから私に告げたんだ。

「……分かりました。なら、私も信頼に応えないといけませんね?でも、シオンさんのことは諦めませんからね?」

「フッ……無論だ。いや、むしろそのことで頼みがある……」

ジュリアさんが更に真剣な顔をして、言って来た……何だろう?

「頼み……ですか?」

「あぁ、単刀直入に言う……あの方の寵愛を得るために、協力しないか?」

ジュリアさんが言うには、シオンさんを振り向かせる為に一緒に頑張ろうと言うもの。
ちなみに条件は……

1、互いに協力し事に当たること。

2、単独のアプローチも構わない。フォローは良いが邪魔はしないこと。

3、もし、シオンさんを本気で好きになった人が居たら、こちらに取り込んでしまうこと……ただし、ミーハーな人はその限りではない。

4、シオンさんがどんな結末を望んでも、甘受し、否定はしないこと。
ただし、ただの逃亡は絶対阻止すべし。

……というものだった。
私は最初、そんなの破廉恥です!とか、禁則事項です!とか言って拒否してしまったけど……ジュリアさんの……。

「……では聞くが、カレン。貴女は現状、自身の想いを告げたとして――マイ・マスターにのらりくらりと、避けられることは無いと――ハッキリ言えるのか?」

「!!?」

(そうだ……私が告白した時は、シオンさん……記憶飛んじゃって……ああ……思い出したら涙が……)

この時点で私の心は決まった。
どんな結果になろうと悔いはない……けど、どうせなら争うことなく、皆幸せなら1番ではないか……と。

*********

こうして私はジュリアさんと協力……いえ、『同盟』を結びました。
同志であり仲間でありライバルという訳ですね。
シオンさんの鈍感はかなりの物です……けど補給路と退路を潰して逃げ道を塞げば……とは、ジュリアさんの談です。

あ、今度はアリオストさんを呼びに行くんですね?
今は、先のことを考えなくちゃ!
まずはフェザリアンを説得して、ルイセちゃんのお母さんを助けなきゃ……。
あ、ルイセちゃんのお母さん……サンドラ様も確かシオンさんを……身体がよくなったら、『同盟』に誘ってみようかな?

********

オ・マ・ケ♪

街中への道中、やはり私は少し迷っていた……協力は構わないんだけど、もしシオンさんが……誰か一人という選択肢を選ばなかったら……そんな、一人の男性にみんなで……なんて、そんなの……。

「カレン……貴女は独占したいというより、傍に居たいと願っている……私と同じだ。なら、分かる筈だ……想像してみろ……あの方がもし私たち全てを側におかれたら……」

モワワワ〜〜ン♪

**********

『マイ・マスター……御慕いしております……♪』

『シオンさん……私も大好きです……愛しています……♪♪』

『HAHAHA!仕方の無い子猫ちゃん達だなぁ……いや、子犬かな?よ〜し!今日も可愛がってあげよう……それとも躾が欲しいのかNA?』

キラキラリーン☆(うざやか2・5倍)

**********

ワワワモ〜〜ン☆

「はあぁぁ〜ん♪シオンさ……いえ、シオン様ぁ♪」

「マイ・マスター……この私に躾を下さい♪貴方の物である証を私にぃ♪♪」

くねくねくね。

「ねぇママ、あのお姉ちゃんとお兄ちゃん変だよ〜?」

「シッ!見ちゃいけません!!」

私はその背徳感も悪くないな……と思いました。

オマケ2

「!?」

ゾクリッ!!

「?どうしたのシオンさん?」

「いや、寒気というかむず痒さというか……なんとも形容がしがたい感覚が襲い掛かって来てさ……何と言うか、猛獣だらけの平原に出たが、そこは桃源郷で猛獣達も歓迎してくれた……みたいな?」

「?よくわからねぇが、風邪じゃねぇのか?」

「そういう、嫌な感覚では無いんだよな……嫌な予感もするが、それは実は吉報だった……みたいな?」

「だったら、気にしなくても良いんじゃないか……?」

「お兄ちゃんの言う通りだよシオンさん!」

「ん〜〜……そうなのかぁ??」

「いずれにせよ、ここで悩んでいても始まらんだろう」

「もしかしたら、後で原因が分かるかも知れないしね?」

「ん〜〜、そうだな。気にし過ぎても仕方ないか……ジュリアン達も待ってるし、行くとするか」

なんか気になるが……まぁ、頭の隅に覚えておけば良いか。

********

A・TO・GA・KI☆
ご都合主義全開の番外編、いかがだったでしょうか?
ジュリアとカレンのキャラ崩壊が……と、今更ですねすいません。
m(__)m

次回はきっちり42話を上げますので。
それではm(__)m




[7317] 第42話―DOKI☆DOKI♪湯煙温泉紀行?―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:13726dc9
Date: 2011/12/07 03:21

「失礼します」

「やぁ、いらっしゃい。いったいどうしたのかな?」

「アリオストさん、今、暇ですか?」

「今?今はマジックタイム停止装置の調整をしていただけだけど……」

「マジックタイム停止装置?あの遺跡とかにある、魔法仕掛けの自爆装置等の経過時間を止めるとか言う……あれか?」

「その通り!よく知ってるね?もっとも、僕の作ったこれは試作品で――正確には時間を遅らせるくらいしか出来ないけれど――」

「だったら、名前を変えた方が良くないか?それに、使用時に魔力波でダメージを受けるのも問題だぜ?」

「う〜〜ん、そうなんだけど……これ以上機構を変えるのは……」

「例えばここをこうすれば……どうよ?」

「成る程、そうか!僕としたことが見落としていた……まさかこんな方法が……」

「あの〜〜シオンさん……本題がズレているんと思うんですけど……」

俺とアリオストがマジックタイム停止装置について、熱く語り合い、尚且つ分解して改良までしだした辺りで、流石にマズイかな……と思ったんだろう。
カレンがツッコミを入れてくれた。

「悪い悪い!何分、魔導具を作ったりしてるから、つい気になっちまって……本題は違うんだったな。アリオスト、コムスプリングスに行かないか?」

「ということは、野暮用は終わったのかい?」

アリオストも改良を終えて、話に加わってくる。

「ああ、ちなみに優勝したのはシオンとカレンだ」

「優勝だって?これは驚いた……確かに、君たちは強かったけど」

ウォレスの言葉に、純粋に驚かれる……まぁ、仕方ないな。
俺達の戦いをアリオストが見たのは、あの遺跡の中くらいだもんな。
アリオストはプロの戦士でも、武術家でもないから、どんだけ強いかとかは分からないだろうしな。

「そんな訳で、旅券も貰ったし、一緒に行かないか?」

「ありがとう。感謝するよ!」

アリオストを加えた俺達は、その足でコムスプリングスに向かうことにした。
テレポートを使っても良かったんだが、徒歩でもそんなに掛からないくらいの距離だし、せっかくだから旅券を使うことにしたのだ。
こんなに近い距離までテレポートを使ってたら、運動不足になっちまう。
急ぎの用件なら話が変わってくるが。

「そんで、やってきましたコムスプリングス!」

「久しぶり……と言うわけでも無いかな?」

そういやそうだな……この前シャドーナイトの動向を探りに来たっけな?

んで……俺達は住宅街に向かう訳だが……。

「コムスプリングスと言えば温泉!お兄さんも入っていかないかい?心も体もリフレッシュするよ!」

「温泉かぁ〜♪ねぇ、入って行こうよ♪」

「ティピ……俺たちの目的は、ダニー・グレイズに会ってフェザリアンのことを聞くことだろう……」

店員の呼び込みに反応したティピが提案するが、そこをカーマインに突っ込まれる。

「だってさ、せっかく話しを聞くなら、さっぱりと身体の垢を落としてからの方が、いいんじゃない?」

「それは一理あるかもね」

「……ラルフ!?」

「それに今日の宿は取っておかないとな?話しを聞き終わるくらいの時には、多分夕方だぞ?」

俺は太陽の位置から、そう計算付ける。
今日は泊まりになるな……。
まぁ、それも悪くないだろ……時間的猶予はまだまだあるからな。

とりあえず皆も反対はしない様だ……んじゃ、早速チェックインと行くか。
店員さんに旅券を見せる……すると、休むかどうか聞かれたが、まずは風呂に入ることになってたので、そのことを伝えると、浴場に繋がるドアまで案内された。

「それじゃお兄ちゃん、また後でね」

「カーマインお兄さま、ラルフお兄さま、しばらくのお別れですぅ☆」

「それではみなさん、また後で」

「じゃあねぇ〜☆」

こうして女性陣は去って行った……。

「さて、俺たちも風呂を浴びに行くか」

「そうですね。ここの温泉は疲労回復によく効くという話ですから」

「そうなのか……温泉……普通の風呂とは違うんだろうか……?」

「まあ、場所にも寄るけどな?ここはかなり広いぜ?」

「そうだね……何より温泉は気持ち良いしね」

「そんじゃ、じっくり疲れを取るとするか!」

こうして俺達も男湯へ向かうのだった。

***********


「ふぅ……いい湯だな……」

「まったくですね」

「極楽じゃあ〜〜、オッサンの身も心もリフレッシュだぜぇ……」

「オッサンって…そんな歳じゃねぇ筈なのに、妙な貫禄を感じるなお前……」

「……これが温泉……良いな……」

「はぁ……疲れが取れるよ……」

皆がみんな、ふやけきった顔をしています。
そして物凄い筋肉率!!
ウォレスは体中が傷だらけで、まさに戦士の貫禄と言った所か。
そして筋肉!
ちなみに眼鏡は着けたままです……まぁ外したら見えなくなるから仕方ないか。

似た感じなのがゼノス。
ウォレス程では無いが、傷を持った体と、そして筋肉!!
バンダナみたいなのは外してます。

カーマインとラルフは細身だが、鍛え貫かれた体付きだ。
まだ鍛える余地はあるが、ある種の完成型に近い。
アリオストは……意外にもヒョロイと言うことは無く、平均的な体付きだ。

ん?俺?
俺はある種の完成型ってやつだな。
細くもあり鍛え貫かれた体……全身ピンク色筋ですから。
チートな身体能力に胡座をかかずに鍛え続けてますから。
ちなみに、修学旅行?のお約束でもある、男の勲章たる、お宝の大きさチェックは俺が断トツだった……みんな驚いていたな。
……少し、勝ち誇っていたのは秘密だ。

「それより、あのフェザリアンをどうやったら納得させられると思うよ?」

「そうですねぇ……具体的にどうすればいいのか……」

「薬を貰える状態ではある……だが、生半可な答えでは納得はしない……」

「まぁ、全てはダニー・グレイズって奴の話を聞いてから」

そんな話をしていた時。

ザブーンッ!

『もう、ティピったらぁ。飛び込んだりしちゃダメだよぉ……』

『何よ、そんなこという娘は、こうだ!』

バッシャーーンッ!!

『きゃーーーっ!ちょっと、やめてよ!』

『面白そ〜♪アタシも、え〜い♪』

バッシャーーン!

『本当に、やめてよ!やめてったらっ!……ふぎゅ……ふえ〜ん……(泣)』

『もう!みんなはしゃぎ過ぎです。大丈夫、ルイセちゃん?』

『えぐっ……カレンさぁーーんっ!!(大泣)』

…………………。

「……この向こうが、女湯だったんですね……」

「そのようだな。目の見えない俺には関係ない話だが」

目が見えてたら関係あるんかい!
一応、心の中で突っ込んでおく。
ん?
ゼノスが立ち上がった……まさかコイツ。
うわ、カーマインまで立ち上がったぞ?

「君たち、どこへ行くつもりだい?もしかして、女湯を覗きに行こうなんて思ってるんじゃないだろうね?」

そこは優等生のアリオスト、見咎めないわけはない……何しろ、ミーシャ君もいるわけだし……とは原作の本人の談。

「それの何が悪い。妹や乳臭いガキンチョには興味は無い……だが男足る者!女湯があれば覗きに行くのが嗜みの一つだろうがっ!!」

あ、熱い!
この漢、無駄に熱い!!
……ゼノスって……何と言うか、修学旅行で率先して覗きに行くタイプだよな……ベルガーさんの血筋故に……とは思いたくないが。

「き、君、何を堂々と……恥を知りたまえ、恥を!」

「別にそれくらい、いいんじゃないのか?見つかって、あとで酷い目に会うのが怖くなければ行ってこい」

「ウォレスさん!?」

ゼノスに絶賛説教中だったアリオストは、ウォレスの言葉に寝耳に水のようだ。

「ま、よく考えて決めるんだな」

「……俺は行く、妹が泣いているのを黙って聞いてはいられないからな……」

ウォレスの言葉にカーマインが前に出る………ウワァ……あの顔はマジだ、マジでルイセを心配してる顔だ。
下心が全くないってどうよ?
君ももう少し、アリオスト君を見習いなさい。

「……なるほど。確かに兄としては当然の行動だね。だが君がやりすぎるといけない。僕もついて行くとしよう。何しろ、ミーシャ君だっているわけだし……」

出たぁ!
アリオストの言い訳!
カーマインをダシに愛しのミーシャ君のHA・DA・KA☆を拝もうって下心が丸見えだっつーの。
何しろ顔が緩んでて説得力が無い。
流石アリオスト……ナイスムッツリスケベと言っておこう。

「ウダウダ言ってねぇで、さっさと行ってこい!!」

「そうだ!ウダウダやってる暇はねぇ!!行くぞお前ら!!」

ウォレスの克入れに、ゼノスが火を付けて突貫して行った。
カーマインも後に続き、アリオストも慌てて後を追った。

「「行ってらっしゃ〜〜い」」

俺とラルフは三人を見送った。
ゼノスがいても、原作と大差無いだろう。
念のために保険はしてあるしな。

「お前らは行かないのか?」

「まぁ、こうして温泉に浸かってる方が良いですから」

「それに、結果は見えてるしなぁ……」

くっくっくっ……と、邪笑を浮かべる俺であった。

********



「……真っ暗だな……だが、もう少しで女湯が……」

「なんか、声が嬉しそうだな……アリオスト?」

「失敬な!僕は純粋に君たちの監視で来ているだけであって……」

「その割りには、率先して先頭を歩いてるよなぁ?最初は先頭だったのは俺なんだぜ?」

「こ、これは……その……君たちに変なことをさせないための処置だ!」

うむ……よく、これだけ言い訳が出てくるなぁ……俺でも分かる。
これがムッツリスケベって奴だな。

「それにしても、女湯に向かうためにこんな細い穴があるなんて……」

「考えることは同じってことだ……これで綺麗なお姉さんがいりゃあ言うこと無しなんだが」

お前ら……って、理由こそ違えど、こんな所まで来てる俺が言えることじゃないな。

『ミーシャの胸っておっきいねぇ……』

『そんなことないよぉ。ルイセちゃんだって…………あはは……なんでもない……』

『……う〜……どうせ、わたしは……』

『大丈夫よルイセちゃん、女の子の魅力は胸の大きさじゃないんだから』

『それ、カレンさんには言われたくない台詞だわ……』

『そうだよね……コレってアタシより……』

『そ、そんなにジロジロ見ないで……恥ずかしいから』

『……うぅ……どうせわたしなんてぇ……(泣)』

ルイセ……お前は14にしては発育は良い方だと、俺は思うぞ?
……周りが反則なだけで。

「むぅ、ミーシャ君は……そうか……ほらっ、なに止まってるんだ!先へ進むぞ!」

俺たちはアリオストを先頭に苦難を乗り越え、遂にそこが見えてきた……。

「後少しで……後少しで……」

『それじゃ、そろそろあがろうか?』

『そうだね』

『お兄さま達が待ってるもんね☆』

『そうですね、皆さんを待たせても悪いですから』

ざばばばば〜〜ん。

どうやらみんなが上がったようだな。

「あ゙……」

アリオストの悲痛な声が響き渡る。

「まだだ!アイツらがあがっても、まだ綺麗なお姉さんがいるかもしれん!俺は諦めん!!」

あっ、ゼノスが突貫していった。

カチッ!

カチッ?

ベッシーーーン!!

「ぶっ!?」

ゼノスが突然現れた何かに叩かれて吹っ飛んできた。
それは看板で、そこには『だ〜〜め!』という言葉と共にバッテンマークを作る人の絵が…気のせいかシオンに似てる様な…。

「………帰ろうか」

「……そうだな」

俺達は気絶したゼノスを引きずり、男湯へと帰還したのだった。




[7317] 第43話―ダニー・グレイズのフェザリアン講座―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 18:14


「あれ?どうしたんですか、アリオスト先輩?なんだか疲れた顔してる……」

「ああ……ちょっと湯当たりしてね……」

「なぁんだ、アリオスト先輩温泉につかりすぎですよぉ☆」

「あははは……案外覗きに失敗してがっかりしてるだけだったりしてね☆」

「もぉ、ティピったら。アリオストさんがそんなことするはずないじゃない」

「……」

アリオスト……平静を装ってはいるが顔が赤い……きっと良心がザックリだろう。
カーマインは平然としている……内心では覗きはマズイことだと思いつつも、悪いことはしていない……とでも思っているんだろうな。

そしてゼノスだが……。

「ゼノス兄さん……本当に平気?」

「お、おう!大丈夫だ」

ゼノスは戻って来た時に、ダメージを負っていた。
恐らく俺の設置したトラップに引っ掛かったのだろう。
気絶して引きずられて来て、目覚めるのに少し時間が掛かった。
事情を聞いた俺は、ゼノスの顔にキュアを掛けて、風呂場を後にした。
まぁ、女性陣への説明の為にいち早く上がったワケだ。。

で、ゼノスが上せて倒れた……ということを伝えた。
無論、奮闘した勇者をイケニエに捧げる様な真似はせず、きっちり交渉させてもらったよ。
その結果、妙な勘繰りを入れられることもなく理解して貰えたため、ゼノスへの追及はスルーとなった。
アリオストが目立ってくれたお陰でもあるな。
にしてもゼノス……本気で心配しているカレン相手に、流石にバツが悪いみたいだな。

さて、宿も取ったし……ダニー・グレイズに会いに行くとしますか。

**********

――金持ち連中の別荘地帯に足を向ける。
原作では三軒しかなかったが、実際にはもっとある。

まぁ、当たり前だが。

ちなみに、俺やラルフの家の別荘もあります……内緒だぜ?

で、今はダニー・グレイズの家に向かっている。
一応、俺は場所だけは知っていたので案内してきたんだが……。

「あの、ダニー・グレイズさんのお宅ですか?」

「いいや。私はアーネスト・ライエルだが」

「あ、ごめんなさい!」

い、今ありのまま起こったことを話すぜ……俺が案内してたらティピがはやとちりして、別の家の扉を叩きやがった。

KYとかうっかり属性とかでは断じてない!!

もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ……。

と、そういうワケだ……って、マズイ……ここは一旦逃げ――。

「ん?お前は……」

ギクリッ!!

ギギギギギギギ……。

俺は錆びたロボットの様な動きで後ろを見る。

「やはり……シオンか……」

「お、お久しぶりです……ライエル卿」

見つかっちまった……いや、今の段階で特別どうとか無いよ?
ただ……。

「どうしたんだ、アーネスト?召集か?」

うわ〜い、分かってたけど、ま〜たややこしいのが来たよ〜……。

「家を間違えただけらしい……それと、懐かしい顔もいるぞ?」

「え?おや、シオンじゃないか……久しぶりだね」

「リーヴス卿も……お元気そうで何よりです」

相変わらず爽やかな笑みを浮かべよってからに……いかん……下手をしたら俺がインペリアル・ナイトの息子だとバレてしまう……。

――だからどうした?
という気もするが……皆の見る眼が変わるのが嫌なんだよ……まぁ、コイツらならそんなことは無いかもだが。

「父上殿から聞いてるぞ?見聞を深めるために、諸国を渡り歩いてるそうだな……」

「はい……今は彼らと行動を共にしています」

「君なら、そんなことをしなくても良さそうだけど?」

「買い被りですよ……私はまだまだ未熟です」

「まぁいい……納得するまでやってみるといい……お前の帰郷を楽しみにしている」

「さて、ちょうどいい機会だから、僕はこれで失礼するよ。懐かしい顔にも会えたしね」

「うむ、またな」

「またくるよ、アーネスト……シオンもまたね」

「いつでも来てくれ」

「……機会があれば、また」

この二人は……なんで俺の周りの奴らは俺をナイトにしたがるんだ?

いや、ナイトにしたい――なんてストレートには言われていないけどもっ!

なんつーか、期待感みたいなのを犇々と感じるワケなんだよ――自意識過剰でなければ。

つーか、心技体の心が圧倒的に不足してますよ……俺?
まぁ、残り二つは輪を掛けてプラスに圧倒しているが。
リーヴス卿が去った後、ライエル卿は説明をする。

「さて、ダニー・グレイズだったな?その人なら下の家だ」

「申し訳ありませんでした、ライエル卿」

「気にするな……本当なら旅の話でも聞きたいところだが、それはまたの機会にしよう……ではな」

ライエル卿は屋敷に入っていった……あ〜〜、焦ったぁ……。

「ねぇ、シオンさん?今の人たち、シオンさんの知り合い?」

ティピが俺の気も知らずに声を掛けてくる……まぁ、致命的なワードは出ていない……こともないが、簡単な説明くらいは良いだろう。

「まぁなんつーか……親父の仕事の同僚だった人達だ……」

「お前は卿と呼んでたみたいだが……もしかして」

「あの二人はまぁ、ぶっちゃけ貴族だな」

これが唯一の失態……つい卿って言っちまったけど、言わなくても切り抜けられたよな……あぁ、俺の迂闊者……。

「……ということは、シオンさんも貴族ってことぉ!?」

「まぁ、一応な」

ミーシャの質問に答える……うーむ、皆、態度が変わるというより、純粋な驚きと好奇心みたいな感情しかないみたいだな。

「今はそんなことより、ダニー・グレイズさんのお宅に伺いませんか?」

ラルフがフォローに入る。
流石はラルフ……御気遣いの紳士!
皆、異論は無いようで早速ダニー・グレイズの家へ……やっぱり取り越し苦労だったみたいだな。
――ホッと一安心だぜ。

***********

「ごめんください」

ライエル卿の言う通り、直ぐ下にあった家の扉を叩く――。
扉の中から出てきたのは、初老にギリギリで差し掛かるであろう男性であった。

「なんだね?」

「あの、ダニー・グレイズさんのお宅ですか?」

「そうだが?何の用かね?」

出て来た男性……彼がダニー・グレイズか。

「実はあなたがフェザリアンの研究をしていると知りまして、いろいろとお話を聞かせて頂きたいと思いまして…」

「ほほぅ。このワシの研究に興味があるのか?お若いのに感心なことじゃ。立ち話も何だから、ささ、中へ入ってくれ」

「おじゃましま〜す!」

こうして俺達はグレイズさんのお宅に上がらせて貰った。

「さて、何から話そうかね?」

「主にお聞きしたいのは彼らの思想、考え方です」

「思想か……一番難しいところだね」

「あなたの著書を読ませていただきました。それによると、合理的な種族としか記されていませんでした」

「うむ。あの時点ではそうとしか書き様がなかったからね。だが今はもう少しわかってきている」

「やったぁっ☆」

グレイズさんの答えに、ティピが小さくガッツポーズ。
ああいうのを見ると可愛いよな、ティピは。

「では、お手数ですが、ご教授お願いします」

アリオストが興奮気味に言う……気持ちは分からないではないが、少し落ち着こう。

「うむ…ではまず、彼らが我々人間を嫌っていることから話すべきだろうな」

「嫌っている?」

「そうだ。彼らが最初からあんな宙に浮く島に住んでいたと思っているのかね?」

「?違うのですか?」

グレイズさんの話にウォレスが疑問を尋ね、更にカレンも尋ねた。

「とんでもない。当初、彼らは地上に住んでいたんだ。それを追い出したのは他でもない、我々なんだよ」

「人間がそんな酷いことをしたなんて……」

「今の人たちはほとんど忘れてしまっているだろうが、我々もフェザリアンも別の世界の住人だった。だが我々の世界が絶滅の危機に瀕したとき、人間とフェザリアンは力を合わせてこの世界へ移り住んだ」

Ⅲの時の話だな……もっとも、結果的には世界は救われたんだが……。

「力を合わせて?」

「そのとおり。フェザリアンの持つ優れた科学と、人間の持っていた強大な魔力……この二つを使い、我々は異なる空間をつなげ、この世界にやってきた」

「それほど協力的だった関係が、どうして崩れてしまったのでしょう?」

アリオストが尋ねる……確かに、Ⅲにおいてはあれだけ協力的な間柄だったのだが……それを崩したのは――。

「グローシアンが支配者として君臨したから……ですね?」

俺はグレイズさんにその答えを告げる。

「その通りだ……この世界にはグローシュがほとんどない…そのため、この世界に来て、強力な魔法を使えなくなった人間は、科学を持ったフェザリアンに支えられて来た……だが、偶然能力を取り戻すに至ったグローシアンたちが、その魔力を武器に反乱、人間やフェザリアンを支配するようになった……一部の人間の起こした反乱だが、彼らにしてみれば恩を仇で返されたようなものだ」

「そんなことしたんじゃ、嫌われるのも当たり前だよ!」

ティピは過去のグローシアンに対して憤慨する……まぁ、諸悪の根源はグローシアンでありながら、グローシアンでは無い存在なんだがな……。

「それが全てとは言えないが、それが決め手だったと思う。前の本にも書いたが、彼らは非常に合理的だ。そして常に集団の意志を重視する」

「簡単に言えば、誰か一人がカラスを見て黒いと思っても、大多数が白いと言えば、そいつも白いと言うわけだな」

「有り体に言ってしまえばそうだな……集団の意志の前には個人の意志など存在しない。そこまで割り切れる、かなりドライな性格だ」

「確かにそんな感じだったな」

交渉した時も、協議してから是非を決めてたしな。

「そんな考え方を持った彼らだ。自分勝手に生きる人間を元々見下していただろうね……それにみんなが一丸となって目的に当たるから、一つの技術を極めることも出来る。結果として、高い知識と技術を持つに至った。だから彼らの技術を見てみたまえ。どうでもいいようなものなど何一つない」

「無駄がないなんて、何だかつまらないなぁ」

「いや、そうとも言い切れん」

「どういうことだ?」

ミーシャの意見に待ったを掛けたグレイズさん、そのグレイズさんに疑問をぶつけるゼノス。

「彼らはたいへん歌が好きでな……本来、歌などなくても生きていけるはずだからね。ま、彼らに言わせれば『豊かな心のため』と答えるかもしれんがね」

「なるほど……では、彼らよりも人間の方が勝っている点とは何でしょうか?」

「難しい問題だ……彼らに比べれば人間は個人のエゴを優先しがちだからね……だが、考え方によってはそのエゴが長所かも知れん」

「エゴが、長所なの?何で?」

ミーシャが頭にクエスチョンマークを浮かべる……普通は分からないよな。

「例えば、誰かが怪我をして、一週間後には死んでしまうとする……けど薬を取りに行って帰って来るには十日掛かる……皆なら――どうする?」

俺はグレイズさんの意図と同じ質問を皆にぶつける。
――皆の答えは『諦めずに薬を取りに行く』……だった。

要はそういうことだ。
人間は諦めずに立ち向かうことが出来る。
自分が納得出来るように全力を尽くす……まぁ、諦めやすい人間もいるけどな?

「つまりフェザリアンは無駄な努力はしないってことかぁ」

「どちらが本当にいいことなのかはわからん……だが私は悔いのない生き方をするために最後まであがく人間の方が、いいように思えるのだよ」

俺個人としては無駄な努力なんて無いと思うんだが……それこそ個人の感覚だからな。

俺達はグレイズさんにお礼を言い、その場を後にした。

「何となく見えてきたな」

「けどよ、それをどうやって証明するんだよ?」

「……難しいね」

「それを形にする……というのが、ね」

「見えるんだけど見えない物……って奴だな」

とりあえず俺達は、考え込むのもソコソコに宿へ向かった……もう夕方だし、せっかく旅券があってタダで泊まれるんだからな…。




[7317] 第44話―過去の傷痕―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 18:37


――夢を見ていた……。

双子の兄弟と、幼なじみの女の子の物語……。

双子の弟は、才能はソコソコに、でも勤勉で努力家で……。
双子の兄貴は、才能は弟より優れ、ソコソコに勤勉で努力家だった。

双子と女の子はお隣りさんで、三人は何処に行くのにも一緒で、いつも仲良く遊んでた――。

そんな何処にでもある有り触れた物語……。

――幼なじみの女の子は弟を応援した……何をするにも、兄貴が勝っていたからだ……。
双子は女の子が好きだった……だから、弟ばかり応援されて、兄貴はショックだった。
子供心に辛かったのだろうが、兄貴は努力した。

きっと自分の努力が足りないから、認めてくれないんだって……。

でも、努力は影でする物だ……そう兄貴は思っていた。
そのほうが格好良いから!
という陳腐な理由だったが。

多分、当時見ていた特撮が影響したのかもしれないな……。

普段は遊んで、ヘラヘラ笑いながら――影では誰よりも努力した。

弟もずっと、努力し続けた。

幼なじみの女の子も応援していた……。

それでも仲良く三人は成長していった。
――変だよな……そういう二人を見ていく内に、兄貴は二人がお似合いに見えて来た。
けど、心は諦め切れないのか努力することは辞められずに……。

本当、有りがちな話だと思う。

ある時……双子と女の子が学生になった頃……。
立派に成長した双子の兄貴と弟は大層モテた。
弟はその努力と誠意あるところが……兄貴は社交的でみんなを引っ張る様なところが……。
二人ともそれなりに男前だったしな。

二人はそれを知っても、幼なじみの女の子への想いは消えなかった。
ある時……兄貴は、思い切って想いを告げることにした。
これで駄目なら……スッパリ諦めようと。

未練がましい自分に、トドメを刺して欲しかったのかも知れない――。

校舎の屋上に呼び出して……兄貴は想いを告げた。
結果は予想だにしない物だった。

OKを、貰ってしまった……自分も好きだったと……。
兄貴は弟のことを持ち出した……だって、そうだろ?
彼女は弟の応援しかしていなかった筈だ……いつも弟の近くに居た筈だ。

そう言ったら、彼女は苦笑いを浮かべて言うんだ……双子の弟のことは、自分も弟くらいにしか見ていなかった……と。
実は、最近弟にも告白されたらしい……それを断って現在に致る……と。

それから二人は幼なじみの枠を越えて付き合いだした……弟も祝福してくれた。
本当に心から……双子だからかなのか――そういうのは分かるんだ……だから、こっちが逆に申し訳なくなってしまう。
そんな兄貴に、気にするなって言ってくれる弟は、本当に優しい奴なんだと思う……。

これから幸せな時が続く……幼なじみの彼女と一緒に……そう思ってた。

本当に有りがちで、有り触れた物語……。

兄貴と彼女は初デートをすることにした……兄貴は一緒に家を出るつもりだったが、女の子は待ち合わせをしようって……デリカシーが無いって怒られたっけな……。
一緒に出れば良かったんだ……なるべく長く一緒に居たいとか……そう言えば彼女は納得してくれた筈なんだ……。

けど、二人は――別々に家を出た……。

――双子の兄貴は大分早くに家を出た……彼女を待たせることはしたくなかったし、何より自分自身が楽しみだったからだ。
当たり前だが、早く着き過ぎた兄貴は、彼女を待つことにした……。
待つことは苦じゃなかった……今日のことを想うと、胸が弾むってやつだ。

懸命に考えたデートプランを反芻し、想い描いた――。
彼女は楽しんでくれるだろうか?
緊張して醜態を曝したりしないだろうか――って。



しかし……幾ら待っても彼女は来なかった……待ち合わせ時間を過ぎても……気になって携帯に電話しても、家に電話しても……彼女は出なかった。
嫌な予感がした……言い知れぬ不安感……心臓が締め付けられる様な焦躁感……。

兄貴は……俺は走り出した……彼女がここに来るなら、俺と同じルートを通る筈……行き違いになったなら後で謝れば良い……俺は走って走って走りまくった……息が切れそうになっても、足がガクガクになっても……走り続けた。

晴れていたはずの空が曇り……雨が降り出した……それでも構わず走り続けた……俺は曲がり角を左に曲がった……。

……そこには……。




**********

「っっ!!?」

ガバッ!!

「……ここは……」

俺は辺りを見渡す…………そうだ、俺達はグレイズさんの話を聞いた後、取ってあった宿に泊まったんだっけな……。

「……にしても、何でこんな夢を……」

俺にとっては、懐かしくもあり、幸せでもあり……絶望を知った時の夢を……。

「……もう、吹っ切れた筈だったのに……」

俺はベットから起き上がり、部屋を出る。
体が汗だらけだからな……せっかく温泉に来てるんだから、汗を流すのも良いだろう。
このままじゃ眠れないしな……。
俺は密かに持ち込んでおいた物も持っていく。

で、風呂場に来た。
都合よく誰もいない……シメシメだぜ……。

俺は服を脱ぎ、風呂場に入る。

あ、ちなみに闘技場で装備していた鎧……ブレストプレートはゼノスに壊されてしまった為、着けているのはデュエルガードというジャケットタイプの装備だ。
なんでもグローシアン支配時代、決闘をする際に着た物だとされているが……ちなみにカーマインみたいに特殊な着方はせず、エリオットみたいに普通に着てます。

そんなことはどうでも良いか。
俺は隠し持っていたアイテム……お盆と徳利……そして日本酒を常備して――。

で。

「くあぁっ!!たまらんぜぇ!!」

俺は風呂に入りながら、おちょこのポン酒をキュッと一口……あ〜〜、この一杯のために生きてるぜっ!!
とか、リーマン時代は言いながら飲んでたわけよ。
懐かしいねぇ……あ、このポン酒?

妖魔刀(形状はまんま日本刀)という武器があることから分かる様に、この世界には日本的な文化や、技術が伝わっている――。

徳利も骨董品店で仕入れた物だ。

ならば、日本酒があっても不思議では無いだろう――。

考えてみれば、カーマインが領地を貰った時に、和食レストランとかも作れた筈だから、ポン酒があるのも当たり前っちゃ当たり前なんだがな。

――コムスプリングスに来た時は、絶対やりたかったことなんだが……。
遊びに来てた時はまだ子供だったし、ポン酒があることを知ったのは旅に出てからだったしなぁ……。
ちなみに、シャドーナイトの動向を探りに来た時は、本当に温泉には入らなかった。
遊びじゃなかったしな。

「正確には【日本酒】では無いんだが……作り方や材料も同じみたいだから、ポン酒で良いだろ?」

俺は再び徳利からおちょこに注ぎ一口……くぅぅ!美味い!!
しかもデッカイお月様を眺めながらの月見酒……風流だろう?
あ、良い子のみんなは真似すんなよ?
血圧高い人もな?
倒れても知らないぜ?

ん?誰か来たな……気配がする。
まぁ、店員でもない限り目くじらを立てられることも無いだろ?

シュル……。

きぬ擦れの音がする……って、野郎の脱ぐ音にきぬ擦れとか言う表現はダウトだな……キショイ。

要は客ってことだな……誰か起きて来たのかね?

「これが女の子だったらね〜……オッサン辛抱堪らなくなっちまうのにぃ〜……いや、全力で逃げるけどな、実際は」

いかんなぁ〜……酒が入ると独り言が多くなっちまうな……ミーシャじゃあるまいし。


……独り言でも言ってなきゃ、さっき見た夢を思い返しちまいそうで……。


「っと、イカンイカン……せっかく楽しく飲んでるってのに……そうだ、今から入ってくる奴を巻きこんじまおう、一人で飲むよりソッチの方が楽しそうだ……俺のネゴシエーションを甘く見るなよ?あのフェザリアンを動かしたくらいなんだぜ?」

とりあえず、入って来た所を俺から話し掛ける……。
そこから主導権を一気にコチラに持って行き、そして……!

お、入って来たな……足音がする。
ヒタヒタという素足独特の足音……まだだ、もう少し引き付けてから……もう少し……もう少し………今だっ!

「よう、アンタも一杯どうだ……い……」

「え……シオン、さん……?」

…………………。

………………。

……………。

…………。

………。

あ、ありのまま起こったことを話すぜ!!

温泉で酒を飲んでたら客が入って来て、見たらそれは肌色が眩しい姿のカレンだった……。

頭が変になりそうだ……。

のぞきとかハプニングとか、そんなチャチなもんじゃ断じてない……もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ……。




…………ほわい?

「………ッ!!!」

俺は立ち上がろう……としたが、当然下にタオルなんか着けていない。
タオルは頭の上だ。
なので、俺は顔を前に向ける……てか、何で!?

「かかか、カレン!?な、何で男湯にっ!!?」

「え、あああ、あの……外、女湯になってて……そのっ……!」

何ぃ!?
まさか……時間帯ごとに男湯と女湯をチェンジするシステムか!?
それなら店員確認しろよ!怠慢だぞ!!

いや、店員がカウンターから奥に引っ込むのを見計らって移動したが……普通脱衣所くらい確認するだろうよ!?

さっきチラッと見てしまったカレンの姿……髪は完全に降ろしてあり、リボンも取ってある……前を軽くタオルで押さえてるだけで後は……タオルから体の形がくっきり………だああああぁぁぁぁ!?
思い浮かべるなぁ!!
くっ……絶対記憶能力が憎い!!
忘れられんではないか!!
忘れられんではないか!!
大事なことなので二回言いました……って、落ち着け俺ぇ!!?

「ゴメン!気付かなかった!!すぐ上がるからっ!!」

酒とかそのままだが、気にしてる場合じゃない!!このままじゃあ……

「ま、待って下さい!!」

うぐっ!?
な、なんでせうか……?
あれか?
訴訟ですか?
タイーホですか?

………ちゃぽん。

は?

「……何、してんの……?」

「ああ、あの……わ、私のことは気にしないでください……」

気にするでしょうよぉぉ!?
しかも何で俺の隣だよ!?

「宜しければ……このまま一緒に……」

チラッとカレンの顔を見る……真っ赤だ……恥ずかしいなら止めりゃあ良いのに……!?
見てない!
見てないぞ!!
デカメロンみたいな膨らみなんか見てないぞ!?

煩悩退散!
煩悩退散!!
喝!!!

俺は視線を反らす……ヤバイ……俺のガメラが怒髪天に……落ち着け、素数だ……素数を数えry

「ど、どうして……カレンはこんな時間に?」

「その……眠れなくて……シ、シオンさんは?」

「まぁ……俺も似たようなもんだ……」

「……そ、そうですか」

…………………。

か、会話が続かない……あぁ!!
誰か!?
俺に力を貸してくれ!!

ふと、リーマン時代の悪友が浮かぶ……何か、何かアイディアをくれ!!

奴は笑顔でこう言いやがった……MO・GE・RO☆
更にファックユーのオマケつき。
とりあえず心の中で、再起不能なまでにボコッておいたが、問題は何も解決していない。

ふにょん♪

「!?か…カレン、その……当たってるんだが?」

「あ!ご、ゴメンなさい!!その……えっと……嫌です…か?」

「はいっ!?嫌も何も……むしろ気持ち良…ゴフンゴフン!!うら若き乙女が……こんなことしちゃイカンですよ!?」

というか、ガメラが完全に怒髪天!?
これじゃ出るに出れねぇ!?

「……こんなことするの……シオンさんにだけです……」

「うぇ…?」

どういう……意味だ……?

「……シオンさん……私……」

カレンの視線を感じる……俺はカレンの方へ顔を向ける。
……俺を真っ直ぐに見詰める眼……。
上気して赤く染まった頬……。
オッサン……勘違いしちまうぞ?
……良いのか?
幾ら俺だって、こんな状況じゃあ……。

『ゴメンね……約束……守れなく……て……』

!!?
フラッシュバックした光景は……あの時の……。


俺は……俺は……。

「……?シオンさん……?」

「え…あ…!?か、カレン!?な、なんでここに!?」

俺は風呂に入って酒を飲んで…それから?
どうしたんだっけ…?
いや、つーか、この状況は何だってのさぁ!?




[7317] 第45話―自覚と逃避―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 18:51


さて……何があったのか分からないが、簡単に推理しよう。

俺は露天風呂で酒を飲んでいた……そこにカレンが入って来た……。
んで、今に至ると……何故に?

「え〜〜〜〜と………」

「………………」

カレンが見て分かるくらいに落胆している……いや、見ないけどな?
見たらヤバイ……歯止めが効かない自信がある。

もっと言うなら、この状況……風呂場、酒、元気過ぎる息子、部分的記憶の欠如、俺の隣で眩しくけしからん姿で落ち込むカレン……ここから導き出される答えは……。

……酔った勢いで大人の階段昇っちゃった?

……マジ?

いや、待て……あくまでも状況証拠だけだ……物的証拠は無い!
……むぅ、だが……。

「なぁ……カレン?」

「……なんですか……?」

うわぁ……凹み具合がパネェ……なんか澱んだオーラが漂って来た……。

「その……さ?俺、カレンに何かしたか……?」

「……してません……して……くれませんでした……」

「そ、そうか……しかし、その言い方だと、その……何か期待してるみたいに」

って、何を言ってるんだ俺は!?
自重しろ!自重!

「……私……で……」

「え?」

「……私では、魅力がありませんか……?」

「そんな訳ないだろ!現にこうしていても……」

理性が爆発しそうなんだからな……。
下半身が特にヤバイ……色々爆発しそうだ。

「……それなら、こっちを向いて下さい」

「いや、だからそんなことしたら」

「お願い……しま、す……私を見て……下さい……」

え……カレン……?

俺はカレンの様子のおかしさに、つい横を向いてしまう……。

泣いていた……カレンが……泣いていた。
こちらを見据えながら、泣いていた……。
ポロポロ零す涙は綺麗だが……胸を締め付ける……それは悲しみに溢れているから……それでも、普段の俺なら違う反応をしていただろう。

それをしないのは……俺の中にある感情が、そうさせないから……これは……罪悪感か?
……つまり原因は俺にある?

ザザッ……。

頭にノイズが走る……。

ザザザッ……!

映るのは雨の日の……。

ザザザザザッ……!!

映るのは朱に染まる水溜まり……。

五月蝿い!!
黙れよ!俺は……俺は……!!

「……やっと、見てくれましたね…」

「……カレン……」

そう微笑むカレンは凄く綺麗で……俺は……。

『……こんなことするのは……シオンさんにだけです……』

!……そうだ……カレンは俺に、こんなことを言っていたんだっけ……何で忘れていたんだ……?
物覚えは良い筈なんだが……。

ノイズが治まった俺はカレンの肩に手を置く……ビクッと一瞬だけ震えるカレン。

「さっきのことと言い、今のことと言い……幾ら俺でも勘違いするぜ?」

「……シオンさん、さっきのこと……」

「『……こんなことするのは、シオンさんにだけです……』だったよな?」

そう指摘してやると、カレンは真っ赤になる……多分、自分がどれだけ大胆なことをしているのか自覚して、改めて恥ずかしくなったんだろう。
可愛いなカレンは……。

……どうして気付かなかったんだ?
カレンが俺に異性として好意を抱いていたのを……。

――今までだって、カレンが俺に向けてきた感情は――。

ザザザザザッ!!!!

!?うぐっ!!ま、またノイズがっ!?

『……ゴメンね……約束……守れなく……て……』

『何……謝ってんだよ……今、救急車呼んだから』

ザザザザザザッッ!!

ぐぅっ……あ、頭が痛い……!?
…記憶が、薄れて行く……や、止めろ!?
せっかく思い出したのに……微笑んでくれたのにっ!!?

「……シオンさん?」

カレンが、微笑んでくれたんだぞ!?
止めろ……俺から奪うなっ!!!
『また』繰り返すつもりか!!?

ザザザッ!!

『……無理だよ……もう……身体が動かないもの……何も……見えないもの……』

『らしくねぇこと言ってんじゃねぇ!!踏ん張れよ!いつもの根性はどうしたっ!!?』

繰り返す……俺は……繰り返す?

ザザザザザ……!

「がっ!!?」

「!?シオンさん!?」

俺は頭を抑えて俯く。

頭に響くのは警告……ノイズと共に流れてくる記憶……それが怒涛の様に責め立てて来る。

忘れろ……忘れろ……また『同じこと』を繰り返すつもりか……と。

俺の記憶を……カレンの想いに気付いたという記憶を塗り潰そうとしてくる……嵐の中の濁流の様に。

本能が告げる……流れに身を任せて忘れろと。
ノイズが齎す記憶は知らないほうが良い……と。

……そうだな。
確かに、これだけ警鐘を鳴らす様な記憶だ……断片的に見せられたが、碌な記憶じゃないんだろう……。
だが……それは本当に知らなくていい記憶か?
……違う気がする。
俺はそれを知らなければならない気がする……。
何より、その為にカレンの想いを忘れるなんざ――我慢ならんっ!!!

俺はノイズの濁流に逆らい、前へ前へと意識を向ける……だが、俺の意識は濁流に呑まれ………。

「シオンさん!?シオンさんっ!!?」

「だ、大丈夫……少し湯あたりしただけだから」

アリオストみたいな言い訳をカレンにする……状況を確認しよう。
どうやら、さっきの思考は一瞬の出来事だったようで、まだ俺達は風呂に浸かっていた。

「…本当に、本当に大丈夫なんですね!?」

「ああ……ゴメンな、心配かけて」

おかげで幾らか思い出したよ……俺の忘れさられた記憶。

「……で、カレン……言いにくいんだが……当たってるぞ?」

ふにょん♪とか、ぽよん♪とした物が……。

「え……あ……!!」

「もしかして……わざと当ててる?」

「!?ちちち違っ!?こここれはその……あの!?」

バッ!!と離れるカレン。
おお〜……真っ赤だ。
と、言いつつ俺も顔が熱くなってることから、自身も顔が赤くなってるのは容易に推測出来るがな?

「冗談だよ……さて、また湯あたりしてもなんだし、俺はそろそろ上がるよ」

さっきから結構騒がしかったし、人が来たらヤバイしな。
俺は腰にタオルを巻き、立ち上がる……息子が偉いことになっているので、カレンに背を向けてだけど。

冷静を装っているが、俺だって男だ。

……好意を持ってくれている女の子とこんな状況になれば、こうなるのも自明の理だ。

むしろ、ル○ンダイブをしない自分を褒めてやりたい。
……精神的には40代なんだが、まだ枯れていないんだなぁ……とか思ったり。

「カレンも適当なところで上がれよ?俺みたいに湯あたりしても知らないぜ?」

「あ、あの……」

けれど……。

「それと、うら若き乙女が柔肌を曝しちゃダメだぜ?それだけ信頼してくれるのは嬉しいけど……俺も勘違いしちまうからさ」

思い出しちまったからな……。
俺に、その好意を受ける『資格』が無いって……。

まだ何か言いたそうなカレンを置いて、俺は脱衣所にて身体を拭き、着替える。

カレン……ジュリアもだが、俺なんかに告白みたいなことをしたのは、一度だけじゃない……。
好意を持ってくれた人に限ればもっと居る……。

思い出した……いや、気付いてしまった。

「……俺なんかの何処が良いんだか……この見た目か?」

俺の見た目は前世……と言えば良いのかは分からないが、あの頃より数倍は美形だ。
多分その気になればキラキラビームでも、出せそうな勢いだ。

……とは言え、カレンを始め、そんなことだけじゃ、あれだけ惚れ込んではくれないと思うんだが……分からん。

「……どちらにしろ、俺には眩し過ぎるよ」

俺なんかと一緒になれば不幸になるだけだ……。
なら、俺は……気付かないフリをするだけ。
悲しまれようと……居なくなられるよりは良い……。

*********


……シオンさん、大丈夫でしょうか?
湯あたりだと言ってましたが……。
でも、本当に平気そうだったし……大丈夫なら良いんだけど。

「それにしても……私、考えてみたら……物凄く大胆なことしてたかも……」

偶然、シオンさんと会ったからって……い、一緒にお風呂に入って……シオンさんに、く、くっついて……。

クラッ……。

その際のことを思い出して熱くなってしまう。
う〜〜……恥ずかしい……でも、シオンさんの暖かさが分かって心地良くて……思ったより筋肉質なシオンさんの身体が、私の身体と触れ合って、なんか気持ち良くて……離れられな……って、何考えてるの私!?

……けど私、泣いちゃいました……。
だって、せっかく勇気を出したのに……シオンさん、また忘れちゃうんですよ?
……気付いてくれないなら、気付いてくれる様に頑張ろうと思いますけど……幾ら想いを告げても、それを忘れられたら……。

私の気持ちは結局無駄なんじゃないかって……思ってしまって……。
そうしたら悲しくなって……けれど、あの人は私を見てくれて……思い出してくれた。
結局、私の気持ちに気付いてくれなかったのは、ショックでしたけど……けど、なら気付いてもらうまで、何度でも想いを告げます!

私は貴方が大好きです……って!
…………今考えてみたら、勇気を出してこんな大胆なことをしてみたけど……好きだとは言ってなかったかも……今までも……。

……ファイト、私。

「あ……コレ、シオンさんの……お酒……なのかな?」

「……美味しいのかな?」

私は入れ物(後で聞いた話によると、徳利と言うらしい)に入った液体を小さな器(これはおちょこと言うらしい)に注いで、一口飲んでみた。

「!コホッ!?の、喉が熱いです……!?」

お酒を飲んだのは初めてですけど、こんな飲み物なんですか……。

「あ……コレ、シオンさんが使ってた器……」

じゃ、じゃあコレってかかっ間接キス……!?

キョロキョロ……。

「お、お酒を飲める様になれば、シオンさんと一緒に居る時間が増えるかも知れませんし、勿体ないですから、入れ物に入ってる分くらいは飲まないと……べ、別に他意はありませんからね?」

シオンさんの匂いはお酒の匂いなんだろうか…………って、違いますからね!?

*********


俺はジャケットを羽織って部屋に戻った。

「あ、そういや……酒が入った徳利がそのままだった……とはいえ、もう一度突撃するとか無いだろ?」

一応、瓶は脱衣所に置いておいたから回収したけど……俺は白を切ることにした……俺が持ち込んだなんて証拠は無いんだから、他の客のせいにするさ。

などとあくどいことを考えながら、眠りに着いた。

翌日、カレンが二日酔いに悩まされ、もう一泊する羽目になった……というオチがついた。
あの酒を飲んだのか……残り二、三杯分しか残って無かったとは言え……。

ちなみに酒の名前は【銘酒・鹿の洗い水】……どこかで聞いたことある奴とはソウルメイトになれるかも知れん。

カレンの様子に、皆が心配していたが、二日酔いと分かると、あれよあれよという間に原因が俺にあるというのがバレ、しっかり皆に怒られました。
もっとも、カレンと一緒に風呂に入ったのは隠し通したがね。
俺が風呂で飲んでた酒をそのままにしてた……ということに。

カレンも、俺の酒に口を付けたのは事実なので、何も言えません。
とは言え、俺に責任があることも、また事実なので、率先して看病させてもらったさ。
……何か、ますます泥沼に嵌まってる気がしないでも無いが、まあ、仕方ないか……これくらいは、アイツも――許してくれるよな……?




[7317] 第46話―歌と花とおじいさんと―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 19:01


さて、色々あって時間を喰っちまったが、いよいよ出発ってわけだな。

幸い、カレンの二日酔いも一日休んで貰って、二日酔いの薬を処方したら良くなったからな。

カレンが非常に申し訳なさそうにしていたが……まぁ、気にしていても始まらないだろう?
皆も責めたりしなかったしな。

まずはヒゲに通行証を返しに行かねばなるまい。
俺達は魔法学院に向かう。

「あ〜、楽しかった♪今度はどこ行くの?」

「あのね、ミーシャ……」

魔法学院に来て早々これだ……流石ミーシャクオリティ……。

「ちょっと!」

お、アリオストが前に出た……何やら耳を澄ましている様だ。

「どうしたの、アリオストさん?」

「ちょっと黙って………………あれは……」

ふむ……そういえばこんなイベントもあったな。

「歌声……か?」

「歌声ですか?」

確かに歌声が聞こえる……ウォレスには聞こえて当然だな。
目が見えない分、他の感覚が優れているんだろうから。
俺は肉体がチートだからか、聴力も結構良い。
ウォレスと同じくらいには耳が効く。

「……間違いない!」

「アリオストさん!」

走って行っちまった……まぁ、アリオストにとっては思い出の歌だからな。
つーか、この歌が聞こえるってことは、やっぱりステラ女王はさらわれたのか……。

「ねぇ、ウォレスさん、何か聞こえるの?」

「歌声だ。聞こえないか?」

「俺は聞こえたぜ?〜〜♪〜〜♪……って言うメロディだよな?」

俺は歌の音程を歌で示す。

「そう、その歌だ」

「お前らよく聞こえるな……俺にはサッパリ」

「ウォレスさんとシオンさんって、耳がいいんだ……」

ゼノスには驚かれ、ミーシャには感心されてしまった……。

「とにかく、行ってみようよ」

ルイセに促された俺達はアリオストを追う。
そして、中央広場でアリオストを見付けることが出来た。

どうやらアリオストは吟遊詩人の歌を聞いている様だ……。
それは自然を慈しむ歌……日の出ている時には小鳥が囁き、風の音が囁き、暖かな物で満たしてくれる……夜は、暗闇に包まれるが、月の光が優しく照らして、安らぎをくれる……そんな歌だ。
良い歌詞なんだが、いかんせん歌い手の歌唱力が着いて来ない……。
これを実際に、女王に歌って貰いたいと思ったのは俺だけじゃないはず。

アリオストは尋ねる……その歌をどこで知ったのかと。
そうしたら、北にある保養地ラシェルのそばで聞こえて来たという。
アリオストは、吟遊詩人に礼を言ってからこちらに戻って来た。

「どうしたんです、急に?」

「今の歌がどうかしたのか?」

「微かだけど、覚えている。あの歌は、僕が幼い頃、母さんが歌ってくれた歌だった」

ラルフとウォレスの質問に、アリオストが思い出す様に答える。

「ってことは、フェザリアンの歌?」

「ああ」

「こりゃ、調べてみる価値ありかもな」

「それは良いが、まずは通行証を返してからな?」

俺が皆に釘を刺す。
一応ここには通行証を返しに来たのが目的だからな。
んで、通行証を秘書さんに渡して、いざいかんラシェルへ!!

……と、言い忘れる所だった。

「どうする?ラシェルなら、テレポート出来るけど?」

「そうだな……じゃあ、頼めるか?」

そう、俺はラシェルに行ったことがある。
色々暗躍してた頃にちょろっとな?

「え、え〜〜っ!?じゃあ、もしかしてシオンさんも……」

「うん、シオンさんも、わたしと同じグローシアンなんだよ」

「しかも、ルイセちゃんと同じで、皆既日食のグローシアン!」

ルイセとティピが、ミーシャに説明してやる……どうでも良いが、自慢げだなティピ。

「ふぇ〜、知らなかった……そんな大きい剣を持ってるからアタシてっきり……」

「グローシアンだからって、魔法一辺倒というのは偏見だぞ?」

まぁ、ミーシャの見てる前で、まだ魔法戦はしてなかったからな……分からなくても仕方ないか?
しかし、何回か同じ質問に答えてるが、やはり俺のグローシアンとしての在り方は異端みたいだな。

「もしかして、ミーシャちゃんは知らなかったの?」

「うぇ?もしかして……皆は知ってたの?」

カレンの問いに問いで返したミーシャ……それに返って来たのは全員の肯定だった。

「アンタのことだから、シオンさんが説明してても『お兄さま♪』とか言って、ラルフさんやコイツを見てて聞いてなかったんじゃないの?」

「酷いよティピちゃん!幾らアタシでもそこまでは…………もしかしてあの時……?……それともあの時……?まさかあの時なんてことは……」

「……思い当たる節がありまくりじゃねぇか」

ティピの言い分に反論しようとしたが、思い当たる節が多々あるミーシャは、妄想少女の名に恥じることなく思ったことを駄々洩れにし、そこをゼノスに突っ込まれる始末。
これがミーシャクオリティだな……。

これでヒゲに俺のこともバレた可能性大だが……だからどうした?
って話だ。
ヒゲはミーシャを使って監視するだろうが、手出しは出来ない。
原作でもルイセをどうこう出来なかったしな。
仮に手を出して来たら……火傷じゃ済まさないさ。

そんなこんなで、俺のテレポートでラシェルへ。
瞬時に到着する俺達……いやぁ、懐かしいな……あの子は元気かな?見舞いに来たかったけど、忙しくて中々顔出せなかったからな……。

「確か向こうにお花畑が……」

「あ、こら、ミーシャ!どこ行くのよ!?」

ティピに怒鳴られながらも、気にせず走り去ってしまうミーシャ。

「……もう、ミーシャったら……」

「ルイセちゃん、あの娘、どこに行ったか心当たりある?」

「ここにきれいなお花畑があるってよく言ってたから、たぶん、そこだと思う……」

しゃあない、迎えに行くとしますか……後で迎えに来ても良いんだが、話の種にはミーシャって最適だからな。
で、件の花畑へ向かう……改めて見ても綺麗なもんだな。
こういう風景は嫌いじゃない。

「ちょっと、ミーシャ!」

「え?あ、みんな……もうお話終わったの?」

ムカッ腹を立てて頭にバッテンマークを着けたティピ……略してムカッティピを見たからか、バツが悪そうに答えるミーシャ。

「まったくこんな所で何してるのよ?」

「お兄さまたちにこれをあげようと思って!」

「わぁ、綺麗な花冠!」

ルイセが言う様に中々綺麗な花冠だ。
上手く編んであって、花が綺麗に揃っている。
この短時間でこれだけの物を二つも編むとは……これもお兄さま愛のなせる技か。

「……これを」

「僕達に……?」

「ハイ!カーマインお兄さま、ラルフお兄さま……受け取って貰えますか?」

二人はお互いに見合い、フッ……と微笑んだ。
まぁ、自分達のために精一杯作ってくれたんだ……この二人の性格上……。

「ああ、ありがたく貰うよ……」

「ありがとう、ミーシャちゃん」

と、こうなる。
流石は男前兄弟……。

「それじゃ、アタシがお兄さまたちの頭の上に乗せてっと……まずはラルフお兄さまから♪」

「僕かい?」

ラルフは頭に届く様に屈んでやる……流石は御気遣いの紳士……。

「似合うかな?」

「とっても素敵ですぅ☆あぁ……幸せ♪」

う〜ん、和気あいあいだ……だが、ティピのイライラがそろそろクライマックスだぞ?

「それじゃあ、次はカーマインお兄さまに」

ドゲシッ!!

あ、無言のティピキック。

「でぇ〜〜い!遊んでる時間はないの!!さっさと行くわよ!」

「ティピちゃんのイケズ……」

蹴られた頭を摩りながら、恨みがましい視線をティピに向けるミーシャ。
カーマインは、それを哀れに思ったのか、自分から花冠を頭に乗せていた。

「でもミーシャ、よくこんな場所を知ってたね」

「えへへ、おじさまのお供で1度ここに来たことがあるんだ。その時にこの花畑を知ったの。アタシが住んでたメディス村にもね、こんなお花畑があるんだ。ここにいるとそれを思い出しちゃって……」

嬉しそうに語り出したミーシャ……いわく、小さかった頃、両親を無くして悲しんでたミーシャに、学院長が車百合の花を渡して慰めたという。
……それ以来、故郷の花畑は1番のお気に入りだとか……。

……あのヒゲ……マジでどうにかしてやる……。

この後、車百合の花言葉が【多才の人】という意味だということで、ティピが、ミーシャは【非才の人】だとからかったりしていた。
お兄さまSに泣きついたミーシャに、「気にするな」的な言葉で慰めたお兄さまS。

「うん、お兄さまたちがそういうなら、アタシ気にしない☆」

と、言ったミーシャを見て……幸せなんだなぁ……とか何となく思ってしまったのも、仕方ないことだと思う。

「そういえば、もう何年も家に帰ってなかったっけ。またあの花畑に行ってみたいなぁ……そろそろ花が咲いている季節だし」

この後、今度暇な時には一緒に村に行こう……みたいな話になった。
ミーシャが案内してくれるとか…………くそっ、あの腐れヒゲが……っ!

「……シオン、メディス村に花畑なんてあったっけ?」

「さてな……俺達が知らない場所にあるのかも知れないしな」

……俺とラルフはメディス村にも行ったことがある……だからラルフが疑問に思うのも当然だろう。
俺は適当に言葉を濁す。

「それはともかく、お前、いつまでそれを着けてる気だ?」

「だって、せっかくミーシャちゃんが作ってくれたんだからさ」

まあ……良いがな。
カーマインも着けてるんだし。
で、あちこちで情報収拾……しかしめぼしい情報は得られず、とりあえずまだ行ってない保養所に向かうことに……何か歌について情報が掴めるかも知れないからな。

そんな道中……。

「今日は聞こえないなぁ」

そんな独り言が聞こえてくる……どうやらあそこにいる女の子らしい。

「どうしたの?」

「あのね、風向きのいい時には東の森から、とっても綺麗な歌が聞こえて来るんだよ」

ティピが声を掛けたら素直に答えてくれた。

「それはいつ頃からだい?」

「う〜ん、2〜3日くらい前からだよ」

アリオストの質問にも答えてくれた女の子……二、三日前ってことは、俺達がコムスプリングスに居た頃か……。
多分、ダニー・グレイズさんに話を聞いてた頃だな……。
もう少し情報が欲しい俺達は保養所へ……しかし、原作では情報はカレンから聞いたんだが……カレンは今ここにいるしなぁ……誰から聞けるんだろう?
アイリーンか?

俺達は保養所の中に入る……看護婦とか医者とかが居たから、保養所と言うより病院というイメージなんだが……。
足が不自由な人用の手摺りみたいな物もあるし、ただ、俺の世界の病院よりは暖かみがある感じ……そう言う意味では、まさに保養所だな。

「さ、おじいさん。外はいい天気ですよ」

「今日は聞こえんな……」

「そうですね」

こんな会話が聞こえて来た……看護婦さんとおじいさんの会話だ。
言うまでもないかも知れないが、おじいさんは偉くムキムキな筋肉のガッチリした身体の持ち主……ウォレスの探し人である、ベルガー団長その人だ……ウォレスは…………気付いてないか。

「ん?どうしたシオン?」

「いや、ここの人に聞き込めば、歌のことが分かりそうだな……ってな?」

ウォレスの問いはごまかす……俺が教えるのは不自然だしな……ウォレスが気付かないなら仕方ない……どちらにしろ、ゲヴェルが出てこないと意味はないしな……。





[7317] 第47話―お見舞いと、情報収集と、男の約束―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 19:33


早速聞き込み開始!
やはり東から歌声が聞こえてくるらしい。
一応、アイリーンにも会った。
俺やルイセ程では無いが、確かにグローシュを感じる。
この感じからして、月食か日食のグローシアンなんだろうな。

う〜〜ん、ここは大分原作とは違う展開だな……カレンは医療に興味がなかった訳では無いらしく、色々聞いたりしていたが……まぁ、薬学の知識があったのも、傭兵稼業当初のゼノスが、傷だらけで帰って来るのを見兼ねて覚えたのが始まりらしいからな。

しかし、カレンとアイリーンのフラグを叩き折ったことになるんだな……俺は。
無論、カレンを助けたことに後悔なんかしていないが。

さて、それじゃ…歌声の確認に行く前に。

「よ!元気にしてたか?」

「あ!お兄ちゃんたちだ!」

俺は入院している女の子の所に顔を出した。
以前、ラシェルに来た時に見舞いに来たのだ。
本来、カーマインの役目だったんだが放っておけなくてな。

「お兄ちゃんたち……あれから全然来てくれないんだもん……」

「ゴメンな……お兄ちゃん達も忙しくてな……そのかわり、今日はお兄ちゃんの友達を一杯連れてきたんだぜ?」

俺は皆に部屋へ入って貰う。
俺は女の子に皆を紹介していく……予め皆には事情を話してある。
見舞いに行って良いか頼んだら、皆、快く頷いてくれた。
どうでも良いが、この人数が病室に入ると結構窮屈だな……。

俺はまた、旅の話を聞かせた……仲間との出会いや、馬鹿みたいな話なんかを。

「へぇ〜♪」

とか、

「アハハハ♪そうなんだぁ♪」

とか言いながら話を聞いてくれた……どうやら楽しんでくれた様だ。

「さて、お兄ちゃんたちはそろそろ行くよ」

「……また、来てくれる?」

「おう!今度は、もっと早くに顔を出してやる!」

テレポートを覚えたからな……それこそ地球の裏側からだって直ぐに飛んでこれる。
俺達は女の子に別れを告げてから、病室を後にした。
今度はGLチップスを買ってきてやらなきゃな。

「あの子の両親……まだ……」

「ああ……親の心、子知らずとは言うが……この場合は逆だな」

俺とラルフは、互いに溜め息を吐いた。
治療費のことで言い争うとか……子供に聞こえる所ですんなよマジで。

「皆もありがとうな……こんなことに付き合ってくれて」

「気にしないでくれ…」

「そうそう!仲間なんだから♪」

「そうだよ、シオンさん」

「ま、気にする程じゃねぇさ」

「俺たちも、話を聞いた上で付き合ったんだ……気にすんな!」

「そういうことさ」

「アタシもあの子と話してて楽しかったし☆」

「私も……いえ、私達も気持ちは同じですから」

カーマイン、ティピ、ルイセ、ウォレス、ゼノス、アリオスト、ミーシャ、カレン……皆がそう言ってくれる。
……本当にありがとうな。

で、いよいよ出発……というところで、アリオストに頼み事をされる。
東の森から聞こえる歌声が自分の母の物なのか、フェザーランドに行って確かめてみたいんだそうだ。

「どうするんだ?カーマイン?」

俺はこのパーティーのリーダーである、カーマインに意見を促す。

「アリオストの気持ちも分からないわけじゃない……行こう」

「当〜〜然、だよね?」

「母親を思う気持ちは誰でも同じだ。みんなで行ってやるとしようぜ?」

満場一致で決まりだ。
俺達は早速フェザーランドに向かう。
テレポートしたのはルイセな?
まぁ、十中八九、あの歌声はステラ女王だろうがな。

んで、フェザーランドに来た訳だが。

「何だ、お前たちか。今はお前たちに構っている暇はない。早々に立ち去れ!……お前たちが来なければ、こんなことには……」

「えっ?」

フェザリアンの言い分に、どういうことか分からないアリオスト……まぁ、これもヒゲが一枚絡んでるんだがな。
そこに、もう一人のフェザリアンがやってくる。

「議会の結果が出るぞ…そんなやつらなど放っておけ!」

「おお!」

フェザリアンたちは走り去って行った。

「何があったんだろう?」

「気になるな……行ってみよう!」

アリオストの提案で、俺達はフェザリアン達の後を追う。
そこではフェザリアン達が集まり、何かを発表しているところだった。

「では議会の結果を発表する。被害率が高いと予想されるため、救出は行わない事とする!」

「やっぱりそうか」

「仕方がないな」

「ああ、仕方がない…さて、持ち場に戻るか……!」

お、こっちに気付いたな……走って来た。

「何だ、お前たち。こんなところまで入ってきて!」

「今の話は何ですか?」

「白々しいことを抜かすな。お前たちも奴の仲間だろう!」

「奴?仲間?」

「とぼけるな!人間の魔法使いが我が女王をさらっていったのだぞ!お前たちの仲間だろ!」

魔法使い……ねぇ……。
というか、頭に血が上りすぎだ。
少しはクールになれよフェザリアン?

「女王様がさらわれた?」

「そうだ!」

「それで、どうするのぉ?」

「それで、とは?」

ティピの問いに、本気で分からないという風に答えるフェザリアン。

「助けないの?」

「何故だ?」

「なぜって……」

「もし我々が救出に向かえば、人間との間に争いが起こるであろう。そして犠牲者も出る筈だ……女王は別の者がなればよいが、もし戦死者でも出せば、ことはそれだけでは済まない」

成程……言ってることは正論だ。

「それが合理的だというのか?」

「そうだ。確かに今の女王は良くできた方だ。あの方の代わりはそうそういまい」

「だったら、どうして助けないんですか?」

ルイセが非難する様に言う……気持ちは分かるが話はちゃんと聞こうな?

「彼らの言い分はさっき言った通りだ」

だから俺が代弁してやる……正直、正論だけで世の中成り立ってると思ったら大間違いだぜ?

「女王は代わりの者がなれば良い……そう彼らは言った。同じでは無いにしろ代わりはいる……危険を侵してまで助け出そうとするよりは、危険を出さずに一人を犠牲にする方が良い……そう言う考えなんだろう?」

俺はネゴシエイターモードでは無く、地で話し掛ける。

「そうだ」

大の虫を生かし、小の虫を殺す……政治家的考えって奴だな。
それが悪いこととは言わない……彼らには彼らの信念があるんだからな……。

「一つ聞きたいんだが、犯人の顔は見たのか?魔法使いと言うからには、それっぽい格好をしていたとか?」

「いや……顔は見ていない。だが、魔法を使ってきたのは確かだ」

成程ね……原作でも言っていたが、襲撃犯は何人か居たらしいからな……どうやら彼らは主犯格の奴は見ていないみたいだな。
主犯格は間違いなく、あの男だろうからな。

「分かりました。情報の提供に感謝します……皆、行こう」

「待ってくれ!僕は」

俺がフェザリアン達に礼を述べてから、崖の方に移動しようとする。
アリオストが駄々をこねたので……。

「良いから来い……去勢すっぞコラ」

「っ!?」

俺は暗黒オーラを滲ませながらアリオストに言う……せっかく俺がした交渉をお前まで駄目にする気か?
フフフ……そうか、そうなのか……。

「わ、分かりました。僕が全面的に悪かったです!だから勘弁してください!!」

アリオストがジャンピング土下座を敢行する。
嫌だなぁ……俺は平和的に話し合いがしたいだけなのに。
何故かフェザリアン達や、カーマイン達も青ざめた顔で後ずさっていた……何で?

で、フェザリアンの人達に挨拶してから移動した……終始ビクビクしてましたけど。

「さて、話を整理するぞ?まず、ラシェルの東から聞こえてくるフェザリアンの歌声……これは間違いなくステラ女王だ。女王一人を犠牲に……という話の流れからも、さらわれたのは女王一人ということになる……」

俺は皆と情報を整理することにする……ルイセとティピは膝を抱えて震えていて、それをカーマインとラルフとミーシャが必死に慰めてる状態だ……う〜〜ん、そんなにだったか?

「犯人の人数は不明……ただ、魔法を使う者が居たと考えられる……今の所は情報はこれくらいか……何か質問はあるか?」

「あの……何でさっきアリオストさんを止めたんですか?」

カレンが疑問に思って聞いてくる。
アリオストもやっぱり気になる様で、思わずジャンピング土下座をしてしまったものの。

「それは僕も気になる……教えて欲しい」

と聞いて来た。
なので俺は答えてやる。

「最初、フェザリアン達は誘拐犯を俺達の仲間だと言ってきた……何故だと思う?」

「え〜〜と……同じ人間だから?」

そうミーシャが自信なさ気に答える……どうやらルイセとティピも復活したらしいな。

「半分正解だ」

「じゃあ、残りの半分は?」

ティピがそう聞いてくる……少し考えれば分かることだけどな。

「誘拐犯はどうやってこのフェザーランドに来た?空を飛ぶ翼の無い人間がどうやって……」

「ま、まさか……」

「流石アリオスト……気付いたみたいだな。そう、アリオストの作った飛行機械……あれと同じ様な物で侵入したんだろう」

「ちょっと待てよ!アレは確か、魔法学院に抑えられたはずだぜ?」

「そうだよ、あの時にシオンさんもあそこに居たじゃない」

「ゼノスやルイセの言いたいことは分かる……確かに俺はあの場にいた。学院長が魔技法を施行するということを告げたのも聞いた」

まぁ、その学院長が1番信用ならねぇんだが、それはミーシャがいるここでは言わない。

「考えられるのは、アリオストさんみたいに誰かが発明した場合……」

「……もしくは、学院の研究成果が流れている可能性だな」

俺はラルフに続いて言葉を紡ぐ。

「そんな、そんなことがあるはず」

「無いとは言い切れない……発明品自体は持ち出せなくても、データを持ち出して作成するということも出来る筈だ」

ルイセの意見をバッサリ切り捨てる俺。
原作ではどちらだったかは判然としていないが、数人の実行犯が居たという事実から考えて、俺は後者だと思っている。

「ありえない話ではないな……」

「でも、おじさまが管理してる学院でそんなこと……」

「……学院長も完璧というわけではない……穴があっても不思議じゃないさ……」

「カーマインお兄さままで……」

ミーシャが釈然としていないが、本題は違うんだよな。

「まぁ、どういう経緯で飛行機械を手に入れたかは、今は問題じゃない……要は誘拐犯のせいで、俺達までが悪印象を受けている……ということさ」

「??どういうこと?」

「……つまり、誘拐犯の飛行機械を作ったのがアリオストだと思われていて、仲間である俺たちも誘拐犯の一味だと思われている……ということだ」

俺の説明を理解出来なかったティピに、カーマインがもう少しかみ砕いて説明する。

「お前さんのことだ……母親がここに居ると分かったら、会わせてくれって言うだろう?こんな状況でそんなこと言えばどうなる?また貴様の欲望のせいで……とかなじられた揚げ句、解毒薬のことも無かったことにさせられかねない」

「それは……」

「だから、女王を助け出してから堂々と頼むんだよ……母さんに会わせて下さいってな?」

「……え?」

落ち込みそうになってるアリオストに克を入れる。

「そうしたら、後は俺のネゴシエーションで、一気に話を持って行ってやる……男同士の約束だ!」





[7317] 第48話―女王の救出―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 19:48


アリオストに男同士の約束を誓い、改めて東の歌声のする場所に向かう。
まずはテレポートでラシェルへ向かい、そこから徒歩で遺跡へ向かうことに――。

ちなみに、道中の敵との戦いは割愛する。
と言うのも、大体がメンチビーム喰らわせると逃げるし、逃げずに襲い掛かって来た奴らもあっという間にミンチですから。

「ここがグローシアンの遺跡だ」

「………うむ。微かだが、歌声が聞こえるな……」

「か細くて、悲しそうな声……こりゃあ、大分参ってるみたいだな」

そりゃあそうだな……幾ら普段は気丈に振る舞っている女王とは言っても、人間に捕まって羽を傷つけられて、揚句の果てには閉じ込められる。
某財閥の御曹司みたいに、閉所恐怖症になっても不思議じゃないぞ。
あ、奴は暗いとこも駄目だったな。

「やっぱりここか。よし。中に入ろう」

「でもどうやって入るんですか?ここは中が危険だからって、まだ調査が済んでないんでしょ?」

「そうだよ。それに鍵は学院長がもっていて、開かないはずでしょ?」

ルイセとミーシャが疑問を挙げる。
まぁ、そこはアリオスト先生が説明してくれるだろう……俺は……っと。

「それは、そこの入り口の話だよ。あれは内部調査をするために学院が無理矢理開けた穴だ。グローシアンだけにしか反応しない、本来の扉がある。ルイセ君、シオン君、君たちなら開けられるはずだ」

ヒュインッ……ゴゴゴゴゴゴ……!

「なぁ、入り口ってコレかぁ?」

俺は一応、先に入り口らしき場所を特定して、そこで待機していた。

「そう、それが入り口だ!よく分かったね?」

「シオンさん、すっごーい!」

アリオストとミーシャが感心してるが。

「壁を何となく調べてたら突然……な?それに、アリオストの説明通りなら、グローシアンは誰でも入れるんだ……つまり、俺が凄いんじゃなくて、遺跡の機能が凄いんだって」

さて、早速遺跡に入りますかね。

「魔法学院の南にある遺跡に行った時もそうだけど、こういう所に入ると遺跡に潜ってた頃を思い出してワクワクするね」

「ラルフもか?なんつーか、トレジャーハンター魂が擽られるよな」

まぁ、トレジャーハンターは言い過ぎかも知れないが。

「そういえば、シオンさんとラルフさんは、そういうこともしてたって言ってましたね……手紙にも書いてありましたし」

「遺跡に潜り出したのはカレン達と別れてからだけどな……それに、こういう学院の管理してる様な遺跡には入っていない……大体は調べ尽くされてたいしたお宝も無いしな」

しかし、隠された遺跡はお宝の質も凄いがトラップの質もパネェのよ……それこそイン○ィ・ジョ○ンズ並の奴がゴロゴロと。

「ま、それはともかく、ここの内部構造ってどうなってるか分かるか?」

「ここの内部は3階層だと聞いたことがあるけど、詳しくは僕にも分からない」

アリオスト先生が分からなきゃお手上げだな……しゃあない、注意しながら進みますか。

俺達はまず、床にあるスイッチらしき物を押していく。
すると光る床みたいな物が現れ、道を繋げる。
これはグローシアンの遺跡にはよく見られる装置の一つだ。
もっとも、トラップと連動しているのもよくあることで――案の定、スイッチを押したら光の床と一緒にモンスターまで現れた。
軽く蹴散らしてしまったが。
やはりこのパーティー、戦闘力がパネェ……特に前衛が。
数も9人いるからな……Ⅱ並だぜ?

んで、階段を上がって行く……そして全員が階段から上がり切った時……なんと降りる階段が消えてしまった!!
いや、知ってたけどね。

「あ、階段が……ど、どうしよう……」

「心配すんな……こういう場合、必ずスイッチがある……ほらな?」

焦るティピに俺は安心させるように言い聞かせ、上り階段の方に向かう。
するとありましたよスイッチが。

「こういう場合、どれかが当たりで……」

「どれかが外れ……ま、お約束だな」

俺とラルフは何度もこういうのを経験してるからな……。

「ちなみに、4つスイッチがあるけど、どれが当たりなんだ?」

「このタイプは、ランダムに切り替わるタイプだな……つまり分からんってわけ」

ゼノスの質問にスラッと答える俺。

「じゃあ適当なんだ……ならコレとか!」

ブゥン………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

ミーシャ……期待を裏切らない迂闊者っぷりだ……。

「え?ええ?何、何〜!?」

真ん中の大穴から現れたのは巨大な防衛兵器……確かヘビーパンツァーだっけか?

「来るぞ!?」

奴は最長部にある穴から魔力弾で砲撃してくる。
俺達はそれを散開してかわす。

「う〜ん……どうも周りの発光体の様な物が、あの巨大機械へのエネルギー供給源になっているような感じだな……」

「アリオストの言う通り、アレを潰せば中央の機械は止まりそうだな」

原作通りなら確実に止まる……それに、発光体と機械がチューブみたいな物で繋がってる時点で、ほぼ確定だろう。

「ただ、発光体は全部で六つだ……なら直接、防衛兵器を潰した方が早いかも知れないがな」

結局、どうするかはカーマインに任せることになった……カーマインの結論は真ん中の兵器をブッ壊すという物だった。

ここからは早い。
俺は魔法を詠唱し、瞬時にそれを叩き込む。

「【コロナ・ボール】」

【コロナ・ボール】

ファイアーボールのアレンジ魔法で、炎の純度を高め圧縮……熱核運動を起こし、一つの超高熱の炎の玉を作り出す。
言うなれば、小さな太陽……と言った所か
大きさ的には、大体、人を一人まるごと包み篭める位の球形。
その超高熱は全てを焼き尽くし、塵一つ残さない。
また、この超高熱の玉の効果に指向性を持たせてあり、熱量などの向かう方向も変えられるので、着弾した後にこちらに熱風を来させない様にすることが出来る。
――でなければ、近付いただけで黒焦げになる所か、骨一つ残らない超高熱だ。

ちなみに着弾させる前までは魔力でコーティングしてある為、近付いても平気。
他人が触れば腕が融解して蒸発するが。

結論から言えば、防衛兵器は跡形も残らなかった……ということだ。

……やっぱり強力過ぎるな……イフリート、とかサラマンダーとか……火の属性を持つ奴には効かないだろうが……こうして使ってはみたが――コイツは極力封印だな。
皆もポカーーンとしてるし……いや、マジで自重しよう。
やっぱり俺も基本前衛、後衛の場合でもマジックアロー系で対処しよう。

気を取り直して、スイッチを押して光る床を出現させ、上の階層へ。
目の前には壁……恐らくここにステラ女王は閉じ込められているんだろう。

俺達はその扉を開けようと試みるが、押しても引いてもびくともしない。

「開かないみたいね」

「これは暗証キーだね……5色のボタンがあるだろ?これのうち4つを決められた順番に押せばいい。1つは使わない……4つが正しい順番に押されたならば、鍵が開くはずだ」

「さすがアリオスト先輩!」

「こういう機械のことは、学院の誰にも負けませんね!」

ミーシャとルイセに褒め讃えられるアリオスト。

「早速やってみよう」

「待った。この手の仕掛けは、適当に押したらトラップが作動する様になってる……まずはこのスイッチの情報が無いか探してみようぜ?」

ウォレスにストップを掛け、俺達はヒント探しをすることに……周りを調べると、幾つかの石版があった。

それらの情報を纏めると、どうやら青、緑、黄、赤の順で押すとロックを解除出来るらしい。

よし、早速やってみるか……ポチッとな。

ビーッ!ビーッ!!ビーッ!!

「えっ!?何、これ!?」

《ロック解除行動を察知。時間内に解除しない場合、違法進入者と判断し、このフロアーごと爆破します。マジックタイマーをセットしました》

「お、おい、早く解除してくれ!」

「慌てなさんな!こういうのは焦ったら負けなんだからな!!」

俺は慌てふためく皆さんを宥め、解除ボタンを押していく。

《ガーディアン配置完了。これより、カウントダウンを開始します》

「……どうも、進入者と見なされてる様だな……俺たちは」

カーマインを始め、皆が武器を抜いて構え始める。

改めて思うんだが……普通、パスワード打ってる最中にガーディアンとか無いだろ?
昔のグローシアンって何考えてたんだろうな…っと!

ガチャリ!

ヒュイイィィィン……と言う駆動音と共に扉が消えて行く……中に居たのはぐったりしたステラ女王だ。

「開いた!」

「皆、敵を各個撃破だ……!!行くぞ!」

カーマインの指示に皆がそれぞれに散る。
俺はステラ女王の容態が気になったため、女王に駆け寄った。

「羽が傷ついてるだけか…とは言え、傷が思ったより深い…しかも衰弱してるな……ヒーリング!」

光の柱が女王を包む……そして傷を瞬時に癒していく――。

「う…ん……」

お、女王が目を覚ましたな。

「気付かれましたか?女王陛下?」

「………そなたは………そうか、やはりそなたらも仲間だったのだな……」

その瞳には失望の念がありありと浮かんでいた……どちらかと言えば、ガッカリしたという風だが。
俺は女王を助け起こす。とりあえず座る形を取ってもらうことにした。

「!な、何をする!無礼者…め……?……コレは」

「ご期待に添えない様で申し訳ありませんが、我々は貴女を助けに来たんですよ」

俺が女王へ見せたかったのは、皆の戦っている姿だ。
皆が何を守る様に戦っているのかを……。

「その若さで女王にまでなっている貴女だ……俺達が何の為に戦っているか、アレを見れば分かる筈……」

「……何故だ。何故わらわを助ける……それは解毒薬のためか?」

「それも一つの理由でしょう……けどそれだけじゃない。俺達は――アンタを助けたいから助けに来たんだ……その辺を間違わないでくれよ?」

俺はニッ!と、ナイススマイルと一緒にサムズアップする……やはり暑苦しさが足らないな……。
なんか爽快な笑みになってしまう自分が憎い!
って、言葉遣い戻ってるやん!?
いかんいかん……。

「……そもそも、あれだけ譲歩してくれたのに、誘拐とかありえないでしょう?」

そう、冷静に考えれば分かる……女王を誘拐しても俺達に得は無い。

「……………」

あ、なんかヤバそうな予感……。

「それじゃあ、俺も行ってきますんで……ここで待ってて下さい!」

「待て……わらわの羽を治したのは……そなたか?」

俺は呼び止められたので、振り返って答える。

「治せる力があるのに、放っておけないでしょう?人として!」

それだけ言うと、俺も前線に突っ込んで行った。

「………おかしな人間だ……彼らは皆、ああなのだろうか………」

**********

敵はどんどん召喚されていたが、召喚装置を破壊してからはとんとん拍子で敵を駆逐していった。

カレン、ルイセ、ミーシャ、アリオストは後衛から魔法攻撃。
残りの野郎どもはひたすらに攻撃しまくる。
全滅させるまでさほど時間は掛からなかった。

「ご無事ですか、女王?」

「そなたらのお陰で助かった……礼を言おう」

「そんな……私たちはただ助けたくて来ただけですから…」

「俺たちは放っておけないから、来ただけだ…言うなら、ただのお節介だな。だから、礼を言われる程のことじゃないぜ」

カレンとゼノスはそう言う。
まぁ、ここにいる皆がそうなんだろうけどな?

「まぁ、何はなくとも外に出ませんか?いつまでもここに居ては気が滅入ってしまうでしょう?」

こうして俺達は遺跡を後にするのだった。




[7317] 超・番外編……とある転生者の激闘―これで勝つる!―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 19:59


みんな、俺は転生者だ。
何を言ってるのか、分からないだろう……頭がおかしいと思うだろう!
だがしかし!!
俺は!!
転生したのだ!!

いや、別にトラックに跳ね飛ばされもしなければ、鉄筋が直撃したわけでも無いよ?
神様のウッカリというオチも無かったし……それに正確には転生というより……憑依か?
何しろこの身体は……。
おっと……これはオフレコだったぜ。

俺はどうやらグローランサーの世界に生を受けたらしい。
しかも無印!
シリーズ最高傑作と名高い無印!!
フフフ……揚句に俺の身体は……勝つる!!
これで勝つる!!!

ん?俺が誰かって?
前世?では【国枝国彦】という名前だった……みんなからはクニクニと呼ばれたかったが、何故か【オタクニ】というあだ名が付けられてしまった。

確かに俺は自他共に認めるヲタだったが、そういうのはヲタ差別だと思うのです。
別にヲタだからって、眼鏡掛けてバンダナして指貫きグローブ着けてる訳じゃねぇんだぞ!!
……まぁ、眼鏡はしていたが。
それだけで偏見を押し付けるな愚民がっ!!
その罪、万死に値するぞ!!

とは言え、友好関係はそれなりにあり、心の友も居た。
そいつは、ヲタ差別はしないが、パンピーだったので、俺が一から教育してやった。
幸い、奴はPCやPS2を持っていたので俺のお宝を貸してやったりもした。

戦国○ンスや、東鳩シリーズなんかもな。

そんな中にグローランサーもあったわけだが。
あいつは貸してやったのは律義に最後までプレイするからな……最初はなんだかんだ言うけどなぁ。
ありゃあ、ツンデレでムッツリだな。

……しかも、奴はモテるからな……本人は意識してないみたいだが……どれだけもげろと叫んだか……と、前世?の話はもう良いな。

俺はとあるキャラに憑依した……。
化け物事件の時、水晶鉱山にて鉱山夫に拾われ、スクスクと成長していった。
本当はゲヴェルの復活の時に、ベルガー団長に拾われて預けられる筈だったが……アレはオルタの話だからな。
無印とオルタの差が出たのかも知れない。
それとも、俺がイレギュラーになったのが原因か?

フフフ……ここまで言えば分かるだろう?
そう!俺はオリ主になったのだ!!
厳密に言えばオリではないのだろうが……主人公クラスには違いない!
しかも!あの力も意識的に使えるチートぶり!!
これを使えば、アレやコレやが出来るかも知れん……。
フフフ、そうしたらオリ主の特権のハーレムも夢ではない!!

原作に介入するならば、強くならなければならない!!

俺は成長するにつれて、修業をしてきたが、成長率がマジパネェっす!
こんなところもチート!流石オリ主!
ついでに言えば容姿も美形……脇役とは違うのだよ脇役とはっ!!

ある時、両親に頼んで旅に出ることにした。
そろそろ、原作が始まる頃だからな。
さりげなく原作に介入しなければ……さりげなく!これ重要!!
意識的にでしゃばり過ぎて、煙たがられる転生キャラは珍しくない……幾らオリ主属性のある俺でも、その辺は弁えねばなるまい!!

俺はとりあえず歩いて旅に出る。

まずはモンスターとの戦いに慣れなければならん。

「GUU……」

「出たな……俺の経験値になるが良いっ!!」

フッ、存外モンスターもたいしたことないな……初めて、生き物に手を掛けてしまったが……。
さして動揺しないものだな。
それからも並み居るモンスターをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

「フフフ……俺tueeeeeeeee!!!これで勝つる!!」

俺は高揚しながらも、着々と進んで行く。
とりあえずバーンシュタイン王都だな。
この身体ならゲヴェルをみっくみくにしてやることも可能!!

むしろ、シテヤンヨッ!!ってなもんだ。

とは言え、いきなりアジトに踏み込むほど自信家じゃない。
まずはリシャールを真人間にしてやろうか?
そういえばラルフなんてのも居たな……。
フフフ……待っていろ、お前ら纏めて綺麗なジャイ○ンみたいにしてやるZE☆

俺はバーンシュタイン王都にたどり着いた……が……。

「なんだこのデカい屋敷は……原作にこんなのあったっけか??」

まぁ、原作は簡略化されてるからな……ヴァルミエだって原作より広かったし。

気にしても仕方ない……と、俺は王都で情報を集めることにした。

どうやらリシャールは今、闘技大会に国賓として招かれ、出向いているらしい。

出遅れた……orz

しかも、ラルフは……。

「ラルフ様は、三年前にシオン様と旅に出られたわ……お二方とも無事かしら……」

「……シオン?」

「知らないのかい?元、インペリアル・ナイトである、ウォルフマイヤー卿の御子息だよ。郊外にお屋敷があっただろう?」

これは、オリ主物によくあるオリキャラですね分かります。
つまりオリ主たる俺のお供か敵になるわけですね分かry

「しかし……こんな所にまで因果の渦が迫っていたとは……罪作りな男だな……俺は」

流石オリ主!
さて、ならば俺は闘技大会に行くか。
パートナーが居ないから参加は出来ないが、確かゼノスが毒を盛られるイベントがある。

それに急げばカレンたんの救出に駆け付けられるかも知れない!!

俺はオリ主!
それくらいのヒロイックサーガはあっても良いはず!!
思い立ったが即吉日!
俺は大急ぎでグランシルに向かう……走って行っては間に合わないかも知れない……飛ぼう。

俺は意識を集中させる……すると背中に半透明な紫の翼が現れる。

俺はその翼の力で飛んで行く……これは反重力力場?みたいな物?
とにかく羽ばたかなくても、翼を展開すれば飛行可能なのだ!

「フハハハハ!!世界の空は俺の空あああぁぁぁ!!」

ドヒューーン!!

猛スピードで飛ぶ俺……ちょっとした龍玉気分だっぜ!

で、しばらくしてグランシルに到着……どうやら試合はもう始まってるらしい……クッ間に合わなかったか……カレンたん……俺が救ってやりたかったのに!!

仕方ないので、俺はまず試合を観戦することに……どうやらもう終盤で、エキシビジョンマッチが今から始まるようだ……ゼノスまで間に合わなかったか………ん?

向かい側に居るのは……グロラン主人公のカーマインパーティーか……あの妙なジャケットの着方は間違い無い!!
ウォレスもいるし、なによりルイセたんが……ルイセたんハァハァ……♪

って、ゼノスがいる!?
しかもなんか仲良く話してるし……それに、あのカーマインのソックリさんは……まさかラルフか!?

な、何なんだ?
オリ主の俺は何も介入してないよ?
もしかして、これも俺が存在している弊害??

「ん?カーマインペアがここにいるとは……じゃあエキシビジョンには誰が」

『それでは、フレッシュマン優勝者の入場です!』

ワアアアアァァァァァ!!!

うおぅ!?
とんでもない声援だ!
正に、ラルル・パ・ルル・アルルオーザ!!
いや、正解はララ・パルーザだけどね?

……って、アレはカレンたん!?
何故ここに!?

「「「「キャアアアァァァァァァ!!シオン様ァァァァァァ♪♪♪」」」」

「「「「ウォォォォォ!!カレンちゅわああぁぁぁぁぁぁんっ!!」」」」

!?なんじゃそれは!?
応援団!?
親衛隊!?

「……にしても、アレがシオンか?」

銀髪で蒼眼、そして長身……ロス○ラのライか!?
……ギ○ス使ったりしないだろうな?
にしても……女性からの声援が多いな。
……許せん。

「もっげーろ!もっげーろ!!」

貴様のような奴はもげてしまえぃ!!

っと、ジュリアたんも入場してきた。
負けず劣らずジュリアたんも女性の声援が多い。
えっ?ジュリアたんにはもげろ言わないのかって?
だってジュリアたんだもの。
もげる物も無いだろ?

お、試合開始だ……カレンたんには悪いが、俺はジュリアたんを応援させてもらう……ん?
何やらカレンたんとジュリアたんが言い争いを始めた。

フムフム………要するに痴情の縺れだね♪

……な・ぜ・だ!!
そういうのはオリ主たる俺の役回りではないのかっ!?
おのれシオンとやら……貴様はどうやら俺様の敵の様だな……フフフ、良いだろう。
全力のアビスをお前に喰らわせ……ん?
シオンの様子が変だ?

ま、まさか!?伝説のキング○ン○ーになろうとしているのでは!!?

……なんてな?
というか、カレンたんとジュリアたんの首根っこを掴むとか貴様は何様のつも――。

『少し……頭冷やそうか?』

ちょっ、それ、な○は様の台詞……!?

ゾワッ!!!!

そう突っ込もうとした俺は、シオンから発せられる言い知れぬ威圧感を受け、瞬時に意識を手放してしまった……。

………………。

……………。

…………。

………。

……。

…。

ハッ!?

俺はガバッ!!
と起き上がる……どうやら気絶していたらしい……むぅ?
何があったんだっけ?
……駄目だ、思い出せない。
確か旅に出たんだよな?
それから……王都に向かって……そうだよ!王都でリシャール居なくて、カレンたんとゼノスを助けないとで………で?

「だ、駄目だ……これ以上は思い出せない……」

なんか知らんが……とりあえず宿で一泊して、それから考えよう……何故か凄く精神的にダメージを受けた気がする……。

********

後書け☆

という訳で、超・番外編です。
分かる人には分かる、ある意味シオン以上の原作ブレイカーの登場です。
しかもトリッパーでオリ主気取りという、始末の悪さ……(--;)
やっちまった感はたっぷりあります……しかし私は謝らない(by所長)

ごめんなさい冗談ですすいません!
m(__)m




[7317] 第49話―シオン・ザ・ネゴシエイター再び―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 20:12


俺達は外に出た……相も変わらず良い天気だ。

「こうして再び、陽光を浴びることが出来ようとは、思わなかった……」

ステラ女王が日光を満喫している……まぁ、あんな所にいたんだから当たり前か。

「それにしても酷いよね、他のフェザリアン達は女王様を助けない、なんて言うんだもん!」

「それはそうであろうな……我一人の為に、皆を危険に曝すことなど出来ぬ」

平然と言ってのけるフェザリアンの女王。
ウォレスは疑問に思う。

「捕らえられてたアンタがそういうのは分かる……だが、救出側がそう言うってのはどういうことだ?」

「人間には理解出来ぬのかも知れぬな……だが我々はあるがままを受け入れて来た……」

「………それは、諦めじゃないのか?」

そこに異論を挟んだのがカーマインだ。

「あきらめ……だと……?」

「……そうだね。貴女達の生き方は、諦めそのものだ……僕たち人間は最後まで諦めない」

「……………」

カーマインの言い分にクエスチョンマークを浮かべる女王……原作ではバッテンマークだった筈なんだが。
更にアリオストの物言いに、考え込んでしまう。

「『歩き出す前から諦めるのは、愚か者のすることだ。この世界に生まれた以上、向かい風でもくじけず歩け』……父の言葉です」

「…うむ……」

「それに、貴女が言うように、フェザリアンが昔からあるがままを受け入れて来たような種族なら……先人達はこの世界に渡って来たりは出来なかったでしょうからね」

考え込む女王へ更に、俺はトドメの一言。
Ⅲの時代、決してフェザリアンは運命を諦めていたわけじゃない……でなければ、今頃は元の世界に残っていた筈なんだからな。

「………そうか…」

更に考え込む女王……出来れば、良い結論を出して戴きたいものだが……。

「ところで、聞きたいことがあるんだが?」

「何であるか?」

そこにウォレスが質問する。

「いったい誰がアンタをここへ閉じ込めたんだ?他のフェザリアンの話じゃ、魔法使いだったとか言ってたが……」

「相手は複数だったので、全員は覚えていないが……その中のリーダー格の男は、片目であったな」

「片目の男、か……」

アリオストは怒りを押さえ込むように、言葉を捻り出す……母と同じフェザリアンをこんな目に合わせた上に、もしかしたら、自分の研究が悪用されてるのかも知れないんだからな……。

「我々の科学技術を教えろと言われたのだが、一言も喋らなかったので、あそこへ閉じ込められたのだ」

「酷い……」

ルイセは純粋に心を痛めてるようだった……。
ルイセだけじゃない、カレンもミーシャも同様だ。

「人間は我々の技術を争いに使うであろうからな……そのような事になるならば、我が命を投げ出した方がましだ……」

「それじゃ、そいつらにバレる前に急いでここを離れましょ!」

ティピの言葉に頷いた俺達はテレポートでフェザーランドに向かった。
女王の翼の傷は治癒したが、長時間飛ぶには体力が持たないだろう……との判断だ。

***********

フェザーランドに着いた俺達――と言うより、俺達と一緒に戻って来た女王を、見張り役のフェザリアンが出迎えた。

「は、女王様!よくご無事で!」

「心配かけたな……この者たちに助けられた」

早速、俺達を見付けたフェザリアンは、一緒にいる女王様に駆け寄る。
そして女王の安否を知ると、他のフェザリアン達にこのことを知らせに走って行った。

しばらくして、フェザリアン達が集まって来た。

「お帰りなさいませ、女王」

「すまなかったな、みんな」

「ご無事で何よりです!」

みんな内心では女王様が心配だったんだな……だが、それに納得行かないのがうちらのパーティーには何人か居る。

「何を言ってやがる!俺たちが助けなかったら、女王様は死んでいたかも知れないんだぞ!!」

「テメェらは女王をさっさと切り捨てやがった癖に、最初から心配してたみたいな態度を取りやがって……ふざけんじゃねぇぞ!!」

「そうだ、そうだ!調子が良すぎるぞ!!」

ウォレスとゼノスとティピだ……まぁ、気持ちは分からなくも無いが……。

「そ、それは……」

「それとも俺たちが助け出してくれるなんて、甘い考えをしていたんじゃねぇだろうな?」

「そ、そんなことはない!」

「元はと言えばお前たち人間が女王をさらったのがはじまりだ!」

「だからって、見捨てていいの?」

「確かに争いは愚かです、でも、それだけ女王様を心配していたなら、何故助けようとしなかったんですか?」

「…………くっ……」

ウォレスに続いて、ミーシャ、カレンも、フェザリアンに鬱憤をぶつける………そろそろ止めるか。

「ハイ、ストップ」

「シオン……」

「お前たちもやめるのだ」

「女王……」

どうやら女王様もフェザリアン達を止めてくれたようだな……。

「お前ら、少しは落ち着け……彼らは集団の意志を尊重する……だが、本当は助けに行きたかった者も何人も居た筈だ」

「……それは……だけど」

ルイセも実は不満があった様で、何かを言おうとする。

「現に、彼らはウォレス達の言い分に言葉が詰まった……直ぐに言い返せなかったのは、そういう気持ちがあり、その上での罪悪感がある証拠だ」

俺が優しく諭す様に言うと、皆、言葉をつぐんでしまった。

「貴方達フェザリアンの言い分も分かります……確かに我々は価値観という物が違います……いや、本来は違わなかったのかも知れませんが、そうさせたのが人間だというのも理解しています……ですが、頭に血を上らせて、全て人間が悪い……というのもどうなんでしょうね?」

要するに、ありがとうの一言くらいは言いなさい……ってこと。
道徳や倫理について説く書物を残しているフェザリアンが、そんなことも言えないのか?と。
とは言え……。

「今すぐ、我々の溝が埋められるとは思っていません……ゆっくり考える必要があるのでは……と」

「「「……………」」」

フェザリアン達も押し黙ってしまう……彼らにも色々考えて貰いたいよな。

「……『歩き出す前から諦めるのは愚か者』か。確かに、考える価値がありそうな言葉だ……それに、祖先の恨みを引きずるのもまた愚かだ……というのもな」

女王は俺達を一通り見渡して、フェザリアンの一人に言伝をする……渡されたのは、フェザリアンの薬だった。

「私達は、見返りが欲しくて貴女を助けた訳じゃありませんが……」

「そんなつもりは無い……我々に考える機会を与えてくれたそなたらへの、気持ちだと思ってくれ……」

俺は女王の瞳を見る……嘘を言ってる様には見えない……その顔には偽りの無い微笑みが浮かんでいる。

「なら、ありがたく頂戴しましょう」

俺はニッ!という笑みと共に答える。

「やったぁ☆これでマスターが助かるね!」

「うん!」

「…そうだな」

ティピとルイセが大喜びだ。
カーマインも何気に嬉しそうだ。
皆はそれを見てホンワカムード……って、アリオスト、お前までホンワカしてどうする?

俺はアリオストを肘で突いて促す。
それで気付いたのか、アリオストは俺に頷き、女王の前に出た。

「あの、母さんに会わせてください」

「そなたの母とな?」

「……僕の中には、あなたたちと同じ血が半分流れています……最初に僕がここに来たのも、母さんに会いたかったからです」

「そうか……そなたがジーナの息子か……」

「お願いします!母さんに……」

「……悪いがそれは出来ぬ。ジーナは掟に背いて人間と一緒に居た……その過ちを認めない以上、人間であるそなたを会わせる訳にはいかぬ」

「そんな!」

俺はアリオストの肩を叩く……こっちを向いたアリオストに不敵な笑みを浮かべてやる。
任せろという意志表示だ。
さぁ、ネゴシエーションを始めようか。

「少々、宜しいですか?」

「何であるか?」

「先程の言い分ですが、彼が人間だから掟に引っ掛かり、罰を受けている彼女には会えないと……しかしフェザリアンなら面会は出来るのですよね?」

「……何が言いたい?」

「確かに彼は人間です……ですが半分はフェザリアンでもある。ならば、半分はフェザリアンの法が適用される筈ではありませんか?」

そう、俺の武器はアリオストがハーフであること……そこに必ず逆転のチャンスが隠れているはずだ。

「……半分とな?」

「そう、半分です。半分とは言え、貴女達の同朋なんです。ならば、面会する権利なら彼にもある筈です」

「……屁理屈だな。わらわが認めても、他の者達が納得しないであろう……我々に考える機会を与えてくれたことは感謝しているが、まだ人間を完全に認めた訳ではない……だが」

「女王……」

もう一つの武器は、原作よりステラ女王が俺達に好意的だということ。
こんな不確かな蜘蛛の糸だが、手繰り寄せられなければネゴシエイターの名が泣く!!
……別にネゴシエイターじゃないんだが、せめてアリオストに一目でも母親に会わせてやりたいじゃないか。
無論だが、ここで脅迫じみたことを言うのはNG……せっかく好意的なのに水を射すことになる。

「……面会するのは彼だけ、短時間、見張りを着ける……これが条件だ」

「!!」

アリオストはビックリしている……まぁ、分からなくは無いが。
しかしこれは……女王の最大限の譲歩だな……現段階ではこれ以上は無理か。

「分かりました……それで良いか?アリオスト?」

「!ハイ、ありがとうございます!」

アリオストとしては是非も無いだろうな。
何しろ生き別れた母親に会えるんだから……。

「おい、案内してやれ」

「はっ……こっちだ」

アリオストはフェザリアンに連れられて、奥に向かって行った。
それから数分後、アリオストは戻って来た……たいした時間は取れなかったが、母親に会えたのだ……その顔は若干幸せそうだった。

「今後例外は認めない……だがもし、そなたらが真に我々を認めさせられたら……その時はジーナを自由にしよう……」

「わかりました……絶対に、認めさせてみせます!」

アリオストは母と再会したことで決意を新たにし、母を自由にする為に誓いを立てたのだった。
それは欲が強いとも言える……だが、俺はそれが絆だと信じたい。

「シオン君……ありがとう」

「ん?」

「君のお陰で、少しだけど……母さんと会う事が出来た……本当にありがとう」

アリオストは心底感謝している様で、俺に礼を述べてくる……俺はたいしたこと言っちゃいないんだがね。

「男の約束だったからな……というか、女王の言う様に俺は屁理屈を言っただけだ。あんなのは突っぱねることも出来たんだからな……むしろ、それを受け入れてくれた女王に感謝しなって」

もっとも、アレを突っぱねられても、後2、3手は詰められたけどな。
……本当、あんな目に会いながらも、真摯に向き合ってくれた女王は立派だよ……。

「それでも母さんと話せたのはシオン君のお陰なのは変わらないよ……だから幾らお礼を言っても足りないさ」

「フッ……それじゃあ、その気持ちを受け取っておくさ……しかし、本当の意味でフェザリアンを認めさせるのは骨が折れるぜ?大丈夫か?」

「あぁ……必ずやり遂げてみせるさ!男と男の約束だ!!」

そう言って笑みを浮かべるアリオスト……やっぱり暑苦しさは出ないが、ナイススマイルだ!

「さて、じゃあ戻ろうぜ!サンドラ様も待ってるからな!!」

皆も頷いたのを確認し、俺はテレポートを唱えた……こうして俺達はフェザーランドを後にしたのだった。




[7317] みにみに!ぐろ~らんさ~!微妙にネタバレ注意―番外編10―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2009/05/11 20:38
「ティピと!」

「Homoの!」

「「みにみに!ぐろ~らんさ~!!」」

「みんな、元気~?パーソナリティのティピだよ☆」

「お久しぶりです、同じくパーソナリティのHomoです」

「アタシ達の出番ということは……」

「作者が仕事で忙しいんですね」

「この場合の忙しいは、朝夜連チャンの場合だそうです……ちなみに、明日は今日より忙しい可能性があるため、最悪上げられない可能性もあるとか」

「大変ですね~……ハイ、では本日のゲストをお呼びしたいと思います」

「早っ!?……まぁ、わりかしどうでもいいことだしね……それで、本日のゲストは……」

「僕はPSPでもやられ役なんだろうか……どうも、ラルフ・ハウエルです」

「う~~ん……やっぱりラルフさんはやられ役だと思うわよ?悲しいけど……それが現実よ」

「ハハハ……やっぱり?ハハハハハ……ハァ……」

「まあまあ、それでは早速質問です……ラルフさんはモテるんですか?モテるんならもげて下さい……なんなんですかコレ?」

「もげ……?モテるかは分からないよ……シオンいわくモテるらしいけど、意識したことは無かったなぁ」

「流石……アイツのお兄さん……アイツもそういう所があるからなぁ……もしかしてベルガーさんの遺伝?原作でも、ゼノスはカレンさんの気持ちに気付かなかったし……そういえば、オープニングの指輪を渡すシーンを考えたら……」

「鈍感(真)は脈々と受け継がれている物なんですね……さて、次の質問です……カーマインお兄さまとラルフお兄さまは、実際にはどっちがお兄さまなんですか?……ドジっ子眼鏡娘さんからのお便りです」

「あのお気楽娘は……で、どうなのその辺?」

「ん~~、コレは実際には分からないんだよねぇ……でも、推測は出来るよ。多分、僕が兄で合ってると思う」

「ほほう……して、その心は?」

「僕の方が中ボスのアジトから近いから、その分早く生まれたのかな……と」

「逆にアジトから遠いアイツの方が早いんじゃない?」

「まぁ、答えはアナタの心の中にある!ということで……そんなこんなで時間になってしまいました」

「ラルフさんの情報を知りたい!って人はキャラ紹介~36話時点~を参照してね♪」

「今日はありがとうございました……カーマイン共々、本編でも応援よろしくお願いします」

「それでは!ここまでのお相手はティピと!」

「Homoがお贈りしました!」

「「「まったね~~~☆」」」



[7317] 第50話―サンドラ回復!忍び寄る影と仕官―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 20:34


「ただいま!」

俺達はローザリアまで戻り、カーマイン宅で待つサンドラ様のもとへ。

「お帰りなさい」

サンドラ様はベッドの上から、俺達を出迎えてくれる。
若干、顔は青い感じだが、まだ元気そうだ。

「ただいま、お母さん」

「母さん、解毒薬だ……飲んでくれ」

ルイセは挨拶を返し、カーマインはサンドラ様に解毒薬を手渡す。

「………ふぅ………」

「どう、マスター?」

「フフ……そんなに直ぐ、効果は分かりませんよ」

サンドラ様は穏やかな笑みを浮かべる。
本当、10代の娘が居るとは思えん人だな……。

「貴方達のことは、時折ティピを通して見させてもらっていました……大変だったでしょう……本当にありがとう……」

サンドラ様は深々と頭を下げる……むぅ、そう改まって言われると照れるんだがな。

「サンドラ様、積もる話もあるでしょうが、それは明日のお楽しみにしておきましょう」

俺がそう言うと、サンドラ様が頷いて言う。

「そうですね……貴方達も疲れたでしょうから、今日はゆっくり休んで下さい」

俺達はそれに頷く。
薬が効くには約一日掛かる筈だ……なら、無理せずに休んでいて欲しい。
俺達は医者の先生に頼んで、様子を見ていてもらうことにした。

俺達が部屋を出ると、どうやら日が暮れた様で、外は夕闇に包まれていた。
虫の音色まで聞こえる……なんか、日本の鈴虫の音色に似ているな……。

「僕は家に戻って、もっと両親のことを調べてみます……母が父を理解した具体的なきっかけが分かれば、フェザリアンたちも人間を理解してくれるかも知れない」

アリオストはそう言い出した……。
大変な仕事だが、アリオストならやり遂げるだろう……何しろ約束したんだからな!

「アリオストさん、ありがとう」

「アリオスト……あんたが居なければ、俺たちはフェザリアンに会えなかった……母さんに薬を届けられなかった……本当に感謝してる」

アリオストに礼を言うルイセとカーマイン。
確かにな……それが偶然だろうと必然だろうと、アリオストと出会ってなければ……カーマイン達からしたら、感謝してもしたりないだろう。

「礼を言われるようなことはしてないよ。それよりこっちがお礼を言いたいくらいだ……一目でも母さんに会えたんだから、それこそ幾らお礼を言っても足りないさ」

「……んじゃ、頑張れよ?応援してるからな」

「ああ、【約束】したからね……それじゃ、僕は村に戻るから。何かあったら、村か研究室の方に来てくれれば会えると思う」

「気をつけてね、アリオストさん」

「さよなら」

俺達はアリオストを見送った……希望に満ちたその眼は、飛行機械を完成させた時より、ずっと輝いて見えた……。

「さて、俺たちも少し休むとしようか……いろいろと疲れたしな」

「……だな。流石に少し疲れた」

ウォレスとゼノスがそう提案する。
確かに……安心したら精神的にドッと来るもんだな……。

「ルイセちゃん、一緒に寝よう♪」

「そうだね♪みんな、お休みなさい」

「お休みなさ〜い!」

本当、あの二人は仲が良いな……。
二人は挨拶すると二階に行った……恐らく、ルイセの部屋に行ったのだろう。

「みんなは、客間があるから、よければ使ってくれ」

カーマインが言うには、一階と二階にそれぞれ客間があるんだとか……まぁ、国の宮廷魔術師が住む家だからな……原作みたいに狭くは無いとは思ったが……。
ゼノスの家にも客間が有ったんだから、考えてみれば当然か。

俺達はそれぞれ、割り当てられた部屋に向かった。
明日にはサンドラ様も全快してるだろ……しっかし、改めて一人になると考えちまうなぁ……。

何で俺はこの世界に生まれ落ちたのか……。
そもそも転生だと思っていたが、本当にそうなのか?
この、人間が持つには過ぎた力の秘密は……考え出したらキリがねぇ……。

俺は首に掛けてあるプロミス・ペンダントに触れる……。
以前、俺がグランシルを去る時、別れを悲しんでくれたカレンへ、再会の証として買ってあげたペンダント……その時に自分の分も購入していて、今では肌身離さず身につけている。

ちなみに俺の願いは【みんなが笑顔でいられる世界】……世界と言うと、大袈裟かも知れないが、ルイセの願いと大差無い。
誓いは【俺自身の真実を明らかにすること】……これは叶うか分からないが……。

「……いつまでも考えていても――仕方ないか」

俺は寝ることにする。
ゆっくり身体を休めて、明日に備えなければ…。

**********


夢を見ていた……そこは洞窟の様な場所で、複数の小さな怪物と、その親玉の様なデカい奴……それと母さんを襲った仮面の騎士達が居た……。

「どうした。ローランディアの宮廷魔術師はまだ生きているぞ」

「申し訳ございません」

……どうやら、あのデカい異形の化け物が親玉で、仮面の騎士達はその手下みたいだな……。
あのデカい奴の言い分からすると、母さんを襲わせたのはアイツか……。

「もっとも、お前たちだけの責任ではないがな」

「はっ?」

「作戦を多少急ぐ必要があるか……」

「では、我々はその準備に掛かります」

「うむ」

そう告げると、仮面の騎士の内二人がその場を去った。

「それにしてもあの男と娘……邪魔だな……」

男と娘……?
一体誰のことを言っている……?

そこで俺の意識が浮上していくのを感じた……。

********

「っ!?」

俺は跳び起きる様に目を覚ます。

「やっと起きた!」

「……ティピ?」

声のする方に目を向けると、そこにはプンスカしているティピがいた。

「……ティピ?じゃないよ!どうしてアンタはそう寝起きが悪いの?」

「……すまん、また変な夢を見てな……」

俺はティピに夢の内容を説明した。

「マスターを襲った仮面の男たちが、怪物に命令されている?怪物ってどんな?」

「……仮面の騎士の鎧に似ていたな……そしてかなりデカい」

「なるほどね……その夢の話はマスターに話した方が良さそうね」

「そうだな……ところで、母さんは?」

俺は気になっていたことを聞く……フェザリアンから貰った薬は効いたのかを。

「うん!マスターならもう大丈夫だよ」

「そうか……」

本当に良かった……母さんを助けられて。

俺とティピは下の階に降りる……すると、みんなは既に起きて、居間に集まっていた。
勿論、母さんも一緒だ。

「あ、カーマインお兄さま!」

「よ!おはよう」

「おはようございます」

「おはようさん」

ミーシャ、ウォレス、カレン、ゼノスが順に挨拶してくれる。

「おはよう、カーマイン」

「おはよう、お兄ちゃん。またお寝坊さんだね」

「おはよう、って……カーマインって低血圧か?」

相変わらず爽やかな笑みを浮かべる、我が双子の兄ラルフ。
お寝坊さんって、別にいつもじゃないぞルイセ。
夢を見ない日は絶好調なんだから。
シオン……俺は別に低血圧じゃないぞ?
……多分。

「おはよう。あなたが来るまでに、今までのことは聞かせてもらいましたよ……ゆっくり眠れましたか?」

母さん、顔色も良くなって……もうすっかり良いみたいだな。

「おはよう母さん……お蔭様で……と、言いたい所なんだけど、また変な夢を見てさ……」

「夢ですか?話してみなさい」

俺は夢の内容を詳しく説明する。

「……………」

「変な夢でしょ?仮面の男たちが出てくるのはいいとして、怪物に命令されているなんて」

母さんは俺の話に何か考え込んでしまう……。
ん?ラルフも何か考え込んでいる。

「……どうしたんだラルフ?」

「……同じなんだ……僕も今朝、全く同じ夢を見たんだ」

「そっか!ラルフさんもコイツと同じ夢を見るんだったよね」

「?どういうことですか?」

俺は母さんにラルフのことを説明する。
俺とラルフは双子だからか、同じ夢を見るらしい……ということを。

「そうだったのですか……そうなると、益々あなたの見る夢が、偶然には思えなくなりますね……」

母さんの言う通り……幾ら双子でも、全く同じ夢を見るなんて、偶然にしては出来過ぎている。

「つまり、その怪物がサンドラ様に傷を負わせた仮面の男たちと関係があるって言うんだな?」

「夢の内容から考えるとそうなるわね」

ウォレスの質問にティピが答える。
ちなみに、ゼノス、カレン、ミーシャは俺とラルフの夢がどういう物なのか分からない為、それについて今、シオンが説明している。

「その怪物はどんな格好をしていたんだ?」

「……あの仮面の男たちが着けてた鎧に似てたな……多分、仮面の男たちの鎧があの怪物に似ている……というのが正しいんだろうが」

「全身銀色で、それに、結構大きいんですよ……」

俺とラルフは夢の怪物の姿を説明する。
母さんはそれを聞いて更に考え込んでしまう。

「ちょっと聞いてくれ。俺が昔、傭兵団に入っていて、水晶鉱山の警備をしていたことは話したな」

「たしか、化け物が暴れて、って話だったよね?」

俺もその話は聞いた……その化け物は、ウォレスの所属していた傭兵団を壊滅させたとか……。

「ああ…その化け物だが、似ているように思えるんだ」

「カーマインとラルフが夢で見た化け物に…か?」

説明が終わったのか、ゼノスがウォレスに尋ねる。

「そうだ……そして隊長は奴を追って行方不明となった。その隊長を探していた俺の前に立ちはだかり、俺の腕と眼を奪ったのは仮面の男たち……」

「仮面の男たち?それじゃ、マスターを襲った仮面の男たちって?」

「このあいだ戦ったとき、似ていると思ったよ。俺はこの通り、シルエットしか見えねぇが、あんな形をしてりゃ、すぐに分かるぜ……話を聞く限りじゃ同じ連中のようだな」

もしかしてあの夢は………。

「ちょっと良いか?実は以前、ウォレスの腕が斬られた時の夢を見たことがあるんだ……」

「なんだって?」

俺はその時の夢の内容を詳しく説明する。
その時の相手も、母さんを襲った連中と同じ格好をしていたことも。
もっとも、その内の一人が、俺とラルフにソックリだというのは伏せておいたが……。

「……やっぱりサンドラ様を襲った奴か……」

「お兄ちゃん、それっていつ見たの?」

「俺が初めて王都の外へ出た時に倒れて、何故か母さんの研究室で倒れてた時があっただろう?あの時だ」

「つまりマスターを襲った連中なんて知らなかった時だね」

そう、ウォレスにも会っていなければ、あの仮面の騎士達の存在も知らなかった頃だ。

「……お母さん」

「夢に出てきた異形について少々心当たりがあります」

不安そうに母さんを見るルイセ……それに答える様に母さんは告げた。

「何だって?サンドラ様、詳しく教えてくれ!」

「あくまでも伝承に残るだけなのですが……昔、グローシアンが人間を支配していた時代に、人を襲う【ゲヴェル】という怪物が現れたそうです」

「それで、その怪物はどうなったの?」

ウォレスの問いに答える母さん……ミーシャは純粋に好奇心からのようだ。

「伝承では、数人のグローシアンがゲヴェルと戦ったそうです。詳しいことは解りませんが、それ以降ゲヴェルも、当時いたグローシアンもいなくなったそうです……もし夢で見た異形がゲヴェルだったら……」

********


サンドラ様の言いたいことは分かった。
ゲヴェルが実在していたなら、これは由々しき事態だ。
いや、間違いなく実在してるんだけどね……カーマインとラルフが生き証人みたいなものだからな。

「くっ!調べてみたいのはやまやまだが、この体じゃ……」

「それに、その怪物の姿を知っているのは、夢を見たお兄さまたちだけじゃ……」

ゴメン、俺も知ってるんだわ……まぁ、原作ゲームでの話であって、実物は見たことないけどな。

「調べるにしても、水晶鉱山はバーンシュタイン国内にあるはずだろ?」

「僕とシオンはバーンシュタイン国民だから、専用の通行証を持ってるけど……それを使う訳にもいかないし」

「行くだけなら、俺のテレポートで連れて行けるが……水晶鉱山は魔法学院の管轄だから、勝手に調べたりは出来ないはずだぜ?」

そう、以前俺達は水晶鉱山にも立ち寄っている。
水晶鉱山に入るには許可が必要で、俺達は遠巻きにその威容を眺めただけだったが。

「打つ手なしか……!」

「……方法はあります」

「えっ!なに、なに?」

打ちひしがれるウォレスに、何かを提案するサンドラ様。
ティピはそれに興味津々に食いつく

「あなた達は闘技大会に出場しましたね?」

「うん!優勝したのはシオンさんとカレンさん、準優勝がゼノスさんとラルフさん。コイツとルイセちゃんは準決勝で負けちゃったけど、でも、スッゴい勝負だったんだよ?こう、ズバババ!でカキキーンで!!」

ティピが興奮気味に説明する……確かに、ゼノスとカーマインの戦いは白熱した……闘技大会フレッシュマン部門の歴史に名を残す名勝負だったろう。
ラルフ?
ラルフはゼノス、カーマインより確実に強いが……あの時はルイセとあっち向いてホイしてただけだし……。

「私もティピを通して見させてもらっていましたから分かります……あれだけの実力があるなら、我が国に仕官できるでしょう。そうすれば公務として、バーンシュタイン王国に行くチャンスがもらえるかも知れません」

「わぁ、すごいなぁ☆」

ミーシャは闘技大会の戦いを見ていないからな、尊敬の眼差しを俺達に向ける……もっとも、カーマインとラルフには違う感情も混じってるみたいだが。
漫画風に言えば、眼がハートになっている。

「もちろん、国から受ける任務が優先されますから、いつでも自由に動けるとは限りません。それでもチャンスはかなりあるはずです」

……お?ゼノスが震えてる?

「あ、あの!俺……自分も仕官出来るんでしょうか?」

おお、ゼノスが敬語を使ってる……原作でも無かったよな……。

「ええ、貴方の実力なら問題ないでしょう。むしろ、あれほどの戦いをした者なら、遠からずこちらから声を掛けたでしょうから」

「うっしゃぁ!!……し、失礼しましたっ!!」

「もう……兄さんったら」

ゼノスは思わずガッツポーズ……それを見てカレンは苦笑い。
だが、その表情は微笑まし気なモノだ。

――当然だな。

ゼノスの――国に仕官するという望みを最初に聞き、その努力を見守ってきたのは他でもない――カレンなのだろうから――。

「出来るだけ自由の利く任務をもらえるように、私から国王に掛け合ってみましょう」

「これでウォレスさんの目的にも、一歩近付いたね!」

「ああ」

実際は、もう出会ってるんだがな……。
等と考えてると、カーマインがサンドラ様に連れられ、奥の部屋へ……何でもカーマインにだけ話があるのだとか。

********



「それで母さん……俺に話って?」

俺は母さんに尋ねる。
正直、何の話かは分からない。

「あなたは小さい頃から不思議な夢を見てきました。それがどんな意味を持つのか?あなたの生まれは何なのか?それが、あなた自身の旅の目的になるでしょう。それがどんな結果に繋がるか、予想も出来ません……ですが、これだけは覚えておきなさい」

「…………」

「私やルイセは、お前を本当の息子、本当の兄だと思って来ました……そして、これからも」

「母さん……」

それを言うために俺を呼んだのか……俺に秘められた真実……それは気になるが。

「当たり前だろ?俺は母さんの息子で、ルイセの兄貴だ……それは変わることはないさ」

「そうですね……ありがとう、カーマイン」

別に礼を言うことじゃないだろう?
むしろ礼を言わなきゃならないのは――俺の方なんだし。

それから母さんと俺は、居間に戻った……皆も待ってるからな。

********


カーマインとサンドラ様が戻って来てから、俺達は城に向かうことに。
カーマイン達を王に紹介するんだろう……確か、アルカディウス王だったよな?

俺達はローランディア城内に足を踏み入れる……実は少しだけワクワクしていたりする。
今まで色々な地を旅して来たが、城にだけは入れなかったからな。
このローランディア城は、城というより雰囲気は一流ホテルのそれに近い。
まぁ、やっぱり広さは城だ!と感じるほどなんだが。

「あっ……」

ん?ミーシャが後ろに下がった……もうすぐ謁見の間だったな。

「アタシ、ここで待ってますね!……だって、ほら!仕官するのはカーマインお兄さまとルイセちゃんとゼノスさんだし、アタシってば、ウォレスさんやシオンさんみたくちゃんとしてないし…」

「ミーシャったら、そんなこと気にしなくて良いのに……」

そうは言うが、一般人からしたら王様に謁見なんて戸惑うだろう。
俺も両親の教育が無かったらミーシャと同じ気分だったかも知れないし。

……と、ついでだし言っておいたほうが良いな。

「サンドラ様……実はお願いがあるのですが」

「は、はい……何でしょうか?」

俺が真面目な顔で話し掛けたら、顔を赤くして返事をしてくれた……ヤバイ、これは中々クるものがあるな……って、違う!
自重しろ俺!

「実は、俺やラルフ……それにカレンは、仕官ではなく、あくまで協力者という立ち位置で紹介して戴きたいのです」

「カレンさんは分かります……しかし、貴方たちに関しては何故ですか?」

やっぱり、俺達も普通に紹介するつもりだったか……危ない危ない。
って、カレンさんって……いつの間にそんなことを知る仲に?
……なんか、非常に妙な感覚を感じるのですが?
似たような感覚は以前にジュリアが居た時にも……まさかな。

「貴方たちがバーンシュタイン出身であることが、関係しているのですか?」

俺とラルフは互いに視線を合わせ、互いに頷く。
こいつらなら大丈夫だ……そう信じて。

「ええ……俺のフルネームはシオン・ウォルフマイヤー……バーンシュタイン王国近衛騎士団、インペリアルナイツに所属していた父、レイナード・ウォルフマイヤーの息子です」

その俺の告白に、ラルフ以外の皆がア然となる。

「ウォルフマイヤー……あのインペリアル・ナイトの……シオンの剣筋を見て、似ているとは思ったが……」

「知ってるの、ウォレスさん?」

「俺がまだ腕と眼が自前だったころ、剣を合わせたことがある」

何?それは初耳……いや、そういえば父上が強い傭兵の話をしていたな……戦ったけど勝てなかったと。
もしかしてウォレスのことだったのか?

「それで、結果はどうなったんだ?」

「結局、どれだけやっても勝負は着かなかったよ…」

ゼノスの質問に答えるウォレス……って、あの父上と互角?
全盛期ではナイツ最強と謳われ、今でもライエル卿と互角に近い実力を有する父上と?

まぁ、それもリシャールがナイツ入りするまでの話だし、三年前の話だから、現在はもう少し腕が落ちてるかも知れないが。

昔のウォレスってパネかったんだなぁ……。

「もし他の国に仕官なんてしたら、見聞の旅に出してくれた父に顔向け出来なくなります」

「そうでしたか……ではあなたは」

まだまだ皆がア然とする中、立ち直ったサンドラ様(他に立ち直ったのは男連中とティピのみ)はラルフに質問する。

「僕のフルネームはラルフ・ハウエル……バーンシュタインで商人をしています」

んで、ラルフもネタばらし。
ウォレスやゼノスがやはり、ハウエル家のことを知っていたらしく、大陸一の豪商であることも直ぐに伝わった。

「………」

「……驚いたか、カレン?」

「ハイ…少し……でも、ラルフさんはラルフさん……シオンさんはシオンさんですから、何も変わりませんよ」

そう綺麗な笑みを浮かべながら言ってくれる……参ったな。
……暗に、『身分の差がなんぼのモンじゃい!!』……と言ってる様なモノだ。
普通、こんなパターンだと高根の花と諦めるか、玉の輿だと欲を深めるか……だが、カレンは違う。
俺が俺だから……と言った……その言葉に偽りがないのが分かる。
……俺なんか、そこまで想われる価値の無い人間なのに……。

結局、俺らの心配は杞憂に終わり、皆は今まで通りの対応をしてくれた。
ミーシャはひとしきり凄いと言い、ティピはしつこく何かご馳走してとせがんで来たが。

で、謁見の間。

「宮廷魔術師、サンドラ、まいりました」

「おお、サンドラ。体の方はもう良いのか?」

この人がアルカディウス王か……成程、凄く良い人そうだ……サンタさんを連想すれば分かりやすいか?
髭は黒いがな。

「はい。この子たちのおかげで、すっかりよくなりました。国王陛下にはご迷惑をおかけしました」

「うむ。しかし治って良かったな。ところで、話とはその者たちのことか?」

「はい。この2人は私の子供でございますが、息子の方が少々奇妙な夢を見ます」

「ほほぅ、奇妙な夢とな」

アルカディウス王は興味を示した様だ……そしてサンドラ様はその夢のことを説明する。
見たことも無い、遠くの場所の情景をまるでその場に居たかの様に見せる、正夢というには現実感が有り過ぎる夢。

「息子の見た夢のおかげで、私は命を救われました」

「夢で事実を知るとは……なんと不思議な……」

「問題はここからです。この子の夢に、過去の伝承にうたわれる、ゲヴェルらしき怪物が出てくるようなのです」

「ゲヴェル!?人を滅ぼし、グローシアンの力を持ってやっと倒されたとされる、あのゲヴェルか?」

王様、博識だなぁ……とは言え、実はゲヴェルは結構有名で、一般では民話として知れ渡っている。
【悪いことをした子はゲヴェルに喰われるぞ!!】

……というナマハゲじみた扱いもされている。
もっとも、ゲヴェルと違い、ナマハゲは善玉な鬼なんだがな。

「そこで陛下にお願いがございます。この子たちを仕官させ、各国を回り、ゲヴェルの実態を調査させたいのです」

「うむ……」

王様は悩んでいる……まぁ、損な買い物じゃないと思いますよ?

サンドラに促され、カーマインが一歩前へ……そしてひざまずく。

「この子は今年の闘技大会で準決勝まで勝ち上がりました……準決勝までとは言え、その実力は仕官には差し支えないかと存じます」

カーマインが下がり、ルイセが前に出て、スカートの裾を持ち一礼。

「そしてルイセがグローシアンであることは、もうご存知と思います」

「うむ…」

ルイセが下がり、今度はゼノスがひざまずく。

「こちらの男はゼノスと言い、今年の闘技大会で決勝にまで駒を進めております。その実力もまた、仕官に差し支えないと存じます」

ゼノスが下がり、ウォレスの番。

「こちらの男、名をウォレスと言い、同じく闘技大会などで優勝した経験を持ちます。彼をサポートにつけたいと思います」

ウォレスが下がる……次はいよいよ俺達の出番か……とは言え、説明はサンドラ様がしてくれるから楽っちゃ楽だな。
実際、俺は王族に謁見するのは初めてじゃないしな……リシャールとか。




[7317] 第51話―初任務とシオンの漫画日本昔話―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 20:45


「それから、こちらの者達は協力者としてサポートしてくれるとのことです」

先ずはカレンが前に出る…ルイセの真似をして、ドレスの裾を持って一礼。

「彼女はカレンと言い、ゼノスの妹になります。彼女は薬学に優れ、魔法にも精通しています……現に、闘技大会ではパートナーをよくサポートし、優勝を勝ち取っています」

カレンが下がり、ラルフが前に出てひざまずく。
ラルフを見てアルカディウス王は眼を丸くしている。

「この者はラルフと言い、息子カーマインの双子の兄に当たります」

「双子とな?」

「はい、何でもカーマインとは生き別れの兄弟で、現在は商人の家ハウエルに引き取られ、商人として学んでいるとか……」

「ハウエル?あの大陸一の豪商のハウエルか?」

「さようでございます。商人ではありますが、闘技大会において、ゼノスと共に決勝まで勝ち抜いています。その剣腕はカーマインやゼノスに勝るとも劣らない物がございます」

「ふむ……サンドラの息子の事情は知っていたが、まさか双子がいようとはな……」

この場合、カーマインがサンドラ様に拾われたというのを知っていた……という意味だろうな。
この王様のことだろうから、サンドラ様がカーマインを拾って来た時に『はっはっはっ、人の親になるのは大変だぞ?』とか、朗らかに告げたことだろう。
中々にフレンドリーな王様だからな……この人は。

いや、その時はサンドラ様はまだ宮廷魔術師では無かったのか?
その辺りはよく分からんが……。

……と、俺の番か。

ラルフが下がったのを見計らい、一歩前へ行き、ひざまずいた。

「彼はシオンと言い、今回の闘技大会で、カレンをパートナーに優勝を納めています。その実力は他の参加者とは一線をかくす物で、剣士としても、魔導師としても優れており、更にルイセと同じグローシアンでもあります」

「なんと……」

王様が驚いてる……当然か。
我ながらチート臭ぇと思ってるもんよ。

「彼は元インペリアル・ナイトを父に持っているため、スカウトは断られましたが、個人的に子供達へ力を貸してくれるとのことです」

「何!?あのインペリアル・ナイトの……しかし、それは心強いな」

元ですよ元。
驚いたと思ったら、俺がサポートに付くのを喜んでいる……まぁ、インペリアル・ナイトの息子、グローシアン、闘技大会優勝者……という肩書のおかげだろうけどな。
しかし、仕官しなくても心強いと言ってしまうお人よしぶり……。
成程、それがアルカディウス王なんだな。

「なるほど、わかった。そなたの頼み、しかと聞き届けた」

「ありがとうございます」

「いやいや。それだけ闘技大会で活躍した腕前なら、近いうちにこちらから仕官の誘いをしたであろう。それが少し早まっただけのことだ」

そう朗らかに告げるアルカディウス王……ふむ、やはり好感が持てる王様だな。
説明を終えたサンドラ様は、玉座の脇にある文官らが控えている定位置へ。

「では早速仕事を頼みたい」

「は、何なりと」

「実はもうすぐバーンシュタイン王国の王子が、王として即位することになった。その戴冠式に姫が招かれている。そこでだ……お前たちにレティシア姫の護衛を頼みたいのだ」

そう言われ、王様の側に控えていた女性が前に出る……彼女がレティシア姫か……何と言うか、いかにも姫!
って感じの雰囲気を持っている……清楚な感じだな。
これまた美少女なのはこの世界の法則なのか?

「よろしくお願いしますわ」

優雅に挨拶をするレティシア姫……それに気後れしてしまうのは、ルイセとカレン。
男連中+ティピは堂々とした物だ。

王様が言うには、南にあるラージン砦の先にある平原で、インペリアル・ナイツの騎士が出迎えに来ることになっている。
ライエルさんですね分かります。
待ち合わせ場所までは俺達が護衛、そこから先はライエル卿達が護衛するらしい。
戴冠式が終わったら、同様の手順を行うとのことだが……間違いなく豹変するんだろうなリシャールは……。

護衛が終わったら、報告に戻ってくる様に……とのこと。

「あ、どうだったの?」

謁見の間を退出した後、外で待っていたミーシャが声を掛けて来た。

「早速、任務を受けちゃった」

「初めまして、よろしくね」

自慢げに言うティピと、フレンドリーに挨拶するレティシア姫。
やはりアルカディウス王の娘ということか……。

「えっ、えっ!?レティシア姫?本物!?ど、ど、どうしよう!?もし失礼なことしたら、すぐに捕まっちゃって、牢屋に入れられちゃって、そしたらもうみんなに会えなくなっちゃうかも……!」

「もう、ミーシャったら、ちゃんとしてよ!」

久々に出た妄想垂れ流しモード……姫の前なので、流石のルイセも突っ込みを入れる。

「そうやってるのが一番失礼よ!」

「あ、あはは、ごめんなさい!」

「それはアタシたちじゃなくてお姫様にすることでしょ?」

ティピの至極真っ当な突っ込みで、多少は冷静になるミーシャ。
それを見ていた姫は、可笑しそうにくすくすと笑っていた……まぁ、ある意味漫才みたいな物だからな。

改めて挨拶を交わした俺達はローランディア王城を後にした。
目指すはラージン砦……グランシルが近いのでテレポートでグランシルまで行き、そこから南下することに。

「それじゃ行きますよ?」

姫に断りを入れてからテレポート。
今回は俺がテレポートを使った。
で、グランシルにスタッと到着。

「今のがテレポートですか……凄いものですね……」

姫は感心した様に言う。
まぁ、一応は最高位呪文だからな。
当然と言えば当然だが。
何気なく使ったりしてるから、凄いという感覚は無い。

俺は皆既日食のグローシアンだから、精神力もたいして消費しないしな。

俺達はそのまま南下。
道中、モンスターに襲われるが、全て返り討ち。
またはメンチビームで撃退。

で、さした苦もなくラージン砦に到着。

「大きな砦だね」

「東にはバーンシュタイン王国、南にランザック王国……つまりここは、三つの国の接点だ。そして軍隊が通れるような太い道もある。重要な防衛拠点だ」

ウォレス先生の説明タイムが始まる。

「ここだけが重要な場所なの?」

「バーンシュタインとの防衛拠点なら、遥か北のノストリッジ平原にもある。ただ、魔法学院の側にある山脈のせいで、その中間には無い……まぁ、魔法学院自体が重要拠点と言えなくもないんだけどな?」

ルイセの質問に俺が答える……実際、魔法学院はあくまでも中立だが、仮に抑えることが出来れば重要な拠点になる……もっとも、魔法学院生が数多く通っているため、リスクがデカすぎるがな。

「へぇ、二人とも物知り!」

「伊達に十数年も旅をしてねぇぜ」

「俺は三年程度だが、旅してたからな……三国にある場所なら大体は把握してるよ」

驚き、称賛してくるミーシャに、ウォレスと俺は当然と言った風に答える。

「すみませ〜ん!」

「誰だ!?」

と、俺らが説明してる間にティピが門番の人に声を掛けていた。
門番の人びっくりしてるがな……ティピはちっさいからな……誰に声を掛けられたか分からなくて混乱しているんだろう。

「私です。開門しなさい」
「これは、レティシア姫!お待ちしておりました!」

毅然と言い放つ、レティシア姫……普通に会話している分には、年頃の女の子って感じだが――こうして見ると姫だなぁ……って感じるよな。


で、開門されて中へ。
成程……砦と言うだけあって中々頑強な作りみたいだな……周囲を堀で囲むのはお約束だよな?

「将軍!レティシア姫をお連れしました」

「うむ、ご苦労」

んで、兵士に案内されて指令部まで足を運んで来たワケだ。
あれがブロンソン将軍か…全身金ぴかな鎧兜に身を包んでいる。
年齢的にはウォレスに近いくらいだろうか?

「遠路、ようこそおいでくださいました」

「そう堅くならずともよい。この者たちのお陰で何の心配もありませんでした」

ふむ、そう言ってくれれば、ありがたい。
護衛してきた甲斐があるってもんだ。

「それで、待ち合わせの場所は?」

「は、すぐ東に位置する平原でございます」

「では、早速出発します」

「はっ、お気をつけて」

レティシア姫がブロンソン将軍にそう告げてから、俺達は砦を後にした。
で、平原に着いたワケだが。

「少し早かったようですね……待っている間、お話でもしましょう」

「はい、わたし達でよろしければ」

「そんなに畏まらなくても良いのですよ……私、ずっと城にいたもので、同じ年頃の女の子と話す機会なんてありませんでした。よかったら、お友達になって下さいな」

「わっ!レティシア姫とお友達だって!どうしよう、ルイセちゃん!」

「どうしようって……」

まるでアイドルと握手するファンみたいな反応だな……まぁ偶像(アイドル)という意味では、姫というのもそう変わらないのかも知れないが。

「普通にしてたらいいんじゃないの?そんな堅苦しいお友達なんて、聞いたことないよ」

「そうですよ。ティピちゃんの言うとおりです」

相変わらず、妙なところで的確な突っ込みをする奴だなティピは……。

「は、はぁ……」

「……そうですね、レティシア姫も友達になりたいと言ってくれているのに、畏まるのはおかしいですよね……」

ミーシャはバツが悪そうに、カレンは申し訳なさそうに苦笑い。
まぁ、この二人は庶民的な部分があるから仕方ないのかも知れないが。
……ミーシャの場合は庶民的というより……な?

とりあえず俺は自主的に、カーマインとラルフはそれぞれウォレスとゼノスに引きずられながら、後方に下がった。

「なんだよウォレス……?」

「何かあるんですか?」

二人共、他者のことになると御気遣いの紳士になるのに、自身のことになると疎い。

「女同士の話だ。俺たちは邪魔しないで聞いていようぜ」

「そういうことだ。野暮は無しでいこうぜ?」

ウォレスとゼノスの言い分に納得した二人は軽く頷いた後、女性陣を見守ることに。

で、レティシア姫が言うには、今まで城の外に出たことは無く、外の世界に興味があったとのこと。
そして感じた外の世界に凄く感動したらしい……これだけ純粋なのは、あの父親あってこそ……なんだろうな。

「ねぇねぇシオンさーんっ!」

ん?ティピが呼んでる。
俺は女性陣の方に向かった。

「なんだティピ?」

「あのさ、何か面白い話してよ♪」

……いきなり何を言い出すんだこの娘は?

「何で俺だよ?旅の話ならウォレスかラルフでも良いだろ?それに皆だって話のネタくらいある筈だろう?」

ルイセは魔法に関して、カレンは薬学にたいする知識、ミーシャは……喋るだけでネタになる奴だし。

「えっとね、前にティピから聞いたんだけど、シオンさんがティピにお話を聞かせてあげたって」

「その話を聞いたら、カレンさんも聞いたことあるって言うし、アタシたちも聞きたいなぁ〜って♪」

「すみません……そのことを話したらみんなが興味を持ってしまって」

ルイセ、ミーシャ、カレンの順に説明してくる……ああ、そんなこともあったな。
一応言っておくが、お話と言っても、某管理局の白いアイツじゃないぞ?

普通に物語を聞かせただけだ。
前世?でのアニメや漫画の話をしてやっただけ。
ティピは暇そうにしてた時にチラッと。
カレンは俺達がグランシルに居たときに。
ゼノスやラルフも知っている。

「私も気になってしまって……良ければ、お話してくださいませんか?」

レティシア姫にまでそう言われたら――断れないよな……。




[7317] 第52話―聖剣と魔剣のお話……そして新たなフラグの香り―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 20:56

**********

それは聖剣と魔剣を巡る物語……。
主人公の青年が騎士に任命された日に、運命の歯車が動き出す……。

その青年が騎士となった日……敵の国が進攻を開始する。
仕えるべき王も、尊敬していた騎士も、敵の将軍に討ち取られてしまう……青年と、青年の妹分と弟分は命からがら逃げ出した……。

と、ここまで言って何の作品のことを言ってるか分かった人は、相当だと思う。

ぶっちゃけラン○リッサーですが何か?
しかもⅢ。
恋愛関係のイベントが盛り込まれたのはⅢからだからな……その辺をプッシュされてやらされたのさ……悪友に。
まぁ、ストーリーも面白かったしどっぷり嵌まったワケなんだが。

ちなみに俺は男ならジェリオール、女ならルナが好きだ……メインヒロインはクレアじゃないか?
という意見もあるかも知れないが、あのOPムービーを見たら……なぁ?
あ、シルバーウルフもカッコイイよな。
ジュグラーはもふもふしたくなるよな?

ちなみに悪友はティアリスたんハァハァ……らしい。

……話が逸れたな。
今はルナとの初対面、リファニーや村人達を救出する辺りの話をしていた。
皆、食い入る様に聞いている。

「……で、領主の娘であるルナの案内で、ディハルト達は領主の屋敷に訪れた……」

「それで、それからどうなったの?」

「なんか話の流れからして、ただ領主に会える感じじゃないわよね……」

ルイセも興味深々に続きを促し、ティピは普段使わないんじゃないだろうか?
という頭を使って物語を推理する。

「それから……と、続きはまた今度な?」

「え〜〜?これからが良いところなのにぃ」

「そうですよ、何故続きを話して戴けないのです?」

ミーシャとレティシア姫がぷくーっと膨れっ面で拗ねている。
……そんなんされても可愛いだけなんだが。

「なに、せっかくの語らいに無粋な輩を混ぜることも無いと思いまして」

俺は女性陣を背に庇う様に移動する。

「シオンさん?」

カレンは首を傾げるが、他の男性陣は気付いた様で、武器を抜き放ち臨戦体制。

「成る程……邪魔者が来た様だな」

「お迎えの人たちじゃないの?」

ウォレスが武器を抜き放つ中、ミーシャは脳天気に言い放つ。

「だったら、こんなに殺気を撒き散らしはしねぇだろ……」

「……どうやら団体様ご招待……かな?招待した覚えは無いけどね」

ゼノスとラルフも剣を構える……ラルフに到っては人数もきっちり把握してる様だ。

「……と、そんなワケだ。隠れんぼは終わりにして出てこいよ」

「チッ……ここまで来て見付かるとは……」

原作でオズワルドが現れる場面で現れたのは……あのモンスター使いだった……確か、エリックだったか?

「――どうやらまだ懲りていないらしいな……」

俺はリーヴェイグを抜き放ち、構える。

「俺が言っていたことを覚えているか?……仲間に手を出すようなら塵一つ残さんと言ったぞ?」

俺は怒りを滲ませながら、殺気をぶつける。
エリックは顔を青くしながら後退る。

「くっ……悪いがこれも仕事でな……確かにお前には勝てないかも知れないが、ここでそこの姫に傷一つでも負わせれば、護衛役のお前達が責任を取ることになるだろう……お前達の信用は地に落ち、最悪死刑は免れまい……ちっ、胸糞悪い仕事だ」

……どうやらアイツは乗り気では無いらしいな……この作戦を考えたのは……盗賊団頭領グレゴリーか。

「ふむ……悪いが、そうはならないぜ?」

俺はエリック目掛けて剣を突き付ける。

「万が一、姫が傷つけられる様なら責任なんぞ幾らでも取ってやる……だが、俺が……俺達がいる限り、姫には指一本触れさせやしねぇ!!!」

俺は高らかとエリックに宣言する。
エリックは思わず言葉を呑むが、再び声を張り上げる。

「だ、黙れ!!口先だけならばなんとでも言えるんだからな!!……お前ら、行くぞ!」

「へい!」

見ると盗賊やモンスター達が展開している。
これはまた随分と団体だな……盗賊自体は5人程度だが。

「まぁ…数で潰せるならやってみろって話だな」

「あの……、私はどうすればいいのでしょうか?」

そう言う俺にレティシア姫が話し掛けて来る。
それは本来カーマインの役目なんだが、近場にいたのは俺だからな。

本来なら西に下がってろ……と言いたいが、後方からも怪しい気配が幾つか……伏兵、いや増援だろうな。

「……ならば、私の側を離れない様に……必ずお守り致します」

俺はその選択肢を取ることにした……まぁ、瞬時に移動するのは訳無いんだが、念の為にな。
近くにいて守り通せないようなことは……絶対しないからな。

「……はい、シオン様!」

ん?様って……俺は視線をレティシア姫に向けると、顔を赤くしながら俺を見詰める姫の姿が……って、うえぇぇ!?
何故!?俺ってばニコポもナデポもしてないってばよ!?
……いかん、混乱しすぎてナ○トみたいな口調になっちまった……。
えーーと、思い当たる節は………もしかして、『姫には指一本触れさせやしねぇ!!!』とか言った辺りだろうか?
確かになんか妙な感覚を感じたが、まさかアレだけでは……。

「……あんなことを――殿方に力強く宣言されたのは初めてです……守って下さいましね?」

やっぱりアレかぁぁぁぁ!?
何!?この身は恋愛原子核で出来ている……とでも言う気か!?

いや、落ち着け……素数だ、素数をry

よし、俺クール。
クールだ俺。
よく考えれば、そんなこと一発で惚れた腫れたなどありえないだろ?
原作でだって、惚れたとか無しに赤くなるシーンはあるんだし……うむ!
きっと間違って様付けして、恥ずかしかったに違いない!
そう解釈する!!

「任せて下さい、貴女には指一本触れさせませんよ!」

俺はニッ!と、最高のスマイルを贈る。
姫を安心させる為……微笑なんかしてニコポさせない為だ。

「はい!頼りにしています!」

うむ、緊張が解れた様だな…何より何より♪
………カレン?
何で泣きそうな目でこっちを見るのかな?
……いや、大体の事情は分かるけどもさ。
……変に期待させても酷いよな……なんとかしないと。

「って、今はそれどころじゃねぇっての!」

俺は忍び寄る敵に高速詠唱と詠唱時間短縮のスキルを駆使し、瞬時に魔法を構築。
敵の群れに魔法を放つ。

「ファイヤーボール!!」

ドゴーーン!!

と、言う音と共に複数の敵が吹き飛ばされる。
アレンジ魔法以外もちゃんと使えるんだぜ?
まぁ、こういう時でもないと、広範囲魔法なんて使わないからな。

「さて、俺も引くワケにはいかないからな……命が惜しくない奴は――掛かってこい」

俺は敵に、剣呑な殺気を向けながらそう告げる……まぁ、これで戦意を失ってくれれば御の字なんだが……。

盗賊達は逃げ出した……が、モンスター達は逃げ出さなかった……まぁ、操られてる状態だからな、無理も無いと思うが……。

戦闘は一方的な物だった……正直、俺達に勝てる奴はそうそういないと思う。
俺とルイセ、カレン、ミーシャは、レティシア姫を中心に四方を囲う陣形を組んでいる。
俺が最前列、左右をルイセとミーシャ、後方をカレン……という具合にだ。
俺達は魔法を唱える砲台となり、姫を守る壁となる。
運よく攻撃魔法を切り抜けてきた奴は俺が切り倒す……そんな形だ。

カーマイン、ラルフ、ゼノス、ウォレスは遊撃手だ。
敵を倒すのに縦横無尽に駆け回り、成果を上げていた。

モンスターは続々と集まって来ていたが、それらを駆逐され、後はエリックを残すのみとなる。

「どうする?後はお前だけだぜ?」

「く、くそ……このままでは……」

そこに先程逃げ出した筈の盗賊達が戻ってきた……おまけを連れて。

「なんてざまだ……」

「か、頭……」

その惨状に頭を抱える盗賊団頭領グレゴリー……やはり来たか。

「お前は下がっていろ……後は俺が仕留めてやる。この兄貴の作った試作品を使ってなぁ!!」

ブゥン!!

お?いきなり武器が現れた……アイツの指輪が変化したのか?
指輪から魔力の流れを感じた……間違いなくリング・ウェポンだな……しかも、結構強力な精霊石を使ってるみたいだな。

「クハハハハ!兄貴の作ったコイツがありゃあ、鬼に金棒よ!!」

確かに、何やら身体能力も強化されてるようだが……っと、この気配は。

「ん、何事だ?」

「はっ!ライエル様!あれを!」

ライエル卿と愉快な仲間達……もとい、部下達か。

「何と無礼な……フッ…我々の前で狼藉を働いたことを後悔させてくれよう」

ライエル卿は愛用する双長剣を抜き放ち、グレゴリーに宣言する。

「なんだ、お前らは?先にお前から血祭りに上げてやろうか!?」

「無知とは恐ろしいものだな……」

「どうやら死にたいらしいな!?うりゃあっ!」

グレゴリーは巨体に似合わぬスピードで踏み込み、ライエル卿も踏み込み、互いに剣を合わせた。
原作では一撃で切り捨てられていた筈だが、リング・ウェポンの力か、鍔ぜり合いにまで発展させてしまう。

「ガハハハハ!!この武器があればどんな奴でも敵ではないわっ!!」

「……成る程、確かに優れた武器の様だな……だが」

ヒュオンッ!!

「使い手がこの程度ではな…」

ライエル卿が風の様に駆け抜け、剣を振り切った形で静止する。
グレゴリーは顔に笑いを貼り付けたまま、ゆっくりと倒れ伏せた。

「頭!?……頭が一撃で……化け物だ!」

盗賊団の誰かがそう言うが……。

「違うな」

「えっ?」

「一撃に見えたかも知れないが、実際には三回攻撃している……相手の斧を滑らせ懐に入り、左の剣で切り払い、右の剣で突き刺し、更にその右の剣を振り切っている」

俺は疑問を浮かべるルイセに説明してやる。
実際、ライエル卿はかなりの実力の持ち主だな……グレゴリーも決して弱くは無いんだが……流石はインペリアル・ナイトか。

「そんな……私には見えませんでした」

「……結構見えた奴らもいたみたいですよ?俺みたいにね」

そう言うレティシア姫に、俺はカーマイン達を指し示す。
カーマイン達はライエル卿の剣閃を見て、ライエル卿の実力を認識したようだった。

「くっ!引け!退却だ!」

エリックの言葉に全員が散り散りに逃げ出した。
と、それならさっさと用件を済まさないとな。
俺はレティシア姫に手を差し出す。
姫は怖ず怖ずと言った感じでその手を取る。

まぁ、ライエル卿の所までエスコートしようとしたのだ。
実戦の空気に触れて、震えてたみたいだったしな。
俺の手を取ると、姫の震えは止まった様だ。
ライエル卿の元へ向かい、レティシア姫の手を離す。
姫は少々名残惜しそうだったが……気のせいだと思おう。

「ご無事でしたか、レティシア姫?遅くなって申し訳ありません。私、インペリアル・ナイトのアーネスト・ライエルと申します」

「いいえ、危ないところを助けていただき、ありがとうございました」

俺は姫から一歩下がる。
カーマイン達のいる方からは、「アイツは……」とか、「あの人がインペリアル・ナイト……」とか言う声が聞こえる。
まぁ、コムスプリングスで一度会ってるからな……驚いてるんだろ。

「また会ったなシオン」

「我々は存外に縁があるのかもしれませんね」

「ふむ……かも知れんな……これでお前がナイツになれば言うこと無しなのだがな」

だから買い被り過ぎだって……ナイツに入れることが決定事項とかどんだけよ?




[7317] 第53話―任務達成、初めての休暇―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 21:06


俺達はライエル卿に後を任せ、戴冠式が終わった後、再びここで落ち合うことを約束する……それは多分、叶わないのだろうがな。

レティシア姫を見送り、報告の為に再びローランディアへテレポート。
そして城へ行き謁見の間へ。

またミーシャがごね出したのだが、俺が……。

「ティピが応対しても怒られなかったんだぞ?」

と言うと、俄然自信を取り戻した様で、ミーシャも謁見の間に同席することになったのだった。

「あのさ、シオンさん……それどういう意味かな?」

「……言って欲しいのか?」

「ごめんなさい」

頭にバッテンマークを付けながら聞いてきたので、軽く流し眼で問い掛けたら、自分も思い当たる節があるのだろう。
素直に謝って来た……まぁ、ティピは基本的にサンドラ様以外にはタメ口だからな……それが王様だとしても。
なら、ミーシャの方が対応としてはマトモだろ?
妄想を垂れ流しでもしなければ。

まぁ、アルカディウス王なら笑って許すかも知れないが。

「ただいま戻りました!」

「おお、もう送り届けたか」

そりゃあテレポートを併用してるからな……早い早い。

「はい。無事にお送りして参りました。バーンシュタイン王国内ではインペリアル・ナイトの方が護衛します」

「うむ、ご苦労。では今回の手柄に対し、休暇を授ける」

「休暇?」

ルイセが懇切丁寧に報告、流石は宮廷魔術師の娘……礼儀作法は心得ているってワケだな。
それでアルカディウス王が任務の手柄として休暇をくれるという。
ティピは休暇と聞いて眼がキラキラしている。

王様が言うには、本来は定期的な休みを取るらしいが、カーマイン達の任務は特殊な場合が多く、定期的な休みは取れない。
で、任務の完了時に休暇を取ることになるそうだ。

「それにお前たちの場合、仲間との親睦を深めるという意味もある。お互いの結束が深まれば、より困難な任務も果たすことができるであろうからな」

どんだけお気遣いの紳士なのかと……こりゃあ人徳がある筈だわ……。

文官の人から更に説明があった。
休暇の日数は、こなした任務とその成果から判断されることになる。
つまり、ちゃんと仕事したらその分の休暇が貰えるということだな。
後、休暇を過ごす先は随時増えていくが、ここで予定した行き先通りに休暇をとることになる。

休暇日数が二日以上の場合は、一日ごとにここへ赴き、行き先を申請する。
何かあった場合に、連絡が取れなくなるのを防ぐためだそうだ。
携帯でもあれば、そんな面倒はいらないんだろうな……。
言っても仕方ないが。
あと本来、休暇日数が限られてるのにあちこち場所を指定出来るのは、サンドラ様から俺とルイセが、テレポートを使えるということを聞かされているからだそうな……そりゃそうだよな。

ちなみに今回貰った休暇は二日だ。
まず選んだのは……。

********
休暇一日目・王都ローザリア

「夕方になったらここに集合ね」

そうティピに言われたので、俺達はそれぞれに散る……さて、俺は何をするかな?
特訓でもするか?
なんか、こっちの世界に来てから、トレーニングが日課になっちまったからな。

と、城門前で考えてたら誰か出て来たな……あれは……。

「サンドラ様?」

「!シ、シオンさんですか?どうしたのですか、こんな所で?」

?何で吃るんだ?しかも心なしか顔が赤い様な……まさかな。
そんなことがあったら、マジで俺、恋愛原子核じゃねーか。
ってか、さん付けとか……原作でも無かったよな?
基本は名指しだった筈だ。

「いえ、せっかくの休暇なので、どう過ごすかを考えていました……そういうサンドラ様はどうしたんです?」

「私は研究の資料を家に取りに来たのです。ほとんどは研究室にあるのですが、その研究資料は家に置いたままだったので」

成程……そういうことか。

「ちなみに、何の研究ですか……っと聞くのはまずかったですかね?」

研究者の中には、自分の研究を知られるのを嫌う者もいるからな……。

「構いませんよ。私が今手掛けている研究は、魔水晶の魔力成分についてです」

そういえば、原作でそんなこと言ってたっけ?
確か……。

「サンドラ様は、魔水晶からグローシュを取り出すのに成功したんでしたね」

「そういえば、貴方が研究書を取り返してくれたのでしたね……改めてお礼を言います。ありがとう……毒の件と言い、貴方には助けられてばかりですね」

「いや、研究書を取り戻したのは偶然です……それに、毒の件も解毒薬を手に入れられたのは、皆が頑張ったからです」

そう、毒の件は結局俺は何も出来なかったことになる。

「そんなことはありません……貴方はフェザリアン相手に交渉してくれたではありませんか。それに、貴方が魔法を掛けてくれなければ、私はこうしていられなかったかもしれません……」

実際、そんなことは無い……と、言い切れ無いのが怖いよな。
俺の存在や他の要因もあるのか、原作からは掛け離れて来てるしな。
でもまぁ、あまり謙遜するのも嫌味だよな。

「分かりました……ではそのお気持ちだけ、受け取っておきますよ!」

俺は最高の笑みと一緒にウィンクをする。
こういう笑みなら、微笑みたいにニコポしたりはしないはず……しかもウィンクなんてした日にはわざとらし過ぎてむしろ笑いが込み上げて――。

「は、はい……」

あるぇぇぇぇ??
何で真っ赤になるのん?
計算違いにも程があるよ!?
もしかして暑苦しさが足りないから!?
とは言え、ヒートスマイルは必須項目だから辞めたくないし。

ってか、クールキャラになったらなったで、ど偉いことになりそうだし……そうだお笑い系……駄目だ!
あれは実はモテてる場合が多い!!
ああ!!美形な自分が憎い!!
心の中で七転八倒しながら、一般的には贅沢な悩みで思考を回す俺。

「あ、あの……どうかしましたか?」

突然黙り込んだ俺を心配そうに見つめるサンドラ様……いかんいかん、イッツクールだ俺よ。

「いえいえ、何でも……そうだ!良ければ研究を手伝いましょうか?」

「えっ?」

俺は話題を反らす為にそんなことを言う……休暇を持て余していたのも事実だからな。
魔導具作りの腕や知識が活かせるかも知れんしな。

「あ、勿論、無理にとは言いませんが」

さっきも言ったが、研究を人に見せるのを良しとしない者もいるのだからな。

「いえ、貴方の知識や技術の程は、何となくですが分かります……正直ありがたいのですが、構わないのですか?」

そういや、サンドラ様はティピを通して見ていたんだったな……なら、知っていても不思議はないか。

「ええ、どうせこのままだったら、訓練なり何なりに勤しんでいただけでしょうから」

「そうですか。それではお言葉に甘えさせて戴きます」

非常に綺麗な笑顔を向けてくるサンドラ様……彼女はスタイルと言い、その美貌と言い……十代の娘がいるとは思えんな……。

そして俺達はサンドラ様の研究室へ向かう。
で……。

「効率良く、魔水晶のグローシュを抽出する方法は無いものでしょうか?」

「まぁ、抽出したグローシュは残り滓程度でしかありませんからね」

等。

「やはりこの理論が気になるんですが……」

「!成る程、盲点でした……私では気付け無かったことです」

等。

「はい、紅茶です。一息入れましょう」

「ありがとうございます……良い茶葉ですね……良い香りだ」

「フフフ♪気に入って貰えて何よりです」

等、時には研究理論に没頭し、時にはバルコニーから景色を眺めながらマッタリお茶をしたりした。
サンドラ様が楽しそうだったのが印象的だったな……。

そんなこんなで時間も夕方に差し掛かる。
俺は門の外に出て、サンドラ様に見送りをして貰った。

「貴方のおかげで研究も捗りました……ありがとうございます」

「いえいえ、俺も楽しかったですから……あ、すいません」

イカンイカン……ついつい地が出てしまった。
俺とか言っちまったし……。

「構いませんよ、無理に言葉遣いを変えなくても……私も楽しかったですよ。まるで学生時代に戻った気分でした」

「アハハ……面目ない。それじゃあ、俺のこともシオンって呼び捨てにしてください」

「えぇ!?それは……その……」

赤くなりながら、しどろもどろしてしまうサンドラ様……ヤバイ、オッサンはち切れそうだ!?
イカンイカン……素数を数ry
何でも、サンドラ様が言うには、俺が時々、自分以上の年長者に見えるんだとか。
それ故の『さん』付け。

まぁ、確かに精神年齢だけなら40以上だからな。
サンドラ様はどんなに多く見ても30前半だろ?
その辺をうっすら感じてるのかね?
ま、サンドラ様が良いなら良いけどな。

で、俺は見送られ、まだ集合時間まで時間があったので、ラルフと話した。

「商売の基本は、良い物を安く仕入れること……これは商人の腕の見せ所だね」

等、商売について話合った。

で、完全に夕方になり再び城門前に集合、先ずは明日の予定を組んでから就寝ということで、城の謁見の間へ向かう。
そして次に向かう場所も申請したので、カーマイン宅にて泊まることに。

食事中、ティピが俺に愚痴を零していた。
ルイセにマスタード入りクッキーを食わされたと。
……そんなイベントもあったなぁ……。
まぁ、話を聞くと…ティピの自業自得な部分もあるワケだが、大人しく愚痴を聞いてやることにした。
で、一晩休んで翌日……。

*******

休暇二日目・保養地ラシェル

「さて、解散しましょ〜うか。集合時間には遅れないようにね」

「じゃあ、夕方ここでな。みんな、集合に遅れるんじゃねぇぞ」

ティピとウォレスの念押しに頷いたカーマイン達は、それぞれ散って行った。
ん?カレンとルイセが残ってる……おっ、こっちに来た。

「シオンさんお願いがあるの」

「宜しければ聞いて頂けないでしょうか」

二人とも真剣な顔をしている……だから、真面目な話なんだろう。
俺は二人から話を聞くと、どうやら魔法を教えて欲しいとのこと。
二人とも、今現在のお荷物な状態は嫌なんだそうだ。
別にお荷物でも無いんだがな……でも自分達ではそうは思っておらず、かと言って急激な身体能力の向上は不可能……しかし魔法なら……ということらしい。

ふむ、まぁ俺としては断る理由は無く、二つ返事でOKを出す。

「んじゃ、まずは軽く行くか」

俺達はラシェルから外に出ていた。
じゃないと被害が出そうだからな。

「「宜しくお願いします」」

二人は丁寧にお辞儀してきた。
うむ、礼儀正しくて大変宜しい。
先ずは、二人がどの程度魔法が使えるかを見る。
ある程度は理解しているが、改めて…な。

結論から言わせてくれるなら、ルイセの攻撃魔法は、マジックアロー、ファイヤーボール、ブリザード、トルネードなどを行使出来、回復魔法はキュアとファイン……後は補助系がアタック、プロテクト、レジスト、それにウィークネス……後はテレポートもある。
結構万能だな……ルイセは鍛え方次第では、全ての魔法系統を習得出来るからな。

逆にカレンは偏っていた。
攻撃魔法はマジックアローのみ、回復魔法はキュアからヒーリングまで使えて、更にファイン。
補助系はサイレンス、スロー、バインド、ルスト、ウィークネス、アタック、プロテクトなど。
回復系や補助系を得意としてるみたいだな。
鍛え方次第ではカレンも、ルイセ程じゃないが色々魔法が使える様になるはずだ。

さて、まずはお勉強タイムだな。




[7317] ―サンドラ・フォルスマイヤーの憂鬱―番外編11
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 21:16


ふぅ……。

私はシオンさんを見送った後、研究室に戻って来ていた。

「楽しかったな……本当、学生の頃の気分だった……」

彼は不思議な人だと思う……歳はカーマインと一つしか違わない筈なのに、どこか達観している様に感じる。
子供っぽいと思えば、私より年長者だと感じる雰囲気もある……。

「……………」

私は最近の出来事を思い出す……あの毒の呪縛から開放された日の夜……。

***********

……もう回復したみたいね。
フェザリアンの薬とは凄い物ですね……。
私は夜に目を覚まし、すっかり回復したことを医師に知らせる。

医師は私の状態の確認後、笑顔で頷き

『おめでとうございますサンドラ様、もう大丈夫ですぞ』

と、告げてくれた。
私は医師にお礼を述べた後、医師は帰って行った。
他にも患者は居るだろうに……彼が付きっきりで看護してくれていなければ、私はこうしていられなかっただろう。

くうぅぅ〜〜……。

「あら……」

どうやらお腹が空いたみたい……寝たきりの時は、病人食ばかりだったので、何か味のある物が食べたいらしい。

「そうね……久しぶりに何か作りましょうか」

しばらく寝たきりだったし、最近は忙しくて中々作る機会は無かったけれど、本当は私がカーマイン達に料理を作っていたんですからね。

私はベッドから立ち上がる……さてと、台所に行って……と。

「え〜〜と、材料は……」

私は冷蔵庫を捜す……うん、ここはまず……。
私は料理をしながら考える……こうして料理をするのは何年ぶりだろうか……あの人が居なくなってから、研究に没頭する様になってしまって――。
ルイセやカーマインが、家事を熟せる様になったのも原因の一つだけど。

「ここで塩胡椒……それから」

良い香り……あの人は美味しいって言ってくれたわね。

『貴様らに名乗る名前は無い!……って言うのがお約束なんだがね』

!っ!?何を考えてるの私は……そんな、助けられたからって。

『アンタは病人なんだ。大人しく俺に抱かれてろ!!』

彼の……シオン、さんの腕……逞しかった。
あの時、私はドキドキしていた……年甲斐も無くと思われるかも知れないが、凄く胸が高まってしまったのだ……。
あの人が居なくなってからは、こんな気持ちになることはもう無いと思っていたのに……。

私は身体が昂ぶるのを感じた……私は自分の身体を抱きしめる。
鎮まれ……鎮まって……!

否応無く思い知らされる……私は寂しいのね。
私の中の『女』が、慰めて欲しいと疼く――いやらしい……無様なのでしょうね。
けれども、誰でも良い訳じゃない。
彼が……シオンさんが良い……。

きっかけは助けて貰った時なのは確か……だけど、それだけじゃない。

私はティピに頼み込んで、ティピとテレパシーで繋がり、視界を共有して彼の姿を見せてもらった……それを見て益々私は惹かれて行った……。
彼の優しさに、彼の苦悩に……。

「でも、私なんて……」

私なんておばさんだもの……彼には相応しくない。

「……ん?この臭い……はっ!?」

焦げ臭さが漂う……見ると火に掛けていた鍋が焦げていた……。

「うぅ……少し焦げ臭い……」

私はその料理を食べる……幸い、料理自体はダメージが少なく、少々焦げ臭いだけで済んだ。

お腹を満たした私は、食器等を洗う。

「……あんなことを考えていた罰かしら」

ハァ……と、ため息を吐く。
身体の疼きが治まったのは不幸中の幸いかしら……。

「あの……」

「?……貴女は」

確かカレンさん……だったわよね?
……彼を強く想っている。
ティピに見せて貰った時に見たから分かる。

「初めまして、私はカレン・ラングレーと言います」

「サンドラ・フォルスマイヤーです。この度はご迷惑をおかけして……」

お互いに頭を下げる。

それから洗い物を終わらせ、私はカレンさんにお茶を出す。

それで現在に至るわけですが……。

「……………」

「……………」

互いに沈黙が続く……カレンさんは何かを言いたそうなのですが……あ、どうやら決意したみたい……そんなに言いづらいことなのかしら?

「サンドラ様……失礼を承知でお伺いしますが……」

「何でしょう?」


私は紅茶を一口含む……良い味だわ。

「サンドラ様は……シオンさんが――どれだけ好きなのですか?」

「!?ぐ、ごほっ!ごほっ!!」

私はカレンさんの唐突な質問に、紅茶でむせてしまう。

「だ、大丈夫ですか!?」

「え、ええ、大丈夫です……しかし、何故そんな質問を?」

「あの……ティピちゃんに聞いて……」

あ、あの子ってば……マスターである私に断りもなく、私の秘密を告げるなんて……やっぱり、一般常識はもっと教えるべきだったかしら……。

「……教えて下さい。サンドラ様の気持ちを……」

その真剣な様子に、私は答えてしまう……さっき考えた様に、諦めると言うつもりだった……しかし、私から出たのは別の言葉だった。

「そうね……確かに私はシオンさんに惹かれています……私の全てを見てほしいと、身体が疼く位には」

「…………」

「理屈じゃない……彼の全てを知りたい、全てを受け入れたい……全てを捧げたい……」

それは私の秘めた本音……ごまかしきれない想い。
言ってしまった……。
絶対に言うつもりは無かったのに……こんなおばさんを相手にしてくれる筈は無いのに……。
でも認めてしまった……自分の気持ちを。

「分かりました……サンドラ様の気持ち……だからこそ」

一緒に愛しませんか?
彼女はそう提案したのだった――。

********

それから……彼女から聞いた話は衝撃的な物だった。
全ての判断を彼に委ねようというのだから……。
仮に、彼が彼を愛する人全てを選んだら、全員でその寵愛を受けようと……正直、狂っていると思う……例え彼が激しく鈍感だとしても……だ。
しかし私はカレンさんの手を取った……。

協力して振り向かせようと……。
私も狂っているのかも知れない……狂ってしまうくらい、彼に心酔してしまっているのだ。

……それでも構わないと思う。
それだけ愛おしいのだ……それだけ愛して欲しいのだ。

………小難しく言うのは止めよう。

「要は、それだけ好きになってしまったということですね……」

結局はそれなんです。
独占欲なんか沸かない――とは言わないけれど、それ以上に彼を想う力の方が強い。
彼を知れば知る程、胸が高鳴る……身体が熱くなってしまう。



あなた……あなたが居なくなってから随分経ったわ。
その想いは今も消えていない……それでも。

「また、恋をしても良いかな……あなた」

私はもう会えなくなってしまった最愛の人に、そう尋ねていた。

*******

オマケ☆

「もし、シオンさんと………ふふ♪そうなったらどうしましょう♪」

私は想像の中で、あんなことやこんなことを想像してしまった……ああぁ……♪

ふむ、仮に皆で寵愛を受けた場合の、合法的に一緒になれる方法を模索しなければなりませんね。
とりあえずはこの国の法律を調べて……シオンさんはバーンシュタイン国籍でしたね。
バーンシュタインの法律も調べてみましょう。
最悪、王に直談判しましょう!

あ、勿論、宮廷魔術師の仕事を疎かにしない様にですが。

そういえば、『同盟』のメンバーはカレンさんだけでは無いそうですが、詳しくは教えて貰えませんでしたね……まぁ、本人の許可が必要とか言ってましたから、あまり気にしない様にしましょう。
シオンさんを愛する気持ちに変わりは無いのでしょうから♪

********

A・TO・GA・KU⌒☆

最初に言っておく。

か〜な〜り!ごめんなさい!!
m(__;)m

相変わらずのキャラ崩壊……サンドラ様同盟参加の裏話でした。
またの名を暴走の回……やっちまったな!
感がありますが、大目に見て下さいまし。
m(__)m




[7317] 第54話―シオン先生のマジカル講座!そして白々しいヒゲ―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 21:26


魔法使いの為のその一。
――勉強。
とは言え、二人とも基礎は既に覚えてるから、俺が二人に課したのは。

・魔法の効率的運用法

で、ある。

まぁ、分かりやすくぶっちゃけると、MPアップや魔力アップに詠唱時間短縮などのスキルを覚えましょう!
ってことだ。
無論、この中に俺のアレンジスキル『高速詠唱』も含まれる。

ちなみに…今一このスキルが理解できないという方へ、ゲームに沿った説明をするならば。

『詠唱時間短縮』

これは魔法の詠唱時間を短くしてくれる。
−1/4だな。

『高速詠唱』

これは、人には聞き取れ無い位の早口で詠唱するという物だ。
戦闘中に、各キャラにはウェイトゲージがあるよな?
攻撃後硬直や詠唱する際のゲージ。
このスキルは魔法詠唱時に限り、そのゲージの消費スピードを飛躍的に加速させるスキルだ。

普段がググググ……というゲージスピードなら、ギューン!くらいにはなる。

って、俺は誰に説明してるんだか……。
とにかく、有用なスキルなのは確かだ。
この二つを習得し、研鑽を詰めば、俺やラルフの様に瞬時に魔法を放つことも可能だ。

「あ、ルイセは更に特別メニューな?」

「はい、シオン先生!」

「せ、先生?」

俺は思わず、目をパチクリさせてしまう。

「あ、あの、せっかく教えて貰うんだからそう呼んだ方が良いかなって……ダメかな?」

先生……先生か。

「ま、好きに呼べば良いさ」

とか冷静に言っていたが、内心ではしんちゃん笑いで、いや〜照れるなぁ♪
とかなってました。
いやぁ、某喧嘩百段の空手家さんの気持ちが分かるわぁ〜。

ちなみにルイセへの宿題は、グローシュを意識的に使える様になることだ。

「グローシアンが、魔法使用時に無意識に元の世界へチャンネルを繋げてるのは知ってるだろ?この際、次元の歪みからグローシュを引っ張ってくることが可能だ……そしてそれが存在する限り、無尽蔵に魔力を行使することが可能だ」

「無尽蔵に…ですか?」

「理論上はな」

疑問をぶつけて来たカレンに、俺はそう答える。
俺は意識的に使いこなすことが出来るからな……多分ルイセにも出来ると思うんだが……。
やはり、覚醒状態にならないと無理か?
しかし、あんな思いはさせたくないしな……むぅ……ルイセの可能性に期待するしかないか。

ちなみに二人には教材を渡してある、俺のお手製魔導書だ。
いつ書いたのかだと?
旅をしてたころにな。

その名も『今日からあなたも大魔導師!明日への1・2ステップ♪』だ!!
……いやね、たまには捻った名前にしようかな?とか考えて捻り過ぎた結果と言いましょうか。

綺麗な装丁の本の表紙にそんなことが書いてあるから、滑稽かも知れない……しかし、当初の『猿でも出来る魔導理論』よりはフレンドリーかな?
とか思ったり思わなかったり。

……とにかく!
カレンに渡したのは初級編、中級編、応用編。
ルイセに渡したのは初級編、中級編、応用編、グローシアン編だ。

初級編は魔力の流れを感知したり、大気に漂う魔力を感じたり等の基礎、そして魔法に対する簡単な理論。
マジックアローを始めとした初級魔法、初級スキルなどを懇切丁寧に解説。

中級編はファイヤーボールやブリザード、グロー系魔法などの広範囲魔法を分かりやすく解説。

応用編は俺のアレンジ魔法や、アレンジスキルの初級編とも言う様なもので、攻撃魔法は各種マジックアロー体系、更に補助魔法からはディスペルなど、スキルは高速詠唱を始め、魔法関連アレンジスキルを分かりやすく説明。
俺のアレンジ魔法などの中でも、魔技法に引っ掛からない様な、比較的危険度の低い物が揃ってると思って貰えれば良い。

グローシアン編は読んで字の如く、グローシアンの能力の発露からその力の効率的な運用法、更にグローシアンの可能性なんかを解説してある。
グローシアン専用の書だ。

他にも、上級編、弩級編、至高編なんかがある。
上級編はメテオ等の、一般的には最高位呪文とか言われる物に関する書。

残り二つは魔技法に引っ掛かるような、禁書確定な物だったりする。
この前使ったコロナボールに関しては弩級編に位置する。

ちなみに類似品に、『今日からあなたも大英雄!ホップ・ステップ・ジャンプ♪』という物もあるが、それはまた別の話。

ちなみに大きさ的には、学校の教科書サイズなので、結構コンパクトな親切設計!
元日本人なめんなよ?

まぁ、資金的に余裕があるからこんなの作ってるんだがな?

で、教材片手に魔法の授業、実技で示したり、それに対し質疑応答したり。

「あの、シオンさん……ここの項目なんですけど」

「ん?ああコレは簡単な理論の応用でな?ここをこうすると……」

等。

「この魔法、マジックフェアリーは、自身の空間把握能力、繊細な魔力コントロール、魔力量によるスピード調節が重要なんだ」

「ん〜〜……む、難しいよ先生……あ!?ごごごごめんなさい!」

等。

カレンもルイセも優秀で、魔導書の内容をスポンジの様に吸収していく。
ルイセに至っては、マジックフェアリーの習得一歩手前まで行ったのだから驚きだ。
……まぁ、空間把握能力の方に難がある様で、一つ俺に直撃しちまったが。
この身体はチートだから、ダメージはほとんど無かったがな。

そんなこんなしていると、日が傾いて来た。

「今日はこれくらいにしよう。また、機会があれば講義を開くから、しっかり予習復習はしとけよ?」

「はい、分かりました」

「ありがとうございました」

二人が丁寧にお辞儀して、その場で解散となった。
ちなみに解散時、身体も鈍らない程度には動かしておく様に言っておいた。
実戦で使うなら、身体もある程度は動かなければ洒落にならん。

で、まだ時間が残ってた俺はウォレスを見付けたので話し掛けた。

「休暇か……フッ、俺も任務明けの休暇は楽しみだったからな……任務を終えた後の酒の味は、格別だったよ」

等と話した。
よく分かるぜウォレス!
今度、秘蔵の酒を飲み交わそうぜ!

と、そろそろ集合時間だな。

「みんな揃ったよね?じゃあ、戻ろうか」

俺達はローランディアに戻り、休暇が終わったことを報告、その日は就寝した。

**********

そして翌日、ローランディア城にて。

「お前たちに次の任務を与える。夢で見た怪物が本当に伝承でうたわれるゲヴェルなのか、それを調査して欲しい…そして可能であればゲヴェルの居場所を突き止めるのだ」

これはまた……随分と難題な任務だねぇ……。
まぁ、俺は大体は知ってるけど……言えないもんなぁ。

「これは簡単に終えられる任務とは思えぬので、お前たちの最終的な任務だと思って欲しい」

「恐れながら申し上げます。約20年前、自分は一介の傭兵として水晶鉱山を警護していたことがあります。その時、怪物が現れ、隊長と部下を失いました」

ウォレスが王に過去、経験したことを語る。

「おお、あの事件なら覚えているぞ」

「その時の怪物が、伝承のゲヴェルと同一かも知れません」

間違いなく同一人?物です。

「何?水晶鉱山の事件は、ゲヴェルが起こしたと言うのか?……確証はあるのか?」

「実はお兄ちゃんとラルフさん、お母さんを襲った仮面の男たちが、怪物に命令されているところを、夢で見たらしいんです」

「それと、母を襲った連中も、ウォレスの眼と腕を奪った連中も、自分が夢で見た仮面の男たちと同じ連中でした」

ルイセとカーマインが王にそう告げる。

「何だと?それで、その方が怪我を負ったというのはいつの話だ?」

「二年ほど前になりますが、バーンシュタイン王国にある、クレインという小村の側でございます」

「クレインか、それはちと遠いな。ならば水晶鉱山のほうが近い……お前たち、闘技大会に優勝したのなら、コムスプリングスには行ったことがあるだろう?」

「あの温泉の街なら、行ったことあるよ」

まぁ、色々あったからな……色々…………や、止めろ!!思い出すな!!!
ああ!鮮明に蘇るカレンの………だああぁぁぁぁ!!
煩悩退散!煩悩退散!!喝!かぁぁぁっつ!!!

くっ……絶対記憶能力が憎い……うぅ……殻を打ち破ったのが良かったのか悪かったのか……。

アイツのことを思い出したのは辛いが良かったこと……だがな。

で、王様が言うには、コムスプリングスから水晶鉱山に行けるので、そこから調べた方が早いんじゃね?
ということだそうだ。
で、魔法学院が水晶鉱山を管理してるので、ヒゲに許可を貰って来なさいと。

「この書状をもって行け。水晶鉱山内への立入検査依頼書と、水晶鉱山までの通行手形だ」

鉱山内の立入検査依頼書と、水晶鉱山通行証を手に入れた!

「はい。がんばります!」

そうティピが締める。
どうでもいいが、こういう時のティピは本当に可愛らしいな。

「じゃ、まずは魔法学院か?」

「そうなるな…んじゃ、早速飛びますか!」

ゼノスの問いに答えた俺はテレポートを唱える。
目指すは魔法学院。

*********

―――と、意気込む暇も無く到着。
早速ヒゲに面会しに行く。
秘書さんに立入検査依頼書を提示、学院長室に入る。

「失礼します」

「おや、何の用かな?」

「水晶鉱山への立ち入り許可が欲しいんですけど」

「国から発行された、立入検査依頼書はあるかの?」

立入検査依頼書をヒゲに提示、ヒゲはそれを読み進めて行く。

「ふむ、ふむ……良くわかった。早速許可を出そう」

「ありがとうございます」

「そのついでと言ってはなんだが、頼みがある」

「交換条件ってことか?」

ウォレスがそう聞くが、本来これは国からの依頼だから、交換条件なんか出せやしない。
まぁ、このヒゲの魂胆は分かってるがな。

「交換条件とは人聞きが悪い……ただ『魔法技術管理法』を施行したいと言っているだけだよ」

「えっと…『魔法技術管理法』…………たしか授業で習ったような……」

ミーシャ……最早、語るまい。

「通称『魔技法』と呼ばれ『魔法技術の独占禁止』『魔法技術の保護』などの目的でローランディア王国、バーンシュタイン王国間で取り決められた国際法。またこれらの目的を遂行する為であれば、軍隊の出動を要請でき、ローランディア、バーンシュタイン両国はこれを拒否することは出来ない…だったかな?」

ミーシャの代わりに答えを言うルイセ。

「付け加えるなら、戦争利用される様な技術、危険性が高いと判断される魔法技術も、魔技法の対象内だ……アリオストの飛行装置を例に上げれば分かりやすいか?」

「成る程、だからアリオストさんは飛行装置を差し押さえられたのか……」

俺はルイセの補足説明をした。
ラルフは何やら納得した様だ。

「その通り。さすがルイセ君じゃ。それに君も中々博識じゃな」

ヒゲに褒められても嬉しくはないがな。

「つまり、俺たちが協力を拒むことは出来ないってことか」

「もちろん君たちではなく、ちゃんとした調査団を組織してもらっても構わないんだがね。しかしあそこへ行くなら、ついでに下調べをしてきてもらえると助かると思ってね」

「ついでって、何をすりゃあ良いんだよ?」

ヒゲの言葉にゼノスが疑問をぶつけた。

「うむ…実は水晶鉱山で困ったことが起こっていてな……鉱山から採れる魔水晶を横流ししている連中がいるみたいなんじゃ」

「横流し……ですか?」

カレンは今一ピンと来ないみたいだが……。
俺に言わせれば、よく言うぜこのヒゲ!って感じだ。





[7317] 第55話―水晶鉱山潜入……クリアノ草?いらないだろ?―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 21:36


魔水晶……精神力の代替品など、魔法を使う上で非常に有効な物だ。
魔道具の製造にも多く使われ、俺もお世話になったことがある。
もっとも、水晶鉱山産の魔水晶は学院の管理下にある為、最近では魔水晶はあまり使わないけどな。

ヒゲいわく、魔水晶が悪用されることは防がねばならんらしい。
……黒幕が言う台詞じゃねーな。

「まずは横流しが事実であるかどうか調べて欲しいのじゃよ。そして必要であれば、正式に軍隊を派遣してもらい、犯人を捕らえてもらいたい…どうじゃ?ついで仕事に、引き受けてもらえんだろうか?」

「分かった、任せてくれ」

カーマインは素直に引き受けた様だ……まぁ、現段階ではウォレスですら気付いていないんだしな……仕方ないか。

俺達はヒゲから水晶鉱山立入許可証を入手し、学院を後にする。

「さて、じゃあ行きますか」

「そうだね」

俺の言葉にラルフが頷く。
他の皆は首を傾げている。

「言わなかったか?俺とラルフは水晶鉱山を見に行ったことがあるって」

「あっ…そういえば」

「てなワケだ…行くぞ?」

ミーシャが何か思い出した中、俺はテレポートを唱える……あっという間に鉱山街ヴァルミエに到着。

「……けどさ〜、これなら通行許可証はいらなかったんじゃない?」

「まぁ、そうなるな」

俺はティピの質問にサラっと答える。
全くもってその通りだな。

「懐かしいな……」

「ウォレスさんは、水晶鉱山の警備をしていたんですよね?」

ヴァルミエの町並みを見て、懐かしんでるウォレスにカレンが尋ねる。

「もう20年も前のことだ……あの日、俺と隊長は非番でこの街にいた。だが鉱山の方が騒がしかったんで、急いで駆け付けてみると、化け物が部下を皆殺しにしていたんだ……隊長はその化け物を追い、それっきり帰ってこなかった」

それを聞いて、皆がシーンとなってしまう……こういう時にどう声を掛けたら良いか分からないからだ。

「…さて、それじゃ目的を果たしに行くとするか」

「だな」

ウォレスがそう言ってくれたので、俺達もそれに便乗する形になった。
警備兵に立入許可証を提示、水晶鉱山に通してもらった。

んで、間近で水晶鉱山を拝んだ訳なんだが……。

「……凄いね……」

「だな……」

俺達は一瞬、呆然となってしまった。
その威容は、近くで見ると想像以上だった。

「この山、全てが水晶なんだな……」

「何と言うか、ただただ圧倒されてしまいます……」

カーマインやカレンも感動や驚きが隠せない様だ。
それは皆同じなんだが、例外が二人いた。
一人はここの警備をしていたウォレス、もう一人はゼノスだ。
何でも、数年前に水晶鉱山の警備の仕事もしたことがあるとか。

「見慣れちまうと、そういう感動も湧かねぇのさ」

そりゃそうだろうが……と、何時までも見てるだけではな。
お仕事お仕事っと。

俺達はまず、頂上にある採掘場に顔を出し、作業員達に話しを聞く。
情報を整理すると、やはり旧坑道が怪しいという話になり、下にある旧坑道に向かうことに。

で、旧坑道なんだが。

「ここは20年前から閉鎖されている。俺達が見ているから大丈夫だ」

「調査なら上でやるんだな。さあ、帰れ、帰れ!」

案の定追い返されてしまった。

「何よ、あの態度!」

ティピが憤慨する……気持ちは解るがな。
とりあえず俺達は連中の目が届かない位置まで戻る。

「怪しいな…こっちを見るなり追い払いやがった……」

「怪しいよね〜!」

ウォレスの言葉に相槌をするミーシャ。

「どうする?力付くで押し通るか?」

「落ち着いてよ兄さん……」

「確かに大義名分があるので、力押しでも通れるかも知れませんが……」

物騒なことを言うゼノスを諌めるカレンとラルフ。
俺としてはゼノスと同じ気持ちなんだが、ラルフの言う様に無理に押し通ることも可能だが……。

とは言え、この場に置いては幾つか手段はある。
そもそも、国や学院から派遣された形になる俺達を、一介の警備兵が退けることは出来ない筈なのだ。
この辺は原作をやっていても思ったことなんだが……。

「俺に任せてくれないか?何とかしてみせるぜ?」

なので俺は提案する。
手段は色々ある……力付く以外の方法もな。
まぁ、それもこれもカーマイン次第だが。

「……分かった。シオンに任せる」

「了解♪任された!」

おっしゃ!これでパワーストーンフラグも折れる!
……まぁ、クリアノ草を取りに行く場合の対策もしてあったけどな。
透明薬を作りたがってる教授には大変申し訳ないが……後でどうにかクリアノ草を手に入れて――進呈しますんで、勘弁して下さいねっと♪

俺達は再び警備兵達の前へ……皆には俺の後ろに下がる様に指示しておく。

「何だまたお前達か……何度来ても無駄だ!」

「いい加減にしないと力付くで……」

「ほう……力付くか。面白い…やってみるが良い……やれるものならば、な」

ブワッ!!

「ヒッ!?」

「ぐげっ!?」

ドササッ!

警備兵もどき達は倒れ伏せた……気絶しているのだ。
俺が何をしたのかというと……メンチビーム、というか殺気を叩き着けただけ…気当たりという奴だな。
俺の殺気は、相手に原初の恐怖を思い出させる……この程度の奴らを気絶させるくらい、どうということはない。
ちなみに、他にも真っ当に交渉する、山吹色の菓子を握らせる等の手法もあったが、これが手っ取り早いしな。
ん?手は出してないんだから問題無いでしょ?

後はこの二人を縛り上げて……と。
ちなみにこのロープ、俺が作った魔道具の一つでその名を『緊縛くん1号』という。
捻りもセンスも無いネーミングだが、その性能は折り紙付きで、相手が暴れれば適度に締め上げるという代物だ。
その性能上、捕縛目的以外にもアブノーマルなプレイをする方々にも好評である。

これは商標登録をしてあり、一束100エルムで販売中でございます。

「さて……んじゃ行くか……て、カレンは何してるんだ?」

後ろを向くと、カレンは何故か顔赤くしながら、いやんいやん♪みたいに顔を振っていた。

俺は気になったので皆に聞いたが、皆は首を傾げるだけだ……要するに分からないと。

とりあえずカレンを正気に戻した後、坑内に入ることにした。

「さて、この中に幽霊が出るという話だが……」

「……やっぱりやめにしない?」

ウォレスの言葉に尻込みするルイセ……そういや幽霊とか苦手だったよな。

「どうしたの、ルイセちゃん?ひょっとして、幽霊、怖い?」

「やっぱり怖いよぉ〜……だって、死んでる人でしょ?それなのに、出てくるなんて……うぅ……」

あ、ルイセ泣きそうだ。

「バカ言うな。この世の中に幽霊なんているはずねぇだろ?お前もそう思うよな?」

「いや、俺は会ったことがあるんだが……」

「そうよね、直接会っちゃったもんね」

しかしカーマインとティピは、幽霊に会ったことがあるという……多分シエラさんのことだろうな。

「え〜っ、やぁだぁ〜……本当なのお兄ちゃん!?」

「ああ」

「本当だもん♪」

「カーマインお兄さまって凄〜い!」

「そういう問題か…?」

「やはり、無念が強すぎて、さ迷っているのでしょうか……」

上からルイセ、カーマイン、ティピ、ミーシャ、ゼノス、カレンだ。
カレンも少し震えてる所を見ると、少しは怖いみたいだ……あ、ルイセがマジ泣きしそうだ。

「心配しなくても、今この場所にその手の類の気配はねぇよ」

「そういえば、シオンは『見える人』だって言ってたっけ?」

ラルフがそう言う……昔に言ったことをよく覚えてたな?

「…ほ、本当に?」

「こんなことで嘘をついてもしょうがねぇだろ?」

そう言って笑い掛けてやると、ルイセとカレンの震えは止まった……カレンは顔を赤くしているが。

「ま、もっとも……奥からは違う気配を感じるがな」

「確かに……これは人の気配だね」

俺とラルフは奥から人の気が感じられたので、それを伝える。

「怪しいな……調べてみよう」

「ねぇ、天井が崩れたりしないよね〜……一度崩れてるんでしょ?生き埋めになったりしないよね〜……?」

ウォレスが調べてみようと言うが、ミーシャが不安そうに天井を指し示す。

「ティピ、頼めるか?」

「うん、任せて♪」

俺はティピに頼んで天井の状態を調べてもらうことにした。

「え〜と……うん!結構しっかりしてるわね。全然崩れそうな心配はないよ」

「普通の鉱山と違って、この山全体が1個の水晶だからな。そう簡単に、崩れることはねぇさ」

俺達は周囲に気を配りながら進んで行く……。
すると、水晶が崩れた跡の様な場所を発見する。

「調査団が遭った崩落事故の現場じゃねぇか?」

「にしては綺麗さっぱり片付いてるのは妙じゃねぇか?」

「とにかく、先に進もう……そうすれば答えも分かるだろ」

ウォレスの言い分にゼノスが疑問を浮かべるが、進めば分かると言うカーマイン。
そして俺達は奥に進んで行った……したら案の定いやがったよ。

「さっさと詰め込むんだ!人目がないうちに外へ運び出すぞ」

「ああ、だがそろそろ国やらなんやらが不審がりそうだよな……調査団なんか派遣されたら面倒だぜ?」

「確かにな……いい加減控えた方がいいかも知れん。グレンガルのダンナは、もう買ってくれないみたいだしな」

グレンガル……遂にその名を聞くことになったか。

「やっぱり、こういうことか」

「予想通り過ぎて、呆れちまうがな」

「誰だ!」

ウォレスとゼノスの声に反応する盗掘者達。
ま、気付くのが遅かったな。

「貴様らに名乗る名前は無い!と、言いたいが、国と学院から派遣された調査員なんだな……コレが」

「アンタたちの悪事、しっかりと押さえたわよ!」

「大人しく捕まるなら危害は加えない……諦めて投降しろ」

俺とティピとカーマインが宣告する。

「くっ……見張りは何をしていた!?」

「今頃は夢でも見てるんじゃないかな?多分、悪夢だろうけどね」

ラルフが補足してやる……確かに良い夢は見ていないだろうな。

「さぁ、観念するんだな!」

「ええい!ここまできて捕まってたまるか!」

「アタシ達から逃げられると思ってんの!?」

結論から言うと、全員捕縛することが出来た。
とりあえずメンチビーム発動!
気絶したのは無視、気絶せずに怯んだ奴には、その隙に死なない程度にフルボッコ。
今回、犯人を捕らえるのも仕事の一つだ!と、皆を説得して。
殺しちまったら、ヒゲの思惑通りになっちまうからな。
俺は拳で、ルイセ、カレン、ミーシャは魔法で、カーマイン達はそれぞれの得物を使って。

ちなみにここでも『緊縛君1号』が役に立ちました。

「ねぇねぇ、あそこも水晶の破片が山になってるよ!」

「行ってみようよ」

俺達は更に奥に向かう。

「水晶が崩れた跡みたい…ここでも崩落事故があったのかな?」

「う〜ん……そう簡単には、壊れそうもないんだけどなぁ……」

「ここの水晶も、あの人たちが運び出していたみたいですね……途中まできれいに片付けられてますから……」

ルイセとティピは首を傾げ、カレンは状況を告げた。

「まだ奥に続いてるみたいだな…崩せば通れそうだ」

「ちょっとどいてろ」

カーマインがそう言うと、ウォレスが前に出て左手に気を溜め始めた。

って――『気』だと?




[7317] 第56話―ウォレスの拳と巨人の人型―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 21:47


「ぬおりゃあ!!!」

ズドドドド!!

ドゴーーン………。

気の溜まった拳を水晶の山に叩き付けるウォレス……そこには見事なまでの道が出来ていた。
つ〜か、あれ、一種の気合い砲だよな?
黄色い気の奔流が見えたぞ?
あれだ。
イメージ的にはネ○まのトリプルTさんが使う、豪殺な拳の居合じゃないバージョンとでも言えば分かりやすいか?

「わぁ、ウォレスさん、すご〜い!」

「コレだけの技……実戦で使わないのは何でだ?」

素直に褒めたたえるミーシャと、疑問を感じるカーマイン。

「威力はあるが、溜めが長すぎてな……実戦じゃ使えんさ」

いやいやいやいや、それ魔法と大差無いから後方支援に徹すれば、下手な大砲以上に厄介ですよ?
つ〜か、あの気の乱れ方からして、我流かそれに近いのか?

「ウォレスさん、どこで気を扱う方法を習得したんです?」

「ん?コレは気というのか?団長を探して旅をしてる時に習得したんだが……技自体は旅の拳法家に教わった物だ。ただ、この力の流れみたいな物を感じられる様になったのは、眼と利き腕が無くなってからだが」

ラルフの質問にウォレスが答える。
ウォレスが言うには、技自体は正拳突きの様な基礎の様な物らしいんだが、眼が見えなくなってからも、訓練自体は続けていたらしく、自身の気の流れに気付いた時に、拳にそれを上乗せしたらどうなるか?
試したらああなったと………。

やっぱり我流かよ……いかんせん気の集め方に無駄が多く、時間は掛かるが……気の効率的な運用法を学べば……化けるぞ?

「とにかく、これで先に進めるな……」

俺達は先に進むことにする……ルイセが先に進むのを渋っていたが……結局ビクビクしながらも着いて来た。

先に進むこと数分……。

「水晶鉱山の規模と進んだ距離から考えて、ここら辺がちょうど中心だな」

「さすが!昔ここの警備をしていただけのことはあるね?」

「改めて言われると、自分の歳を実感するぜ……」

ティピ的には誉めたつもりなんだろうが、ウォレスは自分の歳を実感させられ、哀愁が漂う……しかしまだ36だろ?
十分に若いって。

「何コレ?人型に水晶がへこんでるよ?」

「こんなに大きいんじゃ、巨人だね」

ティピが見つけた人型の凹み……ミーシャの言う通り巨人だな。
分かりやすく言うなら人間と標準サイズのMSくらい大きさが違う……成程、ゲヴェルが封印されてた場所か……。

「カーマイン……これは……」

「ああ、夢で見たのよりデカイが……あの怪物の形に似ている」

ラルフとカーマインが互いに頷き合っている。

「間違いないな。20年前、奴はここから出て来た。そして鉱夫や俺の部下たちを惨殺したんだ」

「どうしてここに居たんだろう?それともここで生まれたのかな?」

「伝承では、ゲヴェルはグローシアン達によって倒されたとされている……案外、倒したんじゃなく、封印されていただけかもな」

ミーシャの疑問に、俺は真実を仄めかしながら話す……もっとも、断定する様な言い方をしてないから分からないだろうが。

「それは今のところ、何とも言えんな。だが、水晶鉱山から奴が出て来たことだけは間違いねぇ」

「ひょっとして、ここみたいな水晶鉱山が他にもあるのかな?そんで、その中にも怪物がいるとか……」

「それは分からないな……だが仮にそうだとしたら、水晶鉱山を見つけても迂闊に掘るのは危険だ……」

ウォレスの言い分に、おっかなびっくりなルイセ……その言葉に、水晶鉱山採掘の危険性を述べるカーマイン。

「それでは、早く知らせないと……」

「ああ……まずは国王へ報告にいこうぜ」

カレンは、焦りを浮かべ、ゼノスが俺達を促す。
こうして、俺達はローランディアに戻ることにした。
あ、捕らえた盗掘者や警備兵もどきは、街の自警団に纏めて簀巻きにして渡しておきました。

『私達は魔水晶を横流ししていました』

という看板を首に下げさせてな。

***********

で、ローランディア城謁見の間。

「おお、戻ってきたか。では、報告を聞こうかな?」

「水晶鉱山の旧坑道の奥に、怪物が出没したと思しき場所がありました」

「なんだとっ!?」

ウォレスの報告に眼の色を変える王様……まさかそこまで具体的な報告を聞けるとは思わなかったんだろうな。

「そして、もし怪物が水晶の内部から出現したとなると、今後水晶鉱山が見つかったとき、同じく内部に怪物が潜んでいる可能性があります」

「もし水晶鉱山を新たに発見しても、むやみに採掘するのは危険と判断します」

「う、うむ……」

ルイセとゼノスの発言に、言葉が詰まってしまうアルカディウス王……仕方の無い話ではあるよな……まさか水晶鉱山の採掘が、そんな危険なこととは思っていなかったんだろうから。

「いずれも憶測の域を出ません……直ぐにでも、調査団を派遣するべきかと」

「わかった。サンドラ、さっそくその手配を」

「はい。調査団については、私の方から魔法学院に連絡しておきましょう」

カーマインの発言に頷く王様。
サンドラ様も調査団について魔法学院に連絡するという……どうせヒゲが何かしら工作を働くのだろうが……。

「頼むぞ、サンドラ。お前たちもよく調べてくれた…次の任務は姫を迎えに行くことだが、しばし時間がある。それまでは休暇とする」

姫を迎えに行く……か。
まず間違いなく戦争は起こる……やり切れないな。

あ、今回与えられた休暇は3日だ。
最初に行く休暇先は……。

******

休暇一日目・王都ローザリア

さて、今回も城門前で分かれた俺達。
今回は何をするか……流石に、そう都合よく……この間みたいに、サンドラ様が来たりはしないしな……。

「しゃあない……訓練でもしますか」

俺はとりあえず人気の無い所に行こうとすると……。

「ん?あれはカーマインとラルフか?」

何やら話し込んでるみたいだな?

「よ、何してるんだ二人とも?」

俺は二人に声を掛ける。
二人はこっちを向き……。

「やあ、シオン」

「…どうかしたのか?」

上からカーマイン、ラルフだ……って、何?

「ふふふ……どうやらまた引っ掛かったみたいだね」

「……案外いけるもんだな」

「ちょ、おま……ハァ!?」

俺はきっとΣ(゚Д゚;)←こんな顔をしていただろう。
だってカーマインがラルフでラルフがカーマインだよ!?
何を言ってるのか分からないだろう?
俺も分からない!

「で、どういうことなんだ?」

「うん、ほら、僕達って双子だろ?だから服を変えてみたんだよ……誰が最初に気付くかな?ってさ」

そうカーマインの服を着たラルフが言う。

「そしたら、思いの外気付かれなくてな……ティピ、ルイセ、ゼノス、カレン、ミーシャ……そしてシオンも気付かなかった」

と、ラルフの服を着たカーマインが言う。
そりゃ無理だろ?
気の質も似通ってるし、見た目同じだし。
いや、細かく気を探ればラルフの方が気が大きいのは理解出来るんだけどな……普段は抑えてるから分かりにくいんだよ。

身長の差?

そんなもん微々たるものだぞ?
まぁ、眼で見て判断したからこそだろうが……。

「多分、ウォレスには気付かれると思うぞ?」

「……そこが難題だな」

「いっそのこと、お互いを演じてみるのはどうだろう?」

俺の言葉に考え込むカーマイン……しかし新たな提案をするラルフ。

「面白いな……やってみるか」

そうして二人はウォレスの所へ向かって行った。
なんつーか楽しそうだねぇ……と、そういやティピがいなかったな……何処に行ったんだろうか……ちょっと探してみるか。

探してみると、ティピは直ぐに見つかった……どうも商店街をウロウロしていたらしい。

「何してるんだティピ?」

「あ、シオンさん!丁度良かった♪コレ買って♪」

ティピが指し示すのは、どうやらクレープの様だ。

「本当はアイツに買ってもらおうかと思ったんだけど……アイツとラルフさん入れ代わってあちこちに行っててさぁ……アタシもルイセちゃんも驚いちゃったよ」

まぁ、見た目変わらないしな……性格こそ違うがな。

「まぁ、たまには弾けるのもいいさ。それで、どれが欲しいんだ?」

「やった♪えっとね、えっとね……コレ♪」

それはチョコバナナクレープ……ある種の王道だな。

「分かった……すいません、それを二つ下さい」

「かしこまりました♪少々お待ち下さい」

いや、見てたら俺も腹減って来てさ!
甘い物も嫌いじゃないからな……俺は。
俺はクレープを持って広場に行き、適当な所に胡座をかいて腰掛ける。

「ほら、ここに座れよ」

俺はティピに俺の膝の片方を指し示す。

「えぇ!?でもその……良いの?」

「床だと冷たいだろ?肩というのも有りだが、そうするとクレープが持てないだろ?」

ティピの身体じゃ、クレープ持ったまま飛行とか出来ないだろうからな。
何しろクレープとは同じ大きさの身体……いや、少しクレープの方が大きい。

「それじゃ、お邪魔しま〜す……」

ちょこん、と右膝に座ったティピにクレープを差し出す、とは言え食べづらいだろうから、右手で持ってティピの視線に合わせる様に持ってくる。

「わ〜〜♪いっただきま〜すっ♪」

すると、凄い勢いで食べ始める……あまり急ぐと喉に詰まるぞ?

そう思いながら、俺もクレープを食べ始める……うん、クレープの香ばしい香り、チョコと生クリームの甘さ、バナナの甘酸っぱさ……良い具合にハーモニーを奏でている。
つまり美味いってことだ。
それからしばらくして、俺達は食べ終わったのだが……決して食べるスピードが遅くない俺と、同じ早さで完食したティピはマジパネェと思う。

「ふぅ〜〜、ごちそうさま〜〜♪凄く美味しかったよ♪ありがとう、シオンさん♪」

「どう致しまして……あ」

俺はティピの顔を紙ナプキンで拭ってやる……クリームとかがべったりだったからだ。

「わぷっ!?」

「慌てて食べるからだぞ?ほら、取れた」

うむ、キレイキレイ♪

「あ、ありがとう……けどさ?こういう時は普通指かなんかで拭って、そのクリームをパクッ♪てのがお約束じゃない?」

少し照れながらも茶化してくるティピ。

「なんだ、やって欲しかったのか?」

「そそ、そんな訳無いじゃない!?ただ、アタシはカレンさんやマスターがそんなことされたら、喜ぶかな〜?とか思っただけで……それに、アタシこんなだから、そんなことしてもシオンさん面白くないでしょ?」

カレンやサンドラ様を引き合いに出す理由……分からないとは言わない。
分からないと言いたいが……あと、こんなってのは身体のことか?
性格のことか?
だとしたら、ティピは勘違いしてるな。

「ティピは十分可愛いだろ?元気一杯だしな。その性格もむしろプラスだぞ?」

「え……あ……ぅ……い、嫌だなぁシオンさんってば、からかったりしてぇ♪あ、そろそろ集合時間だよ?アタシ先に行くから!!」

顔を茹蛸みたいに真っ赤にしながら、ティピはかっ飛んで行った……むぅ、なんか地雷を踏んじまったか?
しかし、本当のことを言っただけだしなぁ……。

で、夕方になったので集合場所へ……そして城に次の休暇先を申請し、カーマイン宅へ戻った。
余談だがカーマイン達の変装?はウォレスにもバレなかったそうだ…どんだけ〜?

翌日。次の休暇先に向かう…その場所は。

******

休暇二日目・魔法学院




[7317] 第57話―休暇と秘書と心のしこり―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 21:56


さて、魔法学院に来たワケなんだが……何をするか。
既に解散した後で、今は俺一人。
正直あんまりやること無いよな?

む〜〜……アリオストとでも話してくるかな?
研究者としての観点からの意見交換とか、結構有意義だしな……それとも折角だから図書室で読書でも勤しむか………とか、考えてるうちに学院内に入って来ていた俺。

「そうだな……ここまで来たら……ん?あれは……」

目の前を行くのは、あのクソヒゲの秘書さん……あの金髪セミロングは間違いない。
今回は赤いピアスでは無く、紫掛かった宝石のピアスだ……多分アメジストか何かだな。
しかも何やら書類を大量にお持ちのご様子。

足取りは危なげないが、体が少しふらついている……というか、あの量では前が見えないだろうに。
まぁ、ミーシャの様にドジっ娘属性は無いだろうから、床にぶちまけたりはしないだろうが……見ちまったモンは仕方ないか。

「すいません」

「?はい、何でしょうか?」

うぉ、普通に振り向いて平然と返事したよ……しかし、体が……特に腕が震えてるのが何とも。

「見てて大変そうだったんで……宜しければ手伝いましょうか?」

「いえ、結構です」

即答!?
無表情でそう言われると、意外にショックなんだが。

「しかし、随分と腕が辛そうですけど?」

「問題ありません」

問題ないって……めがっさプルプルしてるやん!
ヤバイ……この人、意外に面白い……。
表情を崩さずに言い、腕がプルプルしてるから……中々にシュールな笑いが……。
……よく考えたら、原作ではこの人、ナイフを使ってたからな……力はあんまり無いのかも知れないな。

俺は無言でその書類の束を引ったくる。

「なんのつもりですか?」

「見てて危なっかしいんで、手伝いますって」

「問題ないと言った筈ですが?」

ったく……ああ言えばこう言う……。
ま、屁理屈と言うワケでも無いから良いがね。

「あのな……こういう時、人の親切は素直に受けとくもんだぜ?」

「……そういう物ですか?」

「そういう物です。ま、大きなお世話と言う場合もあるが」

「どっちなのですか?」

相変わらず無表情だが、少々の感情の変化が感じられる……これは困惑……か?

「この場合は好意に素直に甘えて欲しいかな?とりあえず、アンタを見付けた以上は知らんぷりは出来ないからさ」

「……分かりました。それではよろしくお願いします」

丁寧にお辞儀をしてきた……また、その角度も完璧だ。
何が完璧と言われると困るが。

「それは良いから、この資料は何処に運べば良いんです?」

「では、学院長室までお願いします」

「了解、では行きますか」

俺達はエレベーターに乗り、七階の学院長室に向かう。
そして、学院長室のドアを開けてもらい、机に資料を置く。

「ありがとうございました」

「いや、これくらいは良いって、それよりヒ……学院長は?」

アブネー……危うくヒゲって言っちまいそうになった……俺自重。

「学院長なら、水晶鉱山へ調査団を編成し、調査に向かっています」

「ああ……そういやぁ……」

成程、それが今日なわけな?
あのヒゲが小細工する場面だな?

「さて、んじゃ、俺はそろそろ行くわ」

あんまり長居していては、迷惑だろう。
俺はそう告げた。

「一つ宜しいですか?何故貴方は、こんなことをしたのですか?」

理解出来ません。
と言う様に首を傾げる秘書さん……むぅ……もしかして秘書さんの感情が希薄なのは、ヒゲが最低限の教育しかしてないせいかも知れん……。
だとしたらあのヒゲは、問答無用でクソヒゲだな。

「そんなもん、人として当然のことだろ?」

「そういうものでしょうか?」

「そういうもの!まぁ、単に俺が放っておけなかっただけ――なんだけどな!」

そう言って、俺はニッ!と、アルティメットスマイルを浮かべる。
俺にとっての最高の笑顔だ。

「そうですか……」

ガクッ!
は、反応が薄〜〜……しかし、それは分かり辛いだけで、僅かながらも感情が感じ取れた。
これは、感謝か?
若干、困惑しているみたいだが……。

俺は秘書さんに別れを告げ、学院長室を後にした……結構、有意義な時間だったな。
そういや……秘書さんの名前って何なんだろうな?
何となく気になりながらも、俺はまだ時間があったので、当初の予定通りアリオストの研究室に顔を出す。

「やぁ、いらっしゃい。今日はどうしたんだい?」

「何、カーマイン達が休暇を貰ってね……その随伴で、休暇を楽しんでいる所でありますよ」

俺はカーマイン、ルイセ、ウォレス、ゼノスがローランディア王国に仕官したこと。
俺とラルフ、カレンとミーシャは協力者として、力を貸していることを話した。

「そうか……みんな頑張ってるんだな……」

「そういうアリオストはどうなんだ?何かしらの成果はあったのか?」

自分なりのやり方で、フェザリアンを認めさせる……とはアリオストの談。

「まだこれと言った成果はないよ……けど、まだ始まったばかりだからね!諦めるつもりはないよ!」

「そうか……まぁ、愛しのミーシャ君と離れることを選んでも、頑張ってるんだからな、必ず実るさ!」

ブハァッ!!

あ、アリオストが吹いた。

「な、なななな何を言ってるんだい君は!?」

「いや、温泉の件でバレバレだから……それに今の反応を見ても明らかだし」

吃った上に声が裏返ってるからな……非常に分かりやすい。

「……うぅ……」

「しかし大変だとは思うぞ?ミーシャはカーマインとラルフにゾッコンだからな?もっとも、二人がどう思ってるかは分からないから、一度腹を割って話すことをお勧めするぜ」

「あぁ…考えておくよ……けど、今はまずフェザリアンだ。君との約束だしね」

むぅ……色恋沙汰より男の約束を選んだか……存外熱い奴なんだなアリオストは。

それからしばらく魔道具に関して、更にはフェザリアンの思考について語り合った。

「と、そろそろ集合時間か……んじゃ、今日はそろそろ帰るわ」

「そうか、それじゃまた今度」

俺はアリオストに帰りを告げ、そのまま集合場所に向かった。

全員が揃ったので、ローザリアに戻る。
そして、次の休暇先を申請してから家へ……ナチュラルにカーマイン宅を家とか言ってるが、気にしない様に。

食事時にティピから、ミーシャがいかにボケてるかを聞かされる。
ああ、そんなイベントもあったなぁ……とか考えてると、ミーシャも言い訳をしてくる。
ミーシャいわく、アリオストの研究室前で寝てたのは、俺とアリオストが難しい話をしていたからだとか……つまり、魔道具やフェザリアンについて語っていた時か。
全く、タイミングが良かったのか悪かったのか……。

そして就寝……んでもって翌日。

*******

休暇三日目・観光地コムスプリングス

ズバッと参上!
という感じで、瞬時にコムスプリングスに到着。
本当、テレポートって便利だわぁ。

「俺は、温泉にでも入ってるぜ」

そう言ったウォレスを先頭に、皆それぞれに散って行く……俺はどうするかな?
折角コムスプリングスに来たんだ……ウォレスみたいに温泉に入るかな?
しかし、温泉と聞くと………だああぁぁぁ!!?思い返すなって!!

しかし、カレンって着痩せするんだな……主に胸が……って!?何を考えてるんだ俺はあああぁぁぁ!!?

見た目は普通にしていたが、心の中ではツイストがハリケーンでトルネードサンダーと化していた……何を言ってるか分からないだろう。
俺も分からん!!

しかし……俺ってこんなに欲求不満野郎だったか……?
いや、カレンを始め、俺の周りには魅力的な女が多いのがいかん!
……どちらにしろ、俺にはそんな資格ないのにな。
まぁ、ここで思い出したことだが、俺は彼女いない歴=年齢では無かったこと……から考えても欲求不満になるのは仕方ないことだな……まぁ、オッサンも男なんだぞっと。

なんか温泉って気分でも無くなったので、流れる川をボーーッと眺めていた。
なんか、時折……女性が俺を見てきゃーきゃー言ってるのが聞こえる……まぁ、この顔ならな……アイドル並の甘いマスクって奴だからな。
俺はその状況に苦笑を浮かべたりしていると……。

「シオンさん、どうしたんですか?」

「カレン……」

何とカレンが話し掛けてきていた……って、何だってカレンが……イカン、また肌色が……くぅ!この絶対記憶能力が憎い!!
ちなみにこの台詞三回目!!

「いや、ただ川を眺めていただけ……カレンは?どうしたんだ?」

「私は……シオンさんを見つけたので……その……」

モジモジしてる……可愛いよな。
女性らしさと少女らしさを併せ持つ……とでも言うべきか?
見てると、めがっさ抱きしめたくなる。

「…………」

「?あ、あの……どうかしましたか?」

小首を傾げるその仕草も、愛らしい……何と言うか、サンドラ様やジュリアともまた違った魅力だよな……。
いっそのこと、抱きしめられたらどんなに楽か……しかし、そう考える度にアイツの最後を思い出す……俺にはそんなことをする資格はないと思い知らされる。

「なに、カレンは良い女だな……と、思ってさ」

「え………」

俺には勿体ないくらいのな……。

……………………ん?

……今、俺は何を口走った?

『カレンは良い女だな……と、思ってさ』

こんなことを口走らなかったか?

「あ、あああの……それって……」

カレンが物凄く真っ赤だ……うん、気のせいじゃなかったのか。

成程〜。

HAHAHA〜N♪

………マジか orz

何を言っちゃってるの俺!?
本音が!
本音が漏れてしまった!!
俺はミーシャじゃ無いっつーの!!

とは言え……本当のことだからなぁ……冗談と否定するのはなぁ……。

「……本当に、そう、思って……くれてるんですか……?」

「……あぁ、良い女だと思ってるよ……マジでさ」

「そ、そうですか……」

うわぁ……その笑顔は反則だって……そんな嬉しそうに笑顔向けられたら俺は……何をしようってんだ?

俺の脳裏にはあの時の記憶が蘇る……そう、俺には幸せになる資格も無ければ、誰かを幸せにすることも出来ない……俺なんかには……出来ない。

「……とにかく、前にも言ったけど、カレンは自分に自信を持つんだ。掛値なしの美人なんだからさ?」

俺はそう告げ、ニッ!とスマイルを送る。

「良いんですか……本当に自信持っちゃいますよ?」

「勿論!男なら誰もが放っておかないだろうさ」

だから俺は……鈍感であり続ける。
意識していることを匂わせない……。

「そんじゃ、俺は行くわ。またな、カレン!」

「ハイ!また後で」

カレンが俺に、好意を持ってくれていることも何と無く理解している……カレンだけじゃない。
ジュリアやサンドラ様だって……けど。

「……彼女達と接していると……自分の罪が赦されるんじゃないか……なんて考えちまうな……」

別荘街まで来た俺は、そんなことを口にした。
……そんなこと、それこそ――ご都合主義じゃねぇか……。
その日……俺は集合時間が来るまで、ただ青空を眺めているだけだった……。

ローランディアに戻って来た俺達は、休暇の終了を報告して帰宅……眠りに就いたのだった。

その翌日……物語は大方の予想通り、緊迫感を伴い進むこととなる……。




[7317] 第58話―戦争勃発…忠誠と救出と月夜の晩に……―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 22:38


「では次の任務にあたってもらう。前回姫を送り届けるまでの護衛を頼んだが、そろそろ戴冠式も終わる頃だ……今度は姫を無事連れ帰るまでの護衛を任せる」

謁見の間に来ていた俺達は、王から新たな任務を受け取る。

「それじゃ、またあっちまで行くんだ」

「砦で待機していれば、連絡がくる手筈になっている」

「承知しました。ところで陛下、水晶鉱山の件はどうなっているでしょうか?」

ウォレスとしては、ゲヴェルが鍵を握ると理解しているのだろう……俺の占いでも、ゲヴェルを匂わせることを言ったしな。

「それについては私から説明しましょう。あなた達の調査を聞いて、すぐに魔法学院へ連絡し、調査団を送ってもらいました。事態を重視したため、調査隊には学院長、副学院長らが自ら参加しました……ですが、調査隊が内部に侵入したとたん崩落が起こり、通路が完全に埋まってしまったのです」

「なっ!?」

ウォレスが驚愕の表情を浮かべる……が、俺はこの結果を半ば確信していたので、さしたる驚きは無い……原作と違ってクソヒゲがクソヒゲで無い可能性も期待しなかった訳じゃない……こういう時、二次創作だと腹黒な奴が実は良心的だったり…なんてのはよくあることだ……が、やはりクソヒゲ……いや、クズヒゲだったみたいだな。

「それで調査団は?」

「おじさまは無事なの?」

ルイセとミーシャは慌てて尋ねるが、まぁ無事だろう。
案の定、かすり傷を負った奴が数名いただけで、死者は出なかったとサンドラ様が説明した。
……あのクズヒゲはかすり傷すら負ってないんだろうな……。

「折角の証拠が……クッ!」

「確かに残念なことだ……だがまた次の手掛かりを探せるよう、こちらでも留意しておこう」

「ありがとうございます」

アルカディウス王の言葉に、礼を述べるウォレス。
とりあえず俺達は謁見の間を後にし、ラージン砦に向かうことにする。

テレポートでラージン砦に到着、開門してもらい中に入る。
ちなみに今回テレポートを使ったのはルイセだ。

「どうだ、そろそろこの仕事にも慣れたか?」

「はい、おかげさまで」

指令室にいたブロンソン将軍の問いに、そう答えたのはカーマイン。

「そうか、飲み込みが早いんだな……お前たちの仕事は、私たちと違って、色々な所へ赴かねばならん。そして自分たちで分析し、その場で判断し、必要ならば実行せねばならん。大変な仕事だ。頑張るのだぞ」

「はっ、ありがとうございます!」

ブロンソンの激励に勢いよく返事をしたのはゼノス。
この人も良い人だよなぁ……俺も前世?ではこういう上司に恵まれたかったぜ。

と、そこに一人の兵士が慌てて駆け込んでくる。

「た、た、大変です!」

「どうした!」

「せ、戦争です!!」

「何ぃ?」

「ですから、戦争です!バーンシュタイン王国が宣戦布告をしてきました!!」

「理由は!」

「何でも、戴冠式の最中に、グレッグ卿がリシャール王に斬り掛かったと……詳しくはここに書簡が……」

その書簡をブロンソン将軍が受け取り、目を通す……内容は分からないが、事の顛末が書かれているのだろう。
ブロンソン将軍の顔付きが一層厳しくなった。

「くっ!何と言う事だ!」

「我が国から式典に参加した者たちが、捕虜となっております。その中にはレティシア姫も……」

……やはり原作通りになっちまったか……俺がラルフを優先させた時点で、ある程度は予測が着いていたが……勿論、グレッグ卿の真実も知っている。
今頃、本物も偽物も処分されているだろう……胸糞悪い話だが……。

「すぐに密偵を送り、捕虜の収容先を調査しろ!」

「はっ!」

ブロンソン将軍の指示を受け、報告に来た兵士が指令室から足早に去って行く。

「我々は防戦の準備をしなければならない。すまぬが、この書簡を王の元へ届けてくれぬか?そして至急増援を頼む……この砦の兵力では、とてもバーンシュタイン王国軍を止められぬ」

「了解しました」

俺達は急ぎ、ローザリアに飛ぶ。

***********

そして再び謁見の間へ駆け込む。

「どうしたのだ?レティシアの姿が無いようだが?」

「それどころじゃないんだよぉ!!」

「こちらはラージン砦の司令官、ブロンソン将軍からの書簡でございます……」

暢気に問う王様に、喚き立てるティピ。
そこにカーマインがブロンソン将軍から預かった書簡を提示する。
文官がそれを受け取り、アルカディウス王に渡す。

「なに……」

書簡に目を通しているアルカディウス王の顔が驚愕に染まる。

「こ、これは!戦争だと!?」

「「!!?」」

王のその言葉に、脇に控えていたサンドラ様と文官も、驚愕を現わにする。

「そこに書いてあることが本当なら、そうなります」

「何と言うことだ……あのグレッグ卿が……信じられん……」

ゼノスの言葉が届いていないのか、王様は放心してしまっている……俺は本物のグレッグ卿を知らないが、ブロンソン将軍やアルカディウス王の言い分を聞いてると、いい人だったようだな……。

「国王、放心している暇はありません。すぐにバーンシュタイン王国が攻めてきそうな場所に兵を配しなければ、あっという間に攻め込まれてしまいます」

「う、そうだな……戦をするほどの兵を今から集めるには多少の時間が掛かる……とりあえず手持ちの兵を送るので、お前たちはその報告を砦に伝えてもらいたい……だが、それはついでの任務だ。お前たちは人質の救出を優先して欲しい」

ウォレスの言葉に、王様はやっと正気に戻り、俺達に指示を出す。

「人質の救出……恐れながら、人質の居場所は判明しているのでしょうか?」

ラルフが王に質問する……確かに人質の居場所が分からないことには動き様が無いからな。

「詳しい場所は砦のブロンソン将軍に聞くと良い。あの男は中々出来る。かならず人質の居場所を突き止めてくれるだろう」

「居場所が分かっても、それってバーンシュタイン王国内なんでしょ?どうやって中に入れば良いんだろ?」

「方法はお前達に任せる……こうなってしまった以上、戦いは避けられん。そしてもし増援が到着する前に、バーンシュタイン軍に動きがあれば、何としてでも阻止して欲しい」

ティピの疑問ももっともだがな……。
アルカディウス王は覚悟を決めた様だ……俺も覚悟を決める必要があるか。

「問題はバーンシュタイン王国内への侵入だけです。戻る時には、ルイセやシオンさんのテレポートを使えば良いでしょう」

サンドラ様の発言を聞き、俺は改めて発言する。

「恐れながら申し上げます……自分はバーンシュタイン出身です……ですので場所にもよりますが、侵入する際にもテレポートでの移動は可能です」

もっとも、ガルアオス監獄には行ったことは無いから、どのみち意味は無いんだが……作戦の幅は広がるだろう?

「そういえばそうだったな」

「つまり、俺たちが適任ということだな……」

ゼノスとカーマインが頷く…。

「確かにそれはありがたいが……本当に良いのか?そなたはバーンシュタインの生まれ、そしてかのインペリアル・ナイトの子息だ」

王が言いたいことは分かる……俺としても、迷いが無いわけじゃない。
だが……。

「確かに、私はバーンシュタイン国民……そして元ではありますが、インペリアル・ナイトの息子でもあります。ですが、かように不当な宣戦布告に賛同し、仲間を切り捨てる程性根は腐ってはおりません」

そう……俺はコイツらを見捨てられない。
俺にとっては大切な仲間だ……。
それに例え母国に反旗を翻そうと、真実を知る以上、着くべき方に着くだけだ。

「不当……とは、どういうことでしょう?」

「考えてもみてください……リシャール新王は、大陸に勇名を轟かせるインペリアル・ナイト……その頂点に立つナイト・マスターです。私はグレッグ卿がどの様な人物かは知りませんが、その様な人物に切り掛かる様な、蛮勇な方なのでしょうか?」

サンドラ様の問いに、俺は疑問を口にする。
この場で言っても仕方ないことかも知れない……だが。

「いや、グレッグ卿は例えリシャール王で無くとも、切り掛かる様な者では無い……温厚で争いなど望まぬ者だ」

王の意見でグレッグ卿がどんな人間か分かった……益々、歯痒い思いが込み上げてくる。

「この戦は一見、正当性はバーンシュタインにある様に見えますが、そのグレッグ卿の変貌ぶりから考えて、恐らくバーンシュタインは偽のグレッグ卿を仕立て上げたたのでしょう……戦争を起こす為に」

周囲が騒然となる……。

「それではそなたは、バーンシュタインが戦争を望んでいるというのか!なんの為に!」

「そこまでは何とも……全ては憶測の域の話……ですが、胸の奥には留めておいて下さい」

俺がそう言うと、周りが静かになる。
王は俺の話を憶測と思いながらも、グレッグ卿のことを考えれば、納得出来てしまう……そんな感じだろう。

「もし、この憶測が真実ならば……私の言った意味、ご理解戴けたでしょうか?」

「……分かった、その方の言い分を信じよう。改めて協力を頼む」

王と視線があった……お互いに頷き、俺は了解の意を示す。
この状況で隷属を迫らない辺り、アルカディウス王は本当にお人よしなんだろう……だが、だからこそ、その信用に答えねばなるまいよ。

俺達は一先ずラージン砦にテレポートする。
そして早速ブロンソン将軍に報告をした。

「援軍はどうなっている?」

「今集まる兵は送るけど、戦争が出来るほどの兵を収集するには時間が掛かるって言ってました」

ルイセは申し訳なさそうに説明する。
それに、仕方ないと言って納得を示す将軍。

「それと、援軍が来るまでは何としてもバーンシュタイン王国軍を防ぐ様にとのことです」

「アタシ達は人質の救出任務を受けたんだけど……」

カーマインとティピがそれぞれ報告する。

「密偵からの第一報で、人質が近々護送されるという情報が入ったが……姫の護送先や日時を特定するには至っておらん」

「そう直ぐには分からんか……」

「それじゃあ、シオンに活躍してもらうことも出来ねぇな……」

ゼノスはそう言うが、どのみち俺にも無理だな……新型アレンジテレポートが完成すれば話は別だが……。

「だが当面の問題は別にある」

「どうしたのですか?」

ブロンソン将軍の言葉に、カレンが問い掛ける。

「実は東の平原を越えたところに、峡谷がある。だがその峡谷にバーンシュタイン王国軍が吊橋を造り始めたのだ」

「吊橋?」

「成程な……最短距離を抜けようって腹か」

将軍の話に疑問を浮かべるミーシャ。
俺は原作を知り、尚且つ父上に兵法を叩き込まれている……なので、敵の狙いは読める。

「どういうこと?」

「本来、バーンシュタイン側から兵を進めるには、峡谷を迂回して、南の森を通過する必要がある……しかしバーンシュタイン軍は峡谷に橋を架けて、最短距離で進める進軍経路を造ろうとしてるってわけだ」

俺は疑問を尋ねて来たティピに、分かりやすく説明してやる。

「その通りだ……そうすれば迂回ルートより、一週間は早くこの砦に着けるからな」

「こっちの援軍が来る前に、包囲しちまおうって腹か……連中、本気だな」

俺の説明に補足を入れるブロンソン将軍と、バーンシュタイン軍が本気で潰しに掛かって来ているのを悟るウォレス。

「防衛が突破された場合に備え、我々もすぐに軍備をしなければならない。すまないが、協力は出来ない…」

申し訳なさそうに言うブロンソン将軍……なんだか、こっちが申し訳ない気持ちになってくるな。

**********

「それで、どうするの?」

指令室を出た後、ティピはそう聞いてくる。

「まだ吊橋は製作してる最中だ……ならば、それを破壊すれば幾らか時間を稼げるだろ……」

「えっ、壊しちゃうんですか?奪うんじゃなくて?」

カーマインの提案にミーシャは疑問を浮かべる。

「いや、カーマインの案は悪くない。もし奪おうとすれば、向こうも吊橋を奪い返そうと兵を配置してくるだろうからな」

ウォレスはそう言うが、この面子なら橋を奪えそうにオッサンは思えてしまうワケだよ。

「足止めという意味では最適だな……吊橋が落とされれば、連中は橋を迂回せざるを得ない……今から橋を作り直すよりはその方が断然早いからな」

ゼノスの言う通り、時間を稼ぐという意味ではそれが最適だ。

「じゃあ、その方針で行こうぜ」

「だが、本当に良いのか?」

俺がその提案に乗っかると、ウォレスが尋ねてくる。

「何がだ?」

「シオン……お前とラルフはバーンシュタイン国民だ……つまり、同朋と戦うことになる。揚句にシオンは貴族の……インペリアル・ナイトの家の出だ……お前達は良くても家族が……」

まぁ、言いたいことは分かる。

「僕の場合、家の名前は吹聴してないし、僕自身の名前もたいして広まってないから……けど」

確かに、ラルフの場合……『漆黒の旋風』ラルフとしては勇名を馳せたが、ラルフ・ハウエルとして名を広めたワケじゃない。
国内でも、ラルフが有名だったのはハウエル家があった王都だけで、他ではハウエル家の名は有名だが、そこの息子に関してはそれ程じゃなかった。
しかも、その度合いも『近所のお坊ちゃん』程度。

これに関しては俺にも同じことが言えるが……バーンシュタイン国内に限っては元インペリアル・ナイトの息子というネームバリューは凄まじい。

一般に関してはラルフと差は無い『近所のお坊ちゃん』程度だろう……だが、俺の場合は、王族にもある程度名前が広まっている。

「じゃあ、国に戻って皆の敵になれってか?」

「そうは言っていない……だが、それ相応の覚悟はしていた方が良いということだ」

俺の敵になる宣言に、何人かがビクつく。
ウォレスの言いたいことは良く理解してるよ?
俺が国に反逆したことが知れれば、良くてお家断絶、悪くて反逆罪で処断されるだろう……だが。

「大丈夫、その辺に抜かりは無い」

「どういうことだ?」

ゼノスが首を傾げる……まぁ、俺がその辺に手を打たなかったと思うか?
というより、俺がしたこと自体は些細なことなんだが。

「条件はほぼクリアーされている……後は、最後のピースが嵌まるのを待つだけだ」

俺は某反逆仮面皇子風に言う……言葉を濁すのは、カーマイン達を通してゲヴェルに聞かれている可能性があるからだ。
まぁ、最悪聞かれても、処刑は無いだろうけどな……そんなことすれば俺の逆鱗に触れるのは分かり切ったこと……というか、全力で消すよ?
それに、父上自身も有能であることから、最悪、人質を取られて従わせられる……ということくらいで済むと思う。

まぁ、ゲヴェルがどうしようもない低脳で、俺を大して脅威に感じていないなら……最悪の事態も起こるだろうが。
原作を考えるに低脳ということは無いだろう。
狙うとすれば、俺自身か、家族を人質にして身動きを取らせない様にすること――。

ここで思い出して欲しい……俺の『仲間』が他にもいることを。

まぁ、後は結果待ちだったりする。

「そこまで言うなら、もう何も言わんよ」

フッ……と、渋く笑ったウォレス。
ああは言ったが、やはり敵対するというのは考えられなかったらしい。

ううむ……やはり渋いな……ああいう笑いは俺には真似出来ん。

「シオンさん……」

「心配すんなカレン。万事計算通り……って奴さ」

俺は安心させる様にカレンに言う……もっとも、あの父上を説き伏せることが出来るか……それが鍵だな。
……母上が居るから大丈夫か。

脳裏に『まっかせなさい!』と、めがっさ笑顔で胸を張る母上の姿が見える。
……いや、母上……張り切るのは良いですけど、張り切り過ぎないで下さいよ?
母上が人質に取られたりしたら、父上はお手上げなんですから……俺も新型テレポートが完成しなければお手上げだし。

結局、俺達が本気でパーティーに残留することを知り、皆は本気で安心し、そして俺達のことを心配してくれた。

さて、そうこうしてる内に到着した峡谷ですがね?

「そんじゃ、手筈通りに行こうぜ?」

『了解!!』

皆がそう言ってくれる……あ、俺が指示を出しちまったな……まぁ良いか。

「おうっ!貴様ら何者だ!」

「喧しい!!」

シュミーーーンッ!!

ブアッ!!

「ぐぉっ!?」

「ひぃ!!」

バタバタバタバタバタバタ!!!

俺のメンチビーム(若干強め)で気絶した周りの六人の敵。

俺はスタスタと歩き、気絶している橋を作成していた工作兵を二人、それぞれ両手に掴み、向こう側で呆然としてる工作兵に向かって手裏剣の様に投げる。

「てりゃ!人手裏剣!!」

ドゴゴッ!!

「「ぶぺっ!?」」

ダブル人手裏剣を喰らって、工作兵達は纏めて後方に吹っ飛ばされた。

「さってと、後は橋を切り落とすだけか」

こんなことでリーヴェイグを使うのは気が引ける……なので手刀で切って落とす。

ガラガラガラガラ……。

橋が谷底に落ちていくのを確認する。

「うっし、任務完了!そっちはどうだ?」

「こっちも予定通りだ」

返事をしたカーマインの方を向くと、気絶した兵達が纏めて縛り上げられていた。
勿論、縛ってる縄は『緊縛君1号』だ。

「しっかし、お前のその威圧感ってのは半端ねぇな……俺達、いらなくないか?」

「そんなこと無いって……今回はたまたま、コイツらの練度が低かっただけだ。もう少し練度が高かったら耐えられたかも知れないからな……そうなっていたら戦いになっていただろうし――」

それに、これ以上殺気を強くしたら、気の弱い奴はショック死しちまう可能性もあるからな……とか言ってみるが、試したことないから分からんが。

「ムッ!これはどういうことだ!?」

「あ、将軍!実はあのローランディアの連中が橋を!」

「何だと!?」

……来たな、やはりインペリアル・ナイトになれたか……闘技大会のエキシビジョンマッチがアレだったから、チョロッと心配していたんだが。

「お、お前たちは!?」

「ジュリアン……」

「何?どこだ、どこにいる?」

「谷の向こう側……バーンシュタイン王国軍の中に……まるで、司令官みたい……」

ティピやルイセは驚愕に染まる……ウォレスは見えてはいないが、気配は読めている筈……再確認する意味合い込みか。

「司令官みたいじゃない……司令官なんだ」

俺はそう告げる……それと同時に向こうから声が掛けられる。

「久しぶりだな……それにしてもあのペンダント、願いが叶うのは本当だったようだ。まさかこんな形で再会する羽目になろうとは思わなかったがな」

「まさかこんなに早くナイトになってようとはな……俺もびっくりだぜ」

これも悪リシャールの差し金だったりしてな?
だとしたら、裏で操ってるゲの字は相当性格が悪いな……今更か。

「ああ……念願叶って、な。その結果、私は貴様らの敵としてここに立っている!」

……ハッキリ敵と断定しやがった……やはり、別れ際に言ったことより、国と部下を取ったか………分かっていたことだが、少し寂しいような感覚に苛まれるな……。
それが本音からの物なら尚更な……。

「ね、ジュリアン!戦争は本当なの?どうしてそんなことに?」

「それはローランディア王国の貴族の1人が、こともあろうに戴冠式の最中に我が国王に切り掛かったからだ……そのようなことがあった以上、昔のままの友好関係が続くはずもないだろう……」

「それじゃグレッグ卿が切り掛かったって、本当だったの……そんな……」

ルイセは悲観に暮れるが、グレッグ卿自体が偽物に擦り替わってる可能性も説明しただろうに……それを理解してる面々は、それを考えてか、押し黙っている。

「とにかく、先に刃を向けたのはお前たちの方だ。従って我々は報復行動に出た」

そう毅然と言うジュリアンだが、俺はその組んだ腕が震えているのを見逃さなかった……ジュリアが俺に何を訴えかけてるのかを……。

「ジュリアン……目に見えることだけが、真実とは限らないぜ?目に見えるが見えないもの……それこそが真実になる時もある」

俺はジュリアにそう告げる……それを聞き、ジュリアの眼に光が宿るのを見逃さなかった。

「……ふん、戯れ事を。どちらにせよ、今はこの峡谷のせいで戦うことは出来ぬ。命拾いをしたな。次に会ったときは、こうはいかんぞ!」

その言葉を残し、去り際……胸元に手をやる……恐らく、俺の送ったペンダントがある場所へ……。

俺はそれを見て笑いが込み上げてくる……言わばジュリアに取っては、アレは俺に対する忠誠の証みたいな物……それを示したということは。

『私の気持ちは変わらず、貴方と共に……』

とでも言う意味を込めたんだろうな。
俺の言葉に、以前言っていた誓いを再確認したんだろう……。

「ジュリアンさん……」

ルイセは悲しそうに顔を歪める……心根が優しいからなこの娘は。
しかし、いつまでもクヨクヨしてもいられないので、一度砦に戻ることに。

「む、どうした?もう敵が渡って来るというのか?」

「慌てない、慌てない!しばらく敵は来られなくなったから」

「な、何?」

驚く将軍……まぁ、そりゃそうだよなぁ。

「実は、俺達は現場に向かって……橋を落としてまいりました。あ、その時に護衛してた兵を捕虜として連行してきましたんで、受領お願いします」

ちなみに捕虜は砦内の兵に預けてある。

「おお、そうだったのか……そろそろ完成する頃だというのに、一向に敵が見えないから不審に思っていたのだ。しかし、君たちは凄いな」

「実際、シオンさんが殆ど一人でこなしてしまったので……私たちは何も……」

褒めたたえるブロンソン将軍に、恐縮した風に言うカレン。
まぁ……俺もはっちゃけ過ぎた……反省はしている。

「失礼します!」

「どうした?」

「バーンシュタイン王国内に侵入させた者からの緊急報告が入りました。姫を乗せた馬車が、監禁場所から出たとのことです。そして護送先は……ガルアオス監獄です」

やっぱりガルアオス監獄か……まぁ、予想出来た事態ではあるがな……ってか、他に移す場所は無いからな。

「難攻不落のガルアオス監獄か……厄介なところに」

「俺たちの任務は人質の救出だ。姫の居場所がわかったなら、そこへ行く。それに狙うなら、護送中の今が一番だ……あんな監獄に移されたら、助け出すのはまず不可能だ」

「うむ……救出を行うなら、ガルアオス監獄へ入れられる前しかないな……あそこは周囲の地形が特殊なため、中へ捕らえられた者の脱獄はおろか、兵が攻め込むことも叶わん」

俺なら中からでも、監獄を破壊して脱出出来るが……その場合、他の囚人まで逃げ出す可能性ありだから、愉快な大脱走♪になってしまうだろう。
やはり、護送中にさらうしかないか。

俺達はガルアオス監獄の場所を聞く……峡谷のすぐ先とのこと。
橋を落としたことを嘆いたティピとミーシャだったが、そうしなければ兵は引かず、その間に姫は監獄に移されていただろうというブロンソン将軍の言に、納得した様だ。

で、話し合いの結果、向こうに入り込むことになりました。
俺のテレポートでは、ガルアオス監獄付近には行けないのを考慮した上での話です。

ブロンソン将軍いわく、あの作戦を使うとのこと。
俺は原作知識として知ってるのだが、あのロープはどうやって向こう側に張ったんだろうな?

で、峡谷に来たらありましたよ……アスレチック的なアレが。

「何なの、コレ?」

「やあ来たね。このロープを使って、向こう側まで渡ってもらう」

「ええっ!?これで!?」

「……アタシ、途中で落ちそう……」

兵士の説明に、顔を青ざめさせるルイセとミーシャ……ミーシャの場合、マジで落ちそうで怖い……。

「大丈夫だよ。自分の体を縛ったロープを、このロープに繋げば……ほら、こっち側より、向こうの方が低いだろ?ちょっと怖いかも知れないけど、ただぶら下がっているだけで向こうまで滑っていける」

その説明を聞いた、ウォレス、ゼノス、カーマインが納得している。
まぁ、俺とラルフに至っては補助が無くてもジャンプして行けるから問題無いんだが……ん?常識はずれ?
今更だろ?

「ただ注意して欲しいのが、このロープは君たちを送った後は、すぐに切ってしまうって事だ。つまり、向こうへ行くだけで、戻る方法は用意されていない……ただ一回だけの方法だ」

「それは大丈夫。シオンさんとルイセちゃんがテレポートを使えるからね」

まぁ、魔力に関しては俺はほぼ無尽蔵だから良いし、目印になるポイントもガルアオス監獄があるから問題ないだろ。

俺やルイセのテレポートは街……というより、イメージしやすい目印をポイントにして行っている。

俺は更に自由度の増した、新型テレポートのアレンジに着手してはいるが……完成するにはもう少し掛かりそうだ。

「まず俺が行く。向こうに敵がいた場合、安全を確保する奴が必要だろ?それに、俺ならテレポートで逃げられるしな」

俺は1番手を名乗り出る。
そしてロープをセッティング、準備完了。

「よし、良いぞ!」

「あらよっと!」

シャアアアァァァァ……。

俺は地を蹴り、ロープを滑って行く……いやぁ、小学校にあったアスレチックジムを思い出すなぁ……♪

のほほん、と風を楽しみながら、向こう側が見えたのでタイミング良く着地。
ん〜〜、楽しかった!
さて、敵は……と……うむ、いないな。

索敵を完了した俺は、皆が来るのを待つ。
ウォレス、ゼノス、ラルフと来て……次はルイセ。

お、兵士さんに押された。

「いやあああああぁぁぁぁぁっ!!」

と、あのままじゃぶつかるな……ホイっと。

パシッ。

しっかりとルイセを抱き留める。

「ほら、もう大丈夫だぜ?」

「あ、ありがとうシオンさん」

どう致しまして。
そう言って地面に降ろしてやる。
が、腰が抜けてしまった様で、ラルフにルイセを任せる。
次は……どうやらカレンの様だ。
お、勇気を振り絞って自分から跳ぶみたいだな。

「きゃああああぁぁぁぁぁ!!?」

思ったより勢いが着きすぎた様で、眼を閉じてしまっている。
このままじゃぶつかるな……よいしょっと。

パシッ。

俺は今度はカレンを抱き留める。

「ほい、お疲れさん」

「あ、ありがとうございます……シオンさん」

どう致しまして。
そう言って地面に降ろすが、どうやらカレンも腰が抜けてしまった様だ。

ここはゼノスに任せ………なんだそのムカつく位に良い笑顔は。

しかもサムズアップまでしてやがる……前々から薄々感づいては居たが……この男、俺とカレンをくっつけようとしてやがる……。
おのれ、人類に逃げ場無しかよ!?

まぁ、原作のゼノスエンドを鑑みるに、余程俺の事を気に入ってくれてるんだろうが……大事な妹とくっつけようって腹なんだからな。
そしてカレンも満更でもない……どころか、バッチ来い!!
くらいに想われてるし……む〜〜……。

……まぁ、良いか。

次はミーシャだし。
ギャグ補正で無事だろ。

ってか、言ってることが聞こえるだけに展開が読める。

「ちょっと、待って!まず、深呼吸して……すーーはーー……でもでもでも、もし途中で止まったりしたら宙づりだし……それより途中でロープが切れちゃったりしたら、谷底に落ちちゃって、そうしたら絶対助からなくって……」

「早く行きなさいよ!」

あ、ティピがイラつきだしたみたいだな。

「でも、だって、やっぱり……」

そんな中、ティピが俺に視線を向けてくる。

『もう遣っちゃって良いでしょ?』

と、許可を求めて来たので、俺はアルティメットスマイルを浮かべて頷いてやる。

『よし、遣っちまえ♪』

――と。
字が物騒なのは気にしないで欲しい。

「ティピちゃーん、キーーーック!!」

ドゲシッ!!

「ああぁぁぁ!酷いよぉーーー!!」

ティピに蹴り飛ばされてこちらに来るミーシャ……悪いが俺は今カレンを見ているんでな……大人しく衝突してくれ。

何気に酷いことを考えていた俺だが、ミーシャはぶつかることなく……。

「大丈夫かい、ミーシャちゃん?」

「ら、ラルフお兄さまぁ♪♪♪」

ラルフが助けに入ったのだった。
ラルフはミーシャフラグが立ちましたっと……ん?俺?聞こえない、何にも聞こえない!
その後、カーマインも無事に合流、一路ガルアオス監獄を目指すのだった。

と、なる筈だったのだが。

「なに、アレ……」

「なんかブヨブヨした気持ち悪いのがいるよ」

途中の洞窟で見掛けたのは、いつぞや現れたデカゲルに似た、巨大なゲルだった。
確かクイーンゲルだったな。
しかも周りには無数のオレンジ色のゲル……ミュータントゲルがいた。

「シオンさんの睨みで追い返せない?」

「今まで気付かなかったか?ああいう意思があるのか分からないタイプには殺気は効かないんだ」

そう、動物タイプや悪魔タイプのモンスターにはメンチビームも効果がある……が、ゲルタイプや植物タイプ等のモンスターにはメンチビームは効かない。
気当たりしようがないんだ。

「なら当然……」

「やるしかないね」

皆がそれぞれ武器を手に取る……しかも、あのクイーンゲル……クイーンというだけあってか、次々にゲルを生み出している。

「まずはあのデカい奴を片付けるのを再優先……行くぞ!」

カーマインの指示に俺達は駆ける。

「私たちが道を作るから!」

「皆さんはその隙に!」

「「マジックガトリング!!」」

俺達の前方を無数の魔力の矢群が降り注ぎ、オレンジ色の絨毯に道を作る。

早速使いこなしているみたいだな……俺よりは矢の数が少ないみたいだが、それでも流石と言っておこう。

「ルイセちゃん、カレンさん……凄い……」

ミーシャ呆然、君がお花畑行ってる間に二人は頑張ってたんだぞっと。

残ったゲルが襲い掛かって来たので、俺、ゼノス、ウォレスがミュータントゲルを駆逐する。

「行くぞラルフ……」

「分かったよカーマイン」

「「ハアアアアァァァァァァ!!!」」

ズシャシャシャシャシャァッ!!!!

二人の『連撃』が炸裂する……細かくコアまで切り刻まれたクイーンゲルは、切り捨てられ蒸発したのだった。

「お、終わった……」

ティピが冷や汗かいてるが、のんびりしてる暇も無いので、直ぐさま先を急ぐ。
余計な時間を食ったぜ……。

で、俺達はまずガルアオス監獄を確認する。

「うわっ!まるで要塞だね」

「ガルアオス監獄だ……ガルアオスは『終局』を意味する。生きてここを出られた奴はいねぇ……有事の際には要塞として使えるように造られてるって話だ。ここに入れられたら、救出は不可能だな」

ウォレスの話を聞きながら監獄を眺める……確かに堅牢そうな要塞だが。

「シオンさんなら、こんな要塞なんてズガーーン!!だよね?」

ティピがそう聞いてくる……しかしもう少し分かりやすく言いなさいな。

「出来なくは無いがやらないぞ?最悪の場合、それも考慮に入れるつもりではあるが……」

「なんで、なんで?」

ミーシャがそう聞いてくる……まぁ、ミーシャだしな。

「確かに要塞をぶっ壊すことは可能だが、その際助け出す姫以外の……極悪人まで一緒に逃げ出す可能性もある。愉快な大脱走なんかしてみろ……場合によっては洒落にならん」

噂じゃあ、快楽殺人者などの重罪人が入れられる場所……それもガルアオス監獄の側面の一つだ。
そんな重罪人達が野放しになってみろ……洒落にならんだろう。

逆に言えば、そんな監獄にレティシア姫を入れることなど、絶対にさせてはならないんだがな。
何をされるか分かったモンじゃねぇ。

「ま、どちらにしろ、姫に臭い飯を食わせる訳にはいかないさ」

俺がそう締めると、襲撃ポイントを捜すことになった。
待ち伏せ作戦だな。
で、ピッタリな場所を発見。

「あの橋も簡単な造りの様だから、直ぐに壊せるな」

「ということは、前に使ったあの作戦を使うのね?」

ゼノスとカレンがそんなことを言う。
つまり、護送される姫が乗った馬車がここを通り掛かったら襲撃、橋を二カ所とも壊す。
そうすれば逃げ道はなくなるって訳だ。

「だが、救出は迅速に行わないとな……人質に取られたり、最悪、命を奪われる可能性もある」

俺はそこを危惧している訳だ……原作では敵は何もしなかったが、考えてみたら妙な話だろ?
逃げ場が無くなった状況でただ死ぬのを待つなんて……。

「そうだな……姫を確認出来たら、直ぐに助け出さなければな」

「だったら、それまでどこかに身を隠していた方がいいんじゃない?」

「そうだね……じゃあ隠れる場所を探そうか?」

俺の意見に肯定を示すウォレス、そして隠れることを提案するティピに、場所を探そうというラルフ。

で、あちこち探すのも面倒なので、記憶に従いベストポジションへ移動。
しばらく体力を温存することになりました。

「しかし、またここへ来ることになろうとはな」

「ウォレスさん、この辺りで何かあったんですか?」

ウォレスの様子が気になり、ルイセが声を掛ける。

「ここから北東に行ったところに、クレインっていう小さな村があってな。その村を抜けたところで、俺は両目と右腕を失ったんだ」

ウォレスとしては直ぐにでも、クレインに向かいたいだろうが、今は任務を優先し、しばしの休息を取ることに。

で、四人ずつ交代で見張ることになり、最初はカーマイン、ラルフ、ルイセ、ミーシャ。
後半は俺、ゼノス、カレン、ウォレスだ。

俺達後半組は一旦仮眠を取ることにしたのだった。

もっとも、話し声が聞こえたので、気になって聞き耳を立てていると。
ルイセが不安に思ってるという話だった。
バーンシュタインとローランディアが、フェザリアンとグローシアンみたいに深い溝が出来るんじゃないかと……それを聞いてた面々は、なんだかしんみりしてしまった様だ。
ミーシャは、大丈夫だよルイセちゃん!と、慰めていたが。
俺の居た世界でもそうだが、戦争なんてくだらないと思う……皆が笑い合えれば、それが1番幸せなのにな……と、思う。
人という種が存在する限り争いは無くならない……と言ったのは誰だったか。
けど、手を取り合えるのもまた、人なんだがな……。
かと言って、自由に戦場を掻き乱したり、武力介入したりするのは如何な物かと思うけどさ……。

皆が見張りに専念したので、俺も再び仮眠につくことにした…。

**********

「紅茶」

「焼鳥」

「り……り……林檎」

「ご……か。五目焼きそば」

カーマイン達と見張りを交代してから、十数分……暇なので、しり取りでもしようという話になった。
言い出しっぺは俺。

皆も、それくらいなら良いだろうと頷く。
ちなみに順番は、俺、ウォレス、カレン、ゼノスの順番だ。

「ば……伐採」

「烏賊刺し」

「し……詩集」

「う…兎」

こんな感じで時間を潰してた訳だが……。

「ぎ……っと、どうやらお客さんが来たみたいだな」

段々と無数の気が近寄って来るのを感じる。

「何……むぅ、確かに微かだが音が聞こえる……歩兵が多数と、馬車の車輪の音」

「あの、私には何も……」

「とにかく敵が来てるんだな?皆を起こしてくるぜ」

ゼノスが寝ている皆を起こす。
そして事情を説明する……護送隊がこちらに向かっているという説明を。

「いよいよだね」

「う〜、緊張……」

「……覚悟は出来ています」

「よっしゃ、張り切って行くぜ」

「ええ、頑張りましょう」

「やらなきゃやられる……か。決意の真贋が問われるってか」

上からルイセ、ミーシャ、カレン、ゼノス、ラルフ、俺だ。

「いいか……戦闘を仕掛けるタイミングはカーマイン……お前に任せる。一番いいと判断した時に、飛び出すぞ」

「了解だ……」

「任せたわよ!変なタイミングに仕掛けたら、すぐに負けちゃうからね!」

任せろと言う風にカーマインが頷く。
気配が近付いて来た……いよいよだな。

護送部隊が徐々に通り過ぎて行く……流石は要人の護送……たいした数だ。
ん、この気配は……。

「あ、ジュリアンさんだ……」

「何、ジュリアンがいるのか?」

物影から伺うルイセはジュリアンを見付ける。
ウォレスもそれに反応する。

「どうする、仕掛けるか?」

「いや……やり過ごすのが懸命だろう」

ゼノスの問いに答えるカーマイン……確かにこの面子が負けるとは思えないが、俺達の目的はジュリアンと戦うことでは無く、姫を奪還することだ。
……俺個人としても、ナイツに入っても忠誠を忘れなかったジュリアとは戦いたくはないんだよね……。

と、あれは姫の乗る馬車だな……。

「あれに姫が乗ってる筈だ……攻撃タイミングは任せる……頼むぜ、リーダー?」

「ああ……任せてくれ」

俺の軽口に、微笑を浮かべながら答えるカーマイン……。
さて、秒読み開始……。

「!今だ!」

「いっけーー!!」

タイミングを計り、俺達は飛び出す。

「て、敵襲だ!!」

兵の一人が騒ぐが、もう遅い!!

「まずは橋を落として足を止め、その後に敵を全て倒し姫を救い出す!良いな!」

って、また俺が指示しちまったよ……自重せねば。
とか言ってる場合じゃないな。

「俺は西の橋を落とす、ラルフは東の橋を落としてくれ……シオン達は敵の各個撃破を頼む!」

「了解!!」

カーマインの指示に俺達は作戦を開始する。

ここでは気当たりは使えない……一人一人に使うならともかく、広範囲に殺気をばらまいたら、位置的にレティシア姫も巻き込んじまうからな。

「セイッ!!」

「ごふっ!?」

俺の拳は鎧を砕き、骨を砕く……。
結局は戦うしかない……誰かを守るには、誰かを犠牲にするしかない……。
とは言え、今のも致命傷では無い……腕は使い物にならなくなったかもしれないが。

皆も頑張っている。
ウォレスは近づく敵はぶん殴り、中距離の敵には特殊両手剣をぶん投げる。

ミーシャ、カレン、ルイセは後方で魔法で援護、ゼノスはそれに群がる敵をちぎっては投げ、と言った感じで倒して行き護衛。

そして……

「やったぁ♪橋が落ちたよ!」

カーマインが西の橋を落とした見たいだな……っと!

俺は飛来するマジックアローを避けて、術者にお返しとばかりにマジックアローを唱える。

「い、痛い!何をする、無礼な!」

「さっさとするんだ!」

出て来たか……ここは先に橋を落とすのが常套策だが、追い詰められて逆上されても困る……一気に決める。
俺は天高く飛翔した。

*******



諦め掛けていた……もう駄目なのだと、諦めそうになった……。

「何!?敵襲だと!!」

しかし、聞こえて来たのは兵士の焦りの声……そして……。
この声は……。

「皆の、声……」

私の友達になってくれた皆の声……護衛をしてくれた皆の声……そして、私にお話をしてくれた人の声……。
私は泣きそうになってしまった……まだ諦めなくても良いんだ。
そう思えたら嬉しくなった……けど、橋を落とされたと聞き……兵士が力一杯に私の腕を引っ張る……痛い!…でも何より、怖い……しかし私はそれを悟られるのを良しとせず、気丈に反論する。

「い、痛い!何をする、無礼な!!」

「さっさとするんだ!」

私は馬車の外に連れ出される……そこには戦う皆が……皆が居た。
助けに来てくれた……それは任務だからだろうか?
それとも……。
そんなことを考えていた私の思考を遮る様に兵士は強引に連れていこうとする……せっかく、皆に会えたのに……。

私の胸を再び絶望が満たそうとした時……その声は聞こえて来た。

「……ライダアアァァァァァ!キイィィィィィィック!!!」

「グボハァ!!?」

ドゴォォォンッ!!!

鈍い音と共に、空から飛来した何かに蹴り飛ばされ、林の奥に消えていく兵士。
そして、私の前に降り立ったのは……白銀の天使だった。

********


あぶねぇあぶねぇ……間に合ったぜ。
今回は仮面○イダーで行ってみた……て、本来そんなこと気にしてる余裕は無いんだがよ?

「ご無事ですか、レティシア姫?」

俺は振り返り、姫の安否を確かめる……結構派手に決めたから、まさか巻き込んで傷でも負ってないか気になった……どうやら大丈夫そうだな。
とりあえず一安心だ……。

「は、はい……ありがとうございます……」

……姫の顔が赤い……しかもめがっさウルウルしてる。

……うん。

俺ってば、またやっちまった?

「うりゃあ!!」

ブオンッ!!

スパァァァァァン!!

「!!」

俺は後ろから飛んでくる鉄球を振り向きざまに抜刀、それを切り裂いた。

そしてマジックアローを食らわし、地に沈んでもらった。

……お前らの分も存分に生きてやる。
だから安心して死ね……。
なんて思いつつも、今の兵士も死ぬほどの致命傷では無い――まぁ、放置していたらくたばっちまうかも知れないが――。

だが、俺が戦った兵士の中には致命傷を与えた者もいるワケで――。

………戦争とか、有り得ないっての……。

「橋を落とすよ!」

ガラガラガラガラ……。

そうこうする内に、ラルフが橋を落とした。
後は敵を掃討するだけだ……。
俺は剣を振るい、拳を振るい、魔法を振るった……。
それから敵が一掃されるのに、さほど時間は掛からなかった……。
正直、吐き気がするが……これも俺が選んだ道だ。

「くっ……たった八人にここまでやられるとは……だが手並みはさすがと言うところか……」

ジュリアに軽く視線を向ける……ジュリアも俺の視線に気付き、視線を合わせる……まるで分かっているとでも言いたそうな瞳……何故、お前はそんなに落ち着いていられる……俺はお前の部下の命を――奪ったんだぞ?
何故恨まない……何故信じる……何故……。

いや、今は気にすまい……今は。

俺達はレティシア姫の元に集まる。
もっとも、俺はレティシア姫の護衛をしてたから、側に居たワケだが。

「みなさんのおかげで、助かりました」

「礼には及びません。これも任務ですから」

「しかし、これからどうやって帰るのですか?」

「それは大丈夫!こっちにはグローシアンがいるからね!」

「じゃあ、帰るか」

俺がテレポートしようとした時に、レティシア姫にラージン砦に寄って欲しいと頼まれる。
それくらいならと、行き先をラージン砦に変更する。

そして指令室……。

「これは姫!ご無事で何よりです」

「はい。私も一時は諦めていました」

レティシア姫の安堵した表情を見ると、助けて良かったと思う。
この手を血に染めても……助けて良かったと思う。

「それにしても、君たち、よくやってくれた。君たちは英雄だよ」

「ニャハハ〜、それほどでもぉお〜!」

「もうっ!調子に乗らないの!」

ブロンソン将軍に誉められ、天狗になるミーシャ……そしてそれを戒めるルイセ。
……二人は、俺の知る限り人を殺めたのは初めての筈だ……それなのに平然としている。
死に慣れちまったんだろうか…………いや違う……。

よく見ると、僅かながら震えているのが分かる………二人は俺と同じ、もしかしたらそれ以上の苦しみに苛まれているのかも知れない……。
そして、それを乗り越えようとしている……カレンも、ラルフもそうだ……皆が乗り越えようとしている……戦争なんて理不尽に立ち向かう為に……。

なら、俺一人が悲劇の主人公を気取るわけにはいかないよな……。
俺には乗り越えることは出来ないかも知れない……けど、なら抱えて歩いていくだけだ。

「確かに調子に乗るのは良くないが、自分たちのしたことに自信は持っていいぞ」

「私からも父上によく言っておきますわ」

自信……ね。
こんなことに自信は持ちたくないもんだな……。
仮に俺が英雄なら、ロクな死に方はしないだろうな……。

思わず自虐気味にそう思考を回す俺……。
けど、俺は歩みを止めない、俺は進み続ける……そう誓ったのだから。

で、俺たちはブロンソン将軍の計らいで、砦に一泊することになった。

その夜……。

「今日も月が綺麗だねぇ……」

ある程度なら、砦内を自由に歩き回ることを許された俺達……皆は寝てしまったようだが、俺は外の外壁の上に出て、壁に腰掛け空を眺める。

「宵闇に、優しく光る、月夜かな……センスねぇなぁ……」

普段なら酒でも飲む所だが、そんなことをする気分じゃない。

「それは、なんなのですか……?」

「レティシア姫……?」

人の気配がすると思ったら姫とは……何と言うか、余程参ってるんだな俺は……。

「これは俳句と言って、東方の大陸に伝わる文化ですよ……姫は眠れなかったのですか?」

「いえ、たまたま目が覚めてしまって……そうしたら、階段を上っていく貴方を見掛けたものですから……隣、宜しいでしょうか?」

「ええ、どうぞ……」

俺は姫の申し入れを受け入れ、姫は隣に座る。

「あ、あの……改めてありがとうございます。その……貴方がいてくれなければ、私は……」

「俺がいなくても、皆が助けたでしょう……姫が気に病む必要はありませんよ」

「……貴方は何故私を助けてくれたのですか?」

その質問に、月を見るのを止め、姫の方を見る。
レティシア姫は真っ直ぐに俺を見つめていた。

「任務だから助けてくれたのでしょうか……」

「俺は、貴女を助けたいから、助けただけです」

そう、これだけは間違いない事実だ。

「助けたい……から……私を……」

「ええ……少し話しただけですが、放っておけなかったんです」

「……………」

姫は顔を赤くしながら、俺を見つめてくる。

「私……そんなこと言われたの初めてですわ……」

「多分、ルイセ達も似た様なことを言うと思いますよ?友達だから……って」

「……っ!」

姫は俯いてしまう……それは嬉しくて、込み上げて来てしまったんだろう……その瞳から流れ落ちた雫は――とても綺麗だった。




[7317] 第59話―シオンの葛藤、受け入れられた想い……―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 22:49


俺は姫が泣き止むまで、ただ側に居た……気の利いた主人公なら、頭を撫でるくらいはしたんだろうが……。

流石に結果が分かってて、やることは出来ないからな。
いや、だってセクハラだぜ?
別に俺は主人公じゃねーし……いや、違うな。

主人公なんて括りで纏めるのが、そもそも間違いなんだ。
脇役とか、そんなんじゃないんだ……。

皆、生きているから……強いて言うなら、皆がそれぞれの物語の主人公なんだ……。
なら、俺も、俺の物語の主人公なんだ……それはカーマイン達にも言えることだ。

……ただ、それだけなんだよな……皆、自分の物語を必死に生き抜いている……なら、俺もそうしても――良いよな?
脇役気取りはもう止めだ……俺は、俺の物語を精一杯生きていく。

まぁ、改めてやることじゃないんだが……。

俺はレティシア姫の頭を優しく撫でる……小さい子供をあやす様に。
嫌なら、無礼もの!
とでも言われて、手を払われるだろうが……それも俺の物語だ。
逃げずに受け止めるさ。

「え……」

「明日、聞いてみると良いですよ……絶対にそう言ってくれますから」

俺は満面の笑みを姫に向ける……姫は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

「ありがとう……ございます……」

「どう致しまして」

俺は姫の髪を撫でていた手を離した。

「あ……」

「そろそろ休んだ方が良い……明日も早いですから」

「そう……ですね。分かりました……あの!……また、お話の続きを聞かせて下さいますか…?」

「機会があれば……喜んで」

そう言って、姫は去って行った……何だろうな?
普段ならやっちまったー!!
とか思うんだが……いや、思わなかった訳じゃないんだが……何だろうな……。

自分でもよく分からない心境の変化に、僅かに戸惑いながらも、俺は宛がわれた部屋に向かう……と。

「カレン……?」

「シオンさん……」

俺の部屋の前にカレンがいた……どうしたんだろうな?

「どうしたんだ?眠れないのか?」

「……っ!」

そう尋ねた俺に、カレンが抱き着いて来た……その体は凄く震えている……。

「私……私……」

俺はカレンの体をギュッと抱きしめた。

「あっ…!」

「大丈夫……大丈夫だから……」

「うっ…うっ…シオン……さん……!!」

カレンは俺に縋り付き、啜り泣いた……悲しみを吐き出し続けた。
俺は抱きしめながら、カレンの髪を梳いてやる……安心させる様に……以前、カレンが俺を慰めてくれた様に……優しく、包み込む様に。

少し落ち着いた後、カレンを部屋に通して事情を聞く……聞けば、夢にうなされたとのこと。
自分の魔法で人が死んでしまう様子が、ありありと……。

「ごめんなさい……シオンさんだって辛いのに……ごめんなさい……」

ああ、また泣きそうになる……確かにカレンの涙は綺麗だが。

「まぁ、辛くない……とは言わないさ。俺だって、まだ夢にうなされる時もあるんだから……多分、これからもずっと背負って行くことになるんだろうな」

それは変わらない……変わってはいけないこと。
それが人知を超えた力を持つ者としての……最低限の責任だと思うから。

「たださ……こうやって話を聞くことは出来る。だから、もっと甘えても良いんだぜ?」

悲しければ悲しいと、嬉しければ嬉しいと、話してくれれば、それを受け止めてやる。
難しく言っちまったが、要は遠慮すんなってこと。

「甘えても……良いんですか?」

「おう!」

「迷惑……じゃないですか?」

「迷惑ならこうして部屋に連れ込んでまで、話を聞いたりしてないって」

ニッ!と笑い、サムズアップする。
そこら辺に、嘘偽りは無い。
そう示すような笑み。

「あの……それじゃあ、お願いが、あるんですけど……良いですか?」

「ん、俺に出来ることなら」

あまり無茶なお願い以外ならドンと来いだ。
俺はドラ○もんじゃないからな……出来ることは限られてるが。

「あの……私、シオンさんのおかげで震えが止まりました……ありがとうございます」

「俺もカレンのおかげで立ち直れたから……おあいこだって」

「でも……私、一人になったら、またあの夢を見てしまうかも知れない……」

「ああ…」

「だから……その、一緒に寝ても……良いです、か?」

「ああ……………ハイ?」

今、何を言いやがりましたかこの娘は?
『一緒に寝ても良いですか?』
と、聞いたよな?
カレンも顔を真っ赤にして俯いてる………成程ねぇ♪

さん、はいっ♪

なにぃぃいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!?

「ちょ、な、何を!?」

「……駄目、ですか?」

「いや、駄目も何も、冷静になろう……な?俺達は男と女な訳でありまして、しかもカレンみたいな可愛い野兎ちゃんがいたら狼さんが辛抱たまらんわけで……何を言ってるんだ俺はぁ!?」

「……私、シオンさんになら何をされても構いません……」

そう言ってカレンが抱き着いてくる。
柔らかいし、温かいし……って違う!!

「カレン、幾ら冗談で……」

「冗談じゃ……ないです……」

カレンが震えている……震えて、涙を零している……。

「ひっ、私はぁ、っく、本当にぃ……」

俺がカレンを泣かせた……その涙は綺麗だったが、何故か胸が締め付けられた……理由は分かってる。

俺はカレンの想いに気付いてる……まぁ、カレンだけじゃないが……いつぞやの温泉で記憶の扉をこじ開けられて以来……忘れることが出来なくなった。


………アイツがいなくなってから……俺は死んだみたいになっていた。

それを見兼ねた両親は、俺を医者に連れていき、催眠療法でその記憶――と言うより、それに伴うトラウマを封じた……ただ、その弊害で、女を遠ざけたり、女と良い感じになったりすると記憶が飛んだり……そっち関係では有り得ないくらいに鈍感になったりしたが。

しかし、勢いを取り戻したのは良いが、大切なモノが無くなったのは、何となく理解していたらしく、イライラが募ってグレたりしちまったが。

今でも頭を過ぎるアイツの最後……アイツの言葉……。
もう、死にそうなのに、俺に謝り、約束を守れなかったと言うアイツ……そして……。

『……アタ、シは駄目だけど……リョウは、幸せに、ならなきゃ……だめ、だから……ね……』

最後の力を振り絞ってアイツが言った、最後の言葉だった……。

……最後の最後まで俺の心配をして、逝っちまった。

お前の心配は分かるよ……自分に縛られるな、そう言いたかったんだろ?

けどな……お前を死なせちまった俺に、誰かを好きになる資格なんか……無いだろうが。

だから……。

俺はカレンを抱きしめて優しく頭を撫でてやる。

「シオン……さん……」

そろそろ向き合わなければならない……何時までも期待させる訳にはいかないから……。

「ゴメン……カレン……俺は君の気持ちに答えることが出来ない……」

「っ!!?」

カレンの震えが増す……聞きたくない、とでも言う風に首を振るう……だが、俺は逃がさないし離さない。
一世一代の大演技……カレンは何故か俺に依存する位に想ってくれている……生半可な言葉では諦めてくれまい……だから。

「何故なら俺は……」

「いや……いやぁ……」

心を鬼にして叫ぶ……俺が嫌われるべき台詞を!!!

「俺は!誰か一人を愛することが出来ないんだ!!カレンだけじゃない、俺を想ってくれてる皆が好きなんじゃああぁぁぁ!!」

「いやぁ!…………はぇ?」

フフフ……完璧だ!人間ってのは独占欲が強い!
つまりこういうことだ!

俺カレンを否定→カレン絶望→理由を述べる→いやいや→ハーレム万歳!!→カレン呆然→ハーレムの素晴らしさを語る→シオンさんのバカァ!!→俺、星になる。

フフフフフフ……完璧だ。
完璧に最低だ。
ハーレムなんてのは男の野望の一つだが、それを胸を張って主張するなんざ女性にとって最低の極み!!
これで間違いなく振られる!!
計・算・通・り!!

俺は心の中で、計画が予定通りに進行していることに邪笑を浮かべている。
後は最後の工程をやり遂げるのみ。

俺はカレンへの抱擁を解き、肩に手を置いて真っ直ぐ見詰める。
ここは大真面目に語らねばならん……ここでふざけたら、逆に真実味が無くなる。

「カレン……俺は確かに君の気持ちに気付いてた……君のおかげで、気付くことが出来た……だが、それはカレンだけじゃない……この世界に生まれ落ちて、俺なんかに好意を抱いてくれた女性全てに言えることなんだ……カレンを含め数人、そう想ってくれた人達がいるんだ……だから俺はその全てを愛したい!だからカレンだけの俺ではいられないんだ!!」

言った……俺は言い切ったぞ……さぁ!
後はどりるみるきぃなり、100tハンマーなり、コークスクリューブローなりドンと来い!!
喜んで俺は星になろう!!

カレンの体が震えている……秒読み開始か!?

「し、シオンさん……」

お、来るか!?

「シオンさああぁぁぁぁぁん!!」

「のわっ!?」

俺はカレンに飛び掛かられ、後ろにあったベッドに押し倒される形になった。
って、まさかマウントですか!?
肉体がチートだから効かないけど、視覚的には痛いよ!?

「嬉しいです……」

はい……?

「私もシオンさんが好きです……大好きですっ!愛して……います」

そう言ってギュッと俺を抱きしめてくるカレン……って、待て!?

「いや、ちょ……だから、俺はカレンだけを愛せないって……」

「良いんです……私だけじゃなくても、愛してくれるなら……みんなも、同じ気持ちですから……」

「み、みんなって……?」

カレンが言うには、あまりに鈍感な俺を振り向かせる為に、同盟を結んだとか……他の同志はジュリアとサンドラ様…………って。

な・ん・だ・そ・れ・は・!?
orz

イレギュラーにも程があんぞ!?
何?マジで恋愛原子核なの俺?
てか、ご都合主義の星に生まれてるんじゃねぇの!?

心の中のアイツ……頼む!
この状況を打開する策をくれ!!

しかしアイツは溜め息を吐いて、ヤレヤレと首を振り……。

『いい加減に覚悟を決めちゃいなさい!男ならガバァ!と行けガバァ!と』

とか宣いやがった……うがぁあぁぁぁ!?
それが出来たら苦労しないっての!!
その時、窓から一陣の風が吹いた……。

『……もう、自分を許してやりなよ……少なくとも、アタシはそんなこと望んでないんだから……』

ふと、そんな声が聞こえて来た……幻聴だろうか……それを聞いた時、ふっと身体が軽くなった気がした……。

「シオンさん……シオンさん……♪」

俺に擦り寄ってくるカレンを、俺は自然に抱きしめていた。
今更、さっきの嘘!なんて言えないし、あながち嘘でも無いからな……。
最終確認だ。

「本当に良いのか……俺は二股三股どころの話じゃないぞ?」

「貴方じゃなきゃ、駄目なんです……」

「一般的には、最低の男だぜ?」

「最低でも良いんです……シオンさんが良いんです」

ここまで言われて、惚けることは出来ないよな……これだけ想われて、答えないのは男じゃないよな……。

「カレン……」

「ん……っ」

俺はカレンの顔を見つめ、そっとキスをした。
カレンも目を閉じ、静かにそれを受け入れてくれた……。

「シオンさん……好きです……」

「……俺もだ」

俺達は互いに抱きしめあい、お互いの想いを確認しあったのだった…。
つーか、本当に良いのか?
間違いなく、悪友に知られたらもげろと言われるな……。




[7317] 第60話―過去との邂逅、未来への飛翔……そしてイチャラブ―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 23:01


夢を見ていた……アイツの……沙紀の夢。

『氷堂 沙紀』……俺『海導 凌治』と、双子の弟『海導 礼治』の幼なじみの女だ。

性格は竹を割った様なカラッとした性格の姐御肌……そうだな、ティピの強気を幾分強くした感じか……けど、ツンデレとは違うのは明記しておく。
あくまで、強気……なのだ。
もっとも、実際は涙脆く、女らしい一面もあったのも知っていたが。

俺とは毎回喧嘩したりしていた……俺としては、好きな女の子が弟ばかり褒めちぎるのが気に食わない……という気持ちも多分にあったワケだが。
それが悔しくて、ガムシャラに努力したりしたワケだ……沙紀に見て欲しくて……。
それが実は、小さい頃から相思相愛だったんだから、笑っちまうだろ?
互いに片思いだと思っていたのが更に……な。

まるで、流れる様に楽しい時が過ぎて行く……三人で馬鹿をやった時、告白して受け入れられた時………そして、あの日。

俺と沙紀の初デート……正にワクワクが止まらない状態だった。
沙紀の奴が、待ち合わせをするのがデートの醍醐味!
とか言って、一緒に家を出るのを嫌がって……俺が『家が隣なんだから一緒に出てもいいだろ?』と言ったら、『リョウはデリカシーないんだなぁ!もう!』と言って怒られたっけ……アイツも楽しみにしていたんだな……。
あ、リョウってのは俺のことな?
凌治だからリョウ……愛称という奴だな。

よく晴れたその日、絶好のデート日和に俺は家を出た。
沙紀を待たせたくないから、かなり早くに家を出たワケだ。
俺自身も、非常に楽しみだった……というのもあったけど。

で、案の定早く着きすぎた俺だが、待つのは全然苦にはならなかったな。
その日のデートプランを確認したりしてたからな。
ワクワクが止まらない!ってやつだ。

しかし、沙紀は来なかった……。
来れるワケ――無かったのだ。
俺は電話したが、沙紀は出ず、終いにはアレだけ晴れていたのに、曇り空が雨になりやがった。

俺は不安になり、待ち合わせ場所から家に向かい駆け出した……家が隣の沙紀なら、待ち合わせ場所に至る道順も同じ筈だからな……。

ずぶ濡れになろうが、足が悲鳴を上げようが、気にせず走り続けた。

そして、辿り着いた先にアイツはいた……。
まるで糸が切れた操り人形の様になって……朱い水溜まりを作って……沙紀は横たわっていた……。

『沙紀ぃ!!?』

俺は沙紀に駆け寄った……俺は絶望した……。
……即死していてもおかしくは無い惨状だった……なのに、アイツは……。

『リョウ……?来てくれたんだ……アハハ……酷、いよ…ね?アタシ……ゴホッ!!』

アイツの口からドロリとした紅い液体が流れ出る……助からない……瞬間的にそう理解してしまった……内臓も潰されてるんだろう……俺は青ざめていく……そんなこと、ある訳無いと首を振り、震える手で携帯の番号を押し……救急車を呼んだ。

『……ゴメンね……約束……守れなく……て……こんなことなら、リョウの言うよ……に、一緒に家……出て……』

『何、謝ってるんだよ……?今、救急車を呼んだから』

俺のその言葉に、沙紀は否定を示す……。

『……無理だよ……もう……身体が動かないもの……何も……見えないも……の……最後に、リョウの顔……見たかった……な……』

『らしくないこと言ってんじゃねぇよ!!踏ん張れよ!!いつもの根性はどうした!!!』

俺は泣き叫んでいた……何でコイツはこんなに落ち着いてやがる……違う、落ち着いてるんじゃない……本当は怖いんだ。
死が近づいてくるのが……なのに沙紀は……俺を心配して、自分に縛られず幸せになれという………俺は。

『お前がいないで幸せなんかになれる訳ないだろうがっ!!お前とじゃなきゃ!幸せなんかっ!!』

――って……喚いていた……アイツは悲しそうな顔をしながら息を引き取ったんだ……。

……本当にそれで良いのか?
最後まで心配掛けて、最後に悲しそうに逝って……無念を残して逝かせて…………良い訳あるかっ!!!
言ってやるんだ……これが夢だって良い!!
沙紀に伝えてやるんだ!!!!

『……アタ、シは駄目だけど……リョウは……幸せにならなきゃ……だめ、だから……ね……』

『……任せろ……必ず幸せになってやる……お前を心配させたりしない……』

俺の言葉に、眼を見開く沙紀……。

『……そっか、それなら安心……』

いつの間にか、俺の姿は『凌治』から『シオン』に、沙紀も無傷で立ってこちらを見ていた……その顔は晴れやかだ。

「ずっと、見守ってくれていたんだろ……俺の中で」

「まぁ、ね……リョウってばアタシのこと引きずり過ぎなんだもん……放って置いたら洒落にならなかったって……」

薄々感づいていた……沙紀の存在を。

「立ち直りつつ、適当にサラリーマンなんてしてたリョウが、こんなことになってるんだから……世の中分かんないわよね……あ、リョウが何でこうなったかはアタシにも分かんないからね?アタシも気付いたら、赤ちゃんになったリョウの中に居たんだから……」

むぅ……聞きたいことを先に答えられた……沙紀にも分からんか。

「カレンさん、だっけ?幸せにしてあげなよ?他にもたくさん好かれてるみたいだし、男ならガッツリ愛してあげなさい!」

「……行くのか?」

「ん、アタシもやっと肩の荷が下りたし……いつまでも過去の亡霊はお呼びじゃないってね?」

「バ〜カ」

「な、何よ!?」

「お前は亡霊なんかじゃねぇよ……だから、忘れてなんかやらねぇからな?お前の思い出を抱えて進み続けてやる」

「……そんなこと言われたら、未練……残るじゃない……」

「生まれ変わったらまた来い……その時は相手してやる、今度はそっちが告白な?」

「あ、アンタ……」

「それくらい望んでもバチは当たらんだろ?……何しろ、俺は鈍感だからな」

文句あっか?と言った風に胸を張る俺。

「……うん、一杯告白してあげる……それから……今度は…………もっと…………」

沙紀は光になり、俺の中から消えて行った……雨は上がり、雲の間から晴れ間が覗く……雨は――上がったんだ……。

*******

「ん……」

日の光が眼に入り……俺は眼を覚ました。
横には俺に抱き着き、気持ち良さそうに寝ているカレンの姿があった……。
ちなみに、服は来ているからな?
だって何もしていないもの。
あの状況で何もしないのか?
と、疑問に思うかも知れんが……。

確かに、あの後、何だかピンクな空気が流れ、行くとこまで行きそうになった。
危うく発禁的行為になりそうになり、俺のガメラが有頂天になったのは認める。
カレンも俺との絆を深めたいと、望んでくれた。

『シオンさんの望む様に……愛して下さい……』

――という台詞と共に。
その際、有頂天が怒髪天になったのは……言うまでもないだろ?

けど、俺は踏み止まった。
それどんなエロゲだよ!?……と。
ヘタレとか言うな!!
理由だってあるんだからな。
ここは何処だ?
そう、砦だ。
しかも今は戦争中だ……そんな不謹慎なことは出来んだろ?

……後は、カレンの身体を知れば、本気で俺は……俺の望むままにカレンを染めてしまいそうでな……俺のドSな部分がそう告げていた。
しかもこの肉体はチートだ……アッチ方面も絶倫な可能性がある。
いや、それ自体は悪くないか。

ま、それは戦争が終わって、本当に平和になってからだな。
……そうカレンに告げたら、渋々ながら頷いた。
カレンも今の世の中が大変だってのは分かってる筈だからな。
まぁ、不満そうだったから、キスして黙らせた。
それだけで、ぽーー……となってしまうカレンが可愛過ぎて、ヤバイことになりそうだったのを、鋼の精神を駆使して抑えた俺を褒めて欲しい。

「んぅ……あ……」

ん?カレンが起きたみたいだな。

「おはよう、カレン」

「お、おはようございます……シオンさん」

顔を赤くしながら、挨拶するカレン……改めてこの状況を、恥ずかしく感じたんだろうな……。
でも顔が嬉しそうだ……かく言う俺も、少し顔が熱い……。

「目が覚めたなら、準備しようぜ?今日はローザリアに戻らなきゃならんからな」

「……もっと、こうしていたいです……」

「いつだって出来るって……な?」

俺はそう言って、カレンの髪を梳いてやる……すると気持ち良さそうに眼を閉じるカレン。

「じゃあ、このまま……その……」

俺はカレンの言いたいことを悟り、カレンの口を俺の口で塞いだ。

「んっ…ふぅ…」

一瞬で真っ赤になり、しかしそれを甘受するカレン……。
チュッと触れるだけのキスでコレだ……ディープなのをしたらどうなっちまうんだろうな……。
………舌、入れてやろうか………。

……って、何を考えてんだ俺は!自重せい自重を!!

俺はそっと唇を離し、カレンを正面から見つめる……うむ、ぽーー……としている。
潤んだ瞳が、ぽわぽわ感がたまらんですばい。

ヤバイ……み・な・ぎ・っ・て・き・た!!
煩悩退散!煩悩退散!!喝!!
俺は鋼の精神力で、欲望の渦を抑え込む。
目を逸らす弱さを超えた、リビドー的な熱い思いというのは大事だが、限度があると思うんだ。

**********

俺達は準備をした後、部屋を出て皆と合流……指令室に顔を出すのだった。
とりあえず、ルイセ達が元気そうだった所を見るに、お気遣いの紳士達が動いたようである。

「昨夜はよく眠れましたか?」

「はい……久しぶりにゆっくり眠ることが出来ました」

姫はチラリと俺を見てくる……ほんのり頬を染めて……うん、言いたいことは分かる。

「シオンさん……レティシア姫もですか?」

近くに居たカレンが、ジトーーーっとした顔でこちらを見てくる。

「まぁ…意識してじゃないんだがな」

非常に申し訳なく思うが、こればかりは仕方ないと思う。
鈍感とかと違うんだし。

「もう良いです……シオンさんが望むなら、私も頑張ります♪」

この場合、件の同盟に引き込むつもりなんだろうな。
まぁ、流石に姫はそこまで…無いって言えない自分が怖い…orz

「では、任務の締め括りだ。安全に姫を城まで送り届けるんだぞ」

「了解しました」

カーマインがそう答えた後、俺達は指令室をあとにし、テレポートを唱えてローザリアへと飛んだのだった。

で、ローザリア到着。

「やっと帰ってきましたね。もう二度と戻れないかも知れないと、考えたこともありました」

「そんな弱気になっちゃダメだよぉ」

「そうだな。諦めたらそこで終わりだ」

ティピとウォレスがそう言って姫を励ます。

「はい、そうですね……ところで一つ聞きたいことがあるのですが……」

レティシア姫の声が自信なさ気に小さくなる……。
姫が俺に視線を向けて来たので、俺は頷いて促してやる。
決意を新たに姫は尋ねた。

「みなさんが危険を冒してまで私を助けてくれたのは、父上に命じられたからですか?」

それを聞いて、カーマインが答える。

「妹の友達を助けるのは、兄として当然のことだと思いますが……」

「友達……」

呆然としてる姫の前に、ルイセが歩み出る。

「姫様もお友達だと思ってって言いましたよね」

「もし任務を与えられなかったとしても、アタシたちきっと助けにいったよ!」

「ええ、友達を見捨てるなんて、絶対出来ませんから」

ルイセ、ミーシャ、カレンがそう告げる。
姫は感動して眼が潤んでいる。

「ありがとう…本当にありがとう!」

その涙は、昨夜見た涙と同じく、凄く綺麗な物だった――。




[7317] 第61話―エリオット襲撃……って、何故に?計画が頓挫しそうな件―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:2b6b8e5b
Date: 2011/12/07 23:10


さて、原作通りならエリオット襲撃イベントがあるはずだが……心配はないな。

何しろ、エリオットは置いてきぼりになってないから、書簡も持ってるし、ゼノスもシャドーナイトになっていない。
オズワルドも仲間だしな……と、思ったのになぁ。

「ちょっと待って!あそこ見て!あそこ!」

「あ、エリオット君?」

……うん、何処かで見たことがある様な場面だと思うんだ。

エリオットは広場の階段を駆け上がって行った。

「!……彼は……」

レティシア姫はエリオットの姿を見て、目を見開いている。

そうこうするうちに、盗賊みたいな連中が次々に現れる……王城方面からもやってきて、エリオット自身も追い詰められてしまう。

「悪いが逃がす訳にはいかん…」

更に現れたのはエリック……そしてモンスター達だ。
リザードロードというリザードマンの上位種にガーゴイル……また団体さんで……まだ懲りてないみたいだな……。

「どうして僕を狙うのですか!お金なんて持ってませんよ!」

「別にお前から金を取ろうなんて思ってはいない……お前を始末する様に依頼を受けたのでな……悪く思うなよ」

そこに南側から現れたのはシャドーナイト……やはりそこは変わらないのな。

「……あまり喋るな。なぜお前達を雇っていると思う?」

「……分かっている」

「い、今のうちに……」

スタタタタタ!!

隙を見てエリオットが逃げ出した。

「くっ、逃がすな!!追え!!」

エリックの指示が飛び、エリオットを追い掛けようとするが……そうは問屋がおろさない。

「待つのはそっちよ!」

「懲りずに悪事を働いているようだな」

そこに待ったを掛けるティピとウォレス。

「なっ!?貴様ら、どうしてここに!」

「これ以上、王都での不埒な振る舞いはおやめなさい!」

毅然と告げるレティシア姫……だが、俺は皆に敢えて言いたい。
もう少し慎重に行こうぜ……と。
ほら、シャドーナイトがこっちに気付いた。

「シオン……あの男……」

「ああ、間違いなくシャドーナイトだ」

ラルフと俺の会話に、シャドーナイトを知らないレティシア姫とミーシャ以外は顔を見合わせた。

「うん、マスターの研究書を奪った奴と、同じ格好だ!!」

「それがエリオットを狙っている……裏にいるのはバーンシュタインか」

「だが妙だな……何故エリオットが狙われるんだ……?」

ティピ、カーマイン、ウォレスがそれぞれに意見を言う。
俺は理由を知ってるが……それは後回しだ。

「今は敵を掃討するのが先だ!」

俺の指示に全員臨戦体制。
後はカーマインに任せる……。

「ルイセとカレン、ミーシャは魔法で援護、それに姫の護衛、俺達は市民を守りながら敵を各個撃破だ!敵の狙いはエリオットだ!絶対にエリオットを守り切るんだ!」

『了解!』

俺達はカーマインの指示に従い、行動に移した。

「あのシャドー・ナイトは俺がやる……アイツ自身に借りがある訳じゃないが、俺を嵌めようとし、カレンを傷つけようとした奴らだ……容赦はしねぇ!!」

「……なら、俺の分も頼むぜ?」

俺は張り切るゼノスに、シャドーナイトを任せることにした。

「ぼ、僕はどうすれば良いのでしょうか?」

「俺達がいる方向に逃げて来てくれ。東側の階段を使ってな!」

「分かりました!」

カーマインの指示に頷くエリオット。
俺はいの一番に駆け出し、目の前にいる盗賊達にメンチビーム!!

ブアッ!!

「ぐひっ!?」

「ひいっ!?」

バタバタバタ……。
盗賊達は次々に倒れて行く……俺は気絶した連中にバインドを掛ける。
これでしばらくは動けないだろ。
が、中には気絶しない奴らもいる訳で。
モンスターも居るし、な。

俺はリーヴェイグを抜き放つ。

「最初に言っておく……俺はかーなーりー強い……死にたく無ければ――退け!!」

俺は連中に宣告する。
これは警告だ……ここから先は容赦は出来ない。
何しろ、市民もいるんだからな。
だからこその警告……だが。

「舐めやがって!!」

近場に居た盗賊が切り掛かってくる。
やらなきゃ守れない……なら。

ドシュッ!!

俺は瞬時に踏み込み、切り掛かって来た奴を切り裂く。

「な……?」

斬られたことすら気付かないまま、倒れ伏せる。

胸が軋む……だが、やるだけだっ!!

「ウォーターアロー!!」

水で出来た魔法の矢が、ガーゴイルに襲い掛かる。
以前の様に加減無しのそれはガーゴイルの体を易々と貫通していった。

その後、戦闘は圧倒的なまでの結果で終わった。
ゼノスとシャドーナイトの戦いは、数合打ち合いはしたが、シャドーナイトはゼノスに袈裟掛けに切り捨てられた。

ラルフとカーマインは破竹の勢いでモンスターを駆逐していく……特にラルフは剣と魔法を上手く駆使して敵を駆逐していき、ウォレスも拳と剣で活路を切り開いて行った……。

ルイセ、カレン、ミーシャも、補助魔法に攻撃魔法にと忙しかった。
近付いて来たモンスターには、ルイセはカードを使い、カレンは魔法瓶を投げ付けて対処していた。

「くっ!!何故勝てない……」

俺はエリックに剣を突き付けて、対峙していた。

「これが最後通告だ……次は無い……腐った仕事はもう止めるんだな」

俺は剣を鞘に納め、背を向けて皆の所に戻って行く。

「くっ……」

エリックは、飛竜レブナントを呼び、逃げ出した……根は悪い奴じゃないから、出来れば立ち直って欲しいんだがな。
あ、気絶した連中は簀巻きにして警備兵に突き出しといたさ。

「大丈夫?」

「ええ、お陰で助かりました」

……と、エリオットも合流してたみたいだな。

「……………」

うわ…レティシア姫、めっちゃエリオットを睨んでる……。

「どうしたんですか?」

その様子にミーシャは静かに尋ねる。
何しろ怒気を含んでるのが丸分かりだからな。
エリオットも困惑気味になるのも頷けるだろ。

「…あの…何か?」

「どうしてあなたが、ここにいるのです?いったい、いつから!?」

「えっ?ここにいるわけは、両親にローランディア城に参るように言われたためですが……その……紹介状をなくしてしまって……」

「あなたは何者なのです!?正直に言いなさい!」

紹介状を無くしたぁ!?おまっ、ちょっ!?
そんなこと無いように、あの時一緒に連れて来たんだぞ!?
って、姫もヒートアップし過ぎ……。
俺は姫を止めることにする。

「お待ち下さい……姫の言いたいことは、理解しているつもりです」

「シオン様……」

「どういうことですか?」

俺が止めに入ったことにより、クールダウンするレティシア姫。
カレンは疑問を浮かべている……まぁ、あの闘技大会の時、カレンはゼノスのことを看ていたからな。
知らなくても無理は無いな。

「似ているのさ……バーンシュタイン王国の新王、リシャールと」

「その通りです……見れば見るほど似ていて……それで……」

「僕が……バーンシュタインの王様に……」

俺の言葉に、レティシア姫が肯定し、エリオットはそのことに呆然としていた。

「実際、そんなに似てるのかよ?」

「そうだな……カーマインとラルフを例えにすると分かりやすいか?」

ゼノスの質問に答える。
強いて言えば、鏡に映した様にそっくりだが、雰囲気が違うってこと。

「それって似てるどころの話じゃないじゃない!」

「お兄さまたち以外にも、そんな人がいたんだぁ……」

その事実に驚くティピに、的外れなことを呟くミーシャ。
まぁ、気持ちは分かるがね。

「……けど、どういうこと何だろう……僕たちみたいに双子なのかな……」

「或いは、エリオットが本物で、リシャールが偽物……ということも考えられる」

ラルフとカーマインがそれぞれ、意見を出す……実際、カーマインの意見が大正解なんだが。

「でも戴冠式を偽物に任せるかなぁ?」

「私もそう思います」

ルイセとレティシア姫は否定的みたいだ……仕方ないから俺が。

「俺は、カーマイン達の考えは概ね正しいと思っている」

「えぇ!?何で、何で!?」

ティピが疑問に思ってる様だから、懇切丁寧に説明せねばなるまい。

「そもそも、前提条件からして間違っている……ルイセ達は、戴冠式を偽物に任せる訳が無いと思っている………そこからして違うのさ。偽物に任せたんじゃなく、偽物と本物がすり替わってた……としたら?或いは、双子でも良い……エリオットが第一王子で、リシャールが第二王子だとしたら?どちらにせよ、エリオットが正当な王位継承者だという可能性は高い」

「何か根拠でもあるのか?」

ウォレスの疑問はもっともだ……が、根拠がありすぎる。

「まず第1に、二人がソックリであること……これは他人の空似では済まされないレベルだ……まぁ、世の中には三人は同じ顔の奴がいるとか言うがな……第2にシャドー・ナイトが動いていること……バーンシュタイン王国の影であるシャドー・ナイトが、わざわざ指揮を取り、命を狙われる様な人間が、無関係である筈がない……自身に正当性があるなら、無視すれば良いだけの話なんだからな」

「成る程な……そう考えれば、辻妻は合うな」

ゼノスはウンウンと頷く……が、まだトドメがあるんだぜ?

「最後に第三の根拠……エリオット、お前さん、ブレスレットを着けてないか?」

「これの……ことですか?」

エリオットは俺の説明に困惑しながらも、右腕に着けているブレスレットを見せてくれた。

「それは……!」

「姫、ご存知なのですか?」

「……間違いありません。全く同じブレスレットを、リシャール王もしていました」

カーマインの質問に答える形で、話すレティシア姫。

「それは『王位の腕輪』と言って、バーンシュタイン王国に王子が生まれたのを祝い作られた、魔法金属の腕輪です…言わば王子の証ですね」

「それって……つまり……」

「エリオット君が、王子様!?」

エリオットが呆然と呟き、ルイセが驚愕する。

「けど、バーンシュタインの王様も同じ腕輪を着けてるんでしょ?」

「本物の腕輪の裏には、当時のバーンシュタインの宮廷魔術師三人の署名が彫られてるらしいんだが……」

ミーシャの問いに答える俺……まぁ、現段階では確認しようが無いわけだが。

「エリオット君、腕輪を取って見てくれないかい?」

「そ、そうは言ってもコレ、ピッタリくっついてて、取れないんですよ〜!」

ラルフがそう頼み、エリオットは必死に剥がそうとするが……まぁ、外せないだろうな。
多分、原作を考えるに署名した宮廷魔術師にしか外せない仕様になってるんだろ……つまり、ボスヒゲに頼らなくてはならん……。

「にしても、やけに詳しいなシオン」

「忘れたのかよゼノス?俺は元、インペリアル・ナイトの息子だぜ?それくらいの話は知ってて当然だろ?」

実際、教養の一環として色々覚えさせられましたから……勿論、原作知識も手伝ってるけど。

「……あの、シャドー・ナイトとは何なのでしょうか?」

あ、レティシア姫は知らなかったんだよな……。

「その辺も詳しく説明したいので、詳しくは王の御前で……俺が知る限りの話を致します」

これだけ情報が集まっていても、可能性が高くなるだけで確定では無い……あ、エリオットが何で書簡を持ってないか問い質さねばな。





[7317] ―秘書イリスの感情―番外編12―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 23:15


私はマスターの道具……マスターの人形……マスターの玩具……。

それだけの存在だ。

それ以上は不要だ。

そんな私を見て、マスターは感情が希薄でつまらないという。

分からない。

感情など必要なのだろうか?

分からない。

私に感情があるのだろうか?
私の中にあるのはマスターに対する忠誠のみ。

『あのな……こういう時には、人の親切は素直に受けとくモンだぜ?』

……あの男、シオン・ウォルフマイヤー……。
父が元インペリアル・ナイトであり、闘技大会優勝者……『白銀の閃光』と呼ばれる実力者で、その剣技は他者の追随を許さず、また、その魔力も同様……現状、ルイセ・フォルスマイヤー以上のグローシアン……。

マスターの標的の一人……。

集められる情報と、ミーシャからの情報を纏めた情報だ。

あの男は何故、私に関与したのだろう?
私はよく男に声を掛けられる……それは私に欲情するからだそうだ。
この身はマスターに創られている……。
マスターの創造した姿に欲情する男ども……理解出来ない。

……だが。

『……放っておけなかっただけだしな!』

あの男は違う……そういう感情で接触してきたのではない。
放っておけなかった……ただそれだけで私を…………?

……あの時のことを、あの男の笑顔を思い出すと、胸の辺りの動悸が苦しくなる……理解出来ない。

「失礼します、学院長」

「うむ、入りたまえ」

私は地下の研究室に赴いていた。
学院長に許可を受け、研究室に入室する。
研究室の扉が閉まる。

すると、学院長……マスターの雰囲気が変わる。

「それでは、報告を聞こうか?」

「はい、連中は国内外を問わず、グローシアンの保護に奔走していました。同意した者には同行を促し、そうでない者には魔道具の様な物を預けておりました……この魔道具の用途は不明のままです」

私は調査報告を読み上げる……すると、マスターの顔色が変わる。

「おのれ……オズワルドとか言ったな……あの愚民は……して、奴らの背後関係は分かったのか?」

「申し訳ありません……詳しい情報は掴めませんでした」

「愚か者がっ!!」

ガッ!!

マスターは私に石の様な物を投げ付けてくる……恐らく、研究用の魔水晶か何かだろう。

「申し訳ありません」

私は頭から血が流れるのを気にせずに頭を下げる。

「ふん!儡人形め!!お前の変わりなど幾らでも効くのを忘れるなよ……ふむ、しかし…………まぁ、良いだろう。お前の愚かしさは不問にしよう」

「?ありがとうございます」

私はそう言うが、何か気を良くすることでもあったのだろうか?

「私が水晶鉱山に赴いた際に、覗かせて貰ったが……シオン・ウォルフマイヤーと接触したようだな?」

「はい、あちらから接触して参りました」

「ふふふ……どうやら私にも、まだまだ運が巡って来たらしいな……イリス、お前にはシオンに近付き、あわよくば取り入ってもらう」

「取り入る……と申されますと?」

「そんなことも分からんか?あやつを誘惑し、隙を作れと言っておる……ミーシャの視覚から見たが……あの男、正面から挑めばこちらが手痛いしっぺ返しを喰らうかも知れん……しかし、あのルイセを超えるグローシアンだ……何としても欲しい……フフフ、あれだけのグローシアンのグローシュがあれば、私がグローシアンの王になるのも、そう遠くはなかろう……ふぉーほっほっほっ!」

成る程、あの男を篭絡しろとおっしゃるのか。
……あの男が篭絡されるのだろうか……私に、出来るのだろうか?

……私に、欲情するのだろうか?
分からない……胸が苦しい。

高らかに笑うマスターを見て、私はそう考えたのだった。

********

オマケん♪

「ところでマスター、誘惑とはどの様にやるのでしょうか?」

「むぅ?そんなことも知らんのか?……ホレ、この資料を参考にするが良い」

『女学生の堕落』

「……私は秘書なのですが」

「何も学生になれとは言わんわ!!……その内容を参考にせよと言っておるのだ」

私は資料をめくる……どうやら、清純な女学生が豚の様な男に凌辱され、調教される話らしい。
成る程、男というのはこういうものに性的興奮を示すのか……。
あの男をこの豚と一緒に見ることは出来ないが………。
しかし、マスターはこういうものを所持していながら、そういう行為を望んでは来ない……何故だ?
…………成る程、マスターは高齢だから致し方ないのかも知れない。
いわゆる、不能なのだろう。

「……今、無礼なことを考えなかったか?」

「気のせいです」

私は研究室を後にし、頭の傷にキュアを掛ける。
傷を塞いだあと、私は仕事に戻る。

仕事中にでも研究しなければならない。
……成る程、嫌がる程興奮するのか。
嫌がる過程で、嫌がらなくなる……その様がまた興奮するのか。
……成る程。

********
後書キック!

そんな訳で、秘書さん改めイリスさんの話でした。

当初、彼女はミーシャの向こうを張り、まみむめも、の中から頭文字を取ろうとしたのですが、どうもしっくり来なく、こんな名前になりました。
イリスと聞いてサ○ラ大戦を思い出した貴方はマニアックです。
アトリエシリーズを思い浮かべた人は神です。
名前の元ネタは、ガメラに出て来たギャオスの変異体だったりします。

ちなみに、他の名前の候補集。

マーサ→なんか雰囲気違うし、ドラ○エⅤを連想して没。

マリア→サ○ラ大戦の立花さん的イメージ。しかし、聖母様のイメージが強く没。

マリナ→取りあえず作品的に却下。

マリーベル→雰囲気違うので没。

と、マ行だけでもこれだけありました。




[7317] 嘘予告!!超ネタバレ注意!『異世界転生者くんの憂鬱』
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 23:21


これは嘘予告である!

この予告に出てくるシオンは今より未来のシオンである!
故に随所にネタバレ満載である。
また、この世界に飛ぶ可能性は殆ど無い!

そういうのが耐えられない読者諸氏は、全力で逃走せよ!そして全力で見逃して欲しい!!

覚悟は決まったか……?パンドラの箱を開ける覚悟が決まった諸君は心して観覧して欲しい……。

何があっても私は謝らない!!

********

「暇ねぇ〜……魔法使いでも降ってこないかしら?」

「また唐突だなお前は……」

「ただの魔法使いじゃ駄目よ?魔法も使えて剣も使えて、変身出来てゴ○ラくらい軽く捻り倒せる様な奴が良いわね!」

「何処の勇者だそれは!?っていうかそんなの来たら地球崩壊するわっ!!」

「何よ、夢が無いわねキョンは……しょうがないじゃない暇なんだもの。あ〜あ……みくるちゃんが来たら着せ替えして遊ぶのに」

「そういや、長門と古泉もまだだな……珍しいっちゃ珍しいよな」

まぁ、平穏に過ごせるのはいいことだ……そう思ったが、俺は忘れていた。
こいつが……ハルヒが突飛なことを言い出す時は、非日常が始まる合図なのだと……。

*********

同時刻、某所。

「ん……ここは……」

俺は眼を開け、周りを見渡す……周りは森林に囲まれている……どうやらまた飛ばされたらしい……いや、あの感覚は召喚されるそれに近いな。

「ディケイド、起きてるか?」

『YES、MASTER……ここは何処でしょうか?』

「分からない……人の気は感じるから、未開の地ということは無いだろうが……霊力も魔力もさして感じないんだよな……悪いが、周囲のサーチを行ってくれないか?」

『了解しましたマスター』

俺の着けてる十字架を模したペンダント……その中央の宝石が明滅して答える。
俺が直で調べても良いんだが、場所によっては空を飛んだりしたら怪し過ぎるし……ファンタジーな世界なのか、現実な世界なのか……それが分からんことにはな。
とりあえず、俺はグロラン世界から愛着していたスプリガンガードを着け、下は黒いシャツに黒ズボンという出で立つになる。
カーマインルックのジャケ色違いだな。
勿論、普通に着てるけどな。

……しっかし、参ったなぁ……今回はどうも宇宙意思は関与してないみたいだし、鳴滝の馬鹿みたいな勧誘もなかった……カレン達とも逸れちまったし……俺だけ召喚されたというオチはないだろうな?

『マスター、探査が終わりました』

「おう、どうだった?」

『近くに街があります。文明的には私が存在した地球と大差はありません……どうしましょう?』

「そうだな……なら様子を見に行くか……走って行っても良いんだが」

俺は聖騎装……というには見た目は飾り気の無いポーチを腰から外す。
名前はインフィニットポーチ……という大仰な名前なんだが。
そしてジッパーを開け、ポーチの口を前に向けて、更にマナを込める……すると、大きな次元の穴が開き……そこから赤を基調にしたオフロードバイク……レッドランバスが現れる。

俺はポーチを腰に戻し、レッドランバスに跨がり、エンジンを起動させる。

「さて……俺がこの世界に呼ばれたと言うことは、成すべきことがあるってことか……今度こそ平穏に過ごせると良いんだがな」

俺はその場を後にした……後に、ここが涼宮ハルヒ『ちゃん』の世界であり、一人の少女に暇つぶしで呼ばれたと知り、怒りや憤慨を通り越して、大いに脱力してしまったのであった。

あ、カレンを始め、皆はしっかり見つかったのは明記しておく……まぁ、一応眷属ということだから、世界間を置いていけなくなってるワケなんだが……大変安心した。

あと、あちゃくらは非常に可愛かった。
小動物的意味で。

「誰が小動物かっ!!」

……うん、何でか長門さんの家にお世話になることになりました。
まぁ、身分証明書を偽造するのはワケ無いのだが……そういうの無しで真っ当に生活する場合、俺みたいなのが世話になるには、長門の所か古泉の所で世話になるしか無いワケで……。

「なぁ、本当に良いのか?幾ら俺が得体の知れない奴とは言え……いや、だからこそ女の子の家に居候してさ?」

「構わない」

さいですか……。

「どうも初めまして、私のことは気軽にきみどりさん……とでも呼んで下さい」

風船犬にさん付けを要求された!?
……と、あちゃくらなら驚愕のリアクションを取るだろうが、俺は別段気にしないので……。

「よろしくな、きみどりさん」

俺の右手を差し出したら、快く右前足を差し出してくれた。

「あっさり受け入れた!?っていうかお手?」

「まあ、今までが今までだったからねぇ……風船犬が喋ってるくらいじゃ驚かないよ、俺は」

あと、お手じゃなくて握手だからな、あちゃくらさん?
にしても、この世界の長門は人生を謳歌しているなぁ……。

ピンク色のギャルゲーをプレイしてるとは……というか、そういうのは野郎である俺がいない場所でやって欲しい……。
原作では面白かったが、目のやり場に困る……。

「………やる?」

いや、やらないから……やったことが無いとは言わないが。

「……何て言うか、君も大変なんだな?」

「分かりますか!分かって戴けますか!?」

こうして転生者は平穏に過ごし……。

「ねぇ!魔法使ってみせて魔法!!」

「構わないが……俺の使える魔法は攻撃、回復、戦闘補助とかだからな……夢溢れる魔法とかは使えないぞ?」

「望む所よ!!」

「望むなぁぁ!!!」

「これが噂に名高いキョンのツッコミかぁ……勉強になるなぁ……」

……時々騒動に巻き込まれながら生活していくことになったのである。

「どうでもいいのですが……僕達の出番がありませんでしたねぇ」

「え〜っと……その〜……」

「みくる達はまだ良いっさ。アタシなんか名前も出てないよ?その辺どうにょろ?」

いやぁ……嘘予告ですから♪
……うわなにをするやめry

********

後書きという名の言い訳。

神仁です。まず初めに謝っておきます。
すみませんm(__)m

グロラン編の生き抜き(誤字にあらず)に書きたくなって書いてしまいました……m(__)m

色々突っ込み所満載でしょうがスルーでお願いします。
m(__)m




[7317] 第62話―魔王再び、エリオットといけ好かないアイツ―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/07 23:33


「それで、何でエリオット君は書簡を無くしちまうのかな?かな?」

王城へ向かう最中に、俺はエリオットに尋問……もとい、質問をしていた。
なんか、皆がガタブル震えてる(特にルイセ、カレン、ミーシャ、ティピがヤバイくらい震えてた)が、知ったことではない。
俺の計画が潰れそうなんだからな。

「あ、ああああの!ルイセさんのお母さんが危ないって時だったから……慌てて着替えて、それで」

「つまり、書簡は宿に忘れてきちまったと……そう言いたいわけだ?」

「は、はいぃぃ……」

因みに、俺の当初の計画はこうだ。
エリオットを連れて来た時に思い付いたんだが……。
エリオットが書簡を忘れず、それを提出……それで兵が動けば御の字、でなければ+俺が説明で、ほぼ確定の筈だった。
その時が訪れた場合の為、父上達には、オズワルドを通して連絡してある……父上達の安全の為というのもある……動くか動かないかは、父上次第だが、最近入った連絡では、父上は動いたとのこと。
つまりはこうだ。

エリオットを旗印に反攻→父上説得の上、挙兵。
こちらに着いてもらう。
という算段だったのだ。
言わばボスヒゲの書簡は物的証拠みたいな物……なのに……肝心の書簡を無くしやがってぇ……。

「このおバカあああぁぁぁぁ!!!」

グリグリグリグリグリグリッ!!!!!

「ご、ごめんなざぁぁいっ!!」

俺は、春日部のスーパー五歳児をも震え上がらせる、頭グリグリ攻撃をエリオットにかました。
勿論、手加減したぞ?
でなきゃ、頭蓋骨粉砕しちまうもの。
エリオットは泣いて謝るが、本当に反省したか迂闊者め!!

俺はしばらく、グリグリ攻撃の手を緩めなかった。
後、ルイセが「怖いよぅ…怖いよぅ…」と、膝を抱えて震えており、ミーシャはその後ろでガタブル震えながらこちらを伺っていた。
カレンは「ごめんなさいごめんなさい!もうしません!もうしませんからぁ!!」と、泣きが入っており、ティピはティピで頭を抱えて地面に蹲って震えていた。
ちなみに、街の人達の中には、気絶してる人達もチラホラ……むぅ、そんなに怖かったか?

……自重せねばなるまいな。
男連中も震えてしまっているし……ちなみに、女性陣が復活するのに時間が掛かったことを明記しておく。

「そ、その書簡には何が書かれてるって言うんだ?」

カーマインがそう聞いてくる……どうでも良いが、その引き攣った顔どうにかしなさい。

「まぁ推測だが、エリオットが王子だという証拠みたいな物が書かれていたんだろうな……わざわざ王に向けての書簡なんだから、それくらいのことは書かれていてもおかしくはない。」

詳しい話は王城で、という話になった。
で、俺達は事情の説明と、姫を送り届けるためにローランディア王城謁見の間にやってきた。

そこでは王と、サンドラ様と、文官の人と……?
何やら貴族らしい男が待っていた……誰だ?

「おお、無事に戻ってくれて何より。お前たちも、よくぞ我が娘を助け出してくれた」

「ははっ」

俺達はひざまずき、その言葉を受け取った。

「父上、ご心配をおかけしました」

「うむ、もう良い」

レティシア姫を見て、心底安心した様に頷くアルカディウス王。
……何と言うか、助けて良かったと思うな。

「姫、私も心配しておりましたよ」

「ありがとうございます、コーネリウス様」

大仰な動きで、心配していたことをアピールする男……コーネリウス………もしかして、Ⅱでローランディア王になっていた……あのコーネリウスか!?

「それにしても、憎きはバーンシュタイン……我が姫君をかような目に合わせようとは……」

「失礼を承知で伺いますが陛下……そちらは?」

憤慨するコーネリウスを無視し、アルカディウス王に尋ねる俺。

「おぉ、そういえばまだ紹介していなかったな……我が国の臣下、コーネリウス・ヘルゼン卿だ」

「コーネリウス・ヘルゼンだ。諸君らのお陰で、姫を救い出せた……礼を言おう」

コーネリウス……ヘルゼン卿は、横柄な態度でそう言う。
……俺はⅡでカーマインを振り回すこの男が好きではなかった。
何より、平和な世の中になったⅡの時代に、軍備を異常な迄に強化し、他国を脅かしたこの男は……正直、好きにはなれない。
それがある意味、必要な措置だったとしても――だ。

話を聞くと、ヘルゼン卿は軍部を統括する位置にいるとか。
グレッグ卿と同様、王の信頼も厚いそうだ……確かに有能なんだろう……だが、その眼は野心にギラついてる様に見える。

俺はⅡをプレイしていて、不可解に思ったことがある。

やっとボスヒゲの魔の手から開放された世界……そんな世界で、アルカディウス王は一年足らずで崩御した……あの明朗快活なアルカディウス王が?
普通有り得るか?
そしてコーネリウスが後釜に着いている……考えられるのは一つ。

姫に近づき、その後、秘かに王を毒殺した可能性だ。

……いや、あんまりに突飛な話だな。
アルカディウス王は、本当に病気で亡くなったのかもしれないし……。

「それよりレティシアよ、お前に聞きたいことがある……本当にグレッグ卿がリシャール王に斬り掛かったのか?」

「残念ながら本当です」

「むぅ……」

「しかし、それも思い返せば妙な気がします」

「妙とな?」

姫が言うには、その時のグレッグ卿は姿形こそ似ていたが、どこか別人の様だったと……。

「うむ……するとやはり……」

王は何かを考えている……俺が話した、グレッグ卿偽者説が濃厚になってきたからだろうな。

「そう言えば、その者は……?」

「ええと……」

緊張してるのか、言葉に詰まってしまうエリオット。

「そこから先は私が説明します」

俺は説明する……彼の名前がエリオットであること、エリオットが王都を訪れた理由、エリオットとリシャールの関連性、バーンシュタイン王国の影であるシャドー・ナイトの存在、そのシャドー・ナイトに命を狙われている事実、そしてリシャールと同じ王位の腕輪を身につけていること、王位の腕輪の持つ意味、本物の腕輪と偽物の腕輪の違いなど、皆に説明したことを改めて説明した。

「むぅ……するとその方は、このエリオットが本物の王子で、新たに王位に着いた者は偽者だと言うのか?」

「はい、正確には、正当な王位継承権はエリオットにあると思います……」

皆、一様に言葉に詰まってしまう。
分かるけどな……いきなりこれだけの情報を提示されたんだから……しかも、俺の肩書は元インペリアル・ナイトの息子だからな……信憑性はある。
しかし、そこに異論を唱える男がいた。

「ふん……敵の言うことを真に受けることなど出来ぬわ」

「……どういう意味でしょうかヘルゼン卿?」

「貴様は敵側である、インペリアル・ナイトの小伜であろう?ならば、自国の為に虚言を吐いている可能性もあるな?」

コーネリウス……この男……。

「よしんば、その情報が正しかろうと関係無い……向こうが宣戦布告をしたのだ!ならば、我らの力を示すのが道理だろう……そこの者が本当に王族だと言うなら、その身を盾にすれば良い……陛下、この様な虚言など信じず、徹底抗戦の姿勢を取るべきです」

……本気で言っているのかコイツ……その言動はあまりにも無茶苦茶だ。
エリオットを盾にするだ?
そんなことすれば、更に泥沼になるのが分からないのかよ!?

俺は血が滲み出るくらいに、拳を握り締める……コイツの頭には、三国を武力で統一しようとか、そんなことを考えているんだろう……これが王の為というなら俺もここまで苛立ちはしない。

むしろ、元インペリアル・ナイトの息子である俺を警戒し、王へ危険性を説く姿は賞賛に値する――。

だが、コイツは最終的にはその頂点に自ら立とうとしている……。

「言葉を謹めヘルゼン卿!その方は下がってよい」

「……分かりました。それでは、失礼します」

奴はそう言われ退室する……擦れ違い様、ゴミを見るような眼でこちらを見て来た……いけ好かねぇ野郎だぜ。

「シオンよ、気を悪くしないで欲しい……ヘルゼンはヘルゼンなりに国を憂いているのだ……だが、その方の覚悟はしかと聞いている……すまなかった」

「申し訳ありませんでした……シオン様」

そう言って、頭を下げて来るアルカディウス王とレティシア姫……って!!

「あ、頭を御上げ下さい!!その様なこと、滅相もありません!」

俺が慌ててそう言うと、二人は顔を上げてくれた……ったく、どれだけ人が良いんだよ。
その後も、エリオットが手紙を無くしたこと、その手紙にエリオットが王子であることが書かれていた可能性があることを話した。
そして……。

「僕の両親は本当の両親じゃないと、ここへ来る途中に知らされました。ある人に預けられたそうです」

「ある人?」

「直接は知りませんが、両親の会話に『ヴェンツェル様』という名前がよく出てきたのを覚えています」

「ヴェンツェル?本当にヴェンツェルと言ったのですか?」

サンドラ様が反応した……まぁ、師匠らしいからな。

「はい、何度も聞いているので間違いありません。一体どなたなのでしょうか?」

「バーンシュタイン王国宮廷魔術師長にして、私の師です」

「お母さんの先生……」

ルイセが驚いているが、そりゃあサンドラ様にだって師匠くらい居ただろう。

まぁ、これでエリオットが王族だと言う信憑性が更に高まった訳だ。
俺はアルカディウス王に、エリオットの王位奪還の助力を願った。
勿論、エリオット自身の覚悟の程も問うた……無理矢理やらせるのはやっぱり違うからな……すると。

「それが僕に課せられた役目なら……」

と、存外やる気はある様だった。
これも両親の教育の賜物かね?

とは言え、どうするかは直ぐには決められないし、しばらく時間が欲しいとのことだった。
そして、姫を救出し、バーンシュタイン王国の侵入作戦を未然に防いだということで、仕官していたカーマイン、ゼノスは騎士の称号を授けられた!

「………」

「俺たちが……騎士に?」

二人とも呆然である。
まぁ致し方ないか……いきなり大出世だからな。
ちなみにルイセは魔導師だから、ウォレスはサポート役なので授与はされてない。

俺ら?俺らはあくまで民間協力者だからな。

皆に祝福され、褒め讃えられる二人。
いや、本当におめでとう!

「そしてささやかだが、一人には土地を、一人には褒美を授ける……好きな方を選ぶと良い」

で、話し合った結果、カーマインが土地を、ゼノスが褒美を承ることになった。

「場所は城下街の西門を出て、少し進んだ所にある空き地だ。詳しいことは現地の管理人に聞くとよい」

「うふふふ♪楽しみぃ☆」

楽しみな所悪いがティピ……多分、まだ何も無いぞ?

しかし、喜んでばかりもいられないのは事実で、バーンシュタインとの戦争は始まってしまっている……エリオットを旗印にしようにも、その後に色々裏工作をしなければならない以上、南の森で戦端が開かれるのは避けられない……しかも、あそこはランザック王国とも隣接している為、下手をすれば二面戦争になってしまう。

「二面戦争か……そいつはまずいな」

「どうして、まずいの?」
「いいか、今、ローランディア王国はバーンシュタイン王国と戦争状態に入った。国内の兵はバーンシュタイン王国との戦にあてなきゃならねぇ…そこへランザック王国が攻めてきたら、ランザック王国を止めるために兵を割く必要がある。つまり、バーンシュタイン王国と戦う兵が不足する。戦争ってのは個々の力もさることながら、絶対的な物量ってのは無視出来ないもんなんだ」

戦いは数だよ兄貴!と、某中将もおっしゃってるし、俺が策士としてもっとも尊敬する、自由惑星同盟の魔術師もそんなことを言っていたしな。
俺なら力押しで無双出来てしまうけどな…多分。




[7317] 第63話―シオンとジュリア―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/08 18:21


「つまり10の力も、5と5に分けなきゃいけなくなっちゃうってことか」

「今はまだランザック王国が参戦していないが、もし参戦されれば、そうなるってことだ」

ウォレスの説明に分かりやすく解釈するティピ。
うむ、大変わかりやすい。

「う〜ん……困ったわねぇ……アンタ、どう思う?」

「そうだな……ランザックと同盟を結ぶ……というのはどうだ?」

「あ、そっか。ようするに攻めて来ないって約束があればいいんだ」

ティピの問いに答えるカーマイン……それを聞いて感心するルイセ。

「確かに戦争を未然に防ぐには良い方法だと思うよ」

「だな。そうすれば、ランザックの乱入を心配せずに戦いに専念出来るしな」

ラルフ、ゼノスも賛成らしい。

「どうでしょうか、王?」

「よし。では、お前たちが休暇を終える迄に、ランザック王宛の書簡を書き上げておく……エリオットの件も協議しておこう」

さて……良い方向に話が纏まれば良いが……あのコーネリウスがなぁ……断固反対しそうだ……。

で、今回は休暇を三日貰った……最初に向かう休暇先は……。

*********

休暇一日目・観光地コムスプリングス

テレポートでコムスプリングスまで飛んで来た俺達は、それぞれに行動する。

さて……俺は……お、居たな。

「よぅ、ジュリアン」

「!?シオン……何故?」

「ま、カーマイン達が休暇を貰ったから、協力者の俺達も付き添い」

「……戦争状態の国に休暇に来るとは……何を考えているのか……」

「とは言え、ここから水晶鉱山までは魔法学院の管轄だろ?つまりは中立地帯って訳だ。だからこそ、休暇先にしても許可が出たわけだしな」

俺があっけらかん、と言うと、ジュリアはふぅ……と、ため息を吐いた後で苦笑いを浮かべた。

「仕方ないな…お前は…」

ん?何かジュリアの気が乱れてるな……そういや、原作だと寝不足で倒れたんだっけ?

「せっかくだ、邪魔の入らない所で話そう……聞きたいこともあるし」

「……分かった、私もお前とは話したいと思っていた」

俺達は連れ立って、宿の部屋を一つ借り、そこに入った。
ちなみに、監視とかが無かったことは既に気を探って判明している。

扉を閉め、俺はベッドに腰掛ける。

「ジュリアも座ったらどうだ?」

「は、はい……失礼します」

ジュリアは素直に従い、横に座った。
顔を赤くしている……可愛いな。

「さて……何から話すべきか……」

「以前、バーンシュタインの敵に回るかも知れない……という話を伺いました。そしてマイ・マスターは敵に回った……その辺りの理由をご説明して戴きたいのです」

真剣な表情で尋ねて来たので、俺は三度になる説明を繰り返した。
グレッグ卿が仕立て上げられた偽物の可能性、エリオットの存在、そしてリシャール王との関連性、シャドー・ナイトの存在と、それがエリオットを狙った事実、そしてエリオットの腕輪の話……更にはボスヒゲ……バーンシュタイン王国宮廷魔術師長であるヴェンツェルが、エリオットの両親に彼を預けた事実……等を話した。

「……そんな……あの時の少年が……」

「……まぁ、可能性の話も混じってはいるが、ほぼ間違いないだろうな……それとも、信じられないか?」

それも仕方ないだろうがな……いきなり自分の仕える国の王が、実は悪巧みをしていた偽王だって言うんだ――国に仕える騎士としては信じ難いモノがあるだろう。

「そんな筈はありません!マイ・マスター……貴方が言うことです。私は――信じます!」

「サンキューな……」

本当に、嬉しいことを言ってくれる……しかし。

「しかし、何故そこまで信じてくれる……?俺はお前の部下の命を奪ったんだぞ……憎くはないのか?」

「……戦争ですから、そういうこともあります……いえ、本当は思いました…何故、敵対しなければならない?何故貴方と……何故……と」

「……………」

「――しかし、マイ・マスターのことを信じていたから……だから私は……憎めなかった……指揮官失格です、ね――死んでいった部下たちも、草葉の陰で嘆いていることでしょう……」

憎いんじゃない……絶望したのだろう。
俺と敵対したことに、俺に部下を奪われたことに……しかし、それでも信じてくれた……そこまで想ってくれていた……。

悲しみに彩られながら、不甲斐なさを噛み締めながら……それでも。

――真(まこと)の忠誠は失われてはいなかった……。

俺はジュリアを抱きしめる……悲しい位の決意を秘めた彼女を……。

「!ま、マイ・マスター……お、お戯れは止めて下さい……」

「……ありがとう、ジュリア」

「……マイ……マスター……」

真っ赤になって、しどろもどろだったジュリアだが、俺の抱擁を甘受している様だった。



それからしばらくして、冷静さを取り戻したジュリアは俺に聞いてくる。

「もしや、ウォルフマイヤー卿の屋敷が裳抜けの空になっていたのも……」

「まぁ、そういうことだ」

「では、私も兵達に話を通してみます」

「良いのか?反逆罪になるかもしれないぞ?」

「……構いません、私はダグラス家とは縁を切った身……私だけでも、必ずお力になることを誓います」

やっぱり縁が切れちまってたのか……。
これはなんとかしてやらないとな。

「分かった……期待させて貰う……我が騎士、ジュリア」

「ハイ!この身に誓って……!」

となると、ジュリアとエリオットを引き合わせることも考えないとな……ジュリアだけで話すより、エリオットも居た方が説得力はあるからな。

……アレを渡しておくか。

「ほら、これをやるよ」

「これは……?」

俺が渡したのは腕輪……宝石が三つ着いた腕輪だ。

「これは『転移の腕輪』っていう魔道具で……まぁ、簡易テレポート用魔道具だな……ここに嵌められてる宝石はグローシュ結晶って言ってな……魔水晶から抽出されたグローシュを結晶化させた物だ……それを大気中のグローシュを吸収する媒体として使用し、その魔力を使用してテレポートを行う。ただ、使い切りアイテムでな?十数人程度なら結晶一つ……数百人程度なら結晶二つ……それ以上なら結晶全部を代償にしなければ発動しない……しかも登録した場所にしか跳べないワケだが……これは魔力に指向性を持たせることにより………って、分かりにくいか?」

「も、申し訳ありません……」

フラフラしてるジュリア……あ、眠いんだったよな。

「簡潔に言えば、決められた場所にテレポート出来るアイテムだ。使い方は魔力を込めるだけ……簡単だろ?三回まで使用可能だが、人数によっては一回コッキリしか使えない」

俺はオズワルドに頼んで、グローシアン達へこれを配らせていた……これを使えば不足の事態に備えられる。
……まぁ、中にはオズワルド達の説明が信じられず、腕輪を着けずにポイ捨てした奴もいるかもしれんが……そんな奴まで責任は取れん。

「大体分かりました……しかし、これを使うと何処に……」

「父上達がいる場所……まぁ、隠れ家だな」

そう、実は俺はアジトとも言うべき物を「こんなこともあろうかと!」作製していたのだ。
まぁ、詳しい話はまた語ることもあるだろう。
ジュリアを信頼してるからこそ打ち明けたのだから。
それに、これを使えば、父上と合流することも出来る。

その後、悪巧み……もとい、色々話し合った。
俺達がランザックと同盟を結ぶ話をしたら、ジュリアのほうからもバーンシュタインがランザックと条約を結ぶ……という話をして来た。


バーンシュタインの高官、ガムランその人が。


むぅ……どうでも良いが、端から見たら完全にスパイと変わらんな……俺ら。

まぁ、誰かの気配も感じないし、念の為に消音魔法も掛けたから問題無しだがな。

消音魔法『サイレント』……声を封じて呪文を封じる、『サイレンス』のアレンジで、周囲の空間を覆い、空間の中の音を外に漏らさない様にする。

これは部屋にも掛けることが可能なので、非常に便利である。

あの砦の時も、実はこの魔法を部屋に掛けていたりする……でなきゃ、あんな大声を出して、誰もすっ飛んで来ないというのは有り得ないだろう?

少なくとも、誰か起きてしまった筈。

と、そういえば……。

「カレンから聞いたが……同盟を結んでたんだって?」

「はう!?な、何のことでしょう!?」

「隠すなって、もう知ってることなんだからさ……で、だ。こんな時に言うのも何だが……」

「は、はい……」

本当、こんな時に言うなんてどうかしてると思う……我ながらタガが外れたんじゃ無いかと思う。
しかし……。

「ジュリア……俺のモノになる気はないか?」

「………!!」

「既にカレンとは両想いになったワケだが……俺はジュリアも好きで、ジュリアの気持ちにも答えたいワケだ……全く、我ながら最低なこととは思う……だが、自分に正直になろうと決めた以上、自分の気持ちに嘘はつきたくないんでな……嫌なら嫌で良い。強制はしな」

それ以上は喋れなかった……ジュリアに、口で口を塞がれたからだ……。


互いの唇が離れる……。
……真っ赤だなジュリア……恥ずかしいのに頑張ったんだろう。

「嫌な訳――無いじゃないですか……カレンに同盟を持ち掛けたのは私ですよ……?マイ・マスターの寵愛を受けられる……こんなに嬉しいことはありません……」

「ジュリア……」

「あの日……言いましたよね……私の心と身体は貴方のモノだと……その気持ちに、嘘偽りはありません」

抱き着いてくるジュリア……俺はそれをしっかり受け止める。
……温かい、ジュリアの気持ちが伝わってくるみたいだ……。

「愛していますマイ・マスター……これからも、お側に置いて下さい……」

「俺も愛してる……頼まれたって離さんさ……ずっと俺の側にいてくれ……ジュリア……」

俺達はお互いに抱きしめ合い、幸せを噛み締めたのだった……。
本当はこんな状況で言う台詞じゃないんだが……なんつーか、こんなに想ってくれてるのに、答えないのは男じゃないだろう?

にしても……本当に何で俺なんかをこんなに想ってくれるのか……。
カレンにしろジュリアにしろ、物凄く良い女なのに……。

これで俺は二股だぜ?……でもカレンとジュリアはそれでも良いという……マジで幸せにしてやりたいよなぁ……。

その後、やはりピンクな空気になるが、ググッと我慢!!
何度も言うが戦争中です。
平和になったら一杯愛し合おう……と言ったら、ジュリアは茹蛸みたいに真っ赤になって頷いた。


ただ、またしばらく別れねばならない為、もう一回キスして欲しいと頼まれ、ならばと強烈なのを一回してやった。
めがっさ深〜い奴を。

詳しくは明記しないが、最初は驚いていたジュリアだが、途中からは甘受していた……しかし、その行為の内容と疲労が合わさって真っ赤になって倒れてしまった。

ボンッ!!

と言う擬音と、頭から煙がシュ〜〜……と出ている幻覚と幻聴が……気のせいにしておこう。

俺はジュリアをベッドに寝かせ、ジュリアの髪を撫でる……サラッサラだな。

「……時間か……じゃあそろそろ行くから……またな」

俺はジュリアのおでこに軽く口付け、その場を後にした。
……どうでも良いが、俺、キス魔になっているよな……しかし、俺がキスした時のアイツらの喜び様が………くぅ!!
平和になってから……平和になってからだ……。

我慢した俺を褒めて欲しい……いやマジで。
何と言うか……静まれ我が息子よ!!
…あぁ、煩悩もまたチートかよ…不能より全然良いけど。

そして集合場所に集まった俺達は、テレポートで帰還、次の休暇先を申請、帰宅した。
あ、ジュリアが俺達の側に付くかも的なことは皆に話したぜ?
黙ったままは後味悪いし、皆を信頼してるしな?




[7317] 第64話―シオン先生の勉強会と、宮廷魔術師との契り―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/08 18:40


さて、色々あって翌日。
あ、色々というのはカレンにジュリアともくっついたぞ?
ということを話したということだが。

それを聞いてカレンは――。

「よかった……」


と、安心していた。
やはり仲間だし、一緒に愛されたいらしい。
……本当、幸せ過ぎだろ?
あと、深いキッスをしたことを告げたら……。

「ジュリアさんだけズルイです……私にも……してください」

と言われた……お前、カレンみたいな美女に、赤くなりながら上目遣いで、潤んだ瞳でお願いされるんだぞ?

だったらするしかないじゃないか!!

とは言え、若干不安があったが……カレンは普通のキスでさえ、ぽーー……っとなる。
深い情熱的なキスなんてしたらどうなるか……。

してみた。

……細かい描写は控えるが、ペタンと座り込み、しばらく立てなくなってしまった。
そしていつも以上にぽけ〜〜〜〜……っとしてしまった。
無論、顔は真っ赤っ赤だ。

……まぁ、そんなハプニングがありながらも(他の皆さんには悟られない様にしましたがね)俺達は二日目の休暇を楽しむのだった。

********

休暇二日目・保養地ラシェル

テレポートでラシェルにやってきた俺達は一時解散……した筈なんだが。

「……何で解散しないんだ?」

「私は、シオンさんに魔法の授業の続きをしてもらおうと思って……」

「私も、先生に教えて欲しい所があったから」

「アタシも、カレンさんとルイセちゃんの戦ってる姿を見てたら焦っちゃって……だから、アタシにも魔法を教えて欲しいな〜♪なんて…」

上から俺、カレン、ルイセ、ミーシャだ。
まぁ、言いたいことは分かる。
俺としても暇だから構わない……で。

「お前らは何でまた?」

「僕も久々に魔法の勉強でもしようかな……って、それに剣や気の訓練を見て欲しいし」

「俺も似た様なもんだ……闘技大会の時に言ってたよな?俺にはまだ先があるって……その辺をご教授願いたいと思ってな」

「俺も訓練に参加したくてな……色々教えてくれると助かる」

「アタシはコイツの付き添いなんだけど……面白そうだから楽しみ♪」

「俺も暇だったからな……見学させてもらおうかと」

上から俺、ラルフ、ゼノス、カーマイン、ティピ、ウォレスだ。
ったく、暇人どもめ………仕方ない。

「こうなったら纏めて面倒見ちゃるわい!!」



で、まずはお勉強タイム。
カレンとルイセ……それにラルフは予習復習。
他の面々にはそれぞれ教科書を渡す。

ミーシャには『今日から君も大魔導師!』シリーズの初級、中級、応用編を渡し、ゼノスには『今日から君も大英雄!ホップ・ステップ・ジャンプ!!』の、初級・中級・上級・応用編を渡す。

『今日から君も大英雄!』シリーズ……これは『今日から君も大魔導師!』シリーズの戦士版で、剣士や格闘家などの戦士系の技能や技、武器の扱い方等が書かれている。

初級編は各種武器一覧とその武器の基本的な使い方から、クリティカル1などの簡単なスキルを懇切丁寧に説明。

中級編は各種武術の基本技、体捌きや足運び、それにクリティカル2等のスキルを懇切丁寧に説明。

上級編は技の連携や、組み合わせ、戦況判断などの戦略術、そしてクリティカル3などの上級スキルを懇切丁寧に解説。

応用編は俺のアレンジスキル、気の発露や効率的な運用方法、気の読み方や、気の消し方などが解説されている。

他にも、弩級編、究極編などがある。
俺の『飛竜翼斬』などの必殺技や『制空圏』(俺のはモドキだが)などの武術の真髄とも言うべき技法は弩級編に位置する。

究極編はやばい技のオンパレード……とは言え、俺に使える究極技は数が知れているのだが。
そう言う意味では、まだ完成していない本だな。

ちなみにカーマインには初級から上級、応用編までの『今日からシリーズ』両方を渡す。

ラルフも『大魔導師シリーズ』と『大英雄シリーズ』の両方を熟読しているからだ。
ならカーマインもイケるんじゃね?
――的考えな訳ですが……ちなみにラルフは、両シリーズ共に弩級まで来ていたりする。

その後は質疑応答を繰り返した。
ゼノスは意外にも、読書は嫌いでは無いらしく、しっかりと熟読していた。
ウォレスなんか感心していたな……後、応用編の気の項目を一番興味深そうに聞いていた。

ただ、やはりと言うか……ミーシャとティピは頭から煙を出していたが。
なので、この二人からの質問が一番多かった。
……全部に答えてやったがね。
絶対記憶能力舐めんな!!

ルイセ、カレン、ラルフ、カーマインは優等生と言っても良いんじゃないか?
とりあえず、しばらくを勉強に費やした。

**********

そして、昼メシ休憩を挟み――いよいよ実技編である。
場所を街の外に移す。
ウォレスは見学だったが、興味が出たので参加するとのこと。
まず、ゼノス、ウォレス、カーマインには気の感覚を掴んで貰わねばならない為、精神統一から始まった。

本来、気の扱いはそう簡単には身につかない。
ラルフだって、長い訓練の末にようやく扱える様になったのだから。

案の定、ゼノスとカーマインはきっかけを掴むことすら出来なかったので、別のスキル等の修練に切り替える。

既にきっかけは掴んでいたウォレスは、口答で教えただけなのに、とんとん拍子でコツを掴んで行った……あの必殺技が実戦で活かされる日も遠くあるまい……。

ラルフは必殺技の練習をしていた……弩級魔法は、無闇にぶっ放したら大災害になるので使ってません。
とりあえず『ライダーキック(仮)』『飛竜翼斬』『制空圏』はマスターした模様……って、ラルフも大概チート気味だな……。
あ、ラルフの制空圏は俺のと違ってモドキでは無い。
俺はモドキしか使えないが、訓練方法なんかは某史上最強の弟子を参考にしている故……。
ふと、考えたら……ラルフって正に『史上最強の弟子』なんだよな……キャラ的にというより、言葉的意味で。

自分自身のことを史上最強とか言うのは、ほんの少し抵抗があるけどな?

あ、ルイセとカレン、ミーシャは魔法の練習……だが、ここで意外な事態が。

「成る程〜、こうすれば良いのか〜♪おっもしろ〜い☆」

なんと、ミーシャがマジックフェアリーを【マスター】してしまったのだ。
ルイセとカレンも未だに、完全には使いこなせず、ラルフもマスターするのに長い時間が掛かったマジックフェアリーを……だ。

どうも、ミーシャは空間把握能力が高いみたいだ……あんだけドジってばかりなのに?
……冗談だろ?
――しかしそれは冗談ではなく、現にミーシャはフェアリー達を自在にコントロールしていた……。

意外な才能だ……と、感心するのもつかの間、調子に乗ってフェアリーを動かしまくった結果……。

魔力切れでへばった揚句、コントロールを失ったフェアリーがあちこちに散らばった。
危うく皆に当たりそうだった……ミーシャは、当然の様にティピちゃんキックの餌食になっていた。

そのティピだが、どうにも戦士……格闘家辺りの技と相性が良いらしく、すっかりのめり込んでいた。
また、魔法も決して使えないワケではない様だ。

今の目標はティピちゃんキックの強化だそうだ。

……まぁ、頑張れ。
アドバイスくらいはしてやるから。

そうこうしてる内に夕方になり、時間が来たのでお開きにした。
俺は教科書を各自に渡したまま、しっかり修練しておく様に告げた。

さて、それじゃ戻るとしますか。
テレポートでローランディアに戻った俺達は、休暇を申請した後、カーマイン宅に戻って来ていた。
今日はサンドラ様が帰宅していたので、いつも以上に賑やかな夕食だったことを記しておく。

**********

……で、夜中。

「今日は疲れましたよ……精神的に」

「それは、ご苦労様です」

俺は居間でサンドラ様と談笑していた……いやね、今日の疲れを癒す為、外に出て月見酒で一杯……とか思っていたんだが、居間にサンドラ様が居てな……なんでも、眠れなかったんだそうだ。

で、予定変更して、談笑しながら酒を飲んでるわけだ。

しかし……サンドラ様も例の同盟加入者なんだよなぁ……良いのかな?
つまり、カレンやジュリアと同じ気持ち……ってことだよな?
ん?子持ち?んなの俺は気にしません。

――まぁ、サンドラ様がどう思うか分からないが――って、『同盟』なんかに参加している時点で、答えは分かりきっている――か。

「……こうして誰かとお酒を飲むのは、久しぶりですよ」

多分、旦那さんのことなんだろうな……旦那さんがどうなったのか……なんて、デリカシーの無いことは聞かないけど。

「どうです?久しぶりに誰かと酒を飲んだ感想は?」

「ええ……良い気分です……とても」

……ええい!ここまで来たらご都合主義の流れに任せるだけよ!!
駄目なら駄目で、その時はその時だ!!

俺は椅子から立ち上がって、ゆっくりとサンドラ様に向かって歩いて行く。
サンドラ様はこちらを不思議そうに見ていた……顔が赤いのはアルコールのせいだろうか?

俺は気で気配を探る……よしっ!!皆寝てる!!
こんな小っ恥ずかしいとこ、誰かに見られるのはな……いや、そういうプレイをさせるのは悪くなry

俺はサンドラ様を後ろから抱きしめた。

「!?し、シオンさん!?」

「……カレンから聞きました。貴女も俺を――想ってくれているそうですね?」

「!!!」

彼女の顔がみるみる真っ赤になって行く。

「同盟なんかに入って……意味、分かって入ったんでしょう?」

「は、はい……」

それはさながら悪魔の囁き……いや、我ながらタラシ的だとは思うよマジで。

「それじゃあ……俺が言いたいことも分かるよな?」

「……良いのですか?……私は、子供も居て、貴方から見たらおばさんなのですよ……?」

「こんな綺麗なおばさんが居るかよ……子供?……それで俺が引き下がると?……それを全部引っくるめての貴女なんだ……受け止めるさ」

俺はもう少し力を込めて抱きしめる……。
彼女はピクリと身悶えた。

「それより、そっちこそ良いのか?俺、既に二股だぜ?」

「……構いません……貴方が全てを受け止めてくれる……なら、私も全てを――受け止めます……」

恍惚とした表情を俺に向けてくる彼女……うわぁ、色っぺぇ……ヤバイ……み・な・ぎ・っ・て・き・た!!

「なら、言わせて貰う……俺のモノになれ、サンドラ……ずっと、俺と共に居てくれ」

「!!は、はい……!私の身体と心は……貴方のモノです……ずっと、ずっと貴方と居ます……居させてください……!」

俺が彼女を呼び捨てにした時、彼女の恍惚感は更に深まった感じがした。

感極まった俺達は、どちらからともなく――誓いの口づけを交わしたのだった。

「あの……私……」

「それ以上は言うな……我慢出来なくなっちまう……」

身体が熱くなっているサンドラ……案の定ピンクな空気になるが俺は堪える。

「今は戦争中……それに、ここでサンドラに手を出したら、我慢して貰ったカレン達に申し訳が立たないしな……」

「そう……ですよね……すみません、私が不謹慎でした……」

サンドラはすっかり落ち込んでしまう……ヤレヤレ。
俺は再びサンドラに口づけをする。
正し、今度は深い奴だが……所謂大人のキッスだな。

詳しい描写は避けるが、終わった後、サンドラは真っ赤になりながらも、熱っぽい眼で見つめて来た。

「この世の中が平和になったら……続きをしよう」

「……分かりました……」

俺はサンドラの頬を撫でてそう言った。
その後、俺達は互いに寝所に戻った。
しかし……俺のガメラが有頂天なままだ……くっ!?
精神的にオッサンな俺にも、まだまだ煮えたぎる情熱が残っていたとは!?

落ち着くんだ……Coolになれ俺。
しかしあんな美人が三人も……ああ!!煩悩が抑え切れないぃぃぃ!?

その日は悶々としながら就寝したのだった……。




[7317] 第65話―イリスとの談話、アリオストの苦悩―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/08 19:21


さて、煩悩と戦って目覚めた翌日……俺達は三日目の休暇を迎える。
あ、カレンにはサンドラとのことは言ってある。
やはり受け入れてくれた辺り、ガチで本気なんだな……と思う。

なんか、本当に某プレイボーイ状態になりそうで怖いが……。

さて、次の休暇先は。

*******

休暇三日目・魔法学院

さて、魔法学院に到着した俺達はそれぞれに散って行った……。
ふむ……何をするか……ん?
視線を感じる……この気配は。

俺は視線をそちらに向ける……すると。

あれ、秘書さんだよな……何してるんだ?
あ、視線が合った……って、隠れた?

分かりやすく説明すると……。

壁|ω゚)……

壁|彡サッ

という感じだ。
なんだ?ヒゲにでも言われて監視しているのか?
……にしては、随分お粗末な監視のやり方だな。
しかも気の感じからして、まだあそこに居るみたいだし……。
マジで何がしたいんだ……?

********


おかしい……マスターから貸して戴いた資料の通りにしたのだが……。

『恋する乙女―堕ちていく愛―』

という資料だ。
これは幼なじみに恋する少女が、告白したいが出来ずに、影から見守り、それに気付いた幼なじみの少年が少女の愛を受け入れる……という話。
しかし、この少年はサディスティックな性癖願望の持ち主で、少女は次第に調教されて……というストーリーだ。

ふむ……やはり私が『幼なじみ』では無いから、失敗してしまったのでしょう。
ならば次の作戦です。

『仮面を被った淫獣』

これは偶然を装って少女たちに近付く、好青年の仮面を被った淫獣の様な男の話……これは好青年のフリをして少女達に近付き、弱みを握って脅迫、淫獣の様に貪るストーリー…………。

駄目ですね……弱みを握る以前に、あの男がそんなことをするとは思えないし、弱みをそう易々と曝すとも思えない。

いや、この場合――弱味を握られるのは私だから、問題は無いのだろうか?
――いやいや、私の弱味など、マスターとの関係くらいだが、それを曝す訳にはいかないですし――。

ならば次は……。

********


……本当に何をしてるんだ?
俺は気配を消し、音を立てない様に近付く……。
そして壁の向こうを覗くと……。

「…………」

なんか、座り込んで本を読んでるな……真面目な顔して、何を読んでるんだろうな……。

チラリと本のタイトルが目に入った。

『淫獄地獄』

「ブフォ!!?」

い、いかん!!むせた!!

「!?……見ましたね?」

「ゴホッ!ゴホッ!えっ!?いや、見てない!俺は何にも見てないから大丈夫!!誰にも言ったりしないから!?」

まさかこの秘書さんにそういう趣味があったとは……い、いかん……煩悩が、昨夜から押さえ付けていた煩悩が……落ち着け俺……サイン、コサイン、タンジェントだ!!

いや、こういう時こそ素数を数えるべきだろ!?
煩悩退散!煩悩退散!!喝!!かぁぁぁぁっつ!!!

ふぅ……手強い相手だったぜ……。

「……成る程、私は脅迫されて次第に調教されて、貴方無しではいられない身体になるわけですね……」

「げふぅ!!?」

俺は再びむせた……な、何をおっしゃりやがりますかこの秘書は!?

「な、何でそうなるんだ!?」

「これに書かれています」

秘書さんは先程の『淫獄地獄』のページをめくって、問題のページを見せた。

***********

男は女の弱みを握り、愉悦の笑みを浮かべる……また獲物を得たのだ……極上の獲物を……。

「心配しなくても、君の秘密は誰にも言わないよ……そのかわり、分かってるな?」

「………はい………」

女は涙を浮かべ、恐怖を現にしながら頷く。
秘密をバラされた日には、比喩では無く首を括らなければならない……。
女は男の言う通り、その身に纏う衣を脱ぎ………。

***********

だああああぁぁぁぁ!!?
カットカットカットォォォォッ!!!!?

何だこの官能小説は!?
いや、突っ込む所そこじゃなくて……。

「俺はこんなことしません!!」

「そうなのですか?では、貴方はどういうのが好ましいのでしょうか?」

うぐぅっ!?な、なんで俺基準!?
何か!?そういう罰ゲームか!?

「そんなこと言えないって!大体、秘書さんは言えるんですか?」

あ……やべぇ、聞いちゃいけないこと聞いた。

「……すいません、その様な経験が無いため分かりません」

あ、そうなんだ……って、そうじゃねぇ!?
何ガッカリしてるんだ俺!?
欲求不満が溜まってドS根性機関に火が着いたか!?
よーしCOLAになるんだ……って!?COLAじゃなくてCoolだっての!!

「貴方はこの本の様なことは嫌いですか?」

「だから言えないって」

……いや、そんなに真剣に見つめてくるなよ……ったく、このままじゃ同道廻りになりそうだしな……仕方ない。

「嫌いじゃない……が、脅迫したり無理矢理は好かん。やっぱり、自分色に染めるのは楽しみだし、育むものだしな……まぁ、イジめるのも好きだが、使い捨てにする話は好きじゃない……」

ったく、何が悲しくて己の性癖を暴露せにゃならんのだ……まぁ、聞かれて困るモンじゃねぇがよ……ただTPOってのがあるからな。
周りに人がいないのは確認済みだ。

「成る程……ありがとうございます」

「別に良いけどな……何だってそんなことを聞く?」

まさか、こんなくだらないことに、クズヒゲが絡んじゃいないだろうな?

「それは……」

「それは?」

「私の趣味です」

……僅かな感情の動きが感じられる……これは。

「嘘だろ」

「……何故そう思うのです?」

「本当に僅かだが、焦りと困惑を感じ取れた……趣味なら、そんな感情は出ないだろ?」

いや、そりゃあこんな本を読んでた所を見られたんだから、普通は動揺するだろうが、この秘書さんはそんなタマには見えないのだ。

「……貴方に興味があった、ではいけませんか?」

またまた……そんなこと言ったって…………オイオイ、この感情は……。

「マジ……なの?」

「はい、それが何か?」

何か……ってなぁ……この感情は、カレン達が俺に向けてくれるそれに近い。
あそこまで強い想いじゃなく、なんと言うか、カレン達が一面綺麗な花畑なら、秘書さんのそれは路面に生えた小さなたんぽぽ……しかも花が開きかけてる状態だ……。

マジで?秘書さんフラグですか?
……俺、何かしたっけなぁ……いや、確かに書類拾って運んであげたけど……まさかそれだけで……。

「……何でしょうか?」

「あ、いや、何でもない……」

どうやら俺は秘書さんをマジマジと見詰めてしまったらしい……。

むぅ……とりあえず、秘書さんはともかく、俺はどうなんだ?

……うむ、クズヒゲは嫌いだが、秘書さんは嫌いじゃない。
むしろ好感を持っている……面白いしな。

「なぁ、秘書さん――」

「イリスです」

「えっ?」

「私の名前です……いつまでも秘書さんでは、なんなので」

これはつまり……名前で呼んでくれってことか?
にしても、そんな名前だったんだな……。

「分かった、じゃあイリス……で、良いか?なんなら敬語を使うけど?」

「いえ、不要です。どうぞ自由にお呼び下さい」

呼び捨て許可が出た……俺としても堅苦しいのは好きじゃないから、正直ありがたい。

「じゃあ、イリス……あ、俺はシオンで良いぜ?何か学院であった話をしてくれないか?まだ時間があるなら……だけど」

「分かりましたシオン。しかし、そんなことで良いのですか?」

「ああ、せっかく名前を知り合ったんだから、他愛ない話でもしようってな♪」

俺は笑顔を浮かべながらそう言う。
俺は決めた……この秘書、イリスの運命に介入してやる!
全力でそう決めた!!
……イリスにはなんら罪は無い……少なくとも今は。
ならば全力を尽くす!!
まずは、一般常識とかを教えてやらねば……。

その後は色々話し合った……学生の授業風景、教員達の勤務態度、この本は学院長から借りた物だとか………あのヒゲ、マジでシバく……!

俺は、仲間の話なんかをした。
重要な話はしなかった。
当たり前だが、あのクズヒゲに監視されてる可能性大だからだ。
後は簡単な一般常識くらいか……少なくとも、あんな場所で官能小説を見ちゃいけません!

「すいません、そろそろ仕事に戻らなければなりませんので」

「そうか、ならまた機会があったら話そうぜ?」

「はい、それでは失礼します」

こうしてイリスは去って行った……機会があれば、また話そう。

と、まだ時間があるから、もう少しぶらつくか、外に出て、広場に出たらゼノスが居たので話し掛けた。

「学院か……俺には縁の無い場所だぜ。俺は生活費を稼ぐ為に傭兵をしてたから、勉学ってのには縁が無かったのさ……傭兵になった理由は他にもあるがな」

後はベルガーさんを探す為だったんだよな?
分かります。

ゼノスと別れた後、俺はアリオストの研究室に顔を出す。

「よぅ、やってるか?」

「やぁ、シオン君……よく来てくれたね。何も無い所だけど、ゆっくりしていってくれ」

んでは、お言葉に甘えて……。
俺達は何気ない雑談を交わしていた。

「そう言えば、俺なりに飛行装置を考えてみたんだけどさ……」

「へぇ、是非聞かせて欲しいね」

とか。

「そういえば、シオン君はフェザリアンの過去のことを知ってるみたいだけど、どれくらい知ってるんだい?」

「俺自身、遺跡を巡った時に得た情報だから、正確な所は分からないぜ?ただ……」

等。

「そういえば、カーマインとゼノスが騎士に任命されてさ……」

「そうなんだ?それは凄いなぁ!是非、おめでとうと言わせて欲しいな」

等……極め付けはこれ。

「そういえば、この間ミーシャが壁に激突しそうになってさ」

「ははは、ミーシャ君らしいなぁ」

「それをラルフが抱き留めて助けてますた」

「そうなんだ……って、何だってぇぇぇぇ!!?」

そんな叫ばんでも聞こえるって……お前はキバヤ○か?
あ、叫んでるのはオマケ数名の方か。
眼鏡繋がりで、合ってると思ったんだがねぇ。

「そ、それで!ミーシャ君は!?」

「心配しなくても、何時もの様にミーシャの目がハートマークになって終わり。ラルフは気付いてなかったよ」

ほふぅ〜……と溜め息を吐くアリオスト……なんだかなぁ。

「そんなに心配なら一緒に着いて来たらどうだ?それならそういう場面に出くわした時に、アリオストが助けられるだろ?」

まぁ、アリオストが同じことをしても……。

『ありがとう、アリオスト先輩♪』

くらいで済ませそうだがな……ミーシャの場合。

「………………いや、まだ僕はフェザリアンを納得させる方法を見付けていない、だからそう言う訳には行かないんだ!」

目茶苦茶間が開いたなぁ……余程悩んだんだろうな……何と言うか頑固だねぇ……まぁ、研究者というのは選てしてそういう物かも知れないが。

「そっか……頑張れよ」

「ありがとう!必ず約束は果たすよ……!!」

アリオストがサムズアップしてきたので、俺もサムズアップして答える……くぅ!熱い奴になったなぁ……よし!オッサンもミーシャ関連の情報はちゃんと教えてやるからな………って、これは逆効果か?

その後もちょっとした談話をした後、時間が来たので帰ることにした。

集合場所に戻って来た俺達は、テレポートで帰還、休暇の終了を報告、家路に着いた。
夕食時、ティピが貰った土地を気にしていたので、明日は任務に行く前に土地に寄ることに。
土地に寄るのは良いんだが――まだ、何も無い草原だった筈なんだがなぁ……。




[7317] 第66話―暴虐のコーネリウス―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/08 19:46


どうも、シオン・ウォルフマイヤーです。
現在、俺はローランディア王城にある地下牢…その中にいます。
……何故、こんな所にいるのか?

正直、説明するのも腹立たしいのだが……。

********

俺は周りが微かに明るくなる早朝に起きた。
いつも、この時間帯に起きて身体を動かすのが日課だからだ。

外に出て、軽く柔軟して、剣舞、精神統一、筋トレ、武術の型の反復練習……ラーニング能力は便利だが……それに付随する、超無才能という有り難くないオマケを持つ俺には、さして意味の無いことなんだよな……しかし、昔からの日課だしな。

あ、魔法やスキルのアレンジもこういう時に行う……とりあえず、目下はテレポートのアレンジと、ディスペルの強化……かな?
新テレポートは、ほぼ構築が終わっていて、後は煮詰めるだけ……あ、名前も決めないとな。
流石に瞬間移動……ってのは却下だな。
これは、詠唱が必要だから、龍玉のそれより時間掛かるしな……高速詠唱、詠唱時間短縮のスキルを使えば大差無いが。

何か分かりやすい名前が良いよな……。

ディスペルは、サンドラの時の例がある……流石に、もうあんな思いはさせたくないからな……。

そうこうしてる内に日が昇り、そろそろウォレス辺りが起きてくるだろう時間だ。
カーマインが1番最後なのは仕様か?

俺もそろそろ戻るか……。

今日の朝飯は何だろうな……そんなこと考えながら家に入ろうとした時、そいつはやってきた。

俺は城から誰かが出て来たみたいなので、そちらに振り返る。

「シオン殿ですか?」

ローランディアの兵士だ。

「そうですが……何か?」

「実は、王がシオン殿に話があるとか……重要な用件だそうです」

アルカディウス王が?
随分早起きなんだな……俺が言えることじゃないが。
エリオットの件か何か……か?
どうも呼ばれてるのは俺一人らしい……と、言うことは元インペリアル・ナイトの息子としての助力が欲しい……ということか?

そうなると、父上に挙兵を促す説得とかか?
いや……もしかすると、やはりコーネリウス辺りが駄々をこねたのかも知れん。

「分かりました、案内してください」

俺も早い所、ジュリアとエリオットを引き合わせておきたかったし、その辺りも頼んでみよう。

***********

こうして、俺はローランディア王城内部へとやってきた。

……?

……なんだこれは……?
番兵が居ない……?
幾ら戦争中とは言え……。

俺は不審に思いながらも、兵士に案内されるがままに謁見の間へ向かう。
だが、そこに待っていたのは。

「……これはどういうことでしょうか――ヘルゼン卿?」

「知れたこと。敵国のスパイを捕らえるのだよ」

謁見の間には王はおらず、居たのはコーネリウスと十数名の兵士。

「成程……戦争で幾らか兵が出払っているとは言え、番兵すら見掛けないのはおかしいと思いましたが……」

「貴様の情報は王を惑わせる……それは私には都合が悪くてね?言っておくが抵抗はしないことだ……あの王族の少年の命が惜しければ……ね」

エリオットを人質に取ってる……ってか?
……ガセ……と、言い切れないのが辛い所だなぁ――。

エリオットは現在、ローランディア城内に匿われている状態だ。
故に、コーネリウスの手の者がエリオットを見張っている――という可能性は大いに有り得ることなのだ――。


「それに、貴様が反抗して我らを殺したとして、その後はどうする?我らの死体を何処に隠す?そんな騒ぎになれば、貴様は間違いなくスパイだと断ぜられるだろう!よしんば、殺さなくても結果は同じ……逃げても結果は同じ……そんなことをすれば、せっかく騎士にまでなった彼らも断ぜられるかも知れんなぁ……ああ、あのカーマイン殿に似た男……彼もバーンシュタインの生まれだったな……ならば彼も怪しまれるかも知れんなぁ?」

――俺はこの男に、強烈なまでの殺意を抱いた。

仲間を盾に取った……ダチを引き合いに出した……。
――これが国の為なら納得出来る……信念があるなら、理解もしよう……だが、コイツは我欲に染まっているだけに過ぎない。

まるで自分が王の様に玉座に座っているのが、全てを物語っている……。

いや、本人はローランディアの為だと思っているのかも知れないが――。

「……何が望みだ」

俺は拳を握り締め、口惜しさに憤慨しながら、聞いた……。

「出来るならこの場で処刑したい所だが、バーンシュタイン貴族なら幾らか利用価値もあろう……それに王の御座を汚らしい血で汚すこともなかろう」

********

で……捕まってこうして牢屋にいるってワケだ。

抵抗して八つ裂きにすることも出来た……一人逃げ出すことも出来た……。

だが、仲間を引き合いに出されれば……いや、仲間じゃなくても、無関係の人間が巻き込まれれば……俺はこうしていただろうな。
俺的には、仲間>他人>自分>屑だからな……。

ちなみに今の俺は、上半身の装備を剥がされ上だけ真っ裸状態。
下は武士の情けか、そのままだったが……。
無論、装備もアイテムも全て取り上げられた。

今現在、両手両足を鎖に繋がれて、壁に張り付け状態です。

意外に冷静に見える?
さっきまで腹腸煮え繰り返ってたぜ?
今でも思い出せばイラつくし。

けどさ、拷問係の人があまりに哀れでさ……明らかにやりたくないって顔してるんだよ。
けど、命令だから鞭を振るうんだよ。
俺としては、まともにダメージを受けてやる気は更々無かったので、気で身体を強化してたけど。

こっちは傷一つ無くて、終いには向こうがバテちまってな……俺は哀れみを込めて。

「……満足したか?」

と、冷ややかに言ったワケだ……そしたら、逃げ出しやがってな。
まぁ、鞭で打たれるという状況にイライラしてたので、殺気混じりだったせいなのかも知れないが……。
鞭で打つのならともかく、打たれるのは趣味じゃない。

……怒りが直ぐに治まったのは、仲間を信じてるからというのもあるのだろうな……。
俺がいなくなったことを不審に思って…………。

そういや、原作ではカレンが突然いなくなった時、ティピがプンプン怒るだけで終わった様な気が…………まさか、な?


ま、大丈夫だろ……明らかにコレ、コーネリウスの独断だろうし。

と、噂をしていたら……。

気配を感じた俺はそちらを向く……そこには私兵を二人引き連れたコーネリウスが。

「ふむ……薄汚い場所だが、貴様には似合いだな」

「……何か用か?」

俺はコーネリウスに感情を込めずに言う……正直、コイツを見てると虫酸が走る。

「いや、貴様に良い報せを持って来た……騎士殿達が任務に着いたとのことだ……おめでとう、貴様は見捨てられた訳だ」

クックックッ……と笑うコーネリウス……コイツ、原作でもこんなに歪んでたっけ?
戦争したがりっ子である以外は普通だと思ってたんだが……。
ふむ……皆が見捨てたか……まぁ。

「ハッタリだな」

「なに……?」

俺の言葉にピクリと眉根を動かすコーネリウス。

「幾つか理由はあるが、ワザワザそれをテメェ自ら言いに来た理由……不安感を煽る為か?不安になった顔を見て悦に入りに来たか?……違う。そこの私兵の一人が帯剣してる理由は?護衛の為?なら一人だけに剣を持たせるのは変だ……統合すると答えは自ずと出てくる……」

俺はズバリと答えを突き付けてやる。

「恐らく、俺が消えたことで真っ先にお前が疑われたんだろう?それを知ったお前は焦り、予定を変更して俺を始末しようと考えた……」

カーマイン達が任務に着いたのなら、皆の気が城の中に残っているのは有り得ない。

あの面子の中には、気の扱いに熟知した奴がいる。
俺と共に旅をし、俺と共に修業をした……俺がもっとも頼りにする男が。

「……世界は、真に平和な世界の為には、優れた指導者の下に管理統制されなければならん……その国こそ我がローランディアである!しかし、アルカディウス王にその器は無い……だからこそ、真に優良たる私が立たねばならんのだ……我が夢を貴様ごときに阻まれる訳にはいかんのだよ……」

……やっぱりロクでも無いことを考えてやがったな……やり口が黒の皇子の劣化版で、思考が新世界の神の劣化版かよ……。

俺は思考が冷えていくのを感じた……こんなゴミクズの為に、傷つく人達がいる……死んでいく人達がいる……。

「お題目は結構だが……貴様は所詮小物だ……優れてなどいない、思い違えるなゴミ虫が」

「なっ!?」

そう、お題目は立派だが……そこに信念は無く、覚悟もない……ただあるのは、強烈な迄の我欲と保身のみ……。

「くっ!?これだけの無礼……もはや我慢ならん!!貸せっ!!」

コーネリウスは私兵から剣をぶん取り、抜き放つ……そして牢の鍵を開け放つ。

「この私自ら引導を渡してくれるわぁぁぁぁ!!」

コーネリウスは剣を俺の心臓目掛けて突き出した……が。

ガッ!!

「なっ!?」

「どうしたド素人……痛くも痒くも無いぞ?」

俺の身体に剣は刺さらなかった……気で強化してるからな……その程度の攻撃は効かねーんだよ……。

「ば、化け物めぇ……!!」

「……言いたいことはそれだけか?」

俺は凍りの眼差しを向ける……そこに。

「シオン!!」

ラルフを先頭に皆がやってきた……サンドラも一緒か。

「ば、馬鹿な!?どうして此処が!?」

ラルフは気を熟知している……気を探って他者を判別することなど造作も無い……特にこの場所は、魔術的付加もされていないんだ……バレるのは当然だな。

「ヘルゼン卿……これはどういうことですか!?」

「!これはサンドラ殿……見ての通り、内通者を処断しているのではありませんか」

サンドラに弁解してもらおうとでも思ったのか、コーネリウスは嬉々として語る……俺が内通者であるという証拠を並べ立てる……が、どれもコレも嘘八百も良い所の、お粗末な物だった。

俺は思わず呆れてしまい、他の皆は、ある者は同じ様に呆れ、ある者は怒り、ある者は哀れみを向けた。
コーネリウスの私兵二人ですらも……。

「……そう言うわけです。この様な害悪にしかならない者は処分すべき……そう判断した私は正しいのです!!ですから……」

……何と言うか、コレが王の座を狙ってた男か……器じゃねぇな。

「な、何だその目は……私は真に優良たる器を持つ者だぞ!?皆、私を敬えば良いのだ!!私がこの国を強くしてやる!!全て私が正しいのだ!!お前達無能者を導いてやると言ってるのだ!!この私がぁ!!!」

……もう限界だな。

バキンッ!!
俺はあっさり鎖を引きちぎる……そして。

ドゴンッ!!!

「げひぃ!!?」

俺はコーネリウスを殴り飛ばした……無論、手は極力抜いた為、死んではいない。

「貴様はもう喋るな……空気が腐る」

顎を粉砕し、気絶しているコーネリウスにそう言った俺だった。

あ〜あ……やっちまったなぁ……皆が馬鹿にされてたからつい……せっかく、手を出さずに我慢してたのによ……。

その後、俺は皆から事情を聞いた……朝起きた時に俺が居なくなっていて、皆心配してくれたらしい……で、なんと、俺が兵士に連れられて城に向かうのをラルフが目撃していたそうだ。
それを聞いた皆は城で合流しようと、最初に謁見の間に訪れた……しかし、王から聞かされたのは任務の話のみ……不審に思った皆は王に尋ねてみたが、当然俺のことなど王は知らない……サンドラに聞いても分からず、その場に居た皆は困惑するだけだった。


しかし、ラルフが俺の気を地下から感知……王に地下には何があるか聞いた……そうしたら牢屋があると聞かされた……と、同時に、俺の拷問をしていた兵士さんが駆け込んで来た……。
そして、洗いざらい話してくれたそうだ。
それを聞いて、皆、慌てて駆け付けてくれたというわけだな。
そして、現在に至ると…。

「悪かったな、皆…せっかく助けに来てくれたのに」

我慢出来なくてぶん殴っちまった…我慢した意味無いっての。
仮にも他国の貴族を傷付けたんだ……最悪、処断される可能性もあり……か。




[7317] 第67話―動き出す時代……同盟と奪回―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/08 19:59


さて、俺は今一人、謁見の間に居ます。
正確には俺、アルカディウス王、レティシア姫、サンドラ、文官の人だ。
他の皆は外で待ってる。

そして目の前には、もの凄っっっく!申し訳なさそうなアルカディウス王と、同じく、もう半端無いくらいに申し訳なさそうなレティシア姫。
何と言うか、見てるこっちが気の毒になる……当事者の一人が言う台詞じゃないけどな。

あの後、装備一式を返された俺はそれに着替えた。
いや〜、捨てられてなくて良かったわぁ……特に我が愛剣、リーヴェイグは愛着もあるし、俺のチートぶりに着いてこれる数少ない武器だから……マジで良かった。
ちなみにコレらはコーネリウスの執務室から見付かった……とか。

その際に、色々怪しい資料がゴロゴロと……。
やはり、アルカディウス王を毒殺する計画だったらしい。
食事に少しずつ毒を混ぜ、徐々に弱らせ、病死に見せ掛けるという計画だった……もう一発ぶん殴って、一生流動食の刑にしておくべきだったか。

「この度のことは本当にすまなかった……いや、すまなかったでは済まされんな……しかし、私には頭を下げるしか出来ん……」

「……言葉もありません……まさか、コーネリウス様がシオン様にそんなことをするなんて……許されるとは思ってはいません……ですが……」

あ〜……国のトップとその娘が……アンタら、どれだけお人よしだよ?
……まぁ、好感は持てるがね。
私は謝らない!……なんて、某所長みたいなことを言い出したら、ムッコロ……もとい、見限って国に帰る所だ。
……冗談だぞ?

「お二方とも、気にしないで下さい。私もこうして、無事なのですから……あまり気にされても、こちらが気を使ってしまいます」

俺としては気にしていないワケで……むしろ、あんな某新世界の神のデッドコピー……むしろ彼と比べるのもおこがましい位の小物だが、信頼していた臣下に裏切られていたアルカディウス王の方が気の毒だって。

それに最悪、コーネリウスをぶん殴ったせいで処断される可能性も考慮にいれていたからな……この王様ならそんなことはしないとも、思ってはいたが。
万が一を考えるのは決して悪いことじゃない。

「……済まぬ、この償いは必ず……」

「それでは……というワケではありませんが、お伺いしたいことが……エリオットを旗印に、バーンシュタインの王位を奪還する為に動くとか……それは本当でしょうか?」

ラルフから聞いたことだが、これは確認しておきたい。
これによっては、俺の今後の動きが大きく変わる。

「うむ、本当だ……しかし、二面戦争の恐れがある以上、先ずはランザックに同盟を取り付けてから……ということになるが」

……そうなると、やはり俺が動く必要があるか……。

「王、その件で私に考えがあります」

「考えとな?」

俺は前以て、父上とその手勢に動いて貰ったこと、現インペリアル・ナイトの一人――ジュリアがこちらに付くことを話した。

「我が父は、その気になれば直ぐさま馳せ参じましょう……しかしジュリアン将軍は部下が見限る可能性もあります……そこで、エリオットを連れて説得に当たりたいのです」

原作でジュリアに兵が着いて来たのは、それだけ信頼されていたからだが、それは幾度となく戦に出陣し、成果を挙げてきたからだ。
無論、ジュリアの人格も判断材料に多分に含まれているのだろうが……。
現時点では離反する兵士も少なくない筈。

その為に、裏工作……というと聞こえが悪いが……要するに対策を取る役を引き受けたいというわけ。

「……ふむ、そこまで根回しをしていたとはな……」

「お父様、この方……シオン様は信頼に足る人物です」

「私も同感です……ここは彼の申し出を受け入れても宜しいかと」

レティシア姫とサンドラから援護射撃的な言葉が来る。
そこまで信頼してくれんのはありがたいが……アルカディウス王も、内心は信じてるのだろうな……しかし忠臣と思ってた男が、アレだったからな。

慎重になるのも無理からぬこと。

「シオン殿、一つ聞きたい……何故そこまで力を貸してくれるのだ?バーンシュタインの者であるその方が……」

「……『我らこそ、真なる王家の剣たれ』……これが我が家の家訓です。しかし、それは真なる王家にのみ誓われた言葉だと、私は思います……それも理由の一つです」

そう、それも理由の一つ……俺のもう一つの故郷を、ゲヴェルの好きにさせたくは無かったというのもある。
だが、何より……。

「……私には仲間が居ます。掛け替えの無い友が居ます……彼等の為に、私はこうして此処にいます」

ハッキリ言って、世界平和とか言うお題目に比べたら超個人的な意見だと思う。
しかし、コレが偽り無き俺の答え……元々、俺が国を出たのも、ラルフを……ダチを助けたいって理由だったからな。
それから仲間が増えて、愛する人達も出来た……。

俺にとってはそれで十分。
目の届く場所にいる人を守る……それが俺に出来る精一杯。

「……あい分かった、その件はシオン殿に任せよう」

「ありがとうございます!」

俺はひざまづき、礼を述べた。
王様は信じた……一度、裏切られていながら、また信じるってのは、勇気がいる行為なんだ。
流石は為政者……と、讃えられるべきか、迂闊者のお人よしと詰られるべきか……いずれにせよ、その信頼には答えなけりゃあな。

俺は謁見の間を後にし、待っていた皆と合流した……エリオットもいる。
念の為に呼んでおいたのだ。

「あ、シオンさん!」

「で、どうだったんだ?」

ティピが先に気付き、カーマインが尋ねてくる。

「お咎め無し。それどころか王と、姫まで来て一緒に謝られた……こっちが恐縮しちまうくらいにな」

「そうか……まぁ、結果論だが……暗殺計画を未然に防いだんだ。お咎め無しなのは当然とも言えるな」

ウォレスがそう言ってくれる。
あ、コーネリウスだけど、応急処置して牢屋に放り込んでおいた。
コーネリウス一派も芋づる式に捕らえられている。
反乱分子が全員タイーホされるのも、そう遠くは無いだろう。

「まぁ、何はなくとも無罪放免なんだから、良かったじゃねーか」

「そうだよシオンさん!」

ゼノスに労われ、ルイセにも肯定される。

「悪者も捕まったし、めでたしめでたし!だよね♪」

「まぁ、新しい任務も仰せつかったから、そう楽に構えてもいられないけどな」

軽い感じに言うミーシャに、俺は突っ込みを入れる。

「新しい任務ですか?」

「ああ、エリオットの手伝いだな」

「僕の……ですか?」

カレンの質問に答える。
エリオットも疑問に思ってるみたいだから、詳しく説明する。
エリオットの王位奪還の為、我が父であるレイナード・ウォルフマイヤー卿が軍勢を引き連れて離反……今は俺のアジトにいるらしいこと。

ジュリアンはこちらに付いてくれるが、部下は分からない……その為、説得を兼ねて、エリオットを連れてあちらこちらを駆け回ることになった。

「ということなんだが……エリオットはOKか?」

「はい!僕なんかで役に立てるか分かりませんが……僕のやるべきことですから……だから、宜しくお願いします!」

おお、やる気満々じゃないか。
やる気のある若者には、オッサンも感心しちまうぜ。

「そうなると、メンバーを二つに分けることになるのかな?カーマイン達はランザックの同盟締結の任務があるから、抜けられないしね」

「そうだな。俺は一人で抜けても良いんだが…………いや、カレン?そんな悲しそうにこっちを見るなよ……分けると言ったって、そっちが同盟を済ます頃には戻ってくるぞ?」

「……だって……」

ラルフの説明に便乗して説明する俺……しかし、また以前の様に離れることがカレンには耐えられない様で……なんか、恋仲になってからはそういうのが顕著になった気がする。
直ぐに戻るって言ってるのにな……くぅっ!可愛い奴!!
超お持ち帰りしてぇ!!
まぁ、人目もあるし自重しましたが。
ゼノスよ……カレンを泣かせるんじゃねぇ!的な光線が出せそうな視線を向けないでください。

まぁ、結局。

同盟組、カーマイン、ティピ、ルイセ、ウォレス、ゼノス、ミーシャ。

暗躍組、俺、ラルフ、カレン、エリオット。

というメンバー編成になった。
まぁ、上の面子はローランディア王国に仕官しているメンバーだからな。
で、こっちは民間協力者で構成されたメンバー。

ミーシャは最後まで悩んだが、結局カーマインチームに。
その際のやり取りが。

「う〜〜〜ん……ルイセちゃんが居て、カーマインお兄さまが居て……でもあっちにはラルフお兄さまが……ああっ!神様!これは試練なのね!ミーシャの愛を試してるのね!?でもアタシには選べないよ〜……あ〜あ、アタシが二人居ればなぁ……あ、でもそうしたらアタシとアタシで喧嘩になっちゃうかも……それで喧嘩なんかする女の子は嫌いだって言ってお兄さま達に嫌われちゃったりして、そしたら」

「……ティピ〜?」

「オッケー……ティピちゃ〜〜〜ん!イナズマキィィィィック!!」

ドゲシッ!!

「ふぎゃ!?」

ビッターーーン!!

天空より垂直に加速して来たそれは、見事妄想少女に直撃し、哀れ妄想少女は大地と口付けをする羽目になったのだった。

「ウダウダ言ってないでさっさと決めなさい!!アタシ達だって暇じゃないんだから!!」

「うぅ……キックの威力が上がってるぅ……」

まぁ、こういう経緯があって、ミーシャはあっちのメンバーに。
むぅ、にしてもティピ……俺の指導があったとは言え……中々やるな。

「そういえば、ジュリアンからの情報だと、バーンシュタインも同盟工作の為に動いてるって話だぞ?」

「それ本当!?」

「ああ……バーンシュタインの高官が交渉相手で……確かガムランとか言ったかな」

「ガムランだと?」

俺はジュリアンから貰った情報を提示する。
原作でも同じだったからほぼ間違い無いだろう。
案の定だが、ウォレスが食いついて来た。

「知ってるのかウォレス……」

「……俺が所属していた傭兵団には、団長と三人の副団長がいてな……俺もその一人だったんだが」

「もしかして、その人も?」

「ああ、ガムランも副団長の一人だった」

カーマインの質問にウォレスが答え、ルイセの疑問にも答えた。
ウォレスいわく、ガムランは実力もそれなりにあるが、呪術や毒のスペシャリストで、力押しより策を労するタイプだと言う……正に原作通りだな。

「あのガムランが不可侵条約のみを取り付けるとは思えん……何か企んでいると見るべきだな」

その後、互いに少しの話し合いをした後にそれぞれに分かれた。
……ティピの我が儘によって、領地に顔を出してから行くらしいが。

「さて、俺達も行くか……」

「それで、どういう方針を立てたんだい?」

ラルフが聞いて来たので、俺が答える。

「一応、それなりに大義名分がある俺達だが、やはりまだ証拠としては弱い……だから、エリオットが本物であることを証明出来る人物を説得する」

「僕が本物であることを証明出来る人……それは一体……」

ラルフの問いに答えた俺は、エリオットの疑問にも答えることにする。

「それは……お前さんの本当の母親さ」

「僕の……本当の母さん……?」

そう、エリオットの母…王母アンジェラ様を説得すること。
これが叶えば、大きくアドバンテージを得ることが出来る。
幸い、アンジェラ様とも顔見知りだから話くらいは聞いてくれる筈。

原作通り、王族直轄地にある屋敷に幽閉されているらしいしな。




[7317] 第68話―リシャールごっことアンジェラ様と確かな証拠―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/08 20:09


さて、俺達はアンジェラ様の説得に……赴く前に。

「エリオット、カレン……コレをやるよ」

二人にそれぞれ武器を渡す。
エリオットには細身剣のマインドブラスト……負の力を凝縮されて作られた細身剣で、その刀身から放たれる強い精神波動は、貫いた相手の精神にもダメージを与えるという。
原作的には、攻撃時ダメージの1/10をMPに与えるという物だ。
実際には、MP……つまり魔力、精神力にもダメージを与えることが出来て、尚且つ詠唱を阻害する効果もある。
魔術師殺し……と言うには些か過言だが、対魔術師には役立つ武器だ。
勿論、武器としても中々優秀な剣だ。

カレンに渡したのは新たな魔法瓶グリトニルと……一見何の変哲もない注射器だった。

「この注射器は……」

「それは接近戦用でな?手に持って大きくなれ!って念じてみ?」

「はい……ん………!?」

カレンは言われた通りに祈る……すると何と言うことでしょう……注射器がカレンと同じくらいに大きくなったではありませんか。

「あわ、わ、わ!?」

カレンは慌ててそれを脇に構える……というより、そうしなければ持てないのだが。

「シ、シオンさん……コレは……?」

「それはインジェクターって言ってな?見ての通り、どデカい注射器だ。本来、大きさはビッグサイズから変わらないんだが、持ち運びに不便だからな……幾らか弄らせて貰った。元に戻す時は戻れ!と念じれば戻る」

早速カレンは念じて元の小さな注射器に戻した。

「普段はこの専用のホルスターに納めて持ち歩くと良い」

俺はカレンにカバーを渡した。
これで危なげなく持ち歩ける。
この元インジェクター……正確にはインジェクターⅡは、インジェクターの不満点を改良した俺の魔道具だ。
まず、持ち運びの利便性、そして材質の強化&軽量化。
これにより、従来のインジェクターより格段に扱いやすくなった。
ぶっちゃけ、あんな巨大な物、常時携帯してぶんまわすなんてカレンには無理です。
実際、インジェクターⅡでも少しふらついてましたから、カレン。

もう一つの機能は薬液の自動精製。
普通、注射器ってのは薬液を入口から抽出して使うが、これはインジェクターが自動に精製してくれる。
まぁ、コレはインジェクター無印の頃からあった機能だが。

後は針の自動洗浄機能、そして新機能の、薬液切り替え機能だ。
自動洗浄機能はインジェクターを常に清潔に保つ機能。
そして薬液切り替え機能は、文字通り使用する薬液を切り替える機能だ。

巨大化した際の状態に、新たにスイッチを増設。
猛毒+マヒ毒、石化毒、そして増強効果の三つに切り替えられる。

猛毒+マヒ毒、石化毒に関しては読んで字の如くだ。
増強効果とは、ぶっちゃけドーピングで、アタック+プロテクト+クイックが掛かるオリジナル仕様。
元ネタは押○!番長。
ちなみにやり過ぎは身体に害にしかならないので注意。

後、渡した魔法瓶も改良した物で、投げ付けて中の魔法が発動したら、手元に戻ってくる仕組みになった。
正式名称はグリトニル改!
ま、面倒なんでインジェクターとグリトニルで通すが。

まぁ、これで幾らか戦闘も楽になるだろ?

「よし、それじゃあそろそろ行くか」

「バーンシュタイン王国の王族直轄地か……行ったことは無いけど……」

まぁ、ラルフの言い分も当然ではある。
俺も行ったことは無い。
俺達は旅をしていたが、当然立ち寄らなかった場所もある。
王族直轄地もその一つだ。

「場所的にはガルアオス監獄を東に行った所にあるんだが……あそこの橋はブッ壊したからなぁ……」

まだ直ってないだろうなぁ……まぁ、あの程度の距離、俺とラルフなら飛び越えられるか。

「まぁ、行ってから考えるか……じゃあ、テレポートするぜ?」

俺達はローザリアを後にし……ガルアオス監獄前にテレポートして来ました。
そして橋の前まで来た俺達……やはり橋は直ってませんでした。

「どうしましょう……この先なんですよね……」

「しかし、他の道もありませんし……山を登って迂回していては時間が掛かります」

カレンとエリオットが頭を抱えてる……確かに近くに森が、その先には山があり、そこを迂回していけば橋を渡らなくても行けるが、時間が掛かる……まぁ、そんなことしなくても。

「ラルフ」

「了解!エリオット君、僕の背におぶってくれないか?」

しゃがんでエリオットを促すラルフ。

「分かりました……これで良いでしょうか?」

「うん、しっかり掴まってるんだよ」

それに素直に従うエリオットに、やんわりと注意を促すラルフ。

「あ、あの……一体何を?キャッ!?」

俺はカレンをプリンセス抱っこする。
訴訟?タイーホ?しゃらくさいわ!!
俺とカレンは恋人同士……怖いモンなんぞ無いわ!!
まぁ、こういう関係だからこそ出来るワケだけどな。

「しっかり捕まってろよ?」

「……はい、離しません……♪」

そう言って嬉しそうに抱き着いてくるカレン……うむ、カレンの吐息を身近に感じる……このままキスしてしまいそうな勢いだ。

とか、言ってる暇は無いか。

俺はラルフに目配せした……ラルフもそれを見て頷く……そして俺達は。

ダダンッ!!!

「!?」

飛翔したのだった。
俺はその脚力で一気に向こう岸へ。

ラルフは間の離れ小島と化した場所を経由しこちらへ。

「カレン、怖くなかったか?」

「いいえ、だってシオンさんが抱いていてくれたんですもの……怖いことなんかありません」

「カレン……」

俺達がラブ空間を展開している間。

「あの、ラルフさん……シオンさん達ってもしかして……」

「うん、相思相愛って奴だね。シオンには他にも愛する人がいるみたいだけど」

「えっ!?それって良いんですか!?」

「うん、どうやら当人達も合意の上らしいし、良いんじゃないかな?シオンは本気みたいだし……というより、カレンさんや他の人がそうして欲しいって願ったらしいし」

「そうなんですかぁ!?」

等と言う話をしていたらしい。
で、流石にイチャついている暇は無く、そのまま王族直轄地へ向かう。
それくらいは俺も弁えてますから。

で、王族直轄地に到着。
道中、モンスターが現れたが、メンチビームで撃退。

「番兵が居ますね……どうしましょうか?」

「何、堂々と通れば良いさ」

「堂々と!?」

カレンの質問に、俺はサラリと答えてやる。
エリオットは信じられないと言った風に声を上げる。

「成る程……エリオット君にリシャール王を演じて貰う訳だね?」

「ラルフ大正解!ってなワケで、頼むぜエリオット?」

「……ぼ、僕に出来るでしょうか?」

緊張するエリオット……そこで俺は簡単なアドバイスをすることにする。

「良いか?ポイントは偉そうに振る舞うこと、自分が王になったつもりで……多少傲慢が鼻に付くくらいで」

「わ、分かりました……やってみます」

エリオットは深呼吸を繰り返し、決意を顔に浮かべる。
それを確認した俺達は門番に歩み寄って行く。

「止まれ!ここから先は王族の直轄地、身分の分からぬ者を通す訳にはいかぬ!!」

「この私も通さぬと言うのか?」

「!?こ、これは王!?し、失礼いたしました!!」

「本来ならば処罰を降す所だが、職務に忠実故の過ちとして、見逃すとしよう……それより、母上に会いたい……通してくれるな?」

「はい!……しかしその格好は……それにその者達は……?」

「今回のことは人目を忍んでのこと……それゆえに小数の供を連れ訪れたのだ……あくまで極秘でのことだ……このことは、内密に頼むぞ」

「ハハッ!!畏まりました!!」

「うむ」

その後、門を開けて貰い中に入って行く……そしてある程度距離を置いた所で……。

「ふへぇ………こ、怖かったぁ……」

キリッとした顔をへにゃあ……っと崩し、思いっきり溜め息を吐くエリオット。

「何言ってるんだ、凄く似ていたぞ?」

幾ら同一人物みたいなモンとは言え……よくもまぁあれだけ……。

「何と言うか、凄く雰囲気が出てたよ」

「ええ、凄いわエリオット君」

皆に誉められて、生きた心地がしないと言いながらも照れるエリオット。
いや、実際たいしたモンだとオッサンは思うよ??

「さて、アンジェラ様に会うまで、頼むぜエリオット」

「ハイ!任せて下さい!」

こうして王族直轄地の屋敷に向かう。
皆が皆、エリオットがリシャールだと信じて疑わない。

そして、屋敷に入る……そこには憂いを秘めた表情を浮かべた王母…アンジェラ様が居た。
なんつーか昔と変わらんな……グロラン世界の女性は化け物か!?
つまり美人なわけです。

「!リシャール……」

「あの……えっと……」

こちらに気付いたアンジェラ様が、エリオットを見て驚愕の表情を浮かべている。
対するエリオットは、実の母に会ったからか、照れながら素に戻ってしまっている。

「済まない、リシャール陛下は王母様と極秘の話がある……悪いが人払いを頼みたいのだが」

「ハッ!畏まりました!!」

どうも俺達は、リシャールの腹心の部下だと思われてる様で、兵士も俺の言葉に素直に従ってくれた。

さて、妙な気配も感じないし……これで邪魔者はいなくなったな。

「……?どうしたのですかリシャール……?」

「あの……初めまして、母上……僕はエリオット、貴女の本当の息子です……」

「?何を言っているのです、貴方は?」

勇気を持って息子宣言をしたエリオット。
しかし、アンジェラ様はクエスチョンマークを浮かべている。
そりゃあそうだよなぁ……やはりここは俺が出るか。

「詳しいことは私が説明します」

「貴方は……?」

「お久しぶりです、アンジェラ様……覚えておいででしょうか?レイナード・ウォルフマイヤーの息子のシオンです」

俺は数回しか会ってはいないが……覚えてくれているだろうか?

「……!ウォルフマイヤー卿の……ええ、覚えていますとも。随分、大きくなりましたね」

よかった……覚えてくれてたみたいだ……。
これで話は聞いてくれる筈だ。
後は俺のネゴシエーション次第か……。

それから俺は説明した。
エリオットが真の王位継承者であることを。

エリオットの命が狙われたこと、それを行ったのがバーンシュタインの暗部、シャドーナイトであること、そして宮廷魔術師長ヴェンツェルがエリオットを人に預けた事実、我が父上がその事実に動いたこと……その他諸々。
極め付けは『王位の腕輪』だ……これを見せた時にアンジェラ様は驚愕の顔を浮かべる。
そして、本物なら王子生誕当時の宮廷魔術師、三人が記した署名があるとも……。

それを聞いたエリオットは以前の様に腕輪を取ろうとするが……やはり取れない。
そんなエリオットにアンジェラ様は……。

「それより……確かな証拠があります……後ろを向いて、首筋を見せて下さい」

「はい……これで宜しいでしょうか?」

アンジェラ様はエリオットの首筋を確認する。

「……僅かだけど、ちゃんと残ってる……ということは貴方が本当の息子なのですね……」

エリオットの首筋を撫でながら、アンジェラ様が呟く。

「あ、あの……僕の首筋に一体何が……」

困惑するエリオット……まぁ、分からないだろうな……原作でも決定的な決め手になった証拠。

それは…………。




[7317] ティピと!ラルフの!みにみに!ぐろ~らんさ~♪―番外編13―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2009/05/31 03:33
「ティピと!」

「ラルフの」

「「みにみに!ぐろ~らんさ~♪」」

「って、あれ?ラルフさん!?homoの奴は?」

「あ、うん。homoさんはシオンと一緒にいた時に来て、『パーソナリティは任せました』って言って、シオンを追っ掛けて行ったよ」

「またかよあのガチ!!」

「もっとも、『あんな女どもより私と濡れる様な一時を!!』とか言ったらシオンが切れちゃってね……全力で飛竜翼斬を叩き込んでたよ」

「ぜ…全力!?Σ(゚Д゚;)」

「多分、カレンさん達のことをコケにされたと思ったんだろうねぇ……『消えろ虫けら……』って……homoさん、救急車で運ばれて行っちゃったよ」

「それで済んだの!!?……駄目だ……アイツは本当なんとかしないと……そんなことより!今日はどんなことをするのかな?」

「記憶の隅に追いやったね?今日は本編の何気ない疑問なんかをそこはかとなく語って行く趣旨らしいよ?」

「成る程!それは良いわね!それじゃ早速行きましょうよ!」

「ハイテンションだねぇ……ハイ、まず最初の疑問です。『シオンは、カレン、ジュリア、サンドラの三人を囲ってますが、仲間にその事実を言わなくて良いのですか?』これはありがたいことに、この作品の常連さんも疑問に思ってたことだね」

「そう言えばシオンさん、皆に言ってないわよね……何で?」

「う~ん……ご都合主義の一言で片付けるのは簡単だけど、実は皆は既に知ってます……シオンはちゃんとカレンさんとサンドラ様のことは話してます」

「え!?そうだったっけ!?」

「文面には記されてないけどね。だって考えてもみてよ?シオンはサンドラ様に子供が居ても関係無い……全てを受け入れるって言ってるんだよ?子供二人に何も言わないのはおかしいでしょ?」

「そりゃあそうだけど……うん、確かにそんなこと言ってた。二人ともマスターが選んだことなら……って言って文句言わなかったんだよね」

「うん、逆に文句たらたらだったのがゼノスさん……ただ、意外なことにあまり怒らなかったんだよね」

「ゼノスなら『カレンを弄びやがって!!!』くらいには言いそうだったのに……」

「これはカレンさんと恋愛関係になった時、全てを暴露したらしいです。その上でカレンさんが説得したみたいだね……今は羨ましい野郎だぜ!くらいにしか思ってないって。本当はその辺の話を67話に混ぜるつもりだったらしいけど、文字数の関係でカットしたそうだよ」

「う~~ん……要するにご都合主義で流して下さいってこと?」

「平たく言うとそうだけど……余りに要望が多いなら番外編ででも書くつもりらしいからね……要望が少なければいずれ本編中にチラッと書く程度だとか」

「その辺、作者が硝子の心臓足る所以ね」

「まあまあ……それじゃあ次の質問……『嘘予告ってどこまでが嘘でどこまでがネタバレなの?』これも常連さんが疑問に思ってたことだね……これに関しては既に作者さんが答えてるけど、もう一回念の為にお答えします」

「えっと、これは涼宮ハ○ヒちゃ○の○鬱の世界に飛ぶ……というか召喚されるのが嘘で、シオンさんを取り巻く状況がネタバレ……ってことよね?」

「だね。つまり幾つかクロスする世界のネタがちりばめられてる訳だね……まぁ分かる人がみたら分かる物だけど、これ以上の暴露は控えさせて貰うよ」

「ウンウン……そもそもそこまで続くか分からないし……」

「まぁまぁ。完結目指すって言ってるんだから……さて、そろそろ時間が来てしまいました」

「楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうわね♪」

「そうだね……それではここまでのお相手はラルフと」

「ティピでお送りしました♪」

*********

おまけ

「ラルフさん、シオンさんの相棒的立ち位置だよね?」

「相棒かは分からないけど、親友だと思ってるよ」

「巷では鈍感コンビとか言われてたけど……どうなのよその辺」

「そうなんだ?う~~ん、言うほど鈍感じゃないと思うけどなぁ……」

「……流石天然……これは一生気付かないかも」

「?」



[7317] 第69話―暗躍するシオン……昔を思い出します―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/08 20:24


エリオットの首筋にある物……それは微かな火傷の痕。
アンジェラ様が言うには、生まれて間もない頃に侍女の一人が誤って火傷を負わせてしまったとか。

それ、相手によっては万死に値するよなぁ……しかし、誤ってのことなので不問にしたそうだが。
何とおおらかな方なんだろうか……。

で、現在、母と子の感動の再会をしている二人。
流石に邪魔は出来ず、待機する俺達。

それからしばらくした後に。
互いの近況を話し合う……アンジェラ様は最近のリシャールの豹変ぶりに戸惑いながらも、我が子のことと信じていたそうだ。

しかし………。

「リシャールが怪しげな男に命じて、偽のグレッグ卿を仕立て上げ、わざと自分に切り掛かる様に指示しているのを、立ち聞きしてしまいました……」

やはりと言うか、グレッグ卿は偽者だった訳で……立ち聞きしていたのをリシャールに知られたアンジェラ様は、ここに幽閉される羽目になったと……正に外道!!
いや、その場で始末しなかった辺り、まだ自我が残っていたのか?

「それで、これからどうするのですか?」

「そうですね……我が父上の助力、ローランディアのアルカディウス王も助力を誓って戴いておりますが……」

決意を固めたアンジェラ様の質問に答える……後はジュリアの部隊の説得だが……ジュリアの為にも後一押ししておくか。

「私の父上の知己であるダグラス卿ならば、あるいは助力をしてくれるかも知れません」

「……そうですね。分かりました……私も及ばずながら力を貸しましょう」

「助かります。アンジェラ様に共に赴いて戴けるならば、ダグラス卿も分かって下さるでしょう」

俺だけでも説き伏せる自信はあるが、やはり王母様がこちら側に居るという事実は大きい。
策士、策に溺れるという言葉はあるが、常にどういうケースにも対応出来る様にするのは悪いことじゃない。

で、アンジェラ様を同行者に加えた俺達は、まずはこの屋敷から出ることに。
案の定門番に声を掛けられるが。

「母上を城にお連れするのだ……私の計画に必要なのでな……」

「は、はぁ……」

計画って何だよ!?
……と、突っ込みたくても突っ込めない……何故か?
それは王だからだ!!
特にゲの字に操られてるリシャールは、傲慢外道王として、子供からお年寄り、あちらさんにもそちらさんにも大評判だからな!!

……下手なことを聞いたら首が飛ばされる。
比喩じゃなくてマジでな。
なので、門はあっさりスルー。
さって…………よし!
気は感じない。
どうやら原作みたいに仮面騎士の横槍は無い様だ。
まぁ、展開が早いからなぁ……ゲヴェルも今は、手元にこちらへ回せる仮面騎士がいないのかもしれんな。

「ダグラス卿はシュッツベルグに居るんでしたね……じゃあ行きましょうか」

「しかし、ここからどうやってシュッツベルグまで行くのです?あそこに行くには王都を通らねばならない筈……」

「アンジェラ様、御心配には及びません……だよね、シオン?」

アンジェラ様が心配するが、そこは抜かり無し!
ラルフが目配せして来たので、サムズアップして答えてやる。

「もしかして……」

「言ってなかったっけ?シュッツベルグは、旅をしていた俺達が1番最初の頃に立ち寄った街だよ」

カレンの疑問に答えてやる……というか、旅をしてきた時の話をしていたから覚えてる筈だが。
そう言ったら……。

「そう言えば、そうでしたね……」

懐かしそうに微笑むカレン……忘れていたのではないらしい。
まぁ、それはともかく……。
テレポート!!

*********

――して、シュッツベルグ入口。

「これは……」

アンジェラ様がびっくりしているので、テレポートについて簡単に説明。

「これがテレポートですか……初めて体験しましたが、凄い物ですね……」

ん?この台詞、原作でサンドラも言ってたんでなかったっけ?
まぁ、良いか。

門番に軽く挨拶、街の中に入り、ダグラス卿の屋敷に向かう。
道中、ジュリアの弟が修業の旅に出たとか言う話を聞いたりした。
修業の旅か……俺達も14、5の時に旅に出たからな……良い思い出だぜ。

そうこうする内にダグラス卿宅に到着。

コンコン。

軽くノックするエリオット……そして出て来たのは執事と思われる人。

「失礼。ダグラス卿はご在宅か?」

「!これは王!それにアンジェラ様まで!今、ダグラス様を呼んで参りますので、どうぞ中でお待ち下さい!!」

で、応接間に通される俺達。

「皆さん、やはり王様が来ると畏縮してしまうんですね……」

「そりゃあな……仮にカーマイン宅に居て、アルカディウス王が尋ねて来てみろ……ビビるぞ?」

カレンの言葉に答える俺の脳裏に浮かんだのは、ウォレスみたいな服装をした王様……魔法の眼の代わりにグラサンを着けている……自分で想像しといて何だが……ないわ……そりゃ無いわ……。

「……上手く行くでしょうか……?」

「そこは信じるしかないね……」

大丈夫だとは思うがな……俺も交渉のテーブルに着くし。
仮に通報なんてされたら、全力で逃げ出すし。

……と、来たみたいだな。

「これはリシャール王にアンジェラ様……わざわざ出向かれずとも、こちらからお迎えに上がりましたのに」

「……えっと……」

「?どうなされました?長旅でお疲れでしょうか?」

これから話すことを考えて、素に戻ってしまうエリオット……それをフォローする様にアンジェラ様が話す。

「用があるのは私の方なのです」

「アンジェラ様が?して、私めにどの様な?」

「ダグラス卿……貴方は彼を見てどう思いますか?」

「彼……と申されますと……陛下のことでしょうか?」

アンジェラ様はエリオットについて尋ねるが、ダグラス卿は頭にクエスチョンマーク……それも仕方ないだろうな。

「そうです。彼は私の本当の息子、リシャールです。しかし貴方の知っているリシャールとは別人です」

「……おっしゃることが分かりかねます。この方はリシャール様だが、王では無い……?」

本来ならここでボスヒゲの書簡が出てくるんだが……無いので、俺が出っ張る。

「お久しぶりですダグラス卿……三年ぶりですか?」

「ん?おおっ!シオンじゃないか!懐かしいなぁ……元気にしていたかね?」

改めて言うことじゃないが、ダグラス卿とウチの父上は同僚で仲が良い。
故に、ダグラス卿も俺を息子の様に可愛がってくれる。
が、俺としてはその感情をジュリアに向けてやって欲しかったと思ってる訳だが。

さて、昔話はまたの機会にして交渉、交渉。
俺はアンジェラ様に説明した内容を一字一句、間違わずに説明した。
勿論、火傷の痕の話も……グレッグ卿が偽者だという話も。

「……俄かには信じがたい内容だ……しかし」

アンジェラ様も勿論説得に加わってくれた……なのでもう一押しなのだが。

「『王家の剣』の一族であるレイナードも動いている……だが……」

ここでエリオットが前に出る……決意、覚悟を決めた顔だ。

「僕には力はありません……ですが、今こうしている間にも、多くの望まれない血が流されています……本来、それは必要が無かったことです。僕はそれを止めたい……こんな僕に出来るなら、だから……お願いします、力を貸して下さい!!」

勇気を振り絞って、真っ直ぐにダグラス卿を見つめる瞳に濁りは無い。
ダグラス卿も気付くだろう、懸命に精一杯な少年……その純粋さに育まれた王としての器、カリスマ性を。

「……分かりました。エリオット様……いえ、リシャール様に忠誠を誓いましょう」

やはり理解してくれた……どうやらネゴシエーションは不要だったみたいだな……。
エリオットはリシャールと呼ばれたのを訂正して、エリオットと呼んで欲しいと言った……ずっとエリオットと呼ばれて来たので、リシャールと呼ばれてもピンと来ないらしい。

俺達は勿論、アンジェラ様もダグラス卿もそれを承諾した。

「しかし、私とレイナードがこちらに着いても、兵力はいまだに向こうが上……ローランディアが助力してくれるとは言え、些か厳しいぞ」

まぁ、確かに……これでランザックとの不可侵同盟が上手くいくなら良いが、下手にランザックとこじれたら厄介だ。
俺がここまで原作を掻き回した以上、全てが原作通りになる可能性は低い……最悪のパターンも想定していなければならない。

「そこら辺は抜かり無く……インペリアル・ナイトの一人に助力を頼んであります」

「まさか……そのインペリアル・ナイトとは、ジュリアンのことか?」

ダグラス卿が俺の言い回しに、何か感づく……まぁ、ご名答なんだが。

「はい、以前……前以て話を通していたので……ただ、兵を説得するのに難航するやも知れないと……」

「そうか……」

ダグラス卿は何か考え込む……。
まぁ、色々思うことがあるのは理解出来るが……。

「そこで、エリオットにはもう一働きしてもらいたい」

「はい、ジュリアンさんの部下の人達を説得するんですね?」

いやぁ、優秀だわエリオット君。
オッサンびっくりだわ。
つまりそういうこと。
予定としては、まずアジトに寄って父上達とエリオットを会わせ、その他の事情を説明。
その後は場所が場所だから、ダグラス卿と合流するのが望ましい。
その後ジュリアの方に合流、兵達を説得。
気の位置からして、原作通りにバーンシュタイン軍のローランディア進攻司令官はジュリアンの様だな。

その後は、アルカディウス王に報告するか、カーマイン達に合流するか……いや、もう一つ選択肢があったな。

とにかく、アンジェラ様をダグラス卿に任せ、俺達は次の目的地へ……。

「待ってくれ……シオン、君と話したいことがある。少し良いだろうか?」

と、ダグラス卿が俺を名指しで指名する………もしかしてあの話か?

「分かりました……皆は外で待っててくれ」

「分かったよ」

ラルフ、カレン、エリオット、ついでにアンジェラ様にも外で待っててもらう。

「それで……話とは何でしょうか?」

「うむ……ジュリアンのことなんだが……シオン、君は知っていたのか?」

遠回しに聞いてくる……なので、俺はハッキリ言ってやる。

「『ジュリア』のことでしたら、以前に……」

「やはりか……アレは早々隠し通せる物ではないからな……ジュリアには、済まないことをしてしまったと思っている……あの子に辛く当たってしまったこともあった……」

ダグラス卿の話では、勢い余って勘当したりはしたが、自身がジュリアを歪めたのを自覚しており、そのことを大変後悔しているとのこと。
本当はそのことを謝りたいのだが、言い出せずにいたとか。

「これは、娘に謝ろうとしたためておいた手紙だ…ついぞ渡す機会は無かったが……恥を忍んで頼みたい。これを娘に渡して欲しい……君に頼めた義理では無いのかも知れないが……」

俺はそれをスッと受け取る。

「引き受けましたよ…必ず渡します」

「!……すまない」

どう致しまして、俺としてもジュリアには笑顔で居て欲しいからな。

******

オマ剣。

「ところで、何で私がジュリアのことを知っていると?」

「ああ、それは娘がナイトになることを告げに来た時に、『父上、私とシオンの仲を認め…って違ぁう!?』というやり取りがあったので、もしやと思ってな?」

「…あの馬鹿」

俺はガックリと膝を着いた。
ちなみに俺が複数の女性と付き合ってるのを告げたら、ダグラス卿はナイス笑顔で了承した…ってキャラ違っ!?




[7317] 第70話―アジト、メイド、父と母の愛と熱き血潮の漢(おとこ)達―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/08 20:47



ソレはオリビエ湖の湖畔にある森……その奥にある。
いつの間にか現れた洋館……いつからあったか分からない。
そこは不気味に佇んでいた……。

――なーんてことは無い。

え〜……ぶっちゃけここがアジトだったりします。
俺とラルフが旅をしていた時に見付けた場所で、無人なのに妙に手入れが行き届いた不思議物件だったんですよ。

誰かの別荘かな?
とも思ったんだが、ここに来るのに道らしい道は無く、獣道を通って来たりしたワケだからそれは無い。
そのくせ広大な庭があり、その周囲は丁寧に手入れされているという不思議っぷり。
まぁ、その辺はいずれ語ることもあるだろう。

とにかく、このアジトは下手な貴族の屋敷より広く、ご都合主義なアジト……と思ってくれれば良い。

そんなアジトにテレポートしてきた俺達。

「ここは……?」

カレンとエリオットがキョロキョロしている。
俺とラルフは互いに視線を合わせ、ニッ!と、笑い合う。
そして合わせて言う。

「「ようこそ、我らがアジトへ!」」

いやぁ、ここに来るのも久しぶりな気がするなぁ……。
シャドー・ナイトを追っていた時はここを拠点にしてたっけなぁ。

と、屋敷のほうからこっちに駆けてくる人影。
相変わらず慌ただしいやっちゃな。

「お帰りなさいませぇ!旦那様ぁ!!」

俺はその声を聞いて、ズルリ!と、肩透かしを喰らう……その呼び方は止めろというに。

走って来たのは、緑の長い髪、パッチリした瞳をした……メイドだった。

「よぅ、シルク……何度も言うがその旦那様は止めぃ」

「え〜?でも、旦那様は旦那様ですよ?」

全く……このアンポン娘は……。
俺は頭を抱えてため息を吐く。
まぁ、これがこいつの魅力って言ったら魅力か。

「やぁ、シルク。今日はお客様をお連れしたんだけど……」

「あ、ラルフ様!お帰りなさいませぇ……って、あわわわ!?お客様!?し、失礼しましたです!」

シルクが慌てて応対する……そんなに慌てんでも良いのに。

「……シオンさん、彼女はどなたでしょうか?説明して欲しいのですけど?」

カレンが俺の腕を取り、笑顔で聞いてくる。
ん?エリオット?なんで
((゚□゚;ll))
みたいな顔で震えてるんだ?
ラルフもちょっと引いているし。

俺はカレンの頭を空いた手で撫でながら答える。
まぁ、カレンが妬いてくれてるのは分かるからなぁ……。
ん?怖くないのかって?全然。

「彼女はシルクって言ってな……この屋敷と屋敷周辺の管理をしている聖霊だ」

「…………ちっともうろたえてくれないんですね………?精霊?」

どうやら、カレンはうろたえて欲しかったらしい……むくれてしまった。
別にやましいことしてないのに、うろたえても仕方ないだろ?
仮にやましいことをしててもアレくらいでは、うろたえんよ俺は。
こんな可愛らしいカレンを見て、どうやってうろたえろと!?

「精神のま『精霊』じゃなくて聖なるの『聖霊』な?元々は精霊だったんだが……俺と契約を交わすことによって、聖霊にクラスチェンジしたんだ」

ちなみに、契約って言ってもイヤラシイことはしてませんよ?
俺はまだチェリーだ!!……って、胸を張って言えることじゃないな……泣いて良い?

「初めまして、シルクと申します!至らない所もあると思いますが、宜しくお願いします!」

元気良く、かつ丁寧に頭を下げるシルク。
それを見て、むくれていたカレンも微笑みを浮かべる。
うん、こっちのカレンがやっぱり1番だな。
さっきのは、無理して笑ってる感じだったからな。

ちなみにシルクという名前は、俺が付けた物だ。
最初に出会った時に、シルキーみたいだな……って思ったからその名前を付けた……安直だよな?

シルキーってのは俺が居た世界の伝承に出て来た妖精で、一言で言えばお手伝い妖精みたいなモノだ。
家主を気に入れば家事なんかをそっと手伝ってくれる……しかし気に入らなければ悪戯をし、最悪追い出すという……家に宿る妖精だ。

「あ、あの……シオンさん……」

「ん?」

「さっきはゴメンなさい……何があっても受け入れようって決めたのに……けど、ああすれば、もっと可愛がってくれるって」

「誰が言ってたんだ?」

「その……ゼノス兄さんが……」

ほほう?
……まぁ、大方、ちょっとした意地悪のつもりだったんだろうが……何しろ、俺が複数の女性と関係を持ってるのを明かした時、最終的にはあの男……。

『羨ましいぞこの野郎!!』

――と言いやがったからなぁ。

まぁ、良い……合流したら素晴らしくゴージャスな修業を着けてやろう……フフフフフ……。
気にしてないよ?
カレンが妬いたことは気にしてない。


けど、カレンに変な入れ知恵をしたゼノスは……許せないなぁ。


「ごめんなさい、ごめんなさい!もうしません、もうしませんからぁ!?」

「あ、あわわわわわ………((((゚□゚ll))))ガタガタガタガタ」

「だ、旦那様が魔王モードですぅ……し、シルクが何か粗相をしたですかぁ!?」

「い、いや……これはゼノスさんが悪い……ゼノスさん、僕はあなたのことは忘れません……忘れませんから、なんとかしてくださいっ!」

ん?何で皆怯えてるのかな?
別に皆をどうこうしようなんて思っちゃいないよ?
ちなみに上からカレン、エリオット、シルク、ラルフとなっている。

落ち着いた後、ガタブル震えてた皆を落ち着かせ、改めて自己紹介。

「シルクと申します。この屋敷を預かり、管理している、旦那様付きの聖霊です!宜しくお願いしますっ!」

「私はカレンです。宜しくね、シルクちゃん?」

「僕はエリオットです、こちらこそ宜しくお願いします、シルクさん」

さて、それぞれ挨拶を済ませた所で本題に入ろう。

「シルク、父上達は?来ているんだろう?」

「あ、はい!レイナード様達は中庭で訓練をしています!今はオズワルド様達に稽古を付けてらっしゃいます」

そうか……ちゃんと手紙に書いた通りにやってくれてるのか。
では早速、挨拶に行くか。

しばらく進んだ中庭……そこでは……。

「お、おい!?だらし無いぞお前ら!!」

「そ……そんなこと言っても兄貴ぃ……」

「こ、これは……キツイ……ですって……」

「俺……もうダメっす……」

「……………」

そこでは、オズワルド達5人が父上に思い切り扱かれていた……オズワルド以外は皆、地に伏している。
そんなオズワルドも、息が絶え絶えだが。

「父上!」

「ん……?おおっ!シオンじゃないか!!」

父上がこちらに駆け寄ってくる……満面の笑みだが、殺気が溢れてる。

「ハハハ!待っていたぞ……この破廉恥息子がっ!!」

ビュオン!!

パシッ。

思い切り振り下ろされた大剣を、俺は片手で掴み取る。

「なんのつもりですか父上?」

「黙れ!手紙によれば、複数の女性と付き合っているらしいでは無いか!!私はお前をそんな風に育てた覚えは無いぞ!」

まぁ、父上ならこういう反応すると思ったよ……むしろ1番マトモに感じる。

「というか、事の顛末も書いてあった筈だけど?」

「確かに、お前から望んだというより、その女性達が望んだというのが事実なのだろう……しかし!複数を選ぶなどという不義理をするなど、騎士としてあるまじき行為だ!!」

俺はそれを聞いてムカチーン!と来た……。

「父上の言いたいことは理解出来る……だがなぁ!!」

ドゴムッ!!

「ヘブフォ!!?」

俺は掴んでいた父上の剣を横にずらし、一気に懐へ入り、光速の拳を見舞った。
父上は錐揉み回転しながら吹っ飛んで行く。

「こんな俺を愛してくれる女達を……誰か一人を選べないなんて戯言をほざいた俺に、それでも良いと言ってくれた女達を……全力で愛して何が悪い!!幸せにしてやりたいと願って何が悪いっ!!!」

って今、物凄く恥ずかしいことを言ってるような……うん、カレンが物凄く真っ赤だ。
他の皆も赤面してる……あ、父上が動いた。

「フフフ……お前の魂の叫びは聞かせて貰った……良い拳打だったぞ……息子よ……ガクッ!」

あ、気絶した……ちょっとやり過ぎたか?
まぁ、あの父上だから死ぬことは無いだろ。

大体、感の良い奴は分かるかも知れないが、父上は本気で怒ってたワケでは無い。
言わば、俺の覚悟を試したんだろう。

後は久方ぶりに、息子とスキンシップを取ることが嬉しかったのか――。
父上でコレなら母上は――とか、考えるだけで恐ろしい。

って……気絶されても困るんだよなぁ。

俺は父上にヒーリングしてから叩き起こす。

「……もう少し労ってくれると、父は嬉しいのだが……」

「私を試した罰です……それより、紹介したい人がいます」

「うむ……分かっている」

そう言うと、父上は普段のキリッとした表情になる……さっきもキリッとはしていたが、何と言うか、真剣味が違う。

「貴女がカレンさんですな?息子を愛してくれている女性の一人とか……」

「は、はい!初めまして、シオンさんのお父様…ですよね」

スッテーーン!!
俺は派手にずっこけた!!

「お父様……良い響きだ……いかにも、私がシオンの父のレイナードです。カレンさん、あんな息子ですが、どうか末永く宜しく」

「コラ父上?」

俺はチンピラモード(アリオストの時に出したモード)で父上の肩を掴み、こっちを振り向かせ、服の襟を掴む。

「分かっててやってますよね?分かっててやってやがるんですよね?」

「?何のことだ?」

このボケ父上はああぁぁぁ!!
何の為にここにいるか自覚あるのか!?

「冗談だ、そう怒るな……未来の息子の伴侶の一人に挨拶するのは、父として当然のことだ」

なんか、父上……年々母上に毒されて来てるよなぁ……まぁ、愛嬌が出るのは良いことなんだけどさ。
俺はため息を吐きながら、父上を離した。

「お初にお目に掛かります……リシャール陛下とお呼びすれば宜しいでしょうか?」

「いえ、僕のことはエリオットと呼んで下さい……今までそう呼ばれていたので、今更リシャールと呼ばれてもピンと来なくて……」

「承知致しました……エリオット陛下」

挨拶も済んだ所で、俺は父上に説明する。
手紙で大概のことは説明してあるが……ダグラス卿がこちらに付いたこと、アンジェラ様もエリオットを支持してくれていること等も説明した。

「そこで父上にはシュッツベルグのダグラス卿と、部隊を合流して欲しいんです。私はエリオットを連れてナイツのジュリアン将軍の説得に赴きます」

「了解した……今、兵達を集めてくる、しばし待て」

と、父上が兵達を呼びに行った……多分、エリオットを紹介して士気を上げようってつもりなんだろうな。

「元気そうだったね?」

「なんか、違うベクトルに元気だがなぁ……まぁ、ああいうのも良いさ」

ラルフの問いに答える俺……母上の影響か、徐々にはっちゃけて来ている父上……昔はやたら生真面目だったんだが、良い傾向……なのか?

「で、大丈夫かオズワルド?」

「これくらい屁でも無いですぜ……オラァ!お前らもしっかりしろぃ!!」

なんとか回復したオズワルドだが。

「いや……無理ですって……」

とビリー。

「少し……休ませて下さい……」

とマーク。

「正義の味方は一日にして成らず……けど、もう無理っす……」

とニール。

「……休憩を、下さい……」

と、ザム。
オズワルド以外、皆へばっている。
まぁ、父上の扱きに着いていけたのは――流石かな?

聞くと、訓練はしっかりやっていた様なので、腕はきっちりと上がっているらしい。

それからしばらくして……俺達の目の前ではエリオットの演説が行われていた。

ひたむきに真剣な少年のその姿に、周りは沸き立っていた。
どうやら士気は上がったみたいだな。

「で、母上は何をしているのですか?」

「ん?何って、息子の母親として、色々話してるんじゃない♪重要なことよ♪」

目の前にいる女性、名をリーセリア・ウォルフマイヤーと言い、ファミリーネームから分かる様に、俺の母上だ。
見た目は全然そうは見えないが……。
俺の銀髪は母上譲りの物で、母上はそれを長く伸ばし、それをポニテにしている。

ハッキリ言って母上は化け物だ。
俺がこの世界に生まれて、初めて見た人物が母上なのだが……その当時より見た目が全く変わっていない。

俺は原作をⅢまでプレイしたことがある……故に、サンドラの学生時代も知っている。
かつてはクールビューティーな美少女だったのが、今ではすっかり良い女……めがっさ美女だ。

しかし、ほぼサンドラと同年代の筈の我が母は、外見はいまだに美少女なのだ。
幾らレベルの高い女性が多いグロラン世界とは言え、これを化け物と言わずして何と言う!?

……まぁ、単に成長してないだけかも知れないが。

「……今、シオンったら失礼なこと考えなかった?」

「気のせいですよ」

俺はポーカーフェイスでサラっと答える。
まぁ、若々しいというのは悪いことじゃないが。

で、我がお母様が何をしているかと言うと……。

「それでね、シオンは凄く子供っぽくない子供でね?」

「そうなんですかぁ…」

「旦那様って昔から旦那様だったんですねぇ……」

俺の昔の話しをしてやってるらしい。
カレンは食いつく様に聞いている……シルク、お前もかよ。
ん?止めないのかって?
母上も言ってるが、俺は大人びた子供だった……当然だな。
転生?したから、リアルコ○ン君だった訳だし。
故に恥となるのは、下の世話をされていた赤子の時くらいで、歩ける様になってからはトイレにも風呂にも一人で行っていた。

故に、止める必要は無い……まぁ、仮に赤子の時の話をされても、それは誰しもが通る道だ。
特に気にしたりしないさ。

なので、俺はエリオットの演説によって沸く兵士達を眺めていた。

「随分、士気が高まったね」

「ラルフ……そうだな……」

「エリオット君が王位を取り戻したら……シオンはどうする?」

「どうするって……何をだよ?」

「皆、シオンに期待してるんじゃないかな?」

「……やっぱり?」

まぁ、行く先々で色々言われてるからなぁ……とは言え。

「それは全てが丸く収まってからだな」

「その全てが丸く収まった時は、みんなが笑顔でいられたら良いよね」

「……だな」

この戦争はハッキリ言って序章に過ぎないケドな……。

「ありがとう……シオン」

「?どうしたんだよラルフ?」

「いや……シオンが居なかったら、僕はこうしてココには居なかったんじゃないかな……って漠然と思ってね……」

そんな台詞を微笑みながら言うラルフに、苦笑を漏らしてしまう。
全くコイツは……本当に……。

「仮定に意味は無いさ……まだまだこれから忙しくなるんだ……頼りにしてるぜ、相棒?」

「うん、任せてくれよ……相棒」

俺達は拳を合わせて、笑い合った。
ったく、この相棒は絶対に死なせたくない……いや、死なせやしないさ。

俺は当初の目的を再確認したのだった……。

「ねぇ、カレンちゃんはもうシた?」

ズルッ!!ドゴスッ!!!

俺は横にずっこけ、その勢いのまま地面に頭が激突……しかしそこはチート。
怪我せずに頭が地面にめり込む……周りに地割れが出来ました……って、そんなことはどうでも良い!!

「何を聞いてるんですか母上!!?」

俺は頭を引っこ抜き、母上に詰め寄る……しんみりと決意を固めていたのに……なんてこと聞いてやがる!!

「え〜?だってお母さんとしては〜、気になるじゃない?」

「気になっても普通は聞きません!!ホラ!カレンが真っ赤になって停止してるじゃないですか!!」

俺はカレンを指し示す……真っ赤になって眼が点になっている。

「……シオンさんと……シオンさんと……キスなら……その先は……まだ……」

「って!カレンもポツリポツリと暴露してんじゃない!?」

そんな反応されたら俺はどうしたら良いんだ!!

「?あの〜?シたって何をですかぁ?」

「シルクちゃん知らないの?それはね〜?」

コソコソ……母上が何やらシルクの耳元で呟いた。

ボンっ!!

「きゅ〜〜〜……?」

バタリ。

「シ、シルクうぅぅ!?」

シルクは真っ赤になって、眼を回して倒れてしまった。
何を話した母上!?

「あらあら……刺激が強かったかしら?」

「あらあら……じゃない!!シルクはそういうのに免疫無いんだから、止めて下さいよ!」

「む〜、そんなに怒らなくても……ちょっとしたスキンシップじゃない」

ぷくぅ〜、とむくれる母上だが……色々危ないから止めてくれ!

「もしかして、まだなの?」

「戦争中にそんなこと出来るかぁ!!」

俺は思わず敬語が吹っ飛んでしまう。

「ん〜、私はレイと普通にしてるケド?正確には普通じゃなくて色々」

ガシッ!!

「母上……それ以上はマジで止めてくれ……頭冷さすぞ?」

二人がラブラブなのは分かったが……それ以上は板違いだ。
俺は母上の頭を掴み、魔王モード一歩手前くらいの状態で睨みを効かせる。

「ご、ごめんなさい……お母さん調子に乗っちゃった……許してくれると嬉しいなぁ〜……ダメ?」

小首を傾げる我が母君……その仕草は可愛らしい物だ。

俺は軽くため息を吐いて、最高の笑顔で言ってやる。

「果てろ♪」

ゴリィ!

「みぎゃ!?」

俺は、超局所的アイアンクローをかまし、母上は気絶する。

「よ、容赦ないね……お母さんなのに……」

「実の母でも、俺をからかおうなんざ、十年早い」

冷や汗を垂らすラルフに、俺はそう言ってやる。
精神年齢で言えば、俺より年下なんだぞ?
幾ら母とは言え、我慢ならんわい。
それに色々危なかったしな。

「ほら、カレン……正気に戻れ」

「ほぇ……シオンさん?私……その…あの……」

ああ、うん……言いたいことは分かる。

「まぁ、全部終わってからな?」

「……ハイ♪」

そう言って軽く抱きしめてやる……戦いが終わったら俺はどうなってるんだろうな?
想像もつかないな……ん?

その後、気絶してるシルクと母上を起こし、『強制的』に落ち着かせた辺りで、演説は終わったみたいだな。
さて、後はジュリアの部隊の説得だな……。

「シオン……こっちに来て?」

「何です母上?また馬鹿なことをするつもりですか?」

俺はそう言いながら近くに来た。

「もうこんなに大きくなっちゃったのね……少し屈んでくれる?」

何だってんだ……俺はそう思いながらも屈んでやる……すると、母上が俺の頭を抱える様に抱きしめて来た……って、ちょ!?

「は、母上!?」

「……シオンが何かを頑張ってるのは、私達にも分かるわ……何となくだけどね?」

「………」

「頑張るのは良いわ……お母さんも応援しちゃう!けど、頑張り過ぎないでね……疲れたら、いつでも帰って来なさい。貴方は私達の大切な――息子なんだから……」

「母……上……」

母上の言葉が染み込んでくる……あぁ、この人達は俺の親なんだ……。
今までもそう思ってはいたが、改めてそう思う。

海導 凌治の両親は、向こうに残して来た両親だ……けど、シオン・ウォルフマイヤーの家族は、間違い無くこの両親しかいないのだと。

「……はい、母上」

俺は自然と微笑みを浮かべていた……嬉しくて、嬉しくて……。

「また成すべきことを成しに行くのでしょう?……お母さん達も頑張るからね?……こう見えてもお母さんは魔導師としてはちょっとした物なんだから♪」

「ええ、知っていますよ」

俺のヒーリングとグローヒーリングは、母上からラーニングしたんだからな……。

俺は母上の抱擁から解かれる。

「それと、必ず生きて帰ること……シオンのハーレムの人達を紹介して貰わなくちゃいけないんだから♪」

「ハーレムって……言われなくても生きて戻りますよ。母上こそ、無茶はしないで下さいね?」

全く、最後まで茶化すんだから……まぁ母上らしいか。

「シオン、次に会う時は他のお嬢さんも連れて来い……待っているからな」

「父上もですか……その前に、色々動き回るので、何度か会うことになると思いますよ?」

戦場を動き回ることになるのは確実だからな……また直ぐに会うことになるさ。
……と、オズワルド達が来たな?

「着替えてきたな」

俺はオズワルド達に新たな任務を言い渡した。
父上達をフォローして、遊撃部隊として動いて欲しいと。
差し当たって服装を整えることにした。
オズワルド達に渡したのは、シャドー・ナイトの衣装……それをアレンジした物だ。
色はブルーを基調にした物に統一、更に気品を出した。
国の式典なんかにも出れる仕様だ。
元はシャドー・ナイト仕様の鎧でもあるので、軽くて頑丈。
更に俺の魔力を付加した一品だ。
俺の魔道具……というには手を加えただけの物だが。
敢えて名付けるなら、『蒼天の鎧』って言った所か。

「どうだ着心地は?」

「いや、悪くは無いですがね……ちっとばかし窮屈で」

他の四人より、多少仕様が立派な鎧を着けているオズワルドが言う。
ちなみに兜は外しており、髪型はざんばら髪だ。
何と言うか、そのガタイと髪型から、こ○亀の両さんを彷彿とさせるな……もっとも、揉み上げから顎に髭が生えてるし、両さんよりは多少は細いし身長もある。
がに股でも無いしな?
何と言うか、見た目だけなら、歴戦の将軍の風格だ。
ウェーバー将軍と並んでも見劣りしないぞ?

他の四人も蒼天の鎧を着込む……そしてそれぞれ二の腕に、トレードマークだったバンダナを腕章の様に巻いている。

「そこは慣れろ。これから戦争になるんだ、装備は新調してて損は無いだろ?……頼むぞ、皆!!」

「任せて下さいよお頭!」

「ここまで来たら、一蓮托生って奴ですぜ」

「そうっすよ!!お頭!」

「任せてくれ、お頭の名前に恥じない様にやってみるさ……」

俺の言葉に応じてくれる、ビリー、マーク、ニール、ザム……全く、最高だぜお前ら!

「じゃあ、一丁やりますか?」

「そうだね」

オズワルドとラルフが言う……俺達も頷く。

「「「「「「「どんな時でも最高の笑顔を!!それが俺(僕)達の鉄則だ!!!」」」」」」」

グッ!ニカァ!!

俺達はそれぞれの最高の笑顔でサムズアップした!
うお!?やはりオズワルドが暑苦しい!!
ラルフは爽やか過ぎ……俺も人のことは言えないが。

「皆さん、仲が良いんですね……」

「ええ、それに凄く楽しそうで……」

カレンとエリオットが俺達を、微笑ましそうに見つめていた……。

それから、父上と母上、兵士とオズワルド達は、ダグラス卿と合流するためにシュッツベルグに向かった。
あ、昔は獣道しか無かったが、今は舗装して街道に出れる様にしてある。
よく誰にも見つからないなって?
認識阻害系の結界が張られてるからな。
俺と同じくらいに魔力が高いか、シルクに認められた者しかアジトに辿り着けない様になっているってわけさ。




[7317] 第71話―ジュリアのもとへ……と思いきやの四人目な件―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/08 22:24


俺達は父上達を見送った後、こっちで匿ってるグローシアンの人達に挨拶をしてくる。

俺はオズワルド達に頼んでグローシアン達の保護をしていた……これもクソヒゲの野望を阻止する為。
屋敷は自由に使ってくれて良いと言ってあるので、不自由は無い様にしてある。

身の回りの世話とかはシルクがしてくれるしな?

挨拶をしたら、皆さん結構元気そうだった……まぁ、この屋敷周辺は、一種の幻想空間と言っても良いくらい快適だからなぁ……。
無論、庭に出ても全然オッケーだし。

ただ、それでも些か不自由を感じるのは事実であり、俺は素直にそれを謝罪した。
皆、気の良い人達ばかりで、気にしてないと言ってくれたけどな……。

あ、ゼメキス村長やアイリーンは居ない……どうにも同行を断られたらしいな。
まぁ、無理強いはしない様にしていたし、転移の腕輪も渡してるだろうから大丈夫だろう。
オズワルド達が真剣に対応していたなら、あの二人の性格的に腕輪を捨てることは無いだろうし。

一通り挨拶を終えた俺達は、アジトを去ることにする。

「それじゃあシルク、後のことは頼むぞ?」

「ハイ、旦那様!旦那様のお帰りをお待ちしております♪」

可愛らしく言うシルク……まぁ、グローシアンの人達もいるからな、仕事のやり甲斐はあるだろ。
何気に働き者だからな……シルクは。

さて、早速……。

「ちょっと待ってよ」

この声は……。

「なんでお前がここに居るんだよ?」

「あら、私が居ちゃ悪い?」

いや、そういうこと言ってるんじゃないし……。
俺の視線の先には、女性が居る。
母上の様な長い銀髪を腰辺りまで伸ばし、左側にサイドテールにして一部を結んだ髪型。
ピッタリとした黒いノースリーブの服を纏い、白いプリーツスカートを身に着けている……。
そして掛値なしの美女だ。

……分かる人には分かるだろう。
彼女の名前はリビエラ・マリウス。

元・シャドー・ナイトだった者だ。
ついでに言えばⅡのキャラですね。

「そうじゃなくて、俺はオズワルド達と一緒に行動してくれ……と、言った筈だけど?」

「だって、屋敷から出たらもう出て行った後だったんだもの……今から追うのも何だしね」

「……わざと隠れていたな?」

「さて、何のことかしらね?」

隠しても分かる……俺は気が読めるんだからな……いつまでも隠れてるから変だとは思ったんだがな。

ちなみに何故リビエラがここに居るかと言うと……以前、俺とラルフがシャドー・ナイトを追っていたのは覚えてると思う。
では、その時に面白い出会いがあった……というのは覚えてるだろうか?
何を隠そう、その面白い出会いって言うのがリビエラだったのだ。

正確には、リビエラと姉のオリビアの婚約者の男……だったのだが。

二人は……いや、姉のオリビアもシャドー・ナイトだったんだが……Ⅱのリビエラの過去話のシーンに遭遇してな。
あのリビエラを逃がす為に、婚約者の男が一人残って犠牲になったって奴。
あれ?このシーンってもう少し後の話だよな??
とか思いつつ、俺というイレギュラーがいる影響か?
とか、考えたりした訳だが……。

実はそれを助けちゃってさぁ……追っ手の兵隊さん達には気絶して貰ったりして。

で、俺とラルフは男を連れて逃走……で、交渉の末、男はシャドー・ナイトを抜け、更には近くで待機していたリビエラ、オリビアも拉致。
お話して、オリビアとリビエラもシャドー・ナイトを抜けることに。
オリビアと婚約者も、この任務が終わればシャドー・ナイトを抜けるつもりだったらしい。

とは言え、例え生きて帰ったとしても、あのガムランが生きて抜けさせる――なんてことはしないだろう。

まぁ、それも交渉する際のキーの一つだったんだがな。

それからしばらくはオリビアとその婚約者は、この屋敷に居を構えていた。
ここなら誰にも見つからないだろうからな。
今?今は父上の挙兵に賛同して、部隊の一員になっています。
流石に母国を取り戻したいって言う気持ちを、押し込めたりは出来ないからな。

話が逸れたな……で、リビエラなんだが、男を助けたり、色々根回ししたことに恩義を感じているらしく、俺に協力を申し出て来た。
他の二人もそうだったんだが、俺が説得して我慢して貰った。
が、リビエラは頑なに協力すると言い張り、俺は仕方なく頷くことにした。

一応言っておくが、本気で舌戦するなら負ける気はしないぞ?
だが、善意で言ってくれてるのは分かったので、素直に力を借りることにしたのだ。

「相変わらずだね、リビエラさん」

「あら、ラルフも久しぶり!元気してた?」

そんなこんなで現在に至る……本当はオズワルドと一緒に遊撃部隊を指揮してもらう筈だったんだが。

「あの、シオンさん……この人は……」

カレンが首を傾げて聞いてくる。

「ああ、彼女はリビエラ・マリウスと言って」

「シオンとはこういう仲よ」

ぎゅっ♪

「!?Σ(´゚□゚`;)」

リビエラが俺の腕を取り、腕を組んで来る……って待て!?

「お前、冗談は止めろっての!!見ろ、カレンがあんな顔になっただろう!」

あんな顔とは(´゚□゚`;)こんな顔。
ちなみにエリオットは……。
(□゚*;)

ラルフは(^_^;)だ。

シルク?シルクは
(//△//)だ。

「あら、冗談のつもりはないけど?」

むにゅん♪

!!こ、コイツ……胸を!?

「ちなみに、わざと当ててるんだからね?」

「バッ!?」

馬鹿言ってんじゃねぇ!!と、言おうとしたが。

「……シオンはこうでもしなきゃ、気付いてくれないみたいだからね……さりげなくアプローチしても気付かないし」

顔がほんのり赤い……マジか?
…………あぁ、考えてみたらそんなことあったかも……。

何度かオズワルド達と連絡を取る際、リビエラが連絡役になったことがあったが……あの時も……その時も……。
今思い出せば、怪しいと思うものは幾つも……。

マジかよ……我ながら情けなくなってくる。
とは、言え……これの返事となると……。

「悪いが、俺は……」

「知ってるよ、複数の女性と関係がある……でしょ?そこの彼女と他にも」

「な、何でそれを?」

「ここに滞在してる時にシオンのお母様が手紙を読んで聞かせてくれたからね……だから知ってる」

は〜〜は〜〜う〜〜え〜〜……アンタ何してるんですか!?

「だから、さ。私も仲間に入れて貰おうかなぁ、てね♪」

「お前……それは……」

「……ちなみに本気だからね」

……真剣に見つめてくるリビエラ。
どうやらマジらしい……だが俺は。

ぎゅっ。

「……カレン?」

カレンが、俺の空いてる腕を取り、腕を組んで来た。

「……私は、シオンさんの判断に従います。全部受け入れるって、決めてますから……」

そう言いながら微笑むカレン……これは、リビエラが俺の戯言を受け入れる気だと悟ったからなんだろうな……でなきゃ今頃は……。

『し、シオンさんは私達が渡しません!!絶対駄目です!禁則事項です!!』

とか、言うだろうしなぁ……なんつーか、つくづく俺なんかには勿体ないよな……皆。

「リビエラ……一つ聞いて良いか?何で俺なんだ?」

「……最初はあの人を助けてくれた恩、後は借りを作りっぱなしってのも性に合わなかったし……それだけだった……んだけど、一緒に行動する内に段々惹かれていった……決定的だったのは、私が作った料理を全部食べてくれたことかな……」

あぁ……そんなこともあったな……ってアレが決めて!?
なんでさ!?
って、思わず冬木のブラウニーが降臨しちまったじゃねぇか!

ある期間、俺とラルフはオズワルド達と行動を一緒にしていた時期がある。
当然、野宿もあった訳で、その際にリビエラが料理当番をしたことがあってな……。

「皆はマズイ!って言って手をつけなかったけど、シオンは食べる手を止めなかった……食べる手を止める皆を見て『確かに目茶苦茶美味い訳じゃないけど、食えないって訳じゃないし、練習すれば美味くなると思うぞ?』って、言ってくれたよね……」

確かに言った……正確にはその後に『それに残すのは勿体ないしな?』と付くが。
あと、ラルフはハッキリとマズイとは言ってません。
思わず手を止めてたが。
ゼノスのあの料理を味わってるのだから、気持ちは分かる。

俺が何故耐えられたか……それは前世?の経験からくるものである。


かつて、小学生の頃……俺は弟と沙紀、それと近所の仲間と家で遊んでいた。
お歳暮に贈られてきたカルピスを使って……。

所謂、闇鍋的なゲームなんだが、先ずはカルピスの原液を適量。
そこからゲームはスタート。

何かしらのゲームをやり、一位の奴が我が家にある飲んでも害にならない液体を選び、最下位の奴に一口分を分けて飲ませるという物。
残ったのは持ち越しにしてまた足す。
最初は林檎ジュースとかだったから平和だった……。

しかし、沙紀の奴が梅酢を加えた辺りから雲行きが怪しくなる。

他の奴が何を入れたかは知らないが、俺も調子に乗って、ウスターソースに豆板醤……揚句には漬け物の汁なんかを足していた。
そして、罰ゲーム飲料を飲む奴らを嘲笑っていた。
……昔からSの素養はあったんだろうな…俺は。
幸い、俺は連戦連勝だったし……。

しかしとうとう俺も罰ゲームの洗礼を受けることになる……。
色々混ざって形容しがたい色になってたそれは、この世の物とは思えない腐臭を発していた……元がカル○スとは思えないくらいだ……。
しかし俺も男なので一気飲みした。

――宇宙の真理が見えた気がした。

気がついたらベッドの上だった……。
あれ以来、どんな食べ物も平気になったし、食べ物を粗末にしないようになった。



……話が逸れたな。
とにかく、あれに比べたらリビエラの料理なんて全然食える。
世の中には食べたくても食べられない孤児とかも居るんだ……それを考えたらなんだ!

まぁ、俺がそう言うと、ラルフ、オズワルド……と食べるのを再開した訳だがね。

「その後も料理の練習を手伝ってくれたりして……シオンは料理も出来て、凄く羨ましくて悔しくて……」

まぁ……こちとらゼノス仕込みですから。

「けど、楽しくて……その時にね……私はコイツと一緒に居たいんだ……好きなんだなぁ……ってね。一度離れたら駄目ね、もう貴方無しじゃいられない」

はにかんだ感じに言うリビエラ……やべぇ、マジ可愛いんですけど……とか思う俺は節操無さ過ぎ!!
う〜……どうすれば良いんだ俺は……ええい!!ままよ!!

「リビエラの気持ちは分かった……が、本当に俺で良いのか?俺はもう」

「それは無し。さっき答えは言ったはずよ?」

そういやそうだった……なら答えは一つか。

「リビエラ……俺の女になるか?」

「喜んで……」

俺とリビエラは誓いの口づけを交わすのだった。

「シオンさん……私も……」

……まぁ、カレンにもしました。
とは言え、エリオットやシルクの情操教育的にとても宜しくない。

と、思ってたら、ラルフが二人に後ろを向かせていた。
流石はラルフ…御気遣いの紳士!!
しかしこれで四人だよ四人…うぅ、俺の良心回路が痛む…。

しかし、両脇の幸せそうな二人の顔を見ていると…まぁ、良いか。
という気になってしまう…本当、幸せにしてやらなきゃな。

その後、今度こそ本当にジュリアの部隊を説得しに行く。
アジトはシルクに任せてテレポート!
リビエラという……新たな仲間を加えて。




[7317] 限りなく現実に近い嘘予告―封印されし異世界転生者―超ネタバレ注意
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/08 22:36


これは注意事項だ!
これは限りなく現実に近い嘘予告だ!
正直、作者の頭が沸いたとしか思えない暴挙!

前回の嘘予告とは違い、飛ばされる異世界も半分確定した世界だ!

いつ飛ばされるかは不明だが!!
ネタバレも良いところだ!!
それが嫌な人は回れ右をしてくれ!
お兄さんとの約束だ!!

覚悟は良いか……最初に言っておく。
お兄さんは責任はとりませんよ?

********

俺は封印された……。

宇宙意思……或いは世界そのもの――これは各世界にそれぞれ存在し、性格もそれぞれだ。

人を見下す神の様な奴も居れば、凄く親身な奴もいる。
悪戯好きな奴も居た……。

俺を最初に異世界に招いたりした奴は……何と言うか、不可思議な奴だった……良い奴だったのは確かだが。

で、最初に言った神の様な傲慢な奴に言われた。

貴様は力を付けすぎた……よって、適当な世界の人間の中に封印してやる……と。

まぁ、コイツは口が悪いだけで悪い奴では無いというのが分かった。
何しろ俺のアイテムや力を奪うことはしなかった……というか、出来なかったのだが。

俺は不老であって不死ではない……しかし世界に俺を殺すことは出来ないという……。
まぁ、龍玉で界○神が魔人○ウに勝てなかったのと同じと思ってくれ。
多少の干渉は出来るが縛ることは出来ないらしい。

何でも、その世界には俺を封印から開放する手段もあるとか。

うん、ツリ目の美少女だったし……とりあえず、ツンデレ乙。
そう言ったら、傲慢な態度が崩れて……。

「べ、別にアンタに頼みがあるから、封印するワケじゃないんだからね!?」

とか、言われた。
どうやら傲慢な態度は演技だったらしい。

で……封印された訳だが……俺はある少年に封印された……まぁ、漫画……二次創作的には超ビッグネームな奴に。
なんつーか、士郎の奴と同じくらいのビッグネームだな。

俺とそいつは繋がっており、意思疎通が出来る……俺はコイツをなるべく真っ当に育てようと誓った……誓ったのだが……。

「おっ嬢さ〜〜〜ん!!僕と燃える様なアバンチュールを!!!」

ベコッ!!

「あべしっ!!」

『…………今ので72回目だぞ忠夫』

『何を言うシオン!!まだ72回!!俺の溢れる情熱は誰にも止められんのじゃああぁぁぁぁぁぁ!!!」

『その情熱は立派だがな……途中から心の声が漏れてるぞ?』

「ぬおおおぉぉぉ!?しまったぁぁぁぁぁぁ!?」

『もう少しシャンとすりゃあモテるのになぁ……コイツは』

横島 忠夫……GSの世界へと。
俺の教育の賜物か、原作より幾分まともになった……だが、血筋なのか根本はそのまま。

**********


「生まれる前から愛してま……」

『……少し、頭冷やそうか?』

『!?いや、待て、俺が悪かったから……それはま』

封印されても猛威を振るう魔王様。

「もしかして、なんか有り得んもんが見えんのはお前のせいか!?」

『俺の影響もあるだろうが……それはお前の才覚だよ忠夫』

正史より早い覚醒。

「給料がどうしたって?」

「給料がどうかしましたか?」

『忠夫……泣いていいか?』

この辺は正史と変わらず。
しかし……。

『覚悟を決めろ!!何もしなきゃ死ぬだけだぞ!?』

「ちきしょー!!やってやらぁぁぁぁ!!」

ほんの少し、勇気があり……。

「ふふふ……忠夫!!父の威厳をぶぺら!?」

「アンタの時代は終わってるんだよ親父ぃ……?」

「よ、横島さん?」

『……まぁ、鍛えたからこれくらいはなぁ……』

親を踏み越え……。

「うわああぁぁぁぁ!?」

『!!変われ忠夫!!』

少年は雇い主を守ろうとする……直撃を受けた筈の少年……しかし現れたのは銀と蒼を携えた少年。

「よ、横島君……?」

「任せて下さい、美神さん……アイツは俺がぶっ倒しますから」

その色を携えた少年は、王だった。

『見てろ忠夫……お前の力を!!』

「『栄光の手(ハンズオブグローリー』!!」

『これが……俺の力だってのか……』

『そしてこれが可能性の一つ……』

「ハンズオブグローリーのアレンジ……『栄光の腕(アームズオブグローリー)』だ!!」

強敵を物ともせず蹴散らす少年。

「横島君……アンタ一体……」

「すいません美神さん……今まで黙ってたけど、俺、霊能力者なんです……資格の無いモグリっスけど」

『おいぃぃぃ!?何言ってるんだよシオン!?』

『黙って見てろ……給料を上げたいならな』

ネゴシエイター降臨。

「俺にこんな力が……フハハハ!!来たぞ俺の時代があぁぁぁぁ!!」

『……お前がどんなことに力を使おうと、俺は関与しないが……後悔しないようにな……』

青年の言葉に、少年は思い出す。

ある時に見た夢……銀の青年の夢を。
ある時は旅人、ある時は王国の近衛騎士、ある時は女王に仕える騎士、またある時は世界を渡る写真館で、ある時は車椅子の少女と共に……。
青年の力は圧倒的だった……。
しかし救えた者も居れば救えない者もいた……。
故に少年はその青年の言葉を胸に刻む。

『ハーレムハーレムと言うが、結構しんどいぞ?皆を愛し、皆を守らなければならないんだぜ?』

「……そうだな!覚悟は出来てるぜ!!俺は必ず裸のねーちゃんに埋め尽くされた体育館でジョニー・B・グッドを歌ってみせるっ!!!」

……精神の中でズッコケた転生者。

そして……。
雇い主の修業に同行した少年……。

「私が管理人の小竜姫です……外見で判断してはいけませんよ、美神さん?」

「!よ、横島さん……平気なんですか…?」

「ん?ああ〜……何と言うか……(確かに強い霊圧ってのは分かるけど……そんなに凄いか?)」

『……(俺の影響だな……間違い無く)』

そして修業が始まる……。
雇い主が危機に曝され、少年は修業場の管理人の助力で影法師を呼び出す……。

「あなたの影法師を抜き出します」

「ちょ…ちょっと待……俺は見学……!!」

しかし現れたのは影法師ではなく……美しい銀と蒼を携えた青年。

「成程……この方法が封印を解く鍵だったワケか……」

「お前……シオン……か?」

「おう、こうして直に会うのは初めてだな……忠夫?…っと、今はアイツをどうにかしなきゃな……」

開放された青年は、その後少年を鍛える……鬼の様に。

「士郎をSHIROUにした俺だ!忠夫もYOKOSIMAにしてやるぜぇっ!」

「意味分からんわあぁぁぁぁぁ!?」

成長する少年……鍛えつつ見守る青年。
雇い主の横暴に降臨する魔王……しかし危機に駆け付ける銃を持つ朱い戦士。

「お前、何者ジャン!?」

「通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ」

『アブソーブクイーン』
『フュージョンジャック』

機械音と共に金色の羽を纏う戦士。
そして始まる試験……。

神の眼のアドバイスで勝ち上がる少年……。
ほんの少しの勇気と、予想以上に着いた力を持って……。

「お前は俺と同じ匂いがする……行くぞぉぉ!!」

「……なんだろうな、何だか負ける気がしねぇわ」

覚醒する力……そして時は流れ、少年は運命と出会う。

「アシュタロスは―――俺が倒す!!!」

少年はその力を遺憾無く発揮……運命の少女の妹を退ける。
しかし、運命は残酷に事実を突き付ける。

「貴様はよくやった……間違いなく人間を超えていたよ……私に手傷を負わせたのだからな……しかし、これまでだな」

「くそ……まだだ!俺は……後悔しないために力をつけたんだ……惚れた女を護れないなんて…そんなことがあってたまるかよぉ!!」

しかし、運命を破壊する者が現れる。
破壊者は少年の傷を癒し、大魔王に対峙する。

「ディケイド……セットアップ」

かつての世界で破壊者と言われた者の鎧……それを模したアーマーコート……。

赤と黒の十字。

それは正に、破壊者の物だった。

「貴様……何者だ」

「ディケイド……世界の破壊者の名を継ぐ者だ……この二人の運命、そしてお前の運命を壊してやる……どうにもそれが俺の役目らしいからな」

平穏を望む世界の破壊者……その瞳は何を見るのか?
それは分からない……。
しかし、その願いは叶うものと信じて……。

「喰らえ!!」

「そ、その呪いはぐぼはぁ!!?」

「フハハハハ!俺の呪いはモテる美形には必ず効くんやぁぁ!!」

「ク、クク……馬鹿め……その呪い、覚えたぜ……ってな訳で喰らえぃ!!」

「馬鹿め!!その呪いはモテる奴にしひでぶっ!!……ば、馬鹿な……何故俺が!?」

「つまり……お前はモテるってことだ!!!……気付いてなかったんか?」

「な、なんやてぇぇぇぇ!?」

(……なんか、昔の俺を見てる様な鈍感さだな忠夫……)

存外、平穏な時も過ごしながら……。

異世界転生者の封印……掲載日未定。

********

ごめんなさい……またやってしまいました。
仕事が多く、気分転換につい……。
ちなみにこの横島は、シオンの教育の賜物で、スケベで明け透けではありますが、空気が読める様になっており、原作以上にモテたりします。

例1:バレンタインの時に学校で貰ったチョコが、愛子からの物だと気付いてお礼を言いに行く。

例2:美神と分断され、おキヌちゃんと二人きりになった時、妄想を垂れ流さず、真面目に対処する……等。

あと、シオンが封印されている時、シオンの過去を夢として断片的に見ていたりするので所々でアシュタロス編並にシリアスになったりします……そして横島ハーレムになる可能性大。
シオンも色々智恵を授けるみたいです。
また、シオンが横島に封印されていたことで、互いに影響を受けている様で、シオンは横島の霊能の一部を習得、横島はスペックがモロモロ強化され、最終的に人魔では無く、超人になる可能性大。

これで嘘予告は終わります。
次回からはグロラン編に集中します。
それではm(__)m




[7317] 第72話―暗躍と説得とジュリアへの手紙―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/09 14:53


で、俺達はテレポートをした訳だが、テレポートの性質上、いきなりジュリアの部隊の居る場所まで跳ぶことは出来ない。
新型なら可能だがやらない。

やれば大根が走り回ることは必至。
というか、新型はまだ完成していないしな。

まずラージン砦に飛び、南の森の中へ……そして、バーンシュタイン側に進む。
道中モンスターに襲われたりもしたが、メンチビームで撃退。
逃げずに、襲い掛かって来た奴も返り討ちだ。
新加入したリビエラだが、原作の様に杖を扱う魔法使いだ。
元シャドー・ナイトだからか、ルイセ達の様な魔導師に比べたら身体能力は高いみたいだな。

「この辺で良いか…」

「?あの……こんな所で何を?」

「何って、ジュリアンを呼ぶんだよ。ここから呼べば、直ぐに来れるし、幸い、まだ部隊は展開してないし、進軍もしていないからな」

俺はエリオットの問いに答える。
気の感じからして陣地に野営を張ってるんだと思う。
カーマイン達は、何もなければ今頃はガラシールズだ……が、ティピが我が儘を言っていたから、領地に寄るだろう。
それに、商人用の手形を持っている以上、荷を改めさせられる場合もあるだろうし。

あの面子は『ミーシャを抜かせば』頭が回る奴らばかりだから、そこに気が付く筈…。
そのため、何かしらの準備をする必要がある。
一応、何か準備をしといた方が良い……とは言っておいたがね?
そう考えれば、まだ時間はある。

「でもシオンさん、呼ぶって言ってもどうやって呼ぶんです?」

「そうか、カレンとエリオットは知らないか……ラルフとリビエラはこのアイテムが何か分かるよな?」

そう言って、俺は腕輪を見せる。

「確か、転移の腕輪だったよね?シオンが作った簡易テレポート装置……だっけ?」

「私はよく知ってる。何しろ、オズワルド達と一緒にグローシアンの人達に配ってたんだから」

二人から答えを聞き、俺は満足気に頷く。

「実は、ジュリアンにも事前に渡していてな……しかもジュリアンの腕輪には、『こんなこともあろうかと』念話での通信機能を搭載していたのさ……とは言え、同じ改良型の腕輪を持った相手としか念話は出来ないが、俺が今持っている腕輪が正にそれってわけだ」

ティピ達ホムンクルスは、創造主とテレパシーで会話が出来たりする。
それを上手く使えないかなぁ……と、試行錯誤して出来たのが、ジュリアに渡した『転移の腕輪EX』なのだ。

「相変わらず、根回しが良いなぁ……」

「まぁな、対策は一応しておかなきゃな」

こっちには目印になるティピとか居ないんだし、これくらいはせねば。

早速、俺は腕輪を装着……ジュリアを呼び出す。

『ジュリア……聞こえるか、ジュリア……』

『!?まだ疲れているのだろうか……マイ・マスターの声が聞こえる……それとも、想い焦がれ過ぎている私がいけないのだろうか……』

『別に幻聴じゃないぞ?』

『ああ、また……マイ・マスター……会いたい……会って色々話したいな……他愛のない話でも良いんだが……いや、色気のある話でも良いんだ。この間の……続きとか……!!!な、何を考えてるんだ私は!?……な、何でもない!本当だぞ!?……いかんいかん、顔に出てしまっていたか……』

……どうやら兵士に見られたらしい。
どんな顔してたか興味はあるが……きっと乙女全開の表情だったのだろうな。
なんとなく想像が付く。

『……あんな口付け……反則だ……今、思いだしただけでも、身体が疼いてしまう……』

『あ〜……色々と妄想に浸るのは良いんだが……そろそろ気付いてくれると、オッサンは非常に嬉しいんだが』

『ま、またマイ・マスターの声が!?……まさか、本当にマイ・マスター……ですか?』

『まさかも何も、本当に俺だって……』

俺はジュリアに渡した腕輪のもう一つの機能を説明した。

『つまり……今までの私の思考は、全て筒抜けだった……と?』

『全て…ではないけど、俺が声を掛けた辺りでの思考はほとんどな』

この腕輪、どちらかが魔力でチャンネルを繋げなければ、効果は無い。
なので、俺がチャンネルを繋げた後の思考は筒抜けだが、それ以前は知らんわけさ。

『!!あ、ああ、あの!?さっきのはその……』

『ああ、さっきの欲情してた件か?』

『ち、違います!!私は欲情なんか……』

『ほう……違うのか?俺との接吻を思い出して、身体が疼いてしまったんだろう?そして続きを夢想してしまった……これを欲情でなくて、何て言うんだ?』

『〜〜〜〜〜!!』

って、何を念話してるんだ俺は!!?
……ジュリアの悶える思考を聞いてスイッチが入ってしまったらしい。
自重しろ、俺。

『……マイ・マスターは、こんなはしたない女は嫌いでしょうか……?』

『馬鹿、嫌いな訳ないだろ?……ジュリアが可愛いからつい、いじめちまっただけだ……ゴメンな』

思考を繋げてる俺には分かる……ジュリアは落ち込んでいる風に感じたが、同時にドキドキしていた様だ……。
やばい……み・な・ぎ・っ・て・く・る・!?

落ち着け俺!素数だ!素数をry

『可愛いだなんて……嬉しいです、マイ・マスター………!?いや、何でもない……気にするな!!』

……また顔に出ていたらしい……これ以上はアレだからな、本題に入ろう。

俺はジュリアに説明した。
エリオットを旗印に反旗を翻すこと、ローランディア王国も全面的に協力してくれること。
俺の父上とダグラス卿が兵を合わせ、反攻の準備を進めていること。

『父上も動いたというのですか……』

『ああ、王母アンジェラ様もエリオットを支持してくれているからな……そういう訳で、頼めるかジュリア?』

『勿論です!陛下がおられるなら、兵達も納得するやも知れませんし……』

『なら、ジュリアは説明出来る様に準備をしていてくれ……俺はその間にラージン砦に赴き、事情を説明しておく』

『分かりました……では後ほど』

『ああ、後でな』

こうして交信を終える……むぅ、結局呼び出すことはしなかったな……まぁ、手紙は後で渡せば良いか。

「どうでした?」

「ああ、事情を説明した……とりあえず、兵に説明出来る状態にしておくってさ」

エリオットの質問に答える。
説明する際に、エリオットにも同席して欲しいということ、その準備をしておくことを説明した。

「その間に俺達は、諸々の事情をローランディア側の前線司令官である、ラージン砦のブロンソン将軍に説明しに行くって寸法だ」

「そうか……幾ら、アルカディウス王が決定したこととは言え、まだ前線までは情報が伝わってない可能性がある……下手をすれば……」

ラルフ大正解!まぁ、仮に話が伝わっていたとしても、ジュリアの部隊が味方だと明確に分からない以上、動き様が無い訳だが。

俺達はテレポートでラージン砦へ。

で、以前カーマイン達とここに訪れていた俺達は、国王の伝令で赴いたと門番に言い、門が開門されたので砦内に入る。
まぁ、嘘では無いし良いんだが……そんなんで大丈夫かこの砦。
ちょっと心配になる……カーマインを装った仮面騎士でも来られたらイチ殺じゃね?

そんな心配をしながら指令室に足を伸ばす。

「おお、君達か、どうしたんだ?」

俺は事の次第をブロンソン将軍に説明した。

「ふむ……そのことなら、王よりの伝令で伝わっているよ……分かった、向こうがバーンシュタインに進攻する際に追撃をしなければ良いのだな?」

「はい、よろしくお願いします」

「ああ、兵達には私から伝えておく……それにしても、彼が本来の王位継承者か……」

そう言ってエリオットを見るブロンソン将軍……それを見て、思わず畏縮してしまうエリオット。

「私はローランディアの人間ですが、王位奪回の成功を祈っておりますよ」

「あ、ありがとうございます!」

微笑みを浮かべながら言うブロンソン将軍。
この人は本当に良い人だなぁ……こういう上司なら○人事に頼ることもあるまい。

「いえ、今は何も出来ませんが、近い内に王から協力を要請されるかも知れません……その際には私も尽力しましょう。この戦争が、歪んだ意志からなる物なら、それは正さねばならないでしょうからな」

それから俺達はラージン砦を後にし、南の森を経由してジュリアの陣地に向かう。
ちなみに念話で聞いたら、見張りの兵達にも俺達を通す様に通達しておいたとのこと。

「シオン殿ですね?ジュリアン将軍がお待ちです。どうぞ」

そして見張りに通された先には、将校達を揃えて待っていたジュリアが居た。

「来たか、待っていたぞ」

ジュリアがこちらにやってくる。

「あの……その節はありがとうございました」

「いえ、当然のことをしたまでのこと……まさかそれが本物の陛下で、こういう再会をするとは夢にも思いませんでしたが……」

俺から事情を聞いているので、最初から敬語のジュリア……それを聞いてエリオットも、ははは……と苦笑いだ。
本人もこういう再会の仕方になるとは思わなかったのだろう。

さて、いよいよ交渉開始だ……。

「上手くいくかしら……」

「大丈夫ですよ……きっと」

リビエラとカレンも行く末を見守る……まぁ、いざとなれば俺が交渉するし……。
と、ジュリアが呼んでる。

「なんだ?」

「シオン、お前も一緒に居てくれ。そのほうが説得力がある」

成程、父上の件があるからな。
俺は了承し、いよいよ交渉が始まる。

「将軍、重要な話があるということでしたが……一体?」

「皆に話とは他でもない……この方についてだ」

ジュリアはエリオットを促す――相変わらず、恥ずかしそうなエリオット。
いい加減、慣れねばなるまいよ。

「……あの、初めまして」

「!?リシャール陛下!?」

「あの傲慢な陛下がどうして……!?」

ざわざわ……と、将校達がどよめいている。
まぁ、操られてるリシャールを知っていれば――誰だってなぁ……。

「似ていると思うだろう?だが、それもその筈、このお方こそ真の王位継承者なのだ!」

ジュリアは俺の説明したことを全て説明した。

「王母アンジェラ様もこのお方、エリオット陛下を支持し、我が父ダグラスも、『王家の剣』たるウォルフマイヤー卿も立ち上がった……それに関しては、ここに居るシオンが証明してくれる」

俺はジュリアに促されて前に出た。

「私はシオン・ウォルフマイヤー……ジュリアン将軍に紹介されたので分かるとは思うが、ウォルフマイヤー卿の息子だ。我が父は、いや、我々は王家に仕える剣だ。だが、それは真なる王家に限っての話……故に我らは立ち上がった。エリオット陛下が正当な王であると示す為に」

ジュリアと俺がそう説明すると、更にどよめく。

「アンジェラ様が……」

「ダグラス卿にウォルフマイヤー卿まで……」

ここでエリオットが話す。
決意を胸に秘め、ゆっくりと。

「皆さん、いきなりのことで信じられないかも知れません……しかし、今の王が悪意のもとに民を、国を脅かしているのは事実です。僕は未熟です……ですが、僕はこの戦争を終わらせたい…この戦争は本来必要が無かった物…また、皆が手を取り合える世の中にしたい。――どうか皆さん、力を貸して下さい!」

エリオットの必死の訴え、内に秘めたカリスマ性…将校達も気付くだろう。

「私は、エリオット陛下を正当な王として、戦うつもりだ……これは王国にとっては反逆行為になる…皆は国に残して来た家族、あるいは仲間もいるだろう…同朋同士戦うことにもなる。だから皆には無理強いはしない…異論のある者は今すぐこの場を去ると良い…止めはしない」

将校達は話し合う……。

「おい、どうする……?」

「――決まってるだろ?」

「ああ……そうだな……!」

将校達は動かない……誰もその場を去ろうとしない。

「どうした、反逆者になりたくない者は、直ぐさま国に帰るが良い!!」

ジュリアの檄が飛ぶ……しかし誰も動かない。
つまり、それが答えだということだ。

「……お前達……」

「我々は、ジュリアン将軍を信じています……その将軍がその方を信じたのです。ならば、我々の答えは決まっています」

「だが、皆……残して来た者達も居るだろう……それに同朋と戦うことになるのだぞ!?」

ジュリアは説明する……しかし、皆の決意は固く、答えは変わらない。
それでも共に戦うのだと言う……。
何と言うか、予想以上にジュリアが信頼されてるなぁ……。
大義名分があるのは事実だが……。

「皆……すまない……」

ジュリアの奴、感動してるな……まぁ、仕方の無いことかも知れない。
新参者のナイツである自分に、ここまで忠義を尽くしてくれる部下が居たんだからな。

と、俺の用事も済ませておくか。

「将軍に少し話があるのですが……宜しいかな?」

「む……私に?」

俺は後をエリオットに任せ、ジュリアを連れて人気の無い場所までいく。
周りを探る……うむ、誰も居ないな。

「なんだシオン?私に話とは?」

「ん、実はこの手紙を渡したくてな……ダグラス卿からだ」

周りを気にしてか、そのままの口調で尋ねてくるジュリア。
そのジュリアに俺は手紙を渡す。

「父上から……」

ジュリアは手紙を開けて、それに目を通している……。

「……これは……」

「ダグラス卿は後悔していたよ……悪いことをした、ずっと謝りたかったって……中々、言い出せなかったらしいが」

「父上……」

ジュリアは何とも言えずに、手紙を見つめている……。
その瞳は優しげな光を宿していた。

「多分、勘当を解くとか書いてるんじゃないか?」

「ああ……ずっと謝れなくて済まなかったと……」

まあ……何と言うか、ジュリアは勘当されて当然と思っていたらしく、ダグラス家に迷惑は掛けられない……と、それを素直に受け入れたらしい。
俺もその決意は聞いていたから分かるが……。

「良かったなジュリア……」

「……はい」

言葉は少ないが、その返事には万感の想いが込められてるのだろう。
それはそうだ……自分に見向きもしなかった筈の父親が、実はちゃんと娘として見つめ、認めていたのだから。

『ジュリアン』としてでは無く、『ジュリア』として――。
ジュリアは読み終わった手紙を懐にしまう。
その顔は憑き物が取れたかの様に晴れやかだ…やはり気にしていたんだろうな。
それと何かを決意した風な表情をした。

「ふむ……そろそろ戻るか、皆も心配してるだろうからな」

「その前に、マイ・マスターには聞いておきたいことがあるのです……」

そういえばさっきから口調が……まぁ良いか。
周りには誰も居ないんだし。

「?何だ?」

「……私はもう、自分を偽らなくても良いんでしょうか?私は……」

「……良いんじゃね?今すぐって訳にはいかないだろうが、陛下に頼んでみると良い。そもそも、男しかインペリアル・ナイトになれないってのは、どうにも納得いかないしな……実力があれば、男女の差は関係無いと思うぜ?俺は」

確かに、一般的には男の方が肉体的に総じて強い……が、そんなもん努力次第でどうにでもなる。
そんな良い例が目の前にいるし。

俺の個人的な意見から言うと、やはり女の子は守らなきゃ!
とは思うけど、な。
それを押し付けようって気はないし。

「……マイ・マスター……ありがとうございます……」

「礼を言われる様なことじゃないよ。思ったことを言っただけだし」

ジュリアの奴、幸せそうに微笑んでる……ああ!可愛いなぁチクショウ!!
めがっさお持ち帰りしてぇ!!

「……それと、こんなことを聞くのは何なのですが……その……」

「ん?俺に答えられることなら答えるぞ?」

「では……あの、一緒にいた銀髪の女性は……」

…………あぁ、リビエラのことか?
そうだな……ジュリアには説明せねばなるまい……サンドラのことも含めて。

俺は説明した……リビエラのことを。
まぁ、元シャドー・ナイトというのはぼかしたが。
そして、サンドラとリビエラ……この二人を受け入れたことを。

「……と、こういう訳だ」

「…節操無しですね、マイ・マスター……」

「自覚してる」

実際は罪悪感が三分の一を占めるけどな。
だって、未だに良いのかコレ?
俺って勘違い野郎の痛い奴じゃね?
と、思うからな……最近は迷わず全力で愛そうって気持ちの方が強いが。

「……少し悔しいです……」

ジュリアが俺に抱き着いてくる。

「……新しい女性を受け入れられることに、何かを言うつもりはありません……そもそも、全ての発端は私ですし……」

「まぁな……同盟とか聞いた時はなんだそりゃ!?と思ったしな」

いや今でも思ってるが……それどんなご都合主義?と。

「それ自体は良いのです……貴方を愛する気持ちを持つ仲間ですから。しかし……微かにですが、私には魅力は無いのかと……そんなことを考えてしまい」

俺は問答無用でジュリアの口を塞ぐ。
更には……。

「ん!?ん〜〜〜!!……ん……ふ……っ……」

大人なキッスをしたのは気にしないで欲しい。
ジュリアは痙攣したみたいに身体を震わせながら、くてっ……となってしまった。
知識の通りに攻めてみたのだが……効果覿面だな。
俺は唇を離す。

「魅力が無いと思ってるなら、こんなことはしない」

「マ、マイ……マスタあぁぁ……」

ジュリアが実に艶っぽい声を上げる……やばい、ぶっちゃけみなぎってます。
俺のガメラは怒髪天です。
我慢だ!我慢を知るオッサンなんだ!!
俺は!!!

「本当ならここで押し倒したい…ジュリアの全てを自分の物にしたい…」

「あうぅ………」

真っ赤っ赤になりながら、言葉が出ないジュリア……恥ずかし過ぎて声が出ないのだろう。

「だが、それはしない……出来ない。俺もお前も、成し遂げねばならないことがあるのだから……これは他の皆にも言えることだ……分かってくれるよな?」

「は、はい……分かります……」

そう、戦乱の世が続く中で乳くり合える程、神経図太くないんだよ俺は。
って、まだ腰砕け状態か。

危うくスイッチが入りそうになるのを、必死で抑え、ジュリアが回復するのを待つ。
担いで戻っても良かったが、何事!?
と、兵士達にビビられるかも知れない。

……と、この気配は?

俺はジュリアを木陰に座らせる。

「どう……したのですか……?」

「直ぐに戻って来るよ……少し待っててくれ」

俺は消える様なスピードでその場を後にした。

それは直ぐに見つかった。
ジュリアの部隊に所属していた筈の兵士だった……離反したか?
……いや、元からの間者か?
気を消したりは出来てないが、一般兵にしては隱行が上手過ぎる…………シャドー・ナイトか。
……ガムラン辺りに報告に行く気だろうな。

ジュリアのこと、リビエラのこと……いずれバレるのは確かだが、直ぐに知られるのはかなり面倒だな……潰しとくか。

タッ!スタッ!!

俺は木の枝から飛び降り、男の進行方向へ妨害する様に着地する。

「!?」

「よう兵隊さん、そんなに慌ててどちらへ?」

「わ、私は国に帰るのだ!!あんな虚言に付き合うつもりはないからな!」

「国に?そんな慌てて?たいした準備もせずに?ここから王都まではどんなに頑張っても、普通の奴では一日じゃ着かないぜ?」

まぁ、俺なら一日以下で着くだろうが。

「っ……何が言いたい……」

「いや、何……スパイにはキッツイお仕置きをしてやろうかなと……なぁ、シャドー・ナイトさん?」

「……どうやら貴様を生かしておくことは出来ないみたいだな……」

口封じか……にしても三下の台詞だな……実力の違いも分からないみたいだし。

ってか、シラを切るとかしねぇのかよ――。
自分がシャドー・ナイトだって、すんなり認めちまって――。

剣を抜き放ち、襲い掛かって来る三下。
俺は斜め前にステップ……そしてすれ違い様に足を引っ掛けてやる。

「ぐはっ!!」

ズダンッ!!

そんな感じで豪快にこける三下。
その際に武器を手放してしまい、慌てて拾おうとするが。

「ほっ」

俺は剣を軽く蹴り飛ばした……おっ、木に突き刺さった。

「お兄さん、ちょっと働き過ぎなんでないの?」

「くっ……殺せ!!」

「成程……決して情報は言わないと……だが断る!!」

「何!?」

「ある程度の情報は知ってるし……お前さんには生き地獄を味わってもらうよ……?」

俺は半端ない邪笑を浮かべながら、手をワキワキさせながら三下に近寄って行った……。
多分、相手から見たら悪魔の角や羽や尻尾を幻視出来たのではなかろうか?

「な、何をする……や、止めろ!!止め…ギャハハハハハハハハハハ!!や、止めてく!ヒハハハハハハハ!!た、助けアヒャハハハハハハ!!?言う!言いますから!ブハハハハハハ!!!?」

………数分後………

泡を吹き、痙攣と失禁をしながら気絶している三下がそこには居た。

「秘技……くすぐり地獄の刑じゃ」

某無敵ボーイが使っていた、秘技シリーズの代名詞的技。
この技のポイントは容赦の無いくすぐり攻撃。
相手が泣こうが喚こうが、苛烈に責める冷酷なくすぐり攻撃!
これに尽きる……故に、超無才能を持つ俺でも使える、お手軽な拷問技である。
これは秘密を喋った後は、ほぼ確実にあの惨状になるのが特徴……まぁ、くすぐり続けたからああなるんだがね。
止めなかったのかだと?
何で止めなきゃならない?

彼は生きてるだけラッキーと思わなきゃぁ……ね?
ちなみに情報は既に俺が知ってる様なことでした……だから失禁させたわけじゃないよ?


気絶した――おねしょな三下を適当な場所にうっちゃっておき、俺はジュリアの所に戻った。
どうやらなんとか復活した様だが、仕切りにさっきの笑い声を気にしていたので、詳細を話した。

そうするとジュリアは、冷汗を垂らしながらも礼を述べたのだった。
なんでさ?

その後、陣地に戻った俺達……。
ジュリアがエリオットにある『お願い』をした。
エリオットが王位に着いたら話すという……まぁ十中八九、自分の性別を明かすんだろうな。

そして俺も……。

「エリオット陛下、自分も折り入って嘆願したきことがございまして……」

「止めてくださいよシオンさんまで……それで、なんでしょう?」

俺はその『お願い』を頼んだ……エリオットはびっくりしていた。
まぁ、当然だな……しかし、理由を話したら納得してくれた……これで仕込みはバッチリだな。

**********

エリオットは原作通りジュリアの隊と行動することになった。
その方が士気も高まるだろうと……俺も誘われたが、断った。

成すべきことがある……ということで。

俺はジュリア達と一旦別れたのだった。

「さて、これからどうするんだい?」

「とりあえず、アルカディウス王に報告だな……その後にカーマイン達に合流かな?」

ラルフの問いに答える俺。
とりあえず俺達の任務は終えたしな。

「兄さん達、大丈夫でしょうか?」

「心配は無いと思うぜ?とは言え、相手が相手だからな」

心配しても始まらないな……まずは報告だな。




[7317] 第73話―ところ変わってカーマインSide―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/09 15:06


シオンたちと別れた後、俺たちは早速ランザックに……行く前にティピの我が儘により、領地を見に行くことに……確かに気にはなるが……。
そんなことをしている場合ではないんだがな――。

ローザリア西門を真っ直ぐ抜け、そのまま直進する……。
すると、そこには広大な土地が広がっていた。

要するに土地だけで、後は何も無いがな?
見晴らしは最高だけどな。

「ここがそうなの?何にもない所だよ?」

ティピが不満そうにしていた……いや、想像しとけよ。

と、そこで一人の男性が居るのを見付ける。
その男性はどうやらこの土地の管理人の様だ。
ご主人様……と言われるのはなんかこそばゆい。

管理人の彼が言うには、施設の制作費用を払ってくれれば、後は自分の方で業者を手配して、施設を建てておいてくれるらしい。
管理運営費用、従業員の給料などは、施設の売り上げの一部から転用されるとか。
更に一部が俺のポケットマネーになるらしい。

それを聞いていたゼノスが。

「くっ、やっぱ土地にしときゃあ良かったか!?」

とか、言っていたが後の祭りという奴だろう。


従業員は、ある程度なら雇ってくれるらしいが、必要な人材はこちらでスカウトして来て欲しいとのこと。
……そういえば、あちこちで色々な人に会って来たからな……暇があれば頼んでみるか。

で、まずはここの名前を決めて欲しいということだが……。

「名前か……簡単には思い浮かばないな」

これからその名前がこの都市の名前になる……ならあまりふざけた名前は付けられないしな……。

「アンタが決められないならアタシが決めてあげるわ!!『ティピちゃん王国』よ!!」

「却下」

「な、何でよ!?」

即答した俺に、ティピがぶーぶー文句を言う。
説明しなきゃ分からんか?

「正直、突っ込みどころが多過ぎる。ここはお前の国じゃないし、何より王国なんて名称を付けたら、ローランディアに喧嘩売ってる様な物だ……つーか、今後は決めた名前で通さなければならないんだから、マトモな名前が良いんだよ」

ティピ、あえなく撃沈。
しかし、その後もみんなに意見を聞いたが……。

「ゼノスアイランドにしようぜ!!」

……だの。

「私とお兄さま達の愛の花園……素敵……♪」

……だの、ろくな意見が出なかった。
誰がどの台詞を言ったか説明するまでもなかろう?
勿論、ツッコミと共に全却下だ。
ゼノスはティピと大差無いし……。
ミーシャ辺りは花の名前辺りから良い名前をくれると思ったんだがなぁ……。

常識人と言えるウォレスは……。

「どうも、名前を付けるとか経験が無くてな……お前の名前のままカーマインとかで良いんじゃねぇか?」

――と言って、事実上の辞退を表明してきた……いや、俺もそういう経験は無いんだが……。
というか、まんま俺の名前とか恥ず過ぎなんですが?
こういう時にアイツらがいればな……。

シオンは時折、ティピと悪ふざけをしたりするが、常識人であり知識も豊富だ……何かしら良い案を出してくれただろう。

ラルフも商人志望なだけあり、知識も豊富だから何かしらアイディアをくれるだろう。

カレンも常識人ではあるが、知識はどうなんだろう……だが、悩みながらも真っ当な意見を言ってくれそうだな。

……むぅ、どうするかなぁ……。

「ねぇお兄ちゃん、エルスリードなんて――どうかな?」

「エルスリード?」

ルイセが意見を出してくれる……エルスリードか……良いな。
しかし、何処かで聞いたことがあるような……。

「ほら、最初の任務でレティシア姫を護衛した時に、シオンさんがお話を聞かせてくれたでしょ?その時に出て来た……」

ああ確か、物語に出てきた城だか国の名前だったな。
ふむ……他にアイディアは無いし、これで良いか。
しかしティピ、ミーシャ……「「あっ、そういえば……」」って、忘れていたのかよ。
二人が言うには、話の概要は覚えてるが細かい所はうろ覚えだそうな。

……とにかく、この都市の名前は『エルスリード』に決定した。

その旨を管理人に伝えると、今度は施設や人員をどうするか話し合った。
とりあえず、やれる限りのことを全てやって貰うことにした。
費用は多少掛かったが、先行投資だと思えば高くはない。
国から給料も支給されているから、多少余裕はあったしな。

次に訪れるまでには全て終わらせておく……と、言われ、俺達はその場を後にした。

さて、今度こそランザックに……と、思ったがここで問題が発生した。
というより、懸念していたことなんだが。

パーティーを分ける前にシオンが……。

『商人用の手形で通るなら、何かしら品物を準備してた方が良いんじゃないか?最悪、武器商人とかでも通るかも知れないが、武器よりは何かしら別の物を用意していた方が、怪しまれないと思うぞ?』

という助言をくれていた。
どうしたものかと、考えていたら。

「そういえば、グランシルでフリーマーケットをやっていた筈だな……あそこなら何かしら手に入るんじゃないか?」

と、ゼノスが言ってくる。
成る程……フリーマーケットか……。

「ところで、フリーマーケットってなんなんだ?」

「アンタ知らないの〜?」

「……そういうティピは知ってるのか?」

「……エヘッ♪アタシも知らないや……教えて?」

ティピ……お前な……。

みんなが言うには、それぞれ物を持ち寄って、露店を開いて自由に売るのがフリーマーケットだとか。
一般の人も参加してるらしく、売る物も基本的には自由らしいので、色々出回ったりするらしい。

なら、そこで何かを仕入れるとしよう。
俺達はルイセのテレポートでグランシルへ。

グランシル到着後はゼノスの案内でフリーマーケット会場へ……って、闘技場前の広場が会場なのか……。
とりあえず、それぞれ自由に見て回ることに。
任務の内容上、あまりのんびりも出来ないが、せっかくの機会だからな。

ウォレスは疲れたとか言って休んでいたが。

早速、フリーマーケットを見て回ることにする。
……本当に色々あるんだな。

……ファッショナブルな漬け物石ってなんだ……?

と、ある程度見回った時にルイセを見付けたので話し掛けてみる。

「あ、お兄ちゃん。あのね、わたしにアクセサリーって似合うかな?」

む?突然何を言うのか……ルイセにアクセサリーか……似合うと思うがな。

「ルイセなら何を着けても似合うと思うぞ?」

「そうかな〜♪」

照れるルイセ……中々に愛くるしいな。
話を聞くと、ミーシャが小物屋を見つけたので、自分も行ってみたのだそうだ……中々可愛いアクセサリーが一杯あったらしい。

しかし、自分にアクセサリーが似合うとは思えず、何も買わずに飛び出したという。

「もったいないわね〜。ルイセちゃんなら何を着けても似合うのに」

「ありがとう、ティピ」

どうやらティピもそう思っていたらしい。
そういえば、そんな店があった様な……。

その後、フリーマーケットの雰囲気について語った後、一旦ルイセと別れた。

確かこの辺りに……あったあった。

俺は店員と話してアクセサリーセットを購入する。
若い工芸師が練習用に作った物だからか、100エルムと、今の俺からすればかなりお手頃な値段だった。
俺はどれがルイセのお気に入りか分からなかったので、それなりに数もある、アクセサリーセットを購入した。
可愛らしい箱に、幾つかのアクセサリーが入っており、そのどれもが素人目にも中々に悪くない感じの品物ばかりだ……ルイセも気に入ってくれると良いんだが。

「ルイセちゃん、喜ぶぞぉ!さっそくプレゼントしてあげようよ!」

「そうだな……」

俺はルイセを探した。

「ルイセ」

「あ、お兄ちゃん。どうしたの?」

俺はルイセに買ったばかりのアクセサリーセットをプレゼントする。

「え?お兄ちゃん、わたしにこれをくれるの?」

「ルイセが、どのアクセサリーを気に入ったのか分からなかったから、セットを買ってきたんだが……気に入ってくれたか?」

ルイセが箱を開けて中身を見ている。
そして俺を見る。

「うん。とっても嬉しい……」

「じゃ、なんで泣きそうな顔をしてるの?」

そう、ティピの言う通りルイセは涙ぐんでいる……今にも泣きそうだ。
俺はてっきり、いつぞやのプロミス・ペンダントの時みたいにはしゃいで喜ぶと思ったのだが……あの時ペンダントを買ったのはシオンだったが。

もしや、気に入ったアクセサリーが無かったのか……?

「お兄ちゃんからのプレゼントが……とっても嬉しくて……」

赤くなりながらも、涙を流すルイセは綺麗だと思った……。

「もう、泣くことなんてないでしょ」

「ティピの言う通りだ……まぁ、そこまで喜んでくれたなら買った甲斐はあったよ」

「うん。お兄ちゃんありがとう。大事にするね……」

そう言って大切そうに、アクセサリーセットの入った小箱を抱きしめるルイセ。

……なんだか、そこまで喜ばれるとこっちが照れてしまうな……。

その後、色々と物色していたが、流石に時間的に余裕が無くなって来たので、そろそろ任務に戻ることにする。

ティピに頼んでみんなに集合を掛けてもらう。
……全員集まったな。
俺達はルイセのテレポートでラージン砦へ。
そこから南の森へ向かって行く。

森の中にはプラントという植物系のモンスターが数多く居たが、ハッキリ言って今の俺達の敵では無く、文字通りちぎっては投げ、ちぎっては投げ状態だった。

とは言え、数だけはいたから少々手間取ったけどな。
ファイアーボールでも使えれば一発なんだが、周りが森だからな……洒落にならん。

マジックアロー系、トルネード等の魔法も駆使して先に進んだ。

「止まれ!これより先はランザック王国領だ!通行手形のない者を、通すわけにはいかん!」

関所があったので、俺は行商手形を提示する。

「見ての通り、俺たちは商人だ……ランザックには商売の為に訪れた」

「確かに手形もあるな…どんな物を扱ってるんだ?」

やはり聞いてきたか……まぁ、改める為というより興味本位で聞いてきた感じだが。
一応、用意はしてあるが……道中、俺が用意した品物よりはルイセにプレゼントした品物の方が良いという話になり、ここはルイセに任せることになった。

むぅ……そんなに駄目か?ファッショナブルな漬け物石。

『物珍しいアイテムならお客さんの眼を引き付けるからね』と、以前にラルフが言っていたのを思い出して購入したんだが……もしかして、何か勘違いしたか、俺?

「え、えっと。アクセサリーを扱ってるんです。若い職人さんの細工だから、お値段も安めで、わたしくらいの女の子には、人気があるんです」

「ほう、私にも君と同じくらいの娘が一人いてな。これなんか、一つ買ってあげると喜んでくれそうだな。いくらするんだ?」

「え、あの…え〜と……」

ルイセが言葉に詰まっている……大方、そこまで決めてなかったのと、俺からのプレゼントだから渡したくないというのがあるんだろうな。
仕方ない。
俺は懐からブローチを取り出す。

「そうだな……大体5〜20エルムくらいだな。それも悪くないが、これなんかはどうだい?娘さんも喜んでくれると思うよ」

「おお、中々可愛らしいブローチだな…細工も綺麗だし…よし、それを買おう」

「毎度あり、しばらくはランザックで商売させてもらうからね。兵隊さんには特別に5エルムでまけておくよ」

俺がそういうと、なんか悪いなぁ、と言いながら兵士はブローチの代金を支払ったのだった。




[7317] 第74話―情報収集、スニーキング、ティピちゃんは見た!―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/09 15:17


その後、上機嫌なランザック兵に見送られその場を後にする俺達。
その際に、街にバーンシュタインの兵が来ているから問題を起こすなよ?
と、釘を刺されたが。

しかし、こんなこともあろうかと、ブローチを追加購入していて良かったな。

しばらく歩いてから……。

「あの、ごめんねお兄ちゃん……」

「ん?何のことだ?」

ルイセが何で謝るのか……検討がつかないのだが。

「だって、さっき……」

もしかして、関所での話か?
どうやらルイセは気にしているらしいな。

「ま、言いたいことは分かる……ルイセの気持ちも何となくだが分かる……だから気にするな」

俺はルイセの頭を撫でてやる。

「……お兄ちゃん……うん、ありがとう♪」

やはりルイセには笑顔が1番似合うな。

俺たちはそのまま進んで行く……道中にモンスターが結構出て来たが、問題無く進む。

そしてガラシールズの入口辺りにたどり着いた。

「やっと着いたわね。通行手形ってここまでしか来られないんでしょ?」

「そう言ってたよね。とりあえず場所は覚えたから、テレポートは大丈夫だよ」

ティピの言う通り、商人用の通行手形ではここまでが限界……まぁ、ルイセが居るからテレポートを使った行き来が出来る分、時間的なアドバンテージを得ることが出来る。

「さて、これから先は現場判断ってことになるんだが……どうする?」

「そう言えば、関所の衛兵が気になることを言っていたな」

「気になること……何だっけ?アンタ、覚えてる?」

ゼノスの疑問に答える形でウォレスが言う。
ティピはさっきのことを忘れているらしい……揮発脳か?

「街にバーンシュタイン兵がいるという話だろう……?」

「そうだ。なぜバーンシュタイン兵がランザック王国の街にいるのか?シオンも言っていたが、やはりバーンシュタインもランザック王国との同盟か……或いは協力を取り付けに来たのだろう」

「つまり手遅れだったってのか?」

俺の答えにウォレスが頷く……確か、ガムランとか言うウォレスの傭兵時代の仲間……今はバーンシュタインの高官らしいが……そいつがランザックとの交渉に赴くとか……。
ゼノスの言う様に間に合わなかったのか……?

「まだ何とも言えんが……ガムランが絡んでる以上、可能性は高い……しかしせっかくここまで来たんだ。連中の行動を探るところから始めても良いだろう」

「……そうだな、情報を集めよう。結論はそれからでも遅くはない」

俺たちは街の中に入り、情報を集めることにする。

すると幾つか情報が集まった。
まず、この街にバーンシュタイン兵がいる理由。
バーンシュタインの高官の、ガム何とかという奴がお忍びで来ているから――らしい。
これは十中八九、ウォレスの言うガムランだろうな。

そして、今この街にはランザック王国の将軍……名をウェーバーというらしい……が、やって来ている様だ。
ランザック王国随一の将軍で、寡黙で人望が厚いと評判らしい。

「…むぅ……」

だが、このウェーバー将軍の名前を聞いた時に、ウォレスが何とも言えない表情になった。
そして何やら考え込んだ後、話があるから宿にでも行こうと言い出した。
なんでも、ここでは話せない内容らしい……。

俺たちは頷き、直ぐさま宿に向かった。

「で、話ってのは何なんだ?」

宿に着いて、ゼノスが開口1番に訪ねた。

「さっき、街の人がウェーバーの話をしていただろ?」

「たしか、将軍って言っていたよね。その人がどうしたの?」

ウォレスの言葉を聞いて、ルイセが尋ねる。

「ウェーバーは俺の傭兵仲間だった……」

「ウォレスの傭兵仲間……もしかして、三人いた副団長の最後の一人が……」

「ああ……それがウェーバーだ。奴は団長がいなくなると、残った部下を養うため、ランザック王国と独占的な契約を結び、そのまま正規軍になった」

俺の疑問に答えるウォレス……成る程、ウェーバー将軍は噂通りの人物らしいな。

「それじゃ、その将軍と話が出来れば、ランザック王国と同盟を取り付けるのも楽になるんじゃないかな?」

「確かにそうかも知れんが……」

「事はそう簡単にはいかねぇって訳だな」

「どういうこと?」

ルイセの提案に、渋るウォレス……そして理由を悟るゼノス。
ミーシャには何故か理解出来ないらしい。

「……街でバーンシュタインの高官が来ている……って話があっただろう?ガム何とかっていう奴がお忍びで来ていると」

「それって確か……」

「そう、シオンが言っていたジュリアンからの情報と一致する……確か、ガムランだったか?」

俺の意見にティピがハッとなる。
そう、ガムラン……ウォレスの傭兵時代の仲間で、副団長の一人だった男。
そうウォレスから聞いている。

「つまり、旧友のよしみで同盟か協力を取り付けに来たかも知れない……そういうことだよな?」

「ああ。確かにガムランは団長の失踪と同時に、傭兵団を抜けた男だ。その後バーンシュタイン王国に渡って、仕官した。そして俺たちのように同盟、或いは協力を取り付けるため、旧友ウェーバーを頼った……そう考えるのが自然な流れだ」

俺の意見にウォレスが肯定の意を示す。

「もしそうだとしたら、わたし達の任務ってどうやっても成功しないんじゃ……」

「……もう少し調べてみよう。結論を出すのはそれからでも良いだろう」

ルイセの言葉に、頭を抱えるみんな……だが、結論を出すにはまだ早い。

「みんなで別行動して、情報収集した方がいいかもね」

「そうだな……どちらにせよ、このまま手を拱いたままになんて出来ねぇからな!」

ルイセの意見に同意を示すゼノス。
確かにバラバラに情報収集した方が効率的だな。

「それがいいかも知れん……だが、スマン。俺はここに残る。もしガムランとウェーバーに見つかると、こっちの動きがばれるからな」

「しょうがないよね……それじゃ、みんなで別行動しましょ。何かわかったら、またここで落ち合いましょう!」

確かにウォレスとその二人は、かつての副団長同士……顔見知りだからな……バレたら面倒だ。

「うまく出来るかなぁ……」

まずミーシャが行き……。

「情報収集か……ま、なるようになるさ」

ゼノスが行き……。

「行ってきます」

ルイセが情報収集に行った。

「さ、アタシ達も行きましょ!」

「そうだな……じゃあウォレス、行ってくる」

そして俺とティピも情報収集に向かったのだった。
とは言え、何処から手を着けたものかな……。
とりあえず住民からは、あらかた情報を聞いた後だしな……ん?
そういえば、まだ調べていない場所があったな。

俺はその場所に向かうことにする。
街の人に、ここから先には近付かない方が良いと言われた場所。

俺はそこに向かった……そこにはランザック王国の兵士が一人……恐らく見張りだろう。

「ここは立ち入り禁止だ!さっさと立ち去れ!!」

……近付いたら問答無用で追い返された。
……何かあるな。

俺は誰かに協力を仰ぐことにした。

「あら、お兄ちゃん。どうしたの?」

ルイセか……ルイセなら相手も油断してくれるかも知れないな。

「実は町外れを調べたいんだが、兵士が見張っていて先に進めなくてな……そこで、ルイセに兵士の気を逸らして欲しいんだ……頼めるか?」

「うん、わかった。私でよければ協力するよ!」

俺はルイセを伴い、見張りの立つ場所へ……。

「それじゃ、ルイセちゃん、お願いね」

「う、うん……」

どうやら、緊張している様だな……大丈夫かルイセ……?

そうは思いながらも、俺とティピは物影に隠れて、事の展開を見守る。
いざとなったら、飛び出して助けることも出来るしな。

「あ、あの……すみません」

「どうした?」

「あっちでケンカをしている人がいるんです!早く止めないと……」

「しょうがないな……案内しなさい!」

「はい、こっちです……」

ルイセは見張りを連れて走って行った……。

「やったわね。さ、今のうちよ!」

「ああ……だが」

「?何よ?」

「ルイセにあんな大嘘を言わせてしまうとは……なんか自分が情けなくてな……」

これを期に悪い女になったりしないか、心配で心配で……これも俺が頼んだからだよな……。
ルイセって、基本は俺の言うことを何でも聞くからな……それは純粋ということでもあるんだが。

やはり、ルイセには兄離れを勧める。
俺もルイセに少し厳しく接しなくては……しかし。

……あの子犬的なルイセを見てると、つい……な?

むぅ……俺も妹離れをしなきゃならんのかもしれんな……。

「って、今はそんなこと言ってる場合じゃ無いでしょ!!」

「ああ……そうだな」

確かにそんなことを言ってる場合じゃないな。
気を取り直して、俺達は先に進むことにした。

「ここにも警備をしている兵隊がいるよ?」

ティピの言う様に、数人の兵士がうろうろと警備をしている。
あの屋敷には余程重要な客がいると見えるな……。

「あの屋敷で何をしてるのかな?アタシ、ちょっと見てくるよ。あの屋敷の煙突から入れば、気付かれずに様子を探れると思うんだ」

「分かった……気をつけてな?」

「オッケー、任せといて♪」

自信満々に言い、上空に上がるティピ……兵士達に見付からない様にする為だ……だが。

「きゃ〜〜〜〜!」

ティピが風に押し戻され、こっちまで戻って来てしまう。
どうやら上空は風向きや風の強さが異なるみたいだな……そういえば、飛行装置の説明の時にアリオストがそんなことを言ってたっけな。

「風が強くて、飛べないよぉ……」

「……俺が連れていくしか無い、か」

「ゴメン……屋根の所まで連れていってくれたら、煙突を通って、中の様子を見てくるから」

「まぁ、仕方ないさ……」

早速、シオンの教えを実行する日が来るとはな……。
俺は覚えたばかりの気の調整を行い、限りなく気配をゼロにする。
まだまだ完璧では無いが、幾らかマシになるだろう。

そしてティピをジャケットのポケットに入れ、潜入開始。

兵士の目をかい潜り、素早く、焦らず進んで行く。
その甲斐あって、何とか見付からずに屋根にある煙突まで、ティピを送り届けることが出来た。

「やったね。それじゃ、中の様子を見てくるから」

「ああ……俺は屋敷の入口で待ってるからな」

ティピを見送った後、俺は再び見付からない様に屋敷の庭を出た。

「後はティピを待つのみか……」

俺は屋敷の入口からティピが戻ってくるのを待つのだった。

******


何とか上手く潜り込めたわね……けど、煙突だけあって煤が……ん?
話し声が聞こえる。

アタシは煙突の入口まで来たので、影から中の様子を伺う。

「しかし、互いに歳を取ったものだな。昔はもっと……」

「無駄話をしに来たわけではあるまい。さっさと本題に入れ」

「いまだにその堅苦しい性格は直らんか……」

「大きなお世話だ」

「…ふん」

あれがガムランって人とウェーバーって人かな?
なんか仲が悪そうね〜。

「我々、バーンシュタイン王国は国境の森を抜け、間もなくローランディア王国と交戦する。その間にお前たちランザック王国はローランディア王国の背後に回り込み……」

「作戦の確認はいい」

って、やっぱりそういうことだったのね…。




[7317] 第75話―対策、砦、合流―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/09 15:27


アタシは引き続き、盗み聞き……じゃなくて情報収集に勤しんでいるわけです。

「ならばランザック王国としての答えを聞こうか?この挟撃作戦に協力するのか?それともしないのか?」

「既に出撃の準備は出来ている。本当にバーンシュタイン王国が、我が国に攻め込まないと言うのであれば……」

「それは約束しよう。お前と俺の仲ではないか。信じろ……」

いや、それは嘘っぽいから!
目茶苦茶嘘臭いから!!
断っちゃいなさい!!

「かつての友とは言え、お前は団長なき傭兵団を見捨てて、自分のために生きた男だ。あれから俺が部下を養うためにした苦労など、想像も出来んだろうな」

「そう言うな……もし俺がいたら、もっと苦労していたかもしれんぞ?お前と俺は、水と油だからな」

つまり、絶対に混じり合わないってこと?
じゃあ駄目じゃん!

「それに一人で苦労した原因を俺だけに求めるのはどうかと思うが?」

「……ウォレスか」

いや、ウォレスさんは死んじゃったかも知れない団長さんを、ずっと探していたんじゃない!
今だって本当は……あぁ!!もうこのガムランってオヤジムカつくぅ!!

「話が逸れたようだな。本題に戻ろう」

「……わかった。では、この盟約書に互いにサインし、それぞれ国王に届ける……それでよいな」

「ああ」

ひぇ〜……大変だぁ……。
アイツに報告しなきゃ……!

********



「………という事なのよ!」

ティピから屋敷の中での密談について聞かされる……やはり間に合わなかったか……。

「とにかく宿に戻って、みんなに報告だな」

俺たちは急いで宿に戻った。

「お、帰ったか」

俺達が宿に戻ると、既にみんなは戻ってきており、それぞれの得た情報を持ち寄って話し合いに……しかし。

「悪ぃ…特にこれと言った情報は無かったぜ」

「こっちも収穫なしだよぉ……」

ゼノス、ミーシャ、それにルイセも特に情報は掴めなかった様だ。

「お兄ちゃん達はどうだった?」

「それが大変なの!」

「詳しく話してみろ」

「実はね……」

ティピは得た情報を説明する。
バーンシュタインの高官ガムランと、ランザックの将軍ウェーバーが密談していたこと。
その内容が、バーンシュタインとローランディアがぶつかり合っている間に、ランザックがローランディアの背後に回り込み、挟撃をするという作戦についてだということを……。

「……そんな……」

「ガムランとウェーバーが……」

ルイセは同盟が結べなくなったことにショックを受け、ウォレスは旧友二人と敵対することに、流石に思う所があるのか、考え込んでしまう。

「それより早く何とかしないと!」

「連中の話からすると、迷いの森を通過して攻め込むらしいな……確かに森の中は入り組んでいるから、ローランディア、バーンシュタインの両軍隊がぶつかっている間に背後を突くことが可能だ」

慌てるティピに対して、ウォレスは冷静に状況を分析している。

「どうするの?このままじゃ、ランザックと同盟を結ぶどころか、ローランディアが負けちゃうかも知れないじゃない!」

「俺たちで何とかこれを止める方法はないのか……」

「……とりあえず、前線指揮官のブロンソン将軍に報告しておこう」

ミーシャの言い分は分かる……ウォレスも頭を悩ませている。
俺はブロンソン将軍にこのことを知らせることを提案した。
でなければ、最悪の場合、何も知らないローランディア軍が挟撃を受ける恐れがある。

迷いの森……何かが引っ掛かる……何だったか。
何か、そこに解決の糸口が見付かりそうではあるんだが……。

俺たちは頭を捻りながらも、テレポートでラージン砦に向かう。

「どうしたんだ?血相を変えて?」

俺達は指令室に駆け込んだ。
そこには、俺達の様子に首を傾げるブロンソン将軍がいた。

「何をゆったり構えてるのよ!敵が攻めてくるって言うのに!」

「ん?そうか、君達は知らないのだな」

「どういうことだ?」

ティピは騒ぐが、ブロンソン将軍は余裕の表情。
ウォレスでなくとも疑問は浮かぶ。

「実はな……」

ブロンソン将軍の話によると、2〜3時間くらい前にシオンたちがやってきて、バーンシュタイン軍を追撃しない様に頼みに来たのだと言う。
何でも、バーンシュタイン軍の司令官はジュリアンであり、その説得に赴いたのだと……。

「つまり、バーンシュタイン軍は攻めて来ないってこと?」

「そういうことだ……だが、万が一もあるからな。防衛はすることにしたのだ……いざとなれば自分が交渉すると、彼は言っていたがな」

……いや、その台詞を言ったなら心配は無いだろう。
俺も全容を見たわけじゃないが、シオンが本気で交渉したら納得『させられている』だろうからな。
いちいち正論であり、理論武装して、尚且つ感情にも訴え掛ける……。
それがシオンの『交渉』だからな。
何しろ、あのフェザリアンすら説得して見せたんだ……信頼するに足りるだろう。

みんな、意見は同じ様で、しきりに頷いている。

とは言え、流石にランザック王国が攻めてくるというのは分からないだろうからな……。

俺は事の次第を説明した。

「この期に及んでランザックが参戦してくると言うのか……」

「そうだ。とは言え、状況自体は決して悪い物じゃない……挟撃作戦は防げたんだからな」

考え込むブロンソン将軍に、現在の状況を話すウォレス。
その状況を作ったのがシオンなわけだ……相変わらず、流石というか……。

「…少し情報を整理してみよう」

俺はそう提案する。
正直、色々絡まり過ぎている。

まずシオン達はエリオットの王位奪回の為に、エリオットの実母である王母アンジェラ様の説得、ジュリアンの父であるダグラス卿の説得、更にシオンの父であるウォルフマイヤー卿の参戦……そしてジュリアン部隊の説得。

これにより、ウォルフマイヤー、ダグラス両卿の混成部隊がアンジェラ様を伴い北から、ジュリアン率いる進攻部隊がエリオットを伴い南からバーンシュタイン王都に攻め込むことになるという。

つまりガムランの計画は潰された訳だな。

しかし、まだランザック王国が残っている……。
これをどうするかだな……。

「とりあえず、俺は王に報告すべきだと思う。シオンたちとも合流したいしな」

恐らく、任務を終えたら一旦報告に戻ってくるだろうからな。

「そうだな……ランザック王国が進軍してくるまでは幾分か時間がある…」

「テレポートで戻ればすぐだしね?」

ウォレスとルイセは賛成してくれる様だ。

「そうだな……俺も賛成するぜ!」

「うん!アタシも」

ゼノスとミーシャも……これで決まりだな。

「事情は分かった……我々はランザック王国の警戒に当たろう」

「頼みます、将軍」

後のことをブロンソン将軍に任せ、俺達は一旦ローランディアに戻ることにしたのだった。

********



「そうか、説得は上手く行ったか」

俺達は現在、ローランディア王城、謁見の間にてアルカディウス王にジュリアン率いる部隊の説得が上手くいったこと、更にその父ダグラス卿、エリオットの実母である王母アンジェラ様の説得も行い、それが実を結んだことも報告していた。

「父とダグラス卿は北から、ジュリアン将軍は南から進軍するとのことです」

「うむ、我がローランディアも協力すると誓ったのだ……我々も兵を派遣せねばなるまいな」

「これでカーマイン達がランザックとの同盟を結べれば、戦乱の終結は早まるでしょう」

俺の報告に、力強く頷き、改めて協力を誓ってくれるアルカディウス王。
同盟を結べれば、更に戦乱の終結が早くなるというサンドラ。

……そう簡単にはいかないと思うがなぁ……。

原作の展開から考えて、十中八九ガムランが挟撃作戦を取り付けている筈だ。
もっとも、ローランディア進攻部隊は、ほぼ丸ごと説得したからな……ガムランの策は叩き潰したことになる。

しかしそうなると、ランザック王国軍が野放しになる……何かしら対処せねばならなくなるが……迷いの森のグローシアン遺跡の装置を起動するか?
いや、ジュリアン達が味方についている以上、グローシアン遺跡の起動なんてしたら大根が走り回るだろうしな。

ジュリアン達、迷いの森から進軍→装置起動→迷いの森発生→大根RAN。

策はある……しかし、まだ不確定要素が強い。
もう少し煮詰めたい所だが、恐らくあまり時間が無いだろうからな。

いや、原作とかなり食い違って来てるんだ……もしかしたら同盟を成功させているかも知れない……が、それは楽観的希望だ。

常に最悪のパターンを想定して策を練るのは、悪いことじゃない。
と言うか、必要なことだ――。

「お言葉ではありますが、同盟工作が失敗した場合のことも考えておくことも必要かと」

「ふむ……シオン殿はどう見るかな?」

俺はジュリアンから得ていた情報……ガムランがランザックとの交渉の為、ランザックに向かったであろうことを説明した。

「むぅ……そのバーンシュタインの高官が、先にランザックと不可侵同盟を結んでいるかも知れない……と言うことか」

「不可侵同盟だけなら良いのですが……」

「どういうことですか?」

俺の話に、難しい顔で考え込むアルカディウス王……そして俺の意味深な台詞にカレンが疑問をぶつけてきた。

「不可侵同盟どころか、協力体制を組んでローランディアを襲ってくるかも知れない……そうだよねシオン?」

「そういうこと、流石はラルフだな……まぁ、協力を組む筈のバーンシュタイン進攻軍は、こっちについたからな……この時点で敵の策は無効にしたことになる」

俺はラルフの解説に相槌を打つ。
あのクズ野郎の策は潰してやったが……。

「けど、実際にはどうするの?」

「そうだな……策はあるが」

リビエラの質問に答える……策という程のことじゃないんだがな。

「策とな?」

「はい……もっとも、策という程の大層な物でもありませんが……」

まぁ、詳しくは全員揃ってから話そう。
俺は気が読める……だから分かる。
カーマイン達が近づいて来ているのが……もうすぐそこに来ている。

案の定、謁見の間に入ってくるカーマイン達。

「おお、お前たちか……ランザックとの同盟は上手くいったのか?」

「そ、それが……」

アルカディウス王の問いに、申し訳なさそうに事の顛末を語るティピ。

やはり、ガムランが手を回していたか。

予想通りとは言え、正直気分が良いモンじゃないな。

「シオンさんがジュリアン達と交渉してくれたから、挟み打ち!なんて状況にはならなくなったケド、ランザック王国軍は攻めて来るんだよ……」

今回はそれほど何もしてないんだけどな……。

「むぅ……シオン殿の予想通りになったな……」

「予想通り…?」

王の言葉に反応して、カーマインが俺に聞いてくる。

「まぁ、最悪のパターンも想定していたからな……この展開も読めていた」

ある程度は……だけどな?

「彼には、何か策がある様です」

「策?どんな策なんだ?」

サンドラが、カーマイン達に説明する。
それを聞いてゼノスが俺に尋ねてくる。

本当に対した策じゃないんだがなぁ……あまり気乗りはしないし。
俺は皆に、現在の考えを話した。

それは策とも言えない様な代物……屁理屈の上に屁理屈を重ねた様な代物………。

それは……。




[7317] ―オズワルドの奮闘―番外編14―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/09 15:35


俺様の名はオズワルド!
シオンの頭を筆頭にして、己が信念の為、日夜戦い続ける男だ!
勿論、給料は戴いてるがな!
しかし、最近それは口実で、本当に信念の為に戦ってる感がある……自分でも似合わないって自覚はあるんだ!
ほっとけ!!

そんな俺だが、今は頭の親父に当たるレイナードの旦那に随伴して、王都に向かい進軍している。
子分のビリー、マーク、ニール、ザムも一緒だ。

まぁ、これも偏にバーンシュタイン王国を偽王から開放する為だという……そんな戦いに参加してるとは、我ながら信じられないぜ。

……リビエラの奴は勝手に残りやがったが……、リビエラは頭が連れて来た娘で、確かに優秀だし、色々な知識もある……まぁ、料理の腕は今ひとつだが。
あれなら、俺様のほうがまだまともな物が作れるぞ?

……まぁ、頭にゾッコンだったみたいだから、仕方ないっちゃあ仕方ないのか?

しかし、ここまで来ることが出来たのは俺達が奮闘したからだ!
それは胸を張って言えるぜ?

特にレイナードの旦那を説得しに行った時なんかな……。

*********

「ここが……頭の……」

俺は思わず見上げちまう……で、でけぇ……目茶苦茶でかい屋敷だ……。

「……インペリアル・ナイトの息子だってのは、マジみたいですね……」

ビリーも同じ様にぽかーんとした顔で見上げてやがる。

「正確には元…って付くらしいけどな……」

「スゲェっす!流石は頭っす!!」

「…………」

マークも、ビリーの言い分を訂正しながらも開いた口が塞がらない。
ニールの野郎は興奮してやがるし、ザムの奴も目が点になってやがる。

ちなみにリビエラは元シャドー・ナイトらしいので、バーンシュタイン王都に足を運ぶのはヤバイってんで、アジトで留守番だ!

「よし!行くぞお前ら!!……頼もーーーっ!!」

俺は門の前まで行き、大声で叫ぶ。
すると、執事らしき爺さんが出てくる。

「………当家に何用でしょうかな?」

警戒してやがる……まぁ、俺らの格好を見たらな……明らかにカタギには見えないからな。
しかし!俺様には切り札がある!!

「俺達はシオン・ウォルフマイヤーからの使いだ。ここに紹介状もある。家主への面会を願いたい」

俺はこの時の為に頭から預かった紹介状を提示し、それを柵ごしに執事の爺さんに渡した。

「!!こ、この筆跡は……し、少々お待ちを」

爺さんが慌てて屋敷に入っていく……多分、家主に見せるんだろ。
まぁ、間違いなく頭が書いた物だからな……確認するまでもねぇだろう。

しばらくすると、執事の爺さんが慌てて戻って来て門を開く。

「大変失礼致しました!どうぞ、お通り下さい」

……そこまで腰を低くされることもねぇんだが……ま、良いか!
気分も良いしな!

「おし、行くぞお前ら!!」

「「「「うっす!兄貴!」」」」

俺達が通されたのは応接室の様な場所……そこに居たのが、口髭を生やした茶髪の男……。
そして、長い銀髪を携えた少女にも見える女……。

「私がこの屋敷の主、レイナード・ウォルフマイヤーだ」

「私はリーセリア・ウォルフマイヤー……レイの奥様なんですよ♪」

「いやリース……今はそういう話をしているんじゃなくてだな……」

この二人……特に男の方からただ者じゃない雰囲気を感じた俺だったが……一気に空気が緩んだ……。
頭いわく、この二人は頭の親で、一言で言えば……。

「あら、愛する夫の妻だと宣言することは、悪いことじゃないでしょう?……駄目だった?」

「やれやれ……リースには敵わないなぁ」

『バカップル』なのだそうだ……。
言葉の意味を聞いたら、馬鹿みたいにイチャツクカップルのことを言うらしい。

「あ・な・た……♪」

「リース……♪」

成る程……納得した。
なんか空気が違う……。
流石の俺達でも、この空気を破るには勇気や根性、その他諸々の何かが必要だった。

それから十数分後……

「ゴホン、それで…何用かな?」

やっと正気に戻ったレイナードの旦那は、ようやく話を聞いてくれるらしい。
なんか、果てしなく疲れたぞ俺様は……。

しかしそこは任務…俺は旦那に手紙を渡す。
シオンの頭からの手紙だ。
内容は現在のバーンシュタインの内情について書かれた物だ。
調べたのはシオンの頭と、ラルフの旦那だが。
俺達もある程度の事情は教えて貰っている。
……信頼されてるってことなんだろう。
照れるぜ!!

「……ここに記されていることは真か?」

「へい、その通りで」

レイナードの旦那は難しい顔をして唸る……。
俺は旦那の言葉を肯定する。

「……俄かには信じられん。これは言わば、反乱を促す様な物だ……こんな物をシオンが……だが、この文字は間違いなくシオンの文字……」

ワナワナと震えながら、手紙を握り締める旦那……。
こりゃあ駄目か……?
頭も『父上は頑固だからな……もしかしたら、納得してくれないかも知れない』と、言っていたからな……。

「レイ……あの子が、シオンが言うからには、理由があるはずよ?あの子が、考えも無しにこんなことを言うとは思えないもの」

「リース……」

ここで意見を出したのが、同じく手紙を読んだリーセリアの姐さんだった。

「現に、この手紙にも理由が書かれているじゃない……」

「……分かっている。……宮廷魔術師のフォルトナ殿が賊に襲撃された事件があったが……もしや関係があるのかも知れん……王家の剣たる我らが、王家そのものに疑念を抱くなど、あってはならないことだ……だが」

手紙に何が書かれていたかは分からない。
しかし、重要な……そして決定的とも言える事柄が書かれてるんだろうよ。

「……話はわかった。オズワルドと言ったな?お前達がこのアジトとやらに案内してくれるのだな?」

「はい、その為に使いに来た次第で」

「わかった……ならば私は今すぐ兵や使用人達を集めておこう……リースも準備しておけ」

「わかったわ、レイ」

そう言って、レイナードの旦那は応接室を出て行った。

「オズワルドさんよね?息子の手紙で読んでたわ……楽しくて熱い仲間だって」

「いやそんな滅相もねぇ!……俺達が、勝手に頭を担いでるだけでさぁ」

仲間か……そう思ってくれてるなら、この上なく光栄だがよ。
マジでな。

「レイの扱きは大変だろうけど……みんな頑張ってね?」

「「「「「……はい?」」」」」

なんのことだ?
この時の俺達には分からなかったが、後で嫌と言うほど思い知らされることになる。

それから数時間後……広大な庭には千人近い数の兵士、そして十数人の使用人達が集まった……もう周りは夕方だったが。
既に事情は説明され、反応は様々だが、最終的には全員が納得……レイナードの旦那に着いていくことになった。
流石はシオンの頭の親……人望は負けちゃいねぇな。

そして全員の意思確認をし終わった俺は、転移の腕輪を使用……アジトに飛んだのだった。

********

その後が地獄でな……どうも、届けた手紙の文末に、俺達を鍛えておいて欲しい的な言葉が書かれていた様で(しかも全力でとか書かれていたらしい)、兵士の調練のついでに、レイナードの旦那による、地獄の特訓を敢行された。

その後も変な奴がアジトに迷い込んで来て、そいつが難癖つけて来たりしやがったので、一悶着あり、追い返そうとして危うく殺されそうになったりもした。

『オリ主の俺が成敗してやるぜ小悪党!!』

とか、訳の分からないことを言っていたそいつは、レイナードの旦那にボコられ、結界の外へポイされたが……あの野郎も相当強ぇのに、それに勝ったレイナードの旦那も相当だな……流石はシオンの頭の親父……。

それ以降、俺達は真面目に訓練を続けた。
まぁ、色々あるが……5人掛かりで一人に勝てなかったのは悔しかったし、自分の身も守れないで何かを守るなんざ出来やしねぇからな!!

にしても、あの襲ってきた野郎……俺が盗賊団にいたころ……悪事を働いてた時に殺しちまった連中の家族とかだったのかも知れねぇな……。

レイナードの旦那も命は取らなかったみたいだから、また俺を襲ってくるかも知れねぇなぁ……そんときは、覚悟を決めなきゃなるめぇな……。


だが、俺はただでやられてやる程お人よしじゃねぇ……せいぜいあがいてやるさ。
そのうえで死んじまうなら、悪党らしい死に様なんだろうぜ……。

「……滑稽かも知れねぇが、弱きを助け強きをくじくってのに、全力を傾けるくらいが俺に出来る最善だからな」

かつて、ガキの頃に憧れたそれを、一度堕ちた俺が成そうってんだからな。

「オズワルドの兄貴!そろそろシュッツベルグに着くらしいっすよ!」

「おう、わかった!!」

小難しいことを考えんのは止めだ!!
いつでも笑顔を忘れずに……それが俺達だ!!

そうでしょう、頭?

********

後書KING。

誰だお前は!?

……と、言いたくなる様なオズワルドの独白の回でした。
一応、ウォルフマイヤー夫妻説得の裏側……な感じですが、いかがでしたでしょうか?
説得した時期は敢えてぼかしてありますので、脳内保管して下さい。

m(__)m

P・S……襲って来たのは彼です。
超番外編2で詳しく書き込む予定です。

それではm(__)m




[7317] 超・番外編2……とある転生者の暴走―見せてやる!オリ主のチートぶりを!!―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/09 15:45


やぁ、俺の名前はリヒター!
この世界にオリ主として転生した男だ!
ん?リヒターはオルタのキャラ?

ま、細かいことは気にしなーい。

あの後、グランシルを去りコムスプリングスへ向かった。
通行証?
フフフ……俺がどこで育ったか忘れた訳ではあるまい?

水晶鉱山のある街、ヴァルミエから来てるんだぜ?

フハハハハ!温泉が、美女達とのフラグが俺を待っている!!
ええーい!!チマチマ歩いていられるか!!
光りの翼よ!!

「キーーーンでございまーーーすっ!!」

敢えてア○レちゃんではなく、オ○ッチャ○ン君をリスペクトする俺が素敵過ぎる!
そこに痺れろ憧れろ!!

俺は超速で、文字通りかっ飛んで行く!!
フハハハハ、逃がさん!逃がさんぞ!!
今度こそ俺は大人の階段を上るシンデレラとなるのだぁぁぁぁ!!

で、コムスプリングスに到着!
早速風呂じゃあ!!
……と、思うか?
甘いぞ明智君!!
俺には飛行能力がある……そして温泉には天井が無い……意味が分かるか?

そう!上から覗き放題になる訳だよ!!

ではレッツゴーであります!!
パライソへ!そこは正に全て遠き理想郷!!

俺はそのまま上空を滑空し、現場に急行する!
室○さん!事件は会議室で起きてるんじゃない!!
露天風呂で起きてるんだ!!!

ドヒューーーン!!

そして、ポイントに到着……しかし。

「ゆ、湯煙で見えんだとぉぉぅ!?」

そう、湯煙が濃すぎて見えんのだ!!
桃○か!?○鉄仕様なのか!!?
チイィィ!!?これでは鷹の目でも見れんでは無いか!!
(※そんなスキルをリヒターは覚えていません)

どうする……近付くか!?
いや、これ以上は感づかれる可能性がある!!

くそ……手詰まりか……ん?

「どちらにせよ、これではフラグは立てられんのと違うか?」

しぃまったあああぁぁぁぁぁぁ!?
駄目じゃん!駄目駄目じゃん!?
あ……誰か入って来た。
ルイセたん達とは違うみたいだが……。

…………………。

(゚Д゚;≡;゚Д゚)キョロキョロ。

ま、まぁ……後学の為に見学するのは悪いことじゃないヨネ?
問題ない。これも立派な社会科見学だ……。

俺はすぅ〜〜……と、音を立てない様に女湯の裏側に回り込み、そこから覗き……もとい、心の潤いをリフレッシュするためのウォッチングを敢行する。

ウホッ、あのうなじは色っぺぇですな〜♪

(※ちなみにシオン達は既に風呂に入り、今はダニー・グレイズに話を聞きに行ってます)

ヒュッ!

?ヒュッ?

バチコンッ!!

「ブベッ!!」

な、何だ!?突然横殴りに何かが……。
そのあまりの威力に吹っ飛ばされた俺は、ちらりとそれを見るそこには……。

『ダ〜〜メッ』

という台詞と共に、バッテンマークを作っている銀髪の男の絵が描いてある看板が……。

「……にょろ〜ん」

と、吹っ飛ばされながら言った俺は間違ってはいなかった筈だ。
って、あんなトラップ原作にあったっけか?
それにあの看板の男、どこかで見た様な……。

そうこう考える内に、俺は何かにぶつかり、その意識は遠退いて行った……。

数時間後。

「ハッ……ここは!?」

俺は確か……フラグが理想郷で社会科見学……む、夕方になってる!!?

いかああぁぁぁぁん!!?
また出遅れたあああぁぁぁぁぁ!!?

確か原作では……ラシェルか!?

「くっ、待ってろよルイセたん、ミーシャたん、カレンたん!!」

ドヒューーーン!!
俺はラシェルに向かって爆進っ!!

(※シオン達はこの日はラシェルの宿に泊まっています)

しばらく飛んで……ふと、停止して考える。
今の俺は完全に後手だ……ならば、追い掛けるのでは無く先回りをすれば良い!
ふっ、正に大天才!
そうと決まれば女王が捕まっている遺跡……は、グローシアンがいなきゃ入れんし……。
まぁ、カーマインが助けるだろうから問題は無いだろうけど……。

と、なると……何処で合流するか考えねば。
しかもさりげなくだ……でなければ、幾らオリ主補正がある俺でも、敵と勘違いされる可能性大だ。
そうなると、姫様護衛任務は控えたほうが良いか?
タイミングを間違えたらライエル様とバトることにもなりかねん。
原作では落とせない姫様をオリ主パワーで篭絡して、ラブラブ王国を作るという計画もあったが、見送りになりそうだな……無念だ……。

その後、俺はブレーム火山の近くでテントを張って待つことにした。
色々接点になりそうな場所はあるが、クリアノ草を取りに来たカーマインパーティーに合流するのが1番自然だ!
少なくとも今の段階では……。
計画としてはこうだ!

ここでカーマイン達が来るのを待つ→来たら、カーマイン達より先にクリアノ草へ向かう!→カーマイン達より先にクリアノ草をゲット→途中で引き返し、カーマイン達と遭遇→クリアノ草が必要なんですとか聞かれる→事情を聞く→上手く交渉して仲間入り!!

完璧だ……完璧過ぎる計画だ。
ル○様とて、こんな計画は立てられまい!

数日経過……。

「合流したらルイセたんとフラグを立てて……いや、ミーシャたんも可愛いんだよな?あのドジっ子なのが堪らんよなぁ……しかしやっぱりカレンたんかなぁ?」

2週間経過……。

「おかしいなぁ……もう休暇イベントは終わった筈だからそろそろ……もしかしたら闘技場とかに寄り道してるのかも?うん、きっとそうだ……」

約3週間経過…………。

「な、何故だ……何故来ないんだ?クリアノ草が無ければ先には進めないのに……まさか、インビジビリティ(透明になれる魔法)で代用したとか、そんな落ち?」

(※この作品を読んでいる奇特な読者の皆様はご存知だろうが、シオンはクリアノ草を取りに来ないで、力付くでどうにかしちゃいました)

既に食料も尽きており、時期的にそろそろ戦争が始まるのを理解していたので、俺は泣く泣くその場を後にした……くそぅ。

俺はローランディア方面に飛ぶ……ブレーム火山に来なかったのは疑問だが、やむを得まいな。

俺はいつの間にか、湖らしき場所まで飛んで来ていた……グロランで湖と言えば。

「……オリビエ湖か」

確か近くに遺跡への隠し通路みたいのがあるんだよな?

……ん?今一瞬、屋敷みたいな物が見えた様な……。
しかしそこには森が広がるだけ……しかし気になる。

こういう時は直感に従うのがオリ主という物。
俺はそこへ近付いて行く……うん、何も無いな。

「気のせいだったんかねぇ?」

いや、何か変だ……まるで俺をこの場から引き離そうとしている様な……自慢じゃないが、リヒターになった俺は目が良い。

鷹の目とは言わないが、見間違いをしたりはしない。

「成る程、結界……か?」

○ateやネ○ま……とかにも、認識阻害系の結界みたいのがあった筈だ。
グロランにあってもおかしくはない。

「そんな訳で特攻だ」

とう!っと言って、先に進む……すると、何か言い知れぬ不快感を感じた……と思ったら、眼前の光景が変わったのだ。
目の前には広大な整理された庭とデッカイ屋敷……やはり俺の勘は正しかった!!
流石オリ主!!

俺は着地して屋敷に向かい足を進めて行く。
何か食べ物をご馳走になろうかと。
オリ主の特権として、家捜しをしても文句は言われないという特徴があるのだ!!
……まぁ、それはドラ○エなんかの話で、グロランには関係無い話だが。
しかし、オリ主補正がある俺だ。
何かしら食べ物くらいは恵んでくれるだろう。

と、そこで俺は見た。

何やら盗賊然とした連中が居たことを……その中のリーダー格の相手はバイキングみたいな兜と鎧を着けた髭面の男。
あれは確か……オズワルド!!
そう、カレンたんや姫たまを襲って来た悪党!!

「兄貴……そろそろ……休み…ましょうぜ……」

「おう、そうだな…………ん?」

!!悪党どもがこっちに来た!!

「よう、見掛けない面だな?レイナードの旦那の所の兵士さんかい?」

兵士!?
兵士がいるのか!!
……フフフ、わかったぞ?
ここはこいつらの秘密基地で、何か企んでやがるんだな!?

「フッ……どうやら、お前達の悪事もこれまでの様だな……」

「あ?何言ってんだ……!?テメェ、まさか……バーンシュタインの追っ手か!?どうやって潜り込みやがった……!?」

ふん、白々しい……お前らこそ手先だろうに。
こいつらは放っておくとロクなことはしないからな……オリ主としてコイツらを成敗せねば。

「そんなんじゃない……俺はお前らに恨みを持つ者だ!(カレンたんや姫たまを殺したりさらったりしようとするから悪いのだよ!!)」

「な……に……!?(コイツ……俺が悪事を働いてた時に殺しちまった奴の家族か何かか!?)」

俺は双剣を抜き放ち、連中に宣言する。

「オリ主の俺が成敗してやるぜ小悪党!覚悟するんだな!!」

「……よくわからねぇが、マジみてぇだな……」

オズワルドが双斧を抜き放つ。

「兄貴!俺達も!!」

「一人で戦うよりはマシでしょう」

「そうっすよ!全員の力を合わせるっす!!」

「……力を貸すぞ、兄貴……」

手下ABCDもそれぞれ武器を抜く。
それからの戦いは一方的な物だった。
まぁ、オリ主である俺に勝てると思うなよ雑魚ども。
しかし、致命傷は防いだんだから、たいした物だ。
全員辛うじて生きてる。
しかし、後々の為にもトドメは刺さねばならん。
まずはオズワルド!
俺の経験値になれ!!

「くそ……俺様が、こんな所で……すまねぇ……頭……」

「くたばれ悪党!!」

ガキィィィィン!!

!?何!?

トドメを刺そうとした俺の剣を、誰かの剣が防いだ!?

「誰だ!?」

「この様な所業をする様な輩に名乗る名は、持ち合わせておらんのでな」

大剣の先にいたのは、口髭を蓄えた茶髪の男……その瞳は蒼く輝いている。

「グローヒーリング!!」

!……銀髪のカワイコちゃんがオズワルド達を回復した!?
……つまりコイツらがボスか!?

「リースは下がってろ……この賊の相手は私がする」

ゾワァッ!!?

な、なんだこの威圧感は……まるで、コイツが俺より格上だとでも言うかの様に……。

「行くぞ!」

「くっ!オリ主の力を見せてやる!!」

それからの戦いは……一方的だった。
俺の攻撃がことごとく弾かれるのだ……かすり傷位は与えられても、致命傷にはならず……。

「ほう……この力、リーヴスと同等か?だが……温い!!」

ガキィィィィン!!

チィィ!!埒が開かない……なら、喰らわせてやる!
俺の全力全開を!!

俺は双剣に紫のエネルギーを宿らせ……それを放った。

「くたばれ!『アビス』!!」

俺の最強の一撃は男を捕らえた……筈だった。
が。

ブゥン!

「分身……いや、残像か!?」

奴は……?

「飛竜……」

「後ろか!?」

「翼斬っ!!」

俺は咄嗟に防ぐ……が、剣は砕け俺は、無様に、斬り捨てられた……。

***********

筈、だったのだが……。

「生きてる……」

気付いたら街道に出ていた……夢だったのか?
しかし、剣が無いのと鎧のドデカい切り傷から考えたら、夢ではなく現実なんだろうな。
……何故、殺さなかったんだ?
オリ主の特性――ご都合主義かしら?
どのみち今のままでは勝てん。
装備を整えて再起してやる!
オリ主の名に掛けて!

……にしても、あの銀髪のカワイコちゃんはナイスだったなぁ……。
これはオリ主である俺が改心させてイチャイチャフラグですね分かry




[7317] 限りなく真実に近い嘘予告―異世界転生者と並行世界の破壊者―超ネタバレ注意
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/09 16:01


やぁ、よく来てくれたね。
ここはこの作品の主人公、シオン君のネタバレを含む予告なんだ。

嘘、というのは細かい部分の差異があったりするからなんだ。

うん、そうなんだ。
作者は仕事が続いていて疲れてるだけなんだ。

みんなには、こんな話もあるんだな……という、ゆとりみたいな物を感じてくれたら嬉しく思う。

この作品に飛んだシオン君は、以前の嘘予告とは違い、グローランサー世界から1〜2個位の世界しか飛んでいないんだ。
だから、細かいことは言えないけど、まだラヴァーズが眷属に云々は知らない……だから、少しネガティブ色が強いんだよ。
しかも、オリジナルフォームとかあるらしい。

それでも良い……ネタバレを気にしない人は見てくれると嬉しい。

それでは、ゆっくりしていってくれ……。

*********

俺はまた飛ぶんだな……。
……アルシリアのその後は気になるが……エルト達がどうにかするだろう。
全て終わった……。
そう、全て……。

これからは平和が続く……それを守れるかはアイツら次第だ。

ならば、俺は潔く消えるだけ……元々、俺は転生したのでは無く……。

けど、仲間……ダチ……愛した女……こんな俺を受け入れてくれた奴ら…………こんな別れかたは……辛いなぁ……。

俺は涙を流していた……会いたい……アイツらに会いたい……。

俺は思いを馳せる……『シオン』になって出来た初めてのダチ……商人を目指していた親友……共に戦った仲間達……俺なんかを愛し続けてくれた女達……。

次の世界でも出来た掛け替えの無い仲間達……そして、愛した者……。

けれど……これが俺の運命なら、大事な奴らを救えたなら……甘んじて受け入れると誓った……だから。

「……そう言えば、宇宙意思が介入してこない……」

今までは、いつの間にかそいつの前に居て、事情なんかを説明されたが……今回は、何やら歪んだ空間を漂うだけだ……もしかして、必要無いとでも思われたか?

「見つけた……」

「ん……アンタがこの世界の宇宙意思か?」

俺の目の前にはなんか古臭い格好をした、インテリ風の眼鏡を掛けたオッサンが居た。

「私はそんな大層な者では無いがね……私の名前は鳴滝という……君をここに招待した者だよ」

鳴滝……?
宇宙意思では無い……?
このオッサンは一体…俺を招待しただと?

鳴滝が言うことは突拍子も無いことだった。

「君に折り入って頼みたいことがある……世界の破壊者を倒して欲しい」

「世界の……破壊者?」

「これを見てくれ……」

俺が見せられたのは……。

『仮面ライダー』……その中でも平成ライダー、という区切りで分けられるライダー達。

俺もクウガから、キバの途中くらいまでは見ていたから分かる……大概は国彦の奴がDVDを無理矢理押し付けて来たりしたからなんだが……クウガからカブト迄はDVDで、そこから先はリアルタイムで見ていた……まぁ、キバは仕事の関係もあり、マチマチだったが。

そんな平成ライダー達が戦っていた。
……あれはカブト劇場版のコーカサスにケタロス……龍騎に出て来たゾルダ……劇場版のファムにリュウガまで……。

仮面ライダー達が戦っていた……。

これだけの連中、揃えば世界征服も夢じゃねぇぞ?
そんな奴らを蹴散らしたのは――ただ一人の仮面ライダー……。

「……なんだ……アイツは……」

それは俺の知らないライダーだった。
赤と、黒と、白……十字架を模したマークを着けた、シンメトリーな鎧……そいつが、まるで王の様に屍となったライダー達の上に君臨する。

「待て……」

立ち上がったのはクウガ……クウガはその身体を変化させた。
クウガ最強の形態……アルティメットフォーム。

その攻撃をあのライダーは軽くあしらっていきやがる……一説には攻撃力だけならライダー最強とも言われる、アルティメットクウガを相手にして……だ。
そして、互いにエネルギーを宿したパンチを撃ち合い、光に包まれた。
景色は再び、歪んだ空間に戻っていた。

「あれが世界の破壊者……ディケイドだ」

「ディケイド……」

その後、鳴滝は俺に説明した……ディケイドが存在したら、あの様な世界になると。
だから、倒して欲しいと……しかし、俺はこの男、鳴滝を信じられずにいた。
俺の本能が告げる……こいつは信じられないと……だが。

「ディケイドが存在すれば、君の居た世界も滅ぼされるかも知れないのだ……それでも良いのかね!?」

「!?……俺の……居た世界……」

それを聞いた時……俺の覚悟は決まってしまった……。

「……良いだろう……ディケイドは、俺が殺す」

*******

こうして転生者は旅立つ……九つの世界を巡る破壊者を倒す為に。

「……お前がディケイドか?」

「誰だお前?」

出会う転生者と破壊者……。

「お前に恨みは無いが……死んでもらうぞ……」

「死んでもらうとは穏やかじゃないな……やれるものなら、やってみな!変身!!」

『カメンライド……ディケイド!』

終始破壊者を圧倒する転生者。

「……化け物かよ……ライダーでも何でも無い相手に……有り得ないだろ?」

「終わりだ……慈悲は無いぞ」

「チッ……俺はやられる訳にはいかない……俺の世界を見つけるまでは!!」

『ファイナルアタックライド……ディディディディケイド!!』

「うおおおおぉぉぉっ!!!」

「……終わりだ、破壊者……!」

必殺の一撃も転生者には届かず……破壊者にトドメが刺されそうになった時に現れた一人の男……。

「士ぁ!?……変身!!」

「!?……クウガだと!?」

間一髪、駆け付けた、破壊者と共に歩む戦士。
しかし、彼も転生者に追い込まれていく……。

「……もう止めろ……俺の狙いは破壊者だけだ」

「だったら……益々引けないな……士はオレの、仲間だ!オレは今度こそ守るんだ……!超変身!!」

その姿に、かつての友を思い出す転生者。

「士君は、破壊者なんかじゃありません!私たちは世界を救う為に戦ってるんです!!」

少女の訴えに、鳴滝への不信感を募らせて行く転生者。
それは、鳴滝の行動を見て、次第に大きくなる……。
そして……。

「……一つ聞きたい。お前は何故、旅を続ける?」

「……俺は、自分の世界を探している……俺がいるべき世界……まぁ、ついでに世界を救ってくれって頼まれたしな」

転生者と破壊者は和解する……しかし、そこに現れる鳴滝……そして金色のライダー。

「このコーカサスは最強のライダーだ……今度こそさよならだ……ディケイドォ!!」

ハイパークロックアップの前に、成す術の無いディケイド……遂には変身が解けてしまう。
そこを助けたのは……転生者だった。

「誰かの運命を変える……滅ぶべき世界を救うのが破壊者だと言うなら……俺は破壊者で十分だ!コイツみたいにな!!」

「く……どうやら私は更に厄介な者を呼び寄せてしまったらしいな……コーカサスッ!!!」

金色のライダーはその時の流れに逆らった速さで転生者に迫る……しかし、転生者はそれを圧倒してしまう。

「馬鹿な!?ハイパークロックアップに着いてくるなど……ありえない!!」

「速く動いただけで騒いでくれるなよ……とは言え、確かに幾ら俺でも、時を行き来出来る程の速度には着いて行けない……だが、ZECTライダーへの対策を考えて無かったと思うか?ネタばらしはしてやらんがね……」

転生者はハートのバックルを手に取る。

「……必要は無いが、郷に入っては従えってな……変身!」

『チェンジ』

……こうして、転生者は破壊者と共に行く。
そして様々な出会いを通して……彼らは成長していく。

「このカードは……」

「どうした士…………なんか、嫌な予感がするんだが、嫌だぞ俺は……ライダー変身時の変型もどうかと思うのに、今は生身だろ?オッサンはそれは止めた方が懸命だと……」

『カメンライド……ディケイド…エクストリーム!!』

「ちょっとくすぐったいぞ」

「ちょ、待っ……!?」

転生者は光となり、そこにライドプレートが吸い込まれ………光の球が破壊者に降り懸かる。

そして、現れたのは……破壊者の鎧はアーマーコートに……顔に刺さっていたライドプレートは登頂部に……そして、長い銀髪が後ろに流れる。

『って、どこの勇者王だよ!?』

「成る程……お前の力が使える形態みたいだな。なら、試させてもらうぜ?」

『アタックライド……コロナスラッシュ!!』

『ば、馬鹿!!その技はぁ!!?』

転生者の愛剣に似た形になったライドブッカーに、膨大過ぎる熱エネルギーが蓄積される………それをディケイドは放った。

「……ち、ちょっと威力が強すぎたみたいだな……アタックライドでこれってどうなんだお前……?」

『考え無しに使うからだ……お前、ガチで破壊者になる気かコラ?……ファイナルアタックライドだけは使うなよ?……地球破壊しても知らんぞ……で、どうするんだコレ?』

「だいたい分かった……逃げよう」

それはまるで、世界の終焉を告げるかの様な一撃だった……。
草木を燃やし、岩を溶かしたのだ。
周りに建築物や人がいなくて良かったと、二人は思ったそうな。
そして直ぐさま別の世界に逃げようと。

運命は加速する……。

「シオンさん、帰って来てくれないから……私が来ちゃいました……」

「カレン…なのか…?」

転生者は時空を越え、最愛の女性の一人と再会する……。

「許しませんよ士君!!」

「毎度毎度、同じ手にやられるかよ夏みかん!バリアー!!」

「何!?」

ドスッ!!

「「「あ………」」」

「……プク、クハハハハハハ!!?こ、これはぁ!?ハハハハハハ!!?」

「ご、ゴメンなさいシオンさん!!」

「究極チート男にも効くとは……恐るべし夏みかんの笑いのツボ」

「ハァ……ハァ……つぅ〜〜かぁ〜〜さぁ〜〜……」

ヒュン!!

「!?消え……」

「喰らえ」

ドスッ!!

「!?くはははは!!な、何でハハハハハ!!?」

「な、夏美ちゃんの笑いのツボ……」

彼らは旅に出る……次元を駆ける旅に。
その先に何があるかは分からない……それでも立ち止まらずに。

「し、シオンさん!?は、箱の中に人が居ますよ!?ティピちゃんみたいに妖精……いえ、小人でしょうか!?」

「あ〜〜、カレン……それはテレビと言ってだな……」

……時には平穏な空気に浸りながら。

だが、彼らにも終焉の時は訪れる……。

「全ての原因は大ショッカーにあるのでは無い……」

「剣崎……ブレイド…!?」

全ては破壊者のせいだと言う剣の王。

「貴方は全てのライダーを破壊しなければならなかった……」

襲い掛かるのは紅の牙を持ちし皇帝……。

そして……。

「お前達は……邪魔なんだよ……」

「黒い……ディケイドだと……!?」

事態は思わぬ方に転がり出す……。
……絆を紡ぐ破壊者……全てを盗む者……そして破壊者達と絆を紡いだマスクドライダー達……。

「…………」

凄絶なる戦士として覚醒させられたクウガ……。
闇に堕ちたクウガ……だが、自身の闇を超えた時……決して古代に記されなかった戦士……。
凄絶なる戦士を超えた、金色の戦士が舞い降りる……。

そして、転生者は立ち塞がる……友を……大切な者達を守るために……。

「今日の俺は……手加減出来んぞ?」

転生者と破壊者……紡がれた絆は運命を覆すのか……。
全てを破壊し、全てを繋ぐべく……。

『異世界転生者と並行世界の破壊者』

掲載日未定。

********

嘘予告の更に嘘予告

――ある世界に、一人の戦士が居た。

彼は当初、何の力も無い普通の青年だった……。

それが、ある時……とある男の導きにより、力を手に入れることになる。

「ディケイド……それが君の本当の敵の名だ」

青年はその男の言葉を、心の片隅に置いておき……その力を奮った。

最初は咄嗟だった……現れた化け物と戦う為に、その力を発現させた。

後に、彼は一人の女性に自身の力の存在を知られる……そして女性に好意を抱き始めた頃から、彼の戦う理由はその女性に褒めてもらうため……彼女に良い所を見せるために奮われた……。

全体を見れば、それはちっぽけな理由なのかも知れない……。
しかし、彼は戦い続けた……。

やがて、化け物と戦って行く内に、彼は一人の青年と出会う……。

その青年こそ、自分を導いた男が言っていた……悪魔と呼ばれた者だった……。

彼は最初こそ、男に言われた通りに彼を倒そうと躍起になったが……。

彼らは和解した……皮肉にも、好意を持った女性の命は失われることになってしまったが……。

新たな目的が出来た――皆の笑顔のために戦うという目的が。

「知ってるか?――コイツの笑顔、悪くない」

そして、新たな仲間が――絆が生まれた。

彼、小野寺 ユウスケは世界の破壊者と呼ばれる青年――門矢 士達と共に文字通り世界を駆けていくことになる。

その道中、様々な出会いがあった……世界を駆ける怪盗――海東 大樹。
そして、本来なら出会う筈の無かった……世界の代行者足る男。

この男――シオン・ウォルフマイヤーとの出会いが、小野寺ユウスケの運命を更に加速させることになる。

「君は私が呼び込んだバグだ……ならば、私自らが取り払う!!」

「チッ……此処までかよ……夏美ちゃん、ユウスケ――士の奴を支えてやってくれ……アイツ結構ナイーブだし」

最初は敵だった――しかし今は、心強い仲間だった男から託された想い――それが士達の――ユウスケの運命を僅かに後押しした。

シオンと、彼の支えだった女性は世界から排泄された……それでも、その絆は消えはしなかった。

ユウスケは、世界の守護者とも言える男の一人と対立した。
全てはディケイドのせいだ……そう言う男の言葉を真っ向から否定した。

そして、彼は最後まで仲間を――友を信じて戦った。

だが―――。

「士ぁっ!?」

「ユウスケ!?」

彼は破壊者を憎む男の策から友を庇い、世界から排泄されてしまう……世界の代行者である彼と同じ様に……。

だが、一つだけ違ったのが―――。

「……此処は……俺の世界……?」

そこは彼の……クウガの世界『だった場所』。
だが、彼が居た頃から幾らかの年月が経った世界……。

彼が戦っていた化け物……グロンギが滅んだ世界。

よく似た世界と言う可能性もあったが……。

好意を持った女性の墓、行きつけだった喫茶店……その喫茶店のマスター。
残っていたのはそれくらいだったが、それだけで確証を得るには十分だった……。

***********


「行くのか?」

「はい、あちこち廻ってみようと思います。ありがとうございました、おやっさん!」

俺は、お世話になった喫茶店のマスターに礼を言う。
こっちの世界に戻って来て、随分と時間が経っていたからか、俺の住んでいたアパートの部屋が無くなっていた……。

途方に暮れていた俺を拾ってくれたのが、以前によく通った喫茶店のマスター……おやっさんだった。

―――写真館だった場所にあった、本来あるべき場所。

士と一緒にグロンギの親玉――究極の闇を倒して、グロンギ達は居なくなった。

新聞にもグロンギは滅んだ……と書かれていたんだから、間違いは無いんだと思う。

……俺があちこち見て廻りたいのには理由がある。

――士達の所に戻る……その為の手掛かりを捜す。

それが理由。

……そんな手段なんて、無いのかも知れない。

以前はキバーラに導かれて、世界を越えることが出来たけど……俺自身にはそんな力なんて無い。

だけど、ジッとなんかしてられない。

こうして俺は旅立った……そして、思い知ることになる。

確かにグロンギは滅んだ……けれど、それ以上の驚異が――この世界に襲い掛かっていたことに……。

***********


帰って来た戦士が旅先で出会ったのは、かつて自身も身に纏ったシステム……。

「G3−X……じゃない?って、言ってる場合じゃない!!変身っ!!」

対未確認生物用パワードスーツ『G3システム』を纏った男が異形……アンノウンと戦っていた。

咄嗟に助けに入った戦士……クウガ。

「未確認4号……まさか……?」

「(アレは……アギト?いや――違うっ!?」

G3が赤の戦士の姿に驚愕している頃……金色の戦士もまた、その存在に驚愕していたのだった……。

『クウガの世界だった』……『アギトの世界』。
限りなく原点に近かったその世界は、一人の戦士の帰還により、新たな道を作り出す。

「どうですか小野寺さん?このトマト……良い色艶でしょう?勿論!味も良いんですよ〜?食べてみて下さい!あっ、それからこのキュウリもですねぇ……」

「もう……しょーいち君ったら……」

数々の出会いによる繋がり……。

「北條さん!本気なんですか!?」

「当然でしょう?アギトを捕獲出来ないなら、未確認4号を捕獲すれば良い……何故、再び4号が現れたのかは分かりませんが……先のアンノウンとの戦いから見ても、4号は確実に戦力になってくれる……少なくとも、貴方たちの欠陥だらけのG3(システム)よりはね?」

巡らされる陰謀……。

様々な想いが交差する中、戦士は成長し、進化していく……。

皆の笑顔を守る為に……約束を果たす為に……そして、再び仲間の元へ戻る為に……。

「俺は……俺は逃げない!!この力から、自分自身からっ!!―――変身っ!!」

究極の闇を纏いし者……その力を持って闇の神に挑まん――。

光の後継者……その力を持って闇の神に挑まん――。

やがて、その二つが重なり合い――闇の神を脅かす。

――仮面ライダーAGITΩ――ブレイブ オブ 空我――

掲載日――未定。

***********

後書き的な言い訳。

本当、色々スミマセン。
m(__)m
舌の根が渇かぬ内から書いてしまいました。
仕事の気分転換と、改めて色々再確認するために……。
次々回からはしばらく本編で行きますので、どうか見逃して下さい。
m(__)m

ちなみにシオンはディケイドに関しては原作知識ゼロです。

※嘘予告の嘘予告

アギトのDVDを見ていたら、書きたくなりますた……。
だが、私は謝る。

ごめんなさいm(__)m




[7317] ティピとシオンの!みにみにぐろ~らんさ~!!―番外編15―ネタバレ注意―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:1329af1b
Date: 2009/06/11 05:07
「ティピと!」

「シオンの!」

「「みにみに♪ぐろ~らんさ~♪」」

「いつも応援ありがとう♪ティピです♪」

「皆の応援に支えられています。同じくパーソナリティのシオンです」

「あら、シオンさん♪今日はシオンさんがパーソナリティなんだ?」

「まぁ、パーソナリティ兼ゲストだな……ほら、俺があのクズ……もとい、homoさんを入院させちゃったからさ」

「そっか……ゴメンね?アタシからもキツく言っとくからさ!」

「頼むわ……マジで。さて、今回のコーナーはどんな趣旨なんだ?」

「えっとね……今回は常連さんの意見なんかも含めて、色々シオンさんに聞いて行く趣向です。疑問でらんさ~ですね……前にもシオンさんには質問したけど、今回はもう少し突っ込んだ話を聞きたいなって」

「成る程……ま、俺に答えられることなら」

「じゃあ、最初の質問です……『シオンは最強オリ主らしいけど、全力でどの程度の強さなの?』……ということなんだけど、どうなのその辺?」

「そうだな……今の段階ならド○ゴン○ールZのパー○ェクトセ○と素手でガチンコ出来るんじゃないか?あ、自爆してから復活した奴な?ま、流石に魔人○ウ以降には敵わない感じだが……それも気だけを使った戦い方をした場合の話だし、まだまだ身体能力自体が成長してるんで、先は分からないな」

「…………それ、ほぼ無敵なんじゃない?」

「だから、普段は細心の注意を払って加減してる。以前、うっかり全力で気を開放してとんでもないことになったからな」

「ああ、そういえばそんな話もあったわねぇ……じゃあさ、そんなシオンさんが戦いたくない相手っている?……まぁ、そんな相手はざらにいないだろうけど……ちなみに仲間や恋人って答えは無しの方向で」

「そんなことはないぞ?……まずはコード○アスのル○ーシュ、同作ロスカラのライだな……この二人は絶対遵守のギアスユーザーだからな……『死ね』なんて命令されたら一発だ。ル○はまだ運動音痴だし、視覚を媒介に掛けるギアスだから、幾らか対処法はあるが、ライは聴覚を媒介にギアスを掛けるから始末に負えん……単純に魔力を介する魔眼ならレジストするのも造作も無いんだが……」

「そういえば、嘘予告で不老とは言ってたけど、不死とは言ってなかっ」

「その辺はオフレコで……な?ちなみに、此処は某道場みたいな物で、俺はシオンであってシオンではない……というご都合設定です」

「って、どうしたのシオンさん?」

「いや、念の為に……な?で、続きだが……H×Hのク○ロ団長。これは身体能力云々より、その盗みまくったであろう豊富な念能力が怖い。原作に出ているくらいの能力なら、対処は可能だが、出てない能力でどんなとんでも能力があるか分からんからね……後は型月世界の死徒第一位と、復讐者の反英霊……これはそのスキル、人間に対する絶対殺戮権利……というのが気になるんだよなぁ……まぁ、人間かと言うと微妙なんだがな……俺」

「シオンさん、半分人間辞めてるんじゃないかって位非常識だしね……それにシオンさん、力押しでどうにかしちゃいそうだし」

「いや、そういう意味じゃないんだが………まぁ、事実がどうあれ、俺は人間だと思ってるよ………と、何か、空気を悪くしちゃったな……気を取り直して……他にも色々あるけど、俺も絶対的に無敵という訳じゃないってことさ」

「う~~ん……なんか納得いかない感じだけど……まぁ良いや!次行こう!えっと、『嘘予告のシオンは何で二種類のライダーに変身しているのですか?フォームチェンジしているのですか?』ちなみにこれは常連さんもくれた質問なんだけど……」

「これは非常にネタバレなので深く説明出来ないんだが、ハートのバックルもダイヤのバックルもディケイドブレイド編での拾い物です。ちなみに、あの時点ではクローバーのバックルも拝借した……で、研究所で家捜ししてその他付属パーツもゲットしたと。余談だが、鮫のカードデッキもあるぞ?」

「……な、何となく分かったけど、それって泥棒じゃない?」

「気にするな。自称トレジャーハンターの海○君もオーガのベルトを拝借していったんだから……使わずに放置するのは勿体ないしな」

「は、ハハハ……次の質問!『シオンのハーレムの女性は皆さん胸が大きいですが……まさかシオンは大きいのが好みなんでしょうか?』……一応、常連さんも気になってる意見らしいけど……どうなの?」

「これって、作者の人が答えたよな……?まぁ、俺の口からも言わせてもらうけど、決してそんなことは無い。俺自身、胸の大きさにはたいしたこだわりは無いよ。そりゃあ、俺も男だからな……気になっちまうのは事実だが。要するに、好きなタイプは?って聞かれたら、『好きな人がタイプです!』って、胸を張って言うのが俺だしな」

「そ、そうなんだ……あ、じゃあさ、沙紀さんはどうだったの?ほら、幼なじみの」

「沙紀か……?別段、大きくも無ければ小さくもなかったな……まぁ、俺には特殊なセンサーは無いからスリーサイズの明確な差は分からんがね」

「そこまで分かったら、チートを通り越して変態だって♪……さて、そろそろ時間が来てしまいました♪」

「(忠夫ならそれくらいは出来そうだよな……)いつも思うんだが、みにみにぐろ~らんさ~の時は、尺が半分位なのは仕様なんだろうな……」

「まぁ、基本アタシ達が喋るだけだし、仕方ないよ。それでは……ここまでのお相手はティピと!」

「シオンでお送りしました!」

********

オマ決済。

「ちなみに、こんな嘘予告が見てみたい!この世界に俺を絡ませたい……という方は感想板に書いて下されば、作者さんが疲れた時に気分転換として書くかも知れません」

「あ、勿論、作者が知らない作品に関しては書けないので、その辺はご了承ください♪……って、実際に飛ぶほとんど世界は決まってるのよね?」

「ああ、少なくともディケイド、GSは確定だな……他にも嘘予告内の随所にちりばめられたネタからも想像がつくのは幾つかあると思う……だから、あくまで最初の嘘予告みたいにネタとして見てみたいって場合だけな……まぁ、もしかしたらリアルに採用するかも知れないが」

「まぁ、その辺もご了承ください♪ってことよね?」

「そうだな。ぶっちゃけ、そんなことする暇があるなら本編を書けって話だが……番外編やそういうのが更新されてたら、仕事が多くて病んでるんだな……と、生暖かく見守ってやって欲しい」

「後、記事数が100を越えたので、新スレを立てた方が良いのか、見えずらくてもグロラン編完結まではこのままの方が良いのか迷ってるみたいだから、よかったら何か意見をくれると嬉しいです……らしいです」

「じゃあ、次回からは本編で」

「またね~♪」



[7317] 第76話―戦争に策略は付き物です―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/09 16:10


さて、俺は今から策とも言えない策を説明する。
正直、屁理屈にも劣ることだと思うが……。

「策は二つある……まず、ランザック軍を迎撃する……普通にな?」

「普通にって……それだけかよ!?」

俺の言い分に、ゼノスが驚愕する。
まぁ、普通はそうだろうなぁ……。

「この場合、こちらはランザックが攻めて来ても、追い払う程度に対処しなければならないけどな」

「?どういうこと?」

ティピが首を傾げる。

「……つまり、ランザック単体の侵略行為……と、こちらが思っている様に見せる訳か」

ウォレスは俺の言い分を理解した様だ。
つまり、俺の策とはこうだ。
まず、ブロンソン将軍率いる、ローランディア軍にランザック軍と戦って貰う。
この際、相手を殲滅するのでは無く、追い返すというのが重要だ。

ランザック軍は引き上げざるをえない。
何故なら、後ろ盾とも言える、バーンシュタインからの援軍は無いのだから。
元々、ランザックは自国をバーンシュタインに攻めて欲しくないから引き受けた挟撃作戦だ、必要最低限の兵しか向かわせてはいまい。

ランザックはバーンシュタインの様に宣戦布告をした訳じゃない……もし、宣戦布告してきたのならとことん戦うのも必定かも知れないが、宣戦布告無しに、しかも単独で攻めて来たとなれば理由を尋ねなければならない……その際に俺達が使者として赴き、同盟を交渉すれば良い。

ランザック王国としても、バーンシュタインが増援に来ないと分かれば、バーンシュタイン王国に嵌められたと思うだろう。

ならば、同盟交渉もしやすくなる……この時にエリオット達の事情を上手く説明することは重要だ。
俺なら、口先の魔術師並の屁理屈で丸め込む自信がある。

その旨を皆に伝えた。

「…成る程な」

「双方に少なくない血は流れるでしょうが、同盟のチャンスを得るにはこれしかないかと……」

「ふにぃ〜……?よく分かんないよ……」

「要するに、現バーンシュタイン政権に悪者になってもらうってことだよ、ミーシャちゃん」

俺の説明に納得する王……ミーシャは分からないと首を捻るが、ラルフが分かりやすく説明。

「だが、それだと些か不確定な要素が多過ぎないか?」

「だからこそ、もう一つの策で駄目押しをするのさ」

ウォレスの言う通り、この策は確率だよりの運任せ的な所が強い。
追い返すとは言うが、ランザックが引き返さずに粘り続ければ被害は大きくなる。
確かに引き返す可能性の方が高いが、開き直って戦い続ける可能性もある。

そもそも交渉を突っぱねられる可能性も、無いわけじゃない。
だからこそ、もう一つの策が生きてくる。
本当はこんな策は使いたく無いんだが。

「もし、バーンシュタイン王国軍が、ランザック王国軍の背後……もしくは側面から攻撃を仕掛けて来たら……ランザック王国軍はどうする?」

「……ランザックはそちらの対応に追われることになる……成る程、そういうことか」

カーマインは頷く。
俺の言いたいことが、分かった様だ。
要するに、俺達で偽のバーンシュタイン軍を演じ、ランザック王国を掻き回す。
ぶっちゃけ、原作でカーマイン達がやってたことに近い。
四面楚歌に陥ったランザック王国は、喜んでこちらの手を取るだろう。

「……正直、褒められる策ではありませんが、有効な策ではあります」

いや、本当……気が進まない。
同盟を結ぶために、同盟を結ぶ相手を傷つけなければならないんだからな……。
某大作スペース浪漫に出てくる、魔術師と呼ばれた提督を最高の策士と信じる俺だが……この策は黒いよな……。

とは言え、やるしかないのだが……。

「確かにそれなら悪くない賭だな!」

「いかがでしょうか王?」

ゼノスが俺の策に賛同し、ウォレスはアルカディウス王にお伺いした。
王は、少し悩む様な仕種をして……答えを出した。

「……分かった。この作戦、その方らに任せよう……頼んだぞ!」

「はっ……必ずや成し遂げてみせます」

カーマインがそう言った後、俺達は謁見の間を後にした。
そして城の外に出た俺達は、簡単な作戦タイムを取ることにした。

「それでどうするの先生?」

ルイセが尋ねてくる。
……結局先生か。
俺はルイセに魔法を教えてる訳だが、教えてる時は先生、普段はシオンさんだと少々ややこしいので、普段からどっちかに搾ったら?
とは、ティピの談。

結構悩んでたが、結局は先生になったらしい。
まぁ、俺はどちらでも良いんだがね?

「まずはブロンソン将軍に事情を説明して、その後に準備をして作戦開始……だな」

俺はルイセの問いに答える。
原作とは違い、迷いの森は使えない。
それを使ってジュリアン達の背後に出られたりしたら困るし。
作戦の準備自体はたいしたことないのだがな。

「ねぇ、先生って何?」

「あぁ、俺はあの子……ルイセって言うんだが、彼女に魔法を教えてるんだよ」

リビエラが聞いて来たので、答える。

「教えてるのは魔法だけじゃないし、ルイセだけに教えてるわけじゃないけどな」

言わば、ここにいる全員が俺の教え子ないし弟子というわけだな。
先生と言ってくれるのはルイセくらいだが。

「ふ〜ん……ねぇ、今度は私にも教えてよ」

「暇があったら構わないぜ?」

今度の休暇の時にでも、講義すっか。

……ん?皆こっちを見てる……その視線の先は俺…では無く、リビエラか?
正確には、カレン、ラルフを抜いた面々だがな…見てるのは。

「さっきから気になってたんだけどさ……その人誰?」

「あ、アタシも気になってた!」

ティピとミーシャがそういう。
他の面々も心は同じなのか、頷いていた。
そういやぁ、自己紹介がまだだったよな。

「彼女の名前はリビエラ・マリウスって言ってな……」

俺は皆に詳しく説明する。
以前に色々あって仲間になったこと。
オズワルド達と行動を共にしていたこと。
そして……何故か俺に好意を持ってたらしく、俺もそれを受け入れた為、件の同盟効果で恋人の一人になってしまったこと。

「またかこの野郎!羨まし過ぎるぞ!」

そう言ったのはゼノスである。

「そういえばゼノス君……何やらカレンに余計なことを吹き込んでたみたいだな?」

「!な、なんのことだ?」

しらを切ろうとするゼノス……だがこっちはネタが挙がってるんだよ!

「……兄さんの嘘つき」

「カ、カレン!?」

そう!カレンという証人がいるのだよ!!

ちなみに今は魔王降臨(ティピ命名)はしていない。
しばらく期間を置いたことで頭が冷え、そこまで怒りが込み上げて来なかったからだ。
とは言え、腹立たしいことに変わり無く、俺は二つの選択肢を与えることにする。

「ゼノス……お前に選択肢をやろう。後日、俺のスペシャルでゴージャスな修行を受けるか、今この場で恥をかくか……因みに拒否権は無い」

「……なんか分からんが、後者は問答無用で危険な気がする……なら、修行で」

チッ……運の良い。
それとも傭兵時代に培った勘か?

「……因みに、後者だったらどんなことをされてたんだ?」

「くすぐって、笑いで痙攣させて失禁」

そう説明したらゼノスは心底震え上がり、前者を選択して良かったと、本気で言っていた。

他の面々は仕方ないなぁ……とか、もう慣れっこだしな……とか、色々言ってたが、受け入れてくれた様だ。

……俺の台詞じゃないが、マジでそれで良いのか?

そう言ったら、皆は俺がどれだけ真面目に本気か知ってるから良いんだってさ。

「……シオン、まだ言ってないことがあるわよ……私が元シャドー・ナイトだったってことを」

『!?』

皆がざわつく……当たり前か。
この事実は一部の奴しか知らない。
俺は敢えてそこは言わなかった……それはリビエラ自身、シャドー・ナイトだったことを悔いていて、消せない汚点だと思ってるからだ。

そんな話を高言するほど、俺は腐ってない。
しかしリビエラは話した……これから長い付き合いになるからな……隠し事は出来るだけしたくなかったのだろう。
俺と出会った経緯なども全て話した。

「これが私の隠してた全てよ…」

拒絶されることも覚悟してた様だが、そこはこのパーティー……皆が迎えてくれた。
俺としては、ゼノスやウォレス辺りが何か言うと思ってた。
その辺りを聞いてみると……。

「シャドー・ナイトとは言え、元なんだろう?シオンが認めた相手なら、問題無しだと思うぜ俺は」

「お前が決めたことだ……俺達がとやかく言うことじゃないさ。お前の人を見る目が良いのは知ってるからな」

ということらしい。
てっきり疑いの眼差しを向けられるかと思ってたんだが……。
特にゼノスはカレンが狙われていたこともあり、シャドー・ナイトを嫌悪しているからな……だが、俺やカレンが認めたなら文句無しと言い切る辺りは、非常にゼノスらしいとも言える。

「けどソレ、マスターは知らないよね?」

「サンドラ様には休暇の時に言う……流石に王の前で言う様な台詞じゃないだろ?」

「アタシなら、テレパシーで伝えられるけど?」

ティピの言葉に答える俺……わざわざ王の御前で言うことじゃないからな。
ちなみに、俺は公私のケジメをつける為、普段はサンドラ様と言っている。
二人きりの時や、休暇の時なんかは名指しで呼んでいるけどな。

そしてティピがテレパシーによる中継ぎ念話を提案するが、俺はそれを断る。

「やっぱり直接言いたいからな」

「そっか、分かったよ」

ティピも納得してくれたみたいだな。

「さて、じゃあ早速ラージン砦に向かうとするか」

俺達はラージン砦にテレポートする。
到着してから門を通り指令室へ。

「君たちか、どうやら合流出来た様だな」

「おかげさまで……早速ですが、将軍にお願いしたいことがあるのですが……」

カーマインがさっき俺が説明した策をブロンソン将軍に伝える。
さっきまでは俺が説明していたが、やはりこのパーティーのリーダーはカーマインなわけですよ。
なので任せた訳だ。

「成る程……分かった。我々は防戦し、ランザック王国軍を追い返せば良いのだな?」

「はい、タイミングを見計らって俺達がバーンシュタイン軍に成り済ましてランザック王国軍を引き付けますから」

将軍の言葉を肯定したのはゼノス。
しかし、ゼノスに敬語が恐ろしく似合わないと思ったのは、多分俺だけじゃない筈だ。
俺は慣れたけどな。

「分かった……君たちの成功を祈る」

「はい、任せて下さい!」

将軍に答える様に言うルイセ。
俺達の担当する策は駄目押しみたいな物だが、これが成功すればローランディア軍の被害も減ることになる。
結構重大だ。

「さて、皆にはコレに着替えて貰うぞ?」

「これって……」

それはシャドー・ナイトの装備一式だった。

********

おまけ♪

「リビエラさんって何歳なんですか?」

「ミーシャだっけ?18だけど、それがどうかした?」

周囲がざわついた…いや、元シャドーナイトだと暴露した時よりざわめきが大きいのはどうなんだ?

「……言いたいことは何となく分かったわ。歳相応に見えないって言いたい訳ね」

俺は気にする必要無いと思うんだが…それだけリビエラが美人ってことだし。
と言ったら。

「シオンがそう言うなら、気にしないことにする…」

と、ほんのり赤くなりながら言われた。
可愛いやっちゃな〜、もう。



[7317] 第77話―着替えと待機と死の商人―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/09 23:51


「よし……準備オッケーだな」

俺は普段のジャケットを羽織ったカジュアルな服装から、シャドー・ナイト装備に変える。
武器もリーヴェイグから双長剣に変えている。

俺にとっての最強武器はその特性上の理由でリーヴェイグだが、他の武器の扱いもマスターしているからな、俺は。

ちなみに俺が装備している剣はグラム。
竜殺しの剣と言われ、対モンスター戦においてはラルフのレーヴァテインを上回る攻撃力を得られる。
今回は対人戦だが、単純に武器としても優れているからな……問題あるまい。

ちなみに、グラムとは俺が元居た世界の北欧神話……正確には民間に伝わる伝承らしいが。
それに出てくる英雄シグルドの持つ剣と同名だったりする。
2mはある大剣で、財宝を守る竜に化身した男……ファーブニルを倒した剣とされる。

また、某運命では魔剣の類の中でも最高峰に位置する物らしい。
まぁ、エクスカリバーの原型と言われるカラドボルグの更に原型とか言われているくらいだからな……分からなくはないが。

俺としては、レーヴァンテインやグングニルとかの方がランクは上な気がするんだが……大概の二次創作だとグラムの方がランクは高い。
確か原作運命でもランクは高かったんだったか?

一応、オーディンはグングニルでグラムを壊したりしたし、レーヴァテインに至っては世界を焼き尽くす――とまで言われているんだがなぁ……。


また、勘違いされがちだが、別段シグルドは不死身では無く、財宝を竜から得た後に財宝を狙った兄弟に暗殺されている。
これは、この伝承を元に作られたと言われている物語の英雄、ジークフリードと混同視されているからだろう。

余談だが、ジークフリードの持つ剣はバルムンクと言い、更に他の物語ではノートゥングと呼ばれたりしている……実にややこしい。

と、話が逸れたな。
とにかく、そんな伝説級の剣と同じ名前ではあるが、グロラン世界のグラムはそこまで大それた性能は無い。
見た目も大剣という程大振りではないし。

その能力を原作風に言えば『モンスターに対して攻撃力+20される』――だからな。
それに、どうやら複数存在するらしい。
原作では超高級品だが、普通に売られていたからなぁ……。

だから俺はそのグラムを二振り、腰に下げている訳だ。
しかし武器として優れているのも事実で、俺がある程度実力を出しても壊れない。
流石に全力全開には耐えられない様だが。

どうにも俺の全力に耐えるには、原作風に言えば攻撃力140は必要らしく、正に伝説級の武器でなければ耐えられないらしい。
ダイの○冒険のダイ状態なわけですね分かります。

難儀な身体だよ……マジで。
まぁ、俺が全力を出す様な相手がこの世界に居るとは思えんが……。
あ、リーヴェイグは原作では基本攻撃力こそ94だったが、その特性と俺のチート能力によって最強の剣となっている。

……さっきから俺は誰に言っているんだろうな?

そうこうする内に皆も準備が終わって、合流してくる。
皆、シャドー・ナイト仕様だが、微妙に異なる。
原作では分からなかったが、男女で服装に違いがあるのだ。

まぁ、どこに違いがあるかは一目瞭然なんだが。

「シャドー・ナイトって女の人はスカート着用なのね……」

「えぇ、私を含めて女の構成員は少なかったけど……また、これに袖を通すことになるなんてね……」

ティピの疑問に答えるリビエラ……やはり心境は複雑みたいだな。

……もう気付いたかも知れないが、シャドー・ナイトの男女の違いはずばりスカートだ。
スリットの入ったスカートだ……なんつーか、OLとかが着けてそうだ。
そういえば、サンドラも似たようなスカートをはいていたな。

後はショルダーアーマーが小さめになってる位か……見た目的な差異は。

「思ったより軽いんだ〜」

「まぁ、シャドー・ナイトは隠密部隊だからな……軽くかつ丈夫な装備でなけりゃあやってられないさ」

しきりに感心するミーシャに俺が答える。

「しかし、格好だけとは言え……流石に微妙な気分だぜ」

「な、なんか恥ずかしいです……」

原作でも見た、ゼノスのシャドー・ナイトルック……しかし、ゼノスはシャドー・ナイトを嫌悪しているので、やはり複雑そうだ。

カレンは単純に恥ずかしい様だ。
確かに、普段は目茶苦茶丈の長いスカートだからな……だが俺は言いたい。
もっと恥ずかしい格好になったことあるだろうに……。
温泉とか温泉とか温泉とか……い、いかん……みなぎりそうになる……。


……あの時のことが無ければ、俺は未だにトラウマに囚われていただろうからな……本当、感謝してもしたりないくらいだ。

「しかし、何と言うか……お前ら」

「?何だいシオン?」

「俺達の顔に何か付いてるか?」

「付いてるというより、見分けがつかないっていうか……一瞬だがな」

ラルフとカーマイン……同じ格好したらマジで見分けがつかん……。
並んだらラルフのほうが背が高いし、表情や雰囲気から違いは分かるんだが……一見しただけじゃどっちがどっちか分からん。

「確かに、雰囲気こそ違うが空気は似通っているからな……」

「ウォレスさん、それってどういうこと?」

「上手く説明は出来ないが、本質が同種のものと言えば良いのか……これも双子だからかもしれんな」

ルイセに説明するウォレス。
ウォレスの言いたいことは分かる。
二人は同一人物を基にして作られた……所謂、同位体って奴だ。
成長する過程が違うからこそ、性格とかに差異が出るが、互いに真っ直ぐ育ったためにその本質は変わらない……。

その辺を見分ける……いや、感じ分けることが出来るウォレスは、やはり流石と言える。

「さて、皆準備オッケーみたいだな?」

皆シャドー・ナイトの衣装に身を包み、それぞれの武器を手にしている。
流石に武器から個人を特定は出来ないから、構わないけどな。

皆が頷いたのを確認し、俺達は森の中に身を潜めるのだった。
俺とラルフは気を探れるからな……ランザックの動きは手に取る様に分かる。

「こっちに進軍して来ているな……戦線を展開するにはまだ掛かりそうだ……ん?」

「…これは」

俺とラルフは妙な気配を感じた……数人程度だが、別行動している連中がいる様だ。
ここいら一帯に戦線が開かれるというのは、戒厳令が敷かれ、一般にも知られている筈なので、旅人ということは無い。

……本物のシャドー・ナイトが斥候に来たか……もしくは。

「俺が行ってくるわ……とりあえず、作戦開始までには戻ってくる」

「了解」

俺はラルフにそう言い、その場から姿を消した。

「?あれ?シオンさんは?」

「少し気になる動きがあって、偵察してくるってさ」

「大丈夫かよ……もうすぐ戦端が開かれるんだぜ?」

「大丈夫だと思いますよゼノスさん」

「…まぁ、シオンだしなぁ」

なんて会話がされていたとは露知らず、俺はその怪しい気配の場所に赴く。
そこには、バーンシュタイン兵……いや、バーンシュタイン兵の格好をした連中と、かつての盗賊団頭領……グレゴリーにそっくりな男が居た。
やっぱりコイツらだったか……想像はしていたが。

「お前ら、作戦の概要は理解したな?」

「へい、ローランディア軍がランザック軍とやり合ってる間に、俺達がローランディア軍を襲う……」

「そうすりゃあ、またローランディア軍とバーンシュタイン軍の間に確執が生まれるって訳ですね」

「そうだ。せっかくの稼ぎ時だ……何があったかは知らんが、今バーンシュタインに引き上げられる訳にはいかねぇからな」

「流石はグレンガル様、金を稼ぐことに関しては誰にも負けませんね!」

グレンガル……グレゴリーの兄。
所謂、死の商人という奴で、戦争の中で金を稼ぐために戦争を長引かせようと暗躍した男。
原作においては暗躍した結果、カーマイン達に討たれた。
最後の瞬間まで金のことを考え、ルイセに『悲しい人』と評された哀れな男だ。
ちなみに、Ⅱに出てくるリング・ウェポンを作り、バーンシュタインに売り込んだのもグレンガルだとされているが、実際は完璧なオリジナルでは無いだろう。
リング・ウェポンは魔道具の領域だ……どう考えてもグレンガルが魔導に精通してるとは思えない。

Ⅲの時代には既にリング・ウェポンは存在していた……これは推測だが、グレンガルは何処かでリング・ウェポンの文献なり何なりを発見し、それを再現したのではないか?
と、思っている。
まぁ、それはともかく。

何かしら仕組んでくるとは思っていたけどな……どうやら、ジュリア率いるバーンシュタイン軍が前線から退いたと思っていて、何やら思い違いをしているみたいだな。

とは言え、放っておいたらややこしいことになる。

「……潰しておきますか」

俺はシャドー・ナイトの仮面を装着し、奴らの前に現れる。

「!?だ、誰だテメェ!!」

「貴様らに名乗る名は持ち合わせていない……悪いが、潰させてもらうぞ……」

グレンガルの部下が俺を見て慌てるが、名前を名乗る必要なんて無いからな。
とりあえず、気絶していて貰おうか。

俺は必殺メンチビームを発動!

ブワッ!!

「「「あひゃうひぇああぁぁぁ!!!?」」」

バタバタバタバタ!!!

俺の殺気に当てられ、奇声をあげながらバッタバッタと倒れ気絶する三下ども。
しかし……。

「テメェ……ただ者じゃねぇな……」

グレンガルと僅か2名は、何とか耐えていた。

全力の殺気を込めた気当たりでは無いにせよ、それを耐えきったのは称賛に値する。

「悪いがまだ捕まる訳にはいかないんでな……お前ら、後は任せたぞ」

そう言い、グレンガルは一目散に逃げてしまう。

「逃がすか……!」

追撃しようとした俺だが、その前に立ちはだかるのは残った二人。

「ここから先には」

「行かせねぇぜ?」

台詞は強気だが……。

「そのザマで言える台詞では無いな……」

「やや、やかましい!!」

「こ、これは武者震いって奴よ!!」

そう、コイツらの足……まるで産まれたての小鹿の様に震えている。
もう面白いくらいに……。

「……大人しくそこを通せば、見逃してやるぞ?」

「だ、黙れ!!」

一人が斬り掛かってくるが、僅かに体を動かして回避……逆に裏拳一発でのしてやる。

「ヒ、ヒィィィ!!?」

「さて、残った君には素性を吐いて貰おうかな?」

「だ、だ、誰が言うものか!!」

気丈にも抵抗する三下君しかし俺は。

「あっそ」

「ま、待て……何をする気だ……止めろ……止めろぉ!?グヒャヒャヒャヒャヒャ!!?た、助けウヒャヒャヒャヒャ!!!!?」

数分後。

情報を聞き出した俺は、気絶した奴らの装備を剥いでパンツ一丁にし、簀巻きにして転がしておく。
グレンガルを追い掛けたかったが、気の感じからして、そろそろ戦端が開かれるみたいなので戻らなければならない。
よって、俺は瞬時にその場を後にした。
余談だが、簀巻きにされた者の内の一人は、痙攣して泡を吹きながら失禁して気絶していたが……別に死んでいるわけでは無いので、そのまま放置プレイです。

********

IF的オマケ。
もしもシオンが。

「お待た……せ……」

「どうしたラルフ?それに皆も……鳩がマジックガトリング喰らったみたいな顔をして」

「シ、シオンさん……その格好……」

「これか?皆と同じではアレかと思って用意してみた。俺のことはパピヨンと呼んでくれ」

「パ…パピヨン?」

「パ・ピ・ヨン♪もっと愛を込めてっ!!」

「いやああぁぁぁ!!先生が変態にぃぃ!?」

……何ぞこれ?




[7317] 第78話―無敵超人と策略―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/10 14:49


さて……グレンガルの企みを未然に潰した後、皆の所に戻った俺は、潜んでタイミングを計る。

「シオンさん……それは?」

「ん?バーンシュタイン軍の旗だよ。念のために用意していたんだ」

カレンの質問に答える俺。
これを用いて、更に大根を走らせようってつもりです。

「……何と言うか、本当に用意周到だな」

「感謝の極み」

そう言うウォレスに、完璧な角度でズバッ!という感じで礼をする俺。
完璧だ!!
……何がと聞かれたら困るが。

とりあえず布陣としては、俺がトップで敵を掻き回し、ラルフ、カーマイン、ゼノスが前衛で零れた敵を相手取り、ウォレスが中衛……というより、旗と後衛の護衛……駄洒落じゃないぞ?
……そして、後衛がカレン、ルイセ、リビエラ、ミーシャの女性陣。
彼女達には旗の護衛と、後方から魔法をぶっ放して、敵を牽制して貰う。
よし、こちらの準備は整った……後は、やるだけだな。

森の中を進軍していくランザック兵達……。
さて、作戦通りに行けば面白いことになるな。

「ねぇ、本当にやるの?」

「モチ。上手く行けば敵を無傷で無力化することも不可能じゃない」

ティピの問いに、答えてやる。
俺達の作戦の内容は、バーンシュタインとランザックを仲違いさせること。
これに尽きる。

説得?それも考えたが無理だろ?
バーンシュタインとランザックが先に同盟を結んだ以上、説得しに行ったりしたら捕縛されて終わりの可能性が高い。
エリオットの正当性を訴えた所で、ランザック王国にしてみれば現状、全く関係の無い話だ。

元よりランザック王国がローランディアを敵に回してまで、バーンシュタインの挟撃作戦を受けたのも、バーンシュタインと争うのを嫌ったからに外ならない。
それだけの兵力、戦力差があるからなんだが――。

ちなみにローランディアがエリオット達に協力しているのは、身の潔白を証明する為だと俺は思う。
リシャールを操っているゲヴェルの企みとは言え、世論的に言えばローランディアが喧嘩を売った形になっているからな。
まぁ、アルカディウス王が良い人であるのは確かだし、大陸の平和を憂い、協力を惜しまない気持ちも本物だろうがな?

ちっと話が逸れたな……とにかく、そんな状況なら説得は無理。
ウェーバー将軍は頑固一徹というか、主君に忠実で義理堅い漢らしい。
そんな漢が、同盟相手を裏切れ……なんて言って納得するだろうか?
いやしない。

ならランザック王を説得する?
不法侵入してか?
出来るけど、やらない。
説得云々以前の問題だ。
幾ら原作で、人の良さそうな人だったとしても不法侵入者に対して、外面を良くする訳が無い。

他にも色々な要素はあるが、結局の所、原作通りガムランの横槍が入った以上、仲違いさせて関係をぶっ壊すしかない。
その上でエリオット達のことを話せば、喜んで協力してくれるだろうさ。
裏切られたバーンシュタインに復讐出来るし、エリオットが王位を取り戻した時に、反逆者の烙印
を押されずに済む。

まぁ、俺達の行いが民衆の方々にバレたら二度と外を歩けなくなるが……バレなきゃ良いんだよ?
何の為にいちいち変装してると思うんだい?
ちなみにそんな理由から、アレンジ系魔法や必殺技は使用禁止。

「え〜〜、それくらいならバレたりしないから大丈夫だよ〜〜」

「俺もそう思う……実際、魔法に疎いランザック軍がそれだけで他者を特定することは出来ないと思うが……」

ミーシャとカーマインが意見を述べてくる。
まぁ、確かにカーマインの言い分も分かる。
例えランザック軍でなかろうと、魔法に疎い者にとってはマジックアローもマジックフェアリーも大差ない。
また、この世界の住人は基本、気や魔力波動で個人を特定したりは出来ない。
そういう技術が無いからな。
俺達は例外だが……特に俺とラルフは。
しかしボスヒゲがいるからな。
確か、ランザック軍はボスヒゲに魔法を習っていた筈だ。

あ、ちなみにミーシャは自分がルイセやカレンより早くマジックフェアリーをマスターしたのを、自慢したい的な考えなのは目に見えていたので、スルーしておく。

「とにかく、用心に越したことは無いってことさ……んじゃ、作戦通りにな?」

皆はそれぞれ頷く。
勘の良い人は気付いたかも知れないが……ぶっちゃけ、俺はランザックの人達を傷付けるつもりは無い。

まぁ、覚悟は決まってるから、仲間のピンチになったら斬り捨て御免も止む無しだ……とは言え、気分が良い物じゃないし、これから同盟相手にしようって輩を殴ッ血KILLのもどうかと思う訳だ。
これが、どうしようもないゴミクズみたいな奴らなら……遠慮もしないんだが。

「よし、作戦開始だ」

俺は旗を携え、皆に告げる……そして皆はそれに答え、それぞれ仮面を着けた……勿論俺も。
本来、指示を出すのはカーマインの役目なんだが、今回は俺が言わせて貰った。

俺達は森を迂回し、ランザック軍の後方に回り込み、平原へと出た。

ズガンッ!!

俺は大地に旗を文字通り、突き刺した。
もうこれで気付かなければ、そいつはボケが始まっているかも知れん。

「!?……何だアイツらは!!」

「……どうやら、バーンシュタイン軍みたいだぞ?」

「何でバーンシュタイン軍が我が軍の後方に!?」

「何かあって、伝令を寄越したのかも知れん」

等、向こうは情報が錯綜している様子。
俺は最前線に立つ。
そして放つは初歩の魔法……。

「マジックアロー」

ズガガガッ!!

俺の放った魔法の矢は、上級兵らしき男の足元に炸裂する。

「な、何だと……バーンシュタイン軍が我が軍に攻撃!?」

「何を驚いている?お前達は嵌められたのだよ……フフフ、気付かなかったのかな?」

うろたえる向こうの陣営に、俺は黒の反逆皇子様風を演じながら言う。

「な、何!?」

「我らバーンシュタインが、ランザックごとき弱小国との約束ごとなどを守るわけが無かろう……貴様達には、この戦で潰れて貰う算段なのでね」

俺は、不遜な態度を演じ続ける……。
そこに最前線からの伝令だろうと思われる、ランザック兵が現れる。

「た、大変です!ローランディア軍を攻撃する筈のバーンシュタイン軍が引き上げて行っています!!」

「な!?」

正確には進軍しているんだが……ランザックにとってはどちらでも同じこと。
何も知らない(と、思わせている)ローランディア軍と、裏切ったバーンシュタイン軍(偽)である俺達。
挟撃するつもりが、いつの間にか逆に挟まれるという状況に。
しかし、この状況で伝令が来るとは好都合……正に計算通り……。

「おのれ、バーンシュタイン軍め……よもや裏切るとは……!!」

「悪いな……約束ってのは破られることもあるんだぜ?」

「騙されるテメェらが間抜けなんだよ!」

ウォレスとゼノスが更に挑発する。
ウォレスもゼノスも、存外ノリが良いな……しかしゼノスよ。
その台詞を君が言うかね……原作を知ってるだけに苦笑いな俺。
まぁ、今のゼノスには関係無い話だが。

「くぅぅ!全軍反転!バーンシュタイン軍を迎え撃つ!!お前は将軍にこのことを伝えろ!!」

「ハッ!!」

伝令の兵が再び最前線に向かって行く。
多分、前線の指揮を取っているであろうウェーバー将軍へ伝令に向かったのだろう。

ローランディア軍は知らぬ存ぜぬの防戦一方……ならば高確率でランザック軍本隊は、こちらに向かってくるだろう。

「良いか!ランザック軍の本隊が到着する迄が勝負だ!!」

「よぉし!いっけえぇぇぇぇぇ!!!」

俺の指示が飛び、ティピの言葉により戦端が開かれる。
俺はまず、気当たりを使う……全力の殺気を叩き付ける。
無論、前方の敵にだけな?

「「「ぐぁ!!?」」」

ドサササササササッ!!!

次々と倒れ伏せるランザック兵達。
ちなみに、俺の全力気当たりは小動物や一般市民、覚悟の無い盗賊くらいならショック死させることが出来るくらいに強烈だ。
何故ここに来て、全力気当たりなのかと言うと、軽い気当たりではある程度以上の実力がある者、覚悟を持つ者には通用しないからだ。
中には気合いで跳ね退ける輩もいる。

何しろ、グレンガルは勿論、その部下にも耐えられたんだからな。
傭兵上がりのランザック兵に耐えられない道理は無い。
案の定、俺の全力気当たりを喰らって気絶したのは半数より少し上回った程度で、他は震えながらも立ち続けている。

徐々に援軍も来る……さて、いっちょ行きますか!
俺は二本のグラムを引き抜き、構える。

「行くぞ!!」

俺は、いの一番に駆け出した。

敵の弓矢が飛んで来る。
しかし、それに当たってやる俺では無い。
身体能力は相当抑えているが、それでも余裕でかわせる。

「ふっ!!」

ランザック兵の集団に斬り込む俺――縦横無尽に、剣閃を振るう――だが。

「なっ!?」

「俺の斧が!!?」

「……次はお前達がこうなるぞ?」

俺は二振りのグラムで、敵の武器を細切れにしただけ。
これは警告の意味も兼ねている。

――なんか、某種運命の大和さん家の息子さんの気分……もしくは某るろうに。
別に自由の翼も逆刃刀も持ってないけどな?
それに――俺はこの二人の様な迷いは無い。

それが良いことなのか、悪いことなのかはともかく――。

本音を言えば、こんなのは綺麗事以外の何物でも無いと思う。
もしこれが旧バーンシュタイン派の兵が相手なら、俺は容赦はしなかった。
信念を持って挑む者には、それ相応の形で応えるのが礼儀…少なくとも俺はそう思っている。

もっとも、変装して第三者として介入している俺のほうが――何万倍も質が悪いだろうけどな。

「オロロロロロロロッ!!!」

ドドドドドドドドドドッ!!!

「「「「「ギャーーースッ!!!」」」」」

無数の蹴りや拳、剣の腹打ちの雨霰……俺はランザック兵の中心で大暴れだった。

ちなみにキャラは意図的に崩しています。
万が一、正体がバレるのを防ぐため……って、原作のシャドー・ナイトゼノスの件を考えれば杞憂だろうが……。
アレか?セー○ーム○ンとかプ○キュ○が変身したら正体バレないのと同じか?

ちなみに他の皆は、襲ってくる奴らを迎撃するくらいに留めている。
殆ど、俺の圧力で押さえ込んでいるので、やることが無いとも言うが――。

つまり、俺無双ですね分かりまry
……これでも、ちゃんと手加減しているんだぞ?
致死量のダメージを与えず気絶させるのは難しいんだぜっと。

もう一度言うが、これで現バーンシュタインとの間に確執が生まれたらシメたモノだ。
上手く交渉すれば、新バーンシュタインを受け入れて貰い、今のバーンシュタインを打倒するのに賛同し、三国同盟を築くのも無理な話では無い。

「さて……悪いが、まだまだこれからだぜ?」

気を探った所、本隊が到着する迄にはまだ時間が必要みたいだ……何度も言うが全滅させる必要は無いから、ある程度時間を稼ぐ。
まぁ、あからさまにやり過ぎると幾ら脳筋ばかりのランザック兵でも気付かれるかも知れないから、タイミングは結構重要だがな。

「貴様ぁ!!」

「新手か……よっと」

俺は武器を壊しながら、メンチビームを喰らわせつつ、ランザック兵の皆さんを気絶させていく。

ちなみに、バインドを掛けて動けなくするのも忘れない。

********


今、俺達は戦いの渦の中にいる。
こちらは敵を一人も傷付けてはならない……という、なんとも無茶苦茶な作戦だ。

しかもこちらは9人(ティピは頭数には入れてないぞ?)……向こうは数えるのも馬鹿らしい数……。
なのにそれを……。

ただの一人が……それを殆ど抑えている……。

そいつが突っ込んだ先では、ランザックの兵士達がまるでゴミの様に吹っ飛ばされていく。
しかも、そいつらは気絶しているだけで死人は一人も出ていない。

「まるで台風……ううん、嵐よね……」

近くに居たティピが呟く……確かにそうだ。
まるで嵐の様に敵を吹き飛ばす……正直、半端無い。

「このぉ!!」


嵐の様なシオンの猛攻から逃れて来たランザック兵が、俺に切り掛かって来る。
俺は妖魔刀でそれを受け流す。

「ハッ!」

ドゴッ!!!

「ごはぁっ!?」

そしてランザック兵のどてっ腹に回し蹴り。
兵士は吹き飛び、呻きながら立ち上がろうとする……しかし、ダメージが大きいのか立ち上がれない様だ。

「えい、バインド!!」

そこにルイセのバインドが決まり、ランザック兵は完全に立ち上がれなくなり、青虫の様に這いずり回るくらいしか出来なくなる。
もっとも、ダメージが大きく、それさえ出来ないみたいだな。

俺はルイセに感謝の意を込めて、サムズアップしてやる。
ルイセはそれに手を振って応えてくれる。

……仮面が不気味感を漂わせているが。
あれが無ければ、非常に可愛らしい笑顔を浮かべていたのだろうが……。

俺達の役目はシオンが討ち漏らした奴の相手……後衛の護衛という意味もある。

とはいえ、そんなのは殆ど居ないし、仮に居たとしても今みたいに返り討ちだけどな。

俺、ラルフ、ゼノスの三人が壁になっているんだ……。
多少の数ではやられる筈が無いって訳だ。

「にしても、こっちは加減しなきゃならねぇのは、少々厳しいぜ……」

「確かにな……だが、最前線で抑えられているからな……幾らかマシだろ」

「そうだね……あの数を相手に加減なんて、僕らじゃ出来そうに無いからね」

上からゼノス、俺、ラルフの順番である。
確かにシオンは半端無いが……。

「俺に言わせれば、お前も相当だと思うぞ……?」

「そうかな…?」

ケロッとするラルフ……コイツは自分の実力を理解しているのか……?

ラルフは敵を軽くいなし、倒し、気絶させる。
しかも速い。

俺とゼノスがそれぞれ二人倒す間に、ラルフは五人倒している。


―――以前、シオンがそれとなく言っていたな……。

『俺を除けばラルフが大陸最強だろうなぁ……』


……と。

その言葉の意味を思い知らされた気分だな……。
俺は改めて、世の中は広いということを痛感したのだった。

********



俺はカーマイン達の若干後方から、戦場を伺っていた。

「とんでもない規格外もいたモンだな……」

俺は一人そう呟く……それも仕方ないことだろう……シオンのあの戦いぶりを知れば。

最初、この作戦を聞いた時は正気の沙汰とは思えなかった。
幾らシオンが実力者とは言え、千を超える大軍を相手に一人で相手取り、更に不殺で対処するというのは無謀だと思ったからだ。
確かに、同盟を成す為には必要なことかもしれないが……。

戦争ってのは、個々の質もさることながら、絶対的な物量は無視出来ないモノだ。
しかし、シオンはその常識をひっくり返しやがった……。
あのインペリアル・ナイトも百戦錬磨の実力者と言われるが……シオンのそれは一騎当千……いや、それ以上のモノだ。

仮に敵だったら……そう考えるとゾッとするぜ。

そしてカーマイン達も百戦錬磨の強者を思わせる実力者だ……カーマインもゼノスもな……まぁ、俺があのくらいの時も同等の実力はあったが。

だが、やはりラルフの実力は抜きん出ているな……。
全盛期の俺でもまず勝てん……。
正に一騎当千……って奴か。
団長と比べても遜色は無い……いや、僅かだがラルフの方が……。

全く……つくづく敵じゃ無くて良かったぜ。

さて、前線の四人の働きでやることが無いが、ここは戦場……油断せず護衛に専念するとしよう。

*******



「えいっ!スリープ!」

アタシの唱えた眠りの呪文、スリープがランザックの兵士に直撃!
兵士の人はそのまま眠りの世界へ……どんな夢を見るのかな?
アタシならお花畑に囲まれたお家でお兄様たちと……いや〜ん、ミーシャの馬鹿馬鹿♪
そんなの、無理に決まってるじゃない☆

でもでも!シオンさんもハーレム――なんてことになってるんだから、アタシが両手に花になっても不思議じゃないよね?
うん!不思議じゃないわよミーシャ!

「……それで、アタシとお兄様たちの間には可愛い子供たちが♪男の子も女の子も皆どんと来ーいっ!アタシ頑張っちゃうもん!!ハッ!?でも、そうなったら誰が誰の子供か分からなくなっちゃう!?うん♪でも大丈夫♪だってお兄様たちとの……愛の結晶だ・か・ら♪……な〜〜んちゃって!嫌だも〜〜!恥っずかし〜〜☆」

「……ミーシャ〜……」

「?どうしたのルイセちゃん?それにカレンさんもリビエラさんも」

何かルイセちゃん、凄く疲れた顔してる……それでいて悲しそうで、何と言うか、見てるこっちが悲しくなっちゃう。

「……ミーシャちゃん、もしかして無意識?」

「……ふにぃ〜?」

カレンさん、何が言いたいんだろう???

「ねぇ、ルイセちゃん……友達なんでしょ?何か言ってあげたら?」

「う、うん……」

リビエラさんがルイセちゃんに何かを促す……むぅ、本当に何なんだろう??

「あ、あのね、ミーシャ……」

「うん、どうしたのルイセちゃん?」

何だか言いにくそうなルイセちゃん。

「幾ら最前線から離れてても、戦ってる最中だから、ボーーッとするのは止めた方が良いよ?」

「えっ?アタシ、ボーーッとしてた?」

「うん……」

うっわぁ……アタシってばこんな戦場で……こんなポカしちゃうなんて、アタシの馬鹿馬鹿!!
そうだ、今は作戦中なんだから!!
気を抜いちゃ駄目よミーシャ!!

「ありがとうルイセちゃん!!アタシ、頑張る!」

「うん!頑張ろう!!」

そうしてアタシ達は再び、魔法で援護していくのでした。

「……ミーシャちゃん」

「なんか私、頭が痛くなってきたわ……」

「仲が良い証拠なんでしょうけど……」

「……なんで、声に出てるって一言が言えないのかしらね?……まぁ、考えても仕方ないか……私たちも援護に戻りましょう」

「ええ、そうですね……」

********



戦況は膠着している……それを演じている訳なんだが。

ちなみに、前衛組は互いの名前を呼ぶのを禁じています。
名前から身元が割れる可能性があるからな。

後衛組は敵が近付かない限り、そういう縛りは無しだけど。

さて、さっき戦いが拮抗していると言ったが、俺が徐々に弱っていく感じに見せている為、あちらさんは有利に感じている筈……。

実際は余裕なんて有り余っているが、息も絶え絶え……という演技をする。

人間の心理とは不思議な物で、僅かでも期待感があればそれを求めてしまう……。
ギャンブルにのめり込む者が良い例だ。
決して勝ち目が無いと理解はしていても、甘い汁がそこにあればコロッと気持ちが傾く。
もしかしたら……きっと……多分……。
そんな感じに流されてしまう。
以前、諦めないことが人間の長所……と言う話をしたが、これは長所であると同時に短所でもあるということだ。
まぁ、欲が絡むか絡まないかの違いはあるがね。

しかも今は数の有利に頼ってしまう状況なので尚更だ。
フェザリアンは徹底的な合理主義……しかしフェザリアン程では無いが人間にも同じことが言えるわけだ。
相手が疲労困憊、仲間が良い様にやられたという憤りと怒り、そして数で勝るという優位性……。

「倒せる……倒せるぞ!!」

この状況でこんな台詞を誰かが吐けば、周囲はイケイケモード突入だ。
その勢いは素早く伝染し、強い士気を生む。
共通の敵なんてのがいると更に宜しい。

ロープレの魔王に挑む勇者なんかが、正にそれだ。

この場合、俺が魔王役なのが微妙に悲しいが……ウェーバー将軍が近づいて来てるし、頃合いだな。

俺はむりくり逃げ道を塞ぐ敵を叩き飛ばす。

「くっ……よもやランザックごときに遅れを取るとは……覚えていろ!この借りは必ず返してやる!!撤退だ!!!」

俺は高らかに撤退を宣言し、上空にマジックアローを放つ。
撤退の合図だ……どうやら気付いた様だな。

ルイセ達から順に森の中へ引き上げていく……。
さて、ここでもう一つ手を打っておくか。

俺はふらつきながら、その場を走り去ることにする……。

「逃がすな!!追え!!」

指揮官らしき上級兵が指示を飛ばす。
本来、ここは深追いをせずに本隊と合流するのが常策なんだが、集団の意思が場を支配しており、自身も正常な判断力を削られている様だな……。

こうなったら総指揮官であるだろう、ウェーバー将軍が来ない限りは流れは変わらんさ……!

「後は三十六計逃げるに如かずってね!!」

ルイセ達はカーマイン達との合流後、テレポートでトンズラしてもらうことになっている。
ルイセの魔力波動も感じたから、間違いなくテレポート出来たのだろう。

俺はなるべく敵を引き付ける為に、逃げ回る。
無論、加減してだ。
全力疾走なんかしたら、問答無用でぶっちぎってしまう。

さて……恐怖を味わって貰うとしますか。

*******



我々はローランディア軍の後方に出て、強襲した。
ローランディア軍はこちらの意図が読めずに、防戦一方だった……ここにバーンシュタイン軍が攻め込んで来れば、挟撃作戦は成功していた……筈だった。

しかし、一向にバーンシュタイン軍が攻め込んで来る気配が無い……そこに伝令がやってくる。
いわく、バーンシュタイン軍は王都側に引き返したのだと……。

「どういうつもりだ……お前は後方の部隊にもこのことを知らせに行け!」

「ハッ!」

しばらくして伝令が戻って来て、驚くべき知らせを持って来た。

「将軍!!後方部隊が、バーンシュタイン軍の襲撃を受けています!!」

「な、何だと!?」

もしや、最初からこういう腹積もりだったのか!?

バーンシュタイン軍が我々を嵌めたというのか……!

「バーンシュタイン軍の規模は?」

「見た所、10名程の先遣隊の様です……いかがいたしましょう?」

……我々は退路を断たれている。
ならばローランディア軍か、バーンシュタイン軍を突破しなければならない。
俺は数の少ないバーンシュタイン軍の先遣隊を突っ切ることを決めた……その方が兵の被害も小数で済むだろう。

「全軍反転!バーンシュタイン軍を突破してこの場を脱出する!!」

我々を裏切ったバーンシュタインを討つ!!
本隊を引き連れて現場に向かった俺が見たのは、異様に戦意が高まった兵士、そして肝心のバーンシュタイン軍はどこにも居なかった。
あるのは地に刺さったバーンシュタイン軍の旗。

近くの兵に聞くと、幾つかの部隊が追撃しているとか。


「追撃を中止しろ!これは罠」

その時、森の方から幾つもの悲鳴が聞こえたのだった…。

********



さて、俺は超遠距離にある高台から迷いの森を伺っております。
ランザック軍の兵士の皆さんがぞろぞろと……。
お〜お〜、自信満々って面だわ。

なんつーか、狩人の顔?
自分達の有利を決して疑わない顔とでも言いましょうか……。

何で分かるのかって?
見えるからですよ。
俺のこのチートボディならこれくらい造作も無い。
目を凝らせば遠くを見渡せ、耳を澄ませば話し声も聞こえる。

某史上最強の師匠の強化版……と思ってくれれば間違いない。
あの人達はその化け物じみた視力を駆使して、口の動きを読んでいたからな。
読唇術って奴だな。
視力に限って言えば赤い弓兵でも可。
あれは魔術で視力を強化してるんだっけか?

ランザックの皆さん、余裕ありまくりみたいなんで、俺はマジックガトリングIN手加減バージョンを放つことにする。
これは喰らっても痛いくらいで、死にはしない……それくらいの威力に抑えている。

「そんな訳で、そぉい!!」

ドガガガガガガガガガッ!!!

無数の魔力の矢群はランザック兵に雨の様に襲い掛かる。

「な、何だ!?」

「がっ!?こ、これはマジックアローか!?」

「敵の増援か!?グハァッ!!?」

連中は森の中で視界がさして効かず、オマケにこの距離だ。
連中に距離と場所は特定出来ず、急にマジックアローが雨の様に上から降り注いだ様に見えるだろう。
マジックガトリングは数が膨大なマジックアローだからな……術式や俺の詠唱姿を見られなければ、多数の術者が自分達に向かってマジックアローを唱えて来たと思うだろう。

更に、俺は自分の声が聞こえる場所まで瞬時に距離を詰める。
……俺のチートボディのスピードはパネェ。

超加○や、クロッ○アップを使われても余裕で対処出来そうだ。
流石にその上位版のハイパーなクロッ○アップや、某魔法先生の全身雷化は…………何とか出来たりして。

ハハハハハ…まさかな?
いや、実際それらに相対したこと無いから分からんがよ……なんか感覚的に無理だと言い切れ無いんだよな。

……俺、生まれる世界を間違えたんじゃ?

orz

……とにかく、俺は声が聞こえる距離まで来た後、こう言ってやる。

「……貴様達は完全に包囲されている。観念するのだな……」

そして、元の高台に移動!!
そこから再び様子を伺う……何と言うことでしょう。
皆さん、先程の様子とは裏腹にテンションがた落ちではありませんか。

「く、くそっ!隠れてないで出てこい!!卑怯者!!」

等と言いながら武器を構えてる辺り、流石は傭兵上がりのランザック王国軍兵士。
たいした胆力だと思う……震えながら言う台詞では無いとは思うが。

あと一押し……って所か。

「てな訳で、もういっちょそぉい!!」

俺は再びマジックガトリングIN手加減バージョンを放つ。

ドガガガガガガガガッ!!!!

「「「「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」」

「お〜お〜、逃げてく逃げてく……指揮官のいない兵は脆いのぅ」

と、某封神演○の某道士風に言う俺。
モチ、ジャンプ仕様の奴な?
まぁ、俺には白いカバ君もいなければ、宝貝も持ってないけどさ。

「……っと、そっちはトラップゾーンだのぅ」

そう、俺はローランディア方面、ランザック方面以外にトラップを仕掛けていたのだ。

ザッ!バヒューーン!!

「ん?なん…だああぁぁぁぁぁぁ!!?」

ある者は足から縄で逆さ吊りになり……。

カチッ!ベチョン!!

「な、何だこのベタベタした物は……!?ぬおおぉぉぉ!?と、取れん!!?」

ある者は俺特製、トリモチ君の餌食になり、木に貼り付けられたり……。

ドゴッ、ヒューン……ボチャーーン!!!

「ゴボッ!?ぷはぁ!!お、落とし穴……って、ニンニク臭ぇ!!?ネギ臭ぇ!!?」

某魔法先生の親父である英雄殿が、キティちゃんに使った大人げ無くてえげつないトラップを参考にしたトラップに掛かる者など……様々だ。
ちなみにこの落とし穴、俺なりにアレンジを加えてあって、自力では這い上がれ無い位深く、水を溜めてあるという点は全く同じだが……俺は予めネギは刻み、ニンニクはすりおろして水へ大量にぶち込んでおいたのだ。
その上で密封。
手間や労力が掛かり、使われた材料を勿体なく感じたが、それらを代償に得た効果は絶大だ。

「鼻が!?目が、目があぁぁぁ!?」

良い子の皆は、玉葱を切ると何で涙が出るか知ってるかい?
それは玉葱にはそういう臭い成分が含まれているからなんだ。
そして、それは葱にも含まれている成分なんだ。
葱を切ってて、同じ様に涙腺が刺激された人も居る筈だ。
葱にしろ玉葱にしろ、よく切れる包丁があれば基本は問題無いんだけど。

まぁ、そんな訳で落ちた彼の冥福を祈りつつ。
改めて思うが、幾ら指揮官がいないとは言え脆過ぎる。
それだけウェーバー将軍が優秀だと言うことなんだろうが……。

何故こんなトラップ群を仕掛けたのか?
それは嫌がらせのためさ!!

いや、それは冗談だがな?

とりあえず、幾つか目的はある。

バーンシュタインはランザックを、鼻糞程にも思ってないんだぜ!
という意思表示。

逃げる為の時間を稼ぐため……。

この二つはダミーの理由。
脳筋のランザック兵達は仲間がやられた上(気絶させただけで死んでません)これだけコケにされれば怒り心頭だろう。
(だが、既にバーンシュタインの仕業ということは印象付けており、こんな駄目押しは本来不用だったりする)

しかし本当は包囲などしておらず、逃げる時間を稼ぐ為だったのだ!
……という筋書き。
実際、ウェーバー将軍なら、このトラップ群は時間稼ぎにしか過ぎないことは見破るだろう……だが、そこまでだ。
『逃げる時間を稼ぐ』という行動自体がダミーとは――見抜けないだろう。
ウェーバー将軍は確かに優秀だが、それだけだ。
戦闘力、指揮能力は一級品ではあるが……決して軍師の様な知謀の人では無い。
故に見抜け無い。
優秀であるが故の固定概念があるために……。

そもそも、俺は時間稼ぎなんかしなくても逃げられる。
ならば何故こんな工作をしたのか……ウェーバー将軍をごまかす為、不信感をごまかす為……そして――万が一にも正体がバレない様にする為。

ウェーバー将軍に対することに関しては前述の通りだから省くが。
もし仮に俺が何の対策もせずに逃げればどうなるか?
逃げ足の早い奴だ……で、済むかも知れない。
しかし、追い込んでいた筈の相手が何故機敏に動けるんだ?
と、疑問に思われるかも知れない。

その疑問を逸らす為に『隠された必死さ』を演出したって訳だ。

んで、正体に関してだが……俺をよく知る奴、少ししか知らない奴でも、俺がこんな狡い作戦を使うとは思わないだろう。
事実、俺もトラップとか使うのは初めてだし。
まぁ、トラップに嵌まっていく姿は見ていて面白かったが……。

「っと……噂をすればウェーバー将軍」

本隊を引き連れてウェーバー将軍が救援にやってきた。
気配から森の入口辺りまで来ていたのは知っていたが……。
トラップを免れた兵士が助けを求めたんだろうな。

さて、成り行きを見守るとしますか。

「し、将軍!!」

「落ち着け!これは敵の作戦だ!!」

「作戦……ですか?」

「恐らく、敵は逃走する時間を稼ぐために罠を仕掛けたのだろう……でなければ、こんな馬鹿にした様な罠ではなく、殺す様な罠を仕掛けているだろうからな。周囲を包囲したというのもハッタリだろう……援軍は来たのかも知れないが、それは味方を逃がすため。そして我々が追っていた奴も上手くそれを利用して、逃げおおせたのだろう」

「ならば、今すぐ追撃を」

「いや、深追いは出来ん……この罠は警告に過ぎない。これ以上追うなら、こんなモノでは済まさない……というな。この先にはより危険性の高い罠が仕掛けられているかも知れん……俺にはこんな生易しい罠だけには、どうしても思えなくてな」

どうやら、何か勘違いしているみたいだな……。
こちらにとっては好都合だが。
結局、ウェーバー将軍率いるランザック王国軍は、王都に帰還する様だ。
なんでも、王に指示を仰ぐとか。

フフフ……ウェーバー将軍、貴方は確かに優秀だ。
だが、それ故にコチラにはプラスとなった。
ありがとう。
おかげで計算通りに事が運べたよ……。

これがどうしようもない馬鹿……あるいはコ○ン君並の灰色の脳細胞を持った奴が相手なら、こうは行かなかっただろう。
前者なら追撃を掛け、後者ならダミーの情報を見抜いた筈だ。

ほどよく優秀な将軍なればこそ、上手く引っ掛かったと言える。

俺はランザック軍が完全に撤退したのを見届け、迷いの森に仕掛けたトラップを解除、もしくは破壊。
その後テレポートで待ち合わせ場所に向かったのだった。

で、ラージン砦の指令室。

「よっ、お待たせ」

指令室には皆が揃っていた……当たり前だがブロンソン将軍も一緒だ。

「お疲れ、どうだった?」

「バッチリだ」

ラルフに問われ、俺はサムズアップで答える。
そして皆に細かい部分を説明する。

「成る程……」

「これはウェーバー将軍が勘違いしてくれたから……って言うのもあるけどな?」

「だが、それも計算づくだったんだろう?……本当、味方なら頼もしい限りだぜ」

カーマインが納得して頷いてる。
俺は更にそこへ補足を付け足す。
ウォレス……それは敵だった場合を仮定したりしたってことかね?

「まぁ、褒められて悪い気はしないが……運の要素も多分に含まれていたから、胸を張る気にはならんな……」

「そんなに謙遜することないのに……」

「そうだよ、シオン。シオンは頑張ったじゃない」

ティピとリビエラがそう言うが、俺としては大したことをしたつもりは無いし、褒められることだとは思っていないからな。

「それより、ブロンソン将軍。ローランディア軍の被害はどれほどだったのですか?」

「防戦に徹したことと、君達が頑張ってくれたおかげで、最小限で済んだよ……本当に君達はたいしたモノだよ!」

将軍はそう言ってくれるが、言い方を変えれば、最小限とは言え被害を出した……ということになる。
やり切れないな……。

――やり切れないとか思っている時点で、俺は策士には向かないと――改めて感じてしまう……。

「シオンさん……無理しないで下さいね……?」

「……ん、大丈夫だよカレン」

どうも一瞬悲痛な面をしたのを見られたらしい。
いかんな、俺がしっかりしなければ。

「さて、じゃあとりあえず王に報告に行くか!」

「その前にこの服を着替えようよ」

「そうだね」

ゼノスの提案に待ったを掛けたミーシャとルイセ。
まぁ、いつまでもシャドー・ナイトルックでいるのもアレだしな。
俺達はそれぞれ元の服装に着替え、砦を後にして王都へ向かうのだった。

*******

オマケ。

もしもシオンが中身太○望チックなら……。

俺はランザック兵の皆さんにマジックガトリングIN手加減バージョンを放つ。

「そぉれ!喰らうがよい!!」

ドガガガガガガガッ!!!!

「「「「うわああぁぁぁぁぁ!!!?」」」」

「フハハハハ!愉快痛快!!やはり主人公はこうでなくてはのぅ!そうれもう一発!」

ドガガガガガガガガガガガッ!!!

「ああ楽しい!楽しすぎて背景に華が咲きそう!!」

泣きながら笑っている俺の背景に薔薇っ!って感じに華が咲き乱れるのだった。
次はトルネードでもいってみるかのぅ!
ダァハッハッハッハッ!




[7317] 第79話―同盟工作と死の商人再び―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/11 17:05


現在、俺達は謁見の間にて、事の顛末をアルカディウス王に説明している。

「これでバーンシュタインとランザックの同盟も決裂かと……」

「よくやってくれた。本来ならばこの働きを評価し、休暇を与えるところだが、今は事態が事態だ。もう一働きしてもらうぞ」

カーマインの報告に満足気に頷く王……しかし、もう一働きして欲しいという。

「どんなことですか?」

「お前たちに以前頼んだ、ランザック王国との同盟の件だ。ランザックが我が国に進攻して来た理由を尋ねる……という大義名分もある。そこでお前たちには我が国の特使として、ランザックに赴いてもらいたい」

「もうバーンシュタインの目を気にする必要もないもんね♪」

やはり同盟の件か……最低でも不可侵条約は取り付けなければ、三つ巴の争いになるからな……。
出来れば王位奪還を手伝って貰える様に持っていく。
そこはあまり心配せんでも行けそうだけどな。
上手く交渉してみるさ。

と、カーマインが書簡と通行証を渡された。
ランザック王への書簡と、ランザック王国発行の通行証だ。
どうやら王様はカーマイン達のことを思い、通行証を入手していたらしい。

了解の意を示した俺達は、簡単な話し合いの結果――ランザック……の手前のガラシールズに跳ぶことを決める。

何故ガラシールズなのか?

ルイセは勿論、実は俺もランザック王都には行ったことが無い。
故にテレポートが使えない――。

それに――気になることもあるから、むしろガラシールズに立ち寄るのは渡りに船だ。


――大分、原作から離れたとは言え、奴が暗躍しているのをこの眼で見たからな――。

三国が対立している状況……考え様によっては、死の商人にとっては最高の稼ぎ時になる。
……あのグレンガルが黙って見過ごす筈が無い。

まぁ、杞憂で終わるならそれに越したことはない。


実際、原作とは違って遺跡を起動させなかったり、グレンガル達も事前にボコッておいたから……原作通りに進むとは思えんし……。
――だが、グレンガルの性格から考えて、同盟を結ぼうとする俺達を妨害する為に何かをしでかす可能性も又――否定出来ない。

ソレを確認する為、例えランザック王都にテレポート出来たとしても――俺はガラシールズに向かうことを提案しただろう――。

「ってなワケで――ルイセ、頼むな?」

「うん、それじゃあテレポートするよ」

――こうして、俺達はルイセのテレポートでガラシールズへと跳ぶのであった――。

***********


「止まれ!」

「な、何よ?」

――案の定、ガラシールズの入口までやって来たら番兵に見付かってしまった。

ティピなんか、めがっさ焦っています。
多分、裏工作したのがバレた!?
とか考えているんだろうなぁ……。

「貴様ら、何者だ?何の目的でここへ来た?」

「俺たちはローランディアの者だ。アルカディウス王の書簡をランザックの王に届ける任務で来た」

「ついでに、いきなり我が国を襲ってきやがった説明をして貰いに……な?」

ウォレスとゼノスがそれぞれに事情を説明する。
ゼノスなんかは、少し威圧感込みで話す。

しかし、何やらランザック兵は怒り心頭のご様子。

「……お前たちか!?よくも我が軍の兵を殺してくれたな!」

「えっ?」

「とぼけても無駄だ!この街で次々と我が同胞が殺されている!お前たちがやったのであろう!」

あ〜……やっぱり暗躍してやがったか。
あのハゲめ……。
空気がピリピリしているから、もしやとは思ったが……。
原作の展開ならいざ知らず……本当にランザック兵を殺っていない俺達からすれば寝耳に水な話だ。
ルイセも困惑している。

「そんなことしてないよ!本当に王様からの書簡を届けに行くだけなのに!」

「ならば証拠を見せてみろ!」

「……正規の通行証だ。文句はないだろう?」

異議を唱えるティピに、証拠の提示を要求するランザック兵。
そこでカーマインは、アルカディウス王から預かったランザック王国発行の通行証を提示する。

「……うむ……少し待っていろ。おい、隊長を呼んできてくれ」

「了解!」

そう頼まれた番兵の一人が走り去っていく。
責任者を呼びに行ったんだろう。

「疑り深いなぁ!」

「戦争中だからね……仕方ないさ」

ティピが愚痴るのをラルフが宥める。
確かに戦争中なんだから、他国に警戒を抱くのはもっともなことだ。
特に三国がそれぞれ敵対する様な現状じゃあな……。

「アンタらは大方、ローランディアが復讐の為に兵を殺害した……とでも思っていたんだろうが……幾ら何でもソチラさんの事情も聞かずに、そんなことはしないっての」

「むぅ……」

俺は番兵と話し込んでいる。
ローランディアの潔白、その理由……等だ。

「俺達は戦争なんて、しない方が良いと思っている……だから特使としてここに来ているんだぜ?それなのに、対立を促す様なことをすると思うかよ?」

「……それはそうだが……」

実際に裏工作はしたが、一人も殺ってないのだから、そういう意味では間違いなく潔白だ。
俺はみっちり交渉した……そのおかげか、番兵二人のピリピリした雰囲気は無くなった。

「……シオン」

「ああ、分かってる……」

どうやら薄汚い殺気が漂ってるみたいだな……。
ラルフも気付いたみたいだし。

「?二人ともどうしたの?」

「いや、何……犯人は意外と近くにいるモンだな……ってね。隠れてないで出て来たらどうだ?」

リビエラの疑問に答えた後、近くに潜んでいた連中に声と若干の殺気を叩き付ける。

「……よく分かったな?」

出て来たのはグレンガルと、雇われた盗賊らしき連中。

「!?貴様、何者だ!」

「何者だと?お前たちを既に死んだ仲間に会わせる、案内役ってところだ」

「貴様が、同胞を!!」

グレンガルが律義に説明している。
周囲を囲まれたが……幸い、俺達はランザック兵から離れなかったので後方に庇う形が取れた。

「あ、あの人って……」

「……あっ!確か盗賊の……」

「だよね!?…でも、あの人は確か、インペリアル・ナイトの人に殺された筈じゃあ……」

ルイセとティピはびっくりしている……他の面子も多少なりとも同じ様だ。

「ほほう、お前ら弟のことを知ってるのか?」

「弟……?」

「ゴチャゴチャ話すつもりはねぇ……ローランディアとランザックの同盟なんて、される訳にはいかんからな……」

カーマインが疑問に思うが、向こうは問答無用の様だ。

「どうも、狙いはアンタ達で、奴らはアンタ達を殺した後、俺達に罪をなすりつけるつもりらしいな……そんな訳で街に戻っててもらうと助かるんだが?」

「断る!今まで殺された仲間の仇を討つ!!」

やっぱりな……気持ちは分からなくは無いが……。
しかし、流石は脳筋と名高いランザック兵……もはや俺達をかけらも疑ってないみたいだ。
少し頭が冴える奴なら、こいつらグルでは無いか……と疑う様なモノだが……。

「仕方ない……ならば」

俺は一瞬の内にグローアタックとグロープロテクトを掛ける。

「!?身体に力が……」

「これで多少は違う筈だ……俺達も協力する。思いっきりやっちまえ!!」

「!かたじけない!!」

こうして戦端は開いていく。
メンチビーム……気当たりは使えない。
グレンガル辺りに正体を悟られる可能性が出てくるからな……。
まぁ、己の私利私欲の為に人を殺し、戦争を長引かせようと画策する奴を相手に――容赦をするつもりは微塵も無いがね?

数は……僅かにこちらが上だな……って、もう勝負は決まったみたいなモンじゃないか。
質で俺らを上回ることなんて出来ないだろうし、その上、量もこちらが上回ってるとなると……。

「ハァ!」

「フッ!」

「だぁりゃああぁ!!」

「セイッ!!」

ズバッ!ザシュ!!ザンッ!ズシャ!!

上からラルフ、カーマイン、ゼノス、ウォレス。
この四人だけでほぼ全滅……。
ちなみにグレンガルは……俺が援護し、ランザック兵二人組にぼこられ……。

「やるじゃねぇか……だが、まだやられるわけにはいかねぇんだよ!後は任せたぞ!!」

と、言い残し、早い段階で部下に任せてトンズラこきやがりました。
追っても良かったんだが……変な疑いを掛けられたくないから自重した。

「……今まで人を殺し過ぎた罰って奴か……さっさと殺しな」

とか言う潔い奴も中には居た。
俺はそいつを縛り上げ、兵に引き渡した。
無抵抗の奴を斬る趣味は無いからな……。
それに実行犯が居たという生き証人になる。
……っと、こっちに気配が二つ……多分、警備隊の隊長とそれを呼びに行った奴だろう。

「こっちで物音があったぞ?何があった?」

「隊長!実は我が同胞を襲っていた連中が現れまして……」

「何だと?それでそいつはどうなった?」

「彼らと共に戦ったのですが、主犯格の男には今一歩のところで逃げられてしまいました……連中の内の何人かは捕らえたのですが……」

悔しそうに言うランザック兵……そりゃあ、仇を取れなかったのだから仕方ないが……。

「そうか……では、お前はその捕らえた奴らを、詰め所に連れていけ」

「了解!」

こうしてランザック兵Aに連れられて行く盗賊達。

「私の部下が世話になったようだな」

「いえ……」

「どうやらさっきの奴は、ランザックとローランディアを仲違いさせようとしていたようだな…事情が事情だ…下手をしたら互いの溝を更に広げることにもなっていただろう」

警備隊長の言葉に恐縮するルイセ。
そして、いけしゃあしゃあと言うウォレス。
実際には俺達もバーンシュタインとランザックの仲を違えさせたのだから、正に棚上げだ。

「ふむ……そういえば、お前たちはアルカディウス王の使いであったな?」

「ああ……ここに書簡もある」

警備隊長に書簡を提示して見せるカーマイン。
それを見て警備隊長も納得した様だ。

「では、通ってくれ」

そう言って道を空けてくれる。

「よかったね」

「一時はどうなるかと思っちゃったわよ」

「とにかく、これで先に進めるな……シオンが気になってたのはこのことなんだろ?」

「気付いていたのか?まぁ、気掛かりも拭えたし……じゃあ、ランザック王都に向かうとしますか!」

皆がそれぞれに安堵する。
ゼノスの問いについては正にビンゴなので、素直に肯定しますがね。
その後、再び通行証を提示して先に進む。

すると盗賊っぽい連中が群れていた。

「ランザックの追っ手か!?野郎どもやっちまえ!!」

何か勘違いして襲い掛かって来た。
マトモに相手してやっても良いんだが、面倒なので……そぉい!メンチビーム!!

シュミーンシュミーン!!!

ブワッ!!

「「「「ひいぃぃぃぃぃぃ!!?」」」」

バタバタバタバタ!!!
全員見事なまでに気絶……そこを全員縛り上げる。

「なんなんだろう、この人たち……」

「どうせ、さっき戦ったグレンガルの手下でしょ?これも世のため人のため。ザコはそういう運命をたどるのよ」

「いや、ティピちゃん…まだ皆生きてるってば」

ルイセの疑問に答えたティピだが、その物言いにツッコミを入れたのはミーシャ。
あのミーシャが!?
ざわ……ざわ……とか、効果音がなりそうだ。
まぁ、ミーシャは完全なボケ的立ち位置だからな…仕方ないっていえば仕方ないか。

「で、どうするの?」

「まぁ、このまま放置は出来んよなぁ…」

リビエラの問いに答えた俺。
結局、気絶した盗賊達をガラシールズの詰め所に連れていき、兵士さんに引き渡してから、再びランザック王都に向かうのだった……。




[7317] 第80話―同盟締結とGLチップス―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/11 17:23


さてさて、やってきましたランザック王都。

その街並みは、『元の世界』で言えば中東辺りの建築様式を彷彿とさせる物だ。
バーンシュタインやローランディアの様に、整然とした建築様式では無い。

ある種、乱雑とも言われる街並みはしかし――王都と言われるだけの人々と活気に満ち溢れていた――。

……戦争中なのに、これだけ活気があるとはなぁ……。
というより、ランザック国民は三国が戦争状態にあることを知らない様だ。
多分、戒厳令でも敷かれているからなのだろうが……。

あ、帰りにスキマ屋に寄ってGLチップスを買わなければ。

いやしかし、王都と言うだけあって中々広い!
原作では狭かったが、実際は王都と呼ぶに相応しい広さだ。
まぁ、バーンシュタインやローランディアに比べたら、質素な感じの建築様式だが……俺としてはこっちの方が、シンプルで良い。

「にしても……改めて思うが、この辺りは本当にグローシュが少ないな」

ガラシールズも少なかったが、ランザック王都はそれに輪を掛けて少ない。

「そうだね……ランザックに魔導師が殆ど居ないのは、これが一因しているのかな?」

「それが全てでは無いけれど、要因の一つであることは確かだよ」

などと話すのは、ラルフとルイセ。
まぁ、単純にランザックが傭兵王国だったというのもあるが。
そんな周囲の条件が幾つも合わさり、『魔導師が育ちにくい環境』を作り上げてしまったのだろう。

そんな風に会話をしながら――やって来たのはランザック王城。
こっちまでは、ボスヒゲを警戒して来なかったからな……俺も初めて見るが……。
バーンシュタイン城やローランディア城とは違い、質実剛健といった感じの城だな。

「止まれ!身分のわからぬものは中へ入れるわけにはいかん!」

等と感心していたら、門番に見つかりこう言われた。

「これが我々の身分を証明する物だ」

そう言ってカーマインが提示したのは、ランザック王への書簡。

「これは……」

「我々はローランディア王国からの使者だ。ここにアルカディウス王がしたためた書簡がある。これをランザック国王に渡し、説明をするのが我々の役目だ」

書簡を門番に渡す。
ちなみに、原作では今の様な台詞を言ったのはウォレスだが、今のはカーマインが言いました。
何と言うか、カー君は頑張っています。
一応、このパーティーのリーダーだからな。
時々、俺やウォレスがしゃしゃり出たりするが。

「では、今しばらく待たれよ」

そう言って駆け出して行ったランザック兵。
多分、王に指示を仰ぎに行ったのだろう。

それからしばらくして、兵が戻って来た。

「国王陛下がお会いになられるそうだ。入られよ」

こうしてランザック王城に入ることが出来た俺達は、直ぐさま謁見の間へ向かうことにする。
道中、バーンシュタインに騙されて、酷い目にあわされたという声をチラホラ聞いたり。
騙されて……という部分を幾らか強調していたのは、この上ローランディアとまで事を構えるわけにはいかないという気持ちの現れだろう。
意図的かそうでないかは分からないが。

よく見ると、俺のトラップに翻弄された連中も何人かいた。
内心で謝罪しつつ、謁見の間に到着。

「そなた達がローランディア王国からの使者か?遠いところ、ご苦労だったな」

ランザック王との面会を果たす。
王の威厳もあるが……何と言うか、人が良さそうな感じだな。

「書簡は読ませて貰った。今回の件、全て承知した。この書簡をアルカディウス王に届け、互いに不可侵とする同盟の件、そしてバーンシュタインへの王位奪還作戦への協力……確かに了承したと伝えてくれ」

「かしこまりました」

そう言われ、兵から『ランザック国王からの書簡』を渡されるカーマイン。
どうやら、同盟の件やエリオットの件など全てが書簡に書かれていたらしい。
しかも、エリオットの件……特にジュリアン軍に関しても上手い具合に書いてあるらしく、俺の交渉はいらないみたいだ。

「さて、今回ローランディアへ進攻した件への説明だが……正直、弁明のしようがないと思っている……」

ランザック国王は全てを明かす。
バーンシュタインと同盟を結び、ローランディアへ挟撃作戦を展開しようとしたこと……そして、実際はバーンシュタインに嵌められたことなど……。

「……バーンシュタインは脅しを掛けて来たのだ……協力しないのならば、最初にランザックを潰すと……国民を危険に曝す訳にも行かず……」

それはローランディアを相手にするにしても同じじゃないか?
……と、言いたいが、残念ながらバーンシュタイン軍の地力は他国を上回る。
インペリアル・ナイツを抜きに考えてみても、軍隊としては三国一の練度であり、擁する兵力も一桁は違う。
そんな国に脅迫紛いの交渉なんてされるんだから、ランザック国王としては頷くより他なかった訳だな。

ローランディアがもっと早く…それこそバーンシュタインより早く交渉を進めていれば、また少し違ったのかもしれないが……まぁ、過ぎたことを考えても仕方ないか。

幸いと言って良いか分からないが、ランザックは宣戦布告をしていない。
それゆえにランザックが進攻してきたのを知るのは、ローランディア軍の前線部隊、王などの一部の人間のみ。
だからこそ、民に悟られることは無い。

……この状況を作ったのは俺らなので、少々良心回路が痛む……。

書簡には、互いの禍根は水に流して手を取り合おう的なことが書かれていたらしく、それについても説明された。

とにもかくにも、同盟は無事締結したってことだ。
俺達は謁見の間を後にする。

「とりあえず、ランザックとは友好関係を保てそうだな」

「ああ、そうだな」

ウォレスとカーマインの言う通り、ランザック国王がアルカディウス王並に『いいひと』だったというのと、ローランディアへの後ろめたさ等の様々な要因が後押ししてこういう結果になったわけだな。

「まぁ、俺が交渉するまでも無かったな」

「けど、逆に良かったんじゃねぇか?」

俺の言葉に答えるのはゼノス。

「?なんでだよ?」

「シオンは将来、その立場上、新バーンシュタインに仕えるんだろ?なら、変な印象持たれなくて良いじゃねぇか」

ゼノスよ……それは確定事項なのか?
俺としては、出来るならのんべんだらりと暮らしたいんだが……無理だよね?
うん、理解してる。
てか、変な印象ってなんだ?

「……ん?ウォレス……?ウォレスなのか?」

「その声は……ウェーバーか?」

俺達が話し込んでいる間に、ウェーバー将軍がやってきていた。

「やはりウォレスか。しかし、どうしてここに?それにその格好は……」

「詳しく話せば長くなるが、団長を探している間に、俺は両目と利き腕を失っちまった。この義眼と義手はこいつの母親に作ってもらったんだ。そのお礼と、リハビリを兼ねて、今はこいつらと行動を共にしている」

そう言ってカーマインを指し示し、簡略な説明をするウォレス。

「そうか。ここ10年ほど連絡がなかったと思えば、そんなことになっていたのか……」

「すまないな、ウェーバー。団長を探すなんて勝手なこと言って、お前に部下を押し付けちまった……おまけに、まだ団長は見つからねぇどころか、俺はこんな体に……」

「お前にも辛いことがあったんだろう。気にするな。それよりお前の所在が分かって良かった」

この二人、仲が良いな。
まぁ、かつての副団長同士だし、なにより性格的にも相性が良いんだろう。
……まぁ、ただの美談では済まないのがお約束であり……。

「ところでガムランはどうしてる?奴とはまったく会ってないからな」

原作でも思ったが、知っているのにこんな揺さ振りを何故掛けたのか……多分、戦友の『応え』を知りたかったのだろうが……。

「……実は」

ウェーバー将軍は話す。
同盟交渉に来たのが、正にそのガムランだと。
そして、ローランディアに攻め込む様に唆されたのだと……。

ちゃんと話した理由は、隠す必要が無いからだろう。
一般市民には隠さなければならないかも知れないが、ランザックの襲撃は確固足る事実であり、軍部には知られているのだから。

「……本来、俺はこうしてお前と顔を合わせる資格は無いのかも知れないが……」

「気にするなウェーバー……戦争中だからな、仕方ないさ。さて、俺たちはまだ仕事があるから、ローランディアに戻る」

「ああ…また機会があれば、会おう」

そう言ってウェーバー将軍は謁見の間の方へ向かった。
原作では事実を隠されたウォレスは、どこか淋しげだったからな。
今のウォレスは微かに笑みを浮かべている。

良かった……かな?

まぁ、裏工作したのは俺らだから、それを棚上げしての話になるんだが。

こうして俺達は任務を果たし、ローランディアへ……戻る前にスキマ屋へ寄り、GLチップスを大人買いした。

なんか皆の視線が痛い………なんだよその目は?

「言いたいことがあるなら、言って良いぞ?」

「シオンさん……大人げない……」

「シオンってそういう趣味だったのね……いや、否定なんかしないけどね?」

ミーシャとリビエラが視線を向けてくる。
他の面子も似た様な視線だ……なんつーか、哀れみを含んだ視線と言うか……生暖かい視線と言うか。

「お前ら何か勘違いしてないか……?」

俺は説明する……以前、ラシェルに入院している女の子をお見舞いしに行った時、GLチップスに着いてくるオマケカードの話になり、そのオマケカードの中でも特に、インペリアル・ナイトであるアーネスト・ライエルのカードを欲しがっていた……ということを。

「だから、別段俺がカードコレクターとか、そういう訳じゃないんだよ……ご理解戴けたかな?」

「は、はい……ごめんなさい……」

カレンを皮切りに、皆さん謝ってくれました。
まぁ、分かってくれれば良いんだけどな。
これで理解してくれないなら、『お話』しなければならなくなるからな……。

そんなこんなで、テレポートでローランディアに戻る俺達。
そして直ぐさま、ローランディア王城――謁見の間へ向かう。

**********

「おお、戻ったな。ランザック王からの返事は、受け取ってきたか?」

「はっ、ここに」

カーマインは文官にランザック王からの書簡を渡し、更に文官が書簡を王に渡す。
アルカディウス王は書簡に眼を通す。

「どうやら、同盟は締結できたようだな。これもお前たちの働きがあったからこそ成し得たことだ」

「国王陛下の書簡のおかげでもあります……こと細かに書いてあったらしいですが」

「毎回その方に交渉して貰うのも悪いと思ってな…これくらいはさせて貰った」

いや、マジでお気遣いの紳士だわこの人……オッサンびっくりだ。

「とにかくご苦労だった。休暇を取り、疲れを癒すと良かろう」

こうして、今回の任務も大成功に終わった。
そして早速休暇を三日くらい貰った訳だが……さて、最初の休暇先は……。

********

オマケーキ♪

「……ふと思ったんだがGLチップスって、どこで、誰が作っているんだろうな?」

「そういう菓子には発売元が書いてあるだろ?」

俺の長年の謎に答えるゼノス……だが。

「確かに書いてある…『スキマ屋産業委員会』ってな」

何このアニメの制作サイドみたいな言い回し?

「産業…委員会?」

「なんか変わった名前ねぇ」

ルイセとティピも首を傾げている。

「しかし…何でそんなことを気にしているんだ?」

「以前、GLチップスを買ったんだ…そしたら」

「そしたら?」

「……オマケのカードがウォレスだったんだ」

「……俺がか?」

俺はカーマインの質問に答える。
実は一袋だけ買ったことがある。
ラルフが先を促したので更に答える。
ウォレスも疑問を浮かべている……どうやらこの謎は尾を引きそうだな。




[7317] 第81話―ベリーメロンと黒い円盤と常識の勉強―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/11 17:33


休暇一日目・王都ローザリア

「夕方になったらここに集合ね」

ティピのその一言で各自それぞれに散る面々。

……さて、俺はどうしようか?
って、リビエラのことをサンドラに言うんだったな……。
本人も交えて話すべきだよな。

とりあえず、俺はリビエラを探すことにした。
お、居た。

「お〜〜い!」

「ん?シオン……どうしたの?」

俺はリビエラに事情を話す。

「……という訳で、一緒に来てくれないか?」

「ん、良いけど……なんだ……一緒に休暇を過ごそうって話じゃないんだ……」

うわっ……心底ガッカリした顔してる。
いや、そりゃあ一緒に休暇を過ごすのも良いけど……。

「まぁ……何だ?やはり状況説明は大事だろ?……その後で良いなら幾らでも付き合うぜ?」

「…ん、分かった。期待してるからね?」

あんまり期待されても困るんだが……何しろデート経験は皆無に近いからな……あっ、ティピとそれっぽいことした様な……ティピと?

カレンでもサンドラでもジュリアでもリビエラでもなく……ティピと。

……なんつーか、色々と順序が逆な気がするんだ……。
今更かも知れないが……。

皆とも、ちゃんとしたデートをしようと心に誓った俺は、リビエラを連れてサンドラの元へ……。
城門を通り、サンドラの研究所へ向かう。

「よっ、サンドラ。研究は捗ってるか?」

「!シオンさん……ええ、おかげさまで順調です」

俺達しか居ないので、俺はサンドラを名指しで呼ぶ。
するとびっくりした様子を浮かべ、直ぐに綺麗な笑みを浮かべて言う。

「実は、今日はサンドラに言いたいことがあってな……彼女のことなんだが」

「初めましてサンドラ様。私はリビエラ・マリウスと言います」

「初めまして……ですね、リビエラ。私はサンドラ・フォルスマイヤー……知っているかも知れませんが、ローランディアで宮廷魔術師を務めています」

互いの自己紹介が済んだ所で、俺は説明する。
リビエラとの出会いとその後……そしてリビエラの気持ちを知り、それを受け入れたことを……。

「ティピがテレパシーで伝えようか?って聞いて来たけど、直接伝えたかったからな……」

「……そうですか、仕方ないですね」

俺とリビエラが全てを伝えると、サンドラはしょうがないですねぇ……と言った感じに苦笑いを浮かべた。

「私は……その、貴方のモノですから……貴方の意向に従います……」

グハァッ!?
そ、そんなモジモジして恥じらいながら――そんなトンでも発言されたら……オッサンやばいんですが!?
ヤヴァイ……ドSスイッチが……。

「……ああ、良い子だ」

とか言ってサンドラの頭を撫でてやる俺……。
サンドラは恥じらいを浮かべつつ、恍惚とした表情を浮かべている……。

やばい……み・な・ぎ・っ・て・き・【ギュ!】ぎゅ?

俺は横を見ると、リビエラがぎゅーっと俺の腕を抱きしめていた……ちょ、おまっ!?

「サンドラ様だけズルイ……私にもし・て♪」

待て、その言い方だと色々誤解される……っていうか胸が……マシュマロみたいなメロンが……!!?

「仕方ないな……リビエラって意外に甘えん坊なんだな?」

そう言ってリビエラの頭も優しく撫でてやる俺。
そうすると、赤くなりながらも表情を緩めるリビエラ。

「……こんなの、シオンだけに……なんだからね?」

オマケにこんな台詞付き……正直、有頂天で怒髪天ですよ?

「そう言ってくれると、嬉しいけどな」

余裕に見える?
いやいや、正直オーバーヒート寸前ですよ?
直ぐにでも押し倒してしまいたいくらいに。
正常な男なら、この状況で暴走モードに突入しない方がおかしい!
なら、何故に俺が耐えられるか……そう!
素数を数えているから!!
素数は俺に勇気を与えてry【むぎゅ】ムギュ?

「……私も、構わないでしょうか?その……私は旅に同行していないので、シオンさん分が…足りないと言いましょうか……」

いや〜〜!?
そんなハニカミながら腕に抱き着かないで!!?
メロンが……撓わに実ったメロンがぁ!!?

や……ばい…素数が追い付かない…理性が……メロン……メロン……ベリー……メロン……。

その時、俺の思考に救世主が舞い降りた!!
そう!
メロン繋がりで降臨した、Vの姿勢が眩しいあのお方だ!!
あのテーマソングを鳴らしながら降臨する。

『まぁったくぅ、情けない奴よぅ』

『ヴィ、ヴィクトリー○様!?』

『メロンとはぁ……メロンに始まりぃ、メロンに終わるのだぁ!!』

『いや、意味分からないし!!?』

『人は……平等では無い……そう、人は二種類存在する……メロンを食す者と食さない者だぁ!オオォォォルハィィィルメロォォォォン!!!』

『いや待て、色々混ざってるし!っていうか、このメロンを食したら即×××板行きだぞ!?』

『シオンよ……お前は何を誓った?』

『!……そうだ、俺は平和な世の中が訪れるまでは『そう、メロンだ!!』って、待てぇい!!』

『……シオンよ、メロンの種を絶やすな……それだけだ。では……おさらばだっ!!』

『……結局、メロンについて語りたかっただけじゃないのか……?』

それは追い詰められた俺が見た、幻覚だったのか……所謂、電波だったのかは分からないが、おかげで冷静さを取り戻せたのは確かだ。
この上、セ○や松平片栗○まで混ぜて来たら、ギャラ○ティカマ○ナムを喰らわせてやるところだったが……。

それはともかく。
この思考を走らせている時間は、一秒にも満たなかった。
なので……。

「……分かった。好きなだけ補充しとけ」

等と宣うことも出来た。

「はい……♪」

「それじゃあ、遠慮なく……♪」

こうして、俺の休暇は二人の美女に挟まれつつ、他愛のない会話をしながら過ぎて行ったのだった……。

それからしばらくして、集合時間になり、俺とリビエラはサンドラと別れ、集合場所に向かった。
皆が集合した後、城内に入り文官さんに次の休暇先を指定……帰路についたのだった。

夕食時にルイセがカーマインとかくれんぼをした……という話を聞いた。
原作知識から内容を知っている俺は、カーマインからも真相を聞いてみた。

いわく、ルイセが怖い夢を見て不安になっていた所を、ティピがマスタードクッキーの復讐と称して悪戯をしたのが真相。

というか、マスタードクッキーにしても、ティピが無理矢理奪い取ったのだから、その仕返しはお門違いだと思うんだがなぁ……。

余談だが、就寝時にカレンがやってきて、一緒に寝て欲しいと頼んで来た。
……どうも、リビエラから今日のことを聞いたみたいで、自分にも同じ様にしてほしいとのこと……。
涙ぐんだ瞳で――。

「……駄目でしょうか?」

なんて聞かれた日には断れない訳で……。
一緒に寝るだけで済ませた俺を褒めて欲しい……いやマジで。

そんなこんなで、一夜明けて次の休暇先は……。

********

休暇二日目・魔法学院

テレポートで魔法学院に訪れた俺達は、それぞれに散る。
……さて、俺はどうするかな?

とりあえず校内に入って、図書室で本でも読むか……………ん?

俺は校内に入った途端に感じた……不快な異臭を……。
何だ……この腐臭……というか焦げ臭さは……。

その謎は購買兼学食がある一階にて明かされる……。
あ〜……そんなイベントもあったなぁ……。

そこにはニコヤカに微笑むミーシャ、そしてとっても素敵な苦笑いを貼り付けて固まっているカーマイン、ラルフ、ティピ、アリオストの姿……。
そしてテーブルの上にある焼け焦げた黒い円盤……。

多分、カーマインとラルフが呼ばれ、アリオストが合流した形だな……。

「何を見ているのですか?」

「イリスか……いや、アレをさ……」

近くに来ていたイリスに、現場を指し示す。
俺は気が読めるから、いきなり声を掛けられて、びっくりして声を漏らす様なことはしない。

「あれは……ミーシャと、アリオストさんですね……後の二人は確か……」

「俺の仲間のカーマインとラルフだよ……いや、どうもミーシャがケーキを焼いたらしいんだが……」

「ケーキ……ですか……成る程」

ふむふむ……と、何やら納得した様子のイリス。

「貴方は行かなくて良いのですか?」

「?……なんでさ?」

「あの中の誰かの誕生日を、祝うのでは無いのですか?ケーキとは、誕生日に食べる物だと本で読みました」

前回、色々と常識を教えたりしたからか、自分からも積極的に知識に対してアプローチしているみたいだな……うん、良い傾向だ……だが。

「あのな、イリス?ケーキ自体は別に誕生日じゃなくても食べて良いんだぞ?」

「そうなのですか……また新しい発見です」

こうして見ると、本当に必要最低限のことしかあのクソヒゲは教えていないのだと気付く。
いや、マジであのクソヒゲはどうしてやろうか……。

「とにかく、今はこの場を離れよう」

「……よろしければ、またご指導をお願い出来ないでしょうか?」

「あぁ、常識の勉強か?俺は構わないぜ?じゃあ、図書室に行こうか?」

この場に長居して、巻き込まれたら洒落にならんからな……。
流石の俺でも、違った意味でトリップしてしまうかも知れん……。
俺はイリスを引き連れて図書室へと向かった。

……学食の方から、アリオストの声にならない悲鳴が響き渡った。

……どうやら、カーマイン達はアリオストを人身御供に捧げた様だな……。
きっと「ミーシャ君らしい……独創的な、味だね……」とか、感想を振り絞っていることだろう……アリオスト、南無。

さて、それは置いといて……図書室にやって来た訳だけど。

「さて、何について勉強しようか?」

実際、一般常識に関しては自主学習もしているだろうし……。
俺達はテーブル席に座りながら、どんなことを勉強するか話す。
あ、原作では本棚しか無かったが、こっちはテーブルと椅子がちゃんとある。

「ミーシャは、何故ケーキを焼いていたのですか?」

「さっきの話か?」

「はい。幾ら、誕生日では無くても食べられるとは言え、わざわざ手間が掛かる物を作るなら、買って食べた方が幾分効率的です」

むぅ……一概には言えないんだが、ミーシャの場合は……。

「多分、カーマインとラルフに作ってやったんじゃないかな?」

まぁ、アリオストが贄になっていたが……。

「何故ですか?」

「何故って……ミーシャが二人を好きだからだろう?」

流石にそこまで分からない訳では無いだろ?
……大丈夫、だよな?

「成る程……分かる気がします」

「そうか……それは何より」

流石に恋愛感情を一から教える……というのはなぁ……なんか光源氏計画みたいでちょっとなぁ……。
その後、夕方まで常識の勉強をし、時間が来たので勉強を終了してその場を離れた。
微かに……本当に微かにだが、イリスは微笑みを浮かべる様になった。
これはかなりの僥倖だろう。

そして、集合場所に集まり……テレポートで帰還したのだった。
俺達は次の休暇先を指定し、帰路に着いた。

夕食時は、やはりミーシャのケーキの話になり……それを聞いたゼノスが――。

『そんなのはケーキじゃねぇ!!!』

と……憤慨していた。
まぁ、俺も同じ意見だが……そういえば、ゼノスが作ったケーキは食ったことがないな……食う機会はあったが、誰かさんがぶん投げて、食えなかったからなぁ……。

こうして夜が更けて行った……さて、次回の休暇先は……。




[7317] 第82話―観光地で語られる漢の挽歌と姫様との約束―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/11 17:43


休暇三日目・観光地コムスプリングス

「俺は、温泉にでも入ってるぜ」

そのウォレスの言葉を皮切りに、それぞれ散っていく面々。
さて……俺はどうするかな?
とりあえず俺は温泉宿がある場所まで来た……。

……ここでは色々なことがあったなぁ……。
まぁ、何があったかは伏せておくが……また、みなぎりそうだしな。
ここで起きた出来事が、俺にとってはある種の転機だったのは事実。
カレンのことも……夢で見ていたアイツのことも……。

「その後はマイナス方向に固めた俺の決意を、ラージン砦で見事に粉砕してくれたよな……カレンは」

嫌われるつもりで言った、あの台詞……まさか受け入れられるとは……まぁ、妙な同盟を組んでいたことには――更に驚いたが……。
その後、夢の中のアイツにちゃんと、もう大丈夫だと告げて……。
俺の中から旅立って行ったんだよな……。
ちゃんと生まれ変われたのだろうか……?

いつかまた出会える日が来たら……その時は。

「って、思わずしんみりとしちまったな……」

俺は宿を見やる。

「……まぁ、たまには良いか」

俺は温泉に入ることにする。
今日は温泉に無料で入れるらしいからな。
店員への受け付けを済ませ、脱衣所へ。
……と、脱衣所へと繋がる扉の前で見知った顔を見つける。

「ティピじゃないか…何してるんだ?」

「あ、シオンさん♪アイツが温泉に入りに行ったから待ってるんだ」

カーマインが……か?

「そか……んじゃ、俺も入って来るわ」

「うん、ゆっくりしてきてね!」

ティピに見送られた俺は脱衣所に向かう。
そして衣服を脱いでカゴに入れ、温泉に入って行った。

案の定、先客が居た。

「よう、シオン」

「シオンも来たのか」

ウォレスとカーマインだ。

「まぁ、たまにはゆっくり温泉に浸かるのも良いと思ってな?」

そう言って湯舟に浸かる俺……は〜〜、良き湯かな〜〜♪

「そういやぁ、二人で何か話してたみたいだが、何の話だ?」

「あぁ……ウォレスが傭兵時代の話をしてくれるみたいでな……」

あ〜、あたかも知り合いの話の様に話しておいて、実はその殆どが自分の体験談だったというアレな?

「面白そうだな……俺にも聞かせてくれよ」

「ああ、構わないぜ?……これは俺が居た部隊の話なんだが、その部隊に凄く面白いヤツがいてな。そいつは冗談ばかり言って、よく俺たちを笑わせてくれたもんさ」

「成る程……ムードメーカーってヤツだな」

俺はウォレスの言葉に頷いて言う。

「そいつは新兵が来て、初の戦闘の時に必ず言うんだよ。『お前らはツイてるな、今日は俺と嫁さんの結婚記念日だ』ってな」

「成る程……たいしたモノだな……」

「流石はムードメーカー……って所か」

俺とカーマインは、感心した様に言う。
実際、俺は感心しているんだが。

「2人とも俺の言いたいことがわかっている様だな……新兵は実戦経験がない。初めての戦闘は、そりゃ背骨に何かを差し込まれたみたいにカチコチに固まっちまう。だからそいつの、その何気ない言葉に、何人の新兵たちが救われたことか……と、まあ……こんな感じだったんだがな」

「成る程……良い仲間だったんだな」

実際、ムードメーカーが居るか居ないかで、味方のテンションは大きく異なる。
不利になりがちな戦いも、切り抜けられる力を生み出す。

ダ○大のポッ○然り、GS○神の横○然り。

「まぁな……ゲヴェルの事件の後、次々と仲間たちは抜けて、孤独が平気……ってな顔をしてきたが……部隊の連中が集まって騒いだ狭い酒場が、広く見えた時は、何だか例えようもなく虚ろな気分になったのを覚えてるぜ……あいつらが居たからこそ、大事な物が見えてたんだな……」

「見えるけど見えない物……だな」

「見えるけど見えない物……?」

ウォレスの言葉を聞いていてふと、この言葉が浮かんで来たので口にする。
カーマインが疑問を浮かべたので、それに答えることにする。

「人ってのは見えるが、その間にある繋がりは決して見えない……だが、確かにそこに『ある』。絆だとか友情だとか……そういう物はある種、空気の様に当たり前の物だ……しかし、それに本当の意味で気付くのはほんの一握りだ。当たり前故に見えない……気付かない。見えているつもりでも、見えていない場合が殆どだ……居なくなってから気付かされるなんて、そんなこともざらにある」

俺も……ある意味ではそんな人間だったからな……。

「そうだな……仲間ってヤツは、いなくなってから大切だと分かる場合が殆どだ……因果なもんだ」

「仲間に限ったことじゃないけどな……家族や恋人なんかにもそれは当て嵌まる。……なくしてから気付くってのは、中々に辛いぜ?『一期一会』――その時々の出会いを、大切にな?」

そして決して後悔しない様に……これは人生の先輩としての忠告だな。
まぁ、俺自身……そこまで誇れる生き方が出来ているか……と聞かれたら微妙なんだが……。

カーマインは俺達の話を聞いて、何やら考え込んでいる様子。

「それにしても、シオンは随分達観しているというか……歳不相応だな」

「?そうか?」

「ああ、俺の若い頃にはそこまで達観した考え方は出来なかったからな」

そりゃあ、精神年齢で言えばウォレスよりオッサンだし……よく、精神が身体に引っ張られるとか言うが、それほどでもなかったしな。

「別に達観してる訳でも無いんだが……結構、奇想天外な人生を歩んでるからな……そのせいもあるかもな」

転生?したなんて奇想天外以外の何者でもあるまいよ……。

「そうか……まぁ、人生色々あるんだろうさ……さて、俺はそろそろ上がるぜ」

深くは聞かず、風呂を上がっていくウォレス。

「……じゃあ、俺もそろそろ上がる」

「おう、俺はもう少し浸かって行くわ」

先程から色々と考えていたであろうカーマインも、上がっていく。
俺はもう少し浸かることにする……せっかくの温泉だしな。

「…なぁ?」

「ん?」

「俺にも出来るか……?そういう生き方が……」

「さて……とりあえず、悔いの無い様に生きてみなよ。それが実を結べば――自ずと答えは出るさ」

「そうか……」

こうしてカーマインは風呂から上がって行った……。
悔いの無いように……か。
偉そうに語っているが、俺にそんなことを語る資格は無いよなぁ……。

「まぁ……ちょっとした老婆心ってヤツだ。少しは若人の心の足しになれば良いがねぇ」

俺みたいに、後悔してからじゃ遅いからな……。

それから暫くして、俺も風呂から上がり、身体を拭いてから着替え……。

「………プハァ!!やっぱり風呂上がりにはコレっしょ?」

コーヒー牛乳を飲んでいた。
勿論、腰に手を当て一気飲み。
酒も良いが、やはり風呂上がりにはコーヒー牛乳……コレ最強。
まぁ、気分に寄ってはフルーツ牛乳やノーマル牛乳だったりもするが、大体はコーヒー牛乳!
コレ最きry……。

さぁて、時間がまだ余ってるな……んじゃ、涼みがてら外で誰かと話してくるか。
俺は風呂場の入口辺りで休憩しているウォレスに声を掛けた後、外に出た。

誰か居ないかな……お、ラルフ発見!
俺はラルフと話をすることにする。

「こういう観光地のお土産品って、後で考えると変な物だったりするけど、その場の空気かな?気付いたら買ってたりするんだよね……商売において、そういう空気も大切ってことかな?」

確かにある……ペナントとか木刀とか……別にそこの名産じゃないのに買ってしまう……アレは一種の魔力だよな。

なんてことを話していたら夕方になった……なので、集合場所に向かうことに。

「みんな揃ったね?じゃあ、帰ろう」

ティピがメンバーを確認した後、ルイセのテレポートで帰還。
休暇の終了を文官さんに告げ、帰路に着いた。

そして翌日……ローランディア城・謁見の間。

「さて、次の任務だが、急いで行うべきものは今のところない。そこで、お前たちが調べたがっていた異形の件を調査してくるというのはどうであろう?」

まぁ、ランザックと同盟協力は結べたし、今現在のエリオット軍への援軍はローランディア、ランザック両軍から派遣されるだろうからな……。
ジュリアからの念話でも、今の所まだ戦況はこちらが幾らか有利らしいし……あ、ジュリアとは俺が渡した腕輪を通じて念話を交わすことが可能なんだ。
って、今更誰に言ってるんだ俺は……。

「もし異形があのゲヴェルだとすると、遠からず我々人類と事を構えることになるはずだ。その時のためにも異形の正体を知っておかねばならぬ」

「そうだよね。元々の目的って怪物の正体を探ることだもんね」

「思い出すだけで、この目が、この腕がうずくぜ……」

確かに王の言う通りだ……ティピの言う様に本来の目的がゲヴェルの調査をすることだからな。
その正体や目的を知っている俺だが、この世界では俺なんかがいることで、何かしらの歪みが生じているかも知れないからな……調べるに越したことは無い。
もしかしたら、原作のソレとは違うのかも知れないし……。

「かしこまりました」

カーマインがそう締め括り、俺達は謁見の間を後にした。

「で、どうするんだ?」

「クレイン村に行ってみようと思う……あそこは以前、ウォレスが仮面の騎士に襲われた場所だ……そこに何かしらの手懸かりがあると思う」

ゼノスの質問に答えるカーマイン。
その意見に皆、異存は無い様で、しっかりと頷いて居た。

「クレイン村は、以前レティシア姫を助けた場所から更に北東に行った場所にある」

そう告げるのはウォレス……位置的にはほぼ北に位置する。
しかし、クレイン村か……旅をしていた頃から現在までにおいて、唯一近付かなかった場所……原作では数々の悲劇に見舞われる場所で、俺がもっとも恐れている奴が居る可能性があった場所……まぁ、オズワルド達の調査の結果、奴は存在しないと分かっているから、幾らか安心だが……。

「それじゃあ、早速……ん?」

この気配は……。

「シオン様〜〜!」

「レティシア姫……どうなさったのですか?」

なんとレティシア姫がやってきた……何やら俺に用事があるみたいだが……。

「い、いえ……その、何分お忙しいのでしょうから、控えていたのですが……以前の約束がまだ……」

以前の約束………あぁ、もしかして。

「またお話をするという話ですか?」

「は、はい……今すぐなんて申しません。ただ、約束の約束を取り付けたくて……如何でしょうか……?」

むぅ……機会があれば……とか言ったの俺だしなぁ。

「わかりました……では、次の休暇の時にでも」

「!わかりました……では、約束しましたよ?」

「かしこまりました……必ずやご期待にお答えしましょう」

ズバッ!と、華麗に礼をする……完璧だ!
いや、何が完璧かと聞かれたら困ry…。

俺達は姫を見送り、その後に城の外へ向かう。

「……まさかシオン、子持ちの未亡人だけでは飽き足らず、お姫様まで……?これはお姫様も……?」

「レティシア姫にも、それとなく話してみるつもりなんですけど……」

……なんてリビエラとカレンが話してるのが聞こえたが……オッサン聞こえない!!
聞こえないったら聞こえないんだからね!?
後、残ったメンバー……生暖かい視線を向けるなぁ!!
いや、俺だって色々気にしてるんだから…マジで。

そういう訳で、俺達は再び任務に着く……目的地はクレイン村だ!!




[7317] 第83話―いざ、クレイン村へ―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/11 17:54


ってな訳で、クレイン村へ……先ずはガルアオス監獄の前へテレポート。
そこからは徒歩でございます。
俺もクレイン村には行ったことないから、テレポートで直接――って訳にはいかないしな。

道中モンスターに襲われるが、大半をメンチビームで散らし、襲って来た奴らも軽くのしていく。
最近、このパターンが定着しつつあるなぁ……。

そしてやってきましたクレイン村。
成程……初めて見るが、小さな村だな。
無論、原作よりは幾らか広いが、規模で言えばブローニュ村やデリス村より小さい……まぁ、こういう雰囲気は悪く無いけどな。

「ん……、そうだ。1つ思い出したことがある。実はこのクレイン村の村長は、ルイセやシオンと同じくグローシアンだ」

「わたしと同じ……」

ウォレスの言葉に、ルイセが呟くように言う。
俺は知っていたけどな……原作知識で。
……そういえば、ここの村長はオズワルド達が保護に来た時、首を縦に振らないでここに残ったんだよな……。

「まだ生きていればの話だがな」

「生きてると思うぜ?俺やルイセ程じゃないが、一般人にしちゃあ強い魔力を感じる……グローシアン特有の波動って奴もな?」

ウォレスの言葉に返答する俺。

「分かるのか?」

「まぁな……グローシアン同士ってのは共鳴し合うというか、感覚的に分かるんだよ……な、ルイセ?」

「うん……わたしの場合、何となくそうじゃないかな?ってくらいだけど……」

ゼノスの疑問に答えてやる俺。
ルイセは波動を感知することは出来るらしいが、まだ感覚的に掴みきれていないらしい。
本来は覚醒してから、感覚が研ぎ澄まされていた筈だから、無理からぬことなのだが……。
とは言え、ボスヒゲの贄にさせる訳にはいかんから、その辺りも鍛えているんだけどな。

それから俺達は村の中央まで歩いて来た訳なんだが……。

「グルル……」

「ああ、モンスターがっ!?」

「早く助けないと!」

グレムリンという小悪魔型モンスターに囲まれた男性を見つけ、ミーシャとティピの声を皮切りに戦闘体勢を取るパーティーメンバー。
……俺とラルフ、それにウォレスは特に構えたりしなかったが。

「おっと勘違いしないでくれ!別にこいつらが暴れているんじゃないんだ!」

「へっ?」

慌てて止めに入るモンスター使いの男性……見習いだったか。
思わずティピは、間の抜けた声を出してしまう。
他の面々もポカーンとしている。
……エリックの奴と何度か戦ってるんだから、気付きそうなモンだがなぁ……。

「よぉく見ててくれよ……」

男性が指示を出すと、三匹のグレムリンは横一列に並ぶ。

「ほらっ!」

更に指示を出すと、グレムリン達は空中で宙返り…更にクルクルと華麗にターン。

「いよっ!」

そしてグレムリン達は陣形をデルタの形に取り、逆時計回りに動いていく。

「それっ!」

そして再び宙返りして、決めポーズっ!!
なんつーか、某ダンス○ン的ポーズで……。
いやぁ……中々良いモノを見させて貰ったわぁ……。
俺は思わず拍手してしまう。

「中々良い物を見せて貰ったぜ……ありがとう」

「どう致しまして。これで、こいつらが暴れている訳じゃないって分かってくれただろう?」

そう得意げに話すモンスター使い見習い君。

「不思議……どうしてこんなに馴れてるの?」

「いや、こいつらが人に馴れているんじゃない。秘密はこの粉の匂いなんだ」

そう言ってモンスター使い見習い君は袋を取り出し、その中の粉を手に取って見せる。

「……うむ。わずかだが独特の匂いがするな……そういえば、以前に何処かで嗅いだ様な匂いだな……」

「確かにな…っていうか、嗅いだことあるのは当然だと思うぜ?何しろ、モンスター使いとは何度か戦ったことがあるんだからな……」

匂いを嗅ぎ分けられたのは、俺とウォレスだけの様だ……まぁ、本来は人間の嗅覚じゃあ感知出来ないくらいのごく僅かな匂いだからな……。
仕方ないのかも知れないが……。

「あ……もしかして」

「そっ、エリックって言うモンスター使い……何度も俺達を邪魔してきただろ?」

カレンが最初に気付いた……まぁ、最初にアイツに襲われていたのはカレンだし……その後にも色々あったからな……。
他の面々も納得した様に頷いている。

「シオン達って、モンスター使いと戦ったことがあるの?」

「ああ、何度か…な」

そういえば、あの場にはリビエラは居なかったからな。

「モンスター使いって、個人の力はともかく、モンスターが居る限り、どんなモンスターも操っちゃうから始末に終えないのよね……」

「リビエラさん、詳しいですね」

「そりゃあね……私の『前の職場』にモンスター使いも所属していたから、ね」

ラルフの疑問に答えるリビエラ……ああ、あの大鷹と友達なアイツね……。

「……成る程な。だがウォレスとシオンは、よく匂いがわかったな……俺にはよくわからん」

「人間にはわからないかも知れないけど、モンスターは嗅覚が鋭いからね。この粉にはいろんな種類があって、これを適度に混ぜ、嗅がせてやることでモンスターを操ることが出来るんだ」

カーマインの疑問に答えたのは、モンスター使い見習い君。
……つまり、俺とウォレスは人間じゃないと?
俺は肉体がチートなだけだし、ウォレスは眼が見えない時期が長かったから、五感が鋭いだけで列記とした人間だぞ?

「ふ〜ん、何か面白そうだね」

「この粉の使い方は、色々と応用できるんだ。たとえば風上からこの匂いを流してやる。すると多少離れたところからでも自在に操ることが出来るんだ……もっとも、それほど離れたところから操れるようになるためには、かなり修行を積まなければいけないけどね」

「修行……」

ティピの感想を聞いて、モンスター使いについて説明する見習い君。
ルイセは修行と聞いて、反復する様に呟いた。

「風を的確に読むこと、モンスターの習性を熟知すること、匂いの量を正確に調整すること……僕はまだ未熟だから、この程度しかできないけれど、モンスター使いの中には、何十という数を自在に操れる人がいるそうだからね」

「何事も修練か。がんばれよ」

ウォレスが見習い君に激励を送り、俺達はその場を後にした。

「なぁシオン…もしかして、気付いていたのか?あのモンスターが操られていたって……」

ゼノスが疑問をぶつけてくるから、俺はそれに答える。

「まぁな……少し考えれば分かることだ。もしモンスターが村に侵入していたのなら、村人が騒いでいた筈だし、何より殺気を感じなかったからな……」

後はお約束の原作知識です。
ラルフとウォレスも殺気が無かったことに気付いて、武器を構えなかった訳だな。

「……誰だ?最初に騒ぎ立てた奴は?」

「ミーシャが騒ぎ出したんだよ」

「ズルイよティピちゃん!アタシ、モンスターのことは言ったけどそれだけだもん!ティピちゃんが助けなきゃって言ったんじゃない」

カーマインが頭を抱えて唸る……とりあえずティピとミーシャは罪のなすりつけ合いは止めなさい。

そうこうする内に、俺達は村長の家までやってきた。
道中で聞いた話だと、村長の息子が滝に調査に向かい行方不明。
そして危険を感じて以来、滝への道を封鎖しているとか。
なので、通行の許可を貰いに来た訳だ。

「おじいちゃん、こんにちは!」

「おやおや、こんな村に客人とは珍しい。それに、こんなに可愛い妖精まで一緒とは……長生きはするもんじゃ」

「えへへっ☆」

この人が村長のゼメキスか……。
ティピの元気の良い挨拶に、柔和に返すゼメキス村長。
可愛いと言われ、照れているな……まぁ確かにティピは可愛いが……。

「お久しぶりです」

「おや、お主は……」

「もう覚えていらっしゃらないかも知れませんが、2年ほど前にお世話になったことがあります」

「おお、覚えているとも。お主、裏の滝に向かって、それっきり帰って来なんだからのう」

挨拶を交わすウォレスと村長。
どうやら、ウォレスのことは覚えているみたいだな……。

「ご心配おかけしました。途中で暴漢に襲われ、このありさまです」

「ほほう……じゃが、生きていただけよかったではないか」

「確かに……それで、もう一度あそこへ行きたいのです」

「!?何を言っておるんじゃ!お主が戻らなくなったあの頃から、あそこへ近づく者は、誰も戻らなくなっておるんじゃ」

ウォレスの無事を喜ぶ村長……しかし、ウォレスが再び例の場所へ赴きたいと言うと、驚愕した様子で止めに入る。

「その話、詳しく聞かせて下さい」

「お主は……!?この感じ、お主もグローシュを使えるのか?」

話し掛けて来たルイセを見て、村長は波動を感じたみたいだ。
そして、その視線を今度は俺に向けて来た。

「お主もグローシュを……まさか二人もグローシュを使う者が訪ねて来ようとは……」

「ルイセちゃんとシオンさんはね、皆既日食のグローシアンなんだ」

どうやら、俺のグローシュ波動も感知したみたいだな。
ティピは俺達について説明する。

「やはりそうか…………ならば話を聞かせよう。もともとこの辺りの土地は、宮廷魔術師をしていたヴェンツェル様のご領地じゃった。だが、ウォレス殿が滝へ向かい戻らなかったすぐ後、ヴェンツェル様が王宮から失踪し、この辺りは王家の直轄地となった。その頃からじゃよ。あの滝に近づく者が帰らなくなったのは……」

成程……ウォレスがここを訪ねた頃は、まだボスヒゲが健在だった訳だな……。

「いや、唯一例外がいる。滝の側まで行き、戻って来た者が一人だけ……」

「それは誰なのですか?」

「誰だと思う?何を隠そう、ワシなのじゃ」

「ええ、おじいちゃんが!?」

ゼメキス村長の言葉に、返答を尋ねるウォレス。
そして意外な答えに驚くティピ……いや、俺は知っていたが。

「今までは、なぜワシだけが無事戻れたのか、わからんかった。だがお主達と会って、気付いたよ。ワシがグローシュを持つ者だからかも知れん。だから話す決心がついたのじゃ」

「おじいさん……」

「成程な……言われてみれば道理だな」

ルイセは、村長の決心に心が揺さ振られた様だ。
対する俺は、冷静な反応を返していた。
村長の言い分を考えてみたが、村長は単に運が良かっただけだと思う。
奴らはグローシアンを苦手としてはいるが、だからこそ熱心に始末しようとする。

原作ではシャドーナイトを使って間接的に、揚句には仮面騎士を使って積極的に始末していった……ラルフもその尖兵の一人だった。
まぁ、今のラルフには関係の無い話だが。

実際、ルイセや俺のグローシュ波動で、連中は弱りはするが、それで逃げ出すようなことは無い。

「とりあえず、向こうへ行くことは許可しよう。だが、危険を感じたらすぐに戻ってくるのじゃよ」

「ありがとう、おじいちゃん!」

「もう一つ話がある」

「何でしょう?」

許可を貰い、それに礼を言うティピ。
だが村長はまだ話すことがあるという。

「ここのところグローシアンが失踪している事件は知っておるか?」

「えっ?」

「グローシアンが失踪?」

村長が言うには、国内のグローシアンが次々と行方不明になり、小数だが変死体で見つかった者も居るということ……行方不明者の幾つかは俺が絡んでいたりするんだが。
まぁ、俺がやっているのはグローシアンの保護だが、居なくなるという意味では失踪と対して変わらんな。





[7317] 第84話―村長との話し合いと小さなゲヴェル―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/11 18:05


「もしかしたら、行方の知れぬグローシアンの中には、生きている者もおるかも知れんが……」

……どうやら、ゼメキス村長は怪しいからオズワルド達に同行しなかった……という訳では無いらしい。
『生きている者もいるかも知れない』
そう言ったということが全てを物語っている。

「それって、いつから?」

「そうだな。行方不明者が出始めたのはリシャール王の戴冠式が行われる前から…死者が出始めたのはその後辺りからじゃな」

……ハハハ、やはり死者じゃない行方不明者の大半は俺だな。
一応、本人の許可は取っている筈なんだが……。

「お嬢ちゃん達も気をつけるのじゃよ」

「はい、気をつけます」

素直に頷くルイセ……だが、俺は少し考え事をしていた。

「……みんな、すまないが少し外で待っていてくれないか?」

「…どうしたんだ?」

「少し、ゼメキス村長と話したいことがあってさ」

俺の言葉にカーマインが疑問を持つが、それに答えを返す俺。

「なら、今話せばいいじゃない」

「出来れば、あまり聞かれたくない類の話なんだ……頼む」

提案するティピに、俺は軽く頭を下げながら言う。

「……分かった、俺達は外で待っていよう」

「シオンには、何か考えがあるんだろうからね」

ウォレスとラルフがそう言ってくれる。
ラルフに到っては、10年以上を共に行動してきたからな。
俺がグローシアン保護関連の話をすると、理解しているのだろう。
流石はお気遣いの紳士。
――正直、助かる。

「じゃあ、外で待ってるからな」

ゼノスがそう言い残し、皆は外に出て行った。
今この場にはゼメキス村長と俺しかいない。

「さて、わしと話したいことがあるそうじゃが……」

「ええ、是非とも村長にお伺いしたいことがありまして……」

「どんなことかな?」

俺は全てを話す。
以前、村長を訪ねて来た男達の特徴、その男達に指示を出していたのが俺だということ。
そして俺達のしていること……グローシアンの保護と、裏でグローシアン抹殺に暗躍する者のことを……。

「そうじゃったのか……」

「聞かせて下さい……何故、誘いを断ったのか……貴方がアイツらを信用出来なかった――ということは無かった筈だ」

「……さっき言ったことが答えじゃよ」

「えっ……」

さっき言ったこと……?

「わしがグローシュを持つ者じゃから、滝から無事に戻って来れた……ならば、わしが居なくなれば村人達はどうなる?」

「………」

そういう……ことか。

「お言葉ですが……グローシュが扱えるからと言って、安全とは限りません……現に犠牲者も出ています」

「お主が嘘を言っていないのは、眼を見れば分かるよ……わしがたまたま、運が良かっただけだと言うこともな……。じゃが、それでも村人達を捨てて逃げられなんだ……わしが居てもたかが知れておるかも知れん……じゃが、皆の不安を少しでも和らげてやれるのならば……村を預かる者として、わしは残らなければならんのじゃ」

何と無くそんな理由じゃないか……とは思ったんだがね。

「ですが……」

「大丈夫じゃよ。わしとて、無駄に命を使うつもりは無い……この腕輪もあるしの?」

「それは……」

村長が見せてくれたソレは、転移の腕輪だった。
……やはり、捨てずに持っていてくれたか。

「もし危なくなれば、これを使わせて貰うよ……危機を伝えてくれた彼らも、そしてお主も……真っ直ぐな眼をしておる……だからこそ、信じよう」

「……ありがとうございます」

俺は村長に深々と頭を下げた。
……正直、この人の人生経験の豊富さを感じたというか……。
その心の広さを感じたというか……。
死なせたくない人だと…そう思った。

「一つ聞いても良いかな?」

「何でしょう?」

「何故、仲間である彼らに真実を話さないのじゃ?お主がわしと二人で話したいと言うことは、仲間には聞かれたくないということじゃ……それは何故なのかね?」

俺はゼメキス村長の言葉を聞き、返答に困ってしまう。
まさか、ミーシャを通じてクソヒゲに監視されている可能性があるから……なんて言えないしな。

「皆に心配を掛けたく無い……では、駄目ですかね?」

ミーシャの件が主な内容だが、これも確かに俺が思っていることだ。
アイツらに余計な心配を掛けたくない。
ラルフとリビエラは知っているけどな?

「ふむ……そうか。いや、つまらないことを聞いたのう。忘れてくれ……くれぐれも気をつけてな」

「村長も……十分に用心して下さい。それでは」

俺は村長にくれぐれも用心する様に言ってから外に出て、皆と合流した。

「お話は終わったんですか?」

「ああ、バッチリだよ」

話し掛けてくれたカレンに、俺はニカッと笑って答えた。
どうやら皆、深く追求する気は無いらしい……それだけ信頼されているってことなんだろうけど。
……クソヒゲの件が片付けば、こんな隠し事しなくても済むんだがな……。
正直、少し胸が痛む……。

「さて、シオンも合流したことだし……」

「あぁ……行くとするか」

ラルフとカーマインに促され、俺達は村の裏にある滝に向かって行く。

道中、翼竜やリザードマンロード等のモンスターに遭遇したが、今の俺達の敵では無く、メンチビームで撃退したり、軽くあしらったりした。
で、件の滝まで後少しというところでウォレスが立ち止まり、崖の方を振り返った……そうか、ここが……。

「どうしたの、ウォレスさん?」

「……村からの距離を考えると、たしかこの辺りだ」

「この辺りって……」

ティピの問いに、独り言に近い形で答えるウォレス。
その言葉の意味を図りかねているルイセ……そこに的確な答えを出したのが。

「ウォレスが仮面の騎士に襲われていた場所……か」

例の夢を見たカーマインだった。

「ああ、その通りだ。まさかお前が見た夢ってのも、ここだったのか?だとしたら、その夢の信憑性はかなり高いぜ」

「それじゃ、夢に出てきたっていう、マスターを襲った連中も……?」

「……かもな」

ウォレスがカーマインの夢の信憑性の高さに驚いている。
そしてティピもまた……。
……ん?ラルフ……?
ラルフが崖の方を眺めている……少し目付きが険しい。

「どうかしたのかラルフ?」

「シオン……。いや、悪い夢だな……ってさ」

……まさか?

「ラルフ……お前、カーマインと同じ夢を……」

「何……?本当なのかラルフ?」

ラルフの言葉に反応する、俺とカーマイン。
他の面々も似た様な反応を示す。

「うん……ちょっと言い出せ無かったんだけど、ね」

……つまり、仮面騎士の素顔も見た……という訳か。
そりゃあ言い出せないよな……。
カーマインも同様に言い出せなかったんだろうな……。

「……こうなると益々信憑性が高くなるな」

ウォレスがそう言いながら頷く。
それから再び歩みを進めた俺達は、滝のある場所に出る。

「滝だぁ……」

「とりあえずここまでは無事でしたね」

「ああ。だが何も起こらないってのがかえって不気味だぜ」

ティピは初めて見るであろう滝に感動している様子。
カレンとウォレスは、道中に何の妨害も無かったことに疑問を感じている様だ。

「……どうやら、ようやくお出ましみたいだぜ?」

「その様だね……」

「何だって…?」

気に熟知している俺とラルフが、いち早く気配を察知する。
ゼノスは俺達の言葉に警戒を強める。
そして滝の奥から現れたのは……。

「ああ、あいつは!?」

「お母さんを襲ったやつ……」

「話には聞いていたけれど……こいつが……」

ティピとルイセはその姿に敏感に反応する。
仮面騎士とは初見のリビエラも、警戒を強める。

「やっぱり出やがったか!」

「!……貴様らは……わざわざ餌食になりに来たのか!?」

ウォレスは奪われた眼と利き腕の恨みからか、睨みつける様に対峙する。
仮面騎士の方も、やはりと言うか俺達のことを知っている様で、剣を抜き放ち構える。

「餌食になるのはテメェのほうだぜ!!」

「ほざけ人間!行け、ユングども!お前たちは奴らを食い殺せ!俺は入り口にマジックロックをかける!」

「ニンゲン、食イ殺ス」

ゼノスのタンカを聞き、吠える仮面騎士。
どうやら引き連れて来た、量産型ゲヴェルである『ユング』を使って足止めしてる間に、マジックロックを掛けて入り口を封じようという腹積もりらしい。

マジックロックとは、読んで字の如く『魔法の錠』である。
魔法の一種で、この魔法を掛けられたら、その魔法を解くか破壊しない限り、中には入れなくなる……という代物だ。
魔法を解くには、上位魔術師であり、尚且つ解除する魔法を知らなければならない。
破壊するとなると、一人の皆既日食グローシアン以上の魔力エネルギーが必要だ。
なので……。

「マジックロック!?そんなのかけられちゃったら、わたし、開けられないよ……」

と、ルイセが言う。
まぁ、仕方ないのかも知れないな。
何せ、俺のアレンジ魔法を含め、中級クラスの魔法は覚えているが、最上位魔法はまだテレポートくらいしか使えないからな……ルイセは。

「あ、俺も開けられないぜ?……破壊することは出来るだろうが」

俺も素直に言い放つ。
すると、皆が目を点にした。
……何故に?

「は、破壊……?」

「ああ、『マジックロック』と対になる解錠魔法…『マジックキー』は俺には使えないが、掛けられたマジックロックを破壊することは出来る」

引き攣った顔で尋ねてくるミーシャに、俺はサラっと答える。
ちなみにマジックロックについて詳しく知っているのは、以前に文献を漁ったりしたから。
その際にマジックキーについても知ったんだが。

原作には出なかったが、解錠する魔法もあったんだな……でなければ、仮面騎士達がカーマイン達に勝っても中に入れなくなっちまうもんな。
あ、誤解の無い様に言っておくが、マジックキーはマジックロックを解く為の鍵でしかないので、ドラ○エのア○カムみたいな使い方は出来ない。

「馬鹿な!!グローシアンとは言え、人間ごときにそんな真似が……」

「……出来ないと思うか?」

俺は不敵にニヤリと笑ってやる……それを見た仮面騎士は後退りをする。
もし、カーマインやラルフを通じて俺のことを知っているのなら、それが可能か不可能か……理解出来る筈だ。

「お、おのれえぇ……ならば、此処で皆殺しにするまでだ!!」

……どうやら理解してくれたみたいだな。
正直、助かった……。
というのも、マジックロックを破壊出来るのは本当だが、下手をしたら入り口は疎か、中まで吹っ飛ばしてしまい兼ねないからだ。

そうなると、中に捕まっているだろう村人達もブッ殺っちまうことになるワケで――正直、申し訳無い処の話では済まない。

「さて……やりますか!!」

俺はリーヴェイグを抜き放ち、構えを取る。
皆もそれぞれ得物を構えた。

「くっ、舐めるなよ人間がぁ!!」

仮面騎士はカーマインに切り掛かって来る。
それをカーマインは上手く受け流す……。
仮面騎士はカーマインに任せて、俺達はユング達を一掃する。

偵察の為だからなのか、数が少ない。
おまけに俺とルイセというグローシアンが居る為、連中は本来の力を発揮しきれない。
一掃するのにたいした時間は掛からないだろう。

「ハッ!!」

ザシュ!!

「ギギャッ!!?」

本当に一分もせずに片付いた。
どうやらラルフが倒した奴が最後らしい。





[7317] 第85話―……鎮魂……―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/11 18:16


「はぁっ!!」

ズシャア!!!

「…ぐ…あぁ……」

グジュウゥゥゥゥ―――

「また溶けちゃった……」

どうやらカーマインも勝負が着いた様だな……。
しかし、何度も思うが気分の良いモノでは無いな……あの仮面の下がカーマインやラルフと同じだと思うと……尚更な。

「ウォレスさんの傭兵団を全滅させた怪物って、今のやつなの?」

「……いいや、違う。似てないことはないが、隊長と戦った奴はもっとでかかった。あの隊長が手こずるような相手だ。今の奴とじゃ比べものにならん」

「カーマインさんや、ラルフさんの見た夢ではどうだったんでしょう……?」

ティピが質問するが、ウォレスは否定の意を示す。
というかティピよ……水晶鉱山のあの人型を見ただろうに……少し考えれば一目瞭然だと思うんだが。
再確認のためか、カレンがカーマインとラルフにも聞いてみる。

「……ウォレスの言う通りだろう。以前見た夢ではデカい怪物が、仮面の男達とさっきの小さな怪物に命令していたからな……」

「多分、ウォレスさんが言っているのはあの大きい方だと僕も思う」

カーマインとラルフの見解も一致する様だ。

「それじゃ、今のは怪物の子分だね」

「ユングとか言ってたね」

ルイセの言葉は言い得て妙だな。
ユング……α型とβ型がおり、ゲヴェルによく似た銀色の奴がα型。
接近戦タイプのユング。
β型は中距離攻撃型で、地面を隆起させて攻撃してくる。
形こそゲヴェルに似ているが、色は微妙に金色がかっている。

それはともかく、俺達は滝の裏の洞窟へ歩を進める。
中からは微かな肉の腐臭と……血の臭い……この場所の意味を考えたら理由も分かるのだが……正直、胸糞悪ぃ……!

中は完全にユングの巣窟となっていた。
奴らはゲヴェルから生み出された存在だからか、あるいは本能というモノが無いからなのかは分からないが、気当たりが通じない。
故に倒しながら進んで行く。
まぁ、強さ自体はたいしたことないし、この面子なので思いの外スイスイ進んで行けたが。

「ユングとか言ったっけ?なんでこんな洞窟の中に、いるのかなぁ?」

「奥まで行けばわかるよ!」

「確かにな」

ティピがこの状況に疑問を持つが、ミーシャはお気楽に答える。
しかし、それは真理であり、ゼノスも頷いた。

しばらく進むと、そこには……。

「ねぇ、ねぇ……この白いのって……」

「きゃぁっ!なななななな、ナニコレェ……!?」

「これって、人の……?」

ティピが見付けたソレを見て、ミーシャは怯え、ルイセは驚愕に眼を見開く。
そこには穴に打ち捨てられた人骨の山……余りにも膨大な骨、骨、骨…。
砕かれ、無惨に原型を留めないモノ……肉がこびりつき、腐敗が進んだモノ……その形状から、女子供のモノまで……腐り過ぎて蝿がたかってやがる……。
そして……『見えてしまった』……無念の残滓が。
『聞こえてしまった』……怨恨の叫びが……。

「……恐らく、あのユングの餌として喰われた人達だろう……」

「そ、そんな……ひどい……」

俺は、怒りと吐き気と憎悪……そんなグチャグチャに混じり合ったモノを押さえ込みながら、言葉を発する。
カレンは俺の発言とこの惨状を見て、涙を浮かべ愕然となってしまう……。

「行方不明の人たちといい、さっきの化け物といい……」

「随分と胸糞悪ぃことをしてくれてるじゃねぇか……」

ウォレスは冷静に状況を分析し、ゼノスは怒りを隠そうともしない。

「とにかく、この奥にその秘密があるってことか……」

カーマインがそう締めくくる。
その秘密を知る身としては、些か複雑な心境ではあるが……な。
……考えてみたら、俺って隠し事ばかりだな……仲間である筈の皆に……。

その後、俺達は奥に向かい進んで行く。

「助けてくれぇぇ〜!!」

「ここから出してくれぇ〜!!」

聞こえて来たのは、男達の悲鳴……。

「あ、これはっ!」

そこにあったのは無数のピンク色をした塊……ユングの卵……或いは繭みたいな物。

「何だ、貴様らは……」

「それはこっちの台詞だ。お前たち、ここで何をしていやがる!」

「ふん!死に行く奴らに説明することなどない…お前たちもユング達の餌にしてやる!!」

こちらを見付けた仮面騎士に、ウォレスは問いをぶつけるが……もちろん仮面騎士はまともに答え様としない……が、もはや答えは言った様な物。

「…ここはそのユングとか言う奴を製造、飼育する場所……或いはユングの実験を行っていた場所だな?」

「!?……どうやら、益々貴様らを生かして帰すことは出来なくなったな……」

俺の言葉に驚愕を現にしながらも、警戒を強める仮面騎士。
だが……そんなことはどうでも良い。
俺の視線に映るのは、一人の男……見るも無惨にボロボロな姿で、今にも命の灯が消えそうな男……。

その手にナイフを持ち、襲い来るユングに対峙する男……。

俺は知っている……それが村長の息子であり、彼が護身用に持ち歩いていたナイフだと……。

原作では見た目に変化は無かったが、見るからにボロボロだ……片腕はちぎれ、所々肉を食いちぎられ、えぐり取られている……見て分かる。

――もう、助からないのだと。
生きているだけで奇跡なのだと……。
これじゃ、ヒーリングは疎かレイズすら効かないだろう……。

「食イ殺ス!!」

「……う……ぐぅ……」

ユングの内の一匹が彼を喰らおうとする……だが。

ザシュッ!!!

「ゲギャ!?」

……俺がそれを許すと思うか?

「何!?」

俺は瞬時に彼を襲うユングに接近し切り捨てる……何が起こったか、仮面騎士には理解出来なかったのだろう……多分、俺の動きに辛うじて気付けたのはラルフくらいでは無いか……?
まぁ、そんなことはどうでも良い……。

「人間風情がなかなかやるようだな」

「黙れクズが……貴様はもう喋るな……」

その声で……俺のダチと同じ声で話しているんじゃねぇ……。

「随分と強気だな……だが、こうすればどうだ!?」

「な、なんだ……」

ガラガラガラガラ……。

「まさか……!」

仮面騎士が牢屋を開け放つ……。
中にいた二人の男の顔が青ざめる……。

「さぁ、こいつらを食らうがよい!」

「ニンゲン、喰……ギャ!?」

五月蝿い……。
俺は更に近場のユングを切り捨てる。

「……はっ!?ボサッとしている場合じゃないぞ!俺達もシオンに続くんだ!!」

俺の殺気に当てられていたのか、それともこの展開に着いていけなかったのか……その両方か。
とにかくカーマイン達も動き出した。
俺はグローシュ波動をぶつけながら、仮面騎士にゆっくりと歩み寄る……。

「ぐぅ……!?く、来るなっ!!?」

「……苦しいか?辛いか?……だがな……お前達に餌にされた人間達は、もっと苦しかったんだ……苦しかったんだっ!!!」

この世界に来てから、初めて『見て』しまった……あの骨の山に……いや、この洞窟の中に漂う無数の怨恨の霊を……。

痛いって……苦しいって……ちぎらないで、食べないで……止めて、ヤメテ……助けて、タスケテ……って……。

「……慈悲は無いぞ」

俺は心が冷えて行くのが感じられる……俺は仮面騎士がカーマインやラルフと同じ存在であるのを知っている……だからやり難さを感じていた……だが、もうそんなことはどうでもいい……。

「……貴様は死ね」

「ぐっ……!?な、舐めるな人間がぁ!!」

奴は俺に切り掛かって来た……しかし、俺はその剣を指二本で白羽取りし……。

ズバシュッ!!!

「ごぶぁ!?」

奴を袈裟掛けに切り捨てた。
奴は肩から腰に掛けて真っ二つとなりながら、まだ辛うじて息がある様だった。
人間なら即死だというのに……たいした生命力だ。

「に、人間のどこにここまでの力が……。だがここでの目的は既に果たした……お前たちは……手遅れ……」

それだけ言い残すと、奴は溶けて消えてしまった……。
どうやらカーマイン達もユングを片付けたみたいだな。

「これで最後……?」

「……そうみたい」

ティピとミーシャがそんなことを言うが、俺はそれを否定する。

「いや、まだ終わっていない」

ズバッ!!
俺は手近にあったユングの卵を切り捨てる……すると中から真っ二つにされたユングが出てくる。

「こ、コイツは……」

「このピンクの卵だか繭には、ユングが入っている……放っておくと開放されるだろう……魔法でも武器でも構わないから……始末しておいた方が良い」

ゼノスがそれを見て驚いているが、俺はユングの卵の駆除を提案する。

「そうだな……これだけの数が一斉に開放されたら厄介だしな」

「手分けして壊しましょう」

その提案にウォレスが頷き、リビエラも肯定した。
他の皆も異義は無い様だ。
しばらくして、ユングの卵は全て駆除した。
原作と違い、壁や天井にも張り付いていやがったので、それなりに対処するのに時間が掛かった。

「ありがとうございます!おかげで助かりました」

「無事で何よりだ」

「そう言えば友達が……村長の息子さんは?」

「それは……」

ウォレスとラルフが、捕まっていた男達を解放していた時……俺は。

「……何か、言い残すことは無いか?」

「……親父に…村長をしている…親父に…これを……。……頼……む………」

今にも息を引き取りそうな男から、彼のナイフを受け取る。

「分かった……必ず渡す」

……俺にはそれしか言えなくて……それが悔しくて、けれどそれを顔に出さずに頷いてやる。

「……あり……が………う…………」

――そう言って、彼は息を引き取った……。

礼なんて……言われる資格なんか――俺には無い。
俺はリヒターの存在に脅え、それが杞憂と分かった時も敢えてこの村は避けていた…今の今までここに訪れることは無かった……もしそれが無ければ、助けられたかも知れない……俺が見殺しにした様なものだ……。

「……シオンさん」

「幾ら力があったって……頭を使ったって、全てを救うことは出来ない……それは理解している。理解している――筈なんだ……」

だけどやり切れない……こんな死に様を見て、納得出来る訳……ないっ!!

「……シオン……」

「大丈夫だ……カレン、リビエラ……俺は大丈夫だから」

けれど、納得するしかない……俺がこうしている間にも、この世界の何処かで誰かが傷付き、死んでいるのかも知れない。
だから改めて誓った……せめて眼の届く場所にいる人は守ろうと……。

俺達は合流する……彼の最後を伝えなければならないから。

「あいつはどうですか?」

「……これを村長に渡してくれって……そう言って息を引き取ったよ……」

「そうですか……」

彼らは俯く……村長の息子が一人抵抗していたのを知っているのだろう。
なぶり殺しにされる所を見させられていたのだろう……。

「さ、ここから出よう。村の連中にここのことを教えてやらないとな」

「はい」

「皆は彼らを送り届けてやってくれないか……俺は後始末をしてやりたいんだ……」

ウォレスがそう言い出すが、俺は後始末をするために残ることにした。
気休めかも知れないが、『彼ら』を弔ってやりたいから……。
苦痛を訴えながら漂う『彼らを』。
俺が言えた義理では無いのだろうが……もうお前達を苦しめる奴らは居ないんだと……もう逝って良いんだと……教えてやりたいから。





[7317] 第86話―鎮魂の祈りと信じること―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/11 18:27


「………」

……ザッ!……ザッ!……ザッ!

俺は一人無言のまま、被害者達の埋葬を進める。
俺が被害者達の埋葬をすると言った時、皆は残って手伝うと言ってくれたが、俺が断った。
皆には生き残った村人の護衛もして欲しかったし、ここで起きた出来事を村人達に説明しておいて欲しかったからな。

それでも8人+αは多過ぎだとは思うが……。
俺が頑なに断った。
何故?と、聞かれると答えに困るんだが……。
強いて言うなら、皆には『引っ張られて』欲しくないからな……。

周囲に散らばっている骨も集めて、それを骨山があった場所に集める。
本当は日の当たる場所に移して、一人一人の墓を作ってやりたかったが……。
古い物から、新しい物まで……様々な骨が混じっていて正直、誰が誰の骨か分からなかったから。

外から土を運び、それを骨の山があった穴へ……。
それを何度も何度も繰り返す。
俺の体は異常なまでに身体能力が高い。
だから、これくらいではへこたれないし、素早く土の運搬が可能だ。

……こういう時は、チートな体に感謝だな。

それからしばらくして……。
埋葬を終えた俺は、適当な岩を探し、それを運んでくる。
そしてそれを『加工』する。

それは洋風の墓石……。
名前は無い……誰が誰、と言うのは分からないからだ。

「……すまない……」

俺は漂う怨恨の残滓達に謝罪する。

俺が違う行動を取っていれば……彼らは助かったかも知れない。
……なんて言うのは自惚れだな……。

「……もう、此処で犠牲者が出ることは無い……だから、ゆっくり休んでくれ」

俺はそう告げて祈る――心から。
安心して逝ける様に――願った。

――霊達は徐々にその数を減らして行き、最後にはその姿を消した。

そして俺は、小さな瓶に入った液体を取り出し、それを辺りに撒く。
俺の調合した聖水だ。
場を浄める効果がある。
聖水が空間に浸透していき、淀んだ空気を放つこの場所が、清んだ空気を放つ場所に変わる。

「……もう……大丈夫だからな……」

これで今後は此処を荒らす様なモンスターは近付かないだろうし、霊達も無事に逝った様だから……。

「……後はアンタだけだ」

俺は側に横たえていた、村長の息子の遺体を見て言う。
体中ボロボロで、片腕も食いちぎられているが……。
これだけ肉体の形を保っている以上、まとめて葬る必要は無いし、ここに葬られるよりは日の当たる場所に葬られた方が良いだろう。

俺は彼を担ぎ上げ、かつてウォレスが仮面騎士に襲われた場所に赴く。

「……ここなら良いだろう」

俺は村長の息子さんを横たえ、穴を掘る。
ここなら日も当たるし、見渡しも良い……丁度良いだろう。
深く穴を掘った後、村長の息子さんを埋葬した。
そして木を切って『加工』して、木で出来た十字架を地面に刺す。

「……このナイフ、確かに渡すからな」

俺はそう告げると、村の方へ戻って行った。

村に到着後、俺はカーマイン達に迎え入れられた。
何やら妙な雰囲気だが……。
まさか、村長暗殺事件が起きたんじゃ……。
しかし詳しく聞くとどうにも違うようで……。

「ゼメキス村長が行方不明?」

「ああ……俺達が村に着いた頃には……」

なんでも、村に着いたら村の雰囲気が慌ただしくなっており、村人に聞いたら村長が行方不明になったと言う話だ。

そこでカーマイン達は、村長の家に状況を確認しに向かった。
そこに居たのは一人の男性と一人の女性……。

「話を聞いたら、その男の人が最初に村長の家に訪ねて来たらしいわね……」

「で、返事が無かったから妙だと思って、ドアノブを捻ったらドアが開いたそうでな……中に入ってみたらしい……そうしたら村長はおらず、代わりに血が付着した村長の杖が落ちていたそうだ」

リビエラとウォレスが説明してくれる。
やはりシャドー・ナイトが動いたか……。
俺は精神を集中させ、村長の気と魔力を探る……その距離を伸ばす……更に……更に……。

「……!」

見付けた……!!どうやら村長は無事みたいだな……。
転移の腕輪を使ってくれたか……。
どうも多少の傷は負ったみたいだが、あそこにはシルクも居るし、大丈夫だろう。

「……んで、村人連中は国に捜索願いを出したそうだが、今は手一杯でこっちに兵を回す余裕が無いらしいぜ」

ゼノスがそう言う。
まぁ、今はエリオット達の軍が進撃しているからな。
そちらに兵を割いている為、こちらに回す余裕が無いのだろう。

「それで、皆さん心配していらしたんですが……ラルフさんが説明してくれたんです」

「!?ラルフ……お前、喋ったのか?」

「ごめん……シオン。村の人達の不安そうな様子が見ていられなくて……」

カレンが言うには、村人達が村長の安否を思い、不安を募らせていた時にラルフが口にしたそうだ。
村長さんは生きています……と。
ラルフも気と魔力が読めるからな……分かるのも当然なんだが。
そこで、周りに追求されたラルフは話してしまったそうだ。
俺達がしてきたこと……グローシアンの保護と、グローシアンを殺害していた連中、シャドー・ナイトの情報を……。
それで村人達の不安は幾らか取り除けたみたいだが、代わりに皆が……。
妙な雰囲気になっていたのはそれが原因か?

……まぁ、ラルフはミーシャの正体なんか知らないから仕方ないのかも知れないが……。

「アタシたち、これでも怒ってるんだよ?」

「先生がグローシアンの保護をしていたなんて……ちっとも知らなかったから……わたしたち、信用されてないのかな……って」

ティピがプンスカ怒り、ルイセは少し悲しそうだ。

「ちったぁ俺たちを頼りやがれ!これでも口は固いつもりなんだからよ?」

「そうだよ!……まぁ、アタシは口が軽いというか、お喋りというか……だけど……でもでも!そういう大事なことを言い触らしたりしないよ!」

ゼノスとミーシャもそう言ってくれる。
……確かに、俺はもっと仲間を信頼すべるきなのかも知れないな。

「私は一応、止めたんだけどね……皆にも知っていてもらった方が良いかな…ってね」

そう言って、バツの悪そうな表情をするリビエラ……。

「まぁ、バレちまったなら仕方ないよな……」

正直、不安が無いと言えば嘘になるが。
だが、こいつらなら信じるに値すると思っている。
……だから。

「……すまない、皆を余計なことに巻き込みたく無かったんだ」

だから、素直に謝ることにする。

「気にするな……仲間なんだからな。水臭いことは言いっこ無しだ」

「そうですよシオンさん……私だって、貴方を支える位は出来るんですから」

ウォレスとカレンはそう言ってくれる……他の皆も同様に。
正直、嬉しく思う。

だがしかし……ありがたいが故に、秘密は守ってもらわないとな。

「皆、このことはくれぐれも内密に頼む……どこに目と耳があるか分からないからな」

いや、本当に……一応、あのアジト周辺には認識疎外系の結界と、敵意や害意を持つ者を通さない選別系結界を張ってあるから、ゲヴェルとかにはどうしようもないんだが……問題はクソヒゲ(マクスウェル学院長のこと)だ。

ヒゲ自身が赴いた場合は、間違いなく通れないだろう。
しかし、別の誰かが来た場合は?
イリス……最近感情が育って来てはいるが……ヒゲに命令されれば……。
いや、正直に言えば今のイリスに関しては完全に不確定要素だ。

もしくは真実を知らない人間を寄越すかもしれない。
そろそろ、ヒゲがグローシアン保護を名目に動き出す頃だ。
原作において、数多く保護されたであろうグローシアンも、生き残りはアイリーンただ一人となっていた。
想像でしか無いが、他のグローシアンは実験によって殺されたのだろう。

故に、俺がグローシアンの保護をしているのを知られるのは避けたかった。
真実を知ったヒゲが、グローシアンの明け渡しを要求するかも知れない。
善良という皮を被ったヒゲの本性は、未だに誰にも見破られていない。
だから、最悪のパターンも考えられる。

……まぁ、幾つか対策は立ててあるけどな。

「それは勿論……だが、王には報告するけど……構わないよな?」

「…そりゃあ仕方ないわな」

俺はカーマインの問いにYESと答える。
出来れば勘弁して欲しい所だが……ヒゲが国を通してグローシアンの明け渡しを要求してくるかも知れないし。
まぁ……何とかなるか。
さっきも考えていたが、策が無いわけじゃないしな。

その後、俺は村長の家に行き事情を説明。
犠牲者達を埋葬したこと、村長の息子さんを埋葬した場所のことも話した。
男性と女性は悲しみに包まれた……聞くところによると、男性は息子さんの友達、女性は息子さんの恋人だそうだ。

……俺は村長に、息子さんの形見を必ず渡すことを告げてその場を離れ、皆と合流した。

「とにかく、一度城に戻って報告した方が良いな」

ウォレスの提案に頷く俺達。
こうして俺達はテレポートでローランディアに帰還したのだった。

***********

ローランディア城・謁見の間。

「戻ったか。それで、何か成果はあったかな?」

「すごかったよ!ゲヴェルの卵がいっぱいあったの!」

「ゲヴェルの卵?」

ティピの言い分に困惑するアルカディウス王。
そりゃあ、いきなりゲヴェルの卵とか言われてもな?
それにゲヴェルじゃなくてユングだし。

「我々は彼らの見た夢と、自分が腕を切り落とされた場所を手懸かりに調査を行いました。そしてバーンシュタイン王国内の滝の裏に作られた、ゲヴェルの卵が並ぶ場所へ行ったのです」

「正確にはその卵はゲヴェルそのものでは無く、よく似た小型の異形の物ですが……その辺りでは最近、人が行方不明になるとの事でした。調査をすると、捕らえた人間を食料として、その小型の異形を繁殖させる場所だったのです」

ウォレスとゼノスが王に報告をする。
さりげなく訂正しているゼノスがナイスだな。

「その異形はユングと呼ばれていましたが……、そのユングの卵は全て駆逐しておきました……」

「そうですか……しかし、その様な場所があったとは……それで問題のゲヴェルはどうでしたか?」

カーマインの報告を聞き、何やら思案するサンドラ。
だが、直ぐに思考を切り替えてゲヴェルについて聞く。

「それはどこにもいませんでした。いたのは、お母さんを襲ったあの仮面の男と、ユングって呼ばれた小さな異形だけで……あ、それと、その側の小さな村で聞いた情報だけど、バーンシュタイン王国内でグローシアンがいなくなったり、変死したりしているらしいんです。それでわたし達が洞窟を調査している間に、グローシアンだった村長さんが行方不明になってしまって……」

「……………」

今までに起こった出来事を、細かく報告するルイセ。
それを聞き、顔を歪めるアルカディウス王。

「むっ?どうなされたのですか、陛下」

「実は、我が国内でも、グローシアンが失踪するという事件が多発しているのです」

ウォレスの疑問に答えたのはサンドラ……いや、多分だが……失踪事件の殆どが俺関連だと思うぜ?

「そのことなのですが……陛下にお伝えしなければならないことがあります。実は、ここに居るシオンはグローシアンの保護を秘密裏に行っており、行方不明になったグローシアンの大半を保護しているとのことです」

「なんと!シオン殿、それはまことか?」

カーマインの報告に目を丸くするアルカディウス王。

「はい、真実です」

さてと、説明しなければな……上手く説明出来ると良いんだがな…。




[7317] 第87話―真実とシオンのお話―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/11 18:38


さて、どう話したら良いのか……。
まぁ、ここはある程度正直に話すべきだな。

これが、裏で何を考えているか分からない狸野郎が相手なら、権謀術数を働かせるのも吝かではないが……。

相手はアルカディウス王……気さくな『いいひと』である――アルカディウス王その人なのだ。
信頼に値する人物だろう。

まぁ……俺が現実から転生?してきた人間であり、ゲームになってたこの世界の原作知識を持ってまぁす♪
……なんて余計な事は、それこそ死んでも言えないがな。
まず信じられないだろうし、何よりそんな風に言われて気分が良い奴はいない。

頭の痛い可哀相なコに見られてしまう。
この秘密は誰にも言わず、墓の下まで持っていく所存です。

……まぁ、俺にとっては既に此処は紛れも無い『現実』なんだがな……。

と、それよりも説明、説明。

「少し長くなりますが……」

俺は話せる範囲のことを話す。
以前、ゼノスがシャドー・ナイトにその力を狙われていることを知った俺達は、それを阻止するため秘密裏にシャドー・ナイトの動向を探っていたこと。

「その際に、グローシアン惨殺事件に行き着いた訳ですが……」

「それって、つまり……」

シャドー・ナイト……つまりはバーンシュタイン王国がグローシアン達を惨殺していた……ということになる訳だな。
俺がかなりの数のグローシアンを保護しているのは事実だが、中には事情を説明しても俺達に同行するのを嫌がる者達も当然いる。

そういう人達には予防策として、このアイテムを渡す。

俺は一つの腕輪を取り出し、皆に見える様に提示する。

「その腕輪は?」

「これは『転移の腕輪』と言って、簡易テレポートアイテムです。詳しい説明は省きますが、決められた場所にテレポート出来るアイテムです」

王の疑問に俺は簡潔に説明する。
詳しく説明した所で、これを理解出来るのはサンドラくらいだろうしな。
ルイセも辛うじて……か?

更に俺は説明する……。
恐らく、グローシアンの行方不明者の大半に俺が関わっていること。
保護したグローシアン達は俺のアジトに匿っていること。
俺達が、グローシアンの保護に乗り出してから変死体として見つかった者は、俺達の話を信じず、腕輪も受け取らなかった者達であろうと……。

また、行方不明者の大半は俺が保護しているが、一部には俺達は関与していないということも。

「つまり、シャドー・ナイトでもシオン達でもない……第三者が絡んでいるってことか?」

「あぁ……それが何者かは分からないがな。少なくとも、俺達はここ最近に行方不明になった者については関与していない」

カーマインの質問に答える俺。
シャドー・ナイトが動いたか……仮面騎士を動かしたか……あるいはクソヒゲが動きやがったか……。
理由は幾らでも考えつくが……。

「これが、私が話せる限りの情報です」

「うむ……シオン殿を信じない訳では無いのだが……」

俺の話を個人的には信じたいのだろうが……色々と信じられない要素もあるんだろうな。

「そのアジトって何処にあるの?」

「北にオリビエ湖っていう湖がある。その近くにある森の中だよ」

ミーシャが尋ねてきたので、答えてやる。
恐らくクソヒゲも見ているのだろう……だから追加でこう答えてやる。

「ただし、周囲に結界を張ってあってな?外からは認識出来ない様になっていて、更に敵意や害意のある者は決して中には入れなくなってるけどな?」

敵意や害意のある者が近づいても、迷いの森みたいに迷って辿り着けないだろう。
この結界を破るには、契約者たる俺の魔力を超える魔力が無ければ不可能だが、正味な話、この世界の全ての者達の魔力が束になっても破られない自信がある。
チート万歳だな。

例外として、パワーストーンを使われた場合は分からないが……。

「それと、私達がグローシアンを保護しているということは、出来る限り内密にお願いしたいのですが……」

「それは何故でしょうか?」

サンドラが聞いてきたので、答える。

「何処に耳や目があるか分からないから……というのもありますが、この話を聞いてグローシアンの明け渡しを要求されたりしたらややこしいことになるので……」

仮に……他の誰かがグローシアンの保護に乗り出したと言い出し、このことを知り――グローシアンの明け渡しを要求するかも知れないことを告げる。
それが悪意ある者かも知れないと言う可能性も……。
クソヒゲとかな!!

秘密にしておけば、例えそういう輩が現れても対処することが出来る。

『その話を何処から仕入れたんだ?』

ってな具合にな。
他にも色々言い分はあるからな……フフフ。

「シオン殿の言い分も分かった……今までに色々と尽力してきたシオン殿の言葉だ……信じよう」

「はっ!ありがとうございます、アルカディウス王!」

俺は王の決断に礼を言う。
まぁ、この王様ならそう言ってくれるとは思っていたけどな?
しかし、そこまで信頼されていると何ともこそばゆい感じだな。

「皆、ご苦労であったな。休暇を取り、ゆっくり身体を休めるが良かろう」

こうして、任務を終えた俺達は休暇を取ることになる。
与えられた休暇は三日だ。

最初の休暇先は……。

********

休暇一日目・王都ローザリア

「夕方になったらここに集合ね」

ティピがそう告げると、皆はそれぞれに散っていく。
さて、俺はどうするか……って、レティシア姫にお話をしてやるんだったな……。

俺は門番に言って門を開けて貰い、城内に入る。

「ふぅむ……弱ったなぁ……」

城内に入ったのは良いが、よくよく思い出してみたら約束はしたが、特に待ち合わせをしたりとかはしていないことに気付く。
幾ら協力者とは言え、部外者が城の奥まで立ち入る訳にはいかないしな……。

「……どうするかなぁ……」

俺が頭を抱えていると……。

「あら?シオンさん……どうかしたのですか?」

「!サンドラ…様」

サンドラが通り掛かり、俺に声を掛けてくれた。
丁度良い!
サンドラに掛け合って貰うか!

「実は……」

俺はサンドラに事情を説明する。
漫画的表現をするなら『かくかくしかじか』って奴だな。

「と、まぁ…そんな訳で姫との約束を果たしに来たのですが……どうしたものかと悩んでおりまして……」

「成る程……分かりました。では、私が姫に掛け合ってきましょう」

サンドラがそう言ってくれる……正に渡りに船だ。

「それでは、申し訳ないですがお願いします」

「分かりました……では少々待っていて下さいね」

そう言ってサンドラは姫のもとに向かって行った。
しかし、俺はこの時失念していた……サンドラが『あの』同盟の一員であり、カレンやリビエラだけでなく、彼女もまた企んでいたことを……。

……気付いていたら、あんなことにはならなかったのに……。

程なくして、サンドラがやってきた。
事情を話したら大変喜んでいたとのこと。

んで、サンドラの案内で姫の部屋へ……って。

「それは幾ら何でもマズイのでは……?」

王族の部屋に、部外者が入るってのは……しかも姫の部屋に男の俺が入るとか……。

「姫は『普段の貴方』と話がしたいのですよ。人がいる場所では敬語を使ったり、態度が堅かったりしますからね……貴方は」

いや、確かに俺は堅苦しいのは好きでは無く、普段は砕けた喋り方だが……。
それはあくまで普段の話だ。
まぁ、我が家でも敬語ではあったが……旅に出てからは地が強くなったと言おうか……。
そんな俺でも、公共の場では態度を弁えているつもりだ。

……一国の姫様がそんなことを望んで良いのかね……?
オッサン心配になってきたよ……。
まぁ、好感は持てるけどな。

そうこうする内に目的の部屋にたどり着く。

「失礼します」

「まぁ、シオン様!本日はようこそいらっしゃいました」

ノックをして入ると、早速姫が出迎えてくれた訳だが。
なんつーか、良いのかね?
周囲を伺うと、広くてゴージャスだ。
何と言うか、いかにも王族の部屋って感じ。
我が家の自室も、かなりのモノだと思っていたが……上には上が居る。

で、流石にこの部屋に二人きりでは色々誤解されるってことで、サンドラにも付き合って貰っている。

「なんか、申し訳ないなぁ……」

「気にしないで下さい。今日の分の仕事は終わりましたし、私も貴方のお話に興味があります」

と、サンドラは言ってくれるが……そんな大層な話では無いんだけどな?
そんな訳で、サンドラを交えてのお話の始まり始まり〜……っと。

「さて……今回は何の話をしましょうか?」

「以前、聞かせて頂いたお話の続きが聞きたいですわ♪」

そう言うレティシア姫……と言うとラング○ッサーⅢの話だな?

「承りました……では」

まず、サンドラの為に今までの粗筋をダイジェストで話す。
それを聞くと、サンドラは感心した様に頷いていた。

「さて……続きからだったな」

俺はストーリーの続きを話す。
時間もあることだし、一気に語る。

**********

各地を巡り、仲間を増やしていく主人公達……。

ギュードン屋の攻防や、歴代主人公の激闘なんてオマケを挟みつつ。

帝国との戦い……裏で暗躍する魔族。
魔族の頂点に立つ闇の皇子……彼が持つ闇の魔剣。
光の聖剣の真の力を得る為に、一人の王が己が身を捧げた……。
反乱の狼煙を上げた者達で立ち上げた、新たなる国の王が……。

そして、苦悩する幼なじみと暗黒騎士の正体……。

ここまで一気に語ったが、二人とも興味津々と言った感じで、話に集中している。
語り手としては、結構嬉しい物だ。

そして、闇の皇子は倒れ、魔族は打倒されたかに見えた……だが。

帝国の王子の謀略により命を落とした帝国軍元帥の副官。
怒りに震えた帝国軍元帥は、闇に墜ちる……。
そう、第二の闇の皇子として……。
彼は副官を闇の力で蘇らせ、その謀略を謀った王子を殺した。

そして、新たなる闇の軍勢との決戦を迎えて、主人公は己の想いを打ち明けることを誓う。

そして、新たな絆を紡いだ……。

***********

「結局、ディハルトが選んだのはルナでしたのね」

「私としては、ソフィア辺りとも怪しいと思ったのですが……」

と、それぞれの意見を言い出すレティシア姫とサンドラ。
いや、あくまで俺の中のメインヒロインはルナなんだって。
クレア?小説版?
さて、なんのことやら……。

***********

そして、対峙する聖剣を携えた主人公と、魔剣に見入られた元帥……。

戦いは熾烈を極めたが、副官の女性の呼び掛けや、聖剣の力もあり……闇の力から開放された元帥……。

全てが丸く治まり、魔剣も再び封印されることになった……。
これで平和な日々が訪れる……そう思っていた矢先。
なんと主人公の思い人が掠われてしまったのである。
犯人はかつて元帥に殺された帝国の王子……なんと混沌の神の力により、第三の闇の皇子として復活を遂げていた。

闇の皇子は彼女を生贄に捧げ、混沌の神を呼び込もうとしていたのだ。
主人公は助けに向かう……敵対していた元帥と副官も共に戦う仲間として……。

彼女は信じて疑わなかった……彼が助けに来てくれるのを……。

彼らは立ち塞がる障害を打ち倒しながら進み……遂には辿り着く……彼女の元へ。

そして、闇の皇子を打ち倒し、彼女を救い出したのだった。
こうして、彼らは本当の平和を掴み取り……幸せに暮らしていった。
それから数百年の長きに渡り、その国には平穏な時が続いたという。

**********

「と、まぁ…こんな感じだな。このお話の教訓は、本当に悪い奴ってのは裏の裏に潜んで悪巧みしているってことだな」

随分と長く語っちまったなぁ……仕方ないとは言え、そろそろ夕方になるんじゃないかな?




[7317] 第88話―レティシア姫の告白と勉強会―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/11 18:46


「ありがとうございましたシオン様。凄く楽しめましたわ♪」

「どう致しまして……これくらいなら朝飯前ですよ」

レティシア姫が礼を言ってくるが、俺は話をしただけなのでたいしたことをしたつもりは無い。

……よくよく考えれば、裏に潜んで悪巧みする悪党ってのは、この世界でも成り立つ図式なんだよな……。
バーンシュタインの裏に隠れるゲヴェル然り、ボスヒゲ然り……そのボスヒゲにしたって、元は真っ当な王様で、原住生物であるゲーヴの王、ゲーヴァスの魂をその身に封じたからあんな性格になった訳だし……。
その辺を何となく含めての話だったわけだが。

「私も大変楽しめました。中々に興味深い話でしたし」

と、サンドラは言う。
どの辺が興味深いんだと聞くと、取り巻く人間関係らしい。
成程、サンドラは俺の言いたいことを理解出来たらしい……流石だな。

「また、機会があれば別の物語もお話します……姫がそう望まれればの話ですが」

まぁ、話すのは嫌いじゃないし、あれだけ喜んでくれたなら話した甲斐もあるしな?

「はい、その時が来たら是非お願い致しますわ」

ニッコリと微笑むレティシア姫……むむむ……可愛い!
何と言うか、高貴なオーラが溢れ出ているのに、それが高圧的では無く、清々しい感じというか……。

「それで……その、シオン様にお願いが……」

「は、はい……何でしょうか?」

赤くなりながら恥じらう様な態度のレティシア姫……い、イカン!オッサン勘違い………いや、待てよ?
……あながち勘違いでも無いような?
以前に旗みたいのを立てた自覚もあるし……けど、まさかね?

幾ら何でもレティシア姫も……なんて、ガチで恋愛原子核もいいとこだぜ?

「……私、シオン様が好きです」

「!?」

ちょ、マジかよ!?
いや、半ば予想していたことだが……けど、なんぞコレ!?

フワッ……。

姫が俺に抱き着いてきた……良い香りだな……まるで花の様に……って違う!!?

「レ、レティシア姫……お戯れは……」

「戯れなどではありませんっ!!私は……本気です!」

「…………」

レティシア姫の真剣なその表情と言葉に、俺は何も言えなくなってしまう。

「……本気……なんです……お話を聞かせてくれた時、貴方に守ると宣言された時、助けてくれた時……あの夜のこと……貴方は私に笑顔をくれました……絶望した時にも光を与えてくれました……その光が優しく包んでくれたんです」

俺はレティシア姫の独白を、ただ黙って聞いている。

「想いは時が経つに連れて募っていきました……この想いに嘘偽りはありません……」

レティシア姫が抱き着く力を強める……それはあまりに一生懸命で、離したくないと訴えかけていた……。
確かに俺もレティシア姫に好意を持っているが……。

「……お気持ちは大変嬉しく思いますが……俺にはもう……」

「……話はサンドラから聞きました」

な……に……?
俺はサンドラの方を見やる。

「申し訳ありません……姫の気持ちを悟り、私が余計なお節介を焼かせて戴きました……これはカレン達の総意でもあります」

そう言い放つサンドラ……そういえばカレンやリビエラが何かを言っていた様な……。
恐らく、サンドラとも色々話し合ったんだろう……。
迂闊だった……少し考えれば分かりそうなことなのに……。

「つまり、姫も全て了承の上で、後は俺の答え一つだと……?」

「……はい」

赤くなりながら頷く姫……うん、分かる。
どんだけご都合主義なのかと……。
問いたい…問い詰めたい……小一時間問い詰めたい。
誰に問い詰めたら良いか分からんが……。

ここで姫を受け入れなければ、俺は最低野郎だし……受け入れても一般的には最低野郎だな。
同じ最低なら……答えは決まってるか。

「良いんですか姫……?サンドラから話を聞いてるなら分かると思いますが…俺は既に四人の女性と関係を持つ最低の女たらしですよ……?」

「……それでも、構いません……私もお側に置いてくださいませ……お願い致します……」

……不覚にもキュウンときてしまった。

「……分かりました。これ以上は姫に恥をかかせてしまいますしね……」

俺は姫を優しく抱きしめる。
姫の身体がピクリと震えた。

「俺のものになってくれ……レティシア。絶対に幸せにする……とは言えないが、一緒に幸せになって欲しい……」

「!はい……!私は貴方のモノです……ずっと一緒です!…ずっと一緒にいて、一緒に幸せになります……」

俺達は互いの温もりを確かめる様に、抱きしめ合ったのだった……。
しかし、これで5人目……しかも隣国の姫様とか……良いのかね?
外交問題的にも……。
まぁ……今更か。
彼女は求めて、俺は受け入れたんだ……ならとことん愛するまでだ!!

「……シオン様……大好きです……」

「俺もだ……」

熱っぽい視線を交わした後、俺達は互いに口付けを交わしたのだった……。
あ、ディープじゃないぞ?

「ん……シオン様ぁ……」

いや、そんな艶っぽい声を出されると……。
み・な・ぎ・っ・て・き・て・し・ま・う・っ!!
ヤバイ……落ち着け、Coolになれ……Coolになれ……よし、私は冷静だ。

「あの……シオンさん……」

「あぁ……こっちに来いよサンドラ」

サンドラが凄く物欲しそうにこちらを見ていたので、手招きしてやる。
そして、サンドラにもキス……。

「……もっと、激しいのが欲しいんですけれど……」

真っ赤になりながらそんなことを言うサンドラ……正直かなり来るモノがあるが。

「駄目だ……俺に黙って暗躍してた罰として、これ以上は無しだ」

「そ、そんな……」

俺のその宣告にモジモジしつつガックリするサンドラ……フフフ、今日は悶々と過ごすと良い。

等と、ドSモードになったりした俺だが、まぁ……その後ピンクな雰囲気になりつつも、ここまできたら耐えるしかないわけで。

全てが丸く治まったら……ということになった。

「分かりました……シオン様の意志に従いますわ……」

「それよか、アルカディウス王には何て言えば良いのやら……」

幾ら何でも……こんな複数と関係を持つ様な男との仲を一国の王が認めるわけが……。

「あ、それなら心配いりませんわ♪お父様は全てご存知ですもの♪」

「……………はい?」

今、何て言いやがりました?

「知ってるの……?アルカディウス王が……?」

「はい、以前私がシオン様をお慕いしていることを告げたら、もしシオン様に愛している方がいたらどうする?と言われ……私はそれでも愛すると誓ったのです。そうしたら……」

「……認めたのか、王が?」

「はい♪お父様はお母様一筋でしたが、過去の王は重婚もあったと言いますし……だからかも知れません」

マジかよ……何か?
ローランディア王家に婿入りフラグか?
いやいや……落ち着け……。
……そういやぁ……最初アルカディウス王は俺のことを【シオン】と名指しだったのに、いつのまにか【シオン殿】になっいてたし……。
アレってそういうことか!?
俺はてっきりバーンシュタイン貴族だから敬意を払ってくれたのかと……。
しかし……そうなると、父上辺りが五月蝿そうだな……。
……………まぁ、良いか。
なるようにしかならんだろうさ……。
それもまた俺の物語なんだから、受け入れるしかないわな。

それから俺達はイチャイチャしつつ、他愛の無い話なんかをしていたが、そろそろ時間みたいなのでお開きにすることに。

名残を惜しみながら、別れた後……俺は城門を出た。
もう皆集まっていたらしく、ティピに遅いっ!
とプンスカ怒られてしまった。
その後、改めて城内に入り、文官の人に休暇の終了と次の休暇先を告げて帰路に着いた。

帰宅後、夕食時にそれぞれどんな休暇を過ごしたか話した。
カーマインはルイセとキャッチボールをして遊んだとか……。

「今度はお兄ちゃんのボールを取れる様になるんだぁ♪そうしたら、またお兄ちゃんが遊んでくれるんだもん♪」

……何故だろう?
ルイセに耳と尻尾を幻視してしまった……ルイセ、なんて犬チックな子!?
それを聞いてミーシャが羨ましがっていたが……そこはご愛嬌だな。

夕食が終わり、就寝時間になった時にカレンとリビエラを呼び、今回のことを話す。
他の仲間には秘密でだ。
カレンとリビエラはレティシアとのそれを受け入れた……というか、二人も一枚噛んでいたのだから当たり前ではあるが。

とりあえず、事が明かせる様になるまではこの件は秘密ってことにしてもらう。
協力者とは言え、敵国の貴族と姫様が恋仲となると、色々面倒なことになる可能性もあるからな。

その後、サンドラ同様に罰を告げた後、(やっぱりズーーンと沈んでいた。大袈裟だっての)転移の腕輪の念話機能を使って、ジュリアへこのことを告げる。
やはり苦笑いしながらも受け入れてくれた辺り……もうマジでガチなんだろうな。

色々話したが、やはり少し寂しいらしい……近々会いに行ってこないとな。

そんなこんなで、俺は眠りについた……。
そして翌日……さて、次の休暇先は……。

*********

休暇二日目・保養地ラシェル

「さぁて、どうすっかなぁ……って、ここに来てやることは決まってるんだけどな」

皆が散らないのがその証拠。

「んじゃまぁ……今日も勉強&修業すっか」

ってな訳で、まずは予習復習の意味を込めての勉強。
初めてのリビエラには、『今日から君も大魔導師』の初級、中級、上級、応用編を渡す。

「前に約束した通り、キッチリ教えてやるからな?」

「うん、ありがとうシオン」

そう言って綺麗な笑みを見せるリビエラ。
さて、勉強会を始めますか!

「先生!この魔法なんですけど……」

「どれどれ……これはルイセでもまだ早いな。まず基本系の魔法をマスターしないと」

「シオンさんシオンさん!この蹴り技なんだけど……」

「ああ、これは決まった技名が無くてな……『サンダーボルトスクリュー』とか『サンライズボンバー』とか……呼び方は色々だな」

ルイセとティピの質問に答えたり……。

「あと一息なんだが……どうにも煮詰まってな」

「そういう場合は地味かも知れないが、座禅でも組んで精神修業をした方が良いかもな?地道な修業だが、気の感覚を掴むにはうってつけだぜ?」

「くぅ!気なんてどう感じたら良いんだっての!」

「敵と対峙していて、敵の強さを肌で感じることがあるだろう?それが気を感じるってことだ。それをもっと細かく探れるようになれば完璧だ」

ウォレスとゼノスにもアドバイスをし……。

「う〜〜……勉強苦手……」

「頑張って、ミーシャちゃん!」

自身の勉強をしながらも、ミーシャの応援をするカレン。

カーマインとラルフは黙々と読み進めている。

「シオン……これなんだけど、私にも出来るかしら?」

「マジックガトリングか?これは数の多いマジックアローだからな……習得自体はあまり難しくないぞ?」

リビエラも質問しながら読んでいるので、俺も質問に答えてやる。

「さて……んじゃ、皆しばらく自習な?」

「シオン、何処か行くの?」

「ああ、ちょっと用事があってな……戻って来たら実習訓練だからな?」

尋ねて来たリビエラと、勉強中の皆にそう言い、俺は保養所に向かった。
せっかくGLチップスを買ったんだから、あの子にプレゼントしてあげないと…な?




[7317] 第89話―カードの謎と地獄の鬼ごっこ開幕―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/11 18:54


コンコンッ!

「失礼しまぁ〜す……っと、お休み中か」

あの子の部屋を訪ねるとお昼寝中らしく、すやすやとお休みしていた。
流石に邪魔したら悪いな……とは思うが、せっかくここまで来たのだから、このまま帰るのは気が引ける。

俺はベットの側に椅子を置き、腰を降ろした。

「……出来るなら起きるまで待っていたいが、時間が無いからな……」

皆の実習も見なきゃだし、時間も限られているしな。
俺はGLチップスを取り出す。

「確か、ライエル卿のカードが欲しいんだよな?」

GLチップスは所謂ポテトチップスで、前の世界で見た様な包装がされている……袋の材質も非常に似通っている様に見える。

……どうやって作ってるんだ?
……まぁ、それはともかく…だ。
この袋に更に張り付いているのが、灰色をした少し縦に長めなカードサイズの袋。
表面には赤文字で『グローランサーチップスカード』の表記が。

俺はそれを剥がし取る。

寝ているこの子を起こすのは忍びない……ならば、先に袋を開けておこうかと……。
どのみち、病人であるこの子がポテチを食えるとは思えんし……ライエル卿のカードだけでも喜んでくれるだろう。

まぁ、カードを当てる迄のドキドキ感は味わえなくなるかもだが……。

「……問題は俺にライエル卿のカードを引くだけのドロー力があるかどうか……」

この身体はチートで出来ている……が、引きの良さまでがそうとは限らない。

「まぁ、モノは試し……と」

パックを開けて出て来たカードは……。

「……リーヴス卿かよ」

インペリアル・ナイト……オスカー・リーヴス卿のカードだ。
腕組をしてスッと佇み、微笑をこちらへ向けている。

「随分と精巧に出来ているんだな……まるで写真みたいに……コレ、肖像権とか大丈夫なのか……大丈夫か」

向こうの世界ならいざ知らず、こっちに版権なんてあるとは思えんし。

「っと……今はそんなことより……」

俺は新たなGLチップスを取り出し、カード袋を開ける……そこには……とんでもないカードが……。

銀髪で長身の男……背には身の丈程の大剣を背負い、ゼノスの様な白い鎧を着けた……。

「って、俺かよ!?」

一瞬、ロス○ラのライ?とかボケようかと思ったが、カードのインパクトが強く、結局はツッコミを入れてしまった。

そのカードは、俺が闘技大会まで着けていた装備を纏った姿で描かれていた。
背には愛剣リーヴェイグ、プレートメイルを身につけ……腕を組んでこちらに全開の笑顔を向けている。

「……俺、こんな写真取ってないよな……?いや、写真は無いにしてもこの絵は……」

もしかしたら、闘技場で荒稼ぎしていた時に応援してくれていた俺のファンの誰かが絡んでいるのかも……。
そう考えでもしないと不気味過ぎる!
そもそもこのGLチップスが、スキマ屋ランザック支店でしか扱っていないってのが妙だ……明らかに売る気が無いとしか思えない!

……今度、ランザック支店のオッサンを締め上げるか?
多分、詳しい話は聞けんのだろうな……。
何と言うか、大いなる意思が働いてるとしか思えん。
特派員はこれからも、この謎を全力で追いたいと思います!!

「ってそれはともかく……良かった、寝ている様だ……」

思わずツッコミ入れてたからなぁ……起きてしまったかと思ったが、どうやら寝返りをしただけで終わった様だ。

その後、もう一袋開けたら無事にライエル卿のカードが出たので一安心。
ここで意外性発動で、ボスヒゲ(黒)のカードなんて出た日には『何でやねんっ!!?』とか言ってカードを叩き付けてただろうからな……。
いや、ボスヒゲのカードがあるかは知らんがね?

その後、せっかくだからと、リシャールとジュリアンのカードも揃え、現インペリアル・ナイトを勢揃いにしてやる。

その四枚のカードを花瓶の置いてあるテーブルに置く。
勿論、ライエル卿のカードを先頭にして。

そして簡単なメッセージを書き置きして……と。

『早く元気になるのを祈ってるよ。銀髪のお兄さんこと、シオンより』

自分のことをお兄さんと呼ぶのはかなり抵抗があったが、まさかオッサンなんて書くわけにはいかなかったしなぁ……。

俺は病室を後にした……皆の実習を見なきゃいけないしな。

で……皆の元に帰って来た訳だ。

「ただいま〜♪ちゃんと勉強していたか?」

「お帰り。僕は一通り予習が終わった所だよ」

俺の声にラルフが返してくれる。
周りを見ると、皆一通りの予習は終わっている様だ。

「んじゃ、実習を始めるとしようか?」

ラシェルから少し離れた街道に移動……早速、実習を開始することにする。
ルイセ、カレン、ミーシャ、リビエラは魔力を高める為の瞑想、覚えた魔法の実戦。

ウォレスは気の感覚を完全にモノにする為に、身体のあちこちに気を巡らせ、纏う練習。
ゼノスとカーマインは気の感覚自体を掴む為の座禅。
ラルフは仮想敵を相手にしたシャドー。

ティピはひたすらに蹴りの練習。
打つべし!打つべし!打つべしぃ!!
みたいな感じで……キックだから蹴るべし……か?

「秘技!クラックシュートォ!!」

餓狼伝○のテ○ー・ボ○ードの必殺技ですが何か?
他にもアン○ィ君の超・必殺技や、東さん家のジョーさんのムエタイ技の一部なんかも伝授しました。
物理的に地獄に落とすムエタイ界の死神の必殺技なんかも教えたが……あれはティピじゃ実演出来んだろう。

俺?勿論出来るぞ?
アレは言うなれば『物凄いキック』だからな……やろうと思えば余裕です。
後は出来るといえば、あらゆる武器の申し子の必殺技くらいか……。
アレも『物凄く精密かつ早い斬撃』だからな。
基本を必殺にまで昇華させた技なら、ラーニングせずとも再現可能だったりする。
それもこれも、数々の戦士達と戦い、彼らの技能をラーニングしてマスターし、アレンジした今の技量があるからこそな訳だが…と、話がそれたな。

お、ミーシャがマジックフェアリーを使い出したな……相変わらず空間把握能力はずば抜けてるな……だが。

「あ……」

ドガガガガッ!!

シーーーン………。

「またやっちゃった♪」

テヘッ♪と舌を出しながら、ウィンクをしてごまかそうとするミーシャ。

何が起こったか簡潔に説明すると、調子に乗ってマジックフェアリーを操っていたのは良いが、調子に乗りすぎてコントロールを失い、フェアリー達が散らばり着弾。
皆、辛うじて当たらずに済んだが……。

「な、何をしてるかアンタわぁぁぁぁ!!!」

ドゴンッ!!

「みぎゃ!?」

おお……超○破弾……早速使いこなしているティピが素敵です。
お〜!?ミーシャが軽く吹っ飛んだぞ!

「危うく当たる所だったじゃない!!怪我したらどうすんのよ!!」

「ティピちゃん……酷すぎるよぉ………」

結構痛かったらしく、ティピに批難の視線を向けるミーシャ。
いや、十中八九で自業自得だろう。

……どうやら、ミーシャは空間把握能力は高いが、集中力が散漫みたいだな。
戦闘中はそうでも無いんだがなぁ……普段は……な?

「とりあえず、ミーシャは反省の意味を込めてその場で正座な?」

「そ、そんなぁ……」

「……何か文句あんのか?」

「な、何もありません!!」

俺の決定にブーブー言うミーシャだが、軽いメンチビームを飛ばしてやったら押し黙った。
まぁ、当たったら洒落にならない威力だったんだから、正座くらいで文句は言わないで欲しい。

「良いか?魔法には集中力は欠かせないモノだ。これは気にも通ずることだけどな……だからこの正座は集中力を高める意味でもあるのを忘れないでくれ」

別に罰というだけでは無く、修練という意味合いも兼ねているのだ。

「そうだったんだ……うん!アタシ頑張る!!」

俺の真剣な言葉に納得したミーシャは、気合いを入れて正座する。
まぁ、集中力を高めるならウォレス達みたいに座禅でも良いんだが……そうなると罰にならないだろう?

ニヤリ……と、心の中で悪い笑みを浮かべる俺。
さてさて、他の面々の様子も見なければ。

時間もそれなりに経ったし……本日の締めに入りますか。

「ではこれより、仮想敵を想定した模擬戦を開始します。ルールは夕方までにその敵を降参させるか、逃げ切るかすれば皆の勝ち。敵に捕まるか降参させられるかしたら皆の負け……あと、モンスターの邪魔が入らない様に数百メートル四方に簡易結界を張ったから、範囲はその結界内に限定させてもらうぞ?結界の外に出たら負け……後は保養所内に逃げ込んだ場合も降参したと見なすからそのつもりで。何か質問は?」

俺は皆を集め、模擬戦をやることと、そのルールを説明した。

「何だか鬼ごっこみたいだね」

「何だか怖そうな……楽しそうな……」

ルイセとミーシャはそんなことを談笑している。

「実戦形式なわけか……その仮想敵を倒した場合はどうなるんだ?」

「勿論、皆の勝ちだよ……勝てるならな」

「……何だって?」

ウォレスの質問に答える俺だが、その答えを聞いて首を傾げてしまう。

「それで、その敵はどこにいるの?」

「?皆の目の前に居るじゃないか」

ティピの質問に簡潔に答えてやる俺。

「えっ?目の前って……シオンさんしかいませんけど……?」

「ちょっと待て……まさか……」

カレンが頭にクエスチョンマークを浮かべる……一方、ゼノスは感づいた様だな。

「模擬戦の相手は俺だ。皆VS俺という図式だよ」

………………………。

…………………。

……………。

…………。

……。

…。

「「「エエエェェェェーーーーッ!!!?」」」

耳をつんざく程の声を上げたのはルイセ、ミーシャ、ティピ……ちょっ、聴力もチートなんだからキツイって…!!

「待て!!お前が相手ってそれは……」

「心配しなくても、俺はハンデとしてアレンジ魔法は使わないし、加減もするから大丈夫だって」

ゼノスが少し焦りながら言うので、ちゃんと説明する。

「いや、俺も最近は対人戦の訓練はしてないからさ、良い機会かなぁ…と」

「……マジかよ?このメンツ相手だぞ?幾らお前でも……」

なんてゼノスが心配してくれるが、無用な気遣いだな。

「別に無理強いはしないさ……気が乗らないなら辞退しても良い。まぁ、俺の勝ちは揺るぎないだろうから、やる気にならないのは仕方ないだろうがね……」

少し、某赤い弓兵みたいに皮肉を込めてみる。

「……良いだろう。俺は参加してやるぜ!!俺だって修業してるんだ!やってやろうじゃねぇか!!」

よし、ゼノスは参加っと……クックックッ……ゼノスにはいつぞやカレンに妙なことを吹き込んでくれた礼があるからな……辞退されては困るのだよ。

「んで、皆はどうする?マジで無理強いはしないぜ?」

「僕は参加するよ。自分がどれだけ成長したか興味あるし、シオンとの模擬戦も久しぶりだしね?」

「俺も参加する……どれだけ俺の実力がアンタに通じるか試してみたい」

「なら俺も参加するか……試してみたいこともあるしな」

ふむ……ラルフ、カーマイン、ウォレスは参加……っと。

「んで、女性陣はどうする?」

ルイセとミーシャは参加を表明……リビエラとカレンは迷ったが、参加することにした。
仮想とは言え、俺とは敵対したくなかったらしい。
だが、同時にどれだけ成長したかも見て欲しかったのだとか……。




[7317] 第90話―シオンVSグローランサーズin模擬戦―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2011/12/09 16:21


「俺は今から600数える……約10分だな。その間は手出ししないから、森に潜んで作戦を立てるも良し、今この場で仕掛けてくるも良し……好きにして良いぜ?んじゃ……始め!」

そう言うと皆は一斉に森の中へと駆け出した……意外だな……ゼノス辺りは先手必勝を狙ってきそうだったんだが……。
流石は元傭兵ってことか……見た目は熱くなっている様に見えて、心は冷静だったって訳だ。

「そんじゃあ、まぁ……数えますかね。い〜〜ち、にぃ〜〜………」

俺は目を閉じ、ゆっくりとカウントを始めた……。

********



さて、模擬戦が始まった訳だが……どうするか?
正面から馬鹿正直に攻めるのは得策では無い……俺達はシオンの反則臭い強さを嫌と言うほど理解しているし、一斉に切り掛かったとしても、逆に身動きが取りづらくなる。

ある程度、距離を取った俺達は一度止まり、作戦を練ることにする……あまり時間は無いが。

「皆……何か意見があったら言ってくれ」

俺は皆を見据える……。

「正直、真っ向から戦うのは得策じゃないな……実力差があり過ぎるし、一斉に切り掛かっても逆にやりにくくなるのがオチだ」

ゼノスがさっき俺が考えていたのと同じ様なことを言う。

「いっそのこと逃げ続けるとか?」

「……最後までシオンさんから逃げ切れるって……アンタ本気で言える?」

ミーシャの案を一蹴したティピ。
確かに……バラバラに逃げ回ることで多少の時間を稼げるかも知れないが……恐らくそれだけだろう。
各個撃破……多分捕獲されて終わりだ。
俺はシオンから逃げ切る自信は無い。

「うーーん……皆バラバラに隠れるとか?」

「……それも無理だよ。シオンは魔力や気を読むからね……それをどうにかする手段が無い限りはすぐに見つかるよ」

ルイセの提案をやんわりと否定するラルフ。
そう……そこが厄介な所だ。
気や魔力を読まれるから、奇襲が通じない。
何でも、気や魔力は消せる……もしくは悟られない程度に小さく出来るらしいが、いかんせん俺達はまだまだ気に関しては素人だし、魔力にしたってそんな技術はまだ覚えていない。
俺も、気を小さくすることは出来るが……まだまだ完璧には程遠く、気を熟知したシオンに通じるとは思えない。

唯一の例外がラルフではあるが……。

「でもシオンさん、魔法を使わないって言ってたから少し楽なんじゃない?」

「でもティピ……先生は『アレンジ魔法』を使わないって言ってるだけで、普通の魔法を使わないなんて言ってないよ?」

「あ゙……そういえば……」

ルイセの言う通り、アレンジした魔法を使わないとは言ってるが、逆に言えば通常の魔法は使うという意味に取れる。

「……ちなみにシオンはどれくらい魔法を覚えてるんだ?」

「一部補助系や蘇生呪文を抜けば、ほぼ全て……かな?」

俺の質問にラルフが苦笑いしながら答える。
それは……かなりキツイな……まぁ、幾ら何でもメテオやアースクエイクを使っては来ないだろうが……。

「やっぱり、チームを二つに分けた方が良いんじゃない?一塊でいるよりは幾らかマシだと思うんだけど……」

「二手に分けるということは、戦力を分散させることになるが……確かに一塊でいたら纏めて殲滅される可能性が高いな……」

リビエラとウォレスはそれぞれに意見を言ってくれる。
……確かにな。
ここは二つに分けるのが得策……。

「あの……私、考えたんですけど……」

――カレンの口から遠慮がちに語られたのは、意外な一言だった……。

*********



「598……599……600!!」

カウントを終えた俺はゆっくりと目を開く。

「さぁて……どういう作戦を立てたのか……ん?これは……」

俺は気を探る……すると、皆は森の中に布陣しているのが分かる。
迎え撃つ気か……?
にしても、この陣形は……。
ラルフを先頭に、カーマインを左翼、ゼノスを右翼に展開………ウォレスは中央に待機……?
ルイセは更に後方に陣取り、ミーシャ、リビエラ、カレンは後方からゆっくり近付いている……援護をするつもりか……?
二手に分散するよりかは、幾らかマシだし、一斉に攻め込んで来るよりは断然良い策だな。
ちゃんと、俺を一個の『強敵』と認識している様だ。

「……どうやら、何か企んでるらしいな。ならば……」

俺は後退し、高台になっている岩を見つけその上に陣取る。
距離的には200って所か。

そして純白の戦弓を取り出す……。
俺の作製した魔導具『天弓』である。
その特性は『自身の魔力を矢弾として打ち出す』という物。
無論、通常の矢をつがえることも可能だが。

その威力は込める魔力、精神力の量により変化する。
詠唱が全くいらないから、魔力はあるが攻撃魔法が使えないって人にもピッタリの一品です。
まだ試作段階なんで、商品化はしてないけど……。

俺はそれをゆっくりと構え、弦を絞る。
すると蒼天の色を帯びた魔力光が矢の形に収束する。
そして視力を集中……。

「……見えた」

とりあえず、びっくりして貰おうか?
俺は適度に魔力を込めたそれを放った。

ドンッ!!

ラルフ達の中央を狙って放ったそれは、地表で破裂し地表をえぐり取った。
それを見て一瞬警戒を現にするが、すぐに冷静さを取り戻し、陣形も崩さずにこちらへ進軍してくる。

「成る程……流石だな……なら、これならどうだ?」

俺は魔力矢を連射する。

ドドドドドドドッ!!!

それは雨の様に皆に襲い掛かる。
しかし、今度は微動だにせず、進軍する。
……まるで、こっちに当てる気が無いのを知ってるかの様に……。

「そういやぁ……向こうにはラルフがいたな。我が一番弟子なら、俺の気を読んで殺気があるかどうか……確認するのは造作も無いか」

いや、違うな……。
元より、俺は対人訓練では殺気を出さない。
仲間に対して『殺す気』にはなれないからだ。
今回わざと外したのは、動揺を誘い、各個撃破する策……を、用いる相手の対処方法を学んで欲しいと思ったからなんだが……。

「それを読まれたか……流石に長い付き合いだしな……」

俺はふぅ……と溜め息を吐く。
そして再び弓を構える……。
……次は外さねぇぞ?
無論、全力でなんて撃たないが……。

「覚悟はしてもらおうか……」

主にゼノスとか……なっ!!
そして俺は矢を放った……。

*********



さっきから、シオンの攻撃が続いていたが、僕達は無理に避けたりしない。
ここで取り乱したら、それこそシオンの思う壷だからね。
カレンさんの考え通りなら……。

*********

進軍開始前……。

「あの……私、考えたんですけど……下手に分散するより、陣形を組んで挑んだ方が良いと思うんです」

「……その根拠は?」

カレンさんの意見を聞き、皆は軽く驚く。
何故ならカレンさんの意見は皆の出した結論とは、真逆とも言える意見だったから。
カーマインがその真意を尋ねている。

「シオンさんは……何故こんな模擬戦をやろうなんて、言い出したんでしょう?」

「そりゃあ……対人戦の訓練がしたいからだろ?」

「―――兄さん……本当にそれだけだと思う?」

それを聞いてゼノスさんは押し黙る。
確かに、対人戦訓練をしたいというのも本当かも知れない……けど、シオンの性格を考えると、どうにもそれだけじゃない様に思う。

「じゃあ、カレンはどう考えてるの?」

「……多分、シオンさんは試しているんじゃないでしょうか?」

「試す…?」

リビエラさんの問いに答えるカレンさん。
それを聞いてティピちゃんが首を傾げていた。

「試すって……わたしたちの特訓の成果を?」

「それもあると思う……けど、シオンさんが試そうとしているのは、多分別のこと……」

「ふみぃ……?どういうこと……?」

ルイセちゃんの問いに答えるカレンさん。
ミーシャちゃんは訳が分からないって感じだ。
……何となく、カレンさんが言いたいことが見えてきたな。

「……もし、シオンが対人戦訓練をしたいだけなら、一対一か、自分対近接戦が出来る僕ら男性陣のみ……なのに、そこにカレンさん達を加えるということは……僕達の実戦を意識した構成ってことになる」

「……成る程な。俺にも少し見えて来たぜ……シオンは恐らく、自身を抜いた俺達の力量を試そうとしている……って訳か」

僕の見解を聞いて、ウォレスさんもその答えに辿り着いたらしい。

「それって……どういうこと?」

「私達……今まで戦って来て、シオンさんに頼って来た……常に最前線で戦って、指示を出して……正直、シオンさんに助けられたことは何度もあるわ」

ルイセちゃんの疑問に答えるカレンさん。
確かに、シオンは率先して前線に立っていた。
指示自体はカーマインやウォレスさんも出していたが……シオンが指示を飛ばす時も確かにあった。
気当たりで敵の戦意を刈り取っていたのもシオンだ……。

「だからシオンさんは試しているんだと思う……例え自分が居なくても私達は頑張れるって、証明して欲しくて……」

「それってシオンさんが……」

「ううん、そういう意味じゃなくて……ほら、この前みたいに任務で二手に分かれる時もあるでしょ?そういう時の為だと私は思うよ」

カレンさんの意見に、ティピちゃんが勘違いをする。
シオンが僕達の前から姿を消す……と、思ったのかな?
シオンがそんなことする筈が無いのに……。
カレンさんもその辺を訂正している。

「成る程な……話は分かった!要はアイツは俺達を心配してるって訳だ……なら、俺達のやることは一つ!!」

ゼノスさんが両拳をぶつけ合う。
ガキィィィン!!
という金属音が鳴り響く。
ゼノスさんは金色の手甲をしているからね。

「俺たちがお荷物では無いと……証明すれば良いんだな」

どうやらカーマインを始め、皆やる気になったみたいだ……かく言う僕もそうだけど。

*********

今現在。

その後、カレンさんは陣形を取る理由を説明した。
シオンはあらゆる意味で僕達を試してくるのではないか……と。
一塊になっていては纏めて一掃され、分散してはそれぞれ撃破される。
なら、陣形を取って進軍すればどうか……それぞれを適材適所に置く。

これはいつも、僕達が使う戦法そのものだ。
だからこそ、これが正解だと思った。

あくまでも相手はシオン『一人』……強敵が一人なのだから、力を合わせて挑むのは当然……かと言って猪みたいにただ突っ込むのは戴けない……。
ならば、あらゆる状況に対応出来る様に陣形を組み、進軍する。

そしてある程度進んだらシオンからの攻撃……蒼い魔力の矢を放って来た。
それは『天弓』での攻撃だった。
その一撃は地面に軽い風穴を開けた。
一瞬、警戒を強めたが……僕はシオンの気配から、当てる気が無いと判断。
皆を促し先に進んだ。
その次には、まるでマジックガトリングの様に雨みたいな連射を放ってくる……が、これも当てる気は無く、こちらの動揺を誘う為の物だと理解……そのまま進軍する。

………ん?
……シオンの気が変わった……!?
来る…!?

「ゼノスさんっ!!」

「ぬおっ!?」

僕の声に反応して、咄嗟に飛びのくゼノスさん。
そこにはシオンの魔力矢が飛来し、地表を軽く削り取った。

「あ、当てる気できやが……ぐぁ!!」

ドガガガッ!!

容赦無く放たれたそれの連射に曝される僕達……威力は抑えてあるみたいだけど…喰らい続けたらジリ貧だ…!

**********

Sideシオン

俺の放つ矢群は、まるで吸い込まれる様に前衛であるラルフ達(ゼノスは重点的)にヒットしていく。
無論、加減はしてるがね?
仲間相手に全力出すつもりは無いし、何よりこの『天弓』……俺の全力どころか、1/10の魔力にも耐えられない。
1/100でも怪しいだろうからな……。

「商品化するなら、充分過ぎるが……俺専用にするならまだまだ改良が必要だな」

言いながらも、矢を放つ手は止めない。
だが、当然ながら威力を抑えまくった矢だから、喰らいながらも対応策を立てられる訳で……。

「む……補助魔法を掛けたか」

ラルフがグローレジストとグロープロテクトを掛けた。
これにより、物理攻撃耐性と魔力攻撃耐性が上がる。
これにより幾らかマシになる筈だ。

『天弓』での攻撃は魔力攻撃であると同時に、物理攻撃でもある。
魔力を変換して、両方の特性を得ているわけだ。

ちなみに、ルイセの使うカードや魔法の杖なんかも似た様な特性があるが、あれはカードや杖に込められた力を使う為、自身の魔力量は関係無い。

少し脱線したが、要は威力を上げれば済む話だが、弓兵相手はもう充分だろう……。

俺は射撃の手を止め、『天弓』を片す。

「せっかく何か企んでるみたいだしな……」

次に取り出したのは槍……戦場を求めてさ迷い、敵を百発百中で貫くが、争いを招き、血を欲し……敵を倒し尽くしたら、その身に宿る業火で持ち主を焼き尽くすという魔槍……『ズフタフ』。

俺の世界では、ケルトの物語に出てくるアルスターの勇者、ケルトハルの持つ槍であり、本来の正しい名前は『ルーン』と言うらしい。
この槍に関しては諸説あるが、勇者ケルトハルがズフタフ(またはドゥフタハ)という戦士に貸し与えたのがこのルーンであるそうだ。
しかしズフタフは戦場でこの槍を無くしてしまったそうな……。
こういう経緯があるからか、日本ではルーンでは無く、ズフタフの槍、あるいはズフタフ……という名称でこの槍は呼ばれている。
一説には、この槍をズフタフと名付けた人物は、某神話や民話に出てくるマジックアイテムを紹介する本を参考にしたから……という説があるが、かなり有力な説だと思う。

物語においては前述の様な特性があり、槍に殺されない様にするには『黒い流体』か、『毒液』の入った大釜に浸しておく、あるいは眠り草で包んでおかなければならないらしい。

もっとも、このズフタフに関してはそんな必要は無い。
この世界のズフタフは炎の属性を持つ強力な槍……というだけでそんな特性は無いのだから。
原作では高価だが、売られていたしな。

だが、この槍には特筆すべき部分がある。
それは、俺が全力で振り回しても壊れない……ということだ。
原作設定、基本攻撃力140は伊達では無いってことだな。

俺は軽くズフタフを振り回す……よし、準備運動終わり!

「んじゃ……その企みに嵌まってやるとしますか…!」

ドンッッッッ!!!!

俺は思い切り踏み込み、まるで射出されるかの様なスピードで飛翔した。

*********

Sideゼノス

「……矢の雨が止んだ……?」

カーマインが不思議そうに首を傾げていた。
ラルフが俺達に補助魔法を掛けてからしばらくした後……突然魔力の矢が止んだ。

「補助魔法を掛けたのに気付いて、攻撃を止めたとか?」

「……アイツがそれくらいで止める様なタマかよ?」

ティピの意見に疑問をぶつける俺。
手加減していて、効果が薄くなるんだったら、威力を上げりゃあ良い。
そのくらいの芸当、シオンなら容易だろうさ。

……どうでも良いが、あの魔力の矢……ティピの奴には一発も掠らず、俺には他の二人より多く被弾したのは、やっぱり狙ってやってるんだよな…………。

俺は薄ら寒いモノを感じてしまう……絶対、この間言ってたスペシャルな修業がコレだ……。
……ヤバくないか?
いや、むしろ好都合か……?
俺を狙ってくるなら、幾らか隙が……。

「!!?……この気配……マズイ!!皆!!」

「あん?何だよラル…」

ラルフが焦った様子で叫んでいるので、俺はそれに答えようとして……。

ゾワッ………!!!!!

「!!!?」

まるで、体に電気が走ったかの様な感覚……体中に伝わる危険信号……。

咄嗟に飛びのくことが出来たのは奇跡かも知れない……。

ズドォォォォォォォンッ!!!!

空から飛来した『何か』が、俺達の中央に落下した……。

********

Sideシオン

一気に飛翔し、カーマイン達の陣形の中央に着地……というより、中央目掛けて槍をそれなりの力配分で突きながら落下した訳で……。
周りの木々を吹き飛ばして、半径は大きくないものの、クレーターみたいなモノが出来てしまいますた。

……力配分を間違えたか?
環境破壊も甚だしいな……。
?皆の心配はしないのかって?
ちゃんと避けたのは気を読んで分かってたし、今のを直撃させるつもりは無かったしな。
直撃させたらミンチになってしまいます。

舞い上がった砂煙が晴れていく中、徐々に現れたのは武器を構えながらも唖然とする三人だった。
むぅ……カーマインとゼノスはまだ仕方ないにしても、ラルフは気を読めるんだから、俺が着地した瞬間に攻めなきゃ駄目……。

「ハァッ!!!」

「ムッ」

ガキャアアァァァァンッ!!

と、思ってたらちゃんと切り掛かって来ていた。
流石はラルフという所かね。
俺はそれをズフタフで受け止めた。

「槍…か。確か、ズフタフ、だっけ……?」

「ああ、たまには槍も悪くないと思ってな?」

鍔ぜり合いになるが、パワーで圧倒している俺はジワジワとラルフを押し始める。
ちなみに俺の今の身体能力はラルフ以上に調整してある。

流石にこの面子全員相手だからな……コレくらいはな?

「集中するのは良いが……ボディがお留守だぜ!!」

ドゴォッ!!

「ガッ!?」

俺はラルフの体に蹴りを入れて蹴り飛ばした。
さて、砂煙が完全に晴れたな。

「シ、シオンさん!?一体何処から……!?」

「何……ちょっと上からね」

驚くティピに、俺は空を指差して示す。
まぁ、正確には高台にある岩山からなんだが……些細なことだな。

「さて……稽古開始と行こうか?」

メンチビーム……気当たりは使わない。
角度的にティピを巻きこんじまうし。
だが、気分は某史上最強の弟子の師匠……なんつーか、長老的な意味で。

*******

Sideラルフ

「さて……稽古開始と行こうか?」

ゾクッ!?

僕はシオンのその雰囲気に呑まれかける。
体中が警鐘を鳴らす……目の前の相手には勝てない、逃げろと……そんなのは百も承知だ!

「カーマイン!ゼノスさん!!」

「!…ああ!」

「!おうよっ!!」

二人も呑まれかけていたが、持ちこたえる。
カレンさんの言う通り、シオンが僕達だけでもやれるか、試しているのなら……それを望んでいるのなら……一矢でも報いなきゃいけないだろ…?

「でやぁぁぁ!!!」

「フッ!!」

ゼノスさんとカーマインは左右から同時に切り掛かった。

ガキィィィィィィン……!!

それをシオンは槍を巧みに使い、難無く同時に防いでしまう。
しかし、二人は止まらない。
隙を見せたら反撃が来るだろうし、手を抜ける相手では無いから……。

「「オオオオォォォォォッ!!!」」

ガガガガギギギィィンッ!!!!

二人は目にも留まらぬ高速の連撃を繰り出す……しかし、それらは届かず、掠りもしない……なら!!

「……グローアタック!!……グロープロテクト!!」

僕は高速詠唱、詠唱時間短縮という技能を駆使して、僅かなタイムラグで身体強化呪文を唱えていく……そして極め付けは。

「……グロークイック!!」

グロークイックは文字通り、クイックの全体版で、多数の味方に対してクイックの効果を与える魔法……シオンがアレンジした魔法だ。

これで僕達は身体能力がかなり強化されたことになる……だが。

「おっ……と。こりゃあマジだな……まぁ、全力で来いって言う手間が省けたけどな」

二人の疾風迅雷の攻めを、シオンは涼しい顔で受け流して行く。
なら……僕のすべきことは。

「……マジックフェアリー!!」

新たに唱えたのは魔力の妖精……それを従える。

「行け!!」

僕は妖精達を複雑な軌道で飛ばし、カーマイン達を避けて飛び……一気にシオンに肉薄する。

「……ふんっ!!」

ガカンッ!!

「くっ!?」

「ぬおっ!?」

シオンは二人を弾き飛ばした後、槍を回転させて迫って来る妖精を叩き落とした……これでも届かないか……けど、時間は稼いだ!!

「でやあぁ!!」

「甘いっ!!」

僕はフェアリーを放った後、後方に回り込んで切り掛かった……しかしシオンは振り向くことも無く、石突きで素早く突かれる。

ドドドドドドドドドッッッ!!!!

「があぁぁぁぁっ!!?」

無数に突かれたそれに吹き飛ばされ、僕は木に激突する。

「か……はぁ……!?」

背中を強打し、息が詰まる……もし、あれが穂先なら、あるいは全力だったなら……こんな物じゃ済まなかっただろう。
けれども、お陰で距離を取ることが出来たよ。

「……っ!?」

シオンの動きが止まる……よく見ると、シオンの足には光の糸が幾重にも絡まっていた。
カレンさんとルイセちゃんのバインドだ……。

「成る程……前衛は囮で、バインドで足を止める作戦か。しかも二人掛かりで唱える、念の入り様……まぁ、悪くない策だが……俺の上半身はまだ動くんだぜ?」

確かに……シオンなら魔法を詠唱するだけでもお釣りが来るだろう……けど、準備は整っているのさ!

カーマインとゼノスさんもそこから離脱する……。
そしてシオンの眼前に現れたのは……。

「ぬおりゃああぁぁぁぁ!!!!」

左の拳に溜めた気を、今まさに放たんとするウォレスさんだった。

ドオォォォォォ………ン……!!!

気の波動に飲み込まれ、姿が見えなくなるシオン……ウォレスさんの全力の攻撃。
それは普通の相手なら消し炭としてしまう程の威力の気合い拳……そう。
普通の相手なら……。

「成る程……たいした威力だ。今のなら大概の奴は仕留められるだろう……だが、今の技は覚えたぜ」

そう……シオンの声が響き渡る。
舞い上がった土煙の中から現れたのは、無傷な状態のシオンだった……この結果は分かりきっていた。
……けど、ウォレスさんの気合い拳も引っ掛けだとしたら?

「「マジック……ガトリングッ!!」」

ドガガガガガガガガッッッ!!!

空から来たるは無数の魔力の矢群…その数は数百では効かない。
ミーシャちゃんとリビエラさんのそれは、まるで豪雨の様に降り注いだ――。
更に僕は呪文を紡ぎ…放った。

「ソウル…フォース!!」

ドシュ!ドシュ!!ドゴオォォォン……!!

空中から降り注ぐのは、エメラルドグリーンに輝く、三本の魔力の槍。
最後の槍が突き刺さった時、その魔力エネルギーはエメラルドグリーンの爆発を起こした。

ソウルフォース……強力な魔力エネルギーをぶつける物理属性の魔法…シオンのアレンジ魔法を除けば、最も威力の高い魔法だ。

「ったく、容赦ねぇ…俺でなけりゃあ死んでるぞ?」

……ハハハ、予想はしてたけど。
見ると、全く堪えてないのが分かる…。
少しは通じるかと思ったのになぁ……。

**********

Sideシオン

ふぅ……少しびっくりしたな。
全く容赦ねぇんだもんな……マジで俺じゃなけりゃあ死んでるぞ?
だがこれなら、例え俺が居なくても十二分以上に戦えるだろう……。
まぁ、ボスヒゲ(黒)やボスヒゲ(最終形態)相手でも、力を合わせればどうにかなるだろう。
いや、少々キツイか?
ボスヒゲは、ランザック城を一撃で吹っ飛ばすだけの力がある。
原作ルイセ曰く、自身の全グローシュを解放してもそんなことは不可能だと言っていた。
正直、今のボスヒゲらしい気配からはそこまでの力は感じられないから何とも言えないが……。

と、言うか……俺の目の黒い内はルイセのグローシュを抜き取るなんてさせないし……そのことも考えてルイセを鍛えてるんだしな。
無論、俺自身のグローシュも奪わせるつもりは無い……。
本当は禍根を絶つ為にもボスヒゲは始末したいが……ボスヒゲに出張って貰わなければ、エリオットの件で色々厄介なことになる……。
奴もゲヴェルの良いようにされるのは我慢ならない筈だから、時が来れば必ず姿を現す筈だ。

まだ不安が無い訳じゃないが……合格としようかね?

「さぁて、こっからはスーパー俺様タイム開始な?」

「「「「ス、スーパー俺様タイム!!?」」」」

俺の言い分にカーマイン、ラルフ、ゼノス……ウォレスまでもが戦慄する。
いやぁ、俺としてはウォレスの気合い拳と、ラルフの制空圏をラーニング出来ただけで大収穫なんだがね?
あ、今更言う必要は無いかもだが、俺の制空圏は気を読む能力を応用、アレンジしたモドキではあるが、ラルフには理論自体はモノホンの制空圏の物を教えてある。
即ち、ラルフの使う制空圏はモドキでは無く、本物ということ。

ん?何時ラーニングしたのか?
ラルフが切り掛かって来た時あるだろ?
実はあの時、制空圏を発動していたらしい。
で、軽く防いだんだが……それに気付いた俺は、試しに髪の毛にラルフの斬撃を掠らせてみたのよ……したらラーニング出来ていた……と。

ラルフが俺の攻撃で弾き飛ばされたのは、単純に地力の差と技術の差。
今の俺は身体能力をかなり加減しているとは言え、ラルフ個人との開きはかなりある。
言うなれば、子供と大人くらいの差だ。

まぁ、それはともかく……。

「まぁ、皆の今現在の実力も分かったし、納得したから止めにしても良いんだが……」

敵の策にも惑わされず、また、自らを上回る強者に対しても団結して立ち向かえた。
不安要素はあるが、十二分に合格と言える。
だが、それはそれ。

「せっかくだから、良い経験になるかと思ってね……所謂『ずっと俺のターン!!』って奴?」

「いや意味分かんないよ!?」

ティピが思わずツッコミを入れてくる。
まぁ、要するに踏まれても立ち上がれる雑草魂を身につけましょうと。
バーサーカーソウルはチートカードだと思いますがどうか?

「いやね?せっかくだからゼノスのスペシャルな修業に付き合って貰おうかなってさ」

「ちょ、ちょっと待て!!今までの模擬戦がそうだったんじゃ……」

「ん?あの程度のことがスペシャルな修業だとでも?」

慌てるゼノスにニッコリ笑顔で答える俺。
ゼノスの血の気が引く音が聞こえるかの様だ。

「分かった……僕も付き合うよ」

「俺もだ……」

ラルフとカーマインは、このままでは余りにゼノスが不憫と思ったのか、或いは俺のスペシャルな修業に興味が沸いたのか……或いはその両方か。

「毒を食らわば皿まで……俺も付き合うさ」

「わたしも!」

「お兄様達が参加するならアタシも!!」

人の修業を毒扱いしてくれたウォレス、意外にやる気なルイセ、意外でもない理由でやる気なミーシャ。
ゼノス以外は強制するつもりは無かったんだが……成る程、これは腕がなるぜ。

「私は止めとく。シオンの訓練自体、まだ教えて貰ったばかりだし……正直、シオンと模擬戦とは言え戦うのは……予想以上に辛かったし……」

「私も……シオンさんに成長を見てもらいたくて参加したけど……やっぱり、辛かったです……」

そう言って苦笑いするのはリビエラとカレン……。

「分かった……じゃあ二人は見学していてくれ。あ、ティピもこっちで見学な?」

「え?何で?」

「危ないから」

俺はカレン達の意見を尊重した。
ついでにティピも見学にする。
理由を聞かれたが、危ないからとしか言えない訳で……。

「どうしてもと言うならティピも参加……」

「ううん!アタシ見学してます!ハイ!」

俺が少し脅す様な雰囲気を出しながら言うと、ティピは大急ぎでカレン達の場所に飛んで行った。

「さ〜て……んじゃあ、覚悟は良いか?時間が無いからペース早めでいくからな?」

もう少ししたら帰らねばいかんからな。

「それは良いけど……そのままでやるつもりかい?」

ラルフが心配しているのは、俺がバインドを掛けられている状態だからだ。
しかも二重に。

「ああ……これか?……ハアァッ!!」

気合い一発、下半身に魔力を込める。

パキィィーーーン……!!

まるで砕け散る様に、足元から拘束していた光の茨は、あっさりと消え去った。

「これで良いか?」

それを見て、皆は唖然としている。

「ほれ、唖然としてないで構えろよ……でなきゃ、物理的に地獄に落ちるかも知れんぞ?」

俺はとりあえずズフタフを大地に突き刺し、無手のままで言う。

「まさか素手のまま……いや、素手だろうが関係無しか……」

ゼノスは大剣を構えながら言う。
他の面子もそれぞれに構える。

「行くぞシオン!!」

カーマインの宣誓と共に襲い掛かるグローランサーズ。
俺の目がシュミミーーーン!!
と、怪しく光り出した……。

********

数分後……。

「オロロロロロロロロッッ!!!」

ドゴムッッ!!!

「ゴハァ!!?」

俺の真空飛び膝蹴りを喰らい、吹っ飛んでいくゼノス。
木に激突……あ、気を失ったか。

現在生き残り(いや、別に死んでないが)はカーマインとラルフのみ。

そこに致る経緯を簡潔に説明しよう。
最初に撃墜したのはウォレス。
ウォレスは特殊投擲剣を投げ付けて来たので、それを首の皮一枚で避け、わざと掠らせてラーニング。
これで投擲剣も覚えたぜ……とか思ってたら、どうやら投擲は囮で、もう一発気合い拳を放って来た。

溜めまでの時間が大分短くなっている……随分修練したのだろう……感心感心。

俺はそれをラーニングした気合い拳で迎え撃つ。
ウォレスは驚愕していたが、再び気合いを入れ直した。

一方の俺は、少し気を込めれば押し切るのは容易だが、その場合ウォレスが洒落にならない怪我を負うか、最悪消し飛ばしてしまうかもしれない……なので、俺は気合い拳を拮抗させながらマジックフェアリーを放つ。

で、相当数のフェアリーを分担し、気絶させる程度のダメージをウォレスに与えつつ他を牽制。
ウォレスはここでリタイア。

次は魔法を連発する少女二人。
ルイセはマジックガトリングを放ち、ミーシャはその隙を縫ってフェアリーで攻撃。
見事に連携の取れた戦い方だと思う。
……俺はそれを全てかい潜りながら前進したけど。
分身を活用しつつの高速移動なんで、二人とも混乱してました。
んで、二人に肉薄し……二人の肩に手を置いて一言。

「で、二人は捕まったわけだけど……まだやる?」

二人は快くギブアップしてくれました。
ルイセは「こわいよぅ……こわいよぅ……」と言いながら震え、ミーシャはその後ろでカタカタ震えてますが……。
うん、ギブアップを促す時に軽く威圧感を込めつつ気当たりをぶつけたのはやり過ぎだった……反省はしている。

で、次はゼノス。
ラルフが魔法による援護……カーマインとゼノスが前衛で攻めるというやり方。
皆、腕を上げたなぁ……と思いつつゼノスにカウンターを叩き込み現在に至ると。

「ハアッ!!」

ズババババババッ!!!

カーマインの疾風のごとき連撃……更に。

「でやぁ!!」

ズババババババババババッッ!!!!

それに更に輪を掛けた様な速さで連撃を繰り出してくるラルフ……。
二人の速度は違う筈だが、ピッタリと息を合わせているのは流石だな。

まぁ、一撃たりとも貰ってないし、制空圏を使って受け流している訳で。
モドキでは無くモノホン……某主神の名を名乗る眼鏡君の台詞を借りるなら、『これで私の制空圏は完全体となった……』と、言った所かね?

観の目は既に覚えていたしな?

さぁて……リズムも読めたし……ここは眼鏡君に倣った技を使いますかね?

「さて、そろそろコチラからも攻撃に移るぞ?」

ズドドドドドドドドドドドドッ!!!!

カーマインとラルフの一撃を紙一重で避けたと同時にカウンター……両の掌がそれぞれの急所に、的確に……かつ閃光のごときスピードで叩き込まれていく。
無数に繰り出される百発百中の掌打……急所を違わず打ち貫く掌打……故にその技はこう呼ばれる。

グングニル(神の槍)……と。
ちなみに、この世界にもグングニルという槍があるので非常にややこしい。

どうでも良いが、高校生の不良である彼がアレを名付けたなら、龍○君は厨二病チックと言わざるを得ない。
厨二病チートの塊みたいな俺が言える台詞では無いけどさ。

「ぐぅっ!!」

「がはぁ!!」

グングニルを喰らって吹っ飛ぶカーマイン……気絶はしてないが、立ち上がれないみたいだな。
一方のラルフは弾き飛ばされはしたが、踏ん張った。

「決して外さぬ百発百中の突き……どうだい、グングニルの突きの感想は?」

気分は正に龍○君だが、実際は百発百中とはいかなかった。

「た、確かにとんでもないね……技自体と言うより、拍子を読んで攻撃をして来たシオンが…さ」

「それを喰らってる最中に気付いて、軌道修正してくるお前も大概だけどな?」

そう、ラルフの奴は攻撃を喰らいながらも技のカラクリに気付き、尚且つ自身のリズムを変え、幾つかの掌打の軌道を逸らしたのだ……自身の制空圏を使って。
幾ら俺が加減していたとは言え……やっぱりたいしたモンだよコイツは。

俺はフッ……と愉快そうに口の端を吊り上げる。

「……行くよ」

ラルフがレーヴァテイン構える……その刀身の炎が燃え上がる。
俺もそれに答える様に剣を取り出し、構える。
グラムである。

そしてどちらからともなくぶつかり合う……ラルフが出したのは、俺がもっとも得意とする技……ならばと俺もそれを繰り出す。

「「飛竜……翼斬!!!」」

互いにぶつかり合う竜のごとき一撃は……一瞬の拮抗のみで終わりを迎えた。

「……俺の勝ちだな」

「うん……僕の負けだよ」

俺に弾き飛ばされ、地面に叩き付けられたラルフは、今度こそ動けないとでも言う様に負けを認めた。
まぁ、グングニルを喰らった時点で結構足にキてたみたいだから、幾ら俺が手加減していても競り負けるつもりは無かったが…ラルフが意地を見せようとしたんだ……付き合ってやりたいじゃないか。

俺はラルフに近寄りヒーリングを掛けてやる…するとラルフのダメージが回復していく。

「けど……やっぱり少し悔しいかな?」

「なら、もっと修業すれば良いさ」

「うん……そうだね」

こうして、ラシェルでの休日は終了を迎える。
他の皆はカレン達が回復してあげてたので問題無し。
俺達は一路、テレポートでローランディアへの帰路に着いたのだった。



[7317] 第91話―イリスとケーキ―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/11 19:07


ローザリア到着後、いつもの様にローランディア城に向かい、文官さんに次の休暇先を申請。

そして帰路に着いた……。

で、夕食時。

俺達は今日の特訓についての反省会みたいなことをしていた。

ちなみに、今日は俺が飯担当で中華を作ってみた。
俺の記憶に間違いが無ければ、この世界に和食と洋食はあっても中華は無い筈だったのだが……普通にゼノスから教わったりしたわけです。
どうやら、中華らしい何かがちゃんと存在するらしい……。

この世界に無いのは、テレビとかの家電製品くらいじゃないか?
しかし例外もあり、明かりや冷蔵庫なんかは、送魔線から集められた魔力を流用して再現されている。

つくづく『なんちゃってファンタジー』だよなぁ……。
まぁ、生活する分には便利だし……向こうの世界と違って、自然環境を食い物にしてまで……ということは無いしな。

話がズレたな。

「実際、皆は大分強くなったよ。今回の対応も良かったし、スタンドプレイに走らずに協力して戦えていたしな……」

実力が上の相手に複数で挑むのは別に恥では無い……これが決闘とか、喧嘩なら話は別だが。

皆もそれを理解しているのか、頷いてくれる。

「そういえば……シオンさんって今回は剣と槍と弓を使ってたけど、実際にどれだけの武器が使えるの?」

「そうだなぁ……長剣、大剣、短剣、双刄剣、槍、弓矢、竿状斧、杖にハンマー……変わった所では鎌なんかかな?」

ティピの質問に答える俺。
ここに今日ラーニングした特殊投擲剣が加わる訳だが……それは別の話。

「双刄剣ってなんなんだ?」

「まぁ、簡単に言えばウォレスの剣をサイズダウンした様な剣だな」

カーマインが尋ねて来た。
原作においてはリシャールが使っていた武器。
これも闘技場でラーニング…マスターしました。

「けど、個人的には大剣に思い入れがあるからな……使うとしたら大剣が殆どだな」

「確か……お父様が大剣を扱うんですよね?」

「ああ……俺の剣術の基盤は父上から習ったモノだからな」

カレンがそう聞いて来たので、俺はそれに答える。
もっとも、父上の剣術には幾つかの奥義があるらしいが……俺が覚えている奥義は『飛竜翼斬』のみ。
機会があれば、他の技も教えて貰いたいけどな。

……などと話しながら夕食を終えた。
そしてそれぞれに寝所に向かい、ゆっくり休んで明日に備えたのだった。

********

休暇三日目・魔法学院

テレポートで飛んで来た俺達は、それぞれに散り、思い思いの休暇を過ごすことにする。

「さぁて……俺は何をして過ごそうかね?ってか……大体は此処での行動も決まってるんだよな……」

パターン化してるとも言うが……。
どこからともなく現れるイリスと常識の勉強……またはアリオストの研究室で研究談議。

この二つが殆どなんだよなぁ……。
さて、改めてどうするか……。

結局、俺はイリスを探しに行くことにする。
たまには、こちらから出向くことにしたのだ。
俺は気を探る……すると直ぐにイリスの気を感じることが出来た……。

「これは一階の……購買か?」

俺はイリスの気を頼りに歩を進めて行く。
しばらく歩いて学院内に足を踏み入れると……なんとも甘く香ばしい香りが……。

「……イリス?」

「?……シオンですか」

俺を見た瞬間、フワッとした微笑を浮かべるイリス……不覚にも一瞬見入ってしまった。

「丁度良かった……貴方に是非お願いしたいことがあります」

「うぇ?あ、ああ……何かな?」

やっべぇ……あまりに綺麗な笑みなんでつい……。

しかし、表情が豊かになったなぁ……うん、良い傾向だな。

「実は、ケーキを焼いてみたのですが……宜しければ味見をして戴ければ……と」

「ケーキ?」

「はい、以前にケーキは誕生日だけの物では無いと聞いて……本を見ながらですが」

そういえば……あの『黒い円盤』事件の時にチラッとそんなことを話したな。

「……駄目でしょうか?」

「いや、そんなことは無い……ありがたく頂くさ。で、肝心のケーキはどれだい?」

「これです」

イリスが差し出したのは黒っぽい………は?

「…………………」

「……?……どうかしましたか?」

「……これは、その……?」

ば、馬鹿な……あんな良い香りがしたのに……黒っぽい円盤だと……?
これは何か?
世界の修正力がそうさせているのか……?
黒い円盤からは逃げられないとでも言うのか!?

「はい、チョコレートケーキです」

「やっぱりか―――って、チョコレート?」

「ええ……以前にミーシャの作った物を見て、あれに類似する物を探してみたら、これに……」

そう言われて見ると……確かに黒っぽいが、よく見ると茶色っぽくも見える。
それに、この香りは間違いなくチョコレート……。

「あの黒さと臭いは再現出来なかったのですが……味は保証済みです」

いや、再現されたら困ってしまうんだが……というより味は保証済みって……どっちの意味で!?
マトモなケーキ的意味なのか……ミーシャの円盤的意味なのか……どっちなのよ!!?

俺が思考の海に陥ってる間に、イリスは丁寧に一人分を切り分けて皿に乗せてくれる。
そしてフォークを添えてその皿を差し出してくる。

「どうぞ」

「………………」

俺はそれを受け取る。
表情はポーカーフェイスを保っているが……内心では妙な汗をかきまくりである。
しかし、ここで食べないという選択肢は無い。

イリスから感じるのは不安と期待が入り交じった様な感情……。
以前より強くなった感情だ。

……ここで食べなければ、俺の舌は助かるだろうが……俺は最低な人間と化す。
食べれば、人間の尊厳は守れるが……舌が馬鹿になるかもしれないし、ならないかも知れない。

「…………」

うぐっ!?
そんな目で見ないでくれ……食べるよ、食べてみせるよ!!

俺はフォークで一口分を切り分け、それをフォークで刺してそれを口に運ぶ……。

……南無参!!!

パクッ!!

モグモグ………ゴックン!!

「う………」

「う?」

「……美味い」

苦味はあるが、焦げたからというわけではなく……それはチョコレート独特の苦味なわけで。

「うん、美味いよコレ!」

「そうですか」

俺はもう一口食べる……うん、甘さ控え目でビターな感じで……大人のケーキって味だ。
『凌治』だった頃、ドイツのチョコレートケーキ『ザッハ・トルテ』というのを食べたことがあるが、あれに近い感じだな。

「……焼いた甲斐がありました」

そう言って微笑みを浮かべるイリス……表情や言葉は少ないが、本当に嬉しいという感情が伝わってくる。

「もしかして……コレって俺の為に?」

「はい。喜んで戴けて何よりです……色や香りが再現出来なかったのは、若干心残りではありますが」

……ヤバイ、胸にキュンキュン来てしまった。
って……待て。

「いや、あの黒い円盤は再現しなくて良いからな?」

「?……しかし、アレが完成形では無いのですか?」

……オーケー、分かった。
どうやらイリスは、多大な勘違いをしているみたいだな?
その勘違いは、今後の為にも正しておかねばなるまい……。

俺は懇切丁寧に、ミーシャの黒い円盤は失敗作であり、決してケーキとは呼べない代物。
あれをケーキと呼ぶのはケーキに対する冒涜だ……と。
言い過ぎかも知れないが、これはゼノスも言っていたことだし。

「……そうだったのですか」

どうやら納得してくれたみたいだな……いやぁ、良かった良かった。

「まだあるので、宜しければ食べて下さい」

「勿論!イリスも一緒に食べようぜ?」

「いえ……私は」

「美味いモノは一緒に食べた方が、もっと美味いぜ?」

俺がそう言うと、少し考えた後に自分の分も切り分ける。

それから俺達はケーキを食べながら、談笑したりして過ごした。
こうして見ると、本当に表情豊かになったのが分かる。
表情に出るのは微々たるモノだが、以前は表情に出るということが無かったのだから。

気付いたら、ケーキは綺麗に平らげていたのだった。

「いや〜、食った食った♪ごちそうさま♪」

「…………」

俺の様子を見て、嬉しそうな微笑みを浮かべるイリス。

「?俺の顔に何か付いてる?」

「……いえ、ミーシャがケーキを焼いた時の気持ちを理解出来たので……何となく」

……何と言うか、その言葉の意味を理解しているのだろうか?
どうなんだろうな……?
まさか……な?

「そうか……ありがとうな」

俺がそう言うと、イリスは嬉しそうに頷いた。

「あ……そろそろ仕事に戻らなければ」

「そうか…そんじゃあ、また遊びに来るからさ」

「はい、お待ちしてます」

そう言って深々と礼をした後、イリスはその場を去って行った。
中々に有意義な一日だったな……って、まだ集合時間じゃないよな。
俺はアリオストの研究室に向かった。

「よっ、捗ってるか?」

「やぁ、シオン君。まぁ、ぼちぼち……かな?」

研究室に顔を出した俺は、アリオストに軽い挨拶をする。
するとアリオストも挨拶を返してくれる。

「で……答えは見えたのか?」

「もう少しって感じなんだけど……いき詰まったって感じかな?」

ハハハ……と、苦笑いで答えるアリオスト。

「案外、君達と一緒に行動していた方が、答えは見えたのかも知れないね……」

「じゃあ一緒に来るか?」

フェザリアンの件でいき詰まっているらしい……俺はアリオストも同行するか?
と、聞いたが……。

「……いや、もう少しだけ考えてみるよ」

「そうか」

この辺は中々に頑固だな……まぁ、らしいって言ったららしいがな?

「で、息抜きに研究をしていたわけだな?これは何の研究だ?」

「これは新しい飛行装置のアイディアでね……」

アリオストの説明を簡潔に語ると、どうやら気球に関する研究をしていたらしい。
理論もしっかりしており、直ぐにでも実践に移せそうだ。

「問題は火を起こす装置なんだよね……どうやってこれを製作するか……」

なんて話をしていた。
やはりアリオストは根っからの研究者なんだなぁ……。
俺は若干のアドバイスをした後、その場を後にした。

さて、そろそろ時間だな。
俺は集合場所に向かう。
皆が集まったので、テレポートでローランディアに帰還……カーマイン宅へ帰宅したのだった。

夕食時、皆がどういう休暇を過ごしたかを話したりした。

カーマインはミーシャが眼鏡を壊した……という話を聞いて、直してやろうとしたが、既に直していたとのこと。
そこで、ミーシャは改めて眼鏡を壊そうとして、ティピにケンカキックを喰らったという。

「それは自業自得だろ?」

「でしょ?」

俺とティピはウンウンと頷く。
他の面々も苦笑している。
ミーシャはミーシャで。

「みんな酷いよ〜〜……」

と、ショボンとしていたが。
さて、いよいよ明日は新しい任務か……原作通りなら、ヒゲがグローシアンの保護に乗り出す筈だ……あくまで名目状に過ぎないがな。

クソヒゲは俺がグローシアンの保護をしていることを知った筈だ……あの野郎がどういうアクションを取ってくるのか……それによっては対応を変えねばならないな。

俺はそんなことを考えながら、就寝したのだった。

********

オマケ☆

イリスのパティシエ♪

「成る程……」

私は今、図書室にて資料を読んでいる。
ケーキに関する資料だ。

以前、シオンが言っていた……ケーキは誕生日以外にも食べられると……。
その後に聞いた話では甘い物も好きだと……。

ならば、私も作ってみましょう……。
そんなわけで資料を漁ってるわけですが……。

「……あの黒さを再現するにはどうすれば良いのでしょうか……」

以前、ミーシャが作ったケーキは真っ黒だった。
しかし、資料にはあそこまで黒いケーキは存在しなかった。
ミーシャの創作なのだろうか?
だとしたら私には作れないのでは……?

そんなことを考えていた私でしたが、よく似た色合いのケーキに関する資料を見付けることが出来た。

「……チョコレートケーキですか」

成る程、ビターチョコレートを使うのがポイント……ですか。
では、この本を借りて行きましょう。

私は本を借り、早速食堂に赴いてキッチンを借りました。
幸い、材料には事欠きませんでしたし。

試行錯誤の結果、遂にケーキが完成しました……が。

「……なんだか、黒さが足りない様な……それに匂いが」

香ばしい生地とチョコレートの香り……しかしアレはこんな匂いじゃない。
むしろ臭いと言うべき焦げ臭さを放っていた……。
これでは味も期待出来ないかもしれない……。

私は一人分を切り分け、早速味見をしてみた。

「……美味しい」

ふんわりしたケーキ生地、チョコレートの苦味とほのかな甘味……。

「味は及第点ですね……」

しかしやはり見た目と臭いが……それに、美味しいと思っても、私がそう思ってるだけかも知れない。

「やはり他の方にも味見をして戴かなければ分かりませんね……」

そして、私はケーキを切り分け、それを持って行った。
そろそろ休憩時間の筈だから丁度良い。

********


「……………」

私は今、学院長室にいる。
考えているのは、あのシオンという愚民についてだ。

「まさか、あの愚民が手引きをしていたとはな……」

最近起こっているグローシアン失踪事件……これは私がグローシアンの王になるためのチャンスだ。
しかし、それをことごとく邪魔していたオズワルドとか言う愚民……その後ろに居たのがあのシオン……。

「おのれぇぇ……どうしてくれようか……」

無理矢理明け渡しを要求するか?
いや……それでは私が怪しまれる……。
やはりここは誰かに依頼するべきか……グレンガル辺りに依頼するか。
だが、問題は結界の存在だ……シオンの話が真実ならば、非常に厄介だ……ぬぅぅ……どうすれば。

コンコン。

「……誰じゃ?」

「お茶の時間なので、お持ちしました」

ふん……イリスか。
そういえば、もうそんな時間だったな。

「入りたまえ」

「失礼致します」

イリスが入ってくる。
手のトレイの上には、紅茶と黒と茶色のケーキ。

「ほう……ケーキか」

「お口に合えば宜しいのですが……」

ふむ……私の舌は肥えておるからな。
生半可な物を出したなら、このケーキは皿ごと投げ付けてくれる。

私は目の前に置かれた皿にフォークを伸ばす。

それでは一口……。

パクッ……。

「ふむ……悪くは無いな。高貴な私に相応しい高貴な味だ」

てっきり豚のエサかと思ったが、中々……。

「マスターがそう言うなら大丈夫ですね……」

「ん?何か言うたか?」

「いえ……それでは、私はこれで」

一礼してからイリスが立ち去る。
やれやれ……相変わらず感情の乏しい人形よな……あやつがシオンを篭絡すれば話は早くなるモノを……。
たまに覗けば、どうでもよい話をする始末……。

やはり欠陥品か……まぁ良い……。
使えぬならばまた作れば良いのだからな……。
しかし、このケーキは中々に良い……私の為に用意する辺りは、欠陥品とは言え称賛に値するがな。

********


マスターのお墨付きを貰えれば大丈夫でしょう。

私は若干弾んだ気持ちを抱えて、その場を後にする。

あの男……シオンは喜んでくれるだろうか?
喜んでくれたなら……それは、私にとっては……そう、『嬉しい』んでしょう……。
……マスターの話では、明日には学院に訪れるらしいですから……。

今から『楽しみ』ですね……若干『不安』ではありますが……。




[7317] 限りなく実現しそうな嘘予告―異世界転生者と竜の騎士―激ネタバレ注意―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/11 19:24


これは限りなく実現しそうな嘘予告である。

実際、作者は採用する気はあるらしい。

重ねて言おう。
これは限りなく実現しそうな嘘予告である……と。

この嘘予告に出てくるシオンは、限りなく未来のシオンである。
故にネタバレが随所に散りばめられている。
もし、それが嫌い……または許せないという者は、直ぐさまこの場を立ち去ることを勧める。

それでも構わないという諸君には、最新情報を公開しよう!!

準備は良いか?

*********

「……此処は何処だ?」

第一声がコレとは……我ながらどうかとは思う。
だが、気付いたら周りが鬱蒼とした森林でした。
……なんて状況なら、仕方ないと思うんだがな。

「……まぁ、間違いなく次の世界なんだろうが……ディケイド、起きてるか?」

俺はかつて、共に世界を巡った破壊者と呼ばれた仮面ライダー……アイツの名を名付けた俺の相棒に声を掛ける。

『YES、MASTER……ここは何処なんでしょうか?』

「まぁ、新しい世界なのは確かだな……」

今回の宇宙意思は、なんとも可愛らしい少女だった。
彼女が言うには、次の世界もランダムに飛ばさなければならず、元の世界には戻れないかも知れない……と、非常に申し訳ない顔で謝られたっけ。

まぁ、その辺は他の世界の宇宙意思に聞いていたからな……。

いわく、世界とは無数に存在し、あまりに多過ぎて世界を移動する際は特定することが不可能だと……。
それは大木に枝分かれする枝……更にそれに生える葉の様に。

俺が幾つか移動した平行世界が『枝』……。
更に異なる時間軸を進んだ世界……俗に言うパラレルワールドが『葉』になる訳だ。
まぁ、中には例外もあるらしいが……。

俺が最初に生まれたグロランの世界でも、『俺が存在する世界』と『俺が存在しない世界』が存在する。
他にも、もしもあの時こうしていれば……という選択肢の幅によって更に変わって行く。

もしもの数だけ世界は存在する……。
そう考えると、ドラ○もんの『もしもボックス』はヤバ過ぎるアイテムだろう。

世界を巡る使命を帯びた俺や、仮面ライダーディケイドである士でさえ自在な世界の行き来は出来ないのに、世界を指定して体感するマシンとは……。
あの世界の未来人は何を考えていたのか……。

少し話が脱線したな……。

とにかく、その世界を観測するのはともかく、ゲートを開けて、それを繋げて目的の世界に飛ばすには天文学的確率が必要なのだとか。
先程言った様に例外もあり、例えば宇宙意思が複数の世界を管理している場合とか……そんなことは稀らしいけどな。

「この世界では平穏に過ごせたら良いんだが……」

俺には世界を巡る使命が ある……が、それは強制的なモノではなく、その世界に永住したいならそれも構わないそうだ。

世界を渡る条件は幾つかある。

『俺が自分自身の意思で、その世界を拒絶すること』

『物理的な外傷以外で、俺の命の火が消える瞬間』

他にも幾つかあるが、大体こんな感じだ。
リリなの世界、GS世界では世界を拒絶した。
この二つの世界において、俺の存在は皆に迷惑を掛けると思ったから。

案の定、評議会の息の掛かった連中が俺の特性を知り、研究生物として捕縛しようとしたり……(その時の連中の言い草が『生体ロストロギア』扱い)一部の神魔が俺を危険視して抹殺しようとしてきたり――だったからな……。

他の世界では後者。
例外も勿論あったが……。


それはともかく、平穏に過ごそうと思うならば、なんてことは無い。
厄介ごとに首を突っ込まなければ良いだけだ。
だが……。

『無理では無いでしょうか?MASTERの性格上、目の前の困った人は放っておけないでしょう?』

そりゃそうだろう?
仮に誰かがカツアゲされていて、それを助ける力があったなら――人としてそれを見て見ぬフリは出来ないだろう?
……まぁ、一般的には厄介ごとに首を突っ込んでる……ということになるワケだが。

それに中には――。

『そんなモノ糞喰らえっ』

って、考えの奴も居るだろうしな――。

『――ですが、だからこそ私はMASTERを好ましく想ってるわけですけど』

――蛇足だが、コイツはディケイドという名前ではあるが、性格的には士というより夏美ちゃんに近く、性別的人格としては女性である。

「ありがとう相棒。さて、先ずは地形の把握だな――ディケイド、周辺のサーチを頼む」

『了解です』

さて……此処はどういう世界なのか……。
俺はディケイドに地形を把握して貰っている間に、気を探る……成程、随分と気配を感じる……この気配はモンスターか?
となると、現代では無いということか……いや、現代でも魔物が居る例はあるしな……断言は出来ないか。

「ん……この気配は……」

『サーチ完了。付近には小さな村がある様です……文明的には中世くらいかと……遠方に城と城下町を確認しました』

「ん、サンキューな」

俺はディケイドに礼を言うと、先程感じた気の方向に視線を向ける。

「……これは人の気配……モンスターに襲われているのか?」

その周辺には人の気配……そこそこの気を持ってる奴が三人……か。

『どうしましょう?』

「決まってるだろう?全速力で駆け付ける!!」

俺はその場から駆け出した。
言った側から、厄介事に首を突っ込む自身に苦笑を禁じ得ないが――な。

***********

駆け付けた場所で、一人の女の子が襲われていた。

「……あれはリカントに人面樹?ってことは、ここはドラクエの世界か?」

なんて言ってる場合じゃないな。

俺は直ぐさま女の子に襲い掛かろうとした獣人……リカントを蹴り飛ばす。

お〜お〜……めがっさ吹っ飛んで行ったなぁ……。

「さぁて……まだやるかい?」

残った人面樹にメンチビームをくれてやると、人面樹は慌てて逃げ出して行った。
流石はドラクエ……植物系モンスターでも意識があるらしい。

「さて、怪我は無いかい、お嬢ちゃん?」

「う、うえーーん!!怖かったよぉっ!!」

俺に抱き着いて泣いているその娘を、俺はもう大丈夫だと言って落ち着かせてあげた。

と、そこで呆然とこちらを伺っていたのは二つの気配……。

「な、何だか俺たちの出る幕なかったみたい……」

「ったく、コレなら慌てる必要はなかったんじゃねぇか?」

そこに居たのは、外套を羽織り、緑を基調にした衣服を身に纏ったバンダナの少年と、同じく外套を羽織り、青を基調にした衣服を身に纏った小さな少年が居た。

……何だろう?
この二人、何処かで見た覚えが……。
俺がその記憶力で覚えている情報を検索している時に……。

「俺はダイ!で、こっちがポップって言うんだ!!」

こうして俺は、竜の騎士の血を継ぐ勇者と、遠くない未来に勇気を司る大魔導師となる少年と出会った。

そして気付いた。
ドラクエはドラクエでも、此処はダイの大冒険の世界なのだと。

「俺はシオンって言うんだ……宜しくな?」

その後、俺とダイ達は少女に事情を尋ねた。
いわく、母親が毒のスライムに噛まれ、毒消し草を取りに村から出て来たという。
毒のスライムというと、バブルスライムだろうか?

「それで、道に迷ってしまったと……」

「ねぇ、お兄ちゃん……あたしを村まで連れてってぇ……おねがいよぉ……」

「それくらいならお安いご用だよ。お兄ちゃんに任せな!」

また泣きそうになるその娘にそう言って、頭を撫でて落ち着かせてやる。

「そっちの二人はどうする?見たところ、随分この森をうろついていたみたいだが……」

ダイとポップの外套は見るからにボロボロだ……確か、三日近く森をさ迷っていたんだっけ?

「そうなんだ……俺たち、もう三日も森から出られなくて……」

「まったく情けねぇ……大体おまえがこんないい加減な地図を描くからいけねぇんだぞ!」

そう言ってダイを糾弾するポップが持ってるのは、ダイお手製の地図……原作でもお目に掛かったが……。
何と言うか世界地図みたいなおおざっぱさ。
確かにこの地図だけじゃあな……。
せめて方位磁石でもあれば少しは違ったのだろうが。

「だってさぁ、ロモスにはキメラに乗って行ったんだもん。空から見たらこんな感じだったぜ?」

「空から見下ろしただけで行ける気になるな!ボケ!!」

さて、そろそろ止めるか。
いい加減にしないと、いつまでも言い争っていそうだし。

「良ければ俺が道案内してやろうか?」

「えっ!?良いの!?」

「この子を送り届けてからになるけどな……旅は道連れ世は情け……ってな?ここで会ったのも何かの縁だ」

俺はナイス笑顔でサムズアップ!
いつも笑顔を忘れずに……世界を越えても変わることの無い『俺達の』鉄則だ。

二人はそれに快く了承し、俺達は女の子を村に送り届けることになった。
道中……。

「ミーナ!」

「マァムおねぇちゃあぁーん!!」

愛を司る少女……マァムと出会った。
何か、微妙に原作と展開が違う気がするが……今更か。
そもそも、俺が介入した時点で『枝別れ』したのだから当然なんだが。

「貴方達がミーナを連れて来てくれたのね……ありがとう!」

何と言うか、笑顔が暖かい美少女だな。
原作と違って、ポップがマァムの胸をツンツンした訳では無いので、二人が喧嘩別れをする訳でも……。




「ご推察の通り、私たちの村はチンケな村よ……王宮のもてなしとじゃ全っ然勝負になりませんっ!!」

する訳でも……。

「おお!!言われんでも、このぐらいの森、スパアッと抜けたるわいっ!!」

……。

「さっさと行ったら!?」

「!行こうぜダイ!!」

「お、おいポップ!?」

結局、ポップはダイを引きずってその場を去って行った……。
いや、もう馬鹿らしくて止める気にもなれないわ。

「……貴方は行かないの?」

「俺はその娘……ミーナを村まで連れていくって約束したからな。君が来た以上、必要は無いかも知れないが……約束は基本守る主義なんでね?」

ぶすっとしたマァムに聞かれたので笑みを浮かべて答える俺。
そもそも今回のことはポップが全面的に悪い。
何があったのかを端的に説明すると、そろそろ夜になるし、ミーナのことでお礼がしたいと言うマァムの申し出を、ポップが原作通りに蹴ったのだ。
いわく、チンケな村のもてなしより王宮のもてなしの方が良いと。
それをコソコソ話してたのを、マァムに聞かれたと……。

「……ごめんなさい」

「ん?何がさ?」

「私……自分の村をけなされて、ついカッとなって……」

「まぁ、気持ちは分かるさ……今回のことはアイツが全面的に悪いんだし」

最初の頃のポップってあんな感じなんだな……なんか、忠夫を思い出すな……ムードメーカー的な意味で。
もっとも、忠夫なら意地を張ったりせず、申し出を快く受け……いやそれ以上にマァムをナンパするだろうな。

『一生ついていきます、おねーさまーーーッ!!』

は、美神さんに雇って貰う時に言った台詞だが……それくらいは言いそうだな。
……アイツは元気にしているかね?

その後、俺はミーナとマァムと一緒に彼女達の住む村……ネイル村を訪れた。
ダイには悪いが、ポップの奴は少し頭を冷やすべきだろう……まぁ、危なくなれば助けに行くし。
知り合った以上、見捨てることは出来ないしな。

「そう言えば、あなたの名前、聞いてなかったわ」

そういえば……ダイ達には自己紹介したが、マァムにはしてなかったな。

「俺はシオン……旅の剣士だ……宜しくな?」

こうして、俺のダイ大世界での日々が幕を開けたのだった。

*********

その後、転生者は竜の騎士達と歩むことになる。

ある時は蜥蜴男(見た目は鰐男)の武人と相対し……。

「獣王……武勲がそんなに大事か?」

「な……俺の痛恨撃を喰らった筈……!?」

「真の武人とは、何事にも曲がらず己の信念を貫く為の剣………今のアンタに、武人を語る資格は無い」

ある時は、師を恨み魔道に堕ちた戦士と相対し……。

「どうした!?貴様は掛かって来ないのか!?」

「生憎、俺はただの立ち合いだ……俺はアバンの使徒じゃないからな……アバンの使徒との決着はアバンの使徒が着けるべきだろう……それに、俺は二人が負けるとは思っていないからな」

そして、死闘の末敗れたのは魔道に堕ちた戦士……戦士は再び光を得た。
しかし……その光を閉ざそうと炎と氷の魔人が現れる。

「クカカカカ!!生き恥をさらさずに済むように、オレが相打ちってことにしといてやるよ!!泣いて感謝しろいッ!!」

打ち出される炎の弾丸……しかしそれを打ち払ったのは転生者だった。

「あ?何だテメェは!?」

「悪いが、お前の思い通りにさせるつもりは無いんでな……俺は貴様の様なクズには容赦はしない……慈悲は無いぞ」

「けっ!!人間ごときが調子に乗りやがって!!!コイツで燃やし尽くしてやるぜぇ!!!――フィンガー・フレア・ボムズ!!」

魔人から放たれる五つの獄炎……それをまともに受ける転生者。

「成程……五発同時に放つメラゾーマか……相乗効果で威力も段違いに上がっているな……だが、それは『覚えたぜ』――」

「ゲェ!?俺の炎を掻き消したぁ!?」

転生者は軽く振り払ってその炎を掻き消した。
そして魔人は蹂躙される……破壊者を継ぐ者に。

「ぐっ!!?に、人間ごときが……何でこんな!?……糞がっ!!覚えてやがれ!!テメェの首は必ずこのオレが貰う!!必ずだっ!!!」

そして、正史より早くに合流した蜥蜴男の武人と、光に目覚めた魔剣戦士は竜の騎士とは別に旅立った。
敵の動向を探る為に。

そして彼らは辿り着く……竜の騎士の少年と知己である姫の元へ。
しかし、そこには向上欲と復讐心に取り付かれた炎と氷の魔人が待ち受けていた。

――氷炎結界呪法。

結界の中では魔法を封じられ、自身の能力を1/5にまで落とされる禁呪法……だが、転生者にそれは通じず。

「ば、馬鹿な!?何故この結界の中なのに、強さが落ちねぇ!!?」

「強さ?落ちているさ……大分な」

その戦いが終わった後、転生者は竜の騎士達と別れた。
理由は、今の段階で自分が一緒にいるのは仲間達の成長の妨げになる……という理由……それと。

「俺には、大切な奴らがいる……そいつらを捜したいんだ」

奇しくも、僧侶戦士の少女も旅立つつもりだったので、皆は寝耳に水な様だ。

その後、転生者は大勇者の母国を訪れた……そこに攻めてくる竜の群れを撃退……もう一人の竜の騎士と対峙する。

「貴様がシオンか……我が名は超竜軍団長バラン!!」

「へぇ、光栄だね……魔王軍の軍団長様に名前を覚えて戴けるとは……」

ぶつかり合う両者……人外の戦いを繰り広げるが、圧されるのは竜の騎士。

「ば……馬鹿な……!?」

「それが超竜団長様の実力かい?……温いぞ?」

その頃、竜の騎士の少年は戦っていた……人々を守る為に。

だが、人々は恐れる……少年の力を……。

「こわあいっ!!お兄ちゃんこわいよおっ!!!」

(……おれが…こわい……!?)

衝撃を受ける少年の前に現れたのは死神……。

「キミのあまりに人間離れした戦いぶりを見て、みんなビビっちゃったのさ。勝手な奴らだよねぇ、人間って……自分たちな街を守ってもらったくせに……ウッフッフッフッフッ……!」

*********

ここに記された物語はほんの一部に過ぎない……しかし、それでも彼らは進んで行く。

そして、時は進み……対峙する。
影の参謀と……。

『馬鹿な……暗黒闘気……だと!?』

「その技……闘魔最終掌だっけ?理論的にはこの技もそれと大差は無い……俺はダークネスフィンガーと呼んでるがね?」

そして対峙する、力を取り戻した大魔王と、破壊者の衣に身を包んだ転生者。

「……実力の差が分からぬ程、愚かではあるまい?悪いことは言わん……諦めろ。勇者であるダイは諦めているぞ?」

「いや、諦めないさ……ダイも、ポップも……他の皆だってな。最後まで諦めない……それが人間だ……歩きだす前から諦めるのは……愚か者がすることだ……ってな。ポップじゃないが……例え絶望的でも全力を尽くすのが人間だ!……そう、閃光の様に、な」

転生者は意図して封印していた力の一部を解放する……それにより生じた圧力に、思わず怯む大魔王。


「く……貴様……何者だ!?」

「通りすがりの……破壊者だ。覚えておけ!!」

転生者は今、運命の鎖を解き放つ……!

*********

そんな訳で、嘘予告その4、ダイの大冒険編です。
ちなみに、ここに入れられなかったシーンとして、ポップがシオンからダイヤのバックルを借りて鳥やトドを圧倒するという物や、グロラン世界にて近衛騎士にまで上り詰めたとある女性が、この世界でシオンの手掛かりを求めて武道大会に参加したり……というシーンも考えたりしています。

また嘘予告のリクエストがあれば随時受け付けます。
お目汚し失礼しました。
m(__)m




[7317] 超・番外編3……とある転生者の破滅―オリ主は悪魔と手を結ぶ―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/11 19:39


「ふふ……ふふふ……遂に手に入れたぞ……」

オリ主である俺が、悪の手先に屈辱的敗北をプレゼントされてからしばらく……。
俺は武器を求めていた……。

そう!
オリ主である俺が負けたのは、武器が貧弱だったからだ!!
でなければ、あの時に武器を破壊されることは無く、あのヒゲ親父は俺の経験値になっていた筈なのだっ!!

そして、俺は各地にある未開の遺跡を巡り……遂に見付けた。
オリ主である俺に相応しい、最強の剣を!!

「この『バルムンク』と『アスカロン』があれば、あのヒゲ親父も敵じゃないわっ!!フハハハハ!!来たぞ!!俺の俺によるオリ主フィーバーがっ!!」

『バルムンク』と『アスカロン』……グロランオルタにおいて、最強クラスである二振りの剣だ。

『バルムンク』は、かの有名な北欧神話(ドイツの民話として広がった方)の英雄ジークフリートが持っていた剣の名前で、『アスカロン』はキリスト教の伝承に出て来た聖ジョージが持っていた剣である。
どちらも竜殺しの剣として有名で、アスカロンに至っては様々な徳(病を退けるとか、なんか聖剣らしい凄い能力)があったらしい。

*********

※これは聖ジョージを主役にした物語での話で、元になった聖ゲオルギウスの『黄金物語』では、竜を殺したのは剣だとされているが、竜を倒したのは槍……その上、竜を殺した剣自体に特殊能力はおろか、銘柄も無い。

*********

もっとも、この二振りにそんな能力は無い……ただ頑丈で強力な武器だ。

もしかしたら、この世界の『グラム』みたいな能力があるかも知れないが、それは今の所関係無い。

「見てろヒゲ親父め……この二振りで今度こそ経験値にしてくれる!!!」

俺は新たな愛剣を両手に携え、オリビエ湖に爆進!!!
フハハハハハハハ!!!

こうして、オリビエ湖に辿り着いた俺だったのだが……。

「な、何故だ!!何故あの館に辿り着けない!?確かにこの辺りの筈なのに!!!」

俺は数時間以上この辺りをうろついていた……なのに、全く館とエンカウント出来ない!!
くそっ、これは陰謀だ!!
オリ主である俺が、ご都合主義の波に乗れないなんてことがあるか!?
ここは館が見付からなきゃダメだろう!?

※今回、リヒターは敵意丸出しだった為、結界により館へ侵入出来ません。

更にそれから数時間……結局、館は見付からず……すっかり夜になってしまったので諦めることに。

ふっ……きっと運命が、あんな雑魚は放っておけと告げているに違いない。
そうだよな……オリ主たる俺が成すべきことは原作介入&ハーレム!
最強、これ最強!!
ならば、次に成すべきことは……。

「どうにも、イベントが先倒しになってる気がするんだよなぁ……と、なると少し先を見据えた介入をしなければならないだろうな……」

俺自身、武器探しに少し時間を喰ったし、……原作主人公達はクリアノ草を取りに来なかったし……。
………止めよう。
思い出したら寂しくなってきた……。

しかしそうなると、ランザック同盟時に絡むのは無理だろうなぁ……なら、クレイン村辺りで待機するか?
原作オルタでは、リヒターはクレイン村育ちだし……もしかしたら原作オルタの幼なじみ(女)と運命的な出会いをするかも知れない!
あ?ラッセル?
……野郎なんか眼中にないし。
あんなバトルマニア……いや、バトルジャンキーは特にな。

ついでに、ゼメキスの爺さんを助け出せば皆の好感度もアップ!
俺様ハーレムへの道が更に近付く……フハハハハ!!
素晴らしい!
素晴らしいぞ!!

まぁ、単純にゼメキス爺さんを助けたいという気持ちも、無いわけじゃない。

しかし、俺がゼノスをフルボッコにしたらカレンたんの好感度が下がっちまうか………いや、待てよ?

そもそも、カレンたんは無事だったんだから……ゼノスが悪の道に引きずり込まれることは無いんだよな??

闘技大会で見た限りでは……。
あの時の記憶は少し曖昧なんだが……。

「なら、問答無用で好感度を上げるチャーンス♪」

敵がただのシャドー・ナイトなら容赦の必要無〜し!!

「そうと決まれば即行動!!ウィング展開!!」

俺は反重力翼を展開!
宙に浮かび上がる。

「ドライブ全開!!ビクティムピ○ク!!!」

百舌鳥の名を冠するPTの必殺技を叫びながら、爆進!爆進!!また爆進!!!

目指すはクレイン村だっZE!!

そしてクレイン村到着!!

って……あの人影は?

1番奥の家から、一瞬だけ魔力を感じ、次の瞬間にはその家から人が飛び出して来たのだ。

紫色の衣服に、覆面……シャドー・ナイトですね本当にありがとうございます。

……間に合わなかったのか……。
どうして俺はこういつも……。

…………。

………。

……。

…。

まぁ、間に合わなかったのなら仕方ない。
爺さんのご冥福を祈りつつ……あのシャドー・ナイトは捕まえる!!

爺さんの供養にもなるし、捕まえることが出来ればまだ好感度アップは可能!!

「待ちやがれぃ!!」

ギューーーンと飛んでいく俺。
某鉄人2○号の様に!!

**********


今、僕はクレイン村の近くまで来ている。

どうやらゼノス君の代わりに別のシャドー・ナイトが派遣されたらしい。

僕のお気に入りの彼……確か、シオン君だっけ?
彼がどういう動きを見せるか……それを見たかったからね。

どうやらシャドー・ナイトは失敗したらしい。
シオン君は何かを仕込んでいたらしいね……それが何かは分からないけど……面白い、面白いよシオン君。

けれどね?
このゲームを好きに弄るのは僕だけの特権なんだよ?
だから、君には力は必要ないよ?
このゲームは僕だけの物……だから君は邪魔なんだ。


安心してよ。
君が壊れても、君の能力はいずれ僕が有効活用してあげる♪
魔法を改竄する能力……素晴らしいよね♪
他にも色々能力を隠していそうだし……しかも皆既日食のグローシアンらしいじゃないか!
ふふふ、君から奪えれば、僕はますます強くなれるよ。

「さて、まだまだシオン君とは遊ぶ時じゃないし……あのシャドー・ナイトで遊ぼうかな?ふふふ、今日は何の能力を使おう?」

僕はどれだけ玩具が耐えてくれるか、楽しみにしながら逃げたシャドー・ナイトを追ったのだった。

********


くそっ……見失った!?
何処へ行きやがった?

俺は逃げたシャドー・ナイトを空中から探していたが……全然見付からない。
もう大分、クレイン村から離れた……もうこれ以上の探索は無理か。

「畜生……これでは好感度が上がらないでは無いか……」

そう愚痴を零していた時だった……。

「ぐぎゅええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!??」

ズンッ!!

「な、何だ!?」

何というか、捻り潰される様な悲鳴が聞こえたかと思うと、大地の一部が大きく揺れた様に感じた。

「何だ……アレは?」

その方向には、木々が『揺らいでいる』妙な場所があった。

「行ってみるか……」

俺はその場に向かってみることにした。

**********



さて、シャドー・ナイトの前に先回りして立ち塞がった僕。
一応、魔力が漏れない様に……遠視出来ない様に結界を張っておく。
シオン君辺りにバレる可能性もあるし、ヴェンツェルに感づかれる可能性もある……前者はともかく、後者に感づかれるワケにはいかない。
今後の僕の楽しみの為にも……ね♪

「き、貴様!何者だっ!?」

「僕かい?……君を死出の旅路へと誘う道案内……って所かな?」

クックックッ……と愉快な笑みを浮かべる僕を見て気圧されるシャドー・ナイト君。

「クッ……まさか追っ手か!?」

そう言って双剣を構える彼……うん、良いね。
壊し甲斐があるよ♪
僕も真っ赤に染まった愛剣を抜く。

「やる気なら大歓迎……さぁ、遊ぼうか?」

数分後……彼はボロボロに疲弊していた。
覆面は砕け、素顔を曝し……身体中は切り傷だらけで血を垂れ流している。
正直、僕の相手としては役者不足だねぇ……。

「な、何なんだその剣は……」

「ん?コレ?魔剣の類でね……斬られたヵ所はこの剣に込められた呪いの力で、決して癒えることは無いのさ」

そう説明しても、彼のやる気は萎えることは無く、最後まであがくつもりみたいだ……ふぅ、もう剣で切り合うのは飽きちゃったなぁ。

「じゃあ次は耐久試験ね♪どれだけ耐えられるかな?」

僕は彼に向かって手を翳し……一言。

「重力展開……2倍」

ズズッ!

「がっ!?……こ、これは……」

「これは僕の能力の一つ……重力操作さ。能力は読んで字の如く、相手……または自身に掛かる重力を操作すること。今の君は、通常感じる重力の倍の重力を感じている筈だよ」

仙界伝・封神演義に出てくる、元始天尊という仙人が持ってたスーパー宝貝……あれと似たような能力なんだけどね。

「ぐっ……くそ……」

「ハイ、3倍♪」

ズダンッ!!

「がああぁぁ!!?」

彼は地面に膝を着いて苦しむ……普通はコレだけでも辛いのにねぇ……ふふふ♪

「ちなみに、徐々に重圧を上げていったらどうなるか分かる?潰れるんだよ?赤い花がプチュンと散って、グシャグシャのペッタンコ♪その前に内臓が潰れて死ぬだろうけどね?」

クスクスと笑いながら、僕は彼に未来を説明してあげる。
僕って優しいでしょう?

「た、頼む……助け、て……」

「おやおや?非情の実行部隊である筈のシャドー・ナイト様が、随分と弱気だねぇ……駄目だよ?組織の為には死ぬ位の覚悟を見せないと♪」

もっとも、そんなことされたらつまらないから、命請いしてくれて凄く嬉しいけどね♪

「お、俺には……故郷に……待ってる奴が……お願いしま、す……助けて……」

へぇ……そういえば物語の中のゼノス君はシャドー・ナイト入りした後、真実を知り……ガムランさんに問い詰めたけど、妹を人質に取られて嫌々シャドー・ナイトを続けていたね……成る程、彼もその類なのかな……?

それは……悲しい話だな。

「その待ってる人って言うのは……恋人かい?」

「!!あ、ああ……そうだ!俺の、大事な……村で待ってる……だから……!!」

笑いを消して、神妙に尋ねる僕に、彼は必死に訴えかける。
村の名前を口にしてる時点で、かなり必死だ。

自身が助かりたくて……という訳では無く、彼女の為に……。



ならば、慈悲を与えなきゃいけないよね……。



「話は分かったよ……」

「!じゃあ……」

「うん、安心して……」


僕は告げる……。




「君の大切な人は僕が玩具にしてあげるからさぁ!!!だから安心して死んで良いよぉ!!!!」

我慢していた笑いを開放して!

「!?なっ!!?」

「アッハハハハハ!!何?助けてくれると思ったぁ?君みたいなモブキャラを助けるワケ無いじゃん!!バッカじゃないのぉ!?」

僕がそう告げると、彼はただでさえ血の気が引いてしまってる顔を青くして絶望している。

イイ!凄くイイよぉ!!
絶望に塗れたその表情っ!!
軽くイッちゃいそうだよっ!!!

まぁ、モブキャラじゃなくても助けてやるつもりは無いけど、ね。

「君の大切な人が美人なら、犯して、飽きたら実験動物にしようかな?実は改造人間ってのに興味があってね?イイ玩具になってくれると良いなぁ……まぁ、美人でなくても実験動物にはなるか」

「き、貴様ああぁぁぁぁぁ!!」

怒りながら立ち上がろうとする彼……僕は重力圧を更に上げた。

再び彼が地面に押さえ付けられる。

「だ……だのむ……俺はどうなっでもいいが……ら……アイヅだげば……だずげで……」

自身が死にそうなのに、泣きながらそう懇願する彼……普通は自分の命乞いをする筈なのに……中々出来ることじゃない。
だから僕は敬意を払ってこう言ってやる。

「い・や・だ♪」

僕は重力圧を徐々に上げていく。

「ギャアアアアアアァァァァァァ!!!?」

ブシュッ!ブシュッ!!

そんな音と共に傷口や血管から、紅い花が飛び散る彼……その薄汚い悲鳴と合わさって、それは極上の見せ物だ。

「ククク!苦しい?苦しい?ゲームのモブキャラの癖に苦しいんだぁ?なら僕が楽にしてあげるよ!僕は優しいからさぁ!!」

僕は加速度的に重力圧を百倍にしてあげた。

「ぐぎゅええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!??」






プチュン。








潰れた。

真っ赤な大花を咲かせて。

ペッタンコに、グシャグシャに……かつて人だった塊がそこにはあった。


「真っ赤な花は綺麗だけど、残骸は醜いね……汚らしい」

僕はモブキャラだった物に一瞥し、その場を離れた。
誰かに見付かっても面倒なので、結界は強化して放置しておこう。

そして、結界から出て出会ったのは……新たな玩具だった。

**********


異変のあった場所まで赴く俺……そこで出会ったのは、フードを被った怪しい奴だった。
見るからに怪しい……怪し過ぎる!!
オリ主の勘が告げている……コイツは怪しいと!!

「何だお前!怪しい奴だな……さっきの奴の仲間か!?」

俺は咄嗟にアスカロンとバルムンクを構える……が。

「ま、待って下さい!僕は……」

怪しい奴はフードを取った。
ショートカットな髪型……エリオットや原作主人公みたいな髪型だ。
しかし髪の色が白髪、そして瞳が真っ赤。
しかも美少年!?

渚のカヲ○君!?

いや、髪型はともかく、それ以外はカ○ル君!!
な、何と言うチート臭い見た目……。
まるでチートオリ主………馬鹿な!?
それは正に俺のことだろうに!?

「僕は旅の剣士でルインと言います……この辺りで悲鳴が聞こえたので駆け付けて来たのですが……」

「なに!?俺も悲鳴が聞こえたから来たんだ」

その後、話を聞くとルインと名乗ったコイツは、先に来て周辺を探っていたらしいが、何も見付からず途方にくれていた所で俺に出会ったらしい。

「成る程な……」

「そう言えば……貴方は?」

「自己紹介がまだだったな……俺はリヒター!究極のオリ主だ!!」

「……オリ主?」

やべぇ……つい勢いで言っちまった。

「何でもないんだ……忘れてく」

「……もしかして、貴方も転生者ですか?」

「な……に……?」

馬鹿な!?
何故バレた!?
俺が超絶オリ主にしか発せないオーラを醸し出しているからか!?

……ん?貴方『も』?

「もしかして……」

「はい、僕も転生者なんです!!」

嬉しそうに人懐っこい笑みを浮かべる……ヤバイ、キュンと来た!?
リヒちゃん危ない道に嵌まりそう!?

ち着け、素数だ……素数を数えry。

話を聞いていると、ルインも転生者であり、自身は交通事故が原因で転生したそうだ……テンプレですねわかります。

「リヒターさんはどう言う経緯で転生を?」

「俺?俺は……………アレ?」

俺は……どうして此処に転生したんだろう?
むぅ……向こうの俺……つまり、『国枝国彦』のことだが……『死因』という物を思い出せない。

最後のあの日は確か……『東鳩2』をプレイして……タマ姉でハァハァして……スッキリして寝ちまったんだよなぁ……。

つーことは何か?
寝てる時に心臓発作とか起きたか?
そんなに心臓弱くは無い筈なんだがなぁ……。

「悪い、よく覚えてないわ」

「そうですか……それが普通なのかも知れませんね?転生した上に、前世の記憶を持って来ている僕達みたいな存在の方が、多分稀なんでしょうから」

言われてみたら確かに……俺達が稀なんだろう。

「そういえば、お前はこの世界がどんな世界か知ってるか?」

「ええ、グローランサーの世界ですよね?少し原作と違うみたいですが……」

そう!そうなんだよ!!
原作と違うんだよ!!
オリ主たる俺が介入してないのにだよ!?
これは陰謀だよ!?

「原因は分かっているのですが……」

「何!?本当か!?」

「シオン・ウォルフマイヤー……この人物が鍵を握っているらしいです」

「シオン……確か……原作には居ないインペリアル・ナイトの息子……」

まさか……そう思いながら俺は、ある仮説を立てる。

「そのシオンって奴も転生者なんじゃあ……?」

「それは何とも言えませんが……彼が好き勝手にやっているのは確かです……」

ルインから聞いた話は信じられない物だった……。
シオンという男……一見すると善人だが、その実はロクデナシの快楽主義者でスケコマシ……揚げ句に殺人鬼というクズみたいな人間だと……。

今は原作主人公パーティーに紛れ込み、女性陣相手にやりたい放題だと言う……。
な、なんたる外道!!
ルイセたんやミーシャたん……もしかしたらカレンたんを相手に生ハァハァとは!!?

「ゆ……許せん!!許せんぞシオン・ウォルフマイヤー!!!このオリ主たる俺が必ず成敗してやるっ!!!」

「頼もしいですね……勿論、僕も協力しますよ」

流石は主人公!と、ルインは言ってくれる。
ああ、任せてくれ!!
このオリ主の目の黒い内は!!

その後、俺はルインと別れてその場を後にした。
ルインが言うには、『一旦、別々に行動して情報を集めてから、再び合流しよう』と……。

せっかく旅の供が出来たと思ったんだが……仕方ないか。
後、シオンというクズを見付けても、いきなり勝負を挑まない様に忠告された。

ルインが言うには人格はともかく、馬鹿みたいに強いらしく……その実力はあのリシャールを超えるらしい。
ならば、情報収集と合わせて修業もせねばなるまい……。

待ってろよ?
原作ヒロイン達よ!!
必ず助け出してやるからな!!
まぁ、野郎どももオマケで助けてやるさ。

**********


ククク……まさかシャドー・ナイトで遊んで居たら、あんな面白い玩具に出会えるなんてねぇ……。
見たら中々に使えそうな駒になりそうだ……。
というか、初対面の人間の話を信じるなんて馬鹿みたいだよねぇ♪

でも、だからこそ御し易い。

「それにリヒター……あのオルタのリヒターだ……例の能力も備わっている筈だ……」

ふふふ……飽きたら、その能力を戴くのもイイね……空を飛ぶ力……素晴らしい!!
ゲヴェルの性格を反転させる能力はつまらないからいらない……いや?オルタみたいにカーマインを闇に 染めたら面白いかな?

「まあ、その辺はリヒターさんに頑張って貰おうかな?」

しばらくは僕の玩具として頑張ってね……大丈夫だよ?
僕が飽きたり、君がでしゃばり過ぎたら……君の能力はちゃあんと戴くからね♪

「さて……哀れにも壊れてしまった彼の為に、故郷の村に向かいますか♪」

モブキャラの最愛の人……所詮はただのモブキャラだけど楽しみだなぁ♪
どんな声で鳴くのかな?
どんな絶望を与えよう?

ふふふ……考えるだけで、もうギン・ギン !!

しばらくは飽きずに済みそうだね……ふふふ。

**********

後書き。

ハイ、遂にもう一人の転生者……ルインの登場です。
中々に胸糞悪いキャラになってると思います。
オタクニリヒターのオリ主気取りが霞む位には。

あ、止めて!石を投げないで!?
⌒゚Σ(ノA・。)




[7317] 第92話―保護とチーム分け、アリオストの決意―カーマインSide―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/14 01:40


さて、休暇を終えた俺達は――ローランディア王城の謁見の間へと、顔を出した。

「現在、お前たちの持ち帰った情報を重視し、シオン殿に任せるだけでなく、我々の方でもグローシアンの保護を進めることにした。シオン殿には負担を掛けるかも知れないが、そちらが既に保護しているグローシアンたちについては現状維持で頼みたい」

遂に来たか……裏にチラつくのはクソヒゲの影……。
だが、アルカディウス王は俺を信じてくれた……。
現に、俺が保護しているグローシアン達については、今のまま俺に任せると言って来たのだから。

「無論です。……それで、今回の任務は?」

「うむ、グローシアンの保護は順調に進んでいるのだが……実は1人だけ連絡の取れないグローシアンがいてな、それで困っておる。保養所に勤めている女性なのだが……」

俺の問いに答えるアルカディウス王……成程、アイリーンか。
……と言っても、俺の存在のせいで原作以下の接点しか無いわけだが……。

「それってあの人かな、ほら……えっと、なんて名前だっけ?」

「……あの人だよな……?確か白衣を着ていた……」

どうやら、カーマインも細かく思い出せない様だな……仕方ないか。
ほんの少し、話をしただけだしな……。

「確か……アイリーンさん、でしたよね?」

しかし、アイリーンの名前を思い出した者が一人……カレンだった。
そういえば、医療について色々聞いていたっけな?

「そうそう、その人!」

「ほほぅ、知っているとは心強い。それでは、お前たちが彼女を探し出して、保護して欲しい。」

ティピはカレンの答えに、スッキリした笑顔で同意。
アルカディウス王も、知っているなら話は早いと、任務の内容を告げる。

「アイリーンさんの保護ですか?」

「そうだ」

「それで、保護した後は、どこへ連れていけばいいのでしょう?」

「お前のよく知っているところ、魔法学院だ」

「魔法学院に?」

ルイセとアルカディウス王が話し合っている。
アルカディウス王が言うには、学院長には既に協力を頼み、学院長も快諾したという。

まぁ、あのクソヒゲにとっては渡りに船……って奴だろう。
わざわざ、危険を冒して俺の保護するグローシアンを奪いに来なくても済むのだから……。
とは言え、半数以上のグローシアンをこちらで保護している以上、何らかのアクションは取ってくるであろうことは、容易に想像出来るのだが――。

「シオンさん?そのアイリーンって人、シオンさんが保護している……なんてことは?」

「それは無いな。確かに、俺達はグローシアンの保護をしていたが、全員が俺達に保護されるのを良しとしたわけじゃない。中には断る者も当然だが居た……アイリーンさんもその一人さ」

ミーシャが疑問を尋ねてきたので答えてやる。

「僕達は同行を無理強いするわけじゃない……その人の意思に委ねていたんだ……安全策として、『転移の腕輪』を渡したりね?」

ラルフが更に追記する。
この場に居る面子には以前、転移の腕輪についても説明しているので割愛。

「で、その腕輪すら受け取らない人も居たのよ……その内の1人がそのアイリーンって人ね……その時は私やオズワルド達が交渉に行ったんだけど――ね?」

リビエラが詳しく説明する。

――アイリーンと面会し、交渉するリビエラ達。
自分達がグローシアンの保護をしており、グローシアンを狙う連中も存在するということを説明する。
真剣に説明したのが効いたのだろう……どうやら彼女はこちらの話を信じてくれたらしい。

任意での同行を求めたが、彼女は自身の仕事を理由に拒否。

まぁ、医者だし……原作ではカレンの命の恩人と言われていたことからも推測出来るが……。
恐らく――内科医であると同時に、外科医でもあるのだろう。
この世界の医療が、どこまで進んでいるかは分からないが……そんな彼女が患者を放って行けるわけがない。

ならばせめて……と、転移の腕輪を渡したのだが、そこを邪魔した奴が居た。

「彼女の恋人……ニックって奴に腕輪を取り上げられちゃったのよ……『アイリーンには俺が居る。だからこんな怪しげなアイテムは必要無い!!』……とか言ってね?」

丁度、ニックがアイリーンを訪ねて来ていたらしく、横槍を入れて来たらしい。
腕輪を窓から投げ捨てた後、ニックは警告したそうだ。

『貴様らの戯言なんか信じられるか……二度とアイリーンに近付いてみろ……俺がこの手で叩き切ってやる!!』

……と。
元より、無理強いをするつもりは無かったリビエラ達は、素直に引き下がったらしい。

「そういうことだったのか……」

アルカディウス王も納得した様に頷いている。

「じゃあ、アイリーンさんについて、先生は……」

「ああ、残念ながら分からないな……」

ルイセの問いに答えてやる俺。
突っぱねられたのに、無理矢理拐う様な真似はしない。
正直、突っぱねた奴まで面倒は見切れ無い。
冷たい様だが、正義の押し売りなんてしたくないんでな……。
どちらかと言うと、俺のはバーゲンセールだな。

とは言え、アイリーン自身の意思で突っぱねたのか?
……そう聞かれると返答に困るわけだが。

「それとシオン殿……シオン殿には別件で頼みたいことがある」

「私に……ですか?」

何なんだろうか?

「実は、シオンさんが保護したグローシアンたちの現状を確認したいのです」

サンドラが言うには、行方不明になったグローシアンの家族達が、随分前から国に捜索届けを出していたという。
無論、アルカディウス王は自国の民の為に捜索をしたが、殆どは行方不明のまま……稀に見つかっても、変死体で見つかる始末。

しかし、この前……俺から真実を聞いた。
故に、現状を知らせてやりたいと言う。

「勿論、事件が解決するまでは彼らを保護していなければならないが……せめて彼らの家族には無事であることを知らせてやりたいのだ……頼めるだろうか?」

確かに……それくらいなら問題無いだろう。
いや、むしろ保護しているグローシアン達の為にも、彼らの家族達と何らかのコミュニケーションを取らせてあげることも大事だ。

俺はアルカディウス王の提案に頷いた。

「かしこまりました……それで、いかが致しましょうか?」

「彼らの家族から、手紙を預かっています……それを届けて戴ければ」

成程……手紙のやり取りか……。

「分かりました。その手紙を届け、その返事を持ち帰れば良いのですね?」

「うむ……そういうことだ。今回はサンドラも同行させようと思う」

…………は?

「サンドラ……様が……ですか?」

「シオン殿を信用しないわけでは無い……だが、やはり第三者の眼は必要だろう。故にサンドラを同行させたい……構わないかな?」

……言いたいことは分かる。
監視役……というより、証人役とでも言うべき役所がサンドラなのだろうな――。

コーネリウス一派が殆ど捕まったとは言え、俺のことを良く思っていない連中は、少なからずいるのだろう。
当然だな……俺は戦争中である敵国の貴族なんだからな……。
エリオットに協力する姿勢をアルカディウス王が見せているので、パッと見は大人しいが……内心どう思っているのか。

まぁ、そういう隠れコーネリウス派はともかく……単純な猜疑心を持つ連中もいるのだから、そいつらにも信用させなければならない……。
そのためには、この国で強い信頼を受ける人物に同行させ、状況を説明させるのが1番……つまりサンドラを同行させて、状況を説明させるのが1番手っ取り早く、確実な方法って訳だ。

理屈は分かる………だが。

「アルカディウス王……本当にそれが理由でしょうか?」

「な、なんのことかな?」

……怪しい……怪し過ぎる。
何が怪しいって、あの眼だ。

泳ぎまくっているのだ。

もうクロールでバシャバシャと……。

アルカディウス王は間違い無く王……だが、これでもかって位に『いいひと』だ。
簡単な話、嘘がつけないのだ。

アルカディウス王が俺を信用していない……ということはない。
その辺の機微が分からない程、俺は鈍くはない。
むしろ、信用し過ぎなくらい信用してくれているだろう。

勘違いしないで欲しいが、アルカディウス王はそれが必要な嘘なら嘘をつける。

為政者足る者、民草の為には時として真実を告げない様にしなければならない時もある――ってことだな。

……つまり、シリアスな内容では無く、どうしようもない位にくだらないことが理由である可能性が高い。

無論、先程説明された話も真実なのだろうが――。

「同行するって……お母さん、宮廷魔術師のお仕事は……」

「心配は要りませんよ。急ぎの仕事は片付けておきましたから」

ルイセの疑問にも、さらりと答えるサンドラ。
……怪しい。

「サンドラ様……よもやとは思いますが……『私情』が絡んでいるなどと言うことは……ありませんよね?」

「!?そ、そそ、そんなことはありませんよ?」

成程……今ので大体分かった。
恐らく、サンドラが何かしらの圧力を掛けたに違いない……。
しかも、俺と一緒に居たいとか……そんな理由で。

これは自惚れでは無く、事実だろう……現に、サンドラを見遣ると真っ赤になりながら眼を逸らす。

つまり、そういうことだ。

まぁ、アルカディウス王としても、周りの悪意を押さえ付ける意味合いは確かにあるのだろうが……。
何故だろう……また別な思惑がある気がする。
なんかこう……レティシア絡みで。

サンドラはサンドラで、任務より自身の我が儘が多少ウェイトが大きい気がする……。

それに気付いたのが、俺だけみたいなので、ある意味では良かったのかも知れないな。

「その任、確かに承りました」

俺がそう告げると、アルカディウス王とサンドラはホッと胸を撫で下ろすのだった……。

サンドラが仲間になった!

いや、あくまで一時的にな?
ずっと連れて歩くつもりは無いからな?

謁見の間を後にした俺達は、今後について話し合っていた。

「これからどうする?」

カーマインが俺に尋ねてくる。

「まぁ、いつかの時みたいに、メンバーを二つに分けるべきだろうなぁ…」

というのも、手紙を届けるのは一瞬だが……彼らが返事を書くのを待たなければならない。
中には手紙を書かずに、伝えてくれれば良い……という人や、既に手紙をしたためておいた人も居るかもだから、直ぐに済むかも知れないが……。

可能性として、屋敷に何日か滞在する可能性も否めないわけだ。
なら、再び二手に別れた方が時間を喰わずに済む。

「で、メンバー構成はどうする?」

「とりあえず、俺とルイセは別々だな……互いにテレポートが使えるから、いざと言う時には早く合流出来るだろう」

「あと、お母さんは先生側かな?」

ゼノスの問いに、俺はとりあえずの確定事項を言う。
とりあえず、テレポートが使える俺とルイセは別々に行動。
サンドラは任務の都合上、俺のパーティーに固定。

その後、協議の結果……以下の様に決定。

アイリーン捜索組。

カーマイン、ルイセ、ウォレス、ゼノス、ミーシャ、ティピ。

オリビエ湖アジト組。

俺、ラルフ、カレン、リビエラ、サンドラ。

本来、ラルフはアイリーン捜索組だったのだが、無理を言って同行を願い出た。
だって考えても見ろよ?
ラルフが抜けたら、男は俺一人になるんだぞ?

しかも、件の『同盟』メンバーオンリーだ――。

あんな魅力的な女が、三人一斉にしな垂れかかって来たりしてみろ……。
俺の鋼の理性がショートするかも知れん。
そんな時に、仲間が居ればまだ抑えが効くかも知れんが……第三者が誰一人としていなかったのなら……。

誓いを忘れ、ケダモノと化して×××板行きは確定では無いか!!
二人同時に迫られた時もやばかったんだ……三人とか正直キツイわ!!

いや、耐える自信が無いわけじゃないが……保険は掛けておきたいんだよ。
だってさぁ……ずっとそういう衝動は無かったし、スーパー賢者タイムを発動させたことも無い。
正直、自分は男として枯れているのかとさえ思ったが……カレン達に接している内に気付いた。

俺は枯れていたのでは無く、無意識に抑え込んでいたのだと……それに気付いてからは、さぁ大変だ。
某潜入作戦のプロフェッショナルの言葉を借りるなら『性欲を持て余す』という所か。
これを意識的に抑えるのに、どれだけの苦痛を強いられるか……と、言うと大袈裟かも知れないが、俺としては誓いを破りたくは無いんだよ。



カレン自身は少し迷ったが、結局こちら側に。
アイリーンと俺……天秤に掛けて、俺に傾いたらしい。
カレンとしては、アイリーンから医療に関して聞きたかったのも、事実なのだろうが……。

「貴方と……離れたくなかったんです……」

――らしい。
……面と向かって言われると、やはり照れる。
しかも皆が居る前で……いや、勿論嬉しいけどさ?



リビエラは迷うことなくこっち。

「私が一緒に行って、変に警戒されたく無いから……ね?」

以前、ニックに追い返されたのを気にしているらしい。
アイリーン自身がそうした訳でも無いし、幾らニックでもしばらくして頭が冷えてる筈だから、大丈夫だとは思うんだが……。
まぁ、良いか……余計な諍いが起きるよりは良いだろう。

「じゃあ、お互いに頑張って行こうぜ?」

「ああ……また後ほどな?」

簡単に挨拶を交わした俺達は、それぞれの任務に着いた。
はてさて、どうなることやら。

*********



シオン達と別れた俺達は、アイリーンを探す為に城を後にした。

「保養所かぁ……」

「どうしたの、ミーシャ?」

「そこの西にね、すっごく小さな田舎の村があるんだ」

「メディス村のこと?アンタ、そこに住んでたって言ってたっけ?」

ミーシャの呟きに反応するルイセ……ミーシャはどうやら故郷の村を思い出し、懐かしんでいる様だ。
ティピの問いには元気よく……。

「うん☆アタシの生まれた村だよ。本当に何にもない所なんだけど、自然に恵まれているから、薬草とかいっぱい採れるんだ。あとお気に入りのお花畑があるの!」

――そう答えた。
そう言えば、前にラルフが……。

『メディス村の薬草は質が良いんだ。だから、他で採れる薬草よりはちょっと単価は高いけどね?』

とか、言っていたっけな。

「ミーシャって、本当にお花が好きなのね」

「だな……花言葉なんて知っているくらいだからな」

「えへへ♪でも、アタシが花言葉とかを覚えたのも、おじさまに車百合をもらったあのお花畑の思い出があるから……なんですけどね☆」

テヘッ♪
と、照れ隠しにはにかむミーシャは中々に可愛らしいと思う。

「……あの学院長がお花をくれても、あんまりいい思い出って感じがしないけど……」

ティピの言い分は中々に酷いが…………否定出来ないのが……何とも。
まぁ、何だ……思い出というのは美化される物らしいし……駄目だ、フォロー出来ん。

まぁ、それは置いておいて……。

「ルイセ、頼む」

「うんっ、まかせてお兄ちゃん!」

――こうして、俺達はルイセのテレポートで一路ラシェルへと向かった。

***********

やはり情報を集めるには、彼女の勤め先から調べるのが確実だ。

そんな訳で俺達は保養所に向かう。

そして情報収集を開始。
幾つかの情報を入手する。

アイリーンは薬草を採りに行くときなどに、黙って出掛けることがあったという。
大概はすぐに戻ってきていた為、心配はしていなかったらしいのだが……。

それと、アイリーンの恋人の話も聞けた。
その名はニック。
シオンの指示を受けたリビエラ達を追い返した奴で、確か闘技大会でそのシオンとぶつかり、軽くのされていた奴……だった筈。

何でも、アイリーンと離れたく無くて、自ら辺境警備を申し出たらしい。
リビエラ達の話を合わせて考えると、それだけ彼女が大切なんだと分かるが……。

今はメディス村に住んでいるらしい。

「大体、重要な情報は集まったな……」

「だな……ニックに会いに行けば、何か掴めるかもな」

ウォレスとゼノスも同じ意見らしい。

「じゃあ、次はメディス村だな……む?」

俺がそう告げた時、ふとミーシャを見ると、嬉しそうにほくそ笑んでいた。

……何でだ?

「アタシ、どきどきしてきちゃった」

「なんで?」

ワクワクが止まらないって感じのミーシャに、ティピはさらっと尋ねた。

「あのお花畑が見られると思うと、嬉しくって……。だって、すごく綺麗なんだもん」

「成る程……そんなに綺麗なのか……」

「きっと、お兄さまも気に入ってくれると思いますよ♪」

花畑を見たのは、このラシェルが初めてだったからな……アレより綺麗な花畑か……少し楽しみだな。


それから、俺達はメディス村に向かう前に、以前見舞いに来た少女に顔を出しておこうと考えた……しかし、顔を出してみると病室には誰もいなかった。
情報を集めてみると、どうやら完全に元気になり、故郷へと帰って行ったのだとか。
あの娘の故郷は鉱山街ヴァルミエだと、ナースの人が言っていた。

なんでも、しきりに誰かに会いたがっていたそうだ……。
……この任務が終わったら、シオンにこのことを伝えなきゃな。

そんなこんなでメディス村へ向かう。
俺達は、メディス村に向かうのは初めてなので、徒歩で。

道中、リザードマンやインプという小悪魔が出て来たが、今の俺達には歯が立たないらしく、軽く蹴散らしてやった。



そして、メディス村に到着した……しかし。

「ん?1人足りなくないか?」

「あれ……ミーシャがいない……。さっきまではいたのに……」

ウォレスが最初に気付いて辺りを見回すと、確かにルイセの言う通り、ミーシャがいなくなっている……いつの間に?

「どっかで遊んでるんじゃないの?この村にいることは間違いないんだから、そのうち戻ってくるでしょ」

「まぁ、大方…例の花畑にでも行ってるんだろう?ミーシャを探すのは後にして、まずはアイリーンか、ニックって奴を探そうぜ?」

ティピの言う通り……なのか?
こういう時にシオンやラルフが居れば、気を探ってミーシャを見つけることも出来たのだろうが……自身の気の運用を習得したウォレスや、まだ自身の気を感じれない俺達では、ミーシャの気を感知するなんて出来ない。

ゼノスの言う通り、今は任務を優先しよう。

あちこち情報を聞きながら、捜索するが……村の人達は皆、今日はニックを見掛けていないと言う。
むぅ……手詰まりか?
そんな時、無関係だが不可解な情報を聞いた。

「この村の西側は薬草が育つのに適した土地なんだ。だから、自生している薬草の他に、栽培だって出来るんだよ」

「花畑とかは無いのか?」

俺は後でミーシャを迎えに行こうと……何気なく尋ねただけだったのだが……。

「えっ、花畑?それはないなぁ……」

何だって……?

「まぁ、個人が作る鉢植え程度ならともかく、この村は薬草栽培一筋だから、花畑は一度も作ったことはないよ」

「花畑は作ったことがない〜?ミーシャ、ここに花畑があるって言ってたのに……」

ティピの疑問は最もだ……俺も首を傾げているわけだからな。
どういうことなんだ……?
何か妙なしこりを残したまま、俺達はアイリーン達の捜索に戻った。

俺達は村の西側……先程の男が言っていた薬草の栽培に適した場所に向かう。

「ここにいるかなぁ?」

「とにかく探してみましょ!」

俺達は隈なく探してみるが……誰も見つけることは出来なかった。

「ここまで探していないってことは、ここには来なかったってことかな?」

「これ以上先はないから、もう村に戻ろうよ」

「そうだな……」

ティピの推測通り、アイリーンが此処を訪れなかったのかは分からないが……ルイセの言う通り、これ以上は先に進めないから、戻る他ないな。

こうして村に戻って来た俺達……手掛かりも掴めず、振り出しに戻ってしまったな……そう思った時、宿屋の扉が開き、そこから二人の男女が姿を現す。

「あ、あの人ひょっとして……」

間違い無いな……ニックとアイリーンだ。
二人とも見覚えがある。

「ごめんね、こんなことに巻き込んで……」

「何を言うんだ、アイリーン。君は僕が守る。どうやらグローシアンが狙われているというのは本当のようだ。僕が魔法学院まで送るよ」

「ありがとう、ニック」

「君を守るのは当然だろ?それに……君に忠告をしに来てくれた彼らを、追い返したのは僕だからね……なら、彼らに切ったタンカくらいは守らなければ、申し訳が立たないよ」

……どうやら、リビエラ達に関する誤解は解けている様だな。
とりあえず、無事な様で何よりだ。

だが、そこに現れたのは一人の盗賊風の男。
随分といきり立っている様だが……。

「俺の子分をかわいがってくれたのはお前だな?」

「誰だ!?」

ニックはアイリーンの前に出て彼女を背に庇う。
それと同時に、似た様な盗賊連中がぞろぞろとやってくる。

「!この間の野盗の親玉か……」

「俺様が来たからには、貴様に一片の勝機もない。俺に勝てるような奴は、いないんだよ!」

そう言って大斧を構える親玉(仮)
……あの大斧、どこかで見た様な?

「逃げろ、アイリーン!こいつらは僕が食い止める!!」

「でも……」

「いいから、逃げろ!!」

そう言って自身も大剣を構えるニック。
何となくだが……実力はニックのほうが上に思える。
だが、多勢に無勢だな……。

「何だか知らんが……俺達の前に現れたのが運の尽きって奴だぜ!!」

「ああ、あの盗賊どもを倒すぞ!!」

ゼノスを始め、みんなのやる気も十分らしい。
それを確認した俺は号令を出した。
シオンが居たら、気絶させて捕まえるだけで済むが……贅沢を言うつもりは無い!

「お前らは、野郎の足止めをしろ!女の始末は、俺がやる!」

「へい!」

「あと、ついでだ!村の奴らはみんな殺しちまえ!!」

「へっへっ!了解でさぁ〜!!」

……下種が。
そんなことをさせると思っているのか?
俺達を……舐めるな!!

「ハァ!!」

ズシャッ!!

「ぐぇ!?」

俺は村人に襲い掛かろうとした奴を、問答無用で切り捨てた。

「ゲッ!?貴様らは……!!」

どうやら大斧の男が気付いた様だな……俺達を知っているみたいだが……誰だ?

ザシュ!!

「グハァ!?」

「誰だか知らんが、観念するんだな!!」

盗賊の一人を切り倒し、ウォレスがそう告げる……ということは本当に知らない奴みたいだな。

「誰だか知らないだと〜?なら教えてやる!!俺様はエリックの野郎の代わりに新しく頭の座に着いたゲオ」

「なにいきがってんだよ、このゲス野郎が」

「な、何だとぉ!?」

名乗ろうとしたゲオ何とかだが、そこをゼノスに邪魔される。
成る程……以前から色々良からぬことをしてくる、あの盗賊団の新しい頭領か……。
エリックというモンスター使いはどうしたのだろうか……シオンの警告を聞いて、団を抜けたか……?

「テメェの名前なんざどうでもいい……これ以上の非道は俺達がさせねぇんだからな!!」

「ええい!お前から八つ裂きにしてやるわ!!」

「やってみろよクソ野郎がっ!!」

どうやらゼノスがゲオ(以下略)を引き受けてくれる様だ。

なら俺は……。

「いやーっ!?こんなところから!!」

「へっへっへ……ここから現れるとは、思いもしなかっただろう!」

女性の悲鳴に振り向くと、道具屋の影から盗賊の一人が現れた。
……何と言うか、伏兵を仕込むのは、こいつらの伝統か何かか?

「そんなことはどうでもいい!とにかく、例の女を殺せ!邪魔する奴は……」

「ファイアーアロー!!」

ドドドドドッ!!
ボワッ!!

「うぎゃああぁぁ!?あ、熱いぃぃ!?」

伏兵はルイセの放ったファイアーアローを喰らい、地面を七転八倒している。

「そんなこと……させないんだからっ!!」

フッ……我が妹ながら、頼もしい限りだ!

「だありゃああぁぁぁぁ!!!」

ズシャアアァァァァァ!!

ゼノスの一撃を受け、武器を破壊され、手傷を負ったゲオry。

「ぐはっ!?お…おのれぇ……せっかく頭になったのに、こんな所でくたばってられるか!!」

そう言って直ぐさま逃げ出すゲオ。

「逃げ足が早い奴だ……」

ゼノスなら追うことも出来たが、深追いして足並みを乱すことも無いと判断したんだろう。

それからしばらくして……俺達は敵の全てを掃討した。
正直、相手にならなかったな。

「ありがとう。おかげで助かったよ」

「助かりました」

ニックとアイリーンに礼を言われる。

「俺たちはアルカディウス王の命令で来たんだ。アイリーンさんを魔法学院に連れて行くようにと」

「そうですか」

「では、彼女をよろしくお願いします」

俺は事の顛末を説明すると、二人は納得してくれた。

「アンタはそれで良いのか?」

「本当は自分でアイリーンを送り届けたいけど……君達に任せた方が安全みたいだからね」

悔しいけど、お願いするよ。
と、穏やかな表情でニックは告げた。

どうも以前にリビエラ達を問答無用で門前払いしたのを、多少は後悔しているらしいな……。

俺達はニックの頼みを了承した。
さて、魔法学院に行くか……と、その前にミーシャか。

「どうする?探しに行くか?」

「けど、どこにいったんだろう……ミーシャ」

そうだよなぁ……ルイセの言う通り、居場所が分からなければどうしようも……。

「ああ!待って、待って!!」

噂をすれば影って……こういうことを言うんだな……。

「何処行ってたのよ!?」

「ちょっと」

いや、ちょっとの一言で済ますには酷すぎるんだが……。

「ミーシャ、みんな心配していたんだぞ?それに賊も襲って来たんだ……『ちょっと』で済ますわけにはいかないだろう……」

俺がそう言うと、ミーシャはショボンとしてしまい……。

「……ごめんなさい」

そう、謝ってきた。


……?


何だ……?

何故か感じた――不思議な違和感。

俺は――ふと、ミーシャを見て思った。

……本当に、ミーシャなのか……?

――と。

何故そんなことを感じたのか――それは判然としないけどな。

「もう良いじゃない、ミーシャも謝ってるんだし……許してあげようよ?」

「まぁ……俺は別に構わないが」

ウォレスとゼノスも構わないと言ってくれたので、ルイセの言う様に、この話はこれでおしまい。
ティピはまだまだ文句がありそうだったが……。



俺達はそのまま、テレポートで魔法学院に向かった。
寄り道はせずに、そのまま学院長室へ。
秘書の人にアイリーンさんを連れて来たことを伝え、中に通して貰う。

……気のせいか?
秘書の人の表情……随分柔らかくなった様な……?
まぁ、それはともかく。

「失礼します」

「おお、これで全員揃ったようだな」

ルイセの言葉で入室した俺達を、微笑みながら学院長は迎えた。

「どうも、遅くなりました」

「いやいや、気にするな。しかし、いったい誰がグローシアン狩りなんかを始めたのやら」

「グローシアン狩り?」

時間が掛かったことを謝罪したルイセを、これまたニコヤカに許した学院長……しかし、最後になにやら物騒な台詞を言う。
ウォレスもそれを疑問に思った様だ。

「次々とグローシアンが襲われているからな、いつの間にかそう呼ばれているんじゃよ……だが、この学院にいれば安心だ」

ウンウンと頷く学院長……グローシアン狩りか。
シオンが半数以上のグローシアンを保護している……という真実を知る俺達からしたら、少し複雑な気分になる言葉だ。

「それではアイリーンさんをお願いします」

ルイセがそう告げた後、俺達は学院長室を後にした……しかし、そこで待っていたのは。

「やぁ、みんな」

「あ、アリオストさん」

そう、アリオストだ。
どうやら俺達を待っていたらしい。

「どうしたんだ?」

「実は君たちに話があるんだ」

俺が尋ねると、やはり俺達に話があるらしい。

「なんの話?」

「戦争についてなんだ。フェザリアンらを説得しようにも、戦争している今の状態でそれができるとは思えない。だけど1人で戦争を止めるなんて事はとてもじゃないが出来ない。でも、君たちとならやれそうな気がする。だから僕も一緒に連れていって欲しいんだ。君たちに協力して、この戦争を終わらせたい!!」

成る程……気持ちは分からなくはない……だが。

「良いのか……?俺達は戦争をしているんだ……その俺達に協力するってことは……つまり、人を殺すことにもなるんだぞ?」

俺だって、慣れては来たが未だに震えが止まらない時がある……それに、俺は見ている。

ある男の慟哭を……。

その男は今も戦い続けている……そいつは慣れて来た様で、慣れていないのを知っている……背負いながら戦う道を選んで戦っている。

俺には出来ない戦い方だと思った……だからこそ、俺は誓った。
アイツが折れないなら、俺が折れるわけにはいかない。
逃げずに戦うと……。
戦えない人々の代わりに戦ってやると……。

「……それでも構わない。確かに戦争は愚かな行いだ……けれど、それに目を背けて何もしないのはもっと愚かだ!……だから、僕は戦う……後悔しないために」

どうやら本気……みたいだな。
なら、俺に止める理由は無いな。

「みんなはどう思う?」

「わたしは、アリオストさんが決めたことなら、何も言えないよ」

「そうですよ!アタシなんて、そんな志しなんて無いし……」

ルイセとミーシャは賛成らしい。

「へっ、まぁ……そういう熱い答えは嫌いじゃないぜ?」

「ああ……あとは戦場の空気に触れて、対応出来るかだが……これは慣れるしかないな」

ゼノスとウォレスも納得してくれた。

「じゃあ、全員一致だね♪」

「とまぁ……そういうわけだ。これから宜しく頼むぞ、アリオスト?」

ティピも含めて満場一致だな。

「ありがとう……頑張るよ!!」

こうして魔導学者、アリオストが仲間に加わった。
さて、後は戻るだけなんだが……シオン達はどうなっているのか……。





[7317] 第93話―手紙、約束、全員集合―シオンSide―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/14 17:59


カーマイン組と別れた俺達は、テレポートでアジトへ飛ぶことにした。

実際、ゼメキス村長の安否も気になっていたので、俺にとってはアルカディウス王の依頼は渡りに船だった訳だが。

そんな訳で早速テレポートを使い……アジトに到着。

「これがテレポートですか……初めて体験しましたが……正直、凄いものですね」

今までに何度か聞いた台詞だが……元祖はサンドラなんだよな……原作では。
そう考えると感慨深いような気がするな。

「ようこそ我がアジトへ……って、サンドラ以外には今更だよな」

ラルフとリビエラは言わずもがな、カレンもエリオットを連れて来た時に、一緒に此処へ来ている。

「ここがそうなのですか……何と言うか、想像していたのと違って立派な屋敷ですね……それに」

「それに?」

どんな想像をしていたのか、小一時間程問い詰めたいが、続きがあるみたいなので先を促す。

「賑やかと言うか……アジトという雰囲気じゃないような……」

まぁ……隠れ家らしくは無いよな?
現状を端的に説明するなら、保護しているグローシアンの皆様が庭でバーベキューをしていらっしゃるわけで。

「確かに……これを見たらね……」

そう思うわよね……。
とは、リビエラの談。

「そう言えばシルクちゃんは……あ、居た」

シルクを探すラルフ……が、シルクは行ったり来たりしてウェイトレス的に立ち回っている。
正にメイドの鏡。

「あ!旦那様〜〜♪」

お、こっちに気付いて……地響きを起こしながら走って来たな。

ドドドドドドドドッ!!

「お帰りなさいませ、旦那様♪」

俺達の前でピタリと止まり、スゥ……っと綺麗に礼をする。
完璧だ……完璧だぞシルク!!
何が完璧かと聞かれたらry
ちなみに、もう旦那様というのは訂正しないことにした。
正直、面倒臭くなった。

「おう、ただいま。で、どうしてバーベキューをしているんだ?」

「はい、たまには自然に触れながらのお食事も良いかなぁ?と、思いまして……そう言ったら皆さん賛成してくださったので♪」

シルクは実に良い笑顔で告げてくれた。
ふむ、やはりメイドの鏡だなシルクは……我が家のメイド達と比べても、その気配りに遜色は無い。

あ、ちなみに我が家に勤めていたメイド、執事、料理人など……彼らもアジトに移って来ている。

父上は、反逆者になりたくなければ国に残る様に言ったそうだ。
勤め先も、他の信頼出来る貴族へ紹介するとか……だが、皆は父上に着いて来た。

父上や母上の人徳……なんだろうな。

まぁ、二人とも概ねフレンドリーな性格だしなぁ……。
しかもしっかり責任感はあるし……。
母上は普段はあんなだが、ちゃんと良妻なんだぞ?

家庭的にも貴族的にも。

まぁ、それはともかく。

「成程なぁ……確かに気分転換には良いかもな」

皆、事情を理解してくれているとは言え、本音は家へ帰り、家族に会いたい筈だ。
しかしそう言った気負いは見せず、普通にバーベキューを楽しんでいる。
これもシルクの心配りの賜物か。

「皆さんもお帰りなさいませ♪」

「ただいま」

「アナタは相変わらずね」

素直に返すラルフと、苦笑混じりに返すリビエラ。

「大変そうですね……お手伝いしましょうか?」

「ありがとうございます♪でも大丈夫です!私だけじゃありませんから」

カレンは手伝いを申し出たが、シルクの言う通り我が家のメイドや執事達も働いているみたいなので、概ね問題はなさそうだ。

「あの……彼女は……」

「そういえば、サンドラとは初見だったな……彼女はこの屋敷の管理を任せている聖霊で、シルクって言うんだ」

一応言っておくが、聖霊と言ってもピンクのアレではない。
どちらかと言えば、某魔装機神のバッタモ……いや、パチモ……もとい!

非常によく似たロボの方のイメージだ。

……俺は誰に言っているんだ?

「精霊……ですか?」

「聖なる霊と書いて聖霊な?元は精神的な霊と書いて精霊……だったんだが、俺と契約を交わすことで聖霊になったのさ」

これは以前にカレン達にもした説明だが、改めて説明する。
この世界(正確にはグロランⅢでの話だが)の精霊にはたいした力は無い。

精霊は言うなれば、自然界から零れるエネルギーみたいな物で、僅かな意思の様な物はあれど、明確な姿形は成されていない。
それらは長い年月を得て集まり、集合体となる……それが妖精だ。

Ⅲで主人公に着いて来ていたあの妖精――レミィが、正にそれだったりする。

このことからすると、シルクは精霊では無いことになる。
何しろ、俺がシルクと出会った時は既に今のサイズで、人の形をしていたのだから……半透明な身体ではあったが。

では何故、俺がシルクを精霊と呼んだのか?

……なんと言うか……某○神転生に出てくる精霊のイメージそのまんまだったからな……。
ウンディーネとかシルフとか……。

敢えて言うなら、シルクは精霊の突然変異だったらしい。
妖精と成すにはお釣りが来る程に膨大な数の精霊達の集合体……それでいて妖精になりきれない者……それがシルクだった。

俺達が出会ったのはこの屋敷……詳しい話はまた語ることもあるだろうから、今は語らない。

とにかく、シルクと出会った俺は契約を交わす。
シルクはその影響で、半透明な身体では無く、誰にでも見えて触れられる『肉体』を得た。
某運命的に言うなら『受肉した』……とでも言うのかな?
シルクが持っていた魔力も、莫大な物に変化しやがったし……。

「と、こんな理由があって、シルクにはこの屋敷の管理や何やらを任せているんだ」

○神転生云々や、シルクと出会った経緯を抜かして説明した。
それを聞いてサンドラは勿論、カレンもしきりに頷いていた。

「はじめまして、旦那様にお仕えしているシルクと申します」

「これはご丁寧に……私はサンドラ・フォルスマイヤーです」

と、二人の自己紹介も終わったことだし、早速お仕事を始めますか。

俺は皆を促して歩き出す……歩きながらシルクに尋ねる。

「そう言えばシルク……少し前だと思うが、ここにグローシアンの爺さんが来ただろう?」

「はい、ゼメキス様ですね?ゼメキス様は浅くは無い傷を負っていたので、急いで治療を施して、今はお部屋で安静になさっています。快方に向かっていますよ♪」

成程……確かに屋敷の方からゼメキス村長の気を感じる。
……後で会っておかないとな。

**********

それから、俺達は集まっているグローシアンの人々に挨拶をして、詳しい事情を説明。
預かっていた手紙を渡す。

やはり、家族は恋しいらしく……中には手紙を読んで泣き出す人も居た。

その後、手紙を読み終えた人達は返事を書くから届けてくれないか?
そう頼んで来た。
無論、最初からそのつもりだったので、二つ返事でOKした。

ただ、家族からの手紙はローランディアに住む人々からの物なので、バーンシュタインの人達に渡す手紙は無かった。
が、やはり家族が気掛かりだろうと思い、手紙を書いて貰えるなら、俺達の方で届けておくと伝えた。

すると、皆は喜んで俺の提案に賛成してくれた。
そして、俺達は皆が手紙を書くまで滞在していることを告げる。

食事を摂った後、皆さんは部屋に篭り手紙を書き始めた。
既に、手紙をしたためておいた人も居て、先に手紙を受け取ったりもしたが……。

俺達にもそれぞれ部屋が割り当てられ、他の皆は思い思いに寛いでいるだろう……俺?

俺は……。

「お加減はどうです?」

「お主か……おかげさまでこの通り、ピンピンしておるよ」

ゼメキス村長と面会をしていた。
言葉の通り、元気そうだな……良かった。

「村の人達も心配していましたが、詳しく説明したので、なんとか納得してくれたみたいです」

「そうか……では、早く怪我を治さなければのう……しかし、お主が無事じゃと言うことは、他の者たちも無事と言うことか……それはなによりじゃ」

「そのことですが……」

俺は事の顛末を告げる。
滝の裏の洞窟では、怪物が飼育されていたこと。
その怪物の餌が人間だったこと……そして。

「捕らえられていた村人達で、無事な者は助け出しました……ですが」

俺は村長の息子さんから預かっていたナイフを渡す。

「!……これは……」

「すみません……俺達が駆け付けた時には、もう手の施し様が無く……これを貴方に渡してくれ……と」

「そう……か……息子は逝ったのか……」

涙……。

涙を流す……。

泣き叫ぶことは無く、ただ静かに。

「老い先短いわしより早く……逝ってどうするんじゃ……親不孝者が……」

ただ…ただ…深い悲しみに包まれた村長は――涙を流す。
俺はその独白を、聞いているしか無かった……いや、聞かなければならない。

それは、俺が救えなかった……救おうとしなかった命。
だから、その言葉を聞き逃さない。
一字一句たりとも。

それが命を見捨てた俺への『罰』なのだから。


それからしばらくして……。
俺は村長に犠牲者達の墓……そして、息子さんの墓……この二つの場所を教えた。
もし村に戻ったら、墓参りをしてやってくれと。

それと、問題が解決するまで、村長にもしばらくここに滞在してもらうことになった。

とりあえず、滝の裏にあった元凶を潰したという理由もあり、説得は比較的容易だった。
村長さんが、村人の為に身体を張る必要がなくなったのだから。

「それと、今、皆さんに手紙を書いてもらっていまして……」

「ほほぅ……手紙とな?それは良い……ではわしも手紙をしたためておくかの?」

「大丈夫なんですか?」

「なんのなんの、手紙を書くくらいならお安いご用じゃよ」

笑顔で答えた村長に、俺も笑顔で返す。
それから軽く雑談をした後、その場を後にした。

――約束は……果たしたぜ――。

*********


僕は割り当てられた部屋……とは言っても、以前から使っている部屋のベットで横になっていた。

外は夕焼けの光に包まれている――。

「…………」

こうして一人で居ると考えてしまう……。
異形の怪物……ゲヴェル。
それに従う仮面の騎士……そして……その素顔。

かつて、僕はウォレスさんが仮面騎士に襲われ、利き腕と眼を失った時の夢を見た。
仮面騎士の一人が、その仮面を外し、その顔をさらけ出したのも……。

「偶然……?」

僕やカーマインと同じ顔をした彼……僕達以外にも兄弟が居た……?

「いや……」

そんな単純なことじゃない様な気がする……何か、大事な何かを見落としている様な……いや、気付こうとしてないだけなのかもしれない。

そして……僕は――ある可能性を思い付いてしまった。

ただ、その可能性は酷く曖昧な物で、正しくその通り……とは言い切れ無いのだけど。

「我ながら馬鹿馬鹿しい考えだね……」

僕かカーマイン……あるいはその両方が……。

「いや、答えが出ない考えはよそう……」

何が真実であれ、僕が僕であることは変わらないのだから……。

「さて、夕食まで時間があるし……読書でもしていようかな?」

僕が取り出したのは、シオン・ウォルフマイヤー著……『今日から君も大英雄』『今日から君も大魔導師』の、弩級編、応用編。

こういうのは、日々の研鑽が物を言うからね。
ちゃんと学んで、修練を重ねないと……。

「え〜と……魔力と気は相反する物である………」

**********


「シオンさん!」

「ん?カレンか……どうした?」

俺が庭先で、とある魔法を完成させた時、カレンがやって来た。
一体どうしたんだか……。

「窓からシオンさんが何かをしているのが見えたから……それで」

「成程な……で、何をしていたのか尋ねに来た、と?」

ハイ、とカレンが頷く。
ふむ……まぁ、知られて困ることじゃないし、良いか。

「俺は新しい魔法を開発していたんだよ」

「新しい魔法……ですか?」

「そう、新しい魔法。まぁ、アレンジとも言うけどな」

実際、全く新機軸の魔法では無く、既存の魔法を改良した魔法……だからな。
これも、俺のラーニングスキルに次ぐ能力、アレンジスキルの賜物なんだが。

マジックガトリングなんかも、これによって生み出された……なんて説明は今更だが。

「へぇ、そうなんですか……どんな魔法なんです?」

「テレポートの改良版だよ……その名も『瞬転』!!」

「しゅん……てん?」

「『瞬転』……瞬間転移の略だよ」

俺は『本気』の魔法には漢字で手短に名前を付ける。
他にも幾つか漢字で名付けた魔法がある。
………どれがどれとは言わないが。
多分、使う機会も無いだろうしな……威力が桁違いなのが多いし。
ちなみに、『瞬間移動』というネーミング案もあったが、却下した。
某DBZと被る。
効果に大差は無いが……流石にな?

「普通のテレポートとは違うんですか?」

「普通のテレポートは場所を記憶して、その場所を明確にイメージして瞬間移動をするんだが……これは場所では無く、対象の気や魔力を探知してその場に瞬間移動をする魔法なんだ」

それにノーマルテレポートは、魔力で形成された光の玉で全員を包み、その後に宙へ浮かび、次元の壁を通り抜けて移動する。

一方、この瞬転は自身や仲間を魔力の光で包み、そのまま次元の壁を通り抜けて転移する。

つまり、テレポートにあった僅かなタイムラグを、この瞬転は短縮している訳だ。

余談だが、ルイセは目印を決めてテレポートをしている為、場所のイメージもしやすいが、決まった場所にしか行けないという弊害に陥っている。

つまり、この瞬転は某瞬間移動とほぼ同じ……違いはこれが魔法だということ……位か?
テレポートは、グローシアン並の魔力を持つ者限定だが、詠唱時間がほとんど掛からない魔法だ……そのテレポートをアレンジしているので詠唱時間は同じく掛からない。
仮に詠唱時間が掛かったとしても、『詠唱時間短縮』と『高速詠唱』のスキルを併用すれば一瞬だったりするが。

「まぁ、欠点はかなりの魔力を喰うこと位か……皆既日食グローシアン並の魔力と精神力が無ければ使えないだろうし、皆既日食グローシアン……例えばルイセを例に挙げるが……例えルイセでもあまり多くの回数は使えないだろうな」

気や魔力を察知して瞬間移動する為、気や魔力を探知する感覚を物にしなければならないし、明確な目印が無い上に、テレポート以上に詠唱時間を削っている為、魔力消費量も多くなっている。

実質、俺専用の魔法と言っても良いだろう。

「まぁ、ちゃんとテストもしたから分かるけど、かなり使い勝手は良いな」

「そうなんですか?」

実は先程、試しでラルフの部屋に飛んでみた。
ラルフは本を読んでいたらしく、いきなり現れた俺を見て唖然としていた。
何故ラルフの所に……だと?
もし仮に、女性陣の所へ飛び……入浴中だったりしたら……マズイっしょ色々。

「まあね……普通のテレポートより良い感じかな?これなら戦闘でも、応用が効き易いし――」

とは言え、移動自体は普通のテレポートで充分なので、余程切羽詰まった時でもなければ使わないかも知れないがな。

「さて、皆の手紙が書き上がるのは恐らく明日……その間は何をしているか……」

恐らくカーマイン達は今日中には任務を達成するだろう……。
そうなると、一緒に休暇という訳にはいかないだろうな……。
一応アレを渡しているから、何かあれば来るとは思うが……。

「あの……また、お話を聞かせてくれますか?シオンさんのお話は楽しいですし……」

それは俺の話が面白いのでは無く、元ネタが面白いんだよな……まぁ、語り部としては嬉しいけどさ。

「そうだな……じゃあ、夕飯まで話でもしようか?……何が良いかな……」

その後、俺はカレンとお話をする。
内容はレティシアにも話した、ラングリのⅢ……その続きだ。
基本、レティシアと同じ内容なので、詳しくは省くが……。
とりあえず、ダークナイトの正体が分かる辺りまで話した。

「それから、どうなったんですか?」

「それは、また今度な?とりあえず夕食を食べなきゃ」

そろそろ夕食時なので、この話は一旦お開きにした。

「さて……それじゃあ早速……ん?」

「どうしました?……あ、アレは……」

俺達が見た先には、小さな光の玉がフワフワと飛来し、一気にそれが大きくなる。
分かる人は分かるだろうが、テレポートしてきた誰かなのだろう。
その誰かとは……。

「ふぅ、到着!」

「ルイセちゃん!?それに、皆も……」

そう、やって来たのはカーマインパーティーだ。
実は事前に、ルイセへ『転移の腕輪』を渡していたのだ。
いざという時に合流出来る様に、な?

「アタシたちの任務は終わったから、シオンさんたちの様子を見に来たんだ!」

ティピが簡潔に説明する。
アイリーンは無事に魔法学院に送り届けた……と。
……魔法学院って時点で、無事とは言えないが……腕輪まで捨てた奴まで面倒見切れない……と、言いたいが……腕輪を捨てたのはニックだしなぁ……。
なんとかしてやりたいよなぁ……。

成程、律義に様子を見に来てくれたのか……って、アリオストがいるし。

「よっ!結局、一緒に行くことにしたんだな?」

「ああ、この戦争を早く終わらせたくてね?」

でなければ、フェザリアンを真に認めさせるなんて出来ないからね……と、付け加えて。

「成程……それは確かに」

俺はそう返答する……争いに加担することを嫌っていたアリオストが、争いを無くす為に立ち上がったか。
やっぱり中々に熱い奴だな……。

「で?そっちの任務はどうなんだ?」

「ああ、それなんだが……」

ウォレスの質問に答える俺。
グローシアンの皆に知らせて手紙を渡し、今現在、返事の手紙を書いている最中で、少なくとも明日まで掛かるだろうことを……。

「だから、俺達はここに滞在しなきゃならなくてさ」

「成る程……そういうことか」

カーマインは納得した様に頷いている。

「それじゃあ俺たちも一泊した方が良いのか?」

「それは皆次第だな。一応部屋は余ってるから、泊まることは出来るが」

ゼノスの問いに答える俺。
一泊して行くか、任務報告しに行くか……その判断は皆が下すことだ。

「アタシは泊まって行きたいなぁ……だって、こんな凄いお屋敷だもん!フカフカのベット……美味しいご飯……♪」

等と言っているのがミーシャ。
ミーシャを通じてクソヒゲが覗いてる可能性があるが……だからどうした?
という話だ。
覗いていても何も出来ないだろうし……。
ミーシャを操ることは出来るだろうが、仮にミーシャを操っても、グローシアンの誰かを連れ出そうものなら、一気に怪しまれる。
クソヒゲがミーシャを俺達に同行させている理由は唯一つ。

最高のグローシュを持つルイセを見張る為……。
まぁ、そこに俺も含まれている可能性は――あるのかも知れないが……。

クソヒゲにとっては、俺やルイセの様な皆既日食グローシアンは、貴重な実験材料な筈。
つまり、この段階で無茶をして他のグローシアンへ手を出すより、油断させておいて隙を突き、優れたグローシアンを手に入れるべきだ……とか、考えているのだろうな。

実験材料に関しても、俺達の申し出を蹴ったグローシアン達がクソヒゲに保護されている筈だ…。

それで充分と考えるか、物足りないと考えるかは分からないが、少なくともミーシャを動かすことは無いだろう……。

自身が動くのも論外……なら、グレンガルとか辺りに依頼するのが無難な手だろうな……。
もっとも、グレンガルだろうが誰だろうが、敵意や害意を持つ相手は結界に阻まれ、ここまで辿り着けないだろうが。

仮に忍び込めても、そいつらは地獄を見ることになるだろう。

……というか、ミーシャ……よだれが。

「ミーシャ、よだれよだれ!」

「はっ!?つ、つい……」

ルイセに指摘され、慌ててよだれを拭うミーシャ。
まぁ、年頃の乙女にあるまじき顔だったが……見なかったことにしてやろう。

「うわ〜い♪ご馳走ご馳走♪」

と、騒いでいるのはティピだ。

結局、皆で一泊することになった。
皆にそれぞれ部屋を割り当て、簡単な荷物の整理をして、夕食の為に食堂に集うことになった。

とにかく、人数が多いので立ち食形式になったが。
皆それぞれに楽しんで居る様で、何より何より♪

*********

後書きという名の言い訳。

お久しぶりです、神仁でございます。
リアルに仕事が忙しいので、中々更新出来ず、今回やっと更新出来ました。
待っていた方(果たしているのだろうか?)は、お待たせいたしました!

……忘れ去られていないか激しく不安です。
(-.-;)

それではm(__)m




[7317] ―ルイセ・フォルスマイヤーの視点―番外編16―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/14 18:05


シオン先生の別荘……(先生が言うにはアジトらしいけど、そんな印象が沸かないくらいすごいお屋敷なんだよ?)そこでの夕食はたいへん賑やかだった。

先生が保護しているグローシアンの人たちも一緒にお食事をしているので、賑やかなのは当たり前なんだけど。
お食事はすごく豪勢というわけでは無かったけれど、ほんとうに美味しくて、幾らでも入っちゃいそうだった。

テーブルマナーとか良いのかな?
そう先生に聞いたら……。

「こういう場でテーブルマナーもへったくれも無いだろ?」

……だそうです。
何と言うか、先生らしいと思いました。

皆さん、それぞれ楽しんでお食事をしています。

「ハグハグムシャムシャ………ゴックン!ん〜♪美味しい〜♪」

ティピはすごい勢いでお皿を重ねています。
あの小さな身体の何処にあんなに入るのか……不思議です。

「しっかし、良いのかねぇ……今は一応任務中の筈なんだが」

「これも任務の内だ……それに、身体を休められる時に休めるのも大事なことだぞ」

「……だよな?ま、せっかくだから目一杯楽しませて貰うさ……にしても、この鳥美味いな……何の鳥だ?」

ゼノスさんとウォレスさんも楽しんでいる様です。

お酒を飲みながらお料理を食べています。
あ、ゼノスさんが執事さんに何かを聞いてる。
どうやら、料理の作り方を聞いてるみたいです。

「はい、どうぞラルフお兄さま♪」

「ありがとう、ミーシャちゃん」

ミーシャはラルフさんにお料理を取ってあげたみたいです。
多分、ミーシャが『私がお料理を取ってあげますね♪』とか言ったんだと思うけど。
ラルフさんもそれを受け取ってありがとうって言ってる。
あ、ミーシャってばすごくうれしそうだ。

「ねぇ、シルク?この料理だけど、良かったら今度教えてくれない?(シオンに作ってあげたいし……)」

「ハイ!シルクで宜しければ喜んで♪……けど、リビエラ様だから……少し不安です……」

「……貴女が私をどう思ってるか、よく分かったわ」

リビエラさんが、聖霊(と、言うらしい)のシルクさんにお料理の作り方を聞いています。
けど、シルクさんは不安そうにしています。
……リビエラさんって、そんなにお料理出来ないのかな?

「――で、良いのか?」

「ああ……僕はもう決めたんだ……戦争を無くす為に戦うって」

「そっちじゃなくて……せっかくの機会なんだ。憧れのミーシャ君に」

「な、ななな何を言ってるのかな君は!?」

「?アタシがどうかしました?」

「いや!何でもない!何でもないんだよミーシャ君!」

シオン先生はアリオストさんと話をしてました。
ミーシャの話をしていたみたいです。
自分の話をしていたのが聞こえたのか、ミーシャがやってきて会話に加わりました。
シオン先生は『頑張れよ?』と、アリオストさんに告げた後、その場を離れてラルフさんと談笑をしていました。

「若いって良いわね……羨ましいわ、カレンさん」

「そんな……サンドラ様はそんなにお綺麗じゃないですか……」

「あの人もそう言ってくれますが……不安になるんです」

「それは……私にも分かります。あの人は戦争が終わったら……そう言ってくれてますけど……私……」

「「……はぁ……」」

お母さんとカレンさんは、何かを話していた……あの人ってシオン先生のことだよね?

あっ、リビエラさんが来た。

「なんなら、夜這いでも掛けちゃおうか?」

「なっ!?そ、それは……その……」

「流石に……いえ、嫌では無いんです……むしろ……い、いえ!そうでなくてですね……やっぱり、あの人の意志は尊重したいですよ」

リビエラさんの言葉に動揺を隠せない、カレンさんとお母さん。
ところで、『よばい』って何だろう??

「……うん、分かってる。でも、散々我慢させられてるんだから、少し困らせるくらいは……ね?」

リビエラさんはウィンクして二人に言った。

「「…………」」

二人は赤くなりながら、互いに顔を見合わせ、コクリと頷いた。
何をする気なんだろうか?

「!?」

「?どうしたんだいシオン?」

「い、いや……毎度お馴染みの感覚と言うか……理由が分かるだけに、嬉しい気持ちはあるんだが……色々ピンチ的感覚なワケでして……今まで控えていたが、遂にスーパー賢者タイムの出番かも知れない……」

「?スーパー……賢者タイム??」

ラルフさんが困惑している……わたしも先生の言葉の意味が分からないです。
けど、すごく焦ってるのは伝わってきます。

「……何を見ているんだルイセ?」

「あ、お兄ちゃん!うん、みんな楽しそうだなぁ……って」

そこにお兄ちゃんが来て、話し掛けてくれた。
わたしは思っていることを話した。
そう、みんな楽しそうなんだよね……見てるだけでこっちが楽しくなっちゃうくらいに……。
わたし、こういう雰囲気って好きだなぁ♪

「そうか……ルイセは楽しいか?」

「うん♪」

私がそう答えると、お兄ちゃんは小さく微笑んで、『そうか……』と言って頭を撫でてくれた。
わたしはお兄ちゃんのこの笑顔が好き……頭を撫でてくれるのも……気持ち良くて好き♪

それから夕食はしばらく続きました。
夕食が終わった後は、みんなそれぞれ部屋に戻って行きました。

わたしは部屋で横になっています。
今日は楽しかったけど、疲れちゃったなぁ……。

「……明日も良い一日になるかなぁ……なると良いなぁ……それじゃあ、お休みなさい♪」

わたしはゆっくり眼を閉じて眠りについた。
今日はいい夢が見られそうだなぁ……。




[7317] 第94話―リビエラとカレンとサンドラと……おまけでハゲ―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/14 18:29


夕食が終わった後、皆はそれぞれの部屋に戻った。
夜の帳が降りる頃……多分、それぞれの時間を過ごすのだろう。
手紙を書く人も居れば、早めに休む人も居るわけで。

まだ寝れなくて、時間を潰す人も当然居る。

私?

私はお風呂に入って、それから着替えて……。
今はシオンの部屋に向かってる。
……カレン達に言ったことを実行に移すつもりだったりする。

つまり、夜這い。

……無理矢理、肉体関係を迫ったりはしないわよ?
シオンの想いを尊重したいって気持ちは私にもあるもの。
他の皆は気付いてるか分からない……ケド、私には分かる。

シオンが……その……凄く我慢しているってことを……。
本当は私達とおもいっきり愛し合いたいって……私の自惚れかも知れないケド、私はそう感じた……。
多分だけど、本気で私が……私達が懇願したら、受け入れてくれると思う……。

「けど、そんないやらしいこと…………っ!」

私はその光景を想像して、思わず身もだえしてしまう。
こんなことを考えるなんて……欲求不満なのかな……?
でも、大好きな人と一つになりたいと思うことは、自然なことだと思う。

けれど、シオンも我慢しているのに、私が暴走するわけにはいかないから……。

「でも、これだけ私達を想わせてるんだから……少しくらい我が儘を言っても良いわよね?」

うん……せめて、抱きしめながら寝るくらい良い筈だ。
シオンの暖かさと匂いに包まれて眠りたい……それくらい考えても罰は当たらない筈だ。

……仮に、仮によ?

その時にシオンが狼になったとしても、私は一向に構わないわけだし……。
いや、その可能性はかなり低いとは、思ってるんだけどね……けれど可能性が無いわけじゃないじゃない?

だから、お風呂に入って身体を隅々まで洗って、歯磨きして……あ、あくまで覚悟の問題であって、き、期待しているわけじゃないんだからね!?

……と、そうこうしている内にシオンの寝室にたどり着く。
カレン達も誘ったケド……来るかな?

私は扉を前に深呼吸……すー…はー…すー…はー……よし、大丈夫。

私はノックをする。

コン、コン。

控えめにした筈のソレの音は、思いの外響き渡り、私はびっくりしてしまったが、ここで止まる訳にはいかない。

「……シオン?私だけど、今……良いかな?」

私は中に居るであろうシオンへ、扉越しに声を掛ける。

すると、部屋の中から足音が近付いて来る。

そしてゆっくり扉が開かれ、中から現れたのは……。



「カ、カレン…!?」

「こ、こんばんはリビエラさん……」

そう……中から現れたのはシオンでは無く、申し訳なさそうな顔をしながらこちらを伺うカレンだった。
ま、まさか一番乗りを取られるなんて……ううん!
今、一番重要なことはソレじゃないわ!

カレンが申し訳なさそうな顔をしている……ということは……。
ま、まさか……。

「カ、カレン……貴女まさか抜け駆けを……っ!?」

「!?ち、違います!!なんでそうなるんですかぁ!?」

……違うの?

ジト目を向ける私に、カレンは赤くなりながらも説明する。
カレンが言うにはこういうことらしい。

カレンは私に夜這いへ誘われたことで、自分もシオンの寝所に向かうことを決意。
私より早くたどり着いたカレンは、部屋の扉をノック……しかし中から返事は無かった。
少し疑問に感じ、寝ていたら悪いとは思いながらも軽くドアノブを捻ると……。

「ドアが開いてしまい、中の様子を伺ったけど、肝心のシオンがいなかった……ってわけね?」

「はい……」

カレンが申し訳なさそうにしていたのは、シオンの部屋に無断で入ってしまったから……らしい。

「けど、なんでまた部屋の中に?」

「いえ、その……つい……(言えない……シオンさんのベットに横になっていたなんて……ついさっきまで、シオンさんが横になってたのかな?シオンさんの温もりと匂いが……嫌だ、私ったら……はしたない……)」



カレンは真っ赤になりながら俯いている。
……うん、深くは聞かないであげよう。
何かをしていたのだろうけど、それを指摘するのは野暮だろう。
……もしかしたら、私も何かしていたかも知れないし。
今はそんなことより、シオンが何処に行ったのか……よね?

「シオン……まさかこんな時間に外出……?」

「それは無いんじゃあ……?剣が置いてありましたし、ベットも暖かかったので、さっきまで横になっていたみたいですから……」

成る程……じゃあ、トイレにでも行ってるのかな?

「そっか……ところでカレン?一つ聞きたいんだけど」

「?ハイ、何でしょうか?」

「何でベットが暖かかったって知ってるの?」


……………。


「!!?いや、それはその……少し触ってみたら……!?」

真っ赤になったカレンが何か言ってるケド……まさか?

「まさか……シオンのベットの上で……」

「し、してません!匂いを嗅いでなんか……あ……」

そこまで聞いてないのに……墓穴を掘ったわね、カレン?

まぁ、そこを突っ込むつもりは無いけど、ね?
私も同じことをしたかも知れないし……今はそれよりもシオンだ。

「仕方ないわね……部屋の中で待たせてもらいましょう」

「えっと……部屋で、ですか?」

「ええ、部屋で待っていれば行き違いにはならないだろうし、何よりシオンを驚かせられるでしょう?」

我ながらナイスアイディア♪
そう思ったのだけど……。

「あの……シオンさん、人の気配とか読めるらしいから、それは無理じゃないかなぁ……と」

「……………」

……そういえば。
待ってよ、そうなると……。

「事前に私達の気配に気付いて逃げた……なんてことは……」

「………………」

カレンは無言の肯定を示す。
ひ、否定出来ないのが悲しいわよね……。
人の気も知らないで……と言うことは無いんでしょうけどね。
シオンの場合、私達の気持ちを知ってて逃げたり……シオンの気持ちは分からなくはないケド……。

「……うん、やっぱり待ってましょう。幾らなんでも、ずっと部屋に戻らないなんてことは無いだろうし」

シオンの性格上、ずっと逃げ続けたりはしない筈。
……多分。

「そうですね……待ちましょう」

カレンもそれで納得した様だ。
それから私達は部屋の中で、談笑をしながらシオンを待つことに。

早く戻って来ないかなぁ……。

********


俺は今、外に出ている。
位置的には結界の外だ。

何故かって?

(と、まぁ……こういうことがあってな?)

『そうだったのですか……』

(そっちはどうだ、順調なのかジュリア?)

『ハイ、エリオット陛下が同行して下さっているのもあるのでしょう……兵の士気が高まっています。お陰で我が軍が優勢です』

そう、ジュリアに渡した腕輪を通して、テレパシーで話していたのだ。
定期報告……と言うより、近況報告に近いが。
……決してカレン達から逃げて来たわけじゃあ無い……本当だぞ?

(それは何より……だが、アチラさんにはインペリアル・ナイトが三人も控えているからな……まぁ、リシャール辺りは前線に出て来たりはしないだろうが……)

『えぇ、他の二人……アーネスト・ライエル将軍とオスカー・リーヴス将軍は違います……現に、彼らの指揮する部隊には何度か苦汁を飲まされているのも――事実です』

あの二人……特にライエルは原作でも最強クラスだからな……引退した筈なのに、そのライエルと互角にやり合える実力を持つ我が父上は何なんだ……現役時代はどれだけだったのかと……しかし、リシャールには負けたんだよな……丁度リシャールとライエルの間くらいの実力か?

……と、考えても答えは分からないが。

(気をつけろよ……恐らく、リーヴス卿相手なら互角にやり合えるかも知れないが……ライエル卿が相手だと、今のお前でも辛いかも知れない)

仮に……だが、何かの流れで一騎打ちをすることになるかも知れない……そうなると、今のジュリアの実力ならリーヴス相手でも互角以上に戦えるだろう。
だが、ライエルを相手にして勝てるかと聞かれたら……残念だが否と答えるしかない。

実力的にも差はあるが、何よりライエルには甘さが無い。
いや、これは正確じゃないな……。
実戦に置いて甘さが無いという意味では、リーヴスやジュリアも同様だ。

だが、リーヴスやジュリアは騎士道精神という物を掲げて戦っている。
勿論、ライエルもそうだが……ライエルはリシャールの為ならば、その騎士道精神を捨て去り、非情に徹することが出来る……故に強い。

『お気遣い、痛み入ります……ですが、ご心配は無用です!私は必ず勝利を掴みます!』

(いや、俺が言いたいのは……)

『その上で、必ず無事に戻ります……貴方の元へ……』

(…………!?)

『貴方の為ならば……私はもっともっと強くなれます……マイ・マスター。ですから、信じて下さい……私を……必ず無事に戻り、勝利を貴方へ…』

成程……ジュリアは俺の言葉が力になると……想いが力になると。


参ったな……。


そこまで想われていることに……そこまで言わせてしまっていることに。

なら、俺が言うべきは一つ。

(分かった信じよう……勝って帰って来い、我が騎士ジュリア)

『ハイ!我が剣に誓って……マイ・マスター!!』

嬉しそうに言うジュリアの声に、苦笑してしまう俺。

(だが、自分の大切な女のことを心配するのは仕方ないだろ?)

『!?マ、マイ・マスター!?お戯れを……』

(戯れじゃない……俺は本気だ。だから、危なくなったら俺を呼べよ?直ぐに駆け付けるからさ)

『そんな……そこまで甘える訳には……』

いや、ジュリアはあまり甘えたりしないだろ?

(むしろ甘えが足りないっての……俺で良ければ容赦無く甘えると良い。しっかりと受け止めてやる)

『……はい♪ありがとうございます、マイ・マスター……凄く嬉しいです♪』

益々やる気が湧いて来ました!
とはジュリアの談。

それからしばらく、ジュリアと談笑をするが、明日も早いとのことなので、お開きにした。

『それではお休みなさい、マイ・マスター……その、愛しています……』

(ああ、お休みジュリア……俺も愛してるぜ)

互いに触れ合うことは出来ないが、ならばと言葉を伝え合う。
そこに確かな温もりがあることを信じて。

「……っと、丁度来たみたいだな……」

俺は気配を感じてソコへ向かう……俺が結界の外に出ていた理由……そいつがやってきたからだ。

********


マクスウェルの野郎に依頼され、俺様はオリビエ湖付近までやってきた……。
何でも、この近くにグローシアンを囲っている場所があるとか……。

しかし、それらしい建物は何処にも無い。
マクスウェルが言うには結界が張ってあるらしいが……。

まぁ、マクスウェルには優先的に品物(ブツ)を廻して貰っているからな……今は言うことを聞いておいてやるさ……今はな?

「それにしても……敵意と害意のある者を通さない結界……か、どうやら眉唾では無いらしいな……」

「グレンガル様、どうしましょう?」

連れて来た手下の一人が、俺に聞いてくる。

「バァカ……だからこそコイツの出番なんじゃねぇか」

俺が取り出したのは、小さな宝珠。

「フィールド中和装置……コイツがあれば大概の結界を中和することが出来る」

強固なマジックロックですら、コイツで解けちまうって話だ。
どんなに強固な結界でも……だ。

「良いか?結界を解いたら、直ぐさま侵入してグローシアンを掻っ攫うぞ……その後は予定の場所で落ち合う……良いな」

俺が手下どもに指示を出している時……。

「やってみると良い……やれるモノならな」

その声は響いた……。

「だ、誰だ!?」

手下達が動揺を現にしながら、周囲を警戒する……忘れもしねぇ……この声は……。

森の奥から現れたのは、銀髪の男……以前、俺達の邪魔をした男だ。

「テメェは……やってみろとはどういう意味だ?」

「何、言葉通りの意味さ……俺の直ぐ後ろに結界がある……その中和装置とやらで、結界を解くことが出来るのか……やってみろって意味だよ」

そう言い放つ男……随分と自信満々じゃねぇか……。

「フンッ……良いのか?結界を解いた後で……後悔しても知らんぞ」

そう警告しても、奴は表情を変えず、好きにしろと言わんばかりだ……上等じゃねぇか。

「なら、解いてやる……後悔するなよっ!!」

俺は奴に目掛けて宝珠……中和装置を投げ付ける。
奴は首を軽く動かしてそれをかわし、中和装置は直ぐ後ろにて炸裂する。

瞬間、光が周囲を包み込んだ……。

光が晴れたソコには、変わらずに奴が佇んでいた。

「残念だったな?何も変化は無いみたいだぜ?」

「何……馬鹿な!?」

「嘘だと思うなら突き進んでみな……俺は止めないぜ?」

奴がそう言って目の前から立ち退いた……つまり、本当に変化が無い……?
い、いや……ハッタリかも知れん。

「行くぞお前ら!!」

俺達は奴を素通りし、突き進んで行った。


……数分後。


「お帰り……満足したかな?」


目の前に奴が現れ、皮肉げな笑みを浮かべながらその言葉を告げる………ば、馬鹿な……。

「そんなことがあるか……あの中和装置は、マジックロックですら解除出来るんだぞ……それを」

「我が魔力にて編まれた結界……そこいらのマジックロックと同一に捕らえてくれるな……例え世界中のグローシアンが集まったところで、この結界は破れんよ」

クックックッ……と、愉快そうに笑う奴を前に、俺様は戦慄する。

「貴様……一体、何者だ……?」

「只の――皆既日食グローシアンさ……まぁ、普通のグローシアンより、魔力は有り余っているがな?」

俺様が問い掛けると、この男はサラっと告げた。
ふざけるなよ!!
只のグローシアンが……俺様を虚仮にしやがったってのか!?

俺は頭に血が上りそうになるのを抑え、冷静に考える。
何も、結界の中に無理矢理踏み込むことはねぇ……目の前にはグローシアンが居るじゃねぇか。

「……クックックッ、ならテメェを連れて行きゃあ良い。大人しくしてりゃあ手荒な真似はしないぜ?」

皆既日食グローシアンなら、マクスウェルも文句は無ぇだろうよ!!

俺の言葉を受け、手下どもが奴を取り囲む……俺様も含めて20人近く……これだけの人数だ……幾らコイツでも……。

「……どうやら、俺の力をよく理解していないらしいな……」

「何……っ!!?」

ブワッ!!!

「「「ウヒィィィ!!!?」」」

瞬間、奴から放たれる夥しい殺気……こ、これはあの時よりも……。
何人か気を失いやがった……使える奴らを選んで来たってのにだ……!!

「……この身には、唯の一度も敗走は無い」

奴が構えを取る……武器は構えていない、素手だ。
その筈なのに……。

「……化け物がぁ!!」

殺気の波を耐え切った手下の一人が、奴に切り掛かった。
だが……。

「化け物……?違うな……」

「ば、馬鹿な……!?」

指一本で……剣閃を止めやがった……。

ドゴンッ!!!!

「ゲハァ!?」

切り掛かった手下を、裏拳一発で吹っ飛ばした。
手下は木に衝突し、気を失っちまった……。

「俺は悪魔だ……少なくともお前達にとっては……な?」

「くっ……!?」

考えたくないが……コイツは想像以上にヤバイ……!?

*********


「俺は悪魔だ……少なくともお前達にとっては……な?」

俺は某伝説の野菜人の台詞を、アレンジして言い放った。
下っ端を派手にぶっ飛ばしたのもあり、全員腰が引けている。
加減したとは言え、俺の気当たりに耐えた奴らなんだが……。
某紅い弓兵の台詞も効いているのかも知れないな……。

さて、コイツらをどうするか……。

「お前ら!後は任せるぞ!!」

グレンガルが逃げ出そうとする……全くパターンだなぁ。

……逃がすわけないだろうが。

俺は瞬時にグレンガルの進路に先回りし、逃げ道を塞ぐ。
普通の奴には瞬間移動した様に見えるだろうな。

「なっ…!?」

「逃がすと思うか……?」

世の中、どうやっても食えない奴と言うのは居る……クソヒゲ然別、ボスヒゲ然別だ。
そして、このハゲも……。
ぶっ殺した方が世の為、人の為だろう……。

だが……まだ、その時では無い。

「この場でお前をぶっ殺すのは簡単なんだがな……今回は見逃してやるよ。誰が黒幕かは知らないが……帰ってソイツに伝えな……俺の周りをうろちょろして、俺の仲間達を傷付ける様なら……必ずぶっ殺す。例え逃げようが、地の果てまで追い掛けて後悔を許さない程無惨に、無様に殺してやる……」

俺はその台詞と共に、先程以上の殺気をプレゼントしてやる。

バタバタバタバタ!!!

グレンガル以外の連中が、次々に気絶していく。
それどころか、お休み中だった鳥や動物達まで怯えて逃げ出して行く。

「が……あぁ……テメェ……」

「どうした……?逃げないのか……?」

俺が見下しながらそう言うと、フラフラしながらもグレンガルは去って行く……まぁ、あれだけ脅しておいたんだ……。
俺達に対して余計なちょっかいは出さないだろう。

仮にちょっかいを出して来たら、さっき言った通りにしてやる。
……俺はクズ野郎には容赦はしない。

まぁ、奴も金が大好きなだけの商人なので、もしかしたら改心してくれるかも――なんて、チラッとは考えたりしたが――。

多分、無理だろう――あの野郎は死の間際にすら金を求めた――自身の命より、金の方が大切と言う……文字通り筋金入りの守銭奴だからな。


「さて……残ったコイツらだが……」

俺は気絶しているグレンガルの手下達を見遣る……。

「……剥くか」

俺は全員の衣服や所持品を剥ぎ取り、パンツ一丁にして転がしておく。
そのまま結界の中に戻って行った。


「で、さっきから何をしてるんだサンドラ?」

ビクッ!!

俺は隠れている気配の持ち主に声を掛けてやる。
すると、気配がビクつき……恐る恐るという風に、木の影からサンドラが現れる。

「あ……あの、貴方が部屋から出ていくのが見えて……それで……」

「分かってるよ」

そう、俺がジュリアと念話をする為……そして、グレンガル達の襲撃に対処する為に結界の外へ向かった時……最初に俺の部屋に訪れようとしていたのはサンドラなのだ。

「で、気になって後を尾けて来たと?」

「そ、そんな……尾けて来たなんて……」

困惑顔を浮かべるサンドラ……イカンなぁ……何かドキドキする。

「悪い、サンドラのその反応が可愛いから、ついイヂめたくなった」

普段、クールなサンドラだから余計にそう思うのか?
こういうのがギャップ萌えという奴なんだろうか……?

「か、可愛いって……あまりからかわないで下さい……」

私なんかが可愛いわけ無いではないですか……。
サンドラはそう言う。
顔を真っ赤にしながら言っているので、照れているのが丸分かりだ。

「からかっているわけじゃないんだがな……」

俺はサンドラをスッと抱きしめる……。

「ッ!!シオン……さん……」

「サンドラは最高に綺麗で可愛いさ……カレン達になんら劣る所なんか無い……俺の大切な女だ……」

「あ……私……」

サンドラもしっかりと俺を抱きしめ返してくれる。
うん、凄く温かで……優しい気持ちになれる。
嬉しそうに微笑むサンドラを見ると尚更、な。

「さて、そろそろ部屋に戻るか?」

「あの……貴方の部屋へ行っても良いですか…?」

「ああ……構わないぜ?ただし、我慢はして貰うが……」

俺はサンドラに告げる。
所謂、一線を越えるのは無し……これは俺なりのケジメでもあるからな。
実際、俺も我慢するんだし……おあいこってことで。

「分かっています……時が来る迄は、けれど……貴方の温もりが欲しいから……」

「ん、それくらいなら喜んで」

俺とサンドラはそのまま俺の部屋に向かうことにする……いつまでもカレンとリビエラを待たせる訳にはいかないし、な?

結局、俺は幸せ過ぎるんだと思う。
これがリア充って奴なんだろう。

こんな美女達に慕われて……此処で逃げたら男じゃないだろう?

……本音を言えば逃げ出したい気持ちもあるがな……だって、あんな美女達だぞ?
理性が保つ自信が無い……。
まぁ、言い出しっぺは俺だから、意地でも我慢するがね。

「そう言えば……先程の襲撃者が現れることを……」

「まぁね……何だか殺気だった気配が近付いてたのが分かったしな……放っておいても良かったんだが……一応、釘を刺しておけば懲りるかなぁ……ってね」

正直な話、グレンガルはどうにかしたかったが……もう少し泳がせておくのも悪くない手だと判断した。
エリオット側が優勢な今……グレンガルはその妨害に掛かる筈だ。
普通に考えれば、始末してしかるべき相手……だが、奴を泳がせておけば上手く利用出来るかも知れない……と、言うのは建前で、結局の所はサンドラに言った様に懲りてくれることを期待しているのかも知れない。

グレンガルは完全に打算で動く男だ……。
俺の考えが甘いことも理解している……だから、もし次に奴が立ちはだかる様なら……皆に危害を加える前に、俺がこの手で殺す。

もう、後悔はしたくないから――。

***********

で、サンドラを連れて部屋に戻って来た訳なんだが……。

「……何してるんだお前ら」

「あっ!?シ、シオン!?違うの……これは……!」

「そ、そうです!これはその……」

あ、ありのまま起こったことを話すぜ!?
部屋に入ったらリビエラとカレンが俺のベットに横になって頬擦りをしていた。

頭がどうにかなりそうだ……。

眠っていたとか、ただ横になっていたとかでは断じて無い……もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ……。

……と、ジョ○ョネタは置いておいて……。
本当に何をやってるんだよ君らは……。

「その……シオンを待っている間、部屋の中でカレンと話していたんだけど……」

「その……シオンさんが恋しくて……あの……」

成程……大体は理解した。
正直、この二人をイヂめたくなってしまい、ウズウズしちまったが。
そうなると、間違いなく止まることが出来なくなるので……自重する。

「……分かった、深くは追求しない。今日は少し疲れたから、もう寝ようぜ?」

「う、うん……」

「ハイ……」

「分かりました……」

そんな訳でお休みタイムに突入した訳で……その際に誰がどういう位置で寝るか……ということで議論になった。

まぁ、三人だしなぁ……俺の使ってるベットはそれなりにデカいタイプだが、結構ギュウギュウ詰めだったことを明記しておく。
誰がどの位置で寝たかは、各自で想像してくれ……って、俺は誰に言っているんだろう……?

明日には手紙も書き上がっているだろうし、明日はローランディアに戻って、アルカディウス王に報告だな……。

しかし……俺は果たして眠れるんだろうか……?

幸せながらも、生殺しな状態のまま、俺は考えるのだった……どうか、俺の理性が保ちます様に……。




[7317] 第95話―甘々地獄と魔物使いのケジメ―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/14 18:58


……はっきり言おう。
眠れない。

何を言ってるか分からないだろう?
ああ、分からないだろうさ……。

端から見れば、羨ましいとも取れるかも知れない……嫉妬仮面が舞い降り、憎しみで人が殺せたら……と、願い……悪友がこの場に居たなら、確実にもげろと言われる状況……。

「……んぅ……」

「すぅ……すぅ……」

「ん……ふ……」

カレン、リビエラ、サンドラ……三人の美女と同じベットで寝ているという状況……。
三人とも幸せそうに寝ている……。

あぁ、認める……認めてやるさ。
俺は三国一の幸せ者だって……明らかにご都合主義の星の元に生まれただろ!?
って位に有り得ない程に幸せなのだと……だが。

何にも出来ない苦しさが分かるか!?
いや、分かるまい!!
こんな美女達が……俺に密着しているのに、何も出来ないなんて、生殺しにも程があるんじゃないか!?

計六つのメロンがむにゅりと押し付けられて……イカン!?
俺のガメラがプラズマ火球を放てと轟き叫んでいるぅ!?
落ち着け……素数だ……素数をry

ちなみに、カレンとサンドラが俺の両脇……リビエラはその下……俺の腹辺りから寄り掛かる様に寝ている。
無論、掛け布団なんて掛けられない。
……って、リビエラ!!
足を絡ませるんじゃない!?
サンドラは耳に寝息を当てるな!?
カレンは寝言で俺の名前を呟くなぁ!!?

ガ、ガメラが……俺のガメラがプラズマ火球を通り越して、ウルティメイトプラズマを放てと叫んでいる!!?
やばいよ!?
巨大レギオンも一発で昇天しちゃうよ!?
しかし、そのせいでギャオスが大発生する罠。

…………オーケー、落ち着こうか。
うむ、私は冷静だ。
煮えたぎる程に。

……まぁ、結局の所……俺自身が誓ったんだがな……戦争が終わる迄は何もしないと。
これが俺なりのケジメであり、『上等を決める』……ってことだ。
だから、幾ら俺が生き地獄を味わおうと、我慢しなきゃならない。
自家発電して、スーパー賢者タイムに突入するというのは、以っての外だ。

いや、自家発電案は真っ先に考えたが……皆に手を出さずに、ソレをしてしまったら――皆を侮辱していることにならないか――?

ってな―――考え過ぎだろうし――むしろこの状況……何股もしているというこの現実の方が……一般的に見たら、よっぽど女性を侮辱していることになるんだろうし――いや、こんなことを考えること自体が、皆に対する侮辱、か。

「平和になったら……か」

存外、先は長いなぁ……と、思いつつ俺は眠りに落ちた……わけもなく。
そのまま徹夜する羽目になった。
だって眠れないんですものっ!!
俺は血涙を流す勢いで涙ぐみながら、その日を戦い抜くのだった。

*********

チュンチュン……。


鳥の鳴き声と、カーテンの透き間から零れる日の光が、朝が来たことを告げている……そう、俺は勝ったんだ……。

甘さと苦痛に満ちた時間だった筈なのに、不思議と穏やかな空気を感じる……。
今なら、水の一雫を見ることも不可能じゃないかも知れない。
それくらい穏やかな気持ちだ。
日課の早朝訓練に抜け出せなかったことも、些細なことに感じる。

いや、三人の幸せそうな寝顔を見ていたら、なんか馬鹿らしくなってさ……こんなことで幸せそうにして……なのに、俺一人が葛藤するなんて……ってな?
まぁ、それでも興奮して眠れなかったのは事実だが。
……俺自重。

「……とりあえず、三人を起こさなきゃならないな」

俺は三人をゆっくりと揺さぶり起こした。

「お〜い、朝だぞ〜?起きろ〜」

ゆさゆさ。

「ふぁ……?……あ……おはようございます……」

ゆっくりと起き上がり、寝ぼけ眼ながらも挨拶をしたのはサンドラ。
ペコリと頭を下げる……少しフラフラしているのは寝ぼけているからだろうか?

「ん……?シオン……さん……おはようございます……♪」

次に目を覚ましたのはカレン。
なんとも綺麗な笑みを浮かべ、挨拶をしてくる。
そのポワポワした雰囲気はカレンにしか出せないんじゃなかろーか?

さて、残るはリビエラなんだが……。

「お〜い、リビエラや〜い」

ゆさゆさ……。

「朝だぞ〜?」

ゆさゆさ…。

「すぅ……すぅ……」

「……起きないな」

「起きない……ですね?」

「起きませんね……」

気持ち良さそうに眠り続けるリビエラを見て、首を傾げる俺達。
……リビエラって、こんなに寝起きが悪かったっけか?


……む?
この気配は……まさか……?

「リビエラ……お前、起きてるだろう?」

「……すぅ……すぅ……」

反応無し……か。
だが、狸寝入りなのは理解しているんだぜ?
何の為にそんなことをしているのかは知らないが、そっちがその気ならこっちにも考えがある。

「ふむ……起きないなら仕方ないな。リビエラはこのままにして、俺達は居間に行こう」

「え、あの……良いんですか?」

カレンが聞いてくるが、俺はそれを肯定する。

「良いんだよ。気持ちよ〜く寝ているのに、無理矢理起こすのは悪いだろ?」

俺が選択したのは……放置だ。
何気にこういうのが1番堪える。
他にも幾つか選択肢を考えてはいた。

1、ハリセンでぶっ叩いて起こす。

これは起きるかも知れないが、やる気はしなかった。
狸寝入りなのは気付いたが、だからってぶっ叩くのはなぁ……と。
いや、そんなことをしたら俺の中のドSが目を覚ましそうでなぁ……この状況でソレは中々洒落にならないので却下。

2、起きなければ……。

キスするぞ……とかその他諸々を、甘く耳元で囁く。
これはもうね、何処のエロゲの主人公かと。
何と言うか、起きるとは思うが……なぁ?
コレがリビエラの狙いとも考えたが……流石に自意識過剰かも知れん。

しかし可能性はあるので、ワザワザ向こうの思惑に引っ掛かるのも癪だ。
というより、今の俺がそんなことをしたら暴走モード突入する可能性がある。
なので却下。
ちなみに類似品として、耳元で恐怖の怪談を話したりするという選択肢もあります。
が、結局却下。
リビエラがそれくらいで起きるとは思えなかったからな……。

で、最終策としてのシカト。

「よし、行くか」

「ち、ちょっと待って!?」

「おろ?リビエラさん、お早いお目覚めで」

俺が本気で放置する気なのを悟ったのか、ガバリとリビエラが起き上がる。
俺はニヤリ……と笑いながらリビエラに朝の挨拶を告げた。

「おはよう。よく眠れたみたいだな?」

「あ゙………」

さてさて、このオッサンに事情を話して貰おうかな……お嬢ちゃん?

しまった……という顔をするリビエラに、俺は威圧感を飛ばしながら事情を尋ねた……すると。

「……こういう時は普通、王子様のキスで目覚めるのがお約束でしょ?」

「誰が王子様かっ」

ベシッ!!

「きゃうっ!?」

むくれながら説明するリビエラにツッコミを兼ねて、大幅に手加減されたデコピンを喰らわせる。
よもや、予想通りとは……そりゃあ、そこまで想ってくれてるのは嬉しいが……正直、余裕が無かったんだから勘弁して欲しい。

**********

とにかく、俺達は一緒に居間へ向かう。
すると、皆が揃っていた。

……って、約二名の姿が無いな。

「おはよう皆……って、カーマインとティピはまだみたいだな」

「おはよう。まぁ、何時ものことだ」

俺の挨拶にウォレスが答える。
確かに、何時ものことだよなぁ……。
だが……。

「?僕の顔に何か付いてる?」

「いや、何でもないって」

ラルフが普通に起きて来ているのに、何でカーマインは寝起きが悪いんだ……?
何か?
育ちの違いか?
いや、ラルフも良いところの坊ちゃんだが、カーマインも宮廷魔術師たるサンドラの息子だ。
大差はあるまいよ……。


マジで低血圧じゃあるまいな……?


……?
何だ……?
庭先から気配が……。

「旦那様ぁ〜〜〜!!?」

バタバタバタバタッ!!!

「……って、どうしたシルク?」

シルクが慌ててやってきた……何があったんだ?

「た、大変ですぅ……」

「何だ、何だ?」

ゼノスも疑問に思うその慌てぶり……いや、マジで何があったよ?

「り、竜に乗った人が来て……旦那様を出せって……」

……竜に乗った人……成程、感じたことのある気配だと思ったぜ。

「竜に乗った人……その人がシオンさんを呼んで来いって言ったんだ?」

「は、ハイですぅ……」

ミーシャが口にした疑問を肯定するシルク。

「もしかして……その人は結界を抜けて来たの?」

「ハイ、今は庭先に……」

ルイセの問いにも、正確に答えるシルク。
どうやってこの場所を嗅ぎ付けたかは知らないが……お望みとあらば、顔を出してやりますか。

「どうするつもりだい、シオン君?」

「なぁに……せっかくご指名を受けたんだ……答えてあげるが世の情けってね?」

アリオストの問いに、当然と言った風に答える俺。
別にラブリーチャーミーな敵役では無いんだけどな……俺は。

むしろそれは、アリオストの役回りだろう……声的に。

庭先に出ると、そこには強い覇気を纏いし者達……屈強な姿へと成長した飛竜のレブナント。
そして、迷いの無い瞳をこちらに向ける男……モンスター使いのエリックがそこに居た。

「来たか……」

「ご指名戴き、誠にありがとうございます……と、でも言おうか?……久しぶりだな」

「フッ……」

俺が声を掛けると、エリックは不敵な笑みを浮かべる。
あ、ちなみに皆は屋敷に居て貰っている。
多分、十中八九で荒事になりそうだし。

「どうやってこの場所を知った?というより、よく入れたな?」

「この場所のおおよその位置は、グレゴリーの兄であるグレンガルに聞いた。ここに張られている結界とやらの特性もな」

……グレンガルの野郎が一枚噛んでやがったのか……しかし、昨日の今日でコレとは……あの野郎……やはり逃がすべきでは無かったか?

「……今の俺に、敵意は無い。貴様に対する恨みも、ましてグレンガルの依頼通り、グローシアンを奪うつもりも無い」

「じゃあ、ワザワザ俺に会いに来た理由は何だよ?」

「フン……知れたこと。貴様に恨みは無くとも、強者に挑む気概は削がれはしない……」

エリックは腰の剣を抜き放ち、俺に向かって突き付ける。

「俺は貴様と戦う為に此処へ来た!貴様に勝ち、俺は前に……高みへ駆け上がる!貴様という壁を超えてな!!」

あ〜……、つまり……非常に分かりやすいが、俺と戦い、俺に勝って弾みをつけたい……と。
いや…案外、自分自身にケジメをつけたいのかも知れんな。
まぁ、喧嘩を売るなら直で俺の所に来い!!
……なんて言ってしまった手前、受けるしか無い訳でありますが。

「良いだろう……その挑戦、受けて立つ」

俺は愛用の大剣、リーヴェイグを手に持つ。
他の武器を使っても良かったのだが、自身の誇りを賭けて挑んで来る相手だからな……無粋な真似はしたくない。

余談だが、エリックの持っている剣の名はメイジスローター。
魔術師に恨みを持つ刀鍛冶が作り出した片刃の魔剣だ。
相手の知力が高いほど、剣の威力や切れ味が増すという特性を持つが、その代償として、持つ者の魔力を大幅に下げてしまう。

ゲーム的に言えば、攻撃力66、攻撃時、対象の知力−100をATに追加……という効果がある。
ただし、俺の持つリーヴェイグとは違い、追加攻撃力に上限があり、その上限数は63。
とは言え、相手次第ではラルフが持つレーヴァテインを凌ぐ攻撃力を弾き出す。
その代わり、MP−127というマイナス要素も多分に含んでいるが。

正に魔術師殺しと言っても良い剣だろう……。

「さて、んじゃ……とりあえず移動しようか。流石に此処では戦り合いたく無い」

庭では花を栽培し、よく整理されている。
此処を荒らしたくは無いし、皆を巻き込みたくはない。

「良いだろう……では、移動するとしよう」

エリックも了承した様で、レブナントに飛び乗った。

俺は一人と一匹を案内する。
そこは結界内の森の中……非常に開けた場所だった。
周りには木々は無く、戦うには丁度良い。

「言うなら、自然の闘技場……とでも言うべきか」

「ここなら、少しは真剣に相手が出来るからな」

とは言え、結局は森の中にあるので、あんまり手荒なことは出来なかったりするが。

「俺はレブナントと共に戦う……まさか卑怯とは言うまい?」

「言わねぇよ……そんじゃ、ま…始めますか!」

俺はリーヴェイグを構えた。
向こうはレブナントに跨がりつつ、メイジスローターを構える。
互いに一歩も動かず、相手を見計らっている。

さて、どう攻めるか……。

********

「……ん?」

「皆が集まってるね……何してるんだろう?」

俺にしては早く起きた朝……皆が窓際に寄り、庭を見ている。
ティピが言う様に、何をしているんだろうか……?

「あ、カーマインにティピちゃん、おはよう」

「おはよう、ラルフさん!」

「ああ……おはよう」

俺達の気配にいち早く気付いたラルフが、朝の挨拶をしてきたので、ティピと俺も挨拶を返す。

「しかし……一体、何をしているんだ?母さんやルイセまで一緒になって……」

「あ、お兄ちゃん……実は先生がね……」

先生……シオンのことだな。
ルイセが言うには、いつぞやのモンスター使いがシオンに喧嘩を売りに来た……で、シオンがその喧嘩を買ったと。
かい摘まんで説明すると、大体こんな感じか……。

「でも、マスター?確か此処って、結界が張ってある筈じゃあ……?」

「ええ……敵意や害意のある者は、決して通さない結界の筈ですが……」

ティピが母さんに疑問を尋ねる。
母さんも、シオンから結界の概要を聞いていた様で、返答するが……母さん自身も疑問の様だ。

「要するに、敵意や害意は無いってことだろう」

「どういうことだ、ウォレス?」

「あの男からは殺気を感じない……あるのは純粋な闘気のみだ。つまり、あの男はシオンに恨みをぶつけようとか、そういう風に考えてはおらず、ただ、強者へ己の力をぶつけようとしている……そう、俺には見える」

ウォレスの言葉を聞き、俺も庭に視線を向ける。
鞘に収まった愛用の大剣を持つシオン。
飛竜と共に、シオンの様子を伺うモンスター使いの男……確か、エリックだったか?

二人は互いに得物を携えたままだ……ん、動いた?
シオンが先頭に立ち、まるで先導するかの様に歩いていく。
エリックは飛竜に飛び乗り、それに続く。

「?何処に行くんだろう?」

「多分、庭を荒らしたくなかったんじゃないかな?シオン、シルクちゃんが頑張って庭の整理をしていたのを知っていたし」

ティピの疑問に答えたのがラルフ。

「だ、旦那様ぁ………♪」

それを聞いたメイド服を着た少女……シルクは、猛烈に感動していた。

「で?何処に移動したんだよ?」

「シオンが、大技とかの練習をする時に使う、開けた場所が森にあるから……多分そこかと」

ラルフがゼノスの質問に答えた。
そんな場所があるのか……。

「私たちはどうしましょう……?シオンさんは屋敷で待っていてくれ……って、言っていましたけど」

「う〜〜ん……今、僕たちが行ってもすることが無いし、返ってシオン君の邪魔になるとも考えられるけどね」

少し心配そうにしているカレン……その独り言に答える形を取ったのがアリオスト。
まぁ、その考えも無くはないが……。

「まぁ、アイツなら心配無いさ……何せ、この俺様に勝った男なんだからなっ!!」

「言葉の意味は何となく分かったけど……とにかく凄い自信……」

自信満々に語るゼノスを見て、ティピが苦笑い。
まぁ、俺もそういう意味では心配しちゃいないが……な。

*********


さて、先ずは挨拶代わりに……。

「せやぁ!!」

「!レブナントッ!!」

「グルアァァ!!」

ブワッ!!

以前、エリックを倒した際の身体能力へと調整し、そのままの勢いで踏み込む。
そして俺の斬撃が届くかという瞬間、エリックはレブナントに指示して空へと飛翔した。

「……今のを避けるか。どうやらこの短期間でかなり成長した様だな」

まぁ、気を読めば成長したことは分かるが、実力以上に精神……心構えみたいな物が以前とは段違いだ。
以前はレブナントのみを戦わせていたが、今はレブナントと共に戦っている。
その辺を鑑みれば、かなり精神的に様変わりしたのが伺える。

「俺を……いや、俺達を甘くみないでもらおうか」

そう言うなり、レブナントが翼を羽ばたかせる。
すると突風が巻き起こり、小さな渦となって襲い掛かる。
って、こんな芸当まで身につけていたとは……様は局所的なトルネードみたいなモンか。

「だが、まだ甘いぜ!!」

俺はその竜巻を見切り、余裕を持って横っ飛びに回避する。

「甘くみるなと……言ったぞ!」

「むっ!?」

レブナントに跨がったエリックが、竜巻の上を滑空する様に飛んで来ていた。

「ハアァ!!」

「のわっ!?」

飛来したエリックの剣撃を、剣で防いだ俺だが……俺の身体が宙に浮いていたのと、エリック+レブナントという体重差から、不覚にも弾き飛ばされてしまった。

……舞空術でも使えたら、物理の法則なんかふっ飛ばせたのになぁ……。

そんなことを考えながら弾き飛ばされ、今まさに木に激突しようかと言う所。

「まあ、むざむざダメージを受けてはやらんがな」

ドンッ!!

空中でくるりと回転、木を逆に蹴りつける。

その勢いのまま空中に舞い戻っていた奴らに、キツイ一発をお見舞いする。

「ライダー……キィィィック!!」

「くっ!!」

ダンッ!!

エリックはレブナントの上で跳躍、これを回避。

レブナントもまた、姿勢を低くして回避しようとする……だが。

「読めてないと思ってるのかよっ!!」

ガシッ!!

「ゴアッ!!?」

俺はレブナントの顔を掴む。
それを基点に回転し……レブナントの背中に着地、そこから更に跳躍。

「な、何!?」

「見せてやる!かの超人の代名詞たる……その必殺技(フィニッシュホールド)を!!」

俺はリーヴェイグを背中の鞘に納め、そのままエリックに向かって行く。

「馬鹿な!?剣を納めるだと!?気でも狂ったかっ」

言いながらも俺に対して斬撃を放ってくる。
しかし俺はそれを指で白刃取り。

「いや……ちゃんと正気だ……ぜっ!!」

ビシッ!!

「ぬあっ!?」

俺は剣を弾き、エリックの体勢を崩す。
そしてその隙に、エリックの両足首を掴む。

「おりゃあっ!!」

「なぁ、何を!?」

俺は体勢を入れ替え、更に両足を使い、エリックの両腕を固定。

後はそのまま、物理の法則に従い落下する。
これこそ、かの超人が48の殺人技の内の一つを元に開発した対悪魔将軍用フィニッシュホールド……その名も。

「キン肉ドライバアアァァァァッ!!!」

「!!くっ、クソッ!体が動かん……!?」

そりゃあね?
そういう技だし……ん?、何で俺がこの技使えるのか……だって?
いや、皆小さい頃にキン肉マンごっことかしたでしょ?
しなかった?
しなかったか……。

とは言え、昔はゴッコ遊びだったからな……これは蓄えた知識と、今の身体能力だからこそ出来る芸当だな。
ほら、キン肉マンに出てくる技は殆どが力技だし。
プロレス技限定に近いがね。
……なんか、特訓して技を編み出したスグル君に対して、申し訳なく感じる……。

等と思考を回している間に、地面が近付いて来た。

「くっ……一矢報いることすら叶わんとは……無念っ!!」

当然、俺はエリックを地面に激突させる気は無い訳で。

「グルアァァァァ!!!」

「ほらよっ」

「なっ!?」

レブナントが主を助けんと飛んで来ていたので、キン肉ドライバーの体勢を解き、エリックをぽーい……と、投げ渡す。

……どうやら、エリックは無事に回収されたみたいだな。
レブナントは器用にエリックを傷付けない様、足を使ってキャッチしていた。

「ふぅ……」

着地した俺を見計らって、向こうもゆっくり降りて来た。

そして、レブナントに放されて着地したエリックは俺を睨み、開口一番。

「……どういうつもりだ」

そう、おっしゃるのでした。
言いたいことは分かりますがね。

「……何のことだ?」

敢えてそう聞いた訳だ……まぁ、当然……。

「惚けるな!!先程の技……筋肉ドライバーだったか?何故、途中で外した……?あのまま技を解かなければ、勝負は決まっていた筈だ!」

そう言うだろうな……実際、アレを決めていたなら、エリックはくたばっていただろうからな……。
後、筋肉じゃなくてキン肉だから。

「いや、それ以前に何故剣を納めた!俺達が相手では、剣を振るう価値すら無いと言うのかっ!?」

「そんなつもりは毛頭ないんだがな……」

確かに全力は出していないが、何も遊んでいた訳じゃない。
しっかり本気で相手をしていた。

「お前、何か勘違いしてないか?」

「な……に?」

どうも認識の差異がある様だな……きっちり説明しなければならんか。

「言っておくが、俺はお前を殺す気は無い」

「な……何だとっ!?」

「俺は相手がどうしようもない屑か、やむを得ない場合でも無い限り、相手を殺るつもりは無い……不殺を気取るつもりは無いが、むやみやたらに殺めるつもりも無い」

「ふ……ふざけるなぁ!!貴様、俺を愚弄するか……こちらは全てを賭けてこの決闘に挑んだのだぞ!それを……」

それは理解している……何と言えば良いのか。
どうしても上から目線で物を言ってしまう。
言いたいことは違うんだけどな……。

「前に言わなかったか?仲間に手を出す様なら容赦はしない……だが、今のお前は俺の仲間に手を出したりはしないだろ?」

「…………ああ」

「なら、俺にはお前と命のやり取りをする理由は無い……と言うか、やりたくないんだよ。今までお前と何度か対峙して、多少は人なりってのが理解出来ていただけに、余計……な」

「……ならば、何故こちらの申し出を受け入れた?」

あ〜〜……、これも言っていたと思うが……。

「喧嘩なら大歓迎……そう言ったよな?」

「喧嘩……だと?」

つまり、俺は真剣に喧嘩をしていた。
エリックは全力で決闘をしていた。
言葉にすれば簡単だが、これは大きな違いだ。

「そうか……喧嘩……か。フフフ……フハハハハハハハハハハッ!!」

ビクッ!!
急に笑い出しやがった!?

「ど、どうしたよ!?」

壊れちゃったか?
壊れちゃったのか!?

「アッハハハハハ……可笑しくてな。全く実力が追い付いていないのに気付かず、死闘を演じていた気になっていた自分の馬鹿さ加減が……な」

「……誤解のない様に言っておくが」

「遊び半分でやっていたのでは無い……と、言うんだろう?それくらいは分かる。……俺とて、幾度となく貴様と対峙したのだからな……もっとも、手を抜いていたのは否定させんぞ?」

それは仕方ないだろうよ……この身体チート過ぎるんだもの。
全力出したら、惑星の一つや二つは余裕でぶっ壊せるよ!?
……試したことないから、感覚的な物だけど。
怖くて試せないでしょうがよ!?

絶対、生まれる世界間違ってると言われても、文句言えないから。

って、話が擦れたな。

「……腹立たしいが、思いの外、憤りは感じない物だな」

「?何のことだ?」

「俺の……いや、俺達の負け…ということだ」

何だか、妙にスッキリした顔をしているが……ケジメがついたのかも知れないな……。

負けを宣言したエリックは晴れやかな表情を浮かべている。

「……なぁ、これからどうするんだ?」

「まぁ、【喧嘩】にも負けてしまったからな……また、何処かで修練に励むさ……レブナントと一緒にな」

隣のレブナントを撫でながらエリックが言う。

「なら、ついでと言ったら何だが、頼みたいことがある」

「フッ……お前には負い目があるからな……聞こう」

負い目って……何かしたっけか?
まぁ、良いや……頼みを聞いてくれるみたいだし。
俺はその頼みを話したのだった……。

********

その後、俺達は屋敷に戻って皆と合流。
朝食を食べながら今後のことについて話す。
エリックは最初は遠慮していたが、ついでにってことで、メシを食っていかせた。
レブナントには別にメシを用意、庭で食べていた。

朝食後、シルクや他の使用人達がグローシアン達の手紙を預かって来てくれた。

そのローランディア側の手紙を俺達が受け取り……それ以外をエリックが受け取った。
そう、エリックに頼んだのは郵便屋さんだ。

「そんなことか……良いだろう。引き受けてやる」

思いの外簡単に引き受けてくれた。
その程度のこととは拍子抜けだ……とはエリックの談。
……そんなに無理難題を吹っ掛けるとでも思ったのか?
配る場所の全てを教えたら、ビックリしていたが。
結局、全部は覚えられないって言うから細かいアンチョコを書いてあげました。

で、シルク達と別れた後……俺達はローランディアへ、エリックとレブナントはバーンシュタインへ向かうのだった。
任務完了の報告をした後、休暇……そして再びオリビエ湖に舞い戻るのだろうな……。

まぁ、なるようにしかならないよな。

*********

オマケ

「……しかし、まさか手紙の運搬とはな」

「グルゥ……?」

「いや、不満がある訳では無い……些か拍子抜けではあるがな……『思い切り喧嘩したら、後は仲直りだぜ!!』なんて、言うとは思わなかったのでな……見た目に似合わず熱い男なのだな……そう思っただけさ」

「グルル……」

「ああ……それも悪くないかも知れないな。友か……俺の友はお前だけだと思っていたが…………今は依頼されたことをこなさなければ、な」




[7317] ホップ・ステップ・嘘予告―異世界転生者とはぐれ悪魔―激烈ネタバレ注意―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/14 19:09

皆さんお待ちかねの嘘予告タイムです。
え?本編をあげろ?

……ゴメンね?
とある事情から、作者がアゲ予定の最新話を誤って消してしまったんだ!
愕然としていたケド、今は仕事が忙しいらしく、ゆっくりペースで仕上げているらしいよ?

さて、お約束の注意書き!
この嘘予告に出てくるシオンは、現在のシオンよりずっと先のシオンなんだ。
だから、ネタバレが激しいんだよ。
また、嘘予告だから細かい場所に差異がある場合もある。

なので、そういうのが嫌いな人は見ない方が良い。
お兄さんとの約束だよ?

それでも構わないという人は、お目汚しかもだけど……良ければ。

さて、それじゃあ勇み足の嘘予告……行ってみようか?

*********

……色々言いたいことはあるが、一言。

「今度は何処に飛ばされたんだ俺は……」

『どうやら日本の様ですね……どういう世界かは分かりませんが』

そう言ってくれるのは我が相方である、ディメンジョンデバイス?のディケイド。

「まだサーチもしていないのに……何で分かるよ?」

『いえね?だって、目の前に居ますから……日本人みたいな人達が』

「…………はっ?」

俺は視線を巡らす……そこには短髪でツリ眼の青年……いや、少年か?
更に、腰まである長い金髪を携えた穏やかな雰囲気の青年……オマケに昔懐かし瓶底眼鏡を装着した……細身のヲタっぽい青年。

「「「………………」」」

三者一様にあるのは驚愕の表情。

そして周りを見渡してみると、何やら巨大な魔法陣。
これは……つまり?

(もしかして……俺ってば……召喚された?)

《いえ、マスターが……では無く、足元のネコが本命かと》

はっ?ネコ?

俺は足元に視線をやると、そこには何故かこちらを見てめがっさ震えているネコが居た。

……なんぞ、コレ?

「て、テメェは何者だぁ!!?俺様が喚んだのはケルベロスなんだぞっ!?」

む〜〜……何者だと聞かれたら、答えてあげるが世の情け……。
とは言え、何と答えようか……『通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ』?
いやいや……こんな所で変身してもしょうがないっしょ?

やはりココは『君が私のマスターかね?』かな?
微妙に赤い弓兵こと、アチャ男アレンジなのがミソ。

……と、ネタ思考を巡らせている場合じゃないな。

「俺が何者か……ね。まぁ、人間と答えるのが1番手っ取り早いんだが……」

色々と人間辞めちゃってるしなぁ……少なくともまともな人間は不老では無い。
が、一応種族的には『霊長類人間』ではあるけども――。

「嘘つくんじゃねぇ!!人間がそんな大量の魔力を持っているモノかよ!!言え!!テメェは天使か!?悪魔か!?」

魔力……天使……悪魔……つまりこの世界はそういうモノが存在する世界か。
まぁ、ケルベロスを召喚とか言っていたから、何となく予想は出来たが――。

しかし、大量の魔力か……これでもほとんど抑えているんだが……まぁ、皆既日食のグローシアンだからな……俺。
しかも、魔術回路にリンカーコア、オマケにマナまで使える……魔法関係だけでもこれだけあるとか……うん、チート乙。
とは言え、普通の人間には見破れない筈なんだが。

ってか、瓶底眼鏡の彼はともかく……この二人からは現代人にしちゃあ多めの魔力を感じるし……。

「お、落ち着きなさい双魔……」

「うるせぇ!離しやがれイオス!!」

俺に掴み掛かろうとしていた青年……双魔が、金髪ロン毛の青年……イオスに抑えられている。


………ん?


双魔……イオス……?


って、もしかして……此処は『デビデビ』の世界か?

と……言うことは、目の前でジタバタしてる少年が、天野双魔……悪魔ソードで、それを抑えているのが天野神無……天使イオス。
オマケに向こうの眼鏡君が、オカルトマニアの薬味総次郎……って訳か。

つーことは何か?
この足元のはコウモリネコか?

俺が再び視線をコウモリネコに戻すと、それに気付いたコウモリネコはビクリッ!!
と、震えた……って、なんでさ?

「へへ……まぁ、予定と違っちゃあいるが……コレだけの力を持った奴なら、問題無いな……よしっ!手下!!お前の力を見せてやれっ!!」

……と、何やらソード君が騒いでいる様なので、残酷な宣告をする。

「あ〜〜……白熱している所、申し訳ないんだが……」

「んだよ?」

「お前さん達が召喚したのは俺じゃなく……コイツだよ」

俺はヒョイっとコウモリネコ?の首の辺りを掴んで持ち上げる。

「…な…な……な……」

あっ、ビッグバンの予感。
俺は素早く指で耳栓をする。

「なんじゃそりゃあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!??」

……こうして、六芒高等学校の屋上へと姿を現した俺は、彼らとのドタバタライフに首を突っ込んで行くことになる。
俺が宇宙意思より託された使命……記憶を取り戻した、あるいは最初から所持している転生者を見つけ出し、その人柄を見極め……必要なら処分すること。

まぁ、コレもルインみたいな屑にのみ適用されることで、真っ当な奴にはそんなことしないけど。

それが済めば後は俺の自由……この世界で平穏に過ごすという選択肢もあり……だと言う。
だから、何事も無いのが1番だが……無理だよなぁ……。
あっ、個人的理由だが眷属の皆も探さなきゃな……。

*********

こうして、転生者とはぐれ悪魔と天使は歩むことになる。

「え〜、本日より担任になりました、海堂紫穏です。皆、宜しく頼むぜ?」

「テメェ……何で教師なんかしてるんだよ」

「双魔君……ハッキングって知ってるかい?あと偽造書類」

もし記憶があり、原作知識がある奴なら十中八九、原作人物に関わるだろう……と、法を犯す転生者。

「こちとら某怪盗の三代目やス○ー○ーズ仕込みでね?」

「誰ですかそれは……」

「神無君、細かいことにこだわっていたらハゲるぞ?」

そして事件は起き……。

「キシャアアアァァァァ!!」

「うわ……他の世界でも見たが、やっぱりローパーって卑猥だな……」

『聞けば女性ばかりを襲っているとか……不潔です!』

「海導……先生?」

女生徒の危機に駆け付ける転生者。

「俺の教え子に手を出した罪……万死に値するぞ、変態触手野郎」

見舞いに来ていた転生者は、悪魔と天使の真実に触れる。

「つまり、双魔には悪魔ソード……神無には天使イオスという存在が入っている……と」

「そういうことになりますね」

「それよか、テメェ本当に人間かよ?」

「まぁ……最近では自信が無くなって来たけどなぁ……」

そこで出会う新たな人物。

「私の名は薬味みずの!!邪悪な者は許しておきません!!」

「や……薬味……?」

「ちょっと待て……おまえもしかして、あのメガネの……」

「…兄をご存じなのですか……!?」

『マスター……私、遺伝子の不思議に遭遇した気分です』

「……奇遇だな。俺もだ……」

*******

そんな中現れる影……。

「久しぶりだな……ソード!」

「だ…誰だ…おまえ……?」

「ク…クク……そーか、忘れたか……この俺を……」

復讐の悪魔が襲来……。

「どーだソード!貴様の死に場所としては、もったいない良い風景だろう!!」

「てめえ……このオレ様をコケにする気かぁ……?」

「すげーなぁ……空間を歪めた……固有結界みたいなモンか?いや、別に心象世界を展開したって訳では無いから、ただの空間結界か?」

復讐の悪魔を退け、自らの肉体を取り戻そうとするはぐれ悪魔を、今度は処刑悪魔が狙う。

「ま、魔剣が来ない……家から遠すぎて、呼べねーのか……な?」

「ハハハハッ!こけおどしだったようね!!」

「や……やべ……」

そこに飛来するのは一本の剣。

「先の展開は分かっちゃいるが……どうにも放っておけん」

「な、何者だ!?」

「通りすがりの仮面ラ……では無いな……むぅ……そうだな、ここは魔法先生……とでも名乗っておこうか?」

「テメェ……シオン!?」

「その剣の名はギンナルの剣……武器としてなら、お前の魔剣にも引けを取らない筈だぜ?」

転生者の介入からか、善戦はするが、やはり空洞に落ちたはぐれ悪魔。

「むぅ……やはり変身ベルトくらい渡した方がよかったか……?」

「最初はソードに武器を与えておいて、結局助けずに見捨てるとは……何を考えているのかしら?」

「違うな……間違っているぞ処刑悪魔……」

「なに……?」

「ソードは死んじゃいない……気や魔力を探れば直ぐに分かることだ……多分、直ぐさま反撃の狼煙を上げるだろうよ……ちなみに、余計な手出しをしなかったのは、コレがソードの戦いだったからな」

「なら、今から止めを刺すのみっ!!」

「それは無理だ……何故なら」

「ッ!?」

「この俺が、お前の足止めをするんだからな……」

そして再び立ち上がるはぐれ悪魔……繰り出されるは秘技・暗黒魔闘術。

それからも、転生者は様々な騒動に巻き込まれて行く。
救った命もあれば、奪った命もある……。

「ハァハッハァッ!浮遊要塞が落ちれば魔界も人間界もただでは済まんぞ!」

「さぁて……そいつはどうかな?」

魔界にて……神の使いの策略により落ちる巨大建造物……。
そこに立ち塞がるのは、世界の破壊者と似た出で立ちの転生者。

「仮にも世界の破壊者が……こんな建造物ごときを破壊出来ないとでも思ってるのか?」

転生者が抜き放つは、禁忌にして最強……かつて竜の騎士の世界で、魔族の名匠に頼み作り上げた三界最強の剣……。

「肉体の力を鋭さと強度に変える魔剣……心の力を強さに変える女王を守る剣……世界の破壊者の身を守る神の名を冠した鉱石……そして、奇跡を引き起こす力を持つ石……それらに俺の魔力を合わせ、最高の刀匠が魂を込めて打ち上げた……俺だけの剣」

その剣を振り上げ―――

「その力……尋常の物と思うなよ?」

振り下ろしたのだった。

**********

後書き。

ハイ!そんな訳で嘘予告です!!
以前リクエストにあったデビデビでやってみました!
……正直やっちまった感がアリアリです。
特に最後の展開なんて……ちなみに嘘予告なのであんな終わり方ですが、もし本当に書くのなら、ソードさんには魔王破滅拳を使って貰うつもり……先のことは分かりませんが……。

とりあえず言えることは、コウモリネコ可愛いよコウモリネコ……ということ。

あ、リクエストは随時受け付けております。

それでは、ばいちゃ!!




[7317] 第96話―最終兵器ミーシャと狂人シオンとデートな休日―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/14 20:48


……何故こんなことになったのだろう?

俺達は今、最大の危機に陥ろうとしている。

「アタシ、いっぱい作ったから、みんないっぱい食べてね♪」

「う……うん……ありがとうミーシャ……」

渇いた笑みを浮かべながら、言葉を口にするのはルイセ。
他の皆は固まっていたり、蒼くなっていたり……とにかく、その現実を受け入れることを拒んでいた……。

もう一度言う……何故こんなことに……。

そもそもの発端は少し遡る……。

*********

ローランディアに戻って来た俺達は、城の謁見の間へ向かい、アルカディウス王へそれぞれの任務報告を行った。

カーマイン達の報告は、アイリーンを無事に魔法学院に送り届けた…ということ。

まぁ、あのヒゲの所に向かった時点で無事に……とは言えないわけなんだが。
とは言え、俺達の誘いを蹴ったのだから……。

ニックが絡んできたのが直接の原因とは言え、断った相手まで面倒は見切れない。

冷たいようだが……いや、本心を言えば何とか助けたい……という気持ちはある。
だが、それをするにはリスクが伴う。

今のヒゲって外面だけは潔白だからなぁ……俺が無理矢理ヒゲをふん縛ったり、激滅しようモノなら、罪は俺が被ることにもなりかねない。

俺はアルカディウス王の好意で、黙認されているが……グローシアンのことで言及しても、逆に保護しているグローシアンをよこせ……と言われる可能性もある。
そうなったら、立場的に俺の方が不利だ。

向こうは魔法学院の長……それに対して、俺は元インペリアル・ナイトの息子……要するに貴族のボンボン。
対外的な信頼度に、天と地くらいの差がある。

バーンシュタイン国民なら分からないが、それ以外の国の者達なら、間違いなくクソヒゲを推すだろう。

今は戦争中ということもある……世論を味方に着けられたら洒落にならん。

事実、原作のエリオットは民衆からの批難を受けて、パワーストーンをボスヒゲに渡すという選択肢を選んでいる。
選ばざるを得なかったわけだ……。

……って、話が擦れたな。

俺達の任務も報告し、預かって来たローランディア方面の手紙を渡した。

その後、アルカディウス王に労いの言葉を掛けられ、休暇を三日賜った。
で、最初の休暇先を申告した後、フォルスマイヤー宅へ戻って来た俺達……ちなみに、サンドラは研究が残っているから……と言って研究室に向かって行った。

去り際、機会があればまた誘ってくれ……的なことを言っていたので、また声を掛けようかと思う。

で、帰って来て……夕食の準備を始めるという時に事件は起こった……。
今日の夕食担当は女性陣だった。
いつもは俺かゼノスが料理当番だったからな……。

「たまには私たちにも頑張らせて下さい!」

……とは、カレンの談。

正直、あまり心配はしていなかった。
カレンはゼノスの影になって目立たないが、料理上手だ。
ゼノスの傭兵時代、ゼノスが家を空けていた時に、キチンと自炊をしていたという経歴の持ち主だから……心配はしていない。

ルイセは菓子作りに関しては中々の物で、料理に関しても平均以上の物があるらしい。
カーマインいわく――。

「何処に嫁に出しても恥ずかしくない自慢の妹」

……だ、そうな。
まだルイセは14だろ?
何とも気の早い話だ……。
それと、カーマインもルイセも、互いの気持ちに気付いてないというのが何とも……。
お前が言うなって?

……ごもっとも。

まぁ……無意識に気付かない様にしてるのかも知れないが。

また、リビエラも料理が下手というレッテルを張られているが、せいぜいがるろ○に剣○の神○薫くらいの腕前であり、食えないという程じゃない。
要するに、見た目はマトモで味はちょっと……というレベル。

最近は格段の進歩で、ちゃんと食える物になったでござる。

実際、メキメキと上達しているからなぁ……。
料理の練習をする度に毒……もとい、味見をしている俺が言うのだから間違い無い。
近い将来、心の底から美味いと言える日が来るかも知れない。



さて………うん……あの……まぁ…分かっているんだ…敢えて言えば――忘れていたかったんだ。

そう、女性陣はまだ居る……ティピはその身体のサイズから、簡単な手伝いくらいしか出来ないので除外……そう、あと一人 。

我らが最終兵器(リーサルウェポン)……。

そう……ミーシャという存在を。
初期のリビエラが作った料理を食った俺が、本気で神様に祈った。

どうかミーシャは大人しくしていてくれます様に……と。
しかし神様は残酷だった。

「アタシも作る♪お兄さまたちに、アタシの愛情たっぷりの料理を食べて欲しいか・ら☆」


『天は我らを見放したぁーーーっ!!!』

そう叫びたかったが、我慢した。
多分、何人かは俺と同じ気持ちだっただろう。
カーマイン、ラルフ、アリオストは特に。

当然、ティピ辺りが文句を言った。

「え〜……アンタが作るの〜……?……アタシたちを食中毒にさせたいわけ?」

と、かなり辛辣な言い方だが……ミーシャはくじけなかった。

「大丈夫だよ!アタシもいっぱいいっぱい練習したんだから!!」

自信満々に言うミーシャに、一抹どころか一寸先まで不安だらけであります。
結局、ミーシャの懸命な説得に折れるティピ。

まぁ、不安ではあったが……暇な時には俺達で指導していたからな……幾らかマトモになっているだろう。

きっと…多分……。

*********

そう思っていた時期が俺にもありました。

なんてお約束をかましつつ、今現在に至るわけで。

目の前には色とりどりの料理が並んでいる。
うん、どれも美味そうだ。
……ある例外を除いて……。

それは液体だった……いや、液体と呼ぶのもおこがましい。
ボコボコと泡立ち、凶々しいまでに濁った紫色……。
ミーシャいわく、これは野菜スープらしい。

………オーケー落ち着け俺……Coolだ……Coolになれ。

まず、ミーシャの作ろうとした野菜スープは、本来は鮮やかな緑と、その上に白いクリームをたらしたグリーンポタージュとでも言うべきスープで、原材料は空豆だ。

ちゃんとした手順で作れば、白と緑のコントラストが眼にも優しく映り、大地の豊かな恵みを味わえる筈だった。

……なのに、なんぞこれ?
グリーンポタージュならぬ、パープルポタージュ?
いや、ポタージュというより……どろり濃厚?

……なんぞこれ?

大事なことなので二回言いry

分かりやすい例えを言うなら、ドラ○エシリーズに出てくる毒の沼。
眼に優しいどころか、むしろ痛い……正に眼の毒。

………これをどうしろと?

「……アンタ……これ……」

流石のティピも絶句らしい。
そりゃそうだよな……。
予想の斜め上だもの……。

「一生懸命作ったんだ♪見た目はともかく、味には自信がありますよぉ♪」

「ちゃんと……味見した……?」

いつぞやと同じ問答をする二人……だが……。

「もっちろん♪美味しくて食べ過ぎない様に我慢したんだから」

……これで?

それは全員の偽り無き思いだった筈。

「?このスープがどうかしたのか?」

……しまったあぁぁぁぁ!!?
ウォレスがいたあああぁぁぁぁぁ!?
……って、ちょっと待て。

「よくコレがスープだと分かったな?」

「ああ……器を持った時の温度、重量から考えればな。液体が入っているのは分かるし、魔法の眼でシルエットの判断くらいは付くからな……見分けることは出来る」

流石はウォレス……だが、色なんかは分からないだろう……でなければそんなに平然としていられる筈が無い。

「ふむ……中々良い香りだな」

そう、匂いも香ばしい……何とも食欲を誘う香りではある。
……それがますます怪しさに拍車を掛けている。

「どうぞ♪おかわりもたくさんあるから」

……たくさん……あるのか。

「そうか。ではいただくとしようか」

ウォレスが紫色の何かにスプーンをつけ……。

「待った!!……俺も飲む」

俺は待ったを掛け、自分も飲むことを告げた。
オッサン仲間であるウォレスを、むざむざイケニエに差し出す訳にはいかん……。

俺はスプーンで、濁った紫のどろり濃厚を掬う。
……どろりとした……もはや液体では無く固体に近い……絶対スープじゃねぇよコレ。

………南無三っ!!

パクリ!!

モギュモギュ………ゴクリッ。

「うっ!?」

「っ!?シオン……っ!?」

「先生!?」

「しっかりするんだシオン君!!」

「傷は浅いぞ!?」

「シオンさん!!しっかり……しっかりしてください!!」

「吐き出して!吐き出すのよシオンさん!!」

「そうよっ、無理しないでっ!?」

ウォレスとミーシャを抜かした面々が、俺を心配してくれる。
まるで重傷を負ったかの様に……だが、俺が言いたいことは別にある。



「うまい……」

「へっ?」

「うぅぅまぁぁいぃぞおぉおおぉぉぉぉぅっ!!!」

俺の背景には、火山か何かが映っているのかもしれん。

「この香ばしい香り……それに釣られて口に含むとそこはオーケストラ……口に広がるのは甘味……辛味……酸味……和風とも、中華とも、洋風とも取れる味わい……正に混沌(カオス)!だが、しかし!!それが見事に調和され、新たな味わいを生み出している!!美味し!美味し!!美味し!!!やはりこの料理だけで国取りは可能なのだぁっ!!!あぁ♪ラフレェェエシアッ♪」

「あ……あの……先生?」

「最高にハイって奴だぁ!!」

ヒャーッハァ!!!!汚物は(俺の胃袋で)消毒だァ!!!

「し、シオン!?しっかりしてくれシオン!!」

「あちゃー……やっぱりかぁ……」

「ミーシャ……どういうことか説明しなさいよ!」

「うん、このスープ……凄く美味しいんだけど、何か飲むと性格が変わっちゃうんだよねぇ〜☆つまり、それだけ美味しいってことなん」

「スカポーーーンッ!!!」

ドゲシッ!!

「ふぎゃ!?」

ビターンッ!!

「そんな恐ろしいモノを飲ませるんじゃないわよ!!」

「ううぅ……美味しいのに……」

「そういう問題じゃないよ、ミーシャ……」

ちらり……。

「うぅおぉれはぁ!!霊長類!人間どぅえぇぇすっ!!ずっどおぉぉぉん!!」

「いやああぁ!!?シオンさんっ、正気に戻ってぇっ!?」

「時にお嬢さん……パンツを見せて戴いても、良いですか?」

「えっ!?……あの……此処で……ですか?」

ハイ、此処で。
今すぐ!即!!カァムヒアァ!!!

「ちょっとシオン!しっかりしてよぉ!!」

「……私は冷静だ。そう、煮えたぎる程に……お嬢さん、パンツを見せry」

「わ、私も……!?そ、そりゃあ……準備は……その……アレだけど……でも急に……」

フフフ……初なネンネじゃあるまいに……よいではないか!
よいではないかぁ!!

「ティピ……頼む」

「任せて!……あんなシオンさん、見たくないもん!!………その歪み、アタシが断ち切るっ!!」

ゴヒュンッ!!

「スーパーー!ティピちゃーーん!!キィィイィィック!!」

「殺気!?ならば必殺!!ホンダラ拳奥義――唾のま……」

「ウェーーーーイッ!!」

ドゴスッ!!!

「ウゾダドンドコドーーン!?」

ズザザザ……。

「!?アレを喰らっても倒れないなんて……流石シオンさん……」

「ミーシャ君……論点が擦れちゃいないかい?」

「普段のシオンなら、余裕で避けてるだろうね……」

「ラルフ……それも何か違くねぇか?」

む………?
俺は……?

「皆……どうしたんだ?」

確か……ミーシャのスープを飲んで……それから先の記憶が……。

「シオンさん!?正気に…戻ったんですねっ!!」

何かカレンが……いや、カレンだけじゃなく、皆が心底良かった……って顔してる。

「ど、どうしたんだよ皆……」

「シオンさん……覚えてないの?」

「……何かあったのか?」

ティピに尋ねられ、首を傾げる俺。
多分、スープを飲んでからの話だよなぁ……。
えっとぉ……スープを飲んで……予想に反して美味くてそれで……。

………………。

その時、俺の絶対記憶能力が発動。
覚えていない筈の記憶を呼び覚ます。

「………シオン?」

リビエラが固まった俺の顔を覗き込む。
だが、そんなことに反応出来ない。

全てを思い出してしまったのだから。

「………あ」

「…あ?」

「悪夢だ……」

ズーーーン………。

俺は思わず両膝と両手を大地に着ける体勢……いわゆる。

Ⅲorz

この体勢になってしまう……だって……狂った上にパンツ見せろとか……マッドで変態紳士な骸骨音楽家降臨とか……。

「お、おい!しっかりしろシオン!!」

「そ、そうですよ!私たちは気にしてませんから……」

ゼノスとカレンが慰めてくれる……けど、その優しさが辛い……。

「そうよ……私だって嫌じゃなかったんだから……気にしないでよ、ね?」

「は…ははは……」

リビエラもそう言ってくれる……けど、俺は……俺は……。

その後、俺が立ち直るのに、たっぷり一時間を要した。

「……ところで、俺はコレをどうすれば良いんだ?」

「飲まないほうが良い……シオンの二の舞になりたくなければ……な」

スプーンを片手に固まっていたウォレスに、カーマインがそう告げたそうな……。
その後、ミーシャのスープは廃棄処分され、皆は胸を撫で下ろしたとか……。
余談だが、何故こんな最終兵器が出来上がったのかを調べたところ……途中まではちゃんと作っていたミーシャだが、味見をして何だか物足りなく感じ、色々足したのだと言う……。

何を足したか、本人も分からなくなるくらいに……。

誰か止めろよ……と思ったが、他の女性陣は先に調理を終え、手伝おうとしたらしいが、最後まで自分で作りたいというミーシャの意志を尊重したのだそうな。

無論、ミーシャがティピの百烈脚と、俺の『お話』と言う名の説教を受けたのは言うまでもない。

「ご、ごめんなざああぁぁぁいっ!!?」

と、ミーシャは半泣きで謝ったが……某管理局の白い悪魔流『O・HA・NA・SHI☆』で、無いだけありがたいと思ってもらいたい。

とりあえずミーシャに厳重注意をして、その日は眠りについた。
明日もあるからな……。

そして翌朝……俺達は休暇先に向かう。
休暇初日に向かった休暇先は……。

*********

休暇一日目・カーマイン領地『エルスリード』

と……そんなわけでやってきましたカーマイン領。
名をエルスリードと言うらしい……エルスリード?
何処かで聞いたような……と思ったら、俺が以前に語ったラング○ッサーⅢが元ネタだそうな……。
発案者はルイセ。

つまり、ワイワイランドフラグを叩き折ったわけですね分かry。

まぁ、『ティピちゃん王国』よりは全然良いケド。

で、街に入っての感想……知ってはいたが凄い。
植林したであろう木々……無理なく整理された道……レストラン街に、公園……美術館に劇場。

そのどれもが美しく、シッカリと作られているのだ。
ハッキリ言って壮観です。

「よく、この短期間で……」

あれからまだ半年も経っていないのに……この世界の業者って仕事が早いんじゃねぇか?
現代でもこうはいかないぞ?
何かしらの魔法でも使ってるんかねぇ……建築魔法とか。

「そうね……でも良いことじゃない?早くて堅実って言うのも」

俺の横にいるリビエラが、そんなことを言う。
ちなみに、今俺の側にいるのはリビエラだけで、他の皆はそれぞれに散って行った。

……何故リビエラだけが一緒に居るのか……。

話は少し遡る……。

**********

「……デート?」

「そう、デート。ほら、私たちって色々跳び越してて、ちゃんとしたデートってしたこと無いじゃない?だから、どうかな……って」

リビエラがそんなことを言って来たのは、カーマイン領に入る前である。
他の皆は先に領内へ入って行った。

「勿論、俺はOKだぜ?」

元々、ちゃんとしたデートもしたいなぁ……って、思っていたし。
今まで……前世も含めても、デートらしいことをしたのは……ティピだけだったりする。

……転生前にデートをしようとしたのは、あの時の一回限りだしな。

それ以降は――語る必要も無いだろう……?

**********

………と、まぁ……こういう訳だ。
ちなみに、何故二人きりなのかと言うと、リビエラは事前にカレンと話し合ったらしい。

その結果、俺とのデート権を勝ち取ったのだとか……。

「やっぱり、最初のデートは二人で……でしょう?」

とは、リビエラの談だ。
まぁ…俺もデートってモノは、二人でするモノだと思うけどさ。

「さて……じゃあ最初は何処に行く?」

「そうね……劇場なんてどう?」

「そうだな……行ってみるか」

こうして俺達は劇場に足を向けた。
何と言うか……年甲斐もなくワクワクしてるなぁ……俺。

で、劇場に到着。

「今日の演目は……歌姫バーバラか」

こんなこともあろうかと、旅先で雇える人達は雇っていたのだ!!
ご都合主義と笑わば笑えっ!!
……と、俺が威張ることじゃないけどな?
殆どはカーマインがスカウトして来たらしいし。

後、原作みたいに、雇ったらそのままその演目だけ……という訳では無く、その日その日で演目が変わる仕組み……らしい。

「ねぇ、早く入りましょう?」

「お、おう!そうだな」

リビエラが俺の腕を取り、腕を組んで来た。
う、腕に何やら柔らかい感触が……いかん、いかん!!
煩悩退散、煩悩退散!!喝っ!!

こうして劇場内に入った俺達は、席に座り演目の開始を待った……。

『歌姫バーバラ』

自身の美しさもさることながら、その声……歌唱力は聞く者を魅了する力がある……。

時には可憐に、時には神々しく……七色の歌声というのはこう言うことなのかも知れない……。

歌姫というだけのことはあるよなぁ……。

そして、彼女の補佐をするかの様に支えているのが、ピアノなどのバックサウンド……。

もう、完璧である。
感動をありがとう……という気持ちだ。

「綺麗な歌声ね……」

「ああ、そうだな……」

リビエラも俺と同じ様な気持ちらしい……。
俺達は、最後までその歌声に聴き入るのだった……。




「中々良い歌だったな?」

演目が終わった後、俺達は劇場を出た。
余韻に浸りながら……って奴だ。

「そうね。心に響く…って言うのかな?とにかく、感動しちゃった」

「ああ、俺もだ……歌姫というのは伊達じゃないらしい」

その後、俺達は劇場での感想を話しながら、散策をしていった。
そして辿り着いたのはボート乗り場がある湖。

「ボートかぁ……ねぇ、乗りましょうよ!」

「ん?そうだな……せっかくだし、そうするか」

しかしボート遊びか……最近では中々見掛けなくなった、古式ゆかしいデートスポット。
まさか、体験する日が来ようとは……。

俺達はボートの管理人にボートを借り、ゆっくりと湖の上へと漕ぎ出す。
俺達の他にも、ボート遊びをしている者は何人か居る様で、よく知った気配を感じてそちらを振り向くと……何やら遠目に黒髪で、特徴的なジャケットの着こなしをする男と、ピンクのツインテールを風になびかせた小柄な少女の姿が見える。

明らかにカーマインとルイセですね本当にありがとうごry

向こうはこっちに気付いて無いみたいなので、何事も無かったかの様にスルーしましたが。

湖の中央辺りまで来たので、漕ぐのを止める。

「良い風ね……」

「そうだな……この位のそよ風は気持ち良いな」

湖面に漂う船の上……優しい風にくすぐられ、まるで気持ちまで優しくなれる気がする……。

「……私、何だか凄く幸せだなぁ…って感じるよ」

「……リビエラ?」

「こうして、シオンと一緒に居られて……嬉しいよ……今だって、凄くドキドキしてるんだから」

「それは……まぁ、俺もそうだが」

改まって言われると…かなり照れるのだが……。

「……シオン、赤くなってるよ」

「む……そう言うリビエラだって顔が赤いぞ?」

こう言っちゃなんだが、潤んだ瞳で赤くなってるとこが、可愛く…また色っぺぇッス。

「だって、シオンとこうしているだけで……私は……」

「リビエラ……」

や…やばい、なんかスイッチ入りそう。
ええぃ!自重せい自重を!!

その後、何とか自重した俺は、リビエラとピンクフィールドを形成しつつ、他愛のない話などをした。
……正直、ボートの上で無ければキスの一つでもしそうな勢いだった。
というか、リビエラがむしろやろうとして来た。

「ねぇ……シオン……私……」

「いや、あのな……リビエラ?今、ボートの上だから……万が一ひっくり返ったらやばいだろ?だから……な?」

「意地悪……しないで、お願い……」

「……意地悪なんかしてないって。そりゃあ……いじめたくなる時はあるが、な」

……なんて話ながら……何とかリビエラには納得して貰った。
というか、後で好きなだけしてやるとか言っちまったからなぁ……いやね、どんだけ〜?
とは自分でも思うんだ。

その後、ボートを降りた俺達は、公園のベンチに腰を降ろした。

食事……という時間でも無かったし、何よりリビエラの希望だからな。

「ん……ふぅ……」

まぁ……ぶっちゃ毛……もとい!
ぶっちゃけ、キスをせがまれ、しているわけです。

「……満足したか?」

「ん……もっと…欲しいよぉ……」

いや、これ以上は限界だってヴァよ……。
時間とか、理性とか、マイガメラとか……色々。

「そうしたいのは山々だが……そろそろ集合時間だぜ?」

「あ………」

トロンとした瞳を向けながら、残念そうな顔をしている。
俺はそんなリビエラの髪を優しく撫でる。

「また、いつでも出来るだろ?デートも、キスも……さ」

「あ……そうよね。…うん…分かったわ」

リビエラは気持ち良さそうにしながら、そう言った。

その後、俺達は待ち合わせ場所に集合し、テレポートで帰還。
ローランディア城の文官さんへ、次の休暇先を申請……帰路についた。

その後、夕食を済ませて皆それぞれの部屋へ。
ちなみに夕食は俺とゼノスが作った。

……あの悪夢を繰り返させないために、ミーシャを付き添わせて。
何事も積み重ねって奴さね。

さて、明日に備えて……寝るとするかな……。

次の休暇先は……。

*********

おまけ1

ドンマイ!カレンさん!

「うぅ……」

「ん?カレンさん、どうしたの?沈んだ顔して」

「ティピちゃん……何でもないの」

「何でもない……って、昨日の正気を取り戻した時のシオンさんみたいになってるよ?」

つまり……Ⅲorz

「……実は、さっきリビエラさんとジャンケンをしたの……」

「ふんふん……それで?」

「……一気にストレート負け……」

「あちゃー……確かに地味にキツイけど、そんなに落ち込む程のことじゃあ……」

「……シオンさんとの……デートを賭けた……ジャンケンだったの……」

「……あ〜……」

「私って……運が無いのかなぁ……って、自己嫌悪してた所」

「そ、そんなこと無いって!(……アタシが前にシオンさんにクレープをご馳走になったのは……言わない方が良いよね……)」

「そ…そうかな?」

「そうだよ!もっと自分に自信を持って!!」

「そうですね……ありがとう、ティピちゃん!」

「いえいえ、どう致しまして〜♪」


「よく考えたら、今の私は凄く幸せじゃない……兄さんは騎士になったし、好きな人の側に居られるし……何を悩んでいたんだろう?」

(……独占欲、とは違うと思う。そう……私は愛されたいのかも知れない……もっと、強く。そして、あの人を愛したいんだ……もっと熱く)

「欲張り……なのかな?」

(うん……欲張り、なんだと思う。私はあの人が……シオンさんが欲しい。もっと私を……ううん、『私たち』を愛して欲しい……普通に考えたらおかしい考えなのかも知れないけれど……はしたない考えなのかも知れないけれど……そうなった時…凄く幸せなんだと思うから……)

「……まずは私がもっと大胆にならなきゃ……とりあえず、今日寝る時にシオンさんの所へ行こうかな……それで……なんて、やっぱり恥ずかしい……っ!!」

(それでも、やらなきゃ……何より私が望んでいるんだもの……だから…ファイト、私!)

*********

後書き

最初は、リビエラとの健全なデート話になる筈が、ミーシャの生物兵器登場の上、リビエラのデートも後半ピンクになるし……何故なんだぜ?

疲れて脳みそが噴いているとしか思えん所業。

そんなわけで、最新話……投稿でございます。
m(__)m




[7317] 第97話―イリスの葛藤とカレンの夢と不安の影―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/14 21:10


休暇二日目・魔法学院

っと、そんな訳でやってきました魔法学院。
皆はそれぞれに散って行った。
アリオストは恐らく、研究室にいるだろうな。

しかし……あのクソヒゲのお膝元……分かっていながら、休暇に来る俺は大概だな……。
まぁ、休暇先は皆の意見で決めているわけだから、仕方ないのだが。

「さて……どうするか」

とは言え……ここに来てやることは、ほぼ決まっているわけで。

・イリスと話す。

・アリオストと話す。

この二つが殆どだったりする。
我ながらワンパターンだとは思う。
しかし、せっかく魔法学院に来たのだから……とか思うわけよ。

「とは言え……たまには違ったこともしたい様な……む?」

そんなことを口走りながら、広場までやってきた俺は、左の方から見知った顔がやってきた。

「……イリスじゃないか?」

「!シオン……」

これはどうも……いつものパターンになりそうだな……勿論、嫌なんかじゃないけどな。

「今日はどうして……」

「いつもの如く、休暇だよ。そういうイリスも珍しいな……滅多にこっちまでは来ないだろ?」

「私は……保護しているグローシアンの皆さんの様子を見て来たところです」

「そうか……そういえば、魔法学院がグローシアンの保護をしているんだったな」

知ってはいるが、敢えて何も知らないフリをする……イリスに嘘をつくのは若干気が引けるが。

まぁ……イリスは知っているのだろうが……。

「あの……少し話せるでしょうか?」

「ん?また常識の勉強か?」

「ええ……その様なモノです」

ふむ……まさかとは思うが、揺さ振りを掛けに来たのかな?
なら、口を滑らせない様にせな。

……とか、思っていたのだが。

「えっと……これは?」

今、俺は食堂に来ています。
何故食堂?
と、思うだろう?

俺も思う。

「せっかくなので、お茶をしながら……と、思いまして」

そう言って、実に手慣れた手つきで紅茶を注ぐイリス……か、完璧だ。
本職のメイドや執事に負けていない……。

「良い香りだな……」

紅茶は結構飲んで来たつもりだが、この香りは……。
前世?で言うところのダージリンティーに近い香りだ……。
しかも、上質の白ワインの様な芳醇な香り……。

「最高級の紅茶です……本来なら学院長用に仕入れた物なのですが……是非、貴方に飲んで欲しくて……」

うっ……なんつー綺麗な微笑みを……系統としてはサンドラの様な笑みだな。
しかし、随分感情が豊かになったなぁ……。

「って、そんなストレートに言われると少し照れるんだが……」

「大丈夫です……私も恥ずかしいですから……」

や、ヤバイ……みなぎりそう……。
おちけつ……じゃない、落ち着け俺!!
節操無さ過ぎるぞ俺!!

だが、ほんのり赤くなりながら言われたら……分かるだろ?

俺は頬をコリコリと掻く。

「まぁ……せっかくのご好意だ。いただきます」

「どうぞ」

スゥ……。

芳醇な香りを目一杯楽しみ……口に含んだ。

……言葉が無い。

脳裏に様々な美辞麗句が、浮かんでは消えて行く……。
そう、言葉はいらない……そんな味。
しかし、それでも無理に言葉を紡ぐなら……。

「美味い……」

万感の意を込めて、俺はそう言う。
ハッキリと、それしか言えない……。
それだけ言うのが精一杯……そういう美味さなのだ。

「……良かった」

そう言って、微かな笑みを浮かべるイリス。
その顔は本当に嬉しそうだ。

「しかし、良いのか?コレ……学院長用なんだろう?」

「構いません。許可は貰っていますから」

許可……貰ってるんだ?
あのクソヒゲの性格からして、許可を出しそうには思えないんだが……。

それから、紅茶を堪能した俺はようやく本題を振る。

「……で、話したいことって何だ?」

「……シオン、貴方に尋ねたいことがあります」

む……やはりか……?
先程迄の笑みが消えて無表情……いや、違うな。
深刻そうな顔をしている……。
余程大事なことなのだろう……グローシアン関連なら、イリスには悪いが知らぬ存ぜぬで通す。

だがそれ以外なら………俺に答えられることなら、答えよう。

「……シオン……例えばですが……貴方が騎士だとしましょう」

「?ああ……」

何だ……?
イリスはどんな意図でこんな質問を……?

そうは思いながらも、俺は先を促す。

「貴方は国に仕える騎士……つまり、国の命令は絶対です。……貴方は国に非道な命令をされます。そう……例えば、反乱分子が潜む村を焼き払え……と、命令されたとします。勿論、村人を一人も逃がしてはならないと……」

「それは何とも……胸糞悪ぃ任務だな……」

……何となく、イリスの意図が読めて来たな……。

「その場合……貴方ならどうしますか?命令に従い、村を焼き払いますか?それとも命令に背き、村人を救いますか?」

「そりゃあまた……難しい質問だな」

騎士ならば……国に仕える者ならば、命令に従うのは当然。
しかし、人としてはそんなクズみたいなことはしたくは無い……。

俺の答えは決まっている……が、イリスが欲しい答えはソレでは無いのだろう……。
だから、俺は言う……。

「そんなのは、その時の状況次第だろう」

「状況……次第……」

「例えば、どうしても譲れないモノがあるならば、俺は冷酷にもなるし……納得が行かないなら、全力で助ける。イリスの例題に合わせて言うなら、もし俺が国……または、命令を出した王に心酔していたなら……あるいはソレに比肩する様な理由があれば、胸糞悪ぃことにも手を染めるかも知れないし……ソレにどうしても納得出来なかったり、守らなければならないモノ……大切な人だったり、自身の尊厳だったり……そういうモノがあるなら、断固として反抗する」

「つまり、それは……」

「まぁ、要するに自分が思う様に進め……ってこと。自分が正しいと思うこと……それを貫く!」

絶対的な正義も、絶対的な悪も存在しない……。
それぞれが自分の想いを信じて歩み続ける。
言うなれば、それが俺の信念。
LAWでもCHAOSでも無く……NEUTRAL。
酷く曖昧で……中途半端な答えかも知れないが……。

それで十分……だって人間だもの。

「……それは狡い答えではありませんか……?」

「狡くて結構メリケン粉。そういう答えは自分自身で決めることさ……人に言われるままではなく、己の意思で」

「己の……意思で……」

……とは言え、コレだけだと余りにも意地悪だよな……仕方ない。

「ではイリスに聞こう。イリスならどうする?」

「……私は……やはり命令には従わなければ」

「……それがイリスの意思なら、仕方ないな」

言葉とは裏腹に、イリスから感じる感情は『疑心』……自分は本当に正しいのか?
間違ってはいないのか……?
そんな気持ち……だと思う。
表情には出さないから、確かなことは分からないが。

「ただ……ソレは本当にイリスが『望む』ことなのか……?」

「……私の、『望む』こと――」

「そう……まぁ、例題なんだろう?なら小難しく考えることは無いって……自分の『望む』通りにやるのも一つの選択ってことさ」

そう、俺は言う。
イリスは迷っている……自身の選択を……何を選び、何を捨てるべきか。
……いや、答えはある程度出ているのかも知れない。

……ならば俺に出来るのは、ほんの少し背中を押してやることだけ。

本音を言えば、もっとハッキリと言ってやりたい。
だが、ソレをしては駄目なんだ……。
自分自身に選ばせなければならない……。

「少しは、参考になったかな?」

「ハイ……ありがとうございます」

「どう致しまして……あ、ちなみにさっきの例題……ちゃんとした俺の意見を答えると……俺が騎士なら、そんな命令を出す奴にそもそも仕えたりしないし、仮に仕えていたとしても、命令に従うフリをして村人を逃がす……バレない様にこっそりとな」

「それは……ちゃんと答えていないのでは……?」

「やっぱりそう思う?」

まあ、俺の言ってることは屁理屈だからなぁ……。
結局の所……俺自身もそんな時が来なければ分からないんだよな。

「けれど、非常に貴方らしいと思います」

「なはは……それは褒められてるんだか、けなされてるんだか……」

「……褒めているんですよ」

不可思議な問答は終了し、俺達は日常の何気ない話題を語り合う。
……どんなことをしたか、どんなことがあったか……それらを楽しそうに話すイリスを見ていると、自分のしたことは間違いだったのでは……?

そう思えてくる……。

もっとハッキリ……間違ったことは駄目だ!
そう言えたなら……。
だが、それは出来ない……常識に疎い者に、自分の正義を押し売りするなど……カルト教団の教祖と大差が無い。

あ、オズワルドの時は例外ね?
常識はあっただろうし、あくまでも押し付けたんじゃなく、選択肢を与えただけだから。

……今回のことも同じこと。
選択肢を提示したに過ぎない……。
イリスに『自分』と言う物を掴み取って欲しかったから……。

それで、最悪の事態に陥ったりしたら……その時は俺が纏めてケリをつける……俺なりの方法でな。

*********


私は迷っている。

正しいこと……間違ったこと……。
それらの板挟みになり、迷ってしまう……。

本来、それはあってはいけないこと。
私はマスターの道具であり、忠実な下僕……。
だが、私は絶対者であるマスターに対して『疑念』を抱いてしまっている。

マスターの行いが、本当に正しいことなのか……行おうとしていることは、決して許されないことなのでは無いか……?
そう、考えてしまうのだ。

それは道具である私にはあってはならないこと……そう、あってはならないことの筈……。

私がこんなことを考えてしまう様になった原因……。

「と、まぁ……それが傑作でな?」

「そうですか」

シオン・ウォルフマイヤー……。

バーンシュタイン王国出身、元インペリアル・ナイトを父に持つ貴族。
剣、魔法…共に並外れた実力の持ち主であり、皆既日食のグローシアンでもある。
マスターの標的の一人……そして、私に色々なことを教えてくれた人……。

そう……彼は私に色々な物を与えてくれた。

『常識』……『道徳』……そして……『感情』……。
そう、彼が居なければ私は人形のままだった……人形で、いられたのだ……。

私は彼に感謝している……人形の私に、コレだけのことを教えてくれたのだから……。
いや、感謝……では済まない。
理解している……私は彼に『好意』を持っている……そう、恐らく『好き
』なのだろう。
それは感謝以上の感情……これは、彼を篭絡する処か私が篭絡された……そういうことなのでしょう……。

彼の楽しそうに笑う姿、彼の真剣な表情、時折見せる悲しそうな顔……それらを見る度に、胸の鼓動が早くなり、締め付けられる様に痛む……。
最初はそれが何か分からなかったのですが……最近になってようやく理解しました。

正しいこと……好意を持つ者……それらを知り得た私だが、私の中では……マスターの存在が纏わり付く。
マスターは守る存在……マスターは絶対……マスターは……。

以前、私はある童話を読んだ……。
とある人形が、人間になろうとする物語だ。
人形は喋れる様にはなったが、嘘や悪戯ばかりをしていたので、結局は元の人形に逆戻り……。

それを見た時は滑稽な人形だ……そう思ったが。

今になって思う……。
あれは…今の私の姿そのものだったのでは無いか?

人間になりたがる滑稽な嘘つき人形……。

「生徒の一人に声を掛けられたのですが……」

「それって……告白じゃないの?」

「女生徒だったのですが……」

「……マジ?」

彼とこうして他愛のない話をする……。
それは非常に楽しい。
彼も楽しんでくれている……それが凄く嬉しい。

しかし……私は嘘つき人形。
……人間には……なれない……。

「……と、そろそろ集合時間だから戻らないとな」

「……そうですか。では、今日はお開きにしましょう」

そう……人間には……。

「まぁ、また近い内に寄らせて貰うからさ」

「はい、お待ちしています」

なれない………。

「それじゃあまた……」

「あ、あの……!」

分かっている筈なのに……。

「ど、どうしたんだよ?」

「……先程、貴方は自分の心に従うのも一つの手段と言いましたが……」

目を丸くしているシオン……私が声を上げたことで驚いているのでしょう。
ですが、私にはどうしても聞いておきたいことが……。

「その心に従って……『何か』を捨てることになったとして……得るモノは――あるのでしょうか?」

シオンの言葉の意味は分かります……。
自分で考えて答えを決めろ……そう言う意味なのだろうと。
しかし、どうしても聞いておきたい……。
曖昧な質問ではあるが……どうしても……。

「……そんなの、その時次第だろ?何を失い、何を得るか……そんなのは人それぞれだ」

「……そうですか」

「…まぁ、もっとも……『俺』なら大歓迎で『そいつ』を受け入れるがな」

………っ!?

「……で、結局この例題って何だったんだ?」

「いえ……聞いてみたかっただけですので……」

「そっか。んじゃ、本当にそろそろ行くわ……じゃあ、またな?」

「ハイ、また…」

こうしてシオンは去って行った。
……私の答えは得た。
もう、迷いません……。

嘘つき人形だとしても……嘘つき人形だから、欲が出る。
なら、私は高望みかも知れませんが……あがいてみせます。
『人』になる為に……。

*********


……ったく、あんな必死な眼で見られたら……。
結局、誘導するような言い方をしちまった……。

ちなみに……直後にすっとぼけたのはヒゲ対策だ。
十中八九、ヒゲが覗き見していたのは間違いないだろうからな……。
鈍感な愚か者を演出しといたのさ。
まぁ、普通はあんなのに騙されるか疑問だが……クソヒゲは他者を見下しているからな……なら、上手く引っ掛かってくれる可能性も――無きにしもあらず。

まぁ、どんな答えを出すかは……結局の所、イリス次第なんだよな。

そんなことを考えながら、俺は集合場所に急いだ。
そうしたら案の定、皆は先に集まっていた。

「も〜、遅いよシオンさん!」

「悪い悪い、待たせちまったな」

ティピにぷんすかぷん!と、怒られたが……別段、本気で怒っている訳では無い様なので、少し安心した。

***********

で、テレポートでローランディアに帰還。
文官さんに次の休暇先を申請……帰宅したのだった。

就寝時間……ちょっとした事件が起きた。

「ちょ……カレン、さん?」

「シオン……さん」

ただいま、カレンに絶賛押し倒され中にございます。
……何故に?

事の発端は、就寝の際にカレンが尋ねて来たことだ。
何でも、一緒に寝たいらしい……。
まぁ、それは何回かあったことだし、理性がヤバイが……それは俺が我慢すれば良いだけのこと。

そう思って部屋に通したら、いきなり抱き着かれ……押し倒された。
突然のことだったので、不覚にも対処出来ず……現在に至ると。

「シオンさん……私……」

「カレン……もちつけ……もとい、落ち着け!なんか色々とヤバ気な眼をしているぞ!?」

「私……もう、我慢出来ないんです……約束も守れない悪い子です……けど――我慢出来ないんです……」

大切なことなので二度言ったんですね分かります………とか、言ってる場合じゃねえぇぇぇっ!!?
ヤバイ!?俺様の貞操の危機!?

カレンは頬を上気させ、赤くし……眼もトローンとした眼で……。
息遣いも若干荒い………って!?
反応すんな息子よおおぉぉ!?

マイガメラを戒めつつ、俺はこの状況の打開策を考える。
まさか、カレンがこんな強行策に出るとは……。

「……もし、嫌なら……振りほどいて貰っても構いませんから……」

それは……卑怯な言い方だろう。
そんな言い方をされたら、拒めないじゃないか……。

「〜〜〜〜〜〜っ!!」

ギュッ!!

「きゃっ!?」

俺は意を決してカレンを抱き寄せた。
抱き合う形になった俺達は、ピッタリと密着しているわけで。

「あ、あああああの…こ、コレって…!?」

つまり、俺にはカレンの胸とかが押し付けられる形になり……カレンには俺のガメラが……これ以上は言えん。

「……分かったか?俺だって我慢するのは辛い……本音は今直ぐにでもカレンを目茶苦茶にしてやりたい位だ……けど、此処まで通した意地なんだ……最後まで通したい」

正直、いつ暴走モードに突入するか分からない。
それ処か、覚醒モードに移行してしまうかも知れない……けれど、俺はジッと我慢する。

「何をそんなに焦ってるんだ?」

互いに両想いになって半年近く……関係を急ぐことも無いだろうに……。

「夢を……見たんです」

「夢……?」

「シオンさんが……居なくなってしまう夢……」

カレンの話を聞くと、本当は昨夜に俺の部屋を襲撃するつもりだったらしく、その時はただ一緒に寝るだけのつもりだったらしい。

「あ、その……期待が無かったわけじゃあ……無かったですケド……」

………あ〜〜、それは一旦置いておこう。

で、結局は妄想に耽っていたら、いつの間にか寝てしまったらしい……。
で、そこで見た夢が……。

「……俺が居なくなる夢だったと?」

「その時は、ハッキリとした形では無かったんです……漠然とした不安だけで……けれど、さっき見た夢で……」

カレンが言うには、俺が居なくなる夢を見たんだそうな……。

「……夢の中のシオンさん、最後にこっちを振り向いて微笑んで……そのまま暗闇の中へ……私、怖くなって……それで……シオンさんに離れて行って欲しくなく……て……」

段々と身体が震え、涙が零れそうになってくるカレン。

俺はそんなカレンをギュッと抱きしめ、優しく髪を梳いてやる。

「あ……」

「馬鹿だなぁ……俺がカレン達の前から居なくなったりするかよ……ずっと、側に居るさ」

「本当……ですか?」

「おう!男に二言は無いぜ!!」

ニカッ!

っと、俺は自身に出来る最高の笑みを浮かべる。
それを見てカレンの震えが治まり、涙を拭った……。

「約束……ですよ?」

「ああ、任せとけって」

しっかし、カレンがそんな夢を見るとは……予知夢……というわけでは無いだろうが……。
以前、離れ離れになったことを気にしているんだろうか?
また、俺が何処かに自分を残して旅立ってしまうと?

夢ってのは、その心理状況が大きく出るらしいからな……。
カーマインやラルフのそれは例外ね?

しかし、そうなると……俺ってあんまり信用されていない?
それは結構ショックなんだが……。

「まぁ……今日は一緒に寝るから……それで勘弁してくれない?」

「……分かりました。今日はそれで我慢してあげます♪」

クスッ……と笑われてしまう。
むぅ……我が息子の我が儘ぶりを知られたからか……俺の気持ちを再確認したからか……。
まぁ、真っ赤になってるけどな……カレン。
よっぽど恥ずかしいんだろうさ。

カレンが笑顔になったんだし……それで良いんだがな。

「……おやすみなさい、シオンさん」

「……あぁ、おやすみカレン」

こうして俺達は眠りについた。
どうやら、カレンが悪夢にうなされることは無かった様だ……。

そんなこんなで翌日……俺達は次の休暇先へ向かうことに。

**********

休暇三日目・観光地コムスプリングス

早速テレポートで飛んで来た俺達は、それぞれに散って行った。
まぁ、ウォレス辺りは温泉にでも行っているんだろうが……。

「さて、俺はどうするか……」

せっかくだし、温泉にでも入るかな?

ん……?アレは?

「ラルフと……ゼノス?」

何やら二人が見ているのは、露店商の様だ。

「何やってるんだ二人とも?」

「あ、シオン……いや、珍しい物が売っていてさ」

「それが中々美味そうでな」

ラルフとゼノスが言う……美味そうってことは食べ物か?
俺は露店商の売り物を良く見る。
茶色い饅頭と卵だ……。

「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ここにあるのはただの饅頭と卵じゃあない!!ここ、温泉街であるコムスプリングスで無ければ食べられない……その名も」

「へぇ〜……温泉饅頭と温泉卵じゃないか」

「ありゃ、お客さんご存知で?そうなんですよ!今のご時世、温泉だけが売りじゃあ弱いってんで、街興しの一環でね。露店で評判が良ければ名産品にしようってね?」

俺の一言に反応して、商人のオッサンが嬉しそうに話す。
しかしこの世界に来て、温泉饅頭と温泉卵に巡り逢えるとは……まぁ、日本に近い文化を持つ国が東にあるらしいからな……不思議では無いか。

「じゃあ、温泉饅頭を三つ……卵を五つくれ」

「まいどありぃ!」

そう言って8エルムと交換に温泉饅頭三つと、温泉卵五つを受け取る。
ちなみに温泉卵はちゃんと袋に入れてくれた。

「ほい、二人とも」

俺はラルフとゼノスに温泉饅頭を一つずつ渡す。

「え……良いのかい?」

「興味があるなら食べた方が良いだろう……美味いぞ?」

「んじゃあ、遠慮なく……」

ラルフは少々遠慮がちだったが、ゼノスは奨められるがままに饅頭を口にする。

俺もまず一口……。

「お、イケるじゃねぇか」

「うむ、完璧な温泉饅頭だ」

外の薄皮はつるりとテカり、それに噛り付くとふんわりとした生地から微かに香る黒糖の匂い……そしてこしあんの濃厚だが、しつこくない甘味……完璧だ。

「うん、コレ美味しいよ」

ラルフもご満悦の様だ。

「コレはあんたが考えついたのかい?」

「うんにゃ、俺じゃない。旅の人に教えて貰ったのさ『せっかくの温泉街なんだから、やってみたらどうだ?』ってな」

ゼノスの問いに答える商人。
これを知ってるってことは東方の人か、その技術を学んだ料理人でも尋ねて来たのかな?

「良いんじゃないですか?これは街の名産品としては最適ですよ」

ラルフは商人としての観点からの言葉なんだろうな……。

「ありがとう。あと、温泉宿で試験的に温泉湯豆腐というモノを出しているから、暇なら寄ってみると良い」

「温泉……ユドウフ?」

「湯豆腐ってのは、読んで字の如く、湯で煮込んだ豆腐のことだ。正確にはただの湯じゃなくて、昆布ダシなんかを使ったダシ汁なんだがな」

クエスチョンマークを浮かべるラルフに説明するゼノス……よく湯豆腐のことを知ってるな……って、そうじゃなく!

温泉湯豆腐だと……今のご時世にそんな発想が出来る奴が居たのか……?

俺は以前、温泉湯豆腐というのを漫画の中で見たことがある。
そう、かの有名な漫画本……美味し○ぼだ。

実際にはお目に掛かったことは無いが……疑問に思う。
そういう元ネタを知らずに、温泉で豆腐を調理する……なんて発想が出来るモノなのだろうか?
……きっとその発想をした人は天才なんだろう。
まぁ、本当に東方の人が訪れたのかも知れないが。

「ちなみに、そのアイディアをくれた人って、どんな人だったんです?」

「おお、よく覚えてるよ……確か青髪の男で、剣を二つ持ってたから……多分、剣士じゃねぇかなぁ?」

青髪の……二刀を持つ……剣士?
何だろう……何かが引っ掛かる……。

まさか…………いや、それは無い。
奴が存在しないことは確認済みの筈だ……。

俺は疑念を振り払い、気になった温泉湯豆腐を食いに行った。
勿論、ラルフとゼノスも一緒だ。

で、温泉宿に入ると、カーマインとウォレス……それにティピも居たので、一緒にお誘いしました。

結論、温泉湯豆腐は間違い無く温泉湯豆腐だった。

形が崩れた豆腐……真っ白な汁……もう文句無しだ。

皆、宿の人の説明があったからか、真っ白な汁を牛乳と勘違いすることもなく、温泉湯豆腐を美味しく戴いた。
ついでに買っておいた温泉卵も。

ティピなど、1番がっついていたくらいだ。

「それにしても温泉の成分か……」

「正に、温泉でしか食べれないモノ……だね♪」

「ふむ……思わず酒が欲しくなるな……」

「そうだな……こういうのを食ってると、一杯やりたくなるねぇ〜」

「ハハハ……でも本当に美味しいですよ」

ちなみに、上からカーマイン、ティピ、ウォレス、ゼノス、ラルフ……だ。

「あれ?シオンさん、美味しくないの?」

「いや、そんなこと無いぞ?」

「だって……何か難しい顔をしてたから」

「?そうか?気のせいじゃないか?」

「??そうなのかな?」

ふぅ……危ない危ない……顔に出ていたか。
いや、確かに温泉湯豆腐は美味い。
向こうに存在し、それでいて食えなかった物が食えるという事実に、一種の感動を覚えたのも確かだ。

………だが、俺の脳裏には……先程聞いた青髪の双剣士の影がちらつく。

何か……何かを見落としていないか?
勘違いを……重大な勘違いをしてはいないか……?

そうこうする内に、集合時間となり、俺達は街の入口に集まる。

そしてテレポートでローランディアへ帰還。
休暇の終了を報告し、帰路についた。

その後、夕食をとる。
その際に今日の休暇をどう過ごしたかという話になった。
そういえば女性陣は何をしていたのか……。
少し気になるな。
カレンとリビエラ、ルイセはウィンドウショッピング。
ミーシャはアリオストと話をしていたらしい。
アリオスト……頑張っているんだな……。

その後、シャワーを軽く浴びた俺は、部屋に戻り就寝した……。

脳裏に過ぎる……漠然とした不安の影を拭い去れぬままに……。




[7317] ―イリス爆誕。シリアス&毒舌イリスさん―番外編17―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/15 01:40


「すみません、コレとコレを借りたいのですが……」

「あらイリスさん……最近、よく通いますね」

「学ぶということは、大切なことですから……」

(けど、それって純愛まっしぐらの恋愛小説と、ハートフルな動物小説よね……)

**********

私はイリス……魔法学院で学院長秘書をしている。
最近は常識の勉強をよくする。
ある男に言われ、行っているのです。
私は常識に欠けているらしい……。

今まではそれを不要に思っていたのですが……。

「ふむ……この小説は中々に興味深い……」

私が今、読んでいるのは『三○目のタマ』という、和やかな作品だ。
とある街、『サンチョウメシティ』を舞台に、野良猫や飼い猫、飼い犬達が空き地に集まって繰り広げる、ドタバタ劇。

しかもこの小説は、挿絵が入っている親切設計だ。
以前の私なら、くだらないの一言で片付けたのかも知れないですが……。

「……見ていると、癒されますね……」

ちなみに、私のお気に入りはノラです。
まだまだ続編があるので、楽しみにしています。

読み終えた私は、もう一冊の小説に手を出す。
題名は『とき○きメモ○アル―旅立ちの詩―』という。

こちらにも挿絵が入っている。

主人公はとある学院に通う男。
同じく学院に通う幼なじみの女に、恋い焦がれている。
だが、さしたる進展がないまま、卒業間近となってしまう。

この物語の学院は、一定の成績を得て、三年通ったら卒業出来るらしい。

ちなみに魔法学院の場合、様々なことを学び…単位を取って行くことで卒業出来る。
つまり、優秀な成績を残せば一年と経たずに卒業も出来るし、逆に不出来ならずっと卒業出来ません。
また、卒業資格はあっても、学院に残る人々もいます。
アリオストさんが良い例でしょう。
彼らは優秀な成績で、卒業資格を持ちますが、研究者として学院に残っているのです。
学院の設備は優秀ですから、研究をするには最適でしょう。
まぁ、彼らは半分教員みたいなモノですね。

他にも純粋に卒業を目指す者……ルイセやミーシャはこの分類に入りますね。

……論点が擦れましたね。

で……この作品は現在、主人公が幼なじみに、『ずっと仲の良い幼なじみでいよう』と言われ、ショックを受けている場面だ。

「……無自覚の言葉ほど、辛いモノは無いでしょうに……」

私は『恋』という感情をこの作品のシリーズから学んだ。
以前、この感情と出会った私だが、コレが何なのか分からなかった。
なので、常識の勉強をするついでに……と、このシリーズに手を出したのだ。

ちなみに、どういう本が良いかは生徒に聞きました。
外で三人の女生徒が話していたのを見掛けたので……丁度良いと。

以来、私の愛読書となっております。

……と、主人公が『マラソン』と言う、競争をする競技に参戦する為、練習をする所で、この巻はおしまいですか……。
また、続きを借りて来なければ……。

ちなみに、『三○目のタマ』と『と○めきシリーズ』……これらを書いている著者は同じだったりする。

著・ラインハルト・F・ローエングラム

ペンネームらしいですが、何と言うか貴族みたいな名前ですね……。
しかし、彼は鉱山街ヴァルミエの出身で、現在は旅に出ているとか……。
この『と○めきシリーズ』は、彼が数年前に執筆した物らしい。

だが、旅をしながらも執筆活動は続けているらしく、『三○目のタマ』などは最近の作品だそうな……。

さて、本も読み終えたし……そろそろ準備をするとしましょう。

私は学院長室前の受付台から移動……地下の研究室に向かう。

特別教員用研究室……地下にあるこの研究室は、特定の教員用の研究室だ。
特別教員……つまり、学院長と副学院長の研究室がある場所である。

私は学院長用研究室の扉をノックする。

「誰かな?」

「私です」

「イリス君か……入りたまえ」

中の声……学院長に促され、私は研究室内に入る。
そして、私が研究室に入った後に扉が閉まる。

すると、学院長の雰囲気が変わる。

「イリスよ……お前は何をしている?」

「と、言いますと?」

「愚か者がっ!!あの様なくだらない書物にうつつをぬかしおってからに……」

「申し訳ございません」

やはり見られていたのか……マスターも暇なのだな。
そう思いながら、私は頭を下げる。

「……今、何か無礼なことを考えなかったか?」

「そんなことはありません」

さらりと答えた私に、学院長はフン……と、鼻で笑った。

「分かっているとは思うが、無能者を飼ってやるほど私は寛大では無い……お前の代わり等、いつでも造れるのを忘れるなよ……?」

「……心得ております」

そう……これが学院長……マスターと私の関係。
私はマスターに造られた人工生命……ホムンクルス。
故に、マスターは絶対……。
マスターは言わば創造主……代わりを用意するなど、造作も無いことだろう。

「……まぁ、良い。そのおかげで、お前にも感情と言う物が宿ったのだからな。些か余計な部分もあるが、計画には支障はなかろう……むしろあの愚民を篭絡するには都合が良かろうて」

あの愚民……シオン・ウォルフマイヤー。
マスターの狙う、最も優れたグローシアンの一人。
私に常識を教えた人間でもあり、好意という感情に気付かせてくれた者……。

私はあの男の監視……そして、あの男を油断させて篭絡しろとマスターに命令されている。

篭絡……しかし、そう上手くいくのか……。
私は恋と言うモノを学んだ……だからこそ、この感情がままならない物だと理解している。

マスターの言うことは、問答無用で押し倒すことと同義。
恐らくマスターは恋をしたことが無いのでしょう。
こんなにお年を召すまで研究に明け暮れて……おいたわしい限りです。
まぁ、単純に相手がいなかっただけかも知れませんが。

「……今、凄く無礼なことを考えなかったか?」

「気のせいです」

「フン……まぁ良かろう。で、例の準備はどうなっておる?」

「……はい、手配は済ませてあります」

「そうか……で、グローシアン共の様子は?」

「一部、ストレスからくる疲れが見えますが、概ね健康の様です……」

「そうか……まぁ、生きてさえおれば良い。どうせ私の為に消え逝く者達だ……私の為に役立つだけ、光栄なことなのだからな。フォフォフォ!!」

……マスターは恐ろしいことを考えている。
それは間違ったこと……そう、人としてやってはいけないこと。

……私は迷っている。

私の中には、マスターを敬愛する気持ちがある。
それは植え付けられたモノかも知れない……だが、それは確かに存在する。

マスターは絶対で、マスターは唯一、マスターは何者よりも正しいと……。

しかし、そんな思考に納得を示さない私が居るのも確か。

感情を覚え、知識を学んだからこそ言える……マスターは間違っていると……。
しかし……私には逆らえない。
逆らえば……私は捨てられる……破棄されてしまう……。
敬愛するマスターに……不要品の烙印を押されてしまう……。

怖い……それがどうしようもなく、怖い……。

「それでは、失礼します」

「うむ」

私はその場を後にした。
……私は……どうすれば良いのだろう……?



その後、ミーシャの感覚を盗み見……もとい、リンクさせたマスターから聞かされた。
明日、シオン達が休暇に来るという……。

私は……聞いてみたいと思った。
あの男なら、どういう答えを出すか。

……そう、会いたいと思ったのだ。
ならば、最高のもてなしをして喜んで貰いたいと思った私は、マスター用の最高級紅茶の使用許可を願い出た。

だが、却下された。

「あの様な愚民にくれてやるなど以っての外!!まぁ、私の飲んだ『出がらし』で良ければくれてやっても構わんがなぁ?フォフォフォフォ!!」

………私はマスターを敬愛しています。
それは間違い無い筈です。
ですが、シオンを馬鹿にされた……その事実にムッ……としてしまいました。
例えるならそう……父親に恋人を認められず罵声を浴びる……という感じでしょうか?
若しくは、恋い焦がれる先輩のことを、父親にくだらないと一蹴された時の気持ち……という感じでしょうか?

恐らくそんな感情が近いのでしょう。

ならば丁度良いです……どのみち、シオンと話す所は見られたくないので……見られたら、破棄されてもおかしくないですし。
私はある計画を実行に移すことにした。

*********

翌日。

私はマスターに紅茶を入れる……その際に砂糖を入れるのも忘れない。
マスターは紅茶好きを気取りながら、砂糖を入れる……。
紅茶好きの教員にそれとなく聞いたら、このクラスの紅茶に砂糖を入れるなど、紅茶を作った人への冒涜……だそうな。
つまりマスターは、高級というだけでこの紅茶を愛飲している甘党なんですね……分かります。

しかし、そこに付け入る隙があります。
私は砂糖に紛れさせ、粉末状の睡眠薬を投入しておいたのです。

マスターとてお忙しい身……四六時中、感覚をリンクしているわけではありません。
マスターは学院長ですので、元来そこまで暇では無いのです。

私自身、感覚をリンクされたら何と無くではありますが、理解出来ます。
本当に何となく……ですが。
なので、今はマスターがリンクしていないということは、分かります。

私は学院長室に足を運ぶ。

「失礼いたします」

「うむ、入りたまえ」

私は許可が降りたので、学院長室に足を踏み入れる。
マスターは書類に目を通していた。

「お茶の時間でございます」

「うむ」

私は一礼して受け付けに戻る……。

……10分後。

バササ……。

学院長室から僅かな音が聞こえる。

「失礼します」

一応、断りを入れてから入室する。

「ぐぅ〜……ぐお〜…」

マスターが机に突っ伏して熟睡している。
この薬は耐性の無い者には強烈な効果があり、半日以上は確実に目覚めない。
無論、マスターに睡眠薬の耐性などあるはずがなく……。

……計算通り……ですね。

私は散らばった書類を拾い集め、それを机の上に置いておき、そのまま退室したのだった――。
……マスターを傷付けることが出来ない……しかし、睡眠戴くのは吝かではない。
普段、お忙しいマスターだ……たまにはご休憩されるのも悪くないでしょう。

「シオン達が来るまで、まだ時間がありますね……グローシアン達の様子を見に行きましょうか」

私はグローシアン達が保護されている、集会所に足を運ぶ。

改めて言うことでも無いが……半数以上が疲弊している。

「あら……秘書さん。こんにちは」

「こんにちは……アイリーンさん、差し入れがきていますよ……ニックさんからです」

彼女の名前はアイリーン……医者をしている者で、日食のグローシアン。
周囲がストレスで参る中、その職業故なのだろう……周囲を励ましたり、具合の悪くなった者の看病をしたりしている。

「まぁ……ニックったら……」

ニックとは彼女の恋人……ほぼ毎日、彼女の様子を伺いに来る。
差し入れを持って。

「……ごめんなさい。本当は恋人とも会いたいのでしょう……それなのにこんな所へ閉じ込める形で」

「そんな……こうして保護して戴けなければ、今頃どうなっていたか……感謝こそすれ、謝られることはありませんわ……ニックには……会いたいですけど、もう少しの我慢ですから」

「…………っ」

そう言って笑みを見せる彼女を見て、私は酷く胸を痛めた……。

本当にこれで良いのか……?
彼女の様な人を……犠牲にして良いのか……?

彼女だけじゃない……此処に居る人々を……。

「……ごめんなさい」

私はもう一度謝罪する……。
真実を言えず、騙し続けていることに……。

……私は……マスターに逆らえない。
私は……捨てられたくない……けれど……。

……私は集会所を出た。


私は……どうしたら……誰か教えて……誰か……。

「……イリスじゃないか?」

「!シオン……」

この男は答えてくれるだろうか……私の靄が掛かったこの気持ちに……明かりを照らしてくれるのだろうか……?

まずは立ち話も何だから、美味しい紅茶をご馳走しよう。
喜んでくれたら、それは嬉しく思えるでしょう……その上で、答えを教えてくれたなら……。

********

オマケ

もしもイリスが……。

『イリスの一番搾り』

私は雑巾を用意する……見るからに汚いそれを、入れた紅茶の上へ持って行き……思い切り搾った。

ピチョン……。

濃縮された一滴が紅茶に落ちた。

「よし」

私は満足気に頷き、それを持って学院長室に足を運んだ。

「失礼いたします」

「うむ、入りたまえ」

許可が降りたので、学院長室に入室する。

「お茶の時間でございます」

「うむ……む!?これは美味い!!ふむ……お前もようやく私の高貴な舌を満足させる腕になったか……まあ、人形にしては及第点だ……褒めてやろう」

「ありがとうございます」

私は内心でほくそ笑むのだった……。
これからも美味しい美味しい紅茶を入れて差し上げますよ……マスター?




[7317] 第98話―護衛とオリビエ湖と悪意の影―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/15 13:31


夢を見ていた。

母さんを襲った仮面の騎士……そいつが大勢の小さい化け物……ユングを連れて湖にやってきた。

この湖は確か……オリビエ湖……だったか?

間違いない……シオンのアジトがこの近くにあった筈だ……。

?……仮面の騎士が辺りの様子を伺う……何かを探しているのか?

すると、何かを見付けたのか……仮面の騎士は岩影に向かった。
……アレは……スイッチ……?

そのスイッチを押した瞬間、湖の一部を光が包み込み……そこから地下へと続く階段が現れた……。

仮面の騎士とユング達は、その階段を使って地下に降りて行った……。


意識が……遠のく……。

………………。

*********

「……ッ!?」

俺はガバッと起き上がる……。

「ハァ……ハァ……」

荒くなった息を抑えながら、周りを見渡すと……皆が集まっていた。

……どうでもいいが、この部屋に全員集合すると、やたらと狭苦しく感じるな……。

「夕べはうなされてたみたいだけど……アンタ、また夢でも見てたんでしょ?」

「ああ……」

俺はティピの問いに素直に頷く。
……何故か、あの仮面の騎士や怪物の夢を見ると妙に疲弊するんだよな……悪夢という程では無い筈なんだが……。

「どんな夢を見たの、お兄ちゃん?」

ルイセが心配そうに聞いて来たので、俺は詳細に答える。

「仮面の騎士がオリビエ湖に……確か、シオンのアジトがある辺りだったな?」

「ああ。歩いて何分と掛からない場所にあるよ」

ウォレスの質問に、シオンが答えている。

「しっかし、わざわざあの小さい化け物……ユングだったか?それを大量に引き連れて……今度は何をやらかそうとしてやがるんだか……」

ゼノスが頭を軽く掻きながら言葉を紡ぐ。
……確かに気になる。
奴らのことだ……何か企んでいるのは間違いないのだろうが……。

「……そういえば、何で皆は俺の部屋に……?」

何時もなら居間に集まる筈……。

「実は、ラルフ君も夢を見たそうでね……それでもしかしたら、カーマイン君も夢を見ているんじゃないか……って」

アリオストが言うには、ラルフも夢を見たそうだ……で、夢の内容を聞いた皆……特にシオンが驚いていたらしい……なんでだ?

「ラルフも同じ夢を……?」

「いや……僕の見た夢はカーマインの見た夢とは違っていた……」

な……に……?
今まで同じ夢を見てきた俺達が……いや、本来それが普通なんだが……。

だが、今までが今までだったから……信じられないな……。

「正確には、全く関係無いってわけじゃ――無いみたいなんだけどね……」

ラルフは俺に、自分が見た夢の内容を詳細に教えてくれた……。

*********


夢を見ていた……。

そこは大きな湖……。
光の玉……グローシュが多く漂う場所……。

この光景……見覚えがある。
間違いない……オリビエ湖だ。
僕達のアジトが近くにあるんだ……間違える筈が無い。

ん……アレは……?

突然、湖の一部が光に包み込まれ、そこから地下へと続く階段が現れる。

そこから現れたのは、あの仮面の騎士……こんな場所で何を……。

「……後はユングどもに任せておいても、問題はあるまい……俺は次の任務に移るか……確か、奴らはローランディアに居るんだったな……」

ローランディア……つまり、狙いは僕達……?
一体何を企んで……。

夢の中で考える……なんて、我ながら器用なことをしていた僕だったが……突然、声が響く。

「へ〜、君がゲヴェルの作った人形かぁ……成る程、よく出来ているなぁ♪」

「誰だっ!?」

姿を現したのはフードを被り、外套を羽織った人物……男性なのか女性なのかは判然としない……。

「何だ貴様は……っ!!」

「貴様……?人形風情がこの僕に向かって貴様……?フフフ、どうやら壊されたいらしい……」

何だ……?
あの人物から感じるのは……狂気……?

「壊すだと……ただの人間風情が……随分と大きく出た物だな」

「………聞いているんだろう?」

!?な……っ!?

「確か……ゲヴェルとはテレパシーか何かで繋がってるんだよね……君達は?」

……なんだ、僕のことじゃないのか……てっきり気付かれたのかと……。
そんなこと……ある筈が無いんだけどね。

「貴様………」

「この人形を壊してからじゃあ、伝わらないだろうから言っておくよ……グローシアンの玩具でしか無かった君……それが人類に対して反乱を起こそうとしている……それは大変素晴らしいことだ。けれど預言しておこう……君の野望は、果てることになると……所詮は中ボスだからねぇ……」

「訳の分からんことを……貴様程度、一撃で殺してやる」

「やれるものならどうぞ♪ただし、僕とやる前に……」

パチン!

そいつは指を鳴らした……すると、現れたのは一人の女性……。
……自分の身体を抑えながら震えている……。

「綺麗でしょう?モブキャラの片割れとは思えないよね?これが良い声で鳴くんだよ……アレの具合も最高だったよ……もう飽きちゃったケドね?クックックッ」

「……人間の……女……?そんな女を出してきて、どうするつもりだ?」

仮面の騎士は嘲笑う様に言う。
確かに、綺麗な人だけど……それだけだ。
夢の中だから、気や魔力は読めないけど……。
彼女はおおよそ戦える人には見えない……。
村娘……それが彼女に対する印象だ。
だが……。

「勿論、戦って貰うのさ……彼女にも勝てない様じゃ、僕と戦う資格は無いからね?まぁ……君ごとき虫ケラが勝てるとは思えないけど」

ソイツはそう言った……一瞬何を言っているのか分からなかった……。
それは仮面の騎士も同じ様で、ポカーンとしていたが……直ぐに気を取り戻した。

「フハハハハハ!!そんな女が俺の相手をするだと!?貴様正気か?言っておくが、俺は相手が女だからとて、容赦はせんぞ?」

「あんなことを言われてるよ?……なら、見せてあげようよ……君の力を」

「!?い、いやっ!!止めて!!お願いしますっ!!!何でもします……だからっ!!!」

必死な……本当に必死な形相の彼女を見て、流石の仮面騎士も困惑気味の様だ……だが。

「何でも……か。でも、残念。君には飽きちゃったんだ。君は新しい生物として生まれ変わったんだ………それは悲しいことじゃなく、光栄なことなんだよ?だから僕の願いは只一つ……」

「いや……嫌ぁ!!消えたくない!!消えたくないぃっ!!?」

「往生際が悪いなぁ……もうアチコチ弄られてるってのにさぁ……もう良いや……逝きなよ♪」

「イヤアアアアァァ゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!!!!」

!?彼女の身体が……変質していく……!?

僕は、その断末魔の悲鳴とも取れる声に、助けに飛び出したい気持ちだった……だが、夢を見ているだけの僕には……助けるどころか、眼を閉じることや、耳を塞ぐことすら出来ない……。

「な……!?」

そこに居たのは……人間では無かった。

服は裂け、露出した肌は肌色だ……しかし、腕は非常識に肥大化し――巨大な鈎爪が伸び……肩からは大きなトゲが突き出し……筋肉が異常に膨れ上がっている。

胸の辺りには宝石が埋め込まれており、それが心臓の様に脈を打っている……。

彼女の顔には無数の血管が走り、白目を向いており……喉からは犬の様な口が生えていた……。

異形……正にそう呼ぶ様な姿……。
これに比べたら、異形の怪物と呼ばれるゲヴェルの方が――まだ造形的にもまともに見える……。

「どうだい?様々なモンスターの因子をブレンドした合成獣(キメラ)は?まだまだ、美しさには欠けるのが難点かなぁ……まるでバイオハザードだよね〜……まぁ、強さは折り紙付きだけど♪」

キメ……ラ?
あのモンスターの……?
いや、違う………アイツは!!

「人間を……改造したとでも言うのか……だが、虚仮威しなど俺には通じんぞ!?」

「そう思うなら、掛かって来なよ……それとも、恐い?」

クスクスと笑うソイツを見て、仮面の騎士は襲い掛かって行った……。

「図に乗るな!!人間がああぁぁぁ!!!」

素早い踏み込みで、ソイツに切り掛かる仮面の騎士……だが、その剣閃を……女性だった異形があっさりと受け止める。

「ば、馬鹿な!?」

「クスクス……馬鹿は君だよ……人形君?」

異形はその爪を振るう……早い……!!

「ごふぁ!!?」

その爪は仮面の騎士に安々と致命傷を与えた……これで終わりだ……そう思っていた……けど。

ブチブチ……ッ!!

「ぐぎゃああああぁぁぁぁぁ!!!?」

異形が……仮面の騎士の腕を引きちぎった……。

「せっかくのゲヴェルの因子だ……溶ける前に取り込むと良い……そうすれば君は、更に強くなれるよ――?」

「お……おのれ……貴様ら、ただで済むと……」

「餌は黙ってなよ……さぁ、僕の愛しい実験体……ご飯の時間だよ」

その喉元から生えた口が、仮面の騎士の顔を食いちぎろうとした瞬間……僕の意識は途絶えた……。

最後に……女性の言葉が聞こえた様な気がした……。


『……助けて……』


……と。

**********

「……これが、僕の見た夢の内容だよ」

「…………何だよそれ………」

カーマインは茫然自失となりながらも、何とかその言葉だけを口にした。

……そうだよね……僕も眼を醒ました時は気分が悪かった……シオンやゼノスさんみたいに言うなら、『胸糞悪い』……という状態だった。

現に、カーマインに聞かせる前に皆に聞かせたら、皆も怒ったり、悲しんだり……怖がったりしたから……。
特にシオンは凄かった……むしろその殺気の方が怖かった……というくらいに。
シオンはそういう、人を玩具にするような人は大嫌いだからね……僕だって嫌いだけど。

今も聞いている皆に良い感情は無い……当然だね……。
僕だって……話しているだけで……『胸糞悪く』なってくるんだから……。

**********


ラルフの見た夢……何度聞いても胸糞悪ぃ話だが……気になるのはソコじゃない。




『中ボス』

『モブキャラ』

『バイオハザード』




ラルフは勿論、他の皆には意味が分からなかった様だ……当たり前か。
この世界にそんな言葉は存在しない……劇場的な意味でモブという言葉はあるかも知れないが……。

………俺はそれらを知っている。

知らない筈が無い……。


この世界を『ゲーム』という形で知っている俺には……。
『モブキャラ』の意味も、ゲヴェルが『中ボス』という意味も……分かっている。
そして『バイオハザード』という『ゲーム』が存在することも……。

これらの言葉から浮かび上がる事実………それは。




俺の他にも、転生者が……いる?




そう、ソコに行き着く……この間の休暇の時も、薄々そんな感じがしていたのだが……。

しかし、青髪の双剣士とは別人だろう……。
直感でしか無いが、ラルフの話だと夢の中のソイツは、人を人とも思わない様な――狂気が滲み出ている様な奴なのだと……。
そんな奴が、のほほんと温泉の名物なんて教えたりするだろうか?

本当に、ただの直感なのだが……。

だが、それ以上に俺は奇妙な類似点を感じた。

――人間を化け物にする。

……俺は以前に、これと似た体験をしたことがなかったか……?

カレンが盗賊に襲われた時だ……。
気絶していた筈の盗賊が、立ち上がって来た時……化け物にこそなってはいなかったが、大幅に強化された戦闘力と、異常な迄の回復力を備えて――立ち上がって来たのだ……。

――あの時俺は……初めて人を手に掛けた……。


操っていた者が居た……。
そして人間だった者達の変質……。

これらは共通してはいないだろうか……?
そう、あの時の魔力の持ち主と、ラルフの夢に出て来たフードを被った人物……。
これらは同一人物ではないか?

……正直、何とも言い難いが。
直感と状況証拠のみで、物的証拠ってモノがない……。
俺の思い過ごしかも知れない……。

だが、これだけは言える……転生者と思われるソイツは………マトモじゃない。
もし、あの時の魔力の主と同一人物ならば…尚更だ。

何か、俺の計り知らぬ場所で……どす黒い何かがうごめいている様な……そんな予感を感じていた……。

***********

その後、俺達は謁見の間へ向かった。
考えていても答えは出ないし、カーマイン達も次の任務を受けなければならないからな。
恐らくオリビエ湖に向かう様になるだろう……。

とは、言え……原作の様に足踏みをすることは無い。
ラルフは俺達の仲間だし、父上とダグラス卿の混成部隊が出撃しているんだ……少なく見積もっても、シュッツベルグよりは先に進んでいる筈……。

「さて、次の任務だが、引き続きゲヴェルの調査を進めるのだ」

「承知いたしました。ゲヴェルに関係あると思われる、オリビエ湖を調査いたします」

アルカディウス王の命に、ウォレスが了解の意を示す。

「オリビエ湖だと?」

「オリビエ湖のそばに怪物たちがいる夢を、コイツが見たの」

王の疑問に、ティピが簡潔に答える。
ちなみに、ラルフの見た夢に関しては報告しない。
まだ、何とも言えない状況だし、不安を煽るだけだろうからな……。

「ついでと言っては何だが、お前達に頼みがある……オリビエ湖に行くというなら丁度良い」

「はっ、なんなりと」

王の言に、ゼノスが了解の意を示した。

王が言うには、北のシュテーム山沿いに街道が完成したらしく、父上とダグラス卿の混成部隊に援軍と補給物資を送ることにしたのだという。


部隊を率いるのはベルナード将軍。


ローランディアでは、ブロンソン将軍に次ぐ能力の持ち主だ。

だが、その部隊も立ち往生をしているらしい。

というのも、街道からオリビエ湖の間辺りに必ずモンスターが現れ……的確に部隊の妨害をすると言うのだ。
まるで、誰かに統率されている様に……って、十中八九モンスター使いの仕業だな。

「そこで、お前達には道中、部隊の護衛を頼みたい……もっとも、これはついでの任務なので、オリビエ湖まで来たら、ゲヴェルの調査に戻ってくれて構わない」

ということらしい。

それに了承した俺達は、早速北の街道に向かった……そこで将軍率いる部隊と待ち合わせをしているのだ。
しかし……援軍に向かうということは戦闘に長けた兵が回される筈……モンスター相手に遅れを取るモノだろうか?

などと考えていると……。

「ねぇ、シオン……必ずモンスターに妨害される……って、私……心当たりがあるんだけど……」

「モンスター使い……だろう?確か、シャドー・ナイツにも一人いるんだよな?」

「ええ……ヒステリックで陰険な奴が一人……ね。性格は褒められたモノじゃないけど、モンスターを操る腕前だけは確かよ」

道中、リビエラに声を掛けられ、モンスター使いについて話し合った。
まず間違いなく、原作に出て来たモンスター使いだろうな……。

そうこうする内に、待ち合わせ場所に到着する。

「おお、来てくれたか」

出迎えてくれたのは銅色をした鎧を身に纏った男性……鎧のデザインはブロンソン将軍と大差ない。
この人がベルナード将軍か……若いな。
ブロンソン将軍と比べたら……という意味だが。

「私はこの部隊を指揮するベルナードだ」

「カーマインです」

二人は軽く握手をする。

「我が国の騎士殿達の噂は聞き及んでいるよ……護衛の件、心強く思う」

「そんな大層なモノでもありませんが……それより、援軍と聞いていましたが……」

褒められたのが恥ずかしいのか、ゼノスは軽く頭を掻いた。
その上で辺りを見渡した……まあ、援軍にしては少ないよな。
千どころか百にも満たないんじゃないか?

「我々は先遣隊だ。我々が道中の安全を確保した後、後続部隊が次々と送られることになっている……狭い街道で下手に固まって進軍しては、モンスターの餌食になってしまう……だから、小数ずつ進軍し、一度合流してから全軍で増援に向かうという手筈になっているんだ」

成程な……補給物資もある以上、安全確保は必要不可欠。
一塊になっていては、狭い街道では身動きが取れず、モンスター達の恰好の獲物になってしまう……か。
だが……。

「けど、将軍が先遣隊に混じって、もし将軍がやられちゃったら、みんな困っちゃうんじゃない?」

そう、ミーシャの言う通り……こういう戦では、旗印がやられれば一気に士気はがた落ちしてしまう。
そうなれば敗色は濃厚となる……。

「……既に幾度も先遣隊を送ったが、ことごとく潰されて来た……ならば私自らが前線に立って、安全を確保する……それが出来れば、再び士気も高まるだろう」

背水の陣……とでも言うのだろうか?
……いや、それだけの覚悟があるってことか。

「わかりました。部隊の護衛、勤めさせていただきます」

「うむ……感謝する。では、早速出発しよう。離れないでついてきてくれ」

カーマインのその台詞に、満足気に頷くベルナード将軍。
そして、俺達は部隊を護衛しながら進んで行った。

その道中……。


ザアァァァ………。

「!むぅ……」

「どうしたの、ティピ?」

なにやらティピが難しい顔をしている。
それに首を傾げながら尋ねたルイセ。

「ちょっと、風が強くて……飛ぶのが疲れるぅ……」

「大丈夫か……無理はするなよ?」

へばりそうになるティピをカーマインが気遣う。
ティピは「うん、ありがとう」と、素直にお礼を言いつつ、へっちゃらって顔をしているが……。

「なんなら俺の肩にでも掴まってるか?」

カーマインが言わなかったので、俺は親切心からそう言ったんだが……。

「う、うん……ありがとう、シオンさん。これ以上、風が強くなったらそうさせてもらうね?」

……アレ?
なんか、原作カーマインの時と微妙に反応違くない?
顔を赤くしている部分は同じだが……。

……いや、カレンにリビエラ……またか……って眼で見ないで!?
俺のピュアハートがブロウクンしちゃうから!?

しかも、冷たい眼差しじゃなく、暖かい瞳で見てくるのが逆に痛い!?
違う……違うんだからねっ!?
お願いだから悪巧みしないようにっ。
オッサン、もうお腹一杯ですっ!!
けど、また誰かに本気で好かれたら……まぁ、俺なんかを『好き』になる物好きはそう居ないだろうけど……。

「それにしても、何だか嫌な風だな……」

「まるで山が風を吹かせているみたいだろ?そのせいであの山はシュテーム山と名付けられたんだ」

ウォレスの独り言に答えてくれたのが、ベルナード将軍だ。
成程、分かりやすいネーミングだな……っと、どうやらお客さんが来たみたいだな。

「シオン……」

「ああ……分かってる」

ラルフも気付いたみたいだな……。
俺達が臨戦体勢を取るのを見て、他の皆も戦闘準備を整えた。

「一体、どうしたんだ……?」

ベルナード将軍以下、兵士の皆さんは気付かないご様子……だから、俺は言う。

「早速、来たみたいですよ……モンスターが」

「なに!?」

ベルナード将軍の声を皮切りに、モンスターがゾロゾロとやって来た。

リザードマンの上位種であるリザードマンロード。

小型の翼竜……エリックの相棒、レブナントより小さい……人間と同サイズの飛竜。

そして、獅子の体と、人間の顔と蝙蝠の羽……そして蠍の尾を持つ魔獣……マンティコア。

10……20……30……37匹か。

「こりゃあまた、団体さんで……っと!!」

俺は全力メンチビームを放つ……が、僅かな反応こそあったが、微動だにしない。
……分かっては居たが、これで確定だな。

コイツらは操られている。

「よし、行くぞ皆!」

カーマインの指示と共に、俺達はやるべきことをする。

俺、カーマイン、ラルフ、ゼノスは前線に切り込み……ルイセ、ミーシャ、カレン、リビエラ、アリオストは魔法にて援護……ウォレスは遊撃手として、攻撃に護衛に……と、忙しかった。

「はっ!!」

ドガァン!!

「GUGYAAAAAA!!?」

アリオストの特殊爆薬、『ニトレイト』が炸裂し、翼竜にトドメを刺してこの戦いは終了した。

『ニトレイト』は、僅かな衝撃を与えただけで爆発するという、危険性の高い液体を、おがくずに染み込ませて作った爆薬だ。
従来の爆薬より制作工程も簡単なため、容易に扱うことが可能である。
威力も現代の手榴弾以上のモノがあり、中々に侮れない。

「もういないみたいだね」

「ああ。それにしても、何故モンスターは襲ってくるんだ?」

「……何でだろ?」

モンスターがいなくなったことに、ホッとしているティピ。
また、ウォレスは何故モンスターが襲ってくるか、疑問に思ったようだ。
ルイセは考えても気付かなかったが……。

「シオン……これってやっぱり……」

「だろうな……」

リビエラが俺に問う……もう、疑う余地は無い。

「それで、どうする?」

「決まってるだろ?」

ラルフの問いに、俺は答えを返す……。

「シオンさん……どうしたんですか?」

カレンが聞いてきたので、丁度良いと悟った俺は皆に言う。

「皆……俺達はシュテーム山に向かおうと思う」

「シオン君……突然何を言い出すんだい?」

「そうだ。君達は我々の護衛をする為、此処にいるんじゃないのか?何故、山に向かうんだ?」

困惑して答えるアリオスト……そしてベルナード将軍。
そんな皆に分かりやすく説明する。

「あの山に……敵がいるからだ」

「敵……敵がいるのか……?」

俺の言葉に、辺りを見回すカーマイン。

「まぁ……皆はまだ、気を読むことをマスターした訳じゃないから、分からないだろうけどな……ウォレスなら分かるんじゃないか……この匂いは」

「匂いだって…………っ、これは!?」

やはり、ウォレスは気付いたか……。

「風に乗って流れてくるこの匂い……といっても、普通の人間にわかる匂いじゃねぇが、俺みたいに目の不自由な奴なら多少わかるんだ……この匂いは以前に嗅いだことがある……モンスターを操る時に使う粉の匂いだ……」

「それじゃ、モンスターが暴れるっていうのは……」

「モンスター使いが、俺たちの邪魔をしている……って訳かよ」

流石はウォレス……この微かな匂いを嗅ぎ取るなんてな……。
俺?俺はホラ……チート野郎だし。
気も読めるしな?

ティピもゼノスも、全てのカラクリを理解した様だ。
そこで俺は事情を説明する……リビエラからの情報で、シャドー・ナイトの中にモンスター使いがいることを。

「事情は分かったよ……けれど、僕たちがその敵を倒しに行っている間に、本隊が襲われる可能性もある訳だ……ここは、二手に別れるべきかな?」

アリオストの提案に頷く俺……。
原作では、護衛ほったらかしで討伐に向かえたが、考えてみればこれは結構危ない。
モンスター使いを倒しに向かう間に、護衛対象がモンスターに襲われる可能性がある。

何より、この世界は『現実』なんだ……ならばこそ、楽観的には考えられない……。

話し合いの結果、モンスター使い討伐には俺、ラルフ、ゼノス、リビエラ、カレンという面子になり、護衛にはカーマイン、ルイセ、ウォレス、ミーシャ、アリオストの構成になった。
10人ピッタリだったから丁度良かったぜ。

「じゃあ行ってくる……後で落ち合おうぜ?」

「分かった……気をつけてな」

そう言って俺達はシュテーム山に向かって行った……。

*********

シュテーム山山頂。

「くっくっくっ!さぁ、私の可愛いモンスター達よ!もう一働きしておくれ!」

そう言いながら粉を風に乗せる男……。
後ろにはシャドー・ナイトが数名控えている。
成程、リアルで見るのは初めてだが、リビエラの言う様に中々陰険……というより、根暗そうだ。

「まちやがれっ!!」

「!?何だ、お前たちは!」

ゼノスの声に反応してこちらを見遣るモンスター使いの男……。

「お前がモンスターを操って、先遣隊を襲わせていることは分かっている……つまりお前をどうにかしちまえば、モンスターの襲撃はなくなるって寸法だ」

俺がそう告げると、モンスター使いの男は苦虫を噛み潰した様な顔をして言う。

「ええい、見られたからには生かしてはおけませんね!シャドー・ナイトの私にたてついたことを後悔させてやるっ!」

「ふん、偉そうに……あんたなんか、モンスターが使えるだけのひ弱君のくせに……」

「!お前は……リビエラ!?おのれ、裏切り者が私を馬鹿にするのですか!?」

「おあいにくさま!私は馬鹿になんかしてないわ……ただ、あんたのその陰険なところは、ガムランの次に大嫌いってだけよっ!!」

……どうやら、リビエラの情報は幾らか漏れていたみたいだな……。
まぁ、当然か……シャドー・ナイトとは何回か接触しているんだ……バレない方が不思議……か。
というか……。

「大体、あんたはオリビア姉さんにしつこく付き纏って!!」

「何を言うのです!!貴女が邪魔しなければ、彼女は私に靡いた筈なのですっ!!」

「そんな勘違いばかりしてるから、友達すら出来ないのよ!!姉さんにはもう、相手が居たんだからねっ!!」

「いますよ友達!!私にはラファガという、唯一無二の友達がいます!!例え、相手がいても私の魅力で……」

……あ〜〜、うん……何と言うか……。

「仲良いなお前ら……」

「「仲良くないっ!!」」

仲良いだろ………ほら、見ろ……みんな眼が点になってるじゃんよ。
ゼノス、カレン、ラルフは言うに及ばず……シャドー・ナイトの皆様まで……。
なんか、黒いトンボやカラスが飛んできそうな気配だよ……。

「ご、誤解しないでよシオン!!私、こんなのとは何の関係も無いんだから!!」

「こ、こんなの!?」

リビエラはモンスター使いの男を指して、こんなの扱い。
いや、そこまで飛躍せんでも……そこまでは考えてないって。

「此処まで虚仮にされるとは……かつての同朋とは言え、許せませんよっ!どちらにしろ、裏切り者には死あるのみですっ!!」

あ〜……今更そんな意気込みをされてもなぁ……とは、思うが――やるしかないよな。
リビエラを殺らせるつもりなんて――毛頭ないんだからな……。

シャドー・ナイト達も臨戦体勢を整えていたが……。

メンチビーム……そぉい!!


「「「「ぐほああぁあぁぁ!!?」」」」


バタバタバタバタッ!!!

――全員気絶。

「あ、呆気ねぇ……」

ゼノスが呆然とそんなことを言う。
まぁ、仕方ないだろう……結構力を入れた気当たりだったし……。
むしろ耐えられる奴の方が凄いんだからさ。

「よし、こいつらをふん縛っちまおう」

「そうだね……暴れられた揚句に自害でもされたら厄介だし……」

「うん、分かったわ」

俺とラルフとリビエラは、久々に登場となる俺の魔導具……『緊縛君一号』にて縛り上げる。
さるぐつわを噛ませるのも忘れない。

「改めて言うことじゃねぇが……お前ら手慣れてるな?」

「こんなこと、日常茶飯事でしたから……」

ゼノスの質問にアッサリと返すラルフ。
本来ならコレに、『衣服の剥ぎ取り』という工程が着いてきますが――。


って……またカレンがイヤンイヤンってしてる……いつぞやと違い、その理由にも察しはつくが……敢えて言う。

「そんなに羨ましいのか?」

「!?そそそそんなこと無いですっ!?」

何かミーシャみたいだな……とは言わない。
言ったらショックがデカ過ぎるだろうからな……。

「シオンが……私に……あぁ、そんな……♪」

って、リビエラも妄想に走らない!!

顔が真っ赤だからまる分かりだっての。

「シオン、顔が赤いけど……大丈夫かい?」

「あ、ああ……大丈夫大丈夫」

……ハイ、俺も人のこと言えませんゴメンなさい。

よし、このモンスター使いを縛り上げて……っと……む?

何かが猛スピードで突っ込んで来る……。

「クワアアアァァァァ!!!」

それは人一人を背負える処か、乗せることすら可能と思われる位に巨大な――大鷲だった……確か、ラファガだっけ?

そいつは俺に向かい突撃を仕掛け……。

ガッ!!

……て来たので、くちばしの先端を指で摘んで止めた。

「……焼鳥にするぞ、コラ?」

「っ!!!??」

強めのメンチビームと共にそう告げてやると、大鷲はガタガタと震えだした……。
そして羽根を畳み、地に降りて更に震え出した。

俺は指を離してやり、大鷲と視線を合わす。

「……成程、視線を逸らさないか」

俺はモンスター使いの男を担ぎ、ラファガの背中に乗せた。

「なんの……つもりで……す……」

「おや、お目覚めかい?何、その大鷲の根性に免じて、今回は見逃してやろうってのさ」

「!おい、シオン……正気か!?コイツはシャドー・ナイトなんだぞ!!」

ゼノスが騒いでいるが、聞こえないフリでござる。

「ただし……次は無い。次に俺達の邪魔をする様なら……容赦はしない」

「ぐ……くっくっくっ……その甘さ……命取りになりますよ……私に情けを掛けたこと……後悔させてあげますよ……」

その言葉を残し、大鷲に乗ったモンスター使いは逃げて行った……。
さて……。

「おい……どういうつもりだ?アイツもあのエリックとか言うモンスター使いみたいに、心を入れ換える……なんて思ってんじゃないだろうな……?」

「……残念だけどそれは無いわ。アイツはとことん陰険な奴なんだから……幾らシオンが助けたって、侮辱された……くらいにしか思っていないわよ?」

ゼノスとリビエラが何かを言っているが……二人とも、何か勘違いしていないか?

「だろうなぁ……見たら分かる。というか、俺は見逃すとは言ったが、許すとは一言も言っていないんだぞ?」

「へ……?」

「どういう……こと?」

「……つまり、シオンはあのモンスター使いを敢えて泳がせた……ってわけだよね?」

「流石はラルフ……俺の相棒なだけはあるぜ」

「つまり……どういうことなんですか?」

ゼノス、リビエラは俺の言葉に戸惑いを隠せない……しかし、ラルフは理解したらしく、噛み砕いて説明してくれた。
だが、カレンもよく分かっていない様子だった。

なので、少し詳しく説明してやる。

今更だが、俺は気が読める。
それこそ、この星の裏側だろうと直ぐに探知出来る。
また、個人の気を感じ分けることも当然出来る……少なくとも、一度覚えた気の持ち主は絶対に忘れない。
それは魔力にも同じことが言える……。

「つまり、わざと泳がせて、アジトを特定しようってのか?」

「まぁ、隠れ家の一つくらいはハッキリするだろう……そう思ってな?」

奴が逃げ帰るのは、恐らく隠れ家の内の一つ……それも、元シャドー・ナイトであるリビエラに悟られない様な場所……。
リビエラは本人いわく、下っ端構成員だったらしく、リビエラも知らない様なアジトが結構あるのだとか……。

なら、その場所を暴いておくのも悪くないかな……ってな?
あわよくばブッ潰しておこうかな……と。
まぁ……あの大鷲の根性に免じた……というのも確かだし、リビエラとモンスター使いの口喧嘩に戦る気が削がれた……というのも本当の話だけど。

「シオンの考えは分かったわ……けど、どうやってその場所まで行くの?私に分からない場所なら、案内のしようが無いし……」

「……そうか!あの魔法を使うんですね?」

不安げに言うリビエラだが、カレンが気付いた。
まぁ、カレンとラルフしか知らないんだから、当然と言えば当然か。

「あの魔法……?」

「詳しいことは後で話すさ……それよか、カーマイン達に合流しようぜ?」

まぁ、モンスター使いも退けたし……向こうは何の問題も無いとは思うが……原作で顔を出して来たグレンガルが出てこないのが気になる。

まぁ、単純に懲りた……ということは有り得ないな。
あの金の亡者に限って……。
―――ってか、カーマイン達の居る方からグレンガルの気を感じるし……カーマイン達のことだから、心配はしてないが……。

「ところで……あのモンスター使いを野放しにしてたら、また妨害して来るんじゃねぇか?」

「心配しなくても、しばらくは大人しくしているよ……こんなこともあろうかと……ってな。いや〜、ご都合主義って素晴らしい♪」

「な、何をしやがったんだコイツ……」

「ははは……シオン……凄い笑顔だね……」

**********


くっくっくっ……リビエラめぇ……この私を虚仮にした恨み……。
そして、あの男……私を侮ったことを後悔させてやるぅ!!

「にしても……この縄……中々解けない……それどころか、どんどんキツクなるような…………………マズイ、トイレに行きたくなってきた……む?何だコレは……」

ふと気付いたら、ラファガの首筋辺りに何かが書かれた紙が貼られていた。
『あほ〜がみ〜る〜〜♪』

……な。

「何なんですかコレわアアァァァァァ!!」

ギュムッ!!

「はうっ!!?また……縄が……!!」

『もう気付いたかも知れないが、その縄は魔導具で……暴れれば暴れるほど適度に、そして的確に締まる仕様です。これを外すには手順通りに外さなきゃ外せない』

(※本来は何か刃物で切るだけでも外れます)

「何だって……は、外す手順は……」

『外す手順……?そんな物を貴様に教えるとでも……フッ……理想を抱いて溺死しろ』

「ふ、ふざけ……はぅ!?」

は、腹にも……縄が……!?

『とは言え、それではあまりに不憫だからな……特別に教えてやろう。奇声を発しながら、自分の恥ずかしい過去を暴露するのだ……そうすれば縄は緩む。まぁ、信じる信じないは君の自由だがね……』

「こんなことが信じられるモノか!!私はシャドー・ナイトだ……こんな謀には………うぐぅ!?」

マズイ……もう便意が……。

「ラ、ラファガ……一旦降りて……そこの林で良いですから……」

私はラファガに頼み、着地してもらう。

………このままでは、私は色々と何かを捨ててしまう……シャドー・ナイトになった時、色々なモノを捨てましたが……この一線すらも捨ててしまったら…………。

……………。

…………。

………。

……。

…。

「キエェーーーーーーッ!!私はぁ!!同じ人を想い続けぇ!!幾度と無く告白したが振られ続けぇ!!何度も枕を濡らしマシタァ!!!!」

…………シーーン………。

「な、何故ですっ!?言われた通りにしたのに………ん、小さく続きが……」

『まさかと思うが……実行してしまった君へ……。君は馬鹿か?いや、こういう場合は痛い子……とでも言えば良いのかな……その純粋さは評価に値するが……裏工作部隊が、それじゃあイカンと思うんだが……うん、ドンマイ』

「……計ったな……この私を……うぐぅ……もう限か」

**********

その後、彼がどうなったかは、彼の名誉の為に伏せておこう……だが、彼はしばらく再起不能となり、彼の友もまた、計り知れないダメージを受けた。
しかし、彼は誓った……絶対に復讐してやる……と。

ちなみに縄はアジトで仲間が切ってくれました……鼻を摘みながらですが。

**********


シオン達が山に向かって直ぐ……アリオストの予想通り、モンスターが襲って来た。
だが、それは直ぐに動きを止め……森の中へ散って行った。

恐らく、シオン達が上手くやったんだと思う。

しかし、モンスターがいなくなったのもつかの間……。

「アンタは!?」

「グレンガル様だ……そろそろ覚えてくれても良いだろう?」

そう、あのグレンガルとか言う奴が部下を引き連れ、襲い掛かって来た……。

「ちっ……こんな時に」

「お前らを援軍に行かせる訳にはいかんのでな……悪いが、死んでもらうぞ」

ウォレスが舌打ちをする……グレンガルはその様子を見るなり、俺らに死の宣告を告げる……しかし、随分と自信満々だな……。

「幸い、あの銀髪野郎はいないみたいだしな……俺様にも運が巡って来たってことだな……野郎ども、やっちまえ!!」

「「「へいっ」」」

連中がこちらに向かってくる……。
シオン達がいないからと、甘く見ている様だが……その採算は合わないということを教えてやる……。

「皆、ベルナード将軍がやられたら終わりだ……絶対に将軍は守るんだ!!」

「任せて下さい、お兄さま!!」

「なんとか、やってみせるさ」

意気込みたっぷりのミーシャと、余裕を持たせて受け答えするアリオスト。
全く、頼もしい限りだよ……。

「我々はどう動けば良い?」

ベルナード将軍と兵士達か……。

「では、襲って来る敵のみを各個撃破していただけますか?」

下手に動かれては守りづらくなる……かと言って、せっかくの兵力だ……使わない手は無い。

「了解した」

「俺とウォレスが切り込む……ルイセ達は援護に回ってくれ!」

「うん、任せてお兄ちゃん!」

「よぉし……いっけぇーーっ!!」

ティピの号令を皮切りに、俺達も敵に向かい駆け出した……。
敵の数は2、30人と言ったところ……個々の実力差を考えても、油断しなければ、負ける相手じゃない!

「死ねぇえ!!」

最前線を駆ける俺に、賊の一人が切り掛かってくる……俺は妖魔刀でそれを受け流し、返す刃で切り捨てる。

「ぐはっ!?」

「野郎!!」

俺は止まらない……近くにいた一人が、反応する前に刀を突き刺す。
刀を抜き去り、襲い掛かって来た奴を袈裟掛けに切り落とす……同時に切り掛かってきた奴は、蹴り飛ばす。

ズシュ……。

「寒い……」

ドシャ……。

これで……10人。

「どりゃああぁぁ!!!」

「ぐはあああぁぁぁ!!?」

ウォレスもその特殊投擲剣を駆使し、投げ付け、切り裂き、振り回していた……。

既に7人は片付けている……。

「これが私の力よ!マジックガトリング!!」

ドガガガガガガガガガガガッ!!!!

「「「「ぐわああぁぁぁぁぁぁ!!?」

「ちゃんと制御出来ますよ〜にっ!マジックフェアリー!!」

ズドン、ズドン、ズドンッ!!

「ぎゃっ……」

「嘘……だろ?」

「これで……終わりかよ……?」

ドサササッ……。

「魔力よ……っ!!ブリザード!!」

「「「がああぁぁぁぁ!!?」」」

ルイセとミーシャ……それにアリオストも頑張っている。
おかげで、見る見るうちに敵の数は減って行った。

「ば……馬鹿な。チッ……計算違いだったか。後は任せる!」

「また逃げられちゃった……」

ティピが言う様に、グレンガルには逃げられた……だが、追うわけにもいかない。
今は敵を倒すことに集中しないと……!!


それから十数分後……全ての敵を倒し、退けた。
逃げる者は追わなかった……俺達の目的は部隊の護衛であり、賊を駆逐することじゃないからな……。

「もう敵はいないみたいだね」

「ご無事ですか、将軍?」

周囲を確認したティピと、将軍達の安否を気遣うルイセ。

「ああ、軽い負傷者こそ出たが……君達のおかげで、一人も欠けてはいない」

「よかったぁ……」

ベルナード将軍の報告を受け、安堵の息を漏らすミーシャ。
確かに、これで犠牲が大きかったりしたら、目も当てられない。

「しかし……あの男の目的は何なんだ?」

「援軍に行かせる訳にはいかない……と、言っていましたが……」

ウォレスとアリオストが、グレンガルの目的について考察するが……ここに突っ立っていても埒があかない。

「とりあえず、進軍を再開しよう……シオン達とも合流したいし……」

「そうね、そうしましょう」

こうして、俺達は先に進む……。
案の定と言うか、モンスターに襲われることも無く、開けた場所まで来られた。

後はここでシオン達を待つだけ……か。

**********


俺達が先に進むと開けた場所に出た。
成程……原作ではここがベルナード将軍率いる部隊の野営地になる場所なわけか……。

っと、アレに見えるはカーマインチームじゃありませんか。

「よお、先に着いていたか」

「ああ……妨害はあったが……何とかな」

「妨害……ですか?」

俺が声を掛けると、カーマインが答えてくれた。
カーマインの言葉に首を傾げるカレン。

「実はね……」

ティピが話して聞かせてくれる……。
グレンガルが妨害に来たらしい。
もっとも、難無く撃退したらしいが……。

「成程な……まぁ、今のお前らなら心配することもねぇよな……コッチはつまらなかったぜ?シオンの睨み一発で決まりだからな……」

そう言い放つゼノス。
まぁ、歯ごたえが無かったのは事実。

俺達も事情を詳しく説明する……シュテーム山に陣取っていたモンスター使い……コレはシャドー・ナイトであったこと。
モンスター使いは逃がしたが、それは敵のアジトの一つを特定する為だと言うこと。
そして、俺の新型テレポート……瞬転の説明。

「成る程……それは面白い理論だね。目的地をイメージするのでは無く、対象の魔力波動や、気……だっけ?それを道標にしてテレポートする……か」

「で、その魔法は成功したのか?」

アリオストは瞬転の理論に感心している様だ。

そんな中、疑問を浮かべたのがウォレスだ。

「多分、成功したんだと思いますよ……この魔法が完成した時に、シオン……僕の部屋にいきなり現れましたから……びっくりしましたよ」

ラルフがそう言うが……仕方ないだろ?
手近で試せる相手がラルフだけだったんだから……。
何度も言うが、女性陣相手に試して、イヤンなタイミングに転移したらアカンやろ?

「まぁ、コレに関しては……ご披露する時もあるだろうから、今は置いておいて……」

俺はカーマインに視線を向ける。
カーマインも俺の言いたいことを理解したのだろう……。
ベルナード将軍を見遣る。

「では将軍、我々はこれで失礼します」

「うむ、我々は後続の部隊を待ち、合流してから再び進軍を開始する……ご苦労だったな」

これでオリビエ湖の調査に行けるって訳だな。
原作ではモンスター使いの情報を元に、ベルナード将軍が襲撃を受けていたが……あれは敵バーンシュタイン軍が近場に居た為、本隊を離れ、小数が迂回して来たからに外ならない。

つまり、大分先まで軍勢が押しやられている以上、少なくともこの陣地に襲撃を仕掛けてくることは無い……ってこと。

まぁ、シャドー・ナイトが国内に入り込んでいた以上、油断は出来ないんだが……。
とは言え、後続部隊が来るまで、四六時中護衛に張り付く訳にもいかない……か。

ここは、あのモンスター使いが自滅したことを祈ろう……。
まぁ、リビエラを手に掛けようとしたんだ……アレくらいの嫌がらせで済んだことを感謝して欲しいのう……。

とは言え、しっかり用心深いならあんな戯言には引っ掛からないだろうけどな。

ベルナード将軍に軽く挨拶をした後、俺達は一路オリビエ湖に向かって行った……。

ちなみに歩いて。
此処からなら、たいした距離じゃないからな。

そうこうする内にオリビエ湖に到着。

「着いたな……」

「グローシュがいっぱい飛んでるね。この辺りには送魔線がないんだ……」

カーマインが到着したことを口にし、ルイセは送魔線が無いことに、軽いカルチャーショックみたいなモノを受けているみたいだった。

「そう言えば、シオン君の隠れ家にも送魔線は無かったね」

「ん?いや、一応あるんだぞ?屋敷の角にデカいのが一本づつな……単に分かりにくくなってるだけ」

あの屋敷を作った人は、屋敷から見える景観を――或いは屋敷その物の景観を損ねたく無い――とでも思ったのかも知れない……。
単に集魔柱が今より大型だったせいかも知れんが……文字通りの送魔線が主流だった時代……集魔柱はマイナーな装置だったんだろうしな。

「ねぇ、二人が夢で見た場所って、ここなの?」

「ああ……此処で間違いない」

「うん、僕が見た夢の場所も、此処だよ」

ティピの質問にカーマインとラルフが答える。
なら、間違いなく此処なんだろう。

「それじゃ、ここに手がかりがあるんだね!」

「早速、夢で見た怪しい場所に案内してよ」

「分かった……皆、そこで待っててくれ」

手掛かりを掴めるだろうことに、喜びを表すルイセ。

ティピに頼まれ、岩影に向かったカーマイン。

カチリ。

そんな音がしたかと思うと……突然、湖の水の一部が引き……そこに光の柱が立つ。
やがて光が収まったそこには、地下へと続く階段が現れた……。

「ここがお兄ちゃんたちの言ってた入り口?」

「ああ……」

「とにかく、入ってみようぜ」

ゼノスの提案に頷いた俺達は、地下へと歩を進めた。
そこには広大な洞窟が広がっていた……。

「湖の下にこんな洞窟があったなんて……自然の力ってすごいね……」

「自然の力に比べたら、私たち人間の存在なんて、小さなものなのかも知れませんね」

ルイセとカレンは、この空洞が自然に出来た物だと言うが……。

「確かに凄いよな……本当に自然に出来ただけのモノなら……な」

「それって、どういうこと?」

俺の言葉に、ミーシャが首を傾げたので、懇切丁寧に説明せねばなるまい。

「少し考えれば分かることだが……何故、自然に出来た洞窟なのに、入口にあんなスイッチがある?」

「あ……そっかぁ」

「それに、この階段もそうだ……自然に出来たモノなら、こんなに規則正しく段々になる筈が無いんだ」

「言われてみれば……そうよね」

俺の言葉に頷くミーシャ。
リビエラも納得顔で頷いている。

「つまり、この洞窟は誰かに造られたと……そう言いたいわけか?」

「洞窟を掘ったのか、元からあった洞窟に手を加えただけなのか……その辺は何とも言えないが……ただ、人の手が入っているのは確かだ」

「成る程……そうなると、この奥に何かある可能性は高いね……こういう洞窟に人の手が加わっている場合、何かを隠している場合が多い」

ウォレスの意見に答える俺。
ラルフも俺とトレジャーハントをしていた時期があったから、こういう場合の傾向と対策には敏感だったりする。

「こうやって入口を隠している場合……結構厄介なトラップがあったりするから……気をつけて進む様にしよう」

「トトト、トラップぅ〜〜!?」

「分かった……注意して進もう」

ラルフの忠告に動揺を隠せないティピ。
カーマインは素直に頷いていた。
まぁ、俺はトラップに関してはそんなに心配していない。
もし、原作通りにグローシアン遺跡と繋がっているなら…な。

案の定、トラップの類は無かった………だが。

「何だ……コレは……」

「ひいぃぃ〜!?ななななにコレェ〜〜!?」

そこには何かの液体が散乱していた……。
その何かの正体もハッキリする……。

「コレ……ユングだ!」

そう、液体の正体はユングだった。
どうやら、ユングは死後時間が経つと、溶けてしまう様に出来ているらしい。
死体の中に、完全に溶けていない奴がいたから判別出来た……。

「コイツら、カーマインの夢に出て来た奴らだろ……何でこんなところでくたばってやがる?」

ゼノスの疑問に答えられる者は居なかった……いや、俺はおおよその検討はついている……。
恐らく、ラルフも……。

「……シオン……コレは……」

「まだ確信は持てないが……多分ラルフの想像通りだろう……この先に気を感じる」

「二人とも、何の話をしてるんだ……?」

俺とラルフが頷きあったのを見て、カーマインが尋ねてきた……。

「皆も覚えているだろう……今朝、ラルフから聞いた夢の話を……」

「ああ……あの夢がどうかしたのか?」

「……恐らく、居る」

「居るって……ラルフの夢に出て来たフードの男?」

夢の話を持ち出した俺に、疑問をぶつけるゼノス。

ラルフの意見にリビエラが返す。

「……多分、違うと思う」

「何故分かる……?」

俺が違うと言った意味を問うウォレス。
そう言われても、以前感じた気とは違うから……と言うのが1番の理由なんだが……。

まあ、あの時の魔力の主と同一人物とは限らないから……確かなことは言えんが……。

「何と言うか……気が『歪』なんだよな……普通、どんな生き物でも気の流れってのがあって、それは一定の筈なんだ……だが、この先から感じる気の持ち主は、流れが目茶苦茶なんだよ……激流かと思えば緩やかだったり……」

「そ、それじゃあ……まさか、怪物になった女の人……?」

「それは……行ってみなきゃ分からないな」

ルイセがカタカタ震えているが……こればかりは先に進んでみないことにはな……。

俺達は歩を進めた……道中、無数のユングの死骸を目にしながら……。

そして、開けた場所に出た俺達が見たモノは……。

ガッ……ガシュ……ズチュ……ムシャ……ゴリッ……。

ビクビクと痙攣するユングを喰らう……。

「ひっ……!?」

化け物の姿だった……。

『AA……GYU……AAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!』

その姿を見て、ルイセから小さな悲鳴が漏れた……それもその筈。
その様は正にバイオハザード……。
凶々しく、おぞましく……恐怖感を与えるそれは、常人なら吐き気を催してもおかしくは無い。

強いてバイオハザードシリーズから例を上げるなら、追跡者+ハンター+リサ……と言った姿か。
正直、おぞましいことこの上無いが……聞こえちまったからな。

『助けて……死なせて……』

そう言う『彼女』の――無念と怨嗟が混じった様な声が……。
なら……俺のやることは決まっている。

俺は愛剣リーヴェイグを抜き放つ。

今の俺に出来るのは――彼女の望みを叶えてやることだけ――。

せめて、苦しまない様、一思いに―――。

「待ってくれシオン……」

「ラルフ……」

ラルフが俺の前に立つ。

「彼女とは……僕が戦う。皆も手は出さないで欲しい」

「そんな、ラルフさん……!」

「一人で何て無茶だよ!!」

「そうだぜ……ここは……」

「助けて……って、言ったんです」

一人で戦おうとするラルフ……それを止めようとする、カレン、ティピ、ゼノス……。
しかし、ラルフは譲らない。

「見ず知らずの相手です……けど、夢で助けてって……声を聞いたんです。……僕にはどうすることも出来なかった……だからせめて……」

ラルフはレーヴァテインを腰から抜き放つ。

「……せめて、僕の手で送ってあげたいんだ……感傷だって言うのは分かってる……だけど」

『AAAAAAAAAAAAAAッ!!!』

「こっちに気付いたぞ!!」

ウォレスの言うように、彼女が襲い掛かって来た……俺は咄嗟に懐に入り込み、蹴り飛ばした。

ドゴオォォ……ン……。

彼女は壁に激突……蹴った感触からして、複雑骨折くらいはした筈だが……。

「AAA……GUAAA……」

「……やっぱりか」

並外れた超回復能力は健在……か。

「……苦戦する様なら、加勢するからな」

「先生!?」

「……分かってる……ありがとうシオン……」

ルイセは批難する様に言う。
ラルフはそのまま最前線に立つ。
俺はリーヴェイグを鞘に収め、その場を二、三歩下がった。

「……シオンさん、どうしてラルフお兄さまを一人で……」

「それが――ラルフの望みだからだ……」

ミーシャに聞かれたので、俺は答える。
元々、俺も一人でやるつもりだったしな……。

「……心配しなくても、ラルフは負けないよ。アイツは……最強の商人なんだからな」

少なくとも、俺を頭数に入れなければ……この世界で1番強い。
――俺が誰よりも頼りにしている――相棒だからな。

負ける筈が――無いさ。


***********


僕は剣を構え、油断無く彼女を見据える……。
――ゴメン……貴女を救う方法は……コレしかないんだ……。

シオンは剣を抜いた……しかも本気になった証である、愛剣――『リーヴェイグ』を……。
つまり、他に方法が無いんだ……。

『AAAAAAAAAAッ!!』

―――ゴメン。

ザンッ!!

……ドシャ……。

僕には――こうすることしか、出来ないから……。

『GYAAAAAAAAッッ!!?』

彼女の腕が、僕を捕らえるよりも――速く振るわれた僕の剣は……その腕を切り落としていた。

………本当にこんな方法しか無いのか……?

彼女を……助けられないのか……?

『GU……GAAAAAAAAッッ!!!』

「ッ!!!」

僕は………。

『――――――』

「………え?」

僕の剣が彼女を切り裂き……レーヴァテインの炎が、彼女を燃やしていく……。

――幻聴かも知れない。
だけど、僕には聞こえた――こんな目に遭ったのに……彼女は……。

*********


「マジかよ……一撃……?」

「ラルフさんって、こんなに強かったの……?」

ゼノスとルイセが驚いているが……俺に言わせれば、これくらいは出来て当然なんだ。

「あの怪物の動きだって遅くは無かった……だが、ラルフはその上を行った……」

ウォレスの言う通り、彼女の動きはカーマインやゼノスに匹敵するモノがあった……だが、それを上回った。

実際、ラルフが本気になれば、完全体ゲヴェルと戦り合っても、互角以上に戦えるだろう……。

「……お疲れさん」

「シオン……」

俺はラルフに声を掛ける……半ば放心状態のラルフだったが、俺を見て苦笑いを浮かべる。

「彼女……『ありがとう』って、言ってくれたんだ……」

「……そうか……」

「こんな形でしか……救えなかったのに……『ありがとう』って――」

ラルフは泣かない……喚かない……。
迷いは見せても、後悔はしていない……いや、しないと決めたからだろう……。

作った笑いを浮かべながら……自分の選択肢に後悔はしないと……。

……強いな、ラルフは……俺には真似出来そうに無いな……。

「――さぁ、先に進もう!」

そうラルフに促された俺達は、先に進むことにした。
女性だった亡きがらに、黙祷を捧げて……。





しかし……ラルフの夢に出て来たフードの人物……どうやらこの洞窟には居ないみたいだな……後はユングの気配しかしない……。
……向こうの目的が何にせよ、どうしようも無いクズみたいだから……野放しにはしておけないな……。

考え事をしながら歩いていたのがいけなかったのか……俺は失念していた。
この先で待っているイベントを……。

ビシッ!!

「!?ま、まさか!?」

瞬時に俺は思考を切り替える……この洞窟は……パワーストーンイベントの……。

「っ!!」

ドンッ!!!

咄嗟に俺は皆に体当たりをした。
手は抜いたので、怪我はしていないと思うが……。
ラルフは事前にその場から飛び退いていたし……大丈夫だろ。

「ってぇぇ……何すんだよオイ!!」

ドゴオォォン!!

ゼノスが振り向く……だが、そこには浮遊感を感じている俺が……。
信じられないって顔してるなぁ……。
ま、俺ならこのまま着地しても問題無いだろうけど……。

*********

……おい、冗談だろ?

俺はその光景に現実感を感じられない。

俺の視界には、ゆっくりと落ちて行くシオンの姿……いや、俺がそう感じているだけか……。

ふざけるな……こんなの信じられるかよ……!!

「シ、シオ」

「瞬転!!」

ヒュンッ!!

「ハ……?」

シオンが消え……た?

「皆大丈夫か?」

「!?」

何っ!?
振り向くと……そこには皆を心配そうに見ているシオン……って、何!?

「お前……な、ハァ!?」

俺がシオンを指さし、困惑気味に問うと、シオンは人差し指を口元に当てて、シーー……とする。
騒ぐな……ってことか……?

「シ、シオンさん……?一体何が……?」

「後ろを見れば分かるさ」

カレンがシオンに聞き、シオンは後ろを指し示す。
カレンを皮切りに、皆が起き上がる……そして後ろを見て軽く青ざめている。

「これは……」

「地盤が弱くなっていたみたいでな……咄嗟に皆へ体当たりしたんだ……何とか間に合って良かったぜ」

「それで、先生は大丈夫だったの?」

「――俺を誰だと思っているんだ?大丈夫じゃなきゃこうやっていないだろ?」

カーマインとルイセの問いに答えるシオン。
……まぁ、皆に心配させまいという気持ちなんだろうが……。

「……体当たりした俺が言うのも何だが……アリオストとミーシャ、よく眼鏡が割れなかったな」

「助けてくれたのは有り難いけど……それは酷くないかい?……イタタ」

「シオンさん……酷い……鼻打ったよぉ……」

……心配……してるんだよな?
この野郎、詳しく説明してもらうからな……?

********


良かった……誰もデカい怪我はしていないみたいだ……。
助けたつもりで大怪我させたら、目も当てられないからな……。

俺がしたことに気付いたのは……ラルフとゼノスか……。
ラルフは俺を見て苦笑いしてるし、ゼノスは睨みを利かせている。
詳しく説明するんだろうな……?
と、でも言いたい顔をしている……無論説明はするがね……。

皆の無事も確認したし、俺達は先に進む……道中、ほぼ一本道なので迷わず進むことが出来た。
ユングが待ち構えていたが、軽く蹴散らして進んだ。

「で……詳しい説明はあるんだろうな?」

「まぁ、見られたならしゃあないな……」

案の定、ゼノスが絡んで来たのでこっそり説明する。
崩落を察知した俺は、皆を跳ね飛ばした……だが、加減をし過ぎたせいか……自分自身は崩落に巻き込まれてしまう。
幾つか、無事に済む手段は合ったが……その中でも皆に心配を掛けない様に、新型テレポート……瞬転を使い、皆の前に転移した……。

「成る程……あれが瞬転か……って、そうじゃ……」

「静かに……カレン達を心配させたいのか?」

「うぐ………」

卑怯かも知れないが、カレンの名前を出させて貰った……。
実際、めちゃんこ心配するだろうしな……。

「汚ぇぞ……カレンをダシに使うなんて……」

「人聞きの悪いこと言うな……俺は事実を言っているだけだ」

「チィッ……分かったよ……だがな、俺だって心配しちまったんだ……あんまり、無茶するんじゃねぇよ――」

無茶をしたつもりは全然無いんだが……。

「まぁ……努力する」

だから、そうとしか言えないんだよな……。
心配してくれるのはありがたいが。

「?何をコソコソ話してんの?」

「いや、ゼノスがさっきズッコケた時に鼻を打ったらしくて、因縁吹っ掛けられてますた」

「テメェ、シオン!?嘘言ってんじゃねぇ!!」

……なんて馬鹿やりながらも進み……。

「階段だ……」

「この辺りは人工的に作られた部分だね」

グローシアン遺跡の地下と思しき場所までやってくる……。
ティピが階段を見付け、アリオストが分析する。

「どうやら、無理矢理こじ開けたみたいだな……」

「扉の具合からすると、こじ開けられてからそう時間は経っていないようだね」

「おおかた、ユングとかって怪物がやったんだろうな」

カーマイン、アリオスト、ウォレスがそれぞれに分析をしている。

間違い無くその通りだろうな……。

「この上に何があるんだろう?」

「……ゲヴェルの邪魔になる物がある……とかな」

ルイセの問いに答えるカーマイン。
相変わらず鋭いねカー君。

「邪魔かぁ……。でも、それって何だろ?」

「それは行ってみてからのお楽しみ……って奴だな」

ルイセの疑問に答える形を取る俺。
俺達は先に進むことにする……。

階段を昇り切った先には……。

「ここは……グローシアンの遺跡ですね」

「そうみたい……」

「成る程……あの洞窟はこの遺跡とを結ぶ秘密の通路……って訳だ」

「脱出用の裏道……って所だろうな……だからトラップの類が無かったんだ」

上からアリオスト、ルイセ、ゼノス、俺である。

「あ、あれ!」

ティピが指し示すその先には、遺跡に群がるユング達が……。

「なにやら暴れているようだが……」

ウォレスの言う様に、なにやら破壊活動をしているユング。

『…急ゲ!……スベテ壊セ!!』

とりあえず、目的の物を破壊したのか、ユング達は標的を変えた。

『グギギッ!』

『他ノ箱モ壊セ!!』

そう指示され、箱に向かうユング達……。
そして、残った扉を壊そうとするユング……。

「部屋の扉を壊そうとしてるみたい」

「部屋の中に何かありそうですね。でも早くしないと壊されてしまいますよ」

「どうするの?」

「決まってるだろう?」

「奴らを倒して、その秘密を手に入れる……だね?」

「そういうこと……そんじゃまぁ……行きますかっ!!」

「了解、任せて!」

上から、ルイセ、カレン、ティピ、カーマイン、ラルフ、俺、リビエラだ。

皆やる気十分ってか?

俺は1番槍として、ユングの群れに切り込む。

『邪魔者、コロス!』

「やってみろやぁ!!」

**********

決着は直ぐに着いた。

考えてみれば当然……皆既日食のグローシアンが二人も居て、ユングは絶不調な上、カレン、ルイセ、リビエラ……オマケに最近覚えたというミーシャによる、女性陣のマジックガトリング×4。

これだけでも涙目なのに、更にトドメの野郎共無双。
うん……少しやり過ぎたかも知れん。

「よっしゃぁっ!ざっとこんなモンよね!!」

気合いの入った勝利の声をあげるティピ。
まぁ、俺はやり過ぎたと思っているんだが。

何しろズフタフを取り出して、花の慶○の○田慶○並に大暴れしちゃったからな……。
まぁ、松○は居ないけど。

俺達はとりあえず、手分けしてユングが暴れていた理由――秘密を捜すことに……。

その結果、幾つかのアイテムをゲット……そして。

「こっちの部屋は無事だね?」

「開けてみるか」

「わたしに任せて。ここがグローシアンの遺跡なら……」

ルイセが扉に近付く……すると、扉が自動で開いた。
グローシアンにのみ反応する扉だからな……ちなみに俺も開けられるが、でしゃばる意味も無いので、ここはルイセに任せた。

で……中に入ってみると……。

「机の上に本と、何かの書類みたいなものがあるよ?」

「読んでくれないか?」

「うん。まずこっちの本からね……じゃあ、シオンさん宜しくぅ♪」

机の上に置かれた書物を見付けたティピ……ウォレスに頼まれ朗読を………。

「って、俺かよ?」

「だって、アタシ本を読んだりとか苦手だったり……シオンさんなら、遺跡巡りとかもしてたって話だし……アタシがわからないこともわかるでしょ?だからお願いっ!」

そんなこと初耳だぞ……とか、それならラルフやアリオストでも良いだろう……とか、色々言いたいことはあったが、お願いされて断る程のことじゃないしな……。

「まぁ、良いけどな……じゃあ読むぞ?――日誌みたいだな……重要だと思う場所だけ読むからな?」

俺は本を取り、朗読を開始する。
まぁ、重要な部分なんて、原作のティピが朗読した部分以外無いだろうが……。

「……装置は順調に動いている。おかげでゲヴェル達も下民どもを殺しまくっている」

「下民って何?」

「支配者が、普通の人を見下したときの表現だね。あまりきれいな言葉じゃない」

「まぁ……殺しまくっている……なんて表現が、既にきれいじゃないわね……」

ミーシャの疑問に答えるアリオスト……流石はミーシャ君命やな。
リビエラの言う通り、これを書いた人間はお世辞にも、お上品な奴じゃなかったんだろうさ。

「グローシアンが支配者?」

「確か……ダニー・グレイズさんにフェザリアンのことを聞きに言った時、そんな話を聞いたよね」

不思議がるルイセに、ラルフがそんなことを思い出す……正確には、あの時グローシアンが支配者だった……と言ったのは俺だったのだが。

「とりあえず先まで読んでくれ」

ウォレスに促されて、朗読を再開する。

「確かに我々は人間に比べて数が少ない。だがこの偉大な力がある。たいした力を持たない下民が、我々グローシアンに楯突くとは愚の骨頂だ。それにしても気にかかるのは、グローシアンでありながら、下民に味方しようとする連中の存在だ。奴らはゲヴェルが我々の前では、真の力を発揮出来ないことを知っている……これを逆手に取られたら……すぐにでも新型を完成させなければならない……こんな所か」

「ゲヴェルって、伝承じゃなかったんだね…?」

「ああ……しかも、今の話を聞くと、あのゲヴェルを作ったのは、グローシアンってことになるが……」

「そして人間とグローシアンは対立していたと……」

「でも、人間に味方しているグローシアンもいたんだよね」

上からルイセ、ウォレス、アリオスト、ミーシャだ。
ちなみに俺は最初の『ゲヴェル達』という表記が気になる……。
確か……ゲヴェルは5体存在していて……その全てが封印されていた筈……今のゲヴェルはその内の一体……だったな。

「どうやら、あまり重要なことは書かれていないみたいだな……もう一つの方はどうだ?」

「こっちは何かの報告書みたいだな……どれどれ」

俺はカーマインに促され、報告書を朗読する。
タイトルは――。

『新型ゲヴェルの開発に向けて』

「現行型生体兵器であるゲヴェルの弱点は、魔法である。ゲヴェルは自らが魔法を使うことは出来ない。また、魔法への耐性も設計値を下回る。これは、我々グローシアンに危害を加えないようにするための処理が、悪影響を及ぼしていると思われる。現行型でも、一般人が使用する魔法には十分な耐性を持つが、新型では改善するべきポイントである……と、これで終わりだ」

「ゲヴェルは魔法に弱い、か。これはいいことを知ったぜ」

「でも、新型って?今わたし達がゲヴェルって思っているのは……どっち?」

「さあな……。新型ってのを作る前に、こいつらが滅びたのかも知れねぇし……」

俺の朗読の後、ウォレス、ルイセ、ゼノスが意見交換をする。
俺も敢えて意見を言わせて貰おう。

「俺は、今のゲヴェルは旧型だと思う」

「どうして?」

「さっきカーマインが言っていただろう?ここには、ゲヴェルにとって邪魔な物がある……って。それって、魔法が弱点……ということや、グローシアンの前では真の力が発揮出来ない……ということじゃないか?それを知られるのを恐れたゲヴェルは、証拠の隠滅を計った……」

「成る程……一理あるな」

俺の意見に、ティピが首を傾げていたのでその理由を説明した。
ウォレスも納得顔で頷いている。

「まぁ、あくまで仮定の話だ……今はとりあえず、アルカディウス王へ報告に行こうぜ」

こうして、俺達はローランディアに戻って行った。
想定外の事態もあったが……。
次は王様に任務結果の報告……だな。

********

後書き。

参考の意味で原作を平行してプレイし、ラルフの死を見て軽く鬱った神仁です。
やっぱり愛着が湧いてるんだなぁ……と、実感したり。
今回の話は過去最長文だったりします。
……内容は薄っぺらかもですが。
(;¬_¬)




[7317] 第99話―ルイセの誕生日パーティー―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/16 06:41


――ローランディア王城、謁見の間――

任務を成し遂げた俺達は、早速アルカディウス王に報告を行った。

援軍を護衛し…妨害はあったが無事、先に進ませたこと。
そして……ゲヴェルのこと。

「実はあのゲヴェルですが、昔のグローシアンが造りだした物らしいのです」

「何だと!?」

ルイセの報告を聞き、驚愕を現にするアルカディウス王。
……実はフェザリアンが造った生物兵器をちょっと改良しただけ……なんだけどなぁ……これは、今話しても仕方ないことか?

誰が造ったモノであれ……今現在、人類の脅威になっていることに違いは無いワケだし。

「どうやら昔、グローシアンの支配に人々が反乱を起こしたときに、数で劣るグローシアンが反抗勢力を抹殺するために作り上げた兵器らしいのです」

「しかし…グローシアンの中にも人々に味方をする者がいた。彼らが我々の伝承に残る、ゲヴェルと戦った者たちでしょう」

「そのゲヴェルが、今この世界を脅かしているというのか……」

ウォレスとカーマインの報告に、事態の深刻さを改めて実感する王……。
その後も、ゲヴェルはグローシアンに弱い……という弱点が判明したことを伝えた。

俺やルイセが居るから、その分ゲヴェルに対しては優位に立てるということも。

「これは過去の文献をもう一度洗い直してみる必要がありそうですね……特に、人々に味方したグローシアン達がどのようにゲヴェルを倒したのか、これだけは何としても調べなければ」

「では、そちらはお前に任せるぞ、サンドラ」

ゲヴェルに関して、調べ直す必要性を訴えるサンドラ……そして調べることに関して王より一任された……。

内容が分かれば俺達にも報告してくれるそうだが……俺は一応、真実を知っている。
それとなく、教えておくべきか……。

アルカディウス王は、今後も頑張ってくれと、労いの言葉と共に休暇を与えてくれた。

与えられた休暇は三日だ。
最初の休暇先を告げて、俺達は帰路についた。

帰宅後、夕食を食べて就寝……。
色々あったせいか、案外早く寝付けた。

さて、最初の休暇先は……。

*********

休暇一日目・王都ローザリア

「時間になったら集合ね?」

そうティピが言い、皆それぞれに散っていく…………と、思ったら、カーマインとルイセが残っていた。

ルイセがカーマインに何か言っていた。
聞こえた内容が……。

「お兄ちゃん、今日が何の日かおぼえてる?」

……だった。
ルイセが去った後、しばし考えていたカーマインだったが……ふと、何かに気付いたかの様にルイセを追い掛けて行った……。

む、そういえばそろそろルイセの誕生日……だったよな?
ふむ……あのカーマインのことだから、プレゼントを用意して渡すだろう。
それだけでも、お兄ちゃんLOVE(本人自覚無し)のルイセは凄く喜ぶだろうが……。
……やはり、俺らからも何かサプライズをプレゼントしてやりたいよな……。

……よし、決めた。

仲間内の、年に一度のイベントだ……盛大に祝ってやろう!
名付けて、『ルイセちゃんお誕生日おめでとう大作戦!!』……何の捻りも無いな。

まずはその為に……。

**********

「ゼノス〜〜っ!!」

「ん?シオン……どうしたんだ?」

俺はゼノスに事情を説明する……。

「と、言うワケなんだが」

「成る程な……よし、分かった!俺で良ければ力を貸すぜ?」

よし、調理師ゲットォ!
ゼノスに任せれば間違いはない。
さて、次は……。

*********

「カレーーンっ!」

「シオンさん……ど、どうしたんですか?」

「実はな……?」

俺はカレンに事情を説明した……。

「というワケでな?」

「そうですか……ルイセちゃんが。分かりました、私もお手伝いします♪」

「サンキューな♪」

「でも……てっきり、休暇を一緒に過ごそうってお誘いかと……ちょっぴり残念です」

……何か、以前にもそんなことを言われた様な……あの時はリビエラだったな。

「あ〜〜……、まぁ、その、何だ……次の休暇で良ければ付き合うケド……駄目か?」

俺は頬をコリコリと掻きながら言う。
少し照れ臭いな………。

もっと大胆なことをしているだろう……って?

……こういうのはまた、違った恥ずかしさなんだよ。

「!いえ、駄目だなんて……嬉しいです。それじゃあ…約束ですよ?」

赤くなりながらハニかむカレン……やっべぇ、めがっさお持ち帰りしたいにょろ!?

って、落ち着け俺……素数だ……素ry

カレンにはゼノスを手伝ってもらうことにした。
カレンも結構料理が上手い。
あの兄にしてこの妹あり…だ。

さて、次は………。

**********

お……アレはカーマインとティピ……それにルイセ。
何やら店の前にいる……。

どうやらカーマインがルイセに誕生日おめでとう……と、言ったらしい。
ルイセは嬉しそうにありがとう、と言っていた。

ティピは何かプレゼントをしたら?
と、言ったが…ルイセは遠慮した。

「お兄ちゃんにおめでとうって、言ってもらっただけで嬉しいから」

……と。

け、健気や……健気な娘っ子やぁ……オッサン、涙がちょちょぎれそうやで……。

まぁ、本当にそれだけでも嬉しいんだろうが……そこはお気遣いの紳士カーマイン……。
ルイセが欲しがっていたと思われるブローチを購入した模様……っと、観察しとる場合で無くて。

「おーいカーマイン!ティピ!」

「む…?シオン……?」

「ど〜したのシオンさん?」

俺は二人に事情を説明した……。

「……と、言うワケなんだ」

「ルイセちゃんの誕生日パーティーかぁ♪また、シオンさんはやることがニクいわねぇ♪」

「……どこでそんな言葉を覚えてくるんだ……?と、それは良いとして……良いのか?ワザワザ……」

「いつも頑張ってる教え子の、年に一度のめでたい日だ……先生として祝ってやりたいじゃんかよ?」

「そうか……ルイセもきっと喜ぶよ。ありがとう……」

フッ……と、自然な笑みを浮かべて礼を言うカーマイン。

「まぁ、カーマインがプレゼントするだけでも、ルイセは感動するだろうケドな?」

「それは大袈裟じゃないか……?」

そんなこと無いだろう?
とは、思うが……敢えて口には出さない。

カーマインとティピには簡単な準備を頼んだ……ついでに、プレゼント用のブローチを渡した後、ルイセを誕生日会場へエスコートするというサプライズをお願いする。
誕生日会場って言っても、フォルスマイヤー家の居間なんだが……。

その方が驚きも倍だろう?

さて、次は………。

**********

こうして、着々とメンバーに協力を頼んでいく俺……。
皆、結構乗り気らしく、快く引き受けてくれた。

ラルフとアリオストにはパーティークラッカーの調達や、細々とした準備を……。

「ふむ……それくらいなら、作れないことはないかな」

「そうですね……この辺に売って無いのなら作るしかないですね……僕も手伝います」

どうやら自作するらしい……少し不安だが、この二人なら大丈夫!
……と、思っておこう。

ウォレス、ミーシャ、リビエラは簡単な手伝い。

「誕生日か……まぁ、年に一度のことだ。祝ってやらなきゃな」

「よ〜し、アタシ、頑張るぞぉ!!」

「私に出来ることはあまり多くないケド……うん、盛大にお祝いしてあげましょう!」

後で聞いたが、三人は必要な物を買い出しに行ったりしたとか。

……それが1番無難だよなぁ。
ウォレスは目が不自由だから、細かい作業を任せるのは気が引ける……もっとも、任せたらキッチリこなしそうだな……ウォレスの場合。
目が不自由だろうが、感覚でどうにかしちまいそうだ……。

ミーシャは……言わずもがな。
正直、1番の不安要素です。

リビエラは細かい作業も出来るので、買い出し以外にも狩り出されそうだな。
まぁ、料理の手伝いも何とかこなせるしな……。

さて、皆が着々と……そしてコッソリと準備を進めている中……俺は街中で発見してしまった……。

淡い色素の長い金髪……それを風に靡かせながら歩くその人物……。
ラフな格好をしているが、見間違える筈が無い。

「……何をしているんですか、レティシア姫?」

「!シオン様……こんなところで出会うなんて……」

そう、レティシア姫だ……何故に姫がここに?

「私……お城での生活がその……ヒマになってしまって……城内から抜け出して来ちゃいました♪」

「抜け出して来ちゃいました……って、どうやって?」

詳しく話を聞くと……何でも城壁の一部が崩れて、穴が空いており……そこから抜け出して来たとか……。
原作でエリオットがやっていたことですね本当にありがry

って、そうでなく……。

「姫……城の人達が心配しているんじゃないですか?」

心配どころの話じゃないだろう……。
レティシアは一度、捕虜にされているし、王都にシャドー・ナイトが侵入していたこともあった……ローランディアのお膝元とは言え、安心は出来ないのだ。

「それは大丈夫です。侍女には話を通しておきましたから……夕方までには帰ると」

成程……共犯者がいるワケね……。

「……しかし、王に知れたら一大事だと思いますが?」

あの王様のことだ……レティシアが城から居なくなっていることを知れば、心配で倒れてしまうかも知れん……まぁ、最終的には許してしまいそうだが……。

「ハイ……ですから、ここでのことはご内密に……」

まあ……某暴れん坊将軍も視察と称して、め組に顔を出していたりするからな……。

貴族や王族ってのは『しがらみ』みたいなモノがあるから、民の暮らしを身近で知りたいという気持ちもあるのかも知れない……。
本当に暇だっただけ……という可能性もあるが。
タカビーな連中が多い貴族社会において、レティシアやアルカディウス王の存在は一服の清涼剤とも言える。

本来、レティシアは中々に聡明だ。
故に、自身が出歩くことで、いらぬ心配を掛けることを知っている。
とは言え、外の世界を知ったレティシアに、籠の中の鳥で居続けろというのも、無理な注文というモノ……。
まだ、女の子なんだし……当たり前だよな。

俺もそこまでガッチリ言うつもりは無いしなぁ……。

「……分かりました。このことは私の胸の内にしまっておきましょう」

「ありがとうございます!……それと、敬語では無くもっと気軽に呼んで戴けると……その、せっかく変装した意味もありませんし……」

変装……と言う程大層な物では無いと思うが……。
髪をポニーテールにし、村娘が着ている様なデザインの服を着ている……レティシア。
もっとも、見る人が見れば分かるが、服の素材は上等な物が使われているし……何より、レティシアの顔を知らない人は王都にはあまり居ないんでは無いかね……?

まぁ、気休めにはなるか……。

「了解……じゃあ、あまり羽目を外し過ぎないようにな?」

「ハイ!……ところで、貴方は何をしていたのですか……?」

俺はレティシアに事情を説明する。

「そうだったのですか……」

「あくまで、ルイセを驚かせる為にこっそりと……だけどな?」

この計画は水面下で、気付かれない様に動いているのだよ…………ミーシャ辺りがポカをしそうで非常に不安なんだが。

「誕生日パーティー……とは言っても、身内でやる位のささやかなモノだけどな」

「……せっかくのルイセちゃんの誕生日ですし、私も参加したいです……」

「一応、言っておくが……やるのは夕方以降だぞ?」

友達の誕生日を祝いたいって気持ちは分からないでは無いが……流石にそれはマズいだろ?

「とりあえずお父様に聞いてみます……」

なんか……許可出しそうで恐いな……あの王様は……。
その後、もう少し街を見て回ると言いつつ、名残惜しそうな目で見てきたレティシアと別れた俺は、本日1番のサプライズの下へ向かう。

*********

「あら、いらっしゃいシオンさん……今日はどんなご用でしょう?」

そう言って俺を出迎えてくれたのは、サンドラである。
嬉しそうに出迎えてくれて……俺の方が嬉しくなっちまったよ。

要はサンドラの研究室に来たワケだが……。

「まぁ、幾つか用件はあるんだけど………ゲヴェルの調査は順調か……って、昨日の今日じゃ成果は無いか」

「ええ……幾つか文献を調べてはいるのですが……どれも似た様な物ばかりで、めぼしい情報はまだ何も……」

それも仕方ないことだとは思うがな……ゲヴェルの存在は、言うなればグローシアンの機密に近い。
だからグローシアン遺跡等で情報を保管されているのだ……グローシアン以外の者に見られない様に……。
とは言え、支配階級のグローシアンが存在しない今となっては、形骸化された機密……とも言えるな。

「今回、ここに来たのはその件も含めての話でさ……俺が以前、とある遺跡で得た情報が役に立つかな……と、思ってな」

「シオンさんが得た情報……ですか?」

「ああ……古しえのグローシアンが、ゲヴェルを倒した……その方法をな」

「!?……詳しく聞かせて下さい」

「勿論……ただ、最初に断っておくけど……倒したという表現は使ったが……正確には倒したワケでは無いからな?」

「?どういうことですか?」

俺はサンドラに詳しく説明する……。
かつて、奴隷階級の人間に味方をしたグローシアン達がゲヴェルを降した方法……。
自らの命を使い、グローシュの結晶と化してゲヴェルを封印する……という手段を……。

「そんな方法…だったのですか……」

「一体のゲヴェルを封印するのに、何人のグローシアンが犠牲になったのか……その結果が、あの水晶鉱山だ」

水晶鉱山はあのデカさだ……並のグローシアンでは一人や二人じゃあ効かない筈だ。
1番強力な皆既日食グローシアンならば、一人でもお釣りが来たかも知れないが……。
当時、最強と呼ばれたグローシアンは二人居たが……ゲヴェルの基となった原住生物『ゲーヴ』……それを従える王……その魂を二つにし、それぞれの肉体に封印し、狂ってしまい、人間を虐げる側に回ったのだから無理もなかろう。
一人は、ゲーヴの王の魂と完全に融合してしまい狂った……一人はゲーヴの王に精神を蝕まれ、肉体を奪われるのを良しとせず、自らを封印した。

……話しが逸れたな。

「……それしか、方法が無いのですか……?」

サンドラが少し愕然としている……。
まぁ、グローシアンを犠牲にしても封印しか出来ないのか……とか、それがルイセや俺だったら……なんて想像をしたのかも知れないが……。

「いや、必ずしもそうとは言えない。その当時、人間側に味方をしたグローシアンの中に、強力な魔法を使えたグローシアンが居なかったのかも知れないし……単純にゲヴェルを倒せる奴が居なかったのかも知れない」

当時で対抗出来そうな人間は……俺が知る限りでは反乱軍を率いていたベルガーさん位だ。
当時のベルガーさんがどのくらい強いかは知らないが……少なくとも、今よりは強かったのだろう。

だが、そのベルガーさんも支配階級グローシアンに捕まって、新型ゲヴェル開発のための研究材料にされたりしており、最終的には脱走……持ち出したパワーストーンの力でこの時代へ……。

結局、命を使って封印するしか手段は残されていなかった……というのが、事実なんでないかな……と、推測しているわけなんだが。

「幸か不幸か……その封印する手段の詳細を俺は知らないし、使えない……だから、心配すんなよ」

「はい……」

「まぁ、そんな封印術を使わなくとも……ゲヴェルは俺が……俺達がケチョンケチョンにしてやるからさ?」

わざとらしくウインクし、最高のスマイルを贈る。
それを見たサンドラは……。

「ふふふ……貴方に言われると、納得してしまうから――不思議ですね」

そう言って微笑んだ……うむ、綺麗な微笑みだ……何と言うか、違ったベクトルでお持ち帰りしたい。

それはともかく……実際、ゲヴェルをケチョンケチョンにするのは訳無い。
例え幼年期の頃の俺でも、ゲヴェルを打倒するのは容易かった。

この身体は、無限のチートで出来ている……。

冗談はさておき……。
それをしなかったのは、ラルフを死なせたくなかったからに外ならない。

結局は俺のエゴだ。

ダチを優先させ、救える命を救おうとしなかった……。
俺がゲヴェルを早い内に始末していれば、かなりの人間の命が助かっただろう……その場合、ラルフやカーマイン達がその生涯を終えていたのだろうが……。

二者択一。

9を救い、1を捨てるか……。

1を救い、9を捨てるか……。

戦闘能力こそチートじみているが……俺は決して十全では無い。
全てを救うことは出来ない……。

「まぁ、任せておけって!」

俺は仲間を優先することを選択した……。
そのことに後悔は無い……。
だから、俺は忘れない……俺が死なせてしまった者を、救えなかった者を……。
それを背負い続けて生きる……それが俺に課せられた『業』なのだろうから。

……っと、それは一旦置いておいて……。

「それより、サンドラ……今日は何の日か覚えているか?」

俺は敢えて『覚えているか?』という表現をした。
俺が何のことを言っているか、理解してくれると思ってな。

「今日……ですか?……そういえば、今日はルイセの誕生日でしたね。けれど、何故貴方がそのことを?」

「実はな……?」

俺はサンドラへ事情を詳細に説明した……。

「……と、言うわけだ」

「そうですか……ルイセの誕生日会を」

「今、皆で総力をあげて準備中……無論、ルイセにバレない様にこっそりとな?そんなワケで、サンドラも誕生日会に出てあげられないかな?」

「勿論、参加させて戴きます。急ぎの用はゲヴェルの調査ですが……知りたいことはシオンさんに教えて貰いましたし、一日くらい空けても問題ないでしょう」

よしっ!サンドラ参加確定!!
尊敬する母親に祝って貰えれば、ルイセの喜びも一塩だろう。
サンドラは料理担当に着いて貰った。
やはり、慣れ親しんだ母親の味……というのはあるだろう?
聞くと、カーマイン達が幼い頃は、サンドラが料理を作っていたらしい。
宮廷魔術師なんて仕事をしながらも、そういうことをしていたサンドラは偉いと思う。

「あの子たちが、自分から色々と手伝う様になって……全部自分たちで出来る様になった時……『母さんは仕事を頑張って!もう俺達だけでも出来るから!』……って、言われた時には――泣きそうになりましたけどね」

恐らく、疲れた顔を見られたんでしょうね……とは、サンドラの談。
それ以降はカーマイン達のお言葉に甘えていたらしい。

さて、これで役者は揃った……後は舞台の幕が上がるのを待つだけだ。
って、俺も色々と手伝うからね?

**********


今日、わたしは誕生日を迎えた……。
これでわたしも15歳になったんだよね。

お兄ちゃんはわたしの誕生日を覚えてくれていたらしく、おめでとうって言ってくれた……。

凄く嬉しかった……お兄ちゃんがわたしの誕生日を覚えてくれていたのが……おめでとうって言ってくれたのが……本当に嬉しかった。

それだけで、わたしは満足♪
わたしは自分の部屋でほくそ笑んでいた……。

コンコン。

「は〜〜い」

扉をノックされたので、返事をしてから扉をゆっくり開ける……すると。

「お兄ちゃん、ティピ……どうしたの?」

そこには、お兄ちゃんとティピが居て……。

「ルイセ……改めて誕生日おめでとう」

それさっきも聞いたよ?
そう言う前に、お兄ちゃんはわたしの前に包装された小さな箱を差し出した……コレって……。

「プレゼント……受け取ってくれるよな?」

そう言って、少しはにかんだ表情をするお兄ちゃん……。
そんな……わたし、お兄ちゃんにおめでとうって言って貰えただけで嬉しいんだよ……?
プレゼントまでされたら……わたし……。

「ね、ね、開けてみてよルイセちゃん♪」

「う、うん……」

ティピに急かされたわたしは、包装を解いて箱を開けた……。

「コレ……」

それは、わたしがさっき道具屋さんで見ていたブローチだった……。
装飾が可愛くて、気になっていた物……。

「……ルイセ、そのブローチを見ていたみたいだったからな……気になってるんじゃないか……ってな?」

……ッ!

胸の奥がキュウッとなったわたしは、部屋の奥へ走って行ってしまう……お兄ちゃんとティピは慌てて後を追って来た。

「どうしたのルイセちゃん?プレゼント、気に入らなかった?」

ティピの言葉に、わたしは首を横に振った……気に入らないワケない……。
そうじゃなくて……。

「……嬉しかったから。凄く……嬉しかったから……」

わたしは涙が零れそうになる……お兄ちゃんが誕生日を覚えてて、おめでとうと言ってくれるだけでも嬉しかったのに、こうしてプレゼントも買ってくれた……わたしが気になっていたブローチを……。
嬉し過ぎて……プレゼントもそうだけど、お兄ちゃんが、わたしを見ていてくれたことが……嬉しくて……。

「ルイセちゃん、顔真っ赤だよ?」

「だって……お兄ちゃんの気持ちが……嬉しかったんだもん……」

わたしは零れそうな涙を拭いながらティピに言う。
こんなに想われてる……それがとても……とっても――幸せなんだもん!

「……ありがとうお兄ちゃん、このブローチ……大切にするね♪」

わたしはまだ顔が赤いと思うけど……お兄ちゃんも少し赤くなってる……。

「そうか……まぁ、喜んでくれて、俺も嬉しい……プレゼントを買った甲斐があるってモンだ」

そう言って微笑んでくれるお兄ちゃん……。
……うん、今日は最高の誕生日だよ♪

そのあと……時間になったので、集合場所に向かうわたしたち……その途中。

「?何してたのミーシャ?」

「エ゙ッ゙…………ル、ルイセちゃん?」

居間から出て来たミーシャに、疑問に思ったことを聞いてみた。

「いや、何でもないよ?誰もルイセちゃんの」

「だらっしゃあぁ!!!」

ドゴッ!!

「みぎゃ!?」

「……ティピ?」

「な、何でもない何でもない!気にしないで!」

ティピがミーシャを蹴り飛ばした……これはいつものことなんだけど……。

「……何かわたしに隠してる?」

「そそ、そんなこと無いってばぁ!…ねっ、ミーシャ!?」

「ふ……ふぁい……」

ミーシャは鼻を摩りながら、何とかティピに答える。
……あやしい。

「……何やってるんだお前らは……皆が待ってるんだから……早く行くぞ?」

「あ、うん……そうだね」

お兄ちゃんが呆れたように言ってきたので、わたしはそれに答えた。
そうだよね…みんなもう集まってるよね?

わたしたちは再び待ち合わせ場所に向かった。
ミーシャのことは気になったけど、ミーシャのことだから悪いことはしてない筈だもんね。

**********


その後、俺たちは文官に次の休暇先を指定……帰路に着く。
だが、その前に俺にはやることがある。

「ルイセ」

「?どうしたの、お兄ちゃん?」

「少し、歩かないか……?話したいことがあるし……」

俺はルイセに手を差し出す。
……俺はルイセのエスコート役を担当している。
故に、皆が準備を終えるまでの時間稼ぎもしなければならない。

ちなみにティピを始め、皆は先に家へ戻って仕上げに入っている。

「……二人きりじゃないと、できないお話……?」

「いや、そういうワケじゃないが……駄目か?」

俺がそう答えると、ルイセはふるふると首を横に振った。

「駄目じゃないよ……わたしもお兄ちゃんとお話、したいから……」

そう言って、怖ず怖ずと俺の手を握ってくれた。
……小さい手だ。
だけど、暖かくて安心する……昔と変わらないな。

こうして、俺たちは遠回りをして帰ることに……。

「それで…どんなお話なの、お兄ちゃん?」

「ん?あ〜……その、だな……」

上手く誘い出せたものの、よくよく考えたら会話のことを考えていなかった……。

「……昔も手を繋いで……よく一緒に遊んだよね」

「……ん、そうだな」

ルイセが話を振ってくれたから、俺はそれに乗っかることにした。

「けど、お兄ちゃんは男の子たちと遊ぶようになって……わたしも一緒に遊びたかったケド、みんなは混ぜてくれなくて……」

「そんなこともあったな……」

ルイセは構ってやらないと、直ぐに泣く奴だったからなぁ……。
あの時もビィビィ泣いてたっけな……。
実際、男連中はルイセを仲間に入れるのを嫌がっていたワケじゃない。
……ルイセは内気だったからな、上手く気持ちを表現出来なかったんだろうな。

「遊んでくれなくて……寂しくて泣いてたら、お兄ちゃんが来て『ルイセは泣き虫だなぁ……』そう言って……」

「……昔の話だろ?それに、あの時は心配してだなぁ……」

俺としては、ルイセを心配していたワケだが、それを素直に表現出来なかったワケだ。
確かにルイセをからかっていたことはあるが……それがルイセにとっては虐められていた……とでも感じたんだろう。


「うん……お兄ちゃん、一緒に遊ばせてやってくれって、頼んでくれたもんね?」

「あぁ、その後は特に問題なく一緒に遊んでいたな……まぁ、その弊害でワガママ娘になった時はどうしようかと思ったが」

内気であることに変わりは無かったが、自分という物を前へ前へ出す様になった……。
結果、少々ワガママになってしまった。

「つまらないって言って遊びを中断させたり……疲れたと言っておんぶを強制したり……あのまんま成長していたら、どうなっていたか……兄ちゃん、子供だったのに頭が痛かったよ――」

「も、もう昔の話だよ?」

まぁ、そうなんだがな……。
ワガママというより、甘えん坊なんだろうが……昔は今の比じゃないくらい、俺にベッタリだったからな。
かく言う俺も、なんだかんだでルイセを甘やかしていた部分もあるのかも知れない。

だが、そんなルイセにも転機が訪れる……。
確か……丁度この辺りだよな……。

そこは宿屋の直ぐ近く……商店街のある通り。

「確か……この辺りだったよな。本格的にルイセの幽霊嫌いが始まったのは」

「……う、うん……」

俺はともかく、ルイセがワガママを言うのに我慢が出来なくなった他の連中が、少し脅かしてやろうと……ある計画を立て、実行に移した。

それは夜にルイセを呼び出し、お化けの姿で恐がらせてやろうという計画だった。
当時から、ある程度怖がりだったルイセだが……この件がきっかけで、筋金入りとなった。

俺も、ルイセをからかうつもりで参加したのだが……。

「母さんはその時、泊まり込みで研究をしていたし……丁度良かったんだよな」

俺がルイセを連れだし……この宿屋の近くにある木の下まで連れて来たんだよな……。
で、気付かれない様に物影に潜む仲間と合流し……あの手この手を使ってルイセを脅かそうとした。

……あの手この手の内容は、今考えたら非常に子供っぽいモノばかりなので、敢えて明言はしないが。

「そうしたらルイセ……本気で泣いたんだよな……揚句……」

「わぁぁ〜!?い、言わないでよ〜っ!?」

……まぁ、乙女の秘密……というか忘れたい過去だろうからな……。
一言で言うなら、大変なことになった……文字通り――盛大にちびったワケだからな。

そんな状態になりながらも……いや、そんな状態だからこそ……なのか、ルイセは俺を呼び続けた。
俺に助けを求め続けた……見ていられなくなった俺は、ルイセに駆け寄って抱きしめてやった。

他の連中もやり過ぎたと感じ……後日、素直に謝った。
何故後日かと言うと、ルイセのマジ泣き声を聞いて、宿屋のおばさんが飛び出して来たからだ。
俺達は慌てて逃げ出した……俺はルイセをおんぶして……だが。

生暖かい感触を感じて顔をしかめたが、ルイセをあそこまで追い詰めてしまったのは、俺にも責任があるしな。

そんなことを考えながら、俺達はそれぞれ帰路に着いたワケだが……。
幸い、暗闇に乗じて逃げた為、宿屋のおばさんや近所の人に顔を見られることは無かった。

「あの時……本当に怖かったんだよ?でも、お兄ちゃんが居てくれたから……」

帰宅した後、真実を話したら泣きながらポコポコ叩かれた。
……俺はひたすら抱きしめて謝ってたっけなぁ。

……この結果、ルイセは更に俺にベッタリとなってしまった。
寝る時も、風呂もいつも一緒……という具合に。
そのかわり、俺以外にはワガママを言わなくなったな。

まぁ、それも母さんの英才教育が追い付くまで……だが。
というより、自然と母さんに憧れを持つ様になったからな……ルイセは。

段々と甘えん坊はなりを潜めて行ったなぁ……。
学院に通い始めてからは、完全に性格も落ち着いたし。

「あのルイセが優等生……だからな。母さんの教育のおかげでもあり、学院に通いだしたおかげでもあり……まぁ、甘えん坊な内面は――完全には変わらなかったみたいだが」

「そ、そんなことないもん!今は一人でお風呂にも入れるし、一人で寝れるもん!」

……今はミーシャが一緒に寝てるがな。
風呂にも一緒に入ったりしてるらしいし……。
それに、俺の外への旅に無理矢理着いて来た。

やはり、人間……根本は変わらないってことかな?

「まぁ、自立するのは良いことだ。兄としては喜ばしくもあり、寂しくもあり……だがな」

「……そんなんじゃないよ。わたしはただ、お兄ちゃんと……」

「俺と……何だ?」

「う、ううん!何でもない♪あ、ほら家が見えてきたよ」

ルイセが何を言おうとしたのか……気になったが、我が家が見えてきたので追求はしないことにする。
……中々有意義な時間稼ぎだったな。

これくらい時間を稼げば、もう準備は整っているだろう。
俺たちは家の扉を開くのだった……。

「ただいまぁ……って、真っ暗だね?」

「そうだな……」

ルイセは明かりのスイッチを探している……勿論、部屋が真っ暗なのも計画の内……。
ルイセが玄関の明かりを点け、居間に入ろうとした瞬間……。

居間の明かりが点き、そして……。



パァンパアァーーーン!!!

「きゃあ!?」

……盛大にクラッカーが鳴らされた。


「「「「「ルイセ(ちゃん)お誕生日おめでとうっ!!!」」」」」

「え?えっ??」

ルイセが混乱している……それはそうか。
部屋に入ったらいきなり明かりが点いて、クラッカーを鳴らされ……全員勢揃いで『お誕生日おめでとう!』……だからな。

しかし驚いたなら作戦大成功……と、言った所か。

「み、みんな……」

「どうだルイセ?先生考案のサプライズは?」

「ルイセちゃんを驚かせようと思って、黙ってたんだ♪」

「……アンタのせいでバレそうだったんだけどね」

驚きを隠せないルイセに、シオン、ミーシャ、ティピが声を掛ける。
ティピの言う通り、ミーシャが口を滑らせかけた時はかなり焦った……表情には出さなかったと思うが。

「何と言うか、ミーシャ君らしいね……」

「ハハハ……」

そんなミーシャを見て苦笑いするのが、アリオストとラルフ。

「まぁ、何はともあれ主賓が到着したんだ。早速始めようぜ」

「そうね。ほら、ルイセちゃん」

ウォレスが皆を促し、リビエラがルイセを促した。

「ちなみに、ケーキはこの俺の手作りだ!いやぁ、過去最高の会心の出来だぜ」

「もう、兄さん……私も手伝ったでしょ?」

そう言うのはゼノスとカレン……ゼノスが言う様に、そのケーキは中々に見事だ。

フルーツをふんだんに使い、生クリームでコーティングされたそれ……。
中央には『ハッピーバースデールイセ』と書かれたチョコレートプレートが……多分、文字はホワイトチョコレートで書かれているんだろう。
ちなみに、メッセージの横にデフォルメされたルイセが書かれている辺り、非常に細かい。
そして周囲には小さな蝋燭が15本。

「改めて、お誕生日おめでとうルイセ」

「お母さん……お母さんも来てくれたんだ……」

そう、母さんも来ていた。
料理の手伝いをしていたのだ。
母さんが作った物を食べるのは、久しぶりだからな……ルイセも喜んでるみたいだし。

「ルイセちゃん、お誕生日おめでとうございます」

「レ、レティシア姫……姫様まで……」

「だって、お友達の誕生日なんですもの。ちなみに、お父様には許可を戴きましたわ♪」

……まぁ、考え様によってはアリなんだろうな……我が家とローランディア城は目と鼻の先だし。

「み、みんな……わたし……わた、し……」

「ち、ちょっとルイセちゃん!?何で泣いてるのよぉ!?」

ポロポロと泣き出したルイセに、ティピを始め、一同オロオロとしてしまう。

「ちが…うのぉ……嬉しく…って……すごく嬉しく……て、わた、し……」

そう、ルイセのコレは嬉し泣き。
俺や母さんは直ぐに分かったけどな。

「……ほら、せっかくの誕生日に泣いてる奴があるかよ」

「お兄ちゃん……」

俺はルイセの頭をポンポンと触れてやる。
すると、ルイセは涙を拭い……。

「うんっ、そうだね♪」

最高の笑顔を見せてくれたのだった……。

**********

その後、ローソクに火を点し……ルイセがそれを吹き消した。

それから先は大いに盛り上がった。

「懐かしいなぁ……お母さんのお料理……」

「貴女達に甘え、滅多に料理を作らなくなりましたからね……腕が落ちていないと良いんですが」

「そんなことないよ、すごく美味しいよ!ね、お兄ちゃん?」

「ああ、そうだな」

俺とルイセは、久しぶりの母さんの手料理に懐かしさを感じ……。

「ハグハグ!!コレ美味しい!」

「本当!アタシが作ったのとは大違い!!」

「まだまだたくさんあるから、遠慮せず食え!……って、お前らは言わなくても遠慮しないか……ケーキは残しておけよ?今日の主役はルイセなんだからな」

ティピとミーシャは、まるで競う様に料理を貪り食らっている。
ゼノスの言う通り、ティピに遠慮という言葉は似合わないよな。

ミーシャは初対面の人などには多少の遠慮をするが、仲間内ではティピと大差無かったりする。

ちなみに、ゼノスの手料理は俺たちも戴いたが、相変わらず秀逸モノだった。

「!!?ご、ごのビールば……?」

「ハッハッハッ、美味いだろう?超極濃ビール『ベイビーキラー』だ!アルコール度数が半端じゃあないんだぜ?……って、アリオストー?こんな所で寝たら風邪引くぜぇ?」

「はらほれひれかつ……………」

「シオン……また、そんな物を……というか、よくそんなのを飲めるね……」

「確かに、中々強烈だな……だが悪くない」

あちらでは、何やら酒宴が開かれているらしく、シオンが何かとんでもない酒を飲ませ、アリオストを潰していた。
ラルフはそんなシオンに苦笑いを浮かべ、ウォレスはそんな酒を平然と飲んでいた。

「ほにゃ〜〜♪」

「カ、カレン……貴女飲み過ぎじゃない?」

「ひょんにゃことないれふよ〜?一杯!一杯だけれふからぁ〜〜♪」

「それは、シオン様が飲んでいた『びぃる』ではありませんか……?」

リビエラとレティシア姫がカレンに忠告している……どうやらカレンも潰されたらしい。
余談だが、レティシア姫は今日までビールの存在を知らなかったそうな――。

「らってぇ……ヒオンひゃんがろんれたんらもん……わらひもろみたくにゃって……」

……訂正、どうやら自爆らしい。

バタッ!

あ……倒れた。

「カレエェェン!!?テメッ、シオン!!カレンになんてもんを飲ませやがる!?」

「いや……飲ませたの俺じゃないんだが……」

ゼノスが怒ってるが、シオンも身に覚えが無いと言い、苦笑している。

その後、アリオストとカレンがそれぞれの部屋に運ばれて行った。

ちなみにアリオストをウォレスが……カレンをシオンが運んだ。

その後も誕生会という名の宴は続き……皆が皆、大いに楽しんだ。

「お兄ちゃん」

「ん……?」

「わたし、今日のことは絶対に忘れないよ……」

「ああ、俺もだ……」

皆が集まっての馬鹿騒ぎ……皆が妹の誕生日を祝ってくれた。

ルイセにとって、忘れられない誕生日になっただろう……。

俺は、ルイセの柔らかい微笑みを浮かべた顔を、しばらく眺めていたのだった……。




[7317] 第100話―シオン・ウォルフマイヤー氏の極めて平穏な日常―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/16 07:06


昨日は大変楽しかった……。
ルイセも喜んでいたし……皆が皆、彼女の誕生日を祝福していた。

……些か無礼講が過ぎる感じがしないでも無かったが……な?

結局、あの後だが……まず、レティシアを城に送った。
……レティシアは泊まる気満々だったが、流石にそれはマズイだろ?
色々な意味で。

ちなみに、その時のやり取りが……コレだ。

「シオンさま……その……今日は帰りたくありません♪」

「ウェ!?い、いや……それはマズイから。主に俺の理性とか色々」

「……帰りたくないったら帰りたくありませんっ!……わたくしなら構いません……むしろ望むところですっ!!」

「いや、何がさ!?」

「それを言わせたいなんて……シオンさまって、いやらしいんですわね♪……でも、わたくし……そんなシオンさまも……好・き♪」

「……もう、マジで言わせちまうか……そしたら歯止めが効かなくなるって……というか、敢えて言うことじゃねぇが……酔ってるだろ?」

「よってませ〜ん♪よってませんよ〜♪」

……と、言うやり取りがあった。
その後、レティシアを宥めて城に送り届けた訳だ。
……この際、俺が何を言ったのか……それはご想像にお任せする。
……いや、あまりにしつこく絡んで来たので、ドSオーラMAXの台詞を耳元で囁いてしまった。

ちょい過激な内容だったので、酔った勢いを得ていたレティシアも敢え無く撃沈。
……もし、あれで更に肉体的に絡んで来られたりしたら……一線を越えていたかも知れん。

まぁ、レティシアに関してはそんな感じだ。

ルイセはルイセで、誰かに飲まされたのか……真っ赤な顔でカーマインに甘えまくっていた。

……もう、見ていてかなりラブいオーラを出しながら。
多分、尻尾があればパタパタ振っているくらいに。
……何しろ、カーマインの膝の上に座ってたからなぁ……ルイセ。
カーマインはカーマインで、そんなルイセを後ろから抱きしめる形を取っていた。

……どうやらカーマインも誰かに飲まされたらしく、顔が若干赤い。
しかも顔に出ていないが相当酔っているらしい。

……当然か。
飲まされたのは『ベイビーキラー』だし……。

念の為に言うが、飲ませたのは俺じゃないぞ?
……カレンやアリオストが酔い潰れたのを見て、面白そうとでも思ったんだろう……どうやらティピが上手く細工したらしい。

で、以下が二人の会話の一部だ。

「おにいちゃん……おにいちゃん、暖かくて……気持ち良いよぉ……」

「俺もルイセが暖かくて気持ち良いぞ……それに柔らかくて、良い匂いだしな……」

「柔らかいって……わたしそんなに太ってないモン!」

「誰もそんなこと言ってないだろ?……柔らかくて、肌触りがスベスベで……触ってるだけで気持ち良いんだぞ?」

「ひゃあん……っ!?頬っぺたぷにぷにしないでぇ……あふっ、そこはだめぇ……♪」

「嫌なら止めるケド?」

「ううん♪嫌じゃないよ♪だって、お兄ちゃんだから……♪もっと……ルイセを触って♪」

「そうか……」

と、延々とイチャイチャパラダイスでした。
見ていて鼻血モンだった……なんか、一々エロいんだよな。
多分、二人ともあの酔い方なら記憶飛んでるだろうなぁ……。
若しくは夢とでも思うか……まぁ、覚えてたら互いに直視は出来んだろうし。

で、そんな二人の様子が面白くない筈の妄想眼鏡娘は……。

「んにゅ……カーマインおにいさまぁ……ラルフおにいさまぁ……あっ、ダメですぅ……そんなこと……ミーシャはお二人の……ですぅ……♪」

実は真っ先にティピに飲まされて潰されていた。
……ミーシャのその寝言と、赤く悩ましげな表情、モジモジと身体を動かす様に……不覚にも妄想回路がフル回転してしまった。

……俺自重。

三人をこんなにしたティピは……。

「もう……食べられない……」

ケプッ……と、可愛らしく息を吐き、大きく膨れた腹を撫でていた。
……さしずめ、皿を抱いて溺死しそう……と言った所か。

しかし、よくぞアレだけ食ったと思う。
何処にアレだけ入るのか……小一時間程問い詰めたい。
まぁ、乙女の秘密とか言ってごまかされそうだが。

俺を含め、残った男連中とサンドラ、リビエラは飲んでいた。
主賓のルイセはカーマインとあんなだし……。

「その辺、母親としてはどうなんだよ?」

「フフ……そうですねぇ……あの子はまだ甘えん坊ですからね。カーマインに甘えたい気持ちが強いんでしょう」

「とてもそれだけには……見えないわね……アレは」

「ハハハ……仲が良いのはいいことですよ」

「そうだな……とは言え、俺はリビエラの意見に賛成だな。アレは兄妹のそれじゃねぇよ……」

「ふっ……自身の経験談という奴か?」

等と、話していた。
敢えて言いたいが……ゼノスよ……自身のことを棚上げして何を言ってやがる?
仮に……俺が存在せず、完全に原作通りならば……現時点でカレンはゼノスに………。

……むぅ、何か考えてたら腹立って来たな。

仮定の話に腹立ててもしゃーないんだが……。

俺ってこんなに独占欲強かったっけか??
………強いんだろうな。

そんなこんなで、賑やかな誕生日が終わり、皆それぞれに就寝。
そして翌日、次の休暇先へ……。

**********

休暇二日目・王都ローザリア

……うん。
言いたいことは分かる。
何故、同じ休暇先にいるのか?
それは簡単過ぎるシンプルな答え……。





「メンバーの半数以上が二日酔いでございます」





そう……カレン、アリオスト、ルイセ、カーマイン、ミーシャが二日酔いでダウンしてしまったのである。

「うぅ……またやっちゃった……私って……私って……」

「僕は……何をし……うぐっ!頭があぁ……!?」

「うぐぅ……あたまが…あたまが痛いよぉ……」

「……俺は……何故部屋にいる……昨日はルイセの誕生日を祝って……駄目だ思い出せん……というか、何か吐き気が……」

「う〜〜ん……頭がぁ……けはぁ……お兄さまぁ……助けて……」

……と、まぁ……こんな有様でありまして。
結局、もう一日ローザリアで過ごす羽目になり申した。
文官さんに予定変更の報せと、その理由を説明してな……ゼノスが。

で、残った俺達で休暇を過ごすことになった。
とは言え、二日酔い連中を放っておくわけにはいかない……で、ゼノスとリビエラがとりあえず残ることに。

ゼノスが男連中、リビエラが女性陣担当とか……。
厳正なるくじ引きの結果である。
くじ引きは神聖で全てを左右する……なんて言うつもりは毛頭ないがね。

……看病する気満々だった俺は肩透かしを喰らう形となった。

ちなみにサンドラは研究室に戻り、ゲヴェルの文献を調べている。
昨日の今日でたいした物である。

ラルフは久しぶりに商人の勉強の為、商店街に行くと言っていた。
スキマ屋にも寄ると言っていたな。
アイツ、未だにスキマ屋に憧れてるからな……。
とりあえず、スキマ家業に開眼しないことを祈る。
大陸一の豪商の息子がスキマ屋とか、笑えない。

いや、俺は笑えるが……ラルフの親父さんは笑えないだろう?

ウォレスはその辺をぶらついてくるとか……昨日、俺と同じペースで同じ物を飲んでいた筈なのに全く二日酔いしていないとか……。
若い頃は酔い潰れて、スッテンテンにされた癖に……某音撃の鬼風に言えば、『鍛えてますから』と言った所か。

まぁ、スッテンテン云々はウォレス本人から聞いたことだが。
もっとも、ウォレスはあたかもそういう奴が居た……風に言っていたが。
原作を知ってる俺は、その殆どがウォレス自身の体験談だと知っているので、生暖かい視線をプレゼントしてあげました。

ティピは残ってゼノス、リビエラの手伝い。
些か悪ノリが過ぎたと、反省しているらしい。

「さて……俺はどうするか……」

ふむ……ここらで情報を整理してみるか……?
うむ、手持ち無沙汰だし、丁度良い。
俺は町を出て、西に向かう。
釣竿を担いで、岬に向かった。
ちなみにカーマイン達は最初、行って帰ってくるのに、ほぼ一日掛かったりしていたが……とりあえず俺は走って来たし問題無し。
このくらいの距離なら、俺のグローシュ波動でゲヴェルの波動を遮るのも余裕だしな。

「ここに来るのはアリオストの飛行装置で、フェザーランドに行って以来か……」

ひっそりと置かれた、シエラさんの墓に手を合わせ……俺は岬の先へ行き……そこから飛び降りた。

「よっ、ほっ……と」

俺は岩壁を上手く蹴って、足場にしながら下に降りて行く。
そして、釣りをするのに丁度良い岩場を発見。
そこに着地する。

「さて……と」

俺は竿を振るい、糸の先に着いた針を海へ投げ入れた。
ちなみに考え事する為に来たので、針は某太公望の針の様に真っ直ぐです。

ハイ、釣る気無いです。

まぁ、釣って帰っても二日酔い達は食べられないだろうしな……。

「さて……と」

俺はその場に腰を降ろす。
まず、懸案事項は幾つかある。

根本的なことだが……ここは『グローランサー』の世界なんだろうか?
……いや、『グローランサーの世界によく似た世界』……或いは『もう一つのグローランサー世界』……とでも言えば良いのか。

本来、存在する筈が無い我が一族……ウォルフマイヤー。

そう、正史と呼ぶべき『グローランサー』、外史とでも呼ぶべき『グローランサーオルタナティブ』……そのどちらにも登場しない一族。

だが、歴史の流れは正史の物だ。

……幾らか、俺が介入して変えてしまったこともあるが……。

「まぁ、世界の名称はどうでもいいよな……この世界が、紛れも無い現実だって――理解していれば」

そう、紛れも無い現実だ。
最初こそ、夢か何かかと思ったが……。

痛みも感じれば、空腹も感じる。
夢にしてはリアル過ぎる……と、乳飲み子の時分に理解した。

……まぁ、色々と感触的にもリアルだったし……。

それはともかく……。

俺のこの力も謎だ。
ハッキリ言ってチート過ぎる。
俺は手を軽く目の前に掲げ、そこに『力』を込める。

蒼く柔らかな光を放つ……色こそ変わらないが、ソレの力の質を変えていく。
魔力、気……他にも似て非なる力が幾つか。
俺が最初、それらを用いて出来たことは、身体能力の調整……それに相手の気や魔力を探ることくらいだった。

それだけでも、この世界においては充分過ぎる力だった。

しかし、俺には『ラーニング能力』と『アレンジ能力』なんて更にチートな能力がある。

『ラーニング能力』

相手の攻撃を喰らうことで、相手の基本である武術、剣術などの戦闘技術を全て理解し、己の物としてマスター出来る様になる能力。
必殺技、魔法、奥義などは個別に喰らわなければマスター出来ないという縛りがあるが……。

『アレンジ能力』

これは『ラーニング能力』から派生する能力。
『ラーニング能力』で体得した能力は全て理解することが出来る。
理解出来るからこそ、改良することが出来る。
それが『アレンジ能力』の全容だ。

こうして覚えた能力は人に教えることも出来る。
全てを理解出来るんだから、これくらいは当然。

これらの能力の弊害として、戦闘技術を自身で習得する……という部分に関しては恐ろしいまでに才能が無くなってしまったのだが。

もう、某史上最強の弟子や某冬木のブラウニーなど目じゃないくらいに。
正に逆チート。

自力で習得……というか、編み出したのが、暗闇を照らす魔法『ライト』のみ……正に、これが精一杯って奴だ。

あ、戦闘関連以外の才能は普通なんで、日常生活に困ってはいないが。

………もう一つの懸案事項は俺の存在だ。

自分で言うのもなんだが……俺のこのチートぶりは異常だ。
俺の両親も能力は高いが、こんな妙な力は持っていないし……ここまで異常な戦闘力は無い。
一応、一族のことも調べたが……俺の様な能力を持った者はいなかった。

つまり、俺の能力は遺伝では無いということだ。

よく二次創作では、神様のうっかりで殺されて、お詫びにチート能力を与えられ、望む世界に飛ばされる……というテンプレ展開がある。

だが、生憎……俺にはそんな記憶は無い。
会社から帰って来て……就寝して……気付いたら赤ん坊だ。
我ながら、よく発狂しなかったと思うよ。

心臓発作……とか言う可能性も無い訳じゃないが……俺を見守ってくれていた沙紀の言い分を信じるなら、それは無いだろう。

気付いたらこうなっていた。

俺には凌治だった頃からの異能……『絶対記憶能力』がある。
だから、忘れているということも無い筈だ。

『絶対記憶能力』

読んで字の如く、一度見聞きし、体験したことは決して忘れないという能力。
俺はこの能力のせいで、一時、狂いかけちまって……医者の催眠療法で記憶と一緒に、一部を封印していたんだよな。
だから、当時は記憶力が良い程度の認識だったんだが……。

そんな能力を持つ俺だ……忘れているということはない筈。
まぁ、神様とやらに記憶を消されているというパターンも、あるんだよな……。

そもそも、俺は元の世界に戻れるのか?
戻れたとして、俺はどうなる……?
海堂凌治に戻るのか?
それともシオン・ウォルフマイヤーとして戻るのか?

そもそも……俺は戻りたいのか?
向こうに残して来た親父、お袋……双子の弟の礼治……。

望郷の念が無いと言えば……それは嘘になる。
だが……この世界にも間違いなく居る……父上、母上、我が家に仕えてくれている使用人達……そして…………。

望郷の念はある……それでも俺は戻りたくない……と思ってる…のか?

……やはり、答えは出ないか。
情報が少な過ぎる……。
そもそも、答えが出る様なことなのか……?

「いや、答えを握る存在はいる……」

懸案事項その3。
俺以外の転生者の存在……。
便宜上、俺も『転生者』に含めておく。

俺以外の転生者……そう思しき存在は二人。

『青髪の双剣士』

『フードを被った男』

この二人だ。

『青髪の双剣士』

こいつの噂を聞いたのはつい最近……コムスプリングスに休暇で訪れた時だ。
今までに見掛けなかった筈の温泉卵、温泉饅頭が売られていたこと。
……これだけなら、俺も変には思わなかった。

だが、温泉湯豆腐なんて物まで売られていたのだ。
温泉湯豆腐……某国民的食文化漫画にて、出て来た料理。
ハッキリ言って、その料理がある地元か、その漫画を熟知している者で無ければ知る筈が無い。

まぁ、この世界に似た料理が存在する……という可能性も否定出来ないが。

だが、俺が重要視しているのはそこでは無い。

『青髪の双剣士』

この存在そのものだ。
『青髪の双剣士』……俺はこの名を聞いて、真っ先に思い浮かんだ人物がいる。

『グローランサーオルタナティブ』に出てくる主人公……リヒターだ。

クレイン村にはリヒターは存在しなかった。
そう、それは俺自身が確認した。
だが、リヒターはどこから救出されたんだった?

鉱山街ヴァルミエの水晶鉱山の中から……だった筈だ。

もし……仮定の話だが、クレイン村に引き取られず、別の場所に引き取られていたとしたら?

……考えが至らなかったな。
悔やんでも仕方ないが……。
だが、街の人達に料理を教えたりしているくらいだ……悪い奴では無いんだろう。
まぁ、要注意人物に変わりは無いが……。

「機会があればO・HA・NA・SHI……もとい、話をしてみたいもんだ」

もしかしたら、俺の求めていることに、何かしらの答えをくれるかも知れん。

『フードを被った男』

コイツは問答無用の危険人物だ。
ラルフの夢に出て来たソイツ……ろくな性格をしていない。

転生者であることは、その言動から間違いないだろう……。
だが、正直コイツは好きにはなれない。
……何の目的で動いているかすら判然としない。
それはリヒターにも言えることだが……。

……恐らく、あの時盗賊を変異させた魔力の持ち主と、ラルフの夢に出て来た男…………確証は無い。
だが、俺は何処かで確信している。


アレは同一人物だ。


……これから奴らがどう動くか……。
正直、不安は尽きないが……。

「……臨機応変に対処するしかないか」

そろそろ夕方になるので、俺は竿を引き上げ、街に戻って行った。
そしてフォルスマイヤー家の扉を開く。

「ただいま〜」

「あ、お帰りシオン」

「遅かったな」

既に出掛けていた皆は帰っていたらしく、居間に集まっていた。

「って……二日酔い組はまだ?」

「うん……少しは良くなったんだけど。皆、アルコールに免疫とか無いんじゃないかな?」

「とりあえず、アリオストと、カレンは幾らか回復しちゃいるが……他の面子は駄目だな」

そう言うのはリビエラとゼノス。
アリオストは、どうやら酒を飲んだこと自体はあるらしいので、免疫があり……カレンはカレンで、結構強烈なのを飲んだことあるからな……あの……温泉の時に……って、思い浮かべるなっ!?

煩悩退散!煩悩退散!!喝っ!!

ふぅ〜……よし、俺Cool。

「ふむぅ……明日までには治るかな?」

「それは大丈夫じゃねーか?流石にそこまで酒が残ってはいないだろ?」

ゼノスの言う通りか……とりあえず夕食をどうするか。
二日酔い組にはお粥でも作るべきかな……。
何気に、米とかも流通しているから、夕食に米が出ることもある。

ちなみに、俺がこちらの世界で米を食したのは旅に出てからだったりする。
……食べた時は涙がちょちょ切れそうになったね。

まぁ……それはともかく。

まず、二日酔い組に料理を作ることになった。
まぁ、卵粥だけどね?
で、それをそれぞれに持って行く。
……ちなみに俺の担当がカレンなのは仕様なんだろうか?

「カレン、どうだ調子は?」

「シオンさん……ええ、何とか……まだ、少し頭が痛いですけど」

ベットに横になりながら、力無く苦笑いするカレン。
まぁ、自業自得だからな……同情の余地は無い。
だが、それでも同情してしまう俺は甘いのかも知れん。

「ほら、起きれるか?卵粥を持ってきたぜ……作ったのはゼノスだが」

いやはや、あやつのレパートリーの広さには脱帽である。

「…食べたく、ないです……けど、食べなきゃ駄目ですよね……?」

「駄目だ。食べなきゃ良くなるモノも良くならないぞ?」

まだ、吐き気が残ってるんだろうが……食べなきゃ治らないっての。

「ほら、少し起き上がれって……食べさせてやるから」

「た、食べさせ……わ、分かりました……よいしょ……」

少し赤くなりながら、納得して、起き上がってくれた。
食べさせてやる……って言ったのが効いたのか?

「ふー……ふー……。ほら、あ〜んってして」

「は、はい……あ〜〜ん……♪」

パクッ……モグモグ……。

「どうだ?美味いか?」

「はい……美味しいです♪」

まぁ、ゼノス先生作だからなぁ……余程のことが無い限り、ミスは無いだろう。
しかし……絶対立場が逆だよなぁ……あ〜んとか。

「ごちそうさまでした。美味しかったです♪」

「はい、お粗末さまでしたっと」

その後、卵粥を食べ終わったカレン。

「今日、シオンさんは何を……?」

「ん?釣りをしていたな……針は真っ直ぐだけど」

「それって何も釣れないんじゃあ……」

等と、今日何をしていたかを話した。

「……本当なら今日は、カレンとデートしていたんだよな――」

「うぅ……ごめんなさい……」

「まぁ、良いさ。また明日にでも……な」

俺の一言に思った以上に落ち込むカレン。
とりあえずフォローは入れたが。

「は、はい……ありがとう、シオンさん……♪」

「どう致しまして……んで、他に俺に出来ることあるか?」

「それじゃあ……その……お願いが……」

俺はそのカレンの願いを承諾。
……軽く話し合った後、夕食に向かった。

その後、皆で夕食を食べながら今日何をしていたか報告。

「スキマ屋さんに行ってみたんだけど、品揃えが豊富なんだよ。やっぱりスキマ屋も良いなぁ〜♪」

「ラルフ……落ち着け。そんなトランペットに憧れる少年……みたいな瞳をするんじゃない!」

など……。

「ティピはちゃんと手伝えたのか?」

「て、手伝えたよ!ちゃんと手伝ったモン!!」

などなど…。

色々雑談をしながら夕食を戴いた。
その後、それぞれ就寝しに部屋へ……。

俺も自分の部屋へ……。
向かわず、カレンの部屋へ。
『一緒に寝て欲しい……』
それがカレンの願いだった。
かなり恥ずかしいし、理性がヤバイが……体調が優れなくて、甘えたい気分なんだと解釈。
その願いを聞き入れた。

俺はジャケットを脱ぎ、椅子の背もたれに掛け、それからベットの中に入った。

「えへへ……シオンさんを一人占めです♪」

「あ〜……まぁ、良いんだけどな。そんなにくっついて、寝辛くないか?」

「そんなことないです……暖かくて、逞しくて……ホッとします」

いや、俺はホッとする処か……性欲を持て余す。
だって抱き着いてきてるんだぜ?
むにゅんとした感触だけでも悶絶モノなのに、足を、足を絡めてきよる!?
わざとか?わざとなのか!?

「……分かっていてやっているだろう?」

「?何のことでしょう?……仮に分かっていてやっているとしたら……どうします?」

「どうもしない。いいからさっさと寝とけよ。明日もあるんだからな」

「……シオンさんのイジワル」

意地悪ちゃう……表面に出さない様、努力しとるだけや。

いや、マジで……正直、一杯一杯。
表面だけでも取り繕える様になっただけ、成長したと言える。
こんなんだと、いざ解禁した時の反動が怖いが……。

「……ウソです。シオンさんの気持ちは分かってるつもりです。私は待ちますから……」

「カレン……」

「お休みなさい……シオンさん♪」

「ああ……お休み」

俺はカレンを抱きしめ、そのまま眠りについた。

今日は良い夢が見れそうだな……そんなことを考えながら。

***********

おまけ1

もしも……その1

「ここに来るのはアリオストの飛行装置で、フェザーランドに行って以来か……」

ひっそりと置かれた、シエラさんの墓に手を合わせ……俺は岬の先へ行き……そこから飛び降りた。

「よっ、ほっ……と」

俺は岩壁を上手く蹴って、足場にしながら下に降りて行く。
そして、釣りをするのに丁度良い岩場を発見。
そこに着地する。

カサカサカサカサカサカサカサカサッ!!!!

シオンが着地したその場所から、まるで蜘蛛の子を散らす様に素早く逃げ去る無数のソレ……。

別名・海の悪魔……。

フナムシ……。

オゾゾッ!?

「ここで……腰を降ろして……釣りをする?」

無論、シオンは別にゴキやフナムシ程度……屁とも思わない。

思わないが……あの数は異常だ。
灰色の絨毯……それが移動していく様は、幾ら耐性があろうとおぞ気が走る。

「……やっぱ止めた」

シオンはそそくさと、その場を後にしたのだった。

*********

おまけ2

もしも……その2(糖分増加注意)

「ほら、起きれるか?卵粥を持ってきたぜ……作ったのはゼノスだが」

いやはや、あやつのレパートリーの広さには脱帽である。

「…食べたく、ないです……けど、食べなきゃ駄目ですよね……?」

「駄目だ。食べなきゃ良くなるモノも良くならないぞ?」

まだ、吐き気が残ってるんだろうが……食べなきゃ治らないっての。

「ほら、少し起き上がれって……食べさせてやるから」

「た、食べさせ……わ、分かりました……よいしょ……あうっ」

起き上がろうとするが、結局起き上がれない様だ……。

「フラフラして……起き上がれません……」

顔を赤くしながらも、少し息を荒げるカレンを見て、俺は不覚にもドキッとしてしまった。

「しかし、横になりながらじゃあな……」

粥を零すかも知れんし………あ。
俺はある案を考えついた。
その名も『も○のけ姫作戦』!!

要するに口移し……って、野郎からそれをやるのはかなり微妙じゃね?

俺自身、かなり恥ずい。
いや……待てよ?
カレンもそれは恥ずかしい筈……なら、発破を掛ける意味で聞いてみるか。
そうすれば、頑張って起き上がるかも知れん……何より、カレンの恥ずかしがる顔を見てみたい……。

そんなドS的心境も手伝って、俺はこの作戦を提案した。
だが、俺は忘れていた……以前、カレンの想いを断ち切るつもりで言った台詞が……逆効果になったことを。

………で。

「ん……ふぅ……」

口移し作戦、実行に移す羽目になりました。

……ああ、うん。
この事態も予測の範疇だった筈……。
まぁ、言い出した以上、後には引けないワケで……。

「……美味いか?カレン?」

「……んっ、ハイ……美味しいです……もっと……ください……」

トローンとした瞳で俺を見詰めてくるカレン。
落ち着け、俺……素数だ素数を数えてCoolになるんだ……。

「分かった……たくさん食べてくれ」

「ハイ……ん……ちゅ……」

俺は再び口移しで粥をカレンに与えていく……。

くちゅ、ぴちゃ……と、響く水音は何とも卑猥だ。

「全部食べたな……」

「はぁ……はぁ……もっとぉ……」

そう言ってカレンは俺の顔を引き寄せ、口付け……舌で俺の口内をなぞり、粥の残りを舐め取っていく。

「んふ……ちゅぱ……ぺちゅ…………んはぁ……ごちそうさま、でした……♪」

カレンは真っ赤になりながら、身震いしてそう言う。

「ああ、お粗末さま……って、やられっぱなしは性に合わないんでな」

「ふぇ……シオンさ……んむっ!?」

俺は逆襲だとばかりに、カレンの唇を奪う。

舌を絡め、口内を蹂躙していく……。

くちゃくちゃと、唾液が絡まり合う音が響き渡り……一層興奮感が高まる。

「ふぅ……んんっ!んふぅ……ちゅぴ……くちゅ……んはあぁ………はぁ……はぁ……」

互いに唾液だらけになった口を離し、透明な唾液の橋が出来上がり……それを見て益々興奮が高まる。

だが、苛烈にディープなのをしたせいか、カレンは……。

「カレン……?」

「ハァ……ハァ……ハァ……」

視線は虚ろに、息を荒げ、身震いさせていた……。
……あかん、やり過ぎた?

「あ、危なかった……」

カレンが止まってくれなければ……絶対に一線を越えていた……。

「……なにをやってんだよ俺は――」

カレンの具合が悪かったのを失念していた……いや、途中から何かスイッチが入っちまってた。

俺はカレンの頭を軽く撫でる。

「……シオ……ンさぁ……ん……♪」

そんな俺を見て、ニッコリと微笑みを浮かべるカレン。

「ゴメンな……無理させちゃって」

「……そんなこと無い……です。……続きは……してくれないんです……か?」

ようやく息が整ってきたカレンが、そんなことを聞いてきた。

「……続きって?」

「それはその……あう……」

真っ赤っ赤になりながら、口ごもるカレン。
少し意地が悪過ぎたか?

「お預け……ということで。そもそも、食事のためにしたことだろ?」

「あ……はい、そうでしたね」

そういえば……と、苦笑いをするカレン。
俺もそれに釣られて苦笑い。

「でも……シオンさんが望むなら、いつでも……私は」

「あ、ああ……時が来たらその時は、な」

その後、俺は夕食に戻った……逃げたワケじゃないぞ!?
ここまで来て、勢いで誓いを破りたくないだけだ!!
……いや、本当ダヨ?




[7317] 第101話―シオン先生の説明会と、カレンさんとの約束―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/16 13:00


さてさて……色々あったが、二日酔い組も回復。
晴れて休暇先へ遊びに行けることになった。
……まぁ、朝にも色々あったりしましたが……そこは華麗にスルーで。

うむ、思わず寝過ごして、リビエラが起こしに来て一悶着あった……とだけ言っておこう。
抜け駆けがどうのとか……誤解を解くのに多少時間が掛かったり。

それはともかく。

*********

休暇三日目・保養地ラシェル

そんなわけで、早速テレポートしてきたわけだが。

「で……何でラシェルなんだ?」

「ん?いや……俺、二日酔いでダウンしていたし……休暇申請したのゼノスだし」

俺の質問に答えたカーマイン。
ちなみに、休暇初日のことはうろ覚えらしい。

「で……何でなんだゼノス?」

「いや、また訓練を見てもらおうかってな!毎回、ここに来たら訓練してるしな!」

あっけらかんと告げるゼノス。
いや、それは良いんだが……今日はカレンとデートの約束が……。

「……兄さん……」

「!?ど、どどどうしたカレン!?」

「兄さんの……バカアアァァァァ!!!」

「めごっぽっ!?」

べコーーーンッ!!

……あちゃー……。

カレンの薬箱アタック!!
効果は絶大だ!!

どっから薬箱を出した?
とかは、聞くだけ野暮なんだろうね……。

はぁ……ここじゃあ、まともなデートスポットなんて、花畑くらいだもんなぁ……。

まぁ、ゼノスも悪気はないんだろうしな……。

仕方ない……。

結局、いつものごとく訓練が始まったワケだ。
……カレンは目に見えてショボンヌしていたが。

「…………(ω・`Ⅲ)」

「……ま、まぁ……後で時間作るからさ」

花畑くらいしか無いが……それでも構わないなら……と。

*********

「さて、今回も簡単な自習をして貰うが……」

「その前に、質問良いかな?」

「何かな、アリオスト君?」

今回から加わったアリオストが質問をしてくる。
皆が参加する運びになったので、アリオストも参加することになったワケだ。
俺様お手製魔導書『今日から君も大魔導師』の初級、中級、応用編を渡し……更に、興味があるからと『今日から君も大英雄』の方にも手を出している。

「この『気と魔力の差異について』……気と魔力の違いは分かったんだけど……この……『感卦法』だっけ?これの仕組みがどうにも……」

「……って、それ『大英雄』の究極編に乗ってる奴じゃん!?」

「いや、ラルフ君に頼まれて僕なりに理論を考えてみたんだけど……どうにもね」

「ラルフ……」

「いや、シオン……中々教えてくれないし、僕も本を読みながら試してるんだけど、中々上手く行かなくて……」

当たり前だ!俺が『成功させたことが無い』物を成功させていたら……凹むぞ!?

どうやら……ラルフは次のステップに進みたいらしいが……あくまで、『感卦法』はネタだしな……。
ぶっちゃけ、俺にも使えん。

「お前、そんなモン使わなくても十二分に強いだろうよ……」

「そんなこと無いよ……僕なんてまだまださ」

いや、ラルフ君?君、商人志望だよね?
これ以上強くなってどうすんのさ?
今だって、インペリアル・ナイツを(俺の推測だが)超えてるんだぞ?

「そのかんかほう……って何?」

「……『感卦法』ってのは、身体運用法の一つで、究極技法(アルテマアート)とも言える身体強化法だ……そのやり方は到って簡単……気と魔力を混ぜ合わせるんだ。そうすることで、気単体、魔力単体で身体強化をする以上の……爆発的な戦闘力の向上を得ることが出来る」

ティピが首を傾げているので説明してやる。

「聞いてると簡単そうだが……一朝一夕にはいかないんだろう?」

「まぁね……これを成功させるには、魔力と気を同一量に合わせなければならず、力の配分、加減……何より類い稀なるセンスが必要になる。ハッキリ言って、センスの無い奴には使えないと言っても良い……何しろ反発するエネルギーを一つに合わせるんだ。反作用的に戦闘力が跳ね上がるが、下手をすれば……」

BON!

と、手で爆発を表現してやる。
ウォレスの質問に答えたワケだが……少し大袈裟過ぎたか?
ルイセがビクッと震えた。

「まぁ、それは多少大袈裟だが……手痛いダメージを受けるのは確かだ」

「ちなみに、シオンは当然使えるんだよな?」

……なんてゼノスが聞いてくるから、俺は素直に……。

「使えるワケないだろう?」

そう告げたのだった。

ガクッ!!

そんな感じで、皆は肩透かしを喰らった様だ。

「つ、使えない技なんか書くなよ!!」

「いや、理論やコツは分かるからな……一応書いといたんだよ」

以前テストをした……あくまで、気と魔力が反発する……という事実を確認する上で、感卦法を使ってみたりしたワケだ。
予想通り、魔力と気は反発することが判明……だが案の定、感卦法は失敗。

……俺は手痛いダメージを受けたワケだ。
直ぐさまヒーリングで回復しましたが。
……放置していたら、俺でも危なかったかも知れん。

「コツ……?」

「ああ……頭をからっぽにして、何にも考えない様にやるのがコツだ」

カーマインの問いに答える。
所謂、無想の境地という奴やね。
まぁ、それも某魔法先生の原作に出てくる、一個人の意見でしか無いがね。
ラ○ンなんかは気合いでどうにかしそうだ……。
実際はどうか……何て分からんさ。
俺が習得出来ないのは、才能が無いからだし……。

「頭をからっぽにか……なんか、それならアタシにも出来そう……」

「アンタの場合、無駄なこと考えて失敗しそうだけどね?」

「ひ、ひどいよティピちゃん!!」

ミーシャの出来そう発言に、すかさずツッコみを入れるティピ。
ミーシャは何やら文句を言ってるが、すべからく事実なので仕方がない。
って言うか、ミーシャが感卦法を使えたら、俺は鬱になりますよ?

「けど、先生。魔力と気が反発するなら、呪文で強化して更に気を使う……って出来ないのかな?」

そうルイセが質問して来た。
つまり、気で身体強化し、尚且つ『アタック』や『プロテクト』を使えないのか?
という様な意味だろう。

「それは問題無い。あくまで、『混ぜ合わせる』というのが問題なのであって、個別に運用することは可能さ」

これも体験談から言うことだが……。
そもそも、ラルフは言うに及ばず……無意識に気を使っていたゼノスやウォレスに身体強化魔法を使ったりしたことがあるが……何とも無かっただろう?

「まぁ、論より証拠だな……少し早いが、場所を移動するか」

そう言って、皆を連れて保養地より外に出る。
騒ぎにしたくないからな。

「それでシオンさん……ここまで来て、何を?」

ようやく立ち直ったカレンがそう尋ねてくる。

「言ったろ?論より証拠ってな……口であれこれ説明するより、実際に見てもらおうと思ってな?」

そう言って、俺は気を纏う……うっすらと見える程度に、加減して。
多分、皆には半透明な青白い気体の様なモノが、俺に纏わり付いてる様に見えるだろう。
ちなみに、もうちょっと力を込めると竜玉みたいにブアァァァァッ!!
ってなる。

「これが『気』だ。純粋な身体エネルギー……と、正確には言えないんだが……便宜上、身体エネルギーとしておく。本来、気の流れなんて訓練をつまなきゃ見えない物だが……敢えて、見えるくらいの強さで……尚且つ、周りに影響が出ない程度に加減した」

「これが気……なの?ねぇ、触っても良い?」

「別に構わないが……」

俺の説明を聞いて、リビエラが触れていいか尋ねてくる。
俺はそれを許可した。

ぺたぺた。

リビエラの手は纏った気を通り越して、俺の身体に触れている。

「へぇ……なんか不思議な感触。触れられないのに触れてる様な……それになんか暖かい……」

「まぁ、気なんて文字通り形の無いモノだし……力を込めているなら別だが……これは緩めだからな。元来、気は身体を活性化させて癒す効果もあるから、そういう意味で暖かく感じるんだろうな」

現代……向こうの世界においても、気功を使ったリラクゼーションなんかが存在した。
……当時はあんなの眉唾だろ?
とか、思っていたモノだが……。

「……ちなみに、力を込めるとどうなるんだ?」

「そうさな……己を守る鎧にもなり、武器にもなる」

カーマインの質問に答える。
簡単に言えば、気弾や魔力弾を掻き消したり、周囲を弾き飛ばしたり……。
ちなみに、気を極限を超えて暴走させ、爆発させる……なんてことも理論上は出来る。
某破壊王子と化した野菜王子が使ったアレ。
試したことは無いが……というか、試した瞬間終わりの自爆技だからな……出来るなら試したくは無い。

「……って、リビエラ?いつまで触って……てか、くっついてるんだ?」

「だって、シオン……暖かいんだもの♪」

いや、暖かいんだもの♪
じゃない!
身体を密着させて……確信犯か!?確信犯なのか!?

「……とりあえず、説明を続けるぞ。だから、くっつくのは止めなさい。後、カレンも密着させようとしない」

「……シオンさんのイジワル」

いや、だからイジワルとかとちゃうて……みんなに見られてる所に二人してくっつかれたら、モロに顔に出てまうから俺……。
見ろ……皆が生暖かい視線を向けてるじゃないか……。

何とかリビエラにも離れてもらい、説明の続きをする。

「次は魔力……この場合、グローシュを用いない己の精神力のみのパターンな?」

今度は魔力を纏う……とは言っても、力の質が変わっただけで、見た目的な差異は無いが。

「これが魔力……純粋な精神エネルギーだ……って、皆には身近なモノだから説明はいらなかったかな?」

実際、皆も魔法を使う時に似た様な状態になる。
もっとも、アレは呪文を詠唱する際に、己自身の魔力が高まってああなるだけだが。

「気の様に、魔力でも身体強化は出来るが……魔法が使える奴は多分使わないだろうな」

「どうして?」

「ハッキリ言って効率が悪い。常に魔力を消費し続ける様なモノだからな……効果は魔力の保有量や出力にも比例するし。それならしっかりした術式を組んだ強化魔法の方が無駄が無い……普通はな」

ティピの問いに答える俺……。
正確には一長一短なんだけどな。

「普通は……?」

「さっきも言ったが、効果は出力と魔力量に比例する……どんなに馬鹿魔力を持ってても、出入口が狭ければ意味が無いし……逆に出入口が大きくても、量が少なければ直ぐに空になる……両方備えて、初めて実用出来る」

この場にいる面子で言えば……アリオストが正に出入口が広く、魔力量が少ない典型。
出口が広いから、使える魔力量は多いんだが、魔力量自体が少ないからタンクが空になるのも早い。
まあ、魔力量は努力次第で増えるから良いけどな。
例え量が少なくても、省エネ……もとい、効率的な運用法は幾らでもあるし。

だが、出入口が狭い奴はそうもいかない。

元々、使える魔力量が少ないから、幾ら魔力量が多くてもたいした魔法が使えなかったり……最悪、魔法自体が使えなかったりする。
所謂、宝の持ち腐れという奴だ。
まぁ、出入口を広げる方法が無くはないが、な。

「でもでも、その理屈で言ったら、気も使い辛いんじゃないかな?」

なんて、ミーシャが言う。
確かに、質以外に大差はないなんて言ったら……そう言う意味にも取れるだろう。
だが、その質が大きく関係する。

「気は身体エネルギー……魔力は精神エネルギー……その質の違いに大きな差がある。同じ方法を用いて身体エネルギーで身体強化するのと、精神エネルギーで身体強化をするのと……どっちが得でしょう……ってことだ」

ぶっちゃけ、使用目的によっては気と魔力では燃費が違うってことだ。
気はハッキリ言って燃費も良いし、高出力だ。
だが、汎用性は無く、呪文なんかに応用は出来ない……出来る方法はあるのかも知れないが、少なくとも今の俺には出来ない。

逆に魔力は用途によっては気以上に燃費は良いが、用途によっては燃費が悪い。
呪文から身体強化まで、幅広い汎用性がある変わりに、出力は若干気に劣る。

「……というのが俺の見解な」

「成る程ね……」

アリオストが仕切りに頷いている。
ちなみに、気や魔力の派生に『闘気』、『霊力』や『妖力』なんてのもあるが……細かい説明はまた別の機会に……話が進まないからね。

「んじゃ、今から魔力と気の同時運用をするからな」

「って……それって危ないってさっき……」

「それは混ぜ合わせた場合……じゃあ……行くぜ?」

俺は体内で魔力と気……二種類の力を発動させた。
爆発する……なんてことは無く、先程と変わらない……様に見えるが、よく見ると二種類の力の流れが見える筈だ。

「これが魔力と気の同時運用……見て分かる通り、混じり合ってる訳じゃなく、気の流れを魔力の流れでコーティングしてる様なモノだ。ちなみに逆でも可だ」

「す、凄い……」

ルイセはそんなことを言うが、そんなに凄いことじゃない。

「気は魔力と反発する……って、シオンは言ったよね?つまり、本来は決して混じり合わないモノなんだよ。だから同時に運用しても問題無い……だよね?」

ラルフの言う通り。
あくまで、それぞれを個別の力として使う分には、同時に使用しようと問題無いわけ。

例題として、某竜の騎士が主人公の漫画の技を挙げよう。
彼は闘気剣と魔法剣を合わせた技を使っていた……だが、あれは真の意味で『混ぜ合わせた』のでは無く、闘気剣に魔法を『上乗せ』させたのでは無いか……?
と、考えている。

今現在、俺も気に魔力を上乗せさせている状態だ。
これだけでも、充分過ぎる力なんだが……この上に位置付けされるのが、『気と魔力の合一』――つまり『感卦法』なんだろう。

まぁ、幾分憶測を含めた考えだけどな?
そもそも、違う世界の法則が同じなのか同じじゃないのか……真実なんて俺には分からん。
それが分かったらチートを通り越してネ申(誤字にあらず)だっつーの。
まぁ、魔力という括りでは大差無いと思うが。

「要するに、気を運用しながらの強化呪文は問題無し……ってこと。あくまで『アタック』や『プロテクト』を上乗せさせているワケだからな」

そう言いつつ、俺はアタックの呪文を唱える。
問題無くアタックの恩恵を受ける俺……と、ここで気と魔力を解く。

「以上!説明終わり!せっかく此処まで来たんだから、皆で実習な?」

そんな訳で、俺達は実習を開始した。

「シオン先生、さっきの話が本当なら……わたしにもその身体強化ができるのかな?」

「……ルイセの場合、身体を鍛えないと……魔力の強化に身体が着いていかないと思うぞ?」

など……。

「何と無くだが……感覚は掴めて来た」

「マジか!?……俺はまだだってのに……」

「カーマインは流石という所だな……ゼノスも、無意識に闘気を使ってるんだから、感覚を掴めそうなモンだが……よし、やり方を変えてみるか」

などなど……。

「ラルフ、お前は寄り道する前に気をもっと極めて見ろ。その気になれば、人間の持つ気だけで、星一つブッ壊せるんだから」

「ハハハ……冗談だよね?」

「フフフ………」

「…………嘘でしょ?」

「さて、どうかな?」

なんてことを、話したりした。
他にもアリオストの魔導理論に元ずいて、天弓(以前、模擬戦した時に使用した弓型魔導具)の改良を……勿論、ちゃんと魔法の訓練もしたからね?

ルイセ、ミーシャ、リビエラ、カレンにも同様の訓練……ルイセに到ってはグローシュの意識的な使用の為の訓練も行う……が、中々上手くいかないみたいだが。

ウォレスはラルフ同様、気の習熟を。
あの気合い拳を放つ為のタイムラグを縮めたいとか……。

ティピは……。

「蹴るべしっ!蹴るべしっ!!」

「……」

ひたすら自分の蹴りに磨きを掛けていた。

さて……そんな中。

「あの……良いんですか?抜け出して来て……」

「良いんだよ……と、言いたいが……迷惑だったか?」

「そんなこと無いです!……私は……嬉しいです」

俺はカレンを連れ出して、花畑に来ていた。

「そっか……なら良かった。せっかく、デートの約束したからなぁ……それらしいことを一つくらいは……な?」

「……ハイ♪」

俺らは花畑に来て、その中心に腰掛けている。
何をするでも無く、のんびりと花を眺めているワケだ。

「お花……綺麗ですね……」

「ああ……良い天気だし、のんびりするには最高だなぁ……」

このまま横になって、昼寝をしたいくらいだ。
まぁ、デートに来てるのにそれは無いとは思うが。

「一つ……聞いても良いですか?」

「ん〜?何でも聞いてみ〜?」

我ながら緩み切ってるなぁ……まぁ、たまの休暇だしな。
構わないだろ?

「シオンさんは……どうしてそんなに強くなったんですか?」

「……ほへ?」

思わず、そんな間抜けな声が漏れる。
というか、それはむしろ俺が知りたい。

「いえ!変な意味じゃないんです!!少し……気になっただけで」

「……何かあった?」

「!?」

カレンはびっくりした顔をしているが……そうでもなけりゃあ、カレンがこんなことを聞いたりしないだろうからな……。

「……実は」

********

「……また、変な夢をみた?」

「ハイ……」

カレンが言うには、以前の夢……つまり『俺がいなくなる夢』の続きらしい。

「シオンさん……戦ってるんです。見たことの無い衣服に身を包んで……沢山の……沢山の人達と……。それを私は見ているんです……遠くで……」

「………………」

カレンの話を総合すると、その夢の中の俺は騎士……みたいなモノらしい。
んで、無数の相手に一歩も引かず蹴散らしてしまうんだそうな……どんだけ〜……。

「何故そうなったかは分かりません……けれど、シオンさんは自分の想いを貫いてました……辛そうに、苦しそうに……側に居られたら……それが悔しくて、悲しくて……その時に思ったんです……私は支えることも出来ないのかって……」

「……けど、夢なんだろ?」

正夢とか、カーマインとラルフだけで十分です。

「夢でも……私……」

「カレン」

ガバッ!!

俺はカレンを抱きしめる……。

「シオン……さん……」

「夢は夢だろ……俺は此処に居る。カレンのすぐ側に居る……だろ?」

「……もっと……強く抱きしめて下さい……貴方を感じさせて……下さい……!」

俺はギュっとカレンを抱きしめる……カレンが抱える不安を、拭い去る様に……。

*********

「落ち着いたか?」

「ハイ……すいません、取り乱したりして……」

顔を真っ赤にしながら俯くカレン……まぁ、俺が聞かなくても良いことを言及したのが原因だしな……。

「シオンさん……居なくなったりしないですよね……側にいさせてくれますよね……?」

……カレンは不安なんだろう……立て続けにそんな夢を見たんだ……不安にもなる。
カレンは、俺を『強い』と思っている……だから、一人で何処かへ行ってしまうのでは無いかと……それは大いなる勘違いなんだがな……。

「……さっきカレンは俺のことを強いって言ったけどな?俺は全然『強く』なんてないんだぞ……?」

俺はカレンの瞳を真っ直ぐに見据える。

「だから……側に居てくれなきゃ困るって」

「……ハイ!」

「心配しなくても、俺は何処にも居なくなったりしない!」

涙ぐみながらも、力強く頷いたカレンに更なる駄目押し。

「もし嘘だったら……どうしてくれます?」

「う、嘘とな!?」

「約束を破って、一人で居なくなったら……どうしてくれます?」

涙を拭いながら、はにかんでそんなことを言うカレン。
むぅ、お持ち帰りしてぇ……!

「そんな心配は無いって言ったろ?……けど、そうだな……万が一にそんなことになりそうだったら……」

「私も……連れていって下さい」

「む?」

「……決めました!何があろうと、貴方に着いていきます。駄目って言っても聞きませんから!」

おいおい……だから、何処にも行かんというに、真剣に……だが、まぁ。

「そうだな……その際はゼノスを説得しなきゃあな?アイツの妹馬鹿は相当だからな?」

「もう…シオンさんったら……」

少しむくれッ面で「私、本気なんですよ?」的な視線を送ってくるが、そんなんされても可愛いだけだ。

「良いです!シオンさんは私が……私達が離しませんから」

「ハハハ……そうか。それはありがたいな」

私『達』か……ハハハ、我ながらリア充乙……だな。
アイツに言わせれば、もげろって言うな……絶対。

「もう……本気なんですよ?」

「ああ……分かってる」

「あっ……」

俺はカレンの頬をそっと触れる……。
そして、風に後押しされる様に……すぅっ……と、唇同士がふれあい……ゆっくりと離れた。

「俺だってカレンを……カレン達を絶対に離さないさ」

「はい……シオンさん………大好き……です……」

風が優しく俺達を撫でる……まるで、俺達を祝福してくれるかの様に……。
気が付くと……辺りは茜色に染め上げられていたのだった……。

*********

おまけ1

NGその1

「いや、シオン……中々教えてくれないし、僕も本を読みながら試してるんだけど、中々上手く行かなくて……」

当たり前だ!俺が『成功させたことがない物』を成功させていたら……凹むぞ!?

「まだ一時間しか持続出来なくて……徐々に時間は延びてるんだけど、効率の良い方法は無いかな……?」

「待て。今、聞き捨てならないことを聞いたんだが……一時間……持続?」

それはつまり……。

「うん、やってみたら思ったより簡単だったよ!けど持続時間が……って、シオン?どうしたんだい……って、うわわ!?」

「謝れ!!原作ですっかり影も形も無くなったデスメガネに謝れぇ!!!そして俺に謝れコンチクショウ!!」

「シシシシオン、おお落ち着いててて……!!」

俺はラルフの襟首を掴んで、ガックンガックンぶん回すのだった……ちくしょう!
才能か?才能なのかぁ!?
……くすん 。

おまけ2

NGその2

俺らは花畑に来て、その中心に腰掛けている。
何をするでも無く、のんびりと花を眺めているワケだ。

「お花……綺麗ですね……」

「ああ……良い天気だし、のんびりするには最高だなぁ……」

このまま横になって、昼寝をしたいくらいだ。
まぁ、デートに来てるのにそれは無いとは思うが……。

「……すぅ……」

思うが……。

「……うん、それ無理」

麗らかな陽気には逆らえないとは思わないか?

「……すぅ……すぅ……」

「俺も寝るか……お休み……」

結局、健やかな寝息が二つ、静かに発せられたのであった。
目を覚ましたのは夕方でした……って、オチ。
まぁ、平穏を甘受したってことで良しとしとくかね。

おまけ3

NGその3

「カレン」

ガバッ!!

俺はカレンを抱きしめる……。

「シオン……さん……」

「夢は夢だろ……俺は此処に居る。カレンのすぐ側に居る……だろ?」

「……もっと……強く抱きしめて下さい……貴方を感じさせて……下さい……!」

俺はギュウっとカレンを抱きしめる……カレンが抱える不安を、拭い去る様に……。

「むぎゅ……シ、シオンさ……ちょっと、苦し……息が……出来な……」

ん……?カレンの動きが……。

「カレン?」

「……きゅう〜〜……」

「カ、カレン!?大丈夫かっ!!手加減はした筈なのに……!!」

「……ら、らいじょうぶれす……わらし、シオンさんに抱きしめられて……しあわせ………ガクッ」

「うわああぁぁ!!カレェェェン!!?しっかりしろぉぉぉ!!!」

俺は慌ててカレンを抱き起こし、直ぐさま保養所へ……途中、何人か跳ね飛ばしたが知らん!!

幸い、急に呼吸困難になり、気を失っただけらしく、他に怪我らしい怪我はなかった……。
どうやら抱きしめる角度に問題があったらしい……これからは注意しなければ……。

**********

おまけ4

みにみにぐろ〜らんさ〜出張版

※ここに出てくるキャラ達は本編に出てくるキャラと、関係がありそうでなさそうな人達です。
ぶっちゃけ、某運命の道場を仕切る虎と弟子みたいなものです。

「みんなぁ!久しぶり〜♪出張版!みにみに!ぐろ〜らんさ〜♪パーソナリティはお馴染み、みんなのアイドル…ティピだよ♪よろしくぅ♪」

「………………」

「あら、ジュリアンじゃない!お久しぶり〜♪今日のゲストってジュリアンなんだ♪」

「………ぜだ……」

「へ?」

「何故、私の出番が少ないのだ……何か?作者は私が嫌いなのか?」

「いや、別にジュリアンが嫌いなんじゃないと思うケド……むしろ、お気に入りキャラの一人らしいわよ?」

「ならば何故!!私はマイ・マスターとの絡みが無いのだ!!カレン、リビエラ、サンドラ様は言うに及ばず、レティシア姫や学院長秘書……果てはお前みたいな羽虫にもマイ・マスターとの絡みがあるというのに!!」

「絡みとか言わない!生々しいから!後、さりげにアタシを馬鹿にしたわよね!?したわよね!!?」

「……何故だ……私だって……私だってマイ・マスターへの想いは人一倍なのに……最初に出会ったのも私なのに……やはり、男装しているからか……ならば、アンジェラ様から早めにドレスを……いや、それよりも」

「ああ、そのことなんだけど……次にやるのは番外編でね?ジュリアンの出番とかあるらしいわよ?」

「!?それは本当か!?」

「こんなことで嘘をついてもしょうがないでしょ?」

「つまり、私とマスターの……その、蜜月な話になるわけだな!?」

「ああ、違う違う。あくまで、アタシ達が色々やっている間、ジュリアン達がどういう行動をしていたのか……とか、書くらしいわよ?どこまで戦線を押したのか……とかね?ジュリアンがシオンさんと再会するにはもうちょっと掛かるみたい」

「なっ……!!そ、そんな……そんなのって、あんまりじゃないか……」

「そんなこと言ったって、物事には順序ってモンがあるんだから……我慢しなさいよ……大体アンタ、毎日あの腕輪で話して……って、ジュリアン……?」

「ふふふ……私なんて……私なんて……」

「……ざ、残念ながらお別れの時間になってしまいましたぁ♪此処までのお相手はティピと……」

「……うぅ……寂しいですぅ……マイ・マスター……」

「ジ、ジュリアン・ダグラスがお届けいたしました〜♪それでは、また次回〜……」





[7317] ―ウォー・オブ・バーンシュタイン―番外編18―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/16 13:28


シオン達が任務を行っていた頃……。
戦争は続いていた……。

********

北方、レイナード、ダグラス混成部隊。
便宜上バーンシュタイン革命軍としておこう。

両卿が率いる混成部隊は士気も高く、錬度もかなりの物だ。
それは数で勝るバーンシュタイン正規軍と拮抗……いや、僅かながら押し返す程に……。

そこに両卿の采配が大きく絡んでいるのは……言うまでもない。

更に……ローランディアのベルナード将軍が部隊を率いて、こちらに合流する為に向かってくれている。

それが叶えば、更に戦線は革命軍に有利な方に傾くだろう。

「ぬおりゃああぁぁぁぁ!!!」

「そんな……がはっ」

そして、そんな中……最前線で双斧を振るう男が居た。

彼の名はオズワルド。
シオン・ウォルフマイヤーに雇われ、彼を頭と掲げ、忠を誓った男。
その外見から、小悪党、口の悪いお調子者に見られることは多々あるが、その内に熱い物を秘め……時にそれを開放する男。

ある意味、正史から1番変化した男……でもある。

そのオズワルドは最前線で、獅子奮迅の戦いぶりを披露していた。

襲い掛かる剣や槍を、その両手に握る手斧で払い、壊し、受け流す。

その身に纏う蒼き鎧衣と合わさることで、歴戦の将軍の様な威風を醸し出している。
少なくとも、小悪党などとは誰も思わないだろう。

「おのれっ!!」

「!?チィッ!!」

そんなオズワルドの隙を突いて切り掛かる兵士。
……だが。

「兄貴っ!!」

ギィンっ!!

「何……!?」

「ニール!」

双剣を手に、敵の攻撃を防いだ黒髪の青年。
名をニールと言い、オズワルドの部下である。
青いバンダナを左の二の腕に腕章の様に巻いている。
言葉の節々に『っす』と付ける、オズワルドに次ぐ熱血漢だ。

「だああぁぁぁぁぁっ!!」

ザシュッ!!

「がはぁ!!」

そのまま押し切り、双剣でクロスする様に敵を切り裂いた。

「油断大敵っすよ兄貴!」

「おう、ありがとよ!!」

無論、オズワルドは油断した訳では無く、敢えて隙を見せて襲わせたのだが、それをわざわざ言うことは無かろうと、素直に礼を言う。

「せいっ!!」

斬っ!!

「がは……」

敵兵を切り倒したのはマーク。
ニールと同じ蒼き鎧衣に身を包み、赤いバンダナを右の二の腕に巻いている。

扱う武器は長剣。
薄いベージュ色の髪をした男だ。

「ふっ……たいしたことないぜ」

「舐めるなああぁぁぁ!?」

「!?やばっ……」

余裕ぶっこいていたマークに切り掛かる兵士……見ると装備の質が良く、上級兵であることが分かる。

ギィィン!!

「なっ!?」

「……やらせはしない」

槍にてその剣撃を防いだのは、ザム。
蒼き鎧衣に身を包み、緑色のバンダナを左の二の腕に巻いている。
薄い色素の茶髪をしており、比較的口数が少ない男だ。

「おらよっ!!」

「ごぶ……きさ……ま」

その隙に、上級兵の首元を切り裂いたのはビリー。
赤み掛かった茶髪の青年で、口は悪いが何気に思いやりがある男。
蒼き鎧衣を纏い、右の二の腕に黄色いバンダナを巻いている。
彼の使う武器は大振りなダガーナイフ。
それとオズワルド同様のハンドアックスだ。

「……油断大敵……だな」

「余裕ぶっこいてるからそうなるんだよ!バァカ!……一つ貸しだぜ?」

「……面目ねぇ。借りは直ぐに返すぜ!!」

このオズワルド率いる部隊は、一丸となって突き進んで行く……。
無論、他の兵達も同様だ。

「気合い入れてけお前らぁ!!一気に押し切るぜ!!!」

「「「「応っ!!!」」」」

「我々も行くぞ!!彼らに遅れを取るな!!」

「「「「おおおおおおおおぉぉぉっ!!!!」

オズワルド達の士気は、別小隊へ伝染し……それは軍全体に及んで行く。
蒼き騎士達は風の如く進軍する。
足らない部分は補い、互いに鼓舞しながら。
それは周りを巻き込み、竜巻となり……そして嵐となる。

********

「シオンが置いていった彼等は、予想以上に善戦しているな……」

馬上より戦場を眺めるのは、レイナード・ウォルフマイヤー……シオンの父であり、インペリアルナイトだった男。
リシャール王子がナイツに加わるまで、『歴代最高のナイト』とまで言われた男で、その実力はピカ一、未だに現役ナイツと遜色の無い力を持つ。
現在は別動隊を率いて行軍中である。

「レイ、こっちは準備良いわよ?」

同じく馬上に跨がる女性……名をリーセリア・ウォルフマイヤーと言い、シオンの母であり、レイナードの伴侶たる女性である。
無論、奥さんというだけでは無く、かつては軍属の魔術師であり、その魔力や指揮能力はグローシアンでは無いが、それに迫る物を持つ。
彼女を宮廷魔術師に……という声もあったが、彼女はシオンを身篭ったことにより、退役。
子育てに専念したいと言う理由だった。
本来なら、それだけの理由で退役など出来ないのだが……。
元々、レイナードと結婚したことで貴族の家柄に入ることになり、あちこちから退役を促されていたのだ。

(本人はレイナードの近くに居たいから……と、退役せずにいたが、同時に貴族の嗜みも多く学んだそうな)

退役する前はレイナードの副官を勤めていた……まさに公私に渡るパートナーだったワケだ。

「そうか……では行こうか」

レイナードは視線を逸らす。
その視線の先には隠れて行軍する部隊が……森を迂回して挟撃を狙う腹だろう。

これを斥候の報告から予測していたレイナードは、本隊の指揮をダグラス卿に任せ、相手の策を潰すために小数の部隊を率いて、高台に陣取り、待ち構えていたワケである。

「それじゃ……魔導隊!弓隊!放って!!」

リーセリアの指示に従い、魔法と矢が飛んでいく。


「なっ、奇襲だと!?」

「騎馬隊、剣士隊は私に続けえっ!!」

「「「「おおおおおおおおおっ!!!」」」」

レイナードが先頭に立ち、敵部隊に突っ込んでいく。

「なっ!?ウォルフマイヤー卿!!?くっ……迎撃しろぉ!!」

レイナード率いる部隊が、挟撃部隊の殲滅を行っている時……本隊も動きを見せていた。

*******

「まさかここまで来るとはね……」

突如、最前線に現れた男……そいつを見てオズワルドは戦慄した。
誰かは分からない……だが、これだけは分かる。

その男の実力……それはレイナードに近い物があることを……。

「リ、リーヴス将軍……」

周囲にいるバーンシュタイン兵の声で、気付くことが出来た。
以前聞いたことがある……。

「私はオスカー・リーヴス……ここまで攻め入った君達に敬意を表して、私自らがお相手しよう」

(マジか……インペリアル・ナイト様が直々にご出陣ってか?笑えねぇっての!!)

オズワルドは内心で毒づく。
バーンシュタイン王国第一近衛騎士団……インペリアル・ナイツ。
その実力は兵百人分を超えるモノであると……。
ぶっちゃけ、彼一人を相手にするより兵士百人を相手にするほうが楽なのである。

今までに彼らが出て来たことは……実は何度もある。
時には前線で戦い、時には後方で指揮を取っていた。

オズワルドは今まで戦場で合見えたことが無かったので、分からなかったが……ナイツが出て来た場合は、レイナードかダグラスが対処していた。

「……私はここから動かない。好きに攻撃してくると良い」

「……随分と余裕じゃねぇか?」

「ハンディキャップだ」

涼しい顔でそう言うオスカー……。
明らかに見下した態度に、怒り心頭になるのが常ではあるのだが……。

オズワルドは冷静だった。

(レイナードの旦那は別動隊を率いてここを離れてるし、ダグラスの旦那は後方から指揮しているから、こっちに来るまでに時間が掛かる……いや、あそこには王妃も居る。王妃の守りの為にも、離れるワケにはいかない……か)

今、考えると……レイナードが別動隊を率いて挟撃部隊を抑えに向かった……というのも敵の策なのでは無いか……と、オズワルドは考える。

味方を捨て駒にしての足止め……。

シャドー・ナイツ……バーンシュタインの闇。
奴らならそれくらいはやる……かも知れない。

(どちらにしろ最悪だぜ……っ!正直、コイツは俺様の手に負える奴じゃねぇ……)

確かにオズワルドは強くなった。
今ならば、かつての盗賊団の頭にも勝てるかも知れない……だが、強くなったからこそ、彼我の実力差もよく理解出来る様になった。
オズワルドにはオスカーが持つあの大鎌が、さながら死神の鎌の様に見えているだろう。

(やれるのか……俺に……?倒すことは出来なくても、旦那が来るまでの足止めくらいなら……)

退く……という選択肢は無い。
ここで退けば士気に影響が出るだろうし、何よりこのまま見逃してくれるとは思えないからだ。

「やるしかねぇ……か」

「ふふ……勇ましいね」

(言ってくれる……本当なら裸足で逃げ出したいくらいだってのによ)

未だに戦いは続いているが、彼らの周囲は別だ。
オスカーが放つ、静かな威圧感が周囲の兵達を飲み込む。

バーンシュタイン兵は、敵味方共に動けない……。
バーンシュタインに属する者なら、インペリアル・ナイツに畏敬の念を抱くのは当然と言える。

だからこそ、オスカーを退けることが出来れば……。

「行くぜオラァ!!」

ドンッ!!

思いきり踏み込み、左の手斧で切り掛かる。

「甘いよ」

横から大鎌が降り懸かる、しかし手抜きをしているからか、オズワルドにも十分対応出来る速さの一撃だ。

「甘いのはテメェだぁっ!!」

右の手斧でその一撃を防ぎ、そのまま左の手斧で一撃。

「フッ……」

だが、ヒュンッ!
と……素早く鎌を引き戻したことにより、刃がオズワルドの背後に迫る……。

「チィッ!?」

ガイイィィィン!!

咄嗟に左の手斧で迎撃、辛うじて受け止める。

「な、なんて力だ……」

「よそ見している場合かい?」

「なに、ガハァ!?」

突如、オスカーは振るった鎌を逆に回し、柄の部分で殴り付けた。

軽く弾き飛ばされたオズワルドだが、なんとか踏み止まる。

「よく踏み止まったね……」

「チィッ……」

オズワルドは舌打ちする。
追い打ちを受けたら、更なるダメージを受けていただろう。
最悪、トドメを刺されていたかもしれない。

だが、オスカーは追い打ちをしなかった。
それは自身の言葉を曲げることになるからだ。

『ここから動かない』

そう言ったのだ。
オズワルド達を、明らかな格下として見下しての発言ではある。
だが、そこには騎士としての誇りがあり、故にそれを曲げることは無い。
唯一それを曲げることがあるとすれば、相手の力を認めた時……それがオスカー・リーヴスの騎士としての矜持であった。

オズワルドはかなりの熱血漢である。
この様な態度を取られれば、プッツンするのも目に見えている。

……筈だが、このオズワルドはとことん冷静だった。

(落ち着け……俺のやるべきことは何だ……?コイツを倒すことか?……違う。俺のやるべきことは、時間を稼ぐことだ。コイツが俺を甘く見ているなら、それは好都合だ……手を抜いてやがる今なら、俺でも十分対応出来る!)

実際、オスカーは自身に枷を強いてはいるが、攻撃自体に手抜きは無い。
要は、オズワルドがある程度オスカーに追い縋るくらいの実力を身につけた……ということだ。
本人に自覚は無いが……。

「手伝うっすよ兄貴!」

「兄貴の考えは理解してるつもりだぜ?」

「手数が増えりゃあ、多少は違いますぜ?」

「……見せてやろう、俺達の力を……」

「……お前ら……」

ニール、マーク、ビリー、ザムが、それぞれの武器を携えてオズワルドの横に並ぶ。

「よぉ、インペリアル・ナイトの兄さんよぉ……俺達も参加させてもらうぜ?まさか卑怯なんて言わないよな?」

「構わないさ。丁度物足りないと思ってた所だからね」

「その余裕……命取りになるぜっ!!」

マークの問いに余裕を持って答えるオスカー。
その態度に、武器を構え吠えるビリー。

オズワルドは眼を閉じ……ゆっくり開いて一言。

「そんじゃあ……行くかぁ!!!」

「「「「応っ!!!」」」」

五人は一気呵成にインペリアル・ナイトという脅威に挑みかかるのだった。

**********

一方、挟撃部隊を殲滅したレイナード達は……。

「こちらの被害状況は?」

「ハッ!重軽傷者は出ましたが、死者はありません!」

「では、治療と部隊の再編成を。それが済み次第、本隊と合流する」

「ハッ!」

兵の一人が敬礼をして、その場を去った。

「………………」

「どうしたのレイ?」

側に控えていたリーセリアが尋ねる。

「……どうやら、我々は嵌められたらしいな」

レイナードはおもむろに口を開いてそう言った。

「……どういうこと?」

「この挟撃部隊の規模だ……ハッキリ言って規模が大き過ぎる。どうぞ見付けて下さい……と、言わんばかりに……な」

秘密裏に事を運ぶなら、もっと少人数で行軍するべきだ。
だが、挟撃部隊の連中は本隊程では無いにしろ、そこそこの規模の軍勢が纏まって進軍して来たのである。

迷いの森の様な、広大な森林が広がっているなら話は別だ。
あそこには広い道も多数ある。

例え大軍を率いても進軍出来よう。

だが、この戦場付近の森には、迷いの森の様な広大さは無く、その殆どが獣道で、軍隊が進軍出来る様な道は限られてくる。

「……罠だったってこと?」

「戦力を二つに別ける算段だったのだろう……迂闊だったな」

とは言え、どうしたって戦力を二つに別けなければならなかっただろうことは明白。
挟撃部隊をみすみす見逃す……という選択肢は無かったのだし。

本来、挟撃部隊を迎撃するだけなら、レイナード自ら赴くことは無かった。
だが、事前に挟撃部隊の情報を掴んだレイナードは、その策を逆手に取ろうと考えたのだ。

つまり、挟撃部隊を打倒した後……こちらから挟撃を仕掛けてやろう……と。
それも見事に空回りする羽目になったワケだが。

「それで、どうするの?」

「当初の作戦通りにはいくまいよ……部下からの報告では、オスカーが出陣しているとのことだからな……本隊に合流するしかあるまい」

インペリアル・ナイトが前線に出るということは、戦場の行方を左右する……と、言っても過言では無い。
その戦闘能力、指揮能力の高さもそうだが……1番厄介なのは……その名声であろう。

インペリアル・ナイトとは、名実ともに『大陸最強の騎士』の称号であり、それはこの大陸に広く浸透している。

所謂、ネームバリューと言う奴で、インペリアル・ナイトと聞くだけで、皆が畏怖してしまう。

インペリアル・ナイツに最低限必要な武力……『兵士百人に匹敵する』実力……と、よく表されるが。
実際の戦場において、インペリアル・ナイトの価値は『兵士百人分』では無く、『兵士百人分以上』なのだ。

それが、同じバーンシュタインの民ならば尚更だ。
その言葉の重みを、嫌というほど理解しているだろう。

(……間に合ってくれれば良いが)

レイナードは若干の焦りを感じながら、部隊の再編成を急ぐのだった。

*********

「ぐぅ……!!」

「よく保つ……その闘志は称賛に値するよ」

五人掛かりで挑んだオズワルド達だったが、結果は芳しい物では無かった。

オスカーが自身に制限を課していることと、彼らが纏う『蒼天の鎧』が予想以上に高い防御力を発揮した為、致命傷を受けることは無かった。

だが、その身体はボロボロで……立っているのがやっとの状態だ。
むしろ、全員倒れていないという事実は、オスカーでは無いが称賛に値するだろう。

「ケッ……こんなモン、レイナードの旦那の訓練に比べりゃあ、蚊に刺された様なモンなんだよ!」

「レイナード……そうか、ウォルフマイヤー卿に教えを請うていたのか……てこずる筈だ」

強がりを言うオズワルドを見て、フッ……と、微笑を零すオスカー。
一見、余裕ではあるが……オスカー自身、少なくない手傷を負っているのが分かる。

「宣言を覆す様で悪いが……そろそろ決めさせて貰おう」

オスカーが構えを取る……向こうから攻めてくるつもりだ。
それは即ち、オズワルド達を認めたことと同義だが、彼らからすれば堪ったものではない。

(トドメを刺すつもりかよ……くそっ!)

内心で悪態を吐くオズワルド。
今までとは、気迫が違う……必殺の一撃。
その一撃は、間違い無くオズワルド達の命を刈り取るだろう。

オズワルド達は立ってこそいるが……それだけだ。
それ以上は動けない……。
所謂、ガス欠状態だ。
オズワルドは多少動けるが、それでもオスカーの全力を凌げる力は残っていない。
他の四人は動くことすらままならない。

それでも立っているのは、ハッキリ言って意地でしかない。

その姿に、周囲で見守っていた兵士にも『何か』を伝染させる。
踏ん切りをつけるための何か……。
それが己の中で、ナイツに対する畏怖の念と責めぎあっていた。

「最後に――君達の名前を教えてくれないか?」

「――オズワルドだ」

「ニールっす……」

「マーク……」

「ビリーだ……」

「……ザム……」

馬鹿正直に答えてやる義理は無い。
だが、男達は答えた。

それは一介の戦士として……一人の漢(おとこ)として、目の前の男の想いに答えてやりたかったのだ。

そう、剣を交えたからこそ分かる。
オスカーは自身に枷を強いてはいたが、手抜きはしていなかったのだ。

全力を出したワケではない……だが、本気は出していたのだ……と。

「そうか……その名前、胸に刻んでおこう」

「いらねぇよ……俺様達は負けねぇ……最後の最後まで諦めねぇ!!余裕こいてると痛い目に合うぜ!!」

オズワルドは迎撃の構えを取り、吠えた……。

「ならば……雌雄を決しよう!」

オスカーが踏み込んでくる。
その速さは先程までのそれとは違う、高速の踏み込み……。

(これは、避けきれねぇ……だが、こっちも只でやられるつもりはねぇっ!!)

必殺の鎌が襲い掛かり、それを最後の力で迎撃しようとした時……。

ズウゥゥゥン!!

「「!?」」

それは降って来た。

「……剣!?」

そう、それは剣だった。
装飾が美しく、一見すると祭儀用の剣だが……その刃は鋭く、実用性の高い剣であることが分かる。

そしてフワッと着地する一人の男……。

「……何者だ?」

「なぁに……通りすがりの……」

オスカーの問いに答えながら、地に刺さった剣を引き抜き……。

「オリ主様だ!覚えておけっ!!」

突き付けたのは青髪の青年。

「テメェは……!!?」

「また会ったな盗っ人……いや、もう違うのか」

そう言って、青年は剣を構える。
更に、鞘からもう一本の剣を抜き放った。
この剣もまた、力強い雰囲気で、間違いなく名剣なのだろう。

「エクセレントでモダンなオリ主こと、リヒター……及ばずながら助太刀するぜ!!」

「……よく分からないけど、油断出来ない相手……という所か」

青年……リヒターとオスカーが対峙する。
互いに構えを取りながら、間合いを計る様にじわり……じわりと動く。

「…………」

「…………」

一歩……また一歩と近付いて行く。
そして………互いの攻撃範囲に……。

「「!!」」

入った―――。

ガアアァァァァァァァンッ!!!!

オスカーの高速の振り下ろしが。
リヒターの疾風の様な薙ぎ払いが。

激突した。

「くぅ!!?」

「チィッ!!?」

互いの一撃が合わさり、衝撃波を生み……互いの手に痺れが走った。
だが、退かない。

「ハッ!!」

「ゼエェイ!!」

ガガンッ!!ガガガンっ!!!ガガガガガガガガガガアアァァァンッ!!!!!

互いにその場を退かない……歩みを止めての連撃。
そのどれもが一撃必殺である。
最初の激突で互いの力量を察した……故に全力。

出し惜しみは己が命を捨てることと同義だと。

「ぐっ!?

「チィッ!?」

互いの攻撃による衝撃で、弾き飛ばされる両者。

「フフフ……まさか此処までの使い手に出会えるとはね……」

「フッ……誤解しない様に言っておくが、俺はまだ10%の力しか出していない……更に、オリ主たる俺はまだ四つの戦闘モードを使えるのだ」

微笑を崩さないオスカーに対して、余裕処か……ワケの分からないことを得意げにほざいているリヒター。
……ちなみに、リヒター的には幾分余裕があるのは事実だが、それは極めて全力全開に近く、10%の力とか、四つの戦闘モードとか……ぶっちゃけハッタリ……というか、その場のノリである。

「そうかい……ならば、見せて貰おうか……その力を!!」

「お前に見せるには過ぎた力でね……決して勢いとかノリとかじゃないからそのつもりでっ!!」

二人は再びぶつかり合った。
その激突は10合、20合……と、続いた。
だが、80合に届くかという辺りから徐々に均衡が崩れて来た。

「くぅ……」

「どうやらこれまでらしいな……フッ、やっぱり俺最強……」

剣を突き付けるはリヒター。
そして、突き付けられるは……膝をついたオスカー。

二人の戦いは全くの互角だった。
だが、オスカーはオズワルド達と戦った時のダメージ、そして疲労を蓄積していたのだ。
それらと、リヒターとの戦闘による疲労が合わさり、僅かな隙が生じた際に渾身のリヒターの一撃。

遂にオスカーは膝を屈したのだった。

「その傷ではまともに動けないだろう……大人しく降伏しろ」

「……フッ、それは出来ないな……」

フラフラと立ち上がるオスカー……。

「我が主の名に掛けて……屈することは出来ない……いや、出来るワケがない」

「その主が間違ってたとしても……か?ハッキリ言うぞ?お前は間違っている!主の非道に眼を伏せ、自分をごまかしているに過ぎない!!そんなことも分からないのかっ!?」

「君に……何が分かる?部外者でしかない君に、何が分かると言うんだ?」

説教じみたリヒターの言葉に、眼を細めて殺気を飛ばすオスカー。
その気迫に、思わず怯んでしまう。

「……私はインペリアル・ナイトだ。故に、私が折れるワケにはいかない……」

「……やむを得ないか。原作は既に変わってるんだ……ワザワザ気を使う必要も無いか……遺憾だが、俺の経験値になってもらうぜっ」

双剣を構え、オスカーに切り掛かるリヒター。
それを迎撃しようと構えるオスカー……。
立ち位置こそ違うが……まるで、先のオズワルド達との戦いの焼き直しの様な光景……。

「危ねぇっ!!!」

「「!!」」

そして、横槍が入るところまで再現された……。

ドゴォォォォォンッ!!

オスカーとリヒターの間に、爆炎が舞い上がった。
咄嗟にリヒターは飛び退いた。

「な、何だ!!?」

周りがざわざわと騒ぐ中……爆炎が晴れていく。
その中心には……男が居た。

「どうしたオスカー……お前らしくも無い」

長身で白い短髪……真紅の瞳は鋭くリヒターを睨み付けつつ、背に庇うオスカーに声を掛ける。

「アーネスト……今は休暇中の筈では……?」

「それがどうした?俺の休暇をどう使おうと、俺の勝手だろう」

男……アーネスト・ライエルはそう答え、オスカーにキュアを掛ける。

「それよりさっさと引き上げたらどうだ?お前に足を引っ張られては敵わんからな……」

「……礼を言っておくよ」

「何の礼だ?俺はお前を助けに来たワケじゃないぞ」

「フフッ……そういうことにしておくよ」

回復魔法により、ある程度身体の動きにキレが戻ったオスカーは後方に下がった。

「リーヴス様!」

「……残念ながら、今回は我々の敗北の様だ」

オスカーを気遣う彼の副官に、オスカーは宣言する。
オズワルド達の闘志が伝染したのか、ダグラス卿の指揮の賜物か、乱入者リヒターがインペリアル・ナイトを退けたからなのか……或いはその全てが要因なのかも知れない。

革命軍の勢いが増していったのだ。
正規軍は押され、敗色濃厚なのは否めない状況に追い込まれつつあった。

シャドー・ナイツの策により、分断されたレイナードの部隊もこちらに向かっているという。

(ここは引かなければ、被害を増すだけ……)

自身もまともな戦闘は行えず、勢い付いた革命軍をひっくり返せる策も無い……。

「負傷者と小数の護衛を選別、編成してくれ。残った者はライエル将軍の指示に従うように」

「ハッ!了解しました!!」

敬礼で返し、その場を後にする副官。

「そういう訳だ……この先に進みたくば、私を倒してから行くのだな」

アーネストは双剣を抜き放ち、革命軍を見据えた。
静寂にして裂帛の気迫は、オスカーのそれとは別物である。

必滅の意思。

その殺気はその場に居る物を震え上がらせた……。
そう……ただ、一人を除いて……。

「まさか、そこでこう来るとはなぁ……いやはや、妙な所で原作と被るというか……これも運命なのかねぇ……」

「何をごちゃごちゃ言っている」

「何、たいしたことじゃないさ……せっかく出て来たのに、俺に倒されるんだ。そんなお前が不憫で不憫で」

「出来るのか?貴様に」

アーネストとリヒターは構えを取る。

「それはこっちの台詞だ。最強の武器を手にした最強の俺……もはや俺を上回る敵など存在しない!」

「……手負いのオスカーを退けた程度で……調子に乗らぬことだ」

「ぬかせっ!!」

こうして、リヒターの第二ラウンドは幕を開けたのだった。

**********

一方、オズワルド達は……。

「兄貴、どうします?」

回復魔法で治癒されたオズワルド達……しかし、目の前で繰り広げられる高次元の戦いに、手も足も出せない状態だった。

「……どうするもこうするも、俺らに出来ることなんざ決まってる。俺達は他の敵をぶっ飛ばす。……悔しいが、俺らには手は出せねぇさ」

「……信用出来るのか……?」

「ザムの言う通りっすよ!!アイツは前に俺たちに襲い掛かって来た奴っすよ!?」

ザムとニールは言う。
リヒターは信用出来ないと……。
まぁ、出会い頭に襲われて殺されそうになり、あまつさえ天空から降って来て、ワケの分からないことを宣う謎の人物を、信じろという方が難しいだろう。

「信用出来る出来ないじゃねぇんだよ……良いか?俺らに手出し出来ない以上、この場は奴に任せるしかない。かと言って、俺らだけ何もしないワケに行くかよ」

オズワルドは言う。
観戦している暇があったら、戦線を押し切る努力をすべきだと。
現に、革命軍の兵達は……徐々に敵を押し戻している。
戦っているのだ。

「……そうだな。兄貴の言う通り、俺らだけ何もしないワケにもいかねぇよな……」

「だな……決闘をただ観戦してました……なんて、シオンの頭に顔向け出来ねぇやな」

マークとビリーは頷いて、武器を構え直した。
ニールとザムも、納得したのか、視線を正規軍の方に向けた。

こうして、男達は再び戦場に向かって行った……。

*******

「くっ……」

負傷者を纏めたオスカーは、護衛を率いて撤退の路を駆けていた。

道中、リヒターの言葉が何度も脳裏を過ぎる。

『お前は間違っている!主の非道に眼を伏せ、自分をごまかしているに過ぎない!!そんなことも分からないのかっ!?』

(分かっているさ……分かってはいるんだ……しかし僕は主を……友を裏切るワケにはいかない。だが、リシャール様が変わってしまったのは事実……ならば、僕が取らなければならない道は……)

一方、リヒターとアーネストは熾烈なまでの戦いを繰り広げていた。

「喰らえ!!『アビス』!!」

深淵に誘うが如き、紫のエネルギーを乗せた絶対なる一撃。

それを振り下ろした。
大地を大きくえぐる、強烈な一撃。
当たれば怪我では済まない一撃……だが。

ビュンッ!!

「!?分身!?」

「死ね」

『分身』により攻撃を避け、その隙に背後を取って神速の剣閃を振るうアーネスト。

「死ぬかよっ!!」

それを辛うじて見切り、受け流すリヒター。
一進一退の攻防……若干アーネストが押しているが。

「……ここまでだな」

突然、アーネストが後方に飛びのき、剣を納刀した。

「逃げるのか!!」

「次に戦場で見える時は容赦はせん……さらばだ」

そう言って引き上げて行くアーネスト。
よくよく見ると彼が殿りらしく、正規軍は撤退した様だ。

「フッ……俺に恐れを抱いて逃げるか。参ったね……この俺の素敵オーラは」

ワケの分からないことを宣うリヒター。
そして勝利に湧く兵士達……そう、この戦は革命軍が勝利したのだ。

「さて、では俺は行くかな」

「待て!……何で俺達を助けた?」

勝鬨の声が響く中、その場を去ろうとするリヒター。
そこに立ち塞がるのはオズワルド一行。

「それは……俺がオリ主だからさっ!!(……まぁ、見る限りじゃ悪党には見えなかったし、不甲斐無いから助太刀したんだけどネ)」

何やらワケの分からない台詞を吐くリヒター。
無論、オズワルド達にそれが理解出来るワケも無く……。

「……よく分からん」

「……その節は悪かったな。昔はどうか知らないが、今のお前は悪党なんかじゃない……その礼じゃないが、今後お前らに襲い掛かったりしない……俺には倒すべき相手がいるしな」

「……行くのか?」

「まぁ、な。フラグ的にもお前さん達と一緒に居る方が得策なんだろうが……俺にも色々とやることがあってね。あのちょび髭親父に伝えといてくれ。いずれ、個人的にケリを着けに行くってな」

剣を鞘に納めたリヒターは、オズワルドに言伝を頼むと、その場を走り去って行った。

「あっ、ちょっ!?……行っちまったっすね」

「そうだな……まぁ、構わねぇさ。言ってることは意味不明だが……悪い奴ではなさそうだしな」

呆然と呟くニールに、苦笑いを浮かべながら言うのはオズワルド。

とりあえず、ちょび髭親父ことレイナードに、言伝されたことを伝えといてやろう……。
そんなことを考えるオズワルドであった……。




その後、レイナードの部隊と合流したダグラスは、部隊の再編を行い……この場所に本営を置いた。
少なくない死傷者は出たが……この戦に勝利したという事実は大きい。

そして、しばらくした後にローランディアのベルナード将軍率いる部隊が合流……革命軍の規模は更に大きな物になり、勢いを増すことになるが……それはもう少し先の話である。

*********

おまけ1

「所で……あの野郎が言ってた『オリシュ』って何なんだ?」

「「「「……さあ?」」」」

おまけ2

「……………」

「?どうしたんです、ジュリアンさん?」

「これは陛下……いえ、何と言うか……虚しいというか悲しいというか……何故か急にそんな感覚に陥ってしまって」

「?どういうことでしょう?」

「強いて言うならそう……ある筈の出番が無くなった……そんな感覚と申しましょうか……作者の嘘つき、とか、やっぱり私のこと嫌いだろう?とか……うん、私は何を言っているのだろう……」

「……きっと、ジュリアンさんは疲れているんですよ。今日はゆっくり休んで、鋭気を養って下さい。大丈夫、いつも頑張ってるジュリアンさんなんです!そんなジュリアンさんが報われないことは無いですよ!」

「お気遣い、痛み入ります陛下……」

その日のジュリアンの背中は、何処か哀愁が漂っていた……と、後にエリオットが語ったとか語らなかったとか。

*********

A・TO・GA・KI・!?

ハイ、どうもお久しぶりでございます。
作者の神仁です。

当初の予定は、レイナード側の描写もそこそこに、ジュリアンがシオンとの出会いをエリオットに語る……というシーンを予定していたのに、いつの間にかオズワルドが主役……かと思いきや、まさかのリヒター登場。

……あるぇ〜?
こんな筈では……?

とりあえず、ジュリアンにはゴメンと言っておく。
いや、ジュリアンは好きなキャラなのですが…………本当……世の中、こんな筈じゃなかったことばっかりだよ!

……すいません偏に自分の力不足のせいですゴメンなさい。
m(__)m

ジュリアンの活躍はもう少し先になりそうです。




[7317] 〜if〜もしもシオンとリヒターの中身が逆だったら〜※BADEND注意
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2009/11/08 23:04
※この話は、もし『シオン』こと『海堂 凌治』、『リヒター』こと『国枝 国彦』の立場が逆だったら……というif話です。

つまり、もしも『シオン』が『国枝 国彦』で、『リヒター』が『海堂 凌治』だったなら……という話です。

中身が違うことを念頭に考えて、ご覧下さい。

それと、とある人物のせいでBADEND仕様です。

ハッキリ言って気分が悪くなります。

それでも良いという人は……どうぞ。

*********

Sideシオン(in国枝 国彦)

オッス!オラ国彦っ!!

突然だが、皆に言いたいことがある。

俺、オリ主になりました。

何を言っているかは分からないだろう……だが、これは変えようの無い事実!
そう、俺はオリジナル主人公として!
此処!グローランサーの世界に爆誕したのだ!!
まぁ、別にトラックに轢かれたワケでもなく、事故にあったワケでも無いんだが……何故か転生していたのだ!!

しかもシリーズ最高傑作と名高い無印!!

銀髪蒼眼の美青年!!
ニコポナデポも思いのままよ!!

フフフ……見える、見えるぞ!!
俺による俺の為のハーレムが!!
オリ主の俺により平和を約束された大地が!!

あ、ちなみに今の俺の名前はシオン。

シオン・ウォルフマイヤーだ。

バーンシュタイン王都の郊外にデッカい屋敷を構えた、インペリアル・ナイトを多く排出してきた家柄。

オリ主に合わせてオリ設定ですね分かります。

俺の親父になる、レイナード・ウォルフマイヤーも、少し前までナイトだった。

まぁ、小難しい話はともかく……俺のオリ主たる活躍ぶりを、諸君に聞かせようじゃないかと思う。

まず、生まれた時から赤子の時の話だが……ここはスルーで。
誰にでも黒歴史はある。
……まぁ、見た目美少女な母親にお乳を貰ってたのはラッキーだった。

つい、ねっぷりとした舌使いをしたのは内緒だ……。

さて、幼少時……身体が動く様になったらやることがある。
オリ主恒例、能力チェックだ!!

で、色々試した結果……。

「ふ……フハハハ!!俺TUEEEEEEE!!これで勝つるっ!!!」

どうやら俺は皆既日食のグローシアンらしいが、それを考慮して余りある程の魔力!!
そして、なんと……俺は気が使える!!
そう龍玉な世界で有名な気だ!!

テンションイールアップですよ!!

男の子なら誰しもが憧れる、龍玉!!
ちなみに、その力も相当の物で、近くの森の奥で全力全開にしたら、周りが吹き飛んだ。

ハッピートリガー状態になって、ゲヴェルの本拠地に乗り込んだ俺は決して悪くない筈だ。

「な、何だ貴様は!!?」

「問答無用!!チイィィネェーーーーッ!!!」

「ウギャアアアアァァァァァ!!!?」

グローシアンパワー+気で強化してのフルボッコ。
正直、勝負になりませんでした。
武器?
手刀で十分さね。
某大魔王の災厄の終わりみたいなモノだし。

拳圧だけで吹き飛ぶし。
まぁ、道中……仮面騎士やユングで散々試したんだけどね。
罪悪感?化け物に同情の余地無しっ!!
まぁ、人としてどうよ?と、思わなくは無いけどね?

どうやら、俺は気や魔力を読めるらしく、だから分かった。
ゲヴェル、恐るるに足らず……と。

気功波ぶっ放して、野菜王子みたいに「汚ぇ花火だぜ……」とかやりたかったが……出来なかったので汚い肉塊にしました♪

案の定、ジュワアァァァって溶けちゃったよ。
しばらく肉料理は食えそうに無い。

やることやってスッキリした俺は、満足しながら家に帰って行った。

(ちなみにこのことが原因で、バーンシュタイン王国第一王子と、大陸一の豪商の息子と、宮廷魔術師の息子が急死する羽目になったのだが……この時の国彦は気付かなかった)

少年期………リシャール王子がお亡くなりになられましたが……もしかせんでも俺のせい?
……そう言えば、王都でも商人の息子が溶けて消えたとか……。

………もしかしてカーマインも?

……ま、まぁ、不幸な事故だよな。
うん、俺のせいじゃない。

とにかく、国を震撼させる事態だったが、その騒ぎも鎮静化したある日……俺は更に行動に移す。

「遥々来たぜランザック!!」

気で強化して全力ダッシュ……半日も掛からなかったぜよ。

「というわけで瞬殺!!」

「グボァッ!!?……なん……な………」

ランザック城に忍び込み、ヴェンツェルを暗殺。
気や魔力を自在に調整出来る俺には朝飯前なのだ!!
ヴェンツェルの死体を連れ去り、適当な場所に埋めて帰還。
……これで巨悪は滅びた。
ふふ、流石はオリ主。

********

その後、シオンは邁進し続ける。
自身に宿った便利で厄介な能力。
ラーニング能力に悩まされながらも、それを利用し……能力を向上させながら。

そして、少年期にジュリアと出会い、唾を付けた。
まぁ、色々あって少年期からラブラブだった。

父や母から剣や魔法、戦略などを学び……。

そして青年期への変わりめに、軍学校へ入学。
アーネスト・ライエル、オスカー・リーヴスと竹馬の友になる。

そして軍学校卒業後、インペリアルナイトに。
ナイツマスターに任命されるのも時間の問題だった。

そして知らされた真実……本物のリシャール王子の存在。
どうやら、リシャールも死んだ時に溶けたらしい。
後継ぎのいないバーンシュタイン王国は、王子の捜索を急務とした。

王子は直ぐに見付かった。
バーンシュタイン王国内に住んでいたのである。
それを見付けたのはシオンだった。

その後、紆余曲折があり、リシャール改めエリオット王子誕生。

シオンの調教……もとい、教育により最初から女であろうとしたジュリアを皮切りに、シオンはそのキラキラパワーを用いて積極的にハーレムを作成。

原作キャラは言うに及ばず、モブの街娘らをも頂いたシオン。
一挙に百人以上の子供を持つ親に。

順当に平和を享受していたシオンだったが……。

「すいません……シオン様でしょうか?」

「そうだが……君は?俺のファン?」

「はい、是非サインを下さい!!」

「フフフ……仕方ないな?特別だ………ぞ……?」

ズシュ……。

「フフフ……愚かだねぇ……油断しやすい性格が災いしたねぇ……君の力、戴いたよ?アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」

「お前……何者……原作知識に……無い……オリ主たる俺が……この程度で……」

「……まだ生きてるのか。さっさと僕に力を寄越しなよぉ!!!?」

「ガアアアアァァァァァァァァァ!!!!???」

生来の調子に乗りやすい性格が災いし、もう一人の転生者、ルインの凶刃を受け、その能力と命を奪われる……享年27歳だった。

********

Sideリヒター(in海堂 凌治)

最初は何か分からなかった。
俺は身動きの取れない場所に居た……。
混乱と恐怖……暗闇の中でもがいていた俺を救ってくれた男……。

徐々に視界が閉ざされる中で、確かな光を感じながら……。

俺の名は海堂 凌治。
極平凡な企業戦士だ……だった筈だ。

しかし、眼を覚ますとそこは、知らない天井ってやつで……最初は混乱したもんだ。

俺が所謂、転生というのをしたこと……この世界がグローランサーという、前世においてゲームになっていた世界だったこと。

これらを理解するのに結構掛かったなぁ……。

あ、俺の今の名前はリヒターだ。

……オルタの主人公かよ。

orz したのは記憶に新しい……。

だが、どうもオルタとは状況が違うらしく、俺を引き取ったのは鉱山夫だということだ。
……つまり、今の俺は物語に巻き込まれる可能性は少ないってことだ。

だが、確か物語後半に水晶鉱山を占拠される筈だ……。
その時、生き残れる様に……大切な者を守れる様に……己を鍛えておこう。

幸い、この身体の才能は凄まじく、達人級の力を身につけるのに、あまり時間は掛からなかった。
しかも、どうやら生物兵器としての力を自由に行使出来るらしい。
……これなら、余程のことが無い限り、皆を守ることが出来るな。

そんな俺だが、今は……。

「親父、早く行こうぜ?」

「おう、んじゃあ行くか!」

「二人とも、いってらっしゃい」

「ああ、行ってくるよ。お袋」

俺は鉱山夫として、親父と一緒に働いている。
毎日忙しいが……充実した日々を送っていると思う。

「ふぅ……」

「おう、疲れたかリヒター?」

「冗談、まだまだイケるぜおやっさん!」

「若いねぇ〜……俺も昔はなぁ?」

現場の人達との仲も良好……皆、気さくな良い人達ばかりだ。
ちなみに、旧坑道に巣くう馬鹿者どもは早い段階でボコッて自警団に引き渡しておいた。

俺の眼の黒い内は、俺の勤める職場で不正は許さん!!
まぁ、正体がバレたら学園ヒゲに何をされるか分かったモノじゃないから、仮面を着けたりして変装してたケドな。

「リヒター、お前……外の世界とかに興味は無いのか?」

「どうしたんだよ親父……薮から棒だな」

「いや、な?お前は頭も良いし、腕っ節も立つ……しかるべき場所に行けば出世街道に乗ることだって出来るだろうに……こんな仕事を……」

「コラ親父……俺が嫌々鉱山夫をやってるってのか?俺は好きでこの仕事をしてるんだ……それとも親父は俺が居たら邪魔なのかな?」

「んなワケねぇだろう!!」

「だったら、そんなこと言わないでくれよ……俺はこの街が、この街に居る皆が好きなんだ。例え、俺が本当の息子じゃなかったとしても……親父が良ければ跡目を継ぎたいと思うし、な?」

「オメェ……気付いてたのか?」

「まあ、な。俺って親父にもお袋にも似てないし……それはともかく。こんな出来た息子が居るんだ。何時引退しても良いんだぜ?」

「ば、馬鹿野郎!10年早いんだよっ!!そんなことを言う暇があるなら、嫁の一人でも連れてきやがれ!!」

「そうしたいのは山々だが……俺、モテないしなぁ……皆、俺を見るとソワソワしながら視線を逸らされたり……風邪をひいたのか真っ赤になりながら逃げたり……顔は悪くないと思うんだがなぁ……やっぱり性格かね?」

「お前……本気で言ってるのか……?」

「……その娘さん達も可哀相にねぇ……こんな朴念仁を……」

「お袋!?いつの間に……」

リヒターは平穏に過ごしていた……また、それを望んだのだ。
だが……ある時。
バーンシュタイン王国が滅亡した……という噂が流れた。
この鉱山街ヴァルミエも国内ではあるが、魔法学院の管轄である為、主だった被害は無かった……。

……今までは。

「フフフ……君の技は覚えたよ、リヒター君?」

「馬鹿な……俺のアビスが……効かない!?」

ある時、ふらりと現れた一人の男……そいつが自警団を虐殺したのだ。
怒りが身体を支配していく中、家族や友人達を逃がす為、勝ち目の無い戦いを挑む。

だが……リヒターの最強の一撃は男……ルインには通用しなかった。

「そぉれ、受け取れ……アビス」

「なっ!?ガアアアアァァァァァァァァァ!!?」

あまつさえ、ルインはアビスを繰り出して来たのだ……。

「ぐ……うぅ……」

「もう終わり?つまらないなぁ……じゃあ、不甲斐無いリヒター君には、罰ゲームを与えま〜す♪」

「な、何を……」

「確か……あっちだったね……」

ルインは呪文を唱える……現れたのは巨大な魔法陣。
そして……強大な魔法。

「まさか………」

「くふふふ……そのまさかだよ。……メ・テ・オ♪」

「止めろおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

召喚されたその強大な隕石は、広大な土地を薙ぎ払った……リヒターが身をていして逃がしたモノ達……その全てを。

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!み〜んな死んじゃった♪」

「……嘘……だ……」

「嘘じゃないよ?皆、ぺちゃんこ……いや、粉々になっちゃったよ。真っ赤な真っ赤な……赤ぁい花を咲かせてね?まぁ、メテオの熱量でその真っ赤な花も直ぐに蒸発しちゃったんだけど」

ザザザッ!!

頭を過ぎるのは赤い水溜まり……。

「嘘だ……」

……壊れた人形の様になってしまった少女。

「嘘じゃないって……僕は気を読めるからね……みーんな消えたよ」

……それでも微笑んで……その姿が重なり、鮮明に……。

「嘘だああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「煩いよ屑」

ズウゥゥン!!

「がっ!??」

飛び掛かろうとしたリヒターを縛り付けるのは、重力の楔。

「フフフ……君も綺麗な赤い花を咲かせるかい?」

その嗜虐的な視線は、目前のリヒターを侮っていた……だが。

「アアアアァァァァァァァァァッ!!!!」

「何!?」

リヒターを覆うのは青き奔流……それは気と呼ばれる代物だった。

殺意に身を流されるまま、リヒターはルインに切り掛かった……。

「しまった!!?………なんてね?」

振り下ろされたのは深緑の光……ルインによる全力の魂の光。

「あ………」

光に包まれる中で……走馬灯が流れていく。
リヒターとしての人生、その中で出会った両親、同僚、友達……そして……海堂 凌治としての人生……両親、弟、悪友、同僚………そして。




「………沙…………紀…………」




数奇な運命の中、平穏に生きようとした男の人生は、こうして幕を閉じた。
享年29歳だった……。

「フフフ……消滅したかぁ。まぁ、汚らしい肉塊を片付ける手間が省けた……という所かな……おっ?……この力があれば空も飛べるか。……フフフ……アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ!!これで僕を脅かす者は居ない!!僕こそ、この世界の神っ!!!この世界は僕の物っ!!!僕の玩具だぁっ!!!!ヒャハハハハハハハハッ!!!!」



―――これは、もしもの物語の、更にもしものお話。
もしもシオンが油断しなければ………シオンとリヒターの中身が違えば……。
或いはルインという存在が無ければ……。

ただ、言えることは……この世界は破滅に向かうということだ。

もはや、彼の者を止めることが出来る者は……誰も居ないのだから……。

********

後書き。

唐突に思い付き、作ってみたif話。
本来はオタクニシオンが無双して、リョウジリヒターが平穏に過ごす……というだけの物でした。
しかし、ならルインは?
そう考えた結果、BADENDに。

最初から居ないことで考えたら、彼らはそれぞれの人生を謳歌した筈。
しかし、ルインが居ることを考えた場合、オタクニがもっと鋭い性格をしていない限り……。

正直、ご都合主義作品で、肝心の場面でご都合主義が発動しないと言う、胸糞悪い話ですが……。
こういう展開もあった……ということで。



[7317] 超絶嘘予告―異世界転生者と……戦国乙女?―ネタバレ注意―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/16 18:56


やあ、皆!
今日は来てくれてありがとう!!

………うん、そうだね!プロテインだねっ!!

今回のこれは嘘予告。
主人公の彼はかなり先の設定だから、ネタバレなんだ!

……そうだね!プロテインだねっ!!

お約束だけど、そういうのが嫌な人は……いないいないばぁをしよう!
お兄さんとの約束だゾ?

あと、今回の原作は中々にマニアックだと思うんだ!
元はパチンコだからねっ!!
一応、コミックとかにもなったけど……パチンコ準拠の創作らしいから、コミック版と異なっても、斜め45°に突っ込んであげよう!
作者は悶えるぞっ!!

……ん?さっさと本編進めろ?

……そうだねっ!!プロテインだねっ!!!

そんなワケで……諸々含めて、納得した人は先に進むんだっ!!

**********

……シオンです。
またしても異世界に飛ばされたとです……。

シオンです……。
今までさんざん飛ばされましたが……今回は最悪です……。

「放てーーっ!!」

「おおーーっ!!」

森の中、学校の屋上、港……色々な場所に俺は現れましたが……。

ガキイィィィィン!キィィン!!ギィィィンッ!!

戦場に出現させられたのは初めてとです……。
そんなに、戦わせたいとですか……。
オッサン、悲しかとです……。

シオンです……シオンです……シオンです…………。

『マスター!!危ないで……!?』

パシッ!!

「な……!?」

我が相棒であるスーパーデバイス『ディケイド』が、我が身に迫る危機を知らせようとするが……。
幾ら茫然自失だったとは言え、この俺が見え見えの攻撃を喰らうと思うか?

俺を攻撃してきた兵士……灰色掛かった足軽の鎧を着けていることから想像するに……戦国時代か?
史実の戦国時代……では無いよな?
こんなデザインの鎧には見覚え無いし……。
いやまぁ、別に戦国ヲタってワケでもないから、詳しくは分からんけどな?


「くっ!離せ!!?」

じたばた足軽が暴れてるが……なんか女みたいな声だな?
妙に細身だし……。
だが、この時代……女が戦場に立つことは稀な筈だし、それは無いだろう。

まぁ……それはそれとして……。

「ディケイド……セットアップ……『ロッドモード』」

兵士から刀を奪い、地面に降ろしたシオン。
世界の破壊者のアーマーコートを装着する。
手に持つのは、これまた世界の破壊者が持つ、武器でありカードホルダー……ただ、形状が若干異なり、それは剣や銃の形では無く、杖の形をしている。

『セットアップ完了!……って、マスター?もしかして……怒ってます?』

「心配するな……俺は冷静だ……そう、煮えたぎる程に……」

ブワッ!!

「「「ハウッ!?」」」

周囲に居た兵士は、シオンから漏れ出した若干本気めの殺気を受けて、バタバタと気絶した。

「非殺傷+全力全壊で……ん?……気絶している?」

『そりゃあ……マスターの殺気を受けたんですから……並大抵の人はこうなりますよ……って、何を取り出してるんですかっ!?』

シオンが取り出していたのは、破壊者の使うカードと似た形のカードで、白い魔王と比喩されることもある、某エース・オブ・エースが持つ不屈の心の名を冠した杖の形をしたエンブレムが刻まれたカードだ。

『戦場の真ん中に飛ばされたのを理不尽に思うのは分かります……分かりますケド……ディバインバスターは、やり過ぎですよぉ……それと全開の文字が違いますからっ!』

「別に殺そうなんて考えてないぞ?非殺傷使って更に、魔力量も加減するつもりだったし……何より、全開は全壊で良いだろう……なのはちゃんのキャラ的に」

『突っ込み処ソコですかっ!?というか、彼女に対するマスターのイメージって……』

「まぁ、冗談だけどな。根は素直な優しい子だし……ちょっと頑固なのが珠にキズではあったが……と、昔の話題で懐かしんでる暇は無いみたいだぜ、相棒?」

見ると、シオンが気絶させた兵士達と同じ鎧を着けた兵士達が、増援としてこちらに向かって来ていた。

「おのれ……貴様よくも!!」

『マスター……もしかしなくても、敵だと思われてません?』

「だろうなぁ……話し合いが通じれば良いんだが……こんだけ殺気だっていれば無理だろうなぁ……」

諦めないで下さいよっ!?
という、相棒の声をスルーし、手早くメンチビームでカタを付けたシオン。

「ふむ……殺気だけで敵を倒すか……男にしてはやるな」

すると、赤銅色をした鎧を身につけた兵士を引き連れた……一人の将が現れるが……。

「……………」

シオンは思わず顔を引き攣らせた。
その将は、漆黒の鎧とマントを身に纏い、腕には漆黒の大剣を携えている。
真紅の長髪をポニーテールにし、大胆不敵な笑みを向けてくる……女。

何故、女と分かったのか?
それは鎧に問題がある。
一昔前のファンタジー……ヴァ○スとかに出てくるヒロインが着けている様な鎧なのだ。

所謂、ビキニアーマーという奴である。
無論、シオンは背後から兵士と将が近付いてくるのを気配で察知していた。
その将が、並々ならぬ実力の持ち主だと言うことも……だが。

(……女だとは思わなかったぞ)

しかも、ワイルドというか粗野なイメージはあるが、文句無しの美少女なのだ。
しかもスタイルもグンバツだ。

シオンが男尊女卑な考えを持っているワケでは無い。
今まで渡って来た世界でも、強い女性を何人も見て来た……むしろ、女性の方が強い世界もあった。
なので、女の子は守らなきゃ……という考えこそはあるが、決して侮る様な考えを、シオンは持ち合わせていないのである。

そんなシオンが驚愕しているのは、偏にここが戦国時代(仮)であるからだろう。
正史において、戦国時代に活躍した武将は殆どが男の筈である。
例外として、女性武将が活躍したこともあったが……それでも圧倒的に小数である。
まぁ、戦国ラ○スなどの世界的な例外もあるにはあるが……。

(……此処は戦国時代では……無い?)

その考えは正しくもあり、間違いでもあるのだが……それをシオンが知るのはもう少し先の話である。
シオンに近付いて来た女が発した言葉……それが更にシオンを混乱させることになる。

「我はノブナガじゃ!名を名乗れっ!!」

「…………はい?」

シオンが出会ったのは、尾張のうつけ、第六天魔王などと呼ばれる筈の……美少女だった。

*********

日本であって日本でない戦国時代の物語……。
この世界では女性が中心となって戦う戦国の世……。

名立る戦国武将達は天下統一への近道のため、ある物を探し求めていた。

それを得た者は、天下の覇権を握ることが出来ると伝えられる伝説の勾玉……『榛名』。

一騎当千の猛将達は熾烈な争奪戦を繰り広げていた。

そして人々は、美しくも屈強な彼女達をこう呼んだ……。


『戦国乙女』と……。


********

転生者は武将と出会い、彼女と行動を共にすることにした。

原作知識というアドバンテージを得られなかった転生者にとって、まずは世界を知ることが急務であった。
そして時勢を知るには、時代を動かす者の側にいるのが1番と判断した。

「成程……その榛名とやらを手に入れるため、武将達は対立しているワケか……つまり、ガ○ダムファ○トみたいな物だな」

「うむ、確かにその通りじゃ!しかし……が○だむふぁ○ととはなんじゃ?」

「いや、まぁ……こっちの話だから気にすんな」

そして、出会うは新たな武将……。

「我は伊達マサムネ。……お前は何者だ?」

「何、織田ノブナガの協力者……って所か。……仲間だと俺は思ってるが、立ち位置的には部下……いや、やっぱり協力者だな……客将と言っても良いが」

争いはしているが、乙女達はどうにも本気で敵対しているワケではあらず……。

「はっはっはーっ!見ろシオン!また一匹仕留めたぜ!!」

「それは良いんだがノブナガ……アレは良いのか?」

「キャアァァ!?助けて下さいませぇぇぇ!?」

「あー、お嬢は良いんじゃ。ほっとけほっとけ!ああやって鳥とじゃれるのが、お嬢の趣味なんだから」

「俺には鳥に襲われている様に見えるんだが……」

「そうです!襲われているんですぅ!!ですから助けて下さいましぃぃぃ!!?」

ビスッ!ビスッ!!
と、猛禽類に襲われているお嬢こと、今川ヨシモトを見て、思わずゾクッとなった転生者……自重しようと誓ったとかなんとか。

そして、眷属の者達と合流した転生者。

「……マイ・マスター、この世界がどんな世界か、私には分かりかねますが……やたらと女性が多いのですね」

「まぁ、女性が中心の世界らしいからな……」

「シオンさん……幾ら女性ばかりだからって、その、頑張り過ぎないで下さいね?」

「いや、なんでさ……?というか、俺がそういうことを積極的にやらないのは理解しているだろ……その理由も、な?」

「ええ、それは……」

「皆が居てくれるからな……それで十分さね」

「けど、相手が本当に本気だったら……時と場合によるけれど、シオンなら受け入れちゃうんじゃない?」

「……否定はしないケドな。だが……それでも俺は……それに、俺とどうこうなりたい奴なんか、そう居ないって♪」

そう思っていた時期が俺にもありました……状態になるとは予想もしていなかった転生者。

「ぷはぁ!美味い!!やっぱり風呂に入る時はコレだぜ!!」

「……それは否定せんが。お前、今の状況を理解してるか?……まぁ、俺を異性とは見ていないにしても、一軍の頂点に立つ将が、一客将とご入浴なんて、対外的に問題があるだろうに……」

「……それはお前の女達に対してか?それとも……ワシに対してか?」

「両方だ。他にも色々あるが……お前みたいな良い女がそんな姿でいたら、どうぞ襲って下さいって言ってる様なモンだぞ?」

「クックックッ……この女たらしがっ!だが……まぁ、これも惚れた弱みという奴じゃろう。英雄色を好むと昔から言うしな」

「は……?」

「そもそも、何とも思っていない相手なら、一緒に風呂に入ろうなんて思わんじゃろうが……」

「いや、待てノブナガ……時に落ち着け?さっきのは一般論であって、本気で襲うとかじゃなくてだな…だから、な?」

「嫌じゃ。シオンほどの男をワシは知らない……そんな男をみすみす逃がしたくは無いからな。今、この場でワシのモノにする!そのかわり、ワシはお前のモノになってやるんじゃ……悪い条件じゃないじゃろう?……ワシだけのモノじゃないというのは――ちょいと癪じゃが……それも受け入れてやる。ありがたく思えよ?」

「やめ、胸を押し付けるな……っ!?入っちゃうから!オッサンスイッチ入っちゃうからああぁぁぁぁ!!?」

「ふふ……どうじゃ?胸には結構自信があるんだぜ?」

「やばい……理性が……どうするよ俺……!?コマンド!?」

1、無理矢理気絶させて逃げ出す。

2、Aのみを使い、昇天させる。

3、暴走スイッチON。

ピッ。

「ワシがここまでやっておるのじゃ……よもや、うやむやにはすまい?……好きな様にすると良い……お前の全てを、受け入れてやるから……ワシに恥をかかせないでくれ……」

プチッ。

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

転生者がどんな選択肢を選んだか……それは分からない。
だが、コレだけは言える。
幾ら否定しようと、転生者は天性のたらしである……例え此処を凌いでも、第二第三のソレを生み出すだろう……と。

果たして転生者は自身の役目を果たせるのか……そして女難とは名ばかりのリア充に、嫉妬仮面は舞い降りるのか!?

「で、あたし達の出番は?」←豊臣ヒデヨシ

「……出るタイミングを間違えたみたいです……」←徳川イエヤス

「まぁ、私はどうでもいいんだが……いや、少し…どうでもよくは無いが……しかし……」←上杉ケンシン

「腹減ったなぁ……アイツの作った飯、美味いんだよなぁ……」←武田シンゲン

「……私の計画に、あの男は邪魔だな。……あくまで邪魔なだけ。それだけなのだからな?他意は……無いからな」←明智ミツヒデ

そこには二人の様子を伺う乙女達が居たとか居なかったとか……。
なんだかんだで、転生者の順応も早いということか……。

『異世界転生者と戦国乙女』

掲載日未定。

*********

後書け。

はい、そんなワケで懲りずに嘘予告。
題材はパチンコ『戦国乙女』です。
漫画にもなったりしている作品で、実機には結構お世話になったモノでした。
ちなみに、このシオンは乙女世界の原作知識を知りません。

次回からは本編に戻ります。
とりあえずゲヴェルを倒すまでは。

それではm(__)m

こんな嘘予告を……とかアレば随時募集しております!




[7317] 第102話―暗躍する者、縛られた者―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/16 19:22


周囲が宵闇に染まる時―――草木も眠る丑三つ時――。

森の奥深くにひっそりと佇む木造家屋――。

そこで行われていたのは――。

「あべしっ!!?」

「たわばぁっ!!?」

メメタァッ!!!

バカアァァァァァァン!!!!

容赦無い殲滅戦だった――――って、死なせてないからね?
窓から吹っ飛んで行った奴らは世紀末な悲鳴を上げていたけど……気絶してるだけだからね?

「……おい……俺の名前を言ってみろ……って、全員気絶してるか」

さて、俺ことシオン・ウォルフマイヤーが、何故こんなことをしているのかと言うと。
勘の良い方は気付いているかも知れないが……。

俺は今現在、シャドー・ナイトのアジトに赴いて奴らを殲滅していた所なのだ!!

つまり、さっきぶっ飛ばした奴らも、この周囲に転がっている連中もシャドー・ナイトってワケだ。

話は少し遡るが……休暇から帰還した俺達は、夕食を戴いた後、就寝した。
で、皆が寝静まった頃合いを見計らって、起き上がり……行動を起こしたというワケ。
モンスター使いの気、魔力を辿って瞬転!!

こうしてアジトらしき家屋の前にやってきた俺は、早速屋内に侵入……当然、中に居たシャドー・ナイトらに襲われたが、メンチビームをシュミミーンと喰らわせ、気絶させる。
メンチビームに耐えた連中には、鉄拳制裁で黙らせた。

殲滅しながら進み、モンスター使いの気を感じる部屋へ。
そこでは既に逃げる準備をして、窓から飛び出そうとしているモンスター使いが。

俺を視認したモンスター使いは、それはもう勢いよく罵倒してくれましたよ。

「よくも私を謀ってくれたな!!」

とか……。

「いずれ必ず後悔させてやるっ!!!」

とか……言葉の意味から考えて、どうやらあのトラップに引っ掛かった様です。
とりあえずプププ……とか思っていたが、同時にそんなに激昂するほどか?
……とも思ったり。

やはりリビエラが言う様に陰湿で短気なんだな……と、改めて認識した。
(シオンはモンスター使いが、大鷲に騎乗中に漏らしたことを知りません)

無論、俺は奴を捕まえようと近付いたが、部屋に居た数人が立ちはだかった。
どうやらモンスター使いに命令され、足止めをする算段らしい。
原作でもチラッと感じたことだが……どうもこのモンスター使いは、他のシャドー・ナイツより階級が上の様だな。

高笑いしながら逃げようとしていたので……。

「宣言しよう……貴様の運命は破滅だ。俺は貴様を追い詰める……貴様が何処に居ようとな……クックックッ……」

という言葉を殺気と共にプレゼントしたら、真っ青になって慌てて逃げ出して行きました。
此処で奴をどうにかするのはたやすいが……泳がせておけば次のアジトに行くだろう?
……奴には道標になってもらおうか。

で、足止め連中を無力化して今に致る……と。

「さて……剥ぎ取りタイムといきますか」

俺はその場に居る連中の装備一式、アイテムを剥ぎ取り、魔導具『緊縛君1号』にて縛り上げて家屋の外へポーイ。
下着だけは武士の情けでそのままにしてあげました。

無論、他の部屋でのびている奴らや、外にぶっ飛ばした奴らも同様に。

その結果……。

シャドー・ナイツの鎧(制服・男女)

双剣型シャドーブレイド

大剣(通常)型シャドーブレイド

風神の杖

クレセントピアス

……等、色々なアイテムをゲットした。

シャドー・ナイツの鎧や、シャドーブレイドに関しては以前説明したので省くが………ん?
女のシャドー・ナイトも居たのかって?
ああ、居た……2、3人程度だけど。
勿論剥ぎましたが何か?
俺、女性は守る対象だと思ってるけど、男尊女卑はしない主義なんだよね〜♪
男連中は剥いでるのに、女性だけ剥がないのは不公平じゃん?

……あ、勿論下着はそのままだからな?
装備を分取っただけだから。

……幾ら何でも、無抵抗になった奴に何かする程、俺は鬼畜と違う。

まぁ、相手がクズみたいな奴なら……容赦しないがね?
フフフ……。

まぁ、それはともかく。
新しく手に入れたアイテムだが……。

『風神の杖』

風を操る力が増すという、神秘的な杖。
風の精霊王が、人間に与えたと言われている。
この杖を媒介に魔法を使うと、風属性の魔法を使った際、対象の風耐性を下げる効果がある。
つまり風属性の魔法が効きやすくなるってことだ。
杖ではあるが、込められた魔力がそれなりにある為、攻撃力自体はそこそこである。
勿論、杖なので魔法を補助する役目が主で、知力、魔法の射程、範囲、威力を補助する。

原作風に言うなら、知力+7、射程+4、範囲+2、魔法威力+10%……といった所だ。
杖としては中堅クラスの物で、値段も四桁を超えない……まぁ、一般的に見たら超高級品ではあるんだが。
この杖一本で、宿屋に何泊出来るんや!!
って、話しだ。

『クレセントピアス』

プラチナで作られた三日月型ピアスで、魔法詠唱時の精神集中を促し、魔法の効果を高めることが出来るという、杖の様な効果を持つピアス。
知力+15、射程+3、範囲+1、魔法威力+10%……。
精神魔法に対する耐性は上がるが、防御力自体は低い。
この類の物品は大概そうだが……アイテム自体に防御力があるわけではなく、込められた魔力が装備者を守る仕組みになっている。
もっとも、ピアスという形状だからか、先程述べた様に防御効果は低い。
ちなみに、値段は風神の杖より若干安い程度。
まぁ、プラチナ製だし無理からぬことだが。

他にも回復薬とか色々ゲット出来た。

「さて……次は……」

続いて、俺は家捜しを始めた。
奴らの行動に関する証拠でも無いかな……と、思っていたんだが、そんな明確な証拠を残す様な連中じゃないワケで……。

「毒消し草……ファイアニル……おっ、力のリンゴ。レアモノゲットだな」

結局、幾つかのアイテムを手に入れるだけに止まった。
ちなみに、毒消し草は敢えて説明不要だろうが、他二つを軽く……。

『ファイアニル』

炎の力を中和する魔法粉末。
身体に掛けることで、しばらくの間、炎魔法を無効化出来る。
ただし、他の魔法粉末との併用は出来ない。

他にも各属性に対応したニルがあり、それらと併用は出来ない……というワケだな。

『力のリンゴ』

果汁に、筋力を強くする成分が含まれた魔法のリンゴ。
魔導学の進歩によって生み出されたものだが、一本の木から、たった一個しか採取出来ない。
その真っ赤な実は、みずみずしく甘味。
力が漲る様な味である。

効果としてはドラ○エのちからの種と同じ様なモノ……と、考えれば分かりやすいと思う。

「さて……最後の締めに掛かるか」

俺は外に出て、呪文を詠唱し……。

「マジックガトリング」

それを家屋に放った。

手加減無しで放った無数の矢群が、家屋をボロ雑巾の様に蹂躙した。
見るも無惨な状態になった家屋を、満足気に見た後……俺は帰還したのだった。

――――その頃、イリスの身に降り懸かっている出来事など……知るよしも無く――――



**********



此処はマスターの秘密研究所……。
私は今……拘束されている。
原因は分かっている。

―――私がグローシアンたちを逃がしたからだ。

私はマスターを薬でお休みさせた後、行動を開始した。
皆さんへ簡単に事情を説明して……私の話を信じず、学院に残った方たちもおられました……しかし半数以下ではありますが、信じてくれる方もいました。
……アイリーンさんが皆さんを促してくれたのも、大きいのかも知れません。

そして夜の帳が降りる頃……私たちは行動を起こした。

森林を通って進んで行く……。
それは万が一にでも追っ手に追尾された際、それを撒くためだったのだが………私はマスターを甘く見ていたらしい。

もうすぐ街道に出る……という所で、マスターと協力関係にある男……確かグレンガルと言ったか。
彼率いる盗賊たちが立ち塞がったのだ。
マスターは私が反攻することを見越していたのだろう……。

私は皆さんを逃がす為に足止めに残った……。
しかし、アイリーンさんを始め数人も残って私と一緒に足止めをしてくれると……。

結果、残りの皆さんは逃げられましたが……私たちは捕まってしまった。

「よもやお前に裏切られるとはな……」

「マスター……」

私が思考に耽っている間に、マスターがやってきた……その顔には嘲笑が張り付いている。

「お前の愚かな行いのおかげで、数人の実験台に逃げられてしまったが……他にも代わりはおるからな。問題あるまい……それに逃げた者たちも無事では済まさん」

「……………」

始末する……ということか。
確かに、マスターのことを言い触らされたらマスターにとっては些か都合が悪い……そんなことになるくらいなら、いっそ……ということだろう。
………上手く逃げ切って欲しいですが。

「……私を処分しないのですか?」

そう、マスターは何度も言っていた。
お前の代わりなど幾らでも造れる……と。

それを恐れて、私はマスターに反攻することを躊躇った。
だが、それ以上に私は堪えられなかった。

彼らの笑顔を……優しさを……無惨にも摘み取ってしまうことを。

怖さが無いかと聞かれたら嘘になる……だが、私は自身の『心』に準じたのだ……だから、後悔はしていない。
例え、処分されようとも……。

「ふん……お前にはまだ使い道があるからな……感情という邪魔な物を覚えたお前だが、だからこそ利用価値というモノが生まれるのだよ」

マスターが私に向けて手を翳す。
……一体、何を……?

「私ほどの魔導師ならば、お前の記憶を奪い、操ることなど造作も無いことなのだよ」

「っ!!?」

記憶を……奪う……?

「もっとも、記憶を奪う……というより、一時的にその記憶を封印し、私の操り人形に戻るというのが正確だがな。よもやお前にコレを使うことになるとは思わなんだわ……では、眠るが良い。お前が眼を覚ます頃には全てが終わっている……そう、全てがな」

「あ………ぁ………」

マスターの宣言と共に、私の意識は堕ちた。
最後に脳裏に浮かんだのは……『感情』を教えてくれた……彼の……。

**********


――そんなこんなで、俺達は今、ローランディア城の謁見の間へ来ている。
次の任務を受けに来たワケだな。

「休暇は楽しめたかな?次の任務は……と言いたいところだが、そろそろ自分たちのすべきことがわかってきたであろう。そこで、今回は任務を設けないでおく。自分たちですべきことを成し、報告してくれればよい。緊急の用事があれば、こちらから呼び出す」

……ということらしい。

「全部自分で決めるなんて、なんだか調子狂っちゃうね」

ティピの言う通り、何だか肩透かしを喰らった気分だ……それだけ信頼されているのだろうが……。

「そう言えば、サンドラがお前たちに用事があると言っていたな。暇をみて行ってみるといい」

そんなワケで、俺達は謁見の間を後にし、サンドラの用事を伺いに行くことにした。
原作通りなら、ルイセの魔法実習終了の証明書が渡される筈だが……。

そんなことを考えながら、サンドラの研究所に向かった。

「マスター!」

「お母さん、来たよ」

研究所の二階にて、サンドラがバルコニーに居たのを見付けたルイセとティピが、サンドラに話し掛けた。

「休暇は終わったのですか?」

「ああ……それで、母さんから話があるそうだけど」

「ひょっとして、ゲヴェルのことで何か分かったことでも?」

サンドラの問いに答えつつ、用件を聞くカーマイン。
ウォレスはウォレスで、ゲヴェルについて何か分かったのかと、尋ねていた。

……ん?サンドラがコッチを見た……?
俺から知らされた情報を教えて良いものか……?
そんな感じの表情だな。

俺はその視線に、苦笑いで返した。
好きにすると良い……そんな感情を込めて。

「確かに幾つかの情報はありましたが……まだ、ハッキリとしたことは分かっていないのです。だから、情報が纏まり次第知らせます」

……どうやら、サンドラは俺が教えた情報は教えないつもりらしい……。
いや、グローシアンの命を賭けて封印する……という手段以外を模索してから、一気に情報を提示するつもりなのかも知れないな。

「今回呼んだのは、これを届けてほしいからです」

「届け物?」

「ええ。あなたの魔法実習終了の証明書ですよ」

「……あ」

どうやら、ルイセは自分が実習中だということをすっかり忘れていたらしく、少し照れながらも思い出した様だ。

「そうか、ルイセちゃんって、まだ実習中だったんだっけ」

「……色々あってすっかり忘れていたな」

どうやら、ティピとカーマインも忘れていたらしい……まぁ、色々ドタバタしてたから無理もないか。

「これを学院長か副学院長に渡せば、後は卒業研究だけですね」

そう言ってルイセに渡された、実習終了の証明書。

「そんなぁ……ルイセちゃん……実習終了だなんて……また差を付けられちゃったぁ〜〜……」

と、何やらショックを受けている奴も居るが……誰かは言わなくても分かるだろう?
何やら……。

「アタシも見習わないと……」

とか言っているが、見習うだけで、どうにかなるのだろうか……?
とか、考えてしまった俺は悪くない筈だ。

「そんじゃ、行きますか!」

俺はテレポートを唱え、一路魔法学院を目指すのだった。

***********

……とか言ってる間に到着。
テレポートさまさまである。

「それで、どうするんだ?」

「学院長か副学院長に証明書を渡すわけだから……とりあえず学院長室に行けば良いのかな?」

ゼノスの疑問に答えたのはラルフ。
まぁ、とりあえずは行ってみるべきか。

で、学院長室に来てはみたが……。

「学院長は席を外しております。間もなく戻られると思うのですが……」

秘書であるイリスに聞いてみると、そんな答えが返って来た。


ん……?
………なんだ?

「お急ぎでしたら、ブラッドレー副学院長に渡されると良いでしょう」

「ありがとうございます」

イリスの提案に、丁寧にお辞儀するルイセ……だが、俺は妙な違和感を感じ……それを拭い去れないで居た。

原因はイリスだ。

表情が無くなったワケじゃない。
学院長が居ないと言った時の困った様な表情や、副学院長に証明書を渡してはどうか……と、言った時の微笑みからもそれは分かる……。

ただ、それらから感じられないんだ……『感情』という物が。
まるで、得体の知れない何かが……それをトレースしている様で……。

「……どうかしましたか?」

「!?いや、何でもないよ」

不覚にも、イリス本人に話し掛けられ、少しビクッ!と、なってしまった……。
俺達はその場を離れ、副学院長室の方へ。
とは言っても、直ぐ隣なんだが……。

「すいません……副学院長はいらっしゃいますか?」

「あいにく副学院長は、本日、お休みでして……」

アリオストが尋ねると、副学院長の秘書さんが答えた。

「いらっしゃらないんですか?」

「ええ。実はこのところ、研究に没頭しているようで……」

「じゃあ、研究室に行けば会えるのか……?」

疑問を問うたルイセに答える秘書の彼。
それを聞き、カーマインは頷く様にしながら彼に問い返したが……。

「少なくともこの学院にはいないみたいです。私もいろいろと探しましたので。あとは、居るとすれば…自宅の方ではないかと……」

という答えが返って来た。

「自宅?」

「ええ。北の方にあるメディス村です」

「ありゃ、アタシの生まれ故郷だ」

ウォレスの問いに答える彼。
それを聞いて、ミーシャは軽く驚きながら呟いた。
生まれ故郷……か。
真相を知る身としては、内心苦虫を噛み潰した様な心境だな……。

「二人とも、いないみたいだね。どうしよう、ルイセちゃん?」

「……うん。困ったね……」

途方に暮れていたティピとルイセだが……。

「それでしたら、私がお預かりしましょう」

副学院長秘書とのやり取りを見ていたイリスが、自分が預かると名乗り出てくれたので、ルイセはその言葉に甘えることにした様だ。
証明書をイリスに渡していた。

……やはりイリスに違和感を感じる……何故だ……?

そんな疑問を感じながらも、俺は皆の後を追って外に出た……。

「おや、君たちは……。この前はありがとう」

そこで出くわしたのは、アイリーンさんの恋人……ニックだった。
どうやらニックはアイリーンさんに会いに来たらしい。
なんでも、アイリーンさんが欲しがっていた薬草が手に入ったので、差し入れと一緒に持ってきたのだとか……。

「それで学院長か副学院長に、彼女に会う許可をもらおうと思っているところさ」

「ふ〜ん。でも、2人とも、7階にはいなかったわよ。それに副学院長はメディス村にいるかも」

ニックの言葉に、ティピが返す。
それを聞いたニックは、一瞬思案する様に考え……。

「そうか。じゃあ、とりあえず校舎を探してみるよ……ん?お前は……」

「久しぶりだな……闘技大会以来か?」

ニックがこちらに気付いたので、軽く手を上げて答える。

「白銀の閃光じゃないか……何故ここに?」

「シ・オ・ン・だ!!……頼むからその名前で呼ばないでくれ。お願いだから!!」

一度や二度そう呼ばれるのは良い……だが、恒久的にそう呼ばれるのは辛過ぎる……厨二乙も良いとこじゃないか!?
……どうでも良いが、何で『厨二』って言うんだろうな……厨は何となく解るが……何故『二』?

「あ、ああ……済まない」

と、俺がどうでも良いことを思考している間に、ニックが謝罪してきた。
皆も何か引いている……何で?

「まぁ、良い……ちなみに、居るのは俺だけじゃないぜ?」

俺はリビエラに視線を向ける。
リビエラは少しバツが悪そうな顔をしているが……。

「君は……あの時の…………」

「……その節はどうも」

リビエラは言い争いになるのを嫌ったのか、素っ気なくそう言ったのだが……。

バッ!!

ニックの取った行動は……これでもかと言う位に頭を下げることだった。

「へっ……?」

「済まなかった!君たちの忠告も無視して、あんな態度を取ってしまって……本当に申し訳なく思っている!」

その行動に、リビエラはポカーンとした表情を浮かべ、ニックは謝罪の言葉を述べる。
その態度から、心からの謝罪なんだろう。

「君たちの言う通りだった……少しでも君たちの言葉に耳を傾けていれば、アイリーンを危険な目に合わせることも無かった……」

「あ、あの……もう良いから!私も気にしてないし……」

「……済まない。そう言ってくれると助かる」

……どうやら、蟠りは解けた様だな。
まぁ、いつまでも諍いを続けているよりはずっと良いさね。

その後、ニックは少し話した後に学院内に入って行った。
学院長か副学院長を見かけたら教えてくれと言い残して。

「アイリーンさん、元気にしているかしら……」

以前、医学について語り合ったこともあり、カレンもアイリーンさんのことを気にしている様だ。

「そうだね。遊びに行ってみようよ」

「学院のどこかに、保護されている筈だが……。一体、どこだろうな?」

そんなカレンを見て、ミーシャは提案するが……ウォレスの言うように場所が分からない……まぁ、俺は知ってるが。
さして学院に詳しくない筈の俺が、それを言うのは……なぁ?

「多目的ホールじゃないかな?しばらく、何にも使ってなかったし……」

「だが……さっきニックも言っていたが、学院長か副学院長の許可が必要なんじゃないか……?」

ルイセが場所の当たりを付けるが、カーマインが冷静なツッコミを入れる。
まぁ、誰も言わなければ俺がツッコんでいたし。

「とりあえず、駄目もとで行ってみても良いんじゃないかな?」

そうラルフが告げる。
とりあえず、行くだけなら問題無いか。

そんな訳で、ルイセの案内で多目的ホールへ。
で、多目的ホールに来たのは良いんだが……。

「ここにはグローシアンの方々が保護されておられるのだ」

「知り合いがいるんですけど、会わせていただけないでしょうか?」

「自分には許可を与える権利はない。中の人に会いたければ、学院長か副学院長に許可を貰うことだ」

案の定、カーマインの懸念が当たったワケだ。
カレンが頼んでも、この警備兵はどこ吹く風だしな。

「それにしても、最近中が静かだな。そう思わんか?」

「アタシたちにわかるわけないでしょ!」

「それもそうだな」

分かってるなら聞くなよ……という気持ちなんだろうなティピは。
……しかし、静か……か。
ホールの中からは誰の気も感じない……。
一瞬、原作の展開を思い浮かべたが、すぐに思い直す……今のイリスなら、クソヒゲの凶行を良しとはしない筈だ。
……思い悩んでは居たが、答えは出したのだから……まぁ、その答えが原作通りなら……俺はアイツを止めなきゃならないが。

そんなことを考え込むうちに、俺はずっと歩いていた様で……気付いたらアリオストの研究室前まで来ていた。

「もう、シオンさん!呼んでるのに、ズンズン歩いて行っちゃうんだから!」

「わ、悪い……」

ティピがプンスカ怒っている。
今回は全面的に俺が悪いので、素直に謝る。

「まぁ、無意識なのか、人や物にぶつからず歩くのは流石というか……」

「それで、僕の研究室に何か用なのかい?」

ラルフは俺に苦笑いを向け、アリオストは何か用事があるのか聞いてくる……。

「いや……少し考え事を、な?」

「考え事?」

む〜〜……よもやイリス……学院長秘書の様子が変だから気になっていた……なんて言えんしな。
クソヒゲについては尚更言えん!!
此処にはミーシャが居るからな……。

「いや、さっきの警備兵……多目的ホールの中が静かだ……って言ってたろ?それが気になってさ」

「それの何処が気になるんですか?」

咄嗟に出た言い訳だが、カレンが問うて来た以上、軽く説明しないとな。

「考えてもみろよ。あの多目的ホールにはグローシアンが居る筈だろう?それも複数……なのに静かだなんておかしいだろ?それに……」

「それに……なんだよ?」

俺はゼノスの問いに答える様に……続きを促した。

「あの中からは……何の気も感じなかった。ラルフは気付いていたんじゃないか?」

「うん……僕も妙だとは思ってたんだけど……」

等と話していると……。

「う〜ん……。開かないなぁ……」

そんな声が聞こえて来た……見ると、アリオストの研究室の直ぐ横にある、シャッターの様な物の前で、何やら悪戦苦闘している魔法学院の男子生徒が居た。

「どうしたんですか?」

気になったのか、ルイセが何をしてるのかを尋ねた。

「この前の夜に、ここで知らない男たちが箱を出し入れしてるのを見たんだ」

「箱?」

「ああ。大人が入れそうな大きな木箱だったよ。それも1つじゃなかったんだ。それで何を運び出したのか興味があって……」

「だが鍵がかかっていて入れない、と」

理由を話す男子生徒……その理由にティピは首を傾げるが、男子生徒は更に説明する……中に入ろうとしたが、ウォレスの言う様に鍵がかかっていて入れないらしい。

「仕方ない。諦めるとするか……う〜ん……あの薬を使えれば、姿を見られずに……………ブツブツ………」

最後に何やらブツブツ言っていたが、耳の良い俺は一字一句、全て聞こえていた。

「なんだか怪しいな」

「そうねぇ……」

「最近静かになったホール。運び出された大きな箱」

「シオンとラルフは、ホールの中から気を感じない……って、言ってたしな……」

上からウォレス、ティピ、ルイセ、ゼノスである。

「アンタ、箱の中に何が入ってたと思う?」

「……これらの情報を一つに纏めるなら、入ってたのは人間かも知れないな……」

ティピの問いに答えるカーマイン。
その答えは恐らく正解だろう……俺としてはそんなことは信じたく無いが……。

「人間っていうと、やっぱり……」

「グローシアンしか、いないでしょうね」

そうルイセの懸念とリビエラの答え……もし、原作通りなら一致する……唯一つのその答えに。

「しかし一体、何のために?」

「とにかく、徹底的に調べてみる必要があるな。そのためにも、何とかしてホールに入らねぇと」

アリオストの疑問はもっともだが、ウォレスの言う様に調べるしか無い。
……出来るなら、なるべく早く。

「警備員に見つからないで中に入る方法ってなんだろ?」

「そう言えば、さっきの生徒があの薬があれば姿を見られずに……とか言っていたが……もしかして、姿を消せる薬でもあるのか?」

ルイセを筆頭に、頭を悩ませている皆へ、ちょっとした助け舟を出す。
……と、言うのも、以前クリアノ草フラグを叩き折ってますからね……俺は。
こうでもしなきゃ気付かないだろう……と。
まさか、警備兵を昏倒させるワケにもイカンしなぁ……。

「姿が消える薬……確か、学院に在籍する教授の1人が、透明薬の研究をしていたような……」

「それだ!」

アリオストの呟きに反応を示すティピ。
後は、上手く薬を貰えるかどうか……だが、問題無い。
条件は既にクリアーされている……クリアノ草だけに…………つまらん……。

ま、まぁ、そういうワケで、俺達は学院内の薬剤研究フロアへ行き、透明薬の研究をしている教授の所に来たワケだが……。

「実は、クリアノ草という材料が足りないんだ……アレがあれば薬は完成すると言うのに……」

何でも、クリアノ草は火山の火口や、火山内部など危険な場所に生えている植物らしく、市場にも中々出回らないと言う。
この辺の火山は、ブレーム山しか無いが。
俺は此処で切り札を切る。

「クリアノ草って……コレですか?」

俺は取り出した草を教授に見せた。

「!!それは間違いなくクリアノ草……一体、それを何処で手に入れたのだね!?」

「知り合いの商人の所に流れて来たんですよ。珍しい草らしいから、興味半分で買ったんですがね」

嘘では無い。
これはローザリアにある、スキマ屋から購入した物だ。
あのオッサン……何処から仕入れて来るのか、珍しい品物を取り扱っており、順次品質を上げていきやがる。
聞いた話によると、オッサンはかつて名を馳せたトレジャーハンターだったらしく、そのツテで、豊富な人脈があるのだとか……。
他にも、スキマ屋協会なんてのもあるらしく…………話が擦れたな。

とにかく、『こんなこともあろうかと』購入しておいたのさ。

「コレで透明薬は作れませんか?」

俺は教授にクリアノ草を渡した。

「作れるとも!……まず、クリアノ草をすり潰して……ここに薬を混ぜ合わせると……」

教授が受け取ったクリアノ草を、すり鉢で細かくすり潰していき、そこに調合された液体状の魔法薬を混ぜ合わせた。

ボワン……と、小さな白煙を上げると共に、ピンクだった液体は、草木の様なグリーンになった。

「完成ーー!」

「じゃあ、それちょうだい!」

「まぁ、待て。ちゃんと効果があるか確かめてからだ……コッコカモンッ!!」

薬を完成させた教授に、せっかちなティピは催促するが、教授は実験してからだと言って………気にしない様にしていたんだが……俺達の直ぐ横に居るニワトリを呼び寄せた。
コッコと呼ばれたニワトリは、教授に言われた通り、その翼をはためかせて教授の目の前に着地……。

「ニワトリだぁ!」

「素朴な疑問なんだが……ニワトリって飛べたっけか?」

「そこは、ほら……突っ込んだら負けって奴なんだよ……多分」

ティピはニワトリが登場したことに目を丸くし、俺とラルフはどーでも良いことを語り合っていた……。

「このニワトリに、出来上がったばかりの透明化薬を一滴………」

教授は、ニワトリに透明化薬を一滴垂らした……すると、何と言うことでしょう……ニワトリの姿が薄くなっていき、その姿が完全に消えたではありませんか!

「消えた……」

カーマインがそう呟く……そこからニワトリがいなくなったワケでは無い。
それはニワトリの鳴き声が証明している。
そして……。

ゴト。

どうやら机の上のインクを零したらしく、机から床にかけてニワトリの足跡が……丁度、足跡が俺達の後ろ辺りに来た瞬間……消えた時の逆回しの様に、ニワトリが姿を現した。

「よし、成功だ!!」

その後、俺達は薬を分けて貰った。
小さな小瓶だが、全員が一回使うくらいの量はあるだろう。
作ったばかりで効果が安定しないだろうから、長時間は消えていられないと告げられたが。

教授に礼を言った俺達はその場を後にする。

そして向かったのは、多目的ホール前。

「……準備は良いか?」

「うん、大丈夫だよ」

「いつでもオッケーだよ!」

「ああ、問題ない」

「しっかし、効果は見たが……本当に効くのかね?」

「それは、実際に試してみるしか無いね」

「何だか……緊張……」

「まぁ、なるようになるさ」

「……だね」

「私も、少し緊張してしまいます……」

「こんな経験無いものね……」

上から、カーマイン、ルイセ、ティピ、ウォレス、ゼノス、アリオスト、ミーシャ、俺、ラルフ、カレン、リビエラだ。
ちなみに、透明になる魔法は存在するが……この様子だと、それを経験した者もいないらしい。

それはともかく、俺達はそれぞれ透明化薬を服用した。
すると、あのニワトリの様に姿が消えて行った。

「よし、行くぞ……」

カーマインの合図と共に、俺達は進んで行く。
途中、警備兵の横でティピが声を出しながらほくそ笑んだのが原因で、少しヒヤッとしたが……何とか気付かれずにホール内へ潜入出来た。

そして、全員ホール内に入った瞬間……。

「あ、効果が消えちゃった……」

そう、ティピの言う様に透明化薬の効果が切れたのだ。

「まぁ、全員無事にホールに入れたんだ……問題無いって」

俺はティピにそう言ってやる。
すると……。

「それもそうだねっ♪」

と言って納得していた。

「此処にアイリーンさんたちがいるのね?」

「そのはずだけど……。静かだ……」

リビエラの問いに答えたルイセ……。
確かにルイセの言う様に静かだ……そして。

「……やっぱり」

「ああ、全く気を感じない……ウォレスも分かるだろ?」

「ああ……お前たちの言う通りだな」

俺とラルフ……それにウォレスはホール内に人の気を感じられなかった。
……嫌な予感的中……か……?

「とにかく、調べよう」

カーマインに促され、俺達はホールの中を進んで行く……。

「アイリーンさん!……って、誰もいないや……」

「どうなってやがるんだ?」

俺達は周囲を見渡すが、人は何処にも居なかった……ただ一つの例外を除いて。

「あ、あれ見て、あれ!」

ミーシャが見付けたのは、舞台の直ぐ下に横たわる男……。

俺達はその男の前に集まった……。

「……息してないよ……」

「死んでるってこと?」

「……うん……」

ルイセとティピがパッと見た男の状態を判断する……。

「こいつが犯人……って事はねぇだろうな……」

「この人が犯人なら、こんな所で死んでいる説明が付きませんしね……」

ウォレスとアリオストの言う様に、この人は犯人じゃない……この人は犠牲者だ。

「この人、見たことある。確か、副学院長の知り合いの人だよ」

ミーシャがそう説明するが……俺はそれに答えることは出来なかった。
……見てしまったからだ。

男の手に握られている物を……。

「シオン……さん?」

後ろからカレンの声が聞こえるが、俺は反応せず……男に近付き、その手に握られている物を掴み取った。
それは……。

「赤いピアス……ルビーで出来てるみたいだね」

ラルフの言う様に、ルビーで出来た赤い……赤いピアス。
……アイツがよく着けていた……。

「?どうかしたかシオン?」

「いや……何でも無い」

ゼノスの問いに、平然とそう返したが……内心では違った。
……俺は保護されるのを拒んだ奴らまでは、面倒を見切れない。

コレが俺だけの問題なら良い。
だが、俺が下手に動いては、俺が保護しているグローシアン達にも危害が及ぶ可能性がある……俺が彼らを助ける際、万が一にも下手人が俺であるとバレたなら……あのクソヒゲは難癖つけてでも、俺の保護しているグローシアンを奪い盗ろうとするだろう。
……俺達を信じて着いて来てくれた彼らを、切り捨てる様な真似は出来ない。

……そう言いながらも、彼らを見捨てるのには躊躇いがあった……。
だが、俺はイリスの悩みを聞き、彼女なら……と、思ってしまった。
……彼女がもう一つの選択肢を選ぶ可能性も考慮せず……いや、考慮はしたが、それでも彼女を信じてしまった俺は……。

(コレが……お前の答えなのか……?……イリス……)

**********

おまけ1

シャドー・ナイト(女)の運命の出会い(はぁと)

私はシャドー・ナイツメンバーの一人。
突然だが、私の上司は最悪だ。
ヒステリックだし、嫌味だし……陰険で根暗。
友達が大鷲しか居ないって言うけど、アレは友達を作らないだけだ。
むしろ敵を増やしている。

そんなアイツが、見るも悲惨な状態でアジトに戻って来た時は、ざまぁ見ろ!
……って思ったけど。
多分、他の皆もそう思ってる。

そんな私達がやることは、このアジトの……そしてアイツの護衛。
まぁ、直属の部下だから仕方ないんだけど……。

いや、誰かに命令されるのは嫌いじゃないのよ?
リシャール様みたいな王様に、靴を舐めろとか言われたら舐めちゃうかも知れないし……。
……うん、自分でも理解してるけど、若干Mなのよね……私。
けど、そんな私でも選ぶ権利はあると思うの!!
リシャール様達、インペリアル・ナイツみたいな方々なら喜んでお仕えしたいけど……アイツみたいな『覇気』の覇の字も無い様な奴に隷属するのは真っ平ゴメン!

私、爬虫類系は好きじゃないし……。

そんな私に、ある転機が訪れた。
アジトに侵入者が現れ、こちらに向かっているのだと……。

「お前たちは、私が逃げるまでの時間を稼ぐのです!」

つまり、私たちに捨て石になれ……と。
……この時程、上司に恵まれていないな……と、本気で思ったことは無かったかも知れない。
賊は一人らしいが、片っ端から、あっさりと――仲間は殲滅されているらしいし……私の人生もこれまでかな?

そんな覚悟をしている内に、遂に侵入者がこの部屋にやってきた……。
その姿を見た時、私は衝撃を受けた。

……そこには『王』が居た。
銀と蒼を携えた王が……。
何やら上司が彼に怒鳴ってるが、そんなこと関係無い!
彼から滲み出る覇気が、思わず平伏したくなるような雰囲気が……彼からは発せられていた。

「宣言しよう……貴様の運命は破滅だ。俺は貴様を追い詰める……貴様が何処に居ようとな……クックックッ……」

ゾクッ!!

彼がアイツに向けて放った言葉と共に、放たれた殺気……その余波を受けた私は、言い知れぬ感覚に包まれた。
アイツは真っ青になって逃げ出したが……。

……もし、もし私にあの殺気を向けられたら……どうなってしまうんだろう……。
そう考えたら、興奮にも似た感情が込み上げて来た。

「さて……悪いがお前らには眠っていて貰おうか」

ブワッ!!

―――来たっ―――ああ、何て……凄いっ―――

その殺気を受け、私を含めた三人以外は気を失ってしまった……無理もない。
私だって、膝の震えが止まらないもの……。
他の二人だって……。
けど、この二人と違って……私には恐怖の他に、もう一つの感情がある。

それは『歓喜』……。

……別にバトルマニアとかじゃなくて。
こんな方に出会えたことに関して……ね。
だって……私、今笑ってるもの。

「……俺の気当たりに耐えたか。たいしたモノだ……が、そんな様子ではこれ以上は無理だ。大人しく降参することを勧めるぜ?」

彼の言う通り、私たちの足は震えている……けど、私は……。

「……やる気か?」

「貴方とは……違う形で会いたかった」

幾ら私でも、与えられた職務は遂行しなきゃ……。
例え、此処で朽ちることになろうとも……自分の人生に終わりを与える者が、自分の理想の相手……なんて、皮肉が効いてるけどね。

……そう言った私を見て、彼は目を丸くし……次の瞬間には優しく微笑んだ……。

(あ……こんな顔も出来るんだ……)

彼に見とれていた僅かな瞬間、彼が消えたと思った時に、首に軽い衝撃を受け、私の意識は落ちた。

次に目を覚ました時、私は外に居た。
……何故か下着姿で縛られて。
どうやら、彼がやったらしい。
周囲を見ると、同じ様な姿で転がっている同僚達が……。
みんなまだ気絶していて、私が最初に目を覚ましたらしい。

「あ…………」

私は見た……アジトだった建物の残骸を。
いや、建物だったことも分からないんじゃ無いだろうか?
………これも彼が?

ゾクゾクゥ!!

私は鳥肌が立った……こんなことまで出来る彼……そして、あの覇気と殺気の裏に見え隠れする、暖かい優しさ……。

(そうだわ!私はあの方に仕える為に生まれて来たのよ!!これこそ正に一目惚れ……ううん、運命!!だって……私、あの方になら隷属したいもの……どんな酷いことされても良いもの♪だから……私は……!!)

その後、少女は姿を消した。
救援が駆け付けた時も、彼女の姿だけは見えなかったという。

シャドー・ナイツを抜けた少女……。
彼女がどうなったのか……麗しの王には会えたのか……それはまた、別のお話……。

**********

おまけ2

逆転生者〜剣と魔法と蘇る逆転〜
※嘘予告

「犯人はイリスさんではない……真犯人は……この中にいます!!」

「「「「「「!?」」」」」」」

転生者は告げる……犯人の名を……そして追い詰める!
証拠と証言……そこに眠る微かな矛盾を暴いて!!

「わしはその時、学院におったよ。それに……」

「異議ありっ!!……マクスウェルさん。貴方がその時に学院に居る筈が無いんですよ……」

「な、なんじゃと!?」

発想を……逆転しろ!!
矛盾を……突き崩せっ!!!

「……グローシアン失踪事件の真犯人……それは……貴方だっ!!!」

「ぬぅうおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!??????」

己を信じ、その指を突き付けろ!!
そして叫べ……。

『異議ありっ!!!』

逆転生者〜剣と魔法と蘇る逆転〜

発売日未定。

**********

後書き

……ハイ、どうもお久しぶりです。
作者の神仁でございます。
え〜〜、仕事が忙しい上、この度スクーターで事故りまして、更新が遅れた次第にございます。
幸い軽傷で済みましたが……スクーター君は入院せなあかん状態に。
まぁ、その為……しばらく仕事がお休みになったので、こうして書き込みさせて戴いた次第です。
慌てず、交通安全は守ろうと誓う、神仁でした。
m(__)m




[7317] 第103話―疑惑と隠された真実―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/16 20:42


「とりあえず、この場で起きたことを推理してみようぜ」

ウォレスの提案に頷く俺達。
……まだ、原作通りと悲観するには早過ぎるしな……。
まず、得た証拠から状況を推理するのが先決……。
ウォレスは続けて話す。

「まず、ここにはグローシアンが保護されていたはずなのに、1人もいない。代わりに男が1人、死んでいた……ここで死んでいる男は、副学院長の知り合いなんだな?」

「うん」

ミーシャはウォレスの問いに、肯定で示す。

「そして、その男は手に赤いピアスを握っていた………グローシアンをどこかに連れ去った犯人は誰だ?」

俺達はしばらく考える……が、そこでカーマインが口を開く。

「状況から考えて……このピアスの持ち主が1番怪しいんだがな……」

「この人が殺されたときに、犯人の女性からピアスを奪ったんだね?でも、ピアスをしてた人って誰だろ?」

「でも、いなくなったグローシアンが持ってたピアスだったら?」

「それに、女性が着けていた……とは、限らないんじゃないかな?男性がピアスをすることもあるし」

「けど、あのピアスは女性用みたいですけど……」

「そういう趣味の奴も居るっちゃあ居るが……そこまで言ってたらキリがないぜ?」

上からカーマイン、ティピ、ルイセ、アリオスト、カレン、ゼノスである……。
色々と意見が出てはいるが……。

「まだ、証拠が足りないんじゃないか?」

俺はいけしゃあしゃあとそんなことを言う。
……頭の何処かでは、もう確信しているのだが……俺の心が告げる。

犯人はイリスでは無い……いや、この人を殺害したのはイリスかも知れない……。
だが、何か……何かを見落としている気がする。

「そうだな……もっと証拠を揃えてみれば、犯人像が浮かび上がってくるだろう」

「このピアスは証拠になるかも知れないから、持っておこう」

ウォレスは俺の意見に同意し、ラルフはピアスを持っていこうと言う。
ちなみに、ピアスは俺が持っていることにした。

ミーシャいわく、副学院長の知り合いの男……彼には申し訳無いが、彼をこのままにし、俺達は次の調査を開始する。

ずばり、『何処からグローシアンを運び出したか?』……である。

「表は警備員がいるから無理……そうなると、何処かに抜け道……裏口みたいな物があることになるけど」

「多分そこは、僕の研究室のとなりにある開かずの扉……あそこに通じてるんだろうね」

リビエラの声に答える様に、アリオストが呟く。
まぁ、扉の前で悪戦苦闘していた生徒から聞いた情報から推測しても、アリオストの言うことは間違いないだろう。

とりあえず、奥に続く通路が二つあったので、二手に別れたのだが……。

「……む」

「どうやら、道は繋がってたみたいだね」

カーマインとラルフがそんなことを言う。
そう、一本道を進んだ結果、チーム合流。

俺としては案の定……なんだがな。

「……と、なると……何処かに隠し扉でもあるのかも知れないな……」

俺はそう言いながら、壁を調べる……原作知識と、現実の誤差を修正しつつ……大体この辺りに……。

「……ん?これは……」

「どうしたの先生?」

「どうやら、噂をすれば……って奴らしい」

ルイセの問いに答えつつ、俺は見付けたスイッチらしき物を押す。

ガガガガッ。

そんな音を立てながら、壁が中央から分かれ、スライドしていった。

「あ、開いた!」

「こんな仕掛けがあるなんて……」

「よく分かったな?」

「遺跡とかには、よくあるからな……隠し扉って奴は。遺跡なら、罠の可能性もあるんだが……まぁ、まさか学院内に罠なんか仕掛けやしないだろ?」

ティピは少し驚いた様子で、ルイセも同様みたいだ。
ゼノスは俺に疑問を尋ねてきたので、遺跡あ……トレジャーハンターをしてた時の経験談を交えて説明する。
まさか、原作知識……なんて言えないしな?

「なだらかに下へくだってるな……行ってみよう」

カーマインに促され、先に進む俺達。
幸い、一本道なので迷うことは無かった。
そして……。

「ここで、おしまいみたいだね。この扉の向こうはどうなってるのかな?」

「開けて見ればわかるだろ」

「そうだな……」

ティピの疑問に、簡潔な答えを示したウォレス。
カーマインはそんなウォレスに同意し、扉に近付き、かかっていた鍵を開けた。

そして、扉を開いた……。

ガララララララッ!!

勢いよく開かれた扉からは、光が溢れ――――!!

「ここって……」

「僕の研究室の前だね」

そう、大方の予想通り、アリオストの研究室前に出たのである。

「ここから大きな箱が運び出されたっていってたよね?それじゃ、その中身って……」

「多分その通りだ」

「……成る程、もう一息って所か。頑張ろうぜ」

ルイセは皆がしていた予想が、確信に変わったのを実感して言葉を零した。
ウォレスはそれを肯定し、ゼノスは改めて気合いを入れ直したのだった。

(びっくりしたなぁ……ドキドキ)

……と、こちらを見て驚いていた、件の男子生徒が思っていたのかは定かでは無いが。

「そういえば、ここから運び出された箱だが、どこに持って行かれたか分かるか?」

ウォレスはその男子生徒に尋ねる。

「あれ、言わなかったっけ?校内に持ち込まれたんだけど、どこにも見当たらないんだ。となると、恐らく地下だね」

「地下?」

ウォレスの問いに答える男子生徒。
その生徒の答えに疑問を浮かべたのはラルフである。

「ってことは、上級職員用研究室だね?」

「なんなの、その上級職員って?」

「おじさま達。つまり、学院長と副学院長のことだよ」

ミーシャの言葉に疑問を覚えたリビエラは問うた。
ミーシャが言うには、上級職員とは学院長と副学院長のことであり、それ以外には居ないと言う。

「学院長か副学院長の許可がなければ入れないホール。それから、地下にある専用の研究室……なんだかにおうわね」

ティピは訳知り顔でそう言う……まぁ、実は良い線行ってるワケなんだが。
もっとも、既に先手を打たれているだろうが……な。

とりあえず、俺達は警備兵にホール内の様子を教えてやることにした。
……流石に、何も知らないままだと責任とか問われそうだしな……。
それは流石に酷だろうし……何より、聞きたいことがある。

「なんだ、お前たち。まだ用があるのか?」

「何言ってんのよ!中のグローシアンの人たち、いなくなってるじゃないの!!」

面倒臭そうに応対する警備兵だが、ティピの言葉に驚愕を現にする。

「そんな、バカな!?ここからは誰も……」

「やっぱり、あっちから、らしいな」

信じられない様子の警備兵の言葉を聞き、ウォレスは確信を深めた様子で事情を説明した……。
グローシアンが居なくなっていたこと、中に一人の死体があること、ホールへはもう一つの出入口があり、そちらから何かが運び出されたらしいこと等……それを聞いた警備兵は。

「……すまないが、学院長か副学院長にこのことを伝えてくれないか?自分はここで、現場が荒らされないように見張っているから」

「ああ……任された。だが、その前に聞きたいことがあるんだ」

「何だ?」

警備兵の頼みを承諾した俺は、本題に入った。

「最近……ホール内が静かになる前だ。このホールへ頻繁に出入りしていた奴は居るか?」

「いや、学院長や副学院長の許可が必要だからな。そう頻繁な出入りは…………待てよ?そういえば……」

「誰か居たんですか?」

俺の問いに答えた警備兵、何かを思い出した様だ。
俺の意図にいち早く気付いたラルフが、警備兵に先を促す。

「ああ、学院長の秘書がよく来ていたよ。グローシアンの方々は保護されているのだからな……そう、おいそれと面会は出来なかったんだ……そのかわり、彼らへの差し入れなんかを届けてたのが、学院長の秘書だったな……」

「……そうか、ありがとう」

俺は警備兵に礼を言って、皆と一緒にその場を後にした。
……嫌な可能性が更に高まったが……な。

「学院長の秘書……意外な名前が出て来たな」

「シオンさんは、あの秘書の人を疑っているのですか?」

ゼノスが意外そうに言い、カレンもまた、意外そうに俺に尋ねて来た。

「疑っている……まぁ、有り体に言えばそうなんだろうが……証拠が出揃わない内から、決め付けるのは良くないからな……確かに、彼女は赤いピアスをしていた時もあるし、多目的ホールに多く出入りしていた……という事実も明らかになった……だが、これではまだ証拠として不十分だ」

「どういうこと?」

「仮に……仮に彼女が、副学院長の知り合いを殺害した犯人としよう。遺体の状況から見て、死因は外傷性の物じゃない。外見は綺麗なモンだ……ならば自ずと殺害方法は限られてくる。まぁ、俺は専門家じゃないから憶測を含めて口にするが……恐らく、毒殺の類だと思う……しかも、殺害現場はここでは無い」

俺は自分の推理した内容を説明する。
まず、殺害現場が此処では無い……というのは間違い無いと思う。
そんな騒ぎを起こせば、外の警備兵が幾らなんでも気付く。
これまた憶測だが、グローシアンを運び出す際、遺体を運び込んだのだと思う。
毒殺だと言った根拠は、遺体に外傷が無いから……としか言えない。
無論、物理的な要因が無いだけで、毒と断定することは出来ないが。
ぶっちゃけ、呪いとかの類かも知れないし……と、此処までを説明した。

「成る程な……だが、シオン。それはあの秘書を犯人と呼ぶには不十分……と、説明したことにはならないんじゃねぇか?」

ウォレスの言うことはもっともな話だ……。

「それはこれから……まず、証拠のピアスだが……こんな分かりやすい物を握らせたままにしておくか?俺なら、わざわざ証拠を残す様な真似はしない」

「確かに、妙だね……持ち去ってしまえば、疑われる様なことは無い筈なのに……」

そう、ラルフの言う通り証拠さえ無くしてしまえば、疑われること自体無い。
と、言うのも、この世界には科学的捜査……なんて物が無い。
ぶっちゃけ、指紋を残そうが、毛髪を残そうが……指紋照合は疎か、DNA検査も出来ないのである。
故に、物的証拠の価値は極めて高く、故に誤認されることもしばしばある。
原作でも妙だと思っていた……ピアスなんて、何かの拍子で掴み取られたら気付く。
それをそのままにしていたのだから……。

仮に、今のイリスが犯人だとしたら、余計におかしい。
イリスは聡明だ……天然というか、常識を知らなかった面があるのは否めないが……とにかく聡明だ。
そんなイリスが、こんな見え見えの証拠を残していくか?
答えはNOだ。
仮に、証拠を残していったのだとしたら、それはわざと……ということになる。

「それに、学院長付きとは言え、秘書でしかない彼女が、『人を運び出す』なんてことが『出来る』人材を大量に雇う資金があるのか?」

「つまり、シオン君は裏に誰か別の黒幕が居ると……そう思っているのかい?」

俺はアリオストの問いを肯定した。

「そうなると……秘書である彼女の上に居る人物……」

「学院長か」

カーマインの推測に合わせる様な形で、ウォレスが容疑者の名前を言う。
だが、此処に異論を唱える者が……。

「え〜〜、おじさまがそんなことするワケ無いじゃない」

ミーシャである。
まぁ、此処で必要以上に警戒させる必要は無い……ある程度の警戒は必要だが。
なので。

「分かってるさ。俺が言いたいのは、今の段階で、実行犯としては学院長秘書のイリスが、若干怪しいこと。だが、裏にそれを操る黒幕が居る可能性が高いのと、箱が運び込まれた学院内……地下に運び込まれただろうという証言から、黒幕は上級職員……つまり、学院長か副学院長の可能性が高い……ということなんだからな。無論、その他の第三者が黒幕だと言う可能性もあるけどな?」

俺は一気にまくし立てる。
そう、あくまで可能性の話。
この世界は俺みたいなイレギュラーが存在するからか、完全に原作通り……というワケにはいかない。
俺がちょっかい出した件もあるから……何とも言えないんだけどな。
故に、原作知識にばかり頼っていては、手痛いしっぺ返しを喰らうこともあるだろう。
だからこそ、可能性を模索することは決して無駄なことじゃない。

一つ一つ、証拠という可能性を積み上げ、消去法を使って搾っていくしかない。
何かが閃く時もあるかも知れないし。

……まぁ、単純にイリスがクソヒゲを選んだ……と信じたくないだけ……なのかも知れないが。

「そういえば、シオン……どうして秘書の人の名前を知ってるの?」

「ん?以前、名乗り合う機会があってな。それ以来、何度か話す様になってさ」

リビエラの疑問に答える俺。
別に隠す様なことじゃないから素直に話したんだが……何でジト目?

「……多分、自覚無しなんでしょうね」

「あ、あははは……まぁ、シオンさんですし」

失礼なっ、自覚はしていたぞ!
火に油を注ぐことなので、言わないケド。
あとカレン?
苦笑いしながらそのフォローは……その……何気に傷付くんだが……。

だが、二人に怒りは無く、あるのは仕方ないなぁ……という感情のみ。
――我ながら末期だと思う。
多少の嫉妬みたいなモノはあるんだろうが、それを物理的実力行使にしないんだよな。

とは言え、『シオンだから』で納得されるのも悲しい物があるが……俺、そこまで女タラシじゃナイヨ?

まぁ、どこぞのツンデレ虚無使いみたいに、爆発喰らわせようとされたら全力で抵抗するが。
もっとも、自身に非があるなら慎んで刑の執行を受けるがね。

「とにかく、まだ証拠が足りない……ってことだな」

「ああ……まずは、学院長か副学院長に事態を知らせるべきだろう」

「今は学院長と副学院長、学院に居ないんだよね?なら、所在が分かってる副学院長の方を当たってみないかい?」

カーマインが呟き、ウォレスが肯定する。
それを聞き、ラルフは副学院長に事の次第を知らせに行こうと提案した。

俺達に反対意見は無かったので、副学院長の自宅があるメディス村に行くことになった。
ちなみに、今回のテレポート担当はルイセだ。

**********

光の玉に包まれ、気付いた時にはメディス村……に到着したのだが……。

「……あれ?」

「どしたの?」

ルイセが困った様な顔をして、首を傾げている。
ティピはそんなルイセを見て首を傾げていたが……。

「ミーシャがいない……」

「もうっ!あの娘は……」

ティピは憤慨していたが……。

「シオン……」

「ああ……気付かないフリをしてやってくれ。多分、実家にでも帰ってるんだろ……」

「……そうなのかな……うん、分かったよ」

ウォレスも気付かなかった様だが、俺とラルフはごまかせない。



ミーシャは近くに居る。



だが、多分……気配を遮断する魔導具か何かだろう……それが形成する決界の中にでも居るのか、気配が朧げである。
まぁ、『気』を読む俺らには通用しないがな。

それにしても、実家に帰ってる……か。
我ながら、よく言うぜ。
……あのクソヒゲはどうにかしなくちゃな。
……場合によっては、イリスも……。

で、俺達は副学院長の家を目指すワケだが……いかんせん場所が分からない。
俺は何となくの位置しか分からないし……何度も言っていることだが、原作ゲームと現実では村の規模が違うのだ。

メディス村もだが、原作より確実に広い。

――なので、村人に場所を尋ねたところ、村の真ん中にある1番大きな屋敷がそうだと言う。

行ってみた。

「此処がそうか……」

「確かにデカいな」

カーマインとゼノスが何か言っている。
確かに、ゼノスの言う様にデカい屋敷だ。
……まぁ、我が家程じゃないが……使用人こそ居るが、基本はブラッドレーさんって家族無しの一人暮らしだろ?

なのにこれだけデカイ屋敷に住んでいる……というのがびっくりでさ。

「ごめんくださーい!」

コンコンとノックして、言い放ったのはティピ。
ちっちゃいのに、前に前に出ようとするその姿勢は、オッサン的に結構好感が持てます。

「誰かな?」

出て来たのは恰幅の良い……かなり頭が寂しいことになっている男性だった。
言わずと知れた……いや、言わずばなるまい。
彼こそ、魔法学院副学院長……ブラッドレー氏その人である。

「あ、あのわたし、学院の生徒で……」

「ああ、たしかルイセ君だったね」

「はい」

どうやら副学院長はルイセのことを知っていたらしい……まぁ、宮廷魔術師の娘で皆既日食のグローシアン……なんだから、学院では知らない奴の方が少ないのかも知れないが。

「それで、何のようかな?」

「なに、のんびりしてるのよ!ホールからグローシアンが消えちゃったってのに!」

「なんだとっ!?それは大変だっ!」

それを聞いた瞬間、大慌てで走って行ってしまった。
ちゃんと、玄関の扉を閉めたのはしっかりしているのか何なのか。

「……行っちゃった……」

「せめて、詳しい事情を聞いていきゃあ良いのによ」

「それだけ人として真面目……とも取れるけどね」

呆気に取られるティピと、若干呆れ気味のゼノス。
アリオストに到っては苦笑いを浮かべている。

「…これからどうする?」

「ミーシャもいなくなっちゃったし……」

「心配しなくても、ひょっこりと帰ってくるんじゃないか?」

心配しているルイセに、俺は気軽に声を掛けた。

「そういえば、お前らは気が読めるんだったな?ミーシャの奴の居場所が分かるのか?」

「ええ……そうなんです、けどね?」

ゼノスが尋ねて来たので、ラルフは伝えて良いモノか一瞬悩み、ちらっと俺に視線を送って来た。
まぁ、俺は頷いたので、ラルフは肯定を示したが。

「まぁ、こうすれば一発だろ」

「どうするんですか?」

俺は息を吸い込み、軽くそれを発することでカレンの疑問への答えとした……。

「ミーシャー!帰るぞーっ!!」

まるで飼い犬を呼ぶかの様な気楽さで……。
すると……。

「ああ!待って、待って!」

「何処いってたのよ!?」

「ちょっと」

……?
この違和感は……。

「ミーシャ……前にも言ったが、皆は少なからず心配していたんだ。『ちょっと』じゃなく、どこかに行きたいなら皆に一言、断ってからにしろよ」

「はい……ごめんなさい、お兄さま」

以前にも同じことがあったんだろう。
カーマインがミーシャに説教している。
素直に謝るミーシャを見て、カーマインは訝しげな顔をしていたが……もしかしたら気付いてるのかもな、ミーシャの違和感に。

「…どうしちゃったんだろう、ミーシャちゃん……」

「お前も気付いたか?」

「僕だけじゃ無いと思うよ……気付いたのは」

どうやらラルフも気付いたらしい……と、言うか全員大小の差はあるが、ミーシャの違和感に気付いたみたいだな。

そう、今の応対……非常にミーシャらしく無いのだ。
カーマインに怒られたら、普通ミーシャだったら……。

『ごめんなさい!ごめんなさいお兄さまぁ!!今度から気をつけますぅ!だから、だからミーシャを捨てないで下さいぃっ!?』

と、涙と鼻水混じりで土下座するくらいは、平気でやってのける筈なのだ。
何しろ、憧れのお兄さまの一人に怒られるんだ。
それくらいは、しなきゃおかしい。

だが、俺が最初に感じた違和感は、また別にある。

確かに、ミーシャは表情が色々変化していた……。

脳天気そうな顔で合流し、カーマインに怒られている時も、一応悲しそうな顔をしていた。

だが、そこには『感情』が感じられなかった……。
そう、まるで……先程のイリスの様に――。

その後、何処で何をしていたのか追求されたミーシャだったが、後で必ず話すから……とだけ言ってひたすら頭を下げていた。

結局、誰一人として大きく突っ込むことが出来ず、そのまま学院にとんぼ返りすることになった。
まぁ、ルイセやカレンが皆を宥めたのが理由としては大きいのだろうが。

ちなみに、学院に戻ったら、ミーシャの違和感は消えていたことを告げておく……。

「それで、学院に戻って来たのは良いが……どうするんだ?」

「まず、学院長と副学院長に面会して、地下の研究室を確かめさせてもらう。地下に運び込まれた……という箱……まぁ、もう別の場所に移された可能性は高いが……なんらかの証拠が残っている可能性もあるからな」

カーマインの問いに答える俺。
まぁ、証拠なんか残している可能性は低いが、副学院長の知り合いにピアスを取られ、それに気付かない様な迂闊者だ……万が一があるかも知れないだろう?

「シオンさん、おじさまを疑ってるの〜?」

「学院長だけじゃない。副学院長を含めた、上級職員に疑いの目を向けているんだ」

ミーシャの疑問にそう答えたが、ミーシャは納得した様子を見せない。
まぁ、当たり前か。
本心としては、クソヒゲでファイナルアンサーなんだが。

「まぁ、本人達に話を聞けば、何か感じることがあるかも知れないしね」

「ラルフの言う通りだな……とにかく、学院長と副学院長……彼らに話を聞いてみよう」

ラルフの意見に同意したウォレスに促され、俺達は7階にある上級職員用フロアに行く。
まずは学院長に話を聞くことに。

「どのようなご用件でしょうか?」

「学院長はいらっしゃいますか?」

「いいえ。ただいま席を外しておりますが……」

ルイセがイリスに尋ねると、苦笑いと共に学院長が居ないことを告げられる……違和感を纏ったその表情で。

「……なんだか最近、いないことが多いなぁ……」

「誰がいないのだ?」

「あ、いた……」

ティピが独り言を呟いた時、計った様にエレベーターから学院長が現れた。
……まぁ、実際計ったんだろうがな……このクソヒゲは。

「ワシに用事かな?」

「……実は、貴方のやっているグローシアンの研究について、教えて戴きたいのです」

「何、ワシの研究についてか?」

カーマインは自然にそんな理由を口にした。
そのさりげなさは、中々のモノだ。

「わたしからもお願いします。わたし、自分の力について、ほとんど知らないんです」

「そうだな……俺もある程度の知識はあるつもりですが、やはり専門家の意見も聞いてみたいですね」

「ふむ……」

ルイセと俺の申し出に、一瞬悩む様な仕種を見せるヒゲ。
しかし、直ぐに。

「勉強熱心なのは良いことじゃ。ワシは学院長として、勉学への探求心を削ぐことはできぬ。よかろう。地下の研究室へ来なさい。ワシは一足先に行って、鍵を開けておくとしよう」

そうニコニコしながら、エレベーターに乗って行ったクソヒゲ。
内心では、こちらを小馬鹿にしているに決まっているが……。

そんな俺達は、クソヒゲを追って地下にある上級職員用研究室へ。

「失礼しま〜す!」

「おお、来たな。どうじゃ、ここがワシの研究室じゃ」

元気よく挨拶して、入室するティピ。
こういうのを見てると和むなぁ……。
そして、俺達を出迎えて自慢げに研究室を見せるヒゲ。

「具体的な研究を教えてくれませんか?」

「ワシは、強大な魔力を持つグローシアンについて研究しておる。何故この世界で、彼らだけが強い魔力を持てるのか?普通の者がグローシアン並みの魔力を持つ事は可能なのかをな」

ルイセの問いに答え、自身の研究のテーマを説明するヒゲ。
ヒゲの著書を読んだことがあるが、グローシアン……特に皆既日食のグローシアンが、どれだけ規格外か知ることが出来た。
例えば、俺達が普段から使っているテレポート……これは本来非常に使い勝手が悪い。
普通の人が使うには、大規模な儀式用魔法陣と、膨大な魔力、数人の術者、そして目茶苦茶長い呪文詠唱が必要になる。
その癖、効果は泣きたくなるくらい低く、転移出来るのは目に見える範囲、しかも人数も一人。

対して皆既日食のグローシアンは魔法陣は不要、魔力消費量も微々たる物……術者も一人で余裕だし、呪文詠唱に時間なんか必要無い。
そして効果は絶大で、記憶した場所なら何処へでも行けるし、10人以上は平気で一緒に跳べる。
……ちなみに俺は更に規格外らしく、10なんて数字じゃ効かないくらいの人数を跳ばせたりする。
こう言っちゃ何だが……一国の人間くらいなら余裕かも。
試したことは無いけどな……。
というか、試せないだろう?

「それで、わかったの?」

「グローシアンは元の世界とのチャンネルを無意識に開けるという仮設はあるが、はたして普通の人に、それを開く方法があるのか……ほとんど謎のままと言っても良い」

「それじゃ、ダメじゃん!」

ティピ……そんなハッキリと。
まあ、らしいけどな。

「グローシアンが魔法を使うとき、周囲に微量ながらグローシュを放出する。またグローシュは、我々の持つ魔力を増幅することまではわかったのじゃが……。たしかサンドラ君が、魔水晶の中にもグローシュが含まれている事を、突き止めたそうじゃないか」

「母さんの研究のことですか……」

「うむ。ほんの微量のグローシュが混じるだけで、水晶の持つ魔力が何倍にもなる」

まぁ、あの水晶鉱山の水晶は特殊だったからな……何しろ、グローシアンそのものと言っても良い、命の結晶なんだからな。

「なるほどな。だからあの水晶鉱山でとれる魔水晶は、あんなに貴重だったのか……」

「それだけ価値のある物だからこそ、裏でコソコソ考える連中も出てくるワケか……納得だぜ」

ウォレスとゼノスが魔水晶についての意見を言う。
まぁ、その価値はぶっちゃけ……金とかの鉱石みたいなもんだからな。

「その通りじゃ。だが取り出されたグローシュの結晶は、それだけでは何の役にも立たんのじゃよ。普通の魔力と混じり合ってこそ、その力を発揮するのじゃ」

「それじゃ、グローシュの結晶があると、アタシでもルイセちゃんや、シオンさんみたいな能力が使えるの?」

「そうはいかんのじゃ。魔水晶に含まれるグローシュと、グローシアンの持つグローシュとは、まったく次元が違うものなのじゃ。簡単に言ってしまえば、魔水晶のグローシュは使い終わった残りカスのようなものでな。水晶の中から出してしまうと、もう魔力を増幅させることは出来ぬのじゃよ。グローシアンが、魔法を使ったときに放出するグローシュも同じじゃ」

当然と言えば当然だろう。
魔水晶のグローシュは、使用済みなのだから……残りカス……燃えカスと呼ばれるのも道理なのだ。

「グローシュってやっかいな物なのねぇ……」

「だから遅々として研究が進まんのじゃ」

さて、どうする……?
せっかくだから俺も質問するか?
だが、クソヒゲと進んで会話をする気になれん……正直、ポーカーフェイスを保つので精一杯です。

「学院長。そろそろ戻っていただかないと困ります」

そんなことを考えていると、イリスが学院長を迎えに来ていた。
……念話で呼び出したんだろうな。

「おお、すまん、すまん。さて、こんなところでいいかな?ワシもそろそろ部屋に戻らんといかん」

「たいへん勉強になりました。ありがとうございます」

そう礼をしたのはアリオストだった。
口には出さなかったが、アリオストも研究で魔水晶とか使うだろうからな……色々勉強になったんだろう。

こうして学院長は部屋を去ろうとして、ふと立ち止まって振り向いた。

「そういえば、君たちが失踪事件の第一発見者だったな。ブラッドレー君とも話して決めたんじゃが、この事はしばらく内密にしてもらえんか?」

「内密だと?」

ヒゲの物言いに、ウォレスは顔をしかめる。
当然だな……国の意で動いている自分達へ、国王に報告するな……って言ってる様な物なんだからな。

「このような不祥事は魔法学院の信頼に関わる。こちらでも出来るだけ探してみて、どうしてもダメなら素直に報告しよう」

まぁ、暗にこれ以上関わるな……とも取れるが。

「……わかった。だが、俺たちが勝手に調査する分には構わねぇだろ?」

「……ま、それは仕方なかろうな。では、頼むぞ」

そう言って、ヒゲはイリスと共に去って行った。
で、ヒゲがいなくなった後、軽く話し合いをすることになったワケだが。

「怪しいところはありませんでしたね……」

「ええ、疚しいことがある人間には見えないくらい、堂々としてたわね」

「おじさまはいい人だもん。おかしいところなんてないでしょ?」

「そうだね。まじめに研究しているだけみたいだし」

上からカレン、リビエラ、ミーシャ、ルイセである。
……どうやら女性陣は白という判断を下したらしいが……。

「アンタはどう思ってるの?」

「……俺は学院長が怪しいと思う」

「えぇっ!本気なの、カーマインお兄さま?」

「……俺もこいつに同感だ。あいつは潔白過ぎる。それがかえって怪しいぜ」

「俺もウォレスに同意させて貰うか……潔白過ぎるってのは、確かだからな……怪しさを微塵も感じさせねぇのが、逆に怪しいぜ」

「……良い人なのにぃ」

どうやら、カーマイン、ウォレス、ゼノスは『学院長はクソヒゲ派』らしい。
それを聞いて、ミーシャは少しいじけてしまった様だ……。

「まぁ、結論を出すのはもう一人に聞いてからでも遅くは無いだろうさ」

「そうだね……確かに学院長が潔白過ぎるというのはあるけど、だからって断定するには早い……か」

「疑わしきモノは疑え……これは研究にも欠かせないことだけど、一つに凝り固まっていては、新たな発見は無いさ」

一方、今は『保留しとこうぜ派』なのが、俺とラルフとアリオスト。
……俺は心情的には、カーマイン達と全く同じだが。
……というか、クソヒゲがクソヒゲなのを改めて確信したしな……。

さっき見て確信した……イリスも、メディス村に行った時のミーシャと同じだ……って。

……操られている。

若しくは、そう行動する様に刷り込まれているのか……。

……せいぜい今のうちに嘲笑っていろ。
俺の『ダチ』を弄んだ罪……償ってもらうぞ、マクスウェル学院長殿……?

***********

俺達はその足で、副学院長の所へ足を運んだ。

「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」

「副学院長に会いたいんだけど?」

「たぶん、今ならお会い出来ると思います。どうぞ」

ティピが副学院長の秘書に許可を貰い、俺達は副学院長室に入室する。

「失礼します」

「ど、どうしたんだ?」

……いや、ブラッドレーさん?
何で吃ってるんです?
まぁ、こんな大人数でゾロゾロ来られたら、普通は吃るだろうが……自宅を訪ねた時は普通にしてたじゃんよ。

「この際だからハッキリ言わせてもらおう。アンタはグローシアン失踪事件の容疑者の一人なんだ」

「な、な、何……容疑…者……?」

「重要参考人ってところかな?で、その容疑を晴らす手っ取り早い方法ってのが、アンタの地下研究所を見せてもらうって事だ」

ウォレス……そしてゼノスがそれぞれに追求する。
寝耳に水な様で、困惑していた副学院長は研究所と聞いて、一気に慌てた。

「だ、だがあそこには何も……」

「何も無いなら見せられる筈だろうが!?」

「それとも、見られたら困るモンでもあるのかよ…あぁ!?」

……うん、ハッキリ言って脅しです。
ウォレスもゼノスも悪ノリし過ぎ。

「……わかった。見せればいいんだろ、見せれば!」

「そういうこった」

副学院長は、憤慨しながら部屋の外へ出て行き……。

「ちょっと、地下に行って来る。少しの間、留守を頼むぞ」

「はい」

秘書に後を任せ、地下に向かったのだった……で、副学院長室内で……。

「……ウォレスさん、ちょっと怖かった……」

「そ、そうか?」

「兄さんも……調子に乗りすぎ」

「そんなこと無いだろ……?」

本人達はやり過ぎたつもりは無いらしく、ルイセとカレンに言われても首を傾げていた。

「でも、その脅しがあったからやっと地下室が見られるんだもんね」

「まぁ、相手によっては、ああいうやり方もアリではあるな」

もっとも、ブラッドレーさんは普通に話せば分かってくれただろうがね……何でウォレスは脅しという手段を選んだのか……?
ゼノスはウォレスの思惑に気付いて『乗っかった』だけだろうけど。

こうして、副学院長室を後にし、再び地下へ……。

そして今度は副学院長の研究室へ赴いた。

「へぇ、こうなってるのか……」

ティピは見たこと無い様な道具を見て、興味津々らしい。

「人を急かしておいて、遅かったじゃないか!……あまり勝手に触るな!呪いを受けるぞ!?」

「呪い!?」

副学院長の忠告にビクッとするティピ。
まぁ、仮に呪いを受けても俺が解呪するけど。

「……へんなところはないよ?」

「だから言っただろう!だいたい、私を疑うなんて、どういう了見だ!?」

「とにかく、疑いが晴れて良かったじゃねぇか」

ルイセの報告に、憤慨しながら答える副学院長。
それを宥める様にウォレスは言うが……。
疑っておいてそれだけじゃあ……なぁ……?

「でも、ここではどんな研究をしているんですか?」

「そんなことは関係ないだろう!?」

まぁ、謝罪も無しにそんなこと言われたら、イラッとなるのは当然だな。
……ゼノス?
非はこっちにあるんだから、クールダウンしような?
でないと、頭を冷やさすよ……?

「!?待て、落ち着く……落ち着くから!!」

「……別に俺は何も言ってないぜ?」

まぁ、自主的にクールダウンしたみたいだから良しとしよう。
ちなみにカレン、ルイセ、ティピのトラウマスイッチを押さない様に、ピンポイントでメンチビームを喰らわせてやった。
まぁ、怒ってるワケでも無いから、殺気が滲み出ることなんて無いしね?

「あ、わたしも魔法を学ぶ者として、純粋に興味があります」

「僕も、魔導学を嗜む者として興味があります」

……なんて、ルイセとアリオストが言った。

「……仕方ないな」

すると、溜め息を吐き、自身の怒りを押し込めて、研究のテーマを説明する。
やっぱり良い人なのだろうな……というか、NOと言い難い人なのだろう。

「私は『呪い』を研究しているのだ」

「暗〜い」

「そこ、黙って!」

ボソッと呟いたティピに、すかさずツッコむ副学院長。
……中々切れがあるなぁ……とか、妙に関心してしまった今日この頃。
やっぱ教師なだけあるわ……。

「呪いと言っても、私は人を呪うために研究をしているのではない。古代の遺跡には様々なワナに混じって、呪いを施してあるものも多い。うっかり呪いを発動させてしまう者もいる。そこで私はこの世界の呪いを研究し、系統分けし、その解除方法を纏めているのだ。グローシアンの遺跡の本格調査が最近まで行われなかったのは、これらにかけられた呪いの解除方法が分かっていなかったからだ」

その話を聞き、俺とラルフはウンウンと頷く。

「グローシアンの使う呪いは、桁違いの強さがありますからね……」

「ほう、良く分かっているじゃないか」

「俺と彼は一時期、トレジャーハンターをしていた時がありまして……遺跡に潜った際に、そういうトラップも何度か見掛けましたので。あっ、勿論、学院が未発見の遺跡ですが」

まぁ、俺らはトラップに引っ掛かるヘマはしなかったが。

「そうか……君達はしっかり勉強したのだな。そういうトラップは、素人には判別し辛い物だからな」

ウンウン、と頷く副学院長。

「けど、そうなると……副学院長が居たから、学院は遺跡の調査が出来るようになったってこと?」

「まぁ、そうとも言うな」

ミーシャが今更の様に気付く。
それくらいの功績が無ければ、副学院長になんて収まってないだろうさ。
教育者としても優秀なんだろうが……。

「見かけによらず、すごいのね」

「ふふん。見直したか?」

「はい。すばらしいと思います」

ティピやルイセにも、その研究が褒められたからか、副学院長はノッてきたらしく、講義に熱を入れていく。

「普通の魔法との大きな違いは、その永続性と有効範囲の大きさにある。簡単な言い方をすれば、呪いに距離は関係ないのだ。もっとも、永く広範囲の呪いをかけようとすれば、それだけ長い儀式を必要とするがな」

「ふ〜ん。ずっとそんな研究ばっかりして、あきないの?」

副学院長の講義を聞いて、ある程度納得したのか、そんなことをティピが聞いて来た。

「飽きはせんよ。ただ、もっと多くのグローシアンが呪いを使えるなら、研究もはかどるだろうに……」

「そういえば、先生って呪いの解呪もできるっていってたよね?」

「そうだが……よく覚えていたなルイセ?」

ティピと副学院長の会話を聞いていて、ルイセがこんなことを聞いて来た。
確かに、俺のアレンジ魔法『ディスペル』はどんな状態異常でも治せる。
……それは例え呪いでも。
まぁ、ゲヴェルの毒は特殊過ぎて完全に治せなかったが……一応ディスペルの強化バージョンも開発中ではある。
使う機会は無いだろうが………ん?
副学院長がこっちを見てる……めがっさ見てる。

「き、君は呪いの解除が出来るのかね?」

「え、ええ……呪い自体は使えませんが、大概の呪いは解呪する自信はあります」

俺は、自身が開発(アレンジ)した魔法……『ディスペル』について軽く説明した。

「と、まぁ……こういう魔法なんですが」

「信じられん……ち、ちょっと待ってくれ!」

そう言うと、副学院長は机の引き出しから、一冊の本を取り出した。
その古びた本は、鍵穴の無い錠が掛かっているらしい……。
それに、どうやら強い念を感じる……つまり呪われた品ってワケだ。

「この本は遺跡から発掘された魔導書だか……見ての通り鍵が掛かっていてな。鍵穴が無く、無理矢理開けようとすると呪いがかかる様になっている……試しにコイツの呪いを解いてみてくれないか?」

俺はその机に置いてある本を一瞥し、肯定してみせた。

俺は高速詠唱と詠唱時間短縮のスキルを合わせ、瞬時に呪文を形成……そして、放った。

「ディスペル」

淡く輝く蒼い光の柱が、本を包み込み、その光に浄化される様に錠は消滅した。
同時に、黒いナニカが本から浮き出て、光に浄化されて……消えた。

残ったのは枷の無くなった一冊の本だった……。

「…………」

副学院長は震える手でそれを取り、表紙を開いた……。

「ま、まさか本当に解けるとは……この呪いはかなり強力な物なのに……」

「ねぇ、その本には何が書いてあるの?」

驚愕しながら、内容を確認していた副学院長に、ティピが興味津々で尋ねた。

「あ、ああ……これは古代の呪いに関する本だよ。古代に存在した呪い……その多くが網羅されている本だ。もっとも、これ自体に未知で強力な呪いがかけられていたため、手の出し様が無かったのだが……これで研究が進められる!ありがとう!!」

「いや、お礼を言われる程では……」

ここまで喜ばれると、こっちが恐縮してしまう。

「君は……ルイセ君に先生と呼ばれていたが?」

「少し魔法なんかを教えているだけですが……」

ガッ!!

何故か副学院長に肩を掴まれる。

「頼む!私の助手になってくれ!!」

「……はい?」

その後、副学院長を落ち着けるのにしばらく掛かった。
そして、俺は説明した。
俺は学院の関係者では無いこと。
俺にも、やらなければならないことがあること。

……等。

どうも、先生と呼ばれていたので学院の関係者……と思われたらしい。
冷静に考えれば、俺が学院関係者で無いのは分かりそうな物だが……それだけ興奮していたんだろう。

「そうか……残念だな。君が居てくれれば、多くの呪いを解くことが出来ると思ったんだが……」

「ご期待に沿えず、申し訳ない。ですが、恒久的に見れば貴方が研究を進めた方が、良い結果を生むでしょう」

そう、この世界には魔法を使える者が多いが、中には使えない者も居る。
そういう者のためにも、魔法以外の呪いへの対処法は必要になる筈だ。

「そうだな……ありがとう」

副学院長も、俺が意図する所を理解してくれた様だ。

「本日は、大変勉強になりました」

「薬学を学ぶ者としても、たいへん興味深いお話でした。ありがとうございます」

「いやいや、礼を言うのはこちらだよ。おかげで研究がはかどりそうだ」

こうして、副学院長は去って行った。
最初こそ容疑者扱いされて、不機嫌だったが、帰りは上機嫌だった。
まぁ、この研究室はその特性上、危険なので、今後は入らない様に……と、釘は刺されたが。

で、研究室の外で相談タイムだが……。

「グローシュの研究をする学院長と、呪いの研究をする副学院長か……共通しているのは、どちらもグローシアンを必要としていることか」

「どっちがグローシアンをさらったのかな?それとも2人とは別の、誰か?ねぇ、アンタはどう思う?」

ウォレスの意見から、ティピも考察してみるが……分からなかったのだろう。
カーマインに意見を求めた。

「……俺は、やはり学院長が怪しいと思う」

「俺もそう思う」

「だな。俺も同意見だぜ」

「アタシは副学院長の方が怪しいと思うんだけどなぁ…」

「う〜ん、どっちだろ?」

カーマインの意見に同調する様に、ウォレスとゼノスが言い……ミーシャはミーシャで、おじさまフィルターが入ってるので、あくまで『副学院長はコッパゲ派』。
だが、先程まで学院長は怪しくないと思っていたであろうルイセは、幾分迷いが生じてる様だ。

「……人を疑いたくないので、答えられません……」

「う〜ん、ティピ君の言う様に第三者が絡んでいる可能性もあるし……僕には何も言えないなぁ……」

「そうですね……それに、それぞれに動機がありますからね……どちらも怪しいと言えば怪しいですから」

カレンは実にカレンらしい答えであり、アリオストはまだ考える余地があるのでは……と言う。
ラルフに関しても似た様な意見らしい。

「ねぇ、シオンの意見はどうなの?」

と、リビエラに聞かれたので俺は答えた。

「俺は……学院長が怪しいと思う」

「うぅ……良い人なのに……」

ミーシャは半泣きしてるが、敢えてスルー。

「シオンさんがそう言うってことは、何か根拠があるの?」

ティピが聞いて来た。
正直、根拠だらけだが……それを今、説明しても理解されないだろうから……怪しいポイントを説明する。

「簡単なことだが、二人の動機は似ている様で違う」

「どういうこと?」

「二人はグローシアンを欲している……だが、副学院長は呪いに精通したグローシアンを……対して学院長のソレは、グローシアンなら誰でも良い……と、取れる。さて、ここで問題だが、今のご時世……呪いに通じたグローシアンが何人いる?」

「それは……」

リビエラの問いに答えた俺だが……その俺が出した問題を、皆は答えられない様だ。
ルイセは答えようとして、言葉に詰まったらしい。

「正解は何人も居ない……だ。グローシアンと言っても、必ず魔導の道に進むワケじゃあない。むしろ、普通に生活している者の方が大多数だ……そんな彼らが呪いを使えると思うか?」

「……それは……思えないわねぇ……」

ティピが俺の意見に肯定を示す。
幾らグローシアンと言えど、普通は魔法の訓練や勉強をしなければ魔法は使えない。
それは呪いに関しても同じこと。

「まぁ、結局は決定的な証拠が無いから、学院長が犯人……とは言い切れんのだがね」

そう、幾ら俺に原作知識があろうと、それを堂々と公言しようモノなら、それはとても可哀相な奴に見えるだろう。
電波として、精神病棟に押し込められるかも知れん……この世界に精神科があるかは話が別な?

とにかく、決定的な証拠が必要なのである。

「……どっちにしろ、なんだか気にいらねぇ」

「何が?」

「俺たちの行動が読まれている気がする。先に手を打たれているような感じがするぜ……」

ウォレスは、不自然な何かを感じ取った様だ。
そういう場の空気を読む……ということにかけては、ウォレスに敵う奴はそう居ないんじゃないか?

「こっちの行動が読まれてるって、どういうこと?」

「例えば……ティピは創造主であるサンドラと、テレパシーで話が出来るだろ?」

俺は、ウォレスの言いたいことを引き継ぐ形で、ルイセの疑問に答える。
ティピに対する質問という形で。

「うん、出来るよ!」

「つまり、この場に居なくても、俺達の行動を知ることが出来るって事さ」

「それって、お母さんが……」

俺の言葉に、ルイセが勘違いしたのでフォローする。

「そうは言ってないだろ?サンドラがそんなことをしても、何の得にもならないし、そんなことはしないって……俺よりルイセやカーマインの方が詳しい筈だけど?」

「……う、うん」

「そうだな……」

ルイセ……そしてカーマインは納得したみたいだ。

「結局、シオンは何が言いたいんだ?」

「つまり、サンドラがどうこうじゃなく、犯人がティピのテレパシーを傍受してるんじゃないか……ってこと」

ゼノスの疑問に答える俺。
そこでティピが。

「う〜ん、マスターだったら詳しいことを知ってるかな……ちょっと聞いてみるね!」

何て言い出したので、軽くデコピン。

ビスッ!!

……結構良い音がしたのは内緒だ。
なんか、飛びながら悶絶してるが……器用だな。

「よ、容赦無いわね……」

「大分手加減したんだが?」

リビエラさん……俺が全力デコピンしたら……スプラッタですよ?
某一子相伝の暗殺拳並にボーンいきますよ?

「い、痛いよぅ……」

あ、ティピ涙目……珍しいな。
うん、これは中々クるな……。

「今説明したばっかだろ?テレパシーを傍受されてるかも知れないんだから…って」

「はい……ゴメンなさい……」

……確かにゾクッとはしたが、それ以上に罪悪感が……。

「ゴメン……痛かったよな?デコピンしなくても、言えば分かったよな……」

俺はヒットさせたおでこの辺りを軽く触れ、そこにキュアを掛けてやる。
……これで痛みは取れる筈だが。
にしても、ティピの小さなおでこにピンポイントで当てたのは良いが……下手したら顔面直撃だもんな……そうなったら、おでこ腫らすだけじゃ済まなかったよな……。

「あ、ありがとう……もう大丈夫だから……」

「そうか……?なら良かったが……本当に悪かったな」

そんなこともありながら、俺達は直でサンドラに会いに行くことになった……。
サンドラに会って事情を説明すれば、例のアイテムを貸して貰える筈だ……。


アレがあればミーシャを………そしてイリスをあのクソヒゲの呪縛から解き放てる筈だ……。
待ってろよ……クソヒゲ……テメェが溜め込んだツケ……万倍にして返してやるぜっ!!

**********

おまけ

もしもシオンが……。

「頼む!私の助手になってくれっ!!」

「喜んでっ!!」

((((((((えええぇぇ〜〜〜〜っ!!!!!???))))))))

その後、シオンは周囲の反対を押し切り、学院に勤め、副学院長助手に。
数々の呪いによって苦しんでいる人々を救った。

そして、ブラッドレー氏が学院長に就任した際、自身も副学院長に就任……。
大陸が平和になった後も学院に残り、多くの後進を育てた。

彼は愛多き人とも言われ、数人の女性と熱愛関係にあったと聞くが……真実、公私で彼を支え続けたのは金髪の麗しい秘書だったと言う。

グローランサー・デュアルサーガ。

シオン・イリス・副学院長就任END

***********

はい、オマケは思い付きですのでスルーでお願いします。

神仁です。

さて、次回以降ミーシャが落ち込むことになるんですが……休暇時に慰めるのは誰が良いでしょうかね?
ちなみに候補はアリオスト、ラルフの二択で。
どちらかに寄ってはエンディングや、ストーリーが若干変わる……かも?

それではm(__)m




[7317] 第104話―真実と仲間―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/16 21:08


場所は一転……ローランディア城にあるサンドラの研究室。

テレポートで跳んで来たワケだ。

で、研究室のバルコニーでサンドラと対面したワケなんだが……。

「サンドラ様。ちょっと話があるんですが……」

「はい。何でしょう?」

「みんなはここにいてくれ」

そう言って、ウォレスはサンドラを連れて研究室内へ。
大方、事情の説明や、ソレに対して何か対処方法が無いか……とか尋ねているんだろう。

「何話してるのかなぁ?」

「わかんな〜い」

と、ルイセとミーシャは、お気楽感漂う雰囲気で話している。

「ま、大方の予想は付くが……今は敢えて言わないでおこう」

「随分と勿体振るじゃねぇかよ?」

俺の言葉に、ゼノスが絡んでくるが……正確には『言わない』では無く、『言えない』なので、仕方ないんだが。

そうこうする内に、ウォレスが戻ってくる。
時間にして、数分程度だろう。

「カーマイン、サンドラ様が呼んでるぜ」

「母さんが……?」

「あら、何かしら?」

どうやらカーマインが呼ばれたらしく、オトモであるティピが着いていこうとするが……。

「おっと!ティピは行っちゃダメだ」

「え〜っ!何でぇっ!?」

ウォレスに止められた。
どうやら、ティピが一緒だと都合が悪いらしい……まぁ、事情は知ってるがな。
ティピはブーブー文句を言ってる……。

「とにかくダメだ。というわけで、お前だけ行って来い」

「分かった」

こうして、カーマインは一人で研究室内へ。

「むぅ〜……」

「まぁ、落ち着けって……話ったって、ほんの数分位だろうし、ちゃんと理由があるんだから……な、ウォレス?」

未だに膨れっ面のティピを宥める俺……ついでにウォレスへ話を振ってやった。

「ああ……気付いてたのか?」

「というか、此処に来た理由を考えれば、自ずと見えてくるって……な、二人とも?」

ウォレスの問いに答える俺。
勿論、俺には原作知識というアドバンテージがあったが、それを抜きにしてもサンドラには相談したと思う。
サンドラはティピを造り出した……故にホムンクルスに関しては詳しい筈。

だからこそ、何かしらの対処方法が無いか……と考えるのは当然。
俺は魔導具を製作するため、ソレ関係のことも学んでいた……故に、あるアイテムの存在も事細かに知っている。
そして、俺以外にも感づいた奴らは居た。

「うん、まぁね」

商人の勉強と同時に、俺と共に様々な修練や知識を学んだラルフと……。

「僕は魔導と科学を学んでいますから……」

本人の言う通り、魔導と科学……合わせて魔科学を学んでいるアリオストだ。
当然、二人とも例のアイテムについては知っている筈。

「むぅ……アタシにも分かる様に説明してよっ!」

「アタシもティピちゃんに賛成……」

ティピとミーシャがそんなことを言うが、俺はそれを宥めた。

直ぐに分かる……そう言って。
実際、直ぐだろうしな。

**********


「母さん……話って?」

「ウォレスから話は聞きました。どうも先に対処されている様子ですね」

ウォレスが話していたのは、やはりその件か……予想はしていたが。

「確かに、ホムンクルスを作るほどの実力がある魔法使いなら、ティピの見ている事柄を盗み見る事は可能です」

「……そうか。だが、どうすればソレを防げるのか……」

分からない……という前に、母さんはある物を差し出して来た。

「そこで、あなたにこれを渡します」

「これは……?」

「それはマジックジャマー。ホムンクルスのテレパシーを妨害するアイテムです。これを持っていれば、ティピのテレパシーを傍受されることは無くなるでしょう」

そんな物があったのか……シオンの言葉を借りるなら『こんなこともあろうかとっ!』……って奴か?
だが……。

「母さん、ティピのテレパシーを妨害するってことは、母さんとのテレパシーも妨害されるってことじゃないのか?」

「ええ……ですが、調査を終えるまでなら大丈夫でしょう」

母さんからは、事件が一段落したら返しに来る様に言われた。
……よく考えたら、ティピの奴は滅多にテレパシーを使わないから、あまり気にしなくても良いんじゃ……とか思ったが。

「……………」

「な、何でしょう?」

「いや、別に?」

もっとよく考えたら、ティピの奴が……母さんは時々、俺達の様子を伺わせて貰ってるって言ってたっけな?
……そう考えたら、母さんにとってはどうでも良いわけでは無いのか。

ウンウンと一人で納得した後、俺はみんなの居るバルコニーに戻って行った。

*********


それから少しして、カーマインが戻って来た。
やはり時間にして数分程度だ。

「どんな話だったの、お兄ちゃん?」

「ああ、それはな………実際に試した方が早いか」

「え?」

ルイセの問い掛けに答えようとしたカーマインだが……サンドラが戻って来たのを確認したので、ここはサンドラに任せるつもりらしい。

「ティピ。テレパシーで私に呼びかけてごらんなさい」

「えっ?は、はい……。………………」

戻って来たサンドラに言われ、念話を送ろうとするティピ……だが。

「……あれ?出来ない……」

「そういうことです」

「どういうことか、わからない〜」

テレパシーが使えず、困惑するティピ。
それを見て、諭す様に言うサンドラ。
ミーシャは……頭から煙が出そうな雰囲気だ。

「つまり、ティピとサンドラ様とをつなぐテレパシー通話を妨害してもらったんだ。これで俺たちの行動を読まれなくなるんじゃないかってな」

「成程……やはりマジックジャマーか」

ウォレスの説明を聞き、俺は訳知り顔で呟く。

「知っていたのですか?」

「まぁね。俺は魔導具作りをするし、知識に関しては豊富なんでね」

だから何と無く予想はついた……そうサンドラに説明する。

「マジックジャマーって何?」

「ホムンクルスのテレパシーを妨害する装置さ。コレを持っていれば、目の届く範囲のテレパシーを妨害出来る」

リビエラに説明するアリオスト……だが、コレが出来るのはテレパシー通話の妨害だけでは無い。
コレは対象のテレパシー……つまり念を遮断するアイテムだ。
故に、原作においてマジックジャマーを所持した瞬間から、あのクソヒゲはミーシャの見る事柄を見ることも、ましてや操ることも出来なくなってしまったんだろう……。

だが、それがミーシャに真実を知らせることになる……それが知らなければならないことだとしても……。

俺が感じたあの違和感……もし、イリスがミーシャと同じ……いや、似た様な状況にあるとしたら……?
このマジックジャマーがあれば、正気に戻る筈……!

「えぇっ!それじゃ、これからどうすれば……」

「調査が終わったら、マジックジャマーを返しに来るだけでいいのですよ」

「うぅ……不安だなぁ……」

愕然とするティピに、再び諭す様に説明するサンドラ。
それでも、ティピの不安は拭えなかったみたいだが。

「そういっても、ティピ、あんまりテレパシー使ってないじゃない」

「いざというときに使えないってのが不安なの!」

まぁ、ティピの気持ちは分からないでは無い。
要は買い物の時に、消費税を気にして、いつもは多めに金を持っていくけど、その時はギリギリ間に合うかどうか、微妙な金額しか持っていなかった時の様なモノか。
……少し違うか。

「それになんだか頭がボーっとするし……」

「そういえば、アタシも……」

自分の不調を訴えるティピに、ミーシャも便乗するが……。

「アンタはいつもボーっとしてるでしょ!」

「あはは、そっか!って、ヒドイよ、ティピちゃん!」

ティピはすかさずツッコミを入れる。
ティピからすれば、一緒にするな……という所か。
勿論、ミーシャはそれを批難するが……。

「でも、本当だし……」

「うぅっ、ルイセちゃんまで……」

親友にまで真実を告げられ、ミーシャはやさぐれる一歩手前位に落ち込んでいた。

「?珍しいね、何時もならティピちゃんと一緒になって、ミーシャちゃんをからかってるのに……」

「お前、俺を何だと……」

ラルフがそんなことを言って来たので、俺は一応言い返すが……真実を知る身としては、ツッコミ入れる気にはならねぇんだよ……。
なんて、言える筈も無いんだが……な。

「とにかく、このマジックジャマーを持っている間は、こちらから呼び出すことも出来ません。終わったらすぐに返しに来るのですよ」

「分かった……ありがとう、母さん」

***********

こうして、俺達は再び魔法学院に舞い戻ったのだが……。
上級職員用フロア……つまり7階には誰もいなかった。

クソヒゲも副学院長も……イリスに副学院長秘書もである。
だが、副学院長秘書が受付をする席に書き置きがあり、それによると――どうやら副学院長は自宅にいるらしい。
ちなみに秘書は食事中だそうな。

クソヒゲとイリスは……あの研究所だろうな。
立場上、いきなり突っ込むワケにはいかないし……かと言って、悠長に構えてる暇は無い。
ヒゲが不在と言うことは、それだけ奴の研究が進んでいるということ。

……流石に見捨てるのは後味が悪い。
イリスが望んでいないなら、その手を赤く染め続けさせるワケにはいかない。

しかし、チームを分けることは出来ない。
マジックジャマーは一個しかないのだから。
ミーシャのテレパシーを遮断しなければならない……かと言って、イリスも元に戻すには必要……。
なら、全員で行動するしかない。

もっとも、ミーシャの真実を無視して、クソヒゲ討伐に乗り出せば、グローシアン達の何割かは救えるのかも知れない。
だが、その場合……ミーシャは『壊れて』しまうかも知れない。

ミーシャはメディス村の真実を知り、それをワンクッションとすることで、ヒゲの突き付ける残酷な真実をも跳ね退けた。
ルイセやカーマイン達の存在も大きかったが、メディス村の件が無く、いきなりヒゲに真実を突き付けられたら……耐えられなかっただろう。

かと言って、原作通りの流れなら…………。

9を救い1を捨てるか……1を救い9を捨てるか……コレはそういう選択だ。

いや……違うな。

どちらを救うか……そう考える時点でおこがましいのだ。
幾ら俺に力があろうと、俺は小さな人間に過ぎず、そんな俺に出来ることなど、たかが知れている。

無論、俺は10を救うなんて言う程、自惚れ屋でも無ければ、夢想家でも無い。
ならば……悩む前に行動するべきだ。

俺に出来ることなんぞ、自分の目に映る者を守るくらいだろうがっ!

俺は決めた……仲間を守り、その上で拾える命は拾おうと。
全てを知り得る上で、その選択肢を選んだ……つまり、後味が悪かろうが………自身のエゴを優先させるのだと。

その分の罪は、俺が背負うことを決めた。
既に背負い続けてるんだ……。

とは言え、諦めるつもりは無い。
この力で及ばないなら、賢しい知恵であがくだけ……。
仲間を見捨ててまで、他人を助けるつもりは更々無いが、拾える命を諦めるつもりも無い……。

歩き始める前から諦めるのは、愚か者のすることだ……ってな!

ちなみに、この決意を導き出すのには、数秒にも満たなかったことを告げておく。

結局、話し合った結果……俺達は副学院長を尋ねてメディス村に行くことに……。
これから知るであろう隠匿された真実を……予期しながら。

*********


俺達はシオンのテレポートにて、再びメディス村にやってきた。
所在の分かった、副学院長を探りにやって来たのだが……。

「懐かしいなぁ……。もうしばらく帰ってなかったから……」

「えっ?」

「……ん?」

ミーシャの言葉に、疑問を浮かべるティピ。
声に出したのはティピだけだが……その内心は、俺達全員がティピと同じなんだろう……。
ミーシャはそんなティピの反応に首を傾げているが……。

「だって、ミーシャ……」

「……なぁに?」

「……頭、大丈夫?」

ティピのストレートな物言いには、流石に頭にキタらしく……。

「ヒドイなぁっ!そりゃ、アタシ、バカだけど、そんなに変じゃないよ!」

「……ごめん……」

流石に悪いと思ったのか、素直に謝ったティピ。
だが、ティピの疑問も確かにもっともなんだ。

このメディス村に来た時に感じた、ミーシャの違和感。
それを感じた時、俺はソレが本当にミーシャか疑った……その理由が分からなかったが、今は何となく分かった。

『らしく』なかったんだ……ここを訪れた時のミーシャからは、喜怒哀楽を……感情を感じられなかった。

表向きは普段通りだったが……今のミーシャを見て漠然と思う。



『アレ』は違うのだと。



何が違うのか……感情以外には分からなかったが……。
何か、よく分からない物を感じながら、俺達は副学院長の屋敷に向かったのだが……。

「留守か……」

尋ねてはみたが、召使いの人が言うには副学院長は外出中だと言う。

「これからどうする?」

「あ、そうだ!」

ティピがそんなことを言う中、ミーシャが思い出した様に声を上げた。

「どうしたんだい、ミーシャ君?」

「実は、ここから向こうに行くと、アタシのお家があるんですよ!来てくれたら、お茶くらいごちそうしますよ!」

アリオストが尋ねると、ミーシャがそんなことを言う……まぁ、時間を潰すには良いのかも知れないが……だが、この向こうは確か……。

「……この向こうにミーシャちゃんの家が?」

「はい、そうです!」

ミーシャは元気良く返事を返すが……疑問を尋ねたラルフは若干訝しげな……困惑した表情を浮かべていた。
……そういえば、シオンと旅をしていた頃、メディス村にも立ち寄ったと聞いたな…。
ということは……。

俺はチラリとシオンを見遣る……表情に変化は無いが。
何かを……怒りの様な何かを我慢している様な雰囲気を感じるのは……気のせいだろうか……?

「段々になったお花畑があって、その上の方に一軒だけ家が建ってて、そこがアタシのお家なんです」

「へぇ……。ミーシャのお家ねぇ……」

ティピも何処か半信半疑……幾らティピでも覚えてるのか……この先には……。

「アタシ、小さい頃に、お父さんとお母さんを亡くしちゃって、困ってたところをおじさまに拾われたんだよね……」

「学院長先生に?」

「優しい人よね。だけどアタシ、出来が良くないから、おじさまの期待に応えられなくって……」

「ミーシャ……」

かつての思い出を、懐かしむ様に……本当に大切そうに語るミーシャを見て、ルイセは言葉を躊躇う……。
言うべき言葉を……伝えるべき想いを……。

「ま、暗い話はやめておいて、とにかく家に来ない?お茶くらい飲む時間あるでしょ?」

「え、えぇ……」

自分の問い掛けに、吃りながらも肯定を示したルイセを見て、首を傾げたが、直ぐに気を取り直してワクワクした様子で歩いていくミーシャ……。

「ねぇ、お兄ちゃん。ミーシャのことなんだけど……」

「……あぁ」

俺はルイセに先を促す様に言う……。
それを見たルイセは続けた……その不安を隠せない様子で。

「ミーシャって、私の親友だよ。だけど、何だかこの村に来てから、ミーシャのことがちょっとヘンに思えちゃって……」

「確かに今までも変だったよね。この村に来るといつもいなくなっちゃってたし、同じ村に住んでたはずの副学院長を知らなかったり」

ルイセの言葉に、便乗する形でティピが今までの矛盾を上げていく……。

他にも、ミーシャの言ってたことも食い違っている……それが最大の矛盾。

「……親友を疑うなんて、わたし、いけない子なのかな……」

俺は……自己嫌悪に陥りかけているルイセに、声を掛ける。

「……確かに、親友を疑うというのは辛いことだろうし、ミーシャの言動がおかしいのも……事実だ。けれど、ルイセはミーシャを信じたい……いや、心の中では疑い切れないんだろ?」

「それは……」

「なら、ミーシャにしっかり聞いて、間違ってると思うなら……その目を覚ましてやれ。それが出来るのは……多分、ルイセだけだ」

「わたしが……?」

俺はルイセに、自分の思ったことを告げる。
ルイセは、戸惑いが隠せない様子だ……。

「どんな秘密があるのか知らないけど。何かあったら、頼むわよ。親友ってのは強いんだから!」

ティピはルイセを励ます様に、力強く告げる。
ルイセは、小さく頷いた……。

「ほら、早く、早くー!」

ミーシャが向こうで手を振って、俺達を呼ぶ……俺達はミーシャの後に付いて行った。




そこには、どうしようもない……。

「……あらぁ……」

残酷な現実が……。

「しばらく来なかったら、お花畑がなくなってる……」

「ここは昔からこの通りですよ。ここへはよく薬草を取りに来ましたから……」

……待ち受けていた……。



「うそ……」

「……カレンが言ったことは嘘じゃねぇよ。俺も付き合わされたことがあるからな……」


「そんなの……」

「僕やシオンも此処へは来たことがあるんだ………でも……」

「そんなのうそだよっ!この先にはアタシの家が……」

「!?ミーシャ!?」

カレンは言う……此処は昔からこうなのだと。

ゼノスは言う……カレンの言葉に嘘は無いと。

ラルフは言う……自分とシオンも、此処へ来たことがあると……そして、花畑は無かった……と。

ミーシャは信じられず、何かを振り切る様に走り去っていく……ルイセはそんな友達を必死に追いかけて。

「……とにかく私達も行きましょう」

メディス村に着いてから、口を開かなかったリビエラが、俺達を促した……。
その時、俺は見た……そして感じた。
彼女の側に居るシオンから、先程感じた雰囲気を……気のせいで無かったことを感じさせる、強い憤りを……。

俺達が辿り着いたそこには……ただ何も無い場所を見詰め、茫然自失と化したミーシャと……。

「ミーシャ……」

それを見て、胸を締め付けられたかの様に、顔を歪めるルイセが居るだけだった……。

「アタシのお家、なくなってる………どうして…………」

「ミーシャ君……」

感情が消えた様に喋るミーシャを、アリオストはただ見ていることしか出来なくて……。

「お父さんとお母さんと、3人で暮らした………アタシの…お家が……」

「しっかりしてよ、ミーシャ!きっと場所を間違えたんだよ!」

「もう、ミーシャったら、そそっかしいんだから!」

ルイセとティピは普段通りに振る舞う………それが火の消えた様な、彼女を明るく照らしてくれると信じて……。

「……………」

「……ミーシャ?」

だがそれは……。

「………な…わけ……」

「えっ…?」

ミーシャに生まれた暗いモノを――爆発させただけだった。




「そんなわけ、ないじゃない!いくら、アタシが方向オンチでも、自分の育ったお家を忘れるわけないじゃないっ!!」

「ミーシャ……」

「確かにここだった!ここで暮らしてたっ!お花畑に囲まれた、小さなお家で暮らしてたっ!!……でも、ないの……」



ミーシャに生まれたソレは……彼女自身にも抑えられないのだろう……。
だから………。



「車百合のお花畑も……赤い屋根の小さなお家も…………なんで、ないのよぉっ!!?」

「ほら、きっと、空き家だったから、取り壊されちゃって……」

ルイセは慰めようとした……だが、それはミーシャを傷付けるだけだったのだろう……だから、ミーシャは今まで見せたことも無い程に鋭く、ルイセを睨み付けた。

「気休めはよして!最初からここに家がなかったことなんて見ればわかるっ!だけど、アタシの記憶ではたしかにここなの!ここで育った思い出があるのっ!!」

「お、落ち着いてよ、ミーシャ!?」

「この記憶はなに!?どっちが間違えてるの……?本当に…アタシはミーシャなの?」

ミーシャは震えている……記憶、彼女の依り所である……彼女の宝物。

「誰かの記憶をもった、ミーシャ?ミーシャの記憶をもった、誰か?ねぇ、教えてよ、ルイセちゃん…!?」

それが壊され、今にも崩れそうな彼女は……助けを求める……友に……そして……。

「ねぇ、教えて、お兄さまぁ………」

それが俺を指したのか、ラルフを指したのかは分からない……だが、涙でぐしゃぐしゃになった彼女の顔を……何より、絶望に染まったその瞳を見たくなくて、俺は……。

「……あ……」

ゆっくりと……強く抱きしめた。
その涙を……拭う様に……。

「1人で悩むな。俺たちは仲間だろ?」

「そうよ!」

「何事も急いじゃダメよ。急いだって、何にもならないんだから」

「そういうことさ。君が悩むなら、僕が……僕たちが一緒に悩む。頼ってくれれば、支えるくらいは出来るさ」

ウォレスも、ティピも、カレンも、アリオストも……ミーシャを想っている。
大切な仲間として……。

「……みんな……。アタシなんかのために……」

「なんかじゃない……ミーシャちゃんだから……だよ」

「そうよ……いつも元気一杯な貴女が大好きだから……ね」

「そんなお前は見たくねぇ……皆、同じ気持ちだぜ?」

「あぁ……大切な仲間だからな?そんなの……当然だろ?」

それはラルフ、リビエラ、ゼノス、シオンも変わらない。
皆、ミーシャが大切なんだ………それは俺も……何より。

「当たり前じゃない。わたしたち、親友でしょ……?」

ルイセだって……。

俺はミーシャをゆっくりと離す……そこには、もう絶望に染まった瞳は無かった。

「………ありがとう。そうだよね。もう少しよく考えてみる」

いつもの様に……とはいかないが、はにかんで見せたミーシャを見て、俺はホッと一息吐いたのだった……。

**********


――これは、ミーシャにとって必要なことだった。
それは分かっている……つもりだったが。

現実だからこそ感じる生の感情……。
それを感じたからこそ、実感する……。

事実を知りながら、告げられないことへの罪悪感……告げないという選択肢を選んだ自己に対する嫌悪。

そして………クズヒゲへのどうしようもない怒り……。
平静である様に努めたが……どれほど平静でいられたのか。
正直、自分には分からない。

ミーシャはまだ、乗り越えてはいない……あくまで保留したに過ぎない。
だが、それは小さいが確かな一歩だ。

そう感じた俺……いや、俺達はとりあえず安心したワケだが……。

「ごめんくださーい!」

だから本来の目的である、副学院長宅への訪問を行うことにした……だが。

「……………留守みたいだよ?」

ということらしい。
まぁ、知っていたが。

「留守だってよ。これからどうする?」

「どうしましょうか……」

ウォレスとラルフがそんなことを言っている。
みんな、思い切り悩んでいるが……。

「よし、中に入るか」

俺がナチュラルに扉を開けようとした時……。

「えぇ!?勝手に入るの……!?」

「シオン……それは流石に……」

「そうですよ、シオンさん」

ルイセ、ラルフ、カレンはそれぞれ難色を示している。
無論、普段ならそんなことはしない……だが。

「もしかしたら、副学院長……家の中で倒れてるかも知れないだろ?もしそうなら……大変じゃないか?」

ニヤリ……と、屁理屈じみたことを言う俺。

「そうだね、もしそうだったら本当に大変だよ」

「そうね……そういう場合、早期発見出来るかで、助かる確率が変わるって言うし……」

「確かに一理あるな……」

「それは是非、確かめなきゃな……何も無けりゃあ、それに越したことはねぇんだしよ?」

それに賛同するのは、純粋に副学院長が倒れてたら大変だ……と、心配するティピと。
俺の思惑を理解している、リビエラ、ウォレス、ゼノスである。

「……じゃあ、こうしないか?鍵が掛かってたら、諦める……どうだ?」

そのカーマインの提案に、全員が顔を見合わせて……そして頷く。

「鍵を開けっ放しでいなくなるなんて思えねぇからな。いないって分かれば、諦めもつくだろう」

ウォレスがそう締め括る。
実際、中から人の気は感じないから、誰も居ないんだろうけどな?

「決まりね!それじゃルイセちゃんお願い」

「え、わたしぃっ!?」

「だって扉を開けてすぐ副学院長がいた時、アンタだったら顔見知りじゃない!」

「そんなぁ……先生が開けようとしてたのにぃ……」

ティピの――理が叶っている様で、無茶苦茶な推薦理由を聞き、俺に助けを求めてくるが……。

「何事も経験だなっ、頑張れよルイセ?」

あっさり見捨てた俺を見て、ショックを受けた様だ。

ガガーーンッ!!?

という擬音が聞こえてきそうだ……。

「頼んだぜ、ルイセ」

「ふぇ〜ん……なんでわたしがぁ……」

「早くしなさい!」

ウォレスにも頼まれ、更にはティピに強要され……半泣き状態になってるな……ルイセ。

「ドキドキするよぉ……」

「いいから、早くしなさい!」

「ふぇ〜ん……」

……アレだ。
なんかの罰ゲームでピンポンダッシュをさせられる様な……そんな心境なのだろう。

まぁ、いじめる趣味は……無くはないが、あまりプレッシャーを掛けても可哀相なので、種明かしをしてやるか。

「心配しなくても、中から人の気配はしない。思い切ってやってみ?」

「それ……本当?」

「本当だよ、ルイセちゃん」

俺がネタバラシをした時、ルイセは子犬チックな視線を向けてくる。
某チワワのCMの様な視線……クッ、ヤバイ!?
何と言う戦闘力だっ!?
この俺が……お持ち帰りしたくなる……だと!?

そんな俺の精神状態はさて置き、ルイセを優しく諭す様に補足したラルフ。
……ラルフのことだから、俺が言わなければ自分が言ったんだろうなぁ……。

「それじゃ……」

半泣きでは無くなったが、やはり緊張する様で、ゆっくりと震える手で取っ手を掴み……そして。


ガチャッ!!

「あ、開いちゃった……どうしよう!?」

「決まってるだろ、入るんだよ!」

思い切りパニクるルイセに、ウォレスはツッコミを入れる。
どうでもいいが、俺達絶対注目されてるぞ?

こうして俺達はワタワタと副学院長宅へ侵入……。

「……おじゃましまぁ〜す……なんだか緊張するね」

震える声でそう告げるルイセ……何と言うか、『初めてのお使い』じゃないんだから……。

「……………」

「?どうした、カーマイン?」

「いや……こういう経験が、ルイセを悪い道へと転がらせて行くんじゃないかと……心配で……」

何だろうか……カーマインの中では、ふっ○こちゃ〜ん♪並の『悪くてイイ女』になったルイセでも幻視しているんだろうか?
……まぁ、オッサンも内心……ルイセには、真っ直ぐ育って欲しいと思っておりますが……。

「アンタはちょっと過保護過ぎなのよっ!」

「……そんなこと無いだろう?」

まぁ、カーマインの場合……過保護と言うより、また違う感情があるんだろうが……本人は気付いているのかどうなのか……。

それはともかく、俺達は早速家捜しをすることに……皆それぞれに散って行った。

まぁ、チンタラやってる暇は無いので……。

「この絵だな……」

ガッチャン!!!

原作知識を参考に、仕掛けのあるだろう部屋を特定し、そこにあった絵の一部……不自然に浮き上がったソレを押した。
幸い、他の皆は別の部屋を探索中だったのでね。

俺はその足で音のした方に向かう。
すると、玄関の突き当たりにあった筈の壁が消え、地下へと続く階段が現れた。
よく見ると、壁がスライドしたのが分かる。

……一個人の屋敷に、随分と手の込んだ隠し通路だこと。
まぁ、副学院長の研究内容を考えれば、それも当然なんだがね。

なんて、考えてる内に皆も集まって来た。
結構デカい音だったからなぁ……。

「何々、今の音!?」

「何か動いたみたいな音だったぞ」

ティピとウォレスが言うが……確かにいきなりあんな音がしたらビックリするわな……。
っと……よし、全員集まったな。

「ねぇ、こんなところに階段ってあったかな?」

「さっきの音はこれだね」

まだ、本調子じゃないミーシャと、ルイセが扉……隠し通路のことについて話し合う。

「シオンが見付けたの?」

「ああ、近くの部屋に怪しいスイッチがあったから……ポチッとな♪」

リビエラの疑問に答える俺……。
誤解の無い様に言っておくが、遺跡の中ではこんな風に無闇にスイッチを押したりしないからな……俺は。

「地下室か……」

「ここにグローシアンが監禁されているのか?」

アリオストの呟きに続く形で、ウォレスが独り言の様に言うが……副学院長は白だからな。
それは無いだろう。

案の定、地下に降りた俺達を待ち受けていたのは、監禁されたグローシアンではなく……。

「…………誰もいないよ……」

「なんだか拍子抜け……」

ルイセとティピは、そう言う。
それも当然。
怪しげな品々が置いてはあるが、それだけなのだから……。
呪術用の触媒である、骸骨、藁人形、各種調合薬品……他には……テストの答案用紙なんてのもあったな。

「まぁ、十中八九……副学院長の研究室だろうな……それ以上でもそれ以下でもない」

「とりあえず、色々探してみようか」

俺とラルフがそう言ったのを皮切りに、手分けして研究室内を家捜しする。
一応、副学院長の研究内容上……不用意に触り回らない様、忠告しつつ。
だが、結局……。

「……う〜ん、ないや……お兄ちゃん。グローシアンに関係するような研究は、どこにもないよ」

「あてが外れたな」

「まぁ、言う程に期待してたワケじゃねぇがな」

結局、成果は0。
まぁ、皆も何処かでやはり……と思っていたんだろう。
その表情に落胆の色は無い。

「此処には何も無かった……グローシアンはホールから消えてしまった。その前後、校庭の隅から箱を持ち出す怪しい人影……ホールで死んでいた副学院長の知り合い。その手に握られていた赤いピアス……」

「犯人は誰なんだろう?」

カーマインが今までにあったことを整理する。
ルイセのみならず、皆、疑問を浮かべているが……気付いてる奴は気付いてるだろう。

「消去法で考えてみよう……副学院長が白の可能性が高まった以上、答えは自ずと見えてくる……」

「……学院長、だね?」

俺の意見を聞き、その答えを告げるアリオスト。
それを聞いた時、ミーシャがビクリと震えた……だが、俺は続ける。

「勿論、100%学院長が犯人だと断定したワケじゃあ無い……だが、次は学院長の周辺を探ってみても良いんじゃないかってな……どうかな?」

俺の提案に、反対する者はいなかった。
……ミーシャですらも。
皆が気付いているのだろう……ミーシャの矛盾。
その原因を……真実を知るかも知れない者の名を。

そして……何人かは感じている筈だ。
そいつが、今回の事件に関わっているのだ……と。

……こうして、俺達は再び魔法学院に舞い戻って行く……真実を知るために。

**********

魔法学院に来た俺達は早速、上級職員用フロアに赴く……案の定、イリスは不在だったが……副学院長秘書の彼は受け付けに戻っていた。

「いらっしゃいませ。……といっても、副学院長はいらっしゃいませんが」

「あら?どこ行っちゃったの?」

「さぁ?それは私の方が聞きたいですよ。連絡も無く、学院内でも姿が見えないんです」

……と、なると……どう言った経緯があったのかは分からないが、既にヒゲに捕まった……と、考えた方が良いか。

「学院長のところなんか、秘書の人もいないのよね〜」

「ああ、そう言えば、今しがた外へ出ていきましたよ。用事があるなら、追いかければ間に合うと思いますが」

「外か」

ティピのボヤキの様な言葉に、律儀に返してくれた副学院長秘書。

こうして、俺達はイリスを追うことになったのだが……。

「待っていました……シオン」

まさか、エレベーターを降りた先でイリスが待ち構えていようとは……思いもよらなかったワケで……。
いや、一瞬……罠か?
と、勘ぐったのも仕方ないことだと思う。
だが、彼女をよく見ると、それが杞憂なんだと気付かされた。

「……どういうことだ」

カーマインを始め、皆が警戒を現にするが……。

「大丈夫だ……彼女は敵じゃあ無い」

「シオン、さん……?」

俺は皆を宥めた……そう、確かに感じたからだ。
イリスの瞳に宿る……その感情を……。

「説明……してくれるんだよな?」

「……はい、私の知る限りのことを、お話します……」

とは言え、此処で話せる様な内容じゃあないよな……。

「それなら、僕の研究室へ行こう。あそこなら、誰かに話を聞かれることも無いだろうから」

こうして、俺達はアリオストの研究室に向かった……。
本来、ありえなかった筈のイリスとの邂逅……。

それは俺個人からすれば喜ばしいことであると同時に、俺達全員からすれば残酷な現実を突き付けることになる……ミーシャの隠された真実を……知ることになるのだから……。

**********

A・TO・GA・KI・!!

最近、怪我の具合も良くなり、そろそろ仕事に行けるかな……とか、思っている神仁でございます。

と、言うワケで……如何でしたでしょうか?
104話をお贈り致しましたが……。
次回は、若干のオリジナル展開を踏まえつつ、原作通り学院長ヒゲとの決着です。

ちなみに、イリスさんが正気に戻ったのはマジックジャマーのお陰ですが、その理由は何ともご都合らしい理由です。
詳しくは、次回で語られる……筈なので。

それではm(__)m




[7317] 第105話―断罪と陰り―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/16 21:39


俺達はアリオストの研究室にやってきたワケだが……。
何と言うか、皆……警戒してるなぁ……。
まぁ、仕方ないのかも知れないが……。

「さて……質問に答えてくれるということだが?」

「はい、私に答えられることならば……ですが」

「じゃあ、聞くけど……副学院長の知り合いを殺したのは……アナタ?」

警戒心バリバリなウォレスの問いに、イリスは答える……って、ティピ……ストレート過ぎ。

「……分かりません」

「分からない…って、どういうこと?」

「そこを話すには、ある真実を話さなければなりません……それはミーシャにとっては、辛いことかも知れません……」

「アタシ……?」

分からないというイリスに、厳しい目付きを向けるリビエラ。
そして告げる……これから話すことは、ミーシャに関わりのあることだと。

「……あなたに、真実を知る覚悟はありますか?」

その瞳はひたすらに真剣で……真っ直ぐにミーシャを捕らえていた。

……俺は知っている……その真実を。

故に、それがどれだけ重いことかと言うことも……。

「……聞かせて。アタシは大丈夫だから」

ミーシャはそれに頷いてみせた。
……ミーシャも気付いている。
自身の記憶の食い違い……それに関する事柄だと。

恐怖はあるのだろう……だが、それでも知ることを選んだのは、ミーシャの強さだと思う。

「……分かりました。では話します……私と、アナタの真実を……」

それを見て頷いたイリスは語り始める……自身と、ミーシャに隠された真実を……。

「私は学院長……マスターに造られた、ホムンクルスです」

若干の表情の変化――そこから感じるのは、真実を知らせなければならない『悲しみ』と――。

「そして、ミーシャ………貴女も」

揺るぎない『決意』だった――。



それから……イリスの口から語られたことは、信じられない程の衝撃を与えた……少なくとも皆には。

イリスとミーシャは、クソヒゲに造られた魔導生命……ホムンクルスであること。
イリスはクソヒゲの補佐、ミーシャは最高のグローシュを持つ者を見張らせる為に造られたこと……それはつまり、ミーシャの親友……ルイセのことを見張らせる為に近付かせたと……。

「そんな…そんなの嘘だよ……!」

「………もし嘘なら、もっとまともな嘘をつくだろうさ」

ルイセはそんな話、信じられない……そんな感じだが、俺はイリスに先を促す。
当のミーシャも頷いて先を促した。
……その身体は震えているが。

「……続けます」

クソヒゲの目的、クソヒゲの出生、奴の協力者……知る限りの全てを、イリスは話してくれた。
そこに嘘が無いのは、イリスの顔を見れば分かる。
……ついでに、俺の『原作知識』と、ほとんど差異は無かったしな。

「……支配階級グローシアンの末裔……か」

「その為だけに……グローシアンの人達を……」

カーマインとラルフは信じてくれた様だ。
そして、怒りを感じている……。

「グローシュを抜き取る…そんなことをするなんて……」

「……クズだな、あの野郎っ!」

カレン、ゼノスのラングレー兄妹も同様。
もっとも、カレンは悲しみが、ゼノスは怒りが大半を占めているんだが。

「……成る程、ティピのテレパシーを傍受していたわけでは無く、ミーシャを介してこちらの様子を伺っていたのか……」

「……アタシじゃなかったんだ」

ウォレスはとことん冷静に状況を分析している……内心はどうか分からないが。
ティピも、悲しみを抑えながらも呟く……。


……見てしまったから。


ミーシャの悲しみを湛えたその表情を……。
けれども、絶望には染まらない。
……皆が居るから、それを理解したから……踏ん張れた。
転げ落ちないで済んだ。
クソヒゲの蔑みの言葉が無かったのも、理由としては大きいかも知れない。

けれど……。

「……ごめんね、ルイセちゃん」

「元気出してよ、ミーシャ!」

「アタシ……人じゃなかった」

「何言ってるのよ!ミーシャはミーシャでしょ!?」

「……それだけじゃなくって、ルイセちゃんを監視するために造られたんだって……」

「わたし、ミーシャといるとき、とっても楽しかったよ?一緒に遊んだり、一緒におしゃべりしたり、全部楽しかったよ!」


それも、非常に危うい……そう……サーカスの綱渡りの様に。


「でも……」

「わたしたち、親友でしょっ!?」

「!?」

ルイセは声を張り上げる……ミーシャの心の扉を……こじ開ける様に。
その瞳から、とめどなく涙を流しながら……。

「ミーシャがなんだって、関係ない!学院で一人だったわたしに、友達になろうって言ってくれたじゃない!」

「けど……それだって……ルイセちゃんを」

「あのときの気持ちは、本物だった!あのときの友情は、本物だったっ!!」

……その叫びは、何処までも強く、悲痛で、温かだった。

「……ルイセちゃん……」

「それはこれからだって変わらない…!……こんなことで壊れちゃう友情なんて、偽物の友情だよ?……だから、こんなことで、わたしとミーシャの友情は壊れたりしないんだから……っ!!」

「ルイセ……ちゃ……ルイセちゃああぁぁぁぁぁんっ!!!」

「………ミーシャ……」

もう堪えられなかったのだろう………。
縋り付かれたルイセは、自身も悲しみを拭い去る様に、ミーシャを抱きしめた。

この気持ちに嘘は無いと言う様に……強く、強く……。

皆、それを見てホッとしていたり、ヒゲに怒りを感じていたり、もらい泣きしたりしていた……。

「……………」

だが、イリスは複雑そうな表情を浮かべる。
……何となく、何を考えているか分かるな……。

「……気にし過ぎない様にな。イリスのせいってワケじゃないんだから」

「…はい」

まぁ、そう言ったって無理か……。
気にするな……とは、言えないしな。
そう言われたって気にするだろうし。

「大体分かったけど、最初にしたウォレスの質問の答えは、まだ貰ってないんだけど?」

「それを説明するには、私とシオンの繋がりを話さなければなりませんが……」

「シオン君との繋がり……?」

リビエラが問う。
警戒心は若干薄れたみたいだが、イリスが繋がりと言った時、ジト目をこちらに向けて来た。

俺には疚しいことは何一つ無いので、スルーしたが……。

アリオストが先を促す様に言ってきたので、イリスは頷いて先を続ける。

イリスが言うには、クソヒゲは俺がグローシアンであるという事実を知った時、最優先捕獲対象としたこと。
……しかし、幾ら俺のグローシュパワーがルイセより上でも、今まで目を付けていたルイセより優先されるって、どうよ?

と、聞いたら……。

「シオンがグローシアンとして最優なのも勿論ですが、マスターは独自にグローシアンの保護を行っていたシオンを、疎んじていた様です」

そう、イリスが答えてくれた……成程ね。
俺はクソヒゲにとってはモルモットであり、邪魔者でもあるわけだ。
故に最優先……ね。

それから、更にイリスは続ける……。
イリスはクソヒゲに命令された。
学院に来た俺を監視……そして『篭絡』する様にと……。

だから、リビエラ、カレン……そんな目で見るなっての!!
まさか、そんな思惑があったなんて知らんかったのだから。
二人の視線をスルーして、イリスの話を聞く。

「……私は、シオンの監視と……篭絡を命じられましたが……そもそも、篭絡とはどうすれば良いのか……分からなかったので資料を見ながら、シオンを観察していたのですが……そこをシオンに見付かってしまい………一般常識を叩き込まれました」

「「「「「………は?」」」」」

イリスの言に、皆がクエスチョンマークを浮かべていた。
まぁ、シリアスな言い回しから、いきなり一般常識云々なんて言葉が出るのだから。
……その資料が発禁小説だと知ったら、皆はどんな反応をするのやら。

「私は一般常識に欠ける……そう言われて、勉強をしました。……気付くにはしばらく掛かりましたが、教わる内に気付けたんです……私に足りなかったのは常識、道徳、倫理……そして感情なのだと。それに気付いた時、迷いが生まれました」

「迷い?」

ティピは首を傾げて尋ねる。

「マスターのなさることが……正しいのかどうかを。……以前の私なら、こんなことは考えなかった……私にとってはマスターが全てだったのだから……。けれど、分からなくなった。マスターのすることが間違いだと、私は理解した……しかし、本能が拒んだ。マスターに棄てられることを恐怖して……」

「…………」

イリスの独白を、皆が聞いている……。
茶々を入れず、静かに。

イリスは保護したグローシアン達の世話というか、差し入れを届けたりする役割だったらしい。
その時、グローシアン達と話す内に迷いが湧いた……つまり、情が移ったのだという。

あの時、俺に相談を持ち掛けたのはそういう意味なんだろう。

俺に言われ、自分の心に従うことにしたイリスは、ある賭けに出た……。

グローシアンを逃がすという賭けを……。
結果、数人は逃がせたらしいが、自分と何人かのグローシアンが捕まったのだと言う。
そして……イリスは操られた。

「……私が知るのはここまでです。次に気付いた時、私は学院に居たのですから」

どうやら、俺達が学院に来た時、奪われた記憶を取り戻したらしい。

これは憶測だが、秘密研究所に行こうとしたイリスは、俺達の接近に気付かずにマジックジャマーの有効範囲に入ったのでは無いだろうか?
と、俺は考えている。

ご都合過ぎる考えだろう……が、考えられないことじゃない。
『原作』ではイリスは操られていなかった、だが今回は違う。

だから、差異が出た……どちらにせよ結果オーライだ。
ご都合だろうと何だろうと、な。

「……私はマスターの意思に反しましたが、後悔はしていません。……自身の心に準じたのですから……ただ……マスターに操られている間、何をしていたのかが、気掛かりではありますが……」

イリスに後悔は無い……だが、それは自身の意思で決めた行動に対してだ……。
操られていた時のことを覚えていない……だからこそ、記憶無き記憶に後悔する……というより、しているのだろう。

「成る程、話は分かったよ。確かに、不自然な所は無い。むしろ話が繋がるからね」

アリオストは納得した顔をしている。
そりゃあそうだ。
わざわざ、蒸し返すことは出来ないし、とりあえず的を射ているからな。

とは言え、気になることがある。

「イリス……これは、お前の物か?」

俺は、預かっていた赤いピアスを手渡す。

「……はい、私が使っていた物です」

「それは、殺された副学院長の知り合い……とやらが、握り締めていた物だ……意味、分かるよな?」

「ちょっと、シオン!?」

イリスが肯定したことを確認し、俺はピアスの入手場所を伝える。
……俺としては、真実を教えること、それと確認したいことがあったから……なのだが。

リビエラに止めに入られてしまった。
リビエラだけで無く、メンバーの半数以上がイリスを信じた様で、俺に批難じみた眼差しを向けてくる。

ウォレスとルイセとミーシャは静観していたが。

ウォレスは、心情的にはイリスを信じているらしいが、やはり楽観視はせず、一歩引いた場所から見ている様だ。
その冷静であろうとする在り方は、流石だと思う。

ルイセは信じたい気持ちはある……。
心根が優しい娘だからな……本来なら、いち早く信じていただろう。
だが、親友であるミーシャを追い詰めた奴……とでも思ってるのだろうか?
そこまでは思ってないにしろ、半信半疑の様だ。
なんとも複雑な表情をしている。

ミーシャに至っては、軽い人間不信。
軽いのはルイセが居て、カーマイン達が居るからだろう。
普通に人と会話する分には問題無い。
だが、自分を騙していた人物……クソヒゲの関係者だと言うのが強いのだろう。
疑心を含んだ視線を向けている。
ミーシャが本当に吹っ切れれば問題無いと思うのだが、今はルイセのミーシャへの想いと、ヒゲへの憤怒に近い感情がミーシャを支えているに過ぎない。

だから、原作において……ヒゲを打ち倒した後は再び、心に陰りを落としたのだ。

イリスも、それらに気付いているのか……どこか沈んでいる様に見える。

「じゃあ……イリスは操られている時の記憶は、全く無いんだな?」

「はい……。強いて言うなら、寝ている時の感覚と言うか……先程も言いましたが、気付いた時には学院だったので」

イリスに嘘は無い……ならば、何故このピアスを残した……?
ヒゲが馬鹿だというなら説明はつく。
原作ならば、イリス自身が取るに足らないことと考えたのかも知れないが……。

……もしかしたら、操られている間は大まかな命令しか受け付けないんじゃないか?
そう考える。

例えば、何かを『ごまかせ』と命令する。
そうすればごまかすことはするが、機転は効かないので、不自然な部分が出てくる。

メディス村でのミーシャを例に考えれば、有り得ないことでは無い。

恐らく、イリスも似た様なモノだったんだろうな。
と、なると………グローシアン達は……。
しかも、イリスが何人か助け出した……そうなると最悪、捕まった全てのグローシアン達は今頃……。

もっと上手く立ち回れた……だのと、自惚れるつもりは無い。
だが、諦めるつもりも無い。

幸いと言うべきか、早めにエリオットが反旗を翻したので、本来起こる筈だった、『ランザックへの援軍』という事態が無くなっている。

原作では、任意イベントであり、イベントを行おうと行わなかろうと、シナリオの本筋には影響が無かった。

だが、実際はかなり時間の短縮になった筈……。
もっとも、それは『ランザックへの援軍』込みで原作の時間軸とした場合だ。
もし、『ランザックへの援軍』を除外した時間軸が原作のそれだとしたら、時間的猶予は無い。

なので、コレに関してはあまり期待しない。

だが、こっちにはイリスが居る……そこが大きなアドバンテージになる……。

故に……。

「……とりあえず、皆に力を貸してもらう。勿論、イリスもな?」

俺は策を提示する……あのヒゲを打倒する為に……。

「……二人には悪いが、あのクソヒゲ……潰すからな?」

俺も感情に従うことにする……。

*********


「また失敗か……」

「あ……う……」

私は搾りカスとなったグローシアンだったモノを見遣る。

「役に立たぬゴミめ……」

ゴオオォォォォ―――!!

私が放った魔法が、役立たずのゴミを燃やし尽くす……フン、不快なゴミよな。

「止めろっ!何故こんなことをする!?」

「口を慎むがよい。……とは言え、わざわざこんな所まで足を運んでくれたのだ……付き合いも長いし、話してやろうでは無いか……ブラッドレー君」

そう、魔法学院の副学院長であるこの男は、私の正体を突き止めたのかどうか……それは分からないが、この秘密研究所に足を踏み入れて来たのだ。
もっとも、直ぐに捕らえて、今はこうして魔法障壁を張ったカプセルの中だが。

……恐らく、こやつの知己を殺した所から足が着いたか……。
やはり、ダミーは適当な人間にしておけば良かったかな?

「グローシアンに……なるだと!?」

「私がグローシアンとなる為には、グローシュが必要だ。
ただのグローシュでは無く、純粋なグローシュが……だ。そのためには、グローシアンが使用した燃えカスの様なグローシュでは無く、その身に内包した未使用のグローシュを抜き取らなければならん」

現状、グローシアンから抜き取る以外、純粋なグローシュを得る方法は無い。
文献を調べれば、他にも何かしらの手段があるらしいことが分かるのだが……。

その方法を解析するには、まだまだ掛かりそうなのでな……私は何よりも早くグローシアンになりたいのだよ!

「馬鹿な……グローシアンのグローシュを抜き取るということが、どういうことか……分からない筈は無いだろう!」

「ふむ……確かに、無理矢理グローシュを抜き取るということは、記憶を壊すことと同義……廃人になるだろう。それは見ての通りだが……それが何なのかね?」

「な……っ!?」

「私は……支配階級グローシアンの末裔なのだよ……しかも、王族のね。そんな私の糧となれるのだから、奴らも本望だろうて……ふははははははははっ!!」

とは言え、残ったグローシアンは二人……。
何処かから新たなモルモットを入手しなければな……やはり、あの愚民の隠れ家からさらうか……。
あの結界は厄介だが……何、やりようなど幾らでもある……。

「さて、それでは実験を再開するとしよう……」

「いや……止めて……」

私は、剣で四肢を壁に貼付けておいた、モルモットに近付く。
白衣を纏った女……アイリーンと言ったか……まぁ、どうでもよいがな。

パチンッ!!

「あぁ…!?」

ドサッ!!

私が指を鳴らすと、女の四肢に刺さっていた剣が消え去り、女は床に崩れ落ちた。

「止めろとは異なことを……もう一人の代わりに身代わりを買って出たのは貴様ではないか……」

そう、この女はもう一人のグローシアンを庇い、自分がモルモットになると言ったのだ。
もっとも、全員モルモットにしてやるつもりだが……寛容な私はこの際、順番の希望くらいは聞いてやることにしたのだ。

「フン……だが貴様は愚かにも私に牙を向いた」

「あぐぅ!?」

私は女の髪を掴み上げる。

そう、こともあろうに慈悲を与えた私に襲い掛かって来たのだ……返り討ちにしてやったがな。
幾らグローシアンであろうと、魔法を重点的に学んでいない者に、仮にも魔法学院の学院長であるこの私が、遅れを取りはせん。

私はその女をカプセル状の装置の中に放り込む。
この装置は私の傑作……グローシュを抜き取る装置なのだ。
四肢を剣で貫いておいたから、抵抗も出来んだろうて。

「い……いやぁ……止めてぇ……!?」

「止めろぉ!?くそっ!!」

ドンッ!ドンッ!!

ブラッドレーが魔法障壁を叩いているが……無駄なことだ。
貴様ごとき愚民に、その装置の障壁は破れはせん……無力な己を呪うのだなぁ?
フォフォフォフォフォフォ!!

カチッ!!

私は装置を起動させる。
女が入ったカプセルは、地に飲み込まれ、完全に外界と遮断された。
クックックッ……次は成功して欲しいものだ。

「い……いやぁ……記憶が……きえ……やめ…てぇっ!……忘れたく……なぁ…い……ニッ…ク……助…け……死にたくな……い……っ!!?」

「……五月蝿い愚民だ。まぁ、直に口を聞くことも出来なくなるだろうが……む?」

ガチャ!

「…………」

「イリスか……何をしておった。遅かったでは無いか」

「申し訳ありません」

……つまらん人形め。
まぁ、実験にかまけてテレパシーを一回しか送らなかったのは私のミスだが……。

「貴様は私のサポートをする身だ……本来ならば、私より先に駆け付け、実験を行っているのが礼儀であろう?」

「申し訳ありません」

フン……淡々と答えるか……本当につまらん人形だな……だが、そうしたのは私だ。
こやつから思考を奪ったのはな。

「もう良い。早速実験の補佐をするがよい」

「かしこまりました」


カチッ!!

ウィーーン……。

「なっ!?」

グローシュを抜き取る装置がキャンセルされ、地に飲み込まれ外界と遮断されていたソレが、再び地より上がって来た……。

「……何のつもりだイリス?」

「私は……貴方の意には従いません」

「!?貴様、洗脳が……」

馬鹿な……我が念波を……どうやって……!?

「これはこれは学院長殿……」

「き、貴様は……!?」

そこに居たのは、私の計画をことごとく邪魔した愚民……。

「随分と、好き放題やってくれた様で……」

「……シオン・ウォルフマイヤー」

こやつ……またしても私の邪魔をするつもりかっ!?
おのれぇぇぇぇぇぇ………っ!!?

**********


話は少し遡る……。

イリスの案内にて、俺達はクソヒゲの秘密研究所に赴く。
その間、俺はイリスに研究所の概要を詳しく聞いていた。

原作と現実の差異を確認する為だ。

原作ではそれらしい場所は無かったが、何人ものグローシアンを拉致ったんだ……当然、グローシアンを監禁してある場所があるはず……。

案の定、研究所の地下には牢の様な物があるらしく、恐らくグローシアン達もそこに捕らえられているだろう……とのこと。
イリスが恐らく…と言ったのは、操られていた時の記憶が無いからだろう。

「ん……?」

「これは……」

「人の気配がする……」

道中……秘密研究所への隠し通路が存在する洞窟の中で、俺、ラルフ、ウォレスは人の気を感じた。
気配……という意味では、カーマインとゼノスも感じた様だ。

ちなみに、洞窟に入った時、久しぶりにライトの魔法を使ったことを明記しておく。
おかげで洞窟の中なのに、昼間の様に明るい。

「……どうやら、戦っているみたいだな……」

「そうみたいだね……どうする?」

俺とラルフは、気を読んで、その人数と状況を確認する。
どうも、一人が複数と戦っているらしい。
……この気には覚えがある。

「……放ってはおけないだろう」

「そうだね!見過ごすことなんて、できないもんね!」

「幸い……研究所への入口はこの先ですので、寄り道にはならないでしょう」

「つまり、戦いは避けられない……ということか」

カーマインの意見をティピが肯定し、イリスは寄り道にはならないと言う。
ウォレスは、どちらにせよ、戦いは避けられないことを悟り、その意識を戦闘へと向けていく。

こうして俺達が向かった先では……。

「邪魔だ!!どけぇっ!!」

一人の男が、襲い掛かる敵を斬り捨てながら……前へ進もうとしていた。

「あれは……ニックさん!?」

そう、アイリーンの恋人……剛剣のニックが戦っていた。
あの盗賊風の連中は……クソヒゲの雇われ者か。

「ボーッとしてる場合じゃないぜ?」

「ああ……ニックに加勢するぞ!」

俺が促し、カーマインがそれに頷き、指示を出す。

「ニックさん!」

「君たちは……」

「話は後だ!!助太刀するぜっ!!」

ティピが声を掛けると、ニックは一瞬だけ視線をこちらに向ける。
ゼノスの言葉を皮切りに、俺達は賊どもに襲い掛かって行く。

「な、なんだテメェらは!?」

「貴様らに名乗る名前は無いっ!!」

シュミミーーーン!!

「「「「うげあうおえあおぉぉぉぅっ!!?」」」」

俺はまず、手加減メンチビームで敵を無力化。

一気にバタバタと気絶していった連中を縛り上げ、その辺に放り投げておく。
と、何人かは俺のメンチビームを喰らいながら、気絶せずに立っていたので、適当にあしらう。

「邪魔だ」

ズドンッ!!!

「ガッ……!?」

瞬時に詰め寄り、デコピン一発。
一応、加減はしているので、頭蓋骨は粉砕していない筈だ。


………ぶっちゃけ、俺だけでも蹴散らすのはワケ無かったのだが。


俺ばかりが前に出るのは、皆の為にならんからな……。
とは言え、俺抜きとして考えても……こちらの頭数も多いわけで。

「ハァッ!!」

「セイッ!!」

ドガアアァァァァンッ!!

「ゴハアァ!?」

カーマインとラルフが、ダブルライダーキック(正確にはライダーでは無いが……)を決めて蹴散らし……。

「とおりゃあああ!!!」

ドゴンッ!!

「ぐべはぁ!!?」

ウォレスは気を纏った拳で格闘戦。
……全盛期の戦闘力を超える日も近いかも知れない。

「くたばりやがれっ!!」

ザンッザシュッ!!

「ぐふっ……強い……」

ゼノスも当然と言った感じの無双ぶりを示した。

「ええぇぇぇいっ!!」

ズブッ。

「アッ――――――!!?」

カレンは魔法で迎撃していたが、近付いて来た奴にインジェクターⅡ(シオンが改良した『どデカ注射器』)を敵の尻にブッ刺していた……なんか、薔薇が見えたぞ……気のせいか?
しかも、麻痺毒を喰らったのか、その盗賊はピクピク痙攣していた。
……何故か恍惚の表情を浮かべていたが……見なかったことにしよう。

他の面子は魔法で援護に回っていた。

とは言え、洞窟の中だからあまり派手な魔法は使えなかったが。

正直、勝負になりませんでした。
ニックが数を減らしていたのも、要因の一つだな。

「もう敵はいないよね?」

ティピがそう言いながら周囲を見渡す。
……確かに敵の気配は無いな。

「ありがとう。君たちのおかげで助かったよ」

「気にするな……ところで、何故こんな場所に?」

「ああ、僕の方でも学院長や副学院長を捜していてね……それで、足取りを追う内に、副学院長がこの洞窟に入って行ったのを見て、ここまで追って来たんだが……」

礼を言うニック……そんなニックに事の顛末を伺うカーマイン。
ニックは答えてくれたが……つまり。

「つまり、副学院長を追って来たのは良いが、その途中で奴らに邪魔された……と?」

「そうなんだ……で、敵の中に親玉みたいな奴が居たんだが、ソイツに言われたんだ……『お前さん、急いだ方が良いぜ?でなけりゃあ……女がどうなるか分からんぞ?』と。その親玉には逃げられてしまったが」

俺は敵に邪魔されたことを指摘した。
ニックはソレに答えたが……親玉ね。

「ちなみに、その親玉はどんな奴だったんだ?」

「スキンヘッドの大男で、片目に眼帯をしていたな」

ゼノスの質問に答えたニック……。
まぁ、十中八九グレンガルだな……やはりグレンガルは退いたのか。

「それってアイツだよね……えっと確か……アンタは覚えてる?」

「グレンガル……だろ?」

「そうそうソイツ!」

ティピは思い出そうとしたが、結局分からず、カーマインに聞いていた。

「どうやらあの男は、学院長と何かしらの繋がりがあるらしいな……」

「はい。その男は学院長に雇われていました……」

ウォレスがそう呟く。
それに答えたのはイリスだ。

「……俺たちはこれから、グローシアンたちを助けに行く。アンタはどうする?」

「グローシアンを助ける……?どういうことだ?」

カーマインは俺達の目的を告げた。
ニックは話が見えないのか……いや、無意識では気付いているのかも知れないが……とにかく、分からないという表現をした。

なので、俺達は説明する……学院長が全ての黒幕であること、学院長の目的……など。
ミーシャやイリスのことは伏せておいたが。

「そんな……それじゃあ、アイリーンも……?」

「そうだ……で、さっきの質問に戻るが……アンタはどうするんだ?」

ニックは愕然としてるが……正直、そんな時間も惜しいんだ。
だから、カーマインは質問を繰り返す……まぁ、答えは分かってるけどな。

「…俺も行く!足手まといにはならない筈だ!頼む!!」

俺達に、それを断る理由は無かった。
こうして、ニックを同行者とした俺達は、先に進み……。

カチッ!

イリスは、岩の隙間にあった金属の突起を押し込み。

ビュウンッ!!

宙に浮かぶクリスタルの様な物に触れ……。

ブゥン……。

秘密研究所への隠し通路を開いた……。
開いた……というより、認識阻害系の結界と、魔力障壁の様な物を合わせた壁……みたいな物が消えた……というのが正確かな?

「さて……、ニックには説明してなかったが……俺達には作戦があってな……」

「作戦?」

「あぁ。それは……」

俺はニックに説明する……俺達の策と、その概要を……。

**********

と、此処で今現在に戻る。
イリスには研究室へ先に入ってもらい、俺は扉の陰からソレを伺う。

そして、タイミングを見計らって扉から侵入したワケ。

「これはこれは学院長殿……随分と、好き放題やってくれた様で……」

「まさかここを嗅ぎ付けられるとはな……」

俺は見た……この部屋に漂う嘆きと怨恨の魂を……そして、イリスが停止させた装置の中に居る……白衣の女性を。

「おお、君達!早く助けてくれ!!」

……どうやら副学院長も捕らえられていたらしい……予想通りだが。

「アイリーン!!」

「おじさま……」

後ろから来たのは、ニック……そしてミーシャと、ルイセ……そしてアリオストだ。

「あ………ニック………ニック……?……来てくれたぁ……来て……くれ……」

「ア……アイリーン……」

ニックは見た……四肢が血まみれになった彼女を……そして、力無き瞳で……それでも安心した様に微笑む彼女の顔を……。

「どうして……どうしてアイリーンさん達をこんな目にあわせるの!?」

「決まっている。私がグローシアンになるためだ!」

ルイセは、イリスから説明を受けていたとしても、どうしても聞いておきたかった様だ。

「……やはり、彼女の言ったことは真実だったのか」

「その口ぶりでは知っているらしいな……大方、イリスが口を滑らせたのだろうが……」

「ああ……全部聞かせてもらった……テメェがグローシアンになって、支配者を気取るつもりだってこともな……」

アリオストは、イリスの言葉が真実であったことを認識した。
ヒゲはイリスが喋ったことを悟った……当然だな。
これで気付かなきゃ、ただの馬鹿だ。

「……そんなことの為に…俺の…俺のアイリーンをぉぉぉっ!!!!」

「研究に犠牲はつきものだよ。では逆にこちらから質問しよう。どうやってミーシャとイリスのテレパシーを遮断したのだ?」

「!?」

ニックは怒る……愛すべき者を、守りたかった者を奪おうとしたこの屑野郎を……許せなくて。
それをクソヒゲは、研究に犠牲は付き物……そう言って吐き捨てやがった。

そして、テレパシーが繋がらないことへの疑問を浮かべて………。

………ミーシャの身体が震えたのを、俺は見逃さなかった。

「……マジックジャマーって、知ってるよな?」

「成る程……そういうことか……余計な物を持ってきたものだ……」

ヒゲはそれだけで、事の顛末を理解した様だ。

「大人しく人形でいれば良いものを……お前達の様な不良品は即刻廃棄してやる!」

「………あ…ぁ………」

ミーシャは震える……理解していた……。
理解している筈だった……だが、感情では納得したくなかったのだろう。

心の何処かでは信じたかった……ソレを真っ向から断ち切られた。
だから、再び絶望という名の鎖がミーシャを搦め捕ろうとする……。

「……許さない……。許さないんだからっ!多くのグローシアンを、そしてわたしの親友まで傷つけて!絶対に許さないんだからっ!!」

「ミーシャはお前を見張らせる為に造らせた道具……それを親友だと?笑わせる!」

……もう良い。

「!?なっ……!!」

「貴様はもう喋るな……」

俺は……自身の怒りを解放する。
コイツだけは……許さん!!

「あの二人はお前の人形じゃない……ミーシャも、イリスも……意思を持った存在だ。お前の玩具にして良い様な奴じゃないんだよっ!!」

「あ……」

「シオン……貴方は……」

「ミーシャはな……俺達の大事な仲間だ!!イリスだって、俺にとっては大切なダチだ!!だから……そんなコイツらを弄んだ貴様は……許さん!」

「ふん……飛んで火に入る夏の虫……貴様のグローシュも取り出してやる!」

意気込むのは結構だが……。

「お前一人で……か?」

「ふん……愚か者め!私が駒を持っていないと思っているのか?」

「愚か者はお前だ……そんなことくらい、見抜けないと思ったか?」

俺はクソヒゲに告げてやる……真実を。

「……何だと!?」

「気付かなかったのか……?お前に学院で会った時、俺達は何人で行動していた?そして、残りの連中は何処に行った……?」

「まさか……!?」

「ご名答……そのまさかさ」

研究所に入る前に、気を探ってみると……研究所の中に複数の気を感じた……最初はグローシアンかと思ったが、それにしては大多数からグローシュの波動を感じなかったし、気が散らばり過ぎている。
ならば、敵と当たりを付けるのは当然。

元々、捕まっているグローシアンを助ける為、二手に分かれる予定だったのだから……。
なので、救出班には敵の掃討も頼んだ。

その分、救出班に人数を多く割くことになったんだが……。

「ぐぬぬぬ……愚民がぁ……調子に乗りおってぇぇぇ!!?」

「黙れと言ったぞ……慈悲は無い……楽に死ねると思うなよ」

俺は愛剣リーヴェイグではなく、魔導具である天弓を装備し、構える。
ニックも剣を抜き放った……。
アリオストは今のうちにアイリーンを救出、回復魔法を掛けていた。

今回はルイセもやる気だ……そして、イリスと……。

「アタシは……アタシは人形じゃない!!」

……ミーシャも。

「ふん!死ぬがいい愚民どもっ!!」

パチンッ!!

ヒゲが指を鳴らす……すると、空間が歪んで剣が現れる。
それが一本ずつ俺らを標的にし……。

ドドドドドドッ!!!

……たが、俺が天弓で全部叩き落とした。
ちなみに、肉弾戦で全て叩き落とすことも可能だが、それはしない。
……そのままの勢いでヒゲを倒してしまいそうだからな。

「なっ……」

「悪いが……そんな手品くらいではやられねぇよ」

クソヒゲを切り倒したいのは山々だが……。
それは……。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

ズシャアッ!!!!

「ごふぉ……!?」

この男に譲るぜ。
剛剣のニックは伊達じゃない……ってか?
渾身の一撃がクソヒゲに叩き込まれた。

「まだだ……私はグローシアンの王に……支配者になるのだ……こんな所で……」

「良いから逝っとけ……屑野郎」

致命傷を受けた筈のヒゲが立ち上がり、抵抗しようとして来たので……。

ドシュッ!!

俺は容赦無く、その頭をぶち抜いた。

「……マスター……」

「………………」

イリスとミーシャが、複雑な表情で見守る中……ゆっくりと地に倒れる屑を……俺は、とことん冷めた眼で見遣るのだった。

「おーいっ!!」

と……あっちも終わった様だな?

「どうやら、皆無事みたいだな?」

「おいおい……本気で心配してたんじゃねぇだろうな?」

俺の言葉に、苦笑を浮かべながら問い返してくるゼノス。
確かに、心配なんて殆どして無かったがな。

「それで……アイリーンさんは?」

カレンが尋ねてきたので、俺はアイリーンさんに視線を向けることで答えとした。

「………ニック……来てくれた……来てくれた……?何処に……?けど……うれしい……」

「アイリーン……」

「傷の手当はしましたが……僕にはこれ以上のことは……申し訳ない」

原作より早い段階で装置を止めたからか、忘れていることは少ないが、加速度的に記憶が壊れてきている様だ……。
ニックはそれに愕然とし、アリオストは治療しか出来ない自分の不甲斐無さから、謝罪している。

「彼女……なんであんなことに……」

「詳しくは分からないが……どうやら、グローシュを無理に抜き取ろうとしたための、後遺症らしい……」

ラルフが呟いた言葉に、俺は答えを返す。

「……そんな……」

カレンは小さく言葉を零す。

「なんでこんなことが出来るんだろう……。いくら研究のためでも、人を傷つけていいなんて、そんなの、間違ってるよ……」

「でも、このままじゃいられないよ。すぐにお城に報告して、ここへ来てもらおうよ」

ルイセは悲しむ……同じ人間なのに、何でこんなことを……と。
魔導師としても、ヒゲのやり方は許せないと……。
ティピは城に報告すると言っている……それはグッドアイディアなんだが。

「そうだな。だがお前のテレパシーは使えないんだろ?」

「ん〜、マジックジャマーの範囲から出れば大丈夫だと思う。アタシ、外に出てマスターに報告してくるから、少ししてから来てね」

ウォレスの言う通り、マジックジャマーがあるため、テレパシーは使えない……が、マジックジャマーの効果範囲から出れば話は別だ。
ティピはサンドラに報告するため、外に向かった……。

「それで……そっちはどうだったんだ?」

「ああ……俺たちはシオンたちと分かれた後、更に二手に分かれたんだ」

カーマインが言うには、各部屋の探索、敵の掃討をカーマイン、ウォレス、リビエラが……地下へグローシアンを救出に向かったのが、ラルフ、ゼノス、カレンだったそうな。

「捕まっていたグローシアンは……1人だけだったよ。他に人は居なかった……」

「そうか……その人は?」

「ミラさんって、女の人なんだけど……今は扉の外で待って貰ってる……シオン達が戦ってたら、巻き込んでしまうかも知れなかったから」

俺の問いに答えたのはラルフだ。
にしても、ミラか……確か、原作ではラシェルで療養している、アルトという男の恋人がミラだったか……。
現実としては、アルトと話したことが無いから分からないが……ミラはグローシアンだった筈。

……そう考えたら、『そのミラさん』は『あのミラ』……なんだろうな。

カチッ、カチッ!

ビュウン!

「ふぅっ、助かった……」

副学院長がカプセルから出て来た……どうやらイリスが装置を止めたらしい。

「……………」

そのイリスも、心ここに在らず……という感じだが……無理も無い……か。

「しかし、予想が当たったとは言え、本当に学院長が黒幕だったとはな……」

「イリスさんが教えてくたおかげ……ですね」

「……私は何も……ただ、自分の心に従っただけですから……」

ウォレスはヒゲの死体を見ながら、予想通りとは言え、ヒゲが犯人だったことに軽いショックを受けた様だ。
カレンはイリスのおかげだと言うが、イリスは複雑そうな表情をして、ソレに答えた。

「…………」

「ミーシャ……」

「大丈夫……ルイセちゃん。アタシは大丈夫だから……」

そう答えるミーシャだが、その瞳には深い悲しみが彩られているのを、見逃せなかった……。

「まぁ、結果はどうあれ、やっと一段落……って所か?」

「そろそろティピもいい頃だろう。王都へ戻らないか?」

「そうだな……」

ゼノスとウォレスに促され、カーマインは王都へ戻ることを告げた。

「私は他の兵が来るまで、アイリーンとここにいます。どうもありがとうございました」

「私もここで待つことにするよ。正直、腰が抜けてすぐには動けそうにない」

……そう告げるニックと副学院長にこの場を任せ、俺達は外に出た。
すると、ティピが待っていた。

「あ、来た来た」

「どうだった?」

「ローランディアでも、独自に調査してくれてたみたい。すぐにここへ来てくれるってさ」

「よし、それじゃ行こうか」

――こうして、後味の悪い事件は……とある少女と女性に少なくない陰りを落として、幕を閉じたのだった――

**********

おまけ

NG

学院長はEI-YOU-王?

「フン!死ぬがいい愚民ども!」

ヒゲが指をパチンッ!と鳴らすと、空間が歪み無数の剣が……って、待てコラ。

「見せてやろう……王の財宝の力を……『ゲート・オブ……』」

「ちょ、作品が違っ!?」

結論、全部叩き落としてやりました。
いやね?見た目は凄いけど、所詮見た目だけだし……数が多いだけで聖剣魔剣の類じゃないし……ハッキリ言おう。
ただの剣なんかを何万本放って来ようが、俺には通じん!!

俺の全力の弾幕は某東方を凌駕する!!

え、やり過ぎ?
研究所が粉々?
……うん、反省してる。

おまけ2

ハーレム馬鹿一代

「…………」

「……………」

私とカレンはシオンをジト目で見詰める……スルーされてるけど。
うん、理解はしてるのよ?
シオンがあのイリスって人を、どうこうしようってワケじゃないってことくらい。
……彼女は好意を持ってるみたいだけど。

それは良いの!仮にシオンがその好意を受けたとしても……それは真摯な物だろうから、納得もするわ。

ただ、私たちが散々アプローチを掛けてるのにスルーして……なのに、新しい人をアレするなんて……許せないじゃない!

「カレン……私たち甘かったのかもね」

「私はシオンさんの意思を尊重するつもりでした……けど!」

私達は決めた……他の人に目を向けたりしないように、もっと大胆に…ってね?
絶対に骨抜きにしてやるんだからっ!!

(見えない……俺は熱い視線も、ピンクな空気も……何にも感じないんだからねっ!!?)

**********

後書き。

最初に謝っておきます。
ごめんなさいm(__)m

散々悩んだ結果がコレ……笑えよ……笑うが良いさ……的心境だったりします。

最初はじっくり戦う予定だったのですが、色々あってこんな形に……。
まず、シオンが殺る気になって学院長に苦戦とか無いな……と、思ったのと、当初の予定通り進めていたら、後3話は続いたことなどがあったので……。
収拾つかないな……と。

当初の予定(今回の話との相違点)。

・ヒゲの研究所に乗り込む。

・アイリーンを助ける。

・ヒゲの策発動、イリス意識を持ったまま操られ、自身の命を人質に取られる。

・シオン、攻撃出来ず、グローシュを抜き取る装置の中へ。

・シオン、装置の中で全力全開。
大量のグローシュを放出して破壊。

………などなど。

他にもルイン登場で大根ランとか、イリス重傷とか……。

そういう展開だったワケで……ちなみに、最初はアイリーンは犠牲にならず、シオンが犠牲になり……徐々に記憶が逆行していく予定でした。

さて、ゲームで言えばようやくDisk2に入ります。
まだ先は長いですが、最後までお付き合い願えると幸いです。
それではm(__)m





[7317] キャラクター紹介〜第105話時点〜シオン&ラルフ
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:71b876dc
Date: 2010/01/12 16:28
シオン・ウォルフマイヤー

年齢:18歳(転生?前は27歳)

身長:185㎝

好き:仲間、平穏な一時

嫌い:無益な殺生、外道な奴

特技:剣術、武術、魔法、指揮能力、占いもどき

バーンシュタイン王国のインペリアルナイトである、レイナード・ウォルフマイヤーの息子として生を受けた青年。
その魂は、日本人である【海堂 凌治】のもので、本人は転生したと思っている。
だが別に死んだという記憶は無いので、例外もあるのだろう……くらいに考えている。
身体能力と魔力が神懸かってチートであり、それを究極の肉体、至高の魔力と本人は表していた。
更にその肉体も、魔力も、鍛えれば鍛えるほどに強くなり、成長に際限が無い風に感じてるが、実際は分からない。
……おまけに皆既日食のグローシアンで、他のグローシアンとは違い、意識的にグローシュを行使することが可能であり、通常の皆既日食のグローシアンを凌駕するグローシュ波動を発することも可能。

更に、某龍玉の気を使えるというスーパーチート野郎。
自身の戦闘力をある程度理解しており、そのため普段は限りなくその力を抑えている。

本人は否定するが、凌治の頃からチート気味だったらしく、その頃から持っていた異能が、一度見聞きしたことは絶対に忘れないという【絶対記憶能力】であり、シオンとなった今も受け継がれている能力。
この能力と、当時のオタ悪友のお陰でそっち方面の知識は豊富で、転生から十数年立った今でも原作知識を余す事なく記憶している。
ちなみにグローランサーシリーズは無印からⅢまでプレイしており、全キャラENDを見ているやり込み派。

(他は、普通に優秀だったらしく、磨けばどんな分野にも輝けた)

こう聞くと、正に完璧超人に見えるが、欠点も幾つかあり、その一つが【ラーニング能力】……シオンの長所でもある能力である。
このラーニング能力は、相手の攻撃や補助魔法等を一撃でも喰らうことにより、相手の戦い方、技能、基本技、必殺技、魔法、奥義などを完全に己の物にしてしまう能力で、それらの改良点や欠点なども全て把握出来る様になる。
必殺技、魔法、奥義などは例外で個別に喰らう必要がある。
また、全てを理解するため、体得した能力は他者に教えることも可能。

オマケ的な能力で、体得ないし習得した能力をアレンジすることも出来る。
この【アレンジ能力】はアレンジの元になる能力の範囲内で、強化、あるいは弱体化を可能とする能力で、テレポートを例に上げるなら、テレポートはあくまで【瞬間移動系】の能力であり、その枠組み内のアレンジは可能だが、それを攻撃用にアレンジしたりは出来ない(テレポート自体を攻撃魔法には出来ないが、テレポートを攻撃の手段として組み込むことは可能)ということ。

呪文の詠唱時間を短縮する【詠唱時間短縮】と、そのアレンジである、高速言語で呪文を詠唱する【高速詠唱】を合わせることで、どんな魔法でもほぼ一瞬で行使することが出来る。

ただ、このラーニング能力には弊害もあり、それが欠点の一つ、【超無才能】。
これは戦闘技能などに限ったことだが、自身の努力や練習では、技能や魔法を習得することがほぼ不可能になるという、ありがたくない能力……体質である。
マジックアロークラスの、初歩の初歩くらいなら死ぬ気で努力すれば覚えられなくは無いが、それ以上のクラスの技能や魔法は、独力では一生習得が出来ない。
だが、それも戦闘技能などの話で、料理や魔道具作りの腕は勉強したら、しっかり身についていたので、戦闘面以外では凌治だったころと同じ程度の才能がある様だ。

更にラーニングする際にバリア等を張っていたら当然体得出来ない。
バリアでは無く、気の様な物で身体強化をしている場合は可能。

性格は、凌治時代は平和主義者で良く言えば優しい性格、悪く言えばお人よし。
そのせいか、仲間という物を大事にし、学生時代は所謂リーダー的存在だったが、幼なじみの恋人を交通事故で亡くし、それを自分の責任と思い込み、荒んで行く。

両親や弟の支え、そして医師の催眠療法やカウンセリングのおかげで、卒業近くには荒んだ精神状態も回復したが、それ以来、自身の自己防衛のためか、催眠療法の弊害か……女性関係から敢えて疎遠となり、女性関係に関してのみ鈍感になる。
その為、本人は女性に興味はあるが、どうせ自分なんかはモテないと思っていたらしい。
しかし実際はそれなりに隠れファンみたいなのが居たらしく、バレンタインなどではかなりの戦果を挙げていた(本命も混じっていたが、義理としか思わなかったらしい)。

社会人時代、仕事に関してはそれなりにバリバリやっていたらしいが、無意識に無気力だった部分もあったらしく、万年平リーマンだったらしい。

シオンとなってからは、自分の出生による、死亡フラグという名の運命に嘆き、平穏を望みながらも、生来のお人よしぶりで、望むも望まざるも、様々なフラグを立てたり叩き折ったりしてきた。
最近では前向きに考えて、全てが終わってから平穏に暮らしてやるっ!
と、誓っているとか。

また、両親の教育の賜物か、女性を遠ざける癖は治ったが、鈍感は治らなかった。

現在はトラウマを乗り越え、鈍感さは大分改善されたが、それでもかなりの鈍チンであることに変わりは無く、想いを通じ合わせた相手以外の女性には鈍感なまま。
自身がモテるのを理解しているが、それは容姿や立場のせいだけだと思ってる節があり、それが鈍感さに拍車を掛けている様だ。

現在、紆余曲折を得て数人の女性と想いを通じ合わせているが、前記の理由や、かつて恋人を亡くしたこともあり、何故自分なんかをそんなに想ってくれているのか、未だに首を傾げる時もあるという。

ドSの素質があることを自覚しており、言葉を使って恋人達を軽くいぢめてゾクゾクしていたりするが、本人いわく、これでも自重しているとのこと。

これも悪友の影響か、心の中で物事を他作品に例えて茶化す癖があり、世界の修正か大概は一部伏せ字表記になる。
何気に交渉能力も高い様で、フェザリアンを説き伏せたりもした。

ラルフとは幼なじみであり、親友。
ラルフと共に遊んだり、訓練したりして成長した。

また、凌治の頃に幼なじみの恋人が交通事故で亡くなったことを無意識にトラウマとしており、他者の死に強い拒否感を示す。
モンスターを殺すことにさえ若干の抵抗を覚えている。
その為、不殺を貫いていたが、こちらの世界で初めて【人】を殺めてしまった時に、心が壊れかけてしまう……が、それをカレンに繋ぎ止められ、ウォレスに諭されたことにより、若干ではあるが覚悟が強まったようである。

その後、夢か幻か……自身の心の中で見守っていたという幼なじみの恋人……【沙紀】との邂逅を果たし、自身のトラウマに決着を着けた。

ちなみに殺し合いは嫌いだが、喧嘩することは嫌いじゃない。
喧嘩と祭は江戸の華とか言うタイプ。

以前、戦闘技能のラーニングの為に出場していた闘技場のフリー部門で、マスタークラスを席巻し、Sランクの覇者となってからは【白銀の閃光】の二つ名で呼ばれる様になるが、シオン自身はこの厨二臭い二つ名に辟易としている。
ちなみにSランクで連勝を続けるまでは【逆転の貴公子】と呼ばれていたりするが、これは戦闘技能や魔法をラーニングする為、敵の攻撃などを喰らってから反撃していた為に付いた物。
シオンは【逆転の貴公子】と呼ばれていたのを知らないが、果たして【白銀の閃光】と、どちらがマシなのかは分からないが……ただ、間違いなく事実を知れば『異議あり!!』と、声高く宣誓するだろう……指を突き付けて。
そのかわり?戦闘技能は全て(原作のNPCや敵専用スキルは除く)体得し、魔法は一部補助魔法と蘇生呪文であるレイズ以外は行使可能に。

戦い方は父からラーニングした剣術、体術を主体に、闘技場や旅先でラーニングした戦闘技能、魔法を使って戦う。

攻撃魔法は使い勝手が良く、加減の効きやすいマジックアロー、またはそのアレンジ系統の魔法を好んで使う。
他にも、とんでもアレンジ魔法を数多く持っているが、威力が洒落にならないとかで使うのを控えている。
マジックアロー体系以外のアレンジ魔法は、【ディスペル】という【ファイン】の強化アレンジ魔法と、【コロナボール】という【ファイアーボール】の強化アレンジ魔法、【サイレント】という【サイレンス】のアレンジ魔法、そして【瞬転】という【テレポート】の強化アレンジ魔法を使った。

【ディスペル】はどんな呪いや毒でも、解呪、治癒してしまうという物。シオンの魔力も相俟って治せない呪いと毒はない……が、サンドラの受けた毒は特殊過ぎた為、完全に治癒しきれなかった。

【コロナボール】は、ファイアーボールの熱量を集約して圧縮……手の平サイズの小さな太陽とした物(大きさはソフトボールを、一回りか二回り程大きくした感じ)。
その熱量は凄まじく、グローシアン遺跡の防衛兵器……ヘビーパンツァーを瞬時に融解させた程。
本来、近付くだけで燃え尽きてしまう熱量だが、自身の魔力でコーティングしてそれを防ぎ、着弾した際も、その魔力を使って熱風を上手く操り、それを防ぐ障壁としている。

【サイレント】は空間魔法であり、指定した座標空間内の会話を外に漏らさない様にする消音魔法。
部屋に掛けたりすることも可能であり、一種の結界魔法でもある。

【瞬転】は相手の気、魔力を目印に行うテレポートの改良強化版。
その効果は、所謂【龍玉の瞬間移動】であり、相手の気や魔力を目印に、ある程度周囲の空間、地形を認識し転移することが可能なので、目印にした相手の目の前にも、少し離れた場所に転移することも出来る。
また、テレポートより発動後のタイムラグが少ないので、より迅速な転移を可能にしている。
余談だが、アレンジした技能に名前を着ける場合、シオンは横文字より、漢字の場合の方が【本気】なんだそうな……後、瞬転は瞬間転移の略。

ちなみに【ディスペル】は、Ⅱに出てくる魔法を無効化する精霊石と同名だが、一切関係はない。

使える武器は、ウォレスの義手、カレンの魔法瓶と巨大注射器、アリオストの爆薬、ジュリアンのムチ、ルイセの召喚カードなどは使えないが、それ以外は大概マスターしている。
好んで使うのは父と同様に両手剣。
シオンが最も信頼する武器はリーヴェイグと言い、自身の生命力が強ければ強い程、切れ味と頑強さを増す魔剣。
とんでもな肉体を持つシオンが持つことで、切れ味と頑強さが正にとんでもないことになっている。

肉体の年齢こそ18だが、精神年齢的には40オーバーなので、自身をオッサンと称する時がある。
見た目は、銀髪蒼眼で、ロスカラのライとほとんど同じ美青年。

時折、かつて居た世界のことを気にしており、元の世界に帰りたいとも思っている様だが、今はシオンとなってしまっているため、仮に元の世界に戻れても身体がこのままなのでは……という恐れと、またこちらの世界の両親のことも大事に思っているのもあり、迷っているのが現状。
最近は仲間も増え、想いを通じ合わせる者達も出来て、更に迷いが強くなっているらしい。

お人よしではあるが、他人と、仲間や大切な者を量りに掛けたら……それらを守るためなら、他者を傷つけるのも厭わない……最近はその覚悟をより強くしており、トラウマを解消したため、その想いがより顕著になった。

今でも無益な殺生は好まないが、大切な者達を傷付ける者、どうしようもない外道相手には何処までも冷たく――冷酷になれる。

目下の悩みは、想いを通じ合わせた恋人達に大胆なアタックをされていることであり、熱烈なアタックを喰らう度に、理性という障壁がガリガリ削られている。
ハッキリ言って、贅沢過ぎる悩みではあるが、『大陸に平和が訪れるまでは決して手を出さない』と、誓いを立てているシオンに取っては結構重要。
彼女達の気持ちも、ある程度は理解しているので、流されそうになることもしばしば……。
幾ら鋼の精神でも、やはり蓄積したダメージはデカいらしく、最近では半ば意地に縋っている部分もある……しかし、どれだけ保つかは定かでは無い。

シオンが何を望み、何を成していくのかは……今はまだ分からない。

**********

ラルフ・ハウエル

年齢:17歳

身長:175㎝

好き:仲間と過ごす穏やかな時間

嫌い:特になし

特技:剣術、魔法、商売技術、経営学

バーンシュタイン王国の豪商として名を馳せる、ハウエル家の一人息子。
その正体はゲヴェルの先兵たる、複製兵士の一人。

本来の歴史では、17歳迄は問題無く成長していた様だが、ある時にゲヴェルに操られ、先兵と化してしまう。
その後、カーマインに兄弟だと偽って近付き、ルイセ暗殺を実行しようとするが、結局失敗し、他の複製兵士同様の末路を辿った。

しかし、幼い頃に正史では出会わない筈のシオンと出会い、その運命を大きく変えることになる。

シオンとは、幼少時代に偶然街中で出会い、それ以来の付き合い。
幼なじみにして親友。
本人は恥ずかしげ無く、そのことを公言するため、シオンは小っ恥ずかしい思いをしているとか。

幼少時代から皆既日食のグローシアンであるシオンと共に成長し、そのためシオンにより意図的に、ゲヴェルの精神波を生命維持に必要な分以外を遮断されており、既にゲヴェルの呪縛からは八割近く逃れていると見て良い。
ただし、シオン……若しくはそれに準ずるグローシアンが居なくなれば、また呪縛に縛られる可能性は大。

父に『商売人たるもの、扱う商品に精通してしかるべきだ』と言われ、幼少期から剣術を学んでいたが、シオンと訓練する様になってからその才覚を開花させた。
本来の才覚に加え、シオンの旅にも同行し、ずっと共に訓練してきた……途中、シオンが意図的に地獄の修練を敢行したこともあり、今ではシオンを抜かせば、大陸最強を名乗っても恥ずかしく無い強さを手にしており、ラルフのオリジナルである、ベルガーの全盛期を上回る力を持つ。
多分、ゲヴェルとガチンコでタイマンしても、互角以上に戦えると思われる。

基本、どんな武器でもそつなく使いこなせるが、好んで使うのは片手剣。

魔法にしても結構器用で、グローシアン程強力では無いが、多才な魔法を扱う。
シオンからアレンジ魔法も教わっており……非凡な才能は魔法の面にも現れているらしく、様々な魔法を習得している。

また、気についてもシオンから学んでおり、気のコントロールと総量はかなりの物がある。
シオンには無い才能があるので、シオンが知識でしか知らない技能を習得していたりする。

性格は優しく、温厚……両親の教育の賜物か品格すら漂う。
他者を気遣い、フォローをするお気遣いの紳士。

オスカーとアリオストを足して2で割った様な感じの性格。

意外に天然な部分もあり、闘技大会でルイセとあっち向いてホイをしたり、カーマインと服を交換して入れ代わったりと……茶目っ気もある様だ。

カーマインに瓜二つだが、カーマインが普段は無愛想な感じなのに対して、ラルフは普段から微笑んでいるような感じ。
無論、カーマインと同じ顔のため、美形である。
街行くお姉様に微笑み掛けると、ポしてしまう程に。
そのため、本人は認知していないが国内にファンクラブみたいな物もある。(シオンにも同様の物があり、ラルフと人気を二分していたらしい……当然シオンも認知していないが。)ただ、そのファンも二人が旅に出てからは、根強いファン以外は、リシャール達、新インペリアル・ナイト三人衆にくら替えしたようだが。

その性格上、無益な殺生を好まず、今の今まで不殺を通して来たが、シオン程の強烈な拒否感は無く、仲間を守る為なら手を汚す覚悟は出来ている。

シオン同様、闘技場フリー部門のマスターSランクを制しており、その時に付いた二つ名が【漆黒の旋風】。
本人はそんなたいしたものじゃない、と謙遜しつつ、なんだか気恥ずかしい様だ。

若干の鈍感スキルを持つが……ラルフの場合、鈍感というよりは前記した様に天然。
その天然ぶりは、旅先で出会ったスキマ屋に、非常に感銘を受ける程……下手をしたらスキマ屋バーンシュタイン支店が誕生する恐れもある。

それも本人の夢、商売で金を稼ぐよりも、商売で人々を幸せにしたい……という考えから来るものであって、本人的には考え無しというわけではないらしい……グレンガルとは対極に位置する商人である。

シオンのハッタリだが、それを信じ、カーマインのことを、本当の双子の弟と思っており、カーマインに兄として接している。
カーマインも満更ではないらしい。

また、カーマインの義妹であるルイセに対しても、『弟の妹は自分にとっても妹!』と思っており、ルイセにも妹として接している。
ルイセも満更では無いらしい。

普段は穏やかだが、結構鋭い所があり、カーマイン達と共にゲヴェルの真相を追い求める内に、自身の出生に何らかの疑問……もしくはその答えの一旦を垣間見た節がある。

彼がこの先どうなるのか……何処へ行き着くのか……それはまだ分からない。




[7317] 第106話―姉妹の絆―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:1e293af2
Date: 2011/12/16 21:57


俺達はテレポートでローランディアへ跳び、今はローランディア王城へ向かっている所だ。


城門を抜けて城へと続く通路の途中で……ミーシャが立ち止まった。

「……どうしたの、ミーシャ?」

「……やっぱりアタシ、帰る……」

「帰るって……ミーシャ?」

「心配しないで、ルイセちゃん。ちょっと1人になって、気持ちの整理をつけたいだけだから……」

そう言い残して、ミーシャは走り去って行った。
……仕方のないことだと思う。
今まで慕っていた相手に裏切られたのだ……。
最初こそ、自身を奮い立たせてヒゲに立ち向かいはしたが、そのヒゲを倒した今……ミーシャの心は果てしなく空虚なモノになっている筈……。

皆もそう思っているのだろう……ただ、走り去るミーシャを見送るしか出来なかった。

「……………」

そしてイリスは、そんなミーシャを誰よりも複雑そうな表情で見つめていた……。

*********

ローランディア王城・謁見の間

「おお、戻ったか。サンドラから話は聞いた。まさか魔法学院の学院長がグローシアンを……未だに信じられん」

「研究者としては、非常に優秀な人だったのですが……」

サンドラは学院生時代、ヒゲから教えを受けたこともあるらしい……だから余計に残念な想いがあるんだろう。

「詳しくは私が説明致します」

「その方は?」

自ら名乗り出たイリス。
王は見知らぬ人物の申し出に首を傾げている。

「彼女の名はイリス……学院長の元秘書だった者です」

「なんと……」

カーマインの説明に、驚嘆を表すアルカディウス王。
それもその筈……黒幕たる学院長……その共犯者が現れたのだから。
いや、単純にびっくりしてるだけかもしれないが……。

そう、イリスが俺達に着いて来たのは、知り得る限りの真実を告げるため。
その結果、処断されることをも覚悟に……いや、イリスはむしろそれを望んでいる節がある……か?

イリスは知る限りの真実を話す。

ヒゲがグローシアン王族の末裔であること、この計画はグローシアン失踪事件を利用して偶発的に思い立ったこと、ヒゲの目的、自身がグローシアンになるために、グローシアンからグローシュを抜き取っていたこと……そして、自身の出生。

ミーシャについては言わなかった……イリスなりに思うところがあるのかも知れない。

「成る程……そんなことになっていたとはな……」

結果、イリスが処断されることは無かった。
何故なら、俺達がフォローしたからに外ならない。
イリスがどういう奴なのか……とか、イリスはグローシアンを救おうとした……とかな。

それらを説明した結果のお咎め無し。

まぁ、アルカディウス王が『いいひと』だったのも理由の一つだろうが……。
何より、イリスが真実を(ミーシャのことを除いて)語っていたのが大きな理由だろう。
ティピを通じ、サンドラから話は聞いていた筈なのだから……。

「……私を罰しないのですか?私のしたことは……」

「確かに、その方がしたことは罪深いことだろう……もし、それが事実ならばな」

「?どういうことでしょうか?」

王の言い分はこうだ。
イリスは操られていた……そして操られていた時の記憶が無い。
よって、操られていた時に非道な行いをしていた……という証拠も無いと。

ぶっちゃけ詭弁であり、証拠や証言を捜そうと思えば幾らでも捜せるだろう……が、この場にいる全員にその意思は無く、王の意見を肯定する形となった。

皆、どれだけお人よしなのか……まぁ、俺も人の事は言えない……か。

「とにかく、もうこのような事件は起きずに済みそうだな」

「そうですね…」

グローシアン失踪事件そのものが解決したワケでは無いが……その一端が解決したのは事実だ。
全員と言うワケにはいかなかったが、保護したグローシアンは生き残ったしな。

「それよりあのマジックジャマーとかいう奴、さっさと返しちゃってよ〜!あれが近くにあると頭が痛いんだから〜!!」

「そうだったな……母さん」

半泣き状態のティピに懇願され、カーマインは苦笑しながらマジックジャマーをサンドラに返した。

「ではいつも通り、休暇を取ってゆっくり休んでくれ」

こうして、三日の休暇を賜った俺達は、初日の休暇先を指定してから帰路に着いた。

帰宅後……夕食を取って就寝した……皆の間に会話が少なかったのは仕方ないと言えよう。

皆、それぞれに想いを馳せる……明日の休暇先を……そこに居るであろう少女の姿を。

休暇先は魔法学院―――行く宛ての無いミーシャが『帰った』と思われる場所であった。

**********

休暇一日目・魔法学院

「お前らがどうするか知らんが……しっかりやれよ」

そう言ってウォレスが先に行き……。

「私が力になれれば良いのですが……」

「どうも俺は慰めるってのは苦手でな……だから、頼むぜお前ら」

カレン、ゼノスのラングレー兄妹が続き……。

「私も力になってあげたいけど……ね」

「ミーシャ君……」

リビエラ、アリオストが続き……。

「ミーシャ……大丈夫かな?」

「お前らがどういう答えを選ぶかは分からないが……ここが一つの分岐点だ。それは胆に命じておけよ?」

「…………」

ルイセと俺……そしてイリスが続いた。
残されたのはカーマインとティピ……それとラルフだけだった。

**********


「皆、ミーシャちゃんを探しに行っちゃったね……」

「アタシたちもミーシャを探そうよ」

「そうだな……」

俺達はミーシャを探しに行く……。
何故、俺達なのか……幾ら俺でも何と無く分かる……。

「人間じゃなかったなんて……」

ん……?

俺達が中央広場に来た時、二人の女生徒が話している内容が聞こえて来た……。

「じゃあみんな、ずっと学院長に監視されていたの?」

「なんでまだ学院にいるんだろ……」

「怖いよね?何喰わぬ顔してさ……」

……こういう奴らが出てくるのは分かっていた。
彼女たちの気持ちも分からないワケじゃない……だが、お前たちにアイツの悲しみが理解出来るのか?
憤りを理解出来るのか!?
そう考えたら……。

「あっ!」

「やばい、行こう!」

こちらに気付いたらしく、女生徒たちは走り去って行った。
……俺に彼女たちをどうこう言う資格は無い。
俺が本当にミーシャのことを理解しているか……そう聞かれれば、NOとしか言えないのだから。

「あの子たち……」

「……仕方ないね。カーマインはミーシャちゃんを探してくれ……僕はあの子達に一言いわなきゃいけないから」

後は任せたよ?
そう言い残してラルフは女生徒の後を追った。

そして……。

「お兄ちゃん!」

「ルイセ……」

俺を見つけたルイセがこちらにやってきた。

「お願い、お兄ちゃん。ミーシャを元気づけて……」

「俺が……か?」

ルイセはこくりと頷いた。

「わたし、なぐさめようと思ってミーシャのところに行ったの。でもミーシャ、わたしを見るとどこかへ逃げて行っちゃって……」

恐らく、ミーシャは引きずってるんだろうな……自分が生み出された意味を……だからルイセを避ける。
そう、ルイセだから……。

「ミーシャはお兄ちゃんの事が好きなんだよ。お兄ちゃんじゃなくちゃダメなの……」

そう、だからこその俺とラルフ……なんだろう。
だが、ルイセにそう言われた俺は、何故か胸がチクリと痛んだ……。

「だからお兄ちゃん、お願い。ミーシャを……ミーシャを助けて!」

「あっ、ルイセちゃん!」

ルイセは言うだけ言って走り去ってしまった……。

「ったく……こっちの答えも聞かずに……大体、ミーシャの好意が向いているのは、俺だけじゃないだろうに……」

「アンタ……」

俺は頭を掻きながら溜め息を一つ……。
ままならないモノだな……本当。

「行くぞ……ミーシャを探さないとな」

俺はティピを連れて先に進んだ……すると、今度は。

「アリオスト……」

「……ミーシャ君は屋上にいる。しかし、僕にはミーシャ君にかける言葉がないよ……自分の好きな女性をなぐさめる事もできないなんて………君なら、ミーシャ君をなぐさめる事が出来るんじゃないかな?」

俺はアリオストの言葉を聞いて……改めて思ったことを口にする。

「いや……俺より、アリオストが傍に居てやるべきだ」

「僕が……?」

「そうだよ。ミーシャの事、好きなんでしょ?アリオストさんがやらなきゃ!」

ティピの言う通り、これはミーシャのことが好きな、アリオストがやるべきことだ。
勿論、俺もミーシャのことは好きだが、それは女性としてでは無く仲間として……何より俺には……。

『ミーシャはお兄ちゃんの事が好きなんだよ。お兄ちゃんじゃなくちゃダメなの……』

そうルイセに言われた時……俺の心はざわついた。
……ルイセにだけは、そう言われたくは無かった……と。

こんな時に気付くなんて、皮肉な話だがな……俺には……だから、俺よりはアリオストが適任なんだ。

「そうか……そうだね。自分がしっかりしないとね。……僕が行くよ。ありがとう、カーマイン君」

そう言ってアリオストはエレベーターに乗り込み……。

「実はさっき、ラルフ君にも同じ様なことを言われたよ」

「ラルフが……?」

「ああ。やっぱり君たちは兄弟なんだね……うん、だから僕が頑張らなきゃって思えたんだ……」

「アリオストさん……」

アリオストは向かった……ミーシャの元へ。
俺は自分の気持ちに気付いた……だからアリオストに任せた。
それが相応しいと思ったから……。
だが、ラルフはどうだったんだ?
アイツは、どう思っていたんだろうか――?

「……これで、良かったんだよな?」

「うん……これで良かったんだよ」

ティピからの優しい答えに、俺はホッと胸を撫で下ろしたのだった……。

*********


僕はあの子達を追って、二階の講義室までやってきた。
道中、アリオストさんに会った。
アリオストさんは僕かカーマインにミーシャちゃんを任せたかったみたいだけど……僕はアリオストさんがなぐさめるべきだと告げた。

……僕はミーシャちゃんを好きだったんだと思う。
それがライクなのかラブなのか……分からなかったけれど。
だから、ハッキリ好きだと言えたアリオストさんの方が相応しいと思った。
多分、アリオストさんならミーシャちゃんを幸せにしてくれる……と。

だから、せめて僕は出来ることをしよう。

「あら?あなたはルイセのお兄さん?」

「あのローランディアの騎士だっていう……」

「いや、それは僕の弟の方だよ。だから僕は、ルイセちゃんのお兄さんのお兄さんだよ」

どうやら彼女達はカーマインと僕を勘違いしたらしい……まぁ、双子だから仕方ないんだけど。

「あの、なんであのホムンクルスを放っておくんですか?」

「学院長が悪いことするのに使われていたんでしょ?わたし、怖いです」

「私も……」

彼女達の気持ちは分かる……ケド。

「二人とも、ミーシャちゃんに謝ってくれないかな……?」

僕は彼女達の言い方が……気に入らなかった。
ミーシャちゃんは『人』なのに……まるで化け物みたいに言う彼女達の言い方が……。

「なんで謝らなきゃいけないんです?」

「ミーシャって学院長の手下だったんでしょ?」

「事情があったんだよ……」

僕は荒れる気持ちを抑えながら、事情を説明した。
ミーシャちゃんが、学院長にされた仕打ちを……。

「!……そうだったんですか」

「でも、私たちだって怖かったんです。学校であんな事が起こっていたなんて……」

「なんだか、取り乱してみんなにもいろいろ言っちゃった……どうすればいいんだろう……?」

彼女達は後悔してる……自分達のしたことを、自分達が言葉にしたことを……。

後悔出来るだけの優しさを持っているのだろう……。

彼女達は怖かっただけなんだと思う……だから、ミーシャちゃんを、ホムンクルスだから……という見下した色メガネで見ているワケじゃあないんだ。

「私たちがミーシャと仲良くして、みんなにも分かってもらうしかないよね」

「そうね!」

「うん!」

彼女達の様な仲間が居れば、ミーシャちゃんは大丈夫だろう……。
……人間かそうじゃないか……なんて、ちっぽけなことに思えてくるよ。

「あ、僕が事情を話したのは秘密でね?」

僕は彼女達に微笑んだ。
和やかな雰囲気を作りたかったんだけど……。

「は、はい!(〃A〃)」

「わ、わかりました(〃д〃)」

……何故か二人とも真っ赤になりながら走り去ってしまった……なんでだろう?

*********


「ありがとう、アリオスト先輩」

「いいんだよ。僕はいつも元気なミーシャ君を見ていたいんだ」

私は物影からミーシャたちを伺っていましたが……ミーシャは元気になったみたいですね……良かった。

私はその場を去って行きました……もう大丈夫ですね。

「これで、心残りはありません……」

私は数少ない私物を整理し、学院から出ようと……。

「どこへ行くつもりだ?」

「シオン……」

そんな私を待ち構えていたのが、彼だった……。

「何故……」

「な〜に、勘って奴かな?昨日もそうだったが、複雑そうな面してたからな……何か良からぬことを考えていたんじゃなかろうかと……例えば」

彼は私に近付いてきて……。

「自身の命を断つ……とかな」

真剣な表情でそう告げたのだった。
私は、何も言えなかった……何故分かったのだろう?
私はそんなに分かりやすいのだろうか……?

「……………」

「図星…か?」

私は……。

「私は……罪を犯しました。本来なら、極刑を受けても文句は言えません」

「まぁ、な。でも、イリスは操られていたんだし、その間の記憶は無かったんだろう?」

「……ですが、私はミーシャと違い、自分の意思でマスターに加担していました」

そう、私はシオンと出会い、心というモノを知った……だが、それ以前は間違い無く……マスターの道具でしかなかったのだ。

「そんな私が……生き恥を晒すなど許されないことです」

本来なら、罰せられるべき私が……。

「違うな……間違っているぞイリス」

「……?」

「確かに、お前は罪を犯したかもしれない……だが、お前はそれを悔い、自分の運命に抗おうとした……それは、決して間違いでは無い筈だ」

シオンの言いたいことは理解出来る……しかし、納得は出来ない。
私は確かに運命に抗おうとしたが……抗い切れなかったのだから。

「……と、これは建前としての意見」

「え……?」

「本音を言えば、間違いだろうが何だろうが、俺は知ったことじゃねぇ。だが、俺はイリスに幸せになって欲しい。人としての幸せを謳歌して欲しい……それだけさね」

「それは……そんなことは……」

それは酷く我が儘で、自己中心的な考えで……けれど。

「お前が誰かの命を犠牲にした……とか考えてるなら、お前は生きなきゃならねぇ……誰よりも、何よりも一生懸命に生きなきゃならねぇ。その命を捨てるってことは、それは今まで奪った命に対する冒涜でしかねぇ……だから、陳腐な台詞だが、今までのことを罪だと思うなら、生きてそれを償いやがれ!……その上で幸せになるなら、罰も当たりゃしねぇだろうさ」

照れながら、頭を掻いてそう言う彼は……私には輝いて見えた……。

「まぁ、少なくとも悲しむ人間が居るうちは死んじゃあならねぇって……命を自分で捨てちゃならねぇ」

「私には……悲しんでくれる者など……」

「俺が悲しむ」

「!?」

「俺が悲しむ……だから――死ぬな」

「あ………っ」

悲しむ……?
シオンが……悲しむ?
私が居なくなると……悲しむ?

「まっ、俺だけじゃなく……ミーシャも悲しむかも知れないがな?何しろ、姉妹みたいなモンだろう?」

「……ミーシャは、そう思ってはくれないでしょう。私は……ミーシャを傷付けたマスターの、片棒を担いでいたのですから……」

そう、ミーシャは許しはしないだろう……そこまで望んではいけない……だから私は……。

「なら、直接本人に聞いてみたらどうだ?」

「え……?」

シオンが示す視線の先には……。

「ミー…シャ」

ミーシャや他の者達がこちらを伺っていました……。

「…………」

ミーシャがこちらに歩いてくる……。
その顔は真剣そのものだ……屋上で見た、温かい笑顔では無い。

「あの……!」

「はい…なんでしょうか?」

……ならば、私は甘んじて受け入れよう。
彼女が私を罰するというのなら……。
それを受け止めようと………。

「お姉さまって、呼んでも良いですか!?」

「はい……………ハイ?」

受け止めようと…………は、え?

「ほら、アタシ達同じ人に造られたじゃないですか?だから、姉妹みたいなモノでしょ?だから……あ、まさか私が先じゃないよね?そしたら私が姉?それも捨て難いけど……ホラ、見た目的にどうかな〜?とか……やっぱり私としてはお姉さまって呼びたいワケで……その辺どうなんだろう?」

「た、確かに生み出されたのは私が先なのですが……いえ、そうでは無く」

「……ん?」

いえ、そんな『何か可笑しいの?』的に首を傾げられても……。

「アナタは良いのですか……?私を……その、私なんかを姉と呼んで……私はアナタを騙していたんですよ?」

「ん〜……アタシは難しいことは分からないケド……ソレはソレ、コレはコレかな〜って♪」

「え?」

「確かに……アタシは騙されてたんだと思う。でも、最初はともかく、イリスさんも辛かったんだな……って、分かっちゃったから。だから、アタシにはイリスさんを憎むなんて……出来ないよ♪」

凄く暖かい……まるでタンポポの花の様な温かい笑みを浮かべるミーシャ……。
私は……。

「それで……お姉さまって呼んじゃ、ダメかな?」

「……私などで良ければ……喜んで……」

ミーシャは私に抱き着いて来た……私は戸惑いながらも、抱き返した。

「ありがとう!お姉さま♪」

「それは……私の……台詞です……ありがとう……ミー、シャ……」

私は、恐らく……生まれて初めて『泣いた』……嬉しくて、『泣いた』……。
私は、生きていて良いと言ってくれる人がいる……姉と呼んでくれる人がいる……こんなに嬉しいことは……ないのですから……。

**********


まぁ、何は無くとも上手く纏まってくれたみたいで何よりだ……。
今のミーシャとイリスなら大丈夫……互いに支え合って生きていけるだろうさ……。

「良かったわね……」

「そうですね」

リビエラとカレンが温かい視線を向けている。

「まぁ、最初の形はどうあれ、家族が出来たんだ……今までの分も幸せにならなきゃな」

「良かったね、ミーシャ……」

それはウォレスとルイセも同じ様だ……いや、正確には俺ら全員が同じ想いなんだろうけどな。
だって、皆の視線が優しいモンな。

「みんな、心配かけてごめんなさい。アタシはもう大丈夫!アタシでお役に立てるならいつでも言って下さいね」

「私も、あなた方にはお世話になりました……この恩は必ず返します。お声を掛けて下されば、微力ながら力になります」

そう言って、見送りに来てくれた二人の姉妹。
二人とも、今日は姉妹でゆっくり語り合いたいとのこと。
ミーシャはしばらくの間、今まで通り学院生として寮に住み、イリスは教員として残ることにしたらしい。

この辺は副学院長の計らいによるモノだ。
イリスは学院を去るつもりだったらしいが、行く宛は無く、そこを指摘されたので教員として再採用されたのだとか……。
しばらくは二人とも風当たりは強いかも知れないが、頑張って欲しいものだな……。

「良かった、良かった。じゃあ、戻ろうか」

「そうだな……」

ティピとカーマインが締めようとして……。

「シオン……」

「ん?」

イリスが俺に話し掛けて来た。

「貴方には特にお世話になりました……この恩は中々返し切れないでしょうが……」

「気にすんなって、結局…俺は自己満足の為にやったに過ぎないんだから」

「それでは私の気が済みません……なので、少しづつ返していきます……コレは」

イリスは俺に近付き………。

チュッ♪

「うむぅ!?」

「「!!!!??」」

唇を重ねて来た……いや、ちょ、舌は…………………………………。

*********

しばらくお待ち下さい。

*********

「……はふ……コレが……最初のお返しです」

「おま、ちょ……はぁ!?」

不意打ち……不意打ちだぜJK?
幾らキス魔とか言われた俺でも動揺するっつーの!!
しかもぴちゃぴちゃと音が鳴るくらいディープで……って、イカン!イカンぞ息子よ!?
鎮まってえええぇぇぇぇ!!?

「私は自分の心に従うことにしましたから……だから、コレが素直な私の気持ちです」

そう言って綺麗な微笑みを向けるイリス………って、皆の視線が痛いぃぃぃぃ!!?
ルイセやミーシャにティピは顔を真っ赤にしているし、ウォレスとラルフとアリオストは苦笑しているし……。
カーマインはヤレヤレと肩を竦めている……って、ゼノスは複雑そうな表情で見てるし……って、カレンとリビエラから不穏な空気がああぁぁぁぁ!!?

カオスな空気を残したまま、俺達はローランディアへと帰って行ったのだった。
休暇先を申請した後に帰宅……昨日とは違い、賑やかな夕食と相成った。

「シオンさん……」

「シオン……」

「おまえら、時におちつけ!?今回は俺が悪かった!この際、理不尽な仕置きも甘んじて受けよう!!だから…な?」

「それくらいじゃあ、シオンは堪えないでしょう?だから、私たちはもっと大胆になることにしたの……その方がシオンにとっては堪えるだろうし♪」

「シオンさんの気持ちに従うって決めましたから、シオンさんが誰かと好き合っても文句は言いません……けど、嫉妬の気持ちが無いワケじゃないんです。私たちも構ってくれないと……寂しいです」

「なんか大きな誤解がある様だが……俺は見境無しでは無いんだから!?いや、ちょ、待っ、アッ―――――――!!!??」

その後、何とか貞操は守り抜いた俺……危なかったケド……。
……何でこんな思いまでして貞操守ってんだろう……俺。

何か物悲しくなりつつ、俺は就寝したのだった……。

**********

おまけ

イリスとミーシャのお話。

「お姉さま大胆だったね〜〜」

「あれくらいはしないと、想いは伝わらないかも知れませんでしたから……資料にも書いてあったし」

「資料?」

「いえ、こちらの話です」

「ケドお姉さま?シオンさんにはもう……」

「知っていますよ……私はその輪の中に入る覚悟(つもり)ですから」

「ええええぇぇぇぇ!?」

「こういうのをハーレム物と言って、男性なら喜ばしい状況らしいですから……資料に書いてありましたし」

「資料?」

「いえ、こちらの話でry」

**********

後書き

ハイ、まずはごめんなさいです。
m(__)m

今回、内容が薄い上、更新まで時間が掛かりまして……年末で仕事が忙しかったのもあり、中々……色んな意味で申し訳ありません。

m(__)m

そんなわけでようやく106話更新です。




[7317] 第107話―考察、キス魔、ガチンコ訓練―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:1e293af2
Date: 2011/12/17 02:56
※シオンが久しぶりにキス魔です。

**********

ミーシャとイリスが姉妹になった翌日……。
つまり、俺がイリスに公衆の面前で唇を奪われ、それに触発されてカレンとリビエラが突貫してきた翌日でもある訳で……。

ふと思ったんだが―――俺は何でこんなに想われているんだろうな?
こう言っちゃなんだが、容姿は間違いなく美形だ。
母上譲りの銀髪、父上譲りの蒼眼、二人の良い所取りの様な整った顔立ち、スラッとしたモデル並の長身と細マッチョ体型。

だが、それだけだ。

確かに、街を歩けば注目を浴びることもある。
しかし、それは俺に限られたことではない。
美形というなら、ウチのパーティーの美形率は半端じゃあないからな。
というか、殆どがモデル並の容姿を持っていると言える。
女性陣は言うに及ばず……ルイセやティピはどちらかと言えば『可愛い』に分類される容姿だが、美形なのは間違いない。

男性陣はラルフ、カーマインは当然として、アリオストは知的眼鏡系の美形……細いが、決してナヨナヨしているワケでは無く、しっかりとした体つきもしているから、女性のウケも良い。
ゼノスは、体つきこそ若干ゴリマッチョ寄りのガッチリした物だが、その容姿は文句なしの美形である。
ウォレスは今でこそ、眼から光線を出せそうな感じだが、両目が健在の時は渋い美形だったらしい。

まぁ、これは原作の両目が健在だった頃の立ち絵から連想したことであり、実際に見たことは無いが……今でもその渋い格好良さは、オーラの様に滲み出てくる位だ。

現インペリアル・ナイツなんかファンが付くくらいだからな。
(シオンは自分にも似たようなファンが居ることを知らない)

……今、何か妙な電波が……まぁ良い。
つまり、何が言いたいのかと言うと………。

「……何で、俺はこんなに想われているんだ?」

で、ある。

いや、それが嫌なのでは無く……むしろ俺的には嬉しいことなのだが……。

と、グダグダ考えるのは後にしよう。

***********

休暇二日目・王都ローザリア

「じゃあ、夕方になったら集合ね?」

そうティピに言われた俺達は、それぞれに散って行った。
俺は……どうするか……。

俺は、久しぶりにサンドラに会いに行くことにした。
二日前に会っているが……あくまでアルカディウス王への謁見という形でのことであって、個人としては会ってはいないからな。

レティシアにも会いたいし……。
ついでに二人に聞いてみたいことがある……何で俺なんかを好きになったのか――と。

*********

「いらっしゃい、シオンさん」

「お待ちしておりましたわ、シオン様♪」

サンドラの研究室にやってきた俺は、サンドラに快く迎え入れられた。
そして、何処から聞き付けたのか、レティシアも。

で、今は三人でテラスでお茶をしている。

「と、まぁ……そんなことがあってな」

「そうなのですか……シオンさんらしいですね」

「シオン様にお変わりが無い様で、安心しましたわ」

これまでの任務で起きた出来事などを話す。
二人に聞かれたからなんだが……こんな話が楽しいのかね?

「ええ。皆が何をしているのか……気になりますし――ティピに頼んで時々様子を見せて貰っていましたが、それはあくまでティピを介して見聞きしたことであって、シオンさんの口から直接聞く内容とは、また少し違うものですから――」

「私もですわ。私が外の世界を知ったのはあの時だけですから……外の話を聞けるのは凄く楽しいんです」

さいですか……まぁ、二人が良いならそれで良いが。

「……って、サンドラ……まさかアレも知ってるんじゃあ……」

「アレ……イリスさんにキスされたことでしょうか……?」

うわ〜〜い、もしやと思って聞いたら、やっぱり知ってたヨ……まぁ、あの時ティピも居たしな。
ティピを介して様子を見せて貰っていたのなら当然か……。

「キ、キキキスですか!?シオン様、私たちというものがありながら……そのイリスさんという人と……」

レティシアは怒っている……というより、その状況を想像して身もだえている感じだ。

「あぁ……そんな……でも私……」

……一体どんな妄そ…想像をしているのか、小一時間ほど問い詰めたいが、今はそっとしておこう。

「一応、言っておくが……自分からしたワケじゃないからな?」

「分かってます……貴方は私たちを大事に思ってくれていますから……自分から不義理なことはしない人だって」

買い被りだとは思うが……そう思ってくれているというのは嬉しい。

「それに、私は貴方の選択に従うと……決めましたから」

「それを言うなら私もです……貴方が選んだ人なら、受け入れますわ。それが条件だったのですから」

そうサンドラと、レティシアが言ってくれる……まぁ、条件云々はともかくとしてだ……。

「なぁ……二人に聞きたいことがあるんだが……一体全体、俺の何処が好きなんだ?」

「「え?」」

そう、俺はこれが聞きたかった。
何故、そこまで俺のことを……全てを受け入れようという程に想ってくれているのか……。

彼女達は見た目や生まれ……なんかで好意を持つような俗な面子では無い。
それくらいは、俺にも分かる。
――つまり、彼女達は俺の内面を好いてくれたことになるが――。


「条件……とかは、例の同盟のことなんだろうけど……それを抜きにして、さ」

他に考えられる要素は………アレか?
所謂、『ニコポナデポ』という奴。

いやまぁ……確かに最近は自重せず、髪の毛を撫でたりはしていたが……嫌がられもしませんでしたが何か?

しかし、少し前まで『そんなことしたら、セクハラでタイーホされるぅ!!?』……とか、ほざいていた俺だ。

少なくとも、『ナデポ』では無い。

なら、『ニコポ』か?
だが……俺は最近まで美笑(誤字にあらず)なんてしなかった。
したのは快活に笑う……言わば漢の笑み。

擬音で表記するなら『ニカッ!』である。
…………『ニカポ』?
そんな、ニッカーボッカみたいな……無いわ。
(シオンは自覚が無いだけで、彼の『漢の笑顔』は多かれ少なかれ好感を持たれる物である)

……また電波が……まぁ、スルーしておこう。
気のせい気のせい。

まぁ、どちらにしてもソレは見た目等と同じく『キッカケ』でしかない物だ。
ソレだけで一目惚れ………なんて、幾らご都合主義でも有り得ない……無い……よな?
大体、そんな馬鹿げたことが事実なら、元祖ポ野郎のキラキラボーイ並にヤバイことになる。
或いは某騎士団の麗しの若武者。

「私たちがシオンさんを……その、好きな理由ですか」

モジモジしながら赤くなるサンドラ……ヤバイ、お持ち帰りしたい……理性がアラートしてやがる……落ち着け、素数だ…素数を数えるんだ……素数は孤高の数字……こんな俺にも勇気をくれる……。

「あの……一言では言い表せないのですけれど……私はシオン様がシオン様だから、その、好きなんだと思います」

赤くなりながら、はにかむ様に言うレティシア。
ヤバイ……めがっさヤバイにょろぜ!
くっ!静まれ!!俺の右手よ!?
撫でたい衝動が…俺の腕を疼かせる……!?

とか、やりそうな位ヤバかったが……なんとか堪えたぜよ。

「私もですよ。シオンさん……貴方が貴方だから、ここまでの好意を持ったんです」

俺だから……か。

「そう言ってくれるのは嬉しいが……俺は特別、何かをしたワケじゃないんだがな……」

サンドラとレティシアに限って言えば、その窮地を救ったことはあるが………もしかして『吊り橋効果』って奴?

「私は最初、貴方に助けられた時……貴方が持つ雰囲気に惹かれました。カーマインとさして違わない歳の筈なのに、貴方が持つ熟達した雰囲気に……『大人しく俺に抱かれていろ!』という言葉も、その、強烈な印象だったのですが……」

サンドラはそう言うが……まぁ、精神年齢はウォレス以上のオッサンだからね。
って、アレがキッカケですか?

あの頃の俺って、自重してる様で自重していなかったんじゃ……うん、これから気をつけよう。

「それから貴方が気になりだして、いけないことなのを承知で、時々ティピに頼んで貴方の様子を伺わせて貰っていました。……そして、そんな貴方を見続けている内に私は……」

サンドラは言う。
助けられたこと、心配されたこと……ソレらは確かにキッカケだったが、最終的には俺の人柄に惹かれたのだと……。
しかし、自身と俺の年齢差を考えて、中々言い出せなかったらしい。
そこをカレンがスカウトした……と。

(ちなみに、サンドラはシオンにプリンセス抱っこをされており、その際に感じたシオンの逞しさもキッカケの一つなのだが……これはサンドラも言わなかった。流石に恥ずかしかったらしい)

「以前にも告白しましたが…私はシオン様が助けてくれたことが、大きなキッカケだったと思います……それ以前にもお話を聞かせて戴いたり、賊から守って戴いた時にも……あんなことを言われたのは……初めてでしたし♪」

まるで白銀の天使みたいでした♪
とはレティシアの談だが……止めてくれ、恥ずかしくて赤面してしまうからあぁぁぁ!?

……にしても、思い起こせばあの時からなんだよなぁ……レティシアが俺をシオン『様』と呼ぶ様になったのは……。

「けれど、本当にシオン様をお慕いする様になったのはそのあと……ラージン砦でのことがキッカケなのです。…あの時、貴方の優しさに触れて……私は」

ああ……あの時は『脇役気取り』は止めよう……と、誓った時だな。
この時から、セクハラだタイーホだの騒がなくなったんだよな……あるがままを受け入れようと。

つまり、キッカケはどうあれ……二人とも『俺』が好きなのだと……言ってくれている。

『俺』という個を……。
『俺』という個が持つ全てを……。

ありがとう……大丈夫だよ。
答えは得た……俺もこれから頑張っていくから―――なんて、言えれば良かったんだが。

「……けれど、独占欲が無いか……と、聞かれれば嘘なんです」

「そうですわ。シオン様の全てを受け入れようと誓いましたが……それとこれとは話が別です」

二人が何と言うか、熱っぽい視線を送ってくる……って、待て。

「私も寂しいんですよ……?最近、中々顔を出してくれませんし……なのに……やはり、私の様なおばさんでは駄目なんでしょうか?」

「そんなことないって!サンドラは綺麗だし、おばさんなんかじゃねぇ!って、前にも言っただろう?」

実際、この美貌とプロポーションは反則だろJK?

「レティシアだって……凄く綺麗で可愛いし、ドキドキしないことなんて無いんだからな?」

「そんな……それは私も同じです。貴方にドキドキしないことなんて、ありませんわ……」

ヤバイ……テンションが変だ。
確かに本音を言っているのだが……俺も顔が真っ赤だろうってのは……かなり正確に予測出来る。

(で、どうする?俺は二人に答えを聞きに来た……一応、答えは得たけれど。それも最高の答えだ)

(キッカケはともかく、今は俺自身を好きだって言ってるんだぜ?やっぱりここは……ガバッと行くべきっしょ?)

漫画なんかで出てくる、天使な自分と、悪魔な自分……お約束の様に激しい戦いを繰り広げ……。

((YOU、イッちゃいなYO♪))

って、仲が良いなうぉいっ!?

満場一致!?即断即決!?
なんじゃそりゃああぁぁぁぁぁ!!?

で……結局。

「二人とも大好きだあぁぁぁぁぁぁ!!!」

ムギュ!

「あぁ……シオンさん♪」

「シオン様の腕の中……温かいです♪」

二人纏めて抱きしてますた……。
あぁ……良い香りだなぁ……それに温かくて柔らかくて……ヤバイ、このまま流されそう……昨日も無理して我慢したからなぁ……。

(我慢は良くないぞ?そもそも、我慢する理由が何処にある?彼女達は真に俺を愛してくれている。そして、もっともっと愛して欲しいと願っている)

(単なるミーハーでも、ただのニコポナデポでもねーって確信したんだろ?なら、抱いてやらなきゃ……可哀相じゃねぇか?確かに他の……誰だか分からない女にポンポン手を出すのは不義理だろうが……テメェの女にお預けさせるのも、不義理じゃあねぇのかぁ??)

……そうだよな。
俺だけの独りよがりならともかく……ソレを、愛し合うことを望んでいるのだから。
ならば……逝かなきゃ漢(おとこ)じゃないよな……?
むしろ、大陸が平和になるまで……なんて言う方が独りよがりではないのか?

((イケイケGOGO!!イケイケGOGO!!))

俺の中の天使と悪魔に後押しされるまま……。

「……シオン、さ……んむぅ!?」

二人の唇を……。

「シ、シオンさまぁ…んふぅ……!?」

貪るのであった。
擬音にして『くちゅ、ぴちゃ、ぴちゅ……』という感じであるからして、ディープな奴である。

「ふぅ……あぁ……」

「あぁ……あはぁ……」

全力全開の深チュウを喰らい、フラフラ状態の二人……あ、そういえばレティシアは深チュウは初めてだっけ?
だからか、足腰が立たない感じになってる。
サンドラもそうだが、レティシアの方が度合いが強い。

二人とも、真っ赤になりながら息を整えている。
しかも、レティシアは目が虚な感じだ。




ヤバイ……。




み・な・ぎ・っ・て・き・た・っ!!!!




(イケ!最早、俺を止める者は誰も居ない!!)

(やっちまえ!!これで益々、皆がハッピーなんだからよぉ!!)

抗い続けていた筈の、鉄壁の砦が……崩れ落ちてい(待つんだ君たち!)……誰だ!?

って、キバヤ○!?

(落ち着くんだ!誰もこんなことを望んじゃいない!!)

(何を言っている?現に彼女達は望んでくれている)

(それとも、読者が望んでないとか……そんなメタなことを言うつもりじゃねぇだろうなぁ?あぁん!?)

(少なくとも、望んでない者は居ない筈だ。大多数がどうでもいいと思っているだろうが)

(違う……それこそ大いなる意思の罠だったんだ……いいか?確かに彼女達は望んでいるだろう。だが、それは出来ないんだ……何故なら、此処は×××板では無いのだからっ!!!)

(((な、なんだってえぇぇーーーっ!!?)))

(此処でその様な行為に及ぶこと……即ちそれは世界の崩壊を意味する!!そして、それはノストラダムスの預言に記されていたことなんだよっ!!)

(((ななななな、なんだってええぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!!!!???)))

危なかった……危うく世界を滅ぼす所だったのか……。
ありがとう、俺の中のキバ○シ!
お陰で目が覚めたよ……俺の信念は間違いじゃなかったんだ……って。

俺(と、俺の中の天使と悪魔)は、何とか踏み止まることが出来た。

……とか、脳内で思考を繰り広げていたりしたが。

「二人とも、大丈夫か?」

「シオン…さん……私…」

「身体が……ふわふわしま…す……」

あかん……二人ともヘヴン状態や……。
原因が俺の暴走にあるとは言え……。
……仕方ない。

「少しは寂しいのを、紛らわすことが出来たか?」

なんて、余裕の笑みを浮かべながら返す俺……傍から見たら明らかにスカシでニヤケな野郎に見えるだろう。
少し前まで、脳内で大根が走り回っていたとは思えないほどに。
少なくとも、内心では現在進行系でヘヴン状態ですがね!俺は!

「はあ……はあ……はい……私……こんなの…初めてで……」

どうやらレティシアは、それなりに満足したらしい。
まぁ、初体験だしなぁ……。

「シオンさん……身体が疼いてしまって……私……はしたないのは分かってます……でも」

逆に火が着いてしまったのがサンドラ……その仕草は艶が混じって……ヤバイ、せっかく冷静?になったのに……。

「まだ……足りないのか?」

「……は、はい……」

冷静に尋ねはしたが……や、止めてくれ……そんな熱の篭った潤んだ視線を向けないでくれ……。

俺はその視線から逃れる様に……。

「あ……」

サンドラを抱きしめた。

「その疼きが止まるまでこうしていてやる……それじゃあ、駄目か?」

「いえ……もっと強く、抱いて下さい……そうしてくれたら、この疼きも治まりますから……」

ご希望通り、ちょい強めに抱きしめる。
耳元に恍惚とした溜め息が聞こえる……ソレが耳を擽り、マイ・サンが反応しそうに……餅つけ……もとい落ち着け!


結果、サンドラが落ち着くまで抱きしめていた。
微妙に腰を引いていたのは内緒だ。
途中、レティシアが羨ましそうにしていたので、二人とも抱きしめることになったが。


結局、俺が暴走しかかったのが今回の原因なワケで。
自重しないことと、暴走は違うと思うワケで……。

俺もまだまだ修業が足らないな……。

二人とも幸せそうにしていたので、これはこれで良いのかな?
とか、考える俺はヘタレなのだろうか?

その後、集合時間になったので……名残惜しいがその場を後にした。

集合場所の城門前に集まった俺達は、城内に入って休暇の終了と次の休暇先を申請……帰宅したのだった。

帰宅後……。

「?どうしたのシオン?」

「シオンさん?」

リビエラとカレンが声を掛けて来た。

「何でもないよ。……強いて言うなら、迷いが消えた……かな?」

「迷い……ですか?」

「まぁ、ただの独り言だよ。さぁ、夕飯食いに行こうぜ?」

「ちょ、待ってよシオン!」

その後、夕食を食べて就寝……明日に備えるのだった。
俺はもう、迷わない……今後アイツらが望むなら……受け入れよう。

そう、決めたからな。
決めたが……。

「シオン……今日は逃がさないから」

「ごめんなさい……シオンさん。でも私……」

「別に逃げないさ」

「「え?」」

ベッドに横になっていた俺……そこに訪ねて来たのはカレンとリビエラ。
俺は二人を部屋に招き入れ、しな垂れかかって来た二人をベッドに押し倒した。

「え…あの…ふぇ!?」

「あの…シオン……どうしたの…よ……?」

まさか、俺が攻勢に出る(こんなことをする)とは思わなかったのだろう。
二人とも目をパチクリさせながら困惑している。

「何を戸惑っているんだ?……こうして欲しかったんだろう?」

「そりゃあ……そうだけど……ふむぅ!?」

俺はリビエラの唇を貪る。
ぺちゅくちゅ…と、音を立てながらリビエラにディープなチッスをプレゼント。
ピクッピクンッと反応するリビエラが愛おしい……。

「シ、シオンさ…んふぅ!?」

次はカレン……同じくディープなチッスをプレゼント。
リビエラの様に過敏な反応を示すカレン……。
可愛過ぎるな……。

「あ……はぁ……はぁ……」

「キス……気持ちいぃ……」

俺の全力全開のキスを喰らい、腰砕け状態の二人。
俺はその二人の耳元で囁いた……。

『スリープ』

……と。

二人を淡い光を包み込み、次の瞬間には二人の瞳が緩やかに閉じ、二人から穏やかな寝息が聞こえて来た。

『スリープ』

読んで字の如く、相手を眠らせる魔法。
若干の範囲魔法であり、二人を眠らせるには十分。

「……良い夢見ろよ」

寝ている二人にそう告げる。
確かに、受け入れようとは誓ったが……。

「って、しまった……条件反射でつい……」

誤解の無い様に言っておくが、俺は今回……大人の階段を上ろうとした。
しかし、俺は二人を眠らせていた。
どうやら、俺の中では崩れ落ちた筈の鉄壁の砦が、再び再建されていたらしい。
キスまでなら難無く行える様になったが、その先を行おうとすると……条件反射的に抵抗する様になってしまった。

恐らく、血涙流しながら『大陸が平和になってから!!!』と、誓ってひたすらに耐えていた為、『パブロフの犬』よろしく、一線を越えない様に、軽く暗示に掛かった感じなのだと思う。
一線を越えるには、暗示を解くか、『大陸が平和になる』まで待つしかない。

こんな条件反射いらない………いらないんだよ。

orz

「さて……二人を部屋に運ぶか」

流石に寝ている彼女達に何かする様な趣味は、俺には無い。
俺はカレンとリビエラを、それぞれの部屋に運んで寝かせておいた。

そして、俺も自室で就寝したのだった。

翌日、カレンとリビエラが昨日のことを聞いてきたが。

「昨日?夢でも見ていたんじゃないのか?」

とか宣った……二人もうろ覚えらしく、首を傾げながら納得していた。
ゴメンな……この『クセ』を治したら……必ず。
いや、絶対に治すよ?
でないと、原作終了まで何もしない可能性が高いので……俺としてはゲヴェル打倒後くらいを想定していたが……俺の深層意識は、下手したらクソヒゲ打倒をも考慮に入れているのかも知れん。
それならまだ良いが……Ⅱまで考慮に入れていたりしたら……?
流石にそれは……なぁ?
頑張るしかねぇな……ちょっとした体質改善だと思って……。

**********

休暇三日目・保養地ラシェル

さてさて…ラシェルにテレポートで来たワケだが……。
やることは決まっているワケで……。

「さて、お約束になった総合訓練タイムだぜ?」

「お約束なんだ……」

「全員で集まって来るからだろうがよ」

なので、最早お約束というワケで……。

「んじゃ、まずは学習タイムな」

こうしてまずは学習タイム……。
俺の特製魔導書『今日からあなたも大魔導師』『今日からあなたも大英雄』をそれぞれが読む。

「ふむ……感覚が掴めて来たな」

「ああ……なんとかだけどな」

ウォレスとカーマインは、気を自分の物にしていた。
ウォレスは最初からある程度、気を使えていたから分かるが、カーマインは順応が早い。

「むぅ〜……何となくは分かるんだがなぁ……」

思いの外、苦戦していたのがゼノスだ。
どうやら自身に気という物があるのは理解したみたいだが……。

無意識で闘気を纏っていたワケだから、出来る筈なんだがなぁ……。

「気と魔力か……」

アリオストも訓練をしている。
自身に内包する気と魔力を感じ分けた様だ。
フェザリアンとのハーフであるアリオストには、魔力より気の方が馴染むのかも知れない。

「この魔法は……シオンさん、これなんですけど」

「ん?……あぁ、これか」

カレンの質問に答える俺。
カレンが見ていた魔法は『ディスペル』……俺が編み出したアレンジ魔法で、解毒解呪の魔法だ。
以前、サンドラに使ったりした魔法でもある。
それを勉強中らしい。

なので、先ずは魔力量を増やして貰う。
元々、ディスペルは俺用に組んだ魔法なので、魔力消費量が地味にパネェ。
故に効果は抜群だったりするが。

後は魔力の効率的な運用法だな。
それらを学べば、ディスペルも使えるようになる筈。

「リビエラは何を勉強しているんだ?」

「私?私はマジックアロー系を極めてみようかな……って」

俺のアレンジした魔法は数多くあるが……マジックアロー系はその中でも1番種類が多い。

各種属性を伴ったマジックアロー。
純粋な強化版と言うべきマジックガトリング、誘導弾の側面を持つマジックフェアリー……。
ガトリングとフェアリーに各種属性を添付させることも当然可能。

マジックアロー体系を極めるだけで、幅広い戦術が取れる様になるからな……。

「この魔法は……そうか!こうなるんだぁ」

ルイセは独力で読み進め、理解していく。
流石に優秀だな……今はメテオの弱体化版である、『コメット』のページを読んでいる。

『コメット』はメテオを弱体化させた物で、メテオが複数の大型隕石を召喚し、それを敵に喰らわせる物なのに対して、コメットは小型の隕石を一つ召喚し、流星として喰らわせる魔法。

FF5なんかの時魔法のコメット……アレと似た様な物と考えれば間違いない。

ちなみに、メテオの強化版の『アルマゲドン』なんてのも造ったが……こっちは、強力過ぎて使い道が……な。
メテオで十分過ぎる威力だしな……。

「ティピちゃん乱舞!!おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ティピは新必殺技……ティピちゃん乱舞を練習していた。
これはティピが独自に開発した技で、今まで学んできた基礎を組み合わせた連撃らしい。
ぱっと見は龍虎乱○の様である。
アレとは違い、最後の決めは蹴り技だが。

「シオン、少し良いかな?」

「ん?おう……じゃあ皆、それぞれ自習な」

俺はラルフに呼ばれ、皆に自習を告げてからラルフに着いて行った。

*********

「さて、どうしたんだラルフ?」

「いや、シオンに訓練を付けてもらおうかなってね?」

ラシェルの郊外……森を越えた場所にある平原。
そこで俺達は対峙する。

「僕の今持っている全力……それがどれだけの物なのか…試してみたいんだ」

成程……だから剣を持ってきたワケな。

「良いぜ……久しぶりに一丁やるか!」

俺は軽く構える……まだ武器は抜かない。

「それじゃ、始めても?」

「簡易結界は張ったからな……ある程度無茶してもバレねぇよ」

そう聞いた瞬間……ラルフの気が膨れ上がって行く。

「なら……最初から全力で行くよ!はああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ゴアァ!!と空気が舞い上がる……そして、ラルフを覆うのは青白い半透明の炎……気だ。

「これはまた……随分と強くなったな……こうして気を表に出すと良く分かる――」

「僕だってずっとシオンに着いて訓練してたんだ……これくらいはね?」

俺は戦闘力を数値にすることは出来ないが……下手したら、野菜人襲来時の飲茶や天津飯に近いか、それ以上の実力があるんじゃなかろうか?
簡単に言うなら、最大戦闘力1000オーバーってことな?

「行くよ!!」

「くっ!?」

ラルフは一足飛びに踏み込み、初手は正拳。
そこから手刀、ショートアッパー、フック、ローキック、ミドルキック……常人では目で追えないであろうラッシュ。

俺はそれを払い、流し、撃ち落とす。

制空圏である。

「速いな……それに重い。かなり腕を上げたな!」

「ありがとう……けれど、腕を上げた筈なのに、全然追い付いた感じがしないけど……ね!」

そう言って、顎を狙って思い切り殴り上げてきやがった。
俺はそれを身体を反らすことで回避……。

「まだまだぁ!!」

「ぬっ」

そこから更にローキック。
俺はそれをガード。

「さて……反撃開始と行くかぁ!!」

それから数十分……互いに拳と蹴りの応酬である。
俺自身、予想以上にラルフが腕を上げていたので、加減を間違えて危うく一撃貰いそうになった。

そして、ラルフは抜目が無かった。

「マジックガトリング!!」

「喰らうかよ!!ぐっ!?」

距離を取ったラルフは、マジックガトリングを放って来た。
俺は無数に飛び交うマジックガトリングを避け、叩き落としながらラルフに迫っていたが……ラルフはバインドを掛けていた……しかもコレは。

「フルバインド……」

「そう、シオンが編み出した、全身を縛るバインド……『フルバインド』さ」

本来、バインドは下半身のみを縛る魔法で、例えバインドを喰らっても上半身は動く……それを改善し、上半身も縛る様にしたのがフルバインドだ……だが、驚くのはそんなことじゃない。

「お前……ダブルスペルを使える様になったのか」

「おかげさまでね?」

『ダブルスペル』とは、俺が開発したアレンジスキルで、簡単に言えば連続魔法。
正確には、魔法の同時運用。
更に簡単に言えば、某竜の騎士が主人公の漫画で、大魔導師を名乗る、スケベ親父がやっていたことと同じだ。
ベギラマしながらキアリー……みたいなモンだ。

ラルフがやったのは、マジックガトリングを駆使しながら、フルバインドを掛けた……ということ。
このダブルスペルは、魔力量はあまり関係無い。
要は二種類の魔法を自在に操る、魔力コントロールが必要不可欠であるだけだ。

だが、それだけに技術としては半端じゃなく難しい……。
『今日から君も大魔導師』の弩級編に位置する技術で、その習得難度はかなりの物だ。

「油断はしない……これで決める!!」

ラルフは剣を抜き、構えた……オイオイ、マジか?

「はぁ!!」

ラルフが踏み込んで来る……しゃーねぇ。

「舐めるなぁ!!!」

パリィンッ!という音が聞こえたかは知らないが、纏わり付くバインドを力付くで破壊……迎撃の構えを取る。

「飛竜……翼斬!!」

ラルフが放ってきたのは俺の得意技……飛竜翼斬。
だが……。

「それは見切ってるんだよ!!」

自身が使う技だけに、その軌道、特性、威力、全て把握している。

俺は斜め前に滑り込む様に進む……丁度、剣閃にそう様に……。

まだまだ甘いな……。

そう思っていたが、ラルフの方を見て驚愕した……。
技を放った姿勢でいたと思ったら、既に二撃目を放とうとしていたのだから。

「『連撃』だと!?」

「てやああぁぁぁぁぁ!!」

まさか決め技として放って来た飛竜翼斬から、連撃に繋げてくるとは……。
その刃が俺を捕らえようとしたので、俺は思わず……。

ドゴォォォォン!!!

「がはあぁぁぁぁ!!?」

「あ、やべ………」

ラルフの身体能力に合わせる……という縛りを忘れて蹴飛ばしてしまった。
それでも加減したから無事だとは思うが……。

「おーいラルフ!!無事か!?」

「あいたたた……ゲホッ、ゲホッ!!随分と……強烈な一撃をくれたなぁ……」

フラフラになりながらも、何とか立ち上がるラルフ。
良かった……無事かぁ……。

「すまん、あんまりに良い攻撃だったモンでつい……」

「ははは……結局まだまだ届かないみたいだけどね……今回も武器や魔法を使わせられなかったし……いつかシオンに参ったって言わせたいなぁ……」

いや、ラルフ……お前が目指してるのは商人だよね?
コレ以上は必要無いんじゃあ……。

ラルフにヒーリングを掛けながら、そんなことを考える俺であった。

**********

その後、皆の訓練に合流して、俺達も修練に励むのだった。

帰り際、カーマインが思い出した様に保養所に入院していた女の子が、元気になって退院したことを告げた。

どうやら俺を探していたらしいことも……。
そういうことはもう少し早くに言って欲しかったぜ?

近い内に訪ねなきゃな……。

こうして、俺達はローランディアへと帰還したのだった……。

***********

あとがき的なモノ。

皆さん、あけましておめでとうございます(遅っ

年末から仕事だらけで、中々更新出来ませんでした。
f^_^;

今年も宜しくお願いします。

m(__)m





[7317] 第108話―サンドラの師と触れた真実―カーマインSide―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:1e293af2
Date: 2011/12/17 03:28


「王位奪還の手助け……ですか?」

「そうだ。現在、総力を上げて進軍中らしいが、相手もさるモノ……攻めあぐねているらしい」

休暇を終えた俺達は、謁見の間にてアルカディウス王から新たな任務を言付かっていた。
いわく、エリオット達の手助けをしてくれと。
ローランディアからも、援軍を送ってはいる。

ダグラス卿と父上の連合軍にはベルナード将軍指揮下の部隊が……ジュリアの軍にはブロンソン将軍の部隊……更には、ランザックからはウェーバー将軍率いる部隊が応援に向かったとか……。

ハッキリ言おう。
原作以上の大軍勢だ。
バーンシュタインの兵力は、確かに強大だが……この面子で攻めあぐねる……?
ローランディアにしろ、ランザックにしろ……あくまで一部部隊の増援なので、押し切るとは言えないが、少なくとも優勢に事が運べている筈なんだが……。

「これだけの軍勢を相手に、拮抗しているとは……」

「うむ、何かあるのやも知れぬ。お前達には、それを調べて貰いたい。そして、問題があったなら、それを解決して来て欲しい」

「はっ、かしこまりました」

ウォレスが疑問に思うのも無理は無いな……。
俺も、ジュリアの定期報告を聞いていなければ、疑問に思っていたかも知れんし。

王から言い渡された任務を、カーマインが締め括る形で引き受けた。

ちなみに、エリオットは原作より早めに行動に移っているため、城内襲撃イベントは起きなかった。


「さて……どうする?」

謁見の間を退出した俺達は、今後の行動について話し合う。
カーマインが皆を見回して問う。

「ジュリアンさんと、エリオット君……ジュリアンさんのお父さんと、先生のお父さん。どっちから応援に行けばいいんだろう?」

「王様の話だと、どっちも攻めあぐねているって言ってたよね?」

「となると……両方とも妨害を受けているんだろうな。恐らく……」

「シャドー・ナイトか……チッ、胸糞悪い!」

上から、ルイセ、ティピ、ウォレス、ゼノスだ。
確かに、シャドー・ナイトの妨害もあるかも知れない……あのモンスター使いが、あれくらいで懲りるとは思えないし。

他にも、グレンガルの野郎……あの金の亡者が、妨害しないワケが無い。
所謂、死の商人であるが故に……。

それとゲヴェル……奴も仮面の騎士を使って妨害していても、おかしくはない。
原作でも、色々暗躍していたしな……。

そして、未だに正体が見えない連中……青髪の双剣士と……ラルフの夢に出て来た男。
前者は、その正体について朧げだが見当は付いている。
だが、後者……ラルフの夢に出て来た男については、その存在も目的も理解出来ないが。

一つだけ分かるのは、この二人は俺と同じ……転生した者かも知れないということ。
これは、その言動の内容を伝え聞いた上での判断だから、状況証拠であって、絶対的な証拠にはなり得ないのだが。

「これは、毎度お約束のパターンだが……パーティーを二つに分けるのが得策じゃね?」

「そうだね……僕もシオンの意見に賛成するよ」

俺の出した意見に、ラルフが賛成してくれる。
他のメンバーも、特に文句は無い様だ。
せっかく人数が居るんだから、それを上手く活用しないとな?

「とりあえず、シオン君とルイセ君は別々で。何かあった時、テレポートが使えるからね」

アリオストが言う。
文字通り、テレポート要員ですね分かります。

で、厳正な話し合いの結果……このようになりました。

・カーマインチーム

カーマイン、ティピ、ルイセ、ウォレス、ラルフ、リビエラ

・俺チーム

俺、ゼノス、カレン、アリオスト

うん、存外バランスが取れていると思う。
人数的にはこちらの方が少ないが、戦力的に。
まぁ、俺の存在が明らかなバランスブレイカーになっているのは、ご愛嬌ってことで。

ちなみに、このチーム分けに異議を申し立てた者が一人居たが、丁寧にお話して納得させました。
まぁ……以前もカーマインチームだったからな……リビエラ。

「じゃあ、俺達がジュリアンの方に向かい……」

「…俺たちがシオンの父親である、ウォルフマイヤー卿の方に向かえば良いんだな?」

カーマイン達に、父上達の方へ向かってもらい、俺達がジュリアの方へ向かうことが決まった。
最初は逆で、俺達が父上達の方に向かう予定だった。
何しろ、アンジェラ様やダグラス卿を説得した際に居た面子が、俺、ラルフ、カレン……そしてエリオットだったのだから。
他にも、父上や母上が居るし……な。

だが、俺は考えた。

もしかしたら、ジュリアに送られた援軍は到着していないんじゃないか……と。

原作においても、ブロンソン将軍はグレンガルの手勢に足止めをされていた……。
その可能性を考えたら、カーマイン達より、俺達の方が適任だったりする。

俺はバーンシュタイン国民だし、ジュリアの部隊の連中とは顔見知りだ。
カーマイン達はベルナード将軍経由で、父上達に会えるだろう。
今、確実に援軍として機能しているのは、ベルナード将軍とその部隊だろうから。
シュッツベルグの手前に関所があるが……既にベルナード将軍の部隊が通っている筈だから、そんなに手間を掛けずに通れる筈だ。

いや、援軍だと言えば……結局はどちらでも面通りは叶うとは思うが……念には念を入れて、な。
物事を楽観視するのは、あまりよろしくないし。

「多分、父上達は北の町、シュッツベルグより先に布陣している筈だから、オリビエ湖辺りから行くと良いかもな」

「分かった。それじゃあルイセ……頼む」

「うん!それじゃあ、テレポートするよ!」

こうして、再びパーティーを二つに分けた俺達……。
カーマイン達はテレポートを使い、オリビエ湖へ。
そこから経由して、シュッツベルグ……そして父上達の陣へ。
というのが理想的だろう。

我がアジトを経由してから、シュッツベルグ入り……も、考えたが。
実はオリビエ湖を経由するより、若干だが距離があったりするので却下にした。

……原作だと、途中でゼノスによるイン○ィ・ジョー○ズ攻撃を喰らうイベントがあるが……。

「ん?なんだよ?」

「いや、何でもねぇよ」

ゼノスは首を傾げている。
まぁ、ゼノスは現在進行系で仲間だし……問題は無いだろう。
あっちにはラルフも居るし……な。
って、コレも楽観視か。

「それじゃあ……僕たちも行こうか」

「よし、じゃあ瞬転を使ってパパッと行くか!」

瞬転なら、ジュリア達の目の前に現れることも可能!
まぁ、大根が走り回る可能性大なんでやらないが。
比較的近場に転移しておくさ。

「じゃあ行くぜ……瞬転」

こうして、俺達も目的地……ジュリア軍の陣地へ向かうのだった。

**********



「……はい、到着!」

ルイセの言う様に、オリビエ湖に到着した。
……あまり良い思い出のある場所では無いが。

「シュッツベルグは此処から東にある……とにかく、今は東に向かうべきだね」

「そうだな……」

ラルフの言葉に頷いた俺たちは、オリビエ湖から街道に出て、東へ向かい歩き出した。

道中、モンスターが襲い掛かって来たが、比較的簡単に撃退出来た。
さりげなく、実力が上がっているのを実感したな……。

途中、関所があったが……俺たちがローランディアからの援軍だと言うと、意外とすんなり通してくれた。
やはり、ベルナード将軍の部隊は既に合流しているらしく、関所に居た兵士達はジュリアンの父…ダグラス卿の部下であるそうな。
この先にある町、シュッツベルグはダグラス卿の領地らしいからな。

「思いの外、すんなりと通れましたね」

「ローランディアの部隊が、援軍として向かっていたのが大きいんだろうな……それに、早い段階でダグラス卿を説得出来たのもな。でなければ、今頃は門前払いだ」

ラルフとウォレスが言う様に、様々な要因が絡まった結果なのだろう。

そんなことを話しながら進んで行くと、坂道に差し掛かった。
周囲には深い森と崖がある……まぁ、山道と言っても良いな。
そこに……。

ゴロゴロゴロゴロ………ッ!

「何だ、この音は?」

「何かが転がってくるような……」

ルイセが言う様に、何かが転がって来る様な音だ……此処は坂道。
転がって来るとしたら上からだ。
……嫌な予感しかしないんだが。

「転がる……って、アレ!!」

ティピが指し示す先には……街道の道幅を超える巨大な大岩が……って!?

「何ぃっ!?」

「どうするのよ!こんなところに隠れる場所なんて……」

リビエラが言うが……確かにその通りだ。
右は崖……左は森だが、木々が密集し過ぎて、咄嗟に飛び込むには……って、考えてる時間は無……。

「くっ……間に合わないか……!?」

「もうダメーーっ!!」

ラルフの気が高まる……何かしようとしたらしいが……ルイセの悲鳴が示す様に、大岩は目前に迫っていた。

俺達は、このまま死ぬのか……?




いや……死ぬものか……。




死なせる……ものかあぁっ!!


俺がそう強く念じた瞬間、大岩が俺達にぶつか―――

ドガァァァ!!!――ガラガラ……………ズシーーーンッ!!

――る前に、何かに弾かれ崖の下へと落ちて行った。

「……何が起こったんだ?」

「……今、何かに岩が弾かれて……」

「…こ…怖かった……」

ウォレスは目が見えないから、何が起きたか分からなかったが……。
ティピが説明している……ルイセは本当に怖かったらしい。
腰を抜かしてしまっていた。

俺も生きた心地がしなかったからな……。

「そういえばラルフ……貴方は何をしようとしていたの?」

「いや、あの岩を斬るか砕くかしようと思ったんですけど……斬った場合、砕いた場合、流れ弾がみんなに当たる可能性があったから……受け止めるなり、崖に蹴落とすなりも考えたんですけど……その考えに至った時にはもう、そこまで気を高める時間が無かったので」

……つまり何か?
気を高めることが出来たら、あの大岩をどうにか出来た……と?

「今回は運が良かったけど……考え過ぎて逆に皆を危険に曝してしまった……ゴメン」

「いや、まさかお前にそんなことが出来るとは思わなかったし……な」

実力に開きがあるのは理解していたが……そこまでなんてな。
まだまだだな……俺も。

……まぁ、運が良かったと片付けるには、不可思議な現象だったんだが。
このまま突っ立っているワケにもいかないよな。

俺たちはとりあえず先に進む……道中、不可思議な現象について話し合いながら。

「悪運の強い連中だな」

「誰だ!?」

俺たちが坂を登り切った先には……あの仮面の騎士たちが待ち受けていた。

「!?お前達は……」

「お前たちを此処から先に行かせるワケにはいかんな」

「そのグローシアンの娘共々、此処で始末してやる!」

ラルフが驚愕の表情を浮かべている……奴らの狙いはルイセか!?
もしや、あの大岩もこいつらが……!?

「どうしてルイセを狙う!?」

「邪魔なんだよ……」

「何……!?」

「我々の計画には、グローシアンは邪魔なのだ。特に、その娘とあの男が持つグローシュは強過ぎる!」

あの男………シオンのことか?

奴らの周りには、ユングと呼ばれた怪物が多数……。

「やるしか……ないみたいだね」

「ああ……奴らを蹴散らす!ルイセをやらせるワケにはいかない!」

ラルフは言いながら愛剣であるレーヴァテインを抜き放つ……俺も決意と共に妖魔刀を抜き放った。

「行くぞ……みんな!」

「ああ!」

「うん!」

「よし!行こうか」

「任せて!」

上から俺、ウォレス、ルイセ、ラルフ、リビエラだ。
みんながそれぞれの得物を構えた。

「よぉし……いっけぇぇーーっ!!」

ティピの号令と共に、俺たちは駆け出す。
正確には、俺とウォレスとラルフだが……。

「行くよ、カーマイン!」

「ああ!」

俺とラルフはユングの群れに躍りかかった。

「でぇぇいっ!!」

『グギャッ!?』

ラルフの一太刀が数体のユングを、まとめて真っ二つに切り裂く……切り裂かれたユングは、レーヴァテインの炎により焼き尽くされた。

『グギャギャ!!』

突然、地面が隆起して襲い掛かって来た……が、俺はそれを見切ってバックステップ。
ソレを避ける。

「そんな見え透いた攻撃……喰らってやるかよ!」

俺は瞬時に間合いを詰め、攻撃してきたであろうユングを切り捨てる。
そして、振り向きざまに、近場に居た奴を。

『ギャッ!?』

切り裂いた。

「行くわよ、ルイセちゃん!」

「はい、リビエラさん!」

「「マジックガトリングッ!!」」

空から無数に、流星の様に降り注ぐ魔法の矢が、ユングたちを蹂躙していく。
全く……頼もしい後衛だぜ。

「二人とも、跳べ!!」

その声を聞き、その場から跳躍する俺とラルフ。

「ぬおりゃああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

俺たちの眼下をエネルギーの奔流が走る。
ウォレスのオーラバスター(シオン命名、だがシオンは豪殺気合い拳と呼んでいる)だ。

エネルギーの渦に飲まれるユングたち……エネルギーの奔流が止まり、俺たちが着地した時には、ユングは片手で数える程度までに減っていた。

「ば、馬鹿な……人間に此処までの力が……」

仮面騎士たちが驚愕している……。
まぁ、分からなくは無い。

さして時間を掛けずに、殆どの戦力を潰されたのだから。

ニヤッ……。

!?コイツ……今……笑ったのか?

「!?しまった!ルイセちゃん!!」

ラルフが咄嗟に振り返る……そこにはルイセたちの背後から忍び寄るもう一人の仮面騎士が……!?

「ふん!!」

ガキイィィィン!!!

「くっ……」

俺は目の前の仮面騎士の剣を防ぐ……こ、コイツら……強い!?

「邪魔はさせんぞ……お前には俺の相手をしてもらおうか?」

「くそっ……邪魔をするなぁ!!」

見ると、ラルフも仮面騎士に邪魔をされ、ルイセの救援が出来ない様だ。
ラルフが相手をしている仮面騎士も、どうやら今までの仮面騎士より手強いみたいだ……。

今、手が空いているのはウォレスとリビエラだ……だが、ウォレスが救援に向かうには距離がありすぎる……!!

「気付かれたか……だが、そのザマではどうすることも出来まい……」

「ば、馬鹿にしないでっ!わたしだって、やれるんだからっ!!」

ルイセがカードの魔力を使い、仮面騎士に攻撃を加える……光の柱が仮面騎士を襲った。
しかし、仮面騎士はそれを紙一重でかわしやがった……。
そして一気に間合いを詰め……。

「あ……」

「死ねぇ!!」

「やらせないっ!」

その凶刃を防いだのはリビエラだった……。
リビエラは自身が使う杖で、仮面騎士の剣を防いでいた。

「ルイセちゃん……今のうちに……」

「舐めるなぁ!!!」

「うあぁ!!?」

仮面騎士は、リビエラを思い切り蹴り飛ばした。
木に激突したリビエラは、一瞬だけ息が詰まったかの様になったが……同時に不敵な笑みを浮かべた。

何故なら……。

「これが……わたしの力よ!ソウル……フォースっ!!」

「しま……ぐああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」

ルイセの唱えた呪文が炸裂したからだ。

『ソウルフォース』

高度に練り上げた魔力を物質化し、目標を破壊する攻撃魔法。
三本の光の槍が敵を貫き、合わさった魔力エネルギーが爆発し、相手を飲み込む。
その威力は、既存の魔法の中では最強の破壊力を持つ。
……シオンの編み出した魔法の中には、これより破壊力のある魔法もあるらしいが……。

ちなみに、ラルフもソウルフォースは使えたりする……俺はまだ使えないが。

「やったか……?」

ウォレスが呟く……そして爆炎の中から現れたのは、ズタボロになった仮面騎士だった。

「お、おのれぇ……まだ……まだだぁ!!せめて……貴様だけは道連れにぃ!」

奴は、最後の力を振り絞ってルイセに襲い掛かりやがった!

だが……。

ドドドドッ!!!

「ぐあ……あぁ……」

その仮面騎士は、魔力の矢をその身に受け……力尽きた。
そして、また以前の様に溶けて消えた……。

「マジック……アロー……?」

リビエラが腹を押さえながら立ち上がり……口にした言葉。

そう、マジックアローだ。
だが……一体誰が?
リビエラはあの状態だし、ルイセはソウルフォースを唱えたばかりだった……俺やラルフは、今は手が離せない。
ウォレスは呪文が使えない……。

「どうやら間に合ったようだな……」

現れたのは、白い外套を羽織った老人だった。

「て、敵!?」

「早とちりするでない」

「えっ……」

ティピは新手と思った様だが、どうやら違うらしい。

「お前程のグローシュを持つ者を殺させるワケにはいかないからな……及ばずながら、手助けさせて貰うぞ」

どうやら敵では無いらしい……もっとも、味方とも言い切れ無いが……。

「今は……コイツらを片付ける……!!」

「くっ、調子に乗るなぁ!!!」

その後、勝負は意外に早く着いた。
残ったユングを、ウォレス、ルイセ、回復したリビエラ、そして謎の老人で蹴散らし……ラルフはラルフで、仮面騎士に打ち勝ち…切り捨てた。
そして……。

「はぁっ!!」

ザシュッ!!

「ぐ……あ……」

俺の方も決着が着いた。
他の仮面騎士の様に、即死では無いが……致命傷ではある筈なので、コイツも直ぐに……。

そこに、みんなが集まってくる。
そしてウォレスが仮面騎士の前に立ち……。

「……2年前、俺の目と腕を奪ったのはお前か?」

「……俺であり、俺でない誰かだ……それを聞いてどうする……?」

ウォレスの質問に、随分と抽象的な問いを返す仮面騎士。

「……無くなっちまった利き腕の仇だ。その仮面の下の面をあばいてやるぜ」

意味の無いことなのは、ウォレスも理解しているのだろう……。
だが、それでも――何かをせずにはいられなかったのだろうな。

「俺には見れないが……みんな、俺の代わりにしっかり見てやってくれよ!」

そう言ってウォレスは仮面騎士の仮面を剥いだ………そこには……。

「えぇっ!?」

「……そ…そんな……」

ティピとルイセが愕然としているが……それも当然だ。
何しろ…その顔は……。

「……………」

不敵な笑みを浮かべるその顔は………。

「……こ…これで、満……足……し……か………」

最後の力を振り絞って、そう言葉にしたソイツは、他の仮面騎士たち同様……その身体を溶かしてしまった……。

「奴はどんな顔だったんだ?」

仇の顔を尋ねるウォレス……それに、ルイセが答えた。

「……お兄ちゃんたちに……そっくり……」

「なっ!?」

そう、あの夢――ウォレスが目と腕を失う夢――で見た様に……似ていたのだ。
俺やラルフに……。

いや、似ていたなんてモノじゃない……。
生き写しの様だ……まるで、俺たちみたいに……。

「一体、どういうことなの……?」

「わ、わかんないよぉ……」

リビエラの独り言に答える様にティピが言う……。

「……そう……なのか……」

ラルフが呆然とした様子で、何かを呟いていた。
……俺も、似た様な気分だがな……。
仮面の騎士……これは偶然なのか……?
それとも……。

「終わったな……」

そう言って、老人がこちらにやってくる。
……この老人、隙が無い。

「あの……あなたは……?」

「こんな所で立ち話をするのも些か、気が引けよう……詳しい話も出来ぬしな。この先の街、シュッツベルグに宿をとってある……話はそこでするとしよう。ついてこい」

ルイセの問いに、そう返した老人。
その足で先に進んで行ってしまった。

「……どうする?」

「罠……とも考えられなくはないが……」

「……此処で議論していても仕方ないですよ」

「ラルフさん?」

俺の問いに、ウォレスが答える。
罠……確かにその可能性が高いが……。
ラルフの意見は微妙に違うらしい。

「どちらにせよ、シュッツベルグを通るわけだし……もしシャドー・ナイツの謀だとしたら、僕達を助けるのは有り得ないことなんです。僕達は邪魔者なんだから……それも僕達の油断を誘うため……と言われたら反論出来ませんが」

「あのお爺さんがシャドー・ナイトじゃない……って言うのは確かよ。少なくとも、私が居た頃には見掛けたことの無い顔ね……只者じゃないのは間違いないでしょうけど」

ラルフとリビエラの意見は、至極真っ当な物だ。
だが、絶対的な意見かと言うとそうでも無い。
ラルフの意見は本人の言う様に、油断させる為かも知れないし、リビエラの意見は、リビエラが居た時に居なかっただけで、新しくシャドー・ナイツに入団した奴かも知れない……。

「お兄ちゃん……どうするの……?」

「……行く。此処まで来たら引き下がれないし。『毒を食らわば皿まで』とも言うし……な」

ルイセの問いに答える俺……もし、罠なら真っ向から打ち砕けば良い。
これは一種の賭けだ……。

方針の決まった俺達は、老人を追って先に進む……そして遂に到着した、シュッツベルグ。

宿の前にはあの老人の姿が……。

「来たな……こっちだ」

町並みに対する感慨に耽る暇も無く、老人に続く俺達。
そのまま宿屋の一室に通された。

「さて、ここなら話を聞かれることもない」

「あの…あなたは……」

「私の名はヴェンツェル。元バーンシュタイン王国宮廷魔術師だ」

ルイセの問いに答えた人物の正体は、意外な人物だった。

「ヴェンツェルって……確かマスターの先生の……」

「いかにも。サンドラは優秀な生徒であった」

やはりか……だが。

「何故、俺たちのことを……?」

「私は本来、ランザックにかくまって貰っていたのだが……エリオットが行動を起こしたと聞いてな……及ばずながら、力を貸そうと色々と根回しをしていたのだ……その過程で君たちの存在を知ったのでな」

ランザックに……?
どうやら、色々と裏があるらしいな……。

「あんたは色々知っていそうだな……教えてくれないか?エリオットとリシャール王が瓜二つって事の理由……バーンシュタインに起きた一連の出来事をな」

「よかろう……そうだな、この際サンドラにも聞いていて貰おう。証人は一人でも多いほうが良い。ホムンクルスのお前ならば、出来るだろう?」

「えっ、あ、はい!」

ウォレスの言葉に頷くヴェンツェル。
ティピはヴェンツェルに言われて、母さんとテレパシーを繋げるみたいだな……。

『マスター!マスター!今、ヴェンツェルさんと話してるんだけど……そう、そのヴェンツェルさん!うん、こっちで起こったことを、一緒に見てて欲しいんです!』

どうやら念話で話してる様だ……しばらく間を置いて。

「はい、用意はいいそうです」

母さんの方も準備は調ったらしい。

「久しぶりだな、サンドラ。こちらからは君の事は見えぬが、相変わらず美しいのだろうな」

「あ、マスターが照れてる☆」

……どうやら、恩師にそんなことを言われ、照れたらしい。
母さんも純な所があるんだな……まぁ、シオンとのやり取りを見ていると、嫌でも理解してしまうが。

「さて、前置きはこれくらいにして、本題に入ろう。今から話すことは、私が知る限りの真実だ……それを念頭に入れておいて欲しい」

そう念を押してから、ヴェンツェル……長いので、爺さんと呼称しよう。
爺さんは俺たちを見回して、尋ねてきた。

「まず、お前たちがゲヴェルについてどこまで知っているか、だが……」

「あの化け物の?」

「そうだ」

ゲヴェルについては、ある程度なら俺たちも知っている。
だが、それとエリオットにどんな繋がりがあると言うんだ……?

「それとエリオット君とが、どうつながるんですか?」

ルイセも全く同じ疑問を抱いたらしい。

「どう繋がるか、だと?繋がるも何も、すべては奴のせいなのだぞ?」

「何だって!?」

「はるか昔、グローシアンは人々を支配するためにゲヴェルを生み出した。そして人間を救おうとするグローシアンが、魔法を駆使し、ゲヴェルを水晶鉱山に封じた」

「それは知ってます。そのゲヴェルが18年前に水晶から現れたって事も」

これに関しては、ウォレスが正に生き証人だし……な。

「うむ。すべてはあの時から始まった。いま起こっている戦争でさえ、ゲヴェルが人々を支配するために起こしたものだ」

「どうしてそんなことを企むのかしら?だって、ゲヴェルを操るグローシアンはもういないんでしょ?」

ティピの疑問も分かる。
縛る存在がいないのなら、そんなことを企まないで大人しくしてれば良いのに……とでも思っているんだろう。

「ゲヴェルとは人々を支配するためだけに生み出された存在。主であるグローシアンがいなくなっても、その命令だけで動いている。まず奴は、過去に自分が敗れ去った原因である、魔法を得ようと考えた。魔法を克服しなければ、また以前の二の舞になる。だがどうやっても魔法を得られぬと知ると、別の方法を考えたのだ」

「別の方法?」

「そう…『自分が使えぬなら、魔法を使える者を部下にすればいい』とな。その時に裏から人間社会を支配することを思いついた」

爺さんの話からすると、ゲヴェルはそれなりに知恵が回るらしい。
……益々厄介な奴だな。

「まず、奴は自分の驚異的な増殖能力を使い、生まれたばかりのリシャール王子の複製を作り、すり替えた」

「ちょっと待った!そのすり替えられた王子ってのは……」

「その通りだ……エリオットこそが本物のリシャール王なのだ」

そんな事実があったとはな……確かに、俺たちはエリオットを正当な王位継承者だとは思っていたが……リシャール王が造られた存在だったとは……。

「しかし、何でアンタはそんなに詳しいんだ?幾らバーンシュタインの宮廷魔術師とは言え……ゲヴェルの内情をそこまで知っているなんて、普通有り得ないだろ?」

俺はそんな疑問をぶつけた……疑惑と言っても良い。
この爺さんは俺たちを嵌めようとしているんじゃないか……?
そんな疑惑を……。

「………出来れば言いたくはなかったが………」

少し言いにくそうに(見た目には表情に変化は無いが)口を開いた爺さんは……衝撃の事実を話す。

「王子の細胞を手に入れ、そして偽の王子とすり替えたのが、この私自身だからだ」

「えぇっ!?」

爺さんから話を聞いたルイセは驚愕する……いや、ルイセに限らず……だが。

「あの頃の私はゲヴェルに従うしかなかった。なにしろ奴は驚異的な力を持っている。いつでも私を殺すことが出来たのだ」

「俺のいた傭兵団を壊滅させたくらいの力だからな……」

どうやら、半ば脅迫じみた事があり、やむを得ず従ったらしい。
ウォレスも納得している様だ。

「ゲヴェル自身が魔法を得るための研究。すり替わった王子が政権を得るまでの面倒をみること。来るべきゲヴェルの支配のための地盤固めをする手駒として、私は20年近くも働かされた……他の手駒と違って、宮廷魔術師という身である私は、かなり使い勝手が良かっただろうな。よほどのことがない限り殺すつもりはなかった……だが、そこに私の付け入る隙があった。奴の行動に目を光らせ、監視するには、手下のふりをするのが一番だったからな」

言ってることは道理だが……随分、大胆な行動だな。
東方の『諺』という奴では……『灯台もと暮らし』とか言うんだよな……確か。

「だからこそ、始末されそうになった本物の赤子をこっそりと助け出し、育てることが出来た」

「それでは、エリオット君が無事に育ったのは、ヴェンツェルさんのおかげだと……」

ラルフの言う様に、エリオットの命の恩人とも言うべき人物なのだろう……この爺さんは。
エリオットがこの場に居たら、感謝してもしたりないくらいに、感謝するかもな……。

「正直に言えば、私はゲヴェルの計画を潰す切り札を得るために彼を利用しようとしたのだ。結果としてエリオットの命を救ったことになるだけに過ぎん」

「なんか、素直じゃない感じね〜」

「……話を進めよう」

うお!この爺さん……ティピの茶化しをスルーした!?
……出来るな。

「先日の戴冠式で、ついにゲヴェルの操り人形が王位についた。役目を終えた私が奴らに始末されるのは、火を見るより明らかだ。そこで私は、魔法技術の確立されていなかったランザック王国に、魔法を教えることを条件にかくまってもらうことにしたのだ」

「それで突然いなくなったんだね」

母さんいわく、行方をくらましていた理由もこれで説明がついた訳だな。

「あの……さっき、ゲヴェルがエリオット君の複製を作ったって言われましたけど、どうすれば、そんなことが出来るんですか……」

「我々の体を構成するものすべてには、その者の情報が詰まっているのだよ。例え髪の毛一本でもな」

「髪の毛一本!?」

ルイセの質問に答えた爺さん……その答えを聞いて、ティピが驚いている。

「子供が親に似るのは、両親の情報を半分ずつ受け継ぐからだ。だが一人の情報をそのまま受け継げば、全く同じ人間が生まれる。簡単な例をあげれば、一卵性の双子だ。一つの卵が二つに分かれ、母親の体の中で同じ情報を受け継いだ存在が2体出来たのが、一卵性の双子だ」

「成る程……だからまったくそっくりなのね」

リビエラが納得した様に頷く。
まぁ、俺も納得ではあるがな。

「つまり、俺とラルフが正にその見本ってワケか……」

「そのことですが……一つ、お尋ねしたいことがあります」

ラルフは爺さんに問い掛ける……その顔は強い決意が込められている。

「なにかな?」

「僕達には、本当の両親は居ません……僕もカーマインも、それぞれ違う家に引き取られ、育って来ました……そんな時、風の噂で聞いたんです……僕には双子の弟が居ると……そして、巡り巡ってカーマインと出会えました。僕らは双子の兄弟だと、信じて疑いませんでした……」

……ラルフ、お前……何を……。

「君は何が言いたいのかね?」

「――単刀直入に伺います。僕かカーマイン……或いは二人とも、ゲヴェルに生み出された可能性は………ありますか?」

!!?

「な、なにをいってるのよラルフさん!?」

「そうだよ!!そんなことあるはずないじゃない!!」

「もしかして、さっきの仮面の騎士の顔のことを気にしてるの?だったら……」

「ティピちゃん、ルイセちゃん、リビエラさん……いや、皆も思った筈だ。偶然にしては出来過ぎているって……」

それは……俺も思った……。

「それに、僕はまだ皆に言ってないことがある……ウォレスさんが仮面の騎士に襲われた夢を見た時……ウォレスさんが滝壺に落ちた後……その続きがあるんです」

!ラルフ……まさかアレを……。

「仮面の騎士が仮面を脱いで、落ちたウォレスさんを嘲笑っていたんです……その顔も僕らに瓜二つだったんです」

「何だって!?」

ウォレスが驚いている……当然か。
もう、隠していても仕方ない……か。

「俺もその夢を見た……確かにあの顔は……同じだった。俺たちと……」

「……そんな……」

俺もラルフと同様のことを告白した。
皆も、少なからずショックを受けている。

「……確かに、ゲヴェルは自分の身体から、自分の複製を作り出すことが出来る。この能力を利用してエリオットと全く同じ情報を持った赤子を作り出した……そして、とある人物から得た細胞から、自分を守らせる私兵を作り出したらしいが……」

「それが、あの仮面の騎士……」

「だが、私にもその人物が何者なのかは分からんのだよ。私自身、奴らの素顔を見たのは今回が初めてなのでな。だから、君達の問いには答えてやれん……君の言う様に、二人ともそうかも知れんし、違うかも知れん……奴らは君達の細胞から造られたのかも知れんしな……それに、君達がゲヴェルの人形だとしたら、奴の不利益になるようなことをしているのはおかしい……今の君達の行動は、明らかにゲヴェルにとっては不都合なのだからな」

「そう……ですか」

ラルフは納得のいかない表情をしていた……が、一瞬……何かを決意した様な顔をした気がしたが……気のせいか?




…………………。




周囲に変な空気が漂う……やむを得ないのかも知れないが。

「話は変わるけど、ヴェンツェルさんの話からすると、今のリシャール王って偽物とは言っても、本物と違いがないってことにならない?」

その空気を変えようとしてくれたのが、リビエラだ。

「半分は当たりだ」

「それじゃ、ハズレの半分は?」

その流れに、爺さんとティピも乗ってくれたみたいだ……爺さんはポーカーフェイスだが。

「ゲヴェルが自分の意のままになる人形を作る時に、何の細工もしないと思うか?例えばリシャールは、たったの14歳でありながら、他のインペリアル・ナイトを凌ぐ実力を持ち、ナイツ・マスターとなった」

「あ、なるほど」

「だんだん読めてきたぜ。エリオットの複製を利用して、自分にとって都合の良いように行動させる。ひょっとして、ティピとサンドラ様の関係同様、テレパシーで繋がってんじゃねぇか?」

ティピは納得の意を示す。
そして、ウォレスもゲヴェルとリシャールのカラクリを指摘する。

「まさにその通り。それ故、奴が表舞台に出ることなく、自分の手駒を動かすことが出来るのだ」

爺さんが、俺とラルフに関して、ハッキリ言えないのはその辺にあるのだろう。
もし、俺とラルフが仮面騎士と同じ存在だとしたら、ゲヴェルの命令を受けて動かされている筈…………命令?


あの時の声……初めて王都の外に出た時の……あの夜…………。


まさか、な……。


……仮にそうだとしても、俺のすべきことは変わらない。
ゲヴェルなんかの好きにはさせやしないさ……。

***********

その後、爺さんは語る……エリオットがリシャール王と対面した際に、自分がエリオットの腕輪と、リシャールの腕輪を外して見せると……。
腕輪の降りは、シオンから聞いていたので知っていたからな……。
本物の腕輪には、時の宮廷魔術師3人の署名が彫り込まれていることも。
爺さんが言うには、今現在……あの腕輪を外せるのは自分だけらしい。

「話が長くなったな。エリオットの出生を証明する時には必ず駆け付けよう。私はそれまでにやらなければならないことがあるのでな……これで失礼させてもらう。宿はとってあるから、良ければ泊まって行くと良い」

「やらなければならないこと?」

「最初に言ったが……幾らか根回しも必要なのでな……もっとも、君達が優秀なので、私のやることは殆ど残ってはいないがね……そういうことだ、サンドラ。彼らを導いてやってくれ」

「………うん。マスターが承知しましたって」

ティピの言葉を聞き、静かに頷いた爺さんはその場を去ろうと……。

「あ、待ってください。あと一つだけ、聞きたいことがあるんです」

「?何だ?」

ルイセがそれを呼び止めた……聞きたいことがあるらしいが。

「さっき、仮面の騎士がわたしを襲った時、助けてくれましたよね?どうしてあの時、助けに来てくれたんですか?」

「ゲヴェルは自分の創造主であるグローシアンの前では能力を失う。バーンシュタイン内で起こったグローシアン殺害事件は、自分の弱点を無くすため、ゲヴェルが命じていたものだ。魔法学院のマクスウェルが自分の研究のためにグローシアンをさらったのは、ゲヴェルによるグローシアン殺害事件を利用したに過ぎん。ゲヴェルはユングという自分の複製の他にも、シャドー・ナイツまで利用してバーンシュタイン王国内のグローシアンをすべて抹殺させようとした……もっとも、その企みもシオン・ウォルフマイヤーによって、未然に防がれていたみたいだがな?」

「まぁ……ね。全員が全員と言うワケにはいかなかったけど……それにしても、やけに詳しいわね?私たちはかなり秘密裏に動いていた筈だけど?」

リビエラは、訝しげに爺さんを見遣る。
爺さんは爺さんで、リビエラの方を見ながら言っていたことから考えて、ある程度は『知っていた』のだろう。
全く、底知れない爺さんだぜ……。

「蛇の道は蛇……ということだよ」

「にしては、随分シャドー・ナイツに関しても詳しいみたいじゃない?」

「詳しくて当然だ。シャドー・ナイツは私が先の王に進言して作ったものなのだから……もっとも、半分はゲヴェルに命じられたのだがな……そして、私が初代マスターの座に就いていたからだ」

「ええっ!?」

リビエラの問いにあっさりと答える爺さんだが……結構とんでもないことだぞ?
ティピがたまげているし……。

「シャドー・ナイツは政治の裏の汚れ仕事を請け負う、言わば必要悪の集団として作られた……今やただの暗殺部隊に成り下がったがな」

「それなら今のマスターは?」

シャドー・ナイツにそんな背景があるとは……。
ウォレスは、疑問を尋ねた。
初代……ということは、今は別のナイツ・マスターが居ると言うことだからな。

「おそらくガムランだ。奴の狡猾さ、毒物や呪術の知識があれば当然のことだろう……だが奴は残忍過ぎる……」

「ガムラン……奴が……」

ウォレスにとっては、傭兵団時代の戦友らしいので、思うところがあるのかも知れないな。

「それで納得できたわね。ガムランがランザック王国をたきつけて、ローランディアを挟み撃ちにしようとしたんだ」

ティピの言う通りなのだろう……その企みは俺たちで潰させて貰ったのだが。

「ルイセよ。お前はグローシアンの中でも一、二を争う程の能力を持つ。言わばゲヴェルを倒せる数少ない存在だ。だから守った……それだけのことだ」

そう言って今度こそ爺さんは去って行った。

幾つかの謎は解けた……だが、同時に大きな謎も生まれた。


俺とラルフの存在……。


真実が何であれ、俺が俺であることに変わりは無い……。
それはラルフも同じ筈だ……。


その日はヴェンツェルの爺さんの好意に甘えて、宿に一泊することにした。

外も日が暮れて来ていたし……な。

**********

おまけ

コンコン……。

「お兄ちゃん……おきてる?」

「……ルイセか?」

こんな夜更けに……どうしたんだ?

「鍵は開いてるぞ」

そう言うと、ルイセが怖ず怖ずと部屋に入ってくる。

「どうしたのルイセちゃん?」

ティピも疑問に思っているらしい……。

「あの……お兄ちゃん……わたしね……」

言いにくそうに、何かを口にしようとするルイセ。
……何となく分かったな。

「ルイセ……俺は気にしてないぞ?」

「え……」

「大方、俺の出生に関して……俺が落ち込んでると思って、慰めに来たって所だろ?違うか?」

「あ……その……」

……分かりやすい奴。

「……どうしてわかったの?」

「俺がまだ、王都の外に出られない頃……ルイセが外の話を聞かせてくれた時があっただろ?あの時と似た雰囲気がしたから……何となくな」

そう言ったら、ルイセは赤くなって俯いてしまった。
可愛い奴だなぁ……。

「さっきも言ったが、俺は気にしない。俺は俺だからな……それとも、ルイセは俺が人間じゃなかったら嫌か?」

「そんなことない!!」

うぉっ!?

「お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん……わたしの大好きな……お兄ちゃんだもん……」

「ルイセ……」

やばい……泣かせちまった。
俺はルイセの涙なんか、見たく無いのに……。

「ゴメンなルイセ……心配しなくても、例え話だって……そうかも知れないってだけで、そうと決まったわけでは無いんだからさ」

俺はルイセを優しく抱きしめ、ポンポンと背中を叩いた。

「お兄ちゃん……」

「心配するな。俺は俺だ……例え、何があろうとルイセの側に居てやるから、な?」

「うん……うんっ……約束……だよ?」

俺はルイセの問いにゆっくり頷く。
……ルイセは兄として慕ってくれているのだろうが……一人の男として、こいつを支えてやりたいとか考えるのは……贅沢な悩みかも知れんなぁ。

*********

後書き。

そんなワケで、サンドラの師匠…ヴェンツェルの登場&カーマインとラルフ、真実に触れるの巻です。
ちなみに、初めてパワーストーンを発動させてしまいました。

カーマインが若干ポジティブ気味です。
これは原作ゲームの選択肢なんかを鑑みた結果だったり。

おまけはカーマイン主人公で、ルイセの好感度が高かったら……的イベントだと思って戴ければ。

………ジュリア?
だ、大丈夫……次回か次々回にはスーパージュリアタイム!……の筈?

そ、それでは!
m(__;)m



[7317] 第109話―最悪の襲来とグレンガルの最後と愛する騎士と―お触りもあるよ!―シオンSide―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:1e293af2
Date: 2011/12/17 07:17

「よし、到着!」

瞬転にて、ジュリア軍陣地の近くまでやってきた俺達。

「……思ったより進軍出来てないみたいだな」

「王様が言うには、攻めあぐねているらしいから……」

ゼノスが言う様に、ジュリアの軍は思ったより進軍出来ていない。
もちろん、エリオットを旗印に反旗を翻してからの期間を考えれば、十分進軍していると言えるのだが……援軍が届いているのなら、今頃はもっと先に進めている筈なのだ。
ハッキリ言って、原作より進めていない。

まぁ、若干展開が早めなのも……関係あるとは思うがね。
カレンの言う様に、攻めあぐねているのも……事実なんだろう。

「で、どうするんだい?」

「そうだな……とりあえずジュリアンの陣地に行こう。詳しい話を聞いてみなくちゃ、何が起きてるのか分からないからな」

アリオストの問いに、そう返した俺。
実際は、何となく理解しているんだがな。
展開が早い分、あのハゲが動いているんだろうと推測している。
絶対の確信は無いんだが……。

『ジュリア……ジュリア……』

『マ、マイマスター!?……これは幻聴か?』

『前にも同じことを言っていたな?』

『やはり……では幻聴ではなく……』

俺は事情を説明する。
ジュリアや父上達が、攻めあぐねていること、その原因を探り……出来るならそれを解決する為に来たことを。

『そんなワケで、今からそっちに行くから話を通しておいてくれ』

『分かりました。それではお待ちしております』

「よし……アポゲッツ!」

「あ、あぽげっつ……ですか???」

カレンが首を傾げている……可愛いなぁもう……でなく!
アポイントメントとかゲッツなんて分からんよなぁ……特に後者。

「ジュリアンに俺達を陣内に通してくれる様に頼んでいたのさ……これを使ってな」

俺は右腕に着けた腕輪を見せる……【転移の腕輪EX】俺が作った魔導具である、簡易テレポートアイテム【転移の腕輪】にテレパシー……念話機能を付与したスペシャルアイテムである。
ジュリアにはコレを渡している為、俺とジュリアはティピとサンドラの様にテレパシーでやり取りが出来るのである。

って、皆には今更だったな。

それからしばらくして、俺達はジュリアの陣営に向かう……途中、兵に止められたが、その兵は俺やカレンの顔を覚えていたらしく、更にジュリアからの説明もあった為、特に問題無く陣内へ通された。

「!皆さん……」

「お元気そうで何よりです。エリオット陛下」

「や、やだなぁ……止めてくださいよシオンさん……」

「なはは、悪い悪い」

陣の中央にある、大きめのテント……そこで俺達を待っていたのは、エリオットとジュリアだった……。
何か……二人と別れてから、そんなに月日は経っていない筈なのに……やけに久しぶりな気がするなぁ……。

「ジュリアンも、健在の様で何よりだ」

「お前たちもな……」

ジュリアは本当に嬉しそうに微笑む……うむ……久しぶりに見たが、ジュリアの微笑は綺麗だなぁ……。
って、言ってる場合じゃないんだよな、うん。
自重しろ俺。

「所で、思ったより進軍してないみてぇだが……」

「それが……」

ゼノスの質問にジュリアが答えた。
いわく、兵糧が少なくなって来ていること。
それゆえ、無理に攻め込むことは出来ないと……。
ただでさえ、兵力に差があるのに、兵糧まで少なくなっていては、戦線を押しやることは叶わない……と。
相手が、何処の馬の骨とも知れない者ならば……また違うのかも知れないが……。
どうにも、向こうの司令官はインペリアル・ナイト……アーネスト・ライエル卿らしい。

その知謀もさることながら、彼は最前線に出て無双しやがるからタチが悪い……。

同じインペリアル・ナイツでも、ジュリアやリーヴス卿は前線に身を起きこそするが、指揮に徹する場合が殆どだそうな……勿論、前線にある以上、強敵が居るならば、兵を鼓舞する為にも戦うらしいが、最前線にて積極的にというワケでは無い。

ライエル卿は積極的に最前線に出て、先頭に立って敵を蹴散らしつつ、指揮を取る……或いは、自身を囮にした上で敵を策に嵌め……多大な戦果を上げているらしい……その在り方は刹那的だが、誇り高い騎士の在り方とも言えよう。

ちなみに、王であるリシャールは除外。
無論、前線に出ればライエル卿以上に厄介な存在になるだろうが……普通、大将は前線に出ない……というのがセオリーだからな。

大将の首級を挙げられたら、それだけで一軍が瓦解する。

まぁ、セオリーからは大きく外れるが……大将が圧倒的な武力で敵軍を殲滅して士気を上げる……なんてパターンも無いことは無い。
その場合、王と言うより神格化されるだろうが……というか、恐らくリシャールでもそれは無理だろう。

いや、リシャールは一騎当千の猛者だが、数千から万の大群を一人で蹴散らせる程では無い。

この世界で出来るとすれば、全力ゲヴェル……フルパワーボスヒゲ……封印されてるが、ゲーヴァス……辺りかな?
ラルフもやってやれないことは無い……くらいの力はあると思う。
……俺?
無理……では無いな。

話がそれたな……。

とにかく、ライエル卿は厄介だ……って話だ。

「だが、このままってワケにもいかないだろ?それこそ士気に影響が出るんじゃないか?」

「せめて、ローランディアとランザックの援軍が到着すれば話は違ってくるのだが……」

俺の言葉に答えるジュリア……やはり援軍は来ていないのか。

「……すまないが、恥を忍んで頼みがある。我々の後方……ローランディア方面に向かって、援軍がどうなっているのか…確認してきて貰えないか?こちらに援軍が向かっているのなら、何故一向に到着しないのか……調べてきて欲しいのだ」

「ああ……そのために俺達が来たんだからな」

俺達はジュリアの頼みを快く引き受けた。
元々、そのために来たのだし……何より、ジュリアの頼みだしな。

俺達は休む暇無くローランディア……ガルアオス監獄方面に向かう。
ローランディアにしろ、ランザックにしろ、大部隊がジュリアの軍に合流するならこのルートしか無いからだ。
一個人なら、獣道とかはあるが……な。

で……ジュリアの陣地から南下してきたワケだが。

「ありゃあ……バーンシュタイン兵じゃねぇか?何でこんなところに……」

そう、ゼノスの言う様にバーンシュタイン兵らしき奴らが居たのだ。
人数は二人……どうやら見張りらしいな。

「よく見てみろよ……奴らはバーンシュタイン兵じゃない……見た目は正規兵の装備に似せてはいるが」

「何だって……?」

「私にはよく分かりませんけど……」

アリオストもカレンも訝しげにそのバーンシュタイン兵を見ている。
ちなみに、今は岩影から様子を伺っている。

「普通、バーンシュタインの正規兵には、所属する部隊を象徴する紋章が刻まれているモノだ……インペリアル・ナイツやシャドー・ナイツは例外だが……」

インペリアル・ナイツは元より少人数であり、ナイツそのものが国の象徴みたいなモノだ。
ちなみに、インペリアル・ナイツ専用の鎧もあるが、そっちにはバーンシュタイン王国の国旗に使われている紋章が彫り込まれている。
以前、父上が着けていたのを見たので知っているワケさ。

シャドー・ナイツは、象徴になる紋章は無い……専用の装備はあるが……元々影の実行部隊なんで、むしろ象徴となるモノがあってはならない。

「この距離から……見えるのかよ?」

「ああ……これでも視力は良いんでね」

ちなみに、原作ではウォレスがいち早く気付いたりしているが……シルエットしか見えないウォレスには、紋章を見分けることは出来ない。
ならばウォレスの聴力によるモノか、気配を読む感覚によるモノだと思われる。
恐らく、会話の内容をいち早く聞いたか、偽兵士の体捌きを気配から察知したのだろう。
訓練された兵士と、兵士のコスプレをした盗賊では、練度が全然違うだろうし。

「ギャハハ!それでな……」

「そりゃあ傑作だなぁ!!」

……平時ならいざ知らず、訓練を積んだ兵士が、あんなアホ面晒して馬鹿話をしてるワケ無いしな……。

「んで……どうする?」

「まぁ、どうするもこうするも、ブッ潰すんだけどな」

奴らが妨害してるのは明白だし……。
なら、潰すだけだ。

「皆、少し待ってろよ」

ヒュンッ!!

「!?消えた……瞬転か?」

「いや、魔力は感じなかったが……」

ドサッ…ドサッ……。

「二人とも、アレを……!」

カレンが指を指した先には、見張りを昏倒させた俺が皆を手招きしていた。
……おおっ、驚いてる驚いてる。

「お、おい……何やったんだよ?」

駆け寄って来て、開口一番に尋ねてきたゼノス。

「いや、ただ少し速く動いただけなんだが……」

「「「………はい?」」」

俺は詳しく説明する……。

*********

「そういやぁ、あの娘はどうした?お前が熱を上げてた……」

「あぁ、ありゃあ駄目だ」

「?何でだよ?」

「………息子がいやがった」

「……こぶ付きかよ」

「ふぅん。本気で好きなら、全部飲み込むくらいの器量を見せるべきだと思うがねぇ?」

「なっ!?誰ガッ!!?」

「なグァ!!?」

素早く、男達の背後に回り込んだ俺は、それぞれの首に手刀を叩き込んでやった。
無論、手加減してな?
全力なら真っ二つですんで。

二人がゆっくりと地面に倒れたのを確認した俺は、皆に向かい手招きをしたのだった。

**********

「と、まぁ……そういうワケ、だ」

俺は説明しながら、見張り二人の装備を剥ぎ取り……俺の魔導具【緊縛君一号】にて簀巻きにして放り投げていた。
無論、見張りはパンツ一丁だ。

「よ、容赦ねぇなオイ……」

そうか?
別に全力では無いし……命を取られるよりずっとマシだと思うんだが。
それに装備品が勿体ないじゃん?

ちなみに、カレンは顔を真っ赤にしながら両手で顔を抑えてイヤンイヤンしていた………してほしいのか?
ってか、カレンの妄想レヴェルが日に日に増している気がするんですが。
……オッサンも妄想止まらん様になってしまうんですが。

まぁ、遥か高み(ミーシャ)には程遠いがな。

「そんじゃあ、道を塞いでいる馬鹿どもにはご退場願おうかねぇ」

「よっしゃあ!行くかっ!!」

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……ってね」

「任せて下さい!」

それぞれに気合いを入れつつ……俺達は先に進んで行った。

そこには、馬鹿笑いしながらローランディア、ランザックの援軍に対して罵声を浴びせる、バーンシュタイン兵隊長(偽)の姿が。
周囲には、それに呼応して馬鹿笑いしているバーンシュタイン兵(偽)の姿も多数。

ちなみに、その場所は以前にレティシアを救出した場所であり、連中はローランディア方面の橋を落としている為、ああして馬鹿笑いが出来るのだ。

「やれやれ……馬鹿笑いが耳につきやがるぜ」

「!?誰だぁ!?」

ゼノスの声に反応して、こちらを振り向く、なんちゃってバーンシュタイン兵の皆さん。

「誰かって?あまりに援軍が来ないから派遣された、偵察役だったりするんだよなぁ……コレが」

「なっ!?」

俺の言葉の意味を理解したバッタモンどもは、驚愕に目を見開いている。

「ば、馬鹿な!?見張りの奴らは何をしていた!?」

「ああ、奴ら?奴らなら楽しそうにお喋りしていたな。……もっとも、今はぐっすりお休み中だろうがな」

それを聞いて、焦りを浮かべる偽兵達。

「そんなわけで、大人しく捕まってくれない?今なら、五体満足でいられることを保証するけど?」

「え、えぇい!怯むな!!相手は高々4人!!数ではこっちが上なんだ!!」

「数では……ね?」

俺は連中にそこそこ強めのメンチビームを喰らわせる。

「「「「「!!!ウヒィヤアアァァァァッ!!!?」」」」」

バッタバッタと気絶していく偽兵ども。
辛うじて耐えているのは、偽隊長と側近と思われる二名。

「おやおや、頼みの数も俺達より少なくなっちまったな?」

「がは……ば、化け物……」

「化け物……?違うな……俺は悪魔だ」

その時の様子をゼノス達は語る……まるで本当の悪魔の様に、羽とか触覚が生えている様に見えた……と。

俺は両手をワキワキさせながら、腰を抜かした偽隊長達に近付く。

「テメェらの黒幕が誰か吐いて貰おうかな?」

「だ……誰が……たた例え殺されたって……」

「………あっそ♪」

この時の俺は、とっても素敵な【エガオ】をしていたらしい……。

「うるああぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!」

「ギャハハハハハ!!!?ちょ、待っ!!?グヒャヒャヒャヒャヒャ!!!?言う!!言うから助けウヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!?」



――――しばらくお待ち下さい――――



「ふむ……やっぱり犯人はあのハゲだったか……」

俺は下手人がグレンガルであることを聞き出した。
【秘技・くすぐり地獄の刑】

コレを喰らって吐かない奴は殆どいない。
全くいないワケじゃないけど。
偽隊長?
失禁して泡を吹きながら痙攣してますが何か?

「さあぁてぇ……とぉ」

くるぅーり。

「「ヒィッ!!!??」」

「君らだけほったらかしは哀れだから……ね?」

「いやいや!!そんな気遣いはいらねぇから!!」

「こ、降参!!降参するから!!勘弁してくれぇ!!!」

「ハハハ……まぁ、そう言わずに……うるあぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!」

「「止めろ……止めギャアハハハハハハッ!!!?誰か助ブァハハハハハハ!!!?」」

残りもきっちり、くすぐり地獄の刑に処した俺は、何かを成し遂げた漢の顔をしていた。

ちなみに、ゼノス達は事前に渡しておいた【緊縛君一号】にて、気絶している奴らを簀巻きにして貰っていた。

「ほ、本当に容赦がねぇなオイ……」

……皆が俺に畏怖の視線を向けていたのは、気のせいだと思いたい。

とりあえず、気絶した連中を一カ所に纏めてから集まる俺達。

「なんか……僕達のやることが無かった様な……」

「そんなことないぜ?今から、もう一働きしなきゃならないんだからな」

「?それってどういう……」

アリオストは拍子抜けした様子だが……油断大敵。
ゼノスは気付いたらしい……なんだかんだで気を感じれる様になってきているみたいだ。
カレンは分からないらしいが。

「と、まぁ……そういうワケだから……いい加減出てこいよ」

「……よく分かったな?」

現れたのはグレンガルと愉快な手下ども。
また、団体さんのお着きだねぇ……。

「また会ったな……毎度邪魔ばかりされているのは、中々堪えるんだがな?」

「どうやらまだ懲りていないらしいな……このハゲは」

「ハゲじゃねぇ!これは剃ってるんだ!!」

何やらハゲが主張しているが……無視しよう。
ハゲだし。

「で?わざわざ団体さんを引き連れて……纏めて降参してくれるのか?」

「冗談……ここいらで決着を着けようと思ってな?テメェらに邪魔され続けたら、商売あがったりなんだよ」

……どうやらこのハゲは、俺達と戦り合う道を選んだ様だ。

「商売って言ったな……テメェ、何を企んでやがる?」

「企むとは人聞きの悪い……俺はこの世でもっとも尊い物のために働いているだけだぜ?」

「この世でもっとも尊い物……?」

ゼノスの問いに答えるグレンガル。
カレンは分からないみたいだが……この手の野郎が考えることは、案外少なかったりする。

「お前にとって一番尊い物……当ててやろうか?……金だろ?」

「ほう…よく分かってるじゃねぇか」

やっぱり原作通りか……予想はしていたが。

「これからの時代は力じゃない!商売が世の中を支配していくんだ。そのためには金がいる。その足掛かりとして俺の作った武器を、売って売って売りまくって、金を稼ぐ!!だから今、この戦争を終わらせるわけにはいかねぇんだよ」

「死の商人……って奴か」

「論理的……と、言ってもらいたいねぇ」

グレンガルの目的を理解した皆……だが、何処が論理的なんだか……俺には分からん。

「では、学院長と繋がっていたのは何故だ?」

「マクスウェルか……そういえば奴を始末したのはお前らだったな?それに関しちゃ、感謝半分、迷惑半分だったぜ」

「どういうことだ……?」

「奴からは依頼を受ける報酬として、学院の研究成果や、武具を作るのに必要な魔水晶なんかを横流しして貰っていたのさ」

「なっ……!?」

アリオストの質問にサラっと答えるグレンガル。
アリオストはショックを隠せない様だ。

「まぁ、そろそろヤバいとは思っていたがな。だから奴を始末してくれた事には感謝している。だが、お陰で奴から魔法技術を仕入れることが出来なくなっちまった……その点では迷惑してるのさ。まぁ、学院の研究成果とやらは使えない物も多かったがな」

「成程な………一つ聞くが、以前にフェザリアンの女王を拉致ったのは……テメェだな?」

グレンガルの感謝と迷惑とやらを聞き、俺は確信していたことを問い質す。

「あぁ…アレか。飛行技術とやらを手に入れたからな。フェザリアンの技術をご教授願おうと思ってよ。ところがあの女王は口を割りやがらなかったからな……力付くでと考えてた矢先に、テメェらが邪魔をしやがったな?」

「僕たちの研究を……そんなことの為に使うなんて……!!」

グレンガルが言う真実に、アリオストは憤慨する。
自身の……そして学院の研究成果を馬鹿にされ、尚且つ悪用されたことを……。

「……最後通告だ。大人しく降伏しろ……さもなくば」

「さもなくば……なんだ?」

俺は警告する……金のために様々な凶行に及んだこの男。
金のためなら他者を顧みない男。

俺は、金を稼ぐことを悪いこととは言わない。
金が一番大事だという奴を、否定したりはしない。
だが……。

「お前を……殺す」

俺の大事なモノを傷付けようとするコイツは……許さん……!

「ッ!!?……相変わらず……化け物じみた奴だ……だが、コイツらには通じねぇぜ?」

俺の殺気を受けて、震える上がるグレンガル……だが、グレンガルの言う様に奴が引き連れて来た手下は何の反応も示さない。
この気は……確か……!

「教えてやるぜ……金の力って奴をなぁ」

奴がそう言った瞬間、手下の奴らに変化が……コレは……!?

「そんな……アレは……!?」

カレンも気付いた様だ……間違いたくても、間違えられる筈がない。
……奴らは。

「ふふふ……どうだ?金で買った化け物どもだ。多少、高くついたがテメェらを始末出来るなら必要経費って奴さ!」

間違える筈が無い……俺が初めて殺したニンゲン……そのニンゲンが変異したモノ。

「……お前にソレを売り付けたのは誰だ?」

「言うと思ってるのか?これから先も贔屓になる相手だ……ベラベラ喋るわけにはいかねぇな」

「………そうか」

もはや、悩む必要は無い……。
コイツを放っておいたら……仲間達が傷付く……ならば。

「覚悟しろハゲ野郎……慈悲は無いぞ」

俺は愛剣リーヴェイグを抜き放った。
どういう方法かは分からないが、コイツらを操っているのは、グレンガルだ。
ならば、コイツを討つ……討たなければ、皆が……やられる。

「皆、行くぜ……覚悟は良いか?」

「……はい!」

「言われるまでもねぇ」

「任せてくれ!」

全員やる気みたいだな……なら、後は奴らを潰すだけだ……!

俺とゼノスは連中に向かって駆け出した。
カレンとアリオストは後方から呪文を唱えている。

「ハアアァァァァァァッ!!!」

俺は襲い掛かって来た盗賊の姿をした変異体に立ち向かう……。

相変わらず速い……だが、以前と変わらない……つまり。

「俺にとっては……遅いっ!!!」

『GYUAAA!!?』

俺は躊躇わずに変異体を縦に真っ二つにする。
真っ赤な飛沫が飛び散る……嫌な感触に顔を歪めそうになる。
しかし、顔には出さない……。

後悔はしない……幾らでも、背負うと決めた。

今は犠牲者のことを考える時では無く―――敵を打倒する時だ。

俺は返す刃で、次の敵の首を切り裂く……最早、この程度では揺るがない――揺るいではいけない。

「くっ……野郎ぉぉっ!!!」

『GUEE!?』

ゼノスは一瞬、拮抗したが……闘気を発した瞬間、鍔ぜり合いを制し……一気に切り裂いた。
ゼノスの腕も上がっているということだろう。


だが、致命傷の筈のソイツはゆっくり立ち上がり……深手の筈の裂傷を端から再生させていた。

「ゼノス!!確実に止めを刺せ!!でなければ、そいつらは何度でも立ち上がるぞ!!」

「チィッ……!!」

俺の忠告を聞き、直ぐさま変異体に詰め寄り、その首を切り飛ばした。

赤い飛沫が、噴水の様に飛び散る……。

……嫌な光景が頭を過ぎる。
だが、止まらない……止まるつもりは……無い!

「これなら……!『マジックフェアリー』!!」

カレンは、俺達の援護のため誘導弾である【マジックフェアリー】を放つ。
それらを喰らっても、変異体は倒れず、その身体を揺らがせ、その場に留めるだけだったが……それで十分。
その隙を突き、俺とゼノスが切り込むからだ。

『GAAAAAA!!!』

「そこだっ!!」

アリオストは中距離から、魔法爆薬を使い攻撃。
アリオストの使用する魔法爆薬は、数ある魔法爆薬の中でも上位に位置するニトレイト。
その威力はかなりの物だ。

爆煙の中から、ズタボロの変異体が飛び出し、アリオストに襲い掛かる……救援に駆け付けることも出来たが、俺はアリオストを信頼して任せた。

「何処まで耐えられるかな……?」

アリオストは腰の得物……妖魔刀を抜き放ち、変異体を素早く、何度も切りつけた……。
そして、しっかり止めを刺した。

実は、アリオストはラシェルの修行タイムでは、魔法だけでなく、剣も学んでいる。
……驚くことに、剣を使うのは得意なのだそうで……。
アリオストの剣術は、魔導学者になる前……まだブローニュ村に居た頃に教わったモノらしい。

確かに以前、その太刀筋を見た時に『結構悪くない』とは思ったが……。

せっかくなのでと、修行したならば、こうなったワケで。
ゼノスの様な剛剣の使い手では無いが、剣速のスピードは中々侮れないモノがある。
無論、剣のみでは俺達の中で一番未熟だが、本来の戦法……魔法爆薬と魔法詠唱を加えた総合力においては、他のメンバーに引けを取らない。

「うおらあぁぁぁぁ!!」

「む……」

ガギイイイイィィィィィン――――。

変異体をあらかた片付けた所に、誰かが切り掛かって来た――十中八九グレンガルだが――俺はそれをリーヴェイグで防ぐ。

「……残るはテメェだけだ」

「く、くそがっ!俺はまだこんなところでやられるわけにはいかねぇんだ!!」

グレンガルが無造作に連撃を放ってくる。

「俺の!この武器をっ!!」

その一撃一撃は重く威力がある――だが。

「売って!売って!!売りまくってぇっ!!!」

どうしようもなく――『軽い』――。

「金を!誰よりも多くの富みを!!財産を!!」

そこに技は無く、心も無く――あるのは力と自身の武器と金への執着のみ。

「この手にするんだあぁぁぁ!!!」

そんな一撃など――。

「俺に届くかああぁぁぁぁぁっ!!!」

斬っ!!!

「ごふぉ……!!?」

俺の袈裟掛けの一撃は、奴の斧ごと…奴を断ち切った。

「ば、馬鹿な……俺の武器が……俺の武器が負ける筈がねぇ……」

原作でウォレスに『武器に頼り過ぎ』と言われていたが……。

「確かに良い武器だ……武器に振り回されない力もあった……だが、それだけだ。お前は武器を『使っていた』だけに過ぎない……真に武器の主になれなかった……それがお前の最大の敗因だ」

「まだだ……俺はもっと金が……金を……金を…………か……ねぇ…………………」

――最早、俺の声は届いておらず……その手で空を掴み、最期まで金を求めながら倒れ伏した……。
グレンガルの死を示す様に、奴の斧は光に包まれ……一つの指輪がその場に残ったのだった。

「……力ではなく、商売が世の中を動かす……か。その考え自体は決して間違ったモノじゃなかった……だが」

「シオンさん……」

「……大丈夫だカレン、俺は大丈夫だから」

……商売の――金のために誰かを傷つける。
それは悪いことなんだろうが、それ自体を肯定は出来ないが、否定もしない……それが戦争――それでもやり過ぎ――気に入らない――仲間を傷付けられるのが許せない――それがエゴだというのは理解している。

――恨みたいなら恨め。
全部背負って進む……もう二度と、立ち止まらないと決めたから。

「とりあえず、終わったね……」

「ああ……後は援軍に来たローランディアとランザックに説明を……む?」

……この気……この魔力は……!

「どうしたよシオン?」

「悪い……ゼノス達で説明しておいてくれ……直ぐに戻る」

「シオンさんっ!?」

俺は瞬転を使い、その場を後にした………忘れもしない、あの時の気配に向けて……!!

**********


ふむ……どうやらグレンガルは負けちゃったみたいだねぇ……。
まぁ、アレは以前の奴と強さは変わらないからねぇ……あくまで安定性と操作性を求めた物だし。
特に操作性……僕以外でも操れる様に操作するアイテムを作製して。

グレンガルは良い実験台になってくれた……しかし、シオン君はともかく……他のキャラに倒されるとは思わなかったなぁ……これもシオン君の影響かな?
これはもう少し性能を向上させないとだなぁ……。

「ともあれ、データは取れたんだ……これで『チャキッ』!!?」

「……お前は誰だ?何の目的がある?」

シオン君……何で此処に……テレポート?
それにしてはタイムラグが……。

「素直に答えるなら良し……さもなくば殺す」

シオン君は剣の刃を、僕の首に突き付けている……冗談でしょ?
幾ら殺し合いをした後とは言え、あの無様に壊れ掛けていた甘ちゃんの彼が――。

「冗談だと思っているなら諦めろ……俺は――本気だ」

ゾッッッッ!!!?

「!!か……はっ……!!?」

なん…何だ……コレは…………殺気………?
コレがシオン君の……?
僕が……怯えている……?

「お前があの時、変異した盗賊を俺にけしかけたことは分かっている」

……以前、僕はシオン君をリシャールと同等か少し上程度と断定していたけど……僕は、大きな思い違いをしていたんじゃあ……?

「答えろ――死にたくなければな」

彼は本気だ――。




――素晴らしい。
素晴らしいよ!!
想像以上の力っ!!!
それがいずれ、僕のモノになるなんて!!
ああ、素晴らしい!!
素晴らし過ぎて興奮しちゃうじゃないかぁ!!

……けど、まだその時じゃあない。
僕が表舞台に立つのはまだ少し先……。
せっかくのご馳走だけど、下手を討って…喰うつもりが、喰われることになったら大変だから……。

「どうぞご自由に。やれるモノなら『ザンッ!!』ね――」

本当に……本当に斬ったね?
やられちゃったよ……まぁ、所詮は【影】だけどね?

**********


俺は問答無用で男の首を撥ねた。

容赦をしてはならない。

それがこの男の第一印象だった。
男を見た瞬間、俺の中の何かが警告した……この男は危険だと。

だから刃を突き付け、躊躇無く斬った……筈だった。

「!?なっ………!?」

しかし、斬った筈の男は健在で……斬ったのは男の……【影】?

「ふふふ……怖い怖い……まさか容赦無しとは、ね」

俺が呆然としている隙に、奴はバックステップで距離を取った。
……あの程度の距離なら、一気に喰い潰せるな。

そう考えていたのもつかの間。
なんと、男は自分の影に飲み込まれていくではないか……。

「クックックッ……僕達はまだ合い見える時じゃあない……もっと相応しい場面、場所がある……」

「遠慮するな」

俺は一足で距離を喰い潰す……相手には瞬間移動をした様に見えただろう。

「此処で殺られておけ」

俺は今度こそ奴を捕らえた……捕らえた筈だった。
だが……。

「な……分身か!?」

「『幻日』が発動したか……僕にもまだまだ運が残っていたらしい」

次の瞬間、男は完全に影の中へと消えていた……だが、気を探れば……。
………!?
気や魔力を……感じない!?

『僕は君を見くびっていたよ……まさかこんなに強いなんてね?冷や冷やしたよ……これからは、行動を自重しないとね』

……奴の声が聞こえる。
だが、気配を感知出来ない……。

『またいずれ……相応しい舞台……相応しいシーンで!!その時こそ……存分に相手をしてあげるよぉ!アッハハハハハハハハ!!!』

…………行ったか。

「チッ……らしくねぇ……」

普段の俺なら、理由を聞いたり……聞いたりはしたが。
だが、いつもと心情が違った……俺は、最初から…殺すつもりで――。

相手の信念を否定しない――それが俺の信念だった筈だろう?

だが――奴にはそんなモノは無かった。
奴にあるのは――悪意。
そして……奴は『遊んでいた』。

……まるで、ゲームをしているかの様に。

「……落ち着け。直感だけに頼るな……冷静になれ」

奴は俺と同じ転生者……これは間違いない……と、断定は出来ないが……確率は高まった。

奴の言っていた【幻日】……俺の記憶に間違いが無ければ、覚えがある。
確かロマンシング・サガ3の太陽術の一つだった筈だ。
……となると、あの影は【シャドウ・サーバント】か?
いや、それならあの影の中に沈んだのは何だ……?
恐らくなんらかの移動術なんだろうが……。

「情報が少な過ぎるな……」

俺はため息を吐いた。
此処で考えていても埒があかないな……。

「戻るか……」

俺は再び瞬転……皆の元へ戻って行った。

**********

戻ってみると、既に説明は終わっており、谷間を挟んでブロンソン、ウェーバーの両将軍と対峙することになった。
二人が言うには、この橋を張り直し、直ぐに援軍に向かうとのことだったが……。

「その必要はありませんよ」

「何だと?」

「どういうことだ?」

俺は説明する……援軍全てを連れてテレポートをすると。
正確には瞬転だが。

「けれど、どんなに優れたグローシアンでも、テレポート出来るのは10人未満が限界だと……」

「普通はな」

アリオストの疑問にサラっと答える俺。
ローランディア、ランザック両軍合わせて……一万弱か。
まぁ、イケるでしょ?
アリオストを始め、皆がまっさか〜♪という顔をしているがな。

ただ、気絶させたバッタモンどもを回収する為に何人か残って貰わねばならないが。

結果、橋の修理と気絶している奴らの回収、遺体の後始末のために、ローランディア側から数人が残った。


「じゃあ、準備は良いですか?……瞬転!!」


こうして俺達は、援軍を引き連れて、ジュリア軍陣地の前へと向かったのだった。

*********

で……。

「本当にやりやがったよ……」

「はは、は……何と言って良いやら」

野郎どもが苦笑いを浮かべているが、まぁ、気持ちは分かる。
こういう時はチート乙と言えば良いと思うよ。

「とは言え、ちょっと疲れたけどな」

流石に万単位だし、テレポートでは無く瞬転だし……なんか、本格的に魔法使ったなぁ……という疲労感は初めてだなぁ……まぁ、魔力的には1/1000くらいの消費だろうか?

「……これがテレポートなのか」

「グローシアンとは凄いものなのだなぁ……」

ウェーバー将軍とブロンソン将軍が関心した様にそんなことを言うが……。
皆が皆……俺基準では無いから。
俺は反則チート野郎なんで……。

余談だが、援軍を引き連れて来たらジュリアとエリオットがびっくらしていた。
原因を調べて来て欲しいと頼んだのに、大軍を引き連れて戻って来たのだから、当然と言えば当然なんだが。

「流石だな……まさか援軍まで連れて来てくれるとは……」

「いや、まぁ……ついでと言うかなぁ……だが、物資も届いたんだ。これで巻き返すことが出来るだろう?」

「ええ、これで兵のみなさんの士気も高まると思います。本当に、ありがとうございます!」

エリオット君、そんな輝いた笑顔を見せないでくれ!
オッサンには眩し過ぎる!

「今日はもう日が暮れる……良ければ泊まっていくと良い。テントしか無いが、疲れくらいは癒やせるだろう」

「そうだな……ここはご好意に甘えるとしますか?」

「そうですね……私は賛成です」

「俺も構わないぜ?」

「僕も異存は無いよ」

満場一致で決まりだな。
俺達は、ジュリアとエリオットの好意に甘えることにした。
テントを用意され、それぞれにテントを寝床として割り振られたのだった。

**********

パチパチ……。

松明の火が弾ける音が聞こえる。

「つーか、眠れん」

どうしても思い描くのは、あのフードの男……。
奴の目的は何だ……?
奴は本当に……転生者なのか?

「今、考えても仕方ないんだがな……ん?」

この気配は……。

「すまない、起きてるだろうか?」

やっぱりジュリアか……。

「ああ、入っても良いぜ?」

テントの入口から入って来たのは、間違いなくジュリアだった。
こう、改めて顔を合わせるのは、本当に久しぶりに感じるなぁ……。

「それでは、失礼する…」

「どうした、眠れないのか?」

「ああ……少しな」

むぅ……?
なんか喋り辛そうだな……。

「『サイレント』」

俺は、テントに消音魔法を張る。

「これで、外に話を聞かれることは無い……消音結界を張ったからな」

「……お気遣い戴き、申し訳ありません」

「そういう時は、ありがとうって言ってくれた方が嬉しいんだけどな……俺は」

「も、申し訳ありません……」

「また謝ってるし……」

「あ、あう……」

真っ赤になりながら、吃っているジュリア……そんな生真面目なところも……嗜虐心をそそるっつーか。
落ち着け、俺自重。

「悪い悪い、あまりにジュリアが可愛い反応をするから、ついイヂメたくなっちまった」

「……マイ・マスターは意地悪です」

クスクス笑ったら、ジュリアは少しむくれてしまった………何コレ可愛過ぎるんですけど?
……もちつけ、もとい!落ち着け俺。

「で?俺に用事ってなんだ?」

「……になって」

「?よく聞こえないんだが……」

「〜〜っ!マ、マイ・マスターが気になって眠れなかったんですっ!!」

「……………」

落ち着け漏れ……もとい俺。
素数だ!素数を数え(ry
「分かっています……今は戦時中です。そんな中でこんなことを言うなんて……指揮官失格ですよね」

「いや……そこまで言うこと無いだろう?ジュリアはよくやってるって……」

落ち着け……落ち着け……落ち着け。
最近、暴走気味だからな俺は……色々我慢しまくっていたせいか、タガが外れかけているのか?

いや……待てよ?

別に自重しなくても良いと誓った筈だろ?

「それよか、座ったらどうだ?何時までも立っているのもなんだろ?」

「は、はい……それでは横に……宜しいでしょうか?」

「ああ、構わないぜ?」

俺は、自身が腰掛けていた簡易ベッドの横を少し空ける。
そこにジュリアが申し訳なさそうに座る。

「なんだか……こうやって話をするのは、久しぶりな感じがします……」

「そうだな……こうして顔を合わせて話すのは、随分と久しぶりに感じるな……」

嬉しそうに微笑みを浮かべるジュリア……やべぇ、マジで可愛い。

「念話では何度か話しましたが……やはり、こうしてマイ・マスターの顔を見ながらというのは……一味違うというか……」

「ははは、そう言ってくれると、男冥利に尽きるな」

もじもじするジュリア……やばい、めがっさお持ち帰りしたいにょろぜ!!
冷静に対処している様に見えますが内心一杯一杯ですが何か?

「マイ・マスター……」

「!?ジュリア……?」

ジュリアが抱き着いて来た……やばい……み・な・ぎ・っ・て・き・た・!!

「暖かいです……マイ・マスター……」

プチン。

「俺も暖かいぜ、ジュリア……」

俺はジュリアを抱きしめ返す。
ジュリアの鼓動が伝わる……。

「ジュリア、ドキドキしてるだろ?」

「……ドキドキもしますよ。マイ・マスターに抱きしめて戴いているんですから……」

「可愛いことを言ってくれるな……」

「マイ・マスター……んむぅ!?」

俺はジュリアの唇を奪う……ジュリアは驚きに目を見開くが、直ぐに眼を閉じ、抵抗せずに甘受している。
何処かに残っていた理性で、相変わらずジュリアの唇柔らかいなぁとか、相変わらずキス魔な俺キモい(≧ω≦)
とか考えていたが……。

「んふぅ……んちゅ、ぺちゅ…」

そんな、俺の深いキスを甘受し……むしろ、貪る様に積極的に舌を絡めてくる。

「あはぁ……」

ゆっくりと唇を離す……透き通った粘性の橋が出来上がり……そして途切れた。

「ま、まい……ますたぁ……♪」

……こんな事態を予想していたワケじゃあない。
だが、このテントには幸い、サイレントを掛けてある。

俺は抗い続ける鋼の砦にゴルディオンハンマーをかましつつ、砦が再建しない様に何度も光にする。

具体的に言えば、自分に暗示を掛けて、条件反射を封じようと言う策だ。

「ふぁ…!?」

俺はジュリアをベッドに押し倒す。
その際に、やってやる……やってやるぞ!!
と、自身に暗示を掛けるのも忘れない。

「マイ……マスタぁ……切ない…です……」

「なら……その切なさを、取っ払ってやろうか……?」

「は、はい……お願いします…私に、マイ・マスターの慈悲を、下さい……」

俺はジュリアの頬を撫でる……ジュリアは潤んだ瞳を向けてくる。

……俺の中のキバ○シが五月蝿いが……例えハルマゲドンが起ころうと、俺は止まらん!

「はぁ……あふ……」

「初めて触れたけど……ジュリアの胸って柔らかいんだな……」

「やぁ……マイ・マスター……手つきがいやらし…っいぃ…ですぅ…っ」

「これからもっといやらしいことをするつもりなんだが……?嫌なら止めるか?」

「いやぁ……やめないで……やめないで下さ…あぁっ…!」

俺は服の上からジュリアの胸をいぢめる。
その感触は蠱惑的で、それは見た目には分からないが、メロンの様な重量感がある……。
今はナイツの制服を着用している為、サラシの様な抑えがあったが、その上からでもコレだ。
……それを解いたらどうなってしまうんだろう?

見てみたい……。

俺は夢遊病にうなされる様に、ゆっくりとジュリアの制服に手を掛け…。

「……………」

………この気配は。

「マ、マイ……マスター……?」

唐突に動きを止めた俺を、荒い息を整えながら俺を見遣るジュリア。
その表情は何処か不安そうだ。

俺は急激に理性が浮上していくのを理解した。

「……敵だ。どうやら忍び込んで来たらしいな」

「え……!?」

気を張っていれば、もっと早くに気付けた筈だが……ジュリアに集中し過ぎて……まだまだ俺も未熟だ。

思考を戦闘用に切り替える……切り替える…………切り替え―――。
……自己暗示を掛けながら……頑張ったのに。
確かに原作でそんなイベントもあったケドさ。
何か?世界の修正力ってヤツですかコノヤロウ!!


「マ、マイ・マスター!?」

そんな内心を表情には出さずに、俺は外に飛び出す。

「ま、待ってください!私も……!!」

ジュリアが何か言っていたが、そのまま外に出る……方角はあっちか。

「コソコソしていないで、出て来たらどうだ」

「気付いていたか……」

現れたのは、インペリアル・ナイツの一人。
本来なら、ナイツ・マスターが纏うべき【赤】を纏うインペリアル・ナイト。

「ライエル卿……」

「シオンか……ウォルフマイヤー卿が離反したことを考えれば、お前がここに居るのも頷けるか」

アーネスト・ライエル……義と忠の騎士……。
彼が俺の前に立ち塞がった……。

**********

あとがき

かゆ…うま。
もとい、また病気が……嘘予告や番外編を書きたいです……安○先生……。
orz

そんな精神状態なので、近い内にまた書いてしまうかも知れません。

しかし私は謝らry

相変わらず駄文ですが……しかし私はry

それではm(__)m





[7317] 第110話―闘争、脅迫、母の愛―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/17 19:10


さて、今現在……俺はアーネスト・ライエルと対峙している。
正確には、ライエル率いる一部隊と……だが。
人数は――20人ちょいか。

「それで?こんな夜分に何用ですか?まさか、誇り高いインペリアル・ナイト殿が姑息に夜襲を仕掛けに来たと?」

「そうだとしたら?」

平然と答えるライエル……実際、夜襲も立派な策である。
むしろ、本陣に近付かれるまで気付けなかった俺達が間抜けなのだ。

「いえ、一応確認を…ね。まぁ、貴方の様な将なら……考えられる事態ではありましたが」

俺は腕を組み、ライエル達の前に立ち塞がる。
口調を変え、威圧感を込めて……。

「生憎、此処から先は通行止めだ……通りたければ……俺を倒してからにするんだな」

俺は連中にメンチビームを飛ばす。
かなり強めのヤツを。

「「「ヒッ………!?」」」

「―――落ち着け」

俺の気当たりに、取り乱し、気絶しそうになる兵達を、たった一言で静めてみせやがった……。
しかも自身は取り乱さないときてる……。
大した胆力とカリスマ性だぜ……アーネスト・ライエル。

「ラ、ライエル将軍……」

「奴の相手は私がする。お前達は任務を遂行しろ」

「ハ……ハハッ!!」

成程……そう来ますか……。
とは、言え……易々とやらせると思うか?

「言ったはずだ……此処から先は通行止めだってな」

「こちらも言ったはずだ……お前の相手は私だとな」

成程……一人で俺に勝つつもり……いや、足止めをするつもりか。

「まぁ……良いだろう。そこまで言うなら、一時だけ戯れてやるよ」

俺は二本の長剣……グラムを取り出す。

「?なんのつもりだ……お前の得物は確か大剣だった筈だろう?」

「何、鼻っ柱の強いインペリアル・ナイト様の鼻をへし折ってやろうかと思ってね……」

つまり、ライエルの土俵で勝負してボロ負けにしてやろうと……こういうワケ。
ん?陰険?ドS?
ハハハ、決してジュリアとのアレを邪魔されてムカついてるワケじゃないからな?
……本当だぞ?

「ふっ…舐められたものだな。多少の自信はある様だが……その慢心が命取りになるぞ」

「最初に言っておくが、お前では……俺には勝てん。いや、勝負にすらならん……彼我の絶対的な力の差というモノを一撃で証明してやる……」

不敵に語るライエルだが、俺が更に不敵に笑うと、ライエルは一気に表情を引き締めた。
コレだけ挑発したのに平静を保ちやがるか……まぁ、分かっていたケド。

「なら見せて貰おうか……その力とやらを!!」

ライエルはその双剣を抜き放ち、躍り掛かって来た……さて、開幕と行こうか?

**********



俺は、目の前の男……シオン・ウォルフマイヤーに切り掛かった。
リシャール様に仇成す者だ……容赦はしない。
だが……。

「どうしたインペリアル・ナイト?それで全力か?」

俺は右の剣で突きを繰り出す……奴はそれを半身で避ける。
更に突いた剣の軌道を変え、横に切り払う。
それを身を低くして避けられ……。

左の剣で切り下ろせば、奴はそこから半身に避ける。

――見切られている。

俺はそれを実感する。
こちらの繰り出す連撃を、奴はことごとく紙一重で避け続ける。

俺自身、自分の剣には自負がある。
インペリアル・ナイツにまで上り詰めたという自負が。
今まで、剣腕を研き続けて来たという自負が。

「……どうした。大口を叩いておきながら、逃げてばかりではないか」

「そういうことは、まともに攻撃を掠らせてから言えっての」

奴は避けながらも、一瞬で魔法を行使……俺の部下を吹き飛ばしていく。
普通、魔法は詠唱の為その場に止まらなければならない。
だが、奴はほぼ時間差無く魔法を放っている為、動きながら魔法を放っている様な錯覚を受ける。。
ハッキリ言ってコレは異常だ。

おかげで足止めを買って出たというのに、その効果がほとんど無い。

だが、そんな中でも何人か、奴の弾幕から逃れて先に進んだ者が居た。

「……言っておくが、俺を抜けたからと言って、そこから先が安全とは限らんぜ?」

「な……「グアアッ!!?」に……っ!?」

その悲鳴に視線を向けると、そこには部下を切り倒す者が居た。
それは……。

「首尾はどうだジュリアン?」

「ああ、問題無い。陛下の守りはカレン達に任せてある」

ジュリアン・ダグラス……この隊の司令官にして、元同僚のインペリアル・ナイト。
当然、奴が出てくるのは予測していたが……このタイミングとはな。

「ジュリアンは兵の相手を頼む……俺はこの石頭と、お話があるんで……なっ!!」

「!?ぬぐぅ……!!?」

俺は咄嗟に剣を前面に交差する……すると、そこに剣を叩き込まれ、思い切り弾き飛ばされた。

っ……何だこの剣閃は?
速く……そして、重い…っ!?

直感に従い、剣で防いだが……その速さは体捌きがかろうじて見える程度。
俺は足で地に踏ん張り、何とか木に激突するのを避けた。

手が痺れる……こんな剣を受けたのは、あの方……リシャール様以来だ。

「証明になったかな?……言っておくが、まだまだ俺は全力じゃないからな?」

「……面白い」

俺は自身の動揺を抑え、再び剣を構える。
これでまだ全力では無いだと……?
よもや、これほどの物とはな……。
――かつてウォルフマイヤー卿に聞いた。
自身の息子は千年に一人の逸材で、その剣腕は少年時代で既にナイツ級だと――。

当初は、親バカ………もとい、身内による贔屓目だと思っていたが……。
その力がハッタリでは無いことは、剣を交えた今の俺には理解出来る。

身内贔屓では無かったのかも知れんな……。

剣を修める者として、眼前の男に挑みたい気持ちはある……だが。

俺は周囲を見渡す。

連れて来た部下達は、ほとんどが全滅に追いやられていた。
直属の部隊……その中でも精鋭の者達を連れて来た筈なのに…だ。

潮時か……。

そもそも、小数で忍び込んで任務を果たせなかった時点で、コチラの策は失敗した様なモノだ。
これがどうでもいい雑兵ならば、蹴散らして進むまでだが……。

シオンとジュリアン……この二人を相手にそれは難しい。
いや、ほぼ不可能と言っても良い。




だが、引けぬ……。




あの方が……リシャール様が命じたのだ。
ならば、俺はあの方の為に任務を遂行するのみ。


――――例え差し違えようとも――――。


「アンタの目的はエリオットなんだろうが……大人しく諦めてくれないか?」

「それは出来ん……王の名を語る下賎な輩を放置することは出来んからな」

……それが例え間違った考えだとしても、俺はあの方の望みを叶える。

友が変わってしまった――だが、俺は――俺達はあの方を支えたかった。
あの方と共に歩みたかった……主君だから――友だから。

「アンタならそう言うと思ったがな……なら、覚悟はして貰うぜ」

「俺は負けられん……ナイツの誇りに賭けてな」

それが、俺の代わりに憎まれ役を買って出てくれた……アイツとの【絆】だからな。

「行くぞ」

「……来な」

俺は再びシオンに向けて立ち向かっていく……。
斬り抜ける……俺自身の誇りと、友の想いに答える為に……っ!!

「ライエル様!!」

俺達がぶつかり合う瞬間、俺の部隊の伝令がやってきた。

「……何だ?」

俺は立ち止まり、警戒態勢を解かないまま……背後の部下に問う。
……何故か、シオンが攻撃してこなかったのを疑問に思ったが……こちらにとっては好都合なので、それは置いておく。

「ほ、報告します!北の戦線にてオスカー・リーヴス卿が直属部隊を引き連れて、離反しました!!」

「……それは本当か?」

「は、はい!!それで……ライエル様には、至急王都に戻る様にとの指令が……」

「分かった……私は一度本陣に戻る。この場は任せるぞ」

……すまんなオスカー……お前とて、リシャール様の支えになりたかった筈……。

負けるつもりは微塵も無い……だが、約束は果たすぞ……オスカー。

「命拾いをした様だな」

「アンタが……な?」

フッ……否定出来ない所が辛いな。
だが、俺も剣士の端くれ……このまま終わるつもりは無い。

「…いずれ、この決着は着けよう。――さらばだ」

俺はその場を走り去って行った。
幸い、追っ手は掛からなかった様だが……。
奴らなら追跡することは不可能ではない筈。

………見逃された?

いや、奴らにソレをする理由が無い。
だが実際、追っ手の気配は無い。
―――まぁ、良い。
今は本陣に戻り、指揮を任せる者を選抜せねばならないのだからな。

**********


退いたか……やれやれ。

俺はゆっくりと溜め息を吐いた。

そして周囲を見渡す。
俺が相手した兵士は、上手く気絶している。
ジュリアが相手にした奴らも、致命傷は避けた様だ。
取りあえず、俺は傷付いた奴らを治療しながら、【緊縛君一号】で縛り上げて行く。

――縛り上げながら考える。


先程の戦いだが……俺はテントから飛び出し、ライエル達の目を引き付けている間に、ジュリアに念話を飛ばした。

エリオットの安全を確保する様にと。
その為に他の奴らを起こしてくれってな。

ジュリアはよくやってくれた。
しっかりと頼み事をこなしてくれた上、援軍に来てくれたのだから。

正直、ライエルを討つつもりは無かった。
後々、話がややこしくなるからな。
まぁ、多少鬱憤を晴らしてやろうとは思ったが。

だから、決死の覚悟を決めただろう瞬間には、正直言って焦った。
ライエル程の相手に捨て身で来られたら、幾ら俺でも迂闊な手抜きは出来ないからだ。
全力にはならないだろうが……それでも、ライエルの命を奪っていただろうことは明白だった。

故に、伝令に来た兵士にはGJと言わざるを得ない。
どうやら原作の様に、リーヴスが離反した様だ。
そこには様々な葛藤があった事を――俺は知っている。

確か、どちらが勝っても文句なし。
勝った方がリシャールのことを最後まで面倒見よう……だったかな?

その約束を知っているだけに、ライエルを斬れなかった。
万が一ライエルを斬れば、表向きはともかく、リーヴスの心に禍根が残るかも知れん。
そうなれば、リーヴスが獅子心中の虫になる可能性も……無いワケじゃない。
単純に、俺がライエルを気に入っている……というのも無いワケじゃないが。

「ふぅ……こんなもんか」

「ご苦労だったな……まさか、本陣に忍び込んで来るとはな」

「油断大敵って奴だな……ま、向こうも色々あったみたいだから、今夜はもう大丈夫だろ」

ジュリアと互いに労い合う……実際、俺が色ボケなければもっと早くに気付けた筈なんだ。
やはり自重するべきなのか……。
いや、結局タイミングなんだよなぁ……そもそも原作知識がある俺なら、ある程度は予測出来る筈だろ?
次があるなら、タイミングには気をつけよう……うん。
次があればだけど、な。

「お〜〜いっ!!」

そこにゼノス達がやってくる……エリオットも一緒だ。

「大丈夫だったかい?」

「ご覧の通り……」

アリオストの問いに答える様に、周りを指し示す。
そこには蓑虫になった敵兵の皆さんが転がっていた。

「成る程……まぁ、俺はお前らなら心配する必要はねぇと思ってたがな?」

「兄さんったら……でも、本当に無事で良かったです」

ニッと笑いながら、信頼を現にしてくれるゼノスと、本当に嬉しそうに安心しているカレン。

……い、言えん。
寸前までジュリアとチョメチョメ(未遂)していたなんて……あぁ!そんな温かい眼差しを向けないでっ!?
オッサン直視出来ないっ!!

「まぁ、何はなくとも撃退したんだ……今夜はもう攻めては来ないだろう……皆は安心して休んでろよ」

「?シオンさんはどうするのですか?」

「俺は朝まで起きてようと思う。もう今夜は敵は来ないとは思うが……万が一が無いとも限らんからね」

原作においては、これ以上攻めては来なかったが、原作より展開が早く、細かい展開の変化が起きている以上、どんなイレギュラーがあるか分からないからな……何よりこの世界は【現実】なのだから……原作知識なんて、簡単な指針にしかならないだろう。

「幸い、俺は徹夜くらい屁でもないしな」

「では、私も……」

「ジュリアンは司令官だろ?なら、明日に備えて寝とけって」

俺がそう言うと、ジュリアは渋々頷いた。
まぁ、色々思う所はあるだろうが……あんな夜襲を受けて尚、ピンクタイフーンを噴き荒らすのは俺には無理。
……では無いが、論理的に言って司令官が寝不足になるのはよろしくない。


その後、皆それぞれに割り振られたテントに戻って行った。

俺も俺に割り振られたテント内へ。
俺は皆に言った通りに起きている。

元々、眠れなかったワケだがな……。

『ま、まい……ますたぁ……♪』

ジュリアの痴態が頭を過ぎり……。

「――眠れるワケねぇだろうがああぁぁぁぁぁぁっっ!!!?」

ゴロゴロゴロゴロゴロッ!!

テントにサイレントを掛けているのを良いことに、叫びながら七転八倒する俺……しゃーないやん!!
俺の記憶に!鮮明に!!
焼き付いちまったんだからあぁぁ!!
憎い!忘れることが出来ない記憶力の良さが憎いいいぃぃぃぃぃ!!

ジッタンバッタンッ!!

「俺だって、勇気を出したのに……自己暗示まで掛けて頑張ったのにいぃぃぃぃ!!?何か!?世界はそんなに俺が憎いんかああぁぁぁぁ!!?」

ギュルルルルルルルッ!!!

一通り鬱憤を晴らす為に叫んだり、奇行を行ったりした。
普段の俺にしたら珍しい……というか、絶対にやらないことなんだが。
余程、溜まっていたんだろうなぁ……色々と。


「ハァ……ハァ……」

ようやっと落ち着いた俺は、大きく溜め息を吐いた。

「何と言うか……それを言う資格って、俺には無いんだよなぁ……」

ジュリアにしろ、カレンにしろ……グゥレイトォ!!な程に鈍感だった俺に対して、同じ様な想いを抱いていた筈だし……。

でなければ、あんな同盟を組んだりしない筈だしな……。
仕方なかったとは言え、酷かったよな……俺は。
想いを告げられても、その記憶をリセットしていたワケなんだから。
まぁ、今はそんなこと無いんだが……アイツらは何で俺なんかを好きになったんだか。


俺なんかより良い男なんて、幾らでもいるのになぁ……。
気持ちを聞いているとは言え、未だに不思議に思う時がある……。

だが、まぁ……それだけ想われているなら……ソレに答えなきゃな。

そんなことを考えながら、俺は夜を過ごしたのだった……。
ちなみに、考えてばかりでは身体に悪いので、新しい魔導具の開発とか、いつもの修行とか色々していたのを明記しておく。

**********

朝……朝食を摂った後、再び集まる俺達。

「さて、とりあえず俺たちの任務は終わりだな」

「あぁ。後はカーマイン達に合流するだけだな」

向こうは向こうで、苦労しているかも知れないからな。

「行くのか……?」

「ああ。近いうちに合流することになるだろうケドな……決戦時には、俺達も駆け付けるさ」

ニッ!とナイススマイルを向ける。
すると、ニコッ!とビューティフルスマイルを返してくれるジュリア。
顔真っ赤だけどな……ニコポ乙。

「シオンさん、顔赤いですよ?」

……うん、俺もニコポ乙。
だから、カレン……そんな仕方ないですね……的な優しい瞳を向けないでっ!?
むしろジト目で見られた方が精神的に楽だってばよ!?
相変わらず、この身体は恋愛原子核で出来ていた……ということですかコノヤロウ!?

「それじゃあなエリオット……頑張ってな?」

「ハイ、皆さんもお気をつけて!」

こうして、俺達はジュリア達と一先ず別れたのだった。
さて、カーマイン達はどうなっているのやら――。

*********


朝――目を覚ました俺達は、再びバーンシュタイン革命軍の陣地へ向かい進んで行く。

……とは言っても、何故かシュッツベルクから少し進んだ先にある高原に陣取っていたので、直ぐに到着したのだが。

そこで陣の中央……1番大きなテントが立つ場所に向かった。
そこでは、それぞれ代表者らしき者達が、何やら会話……いや、話し合いをしていた。

「あ、ベルナード将軍だ」

「あちらの白髪の御仁がダグラス卿……ジュリアンのお父さんだね。で、あちらの女性がアンジェラ様……エリオット君のお母さんだ」

目敏くベルナード将軍を見付けたティピ、そしてラルフが説明してくれた。
俺やルイセはダグラス卿たちとは面識が無いからな……正直その説明はありがたい。

「……あの男は?」

「あの人はレイナード・ウォルフマイヤー卿……つまり、シオンのお父様ね」

ウォレスが指し示した茶髪の男……リビエラの説明ではシオンの父親らしいが……。
成る程、どこと無く似ているな。
あの青い目は親父さん譲りな訳か。

「ん?君達は……」

どうやら、件のウォルフマイヤー卿が気付いた様だ。
それに釣られて、彼らの視線が俺たちに向けられる。

「我々はローランディアから派遣された者です」

俺たちは事情を説明する。
バーンシュタイン革命軍が攻めあぐねており、何者かに妨害されているのでは……と考え、その原因の調査と解決に乗り出したことを……。
そして二手に別れ、ジュリアンとエリオットには、シオンたちが向かったことを。

「そうだったのか……」

「もしやとは思うが、こんな所で本陣を設営しているのは、敵の妨害があるからじゃないのか?」

ウォレスの言う様に、時間的にも、こんな所に陣地を敷くのはおかしい。
幾ら、敵が手強いとしても……本来なら、もっと進んでいても良い筈だ。

「実は、この先の川でモンスターの集団が暴れており、これ以上進めないのだ」

「モンスターの集団?」

「どういうワケか、奴らは川を越えようとすると襲い掛かってくる。倒しても倒しても次から次に沸いてくるのでな……我々も手を焼いている」

「だがモンスターが暴れている以上、リシャール王の差し向けた軍隊も、こちらに来られないでいる。それが幸いと言えば幸いだが……このままでは士気にも影響が出るからな……何とかしたいのだが」

ダグラス卿の言葉に首を傾げるティピ。
そして、続けて説明するベルナード将軍とウォルフマイヤー卿。

確かに、このまま放置していては士気に影響が出るな……。

「そ「よし到着!!」……!?」

俺が口を開こうとした時、突然……そう、突然…人の気配が現れたのだ。
そこに顔を向けると。

「アロ〜ハ〜〜♪」

スチャッ、と手を掲げてこちらに挨拶するシオン……って、あろは?
何だそれは?

「こっちの任務は終わったぜ?」

更にゼノスたちまで……向こうは滞り無く終わったらしい。
……それはともかく、急に気配が現れると、少し驚くな。

***********


ジュリアの陣から、瞬転で飛んで来たら……何故か皆さん目が点になってらっしゃったので、フレンドリーな挨拶をした。
……んだけど、やはり目が点だった。

……やはり桃白○ではアカンか。
単純に、アロハという単語を知らないだけなのかも知れないが。

「お久しぶり……という程ではありませんが、お元気そうで何よりです。父上」

「ああ、お前も元気そうで何よりだ」

まずは父上に挨拶……うん、本当に元気そうだな……老いて益々盛ん……いやまぁ、父上だしなぁ。
で、俺達の状況を報告……グレンガルが邪魔をしていたが、コレを打倒したこと、ライエルの夜襲……それを退けたことを。

「それと、どうやらリーヴス卿が離反した様で、合流する為、こちらに向かっているらしいのです」

「何だと……?」

俺の報告を聞き、父上とダグラス卿が僅かな動揺を現にする。
まぁ、リシャール王とリーヴス、そしてライエルは身分を超えた親友同士であるのは周知の事実だからな……何か裏があると考えてもおかしくは無いだろう。

続いて、父上達……そしてカーマイン達の状況を聞く。

父上達は最初こそ、この高原での戦に勝利したものの、この先にある川を渡ろうとすると、モンスターが邪魔をして先に進めないのだとか……。

モンスター使いですね分かります。
ってか、案の定奴の気を感じるし……。

……あの野郎、まだ懲りて無かったか。
初めて奴らのアジトを潰して以来、暇を見付けては瞬転で奴を追い掛けてアジトを壊滅していったのだが……。

(休暇が終わり、皆が寝静まった時などに行動を起こしていたらしい)

で、カーマイン達だが……。

「……今、なんつった?」

「えっとね?」

もう一度詳しく説明を聞く……いわく、インディ・ジョー○ズイベントは起きてしまったらしく、それを実行したのが仮面の騎士。

で、あわや大岩の下敷きになる所を、不思議なことが起きて助かったとか……。

うん、パワーストーン乙。

そして、カーマイン達に助太刀した者が居た……その名はヴェンツェル。
かつてバーンシュタインの宮廷魔術師長を勤めたサンドラの師。

うん、ボスヒゲ乙。

仮面騎士を倒したカーマイン達……かろうじて生き残った仮面騎士の仮面をウォレスが剥いだ。

うん、顔バレ乙。

で、その後ボスヒゲにリシャールは複製人間とか、ゲヴェルに関するアレコレなど色々聞かされた……と。

話を要約するとこんな感じなんだが……。


………頭痛ぇ………。


今まで、敢えてやらせまいとしていたことが、未然に防いでいたそれが……一気に。


orz


気分的にはこんな感じですよ俺は。
まぁ、表情には出さないけど……。

ちなみに、リシャールの正体を聞いてアンジェラ様は愕然としていた……当たり前だな。
自分の息子だと思っていた者が偽者で、しかも純粋な人間では無いと言うのだから。
父上やダグラス卿も、些かショックを隠しきれない様だ。
そこからカーマイン達への質問タイムとなったのだが……。

「不思議なことが起こったって言っていたよな?その時に何か変わったことは無かったか?」

「変わったこと…か?……あの時は、無我夢中だったからな……気付いたら光の壁が出来ていて……岩を弾いて…………そう言えば、あの時この指輪が光った様な……」

俺の質問に答えるカーマイン……正直、ここでパワーストーンのことを隠していても、あまり良いことは無い。
なので、自発的に答えを促してみた。

……決して、パワーストーンが使われたのを認めたく無かったワケじゃあない。

……確か、原作だと指輪に付いてるパワーストーンの使用可能回数は大体五回……まぁ、叶える願いによって使う力の量が違うのかも知れないが。

「指輪って……おい、その指輪は…!」

「どうしたの兄さん?」

どうやらゼノスが気付いたらしい。
マジマジとカーマインの指輪を見ている。

「間違いない……パワーストーン!成る程な…それでその落石も防げたのか……」

「何なの?そのパワーストーンって?」

「パワーストーンは、持ち主の意思を反映して自然界の法則を曲げてしまう秘石だ。親父が似た様な物を持っていたのを覚えてる」

一人納得しているゼノスに、リビエラが疑問を向ける。
ゼノスは説明する……パワーストーンの起こす奇跡と、その反動を。
パワーストーンは持ち主の意思により、奇跡を起こすが……その反動もあるのだと。

「反動は何時いかなる形で起きるか分からない。自分自身に降り懸かることもあるらしい……今回は運が良かっただけだろうな」

結論、なるべく使わない様にしよう……ということに。
これはこの場に居る皆の総意でもある。

しかし、何処で指輪を手に入れたか聞かないんだな……ゼノスは。
まぁ、これが完璧に親父さんが持っていた物と同じなら……分からなくはないが、記憶が風化しているのだろう。
何と無く似ている……くらいの感覚なんだろうな。
だから追求する要素としては足らないと判断したのかも……。

それはともかく……あの陰険モンスター使いをどうにかせねばな……。

「父上、暴れているモンスターに関してですが……一つ心当たりがあります」

「何?シオン、それは本当か?」

俺は父上の問いに頷いてみせる。
その後、ラルフに目配せをする。
ラルフもコクリと頷いた。

「どういうこと……?」

「モンスターが集団で暴れている……そして川を越えようとした時のみ攻撃してくる……野性のモンスターにしては統率が取れ過ぎている。
これは何かおかしいと思わないか?」

ルイセの問いに問いで返す俺。
これは皆に対して問うているんだけどな。

「まさか……モンスター使い!?」

「流石リビエラ……ご名答!」

俺はウインクをしながら片手の指を銃の形にして、リビエラに向けて……BANG!ってした。
……臭いアクションだと自分でも思います。

なのに、リビエラさん……そんなズキューーンッ!って感じに赤くなられると……オッサン漲ってしまうのですが?

「だが、近くに風を利用する場所も無い……どうやって操ったというんだ?」

「それは分からない……だが、何かしら方法があるんだろう。憶測だが……風では無く、水を利用した……とか」

疑問を浮かべるウォレスに、俺の考えを述べる。
というか、原作だと正にそうなんだが。

「水を利用する……そんなことが出来るのか?」

「モンスター使いは、モンスターが好む粉の匂いを使って操るだろう?ならば、匂いを届ける手段は何も風でなくても良いんじゃないか?例えば……川上から流すとか」

「成る程ね……確かにそう言われれば、モンスターが川で暴れているのにも納得出来るね」

俺の意見にウンウンと頷くアリオスト。

俺は視線を父上達に向ける。

「父上、此処は我らに任せては戴けませんか?モンスターを操っている者の潜む場所に赴き、それらを廃除して来たいのですが?」

「ふむ……お前が無意味な推理をするとは思えんしな……ダグラス卿、どう思う?」

「私は、彼らに任せても良いと思う。……よもやとは思うが、シオンの言う通りならばそのモンスター使いの目的は、我らの足止めのみならず、離反したであろうオスカー・リーヴスの隊の足止めを兼ねているのやも知れんからな」

父上の問いに、自身の推測を述べるダグラス卿。
確かに、ダグラス卿の言う通りだ。
恐らく、リーヴス隊の足止めも兼ねているのだろう。
で、無ければ味方である筈の部隊の邪魔までする筈が無いのだから。

原作では陣内にて、ガムラン自らがアンジェラ様暗殺に乗り出しているが……アンジェラ様を暗殺する為なら、むしろ戦場の混乱を利用した方がやりやすい筈だ。
まぁ、その場合差し向けられたシャドー・ナイトは無事では済まないだろうが……。

と、なればダグラス卿の考えはかなり的確な物である……と、同時にリーヴスが離反したという情報に一定以上の信憑性が生まれた……ということにもなる。

要するに、リシャール側の考えはこうだ。

リーヴスが裏切り、こちらに付こうとしている……それを知ったリシャールはシャドー・ナイツに妨害をさせた。
リーヴスがこちらに合流するのに選んだ最短ルート……川を渡るルート。
それを利用し、モンスター使いが妨害……リーヴス隊の合流を防ぎ、オマケに革命軍の動きも封じる。
ついでに、アンジェラ様を暗殺して士気を低下させ、更には足止めされているリーヴス隊をモンスターと追っ手で挟み撃ちにして壊滅させる。
一石二鳥ならぬ、一石四鳥を狙った物だろう。

だが、そうは問屋が卸さないという所を見せてやらないと……な。

「分かった……お前達に任せよう。こちらは、モンスターの見張りや周囲の警戒のため、兵を回せないのでな……すまないが頼む」

「了解しました。父上」

こうして、俺達はモンスター使い打倒に向かう……っと、その前に。

「そういえば、母上は?それにオズワルド達もですが……」

「リースか?リースなら負傷した兵の治療をしている。衛生兵を仕切っているのはリースだからな。オズワルド達は周囲の哨戒に当たっているよ」

成程……皆も頑張っているんだねぇ……なら、俺も頑張らないとね!!

俺達はまず、現場である川に向かった……そこには犇めき合う程に群れた、水性モンスターの群れが。
ちなみに、この水性モンスターの見た目は ロブスターに足を生やした様な感じの……人型?
まぁ、恐怖!ロブスター男!!……みたいな感じを想像してくれたら分かり易いと思う。

なお、某ロマサガ3にロブスター男みたいな奴が出てくるが……あれをもっと海老っぽくした感じと言えば分かるかも知れない。

「やはり作為的なものを感じるな……」

「……ええ、あのモンスターはあれほどの群れで行動する様な習性は持っていない筈……」

ウォレスとアリオストが、それぞれ意見を言う。
そんな中、俺は……。

「アレな?茹でると結構イケるんだぜ?」

「!!?食ったことあるのかゼノス!!?」

「ああ…傭兵やってた時に襲われてな……返り討ちにした時に。海老っぽいからイケるかなぁ……と」

「う、嘘でしょ兄さん……?」

ゼノスの衝撃の告白に、驚愕を隠せない俺とカレン……いや、話を聞いてた全員がそうだ。

「味噌がまた珍味なんだよ、味噌が!」

「海老っぽいから、案外焼いてみても美味いかもなぁ〜」

とか言っちゃうゼノスはかなりの猛者だと思う。
……まぁ、俺もチラッと考えたことはあるケドなぁ……実行しちゃう奴は相当勇気があると思う。
もしくは相当の変人。

まぁ、淡水生物だからロブスターというよりザリガニに近いんだろうが……水が綺麗だから無問題らしく、泥臭いということが無いらしい。

……ヤバイ、ちょっと食ってみたいかも。

それはともかく、改めて調査を再開する俺達。
源流が怪しいのでは……と言う憶測を元に、川を遡ることに……。
しばらく進んで行くと、そこには大きな洞窟が……源流は此処から流れて来ているらしい。

「こんな所に洞窟があるの……」

「鍾乳洞って奴だね……」

ルイセは関心した様に呟き、そんなルイセにラルフが説明していた。

「川はこの洞窟の中から流れ出しているみたいですね」

「益々怪しいわね……」

アリオストの意見に頷いてから意見を述べるリビエラ……。
そんな時――。

「みんな、あれ!」

ティピが指し示した先……洞窟の中から現れたのは、数十のモンスターの群れと……。

「……大鷲……」

「あの大鷲は確か……あの時の!?」

ルイセはその存在に呟き、カレンは見覚えのあるソレに目を見開いている。

「やっぱり、アイツみたいね……」

「あぁ……しかも、案の定気当たりが通じない……操られているな」

リビエラは奴の存在を確信していた。
俺は全力メンチビームをモンスターに喰らわせた。
だが、一瞬反応しただけで後はびくともしない。
俺のメンチビームは、全力だと耐性の無い奴はショック死する程に強烈なんだが……。
ちなみに、空にいる大鷲にはメンチビームを飛ばしていない。
アイツは操られているワケでは無いし、な。

「さて、大歓迎されてるみたいだが……どうする?」

「決まってるぜ……蹴散らして先に進むのみだ!!」

「そんじゃまぁ……行ってみましょうかね!」

カーマインの問いに勢いよく答えたゼノス。
気当たりが通じない以上、やるしかねぇ……そんじゃまぁ……やりますかっ!!

**********


くくく……私の可愛いモンスターたちよ。
頑張って働いておくれ……。
この作戦を成功させれば私の地位は安泰……だが失敗すれば……。

「それもこれも……あの男のせいです!!」

あの男……シオン・ウォルフマイヤーは私の行く先々に現れ、その度にアジトを潰され……そのせいで私は無能者の烙印を押され、揚句には私が内通者だと叩かれる始末……。
今回の任務はガムラン様から戴いた最後のチャンス……失敗すれば私は消される……失敗は許されない!!

「さぁ、可愛いモンスターたちよ!もっと集まってきなさい!」

私はモンスターを操るための粉を源流にばらまく。
くくく……これで。

「……成る程な。川の流れを利用して、粉を流していたのか……大方シオンの推測通りだな」

「!?誰です!?」

「俺たちを忘れたってのか?」

「お、お前たちはっ!?」

そこに居たのは憎きシオンとその仲間たち……はっ!?奴らが此処に居るということは……まさか……。

「私のラファガは………よくも……よくも我が友を!!許しませんよっ!!」

私は粉を源流にばらまく……すると水性モンスターが援軍に現れた。

「お前たち、敵討ちです!さあ、行きなさい!!」

「お〜っと待ちな!話は最後まで聞きなさいな……コレが見えないのか?」

アレは憎きシオン……その手に持っているのはロープ……その先には……!?
ま、まさか……。

「ラ、ラファガ!!」

ラファガが、ロープで縛られている……!?

「動くなよ?動いたらお前の友達がどうなるか……分かるよな?」

***********


ハイ、ただいま俺は交渉という名の脅迫をしております。
というのも、洞窟入口の戦闘の時に話を戻すことになるんだが……。

大量のモンスター部隊……だが、俺達の相手としてはしょぼかった。

程なくしてモンスターを壊滅した後、残った大鷲にメンチビーム。

案の定ガクブルで戦意喪失。
そこを捕まえて交渉材料にして、ここまでやって来たというワケ。

「ひ、卑怯な……人質を取るなどと!?」

「卑怯〜?シャドー・ナイトのお前には言われたく無いのぅ?」

「く……うぅ……」

俺ってば、気に入らない奴相手には、どこまでも冷徹に、鬼畜になれる人だからさぁ!

「だぁはっはっはぁっ!!この大鷲を無事に返して欲しくば、今すぐモンスターを退けいっ!今すぐ!直ぐさまにっ!!」

「そんなこと……出来るワケが……」

「ほほ〜ぅ?そうかそうか……ゼノスよ?大鷲を美味く食うにはやはり焼鳥かのう?」

「ん〜、大鷲は肉食だからな……結構臭みがあるんだよ。だから、食うならしっかり臭みを取ってからだな……まず羽と皮を剥いで、内臓を取り出してからニンニクなんかの臭み取りを………」

「や、止めて下さい!!そんなことはぁ!!?」

俺の問いに平然と答えるゼノス……そんなゼノスに悲鳴をあげるモンスター使い。
大鷲はめがっさガクブルしていたが……まぁ、無視。

「おやおやぁ〜?お主はこの大鷲を救うことは諦めたのであろう?流石は冷酷非情のシャドー・ナイト様……いやはや関心してしまうよ。だがそうなれば、この大鷲を如何様に料理しようとこちらの勝手の筈……何しろお主は、見捨てたんだからのぅ?」

ぬぁはっはっはっはっ!!
と、馬鹿笑いをする俺。
気分はすっかり太公望(藤○版)……俺の尊敬する軍師は某同盟の魔術師だが……好きな軍師は太公望(○崎版)だ!
文句あっか!?

「わかり……ました……」

「ん〜〜?聞こえんなぁ〜〜?」

「分かりました!!モンスターは退けます!!だから、ラファガだけは……!」

「全く……最初から素直にそういえば良いモノを……」

交渉?の結果、約束通りモンスターを退かして貰った。

「先生……悪い人みたい……」

「シオンさん……」

男性陣には受け入れられたこの作戦も、女性陣にはちょい不評だった……リビエラは例外で理解を示してくれたが。
血を見ずに解決するなら、そっちのが良くね?
皆、俺の本音を理解してくれてるからか、嫌悪はされなかったみたいだが……これで嫌われたら泣くよ俺?

「で?間違いなく川に群れてたモンスターは居なくなったんだろうな?」

ウォレスがモンスター使いに聞く。
この場のモンスターは散って行ったが、川の奴らは此処からじゃ分からんからな……まぁ、気を読んだ限りじゃあ嘘をついてはいないと思うが。

「確かに……確かに退けましたよ…ですからラファガを……」

「ああ、そうだったな……ホイ」

俺はロープを解いて、大鷲を離した。

「ラファガアアァァァァ!!」

するとモンスター使いは大鷲に抱き着いて泣き出した。
少〜し良心回路がチクリと痛む光景だな……。

「まぁ、コレに懲りたらもうシャドー・ナイトは抜けることだな……行こうぜ皆」

俺は皆を促してこの場を去ろうとする……だが、その前に。

「ああそうだ……警告しておく……俺に復讐しようとするのは良いが、下種な真似をしようとは思わないことだ……その場合、後悔したくなる様な無惨な最後をくれてやる……」

それを告げると、俺達はその場を後にした。
ハッタリでは無いことは……散々アジトを潰されたアイツなら、理解出来るだろう。

*********


情けを掛けられた……哀れまれた……この私が……!!
だが、それもラファガを取り戻す迄だ!!

必ず復讐してやる……!!

……そう思っていた筈なんですがね。

「…………」

「分かっていますよ……ラファガ」

彼が去り際に言い残した警告……。

『……警告しておく……俺に復讐しようとするのは良いが、下種な真似をしようとは思わないことだ……その場合、後悔したくなる様な無惨な最後をくれてやる……』

彼ならやるでしょうね……尋常じゃない殺気でしたから。
あんなのを相手にしてたら、命が幾つあっても足りませんよ……。

「それに、私にはラファガ……お前が側に居ればそれで良いんだ」

「………」

ラファガは私を気遣う様に寄り添ってくれる。
……どのみち任務に失敗した以上、シャドー・ナイツには居られない。
ならば、何処か山奥にでも行って生活しましょうかね……。

唯一無二の友がいる……それ以上何を求めるというのか……。

「では行きますか……新天地へ……何、お前と私なら行けますよ。何処までもね?」

お前と一緒なら何処までも……例え大空とて羽ばたけるのだから。

**********


洞窟から外に出ると、バーンシュタイン兵がやって来た。

「ここにいらっしゃいましたか!」

「慌ててどうしたんだ……?」

「橋のモンスターがいなくなったので、進軍しようとしたところ、対岸にインペリアル・ナイトが現れたのです!」

今現在、父上とダグラス卿……それにベルナード将軍が部隊を率いて睨み合いになっているとか……まぁ、離反云々の話はしたが罠の可能性も考えたのだろうな。
父上のことだから、見定めるつもりだろうが……。

「分かった……俺達も行こう」

こうして俺達は橋の元へ。
そこでは、部隊を展開した両軍が睨み合いをしていた。

「君たち、戻ってくれたか」

「状況は?」

「ここに群れていたモンスターに変化が見られたので、すぐに部隊を集結させておいたのだ」

「するとモンスターは徐々に姿を消したのだが、ここで足止めをくらっている間に、バーンシュタイン軍が対岸まで来ていたんだ」

ウォレスの問いに答えたのは、ダグラス卿とベルナード将軍。
どうやらあのモンスター使いも分かってくれたみたいだな……まぁ、先のことは分からんが。

「ダグラス卿!リーヴス将軍が1人で橋を渡ってきます!」

「1人で?」

見ると、兵の言う様にリーヴスが悠然とこちらに向かって来ていた。

「と、止まれ!」

「慌てるな。話し合いに来た。そちらの代表を呼んでもらおうか」

成程……丸腰か……。
父上も気付いたみたいだな……どうやら父上が話し合いに応じる様だ。

「一応、私がこの部隊の総司令ということになっている」

「これはウォルフマイヤー卿。お久しゅうございます」

「うむ、久しいなオスカーよ……だが、積もる話は置いておいて本題に入ろう。部下たちが神経質になっているので……な」

父上とリーヴス……二人は先輩後輩の仲だ。
父上はダグラス卿が引退してからも、暫くはナイツを勤めていたからな……リーヴスに限らず、ライエルやリシャールにも言えることだが。

「……では単刀直入に伝えましょう。我が隊は貴殿らと戦う気はございません。逆に貴殿の配下に加えていただきたい」

「……理由を聞いても構わないかな?」

「…私はインペリアル・ナイツとして国王陛下の身近にいた者です。しかし最近の陛下は、すっかり変わってしまわれた。そんな折り、あの陛下は真っ赤な偽物であると、貴殿らは反乱を起こされた。それだけならまだしも、アンジェラ様までが貴殿らを支持している。……母が実の子を見間違えるはずがありません。私は真実が貴殿らにあると判断し、インペリアル・ナイツとしての使命を果たすべく、ここへ参上しました」

ふむ……確かに正論だな。
まぁ、そこに至るまでに色々な葛藤があったのを、俺は知っているがね。

「それでは協力していただけるのですね?」

「アンジェラ様……」

「これはアンジェラ様……」

話し合いの場に参加したアンジェラ様。
やはり王母なだけあり、二人とも畏まってるよ……まぁ、当たり前なんだが。

「失礼を承知で、お伺いしたいことがございます」

「なんでしょう?」

「本当に陛下は偽者なのですね?世を乱す王を討つため、嘘をおっしゃっているわけではないのですね?」

「いろいろと心配をかけたようですね。しかしもう心配はいりません。今、王位についている者は幼少の頃すり替えられた偽者。本当の息子は、今ジュリアン将軍と行動を共にしています」

アンジェラ様の話を聞き、頭を下げるリーヴス卿……覚悟が決まったのか。

「先程の無礼をお許し下さい。私、オスカー・リーヴス。騎士の名に賭けて、忠誠を尽くすのは真の王のみでございます。あなた様に協力をさせていただきたく存じます」

「ウォルフマイヤー卿。私は彼を信じても良いと思います」

「私もそう思っておりました……彼を信じましょう」

「ありがとうございます」

アンジェラ様の言葉に頷く父上。
どうやら、俺達から情報を貰った時点で、ある程度は決めていたらしいな……。
文字通り、見定めていたのだろう。

「どうやら、こちらは心配しなくても良いようだな……」

ダグラス卿が溜め息と共にそう言う。
まぁ、父上やアンジェラ様があっさりとリーヴス卿を信じたからな……もう少し疑えよ……的な意味も込めているのだろう。

「君たちは確か……」

リーヴス卿はどうやらカーマイン達のことを覚えていたらしい。
原作とは違って、戦場で合見えていない分、印象は薄いと思ったんだが……。

「彼らがエリオットを連れてきてくれました。戴冠式の席で、グレッグ卿がリシャールに斬り掛かったことは、全くの狂言。あの場にいた私が、証人です。バーンシュタインもローランディアも、本当は戦う必要はないのです。真に倒すべきはリシャールと……その背後で糸を引く者」

「そうですね。早く元の平和な世界を取り戻しましょう」

気丈に振る舞うアンジェラ様だが……本当は辛い筈だ。
幾ら偽者だとしても、人じゃなかったとしても……14年間、親子として過ごしたのだから。

「久しぶりですね、リーヴス卿」

「やぁ、シオン。元気そうだね?」

とりあえず、俺は挨拶しておく。
そして簡単な世間話をする……。

「そういえば、ジュリアン将軍の元に赴いた際、ライエル卿と一戦交えましたよ」

「そうか。彼は頑固だからね……偽王だと分かっても、傍を離れられなかった……気持ちは分かるけどね」

「…………どっちが頑固なんだか」

「?なにか言ったかい?」

「いえ何も?」

なんて会話をした後、リーヴスは部下に事情を説明して、父上達とこれからの行動を話し合うらしい。

とりあえず、俺達は本陣のテントに泊まって行くことになった。
というのも、時間が夕刻に差し掛かったからであり、父上達の奨めでもあるからだ。

夕食時……。

「ようお前ら!元気でやってるか?」

「頭!まぁ、見ての通りですよ!」

オズワルド達と再会して、話に華を咲かせたり……その際に青髪の双剣士の話を聞いた時には、思わず噴いてしまったがな。

「結構腕を上げたみたいだな?」

「そりゃあ、実戦で鍛えてますからね!」

「訓練も疎かにしてないっすよ!」

「俺らの成長ぶり……見たら腰を抜かしますぜ?」

「いまや、この部隊の切り込み隊ですからね!」

「……ナイツクラスならともかく、一般兵に遅れは取らない」

「ほ〜〜う?ならどれだけ腕を上げたか、俺が直々に見てやるよ」

「「「「「…………え?」」」」」

その後、実力を確かめるという名目でオズワルド達と5対1の模擬戦をしたり……(オズワルド達はその日一日、使い物にならなくなった)。

「ねえねえ〜〜二人ともシオンとはもう………した?」

「そそそそんなこと……」

「まだ、って言うかその……」

「もう!ダメよそんなんじゃあ……あの子は奥手な所があるから、1押し!2押し!3に押し!!くらいの勢いで迫らないと……にしても、こんな可愛い女の子たちに手を付けないなんて……シオンってばヘタレ?ハッ!?もしかしてあの若さで不の【ガシッ!!】……う?」

「……お元気そうで何よりです母上」

「ア、アハハハハ……シ、シオンも元気そうじゃない♪お母さん安心したゾ♪それであの……この頭を掴んだ手を離して貰えると、母さん凄く嬉しいんだけど……ダメ?」

「………少し……頭冷やそうか?」

ゴリィッ!!

「みぎゃ!!?」

お喋りな母上を物理的に粛正したり……(リーセリアはその日一日、使い物にならry)その際、周囲の人々がガクブル状態になったが……中には気絶した者も……。

「ごめんなさいごめんなさい……っ!もうしません…もうしませんからぁ……っ!!」

「お仕置き怖いお仕置き怖いお仕置き怖い……」

近くに居たカレンとリビエラが、トラウマスイッチが入ってエラいことになっていたが……。
俺自重。

**********

そして仮眠を取った後……俺達は夜中に目が覚めた。

「とりあえず、俺達の任務は完了だな」

「ああ、明日の朝一番に帰って陛下に報告だな!」

カーマインとゼノスが言う。
まぁ、確かに差し迫ってやるべきことは無いからな……。

「?……シ、シオンさん…そんなに見つめられると……恥ずかしいです……」

「ああ、悪い悪い……つい、な?」

カレンもシャドー・ナイツの魔手に晒されなかったし……。

「あら、みなさんこんな所で何をしているんですか?」

「アンジェラ様……」

「寝付けなかったので、少し話を……アンジェラ様は何故?」

アンジェラ様に声を掛けられて、ルイセは少しびっくりした様だ。
まぁ、ルイセ、カレン、アリオスト、ティピ以外の面子は気が付いていたみたいだが。
カーマインが、アンジェラ様が此処に来た理由を尋ねる。

「私は息子のことを考えていたら、こちらから声が聞こえたので……」

「大丈夫です。きっと上手くいきますよ!」

ルイセはアンジェラ様を励ましているが……恐らくアンジェラ様が考えているのはエリオットのことでは無いのだろうな……。

「あとのことは我々に任せて、アンジェラ様はお休みください」

「頼もしいですね……では後少しだけ、散歩でもしながら、お話をしませんか?」

「はぁ……」

ウォレスの言葉に、散歩をしながら話そうと提案したアンジェラ様。
ティピが気の無い返事を返したが、それも仕方ないことだろう。
結局、断る理由も無かったので皆で散歩をすることに……。

……どうやら何人かは気付いてるな。
薄汚い殺気が漂っていることに……。

「シオン……」

「ああ……分かってる」

ラルフと簡単なやり取りをしていると、大きめの桟橋までやってきた。
橋の間は深い渓谷になっており、その下に川が流れている様だ。

「あ、こんな所にも川が流れてたんだ」

「向こうへ行ってみましょう」

本来なら迂闊者も良いところだが、これは逆にチャンスだからな。
それに、アンジェラ様の愚痴も聞いてやらなきゃな……立場上、普段は言えないこともあるだろうから――。

俺達が進んだ先には、広場の様になった場所があった。

南は崖で、周囲は森に囲まれている。

「うわ、広ぉ〜い……」

「よし、ルイセちゃん!向こうまで競争しよう!」

「面白そうね……私も参加させてよ」

「それじゃ、僕も参加させてもらおうかな」

「良いだろう……真の最速って奴を教えてやるぜ!」

上からルイセ、ティピ、リビエラ、アリオスト、ゼノスだ。

って、アリオスト、ゼノス……お前ら良い歳して……少年の心を忘れないんですね分かります。

「それじゃ、よーい、ドン!」

ティピの合図と共にバビューーンと走って行った。
お、ティピやアリオストが意外に速い……。

「彼女、ルイセさん、と言いましたね?」

「ええ……妹なんです」

「あなたの妹さんなんですね……あの子と同じくらいの歳ですよね」

アンジェラ様の問いに答えたカーマイン。
……アンジェラ様はやはり……。

「エリオットのことですか?」

「いいえ。リシャールのことです」

「ああ……」

それだけでウォレスは理解した様だ……アンジェラ様の苦悩を。
人生経験が濃いからな……ウォレスは。

「私はまだ半信半疑なところがあるのです。まさかリシャールが、偽者だったとは……」

「アンジェラ様……」

「王位についてからの彼は今までとはまったく変わってしまいました。しかし、それまでの14年間はまぎれもなく親子だったのです。そこへ本当の息子というエリオットが現れ、リシャールを倒すべく、ウォルフマイヤー卿、ダグラス卿と兵を起こした。そして自分もそこに身を置いているなんて……誰かに騙されているようにも、長くて悪い夢を見ているように思うときもあります」

まぁ、それが普通……いや、母の心境という奴だろう。
この人が優し過ぎるというのもあるのかも知れないが…な。
リシャールが純粋な人間では無いと理解した今でも、息子として想ってしまう彼女の……。

「でも、エリオットにはアンジェラ様の知ってる火傷の跡があったし、それにヴェンツェルさんだって……」

「ティピ。アンジェラ様の気持ちも察してやれ。例えば、カーマインがいきなり、俺たちの敵に回ったら、お前はどうするよ?」

「……う…それは……」

「俺たちの味方をするか?それともコイツについて、敵に回るか?」

「…そ…その……あう……」

「それが今のアンジェラ様の心境だ」

ウォレスの例題は意地が悪い物だが、それでも的確な物だ。
流石にKYだったティピも、慌てて頭を下げた。

「……ご、ごめんなさい、アンジェラ様!」

「気にしてはいませんよ。それよりも、実際に戦うあなた達にこんなグチをこぼしてしまった、私の方が悪いのですから……」

アンジェラ様はそう言うが……俺は納得がいかない。
アンジェラ様は悲しそうに微笑んでいたのだから……。
だから言う。

「――リシャール王は間違いなく、貴女の息子ですよ……貴女の感じた14年間は、偽りでは無い筈です」

「え……?」

「確かヴェンツェル……だっけ?そいつの話だと、ゲヴェルとリシャールはテレパシーか何かで繋がってるんだよな?」

俺はカーマイン達……ボスヒゲとエンカウントしたメンバーに聞く。

「そうきいてるけど……」

「――なら、ゲヴェルに操られている可能性も――無くはないよな?以前のイリス達みたいに、な」

俺はイリスとミーシャ……そしてクソヒゲを例題に出した。
それを聞いて、皆はあっ……という表情をした。

気付いて無かったのかよ?

「無論、これは可能性の話です……最初から演技をしていた可能性も無いとは言えません……あ〜、私が何を言いたいのかと言うと………要するに、本物も偽物も無い、どちらも貴女の息子……それで良いのではありませんか?」

「どちらも……私の息子……?」

「誰が何と言おうと、貴女がそう思えば、それが貴女の真実になる筈。むしろ、息子が一人増えてラッキー♪位に思っておきませんか?ね?」

シリアスな雰囲気から一転、場を和まそうとしたのだが……。

シーーン―――。

うわああぁぁ!?静寂が、静寂が痛いいぃぃ!?

「フフフ……そうですね。――あなたの言う通り、エリオットもリシャールも……私の息子なんですよね。そんな当たり前のことが見えなくなっていたなんて……」

――よかった……どうやら良い方向に吹っ切れたみたいだ。
今の彼女なら大丈夫……エリオットもリシャールも……きっと。

「少し冷えてきましたね……そろそろ戻りましょうか」

話を終え、何処かスッキリした面持ちのアンジェラ様と共に、陣に戻ろうとした時――。

「そうはいきませんよ」

「誰っ!?」

周囲を囲まれている……8、9、10……12人か。

「我が子に弓を引くとは、いけない母上ですね」

「!!……あなたは……」

「忘れもしねぇ、その声は、ガムランか……」

「これは、これはウォレス。なんとまぁ変わり果てた姿に」

――シャドー・ナイツマスター……ガムラン。
かつてのウォレスの同朋であった男が、俺達の前に立ち塞がったのだった――。

**********

おまけ1

もしもシオンが大人げ無かったら……。

ガキャアアアァァァァンッ!!

「ぐはぁ!?ば、馬鹿な……これほどの力を!?」

「アーネスト・ライエル……お前の敗因は一つだけ……そう、たった一つのシンプルな答え……」

俺はJOJO立ちをしながら、全力の殺気を叩き付けて宣言する。

「お前は俺を怒らせたっ!!」

ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!

――ライエル終了のお知らせ。

*********

おまけ2

かつてのライバル?

夕食時……二人の男が話をしていた。

「久しぶりだな――あの御前試合から何年経つか……」

「覚えていましたか……」

「敬語など止せ、似合わんぞ?放浪の剣士ウォレス」

「――随分な言い草だな、ウォルフマイヤー卿」

「貴殿との勝負……決着がつかぬまま終わったこと、未だに後悔しているよ」

「生憎だが、今の俺では全盛期からかなり開きがあるから、お前さんの相手は勤まらんぞ?」

「全盛期から開きがあるのは私も同じ……だが、どのみち今はそんなことをしている暇は無いからな……だが、大陸が平和になった時……暇があるならお手合わせ願いたいものだな」

「ならば、それまでに腕を磨き直さねばならないな……」

「フッ……では、その時を楽しみに待つとしよう」

この日以降、ウォレスは自主練習に倍以上の真剣さで取り組む様になり、レイナードはレイナードで剣の修練を再び始める様になった。

なお、バーンシュタインに帰国した後、レイナードの練習台になったシオンが【飛竜翼斬】以外の奥義をラーニングすることになるのだが……間違いなく余談である。

**********

後書き的な何か。

し、仕事が忙しくて中々更新出来なかったよちくせう……。
お待たせいたしましたが(誰も待ってなry)、110話……更新です!

それではm(__)m

p・s 実は過去最長文だったりします。
内容は相変わらず薄っぺらですが。
(-.-;)




[7317] 第111話―影の終焉、つかの間の休息―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/17 19:36


――世の中には、煮ても焼いても食えない奴というのが居る。

それが会社の上司だったり、学校の先生だったり……様々だろう。

世界が変わってもそれは変わらない……。
このグローランサーの世界でも同じだ。

愚王の可能性コーネリウス、死の商人グレンガル、偉大なる王族の末裔マクスウェル、偉大なる狂王であるグローシアンの王、原作に居なかったフードの男……そして……今、目前にいる男。

「何とでも言いなさい……しかし、人気の無いところまで来てくれたことには……礼を言いましょうか」

シャドー・ナイツマスター……ガムラン。
煮ても焼いても食えない……典型とも言うべき奴。

「さ、お前たち!何をするのか分かっていますね?さっさとその女を殺してしまいなさい!」

仮にも王母に向かってその女……か。
こりゃまた、随分強気だね……。

俺は別段、正義の味方というワケじゃあない。
俺自身……自分が絶対的に正しいとは思えないし。
だが、目の前のコイツは気にいらねぇ……コイツの在り方は……気にいらねぇ。
それ以上に、俺の知己……仲間を傷付けようとした。
だから―――許せねぇ。

「奴らアンジェラ様を狙うつもりよ!」

「そうはさせるか!」

ティピが奴らの目的を察して言葉にする。
アリオストを始め、皆それぞれに得物を構えた。

「これを見てもまだそんなことが言えますかね?」

ガムランがそう言うや、森に向かい火が放たれた……この火の燃え広がり方……油をぶっかけておいたな?
さて、むざむざやらせるつもりは無いんでな……!!

「ラルフ!!」

「ああ!!」

俺とラルフは火に向かい高速詠唱………それを放った。

「「『ウォーターガトリング』!!」」

ズバババババババババッ!!!

【ウォーターガトリング】

マジックアロー系統のアレンジ魔法……【ウォーターアロー】と【マジックガトリング】の合わせ技。
つまり、無数の水の矢を放つ魔法。
篭める魔力量により、圧縮率が変わる。
圧縮率を上げれば、岩をも貫く貫通力を生み、下げれば水遊び程度の威力にも出来る。
また、圧縮率に廻す魔力を分散させることで、水の矢の数を増やすことも出来る。
圧縮率のコントロールと無数の水の矢……これらの両立が出来たら魔導師としては一人前だろう。

俺達が行うことは消火……つまり、適度な圧縮率にコントロールした無数の水の矢を炎にぶつけたワケだ。

ラルフは数百……俺は数万……。
絨毯爆撃……いや、某東方の弾幕。
それらは炎を蹂躙し、瞬く間に喰い潰して行った。

「僕が手を貸す必要……あったかい?」

「念には念を入れて……って奴さ」

俺達は互いにニヤリと笑い合った。
そして、再びガムランに向かい合った。

「残念……用意周到に準備した火種も、無駄になっちまったな?」

「……フン、いずれにせよ、お前たちが此処で死ぬことには変わりありません」

「随分と余裕みたいだが……自分達が逆に追い込まれたとは考えなかったのか?」

俺は素晴らしい笑顔(皆が言うには悪い顔らしい)を浮かべながら言う。

「どういう意味です?」

「こういう……意味だよ」

俺は瞬時にマジックアローを放つ。
それはガムランの横を擦り抜け……桟橋に直撃した。
桟橋は崩れ落ち、道は閉ざされた……。

「これで逃げ道は無くなったな?」

「……あなたは馬鹿ですか?みすみす王母を危険に晒すとは……まぁ、私にとっては好都合ですがね」

「馬鹿はテメェだ……仮にもシャドー・ナイツマスターならば、俺らのことを前以て入念に調べておくべきだったな?」

そう告げた後、俺は王母の肩に手を置く。

「な、何をするのですか?」

「以前、体験したと思いますが……テレポートの様な物です」

そう、俺とルイセにはテレポート……俺には更に、テレポートのアレンジ発展系である瞬転がある。
故に、それを考慮に入れなかった時点でテメェの負けは決まっていたんだよ……。

「そんなワケで少し抜けるが……任せたぜ、リーダー?」

「……ああ、任せろ。お前が戻ってくる前には終わらせる」

カーマインの頼もしいお言葉を聞き届け、俺はアンジェラ様を伴い瞬転を発動。
本陣へと戻ったのだった。

「というワケだ……宛が外れたなガムラン」

「ぬうぅぅ……小賢しい真似を……」

「行くぞ、皆!!」

「ああ!シャドー・ナイトには散々借りがあるからな……利子つけて返してやるぜ!!」

「フン……返り討ちにしてあげますよ!」

*********

「よし、到着!」

「!?シオン……それにアンジェラ様!?」

俺とアンジェラ様は瞬転にて本陣に戻って来た……一応、父上の気を目印に跳んだのだが。

そこには父上、母上、ダグラス卿、そしてリーヴス卿にベルナード将軍が集まっていた。
何でも、明日からの進軍に関して話し合っていたらしいのだが、何やら不穏な気配を感じ、急いでアンジェラ様のテントに向かったのだが、中はもぬけの殻。
慌てて周囲の捜索に出ようとしたところだったそうな……。

ならば、グッドタイミングだったワケだ。

「しかし、コレはどういうことなんだ?」

「賊です。シャドー・ナイトがアンジェラ様の暗殺を謀っていたのです」

「何だと!?」

父上達は驚愕を現にする。
決して警備が緩くない場所に忍び込まれたのだから……当然ではあるが。
シャドー・ナイトの恐さは、父上達も知っているだろうしな。

「それで、連中は今どこに?」

「今は北の桟橋の向こうに……敵に逃げられない様に橋を落として、カーマイン達が応戦しています」

リーヴス卿の質問に答える俺。

「って、大丈夫なの?」

「心配いりませんよ母上……一緒に戦って来た俺には、彼らの強さがよく分かります。それに、俺も援軍に行きますからね」

大丈夫ですよ……と笑みを浮かべながら言う俺。
実際、俺が居なくても十分過ぎる位の戦力だ。
少なくとも、ガムラン程度がどうこう出来る程……アイツらの力は軽くない。

「皆さんはアンジェラ様を……どうやら周囲に連中以外の賊は潜んではいないみたいですが……万が一ということも有り得ますので」

「分かった、警戒を強めておこう」

俺はその言葉に頷くと、再び瞬転……その場を離れた。
まぁ、気を読んだ限りじゃあ本当に奴ら以外居ないみたいだから……念のためなんだがね。

**********

さて、再び舞い戻って来たワケだが……。

「……こりゃあ手を貸す必要は無いかな」

あれから数分程度しか時間が経過していない筈なのだが……既に勝敗は決しようとしていた。

ほとんどのシャドー・ナイトが討ち取られており、残すはガムランのみとなっていた。

「年貢の納め時って奴だな……ガムラン」

「お前たちごときが……この私を……おのれぇ!!」

ガムランは対峙していたウォレスに切り掛かる。
その一撃は魔力を宿した、一種の魔力剣の様な物で、その威力はかなりの物だ。

現に、その一撃を受け流そうとしたウォレスの特殊投擲剣の刃を、スッパリと断ち切ったのだから。
お陰で、受け流し切れずに肩を掠める様に切り裂かれたウォレス。
コレを見てガムランは勝利を確信したのか、ニヤリといやらしい嘲笑を浮かべた。

だが、忘れること無かれ……。
ウォレスの特殊投擲剣は大剣が二つ繋がった様な形状をしている。
つまり、ガムランが切り裂いた刃は、二つ付いている内の一つに過ぎないと……。

「ぬおりゃあああぁぁぁぁぁっ!!!!」

裂帛の気合いと共に、斜め下から切り上げるウォレス……。

「ぐほぁ……っ!?」

果たしてそれは、吸い込まれる様にガムランを切り裂いた……。
鮮血が飛び散る……決まりだ。
ガムランはその場から後退りし……そして。

「ぐ……私が……お前たちごときにぃ………ぐはぁ……っ!!」

渓谷から落ちて行った……。

ドボーーーンッ!!!

「……あばよ」

川に落ちたであろう音を聞き届けた後に、ウォレスはガムランに別れを告げた。
かつての同朋……例えウマが合わなくても、ソリが合わなくても……共に戦った仲間だったのだから。
だからこそ、自分の手でケリを着けたかったのだろう……。

「……終わったの?」

「そうみたいだな……」

ティピの呟きに答えるカーマイン。
周りのシャドー・ナイトも片付いたみたいだし……ガムランの気も探ったが、川に流されながらも急速に気が弱まっている。
あのウォレスの一撃も致命傷だ……助からないだろうな。

もっとも、ウォレスという前例が居るからな……まだ分からないが。
キッチリくたばってくれれば……ありがたいんだがな。

そんなことを思いながら、俺は皆に合流した。
その後、後始末……死んだシャドー・ナイトの遺体を弔った後……俺達は本陣に帰還した。

**********

本陣に戻った俺達は事の顛末を報告……。
これからは、もっと警戒を厳重にするらしい。

それから解散して、俺達はテントに戻って行った……。

そして翌朝――。

「では父上、我々は一旦戻ります」

「うむ。本来なら、お前にも残っていてもらいたいが……そうもいかんのだろう?」

「申し訳ありません……ですが、決戦の日には必ずやこの戦に馳せ参じることを誓います……全てを終わらせるために」

俺がそう言うと、父上は満足そうに頷いた。

「母上も……ハジけ過ぎて父上に迷惑を掛けないで下さいよ?」

「ひ、酷っ!?レイ〜!シオンが虐めるよぉ〜〜!!」

俺の皮肉とジト目を浴びて、母上は父上に泣き付いている……ヤレヤレだ。

「では皆さん……後のことは頼みます」

俺達は挨拶もソコソコに、ローランディアへと帰還したのだった……。

*********

―ローランディア城・謁見の間―

「戻ったな。いろいろと活躍しているようではないか」

早速、任務報告に向かった俺達に、アルカディウス王から労いの言葉とお褒めの言葉を戴いた。
ジュリアの部隊にブロンソン将軍達の部隊が合流出来たこと、そして父上とダグラス卿の部隊の妨害を阻止したこと等……王は大変満足しているそうな。

で、今のうちに身体を休める様に……と、休暇を賜った。

与えられた休暇は三日……で、本来ならある筈のクレイン村イベントだが……どうやら、色々と前倒しになった為、無くなったらしい。

まぁ、ジュリアがハッスルしたのかも知れんし……。

俺達は休暇先を申請した後、家路についた。

と、普段ならこうなるのだが……ローランディアに帰還したのが午前中だったこともあり、時間的に余裕があったのだ。
故に、そのまま休暇に突入することと相成った。

……なんか、時間的に損している気がするのは俺だけかしら……?

まぁ、そんなこんなで今回の休暇先は……。

**********

休暇一日目・王都ローザリア

「それじゃ、夕方になったらここに集合ね」

ティピのその言葉に肯定を示し、城門前からそれぞれに散って行った俺達。
さぁて……俺はどうするか……?

……ん、アレは……。

「サンドラ様」

「あら、シオンさん」

サンドラと遭遇した……それも珍しいところで。
ちなみに、此処はローランディアのお膝元である王都ローザリア。
公共の場であるが故に、俺はサンドラに対して敬語を使っている。
……これが国外や身内だけなら、敬語無しで話すんだが。

「どうしたんですか、こんなところで……此処って商店街ですよ?」

「ええ……実は……」

サンドラに聞くと、どうやらたまたまサンドラも休暇だったらしい……いつもなら、休暇の時も研究所に篭るか、良くても家に帰宅して皆で夕食を食べたりするか……位なのだが。

「たまには一日のんびりと羽根を伸ばしてみようかな……と、思いまして」

「成程……」

「けれど、いざ休暇となると何をすれば良いのか分からなくて……とりあえず商店街に来てみたのです」

成程ねぇ……国事に尽くす宮廷魔術師とは言え、仕事の虫というのは考えモノだねぇ……。

「じゃあ、趣味は?自分の趣味に時間を費やせば……」

「趣味はその……魔導研究を……」

「あ〜〜……」

そりゃあまた……趣味=仕事じゃあな……。
まぁ、宮廷魔術師なんてやっているならば仕方ないのか……?

「あ、いえ!昔は他にも趣味はあったのです。あったのですが……」

「あった……?」

何故過去形?
と、疑問に思って質問してみると……。

「………その、可愛いモノを集めるのが、趣味だったと言いますか……」

何でも、学生時代は可愛いモノを集めるのが趣味だったらしく、犬猫のぬいぐるみやら、ファンシーなアイテムを沢山持っていたらしい。
学生時代からクールビューティーを地で行っていたサンドラは、体面を保つために普段は沈着冷静に……そして休日には、日頃のストレスをそれらファンシーアイテムで癒していたそうな。

ただ、結婚し……ルイセが生まれてからは、それらのアイテムの一部はルイセに継承されたらしい。

そして、宮廷魔術師としての忙しさに忙殺されていき、次第にそのことは記憶の片隅へと追いやられていたのだとか……。

何と言うか……あの娘にしてこの母あり…と言うことか。

「それに……私の歳ではそんな可愛いモノではしゃいだりなんて……出来ませんから」

むぅ……そういうモンなのか……???
サンドラはまだまだ若いだろうに……それに、そのギャップがまた……。

……よし、決めた。

「サンドラ様、もし暇なのでしたら私に付き合って戴けませんか?」

「付き合うって……」

俺はサンドラに近付き、耳元で呟いた。

「せっかくだから、デートでもしようか……って、言ってんの」

「!!?デデデデ、デート……ですか……っ!?」

ボンッ!!という擬音が聞こえるかの様に、瞬時に赤くなるサンドラ……やばい、ギャップが……お持ち帰りしたいぞ!?

「そっ、せっかくの休日なんですから!私めで宜しければ……エスコートさせて戴けませんか?」

スッ――と、丁寧にかつ繊細に礼をする。
その仕草は正に一流の執事のソレ――は、言い過ぎだが、雰囲気は出ていると思う。

ソレを見たサンドラは、目をパチクリさせた後にクスリと微笑んだ……。

「はい……私で良ければ喜んで♪」

何とも品のある、綺麗な微笑みだ……ヤバイ、少し顔が熱い。
それでも、何とか微笑み返せたのは……面目躍如と言って良いのかな?
何の面目かは分からんが……。

こうして、デートをすることになった俺とサンドラ……。

「はい、どうぞ。ストロベリークリームで良かったんですよね?」

「ありがとうございます。シオンさんは何を?」

「俺は王道にチョコバナナクリームですね。この取り合わせの妙が何とも」

クレープの買い食いをしたり……。

「美味しい……久しぶりにこういう物を食べましたよ」

「喜んで貰えて何より……あ、ストロベリーって食べたこと無いんで、取り替えっこしません?」

「えぇ!?あ、その……ハイ、どうぞ……(照)」

互いに食べていたクレープを交換して食べたり……。

「魔法の眼を強化……そんな理論が……」

「まぁ、八割近く完成してはいるんですがね……もうちょいで……って、また研究の話になってますよ?」

「あ……すいません、せっかくの休暇なのに……」

「いえいえ、サンドラ様とこういう話をするのも楽しいですから」

自身の開発中のアイテムについて聞いたり、また逆に聞かれたり……。
実に有意義に時間を過ごしていく。

そして……。

「サンドラ様って、可愛いモノが好きでしたよね?」

「いえ、だから昔の話ですよ!……う、いや、あの……それは……確かに今も……でも、私には似合わないから……」

俺はそんなことを言うサンドラに、小さな小物をプレゼントした。
デフォルメされた鳥の様なキャラクターの顔が付いた根付け……ぶっちゃけ、ルイセの部屋にあるクッションのキャラクター……アレのキーホルダーみたいな物である。
つぶらな瞳が非常に愛らしい。

――間違ってもM2では無いから悪しからず。
って、俺は誰に言ってるんだか。

「それなら、嵩張らないし……言う程目立たないし、良いんじゃないですか?」

「あの、でもそんな……」

「あ〜〜……気に入らないなら別に「そ、そんなことありませんよ!」…おっ!?」

てっきり、気に入らないと思ったが、そういうわけでは無いらしい……。
だが、声を上げたことにより周りから注視されるハメになり、サンドラは真っ赤になって俯いてしまった。

ヤバイ、マジ可愛いんですけど?

「あ、その……凄く嬉しいんですよ?ただ、先程クレープをご馳走になった上、この様な贈り物まで……」

「いや、そんなに畏まらなくても……高い買い物ってワケでも無いですし」

実際、値段にしたら50エルムにも満たない。
まぁ、俺としては見栄を張りたいわけだ。
男として……な?
だから、受け取ってくれたらありがたいんだけど……。

「……分かりました。ありがたく戴きます。……ありがとうございます」

あれか?社交辞令的な意味か?
……とも、思った。
昔はともかく、今のサンドラは大人の女なんだから、こういうファンシーなグッズは……。

「フフ……♪」

……思った以上にご満悦みたいだ。
嬉しそうに顔を緩めている……。

「気に入ってくれたみたいですね……」

「ハイ……大切にしますね?」

ヤバイ……そんな微笑みを向けられると、暖かい気持ちになってくる。
何と言うか、心地良いドキドキ感と言えば良いのか……。

こうして、俺は休暇一日目を過ごした……正直、サンドラと過ごすことが出来て良かったと思う。
サンドラの新しい一面をまた、知ることが出来たのだから……。


その後、サンドラは先に帰宅……俺は集合場所に向かった。
それから直ぐに皆が集まり、城門を潜って城内へ。

休暇の終了と、次の休暇先を文官の人に報告した後、俺達も帰宅したのだった。

夕食時、久しぶりに夕食を一緒にするサンドラ。
そして、そんなサンドラが手料理を振る舞う。

「うん、お母さんの料理、おいしい!」

「ああ……懐かしくなる味だ……」

誕生会以来に食べた母の味に、ルイセはそれはもう嬉しそうだった。
カーマインも、静かに喜んでいたのを確認した。

やはり古今東西、子供にとって自分のお袋の味は何よりのご馳走なのかねぇ……。

まぁ、それを抜きにしてもサンドラの手料理は中々のモノで、俺やゼノスも感心してしまった。

決して豪勢というワケでは無いが、その料理は美味く……何より暖かい想いが詰まっているのを感じた。
まぁ、どこぞの鉄鍋の覇王に出てくる料理人達は、一部を除いてそんな想いは糞喰らえ……とか考えるだろうが。

勝つための料理と人を幸せにするための料理……どちらが正しいとか、間違ってるとか言うつもりは無いが……やはり想いの篭った料理は暖かいよ。
これ、俺の持論ね?



で、夕食後……シャワーを浴びたり、風呂に入ったりした後……そのまま就寝した。
ん?何か一悶着あったんじゃないかだと?

幸いにも、今回はそういうのは無かったんだよ。
だから早く睡眠を取ることが出来た。
……いや、本当に何にも無かったんだって!!

カレンもリビエラも、そしてサンドラもそれぞれ部屋で寝たんだってば!
……なんか、身構えてる時に限って何も起きないとか……よくあるよな?
俺は俺で、覚悟はしていたのだが………ちくせう。

翌朝、朝食を食べた俺達は次の休暇先に向かった……次の休暇先は。

**********

休暇二日目・魔法学院

ルイセのテレポートで魔法学院に来た俺達。

「さて、解散しましょ〜か。集合時間に遅れないようにね」

そのティピの言葉を皮切りに、俺達は散開したのだった。
俺はとりあえず学院内に入った。
で、中をウロウロしていると、運良く尋ね人に遭遇出来た。

「!シオン…」

「よっ!元気でやってるかイリス?」

そう、俺はイリスを探していた。
せっかく魔法学院に来たのだから、イリスが上手くやっているか知りたかったのだ。

「立ち話も何ですし、お茶にでもしましょうか」

そのイリスの一言にて、俺達は学食にやってきたワケで。

「それで、調子はどう?」

「はい。おかげさまで、何とか日々を過ごせています。ミーシャとの仲も良好ですし……」

「そうか、それは良かった……」

イリスいわく、現在は教員補佐というサポート役に就いているとか。
ミーシャとイリスは当初、陰口を叩かれていたりしたらしいが、ミーシャの為に奮戦してくれた生徒が二人居て、その二人の根回しによりミーシャの……そしてイリスの悪評は薄れていったらしい。

「……『薄れていった』ということは、まだ悪評が消えたワケじゃないんだな?」

「……仕方ないことです。私はそれだけのことを、していたのですから……そんな私の悪評にミーシャが巻き込まれているのは、非常に心苦しいのですけど……」

少し辛そうな表情を浮かべた後、イリスは言った。

「それでも、こんな私を姉と慕ってくれているミーシャとの生活は、何物にも変えがたい……大切な宝物ですから」

だから平気なのだと……頑張れるのだとイリスは言う。
……これじゃあ、言えないよな……。

実は当初、俺はイリスを雇うつもりだった。
この戦争が終わったら、俺は国に帰り、父上の期待に答えるべく、インペリアル・ナイツを目指すことになるだろう。

仮にナイツになれたとしたら、やるべきことは軍務には留まらない。
政務……国事に尽くすことになるのは明白。
無論、そのための英才教育というのは受けて来たが、いざという時に優れたサポートがあるか無いか……それだけでかなりの違いが出てくる。
故に、学院長秘書なんてこなしていたイリスは、正に有能な人材となるだろう。

要するに、秘書が欲しかったワケだな。

まぁ、何よりイリスに風当たりが強いということは、大体予想がついてたからな……そんなイリスを庇いたいというのが本音。

何だが……辛かろうと前を向こうとしているイリスに……ミーシャとの生活が幸せだと言うイリスに……そんな甘言は言えないよなぁ……。

「?どうしたのですか?」

「いや何、少し考え事をね……大したことじゃ無いから」

俺はイリスに何でもないと言いながら、笑みを零した。
イリスが戦おうとしているなら、俺がでしゃばり過ぎるのは良くない。
――俺は、影から支えてやることにしよう。

「けどまぁ……イリスが頑張ってるみたいで良かったぜ。それに、存外充実しているみたいだし……な?」

「……はい。ですけど、シオンのためなら……何時でもこの身を捧げる覚悟はありますよ?」

「……っ、オイオイ……大袈裟だぜ?」

まさか……考えていたことを読まれた?
いや、顔には出していなかった筈だ。
自慢になるが、ポーカーフェイスには自信がある。
ならば、女の勘って奴か……?

「大袈裟ではありません。貴方と出会わなければ……私はこうして此処にはいなかった。だから、恩人であり……その、好意を持つ貴方だからこそ、少しでも恩を返したいのです……ですから、何かあった時はお声を掛けてください。微力ですが……力になります」

……どうやら、思考を読まれたワケでは無く、イリスの内に秘めた想いを語ってくれていたらしい。
というか、『好意を持つ』という辺りで、静かに赤くなったりして……可愛いなぁ、もう!!

「ああ、じゃあ手が必要になったら力を貸して貰おうかな?」

「はい、喜んで♪」

嬉しそうに微笑むイリス……うん、見てるとこっちまで嬉しくなるな。

それからしばらく、俺達は近況を話し合った。
イリスは教員補佐としての仕事、ミーシャのこと等を。
俺は普段何をしているか……等を話した。
思いの外話しが弾み、瞬く間に時間が過ぎていった。

「あ……そろそろ行かなければ。まだ仕事が残っていますので」

「そうか……じゃあ、また遊びに来るからな?」

「はい、お待ちしています………ん」

と、イリスが俺に近付き、ゆっくりと瞳を閉じて顔をこちらに向けて来た……コ、コレは……。

「……愛し合う者同士は、仕事に行く前に口付けを交わす……というのを、書物で読みました……だからその、口付けを……戴けませんか?」

ぷちんっ。

恥じらいながらもキスをねだるイリスを見て、俺の中で何かがキレた。
正確にはスイッチが入った……だから、かちっ!という擬音が正しいのかも知れないが。

「それは構わないが……俺はまだ、イリスから好きだって告げられて無いんだがな?」

「え……?ですが、あの時……」

「確かに、いきなり唇を奪われたが……イリスの気持ちは聞いてないからな?だって、アレは『お礼』なんだろう?」

俺とて、かつての鈍感泥つきニンジンでは無い。
あの時にイリスの気持ちは伝わった……だが、言葉にしてはいない。
イリスはあくまで『お礼』だと言い、俺はそれを受け入れただけで、答えを返していない。

「それは……違うんです。『お礼』の気持ちもありましたが……何より私は……」

「私は……何だよ?」

「………シオンは優しいのに……意地悪です」

そう言って俯いてしまうイリス。
すまんね、イリスの愛らしさに、思わずドSスイッチが入っちまったワケさね。

「私は……シオンが好きです。世界中の誰よりも貴方が……好きです」

「俺も……イリスが好きだ。けど、良いのか?多分知ってると思うが、俺はどうしようもない女たらしだぜ?」

「覚悟の上です………それでも、私は貴方のことを……愛しています」

真っ赤になりながら、ゆっくりと確かめる様に言うイリス……俺はそんなイリスを―――抱きしめた。

「分かった……なら、絶対に離してやらないから……覚悟しろな?」

「離さないで下さい……ずっと、いつまでも……私を捕まえていて……」

やはりこの身体は恋愛原子……もはや語るまい。
とか、言いたくなる位だが……。
ハーレム(爆)乙。

いや、まぁ……勿論嬉しいんだけどな?
例え、自分だけじゃなくても良い……そこまで俺なんかを想ってくれて……。
嬉しくない筈が無い。

ならば、全力で愛そう――。

俺なんかを愛してくれた彼女を、彼女達を……全身全霊で!!

俺はイリスにキスをした……触れるだけの優しいキスだ。

「………ん……ふぅ……あの、触れるだけですか?」

「まぁ、エラいことになってイリスが仕事出来なくなったら困るし、な?」

それにこういう触れ合うだけのキスも良いモンだ……。

そんな言い訳をする俺。
まぁ、触れ合うだけのキスとかは、俺の個人的な見解だがな。

「じゃあ……また来る」

「はい…お待ちしています……」

こうして、俺はイリスと再会の約束を交わした。
まぁ、近いうちにまた訪れることになるだろう……。
多分な?

で、約束の時間まで間があるので、俺は学院内をうろついてみた。
すると、ラルフが居たので話し掛けた。

「商売のコツは商品を安く仕入れて高く売ること……何だけど、その値段配分は難しい。高すぎても買ってくれないし、安すぎたら元が取れない。周りの店の値段配分にも寄るから、コレと言った物は無いんだ」

成程なぁ……商売ってのも奥が深いぜ……。

等と話している内に時間になった。

「さて、みんなそろったよね?じゃあ、戻ろうか」

集合場所に集まった俺達を確認したティピ。
そしてソレを確認したルイセのテレポートでローランディアへ帰還。
城に行って文官さんに休暇の終了と、次の休暇先を申請した後……帰宅したのだった。

夕食を採った後、若干のマッタリタイムを得てから就寝……明日に備えるのだった。

*********

休暇三日目・カーマイン領エルスリード

さて、そんなワケでエルスリードにやってきた俺達。
皆はそれぞれに散り、休暇を満喫していることだろう。
そして、俺も今回の休暇は個人的に楽しみにしていた……というのも、つい先日新しい料理人を雇い、新たな店舗が開店したという情報をゲットしたからだ。

今まで開店していた料理店は、高級レストランに小洒落たカフェ……。
それらの間に出来た新たな店舗………そう。


【和食レストラン】である。


無論、今までにも準和食を食したことはある。
幸いというか、ゼノスは和食関係にも覚えがあったからだ。
だが、それは完璧では無い。
簡単な例を挙げるなら、白飯は出てくるが、おかずは洋食……みたいな感じだ。

故に、俺は餓えていた……純粋な日ノ本の味という奴に……。

さあ、いざっ!!
我が魂の食を求めて!!

**********


「シオンさん、何処だろう?」

私はシオンさんを探していた。
せっかく来たのだから、その、一緒に廻りたいな……って。

そんな時、シオンさんを見付けたので声を掛けた。

「シオンさ〜ん!」

「!?カ、カレン?……どうしたんだ?」

?何だろう……今、一瞬だけシオンさんが動揺した様な……?
気のせい……かな?

「良かったら……一緒に廻りませんか?」

「一緒に?……う〜ん……」

……あ、あれ?なんだか歯切れが悪い……。
何時ものシオンさんなら――。

『それって、デートのお誘いかな?』

くらい言う余裕がある筈なのに……もしかして、先約があるとか?
リビエラさん……いえ、ラルフさん?
それとも……。

「あの……もし先約があるなら……」

「ん?あ、いや……別に先約は無いよ。……まぁ、カレンなら大丈夫か(ボソッ」

「えっ?」

「いや、何でもない。俺なんかで良ければ、喜んでエスコートさせて貰うぜ?」

「はい!むしろシオンさんだから、お願いしたいんです……」

なんかじゃなくて、貴方だから……そう言ったらシオンさん、少し顔を赤くして頬を掻いて……。

「……嬉しいことを言ってくれるな?それじゃあ行こうか?」

私はそれに頷いて、差し出された手を掴んだ。
こうして、腕を組んでるとシオンさんの暖かさが伝わって来て……ホッとする……。
それに反比例する位に、ドキドキするんですけど……ね。

まず、私達は美術館に向かった。
今日は絵画展を開いているらしい。

私は美術に造詣が深いわけでは無いけれど……そこにあった絵は本当に綺麗だった。
そのほとんどが風景画だったけど、そのどれもに暖かみがあったから……凄いなぁ……って思いました。

「綺麗……それに、暖かみがあって……」

「だな。特別凄い技法が使われているワケじゃない。有名な作家というワケでもない……でも、筆に込められた暖かさ……想いが伝わって来る様な絵だよな」

格式張った絵画より、こういう絵の方が好きだな……そう言ったシオンさんの表情は、凄く優しいものでした。


美術館を後にした私達は、昼食を採ることになりました。


そこは新しく出来たお店で、和食を売りにしているらしいです。
シオンさんに聞くと、本当は今日、一人で此処に来るつもりだったらしい。
出てくるのは純和食らしいので、初めての人には辛いかな……と、思ったらしいんです。

けど、私も兄さんのおかげで、料理に関してはそれなりの知識があるし、和食自体も食べたことがある……純粋な和食はこれが初めてだけど。
何だか、少し楽しみですね♪

**********


「お待たせしました、秋刀魚の塩焼き定食と、卵焼き定食です」

和食レストランに来た俺とカレン。
俺は待ってましたぁ!
と、言わんばかりに、運ばれて来た定食を見つめる。

ちなみに俺が秋刀魚焼き定食で、カレンが卵焼き定食だ。

ご飯はふっくらと炊き上がり、実に魅惑的な米の香りがする。
その艶もまた見事!
これは即ち、釜戸を使って炊いた証拠!!

俺は両手を合わせ、厳かに告げた。

「――いただきます」

「いただきます」

カレンもそれに合わせて、いただきますを告げた。

では、最初の一口を……ご飯に掛ける為に、納豆と卵が付随しているが……最初は純粋な米の味を楽しみたい!

パクッ……もぐもぐもぐ……ゴックン!

「美味い……」

米の香りと甘味、それらが混然一体となって緩やかに攻め込んで来る……俺は今度は味噌汁に手を付けた。
それはオーソドックスな豆腐とワカメの味噌汁……良い香りだ。

すうっ……。

その味噌汁を啜る。
元来、テーブルマナー的には汁物を啜るのは厳禁……だが、味噌汁だから無問題!
――なのに、音をたてずに飲んでしまった辺り、英才教育が染み渡ってるなぁと思ったが。

だが、味噌汁を飲んだ時……そんな考えは吹き飛ぶ。
あぁ……染みるなぁ……。
何と言うか、凄くホッとする味だ……やべぇ、泣きたくなって来た……。

それからも、俺は魂の食を味わった……秋刀魚の塩焼きに感動したり、納豆と卵と葱……その組み合わせには、泣きそうになった……。

あぁ……あぁ、美味い……。
単純に美味い料理なら、コレ以上の物は沢山ある。
だが、コレは心が――魂が美味いと感じているんだ。

コレだけで、今日は来て良かったと思える……。

カレンはカレンで、美味しそうに食べていた。
普通、経験の無い者は和食を敬遠する。
何しろ、炊きたての飯の香りをカビ臭いと表する奴もいるからな……。

カレンは慣れていたのと、単純に口に合ったのだろうな……。

美味しいと言って食べているのを見て、頬が緩むのを感じる。

「その卵焼きも美味そうだな……一口くれないか?」

「はい、良いですよ……あ、あ〜んしてください……」

……恥ずかしいならやらなきゃ良いのに……とか心の片隅で思いつつ、素直にあ〜んしてやる。

……バカップルですね分かry

お返しとばかりに、俺は秋刀魚の塩焼きを一口、カレンにあ〜んしてやる。

「ほら、お返しに……あ〜ん」

「は、はい……あ〜…ん……美味しいです♪」

うん、バカップル乙!
ってか、周りの視線が痛ぇ!!
まぁ、敢えてスルーだけどな!

そんなこんなで、食事を堪能した俺達は店を出た……とりあえず、まだ時間があるので、公園のボート乗り場へ向かった。

そしてボート遊び……勿論、ゆっくり漕ぐがね?

「風が気持ち良い……」

「そうだな……」

俺達はマッタリとボートの上で過ごした。
他愛のない話をしたりしながら……。

「シオンさん……」

「ん……?」

「私…幸せです」

「ああ……俺もだ」

「早く、争いを止めて、皆がこんな何気ない幸せを感じられる世の中に……したいですね」

「ああ……そうだな」

何気ない幸せ……簡単だが難しいソレを、感じられる世の中……つまりは泰平の世。
まずはこの戦争を終わらせなけりゃあな……。

しばらくしてから……時間になったので、俺達は集合場所に向かった。
そして全員が戻って来たのを確認した俺は、テレポートを使って帰還した。
なんだかんだで、有意義な休暇だったな……。

そんなことを考えながら、俺達は休暇の終了を報告したのだった。
明日からはまた任務……気を引き締めていかないとな!!





[7317] キラリと輝く嘘予告―異世界転生者のぱすちゃこんてぃにゅ〜+α放浪記―絶ネタバレ警告―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/17 19:56


やあ、わんばんこ!!

これはあくまで嘘予告です!!
本当にそうなるかは分かりません!

また、メインキャストのシオンはかなり後期のシオンな為、チート臭さに磨きが掛かっており、様々な技やスキルをラーニングしている上、アレンジスキルも大量に覚えています。

ハッキリ言って今までの嘘予告以上にネタバレ注意です。
オンパレードです。

それが嫌な方は全力でスルーして下さい。




それでも良い?本当に?引き返すなら今だYO?
ならば、ご覧下さい……。
ちなみに、ここから先について、当方は責任を持ちません故……。



**********

「……此処は、何の世界だ?」

……不本意ながら、またまた飛ばされた俺は、周囲を見渡す。
どうやら森……みたいだな。
かなりテンプレな場所だが、毎回のことなので、もう慣れた。

『……本当は慣れたりしては欲しくないですよ……MASTER……』

相棒……ディメンションデバイス(元がディケイドライバーなので命名)であるディケイドが、悲しそうに呟いた。

「まぁ……仕方ないさ。誰かに認められたら、誰かに拒絶されることもある……それよか、周囲のサーチを頼む」

『了解です……』

心配してくれるのはありがたいが……心配し過ぎなんだよなぁ……。
俺自身、最初の頃は絶望していたというか、悲観に暮れていたが……アイツらが着いて来てくれるから………そして、いつも相棒であるコイツが側にあるから、寂しくはないんだよな。

勿論、別れの悲しさは何度味わっても慣れるモノじゃないが……。
こんな俺を心配してくれる相棒の為にも、此処が安住の地になれば良いんだがね……。
さて……俺は俺で周囲の気を探る。

……魔素が濃いな……ということは、魔法が存在する可能性あり……か。

「ん……、この気配は……?」

『検索完了……近くに町があります。どうやら、文明レベルは低くは無いようです。それと近くに反応が……コレは』

「分かってる。気配からしてモンスターに襲われているな……必要無いとは思うが……念のため、セットアップしていくぞ」

『YES、MASTER』

俺は破壊者のアーマーコートを纏い、その場を移動した。
そして、ソレは直ぐに見付かった。

一人の少年が、震えながらも、玩具の刀を構えながら……数匹のモンスターに相対していたのだ……。

「く、来るなら来い!お前らなんか、この沢渡様がやっつけてやる!ここ、恐くなんか無いんだからな!?」

自分を奮い立たせながら、相対しているが……後ろから狙われているのに気付いていない……マズイ!?

「危ないぞ少年!!」

「えっ!?わぶっ!?」

俺はすかさず少年を抱き抱え、連中から距離を取る。
記憶から検索……このモンスター達は………該当無し……見覚えが無いな。
ということは、俺の知らない世界か……。

「無事か、少年?」

「あ、い、うぇ?」

どうやら混乱しているらしいな……無理も無いか。

「少し待ってろよ?」

俺は眼前のモンスター達にメンチビーム!!
だが、スライムタイプや樹木タイプの連中なので、効果は無いようだ。
ドラクエタイプの世界なら、スライムや樹木系でも効果覿面なんだが……。

「面倒だな……久しぶりにコイツを使うか」

俺がライドブッカーから取り出したのは、ディケイドクレストが描かれたカード……。

『出番……出番ですねMASTER!?このカード……MASTERがアレを覚えて以来、中々使ってくれなくて……しかも普段からこのカードを使わなくてもMASTERはどうにかしてしまいますから……』

「な、何だよ今の声は!?女の子の声!?」

まぁ、仮面ライダーディケイドだった士もそうだが、俺にとってもFAR以外の決め手的カードの一つだからな……アレを覚えて以来は中々使わなくなったが……修行的な意味でもな……と、沢渡少年がビックリしているな。
早々にケリをつけるか。

俺はそのカードを腰のディケイドライバーに投げ入れる。
そして、開かれたディケイドライバーを回転させて閉じ……カードの能力を発動。

『イリュージョン』

ディケイドの言霊と共に、俺の幻像が俺から左右に分かたれ……実体化した。
まぁ、ぶっちゃけ士の使ってたイリュージョンのカードとほぼ同じ。
俺の場合、込める魔力によって分身する人数が増えたりするが……。

今、分身体を入れて俺は三人。
コレだけいればお釣りが来る。

「「「さて、やるか!」」」

俺の分身Aはライドブッカーをソードモードに……分身Bはガンモード、俺は素手。

そして、俺が敵を殲滅してる間……少年は何やら輝く瞳で俺を見ていた。
後々、何でイリュージョンのカードを使っちゃったんだろう……?
何でセットアップしちゃったんだろう……?
と、ちょっぴり後悔したりする羽目になったが……。

「コイツで決めだ」

『ディメンションキック』

「はああぁぁぁぁぁ!!」

ズドオオォォォォン――。

やべぇ、やり過ぎた……手加減してた筈なのに、クレーターが出来てるよオイ。
まぁ、全力でやったら比べモノにならない位、地球に大ダメージなんだがな……。

「兄ちゃん!」

「おわっ!?」

な…なんだぁ!?

「兄ちゃん、忍者なんだろ!?すっげえ!本当にいたんだ!!やっぱり忍者はいたんだっ!!」

「いや、あのな……?」

「俺、沢渡シュウジ!兄ちゃん……いや、先生!!俺を……弟子にしてくださいっ!!」

「いや、俺は忍者じゃないんだが……確かに忍術も使えるケド……」

シュウジ少年は、俺の説明を聞き……それでも構わないと、何度も頭を下げて来た……正直、困ったが……行く宛も無いし、とりあえず少年を親御さんの元に送り届けねばならないしな。

**********

こうしてシオンは新たにやってきた世界……【ぱすてるチャイム】の世界で、忍者を夢見る少年……沢渡シュウジと出会う。
この出会いをキッカケに、少年は鍛えられ……数年後――原作開始時には忍者マスターサワタリと自称する程の力を得る……忍術以外も習得したが、忍者。
彼にとって、シオンは超忍戦隊チョウニンジャーの超忍なのだ!
言わば、デ○レンジャーの○カ・マスター、○ギー・ク○ーガーみたいなモノなのだ!!

ちなみに、レッドは自分だと信じて疑わないのが……サワタリクオリティー。

魔法を使おうが、霊能を使おうが――忍者。

栄光の手を見せれば『忍法・光る鉤爪の術ですね!?』と言い……。

マジックガトリングを見せれば『忍法・気合い手裏剣・乱れ撃ちの術ですね!?』と言われ……。

カイザーフェニックスを見せれば『超忍法・極楽鳥の舞ですね!?』と言われる……。

(せめて間違えるなら、科学忍法火の鳥とかにして欲しい……)

とか、転生者が考えたかは定かでは無いが……。

コレはシオンが使ったイリュージョンのカードが、強烈なインパクトとなって忘れられなかったからであり……そしてサワタリが当時嵌まっていた漫画が、忍者漫画だったからでもある。

……半分以上はシオンの自業自得である。
それを理解しているからか、シオンは少年の頼みを引き受けて少年を魔改造……もとい、鍛えたワケだが。

**********

そんなこんなで、原作開始時期……冒険者育成校、ファルネーゼAS。
その生徒会室にて、頭を悩ませている者が居た。

彼の名はリカルド・グレイゼン。
大陸有数の武器メーカー【銀星】の跡取り息子にして、ファルネーゼASの生徒会長である。

(確か……そろそろだったな)

彼は成績優秀、文武両道、品行方正であり、尚且つ他者を見下さず、友好的なその姿勢は……生徒のみならず、教師からの受けも良い。
……原作を知る者なら、それは有り得ないと豪語するだろう。
何故なら、本来の彼は確かに優秀だが……その性格は傲慢、冷徹、卑劣、……と、上げればキリが無い位に嫌味な男だったりするはずだから………である。

だが、この変貌には理由がある……。

(そろそろ原作の……【ぱすちゃコンティニュー】の始まる時期の筈なんだよなぁ……どうするかなぁ……)

そう、何を隠そう……このリカルドは転生者なのである。
しかも、ぱすちゃは無印からコンティニューの++までやり込んだ猛者だ。

だから、当初リカルドに転生したと知った時、よりにもよって会長かよ……と愚痴ったりもした。
赤ん坊の時分は発狂しそうにもなった……ルートによっては、会長はテラーと同化した上に化け物と化したり、ろくでもない目に遭ってるから。
その大半が自業自得ではあるのだが。

まぁ、容姿は良いし、金持ちのボンボンだし、才能はあるし……ここはネットの転生オリ主らしく、第二の人生を謳歌してやることにしたのだ。
とは言え、彼の元来の性格上、陰険傲慢眼鏡の真似は出来ないし、するつもりもない。

故に、所謂【綺麗な】リカルドとなっていた。
そのため、ファルネーゼASは独裁政権も顔負けなリカルド至上主義の独裁学園では無く、純粋に冒険者を育てる育成校として、有名になっていた。

元々はエリート指向が強すぎる感があったが……これは、リカルドが行った構造改革により、良い方向に向かって行った為、原作以上に名高として名を馳せることとなったのだ。

「入りますよ、会長」

「来たな……薙原」

生徒会室に入って来たのは、薙原ユウキ……原作ぱすちゃコンの主人公である。
彼は生徒会の末端ではあるが、リカルドとは個人的な友人でもある。

「堅苦しい挨拶は止めにしよう……実はお前に頼みがあってな?」

「なんだよ改まって……お前にしちゃあ珍しいじゃないか?」

砕けた口調で話す二人……原作と違い、ユウキはリカルドとの確執が無かった為、髪の毛は赤毛では無く黒髪のままだったりする。

「実は……お前には交換留学生として、とある冒険者育成校に向かって欲しいんだ」

(ユウキは優秀だからな……我が校としては手放したくは無い人材らしいが……ユウキに動いて貰わなければ【物語】は始まらないからな)

そこには、テラーなどに対する為の打算はあったが、それ以上にこの頑固な友人に【冒険を楽しむ心】を思い出して欲しいという想い……そして、幼なじみと再会させて度肝を抜かせてやろうという、悪戯心が大半を占めていたりした。

**********

こうして、転生者はこの世界で生きていく。

「やぁ、皆さん。新しく赴任したシオン・ウォルフマイヤーです。よろしく〜」

使命を果たすため、冒険者育成校に、裏技を使って教員として赴任した転生者。
彼は自身を恋愛原子核……かどうかは分からないが、容姿がずば抜けて良いことを知っている。
そして、有り得ないと思いつつ、自分がモテたりすることを転生者は理解していた。

今まで、控え目控え目にしていたが、それでも誰かに好意を持たれる程に。
故に、好意を持たれない様に容姿を偽る。

「「「「……………」」」」

母から受け継いだしなやかな銀髪は、敢えてボサボサに。
父から受け継いだブルーサファイアの様な蒼眼はぐるぐる牛乳瓶眼鏡で隠し……。

にへら〜、とした軽薄気味な顔を浮かべ……。
そのモデル並かつ、鍛え貫かれた長身を猫背に……。
スラッとかつ、無駄な脂肪の無いガゼルの様に鍛えられた長い足をがに股に……。


コレだけやったら、幾ら恋愛原子核だろうと、ニコポ魔人だろうと、好意を持たれることは無い筈だ……と。

その目論みは大多数の者に対して見事当たるワケだが……彼の相棒たるデバイスは嘆いたそうな。

『そんな……MASTER……何故そんなことを………嗚呼……せっかくのMASTERの美がぁ………』

しかし、彼の眷属達は見た目が変わっても、彼は彼だと転生者に変わらぬ想いを誓っていたが。

そして彼女達は悟っていた……見た目を変えようが、分かる者には分かるだろう……と。

そんな眷属達の予想通り、転生者の内面を見抜き……好意を持つ者も居た。
それを知り、毎度のごとく転生者は苦悩することになるのだが……それはまた別の話。

「俺はサワタリ!忍者マスターだ!下の名前を知りたい?いや〜参ったなぁ〜……♪だけど、それは秘密だ!その方がカッコイイからな!!」

「いや、そんなこと聞いてないんだが……」

沢渡シュウジ改め、忍者マスターサワタリ……転校してきた薙原ユウキと友好を交わす。
変わっても変わらぬ友情……。

「あ゙……ユウキ……」

「リナ……お前、まだそのカードゲームを……」

再会した幼なじみの知られざる秘密に遭遇……。

「むぅ……やりますな!」

「先生!!?」

「負けません……勝ちたくなっちゃいましたから!」

担任の教師と凄腕の走り屋によって繰り広げられるカーチェイス。
……に、巻き込まれる原作主人公。

「……まさか、貴方は俺と同じ?」

「よもや、会長閣下が転生者とはな……」

邂逅する転生者達。

「だ、誰なんだアンタ一体!?」

「通りすがりの仮面ライダーだ……覚えなくても良いぜ?」

生徒の危機に正体を隠して助ける転生者。
そして……決戦の時。

**********

現れたのは……新たな……もう一人の転生者。
彼は恐怖の力を手にする……それは、会長となった転生者には予想外のイレギュラー。

「くっ……よもや、こんなことになるとはな……」

「リカルド……」

「ユウキ……お前は逃げろ。お前には、待つ者がいるんだろう?」

「それはお前もだろうが……先輩の気持ち、お前には分かるだろ?」

「……彼女は、私には過ぎた女性さ。それに、私には彼女の気持ちが向いているのは、お前の様に思えるがな?」

「だから!それはお前の勘違いで……それに俺にはアイツが……っ!!」

言い合いをしながらも、会長と主人公は戦う。
殿りを勤め、仲間達を逃がす為に……。

(アゼルとクリスは逃がしたし……後はドッツが何とかしてくれるだろう……あれで中々頼れる男だしな。しかし、ユウキとリナが魔王の力を得て応援に来てくれたのに……倒し切れなかったんだからな……全く、つくづく想定外だ……)

『貴方は昔から変わらないんですね……残念なような、ホッとしたような……不思議な気持ちです』

(……斎香さん、か。彼女から答えを聞きたかったモノだな……まぁ、今更か。それに、親同士が決めた許婚などという物に、彼女のような人が縛られる必要は無い――)


最凶となった者に、愛用の黒と白の双長剣を構えて相対する……自分が足止めとなる為に。
仲間のために、意地を張り続ける為に……。

そんな自分の悪あがきに、このお人よしを付き合わせるのは、些か気が引けるのだが……。

「最初に謝っておく……スマンな……ユウキ」

「へっ……謝るなよ。俺はこんな所で死ぬつもりは無いんだからな!アイツも待ってるんだ……死ねるかよ!」

そう言って自身も得物を構えて恐怖と向かい合う主人公……。

『はははははは!!バカメ!!お前タチごとキが……オレ様にカテるとオモってるのカ?最強ムてキの力を手にしタ俺サマヲ!?それに……逃げた奴ラはおれサマの分シンが、ミナ殺シにしてイル頃ダロウよ!!』

罵り笑う恐怖を纏いし者……。
リカルドとユウキ……二人は分の悪い賭けに出る。
己の為に……己を待つ者達のために勝利する……。
チップは自身の命という……分の悪い賭けに……。

「皆殺し……?それは無理だな」

だが、そこに現れたのは、彼らのよく知る人物……。
一人にとっては自身と似た様な境遇の持ち主……。

一人にとっては自分達の学園の教師だが……。

「貴方は……」

「シ、シオン先生!?い、いや、なんか雰囲気が違う様な……」

「よう、諸君!頑張ってるみたいだな?あと、薙原……雰囲気違うのは当たり前。何せ、こっちが地だからな……俺は」

もう一人のイレギュラー……シオン・ウォルフマイヤーである。
ニカッと人好きのする彼の笑顔を見て、ユウキは危機的状況にも関わらず、呆然とする。

それもその筈。

転生者の学園での評価は『教え方は上手いが、気味が悪い』『不気味で近寄りたくない』『キモい』等、散々な物ばかりだったのだから。

ユウキはユウキで、悪い人では無いとは思っていたが、自分から近付こうとはしなかったし、思わなかった。

そりゃあ『キィヒッヒッヒッ!』なんて、あからさまな悪役笑いをする奴に、好んで近寄ろうとは思わない。

(けど、何故かサワタリの奴はよくシオン先生の所に行ってたよな……それにイヴ先生が言ってたな……『外見ばかり見ていると、隠された物が見えなくなるわ。これは冒険者の鉄則よ?……あの人のそれは、反則なんだけどね』って、反則処の騒ぎじゃねーだろコレはあぁぁ!!?)

要所要所を形成するパーツこそ酷似しているが、ユウキからすれば丸っきり別人である。

何と言うことでしょう……正にbefore&after。
それだけ転生者の演技力が、ずば抜けていたのかも知れないが。

『き、キサマ……ナゼ』

「此処に居る……か?生憎、あの程度の奴らに殺られる程、弱くは無いつもりでね……」

『ば、バカな……幾らオレサマの分身ガ劣化こぴーだとシテも……コノせかいノ人間に太刀打ち出来るワケが……』

「確かに一人一人の力は弱いかも知れない……だが、人は支え合うことが出来る。互いの弱さを補うことが出来る……諦めずに立ち向かうことが出来る!補い合った力は……例えどんな強大な災厄だろうと―――打ち砕くことがことが出来る!!それが――人なんだからな!!!」

転生者の示す言葉の通り、此処とは別の場所にて……彼らは戦っていた。

「行くぜ!先生直伝の忍術を見せてやる!!……影分身の術!!」

「「「「「行くぜ行くぜ行くぜ行くぜぇぇぇぇーーーーッ!!!!」」」」」

忍者マスターを自称する転生者の教え子が――。

「みんな、大丈夫!?」

「僕たちも……続く……よ」

小さな心優しき者と、大きな心優しき者が――。

「キリがありませんわね!!」

「弱気になるな!ライバルの薙原が頑張ってるんだ!!僕達が引き下がるワケにはいかん!!」

「分かってますわ――お兄様」

主人公の自称ライバルである者とその妹が――。

「ええい!アンタら、欝陶しいのよ!!この、チ○○っ!!」

「ユウキの為にも……ボクたちは負けられないんだ!!」

ハンマーを振り回しながら、猥褻物の名称を吐き捨てる様に言い放つ少女と、主人公を誰よりも慕う格闘少女が――。

「ニィー」

「分かってますよニィさん。油断は禁物ですね?」

ローラーブレードで怪異を掻き乱す、黒猫を連れた少女が――。

「薙原さん達が帰るまで――此処は死守します!」

(リカルド――貴方もどうか無事で――)

彼らの安否を願い、流麗な剣捌きで敵を切り捨てる可憐な女性が――。

「どりゃああぁぁぁ!!」

「危ない!!」

「おっと……サンキューセレス。相変わらず良い腕してるよ」

「もう、気をつけて下さいね…?」

たまたまこの地を訪れていた、主人公の幼なじみの姉である超一流の冒険者と、その卓越した弓の腕で彼女をサポートする主人公達の担任である女性が――いや、彼女だけではなくこの学園の全ての教師や生徒が一丸となり、戦っていた。

――そして。

「マイ・マスターの命だ……」

「この場は絶対……」

「死守します――!」

「だから、悪く思うなよ?」

「もっとも、アイツの頼みが無くても、どうにかするけどね―――!!」

転生者の眷属たる美しき戦乙女達もまた、戦っていた――。

この学園だけでは無い――大陸中の人間が抗っていた――恐怖という名の力に――。

そして――此処でも。

「良いんですか……アゼル先輩?」

「仕方ないじゃない……あのお嬢ちゃん、全然言うことを聞いてくれないんだし……それに、私もリカルドを見捨てるのは癪だしね……アンタは逃げても良いのよクリス?」

「――いえ、自分も戦います。自分も会長や薙原先輩を見捨てたくはありませんから……!!」

「ったく、しょうがねぇ奴らだぜ……まぁ、旦那に死なれると生活出来なくなっちまうからな……やるっきゃねぇか!!」

「バカユウキ!!私はアンタを見捨てない!見捨てたり出来るワケ……無いじゃない!!待ってなさいよ?コイツらやっつけて……一発殴りに行ってやるんだから!!」

(だから……お願いだから……無事で居てよ……ユウキ……!!)

一度は言われるままに逃げたが、二人だけで残った彼らを想い、追っ手と戦うことを決意した者達……会長を支えた者達……そして、主人公の幼なじみであり、想いを遂げた少女……。

彼ら、彼女らの声が……心の想いが……転生者達のいる空間に凛と響き渡る。

「ふっ……随分と想われてるんだな、ユウキは……」

(何を考えていたんだ……俺は。アイツらが頑張っているのに、もう駄目だと思っていた……アゼル、クリス、ドッツ……それにファルネーゼASの皆………アイツらが頑張ってる時に踏ん張れなくて、何が会長だ!!それに、斎香さんが俺を想って……これじゃ、答えを聞くまで益々死ねないじゃあないか!!)

「へっ……そういうお前もな……生徒会長閣下?」

(皆も頑張ってる……けど、俺はどうだ?口では諦めないと言ったが、内心では諦めていたんじゃないか……?ヤレヤレ……これじゃあリナにぶん殴られても、文句は言えないな……ああ、文句は言わない。気の済むまで、文句だろうとなんだろうと受け止めてやる……そのためには……コイツを……倒すっ!!何がなんでもなっ!!)

どういう原理かは分からないが……だが、それは間違いなく自分達の仲間の声だと分かった……そして、それを成したのが自分達を背に庇う様にその場に立つ男なのだと……彼らは理解した……。

ボロボロの身体にも関わらず、互いに笑い合いながら立ち上がった二人の眼には、先程以上の光りが宿っていた。

その光は――『希望』と呼ばれる物――『勇気』と呼ばれる物――。

『なんナンダ……ナンナんだオマエはあアぁァァァァァ!!!??』

恐怖の力を手に入れた男は、恐怖の宿った瞳で眼前の男を見遣る……本能で理解したのだろう。

眼前の男が………。

「通りすがりの……破壊者だ……覚えておけっ!!」

自身を破壊する者だと――。

「ディケイド―――セットアップ」

転生者は破壊者の十字を象るアーマーコートを纏う。

「グローヒーリング」

転生者の放った偉大なる癒しの光が、二人に降り注ぐ。

「す、すげぇ……身体の疲れや傷が一瞬で……」

「次は……コイツだ」

転生者が取り出したのは二つの灰色のカード……だが、それは徐々に色付き始め……その全容を表した。

一つは白と黒の双長剣を構えたリカルド……もう一つは長剣を携えたユウキ……それらの全身像が描かれたカード。

それらは絆のカード……それらをディケイドライバーに読み込ませていく……。

『ソウル……ダブルリンク』

「な、なんだ!?」

「身体に……力が……!!」

魂とのリンク……本来、彼の眷属や使い魔にのみ許された、転生者の魂を触媒として魔力などの供給を行うスキル。
眷属達のそれとは違い、一時的な物だが……その効果は凄まじく、かつての魔法少女の世界では、守護騎士の一人とソウルリンクを行い、彼女の最大の必殺技をカートリッジ無しに二人で行使し、尚且つその威力は、カートリッジを可能な限りロードしたソレを、遥かに上回ったのだから―――。

「行くぞ二人とも……着いて来れるか?」

「ふっ……言われずとも、着いて行ってみせるさ」

「ああ……奴をぶっとばして、必ずみんなの所に帰る!!俺達、全員でっ!!」

決戦の火ぶたは切って落とされた。
彼らは戦う――自身のため、自身を待つ者のため―――今、恐怖を打ち砕く―――!!

**********

あとがきっ!

はい、舌の根が渇かない作者の神仁です。

息抜きをかねて嘘予告……書いちゃいました。
(-.-;)
しかも今回はいつも以上にネタバレ……。

ちなみにシオンのカメンライドカードに相当する、ソウルカード……。
サイズはディケイドカードのサイズであり、裏にはその人物を象徴するクレスト……そして、表にはグローランサーチップスカードの様な立ち絵が描かれています。
通常はカメンライドカードと似た様な効果ですが、ある状況と条件に限り、ソウルリンクになります。

『ソウルリンク』から必殺技のイメージは、ディケイドコンプリートフォームのライダー召喚決め技をイメージすれば分かりやすいかと……。
強いて言うならTV版最終回の海東とのディメンションシュート、劇場版最終回のWのFFRによるトリプルキックが1番近いのですが……無論、FARカードを使った場合の話ですけど。
FARはリカルドの場合、有り得ないくらいに威力が魔改造されたディス・グレイズになります。
ナギーは……何だろう?(爆

それでは……さいならっきょ!!
m(__;)m≡≡33

P.S.シオンは、ぱすちゃシリーズの原作知識がありません。




[7317] 超・番外編4……とある転生者の死闘―オリ主の軌跡は自伝に残る―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/17 20:12


時は些か遡る……。

新たな……というか初めてのオトモ……ルインを仲間にした俺だが、ルインの提案により、しばらく別々に行動することになった……。

やむを得ないよな……べ、別に寂しくなんか無いんだからねっ!?

オリ主たる俺のすべきことは、やはり原作介入!!
コレ、コレ最強。
そして俺最強。

とは言え、原作が巨悪によって歪められているため、先ずはその巨悪を潰さねばならん!!

それはゲヴェルでもヴェンツェルでも無い!!

シオン・ウォルフマイヤー……この世界に爆誕したオリキャラにして、転生者疑惑を持つ男……そして史上最悪の屑野郎!!

我がオトモ、ルインが言うには外面は好青年なのだが、その実体は冷酷非情な殺人鬼にして傲慢な快楽主義者……あげく、卑怯で下種なスケコマシ野郎……!!

奴は、原作女性陣相手に卑劣にも好き放題しているらしい………例えば!!

**********

「いやぁ……助けて……おにいちゃ……ん……」

「残念……愛しのお兄ちゃんは来ねぇよ……ヒャアッハアアァァァ!!!」

「イ、イヤアアァァァァァァ!!!?」

**********

いや、狡猾な奴だって言うからな……こんな無理矢理じゃなく、もっと卑劣に……。

**********

「……実の兄の肖像画を見ながら、自分を慰めていたなんて……これを皆が知ったら……なんて思うかなぁ?カレンさん?」

「やめて、やめて下さい!そんなことをされたら……」

「くっくっくっ……なら、俺を慰めて貰おうか……その魅惑的な身体を使ってな?」

「そ、そんな……」

「嫌なら構わないんだぜ?その代わり……分かるよな、カ・レ・ン・?」

「待って!!……分かり……ました……」

**********

それだけならまだしも!あまつさえ……!!
こ〜んなことを……!!

**********

「あ……あ………」

虚ろな眼をし、呻く様な声を発する、ルイセと……更にルイセを餌にしてサンドラを……二人の女を狡猾に揺るがし、堕落させ、親子丼を堪能したシオンは満足そうな笑みを浮かべてこう言った……。

「ゲッチュウ〜〜!!」

と……。

**********

「ぬおおぉぉぉぉぉっ!!?○作か!?○作なのかぁ!!?」

そして、遂には……。

**********

「シオンさまぁ……」

「もっと可愛がってください……」

「もっと……ご奉仕させて下さい……」

「アタシ……我慢出来ないよぉ……」

「御慈悲を……このいやらしい雌犬めに……御慈悲を……」

「グハハハハッ!!任せろ!!俺様は底無しだからな!!しかも!!5人までなら同時にオゥケェーーーイッ!!!」

「「「「「ああぁ〜〜〜〜んっ♪♪♪♪♪」」」」」

**********

おのれ……ハーレムか!?このスーパーオリ主たる俺を無視してハーレムかっ!!?

「例え、神が許そうと、太陽の子が許そうと……そんなことは俺が……許・さ・ん・っ・!!」

「ママ〜……あのおにいちゃん怖いよぅ……」

「しっ!見ちゃイケません!!戦争中だから、色々あるのよ……」

はっ!?
イカンイカン……怒りのあまり我を忘れてしまっておったわ……。
もう少しでスーパー野菜人に覚醒してしまう位に。

「とは言え、そのために俺は鍛えて来た……旅をして情報を集めながら……原作に介入するチャンスを伺いつつ」

今、俺はバーンシュタイン王都に居る。
ルインと別れた俺は、情報を集めるためにこのバーンシュタイン王都にやってきたのさ。
俺は空を飛べるからな……上手く忍び込んだのだよ!

というか、一応バーンシュタイン国民だからな……俺は。

※ヴァルミエは水晶鉱山の関係上、魔法学院の管轄だがバーンシュタイン領内にある。

で、調べてみて分かったが……シオン……というより、ウォルフマイヤー家は王都ではかなり有名らしい。

多くのインペリアル・ナイトを排出してきた家柄でありながら、領地を持たないという変わり種。

まぁ、何か色々あったんだろうな……詳しくは分からんケド。

その色々に関連してか、【王家の剣】と呼ばれているとか……くっ、俺より厨二臭い……だ、と?

認めん!認めんぞ!?

何か?メイドを侍らせてウハウハですかコノヤロウ!!

だが、そんなウォルフマイヤー一族は、最近になってバーンシュタインを離反したらしい。
兵士が屋敷に踏み込んだ時には、既にもぬけの殻だったそうな。

んで、今はエリオット側について戦っているそうな……。

どうやら現ウォルフマイヤー卿……で、良いのか?
彼はまともな人間みたいだな……息子と違って。

シオンの評判?
そりゃあ評判が良かったさ。
品行方正、眉目秀麗……剣や魔法に秀で、揚句に皆既日食のグローシアン……その容姿、人柄からファンクラブ的なモノまである始末……。

な、なんて厨二病……おかしいよっ!!
そう言うのはオリ主である俺にこそ相応しい筈だろう!!?

………落ち着け、素数だ素数をry。

……俺が言いたいのは、それが表向きの物でしかなく、その中身がどうしようもない程の糞野郎だということさ。

「みんなの眼はごまかせても、オリ主の眼はごまかせんのだよっ!!」

何?ルインに聞いた話を鵜呑みにしているだけ?
くくく……甘い甘い!!
このオリ主たる俺は、プロファイリング能力にも長けているのだよっ!!

人づてに聞いた話、仕入れた情報から推理し、そこに俺の感という名のセブンセ○シズを交えれば……自ずと見えてくる!!

その結果――奴は間違いなく変態だ!!
ただの変態では無く、変態という名の紳士だということを――!!

――俺はてっきり鬼畜糞野郎かと思ったんだが。
く○吉君だったとは……。

何が決め手だったかだと……?
俺の感【セブンセ○シズ】に決まっているだろう!!
集めた情報から、奴は王都の皆様により、絶大な人気を誇っている。
だが!!俺はある情報を手に入れた!!
奴が王都に在住していた頃……時折、王都から離れて何やらいかがわしいことをしていた……ということを!!

……聞いた話では友達と遊んだりしていたらしいが……フフフ!この俺は騙されんぞ!?
心理的トラップという奴だろう?
そんな見え透いた手に引っ掛かる程、俺は甘くない……!

そこでキュピピーーンッ!!と、来たワケだよジュディ!

奴は変態という名の紳士だ……と!!

わぉ!凄いわマイケル!!あんなに取れなかった油汚れが……!

**********

しばらくおまちください。

**********

……と、まぁ……そんなわけで、奴を○ま吉君断定したわけだよ!!

※懸命な方ならご存知だろうが、シオンは周りに被害を出さない様に……自分の力がバレない様に森の奥で修業していたり、ラルフと遊んだり、一緒に修業をしたりしていただけ。


「と、熱く語ったりしてる場合じゃないな」

調べた結果、奴は内面くま○君のくせにその強さは、ルインが言う様にチートらしいからな……俺ももっと強くならなければ!!

無論、原作介入はするけどな!!
と、息巻いて王都を飛び出して来たのは良いんだが……。

「ことごとく空振りまくるのは何故だあぁぁぁぁ!!?」

あれから数週間……現在、飛行中――空中でクネクネと悶える。
だってよ!?
やることなすこと、全部空振りまくりなんだもんよ!!

くそっ、オリ主たるこの俺が―――ん?

「あれは――」

見ると、眼下では戦が繰り広げられていた……バーンシュタイン軍と、バーンシュタイン軍?
………あ、旗が違うし鎧の色が違う。

もしかして……バーンシュタイン軍VSエリオット軍?
いや、シュッツベルグの近くだから……ダグラス軍?
何、ダグラス卿反乱?

……なんで此処まで展開が早いんだよ?

これもオリ主たる俺の存在が巻き起こした弊害か……。
あるいは巨悪による陰謀か……。

「ん……アレは……?」

戦場を見やると、両軍入り乱れての乱戦になっているのだが……あるヶ所だけ、まるで避けられたかの様に円形になった場所がある……。

そこに向かうと、そこでは対峙していた者達が、互いの雌雄を決しようとしていた。

「宣言を覆す様で悪いが……そろそろ決めさせて貰おう」

そう言って一人の男が、その大鎌をゆっくりと構えた……。
俺の原作知識から推測するに……アレはインペリアル・ナイトのオスカー・リーヴスか?
初めて見たが……やはり美形だな……まぁ、俺には負けるがなっ!!

「で……対峙してる奴らは………は?」

俺は首を傾げた。
だってそうだろう?
服装が違うけど……あそこにいるのは、オズワルドと愉快な手下達だ。

それがこんな所で、インペリアル・ナイトと戦っているんだぞ?
つまり、奴らはエリオット側に加担しているってわけで……確かエリオット君って、奴に命を狙われてるよね??
ありえないだろ……なんぞこれ?

「どうやら、決めるつもりらしいな」

リーヴスに漲る気迫……恐らくは必殺の一撃。
その一撃は、間違い無くオズワルド達の命を刈り取るだろう。
ってか、あんな雑魚連中が束になってもインペリアル・ナイトには及ばないだろうさ。

それにオズワルド達は立ってこそいるが……それだけだ。
それ以上は動けない……。
所謂、ガス欠状態だ。
オズワルドは多少動けるみたいだが、それでもオスカーの全力を凌げる力は残っていない。
他の四人は動くことすらままならない。

「それでも立ち続けるのかよ……」

その姿を見て、俺の中の『何か』が刺激される。


なんだ――この感覚――まるで――。


「最後に――君達の名前を教えてくれないか?」

「――オズワルドだ」

「ニールっす……」

「マーク……」

「ビリーだ……」

「……ザム……」

馬鹿正直に答えてやる義理は無い。
だが、男達は答えた。

それは一介の戦士として……一人の漢(おとこ)として、目の前の男の想いに答えてやりたかったのだ。


ゾクゾクゥ!!

ああ……やっと分かった。
俺の中の何が刺激されていたのか……。

そう、俺の中の漢が……魂が!!
あの漢達の熱き血潮に刺激され、伝染したのだ!!

実力が違い、頭数を揃えても勝てない……だが、退かない!
そんな漢達の魂に……!?

「そうか……その名前、胸に刻んでおこう」

「いらねぇよ……俺様達は負けねぇ……最後の最後まで諦めねぇ!!余裕こいてると痛い目に合うぜ!!」

オズワルドは迎撃の構えを取り、吠えた……。
……もう敵キャラとか、雑魚連中とかどうでも良い……。

「ならば……雌雄を決しよう!」

オスカーが踏み込んだ。
その速さは正に高速の踏み込み……。

必殺の鎌が襲い掛かり、それを最後の力でオズワルドが迎撃しようとしている……。

「あんな熱い奴らを……死なせるわけにはいかねぇっ!!!」

ズウゥゥゥン!!

「「!?」」

俺はアスカロンを鞘から抜き放ち、それを今にも激突しようという両者の間に投げ入れた。

「……剣!?」

二人が……いや、周囲に居る者……全員の視線を浴びる我が愛剣。
そして俺は、フワッとその場所に着地した……。

「……何者だ?」

「なぁに……通りすがりの……」

オスカーの問いに答えながら、地に刺さった剣を引き抜き……。

「オリ主様だ!覚えておけっ!!」

剣を突き付けて吠える俺……嗚呼、決まった♪
格好良すぎるゾ♪俺♪

「テメェは……!!?」

「また会ったな盗っ人……いや、もう違うのか」

見させて貰ったからな……今のお前らは屑じゃないって……熱い漢だってな!
俺は更に、鞘からもう一本の剣……バルムンクを抜き放った。
この二刀を抜き放った俺に、敗北は無い。
故に見せてやる……。

「エクセレントでモダンなオリ主こと、リヒター……及ばずながら助太刀するぜ!!」

最強オリ主の底力をなぁっ!!

「……よく分からないけど、油断出来ない相手……という所か」

俺とオスカーが対峙する。
互いに構えを取りながら、間合いを計る様にじわり……じわりと動く。

「…………」

「…………」

一歩……また一歩と近付いて行く。

まだ……まだだ……。

もう少しで……攻撃範囲に……。

「「!!」」

入ったぁ―――っ!!

ガアアァァァァァァァンッ!!!!

オスカーの高速の振り下ろしを、俺はバルムンクの薙ぎ払いで打ち返す。

「くぅ!!?」

「チィッ!!?」

互いの一撃が合わさり、衝撃波を生み……互いの手に痺れが走った。
流石にインペリアル・ナイトは強い……だが、退かない!!

「ハッ!!」

「ゼエェイ!!」

ガガンッ!!ガガガンっ!!!ガガガガガガガガガガアアァァァンッ!!!!!

互いにその場を退かない……歩みを止めての連撃。
そのどれもが一撃必殺である。
最初の激突で相手の力量を察した……故に全力。

出し惜しみは己が命を捨てることと同義だと。

ガカアアァァァァァァァン!!!

くぅ……食らいついてきやがる……オリ主であるこの俺に……だが!!。

「フフフ……まさか此処までの使い手に出会えるとはね……」

「フッ……誤解しない様に言っておくが、俺はまだ10%の力しか出していない……更に、オリ主たる俺はまだ四つの戦闘モードを使えるのだ」

微笑を崩さないオスカーに対して、余裕を見せる俺。
格好良い!!格好良すぎるZE!!

※ちなみに、リヒターが幾分余裕があるのは事実だが、それは極めて全力全開に近く、10%の力とか、四つの戦闘モードとか……ぶっちゃけハッタリ……というか、その場のノリである。

って、電波うっさい!!
ハッタリなんかじゃないぞ!?
今は出来ないけど……そのうち出来る様になるモン!!
だって、男の子だもん!!

「そうかい……ならば、見せて貰おうか……その力を!!」

「お前に見せるには過ぎた力でね……決して勢いとかノリとかじゃないからそのつもりでっ!!」

俺達は再びぶつかり合った。
その激突は10合、20合……と、続いた。
だが、80合に届くかという辺りから徐々に均衡が崩れて来た。

「くぅ……」

「どうやらこれまでらしいな……フッ、やっぱり俺最強……」

剣を突き付けるは超絶カリスマオリ主である俺。
そして、突き付けられるは……膝をついたオスカー。

俺達の戦いは終始俺の圧勝だった。



……いや、圧勝は言い過ぎたが、有利に事を運べたのは事実だ。
俺の強靭なスタミナが勝ったのだろう……ほぼ互角の切り合いをしていたのに、オスカーが僅かな隙を生じさせた。
その隙を見逃すリヒターさんでは無く、渾身のリヒターエターナルスラッシュを喰らわせたわけさ☆

そして、遂にオスカーは膝を屈したのだった。

「その傷ではまともに動けないだろう……大人しく降伏しろ」

「……フッ、それは出来ないな……」

俺の優しい勧告を受けながら、フラフラと立ち上がるオスカー……。
まだやる気かよ……。

「我が主の名に掛けて……屈することは出来ない……いや、出来るワケがない」

「その主が間違ってたとしても……か?ハッキリ言うぞ?お前は間違っている!主の非道に眼を伏せ、自分をごまかしているに過ぎない!!そんなことも分からないのかっ!?」

俺はオスカーに物申す!!
間違っているなら、諭してやるのが本当の友達だろうに……それをコイツは……!!

「君に……何が分かる?部外者でしかない君に、何が分かると言うんだ?」

うっ……そんな恐い眼で睨まんでも……ち、違うYO!?
ビビってなんかないYO!?
最強オリ主の俺がビビるわけ無いだRO?

「……私はインペリアル・ナイトだ。故に、私が折れるワケにはいかない……」

「……やむを得ないか。原作は既に変わってるんだ……ワザワザ気を使う必要も無いか……遺憾だが、俺の経験値になってもらうぜっ」

仕方ない……正直気は乗らないが……双剣を構え、オスカーに切り掛かる俺。
それを迎撃しようと構えるオスカー……。

だが、今のアイツでは初撃は防げても、次は防げまい………悪いが……俺の経験値になって貰うぜ!!

「危ねぇっ!!!」

「「!!」」

俺はオズワルドの声に反応……咄嗟に後方へ飛びのいた。

ドゴォォォォォンッ!!

オスカーと俺の間に、爆炎が舞い上がった。
……オイオイ、このパターンは……。

「な、何だ!!?」

周りがざわざわと騒ぐ中……爆炎が晴れていく。
その中心には……男が立って居た。

「どうしたオスカー……お前らしくも無い」

長身で白い短髪……真紅の瞳は鋭く俺を睨み付けつつ、背に庇うオスカーに声を掛ける。
って、恐っ!!?

「アーネスト……今は休暇中の筈では……?」

「それがどうした?俺の休暇をどう使おうと、俺の勝手だろう」

男……アーネスト・ライエルはそう答え、オスカーにキュアを掛ける。
つ〜か、このタイミングでアーネストとか……アレか?世界の修正力か?

「それよりさっさと引き上げたらどうだ?お前に足を引っ張られては敵わんからな……」

「……礼を言っておくよ」

「何の礼だ?俺はお前を助けに来たワケじゃないぞ」

「フフッ……そういうことにしておくよ」

男同士の友情物語を繰り広げていた二人……そして回復魔法により、ある程度身体の動きにキレが戻ったオスカーは後方に下がった。

「リーヴス様!」

「……残念ながら、今回は我々の敗北の様だ」

オスカーを気遣う彼の副官らしき男に、オスカーは宣言する。
オズワルド達の闘志が伝染したのか、ダグラス卿の指揮の賜物か?

いやいや、ハイパー化したオリ主であるこの俺が!!
インペリアル・ナイトを退けたのが1番大きな功績と言えよう……ふっ、ヒーローは辛いぜ……。

何はともあれ……ダグラス軍の勢いが増していったのだ。
バーンシュタイン軍は押され、敗色濃厚なのは否めない状況に追い込まれつつあった。



「負傷者と小数の護衛を選別、編成してくれ。残った者はライエル将軍の指示に従うように」

「ハッ!了解しました!!」

敬礼で返し、その場を後にする副官(仮定)。

「そういう訳だ……この先に進みたくば、私を倒してから行くのだな」

アーネストは双剣を抜き放ち、ダグラス軍を見据えた。
静寂にして裂帛の気迫は、オスカーのそれとは別物である。
成る程……流石の俺でも一筋縄じゃいかないかな……?

それは必滅の意思。

その殺気はその場に居る者を震え上がらせた……。
そう……俺を除いて……。

「まさか、そこでこう来るとはなぁ……いやはや、妙な所で原作と被るというか……これも運命なのかねぇ……」

「何をごちゃごちゃ言っている」

「何、たいしたことじゃないさ……せっかく出て来たのに、俺に倒されるんだ。そんなお前が不憫で不憫で」

「出来るのか?貴様に」

アーネストと俺は構えを取る。
……やはり双剣同士だと被るな。

「それはこっちの台詞だ。最強の武器を手にした最強の俺……もはや俺を上回る敵など存在しない!」

「……手負いのオスカーを退けた程度で……調子に乗らぬことだ」

「ぬかせっ!!」

こうして、俺の第二ラウンドは幕を開けたのだった。

***********

それから、一進一退の攻防が続く……っと隙ありぃっ!!

「喰らえ!!『アビス』!!」

深淵に誘うが如き、紫のエネルギーを乗せた絶対なる一撃。

ドガアアアアァァァァン!!!

それを振り下ろした。
大地を大きくえぐる、強烈な一撃。
当たれば怪我では済まない一撃……だが。

ビュンッ!!

「!?分身!?」

「死ね」

『分身』により攻撃を避け、その隙に背後を取って神速の剣閃を振るうアーネスト。

「死ぬかよっ!!」

だが、その程度の攻撃にやられるオリ主様では無く、優雅にその攻撃を受け流した。
此処までは互角か……若干、俺が押しているが。
何?結構いっぱいいっぱいに見える?
そそそそ、そんなこと無いんだからねっ!?

「……ここまでだな」

突然、アーネストが後方に飛びのき、剣を納刀した。
まぁ、足止めの為に残ってたんだから当然か。

「逃げるのか!!」

「次に戦場で見える時は容赦はせん……さらばだ」

俺の挑発には乗らず、そう言って引き上げて行くアーネスト。
よくよく見ると彼が殿りらしく、正規軍は撤退した様だ。

「フッ……俺に恐れを抱いて逃げるか。参ったね……この俺の素敵オーラは」

……違うぞ!?負け惜しみなんかじゃないんだからね!?

そして勝利に湧く兵士達……そう、この戦はダグラス軍が勝利したのだ。

俺のおかげで。
ココ、テストに出るから覚えておくように。

「さて、では俺は行くかな」

「待て!……何で俺達を助けた?」

勝鬨の声が響く中、その場を去ろうとした俺。
そこに立ち塞がるのはオズワルド一行。

「それは……俺がオリ主だからさっ!!」

……まぁ、見る限りじゃ悪党には見えなかったし、不甲斐無いから助太刀したんだけどネ?

どうやら、オズワルド達にはそれが理解出来なかったらしく……。

「……よく分からん」

と言われてしまった。
え〜?そこは分かっとこうぜ〜〜?

まぁ…良いか。
俺も言いたいことがあったし……言っておくか。

「……その節は悪かったな。昔はどうか知らないが、今のお前は悪党なんかじゃない……その礼じゃないが、今後お前らに襲い掛かったりしない……俺には倒すべき相手がいるしな」

シオン・ウォルフマイヤーという、下種野郎をな!!

「……行くのか?」

「まぁ、な。フラグ的にもお前さん達と一緒に居る方が得策なんだろうが……俺にも色々とやることがあってね。あのちょび髭親父に伝えといてくれ。いずれ、個人的にケリを着けに行くってな」

そしてそのチョビ髭を剃り落とす……ってな?

剣を鞘に納めた俺は、オズワルドに言伝を頼むと、その場を走り去って行った。
ふ……俺、カコイイッ!!

***********

「……ってなことがあったんだよ」

「成る程……そんなことが」

あれからしばらくして、俺はルインと合流……それぞれの情報を交換していた。
互いに情報を提示するが……どれも芳しいとは言えないな。

「それにしても、インペリアル・ナイトを二人も退けるなんて……リヒターさんは凄いです!そこに痺れて、憧れちゃいますよ♪」

「ヌハハハハハ!当〜〜然!!もっと褒めて良いんだぜ?」

俺は正に鼻高々である。
月○蝶……もとい、絶好調であるっ!!!

その後、宿に泊まった後……俺達は再び別れた。
もう少し突っ込んだ部分まで調べてみようという話だった。

効率的に考えて、手分けして事に当たる方が得策だろうしな。

あと、つい最近……ルインがシオンに偶然接触したらしい。
そうしたら問答無用で襲い掛かられたとか……むぅ、流石は殺人鬼……。

命からがら逃げ帰ったそうだが、少なくとも自分じゃあ、正攻法ではとても太刀打ち出来る相手じゃないと……。

以前、軽く剣を合わせたことがあるんだが……ルインの剣は中々鋭く、インペリアル・ナイトと迄は言わないが……それに準ずる実力を持ってる。

それを軽くあしらうなんて……本気で腕を磨いた方が良いかもな。

俺はしばらく、グランシルの闘技場にて腕を磨くことにした……。
上手く行けばもしかするかも知れんからな……クックックッ……見てやがれよシオンとやら!!

真のチートオリ主として……貴様に引導を渡してやるからな!!

フハハハハハハハハッ!!!!!

***********

後書きとやら。

はい、そんなワケでオタクニリヒター参上!!
な回ですが……。
オタクニリヒター視点の話はこれで終わりです。
次にオタクニリヒターの出番は番外編か、シオンと邂逅するまでお預け……ということに。

次回からはまた本編に戻ります故……。

それではではm(__)m




[7317] 第112話―決戦・バーンシュタイン―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/18 02:05


ローランディア城・謁見の間

休暇を終えた俺達は、新たな任務を言付かる為、この謁見の間にやって来ていた。

「いよいよバーンシュタイン王都を包囲するとの報告が入った。お前たちも協力しに行ってくれ」

アルカディウス王に告げられたその言葉に、皆は一様に顔を引き締める。

「戦争の終わりが近づいているんですね」

「よし!頑張ろうよ!」

「そうだな……」

上からルイセ、ティピ、カーマインだ。
いよいよ……だからな。
気を引き締めるのも分かる……もっとも、コレはまだ『始まり』に過ぎないんだけどな……。

とは言え……とりあえずは人間同士で争う……という事態にピリオドを打つことにはなる……。

「さて、どうするよ?」

謁見の間から退出した俺達だが……ふと、ゼノスがこんなことを言う。

恐らく、エリオットの軍と父上の軍……どちらに援軍に行くか……という意味だろうが。

「……エリオットの方に向かおう。ウォルフマイヤー卿の方が部隊も潤沢だ。それに、最終決戦ともなればエリオットもその立場上、自らリシャール王に対面することになる……王都の中にも陣が敷かれているだろうから、エリオットの護衛も兼ねて王都突入部隊を編成しなければならない」

「とは言え、並の兵にソレが勤まるワケは無く、かと言ってジュリアン達の様な司令官が戦線を離れるワケにはいかない……何より、部隊を円滑に突入させる為に敵の本隊を陽動しなければならない……」

「つまり僕達がエリオット君の護衛には最適……ってワケだね?」

要するにそういうこと。
少数精鋭にして、ある程度自由に動ける立場の存在……俺達が適任ってワケさ。

「んじゃま……行きますか!」

俺は瞬転を唱え、瞬時にしてジュリアの敷いた陣地に。
そして、探してみるとエリオットとジュリア……それにリーヴス卿と彼の副官が話し合っていた。

「お〜〜い!」

「あ、皆さん」

俺達はエリオット達に合流……状況の説明を受けた。

エリオットが言うには今、父上、ダグラス卿、ブロンソン将軍、ベルナード将軍、ウェーバー将軍達が軍を率いて攻撃を仕掛けているところらしい。
その隙に、エリオット含む護衛部隊が城内に突入する算段だそうな。

「それで、皆さんには僕と来て欲しいのですが……」

「もっちろん!アタシたちも最初からそのつもりだったからね!」

「……ありがとうございます!」

エリオットの頼みに、胸を張って答えるティピ。
それに呼応して、頷いたり、笑みを浮かべたりして肯定する俺達。
ちなみに、俺はナイススマイルでサムズアップな?

「僕が君たちを城内へエスコートする」

「リーヴス卿……部隊の指揮は宜しいので?」

「そちらは半分はウォルフマイヤー卿たちに、半分はジュリアンに任せてあるよ。それに、侵入するには城の細部まで知っている者のエスコートが必要だろう?」

俺の質問に爽やかな微笑みと共に答えるリーヴス卿。
一々気障ったらしいリアクションの筈なんだが……それが気障ったらしくならないのが流石と言うか……。

「ちょっと待った、リーヴス!」

そんな爽やかBOYなリーヴス卿に待ったを掛けたのは、何を隠そうジュリアその人である。

「――いいのか?中にはライエルがいるんだぞ?」

「君には関係のないことだよ、ジュリアン」

「しかし……!」

ジュリアは、ほんの一時とは言え……仲間と敵対した……故にその苦しみを知っている。
だから、親友同士の二人を気遣っての言葉を掛けた。
それはジュリアの優しさなんだろう――だが、リーヴス卿とライエル卿――二人の誓いは固い。

「そろそろ行こうか」

だからこそ、涼しい顔をしてスルー出来る。
とは言え、親友達と敵対するのだから――その心内はいかほどのモノか……。

「おい、リーヴス!!」

「おやめ下さい、ジュリアン様」

先に進んで行ったリーヴス卿を追い掛けようとしたジュリア……そんなジュリアを引き止めたのは、リーヴス卿の副官だった。

「私は聞いてしまったのです。リーヴス様とライエル様の話を……」

「詳しく話してくれ」

「ご存知と思われますが、ライエル様、リーヴス様、そしてリシャール陛下は、昔から、身分を越えた親友であらせられます。優しかった陛下は、突如乱心したかのように残虐な性格へ変貌してしまいましたが、2人とも親友である陛下を討つことは本意ではありません」

それは知っている――バーンシュタイン国民の間では有名な話だからな。
まぁ、俺は原作知識として知っていたんだが……。

「しかしこのような状況になった以上、そのような我を通すことは出来ず、ある約束を交わされたのです。どちらが倒れようと、恨まず、残った方が陛下を最後まで面倒見ようと……」

「つまりリーヴスがこちらにつく事は、ライエルも知っていたと?」

「……はい」

本当はライエルが憎まれ役になる筈だったが……リーヴスが自分が……と、買って出たんだよな……。

「本当はどちらも陛下のそばにいたかったはず。だから、止めないでいただきたいのです……」

俺達はそれを聞き、シーーンとなってしまった。
ある程度知っていた俺や、その位で揺らがない経験をしてきたウォレス、ゼノスは平然としていたが……。

「何をしている?突入するぞ!」

「す、すまない。お前の部下を借りるので、少し打ち合わせをな」

「相変わらず、心配性だな」

そこにタイミング良く?俺達を呼びに来たリーヴス卿。
ジュリアは若干慌てて言い訳をしていた……どうやら自然に流せたらしいが……。

「……お前たち、彼を頼む」

「任せとけ……そっちも気をつけてな?」

俺はサムズアップして答える……すると、ジュリアも微かに笑みを浮かべて――頷いた。

「……よし、私も出撃する!」

ジュリアとリーヴスの副官も戦場へと向かった。
さて、俺達も俺達の仕事をするとしようか?

***********

「来たな。ここを東に行けば、バーンシュタイン王都だ」

リーヴス卿と合流した俺達は、その足でバーンシュタイン王都へ向かう。
王都は目と鼻の先――つまり。

「!!逆賊オスカー・リーヴスを捕らえよ!前進!!」

妨害にも合うワケだ――。

「団体さんのお着きだ……ってか?」

「行くぞっ!!」

とは言え、高々10人強……俺らの敵になる筈が無く、あっさり蹴散らして進む。

で、王都の中心までやってきた俺達……周囲の気配を探る……おぉ、流石に王都を守るだけはある……結構な数だな。

「城は街の北西にある。このまま一気に駆け抜けよう!」

「えぇっ!?敵の中を突破していくのぉ!?」

リーヴス卿の提案に悲鳴を上げるティピ。

「まだ先があるんだから仕方ないわよ。少しでも温存しておかないと」

「そうだな……一々相手にしてる時間も惜しいからな」

そう言うのはリビエラとウォレス……どうやらティピも納得したようだ。

「よしっ!なら俺が殿りを勤める」

「だ、大丈夫なのシオンさん??」

俺は殿りを買って出た。
ティピは不安そうに聞いて来たが、俺は不敵な笑みを浮かべてこう言った。

「ティピ――俺を誰だと思ってるんだ?あの程度の連中――例え一万人居ようが、百万人居ようが屁でもねぇさ」

「そ、そうだよね!シオンさんだもんね!」

他の皆もそれを見て頷いた……どうやら信頼されてるらしい。
なら、それに答えるとしましょうか!

「よし――行けっ!!」

「「「「「「おう(はい)(ああ)っ!!」」」」」」

俺の合図と共に、皆が一斉に駆け出した。
必然的に足の速さに差が生まれる――一番速いのはラルフ、二番目は(意外にも)ゼノス――カーマインはルイセを庇いながらだから三番目――リビエラが四番目で、アリオストがそれに続く形。
エリオット、カレン、ウォレス、リーヴス卿が一塊になる感じか。

「さて――ここから先は通さんよ?」

「ぐぅ――!?」

「ひっ…!?」

俺は敵兵の前に立ち塞がり、メンチビーム!
気を失う者も居れば、耐え抜いた者も……。

「大人しく寝とけ」

「ぎゃぶっ!?」

俺はそんな耐え抜いた奴らを、素手で大地に沈めて行く。

「「「「うおおぉぉぉっ!!」」」」

四方から飛び掛かってくるが……。

「甘いんだよっ!」

「「「「ぐわあああぁぁぁぁぁ!!?」」」」

俺はその中心で回転蹴り。
連中は吹き飛んで行く………。

「さて……次はどいつだ?」

「お、おのれっ!!」

魔導師の一人が、マジックアローを発動させる。
どうやらルイセを狙ったみたいだが………。

ドガガガガガッ!!

「なっ……!?」

「言っただろう……ここから先は通さん、と」

俺はそれをマジックフェアリーで迎撃する。
さて、俺の生徒を狙った君は……手痛いダメージを受けてもらおうか?

「なっガァ!!?」

俺は残ったフェアリーをその術者にぶつける。
まぁ、加減したし死ぬことは無いだろう。

「さて……次は誰が相手してくれるんだ?」

再び殺気を撒き散らしながら奴らを見据える……。
どうやら怯んでるらしいな……。
まぁ……。

「来ないなら……こちらから行くぞ?」

俺は気絶している兵の足を掴み……それを。

「オラァッ!!人手裏剣っ!!」

投げた。
ちなみに縦回転。

「「「「げふぅ!!?」」」」

人手裏剣は斜線上にいる兵士を蹴散らして進み……酒樽に突っ込んだ。
………死んでない……よな?
……よし、生きてる!

「ほぉれ、どんどん行くぞぉっ!!!」

「「「「ギャアアアァァァァァスッ!!!?」

……とか、俺が敵を蹴散らしている内に。

「よし、到着」

「ったく、やっと着いたぜ」

どうやら、ラルフとゼノスが目標地点に着いたらしいな……。

「ふぅ……」

「やっと着いた……」

「………」

ルイセ、ティピ、カーマインも続いたか。

「警戒が厳重ね……」

「ふぅ、着いたか」

リビエラ、アリオストも同様に……。

「やれやれ」

「ようやく着きましたね……」

「……ふへぇ」

「さすがに敵が多いな

最後にウォレス、カレン、エリオット、リーヴス卿の順か……。
さて、最後は俺だな……。
風向きも良好だな……クックックッ!!

「そんじゃ……あばよっ!!」

「ぐわっ!?なんだこの煙は………ぎゃああぁぁぁ!?目がぁ!目がアァァァ!?」

俺は某警察無線のモノマネをする芸能人の様な捨て台詞と共に、敵兵との間に特製煙玉を炸裂させ、皆の元へ。

「よう、皆お待たせ」

「それは良いけど……アレは一体?」

「アレか?俺の特製煙玉……その名も激辛濃縮マスタード玉だ!」

俺の説明を聞いたティピは青い顔をしてそちらを見遣る。

「いやあぁぁぁ!?目が、目が痛ぁ!?ケホッ、ケホッ!!!」

「喉が――喉が焼けるぅ!!?」

「うおああぁあぁぁ!!?」

「痛い!痛いいぃぃぃ!!?」

「殺せぇ!いっそ一思いに殺ぜぇ!?ゲホッゲホッ!!?」

――地獄絵図。

「あ、悪夢だわ……」

「まぁ、死ぬよりは良いんでない?」

ティピは自分もマスタードの洗礼を受けたことがあるからな……仕方ないにしても、まあ……バーンシュタイン兵の皆さんも死ぬよりはマシだと思うんだが……って、皆で変な顔をして……どったの?

「み、みんな、用意は良いですか?」

「は、はい」

……あからさまに視線を逸らしやがった。
しかもリーヴス卿まで……。
まぁ、良い……今は先に進むのが先決だからな。

そうこうするうちに、城門前まで辿り着いた。

「まさかここも正面突破?」

「もしご希望であれば、そうしますが?」

「う、ううん!とんでもない!」

ティピの問いに答えるリーヴス卿。
実際、この面子なら正面突破しても余裕だとは思うが……な。
とは言え、無駄な犠牲を出すことも無いだろう。

「確かこのあたりに、城内への抜け道があるはずです」

「抜け道か……探してみよう」

俺達は周囲を探索する、そして俺は草木の陰に古井戸を発見した……まぁ、原作知識を頼りに探したんだが……。
中に通路があるし……間違いないだろう。

「皆!……これがそうじゃないか?」

「間違いない……此処がそうだ」

「入ってみましょうよ」

俺達は井戸の中の通路を進み、しばらくすると……。

「ここは……城壁の中ですか?」

「はい。裏庭の一角です」

エリオットの質問に答えながら、壁を調べていくリーヴス卿……そして、ある場所で止まり……告げた。

「ここから城内に入れます」

リーヴス卿はそこにあったスイッチの様な物を押した……すると、レンガの壁の一部が上へスライドしていくではないか!?
いやまぁ、知っていたケドさ?

「……では、行きましょうか?」

俺達はリーヴス卿に促されるままに進んで行く……すると、隠し通路から出て城の廊下へと出ることが出来た。

「廊下を南に下ったつきあたりがホールになっています。ホールから2階に上れば、リシャールのいる謁見の間へ入れます」

リーヴス卿から説明を受け、謁見の間へ向かう俺達……道中、リーヴス派の兵士達に出会った。
彼らはこのあたりを制圧しており、リシャール派の兵は大広間から謁見の間に集結しているとのこと……前以て先手を打って路を確保してるとは……リーヴス卿も抜目ないな。
ちなみに、ガムランは居ないらしいが……それでも結構な数が待ち受けているらしい。

「さ、着きましたよ」

「ここが……」

「大広間……だね」

そう、大広間に着いた……だが案の定。

「待ち伏せ……か」

「へっ、なら蹴散らすまでだぜ!!」

カーマインが呟き、ゼノスがやる気を見せて剣を抜き放つが……。

「ちょっと待ってくれ!こんなところでぐずぐずしている暇はない。急がないと我々が侵入したことが知れ渡ってしまう!」

「最悪、敵に援軍を呼ばれてパァ……ってワケだ」

リーヴス卿と俺の言葉に、皆の言葉を詰まらせる。
最悪そうなっても、切り抜けることは出来るが……全員が無事に切り抜けられるかと聞かれたら……僅かながら疑念が残る。

「……行けよ。こんな連中、俺だけでも十分だ」

「流石に一人は厳しいだろ……俺も残る」

ゼノスとカーマインが戦闘体勢に入る。

「俺たちが道を作る……残ったメンバーは謁見の間まで駆け抜けろ」

「さっきはシオン君に殿りを任せちゃったからね……今度は僕が残ろう」

「だから、先生たちは先に……っ!」

ウォレス、アリオスト、ルイセ……。
俺が残る……と、言いたいが、皆がやる気を出しているなら、俺がそれを削ぐことは無い。

――信頼には信頼で返す。

「分かった!先に行ってるから、早く追い付いて来いよ?行こうぜ、皆!」

俺、ラルフ、カレン、リビエラ、エリオット、リーヴス卿は駆ける。

それと同時に、ルイセがファイアーボールを放つ。
敵がその場から散開した隙を突いて、俺達は駆け抜けた!

「おのれ、逃がすかっ!」

「待てよ……テメェらの相手は……」

「……俺たちだ!」

「よぉし……いっけえぇぇぇ!!」

カーマイン達が戦闘に突入したらしいな……。
俺達は謁見の扉の前に居る。
この奥に……リシャールとライエルが居る。

「ちょっと緊張しますね」

エリオットの緊張も分かる……ある意味、自分自身と対面することになるんだからな。
って、エリオットはそのことを知らないんだったよな……。


「エリオット陛下、折り入って、お願いがあります」

「どうしたんですか、あらたまって」

「我々がこの戦いで勝った場合、アーネスト・ライエルを罰しないでいただきたいのです。自分の主を守るのがインペリアル・ナイツとしての当然の義務。本来ならば誓いがありながら、反乱に荷担した私な方が罰せられるべきなのです」

「だけど、それは偽者を倒すために仕方ないことでしょう?あなたはどこも悪くないんじゃない?」

エリオットにライエルの無罪を嘆願するリーヴス……それは友としての願い。
リビエラの言うことも確かに正論だが……正論では納得出来ないこともあるのさ。

「上手く言えないけれど、称号に忠誠を誓ったか、人柄に忠誠を誓ったかの違いですね」

「――わかりました、約束しましょう」

「ありがとうございます」

エリオットも、分かるだろうな――リーヴス卿がどちらに忠誠を誓ったのか――故に――。

「そしてもう1つ、リシャール王の事ですが……」

「彼が何か?」

この嘆願もまた、必然なのだと……。

「彼は国王陛下の名を語る偽者だったわけですが、昔は本当に素直で優しい方でした。王として即位する直前から、何かに憑かれたように人が変わってしまいました。もし彼がゲヴェルに操られているなら、また元の彼に戻る可能性もあるのではないでしょうか?」

「どういうことですか?」

「私が説明するわ……実は……」

恐らくアンジェラ様達から聞いたのだろう……真相を知ったリーヴス卿が嘆願した。
が、エリオットは真相を知らない……なので、ボスヒゲに事情を聞いたリビエラが簡単に説明する。

ゲヴェルとリシャールの関係……リシャールとエリオットの関係……そして、ヴェンツェルの存在と、ヴェンツェルがひそかにエリオットを助け出していたこと……等を。

「そうだったんですか……それで貴方は、ゲヴェルを倒せば、元の彼に戻るかも知れないと言うのですね?」

「……はい」

エリオットとしても、色々と聞きたいことはあるが、先程リーヴス卿が言った通り……ぐずぐずしている時間は無い。
だから、自身の疑問は押し込め……リーヴス卿に問い返した。
そして、それに肯定を示したリーヴス卿を見て………ん?エリオットがこっちを見た……。



成程、例の【約束】の件か。



「…………」

俺は頷くことで先を促す。
エリオットもそれを頷いて返した。

「わかりました。元より、彼を悪いようにするつもりはありませんでしたし……彼の身柄の安全を約束しましょう」

「……まことに申し訳ございません」

「さて、話が纏まった所で……謁見と行きますか!」

こうして、俺達は謁見の間へ踏み込んだ……中には多数のバーンシュタイン兵と……赤きインペリアル・ナイト……そして、バーンシュタインの王が……待ち受けていたのだった。

***********


「……いよいよ……」

「とうとうここまで来たか……」

エリオットとリシャール……同じでありながら違う二人が、合見えたワケだ。

「……陛下……」

「まさかお前までが裏切るとはな。お前もそう思うだろ、アーネスト?」

「は…はぁ」

悲しそうな顔で見詰めるリーヴス卿だが、リシャールはそれを蔑む様に言い放つ。
もっとも、ライエル卿はライエル卿で言葉に詰まっていたが。

「それから、お前が余を偽者呼ばわりする下賎者か?」

「それはお前の方だ!僕を下賎者と言うならば、本物の証拠を見せてみろ!」

「それはお前も同じではないか?お前が本物を名乗るなら、その証をたててみろ!」

「僕にはある。お前にない、本物の証が!」

威圧感を伴うリシャールに対して、一歩も引かず……ありったけの気迫をぶつけるエリオット。
そして、彼が掲げて見せた王位の腕輪……それを見て苦々しげな表情をリシャールは浮かべる。

「口の減らぬ奴だ……」

そして、彼がその命を降す。

「アーネスト。この道化者と、反逆者オスカー・リーヴスの抹殺を命ずる!」

「………はっ」

「リシャール様……」

その命令を、ライエル卿は受けた……内心に渦巻く葛藤を決して表そうとはせず……そして、抹殺を命じられたリーヴス卿は、ただ悲しそうに……辛そうに主君である友を見据えていた。

……それが自身で選んだ選択だとしても……親友に、躊躇無く、殺意を向けられたんだから……無理は無いのだが。

「頼みがある」

「……何です?」

「アーネストは…ライエルは僕が引き受ける。手出しをしないで欲しい」

……参ったね。
そんな真剣な眼差しを向けられたら……断れないじゃないか。

「俺も個人的にライエル卿には借りがあるのですが……此処で駄々をこねる程、野暮ではありませんよ」

「すまない……そのかわり、君たちはリシャール王を!」

本心では辛いだろう……友と戦うことが……友が傷付けられるのを見るのが……。
だが、その覚悟に水を注す様なことは言えないよな……。

「聞いた通りだ!俺達は周りの兵隊とリシャール王を討つ!!直にカーマイン達も来る……この戦いで決着を着けるぞ!!」

「ああ!!」

「任せて下さい!」

「勿論よ!」

「全てを……終わらせるために……!!」

俺達は得物を抜き放ち、戦闘体勢に入った――。

「ラルフには兵隊連中を頼む!カレンとリビエラはその援護――エリオットは二人の護衛!万が一近付いてくる輩が居たら迎撃!俺はリシャールの相手をする……一応、顔見知りだしな」

「大丈夫かい……?」

「俺が負けるとでも?」

「――思わないね」

ラルフと互いに笑い合い、拳をぶつけ合う。

「さて……行くかぁ!!」

俺達は駆け出す……それぞれに成すべきことを成す為に――!!

***********


「オスカー……」

「アーネスト、僕たちは間違えているのかな?」

僕たちの誓いは……僕たちのしていることは間違えているのか……。
僕には分からない……。

「さてな。どちらが間違えているのか、2人とも間違えたのか、いや、それとも2人とも正しいのか……。どちらにしろ、判断するのは後世の連中だ」

「僕は君がうらやましいよ。冷静にそう言い切れる君がね」

「……人の気も知らずに」

――ああ、分かってるさ。
君が言葉とは違う気持ちを押し込めていることくらい……。
だからこそ、僕は――。

「ハァッ!!」

「シッ!!」

アーネストの剣閃を、僕は刈り取る様に弾く。
普通なら、此処で返す刃で切り返すところだけど……今のは挨拶変わり。

「……どうやら腕は衰えていないようだな」

「お互いにね」

正直、彼との模擬戦での勝敗は……僕が負け越している。
だけど……今回は――今回だけは負けられない――!!

「ハアァァァァァァッ!!!」

「セエエェェェェイッ!!」

アーネストの斬撃を、刺突を、無数に飛び交うソレを……僕は払い、薙ぎ、引き弾く。
変則的に鎌を振るう僕だけど……双剣のアーネスト相手では、どうしても手数で劣る。
ならば、僕は得物の重量差を活かした攻撃をしつつ……無駄の無い様に彼の嵐の様な攻撃を受け流さなければならない……。
もっとも、筋力的にはアーネストの方に分があるんだけど……。

元より、あらゆる面でアーネストは僕に勝る……ならば、僕は粘り続けて……絶対の隙を見逃さない様にするだけだ――。

***********


「まさか、君が裏切るとは思わなかったよシオン」

「よく言う……最初から危険視していたんだろう?グローシアンの俺を……いや、俺だけじゃない。全てのグローシアンを……」

だから、グローシアンを次々に抹殺していったんだろ?
そう告げると、リシャールは愉快そうに笑う……。

「そこまで気付いていたか……だが、それを邪魔していた人間がお前だったことは計算外だったよ……全ての計画はお前が狂わせていたのだな」

「そんな大層なことをしたつもりは無いんだがね……だが、まぁ……その口ぶりだと、こちらの情報が漏れている様に感じるが……どういうことだ?」

「ふふふ……ソレはお前の連れにでも聞くのだな!」

俺としては、陰ながら動いていただけだし……主に動いていたのもオズワルド達だしな。
俺はしらばっくれながらも、リシャールが色々知っているそぶりをしているのを指摘……すると、その剣で後ろのラルフを指し示した。

「どういうことだ……?」

「……ふん、そこまで教えてやる義理は無いな……どうしても聞きたいなら、私を倒してからにするのだな」

リシャールはその双刃剣を構える。

「これでも私はナイツ・マスターの位をもらった男だ。他の国の腰抜け王と一緒にされては困るぞ!」

「一緒にはしないさ……だがお前は負ける。それは決定事項だ」

「ならば見せてやろう……力というものを!」

切り掛かってくるリシャール……そのスピードは確かに速い。
だが……。

「温い!」

「ぬっ……ぐぅ……!?」

俺はリシャールを弾き飛ばした……リシャールはなんとか踏ん張った様だが、怪訝な顔をしている。

「……おかしい!?どうしたんだ、私の体は……。こんな時に…力が……力が入らん………いや、力が吸い取られてゆく!?」

「――当然だ。ゲヴェルはグローシュ波動を浴びると弱体化する……ゲヴェルから創られた者もまた、同様だ……」

もっとも、ゲヴェルの波動を常に遮られながら成長した者は例外だがな……カーマインやラルフがその例だ。
そして、ゲヴェルに操られていない状態なら……さほど苦しんだりはしない。

……闘技大会の時のリシャールが、そうだった様にな!
つまり、普段のリシャールはゲヴェルに魔改造されており、身体能力などが異常に高い状態だが……それ以外は人間の枠を飛び越えた状態では無い。

今現在は、ゲヴェル波動によるブーストが掛かってる状態であり、本来ならゲヴェルに近い力を出せる上、スタミナの際限が無く、回復力も並外れた物になるのだが、俺のグローシュ波動に遮られている。
故に、精神は操られている状態でありながら普段の身体能力のまま……つまり【身体が着いてこない状態】というワケだ。
俺は今、グローシュを抑えている状態だが、仮に意図的にグローシュを解放したならば……リシャールを更に弱らせることも出来る。
それこそ……命の供給を絶つことも――。

「くっ……おのれぇ……」

「さて、俺としては知人がいつまでも狂ったままでいるのは忍びないんでな……強制的に目を醒まして貰うぞ?」

「戯れ事を……!?」

再び切り掛かってくるリシャール……。
確かにその剣技は卓越している……。
ナイツ・マスターと呼ばれるだけのモノがある。
実際、俺が剣を合わせた者の中でも上位に入る。

だが、軽い!!

「下郎がっ!!」

「目を……醒ましやがれえぇぇぇぇぇっ!!!」

「ぐはあぁぁ!?」

ドゴオォンッ!!

襲い来る剣閃を弾き、懐に入って殴り飛ばす……リシャールは玉座に叩き付けられる。
なんか、すっごい虐めてる気分だが……見た目エリオットと大差無いからなぁ……。

「……なんだこの感覚……。…私は何をして……アーネスト……オスカー……」

「陛下!?」

「リシャール陛下!?」

ライエル卿とリーヴス卿……二人は戦うのを中断してまで、リシャールの方を見遣る。
友が自分達を呼んだから――。

「……そうだ…私はこの世を…人間どもを支配下に……。そのために戦っているのだ……」

だが、それも再び閉ざされてしまう……仕方ねぇ、気乗りはしねぇが……荒療治と行くか。

「……聞こえてるんだろう?リシャール……」

俺はリシャールにゆっくりと近付く……。

「……な、何を……」

「お前がもし……現状を悔いて、止めたいのなら……抗え。例え運命が過酷だとしても……反逆してみせろ」

「だ、黙れ……」

「ねだるな……勝ち取れ!さすれば、与えられん!!」

「黙れえぇぇぇっ!!!」

ドンッ!!!

玉座にもたれ掛かっていたリシャールが、一足飛びにこちらに向かって来た……火事場のクソ力って奴か!!
なら……受け止めてやらぁ!!

「うあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

リシャールは渾身の一撃……そこから更に連撃。
ただひたすらに………斬る!斬る!!斬る!!斬るっ!!!

俺はそれに合わせて、払い、捌き、受け流す……。

「どうした!その程度かナイツ・マスター!!」

「黙れと言っているっ!!!」

「腰が入っていない!!息も上がっているぞ!!そんなザマでナイト・マスターなどと……笑わせるなぁ!!」

俺は徐々に身体能力を上げていく……やがて、リシャールもそれに着いて来れなくなるのだが……尚も食らいついてくる。

俺が敢えて挑発的な言葉を言っているのには、一応の理由がある。
それはリシャール自身の心を刺激するためだ。
心の隙を突く……と言うと聞こえが悪いかも知れないが……人はとかく怒る時に隙を作りやすい。
怒りは凄まじい力を呼び起こせるが……代償として周りが見えなくなるからな。

冷静に怒る……とかの例外もあるが、それは置いておく。

「お前の想いとはそんなモンか!?ナイトに対する想いは………友に対する想いはっ!!」

「……友……うぅ……!?」

今のリシャールは非常に不安定だ。
ゲヴェルの形成した人格……14年間育んで来た人格……その二つが責めぎ合っている。
どうも、ゲヴェルが形成した人格の方が強いみたいだが……決してリシャール自身の人格が屈した訳では無い。

「アーネスト・ライエル……オスカー・リーヴス……この二人はお前にとって何だ?ただの使いやすい駒か?」

「……ち……がう………我々は……約…束………」

現に、俺なんかの揺さ振りでも反応するんだからな……。
それは体力的に削られたからなのか、ゲヴェルの波動を遮っているからなのか……或いはそのどちらも、なのか。

植え付けられた物であれ、育まれた物であれ……どちらもリシャールであることに変わりは無い。
ならば……リシャールは打ち勝たねばならない。

植え付けられた闇に……原作のボスヒゲに逆らった時の様に……な。

俺にはオルタの主人公……リヒターの様な特殊能力は無い。
故に俺に出来るのは、説教臭ぇが……リシャール自身の心に刺激を与えることと、闇の呪縛を緩めることのみ。

本当の意味で説得出来るのは……親友である、あの二人だけだろうさ。

「ぐぅ……頭がぁ……私は……私は……」

……上手く行くか?
もし、リシャールが自ら闇の呪縛から逃れられたなら……。

「手間取っているようだな」

「!あいつらは……」

奥の扉から現れたのは仮面の騎士……チッ、タイミングよく現れやがる。

「ゲヴェルとリシャール王……やはり繋がりがあるみたいね」

リビエラはヴェンツェルから聞いた話について、確信を深めた様だ……。

「お、おお……お前たち、か……良いところに来た……手を、貸してくれ!」

「そのつもりだ」

くっ……ゲヴェルの人格が持ち直しやがったか……?
これ以上手荒な真似はしたく無いんだが……。

「シオン……彼らの相手は僕がする」

「ラルフ?お前……」

「カレンさんやリビエラさん……それにエリオット君も頑張ってくれたから、兵士達はあらかた片付いたよ………彼は、目覚める可能性があるんだろう?」

「!?」

お前……まさか……?

「頼んだよ――相棒」

そう言い残して、アイツは仮面騎士に向かって行った……。

「というワケで……君達の相手は僕だ」

「お前は……!?」

ラルフは仮面騎士と対峙している……まさか、アイツ……いや、今はリシャールだよな。

「そういうワケだ……リシャール。加減はする……だが、キツイの喰らわすから……歯を食いしばれ」

「……人間ごときが……甘く見るなよ……!」

俺とリシャールは武器を構える……やはり原作宜しく、ギリギリまで追い込むしか無い……か。

「………」

「………」

互いに無言……リシャールは必殺の一撃を打ち込む隙を……。

俺は必倒の一撃を叩き込む瞬間を………。

そしてその瞬間は……。

「「―――――っ!!!」」

……訪れた。

「やああぁぁぁぁ!!」

リシャールの打ち下ろしの剣……俺はそれを剣閃に添う様に……。

「掛かった!!」

「!?」

リシャールは振り切った筈の剣を返し、直ぐさま切り上げて来た……。

これは……燕返し!?

燕返し……と言っても、某運命の彼が使うソレでは無く、所謂【巌流】という流派で括られたソレ……高速の切り返しである。

初太刀に必殺の意思を篭めて振るう……その必殺の意思は、例え避けられようとも、地を滑空し……一気に飛び上がる……そう――燕の様に。

正直、リシャールが巌流なんて知っている筈が無い。
言うなれば、コレは自身で編み出した物。
だとすると――とんでもない才覚だな。

――とは言え。

「!?分身!?」

「俺には届かねぇよ」

――飛竜――翼撃――!!

「ぬぐああぁぁぁぁっ!!?」

ズガアアァァァァァンッ!!!

リシャールは横からの一撃に吹っ飛び……壁に激突した。

【飛竜翼撃】父上からラーニングした奥義のアレンジ……以前、闘技大会でゼノスにぶちかました技だ。

「まぁ……紙一重……いや、髪一重……だったがな」

言うや否や、ハラリ……と、俺の前髪が二、三本程舞い落ちる……。
そう、リシャールの剣は届きかけていた。

俺が身体能力を抑えていたこと、目測よりも剣速が加速したことなどの理由により……。
それでも届かなかったのは、リシャールが弱っていたから……コレに尽きる。

まぁ、仮に弱ってない状態で技を撃たれても、真っ向から受けてやったが……。

「…ぐっ……ぐはっ!」

……驚いたな。
ゼノスですら気を失ったって言うのに……。
耐えやがったよ……流石と言うべきか。

「……こ…こんな……なぜ……うぅ……」

「陛下!」

「…申し訳ありません、リシャール陛下……」

面と向かってリシャールの心配をするライエル卿……リーヴス卿は、立場上すまなそうに謝るくらいしか出来ないが……。

「よくもやってくれたな。死をもって償うがよい!」

「やらせるかっ!!」

ラルフが仮面騎士とぶつかり合う……。

「言った筈だ……君達の相手は僕だと」

「くうぅ……貴様ぁっ!!」

ラルフは終始仮面騎士を圧倒している……手を貸す必要は無いか……なにせ。

「「【マジックフェアリー】!!」」

「ぬがぁ!!がああぁぁぁ………!」

カレンやリビエラの援護もあるしな……。
それに……。

「お待たせっ!!」

「こっちは片付けたぞ……」

カーマイン達も来たし……な?

「……間に合ったようだな」

………余計なオプションも着いてるみたいだがな。

「貴方は……」

「ヴェンツェルさん」

エリオットはクエスチョンマークを浮かべていたが、ラルフがその言葉を口にしたので、奴が誰なのかを理解したらしい。

「さっき合流したの!ヴェンツェルさん、約束を果たしに来てくれたんだって!」

「そういうことだ。ゲヴェルの野望を阻止するために……な」

ティピは嬉しそうに言うが、俺は胡散臭い物を見る眼でヴェンツェルを見遣る……正直、睨んでいると思う。
だが、今此処で事を荒立てるワケにはいかない。
俺は気を取り直して、口を開く。

「ったく……もう少し早く来てくれたら良かったのによ?」

「すまねぇ……敵の援軍の数が多くてな。思いの外てこずっちまった」

俺の問いに答えてくれるゼノス……まぁ、仕方ねぇか。

「さて、仮面の……もう詰みだ。待ったは無いぜ?」

「くっ……まだだぁ!!」

仮面騎士は目の前のラルフに切り掛かったが……。

「ハァッ!!」

「ガァ……アァ………」

仮面騎士は返り討ちに合い、物言わぬ液体へと姿を変えた……。
その様子を、ラルフは複雑そうな表情で見つめていた。

――やはり――気付いているのか――ラルフ――。

「これで、終わったんですね……」

「……長かったね……」

カレンの呟きに、合わせる様に……ルイセが零した。

「……ああ。こんな戦いは久しぶりだ」

「まっ、とりあえずは一件落着ってところか……」

ウォレスとゼノスも胸を撫で下ろした。
……まだ、終わってはいないんだがな。

「……そろそろだな……」

そう言うなり、ヴェンツェルはリシャールに近付き……呪文を唱える。
するとリシャールの腕輪が、パカリと外れた。
それを拾い、リシャールに駆け寄っていたライエル卿に見せる。

「これを見よ。この腕輪の内側には、我が署名がない。もちろん、他の宮廷魔術師の署名もない。これが偽者の証拠だ」

「……それはどうでも良いことなのだ。私はただ……親友を守りたかっただけだ……」

「アーネスト………」

ヴェンツェルに証拠を見せられても、たじろぎはしなかった。
ライエル卿は偽者だろうと何だろうと……守りたかったのだ。
ライエル卿の様に、リシャールに駆け寄っていたリーヴス卿も、心中は同じ気持ちの筈……。

「……う……」

「リシャール様!」

「……オスカー……?私は……どうしたのだ……?なんだか長い夢を診ていたようだ……」

「…陛下……。戻られたのですか?」

リーヴス卿の言う様に、その瞳には濁った物は無く、ただただ澄んだ光を放っている。
――闘技大会で再会した時と同じ――いや、それ以前の……幼少の頃の様に。

「……懐かしい。まだ士官学校に入ったばかり……私たちが出会ったばかりの頃に戻ったようだ……」

優しげに……懐かしそうに微笑む彼には最早、傲慢な王の姿は影も形も無い。

「お怪我にさわります、陛下」

「私はゲヴェルによって心を封じられてしまった。そして、今まで……」

「…陛下……」

二人は本当にリシャールを想っている……それをリシャールも理解したのだろう。
穏やかな表情を浮かべている。

「……私は良き家臣に……いや、良き親友に恵まれた…。お前もそうなのだな、エリオットとやら……これならば安心してこの国を任せられ…ゴホゴホッ!?」

「……まさかあなたは……?」

「自分のことだ、知っていたさ……」

エリオットは悟る……リシャールが操られながらも、抗っていたことを……。

「私の頭の中に、あの声が響き始めてから、私の心は2つになってしまった。ゲヴェルに作られた自分……人としての自分……。どちらが本来の自分だか分からぬが……ゲヴェルの支配はあまりにも強かった。次第に自分が自分でなくなり……」

「だが、それに打ち勝った……だから今のお前が居る。……違うか?」

俺はリシャールに声を掛ける。

「シオンか……どうなのだろうな……。一時的に成りを潜めただけやも知れぬ……」

「俺やルイセが近くに居ても苦しくないだろ?……それが何よりもの証拠だ」

元より、リシャールもグローシアンとともに成長している。
俺のグローシュ波動は、普通の状態でも王都全体を覆う程の物だ。

つまり、王城に住んでいたリシャールもまた、ゲヴェルの波動を遮られていた状態だった。
王城にもグローシアンは居ただろうし……だが、恐らく士官学校時代かその前後。

リシャールはゲヴェルの声に苛まれることになったのだろう……。
……奇しくも、俺が旅に出ていたこともあり。

「そうか……私は勝てたのか……思えば、君が側に居てくれた時は……心が温かった気がする……あの闘技大会の時も……それ以前に出会った時も……」

「……すまない」

結果はどうあれ……俺が最初に見捨てた相手……それがリシャール……。
故に、俺には謝ることしか出来ない。

「君が謝ることは無いさ……」

そうは言うが……な、これは俺にとっての罪なんだから……ままならないと理解はしていても……。

「……立場上、あなたを捕らえなければなりません」

「……仕方ないことだろうな。操られたとは言え、それだけのことをしてしまったのだから」

リシャールは、偽王として国を揺るがせた大罪人……それだけなら未だしも、ゲヴェルに作られた複製人間。
此処でリシャールを大々的に許してしまえば、国民への示しがつかない。

もっとも……裏技が無いことも無いんだがな?

「衛兵!この者を牢へ!」

呼ばれてやってきた衛兵が、リシャールの肩を担いで連れていく。

「……丁重に運ぶのです」

最後にそう言い渡したエリオットは、俺に向き直る。

(それでは……後は約束通りに……)

(ああ、ナイスだエリオット!ふふ……皆が驚く顔が目に浮かぶ)

エリオットは苦笑しながら……俺はニヤリッと不敵な笑みを浮かべながら、視線で会話する。
……まぁ、通じたかは分からないが……通じたと信じるさ。

「みんな!」

そこにジュリアとアンジェラ様が駆け付けて来る。

「終わったのですね。話は聞きました、ヴェンツェル。あなたのおかげで、ゲヴェルの企みも防げました」

「実際に防いだのは彼らです。私の出る幕はありませんでした」

「そんなことはありません。あなたがいたから、ここまで来られたのです……あなたがいなければ、僕はここにはいなかった……」

アンジェラ様の言葉に、謙遜するヴェンツェルだが……実際ほとんど何もしてないもんな……このヒゲ。

エリオットはそんなヒゲに感謝を述べていた……命を救ってくれたこと、教育を施してくれたこと……などを色々と。

ヒゲは仏頂面で聞いていたが……。

「ならば、仕事らしい仕事の一つでもしておきましょうか」

そう言って、リシャールのしていた腕輪をアンジェラ様に渡した。

「これがリシャールのしていた腕輪です。本来であれば、王家のしきたりに従い、内側に宮廷魔術師の名前が彫り込まれているはず。王子が生まれた時、私の他に二人の宮廷魔術師がこの腕輪作りに参加しました」

「確かに……何も彫り込まれていませんね」

アンジェラ様も確認した……もっとも、このヒゲのことだからな……この事態を予測してリシャールの腕輪には署名を彫り込まなかったんだろうな。

「エリオットの腕輪を外すまでもあるまい」

ヒゲはエリオットを玉座に座らせる。

「偽者は去った。これからはお前がリシャール王を名乗るのだ」

「はぁ……」

ヒゲの言葉に困惑するエリオット……。

「今までずっとエリオットと呼ばれてきたので、今更リシャールと呼ばれても……出来れば、今まで通り、エリオットと呼んでほしいのですが……?」

「陛下の望みとあらば……」

「承知いたしました、エリオット陛下」

エリオットの……あ、いや。
エリオット王の頼みに、快く頷いたナイツ二人……言うまでも無いが、ジュリアとリーヴス卿だ。

「同じ名前の人が2人もいると、面倒くさいしね!エリオット王ばんざーい!」

「おめでとうございます、エリオット王」

ティピ……流石はカーマインの名を言いにくいと言う理由で、ずっとアンタ呼ばわりなだけはあるな……。
ウォレスもそうだが、皆も畏まった態度だ。
まぁ、相手は王なんだから当たり前なんだが。

「や、やだなぁ……。みなさんは、今まで通りにしてくださいよ……。あなた達の前では、ただのエリオットでいたいから」

……エリオットらしいなぁ……とは言え、俺は立場上、敬語を使わにゃならんだろうがね?
父上の手前もあるし……な?

「エリオット陛下。私、アーネスト・ライエルは、陛下を信じず、最後まで反逆を行いました。かくなる上は、インペリアル・ナイトの称号を返上し、刑に服するつもりです」

「ライエル!?」

ライエル卿がエリオット王の前にひざまずき、ナイトの称号を返上すると告げた……それを見てジュリアは慌てるが……。

「いいのだ、ジュリアン。どちらが勝っても、どちらかがこうなることは覚悟していた。俺のついた側が負けたのだ。だから俺が刑を受ける。それだけのことだ」

「……くっ……」

リーヴス卿は、ライエル卿がこう言い出すことを予測していたんだろう……もしも彼が同じ立場なら、同じことをしていたのだろうから……。

「エリオット陛下。ご沙汰を」

「いいえ。あなたは今のままいてもらいます。もちろん他の兵士たちも罰したりしません」

「陛下!?」

「あなたがどんな人柄なのか、十分わかりました。これほど優れた人材を失いたくはありません」

「しかし、それでは示しがつきません。なにとぞ、罰をお与え下さい」

頑なに許しを拒むライエル卿……まぁ、この人の性格を考えたら当然か。

「……一理あるな。国民への示し……、そして何よりその男が納得すまい」

「ヴェンツェル殿の言う通り……ライエル卿は頑固らしいですから。陛下が罰を与えるまでは、梃子でも動かないと愚考しますが?」

俺もヒゲに便乗しておく……それを聞き、エリオットは一度瞳を閉じ……そして、ゆっくりと開いた。

「……わかりました。あなたには、大きな罰を与えます」

「ははっ」

「アーネスト・ライエルは、ゲヴェルの脅威の去るその時まで、全力で民を守りなさい。与えられた職務を放棄することは許しません。多くの兵の模範となり、民の生活を守りなさい」

「……ふっ、これは、大きな罰だ」

まぁ……屁理屈とも言うがな。
とは言え、罰は罰だ。

「国王陛下直々の罰、このアーネスト・ライエル、謹んで受けさせていただきます。常に兵の模範を示し、民の生活を守ることを誓います」

「見事でしたよ、エリオット」

アンジェラ様の言う様に……エリオット王の技ありってやつだな。
屁理屈ではあるけれど、罰を望むライエル卿には、逆にこの上ない罰となる。

「さて、私は帰るとするか」

「えっ?ゲヴェルのせいで城を出たなら、もう戻られてもいいのではないですか?」

「……かも知れんが、今の研究を、早く完成させたいのでな」

そう言って再びその場を去ろうとして……。

「そうだ。ルイセ」

「えっ、あ、はい」

「今、研究していることで、お前の手伝いが欲しいのだが……」

ルイセに声を掛けた……野郎、やはり原作通りに……だが、俺の目の黒い内は……。

「わたしでよろしければ、いつでもお手伝いします」

「それはありがたい。では、後日、改めて訪ねさせてもらおう。久々にサンドラの顔も見てみたいしな」

「はい。お待ちしてます」

やらせてたまるかよ……。

「ああ、そうだ……出来れば君の力も借りたいのだが……」

「私の……ですか?」

……ヒゲの野郎、俺のグローシュも奪うつもり……いや、他に目的が……?

「何の役に立つかは分かりませんが、私で役に立つなら……喜んで協力させていただきます」

「ありがたい……これでこの研究も盤石と言うモノだ」

ふん……こっちにとっても好都合だ……俺を関わらせようというならば、妨害もしやすい。

こうして、ヒゲは去って行った……本当なら今すぐにトドメをさしたいところだが……。

「さて、俺たちも邪魔にならないうちに帰らねぇか?この国も王が変わって、少し忙しくなるだろう?」

「ああ、そうだな」

ウォレスとゼノスの言う様に、これから忙しくなるだろうな…………あ、俺?
確かに俺は貴族だが……正式にバーンシュタイン軍に所属しているワケじゃあない……。
それに、ゲヴェルをどうにかするまでは戻るつもりは無いし。

「いろいろお世話になりました」

「いいってことよ」

「それじゃ、マスターにこのこと、伝えとくね?」

「ああ……頼む」

エリオット王の言葉にウォレスが返した。
その間、ティピがサンドラに事の顛末を説明するために念話をする。


「そう言えば、ジュリアンさん。何かお願いがあるって……」

「あ、ああ……実は今までみんなに黙っていたことがある。これを言えば、私はインペリアル・ナイトでいられなくなるかも知れない。それどころか、我が家までも取り潰しになるかも知れないが……」

ジュリア……言うつもりだな。
周りは緊迫した空気に包まれる。
……この事実を知るのはダグラス家の者と、俺とカレン……あぁ、あの二人も知ってるんだっけな……。

「話してみて下さい」

「……私の名はジュリアン・ダグラスではないのだ」

「えっ?」

「いや、ダグラス家の者であることは間違いないのだが……本当の名は、【ジュリア・ダグラス】……ダグラス家の息子ではなく………」

困惑する面々に告げた……自分は息子ではなく…………娘なのだと。


――しばらく空気が止まった様に静かだったが――溜め息と共に、ある人物が口を開いた。

「とうとう言ってしまったか」

「えっ?」

それはアーネスト・ライエル……その人だった。

「僕たちが気付かないと思ったかい?」

「………それじゃ………」

したり顔で囁くのはオスカー・リーヴス……。
ジュリアは愕然としている。

「君が女であることを必死で隠しているようだから、みんなで気付かないフリをしていようってね、『アーネストが』……」

「お、おい、オスカー!」

「本当のことじゃないか」

アーネストが……という部分を強調して言うリーヴス卿に慌てるライエル卿……一気に空気が緩んだぞ?

「……人が悪いな。知っていたならなぜ訴えなかった?そもそもインペリアル・ナイトは男でなければ……」

「僕たちが告げ口をするような男に見えるかい?」

「……すまない」

ジュリアは二人に感謝を篭めた謝罪をする。
それが武士の情けなのか、友情から来るモノなのか……分からないがな?

「ジュリアンさんの言いたいことはわかりました。元々、男のみという規則の方がおかしいのです。だから規則を変えましょう。インペリアル・ナイトは実力があり、皆の認める正しき者ならば、男女を問わないものとする」

「あ、ありがとうございます、陛下!」

エリオット王の決定に、感謝の気持ちを述べるジュリア……。

「良かったな……ジュリア」

「ああ、ありがとう……シオン!」

うん!良い笑顔だ……オッサンも嬉しい限りだよ。

「……え!?彼……じゃない!彼女がそうなの……?」

「はい……私もジュリアさんに誘われて……」

「成る程……一度彼女とはゆっくり話したいわね」

……聞こえない。オッサン、なーんにも聞こえないんだからねっ!!?

「それから、もし私の力が必要となったときには、いつでも言ってくれ!今までの恩を返すためにも……力になる」

「ああ……その時は宜しくな?」

とは言え、頼り過ぎてもいかんだろうがな……。

「どうやら話もまとまったようですね。そこで私から提案があります。明日、内々でエリオットのお披露目の宴を開きたいと思います。そこでみなさんにもご出席していただきたいのです。みなさまもお忙しい身ですから、無理にとは申しません……気が向かれたら、是非いらしてください」

「分かりました……是非伺わせて戴きます」

アンジェラ様の提案を、カーマイン達は受けるつもりの様だ。

「それじゃ、そろそろ帰るか」

ウォレスの言葉に頷いた俺達は、バーンシュタイン城を後にする。

とりあえず、人間同士の戦いは終わった……。
だが、まだゲヴェルが残っている……そして……その先にも……。

ようやっと折り返し地点だ……気を抜かずに行くぞ。
まずはボスヒゲの野望をぶっつぶさなけりゃあな……。

**********

おまけ

シオンの進退。

「それじゃあ、父上達には宜しく伝えてくれ」

「ああ、分かった……では、また明日に会おう」

………………………。

「ふぅ……」

「どうかしたんですか、ジュリアンさん?」

「陛下……いえ、シオンのことなのですが……あれだけ優秀な能力を持っているのに……未だに見聞の旅のため……というのも……」

「確かにそうだね……だが、彼の言うゲヴェル打倒のためという意見も分かるよ」

「だがな、オスカー?アイツは結果として、この国の為に貢献している……一応、貴族にもなるのだし、何よりあのウォルフマイヤー卿の息子だ……」

「というか、ライエル、リーヴス……二人ともいつの間に?」

「気にするな」

「そうですね……シオンさんに頼まれたこともありますし……僕に考えがあるんです」

「シオンに頼まれたこと……?それに考えとは?」

「そっちは秘密で……まだ決まったワケでは無いので……考えというのは……………と、こういう案なのですが」

「……それはまた、前代未聞ですね」

「良いじゃないかリーヴス!私は陛下の意見に賛成だ」

「俺もだ……これくらい強引に事を運ばなければ、アイツはのらりくらりとかわしかねん」

「勿論、僕も反対はしないさ……彼なら十分過ぎるくらいの資格があるし」

「では、明日に向けて準備をしなければなりませんね。ウォルフマイヤー卿にもご相談した方が良いでしょうし」

「はっ」

「それでは」

「直ちに」

次回!ご都合旋風が嵐を呼ぶぜっ!!

「……!?」

「どうしたんだいシオン?」

「いや……何だろう……何か――物凄く嫌な予感が……」

**********


あとがき♪

え〜、今回も内容がうっすい癖に量が多いという状況なのですが!!

一言だけ。

次回、グローランサー・デュアルサーガ第113話!!
ご都合旋風が嵐を呼ぶZE☆

……とだけ言っておきます。
それでは……神仁でした。
m(__)m




[7317] 第113話―ラルフに語られた真実と、陰謀に嵌められたシオン―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/18 15:42
注意的前書き。

今回はいつも以上にご都合主義展開です。
耐えられない方は某ゲッツのごとくフェードアウトしてください。

**********

ローランディア城・謁見の間


「ただいま戻りました」

「おお、戻ったか」

アルカディウス王は、俺達が戻ったことを喜ばしく思ってくれている様だ。
まぁ、ティピを通じてサンドラから話は聞いているからだろうが……。

「偽の王様は、やっぱりゲヴェルの手下でした」

「今はエリオットが王様になったから、もう安心ね」

ルイセとティピの報告に、満足気に頷くアルカディウス王。

「そうか、ご苦労であった。後はゲヴェルそのものの居場所を探り、とどめを刺すことだな……しかし、今は休むといい」

こうして、何時もの様に休暇を三日賜った俺達は、最初の休暇先を指定……帰路に着いたのだった。

**********

王都ローザリア・フォルスマイヤー宅

俺達は帰宅してから、夕食まで各々の時間を過ごしていた。
明日の休暇先……バーンシュタイン新王、エリオットのお披露目式のために準備をする者……これは主に女性陣だな。
まぁ、内々で行うとアンジェラ様は言っていたし……今更よそ行きの服なんて用意出来ないんだが……。
そこはまぁ、女性だからな……そういうパーティーには憧れるモノらしいし、色々気になるんだろ?
原作のゲヴェルを倒した後の戦勝祝賀パーティーでも、カレンは自身のテーブルマナーをしきりに気にしていたし。

そういう内容について、色々と会話に華を咲かせているんだろうさ。

その分、男である俺らは気楽で良い。
そもそも先に述べた通り、内々の者だけの集まりであるため、そこまで気張る必要は無いだろうさ。
これがバーンシュタイン貴族の連中や、各王族が集まる……というのなら、父上の息子である俺もそれなりに着飾る必要があるのだろうが……。

ちなみに俺がその気になれば、各々に礼装を誂えるくらいは出来るが……。
ワザワザそこまでしなくても良いだろうと思い、部屋にて色々とやっていたワケだが――。


「さて……何か用があったんだろう?」

「うん……そうだけど……良いのかい?何かしていたみたいだけど……」

「ああ……まぁ、な。でも殆ど終わったからな。後はウォレスに試してもらうだけだ」

俺はそれを軽く摘んで見せる。
俺がやっていたのは新・魔法の眼の製作。
今まで、ヒマを見てコツコツと開発していたのだが、ようやく試作品が完成したのだ。

「それは、ウォレスさんの……」

「そっ、アレの改良版。コツコツと作った試作品……ウォレス用に作った物だから、本人に試して貰わないとな」

「見た目からは違いが分からないけど?」

「ま〜な。あくまでサンドラの作った物の改良品だからな」

サンドラが製作しただけあって、機構にほぼ無駄が無かったからな……。
俺がしたのは、魔法の眼に込められた、視力回復魔法の強化に際する魔力の循環機関と、給排機関の改良増設、効率の上昇……。

まぁ、小難しい理論とか抜きにして言えば、シルエットだけじゃなく、ちゃんと見える様にしたってこと。

「後は目から光線を出す機能を着ければ完璧なんだが……まだ試作品だからな」

「た、多分それはいらないんじゃないかな……ウォレスさん」

何を言う!ウォレスの魔法の眼を初めて見たら、誰もが絶対思うことだろう?
某一つ目の巨人の名を冠した超能力者の様に!
目からビームは漢の浪漫だろJK?

「絶対戦闘も楽になると思うんだがなぁ……」

「とりあえず、ちゃんと見えるか確かめて貰ってからの方が……ね?」

「お前がそこまで言うならやむを得まい……まぁ、それはともかく」

俺は部屋に訪ねて来た客人……ラルフに向かい合う。

「そろそろ本題に移らないか?お前がワザワザ話題を逸らしたということは……言いにくい内容なのか?」

「………気付いてたんだ?」

「気付かないでか。付き合い長いんだからよ?」

ラルフは余程でなければ、話を逸らしたりはしない。
単刀直入に――言いづらいことでも、必要ならオブラートに包んで言う様な奴だ。
普段はお気遣いの紳士だが……いや、だからこそ言うべきことはごまかさずに言う。

そんなラルフが、話をすり替えて来たのだから――。

「『サイレント』」

俺は声が外に漏れない様に消音魔法を使う。
……なんか、最近このアレンジ魔法が地味に活躍しているなぁ……。

「これで、外に話が聞かれることもない」

「ありがとう。気を使わせてしまったね……?」

「気にするなよ。で?」

「うん……」

ラルフは、迷っている様だ……しばらく考え込んだ後……何かを決意した様に俺を見据えてきた。

「シオン……正直に言って欲しいんだ」

「おぉ。俺に答えられることならな?」

「……シオンは、知っていたのか?」

「何をだよ?」

俺は敢えて素知らぬ答えを返す。
――もっとも、ラルフの聞きたいことについては、大体想像出来ているんだが――。

「――僕とカーマイン……そして仮面の騎士の関係を……」

やっぱりか……何となく理解してはいたがな。
恐らく、随分前から自身について疑念を抱いていたんだろう……。

「関係?お前達が奴らと何か関係があるのか?」

それを仮面騎士と接触し……実際に素顔を見て………ラルフのことだから、ボスヒゲと接触した際に色々聞いたのかも知れない。

その辺は、リシャールと戦っていた時に、何となく察したことなんだが。

「……以前、話しただろう?ウォレスさんが仮面の騎士に襲われた時の夢を……あの時のことで、まだ言ってないことがあるんだ」

ラルフいわく、ウォレスに重傷を負わせた相手の内一人が、自分やカーマインと同じ顔をしていたということらしい……。
そして、ボスヒゲと接触した際の仮面騎士の顔……。
偶然にしては出来過ぎているのだ……と。

無論、俺は原作知識として知ってはいた……そして、ラルフが遅かれ早かれその真実にたどり着くことも、聡明なラルフがいち早く疑念を抱くだろうことも……予測していた。

―――だが。

「ラルフの言い分は分かった。自分やカーマインがゲヴェルと何か関わりがあるんじゃないか……と、疑ってるんだろう?だが、何でソコに俺が出てくる?まさか、あのヴェンツェル殿みたいに――ゲヴェルに良い様に使われている……とでも?」

「そうじゃないよ。シオンはグローシアンだし、何よりそんなことをする理由が無い……それに、シオンの性格や強さは僕が1番よく知ってる……シオンはゲヴェルに良い様に使われる位なら、真っ向から立ち向かう……だろ?」

「そりゃあ買い被りって奴だが……まぁ、確かにただで殺られるつもりは無いな。それじゃあ、俺の何を疑念に思ってるんだ?」

むしろ返り討ちにしちゃるわいっ!!
とか、思ってますが何か?
しっかし……ラルフの奴……疑心を向けているというより、何処か確信している部分がある様だ……真っ直ぐ俺を見詰めてきやがる。

思わず目を逸らしたくなるが、グッと堪えてその視線を受け止める。
ポーカーフェイスは保てている……筈。

「いや、僕はシオンを信頼してる。それは間違いないよ……。ただ……直感、かな?シオンが何かを隠してるんじゃないか……って。漠然とした勘なんだけどね?」

そう言って苦笑いするラルフ……。
俺はそれを見て、軽く胸が締め付けられる想いがした。
この世に生を受けて……今までずっとつるんで来た幼なじみのマブダチ……。

ソイツに嘘をつき続けるのか――?

……話してみたらどうだ?
俺は転生者です。
前世の記憶を持っていて、この世界のことも、その行く末も知っていますって……。

ゲームの世界として知っていた……とか言う必要は無い……二次創作のお約束、『異世界を観測する方法があった』――とでも言えば良い。

大丈夫……ラルフなら馬鹿にしたりはしない。
変な目で見られたりはしない……確信がある。
コイツは受け入れてくれる……と。

むしろ、此処でしらばっくれたりしたら、逆にこじれるんじゃないか?


……選択しろ。


教えるか否か……。

「俺は……」

示せ……その答えを……。

***********


僕はシオンに答えを求めた。
自身の疑念を……僕達に隠された謎の答えを。

勿論、シオンがそんなことを知ってる筈が無い。
知ってる筈が、無いんだ……けど。

僕の直感が告げる……シオンが何かを隠してるって。
直感だけじゃない。
今まで、ずっと一緒に行動してきたから……分かるんだ。

確かにシオンはその戦闘力、頭のキレ等がずば抜けている。
それは天性の物であり、鍛え学んで来た証だろう……。

けれど―――それを考慮に入れたとしても―――上手く行き過ぎじゃないか?

シオンにはいつも、ある一定の余裕みたいなのがある……勿論、慌てもするし、焦りもする。
けれど、その何処かに余裕を残している。

それは実力に裏打ちされた自信なのかも知れない。
綿密に計算された策に対する余裕かも知れない。

むしろ、そう考えた方が納得出来るんだ。

なのに、僕は考えてしまう……シオンはもしかしたら、『知っていたんじゃないか』……って。

仮に――シオンが何かを隠していたとしても、それで彼を軽蔑する気持ちなんか沸かないけれど。

シオンがどういう人間か……どういう性格か、分かってるつもりだから。
誰よりも長い時間を共に過ごした、親友だから……。

「……俺は……確かに隠し事をしている。恐らく、突飛で……どうしようもなく信じがたいことを。……お前になら言っても良いかも知れないとも――思う」

……シオンの言い分からして、非常に言いづらいことなんだろう……。

「だが……今は全てを語れない。それでも構わないなら……話そう」

僕はそれに頷いた……。
僕になら教えても良いと……そう言ってくれたシオンの言葉が、嬉しかったから。




「分かった………。ラルフ……お前は『転生』って知ってるか?」

――シオンから語られたことは、突拍子もない話だった。
いわく、自分には前世の記憶があると……。
こことは違う世界に生まれ育ち、日々を過ごして来たが……気が付いたらこの世界の赤ん坊になっていた……と。

「それは……」

「信じられない……か?」

「……続けてくれ」

僕は先を促した……正直、突飛過ぎて信じられないと……一瞬思った。
けれど、シオンの顔はどこまでも真剣だった。

「……俺はこの世界を知っていた。物語としてな……」

「物語……?」

「あぁ……正確には物語の様なモノ……だがな」

シオンが言うには、その世界には他の世界を観測する術があり、それが物語の様な形態を取っているのだとか。

「だから……先に起きる出来事を事前に知っていたと……?」

それなら、常にある程度の余裕があったのも理解出来る……。

「それも正確じゃ無いんだがな」

「えっ……」

「さっき言った物語の様な……面倒だから物語と呼ぶが……この物語には存在しないファクターが存在する」

「それは、シオンのことかい……?」

「………俺を取り巻く全てだ」

シオンが言うには、その『物語』には『シオン・ウォルフマイヤー』は疎か、『ウォルフマイヤー家』なんて存在しなかった……と。


「つまり、此処は『物語』の世界に限りなく近く、『物語』の世界から限りなく遠い世界……ではないかな……と思う」

詳しくは分からないけどな?
と、シオンは言う。
どうやら、シオン本人にも……何故こんな状況になったのか分からないらしい。
その上で、予測した考えが『物語の世界に似た世界』に転生したのでは無いか……という考えだそうな。
『物語』と大筋は似通っているが、部分部分で違うのだと……何が違うのかは教えてくれなかったけど……。
だからこそ、先のことは語れないのだ…と。

「お前の言う様に、俺は『物語』の結末を知っている……そして『物語』を指針にしている……まぁ、先に述べた理由から、参考程度に……だがな」

「……それじゃあ……」

「お前の聞きたい答えについても……知っている……」

やっぱり……。

「――お前の予想通り……と、だけ言っておく」

「そう……か……」

「とは言え、それは『物語』の話であって、『この世界』の話では無いからな……俺の語っている内容は、『可能性が高いだけ』に過ぎない……真実は自身で確かめなきゃ、分からんさ」

そう言うシオンの顔は、何処までも優しく僕を見ていた……。
そして……。

「仮に、ラルフがラルフの予想通りの存在だとしても……ラルフが俺のダチであることに変わりは無いんだしな?」

ニカッ!と、笑顔を向けてくれる……初めて会った時に感じた……温かい笑顔……。

「……あぁ。ありがとう……シオン」

そう言ってくれるだけで、僕は救われた想いだ……。
……これで、迷いは晴れた。

「その礼は後に取っておくさ……」

「……どういうことだい?」

「まぁ……仕上げをごろうじろってね?」

ニヤリと笑ったシオンは、さっきと違って悪い顔をしている……。
これは、何かを企んでいる顔だ……。

**********


話しちまった……まぁ、言っちまったものは仕方ないか。

俺が旅に出たのはラルフを助けるため……とは言わなかった。
恩着せがましいことは言いたくなかったしな。

まぁ、分かりやすく決意を固めた表情をしたので、ナイススマイルと計画していた策を匂わせて場を和ませ……え、悪い顔?

――まぁ、それは置いておいて。

「で、信じて貰えたかな?」

「あぁ……シオンが無意味な嘘をついたりする訳が無いからね」

「そうか……一応、このことは皆には言うなよ?この秘密は墓まで持って行くつもりだったんだからな……?」

一応、ぼかす部分はぼかしたが……その辺はラルフも理解した上で納得してくれた様だ。

「それは……言っても信じられないと思ったから?」

「それは無い……。アイツらなら信じてくれるだろうし、受け入れてくれるかも知れない……ただ、前世は前世……今は今……。ならば、今を精一杯生きるのに過去を引っ張る必要は無い……だろう?」

勿論、俺にとっては前世……過去は大切な物だ。
まして、俺は死んでから転生したわけじゃない……未練だってある。

けど、シオンとしてこの世界に生まれ……この世界での絆も出来た。
この世界での未練も出来た……。
だから……それが理由だ。

「そっか……分かったよ」

「悪いな」

「良いさ……シオンはシオンなんだから……だろ?」

ありがとうな……ラルフ。
……お前は必ず救ってみせる……それが、俺が初めてこの世界で立てた誓いなのだから。

そのための細工も……隆々だしな?

その後、俺はラルフと他愛もない話をして、しばらくしてからラルフは部屋に戻った。

まぁ……後は特筆すべき出来事は無かった。
皆で飯を食って、風呂でさっぱりして……。
それから就寝したわけだから……魔法の眼?

勿論渡したぜ?

着けた時びっくりしてたが何か?
……それは特筆すべきことじゃないのかって??
じゃあ、その時のことを少し語ろう。

**********

「これを着けろ……と?」

「あぁ。まだ試作品なんだがね……試してみてくれないか?」

「どれ……」

ウォレスは今、着けている魔法の眼を外し、俺の渡した魔法の眼を装着した。

「む………!?」

「どうだ?見えるか?」

「ああ……これは良いな。お前はこんな顔をしていたのか……」

ウォレスが言うにはどうやら、ちゃんと見える様にはなったが、色が灰色掛かっているそうだ。
要するに、白黒テレビみたいなもんか?

ふむ……眼の負担にならない様に、ギリギリの出力にしたからな……。

「どうやらまた別角度からアプローチする必要があるか……」

「いや、これで十分だ。シルエットだけだったのが、本当に見える様になったんだからな……これ以上を望んでは罰が当たるってもんだ」

そうか?
まぁ、本人が満足してるなら良いか……。

「喜んで貰えたなら何より……コツコツ作った甲斐があったぜ」

「スマン……恩にきるぜ」

**********

ってなことがあった……つまり、今ウォレスが着けているのは、俺が作った魔法の眼Ⅱというワケ。
さて、俺もそろそろ寝るか……明日もあるんでね。
お休み……。

***********

休暇一日目・バーンシュタイン王都

「さて、着いたね。お城に行かなくちゃ」

ルイセのテレポートでバーンシュタイン王都に到着するや、ティピが開口1番でそう言う。
……と、そこに……。

「来たか、お前たち。パーティーまではまだ時間があるから、しばらくゆっくりしていてくれ」

と、出迎えてくれたジュリアが言う。
ワザワザありがたいなぁ……とか思いつつ。

「じゃあ、解散しようか?みんな、お城で会おうね」

そんなこんなで、皆は街中に散って行った。

で、俺はと言うと……。

「実は少しお願いがあるのですが……今日の宴は、陛下のお披露目であると同時に、私のお披露目でもあるのです」

何でも、エリオットの紹介と共に、『ジュリア・ダグラス』のお披露目もやってしまおうという話らしい。

「私はこの格好でも構わないのですが、陛下が是非にと言うもので……」

で、アンジェラ様から服を譲って貰ったので、それを仕立屋で手直ししたいのだとか……原作のイベントですねわかry

まぁ、カーマインの立ち位置に俺がいるだけの話なんだが……。

後、ジュリアが敬語全開だが、敢えて突っ込まない。
もう隠す必要は無いんだからな……まぁ、本当は止めなきゃ駄目なんだが……ジュリアの対面的に考えて。
だが、今日くらいは良いだろう……と。
それはともかく。

「それに……この服が似合うかどうか、皆に見せる前に見てもらいたいのです」

「そいつは光栄だな……ジュリアの女の子らしい格好なんて、見たこと無かったからなぁ……」

小さい頃に出会った時、既に男の子な服装だったからな……。
今でさえ綺麗なんだ、やはり女の子な服装のジュリアも見てみたい。

「……そうだと思ったから、貴方に誰よりも早く見てほしいのです」

「っ……そっか。ところで仕立屋に手直しして貰うと言っていたが、宛はあるのか?」

やばい……そのはにかんだ表情……破壊力がとんでもない!
正直ドキドキする……顔に出さなかった俺を褒めてやりたい!

「いえ……貴方なら、知っているのでは…と」

「ああ……まぁ、確かに仕立屋の爺さんは知っている。腕も良いし、あの爺さんに頼むのが1番だろう」

「では、そこに参りましょう」

俺はジュリアを伴って、仕立屋の爺さんの所に向かう。

「此処は……宿屋?」

「宿屋の主人の親父さんが、件の仕立屋なのさ」

俺達は宿屋へ入り仕立屋の爺さんを見付ける。

「久しぶり、爺さん!」

「ん?おぉ、シオン様ではないですか!旅から戻られたのですか……して、わしになんのご用ですかな?」

俺やラルフは、バーンシュタイン王都では結構馴染みが深い。
旅に出るまでは、街にも度々顔を出していたからな……街の皆には顔を覚えてもらってるっつーワケ。
下手をしたら、インペリアル・ナイツよりも有名……ってことは無いが、顔を覚えて貰ってるという意味では有名だろう……王都限定だが。
インペリアル・ナイツは名前こそ有名だが、その顔を知る一般人は余程のミーハーでも無い限り、少ない。

リシャールの顔を知らない……なんて人も、王都に居たくらいだからな。

「今回は一時的帰郷って奴さ……後、用があるのは俺じゃなくて……こちら」

そう言って俺は、ジュリアを促す。

「実はこのドレスの仕立て直しを頼みたいのだが……」

「うむ、わしに任せておけ。で、どんな具合に直して欲しいんじゃ?」

「どんなのが良いと思いますか……?」

「って、俺かよ!?……そんな眼で見るなよ……俺の好みに合わせて良いのか?」

めがっさウルウルと見つめられたので、溜め息と共に確認を取る。

「はい!むしろ望むところ!」

「それじゃあ……」

俺はオチを予測しつつも、爺さんにどう仕立て直すかを指示した。
すると……。

「出来上がりは……そうじゃな、2日ほどもらえるかな?」

「それは困る。今夜には着なければならない」

「今夜じゃと!?………うーむ。サイズ直しだけでもギリギリというところじゃな」

と、予測通りのオチが返って来た。
服を仕立て直すのは時間が掛かる……まして、そういう服飾用の機械も存在しない世界なら……尚更だ。

「しかたあるまい。それでお願いする」

こうして、ジュリアは爺さんに連れられ、服のサイズ直しに向かった。



数時間後………。



「お待たせしました」

ジュリアがやってきて、その姿を披露してくれた……。

「どうでしょうか……その、似合っていますか……?」

……何と言うか、色々言いたいことがあったんだが。

「マイ・マスター……?」

ジュリアが何も言わない俺に対して、不安そうに顔を歪めるが……。

「綺麗だ……」

「えっ……!?」

「あ、いやその……似合ってるよ」

俺は思わず呟いてしまった言葉をごまかす様に、言葉を言い直した。
実際、似合ってるんだが……絶対、顔が赤くなってるぞ……俺。

「そ、そうですか。貴方が似合うというなら、そうなのでしょうね」

何処か嬉しそうに言うジュリア……髪型も少し変えているな。

いつもはふんわりした髪をリボンで纏めているのだが、それを解いており、ふんわりした長髪が柔らかく広がる感じだ。

前髪もセットしてあり、目元がパッチリと見える様になっている。
これだけで、普段の中性的な雰囲気が成りを潜め、女性らしさが前面に押し出されている感じになっている。

「こんな服は初めて着たが……なんだか頼りない感じだ。普通の女性はこんなものを普段着ているのだな……」

独り言を呟いて、ジュリアは自身の姿を見回す。

まぁ……何と言うか、ジュリアが呟くのも分かる。
原作を知っている人なら分かると思うが、このドレス……下の露出がパネェのだ。
何と言うか、ラ○グリッサー時代を彷彿とさせるデザインなのである。

分かりやすく言うなら、体のラインがモロに分かる様な白のレオタードに、半透明な紫色のスカート(前面にスリット入り)で、白に金で縁取られたニーソを履いている……みたいな感じなのだ。
無論、両腕は紫の長袖だし、全体的に見て、ナイツの制服に似通う部分も無いわけじゃないが……。

……うん、上品に纏まってはいる。
ジュリアが着こなしているから……というのもあるかも知れないが。

しかし、コレってアンジェラ様のお下がりなんだよな………まぁ、深くは考えまい。
未だに似あうんじゃないか……と、考えたのは秘密だ。

「さて、そろそろ宴の時間じゃないか?」

「そうですね。そろそろ行くとしましょう」

だが……城に向かっている最中……。

「どうしたんだ?」

ジュリアが立ち止まったのだ。

「……私、どこかおかしいのでしょうか?」

「いや、何処もおかしくないぞ?」

「なんだか、みんなに見られているような気がするんだが……」

「……本当に理由が分からないのか?」

困惑しているジュリアに、呆れ半分で尋ねる俺。
まぁ、今までが今までだから仕方ないのかも知れないが……。

「周りの声を聞いてみれば分かる」

そう言ってジュリアを促す……ジュリアは訝しげにしていたが、そのまま頷くと耳を澄ました。
すると……。

「凄い美人だ……」

「きれい……、あの人誰かしら……」

……等の声が聞こえて来た。
それこそ老若男女関わらず……だ。
それを聞いたジュリアは顔を赤くする。

「な……。私が美人……!?そ、そんな……」

どうやら、ジュリアはそんなことは考えたことも無かったらしく、真っ赤になりながら呟いた。

「このまま消えてしまいたいくらい恥ずかしい……」

うわ何コレ目茶苦茶可愛いんですケド?
思わず抱きしめたくなったが……グッと堪えて……スッと手を差し出す。

「マイ……マスター……?」

「ほら、行こうぜ?」

「……ハイ♪」

嬉しそうに微笑みながら、俺の手を取るジュリア……俺達はそのまま城へ向かった。

「すごい……あそこの二人、絵になるわねぇ……♪」

「あ、あれはシオン様……!?まさか、そんなぁ……これは夢よ!でも、お似合い過ぎる……」

……オッサンは右から左に受け流すよ?
ええ、受け流したともさ!

で、バーンシュタイン城の城門まで来たんだが……。

「やぁ、シオン。待っていたよ」

「さて、では行くぞ?」

ガシッ!!

「あの……リーヴス卿?ライエル卿?これは一体……?」

あ、ありのまま今起こったことを話すぜ?
ジュリアをエスコートして来たら、リーヴス卿とライエル卿が待ち構えていて両脇をガッシリと固められた。

頭が変になりそうだ……。

宇宙人捕獲とか、ドナドナの牛とか……そんなチャチなモノじゃ断じて無いっ!!

もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ……。

って、お約束は良いんだよ!!

「では、シオンを借りていくぞジュリアン」

「ああ、よろしく頼む」

「任せてくれ。それと、そのドレス姿…よく似合ってるよ」

「ありがとうリーヴス」

一通りの挨拶が終わったので、俺はそのまま二人に連れられ……って、待てやっ!!?

「だから事情を……!!?」

「後で説明する」

「今は時間が惜しいからね」

「ちょっ、ジュリア!?」

「すまない…………後でどんなお叱りも受けます……申し訳ありません……」

最後にジュリアはボソッと呟き、視線を逸らした……まさか……裏切ったな!?
僕の気持ちを裏切ったんアッ―――――!?

**********

……で、連れて来られた場所で理由を教えられ、着替えさせられた俺だが……。

「アンタら……マジか?」

「そんなに睨まないでくれ……心臓に悪い」

「これも相談した上で決めたことだから……それに陛下のご指示でもある……諦めてくれ」

そうは言うが、何処か楽しそうな二人。
まぁ、俺自身……マジで睨んでるワケじゃなく、呆れを含んだジト目なワケで……。

「正気かよ……大した功績も無い、一貴族にナイツを張らせようってか……?」

そう、俺が今着ているのはインペリアル・ナイツの制服……しかも、俺用の特注品。
通常のナイツ制服は紫を基調にしている……それが俺のは蒼を基調にしてある……どんだけ〜?

そもそも、何の試験も受けずにナイツとか……前代未聞である。
そう言うと……。

「陛下が、もしシオンがごねたらこう言ってくれと、おっしゃっていたよ」

「『この際、サプライズが増えても構わないでしょう?』とのことだ……なんのことかは分からないがな?」

グッ………確かに、それを言われると弱い……。
元々、エリオットに無茶を頼んだのは俺だからな……。

「……人類に逃げ場無し……か」

「心配せずとも、ゲヴェル討伐を果たすまでは自由に動ける様、陛下が計らっておくそうだぞ?」

そういう意味じゃなく………ちくしょう!覚悟を決めりゃあ良いんだろう!覚悟をっ!!

こうして……多くの者の陰謀(恐らく父上達も含まれる)により、エリオット新王のお披露目は、ジュリアと、サプライズのお披露目……+俺のお披露目と相成った。

……テメェら後で覚えてろよ?

***********


「みなさま、ご静粛に。これよりエリオット陛下のお言葉を頂こうと思います」

「今日こうして私が王位を取り戻すことができたのも、ここに集まって頂いた皆様方のおかげです。まだ王の職務に慣れておりませんが、皆様のご助言を頂きながら、よりよい政治を執り行って行きたいと思います。どうかこれからも、よろしくお願いします」

何と言うか……エリオットらしいな。
謙虚というか、何と言うか……。

「ねぇねぇ、シオンさんは?」

「ん?……そういえば姿が見えないな……」

周りを見渡す……招かれた客人は俺達の顔見知りばかり……だが、そこにシオンの姿が無い。
……トイレか?

「今日は他に、みなさんにお知らせしたいことがあります」

エリオットが促したのはジュリアン……いや、ジュリアか。

ジュリアは一歩前に出て、一礼する。

「彼女の名はジュリア・ダグラス。心技体すべてに優れ、人々の模範となれる素晴らしい女性です。そして私は彼女を、女性で最初の、インペリアル・ナイトに任命します!……伝統あるインペリアル・ナイトの称号を女性に与えることに批判的な方もいらっしゃるでしょう……しかし思い出して下さい。ナイツは国の守護を目的とした、最強の精鋭騎士団です。ならば優れた人の登用こそ、ナイツにとって必要なことではないでしょうか。――人の評価に、性別や家柄など不要なのです」

要は実力主義か……まぁ、分かりやすいよな。

「そこで私は宣言します。インペリアル・ナイトの称号は、性別、家柄を問わず、心技体すべてに優れた者に与えることを」

これは改革……って奴だよな。
エリオットも毅然としている……あのエリオットとは思えない程に。

「彼女はこれまで、ジュリアン・ダグラスの名でナイトを勤めてきました。そこで混乱を防ぐ意味を含めて、今しばらくはジュリアン・ダグラスで通すとのことです。これまで同様、彼女の活躍に期待したいと思います。頼みますよ、ジュリアン」

「はっ、陛下!」

ジュリアンがエリオットに頭を下げる。
まぁ、名前のほうは……しばらくの間は仕方ないが……これからは女であることを隠さずに済むんだから、ジュリアンにとっては良かったんだろうな。

「最後に新たに加わる二人のナイツを紹介したいと思います」

その言葉に、会場がざわつく……どうやら、皆も知らなかったらしい。

すると、二人の男が奥の謁見の間へと続く扉から現れ、階段から降りてくる……って、あの二人は……!?

「彼の名はポール。士官学校を首席で卒業し、試験にも合格した優秀な人材です。この度の戦で、顔に傷を負った為、本人の希望もあり、顔を隠していますが……彼は心技体に優れ、ナイツに任命するに差し支えないと思います」

そのポールと呼ばれた少年は、顔の目元を仮面で隠し……髪の毛も茶髪だが……。

「ねぇ…あの子、なんかエリオットに似てない?」

ティピがそう言うが、確かに似ている……体格や背格好は同じだ。
髪型や髪の色は違うし、雰囲気も微妙に違うのでソックリとまでは言えないが……。

――俺は最近、彼と同じ雰囲気の人間に出会ったことがある。
まさか――と、思いつつ見遣ると、インペリアル・ナイトの二人――ライエル卿とリーヴス卿は目を見開いている。
……やはりそうなのか?

「仮面を着けたまま失礼……ご紹介に預かりました……ポールと申します。正直、何処の馬の骨とも知れない私がインペリアル・ナイトに抜擢されるなど、身に余る栄誉だと思います。私は、さほど優れた家柄ではありません……ですが、こうして抜擢された以上、エリオット陛下の期待に恥じぬ様、精進したいと思います」

ポールが一礼する。
……気付いてるのが何人かいるな……少なくともバーンシュタイン側の方々……特にアンジェラ様は確実に。

そのポールが下がり、もう一人が前に出る。
そいつは、俺達のよく知っている奴だった……。

「彼のことは、ご存知の方も多いと思います。彼の名はシオン・ウォルフマイヤー。この戦の影の功労者の一人です。彼もまた、心技体に優れた……得難い人材です。彼もまた、ナイツに相応しい人材だと思います」

エリオットに促されたシオンは、少し疲れた様な表情を浮かべた後、キリッと表情を正した。

「シオン・ウォルフマイヤーです。皆様方はもうご存知とは思いますが、私は元インペリアル・ナイトのレイナード・ウォルフマイヤーの息子です。――正直、親の七光りだとおっしゃる方もいらっしゃるかと思います。私自身、ナイツの器だとは思えませんし――ですが、エリオット陛下に任命された以上……例え分不相応な身なれど、身命を賭して陛下にお仕えし、国事に尽くす所存です」

「彼らには、ゲヴェルの脅威が晴れるその時まで、ローランディアの皆さんと行動を共にしてもらうつもりです。お願いしますよ、二人とも」

「はっ!」

「天地身命に賭けて…!」

エリオットに一礼した二人……どうやら、あの二人は俺達と共に来る様だ……。
何と言うか……マジか?

「今日は皆様方のために、ささやかな宴を用意しました。楽しんでいただけると幸いです」

こうして、宴が始まった……。
とりあえず、質問責めにあいそうな新ナイツ達の元へ向かう……。
俺も何故こんなことになったのかを聞きたいし……な?

**********

あとがき。

はい、ご都合旋風でした……だが私は謝ry

ポールのネタはⅡをやった人には分かって頂けたと思います。
仮面も似たような物です。

ポールの制服はジュリアンやオスカーの様な通常ナイツ制服。

シオンの制服が特注だったのは、両親がハッスルしたから。

詳しいことはまた次回……ご都合旋風はまだまだ続くぜっ☆

それではm(__)m




[7317] 第114話―ジュリアの誓いとルイセの気持ち―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/18 18:02
〜これまでのあらすじ!〜

エリオット王と女性インペリアル・ナイトのお披露目……+サプライズ=ポールのお披露目……だけの筈なのに、何故かぽっくんもインペリアル・ナイトに大・抜・擢・☆

きゃる〜〜〜んっ☆

…………………。

………………。

……………。

………ねぇよっっ!!!

そして俺キメェッ!!!


…いや、我ながら冷静さを欠いていたな……申し訳ない。

いやね?

来賓の方々も何を素直に受け入れてやがる……グルか?グルなのか?

「……フッ、まさかこんなことになるとはな……」

「お前……知ってたな?」

「予めエリオット陛下に伺ってね……中々に俗っぽい名前だろう?仮に私が陛下と同じ立場だとしても……同じことをしたかも知れないし、な」

お披露目を終えた直後、俺は俺と共に新ナイツとなったポール……リシャールと話していた。

そう、ポールの正体はリシャールだったのだ!!

……まぁ、気付いた人は気付いたんだろうがな。

ほら、ライエル卿とリーヴス卿が仲間になりたそうな……もとい、事情を聞きたそうな目で見つめてきている。
それにアンジェラ様もこっちに向かって来ているしな。

「ほれ、同僚二人が話をしたいってよ?それと陛下の母上が挨拶にいらっしゃるみたいだから、ちゃんと挨拶しとけよ?」

「お、おいシオン!?」

聞こえな〜い、オッサン何にも聞こえな〜い。
邪魔者は退散しとくから……ゆっくり話せよ?
……あっ、そうだ。

「ライエル卿、リーヴス卿?」

「シオン……これからは同僚になるんだから、名指しで構わないよ」

「口調も普段通りで構わないぞ?同僚同士で敬語も無いしな……で、なんだ?」

爽やかな微笑と、それより微かな微笑に答えられ、俺は頷いて続きを口にする。

「それじゃあ……ライエルとリーヴス。――暇が出来たらO・HA・NA・SHIしようZE――?」

「……き、気のせいかな?なんだか発音が違うような……」

ニコヤカなエガオを向ける俺を見て、冷や汗を浮かべるリーヴス……ライエルとポールも青くなってるが――。

「気のせい――だと思うか?心配しなくても、父上や母上にもしっかり―――フフッ」

俺はそれだけ言い残してその場を離れた―――うん、皆のあの表情を見れただけで少しは溜飲が下がったな。

「しっかり……何なんだ……?」

「な、何をするつもりだ……」

「アレは……相当怒ってるな」

いやいや……本当にO・HA・NA・SHI・☆をするつもりはないケド。

正座させた上にお説教くらいは……イイヨネ?

クスクス………と、イカンイカン。
落ち着け俺。

――実際、俺のナイツ入りは勿論、ポールのナイツ入りも予定には無かったことなのだ。

以前、俺がエリオットに嘆願したこと(第72話参照)とは、ずばり!リシャールの処遇のことだったりする。

本来のリシャールの人格なんかを説明したりして……その上で何か異変があったんじゃないかと。

まぁ、決戦前のリーヴスと同じ様なことを嘆願した訳だな。

リーヴスと違うのは、リシャールには名前と正体を偽ってもらい、エリオットの影武者的な立ち位置で頑張って貰おうと言う話になったことだ。
その際、髪の色を変えるというアイディアを出したのが俺だったりする。

……原作の話だが、幾ら好感度が高くても、一国の王が国を空けちゃイカンだろう?
インペリアル・ナイトのジュリアにも同じことが言えるが、ジュリアの場合はライエルとリーヴスが居たしな。

だから、もしエリオットが抜けた場合の代理になって貰う……あるいは、リシャール自身にパーティーに加わってもらおうかと考えたのだ。


……それがこのザマだよ?


蓋を開けてみれば、リシャール=ポールはナイトに任命。
更には俺までナイトに任命される始末……。

……うん、なんてご都合主義。

そりゃあ、いずれはナイトを目指すつもりではいたが……幾ら何でもこれは無いだろう?

ただでさえジュリアの願い……『女性初のインペリアル・ナイト』という、今までの伝統をブッ壊す様な宣言をしたエリオットだ……。

その上で、ナイツを新たに二人任命……しかも試験も無しだってんだから……この場に居る面々はともかく、他の諸侯の反感を買うのは確実だろう。

……ジュリアは早い段階でインペリアル・ナイトになったが、それでも試験は受けたらしい。
その上でのナイツ入りだから、反感は少なかった……というより無かったのだろう。

「驚いちゃったよ!シオンさんが、ナイトになっちゃうなんてさ」

「……一体どうしてこうなったんだ?」

「それは俺が知りたいくらいだぜ……」

俺は溜め息と共に、答える。

質問してきたのは、カーマインとティピ。
とりあえず、近づいて来た二人と話しているワケだが……。

「まぁ……任命されたとは言っても、形式上の措置ですから……あなた達がゲヴェルを倒してから正式に赴任……ということになりますが」

「――これはエリオット『陛下』。この度は私の様な『若輩者』にこの様な大役を仰せ付かって頂き、恐悦至極でございます」

「……あの……怒ってます?」

「ハハハ、何をおっしゃいますか。『わざわざ』私めの様な輩を起用して頂いた――これから主君と仰ぐお方に、その様な不忠を働くわけが無いではありませんか?」

「うぅ……((゚Д゚ll))ガタガタ」

「シ、シオンさん、目が笑ってない……よ?」

「落ち着け……深呼吸だ…な?」

何を言ってるんだいティピ?
俺はこんなにエガオなのに♪
ハハハハハハハハハ………ハァ…まぁ、あんまりやり過ぎも良くないか。
つーか、カーマイン……さりげにお前もテンパってるな?

「冗談です。まぁ、愚臣からの忠言とでも取って戴ければ……」

俺はニカッと笑ってそう告げる。

確かに何の断りも無く、話を進めたことには憤りを感じるし、職権乱用も甚だしいその行為に、馬鹿なの死ぬの?
と、思わなくもないが。

元より、俺はナイツ入りを目指すつもりではいたんだ。

それがこうしてナイツの称号を頂いた上、ある程度自由に動ける様に計らってもらった。
正直、かなりのご都合だとは思うが……。

文字通り、俺には都合が良いワケで……これで文句を言っていたらバチが当たる。
まぁ、ラッキー♪くらいに思っておこう……そのほうが、些か気が楽だ。

「申し訳ありません……あなた達の様な優れた人物にはそれ相応の役割が必要かと……これからのバーンシュタインの為にもあなた達は必要だったのです……それに、あなたは今まで多くのことに貢献してきました。それは確かにこの国の……いいえ、この大陸の平和に貢献したと言えます。そんなあなたに報いるために、良かれと思い……」

陛下は本当に申し訳なさそうに頭を下げる……全く、らしいよなぁ……。

「お気になさらず……陛下のご好意に感謝こそすれど、異を唱えることなど無いのですから」

「ありがとう……シオン。そう言ってくれたなら、気が休まります」

エリオット陛下に仕える者としては、あまり強くは言えないよな……。
というか、陛下は仔犬チックなんだよな……打算無き保護欲と言うか、何と言うか……守ってやらなきゃ……みたいな?
余程のことがあれば強く言うつもりですよ?
責任ある立場ですから。

もっとも、父上達は説教確定だがな。
本来なら諌めるべき立場の人間が、むしろ陛下の策を助長させたのだからな……。
フフフ……覚悟しておけよ……?

その後、エリオット陛下に聞いたところ、ゲヴェルの問題が片付いたら改めて試験をするつもりなんだそうな。

つまり、現在は肩書だけのナイツ……というワケだな。

むしろ望むところだよな……これでもまだ優遇されてる部分もあるが。
実力を見せれば、表立って文句を言う奴はかなり減るだろうし……陰口は分からないがな。

「そういえば……さっきウォレスと話したんだが……ウォレスの眼を見える様にしたそうだな?」

「ウォレスさん喜んでたよ?『お前たちはこんな顔をしていたのか……やはり、人の顔を見て話せるというのは良いものだな……』って♪」

「以前からちょこちょことな?というか、それはウォレスの真似か、ティピ?」

カーマインとティピの質問に答える。
まだ試作品だが、コツコツ作ってた甲斐があったよな。

ちなみに、そのウォレスだが……。

「本当に似ているな……」

「ハハハ……そりゃあそうですよ。兄弟なんですから」

ラルフの顔を見て感心した様に頷いている。
それを見てラルフは苦笑いだ……。
ラルフ自身、俺から詳しく無いとは言え、真実を知らされたワケだからな……内心複雑なのだろう。
今までのアイツなら、ウォレスの問いに――『双子ですから』――とでも答えていた筈なのだから――。

それでも、兄弟と言い切ってる辺り、ラルフの気持ちが伺える。

皆、この宴をそれぞれに楽しんでいる様だな……。
ゼノスは原作と違って、肩身が狭い思いはしていないみたいだし、アリオストはアリオストで楽しそうだ……。

ルイセ、カレン、リビエラは女性同士の話に華を咲かせているらしい。

で、俺なんだが……今はパーティー会場には居ない。
というのも―――。

「何だかんだで、付き合いは長いよな――俺達」

「そうですね――幼少の頃から10年以上……時が経つのは早いものです」

ジュリアに誘われてバルコニーに向かっているからなんだが……。
ジュリアいわく、会場は暑いから外で涼まないか?
ということで……断る理由も無かった俺は、こうして雑談をしながら外に向かっているワケで。

「そういえば明日、グランシルの闘技場にチャンピオンが来るらしいですよ?どうです?宜しければチャレンジしてみては……?」

「チャンピオン……ね。そうだな……闘技大会では、そのチャンピオンと満足行く戦いが出来なかったからな……主にチャンピオンの精神的ダメージのおかげで」

ジュリアの問いに、俺はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて答える。
それを聞いたジュリアは慌てた。

「な、なんのことでしょうか?私とチャンピオンには何の関係も……」

「俺はチャンピオンとジュリアに関係があるなんて……一言も言っていないんだがな?」

「……マイ・マスターは意地悪です」

墓穴を掘ったジュリアにすかさず揚げ足を取る俺。
それを見て、ジュリアは半分いじけてしまった。
ジュリアからしてみれば、何も知らない俺を驚かせるというサプライズをしたかったのかも知れないが……。

原作知識として知ってるからなぁ……闘技場のチャンピオンがジュリアだってことは。

「まぁ、俺としてもやり残した『勝負』だ……きっかり白黒着けるとするか」

「……申し訳ありませんが、全力でやらせてもらいますよ?――私の成長を、ちゃんと貴方に見て欲しいですから――」

「なら、俺も中途半端なことは出来ねぇな……まぁ、端からするつもりはねぇケドな?」

互いに微笑み合いながら先に進む……と。

「あっ!?」

「と……大丈夫か?」

ジュリアが躓き、体勢を崩したのを抱き止めた。

「は、はい……大丈夫です……履き慣れない靴ですので、その……」

ジュリアは赤くなりながら弁解をする……まぁ、ヒールの付いた靴なんて今まで履かなかっただろうからな……。
俺は此処である事を思い付く……。

それは原作でカーマインもやったことだ。
ならば俺も……ってワケだ。

「よっ、と」

「マ、マイ・マスター……!?」

俺はジュリアを抱き抱える……所謂プリンセス抱っこって奴だ。

「ジュリアは軽いな♪」

「う、嘘です!……私は女性にしたら大きいし……その……」

真っ赤になりながらジュリアはしどろもどろだ。
ハハハ、めがっさ可愛いにょろぜっ!!

「天地身命に賭けて……嘘は言ってないぜ?」

「わ、分かりましたから降ろしてください……このままでは暑くてどうにかなってしまいそうです……」

そんなジュリアも見てみたいなぁ……とは思ったが、あんまりやり過ぎても何だからな。
素直に降ろすことにする。

そして、俺達はバルコニーに着いた……確かに外は涼しいな。

「というか、まだ顔が赤いぞ?」

「貴方が変なことをするから、かえって暑くなってしまったのではないですか……」

「――もっと暑くなることをしたことがあるのに?」

「そそそ、それは――うぅ……」

ジュリアは更に真っ赤になってしまった……それこそ耳まで真っ赤という奴だ。
やばい目茶苦茶可愛いんですけど?
とは言え、いぢめ過ぎてバタンキューされても困るしな。

「ふふ……何を想像したのか。敢えて聞かないでおくよ」

「……マイ・マスター」

隣り合い、星空を眺めながら言う俺の肩にコテンと身体を預けてくるジュリア。

「これからも――お側に置いてください。私を離さないで下さい――私のご主人様(マイ・マスター)……」

「あぁ……絶対離さない。嫌だと言ってもな。ずっと一緒だ……ジュリア」

俺とジュリアは互いに見つめ合い……引き寄せ合うかの様に唇が触れ【ガサガサッ!】

「「…………」」

「くっ!見つかったか!もう少しで、王の所まで忍び寄れたものを!!」

「「…………」」

……あぁ、確かにそんな展開だったよな。
仮面騎士が現れて邪魔するって言う……。
ほら、こんな可愛らしいジュリアが相手だからさ……ジュリアに集中していたが、気を読んで気付きはしたぞ………というか、ライエルと言いコイツと言い……やる気になった途端……フフフフフフフフフフフフ。

「まぁいい。貴様らには死んでもら「「言いたいことはそれだけか……?」」っ!!?」

俺とジュリアはゆらりと動く……仮面騎士はそれを見て後退りしたが……知ったことか。

「星空の下……良いムードの中、私とマイ・マスターの蜜月の時を……よくも邪魔してくれたなぁ……?私が……どれだけの勇気を振り絞ったか……貴様には分かるまい……」

「……散々逃げ回ったり我慢したりしてた時は、嫌という程桃色イベント満載だったのに……いざ積極的になったらこのザマか……?フフフフフフフフフフフフフフフ………」

「……ふ、ふっ……どど、どうやら潮時の様だな……今日のところは見逃して【ガシッ】ヒッ!?」

「……みすみす見逃すと……」

「思ってんのか……?」

「ま、待て!!よく分からんがやり直す!!さっきのことは無かったことにするから、だから……な?」

「「問答無用」」

ガスゴスバキドカメキゴシャメチャグシャグチャ―――――!!!!!

「オアアァァァァァァァァァァッ!!!??」

**********

しばらくお待ち下さい。

**********

「くたばれっ!!ギャラクシア○エクスプ○ージョンッ!!!!」

「ゴハアアアァァァァァ!!!!?」

ドバキャアアァァァァァァァンッ!!!!

俺の怒りのアッパーカットが仮面騎士に炸裂し、奴は塀の外へと車田落ちしていった。

「こ、こんなやられ方をするなんて…あんまりだ……ぐはっ!」

と、奴が言ったかは定かでは無いが。
とりあえず悪は滅びた……が。

「大丈夫!?」

「なにがあったんですか!?」

まぁ、当然みんなやってくるよなぁ……。
俺達は事情を説明する……。

「成る程……恐らく奴は陛下を狙ってきたのでしょう」

「とりあえず奴は撃退出来たようだが、また次が来ないとも限らない。城の見張りを厳重にしておこう」

そう言ってこの場を去っていくリーヴスとライエル。
恐らく、兵に指示をだしに行くのだろう。

「申し訳ありません。みなさんを騒ぎに巻き込んでしまったようです。今日の所はこれでお開きにしましょう。この埋め合わせは、また次の機会にでもしたいと思います」

こうして、エリオットのお披露目式は中断される運びとなった。
まぁ、しょうがないよな……。

**********

で、翌日……。

「本日のメインイベント!挑戦者の登場です!!」

俺はグランシルの闘技場に来ていた。
ジュリアと剣を合わせるために……。
幸い、エリオット陛下の計らいで休暇が一日増えたのだ。
アルカディウス王も、エリオット陛下が襲撃されたと聞いて、それに納得してくれたし。

「そして、チャンピオンの登場です!!」

現れたのはインペリアル・ナイツの制服に身を包むジュリアだった。
まぁ、俺もナイツの制服を着ているが。

「さて……今度こそ見せてくれるんだろうな?お前の修練の成果を……」

「ああ……見せてやるさ!私の修練……その成果を―――さぁ、始めるぞ!」

周りに観客がいるからか、それとも自分を鼓舞するためか―――敬語を使わずに宣誓し、ジュリアは剣を抜き放った。

「チャンピオンの防衛か!?それとも新たなチャンピオンが誕生するのか!?とうとう世紀の瞬間がやってきました!!そして、今、試合開始です!!」

ゴングの音と共に俺も剣を抜き放つ。
使うは我が愛剣リーヴェイグ。

ジュリアは半身で剣を上段に掲げる様に構える独特の構え……対する俺はやや半身になる様に構え、剣は下げ気味に……所謂、自然体という奴だ。

「…………」

「…………」

俺達は無言のまま、互いにジワリジワリと間合いを喰い潰す。
一気に間合いを詰めても良いんだが……ここはジュリアの考えに乗ることにした。

恐らくジュリアにも見えているだろう……互いの制空圏が。
ジュリアも達人級だからな……それにしっかりした剣術を習っている……故に、慎重に距離を潰しているのだ。

「……………」

「……………」

周囲に緊迫した空気が充満する……。
そして……互いの領域に入り、尚も近付く。
それがベストの距離では無いからだ……。

そして、互いに剣の間合いに入った瞬間――。

「「っ!!」」

その剣閃は火花を散らせた。

ジュリアは振り下ろし――俺は振り上げる――。

「くっ……ハアアァァァ!!」

「オオォォォォォッ!!」

剣を弾かれながらも、直ぐさま体勢を立て直し、横薙ぎに払ってくるジュリア。

俺はそれを逆に薙ぎ払う。

再びぶつかり合う剣と剣……火花を散らせる剣閃の嵐は、数十合に及ぶ迄続いた。

互いに退かず、下がらず。

だが……。

「ハァ……ハァ……」

「どうした、もう終わりか?」

数百合を打ち合った後……ジュリアの息が上がってくる。
それは、俺が徐々に力や速度を上げて行き、それに置いて行かれまいと、ジュリアが必死に食らいついてきたからである。

今、俺はリシャール級にまで身体能力を引き上げている。
それでも食らいついて来れるのは、ジュリアの修練の賜物だろうさ。

だが、そろそろ限界が近いのだろう……それでも。

「でやああぁぁぁぁぁ!!」

ジュリアは諦めない。
裂帛の気合いと共に挑んでくる。
俺はそれを―――迎え撃つ!!

横薙ぎに払われる乾坤一擲の剣閃――それを打ち下ろしで弾き――。

「っ!!?」

体勢が崩れたジュリアに剣閃を振り上げた……それはまるで燕が舞うかの様に……。
その剣はジュリアの首筋にピタリと突き付けられていた。

「……チェックメイトだ」

「参り……ました」

ふぅ……リシャールの燕返しもどき……上手く決まったな。

「おっとっ!新チャンピオンの誕生だぁーーーっ!!!」

実況の宣言と共に、会場は割れんばかりの歓声に包まれた……。

「……おめでとう、新チャンピオン。やはり貴方には敵いませんね……」

控室に戻った俺達は、何となしに雑談を交わしていた。

「僅かながらも、ジュリアを鍛えた立場としては……負けたら格好がつかないからな」

「出来れば、貴方を本気にさせたかったのですが……」

「本気だったさ……全力は出しちゃいないが」

というか、全力とか出せないって……おっかなくて。

「その割りには、得意技や魔法も使わず……剣だけで戦っていたみたいですが」

「まぁ、仮にも騎士になったんだしな……ジュリアも剣だけで戦っていたし……」

これが実戦なら、徒手空拳有りの何でも仕様だがな……。

「言っておくが、真剣(マジ)にやったからな……俺は」

「――分かっています。そして、改めて思いました――我が心を捧げるのは貴方だけだと――」

ジュリアはそう言うと、今までを振り返る様に語り出した。

「……私は今まで、自分の人生を剣に捧げてきました。そしてその力を人々のために振るうことに喜びを感じてきた……」

「正義の味方……って奴か?」

「そんな大それた物ではありませんよ……私はただ、弱き人々の剣になれれば良いと……そう考えて今日まで剣を振るってきました……ですが、私にはもう1つ、ごまかし切れない気持ちがあったのです……」

俺はジュリアの告白を黙って聞く……。

「たった1人の為だけに剣を振るうのも悪くはない。いや、その人が喜んでくれるなら、全てを捨ててもいい。そんな気持ちを……。どうせ力を使うなら、多くの人々の幸せに繋がった方がいい。理屈ではそう分かっているのに、心が別の答えを求めてしまう……」

「ジュリア……」

「かつて私が貴方に戦いを挑んだのも、私が忠誠を誓う相手は、私より優れた者であって欲しいという願いの現れでした……戦いだけがその人の評価を決めるわけではない事は理解しています。しかし私にとって、自分より強いということは重要でした……私の中の女は貴方を求めていたのに、私の中の男が…それを許さなかった」

しかし……と、ジュリアは続ける。

「貴方はそんな私を打ち破った……あの時も、そして今回も……」

ジュリアは俺に向かってひざまずく……って、待てっ!?

「お、おいジュリア……」

「改めて――これからも忠誠を誓います……私の認めた唯一の男……シオン。貴方に……。女として、剣として……この心と身体を捧げます」

「……ありがとな、ジュリア。とは言え、これからは同僚として働くことになるかも知れないんだ……マイ・マスターとか敬語は二人きりの時だけ……な?」

対外的な問題もあるし、インペリアル・ナイツになるということは、国に剣を捧げることと同義だからな。

「……分かっています」

「いやいや、ジュリアは結構口を滑らせてるぜ?」

「……やはり、マイ・マスターは意地悪です……でも」

スッ……とジュリアが立ち上がり……俺に近付き……。

「そんなマイ・マスターも私は……」

――どうしようもなく愛おしいのです――

そう言って瞳を閉じるジュリアの意を汲み、昨夜邪魔された続きと言わんばかりに、唇と唇が重なり合ったのだった――。

「本日はありがとうございました。これからも、よろしくお願いいたします」

こうして、俺達の最初の休暇は幕を閉じた――。
まぁ、色々あったが有意義な休暇だったな……。

俺はジュリアと別れた後、皆の所へ戻って行った。
そしてローランディアに戻り、休暇の終了と、次の休暇先を文官の人に告げた。
んで、帰宅後……。

「それじゃあ、シオンさんのインペリアル・ナイト就任祝いと、新しい旅の仲間ポールの歓迎を祝して……カンパーイ♪」

「……って、何でお前が仕切ってるんだよ…ティピ?」

「まぁまぁ、良いじゃないかカーマイン」

「ラルフさんの言う通りだよお兄ちゃん。せっかくのおめでたい日なんだから」

「飯はジャンジャン作ったから、目一杯食えよお前ら!!」

「ふっ……まぁ、せっかくの仲間の門出だからな」

「そうですね……これからも宜しくという意味も兼ねて!」

「シオンがナイトかぁ……いつかはなると思っていたけど、ね?」

「どうぞシオンさん。はいポールさんも」

「ありがとうカレン」

「すまないな……」

帰宅後、皆が俺達を祝ってくれると言ってくれた……とは言っても、夕食が少し豪華になっただけだがな。
ちなみに上からティピ、カーマイン、ラルフ、ルイセ、ゼノス、ウォレス、アリオスト、リビエラ、カレン、俺、ポールの順だ。
ちなみにカレンが渡してくれたのはコンソメスープ……って、かなり手間暇掛かってんなぁオイ。

「休暇が一日増えたからな……仕込みはバッチリだぜぃ!!」

「流石ゼノス……料理には妥協しないな」

「まぁ、趣味だからな?」

そう言ってゼノスはニッ!と笑う。
料理をする人なら分かるだろうが……コンソメスープを一から作ろうとするとエラい手間暇が掛かる。

「うん、流石ゼノス!美味しい美味しい♪♪」

「あんまりがっつくなよ?」

まぁ、何と言うか軽い宴の様相となっている。
皆、我がことの様に嬉しそうだ。

「賑やかだな……君達はいつもこんな感じなのか?」

「うんにゃ。いつもはもう少し落ち着きがある……今日は俺らを祝ってくれてるからな…テンションが高いんだろうさ。全く……ナイトになったとは言え、暫定でしか無いのに……」

「そうなのか……良い仲間なのだな」

「何言ってんだ。今日からはお前もその一員なんだぜ?」

「そう……か」

フッ……と笑みを浮かべるポール。
仮にポールの正体がバレたとしても、皆なら受け入れてくれるだろう……まぁ、そうそうバレないだろうけどね。
何しろ原作ではシャドー・ナイトになったゼノスに気付かなかったくらいだからな。

「さて、せっかくの祝い事だ……楽しむとしようぜ!」

「ああ……そうだな」

そんな風に皆の好意を楽しみながら、夜も過ぎて行った……翌日、懲りずに二日酔いを発病したメンバーがいた為、次の休暇はローザリアで……ということになった。
まぁ、元からローザリアで休暇を過ごす予定だったから、丁度良いんだがな?

**********

休暇二日(三日)目・王都ローザリア

「まぁ、そんなワケだから、皆は休暇を満喫してこい。二日酔い連中は俺が見てるから」

「うぐぅ……ゴメンね、シオンさん」

「謝罪の気持ちは受け取るが……ティピは良いのか?休暇に行かなくて?」

「半分以上はアタシの責任だから……今日はシオンさんのお手伝いをする!」

「そういうワケだ……ティピを頼む……何の役に立つか分からんが……」

「ちょっとアンタ!!それどういう意味よ!?」

「頼まれた。まぁ、ティピだって頑張ってくれるさ」

カーマインの言い方に、バッテンマークを浮かべて怒るティピ……。
何故こんなことになってるかと言うと、今二日酔いになっているメンバー……カレン、リビエラ、アリオスト……この三人を二日酔いに致らしめた原因が――ティピだからだ。

ティピは俺の秘蔵の酒(アルコール度はスピリッツ級)をこの三人に飲ませたのだ。
ある時は気付かれない様に、ある時は言葉巧みに誘導して……。

ティピからすればちょっとしたお茶目だったんだろうが、やられた方にしたら堪ったもんじゃない。
俺は、酒は楽しく飲む物だと思っている。

カレンにしろアリオストにしろ、以前酒で手痛い目に遭っていたので、無理に飲ませる様なことはしない様にしていたのに……。

幾ら実行犯が俺では無いとは言え、間接的には俺にも原因があるので、自ら看病役を志願したワケだ。
最初は皆も看病すると渋っていたが、あんまり人数が居ても逆効果……と言う俺の説得に皆は渋々納得してくれた。

ただ、罪悪感からか……ティピが看病の手伝いを買って出てくれたのだ。
カーマインのお目付け役……という任を一時休止させてまで。
頑固に手伝うとしか言わないティピに、説得は無理と悟り、素直に手伝ってもらうことにしたのだ。

「いってらっしゃ〜い」

「さてと、じゃあ早速手伝って貰うぞ?」

「うん!まっかせて!!」

皆を見送った俺達は早速看病に取り掛かる。
さて、一丁頑張りますか!!

***********


今日は休暇……なんだけど、カレンさんとリビエラさんとアリオストさんが寝込んでしまいました。

二日酔いだそうです。

わたしもなったことがあるからわかるけど……あれは辛い。

シオン先生とティピが看病をするために家に残った……わたしやゼノスさんたちも手伝うっていったけど、先生が『皆は休暇を楽しんで来い』……って。

先生に説得されたわたしたちは、休暇を過ごすために街に出たのでした。
ティピがちょっと不安だけど……先生がいるから大丈夫だよね!

本当は凄く気になるけど……せっかくの休暇なんだもん……気持ちを切り替えなきゃ!

あっ、アレは……。

「お兄ちゃ〜ん!」

「?ルイセか……」

宿屋さんの前を歩いていたお兄ちゃんを見つけ、わたしはお兄ちゃんに駆け寄ります。

「どうしたんだルイセ?」

そう言いながら、お兄ちゃんは優しく頭を撫でてくれます。
わたしはお兄ちゃんに、こうされるのが好きで……。

「えへへ……、お兄ちゃん♪」

つい頬が緩んじゃいます……よぉし、決めた!

「今日はね、お兄ちゃんに甘える日って決めたの。ねぇ、お兄ちゃん。いいでしょ?」

「俺に甘える日?」

「ダメ……かな?」

わたしは不安そうな顔でお兄ちゃんを見る。
お兄ちゃんはそれを見て溜め息しながら苦笑い……って、その反応は何気に酷いと思うよ?

「仕方ないな……今日だけだぞ?」

「やった、お兄ちゃん大好きっ♪」

わたしは思わずお兄ちゃんに抱き着いてしまう。
ふふ……お兄ちゃんって暖かいなぁ♪

「――ねぇ、お兄ちゃん。お母さんからわたしたちが本当の兄妹じゃないって聞かされた時の事、おぼえてる?」

その温かさに気が緩んだのだろうか……わたしは――。

「わたし、すっごくショックだった。何だか心の一部が無くなっちゃったみたいで……すっごく悲しくて、切なくて、いっぱい泣いちゃった――お兄ちゃんはあのとき、どうだった?」

普段秘めていた気持ちを――語り出す。

「……そうだな。勿論悲しかったが……複雑な気持ちだったな」

「複雑な気持ち……?」

「――いや、昔の話だからな。それに、今は本当の兄妹みたいな物なんだ……あまり気にするなよ」

「本当の兄妹……みたい?」

わたしはお兄ちゃんの言葉を聞いて、胸の奥をズキッとした痛みが襲うのを感じた――なんでだろう、凄く嬉しい言葉の筈なのに―――辛い?

「……ルイセ?」

「また後でね――お兄ちゃん」

わたしはお兄ちゃんから離れ、噴水広場に向かった。
理由はない……強いていうなら、この場所が好きだから……かな?

わたしは噴水が流れる水溜まり……その真ん中に橋のように掛けられた石床に足を抱えて座り込んだ……頭を過ぎるのは、さっきのお兄ちゃんの言葉……。

「……………本当の兄妹みたい…か……。いつまでも、それでいいのかな?わたし……」

わたしは兄妹でいいと思ってるのかな……?


……ううん、そうじゃない。


わたしはお兄ちゃんを……。

意地悪なお兄ちゃん……けど優しいお兄ちゃん……いつも側にいてくれて、いつも支えてくれたお兄ちゃん……。

そんなお兄ちゃんを……わたしは……。





……そっかぁ、そうなんだ……。
わたしはお兄ちゃんを……。

『兄にべったり過ぎると、ボーイフレンドの一人も出来ないぞ?少しは兄離れしろよ、ルイセ?』

それは無理だったんだよお兄ちゃん……。
だって……比較しちゃうんだもん……お兄ちゃんと。

『たく、ルイセは泣き虫だな……』

そう言いながら、お兄ちゃんは優しく頭を撫でてくれた……意地悪を言いながら、それでも精一杯慰めてくれた。
だからわたしは、お兄ちゃんに撫でられるのが好きなんだ……。

「わたし……馬鹿だ……」

今更、こんなことを思い出すなんて……。
ううん、本当はもっと前から気付いてた……だって、お兄ちゃんは初恋の相手だったんだから――。

そして、それは今でも変わらず……ううん、前より強く感じる感情になってる……。

わたしはお兄ちゃんが……。

「好き……なんだ……」

妹としてじゃなく、1人の女の子として――。
その事実は、わたしの心にストンと落ちて、ピッタリと合わさった。

そうだよね――だって、心の底ではずっと思ってた気持ちなんだから。

お兄ちゃんと本当の兄妹じゃないって聞いた時、悲しかったけど……何処かでホッとしてた。
そんな感情が理解出来なくて……怖くなって余計に泣いちゃったんだ……。

『ルイセね、ルイセね♪おおきくなったら、おにいちゃんのお嫁さんになる〜♪』

『あのな〜……オレたちは兄妹だぞ?そんなことできないの!』

『やだ!なるのっ!!』

……今からでも、遅くないかな?
血の繋がりが無いなら……ダメじゃないよね?

「お兄……ちゃん……」

……お兄ちゃんはどう思ってるんだろう?
ただの妹?――それとも――。

**********


しばらくして夕方になり、皆が戻って来た。
皆はそれぞれに休暇を楽しんだ様だ。

「皆さんお帰りなさい」

「カレン、もう良いのかよ?」

「うん、兄さん。シオンさんとティピちゃんのお陰で」

ティピも頑張って俺のサポートをしてくれた。

「シオンの作ってくれたスープ……美味しかったぁ……ねぇ、あれは何て言うスープなの?」

「ああ、サムゲタンって言う鶏のスープだよ」

リビエラの問いに答える俺。
元は韓国料理の一つで、滋養強壮、栄養満点。
二日酔いには効果覿面の一品だ。
まぁ、向こうと全く同じ材料は手に入らないから、正確には『サムゲタンもどき』なんだがな。
サムゲタンの作り方を説明しても良いのだが、面倒なので知りたい奴はググレ……って、何を言ってるんだ俺は?

「それにティピ君も頑張ってたしね?」

「えへへへ……」

アリオストに褒められ、照れながら頭を掻くティピ……ああいうのを見ていると可愛いよな?

こうして、皆で夕食を食べ……各々の時間を過ごした後に就寝した。
さてさて、次の休暇先は……。

***********

休暇三日(四日)目・カーマイン領エルスリード

そんなこんなで、カーマインの領地にやってきた俺達……。
今日はゆっくり羽根を伸ばすとしますか!

「シオ〜ン!!」

「ん?リビエラ……どうしたんだ?」

「今日は一緒に行かない?まさか、こんな可愛い女の子の誘いを断らないでしょうね?」

「だから自分で言うなって!まぁ、俺で良ければ喜んで」

「そう来なくっちゃ!さぁ、行きましょう?」

リビエラは俺に腕を絡ませて来た……要は腕を組んだワケですが。

「んふふ……♪」

何と言うかまぁ……幸せそうな顔しちゃって……こっちまで顔が緩んじまうじゃないか。
ん?以前は胸を押し付けられてうろたえていた?

ハッハッハッ。
幾ら俺でもこれだけの美女達に囲まれれば、流石に慣れるさ。
今じゃ、『煩悩退散』の合言葉はオートで作動するようになったぜ!!
勿論、スイッチのONOFFも可能!!

……まぁ、要するに心の奥底じゃうろたえてるワケですが何か?

―――それはともかく、俺達は劇場に向かった……今日の演目はジョニー・カルテットか。

「入ってみましょうよ」

「だな」

そしてジョニー・カルテットの演奏が始まる。
ムーディーな曲が流れる……雰囲気のある良い曲だな…………ムーディーとは言っても、勝山じゃないからな?
誤解するなよ?

「良い曲ね……」

「そうだな……」

俺達は良いムードの中、その雰囲気を作り上げた曲を堪能した。
その後、劇場を後にした俺達は公園のベンチに腰掛け、雑談を交わしていた。

「そういえば、シオンが今着てるの……ナイツの制服よね?」

「ああ……生半可な防具より余程防御力が高い……一応、賜った後で俺の魔力を吸い込ませたから、余計にな」

所謂、オズワルド達に与えた『蒼天の鎧』と同じような仕様だ。
もっとも、材質の違いなのか……防御効果にはかなり差があるんだけどな。
敢えて言うまでもないが、この制服の方が防御効果は上だ。

「でも、確か普通のナイツは紫と白の配色よね?けど、シオンのは――青と白?」

「……聞いた話によると、母上が『シオンには絶対青っ!!』と、駄々をこねたらしい……で、父上も触発されて、特注で作らせたんだと」

「それはまた……何て言うか……」

リビエラが呆れるのも分かる。
少なくとも、俺は呆れる。
公私混同も甚だしいよな……まったく。

「あ、でも、シオンに青が似合うって言うのは賛成かも……あ、赤とかも勿論似合うと思うけど……ほら、イメージ的に」

「ありがとうリビエラ……慰めてくれて」

「……本当なんだけどなぁ」

まぁ、気にしても仕方ないよな……成るようにしかならないんだし。

「よし!愚痴を聞いてくれた礼にケーキでもご馳走してやるよ」

「え、良いの?それじゃあ、ご馳走になっちゃおうかな?」

俺達はその足でカフェに向かった。
そして運ばれて来たケーキを堪能する。

「うん♪美味しいわ♪」

「そいつは良かった…あ、リビエラ……口元にクリームが付いてるぞ?」

スイッ………ペロッ。

「!!!??」

俺はリビエラの口元のクリームを親指で拭い、親指に付いたそれを舌で舐め取った。
って、リビエラ顔真っ赤だな……。

「なななな、何を……?」

「ん?勿体ないな〜って。嫌だったか?」

「い、嫌じゃないケド……恥ずかしくて」

「もっと恥ずかしいこと――しているだろうに……」

キスとかさ。

「それはそうだけど……こういう不意打ちは、違った恥ずかしさと言うか……」

まぁ、言いたいことは分かる。
俺も以前、ティピの助言があったのでやってみたが……成程、リビエラの言う様に些か恥ずかしいな。

まぁ、些かだが。
それ以上にリビエラの恥ずかしがる姿が………よし落ち着け……俺自重。

その後、まったりとお茶を楽しんだ後に待ち合わせ場所に行き、帰路についた。
さて、明日はいよいよボスヒゲがやってくる……奴の策は潰す!!
それだけで、沢山の人が泣かないで済むし……何より仲間に辛い思いをさせずに済む。

今は休もう……俺はゆっくりと瞳を閉じたのだった。

**********

おまけ

ジュリアへの罰ゲーム

**********

俺は礼を言って去ろうとしたジュリアを捕まえる。

「そういえば……昨日の陛下の悪巧みにはお前も一枚噛んでいたんだよな……ジュリア?」

「は、はい……その……どんな罰でもお受けします……」

「じゃあ今度、メイド服を着て……俺に奉仕でもして貰おうかな?」

ニヤリ……と、冗談めかして言うが……。

「わ、分かりました……誠心誠意ご奉仕させていただきます……」

って、待て待て待てっ!!?

「言っておくが……冗談だからな?」

「そ、そうなのですか……?私は……本当にしても……構わないのですが……」

「……もしかして……やりたいのか?」

「…………(コクンッ)」

ジュリアは真っ赤になりながら頷いた……って、マジかよ?

こうして、ジュリアの希望もあり、今度暇な時にメイド姿で奉仕してくれるという運びになった。

今度が何時来るか分からんが……ゆっくり待つとしようか。

……嘘から出た真ってのは、こういうことを言うんだな……。

***********

おまけ2

シオンとティピの看病

***********

Case1・アリオストの場合

「大丈夫かアリオスト?」

「あ、ああ……何とか……痛たたたっ……!?」

「ゴメンねアリオストさん……もうこんなことしないからね」

「い、良いんだよティピ君……昨日はお祝いだったんだし……」

「二日酔いによく効くスープを作って来たんだが……飲むか?」

「ありがとう……戴くよ………うん、美味しい。弱った胃に染み渡るよ……」

「それは良かった……まぁ、愛しのミーシャ君の手料理じゃなくて悪いケドな?」

「……シオンさん、それトドメだから」

「ハ、ハハハ……」

***********

Case2・カレンの場合

「カレン、大丈夫か?」

「は、はい……大丈夫で……す」

「ゴメンねカレンさん……アタシが調子に乗ったせいで……」

「ううん……私も調子に乗ってたから……気にしないでティピちゃん」

「二日酔いによく効くスープを作って来たんだけど……飲むか?」

「わぁ……嬉しいです。あ、あの……あ〜んって、飲ませてもらえませんか……?」

「え?」

「!?わ、私、何言ってるんだろう!?今のは忘れて…痛っ!?」

「急に動いたりしたらダメだよ〜!」

「うぅ……ゴメンなさい……」

「ふー…ふー……ほら、あーんして……」

「ふぇ!?あ、ああの……」

「ちゃんと冷ましたから大丈夫だ……ほら」

「……はい。あ〜ん………お、美味しいです」

「それは良かった……しかし、カレンは甘えん坊だなぁ〜」

「あ、あうぅ……」

「なんてな!こんな時なんだから、素直に甘えてくれた方が嬉しいって♪ほら」

「は、はい!……あ〜ん……♪」

「あ、甘い……空気が甘いわぁ……(けど、何でか羨ましく感じたり……って、違うからね!?)」

***********

Case3・リビエラの場合

「大丈夫かリビエラ?」

「うう……頭痛いよぅ……まさかこの私が二日酔いなんて…ね」

「ゴメンねリビエラさん……アタシがあんなお酒を勧めなければ……」

「良いのよ……気にしないでティピちゃん」

「二日酔いによく効くスープを作って来たんだが……飲むか?」

「シオンの手作り?嬉しいなぁ……それじゃあ……ん〜〜♪」

「……何のつもりだ?」

「く・ち・う・つ・し♪口移しで飲ませて欲しいな〜♪」

「寝言は寝て言え」

「酷っ!?二日酔いで苦しむ美少女に言う台詞じゃないわ!」

「自分で言うなよ……まぁ、起き上がれない程ならともかく、それだけ元気なら口移しは必要ないだろ……ほれ、あ〜んってして……」

「あ、うん……あ〜ん……うん、美味しい♪ね、もう一回……♪」

「ああ……しかしなんだ、まるで鳥のヒナみたいだな」

「い、良いじゃない……ヒナでも。ほら、早くぅ♪」

「はいはい……ほら、あ〜ん……」

「あ〜〜ん……♪」

「ゔあ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁぁぁ……なんつーイチャつきぶり……(良いな〜…………って!違う!!本当に違うんだってばぁ!!……本当だもん……)」

***********

こうして、二人の看病の結果……三人は夕方には二日酔いも治まったのだそうな……。

めでたしめでたし。




[7317] 第115話―食い止められなかった凶行―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/19 16:25


―――彼の者に慢心は無かった――。

彼の者は自身の力量を理解し、その過ぎたる力を把握し、常にその力を抑えて来た――。

また、その力に驕らず己を磨き、鍛え、研ぎ直して来た――。

力と技と知……学び鍛え抜いたそれは、元より過ぎた力を更に高みへと押し上げた――。

最強―――その言葉でも表し切れない程に、彼の者の力量は高まった――。

そう――単純な力量ならば、この世界の者が束になろうと太刀打ち出来ぬ程に――。

彼の者のそれは、星をも消し砕く―――過ぎたる異端。

故に――彼の者は己を律し、常に抑えて来た。


―――だが、彼の者は心が弱かった。
いや、弱いというのは語弊だろう……ある意味では強いとも言えるのだから――。

彼の者はかつて――この世界とは違う世界にあった――その世界は、この世界の様な闘争が日常にある世界では無かった――争いが全くないとは言えなかったが、少なくとも彼の者の周囲――国では血で血を洗う戦争は無くなって久しく、民草の一人であった彼の者には、争うことこそあれ、命のやり取りからは無縁の場所に居たと言えよう。

彼の者は命に敏感である――それはかつての世界で、最愛の者を亡くしたから――。

幸い、彼の者のトラウマはこの世界にて解消された――彼の者を想う者と、他でも無い……かつて亡くした最愛の者の御霊によって……。

だが、心のしこりが消えたワケでは無い――。

彼の者は――この世界で多くの命を奪って来た――。
それは大切な者達を守るため――無論、彼の者程の力量があれば……命を奪わずに守ることも出来た……そんなこともあった――。

だが――戦争という環の中においては、大切な者達の身に危機が及ぶことも――幾度と無くあった。

かつての様に―――失いたくはない―――。

その様な強迫概念のような想いが、彼の者を突き動かした―――迷いは……無かった。

この世界で初めて人の命を奪った時――彼の者は壊れかけたが――大切な者に救われた――。

故に迷いは無い。

命を奪うのはしてはいけないこと―――出来るならしたくはない―――。

彼の者の心は、未だにかつての世界の民草の時のまま――故に、目につく者は救えるだけ救ってきた……それでも、大切な者達と量りに掛けたならば―――迷う筈が無かった。


一緒に笑いあった友のため―――自分の心を救ってくれた人のため――大切な仲間のため―――
そのためならば、自身の心が軋もうと構わない―――それが彼の者の信念――。

だが、彼の者は苛まれる――彼の者の異能により、怨嗟の声が、纏わり付く怨恨が、奪った命が消える瞬間が、命を刈り取った感触が―――。

忘れることは出来ない―――それが彼の者の異能だから。

怨念の塊から目を逸らすことは出来ない――それが彼の者の異能だから。

いや――仮に忘れられようと、目を逸らすことが出来ようと―――それはしないだろう。

それが彼の者の強さなのだから―――。

慣れることは無い――ならば奪った命――怨嗟の念を背負ってでも―――それもまた、彼の者の信念なのだから―――。

――だが。

それは民草の心を持つ彼の者からすれば、あまりにも険しい茨の道―――常に傷付き、叫びを上げていた――。

コロシタクナイ――コロシタクナンカナカッタンダ――ヤメテクレ――ダレカ――タスケテ――……ケレド、オレにそれを言う資格は無い……それが俺の罪……そして罰――。

かつての世界の民草――その中においても、彼の者は優し過ぎた……故に彼の者は声にならない叫びを心に押し込める。

――命に敏感故に、奪う自分を許せなくて――大切な者を守りたいが故に奪い、自身も傷付いて――人ならざる異能を持つが故に、声にならぬ叫びを上げる――――それが彼の者の弱さ。

だが、彼の者はそれを周りに悟らせない―――表面上は何よりも強固で巨大な城壁の様な心―――毅然で、冷静で、余裕――しかし、それは張りぼて。

傍目には何よりも強く見えるが、それは実際には果てしなく、儚く、脆い―――。

故に、彼の者の心は強いとも弱いとも取れるのだろう――。


――――仮に――――。

仮に―――彼の者の心の張りぼてを壊すような手段を持つ者が居たならば―――。

「ふふふ……悪いケド、君には此処に居てもらうよ……シオン君?」

彼の者は最強足り得なくなるだろう―――。

「……あの方の命令は足止めだったけど、せっかくのチャンスなんだ……君の能力を戴こうかなぁ?うん、そうしよう♪♪」

彼の者に――慢心は無い――心が弱い故に――張りぼてで隠す。
用心は怠らない―――張りぼてを破壊されようと―――。

***********


「ふぅ……今日はこんなモンか」

俺は毎朝日課になっている早朝鍛練を行っていた。
一応、肩書だけとは言えナイツになったワケだからな……。
精進を怠るワケにはいかないだろ?

とは言え、早く起きすぎたな…………まだ時間が……っ!!?


「この魔力は………!!?」

忘れもしない………あのフードの男の魔力……奴が近くにいやがるのか!?

*********

「……来たね、待っていたよ」

瞬転した先に居た奴は、俺が来るのを予期していた様だった……周囲は森に囲まれている。

「まるで、俺が来るのが分かっていたかの様な口ぶりだな?」

「フフフ……分かるさ。君にとって、僕は問答無用で殺しに掛かる程の危険人物……そんな奴が近くに居るのが分かれば、放ってはおけないよねぇ?」

「質問の答えになっていないぞ?」

「クックックッ……この間、君は遠く離れた僕の背後に突然現れた……それはつまり、僕の居場所を正確に特定する何かと、僕の居場所に瞬時に移動する術を持っているということ………」

……どうやらそれなりに頭は切れるらしいな……。

「ついでに何故今回は僕に襲い掛からないか……それは僕の能力を警戒しているから……また逃げられちゃあ堪んないもんねぇ〜?」

「言っておくが……以前の様にはイカンぞ」

俺はリーヴェイグを抜き放つ……。

「も〜……短気だなぁ……せっかくシオン君がナイツに就任したお祝いに、耳寄りな情報を持って来たのにぃ〜♪」

そう言って、奴はスッ……と礼をする。

「まずは自己紹介からかな?僕の名前はルイン――君と同じ転生者。趣味は改造手術と凌辱――後は他人を手玉に取ることかな?以後宜しく―――」

ザシュッ!!!

「屑が……聞く耳なんざ持たねぇよ」

「もう……酷い【ズシュッ!!】………な……」

「……聞く耳持たんと言った。大人しく死んどけ……屑野郎」

俺は瞬時に距離を詰め、奴に切り掛かった……案の定、奴の身体から影がぶれた―――もし、奴の能力がロマサガ3のシャドウ・サーバントならば、無効に出来る攻撃は一回のみ――直ぐに距離を取ろうとした奴に、二撃目を見舞う―――上手く避けられ、真っ二つには出来なかったが……瞬時に突きに変えて心臓を貫いた。
今回は幻日も作用しなかったらしい……。

終わったな………ついカッとなってやっちまった……本当は目的や正体まで探るつもりだったが……正体は奴から語ったからな。
この手のタイプは、隙を見せたら付け込んで来る……。
俺の本能が告げていた……こいつは生かしておいては危険な人種だと。

「……悪いがテメェに構ってる暇は無いんでな」

俺はその場を去るために瞬転を…………っ!?

ゴアアァァァァァァァッ!!!!!

奴の死体を………炎の柱が包んで………まさか……っ!?

「………危ないなぁ。リヴァイヴァを掛けてなかったら死んでたじゃないか……スッゴク痛かったよぉ?」

「………月影術の次は朱雀術か」

「そう……これが僕の能力の一つ……ロマンシングサガシリーズの術と技が使えるんだ……敵味方問わずに、ね」

成程な……これまた随分とチートだな……しかも、【能力の一つ】ということは、他にも能力があるということになるが……。

「……僕はねぇ……他人を傷付けるのは好きだけど……傷つけられるのは大嫌いなんだよぉっ!!!!!」

狂った様に喚き散らし、奴が取り出したのは…………菱形の何か。

なんだ………?

「ナキワメーケよ!!我に仕えよっ!!!」

奴はそれを木に投げ付け……木にそれが張り付いた。

そしてその木は光に包まれ……そこから現れたのは……。

『ナーキワメーケーッ!!!』

「な………」

巨大な大樹の化け物だった……。

『ジュモーークーーッ!!!』

「ちぃっ!?」

大樹の化け物は腕の様に変化した枝を、伸縮させ……鞭の様に打ち、レイピアの様に穿ってくる。

威力はクレーターや円形の穴が出来ていることから、かなりの物なんだろうことが伺える。
無論、易々と喰らってやるつもりは毛頭ないし、喰らっても俺なら致命傷にはならんが…。

「どうだい?とある組織が所持していたアイテムさ……その戦闘力や能力は、取り付かせた物により左右される……そして、ソイツは僕の意のままに動く………もっとも、僕は弄る楽しみが無いから滅多に使わないんだけど。消耗品だしね?」

『ジュモーークーーッ!!!』

大樹の化け物は、頭の位置にある葉を無数に飛ばしてくる……それは周囲を切り裂き、穿ちながら俺に殺到する……が、その程度で俺をやれると思うな……っ!!

「舐めるなよ……」

『ジュ……モ……ク………』

俺は跳躍し、大樹の化け物を菱形の物ごと真っ二つに切り裂いた。
ズズーーーン……と、大きく音が響き渡る……見ると、大樹の化け物は元のサイズに戻った状態で唐竹に真っ二つとなっていた。

「次はお前だ……慈悲は無いぞ」

「慈悲は無いぞ……だって♪カッコイー(笑)にしても、ナキワメーケを一撃かぁ……良いね良いねぇ!!ますます君の力が欲しくなったよぉ!!」

「……切り捨てる!!」

俺は気を纏い、身体能力を上げる……今の俺はゲヴェルの本気モードや、ラルフの全力に匹敵するだろう所まで身体能力を引き上げている。

無論、これ以上先も存在するが……ハッキリ言ってこれ以上はオーバーキルになるし、周りへの被害も甚大となる……。

「青白い半透明な炎……ははは……まるでドラゴンボールに出てくる気みたいだねぇ……それとも、みたいじゃなくて……本物?」

「さてな……それは」

シュバッ!!!

「自分で確かめな!!」

俺は奴の懐まで距離を詰める……奴には俺が見えなかった筈だ。

現に、奴の視線は未だに俺が居たであろう場所を見ているのだから。

俺は奴を蹴り上げる……それだけでも致命傷になる威力の蹴り……それで奴を宙に浮かせた所に――飛竜翼斬を叩き込む!!
それで終わる………筈だった。

ガキンッ!!!

「!?障壁……がああぁぁぁ!!!?」

俺の蹴りが紫の障壁に阻まれたかと思うと、突如として衝撃が俺を襲う……まるで、思いきり蹴られた様な………まさか!?

衝撃に弾かれた俺は、大きく弾き飛ばされた……何とか踏ん張りはしたが……。

「俺の蹴りを……は、反射したのか……」

「ご名答♪これを使ったのさ♪」

奴が持っているのは鏡……?

「物反鏡って……知ってるかなぁ?」

「物反鏡……だと?……ちっ、何でもありだな……よもや、テトラカーンは使えやしないだろうな?」

俺はヒーリングを掛けながら、奴に問う。
ダイレクトにダメージが還って来たので、防御することが出来なかったのだ。
もろに直撃したが……致命傷ではなかったのは幸いだったな。
文字通り、全力では無かったのが幸を相したか。

「そんなこと無いよ。僕には悪魔を召喚するツールも無ければ、ペルソナも降ろせない。ましてやマガタマなんて無いし……ね?これが僕のもう一つの能力……【アイテム創造】さ。僕の知識にあるアイテムを【創造】することが出来る……もっとも、【創造】出来るのは消費アイテム限定だし、知識が段々磨耗してきている僕では、【創造】出来るアイテムにも限りが出てくる……他にも色々縛りがあるんだけどね?」

「そうか……さっきの大樹の化け物をけしかけている間に使ったのか……」

「そうだよ?まぁ、君が最初から全力だったなら……使う暇も無かったけどねぇ」

クッ……周りへの被害を考えすぎたか。
実力では俺のほうが勝っている……。
気を読んだが、コイツはさほど大きな気の持ち主じゃない。
魔力に関しても同様だ。

気に関してはラルフの方が強いし、魔力ならばルイセの方が強い。

だが、奴の能力……正直厄介過ぎる。
奴がどれだけのアイテムを識っているのかは知らんが……物反鏡を知っているということは、魔反鏡も知っているということだろう。
チッ……あくまでもアイテムの効果だから、ラーニングも出来ないしな……。

「言うまでもないと思うけど、魔反鏡も使ってるからね?魔法も無駄だよ。つまりあと一分強……僕は無敵ってワケ………それだけあれば」

奴が取り出したのは瓶に入った液体。

「君を無力化出来る」

奴はその瓶の蓋を開けた……すると、その黄金色に輝く液体とは似ても似つかぬ、どす黒い煙りが溢れてくる。

「煙幕か………そんな物に意味はないぞ?」

「煙幕ぅ??フフフ……これはもっと素敵なモノだよ……」

まさか毒か?だが、俺には【解毒能力】がある――それこそサンドラに盛られたゲヴェルの毒でも無ければ通じない……。
チッ……視界が遮られたか……だが、奴の気は感じる。

「それは不幸のエネルギー……人が不幸だと感じる想い……それを抽出し、凝縮したモノに指向性を持たせたモノ……簡単に言えば、それを受けた者は――」

直接的な攻撃や、魔法攻撃は反射される……ならば、間接的なダメージを与える迄だ!!

俺はリーヴェイグを鞘に納め――。

「――悪夢に囚われる」

奴へ向かい気を込めた拳を打ち放―――。



「――兄さん?」

「っ!!?……な……え……?」

「どうしたの凌治兄さん?鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔してさ?」

俺の目の前に居たのは奴では無く………。


「れ、礼治……?」

「そうだけど……どうしたの兄さん?なんか変だけど……風邪でも引いた?」

海堂 礼治………俺の双子の弟……。

「俺は……何をしていたんだ?」

「何って……今日は沙紀との初デートなんだろ?昨日散々はしゃいでたじゃないか」

「そう……だったっけ?」

「……それは惚気?振られた弟としては苦笑い必至なんですが?」

「そ、そんなんじゃねぇって!!」

「本当に?……まぁ、良いや。早く下に降りてきなよ?母さんも朝食作って待ってるんだし」

「分かったよ……」

礼治を見送った俺は起き上がる……どうやら俺は寝ていたらしい。
周囲を見渡す……。

「……俺の部屋……いや、俺達の部屋か」

……二つの勉強机、二段ベッド……俺のステレオコンポ、礼治の参考書、俺達の学校の制服――俺と礼治が、学生時代に使っていた部屋だ。

「ん?学生時代……今もピチピチの学生じゃんか……?」

何だろう……何か違和感を感じる。
俺はこんなことをしていたのだろうか……違う気がする。
何が違うかと聞かれると……。

「分からないんだよなぁ……これが」

おっかしいなぁ……俺って、記憶力は良い筈なんだがなぁ?

「凌治ーーっ!!早く来なさーいっ!!朝ご飯冷めちゃうわよぉ!?」

「わぁーてるよっ!……ったく、お袋はうるせーんだから……」

俺はちゃっちゃと着替え、下に降りていった。
勿論、沙紀との初デートらしいので、ビシッと気合いの入った服装で!
とは言え、普段より少し小綺麗な格好ってだけだけどね。

**********


「クックックッ……危ない危ない♪」

見ると、シオン君が拳を作り、こちらに向けて放とうとしている所だった……多分、何かの技を……恐らく物理攻撃でも魔法攻撃でもない何かを放とうとしていたんだろう……。

しかし、それをする前に彼は不幸に囚われてくれた……。
その証拠に彼は技を放とうとした瞬間のまま……微動だにしていない。

「おっと……あまり近付き過ぎると、僕も巻き込まれるからね……離れておかないと。ククク、他人の不幸は蜜の味だけど……自分まで不幸になるのは御免だからね」

僕はシオン君に纏わり付く、不幸の煙から離れ、事態を観測する……さて、原作のフレッシュな子達は自力でソレを振り払ったケド……シオン君はどうかなぁ?

あの煙が晴れる方法は二つだけ……自力で悪夢を振り払うか、悪夢に完全に呑まれるか……。

「ふふふ……悪いケド、君には此処に居てもらうよ……シオン君?」

……あの方の……ヴェンツェル様の為にね。

「……あの方の命令は足止めだったけど、せっかくのチャンスなんだ……君の能力を戴こうかなぁ?うん、そうしよう♪♪」

ヴェンツェル様が言うには、シオン君はかつてのヴェンツェル様自身に匹敵するかも知れないグローシアンらしいし……。
しかも気の様な力に、魔法を改変する能力……良いねぇ〜……それらが全て僕のモノになるかと思うと……ゾクゾクするよぉ……クハハハハ!!!

「さぁ……早く闇に呑まれなよ……ああ!待ち遠しいなぁ!!早く!!早くぅ!!」

ああ!!焦らされるだけ……快感が高まるぅ!!
アハハ!!大丈夫だよシオン君……君の命は僕の贄として!!君の力は僕の糧として生き続けるのだからぁ!!!!

ヒャッアハハハハハハハハァッ!!!!!!

***********


朝食を済ませたカーマイン達……。
シオンが居ないことを気にするも、アルカディウス王を待たせる訳にも行かず、一先ずは謁見の間に……。

アルカディウス王から伝えられた任務内容は、ゲヴェルの捜索……及び討伐だった。
いよいよ、ゲヴェルを倒せばこの世界に平和が訪れるとあって、メンバーは気合い十分だ。

しかし……。

「……シオンさん、どうしたんでしょうか?」

謁見の間を出た時にカレンが口にした一言……。

「ナイトに任命された件で、国に呼び戻されたのかな?」

「それは無いだろう……それならば私にも召集が掛かる筈だし……何より、我々は陛下からゲヴェル打倒の任を受けているのだから、それを蔑ろにするというのは、彼の性格上……考えにくい」

ルイセの意見に異を唱えたのはポールだ。
ポールの言う意見は、他のメンバーも納得出来る物だった。

「あいつが何も言わずに消えちまうワケがねぇ」

「そうだね。彼が独自に行動するとしても、それは事前に僕たちに相談するはずだ……」

「何か不測の事態に巻き込まれた……か」

ゼノス、アリオスト、ウォレスも首を傾げる。
まがりなりにも、今まで苦楽を共にしてきた仲間のことだ。
何かあったのではと推測するには十分。

「けど、あのシオンさんだよ?何かあっても、鼻唄混じりでどうにかしちゃいそうだけど……」

「ティピの言う通りかもな……生半可なことでは動じないだろ……シオンは」

ティピとカーマインは、シオンなら大丈夫だろう……という意見を出す。
これはカーマインとティピだけに限らないが、シオンの反則じみた強さを、メンバーは嫌というほど理解していた……。

これも信頼の現れなのだろうが……。

「それでも、シオンが何も言わずに居なくなるのはやっぱり変よ……」

「そうですね……なんだか、嫌な予感がします」

それでも不安を現にしたのがリビエラとカレンだ……別にシオンのことを信頼していないワケではない。
むしろ、このメンバーの中では強くシオンを信頼しているだろう……しかし、故にこの状況は有り得ないと断言出来る。

……カレンはこの様な事態に覚えがあった。

カレンだけじゃない……カーマイン達も覚えていることだ。

以前、シオンが似たように消えた時がある……ローランディアの貴族……コーネリウスの独断により捕えられ――拷問まがいの行いを受けた時である。

慌てて助けに行ったら、思ったよりケロッとしていたのが、皆の印象に残っている……。

「分かった……僕が捜してみるよ」

「……ラルフ?」

「僕ならシオンの大体の居場所は分かるからね……皆は先に用を済ませてくれ」

そう言って、シオンを捜すのに立候補したのがラルフ……ある意味パーティーの中では、1番シオンとの信頼関係が厚いラルフだ。

ラルフは説明する……自分は完全に気を読める。
だからこそ、捜すのには適任だと。

「でも、それじゃあなんで今まで黙ってたの?」

「何と言うか……大体の居場所は分かるんだけど……何かに遮られてるって言うのかな?シオンの気配が希薄なんだ……シオンは激しい訓練をする時に結界を張ったりもするから……それ関連だと思うんだけど」

ルイセの問いに答えるラルフ……。
ラルフはシオンが早朝の訓練を行っていることを知っている……。
時折、ラルフも早朝訓練に付き合っていたので分かるのだ。
……もっとも、カーマインの次に寝覚めが悪いため、早起きをすることは滅多に無いのだが……。

「分かった……だが、万が一に備えて、何人か連れていった方が良いかもしれん」

「ウォレスの言う通りだな……じゃあ、誰が行く?」

話し合いの結果、シオン探索組はラルフ、ポール、リビエラ、カレン……となった。

ルイセは客人が待っているので、サンドラの研究室に行かねばならない。
客人……ヴェンツェルの元へと。

それに付き添うのは、カーマイン、ティピ、ウォレス、ゼノス、アリオスト……。

「それじゃ……行ってくるよ」

「ああ……気をつけてな……?」

こうして、彼らは二手に別れた……ラルフ達はシオンを捜しに……カーマイン達は約束を果たす為に……。

それは奇しくも、ルインの思惑を阻止する一手となるが……未だにヴェンツェルの掌の上で躍らされているということに、気付くこともなく。

**********


なんだ………コレは……。
赤に塗れたナニカ……赤い水溜まり………。

赤赤朱朱紅紅紅朱朱赤赤朱………赤い世界。

「沙紀………沙紀いぃいぃぃぃぃ!!?」


そう……沙紀……俺の幼なじみ……俺の恋人………。
沙紀が……赤い沼にシズンデイク……その手をツカミトルことがデキズ……。

「リョウ……なんで……?」

違う……俺は……。

「兄さん……何で沙紀を見捨てたの?」

「違う!!俺は……」

「違わないよ……あの時兄さんが沙紀と一緒に家を出ていれば……沙紀は死なずに済んだんだ」

「っ!!!??」

知らない……こんな記憶……俺は知らない……。
確かに……礼治の言う通り……あの時に俺が沙紀の望みを受け入れていなければ……。
だが……!!

「本当に許されると思った?」

「!!?」

「兄さん……僕はね……兄さんが憎くて憎くて仕方ないんだ!!!兄さんが居なければ……沙紀は僕を選んでくれた筈だ!!……僕なら、沙紀を死なせずに済んだんだ!!」

……違う。

『……しっかりしてくれよ兄さん!!こんなの……こんなの沙紀だって……望んじゃいない……望んじゃいないんだよ!』

……そう言って自棄になった俺を、奮い起こそうとした礼治……そんな礼治が……こんなことを言う筈……。

「リョウ……私、言ったよね?」

「沙………紀………」

「彼女たちを幸せにしてあげてって………」

血だらけの沙紀はスッ……と、俺の背後を指差す――。
そこには――。

「あ………あ………」

そこには血の海………そこに沈む…………。

「みん……な………」

そう……俺の仲間達……みんナ……ナンデうゴカナいンダ……何で血だらケナンダ……???

「幸せどころか……守れもしないなんて……リョウは所詮その程度なんだね?」

「最強の力を持ってるなんて………自惚れた結果だよ兄さん」

違う……こんなの違うっ!!

「大切な仲間も守れず………」

「愛する女性も守れない………全部兄さんのせいだよ?」

「違う!!!沙紀や礼治はそんなことは言わない!!」

「それはリョウの願望でしょ……?」

嘘だ……。

「僕らの気持ちは僕らにしか分からない………分かった様なこと言わないでよ」

嘘だ…。

「リョウは沢山殺して来た……なのに守れなかった」

「兄さんのしたことは無駄だったんだよ……」

「嘘だ…」

「結局リョウには何も残らない……何も守れない」

「それが兄さんの運命なんだよ」

「嘘だあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!????」

止めてくれ!!こんなモノを見せないでくれぇっ!!!
俺は……俺はぁ……!!!

「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

**********


「そろそろかな……?君がどんな悪夢を見ているのか……分からないのが残念だよ…さぞかし楽しい見世物だろうに……」

見ると、周囲の不幸の煙がシオン君に集束していっている。
墜ちるのも時間の問題か……ククク!!

「もう少し……もう少しぃ……もう少しで僕のモノにぃ……っ!!?」

僕は殺気を感じ、咄嗟に飛びのく。
そこに飛来したのは無数の魔法の矢……。

「誰だぁい……?」

僕が顔を向けると……そこに居たのはシオン君のお仲間達……。

「これはこれは……シオン君のお仲間さん達……原作ヒロインの一人に……おやおや、やられキャラにⅡのヒロインまで……どうしたのかな?怖い顔してぇ?」

「貴方は誰ですか!!シオンさんに何を……!?」

原作ヒロインの一人……カレンが聞いてくる。
ふぅん、シオン君……カレンの死亡フラグを折ったんだ……良いねぇ。
お陰で壊す楽しみが増えたよ♪

「彼は今、不幸に囚われているんだよ……しかも、悪夢に墜ちようとしている……まぁ、言っても分からないか」

確かやられキャラ……ラルフ君もシオン君に魔改造されてるんだよね?
ここはこのキャラ達の能力も戴いちゃおうか……いや、それじゃあ面白くないな。

「……お前の言っていることは分からない。だが、これだけは分かる……お前の存在は許せない……」

「おやぁ?シオン君のことで怒ったぁ?けど止めておきなよ……僕はシオン君に勝ったんだ。君達じゃ束になっても太刀打ち出来ないよ?」

「そんなの認めるもんですか!!シオンが……シオンがアンタなんかに負けるワケないじゃない!」

剣を抜き放ったラルフ君に警告する僕……そんな僕に向かって吠えるⅡのキャラ……確かリビエラだっけ?
ふふふ……余程壊されたいらしいね……けど……僕は考えた。

此処で彼らを殺し、壊し、犯して……能力を手にするのはワケ無い……。
けれども、それじゃあ面白くない。

「相手してあげても良いけど……シオン君は良いのかい?急がないと手遅れになるよ?」

より面白くするには………シオン君が壊れてからじゃ駄目だ。
シオン君の見る前で……奪い、殺し、犯し……壊す。
そうしたなら最高に気持ち良い筈……。

単純に無双するのもつまらないからね。
それに……ヴェンツェル様の命は果たした。
ならばこそ……引き上げるのが吉……だね。

「……貴様」

「ふふふ……シオン君を引き戻すには、シオン君が悪夢に勝たねばならない……もっとも、それが出来るかは分からないけどね」

仮面を着けた彼が睨んでくるが………こんなキャラ居たっけ?
モブキャラ?

「あ……忠告しておくよ。あの煙の中に入ると、君達も悪夢に囚われることになるから……注意するんだね?アハハハハハハ!!!」

「黙れ」

見ると、ラルフ君が間合いを詰めて、剣を振るおうとしていた……って、あっぶなぁ〜〜い!?

僕は直ぐさま影の中に逃げ込む……いやぁ、本当にあぶなかった♪
ラルフ君……ただのやられキャラの癖に……君も中々侮れないね?
アハハハハハハッ!!

「それじゃあ……僕は此処で……一応、目的は果たしたから帰るよ。また会おう諸君……なんてね、ククク…クククククク……アーッハハハハハハッ!!!!!」

**********


「気配が……消えた」

僕は周囲を探るが、あのフードの男の気は感じない……。
あの男……あの時の夢で見た……。

せめて……あの女性の仇くらいは討ちたかったけど……ゴメン……。

「……それよりどうする?さっきから、あの煙がシオンに集まってきている様だ……奴の言う、時間が無いとはこのことか……?」

「どうするもこうするも!!シオンを助けるに決まってるじゃない!!」

「そうですね……急いであそこから連れだしましょう……!!」

ポール君の言う様に、本当にゆっくりとだけど、煙がシオンに集まって行く……まるで吸い込む様に。
リビエラさんとカレンさんが、シオンに向かって歩きだそうとするのを、僕は止める。

「待ってくれ……あのフードの男の言葉を、全て真に受けるワケにはいかないけれど……あの煙の中に行くと、シオンの二の舞になる可能性が高い」

「じゃあ、放っておけって言うんですか……?そんなこと私にはっ!?」

悲しそうに叫ぶカレンさん……リビエラさんも同じ気持ちだろうと思う。

「だから……僕が行ってくる」

「なっ……ラルフ!貴方……」

「シオンを正気に戻せても、その時にカレンさん達が今のシオンみたいになってたら……僕が怒られる。『お前が居ながら、何で止めなかったんだ!!』ってね?」

まぁ、シオンならそんな八つ当たりじみたことは―――しないだろうけどね?

「それに、全員で飛び込むのは危険だ――あのフードの男の気配は消えたけど、もしかしたら何処かに隠れてチャンスを伺っているのかも知れない……だから」

「成る程……自分が実験台になろうというのか」

「勿論、僕がそのままシオンの目を覚ませれば良いんだけどね……その方法も分からない以上、誰かがやらなきゃならない……このままじゃ時間が無いって言うならね」

ポール君の言うように……実験台というよりは偵察に近いケド。
さっきの理由でカレンさんやリビエラさんを行かせるワケには行かない。
ポール君にはいざという時に二人を守る為に、残って貰う。

「けれど……」

「問答をしている暇はない……じゃあ、後は頼むよっ!!!」

「ラルフさん!?」

僕は煙の中へ突っ込んで行く……シオンをこの煙の中から連れ出すために!!

意識が朦朧としてくる……ケド!僕は――!!

**********

「……此処は」

周囲を見渡す……そこはローランディアの街。
カーマインの家の居間……。

「皆……どうしたんだい?」

そこには皆が集まっていた……。
僕は皆の場所へ向かい……。

「近寄らないでよ……化け物!!」

「ティピちゃん…?」

「……俺たちはな、知ってるんだよ。お前が隠してることをな……」

「お兄ちゃんの双子だなんて言って……皆を騙していたんだね」

ウォレスさん……ルイセちゃん……。

「ゲヴェルの手下野郎が……仲間面するんじゃねぇよ!!」

「近寄らないで下さい……」

ゼノスさん……カレンさん……。

「君の様な生き物が居るから……争いは無くならないんだ」

「アタシはまだまだマシですよね……人類の敵じゃないんですから」

アリオストさん……ミーシャちゃん……。

「お笑いぐさよね?化け物の手下だったんだから……」

リビエラさん……。

「お前のせいで……俺も化け物の仲間入りだよ」

カーマイン………。

「やはり、お前も所詮化け物だったんだな……せめてもの情けだ……俺が引導を渡してやる」

シオン……。

そうか……。

これは僕にとっての不幸……望まざること。
認めたくない………絶望に誘うモノ……。

だけど……。

「違う」

「何……?」

「君達は違う……皆じゃない。皆はそんなことを言わないから……」

「それはお前の願望だろう……」

「……そうかもしれない。真実を知れば皆は、僕のことを受け入れてくれないかも知れない……だけど、僕は皆を信じてる……!!それに、シオンは絶対に僕を化け物なんて呼ばない……!」

『僕と友達にならない?』

『これからも頼むぜ、相棒?』

『ラルフはラルフだろ?俺のダチに変わりはねぇ』

「彼は僕の……相棒で――親友なのだからっ!!」


ザアァッ―――!!


僕の一声が響き渡り――視界が晴れる。
どす黒い煙は消し飛び――目の前には拳を放とうとして動きを止めているシオンが――。

「僕にだって出来たんだ……シオンに出来ない筈が無い。だから……負けないでくれ……相棒!!」

煙が晴れたことにより、カレンさん達もこちらにやってくる……。
彼女達だって心配してるんだ……。
それはシオンだって本意じゃないだろう?

だから……目を覚ましてくれ……!!

**********


「あ……あ………」

俺の姿は凌治からシオンへと変化していた……。
だが……そんなことはどうでもいい……。

俺の身体は血の沼に沈んで行く……皆を死なせてしまった……俺に生きる価値なんて……。

引きずり込まれる………今まで殺して来た者達に……もう……良いよ。

もう疲れた………早く楽にしてくれ………。

俺の身体が半分まで沈み……俺はそれを今かと待ち続け【ガシッ!!】……え……。

何かが俺の手を掴む……俺はそれの正体を見た………何で?

「ラ、ラルフ……」

そんな……ラルフはさっき……。

『僕にだって出来たんだ……シオンに出来ない筈が無い。だから……負けないでくれ……相棒!!』

そんな………これは……【ガシッ!!】カレン……!!

『お願い……目を覚まして下さいシオンさん!!私を……置いていかないで……』

カレンが泣いている……俺が泣かせている……?
【ガシッ!!】リビエラ……。

『ねぇ……しっかりしてよシオン……お願い……目を覚まして……また、私のことを……呼んでよぉ……』

リビエラも……泣いている……こんな……俺はこんなの……【ガシッ!!】リシャールまで……。

『君がこんなことで負ける筈がない……目を開いて見てみろ……こんな麗しい女性たちを泣かせたままで良いのか?』

分かってるよ……いや、分かっていたんだ。
これがまやかしだって……だけど、俺は自分が信じられなかったから……。
不安だったんだ……俺に仲間を守れるのか……。全てを救うなんて言わない……目に届く者……大切な者だけでも……。

礼治は本気で心配してくれていた……沙紀は俺の中で見守ってくれていた。

なのに信じられなかった……それらは自分に都合の良い解釈でしかないのではないか、と。

だから――気付いている筈なのに気付けなかった――。

「――俺に纏わり付く罪……それは甘んじて受け入れるべきだろう……だが、まだ沈むワケにはいかない……俺には、俺を待ってくれてる奴らが――居るんだ!!!」

俺は引き上げられる――罪という名の沼から……。
引き上げてくれたのは………。

**********

「――目は覚めたかい?」

「ああ――済まないな、相棒」

俺が目を見開くと、そこには俺を引き上げてくれた仲間が――。

「僕に謝るより、二人に謝った方がいい」

「二人って……のわっ!!?」

俺は飛び掛かって来た二人を受け止める。
カレン……リビエラ……。
温かい……ちゃんと生きてる……。

「心配……しました……シオンさんが消えてしまうんじゃないかって……」

「大丈夫……カレン達のおかげで、還って来れたよ」

「……本当よ!本当に心配したんだから……」

「ゴメンな……リビエラ……泣かせるようなことになって……」

俺は二人を抱きしめる……二人の涙を隠す様に……。

「…コホン。感動のシーンを邪魔する様ですまないが……シオン、あの男は何者なんだ?目的は果たしたと言ったが……」

申し訳なさそうに咳ばらいをして、説明するポール……奴が退いた……?
それに目的だと……?

「いや、俺にもよく分からないんだ……奴から聞き出したのはルインという名前くらいで………そういえば、カーマイン達は?」

「ああ……ヴェンツェルさんがサンドラ様の研究室に訪ねて来たからそっちに行ってるよ」

っ…まさか……目的ってのは……あの野郎、ボスヒゲと繋がってやがったのか……!?

「シオンさん……?」

「皆、急いで戻るぞ!!ルイセが……危ないっ!!」

「ルイセちゃんが……一体何のこと?」

「話してる時間は無いんだ!!皆、俺の側に!!」
やられた――!!奴の目的は俺の足止めだったんだ―――!!
クソッタレ!!!
間に合ってくれ!!!

**********


ラルフたちを見送った後、俺たちは母さんの研究室に向かった。

「マスター!!」

「あら。ちょうど良かったわ」

「お母さん、お客さんって……」

研究室の一階で、母さんを見つけたティピが声を掛けると、奥から母さんがこちらにやってきた。
そんな母さんにルイセは客とは誰なのかを訪ねた……まぁ、予想はついてるんだがな。

「邪魔しているぞ」

「やっぱり、ヴェンツェルの爺さんだったか……」

「いらっしゃいませ」

同じく奥から出て来た爺さんに、ルイセは丁寧に頭を下げる。
むぅ……母さんの師匠だからな……俺も言葉遣いを改めた方が良いか?

「約束通りお前達の手を借りに来た。……む?シオンはどうした?」

「そういえば、シオンさんの姿が見えないみたいだけど……どうかしたの?」

爺さんと母さんが、シオンの姿が無いことを気にしている。

「先生はその……朝から行方が分からないの……」

「シオンさんが……!?」

「あ、いや、今はラルフたちが探してるから……大体の居場所は分かるみたいだし」

「そうですか……」

ルイセの説明に母さんが一瞬青くなるが、俺がフォローを入れておいたので、何とか安心してくれた……ヤレヤレ。

「……やむを得んな。出来るならシオンの力も借りたかったのだが……ルイセだけでも出来んということは無いだろう」

「はい。あの、何をすればいいのでしょう?」

ため息を吐く爺さんだが、ルイセだけでも出来ないことは無いらしい。
ルイセは何をすれば良いかを聞いている。

「御師様は、水晶鉱山に含まれる、グローシュ波動を調べているの」

「あの…水晶鉱山のグローシュは、使い終わった抜けがらみたいなものだって……」

「ほほぅ。そこまで知っているのか」

母さんの説明に異を唱えたルイセ……そのルイセの答えを聞き、爺さんは嬉しそうに言葉を漏らした。
ルイセの教養に感心したのだろうか?

「……そうか。マクスウェルの話を聞いたのだな?」

「えっと『まくすうぇる』って、誰だっけ?」

爺さんの問いに、頭に?マークを浮かべながら俺に聞いて来たティピ。
ため息を吐きつつ俺は答える。

「元魔法学院の学院長だ……」

「あ、そうだった、そうだった☆」

……大丈夫かティピ?

「やはりそうか。ならば話は早い。確かに魔水晶に含まれるグローシュは燃えカスの様なものだ。だが漠然と燃えカスと言っても、どのように成文が違うのかは分かっていない。そこでルイセのグローシュ波動との比較をしてみたいのだ……何分、グローシアンの知り合いが居ないからな……頼める相手がサンドラの娘であるお前くらいなのだよ」

爺さんいわく、本来はシオンにも協力してもらい、個人のグローシュ波動の比較もしたかったらしい……。

「わたしでよろしければ、お手伝いします」

「ではここに来てくれ」

爺さんはルイセを隣に呼び、懐から何かの機械と水晶玉の様な物を取り出す。

「波動の検出はすぐに終わる。これをかぶって、魔導をイメージするのだ。別に魔法を使う必要はない」

「はい」

ルイセはその機械の……輪っかになっている部分を頭にかぶった。

「では始める」

爺さんの合図と共に、機械が作動する。
ルイセの身体を魔力の光が包んで輝く……それに呼応するかの様に、爺さんの水晶玉も……そして、一瞬だけ一際光が強く輝いた。

爺さんはルイセの頭に着いた機械を取り外した……。
ルイセから魔力の光は消えたが、爺さんの水晶玉は強く輝いている。

「……ルイセ?」

ルイセは俺の声に反応せず――ふらついた後――。

――バタッ――

ゆっくりと前のめりに倒れた――――。

―――え……?
ルイセ……?

「ルイセっ!?」

「……クックックッ!ついに手に入れたぞ、純粋なグローシュをな!」

「!?御師様!?」

「さすが皆既日食のグローシアン。この装置の限界量まで抽出できるとはな。だが、これだけあれば我が真の力を取り戻すには十分」

「貴様、まさかルイセから!?」

母さんが……ウォレスが……爺さんに……ヴェンツェルに詰め寄る。

―――シュバッ!!

突然、部屋の中に複数の気配が現れる。
この気配は……――。

「ヴェンツェルッ!!!」

「シオンさん!?」

「遅かったな……ルイセのグローシュは戴いたぞ。残念だったな」

そこにシオン達がやってきた……多分、瞬転という奴で。

「もう、お前たちに用はない!さらばだ!」

奴はテレポートで逃げやがった……だが、今はそんなことはどうでも良い!!!

「ルイセッ!!?」

「ルイセちゃん!!?」

「ルイセ、しっかりしなさい!ルイセ!?」

俺とティピ……母さんはルイセに駆け寄った……どんなに揺すっても、声を掛けても……ルイセは目覚めない……何でだよ……何でルイセがっ!!?

「とにかく、ここじゃ何だ。家にでも戻ろう!」

「………っ!!……分かった――ルイセは俺が連れていく――」

ウォレスの提案を受け入れた俺たちは、家に戻る……ルイセは俺が抱え上げて連れていく……。
くそっ……何でだよっ!!?
何で……ルイセがこんな目に………!?

**********


……あれから一夜が明けて、俺達は居間に集まっていた。
昨日のことを話し合うために……。

「……ルイセちゃん、大丈夫かな……」

純粋にルイセを心配するティピ……。

「まさか、御師様がこんなことをするなんて……」

信頼していた師に裏切られ、愛する娘を傷つけられた……サンドラ。

「これじゃ、あの学院長と同じじゃねぇか!!」

普段は滅多に動じないウォレスが、激しい怒りを見せる。

「人を油断させておいて、これが狙いだったのかよ?クソッタレ!!」

ゼノスもまた同じく、怒りを現にしている。

「そうとは言い切れないが……」

「どうして?だってルイセちゃんは能力を奪われちゃったんだよ?」

ゼノスの意見に異を唱えたのは、ポールだった。
ティピはポールの真意を尋ねる。

「ゲヴェルが現れた頃は、まだルイセ君は生まれていなかった。その後はエリオット君が生まれ、すり替え事件の際に、ヴェンツェルはエリオット君を助けた。さらにその後、ルイセ君が生まれた……順番的には少しおかしい……そう言いたいんだろう?」

「その通りだ……それに、グローシュを奪うことが目的ならば、他のグローシアンから奪うことも出来ただろう」

アリオストはポールの言いたいことを引き継いで言い、ポールは更にそれを補則する。

「……彼がルイセからグローシュを奪ったのは、途中経過なのかも知れません……」

「それじゃあ、本当の目的って何なのかしら……?」

「それは、分かりませんが……」

サンドラとリビエラが言葉を交わす……。
俺は知っている……奴の真の目的を……。
だが……。

「そういえば、シオン……お前は何故姿を消したんだ?」

「ああ……実は……」

俺は詳しく説明する……早朝訓練の際、怪しい気配を感じ、そこに向かって出会ったフードの男……ルイン。

奴はヴェンツェルと繋がっており、俺の足止めを命じられていたらしいこと……そして、まんまと術中に嵌まったこと、ラルフ達に助けられたこと等を話した。

「そうだったのですか……」

「言い訳はしない……俺の油断が招いた事態だ……すまん」

そのせいで、ルイセを助けられなかった……周りへの被害なんか考えなければ……油断さえしなければ……クソッ……!!

「……今はこれからどうするか……っ!?」

カーマインが口を開き、話を進めようとした時……。

「ルイセ!」

「大丈夫なのか……?」

サンドラとカーマインが、ルイセの身を案じる。

「う〜ん……。わたし、どうしたの?……なんだか頭が重いよ……」

「寝てた方が良いんじゃねぇか?」

「……わたし、どうして寝てたの?」

体調が悪そうなルイセを、ウォレスが労うが……ルイセは何で寝ていたか分からない様子。

「ルイセちゃん……覚えて無いのかい?」

「えっ?何かあったっけ?」

「お前は、ヴェンツェルにグローシュを奪われたんだよ」

ラルフの問いにも首を傾げるルイセ……ウォレスが事情を説明してやるが……。

「ヴェン…ツェ……誰?」

「おい、本当に忘れちまったのかよ?」

再び首を傾げるルイセを見て、ゼノスは問うたが……やはり答えは芳しく無いようだ。

「あの……、同じようにグローシュを奪われたアイリーンさんは学院で治療をしていましたよね?」

「そうか。魔法学院に行けば、何かわかるかも知れねぇな」

「それじゃ、急いで出発しようよ!」

カレンの提案を受け入れた俺達は、一路魔法学院を目指す……。

「私も出来る限りのことは調べてみます。何か分かったら、すぐに戻ってくるのですよ」

サンドラは残り、城の文献を調べると言う……。



……俺は知っている。
ルイセが元に戻る方法を……だが、コレは俺から説明出来るモノじゃない……。

胸が軋む……分かっている。
いざとなれば、話さなければならない。
……ルインが居る以上、原作通りにルイセが復活するかも分からない……何らかの妨害をしてくるかも知れない。
ならば……ルイセを守る!!
分かっていながら、救えなかった仲間を……今度こそは……守ってみせる――!!





[7317] 第116話―襲撃、復活、覚醒―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2010/03/04 05:17

俺達はテレポートで魔法学院にやってきた。
マクスウェル元学院長……クソヒゲの魔の手から生還した数少ないグローシアンの内の一人……アイリーンの容態を確かめる為に。
……それが、ルイセを回復させる為の回答になると信じて。

「アイリーンさん、大丈夫かな?」

「そりゃ、行ってみなきゃわからんな」

ティピの問いに、ウォレスは至極当然な答えを返す。
そんな中、ルイセが辺りを見回して……首を傾げている。
そして……。

「……ここ、どこ?何するとこ?」

そんなことを口にした……。

「ここはルイセちゃんが通ってた魔法学院じゃない!まさか、ミーシャのことも覚えてないの?」

「ん?……誰それ?」

「ミーシャ君と君は、誰よりも仲の良い友人同士だったじゃないか……忘れてしまったのかい?」

ティピの問いに首を傾げるルイセ……そんなルイセにアリオストは説明をするが……。
ルイセは只、首を傾げるだけだ。

というか……ミーシャとの付き合いは俺らより長い筈なのに……。

「グローシュを奪われた後遺症か……?」

「……急いだ方が良さそうだな」

ウォレスとゼノスに促され……俺達は先に進む……と、この気配は……!

「……シオン、この気配は!?」

「ああ……分かってる。あの仮面の騎士だな……皆!」

ラルフも気付いたらしく、俺は頷いて肯定する。
そして皆に声を掛ける。

「……話は聞いていた。それに、殺気も感じるしな……」

「奴ら……何の目的でこんな所に……」

「それは分からんが…ろくでもない事を企んでることは確かだな」

カーマイン、ゼノス、ウォレスを筆頭に戦闘準備を整え、学院校舎への入口へと向かった……。

そこでは学生達と……ミーシャとイリスか!?

彼女らと仮面騎士達が対峙していた――。

「な、何だお前たちは!?」

「お前たちのしている研究は、我々に害を及ぼしそうなのでな……。この施設を破壊する」

「そ、そんなことさせるか!」

学院の生徒が、仮面騎士の暴言に怒りをあらわにするが……威圧感に呑まれているのか、身体が震えている。

「全員下がって魔法で援護を。前衛は私とミーシャが受け持ちます」

「お姉さま……無理はしないで!アイツら凄く強いんだよ!だから……」

「まがりなりにも前衛をこなせるのは、今この場で私と貴女だけ……なら、何とか押さえ込まないと一気になだれ込まれる。もっとも、私も最近訓練を始めたので、そんなに近接戦闘が得意では無いから、貴女に頼る形になってしまうけれども……」

「はぁ〜あ……こんなことならシオンさんに近接戦闘の秘訣を……ちゃんと教えて貰えば良かったなぁ……っと!!」

イリスが学生に指示を出しながら、レイピアを構える……って、イリスってレイピアが使えたのか?
対するミーシャは愚痴りながらも、巨大な鉄槌を構える……ミーシャにも一応基礎は教えはしたが……いかんせん魔法に傾倒していたからな……。

「大変だよ!あの仮面の男たち、学院を壊すつもりよ!」

「ここの学生じゃ、分が悪すぎる……俺たちで奴らを倒そう……!」

「了解だ!」

「よぉし!行くわよ!!」

皆は気合い十分……ティピの発破で更に気合いを入れた……ただし。

「……え…?」

ルイセを除いて……だが。

「何、ぼうっとしてんの!戦うのよ!!」

「戦う…?……何で?」

……やはり駄目か。
そもそも、魔法学院での記憶が無くなっている以上、何時魔法が使えなくなるか分からない……。
ルイセは戦力に数えられない……か。

「お、お前たちは!?」

「お前たちは許さねぇ!」

こちらに気付いた仮面騎士達……そこにウォレスが新たな投擲剣……『レイスラッシャー』を投げ付ける。

『レイスラッシャー』

光の刀身を生み出す魔法剣を組み合わせた投擲武器。
その光の刃は、鋼すら易々と断ち切るだけでなく、大幅な軽量化に繋がり、扱い易さも向上している。
刀身は青い半透明の光……それが大剣サイズで形成されている。
それが二つくっついた形状は、某自由の翼を持つガンダムのビームサーベル……あれをゴツくした感じ……と言えば分かりやすいだろう。

ウォレスがガムランと戦った時に壊された投擲武器『ブラッディクロス』の代わりに、俺が進呈した武器だ。

「ぐぉっ!?……うぅ…………」

仮面騎士は迫り来るそれを、剣で叩き落とそうとするが……自身の剣の方が耐え切れず、剣ごと切り裂かれる。
とは言え……致命傷を避けたのは流石だが。

「……ん?これは………そうか。あの女、グローシュが弱っているな」

「ヤバイよ!ルイセちゃんのこと、気付かれたみたい!」

仮面騎士はどうやら、自分達を縛る力が減ったことを感じたらしい……だから気付かれた。
だが……。

「慌てるなよティピ……グローシアンは此処にもいるんだぜ?」

「ちっ……貴様……」

そう……俺のグローシュ波動は、常時漏れ出す分だけでも街一つを覆う程に強大だ。
それこそ、カーマインやラルフ……リシャールの様に耐性があれば話は別だが……そんな耐性が一切無い仮面騎士では、ルイセのグローシュが弱まった所で、焼け石に水なのである。

「――シオン!」

「よ、イリス。通りすがった手前……助太刀させてもらうぜ?」

俺はイリスに向かって、ニカッ!とナイススマイルを送る。
イリスはそれを見て、ホッとした笑みを浮かべた……。

「みんな、どうしてここに?」

「話は後だ……今はコイツらを片付ける……!!」

ミーシャの質問に答えたのはカーマイン。
そのカーマインの言葉で、俺達は気を引き締め直す。

「く……無理に戦う必要はない。我々の役目は施設の破壊……そして施設にいる人間を皆殺しにすることだ!!」

「……どうやら推し通るつもりらしいな」

「けど……それをさせるつもりはない……そうだろ?」

「そういう……ことだ!!」

カーマインは仮面騎士が学院内に侵入しようとしていることを悟る。
だが、ラルフも俺も……いや、俺達が……そんなことはさせない!!

「先ずは……お前らの闇の波動を完全に断ち切る―――!!」

俺はグローシュ波動を強め、それを仮面騎士達に叩き付ける。

「……や、やめろぉ…………うぅ……」

完全にゲヴェルの波動を断ち切られた仮面騎士達は、弱体化した……。
まぁ原作を鑑みるに、ゲヴェルとのパスが途切れても即死する訳では無く、身体能力、スタミナ、回復能力なんかが常人並になるだけだと推測出来る……。

無論、そのまま放置すれば、いずれ衰弱して死んでしまうだろうことは容易に想像出来るのだが。

――その後、勝負は一方的に決まった。
元より向こうは四人……こっちの方が数でも質でも勝っていた。
その上、ゲヴェルの波動を断ち切ったのだから――文字通りフルボッコだ。

一人――また一人と溶けて消え去り――最後の一人は。

「はっ!!」

「ぐふっ――!!?」

カーマインによって討ち取られた――即死ではないにしろ致命傷だ。
この仮面騎士もまた、他の奴らと同じ運命を辿ることになる――。

「ゲヴェルってどこにいるの!?答えなさいよ!!」

「……そう簡単に言うと思うか?だが代わりに面白いことを教えてやる……。リシャールを見て分かっただろう……ゲヴェル様はある人物の細胞から、複製を作り出せる。我々もそうして、何十体と作り出された。……そしてそのうちの1体はバーンシュタインの商家に……もう1体はローランディアの要人の家に引き取られた……」

ティピの問いには答えず……血へどを吐きながらも、口元を歪めながら語る仮面騎士……。

それは一つの真実……今まで隠して来た、残酷な現実。
それは―――。

「それが――この顔だ!」

仮面騎士が震える手でその仮面を外す――。

「「「「っ!!!??」」」」

「…………」

それは――残酷な現実を叩き付けたその顔は――カーマインとラルフ……二人の顔だった。

「フハハハハハハハハッ!!!…………」

その仮面騎士は、俺達の反応を見て……嘲笑しながら……溶けて逝った……。
奴は気付いただろうか?
驚愕に染まる表情の中……俺とラルフ……そしてカーマインとポールに、驚愕とは違う感情が浮かんでいたことに……。

「そんなことって……」

「今の話が本当なら、彼らは……」

カレンとアリオスト……二人とも驚愕に表情を染めている。

「作られた存在か、それともエリオットの様に本人か……」

「どうも話がややこしくなってきやがったぜ……」

ウォレスとゼノスは冷静に考察するも、驚愕しているのは同じだろう。

「……やはり、ラルフが言った様に……俺たちは……」

「カーマイン……」

ラルフとカーマイン……二人は複雑そうな表情をしている。
全体的に空気が重いが、多分原作程じゃないんだろう……。
というのも、以前ラルフはボスヒゲに自分達のことを尋ねたそうだ。

その時はボスヒゲも本性を隠していたので、上手くはぐらかしたらしいが……。

故に、可能性としては皆の頭の中にあったのだろう……。
だからこそ、ショックは少なかった……それでも、ラルフの仮説を確定させるかの様な出来事なので、ショックはショックだろうが……。

「と、とにかく!今はルイセちゃんを治すことが先じゃない?ね?」

「わたしを治すの?……どっか壊れちゃったのかな?」

ティピはこの空気を払拭しようと、明るく声を上げるが、ルイセの反応を見てまた皆の空気が重くなる……。

「みんな〜!!」

そこにミーシャとイリスが合流する。

「皆さんのおかげで、助かりました……ですが、皆さんは何故此処に?」

「……実は」

俺はイリスの問いに答える……。
ルイセがグローシュを奪われたこと、そしてその解決策を求めて魔法学院に来たこと……そしてルイセの現状……。

「そんな……ルイセちゃん、アタシのこと忘れちゃったのぉ……?」

「……よく分からないけど、ゴメンね……?」

ミーシャは悲しそうに尋ねるが……そんな反応を見せるルイセに更に悲しそうに……というか泣き出してしまう。

「……まさか、マスターと同じことを考えている者が居たなんて……」

「……それで、此処で治療を受けてるグローシアン……アイリーンの容態がどうなったか知りたいんだ……」

「そうですか……アイリーンさんのことなら副学院長に聞くのが早いかと思います。マスター……学院長が残した資料を調べているのも、彼ですから」

イリスはそんなミーシャとルイセを痛ましい表情で見つめていたが、カーマインの問いに答え、副学院長に会ってみると良いのでは?
と、提案してくれた。

「本当なら私もアイリーンさんの容態が気になるので、付き添いたいのですが……ミーシャや、彼女達のことがありますので」

イリスの視線の先には、親友の現状に涙を流すミーシャと……仮面騎士の殺意を浴びて、恐怖に震える女生徒達がいた……中にはしゃがみ込んで泣いてしまっている者もいる。

ちなみに、男子生徒は仮面騎士に対して憤慨してるだけで怯えてはいない。
中々肝っ玉が座ってるな……。

「……分かった。じゃあ、後は任せた」

俺も女生徒達が恐慌状態にあるのは分かってたので、慰めた方が良いのだろうか……とか考えていたからな。

イリスとミーシャと別れた俺達は、七階の上級職員室フロアへ。

「あ、いらっしゃいませ。ブラッドレー副学院長なら、地下の研究室の方にいますが」

副学院長の秘書さんに聞いたら、副学院長は地下の研究室に居るらしい。
なので俺達は、再びエレベーターに乗り、地下の上級職員用研究室フロアへ……。

で……。

「失礼しま〜す」

「おお、どうしたんだ?」

軽い調子で挨拶をしたティピに、軽い調子で返す副学院長。
いや、確かこの研究室ってその特性上迂闊に入るのは危険じゃなかったっけか?
……周りの物に触れなければ良いのか?

「あの、アイリーンさんの具合はどうでしょうか?」

「あのグローシアンの女性かね?今、こうしてマクスウェル学長の残した資料を調べている最中なんだが……」

カレンの問いに答える形で、副学院長は自身が目を通していた資料を軽く掲げて見せる。

「どうやらグローシュを抜き出すことだけに終始していてね。戻す方法が書かれていないのだよ……念のため、イリス君にも聞いてみたのだが、学長は自身がグローシアンになるための研究には余念が無かった様だが、元に戻す類の研究はしなかったそうだ……」

「……クソッ!」

副学院長の説明を聞き、思わず悪態をついてしまうウォレス。
ウォレスに限らず、皆同じ様な気持ちだろうが……。

「代わりに面白い事も書いてあったがな。どうやら、グローシアンが生まれてきた時から持っている能力は、まだ不完全らしい。その真の力が覚醒すれば、その能力は今までの倍以上になることもあるそうだ」

不完全か……そういえばグローシュの意識的な行使。
ルイセに課した修練で、最後まで出来なかった事だな……。

「それで、その方法は?」

「そこまでは書かれていない。というか、伝承を書き留めてあるだけなんだよ。これが彼女を救う手段になるんじゃないかと、にらんでおるんだが……」

リビエラの問いに答えた副学院長。
だが、その答えは芳しい物では無かった。

「……伝承か。それじゃ、マユツバだな」

「そうとも言い切れんよ。根も葉も無いことなら伝承になったりしないものだ」

「記録に残っているということは、少なくとも元になった事例があったということだろう。伝承や神話の中には真実を曲解……あるいは拡大解釈した物も多く存在する」

副学院長の説明を、引き継ぐ形で俺が話す。

雷を例に挙げるが……昔の人は稲光を龍だと思ったり……他の例では津波を起こしているのは巨大な怪物だと思っていたり……つまり、何かしらの事象があって、それらを伝承や神話として伝えていたりすることは、大して珍しいことじゃない。

「うむ、君の言う通りだ。では、ここのところで気になるキーワードを読み上げてみようか」

副学院長が読み上げたキーワードは以下の通りである。

『グローシュとは誰しもが持っていたはずの能力』

『真のグローシュの発現の鍵は、グローシアンの発生の元となる現象』

『グローシアンは時空の歪みの祝福を受けている』

……以上の三つだ。
原作知識を持つ俺は、この三つの意味を理解している。

『グローシュとは誰しもが持っていたはずの能力』

これはズバリそのままで、この世界に訪れる前……つまりグローランサーⅢの世界では誰もが強力な魔法を使えた。
……中には例外も居たが。

『真のグローシュの発現の鍵は、グローシアンの発生の元となる現象』

これは最後のキーワード『グローシアンは時空の歪みの祝福を受けている』……と、ワンセットになるのだが……それが即ち答えとなる。

だが、これは下手に言えることでは無い……。

何故ならソレは感覚的な物だからだ。
本音を言えば、今すぐ真実を教えたい……だが、それをして……果たしてカーマイン達は感覚を掴めるのか……?
後に、ゼノスが説明を受けただけで感覚を掴んでいたのだから、杞憂だとは思うのだが……仮に杞憂だとして、何と言えば良い?

……ラルフに話を合わせてもらうか……最悪、真実を皆にも語るか……。

「たぶん、この中に答えを導くための事実が隠されていると思うのだが……まだまだ時間がかかりそうだよ」

「それじゃダメなんだよ!!」

「な、な、何だねいきなり!」

副学院長のぼやきに怒鳴り返したウォレス……副学院長は慌てている。

「実はルイセもグローシュを奪われちまった……」

「なんだと!?」

「だから、一刻の猶予もならねぇんだ!!」

「それにしてはちゃんとしてみえるが……」

副学院長の言う様に、ルイセはアイリーンと違って、普通にしてる様に見える。

「恐らくそれは、彼女が皆既日食のグローシアンだからだと思います」

そう、アリオストの言う様にルイセが皆既日食のグローシアンだから……というのも理由としては大きいだろう。
……後はクソヒゲの装置よりボスヒゲの装置の方が完成度が高い……という理由もあるだろうが……。

「……そうか。こっちも全力を尽くす。だが、いかんせん情報が足りなすぎるのだ。君たちも何かあったら、すぐに知らせてくれ」

「ああ。我々も手を拱いて見てるだけ……なんてことはしたくないからな」

副学院長の言葉に頷いたのはポール。
他の皆の気持ちを代弁したのだろう。

「そうだね、僕達は僕達で独自に……「あっ!ちょっと待って!!」……ティピちゃん?」

ラルフの言葉を遮ったのはティピ……どうやらサンドラから念話を受信したらしい。

『どうしたの、マスター!?………えぇっ!?うん、わかった!すぐ戻る!!』

「どうした?」

「王都があの仮面の連中に包囲されてるって!!」

「奴ら、一斉攻撃にでやがったか!」

カーマインがティピに尋ねると、返ってきた答えは緊迫感を伴う物だった。
ゼノスの言う様に一斉攻撃に出たのだろう……。
好機と判断したのか……或いは焦りなのか……いずれにせよ、俺の大切な者に手を出しやがったんだ……ただでは済まさねぇぞ。

「すまない。すぐに戻らなきゃならん。後のことは頼んだ」

「ああ。出来るだけのことはするつもりだ。君たちも気をつけてな」

俺達は副学院長に挨拶した後、研究室を後にしようとして……。

「待って!!」

「――宜しければ、私たちも連れていっては戴けないでしょうか?」

ミーシャとイリスが立ちはだかった――というのは些か語弊があるが。

「アタシ――ルイセちゃんがこんなことになっちゃって……少しでもルイセちゃんの助けになりたいの!!あの時、アタシを救ってくれたルイセちゃんに……少しでも恩返しをしたいの!!」

「私もミーシャと同じ気持ちです……あなた方には返しても返し切れない恩がある……足手まといにはならないつもりです。どうか――お願いします」

二人の言い分は分かった。さて――。

「どうするリーダー?」

俺はカーマインにお伺いをたてる。
あくまでこのパーティーのリーダーはカーマインだ。
俺が決定するわけにもいかないからね。
カーマインは少し考えた後……。

「……分かった。二人の力を貸してくれ」

「ありがとうカーマインお兄さま!!」

「全力を尽くします――」

こうして、イリスとミーシャの姉妹を仲間に加えた俺達は、至急テレポートで王都ローザリアへと飛んだのだった。
―――どうでも良いが超大所帯になったな。
10人越えたよ。
色々大変にならなきゃ良いが……。

***********

SideOut

王都ローザリア

「ぐはっ!?」

そこでは、一方的な展開が繰り広げられていた。
周辺には兵士の遺体が無惨にも打ち捨てられ、今また一人の兵士が仮面騎士に切り捨てられた。
もう一人の兵士もボロボロの状態だ。

その兵士はサンドラがヒーリングを施したため、なんとか立ち直ったが……。

「サンドラ様、援軍が到着しました!」

「逃げ遅れた市民の救助を優先させなさい!」

「はっ!第1小隊は敵の足止めを!第2小隊は市民の救助を優先せよ!!」

「「了解!!」」

サンドラの指示を受け、この部隊の大隊長らしき兵は、到着した援軍の小隊長にそれぞれ指示を出す。

「これ以上被害を出してはなりません!なんとしてもここで食い止めるのです!!」

「はっ!!」

(とは言え、このままでは……)

現在、こちらの東側に居る仮面騎士は3人……高々3人に十数人の兵がやられてしまっている。
また、西側にも仮面騎士が攻め込んで来ているらしいが……そちらはベルナード将軍が兵を率いて防戦に出ている。
どうやら向こうが本隊らしく、敵の数が多い上、仮面騎士の他にユングという小型のゲヴェルの様な異形までいるという。

「マスター!!」

「母さん!」

そんな絶望的な状況に現れた援軍は、サンドラからすれば非常に心強いことだろう。

「あなたたち、間に合ったのですね……!」

駆け付けたカーマイン達は、それぞれに武器を構える………と、そこでシオンが。

「……この気配は……どうやらコイツらだけでは無いらしいぞ?」

「ああ……どうやら交戦中みたいだね。どうする?」

シオンとラルフ……二人は西側の戦闘の気配を、気を読んで感知した。

また、カーマインやウォレスも感づいたらしく、話に加わって来る。

「此処は二手に分かれよう……。俺たちはこっちでコイツらを相手にする」

「シオンとラルフはそっちに向かってくれ……向こうの方が数が多そうだから、人数を多めに割くべきだな」

結果……。

東側……カーマイン、ウォレス、ゼノス、ルイセ、カレン。

西側……シオン、ラルフ、ポール、アリオスト、リビエラ、ミーシャ、イリス。

この様になった。

「じゃあ、此処は任せるぜ!」

「ああ、気をつけてな……」

こうしてシオン達は西側に向かって行った。

「クックックッ、よもや二手に分かれてくれるとは……しかも厄介なグローシアンの男が居なくなってくれたことは好都合!!更には報告通り、その娘のグローシュが弱っているというならば……今まで我が兄弟たちをいたぶってきた、礼をさせてもらおうか!!」

「ぬかしやがれっ!!テメェらなんざ、俺たちだけで十分だぜ!!」

仮面騎士は宣言する……グローシアンさえいなければ負けは無いと。
だがゼノスは言う……自分達だけでも勝てるのだと……。

「吠えたな……人間がぁっ!!」

「行くぞ!みんな!!」

こうして両者は激突する……余談だが、仮面騎士はシオンが居なくなれば、残るグローシアンは弱ったルイセだけ……恐れる程では無いと考えたが……彼らは知らない。
仮にルイセだけでも、多少の縛りは存在し、弱体化とまでは行かなくても、本調子は出せないということを……。

そして……例えシオンがこの場を離れようと、シオンのグローシュは常時垂れ流している分だけでも街を覆う程に強大なのだと……そして、ある程度は範囲を自在にコントロール出来、その気になればローザリアから国境までその範囲を伸ばせるのだということも……。

彼らがそれに気付いたのは――。

「ハアアァァァッ!!」

ザンッ!!!

「ガハァッ!?ば…馬鹿な……………」

カーマイン達と剣を交えた時だったという……。

「な、何故だ……身体が思う様に動かん……弱っていてもグローシアンということか……」

「よそ見してんじゃねぇ!!」

「おのれえぇぇ……!!?」

ふらついている仮面騎士にゼノスが切り掛かる……ゼノスの一撃を剣で防いだかに見えたが……。

「オラアアァァァァァ!!!」

「な、なに!?ぐあぁぁぁぁぁ………」

ゼノスは力で押し切り、剣ごと仮面騎士を切り裂いてしまった。

「残るは……お前だけだ」

「おのれぇ………っ!!!」

こちらは勝負あり……という感じであろう。
一方、西側に向かったシオン達は……。

***********

Sideシオン

俺達が戦場に到着すると……そこには無惨にも、打ち捨てられた何十人もの兵士達が……中にはユングに喰われている者も……。
それでも尚、ベルナード将軍率いる部隊が抗う……。
幾らかユングを倒してはいるが……それでも劣勢なことに変わりは無い。

「此処を突破されれば一気に王都になだれ込まれる!何が何でも死守するんだ!!」

「はっ!!」

「クックックッ、何人で来ようと無駄だとまだ分からないらしいな……ユングどもよ!!全て蹴散らし喰らうがよいっ!!」

『グギギッ!!』

ユング達は、再び兵士達に向かって行く……だが、これ以上やらせるかよ!!!

「爆ぜろ!!『バーストアロー』!!」

ドゴゴゴゴォン……と、連続した爆発音が響き、ユング達は爆発に晒され吹き飛ぶ……文字通り粉々に。

『バーストアロー』

俺のアレンジ魔法『マジックアロー体系』の内の一つで、『ファイアーアロー』の派生系。

この魔法は『ファイアーアロー』や『ファイアーボール』等と同じ火属性だが、『ファイアーアロー』が【燃やす】ことに特化しているのに対して、『バーストアロー』は【爆発】させることに特化させた魔法だ。

ドラクエ風に言うなら、メラとイオの中間の様な魔法だ……あの爆裂呪文と違い、あくまで火属性という点では同一なんだからな……。

「き、貴様は……」

「随分と好き勝手やってくれたみたいだな……覚悟は――出来てるんだろうな?」

俺達は兵士達の前に踊り出て、仮面騎士を睨み付けてやる……ついでに、グローシュ波動を叩き付けるのも忘れない。

「君たちは……」

「援軍だ。貴殿らを助けに来た」

ベルナード将軍の問いに答えたポール……愛用の双刃剣を構える。

「これは心強い援軍だ……よし!一気に敵を倒すぞ!!」

「「「「オオオオオオッ!!!」」」」


兵の士気も上がった所で……。

「俺とラルフとポールで突っ込む……リビエラ達は後方から魔法で援護……良いな?」

「分かったわ」

「まっかせて!!」

「ああ、任せてくれ!」

「了解しました」

リビエラ、ミーシャ、アリオスト、イリスが頷いてくれた……。

それを見た俺はリーヴェイグを……ラルフはレーヴァテインを構える。

「――行くぞっ!!」

俺達は敵の軍勢へと駆けて行く……。
先ずは俺が切り込む……!!

「せぇりゃああああぁぁぁぁ!!!」

『グギャアアアァァァァァ!!!??』

身体能力をラルフ本気モードを若干上回る位まで上げ、リーヴェイグを一閃――それだけでユングの群れは振るった剣閃から発する真空に切り裂かれ、まるでゴミの様にバラバラに吹き飛ばされる。

「でやあああぁぁぁぁ!!!」

『ゲギャアアァァ!!?』

ラルフも容赦無し、全力の剣閃……ラルフの感情に呼応しているのか、レーヴァテインも激しく燃え盛る……。

その炎を纏った剣閃に、ユングが数匹纏めて斬り飛ばされ……燃やし尽くされる。

「下郎どもめ……思い知るが良い!!ハアアァァァッ!!!」

『グギャッ!?』

ポールはその双刃剣を片手に、近付くユング達を全て切り捨てて行く。
その様はまるで嵐――近付く者は全て切り刻まれる。

「いくわよ!!『マジックガトリング』!!」

「いっけぇ!!『マジックフェアリー』!!」

「敵を貫け!『サンダー』!!」

「燃え尽きなさい。『ファイアーボール』」

リビエラの放った魔法の矢群が、ミーシャの放った魔法の妖精が、アリオストの放った雷の波動が、イリスの放った爆炎の焔が―――ユング達を蹂躙していく。

「我々も彼らに続けっ!!遅れを取るな!!」

「「「「オオオオオオッ!!!!!」」」」

勢いは止まらない――形勢は完全に逆転していた。
今までのお返しと言わんばかりに、今度はユング達が無惨な屍を晒すことになった――そして。

「残るはお前だけだ―――観念しろ……お前には慈悲は疎か、哀れみすら無い――」

「な……舐めるなぁ!!!」

仮面騎士が切り掛かってくるが……。

「なっ!?」

奴が来る前に俺は既に駆け抜け……奴の背後にいる。

「じゃあな」

カシュッ……と、鞘に愛剣を納めた……次の瞬間。

「……………」

ズブシャアアアァァァァァ!!!

奴はバラバラに細切れとなり……そしてそれらの血肉は全てドロドロに溶けて逝った……。

「終わった……か」

正直、容赦をするつもりは無かったが……それでも心境的にはキツい。
だが――。

「ありがとう……おかげで助かったよ」

「いえ……もう少し早く駆け付けられたら……もっと被害を抑えられたかも知れなかった……」

「いや、君たちが来てくれなければ、遅かれ早かれ突破されていただろう……感謝こそすれ、恨み言を言うつもりはない……ありがとう」

俺は間に合わなかった……兵士達の命を助けられなかったことを謝罪したが、ベルナード将軍は責めはしなかった。
兵士達もまた、同じ様に責めなかった……。

それどころか、皆はありがとうと言ってくれた……。

胸が痛かった……。
分かっていたのに防げなかった……。
いや、原作ではこの戦いは無かった……それでも予測はついただろう?

原作ではローザリアを襲撃した仮面騎士は三人……だが、サンドラは王都が【包囲されてる】とティピに知らせたのだから……仮面騎士三人のみということは有り得ない筈だ。

――言い訳はしない。

俺の自惚れが招いた事態だ……この罪もまた、背負う。
それが俺の―――誓いなんだから。

「こちらはもう大丈夫だ。君たちはサンドラ様の方の様子を見て来てくれないか?」

「そうね――大丈夫とは思うけど、気になるのは確かだしね?」

「――そうだな。よし、戻るか」

ベルナード将軍の言葉にリビエラも頷いて返す。
俺達はこの場をベルナード将軍達に任せ、東側に戻った。

が、そこにカーマイン達の姿は無く、事後処理をしていた兵士に尋ねると、カーマイン達はサンドラを連れて家に戻ったらしい。

「入れ違いになったか……」

「仕方ないさ……僕らも行こう」

ラルフに促され、一路フォルスマイヤー宅に向かう。
で、勝手知ったるなんとやら……家に入ってみると……。

「ルイセ疲れちゃった……もう寝るぅ〜」

ルイセが玄関に居た俺達の前を素通りし、階段を上って行った。
恐らく、自分の部屋に向かったのだろう。

「ルイセちゃん……さっきより……」

「ああ……」

学院に居た時は、言動が怪しかったが口調はしっかりしていた……だが今は口調が幼児退行していた……多分、口調だけでは無いのだろうが……。

「……とにかく、ここで呆けていても仕方ないだろう?」

「うん、そうだね」

ポールの言葉に頷くミーシャ。
俺達は皆と合流する。

「あ、シオンさん!そっちはどうだったの?」

「防衛していた部隊の被害は少なく無かったが、連中は全滅させてきたよ。そっちは?」

「みんなのおかげで、被害は最小限に抑えることが出来ました。市民に被害が出なかったことは幸いでした」

ティピの問いに答え、俺の問いにはサンドラが答えた。
何は無くとも、サンドラが無事だったことにホッとしている俺は、やはり罪深いのだろうか……?

………それはともかく、俺達は早速調べて来たことについて、サンドラに話す。

「手がかりになりそうなのが3つほどあって、え〜と……『グローシアンは時空の歪みの祝福を受けている』、『グローシュとは誰しもが持っていたはずの能力』、それから『真のグローシュの発現の鍵は……』何だったっけな?」

「『グローシアンの発生の元となる現象』……だろ?」

「そう、それだ!」

ウォレスが仕入れた情報について、ツラツラと並べ立てる……が、最後の部分をど忘れしたらしく、俺達に尋ねてくる。
その最後の一文はカーマインが答えた。

「……ちぇっ!」

「どうしたの、ティピちゃん?」

「せっかく覚えてたのに〜っ!出る幕なかったぁ!!」

「おいおい……」

舌打ちをしたティピを見て、ミーシャが事情を尋ねるが……その理由が……アリオスト苦笑してるし。
ティピ……本気で悔しそうだな……まぁ、ティピらしいか。

「『真のグローシュの発現の鍵は、グローシアンの発生の元となる現象』……何やら意味深ですね」

「でしょ?それで覚えてたんだけど……どういう意味、マスター?」

「『真のグローシュ』という言葉からするに、今までのグローシュは本当の力ではないということですね」

ティピは考察するサンドラに尋ねた。
サンドラはその問いに答える……真のグローシュね。

「ああ、副学院長もそう言っていたな。真の能力が発現すると、倍の力が出せることもあるとか」

「なるほど。しかし問題は『鍵は、グローシアンの発生の元となる現象』の方ですね。では、『発生の元となる現象』とは何だと思いますか?」

「恐らく、日食や月食のことじゃないか?」

ウォレスは副学院長から聞いたことを説明する。
サンドラはそれを聞き、1番重要なのは、『グローシアンの発生の元となる現象』の部分だと指摘し、皆に問うた。
『発生の元となる現象』とは何なのか……と。

答えはカーマインの言う様に、日食や月食であろう。
それが証拠に、サンドラも頷いている。

「その通りです。グローシアンは必ず、『日食』『月食』の間に生まれます。この稀な天体現象がグローシアンには必要なのです。……しかしそれは、今のルイセには関係ないことでしょう……問題はどうすればルイセが元に戻るのか……」

「そうよねぇ。ルイセちゃんったら、魔法学院のことや、ミーシャのことまで忘れてるんだもん」

大分、参ってるみたいだなサンドラ………仕方ない。
ティピの言葉で更に沈み込んでるし。

「関係無い……と考えるのは早計じゃないか?」

「シオンさん……何か考えが?」

「考え……という程じゃないが。ちょっとした仮設を立ててみた。聞いてくれないか?」

俺が待ったを掛けたことに、サンドラが疑問を問うて来た……その瞳は微かな希望に縋るような……。
俺は周囲を見渡す……皆が頷いてくれたので話すことにする。

「キーワードは三つ。最初は『グローシュとは誰しもが持っていたはずの能力』について……これは読んで字の如く、かつての……この世界に渡って来る前の世界での話だろう。この世界に渡って来る前は、誰でも強力な魔法が使えた……だよな?」

「はい。そう文献には記されていましたが……それがどんな関係が?」

「慌てるなって。これから説明する……正直、この部分はあまり重要じゃない。『グローシュとは誰しもが持っていたはずの能力』……つまり、かつての世界では誰しもがグローシアンだった……それだけ覚えてくれてたら良い」

俺は続ける……。

「二つ目のキーワード……『グローシアンは時空の歪みの祝福を受けている』……これは三つ目のキーワード『真のグローシュの発現の鍵は、グローシアンの発生の元となる現象』と繋がることなので、ワンセットで考える」

「何故、ワンセットで考えるのでしょう?」

「それは時空の歪みと、グローシアンの発生には密接な繋がりがあるからだよ……イリス」

「何だって?……どういう意味だい?」

俺の説明に疑問を提示したイリス……俺はそんなイリスに解答を示した。
アリオストはそんな俺に更に疑問を尋ねた。
なので、俺は説明する。

「まず『真のグローシュの発現の鍵は、グローシアンの発生の元となる現象』……についてだが、『グローシアンの発生の元となる現象』とは、さっきカーマインが言った通り、日食や月食のこと……グローシアンは月食、日食、皆既月食、皆既日食の順にその力が強くなる。これはもう知ってるよな?」

「ルイセちゃんやシオンさんは皆既日食のグローシアンなんですよね?」

俺はカレンの言葉に頷いた。

「けどよ、それが何の関係があるんだ?」

「それが関係あるんだよな……グローシアンがグローシュを扱えるのは、元の世界とのチャンネルを無意識に繋げ、元の世界のグローシュを使うことが出来るからだと言われている。ならば、どうしてグローシアンは元の世界とのチャンネルを繋げることが出来るのか?その答えは……時空の歪みにある」

「時空の歪み?」

ゼノスの疑問に答える形で俺は説明を続ける。
そして答えは時空の歪みにある……という俺の答えに首を傾げるカーマイン。
俺は更に続ける。

「グローシアンが生まれた年……つまり日食や月食があった日だが……その時は時空の歪みの値が、異常な数値を検出するらしい。サンドラはさっき天体現象と言ったが、日食や月食ってのは、時空の歪みにより元の世界の影が月や太陽と重なることで出来る現象のことだ。つまり『グローシアンは時空の歪みの祝福を受けている』というのはココからきていると推測出来る。『グローシアンの発生の元となる現象』……つまり日食や月食は即ち、時空の歪みと切っても切れない繋がりがある。まぁ、グローシアンが歪みを生み出すのか、歪みがグローシアンを生み出すのかは分からないがね?」

「あのぅ……それがどうしてルイセちゃんの回復に繋がるのか……というか、アタシにはチンプンカンプンで……」

「実は……アタシも……」

「俺もだ。ってか、もうちょっと分かりやすく説明してくれよ!」

俺は懇切丁寧に説明したつもりなんだが、ティピ、ミーシャ、ゼノスがギブアップした。
というか……そんなに難しいことじゃないんだが……。

「つまり、時空の歪みこそがルイセを元に戻す鍵になるんじゃないか?ということだ」

俺はかい摘まんでそう説明した。
そうすることで三人は漸く納得したようだ……。

「成る程……しかし、その理論だと日食や月食の度に、生まれてくる子供以外の者も皆グローシアンになることになってしまいますが……」

「そこを話すには、母体の神秘や元の世界との精神的繋がりまで話さなきゃならなくなるから、悪いが省かせてもらう」

サンドラの疑問を突っぱねる形で答える。
流石にそこまで話してたら夜が明けちまうよ!!

「つまり、グローシュを奪われ、記憶が無くなってきたルイセを元に戻す為には、もう一度ルイセをグローシアンにする過程が必要……その過程には時空の歪みが必要なのでは……と、考えてみたのさ」

「シオン君の言いたいことは分かった……けどそれは、人為的にグローシアンを生み出すことが出来る……ということにならないかい?」

「そうなるな……まぁ、その方法が分かれば苦労はしないんだがな?だが、全くの無駄と決めつけることは出来ないだろう?」

アリオストの言うように、それは人為的にグローシアンを生み出す方法。
――無論、俺はその方法を知ってるが、コレは感覚的な物だからな……教えようが無い。
コレばかりは流石に憶測とか言ってもごまかしは効かんだろうし……な。

「ちょっと気になってたんだが、どうしてグローシュが無くなると記憶まで無くなるんだ?アイリーンの時もそうだったんだが……」

「これも憶測だが、無理矢理グローシュを引き出されたための後遺症……だろうな。さっきも言ったが、グローシアンは元の世界とのチャンネルを開くことが出来る。その開いたチャンネルから、グローシュを行使する。その方法は無意識に記憶しているワケだが、その記憶自体を無理矢理いじくられ、グローシュを使わされた……その影響で他の記憶も壊れ始めているんだろうな……」

俺はウォレスの問いに答える……。

「それじゃ……」

「記憶を壊されるということは、今までのことを忘れるだけでなく、知識を蓄え、新しい記憶をすることさえ出来なくなるということです……」

「そんな…そんなのって……」

ティピの質問には、俺の後を接ぐ様にサンドラが答える。

「思ったより深刻だな……」

……結局、その日は俺達も休むことになった。
……その日の夜。

俺はカーマインの部屋に向かった……まぁ、様子を見に行ったワケだ。
心配だったのと、真実を告げないことへの罪悪感が入り交じった妙な感覚を伴いながら。

コンコン!

俺は扉をノックする。

「……ああ、開いてるよ」

「お邪魔しますっと……悪いな夜分遅く。少し話があってな」

「話……?」

俺は扉を開け、部屋の中に入ってカーマインと対峙する。

「まぁ、ぶっちゃけ心配で様子を見に来たんだが……無理してるんじゃねぇかと思ってな」

「そんなことは………ない……」

「隠すなよ。それくらい俺でも分かる。無理も無いんだろうがな……俺には妹は居ないが、大切な奴が同じ様なことになったら……俺も平然としてはいられないからな」

そういう経験は……俺にもあるからな。

「だが、これからゲヴェルと戦り合おうって時だ。酷かも知れないが、リーダーであるお前がしっかりしなきゃ、俺達の士気にも関わる」

「……お前やウォレスが居るだろう……ゼノスだって……」

「……俺達に出来るのはあくまでもサポートだ。確かに経験や知識では、俺らの方が勝ってるだろうさ……だが、お前には人を引き付ける何かがある……だから、皆はお前をリーダーとして頼っているんだぞ?」

人はそれをカリスマと言う……穿った言い方をすれば主人公補整。

「……それに、ルイセが元に戻った時にそんな顔を見せるつもりか?」

「……っ!?」

「ルイセは死んじゃいない……まだ生きてるんだ。なら、まだまだ希望はあるんじゃないのか?」

「シオン……」

「……なんて、ちっと説教臭かったかな?俺もそろそろ寝るわ。お休み」

俺はカーマインの部屋から退出し、自身に宛がわれた部屋へと戻って行った。

と、部屋の前に人が立っていた……それは……。

「ラルフ……」

「シオン、少し話があるんだけど……良いかな?」

「ああ……まぁ、立ち話も何だろ?入れよ」

俺はラルフを部屋に招き入れ、話を聞くことにする。

「で、話って?」

「単刀直入に聞くけど……シオンはルイセちゃんを治す方法を知ってるんだろう?」

その話か……何と無く予想はしていたが。

「まぁ、知ってると言われれば知ってる……だが、コレは感覚的なことでな……教えたからって出来るかどうかは別問題なんだ。それに、コレは色々な面で核心に迫るモノだから、迂闊には教えられないのさ」

コレを話せばもうごまかしは効かなくなる。
カーマインとラルフの素性、俺の素性……転生……全てを皆に話さなければならなくなる……。

「ただ、鍵になるのはカーマインとラルフ……お前らだってことだ」

「僕らが……鍵?」

本当はゼノスやポールもそうなんだが……そこまで言う必要は無いだろう……少なくとも今は。

「悪いがコレ以上は言えない……先のことが分からない以上、安易に期待させることは出来ないからな……」

「……分かった。これ以上は聞かない。必要になったら話してくれるんだろう?」

あくまで原作知識は指針でしかない。
それは今回のことで痛感した。
だから、結果が定まっていない以上、安易にこうなる……とは言えないんだ。

「ああ」

「了解。それじゃ、僕も部屋に戻るよ……お休み」

「ああ、お休み」

こうしてラルフは自分に宛がわれた部屋に戻って行った。
俺も今度こそ寝ようと思い、ベッドに入って就寝したのだった。

**********

翌朝。

「みんな、おはよう」

「……よぉ、起きたか」

皆が集まるリビングに、カーマインとティピがやってくる。
いつもの如く1番遅い起床……。
やはりカーマインって低血圧なんじゃないか?

「みんな揃いましたね」

サンドラは周囲を確認してから頷いて言う。
……ルイセを頭数に入れてないのは、仕方ないことだと言えよう。

「私も夕べはグローシアンについての学術書を調べたのですが、あなた達が言っていた以上のことは分かりませんでした」

「これからどうすればいいのでしょうか……?」

サンドラの説明を聞き、困惑した表情でそう零すカレン。

「それを考えなきゃならねぇんだがな……」

「難しいな……」

ウォレスとポールが、頭を悩ませている時にトントントン……と、階段を降りる音が聞こえて来た。
気を探るまでもなく、ルイセだろう。

「お母さん、お兄ちゃん、おはよ…………あ、いらっしゃいませ」

「どうしたんだ、よそよそしいな」

案の定ルイセがやって来たが……何やら様子がおかしい。
ウォレスはその様子に疑問を浮かべるが……。

「……おじちゃんたち、誰?お母さんのお客さん?」

「……ん?」

「おいおい……こいつは……」

「俺らのことも忘れられたみたいだな……」

ルイセのその言葉に眉を歪めるウォレス、驚愕に目を見開くゼノス……そして、罪悪感に苛まれる俺……。

「本当に僕達のことも忘れてしまったのかい……?」

「??あれ、お兄ちゃんが二人いる……?増えちゃったのかな……?」

ラルフを見てもこんな反応を見せる始末……。

「ちょっと!みんなのこと忘れちゃったの!?ウォレスさん、ゼノス、シオンさん、ラルフさん……みんな一緒に戦った仲間じゃない!?」

「……なぁに、このちっちゃいの……?」

「へっ!?アタシのことも忘れちゃったの!?」

ティピはショックを隠し切れない様だ……いずれこうなることは知ってたが、いざ対面するとショックはデカいな……。

「おもしろ〜い♪虫みたい☆」

「む…むしぃ〜っ?何てこと言うのよ、アンタは!!う〜、もうっ!!ティピちゃーん、キーーックッ!!」

ドゲシッ!!!

ティピの怒りの矛先が向いたのは……。

「な、なんでアタシがぁ〜………」

……ミーシャだった。

「だって……」

ティピとしては怒りのはけ口を探していたんだろう。
だが、幾ら張本人とは言え、ルイセを蹴るワケにもいかない。
ルイセに悪気が無いのは分かってたし、今のルイセにそんなことは出来ないからだ。
もし、何時ものルイセにあんなこと言われたなら……ティピも躊躇しなかったのかも知れないが。

そんな様子を見て、サンドラは一瞬悲しそうな顔をしたが……再び表情を戻し、ルイセに優しく言った。

「ルイセ。ちょっとマジックアローの魔法を使ってみなさい」

「マジックアロー?お家の中で使ったら、お部屋壊れちゃうよ?」

「いいからやってみなさい……」

サンドラの言葉に、舌っ足らずな口調で返すルイセ。
そんなルイセに優しく促すサンドラ……ルイセは素直に頷いた。

「はぁい」

そして魔法を行使しようとするが……。

「………?………アレ?……ん〜……えいっ!……ん〜…えいっえいっ!!えいっえいっえ〜いっ!!!」

ルイセはことごとく空回り……手を翳して見ても、ポスンッ……という情けない音と共に小さな白煙が立ち上るのみ……。

「………出来ない。出来ないよ、お母さん……!」

「やっぱり……」

「せっかく…せっかく覚えたのにぃ………う……うぅ……うえぇぇ〜〜んっ!!」

ルイセは涙目になり、やがて泣き出してしまった……。
サンドラは確信があったらしく、悲しそうな表情をしている。

「どういうことなんだ……母さん」

「魔法の使い方も学習の積み重ねです。記憶を失っていると言うことは、その分の魔法が失われていることと同じです……まさか初歩の魔法まで使えないほどになっているとは……このままではいずれ……」

カーマインの質問に答えるサンドラ。
要するに、魔法を覚えたという『記憶』が消されていってるから、魔法を使えなくなったってことか……。

「一夜明けてこれだと、すぐにでも……どうだろう?保養所あたりで療養させた方がいいんじゃねぇのか」

「しかし……」

「仕方ねぇだろ、このままじゃ?」

ウォレスの提案にカーマインは渋る。
だが、ウォレスの言う様にこのままにしておけないのも……事実だ。

「やむを得ませんね……グローシュを戻す方法が見つかるまで、保養所に預けましょう」

「……う…ぐすっ」

ぐずるルイセにサンドラは近づいて、目線を合わせて頭を撫でる。

「ルイセ。お兄ちゃんとお出かけしなさい」

「お出かけ……?うん!」

それだけでルイセはご機嫌モードだ。
今のルイセは幼児退行しているみたいなモノだ……そんなルイセがカーマインとお出かけってだけで機嫌が直った。
昔からカーマインが好きだったんだな。

「私の方でも、いろいろ方法を調べてみます………ルイセのことを頼みます」

「―――分かった。必ず……」

懇願するサンドラに、俺は力強く頷いてみせた。

さて、幸いと言って良いのか分からないが、原作とは違い、俺がいることで歩いていくことも、ゲヴェルの念波にカーマインが操られる心配も無くなった。

なので俺達は直ぐさまテレポートを使ってラシェルへ向かい、その足で保養所へ向かう。

「待っていましたよ。お城から連絡がありまして、入院の用意は出来ています。ルイセさんを、こちらへ」

「ほら、ルイセ……」

カーマインはルイセを促すが……ルイセは。

「いや!ルイセ、何処も悪くないもん!」

「我が儘言うなって……」

プリプリ怒るルイセを見る瞳は、何処までも優しくて……。

「なぁ……兄ちゃんも側に居てやるから……な?」

そう言いながらカーマインはルイセの頭を撫でてやる……するとルイセは嬉しそうに笑顔を見せる。

「うん♪お兄ちゃんが一緒なら行く!」

こうして、ルイセとカーマインは看護婦さんに連れられて、部屋に向かった。

「さて、どうするか?」

「此処で突っ立っていても邪魔だろう……場所を変えて話さないか?」

「そうだね……何気に人数多いし」

ウォレスとミーシャの言う通り、こんなところで突っ立っていても邪魔になるので、俺達は資料室を貸して貰った。
思ったより広かったので、10人弱が入っても邪魔にはならない。

「さて、これからだが……」

「シオンの言っていたグローシアンや時空の歪みについて……調べてみても良いのではないでしょうか?」

「けど、その類の資料はサンドラ様や副学院長が調べてくれているから、僕達は他の切り口から責めないと駄目じゃないかな?」

ウォレス、イリス、ラルフがそれぞれ意見を出し合っていると、カーマインとティピが戻って来た。

「戻ったか、ルイセは?」

「寝かしつけてきた……お昼寝だって言ったら、直ぐに眠ってくれたよ」

「そうか」

カーマインが説明する。
ルイセは最初駄々をこねていたらしいが、最後には納得してくれたらしい……。

「で、改めて聞くが……何処から調べるよ?」

「だよなぁ……ラルフが言ってた通り、学院長の残した資料は副学院長が調べてるだろうし、城にある資料はサンドラ様が調べてくれる」

「実際、どこから調べれば良いのか……」

皆がそれぞれ頭を悩ませている時に……俺は感じた。

この気配は……!?

「ラルフ……」

「ああ……凄く強い気だ……」

気付いたのは俺達だけじゃなく……。

「なんだ……この殺気は!?」

「この殺気……まさか!?」

「………この感覚は……!?」

「まさか……奴が自ら……!?」

ゼノス、ウォレス、カーマイン、ポールも気付いた。
俺達は気配のする場所……保養所の本院に向かう。

到着するとそこには……鈍い輝きを放つ巨体を持った銀の異形が、老人に詰め寄っていた。

「……ここか…ここにいるんだな…?」

その者の名は―――ゲヴェル。

「あ…あれって…やっぱり……」

「……間違いない」

「僕達の夢に出て来た異形……」

「……ああ。19年ぶりにやっと会えたぜ!!」

ティピの問いにカーマイン、ラルフ、ウォレスが答える。
特にウォレスは怨敵を見つけたのだから、気合いの入りが違う。

「あの娘はどこだ?言わぬと……」

老人は隙を突き、ゲヴェルの脇を抜けて外に逃げ出した。

「ん?……こっちか!」

ゲヴェルは何かを感知したのかズンズン歩いていく……向こうはルイセの病室か。

「大変!ルイセちゃんが!?」

「絶対にさせるかよ!」

「ああ……これ以上、奪わせるものかよ!!」

俺達は武器を構え、ゲヴェルに向かって行く。

「うおぉぉぉぉっ!!!」

カーマインが裂帛の気合いと共に妖魔刀を振り下ろす……それをゲヴェルは右腕を盾に防ぐ。
僅かな傷が出来るが、断ち切るには到らない。

「お前は創造主に逆らうというのか?――出来損ないがっ!!」

「ぐあっ!!」

そう言ってカーマインを弾き飛ばす――しかしすかさずラルフが切り掛かる。

ギイイィィィィン!!!

互いにぶつかり合う――その一閃はカーマインのそれより遥かに深い傷を与えた。

「ぐっ……貴様もか……!!」

「真実がどうあれ……ルイセちゃんをやらせるワケにはいかない!!」

その隙に、殺到するメンバー。

「ルイセちゃんには、指一本触れさせません!!」

カレンが風の魔法瓶を投げ付け……。

「絶対に許さないんだからね!!」

ミーシャがビッグハンマーで叩き付け……。

「積年の想い……ようやく果たす時が来たぜ!!」

ウォレスがレイスラッシャーを投げ付け……。

「これ以上、お前の思い通りにはさせねぇぞ!」

ゼノスがベルセルクの剛剣を振るい……。

「好きにやらせるものか!!」

アリオストが魔法爆薬……ニトレイトを投げ付け……。

「その因縁共々……此処で断ち切る!!」

ポールが双刃剣で切り刻み……。

「アンタの思い通りになんて……させるもんですか!!」

「ここから先には行かせはしない――!!」

リビエラはマジックフェアリーを、イリスはマジックアローを放つ。

正直フルボッコである――だが。

「ぐ……おのれ……邪魔をするなああぁあぁぁ!!!」

ゲヴェルはその剛腕を振り回す。
それだけで周囲の皆を吹き飛ばす。

もっとも、ラルフはかわしてもう一撃入れてたが。

「ワザワザ大将自ら出向くとは……そんなに余裕が無いのか?」

「フン……ただでさえ厄介なグローシアンの片割れを、確実に始末しようと思ったまでよ」

ゲヴェルは俺の問いにはそう答えた。
ちなみに、ラルフも俺も意図的に手を抜いている……ラルフは周囲の被害を気にしているため、俺はソレ+これから起こることの為……【ガチャッ!】……どうやら始まるみたいだな。

「あっ、出て来ちゃダメ!」

「うをっ!?これは……」

病室から出て来たのはガタイの良い老人……。

「うをおおぉぉぉっ!!」

「…まさか、お前は……」

それはウォレスの探し人にして、カーマイン達のオリジナル……。

「……はっはっはっはっ。久しぶりだな」

そして、カレンとゼノスの父親……。

「やはりお前か……」

「思い出したぞ。今すべてをな……」

「まさか……隊長!?」

かつての英雄であり、過去を駆け抜けた男……ベルガーその人だった。
って、俺は大分前から気付いてたが……不可抗力とは言え、原作通りにルイセのグローシュが奪われちまった……。
俺というグローシアンがいるなかでゲヴェル自身がルイセの抹殺に動くかは賭けだったが……。

「おお、ウォレスか。何をしている!今はコイツを倒すことだけを考えろ!!」

「やっぱり、ベルガー隊長……」

「!?……親父…なのか!?」

ベルガーさんは、ウォレスを叱咤激励する。
その様を見て確信したのだろう……あの老人が、かつての傭兵団団長なのだと……。
そして、その名を聞き……ゼノスは目を見開いた。
既に顔もうろ覚えであろうが、名前は覚えていた様だ。

「ゼノスか?」

「この人がお父さん?」

「カレンなのか?」

それはカレンも同じなのだろう……だが。

「感動の再会中申し訳ないが……まずはコイツを倒してからだ!!」

これで、憂いの一つは消えたんだからな!!
まぁ、まだ倒せないワケが個人的にあるんだがな……。
今、コイツを此処で倒せばカーマイン達の死まで前倒しになっちまう……悪あがきはまだ途中ってね!

「ぬおおぉぉぉ!!」

ベルガーさんはゲヴェルへと駆け、抜刀―――その腕を切り落とした。
その腕はラルフやカーマインが散々切り付けた腕――無論、ラルフも全力を、俺はラルフ並に力を出せばそれくらいは出来るが――今のは単純な力では無い。
パワー……戦闘力と言う意味では既にベルガーさんよりラルフの方が上回っている。

「ぬうぅぅ――これが20年近くも剣を握ったことのない男の力か……?」

言うなれば『技』……相手の傷口の中で1番深い部分を瞬時に見抜く『洞察眼』……そしてそこに抜刀を放つ『技術』……まさに達人の中でも上位に位置する者の『熟練した技』…………俺は既に更に上の域にいるが……それは俺が特異体質だからに過ぎん。

……改めて羨ましい。
俺も自分の力だけで強くなりたかったなぁ……まぁ、今更か。

「くくく……さすが我が私兵たちの元となっただけのことはある」

「……何!?」

「人の身でありながら我と対等に闘えた貴様の力が惜しくてな。その肉片を使わせてもらったわ!!いわばお前の分身が、我が手足となって世界を混乱させていたのだ!!」

「貴様という奴は……!!」

ゲヴェルの衝撃の告白に、ベルガーさんは怒り浸透だ……。
その衝撃はパーティー全体にも響き渡った。
まあ、事前に知っていた俺や、俺からある程度の話を聞いていたラルフ、薄々感づいていたカーマインなどは、衝撃も薄いみたいだが。

「よぉ?」

「ゴアアアァァァァァァ!!?」

ドゴォォォォォン………。

俺はゲヴェルの前に一瞬で移動……ゲヴェルを殴り付けた。
奴は吹っ飛び、ロビー入口付近の壁にめり込んだ。

「ガハッ!?き、貴様……」

「気付いてるか?僅かだが、お前の言う世界を混乱させている筈の者達が、世界を照らす光になっていることに……」

「く……貴様さえ……貴様さえ居なければ……っ!!?」

「……まぁ、俺の目の黒い内は、テメェの好きにはさせんさ」

「…ぐうぅ……覚えていろ!?」

ズゴオォォォン!!!
奴は何を思ったのか、床に向かい極太光線を吐き出した。
そして、そのまま床に出来た巨大な穴の中に消えて行った……って、お前は何処の獣王だよ!!?

「……逃げられちゃった……」

「流石に地中じゃあ、瞬転で追い掛けるわけにもいかんな……」

最悪、生き埋めになる可能性があるしな。

ふぅ……やはり、此処でトドメを……いや、カーマイン達の件があるからな……。
例の物の完成もしてないし、一気に死期を早めるのは得策じゃない。
だから……今は見逃してやる……。

「すまんな、ゼノス……お前には迷惑をかけた」

「事情は大体分かったよ……まさか記憶を無くしていたなんて、思わなかったけどな」

ゼノスは父親を一発ぶん殴る為に傭兵となり、ベルガーさんを探していた。
だが、事情を知ってなおぶん殴る程、ゼノスはガキじゃない……ということだろう。

「……ベルガー隊長……」

「しばらく見ない間に老けたな」

「それはお互い様でしょう。あれから20年近く経ってるんですよ?」

「……ふっ、そうだったな。部隊はどうなってる?」

「ウェーバーが面倒を見てくれています。今はランザックの正規軍として頑張ってるようです」

「そうか……」

ウォレスはベルガーさんとかつての頃に想いを馳せる。
ベルガーさんも、自分の傭兵団の皆が頑張っていると聞いて、ホッとしている様だ。

「お父さん……」

「あいつに似て、きれいになったな。すまない、カレン……お前が物心つく前に……」

「良いの……お父さんが無事で、こうして会えたんだもの……」

カレンは父親のことはほとんど覚えていない……それでも、ベルガーさんと会えて良かったと言っている。
良かったな……カレン。

その後、ベルガーさんはカレンに連れていかれた。
怪我らしい怪我はしていないが、急に身体を動かしたのだから、筋肉痛にでもなってるんじゃないかと……。

「……まだそこまで年じゃないぞカレン」

とは言うものの、娘に涙目で睨まれたら従うしか無かったらしく、大人しく着いて行ったみたいだが。

「ふぅっ……とりあえず、ルイセちゃんも無事だったし一安心だね」

「そうだね……ゲヴェルには逃げられちゃったケド」

ティピの言葉にミーシャも頷く。

「まぁ、ゲヴェルに関しては心配無い……奴の気配は覚えたからな。どこまでも追い詰めてやるさ」

俺はそう宣言する……。
実際、俺は卑怯臭い策を考えてはいる。
こんな感じだ。

奴、アジトに帰還→奴、ダンジョンを作製→奴、ダンジョンの奥で高みの見物→俺ら瞬転で奇襲→奴、デデーン。

まぁ、確か奴のダンジョンはテレポート関連の魔力を遮断する能力があった筈だから……そう上手くはいかないだろうが……。

「しかし、驚いたぜ。まさかこんな所に隊長がいたとは……俺の目がもっと早く見えるようになってりゃ、すぐに気付けたかも知れねぇが……それに、お前たちが隊長から作られ……」

「お、おい!?」

「……不用意だぜ、ウォレス?」

ウォレスはベルガーさんが、こんなに近くに居たことに気付けなかったことを悔いた……悔いるのは良いが、不用意な発言をしそうになったので、ゼノスと俺で諌めたが。

「…ああ、すまない。お前たちの気持ちも考えず」

「……気にするな。俺も気にしてないから――何となく、そうじゃないかと思ってたからな……」

「カーマインの言う通りです。元が何であれ、カーマインはカーマイン、僕は僕ですから……だから、気にしないで下さい」

ウォレスは謝罪するが、カーマインとラルフは気にしてないと言う。
その様子を見て、ウォレスは本当に申し訳なさそうに謝った。

「本当にすまなかった……」

「ねぇ、ねぇ!ルイセちゃんのところに行こうよ?ね?」

暗くなりかけた空気を、ティピが明るくしてくれた。

「行ってこいよ、俺達はロビーで待ってるから」

「分かった……」

俺がそう告げると、カーマインとティピはルイセの病室に向かって行った……さて、後は運を天に任せて、か。

「……どうでもいいんだが、この穴の修理代は誰が持つのだろうな?」

「「「「「……………………」」」」」

「あ……いや、場を和ませるつもりで言ったんだが……すまない」

ポールがそんなことを言ったので、皆が考え込んでしまった。
その様子を見て、ポールは小さくなってしまった。
「慣れないことは……するものでは無いな……」
とか呟いているのが聞こえたが。

しかし実際、原作でも思ったが……誰が修理代出したんだろうな?
まさかゲヴェルに請求するワケにもイカンしな……。
順当に考えれば国……ここはローランディア国内だからローランディア……なんだろうが。

まさか……俺らのポケットマネーから捻出……とかの落ちじゃないよな?
まぁ、払えなくは無いが……。


「……ここで良いのか?」

「はい」

そんなどうでもいいことを考えていた俺達の耳に、聞いたことのある声が響いた。

「あ、いました。あそこです」

「あなた方は……」

やってきたのはフェザリアンの女王ステラと、その側近の者。
アリオストがびっくりしてるぞ?

「彼女はどうした?」

「彼女?」

「あのグローシアンの娘はどうした?」

いきなり彼女と言われてオウム返しに尋ねたイリスは悪くないと思う。
女王……言葉が足りてないです。
まぁ、俺らの中でグローシアンの娘となるとルイセだが……。

「ルイセなら、奥の部屋で寝ている」

「グローシュは無事であるか?部下の情報によれば、その者からグローシュが消えたということだが」

「残念ながらその通りだ。ルイセはヴェンツェルの野郎にグローシュを奪われた」

「……やはり、間に合わなかったか」

「それがどうしたのよ!!」

「落ち着けよミーシャ」

ウォレスの説明を受けて、ステラ女王は落胆する……その態度が気に入らなくてミーシャが噛み付くが、俺が抑える。
というのも、落胆のベクトルが原作の『なんてことをしてくれたんだ』的な物ではなく、純粋に心配してくれる物だったからだ。

「そなたに言われ、我々も文献を調べた……そこで分かった事実を、そなたらに伝えようと使者を出そうとしたおり、部下の報告を受け、わらわ自ら赴いたのだ」

「そうですか……」

「ねぇ、あなた達の力で、ルイセちゃんを治すことは出来ないの?」

女王は事の顛末を説明する……そんな中、割り込んで来たのがリビエラだ。
リビエラは尋ねる。
フェザリアンの力でルイセを治せないのかと……。

女王はゆっくり首を横に振った。

「残念だが、我々にもそれは出来ぬ……グローシアンの発生は自然の力。それを取り戻すことが出来るなら、人為的にグローシアンを作れることを意味しておる」

「そんな……」

女王の説明を聞き、ミーシャはショックを受けている……フェザリアンでも駄目なのかと。

「それで、文献を調べて分かったことってのは?」

「ゲヴェルのことだ」

ゼノスの問いに答える女王……そうか、遂に話す気になったのか。

「ゲヴェルのこと……ですか?」

「うむ、もっともそれは……その方も知っていたことの様だがな」

「シオンが――?」

アリオストの疑問に答える女王……しかしそこで俺に振るなよ。
ほれ、カーマインとかが疑念の視線を向けてくる……。

「ゲヴェルはグローシアンが作ったモノ……だが、元々はフェザリアンが造ったモノなんだよ」

「えぇーーーーっ!!?」

「……そういえば、遺跡に潜ってた頃、何かシオンが驚いてた時があったけど……もしかして……」

「まぁ……そういうことだ」

女王に促される形で話した真実……皆には衝撃が強い様だ。
ミーシャなんかめがっさ叫んでる。

で、ラルフの言ってることだが、別に俺に合わせてるワケではなく、本当に遺跡に入った時に仕入れた情報だったりする。
――原作知識として知ってただけに二重の驚きだったりしたっけなぁ……。

「そこから先はわらわが説明しよう。――はるか昔、まだ我々が地上で生活をしていた頃。この世界を支配しようとするグローシアンと、戦いになったことがあった。そこで体力的に劣る我々は技術力を使い、我々の代わりにグローシアンと戦うための生物兵器を造った。それがゲヴェルの始まりなのだ。しかしそのゲヴェルはすぐに捕らえられ、逆にグローシアンの兵器として改造されてしまったのだ」

「だからグローシアンが弱点なのか」

「前にグローシアン遺跡で見た日記にも、そんなことが書かれていたな」

女王の説明は、正にグローシアンの業の始まりであり、フェザリアンが唯一残した汚点でもある出来事。
ゼノスも納得している……ってか、物覚えが良いなウォレス。

「さらに、我々が造った浮遊装置まで、奪われたことがあった」

「浮遊装置……もしかして、グローシアンの伝承に出てくる『グローシアンの浮遊城』とは……」

「我々の浮遊装置を転用した物であろうな」

あぁ……時空制御塔な……ってか、真っ先に食いついたな……アリオスト。

「けど、それならフェザリアンはどうしたの?唯一の武器のゲヴェルを奪われたんでしょう?」

「無論、我々も手を拱いているワケでは無かった……記録には、対ゲヴェル用の生物兵器を造ったことも記されていた」

「対ゲヴェル用の生物兵器……?それは今も存在するのですか?」

「いや――記録によるとこの対ゲヴェル用生物兵器もまた、グローシアンに奪われてしまったらしい」

リビエラの質問に答える女王……対ゲヴェル用生物兵器……俺の勘に間違いなければ、『リヒター』のことなんだろうな……。

イリスも質問した……その生物兵器は今も存在するのかと……。
女王の答えは、分からない――だ。
グローシアンに奪われた後の行方は分からずじまいなのだと……。

いつか聞いた青髪の双剣士……アレがリヒターである可能性は高まったな……。
しかも、転生者である可能性が高いとか……。
頭痛くなってきたな……。

「ゆえに、我々は人間との接触を避けるため、地上での生活を捨てたのだ。人間の貪欲さを忘れていた我々の、そしてゲヴェルを造ってしまった我々の落ち度だ」

「元はと言えば、地上を支配しようとしたグローシアンが悪いんだろ?欲を出し過ぎた報いだぜ」

「そういうことです。まぁ、グローシアンの全部が全部、欲望の塊かと言われたら……そうでは無いんですがね?」

ウォレスは怒りを現にし、俺はフォローの意味を込めて真実を口にする。
かつては、フェザリアンに味方する人間やグローシアンも居た筈なんだからな。
多分、そういう穏健派のグローシアン達が、人間の側につき、最後までゲヴェルと戦い抜いたグローシアン達なんだろう……。

「うむ……。ゲヴェルを造ったのは紛れも無く我々フェザリアン。今回の事件の原因の一端は、我々にもある。ゆえに、今回は我々もそなたらの手助けをすることにしたのだ。……とは言え、我々は非力な種族。戦いからも離れて久しい……とてもでは無いが戦闘では役立てないだろう。ならばせめて、情報を教えるぐらいのことは、しようと思ったのだ」

「そうでしたか……お気遣い、痛み入ります」

「いや、こちらこそ、このような形でしか力になれないことは、心苦しく思っている……」

女王はそう言うが、その気持ちが嬉しいよなぁ……。
原作だと完璧に上から目線だもんなぁ……くぅ……頑張ってネゴシエーションした甲斐があった……まぁ、たいしたことはしてないんだけど。

「それでは、ヴェンツェルという名に聞き覚えはあるだろうか?」

「ヴェンツェル?」

「心当たりがあるのですか?」

ポールの質問に、少し反応するステラ女王。
それを見てアリオストが真偽を尋ねるが……。

「確かに聞き覚えはあるが……それ以上はわからぬ。こちらでも調べておこう……もし新しいことがわかれば、また伝えよう……では」

そう言って女王達は去って行った……。
にしても、ワザワザ女王自らが来てくれるとはな……。
後は……カーマイン達を待つだけか。

**********

Sideカーマイン

俺達はルイセの病室に顔を出した……。
ルイセは健やかな寝息をたてている。

「……ルイセちゃん、無事で良かったね」

「……………」

「……何も言わなくていいわよ」

「ティピ……?」

「わかってる。グローシュを戻す方法を見つけないと、本当に助けたことには、ならないもんね」

「……そうだな」

そうなんだ……だが、どうすれば良い?どうすればルイセを助けられる……。

「もし……もしこのまま目を覚まさなかったら………ご、ごめん」

ティピは謝るが、分かってるさ……ティピも不安なんだってことくらい……。
ルイセとは、本当の姉妹みたいに仲が良かったコイツは……。

「……………」

「……あ……」

だから、俺はティピの頭を撫でてやる。
何も言わずに……優しく。

「……アタシがもし人間だったら…アンタのこと、慰めてあげられるのに……」

「?……何か言ったか?」

「な、何でもない☆」

何かボソッと呟いたので尋ねたら、何でもないと言われて俺の手から逃げられてしまった。
……なんなんだ?

「ルイセちゃん、絶対良くなるよね?」

「当たり前だろう……」

「……アタシね、ルイセちゃんと一緒にいられて、楽しかったよ。アンタと一緒に旅してきた間も」

ティピは俺と真っ向から向かい合って、語る。
俺はそれを聞いている……静かに。

「元々アタシは、アンタ達2人のお目付け役として作られたホムンクルスだけど、ちゃんとした存在として扱ってくれたし……とっても嬉しかったんだ……だから、絶対に助けてあげたい。もしアタシの命が必要だったら、いつだってあげる覚悟はあるんだよ……でも、そんな覚悟があったって……どうやったら……」

「俺も……」

「えっ……?」

「俺も同じ気持ちだ……俺なんかの命で良ければ幾らでも差し出す……それでルイセのが助かるなら――」

「アンタ――……」

ルイセ……こんなにお前の心配をしてくれる奴が居るんだぞ……?
……俺達だけじゃない。
ウォレスも、ラルフも……ゼノスやシオン……アリオストだって……。

知ってるか?お前に忘れられて、ミーシャは泣いてたんだぞ?
親友を泣かせたままで良いのか……?

他のみんなだって……お前を待ってるんだ。

待ってるんだ………ルイセ………。

「…………」

「……アンタ、ひょっとして、泣いてるの?」

「……違う、泣いてなんか……」

「…ううん。いいんだよ、泣いたって――誰にも言ったりしないから。秘密にしてあげるから……」

「………っ………」

俺は生涯で初めて――涙を流した。
ルイセを想い……涙を流した。

今まで泣いたことはない――俺はルイセの兄貴だから。
妹に格好悪い所を見せたくなかったから……泣かなかった。

だけど―――今だけは――――泣いても良いんだよな―――?
妹の――いや――ルイセを想って―――。



「………。……あはは……やったぁ……」

「えっ!?」



な、ん……。



「…お兄ちゃん…泣いてる…………わたしの…勝ちだぁ……」

「ルイセちゃん?大丈夫なの、ルイセちゃん!?」

夢……か?
ルイセが起き上がって……。

「……まだちょっと、体がだるいけど。でも頭の中はすっきりしてるよ」

「よかった……ルイセちゃん、よかったぁ〜!」

ティピが泣いて……喜んでる………夢じゃないんだ……夢じゃ……!

「ルイセッ!」

「……あ……お兄ちゃん……」

「夢じゃ……ないんだな……?本当に……」

俺は思わずルイセを抱きしめてた……この温もり……夢じゃないんだな……!!

「ごめんね、お兄ちゃん…ティピ。みんなにも心配かけちゃったみたいだね」

「したわよ、いっぱい!いっぱい、いっぱい、心配したんだから!」

「うん……ありがと」

「……ぐすっ。でも、本当によかった。ほら、いつまでそうしてんの!?みんなのところに行って、安心させてあげましょ!!」

「ああ……」

「そうだね」

まだ涙が止まらない様子のティピに促され、俺達もそれに頷く。
……まぁ、俺もティピのことは言えない状態だったが。
俺はルイセを離し、ルイセはベッドから立ち上がった……と。

「……あ」

「どうしたの?」

「ペンダント……割れちゃってる……」

そう言って、ルイセが見せたのは砕けたプロミス・ペンダント……。

「本当だ。どうしたんだろ?」

「きっと、願いごとが効いたんだよ。だから、このペンダントの御利益が終わっちゃったんだね」

「ペンダント様々だね♪」

「あと、お兄ちゃんの涙にもね♪」

「言うな……くそっ、一生の不覚だ……」

「あはは♪」

居心地悪そうな俺を、二人して笑ってやがる………まぁ、良いか。
こうしてルイセが元に戻ったのだから――。



[7317] 第117話―ペンダントと覚醒と決着へ向けて―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/19 17:46


カーマイン達が病室に行ってからしばらくして、大きな『力のうねり』を感知し、その後―――大きなグローシュの波動を感知―――どうやら、上手くいったらしい。

それから数分後――。

「ルイセちゃん!?」

「お、おい……大丈夫なのかよ?」

カレンにゼノスが――。

「ルイセ君――!」

「ルイセちゃん……もしかして記憶が……?」

アリオストとラルフが……いや、パーティーのメンバー全員がルイセに殺到する。

「……みんな……」

「ルイセちゃん……本当に……」

「ごめんね、ミーシャ……でも、もう大丈夫だから」

「ルイセちゃん…………ルイセちゃああぁぁ〜〜んっ!!」

涙とか鼻水とか、色々な物を垂れ流しながらルイセに抱き着くミーシャ。
そんなミーシャをルイセは慈しむ様に抱き留めた。

「やったな!やりやがったな!!めでてぇじゃねぇか、コンチクショウ!」

「本当、心配かけて……でも、良かった……」

普段は見せない、大喜びをしてみせるウォレス。
慈愛に満ちた表情を浮かべながら、安心しているリビエラ。

「すごいよね、これって奇跡だよね?」

それに負けないくらい喜んでみせるティピ。

「あのパワーストーンのおかげか?」

「ううん。プロミス・ペンダントのおかげよ」

ゼノスの問いに、ゆっくりと首を横に振るルイセ。
まぁ、俺は一応真実を知っているが……言うつもりは無い。
近い内に知ることだしな。

「プロミス・ペンダント。目的を達成した時に願いが叶うというペンダントですね。確か、学院の女生徒の間で流行っている……」

イリスは冷静にプロミス・ペンダントについて分析する。
まぁ、単に思ったことを口にしてるだけだろうが……な。

「そうそう☆コイツったらね「だあぁぁぁぁっ!!?」…モガモガ……」

ティピが何か口にしようとして、カーマインが慌ててティピの口を塞いだ。
………こんな面白……もとい、慌てたカーマインは初めて見たな。

「な、何でもないからな?気にしないでくれ……」

「ゲホ、ゲホッ!アンタ、アタシを窒息させる気!?」

「『約束』しただろう……もう忘れたのかこの揮発脳!!」

何とかいつもの調子を保とうとするカーマインの魔の手?から逃れたティピは、文句を言うが……カーマインからしても今のは腹にすえかねた様で、文句を言い返していた。

「……今のはティピが悪いよ?」

そう言ってやんわりと二人を止めるルイセ。
……どうでもいいが、随分と雰囲気が大人びたなルイセは。
これも覚醒した影響かね?

そう思いながら、俺はニヤリと悪い笑みを浮かべつつ、カーマインに止めを刺す。

「……どうやら賭けはルイセの勝ちらしいな?」

「ぐっ……何故……!?」

「これでも記憶力は良いんでね?ルイセにプロミス・ペンダントをプレゼントしたのは……誰だったっけなぁ?」

ついでに言えば、ルイセがペンダントに誓いを起てた時にも居たし、今さっきのルイセの言動からも予測するには十分―――まぁ、原作知識という反則技があるのは否定しないが―――。

「うぐっ――」

「まぁ、お前さんの面白……珍しい表情を見れたことだし、武士の情けってことでコレ以上は勘弁したるわ」

「今、面白いって言おうとしたな――?」

「さてな〜?ま、冗談はともかく――良かったな!」

バンバンとカーマインの背中を叩く俺。
無論、加減はしてますが。

「――ああ!」

清々しい顔で言うカーマイン君は、間違いなくイケメンだろう。
かつての悪友が見たら『もげろもげろ』と、五月蝿いだろう程の清々しさだ。

「……皆、喜んでいるな」

と、ポールが心なしか嬉しそうに微笑んでいる。

「当たり前だろ?ルイセは俺達の仲間なんだ……その仲間が復活したんだ。喜ばない方がおかしい」

「仲間……か。分かってはいたが、良いものだな……」

そう優しく微笑むポールもまた、爽やかなイケメンだろう……いや、美少年というべきか?
まぁ、目元は仮面で隠れているが。

ポールにはああ言ったが、皆にとってルイセはただの仲間という訳では無いのだろう。
ある者は妹の様に――ある者は娘の様に思っていた筈――ん?俺?

俺は―――そうさなぁ……弟子と師匠であり、娘みたいなモノであり、妹みたいなモノ……かな?

「そういえば、ベルガーさんは?」

「私なら此処だ」

そう言ってベルガーさんが奥からやってきた。
ベルガーさんは怪我らしい怪我も無かったが、一応診察して貰っていたらしい。
幸い、どこも大事は無かったとか。

……まぁ、そのために俺はゲヴェルを殴り飛ばしたんだがね。

カレンの悲しむ顔も見たく無かったし……。

「本来なら、奴を倒すのに力を貸したいところだが……残念ながら、今の私では力になれないだろう……」

「何を言うんです隊長!隊長は奴と互角に戦ったじゃないですか」

「それは昔の話だ……戦ってみて分かった。私は大分衰えた……恐らく、正面から奴と渡り合えはしないだろう……」

弱音とも取れる台詞を言うベルガーさんに、ウォレスが物申すが、ゆっくりと首を横に振ってそれを否定するベルガーさん。

「でも、さっきはゲヴェルと良い勝負をしていた様に見えたけど?」

「ベルガーさんの言ってることはある意味では正しい」

「シオンさん?」

リビエラの疑問には俺が答える。
その言葉にカレンが首を傾げている。

考えてみれば簡単なことなんだがな……。

「20年近く剣を握っていなかったんだぞ?どうしたって戦闘の勘は鈍る。それに、保養所に保護されてから……或いはそれ以前……記憶を無くしてからでも良いが、まともに鍛練をしたのか?答えは否だろう。そうすると、筋力は確実に衰える……何故か見た目からはそうは感じさせないが」

その説明を聞いてウォレスはハッとなる……ウォレスに限らず、ベルガーさんの戦いぶりを見ていた面々は似たような反応を見せる。

あれで衰えているとは信じられない……と。

分からなくは無いがな。
もし、俺に原作知識が無く、ゲヴェルについて知らなければ……俺も似たような反応をしただろうしな。

ウォレス自身、かつてはインペリアル・ナイト(この場合のナイトは我が父上のことだが)と、互角に戦り合う程の実力を持っていたのに、数年の療養をしていただけで、旅に出たばかりのカーマインより身体能力に関しては劣るという状態になってしまった。
義手に義眼というハンデを差し引いたとしても……だ。

(まぁ……何故かこのカーマインは最初から結構強かったのだが……)

にも関わらず、20年近くまともな鍛練をしていない筈の、ベルガーさんの身体能力があれほど迄に保たれていたのは、恐らくベルガーさんの秘密に関係があるのだろうと推測している。

新型ゲヴェル開発のための被験体……。
言うなれば、新型ゲヴェルのプロトタイプ。
それがベルガーさんの隠された秘密……。

推測でしかないが、ゲヴェルの細胞の影響で、身体能力の劣化が常人より遥かに緩やかなのかも知れない。

だが、幾ら身体能力の劣化が緩やかだとしても、衰えたのは事実なのだろう。
かつてはゲヴェルと互角に戦ったベルガーさんだが、原作において保養所でゲヴェルに重傷を負わされている。

「――君の言う通りだ。短時間戦う分には問題無いが……正直、長時間戦う体力は今の私には無い。奴の腕を切り飛ばすことが出来たのも、奴の腕に深い傷を負っていたのを見付けたからだ。私はその傷に剣を合わせたに過ぎん」

「アタシ……それだけでも凄い気がするんだけどな〜……」

ベルガーさんの言葉に、ミーシャは苦笑いしながら呟く。
実際、ミーシャの言う通りだと俺も思う。

何でもないことの様に言うが、ベルガーさんの技には半端がない。
その洞察眼と経験により放たれる剣は、驚異の一言に尽きる。
こと、経験というカテゴリーにおいては、この場にいる誰よりも濃密なモノを持っていると言っても良いだろう。

その経験という引き出しによって、20年近く……正確には19年という年月の隙間を埋めたのだ。
故に、ゲヴェルに会心の一撃を見舞えた。

「へっ、まあ良いさ。奴の始末は俺たちがつけてやるよ……だから、親父はゆっくり養生しろや。年なんだからよ」

「……すまんな、ゼノス」

そう言ってベルガーさんを気遣うゼノスに、礼を言うベルガーさん。
素直になれないのか、プイッと視線を逸らすゼノス……ツンデレですね分かry。

実際、今この場にいるメンバーの単純な力量をランク付けするなら――。

俺>>>>>>>越えられない壁>>>ラルフ>>高い壁>>ポール>>>>カーマイン>>ゼノス>ベルガーさん>>ウォレス>>>アリオスト>リビエラ>イリス>ミーシャ>カレン、ルイセ。

―――と、言う所だろう。
尚、これは気の大きさを基準とした身体能力の順番で、魔力……精神力換算だとまた違って来る。
魔力の容量を基準とした場合はこうだ。

俺>>>>>越えられない壁>>ルイセ>>果てしなく遠い壁>>イリス>リビエラ、カレン>ポール、ラルフ、ミーシャ>>カーマイン>アリオスト>>>>超えられない壁>>ベルガーさん、ゼノス、ウォレス。

と……なる。
尚、後者三人は魔導を学んでいない為にこの位置。
アリオストはフェザリアンとのハーフな為か、魔力容量が若干少ないんだよな。
もっとも、最近は自主鍛練で着々と魔力容量を増やしているらしいが。
ちなみに、一般的な魔導師はアリオストの更に下くらいになる。

まぁ、総合した実力だとまた順番が変わるんだが……ん?俺が常にトップなのは何故かって?
まぁ、リアルチート野郎だからね〜……俺は。

と、話が逸れたな。
そんな訳で、ベルガーさんは保養所に残るらしい。
正確には退院とかの手続きやらなんやら、色々あるらしいが……。

俺的には今のままでも、十分戦力になると思うんだけどなぁ……ベルガーさんは。
そもそも、ゲヴェルとタイマン張れないことを前提に言っているっポイが……そもそもあんなのとタイマン張るという考えなんて、普通は無い。

多分、今現在ゲヴェル(全力)とタイマン張れるのは俺とラルフ……後はボスヒゲ(黒)くらいだろう。
原作でも数人でボッコしてんだし……。

ベルガーさんにも何か考えがあるんだろうが……あれか?
某龍玉の主人公みたいに、『後は若い奴らの時代だ』的な考えなんだろうか?
ちなみに魔人編ね。

まぁ、推測だが……自身の正体やその他諸々について隠したい気持ちもあるんじゃなかろうか?
新型ゲヴェルの被験者であること、過去からやってきたこと……そして、カレンとゼノスのこと。

原作でも、自らの死の直前で全てを語っていたことを考慮すれば、あながち的外れとも言えないと思う。



「ねぇ、もしよかったら魔法学院に行きたいんだけど……」

「えっ?どうして?」

「もし本当にプロミス・ペンダントにグローシュを取り戻す力があるんだったら、これを調べて貰えば、アイリーンさんも治るかもって……」

と、ルイセが言い出したのでティピが首を傾げる。
ティピだけじゃなく、皆が似たような心境だと思う。
ルイセは、プロミス・ペンダントにグローシュを戻す鍵がある……と、睨んでいる様だが……。

「アイリーンさんが治るのですか?」

「わからないけど、可能性があるかもって。だから学院に行って、このペンダントを調べてもらいたいの」

原作とは違って、それなりにアイリーンと接点があったイリスが尋ねる。
ルイセはあくまでも可能性の話だと言うが、例え小さな可能性でも調べる価値はある……と。

『ルイセちゃんはああ言っているケド……鍵は僕とカーマインなんだろう?』

『まぁ、な。だが、調べるというのは悪いことじゃない……俺の知識と違って、本当にそういう効果があるのかも知れないしな?』

……ラルフがアイコンタクトをしてきた。
なので、俺は肩を竦めつつアイコンタクトを返した。
お互い、それで意味が通じる辺りに付き合いの長さを感じる。
アイコンタクトで訴えかけて来たのは、言葉にするとウォレス辺りに聞かれてしまうかもしれない……というラルフの配慮だろう。

「分かった。魔法学院に行ってみよう」

カーマインの決定により、俺達はベルガーさんと別れ、一路魔法学院を目指す。
使うのはルイセのテレポート。

**********

で……魔法学院に到着し、副学院長に会いに行こうとした道中……。

「ただいま戻りました、先生」

「ご苦労さま。それで、どうだったかね?」

「やっぱり先生のおっしゃるとおりです。グローシュの放出量が増えているようです」

「……そうか……出来たら、思い過ごしであって欲しかったが……」

学院校舎入口で、こんなことを話している教授と男子生徒がいるのを発見する。
気になったのだろう……ルイセが話し掛けた。

「……あの、どうしたんですか?」

「おお、ルイセ君か」

「何だか、深刻そうですが……」

「……うむ」

ルイセの質問に教授が重々しく口を開く。

「実は『歪み計』が異常な歪みを検出してな」

「歪み計ってなんだっけ?」

重々しく放たれた言葉に、ティピは首を傾げた……って、ティピよ……。

「な、なによ二人して、かわいそうな人を見る目をして……」

「まぁ……ティピだしな」

どうやらカーマインも俺と同じ様なことを考えていたらしい。
それと、カーマインの返答が何気に酷いが……まぁ、ティピだしなぁ……。

「この世界が、2つの世界を重ねているって話はずっと前にしたことあったよね?その重なりのずれを計る装置のこと」

「あ、屋上にあったやつだ」

どうやら、ルイセに言われて思い出したらしい。
うん、これで思い出せなかったらどうしようかと……。

「この歪み量は自然のものとも思えんのだ。何か悪いことが起きなければいいのだが……とにかく、観測を怠らずに慎重に調べてみる」

「がんばって下さい」

ルイセは教授を応援するが……まさかその歪み量が、自分の復活した時に生じた歪みだとは思わないだろうなぁ……。

教授と別れ、改めて副学院長の元へ向かう。
エレベーターに乗り、上級職員用職員室へ。

「あの、副学院長先生はいらっしゃいますか?」

「はい、どうぞお通り下さい」

ルイセの問いに頷き、部屋の扉を開けてくれる、副学院長秘書さん。

「失礼します」

「おお、君たちか」

部屋に入った俺達を副学院長は迎えてくれた。
挨拶もそこそこに、本題に移ることにする。

「あのね!ルイセちゃん、元に戻ったんだよ!」

「なんだとっ!?いったい、どうやったのだ?私も手は尽くしているのだが、なかなか方法が見つからないのだ!」

「実はそのことで、頼みがあってきたんです」

「どうしたのだ?」

嬉しそうにルイセ復活を報告するティピ。
それを聞いて副学院長は、その方法を聞く。
その副学院長に、ルイセは頼みがあると切り出す。

「これを調べて貰いたいんです」

ルイセは副学院長に砕けたプロミス・ペンダントを渡した。

「これは、プロミス・ペンダントか?」

「わたしもグローシュを奪われて、ラシェルの保養所にいました。しかし、このペンダントが割れたとき、わたしのグローシュが戻ったんです」

ルイセの説明を聞き、しばし考え込む副学院長……。

「……むぅ。こんなペンダントにそれほどの力があるようには思えんが……」

「しかし、副学院長がプロミス・ペンダントのことを知ってるとは……正直意外です」

そんな副学院長に、純粋な疑問をぶつけたのはイリス。
女生徒に人気があるのは知っていたが、まさか副学院長まで……という意味なんだろう。

「これでも私は教職者なんだよ?……というのは冗談でな。このプロミス・ペンダントに使われている宝石は呪術学を研究する私にとって、それなりに身近な物とも言える物でな」

「もしかして危ない物とか……?」

「そうではない。この宝石は人の念を増幅させる物でな。呪術を扱う場合にはよく触媒として用いられる。このペンダントはその宝石の特性を生かし、持ち主の念……この場合は想いと言っても良いそれを、自身の運気として変換している物なのだ」

説明する副学院長に、おっかなびっくりと尋ねるミーシャ。
そんなミーシャの意見を否定し、更に説明する副学院長。

要するに、実際に願いが叶うアイテムではなく、ちょっと運が良くなる程度のアイテムらしい。

「とは言え、今はワラにでもすがりたい気持ちだ。調べてみよう」

副学院長はルイセの頼みを受け入れた。
本人の言う様に、ワラにも縋りたい気持ちなのだろうから。

「しかし、これで1つだけ謎が解けたよ」

「えっ?何のこと?」

「先日、時空観測器が、北の方角に局地的な歪みを記録したんだ。たぶん、ルイセ君のグローシュが戻ったときの波動だろう」

「そんな波動があったんですか?」

ティピは首を傾げる。
副学院長は局地的な時空の歪みと、その原因について述べた。
ルイセはルイセで疑問を尋ねていた。

「時空の歪みが大きくなったときにグローシアンが生まれる。逆にルイセ君が戻ったとき、歪みが大きくなっても不思議ではあるまい。つまり、歪みを作ることと、グローシュが戻ることには関係がある」

「それって、シオン君も言っていた……」

「俺の憶測も、あながち間違っちゃいなかった……ってことか」

副学院長の考察を聞き、アリオストが驚愕の眼差しを俺に向けてくる。
俺は肩を竦め、いけしゃあしゃあと言ってのける。
憶測も糞も、知っていたこと……なんだからな。

「そして、ペンダントが割れたという事実……」

「それじゃ、ペンダントを使って歪みを発生させることが出来ればいいんですね」

「簡単に言えばそうなるが、それはこれから調べる。とにかく、貴重な情報をありがとう」

ルイセには希望に満ち溢れた感が漂っているが……ペンダントは全く関係無いんだよなぁ……。
副学院長は情報の提供について礼を述べた……。

「そういえば、アレはどうなった?」

「アレ?」

「真のグローシュだよ!どうだね?あれはただの伝承なのか?それとも事実なのかね?」

副学院長は少し興奮した様子で尋ねる。
……研究者としての、純粋な好奇心なんだろうがな。

「……多分、事実です。うまく説明できないけど、感覚が研ぎ澄まされたみたいな感じがするんです……だから」

む?ルイセがこっちに視線を向けた……。

「シオン先生のグローシュが、ものすごく強いってことも、よくわかるようになったよ――。先生のグローシュって、今の私よりもずっと強い……」

「……今は隠してると言うか、抑えてるのに、そこまで分かるとはな……何と言うか、グローシアンとしては文句なしで一人前だな」

多分、グローシュの効率的な運用法もあっさり出来る様になってるんだろうなぁ……。

その後、副学院長にペンダントのことを改めて頼み、俺達はその場を後にした。
そして学院内から外へ……。

「……あっ、感じる……」

「どうしたの、ルイセちゃん?」

「これはゲヴェルの波動……方角はここから………あっ!?先に、バーンシュタインの王都へ急ぎましょう!あの、仮面の男たちが、攻撃してる!!」

「なっ……本当なのか!?」

突然立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回すルイセ……ティピの問い掛けにも答えず、東の方角を見据える……。
そして言い放たれたのは衝撃の言葉。
ポールが真偽を確かめている。

「……どうやら本当らしいな。俺も感知した……気も奴らの物だし、間違いないだろう」

……もっとも、俺は意識を集中して漸く……って所だがな。
気で探ることに頼っていたって部分もあるが……。
グローシュパワーは俺の方が上だが……感覚的な部分はルイセの方が上かも知れん……。

「どうやら急いだほうがよさそうだな!」

俺達は直ぐさまテレポートでバーンシュタインへ……。

**********

バーンシュタインに到着した俺達は急いで街中へ向かう……そこでは……。

「ぐあぁっ!!?」

「ぎゃあぁぁっ!!?」

バーンシュタインの兵士が二人、仮面騎士に切り捨てられていた……。
二人だけじゃない……他にも何人も……。

「愚か者め。我々に勝てると思っているのか?」

「さすがにゲヴェルの作った兵士だ。警備兵では歯が立たぬか……」

勝ち誇る仮面騎士を見て、顔を厳しく歪めているのはインペリアル・ナイトである、リーヴスその人……。

「我々が戦うしかなかろう」

「ああ……そうだな」

その言葉に答えたのが、同じインペリアル・ナイトのライエルとジュリアだ……ジュリアも出撃していたのか。
考えてみれば当然か……王都の危機に、貴重な戦力を遊ばせておくワケが無いからな。

「しかし、御三方は昨日から一度も休みなく……」

「我々が引けば、あっという間にここを突破されるであろうが」

「自分たちがふがいないばかりに……申し訳ありません」

兵の一人が三人を気遣うが、ライエルから事実を突き付けられ、申し訳なさそうに顔を伏せる。

「相手が相手だ。仕方ないさ……とは言え、正直疲れてきたな。奴らに疲れはないのか?」

「さあな。ゲヴェルの能力を受け継いでいるとなれば、我々人間を遥かに越えた回復力を持つのかも知れぬ」

「例え相手が何であれ、我々に敗北は許されない……泣き言を言っている暇はないさ」

兵を気遣いながらも、仮面騎士のスタミナに舌を巻くリーヴス。
ゲヴェルとの関連性を指摘するライエル。
そして、改めて気合いを入れ直すジュリア。

「確かに泣き言は言いたくないが……こちらが不利だな」

「……フッ。何があってもお前だけは守ってやる」

「おや、私は守ってくれないのか?」

「俺は男も女も平等に扱う主義でな……心配せずとも、俺の剣は二振りある……ならば2人守るのも造作もない」

弱音を吐くリーヴスを慰める様に言うライエルと、場を和ませる様に軽口を叩くジュリア。
そんなジュリアに本人なりの軽口で返すライエル……そんな三人を仮面騎士は嘲笑いやがった。

「美しい友情というところか。だが、いつまで他人を気にする余裕があるかな?」

「試してみるか?」

「……よかろう」

一触即発……戦端が再び開かれようと言う時に、俺達は駆け付けた。

「アーネスト!オスカー!!」

「…………ポールか!?」

「助けに来たぜ!」

「シオン……みんな!?」

やってきた俺達を見て、驚愕をあらわにする三人。
ライエルはやけに間が大きかったが……危うくポールの本名でも口走りそうになったか?

「ありがたいが、奴らの力は……」

「心配しないで下さい。絶対に負けませんから!」

「……まぁ、仮にもグローシアンが二人も居るんだしな」

忠告するリーヴスに対して、力強く宣言するルイセ……そして俺とルイセを見て頷くカーマイン。

「……あの娘は!?馬鹿な……グローシュが戻っている!?」

どうやら、ルイセのグローシュが戻ったことに気付いたらしいが……もはや手遅れだと教えてやる。

「やるぞ、ルイセ!!」

「はい、先生!!」

俺はルイセに指示を出す……ルイセも何をしようとしているのか理解し、素直に頷く。

「あなた達の闇の波動を……」

「断ち切ってやる!!」

俺達は仮面騎士達にグローシュ波動をぶつける……覚醒したルイセ、元よりチートな俺。
そんな二人のグローシュ波動は相乗効果を生み、仮面騎士達に襲い掛かる。

「……や、やめろぉ……うぅ……」

「よそ見している余裕があるのか?」

「なに!?ぐぅっ……!!」

強烈なグローシュ波動を浴びて――普通の人間どころか、それ以下に弱まったであろう仮面騎士に、強烈な斬撃を見舞うライエル。
辛うじて防いだが、思わず後退る仮面騎士。

「――ん?どういうことだ?」

「どうしたんだ?」

「さっきまでの手応えが無い。これなら、たやすく倒せる」

「……なるほど。僕も試してみよう」

訝るライエルに、疑問を尋ねるジュリア。
ライエルいわく、手応えがなくなったという。
それを自分も試してみようとするリーヴスとジュリア。

俺達のグローシュ波動で極限まで弱まった仮面騎士は4人。
こっちは一般兵込みで20人以上。
大勢は決した……結論から言うとフルボッコである。
少々哀れに感じるくらいに………。
もっとも、容赦はしなかったがね。
仮にも俺はインペリアル・ナイトだから、王都を襲う輩を捨て置けんし……それを差し引いても、屑野郎には容赦は出来ない。

「もうあいつらはいないみたいだな……」

「うん……少なくとも王都の中から気配は感じないよ」

カーマインとラルフがそんなことを言う。
確かに王都や城には奴らの気配は感じないが……な。

「すごいな……。僕たちが2日戦っても勝てなかった相手を、こんな短時間で……」

「これがグローシアンの能力なのか……」

なんか驚かれてるが……それだけグローシアンというのは、ゲヴェルにとっては天敵だってことさな。

「そういえば、どうしてグローシュが強くなったんだろう?」

「それはね、わたしが皆既日食のグローシアンだってこと」

「うにゃあ?よくわかんない……」

ティピの素朴な疑問に、端的に答えるルイセ……勿論、それを理解出来るティピでは無い。
なのでルイセは続ける。

「皆既日食って、お日様が完全に消えて、また姿を現すでしょ?わたしのグローシュも完全に消えてから、もう一度戻った……これって似てると思わない?」

「つまり、一回無くなってもう一度能力が戻るってのが、真の能力の発動のきっかけだった……ってことか?」

「そういうこと」

ルイセの説明に、確認という形で問い掛けるカーマイン。
その問いにルイセは肯定を示している。

「だけど、どうすればもう一度能力が戻るかは分かってないんだろ?これじゃ、正確な方法が残っていないわけだぜ」

「わたしの場合は、ただ単に運が良かっただけだね」

ウォレスの言う様に、正確な方法が残っていなかったが、だからこそ伝承という形で残っていたのだろう。
確かにルイセは運が良かったとも言えるが……事実はカーマインとの絆が生み出した奇跡……なんだよな。
まぁ、言わんけどな。

「恥を忍んで、頼みたいことがある」

「どうしたんだアーネスト?」

急に改まって頼み事をするライエルに、何事かと首を傾げるポール。

「実はこの王都から北東に向かったところに、ゲヴェルの住処と思しき場所を見つけたのだが、我々には攻め入る手段がないのだ」

「しかし今の戦いをみて実感したよ。グローシュを持つ君たちがいれば、ゲヴェルを倒せるだろう……厚かましい頼みだけど、君たちにゲヴェルを倒して欲しいんだ」

ライエルとリーヴスの頼みとは、ゲヴェル打倒の件についてだった。
他にも、王都を防衛しなければならないとか……理由は色々あるのだろうが……。

「……言われるまでもない。奴は必ず倒す……」

「ありがとう」

カーマインの答えに、リーヴスは礼を言う。
それに対して、俺達は――。

「困った時はお互い様です」

「そうよ、私たちに任せて!」

「必ず、この戦いに終止符をうってみせる!」

「まぁな……個人的にも、親父の分も含めてあの野郎にはお見舞いしてやるさ」

「よーし!やるぞーっ!!」

「うん、頑張るよ!」

「そうだね……決着を着けなきゃね」

「ああ……我々の手で……全てに!」

「私も微力ではありますが……全力を尽くします」

「やる気は十分ってね……まぁ、大船に乗ったつもりでいてくれよ」

「ま、そういうわけだから、任せておけって!」

上からカレン、リビエラ、アリオスト、ゼノス、ミーシャ、ルイセ、ラルフ、ポール、イリス、俺、ウォレスの順番だ。
それぞれに意気込みを語ったのだ。

「……頼む。この国の……いや、この大陸の平和は、君たちに掛かっている」

「頼むよ。連中はこの街の北東の森の中、沼地の奥にいる」

責任重大……だな。
まぁ、俺達は負けないさ……必ず勝って戻る……必ずな。

「――良ければ、私も連れていっては貰えないか?足手まといにはならないつもりだ」

「……ジュリア?だが、良いのか?」

「陛下には許可をとってある……頼む」

突然のジュリアの申し出に、俺は少々思い悩む――個人的には連れていってやりたいが……。
とりあえず、俺はリーダーの判断に丸投げすることにした。

「……分かった。一緒に行こう」

と、カーマインが判断したので、俺からは何も言うことは無い。
まぁ、戦力が増えるのは喜ばしいことだがな。

こうして、ジュリアを仲間に加えた俺達は、ゲヴェルとの決着を着けに奴の居城へと足を運ぶことになる……。
これが全てとは言えないが……それでも、一つの区切りをつけるためにも――。

**********

おまけ1

ボツ話・子煩悩ベルガーさんと理不尽シオン。

「ところで君は、カレンと付き合ってるそうだね?」

「はい……俺には勿体ないお嬢さんだと思います」

「しかし――君は他の女性とも関係を持っているそうだね?」

「はい……」

突然何を言い出すかと思えば……カレンから聞いたのか?まぁ、父親としては心配するのは当然か。

「君はふざけているのかね?それとも、娘を弄んでいるつもりかっ!?」

「ふざけても、弄んでいるつもりも無いんですが……」

気持ちは分かる……俺だって同じ立場なら耳を疑うもんよ。
というか……今までが今までだけに、1番マトモな人に出会った心境だな。

「娘の命の恩人らしいが……貴様の様なチャランポランな男にカレンはやれん!!どうしてもカレンが欲しいなら、私を倒してからにするんだな!!」

「止めてお父さん!!」

「止めるなカレン!!こういう奴には痛い目をだな……」

「違うわっ!危ないのはお父さんよ!!」

「なっ……!!?」

なんか……お約束の展開になってきたが……カレンが止めに入った。
しかもベルガーさんに止めをさしたぞ?
あっ、ベルガーさんがショックを受けてる。

「あ〜……えっと、俺も個人的にはカレンのお父さんに酷いことはしたくないんですが……」

「貴様にお義父さんと呼ばれる筋合いは無い!!」

いや、言ってねーし……多分字が違うんだろうな……。

「覚悟しろ!!貴様は剣の錆にしてくれるっ!!」

「無茶よお父さん!!」

剣を抜き放ち、襲い掛かるベルガーさん……そんなベルガーさんを止めようと声を上げるカレン。

わざと負ける……という選択肢は無い。
それはカレンを悲しませる結果になる。

引き分けると後々まで引きずる可能性があるし……そうなると結論は一つ。

死なない程度に痛め付ける。

*********

しばらくお待ち下さい。

*********

「……満足しましたか?」

「ぐふぅっ……馬鹿な……手も足も出んとは……」

「お父さん、しっかりしてお父さん!!」

「すまんなカレン……お前の言う通りに、話を聞いておけばよか………ガクッ!」

「お父さん……お父さあぁぁぁんっ!?」

ちなみに、気絶しただけです。
しっかり手を抜いてましたから。
………結局カレンを悲しませる結果になっちまったなぁ……。

俺はベルガーさんを担ぎ、医者の元へ連れていった……。
この結果、原作同様にベルガーさんが入院するはめに……せっかくゲヴェルを撃退したのに、本末転倒だなぁ……と感じつつ、俺はその場を後にした。

**********

ボツにした理由。

・ベルガーさんキレ易過ぎ。

・シオン若干上から目線過ぎ。

・文中の様に本末転倒。

などなどが理由です。
実際はまだベルガーさんにはその辺(ハーレム状態)が説明されていません。
仮に説明されても、ベルガーさんは大人なのでシオンを試しはしても、ここまで敵愾心剥き出しでは怒らないです。
怒りはするかもですが、静かに怒る人だと思うので。

***********

おまけ2

if話・あの人は今……。

「そういえば父上達は?」

王家の剣たる我が家は、王都の郊外に大きな邸宅を構えている。
その誓いもあり、敵が王都に侵入しよう物なら、直ぐさま駆け付けそうなモノだが……。

「ウォルフマイヤー卿は部隊を率いて、敵の迎撃に出ている。そのおかげで、王都に侵入した敵は少ないのだ」

成程なぁ……父上達も頑張ってるんだな……。
気を探ってみたが、ほとんど勝負はついたみたいだし……。

余談だが、父上達が迎撃した敵はユング達のみだったので、なんとか被害を最小限で食い止めたらしい。
運が良いと言うかなんと言うか……。
もし仮面騎士が居たら、流石の父上でも苦戦しただろうがな……。

「あ、オズワルド達……大丈夫か?」

これまた余談だが、彼らは破竹の勢いでユングどもを屠り、父上の部隊でもかなりの活躍をしたそうな………え、忘れてたんじゃないかって?
忘れるワケないだろう?
あいつらにはとりあえず、父上のところで色々学んで貰おうと思ってね。

もし、俺が正式なナイツになれたら、直属の部下として正式に雇うつもりですが何か?

そのためにも、ゲヴェルの野郎とは早急に決着を着けなきゃな!




[7317] 第118話―激突、決着、フライシェベルグ―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/20 07:12


バーンシュタイン北東の森林

「邪魔だ!!」

『ゲギャアッ!?』

俺達はゲヴェルの居城に向けて進軍している。
無論、敵の物量はかなりの物だが、俺らの勢いはそれ以上に凄まじい……。
なにしろ、俺とルイセというグローシアンがいるので、ただでさえ強力なグローシュパワーが相乗し、仮面騎士やユングどもを半端なく弱体化させるに至り、更には俺ら全員が並以上の実力者でもある。

―――はっきり言おう。

「失せろっ!!」

「ガハアァァッ!!?」

無双状態である――。

もうアレだ。

ポカッ!敵は死んだ。
スゥイ〜ツ♪

……的なLevelの無双ぶりなワケで。

「うぉりゃああぁぁぁぁ!!!」

「……馬鹿な……あぁ……………」

正に粉砕!玉砕!!大喝采!!!という感じだ。
とは言え、それだけで済ますのはアレなんで、端的に説明するならば――――。

俺→最前線にて切り込み隊長として無双しつつ、マジックガトリング等で援護射撃。
ちなみに、冒頭の「邪魔だ!!」というのは俺の言葉で、群がってくるユング達をリーヴェイグで文字通り『薙ぎ払った』時の台詞。

カーマイン→俺と同じく前線担当。
群がってくるユングの掃討をしている。

ラルフ→遊撃担当。
時には前線に、時にはバックアップに回ったりと大忙し。

ウォレス→前線担当。
投擲剣や気合い拳で活路を切り開きつつ、近寄る奴はぶん殴ってぶっ飛ばしている。

ゼノス→前線担当。
闘気を纏いつつ、仮面騎士やユングを相手に無双。
「うぉりゃああぁぁぁぁ!!!」という台詞は、ゼノスが仮面騎士を唐竹割りにぶった切った際の物。

ポール→前線担当。
その手に持つ双刃剣で、敵陣深くに切り込み、ユングどもをちぎっては投げ、ちぎっては投げ……時折、魔法をぶっ放している。

ジュリア→遊撃担当。
周囲の敵をその剣で薙ぎ払いつつ、後方を狙う敵を斬り捨てている。
「失せろっ!!」というのは、後方を狙って来た仮面騎士を斬り捨てた際の台詞。

アリオスト→遊撃担当。
時には爆薬、時には魔法、時には剣で周囲の敵を倒している。

ルイセ→後方援護担当。
その類い稀なる魔力を生かして、魔法無双。
マジックアロー系を中心に、範囲魔法等も使って敵を一掃。

カレン→後方援護担当。
魔法による攻撃もそうだが、アタックやプロテクト等の補助魔法による援護も忘れずに行っている。

リビエラ→後方援護担当。
魔法による攻撃に専念。
更にバインドで足止めしたりもしている。

ミーシャ→後方援護担当。
魔法攻撃――主にマジックフェアリーで援護射撃。
近寄って来た敵にはハンマーでガッツン!!

イリス→後方援護担当。
魔法による援護射撃、更には補助魔法による援護――近寄って来た敵にはレイピアで攻撃。

――と、言ったところか。
あ、ティピは皆に発破を掛けていた。
そこだいっけぇー!!とか、あったれぇーぃ!!とか―――。
耳元で叫ばれるカーマインは堪ったものではあるまい。

仮面騎士やユング以外にも、元からこの森に棲息しているだろうモンスター……翼竜種のワイバーンや、植物タイプのプラントというモンスターも居た。
無論、返り討ちだがね。
ワイバーンはメンチビームで撃退……プラントにはメンチビームが効かないので殲滅したが。

「にしても――やはり敵の本拠地があるだけあって、敵が多いな……」

「これでも少ない方だと思うがな……恐らく王都に攻め入る際に兵力をかなり注ぎ込んだんだろうな……まぁ、仮面騎士は俺らが……ユングの群れは父上達が倒したんだけど」

「じゃあ、アタシたちタイミング的にはラッキーだったんだね!……とてもそうは見えないんだけど……」

周囲の敵を片付け、軽く愚痴るカーマインに、俺はこれでもまだマシだと説明する。
ミーシャはそれを聞いて明るく振る舞う……が、直ぐさまそれが苦笑いに変わる。
これで少ないのか……と言う哀愁を込めての苦笑いだ。

「とは言え、この辺の奴らもあらかた片付いた。それに――どうやら着いたらしい」

「……アレがそうなのかよ?」

「他にそれらしい物も無いから……決まりだろうね」

ポールの一言に、前方を見やるゼノス。
それを肯定する様に言葉を纏めるアリオスト。

俺達は森を抜けて沼地にやってきた。
前方には巨大な岩山……そこには縦に裂けたかの様な巨大な亀裂が……。
もはや崖の底と表現するのが正しいのかも知れないな……。

「この岩場の裂け目から、ゲヴェルの波動を感じる……」

「間違いないというワケか……」

ゲヴェルの波動を感知したルイセの反応を見て、確信を深めたのはジュリア。

ん?俺?

勿論、感知してますよ?
グローシアンとしてゲヴェルの波動を感知し、尚且つゲヴェルの気をも感知しているワケで……間違えようが無いってことさ。

「さて……それじゃあ行きますか?」

「そうだね……ケリをつけに行こう」

俺の呟きに答えたのがラルフだ。
とりあえずこれで全てにケリが着くワケじゃねぇが……な。

俺達は覚悟を決めて岩の亀裂の中へ入っていく。

***********

フライシェベルグ1F

しばらく歩くと、遺跡の様な建造物が見つかる。

あれがゲヴェルの居城――フライシェベルグへの入口か……。

と、その場所を眺める暇も無く、中から複数の気配を感知。

「奴らは!?」

「やっぱりここなのね!」

「外の森にも連中は徘徊していたので、関連性を疑うべくもありませんが……」

ウォレスも迎撃に出て来た奴らに気付いたらしい。
ティピはティピで、迎撃に出て来た仮面騎士やユングを見て、改めて確信を持った様だ。
イリスはそんなティピに冷静にツッコミを入れていたが。

「………ダメ。ゲヴェルの思念波が強すぎて、完全に遮断できない……」

「俺はそうでもないが……思念波を完全に遮断するためには、ある程度近寄らなきゃ駄目だな……まぁ、この距離なら余裕だが」

ルイセは若干の弱音を吐く。
フライシェベルグはゲヴェルの細胞より生み出された迷宮……つまりゲヴェルそのもの……ゲヴェルの体内と言っても良い。

つまり、ゲヴェルの波動が充満している様な状況であり、幾ら覚醒したルイセと言えどもそんな状況ではゲヴェルの思念波を完全に断ち切ることは不可能なのだろう。

俺にしても、遠く迄、広範囲に作用していたグローシュ波動に枷が着いた様な感覚を感じていたりする。

まぁ、それでも若干でしかないから、普段と大差は無いんだが……そうだな……某竜の紋章の騎士が主役の漫画……に出てくる破邪呪文を喰らっても平然としていた大魔王……と言えば分かりやすいかも知れん。

「どちらにせよ簡単だ、立ち塞がる奴はブチ殺せばいい」

「荒っぽい言い分だが……確かにな!!」

ゼノスの極論を肯定するウォレス……まぁ、ここまで来たらやることは変わらないんだがな。

俺達は、迎撃に出て来た仮面騎士とユング達に向かって行った……ちゃんとグローシュ波動で弱体化させてのフルボッコ。

……そもそも、人数が俺らの方が多い上に地力も俺らの方が上だったりするワケで……。

……ここまでやるとイジメだな。

迎撃部隊を蹴散らした俺達は先に進んで行く――周囲の造りが、建造物的な物から生物的な物に変わる……。
だが、幾らも進まない内に行き止まりになってしまった。

「なんだ?行き止まりか?」

「う〜ん……何か仕掛けがあるのかな?」

ウォレスが周りを見渡す……そしてティピはティピで周囲を探っている……と。

……ジロッ。

「うわぁっ!ナニ、コレェ!?こっち見てるぅ!?」

壁にある、オブジェと思われていた目ん玉が、近付いてきたティピの動きを追う様に動いた。
それに気付いたティピがビックリして飛びずさったのである。

「ふむ……他に怪しい所も……いや、怪しい所だらけだが……一番怪しいのはどう考えてもアレだと思うんだが……どうよ?」

「そうだね……アレが何かの鍵になってる可能性は高いと思う。問題はどうやってそれを作動させるか……か」

「あんなの、普通の遺跡じゃ、まずお目にかかれないしね」

俺としては答えは分かっているのだが、一応皆にも意見を聞いてみる。
アリオストとラルフの言う様に、パッと見はどうすれば良いか分からない。
何しろ、壁に目玉が一つ……ギョロギョロと動いているのだから。
これが一番怪しいとは理解出来ても、それに対してどう対処すれば良いのか……中々判然とはしないだろうさ。

俺にしても、知ってる原作知識は『ゲームとして』の物に過ぎないワケだ。

この壁は、一種のガーディアンであり、こいつを倒せば扉は開かれる……が、それはゲームの話だ。

ただ漠然に倒すと言われても、どの程度のダメージを与えれば良いのか……またはどの程度のダメージまで耐えられるのか――。

あくまでこれは『ゲーム』では無く『現実』。
ならば、やり過ぎて先に進めなくなることも――有り得ないことじゃない。

――まぁ、いざとなればゲヴェルの待ち構える場所まで、気合い拳――オーラバスターか、ソウルフォースのアレンジ魔法で一気にブチ抜けば良いだけの話だが。

「悩んでても仕方ないか――皆、下がってな」

俺は皆を後ろに下げると、目玉に向かってマジックアローを放つ。
それは目玉の中心を的確に捉え、奴の目玉が鮮血に染まった……と。

グチャア……。

なんとも粘着質な音と共に、すぐ側にある地面に穴が開く。
よく見ると、穴の周囲に血管みたいな物が躍動しているのが分かる。
中の穴はそんなに汁っ気は無いみたいだが……やはり肉壁が躍動しているためか……中々グロいな。

「どうやら、鍵は開いたらしいな……」

「って、まさかこんなところに入るのっ!?」

「……アタシ、入りたくないなぁ……」

ポールがあのガーディアンが鍵だったことを確信して、言葉を発するが……リビエラはまさかの事態に悲鳴じみた声を上げ、ミーシャは苦笑いしながら穴を見つめていた……。
無論、女性陣は嫌悪感をあらわにしていたが、俺らだって好き好んで入りたくは無い。

例えるなら、ゴ○ラやガ○ラのケツの穴に飛び込む様な心境だと思ってくれたら分かるかも知れん……いや、分からんか。
とにかく、俺を含めて皆は些か躊躇してしまう。

それに此処はゲヴェルの細胞で出来ている……。
もしかしたら通り道と見せ掛けて、何かこう……グロい感じに消化される可能性も無きにしもあらずだろ?

……いや、多分仮面騎士やユングの通り道にもなっている筈だから、それは無いか。

「迷っていても仕方ないか………些か気が引けるがやむを得まい。先に行ってる、ぜ!!」

「シ、シオンさん!?」

カレンの悲鳴じみた声をそのままに、俺は穴の中に飛び込んだ……おぉっ!?
なんかスッゲェ浮遊感!?
多分下ってるとは思うんだが……。

ほら、アレだ……真・女○転生Ⅲのマニアクス(マニクロでも可)のアマラ深界を移動する際の経路……あのミニゲームチックなことが出来る穴ね?
アレと似た様な感じだな……。

俺はてっきり、こう……肉壁で押し出す感じか……良くて滑り台みたいな感じなのかと……。
まぁ、下るだけじゃなく、上る時にも地面の穴に飛び込むんだから……これなら一応納得だな。

**********

フライシェベルグB1F

「よっと……」

穴から文字通り飛び出した俺は、上手く着地して周囲を伺う。
ふむ……あちこちに気配を感じるな。
まぁ、近くには居ないから大丈夫か……っと、来たな。

「おっと……」

「最初はラルフか……」

俺と同じ様に、危なげなく着地したラルフを見て、俺は言葉を零す。

「いやぁ、凄いね……まるで飛んでる様な感覚だったよ……けど、どういう仕組みなんだろう?」

「そこは、ほら……ツッコんだら負けってことで」

ラルフの問いに、俺はうやむやに答える。
考えるだけなら考えることは出来るんだが……あくまで仮定を立てることしか出来ないからな。

等と話してる内に、皆がポンポンと穴から飛び出してくる……。
上手く着地出来た奴と出来ない奴が居た……。

男連中は皆上手く着地していたが……。

女性陣の一部が着地が決まらず、こけそうになった。

「きゃ!?」

「っと……大丈夫かルイセ?」

「お兄ちゃん……うん、ありがとう♪」

まぁ……。

「ほいっ、怪我は無いか?」

「シオンさん……ありがとうございます♪」

「なに、気にするなよカレン………って、リビエラにジュリア……なんでそんな目で見るんだよ?」

「何でもないわよ(なーんで上手く着地しちゃったかな……私)」

「気にするな(羨ましい……マイ・マスターに抱き留めて貰えるなんて……)」

誰が誰とは言わないが……。

「うわわっ!?」

「おっとっと……大丈夫かい、ミーシャ君」

「ありがとう、アリオスト先輩♪」

誰が誰かは……分かるよな。
まぁ、それはともかく……。

俺達は進軍を開始した。
しかし……分かってはいたが、周囲が……リアルで見るとグロいんだよなぁ……。

壁にはカタカタと動く口……いや、あそこまで行くと歯と歯茎か?
なんかがあり、床自体は鉄というか、金属質の物体で出来ていた。
が、それ以外はヌチャグロそのもの。

金属床以外の床や、壁なんて……思い切り躍動しており、正に生物の内臓……モツだよモツ!!
しかも金属床以外の床には水状の液体が張られているし……。

なんかこう……タラの白子(その形状から、鱈菊と呼ばれる)みたいな形状をしたピンク色の何かとか……。
正直、色々キッツイわぁ……。

まぁ、そう思ってるのは俺だけじゃないんだろうが。

そんな環境の中、俺達は先に進んで行く……。
道中、ユングの群れが立ちはだかるが……正直、今の俺らの敵では無く、奴らをボロ雑巾にしながら進んで行く。

すると、またさっきの目玉のガーディアンが居たので破壊。
ちなみに、破壊したのはカーマイン。
案の定、地面に穴が開く。
皆も二回目なので慣れてはいないが、ポンポンと飛び込んで行く。

**********

フライシェベルグB2F

位置的に考えて、地下二階にたどり着いた俺達は、再び歩みを進める。
すると、右、左、中央という三つの分かれ道が現れた。

「道が分かれてますね……どうしましょう?」

「これだけの人数が居るんだ……本来ならそれぞれに分かれるのが効率的ではあるが……ここはゲヴェルの根城だからな……罠が無いとも限らん……」

皆に意見を求めるイリス……それに答える様に発言するのはウォレスだ。
確かに――そう考えるのが妥当だろうな。
戦力は13人だからな……分担したほうが効率が良い。

しかし、分かれ道という物がある場合、正解の道は一つのみで、後は偽物の道だというのがセオリーであるのは確かだな。

原作知識では、基本どの道を通ってもゲヴェルには辿り着けるんだがね。
とは言え、鍵のこともあるからな……。

「とりあえず、今は戦力を纏めておこう。ウォレスの言う様に、ここは敵の本拠地なんだし、肝心のゲヴェルまで、あとどのくらい掛かるか分からない……戦力の消耗を抑えつつ、慎重に進もう」

「了解、そうと決まれば行くとしますかね」

カーマインはウォレスの提案に頷き、慎重に進むことを提案。
俺達はそれに頷き、一つ一つ調べていくことに。

右と左を調べたら、道が途中で途切れており、先に進めなかった。
だが……。

「これ、なんだろう……?」

「なぁに、ルイセちゃん?……鍵穴みたいね?ねぇ、みんなぁ!!」

ルイセとティピが鍵穴を見付けたらしく、俺達は何らかの鍵があれば先に進めるのだと判断。
……いや、俺は知っていたんだけどさ?

「しかし、鍵など……来る途中にあったか?」

「可能性としては、残る中央の道に何かがあるかも知れないことだが……」

「とにかく、行ってみよう」

ジュリアの疑問に答えたのはポール。
そのポールにしても、最悪の場合は何も無いことを考慮しているのだろう。
あくまで可能性の話だ……と、いうことを言っていた。
ラルフが俺達を促す形で、中央の部屋へ……。

そこは広い空間だったのだが……。

「敵よ!みんな、がんばって!」

ティピの言う様に、敵が待ち構えていた。
右にはスケルトンの上位種であるスケルトンナイト。
左には魔法を操る中級悪魔……レッサーデーモン。

そして、中央の1番奥にはガーディアンの一種である一つ目の化け物が……ただ、今迄の壁の目玉とは違い、何やら触手みたいな器官を持っている。
こいつの名前は確か……ブラッディ・アイだったか?

「全員、散開して各個撃破!行くぞ!!」

「「「「「了解!!」」」」」

カーマインの指示に従い、俺達はそれぞれの敵に立ち向かっていく。

俺、ラルフは中央を――。

カーマイン、ゼノス、ジュリアは左――。

ウォレス、アリオスト、ポールは右に向かった――。

残った面子は魔法による援護。

「さて、行くか?」

「いつでも」

俺とラルフはそう言うと、一気に駆け出した。
中央はブラッディ・アイの他にも、レッサーデーモンとスケルトンナイトの混成部隊が陣取っているのだから――。

「だあああぁぁぁぁ!!」

「はあああぁぁぁぁ!!」

俺達は一陣の嵐となって敵を蹂躙していく……と。

ジュワァ……。

「危ねっ!?」

スケルトンナイトとレッサーデーモンを殲滅した所に、ブラッディ・アイがその触手から、溶解液を吐き出したのだ。

咄嗟に飛んで避けた俺は、そのままの勢いでブラッディ・アイを唐竹から真っ二つにしてやる。

すると、奴は仮面騎士と同じくドロドロに溶けてしまった……ん?

俺はブラッディ・アイの死骸である液体の中から、光り輝く何かを見つけ、それを手に取った。

「それは……鍵かな?」

「みたいだな……と、皆もケリが着いたみたいだな」

敵を蹴散らした皆が、こちらにやってくる。
全員が集まったのを見計らって、俺は鍵を見せた。

「これって……鍵?」

と、ティピが首を傾げた次の瞬間……壁の口が語り出す……あ、何人かびっくりしてる。

『…鍵…鍵…数…少ない…』

『…部屋…部屋…数…多い…』

『…鍵…鍵…使う…減る…』

『…部屋…部屋…仕掛け…楽…』

これだけ喋ると、壁の口は沈黙した……。

「ん〜?何の事かしら?」

「さっき、鍵穴がある部屋を見付けただろう?多分、この鍵はそこで使うんだろう……で、こっからは推測なんだが……似たような……或いはえげつない仕掛けがあって、そこで鍵を使うと先に進む際に、仕掛けの発動を阻止出来、楽に進めるのだろうさ」

「成る程な……」

俺の推測に、カーマインはウンウンと頷いている。
俺は更に続ける。

「ただし、『鍵の数が少なく、部屋の数が多い』と言っていることから、鍵穴はこの鍵の数……四つよりも多いってことだ」

「つまり、むやみやたらに鍵を使うのは控えた方が良いと?」

「使える場所じゃ使った方が良いが、慎重に考えようってことさ」

俺の推測に問い掛けたのはアリオスト……なので、更なる答えを提示する。

「……しかし、ゲヴェルは何を考えてるんだろうな?」

「どうしたんだよ?」

「この鍵や、この迷宮にしてもそうだが……明らかに俺たちの侵入を拒んでいる反面、俺たちを先に進ませようとしている様にも見える」

ウォレスは、ふと疑問を浮かべた。
ゼノスはその様子が気になり、ウォレスに尋ねた。
すると、ウォレスが疑問を口にした。

まぁ、その疑問は俺も考えた。
幾ら、仮面騎士が出入りするとは言え……この長過ぎる迷宮は不都合だし、侵入を防ぐ為ならワザワザ鍵を入手させはしないだろう。

「アレじゃない?あの仮面の騎士が鍵を無くした時に、合い鍵としてあの目玉の奴の中に鍵をしまっておいた……とか?」

「もしかしたら、そうかも知れないね」

とか、ミーシャやルイセが、のほほんと言うが……アレか?
玄関の植木鉢とかの下に、鍵を隠しておく様な感覚か?

………それは無い――とは、言えないんだよなぁ……。
原作なら『ゲームだからなぁ……』の一言で片付くんだが。

だから、案外ミーシャの言う内容が正しいのかも知れないし。
――単純に俺らを疲弊させて、最終的に自ら止めを刺す算段なのかも知れないし。

「いずれにせよ、此処で考えていても埒があかない。先に進もう……万が一、罠があるなら――その罠を打ち破って先に進めば良い……だろう?」

「ポールの言う通りだな……今はとにかく先に進もう」

ポールとカーマインの意見に従い、俺達は先に進む。
分かれ道まで戻り、右へ……。
右の部屋の鍵穴は一つ……左の部屋の鍵穴は二つ。

鍵を温存するためにも、右の部屋で鍵を使うことにしたのだ。
早速、床にある鍵穴に鍵を差し込み……回す。

ゴゴゴゴゴゴッ……と、地響きの様な音が鳴り……音が治まり、先に進んで行くと……無かった筈の通路が現れ、通路が繋がっていた。

「成る程……この金属の床がスライドして、通路を繋げたのね」

「此処から先にも、こういう仕掛けがある……ということですか」

リビエラとイリスが納得した様に頷いている。
更に慎重に歩みを進める。

道中、ユング、スケルトンナイト、レッサーデーモンが纏まって襲い掛かってくる場面が何回もあったが、ことごとく撃退して行った。

時には鍵を使って、無駄な戦いを避ける様にしてはいたが。

そして奥まで進み、再びあの目玉を潰し……通路を開く。
流石に三度目なので、最初の様に躊躇せず、皆は穴に飛び込んだ。

**********

フライシェベルグB3F
さて、とうとう地下三階相当にまで辿り着いた俺達だが……此処から先に待っていたのは、容赦の無い連戦だった。

レッサーデーモンや、スケルトンナイト……ユングがぞろぞろとお出迎え……揚句に仮面騎士まで出向いて来る始末。
まぁ、全部返り討ちなんだが。
ほぼ、一本道なので迷いはしなかったが……とにかく長くて、敵が多い!!
百や二百は裕に越えているだろう。

もしかしたら、四桁近いかも知れん。

「大体、半分位は進んで来たか……?」

「どうだかな……そう願いたいものだが……皆、大丈夫か?」

カーマインが確認する様に呟き、それに答えたウォレスが、皆の調子を伺う。

「うん、大丈夫だよ」

「まだまだ余裕ですよ」

「この程度でへこたれるかよ!」

「気を引き締めて行きましょう」

「まだまだこれからっ!てね」

「はい、大丈夫です」

「問題ありません」

「よぉし!アタシ、ファイト!!」

「問題ないさ……この程度はな」

「そうだな……この位なら問題ないな」

「と、まぁ……全員やる気十分……つーワケだな?」

ルイセ、アリオスト、ゼノス、ラルフ、リビエラ、カレン、イリス、ミーシャ、ポール、ジュリア、俺……の順番で意気込みを語る。
皆、まだまだ余力がありそうだな。

「よぉし!!気合い入れて行きましょ!!」

ティピに克を入れられ、再び俺達は歩みを進めた……。
やはり、敵が群れを成して襲い掛かってくるが、今更その程度で怯む俺達ではなく、一気に突き進んで行く……。

すると……。

「また通せんぼだよ!?」

ティピの言う通り、鉄柵の様な物で道が塞がれている。

「でも、床の印とか、怪しいよね?こっちに3つ。向こうに1つ……」

ルイセが試しに……と、床の仕掛けを一つ踏む。
すると、床の模様が赤く光った。

「この手のタイプの仕掛けは、印を全て踏まないと駄目なタイプだな……恐らく、俺達のうち三人が印を踏むと道が出来る……あっちの印と、こちらの印は連動しているだろうと推測して――」

「こちらの印を押している間に、残りのメンバーが向こうへ行き、向こうの印を押している間に、こちらに残ったメンバーが向こうに渡る……ってワケだね?」

「さっすが相棒!話が早くて助かるぜ」

俺の説明を聞いて、ラルフが補足を付ける。
流石は我が相棒!
伊達に一緒に遺跡に潜ってるワケじゃねぇ……ってな!

「とは言え、このパーティーのリーダーはカーマインだ。判断は任せるぜ?」

「分かった……」

俺はカーマインに判断を委ねる。
結果……こちらに残って印を踏むのは、俺、ルイセ、カレンとなった。

ルイセとカレンが残ったのは、1番接近戦が苦手だからという理由。
俺は、二人の護衛としてこちらに残った。
万が一、背後を奇襲された場合の措置だそうな。

まぁ、背後に気配は感じないから、大丈夫だとは思うがね。

俺達三人がそれぞれ床の印を踏むと、前方の鉄柵がスライドして開く。

「やったね☆後は向こうの印を踏むだけだよ!」

「しかし、案の定……待ち伏せか」

「皆、頼むぜ?印を踏んでいなければならない以上、俺達に出来るのは魔法での援護くらいなんだからな」

ティピは鉄柵が開いたことを喜んでいるが、向こうには無数のユングが待ち受けていた。

俺は皆に発破を掛ける意味を込めて、全てを任せた。
皆は頷いたり、「任せろっ!」と言ってくれたり、気合い十分だな。
うっし!任せたぜ!!

「どけっ!!」

「邪魔だっ!」

『グギャアッ!?』

こちらに向かってくるユングを、ラルフとカーマインが先頭に立ち、切り捨てる。

「下郎どもめっ!!」

「ぬぉりゃああぁぁ!」

「息の根止めてやるぜ!!」

「遅いっ!」

『グゲェ!!?』

それに続いて、ポール、ウォレス、ゼノス、ジュリアが切り込んで行く。
その様は、一陣の嵐の如く。
更にその後にアリオスト、ミーシャ、イリス、リビエラが続く形を取る。

アリオストは爆薬で敵を爆破しながら進んでいる。

「これだな……!」

カーマインが向こう側のスイッチを踏んだ。
と、同時にこちらの印の下からガチャリと音がした……どうやら向こう側のスイッチに切り替わったらしい。

「二人とも、もう動けるぞ!」

「うん!」

「わかりました!」

俺達も急いで向こう側に渡り、ユングの殲滅戦に移行する。
俺達が全員移動したのを見計らって、カーマインも戦線に復帰し、全員でユングを殲滅した……。

「もう敵はいないよね?」

「ああ……今までに輪を掛けて数が多かったが……」

ティピが周囲を確認し、それに頷いたのがカーマイン。

「まぁ、そろそろ終わりが近いってことだ」

「おい、それじゃあ……」

「うん、この先からゲヴェルの強い波動を感じる……」

俺の言葉に反応したゼノス……そして、ゼノスの疑問に答えたルイセ。
そう、ルイセの言う様に……この先にゲヴェルが居る。

「いよいよだな……」

「あぁ……」

「奴を倒しても、無事帰れる保証はねぇぜ?」

気を引き締めるウォレスに、頷くカーマイン。
そして、ウォレスは俺達に問う……生きて戻れる保証は無い……それでも良いのか……と。

「みんながいるから、怖くはありません」

カレンがみんながいるから……と、凛と答え……。

「俺は他人任せってのだけは、好かねぇんだ。どんな結果になっても、自分で決めたなら後悔はねぇよ」

ゼノスは後悔はしないと力強く答え……。

「全ての元凶を討つ……これが平和への一歩になると信じて……」

アリオストは決意を固め……。

「絶対に勝って、みんなで帰るんだ!!だから――頑張ろう!!」

希望を捨てずに、ミーシャが宣言し……。

「何気ない日常……それを謳歌する人々のためにも……」

強く輝く瞳の光……覚悟を決めたイリスが……。

「ゲヴェルと決着を付ける……奴の呪縛を打ち払う……この手で!!」

己が足で前へ進むため……過去を断ち切るため、覚悟を決めるポール……。

「バーンシュタインのみならず、大陸の平和までが掛かっているこの戦い……負けられないさ」

静かに……静かに闘志を燃やすジュリア……。

「此処まで来たら一蓮托生……最後まで付き合うわよ」

リビエラが不敵な笑みを浮かべ……。

「後悔はしない……これが僕の選んだ道だから。必ずゲヴェルを倒す……そして、皆が笑顔でいられる様に……」

ラルフは自分の意思を確認する様に、ゆっくり頷き……。

「グローシアンの責任として、ゲヴェルは絶対倒さなきゃ!」

ルイセは過去のグローシアンの責任は、現在のグローシアンの自分が果たすと誓い……。

「俺はグローシアン云々よりも、皆を傷付けて来たゲヴェルを許せねぇ……大陸の平和云々よりも、仲間や家族、ダチを苦しめた奴を許せねぇ……そういう皆が幸せに笑っていられる為に戦う……っていう個人的な理由だが……だからこそ、悔いなんか無いぜ!最後まで、俺は俺の信念って奴を貫くだけさ」

俺は俺の無理を……筋を通すことを告げた……。
皆が皆、一様に負い目なんか無い……この戦いに終止符を討つ。
そこに躊躇いなどは無かった……。

「よぉし!いくわよ、みんな!!」

ティピの声が後押しとなり、俺達はゲヴェルの待ち構える場所へと歩を進めたのだった……。

***********

「……とうとうここまで来たか……」

そこは、酷く開けた場所……城で言うなら、玉座というところか。

そこで、ゲヴェルは待ち構えていた……。

「お前の悪事もここまでだぜ」

ウォレスのその言葉を皮切りに、俺達は臨戦体勢を取る。

「……この地下の城は我が肉体から造られている。つまり、お前たちはこの中から逃げられはしないのだ」

「成る程……道理で随分グロいと思ったぜ」

ゲヴェルの告げた言葉に、ゼノスが答えた。
やはりゼノスもグロいと思ってたらしい。

「逃げられないのは互いに同じです。あなたはわたしたちがいるだけで苦しいはずでしょう?」

「しかも、皆既日食のグローシアンが二人……お前さんにとっては、苦しいを通り越して吐き気がするんじゃないか?」

厳かに事実を口にするルイセと、不敵に笑ってやる俺……そんな俺達を見て、ゲヴェルは苦々しげな声で吐き捨てた。

「忌々しいグローシアンどもだな……だが、いずれ分かるだろう。自分たちの非力さがな!!」

ゲヴェルは自信満々に告げるが……その程度で俺達が怯むと思うか?

「悲しい存在ですね……私たちがその呪縛を解き放ってあげる」

「もっとも、優しくってわけには……いかないけどね!」

「此処で決着を着ける!!」

「貴様を野放しにしてはおけん!」

「どっちにしろ、死ぬのはお前の方だ!」

「絶対負けない!!」

「必ず討ち果たします」

「人々の未来のためにも」

「お前を倒す……僕の全てを賭けて」

カレン、リビエラ、ポール、ジュリア、ゼノス、ミーシャ、イリス、アリオスト、ラルフ……それぞれにタンカを切る。
ゲヴェルに表情があれば、苦々しい顔をしたことだろう。

「いくぞ!みんな!!」

俺達が敵に向かって駆けるのと、奴がユングを大量に生み出すのは……ほぼ同時だった。
奴はピンク色をした、円筒状の幕の様な物からユングを生み出している。

此処は原作通りだが、その数がまるで違う……ハッキリ言って10や20以上……そこから順次ユングを生み出している。

「チッ、欝陶しい!!」

俺は群がるユングを薙ぎ払う。
そして、マジックガトリング………それだけでかなりの数を屠ることが出来たが……。

「無駄だ!無駄、無駄ァ!!!」

「復活したぁっ!?」

「ここが我が体内であることを忘れるなよ!」

ゲヴェルがどこぞのオラオラ漫画のラスボスみたいな台詞を吐き、順次ユングを生み出していく……こっちはこっちで、皆が奮闘しているが……。

「このままじゃ、キリがねぇな……」

「手っ取り早く、本体を叩いた方がいいかもな!」

ウォレスの言う様に、今のペースでユングを生み出されてたらキリが無い。
ゼノスの言う通り、本体を狙った方が早いか……ならば。

「ラルフ!お前が行け!雑魚は俺が引き受けてやる!!」

俺はラルフに群がるユングに向かい、比較的手加減したオーラバスターを叩き込む。
それだけでも、連中を消し炭にするには十分!!
そして……そこに道が出来る!!
俺自ら相手しても良いが……やはり、ケジメを着けるならあの三人以外には無い。
カーマインとポールは、まだ時間が掛かりそうだしな。

「分かった!!」

ラルフは駆けていく……そして辿り着いた。

「ゲヴェルーーッ!!」

「ヌゥ……!!?」

ラルフのレーヴァテインがゲヴェルに襲い掛かる……ゲヴェルは両腕をクロスすることで何とかその一撃を防いだ様だ……と!

「テメェらの相手は俺達だってんだよっ!!」

俺は再びユング達に切り掛かって行く……。
さて、比較的手加減少なめで行くからな……覚悟しやがれよっ!!

**********


僕はゲヴェルと対峙している。
皆はユングと戦っている……。
実力ではこちらが圧倒的に上だけど、数だけは向こうが上……でも、ゲヴェルを倒せば……!!

「我を倒すことに何の迷いもないようだな」

「何を言っている!」

「ここに2人……いや、3人か。我と命を共有する者たちがいる……。誰だか分かるか?」

ゲヴェルの言葉に、僕はハッとする……。
それは……。

「考えていなかったのか?我が私兵は、すべからく我が能力の波動を受けて生きている……我を倒すということは、命の供給源を絶つことだ!」

「う、ウソよ、そんなの!脅しに決まってるわ!!」

ゲヴェルが告げた言葉は、少なからず皆にショックを与えた様だ……見るからに動きが鈍っている……シオンとカーマイン……それにポール君は全く動きが変わらないけれど……。

僕らにゲヴェルとの繋がりがあるのは理解していた……けれど、皆はまさか命に関しても一蓮托生とは思わなかったのだろう……最初から『識っていた』シオンや、感づいていたであろうカーマインと彼は、あらかじめ覚悟を決めていたのかも……。

「そうかな?そいつは我に操られたことがなかったか?我が声や、他の私兵の声を聞いたことがなかったか?それが、我と精神的な繋がりがあるという証拠だと思わんか?」

「それが……お兄ちゃんたちの夢になって……」

ティピちゃんの否定を更に否定したゲヴェルの言葉……。
ゲヴェルがカーマインを指し示した時、カーマインの表情が歪んだことから考えて、カーマインは操られたことがあるんだろう……。

ルイセちゃんの言う通り、夢という形になって僕達はゲヴェルと繋がっていたのだろう……。

「それだけではない。我を倒した後、この迷宮が無事で済むかは、我にも分からん!貴様たちが生きて出られる保証はないのだ!!それでも我を倒せるかっ!?」

僕の覚悟は決まっている……だが、あの二人は……。

「躊躇うな……ラルフ」

「っ!?カーマイン……」

「俺の覚悟も決まっている……お前と同じくな」

ユングの群れを抜けて、カーマインが僕の横に並ぶ……。

「一度拾った命だ……友のため……民のため……仲間のため……そして、こんな私を息子と呼んでくれる母のため……私もこの命は惜しまん!!」

同じくポール君もやってきて、僕の横に並ぶ……。

「ふん……そこの出来損ない2人はともかく、貴様にまで牙を向かれるとはな………リシャール!!」

「なっ!?」

ゲヴェルが彼の……ポール君の正体をばらしてしまう。
それを知らなかった皆は驚愕の表情を表す。
……ちなみに、ジュリアさんが1番驚いてたな……。
けれど……ポール君は不敵に笑って言った……。

「リシャールは死んださ……今ここに居るのは、死にぞこなった罪人……ただの道化。だが、道化になろうとも、貴様だけは討つ……例えこの命、ここで尽き果てようとも!!」

彼の覚悟も伝わった……なら、僕の答えも決まっている……。

「僕はさっき言った筈だ。ゲヴェル……お前を倒すと……それが僕の、僕達の答えだっ!!!」

僕は剣をゲヴェルに突き付けて吠える!!

「……コイツらが覚悟を決めてるんなら、俺達にだって迷いはねぇよ」

「まっ、そういうことだ!!」

「お兄ちゃん……」

ウォレスさんとゼノスさんは、僕達を後押ししてくれる……ルイセちゃんは、カーマインが心配みたいだけど……。

「そうよ!アタシ達は一心同体だからね!死ぬも生きるも一緒なんだから!!」

「俺としては、皆で生き残る方に賭けるけどな?方法だって無いわけじゃないし……なっ!!」

ティピちゃんが高らかに告げ、それに皆が頷く。
シオンはシオンで、僕らが助かる方法がある……と言ってから、ニヤリと笑いながら、ユングを一掃している……凄いな……その動きが。
まるで竜巻に巻き込まれたかの様に、あの周囲のユングがちぎれ飛んで行く……。
辛うじて見える程度だけど……今の僕ではあそこまでの動きは出来ない……多分、他の皆には見えないんじゃなかろうか……。

「ええい、虫酸が走るわ!!ならば望み通り殺してやる!!」

「やってみろ!!行くよ、二人とも!!」

「「ああっ!!」」

僕達三人は、一斉にゲヴェルに襲い掛かる。

「せえぇぇい!!」

ガキイィィィィンッ!!!

金属音が響き渡る……ポール君の剣閃を、ゲヴェルは右手で受け止め……。

「貴様ごときが……造物主である我に敵うとでも……「よそ見をするなよ」ヌグッ……!?」

ガキイィィィィン!!!

再び金属音……今度は左手でカーマインの攻撃を防いでいる……。
あの腕……保養所の時より頑強になっている!?
―――だけど!!

「ええいっ!!欝陶しいわっ!!」

「ぐっ……!」

「チィッ……!」

ポール君とカーマインが弾き飛ばされる……今だ!!

僕は全身に気を纏う……そして、僕に出せる限りの全力で――ゲヴェルに肉薄する。

「な、何ぃ!?」

「これが僕の……全力だあぁぁぁぁぁっ!!!」

ズシャアアァァァァァァ!!!

「ぬごぉぉぁあぁぁぁぁっ!!?」

ゲヴェルは僕の剣閃を防ごうと、再び腕をクロスさせたが……今度は止められず、両腕を両断した後、肩から腰に掛けて大きな切り傷を与えた。
鮮血がほとばしる……間違いなく致命傷だ。
僕は勝利を確信した。
カーマインとポール君の助力もあるし、仮に一対一でも勝てる……という確信を、剣を合わせたことで改めて理解した。


だが……奴は……。

「まだだぁっ!!」

突如、奴から強烈な波動がほとばしり、両断した腕……そして周囲に居たユングを吸い寄せ始めた……吸収している……のかっ!?

「ぬぅおおおぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

奴は雄叫びと共にまばゆい光に包まれ、中から現れたのは……。

「う、ウソ……」

「なんと巨大な……」

ミーシャちゃんやジュリアさんが、愕然としている……。
無理もないな……目の前に居たのは、ゲヴェルだけど……大きさが違う。

さっきまでも大きかったケド……その大きさはせいぜい5m前後……だが今はその倍以上……両腕や傷も再生し、その腕は、人間などたやすく握り潰せるくらいに巨大だ……いつぞや見た、水晶鉱山の人型と同じサイズに………だが、変化したのは見た目だけではない……強くなっているんだ。

恐らく、一対一で戦っても勝てる……と、断言出来ない程に。

「忌々しいグローシアンめ!あの時を思い出すわっ!!」

「あの時?」

「我を水晶に封じたあの時!あの時も5人のグローシアンが、自らの命を水晶にして我を封じた!!周囲の水晶からは、我を苦しめるグローシュの波動!!あの身動き出来ぬ水晶の中で、永遠とも思われる時を1人過ごした………もう二度とあの中には戻らぬっ!!!」

「!カーマイン、避けろ!!」

「なっ、がああぁぁぁぁ!?」

ドゴオォォォォォン……。

奴の剛腕が、カーマインに迫る……あの大きさなのに、速さが変わらない……!
避けるのが困難だと悟ったカーマインは、自身の武器を盾に防いだが、敢なく武器を砕かれ、そのまま壁に叩き付けられた。

「おのれっ!!」

「くわあぁぁぁぁっ!!!」

「ぐっ、ぬあぁぁぁ!!?」

ポール君が切り掛かるが、ゲヴェルは口から波動のブレスを吐いて迎撃……ポール君を吹き飛ばす。

……二人とも、何とか立ち上がったが……フラフラだ……カーマインに至っては武器まで破壊された……。

「ゲヴェルーーーッ!!」

「ぬうぅぅんっ!!!」

ゲヴェルの拳と、僕の気を纏ったレーヴァテインがぶつかり合う………くっ、何て力だ……僕の身体と剣は気で強化してあるのに……互角……いや、パワーでは負けている!!
パワーで勝てないなら……受け流す!!

僕は真正面から受けるのでは無く、支点をずらすことによってゲヴェルの攻撃を受け流して行く……。

「破壊の力よ!!ソウルフォース!!」

「ちゃんと制御出来ますように……マジックフェアリー!!」

「覚悟してください!ホーリーライト!!」

「魔力よ!マジックガトリング!!」

「打ち砕け!サンダー!!」

「行きます。ファイアーボール」

そうこうしている間にも、ルイセちゃんの光の槍が、ミーシャちゃんの魔法の妖精が、カレンさんの聖なる十字架が、アリオストさんの魔法の矢群が、リビエラさんの雷の咆哮が、イリスさんの炎の球体が――ゲヴェルに襲い掛かる。

「ぐがあぁぁ……おのれぇ!!!」

!?ゲヴェルの口にエネルギーが集約して……マズイッ!?

「皆!!離れろ!!」

僕らは咄嗟に離れたが……ルイセちゃんが!?

「ルイセッ!!?」

カーマインがルイセちゃんを庇った……!?
駄目だ……間に合わない!!?

「グガアアアァァァァァ!!」

咆哮と共に放たれたのは、先程のブレスなど比較にならない程のエネルギーの奔流……ウォレスさんのオーラバスターすら飲み込む程の、巨大なエネルギー波だった……。

**********


ゲヴェルに殴り飛ばされた俺とポールは、シオンに直ぐさまグローヒーリングを掛けて貰い、ダメージを回復した。

回復したのは良いが……。

「手が――出せない……」

そう、ラルフとゲヴェルは互角に渡り合っている……そのレベルが余りにも高過ぎて、手が出せないのだ。

速い……ラルフはそのスピードと技でゲヴェルを撹乱している。
一方のゲヴェルも決して引けを取らず、スピードや技では及ばないが、パワーではラルフを上回っている。
あれだけの体格差があるのだから、当然とも言えるが……。

と、ルイセ達が魔法を放った……それを喰らって、奴は明らかなダメージを受ける。

「……手が出ないか……なら、魔法を出してみるか!!」

「そうだな……せめて援護くらいは!」

俺とポールは詠唱を始め……。

「皆!!離れろ!!」

突如、ラルフの声が上がったかと思うと、ゲヴェルから凄まじい勢いでエネルギーが高まるのを感じる……アレは――ヤバイ!!?

俺は咄嗟に避けようとして……見てしまった。

「ルイセッ!!?」

ルイセが逃げ遅れていたのを……くっ、あのままでは……!!

「ルイセ、早く!!」

「お兄ちゃん!?」

駄目だ……間に合わない!!?
俺は咄嗟にルイセを胸の中に抱き包んだ……せめてルイセだけでも……この身体を盾にしてでも――!!

「だ、ダメだよお兄ちゃん!!私のことは良いから――!?」

「……お前を見捨てる位なら――それこそ、死んだほうがマシだ……」

「……お兄、ちゃん……」

ルイセが元に戻った時――俺は心底ホッとした。
そして、誓ったんだ……もう、ルイセを傷付けさせやしないって――。

――改めて思い知ったから……俺は、ルイセのことを――。

「グガアアアァァァァァ!!」

奴の咆哮と共に放たれたソレは、圧倒的な熱量と共に襲い掛かって来た……俺は最近何とか使える様になった、気を纏う。
ラルフやシオンの様に上手くは無いが、せめて盾になるくらいの強度は―――。

「『極光』」

届く筈の熱量が届かず、俺の耳にそんな言葉が届く……そして、不思議に思って振り向けば……。

「やれやれ……チート野郎の面目躍如って所かね?」

「シオン……」

「先生……」

俺達を背に庇い、優しい光を放つエネルギー波動をその手の平から放ち、ゲヴェルのエネルギー波動を迎え撃つ男の姿が――そこにはあった……。

***********


カーマインとポールを回復させた後、俺は援護に徹すると決めた。
ここで奴を倒すのは、恐らく簡単だろう……だが、ソレは皆に任せた……ラルフなら負けないと信じていたし、他の皆の援護で十分フルボッコの筈……何より、決着はラルフ達に着けさせてやりたかったからな――。

とは言え、俺自身ゲヴェルに思うところが無いか……と、聞かれたら嘘になる。

……ゼメキス村長の息子さんや、近隣の村人達……彼らの犠牲は間接的にはコイツにも原因がある。
むしろ元凶はコイツだ。

赤の他人ではあるが……知ってしまった以上、許せない気持ちはある。
まして、『識っていながら』見捨ててしまった俺としては……せめて俺の手で元凶を……という気持ちだった。

しかし、ラルフ達の覚悟を聞いた以上……それをするのは彼らにこそ相応しい……そう思ったんだ。

だが、それも……。

「グガアアアァァァァァ!!」

仲間の危機を見逃してまで、遵守したい気持ちではないがな――!!

俺は瞬時にカーマイン達の前に立ちはだかり、奴のごん太エネルギー波に立ち向かう。

……オーラバスターでも打ち勝つことは可能だが……奴の弱点は魔法……ならば!!
禁術クラス――行くかっ!!

『高速詠唱』、『詠唱短縮』のスキルで、瞬時に紡ぎ……右手の平を奴に向け……。

「『極光』」

手の平に展開された魔法陣から放った……。
それはエメラルドグリーンの輝きを放つ砲撃……。

『極光』

魔法、ソウルフォースのアレンジ魔法。
発想は『三本の矢も束ねれば……』という所から来ており、色々弄った結果、三本の光の槍を降らせるのでは無く、無数の光の槍を束ね、放つという……所謂『収束砲撃魔法』的な何かへと変貌した魔法。
『エネルギーのベクトル』は、ソウルフォースと全く同じなので、その破壊力は凄まじく、全力で放てば文字通り星すらも破壊出来る代物。
単純な破壊力なら、俺の魔法の中でもピカ一。
威力は込める魔力量に比例する……単純な魔力消費量が馬鹿みたいなんで、実質俺専用魔法だが……ルイセなら、全力を出せばなんとか使えるかも知れない。
まぁ、山を吹き飛ばすのがせいぜいかもしれないが……。

ちなみに、両手で放つ『大極光』なんてのもあるが……こっちは使う機会は無いだろうな……強力過ぎるから。

(ちなみに、後にこの極光をベースにして、一般人でも扱える様に改良された砲撃魔法『ブラスト』が登場することになるが、それは甚だ余談である)

「やれやれ……チート野郎の面目躍如って所かね?」

「シオン……」

「先生……」

俺が軽口を叩きながら、後ろをちらりと見遣ると、呆然とした表情でこちらを伺うカーマインとルイセが。

「さて……一気に押し返すぜ!!ハアアァァァァッ!!」

拮抗『させていた』極光に更に魔力を込める……グングンと奴のエネルギー波を押し返し……そして。

「ぬがあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

ゴアアァァァァァァァァッ―――――!!!

ゲヴェルは極光に呑まれ――光が過ぎ去った後に表れたのは、ズタボロになったゲヴェル………上半身の三分の一が吹き飛び、銀の外殻は無惨にもボロボロ――。
血液だか何だか分からない液体を身体中から吹き出している。

何とか避けたのか……かなり手加減したとは言え、直撃してれば奴の上半身位なら、消し飛ばしていた筈なんだがな……。
しかも、あんな状態なのに生きているのは執念なのか……それとも、急所を外したのか……だが。

「グ、グローシアンとは言え……こんな……」

「良いのか?……よそ見して」

「なっ………!?」

満身創痍のゲヴェルが見たのは、衝撃から立ち直った……。

「でりゃああぁぁぁぁ!!」

ウォレスのレイスラッシャーによる投擲攻撃と……。

「死にやがれえぇぇぇっ!!」

ゼノスの渾身の一撃と……。

「とどめだっ!!」

ジュリアの絶対なる一撃と……。

「消え去れっ!!!」

ポールの疾風怒涛の剣……。
そして………。

「これで……終わりだあぁぁぁぁっ!!!」

ラルフの全霊の一撃が……ゲヴェルに炸裂した。

「ぬぐああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」

ズシュウウゥゥゥゥ!!!!

奴は縦横無尽に切り裂かれ、身体中から液体を飛び散らせて………。

「まさか…まさか…お前たちごときに……!」

俺達に怨嗟の念をぶつけながら………。

「ぐうわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」

断末魔の叫びを上げた奴の身体は、グズグズに溶けて行き……そして消えて行った……。



ゲヴェルか……コイツはコイツなりに運命って奴に抗っていたのかも知れないな……。
孤独を嫌い、暗闇に閉じ込められるのを恐れて……。

もし、コイツが人類に害を為す様な存在で無ければ……。
或いは………いや、よそう。
仮定に意味は無い。



「せめて眠れ……俺はお前を忘れない……」

行き先は贔屓目に見ても地獄だろうが……な。

「終わったな……」

カーマインがゆっくりと息を吐く。

「長かった……だがこれでやっと終わる」

それはウォレスも同様で……。

「とりあえず、外に出ねぇか?こんな辛気臭い所に居たら、気が滅入っちまうぜ」

「うん、賛成!それにここが崩れたら大変だしね?」

ゼノスの提案にティピが賛成を示した。
まぁ、ティピの言う様に直ぐ崩れたりはしないと思うが……。

あの仮面騎士も、ゲヴェルの波動を遮断されても、直ぐには死ななかった様に……ゲヴェルの細胞で作られたこの城もまた、直ぐには消えないだろう。

ゼノスの提案に関しては俺達も賛成で、俺達は来た道を戻ることに。

途中、さっきまでは無かった移動用の穴を発見……恐らく、ゲヴェルが死んだことで出来たそこに、俺達は飛び込んだ。

皆は怪しんでいたが、俺が先に飛び込み、入口に繋がっていたことを確認し、皆にそのことを告げたら、皆も飛び込んだワケで……。

フライシェベルグから外に出た俺達は、木漏れ日を確認した……あれだけ淀んでいた天気が、晴れ上がっていたのだ。

まるで、俺達の勝利を祝福してくれているかの様……なんて、それは流石にご都合過ぎかね。

「う〜ん、いい天気♪アタシ達、勝ったんだね?」

「そうだな。ルイセとシオンの能力があったしな」

「違うよ。みんなが最後まであきらめなかったから、勝てたんだよ」

「そういうことだ……力を合わせたから、こうして皆で生きて戻れたんだ……だよな、カーマイン?」

ティピは晴れ上がった天気を見てご満悦、そして勝ったことを誰にともなく聞いた。
答えたのはウォレス……ウォレスは俺達のおかげだと言うが、それは違うと言うルイセと俺。

実際、俺だけでも勝てたのかも知れない……もっと早くに手を打てたかも知れない……だけど、終わった今となっては、これはこれで良かったんだと思う。

皆の力で脅威に打ち勝ったという事実……。

カーマインとラルフ……そしてポール。
この三人には、これから先の可能性が生まれた……。

……勿論、俺の選択によって失われた命についても、決して忘れはしないが……。

「ああ……みんなの力の勝利だな」

「ああ、何だかいいわよねぇ、こういうのって!」

俺の問いに答えたカーマインは、清々しい笑顔を浮かべている……それを見たティピもまた、同様だ。

「ま、これで世の中も平和になるってもんだな。これからどうする?」

「う〜んと……あっ!」

ウォレスもやり切った表情を浮かべている。
そんなウォレスの問いに答えようとして、何かに気付いたティピが声をあげる。

すると、向こうから兵を数名引き連れたインペリアル・ナイト……ライエルがやってきた。

「ん?どうしたのだ、こんなところで……まさか、もう……」

「ああ、ゲヴェルは打ち倒したよ」

「遅かったか……」

ライエルが怪訝な顔で尋ねて来たので、ポールがそれに答えた。
ライエルは困った様な表情をして溜め息一つ。

「もしや……援軍か?」

「ああ……加勢は多い方がいいのではと思い、やってきたのだが、どうやら遅かったようだな……」

「もう少し早く来てくれればな……とも思うが。大方、王都に攻め込む敵を一掃するのに時間を喰っちまったんだろう?仕方ないさ」

「すまない……」

ジュリアの呟きに、若干疲れ気味に答えるライエル。
俺はそんなライエルを労う様に言う。
実際、ゲヴェルの本拠地なのに仮面騎士が予想以上に少なかったしな。
王都方面にも、幾つかの気配を感じたし……。
それでも謝るライエルは真面目なんだな……と思うよ。

「ところで、これからみなさんはどうなされますか?」

そんなライエルの問いに皆が答える。

「お父さんのことが気になるので、保養施設に行った後、お父さんと一緒に家に帰ることになると思います」

カレンはベルガーさんを迎えに行った後、実家に戻るようだ。

「俺もカレンに付き添いたいが……俺は騎士だからな。カーマインたちと一緒にローランディアに戻ることになるだろうな」

ゼノスはカーマイン達とローランディアへ……か。
休暇が出たら家に帰るくらいはしてやれよ?

「戦争も終わって、ゲヴェルも倒したんだ……また学院に戻って、フェザリアンを納得させる方法を考えなきゃね」

アリオストは学院に戻ってフェザリアンとの融和を模索する……か。

「私も学院に戻ります。仕事も溜まっていますので」

「アタシも戻るよ。卒業を目指して、頑張るんだ!!早くルイセちゃんに追い付きたいし」

イリス、ミーシャの二人も学院に戻るらしい。
まぁ……今の二人なら大丈夫だろう。

「私はシオンの下で働いていたからね……これからもそうするつもりよ。だから、バーンシュタインに行くことになるのかな?姉さんたちも居るしね」

リビエラは俺達と来るらしい……いや、もうお前は自由なんだぞ?
無理に働く必要は……え、無理じゃない?
いや、まぁ……お前が良いなら良いんだが……。

「私はナイツだからな……全てが終わったからには、再びナイトとして職務に励むとしよう」

ジュリアはインペリアル・ナイツに戻り、民のため、平和のために頑張るそうな……俺も頑張らなきゃな!

「私もだな……もっとも、私は試験を受けなければならないが……」

ポールもナイツとして頑張ると……まぁ、ポールなら大丈夫だろう。
何しろ、一度受かってるのだから。

「俺もだなぁ……まぁ、父上との約束もあるし、何よりやらなきゃならないこともあるからな……国に戻るさ」

俺もポール同様、試験があるし……見聞の旅も十分だ。
何より、ボスヒゲの動向も気になるからな……また色々暗躍しつつ、世のため平和のため……頑張りますか!!

「僕も国に戻るよ。随分長い間、旅に出ていたからね……そろそろ商人として家を継ぐ――くらいはしなきゃ、父上から大目玉を喰らいそうだから」

ラルフも国に戻るらしい……とりあえず、もうラルフが操られることは無いからな。
一先ず安心だな。

「では、私も戻るとしよう。いろいろと世話になった。また会おう、ローランディア王国の騎士よ!」

そう言って、ライエルと兵士達が引き上げて行く……俺達もそれに続いてそれぞれ……っと、そうだ。

俺はカーマインの所に戻って……。

「これをやるよ」

一つの指輪を渡した。

「……これは?」

「こんなこともあろうかと、作り上げたお守りだよ……肌身離さず持ってろよ?――時間稼ぎにしかならないが……無いよりはマシだからな」

「何を言って………いや、分かった。ありがたく受け取らせて貰う」

俺はカーマインに渡した指輪について、ごまかして渡した。
ルイセの居る場所で死刑宣告はキツイ……と、思ったからだ。
カーマインと……それからウォレスは何かを悟った様だが……幸い、ルイセとティピは気付くことは無かった。

「そういえば言って無かったな………ありがとうシオン。あんたのおかげで、俺もルイセも助かったんだ……」

「ありがとう、先生……」

「……精進しろよ二人とも。互いに『大切な相手』を守れる様にな?」

二人は俺に礼を言うが、俺はお茶を濁す意味でニヤリと告げてやる。
……真っ直ぐな感謝の気持ちが、小恥ずかしかったからじゃないぞ?
……多分。

「おまっ!?なに言ってっ……!?」

「そそ、そうだよ先生!?」

「クックックッ……俺は『互いに大切な相手』と、言っただけで、それがカーマインとルイセのこと……とは言ってないんだが……おや?顔を真っ赤にして……どうしたのかにゃ〜〜?」

真っ赤になりながら言い訳を紡ごうとする二人に、止めの一言。
二人とも言葉に詰まった様だ……まぁ、これ以上は可哀相だから止めとくかね。
それにラルフとポールにも、これを渡したいしね?

「そんじゃ、俺も帰るわ……またな!」

俺は笑いながらも華麗に我が家へと……。

「……たまには母さんに顔を出して安心させてやれよ……コマシ野郎!!」

帰ろうとしてステーーンッ!と、ズッコケた俺は悪くない筈だ……多分。

**********


とりあえず、からかわれた意趣返しは出来たな。

「コマシてへんわい!!人聞きの悪いこと言うなやっ!?」

そう言って立ち上がりながらも、最後には笑って帰った辺り、悪意が無いことには気付いたのだろうな。
そういう機微には何故か、敏感な男だからな……アイツは。
自分のこととなると、そうでも無いらしいが。

「アタシたちも帰りましょ?」

「お母さんも心配してるしね!」

「よっしゃ、帰るか!」

――こうして、俺達は遂にゲヴェルを倒し、帰路についた……。
帰った俺達を待っていたのは、ゲヴェルとの戦いを後世の為に書へ記すという――任務という名のカンヅメだったりするのだが……それはまた、別の話である……。
俺の手には二つの指輪がある……奇跡を起こす秘石が嵌まった指輪と、シオンから受け取った指輪……。
恐らく、この指輪には何らかの意味があるのだろう……。
俺がゲヴェルによって生み出されたことに関する、何らかの意味が……。



**********

おまけif

自重しないシオン

「どうやら、鍵は開いたらしいな……」

「って、まさかこんなところに入るのっ!?」

「……アタシ、入りたくないなぁ……」

ポールがあのガーディアンが鍵だったことを確信して、言葉を発するが……リビエラはまさかの事態に悲鳴じみた声を上げ、ミーシャは苦笑いしながら穴を見つめていた……。
無論、女性陣は嫌悪感をあらわにしていたが、俺らだって好き好んで入りたくは無い。

例えるなら、ゴ○ラやガ○ラのケツの穴に飛び込む様な心境だと思ってくれたら分かるかも知れん……いや、分からんか。
とにかく、俺を含めて皆は些か躊躇してしまう。

……よし、ぶち抜こう。

「みんな、下がってろ……この床をぶち抜くから」

「ぶ、ぶち抜くって……ちょっとシオン?」

リビエラが何か言ってくるが、それはスルーし、気を高める。
……ついでだし、ゲヴェルも纏めてぶち抜くか。

「な、なに……この空気……」

「まるで……大気が震えてるかのような……!?」

俺は気の炎をその身に纏い、更にバチバチと電気の様なエネルギーがスパークする……なんか、ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

とか、ビシビシッ!!という地割れみたいな音が聞こえるが……気のせいだ!!

「シ、シオン!?これってマズいんじゃ……ぐぅ、何て圧力……近付けない……」

「くっ……み、みんな!ここはヤバイ……急いで避難を……!!」

フハハハハハ!!み・な・ぎ・っ・て・キターーー!!

「全力!!全壊!!!オォォラァッ!バスタアァァァァァァ!!!!」

ゴアヒュウアアアァァァァーーッ!!!!!

…………カッ!!

…………。

………。

……。

……その日、一つの星が消え去った。
それは運命の悪戯なのか、はたまた絶対なる事象だったのか……それは分からないが。

一つの世界が終わった……それは動かしようの無い事実である。

BAD END1漲るシオンさん
***********

あとがき

皆さんお久しぶりです。
m(__)m

ようやくゲヴェル編が終わりました。
些か駆け足感は否めませんが……。

次回から、シオン視点中心の日常話を少し、それからラスボス編になります。
ようやくグロラン編に終わりが見えて来ました。
こんな駄作ですが、皆様にお付き合い戴けたら幸いです。

それではm(__)m




[7317] 第119話―受けた褒美と、御前試合と、動き出すシオン―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:ada94faa
Date: 2011/12/20 07:56


「さて……帰って来たぜ我が故郷!!」

「そうだね……僕達が旅に出てから随分経ってるし……任務とかで来ることはあったけど、こうして帰郷すると改めて帰って来たっ!って、感じがするねぇ〜……」

身体全身を使ってダーッ!と、アントニオな表現をする俺と、しみじみと呟きながらウンウンと頷くラルフ。

俺達はカーマイン達と別れた後、その足でバーンシュタインの王都まで帰って来た。
ラルフの言う様に、任務なんかでは何度か戻って来てはいるが、やはりこうして帰ってくると感覚的に違う。

まぁ、仕事でのそれは帰郷とは言えんし、戻って来てもいっつもバタバタしていたからな。
やむを得ないわな。

「さて、俺は陛下に事の顛末を報告しに行かねばならん……お前たちも来るのだろう?」

「勿論。ただ、ラルフとポールに用事があってな……ライエルとジュリア……それにリビエラは先に行っててくれないか?直ぐに俺達も行くからさ」

「分かった。では、先に行っているぞ?」

「早く来てよね?」

俺達に確認を取ってくるライエルに、俺はラルフ達に用があるから先に行っててくれと頼む。
了承したジュリアとリビエラは、ライエルと共に城の方に向かって行った……。

「さて……我々に用事とは何なんだ?」

「ああ……二人にこれを渡そうと思ってな?」

ポールの疑問に答え、二人にある装飾品を渡す。

「これは指輪……?」

「私のは腕輪か?」

ラルフに渡したのは指輪……カーマインに渡した指輪と同じ形であり、あちらは銀で、こちらは金をあしらった仕様である。

ポールに渡したのは腕輪……エリオット陛下が着けている腕輪の色違い。
あちらが赤を主体にした色に対して、こちらは青を主体にした色をしている。

「カーマインにも渡しておいたんだが、それは二人にとっては重要な意味を持つアイテムだ。『波動の指輪』と『波動の腕輪』って言う名を付けた。分かりやすいネーミングだろう?」

俺がそのアイテムの名前を言うと、二人はハッとした表情になった。
俺は説明を続ける。

「効果は『波動』の消費量の減少……体内の波動をより効率的に循環させる、言わば補助装置だな」

ゲヴェルを倒したことにより、カーマインを含めた三人が操られることは無くなったが、変わりにその寿命を縮める結果となった。
……確か、原作だと約十日辺りでカーマインとポール――リシャールには限界が来たんだったよな……。
ならば『こんなこともあろうかと』、延命装置として作っておいたのである。

「――これを着けていれば、少なくとも一月は普段通りに生活出来る筈だ……あくまで予測だから、前後する可能性は否めないが」

「一月か――それを越えれば我々は消え行く定めか……仮にこれを着けなければどうなる?」

「憶測だが……まぁ、保って十日……って所だろうな。これも、グローシアンが側に居たお前らだからこその数値だったりするけどな……」

俺はアイテムの効能を説明……ポールはアイテムを装着しなかった場合の話を聞いて来たので、憶測として答える。

ルイセが側に居たカーマイン……俺が側に居たラルフ……また、俺のグローシュ波動は、常時垂れ流している状態でもバーンシュタイン王都(城、我が家を含む)を包み込む程度には強大だったので、リシャールもまた同じ様にグローシュ波動によって、ゲヴェルの『命の供給』を最低限にしか受け取れない形となっていた。

結果としてグローシュに対してある程度の耐性が出来、ゲヴェルの波動の最小限の運用でも生活に支障をきたすことが無くなったのである。

これが仮面騎士ならば、良くて一日保てば良い方じゃなかろうか?

簡単に言うと……水(波動)を貯めておくタンクの大きさは同じだが、仮面騎士とは違って、そのタンクに注がれる水(波動)の量は少なく、かわりに消費する水(波動)もまた少ない……消費量はグローシュ波動という名の蛇口で調整されているために、注がれる量は少なくても、少しづつタンクに水(波動)は貯まっていく……みたいな?

少し違うかも知れないな……。

もっと簡潔に言うと、仮面騎士達が大排気量のアメ車なら、カーマイン達は国産の低燃費ハイブリッドカー……と言った所か。
パワーはともかく燃費が良いと。

……うん、こちらの方が分かりやすいな。

とにもかくにも、ゲヴェルがくたばったことにより、『補充』されることは無くなり、後は燃料を喰い潰すだけなんだが……そんな状況を打開する為、悪あがきとして作ったのが『波動の指輪と腕輪』なワケだ。
あくまで悪あがきにしかならないのが、我ながら情けないのだが……。

「……分かった。ありがたく貰っておくよ」

「お前が何の根拠も無いことを言う筈は無いしな……ありがたく使わせて貰うよ」

ラルフとポールはそう言ってくれる……。
ラルフはぼかしてあるとは言え、真実を知っているからともかく……ポールは俺の論理に何らかの根拠があると信じて疑わない。
ポール君や……君は俺を信用し過ぎだと思うんだが……確かに根拠はあるが……。

原作知識で知ってますた♪Te・he☆

……なんて、言える筈が無いしなぁ……。
まぁ、信じてくれるなら嬉しいがね。

「それにしても、一月かぁ……長い様で短いな……ハハハ」

「……この身は償い切れない程の罪を犯した……一生を賭けて償うつもりではあったが……やはりそう都合良くはいかない……か……」

ラルフが小さく呟き……笑った。
覚悟が決まっていたとは言え、明確な死刑宣告を受けたのと同義なのだから――その胸中がいかほどの物なのか――俺には計り知れない……それはポールも同様だ。

俺はそんな二人を見兼ねて――。

「解決策ならあるぞ?あくまで、それらのアイテムは、それを成すための時間稼ぎの為に作ったんだからな」

「なっ……!?」

あっけらかんとそんなことを呟いた。
それを聞いて、ポールは驚愕した。
ラルフも驚いていたが、俺から色々聞いていたためか、ポールよりは驚きは少ない。

「そんなことが……可能なのか?」

「まぁ、少し分が悪い賭けだが……十分チップを賭けるに値する賭けさ」

鍵を握るのは、パワーストーンとその制御装置。
パワーストーンに関しては、俺が色々小細工をした結果、何とか一回の使用で留めることが出来た。

制御装置に関しては、いくら俺でも製作することは出来ず、フェザリアンに頼るしかないのが現状だが……。

「フフッ……シオンがそこまで言うなら、僕も賭けるよ……その分が悪い賭けにね?」

「そうだな……今更、逃げはしない。ならば、その賭けに乗るのも一興か……例えそれが奇跡だとしてもな」

そう言って笑みを浮かべる二人を見て、俺は新たに決意を固めた。

――絶対に何とかしてやる……と――

「知らないのか?奇跡は起きるから奇跡なんじゃなく……起こすから奇跡なんだぜ?」

ニヤリと笑いながら、俺は二人に言ってやる。
それを見て二人はポカーンとした後……。




「アッハッハッハッハッ!不遜な言い様だが……お前が言うと、何故か信じてみたくなるな!」

「ハハハハ……本当に、昔から変わんないんだからなぁ……けど、不思議とシオンならどんな無理でも押し通しそうだと……そう感じるよ!」

楽しそうに笑い出した。
ってか、ポールよ……不遜とか君には言われたくないのだが?

……まぁ、二人が元気付いたなら良しとしますか。

「ところで……何故、私だけ腕輪なんだ?」

「ん?いや、ずっと身につけていた物が無くなったから、物寂しいんじゃないか――と、思って」

俺のその理由を聞いた時、ポールは苦笑いを浮かべて言った。

「そうか……それは気を使わせてすまなかったな?」

……と。
本人も悪い気はしていないみたいだし、無問題だろ?

***********

バーンシュタイン王城・謁見の間

あの後、直ぐさま陛下に報告に行くべく、謁見の間へと向かった。

既にライエルとリーヴス、ジュリアは陛下の側に控えていた。

リビエラはリビエラで、先に事情を話していたらしい。

「リビエラさんたちから話は聞きました。ゲヴェルを倒したそうですね!」

既にリビエラ、ジュリア、ライエルから聞いていたか……陛下も嬉しそうだな。

「世を騒がせていた元凶であるゲヴェルを打ち倒した。これだけの功績があれば、誰も文句は言わないだろう」

「そうだね。この功績はどんな試練よりも重く、遥かに説得力がある……如何でしょう陛下?」

ライエルとリーヴスが、俺達の成果を褒めたたえてくれているが……何か雲行きが怪しいような……。

「そうですね。ライエルやリーヴスの言う通り、貴方達はそれだけの偉業を成し遂げました……よって、シオン・ウォルフマイヤー、ポール・スタークの両名に、正式なインペリアル・ナイトの称号を授けます」

予想通りかよ……あ、ちなみにスタークってのは、ポールの偽ファミリーネームな?
とことん俗な感じの名前にしたかったらしい。

とりあえず、全世界のポール・スタークさんに謝れ!

まぁ、それはともかく……。

「お言葉を返す様ですがエリオット陛下……この度のゲヴェル打倒に関しましては、我々だけの力では成し得なかったことです……多くの者の助力があればこそ成し遂げられたこと。それを、我らの功績と成すのは……」

「それにこの場に居る者や、真実を知る者ならともかく……他の貴族に対して示しがつきますまい……まして、陛下は王に即位して間もない……反感を買う恐れもあります」

そんな陛下に、苦言を呈する俺とポール。
実際、カーマイン達と協力して倒したのだから、俺らの手柄にするのは憚られる。
俺らがいかにゲヴェルを倒した……と言っても、それを成し遂げたのを知っているのは、あの時あの場所に居た者達のみ。
ライエルの様に関係者ならば信じるだろうし……王の言うことだからと、信じる者達も多いだろう。

しかし、エリオット陛下に反感を抱く者は少なからず居る筈……。
ただでさえ、ジュリアの件――実力さえあれば女性でもインペリアル・ナイツになれる法案――でも強権を発動しているんだ……。
そのジュリアでさえ、ナイツとしての力量が確かだったからこそ、表立った反対が無かったのだから……。

「勿論、後日に御前試合という形でお前達自身と、その実力をお披露目することにはなる……だが、陛下はその前に褒美として称号を授けることにしたんだよ」

「ゲヴェルを倒したということは、君たちが考えている以上に大きな偉業だということさ」

ジュリアとリーヴスの言い分も分かる……。
実際、カーマインとゼノスはレティシアを救出して騎士になったしな……。

それを考えれば……成程、確かにゲヴェルを打倒したことは、最高の栄誉を賜る程の偉業なのだろう。

理屈は理解出来るが……。

とは言え、褒美だというのを断ることは出来ないし……。
やむを得ないな。
その御前試合で俺らの実力を見せれば良い……か。

「身に余る栄誉を承り、光栄の極みでございます……世の為、民の為……そしてバーンシュタインの未来の為、若輩ながら研鑽を積み、粉骨砕身の思いで職務に励ませて戴きたく存じます」

「同じく、私には過ぎたる栄誉なれば、その栄誉に釣り合う様に一層の研鑽を積み、職務を全うしていきたく存じます」

「期待していますよ、二人とも」

俺とポールの誓いを聞き、満足そうに頷くエリオット陛下。

ふむ……もしゴチャゴチャ言う輩が現れたなら、俺達がそれを振り払えば良い……か。

御前試合をやれば、少なくとも武に関しては見せ付けてやれる……。
心と技は自分次第……だな!

「貴方たちにも、何かお礼をしなければなりませんね」

「勿体ないお言葉でございます……」

「彼の言う通りです。あくまで、自分たちの思うがままに行動した結果なんですから……」

陛下の言葉にラルフとリビエラは謙虚に答える。
まぁ、結局は二人ともそれぞれ報奨を貰うことになるんだが……それは割愛させてもらう。

***********

あの後、流石に今日は疲れているだろう……と、一旦解散となり、俺は久しぶりの我が家へと戻って来た。
帰り際、ラルフにあることを頼んでいたのだが……それは余談である。

ラルフは自宅へ……リビエラは姉とその婚約者の所へ顔を出すらしい。

「久しぶりだなぁ……って、何か慌ただしいな」

屋敷に帰ると、メイドや執事達が慌ただしくあちこちを掃除している。
って、母上まで……!?

「母上!?」

「あら?シオンじゃない!!お帰り〜♪」

三角巾を着けてハタキで埃を落としていた母が、俺に気付いてこちらに駆けてくる。

「何の騒ぎなんです?」

「ほら、しばらく家を空けたでしょう?だから大掃除してるの♪」

可愛らしく笑う我が母上……相変わらず、歳相応に見えない人だな……。

え?掃除しているのを咎めないのかって?
まぁ……母上だしな。
今更って感じだからね。

「成程……それで、父上は?」

「レイならね……」

母上いわく、防衛戦を終えた父上は我がアジトに向かい、グローシアンの方々を迎えに行ったんだそうな。
バーンシュタイン国内のグローシアン達は父上が、ローランディア側とランザック側のグローシアンはオズワルド達が送るらしい。

元気だなぁ父上……。

まぁ、父上達が頑張ってるなら、俺が動く必要も無いな。
本来の予定は、俺がテレポートで送る予定だったんだがな……。

あ、そうだ……。

『シルク……聞こえるか?』

『あ、旦那様!?はい、聞こえてますぅ!』

俺はシルクに念話を送る。
状況を聞きたかったからなんだが……。

ちなみに、今更言うまでもないと思うが、契約を結んでいる俺とシルクは、ティピとサンドラみたくテレパシーで繋がっていたりする。

『父上達はもう来たか?』

『ハイ!大旦那様とオズワルド様が、それぞれ皆さんをお連れしていきました!』

『そっか……お前は父上達と来るんだろう?』

そう、全てが終わった後に、シルクがアジトで一人になるのを見兼ねた俺は、シルクを我が家に招くことにしたのだ。

***********

シルクは最初は迷った。
『屋敷を守るのは自分の役目だから……』と。

とは言え、あれだけ騒がしかったのが一気に静まるのだから……シルクが悲しむのは容易に想像出来る。

喜怒哀楽がハッキリした奴だからなぁ……。

同時に責任感が強い奴でもある。

――だから、俺はこう言った。

『研修に来るつもりで来い』

……と。

シルクは、契約を結んでいることもあり、俺に仕えて尽くしたいという願望があるらしく、その為の『肥やし』になるならば、それを貪欲に学ぼうとするだろうからな……。

貪欲と言うと聞こえが悪いが……要するに一生懸命ってことだ。

そこまで誰かに仕えて尽くしたいならば、本職に学ぶのが1番という理屈だな。

研修に来い……それだけ言えばシルクは理解したらしく、何とか折れてくれた。

『わかりました!一杯勉強して旦那様にたくさんご奉仕しちゃいますっ!!』

ついでにやる気も出してくれた……うん、良いことだ。
だが、ご奉仕と聞くとソッチ系を連想してしまう辺り、俺も溜まってるんだなぁ……と、しみじみ思ってしまった。

**********

『ハイ!大旦那様に頼んで、今そちらに向かっている最中です〜♪』

シルクが俺の問いに答えてくれる。
俺はそれに頷いて一言。

『そうか……待ってるからな?』

『ハイ!ありがとうございます、旦那様!!』

元気に答えるシルクの声に、微笑ましい物を感じつつ……少しの談笑の後に念話を切った。

で、自室に戻って簡単に荷物などを整理した後は、俺も大掃除を手伝ったりした。

休む様に言われても、手持ち無沙汰だったしな。

で、俺が自重しなかったこともあり、比較的早く大掃除が終わった俺達。

普通の使用人なら、その家の坊ちゃんに、こんなことを手伝わせるのは恐れ多い……とか言い出すのだろうが。
良くも悪くも、我が家の使用人達なのだ……母上の『フランクに行こう♪菌』が蔓延しまくっているワケだ。
無論、無理矢理手伝わせることはしないが……率先して手伝う分には、彼等は文句を言わなくなってしまったのである。

まぁ、俺としてもそっちのほうが気楽で良いけどさ?

執事やメイド達はそれぞれの仕事に戻り……俺は母上に付き合わされ、午後のティータイムと洒落込んでいるワケである。

「それにしても、ようやく平和が訪れたのね……」

「いえ、まだ終わってはいませんよ」

「?どういうこと?」

「それは近いうちに、陛下から何かしらのお触れがあるでしょうから……」

母上は俺の言い分に首を傾げるが……。
俺はそれをはぐらかす。

俺が気にしているのは、ボスヒゲと――ルインとか言う野郎のことだ。

特にルイン……奴は得体が知れなさ過ぎる……。

……正直、奴の妙な移動術を使えば、こちらの動きを抑えることも出来た筈だ……。
それこそ、俺らの知り合いを人質に捕って脅す……いや、僅かな邂逅だったが、奴の本質は何と無く理解出来た……。
奴は一種の快楽主義者にして享楽主義者だ……人質を捕るくらいなら……。

………捕まえて身体を弄り、俺達にぶつけて悦に浸る位のことは平然としてきそうだ……。

………チッ、胸糞悪い……想像するだけで、ハラワタが煮え繰り返る気分だぜ……っ!!

……だからこそ、奴の意図が読めない。

俺達がゲヴェルを討伐に向かっていたあの時は、俺らの隙を突き、誰かを拉致るには絶好のチャンスだった筈……。

……単純に動くつもりが無かったのか、それとも何か動けない理由が――ある……?

無論、ボスヒゲ自身も油断ならない相手なのだが……。
ゲヴェル以上の身体能力に、ゲヴェル以上の回復能力、時空を操る能力、皆既日食グローシアン……ハッキリ言ってチート……いや、バグだ。

もっとも、そんなボスヒゲが相手でも決して負ける気はしないが。
……いや、マジで。

身体能力はその気になれば、指先一つでダウンさせられる位の力量の差があるし……回復能力にしたって幾ら凄いとは言え、某龍玉の魔人様ほどではあるまい。
良くて某幽白に出てくる某100%弟の兄程度だろう……いや、あれも生半可じゃねーけどさ。
粉々にされても復活してきたし……。

原作でボスヒゲは、ウェーバー将軍の会心の一撃を喰らい、喰らった端から傷を修復していた……が、粒子レベルに分解させられて再生出来る程じゃあるまい。
それこそ、全力のオーラバスターや極光で終いだろう。

改めて思うけど、俺の方がバグってるよなぁ……今更だけど。

だが、もしルインが原作知識を余すことなく教え込んでいたら……流石に目も当てられないのだが……。

奴がヴェンツェルに対してそこまでの忠誠を誓っているとは、俺にはどうしても思えん……。

奴にとって、此処はあくまでゲームの世界……奴はそのプレイヤー……いや、ゲームマスターを気取っている。
そんな奴が『原作キャラ』であるヴェンツェルに忠誠を誓うワケがない……。

いや、楽観視は出来んか……奴らの居場所が特定出来ない以上、後手に回ることにはなるが……対策は打っておかないとな……。
幸い、インペリアル・ナイトという称号……肩書が手に入った。

ならば、それを最大限に利用して立ち回るしかない―――。

「―――って、シオンったら聞いてるの!?」

「――っと、すみません。少し考え事をしていました……何でしょうか母上?」

いかんいかん……深く考え込むあまり、母上への対応がおざなりになっていたらしい。

「もう!シオンがインペリアル・ナイトになったから、何かお祝いでもしようか……って話していたんじゃないの!」

「そうでしたか……申し訳ありませんでした」

「良いわよ良いわよ……シオンは子供の頃からそうだもの……ちっとも甘えてくれなくて……母さんとは全然お風呂に入ってくれなかったし……」

俺は上の空だったことを謝罪したが、母上はふーんだ!とか言いながら、ぶちぶち愚痴り始めたが……そういう仕種が様になる辺り、我が母上は容姿的(無論、若すぎるという意味で)に化け物だ……。
というか、未だに根に持ってんのかい!?

「私が悪かったですから……機嫌を直して下さいよ母上……」

「そりゃあね……しっかり者だったのは喜ばしいことよ?けどね、親としては子供には甘えて欲しいじゃない……?レイとはよく遊んでたのに……母さんとは……母さんとは……うぅっ……」

……駄目だこりゃ。
完全に愚痴りモードだ……酒を飲んでもいないのに、よくもまぁ……これも母上の個性か。

ちなみに、父上と遊んでいたというが……あれは剣の稽古をつけてもらっていただけだし、それこそ、母上から魔法のことを教わっていた回数と大差無い筈だ。

……結局、その日は夕食まで母上の愚痴を聞きつつ、宥めすかすということで時間を費やすことになった。
こりゃあ、何か日頃のお礼みたいな何かを準備するべきか……?

……俺としては、インペリアル・ナイトに抜擢されたことが、最大の誉れにして最高の親孝行だとは思ったのだが……。

むぅ………。

**********

戦勝祝賀会まで――あと九日――

翌日……俺とポールは練兵場――Ⅱやオルタをやった人には分かると思うが、ちょっとした闘技場の様な面積の場所――にやってきていた。
例の『お披露目』のためである。

「これより、シオン・ウォルフマイヤー、ポール・スターク両名の御前試合を行う!」

陛下の横に控えたリーヴスがそう宣誓する。
ちなみに、陛下は闘技場にあった様なVIP席に着席している。

他にも観客席みたいになっている場所があり、そこには諸侯――要するにバーンシュタイン各地を納める貴族連中――が試合の開始を今か今かと待ち侘びている………。

お……ダグラス卿も来てるな。
父上はまだ帰還していないから、母上が顔を出している。
まぁ、仮に父上が帰還していても、顔を出しているだろうが……。

まぁ、家族を連れて来ている者はさほど居ない……当たり前だが、御前試合とは遊びでは無く、一種の通過儀礼の様な物だ。
間違っても娯楽の類では無い。
だというのに中には、娘さんを連れて来ている方もいらっしゃるみたいだが……。

他にも、インペリアル・ナイツ――第一近衛騎士団以外の騎士団長や、将軍らもまた、事の推移を見守っている。
それはそうだ。
インペリアル・ナイツはそれぞれ一軍の将と同等以上の権限を持つ。
ぽっと出の若造が上に立つ可能性がある以上、その若造達の力量を確かめておきたいのだろうさ。

「では、ポール・スターク……前へ!!」

リーヴスに促され、ポールが前に出る。
そして、そんなポールの相手となる者が現れた……それは。

「ジュリアか……」

そう、ジュリア・ダグラス……現インペリアル・ナイトの一人であり、『現在唯一』である女性のインペリアル・ナイト。

まぁ、単純な百人抜きとかをやるより、現役ナイトが相手をした方が、何倍も難易度が高かったりするんだけどな。

「それでは両者、正々堂々……全力を尽くす様に……では――始め!!」

こうして、御前試合第一試合――ポールVSジュリアの幕が上がったのだった。

***********


オスカーの宣誓を聞き、私は剣を構えた。
それは向こうも同じか……。

ジュリア・ダグラス……かつて似た様な御前試合にて剣を交えたこともあるが……。

「以前は遅れを取ったが……あの頃より腕は上げたつもりだ。あの時の様にはいかんぞ?……それに、個人的に負けたくない事情があるのでな」

「フッ……では、私も奮起するとしようか!」

彼女の負けられない理由というのに、若干興味が湧かないでは無いが……幾ら私と言えど、考え事をしながら相手取れるほど、甘い相手では無いことは認識している。

なので、思考を戦闘用にに切り替える。

「行くぞ!」

「来い!」

私は先手必勝を謡う訳ではないが、様子見を兼ねてこちらから攻めることにする。

それに対して彼女は剣を頭上に掲げ、半身に構え……その刃に片手を添える様な……彼女独自の構えを取り、迎撃体勢に入る。

あの体勢から放たれる初撃は……ほぼ間違いなく打ち下ろしか。

ならば!

「フッ!!」

私が射程に入った瞬間、予想通り彼女は剣を振り下ろした……その剣閃は想像以上に速かったが、十分誤差範囲の内だ。

私は足運びで身体を半身に逸らし、その剣閃を避ける。
彼女の武器は大剣に分類される物だ。

一撃一撃が重く、そして威力がある。
本来、大剣は重さで斬る物だから、それは当然の帰結なのではあるが。

だが、だからこそ弱点もある。
先程も述べた通り、大剣という武器は本来、重量で叩き切る様な武器だ。
速さで斬る様な武器ではない。

故に、その攻撃手段も限られてくる……打ち下ろすか、薙ぎ払うか……2つに1つ。
至極読みやすいとも言える……そう、『本来は』……。

ヒュバッ!!

振り下ろしたジュリアの剣閃が、軌道を変えて横に薙ぎ払われる。
私はそれを剣を添わせるようにして受け流し、後方に跳ぶ。

――そう、あくまでもそれは一般的な論理に過ぎない。
仮にもインペリアル・ナイツの一員なのだ。
そのような論理を捩曲げる位の剣腕を、持たない筈が無いのだ。

彼女は見た目の細さとは裏腹に、実によく鍛えられている。
片手で大剣の重量を振るう筋力、剣閃の軌道を変える手首の強さ……。
女性である彼女がこれだけの力を身につけるのに、生半可な努力では足らなかったことだろう。

恐らく、打ち下ろし、薙ぎ払い以外の攻撃手段もあるのは想像に難しくは無い。

「はああぁぁぁぁ!!」

彼女が切り掛かってくる……私はそれをかい潜り、再び切り付ける。
彼女はそれを防ぐが、私は双刃剣を振るい、速さで圧倒していく。

身長こそ彼女の方が大きいが、私と彼女では、単純な身体能力において大きな差があり、それは私に軍配が上がる。

それも当然か……この身は『人間』では無いのだから……。

パワーもスピードもスタミナも……全てにおいて私が上回っている……が、それでも彼女は食らい付いてくる。

「やああぁぁぁぁぁっ!!!」

技のキレ、そして何よりその気迫……正直、驚嘆に値する。

ガカアアァァァァン―――!!

彼女の剣撃を真っ向から受け、その為に衝撃波が巻き起こる。

「くっ……」

「確かに、貴公の技のキレと気迫はたいしたものだ……だが、さりとて私も負けられないのだよ!!」

仮にもインペリアル・ナイツマスターを名乗っていたのだ……例え、そうなる様に造られた身だとしても……積み上げて来た修練の数々……決して貴公に劣る物では無いっ!!

『アーネスト……オスカー……。私はこの国を……民を支えて行きたい。――着いて来てくれるか?』

『勿論でございます……我が剣はリシャール様と共に……』

『この剣と誇りに掛けて……貴方に忠誠を誓いました……ならば、我々の答えは唯一つです』

『……ありがとう、アーネスト、オスカー……』

あの日、王都を見渡せる小高い丘の上で誓った……我ら三人、この国と民を支え――守り抜くことを……。

私はゲヴェルに操られ、その誓いを踏みにじり続けてしまった……。
それは許されざる行いだ……。
もはや、リシャールを名乗ることは叶わないが……それでも、あの頃の誓いはまだ忘れてはいない!

『例え名前が変わろうと、貴方は貴方だ。あの時交わした誓いを、俺は忘れてはいない』

そして……。

『あの丘で交わした誓いは、未だに我が心の中にあります……反旗を翻した私が言えた台詞では無いのかもしれませんが……』

二人とも覚えていてくれた……。

そして、改めて誓ったのだ……『今度こそ、命ある限りこの国と民を守り抜く』……と。

……だからこそ、負けられないのだ……私はっ!!

**********


今までは様子見だったのだろう……此処に来て、更に速さ、力、技、気迫……それらが合わさった圧力……それが一気に増していった。

苛烈な攻め……それはまるで嵐の様に襲い掛かってくる。

ポールはその双刃剣という武器のポテンシャルを、最大限に生かしてくる。
切り払いも、直ぐさま刃を反して切り掛かって来る。
縦、横、斜め……縦横無尽に襲い掛かってくる。

そして何より、その一撃一撃が速く――重い。

「くぅ……!?」

私は防戦一方になり、時には受け流し、時には受け止めていたが、あまりにも強いその力に抗いきれず、その剣撃を受け、弾き飛ばされてしまう……。

「どうした……貴公の力とはそんな物なのか?」

「くっ、言ってくれる……」

ポールの言葉に、思わず苦笑いが浮かんでしまう……。
私は既に全力を尽くしている……つまり、それだけ力量に差があるということだが……。
それでも、決して届かない高みでは無いと思った……。

マイ・マスターと剣を合わせたことのある私だからこそ、それを顕著に感じることが出来た。

そう、マイ・マスター……シオン……彼が見ているのだ……負けられないじゃないか。

『よく来たなダグラス……そちらが』

『ああ……『息子』のジュリアンだ……ジュリアン、こちらが私と同じナイツである、レイナード・ウォルフマイヤーだ』

『は、はじめまして!ジュリアン・ダグラスです!!』

あの頃、私は既に『息子』として生きることを決めていた……父の期待に答えたくて、褒めてもらいたくて……。

『そんなに緊張することは無い……コレは私の息子のシオンだ。シオン、挨拶なさい』

『お初にお目に掛かります、ダグラス卿。レイナードの息子のシオン・ウォルフマイヤーです』

――マイ・マスターは随分と落ち着いた雰囲気の子供だったと思う……私ですら緊張していたのに、まるで慣れた大人の様に父に応対していたので、私も父も驚いていたのを覚えている。

――ただ。

『よろしく、ジュリアン!!』

『う、うん……よろしく』

あの時の笑顔が凄く暖かかったのは、よく覚えている……。
思えばあの時から、私はマイ・マスターに惹かれて行ったのかも知れない……。

それから度々、ウォルフマイヤー家を訪れ、または彼が我が家に訪れ、共に遊び、共に学んで行き……子供心に、益々惹かれて行くのが分かった。

初恋、という奴だったのかもしれない……。

故に私は迷った……『息子』として生きて行くことに……『女を捨てる』ことに。

そんなある日、私が女であることがバレてしまうのだが……丁度よかったのかもしれない。
あの時、私は彼を『友』と思う以上に『男』と思っていたことを改めて思い知らされたのだから……。

その後、弟との試合で破れ、父に見限られた時には、弟への再戦を誓った私を鍛えてもくれた……。

言わば、彼は私にとって師であるも同然……。
父に見限られたと感じた私が、より彼への恋情を募らせていくことになったのは、必然だったのかも知れない……。

紆余曲折あり、彼と戦い、敗れ……忠誠を誓ったのも。

――そう、必然だったのだ。

「そろそろ決めよう……この一撃に全てを賭ける……!!」

「良いだろう……その話に乗ってやる」

マイ・マスターが見ている……だから負けられない。
そんな個人的な理由だが、私には十分過ぎる理由だ!!

無論、民のためという気持ちはある……偽らざる正直な気持ちだ……しかしそれ以上に。

「はああぁぁぁぁぁぁっ!!」

マイ・マスターのために剣を振るう……あの方に身も心も捧げると……あの頃より誓ったのだ。

「おおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

それはインペリアル・ナイトとなった今でも……変わらぬ誓い。
あの方のためならば、どこまでも強くなれる……そう信じて振るった一撃は――。

ガキャアアァァァァァァン―――!!!

ぶつかり合い、弾け飛んだ………。

ポールは私に剣を突き付ける……そう、弾かれたのは私の剣……。

私の剣が背後に突き刺さり、そして――勝負は決した……。

「私の……負けだ……」

「それまで!!勝者、ポール・スターク!!」

リーヴスの宣誓と共に、周囲がワアッと歓声が広がる……。
負けてしまったか……。

「おめでとう、お前の勝ちだ……やはり届かなかったな。分かってはいたのだが……」

現時点で、ポールに及ばないのは理解していた……しかし、気迫は――想いだけは負けないと信じたかった――。

「いや、紙一重だったよ……最後の一撃に込められた想い。それは決して軽い物では無かった――」

「ありがとう……そう言ってくれれば気も休まる……」

負けは負けだが、マイ・マスターに無様を晒す試合では無かったから……良しとするべきか。

「――君の『負けられない理由』とやらを聞いても?」

「……ある人が見ていて、その人の前で格好をつけたかった……それだけさ」

「そうか……」

ポールは剣を納め、私も地に突き刺さった剣を引き抜き、鞘に納めた。
軽い理由と軽蔑しただろうか?
それはそうだろう……インペリアル・ナイトとは国の象徴……その象徴が、一個人のために剣を振るったというのだから――。

「正確なところは違うのかも知れないが……私も似た様な気持ちで剣を振るったからな……何と無く分かるよ。その気持ちは……」

「え……」

「誓った約束があり、私はその誓いを立てた友のために剣を振るった……百の言葉より、剣を合わせた方が――分かることもあるということか」

それだけ言い残し、彼は下がって行った。
そうか……彼もまた『誓い』と『誰かのため』に剣を振るうのか……。
彼は『友のため』、私は『愛する人のため』……彼の言う様に、その対象への傾向は違うのかも知れないが……。

私は顔に笑みが浮かぶのを感じ、その場を後にしたのだった……。

***********


流石はインペリアル・ナイト同士の戦い……一進一退の達人同士の戦いだ。
現場に立つ将軍や騎士団長は良いが……正直、ジュリアにしろポールにしろ、この会場にやってきた貴族連中の三分の一はあまり良い感情を持っていなかっただろう。

伝統を捩曲げた『女』と、何処の馬の骨とも知れない『若造』の試合なのだから。

もっとも、二人の試合を見て、その考えはほとんど塗り潰されたみたいだが……。
父親に連れられて来たのだろう、14、5くらいの女の子が、輝いた瞳で試合を観戦していたのが印象に強いが。

分からないでは無い……こと、達人同士の戦いは、もはや人外の戦いと言っても良い物なのだからな――。

父上やダグラス卿の様に騎士を務めた貴族様は、二人のレベルの高さをよく理解出来たと思う。

最後は意地の張り合いにも見えたが……それ故に、最後の一撃は凄まじい物があり、周囲をほぼ完全に黙らせた。

勝負が決した瞬間、歓声が二人を祝福したことを考えても、二人は受け入れられたと見て良いだろう。

……もっとも、アレを見てまだ『所詮は女よ』とか、『まぐれで勝ちを拾っただけに過ぎぬわ』とか抜かす輩がいたが……正直、死ねば良いのでは?

気に食わないので局所的メンチビームで黙らせましたが。
豚の様な悲鳴を上げ、痙攣しながら失禁して失神しやがりました。
ざまぁみやがれ。

「シオン・ウォルフマイヤー、前へ!!」

俺の出番か……。

俺は呼ばれたので、前に出る……すると、俺の相手が向こうからやってくる………うん、まぁ……予測はしていた。

ジュリアがポールの相手で、陛下の横にリーヴス『のみ』が控えていた時点で。

「やはりライエルか……まぁ、予測はしていたが」

「ふっ……勝負を預けていたからな……俺自ら志願した」

ナイツマスターの『赤』を纏う男……アーネスト・ライエルその人が相手だと言うことを――。

「それはまた……律義なことで」

「フッ……遠慮は無用だぞ?」

俺はやれやれ……と、肩を竦めるが、それを見てライエルは微かな微笑みを浮かべて言う。

遠慮無しで来いと……ならば。

俺は愛剣であるリーヴェイグを抜き放ち、ライエルもまた、自身の双剣を抜き放つ。

「それでは……始め!!」

リーヴスの声が響き渡り、それぞれ構えを取る。
とは言え、武器の違いはあれど、構え自体はあまり変わらない。
半身になりながら剣を下げる様な構え――所謂、自然体。

互いに距離を計る……向こうに見えているかは知らんが、制空圏もまた狭まる……。
というか、既に制空圏内だったりする……。
だが、まだ攻めない。
互いに、じわりじわりと近付いて行く。

「………」

「………」

練兵場内は、痛いくらいに静寂に包まれている。
俺達が発する雰囲気が、空気を伝って伝染しているのだろう……。

ライエルの奴……本気だな……。
恐らく、初っ端から必殺の一撃に賭けてくるのだろう……。
冗談でも何でもなく『必殺』を……。

ライエルがバトルジャンキーだとは思わなかったが……仮にも同僚に向ける気迫じゃねぇぞ?

「殺る気漫々じゃないか……仲間に対する気迫じゃないな」

「そのくらいの気迫でやらねば、お前には届きそうに無いのでな」

その意気や良し……俺もその心意気に答えてやりたいが……。
俺が全力を出せないのは言わずもがな……ならば、本気で相手をしつつ抑えるしかないか……まぁ、何時ものことだが。

大気が揺らぐ……互いの剣気、闘気、殺気がぶつかり合い、バチバチと空気を弾く様な――そんな空気。


そして―――。

「「っ!!」」

互いにぶつかり合った――!!


ライエルは二刀流による、渾身の×の字を描くクロス切り。

対して、俺は大剣を片手で振るう――パッと診はオーソドックスな唐竹割り……。

だが、互いにその速度は神速……。

激しい衝撃波に遅れて聞こえてくる金属音……。

「ぐぉ……!!?」

ぶつかり合いの果て、打ち負けたのはライエルの方であり、激しく後方へ弾き飛ばされる。

「くっ……まだだ!!」

しかし流石と言うべきか。

直ぐさま体勢を整え、再びこちらに向かってこようとするが……。
俺はリーヴェイグを鞘に納めた。
既に勝敗は決しているからだ。

「!?何故、剣を鞘に納める!?」

「もう勝負は着いたからだ……その武器ではもう戦えまいよ」

「なんだと……!?こ、これは!?」

ライエルは剣を納めた俺に対して、憤りをぶつけてきたが、俺が武器の指摘をしたので、手元の武器を確認すると……。

ライエルの双剣の刃はバラバラに切り裂かれて、地に散らばっていたのである……。

「ば、馬鹿な……いつの間に……」

「さっきぶつかり合った時にな……見えなかっただろうが――」

そう、俺はパッと見は唐竹割りを放った様に見えただろうが、実際は手首のスナップと、肘、肩の関節をフル動員し、ライエルの武器を光速で切り刻んでいたのである。

『武器破壊』

限りなく本気で相手をし、かつライエルを傷付けない様に戦うために、この選択肢を選んだ。

ライエルが吹き飛んだのは、最後に柄の端でライエルの剣の鍔に少し強めに衝撃をぶち込んだからである。

本当なら、ポールとジュリアの様に互角の戦いを演じれば良かったのかも知れないが……。
ライエルの心意気を知った以上、生半可な対応をしたくは無かったし。

下手に互角を演じれば、ライエルのためにもならないと思ったからな……。

―――決して、以前にジュリアとニャンニャンしようとしていたのを、邪魔されたことを根に持っているワケじゃないからネ?

「……よもやこれほどとはな。俺の技も、この剣も、生半可な物では無いのだがな……」

「我が愛剣、リーヴェイグを俺が手にし、俺がある程度力を出して振るったんだ……断てぬ物は無い」

ため息を吐きながら言うライエル。
対して、俺は断言する様に言い放つ。
確かに、ライエルは一騎当千の達人だ。
その武器も特注品なのか、中々良質な剣だ。

だが、それ以上に俺がライエルを上回った……。
力量も、武器も……それだけのことなのだ。

……まぁ、俺の場合、修業はしたが、その能力の全てが修業の成果なのか……と、問われるとYESとは言えないので、あまり偉そうなことは言えないんだが……。

「で、どうする……続けるか?」

「いや、この試合……私の負けだ」

俺の問いに、思ったよりあっさりと答えるライエル。
心なしか、若干スッキリしている様にも見える。

「そ、それまで!!勝者、シオン・ウォルフマイヤー!!」

戸惑いながらも告げられた、リーヴスの宣誓により試合に終わりが告げられた。

ざわ……ざわ……。

ZAWAZAWA TIMEですね分かry……。
カ○ジじゃねぇんだから……。

いや、分かるけどね……ポールの場合と違って、一瞬で決まったんだし……。
何より、この会場の皆様には俺が何をしたか……なんて、分からなかっただろうし。

人間、理解不能な物に対してはどうしようも無く狭量だ。

ポールの時の様な歓声は期待するべくも無いが……『ば、化け物……』は言い過ぎだと思うんだ。
まぁ、そんなことを言ってるのは陛下に反発心を持つ貴族か、騎士畑とは無縁の政治家貴族くらいだったのは、正直予想外デス。

エリオット陛下達は無論だが、騎士団長や将軍ら、騎士畑出身の貴族はむしろ『頼もしい』とか、好意的な言葉を零している者もいる。
彼らの場合、直感的に何かを感じたか……見えなかったけど、勝ったんだから良いじゃん!!
……という二種類の反応に分けることが出来る。

嬉しいが、少し複雑な気分だったり……。
というのも、否定的な意見も、肯定的な意見も、全体から見たら半数にも満たない。
殆どの人間は首を傾げているのだろう。
『何が起こったか分からない』のだから。

俺が勝ったのは理解しているが、それに対して納得していないと言うか……。
俺が勝ったという結果は理解したが、勝つまでの過程が理解出来ていないと言うか……。

――やはり互角を演じるべきだったか――?
今更遅いか……反省はしているが、後悔はしていない。

何はともあれ、力を示すことは出来たワケだ。
陛下に反発心を抱く連中に対する、牽制にもなったしな……。

「これにて、御前試合は終了です。シオン、ポールの両名には、更なる研鑽と奮起を期待します。頼みましたよ」

「ハハッ!」

「天と地と……我が命に賭けて!」

こうして、御前試合という通過儀礼も無事終了し、俺達は名実ともにインペリアル・ナイツとなったのだった……。

***********

バーンシュタイン王城・謁見の間

「二人ともお疲れ様でした」

エリオット陛下が俺達に労いの言葉を掛ける。
俺達はそれぞれに礼を述べる。
ちなみに、今この場にはエリオット陛下と、インペリアル・ナイツしかいない。

「ゲヴェルを倒し、手にした平和を……皆の力で守って行きましょう」

「「「「ハハッ!!」」」」

陛下の言葉に、肯定の意を示したのはライエル、リーヴス、ジュリア、ポールの四人。
だが俺は――。

「お言葉ですが陛下……まだ、この平和はつかの間の物に過ぎません」

敢えて苦言を提する。

「どういうことでしょうか?」

「……まだ、ヴェンツェルが残っているからです」

「ヴェンツェル?何故、そこで彼の名前が出てくるんだい?」

陛下の問いに、俺は答える。
リーヴスは疑問を尋ねて来た……いや、リーヴスに限らず、ライエル、ジュリアも同じ疑問を抱いている様だ。

ポールは事情を知っているから、ハッとした表情をしているが……。

俺は説明する……ヴェンツェルがルイセのグローシュを奪い去ったことを……その時の顛末を。

「そんな……ヴェンツェル様が……」

「……残念ながら事実です。私とポールが証人となりましょう」

「我々は敵の妨害に遭い、直接その光景を目撃したわけではありませんが……ヴェンツェルがテレポートで逃げ去るのを確認しました。ローランディアの者たちの証言もありますし……何より、彼女――ルイセが日を追うごとに酷くなっていくのを、この目で確認しておりますから……」

陛下は軽くショックを受けている……無理もないか。
自分の命の恩人とも言える相手が、そんなことをしたなんて信じられないだろうしな。

俺とポールの言葉を聞いて、皆は黙り込んでしまった。
嘘だと思いたいが、俺達がこんな嘘をつくワケが無いし、何のメリットも無いことが分かっているからだろう。

「奴が何を企んでいるかは分からない……だが、良からぬことを企んでいるのは明白……か」

「我が国もそうだが、各国はゲヴェルを倒したことで浮足立っている……そこを突かれたら……」

と、ライエルとジュリアが言葉を零したのを、俺は頷いて肯定した。

「そうですね……各国に注意を促さなければなりませんね」

立ち直った陛下は、二人の意見を聞き取り、そう言い放つ。

そして――俺は陛下に進言する。

「陛下……その役目、私に任せて戴けませんでしょうか?」

「シオン?」

「私はテレポートが使えます、伝令役としてはうってつけかと……幸いにも、各国の王、重臣とは面識がありますので」

俺は伝令役に志願する。
下手な奴に書簡を届けさせるより、この方が絶対早い。
おまけに、俺はカーマイン達に引っ付いていたので、ローランディアのアルカディウス王とも面識があるし、カーマイン達とは言わずもがなである。

ランザック王とは、言うほどの面識があるワケでは無いが、ウェーバー将軍は瞬転で部隊ごと運んだこともあるから……覚えてくれているだろう。

「わかりました。貴方に頼みましょう……書簡をしたためますので、明日にでも行ってもらえますか?」

「はっ、御意にございます……つきましては陛下……私に案がございます」

俺は、感じた――時代のうねりという奴を。

「ヴェンツェルは神出鬼没――いついかなる場所で足元を掬われるとも限りません……足並みを乱すのは得策とは思えません」

そのうねりを生み出す一因が、他でも無い――俺にもあるんだと――だから。

「故に、私は改めて三国間の繋がりを強めるために――『三国同盟』を結ぶことを提案いたします」

俺は敢えてそのうねりに飛び込む――その先にあるのが、幸福であると信じて――。

***********

おまけ

『その時、彼女は決意した』

私は今日、父に連れられ、バーンシュタインにある練兵場に来ていた。
何でも、今日……新たにインペリアル・ナイトに任命された者たちのお披露目の意味を込めた、御前試合が開かれるらしい。

父は所謂、地方貴族という奴だが……だからこそ、女だてらに武を学ぶ私への励みになるだろうと、此処へ連れて来たのだろうと思う。

私が武を学ぶのは、偏に弟のためなのだけど……。

私の弟は病弱だ……そんな弟を元気付けるために。
お姉ちゃんだって頑張れば出来るんだから……と。

けど、弟は『お姉ちゃんだから頑張れるんだ……僕なんて……』と、諦めてしまっている。
私は私なりに困難なことに挑戦してきたつもりだったのに……やはり駄目なのだろうか……?

そんなことを考えていたら、もう試合が始まるらしく、戦うだろう人たちが向かい合っている。

片方はジュリアン・ダグラス将軍。
最近入ったインペリアル・ナイトだって父が言ってた。
――綺麗な人ね――。

私は彼を見てそう思った……まるで女の人みたい。
でも、そんな筈は無いわね。
女性はインペリアル・ナイトになれないのだから―――。

「――お前が何を考えているかは知らんが、ジュリアン将軍は列記とした女性だぞ?」

「!?そ、そうなのですか!?だって……」

「エリオット陛下が決めたことらしい。『男のみに資格があるなど、間違いだ。条件に見合うなら、女性にもまた資格がある』……とな。彼女の本名はジュリアというらしい」

「ジュリア……」

女性のナイト……本当にそんなことが……?

そんな彼女に相対するのは仮面を着けた少年……多分、私と近い年齢だと思う。
うん、かなり整った顔をしているのが、仮面ごしでも分かる。
名前はポール・スタークというらしい。
恐らく、彼が新入りナイツなのだろう。

そして、試合の開始が告げられた……。
私はその試合に釘漬けになった。
そのあまりの凄まじさに……。

―――分かる―――

私も武術をかじっているから分かる……この二人、本当に強い。
なんとなく――仮面の少年の方が強い気がする。
けれど、それに追い縋るジュリア将軍。

動きは追い切れないけど、それはあまりにも流麗で、そして苛烈。

――これがインペリアル・ナイトの戦い……。

結局、勝ったのは仮面の少年だった。
けれど、そんなことより私には衝撃的だった。

私と同じ女性なのに、あれだけの動きをしたあの人の力と、実力が上回る相手に一歩も退かないあの気迫……。

その瞬間、私はジュリア将軍に憧れたのだと思う。

「私も……あの人みたいになれるかな……」

「どうかな?陛下が認めたとは言え、女性を軽視する考えが無くなった訳じゃない。それに将軍の様になるのは、並大抵の努力では足りないぞ?」

私の零した言葉に、父が答えてくれた。
だけど、私にはあの姿が焼き付いたのだから……絶対諦めない!!
それに、それだけ困難な道なら、弟を元気付けることが出来るかも知れないから!

「ふん、所詮は女……あんなどこの馬の骨とも知れない奴に敗れるとは……運が良かったか、まぐれに決まっておるわ!!」

「っ!!」

私は後ろから聞こえた声に、思わず振り向いて睨み付けようとして―――。

ゾクゥッ!!!

「っっ!!??」

何か――とてつもない何かが私を掠め――。

「ぷぎいいぃぃぃ!!!??」

睨み付けようとした男が、豚の様な悲鳴を上げて倒れ伏した。
白目を向いて口から泡を吹き、し…失禁……って、汚らしいわねっ!!

気絶した男の取り巻きらしき者達が、慌てふためいているけど、あんな腐った豚なんてどうでも良いわっ!!

私は何かが飛んで来た方向を見遣る……。

そこには、白銀を携えた蒼い衣に身を包んだ男がいた……。
ジュリア将軍に負けず劣らず綺麗だけど……何故か―――凄く怖いと感じた……。

今のは……彼が?

多分、彼も新入りナイツの一人だと思うけど――他のナイツ、ジュリア将軍、リーヴス将軍……それにさっきのポールの制服とは色合いが違う。
通常、インペリアル・ナイトの制服は紫と白を基調にした物だ。
だが、彼のそれは蒼と白……。
まるで他との差別化が図られているかの様に……けど、何のために?
……ナイツマスターは赤だけどね?

そして、試合が始まる――彼、シオン・ウォルフマイヤーと、ナイツマスターの赤を纏うナイト……アーネスト・ライエルの試合が。

正直、先程の様には見られなかった……。
空気がピリピリする……二人の発する何かがこちらにまで伝わってくる……。
怖い……けれどそれ以上に目を引き付けられる。

怖い物見たさ……とでも言うべきか。

何となく感じる……この戦いは一瞬で終わるのだと……。

その直感は正しく、二人がぶつかり合ったかと思うと、直ぐさま片方が弾き飛ばされた。

ライエル将軍だ。

彼は壁に激突しそうなのを何とか堪え、再び向かって行こうとしたが……対する相手が剣を納めてしまった……。

その理由も明らかになる……ライエル将軍の武器が破壊されていたのだ。

私は戦慄した……あの一瞬であんなことを……?

私が彼を見て恐怖した理由が分かった……。
理解出来ない……底が見えないのだ。
ライエル将軍だって、私にとっては遥か頂の上……雲の上の人だ。
そんなライエル将軍を子供扱いしてのけたのだ……あの男は。

「ば、化け物……」

私の近くにいた誰かがそんなことを口にした……。
正直、私もそう思う……あの力……まるで化け物の様な……。




化け物の様『に』……凄いんだってことが!!

「お父様………凄いですね」

「うむ……まことに頼もしい限りだ。流石はウォルフマイヤー卿の息子……ということか……」

ジュリア将軍、ライエル将軍、ポールとシオン……インペリアル・ナイトって言うのはこんなに凄い人達ばかりなんだ……。
なれるだろうか……私に?
いや――。

「さて、では戻るかシャルローネよ」

「はい、お父様!」

なってみせる――弟のためにも、何より自分のためにも!!

――こうして、少女――シャルローネ・クラウディオスはインペリアル・ナイトを志すこととなる。
ジュリア・ダグラスの在り方に憧れ、シオン・ウォルフマイヤーの武を目の当たりにして――。
彼女は次代を駆け抜けて行くことになる――。

なお、彼女は憧れた二人に因んで大剣を学ぶが、後に国から支給されたリング・ウェポンは弓に変化してしまい、orzする羽目になるのだが―――それはまた別のお話。





[7317] 第120話―シオンが行く!―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/20 11:53


僕は今、時空制御塔にある、研究室の中に居る――。
あの方―――ヴェンツェル様の命により、手駒を増やすため―――。

「首尾はどうだ?」

「これはヴェンツェル様――ご覧の通り、7割近くは完了しております」

僕の研究室に、ヴェンツェル様が足を運んで来た。
ヴェンツェル様は、ルイセから奪ったグローシュを自身に適応させ、グローシアンの王としての力を取り戻した――。

しかし、直ぐにかつての力を十全に発揮出来る訳ではないらしく、力を完全に順応させる為には、更に一週間近い時間が必要なのだと言う。

正に原作通り……まぁ、僕の見解からすれば、ヴェンツェル様の中にあるゲヴェルの細胞が、グローシュ波動と反発するからそれだけの時間が必要なんだろうと予測しているんだけどねぇ……。

「ふむ……使えるのだろうな?」

「勿論でございます。本来、コレらの主はヴェンツェル様なのでございましょう?使えぬ道理はございますまい……そも、ヴェンツェル様は二通りの意味でコレらの主でありますれば――」

僕らの前には、培養液が満たされた巨大なカプセルが4つ……。

「3体は使えるとは聞いたがな……この残りカスはどうする?」

「融解しているならともかく、肉体は残っておりましたので……使える様には致しますが……せっかくなので、他の3体とは違う方向性で弄ろうかと……」

「クックックッ……程々にしておけよ?」

培養液にたゆたう銀色の巨体……4体のゲヴェルを見遣りながら、嘲うヴェンツェル様――フフフ、楽しそうだねぇ……。

そう、僕とて何もしなかったワケじゃない。

シオン君が原作キャラに引っ付いて、ゲヴェルを倒しに行くのは予測出来ていた……。

その間に、僕はヴェンツェル様のための地盤固めをすることにしたのさ。
シオン君の知り合いを捕獲して、改造してあげるのも面白いかなぁ……とは思ったんだけど……ソレだと派手さに欠けるからねぇ。

だから、まずは兵力の充実を図る。

ヴェンツェル様はグローシアンであると同時に、ゲヴェルでもある。
そんなヴェンツェル様は、ゲヴェルの様にユングを生み出すことが出来る。
更に、テレポートを応用した召喚術をも身につけており、モンスターを使役することも出来る。

――が、それでも兵力は不十分だ。
何より、それじゃあ僕が面白くない――。

無論、僕の改造した子たちも戦力に含めるケドね――ただ、材料も有限だからねぇ――。

だからこそ、使える物は有効的に使わなきゃあ……ね。

僕は、ゲヴェルが5体居たというのを思い出し(念のためヴェンツェル様にも確認し、確かめた)、それを捜索して捕獲……こうして調整と改造を行っていた……というワケさ。

まぁ、他にも色々と策を講じているのだけどねぇ……ククク……。

「分かっているとは思うが――失敗は許されんぞ?役立たずを飼う程、私は寛容では無いのでな」

「言われずとも――私の作品が役立たずでは無いことは、ご存知かと思いますが?私はヴェンツェル様にこの世を統べる王になっていただくため、忠義を尽くす所存でございますれば―――私めは、その王道を間近で見せて戴くことこそが望み―――」

僕の言い分に、心底おかしそうにこの方は嘲う。

「クックックッ……分かっておる。期待しているぞ?」

「お任せを――」

―――最大の悲劇という名の喜劇を――味わうために――。
そのためには、利用されてあげよう―――忠義を尽くそう。

―――僕が飽きるまで――だけどねぇ?
ククク……ヒャハハハハハハハハッ!!!!

***********

戦勝祝賀会まで――あと八日。


次の日――エリオット陛下から書簡を受け取った俺は、まずテレポートでランザックに来ていた。
理由は特には無い――ぶっちゃけ、ローランディアからでも良いワケだが……。

――強いて言うなら、先に警告をしておこうと思ったからか?
ボスヒゲについて――奴の隠れ蓑になっていたこの国に―――。

まぁ……警告してもあまり意味は無いと思うが……いざとなれば――。

「止まれ!身分がわからぬ者を中へいれるわけにはいかん!」

考えながらランザック城まで来たら、門番に止められた――。
前にも来たんだが……覚えていないのだろうか?
偶然にも、あの時と同じ門番なのだが――。

まぁ、以前とは服装も違うしな。

ってか、台詞が以前と同じ……。

「私はバーンシュタインからの使者だ。ここにエリオット陛下からの書簡がある……この書簡をランザック王に届け、説明するのが私の役目だ」

俺は書簡の入った筒を掲げ、提示する。
それを見て、門番の一人が王に確認を取りに行ってくれた。

「そもそも、私は前にも来たことがあるんだが……覚えていないか?あの時は、ローランディアの者達と一緒に行動していたんだが……」

「そういえばそうだったな」

どうやら向こうも俺を覚えていたらしい。
まぁ、自分で言うのも何だが……目立つ容姿をしているからな……俺は。

等と、門番の一人と世間話をしていたら、国王へ報告しに行ってくれた兵が戻って来た。

「国王がお会いになられるそうだ。入られよ」

そう言って道を空けてくれる門番達。
俺は軽く礼をしてから、先に進む。

とりあえず、王の間への道程は覚えていたので、そのまま直行する。

――やはりというか、戦争が終わり、ゲヴェルという災厄を払いのけたことにより、城内全体が浮足立っている感がある――。

「無理も無いけどな……」

戦争に巻き込まれ、その元凶がお伽話に出てくる様な化け物で―――。
それらを解決して、ようやっと掴み取った平和を――喜ぶな!というのが、どだい無理な話だろう?


***********

ランザック城・謁見の間

俺は謁見の間にて、ランザック王と謁見を行っていた。

「その方は確か……あの時、ローランディアの者と一緒に居た……」

「先日、インペリアル・ナイトに任命されたシオン・ウォルフマイヤーと申します……その節はお世話になりました。我が主に代わり、御礼を申し上げます」

「構わぬよ。微力ながら戦争を終わらせるのに力を貸すことが出来て、余も誇らしく思っている……して、今日はどんな用向きかな?」

「ここにエリオット陛下からの書簡がございます」

俺は文官さんにエリオット陛下からの書簡を渡し、更に文官さんがランザック王に書簡を渡した。

そして、ランザック王が書簡を読み進め――。


「何と言うことだ――あのヴェンツェルが――」

ヴェンツェルがどういう人間で、どういうことをしでかしたのかが書いてあるのだろう。
ランザック王はショックを隠せない様だ。
自国で匿っていた奴が、あんな奴だと知れば、色々思うこともあるんだろうさ。

「もし、ヴェンツェルがその書簡に書かれているような人間だとして――グローシアンとなるだけで満足する様な人間では無い――というのが、我々の見解です」

「――それゆえの『三国同盟』か」

俺は説明する――ヴェンツェルに関する危険性――この際、ヴェンツェルの部下の立ち位置に居るルイン……奴が生み出した化け物に関する情報も提示する。
無論、ボスヒゲを匿っていたランザックに、何かしらちょっかいを出す可能性も話した。

まぁ、半信半疑な感は否めないみたいだが――。

「ヴェンツェルが何を企んでいるのか――それは定かではありませんが、各国の足並みを乱すことは、付け入る隙を与えてしまうのでは……と」

「うむ……委細承知したと、エリオット王に伝えてくれ。同盟の調印には余の代理として、ウェーバー将軍を向かわせよう」

「確かに承りました。我が王もお喜びになるでしょう」

最終的にランザック王は、こちらの話を信じて同盟の件を承諾してくれた。
この国で、最も王や民の信頼が厚い、ウェーバー将軍を調印場所に向かわせるというのが、その証明であるとも言える。

「しかし、まさかその方がバーンシュタインの使者として――それもインペリアル・ナイトになっているとは……いやはや、人生とは分からん物だな」

「――まぁ、色々ありまして……」

朗らかに笑うランザック王に対して、不遜だとは思うが、俺は目を逸らして言葉を零した。

――まさか、ご都合的陰謀に巻き込まれて――なんて言えないしな……ハハハ……。

その後、数度の雑談を交わした後、俺はその場を後にした。

次はローランディアか―――。

***********

ローランディア王都・ローザリア

テレポートでローザリアに跳んだ俺は、街を歩き辺りを見回す。

――やはり此処もランザック同様、訪れた平和に浮かれている印象を受ける。

その都度、カーマイン達の名前が出てくる。

「カーマイン様って素敵よね〜♪」

とか……。

「やっぱりゼノス様よ!!ああ、私をその逞しい腕で抱きしめて……♪」

とか………。

「ウォレス様って渋いよな〜、あれこそ漢の中の漢!!」

とか…………。

「ルイセちゃんって可愛いよな〜♪俺もあんな妹が欲しいよ〜……」

とか……。

「ティピタソ……ハァハァ……君と着せ替えしたいっ!!」

とか……って、そこのお前、ちょっと『O・HA・NA・SHI・☆』してやろうか……?

…………………。

………………。

……………。

…………。

――とりあえず、危険物処理終了っと。
ん?何をしたかって?
ハッハッハッ!大丈夫、大丈夫♪
別に傷付けたワケじゃないから……いや、仮にも国の使者として来てる俺が、他国の国民を傷付けたりしたら洒落にならないじゃん?
スリープで眠らせた後、周りに気付かれない様に路地裏に連れていき、洗の……ブレインウォッ……マインドコント……うん、お話しておいただけさ♪

まぁ、古典的に眠ってる彼の耳元で囁いただけなんですがね?
うなされていたことを考えると……効果覿面だったのかな?
何を囁いたか?
それはティピの名誉のために、黙秘させて戴く。

まぁ、それはともかく――。

皆、一種の『英雄』扱いだな。

「確か――ゲヴェルに関しての資料を纏めるために、缶詰にされているんだよな?」

原作通りだとそうなるが――どうなんだろうな?

そんなことを考えながら、俺はローランディア城の門に辿り着いた。
――ここはカーマイン達に取り次いでもらった方が、面倒は少ないか?

そう思って、城門の側に建てられたフォルスマイヤー宅を訪ねたのだが………留守でした。

やむを得ず、俺は正攻法で向かうことにした。

「すまない、私はバーンシュタインからの使者で、シオン・ウォルフマイヤーという者だ。――アルカディウス王に我が王、エリオット陛下から書簡を預かって来た、取り次いで貰えないだろうか?」

「承諾した。しばし待たれよ―――開門!!」

そう言い残し、開かれた城門から門番は入って行ってしまった。
恐らくアルカディウス王に許可を取りに行ったのだろう。

俺は大人しく待つことにした。
話し相手も居ないしな。

数分後、門番の彼が慌ててやってきた。

「し、失礼しました!どうぞ、お通りください!」

いや、そんなに慌てなくても……。
そうは思いながらも、礼をして先に進む。
勝手知ったる何とやら――俺は真っ直ぐ謁見の間へ向かった。

**********

ローランディア王城・謁見の間

「おおっ、シオン殿!よく来たな」

「アルカディウス王もお元気そうで何よりです……とは言っても、最後に会ってから十日も経っていないのですが……」

ゲヴェル討伐任務を受けた時だから……それくらいだろうな。
というか、めっちゃ歓迎されているのですが?

「カーマイン達から話は聞いた。インペリアル・ナイトになったそうだな?」

「……まぁ、何と言うか成り行きで……目指そうとは思っていたのですが――」

「はっはっはっ、謙遜せずとも良い。その方ならば、納得というものだ」

―――言えない。
冗談では無く、本当に成り行きでなってしまったことなんて――。
アルカディウス王に言った様に、目指すつもりはあったんだけどね……父上との約束もあったし……過ぎたことをグチグチ言っても仕方ないんだけどね?

ラッキーくらいに思っておかないと……精神的にキツい。

まぁ……それはともかく。
アルカディウス王は俺を過大評価している様に思う。

何と言うか、信頼され過ぎていると言うか……。

心当たりはありまくるんだけどな……。

「それで、今日はいかなる用向きなのだろうか?」

「此処に、エリオット陛下からの書簡があります――詳しくは此処に」

俺はその書簡を文官さんに渡し、更に文官さんがアルカディウス王に渡す。

そして、アルカディウス王はその書簡に目を通す……。

「……なるほどな。皆から話は聞いていたが」

「今後、ヴェンツェルが何らかの企みを起こそうとしている可能性は、決して低くは無いでしょう。そうなれば、各国の足並みを乱すのは得策では無い……と」

「うむ――」

どうやら事の顛末はアルカディウス王も聞いていたらしく、ボスヒゲの危険性は直ぐに理解してくれた様だ。

「話は分かった。同盟の件、確かに了承したとエリオット王に伝えてくれ。カーマインらを余の代理として行かせよう」

「はっ、ありがとうございます」

俺は王に頭を下げ、礼を述べる。
それを見て、王は微笑みを浮かべながら言った。

「なに、確かにヴェンツェルのことは懸念していたが――こうしてエリオット王が呼び掛けてくれなければ、動こうとしなかったやも知れん――こちらが礼を言いたいくらいだ」

「そう言って戴ければ、我が王もお喜びになるでしょう」

動こうとしなかったと言うが………動こうにも動けなかったというのが本当だと思う。

何しろ、肝心要のボスヒゲの居場所が何処か……分からないんだからな。
ゲヴェルを倒したことで、ボスヒゲのことが思考の外に追いやられたのも、真実だろうし。

ん?俺?
俺にもボスヒゲの居場所は分からないんだよ……気も魔力も感じない。
多分、結界か何かを張ってあると思うんだが……。

「うむ……。それはそうと、せっかく訪ねて来たのだ。皆に会っていってやると良い」

「そういえば、此処に来る前、サンドラ様のお宅を訪ねたのですが、皆の姿が見えませんでした。皆は城に?」

「うむ。今はサンドラの研究室におる。ゲヴェルに関しての資料を後世に残すため、皆の話を纏めているのだ。レティシアにも同席させている」

アルカディウス王に勧められたので、皆の所在を聞いてみた。
すると、皆はサンドラの研究室に集まり、ゲヴェルに関する資料を纏めているのだとか……。
カーマイン達以外にも、レティシアや文官連中が、その場に同席しているらしい。

うん、予想通り……缶詰にされているみたいだな。

「皆もその方が顔を出せば喜ぶだろう」

「――分かりました。それでは後ほど、寄らせて戴きます」

その後、軽く雑談をした後、俺は謁見の間を後にした。
――本当は他にも予定はあったのだが――急ぎの用でも無いし、それなら皆の様子を見てからでも遅くは無いだろう?

しかし……普通、他国の人間に城内を此処まで自由に歩き回らせたりしないモンだが……。
ランザックが正にそうだ。
幾ら信頼してくれてるとは言え、今の俺は軍部にも携わる人間なんだがなぁ……。
信頼には答えるつもりだけどさ。

***********

ローランディア王城・サンドラの研究室

早速サンドラの研究室に向かう俺。
そして研究室に入ったのだが……。

「それでね!こう、ぐわーって襲い掛かって来たの!!でね、でね!!」

「それから、どうなったのですか?」

何やらティピが興奮気味に語っている。
レティシアがその話に食いつき、目を爛々とさせながら聞いていた。
ちなみに、サンドラや文官さんはそれを聞きながら、何かを書いている。

「あの時は本当に危なかった……ん?シオンさん!?」

「よっ、皆!元気にしていたか?」

得意げに話していたティピが俺に気付いたので、軽く手を上げ挨拶した。
まぁ、別に気配を消したわけじゃないから、カーマイン達はもっと早く気付いていただろうけど。

「よぉ、シオン。今日はどうしたんだ?」

「ちょっと任務でな……あちこち跳び回ってるのさ……で、此処にも立ち寄ったワケ」

「任務って、何かあったの?」

ウォレスが気さくに声を掛けてくれたので、俺は返答を返す。
それを聞いたルイセは、少し不安そうだ。

「まぁ、その辺はアルカディウス王に説明しておいたから、後で改めて皆に説明があるとは思う――その時にアルカディウス王から聞いてくれ」

俺はとりあえず、皆には話さなかった。
どうせ、直ぐに分かることだからな。

「あの、シオン様……その、おめでとうございます!!」

「は?……えーと、何の事でしょうか?」

「みんなから聞きました……シオン様がインペリアル・ナイトになったって……」

やはりと言うか、レティシアもその事を聞いていたか……。
ちなみに俺、周りに文官さん達が居るので、敬語を使っております。

「私からも、おめでとうと言わせて頂きますね?おめでとう、シオンさん」

サンドラまで……そうか!僕は、僕は此処に居ても良いんだ!!

おめでとう!おめでとうっ!!

………って、待てぃ。

思わずテンパッちゃったじゃないか。

「ありがとうございます……まぁ、分不相応だとは思うのですが……」

「そんなことありませんわ!シオン様なら、みなさんも納得でしょうし……その制服も、すごく似合ってますし……」

俺は苦笑いで答えたのだが、レティシアは赤くなりながらも、この服装が似合うと言ってくれた。

「そうですね。姫の言う通りです。貴方ほどの方ならば、それくらいの役職に就いてしかるべきでしょうし、その服もすっかり着こなして……よくお似合いですよ」

サンドラも微笑みながら、そう言ってくれるのだが……二人とも絶対フィルター入ってるって!!

何のフィルターかって?
そりゃあ……アレだ。
恋する乙女フィルター……?
あっ、石を投げないでっ!?

いや、まぁ……嬉しいか嬉しくないかと聞かれたら、断然嬉しいけどさ……。

自身の努力の結果では無く、なし崩し的に任命されたワケだからして、幾らおめでとうと言われても、素直に喜べないんだよなぁ……。

「まぁ、それはともかく――皆は何をしていたんだ?アルカディウス王の話では、ゲヴェルに関する資料を纏めているらしいが――」

「ああ、ゲヴェルに関すること――要するに、今までの旅、任務に関する全てを話しているんだ……だから、結構話が長くてな……ゲヴェル関連だから、ウォレスが襲われた頃の話もしたり……」

俺の問いに、カーマインが答えてくれる。
何と言うか、資料というよりは……ちょっとした英雄潭だな。

「それは……大変だな?」

「人事みたいに言ってるがな……お前の話も結構出てるんだぞ?」

「なぬ?」

それはどういうことでしょうかウォレスさん?

「当然だが、俺たちローランディアに属する者以外にも共に戦った者について――バーンシュタインでは、お前、ラルフ、ジュリアン、リビエラ、ポール。魔法学院からはミーシャ、イリス、アリオスト。他にはカレンのことも、話せる範囲で話している」

「――マジで?」

「ああ、マジだ」

ウォレスは真剣な表情で肯定してやがる……。
うわぁ……そう言われると、何か恥ずかしい様な……複雑な心境だ。

「貴方はこの旅の中、新しい技術や魔法を生み出したそうですね?貴方が書き記した魔導書を、みんなから見せて貰いましたが……正直、驚かされました……。魔導学を学ぶ者としては、驚嘆に値することばかりです」

サンドラがそう言って、めがっさ感心……というか、尊敬的な眼差しを向けてくるが……。
俺はただ苦笑いを零すだけ。

魔法や技能に関しては、俺の『異能』の一つ――俺は『アレンジスキル』と呼んでいる――のおかげだし。

技術に関しても、俺の異能の一つ『絶対記憶能力』による記憶力のおかげでもあるし――。
手先の器用さに関しては、努力の賜物と胸を張って言えるけど。

「俺はそんな大層なモノじゃないんだがねぇ……まぁ、良いさ。とにかく、今日は任務のついでに寄らせてもらっただけだから……それじゃあな」

「えっ、もう帰ってしまわれるのですか!?」

俺が帰ろうとしたら、レティシアがショックを受けていた……。

「もう少しゆっくりしていけないのか……?」

「そうだよ!本当に今さっき来たばっかりじゃない!!」

カーマインとティピも、ゆっくりしていけないのかと尋ねて来るが、俺は首をゆっくり横に振る。

「そうしたいのは山々だがな……インペリアル・ナイトになったばっかりだから色々忙しいんだよ。それに、他にも寄る所があるんでな」

「そうなのですか……では仕方ないですね」

俺の説明に、サンドラが頷くが………俺の自惚れで無ければ、何処と無く寂しそうというか、悲しそうというか……それはレティシアも同じで―――――っ、ええいっ!!

「――何とか時間を作って、改めて会いに来ますから……」

「本当ですかっ!?」

「はい、男に二言はありません!」

俺の宣言に食いついたのがレティシアだった。
レティシアが真剣な眼差しで問うて来たので、俺は力強く頷いてやる。
すると、花が咲いた様な笑みを浮かべた。

――うん、大切にしてやらなきゃってすっげえ思った……こんな口約束でこんなに喜んで……さりげなくサンドラも微笑みを浮かべてるし――。

よし、超特急で仕事を片付けよう――。

で、二人の為に時間を……。

「まさかとは思うが……カレンのことは忘れちゃいねぇよな……?」

「―――そんなわけ無いだろマイブラザー?ハハハ!」

「今、間が開かなかったかオイ……」

――忘れちゃいない。
カレンだけじゃなく、リビエラ、イリスも……しっかり時間を作らなきゃ……。
くっ、良いだろう!!
かつて『残業の帝王』と呼ばれた俺の手腕を見せてくれるわっ!!

それが、成り行きとは言え、皆大好きだ!!と高らかに誓った俺の責任って奴だからな。

その後、俺はローランディアを後にする。
皆に言った様に、寄る所があるからな。

一つは任務で、一つは個人的な用件で―――。
まずは、任務を済ませないと――。

***********

で、俺がテレポートを使ってやってきたのは――。

「ブラッドレー副学院長、お手間を掛けてすいません」

「いや、構わんよ。それで、何の用かな?」

そう、魔法学院である。
俺は副学院長室に足を運び、ブラッドレー副学院長と面会を果たしていたというワケだ。

俺は用件を副学院長に伝える……。

「成る程……その同盟の説明、調印のために学院の一室を借りたいと……」

「あらゆる意味で中立地帯である、この魔法学院で行うのが、各国に対して波風が立たない1番の方法なのです。勿論、学院の都合もあるでしょうし、無理強いは致しませんが……」

正直、学院の一室を借りられたらなぁ〜……とは思うが……元来、魔法学院は魔導学を学ぶ所であり、魔法技術の独占を禁止するために、各国に『属していて属していない』……中立地帯である。

故に、幾ら同盟のためとは言え、国の会合などは魔法学院の主旨に反する訳だ。

まぁ、断られても第二の案が無いワケじゃあ無いしな。
次点としては、言い出しっぺのバーンシュタインで会合を行うことだが……。

「ふむ……君らには色々と世話になったからな。許可したいところなのだが……私の一存だけでは決められんのだよ」

副学院長は申し訳なさそうに説明する。
流石に今回の件は、副学院長の権限だけではどうしようもないらしく、教授会で話し合って決めなければならないそうだ。

「だが、魔法学院としても君らには幾つも借りがあるからな……3日……いや、2日もあれば許可も得られよう」

自信満々に語る副学院長。
二日か――……さして急ぐワケで無し。

「分かりました、お願いします」

俺は副学院長に頭を下げる。
副学院長は力強く頷いていた。

一応、各国の王には『会談場所は追って伝える』と、言ってある。
これは、会談場所が特定してないという意味もあるが、万が一にも情報が漏洩することを防ぐ意味合いもある。

予定としては、会談場所が決まれば俺が再び各国に向かい、そのことを説明する様になっている。

「そういえば、ルイセが頼んだアイリーンさんの件はどうなっているんでしょうか?」

俺はついでに……と、ルイセが預けたプロミス・ペンダントのこと、そしてアイリーンさんの容態を尋ねた。

「彼女は日に日に容態が悪化していく一方だよ……最近では声を発することも出来なくなってしまってな……プロミス・ペンダントについては、まだ調べている最中だが……プロミス・ペンダントに使われている石は、魔術的な媒介として、人の運気を高める効果を持っている程度で、グローシュを戻すような効果は無いようなんだ」

やはりか……アイリーンさんに関しては遅かれ早かれ、そうなるとは予測していたが……。

にしても、魔術的な媒介になるのか……コレ。
それに運気を高める……ねぇ。

「そうですか……」

「無論、まだ調べきったわけじゃないから、結論は出せないんだがね」

結局、鍵を握るのはカーマイン達か……。
ままならないモノだな……。

「では、会場の件……宜しくお願いします」

「ああ、出来る限りのことはしよう」

俺は副学院長に軽く挨拶した後、副学院長室を後にした。

さて、用件は済んだし俺は――と。

―――せっかくだから、顔を出していくか。

***********

「――どうかな、お姉さま?一応、教科書通りに作ってみたんだけど……」

「ええ、ちゃんと美味しいですよ、ミーシャ」

ふと、声を頼りに食堂まで来てみると……何やらケーキを食べているイリスとミーシャ。

まぁ……何となく予想はつくが……。

「よぉ、二人とも!」

「!シオンじゃないですか……何時こちらに?」

「ちょっと前にな……副学院長に用があってさ」

俺が声を掛けて、1番に気付いたのは、やはりイリスだった。
俺はイリスの問いに答え、一応の疑問を口にする。

「それより、二人して何をやってるんだ?……まぁ、想像はつくけど」

「そうだ!よかったらシオンさんも食べてみて!このケーキ、美味しく焼けたんだよ!」

「一応、念のために聞いておくが……誰が作ったんだ?」

「ん?アタシだけど?」

俺の疑問に答える形で、ケーキを奨めてくるミーシャ。
……分かり切ってはいるが、一応、念のために、誰が作ったか聞いておいた。
……想像通りの答えだったよチクショウ……。
だから、俺は万感の思いを込めて言ってやった。

「―――大丈夫なのか?」

――と。

「だ、大丈夫だよ!今回もちゃんと味見したもん!!それに、変なアレンジをしないで、教科書通りに作ったし……」

……俺はその味見したモノを飲んで酷い目に遭ったんだが?
……あの時ほど、恥辱を感じたことは、無かっただろうさ……。

しかし、教科書通りと言うなら安心か……?
いや、待て……騙されるな俺!
『あの』ミーシャが作ったんだぞ?
何かしらトラップが無いとも限らん……。

シオン……此処はじっくり考えるんだ……この問題は一生を左右しかねないぞ……。

「私もいただきましたが、美味しかったですよ?」

「大丈夫か?身体に異変を感じたり、吐き気を感じたりはしないか?」

「い、いえ、到って正常ですが……」

俺はケーキを食べたというイリスを本気で心配した――あんな目に遭うのは、俺だけで十分だ!
イリスをあんな目に逢わせたくはない!

「……シオンさん、酷いよ……そんなシリアス過ぎる顔をして……」

ミーシャが何か言ってるが、前科持ちである以上、疑って掛かるのも仕方ないだろうが。

しかし、イリスに異状が無い以上(駄洒落じゃないからな!?)……問題は無いということか……だがしかし……。

「……嫌なら無理して食べること無いよ」

「――いや、戴こう。俺は、ミーシャを信じたイリスを信じる!」

ミーシャが不機嫌そうに……というか、泣きそうになっていたので、俺は食べる決意をする。

流石にこんなことで泣かせるのは本位じゃないしな……。
ミーシャは俺の決意を聞くと、不機嫌なんか吹き飛ばし、ケーキを小皿に切り分けてくれた。

……何気に、ミーシャは信じずイリスなら信じれるとか、酷いこと言ってるんだがなぁ……俺。

そこは流石のミーシャクオリティで流したみたいだな……。

「それじゃあ……ハイ、どうぞ!」

「ああ……いただきます」

俺はそれを受け取り、フォークで一口分を切り分ける。
――見た目は普通のショートケーキだが――。

ええい!!南無参!!

パクッ!モグモグモグ――――ゴックン!!

「ど、どうかな……?」

ミーシャが戦々恐々とした風に聞いてくるが――。

「―――美味い」

「本当に!?」

「ああ……何て言うか、普通に美味い」

ゼノスとかが作ったケーキに比べたら、若干味は落ちるが、普通に美味いのだ。

何とか食べられる……とかのレベルではなく、ちゃんと美味い。

…………うん、変な精神異常も無いし。

「いやったああぁぁぁぁ!!」

「よかったわね、ミーシャ」

「うん!」

目茶苦茶喜ぶミーシャと、それを微笑ましく見守るイリス。

――良かった。
二人とも楽しくやっているみたいだな……。

「やあ、何だか楽しそうだね」

そんなところにやってきたのは、優しげな雰囲気と水色の長髪を携えた、眼鏡を掛けた青年……まぁ、アリオストなんだけど。

「って、シオン君じゃないか。今日はどうしたんだい?」

「副学院長に用事があってな――その後はアリオストと同じさ。二人の声が聞こえたから、寄ってみたんだよ」

「成る程ね。その用事が何か……なんて、聞かない方が良いのかな?」

「――そうしてくれると助かる」

勿論、アリオスト、ミーシャ、イリスは信頼している。
だが、この場には三人以外にも生徒や教員が居る……当たり前か……此処は食堂なんだし。

しかも、ミーシャが大声で喜んだりしたから、周囲の注目を浴びまくってるワケだ。

周りが聞き耳を立てている状況で、まがりなりにも国の任務としての内容を話せるワケが無いだろうよ。
……俺のアレンジ魔法『サイレント』を使えば、周りに聞かれることは無いだろうが……確か、学院内での大掛かりな魔法の行使は禁止されている筈……。

話を聞かれない場所……例えばアリオストの研究室にでも行けば良い……と、言う案もあるが。

正直、そこまでする必要は無いかな……と。
どうしても聞きたいと言うなら、そこまでするかも知れないが……。

聞かないでいてくれると言うなら、その言葉に甘えさせてもらうだけさね……。

「そうだ!アリオスト先輩も、良ければどうぞ!美味しいケーキを焼いたんですよ!」

「……っ!?や、焼いたって……ミーシャ君が…かい?」

ミーシャがケーキをアリオストに奨めるが、アリオストは何とも面白……複雑な表情で返事を返した。

おもいっきり顔が引き攣ってるのに、それを必死に隠そうとして微笑もうとするが……無理矢理表情を変えようとするから、顔が痙攣してエラいことになってしまっている。

―――そういえば、アリオストはミーシャの炭【ケーキ】を食したんだっけか……なら仕方ない反応だよな。
気持ちは分かる。

「そうですよ?お姉さまとシオンさんも食べて、美味しいって言ってくれたんですから!」

胸を張って言うミーシャだが……アリオストは恐る恐る俺に視線を向けてくる。

―――本当に大丈夫なのかい?―――と。

俺はそれに力強く頷いてやった。
すると、途端にホッとした表情になり、再びミーシャに相対する。

「それじゃ、ごちそうになろうかな?」

「はい!いっぱいあるから、たくさん食べて下さいね?」

和やかな雰囲気を醸し出すアリオストとミーシャ……ふむ、ここは一つアリオストの背中を押してやるとするか。

「さて、此処は若い二人に任せて……俺達は退場しようか?」

「な、ななな何を言ってるんだいシオン君!?僕は別にだね!?」

「?シオンさんもお姉さまも若いよね?」

「シオンは18、私は21ですから――(私の場合、肉体年齢が21相当というだけで、製造年月日………正確な年齢で言えばもっと若いですけど……言わなくても構わないでしょう。ミーシャに嫌なことを思い起こさせることになりますし……)」

アリオストは真っ赤になって目茶苦茶慌てている……が、肝心のミーシャとイリスは天然な答えで返している。

というか、精神年齢を合算すれば俺が1番年くってるんだがね。

「そうじゃなくて―――せっかくだから二人きりにしてやろう――って意味だよ」

「っあ……!そ、そういうことですか……了解しました」

俺がイリスの耳元で小さく囁くと、おれの息がイリスの耳を擽ったのか……ビクンッ!と身震いしながら、俺の意を汲んでくれた。
って、そんな反応されたらオッサンのマイ・サン(これも駄洒落じゃないからな!?)が天元突破しそうになっちゃうよ?

……禁欲生活長いから、こんな些細な反応でも天元突破しそうになるのよ……分からんだろうなぁ。

「ミーシャ、私はシオンと話があるので、アリオストさんと一緒にケーキを食べていて」

「わかったよお姉さま!」

と、そんなワケで俺とイリスはその場を後にした。
頑張れ、アリオスト!
オッサンは君を応援しているぞぅ!!

**********

魔法学院・中央広場

「シオン……貴方は気が利くのですね」

「ん?そんなこと無いって………こうでもしなきゃ、中々進展しないだろ……あの二人」

例の学院長ヒゲの一件以来、ミーシャも少なからずアリオストに想うところがある様だが、生来の天然故か、アリオストの気持ちに気付いていない。
アリオストに関しては、奥手な部分があり、一歩退いた場所からミーシャに接している節がある。

いつぞやの温泉の時を思い出して貰えれば分かると思う。
アリオストは自分から覗きに行くほど積極的では無いが、いざ赴けば率先して苦難に臨む程の情熱を秘めている。

――ムッツリスケベと言ってしまえばおしまいだが、それもミーシャだからこそなのだろう。

原作において、アリオストがミーシャを好きになった理由は、ミーシャの性格や行動に研究者として興味を覚えたのが始まりだったらしいが――今現在に到ってはそれだけでは無いのだろう。

研究者として興味があるだけなら、あんな風に真っ赤になりながら――大慌てをしたりは、しない筈だからな。

「―――私にも」

スッ……と、イリスが俺に抱き着いてくる……良い匂いだな……って!

モチツケ俺!!

「――私にも気を利かせて欲しいのですが?」

「どういう意味だ?」

「……貴方は……私の口からそれを言わせたいのですか?」

イリスの問いに、俺はすっとぼけた答えを返す。
すると、イリスは微妙にむくれた様な表情を浮かべて言葉を紡ぐ。

何コレ、マジで可愛いんですけど?

「ああ……言ってくれなきゃ分からないからな」

「……私も……構って下さい……」

ギュッ、と俺の服を掴み……その身長差から、見上げる様に上目使い。
ほのかに頬を染めるイリス………あれか?萌え死ねと?

俺はイリスの髪を梳く様に撫でる。
サラサラして気持ち良い感触だ。

「あっ……ん……くすぐったいですよ」

「だって、構って欲しいんだろ?」

ああもう、イリスってば可愛いなぁもう!!
ん?余裕がある様に見える?
案外いっぱいいっぱいデスヨ?

「……シオンは意地悪ですね……そうやって言葉責めをして私を虐めて快楽の虜にしようというのですね?」

「そうだと言ったら?」

イリスはそう言うが、俺が耳元でそう囁いたら、ビクビクンッ!と、震えて、ほのかだった顔の赤みが真っ赤になった。
いつもの様にツッコまれると思ったのだろうが……俺の予想外の返答にイリスは驚愕していた。

「……貴方にそんなことを言われたら、答えなんて決まっているじゃないですか………貴方の望むままに……して下さい」

しかし、恥じらいながらも大胆にそんなことを言ってしまうイリス……。
まぁ、何だ……正直、無茶苦茶嬉しいが……。

「そうしたいのは山々だが………これだけ見られていると……な」

「あ………」

そう、見られているのだ。
あくまで此処は学院の広場なのだから。
生徒達が見るのは当然――。

まぁ、分かっててやったんだけどな。
とは言え、幾ら俺でも見られてる場所で堂々とナニかをする程の勇者では無い。

せめて、イチャイチャするくらいしか出来ん。

「イリス――今回はこれで我慢してくれ」

俺はイリスを抱きしめながら頭を撫でる。
イリスはそれを大人しく――そこはかとなく嬉しそうに――甘受していたが……。

「――その言い方だと、私が何かを期待しているみたいに聞こえますが……?」

「?違うのか?そうなら謝るけど……」

「……違いません」

私は不本意ですと言いたげに眉をしかめるが、俺がマジ面で首を傾げながら言うと、俺の胸元に顔を埋め、素直な言葉を口にした。

なんかさ……感慨深いものがあるよなぁ……。

その恥じらいながらも俺を求めてくれる反応に、嬉しさやら何やらを感じるのもあるが……。

ここまで感情を表現するようになったというのが感慨深いと言うか……。

普段は微々たる変化にしか見えないくらいかも知れないが……。
俺やミーシャと居る時は、イリスはこうして感情を現してくれる。

前者は男としての喜びで、後者は子供の成長に対する父親、あるいは孫の成長に対するお爺ちゃん的喜び。

そんなに時間が経ったワケでは無いんだがな……。

「そこまで言うからには、時間を作って頂けるのでしょうか?」

「勿論、今日は予定があるから無理だけど――近いうちに必ず――」

俺は強く誓いを立てる。
するとイリスは優しい微笑みを浮かべる。
そして一言こう言った。

「約束――ですよ?」

―――と。


………こうして、俺はイリスと約束を取り付け、魔法学院を後にしたのだった。

**********

鉱山街ヴァルミエ

任務を終えた俺は今、鉱山街ヴァルミエに来ている。
理由は、個人的なモノだ。

「確か……此処だったよな?」

俺の目の前には、この街唯一の宿屋がある。
原作だと、間違いなく――。

俺はその宿屋に入っていく……。

「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

そう言って俺を迎えてくれたのは長い金髪をポニーテールにした若い女性――25、6といった所か。

「あ、いや……俺は客じゃなくて「おにいちゃん!?」……お?」

俺が視線を向けた先には、ラシェルの保養所に入院していた……あの少女がいた。

「やっぱりおにいちゃんだぁっ!」

「おおっとっと……久しぶりだな?クレアちゃん」

飛び付いて来た少女――クレアちゃんを、正面から抱き止めてやる。

「うん!パパァ!ママァ!おじいちゃん!このおにいちゃんだよ!」

そう言って、クレアちゃんは先程の女性――恐らく母親だろう――と、宿内で道具屋を営んでいる爺さん、そして先程少女と遊んでいた30代半位に見える武道家の男性――恐らくクレアちゃんの父親――が、こちらにやってくる。

「アタシね、がんばってパパとママとはなしたんだ!そうしたら、また仲良くなれたんだよ!」

クレアちゃんは、相手が何を思ってるのかを聞いたり、自分がどう思っているのかを話したりしたらしい……。

そうしてじっくり話し合った結果、夫婦仲は回復したのだとか。

「貴方のことは娘から聞いています。本当に何度お礼をしてもしたりません……」

「いえ、自分が好きでしたことなので……お気になさらず」

「しかし、それではこちらの気がすみませんわ……」

「――ふむ、どうじゃろう?ワシらは商売人じゃ!じゃから今後、この人がウチを利用する際にはうんと値段を安くするというのは?」

自分が好きでやったことだから気にしないで欲しい……と、言ったんだが……奥さんと爺さんがどうしても、ということで――此処の宿屋と道具屋を使用する際には、恩人価格にしてくれる――ということになった。

むぅ……なんか、原作で展開を知ってただけに、妙な罪悪感が……お礼をしてもらうつもりは無かったんだがな……。

「パパ!アレもアレも!」

「うむ、わかっておる」

クレアちゃんに急かされて、親父さんが前に出てくる。

――中々出来るな。
隙が無いし――オズワルドより少し弱いくらいか?
――って、戦力分析なんかしなくて良いんだって!

「―――不思議な雰囲気を持つ青年よ。君のおかげで、娘は元気を取り戻し、あまつさえ家族で話し合う機会を得た――ありがとう」

「いえ、先程も言った様に、私は自分がしたかったからしただけです。お礼を言われる程のことではありませんよ」

「いや、もし君が娘の話し相手になってくれていなければ、娘が元気になりはしなかっただろうし、私も修行の旅を続けていただろうからな」

聞けば、親父さんは諸国を巡り、修行の旅をしていたとか――武術を極めるために。
たまに帰ると、そのことや、クレアちゃんの病気のことで奥さんと喧嘩になり、今度はより長く修行の旅に出たりしたとか―――修行が逃げ場になってりゃあ世話ねーな―――とか、思わないでは無い。

なまじクレアちゃんの悲しみってのを聞かされた側としては内心、辛辣になるのも致し方ないだろう。

『親の心、子知らず』とは言うが――この場合逆だな。
『子の心、親知らず』――だが。

「――娘の説得で目が醒めたよ。これからは見果てぬ夢を追うのでは無く、身近な幸せを求めていこうと思う――さすらいの武道家ではなく――素敵なパパとして!!」

さすらいの武道家は素敵なパパに改名したっ!!!

………って、なんか妙な電波が……。

「そういうワケで、君には私が旅で培って来た技の全てを伝授しよう。もう私には必要の無いものなのでな」

むぅ……その気持ちはありがたいのだが……。

俺は『ラーニング能力』と『アレンジ能力』の併用により、様々な武術(必殺技や奥義は個別で)をマスターしたワケだが……俺には『ラーニング能力』の弊害とも言えるスキルが存在する。

『超無才能』

自身の努力や積み重ねでは、ほぼ『技』を覚えられなくなってしまう厄介なスキル。

俺の言いたいことが理解出来ただろうか?
伝授してくれるのは良い……まだ覚えてない技や武術があるだろうし。

しかし、このスキルがネックとなり伝授されても『修得出来ない』のだ。

まさか、原作みたいに一瞬光って修得完了……なんてことは無いだろうし……。

「少しじっとしていてくれ……私は口下手だからな。大陸の導師から貰ったコレを使う」

そう言って、俺の額と自分の額にそれぞれ札を貼った。
それぞれに『伝心』『技受』と、書いてある様だ……。

「あの……コレは?」

「うむ、この札を使えば私の念を通して君の精神に、私の持つ技術や知識を叩き込むことが出来る……本当ならじっくり教えたいのだが、先に言った通り、私は口下手だし、何より君にじっくり覚える時間はあるまい」

……いや、確かにその通り何だが……何か嫌な予感が……。

「……大丈夫なんですか?」

「勿論だ。まぁ、少し頭痛はするが……せいぜい十日連続の二日酔いが一気に襲い掛かってくる程度の物だ!心配無用だ」

それ、勿論と違う!!心配だらけやないかぁ!!…………って、俺は生まれてからも転生?する前も二日酔いになったことないから、辛いのかよく分からないんだが……。

「では、いくぞ!!」

「ちょっ、ま………ガッ!?」

瞬間、俺に襲い掛かって来たのは信じられない位の頭痛だった。

時間にして、ほんの一瞬ではあったが、こんな痛みは、かつて味わったことが無い……!!
それに吐き気が―――。

「どうだ?上手く行ったか?」

ずきずき痛む頭を抑えながら、俺は自身の情報を整理する――。

………どうやら、クロスボウ、ハンマー、フェンシング剣を極めたらしい……って、アレだけ痛い思いをしてこれだけ?

……しかも、『覚えた』では無く『極めた』?

――札が不完全だったのか、術者である親父さんが未熟だったのか、俺の『異能』のせいなのか――あるいは、その全てが作用したのか。

「――ええ、おかげさまで、力が付いたような気がします――ありがとうございました」

痛みが完全に引いたので、俺は礼を言った。
一応、身になったんだし、わざわざ不完全なのを指摘することも無いしな……。

その後、俺は雑談も程々にクレアちゃん家族と別れ、バーンシュタインへと帰還した。
さて、とりあえず任務報告をして……書類整理をして……忙しいなぁ。

だが、必ずやり遂げてみせる……。
暇……作らなきゃだからな。

***********

おまけ

クレアちゃんのお守り

「そういえばおにいちゃんのその格好……」

「あぁ……うん。信じられないかも知れないけど、お兄ちゃん……インペリアル・ナイトになっちゃってな」

俺がそう告げると、クレアちゃんの両親と爺さんは無茶苦茶驚いてたが――クレアちゃんは。

「すっご〜い!!おにいちゃん!!」

キラキラした瞳で俺を見つめてくる――や、やめて!そんなピュアな瞳でオッサンを見つめないで!?

「それじゃあ、それじゃあ!おにいちゃんのGLチップスカードも出るかなぁ?」

「ハハッ……どうだろうな?」

言えない……既に俺のカードが存在するなんて……ナイツバージョンは無いが……いや、もしかしたら何れ出てくるかも知れないな……。

―――有り得そうだから恐い。

「おにいちゃん……アタシね?おにいちゃんがくれたインペリアル・ナイツ様のカード……大切にしてるんだよ!アタシのお守りなのっ!」

「――そっか」

「うん!」

朗らかに笑うこの子を見て、暖かい気持ちになった――本当に良かった――。

この子の心を救えた――というのは傲慢だろうけど――この子の心からの笑顔を取り戻す手助けが出来た……そう思うと、何だか誇らしかった。

***********

後書き。

どうも……つい先日、転生トラックならぬ、転生ミニバンにリアルでお世話になりそうになった神仁でございます。
m(__)m

……まぁ、交通事故なんですが……突っ込んで来たミニバンを避けてガードレールに激突……ですが奇跡的に左手を打撲しただけで済みまして……バイクは大破しましたが。
(-.-;)

仕事が忙しかったこともあり、更新が遅れたことを謝罪いたします。

申し訳ありませんでした。
m(__)m

次回は嘘予告かも知れません。

それではm(__)m




[7317] 細部と展開が微妙に違うだけの嘘予告―異世界転生者と不屈の魔法少女―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/20 12:14


さて、皆さん……これから語られるのは、今より遥か未来の―――更にifの話。
正直、『ネタバレ』という奴です。
あくまで嘘予告なので、本編で採用された場合には、微妙な差異があるかもしれません。

それが嫌な方は、いますぐリターンしてください!!

………………。

……………。

…………。

………。

……よろしいですか?

それでは皆さんお待ちかねぇっ!!

レディー……ゴーッ!!

***********

その世界は、本来はとあるゲームの世界……そこから更に派生した世界であった……。

そこに流れ流れて集うのは、神の誤認によりその命を終えた『かつて平行世界を救った剣士の生まれ変わり』、冥界の王の戯れで命を奪われた『原作アンチハーレム主義者』、平行世界の宇宙意思の計らいで新たな生を得た『心強き少女』。

他にも多種多様な者達が『転生』を果たした世界――『転生者』を強く引き付けるその世界の名は――。


『魔法少女リリカルなのは』

そして―――『世界の代行者』たるシオン・ウォルフマイヤーもまた、この世界に誘われようとしていた―――。

***********


俺は鳴滝に嵌められ、世界から排斥された――最後まで士達に力を貸せなかったのは、正直言って心苦しいものがあったが―――。

だが、ユウスケも救えたし、キバーラも最終的にはこちら側に着いて、力を貸してくれた―――大樹も『本当のお宝』のために戦ってくれていたし、士と絆を紡いだライダー達もまた―――。

それにアイツには夏美ちゃんが居る……『帰る場所』があるんだから……大丈夫だよな。

「で、アンタがこの世界の宇宙意思だったなんてな……光 栄次郎さん?」
何も無き白き狭間……そこに居たのは夏美ちゃんの祖父……栄次郎さんだった。

「それは正しくもあり、間違いでもあるんだよ……シオン君」

いわく、光 栄次郎は自身の一面を宿した人間であり、分霊でもある。
自身の端末の一つに過ぎないのだと……。

……要はデモベのナイアとかみたいなモンか?
例えが悪いが。

「光 栄次郎は僕の一面でもあるし、僕という存在をもっとも色濃く残した存在でもある……勿論、精神とリンクはしているけど、彼は彼の人格を有しているからね」

「―――で、そんなアンタが俺に何の用だ?」

色々と聞きたいことはあるが、俺は単刀直入に尋ねる。
排斥された以上、この世界での役目も終えた筈――というより、鳴滝に巻き込まれたイレギュラーな世界移動だったんだ――本来の流れに戻るのは必然だろう。

「それは、君に新たな世界に行ってもらうためだよ……僕はライダーの世界以外に、もう一つ世界を抱えていてね……そちらの方が大変なんだよ」

「世界を複数抱える宇宙意思って……アンタって随分規格外なんだな……」

話を聞くと、その世界は様々な神の介入により、何人もの転生者が入り乱れ、その中には危険な思想の神、転生者が存在し、崩壊の危機に瀕する可能性が高いとか……。

「成程な……本来の使命に戻る訳か」

「そうだね……頼めるかな?」

「是非もなし……で、その世界の名は?」

「それはね……」

『魔法少女リリカルなのは』だよ――。

***********

「………ん……夢か」

俺はこの世界――『魔法少女リリカルなのは』の世界――に、送られた時のことを夢に見ていた――。

あの後、栄次郎さん的宇宙意思……面倒なんで栄次郎さんと呼ぶ―――栄次郎さんからデバイスを託され、この世界に訪れていた。

それは、世界の破壊者の象徴たるアイテムを元に作られたデバイス……。
俺のために調整された……俺の相棒。
首に掛けた十字のネックレスに念話を送る。

『おはようディケイド――今日は良い天気だぞ?』

『おはようございますMASTER。確かに清々しい朝ですね』

俺はこの相棒に『ディケイド』の名を与えた。
声や人格が、女性だったので少々戸惑ったのは内緒だ。

本人?いわく、インテリジェントデバイスはおろか、本家ディケイドライバーをも超えた存在で、『唯一俺に相応しいデバイス』らしいが………。
ディケイド繋がりで『ディメンションデバイス』という名称を与えたら、大層喜んでいた………まぁ、過去を通して見ても、俺の真実の全てを知る唯一の存在だからな……大切にせな。
あ、カレン達も全部知ったんだよな……。

ちなみに、ライダー世界にやって来たカレンだが、俺が異世界に飛ばされるのとは若干、タイムラグがあるらしく、こちらに来るのも俺の後になるらしい……それもこれも、カレンが俺の『眷属』になったからだそうだが……。

『眷属』にした方法が………まぁ、その……アレだったらしい……イカン!思い出すな!!
煩悩退散!!喝っ!!

……そうと知っていれば……俺の馬鹿!!俺の馬鹿っ!!

「すー………」

「あ〜……現実逃避はこれくらいにして……」

俺はベッドの横にある小さな膨らみを見遣る。
そこには幸せそうに眠る少女が居た。

茶髪のショートボブにバッテンの髪止め。

そのかわいらしい顔から、将来は美人に育つこと請け合いだろう。
というか、美人に必ず育つ………まぁ、狸とか言う不名誉な呼び名が付くかも知れないが。

『MASTER、そろそろはやてちゃんを起こしてあげた方が良いんじゃないですか?』

『……だな、家主が幸せそうに寝ているのを起こすのは、若干気が引けるが……』

「はやて〜、起きろ〜」

「んにゅ……ふぁ〜……あ、にいちゃん、おはようさんや〜♪」

「ああ、おはよう」

俺は少女……八神はやてを起こす。
はやては眠そうに眼を擦るが、俺を見つけるとニパァ♪と、向日葵のような笑顔を向けてくる。
くっ、可愛い……アレだ……妹を持つ兄の心境というか、娘を持つ親の心境と言うか……。

―――そう、この世界にたどり着いた俺は、紆余曲折あり、少女――八神はやての家で世話になっている。

正直、テンプレな展開だったのだが――俺個人としても、この少女の内にある危うさは見ていられなかったので、彼女の申し出を受け入れ、一緒に住むことにしたのだ。

……言っとくが、生活費はちゃんと入れてるからな?

で、当初は『はやてちゃん』『シオンさん』と呼び合っていたが、今は『はやて』『にいちゃん』と呼ぶ仲になった。

ん?戸籍?
ハハハハ!元サラリーマン&元インペリアル・ナイト&元女王騎士を舐めるな!!
ディケイドの力も借りて偽造……ゲフンゲフン!!
……反則技も、バレなきゃ反則じゃないんだよ?

こっちでの俺の名は『海導 シオン』――以前の俺のファミリーネームを合わせた名前――この世界なら、銀髪は珍しいが無いわけじゃないからな。
ライダーの世界じゃ黒く染めていたけど……。

まぁ、それはともかく。

「よし、そろそろ起きようぜ?腹減ったしさ」

「う〜ん……もうちょい『にいちゃん分』を堪能したかったんやけどなぁ〜」

「なんだその成分は……」

なんてやり取りは、もはや日常になっていた……。
はやてを取り巻く環境は変わらない……。

闇の書――夜天の書は存在するし、はやての両親は既に亡く、はやての足も麻痺した状態――。

原作通りに行けば、パーフェクトとは言えないが、ベターな終わり方になる――だが、転生者の存在が気掛かりだ。
今までの世界に比べて、この世界には転生者が異常なまでに存在するらしい……。

まともな奴は良い。
だが、此処は『あらゆる可能性の世界』だ……まともな奴だけな筈が無い。

見極めなければ―――それが俺の使命だから――はやてのためにも―――な。

………エゴだと分かっているが、この子のために何かをしてやれるのだろうか……俺は。

***********


俺は死んだ……死因は隕石の衝突による死亡……奇跡的に周囲の人間に被害が無かったのは幸いだった。

あの場には弟も居たから、正直ホッとした。

「で……アンタは何してるんだ?」

「本当にすまん!!全て!全てワシが悪いんじゃあっ!!」

何処とも知れない空間………そこで俺に向かって土下座している爺さん。
妙に神々しい……神気を放っている爺さん……その横で頭を下げている金髪の女性……この人もまた神々しい神気を纏っている。
ってか、白い羽が生えてるから天使か?

で、詳しく聞くとこの爺さんは神様で、女性は天使の長であるミカエルというらしい。

――よもや、神社の小伜の俺が、違う宗教の神様と天使様に導かれるとはなぁ……人生何が起きるか分からんなぁ……もう死んでるんだけどな。

「それで、俺が行くのは天国でしょうか、地獄でしょうか?」

「……随分と落ち着いてますね?普通ならもっとうろたえるものですが……」

「日々を精一杯生きたのです……悔いがないと言えば嘘になりますが、あそこで死んだなら、それが俺の天命だったのでしょう……それに、あの女の子も、運転手も、弟も周りの人達も無事だったのですから……これ以上望むのは贅沢でしょう」

そう、俺は双子の弟――橘 春人と共に高校からの帰りに、小さな女の子が歩道に飛び出したのを見付け、慌てて飛び出した。

何故なら、トラックがその少女に突っ込もうとしていたから――。

チラリとトラックの運転席を見遣ると、運転手は居眠り運転をしていた。

俺は舌打ちをしつつも、『霊力』で足を強化――瞬時に少女を抱き抱える――だが、既に飛びのくには間に合わず――だが、それを予測していた俺は、飛び出す際に携帯していた竹刀袋から木刀を引き抜いていた――そして、霊力を込め――放った斬撃は、トラックを真っ二つにした。

すかさず、運転手も引きずり出し、その場を飛びのいた俺……後方では、それぞれ電柱や壁にぶつかり、大炎上するトラックだった物……幸い、巻き込まれた人が居なかったからホッとした……。

だが、異様な気配を感じた俺は、こちらに向かって来ていた弟に少女と運転手を投げ渡し………そこで意識が途絶えたのだ。

「……主よ、貴方はこの様な者をうっかり殺めるとは……死んだほうが良いのでは?」

「そ、そりゃああんまりじゃよミカちゃん!?ワシ、一生懸命頑張っとるもん!!」

「ただでさえ、彼は平行世界の貴方と、世界を救った英雄だというのに………馬鹿ですね貴方は」

「馬鹿!?仮にも主に対して馬鹿!?あ、いやごめんなさい!ワシが悪かったからそれだけは……」

……何やらよく分からないことを言っているが……天国にするか地獄にするか、早く決めて欲しいんだが……。

「……この馬鹿神に代わって、私が説明します……実は貴方は」

ミカエル様が言うには、俺は天命で死んだのではなく、神の勘違いで殺されたのだとか……。

もっと細かく言うと、あの時あの場所には、どうしようもない極悪人が居て、そいつが死ぬ予定だったらしい……で、神様がその刑を執行しようとしたのだが、神様は勘違いで俺を狙ったらしい。

だが、俺は神様の刑をことごとく退け、切り札の転生トラック(あの居眠り運転トラックのことらしい)をも跳ね退けた俺に対し、ムキになった神様は神気をたっぷり込めた隕石を、俺の直ぐ頭上に召喚して喰らわせたらしい。

勘違いと気付いた時には後の祭りだったらしく、もはや肉片すら遺らない状態になった俺………のうのうと逃げおおせた極悪人。

「――成る程、貴様のせいか」

「ゲフゥ!?ちょ、神を足蹴にぐへっ!?ちょ、まっ、ゴメ、ごめんなさっ!?」

俺はクネクネ身もだえる神をひたすらに蹴りまくる――天命ならば納得もしよう……だが、勘違いでした、ゴメンね☆
などと言われたら、幾ら神とは言え許せるモノでは無い。

「お待ちなさい」

ミカエルさんが俺を止める……やはり神に無礼を働いたんだから、止めて当然か……こりゃあ地獄行き決定かな……?

「これを使いなさい。大丈夫、神もお許しになられます……一思いにやってしまいなさい」

彼女が差し出して来たのは、赤い剣………強烈な神気を放っている……。
そういえば、ミカエルはその存在を象徴する武器を持っているとか……。

「ちょ、ワシが神!!ワシが神だからねっ!?許さないから!そんなこと許さないんだから!!」

「「……チッ」」

「酷っ!?二人して態度酷っ!?ワシ泣いちゃうよ……あ、や、ごめんなさいワシが悪かったですから勘弁してください」

……まぁ、俺は半分冗談だったんだが、ミカエルさんは結構本気だったくさい。
流石にトドメは……なぁ……?

それからしばらくして、神に聞いた話では、俺は生き返れないらしい……流石の神でも肉体が消滅してしまっては手の施しようが無いとか。

また、予定外の事態のためにあの世へ行くこともままならないとか……。

「つまり何か?浮遊霊や自縛霊にでもなれと?」

「いや、そんなことは言わんよ……じゃから、お主には違う世界に転生してもらう」

「違う世界?」

聞くと、平行世界というのが存在するらしく、この世界の輪廻に混じれない以上、こういう措置を取るしかないらしい。

「今なら特別大サービスで、チート能力も付けちゃうぞい!」

「……何だそれ?」

「え゙……知らんの?オリ主最強も、ハーレムも思いのままじゃよ?」

「……よく分からんが、仮にも神がそんな俗っぽいこと言って良いのか?」

「仮にもって、ワシは神……ああ、止めて!そんな冷たい視線で見つめないで!?」

なんか……頭が痛くなって来た……。
それはミカエルさんも同じらしく、彼女が改めて説明してくれる。
いわく、今回の件はこちらの不手際なので、幾つかの願いを叶えてくれるらしい。

……俺としては世界が違うとは言え、また人としての生を受けられるならそれだけで十分なんだが。

……そうだな。

「それじゃあ……」

俺は俺の願いを頼んだ……自身の流派、『橘流』の技と『霊力』……これをこのまま持ち越したいと。

流石に、今まで共に歩んで来た力だけに、無かったことになるのは少し辛い……まぁ、俺の我が儘なので、無理なら構わないんだが……。

「え、そんなんで良いの?魔力EXとか、王の財宝とか、無限の剣製とか……色々あるよ?」

「そもそも、それが何なのか……俺には分からないんだが」

「絶望した!!fateも知らない男に絶望したぁっ!!」

「……主(馬鹿)は放っておいて、詳しい話をしましょう」

「今、主と書いて馬鹿と読んだよね?ねぇ?」

……神は置いておいて――詳しく聞くと、これから行く世界には『魔法』が存在するらしく、そこの魔法を行使するには『リンカーコア』というのが必要らしい。

一応、あって困る物では無いらしいが――。

「その辺のさじ加減は任せます。――その代わりもう一つだけ、願いがあるんですが――構わないでしょうか?」

「なんじゃ!?サ○ヤ人化か?不老不死か?イケメン化――は、元からイケメンじゃから不要じゃな。とにかく、何でも言ってくれい!!」

「――この世界で、俺に関係した者達から俺に関する記憶を消して欲しい――」

***********

「………夢……か」

『良いのかマスター……そろそろ授業が始まるぞ?』

『ああ、そうだなエリシュオン……行くとするか』

俺の名前は『橘 由人』――此処、私立聖祥大附属小学校に通う9歳児だ。

そう、9歳児だ。

神の計らいで転生し、再び橘家に生まれ、由人の名も貰った。
―――ただ、春人の奴は生まれなかったし、橘神社や『橘流』も存在しなかった。
そのかわり、母が健在だったが。

親父は変わらず底知れない感じだったなぁ……。
魔力……っていうのか?
それを感じた。
もしかしたら、『魔導師』って奴かも知れないな。

『マスター、幾ら面倒とは言え、授業中くらいは起きていないと、またあの4人に目を付けられるぞ』

『それは……面倒だな』

俺は頼んでいないのに、前世の記憶や身体能力までそのまま持ってきている様だ……ハッキリ言って、あの当時、素の身体能力で俺は既に達人級とか言われてたから、小学生として見なくても化け物スペックだと思う。

子供の身体構造的に有り得んのじゃなかろうか?

なので、頭脳に関しても以前同様なワケで……前世の高校では上から五番目程度に居る位の成績は維持していた。

故に、幾らこの聖祥が有名校とは言え、小学生の学力についていけないということは無いわけで……。

夜や早朝に高校の問題の予習復習をやったり、橘流や魔法の修練をしたりで忙しいので、必然的に眠くなる。

前世では三日位眠らなくても平気だったのだが、流石にそこは子供らしいみたいだ。

ちなみに、さっきから念話をしているのは、俺が着けているシルバーブレスレット……名を『エリシュオン』と言い、神から贈り物として貰った『デバイス』という奴だ。

俺用に弄られているらしく、俺にしか使えないとか……。
俺もまだ、その全容を把握しているワケじゃないが……俺のことを知る、頼れる相棒だ。

「間に合ったか……」

『マスターなら余裕だろう?』

俺は教室に入り、自分の席に着く。

「由人くん」

「……なんだ、なのは?」

「どうしてお昼にどこかいっちゃったの?お昼は一緒に食べようって言ったのに!」

そう言ってプリプリ怒っている少女の名は『高町 なのは』。
エリシュオンが言ってた厄介な4人の内の一人。

お節介焼きで、優しい少女ではあるのだが、少し頑固なのが珠に傷。

俺がこんななので、友達らしい友達が出来ていないことを思いやってなのだろう……。

(特別仲の良い友達は居なかったが、その近寄りがたい雰囲気のわりには皆に頼られ、来る者には親切丁寧に接し、面倒見が良いので、人気はある。別名・裏番)

一人で居た俺に話し掛けて来た。
その気持ちは嬉しいが、無理強いはいかんと思う。

一人でいたい時などに、無理矢理昼食に連れていかれそうになったり……以前軽く抵抗したら、思いっきりコケて涙目になっていたので、それ以来はコレと言った抵抗はしていないが。

何かしらの想いがあるのだろうが……。
自身に対する脅迫概念の様な物……それがこの子の性格を決定付ける一因になっている気がする。

ちなみに『翠屋』という喫茶店の娘さんらしいが、行ったことが無いので詳しくは知らない。

(由人は原作知識を知りません)

「……少し考え事をしてたんだよ、次は気をつける」

「むぅ……わかったの。次は絶対なの……約束だよ?」

多少、強引なところはあるが優しいこの少女を、邪険にすることは出来ず、結局はこの少女に付き合うことになる……性格は全然違うが、弟を思い出してしまうのか、似たような感覚で接してしまうのだろう。

まぁ、それはクラスメイト全員に言えることだが……。

今では名前で呼び合うくらいには交流がある……席も隣同士だしな。

ちなみに、残りの三人もクラスメイトだ。

一人の名は『アリサ・バニングス』。

よく言うなら勝ち気、悪く言うなら唯我独尊。
このクラスのリーダー的存在という奴であり、カリスマ性というのか?
この年齢にして、そういうのが滲み出ている。

なのは達に対しては優しいのに、何故か俺には態度がキツイ……のだが、嫌われているワケでも無いらしい。

(由人にはツンデレという概念が理解出来ていません)

女心と秋の空とは言うが……よく分からんな。

どこぞのご令嬢らしいが、詳しくは知らん。

(由人は原作知識を知らないんです)

もう一人は『月村 すずか』。

性格は深窓の令嬢を地で行く様な感じで、他の面子に比べたら落ち着いているというか、一歩引いた場所から皆を見ているというか……。
上手く言葉に出来ないな……決して友情を疎かにしているワケじゃなく、何か自分の中に線引きをしているというか……。

だが、その優しさは雰囲気にも醸し出されており、『癒し』という意味では1番かも知れないな。

どこかの家のお嬢さんらしいが、やはり詳しくは知らない。

(由人は原作ry)

最後の一人が『水瀬 さき』。

この子もまた勝ち気だが、アリサのそれと違い、『姐御』という様な感じだな。
もう一人のリーダー的存在という奴だ。

他の三人も小学生にしては大人びているが、彼女は三人よりも大人なため、それなりに話が合ったりする。

そのくせ、元気だけは人一倍だったりするが。

件の三人は、なのはの親友のため、その関連で俺とも付き合いがあったりする。
……こんな面子に囲まれて、俺は小学生をしている。

特になのは関連で、厄介ごとに巻き込まれていくことになるとは……思わなかったがな。

***********

剣士は駆けていく……。
出会うは、覚醒せし不屈の魔法少女と言葉を解す金色のフェレット……。

「なのは……何だその姿は?」

「ふえぇぇっ!?ゆ、由人くん!?」

「来ちゃ駄目だ!此処は危険だよ!!」

「鼬が喋った……いや、オコジョか?妖の類か……にしては、妖気や霊気は感じないが」

「フェレットだよ!鼬はともかく、オコジョは止めてよ!なんか――凄く不名誉な気がするから!!」

二人と一匹に襲い掛かる、願望を叶える石の魔物。
すかさず迎撃態勢を調え、白き少女は得たばかりの魔法の力で、少年は長年親しんだ霊力で……終始魔物を圧倒する二人だが、倒すには至らない。

そこでフェレットは語る……魔物の核である石を封印しないと、倒せないと……その隙に魔物が少女に襲い掛かる。
咄嗟のことに反応出来ない少女……そして予想外の攻撃に助けに入れない少年……。

そこに現れたのは……。

「大丈夫と分かってはいるが……捨て置けないからな」

白き鎧に包まれた戦士……彼が魔物に相対する。
新たに現れた脅威に対し、魔物は襲い掛かるが……。

「その命――神に返しなさい――!!」

その言葉と共に、閉ざされた瞳から現れたのは真紅の瞳――放たれたのは強烈な衝撃。

それを受け、四散する魔物――しかし、すぐに復活する……それを見て白き戦士は腰から十字を模した銃を取り、そこから更に刃を発生させる。

「確か、封印というのをしなければならないのだろう?足止めはしておく。少年か少女か、どちらがするのかは分からないが、早く決めなさい」

それが少年の新たな人生という名の物語……その序章であり、魔法少女『高町 なのは』と遺跡発掘を生業としている部族の少年『ユーノ・スクライア』との腐れ縁の始まりであり……白き太陽の戦士――仮面ライダーイクサを始めとする、仮面ライダー達との出会いの始まりでもあった。

それから、少年少女は駆けていく。

願望の石を回収するため、少女とフェレット――少年もまた。

「知ってしまった以上、無関係ではいられないだろう」

二人は様々な出来事に遭遇していくことになる……特に、雷光の魔導師……運命の名を持つ少女とは、まるで絡み付く螺旋の様に係わり合って行くことになる。

そして、時折現れる仮面ライダー達もまた……。

狭間にある庭園の決戦……そこで彼も現れる。

「行くぞ……力を貸してくれ、Ⅱ世」

「久しぶりの出番だ……キバッて行くと……しようか!ガブリッ!!」

「――変身」

『MASTER!?なんで……私を使って下さいよぅ……』

「Ⅱ世達も使ってやらなきゃ、可哀相だろう」

漆黒と真紅の王に姿を変えた白銀の青年は、自身が生まれた世界で最も頼りにした、体力や生命力を鋭さや頑強さに変える大剣を抜き放ち、群がる物言わぬ兵隊を屠って行った。

全てを解決した後……つかの間の平和の後にやって来たのは、闇に連なる雲の騎士達……。

少年少女達の前に立ち塞がるは、烈火、鉄槌、湖、盾…………そして――破壊。

「嘘……なんで……」

その者が纏うは破壊者の鎧、本来は無い腰の外套、顔には仮面は無く、銀と蒼を携えている青年……。

「なんでアンタがそこに居る……」

「決まってるだろう少年……俺もまた、騎士だからさ……そうさな、『破壊の騎士ディケイド』とでも名乗ろうか?」

彼らは対峙する……それぞれに守る物を抱えながら、互いの想いをぶつけ合う……。

***********

「はやて、猫捕まえて来たぞ?猫鍋しようぜ?」

「にいちゃん、何言うて……って、猫さんめっちゃグッタリしてるやん!?」

「ああ、大丈夫大丈夫!ちょっとメンチビーム喰らわせただけだから―――大丈夫だよ……な?」

(ビクッ!!?)コクコクッ!!

「に、にいちゃん……なんか恐いで……?猫さん怯えてるやんか……」

「心配するな、所詮この世は弱肉強食……って奴だ」

「心配だらけやっ!?あかん!あかんよ!?猫さん食べたらあかんよ!?」

ヴォルケンズが来る前、とある猫がシオンの弄られ要員として八神家に居候を始めたようです……。
ちなみに、しっかり猫鍋されて動画サイトに投稿されたとか。

***********

後書き

生き抜き(誤字にあらず)の為に嘘予告を書いたのに……物語が重厚過ぎて、書き切れなかった……。
orz

所々はしょりつつ、AS編まで引っ張って漸くとか……。
STS編まで入れたら嘘予告でも2話くらい行く予感……。
というか、自分が本格的に書いたら100話余裕で越えそうで恐い……。
((゚Д゚ll))ガクブル

そこまで行くのに、後何年掛かるやら……。
(;¬_¬)

それでは御目汚し失礼しました。
m(__)m





[7317] 第121話―銀の紅と銀の蒼―【15禁?】
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/20 15:54
今回、シオン君が大人の階段を上ります。
それが堪えられない方は急いで引き返して下さい……という程の物ではありませんが、一応。

***********


バーンシュタインに帰還した俺は、陛下に事の顛末を報告し、とりあえずの任務を終了した。

新たな任務を言い渡されたワケでは無いので、インペリアル・ナイトとしての仕事に戻ることになる。

正確には始める……なのだが。

さて、ここでインペリアル・ナイトの仕事について語りたいと思う。

【インペリアル・ナイツ】とは、正式には【バーンシュタイン王国第一近衛騎士団】と言い、バーンシュタイン王国最強の騎士の称号であると同時に、大陸最強の騎士の称号でもある。
その名の通り国の守護を担い、有事の際には前線に赴いて兵を率いて戦う将軍でもある。

こと軍部にあっては、通常の将軍以上の発言力と責任がある立場なのがインペリアル・ナイトという立場だ。

だが、当然それだけでは無い。

国事に尽くし、時には王に進言するのもナイトの仕事である。
とは言え、大まかな部分は王や大臣が指揮しているので、内政関係に関しては大臣の下で、一般の文官より少し偉く、責任がある立場という程度だが。

この様に権限がある以上……将軍であると同時に、政治事にもある程度は顔を出さなければならない。

無論、民の平穏を守る為に尽力もせねばならない……モンスター討伐、野盗退治………当たり前だが近衛である以上、王の身辺警護は絶対だ。

更に、インペリアル・ナイトは貴族としても最上位にあたるので、自身の領地の管理運営もまた、重要な仕事だ。

――カーマインの領地みたいに、優秀な管理人が居るなら話は違って来るが。

まぁ、元より我が家は『領地を持たない』特殊な家系なので、その辺の心配は無いが――。

余談だが、ジュリアはダグラス卿が健在なため、領地の管理などはしていない。

今、ナイツで個人の領地を持っているのはライエル、リーヴス、ポールの三人だ。

ポールについては、ナイツ就任と共に領地が与えられた。
場所は、かつてボスヒゲの領地だった場所の一部。

詳しく言うなら、クレイン村周辺。

ボスヒゲの正体を知った以上、いつまでも後生大事に領地を守っておく必要もない……という結論に達したワケで。

ポールは今頃、俺とは違った意味でてんてこ舞いだろう。
まぁ……元が王で、しかも愚王ってワケでも無いから、内政力はかなりのモンがあるだろうし、心配は無いだろうけどな。

他にも、ナイツにはそれぞれ直轄部隊というのが存在する。
ナイツは直属の部隊をそれぞれに抱えている……その上で他の部隊を指揮したりするワケだ。

つまり、俺も俺の直轄部隊を作らなきゃならない……何人かは決まっている。
アイツらは確定だろ……これで安定した給料をやれるし……。
問題は残りを一般兵から捜さなきゃなんだよな……もしくは一般応募。

流石に5人6人じゃ、ナイツの直属としてどうよ?
って、なっちまうしなぁ……。

他にもetc、etc……。

要するに、やることは山積みだってことだ。

俺は城の中にある、俺に与えられた執務室(広さはそれほどでは無いが、我が家の書斎ほどの広さがあり、装飾が立派)の執務机に付属された椅子に座り、ため息を吐く。

皆に暇を作るなんて言っちまったが、こりゃあ予想以上に大変だぞ……まぁ、ウジウジしていても問題は解決しない……か。

「よっしゃあっ!!やったんぞぉっ!!」

コンコン――。

「……っと、はい、どうぞ。入ってくれ」

「失礼します……着替えてきたケド……似合う、かな?」

俺の執務室に入って来たのは、リビエラだった。
その姿は、いつもの黒のインナーと白のプリーツスカート姿では無く、オズワルド達に渡した装備『蒼天の鎧』の女性バージョン。
更にはその特注品。

上は女性用シャドー・ナイト制服の色違いだが、それだけでは無く、肩当ても無くなり、インペリアル・ナイトの上着の様にロングコート風味になっている。

余談だが、オズワルドもロングコート風味であり――マーク、ビリー、ニール、ザムは通常仕様である。

下は本来ならOL風のタイトなスカートにスリットが入った様な仕様だが、リビエラ用にプリーツスカートにしてある。
ちなみに私服とサイズは変わらないのでミニである。

((グロラン通の方限定で言えば、Ⅳのロイヤルガード、シルヴァネールの来ている制服に近いデザインで、赤で無く青基調……と思って頂ければ間違いないかと……))

なお、黒ニーソはそのまんまで、白ブーツを履いている。

「おお、似合ってる似合ってる!流石リビエラ、何でも着こなすなぁ〜……」

「あ、ありがとう……シオンにそう言ってもらえたら……嬉しいよ」

………あ〜……まぁ、なんだ、本当に嬉しそうな顔するから……照れる。

リビエラの頬がほんのり赤いが――多分、俺も似たようなモンだろう。
もっと大胆なことをしてるくせに、こういうホンワカと温かい言葉には、中々馴れないな――俺は。

俺は緩みかけた頬を引き締め、ポーカーフェイスを整えて軽く咳ばらい。
そして、真剣な表情で宣言する。

「リビエラ・マリウス――君は本日付けで私の直轄部隊『蒼天騎士団』所属となり、私の副官となって貰う。これからの働きに期待する」

「拝命致しました、シオン将軍。これからより研鑽し、お役に立つことを誓います……国のためにも、それ以上に将軍のためにも……ね♪」

俺の真剣さに、リビエラも真剣に返した――かに見えたが、結局茶化して来た。
俺は苦笑いと共に言葉を口にする。

「コラコラ、一応形式的な物とは言え、立派な辞令なんだから茶化すなよ」

「あら、私は本気よ?祖国は勿論大切だけど、1番はシオンですもの。それに他に誰も居ないんだし、良いじゃない♪」

リビエラは悪気はなさそうに言う――多分、本心なんだろうな。
その気持ちは――嬉しいけどな。

ちなみに、何故俺がリビエラを副官に任命したか……?

それはリビエラの望みを叶えるためでもある。

俺の元で働きたい――それがリビエラの望みだった。

現在、バーンシュタイン王国はリシャール対エリオットによる内乱によって、決して軽くない傷を負って疲弊している。

保有兵力の減少もその弊害の一つであり、今現在、兵の質という点においては未だに最高峰ではあるが、兵力という意味だけなら三国の中で1番少ないと言っても―――過言では無い。

故に、上層部に居るであろう、エリオット陛下に良い感情を持たないと思われる臣下達も、表立って俺とポールのナイツ入りを反対しなかったのかも知れない。

兵力で劣る以上、『インペリアル・ナイト』という分かりやすい『力』を誇示し、増やすことで、他国に対する牽制に使おうとしたのだろう。

分かりやすく言うと、俺達はまだまだこんなに強いんだぞぅ!!舐めんなよっ!!
って、言いたいんだろうさ。

まぁ、エリオット陛下や陛下を支える臣下は、そういう意図は無かったと思うが。

それだけ、ナイツの称号には力があるってこと。

そんな状況だ……元シャドー・ナイツの連中を遊ばせておくワケには行かなくなった………正式に軍を退役したリビエラの姉……オリビアさんと、その婚約者などの例外はともかく、リビエラの様に軍に残ることを選んだ者はそうはいかない。

陛下には予め、リビエラやオズワルド達のことは言ってあったが……仮にそれが無ければ、リビエラはシャドー・ナイト時代の経験を買われ、新たに設立された諜報部に出向させられていただろう……原作通りにな。

これまた余談だが、リビエラはゲヴェルとの決戦後、姉夫婦の家に世話になっていたが、姉夫婦のあまりのストロベリーぶりに、羨ましいやら居心地悪いやらで、悶々としていたらしい……だからか、俺が今回のことを頼みに行ったら凄く喜ばれた。

「気持ちは嬉しいけどな……誰かが居る時は自重してくれよ?」

「任せてよ♪それで、私は何をすれば良いの?」

「そうだな……主に俺のサポートだな。書類仕事、部隊の指揮や調練……」

俺の頼みに、自身満々に答えたリビエラは、そのまま仕事内容について聞いて来たので、俺は色々説明する。

「……と、まぁ……こんな所かな?」

「うーん、シオンのサポートは勿論大歓迎なんだけど……私、書類整理や部隊の指揮とかならともかく、調練の仕方なんて分かんないんだけど……」

「ああ、大丈夫。騎士団長はオズワルドに任せるつもりだし、有事以外では俺が鍛えるつもりだしな」

「シオンが鍛えるって――あの魔導書を見せてってこと?」

不安そうなリビエラに俺は詳しく説明する。
リビエラが言う魔導書とは『今日から君も大魔導師』『今日から君も大英雄』のことだな。

「まぁ、いずれはそういうことも考えては居るが、まずは団員を集めなきゃならんからな……」

「なんだ、騎士団の名前まで決めてるから、てっきりもう集まってるかと思ったのに……」

「流石に、二、三日ではな……他にやることもあったし」

俺は肩を竦めて答える。
ちなみに、蒼天騎士団はリビエラ達が着けている『蒼天の鎧』から取った名前だ……実に安直な名前だが……分かりやすくて良いだろう?

「さて、とりあえず今日のお仕事を片付けちゃいましょうか!」

「そうだな……よし、やるか!!」

こうして、俺はリビエラと書類整理に勤しむ……勿論リビエラはリビエラの席に座って。

ちなみに、俺の書類処理速度にリビエラは大層驚いていた。

具体的に言うと↓の様な感じだ。

カリカリカリ……バッ!

カリカリカリ……バッ!

カリカリカリ……バッ!

「…………」←呆然

「…………」←集中

カリカリカリ……バッ!

カリカリカリ……バッ!

「リビエラ、此処の要項に記入漏れがあるから、後でこれを送って来た……軍統括部か。そこに送っておいて」

「は、はい!……うわぁ、本当に記入漏れがある……」

カリカリカリ……バッ!

カリカリカリ……バッ!

カリカリカリ……バッ!

「これは俺にじゃなくライエル宛の書類だ。ライエルの執務室に届けておいてくれ」

「わ、分かった!」

カリカリカリ……バッ!

カリカリカリ……バッ!

カリカリカリ……バッ!

………………。

……………。

…………。

………。

……。

***********

「ふぅ……これで終わりっと……」

「お疲れ様、はいお茶」

「おっ、サンキュー♪」

俺はやっと書類――主に俺の赴任に関する物や、新兵に関する物――の整理が終わったので、思わずため息を吐いて首を軽く回す……。

ゴキゴキッと音が鳴った。
幾らチート野郎でも、数時間机で同じ姿勢じゃあ間接くらい鳴るわな。

父上に聞いた話だが、ウォルフマイヤー家のナイトは、領地の管理運営をしなくても良い代わりにこういう仕事が他のナイトよりも多いらしい。
上手くバランスが取れている……のか?

そんなことを考えていると、リビエラが紅茶を持ってきてくれたので、ありがたく戴くことにする。

俺はそれを一口含み、ゆっくり香りや風味を味わってから、喉の中に流し込む。

「どうかな……?」

「うん、美味いよ。リビエラも随分上達したよな」

「そっか……よかった」

俺は素直な感想を口にする……実際、以前のリビエラは紅茶の入れ方も知らなかったからな……。

一緒に勉強したりしたから、感慨も一塩ってやつだ。

「リビエラのおかげで、日が沈む前に今日のノルマを終えることが出来たよ……ありがとな」

「そんな……私はただ慌ててただけで……シオンに比べたら全然だったし……」

「いや、リビエラが居なかったら夜まで掛かっただろうし、各部署に書類を届けるにも時間を喰っただろう……それに、こうして紅茶を飲む暇も無かっただろうしな?」

俺はニッ!と、笑ってやる。
下手っくそなウィンク付きで……まぁ、某人生薔薇色騎乗団団長よりは下手じゃなry……。

それを見てか、リビエラはカーーッと真っ赤になった……うん、アレだ……俺にニコポのスキルは無い((と、シオンは思っている))し、下手っくそなウィンク((と、シオンは思ってry))だし、リビエラの乙女フィルターが稼動しているのは理解しているんだが……可愛いなぁチクショウ!!

「うん……よかった……私、シオンの役に立てたんだ……」

「阿呆……今日だけじゃなくて、今までだって数え切れないくらい助けられたっての……」

「………シオン………」

……やばい、空気がピンクだ。
モチツケ……もとい、落ち着け俺!!

此処は神聖な執務室……流石にそれは……。

大佐……性欲を持て余す。

!?

い、いかん……なんかもうワケの分からん思考になってきた……。

気付けば、直ぐ横に居たリビエラが俺に顔を近付け………俺もそれを受け入れ、互いの銀の前髪が触れ合い……そして。

コンコン!

……またかよチクショウ。
まぁ、今回は助かったけど。

慌てて定位置(俺の横、秘書的立ち位置)にまで戻るリビエラ。

それを確認した俺は、ノックの主を促した。

「――どうぞ」

「失礼致します!」

許可を得て入って来たのは一人の兵士……確か、門番の一人だったな。

「どうしたんだ?」

「はっ、実はシオン将軍に面会したいという男が――」

「私に面会?」

「エリックと言えば分かる――と」

エリック――!?
あれ以来何の連絡も無かったから、気にはなっていたが――。

「分かった――通してくれ」

「はっ!!」

門番は戻って行った――。
エリックに通行の許可を与えに行ったのだろう。

「ねぇ、エリックって確か……」

「以前、色々とあったモンスター使いだよ。覚えてるだろう?」

「ええ、グローシアンの人たちの手紙を届けに行ってたのよね?」

リビエラの言う様に、紆余曲折あって………最終的には互いにぶつかり合って和解し、保護していたグローシアンの皆が書いた手紙を届ける依頼をしたのだ。

「でもすっかり音沙汰無かったし――って、もしかしたら連絡を取る方法を知らなかった………なんて?」

「……まぁ、その辺は本人が教えてくれるさ」

「え?」

リビエラがもしかしたら……と、可能性の話をするが――覚えのある気配が扉の近くまで来たので、俺はそう返答する。

クエスチョンマークを浮かべるリビエラを余所に、扉はノックされる。

コンコン。

「どうぞ」

「失礼する」

入って来たのは予想通り、エリックその人であった。

「よう、エリック。あれから何の連絡も無かったから心配したぞ」

「よく言う……連絡手段も無かったのだから、連絡のしようが無かっただろうが」

うっ……そんなジト目で見なくても……いや、今回のは完璧に俺のミスだが。

「済まなかったな……。色々バタバタしていて、連絡を取ることが出来なくてな……」

「まぁ……良い」

俺の謝罪に、エリックはため息を吐きながら、許してくれた。

「ところで、貴方は今まで何をしていたの?」

「ふむ……それはな……」

リビエラの質問に、答えたエリック……。

エリックの話を纏めるとこうだ。

手紙の依頼を完遂したエリックは、依頼の終了を知らせにアジトへ向かったらしい。
で、アジトに着いたのは良いが、既に俺達は去った後だった。
アジトに居たシルクにどうにか俺と連絡を取れないか……と、尋ねると連絡を取れる……と言われ、(恐らく念話だろう)その方法をシルクが実行しようとした時……。

「お前のアジトの入口……街道に繋がる道に居たレブナントが盗賊の様な奴らに襲われている、数人の集団を発見してな……直ぐさま助けに向かった」

――話を聞いて驚いたが、その襲われていた集団とはグローシアンらしく、話を聞いたエリックによると、その集団は魔法学院から逃げて来たらしい。

――恐らく、イリスがクソヒゲから逃がしたグローシアンだろう。
生きていたのか……。
余程必死に逃げたんだろう……まさか、オリビエ湖近くの街道まで来るなんてな……。

盗賊――グレンガルの手下を蹴散らしたエリックとレブナント……そしてシルクは、そのグローシアン達を保護。

何日もまともな物を食べていなかったらしく、彼らの為にシルクや我が家のメイド、執事がてんやわんやとなり、俺へ連絡を取る件がうやむやになってしまったそうな。

エリックは仕方無しに、アジトで鍛練を続けながら待つことにしたらしい。

………で、時間が過ぎていく内にそれが当たり前の様になっていたとか。

エリックとしても、助けたグローシアン達を見捨てられなかったのだろう。
用心棒みたいなことをしていたらしい。

……本来の目的に気付いたのが、父上達がグローシアンの人々を迎えに来た時……だそうな。

「――って、よくよく聞いたら今回の件、俺は勿論だが――お前やシルクにも責任が無いか?」

「―――否定はしない」

プイッと視線を逸らすエリック……結局、ゴタゴタしていたのは俺らだけじゃなかったってことか。

で、本来の目的を思い出したエリックは、父上に俺の所在を聞いたらしい。

で、現在に至ると。

「正確にはランザック方面に住むグローシアンを送り届けてから……だがな」

「成程な……で、わざわざ依頼の完遂を報告に来てくれた……って、だけじゃなさそうだな」

もしそうなら、人伝に……それこそ父上達に頼んだ方が楽だし、エリックが義理堅い人間で、直接伝えたかったとしても――こんな面会可能時間ギリギリに訪れるワケが無い。

何か急用でも無ければ――。

「なに、インペリアル・ナイトになったと聞いたのでな――丁度良いと思って、急いで来たというワケだ」

「丁度良い?」

エリックの言葉に疑問を重ねる……すると不敵な笑みを浮かべて言った。

「俺達を雇わないか?――損はさせないぞ?」

――と。

***********

「……ふぅ」

俺はため息を吐いた……。
ため息を吐く度に幸せが逃げていくと言うが、今日だけで幸せがどれだけ逃げたのだろうか……。

それはともかく……エリックは今、リビエラに案内されて軍統括部に向かっている。

……俺の書いた書状を持って。
これで、余程のことが無い限りエリック……それにレブナントはバーンシュタイン軍所属となり、更に俺の直轄部隊『蒼天騎士団』所属となれるだろう。
これからエリックは専用の兵舎(レブナントは獣舎)に住むことになる。
リビエラ、オズワルドなども同様だ。

にしても……。

「随分気に入られたモンだな……」

俺は思わず苦笑が零れる。
エリックに、何故雇ってくれと聞いて来たのか……尋ねてみたら。

『お前が気に入ったんだ。だから力を貸す……それだけさ』

という、答えが帰って来た……が。

「気に入られる様なことをしたか……俺?」

俺がエリックにしたことと言えば………アイツの邪魔をしていたことを除くと………アレか?
あのアジトでの【喧嘩】……アレくらいしか思い付かない。

「まぁ、良いけどな」

エリックとレブナントは、戦力的にも貴重だし、何より悪い奴らじゃないしな。

なお、騒ぎを起こさないために、レブナントは近くの森で待機させていたらしい。

「さて、そろそろ良い時間だし……帰るか」

俺の場合、屋敷が近いので徒歩で帰ることが出来る。
とりあえず書類整理はノルマ分(実際のノルマより三日分ほど量が多く、誇張では無く、山の様にあった)を終わらせたし、今から帰れば夕食には間に合うだろう。

俺は椅子から立ち上がり、カーテンを閉め、明かりを消す。

そして俺は執務室を出た……。
で、執務室前で俺はリビエラを待つ。
流石に報告を待たずに帰れないからな……。
帰り支度をしたのは、直ぐに戻ってくるだろうと考えてのことだ。

「シオン将軍、彼を送って来ました!……って、何故外に出ていらっしゃるのですか?」

案の定、数分もしない内にリビエラは報告に戻って来た。
ちゃんと敬語も使っている。

「ありがとう。何、差し当たってする仕事も無いんでね……今日は帰ろうと思ってな」

本来、軍属の者は城にある兵舎で寝泊まりをする。
ナイツの場合も例外では無く、ナイツには専用の個室が宛がわれている。

勿論、俺にもそれは存在し、帰る暇も無い時はそこで寝泊まりすることになる。

だが、幸いと言うのか――我が家は城から目と鼻の先……とまでは言わないが、徒歩で行き来できる距離だ。
そういう者は、自宅通勤も許されている。
特にするべき事が無い場合は……だが。

陛下の護りを疎かにして良いのか……という疑問があるかも知れないが。
幾ら何でもナイツだからって、四六時中気を張ってるなんて不可能だしな。

極端な話、陛下の寝所にまでは入れないだろう?

「そうですか……では」

「そうだ、良ければ一緒に来るか?」

「え……(それって、アレ……?『今日は誰も居ないんだ……意味、分かるよな?』とか、そういうこと〜〜!?そんな、心の準備が……でも……♪)」

「丁度、夕食時だしな。母上達も客が来たら喜ぶだろうし……って、何でガッカリしてる?」

俺が理由を説明すると、リビエラはorzしそうな勢いでガッカリしている。
―――何で?
俺なりに、今日頑張ってくれたリビエラへの礼をしようと思ってのことだったんだが――。

「――何でもない――何でもないから……ハハハ……」

リ、リビエラ……背中が煤けているぞ?
本当に大丈夫か……?

――結局、リビエラは俺の誘いに乗ってくれた……が、我が家に着くまで沈んでいたのを明記しておく。

***********

で、我が家まで帰って来たワケだが。

当然の如くリビエラは歓迎された………特に母上の喜びようったらなかった。

「シオンが女の子を家に連れ込むなんて、初めてなんですもの♪お赤飯炊かなくちゃ♪」

「連れ込むとか、人聞きの悪いことを言わないで下さい。後、赤飯を炊くようなことはしていませんから。っていうか、なんでその風習を知っているんですか母上」

なお、我が家を尋ねた女性はジュリアが初だが、俺が連れて来た女性という意味で、リビエラが初めてという意味だ。

夕食の料理は気合いが入った物で、リビエラが緊張していたことを明記しておく。
料理に――というより、マナーを守れているか……に関して緊張していたんだろうが……。

「仕方ないじゃない……こんな経験……無いわけじゃないけど……少ないんだから……」

「俺と母上が、『マナーなんて気にしなくて良い』って言った時のリビエラのポカーンとした表情は……つい笑っちまったが」

今、俺達は食事を終えて、俺の自室で話している。
リビエラと俺……二人で俺のベットに腰掛けている。
せっかくだから泊まっていって……とは母上の談。
俺もそう言うつもりだったが。
客間は一杯あるしな?

……当たり前だが、少し話をしているだけで、同室とかじゃないからな?

「し、しょうがないじゃない!普通、貴族のお屋敷にお呼ばれして、そんなことを言われるなんて思わなかったんだし……」

「そうだよな……普通は言わないよなぁ……普通より砕けた感覚だからなぁ……ウチの皆、特に母上は」

正確には母上の気さくさが伝染したのだが……。
昔は生真面目な父上ですら、最近は毒されてきてしまったからなぁ……。

母上の才能だな……周りの空気を変えるってのは……アレだけは、俺にもラーニング出来んなぁ。

「そうよねぇ……お母様って気さくで、なんか貴族っぽくないのよね」

「そりゃあそうさ……元々母上は平民出身の魔導師で、父上に見初められて嫁に来たらしいから」

「へぇ、そうなんだぁ……」

リビエラの疑問に俺が答える。
実際、父上方の祖父は、父上と母上との交際に大反対だったらしいが、二人はそれを押し切って交際を始めたとか。

大恋愛をしている……とは、母上の談だ。
……現在進行系らしい。

「まぁ、母上は魔導師としてかなり優秀で、次期宮廷魔術師とも呼ばれたりしていたらしいから」

「はあ〜……凄い人なのね……」

リビエラは感心した様に頷いていた。
まぁ、父上と結婚し、俺を身篭ったからって育児退職しちゃうような母上なワケだが。

ハチャメチャだよなぁ……せめて育児休暇で良いんじゃね?
とか、思うわけだが……宮廷魔術師への道と子育て、天秤に掛けたら子育てに傾いたらしい

『子供は愛情たっぷりで育てたいんだもの♪』

とは母上の言葉だが……まぁ、母上らしいっちゃらしいわな……。

しかし、将来を棒に振ってまで生まれて来たのが、俺の様な可愛いげの無い子供だったと……。

なんか……色々スマン。

「なんか、羨ましいな……家族の仲が良くて」

「そうだな……少し仲が良すぎる気がしないでも無いがな?」

リビエラの言葉に、肩を竦めながら答える。
実際、旅に出てたりでお目に掛かることは無かったが、再び万年新婚夫婦のストロベリーぶりを見せ付けられるかと思うと、若干気が滅入る。
とは言え、以前までは日常風景だったし……これからは仕事で中々帰宅出来なくなるだろうしな。

「私ね……両親が早い内に死んじゃって……姉さんと二人で生きて来たの。だから、幸せな家族ってものに憧れがあるんだと思う……」

「リビエラ……」

「――わ、私、何言ってるんだろう……ゴメンね、シオン」

リビエラは取り繕った様な笑みと共に謝罪してきたが……。

「別に謝ること無いだろう」

「え……」

「俺には、リビエラの気持ちが分かる……なんて、軽々しいことは言えないけど、話を聞くくらいなら出来る……それくらいしか、出来ないけどな」

リビエラの気持ちは何となく理解出来る、だがシオンとしても、凌治としても……本当の意味で理解しているとは言えない。

以前の世界にしろ、この世界にしろ、両親が健在である俺には。

だから、気安い慰めの言葉なんて掛けられない……せいぜい話を聞くくらいだ。

気休めにしかならないだろうが、気休めに『なる』ことは出来る。

「……そんなこと無いよ。シオンが居てくれたら、私はそれで幸せだもの……」

「リビエラ……」

リビエラは俺に身体を預けてくる。

「話を聞いてくれる……側に居てくれる……こうして支えてくれて、温もりをくれるもの……寂しいことなんて、無いよ?」

「…………」

俺は、リビエラを抱き寄せる……手の中の温かみ、それが物凄く愛おしくて――。

「――大好きだよ、シオン――ずっと、側に居てね……」

「……それは俺の台詞だって……リビエラ、大好きだ。ずっと離さない……」

もう、取りこぼしたりしない……大切な者は、絶対に離さない。

……俺の場合、それが一人だけじゃないとか言う非常識な状況だが……俺自身がチート野郎という非常識な存在なんだ。

……守り通してみせる。
この力は、そのためにあるんだから――。

「……シオン」

リビエラがそっと、瞳を閉じる……そして……その意図を察し、俺はゆっくり顔を近付け……唇を重ねる。

「ん……ふっ……んんっ!」

俺は更に、リビエラの柔らかい唇の間に舌を滑り込ませ、歯茎と口腔をねちゃりとなぞる。

瞬間、リビエラがビクリッ!と、震え……若干肩の力が緩んだのを確認した……。

ぴちゃぴちゃと、口腔内を蹂躙してやると、ぶるりと恍惚に震えながら、固く閉ざされていた門を開け、自身の舌を差し出してくるリビエラ。

そして、俺の舌と触れ合った瞬間――まるでそれを求めていたかの様に舌を絡ませて来た――。

「ふぁ……んちゅ……ぴちゅ……んふぅ……」

熱にうなされた様に熱くて苦しい……だが同時にどうしようも無く甘美で、むず痒い快楽が脳天を突き抜ける……。

俺もリビエラも、互いに溺れ掛けている様だった……。

「はぁ……はぁ……」

ゆっくりと唇を離す……互いの口の間に、キラキラと光る唾液の橋が出来あがる。

リビエラは、このキスだけで、既に力が入らない様だった。
虚ろな瞳で、身体をほてらせながら……完全に俺へ身体を預けていた。

「……お、お願いシオン……私、もう我慢出来ないよぉ……キスだけじゃいや……貴方と、一つになりたい……なりたいの……これ以上は……気が狂っちゃうよぉ……」

熱にうなされた様に、涙を流して懇願するリビエラ……。
俺はそんなリビエラを見て、彼女をゆっくりとベットに横たえる。

「……心配しなくてもそのつもりだよ。これ以上の我慢なんて、俺だって出来るか――!」

――正確には、俺の精神の中で抗い続ける鋼の砦をゴルディオンハンマーで粉砕し続け、声高々と反論を口にするキ○ヤシを拉致って監禁してようやく――という感じだが。

だから、肉体的には我慢出来るが、精神的には限界が近かったワケで……。

「ほんと……?ほんとに……?」

「ああ……リビエラの全部は俺が貰う……後戻りは出来ないぜ?」

「うん……!私を貴方の物にして……身も心も……」

リビエラは嬉しそうに、待ち焦がれたように、その想いを口にする。
――なら、俺がするべきことは一つだ。

「リビエラ……」

「シオン……」

俺はリビエラにもう一度口付けを………。

……………って、この気配は。

「……?シ、シオン……?」

突如止まった俺を見て、リビエラは不安そうな光を、その紅い瞳に宿して俺を見上げるが――。

「少し待っててくれ――」

「え――シオ……」

俺はリビエラの声をそのままに、部屋を飛び出した――。

***********


リビエラちゃん……ご両親が……。
もう、シオンってば――もっと気の利いたことを言えば良いのに!!

………リビエラちゃんってば、そんなにシオンのことを……まぁ、そうよね……それくらい好きじゃなければ、ハーレムなんて許容出来ないモンね?

仮に、レイが私の気持ちに気付いてくれなくて、他にもレイを好きな人が居たら……協力してでも振り向かせよう!
って、思ったかも知れないもの。
幸い、レイも私も直ぐに相思相愛になったから……そんな心配はなかったんだけど。

―――あ、二人の声がくぐもった。
しちゃったか?ぶちゅーってしちゃったかぁっ!?

「……ちょっと、リーセリア様……もう少し詰めて下さいよぉ……」

「そうですよ……私たちにも聞かせて下さいよ」

私の横には、二人の若いメイドがいる。
私の話友達でもある。

――ちなみに、シオンのファンクラブの会員でもあるらしい。

「ちょっと待って……今良いところだから……あっ、あっ、今リビエラちゃんの色っぽい声が――」

私たちは今、シオンの部屋の隣――廊下の壁に張り付いている。
ついでにコップを壁と耳の間に設置するのも忘れない。

以前、偶然知ったんだけど……シオンの部屋の壁には一部だけ薄い部分があって、そこからなら中の声が聞こえちゃったりするワケ!

やはりお母さんとしては、息子の初体験はデバガ……もとい、拝聴してあげたいじゃない!

「それにしても、シオン様……好きな人居たんですね……なんかショック〜」

「でも、確かシオン様って複数の女性とお付き合いしているって……なら、アタシにもチャンスがあるかも?」

「ないない……夢は夢だから美しいのよ?アンタにチャンスがあるなら、私にだってチャンスがあることになるわよ――」

この二人は、シオンのファンの中では、シオンの内面を好いてる珍しいタイプで、昔シオンに危ないところを助けられたりしたらしい。
その時の恩を返したくて、メイドになったって聞いた。
で、シオンと再会したらちゃんと覚えててくれたりしたから、さあ大変。

恩返しのつもりがファンになっちゃったらしい。

って、そんなことより……。

「全部俺が貰う……だって!いよいよみたいよ、二人とも♪」

「キャー♪キャー♪アタシも言われた〜い♪」

「あぁ……シオン様の初めてが……名残惜しいような、羨ましいような……ああ!聞きたくないと思うのに、耳を離せない〜!」

私たちは、ぐびびっと生唾を飲む……そして…………アレ?
突然止まっ「……何をしているんですか母上?」た………?

私は一気に青ざめる……二人も同じ様に真っ青だ……振り向かなくても分かる。

―――怒ってる。

気配を読むなんて出来ない私だけど、そんな私でも感じるくらいの怒りの気配――。

私の中の何かが警鐘を鳴らす。

逃げろ……逃げろ……にげろ……にげろ…ニゲロ…ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロッ!!!

……と。

けれど、足が震えて動けない。
それに直感で分かる……今逃げたら『終わる』……と。

「良い女が三人揃って、こんなところで何をしていたんですか?」

「こ、これはね?ちょっと「こっちを見て言い訳してくださいよ……」っ!!?」

振り向いちゃダメだ、振り向いちゃダメだ、振り向いちゃ「こっちを向け」

「「「は、はい……」」」

有無を言わさぬその言葉に、ガタブルしながら……ギギギギ……という音が鳴りそうな――ゆっくりした速さで後ろを向く私たち……そこには、微笑を浮かべ……でも、決して眼は笑っていないシオンが腕を組んでこちらを見下ろしていた……仁王立ちというやつだ。

「さて、母上……それにメイリー、シルビア……説明して貰いましょうか?」

「ああああの、ただリーセリア様とお話を「正直に言えよ?無事に戻りたかったらな……?」ヒッ!?リ、リーセリア様に言われてシオン様の部屋の様子を伺おうって!!」

「ちょっ、メイリー!?」

裏切られた!?いや、確かに私が誘ったんだけど!!

「本当か、シルビア……?」

「(コクコクコクッ!!)」

首がもげるんじゃないか……と言うくらいに肯定を示すシルビア……って、また裏切られた!?

「よし……二人は初見だからな……特別に見逃してやろう」

シオンはニコッと微笑んでそう言う……二人はその言葉を聞いてホッとしている。
真っ赤になりながら。

――ああいう自覚の無い行為が、人を引き付けるのを理解してるのかしら……してないんでしょうね〜……。
まぁ、あの二人は最初から好意を持ってるからだろうけど――。

うん、分かってる。
現実逃避してるね私。

だって、シオン『二人は見逃す』って言ったもの。
お母さんはダメってことね……?

でも、一応言っておこう……。

「あの、反省するから、お母さんも見逃してくれると嬉し「寝言は寝て言って下さい」……だよね〜〜……?」

ル〜〜〜〜……と、目の幅涙を流しながら、我が身の不幸を呪う私……。
あぁ……、レイ……先立つ私を許して……。

シオンの手が私の頭を掴み――。

「次にこんなことをしたら――くすぐり地獄の刑ですからね?」

「ななな、何それ……?」

「それはその時に……では――――果てろ」

ゴリィッ!!

「みぎゃっ!?」

そして私の意識は落ちたのだった……。

***********


俺は、手の中でアイアンクローを喰らって、ぷらんぷらんしている母上を二人に差し出し……爽やかな笑みで言う。

「次にこんなことをしたら―――二人もこうなるからね?」

「「(コクコクコクコクコクコクッ!!!!)」」

二人はガタブル震えながら、抱きしめ合い、物凄い勢いで頷いている……うん、素直な子は好きだよ♪

「………ふぅ。それじゃ、二人とも母上を頼む」

「ハ、ハイ!」

「ワカリマシタ!!」

ズダダダダダダダダーーーッ!!

俺がドSモードを解除して、二人に母上を託す。
二人は母上を神輿の様に掲げ、脱兎の如く走り去って行った……。

「やれやれ、仲が良いのは構わないんだが……すっかり母上に毒されているなぁ……あの二人。他の家でアレをやったら、処断されても文句は言えないぞ?」

昔は初々しいと言うか、純だったと言うか……あんなことをしたりする娘達じゃなかったのになぁ……。

母上も懲りてくれたら良いんだが……流石に母上にくすぐり地獄の刑は洒落にならん……色んな意味で。

「にしても、コップで盗み聞きとか……何処の漫画だよ?」

赤飯の件と言い、このコップの件と言い……よもや母上も転生者じゃあるまいな……?
……まさか、な。

「さて―――戻るか」

俺は気持ちを切り替え、部屋に戻って行った。
そこでは、リビエラがポツン――と、ベットに腰を降ろしていた。

「あ……シオン……」

リビエラは俺を見付けた時、ホッとした顔を見せた……。

「ちょっとデバガメ退治をな……」

「……デバガメ?」

俺は母上達が聞き耳を立てていたことと、それを粛正したことを説明する。
それを聞いたリビエラは顔中真っ赤になりながらも、ホッと息を吐いて一言。

「よかった……私、何かヘマをしちゃったのかって……」

「ヘマってなんだよ?ヘマなんか何もしちゃいないだろう……リビエラは」

大体、ヘマするようなこと自体、まだしていないだろうに……。

「だってキスだけで、その……気持ちよかったから―――私だけ気持ちよくて……だから」

――何コレマジ可愛いんですけど?
オッサン色々漲ってくるんですけど?

「――そんな心配するなよ。……俺も気持ち良かったから」

「嘘……」

俺が照れ臭いやら、漲ってくるやらで悶々とした物を抑えながら、先のキスの感想を言うが……リビエラは半信半疑といった答えを返す……って、なんでやねん。

「本当だって……こんなことで嘘を言ってもしょうがないだろ?」

「だって……」

……普段はハキハキしてるのに、何でこんな時はこうも弱々しいというか、自信が無いんだろうか?

初めてだから――というのもあるのだろうが、半分は散々引っ張ってきた俺のせいなんだろうなぁ……と、考えるのは自意識過剰だろうか?

俺はリビエラの横に腰を降ろし、リビエラを抱き寄せ、リビエラの耳を俺の胸元――心臓の上辺りに導く。

「あ……」

「……聞こえるだろ?こうしてリビエラを抱いてるだけで、心臓がバクバクいってるんだ……さっきキスしていた時なんか、こんなモンじゃなかった……」

精神年齢40ちょいのオッサンが、こんな独白するなんて……恥ずいやらキショいやら……。

「途中、邪魔が入ってケチがついちまって、ムードもへったくれも無くなっちまったけど―――俺は続きをしたい」

「あ、あうぅ……」

だけど、俺は引くつもりは無い―――こんな俺を想い続けてくれるリビエラのためにも。

――引けるかよ。

「まぁ、リビエラが嫌なら無理強いはしないけど」

「そんなことない!けど、また誰かに聞かれ「サイレント」……っ!?」

俺はリビエラの言葉を遮り、部屋に消音魔法を掛ける。

「……これで、誰かに聞かれることは無い。まぁ、仮に聞かれても構わない……って、今は思うけどな」

「え……?」

「そんなに聞きたいなら……見たいなら、見せ付けてやるってな」

「そ、そんなの恥ずかし過ぎるわよ!?(けど、そういうのも……♪)」

「そういう覚悟を決めたってことさ」

真っ赤になって、俺の言葉を否定する………嫌がってない風に見えたのは気のせいか?
……それはともかく、俺だっていきなりそんなプレイをするつもりはない。

――将来的には分からないけどな。

「さっき言ったよな?後戻りは出来ないって……」

「――うん」

リビエラは俺に抱き着く力を強めた。
俺はそれをしっかり受け止める。

「……これが最後のチャンスだぜ?止めるなら……んむ……」

俺の言葉を封じる様に、リビエラから唇を重ねてくる……そして、先程以上に情熱的に求めてくる……俺は、快感の波に流されそうになるのを必死に堪える。

「ふあぁ……や…だ……止めない…から……絶対……止めないんだからぁ……。おねがい、私をシオンで満たして……」

「分かった……全力を尽くす」

涙を溜めながら懇願するリビエラに、俺はただ一言、了承の言葉を口にする。

俺はリビエラをベットに横たえ――。

「ひぁっ!?そ、そこ……」

「ここ、弱いの……?」

俺が舐めたのは首筋……まぁ、弱いというよりは、くすぐったかっただけだろうが……。

「し、知らない……!」

プイッと顔を背けるリビエラ………え、ここがマジで弱かったのか?
いや……。

俺はリビエラの胸を服の上から揉む……乱暴にはせず、リンパの流れを意識する様に……ゆっくりと。

「んはぁ……それ、気持ちい……いひぃ!?」

既に固くなりかけていたその頂点を軽く摘んでやる……すると、嬌声と共にビクンッ!!
と、リビエラの身体が電気が走った様に震えた。

やっぱりか……リビエラは首筋が弱い……というより、全体的に感度が強いのか……。
比較対象がジュリアしか居ないし、ジュリアにしても最後までイッたことが無いからなんとも言えないんだけどな……。

「大丈夫か……?軽く触っただけなんだが……」

「う、うん……なんか、電気が走ったみたいになって……自分で触った時はこんな感じはしなかったのに……」

ぬな?自分でとな?

「……自分で触ったりしていたのか?」

「!?ああああの、違うの!それは……その……!」

「どう違うのか……詳しく教えてくれよ」

ヤバイ……変なスイッチ入った。
赤くなりながら慌てるリビエラ……ゾクゾクするな……。

何分、初めてだし、自重しなきゃなぁ……とは思うが―――それ以上に。

「もっと――もっとリビエラの色んな顔を見せてくれ……」

「シオ……んっ!?ふああぁっ!?そこ!やぁ……!?あぁ……っ」

―――この日、俺はリビエラと一つになった。

ストレートな物言いで、他に気の利いた言い回しが思い付かんけど、某釣りバカの『合体』よりはマシだと思う。

まぁ、その……無茶苦茶気持ち良かった……当初恐れていた通り、これは溺れてしまうかも知れん。

それと、元からそうなのか、シオンになってからそうなったのかは定かじゃないが……やはりコッチの方もチートでした。

リビエラ初めてなのに、俺の抑えが効かなくて、5回もした上、リビエラを失神させてしまった……何を5回したとか聞かないでくれ……激しく自己嫌悪しているんだから……。

まぁ、リビエラの反応を見た感じだと、最初はともかく、色々したおかげか、最後には苦痛は無かったみたいだが……むしろ……。

って、想像すんな!!煩悩退散!煩悩退散!!喝、喝っ!!

しかし、前世での生半可なハウトゥー本や、エッチィ本の知識が役に立つ時が来るとはな……人生ってのは分からんぜ。

俺は汗とかで汚れてしまったリビエラを綺麗にして、そのままベットに入ってリビエラの寝顔を見ている。

心無しか、幸せそうに寝ている気がする――。

むしろ、幸せを貰ってるのは、俺の方って気がするが……。

「明日もあるし、俺も寝るか………おやすみ、リビエラ」

俺はリビエラの寝顔を見ながら、自身もまた……眠りに着いたのだった……何となく、良い夢が見れそうだな……とか思いながら。

***********



チチチ……。

「ん……朝……?」

小鳥の囀りと、カーテンの隙間から溢れる木漏れ日によって、私は目を醒ました……。
何だか、凄く身体が怠い……けどそれ以上に心も身体も何かに満たされた様な……。

「私……昨日………っ!!」

私は寝ぼけた思考で、昨日の出来事を思い返して行く……そして、思い出した………私、昨日シオンと……その……しちゃったんだ……。

うう……一気に目が醒めたわよ……。

昨日のシオン……凄かったなぁ……って、考えちゃ駄目!……朝から変な気分になっちゃう……深呼吸、深呼吸……。

「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。よし、落ち着い………?」

アレ、私……今……裸……?

「〜〜〜〜〜〜!!?」

私は慌てて布団を被り直す……当たり前だけど、当たり前だけど――恥ずかしいっ!!

「すぅ……すぅ……」

「あ……」

そして、当然だけどシオンが横で寝てた……勿論、裸で。
うわぁ……改めて見ると、凄い身体……。

無駄な脂肪が無いって言うのか、細いのに引き締まってるって言うのか……。

この身体に……抱かれたのよね……。

私は頬が……ううん、身体が熱くなるのを感じながらも、シオンから視線を逸らさない。

……幸せそうな寝顔。
シオンも昨日のことに、幸せみたいなものを感じてくれたのかな……?

案外、昨日の夢でも見てたりして……アハハ、そうなら女冥利に尽きるってモノだけど……。

「もしかして、みんなの中じゃあ私が初めて――だったのかな?」

みんなってカレンたちのことだけど……そう考えたら、嬉しいような申し訳ないような……複雑な心境だ。

……でも、何よりシオンのことがもっと愛おしくなった……それは確かなこと。

「フフフ……こうしてると、歳相応に見えるわね……って、同い年なんだけどね」

普段の彼は、歳不相応の雰囲気というか、包容力というか、余裕を持ち合わせているから……そんな風には見えないんだけど……今のシオンは、ちゃんと同い年の男の子に見えるものね。

単に私の中に余裕が生まれたから、そう見えてるだけかも知れない。
多分、シオンが寝てるからっていうのもあるんだろうケド。

「……もうちょっと、良いよね?えい♪」

私はシオンに抱き着く。
その身体はゴツゴツしていて、決して柔らかくは無いけど……そこが……良い……かもぉ……♪
それに、暖かいし……。

私は少し変な気分になりながらも、シオンの温かさに頬を緩める……けど……足を絡めた時に気付いてしまった。

「こ、ここ、コレ……!」

私はソレを確認するため、ゴソゴソとベットの中に潜り込む――。

「うわぁ――す、凄い……」

もしかして、本当に昨日の夢を見てるの……かな?
だとしたら、間接的には私のせいよ……ね?

「こ、このままじゃシオンが仕事出来なくなっちゃうわよね?だから……こ、これも、副官の務めよね―――静めてあげなくちゃ……」

***********


シオンです。

この度、無事に大人の階段を上りました。

シオンです。

朝起きたら、エロゲ的イベントに見舞われてテンパったとです。

シオンです。

健康な男の息子が、朝に元気になるのは生理現象だと言っても、何やらスイッチが入ったみたいで聞いてくれません。

おかげで俺のスイッチも入ってしまったとです。

シオンです……シオンです……シオンです……。

まぁ、そんなこんなで、朝にちょっとしたハプニングがあって、そのおかげで出勤時間に遅れそうになった……。

何で遅れそうになったとか聞くな!
詳しくはパパかママに聞け……って、誰に言ってるんだ俺は?

なお、ちゃんとシャワーを浴びた。
一応、拭きはしたが……二人とも汗や、よく分からないモノだらけになったからな……シャワーくらい浴びてサッパリしたいさ。

着替えは昨日、脱ぎ散らかしっぱなしだったが、全てが終わった時に綺麗に畳んでおいたので問題無し。

朝食もきちんと食べた。
朝飯はその日を生き抜くのに必要な糧だしな。

なお、食卓を一緒した母上は……昨日のアレで懲りたのか、追求はしてこなかった。
朝っぱらから追求してきたりしたら、流石に勘弁ならなかっただろうしな……。

戦勝祝賀会まで、後七日……やることは山積みだぜ!!

「よっしゃ、行くか!!」

「ええっ!!」

こうして、俺達は今日もお仕事に向かう。
――その手を互いに握り合っていたのは――ご愛嬌ってことで。

余談だが、今回の件で俺の中にあった、暗示じみた『鋼の砦』は完全に再起不能になった。

キバ○シは五月蝿いままだが――。

おかげで色々と歯止めが効きにくくなった俺……実質、リビエラに溺れてしまった俺。

今回判明したが、どうやら煩悩もチートらしいしな、俺……。

職務中等に性的に暴走しないか、今からとっても心配です。

なんか、エスカレートして行きそうで恐い……。

***********

バーンシュタイン城・シオンの執務室

まぁ、そんなことは杞憂だったワケで……。

所謂、賢者タイムなのか、公私を上手く切り換え出来ているのか――多分、後者。

とにかく、バリバリ仕事を熟しているワケですが。

「だ、大丈夫?言われた通り、どんどん書類を持ってきてるけど……昨日も思ったけど、コレ普通の量じゃないでしょう?他の将軍の執務室を訪ねた時にも書類の『束』は見たけど、『山』にはなってなかったもの……」

「そりゃあな……元から俺の担当分が多いのもあるが、これは更に数日分くらいはあるしな」

とか、話しながらも書類に走らすペンは止めない。
口を動かす暇があるなら、手を動かす。
かと言って、リビエラが話し掛けてくる以上、無視はしたくない。

ならば口を動かしながら手も動かすのみ。

「それより、もう書類は無いな?」

「え、ええ……今のところシオンに頼む書類は無いって……」

「なら午後は、各隊の調練に顔を出す。一般兵の中から、俺の部隊に使える奴がいるか確かめる意味も込めてな……その後は王都の見回りだ。さて、こっちの書類の束は処理し終わったから、届けておいてくれ」

「了解!よいしょっと――」

……こうして、午前中をフルに使って書類の整理を終えた。
そして、ちょっとしたお昼休憩が訪れ……。

「ふぅ……お疲れさ〜ん」

「うん、流石に疲れたわ……」

「よっしゃ、そんじゃ昼飯を食いに行くか?」

バーンシュタイン城には、兵士用の食堂が存在する。
そこで食べようというのだ。

本来、ナイツは勿論、貴族連中は、自分の執務室なりに運んで貰って食べるんだが……ナイツが一般食堂を使用してはいけない……なんてルールは無いからな。

某国民的食文化漫画に出てくる、某新聞社の編集局長だって社員食堂を普通に利用してるんだ……それと同じ様なモンさ。

「そうね、それじゃあ……行きましょうか?」

リビエラは微笑みを浮かべながら、執務机から立ち上がる。

こうして、俺はリビエラを引き連れて……というか、横に並びながら食堂に向かった。
流石に自重して手は繋がなかったが……。

と、そこへ……。

「やぁ、シオンと……リビエラさんだったよね?」

「リーヴスじゃないか……どうしたんだ、こんな所で」

「何、アーネストやポールと一緒に昼食を……と、思ってね?」

廊下で出会ったのは同僚であるオスカー・リーヴスだ。
相変わらず爽やかオーラ全開である。

「そういう君達は、どうしたんだい?」

「俺達は食堂で昼食にしようと思ってな……」

「食堂……兵士食堂のことかい?」

「そうだ……ナイツが食堂を利用しちゃいけない……なんてルールは無いだろう?」

リーヴスの問いに答えた俺。
その答えが意外だったのか、目をパチクリさせるリーヴス。
そして、俺はニヤリと真実をリーヴスに突き付ける。

すると、顎に手を当て、考え込むリーヴス。

「……面白そうだな。僕もご一緒して良いかな?ついでに、そのままアーネストやポールも誘ってしまおうと思うんだけど……どうだろう?」

一見、現ナイツの中で1番優しい雰囲気を放っているリーヴスだが、1番ノリが良い(場合によっては悪ノリもする)のがこのリーヴスなのだ。

そういう意味では、ナイツの中では1番馬が合うのかも知れない。

「俺は構わないが……リビエラはどうしたい?」

「私には依存はありません。シオン将軍のご意向に従います」

俺はリビエラにも尋ねた、リビエラは構わないというが……流石は元シャドー・ナイツというべきか……こういう場には強いな。
動揺なんか微塵も……。

「すまないね、せっかくの二人の食事を邪魔してしまったみたいで」

「い、いえ……決してそんなことは」

あ、動揺した……もしかして、図星を突かれた?
そういうことなら、リビエラの気持ちを叶えてやりたいが……どちらにせよ、インペリアル・ナイトが食堂なんか使ったら、注目を浴び過ぎて落ち着いてストロベリることなんて出来ないだろうしな……。

結局、ライエルとポールを誘って食堂に向かった。

その時の二人の反応は以下の通りだ。

ライエルは渋々。

仲間内で食卓を囲むのは嫌いじゃないらしいのだが、騒がしい雰囲気は好きじゃないらしいのだ。

俺とリーヴスの説得に、最後は……。

「仕方ないな……今回だけだぞ?」

と言って折れてくれた。
見た目通りのクールな性格だが、その内には誰よりも熱い物を宿しており、なんだかんだで付き合いは良い。

余談だが、現在のインペリアル・ナイツ・マスターはライエルである。
リシャールが抜けたので、暫定繰り上げで。

次にポールだが。

ポールは説得するまでも無く。

「食堂か……利用したことは無いが、せっかくのお誘いだ。喜んで受けよう」

と、乗り気で答えてくれた。
今まで利用したことの無い食堂に対して、興味津々の様だ。

ポールの性格はクールではあるが、所謂『素直クール』という奴で、王という重圧から開放されたからか、時折こうして歳相応というか、不相応というか――少年の顔を覗かせる。

だが、覇気というか、風格的な物は王だった頃と比べても、決して衰えてはいない。

「これでジュリアンが居れば完璧だったんだけどね」

「任務で居ないもんな……アイツ」

そう、リーヴスの言う様に、ジュリアは任務に出ているのだ。
実は、昨日の夕食にはジュリアも誘っていたのだが、今から任務があるから……と、断られたのだ。

何でも、周辺を騒がす野盗の巣窟を叩くのだとか。
それなりに王都から距離があり、どんなに早くても帰還するのに今日の夕方近くまで掛かるらしい。

……血涙流しそうなくらいに、残念がっていたのはスッゲェ印象に残っている。
……帰って来たらご苦労様くらい言ってやらなきゃな。
ちゃんと時間も作ってやらなきゃならねぇよな……。

なんて、考えてる内に食堂についた。

「それで、どうすれば良いんだ?」

「兵士達が並んでいるのが見えるだろう?あそこに並んで、注文を取って、料理を受け取って席に着くと……」

「詳しいなシオン……しかし、早く席を確保しないと、この勢いでは座れなくなるのではないか?」

「こういう時は、席を誰かに確保してもらうべきだろう……戦場でも補給路を確保するのは大切なことだからね」

「では、私が確保してきます」

上からライエル、俺、ポール、リーヴス、リビエラ……である。

「じゃあリビエラ……頼む。注文は俺が持っていくから……何が良い?」

「それでは、日替わりランチをお願いします」

「了解した。それじゃあそっちは任せたぜ?」

「はい!」

一応敬語は使っているが、表情は柔らかい。
軽くウィンクをしたら、ウィンクを返された。
うん、テラカワユス。

「フッ……お前は良い副官に恵まれたのだな」

「茶化すなライエル……それよか、早く並ばないと食う時間が無くなるぜ?」

俺は皆を促して列に並ぶ……周りは俺達を見て目茶苦茶ざわついていたが。
当然だよな……こんな、所謂、社員食堂的な場所に国の象徴たるインペリアル・ナイトが4人も雁首揃えて、一般兵に紛れてお盆(長方形)を持って並んでいるのだから。

中々にシュールな光景だと思う。

「ところで、シオン……さっきリビエラが言っていた、日替わりランチとはどういう物なんだ?」

「日替わりランチってのは、読んで字の如く、その日によって料理の内容が変わるランチセットのことだよ……ほら、あそこに見本として作った物が置いてあるだろう?あれが今日の日替わりだ」

並んでいる途中、ポールがそんなことを聞いて来たので、俺は日替わりについて説明する。

なお、メニューはメインがポークソテー、サイドがフレッシュサラダ。
それに季節のポタージュスープとパンである。
兵士のためのガッツリ仕様なのか、ポークソテーは大きめで、サラダも量が多い様に見える。

……リビエラ、本当にこれで良かったのか?

「本当に詳しいな……もしかして、食堂に来たことがある?」

「まさか……今回が初めてさ。旅をしていた時に、似た様なシステムの食堂を利用したことがあってな……それでだよ」

リーヴスにそれらしく答えるが、実際は旅をしていた時では無く、前世の……リーマン時代の社員食堂のことを思い出したに過ぎない。

こうして見ていたら、何となく同じシステムなのかな……と。
なんか懐かしくなっちまうなぁ……。

ただ、壁とかに料理の名前やどういうセット内容なのかを書いた貼紙が貼ってあるが、前の世界みたいに模型は存在しないらしい。
なので全員、唯一見本がある日替わりランチを頼むことにした。

……メニューの中には『料理長スペシャル』という謎のメニューがあったが、流石に頼む気はしなかった。

だって、メニューの名前だけでどういうセット内容か……書いていないんですもの(汗)

なお、俺達がそれぞれ注文を取ろうとしたら、注文を聞いたおばちゃんが卒倒しそうになってたいことを明記しておく。
そんなにナイツが来るのが珍しいんだろうか……珍しいんだろうなぁ。

そんな訳で、日替わりランチを乗せたお盆(俺はリビエラの分もあるのでお盆二つ)を持ってリビエラの元に向かう俺達。
が、そこでは……。

「だから言ってるでしょう?此処の席は確保してるって……他にも席は空いてるんだから、他を当たってちょうだい」

「そう言わないでさぁ……ほら、俺達と一緒に食事をしたほうが楽しいぜ?」

「そうそう、親睦を深める意味でもさ……君、見たこと無い服装してるから、新設部隊か何かの娘だろう?お兄さんたちが優しく教えてあげるからさぁ……色々と」

……………………。

「何だ、奴らは?」

「知らないのかいポール?ああいう輩はナンパ……というらしいよ。彼らのアレは、レディを誘うには些か美しくないやり方だけどね」

「……ああいう輩が我がバーンシュタインにも居るとは……見ていて気分が悪いな。さて、どうするシオン?」

「そこで俺に聞くか……まぁ、良い。正直腹立たしいからな……皆、力を貸してくれ」

俺は三人に策を伝えた後、毅然と断るリビエラと次第に熱くなるクズどもに近付いていく。
そして……。

「いい加減、お高く止まってんじゃ「私の副官に何か用かね?」あ?誰………だ……?」

奴は俺を見て固まった……どうやらこの服装を見て固まったらしいな。

「彼女は私の副官だ。何の用かと聞いている……それと、食堂とは食事を摂るところでは無いかね?」

「シオン将軍!」

「シオンって……シオン・ウォルフマイヤー将軍!?あのライエル将軍を一瞬で倒したって言う……」

「な、何でインペリアル・ナイトがこんなところに……」

俺は皮肉を口にしながら、件のクズどもを見据える。
リビエラは俺を見付け、俺の名前を口にする。
どうやら、コイツらは俺のことを知っていたらしい……。
予想以上に噂になっているんだな……。

「質問の答えがまだだぞ……何の用だと「どうしたのだシオン」む、ライエル」

「「!!?」」

チャラ男……いや、チャラ兵か?
とにかくこの二人は心底驚いていた。
当然だ……ライエルを筆頭にインペリアル・ナイトが三人、こちらにやってくるのだから。

「やぁ、リビエラさん。席取りご苦労だったね」

「いえ、さして苦労は無かったので」

労うリーヴスにリビエラは恐縮しながらも、たいしたことじゃないと言う。

「で、シオン――この者たちは知り合いか?」

「さて、それは私が聞きたいのだがね……で、もう一度だけ聞くが……何の用だ?」

俺はこの二人にピンポイントで殺気(弱)をぶつける。

すると、連中は震え上がり……。

「い、いえ!この方がシオン将軍の副官とは露知らず……」

「ししし、失礼しましたぁぁぁぁぁっ!!!」

ずたばたずたばた……ばたばたばたばたばた!!!!

互いに縺れ合いながらも、我先にと逃げ出して行ったので、何とも不格好で……フッ、ざまぁ!

「大丈夫だったか?」

「はい、ありがとうございますシオン将軍」

一応、俺はリビエラに声を掛ける。
心配してなかった……といえば、嘘になるからな。
リビエラはそんな俺に礼を述べる。

「しかし、リビエラの制服は結構気合い入れて作ったんだがな……それこそウチらナイツの制服に見劣りしない、夜会にだって出られる様な奴を……なのに、奴らごときが気軽にナンパなんぞしやがって」

「ふむ、これはお前が作ったのか……無駄に器用だな。後、さりげに毒を吐くな」

さりげなくライエルにツッコまれる俺。
どうやら連中は上級兵の様だが、立場的にはインペリアル・ナイトの副官であるリビエラの方が奴らより上なんだがな……。

しかし、この世界……戦うのは男だけでは無く、女兵士だっている訳で……出会いが無いわけでは無い筈なんだけどな……。

ちなみに、さっきの策とは『インペリアル・ナイツで睨みを効かせよう作戦』――そのまんまな作戦で、インペリアル・ナイツである俺達でメンチビームかましてやろうって作戦です。

作戦の成果は見ての通りだ。

「フフフ、少しは懲らしめることが出来たんだから良かったじゃないか……ね?」

「……まぁな。リビエラに手を出していやがったら極刑だが……ただのナンパだからな。あれくらいで十分だろ?」

「参考までに聞いておくが、もし彼らが彼女を傷付けていたらどうしていた?」

楽しそうに笑うリーヴスに、相槌を打つ様に俺は返答を返した。
そこで、ポールが仮定の話を聞いて来たので……。

「そんなもん、所属部隊を調べて●●●して顔面を整形した後はもう一度○○を使ってぐちゃぐちゃにし、腕を力任せに××××って奴らの△△△をぶっつぶしたあげく、二度と使えない様に去勢してから煮えたぎる□□に突っ込んで……「も、もう良い!もう良いから!!」そか?」

そっちから聞いて来たのに……まぁ。

「冗談だけどな」

「冗談なのか……?」

「半分な」

「半分だけ!?」

なんて話をしていたが……何で皆して引いてるのさ?
ライエル、リーヴス、ポール、リビエラは勿論……周囲の兵士達まで……。

とりあえず……。

「騒がしくして済まない。皆、気にせずに食事を続けてくれ」

(((((む、無理ですっ!!)))))

「そうだよな……あんな騒ぎを起こせば、気にするなって方が無理だよなぁ……」

(((((将軍が怖いこと言うからですっ!!!)))))

結局、場の雰囲気は変わらず……そのまんま食事を開始する。
兵士用の食堂の料理とは言え、気合いを入れて作られているみたいで、結構美味くて、皆も驚いているようだった。

「なぁ、良いだろう?何人か見繕ってさぁ」

「悪いが俺のところも人手不足でな……お前のところに回す余裕は無い……無論、ポールのところに回す人員もな」

「むぅ……自己の責任とは言え、どうすれば……やはり一般から募るしか無いか?」

「僕らのところは無理でも、話せば納得してくれる人も居るかもね?『ナイツの直属』になるというのは、兵士にとっては栄誉らしいから」

上から、俺、ライエル、ポール、リーヴスである。
むぅ、やはり皆の所も人手不足か……やむを得ないな。
分かっていて聞いた部分もあるし……。

「隣、失礼する」

「ん?エリックじゃないか……どうだ?昨日はよく眠れたか?」

「おかげさまで……まだ慣れたとは言えませんがね」

そこにやってきたのは、『蒼天の鎧』を身に纏ったエリックだった。
どうでもいいけど、敬語が壊滅的に似合わんな……とは言え、体面的には仕方ないのだが。

「シオン、彼は――?」

「あぁ、彼はエリック……俺の直轄部隊『蒼天騎士団』の記念すべき入団者第2号だ」

「ほう……どうやら腕に覚えがあるらしいが」

リーヴスが聞いて来たので、俺はエリックを紹介する。
ちなみに、1号はリビエラな?
ライエルは何となくエリックの実力を感知したらしい……流石というべきか?

「まぁな……自身の戦闘能力も高いが、虎の子のモンスター使いでな。特に、彼の相棒である飛竜のレブナントとのコンビネーションは抜群なんだぜ?」

「何故、シオン将軍が自慢げなんですか」

「しかも、自分たちはシオン将軍に一度も勝ったことが無いんですがね……」

俺が自慢げに語ると、リビエラとエリックにツッコまれる。

「モンスター使いか……それは珍しいな。そういえば、バーンシュタインにもモンスター使いがいた様な……」

シャドー・ナイトの彼ですね分かります。
今頃、何処で何をしているやら……てっきり復讐でも企んでいるのかと思いきや、あの後バッタリと現れなくなるんだもんな……。
俺の警告が効いたのかね?

「それで、部隊に所属させられたのは良いのですが、訓練等はいつから始まるので?」

「あ〜……とりあえず、午後から他部隊の調練見に行くから――一緒に来る?」

「ご一緒しましょう――自主練するにも、まだ慣れていないので」

だよなぁ……早いとこ部隊作成せな……。
オズワルド達が戻ってくれば訓練も出来るんだがなぁ……。
後は、討伐任務とかがある場合か。

***********

等と、雑談しながら昼食の時間は過ぎて行った。

そして昼食を終えた俺達は、それぞれに仕事へ戻って行ったのだった。

「さて、俺達も仕事に戻るか」

「了解しました」

「はい、頑張って行きましょう……シオン将軍?」

将軍ね……それじゃあとりあえず、その名に恥じない仕事を……しましょうか?

俺とリビエラ、エリックは調練を行う部隊の元へと向かって行った……。

やることはまだまだある………よっしゃ、気合い入れていくぜっ!!

***********

おまけ

ドンマイ!ジュリアさん

「貴様が野盗の親玉か……」

「これはこれは……インペリアル・ナイト様が自らお出ましとは」

私は、小数の部下を伴い、野盗の巣窟へと乗り込んだ。
そして、遂に野盗の親玉を追い詰めた……。

「へへへ……だが、いけねぇや……無闇やたらにアジトに入りこんできちゃあ……だからこうして罠に「御託は結構だ」何?」

「罠?退路を断ち、挟み打ちにする程度が罠?貴様インペリアル・ナイツを……引いてはバーンシュタインを甘く見ているのか?たかが数十人程度、我が障害足りえん!!お前たちもやれるな!?」

「「「はっ!!」」」

こんな所で時間を喰っているわけにはいかんのだ……。
そう、私は昨日、任務に出立する前に、マイ・マスターから夕食を食べに来ないかと誘われた。

口惜しかった……こんな時に任務があった自分自身が――。
そして、直感した――私はこの選択で、大切な何かを失ったのだと――。

何か、私のアドバンテージが崩れ去ったというか、違う選択をしていれば私はマイ・マスターと至福の時を過ごしていた筈―――それこそ、蜜月の時を過ごすことだって。

私の直感が告げる―――今回のは妄言じゃないと……。

何故……何故だ……。

マイ・マスターとは私が1番付き合いが長い((ラルフ除く))んだぞ……あの『同盟』だって、私が言い出したことなのに………。

何故だ……何故だ……何故だ……。

「この野郎……おちょくりやがって……おい、聞いてんのか!?」

マイ・マスターと良い雰囲気になると何時も邪魔が入る……。

何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ……。

「くそ、おい!!テメェらやっちまえ!!!」

「「「「「ウオォォォォッ!!!」」」」」

そうか………全部……。

「貴様のせいかああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

ズバギャアアァァァァンッ!!

「「ギャアアァァァスッ!!!?」

「これは私の恨みっ!!!」

グワラキイィィィィィィンッ!!!

「「あじゃぱああぁぁぁぁ!?」

「これは私の悲しみっ!!!」

ボグシャアアァァァァァッ!!

「「ワイの完敗やあぁぁぁぁぁっ!!?」」

ザッ……ザッ……ザッ……。

「そしてこれが……」

「ば、化け物……!!?」

「私の怒りだあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

DOGOOOOOOOOOM!!!!!

「ぎにゃあああぁぁぁぁぁっ!!!?」

「私は!!マイ・マスターと!!1番付き合いが!!長いんだぞ!!なのに!!なのにっ!!」

「ごふっ!そんなの!?うげっ!!知らな!?ぷべらっ!ちょ、まっ!?あべしっ!?」

「それと私は野郎じゃない――私は女だあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「たわばあぁぁぁぁぁっ!!?」

「私は!!貴様が気絶するまで!!この手を止めないっ!!」

ドガッ!!メキッ!!ゴキャ!!グシャ!!メチャ!!グチャ!!――――――。

***********

後に兵士は語る……この時のジュリアン将軍は無茶苦茶怖かったと……。

そして鬼神の如き猛威を振るい、ほぼ一人で野盗を全滅させてしまったのだと……。

その時同行した、ジュリアン直轄部隊の方は、後に語る。

「俺、ジュリアン将軍を絶対怒らせない様にする」

……と。
この事件は一部で『ジュリアン・ダグラスの乱心』と呼ばれ、恐れられることになる。
だがしかし、ジュリアン将軍がこの様な状態になったのは、後にも先にもこの一回きりであったという。

ちなみに、大惨事と言ってもおかしくないにも係わらず、敵味方ともに死者は0だったそうな……。

どっとはらい。

***********

後書き。

という訳で。

【シオン、大人の階段を上る】

【食堂に参上、インペリアル・ナイツ】

【愛と怒りと悲しみのジュリアン無双】

の三本でした。

次回は任務や熱き漢たちの帰還、そしてシオンに心酔する名も無き少女が再登場……するかも?

それではm(__)m




[7317] 第122話―問題児部隊とエリートと心酔する少女―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2010/05/19 23:50

さて、そんなこんなで訓練所に向かった俺、リビエラ、エリックだったが……。

「ふん、エリート殿の力ってのはこの程度か――」

「な、なにぃ……!?」

……非常に面倒な場面に出くわしたらしい。

何やら大剣を突き付け、呆れた様にため息を吐く一人の青年と、その剣を突き付けられ、尻餅をついた状態で青年を睨む一人の少年……彼の武器は黄金の大鎌だ。

そして一触即発の二人を抑える様に止める一人の女性と一人の青年……。

というか、あの四人どっかで見た様な……。

「やめるんだウェイン……!」

「アンタもよラッセル!」

……うん、オーケー分かった落ち着こう。
最早、原作云々はこの際置いといて…………………って、置いとけるかぁっ!!

何で君ら(Ⅱの主人公と親友)が此処に居るのよ!?
君らの出番はもう少し後でしょうよ!!

それと君ら(オルタの主人公の親友とその義姉)、バーンシュタインに入ってたんかい!?
オルタではリヒターが絡んでたのと、闘技大会の結果が良かったから軍に入ったんだろうに……。

「すんません、ローガン将軍……ウチの馬鹿が」

「いや、クルーズの奴も挑発に乗ったのが悪い……」

30ちょい過ぎの、剣士風のオッサンが、いかにも将軍という風格を漂わせたオッサンに謝罪している……うん、何かオッサンいっぱいいっぱいダヨ。

「シオン将軍……?どうしたの……大丈夫?」

「あ、あぁ……大丈夫。ちょっと現実逃避してただけだから……」

リビエラが心配して俺に耳打ちしてくるが、俺は苦笑いで返すだけだった……。

仕方ない……見掛けた以上、放置は出来ないモンなぁ……。

「失礼、取り込み中かな?」

「あぁ?見たら分か…………!?アンタ、インペリアル・ナイトの……!」

「シオン将軍!?」

「「「!?」」」

「ほう……」

俺が声を掛けると、剣士風の男が欝陶しそうに振り向くが……俺を見た瞬間、ビシリッ!と、固まる。
将軍風の男は驚愕の表情を浮かべながら、俺の名を口にした。

それを聞いて、少年と女性と青年は驚いてこちらを見遣る。

大剣の青年は、何やら好戦的な視線を向けてくるが……。

というか、結構噂って広まってるんだな……作為的な物を感じなくは無いが。

「し、失礼しました!!自分は特別第一小隊隊長バルク・ディオニースであります!!」

「飛竜騎士団団長、ローガン・ブラムハイトであります!」

そう言って二人は敬礼してくれる。
で、向こうの四人の内の三人も慌てて敬礼をしてくれた。
俺やリビエラ、エリックも敬礼を返す。

「第一近衛騎士団所属、シオン・ウォルフマイヤーだ」

「蒼天騎士団所属、リビエラ・マリウス――シオン将軍の副官も兼ねております」

「蒼天騎士団所属、エリック・ウェルキンスであります」

さて、挨拶も済んだところで……。

「それで、一体何が?今は調練中だと思ったのだが――」

「はぁ、それが……「おい」って、馬鹿野郎……!?」

俺の問いに剣士風の男……バルク隊長が答えようとして――さっきの大剣の青年が割り込んで来た。

「インペリアル・ナイトか……お前の話は聞いているぞ?王の肝煎りでナイツになったとか……強いんだろう?」

うわぁ……ギラギラした目で睨み付けてきやがる……しかも楽しそうに笑ってやがるし……。
原作通りのバトルジャンキーか……?

「ちょっと、ラッセル!やめてよ……相手はインペリアル・ナイト様なんだよ?」

「お前は黙っていろレノア……骨の無い雑魚が相手でガッカリしていた所なんだ。お前には俺の相手をして貰おうか?」

確か……義理の姉弟なんだっけ?
レノアが弟を必死に止めようとしているが、弟君はそんなの突っぱねて『や・ら・な・い・か?』状態。

止めてよね……俺にそっちの趣味は無い!!

……後、雑魚扱いされた少年、ウェイン君は悔しそうな顔をして拳を握っていた。

「勝手に話を進めているが……私が何時戦うと言った?」

「ほう、逃げるのか?天下のインペリアル・ナイトもどうやらたいしたこと無いらしいな……この調子では、親の七光りという噂は真実の様だな?」

やらないゼッ!!と、告げる俺に対し、ラッセル君が挑発を仕掛けてくる。
随分と噛み付いてくるなぁ……何か原作より刺々しいような……アレか?
リヒターと一緒に育たなかったことが影響を与えているとか……そんなんか?

それに対して、バルク隊長は顔を真っ青にしているし、レノアは慌てふためいているし。

ローガン将軍は頭痛がしている様で、ウェインは悔しそうにしてるし、青年……恐らくマクシミリアンは、何だか悲しそうな表情をしている。

ちなみに。

「フッ……身の程を知らん小僧だな……」

「本当ね、よりにも寄ってシオン将軍に喧嘩を売るんだから……」

エリックとリビエラはプチ切れしていた。
って、なんでさ……。

ちなみに、俺は少しムッと来ているが、プッツンする程では無い。
インペリアル・ナイト全体を小馬鹿にする様な態度は戴けないが……親の七光りと言われると言い返せないからな……俺の場合。

「ふん……黙れ雑魚ども。俺はソイツに言ってるんだ……それに、俺がしたいのは喧嘩じゃない……死合だ」

彼我の実力差も分からないのか――ラッセルもそれなりに強いみたいだが、正直レブナント無しのエリックの方が強いぞ……多分。

「あまり軽々しく死合等と言わない方が良い……それと、上官には敬意を払えよ……仮にも軍隊に属しているのならな?」

少し地が出た……それだけイライラしているのかも知れん。
リビエラとエリックを雑魚扱いとか――無いだろ?

「ならば、俺を屈服させてみろ……そうしたら従ってやっても構わんぞ?」

「仕方ないな……その代わり、約束は守って貰うぞ?」

このまま無視して、因縁を吹っ掛けられても面倒だし……。

「二人とも下がっててくれ」

「「了解」」

俺はリビエラとエリックの二人を下げ、無手のまま無構えで対峙する。

「貴様が俺に勝てたらな……さぁ、剣を抜け!!」

「必要無い。力の何たるかも分からない餓鬼には、この腕一本――一撃で十分だ」

その気になれば、桃白○の様に『ベロ』だけで勝てるだろうが……流石にそんな勝ち方は俺が嫌だし。
ましてや殺すつもりも更々無い。

グロランオルタも少しやり込んだから、ラッセルが何で力を求めたのか……とか、言葉は攻撃的だが、決して悪い奴じゃない……とかも知っているため、こういう馬鹿にする様な言い方はしたくなかったのだが……。

「貴様!!俺を舐めているのか!?」

「そう思うならば、それで結構。最初に言っておくが、俺はお前と死合うつもりも無ければ、喧嘩をするつもりも無い。『想い』の無い強さ程『軽い』物はない……それをお前に教えてやる――これは教習【セミナー】だ」

先ずは、戦うだけの気概があるか――試させて貰うぞ。

ギンッ!!!

「ぬっ……ぐぅ……!!?」

俺は全力のメンチビーム……気当たりをぶつけてやる。
常人ならばショック死してしまうだろうソレを受けながら――――ラッセルは笑っていた。

「は、ははは……凄い、凄いぞ!!こんな強烈な殺気は初めてだっ!!」

――やっぱり、動じないか……むしろやる気になってるし。
相手が強い奴ほど燃え上がる『オラ、ワクワクすっぞ病』ですね分かります。

「さぁ、行くぞ!!お前の力を見せてみろ!!」

大剣……クレイモアを構えて切り掛かって来るラッセル……。
唐竹に振り下ろされたソレを、俺は足運びで斜め前に避け、そして―――。

パンッ。

「な……………?」

適度な力加減で掌打を軽く顎先に掠らせた。
次の瞬間、ラッセルはその場にドサッと崩れ落ちてしまう。

「ラ、ラッセル!?」

「心配無い……気を失っただけだ」

崩れ落ちたラッセルの側に駆け寄って来たレノアに、俺はそう告げる。
まぁ、ラッセル君は白目を向いてるので心配するなって方が無理な話だが。

「い、一体……何を?」

「掌打を顎先に掠め、脳を揺さぶったのさ……角度と速さが良かったから、気を失ったってワケ」

バルク隊長が、疑問に思っていたので種明かしをしてやる。
実際、俺の掌打が見えた奴は――居なかったみたいだからな。
それくらいの速さで打ち抜いたんですけども。

「マックス……今の、見えたかい?」

「い、いや……僕には見えなかったよ……」

「アレが、インペリアル・ナイト……」

ウェイン君、マクシミリアン君、そんなに見つめないでくれ……正直、恥い。

「ぐ……ぅ……」

お、どうやら気付いたみたいだな?

「ラッセル、大丈夫?」

「俺は―――負けた……のか」

レノアに支え起こされたラッセルは、ゆっくりと負けた事実を噛み締める。

「約束通り、一撃で終わりだ。そっちも約束を守って貰うぞ?」

「……ああ。だが、一つ条件がある」

おい……、条件って何だ条件って。
そもそも、約束したことに条件を付けるとか……どんだけだよ?

「俺を――お前の部下にしろ!」

「「「「………はああぁぁぁぁっ!!?」」」」

その言葉を聞いて、バルク、レノア、リビエラ、ウェインが叫びを上げる。
いや、俺も同じ気持ちだけどね?

「ちょ、おま、何を勝手に!?」

「そ、そうだよ!しかも何で上から目線!?」

バルクとレノアがそうツッこむが――。

「うるさいぞ……。俺は決めた。この男に着いていけば、俺はもっと強くなれるだろうからな……」

正に唯我独尊……流石は原作で闇化したカーマインに着いて行っただけはある……だがな?

「……そこは『部下にして下さい』じゃないのか?フフフ……あまり舐めた口聞いてると、ケツから腕突っ込んで奥歯ガタガタ言わすぞコラ♪」

俺はナイス笑顔+黒い何かを噴き出しながらそう告げる。

「ひぃっ!!?」

「ちょちょちょちょっ!!?」

「マ、マックス……俺もう……駄目……ガクッ!」

「ウウウウェイン!?一人で逝かないでくれぇっ!!?」

「ぬ、ぬぅ……足が……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「レブナント……もう俺は駄目かも知れん……」

上からレノア、バルク、ウェイン、マクシミリアン、ローガン、リビエラ、エリックである。
皆やだなぁ……皆には何もしないってば♪

「……お、俺を、部下にして、下さ、い」

やれば出来るじゃないかラッセル君?
それと、俺の全力気当たりに耐えた君が、汗だくで何をそんなに怯えてるんだ?

クスクスクス……♪

***********

まぁ、(俺が)落ち着いた所で――。

ようやく詳しい事情なんかを聞くことが出来た。
ローガン将軍は、士官学校の教官も務めており、ウェインとマクシミリアンは士官学校を卒業したばかりの新兵だそうな。

とは言え、ただの新兵では無く、所謂『騎士見習い』という奴であり、彼等は半年から一年の研修を得て、正式に騎士として任命されるそうな。

要するにエリートだな。

二人は士官学校卒業生の中でも優秀な成績を残し、その証としてまだバーンシュタイン軍でも配備されている数が少ない『リング・ウェポン』を賜ったそうな。

『リング・ウェポン』

装備者が強く念じることで、その者を象徴した武器に変わる指輪。
指輪には幾つかの穴が空いており、そこに精霊石をはめることで、その精霊石の特徴を武器に表すことも出来る。

リング・ウェポンを使える者を『リング・マスター』と呼ぶが、マスターになる資質を持つ者は百人に一人程度の割合でしか存在しないらしい。

また、有能な武術家でも不適合となる場合があり、マスターの必要条件は不明……。

ウェインとマクシミリアンはリング・マスターということになるな。

俺も一応リング・ウェポンは使える……。
以前、グレンガルが使っていた奴を拾って試したことがある……。

ぶっちゃけリーヴェイグを使ってる方が強いんだがなぁ……俺は。

結構強力なリング・ウェポンらしく、精霊石の組み合わせ次第では強力な武器になるだろうが……。
ちなみに、案の定と言うか、俺のリング・ウェポンの形状は大剣でした。
Ⅲの主人公君の使う大剣に若干似てる感じの奴。

確か、ウェインってリーヴスに憧れていたからリング・ウェポンが鎌になったんだったよなぁ……。

恐らく、俺の場合は父上が大剣使いで、尚且つ剣術も父上から学んだため、大剣に対する思い入れみたいなのがあったんだろう。

そういう心情も影響するとか、中々デリケートな武器だよな。

っと、話が逸れたな。

対して、特別第一小隊の面々は能力は高いが、色々と問題がある者達が集められた部隊で、別名『問題児小隊』と呼ばれているらしい。

隊長のバルク・ディオニースは経験豊富で冷静沈着、リーダーシップに優れ、剣腕も相当の物があるそうだ。

――しかし、酒にだらし無く、趣味は若い者を捕まえての説教という迷惑オヤジ。
絡み酒はイカンだろ常識的に考えて。

この趣味が災いしてか、能力はあるのに階級が一小隊長止まり。

逆に言えば面倒見が良く、無欲である……とも取れる。
性格はざっくばらんな豪快なオヤジなので、個人的には好感が持てる。
34歳……って、結構若いな。

バルクが居るということは、ワスレナグサも居るのだろうか?
――噂とか聞いたこと無いんだけど。

ラッセル・ウィルバーはその剣腕だけならば特別第一小隊では1番らしく、力を求めてストイックな迄に己を追求する、武の求道者の様な男。

しかし、人の価値を強い弱いで判断する癖があり、弱者は見下し、強者にはとことん噛み付く狂犬の様な一面を持つ。

それは相手が上官だろうと関係無く、故に周囲からは煙たがられている。

しかし、それは多少なりとも戦う力がある者に対してのみであり、守るべき者や仲間に対してはぶっきらぼうではあるが、それなりの対応をする……らしい。

俺自身、原作のコイツを知っているため、そんなに怒りを感じることは無かった。
でなければ、今頃はくすぐり地獄の刑でも炸裂させてるわい。
ちなみに俺と同い年だ。

レノア・ウィルバーは、この小隊一の常識人。
明るく元気で、少し強気だが、その容姿も可愛らしく……女性というより少女という表現の方が正しい。

年齢は俺の一個上の19歳。
こう言っちゃなんだが……リビエラやジュリアの方が年下ではあるんだが……ハッキリ言ってそうは見えない。

なんつーか、ティピをベースにミーシャを足して割ったらこんな感じになる……と、言えば分かりやすいか?

ラッセルのストッパー役として頑張ってるとか。

本人いわく、魔法の才能はちょっと少ないらしく、小隊の中では足手まといになってるんじゃないか……と、不安らしい。

この子自体には問題らしい問題は無い。
むしろ、頑張ってるこの子を見てると、涙が出そうに……。

後、此処にはいないが、天才不思議系少女であるキルシュも特別第一小隊に所属しているらしい。

となると、トレーネも居るのだろうか?

で、何でウェイン君とラッセル君が険悪ムードだったかと言うと……。

なんでも今回は、特別第一小隊に合同調練のお声が掛かったらしい。
で、演習場に来たら待っていたのは騎士の卵(この場合騎士たまと言うのか、騎たまと言うのか……)の二人と、飛竜騎士団団長のローガン将軍のみ。

合同調練と言う程の規模では無く、強い奴と切磋琢磨出来ると楽しみにしていたラッセル君は、完全に意気消沈。

幾ら士官学校を首席と次席で卒業した二人だとしても、実戦経験では自分が勝り、実力においても自身の足元にも及ばない……と、ラッセル君は思ったらしい。

それでも最初は、波風を起てるつもりは無かったそうなのだが……。
ウェイン君がバルク隊長と話している時、『自分はインペリアル・ナイトになるんです!』的なことを話し、それを聞いたラッセル君が鼻で笑ってしまったことが、そもそもの発端。

ラッセル君はウェイン君を馬鹿にするつもりは無く、その夢は果てしなく遠いぞ?的なことを、言ったつもりだったのだが――言い方がキツかったらしく―――レノアいわく『お前程度がインペリアル・ナイトを目指すか……何年掛かるか分からんな』とか言ったらしい。

(この際、ラッセルの真似をしながら俺に説明してくれるレノアを見て、当の本人は渋い顔をしていたことを明記しておく)

んで、それを聞いたウェイン君はキレてしまったらしく、ラッセル君に決闘を申し込んだ……ラッセル君も売られた喧嘩は買う主義なので、その申し出を受けたそうな。
しかし、勝負を挑んだウェイン君は比較的アッサリ負けてしまったらしく、ラッセル君的には不完全燃焼で、逆にイライラしていたそうな。
そこに、俺達がやってきた……と。

成る程、大体分かった……けど、一つだけ分からないことがある。

「――何で誰も止めなかったんだ?」

調練中に私闘とか……何らかの罰が下されてもおかしく無いぞ?

「ぼ、僕や彼女は止めたのですが……」

「二人とも聞く耳持たず……だったんですよー」

と、マクシミリアンとレノアは語る。
……で、責任者達はと言うと……。

「いやぁ、士官学校のエリートだって言うモンですから、今後のためにもラッセルの鼻っ柱を折ってやる良い機会だと思いまして」

「私は逆に、クルーズ達に戦いの厳しさを知って貰う良い機会だと……」

つまり、敢えて黙ってたワケか……。
バルク隊長はラッセルの過剰な自信を……ローガン将軍はウェイン達のエリート意識を、叩き潰して欲しかったがために。

その考えは分からなくはないが……。

で、肝心のラッセル君の部下にしてくれ発言だが――彼らの担当……オルタだと宮廷魔術師のフォルトナだったが、彼はゲヴェルのグローシアン狩りの犠牲者になってしまい、現在は所属騎士団……いや、彼らの場合は師団か。
そこの師団長がその担当である。
だから……。

「今すぐは無理だが……辞令は出しておくよ」

「ほ、本当か?」

「ああ、男に二言は無い。……そのかわり、約束は果たして貰うぞ?」

俺の言葉に喜びを現にするラッセル。
勿論、戦闘訓練もしてやるが……礼儀作法もマスターして貰うぞ?

バルクとレノアに聞いたら、ラッセルは終始あんな感じらしいし……駄目だコイツ早く何とかしないと………ってワケで。
今まで、よく無礼討ちにされなかったなぁ……。

「あ、あの〜……よく分からないんですけど、そんなこと出来るんですか……?」

「まぁ、一応インペリアル・ナイトだからね。こと軍部においては、陛下の次に発言力がある立場だから」

レノアの疑問に答える俺……実際、発言力に比例する責任も存在するワケだが。

今回の辞令は俺の職権乱用にも見えるが、リーヴスいわく……ナイツ直属になることは、兵にとっては栄転と同じらしく、周りから祝福はされても反発されることは無いらしい。

「ちなみに、これは特別第一小隊全員に対する辞令だから」

「ハッ?………マジっすか?」

「あぁ、マジだ」

俺の言葉に、目が点になるバルク。
まぁ、分からなくはない……言ってることが無茶苦茶だってのも理解してる。

「直属の騎士団を作ったのは良いが面子が足らなくてな……此処に来たのも、使えそうな奴が居ないか探す為だったんだよ」

「成る程……そういうことでしたか」

俺の言葉に、納得した……と頷くローガン将軍。

まぁ、そんなワケで能力が高い連中は大歓迎っと。

「色々、思うこともあるだろうが、辞令が下ったら、その時は宜しく頼む」

「ハッ!了解しました!」

「了解だ」

「うわぁ、うわぁ……これって、もしかしなくても大出世??」

上から俺、バルク、ラッセル、レノアである。
とりあえず、出世ということになるんだろうなぁ……。
師団では無く、騎士団に所属するということは、【一般兵】扱いでは無く、どんなに少なく見積もっても、【騎士見習い】扱いになるからな。

**********

その後、演習場を後にした俺達はエリックの為にあちこちを案内した。
で、今日は急いでやることは無いと言うことで。

エリックはレブナントの世話に行き、リビエラには俺が書いた辞令を統括部に届けて貰ったりした。

それでもそういう仕事を熟す内に夕暮れとなり、二人はそれぞれの宿舎に帰った。

というより、帰したのだが。

俺は残業……というより、明日以降の分の仕事を熟してしまおうと言うワケで。
無理を言って書類仕事を貰って来た。

リビエラも手伝うと言ったが……昨日の今日だからな。
……夜に二人きりになんてなったら、俺は間違いなく暴走する。

断言する、絶対ヤバイ。

今朝、暴走しなかったのだって朝だったのと、急ぎの仕事を纏めるのに、集中していたからに外ならない。

「駄目だ……思い出しただけでヤバイ……」

思い出すだけで息子が有頂天ですよ?
本音としては、リビエラとイチャイチャしたい――もっと色々してやりたい……が、他の皆の為にも、休暇をもぎ取らねばならないのだ……。

その為にも、俺は仕事の鬼(ワーカーホリック)になる!!

「うおおぉぉぉっ!!やああぁぁってやるぜぇっ!!」

書いて書いてまた書いてぇ!!
あ、それ!ヨロレイヒー!!

***********

―――翌日。

戦勝祝賀会まで――あと六日。

ふ、フハハハハ……やったぞ。
十日分以上の書類を片付けたぞ……。

統括部には『これ以上は本当にシオン将軍の担当書類は無いのですが……今の所……というか、どうやったらこれだけの書類を……』と、驚愕させてやったんだぜ!!

とりあえず『気合いと根性だ』と、言っておいたが。

驚嘆されたんだぜ!何故なんだぜ!?

――いかん。
徹夜したからか変なテンションだ――と言っても、別段眠いわけじゃないんだが――やり遂げた!!
と、感じるせいかも知れないが。

「おはようございます」

と、リビエラが出勤?してきた。

「おはようリビエラ。今日も良い天気だな?」

「………もしかして、ずっと仕事してたの?」

入室してきたリビエラに、俺はニコヤカな笑みを浮かべて出迎える。
すると、リビエラはびっくりした表情を向けて来た。

「まあな、無理言って仕事を回して貰ってさ」

「もう……だから私も手伝うって言ったのに……」

「ハハハ、悪い悪い!夜にリビエラと二人きりになったら、色々理性が保たないと思ってさ♪」

俺の言葉を聞いて、プクッと膨れっ面を見せるリビエラ。
俺はそんなリビエラが可愛くて、つい本音を………。

「り、理性って……あの……」

「っ!ナハハ、悪い……つい本音が……あっ……」

「………………」

うわぁ、リビエラ無茶苦茶真っ赤になってるやん!?
何言っちゃってんの俺!?何言っちゃってんの俺ぇっ!?

「……もう」

ぎゅっ……。

「ちょ、おま……」

リビエラが俺の所まで歩いて来て、抱き着いて来た。
俺は執務机に座っているワケで……そして椅子に座る俺の膝の上に、向かい合わせに座る形でリビエラは座ってるワケで。

非常にエロいワケで……リビエラの匂い、リビエラの感触がダイレクトなワケで……。

「お、おい……」

「我慢なんか……しないで」

リビエラが俺を熱っぽい視線で見つめてくる。
ヤバイ――胸が高鳴る。

「私、シオンにはどんなことだってして欲しい……どんなことだって――受け入れるつもりなんだよ……?」

「リ、リビエラ……」

「……一昨日の、凄く気持ち良かったよ?昨日の朝だって、その……だからね?……遠慮しないで欲しい……ううん、私がシオンに愛して欲しいの。もっと、もっと……」

リビエラの言葉が、艶の入った声が――麻薬の様に俺の意識を犯して行く。

ヤバイ……スイッチが入っちまう……。

「だから……我慢なんてしないで。いつでも……貴方の好きな様に……愛して?」

プツン。

――此処は神聖な職場。
だが、そんなこと関係無いだろう?
リビエラが求めてくれてるんだ、答えなきゃ男じゃないだろう?
幸い、ノルマ以上の書類仕事は熟しちゃったし……。

グッ……!
俺はリビエラの腰を引き寄せ、更に密着させる。

「あっ……!」

どうせこんな朝早くに誰か尋ねて来たりしないだろうし……良いよな?
というか、もう我慢出来ん――!

「全く……俺をその気にさせるなんて――イケナイ子だな……これはお仕置きが必要かな?」

「!うん……してぇ……お仕置き……してぇ……」

スイッチが入った俺は、ニヤリと悪い笑みを浮かべる……それを見たリビエラはぶるりと身震いしながら、恍惚とした表情を向けて来た――。

昨日や一昨日の比じゃない――俺色に染めてやるよ――。
俺はリビエラの顎に手を添え、そのままその柔らかい唇を奪っ――。

コンコンッ!

「「!!!!!」」

「失礼します!シオン将軍はいらっしゃいますでしょうか?」

誰か来たーーっ!!?

リビエラは慌てて俺の横に立ち、俺は冷静に姿勢を整える。
が、モロに某碇君のお父さんみたいな悪巧みポーズを取ってしまった辺り、内心は大根が走り回っていたのだろう。

「――入りたまえ」

うん、やっぱり大根が走り回ってるわ。

「早朝より失礼します!」

部屋に入って来たのは一般兵士……門番だ。

「数人の男達が、シオン将軍に面会を求めておりまして……オズワルドという男が代表なのですが……」

そうか、帰って来たか……!

「彼らは私の直属の者達だ……通してくれ」

「ハッ!!承知しました!」

そう告げると、門番の彼は部屋を退出した。

「……もう、こんな時に帰って来なくても良いのに……」

「そう言うなよ。皆、頑張って来たんだからさ?」

「それはそうだけど……」

リビエラはむくれている。
良いところを邪魔されたから――なんだろうなぁ……。
逆に俺は助かったが……あのままズルズル行ったら、もう二度と歯止めが効かなかっただろうからなぁ……。

ドSモードが鬼畜モードになっていてもおかしくはなかったな……。

それこそ隙あらば、四六時中リビエラを調教とか……どこのエロゲだよ!?
……本当に危なかったぁ……。

やっぱり、公私は分けないとな……うん。

そういうことは職場でやっちゃイカンよな!

「っと、来たみたいだな……」

俺は扉の外に気配を感じる……オズワルド、マーク、ビリー、ニール、ザム……む?
後一つ気配がある……誰だ?
なんか、覚えのある気配なんだが……。

コンコン!

「どうぞ」

「失礼しやす!!」

俺が入室を促すと、オズワルド達が入ってくる。

「ただいま戻りやした頭!!」

「おう、お帰り」

入室してきたのは、蒼天の鎧・指揮官男バージョンを着たオズワルドと、蒼天の鎧・通常男バージョンを着たマーク、ビリー、ニール、ザム。
そして、軽装の茶髪ポニーテールの女性……いや、少女か?

……何だ?凄いキラキラした目で見られてるのだが。

「あ〜、色々積もる話はあるんだが……彼女は?」

「へい、道中で俺らに話し掛けてきやして……何でも頭に用があるとか……本人は知り合いとか言ってやすが……」

「……まさか、それだけで連れて来たんじゃないでしょうね?」

俺の質問にオズワルドが答える……知り合い……?
って、リビエラスッゴい不機嫌……。

「お久しぶりっすリビエラの姐さん!って、なんか不機嫌じゃないっすか……?」

「……別に、何でもないわよ」

ニールがリビエラに挨拶するが、つっけんどんに返される。
リビエラ……また、時間作ってやるから……。

っと、問題は彼女か……確かに見たことがあるんだよな……記憶を検索………。

………あっ。

「君、もしかしてあの時の……」

「!ハイ!!あの時、貴方様に倒され、服を脱がされた者ですっ!!」

ぶっ!?あ、あの時のシャドー・ナイトの……!?

『貴方とは……違う形で会いたかった』

こんなことを言いながら、決死の覚悟で挑んで来た……。
嬉しいことを言ってくれるな……と、つい笑みを浮かべたのを覚えてる。

その後、彼女を気絶させ……毎度の如く装備を剥ぎ取ったんだよな。

「……どういうこと?」

ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

「あ、姐さん……?」

「何だこの圧力は……」

「……何と言う嫉妬力」

リビエラが事情を俺に尋ねてくる……ビリー、マーク、ザムはその圧力に震えている。
それはオズワルドもニールも同様だ。

「ん〜、実はな?」

俺は平然と事情を説明する。
以前、シャドー・ナイトのモンスター使いを追い詰めた際、彼女が立ちはだかり……気絶させて下着を残して装備を剥いだことを。

いや、リビエラが不機嫌なのは――分かる。

まぁ、俺とニャンニャンする所を邪魔されたから、それが関係してるのかも知れないが。
というか、不機嫌な理由は十中八九これだろう。

「事情は分かったけど……全然うろたえないのね」

「リビエラが俺をからかおうとしていたのは分かってたからな。何より、後ろめたいことが無いのに、うろたえるわけ無いだろう?」

「ちぇ……つまんないなぁ……」

事情を聞いたリビエラは、あからさまにガッカリしている。
そう、リビエラは本気で怒っていたワケでは無い。
少し俺をからかおうとしていただけに過ぎない。

俺の選択に従うと言い、積極的に『同盟』の件で暗躍していたリビエラが、このくらいで怒る筈がないのだ――が、嫉妬が全く無かったワケでは無く、その辺は俺をからかって憂さを晴らそうとしたのだろう。

何気に俺が戦闘後に時折、敵から追い剥ぎするのを、リビエラは知ってるからな。

「リビエラ……?リビエラじゃない!ほら、私――覚えてない?」

「って、エレーナじゃないの!まさか貴女が――」

むっ?もしかせんでも、二人は知り合いか?

「もしかして、知り合いか?」

「うん、実はね……」

リビエラいわく、彼女の名はエレーナ・リステルと言い、シャドーナイト時代に同じ部隊だったことがあるらしい。

彼女は紆余曲折あって、モンスター使いの部隊に配属になり、それ以来は疎遠だったらしいのだが――。

「成る程、それで俺がモンスター使いを奇襲した時に遭遇した……と」

「ハイ!私……貴方と出会った時に電撃が走ったんです!あぁ、こんな方に御仕え出来たらって……あんな出会い方じゃなくて、もっと違う出会い方をしたかったって……。貴方の強さ、覇気、優しさ……こんな人が居るんだなぁ……って」

彼女、エレーナはその胸の内を俺に語る。
うぅ……そこまで褒めちぎられると、かなり照れる……顔には出さないが。
しかも……彼女が俺に向けるこの感情は……。

「私、貴方に惚れました!!是非、配下にお加え下さい!!」

ま、またどストレートな……。
そう、この感情は【好意】……しかも、異性としてのソレ。
彼女の言葉を信じるなら一目惚れということだが……。

――気絶させられて下着姿に剥かれ、あまつさえ手足をロープで縛られて……惚れたりするか、普通?
幾らこの身がご都合主義の塊とは言え……有り得ないだろ?

アレか?半端じゃないドMか……この娘?

戦士として惚れた……とかなら分からなくは無いんだが……。
もしくは、この娘が何らかの企みがある……と、いう可能性だって……いや、だが――。

「お願いします!!貴方のためなら何だってします!戦闘だって、掃除だって……それに、貴方様が命じられるなら夜のお世話も……私……♪いやん、そんなぁ♪」

……何かを隠してる感じじゃないんだよなぁ。
というか、絶対本音だよ……コレ。
時折、リビエラ達が見せる反応と同じだし。

「なぁ、彼女って以前からこうなのか?」

「うーん……普段は普通なんだけど……そういえば彼女、上司のグチをよく言ってたわね。『もっと尽くし甲斐のある人に尽くしたい』とか。エレーナ自身、M気質だって言ってたし」

リビエラにオーディエンスした結果、半端じゃないドMでファイナルアンサーです。

……ハハハ、マジかよ?

「で、どうするの?――私はシオンの選択に従うだけだけど?」

「どうする……ってなぁ……」

無論、人手が欲しい俺としては、ある程度の実力者は欲しい。
手加減したとは言え、彼女は俺の気当たりに堪えるくらいの力量がある。

――が、リビエラの言いたいことは、そういうことじゃないんだろう。

彼女を女性として見るか――という事だ。

好意を持たれてるのは、正直嬉しいと思う。
彼女は美少女だし、真っ直ぐな気持ちも嬉しい。

俺の本能的な部分が、お持ち帰りしろと轟き叫んでいる。

しかし、冷静な部分では―――俺は彼女のことを良く知らない。
それなのに、決めてしまっても良いのか?
それは、彼女に対して失礼に値しないか?

というか、俺には既に愛する人達が居るからな。
彼女達を蔑ろには出来ん。

「エレーナ……だったね?」

「ハ、ハイ!」

「君の気持ちは嬉しい……だが、俺には」

俺は語る……俺には愛する女性が居る……しかも、それが一人じゃない。
最悪の女垂らしだと……。
彼女達は、それでも俺を受け入れてくれて、だからこそ、彼女達を裏切れないと――。
しかし―――。

「それは――シオン様は私を嫌いでは無いってことですよね?」

「?ああ……少し話してみて、良い子なのは分かったし――そこまで真っ直ぐな好意を向けられたら、嫌えはしないよ」

彼女が俺の見た目や、玉の輿狙い――とかだったら話は違って来るが、彼女は俺の内面を感じて好意を寄せて来ているのが分かるからな。
そんな女の子を嫌えないよな……とは言え、彼女だけと付き合うとかは話が別―――。

「良かった――」

「え?」

「――嫌われてたら、諦めるしか無いけど、嫌われて無いなら……私……」

エレーナはホッとした表情を浮かべ、そして……。

「大勢の内の一人でも構いません……私には貴方以上の方なんて見つかりません!お願いします!!お側に置いてください!!女として見てくれなんて言いません……手駒としてでも構いません!!どうか、お願い……します……」

その決意を――口にした。
――此処まで言わせて、俺は断るのか……?


――そうだよな――決めたじゃないか。
同じ最低なら……俺は……。

「……手駒とか言うな」

「え……?」

「俺にとって、部下は家族や仲間と同じだと思ってる。ましてや、俺なんかに好意を持ってくれる女の子を、駒扱いになんか出来るかよ」

俺は椅子から立ち上がり、エレーナの側まで行く。
身長差から、俺は見下ろす形になるが……。

「こんな女っ垂らしの側に居たい……なんて、存外物好きなんだな君は……」

「あ、あの……」

ポンッ……。

俺は彼女の頭に軽く手を置き、慈しむ様に撫でてやる……むぅ、当たり前だが皆とはまた違った手触りだな……ってか、真っ赤になってるが、拒否らないのな?
むぅ……俺自身、マジで恋愛原子核なんじゃねーかって、疑わざるを得ん……。
エレーナの嗜好が特殊なだけなのかも知れないが……。

「こんな俺の側で良ければ、好きなだけ居てくれ……まぁ、流石にいきなり男女の関係ってのはアレだと思うから――お互いのことをよく知り合おう。その上で、エレーナが俺のことを嫌いにならなければ……その時はエレーナを抱きしめさせてくれ。……それで構わないかな?」

――我ながら、最低の選択肢だと思う。

彼女が俺を想ってくれていると感じながらも―――あくまでも一目惚れなら、一過性の物に過ぎないんじゃないかと――疑ってしまった。
彼女のソレは、『愛』という感情よりも『隷属』と『忠誠』の方が強い―――故に一過性とは無縁だというのも理解してる。

しかし、二回の邂逅しかしていない相手に、いきなり隷属を強いる程、俺は鬼畜じゃない。

(相手がどうしようも無い屑なら……話は別だが)

……例え彼女が望んでいたとしても、だ。

だからこそ、冷却期間じゃないが……互いを見つめ直すためにも、ああいう言い方をした。

卑怯な言い回しだと言うのは、十分に理解してる……俺やエレーナに対する『逃げ場』を用意した言葉なのだから……だが。

「ハ、ハイ!!ふつつか者ですが……宜しくお願いします、シオン様!!私、誠心誠意御仕えさせていただきます!!」

……彼女は決してその想いを曲げない。
何故か俺は、そう確信してしまっている……。
――やっぱり、俺は卑怯者だな。
それが分かっていながら、ああいう言い方をしたんだから―――。

というか、こんなに嬉しそうに微笑むのを見てたら……早速抱きしめたくなってきた。

くっ、俺の身体が疼く……静まれ……俺の身体よ!!

「……本当に、貴方って節操無いわね?」

「自覚してる……それなのに、こういう選択肢を選んじまう辺り、末期だと自分でも思うよ……」

リビエラのジト目を受けて、俺は頭を抱える。
言葉を濁したり、『逃げ道』を作りはしたが……エレーナが揺るがないと確信している以上、事実上『受け入れた』のと何ら変わりが無い。

うぅ……俺って、此処まで節操無しだったかぁ?
何か、初体験をした影響で駄目駄目な部分も強化された様な気がする……。

「ふふふ、良いのよ。それでこそシオン!って、感じだから♪――貴方が真剣に考えて出した答えだもの――私は受け入れるわよ♪」

「何だか、喜んで良いんだか悲しんで良いんだか……複雑だな」

リビエラは可愛らしくウィンクをしてくるが、俺は苦笑いを浮かべるしか無いワケで……。

一応、現代日本の精神的概念を持つ俺からすれば、彼女達の考えは有り得ないだろ……とか、俺にそこまで想われる価値なんか無い……とか、色々思うワケだが。

この世界においても、少々歪んだ在り方であるというのも……理解している。

最初は突き放される為に言った虚言だけど、皆大好きだと言ったのも真実なら、皆の想いに幸せを感じたのも……事実だ。

だから、周りから何と言われようと『誇りある駄目人間』を貫くと決めた……皆を全力で愛すると決めた。

決めたのだが………新たにこうして受け入れてしまう辺り、意思薄弱というか、泥沼というか、人間失格というか……。

ああ……穴があったら入りたい……。

「いや〜、頭も相変わらずの垂らしぶりっスねぇ〜……」

「……真剣な分、質が悪い」

「だな!人呼んで、『バーンシュタインのスケコマシ』ってか!頭も罪作りだぁね〜♪」

「フッ、そのうち夜道で刺されそうだな……頭ならケロッとしてそうだが」

等と談笑しているのは、ニール、ザム、ビリー、マークの四人。

「馬鹿野郎共が……俺ぁ知らねぇぞ……」

「シ、シオン、落ち着いて……皆も悪気があった訳じゃないし……ね?ね?」

「あぁ……凄い闘気♪流石です、シオン様ぁ♪」

オズワルドは冷や汗をダラダラかきながら距離を取り、リビエラは必死に俺を宥めすかし、エレーナは俺を恍惚とした表情で見つめる。

ん?俺か?俺はね?……フフフッ。

「―――ソレがお前らの遺言か?」

「「「「!!!!!???」」」」

ゆらり……と、幽鬼の様に四人に近付いていく俺……ククク……好き勝手言ってくれちゃって……。

「か、頭?」

「おち、落ち着いて下さいよ!ちょっとしたジョジョ、冗談じゃないですかぁ〜……ね?」

「そそそそうッスよ!頭、どうかお気をお静め下さいッス!!!」

「………終わったな」

何やら冷や汗ダラダラだったり、顔面蒼白だったり、大慌てだったり、悟ったりしているが……そんなの関係ねぇ。
俺は近くに寄って一言……。

「―――さぁ、懺悔の時間だ」

「「「「アッ―――――――――ッ!!!!」」」」

***********

こうして、オズワルド達が合流し、蒼天騎士団に新たなメンバー『エレーナ・リステル』も加わった。
ちなみに彼女は俺と同い年だそうな。

なお――。

「あ、オズワルドには騎士団長をして貰うから」

「は………?うおええぇぇぇぇぇいっ!!!??」

騎士団長就任を告げたら、当人は大層驚いていた。

「あと、騎士団のメンバーと居る時は良いが、それ以外の時は体面に気を使うようにな?」

「「「了解!!」」」

「「「「り、りょうかいしましたぁ………ぐふっ」」」」

リビエラ、オズワルド、エレーナは元気良く敬礼してくれた。

残りの四人は凄くグッタリしてる―――言っておくが、実力行使なんかしてないからな?
ちょっと精神的に追い詰め―――もとい、心の切開――改め、少し『お話』をしただけだからね?

まぁ、それはともかく――とりあえず六人の正式な登録のため、俺の書状を持ったリビエラの案内で軍統括部へ向かったオズワルド達。

一応、エレーナには蒼天の鎧・女性通常バージョンを渡しておく。

んで、今現在……俺が何をしているかと言うと。

「御呼びでしょうか、陛下?」

「ええ、魔法学院から返答がありました。協議の結果、学院の使用許可が下りたそうです。そこで、貴方には再び各国に赴いて貰い、このことを知らせて来て欲しいのです」

バーンシュタイン王城・謁見の間

俺は今、エリオット陛下の御前に居る。
陛下が言うには、魔法学院から連絡が届き、『三国同盟』の会談場所として、魔法学院の一室を使用する許可が下りたとのこと――。
それで、俺に再び各国に連絡に行って欲しいとのこと。

副学院長が頑張ってくれたのだろう――予定より早く許可が下りた。
後ほど御礼を言いに行かないとな。

「日時は三日後……その会談には、僕も出席しますから、護衛は任せましたよ?」

「ハッ!お任せ下さい……って、陛下も出席なさるのですか?」

確かに、各国のこれからを担う大事な会談ではあるが……一国の王が軽率じゃないか??

「僕の留守の間は、ポールに任せてありますから……大丈夫ですよ」

「あまり頼られ過ぎるのも困り物なのですが……私にも仕事がありますし……大体、陛下は王としての自覚をですね……」

「あ、あははは……」

成る程、影武者作戦か……。
と、納得していた所に、陛下の横に控えていたポールが苦言をプレゼントする。
陛下が引き攣った顔で苦笑いする中、ポールは説教を続けている。

ポールは、以前に王だったこともあるため、その時の経験を生かして陛下に助言をしたりしている。

――時折、こうして説教モードに入るが。

この間の食堂で聞いた話だが、ポールいわく――。

『エリオット陛下は王としての資質は十二分以上に備わっている。覚悟や気構えも十分、教養や民を思いやる心も……だが、その優し過ぎる心は美点であると同時に弱点足り得る………何より、時折出てくるサボり癖が……この間などなぁ!』

以下、愚痴が続くので省略――なんでも、時折城を抜け出して城下に遊び……もとい、視察に行くらしい。

――原作の抜け出し癖がこんな所で開花するとは――。

まぁ、ポールは王として先輩なだけに、エリオット陛下には期待しているのだろう。

安心して国を任せられる――。

あの時、ゲヴェルの呪縛から解き放たれたポールは、エリオット陛下にそう言った。
その気持ちは、今でも変わらないのだろうから……。

こうして、俺は再び各国を廻ることと相成ったワケだ。
俺はテレポートが使えるから、一日掛からないしな。

エリオット陛下の書簡を預かり、すぐにでも出発出来る状態ではあるが―――。

「そういうワケで、皆には自主訓練をしていて貰いたい」

俺は執務室にて、統括部から戻って来たリビエラ達に事情を説明する。

今、この場にはリビエラ、オズワルド、エレーナ、マーク、ビリー、ニール、ザム……それから途中で合流したエリックが居る。

「了解しやした頭……じゃなかった、将軍!!不肖このオズワルドが!しっかり監督しやすから、安心して任務を行ってくだせぇ!!」

「兄貴、騎士団長に任命されたからって、気合い入りすぎだよなぁ……」

「だが、俺たちも他人事じゃない……騎士として抜擢された以上、今までの様にはいくまいよ」

「そうッス!!正義の騎士として戦う俺……くぅ!燃える!!燃えるッスよおおぉぉぉ!!!」

「……気合いを入れるしか無い、な」

オズワルドは騎士団長に任命されたことにより、今まで以上に気合いを込めて……大船に乗ったつもりで任せてくれ!と、言う様に胸を張る。

それを聞いて、若干げんなりしながら苦笑いをしているのがビリー。

自身の立場と責任を鑑みて、決意をゆっくりと固めていたのがマーク。

騎士になったことで、更に燃えまくっているのがニール。

色々と悟りながら覚悟を決めたのがザムだ。

「全く……やる気を出すのは良いけど、空回りしない様にね?」

「ぬぐっ……」

「良いじゃないリビエラ!……こういう空気って、やる気が伝染して私も頑張らなきゃ!って、思えるし!」

苦笑混じりにそう言い放つリビエラに、流石のオズワルドも言葉が詰まってしまう。
エレーナはむしろやる気が出る!と、気合いが入ってる様だ。

「ふむ……今回はしっかり訓練が出来そうだな」

そう言って満足気に頷くのはエリック。

なお、皆の立場はこうだ。

オズワルド【蒼天騎士団団長】

リビエラ【蒼天騎士団員兼俺の副官】

マーク、ビリー、ニール、ザム、エリック、エレーナ【蒼天騎士団員】

――となる。

階級的にはエリックとエレーナは【騎士見習い】。
他の皆は【騎士】になる。
一応、インペリアル・ナイトは、爵位持ちの貴族と同等以上の権限があるので、騎士の位を授けることが出来る。
まぁ、流石に騎士以上……将軍の称号、またはインペリアル・ナイトの称号は陛下にしか授けられないが。

更に騎士の位を授けるには、周囲を納得させるだけの功績が必要になる。

リビエラは言わずもがな、ゲヴェル討伐を行った一員としての功績――オズワルド達は先の戦での功績があったこともあり、騎士の位を授けることが出来た。

しかし、バーンシュタインに入りたてのエリックと、特に目立った功績の無いエレーナには騎士見習いの位を授けるのが限界だった。

これ以上は、強権になっちまうからな……陛下や国に迷惑を掛けることになっちまう。

今はコレが精一杯……って奴だ。

なお、リビエラは俺の副官ということ、オズワルドはナイツ直轄部隊の団長ということで、通常の騎士より立場は上だが、それでも将軍位を持つ者よりは立場が下……という若干ワケワカメな状況だったりする。

「とりあえず、教本としてコレを置いていくから――頑張ってくれよ?」

俺は【今日から君も大英雄】【今日から君も大魔導師】各種を皆に渡しておく。
ん?コレをどうしたのかって?

……書いたんだよ。
超特急で。

……書類仕事が早く終わって暇だったから……ついでに、な?
以前の俺では流石に無理だったが……身体能力、動体視力、反射神経、思考速度など――諸々がチート化してるからな……それに比例したサラリーマンスキルも極限化しているのだろう。

きっと、今の俺ならあの伝説の【ハリケーン書類整理】も可能!!

―――どの伝説か知らんけど。
ってか、ハリケーン書類整理って何よ?
語呂悪いし……。

「了解!……気をつけてね?」

「ただ、各国に書簡を届けるだけだから――心配いらないって!」

リビエラが俺を心配してくれたので、俺はニカッと笑ってその心配を吹き飛ばしてやる。

「行ってらっしゃいませ、シオン様!お留守の間、一生懸命頑張りますから!」

「あぁ……それじゃあ、行ってくる」

エレーナの声を受け、サムズアップして答え……俺は再び各国に向かうのだった。

***********

ローランディア王城・謁見の間

さて、早速ローランディアに来たワケだが――。

今現在、謁見の間にてアルカディウス王と謁見中――。

「ふむ、あい分かった。わざわざ済まぬな」

「いえ、幸いというか、私はグローシアンですから……テレポートも使えるので色々と都合が良いのですよ」


俺は書簡を文官さんに渡し、文官さんがそれをアルカディウス王に渡し……書簡をアルカディウス王がソレを読んで、内容――会談の日時――について了承した。

今ココな?

「しかし、その方もインペリアル・ナイトになった身……何かと多忙であろう?」

「これも任務ですから……それにココだけの話ですが……ある程度の事務仕事は片付けてしまったので、後やることは部隊の調練か自身の修練くらいなのですよ」

後は政に首を突っ込む位だが……特に要請が無い以上、俺の出番は無く――皆や自分を鍛えるくらいしかやる事が無い。
まぁ、それも立派な仕事なワケだが。
領地持ちじゃないから、領地の管理運営とかしなくて良いしな。

「それはそうと、今日も彼らは?」

「うむ、今日もサンドラの研究室で文献の作成を行っておるよ。やはり、物が物だけに、まだまだ時間が掛かりそうだ」

アルカディウス王の言う様に、ゲヴェルの起こした事件や、ゲヴェルがどういう存在か、ゲヴェルを倒すための道程……。

ソレ等を詳細に書き記すというならば、まだまだ時間が掛かるのも道理……ちょっとした英雄叙事詩みたいな物だもんなぁ……。

とは言え、その英雄叙事詩はまだ終わったワケじゃないんだがな……。

「シオン殿もまた顔を出してやってくれ。皆も喜ぶだろうし、良い気分転換になるだろう」

「ええ、そのつもりです」

アルカディウス王の言葉に頷く俺。
レティシアとサンドラに、エレーナのことを伝えないといけないしな……。
リビエラとの初体験は……言わなくて良いよな。
……俺の直感が『ご都合主義的エロ展開が起きるよ!』と、告げている。

恐らく、怒られはしないだろう……有り得ないとは常々思うが、毎度の様に仕方ないなぁ……と、生暖かい瞳で見られるに違いない……。
というのが俺の考えだが――こと、こういう時の彼女達の行動については、いつも俺の予測の斜め上を行くからなぁ……。

嫌な予感だが、それはピンクな予感でもあるワケで……。

いや、むしろ俺としては望む所だが……任務中は流石に……な?

***********

で、サンドラの研究室にやってきたワケなんだが……。

「よぉ、シオンじゃねぇか。今日はどうしたんだ?」

そう聞いて来たのは、ゼノス最終兵器(リーサルウェポン)仕様。
つまり、例のエプロン姿なワケだ……何日かぶりに見たが……相変わらずエプロン姿が破滅的に似合わんな……。

もう慣れたけどな……流石に。

以前は、ゼノスが飯当番だった時に嫌というほど見た姿だ。
慣れない方がおかしい……と、考えるのがおかしいのか……?

「いや、アルカディウス王に報告があって来たんだけどな……そのついでに寄らせて貰ったんだが……」

「例の会談の件か……日程が決まったのか?」

俺の言葉に、返答を返したのはウォレスだ。
どうやら、皆アルカディウス王から事情は聞いてるみたいだな?

ならば話は早いな。

「あぁ……詳しい話は後程アルカディウス王から聞いてくれ。で、素朴な疑問なんだが……何でゼノスはエプロンを装備してるんだ?」

「それはな……」

カーマインが俺の疑問に答えてくれる。
何でも、話の休憩がてらゼノスはチーズケーキを焼いたそうな。

で、少し早いオヤツタイムに移行したらしい。

「で、今さっきそのケーキが焼けた所なんだよ」

「おいしそ〜……ジュルリ……」

ルイセがそう説明する。
確かに、さっきから美味そうな香りがしているな……ってか、ティピよ。

「ヨダレが零れてるぞ?」

「あっ!!(ゴシゴシゴシッ!)ふぅ、コレで良し!」

いや……袖でヨダレを拭うのは……どうなんだ?
まぁ、その仕種は可愛らしいが……。

「宜しければ、シオンさんも如何ですか?」

「しかし――良いのか?」

「構わねぇよ!量は十分あるからな」

サンドラにお茶の席に誘われる。
ゼノスが言うには、量は十分らしいが………ふむ。

急ぎでは無いし、少し位なら……良いか。

「そういうことならば、喜んで」

「良かったですわ♪せっかくですので、シオン様の近況を聞かせて下さいな?」

俺の答えを聞いて、喜んでくれるレティシア。
まぁ、近況と言っても特に変わったことは………えと、無かったとは言わないがね?

ちなみに、何故か他の文官さん達が居ないので、堂々とタメ口ですが――。

「そういえば、文官の人は?」

「彼らでしたら、とりあえずの資料を纏めに。私も手伝うと言ったのですが、自分たちだけで大丈夫だから休憩しててくれ……と」

俺の疑問にサンドラが答えてくれる。
それはまた……お気遣いの紳士やなぁ……。

こうして、俺は皆の少し長めの休憩に付き合うことになった。

互いの近況を話し合ったり――。

「近況とは言っても、特に何かあったワケじゃないんだが……騎士団を作ったことくらいか、変わったことは」

「騎士団?」

「ナイツにはそれぞれ、直属の騎士団が存在してな?俺もご多分に漏れず、騎士団を持つことになったワケだ……まぁ、まだ八人しか居ないケドな?」

――等。

「そういえば、ラルフはどうしてる?」

「ああ、商人として頑張ってる様だ。今はあちこちを行商しているらしい」

――等。

他にも、ゼノスがカレンを心配しているが、中々休みが取れずに帰れないという話だったり、レティシアが時々、城を抜け出して王都に行くため、困っていると、サンドラが愚痴ったり……。

そして………。

「悪い、ちょっと二人に話があるんだが――良いか?」

「私たちにですか……?勿論、構いませんわ」

「ええ、それでは少し席を外します」

俺はレティシアとサンドラを引き連れて、皆に話が聞かれない場所まで来る。
場所的には二階の書物が沢山ある場所な?

「それで、話とは何でしょうか?」

「ああ、実はな……」

俺は新たに仲間に加わった、エレーナについて話す。
彼女は以前、俺が戦ったシャドー・ナイトだったこと。
そして、その時……俺に一目惚れしたらしいこと。
その理由、内容……そして、現在の状況……全てを語った。

すると……。

「……つまり、そのエレーナという人は、シオンさんに心酔していて、シオンさんもその気持ちを無駄に出来ないから、受け入れたというわけですね?」

「むぅ〜……シオン様、私達という者が居ながら……でも、シオン様らしいですけれど♪」

「受け入れた……ということになるのかな?俺としては冷却期間を置くつもりだったんだが……エレーナの奴、折れる気配が無いし……てか、レティシア……それが俺らしいって、かなり微妙な気持ちになるんだが?」

案の定と言うか、サンドラもレティシアも『しょうがないですね♪』という生暖かい眼差しを向けてくる。
止めて!そんな優しい瞳で見つめないで!?

胸が……胸が痛いぃぃ!?

オッサン罪悪感という名の刃で体中グッサグサよ!?

「そんな……私たちが勝手にそうしようって決めたんですもの……貴方が気に病むことは無いですよ?」

「そうですわ。私たちはシオン様が好きで……どうしようも無く好きで……だからこそ選んだこの道ですもの……」

……分かってる。分かってるんだよ……。
皆がどれだけ俺を想ってくれてるか……。

その気持ちは嬉しい。
余りにもご都合展開で、疑問を感じないワケじゃない……何で俺なんかを……って。

ただ、彼女達の向けてくれる感情が『本物』だから……俺は『ソレ』を受け入れた。

まぁ、半分は成り行きによってこの状況が導き出されたのだが……。

もし、あの時―――振られようと、馬鹿なことを言わなければ――カレンをそのまま受け入れていたら――きっと、違った結末を生んでいたのだろう。

あくまでも、それはif【もしも】でしかないが――。

俺は今、幸せだ――三国一の幸せ者だって胸を張って言える。

ただ――。

「……ありがとうな。いやはや、これだけの美女や美少女に想われてるなんて、俺は幸せ者だなぁ♪」

俺はその幸せに――彼女達に甘えているんじゃないか……?

そう思えてならない……結局、最低は最低に変わりは無い――か。

とは言え、後悔なんてしないし、する要素も無いが――。

「そ、そんな……からかわないで下さい……シオンさん……」

「そ、そうです!シオン様を想ってるのは当たり前で……美少女なんて呼ばれて嬉しいのですけど、そんな……あの……♪」

――守っていこう。
この【何処までも愛しい彼女達】を――俺の力の限り――。

***********

その後、お茶を戴いてからその場を後にした。

サンドラとレティシアには日を改めて訪れることを告げて……。

で、次に俺はランザック王国に向かった。

ランザック王城・謁見の間

「ふむ、承知した。三日後だな?」

「はい」

俺はランザック王に書簡を渡し、内容を説明。
会談の日時と場所についても説明……了承してくれた。

後は特に変わったことは………一つあったな。

「……マジかよ?」

俺は帰りにランザックのスキマ屋に立ち寄り、GLチップスを購入。

ちょっとした運試しにと付属カードの袋を破って、中身を確認したら――出て来たのだよ。

長身の銀髪で、蒼い瞳を輝かせ、蒼を基調にしたインペリアル・ナイツの制服を身に纏った……大剣を携えた男。

……ぶっちゃけ俺です。

これは、流石に聞いておかなきゃな……と思い、店主に詳しく尋ねてみたのだが……。

「いやね、ウチらも良く知らんのですよ。スキマ屋商会ってのがあって、そこの奴がウチに品物を卸してくれるんですがね?このGLチップスに限っては、門外秘というか……誰がウチに卸してるか分からんのです。まあ、ウチの商会の奴だってのは確かなんですが」

「ふぅん……俺もあちこちのスキマ屋を訪れたことがあるが、GLチップスを扱ってるのが此処だけ……何故だ?こう言っては何だが、売る気が無いとしか思えないんだが」

「さて……ウチは見ての通り他の店舗より珍しいアイテムを扱ってるからね……その関連で流れてくるのかも知れないなぁ。幸いというか、GLチップスはウチの看板商品でね……国外からも買いに来てくれる人も少なくないんですよ」

むぅ……店主にもよく分からないらしい。
益々謎が深まったなぁ……。
この謎が解明される日は来るのだろうか……?

いや、解明してみせる!!
じっちゃんの名に賭けry

***********

さて、多くの謎を残しながらも、俺は次の目的地に向かう。

次の目的地は―――。

魔法学院・副学院長室

俺は副学院長に礼を述べに来たのである。

「ありがとうございました。まさか本当に二日で話を纏めるとは……おかげさまで、会談を無事に進められそうです」

「いやなに、もとより反対者が少なかったからだよ」

副学院長は謙遜しているが、反対する者が少なからず居たということは、その反対者達を説得するのに尽力したということ。

「それに我々、魔法学院は君達に大きな借りがあるからな」

「私……というよりはカーマイン達ですがね。私はただ、彼らに着いて行っただけに過ぎませんから」

「それはそうかもしれないが、私としては個人的な物だが、君に借りがあるからね」

実際、例え俺が居なかったとしても、カーマイン達が何とかしただろうし……って、副学院長が俺に借り?
なんかあったっけか?

「何かを貸した記憶はありませんが……」

「以前、君は呪われた本の解呪をしてくれたじゃないか!」

ああ、アレか……俺としては呪いが解呪出来ることを証明しようとしただけだったんだがな……。

「あの本のおかげで、未だ解明されていない――新たな呪いについても知ることが出来た。無論、その解除方法もな。正直、君には感謝してもしたりないくらいだ」

「そこまでたいしたことをしたつもりは無いんですが――」

そこまで言われると、少し気恥ずかしいな……。

しかし、学院長――クソヒゲに捕まっていた所を助けられたことより、本の呪いを解呪したことについて感謝していたとは……。

やはり副学院長も研究者ということかね?

その後、改めて三日後に宜しく頼む……と、告げてから俺はその場を後にした。

現在、俺はイリスを探している。

「イリスにも言っておかないと……な」

エレーナのことは、しっかり伝えておかないとな。
―――どういう反応をするかは何となく予想がつく。

『――成る程、私たちを弄んで性奴隷にしただけでは飽き足らず、新しい女性を淫獄地獄に堕とすつもりですね分かります』

―――的なことを恥ずかしげもなく言うに違いない。
幾ら俺の駄目人間的レベルがアップしたとは言え、そんなことを肯定する程、堕ちてはいないって!
というか、弄ぶつもりなんか毛頭ないし。

そんなことを考えてる内に、イリスを捜し出すことが出来た。

なお、彼女は図書室に居た。

「よう、イリス」

「!シオン。もしや、暇が出来たのですか?」

「いや、副学院長に用があってな……一応任務だよ」

「……あぁ、例の会談の話ですか」

何やら本の整理をしていた彼女に話し掛けたら、彼女は微かな微笑みで迎えてくれた……が、俺が任務で来たと言ったら微かに顔を歪め、ガッカリしていた……そんなに楽しみだったのか……ゴメンな。
紛らわしい真似しちまって……。

「というか、よく知ってるな?」

「教員は皆さん知っていますよ。生徒には日程が決まったら、改めて連絡をする段取りになっています」

……ということらしい。

まぁ、知らせて無かったら逆に騒ぎが大きくなる可能性もあるし……この方が良いのか……?

「それはともかく、イリスに話があるんだが、良いか?」

「?それは此処では言えない話ですか?」

「俺はそれでも構わないんだけど……な?」

俺はイリスを促す。
エレーナについて話そうとしたのだが……俺としては聞かれても困らないが、イリスが困るだろうなぁ……と。

「分かりました。では、屋上に行きましょうか?」

***********

……こうして、俺達は屋上へとやってきた。
幸い、今は講義中らしく、生徒も教授も居なかった。

なので、早速事情を説明した。

すると――。

「成る程、流石はシオン――手が早いですね?そこに痺れもしなければ、憧れもしませんが」

「グッハアアァァァァァァァッ!!?」

俺にイリスの言葉の刃が直撃した!
もう、もう止めて!!
オッサンのライフポイントはもう0よっ!?

「あの……冗談なのですが……」

「え……冗談……?」

イリスは少し慌てた風に俺に真実を告げる……が、俺は半信半疑。

「貴方は、いい加減な気持ちで物事を考えたりする人では無い。だからこそ、悩んで決めたことなのでしょう?貴方のことだから、冷却期間を置くために敢えて『受け入れる』と口にしなかったのでしょうから」

「……買い被り過ぎだって。とは言え、当たらずとも遠からず……って所か」

イリスは俺の考えをズバリ見抜いた……って、スゲェなオイ。
一応、俺は表情には出さなかった筈なんだが。

「――以前、シオンは自信を持てと言ってくれましたが、シオンこそ自分に自信を持つべきです」

「こんなことに自信を持つのもどうかと思うんだが………でも、ありがとうな?」

イリスはもっと自信を持って……と、励ましてくれるが、こんな―――女性関係に自信を持てと言われても……なぁ?

今でさえ俺は『リア充』なのに、自信なんか持ったら『痛い奴』になっちまう。

……イリスはこの辺りのネガティブ思考を指摘して、『自信を持って』と言ってくれているのだろうなぁ……。

だが、こんな美人達に俺なんかが慕われてる……なんて、普通信じられないだろう?

「いえ、私は思ったことを言っただけですから。ですが、それでシオンを元気付けられたなら――良かったです」

ぐぅ……綺麗な微笑やなぁ……。
危うくニコポされる所だったぜ……って、互いに想い合ってるならポされても良いのか?

「そうだな……それじゃあ、元気付けてくれたイリスにはご褒美をあげよう。何が良い?」

「ご褒美……ですか?―――では、一つお願いがあるのですが……」

「おう!俺の出来ることなら、何でもやってやる!!」

俺は励ましてくれたイリスに、何かしてあげようと提案したのだが――イリスは一つだけ願いがあるらしい。

一つと言わず、幾つでも願いを叶えてやりたいが――わざわざその辺をツッこむ必要は無いだろうと、俺はイリスの先を促した。

「で、では……宜しいでしょうか?」

「お、おう」

な、なんか気合い入ってる……気がするな……。
俺に出来ることなら良いんだが……。

***********

結論から言うと、イリスの願いは、さして無茶なモノでは無かった。

休暇が出来たら1番に会いに来て欲しい……ということだったのだから。

「そんなことで良いのか……?」

「はい。是非、お願いします」

「――分かった。任せろ!」

正直、拍子抜けだが――それをイリスが望んだのなら、それに応えてやらなきゃな。

―――この時、俺は気付かなかった。
何故、この日――イリスが天然発言――主にエロスな本から仕入れただろう知識――を披露しなかったのか――。

俺はイリスが成長したんだなぁ……と、気にも止めていなかったんだが………後日、その認識が大いに間違っていたことを……思い知らされることになる。

だが、それは今の所は余談である。

って、俺は誰に言ってるんだか……時々、自分で自分が分からなくなるなぁ……。

イリスは仕事が残っているので、少し話した後に仕事へ戻って行った。

「少し充電させて下さい……」

と言って抱き着かれた時には、毎度のことだから……って、慣れはしないな。
表面上は余裕を装ってたケドな!!

内面はバックンバックンです。

――もっと凄いことしてるだろうって?
――……ソレとはまた違った感覚なんだよ。

と、それはともかく――アリオストにも会いに行ったんだが、何と研究所に居なかったのだよ。

と、なるとブローニュ村かな?
――やむを得ないな。
例の件は、いずれ聞くとするか。

なお、ミーシャは講義中らしく会いに行ってない。

さて、次の目的地は―――。

**********

グランシル・ラングレー家前

……そんなワケで、カレンにも事情を説明しよう……と、参上したワケなんだが。

「……会い難いな」

カレンに――では、無く……父親であるベルガーさんに……である。

確か、実家に帰って来ている筈。

……普通に考えて、数人の女性と付き合っている……なんて男は、父親として認められないだろうし――。

「とは言え、言わないという選択肢は無い……か」

腹を括るしかないよな……。
うしっ――行くか!!

「頼もーーっ!!」

***********

おまけ1

疑惑のエレーナさん。

「……むぅ」

「あ、あの……シオン様?どうしたんでしょうか?」

俺はジッとエレーナを見詰める。
エレーナは真っ赤になってモジモジしているが――。
――ふむ、せっかくだから聞いてみるか。

「……なぁ、『二次創作』とか『トリップ』―――或いは『グローランサー』って知ってるか?」

「ニジソウサク?とりっぷ?――って、何ですか??グローランサーというのは……アレですか?シオン様と関係があるんでしょうか??」

――知らないか。
隠している――という様子は無いな。
というか……。

「何でグローランサーが俺に関係があると?」

「シオン様ってグローシアンなんですよね?だからです♪」

「……直接の関係は無いんだよ。グローシアンってのは【偉大なる者】って意味で、グローランサーは【救世の騎士】という意味らしい……古代遺跡に記されていた言葉だが」

確か、初代救世の騎士はⅢの主人公――スレインのことなんだよな。

Ⅲの世界から隔離したこの世界で、カーマインに授けられるだろう称号。

とは言え、Ⅲでスレインは救世の騎士の称号を、誰かに授けられたワケでは無く、パワーストーンでⅢの世界に呼ばれたカーマインが、スレインを初代救世の騎士と称えただけだったりするが――。

「??それを何で私に??」

「いや、少し聞いてみただけ――というか、俺がグローシアンだって言ってなかったよな?」

「シオン様のことですもん♪調査済みでっす♪」

いや、そんな『テヘペロ♪(ゝω・)』みたいに言われても……。

――考え過ぎか。
原作に居なかったと言っても、=転生者……ということにはならんよな?

ソレを言い出したら、父上も母上も――エリックやニール、ザム、マーク、ビリーもそうなる。

―――そんなにポンポン転生者が居るワケも無い……か。

記憶が無いだけ……というのも考えられるが。

止めた――疑い出したらキリが無いし。
それに、仮にそうだとしても――関係無いよな。

エレーナを始め―――皆、悪い奴じゃないからなぁ……。

「シオン様……そんなに見つめないで下さい♪――恥ずかしいですよ♪」

「悪い悪い。さって……お仕事、お仕事!」

こうして、俺は仕事に向かって行ったのだった。

***********

おまけ2

ジュリア将軍の憂鬱

バアアァァァアンッ!!

「マイ・マ……じゃなく……シオン!!」

私は野盗退治を終わらせ、急いで戻って来た。
そして、陛下に報告するより先に……マイ・マスターに会いに、あの方の執務室を訪れた。

私は扉を叩き割る勢いで開いた……そこには。

「これはジュリア将軍……シオン将軍なら、陛下からの任務でお出かけですが?」

以前、マイ・マスターの部下達が着ていた蒼き衣……それに似た衣を纏ったリビエラが出迎えてくれた。

「リ、リビエラ……?どうしたのだ、その姿は……」

「コレ?実はね―――」

私は扉を閉め、リビエラに事情を尋ねる。
すると、普段の調子に戻ったリビエラが色々説明してくれる。

マイ・マスターが直轄騎士団を作ったこと――リビエラもそこに所属、更にはマイ・マスターの副官になったこと。
今は団員全員で訓練を行っている所で、リビエラは自身に必要な教本を取りに、一旦戻って来たらしい――。

「……知らなかった」

「だって、貴女は任務に着いていたんだもの……仕方ないわよ」

それはそうだが……って、そんなことより!

「マイ・マスターは……居ないのか?」

「ええ、陛下に与えられた任務で……って、ジュリアさん?何で剣を抜いてるの――?そして、何処に行こうとしてるのよ!?」

「陛下に直談判しに……フフフ……幾ら多忙窮まるナイツと言えど、此処まで行き違いになる筈が無い………誰かの悪意を感じる……陛下か?陛下なのか?フフフフフフ……確認しなければ……」

「落ち着きなさい!!お願いだから落ち着いてぇ!!」

「ハッ!?………私は何を――何で私は剣を握っている?……リビエラ?何で私を羽交い締めにしている?」

……リビエラは心底ホッとしている。
――私が何かしたのだろうか?

リビエラから開放された私は、剣を収めた。

「済まない……よく分からんが、ストレスが貯まっていたらしい……」

「ま、まぁ、正気に戻ってくれて何よりだわ……」

「本当に済まない……済まないついでに、一つ聞いても良いか?」

どうやら私は正気を失っていたらしい。
――そう言えば、気になっていたことがある――聞いておくとしよう。

「なに?私に答えられることなら良いんだけど??」

「――マイ・マスターと何かあったとか……無いよな?」

「…………………な、無い……かな?」

眼を逸らしたぁ!?しかも眼が泳いでいるぅ!?

「あったんだな……何かあったんだな!?」

「その……えっと………ゴメンなさい。シオンの家に泊まって……その、シちゃいました……」

………………。

……………。

…………。

……やっぱりか。

「そんな予感はしていた…………しかし……しかし……」

「ジ、ジュリア………?」

「何かある……そう直感した矢先の任務……その任務を急いで熟して帰って来てみれば……今度はシオンが……ふふふ、やはり陛下に話を……」

「お、落ち着いてって!!今日中にシオンは帰って来る筈だから!!その時に色々話せば良いじゃない!!ね?」

「!!」

再び意識が黒くなっていくのを、リビエラが止めてくれた。
そうだな……焦ることは無いのだな?

「――済まない、リビエラ……焦らずとも、マイ・マスターは帰って来るのだな……」

「そうよ。だから今は、自分の仕事を終わらせちゃいなさい!!」

リビエラに諭された私は、陛下に任務完了の報告に向かったのだった。

***********

あとがき。

皆さん、お久しぶりでございます。
m(__)m

色々あり更新が遅れました。
申し訳ありませんでした。
m(__)m

×××板にて、121話の発禁バージョンを載せてみましたので、暇な方は見てやって下さいませ……。
それではm(__)m



[7317] 第123話―酒と休暇と触れ合う絆―【15禁?】
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/21 17:52
※今回、タガが外れた為か、若干いつもよりシオンが調子に乗ってるので、ご注意を……。

***********

……何故こうなった?

「どうした?何か考え事かね?」

「あ、いや……そういうワケでは――」

俺は今、ラングレー家にて、ベルガーさんやカレンと酒を飲み交わしている。

こんな状況になった経緯を語るとだな……。

***********

「頼もーーーっ!!!」

ドタバタドタバタ!!

「は、はい!!ど、どうしたんですかシオンさん!?」

俺の声に反応して、カレンがやってくる。
慌てて来たのか、身なりを整えながら――って。

「よく俺だって分かったな?」

「私がシオンさんの声を……聞き間違えるワケないじゃないですか」

「……そっか」

嬉しいことを言ってくれる……。
思わず顔が綻ぶ……。

っと、そんなことより。

「実はカレンに話があってな?任務の帰りに寄らせてもらったんだ」

「私に話……ですか?」

俺はカレンに事情を説明しようと「どうしたカレン?」…む…。

「あっ、お父さん」

そう、カレンの親父さんであるベルガーさんがやってきたのだ。

「むっ、君は……」

「お久しぶり……という程でも無いですが。保養所以来ですかね」

「あの時の……。あの時は君に助けられたな?」

俺達は互いに挨拶を交わす。

「君のことはカレンから聞いているよ。成る程、確かに聞き及んだ通りの青年みたいだな――」

ベルガーさんは俺を見て頷く。
――カレン……俺のことをどんな風に話していたんだ……?

「丁度良い……君には聞きたいことがあったんだ。時間は――空いてるかな?」

「――構いませんが」

……一見、朗らかな笑みを浮かべているが――眼が笑っていない――。

――カレンから全てを聞いたか……?

―――ならば、俺も覚悟を決めるか。

「シオンさん……私……」

「大丈夫だよカレン。ただ、話をするだけだから――」

カレンが不安そうな表情を浮かべている――俺は安心させる様に、ニカッ!!と、ベストスマイルを浮かべ、サムズアップしてやる。

まぁ――ある程度の覚悟は――しておかなければならないだろう。

……それこそ『娘が欲しいなら私を倒してからにするんだなっ!!』的な展開すら予測して、ラングレー家にお邪魔した俺だったのだが……。

「ふむ、色々と聞きたいことはあるが……ただ話し合うのは面白みに欠けるからな」

言うなり、ベルガーさんが取り出したのは一升瓶……って、アレは!?

伝説の銘酒と名高い【馬の洗い水】!!?

「ふふふ……この酒の価値を理解した様だな……流石と言っておこうか……」

「……なんて恐ろしい人だ。これだけの銘酒を手に入れるとは……」

ラングレー家って、確かさほど裕福では無いだろうに……秘蔵の酒か?

幾らゼノスの稼ぎがあるとは言え、容易に手に入る酒じゃねぇぞ………。

「あの……シオンさん?お父さん……?」

一人取り残されたカレンをそのままに、ベルガーさんは不敵な笑みを浮かべ、俺は只々戦慄しているのだった……。

まぁ、冗談半分(半分は本気)はさておき……。

「しかし、何故酒を……?」

「何、酒は雄弁に語るからな……時には、拳や剣を交える以上に……な」

むぅ……一理あるな。
元より、酒飲みとしてはこの挑戦……受けるしか無いワケだが。

……単純に酒を飲むだけじゃないってのは、重々承知しているし。

「もう、お父さん……シオンさんは忙しいのよ?お仕事の帰りにワザワザ寄ってくれたんだから……」

「大丈夫だカレン。本当に後は帰るだけだし……多少の酒じゃ影響無いから……俺は」

そう言ってカレンにサムズアップする俺。
……本当は職務中に飲酒など言語道断なのだが、幸いというか、前世?の頃から酔っぱらうという感覚とは無縁だったりする。
そんな俺からすれば、酒は嗜好品でしかない。

少なくとも、ぐでんぐでんになることは無い。

――だからと言って、言語道断なのは変わらないんだがね。

***********

―――と、まぁ……こういう経緯があったワケなんだが――。

「あはは♪シオンさ〜ん♪らめれすよ〜♪シオンさんはぁ〜、偉い騎士様なんれすからぁ〜♪こんなとこで、お酒なんか飲んでちゃあ……もう〜……告げ口しひゃいましゅよ?アハハ♪」

「それは困ったな……そんなことされたら、就任早々に首が飛ぶ」

「むぅ〜……冗談れすぅ!わらひがぁ、シオンさんにぃ、そんなことぉ、するわけないじゃなぃれすかぁ〜……」

「――俺も冗談だ。バレた所で、反省文の提出くらいで済む……だから、涙ぐむなよ……な?」

最初に述べた通り、ベルガーさんだけで無く、カレンもこの酒宴に参加しているワケで。

さして酒に強くないカレンは、既にぐでんぐでんに近く、俺に絡んで来たり、かと思えばうるうると涙ぐんだり……。

チクショウ!可愛いじゃねぇか!!

「ふむ、カレン。辛いならもう休んだらどうだ?」

そう忠告するのはベルガーさん。
……しかし、カレンに酒を奨めたのって、実はベルガーさんだからな?

「らいじょ〜〜ぶっ!もう、お父しゃんは心配性にゃんだからぁ……だから髪の毛が無くなっちゃうのよぉ?ウフッ……ウフフ♪」

「…………orz」

それに対して、どストレートな言い方で返すカレン……あっ、ベルガーさん、めがっさ凹んでる。

――気にしていたのか……。

「……カレン、冗談抜きで休んだらどうだ?この調子だと後が辛くなるぞ?……色々な意味で」

主に二日酔い的な意味と、ベルガーさんの心がブロークン的な意味で。

「……もう、シオンさんまれっ!そんなこと言っれると、キスしひゃいますよ!というか、してくだひゃい♪」

「……なんでさ」

俺は、カレンの脈絡の無さに『駄目だコイツ早く何とかしないと……』的な心境になる。

普段なら、それもアリだと思うが、幾ら俺でも親父さんが居る前で接吻する程の猛者では無い。

……ドSスイッチが入ったら分からないが、少なくとも今は無理だ。

―――ベルガーさんの視線が痛いもの。

ギャ○漫画日和のうさ○ちゃんの視線並に痛いもの。

とは言え、このままじゃ埒があかんし……。

―――やむを得ないか。

ポフッ。

「ふぇ……?」

「良い子だから、もう寝ろって……また、話をする機会は作るから――な?」

なでりこなでりこ……と言う感じで頭……正確には髪を撫でてやる。

すると、カレンは気持ち良さそうに――若干くすぐったそうにしながらも、素直にそれを受け入れてくれていた……。

ベルガーさんの視線が痛過ぎるが……此処はスルー!!

「……わかりました……約束……れすよ……?」

「あぁ、約束だ……なんなら指切りするか?」

「ゆび……きり……?」

やはり、無理していたのか、コテンと俺に身体を預けてくるカレン。

俺の提案に首を傾げているのが分かる。

って、指切りを知らないのか……いや、当たり前か。
この三国大陸にはそんな風習なんて無いしな。

「指切りってのはな……」

俺は指切りのやり方と、簡単な説明をした……まぁ、カレンのこの様子から考えて、明日には忘れてる可能性大だが。

なお、本当の『指切り』とは――その昔、日本で……女性が本当に愛する男性に、その想いの形として自身の小指を切り落として、それを男性に捧げていたのが、その起源と言われているが……。

そんなト○ビア的なことは言わない。
……本当に実行されたら怖いからな。

で、その想いを裏切ったならば、針千本を飲ませる……と。

……コレって、現代の【ヤンデレ】に通ずる何かがあると思うのは俺だけかしら?

――まぁ、それはともかく。

「「ゆ〜びき〜りげんまん、嘘ついたら針千本の〜ますっ、ゆ〜びきった!」」

「……約束、ですよ……」

「おう……約束だ」

指切りをした後、もう限界だったのか、カレンは俺に身体を預けたまま、瞳を閉じて寝息をたて始めた――。

「―――コレで良いですか、ベルガーさん?」

「ふむ、やはり気付いていたか……」

「当然です……カレンから色々聞いているなら、俺がインペリアル・ナイトだってことも知っているんでしょう?……まだ、知り合って間もないですが……任務帰りとは言え、そんな奴を酒宴に誘う程、貴方は常識はずれでは無いでしょう?」

俺は、カレンを支えながらベルガーさんに視線を向ける……。
やはり――というか、ベルガーさんは一対一で俺と話すために、カレンにも酒を飲ませたのだろう。

「君と酒を飲み交わしたかったのは本当だぞ?――まぁ、先ずはカレンを寝かし付けて来ると良い……部屋の場所は知ってるんだろう?」

「……俺がカレンに何かをするとは思わないんですか?」

ベルガーさんは、カレンを寝かせてこいと言って来た。
なので、俺は疑問を口にする。

「おや?君は父親が居るのに、その娘へ何かしようとする様な常識はずれなのかな?」

「さっきの仕返しですか……分かりました。寝かせて来ますよ」

ベルガーさんは、ニヤリッ……と、悪い笑みを浮かべながら疑問に答えてくれた。
俺はそんなベルガーさんに苦笑しつつ、カレンを部屋に運んで寝かしつけてくる。

……さて、どんな話をするのやら……。

***********


私は、カレンを抱き抱えて行く彼を見送る。

そして考える――。

彼――シオン・ウォルフマイヤーのことを……。

あのゲヴェルを殴り飛ばす程の非常識な戦闘力を秘めた男……。
最近、インペリアル・ナイトに就任したらしい……。

つまり、心技体……全てを兼ね備えていると、国に認められたということになる……。

そして……カレンから聞いた内容――彼の人格と……信じられないが、彼を慕うであろうカレン『たち』の取り決め……。

彼の纏う雰囲気は、一見歳相応に見えるが……何処か老成している様にも思える。

ふとした瞬間に、同年代と話している様な錯覚を受けたりもした……。

それに、カレンを本当に大切に想っているというのも理解した。

……まぁ、複数の女性と関係を持つというのは、正直褒められた姿勢ではない。

私の部隊にも、複数の女性と関係を持ち、色男を気取っていた奴が居たが―――彼……シオンは奴とは少し違う気がする。
彼の瞳を見れば分かる――彼は何処までも真剣だ。
少なくとも、色男を気取っている風ではない。

「……もとより、女性関係に関して――偉そうなことは言えないのだがな……私は」

とは言え、娘がその女性関係の内の1人となると、流石に複雑な心境だが……。

例え、直接的な血の繋がりが無かろうと……カレンは私の大事な娘なのだから――。

だから見極めようと思った……アイツの残した忘れ形見であるカレンを、託すのに相応しいか否かを―――。

***********


「お待たせしました」

「いや、さほど待っていたわけでは無いよ」

カレンをベットに寝かせてきた俺は、直ぐに戻ってきたわけだが……さて、何の話をするのやら……。

俺はベルガーさんの座る対面の椅子に腰掛ける。

「ふむ、何から話したものか――」

「回りくどい言い方は無しにしませんか?――聞きたいことがあるのでしょう?」

「――ならば、単刀直入に聞くとしようか」

話す内容を思案するそぶりを見せるベルガーさんに、俺はバッサリと提案を告げる。

ベルガーさんは頷き、その提案を受けた。

「君は―――カレンのことをどう思っているのかね?」

「――大切な女性です。生涯を共にしたい……そう思っている女性です」

ベルガーさんは、睨み付ける様に俺の眼を真っ向から見遣る……。
俺もそのまま視線を返す。
決して眼は逸らさない……逸らしてたまるか。

「ふむ……そうか」

…………………。

………………。

…………。

……えっ、終わり?

「どうしたのかね、鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をして……」

「いや……それだけですか……?カレンから色々聞いているんじゃあ……?」

「ああ、聞いているよ……君の人と成り、強さ、それに――カレンの他にも、君が女性と関係を持っていることもな……」

「ならば、何故……」

この世界でも一夫多妻制という奴は、ハッキリ言って異端だ。
向こうの世界程、規制は強く無く、法的な罪に問われこそしないが――それでも一夫多妻なのは一部の貴族や王族くらいで、少なくとも一般人は一夫一妻なのが普通――。

「――何故……か。、強いて言うなら、君の人と成りを確認したことと――その眼が理由かな?」

「――眼?」

「その眼を見れば分かる――君がどれだけ真剣なのか、な。それに、女性関係で君に何か言える程、私は立派な人生を送って来たわけでは無いのでな……」

むぅ……買い被り過ぎだって……。
というか、女性関係にだらし無かったのかい!?

いや、恐らく再婚した時のことを言ってるんだろうけど――。

「それはどういう――とは、聞かない方が良いのでしょうね」

「気遣いは無用……と、言いたいが……そうしてくれると助かる」

恐らく、カレンやゼノスにもまだ言い出せていないだろう事実……それを俺なんかに教える筈がない……だろ?

いずれにせよ、何時かはベルガーさんも二人に話すだろう……。

願わくば、それが原作の様な遺言にならない様に祈りたいな……。

「とにかく、君の意志は分かった。君ならば、カレンを蔑ろにすることはあるまい……何より、あのゼノスが認めたというならば、元より心配はいらないだろう」

買い被りだと思うが……まぁ、カレンを悲しませるつもりは無い。

ゼノスが云々――というのもカレンから聞いたのだろうか?

「それに――私は父親らしいことは、何一つしてやれなかったからな……そんな私が、あの子の決めたことに口出しなど、出来る筈が無い……」

「……それは違う」

「……何?」

自嘲気味に言うベルガーさんに、俺は異議を申し立てる。

「幾ら時が経とうと、どんな事情があろうと――貴方が父親であることに変わりは無い……まぁ、二人とも既に大人になってしまってはいるけど……今からでも遅くは無いでしょう?少なくとも、ゼノスやカレンにとっては……貴方は間違いなく父親なんですから」

そう、どんなに時が経とうと、例え血の繋がりが無かろうと、二人にとってベルガーさんは紛れも無い父親――。

だからこそ、ゼノスは傭兵になってまで父親を探し続け、原作において……カレンは苦悩したのだから――。

兄以上に想っていたゼノスと血の繋がりは無く、想いを深めていた主人公(原作の話なんで、敢えてカーマインとは言わない)が父親と同一存在だった……なんて事実を知らされれば、頭がぐちゃぐちゃに混乱するのはやむを得ないだろうさ。

―――そういう意味では、俺の存在はある意味プラスになったんだろうか……?

カレンが俺なんかを想ってくれているおかげで……事実を知ればショックではあるだろうが――少なくとも、原作の様な苦悩はしなくて良いのだろうから……。

「っと、すいません――生意気に語ったりして……」

「――いや、謝ることは無い。……君の言う様に、二人が私のことをまだ父親だと思ってくれているのなら……嬉しいのだがね」

そう言って微笑んでみせたベルガーさん。
……あの世で待ってるだろうベルガーさんの奥さんで、ゼノスの実の母親でもあるシエラさんには悪いかも知れないが――ベルガーさんには、出来るなら天寿を全うして貰いたい――。

ゼノスや……カレンを悲しませたくないから……な。

***********

その後、酒を飲みながら色々語り合い――夕暮れ時になったので、お暇させてもらった。

結局、俺とカレンは父親公認ということになった……。
久しぶりに『やっぱり俺って、ご都合主義の星の下に生まれたんじゃね〜か?』と、勘繰ってしまったのは仕方ないだろう?

――肝心のカレンとは、あまり話せなかったが……来て良かったんだろう……多分。

遅かれ早かれ、ベルガーさんには知らせなければならなかったのだし……。

さて、バーンシュタインに帰還した俺は、直ぐさま陛下に報告へ向かったワケだが……。

**********

バーンシュタイン王城・謁見の間

「――何してるんだ?」

「む、シオンか……」

「シ、シオン!助けて下さいよ〜!」

えっと、俺の目の前には正座させられているエリオット陛下と、怒気を現にしたポールが居た。

「聞いてくれシオン……陛下ときたら、また……また城を抜け出そうとしたのだ!!」

「違いますよ……僕は民の皆さんの生活を「問答無用っ!!」……はい」

「民の生活を陰ながら確認する……それは確かに有意義なことかも知れません。ですが、貴方様は王なのです!もっと王としての自覚を持ちなさい!!」

……成程、抜け出し癖が発動したか。

「……とりあえず、任務完了致しました。各国に会談の日時を伝え、それについて了承を戴きました……では、私はこれで(棒読み)」

「ちょ、シオンさん!?助け「陛下?」……ふぁい……」

俺は報告だけした後、そそくさとその場を後にした。
エリオット陛下が、子犬の様な眼差しで助けを求めてくる……思わず以前の様に、さん付けで俺を呼ぶくらいには、追い詰められているのだろう。

しかし、これも自業自得……因果応報。
修羅の形相をしたポール君の説教は確定。

触らぬ神に何とやら――陛下、少しは懲りて下さい。

俺は謁見の間を後にしたのだった――。

「良いですか陛下!?貴方はもっと――」

「ひええぇぇぇ!?ごめんなさあぁい!!」

***********

と、まぁ――陛下への報告も済んだし、俺は皆が訓練している練兵場にやってきた。

「よぉ、ただいま!」

「お帰りなさい、シオン将軍!丁度、訓練が終わった所ですよ?」

俺が整列している皆に声を掛けると、リビエラが返事を返してくれる。
――皆、そこそこボロボロで、結構疲れている様だ。

「そうか、皆お疲れ様だ――今日はゆっくり休んで、明日に備えてくれ!」

「「「「「了解!!」」」」」

全員がそう返した後、それぞれ兵舎に戻って行った。
エリックはレブナントを厩舎に連れていってから、部屋に戻るらしいが――。

「で、俺に何か用があるのかリビエラ?」

「え、ええ――重要な話があるので……宜しければ、後ほどお尋ねしても宜しいでしょうか?」

一人残ったリビエラが、俺に聞いてくる。
重要な話……何かあったのか……?
まぁ、いずれにしろ――。

「――分かった。俺は少し汗をかいてから行くから、その後で良ければ」

「はい!では、後ほど………覚悟しててね?」

ゾクリッ!!?

こ、この感覚は――。

「リビエラ―――よもや今朝の続きをしようってんじゃ無いだろうな?」

そう、この感覚は今までに何度も感じた……ピンクタイフーンの予兆!!

「ん〜〜……当たらずとも遠からず、かな?……シオンは、嫌かな……?」

うぐ、上目遣いは反則だろ……?

「い、いや……嫌じゃないけどな……」

むしろ、また暴走するのを恐れているだけだから……後は、職場でそんなことしたら、歯止めが効かなくなるのも恐いが……。

「――良かった♪それじゃあ、楽しみにしててね♪」

ニコッと嬉しそうな笑みを浮かべ、その場を去っていくリビエラ――。

間違いなく、何かを企んでいるな――?

とは言え――。

「結局、真っ向から受け止めるしか無いんだけどなぁ……」

これも惚れた弱み……かな?
――って、今更か。

さぁて、修練修練っと!

***********

その後、基礎となる筋トレをしたり、各種武器を使った型や技の復習をしたり、精神修練の為の瞑想や、魔法の復習をしたりした。

幾らチートボディで、尚且つ才能が無いとは言え、日々の修練は既に日課になっているからな。

技を覚える……ということに関しては悲しいくらい無才で、ラーニング能力やアレンジ能力で補ってるのが現状だが……少なくとも、肉体的には無才では無いらしく、筋力や魔力なんかは未だに成長していることから考えると―――この日課も満更無駄では無いってことなんだろうさ。

――まぁ、これ以上成長してどうするんだ――と言われたらそれまでなんだが。

既にとっぷりと日が暮れている処か、思いっきり真っ暗になっているし……。

「……そろそろ、戻るか」

良い汗かいたし……シャワーで汗を流して、飯食って……か?
――いっそのこと、帰宅するってのもアリだな。

まぁ、リビエラとの約束があるから、帰宅するにしてもリビエラの用件を済ませてからになるか――。

―――何は無くとも、一旦戻りますか。

……その後、俺は部屋に戻り、シャワーを浴びて汗を流す。

俺の執務室は、仮眠室と風呂場を完備しとります……。

「改めて思うが、つくづくなんちゃってファンタジーだよなぁ……」

シャワーや風呂、冷蔵庫なんてのもある。
明かりだって火では無く、ほとんどが電灯だし……。
それ等を動かすエネルギーが、電力では無く魔力……科学では無く、魔導学という違いはあるんだけどな……。

「ふぅ……さて、汗も流したし……出るか」

風呂場から出て、脱衣所にて身体を拭き、着替える。
仕事も無いから、ラフな私服(黒いワイシャツ、黒いスラックスという感じ)だが――。

まぁ、良いだろう――。
城内を移動するなら制服で無ければ駄目だろうが、コレは所謂【寝間着】……パジャマだからな。

「さて、サッパリした後はキリッと冷えたポン酒でも飲むか――いや、その前に飯を……ん?」

コンコンッ。

仮眠室(とは言っても、冷蔵庫なんかもあり、一般兵の宿舎よりは断然快適に出来ている)の扉をノックされる――。

ちなみに、言うまでもないが執務室と仮眠室は繋がっている。

つまり、俺に用事がある誰かが尋ねて来た……ということだな。

まぁ、考察するまでも無く……十中八九リビエラなんだがな。
気配で分かるし……ただ、何故か気配が一つじゃない……。

「……全く、何を企んでるんだか。まぁ、毒を食らわば皿まで――だな……何とも甘い毒になりそうな予感だが」

その毒を食らえば、その甘さに溺れるだろうことは想像に難くない。

――それでも。

「受け入れるのが、男の度量か――それとも、これも惚れた弱みか――」

俺は深呼吸をしてから、返事を返す。

「誰だ?」

「私……開けてくれる?」

俺はリビエラの返事を聞き、扉を開ける。

「よう、遅かった………な………」

そこに居たのは、蒼天騎士団の制服を纏ったリビエラと……。

「マ、マイ・マスター……」

お披露目会の時のドレスを身に纏ったジュリアの姿……だった……。

***********


うぅ、マイ・マスターが見ている……私を……。

嬉しいが、顔から火が出る程、恥ずかしい……。

マイ・マスターが帰って来たとリビエラに告げられ、ならば今日は話せるだろうか……しかし、任務で疲れているだろうか……とか、色々悩んでいたのだが――。

『せっかく会うんだから、女の子らしい格好しなさい!』

と、リビエラに言われたが……私の持つ女性らしい衣装は――アンジェラ様から戴いたこのドレスしか無いわけで――。

こうして、ドレスを着てマイ・マスターの執務室――その中にある仮眠室の扉を叩き、マイ・マスターと対面しているわけだが……。

「もう……何を固まってるのよ?シオンのことだから、ジュリアが居ることには気付いてたんでしょ?何か言ってあげなさいよ」

「あ〜……まさか、その格好でここまで?」

「っ!!?」

や、やっぱり、変なのだろうか?
いや、この前にマイ・マスターは綺麗だと言ってくれたし……。
……いや、でも、やっぱり――。

「って、そうじゃないでしょ……」

「あ、いや……二人が並んで歩いてたら目立つだろうな……的なつもりで言ったんだが」

「時間が時間だからか、誰かに会うことはなかったわ……って、他に言うことあるでしょ?」

***********


リビエラに白い目で見られた……。
いや、気になるじゃんか?

まぁ……リビエラの言いたいことは、そういうことじゃないのは分かっているんだが――。

「……あうぅ」

モジモジ……。

恥じらいまくるジュリアを見遣って……もっと見てみたいと思ったりなんか、してないんだからねっ!?

……俺キメェ。

「――まぁ、何だ……似合ってるよジュリア……」

「!マ、マイ・マスター……」

うわぁ……凄い瞳が潤んでいて……マジで可愛いんだけど……。

「嬉しいです……凄く、嬉しいです……マイ・マスター……」

「って、ジュリア!?」

ジュリアは俺の身体に抱き着いて来た……あ、良い匂い……じゃなくて!!

「温かいです……もっと、私を抱きしめて……下さ、い……」

「…………」

そんなにウットリした表情で頼み込まれたら―――断れるワケ、無いじゃないか―――。

「あっ………」

俺はリクエスト通り、ジュリアを抱き返してやる。

「――これで、良いか?」

「は、はい……ありがとう……ございます……」

いや、コレくらいでお礼を言われても困るが……。
むしろ、俺のほうがありがとうございます!!
というか……。

「むぅ……二人とも、私のこと忘れてない?」

「忘れてるわけないだろ?――リビエラもこっちゃ来い」

「んっ♪」

一人放置されて、むくれていたリビエラだが――俺が手招きすると満面の笑みを浮かべながら抱き着いて来た――何コレマジで可愛いんですけど?

俺は二人纏めて抱きしめてやる―――うん、暖かいし良い匂いだ……。

リア充?……俺もそう思うよ――でも。

「んふふ♪シオン♪」

「あぁ、幸せです……♪」

――こんなに嬉しそうにしてくれているんだ……なら、俺もそれを甘受するまでさ……何と言われてもな?

「シオン……んっ♪」

チュッ♪

「んむっ」

「あぁーーっ!!」

――リビエラにチッスされますた。
それを見たジュリアが大声を上げた……って、ちょ……声がデカいって!?
……まぁ、幸い俺の執務室周辺に他の誰かの気配は無かったから良かったが……。

「んちゅ……ねちゅ……ふああぁぁ……」

……ハイ、それはもう深い深いチッスで、めがっさ気持ち良かったんですがね?

「……ずるい、リビエラばっかり……私だって……!」

「ちょ、ジュリんんっ……!?」

ジュリアは軽くむくれたかと思うと、次の瞬間には俺と唇を重ね合わせていた……。

「んふ……ちゅる……ぺちゅ……」

……改めて思うが、やはりリビエラとジュリアは唾液の味も違う気がするなぁ……。

……うんゴメン。
一見、余裕そうだが……実際はいっぱいいっぱいデス。

俺の心の中……鋼の砦の跡地にて、今現在の俺の危険性をキバヤ○が五月蝿く説いてるが……。

うん、それ無理♪

ニコヤカにキ○ヤシに告げた後、俺は再び意識を現実に向ける……。

「マイ・マスター……はしたないとは理解しています……ですが、それを承知でお願いします……私に、御慈悲を下さい……もう、我慢……出来ません……」

「私も……あの日のことを想うと……身体が熱くなって……お願い、シオンに……静めて……欲しいよ……」

……こんな美女が、二人も、魅惑的な表情で、おねだりしてくるんだぞ?

――色々とタガが外れた俺に、我慢出来るワケ―――無いだろうがぁ!!

「……『サイレント』」

俺は消音呪文を仮眠室に掛ける……これで、万が一にも声が漏れることは無い……。
って、このアレンジ魔法は本当に重宝してるなぁ……最近はこういうことばかりに使っている気がするが……。

多分、気にしたら負けだ。

「……コレで、外に声が漏れることは無い」

「あら……聞こえても構わないんじゃなかった……?」

俺は二人にそう告げるが、リビエラは笑いながら俺に言ってくる。
確かに、あの時リビエラにはそう言ったな。

「俺個人としては一向に構わないんだけどな?流石に、城内でそんなことしてるなんてバレたら、ナイツの沽券に係わる」

「んっ……色々と、大変……なのね……んあっ!?」

「あふっ!?まい……ますたぁ……手つきがぁ……いやらしいですぅ……ひぅっ!?」

俺一人ならまだしも、ウォルフマイヤー家、そしてジュリアにも迷惑を掛けることになるからな……。

――もし、執務室の外に誰か居たり、誰かが来る気配があったりしたら――此処まで大胆なことはしていなかっただろう。

――ハイ、ムニュムニュと二人のお尻を触ってオリマス――本当にありがとうございました!

……ゴメン、もうテンションが変だ。

「――ジュリア、本当に良いんだな?今日は、最後までいくぜ?」

「ハイ……最後まで……してっ、下さい……っ!」

俺にイタズラされながらも、真っ直ぐに俺を見詰めてくるジュリア――。

「――ずっと、ずっと……待っていたんです。……貴方と、こうなれることを……ずっと……」

―――胸が熱く、締め付けられる。

ジュリアは俺を想ってくれていた――。
今、思い起こしてみると……恐らく、昔から……。

「――なるべく、優しくする」

そんな彼女の想いに答える様に、ジュリアの頭を撫でる……ジュリアを落ち着かせる為……というより、自分自身を落ち着ける為に――。

「マイ・マスター……あっ……ま、待ってください……」

「……?」

そう言うなり、ジュリアはおもむろにドレスを脱ぎ始め、下着も外した……要するに真っ裸である……。

「……その、せっかくのドレスを……皺にしてはいけないだろうと………あ、あんまり見ないで……下さい……」

胸とか、大事な部分を隠しながら……ジュリアは身体をほてらせ、モジモジと身もだえている。

ヤ、ヤバイ……スイッチ入っちまう……。

というか、既に愚息が臨戦体勢なんですが……。

「で………リビエラ、お前は何をしている?」

「あ……だって、ジュリアばかり見て……私は見てくれないんだもの……」

愚息の臨戦体勢に一役買った者―――リビエラが俺の後ろに回り込み、ズボンの上から愚息を刺激してきたワケで――。

というか、そんなむくれた様に――悲しそうな表情されたら……申し訳ないやら、嗜虐心をそそられるやら――。

「心配しなくても――リビエラもコレでもかって位……愛してやるよ」

あっ、ヤバ……スイッチ入った。

「うん……!一杯、愛してぇ……♪」

リビエラもウットリした顔をしている様だ……。

ゴメン、ジュリア……なるべく優しくしてやりたいケド……多分、無理かも……。

「ほら、ジュリアもこっちに……隠さずに、全てを見せてくれ……」

「……は、はい……マイ・マスター……」

俺はジュリアに指示を出す……ジュリアは怖ず怖ずとそれに従ってくれる……。
隠してた手を退けて……ゆっくりと俺の元へ――。

「――綺麗だぞ、ジュリア」

「そ、そんな……あぁ!?」

俺は心の底からの想いを口にして、恥じらうジュリアの胸に触れる……。

リビエラとはまた違った感触だが、ムニュンと柔らかく、張りがあり――メロンの様な大きさという点では変わらない――。

「あっ、まっ、ひぅ!?そんな……優しくっ、揉んじゃ、あっ!?」

「ふふっ……良い反応だな、ジュリア……。――ほら、リビエラも」

「あっ、待って――急に、あはぁ!?」

――夜は更けて行く――。

二人の女性は唄う――大切な者との繋がりに、心の喜びと、身体の喜びを込めて――。

いや、気取った言い方は止めよう……。

簡潔に言おう。
最初こそ、優しくしようとしたが……また暴走した俺のせいで、二人とも失神してしまったワケで……。

とりあえず―――色々と汗やその他諸々でベタベタになったので、二人の身体を綺麗に拭き、脱ぎ散らかされた衣服をたたみ――って、前もこんなことしていたよなぁ……。

……まぁ、無茶苦茶ヤッた当事者として……コレくらいはやっておかないとな……。
とりあえず……まだまだ足りないんだが、気絶しているのに続ける程、俺は鬼畜じゃないからな…………一応。

「さて、寝るか――」

と、言いつつも……幾らナイツの使用する部屋とは言え、仮眠室だからな……。

ぶっちゃけベッドが狭い……ダブルより狭く、シングルよりは広いくらいか?

なので、辛うじて三人川の字で寝れる……位の大きさだったり。
いっそのこと、備え付けの椅子に座りながら寝るか、執務室のソファーで寝るかしようとも思ったが……。

「……なんだかんだ言っても、俺も男なんだよな……」

二人と一緒に居たいっつーか、なんつーか……。
……今は幸せそうに寝てる二人を見てたら和むというか……男子諸君なら分かるだろう!この気持ち!?

……ゑ?もげろ?リア充氏ね?
―――まぁ、うん……色々とスマン……どうやらまだテンションが変らしい。

「それじゃあ……寝るか……お休み」

俺もベッドに横になり、そのまま眠りにつくのであった……今日は良い夢が見られそうだな……。

……なんか、また変なフラグが立った様な……杞憂だよ……な?

しかし、それが杞憂では無かったということが、翌朝判明することになるが……この時の俺には気付く術が無かったのである……。

単に見通しが甘かった……というのもあるが。

***********



……う……ん……。

もう、朝か……?

カーテンの隙間から溢れる木漏れ日により、目を醒ます私……。

……私は昨日……マイ・マスターと……契りを交わしたのだよな……?

夢……では無いのだな……。

私の横には健やかに眠る御主人様……シオンが居る……。

「フフ……フフフ……♪」

い、いかん……顔が緩む……♪

私、御主人様――シオンと……あぁっ、夢じゃないんだ!
ずっと……ずっと、望んでいた……。

勿論、恥ずかしさもある――。
互いに裸なのだから、それも当然だろう……。

でも、それ以上に嬉しい……あぁ、この方に本当の意味でこの身と心を捧げられたのだから……。

嬉しくない筈が無い……。

「……コレからも、貴方のお側に……私の御主人様(マイ・マスター)……」

私はマイ・マスターにその身を寄せる……あぁ、マイ・マスター……暖かいです……。

――それにしても、昨日は……す、凄かったな……。
最初は初めての私を二人で………うぅ……。

だ、だが最終的には私もリビエラもマイ・マスターに………あぁ、最後までマイ・マスターにお付き合いすることが出来なかった我が身が歯痒い……………なまじ、あんな快感を味わったことないから、余計に申し訳ないというか……。

うむ!そのためには修練あるのみだな!!
マ、マイ・マスターに鍛えてもらって………いや、決して私が気持ち良いからでは無く、マイ・マスターに満足して頂くために………いや、期待してないワケじゃない。

もっと、もっと愛して欲しい……それゆえに鍛えなければ!!

――――そういえば、リビエラは何処に【ゴソゴソ】……あぁ、うん……気付いては居たさ……。

私は私とマイ・マスターに掛かっていた布団を剥ぎ取る……。

「リビエラ……何をやっ……て……」

「ん……?あ……ジュリア……こ、これはね……シオンのコレを静める為にね……」

「ず、狡いぞリビエラ……私も……」

な、何事も修練!……そう、修練なのだから……マイ・マスターにご奉仕するのも、仕える者の勤め!!
それに――マイ・マスターにご奉仕するのは――凄く幸せだから……。

「じゃあ……二人で……ね?」

「あぁ……そうだな……」

その後、私たちはマイ・マスターにご奉仕し―――起きたマイ・マスターに……その、美味しく戴かれてしまった……。

いや、マイ・マスターは止めようとしたんだが……リビエラや私が、その……それを見兼ねてというか、私たちに御慈悲をくれたというか……。

あうぅっ!気持ち良くて、幸せだけど……こんなことでは仕事に身が入らないでわないかぁっ!?

私はこんなにふしだらな女だったのか………マイ・マスターはこんな私でも好きだと言ってくれたが……良いのですか……こんな私で……あぁ、御主人様ぁ……♪
くぅっ!?

い、イカン!!ナイツ足る者、こんな有様ではイカン!!

煩悩退散!煩悩退散!!喝っ!!

***********


――はい、リビエラの時同様、朝のエロゲ的イベントに見舞われたシオンです。

昨夜に考えていたことが現実になったワケで――。

ぶっちゃけ、美味しく頂きました――。
あっ、止めて石を投げないでっ!?

いやね?あんな切なそうな表情されたら――断れないだろJK?

勿論、事が済んだら……ちゃんとシャワーを浴びて、制服を来て、それぞれ仕事に向かったぞ?
その辺、責任のある立場だからな……俺もジュリアも。

とは言え、何やら駄目な部分が囁く……。

調教……とか、野外……とか、不穏な言葉が脳内に飛び交う……。

誇りを持った駄目人間になろうと誓った俺だが、流石にソレは駄目過ぎるだろう?

駄目人間というより鬼畜だし……幾ら心がオッサンでも、遺○や臭○みたいな所業なんて俺には出来んぞ?

…………と、言い切れない所が恐い……少なくとも、スイッチが入った俺ならやりかねない……。

―――鋼の砦は壊れたが、○バヤシが居るから大丈夫だろう―――多分。

三国同盟会談まで、あと二日……そして戦勝祝賀会まで……あと五日。

今日も一日頑張ろう……。

***********

……と、思ったのだが。

「え?休暇?」

「ええ、今朝仕事を貰いに行ったら――今はする仕事が無いらしいわよ?それと、陛下からシオンに二日分の休暇が出てるらしいから……」

と、リビエラに聞かされた。
どうやら、ワーカーホリックになったのも、満更無駄では無かったらしい……が。

同盟工作……というと聞こえが悪いかも知れないが、文字通りあちこち飛び回ったからな……その分、休暇を早く貰えたのかも……。

本来は三日の休暇が貰えたらしいのだが……三日後には三国同盟会談があるため、二日になったとのこと……。

「……むぅ、いきなり休暇と言われてもなぁ……リビエラ達の訓練もあるし……」

「その件だけど……」

リビエラは改めて説明してくれる。
休暇明け……正確には三国同盟会談終了後……『彼ら』が正式に蒼天騎士団に入団することになると……。

「仕事が早いなぁ……」

「そんなこと無いわよ……シオン将軍の権限があればこそ――だからね」

「無茶が通れば道理も通る……けど、あまり褒められたことじゃないよなぁ……ナイツとは言え、俺はまだ新人なんだし」

あまり強権発動してばかりだと、周囲の反感を買うからな……。

何はともあれ、俺は休暇と相成った。

なお、リビエラが敬語を使ってないのは、此処が俺の執務室であり、周囲に俺達しか居ないからである――って、当たり前か。

「そんなワケだから、貴方はゆっくり羽根を伸ばして来てね?」

「大して働いていないのに、なんだか申し訳ない気分だな……」

「そう思ってるのはシオンくらいだってば……後の事は私たちでやっておくから」

「……あぁ、分かった……お言葉に甘えさせて貰うよ」

リビエラは胸を張って自分達に任せろ!と言う。
―――なら、その好意に甘えてみるか。

「ありがとうな……リビエラ」

***********

「しかし、いざ休暇と言われても一体何をすれば良いやら……」

降って湧いたこの休暇……どう使おうか……そんなことを考えながら、俺は城を後にした。

尚、ナイツの制服から私服に着替えてあります。

青を基調にしたジャケット……『デュエルガード』を身に纏った、普通の格好だ。

まぁ……それはともかく。
実際は予定は決めてあるんだが……。

「約束したからな……」

暇を作って遊びに行くってな……。

「問題は、誰の所に行くか……だよな?」

かなり贅沢な悩みだが、俺なんかを待ってる人達が居る……。
だが、それは一人じゃない……だから。

「期間は二日、待ってる人は………うぐぅ……」

俺は少し悩んだ後、行き先を決めた……。
まずは……。

***********

「さて、やってきましたローランディア!」

そんなワケで、ローランディア王都ローザリアにテレポートしてきた俺。

会いに来たのは――――サンドラとレティシア。

……なのだが。

「よくよく考えなくても、関係者以外は城には入れないよなぁ……」

任務――ナイツとして来たならともかく――。

今の俺――私服だし、私用だし。

……考えてみたら、城に入れる要素が少ない。

ははは……どないしよ?

「まぁ……真っ正面から訪ねるしかないか」

多分、大丈夫だろうとは思うが……。
理由としては、ローランディアの上層部の一部とは顔見知りだし、何回も城に出入りしていたし――恐らく、ちゃんと説明すれば―――。

***********

「どうぞ、お通り下さい」

「ありがとう」

と、こうなったワケで。
経緯を説明すると、城門まで来た俺は門番へサンドラに会いに来たことを説明(レティシアの名前は敢えて出さない。他国の騎士にしか過ぎない俺が、一国の姫君であるレティシアを公に名指しするのは色々と問題があるから)、更に俺の名前を出した……。

そうしたら、門番の彼がサンドラに確認しに行ったらしく、城内に入って行き……戻って来たらこうなったと……。

多分、大丈夫だろうとは思っていたが……まさか、こんなスンナリと入れるなんて……。
前回来た時も同じ様に入れたが……あの時は任務として、ナイツとしてだったからまだ分かるんだが……。

自身のご都合主義体質を喜ぶより先に、この城の防衛意識が心配になっちまう……。

ともあれ、俺は城内に入ることが出来たワケで――。

「シオンさん!」

「サンドラ様……わざわざお出迎え頂かなくても……お忙しいでしょうに」

「いえ、シオンさんに訪ねて頂いたのですから、これくらいは……」

わざわざ出迎えてくれるなんてな……ありがたいよな……。

「それで、今日は一体どのような……?」

「――約束を果たしに来ました」

「約束――?」

俺に用件を尋ねて来たサンドラ。
俺は一言……約束のことを告げる。
サンドラは首を傾げるが――。

「時間を作ると、言ったじゃないですか――」

「あっ――」

俺の言葉を聞き、サンドラはハッとした表情になる――もしかして、忘れていたか?
いや、忙しかったんだろうな……。

「今日一日は時間を取りましたから――忙しいなら、日を改めますが……」

「……す、すいません――ですが、夕方からならば時間が取れますから……」

サンドラは、ゲヴェルに関する資料……伝記の様な物を作成する為のメンバーの総責任者みたいな立場だからな……私情でその大業とも言うべき仕事をボイコットするワケにはいかないだろうしな――。

「そうだ……もし何でしたら、姫とお会いになられてはいかがでしょう?――姫も貴方にお会いしたかった様で「シオン様!」……噂をすれば、ですね」

サンドラは自分が仕事をしている間に、レティシアに会ってはどうだ?
と、提案してきた……。
俺としてはレティシアとも約束していたので、願ったり叶ったりなんだが……なんて話をしていたら、レティシアがこっちにやってきた。

情報が伝わるの早っ!?
いや、案外サンドラが門番から話を聞いた時、レティシアも近くに居たのかも知れないが……。

「ど、どうしたのですか?シオン様……その、今日はどんなご用が……」

「いえ、以前の約束を果たしに来たのです……」

しどろもどろになりながら尋ねてくるレティシアに、俺はサンドラに説明した内容と同じ説明を行った。

「……と、こういうワケです」

「そ、そうだったのですか……それでは!宜しければお話でも……いかが……ですか……?」

「――そうですね。こちらこそ喜んで」

「そうですか!それではコチラに……」

愛らしい満面の笑みを浮かべながら、俺の腕にしがみついてくるレティシア……って、レティシア?
何やら柔らかい感触を腕に感じるのですが?

というか、だな……。

「周りの視線が痛いのですが……」

「あ!申し訳ございません!!」

そう、この場には俺やサンドラ、レティシアの他にも、兵士達が居たりするワケで……。

女性兵士はキャアキャアと黄色い声を上げながら、男性兵士は呪詛を呟きながら俺達を見ている……。

って、それだけかよっ!?

「普通はもっと問題視するモノだろう……一国のお姫様が、どこの馬の骨とも知れない男と腕を組んだりしているんだから――」

「そのことですが……シオンさん、ローランディアでは結構名前が知れ渡ってるんですよ?」

「は?」

俺の疑問に答えたサンドラ……その答えを聞き、俺は(゚Д゚)←こんな顔になってしまう。

「シオン様は、ローランディアでルイセちゃんたちと一緒に、様々なことを成し遂げていたことを、皆が理解しているのですわ……勿論、シオン様だけでは無く、協力して戴いた皆さんについてもですが――」

「……マジ?」

どうやら、俺を含め協力者の立場に居た者は、ローランディアでは結構有名だったらしい……。

「特にシオンさんは、ルイセと同じグローシアンで、インペリアル・ナイトになっていたこともあって……知らない者は殆ど居ないのでは……と」

「……マジ?」

大事なことなので二回言いまry

サンドラの言い分からして、この間ナイツとして訪問したことも影響しているらしいです。

どんだけ〜。

***********

その後、一旦サンドラと別れた俺はレティシアに連れられて彼女の部屋に―――行く前に、アルカディウス王に挨拶しに向かったワケだよ。

流石に何の許可も無く城内を闊歩するワケにはいかない――特に俺の様な立場の人間は……な。
その辺は心得ているって。

「よく来てくれたな、シオン殿。聞けば休暇だそうではないか……ゆるりとしていかれよ」

「ありがとうございます。ですが、宜しいのですか?今回は任務では無いのですが……」

「構わんよ。シオン殿には世話になりっぱなしだからな……それに、その方との再会を、レティシアも待ち望んでいたようだからな?」

「も、もう!お父様ったら……っ!!」

こうして、アルカディウス王から許可を貰った俺は、改めてレティシアに連れられて彼女の部屋に向かったのだった―――って、信頼されすぎだろ?

今の俺って、他国の騎士なんだが……良いのか?

まぁ……信頼されてる以上、その期待は裏切れないよな。

***********


私は、シオン様と共に私の部屋へ……。

その……別に期待しているワケでは……ありますけど……キスとか、シオン様さえ良かったらその先も……イヤですわ、そんな――はしたない!

でも……。

「それで……って、レティシア?」

「っ!?な、なんでござりましょうか!?」

「いや、この話は面白く無いか?ってか、口調が変だぞ?」

「そ、そんなことありません!とても、その……楽しませて頂いておりますわ!ほ、本当ですよ?」

そ、そうでした……私、シオン様に御頼みして新しいお話をしてもらっていたのでした……せっかくシオン様がお話してくれているのに……私のバカッ!!

「そうか?まぁ、それなら――」

そう言ってシオン様はまた話を続けてくれた――。
シオン様のお話は、とある剣士に連れられた子供の物語。
剣士である父親、その息子の物語……。

少年は父親に連れられて、故郷の地へとやってくる……そこで少年は様々な冒険をする。

故郷の村にある洞窟の中、父親の友人である宿屋の主人、その娘である少女と共にお化け退治、妖精に導かれ、妖精の国を救うために―――そして……。

「と、今日はここまでにしておこうか」

「そんなぁ……もっと聞かせて下さいませ……」

私がむくれた表情をしてみせると、シオン様は柔らかく微笑んでくれた。

「そろそろ夕食の時間だろ?休憩するには、良いタイミングだと思わないか?」

「あっ……」

言われて気が付く――窓から降り注ぐ光が、オレンジ色になっていることに……。

「しかし、それだけ集中して聞いてくれているんだから、語り部としてはこの上ないお客様だな」

「もう、シオン様ったら……」

クックッと、可笑しそうに笑うシオン様……。
もう!意地悪なのですから……!

コンコンッ――。

そんな時、私の部屋の扉を叩く音――。
私は返事を返します。

「誰ですか?」

「サンドラです――夕食の準備が調ったとのことです」

サンドラ様がわざわざ呼びに来てくれた――多分、今日の仕事を終わらせて来てくれたのでしょうが……。

「ありがとうございます――それでは、参りましょう」

「ああ、そうだな――」

私とシオン様は、サンドラ様に連れられて食事の席へ――。

シオン様は今日、客人としてこの城に泊まっていって頂けることになり、夕食も一緒にして頂けることになりました……。
それで、お部屋は以前エリオット王が使っていた客間をお使いになるとか――。

「そういえば、サンドラ様……カーマイン達は?」

「あの子たちは今日の役目を終えて、家に帰って休んでいますよ」

「サンドラ様は良かったのですか?」

シオン様は、周囲に気を配って敬語で話しております。
シオン様はカーマインさんたちと帰らないで良かったのか……と、サンドラ様に尋ねます。

すると、サンドラ様は首を横に振り――。

「私はまだ仕事が残っていますから――それに、その……シオンさんと、話もしたいですし……」

「……承知しました。私などで良ければ、喜んで」

サンドラ様の様子を見て、シオン様はフッと柔らかく微笑んだ……。
綺麗な笑み……私はそれを見て心地良く感じる……まるで、全てを包み込んでくれる様な……温かさ。

たぶん、サンドラ様も感じていると思う……。

この温かさは凄く心地良い……けど、もっと温かさが欲しい……もっとシオン様を感じたい……だから、私は決意を固めたのです……。
私の全てを――この方に捧げることを――。

***********


「ふぅ……食った食った♪」

サンドラに案内されて姫や王の食卓に、同席することになった俺……幾ら貴族とは言え、王族の食卓に同席することなど今まで無かったから、ハッキリ言って緊張しまくりだった。
態度には出さなかったけどな。

粗相はしなかったと思うが……。

ちなみに、サンドラは再び研究室に戻って行った。
仕事熱心と言うか、何と言うか……。

そこで食事を摂った後、俺は割り振られた客室にやってきた。

「中々、有意義な一日だったな……レティシアとも話をしたし……だが」

サンドラとはあまり話せなかったな……。
後で来るとは言っていたが、仕事が忙しかったんだろう……。
結局、夕方に来た時も直ぐに仕事へ戻って行ってしまった……。

――それとも、今から来るつもりとか――?

「ハッハッハッ、それ何てエロゲ………って、笑えないよな……」

昨日とか正にそんな感じだったし……。

……なんだろう?
何か大いなる意思という名のご都合主義でも働いているんじゃないか……?
今まで、一線を超えようとしても超えられなかったのに………。

ま、まぁ……流石に我がエロース脳から来る妄想の感は否めないケド……。
アレだ、色々経験しちまったから駄目人間指数も上昇しちまったのかも知れんねぇ……。

そもそも、夜に男の部屋に来るとか……幾ら相思相愛だからって、そんな奇跡『コンコン』………おちけつ、おちけつ……もとい落ち着け、落ち着け……扉をノックされたからって、動揺してどうする?

例え、外に居る気配が二つあって、よく知った者の気配だとしても――。

「はい?」

「わ、私です――開けて……貰えますか?」

俺は客室の扉を開け、来客を迎え入れる。

「サンドラ様……レティシア姫まで……こんな夜分にどうしたのですか?」

「夜分遅くにすいません……あの、今……宜しいですか?」

「ええ……立ち話もなんですし、どうぞ中へ」

俺は二人を中に招き入れる……。
もちつけ、もちつけ……もとい、落ち着け、落ち着け……。
そうだ、素数を数えry

「で、どうしたんだ二人して」

部屋の扉を閉め、周囲の気配を確認した上で、砕けた口調で話し掛ける。

「約束通りに、お伺いしました……お待たせして申し訳ありません」

「いや、もとより急に尋ねて来た俺が悪いんだし……だから、そんな顔するなよ……な?」

申し訳なさそうにするサンドラを見て、若干の嗜虐心が沸くが……それ以上に愛おしさが勝る。

つい、サンドラの頭をなでりこした俺は、悪くない筈だ。
……多分。

「や、止めて下さい……」

「嫌なら止めるけど?」

「い、嫌では無いですけど……なんだか、恥ずかし……」

なでりこなでりこ♪

「う、うぅ……」

真っ赤になりながら、小さくなっているサンドラ……。
多分、自分の歳とかそんなことを考えているから、恥ずかしいんだと思うが……その反応が可愛過ぎるので止めてやらない♪

「シ、シオン様……私にも……」

「喜んで……」

なでりこなでりこ♪

「シオン様の手……温かくて、大きいです……♪」

なでりこ昇天しそうな程に心地良さそうに、目を細め、微笑むレティシア……。

二人共、二者二様の反応で和むなぁ……。

っと、いかんいかん……。

「さて、せっかく尋ねて来てくれたんだ……話でもしようか?」

「「あっ……」」

俺は二人を撫でていた両手を止め、話でもしようと提案する……って、そんな残念そうな顔しないでくれよ……。

「止めない方が良かった――?」

「いえ、その、そんなことは――!」

「私は、もっと続けて欲しかったですわ……」

サンドラは真っ赤になりながら慌てて……レティシアは素直に自分の気持ちを吐露する。

そんな二人を見て、俺は思わず笑みが零れる……。

「まぁ……撫でて欲しいというなら、俺としても吝かじゃないんだがな?二人とも髪の毛サラサラだから、撫でていて気持ち良いし」

「もう……こんなおばさんをからかって……楽しいですか?」

「からかってるつもりは無いって……それに、前にも言ったけど、こんな綺麗なおばさんなんて居ないよ」

というか、サンドラも含めて未だに綺麗なお姉さんで通る人は結構居る。

エリオット陛下の母、アンジェラ様もそうだし……。

尚、俺の母上は未だに可愛い女の子レベルの化け物なので、敢えてノーカン。

「なら……それを、証明してくれます、か……?」

証明……?
もしかして……。

「……あ〜、その、何だ……俺の勘違いじゃないなら、それは……」

「約束してくれましたよね……平和になったら……あの時の続きをしてくれると……」

サンドラはゆっくりと俺に身体を預け、胸元に顔を埋めてくる……。

やっぱり……覚えていたのか。
だが……勿論、サンドラは知っている筈だ……。

「サンドラ……それは」

「分かっています――貴方が忠告してくれた、我が師……ヴェンツェルが何かを企んでいる可能性……今この時が、つかの間の平和でしかないことも」

そう、サンドラは知っている……今この瞬間が、つかの間の平和に過ぎないことを……。

「ですが、だからこそ………勇気が欲しいのです。あんな思いは、もうしたくない……大切な人は失いたくないんです……」

あんな思い……それはクソヒゲに裏切られたことを指すのか、ルイセが壊されかけたことを指すのか……それとも、未だに詳しく聞いたことの無い、今は居ない旦那さんのことを指すのか……。

正確な所は分からない………だけど。

「……分かった。証明してやるよ……サンドラの勇気になるかは分からないケドな?」

普段は気丈に振る舞っていても、誰かに縋りたいと――不安を塗り潰して欲しいと願っていたのかも知れない。
原作通りなら、或いはそういう『弱さ』をさらけ出すことは無かったのかも知れない……。

だが、サンドラは俺なんかに好意を持っちまった……縋れる相手が出来た……それが、そういう弱さをさらけ出す結果に、繋がっちまったのかも知れない……。

全て俺の憶測だし、自意識過剰なのかも知れない……それでも。

「シオン……さん……」

それが彼女の勇気になるというなら……どこまでも支えてやる。
不安だって吹き飛ばしてやる!!

「シオン様……私も……」

「レティシア……」

「私は、愛する殿方に全てを捧げたい……そう思って、今日此処に来ました……私の愛する方は、貴方だけです……シオン様」

レティシアも俺に身体を預けて来て……俺はそれを受け止めた。

「私には、他の皆さんの様に戦う力はありません……シオン様のお力になることも……できません……ですから、絆が欲しいのです。切っても切れない……強い繋がりが。せめて、それが貴方の力になる様に―――貴方の『帰れる場所』くらいには、ならせて欲しいのです……」

「レティシア……」

言葉も無い……。

こんなに想われていることに、胸が熱くなる――一杯、一杯熱くなる――。

「レティシア……その気持ちが凄く嬉しいよ……だから」

だからこそ、俺はレティシアの想いを……。

「遠慮無く貰うぜ……レティシアの全てを」

「!!は、はい!貰って下さい……私の、全てを……」

俺は二人を優しく抱きしめ……口付けを交わす。

「ふぁ……ちゅる……ぺちゅ……あぁ、シオンさんの唾液……美味しいです、よぉ……」

互いの舌が絡み合い、透明な掛橋を作り……ぷつんと途切れた。

サンドラの淫靡な表情は、俺のスイッチを切り替えるには十分な破壊力だった……。

「じゃあ、次はレティシアだな……」

「ひゃう……ちゅぱ……ぺちゅ……んちゅ……ふあぁ、凄いれすぅ……シオンさまぁ……」

深いチッスにはまだ不慣れなのか、レティシアは深チュウだけで腰砕けになる。
ピクンピクンと身体を震わせている様が、スイッチの入った俺を更に勢いづかせる……。

「ふふふ……夜は長い。一杯愛してやるからな……」

「あぁふっ!シオンさぁんっ……!」

「ひぅ!?シオンしゃまぁ!!」

***********


翌朝――いの一番に起きた俺様ちゃん。

――朝のエロゲ展開を防ぐ為、颯爽と起き上がったのである。

昨日?あ〜、とりあえず言えることは……だ。
サンドラが凄かったということだ。

やはり、経験者だからか、久しぶりだからか……スイッチ入った様で、見事な乱れっぷりでした。

レティシアは懸命に俺に着いてこようとして、早い段階で戦線離脱したけど、サンドラは俺に付き合い続けてくれたし……。
―――結局、気絶させちまったケド。

結局、二人ともスゲェ良かったというか……何と言うか……。

―――アレだ、自分でもパネェと思うわ……。
自重すれ、俺!!
そろそろ節操無いとかのレベルを凌駕してきているって!!

「……すぅ、すぅ……」

「んぅ……ふ……」

「………まっ、いっか」

いやだって、こんな幸せそうな寝顔を見たら……分かるだろう?
もう、お持ち帰りしたくなるくらいの愛らしさだZE?

―――しかし、ローランディアの宮廷魔術師であるサンドラと、ローランディアの姫君であるレティシア………ローランディア王国の重役と、象徴たる姫君にまで手を出すとか……。

……絶対、ろくな死に方しねぇだろうな……俺。

ハーレムとか、人として褒められることじゃねぇし……しかも猿みたいに、その、しまくりだし……人として最低だよな。

「……でも、幸せだって――思っちまうんだよな……」

こんな俺を想ってくれて、それを甘受している皆……。

俺なんかでも、幸せになっても良いのかな……って、思っちまう。

「少なくとも、胸を張ってなきゃいかんよな――」

俺は寝ている二人の髪を軽く撫で、二人を起こさない様に立ち上がって着替える。

案の定スッポンポンなので……。

手早く着替えた俺は、二人が起きるまで、その寝顔を何とは無しに眺めるのだった……。

***********

その後、レティシアとサンドラ(互いに真っ裸であること、後は昨日のことを思い出したのか、顔が真っ赤だった)も、起きて着替えた。

「うぅ……シオン様と……昨日……はうぅ……」

「わ、私は……あんなはしたなく……は、恥ずかしい……」

この様に、着替えてからもしばらく二人とも身悶えていたので……朝の性理現象で天元突破していた我が息子が、更にエラいことになりかけたが……流石に自重した。

「ほら……シャキッとしろよ。そんなんじゃ、周りに変な目で見られるぜ?」

「は、はい……わかっては……いるのですが……」

「シオンさま……わわわ、わたくし……」

――こりゃあ、しばらく治りそうに無いなぁ……。
結局、二人が落ち着くまで、たっぷり30分近く要したのであった………どっとはらい。

三国同盟会談まで――あと一日。

そして、戦勝祝賀会まで――あと四日。

運命の歯車はゆっくりと、そして確実に刻まれて行く……って、格好付けて言っても説得力無ぇ……やったことがやったことだから、って、あ!石を投げないで!?

***********

「――もう、行ってしまわれるのですか?」

「ええ、他にも寄る所がありますので……皆には、宜しくお伝え下さい」

ローランディア城謁見の間前。

レティシアとサンドラに見送られながら、俺は旅立ち……と言ったら大袈裟か。
とにかく、ローランディア城をあとにしようとしていた。

レティシアが寂しそうにコチラを見遣る……うぅ、何か訳の分からない罪悪感が……。

そんな中、結局カーマイン達には会う暇が無かったので、宜しく言っておいてくれと伝える俺。

「分かりました――確かに伝えておきましょう……また、会いましょうね?」

「勿論ですよ。ありがとうございます」

俺はサンドラ様に礼を述べる。
もう、色々とありがとうございますというか……。

……あぁ、しかし……何と言うか。

「それでは――また」

名残惜しい……なんて、俺が言ってたら駄目なんだろうなぁ……。

そんなことを思いながら、俺は二人に再会を約束してその場をあとにした。

「はぁ……幸せなのは良いが、どうやって責任を取ろう?」

こうしてインペリアル・ナイトになった以上、胸を張って皆に相応しい男になった……そう思いたい。

とは言え、今すぐ身を固めることは出来ないんだよなぁ……ナイツになったばかりだし、な。

「まぁ、グダグダ考えても仕方ないか――」

今更、誰かだけを選ぶという選択肢は無いのだ―――なら、意地でも皆で幸せになるしか無いだろう?

「なら、もっともっと頑張らないとなっ!!」

少なくとも、周りを納得させるくらいには、な。

その後、俺は次の目的地へと向かうのであった――。

***********

おまけ1

その後のカレンさん。


「うぐぅ……あ、頭が痛いよぉ……」

朝起きたら、吐き気こそ無かったけど、物凄い頭痛が襲って来て、私は寝込んでしまっています。

うぅ……なんでこんなことにぃ……。

「自業自得……よね……あぅ!」

二日酔い……お酒を飲み過ぎたから……こうなっちゃった……。

せっかく……シオンさんが来てくれたのに……。

「うぅ……私の……ばかぁ……」

もう、帰っちゃったよね……お城に戻る途中だったわけだし……。

でも………。

「うっすらと……覚えてる……」

温かい何かに包まれたことを……安らぎながらも、胸の高鳴る香りを……。

多分、シオンさん……私を部屋に運んでくれたんだ……。

「嬉しい、なぁ……」

もしそれが事実だったなら、シオンさんとお父さん……喧嘩しなかったってことよね……?

もし喧嘩してたら、自分の娘を運ばせたりしないよ……ね?

兄さんの時はあんなことになっちゃったから……少し心配してたんだけど……よかったぁ……。

「そういえば……お父さんは……」

あ、そうだ……鈍った身体を動かしてくるって言ってたっけ……?

お父さん、さすがにゼノス兄さんの世話になりっぱなしでは納得出来ないみたいで、闘技場に行ったんだよね……。

「私も頑張らな、きゃ……!!」

まずは……二日酔いを治さなきゃ……。

その後、シオンさんの書き置きを枕元にある台の上から発見。

少し元気が出たのは内緒です……♪

***********

おまけ2

英雄VS転生者


「くっ、強い……」

私は今、闘技場に来ている……。
まだまだ動ける私としては、息子の稼ぎに頼ってばかりはいられん……そう思い立って、闘技場で腕を磨き直すことにしたのだ。

幸い、賞金や賞品が貰えるから、家の為にもなる……。

そして、私は戦って、戦って、戦い抜いて!!

遂に決勝まで辿り着いた……まぁ、此処までの相手はウォーミングアップにすらならなかったが……。

***********

「さぁ、いよいよ決勝戦!!怒涛の勢いで勝ち抜いて来た筋骨隆々のスーパー老人……ベルガー・ラングレー選手!!」

ろ、老人………まだそんな歳では無いんだが……。
地味にショックを受けていると、対戦相手も入場してくる……。

「ふらりと現れ、遂にはこの闘技場の覇者となった男!!人呼んで『グランシルの青い雷』……リヒターだああぁぁぁぁっ!!」

ワアアアァァァァァァァァッ!!!

対戦相手の全容が現れた瞬間、会場の熱気は最高潮に高まる。

……若いな。
相手を見た、第一印象はコレだった……。

……?私を見て、眼を見開いている……?

と、思ったらヤレヤレと言った風に首を振る……何だ?

「「「キャアアァァァァァ♪リヒターさぁん!!」」」

「「「リ・ヒ・ター!リ・ヒ・ター!!」」」

凄い声援だな……彼はその声援に答える様に、その拳を天高く突き上げた。

すると、更に会場が熱狂する――。

「それでは……試合開始ですっ!!」

***********

こうして、現在に至る――。
戦ってみて分かったが……彼はとんでもなく強い!!
信じられないことだが、私の全盛期に近いかも知れん……。

両手の大剣を巧みに扱うその様は、まるで嵐。

隙を伺っていたが、その隙が見当たらず、時に隙を見つけたと思って切り込むと、それが罠であり、手痛い反撃を受けるのもしばしばだった……。
今の私は、かつて培った戦闘による勘……コレに頼っているに過ぎない。


「ふふふ……真に最強オリ主と化した俺に此処まで着いてくるとは……流石と言えるな」

「な、何を言っている……」

「さて、降参してくれませんか?これ以上は大怪我をしてしまいますよ?」

彼は私に警告してくる……確かに全体的に私が押されている。
少なくとも、今の私ではまず勝てまい。

「……分かった、降参しよう」

その日、私は世界が広いことを知った……。
自分より強い人間は居ない……なんて、自惚れていたつもりは無いが。

……気のせいか、彼とは何処かで会った様な気が……。

「みんなぁ!!応援ありがっとうーっ!!愛してる……ZE☆(きらーんっ)」

「「「「きゃあぁ〜ん♪リヒターさああぁぁぁぁん♪」」」」

……………いや、やはり気のせいだろう……うん………。

彼に負けたことに、どうしようも無いやる瀬なさを感じながら……私は闘技場を後にした。

***********

後書き的な何か。

え〜、更新が遅れて申し訳ありませんです。

m(__)m

仕事が忙しかったり、プロットがスパッと決まらなかったりで、こんなことに……。

結局いつも以上にグダグダ感が否めない感じになりましたが、如何でしたでしょうか?
というか、忘れ去られていないか本気で心配です。
(TAT)

次回はもう少し早めに更新したいと思います。

それではm(__)m



[7317] 第124話―様々な邂逅―【15禁?】
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/21 18:31
***********

さて、ローザリアを後にした俺だが……実はまだローランディア国内に居たりする。

現在地、カーマイン領エルスリード。

此処にある喫茶店にて、とある人物とお茶しているワケだ。

――まぁ。

「それにしても、元気そうで安心したよ」

「ソレはお互い様だ……というか、まだそんなに時間が経ったワケじゃないだろう?」

「ふふっ、確かにね」

ラルフなんですけどね?

そう、俺はラルフに会いに来たのだ。
……詳細を説明すると、まず俺はラルフの気を探ってみた。
すると、ローランディア国内……此処、エルスリードにてラルフの気を感知したので、文字通りテレポートを使って跳んで来たワケだ。

「にしても、こんな所で何をしていたんだ?」

「勿論、商売だよ。せっかくだから、此処にもウチの支店を出せないかな……って。カーマインに相談したら、一応OKは貰えたけど……今すぐどうこう出来る問題じゃないから、近いうちに管理人を交えて話し合おうってことになってさ」

ラルフの奴、商人として頑張っているみたいだな……生き生きとしている。

尚、そういう相談をするために、昨夜はフォルスマイヤー宅に泊まったらしい……。
勝手知ったる何とやら……まぁ、俺が言えた台詞じゃないが。

「さて、僕の身の上話は置いておいて―――本題に入ろう。頼まれた件について、調べておいたよ」

さっきまでの和やかな雰囲気が一転、真剣味を帯びた空気に変わる――。

「――首尾はどうだった?」

「微かなゲヴェルの波動を頼りに、探してみたら――あったよ、水晶鉱山……もっとも、シオンの懸念通りになったみたいだったけど」

「!?オイオイ……それじゃあ……」

「……水晶鉱山は半壊していたよ。当然、中に居ただろうゲヴェルの姿は影も形も無かった」

――俺はラルフに、商売のついでとして『残りのゲヴェル』が眠っているであろう水晶鉱山の捜索を頼んでいた。

生憎、俺はナイツになったから気軽に身動きが取れなくなったし……。

幾ら俺でも、封印されたゲヴェルの波動を感知するのは難しいからな……出来ないとは言わないが。

ラルフに限ったことでは無いが、ゲヴェルから生み出された者には、ゲヴェルの波動を感知する能力があるらしい……。

コレに関してはグローシアンである俺や、ルイセより優れているらしく、例え微弱な波動だろうと感知出来るそうだ。

確か、Ⅱではカーマインは人間になったが、そういう感知能力は失われていなかったらしく、封印されていたゲーヴァスの存在を感知していたからな……。

ラルフにその能力が備わっていても不思議では無い。

「僕が見つけた水晶鉱山は二つだけだったけど、その二つとも壊されていた――もし、シオンの言う通り、ゲヴェルが全部で5体居るのだとしたら――」

「――残りの水晶鉱山も破壊されている可能性は高い……か」

俺はある懸念を抱いていた。
ゲヴェルは封印されていた……そして、ゲヴェルは本来なら5体存在する……。

仮に……仮にだが、コレらの封印が俺達の倒したゲヴェルの様に解けていたら……?

或いは―――意図的に解かれていたら?

俺の脳裏には、あのフードの野郎の姿が浮かぶ。

「チッ……予想はしていたが、あまり宜しくない展開だな……」

「やっぱり、シオンの言う様に例のフードの男……?」

「だろうな……確証は無いが、確信は出来る」

考えるだけで胸糞悪くなる話だが……もし、俺が奴の立場なら……同じ様なことをしただろうからな。

「それって……やっぱり【本来は無かった流れ】――なんだよね?」

「まぁ……な。【本来の流れ】なら、残りのゲヴェル処か、残りの水晶鉱山すら見付かりはしなかった筈だからな……」

余談だが、ラルフは俺が『転生者』であることを知っている。

俺の居た世界では、この世界のことが観測出来る【創作物】の様な物に記されていること―――(ゲーム云々は、この世界にテレビゲームの概念自体が無いので、敢えてぼかして説明している)そして、俺以外にも転生者が居ることも……。

「……あの時のフードの男が動いたということは……?」

「ほぼ間違いないだろうな……」

俺と同じ様に、原作の知識を有しているのなら……その上でクソヒゲに協力しているならば……。

「もし、残りのゲヴェル4体を投入されたら……」

「最悪……だな」

ラルフの言うもしも……かなりの確率で現実になるだろうソレ。

俺やラルフ、それにカーマイン達ならば対抗出来るだろうが……。

仮に、重要拠点へ同時にゲヴェルを投入されるなんて事態になれば……。

考えたくないな……。

まぁ、俺はその気になれば瞬殺して瞬転でボコり廻ることも出来るが……それでも少なくない犠牲が出るのは明白だ。
俺の身体は一つしかないのだから――。

もっとも、ラルフの力量ならタイマンでゲヴェルを打倒することは可能だろうし、カーマイン達は言わずもがな。

ローランディアは先の戦で多少兵力は減ってしまったが、それでもウチの国よりは多いしな。

バーンシュタインには俺を含めて、インペリアル・ナイトが五人も居る。

ソレに父上達や、シルクも来るワケで。
例えゲヴェルと言えど、引けは取るまい。

つーか、過剰戦力と言っても良い。
もっとも、先の戦で、兵力は三国で1番少なくなってしまったが……。

1番心配なのはランザック………では無く、魔法学院。
原作では、魔法学院も襲われていた……ならば、ゲヴェルが投入される可能性も少なくない。

そうなった場合、魔法学院生では、まず対抗出来ない。
幾らゲヴェルの弱点が魔法だとしても、一般人の使う魔法に対しては十分な耐性を持っていた筈。

それに彼らは、まともな戦闘訓練を受けていないだろう……ユングや仮面騎士の様な人間サイズの相手なら未だしも、そんな者達がゲヴェルみたいな巨大な化け物に立ち向かえるだろうか?

残念だが、答えは否としか言えない。

しかも、あの中で突出した戦力は、アリオストとミーシャ……それにイリス位だからな。

ランザックに関しては、ローランディアより若干だが兵力が多い。

コレは先の戦での損害が、一番少なかったことに原因があったりする。

もっとも、魔法に関しては後進国であり、グローシアンも少なく、戦えるグローシアンともなると殆ど居ない……と、魔法学院の次くらいには心配になるのは変わり無いんだが。

「せめて、あのヒゲのアジトが何処にあるのか分かればな……こっちから乗り込んでやるってのに……」

「多分、結界か何かのせいだろうけど……気も魔力も感じないからね……」

「結局、後手後手に回るしかない……か」

明日の同盟会談で、取り上げるべき内容だな……。
各国間の連携を強めないと、本気で足元を掬われかねないぞ、コレは……。

「僕はもう少し色々と調べてみるよ――商売のついでに、ね?」

「ああ、頼む……悪いな」

「良いさ……親友の頼みだからね?」

そう言って、微笑を浮かべるラルフ。
ったく、コイツは……。

「そんな小っ恥ずかしいことを臆面も無く……」

「もっと恥ずかしいことを女性に言ってるシオンには、言われたくないかな?」

「オイコラ」

「冗談だよ♪」

この野郎……爽やかな笑顔しやがってからに。

その後、互いの近況を語った後……次の再会を誓い、お互いにその場を後にした。

まぁ、元気そうで安心した……。
あの指輪はキチンと効果を発揮しているみたいだな……ポールの腕輪がしっかり機能しているんだから、当然と言えば当然かね。

さて、俺も最後の休暇を満喫しようか?

次に向かうのは……。

***********

「よし、到着!」

俺がやって来たのは魔法学院。
そう、俺が会いに来たのはイリスだ。
後は、アリオストにも用事があるが……。

先ずはアリオストに会いに行くことにする。

えっ、何故イリスじゃないのかだって?

いや、イリスとはじっくり話したいし……今の時間帯じゃあ、教員のイリスは忙しい筈だろ?

その点、アリオストは学院に在籍しているが、学生というよりは研究者であり、比較的自由な時間を有している。

「そんなわけで、遊びに来たぜ!」

「どういうわけか分からないけど……いらっしゃい」

唐突に尋ねて来た俺を、アリオストは苦笑しながら自身の研究室に迎え入れてくれた。

「それで?今日はどうしたんだい?」

「うむ、実は『かくかくしかじか』――というワケでさ」

「成る程……『これこれうまうま』というわけだね……って、分からないって」

俺の悪ノリに乗ってくれるアリオスト……うむ!ナイスノリツッコミ!

と、ふざけるのもコレくらいにして、俺は訪ねて来た理由を説明した。

「成る程、休暇で来たのか……」

「そういうこと……ついでだから、例の物を見せて貰おうかなってさ♪もう完成しているんだろう?」

「ああ、バッチリだよ。もっとも、まだテストをしていなかったから、シオン君が来たのは丁度良かったかな」

「オイオイ……人を実験台にする気かよ?」

「実験台なんて人聞きが悪いな……それに、元からそのつもりだったんだろう?」

「……まぁな?」

お互いに顔を見合わせ、ニヤリッ……と笑う。
何か、この場面だけ見ると悪巧みをしている様にも見えるが……断じてそんなことは無い。

強いて言うなら、コレは浪漫だよ!!

「……で、コレが現物なんだけど」

「おおっ……」

アリオストが持ってきたのは、一本の板……いや、ボードと言っても良い。
簡単に言えば、某身体は子供、頭脳は大人な名探偵が持つジェットスケートボードの車輪を取っ払った様な形状で、大きさはサーフボード位の物を想像してくれると分かり易いかも知れん。

「ほほう、コイツが……」

「そう……コレが僕と君の合作した新たな飛行装置……その名も『マジックボード』だ」

そう、以前俺は新たな飛行装置についてアリオストと語り合い、俺も魔導具製作者として色々とアドバイスをした……。

そして、俺のアイディアとアリオストの科学力(正確には魔導学力か?)によって完成したのがこの『マジックボード』というワケだ。

ボードの中には、アリオスト謹製の『浮遊円盤』が数枚、そして俺が作り上げた『魔力回路』――更には『出力装置』を内蔵している。

「細かい説明は省くけど、僕の浮遊円盤で宙に浮く力を、君の作った魔力回路で浮遊円盤に円滑なエネルギー供給を、そして出力装置で推力と力場を発生させる……それにより、君の言う『滑る様な軌道』が可能になった……理論上はね?」

「まだ、テストはしていないから……だよな?」

「正確には、テスト自体はしたんだけど、テストにならなかった……が、正しいかな?」

?何だか妙な言い回しだな……。

「どういうことなんだ?」

「このマジックボードは、内蔵された魔水晶に魔力を注ぐことで機能する様に出来ている……っていうのは知ってるよね?」

「あぁ……だから、一般人の魔力では起動させることは出来ても、長時間動かすことは出来ない……だろう?」

なので、魔力の少ない人間ではあまり速度も出せず、軽く遊ぶ位しか出来ないとか……。

「僕も試してみたんだけど、遊ぶくらいなら長時間起動出来たんだけどね……」

「速度を上げての起動は無理だった……か?」

「そういうこと」

つまり、全速力で動かすにはかなりの魔力量が必要……要するに燃費が悪いということらしい。

「多分、ルイセ君くらいの魔力量があれば自由自在に扱える筈だけど……」

ルイセか……魔力量という意味では問題なさそうだが……落っこちそうで怖いな。

ルイセは、ハッキリ言って運動音痴……という程には酷くは無いが……。
運動神経が良いとは、お世辞にも言えない。

「……と、なると魔力エネルギータンクというか、補助エネルギー機関が必要……か」

「その辺りは改良の余地があるけど、問題点もあるからね……まぁ、今はこの試作品の限界を引き出せる人物による試運転で、性能を確かめてみたいっていうのが本音なんだ」

「で、俺に試して欲しいってワケだな?」

俺の問いにアリオストが頷く。
まぁ、確かに俺は皆既日食グローシアンであり、運動神経もチート……どころかバグってる。
魔力量もまた同様。

「そんなワケで、頼めるかい?」

「モチのロンよ!」

俺はグッとサムズアップして、最高のスマイルを見せる。
むしろ望むところ!

空を飛ぶ……というのは浪漫だからねぇ。
俺も『跳ぶ』ことは出来るが、飛ぶことは出来ないから――。

夢一杯になりながらも、俺達は試運転の準備に取り掛かった……そして。

***********

「よし!準備完了!!」

現在、アリオストの研究室前。
俺はボードの上に乗る。
気分はスノーボーダー……いや、板のサイズ的にはサーファーか?

「それじゃ、手順通りに」

「了解!!」

テンションフォルテッシモ!!状態の俺は、アリオストからの説明通りにマジックボードを起動させていく。

―――フォン―――!

「う、浮いた!?」

俺を乗せたボードは、その重量などお構い無しという感じで、ふわり……と浮いた。

よく見ると、ボードの裏から魔力力場が形成されているのが分かる。

「よし、後は手順通りに……」

「了解……!」

俺はアリオストの言葉に促され、静かに瞳を閉じた……。
俺の足からボードに魔力を送り込む。

ヒイィィィィン―――と、清んだ音と共にボードに内蔵された魔水晶の魔力が高まって行くのを感じる……。

俺はゆっくりと眼を開き………その指令を口に出す。

「………飛べ」

次の瞬間―――!

ドヒュ!!

「くおっ!?」

ボードは速度を上げながら、力場の上を滑走して上昇―――!

つまり……。

「よし!成功だ!」

地上からアリオストの声が聞こえる……そうか、俺は飛んでいるのか……そうかっ!!

俺はボード上の足を使ってボードをコントロール……!

クイッ!!と、方向転換……上昇していた軌道を平行に保ち、右にターンッ!!

成程、スノボーとか、スケボーとか、サーフィンとか……感覚としてはやはりコレらに近い。
というか、推力として蒼い魔力波動が、備え付けられた推進装置から放出されている様は……システム的には違うが、見た目的には完全にエ○レカのリフボードだな……。

まぁ、それを狙って発案したんだし……当然か。

「見ろっ!人がゴミの様だぁっ!!」

っと、叫びたくなる程の絶景です。

いや、実際は大袈裟だけどね?

地上から約十数メートル。
アリオストは勿論、地上に居た他の生徒達も上を向いてポカーンとしている。

俺は軽くジグサクの軌道を取った後……。

「よし、準備運動完了……本格的に行っくぜぇっ!!」

俺はボードへ更に魔力を込め、スピードを上げる!!
ちなみに、魔力壁が張れるシステムがあるため、俺に掛かる風圧は致命的な物にはならない。
更に、魔力を通すことで軽い接続感というか、接着感というか……多少無理な軌道をしても落っこちるということは無いっぽい……つまり。

「ねだるな!勝ち取れっ!!さすれば――与えられんっ!!アーイキャン……フラアアァァァァァイッ!!!!」

こういうことも出来る!!

キュバッ!!ドヒュンッ……ズバッ!!
っと、俺はカットバック・ドロップターン(っぽい物)を決める!!

っ!!超気持ち良いーーっ!!
テンションうなぎ登りやでぇっ!!

俺は更に、急上昇、急降下、急旋回を繰り返す……その軌道は複雑に絡み合い、魅せる動きをしている……と思う。

……ただ、いかんせん自身のチートな六感のせいか速度が遅く感じられる。
別段スピード狂では無いのだが、テンションが高くなっているので……。

もっと……もっとスピードを!!

更に魔力を込める……もっと!!

更にスピードは加速する……グングンと。
もう少しで高速の域『ボンッ!!』に……?

「……ほわっつ?」

ボードから煙が立ち込め『ガクンッ』と軌道が変わり……って、魔力力場が消えてる?

ボヒュー……ン……。

推進装置も情けない音をあげて沈黙なされました……えーっと、つまり?

「あじゃぱああぁぁぁぁぁぁっ!!?」

こうなるワケねええぇぇぇぇぇぇっ!!?

俺は流星の様に落下していったのだった……。

***********


「あじゃぱああぁぁぁぁぁぁっ!!?」

「…………」

シオン君は凄まじい勢いでマジックボードを乗りこなしていた……周囲に居た学生達も、彼の動きに魅入る程に。

かく言う僕も、同じ様に魅入っていたのだけど……。

そして、その動きが次第に速くなり、遂には僕の眼では追えなくなった辺りで『ボンッ!!』と音が鳴り、ボードから煙を上げながらヒューンッと、森の方向に消えて行った。

イメージ的にはこう……キラーンッ♪とお星様になった様な『ズガーーンッ!!』………って、見ている場合じゃないだろう僕っ!?

「シオン君ーーーーっ!!!??」

僕はシオン君が落下したと思われる場所まで、大急ぎで駆けて行く!!
洒落になっていない……筈なんだけど。

何故か、彼なら無事な気がするのは……何でだろう?

(アリオストは知らないが、シオンは以前にカーマイン達と模擬戦をした際に、高台からカーマイン達の元に文字通り『飛来』したことがある)

僕が向かった先には……。

「ふぅ、死ぬかと思った……というのは冗談としても、俺以外なら間違いなくあの世行きだぞ?」

「は、ははは……」

陥没した大地から、無傷のシオン君が現れた時に、僕は渇いた笑いを浮かべるくらいしか出来なかったのは……仕方ないだろう?

***********


俺は落下した地表から這い出る。
クレーターという程では無いが、周囲の木々を薙ぎ倒し、周りの地面が陥没している……。

……龍玉かよ?

「ふぅ、死ぬかと思った……というのは冗談としても、俺以外なら間違いなくあの世行きだぞ?」

まぁ、その気になればテレポートなり瞬転なりを使って無事に着地出来たのだが……必要無いかなぁ……と思ってしまってな。

この身体のポテンシャルって、マジで龍玉並だからなぁ……。
気をうっすら纏うだけで無傷だったり。

多分、気を纏わなくてもたいしたダメージにならない位には、現在の俺は頑丈だろうが……鍛えてますから。

それでも服が汚れてしまうのは避けられないから、気を纏ったワケなんだが。

「は、ははは……」

アリオスト君が俺を見て、渇いた笑いを浮かべている。
まぁ、気持ちは分かるが……多分ラルフもコレくらいは出来るぞ?

多分。

俺は右手を天高く掲げる……すると、空からマジックボードが落下してきたのでそれをキャッチ。

あのまんまだったら、マジックボードは粉砕されていたからな……軽く空中にそぉい!してたのさ。

うむ、おかげで見た目の損傷は無いな。
まぁ……中身は壊れているだろうが。

「おう、お出迎えご苦労様……ホイ、ボード。どうやら、俺の送り込んだ魔力量に耐えられなかったみたいだな」

俺はアリオストに近付き、マジックボードを返す。
マジックボードが故障した原因は間違いなく、俺が調子に乗ったからだ。
マジックボードに内蔵された魔水晶が、俺の魔力量に耐え切れずに大きな負荷となり……ボンッ!!と……。

俺も、天弓等の魔導具を作製したんだから分かる……天弓も改良して大分良くはなったが、それでもまだ、俺の全力の魔力には耐え切れない。

それと同じことだったのだが……俺はテンションがマッハだったので、そんなことにも気付けなかった。

「悪かったな……せっかくの試作品を壊しちまって」

「なに、装置は壊れたら直せば良いのさ……欠点もね?それより、怪我は無いかい?」

「ああ、おかげさまでピンピンしてるよ」

「それは良かった……まぁ、君なら大丈夫だと思ってたケドね?」

むぅ……爽やかに返された。
アリオストらしいと言えばらしいか……。

こうして、漢の浪漫――試作型マジックボードの試運転が終了したのだった。
なお、俺が墜落事故を起こした件について、ブラッドレー副学院長にちゃんと弁解しておきました。

騒ぎにこそならなかったものの、結構な人数に目撃されてるからな……当然の措置だろう?

「多分、コレも魔技法に引っ掛かるんだろうな……」

「どうかな?もしそうなら、別のアイディアを考えるだけさ……実はアイディアはもう練ってあってね……」

研究室に戻って来た俺達は、雑談を交わしていた。

もし、マジックボードが魔法技術管理法に引っ掛かった場合、また新しい飛行装置を開発するとアリオストは言う。

アリオストの話を聞くと、今度は気球を製作する算段を立てていると言う。

何と言うか、アリオストの空に対する情熱は中々に計り知れない。

最初こそ、母親であるジーナさんに会う為に研究をしていたが……今現在、『空』はアリオストのライフワークになりつつある。

―――案外、アリオストは生きてる内に、飛行機を完成させちまったりしてなぁ……。
アリオストならありそうだよなぁ……。

そもそも、この世界の魔導学はある意味では、前の世界の科学より優れているからな………本当に有り得そうな話だ。

っと、そういえば……。

「フェザリアンに対する答えは見つかったのか?」

「まだ答えには届いていないけど……何となくは見えて来たかな?」

「へぇ……どんな答えなんだ?」

「いや、まだ漠然とした感じだから説明出来ないんだけど……」

はぐらかされた……というワケでは無いんだろうな。
アリオストの言う様に、答えは見えて来たのだろう……。

ならば、それが形になるのを祈るのみ。

その後、軽く雑談をし、その場を後にした。
俺には、まだ会う人がいるからな。

***********

「嘘つき」

「げはぁっ!!?」

そして現在、俺は会うべき人――イリスに精神的ダメージを食らっていたワケで。

ちなみに、今は彼女の部屋で話しています。

魔法学院には男子寮と女子寮があり、そこに教員と学生の垣根は無い。
当然だが、イリスは女子寮側に部屋がある。

肝心のイリスだが……仕事で忙しいと思っていたんだけど、どうやら今日は休暇だったらしい。

正直、予想外デス。

「会いに来てくれたのは、嬉しく思います。ですが―――貴方は嘘をついた」

……はい、先程アリオストとハッチャケていた所を、イリスにも目撃されまして……これはどういうことですか?と、尋ねられたので、詳しい説明をしたワケで……。

なお、イリスが俺を嘘つき呼ばわりしている理由はコレでは無い。

「休暇を貰ったら1番最初に会いに来てくれる……貴方はそう言いました。それなのに、他の女性に会いに行くとは……男に二言『有り』なんですねわかります」

「ぐえふぅっ!!?」

心が……心が痛いぃぃ!!

実は―――隠しておくのはイカンと思って、先にサンドラとレティシアに会って来たことを素直にゲロりまして………それがこういう事態に繋がったワケだ。

反省はしていないが、後悔はしている。

言い訳をさせて貰えるなら、イリスとの約束を忘れていたワケじゃない。

ただ、習慣というか何というか……しばらくカーマイン達に付き合って、ローランディアで活動していたからか……つい癖で。

気付いた時には、先にローランディアに来ていたと言うか……。

……そこで、『来てしまったからにはしょうがない……イリスなら分かってくれるだろう』と……自己完結させてしまったのが、そもそもの間違い。

或いは、この(何人もの女性に慕われる)状況に慣れてしまった俺が1番有り得ないのかも知れないが……。

ってか、有り得ない以前に最低です。

正直、イリスに詰られても文句は言えん。

「……すまない」

だから、実際には言い訳はせず……ただ謝るしか無い。

「………もう、良いです。こうして会いに来て戴けたのは……嬉しいですから」

ふぅ……と、ため息を吐きながらイリスは言う。
おもいっきり苦笑だ……。

「悪かった……その代わりってワケじゃないが……今日はとことんまで付き合うからさ」

「とことんまで……ですか。本気にしますよ?」

「ああ、本気にしてくれ」

流石に男に二言は無い!!
とは言えないよな……正に二言目だし。

「ふふ……では、早速」

「おい、ちょっ……」

イリスが俺に抱き着いてきますた……あぁ、良い匂いだなぁ……って、違うだろ!?

「こういう時、相思相愛の者はこうしてイチャイチャするのが定番……と、資料にはありました」

「そんな素晴らし……もとい、そんな定番なんか何処で学んで来たよ!?」

「コレです」

イリスが渡して来た本を受け取る……。
その表紙には、男女がイチャイチャしているイラストと共に、本のタイトルが記載されていた。

その本の名は……。

「イチャ○チャパ○ダイス……」

作者は、ラインハルト某……って、またコイツか!?
イリスの参考にする書物の半分以上がコイツの著だ。

……よりにもよって、ナル○のエロ仙人のパクリかよ。
このラインハルトとか言う奴、絶対に転生者だよ……。

「というか、こういうのから得た知識を鵜呑みに「それに……」……?」

「……私がイチャイチャしたいのです。させて――下さい……」

―――無理だ。
自分でも、だらし無いと思うが……我慢出来ない。

こんな目で見られたら、懇願されたら……叶えてやるのが男の甲斐性!!

「……分かった。約束だからな……とことん迄イチャイチャしよう」

「嬉しいです……シオン……♪」

ギュッと抱き合う、俺とイリス。

「しかし、なんだな――」

「なんですか?」

「いや、幸せ過ぎて怖いなぁ……ってな?」

そう、幸せ過ぎる……何度も思ったことだ。
ご都合主義、テンプレ……何だって良い。

俺には愛する女性達が居て、彼女達からも愛されていると感じる。

……それは、こんなにも幸せなことだから――。
だから……ふと思う。

俺は――この幸せを守り切れるのだろうか……と。

「……私も同じです。私などが……私の様な咎人が、この様に幸せで良いのだろうかと……」

「イリス……」

「私は、マスター……学院長に造られ、彼の行いに加担してきた……そんな私が、ミーシャや貴方の様に大切な人が出来て……それは凄く幸せなことです。――けれど」

イリスは俺に抱き着く力を強める……その身体が震えているのが分かった――。

「こんな幸せ……許されることでしょうか……?私は怖い……妹が……貴方が、私のせいで罰せられたら……私のせいで居なくなったら……私は「イリス」シオ……んんっ!?」

俺は震えるイリスの顔を俺に向けさせ、そのまま強引に唇を奪った。

深く、深く――繋がる様に――!

「んふぅ――!ん……ちゅ……ちゅぷ…………ふぁ……シ……オン……いきな、り……「大丈夫だ」……?」

「他の誰が批難しようが、関係無い……俺は居なくならないし、ミーシャだってそうだろうさ」

貪る様に口内を蹂躙した俺は、イリスから唇を離す。
イリスは赤くなりながら、息が絶え絶えだ。

「で、でも……」

「俺は大丈夫。ずっと、側に居る……イリスを一人になんかしねぇよ」

そうだ……守り切れるか……じゃない。
守り切るんだ――!
この幸せをくれる人達を――失わない様に!

「シオン……」

「それに……だ」

「……?」

「いざとなったら、罰せられる前に逃げ出せば良いんだしな?それこそ、地の果てまで!」

俺がそう言うと、イリスは一瞬ポカーンとした表情を浮かべ――。

「……ふふっ、全く……貴方という人は……」

クスッと、小さく噴き出した様に微笑み出す。
うむ、やはり笑顔が一番だよな。

「――もう、大丈夫だな」

「いえ、大丈夫じゃないです」

なぬ?俺が疑問を口に出そうとした時、唇が再び塞がれた……イリスからの口付けによって……。

「んふぅ……ちゅ、ちゅぷ……んちゅ、んんっ!?……はふぅ……ハァ……ハァ……」

イリスは先程の仕返しのつもりなのか、俺の口内を蹂躙しようと、舌を口内に忍び込ませて来るが……この数日で、大幅に経験値を積んだ俺には通用せず。

舌を絡めて返り討ちにしてやった。

……まぁ、気持ち良かったケドな?

「身体が……熱いのです。熱くて……疼いて……抑えられないのです……シオンがいけないのですよ?私を熱くさせたのは……シオンなのですから……」

「……なら、責任を持って鎮めなきゃならないな?」

はい、スイッチ入りました〜♪
とか、爽やかに言いたくなるくらい、切り替え早いなぁ……俺。

駄目人間指数が、ぐんぐん上昇してる証やね……まぁ、もう開き直ったケドな!

それに……だ。

イリスにとっての安らぎになれるのなら、なってやりたいじゃないか……。

「……では、お願いします」

「ああ―――引き受けた」

俺は備え付けのベットにイリスを横たえる。

「何だか……恥ずかしいですね……」

「俺も少し、な?」

「――とてもそうは見えないのですが?」

「まぁ、恥ずかしさよりは、嬉しいとかって気持ちの方が強いからな……」

後は少し状況に慣れて来たから……とは、幾ら俺でも言えん。
そういうのは、デリカッセン……じゃなく……デリカシーが無いだろ?

……うん、デリカシーとか語れる様な奴じゃないね……俺。

ちなみに、嬉しいって気持ちも本当だけど。

「シオン……」

「なるべく、優しくするから……」

「あっ……」

***********

その後、俺とイリスは一つになった。

――まぁ、何だ……詳しくは言えんが……。
毎度の如く……と、思って戴ければ……って、俺は誰に言ってるんだか。

ただ、一つだけ違うのが――。

「シオン……暖かいですね」

「ああ……そうだな」

イリスが気絶していないってことだ。
いや、毎度の様に暴走しましたよ?

ケドね?

イリスは……俺をことごとく受け止めてくれたんだよ……。

「にしても……腰が抜けるかと……思いましたよ……まだ、快感がピリピリ……残って、ますよ……本当に、凄いです……」

「……俺としては、アレだけやって気絶しなかったイリスの方が凄いと思うが……」

「だって……気を失ったら……勿体……ない……から………」

そう言い残して、イリスはゆっくりと意識を手放した……。
そして、穏やかな寝息をたて始める……。

「……無理しやがってからに」

イリスの髪を軽く撫でる……。

そう、イリスは無理をして俺の劣情を受け止めてくれた。

正直、イリスが限界を既に越えていたのを理解したので、最終的に俺から自重した。
もっとあの恥態を見たかった………という気持ちもあるケド。

「……相も変わらず、元気過ぎるな……我が息子は」

未だに猛る愚息に、思わず苦笑い。
それこそ、何百回とやらなければ満足しないんじゃなかろうか……?

「……どんだけ〜……」

自分自身の底無しの性欲に対して、苦笑を禁じえない俺だった……。

その後、俺もイリスと一緒に睡眠を貪ることに。
まぁ、時間が時間なんで……夕飯時には起きなきゃならないケドな。

「まぁ、流石に夕飯前にエロゲ的な事態にはならないだろ……」

そう零しながら、俺も眠りについたのだった。

***********


「ん……っ」

私は意識を覚醒させる……どうやら、眠ってしまったらしい。

「あ……」

そうでしたね……私はシオンと……。
横で睡眠しているシオンを見つめる。

リラックスした寝顔ですね……。
こんな無防備な寝顔を、私に曝してくれている……。

「信頼してくれて……いるのですか……?」

そうだとしたら………ええ、嬉しいことです。
その寝顔を見ているだけで、胸が締め付けられる様な………擬音で言えば、『キュゥンッ♪』という感じでしょうか?

言わずもがな、私とシオンは裸です。
正確には、裸の上に薄布を掛けて横になっている状態です。

そんな状態で肌を触れ合わせている。
だから、というわけでは無いですが……先程迄の……交わりについて思い出してしまう。

「凄……かった……」

最初は痛みがあった……だが、それも直ぐに薄れ……後には気が狂いそうな快楽が残った。

いや、実際に私は狂ったのだろう……。

私は、そういう資料等からも知識を得ている……だから、その……そういう言葉を連呼していた気がする……。

言葉の内容を詳しく覚えているわけじゃない……。

けれど、確かに私は狂った様にシオンを求め続けたのだ。

もっと快楽を、もっと温かさを感じさせて……もっと私を愛して……。

そんな私を、シオンはこれでもかと愛してくれた……。

求めて、受け止めて……気付いたら――シオンの存在だけが頭の中を占領していた……真っ白になって繋がり合った。

とてつもない幸福感……ずっと、ずっと感じていたかった……。

けれど、シオンは私の限界を見抜いて……。

「――本当に、貴方は――」

あの荒々しくも責め立てる姿が貴方なのか……優しく懐に留めてくれる姿が貴方なのか……。

「愚問……でしたね」

どちらもシオンの本質――形は違えど、それは愛情の形――。

「……ふふっ、どうやら私は益々、貴方に惹かれていっているらしいです……シオン」

どちらのシオンも、私には等しく愛おしいのですから……。

「………こういう時、奉仕するのがお約束だと……資料には載っていましたね……」

シオンは喜んでくれるだろうか……。

「喜んで……くれますよね……」

そのまま私はシオンの身体に触れ『ガチャッ!』……ガチャッ?

「お姉さま〜♪夕ご飯一緒に食べ………………」

「…………あ…………」

「………………」

時が止まり………そして……。

……動き出す。

「……え〜と、その……御呼びでない……御呼びでない……な〜んちゃって♪あはははは………アアアアタシ、やっぱり他の人と食べるから……ご、ごゆっくりぃ〜〜……♪」

パタンッ♪

と、静かに扉が閉められ……。

「きゃああぁ♪大変大変♪皆に知らせなきゃ♪」

「って、待ちなさいミーシャ!?」

貴女は私をクビにするつもりですかっ!?

***********

「……良い?このことは口外しない様に……もし噂を広めたら、貴女のお下げを切り落とすからね……」

「ひいぃぃ……それだけは、それだけは許してぇぇ……!」

あの後、大急ぎで着替えてミーシャを追い掛け、捕まえた私は、ミーシャのお下げを人質に、このことは口外しないように確約させた。

髪は女の命……と、ある書物に記されていましたが……どうやら本当の様だ。
私も、丸坊主にするぞ……と言われたら戸惑うでしょうし……。

「全く……もし噂になったら、私のクビは勿論……貴方だって気まずくなるのよ?」

「ごめんなさい……お姉さま……お姉さまが幸せそうだったから、皆にも報告した方が良いかな――と、思って……」

まぁ、そんなことだろうとは思った。
ミーシャは、私に嫌がらせをしたいが為に話そうとしたのでは無く、私がシオンと……恋仲の者と結ばれたことが嬉しくて話そうとしたらしい――。

ちなみに皆とは、ミーシャの友達のこと。

一時期、私たちは学院長に造られた者として、学院に居る者から畏怖……いや、敵意すら向けられていた……。

それは当然のこと……少なくとも、私はそれだけのことをしてきたのだから……。
だが、ミーシャは違う……ミーシャは知らなかった。

それなのに虐げられるミーシャが痛ましく、かと言って私が庇えば『化け物同士の庇い合い』と、罵られる……。

それを改善していってくれたのが、二人の女子生徒。

この二人はミーシャの友達になって、周囲の悪意を払拭していってくれた……。

おかげで、悪意が全く無くなったわけでは無いけど、ミーシャの持ち前の明るさもあり、今では敵視する者がいなくなった。

そして、その副次効果として、私も敵視されることは無くなった。

私もミーシャも、未だに嫌悪されることはあるみたいだけれども……。

話が逸れましたね。

とにかく、ミーシャの言う友達とは彼女たちのことだろう。

しかし、さっきも言った様に……噂を広められたら私はクビになるかも知れない。
寮に男を連れ込んで、イチャイチャしていた……例えクビにはならなくとも、未だに悪意を持つ者たちが、更に私たちを責め立てることは容易に想像がつく。

私だけなら良い……しかし、その悪意がミーシャにまで及ぶのは耐えられない……。

しかも、下手をしたら私たちだけでなく、シオンにも迷惑が掛かる……そんなのは………嫌だ。

「ありがとう、ミーシャ……その気持ちだけ受け取っておくわ」

「う、うん………ところでお姉さま?」

「?なに?」

「アタシのせいだと思うケド……服が乱れてるよ?」

「え……?」

ミーシャに言われ、自分の服装を確認する。

ミーシャを追い掛ける為、急いで着替えたからか……シャツのボタンを掛け間違えていたり、何故か胸の部分が少しはだけていたり……。

「……ありがとう、ミーシャ……教えてくれて」

このまま気付かなければ、だらし無い格好を学院中に知らしめていたことだろう……。

そうなれば、噂が広まっていたかも知れない……。
教員として、こんな噂は……ダメだと思う。

幸い、此処は女子寮であり、誰かに見付かる前にミーシャを確保出来たので、その心配は無いと思うが……。

「うん♪それじゃあ、アタシは先に食堂に行くから!」

「ええ」

私はミーシャを見送った後、自分の部屋に戻った。

「よ、お帰り」

「!?シオン……起きていたのですか……?」

「アレだけ騒がしければ目も覚めるって」

部屋に戻った私が見たのは、既に着替え終わったシオンの姿だった。

確かに、アレだけ騒がしくすればやむ無しか……。

「ついでに、周りの部屋にいた生徒も起きたぞ?」

「え……」

「気付かなかったのか?夕飯時だからか、寮に居た人数こそ少なかったけど、少なくともこの部屋の近く……2、3部屋には誰かしら居たみたいだな」

「……それは、その、何時から……?」

「……俺とイリスがイチャイチャしだした辺りから――かな?」

ッ……!!

私は顔が熱くなるのを感じた……つまり……私たちの……聞かれて……。

「……ちなみに、事前にこの部屋に消音魔法を張っておいたから、外の誰かに聞かれた……とか言う心配は無いぞ?」

「……消音魔法……ですか?」

聞いたことの無い言葉に、首を傾げる私。
シオンが説明してくれた内容を纏めると、魔法で作った空間……その中の音を外部に漏らさない様にする魔法――らしい。

これは部屋に掛けることも可能だとか。

相変わらず、準備が良いと言うか……いつの間に……という感じですが。
おかげさまで助かったというか、残念だったというか……。

――残念?……何を言っているのだろう私は……。
それでは、噂されたがっているみたいでは無いか。

「……さて、そろそろお暇させて貰おうかな?」

「む……今日はとことん付き合ってくれるのでは……?」

私は少し拗ねた風に言ってみるが、シオンの言い分も分かる。

「そうしたいのは山々だが、まさか部外者の俺が夕食を頂いてそのまま泊まる……なんて、魔法学院の性質上有り得ないだろう?」

そう、あくまでも魔法学院は学ぶ所であり、研究機関でもある――来客用の部屋なんて無い。
寮こそあるが、女子寮と男子寮共に余分な空きは無い。

「このままイリスの所に泊まる――という選択肢も無いワケじゃないが……誰かに見付かったら大変だしな」

そうなのだ……私はこれでも教員なので、誰かが訪ねてくる可能性は0じゃない。
つまり非常に少ない確率だが、誰かに見付かる可能性も0じゃないのだ。
現に、ミーシャに目撃されたのだから……。

……シオンなら、人が近付いて来たら気付きそうなものだが――本人いわく。

「敵意なり害意なりのある奴が近付いてくれば、寝ていても気付くんだけどな」

――らしい。

だから、ミーシャに気付けなかったのか……納得です。

「俺はともかく、イリスがヤバイだろ?色々さ」

「――そうですね」

私はシオンの言葉に頷いた。
実際、私は言うほど拗ねていたワケでは無い。

シオンの言っていることも理解しているし、今日一日と言うワケにはいかなかったが、たくさんシオンと触れ合うことも出来た。

――満足はしていないが、十二分に満喫した。

何より、彼の言葉は私を心配しての言葉だ……どうして我が儘を言えようか?

―――それでも。

「シオンの言い分は理解していますから、ご安心を……さっきのは、ちょっとした冗談なのですから――」

愛しい人に甘えたい――そう思ってしまった私の――戯れ。

これくらいは許されますよね……?

――ポフッ――

「あっ……」

シオンの手が私の頭に乗せられ――優しく髪を梳く様に撫でられる――。

「また、来るよ……」

「……はい」

シオンは狡い……そんな優しい顔で、温かくも大きな手で触れられたら……嬉しくなってしまうじゃないですか。

甘えたくなってしまうじゃないですか――。

「――約束、ですよ?」

期待してしまうじゃ――ないですか――。

「ああ……約束だ!」

ニッ!と、力強い笑顔を見て、私は小さく頷いたのだった……。

***********


イリスとの再会を誓った……と言ったら大袈裟だが、また会いに来ると約束した俺は、学院を後にし――自宅に帰還した。

バーンシュタイン郊外・ウォルフマイヤー邸

「ただいまぁ!」

「あ、旦那さまぁ♪お帰りなさいませぇ♪」

実家に戻って来た俺を出迎えてくれたのは、ほわんっとした雰囲気を持った聖霊娘――シルクだった。

「よぉ、シルク。元気そうだな?」

「はい♪シルクは元気元気ですっ!」

むんっ!と、ポーズを取って元気をアピールしているが、そんなんされても可愛いだけだぞ?
なんつーか、小動物的意味で?

あくまで雰囲気だがな?

「シルクが来たってことは、父上達も帰って来たってことかな?」

「はいです!大旦那様や皆さんも、みんな、み〜んな帰って来ましたですよ♪」

「そうか……」

シルクが言うには、帰って来たのは昨日らしい……。
グローシアンの人達も、無事にそれぞれの家に帰り着いたという。

「シルクは旦那様がお帰りになったのに気付きましたので、お出迎えなのです!他の皆さんもお待ちですよ」

「ああ、分かった……行こうか?」

俺はシルクを伴い屋敷へ――。
シルクの言う様に、我が家に仕えてくれている執事やメイドが出迎えてくれた……。

「「「お帰りなさいませ、シオン様」」」

「あぁ……ただいま」

ただ、些かやり過ぎ感は否めないんだが……。
皆さん、気合いが入っているのは分かったから……もう少し普段通りで……。

(普段は、使用人全員でお出迎えとか言う事態にはならない)

多分、シルクが俺を感知したのを知らされて、慌てて出迎えの準備をしたのだろうなぁ……。

シルビアとメイリー(121話参照)なんて、余程慌てていたのか……少し衣服が乱れているもんなぁ……。

これは、執事長辺りにお小言を戴くことになるかな?

ちなみに、シルビアは金髪ロングのポニーで少しツリ目な美少女。
スラッとしたプロポーションながら、出てる所は出てるモデル体型。
性格はハキハキしている、周りを引っ張るタイプ。

メイリーはピンクのロング+ツインテで、少し垂れ目というか、優しい目付きをした美少女。
小柄な体型だが、プロポーションは平均以上。
性格はミーハーというか、いつも楽しそうというか……そんな明るい性格。

二人は以前、俺が旅に出る前――自己鍛練をしていた森の近くで、野盗に襲われていた所を俺が助け出し、その恩返しをしたいと言って我が家のメイドに志願してきた経緯がある。

二人とも、俺より年下だ。

最初はガチガチだったが、今ではスッカリ慣れたのか、或いは母上菌に侵食されたのか―――母上の話友達みたいな感じである。

「お帰りなさい、シオン!」

「ただいま帰りました母上」

母上も俺を出迎えてくれた。
出迎えてくれるのはありがたいケドな……。

「シオン!お母さんから大発表があるのよ?」

「何です薮から棒に……」

「なんと!シオンはこの度、お兄さんになることが決定しました〜♪」

ザ・ワー○ド!!

……………………。

…………………。

………………。

……そして時は動き出すっ!!

「…………………はっ?」

母上いわく、近い将来に俺の弟か妹が出来るらしい……って、モチツケ……もとい落ち着け?

つまり何か?

―――コウノトリが赤ちゃんを……いや、現実的に考えて養子?

………うん、ゴメン。
分かっているんだ。

母上のことだから、父上と頑張ってこさえたのだろうさ……。

まさか、この歳になって兄貴になるとは思わなんだ……。

だが、まぁ……。

「良かったですね、母上」

「うん♪レイと私の愛の結晶♪シオンも可愛がってあげてね♪」

まだまだ先の話だというのに、キャイキャイとはしゃぐ母上。

その姿に微笑ましさを感じると共に、若干の罪悪感も感じる。

―――俺を身篭った時も、母上はこんな感じだったのだろうな……。

授かった子に、惜しみない愛を注いで……。

しかし、いかんせん俺は可愛いげの無い子供だった。
以前の『凌治』の記憶を持って生まれたのだから、それも致し方なし。

見た目や実情はともかく……精神年齢的には俺の方が年上……故に、甘えるということをしなかった。
いや、出来なかったのだ――。

某頭脳は大人な少年探偵みたいに、子供のフリをすることは出来たが……甘えることを良しとしなかった以上、俺は俺として――出来るだけ偽ることなく接したいと思ったのだ。

無論、俺は『俺』の母上を大切に思っている。
間違いなく、シオン・ウォルフマイヤーの母は彼女――リーセリア・ウォルフマイヤーだと。

だが、俺は知っている――。

母上は、もっと俺に甘えて欲しかったのだと―――。

―――まだ見ぬ弟か妹よ、もし叶うならば……今度は母上にウンと甘えてやってくれ……。

俺に出来なかった分も……な?

あ、勿論……俺や父上にも甘えてくれたら嬉しいな……。

って……存外俺も気が早いな。
まだ先の話だってのに――。

―――その日、俺は久々に父上と母上と一緒に夕食を食べながら、お互いに近況なんかを話したりした。

……たまには家族団欒も悪くは無いよな?

そして夜は更け……俺は自室で眠りに就く。

明日はいよいよ三国同盟会談の日……。
そして、彼らが正式に蒼天騎士団に配属されることになる……。

明日は忙しくなるな……そう思いながら、俺は意識をまどろみの中に手放したのだった……。

***********

後書き的な落書き。

え〜、おはこんばんちは!

神仁でございます。
m(__)m

今回は【ラルフとお茶会】【漢の浪漫】【イリスと一緒】【シオン帰宅】――の、4本でお送りしました。

――次回、ようやく会談です。

P・S。

×××板の方も更新しましたので、宜しければ、見てやって下され。

それではm(__)m




[7317] ―ジュリア・ダグラスの昔語り―番外編19―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2011/12/01 21:41


「やあああぁぁぁぁっ!!」

「うわ……っ!?」

私の放った剣閃が、リーヴスの大鎌を弾き飛ばした――。

「そこまで!」

私が剣をリーヴスに突き付けたのを見計らい、ライエルがこの模擬戦の終了を宣言する。

そう、我々は今、模擬戦をしていたのだ。
インペリアル・ナイトは色々と忙しい身分ではあるが、本分が騎士である以上、その腕を鈍らせるわけにはいかない。

故に我々は時間を作り、その腕を切磋琢磨するのを忘れない。

自己鍛練に終わる場合もあるが、こうして集まって模擬戦をすることも多いわけだ……。

実はマイ・マスターも、あれだけの仕事を熟していながら、鍛練をサボったことは無い。

精力的と言うには、余りにも規格外……。

……あちらのほうも……精力的で……規格外だったなぁ……あぁ……駄目です……お戯れを……♪

……って、イカンイカン!!

煩悩退散!!煩悩退散!!喝っ!!

「……驚いたな。この前に手合わせした時より強くなっている……まだ、腕が痺れるよ」

「……オスカーの一撃を弾き飛ばすとは……いつからそんなに馬鹿力になったのだ?」

「ば、馬鹿力はないだろう……私に言われてもわからん……だが、強いて言えば……」

愛の力だなっ!!

……とは、流石に言えなかった。
――だって、恥ずかしいじゃないか……。

「強いて言えば……何だい?」

「あっ、いや……何でもない!」

リーヴスに疑問を尋ねられるが、私は慌ててごまかす。

――実際、私自身も驚いている。
……マイ・マスターに、その……抱いて戴いてから、不思議と力が沸き上がってくるのだから――。

まるで、自身の限界が引き上げられた様な……。
新たな力に覚醒した様な……。

聞けば、リビエラもマイ・マスターと結ばれてから、似た様な感覚を感じたらしいし……。
実際、リビエラから感じる魔力は、下位(月食、日食)のグローシアンがグローシュを行使した際の魔力に勝るとも劣らないと思う……。

無論、マイ・マスターやルイセのソレと比べたら微々たる物だろうが……。

やはり……愛の力だなっ!!
いや、それ以外に考えられないだろう?

「ふむ……何はともあれ、ジュリアンが力を付けたのは事実……俺もウカウカしてはいられんな」

「そうだね……ただでさえ、凄いのが二人も居るんだし……僕らも負けない様に鍛えないとね?」

二人は、あからさまに話を逸らそうとする私を……追求しないでいてくれた。
――ありがたいことだ。

ちなみに、リーヴスの言う『凄いの』とは、言わずもがな――マイ・マスターとポールのことである。

「そうだな……あの二人には実力の差というのを見せ付けられたからな……特にシオンには」

ライエルの言う様に、我々は何度かあった模擬戦で、この二人に格の違いを思い知らされた。

ポールは、リシャールだった頃を含めると、それなりに手合わせさせて貰ったが……正直強い。

その強さは、私とライエルとリーヴス……三人掛かりで漸く互角……という程の強さなのだ。
最近では、我々も腕を上げてきたので、その限りでは無いが。

そして、私のご主人様……マイ・マスター・シオン……インペリアル・ナイトになってから、あの方と模擬戦をした回数は1、2回程度だが――。

正直言って強すぎる――。

その強さは、ポールを含めた我々ナイツ4人を……纏めてあしらわれる程に……。
流石はマイ・マスター……♪
と、誇らしく思う気持ちだ。

だが少し――ほんの少しだけ――あの方と肩を並べて戦えないのが――ほんの少しだけ、悔しい――。

あの方より強く――なんて、おこがましいことを言うつもりは無い――。

だが、せめてあの方の隣、或いは背中を護れる位には――強くなりたい。

あの方は、常に私の前を行く……。
私の師なのだから、当然ではあるのだが……。

それでも――あの方を――騎士として、剣として、盾として……そして、女として……支えたいのだ……私は……。

「そういえば、ジュリアン。君はシオンと親しいみたいだけど……いつからだい?」

「!?いい、いつからと言われても……私とあの方はその……あの……強いて言えば昨日……」

「『あの方』……か。どうやら、色々あるみたいだけど……勘違いしてないかい?」

「うぇ……?」

「……オスカーが聞きたいのは、『いつからシオンと知り合ったのか?』と言うことで、『いつからシオンと親密になったか』……ということでは無いと思うのだが……」

なな、なああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??

「まぁ、僕の言葉が足りなかったのかも知れないけど……昨日何があったか――なんて、聞かないけどね」

ぼ、墓穴!?墓穴掘ったあぁぁぁぁぁぁっ!!?
私の馬鹿!!私の馬鹿ぁっ!!

「――あまりジュリアンをからかうなオスカー……あまりからかうと――シオンが飛んでくるぞ?」

「ははは……からかっているつもりは無いんだけど……笑えない冗談だね、アーネスト……」

「――冗談だと思うか?」

「……はは、は……ありそうだから怖いね……」

……何やら二人が話しているが、私には届かない。
内心、地面を転げ回りたい気持ちで一杯なのだから――。

ちなみに、この場に居ないナイツ……ポールは時間を作ることが出来ず職務を遂行中、マイ・マスターは陛下から休暇を頂き、遠出なされている。

……って、現実逃避出来ないぃぃぃっ!!?

「それで、どうなんだ?」

「どど、どうとは??」

「何時からシオンと知り合ったのか――だ。生憎、俺たちはシオンについて知っていることは少ない――休憩がてらに話すには丁度良い話題だろう?」

「話せないことなら、無理に聞くつもりは無いけどね?」

な、なんだ……そうだよな……。
私はてっきり……。

「そうか……そうだな、二人になら話しても良いか……」

焦った心を落ち着け、私は昔を思い出す……私とマイ・マスターが、出会ったあの頃を―――。

***********

私はバーンシュタインの名門、ダグラス家に生まれた。

望まれぬ子として――。

そう、女であるが故に……。
父上も、家の者たちも……落胆していた。
私が女だから――。

インペリアル・ナイトになれないから――。

ダグラス家は多くのインペリアル・ナイトを排出してきた家柄だ……その家に生まれたのが――女である自分――。

皆が皆、落胆し――私を責めることこそしなかったが……私を認めてはくれなかった。

母は、気にすることは無い……と言ってくれた。今思えば、母は我が家で私を私と認めてくれていた唯一の人だったのかも知れない……。

だが、それに気付かなかった私は自分を責めた。

私が女だから駄目なのですか――?
私が女だから愛されないのですか――?
私が――……。

――だったら、女なんて捨てる!
父上の望む様な男になってみせる!!
だから……だから私を見て……私を愛して下さい……。

幼心にそんな決意を固め、男として振る舞う様になった私……それを見て、母は悲しそうな顔をしていた様な気がする……。

それでも、父上や……他の者が私を見る様になってくれた……そのことが嬉しかった!
私に笑顔をくれるのが嬉しかった……!

けれど、そんな幸せも長くは続かなかった……。
私が4歳になった頃――弟が生まれたからだ。

待望の男子が生まれた――望まれぬ私が、おはらい箱になるのは想像に難しくなかった……。

私に剣の稽古を付けてくれていた父上……家の者たち……皆、皆……新しい『息子』を見ていた……私を見ていてくれた、母上すらも……私ではなく……新しい息子を……。

それでも、私は諦めなかった……もっと頑張れば、また私を見てくれる……だから息子として、恥ずかしくない息子として……頑張った……。

そんな時だった……私があの方に出会ったのは……。

「よく来てくれました、ダグラス卿」

「ああ、約束通り寄らせてもらったよ」

私が7歳になった頃、父上に連れられて父上の同僚――ウォルフマイヤー卿の屋敷を訪ねることになった。

ウォルフマイヤー家も我が家と同様、多くのナイトを排出してきた名門ではあるが……少々、特殊な家系である。

その特殊な理由故に、かの一族は『王家の剣』と呼ばれていた……そのくらいの知識は、当時の私にもあった。

「これは私の息子、ジュリアンだ」

「ジュリアン・ダグラスです。よろしくお願いします」

私はウォルフマイヤー家の主で、当時ナイツ最強の呼び名も高かった、レイナード・ウォルフマイヤー様へ挨拶を交わした――そう、ダグラス家の息子として――。

「そうか、君が……。私はレイナード・ウォルフマイヤーだ……ようこそ、ジュリアン君。そうだ、私の息子も紹介しよう……ほら、シオン」

そう言って、ウォルフマイヤー卿は側に控えていた少年を促す。

シオンと呼ばれた少年は、一歩前に出る。

銀と蒼を携えた少年……一見、自分と同じくらいの歳に見えた少年はしかし……その身に纏う雰囲気が違った。

「シオン・ウォルフマイヤーと申します。どうぞ、宜しくお願いします」

綺麗だと思った……そして、大きいと思った……。
何が……と言われても当時の私には詳しく説明出来なかっただろうが……今なら分かる。

彼は、雰囲気が綺麗だったのだ……まるで、清流の清水の如く――そして、大きい……まるで、日だまりの様に全てを包んでくれる様な……そんな大きさ。

「シオンか……話はレイナードから聞いているよ。自慢の息子だとな」

「いえ、単に親バカなだけです……私など、まだまだ未熟者ですから」

「……その未熟者の息子に負けた私は、どうなるんだ?」

ウォルフマイヤー卿を負かした……その言葉を聞き、私は戦慄を受けた。

「シオン、私はダグラス卿と話がある。なのでジュリアン君を任せたいのだが……構わないか?」

「分かりました……ほら、行こう!案内するよ!」

「あ、待って……」

私は彼に手を取られて進んでいく……。
これが、私とシオンの出会いだった……。

***********

それから私は、彼に屋敷の中を案内された……。
それこそ、あちらこちら……縦横無尽に駆け巡って。

「す、少し待ってくれ……」

「?なんだ、もう息が上がったのか?子供は風の子、元気な子――これくらいでへばってどうする?」

「む、無茶いわないでくれ……」

そう言う私に、彼は仕方ないなぁ……と苦笑を浮かべていた。

しかし、考えてもみてくれ。

剣を習ってはいたが、体力的には同年代の子供より、少しだけ上な当時の私と―――既にその頃から、現役インペリアル・ナイトを打ち破る程の力を秘めていたあの方――。

そんなあの方に引っ張り回されたのだから、私の疲労は当然の帰結の筈だ……。

「仕方ないな……それじゃ、少し休憩するか」

私たちは庭へ出て、芝生の上に座って休憩する。
せっかくなので、私は気になっていたことを尋ねる――。

「シオン……でいいんだよな?君はさっき、父であるウォルフマイヤー卿に勝った……と言っていたが、本当なのか?」

「言っていたのは、父上だけどな……本当だよ。まぁ、模擬戦の話だけど……最近では、俺が勝ち越してるよ」

信じられなかった――私と同じ位の歳の者が、模擬戦とは言え、インペリアル・ナイトを打ち倒すなんて……。

正直、ウォルフマイヤー卿が手抜きをしていると思った私は、率直に疑問を尋ねてみた。

「すごいな……手を抜いてもらっているとは言え、現役ナイトに勝ち越すなんて……」

「……手抜き……ねぇ……最近はそれも無くなって来たかな……?」

「……え?」

最初、彼が何を言ったのか……私には理解出来なかった。

手抜き無し……確かに彼はそう言った。

――現役最強のナイト相手に?
質の悪い冗談で、自分をからかっているのでは――そう思った……だが。

「以前は勝てなかったんだが……木剣を使ってるとは言え、必殺技を叩き込んで来てなぁ……あの父上。まあ、その後に母上からO・HA・NA・SHI・☆されていたけど……」

「おはなし……?」

「いや、それはともかく……派手に負けたのは、あの時が最後だったかなぁ……」

――あくまでも、勝ったと言い張るらしい。
この時の私は、周囲の期待が弟に向いていたこともあり、大言壮語(と、当時は思っていた)を吐く彼に、敵意に似た感情を抱いてしまった。

私が女であることへのコンプレックス……彼の話を自慢話と捉えてしまった私……。

……本当の男であることが、そんなに偉いのか……?

その沸き上がるどす黒い感情を……私は……。

「それでさ、父上と母上って仲が良いんだけど……」

「……るさい……」

「それを息子に見せつけるのはどうかと………どした?」

日だまりの様に温かい彼へ…………ぶつけてしまった。

「うるさいっ!!うるさいうるさいっ!!!そんな自慢話ばかり……そんなに偉い?そんなにおまえは偉いのかっ!?」

「ちょ、ジュリアン……」

……ハッキリ言って、それは八つ当たりだ。
よくよく聞けば、彼は自分の強さを自慢するような話はしていなかった。

家族や友達、身の回りのこと……。

そう言った話ばかりだった……。
今、思えば私に歩み寄ろうとしてくれていたのだろう……。
それなのに私は―――。

「みんな……みんな、私を見てくれないっ!!私がいらないから……いらなくなったからっ!!」

弟が生まれてから3年……私なりに努力した。
良き息子であろうと……。
母や使用人の一部は、私のそんな姿を見て……複雑な表情を浮かべながらも、再び私を見てくれる様になった――。

けど――けど――父上だけは……!!

そんな折、招かれた先で自慢の息子……と、父上に言われた少年が居た。
彼が悪いわけではないのに、私の中から溢れた黒いモノは……罵倒となって彼へ叩き付けられる。

そんな彼は、ただその罵倒を受け止め……優しい瞳で私を見詰めていた。

「ハァ……ハァ……ハァ……何故、何故……何も言い返さない……ん、だ……!?」

「気は済んだか……?」

「なっ……!?」

「俺には、お前が何を悩んでるのか分からない……何を溜め込んでいるのか分からない……なら、それを吐き出させた方が1番かな……ってな?」

彼は……理不尽な私の八つ当たりを、文字通り――受け止めてくれたのだ――。
何も言わず、聞かず、ただ――受け止めてくれたのだ――。

「な……んで……そこまで……」

「……そうだな、年長者としてガキンチョの鬱憤くらい受け止めてやらなきゃ……格好つかないだろ?」

「な!?じ、自分だって私と大差無いだろう!?」

「ジュリアン幾つ?」

「な、7歳……」

「俺は8歳だ。一つでも俺が上なんだから、年長者には変わり無い」

そう言って胸を張る彼……その仕種に、私は『子供っぽいのはドッチだ!?』
と、言いたい気分だった……いや、実際に言ったのだが――。

「良いんだよ。年長者ではあるが、俺も子供なんだから」

「そ、そんな屁理屈アリかっ?」

「屁理屈でも、理屈は理屈だ♪」

そう満足気に言う彼を見て、私は苦笑いを浮かべた――先程までの鬱屈としたモノは、既に何処かへ消え失せていたのだ。

「やっと笑ったか……けど、笑い方が足りないぜ!笑顔ってのは……こうだ!」

ニカッ!と、まるで太陽の様に明るく、温かい笑みを浮かべてくれた彼……。
私はそれを見て、思わず笑みを零していた――。

「ふ、ふふふ……なんだそれは……ふふふ……♪」

「よし、その笑顔だ。そうやって笑ってるほうが良いぞ?」

笑ったのなんて、何年ぶりだったか……ソレだけ笑ってなかったのかと思うと、少し悲しくなったけど……。

その日――。

「なぁ、ジュリアン!もし良かったら―――俺と友達にならないか?」

「い、良いのか?私なんかで……」

「俺はジュリアンと友達になりたいんだよ……駄目か?」

「う、ううん!こちらこそ、よろしく頼むよ……!」

初めての友達が出来たのだ……。

無論、貴族同士の付き合いとして、顔見知りは幾らでも居た……。

でも、友達になろうと言ってくれたのは――あの方が初めてだったのだ――。

***********

それから、私たちの付き合いが始まった――。

――色々なことがあった。

「よし、やるか!」

「お手柔らかに頼む」

あの方が修練に使う森で、修練を行ったり……。

「……うぁ?」

「目ぇ、覚めたか?」

修練中に気絶した私を、回復魔法で介抱してもらったり……。

「スペード10、スペードJ、スペードQ、スペードK、スペードA……ロイヤルストレートフラッシュっと♪悪いなジュリアン?」

「……ウソ……だ……」

トランプを使って遊んだり……。

他にも色々なことがあった……。

―――いつからだろうか?
彼を意識し始めたのは――。
他に親しい友人が居なかったというのもある……彼と付き合ってると、男とか女とか――そんなことで悩んでいた自分が、小さく思えたのもある―――だけど、それが決定的になった事件がある。

ある日、あの方が10歳、私が9歳になった頃――ウォルフマイヤー家の屋敷に遊びに来た時……。
いつもの様に彼と修練をして……思いの外、汚れてしまった私は……。

「ふぅ……きもちいい……」

お風呂を借りて、湯舟に浸かっていた――。
非常に広いお風呂で、泳ぎ回ることも出来そうだ……そんなことはしないけど。

「――……女……なんだよな……私は……」

湯舟の中……自身の身体を見遣る。
申し訳程度に自己主張を始めた胸、そして男が持っている筈の物が存在しない場所――。

「なんでだ……私……女であることを……前より嫌だと思わなくなってる……」

勿論、未だに父上たちに見てもらえないのは辛い……それは変わらない。
――でも。

『大丈夫か?あんまり無茶すんなよ?』

そう言って、苦笑しながら私の頭を撫でる彼……。

『よっ……気付いたか?』

修練による疲労で倒れた私を、背負って運んでくれた彼……。


……分かっている。
私は彼に……恋をしてしまったのだろう。
彼の笑顔に、彼の優しさに……彼の大きさに……。

初恋……だったんだと思う。

その事実に気付いた時、正直――私はホッとした。
――女で良かった……と。

でも、父上たちに私を認めて欲しい気持ちも消えたわけじゃない……。

だから、私は悩んだ……女であることを……捨てるべきか否か……。

「……身体でも洗おう」

私は湯舟から立ち上がり、身体を洗うために湯舟から出ようとした――。

ガチャッ!

「……ぇ……?」

そんな時だった――。

「よう……」

あの方が申し訳なさそうに、お風呂場へ入って来たのは……。
一瞬、時が止まったと思った……。

事態に思考が着いていかない……そんな中、次第に状況を理解し始めた私は――。

「!!?っきゃ「だあぁ!!シーッ!シーッ!!」んむむぅ!!?」

咄嗟に悲鳴を上げようとして……あの方に口を塞がれていた。
あの速さ……驚愕を禁じえなかった。
瞬時に間合いを詰め、口を塞がれていたのだから……。

「頼むから、騒がないでくれ……誰か来たらジュリアンも困るだろ?」

「……【コクンッ】」

私は彼の言葉に頷いた。
確かに、人が来たら困るのは事実だ……。
私が女だったとバレてしまう……。

あの方にはバレてしまったが………不思議と、嫌じゃ無かった。
恥ずかしさはあったが、嫌じゃ――無かったのだ……。

あの時は、何故そう思ったのか……よく分からなかったが……。
今なら、分かる……私は……知って欲しかったのだ。
私は女だと……あの方に知って欲しかったのだ……。
女として見て欲しかったのだと……。

「…………」

「……………」

我々は、互いに無言のまま――少し距離を置いて――お風呂に浸かった。

何だか、お風呂を上がる気分になれなかったから―――。

「あ〜、その……何と言って良いか……」

「……見たのか?」

「……ゴメン」

「……………」

また無言……私は顔が真っ赤になっていたと思う……。
感情も―――制御出来ていなかったと思う。

意を決して、私は話を進めた――。

「……聞かないのか?私が女だったことを……」

「隠してた理由……か?」

「……そうだ」

そう言うと、彼はう〜〜んと悩み……言葉を口にした。

「話してくれるなら――聞きたいかな?」

「……あぁ」

気付いたら、私は彼に話していた――私の想い――抱えてきた物――私の真実を――。

「……と、いうわけだ」

「そうか……」

「可笑しいだろう……?私の剣を学ぶ理由が、こんな個人的な理由なのだから……」

「……そんなに可笑しなことか?」

その言葉に、彼の方を見遣ると……彼はキョトンと首を傾げていた……。

「だ、だって……剣を学ぶということは、もっとこう……」

「良いんじゃないか?理由なんて人それぞれ……誰かに認めて貰いたいってのも、立派な目的だと思うぜ……俺は」

彼はそう言ってくれた……嬉しかった。
初めて誰かが、自分を認めてくれた様で……。

……でも。

「やはり……やはり、違う気がする。本当の剣の道とは……違う……」

私自身、この在り方が歪んでいるのを……当時から何となく理解していた。
それでも、その時はソレを否定し切ることが出来なかったことも……事実だが。

「なら……探してみろよ。自分の剣の道って奴を……さ?」

「さがす……?」

「ああ……今の理由に納得いかないなら、新しい――コレだっ!!……って理由を探しゃあ良い。人生先は長いんだ……生きてる内に答えに巡り会うことも――あるかも知れないだろう?」

その時、私は真理を見た気がした。
納得いかないなら探す……当たり前過ぎて、気付かなかったことだ。

「……そういうシオンは……何のために剣を学んでいるんだ……?」

「今の理由は……生き残るため……かな?」

「生き残る……?」

「まぁ、長い人生だからなぁ……俺も理由が変わるかも知れないし」

後に、彼の在り方は言葉通り変わる。
自分のことから、他者……【大切な者を守る】ことへと……。

「シオンは――子供らしくない考え方をするよな……」

「そうか?それを言ったらジュリアン「――ジュリア」も……?」

「【ジュリアン】じゃなく、【ジュリア】が本当の名前なんだ……シオンには、本当の名前で呼んで欲しい……」

「いや、良いのか……?」

私は彼の問いにコクンッと頷いた。

「勿論、二人の時だけ……だけどな」

「そっか……サンキューな?ジュリア――」

そう言って礼を言う彼は、太陽の様に明るい笑顔を私に向けてくれた――私に――。

ボンッ!!

「きゅう〜〜ぶくぶくぶく……………」

「Σちょっ!?ジュリアッ!!?」

気になっていた異性と一緒にお風呂に浸かる……そんなギリギリの状態にいた私にとって、あの笑顔は正真正銘トドメとなった……。

……その後、あの方に救出された私は、その……お風呂場の床に寝かされていた。

介抱してくれていたみたいだが、色々見られたと思った私は再び沸騰……のぼせて気絶。

それを幾度も繰り返したのだった……。

***********

それから私は、男とか女とか……それほど気に病まなくなった。

次第にあの方が私の心の比重を占めて行き……それすら心地良いと思える様になってきていた……。

そんな時だった……私が弟と剣を交え……負けたのは。

その時、私は12歳になっていた……。

「よくやったぞ!さすが私の息子だっ!!」

そう言って弟を褒めたたえる父上―――私には、慰めの言葉一つ無く……。

……私は、再び一人になった……。

それでも、私は諦めきれなかった……。
昔……まだ、弟が生まれる前……父上は私を褒めてくれた、私によくやったと――言ってくれていたんだ……。

だから……私は――。


***********

――雨が降っていた。

それでも――私は走った。

一人になった――けど、そんな私の脳裏に残った――ただ一人の……。

「ジュ、ジュリアン……?」

「シオン……シオン……ッ!!」

その日、こちらに訪ねて来たウォルフマイヤー卿とシオン……そして、シオンは私の部屋を訪ねてくれた……。

私は彼の顔を見た瞬間……溜まっていたモノが……吐き出された。

ガバッ!!

「Σちょっ、おまっ!?」

「……うしてぇ……」

「……ジュリアン?」

「どうしてぇ……認めて……くれないのだ……私は……ただ、認めて欲しい……だけなのにぃ……」

……雨が降っていた。
土砂降りだ。
冷たかった……心が冷たかった……。

だから、彼に身を委ねた――。

「……ひっく……うぐ……」

「…………」

彼は、そんな私を優しく抱き止め……ヨシヨシ……と頭を撫でた。
まるで、子をあやす親の様に……。

けど、それが……心地良かった……。

雨が止み、冷たさが温もりに変わった後……私は。

「……強く……なりたい。私を……強くして……くれ……」

「ふぅ……分かったよ」

彼は溜め息一つ、苦笑を零し……了承してくれた。

***********

それから、私の修業は始まった……。
彼が私の家を訪ねた時、私が彼の家を訪ねた時……そんな日は彼の指導の元、修業に励み……。

彼がいない時は、彼に与えられたメニューを愚直に熟した――。

再び父上に認めて欲しくて――そして――彼との繋がりが欲しくて……。

鍛えに鍛え……私はウォルフマイヤー家に伝わる剣術――その一部を極め、修める程になった――。

彼いわく、『その才能が羨ましい』そうだが……彼にだけは言われたくないと思った私は……悪くない筈だ。

そして――私は14……彼は15になっていた。

年月が進むごとに、私は彼を……あの方を……その、異性としてより強く欲する様になった……。
より強く敬愛する様になった………だから、私は……。

「……決闘?」

「あぁ……出来るなら、本気で相手をして欲しい」

彼に決闘を挑んだ……。

確かに、私の中の女は彼を求めていた……。
だが、私の中の男が――ソレを許さなかった。

私の心は決まっていた……生涯、この方に尽くしたいと。
しかし、なまじ力を付けて来ただけに、どれだけ強くなったか試したい気持ちもあった。

いや――違うな。

私は打倒して欲しかったのかも知れん……。
『今までの私』を……。
あの方に……。

『新しい私』にして欲しかったのかも知れん……今なら、そう思える。

「……分かった。受けよう」

しばらく私を見て悩んでいた彼だったが……大きな溜め息と共に、申し出を受けてくれたのだった……。

***********

私と彼は対峙する。
私は剣を正眼に構え……彼は剣を下げ、半身……限りなく自然体に近い構え。

私は知っている……あれが彼の『本気』のスタイルだと――だから、油断はしない。

「行くぞ!!」

私は大きく踏み込み、剣を思い切り振り下ろす。
彼は私の剣に添わせる様に、私の剣閃の先に剣を置き……ソレを受け流した。

「まだまだぁっ!はあぁぁっ!!」

「甘いっ!!」

鈍く大きな金属音と、それに伴う衝撃が私を襲った――。

「くぅっ………!!?」

剣の軌道を変え、斜め下から切り上げる……。
だが、それは斜め上から振り下ろされたシオンの剣に、文字通り潰された……。

軽く弾き飛ばされた私は、剣を構え直し……再びあの方を見遣った。

――分かっていた。

実力に開きがあることくらい……一緒に修業したのだ……理解出来ない筈が無かった。

それでも……私は――。

「やああぁぁぁぁぁっ!!!」

***********

――――結局、私は彼に一撃入れることすら出来なかった。

それでも剣を振り続け……気付いたらあの方に剣を突き付けられていた……。

「完敗……だな。よもや、本気を出させることすら――出来ないとはな」

「十二分に本気だったさ……」

「気休めはやめてくれ……今まで一緒に修業をしてきたんだ……シオンがまだまだ底を見せていないことくらい……わかるよ」

正直、情けない気持ちだが……何処かスッキリした気分でもある。

「気休めじゃねぇよ……俺は本気で……真剣に決闘に望ませて貰った……まぁ、全力は出さなかったがな?」

そう言ってのけたあの方の目には……偽り等無く……あれはあの方なりの『本気』だったことが伺えた――。

――全く――敵わないなぁ……。

あの方は、今までの私を……打ち砕いてくれた。
ならば――私の取る行動は決まっている。


私はその場に跪ずいた。
騎士が主君に、誓いを立てる様に――。

「ジュ、ジュリア……?」

「――私は、貴方に剣を習った……貴方と学び、貴方と遊んだりもした……幼少の頃より、男として自身の在り方を偽って、女を捨てて来た私が……貴方に出会ってからは、女を捨てるのを躊躇ってしまった……それだけ、私の中で貴方への比重が大きくなっていったのです……」

「!!?」

私の……告白を受けて、あの方は驚いた表情をしていた。
……こう言っては何だが、私は当時……何度と無くあの方へ好意を伝えようとした……だが、さりげなく伝えようとしても、何故か正しく伝わらないのだ……。

それが……あの方が破滅的鈍感であるため……と、気付くにはそれなりの時間を要した。

故に、直球勝負……。

この時の私は、顔を赤くしていたことだろう……。

「そして今日……全てに踏ん切りをつけるために、貴方に決闘を挑みました……結果は、ご覧の通りです」

「…………」

「正直、『全部』に踏ん切りを付けることは……まだ、出来そうにありません……それでも、女であることを卑下することは……もう、しません」

あの方は私の宣言を、ただ静かに聞いていた……。

「女としての私……剣士としての私……その全てを貴方に預けたい……」

私は意を決して、その言葉を口にする……。

「『マイ・ロード』……そう呼ばせてはもらえないでしょうか……?私が生涯、仕えるのは……貴方だけです……お願いします……」

私は懇願した……此処まで、誰かに惹かれるなんて……もう無いと思うから……。

しばらく放心状態だったあの方だが……ハッ、と気付いて……答えを口にした。

「悪い……それは勘弁してくれ」

「……え………」

目の前が真っ暗になった……。

父上だけじゃなく……シオンにも見捨てられるのか……?
私は……絶望で、足が震え出した……しかし。

「俺は君主(ロード)なんて器じゃないからなぁ……そんなに慕ってくれてたのは嬉しいけど、出来れば今まで通りに接してくれよ♪」

などと、照れ臭そうに頭を掻くあの方……。

そう……もしかしなくても、こちらの意図が全く伝わっていなかったのだ……。

幾ら鈍感とは言え、此処までとは……。

正直、私は唖然としてしまった……。
だが、同時に見捨てられたのでは無いと知って……心底ホッとした。

ただ……説得の甲斐も虚しく――遂にマイ・ロードとは呼ばせて貰えなかった……。

「では、せめて……『マイ・マスター』と呼ばせては貰えないでしょうか……」

この時、私は涙目になっていたのでは……と、思う。
私としては、生涯側にあり、身も心も仕えたい……だからこそ、マイ・ロードと呼びたかったのだが……それが敵わぬならせめて……『ご主人様』と……。

いや、『ご主人様』もアリだなぁ……なんて、思ってないぞ?
ほ、本当だからな?

「い、いや……ご主人様ってのも……どうかと……」

また、バツが悪そうに……かつ、照れ臭そうに断ろうとするあの方……。

これはマズイ……と、私は咄嗟に。

「ちち、違います!!貴方は、私の剣の師……故に師匠(マスター)なのです……だから、あの……」

私は必死に……精一杯、説得した……。
此処で食いつかねば、見捨てられることは無いにしても……女として見てもらえないのでは……?

そんな漠然とした不安が襲い掛かって……必死に。

その甲斐あって……。

「分かった……照れ臭いけど、二人きりの時だけ……という条件付きで良いなら、認める……だから、そんな顔するなよ……」

「ほ、本当……ですか……?」

「男に二言は無いさ」

「あ、ありがとうございます!!マイ・マスター!!」

――こうして、私はあの方をマイ・マスターと呼ぶ様になった……。
マイ・マスターは師という意味でとらえて……私はソレに付け加えて、ご主人様の意を込めて……。

喜色満面な私だったが……それから数日後に、絶望することになる……。

私は再び、弟と模擬戦をする運びになった。

あれからずっと父上が付きっきりで指導していた弟……。
正直、良い勝負が出来たら……そう思っていたのだが。

「はっ!!」

「うわぁっ!!?」

――結果は呆気ないくらいに私の勝ち。

数合切り結んだ後、私が弟の剣を弾き飛ばしたのだ。

実感は無かったが、私の力はマイ・マスターによって飛躍的に高められていたらしかった……。
以前、接戦の末に敗れた弟相手に――こうもあっさりと。

私は自分の力を実感し、喜びを噛み締めた―――だが。

「しっかりしろ!なに、この程度の負けなぞ直ぐに取り戻せる!お前なら、あの程度……直ぐに追い越せるさ!」

父上は、弟を励まし―――私には労いの言葉一つ掛けて貰えなかった。

――褒められると思っていた。
喜んでくれると思っていた――。

でも、出てくるのは弟への激励の言葉――私をけなす様な言葉――。

その時、ようやく思い至った……。


あぁ……父上の――私への愛は、死んだのだな……と――。


***********

それからのことは、よく覚えていない――。

気付いたら旅仕度を終え、家を出ていた。
今の家に――私の居場所は無い。

一応、母上には挨拶だけはしておいたが……。

母上は、この家で最初から『私』を見てくれていた――唯一の人なのだから――。

母上は悲しそうに、何時でも帰って来て良いと……此処は私の家だから……と、言ってくれた。

私は母上に頭を下げ、家を出た……。

次に向かったのは、マイ・マスターの元……なのだが。

「旅に……出た?」

「ええ、見聞を広げるためにって……先日にね?」

マイ・マスターの母上……リーセリア様が困った風に説明してくれた。

……擦れ違いだ。

もう少し早ければ、その旅に同行出来たかも――。

今更――だな。

「ごめんねジュリアン君?ジュリアン君が来るって分かってたら……」

「いえ、そんな……」

正直、ショックだった……マイ・マスターにも見捨てられた様に錯覚もしたが――。

直ぐに考えを改める。

マイ・マスターに誓った忠誠に嘘偽りは無い――そして、マイ・マスターの言ってくれたことも、嘘ではなかった筈だ……。

『なら……探してみろよ。自分の剣の道って奴を……さ?』

『さがす……?』

『ああ……今の理由に納得いかないなら、新しい――コレだっ!!……って理由を探しゃあ良い。人生先は長いんだ……生きてる内に答えに巡り会うことも――あるかも知れないだろう?』

私は――探すべきなのかも知れない。

褒められるためでは無い……私の剣を振るう理由を――。

それを見付けられなければ、マイ・マスターと釣り合うことなど――出来ないと思ったから――。

こうして、私はマイ・マスターの後を追う様に旅に出た……。

私は必死にもがいた……答えを得ようと、あがき続けた……。
答えを見付けられない焦りから、剣を捨ててしまったこともあった……。

父上に見捨てられたことも枷となり、次第に私は消耗していった……。

しかし、旅先での出会い……マイ・マスターとの再会……。
私は光を得て、答えも得ることが出来た――。

――弱き者を守るために剣を振るう――ということを……。

***********

「そして私はナイツを目指す様になり……って、どうした二人とも?」

私はライエルとリーヴスに、これまでの経緯を説明していたのだが……。
二人とも微妙な表情をしていた……何で?

「いやぁ……聞いたのは僕らだけど……」

「うむ……惚気られてる気がしてな……」

の、惚気っ!!?
何処をどう聞いたらそんな風に!?

「べべ、別に惚気ているわけでは……!?」

「そう言われても……ねぇ?」

「説得力が無いな……」

その後、二人に終始からかわれることになる私なのだった……。

くそう……最初に聞いて来たのはそっちじゃないか……理不尽だ……。

***********

おまけ

「ところで、シオンのことをマイ・マスターと呼ぶのは二人だけの秘密なんだろう?何故、僕らに教えてくれたんだい?」

「……知っている者が居るなら、その分……マイ・マスターと呼べる機会も増えるだろうなぁ……と♪」

「やはり惚気だな……」

後書き。

随分前に考案していた、ジュリアンの過去編です。
如何でしたでしょうか?

本編も今月中には更新したいと思います……。

それではm(__)m



[7317] 第125話―同盟会談と新メンバーと……研修生?―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:99adae9e
Date: 2010/09/17 00:37
Sideシオン

戦勝祝賀会まで、後三日……そして、遂に同盟会談当日――。

「――フッ!ハァッ!!」

我が家の庭に出て、日課の早朝鍛練を行っている俺――こんな重要な予定がある時でも、鍛練かよ……というツッコミが入りそうな状況だが、もはや習慣だからなぁ……。

「こんな日でも訓練は欠かさぬ……か。相変わらずだな」

「父上……おはようございます」

俺が一通り剣舞を舞い終わった後、父上がやってきて声を掛けてきた。

父上は少し前から此処に来ていたのだが……俺の邪魔をしない様に、自重していたらしい――。

「それで、何の御用でしょうか?父上がこんな朝早くに起きてくるなんて……」

「オイオイ……それでは私が朝に弱いみたいではないか」

「そういうワケではありませんが……父上に限らず、自分以外の者がこの時間帯に起きてくる……というのが珍しかったので」

俺の言葉に、苦笑と共に返す父上。
別に父上が朝に弱いワケでは無い。
だが、時間が時間だけに少し疑問に感じただけだったり――。

ちなみに、現在は日が昇り始めた辺り――大体、朝4時〜5時の間位か。

「まぁ、帯剣している所を見れば、大体想像出来ますが……」

「うむ……私も訓練しようと思ってな。最近は、これくらいの時間に起きているのだよ」

父上いわく、最近改めて鍛え直しているらしく、そのためにいつもより起床時間が早いらしい。

「せっかくだ……シオンよ。久々に剣を交えてみるか?」

「そうですね……まだ時間もありますし……一手、お手合わせ願いましょうか」

俺は父上の提案を受け入れる。
互いに使用するのは木剣だが――所謂、模擬戦だな……とは言っても、これは言うならば親子同士のキャッチボールみたいな意味合いもある。

互いに木剣を抜き放ち……構える――!

「行くぞシオン!」

「いつでも――!!」

――こうして久しぶりに、俺と父上の模擬戦が幕を開けた――。

言うまでもないが、今の俺は身体能力、技量、共に父上を大きく上回っている。
実戦経験とて、父上程の場数は踏んでいないにしろ、濃密な経験をしてきたと思ってる。

故に、何処かに油断があっただろうことは――否定しない。

「甘いっ!!」

「ぐぬぅ――!?」

ガキャアアァァァァァンッッ!!!

俺の剣撃(勿論加減した)を受け、弾き飛ばされる父上。

ズザザザザッ!!

弾き飛ばされながらも、踏ん張って耐えた父上――俺は勿論、加減した。
身体能力を父上と同じくらいに調整し、純粋な技での勝負――と、思っていた俺は……ハッキリ言って自惚れていたんだと思う。

まさか――。

「流石だなシオン……もはや、単純な実力では遠く及ばないのだろうな……だが」

此処まで父上が大人げなかったとは……。

「お前はまだ知らない事がある……それを知って貰おうか!!」

――まぁ、幼少時代の俺に必殺技を叩き込む様な人だから、大人げなんて無いのかも知れないが――。

結論から言おう。

俺は父上に、まだ知らぬ必殺技を叩き込まれてしまいました。

――不覚にも、少し危なくなってチョロッと力を出してしまった……。

まぁ、おかげで新たな技をラーニング出来たんだけど……。

「大丈夫ですか父上?」

「そう思うなら、もう少し加減しろ……正直、肝を冷やしたぞ」

「そう思うなら、いきなり必殺技を叩き込まないで下さい。以前、それで母上に説教されたのを忘れたのですか?」

見事、返り討ちとなり、地面に大の字となっている父上へ、手を貸して起き上がらせる俺。
……小言くらい言わせて貰っても、バチは当たらないだろう?

「なに、確かにあの時はやり過ぎたと反省しているが、今はむしろこちらが全力で挑まなければ鍛練にならないだろう?それに……お前なら本気でやっても平気だと思ってな」

……父上に限ったことでは無いが、模擬戦したりすると……何故か皆『殺る気』で挑んで来るんだよなぁ……。
そりゃあ、俺から『全力で来い』とか、煽ったりしたこともあったが――。

『シオンだから』という理由で、全て無問題的な扱いをされるのも――中々に悲しかったり。

まぁ、もう慣れたケド。

「ところで、一つ気になっていたのですが――」

「?なんだ?」

「父上が使った必殺技――というより、我が家に伝わる剣術というか戦闘術というか――流派の名前はあるのでしょうか?私は、名前も知らずに使っていましたが――」

そう、戦闘術や必殺技は修めたが――肝心の流派自体の名前を知らなかったのだ。

簡単に言えば、体捌きや正拳突きは知ってるけど、空手という流派は知らない……みたいな?

分かりにくいか――?

某最終幻想5のジョブで例えるなら――アビリティや魔法はマスターしているのに、ジョブという概念は知らない……みたいな?

……分かりにくいかも知れないが、何となく伝わったと思う――。

「そういえば話していなかったな……とは言え、私も流派名は知らん」

「――は?」

何を言っちゃってるんデスカこの人?
みたいな心境の俺に、父上は説明してくれる――。

いわく、技や型の名前こそ伝わってはいるが、肝心の流派名は伝わっていないらしい――。

「我が家に残された文献によると、最初にこの技を奮っていた者は遥か昔――ウォルフマイヤー家とは関わりの無い者だったらしい。お前はこの世界が、二つの世界が重なり合って成り立っている世界だとは――知っているか?」

「ええ……かつての世界が太陽の異常で滅びを迎えた時、人間とフェザリアンの力を合わせて、この世界に移り住んだと――」

――正確には、俺と同じ名前のラスボスが仕組んだことだったのだが――。

俺の言葉に父上は頷く。

「そこまで知っているなら話は早い。何を隠そう、その者とは――かつての世界に残った者の内の1人だったのだよ」

「残った?」

俺はⅢの原作知識として知ってはいるが、敢えて父上に尋ねる。

「何も、皆が皆……こちらの世界に移り住んだわけでは無い……どうやらこちらの世界に移り住んだ者より、あちらの世界に残った者の方が多かった様なのだよ――」

父上いわく、最初にその流派を使っていた者は、それはもう強かったらしい。

「その者は何でも、当時の軍隊――数万近くを一人で圧倒したことから、『鬼神』等と呼ばれたりしたらしいが――あくまで文献の内容だからな、多少大袈裟に書いてあるのかもしれん――」

「ははは、ですよね〜」

俺ならその気になれば、数万くらい軽く捻れる――なんて思っても、口には出さないケド……。

で、話の続きだが――その者はこちらの世界に渡る者の一人――自身の弟子に戦闘術の全てを伝授し、あちらの世界に残ったそうな……。

その弟子というのが、後のウォルフマイヤー家の始祖だったらしい――。

「で、その弟子も流派の名は知らなかった――と?」

「というより、聞かされなかったらしい。だからか、この戦闘術は『竜』と呼ばれる様になった。これは受け継がれた技の名に『竜』あるいは『龍』の名を含んだ物が多かったから……というのが理由らしいが――」

「成る程――我が家にそんな歴史があったのですか」

父上の説明に相槌を打つ俺――。
だが、実際には違うことを考えていた。

ウォルフマイヤー家の始祖……彼に戦闘術を教えた者――。

――もしかしたら転生者だったのかも知れない――と。

根拠は幾つかある――。
まず、文献に残されていたという、彼(便宜上、彼と呼ぶが、彼女かも知れない)の強さ。

数万の軍隊を『一人』で圧倒する強さ。
一見、眉唾にしか思えない内容だ。

何しろかつての世界には、グローシュが満ち、誰しもが強力な魔法を行使出来た……言い換えれば、世界中の全員が皆既日食グローシアンみたいなものだったワケだ。
そんな連中が多々居るであろう軍隊を一人で圧倒……仮に眉唾では無いとして――そんな無双が可能な人間であること――これは根拠が薄いか。

チート人間=転生者……というのも安直過ぎる気がするしな。

案外、突然変異的な何かだったのかも知れないし、もしかしたら人間じゃなかったのかも知れないし……父上も、彼が人間だった――とは一言も言っていないしな。

俺が彼に転生者疑惑を持ったのは、もう一つの根拠があるからだ――。

根拠その2――必殺技の名前。

我が流派――つい先程知った――『竜』の必殺技の名前が――アレなんだ。
――別にスッゴく香しい厨二臭がする名前……というワケではない。
全く厨二臭がしないワケでもないが。

俺がよく使っている必殺技――『飛竜翼斬』を例に挙げるが――せいぜい厨二レベルとしては中の下〜中の上くらいだろう……多分。

十分厨二とか言うな!!
こういうのは開き直ったモン勝ちなんだよ!
――恐らく。

ならば、何かというと――名前の一部……『飛竜翼斬』ならば『飛竜』の部分だ。

――先程、父上からラーニングした技……その内の一つを比較対象として挙げるケド――。

『轟竜破砕撃』――という技をラーニングしたのだが――。
技の内容はまた、そのうち語るとして――。

『轟竜』――何処かで聞き覚えは無いだろうか?

――いや、某勇者特急の雷張さんの愛機では無く……確かに飛竜も轟竜も揃ってるけどさ?

他にも、『覇竜咆哮波』というのも体得させて貰ったのだが――もう、分かったよな?


そう、モンハンだ――あ、某甘党銀髪侍率いる万事屋が主役の漫画に出てくる、お猿をハンティングするゲームじゃなくて、モンスターハンターの方……だからな?

ずばり、我が流派の技は――モンハンに出てくる竜の二つ名から来ているのだ!!

……憶測を含んだモノだから、正確では無いのかも知れないが。

飛竜、轟竜、覇竜……偶然にしては出来過ぎだろう?

――俺はこう考えている。

Ⅲの世界に転生した彼は、Ⅲの世界に残り……Ⅲの主人公達と共に戦ったのではないか?
そして、彼が弟子とした者がこちらの世界に渡ったことにより、本来存在しなかったウォルフマイヤー家が誕生する運びになった――。

――まぁ、全ては憶測に過ぎないし、考え過ぎかも知れないが――。
仮に俺の憶測が正しかったとしても、それはそれで問題無い――。

既に遥か昔の出来事だし、彼が存在したからこそ我が家が――俺が存在する運びになったのなら――それは感謝すべきことなのだろうから――。

……未だに俺が何故『シオン』になったのか……或いは『選ばれた』のか――それは分からないが。

「シオン、どうした?」

「いえ、少し考え事を――しかし、そんな文献があったなんて私は知りませんでしたよ?」

「ソレは我が家の家宝みたいな物だからな……代々ウォルフマイヤー家の当主に受け継がれていったのだ。故に私自身が保管しておったのだよ……お前の目に入らないのも道理というものだ」

成る程……ならば、書斎に無いのも仕方ないか……。
しかし……、新しい技も覚えられたし、意外な事実も知ることが出来た……存外、有意義な朝練だったな。

「父上、そろそろ良い時間です」

「そうだな、戻るとするか」

こうして、久しぶりに行われた父上との模擬戦は終わった。

***********

バーンシュタイン城・執務室

軽く汗を流して、制服に着替えた俺は、朝食を食べてから家を出た。

で、現在は俺の執務室に来ている。

「それじゃあ、オズワルド――後は頼むぜ?」

「へい!シオンの頭……じゃなかった!……将軍の留守は、このオズワルドが守らせていただきますんで!!」

俺は蒼天騎士団団長のオズワルドに、留守を頼む旨を伝えていた。
俺の副官であるリビエラも、会談に同行することになっているので、必然的に蒼天騎士団の責任者はオズワルドのみになる。

故に、新団員――ラッセル達を受け入れるためにも、オズワルドには頑張って貰わないといけない……と、言うわけである。

「本当に大丈夫?結構癖のある人たちよ?――特に赤毛の奴は……うぅ!今思い出しても腹が立つわ……」

「全くだな……まぁ、あの時はシオン将軍のおかげで、それなりに溜飲は下がったがな」

と、ラッセルの態度に対して未だに思うところがあるのであろう……リビエラとエリック。

……俺のことで、そこまで怒ってくれるのは嬉しいが……気にし過ぎだろう?

「まぁ、そう言うなよ……悪い奴では無いんだからさ」

「それは……分かってるケド……」

「俺はもう気にしていない――だから、な?」

ちなみに、既に分かってると思うが、現在この執務室には蒼天騎士団のメンバー全員が揃っている。
つーか、エリックよ……それは自分のことを棚に上げていると思って良いんだな?

「まぁ、そんなワケだから――皆よろしく頼むよ」

「了解」

「任せてくださいよ!」

「しっかりお勤めを果たすッスよ!」

「……努力します」

俺の言葉に、了承を示すマーク、ビリー、ニール、ザム。
うむうむ、やる気があるのは良いことだ。
これなら、安心して任せられるな。

「やる気が空回りしなければ良いけどね……」

「大丈夫よリビエラ!なんてったって、私も居るんだから!」

「あ〜、うん……ある意味それも心配かなって言うか……」

張り切るエレーナに対して、苦笑を浮かべるリビエラ……。
あぁ……何と言うか、もう少し信じてやれって。

そんなワケで、後のことは皆に任せ――俺とリビエラは、エリオット陛下との待ち合わせ場所へ向かうのだった――。

***********

「お待たせしました!」

そう言って、普段着――赤いジャケットを羽織った、原作でお馴染みの服装――のエリオット陛下が待ち合わせ場所の城門前にやってきた。

――そこはかとなく嬉しそうだ。

「いやぁ、久しぶりに国の外へ行くから、ワクワクして眠れなかったですよぉ♪」

――遠足が楽しみな小学生かっ!!?
そうツッコミたくなる位の、キラキラした笑顔の陛下。
……まぁ、陛下の家庭環境と現在の状況を考えれば、それも当然なんだが……。

最近では、ポールの監視も強くなってきた様で、中々抜け出して街に繰り出すということも……出来ないみたいだしなぁ……。

「陛下、遊びに行くワケでは無いのですよ?」

せめて、これだけは言っておこう。
まぁ、敢えて言わなくても――。

「えぇ、分かっています――道中、よろしく頼みますよ、二人とも」

陛下は理解しているんだがな――。
さっきまでの、トランペットに憧れる少年の様な表情は成りを潜め、王としての顔がそこにはあった――。

「はっ!承知しました――我々にお任せ下さい」

「とは言え、私のテレポートでひとっ飛びなので、道中の心配はありませんがね――」

リビエラは、力強く頷き――陛下の声に答えたが――俺は少し力を抜かす様な……軽く冗談じみた台詞を吐く。

「あははっ、そうですね!それでも、今日は宜しくお願いしますということで――」

「了解しました……エリオット陛下。では、行きましょうか」

可笑しそうに笑うエリオット陛下を見て、微笑ましい気持ちになってしまう俺……多分、リビエラも同様だろう。
優しい顔をしている。

そんな暖かい気持ちのまま、俺達は会談場所である魔法学院に向かったのだった――。

***********

Sideカーマイン

「――っと、到着♪」

俺たちは、ルイセのテレポートで同盟会談が行われる場所――魔法学院にやってきた。

「で、学院の何処で会談が行われるんだ?」

「たぶん、職員用の会議室だと思うけど……」

ウォレスの質問に答えるルイセ――。
何しろ、会談場所が魔法学院だとは聞いたが、学院の何処かは聞いていないからな――。

「なら、そこに行ってみようよ!」

「そうだな……分からなかったら、誰かに聞けば良いんだしな」

ティピの言葉に、肯定を示すゼノス。
――そう、俺たちはアルカディウス王の代理として此処に来ている――全員でな。

まぁ……皆、ずっとカンヅメだったからな。
もし、残っていたら……そいつはそいつだけでカンヅメだったのだろう――。

流石にみんな、気分転換したいと思っても……仕方ないよな?

……と。

フワフワと、光の玉が降りて来て……それが拡大された。

これは、テレポート時の光球……ということは――。

「よし、到着」

「あっ、シオンさんだぁ♪」

「リビエラに……エリオットも一緒か」

シオンを見たティピが声を掛け、ウォレスがリビエラとエリオットの姿も確認する。
って、エリオット……?
良いのか?王がこんな所まで来て……。

「みんな!久しぶりね!」

「みなさん、お元気そうで何よりです」

「うん♪リビエラさんと、エリオットくんもね♪」

二人の挨拶に対して、ニコヤカに返す我が妹。

「おいおいルイセ、俺には挨拶無しか〜?先生は悲しいぞ〜?」

「あ、ごめんなさい!!でも……シオン先生なら間違いなく元気だと思ったから――」

「良いって良いって♪冗談なんだから……」

シオンが茶化す様に……というか、茶化したのだろう。
冗談を口にすると、ルイセは申し訳なさそうに萎縮……それを見たシオンは、かんらかんらと笑いながら冗談であることを説明した。

「良いのよルイセちゃん。シオンが元気だったのも、本当なんだから――この前だって、私とジュリ『ガシッ!!』……あ゙……」

「――リビエラ?何を話そうとした?」

ルイセに何かを語ろうとしたリビエラ……だが、その内容を明らかにする前に、いつの間にかリビエラの後ろに回り込んだシオンに頭を鷲掴みにされていた――。

ガタガタブルブル――と、過剰な迄に震えながら後ろを向くリビエラ――そこには凄くエガオな―――眼は笑っていない――シオンが居たのだった。

ああ――相変わらずその威圧感は健在なんだネ?

「ごごごご、ごめんなさ『これは……お仕置きが必要かな?』ひぅ!?」

慌てて謝罪しようとするリビエラの言葉を遮り、何事かをリビエラの耳に囁くシオン。

その内容を聞いただろうリビエラが――ボゥンッ!!と、音が聞こえたかの様に真っ赤になった………何だか、そこはかとなく嬉しそうに感じるのは気のせいか――?

だが……。

「何を勘違いしてるか知らないが―――帰ったら超グゥレイトォッ!!コースだからな?」

「!!?ぴ、ぴいぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!?」

今度は瞬時に顔が青くなった……。
と、同時に小鳥の断末魔の様な悲鳴を挙げるリビエラ……。

例えるなら、桃源郷から一気に奈落の底へ叩き落とされた様な……って、何を言っているのか自分でも分からんが――。

超グゥレイトォッ!!コース……何だか知らんが、恐ろしい響きだぜ……。

「こわいよぅ……こわいよぅ……」

「アタシは悪くないアタシは悪くないアタシは……」

「あぁ……シ、シオン……ルイセとティピがトラウマ入ったから……その、怒りをしずめてくれるとた、助かるんだが……」

ルイセが俺の背に隠れ、俺にしがみつきながら震え……ティピは俺のジャケットのポケットに頭から突っ込んで震えている……見兼ねた俺は、勇気を振り絞って、障気的な何かを放つシオンに頼み込んだ。

正直、俺たち男連中や、近くに居た学生すらも震え上がっている……だが!俺はみんなのリーダーなのだから……しっかりせねば!!

「そうだな……ワリィワリィ……ついカッとなっちまった……反省してる」

そんな決意の中、返って来た答えは了承と謝罪。
シオンは申し訳なさそうな顔で、既に暗黒オーラは影も形も無い……。

ホッと胸を撫で下ろす俺たち……。

尚、女性陣が立ち直るのに、しばらく時間が掛かってしまったことを――明記しておく。

***********

Sideシオン

むぅ……また皆を恐がらせちまった……俺、自重。
とは言え、リビエラが何やら口を滑らそうとしたので……思わず、な?
まぁ、本気で公言するつもりは無かったのだろうが……。

(尚、超グゥレイトォッ!!コースとは、グゥレイトォッ!!な内容の修業である。
例えば、俺と皆で以前にやった鬼ごっこをタイマンで――とかな)

俺は良い。

俺とリビエラとジュリアが、チョメチョメしていたことが公にバレた所で、ナイツ追放されて家に迷惑を掛けるだけ――――うん、全っ然良くない♪

いや、まぁ……俺は良い。

皆を抱いたことに、後悔なんて無いし――それだけ好意を抱いてくれていることに、むしろ誇りすら感じている。
最悪、ウォルフマイヤー家に勘当扱いにしてもらって、国外にでもトンズラすれば……少なくともお家取り潰しとかは、避けられる……筈。

両親が――俺を勘当してくれるかは、話が別だが。

だが、ジュリアや俺をナイツに抜擢してくれたエリオット陛下に、多大な迷惑が掛かる……。

だから、ナニする前は周囲には細心の注意を掃うし……。
まぁ……何故か、俺の仲間達は……俺が複数の女性とラブるという、この狂った状況を認知してくれているらしく、周りにバラす様なことは無いとは理解してるが――。

あ、ミーシャは例外ね?
思いっきり前科(イリスとのチョメチョメをダチにチクろうとした)があるし――。

………あぁ、益々駄目人間と化して行く俺……。

この状況を疑問に思わなくなってきたとか……感覚が麻痺って来たかな……?

「?どうしたのシオンさん?」

「いや、ちょっと――自分のダメっぷりに凹んでてさ……」

ティピが首を傾げながら、俺に疑問を尋ねてきたので、俺はそれに答えた――。

「?よくわかんないけど、シオンさんは全然ダメなんかじゃないよ?」

「ハハッ……ありがとうな、ティピ」

素直に、思ったことを言ってくれただけなのだろうが――今はその優しさが、心地良くて、ちょっち辛い――。

等と、黄昏れていると――。

「ウォレス!」

「ウェーバー」

学院の校舎側から、ウェーバー将軍がやってくる。
ランザック王が言っていた様に、王の代理としてやってきたのだろう。

俺らの様に、テレポートを使えるグローシアンなんていないだろうから、此処まで来るのは大変だっただろうな――。

「時間近くになっても来ないので、心配したぞ?」

「まぁ、俺たちにはルイセが居るし……エリオットたちにはシオンが居るからな」

「テレポートで直ぐだもんね♪」

早めに来ていたであろう、ウェーバー将軍。
どうやら時間ギリギリ――とまでは、言わないが……少し遅めにやってきた俺達のことを、心配していたらしい。

だが、ウォレスとティピの言う様に、俺達にはテレポートがある。
だからぶっちゃけ、本当にギリギリでも間に合ったりする。

ランザックにも、グローシアンは少なからず居るだろうが……。
その殆どが月食のグローシアン……しかも、しっかりと魔法を学んだことがある者は、限りなく少ない筈だ……。

いかにグローシアンと言えど、学び、研鑽しなければ、それは宝の持ち腐れと同義だからな。

「そうか……何と言うか、羨ましい限りだな。我が国にもグローシアンは居るが――テレポートを行使出来る程の魔導師は居ないのが現状だ――元より、土地柄としてグローシュが少ないこともあり、魔法に関して、他の国より遅れているのは認めざるを得ん――」

溜め息と共に、愚痴を零すウェーバー将軍。
その遅れを取り戻すため、ランザックはボスヒゲに教えを受けていたのだろうが……。

頼った相手が悪かったとしか……言えないよなぁ……。

「あの……大丈夫ですか?」

「あぁ……ありがとうお嬢さん……」

とうとう、陰鬱なオーラ迄放つ様になったウェーバー将軍を気遣うルイセ……相変わらずええ子やなぁ……。

「何はともあれ、役者は揃ったワケですね……陛下?」

「そうですね……それでは行きましょうか、皆さん」

俺とエリオット陛下は、互いに頷く。
――此処で、これから同盟会談が始まる――。

上手く纏まると良いんだが――。

***********

魔法学院・特別会議室

此処は、魔法学院の特別会議室……。

特別会議室とは――教員会議等が行われる、大きな会議室のことだ。
教授会等にも使われるらしい。

そこには大きな円卓があり、皆がそこに座る。


「皆さん、遠路はるばるお集まりいただき、ありがとうございます」

エリオット陛下が周囲を見渡して挨拶をする。

円卓とは、上座も下座も無い――対等な立場で話そうという、意志の具現とも言えるモノだ。
こういう会談にはピッタリだろう。

北側から順に――エリオット陛下、俺、リビエラ、カーマイン(+ティピ)、ルイセ、ウォレス、ゼノス、ウェーバー将軍、あと、ランザック軍の……将軍かな?
ウェーバー将軍と似た様なデザインの鎧を身に纏う人物が二人……。

一人は黒い鎧を纏った……白髪のご年配……なのだが、ベルガーさんの様に筋骨隆々とした……歴戦の猛者を思わせる風貌。

実力的には――ウェーバーさんには及ばないが、達人クラスか……。

もう一人は、若い赤髪の女性で、赤茶けた鎧を身に纏っている。
何と言うか……当たり前の様に美人だ。

実力的には……ウェーバーさんや、黒い鎧の御仁より劣るか……。

「僕はエリオット……バーンシュタインの王をやらせて貰っています」

「シオン・ウォルフマイヤー……若輩ながらインペリアル・ナイトを勤めさせて戴いております」

「リビエラ・マリウスです。シオン将軍の副官を勤めさせて戴いております。今回、将軍と私は陛下の護衛として、この場に馳せ参じました」

知らない人も居るので、先ずは自己紹介……というワケで、俺達バーンシュタイン側から。
しかし、『やらせて貰っています』か……エリオット陛下らしいっちゃあらしいが……。
もう少し自信を持っても良いだろうに……。

「あ、だからリビエラさん、そんな格好なんですね?」

「というか、コレはシオン……将軍の直属騎士団の制服なのよ、ルイセちゃん」

ルイセの疑問に答えるリビエラ。
あまりにナチュラルな質問故、説明中に俺のことを呼び捨てにしようとしたが――この場に居るのはカーマイン達だけじゃないので、立場上――何とか取り繕った様だ。

「お前、そんなモンを作ったのかよ?」

「まぁな……ナイツは皆直属の騎士団を……というか、話が脇道に逸れかけてないか?」

「あ……ご、ごめんなさい!」

ゼノスの問いに答えつつ、話が逸れて行ってることを指摘する。
すると、ルイセが慌てて謝罪してきた。

あ、いや……責めてるワケじゃなくてな?

「別にシオンも怒っているワケじゃないから……気にするなよルイセ?」

「うん……ありがとうお兄ちゃん……♪」

いや……確かに怒ってはいないが……瞬時にラブいフィールドを展開しなさんなって。

で、カーマイン達の自己紹介になるのだが……。

「カーマイン・フォルスマイヤー……ローランディアの騎士です」

「ルイセ・フォルスマイヤーです。宜しくお願いします!」

「ティピだよ!よろしくぅ♪」

「ゼノス・ラングレーだ。カーマイン同様、ローランディアの騎士をやってる」

「俺はウォレス。コイツらのサポートみたいなことをやってる」

と、こんな感じで紹介をしていったローランディア組。

なんつーか、カーマインとゼノスはともかく……ルイセとウォレスの紹介は、ざっくばらんだなぁ……。

まぁ、今現在――二人には役職らしい役職も無いし……仕方ないのかも知れないが。

尚、ティピはいつも通りなので、敢えてツッコまない。

そして、今度はランザック組。

「私はウェーバー。ランザックの将軍の一人だ」

「儂はガイウス。そこのウェーバー同様、ランザックの将の一人じゃ」

「リュクス・ハミルトン……同じくランザックの将軍です」

黒い鎧の翁が、ガイウスで――赤茶けた鎧の女性がリュクスらしい。
一応言っておくと、ウェーバー将軍の鎧は白な?

「ランザック三将軍か……」

「ランザックさんしょうぐん〜〜……?って、なんなの?」

ウォレスの呟きに反応したティピ。
無茶苦茶クエスチョンマークを浮かべている。
って、俺も同じ気持ちなんだが……何、三将軍って……某史上最強の弟子に出てくる――初期のニューホワイト連合幹部、三人のことかぁ???

「ランザック三将軍ってのは、読んで字の如くランザックに仕える三人の将軍のことだ。他にも将軍格は居るが、その中でも特に秀でた力を持つ者たちを『三将軍』と称するらしい」

「ふぇ〜……ウェーバーさん以外にも、ランザックに将軍なんて居たんだぁ……」

「当たり前だろうが。一国に仕える将軍がただ一人だけ……なんて、それこそ有り得ないぜ」

ウォレスの説明を聞いて感心するティピと、そんなティピにツッコミを入れるゼノス。

確かに、ゼノスの言う通り――ランザックの将がウェーバーさん一人だけ……というのも妙な話だよな。

ローランディアには知ってるだけで、ブロンソン将軍、ベルナード将軍が居る。
まぁ、他にも居るだろうが……。

そしてバーンシュタインは、俺達インペリアル・ナイトや、ローガン将軍……他にも複数の将軍を有している。

実際、一国の軍隊を指揮するのに、将軍一人ではとてもじゃないが腕が回らない筈。

冷静に考えれば、分かりそうなモンだったよなぁ……。

「でも、前にランザックに行った時、ウェーバーさんの噂は聞いたけど、他の将軍の噂なんて聞かなかったよ?」

「ハッハッハッ!そりゃあそうじゃよ、小さなお嬢ちゃん。ウェーバーはランザックの英雄じゃからのぅ……儂の様な老いぼれと比べてはいかんぞぃ?」

ティピの言葉に、楽しそうに笑って話すガイウスさん。

「儂はウェーバーが来る迄は所謂、筆頭将軍だったのじゃが……何分、歳じゃからの。後進の育成に専念させて貰って、後はウェーバーに丸投げじゃわいっ!!」

「それは……自慢になる様なことじゃないだろうに……」

カーッカッカッカッ!と、笑って自身のことを語るガイウスさんに、静かにツッコむカーマイン。

「まぁ、そんな次第じゃからして、次第に影が薄くなるのはやむ無しじゃが……流石に隠居はさせてくれんらしくての……」

「当たり前です。ガイウス殿には、まだまだ頑張って戴かなければ」

「コレじゃよ……全く、年寄りはもう少し敬うもんじゃろ?」

やれやれ……と、肩を竦めて溜め息を吐くガイウスさんに、ウェーバーさんがツッコむ。
それを聞いて更に溜め息を吐いているが……本人、満更じゃないんじゃないか?
何処か嬉しそうだし。

老いて益々盛ん……という言葉があるが、この人はそういうタイプっぽい……。

「リュクスにしても、つい最近になって頭角を現してきたのじゃから、お主らが知らんのは道理じゃよ」

「元々、リュクスは俺が将軍になった際に部下として配属された奴でな……ただでさえ、女の兵が少ないランザックにおいて、将軍にまで上り詰めた実力派だ……その力は、陛下や我々も認めている」

「ウ、ウェーバー将軍……私はそんな大層な物ではありません……」

ガイウスさんの言葉に続く形で、ウェーバーさんが言葉を紡ぐ。
そして、リュクスさんはそれを聞いて謙遜している……んだけど……。

……あ〜……リュクスさんって、ウェーバーさんにホの字か?

いやね?謙遜してるんだけど、むっちゃ嬉しそうなのよ……。
照れりこ昇天しちゃいそうな程に……。

彼女がウェーバーさんに向ける感情は、ルイセがカーマインに向ける感情……ぶっちゃけて言えば、リビエラ達が俺に向けてくれる感情と同種のモノだ。

ウェーバーさんの元・部下だと言っていたが……尊敬が敬愛に変化したワケか……だが、ウェーバーさんは気付いて無いっぽい。

鈍感泥付き人参が此処にも!?
って、俺も人のことは言えないわな……。

まぁ、それはともかく……。

「自己紹介も済んだことだし、そろそろ本題に入りたいのだが……宜しいか?」

「そうだな……」

「了解した」

俺の問い掛けに、カーマインとウェーバーさんが答えた。

他の面々も頷いてくれている。

「では陛下……お願いします」

「はい、分かりました」

後は陛下にバトンタッチ……っと。

「今日、この会談を開いたのは他でもありません……世界の危機が、再び訪れることになるかも知れないのです」

陛下は言葉を紡ぎ、一拍間を置いてから……再び語り出す。

「――皆さんご存知の通り、大きな戦争があり……その火種は、バーンシュタインでした。その裏には、偽王を操る――ゲヴェルという怪物の企みがあったことも……周知の事実だと思います」

「ああ……そして、ゲヴェルは……俺たちが倒した」

「話には聞き及んでおります……皆さんが、この世界を救ったのだと……」

エリオット陛下の言葉に、頷いて返すカーマイン。

リュクスさんも、俺達の話を聞き及んでいたらしく、納得した様に頷いている。

「……確かに、ゲヴェルが倒されたのは事実です。ですが、それはつかの間の平和でしか――なかったのです」

「……どういうことかな?」

陛下の言葉に、疑問をぶつけるガイウスさん。
その言葉に、陛下はゆっくりと返事を返す。

「ヴェンツェル……この場に集まった国々……その全てに因縁を持った人物の名です……」

「ヴェンツェル……だと!?」

エリオット陛下は此処で、ボスヒゲの名前を出す。
それを聞いて、ウェーバーさんが驚愕の表情を浮かべている。

それもその筈……ヴェンツェル……ボスヒゲは、ランザックに魔法を教えることを条件に、匿って貰っていた筈だからな……。

「ヴェンツェルは、我がバーンシュタインの宮廷魔術師長であり………ひそかに僕の命を救ってくれた――恩人でもあります。ですが、それもゲヴェルの悪巧みを阻止する為の切り札として……それ以上の意味はなかった……」

「ヴェンツェルは、俺とルイセの母……ローランディアの宮廷魔術師である、サンドラの師匠に当たる人間だ……奴は、そのツテを利用し、ルイセに近づき、ルイセのグローシュを奪って行った……」

陛下は自身の……ヴェンツェルとの関係性を語る。
それに続く様に、カーマインも。

「ちょっと待ってくれ……グローシュを奪って行った……と言われても、我々は陛下から、おおよその顛末しか聞かされていないので、事態がよく飲み込めないのだが……」

「そうだな……その辺を詳しく説明しよう」

クエスチョンマークを浮かべているウェーバーさん達ランザック組。

それに対して、ウォレスが説明する。

クソヒゲの正体、クソヒゲのやったことなどを――事細かに。

「ヴェンツェルが元・グローシアン……だと」

「中々に、とんでもない奴じゃったか……居なくなってくれて、良かったと言うべきか――」

ウェーバー将軍、ガイウス将軍が、ウォレスから聞いた話を噛み締める様に反芻する。

「居なくなった……とは?」

「……我々ランザック王国が、魔法を習うことを条件に、ヴェンツェルを匿っていたことは……皆さんご存知と思います。あの日……エリオット王が王位を奪還された日―――あの日より、ヴェンツェルはランザック国内から、姿を消したのです」

カーマインの問いに答えるハミルトン将軍。

彼女の語る内容は、半ば予想していたことだが――。

「恐らく、何処かに奴のアジトの様な場所があるのだろうな……。一応の目的を果たした奴は、そこに身を潜めた――」

「アジトって、一体何処にあるんだよ?」

「さぁ……それは分からないが……」

俺は俺なりの見解を語る……ゼノスの問いには正直、答えられないのが現状だ。
場所は多分、あの浮遊城だろうが……口惜しいが、それが何処にあるのかは……分からないのだから――。

「いずれにせよ、奴も直ぐには行動出来ないってことだろうさ」

「どういうこと……?」

「もし、奴に何らかの企みがあったとして、直ぐさまソレを実行しないのは妙だ。極端な話、ゲヴェルを倒した直ぐ後にでも乱入されていたら、混乱は避けられなかった筈だ」

ウォレスの言葉に、疑問を問い掛けるルイセ。
そして、ウォレスは自身の見解を述べる。

「確かに、ゲヴェルの軍勢と戦い……疲弊している所を突かれていれば……」

「恐らく、瓦解していたでしょうね……あの時、皆さんがゲヴェルを倒しに向かった時……僕らのところにもゲヴェルの手先が攻め込んで来ました……あの戦いで、兵たちも疲弊していたのですから……」

ウォレスの言葉を聞き、更に言葉を紡ぐカーマインと、ソレに同意するエリオット陛下。

「それをしなかった……或いは出来なかったのか……?」

「うにゅ?よくわかんな〜い……」

何やら半ば納得するように頷くカーマインと……全く分かりませ〜ん!と、首を傾げるティピ。

とりあえず……此処は説明おばさんならぬ、説明おじさんの出番かね。

「つまり、あのヒゲは何かしらの理由から、身動きが取れない状態……或いは、敢えて身動きを取らない状態なのかも知れない……ってことだよ」

「むー……じゃあ、その理由って?」

俺はカーマインの言いたいだろうことを、かみ砕いて説明する。
案の定、ティピが疑問をぶつけて来たので……答えることにする。

「幾つか理由らしい理由は思い付くが……その中で確定しているだろう事項は―――戦力の増強」

「戦力の……増強?しかも、確定しているって……」

「少し気になってな。人に頼んで調べたんだよ……で、とんでもないことが分かった」

俺は勿体振らず、情報を提示する。
リビエラが疑問を尋ねて来たので、独自の人脈を頼りに調べたと答えた。
正確には、ラルフに協力してもらったんだが。

「とんでもないこと……ですか?」

「はい、陛下……以前、ゲヴェルに関する文献に目を通す機会がありまして……その際、ゲヴェルが複数存在することを示唆する記述を見付け、気にはなっていたのですが……」

「おい、まさか……」

エリオット陛下が質問してきたので、『とんでもないこと』を調べるキッカケになった文献について語る。

――本当のキッカケは、あのフード男……ルインの存在からなんだが。

ウォレスが、何かに気付いたのか、驚愕を現にしている……。
まぁ、ゲヴェルと因縁浅からぬウォレスだからな……気付いても不思議は無い……か。
ってか、ゲヴェルが複数とか言ってる時点で、勘の良い奴は気付くよな……。

「調べた結果……見付けたよ。新しい水晶鉱山を……4つな。――しかも、ご丁寧にも鉱山は半壊……中身はもぬけの殻だったらしい」

「マジかよ……それってつまり……」

「ほかにもいた……ゲヴェルが……復活した……」

俺の説明に、驚愕しっぱなしのゼノスとルイセ。

他の面々も同じ様な表情……。

まぁ、事情を知らないだろうガイウス将軍と、ハミルトン将軍は……クエスチョンマークを浮かべていたが……。

ウェーバー将軍は納得している様子…………そういえば、ウェーバー将軍もベルガーさんの傭兵団に居たんだったな……。

「ふむ……何やら切迫した話の様だが、儂らには何が何やら――」

「――ゲヴェルは、かつてのグローシアンたちが、その命を賭して封印した怪物だが……その封印した方法というのが、グローシアン自身を水晶と化し、その中にゲヴェルを閉じ込めるという物だったそうだ」

「だからこそ、水晶鉱山から採れる魔水晶には、微量のグローシュが含まれていて、それがゲヴェルを弱体化させ、束縛していたらしい……」

ガイウス将軍の疑問に答える、ウォレスとカーマイン。

「……ちょっと待ってください……シオン将軍の言葉が真実だとすると……その、ゲヴェルという怪物が……」

「野に放たれた……いや、ヴェンツェルの兵力として取り込まれた……と、考えるべきか」

ハミルトン将軍とウェーバー将軍が、同じ見解にたどり着く。

「もし、そのゲヴェルたちがいっぺんに襲い掛かってきたら……」

「或いは、各国拠点へゲヴェルがそれぞれ襲撃を仕掛けてきたら……」

「ちょっと待ってよ!それって最悪じゃないっ!!」

上からルイセ、ウォレス、ティピだ。
ティピの言う様に、最悪だ。

ハッキリ言って、ルイセの言う様に一気に襲い掛かられる分には問題無い。
4体だろうと、瞬殺する自信がある。

だが、ウォレスの言う様に、4体それぞれが各国に攻め入って来たら――正直、人的被害は避けられそうに無い。

――各国の足並みが乱れた状態では、尚更だ。

「だから、こうして同盟会談を行っているんだろう……手遅れにならない様に」

「カーマインの言う通りだぜ?手遅れになってからじゃ、遅ぇからな」

ティピの言葉に対して答える、カーマインとゼノス。

「とは言え、注意すべきはゲヴェルだけじゃないケドな……」

俺は、更なる情報を提示する。
ヴェンツェル自身の危険性………そして、あのフードの男……ルインについて……。

奴が転生者……とか、語るつもりは無いが。

奴らが保有するだろう戦力……人の成れの果てについて――。

「……と、まぁ……憶測を含めた……俺の提示出来る限りの情報だ」

「フードの男……ルイン……ヴェンツェルの配下……か。俺たちは直接出くわしたことは無いが……」

「『人の成れの果て』って奴は見たことがある……オリビエ湖の地下で出くわした奴だろう?」

「俺は他でも出くわしたぜ?確か……グレンガルとか言うハゲ野郎が使ってた奴らがそうだった筈だ」

俺の言葉に、それぞれ答えるカーマイン、ウォレス、ゼノス。

確かに、カーマイン達があの野郎と出くわしたことは無い。
奴の姿を見たのは……俺とラルフ、ポール、カレン、リビエラだけだったからな。

ウォレスやゼノスの言うことも、間違ってはいない。
どちらも、奴の手に掛かった者達だろうことは、容易に想像出来る。

「俺の私見だが――奴はある意味でヴェンツェルより、厄介かも知れない……」

「そんなに……ですか?」

俺の見解に、エリオット陛下が恐る恐る尋ねて来た。

「純粋な強さ……という意味ならナイツクラスか、それより上だと思いますが……それ以上に、奴の在り方――その思考が危険なのです」

「私もルインという男と対峙しましたが――正直、シオン将軍と同意見です。……強さ云々は分かりませんでしたが、まるで何かが腐った様な眼をして……あんな気持ち悪い目付きをした人間なんて……これまで見たことありませんでした……」

俺の意見に賛同してくれるリビエラ……。
ルインにしろ、ヴェンツェルにしろ、たいした会話とかしていない筈だが……それでも感じるモノがあったんだろう。

リビエラいわく、ボスヒゲよりも、あのクソ野郎の方が質が悪いと……。

「その強さ――奴の能力にしたって、謎が多い……奴はテレポートとは違う瞬間移動術を駆使し、未知の道具を行使する……得体の知れなさ――という意味では、間違いなくヴェンツェルより上だろうな……」

「ルイセのグローシュを奪ったヴェンツェル、そのヴェンツェルに付き従う謎の男……ルイン。そして4体のゲヴェルと人間の成れの果て……か……頭が痛くなる話だな……」

俺の話を聞いて、頭を抱えるウォレス。
その気持ちはよぉーーっく分かる!!

――俺だって頭を抱える問題なんだから――。

だからこそ各国の間に、同盟を結ぶ必要がある――。

奴らが神出鬼没故に――。

「……彼らは、僕たちがゲヴェルとその軍勢……この二つとぶつかり合っていた時に、力を蓄えていたんですね……そして、虎視眈々とチャンスを伺っている――」

「奴らを野放しにはしておけないが――現状、こちらから打って出ることが出来ない。奴らの根城が何処にあるのか……それすらも分からないのだから、どうしても受け身にならざるを得ない……」

エリオット陛下の言葉に続いて、俺も言葉を紡ぐ。
……その内容を聞いて、全員押し黙ってしまう。
そんな中、エリオット陛下が再び口を開く。

「――だからこそ、三国の繋がりを強めたいと思ったのです。彼らは必ず動き出します……その時に、足元を掬われてからでは遅いですから――」

「――エリオットの言う通りだな。今現在、ローランディア、エリオットが王位に着いてからのバーンシュタイン、そしてランザックの三国は、先の戦いで協力し合い……偽王の政権を打倒した。その際、一応の同盟関係を結んではいるが……あくまでも、それは戦時中に決められた物だ。戦争が終わった今となっては、形式上の意味合いが強い」

そう、ウォレスの言う様に、今でも一応の同盟が結ばれてはいるが――あくまでもソレは戦時中のモノ。

噛み砕いて言うなら、ローランディアにしろランザックにしろ、エリオット陛下の王位奪還に力を貸す承諾をしてはくれたが、そこから先――これからも仲良くやろうぜっ!!的な、約束はしていなかった――ということだ。

簡単な不可侵条約や、取り決めはしたらしいが……同盟をするには到っていなかった。

それぞれの国が、戦争やゲヴェルの軍勢により疲弊していたことも、原因にあげられる。

特にバーンシュタインは、二つに割れての戦争だったし、ゲヴェルの住み処から一番近い場所にあったからな……建て直しに時間が割かれたのも、仕方ないことだと言える……。

「……これはアルカディウス王からの書状だ。……陛下は、ヴェンツェルのことがなかろうと、同盟を結ぶつもりだったらしい――」

「こちらもだ。何より、その様な話を聞いて、同盟を蹴る様な真似は出来まいよ」

そう言って、カーマインとウェーバー将軍がそれぞれ、アルカディウス王の書状と、ランザック王の書状を提示する。

――元々、ローランディアもランザックも、同盟に対しては前向きだった。

両国のトップが、どちらも善人だから――というのも少なからずあるのだろうが……それ以上に、先程言った通り各国共に疲弊しているというのが、大きな理由だと思う。

国として幾分弱っている中、一々ツッぱるのは得策では無い……と。

まぁ、ツッぱる理由も無いし……今現在の両国のトップがトップだから、妙な野心を抱くことも無いだろう……。

「――ありがとうございます、皆さん――!」

エリオット陛下は、恐らく心からの礼を述べた。
何より、争い事が好きじゃない方だからな……その気持ちは、いかほどのモノなのか……。
もっとも、この場に居る者達は似た様な気持ちだろうが――。

好戦的な奴も居る、争うことを怖がる奴も居る………それでも、望むのは平和。
そして、戦うことを誓う――正確には、戦う動機はそれぞれ違うのだろうが――目指す場所は同じなのだから――。

――その後、それぞれの書状にサインをし、無事に同盟締結と相成った。

そして、しばしの雑談をした後に会談はお開きになったのだった。

尚、その雑談の一部を語ると……。

「ウェーバー、ベルガー隊長が見つかったんだ!」

「何!?本当かウォレス!?」

探し人が見つかったことに盛り上がるオッサン二人。

「おい、シオン!お前、カレンには会いに行ってんのかよ?」

「最近会って来た……って、この前言っただろうに……そういうお前は、実家に帰ってんのかよ?」

「……いや、仕事が忙しくて……な?」

絡んで来たお義兄様を、逆に凹ましてやったり――。

「おじいちゃん、おじいちゃん!さっき、ウェーバーさんがランザックの英雄だって言ってたけど……アレってどういう意味なの??」

「ふぉっふぉっふぉっ♪それはのぅ?あやつが陛下の危機を救ったことがあっての?」

まるで、仲の良い孫と祖父みたいな会話に興じていたり――。

「これから大変だけど……わたし、がんばるねっ!」

「あぁ……一緒に頑張ろうな?」

「……お兄ちゃん……♪♪♪」

もう、お前ら付き合っちゃえば良いのに……的なピンクオーラを滲ませる義兄義妹。

「貴女……大変そうね。気付いて貰えなくて……」

「!?わ、わかって貰えるんですかっ!?」

「わかり過ぎるわよ……私も……苦労したし……今は……幸せ……だけど、ね?」

「そ、その……どうすれば……?」

――何やら共感を得て、友情を芽生えさせた女性が二人――。

「最近、ポールが厳しくて……少し城下の様子を見てきたいだけなのに……」

「気持ちは分かりますが……彼の心情も察してあげて下さい」

何故か、陛下の愚痴を聞いて差し上げたり――。

と、まぁ――こんな感じだったワケで……。

とにもかくにも、三国同盟は成った――。

後手に廻るしか無い以上、連携だけはキッチリしとかないと……な。

見てろよ……テメェらの思い通りにはさせねぇぞ……。

と、そういえば……。

「アイツらは大丈夫かねぇ……?」

俺は蒼天騎士団の皆のことを考えていた……。
新しく合流する面々……原作通りなら、一癖も二癖もある連中の筈だ。

特に、ラッセルは……何かと面倒を起こしていそうだ……。

『俺を従わせたいなら……俺を屈服させてみろ』

「とか言ってそうだよなぁ……」

「?どうしたのシオン?」

「いや……皆仲良くしてれば良いなぁ……って」

「あぁ………うん、そう……だね……」

俺の言葉に相槌を打ってくれるリビエラに、感謝と愛おしさを感じながら……俺達は帰路に着いたのだった。

***********

Side Out

時間は少し遡る。

同盟会談が開始される少し前……シオン直属の蒼天騎士団の面々――彼らもまた、戦っていた。

……比喩では無く、ガチで。

シオンの不安は、ある意味で的中していた……ということである。

それでは、居残り組の彼らの様子を見てみたいと思う。

***********

Sideオズワルド

シオンの頭……いや、将軍に全てを任せられた俺様は、騎士団のメンバーを連れて、錬兵場にやってきていた。

此処で、新しく入団する面々と合流することになっているからだ。

いわく、癖が強いとのことだが……。

「一体、どんな連中でしょうね?」

ビリーの奴がそう聞いてくる。
まぁ、そりゃあ会ってみなきゃ分からんだろうよ。

ビリー・グレイズ。

赤い短髪で、目付きが少々悪い……盗賊時代からの部下その1。

身長は俺と同じくらいだから……170㎝ちょいくらいか?

性格は卑屈つーか、皮肉屋っつーか……小悪党を【気取る】様な感じだが――性根は悪い奴じゃない。
いざという時に、仲間の為に自分の体を張れる奴だ。

両親は既に他界しているが、叔父だか何だかが居て、何かの本を書いてるとか、何かの研究をしてるって話だ……まぁ、詳しくは知らねーがな。

使う武器は長槍で、確かシオンの将軍から『幸運の槍』ってのを貰って使ってる筈だ。

「いやぁ……段々この騎士団も大きくなってきて……益々気合いを入れなきゃッスねぇ♪」

「……そうだな」

うんうん……と、頷いているのが、部下その2のニール。

ニール・アスタード。

盗賊時代からの付き合いその2。
茶髪のザンバラ髪で、一見すりゃあ良いとこの坊ちゃんに見えなくもない……位には、整った顔をしている。
身長は160後半……って所か?

その性格は……熱血……って言えば良いのかぁ?
気の良い性格ではあるんだが、その熱血ぶりから暴走することもあったなぁ……。

元は没落貴族だったらしく、その強い正義感から正義の味方みたいになりたいと、武者修業の旅に出たそうだが………気付いたら盗賊になってたらしい……。

何でだよ!?って、話だが……さっきも言った様にコイツは暴走癖があるからなぁ……。

何かしらあったんだろう……で、抜け出せ無い内にズルズルと盗賊を続けることになった……と。

武器は双剣……長剣と短剣の中間位の剣を使った二刀流。
今使用している得物は、元々はシャドー・ナイトが使っていた物らしい。

ちなみに、語尾に『ッス』と付けるのが特徴……というか癖。

もう一人がザム。
盗賊時代からの部下その3だ。

ザム……孤児院出身の為にファミリーネームは無し。

目線が隠れる位に伸びた黒い前髪が特徴(シオン将軍が最初にザムを見た時、シュジンコウヘアーとか言ってたが詳しくは知らん)……だったのだが、今は騎士になったので前髪を少し整え、片目の部分が見える様になった。

(シオンの将軍はキタロー……とか言ってたが、やはり知らん)

身長は160後半――ニールと同じくらいだな。

性格は――ミステリアスというか……何というか……。

基本、口数が極端に少ない。
大人しいというか、無口というか……それなりに付き合いがある俺でも、まだ分からない所もあるが――。

何気によく気が付き、気配りしたりもする………所謂、縁の下の力持ちって奴かも知れねぇな。

使う武器はナイフ、剣、ボウガン。
ナイフは投げナイフ……『スローイングダガー』。
近接用の剣は『光の魔剣』という代物らしい。

で、ボウガンだが……『クレインクイン』という代物で、中々の威力があるみたいだな……。

「実際どうなんだ、その辺は?」

「む……俺が見た限りでは、狂犬みたいな奴が一人居るが……後は普通に見えたぞ?」

と、会話しているのがマークとエリックだ。

マーク・ブルース。

盗賊時代からの部下、その4。
灰色の髪を肩の辺りまで伸ばした、目付きの鋭い男。
身長も180ちょいあって、雰囲気的にはシオン将軍……いや、同じインペリアル・ナイトのアーネスト・ライエル将軍に近いかも知れねぇな。

性格は冷静沈着で、自分の限界って奴をよく理解して行動する奴だ。
ただ、情に熱い奴でもあり、仲間の為には限界を超えて気張ったりする。
その際は喋り方も一変する……冷静沈着というよりは熱血系に。

使う武器は竿状斧――『ハルバード』って奴だ。

ちなみに、マークの奴はブローニュ村の出身で、シオン将軍の仲間であるアリオストって奴と同郷らしい。

村を出て一旗挙げようとしたらしいが……盗賊団の頭だった……グレゴリーに何ぞ弱みを握られてしまったらしく、その為に嫌々ながら盗賊団に入ったらしい。

『アリオストの奴、あんなに立派になって……会わす顔が無いな……』

と、言っていたのを聞いたことがある。

マークの奴、だから顔をあわす機会があっても避けてたのか……。

ウォーマーという弟も居るらしいが……やはり、どの面下げて会いに行けば良いのか分からないと嘆いていたんだよな……。

ってか、一応騎士になったんだから胸を張って会いに行けば良いんじゃねぇか?
って、思うんだがなぁ……。

で、もう一人がエリック。

エリック・ウェルキンス。

俺の部下に当たる男――だが、付き合いはさほど長いわけじゃない。
かつての盗賊団で、俺の代わりに盗賊団に入った……いや、雇われたんだったな。

雇われ者だったのだが、グレゴリー亡き後は成り行きで盗賊団を率いていた時期があったそうだ。

しかし、シオン将軍に何度もぶちのめされる内に改心し――真っ向から将軍に立ち向かうために、盗賊団を抜けて修業に励んだとか。

頭をルドルフの野郎に渡したとか何とか……。

で、紆余曲折あって将軍の仲間になったそうだが……詳しくは知らねぇ。

短めの茶髪を、サッと纏めていて――身長は170後半くらいか?

性格は誇り高く、仲間を大切にする様な奴で、仲間を馬鹿にされたりすると黙っていられないタイプ。

シオン将軍いわく、出会った当初はプライドが鼻に付く――三下っぽい奴だったとか……マークやザムの証言もあるから間違いないんだろうなぁ。

モンスター使いという稀有な存在で、特殊な粉を使ってモンスターを操ることが出来る。
今、奴の横に居る飛竜――名前をレブナントと言う――は例外で、粉などを使わなくとも心を通わせているらしい。


……余談だが、マークとザムは……エリックとレブナントに殺され掛けたことがあるらしいのだが……。


まぁ、特に蟠りが無いのは――流石って所か?

或いは、前以て謝罪していたのかもしれねーし。

使う武器は剣――『メイジスローター』という一種の魔剣らしい。

――これまた余談だが、コイツの実力は俺とドッコイドッコイ――つまり同格だったりする。
コレにレブナントが加わったりすると、ちょっと俺でも手が付けられなくなる程になる。

まぁ、実質ウチのNo.2的立ち位置に居る奴だな。

「狂犬かぁ……うん、噛み付かれないように気をつけなきゃねっ!」

……と、ガッツポーズしている女が、エレーナ。

エレーナ・リステル。

蒼天騎士団所属、俺の部下に当たる奴。

茶髪の長髪をポニーテールにしていて、身長は大体……160ちょい位か。

何でも、以前はシャドー・ナイツに所属していたらしく、リビエラとは同期らしい。

で、シオン将軍と敵対したらしいんだが……あっさり負けたらしく……気絶させられて、身ぐるみを剥がされたらしい。

その際、将軍に文字通り惚れ込んだらしく……ずっと探していたらしい。

そんな折、任務中の俺たちと出会い……仲間になったわけだ。

性格は……詳しく語れる程付き合いが長いわけじゃねぇから、何とも言えねぇが……。
リビエラいわく、元気で明るく――ドMらしい。

――意味わからねーよな?

使う武器は長剣の二刀流……『雷鳴剣』って魔法剣の二刀流らしい。

『らしい』ばっかりだが……それだけ付き合いが浅ぇってことだ。
良い奴だってのは分かるけどな。

「っと、来たみたいだぜ?」

俺は複数の気配を感じ、言葉を漏らす――ん?なんで気配とか分かるのかって?
シオン将軍の魔導書『今日から君も大英雄』を読んで修業したからな――つっても、ぼんやりと分かる程度なんだが……。
どうも、俺には【気】という奴の才能があるらしい。
同時期に修業したコイツらは、未だに【気】の感覚を掴めてねぇらしいし……って、俺のことは良いんだよ。

今はやってきた新メンバーだよな……おぉ、結構居るじゃねぇか……。

***********

Side Out

「バルク・ディオニースであります!」

「レ、レノア・ウィルバーです!」

「ラッセル・ウィルバーだ」

「キルシュ・アンフィニール……ヨロシク」

自己紹介をする元・特別第一小隊の面々。
既に支給されていたのか、彼らは蒼天騎士団の制服を身に纏っている。

そして――。

「ウェイン・クルーズであります!」

「マクシミリアン・シュナイダーであります。今回は研修ということで、短い間かも知れませんが……よろしくお願いします」

特別第一小隊とは別に、自己紹介をする青年二人……彼らは蒼天騎士団の制服は着ていない。
身長の高い方の青年――マクシミリアンが言うには、彼等は研修生的な形で、一時的に蒼天騎士団へ配属されることになったらしい。

「俺が、蒼天騎士団団長のオズワルドだ。今回、シオン将軍ともう一人は別の任務についているため、この場には居ないが後で会う機会があると思う。で――コイツらがウチの団員だ」

オズワルドに促され、自己紹介をする団員達――。

(成る程ねぇ……シオンの将軍が言ってた通り、一癖も二癖もありそうな連中だな……狂犬ってのは――あの赤茶けた髪のツンツン頭だろ?ギラギラした眼をしてやがる……あのバルクって奴は――見た目とは裏腹に、中々あたまがキレそうだな……小隊長をやってたらしいし、当然か)

オズワルドは、そんな風に思考を張り巡らせながら周囲を見遣る。

(あの金髪の嬢ちゃん……キルシュって言ったか?……なんか、雰囲気がザムに似てるな………もしや不思議系か……?)

少女――キルシュを見た後、ザムを見るオズワルド――。
どうにも雰囲気が似ているらしい――。

(レノアって嬢ちゃんは、少し緊張してるのか?初々しいねぇ……。ウェインって奴は気合いが入ってるし、マクシミリアンって奴は物腰が柔らかそうだな)

残りの三人――レノア、ウェイン、マクシミリアンについては、さほど癖が強いようには感じなかったらしい。

「さて、挨拶も済んだ所で「オイ」……何だ?」

話を進めようとしたオズワルドの言葉を遮ったのは―――ラッセル。

それを見たバルクは、あちゃー……という感じで顔に手を当てており、レノアはアワアワしている。
キルシュは………ほけーーっとしている。

「お前はあの男の代わりなのだろう?ならば――強いのか?」

「また、ストレートに聞きやがる……あの男ってのがシオン将軍だとして、お前が将軍を基準に考えていると仮定したならば―――俺は将軍程強くはねぇ」

「そうか……それはガッカリ「だが」――?」

挑発的な言葉を投げかけてくるラッセルに、オズワルドは率直に答えた。
ラッセルは落胆を現にしようとしたが、それをオズワルドは遮った。

そして言った――。

「少なくとも、お前よりは強ぇ」

――と。

「―――ほう?」

「俺だけじゃねぇ……ウチの連中は全員、生半可な鍛え方はしてねぇんだ――ガッカリすることはねぇ筈だぜ?」

目を細め、獰猛な笑みを浮かべてオズワルドを見遣るラッセル。
そんなラッセルに、オズワルドは更に言葉をぶつける。

その言葉には『あまり俺達を舐めるんじゃねぇぞ小僧』……といった意味を込めているのだろう……暗に蒼天騎士団のメンバーは皆、ラッセルより強いと言ったのだ。

「なら――試させて貰おうか?誰でも良い……俺の相手をしろ!なんなら、纏めてでも構わんぞ?」

「だからお前はどうしてそう……!」

「本当だよ!お願いだから止めてって……団長さんも、煽らないで止めて下さいよぉ〜!」

それを聞いたラッセルは、その瞳に火を付け……携えていた大剣を抜き放った。

そして、流石にマズイと思ったのか……慌てて止めに入るバルクとレノア――レノアに到っては、オズワルドに批難めいた……泣きっ面で抗議したりしている。

「俺は事実を言ったまでだぜ?それに――こういう奴には、ガツンと教えてやらなきゃならねぇ……毎回噛み付かれちゃ堪らねぇからな」

(正直……気は乗らねぇんだがなぁ……)

口では挑発めいた台詞を語るオズワルドだが、内心では気乗りしていなかった。

オズワルドは、ラッセルの力量を何となくだが把握していた。
気を朧げながら探った結果なのだが――。

オズワルド自身か、エリックなら――真っ向から戦っても勝てるだろう。
エレーナは全く互角――。

だが、マーク、ビリー、ニール、ザムの場合は……正直、一対一ならばラッセルに分があるだろう……と。

しかし、オズワルドは先程言った台詞を撤回しない。

単純な力量だけが、=実力では無い。
ある程度の実力差なら……戦い方次第で幾らでも埋められるのだから。

「まぁ……煽ったのは事実だし、俺が相手するのが筋って奴だよなぁ……」

はぁ……と、溜め息を吐いたオズワルドは、ラッセルとの手合わせに自身が志願したのだった……。

***********

Sideウェイン

「……さて、いつでも良いぜ?」

そう言って、2本の手斧を構えるオズワルド団長――。

「ふん……」

対して、アイツも自分の大剣を構える……。
口では喧嘩腰だったけど、この前シオン将軍に直ぐやられたからか……慎重な印象を受ける。

「……にしても、アイツは懲りるって言葉を知らないのか?なぁ、マックス?」

「……………」

「マックス?」

俺は一緒に派遣されたマックス(マクシミリアンの略称)に声を掛ける……けど、マックスは複雑そうな表情で二人を見つめている。

「マックス!」

「!?あぁ……ウェイン?どうしたんだい?」

「どうしたは俺の台詞だよ……どうしたんだよ、複雑そうな表情をして――」

「いや……何でもない。それより、始まるみたいだよ」

マックスは、そう言って二人の方を指し示す。
確かに、二人がジワジワと間合いを縮めている――。

って、何かはぐらかされた様な――。
まぁ、理由は何となくわかってるんだけど……。

マックスは争い事が好きじゃない……。
っていうか、嫌いだ。
騎士を目指しているのだって、親に対する義理からだって言ってたし……。

だから、誰彼構わず喧嘩を売るアイツと――そんな喧嘩を買ったオズワルド団長を見て、悲しくなったんだろう……多分。

「!!ゼアアアァァァァァッ!!!」

と、言っている側からアイツ――ラッセルが切り掛かった。

アイツの得物は大剣――間合いに入るのは先だ。

「――ふっ!」

ガキイイィィィンッ!!!

だが、それをオズワルド団長は手斧で弾いた。
そう、弾いたのだ……。

「チィッ……シャアアァァァッ!!!」

ガキガキガキガキイィィィィィンッッ!!!

ラッセルの怒涛の猛攻……それをオズワルド団長はことごとく弾く。

アイツの斬撃が遅いのではない。
――現に、俺はアイツとの模擬戦で……文字通り防ぐので精一杯で、手も足も出なかったのだから―――。

だが、オズワルド団長は違う。
圧倒的にリーチが短いあの手斧で、長大で重量のある大剣の攻撃を弾いているんだ――。

幾ら手数が多く出せるとは言え、普通は中々出来ないぞ――。

「剣の軌道を、横から叩いて逸らしてるんだ……つまり、あの団長殿はラッセルの攻撃を見切ってるってことだな……」

「貴方は……」

「バルク・ディオニースだ……改めて宜しくな少年たち」

近くに居たバルクさんが、オズワルド団長のやっていることを解説してくれる。

「……しかも、近付いてるみたいですね」

「え――?」

マックスが指摘した通り……よく見ると、攻撃を弾きながら――ジワジワと……オズワルド団長がラッセルに近づいていってる――。

「チィッ……!?」

ガガガガガガガガギィンッッ!!!!

それに気付いたラッセルは、更に剣速を加速させた……って、やり過ぎだろ!?

「こ、これ……もう模擬戦ってレベルじゃあ……」

レノアと名乗った女性が、顔を真っ青にしている。
それもそうだ……ラッセルの奴、明らかに殺しに行ってる。

実戦経験がほとんど無い俺でも、奴の発する気迫と殺気が異常だとわかる……少なくとも、仲間に対して向ける物じゃない……。

「止めなきゃマズイのに……何でみんな止めないのよぉ……」

「……でも、当たってないという――衝撃の事実」

「ふぇ……」

アタフタするレノアに、キルシュと名乗った少女が指摘する。

そう、あれだけ激しいラッセルの猛攻にも関わらず、オズワルド団長にはかすり傷一つ付いていない。

それどころか―――。

「――あの攻撃の中、更に距離を詰めてやがる……」

ラッセルの猛攻をことごとく弾き、それでも尚……近付いてる。

「クッ……」

ラッセルの表情が、苦虫を噛み潰した様な表情に変わる。

前回――シオン将軍に負けた時は、何のことかわからない内に負けたって感じだった……。
しかし、今回は目に見えてソレが明らかになっている。
だから――焦る。

もう少しで――間合いに……!?

「ふっ!!!」

ガキイィィィィィィン――――ッッッ!!!

「ぬぐぅ――!!?」

オズワルド団長はラッセルの斬撃を、一際強く弾き――。

ギュバッッ!!!

その隙に、何を思ったのか……片方の手斧を投げ付けた……!

「くっ……舐めるナァァァァァァッ!!!」

カキイイィィィィンッ――!!

当然……幾ら勢いがあろうと関係無い、と言う様にソレを叩き落とすラッセル……しかし、隙は出来た。

ザッ!!

「やっと詰めたぜ……小僧?」

あの僅かな瞬間にオズワルド団長は、自分の領域まで一気に詰め寄った様だ……けど。

「見え見えなんだよっ!!」

それに気付かないラッセルではなく、詰め寄ったオズワルド団長にそのままタックルを叩き込もうとして―――。

ブブゥ―――ン!!

オズワルド団長の姿がぶれて――。

「俺様の――勝ちだな?」

気付いたらラッセルの首筋に斧を突き付けていた――えっ、何で……?

「分身か……良い技を持ってやがる」

バルクさんが言葉を漏らした……『分身』って……あの土壇場で?。

「……ああ……俺の負けだ」

ラッセルの奴は素直に負けを認め、剣を鞘に納めた。

「やけに素直だな?」

「負けは負けだ……それはつまり、それだけ互いに実力差があったということ……ソレは噛み締めねばならないだろう」

あんまり素直に負けを認めたからか、拍子抜けした様に理由を尋ねるオズワルド団長。
対してラッセルは負けは負けだ……と、納得した様に話した。

……物分かりが良いんだか悪いんだか……わからない奴だなぁ……。

***********

Sideオズワルド

何はともあれ……とりあえず問題らしい問題も片付いた。

「よし、言いそびれちまったが……さっきの続きを言うぞ?――これから早速、全員で訓練を行おうと思う……」

そう、互いの親睦を深める意味で、訓練を行おうとしていたのだ!

やっぱり、互いにわかり合うには口で語る以上に、共同で何かを行うのが1番だと思うからな!

***********

Side Out

尚、その訓練が中々に過酷で――シオン達が帰って来た頃には――何人かがへばっていたことを明記しておく。

誰が誰――とは、本人の名誉の為に言わないが――。

「ぜぇ……ぜぇ……もう少し……酒を控えるかね……」

「うぅ……難しすぎて……わからにゃい……」

「うぅ……きっつ〜……」

「ははは……士官学校よりキツい訓練って……流石だね……はは、は……」

―――誰が誰とは……言わないが………。

***********

「ティピと!」

「ゼノスの!」

「「ミニミニ!グローランサー!!」」

「in出張版!!」

「本日のパーソナリティは、みんなのアイドル!ティピちゃんと♪」

「みんなの兄貴分!ゼノスでお送りします」

「ハイ、というワケで久々に始まりましたケドも………って、ゼノス?」

「おう、ゼノスだ!最近出番が少ないからな……こうして参上したぜ!!」

「まぁ……本編は基本シオンさん視点だしねぇ……シオンさんがバーンシュタインのナイトになった以上、出番が減るのは仕方ないわよ……」

「そうは言うがなぁ……シオンの奴は結構ローランディアに来てるじゃねぇか……任務とかで」

「それはそうだけど……アレは別件だったし……って、愚痴ってる場合じゃないってば!」

「お、おぉ……そうだったな。で、今回の趣旨は?」

「ほら、今回の本編もそうだけど、キャラが多量に出て来たじゃない?きっと何が何だかわからなくなってる人も居るんじゃないかな〜って」

「つまり、今まで本編に出て来た登場人物のプロフィールを語る……ってワケか?」

「それだと正直、尺が足りないから――誰がどの作品の登場人物なのか――を、大まかに名前有りキャラだけで纏めてみようってさ……」

「要するに、俺たちなら無印グローランサーから……みたいな感じか。ん?ならシオンとかはどうするんだ?」

「ソレは別途オリキャラ枠ということで……ね♪」

「そんなんで良いのか……んじゃ、始めるぜ?」

「ちなみにアタシたちグロランⅠのキャラは省略……って、なんでよぉっ!?」

「面倒なのと……尺が足りないからだろ?此処で紹介されてない奴は、Ⅰに出て来た奴ってこったな」

***********

グローランサーⅡ

ウェイン、マクシミリアン、ローガン、リビエラ。

グローランサーオルタナティブ

リヒター、ラッセル、レノア、バルク、キルシュ。

オリジナル

シオン、マーク、ビリー、ザム、ニール、エリック、レブナント、エレーナ、レイナード、リーセリア、ガイウス、リュクス、シルク、メイリー、シルビア、ルイン、ルドルフ。

「ちなみに、名前だけの登場をした人はカウント外ね?リビエラさんのお姉さんとか、オルタに出て来た宮廷魔術師とか……」

「つーか、オリジナル多いな!?」

「作者いわく、『気付いたらこんなんなってました……』ってことらしいけど……」

「プロットでは違う展開で、こんなにオリキャラが増えることは無かったって話らしいが?」

「キャラが勝手に動くんだってさ」

「――プロットの意味ないだろソレ」

「まぁね……って言うかさ………ルドルフって誰?」

「今回、本編でオズワルドの奴が語っていた……かつての盗賊団の一員で、現在は頭。実はチョロッとだけだが……出て来てるんだよ」

「えっ!?嘘っ!?」

「マジだって……名乗ろうとしたは良いが、邪魔されて名乗りきれなかったケドな」

「それ……名無しキャラと同じなんじゃあ……」

「まぁな……っと、大体こんな所か?」

「うん、余計こんがらがったと思う♪」

「……だよなぁ……本当は事細かに説明したいが……時間が来ちまったらしい」

「あっ、本当だ!みんな、名残惜しいけどお別れの時間になっちゃった……お相手はティピと!」

「ゼノスで、お送りしたぜっ!!」

***********

おまけ

「ところで……homoさんは?」

「あ?あ〜……アレな?俺と似た声で『や・ら・な・い・か?』とか言ってきやがってな……あまりにアレで、悪寒がしたからボコッといた」

「あ〜〜……その、ゴメンね?」

***********

後書き的なアレ。

すいませんm(__)m

仕事が忙しすぎて、中々更新出来ませんでした……。
忘れ去られていないか不安になりつつ……更新です。

あっちの方も更新しておきましたので、宜しければ見てやって下さいませ……。
それではm(__)m



[7317] 第126話―少女の願いと約束と成金―【15禁?】
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:4ba3d579
Date: 2011/12/21 20:17


さて……同盟会談後。
バーンシュタインに戻って来た俺達は、エリオット陛下と別れた後に錬兵場にやって来ていた。

今日、此処で蒼天騎士団の顔合わせがあるからだ……。

「みんな仲良くやっていると良いなぁ……」

「そうですね………本当にそう思います……」

俺とリビエラは、錬兵場に行く迄の間……そんな風に会話をしながら向かって行った。

……まぁ、十中八九――ラッセルの奴が誰かに喧嘩を売っているだろうことは、想像に難くないのだが――。

「オズワルド達なら大丈夫だろうケドな」

「空回りしてなければ良いんですけどね……」

そんなことを言いながら歩を進め、程なくして錬兵場に辿り着いたのだが………。

「―――なんぞコレ?」

俺の第一声がコレだった――。

屍々累々……この状況を表現するにはピッタリの言葉だろう。

別に死んでるワケじゃあない……。
何人かが地に伏しているだけだ―――ボロボロで。

ある者はゼェゼェ息をしながら、地面へ大の字になっており――。

またある者は、頭から煙を出しながら………口からは魂みたいな物がはみ出している……様に見え――。

更にある者は、俯せになりながら肩で息をしていたり――。

「ん?将軍!!お疲れ様です!!」

「おう、ただいま――つーか、何コレ?」

オズワルドが俺達に気付いたので、俺は挨拶と共に状況の説明を求めた。

「いやね?親睦を深める意味で、いつもやってる訓練を全員でやっただけなんですがね……」

「何人か、へばっちまったんですよ」

オズワルド……更に横で控えていたビリーが説明してくれた。
成る程な……よく分かる簡潔な説明をありがとう。

「新入りは殆ど潰れたッス!まぁ……例外はあるッスけど」

そう言ってある一点を示すニール。
そこを見ると、息を乱してはいるが……比較的平然とその場に立っている赤茶けた髪の青年……ラッセル。

そして、『今日から君も大魔導師』を食い入る様に見ている金髪の少女……恐らくキルシュなんだろうな。

――この二人以外の新入りと思われる面子は、皆地に伏している――。

「訓練って……もしかしなくても、シオン式よね?……あのラッセルって奴は何となくわかるけど……あんな女の子がよく耐えられたわね……」

「うん、でも皆やっていたのは初級から中級くらいだし……あの子は魔法系統中心でやってたし……」

リビエラとエレーナがそんな風に話しているが……リビエラよ、俺式訓練法って何ぞ?
確かに以前、俺VS仲間の鬼ごっこ形式の模擬戦……とか、したことはあるが――。

初級〜中級の魔導書なら、さほど無茶な訓練法は記してない筈だし。

なお、城内では敬語だったリビエラだが、今は周りは身内ばかりなので、普通に喋っている。

「それは俺のせいじゃなく、オズワルドの匙加減だろ?」

「そう言われればそうかも……」

「あっ!?シオン様……私、別にシオン様の指導がキツイなんて言ってるワケじゃなくて……!?あの、そのっ!?」

俺が会話に参加し、俺の言い分に納得するリビエラと……俺を批難したと思って、慌てて訂正するエレーナ。

――こんな漫画みたいにワタワタする奴、初めて見たかも。

―――面白いな。
可愛いし。

ぽふっ。

「分かってるよ……そういうつもりで言ったんじゃ無いってことは。ありがとうな……」

なでりこなでりこ♪

「…………はうっ♪」

ボンッ!!しゅ〜〜…………コテンッ。

えー……、俺が何をしたかと言うと……だ。

慌てて謝罪しているエレーナの頭に手を置き――優しく愛でる様に髪を撫で――出来る限り慈愛を込めた笑みを向けただけ……なんだけど。

「……もしかして、わかっててやってる?」

「此処まで威力があるとは思わなんだ……」

ナデポとか、ニコポとか、そんなチャチな物じゃ断じて無い………もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ……。

あれは寧ろナデボッ!!だ……。

まぁ、普段からあの手の類のこと(撫で撫でから微笑み=オリ主コンボ)は、リビエラ達『同盟』メンバーにしかやらない様にしてはいる。

今の自身の容姿が、並外れて美形なのは理解しているし……そんなのがあんなことしたら、どうなるか位は……ある程度予測はついていた――筈だった。

正直……せいぜいアイドルと握手したファンの如く、キャアキャア黄色い声が贈られる程度かと思ったんだが……。

俺のポテンシャルが凄いのか……エレーナの乙女フィルターが凄いのかは分からないが……。

「……今度からもっと自重しよう」

流石に、二次創作のオリ主程の無差別ナデポスキルがあるとは思えないが……年頃の女性にはやらない方が良いな。

……万が一ということもあるし、中には不快に思う人も居るだろうしな……。

俺は幸せそうな表情で倒れるエレーナに黙祷を捧げつつ、そう誓ったのだった。
まぁ、もっとも……。

「……シオン……私も……」

「はいはい……♪」

リビエラ達に対しては、自重するつもりは無いケドな?

「ん……♪」

俺になでりこされているリビエラは、嬉しそうにしている……うむ、漲りそうだ。
まぁ、そこは自重するがね?

つーか、漲る以上に和む。
なんつーか、こっちも幸せになるっつーか……分かるかな?
分かんねぇだろうなぁ……って、俺は誰に聞いてるんだか……。

***********

その後、ズタボロだった面々も回復したので自己紹介。

「インペリアル・ナイトのシオン・ウォルフマイヤーだ。蒼天騎士団は俺の直轄騎士団ということになっている……なので、ちょくちょく訓練には顔を出すと思うが、これから宜しく頼む」

「リビエラ・マリウス――蒼天騎士団所属兼、シオン将軍の副官も勤めさせて貰ってます。みんな、よろしくね?」

他のメンバーは既に挨拶したらしいので、次は新メンバーの挨拶。
つっても、ほぼ滞り無く終わったが――。

「それで、君達は研修ということらしいが――」

「はっ!ローガン教官……じゃなかった!将軍の推薦で……」

「ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします」

ウェインとマクシミリアンが俺に敬礼して答えてくれる……。
成程、ローガン将軍の推薦か――。

「分かった――二人とも、宜しく頼むな?」

「「ハッ!!」」

二人は敬礼で返してくれるが……固いなぁ……って、それが当たり前か。

「そう固くならないでくれ。もっと気楽に気楽に……な?」

「そ、そう言われましても……」

「気持ちは分かるが……団員しかいない時にはもっとフランクに頼む――肩肘張ったのって苦手でなぁ」

「だから、皆さんの雰囲気が……暖かいんですね」

俺の頼みを聞き、苦笑いしているウェイン君。
そして、何故か嬉しそうに微笑むマクシミリアン君。

「まぁ、無理にとは言わないけどな?」

「ど、努力します!」

いや、本当に無理にとは言わない。
軍というのは本来、規律を是とする物。
それくらいは、幼い頃の英才教育で学んでいる。
それでなくても、俺はこの世界に生まれ落ちる以前は企業戦士(サラリーマン)をしていたんだ……上下関係の必要性は十分に理解出来ることだ。

だけどもなぁ……旅暮らしが長かったのもあるが……オズワルド達は俺にとっては、部下っつーより仲間……家族みたいなものだからな。

それが影響してか、基本仲間とはタメ口なんだよな……俺。

例外もあるけど……。

「さて、挨拶も済んだが――皆、疲れてるみたいだし……時間も時間だから、今日はお開きにしようか?」

***********

と、まぁ……そんなワケで――挨拶をしただけで今回はお開きにしたのだが――。

「……で、俺に用があるんだろ?」

「……将軍の魔導書、読ませてもらった……」

「魔導書って……『今日から君も大魔導師』のことか?」

俺の問いにコクリと頷いて肯定する少女……キルシュ。
――皆が解散した後、一人残ったキルシュが話し掛けて来たのだ。

ん?リビエラ?
リビエラには、気絶したエレーナを彼女の部屋に連れて行き、介抱して貰っている。

「……貴方には、並々ならぬ魔導の知識があるって分かった……」

「そんな大層なモノじゃないんだけどな……」

実際、魔導に関する知識については勉強したモノだが……アレに記されている魔法の大半は、俺の異能によりマスターしたモノだからな。

スッ……。

っと、キルシュが頭を下げて来た……って、オイッ!?

「……そんな貴方に、お願いが……あります……」

何処か悲痛な雰囲気を醸し出す、その少女の願いを――断ることなど、俺には出来なかったワケで……。

***********

「あっ……マスター……お帰りなさい♪」

「ただいま……」

キルシュに連れられてやって来たのは、彼女の部屋兼研究室。
そこに居たのは、小さな『部屋』に入った小さな妖精――。

「――あれ?マスター、その人は?」

「今日から、私の上司になった人……」

「シオン・ウォルフマイヤーだ。宜しくな、小さなお嬢さん?」

キルシュに紹介されたので、俺も名乗る。
薄い水色のショートカットの、活発ながら優しそうな雰囲気を持つ小さな妖精が、ビックリした表情をしている。

「って、最近インペリアル・ナイトになった人じゃないですか!?マスター、もしかしなくても大抜擢ですか?」

「……いぇーい」

どうやらキルシュは事情を詳しく説明していなかった様で、妖精の子は驚きつつ喜んでいる。
……或いはサプライズとして黙っていたのかも知れないが……。

つーか、イェーイって……(汗)

「それで、お嬢さんの名前は?」

「あ、すいませんでした!私……マスターに創られたホムンクルスで、トレーネって言います!」

やはりトレーネか……想像はしていたが。

「宜しくなトレーネ?」

「はい!本当は……此処から出て挨拶をしたいんですけど……」

そう言って、申し訳なさそうな顔をするトレーネ。
ふむ……。

「此処って……この小さな家のことか?」

「――コレは『ドールハウス』……ホムンクルスを創る際の試験管であり、寝床でもある……」

俺がトレーネの入っているソレを指摘すると、キルシュから説明が入った。
ドールハウスか……直訳すると人形の家なワケだが……。
辛うじて、家と分かるデザインなんだケド――どちらかっつーと、家と言うより、何かの培養カプセルに近いかも――。

出入口と思われる場所が、透明な何かで遮られているのが、そういうイメージに拍車を掛けているのだろうな……。

ちなみに――俺の学んだホムンクルスに関する知識には、こんなお役立ちアイテムは存在しなかった……つまり、手作りか?

(なお、シオンのグロラン原作知識はⅢ迄であり、Ⅳ以降については全く知らなかったりします)

「コレはキルシュが作ったのか?」

俺がそう尋ねると、キルシュはコクリと頷いた。
……流石はバーンシュタインきっての天才少女……侮り難し……いや、侮るつもりは無いんだけどね。

「で、単刀直入に聞くが……俺を此処へ連れて来たのは、トレーネがそのドールハウスから出れないことと、関係があるのか?」

「……その通り……だったり」

俺の問いに、真剣な表情で答えるキルシュ。
……一応、グロランオルタもやり込んだ俺は知っている……。
トレーネが、普通のホムンクルスでは無いということを――。

「貴方の本……ホムンクルスの生態についても記されていた……」

「確かに、ホムンクルスについても学んだから、初級の方にサラっと書いておいたが……」

あくまで、書いた内容は生態――どういう風に創られ、どういう風に生きるか――或いは寿命についてくらいなんだが……。

「もしかして、寿命か?もしそうなら、俺にはどうしようもないのだが……」

正確には、寿命だとしても手立てはある……んだが、そういうことじゃないんだよな……トレーネの場合は……。

「……違う……けど、似た様なもの―――私のせい、だから……」

「詳しく、説明してくれるか……?」

元来、魔導に関する研究については他者……他の魔導師には公開しないモノだ。

自身の研究を他の魔導師に曝すということは、その研究を盗作され……そいつの手柄にされる可能性もあるし。

多少、後ろ暗い研究をしていた場合、告発される恐れもある。

更に、その研究が有用な場合は悪用される恐れがあったりする……。
アリオストの研究や、サンドラの研究などはその最たるモノと言えるだろう。

アリオストの研究……飛行技術は、モロにグレンガルが利用していたし、サンドラの研究の成果足る、魔水晶からグローシュを抽出した結晶――グローシュ結晶等は、魔導具の触媒として、魔水晶単品より遥かに高い効果を発揮する。

……原作では、やはりグレンガルに悪用されていたしな。

――キルシュにとって、そんな研究の成果と言える、ホムンクルス……トレーネについて――。

コクリ―――。

彼女は頷いた……俺の疑問に、答えてくれる――と。

「マスター……それを言ってしまったら……」

「……良いの。あなたが助かるかも知れないなら――」

心配するトレーネを、母親の様な優しい瞳で見つめながら諭したキルシュ。
つまり――ソレだけの決意で真実を話そうってことだろう……。

心して聞かないとな――。

***********


私は、直属の上司になった――インペリアル・ナイトのシオン将軍に……助けを求めた――。

彼の知識の一端に触れた……宮廷魔術師も真っ青な魔導の知識……その発想の柔軟性……。

……何より、私が誰かに縋りたかった。

私の生み出したトレーネ……私のせいで、生命の危機に陥っているトレーネ……。

助けたい……いつも笑顔で私や、みんなのために頑張ってくれている彼女を……助けたい……。

だから、この人に縋った……。
自分より、豊富な知識を持つだろうこの人に……。

何より―――この人なら助けてくれるって……直感?

だから話した……トレーネの秘密を。

「……ユングの細胞……つまりはゲヴェルの細胞を使って、造られたのが……トレーネだと?」

私は彼の問いに頷いた――。

ゲヴェル―――バーンシュタインに巣くっていた化け物で……元凶。

こともあろうに、私はゲヴェルの細胞……正確にはその手下であるユングの死骸の細胞を使ってホムンクルスを造った……。
それが――トレーネ。

その時の私には、何の功績も無かった……。

人より少し物覚えが良くて、人より少し魔導に秀でていただけ……。

周りは天才少女なんて持て囃したけど……ソレは私にはプレッシャーにしかならず……。

――私は、禁忌を犯した……―――。

「生命力の強い生物の細胞を使えば、生命力の強いホムンクルスが出来る……確かに道理っちゃあ道理だが、それを実行するとはねぇ……しかも、それを成功させちまったとは……」

彼が、感心したような……呆れたような表情でため息を吐いた。

「……確かに、その場限りでは成功と言えた。けれど、やっぱり失敗……結果として、この子を苦しめてる……このドールハウスから出れば、トレーネは一気に衰弱してしまう……でも、ドールハウスに居ても衰弱してしまう……その場凌ぎに過ぎない……こんな副作用を生み出したのも……私のせいだから――」

「そんな……私はマスターに造られて、凄く幸せだったんです!……僅かな間だけど、色んな景色や場所……色んな人たちに会えて……凄く……幸せだったんです」

トレーネはそう言ってくれる……私の弱さが生み出した彼女は、私を気遣かってくれる――。

それが私には嬉しく……そして、辛かった……。

「……あのな、それは失敗じゃなくて……俺達のせい――かも知れない」

「――え?」

一瞬、彼の言葉が理解出来なかった――。
そんな私に、彼は説明してくれる……。

いわく、彼とその仲間たちがゲヴェルを倒した……そのため、ゲヴェルが生み出したユング等の怪物は、生命の供給源を断たれ――死滅するのを待つのみ……なのだという。

ユングの細胞から創られたトレーネもまた、ゲヴェルから生命の供給を受けていたのでは無いか……?
それ故に、衰弱していっているのでは――?

それが彼の見解だった……。

***********


俺は自身の憶測を語ったが……。
オルタの原作に置いて、ゲヴェルは討たれておらず、トレーネの衰弱は単純な副作用だった筈だ……。

しかし、それは原作――ゲームの話だ。

実際、オルタではこのドールハウスの様なお役立ちアイテムなんて出てこなかったし、な。

これは推測だが、ゲヴェルを倒したことにより、トレーネの衰弱は更に加速度的に酷くなったのではなかろうか――?

それ故に、キルシュはドールハウスを作ったのでは――?

あくまで推測でしかないが、可能性は高いだろうと思う。

「だから、トレーネが弱っている一端は、俺らにも責任があるワケだ……それは償わなきゃ、な?」

「そんな!シオンさんが責任を感じること―――ふぇ?」

「……償う、ということは……?」

俺の苦笑混じりの謝罪に、慌ててフォローし……その言葉に疑問を感じたトレーネ……そしてキルシュ。

俺は二人にニカッ!とした笑顔を向ける……イメージはズバリ『ヒートスマイル』だ。

「俺が何とかしてやる!策は我に有り……ってね?」

「……トレーネが……助かる……?」

俺の言葉に呆然となるキルシュ――。
……実際は賭けの要素が強いのだが――ソレは言わない。

「ああ、必ず助けてみせる……今日からなったとは言え、可愛い部下の頼みだからな……叶えてやるのが上司の努めだろう?」

「………っ!!」

「本当に……本当に助かるんですか……私……?」

俺の言葉に、衝撃を受けたっぽいキルシュ……そしてトレーネ。

「おう!このシオン・ウォルフマイヤー……逃げも隠れもするし冗談も言ったりするが……洒落にならない嘘はつかないんだぜ?」

俺は胸を張ってそう宣言する……。

「つまり……洒落になる嘘ならつく……?」

「そうとも言う。要するに冗談なんだがな……って、何を言わせるか何を――」

「フフフ……シオンさんって、変な人なんですねぇ♪私、インペリアル・ナイトの人って厳格というか――もっと怖い人だと思ってました♪」

上からキルシュ、俺、トレーネである……って、変な人は酷くないかね?

「まぁ、俺が変わり種なのは認めるケドな」

「でも……嫌いじゃない……そういうの」

「それは重畳……ってな」

どうやら、彼女らとは良い関係を築けそうだな……まぁ、何より知ってしまった以上……トレーネを何とかしてやりたいしな……。

「それで……どうするの――?」

キルシュが尋ねてくる……どうするってのは、どうやってトレーネを助けるのか……ということだろうな。

「その前に――正直、トレーネは後どれだけ『保つ』?」

「……ドールハウスから出たら、一週間……だけど、このままだったら半年は……」

「……半年、か」

ティピの『可能性』の為の研究……ソレを転用すれば、妖精型ホムンクルスの短命についてはクリア出来る。

……問題は、トレーネが『特殊』なホムンクルスだということだ。

例の研究をそのまま転用しても、何か副作用が無いとも限らない……肉体的な不適合の恐れもある……。

策は我に有り……とか言った手前、案は幾つか有る。

どの案も、賭けの可能性は高いが――。

「タイムリミットは半年……か。十分お釣りがくらぁなっ!やる事は少なくない……キルシュにも手伝って貰うからな?」

「!もちろん……私に出来ることなら何でもするつもり……ふつつか者ですが、宜しくお願いします……」

「………うん、まず何処でそんな仕種を覚えたとか、意味分かってやってんのかとか、ツッコミ所は満載だが……とりあえず三つ指付くのは止めなさい」

「……違った?」

もし分かってやっているのなら、相当アレだし……分からずやっているのなら、まずは常識を教えてやらないとならないな……。

そんなことを思いながら、俺達は計画について話し合った。
……題して『トレーネの可能性を求めて〜青春の滾りと共に〜』!!

いや、題名とか超適当なんですけどね?

ちなみに、トレーネは自分以外にもホムンクルス(ティピ)が居たことを知って、大変喜んでいたことを明記しておく。

***********

その後、俺の計画の内容を話し……互いの理論を持ち寄って内容を詰めたりしたのだが……時間が時間だったので、今日はコレでお開きにさせて貰った。

明日も早いからな?

で、今日はさしたる任務も無いし、書類仕事も数カ月先の分まで片付けてしまっているから、今日の所は家に帰ることにした。

リビエラに帰宅する旨を伝えようと思ったのだが、執務室には来ていなかったみたいだ。

気絶したエレーナの介抱を頼んだから、まだ見ているのかも知れないし……。

「……仕方ないか」

とりあえず、行き違いになるのも酷いから帰る旨を伝えに行くか……。

***********

「……と、思って此処まで来たワケだが」

俺は今、リビエラの気を頼りに兵舎の前までやってきたんだが……リビエラの気配はエレーナの気配と一緒にある。
つまり、まだ看病をしているってことだろう。

――当然ながらエレーナの部屋は女性用の兵舎にある。

女性に限らず、一般兵などはこうして兵舎に住むことになっている。

キルシュの場合は、階級的には一般の魔導兵と同等だったが……その優秀さから特例として個室兼研究室を与えられている。

なので、先程は気兼ね無く訪ねることが出来たのである。

さて、エレーナだが……彼女の場合は騎士見習いであり、立場的には一般兵と変わらない。

エリート的な立ち位置ではあるけどな。

一般兵である以上、個室を与えられることは稀であり、大概が2〜3人単位で括られて生活している。

つまり、エレーナの部屋にはルームメイトが存在する筈であり、何かの拍子で鉢合わせたりしたら非常に気まずい。

まぁ、リビエラが一緒に居る時点で、件のルームメイトは留守であることが伺えるのだが――。

もしルームメイトが在室ならば、リビエラが残って介抱している筈が無いからなぁ……。
多分、夜勤か何かなのだろう……。

まぁ、それが無くとも女の園とも言える女性兵舎に踏み込むのは……立場的にもな?

ん?イリスを訪ねて魔法学院の女子寮に踏み入ったじゃないか……って?

……あの時は、外でマジックボードでハッチャけていた俺をイリスに目撃されて、そのまま一緒にイリスの部屋に行ったワケで………俺一人で女子寮に乗り込んだワケじゃあないんだぞ?

「って、そんなことは良いんだよ……」

問題はこれからどうするか……だ。

――こんなことなら、リビエラにも転移の腕輪EXを渡しておけば良かったな……。

これが昼間なら、兵舎の誰かに取り次いで貰えば良いが……今は大禍時(おおまがとき)――つまり、夕日が沈み切る直前くらいってことだ。

夜中よりはマシだが……この時間帯は夕食を摂る兵士が多い……かと言って、誰も居ないかと言うとそうでもない。

さっき言った様に夜勤の兵もいるワケだからして……。

――これは伝説の蛇さん並のスニーキングミッションをせねばならんか――?

出来ないとは言わない……つーか、見つからない自信はある。
けど、仮にもインペリアル・ナイトがすることじゃないだろう……。

とは言え、何も言わずに帰るのもなぁ……。

「さて、本気でどうしよ「シオン将軍」……う?」

「貴方の魔導書……借りたい……勉強になるから……?……どうした、の?」

俺に声を掛けてくれた少女を見て……俺は言葉を発した。

「グッジョブだキルシュッ!!」

「……ぐっじょ〜ぶ?」

少女――キルシュにサムズアップする俺。
キルシュは分かっていないのか、首をコテンと傾げながらサムズアップを返した……。

そんなんされても可愛いだけなんだが……。

そんなことを考えながら、俺は自身のご都合主義体質に心底感謝したのであった……。

***********

こうして、『今日から君も大魔導師』を数冊渡し、代わりにというワケじゃないが、キルシュにリビエラへの伝言を頼んだ俺は、大手を振って家へ帰って来たのだった……のだが。

「えーと……どういう状況コレ?」

「あの……約束、しましたから……それを果たしに……似合いません……か?」

実家に帰って来たら、メイド姿のジュリアが出迎えてくれた……。
何を言ってるのか分からねぇと思うが、俺も何が何だか分からねぇ……。

頭がどうにかなりそうだ……。

萌えとか、愛らしさとか……そんなチャチなモノじゃ断じてねぇ。

もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ……。

「あ、いや……似合ってるよ。そういや、そんな約束もしたっけな……」

なはは……と、照れ笑いを浮かべるのが、文字通り精一杯だったワケで――。

いや、正直かなりヤバイ――。

此処が我が家の玄関で無ければ、押し倒していたやも知れん……。

「し、しかし……何処でそんな服を?」

「あ、あの……リーセリア様が……」

―――またですか母上……。
俺はグッジョブと言えば良いのか、説教すれば良いのかよく分からなくなっていた……。

いや、心境的にはグッジョブと言いたいのだが―――そんなこと言おうモノなら、母上が天狗になるのは目に見えている。

「けど、それってウチのメイドが着てる奴とは違うよな?」

そうなのだ……ウチのメイド達が着てる服は、典型的なメイド服……長袖、ロングスカートにエプロンドレス……分かりやすく言えば、カレンの服装に近い感じなのだ。

……だが、今ジュリアが着ているメイド服は……何と言うか……。

分かりやすく言うと……メイド喫茶のメイド?
ミニスカ……という程短くは無いが、ロンスカの半分程の丈のスカート。
更には白の上品なニーソ……。

全体的に可愛い感じにアレンジされているって言うか……察してくれ。

それがまた似合ってるから……半端無ぇワケで。

「では、改めて―――お帰りなさいませ……ご主人様♪」

―――あぁ、駄目だ。
今、絶対顔が赤くなってる……。
恥ずかしいんじゃなくて……照れ臭いんだな、うん。

「あぁ……ただいま」

頬を掻きながら、ただいまと言った俺は――凄く幸せを感じたのだった……。

***********

「しかし、よく暇が出来たな?」

こう言っちゃなんだが、元来インペリアル・ナイトってのは無茶苦茶忙しい。
重臣であるが故に、その仕事量もそれに比例する筈なんだが……。

「マイ・マスターのおかげなんですよ?」

「なぬ?」

詳しく話を聞くと、俺が事務仕事をハッスルし過ぎたせいで、ジュリアが本来やる筈の仕事が激減したそうだ。

ライエルや、リーヴス、ポールも事務仕事が減ったそうな。

が、あの三人は領地の管理等もある為、暇になる程では無かったらしい。

だが、領地を持たないジュリアは、兵の訓練や野盗やモンスターの討伐、陛下の護衛くらいで、事務仕事が減った分、暇を作ることが出来たらしい――。

「――それは……すまないことをしたな」

「良いのです。こうして約束を果たす時間が出来たのですから――」

そう言って微笑むジュリアは……非常に綺麗なワケで――。
年甲斐も無く、俺はドギマギしてしまった……まぁ、顔には出さないけどな。

流石に、精神年齢オッサンの俺にしてみれば、そう何度も顔に出していては、何か情けなく感じるワケだよ――要するにちっぽけなプライドって奴だな。

「そうか――」

けど、嬉しいって気持ちは隠し切れなくて――俺は微かに微笑んで返した。

何か良いなぁ――こういう空気というか、雰囲気?

ホンワカした和やかな空気というか――非常に暖かい気持ちになる。
それはジュリアも同様みたいで、綺麗な微笑みを浮かべている――。

顔が赤いのは、乙女フィルターが発動しているからだと思う――。

きっと、今のジュリアには俺が約3割り増し(当社比)で美形に見えていることだろう――。

「じゃあ、今日は泊まっていくんだろう?」

「は、はい……マイ・マスターさえ宜しければ……」

「俺は勿論大歓迎だって♪それに、父上達も喜ぶと思うぞ?」

俺に断る理由なんて無い。
父上達もジュリアには、親戚の子の様に接して来たからな……喜ぶだろう。
ってか、既に父上達はそのつもりだろうし……。

***********

さて、あの後ジュリアを引き連れて父上達のところへやってきたのだが―――。

「どぉ?お母さんのコーディネートは?ジュリアン君……あっ、ジュリアちゃんだったわね♪ジュリアちゃんは凛々しいところがあるけれど、こういう可愛い服も似合うでしょう?シオンもぐわーっと来たんじゃない?」

案の定、母上が調子に乗った―――アイアンクローの一つでも食らわしてやろうと思ったが……。

「そうですね……否定はしませんよ。かなり似合ってますからね……正直、抱きしめたい位ですよ」

と、素直な気持ちを吐露しておいた。
……流石に、子を宿した母を折か……叱るわけにはいくまいよ。

「……そういうことをサラっと言うところは、誰に似たのかしらね?」

「少なくとも、私はあそこまでサラっとは言えん……我が息子ながら末恐ろしい……いや、既に手遅れか……」

「――二人が私をどう思っているのか、よ〜〜っく分かりましたよ――」

そんな人をキチ○イじみた女タラシみたいに……つーか父上、手遅れってなんぞ?

……まぁ、言わんとしたいことは理解出来るけどな……悲しいことに。
そして俺は『ソレ』を受け入れている……成る程、確かにキチガ○じみた女タラシだわな……だが、某キラキラプレイボーイとは違うと信じたい……。

「色々言いたいことはありますが………とりあえず」

「「?」」

俺は横をチラリと見遣り、父上と母上もソレに合わせて視線を向けた……そこには―――。

「そんな……お二人の前で……でも、凄く嬉し……アッ――駄目ですそんなところまで……」

「先ずはジュリアを正気に戻すのが先――ですね」

――そう、そこには真っ赤になりながらも、クネクネ身もだえ……かつ妄想を垂れ流すジュリアが居たワケで……。

「……ジュリアちゃんって、こんな子だったっけ?」

「恐らく、今まで男として振る舞って来たが、これからは包み隠す必要が無くなったことへの反動だろうな。後は……シオンとの関係も、少なからず影響を与えているのだろう……ダグラス卿にも見せてやりたい姿だな」

母上と父上が何か話しているが、スルーの方向で――ってか父上、そんな愉しそうに笑って……ダグラス卿に見せてどうする気だよ?
あれか……確信犯か?

――骨の髄まで母上に毒されてしまったみたいだなぁ………あの凛々しかった父上は何処に行ったのやら……。

等と嘆きながらも、俺はジュリアを正気に戻すのだった。
尚、正気に戻すのに30分程掛かったことを明記しておく。

***********

で、ジュリアを正気に戻した後……俺達は夕食を摂ることにした。

仕事のこと、任務のこと、その他諸々を語りながらの夕食だった。

久々に家族揃っての夕食は、中々に趣のあるモノだったと思う。
尚、ジュリアは姿こそメイドだが、あくまでお客なので一緒に食事を摂った。

いや、本当に楽しい夕食だったさ――で、そんな楽しい夕食も終わり、談笑したりなんぞして――気付けば夜も更けていたワケだ。

これはその談笑の時に出た話題だが、ジュリアが女だった……と、知っていたのは意外にも父上だけだったらしく、母上は何も知らされていなかったらしい。

父上が母上に隠し事をする……と言うのは、本当に意外だったのだが……父上いわく、『ダグラス卿との約束だったからな……』とのこと。

どうやら、ダグラス卿も父上を信頼して色々と相談していたらしく、父上もダグラス卿に色々アドバイスをしたらしいのだが――どうにも、そのアドバイスをダグラス卿は上手く活かせなかった様だ。

まぁ、待望の男子である弟君が産まれたことで舞い上がっていたのだと予測は出来るが……=(イコール)ジュリアを蔑ろにしていいことにはならないだろう。

で、俺もジュリアも父上も、明日は休みでは無く仕事なワケで――今日のところは休もうということになった。

まぁ、此処までは良い。

だが――。

「……これは、あからさま過ぎるだろ……」

「あうぅ……」

大体予想が着くと思うが――俺とジュリアは一緒の部屋で寝ることになった……つーか、俺の部屋だけど。

では何が、あからさまかと言うと――。

・枕が二つある。

・シーツや布団が新しい物に変えられている。
しかもピンク。

・何やら部屋の明かりもムーディー。

と、まぁ……見た目的変化はこの位なんだが。

『それじゃあ……ごゆっくり〜♪』

と、言いながら――母上が含み笑いをしていたのである……つまり、そういうことなのだろう。

――まぁ、両親公認とは言え、こうもあからさまにお膳立てされると……な?

ちなみに、周囲に気配は感じないため、本当に気を利かせただけらしい。

いつぞやの様に出歯亀してようものなら、説教の一つでもかましてやろうと思ったのだが――。

「―――で、どうする?」

「ど、どうするとは……?」

「ん、いや……このあからさまなお膳立てに乗っかろうか……ってさ?」

「っ!!?」

ぼひゅんっ!!

「あ、無理にとは言わないぜ?」

俺は少し冗談じみた風に提案してみたのだが……。
ジュリアは真っ赤になって俯いてしまった……なんか顔から煙が出てる様なイメージだし……ヤバイ、無茶苦茶可愛い。

アレだ……ル○ンダイブを敢行したくなるくらいの可愛らしさだ。

だが、無理強いするのはやはり違う気がするので、やんわりと逃げ道を提示してみたのだが――。

「む、無理じゃありません!!」

「おぉっ?」

そう言ってジュリアは真っ赤になった顔を上げ、潤んだ瞳でこう言った。

「今日は……貴方のメイドですから……約束通り、奉仕させて、ください……」

……あの時言ったのは、そういう意味での奉仕じゃなかったんだが……とか、本当に無理強いはしてないぞ……とか。

言いたいことが全部吹き飛んだ。

いや、まぁ?
肉体的には18で、精神的にも40代と――性欲を持て余すには十二分にお釣りが来る俺だからして、相手が相思相愛の相手であり、嫌がっていない以上――ガンガンいこうぜ!作戦を採用するのは自明の理でありまして―――。

「そこまで言うなら―――奉仕して貰おうじゃないか」

「!は、はい♪ご主人さまぁ……んっ……ちゅぷ……んちゅ……」

……暴走してドSスイッチがONになった俺は、ジュリアの顎に手をやり―――そのまま唇を奪い、深く蹂躙した。

ジョ○ョ的に言えば『ズキュウゥゥゥンッ!!!』って感じだ。

***********

――その後、メイドなジュリアに奉仕されるという状況に、いつも以上にドSな暴走をした俺。

まぁ……正直、鬼畜外道も甚だしい……と、自分でも思うくらいに……いや、酷いことはしてないよ?
多分……きっと……。

ちょろ〜んっと調子に乗っちゃっただけで……。

………で、何時もの様に気絶してしまったジュリアに纏わり付いた汗やら何やらを、綺麗に拭い去ってから……。

俺はベットに横になりながら、しばらくジュリアの顔を眺めつつ、自己嫌悪に陥っていたりしていると―――。

「う、ん……」

「お、気が付いたか?」

なんとジュリアが目を覚ましたのである。
前回は朝までコースだったのに、今回は目覚めるのが早い。

―――慣れたか?

とも、思ったが……よくよく考えたら今回は責めが苛烈だった分、回数は若干自重したのだったな……いや、ジュリアが気絶するのが早かっただけなのかも知れないが……。

「あ……、マイ・マスター……私、また……」

「おう。寝てて良かったんだぜ?」

「……はい。では、そうさせていただきます……」

そう言うや、ジュリアは俺に抱き着いて来た……。
――当然というか、ジュリアは生まれたままの姿って奴なワケで―――そんなんが触れて来たら、オッサン辛抱堪らなくなるワケなのだが……。

そこは流石に自重したさ……。
念のために俺は下着とズボンのみ履いている。
性欲を持て余しまくって、ギンギラパラダイスしている愚息を拘束するためだ。

正直、未だに自己主張しまくりで痛いくらいだが、おかげでジュリアに変な気を遣わせずに済み―――。

「マ、マイ・マスターの……まだ、こんなに――」

――前言撤回。

どうやら俺の愚息は、拘束具を引きちぎった某汎用人型決戦兵器並の暴走モードだったらしく、その自己主張の強さはこの程度では防げなかったらしい。

「良いって、気にするなよ」

「でも……こんなに苦しそうですよ――?」

「って、コラ。摩るんじゃないって!」

何を――とは言わないが、とにかくジュリアに摩られたワケだ。
つーかだな?

「マジで大丈夫だって……コレ以上は明日に差し支えるぞ?……ジュリアが」

こう言っちゃなんだが、愚息もチートな俺は平気だ。
何回ナニしても、全然衰える気はしないからな。

仮に満足するまでやったら……真面目に相手が壊れてしまうんじゃなかろうか?

と、くだらないことを本気で心配していた俺なのだが――。

「だ、大丈夫です!その――マイ・マスターに、し、して戴けると……何故か力が湧いて来ますし……気持ち良くて、温かい気持ちになれるんです……だから――」

「――そう言ってくれると、男冥利に尽きるって奴だが……本当に明日もあるからな……だから、コレで我慢してくれ」

「あっ……」

俺は抱き着いているジュリアを抱き返した。
優しく、包み込む様に。

「コレでも……十分温かいだろ?」

「――はいっ♪」

ジュリアも納得してくれたのか、俺に抱き着く力を強めた。
その数分後……やはり無理をしていたのだろう。

ジュリアは、直ぐさま夢の住人の仲間入りを果たしたのだった……。

「しかし、力が湧いて来る――か。本当に嬉しいことを言ってくれるよな……」

ジュリアが、そこまで俺を求めてくれていたことに、幸せというか、喜びというか――そんな感情を感じ、笑みを漏らす俺。

―――後に、ジュリアの言葉が比喩でも何でも無く、真実であることに気付くのだが……それは少〜し先の話だったりする。

……いや、現段階でもジュリアや……リビエラの気、魔力等が大分上昇していたことに気付いてはいたのだが……。

この時は、日々の修練の賜物だと思っていたのである。

よくよく考えれば、修練なんかしていない筈のレティシアにも、その兆候が見られた時点で気付くべきだったのかも知れないが……。

***********

―――翌日。

朝、早めに起きて日課の鍛練を熟す。
まぁ、朝のエロゲ的展開を回避するためでもあるんだが――。

その後、寝ていたジュリアを起こして軽く汗を流す。

――ジュリアが背中を流してくれると言うので、一緒に汗を流した。

当たり前だが、エロ〜スなことはしてないぞ?
時間が無いからな。

で、家族揃って朝食を摂ったりしてから、仕事に向かった。

ん?朝食時の会話の内容……か?

確かに会話はしたのだが……。

『昨晩はお楽しみでしたね♪』

とかほざく母上を『物理的』に黙らせたり、それに異を唱えてきた父上を『物理的』に黙らせたり――。
ジュリアが真っ赤になっていたりと……会話を楽しむ暇さえ無かったことだけ明記しておく。

ん?母上に折か……もとい、O・HA・NA・SHI☆はしないんじゃないかって?

一応、母体の負担にならない程度に抑えたから無問題。

そんなこんなで戦勝祝賀会まで、あと二日――って、改めて思うのだが……やるのだろうか?
戦勝祝賀会……。

当初こそゲヴェルを打倒し、平和を勝ち取った記念に……と、予定していた戦勝祝賀会だったのだが――。

バーンシュタインは勿論、ローランディアとランザックにもヴェンツェルの危険性は伝えたからな……呑気に祝賀会なんて出来ないかも知れないなぁ……。

……一応、エリオット陛下に確認してみるか。

***********

バーンシュタイン王城・謁見の間

というワケで、俺は陛下に戦勝祝賀会についてお伺いしてみたワケなのだが……。

「戦勝祝賀会は、予定通りに行います」

――という答えが帰って来た。

「確かにシオンの言う様に、本来なら祝賀会など行っている場合では無いのかも知れないが――何処かで節目は付けねばならんだろう……」

そう言うのは、インペリアル・ナイツ・マスターの証である赤の制服を纏った、眼光鋭き男――アーネスト・ライエルだ。

ちなみに、今この場には俺を含めたインペリアル・ナイツ全員が集合している。

「ゲヴェルの傀儡だった我が国だが……我々はそれを打倒した。これから訪れるであろう戦いのためにも、士気を上げておく必要があるだろう?それに、各国の繋がりを強める――という意味合いもある」

そう語るのは、エリオット陛下と同じくらいの背丈の……仮面を着けた少年。

ポール・スタークだ。

最年少インペリアル・ナイトではあるが、その実力は折り紙付きである。

その正体が、前王であるリシャールなのだから、その実力は当然ではあるのだが――。

「それに、コレは君たち――ポールとシオン……それに『ジュリア』のお披露目でもあるし、エリオット陛下のお披露目でもある……言うなれば、新しいバーンシュタインのお披露目でもあるんだよ」

そう語るのは、優しげな微笑を浮かべた美青年。

オスカー・リーヴスだ。

「それは、対外的な意味合いを込めている……と、捉えて良いのか?」

「正にその通りだよ」

そう尋ねたのは男装の麗人―――言わずもがな。

ジュリア・ダグラスである。

ジュリアの言いたいことも分かる。
実際、俺達のお披露目は――文字通りお披露目会で既に済んでいる。

だが、それは僅かな関係者で、内々に行ったモノだ。

――原作ゲーム内の戦勝祝賀会では、お披露目会と大差無い面子だったが……実際は違う。

各国から、王侯貴族が集うことになるだろう……。

まぁ、ローランディアからはレティシア、サンドラ、カーマイン達というのは変わらないだろうが――。

ランザックからはランザック王の代理として、ウェーバー将軍が来るのは確定だろう……だが、ランザックにはウェーバー将軍以外にも将軍が存在する。

老将ガイウス将軍と、若き女傑、リュクス将軍――。

ヴェンツェルへの備えの為、三人の将軍が一緒にやってくることは無いと思うが……どちらかがウェーバー将軍と共にやってくる可能性はある。

で、我等がバーンシュタインは……と言うと、実は1番参加人数が多くなるだろうと予測される。

有力諸侯はまず参加するだろうからな。

そして、魔法学院からも副学院長、関係者であるミーシャとイリスの姉妹も当然参加だろう。

後はカレンと……ベルガーさんも来るだろうな。

「既に招待状は送りました。どの様な方が来るかはわかりませんが……ローランディアとランザック、それに魔法学院からは、参加の意をいただきました。勿論、他の皆さんにも」

「成程――了解いたしました」

陛下の言葉に、俺は了解の意を示した。
まぁ、よく気が付くエリオット陛下のことだから、何かしら考えているだろうとは思っていたし、あくまでも確認だからな。

こうして、俺達はボスヒゲへの警戒と、戦勝祝賀会へ向けての準備のため、更に忙しい日々を送ることになる――筈だったのだが。

***********

バーンシュタイン王城・俺の執務室

「――暇だな……」

執務室の椅子に座りながら、そんなことを零す俺……。
と、言うのも――元来なら山の様にある事務仕事を、既に片付けてしまっているためであったりする。

――勿論、インペリアル・ナイトには他にも仕事は山の様にある。

エリオット陛下の身辺警護、周辺地域のモンスターや野盗の討伐、軍隊の調錬、果ては国の政への参加まで―――本来なら暇になること自体有り得ないのだが……。

「――暇になっちまったんだよなぁ……」

「あはは……優秀過ぎるのも考えモノね――」

と、俺の愚痴に相槌を打ってくれているのは、俺の副官であるリビエラだ。

リビエラの言う様に、チート過ぎるのも考えモノだ。

昨晩のジュリアの言葉通りならば、俺が休日を作る為に奮闘した結果、インペリアル・ナイツ全員の事務仕事が激減したのだから、コレをチートと言わずに何と言う?

……転生前から、コレだけ優秀だったなら……万年平社員なんて不名誉な称号は得なかっただろうにねぇ……。

………いや、あの頃の俺は無気力だったからな。
仮に今と同じ能力があったとしても、大差無かったのかも知れんな……。

と、それはともかく――。

「インペリアル・ナイトとは国の象徴であり、国を守護する盾であり、脅威を掃う剣である――そんな事は、この国に住む者なら、子供でも知っていることだ」

「どうしたの急に……?」

「いや、な?暇だ暇だと言っては居るが、実際は仕事が無いワケでも無いんだよな……蒼天騎士団の調錬、政への参加……休みを取る程の暇は無いが、こう……ぽっかりと空いた時間が出来ちまったワケだ」

国内の野盗の討伐は、少し前にジュリアが行ったし、国内のモンスター退治にはリーヴスが部隊を率いて行った。

エリオット陛下の警護には、ポールとライエルが付いているし……。

さっきも言った様に、ナイツは多忙だ。
陛下の警護が優先される任務とは言え、四六時中付いているワケにはいかない。

ナイツは俺を含め5人居る……言わば、陛下の警護は当番制みたいなモノだ。

そして、今の当番はポールとライエルってワケ。

無論、政………戦勝祝賀会とボスヒゲへの対策についての会議へも参加するし、調錬にも参加するが。

事務仕事にあてていた時間が、ぽっかりと空いてしまった――っつーワケだよ。

「それなら、早めに調錬に参加したらどうかな?」

「そうだな……このまま燻っているよりは良い、か……」

俺はリビエラの提案を受け入れ、騎士団が調錬を行っている錬兵場に向かうことになった――。

「今日は合同調錬だったよな?」

「うん、ベルンハルト将軍直轄の………第8師団第2部隊……だったかな?」

カーク・ベルンハルト将軍。

バーンシュタイン第8師団第2部隊――自称『ロイヤルナイツ』部隊を率いる将軍だ。
貴族階級は男爵。

将軍位を戴いてはいるが、勇猛果敢とは程遠い性格の持ち主。

容姿端麗ではあるが、小心者で傲慢、成金主義の貴族主義者でナルシストだが、悪人では無い。

分かりやすく言うと。

容姿は、銀英○のラインハルトで、性格はアビ○のディストとゼ○魔のギーシュを足して2で割った様な感じだ。

では、何故この様な奴が将軍位と男爵位を戴けたのか……。

親の七光り、という面もあるだろう。
父親は有力諸侯の一人である……まぁ、コレは俺も言えた義理じゃないんだが――。

もう一つは、内政面や知略が優秀だという所だろう。
自称『智将』を名乗るだけあり、用兵術に関しては中々侮れない部分がある。

尚、薄々感づいているかも知れないが、この将軍とその父親は俺やポール……更にはエリオット陛下に対して良い感情を抱いていない連中の一員である。

今回の合同調錬も、俺を……更にはエリオット陛下を潰そうという思惑が見え隠れしている。

「確か、向こうから合同調錬を持ち掛けて来たんだったよな?」

「そう。あの時のことは……正直、思い出したくないわ」

俺が休暇やらで留守にしている間に、リビエラに今回の調錬について言伝をしていたらしいのだが、その際にかなり小馬鹿にする様な態度を取ったらしい……。

――ソレを聞いた時には、私刑の上に死刑にしてやろうかと思ったモノだが……。

「まぁ、オズワルド達が上手くやってくれるだろ……俺だと、やり過ぎちまうだろうからな……ククク……」

「き、気持ちは凄く嬉しいから……落ち着いて、ね?ね?」

と、今の様にリビエラに止められたので、自重したワケである。

俺としても、表立って粛せ……仕置……行動は起こせないからな……表立っては。
ククク……。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

と、リビエラがトラウマスイッチを刺激されて塞ぎ込んでしまったので、そろそろ自重しておこう。

***********

バーンシュタイン王城・第一錬兵場

さて、リビエラを正気に戻した後――錬兵場にやって来たのだが――。

「大方の予想通りになっているなぁ――」

「良い気味……ですね」

金ぴかの鎧を纏った兵が屍々累々……無論、本当に死んでいるワケでは無く、気絶しているだけの様だが――。

「!?シオン卿!!」

「これはベルンハルト卿……まさか御自ら錬兵場にまでお出向きになるとは――」

「そんなことはどうでもいい!!何なのだコレはっ!?」

と、俺にイチャモンをつけてきた見た目イケメンであるこの男が、カーク・ベルンハルト将軍である。

金ぴかの鎧……と言っても、品のある金では無く、何処かくすんだ下品な金……を纏っている。

「はて?コレとは何のことやら……」

「ととと、惚けるなっ!!我々は尋常な立ち合いに臨んだのに、貴公の部下どもは数を頼りに我がロイヤルナイツを蹂躙したのだっ!!見ろっ!!この凄惨な様をっ!!」

見ろ……と、言われてもな……。
確かに金ぴか軍団がボロ雑巾になってるよ?

こりゃあ三桁は居るか?

――所で、蒼天騎士団のメンバーは何人居たっけな?

オズワルド、ビリー、ニール、マーク、ザム、エリック、エレーナ、バルク、ラッセル、レノア、キルシュ――更に研修で来ているウェインとマクシミリアン。

此処にリビエラとレブナントを入れても、14人と一匹だ。

ソレだけの戦力差があったのに、数で負けたとか吐かすこの男。

矛盾も度が過ぎている。

「言ってる意味が分かり兼ねる……数ならば、そちらのほうが圧倒的に多い筈だが?」

「ぐっ……それは……」

コイツはこう言いたいのだろう――『想定していた数より、蒼天騎士団のメンバーが多過ぎる』――と。

恐らく、今回の合同調錬に辺り蒼天騎士団の戦力を調べたに違いない。
この男は鼻で笑ったことだろう――。

その時はオズワルド、リビエラ、ビリー、ニール、マーク、ザム、エリック……それにエレーナしか居なかったのだからな。

だが、用心深いこの男は、手を抜かずに策を巡らせたことだろう。

徹底的に叩き潰せる様に、自身の部隊の――私兵とも言える連中を厳選し、数の暴力で叩き潰せる様に――。

ついでに、エリックのことも調べ尽くしたのだろう。
故に屋外では無く、錬兵場。

屋外ではモンスターを操られ、数の有利を覆される……とでも思ったのかも知れない。

そう、『その程度』にしかオズワルド達の戦力を評価していなかったのだろう……。

結果、見事に返り討ちにあったワケだ。

だが、貴族以外は平民と見下すコイツだ。

オズワルド達の実力を認めたく無かったのだろうよ――故に、新たに増えていた人員……バルク、ラッセル、レノア、キルシュ、ウェイン、マクシミリアンを理由に挙げ――責任転嫁したワケだ。

「それに、尋常な立ち合いとか言っていたが……コレはあくまで合同調錬だろう?」

「そ、それはその通りだが……コレは言葉のあやというモノで……」

「そこから先は、俺らが説明しますよ」

そう言ってやってきたのは、オズワルドを先頭にした蒼天騎士団の面々だ。

「そこの将軍殿は、俺らを挑発してきたんですよ『平民の成り上がりと、高貴なる我がロイヤルナイツとの違いを思い知らせてやる』ってね」

「まぁ、そんな挑発に乗りはしなかったんですがね……若い奴らを除いて、ね」

そう説明するのは、オズワルドとバルクだ。
バルクの言う若い奴らってのは……まぁ、言わずもがなだろう。

「挑発に乗ってこないと見るや、今度はシオン将軍をコケにしてきましてね……『こんな平民を起用するなど、流石は成り上がりの七光りはやることが違う』……でしたっけねぇ……?」

「ソレを聞いて、エレーナを筆頭にブチ切れた……というワケだ。かく言う俺も、少々頭に来たワケだが」

「だって……シオン様のことを悪く言うなんて……自分のことを棚に挙げている癖に……っ!!」

そう語るのはビリー、エリック、エレーナだ。
そういえば、エレーナは元シャドー・ナイツだったな……ならばコイツのことを知っていてもおかしくは無い、か。

「――そこの金ぴかは自信満々にこう言った。『何なら勝負するかね?互いのプライドを賭けて――ついでに貧民である諸君が勝った場合は、褒美をやろうではないか』……と」

「約束だから……貰える物は貰う……ぎぶあんどていく?」

と、語るのはザムとキルシュ。
ザムは、ベルンハルト将軍の台詞部分と思われるヶ所が棒読みだし、キルシュは……意味分かって言ってるのか、小一時間問い詰めたい。

「だ、そうだが……どうなんだ?」

「うぐぐぐっ……お、おにょれぇ……っ!!」

とりあえず、その顔でおにょれぇ……!!とか、言わんで欲しい。
笑ってしまうじゃないか。

「とりあえず、部下の治療はしてやるから……出す物出してとっとと帰れ」

「くっ、くっそぉっ!!これで勝ったと思うなよおぅ!!!」

そう吐き捨てて、奴は走り去って行った……相変わらずだなぁ……。
せめて約束の褒美は置いて行けよ……とか考えてる俺は、ひょっとして酷いのだろうか?

「なぁに、アレッ!?アッタマにきちゃうっ!!」

「俺には滑稽に見えるがな」

そう語るのは、レノアとラッセルのウィルバー姉弟である。
まぁ、気持ちは分からないでは無いが――。

「とりあえず、コイツらを治してやらないとな――グローヒーリング――」

俺は、気を失ってボロ雑巾になっている奴の部下にグローヒーリングを掛ける。

無数の光の柱が、彼等を包み込み――傷を癒していく。

「うぅ……」

「我々は……?」

「気が付いたか?」

俺は、目が覚めた兵達に声を掛ける。
なんだかんだで、オズワルド達はちゃんと手加減していた様だな。
気を失っていた位で、重傷を負った者は居なかったのだから。

――これならグローキュアでも事足りたかもな。

「あ、貴方は……シオン将軍……!?」

「お勤めご苦労様。ウチの連中が頑張ってしまったみたいだが、また相手をしてやってくれ」

ドドドドドドッ!!!

む?

何かが走って来る様な……。

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」

「ベルンハルト将軍……」

と、何やら荷車を引いて来た奴の部下。

「こ、コレが約束の……褒美、だ……」

そう言って、コイツの部下が荷車の物を降ろす。
陳腐な表現だが、そこには金銀財宝が――。

――律儀に褒美の物を取りに行っていたんだろう。

何と言うか、本当に相変わらずだな……。

「い、意識の回復した者は、気を失った者を荷車に積み込めっ!!」

「「「「は、ははっ!!」」」」

コイツに指示された兵達は、直ぐさま行動に移した。

連れて来た兵と、意識を回復させた兵で気を失った者を、報奨を積んで来た荷車に積み込み――。

「あ、あの……シオン将軍……」

「ん?君達は……」

そこには、奴の部隊の兵士……その中でも女性兵士が数人――。
よく見たら、さっき回復魔法を掛けてあげた兵士達の中の数人だな――。

「先程は治療をして戴き、ありがとうございました……♪」

「それで、あの……治療をして戴いた上に、こんなことをお願いするのは……気が引けるのですが……♪」

「あ、あぁ……私に出来ることならば――」

なんか、またフラグ体質が暴走したか……?
と、言う懸念を抱いたが……。

「「「サ、サインを下さいっ♪♪」」」

「――――サ、サイン?」

彼女達が差し出す色紙らしき物を見て、先程の考えが杞憂だったのを理解しつつ――目が点になる俺なのだった……。

***********

「「「ありがとうございましたぁ♪♪♪」」」

「いや、こんなもので恐縮だがね?」

結局、サインくらいなら……と、サラサラッと書いてあげたワケで。

……まさか、この世界でサインを要求されるとは思わなかったが……。

当たり前だが、サインの書き方なんぞ練習していなかったので、普通に書いただけ。

それでも彼女達は喜んでくれたから、良かったのかな……?

「シオン将軍のサイン、ゲットだぜっ!!」

「私、絶対自慢しちゃう!」

……そこまで喜ばれると、照れ臭いのだが。
インペリアル・ナイトのサインだから、欲しい人は欲しいのかも知れないケド――。

ヴァルミエのクレアちゃん辺りは、ライエルのサインとか喜びそうだな―――今度ライエルに頼んでみるか?

「くくっ……ぐぬぬぅ……よ、よくも私の部下たちを毒牙にぃ……!!」

……人聞きの悪いことを言うなってーの。
いつ、俺が彼女達を毒牙に掛けたって言うんだ。

「くっそぅ!!いつかお前をギャフンと言わせてやるからなぁっ!!覚えてろぉっ!!!」

ドドドドドドッ――!!

あからさまな捨て台詞を吐いて、再び走り去る奴とその部下達。

……いや、ギャフンって……。

「あの、さ……?シオンとベルンハルト将軍って……」

「……お察しの通り、顔見知りだよ。昔、城の舞踏会で知り合ってな……それ以来、何かと絡んで来るんだよ」

リビエラの問い、というか、皆が聞きたいであろうことを代弁したリビエラの問いに、俺は答えた。

「幼なじみって奴ですか?」

「腐れ縁って奴だよ……」

レノアの台詞に溜め息で返す俺。
実際、幼なじみという程に付き合いがあるワケじゃない……奴が何で絡んで来るのか、未だに分からんしなぁ……。

「まぁ、奴のことは置いておいて……」

俺は、奴の置いていった褒美とやらを手に取る――。
……ご丁寧に、どれもこれも一級品の宝飾品だ。

魔術的な措置が施された物は無い様で、実戦では使えないだろうが……着飾ったり、金に換えたりする分には良いだろう。

「こうして、臨時収入が入ったんだ……仲良く分ける様に」

「け、けど……良いのかなぁ……」

「確かに……少し気後れするね」

少し気後れしていたのがウェイン、マクシミリアン――それに……。

「うひゃあ……こ、こんな高そうな物……私の給料何ヶ月分だろう……?て、手が震えるわ……」

レノアだった……。

まぁ、気持ちは分からなくは無い――。

ちなみに、騎士見習いになったことで幾らか給金は上がっている筈なのだが―――。

「くれると言うんだから、遠慮無く貰っておくと良いさ。あって困るモンじゃないんだし、な?」

「そうだぜ、将軍の言う通り……良い若い者が遠慮するなよ?」

「……お前さんはもう少し遠慮しとこうや」

俺は思わず、バルクにそう突っ込んでしまった……いやね?
率先して品定めなんてしてたら、突っ込みたくもなるって。

「……将軍は、要らないの?」

「今回、俺は参加していなかったからな……受け取る資格は無いさ」

キルシュが首を傾げて尋ねてくるが……そもそも、金に困ってるワケじゃないしな……。

「それじゃ、私にも受け取る資格はないわね」

そう言って自主的に辞退するリビエラ。

「よっしゃ!そんじゃ、戦利品の分配すんぞっ!!」

「ちゃんと均等に分けて下さいよ、兄貴〜?」

「自分だけ多めに……とか、考えない様に」

「んなことすっかよ!!ただでさえ、将軍が見てるってのに……俺はそこまで命知らずじゃねぇっ!!」

オズワルドの宣言に、ツッコミを入れるビリーとマーク。

それに対して反論するオズワルドだが……。
お前が俺をどう思ってるのか、何と無く分かったよ……。

つーか、俺が見ていなかったら着服する気だったんかい!?

***********

「さて、では戦利品の分配も終わったみたいだし……訓練を再開しようか?」

「了解です!」

「あの程度では、物足りないと思っていたからな……丁度良い」

エレーナはやる気十分に、ラッセルは不敵な表情で答えた。
――存外、皆もまだまだやる気がある様だ。

「よし、なら俺が胸を貸してやる!!多対一の模擬戦をやるぞ!」

「……ち、ちなみに……それはシオン将軍対俺たち……ってコトッスかねぇ……?」

「?勿論そうだが……?」

それ以外に何が有ると?

「もしかして、前にやったアレと同じ奴?」

「そういうこと。チームワークを確かめ、結束を強めるには良いと思ってな?」

「そうね……確かに、皆で協力して事に当たるって意味でも、有効かもね……正直、気乗りはしないけど」

以前、似た様なこと(俺対仲間の模擬戦)をしたことのあるリビエラは俺の説明を聞いて得心がいったようだ――が。

「しかし、流石のシオン将軍でも……この面子を全員相手にしては……」

「そうですよぉ……いくらなんでも無茶ですって!」

と、心配してくれるのはマクシミリアンとレノアだ――。
心配してくれるのは嬉しいのだが……。

「お前ら、シオン将軍を侮っちゃいけねぇぜ?」

「オズワルド団長……」

「シオン将軍の強さはな、化け物じみてるんだぜ?つーか、化け物だ化け物!!何しろ、同じインペリアル・ナイトのアーネスト・ライエル将軍を、御前試合で子供扱いしたらしいからなっ!!」

「――何でお前がそのことを知ってるんだよ?」

あの試験の時、オズワルドはあの場に居なかっただろうに……アレか?人伝に聞いたのか?

「いえね、騎士団長に任命された時に他の騎士団へ挨拶回りに行って……その時に聞きまして」

意外に几帳面な奴だな……もっと大ざっぱな性格だと思っていたんだが……。

「というか、自分の強さに関しては否定しないんッスね?」

とは、ニールの談。

それに関しては、もう嫌というくらいに自覚してるからなぁ……。
まぁ、それで慢心する様なことはしないが……。

「まぁ、勿論俺は全力は出さないが……本気でやるから、皆もしっかりやって貰わないと、怪我するかもな?」

「フッ……望むところだ」

「胸を借りるつもりで……頑張りますっ!!」

「……がんばる」

静かに闘志を燃やすエリック、熱くやる気を漲らせるウェイン、そして小さくガッツポーズを取るキルシュ。

ふむふむ、皆やる気がある様で何より――これは、俺も真面目にやらなきゃなるめぇな……。

***********


と、言うワケで――急遽訪れたシオン将軍対蒼天騎士団in模擬戦を執り行うことになったわけだが……。

「さて、作戦を考える時間を貰ったのは良いが……何か良い作戦はあるか?」

「ふむ……正直難しいねぇ……一見、人数的にはこっちが有利に見えるっちゃあ見えるが――戦場はこの見晴らし良好な錬兵場で……身を隠す場所も無い。しかも、相手は一騎当千のインペリアル・ナイトと来たもんだ……数の利にしたって、一度に切り掛かれる人数は限られてくる――」

「――役割分担をしっかりしたほうが良いでしょうね……無闇に突っ込んでは自殺行為でしょうし……」

俺様の問いに答えたのは、バルクとマクシミリアンだ。
この二人は中々に頭が切れる。
さっきやった、ベルンハルト将軍殿の一部隊との模擬戦でも、この二人の意見も大いに活用させて貰い、大分楽をさせて貰った。

「ちなみに……リビエラの姐さんは今回のコレと似た様なことをしたらしいッスけど……結果はどうだったんスか?」

「――あの時は、フィールドが森林だったりで、状況は少し違ったけど……ダメね。正直、歯が立たなかったわ」

ニールの質問に答えるリビエラ……まぁ、ある程度予想はしていた答えだがよ。

「歯が立たなかった……ですか?全然?」

「そ、全然。その時のメンバーは決して弱くなかったし、シオンも私たちを試していた面があったけど……それでも、ね?」

「試していたって……何を?」

レノアが疑問を口にして、それにリビエラが答えた。
その時のメンバーってのは恐らく、ラルフの旦那や、その弟であるローランディアの騎士であるカーマイン率いる例のメンバーだったのだろうことは、何と無く想像出来た。

ウェインがリビエラの言葉に疑問を感じ、質問した……そして、リビエラはそれに答えた。

「『自分がいなくても戦えるかどうか……』って。シオンの強さって、本当に常識はずれなのよ……オズワルドが化け物みたいって言ったケド、化け物ですら裸足で逃げ出すくらいに強い……って、私は思ってるわ。でも、それは問題じゃないの……それは頼れるものだし、その強さに何度も救われてきたから……。――問題は、私たちがそれに頼りすぎていたんじゃないか……ってこと」

「頼りすぎ……?」

「要するに、私たちは対等の仲間のつもりで居たけど、実際はシオンにおんぶに抱っこだっただけなんじゃないか……って、気付いたのは私じゃなかったんだけどね?」

首を傾げたキルシュに対して、少し砕けた説明をするリビエラ。

「勿論、シオンはそこまで言ってなかったし、対等な仲間だと思ってくれてると思う……でも、私たちがそれに甘え過ぎてないかってね?私たちがシオンを信頼してるように、シオンも私たちを信頼してくれている……そう胸を張って言えるのか……って。だから、私たちも示すことにしたわけ……私たちの『力』と、『心』と――『絆』を。私たちも、ちゃんと戦える……貴方を支えることも出来るんだよ……って」

「リビエラ……」

「結局、その時の模擬戦は負けちゃったけど……しっかり合格は貰ったんだ……。まぁ、今でもしっかり頼っちゃうんだけどね?傍に居てくれるだけで、安心するというか、力が漲る感じがすらから――ね?」

リビエラの言葉に、思わずしんみりしちまう俺ら……エレーナなんか、同じ女だからか、しんみりした表情で頷いていた。

しかし、よく聞くと単に惚気られてるような気もしてくるから不思議だ……。

「――よっしゃ!!なら、俺らも見せてやるか!力と心と……絆ってやつをよぉっ!!」

「よっ、オズワルド団長っ!!俺もやりまっせ!!」

「アニキの言うように……やってみるか」

俺の気合いの一喝に対して、ビリーが囃し立てる様に……マークは静かにやる気を示した。

「しゃあねぇ……まだまだ現役って所をお見せしますかっ!」

「心とか絆など、どうでも良いが……力は示しておくとするか」

「もう、ラッセルったらそういう言い方ばかり……まぁ、今回はお姉ちゃんだって頑張るんだからね!!」

バルクもやる気十分だな……ラッセルの野郎も、レノアの嬢ちゃんもな。

「私だって、シオン様の支えに……なりたい……そのためには、私だって示す……力と、心と……ききき、絆をっっ!!」

エレーナは何を想像したのか、若干テンパってやがるが……やる気は漲ってるな。

「……どうでも良いが、しっかりシオン将軍にも聞こえてたみたいだぞ?」

「………顔が若干、赤くなってるな」

エリックとザムの指摘を受け、全員の視線がシオン将軍に向く。

――確かに若干赤くなってる……様に見えるな。

「……作戦練るのは良いが、同じ錬兵場に居るんだから、聞こえて当然だろ?」

いや……錬兵場の端と端だぞ?
しかも、俺らはさほど大きな声で話していたわけじゃねぇから、普通は聞こえないだろ……。

……やっぱ、あの人は半端ねぇわ……。

「よし、全員集合!!やるからにはマジだ!!シオン将軍に目に物見せてやんぞっ!!」

こうして、俺たちはシオン将軍に模擬戦とは言え、挑んで行くことになった……。
勝ち負けじゃねぇ……コレは言うなら対話だ。

俺らとシオン将軍の、な……。

さて――気合い入れて対話しに行くかぁっ!!

***********



かくして、模擬戦を行うことになったシオンと蒼天騎士団……。

果たして、その結末やいかに?

次回、グローランサーデュアルサーガ――第127話。

【シオンVS蒼天騎士団】

魂を燃やし、ぶつけ合え――っ!!

***********

オマケの袋閉じ的な何か

みにみにぐろ〜らんさ〜

「ティピと!」

「カレンの」

「「みにみに!ぐろ〜らんさ〜!!」」

「みんな〜、元気ぃ?みんなのアイドル、ティピだよ〜!!」

「皆さんお久しぶりですね。カレンです!」

「カレンさんじゃない♪本当に久しぶりだね♪」

「――そうね、本当……久しぶりだものね……」

「カ、カレンさん?」

「私ね……原作に比べたら幸せだと思うの……兄さんは騎士になったし、お父さんは怪我をすることもなかったし……私は毒を受けて生死をさ迷うこともなかったから……」

「あ、うん……そのおかげでアイリーンさんとは疎遠になっちゃったけど、概ねみんな――シオンさんのおかげだもんね〜……って、改めて言うことじゃないけどさ」

「シオンさん……シオンさん……」

「カカ、カレンさん……?」

「幸せだって……分かってる……でも、私だけ……私だけ、シオンさんと…………してない……」

「すす、するって……アレ?」

「……うん、アレ。多分、お父さんに邪魔されなければ……あの時、私だって…うふ、うふふふ……」

「だ、大丈夫だよ!!作者いわく『最初はカレンがメインヒロインだった』って……」

「『最初は』ね……」

「あっ……」

「今じゃ、リビエラさんやジュリアさんが目立ってて……シオンさんの傍に……」

「そりゃあ、あの二人はバーンシュタイン所属だから、同じバーンシュタイン所属のシオンさんと接点が多くなるのは仕方ないよ……」

「シオンさん……シオンさん……シオンさん……」

(カ、カレンさんが病み掛けているぅ〜〜!!?)

「だ、大丈夫だって!!戦勝祝賀会まで、後二日もあるんだから!!きっとシオンさんなら、戦勝祝賀会が始まるまでに、また来てくれるよ!」

「……そうかな?」

「そうだよ!!」

(ティピちゃん……こんな私を心配してくれて……慰めてくれてるんだ……ありがとう……!)←単に落ち込んでいただけ。

(ヤンデレになったカレンさんなんて、見たくないもんね……まぁ、シオンさんなら平然としてそうだけど)←必死に慰めてはみたが、よくよく考えたら惨事にはならないだろうことに気付いた。

「なお、此処にいるアタシたちは本編のアタシたちとは違うアタシたちです。本編の内容にちょろーんと引っ張られちゃうケド、ね?」

「どうしたのティピちゃん?」

「いや、一応誤解されないようにと思って――」

「よく分からないけど……うん、わかったわ」

「おっと、そろそろ時間が来てしまいました♪」

「?まだ、あまり話していないんだけど……時間なら仕方ありませんね」

「お相手は、ティピと――」

「カレンが、お送りしました」

「それでは!」

「また、お会いしましょう♪」

***********

後書きチックな何か。

どうも、神仁です。
仕事が忙しくて更に更新が遅れたことを、深くお詫び申し上げます。

m(__)m

もう忘れ去られているだろうなぁ……と、自覚しつつ、126話……更新です。

それではm(__)m




[7317] 第127話―シオンVS蒼天騎士団―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:4ba3d579
Date: 2011/12/22 16:25


蒼天騎士団とは―――インペリアル・ナイト、シオン・ウォルフマイヤーの直轄騎士団である。

そんな彼らは今、一つの試練に立ち向かうことになった。

彼らの長である、シオン・ウォルフマイヤーとの模擬戦だ。

「よし、じゃあ作戦通りに―――行くぜっ!!」

「「「応っ!!!」」」

団長であるオズワルドの号令に、答えた団員達。

作戦を考える時間を貰い、考えを纏めた様だ。

「どうやら考えが纏まったみたいだな?それじゃ、お手並み拝見と行くか」

彼らを迎え撃つは、件の蒼き近衛騎士の制服を纏った、彼ら蒼天騎士団の統率者――。

シオン・ウォルフマイヤーその人である。

尚、彼の騎士服が通常の紫色をベースにした物と違うのは、『シオンには紫より蒼の方が似合うわ!!』と言う、彼の母であるリーセリア・ウォルフマイヤーの意見に、父であるレイナード・ウォルフマイヤーらが同調した結果、という結構どうでも良いことが理由であったりする。

さて、肝心の布陣だが。

最前衛に騎士団長であるオズワルドと、騎士団最年長であるバルク。

その右斜め後ろにはそれぞれ、ラッセル、ニール、マクシミリアン。

左斜め後ろには、ウェイン、エレーナ、ザム。

中央にはビリー、マーク。更に後方ではリビエラ、レノア、キルシュの魔導師組。

(そして、空にはあのコンビってワケだ)

シオンは空を見上げた。

この錬兵場は吹き抜けになっており、天井という物が存在しない。
つまり、空をフィールドにする者には絶好―――とは言わないまでも、かなり有利に事を運べる地形。

シオンが見上げた先には、高度を保って滞空する大型のワイバーン――レブナントに騎乗する男、エリックの姿が――。

(成る程な、鶴翼陣形の変形か――まぁ、どんな陣形や策を使おうと、俺のやる事には変わりは無い、か)

内心で、しっかり覚悟を固めるシオン。
彼がやろうとしていること――それはある種、無謀とも言える物だったからだ。

それでも、無謀と言い切れないのは――彼故にかも知れない。

「お、動いたか」

オズワルド率いる前衛組は、そのままシオンの方へ攻め込んで来る。

こういう見渡しの良い場所では、奇襲や急襲の類は使えないから、真っ向から挑むくらいしか選択肢は無かったりする。

とは言え、全員で襲い掛かるのは当然だが愚策だ。

これがゲヴェルの様な大型の化け物ならば、10人以上で襲い掛かっても問題無い。

しかし、シオンは実力的には化け物でも、身体的には通常の人間サイズである。
故に、一度に襲い掛かれる人数も必然的に限られてくる。

やり様次第では、どうにでもなることだったりするが――。

「ゼエェェリャアッ!!!」

オズワルドが両手に持った二つのハンドアックスを投げ付けて来た。
手斧の投擲は、オズワルドが得意とする攻撃方法の一つである。

正確に狙った敵を捉える技量は、正直に評価されるべきものではあるが。

(得物を両方とも投げちまうのは――愚策だぜ?)

シオンは内心、それは減点だと評価した。
オズワルドに限らず、投擲武器と近接武器を兼ねて扱う者――他にはウォレス等――は、近接戦と中距離戦を戦える貴重な人材である。

しかし、近接と投擲を兼ねているからこそ、彼らにとっての投擲は必殺の技である――否、正確には必殺でなければならない……で、ある。

必殺の一撃が避けられれば、=それは武器を捨てたことと同義であり、一気に窮地に陥る。

当然ではあるが、原作ゲームの様に投げても投げても手元から無くならない……なんて有り得ないのだから。

もっとも、前述のウォレスには『義手』がある。

失った利き腕の代わりに付けられた物だが、これは俗に言う魔法の義手であり、その組み込まれた仕掛けや魔法の力を利用することによって、普通に殴るより遥かに大きなダメージを相手に与えることが出来る代物だ。

当然ながら、物によっては鉄の剣などより数倍頑丈な物もあるので、盾としても使える。

これに蓄積された戦闘経験から来る技、加えてまだ不完全ながら『気』を操った一撃を放てるので、例え得物を外しても十二分に戦えるだろう。

肝心のオズワルドだが、彼の場合も二刀流――得物が手斧なので二斧流とでも言うべきか――なので、片方を投擲して片方を近接用に残しておくという戦法が取れるため、問題無く戦える。

現に、上記の戦法を使ってラッセルを軽く翻弄していたので、実戦においても中々に有用なのだろう。

――互いに多少なりとも実力差があった、というのも事実だろうが。

しかし、オズワルドは『両方を』投擲したのだ。
それは即ち、近接戦の武器を投げ捨てたことと同義である。

二振りのハンドアックスは回転し、左右から弧を描きながらシオンに襲い掛かる。

だが、弧を描いて襲い掛かる斧を、シオンは前方に踏み込むことで瞬時に回避、その勢いのままにオズワルドへ向かう。

「速っ……!?」

「迂闊だぜ?」

シオンのあまりにも速い踏み込み速度に、分かっていたつもりでも反応が遅れるオズワルド。

そこにシオンはすかさず蹴りを叩き込もうとして――。

「アンタもなぁ!!」

ブォンッ!!

「っと!?」

直ぐさま、それを援護する形でシオンに襲い掛かったのは――バルクだ。

大剣を振りかぶり、それを振り下ろす。

シオンは直ぐさま急停止、バックステップでそれを避ける。

「貰ったぞ!」

「そこだぁっ!!」

バルクの後ろから飛び出したのは、ラッセルとウェイン。
ラッセルは大剣を、ウェインは大鎌を振るう――だが。

ガシッ!!!

「成程な――オズワルドがワザワザ武器を投げ捨てたのも、『誘い』だったワケだ――狙いは良かったけど、遅いぜ?」

「う、動かない!?」

「馬鹿力、がっ!!」

シオンはラッセルの大剣とウェインの大鎌を、素手で掴み止めていた。

それは万力に締め付けられたが如く、二人の動きを留める。

「だが、取ったぞ!!」

「むっ?」

「やああぁぁぁぁっ!!」

「せぇぇりゃあぁぁぁあっ!!」

ラッセルの指摘通り、左右からシオンに向かってくる者が居た。

エレーナとニール、二人の双剣使いだ。

確かに、今のシオンは両手が塞がっている。
このまま動かなければ、一撃を見舞うことも可能かも知れない。

――このまま動かなければ、だが。

「どっせいっ!!」

ブゥンッ!!

「え、ちょ、うわあぁぁっ!!?」

二人の動きを見たシオンは、ウェインをエレーナの方に――。

「そぉいっ!!」

ブゥンッ!!

「ぐ、ぬおぉぉっ!!」

ラッセルをニールの方に、力任せにぶん投げた。

「あっ、ふきゃっ!?」

「ちょっ、まっ、あべしっ!?」

それぞれ、迎撃されたエレーナとニールは、ウェイン、ラッセルと一緒にもんどり打って吹っ飛んで行く――。

「で、続いて挟み打ち――いや、包囲か?」

シオンが周囲を見遣ると、背後に回り込んだマクシミリアンとザム。

前方にはマークとビリー、その背後には詠唱を終えて魔法を放つばかりのリビエラ、レノア、キルシュの女性魔導師組。

そして、左右に回収したそれぞれの得物を構えたオズワルドと、バルクが居た。

上空ではレブナントとエリックが、隙を伺っている。

尚、吹っ飛んで行った四人はと言うと。

「ぐっ、やってくれるっ」

「うぅ、クラクラするッス……」

ラッセルとニールは、ダメージを負いながらも何とか立ち上がり。

「きゃわっ!?ちょ、何処触って――っ!!」

「ごご、ゴメンッ!!わざとじゃないんだ!?」

「うわああぁぁぁんっ!!?汚されたぁっ!!シオン様にも触られたこと無いのにぃっ!!」

「だからゴメンッて――あ、いや、本当に悪かったよ。だから、泣かないでくれよ……」

ウェインはラッキースケベを発動!
エレーナに精神的ダメージ!!

――泣きじゃくるエレーナを見て、ウェインも精神的ダメージ!

この二人はしばらく使い物にならないと予測される。

尚、エレーナの発言に件のシオンも何故か精神的ダメージを受けていたが、決して表情には出さない。

自称、ポーカーフェイスに自信があるだけのことはある。

(さっきの波状攻撃は、この為か。俺をこの状況に追い込む為の布石――まぁ、分かっていてワザとこの状況に追い込まれたんだが――)

追い込まれた筈の状況だが、シオンは不敵な笑みを浮かべている。

更に――。

クイッ、クイッ――。

「遠慮せずに来い。でないと、俺には届かないぜ?」

右手を使って挑発する。
その態度は、余裕に満ち溢れている――が、そこに油断は無い。

「もちろん!全力で行くわよっ!!『マジックガトリング』!!」

「いっけぇっ!!『ファイヤーボール』!!」

「そこ……『ソウルフォース』」

そんな挑発を受けてか、リビエラの無数の魔法の矢群が、レノアの爆炎の球体が、キルシュの深緑の大槍が、シオンに襲い掛かる。

ズガガガアァァァァァンッ―――!!!

それぞれの魔法が着弾し、爆煙を巻き上げる。

「よし、仕掛けるとするか「待てっ!上だっ!!」な、にぃっ!?」

直ぐさま仕掛けようとしたバルクを止め、上空を指し示すオズワルド――そこには。

ドンッ!!

爆煙を突き抜け、上空に飛翔するシオンの姿が――。

「あれだけの魔法を受けて無傷とは……だが、空には俺たちが居ることを忘れるなっ!!」

『グワアァァ!!』

それを迎撃する為に急襲するエリックと、レブナント。

「幾らお前でも、空中ではいなせないだろう?――やれっ、レブナント!!」

『ゴアアァァァァァッ!!』

エリック達に向かって飛翔するシオン目掛け、レブナントは極大の火球を放つ。

「――そうでもないさ」

ズガアァァァァァンッ!!!

地上から爆音が響く――。

それを嘲笑うかの様にニヤリと笑ったシオンは、火球が当たる瞬間にそれを『かわした』。

そう、避けたのである。

「なっ!?馬鹿な!?」

その驚愕は至極当然――人は空を飛べない。
それこそ、エリックの様にモンスターの力を借りるか、アリオストの発明品の様な補助を受けない限り――。

だが、現実にシオンはレブナントの剛火球を空中で避けた。

そして。


「悪いが――落とさせて貰うぞ?」

シオンはエリックの上空を取り、左手の拳を天空に向けた。

(な、なんだ?何をする気だ?)

エリックにはシオンの考えが読めなかった。
上空を取られたところで、自分の有利は覆らない。

さっきは運良く避けられたが、今度はそうはいかない――と。

(――本当にそうか?)

ふと、エリックは考えを改める。

運だけでは説明出来ない何かを、シオンはしたんじゃないか?

運などと言う不確定要素だけで、不可避の攻撃を避けることなど出来るのか?

答えは――否。

(そうだ、俺は嫌という程見て来た筈だ。コイツの非常識さって奴を――油断するな。眼を逸らすな!)

気を引き締め直し、シオンの一挙手一投足を見逃すまいと見遣るエリック――。

だが――。

「ハッ!!」

ドンッッ!!!!

「なっ!?」

シオンの左拳から、極大の波動の様な物が放出されたかと思うと、次の瞬間にはエリックの目前にまで迫っていた。

「悪いな」

「ゴ、ハァッ……!!?」

エリックが気付いた時には、既にシオンの右拳が鳩尾に減り込んでいたのだった――。

「ちょいさっ!!」

ドゲシッ!!

『グギャッ!!?』

更に丁寧にレブナントもろとも地面に向けて蹴飛ばす。

混濁する意識の中、大地に向かって落下するエリックが見た物は……。

地表にぽっかりと空いたクレーターだった。

(……どうりで……音がデカすぎた……わけ、だ……)

シオンがレブナントの火球を避けた時、地表から爆音がこだました。

エリックは当初、ソレをレブナントの火球が地表へ炸裂した時の音だと思った。

だが、実際はシオンがレブナントの火球を避ける為に使用した技――『オーラバスター』が炸裂した音だった。

違和感は感じていた様だったが、空中で攻撃を避けられたことの方に衝撃を受け、その違和感をスルーしたらしい。

納得した表情を浮かべつつ――。

(それにしても――こうもアッサリ、やられるとは……俺も……まだまだ……未熟……)

どこと無く悔しそうにしながら、エリックはその意識を閉ざしたのだった……。

『ギャウッ!』

蹴り飛ばされはしたが、しっかり加減されていたので、体勢を立て直して落馬ならぬ落竜しそうになったエリックを庇う様にリカバリーし、地面に着地するレブナント。

(上手く着地してくれたか。計算通りとは言え、間違って大怪我されたら眼も当てられないしな……まぁ、いざとなったら回復魔法という手もあるが)

レブナントを蹴り飛ばして勢いを殺し、自由落下をしているシオン。

エリック達の無事を確認し、内心安堵していたが――。

「ぬ?」

「いっけぇっ!!」

「……マジックアロー」

ズドドドドドッ!!!

狙い澄ました様に、レノアとキルシュのマジックアローが襲い掛かる。

「なんとぉっ!!」

右拳のオーラバスターを、右の空に放って左に避ける。

しかし――。

「げっ!?」

そこには、待っていましたとばかりに魔力の蝶の群れが待ち構えていた――。

「――いきなさい、マジックフェアリー!!」

(リビエラ――!?って、この面子の中でマジックフェアリーを使えるのは、俺以外じゃリビエラだけだが)

待ち構えていたフェアリーが一斉に襲い掛かる。

「けど、当たってはやれねぇな!!」

ゴオォォォォッ!!!

しかし、シオンは空いていた左手で更にオーラバスター。
ブレーキを掛けるのと同時に、気の奔流が襲い来るフェアリーの群れを撃墜。

「ソレは――予測済みよ!」

「なっ!?連続魔法【ダブルスペル】だとぉ!?」

撃墜されることを読んでいたリビエラは、ほぼタイムラグ無しに次の魔法――マジックガトリングを放った。

両手で左右にオーラバスターを放ち、宙に固定されているシオンには避ける術は――無い。

(無防備に喰らう訳にはいかんな……)

シオンは直ぐさま左右のオーラバスターを掻き消し、体勢を整える。

「さて、と……」

(オーラバスターは、若干溜めが必要な技だ。ウォレスが使っていたソレは、十数秒単位の溜めが必要だった。俺は気を完全に扱えたから、タイムラグが少なくなっているが――それでも、コンマ何秒の溜めは必要だ……俺が何を言いたいのかと言うと)

「避ける暇が無いなぁ、ってことで」

ズドドドドドガガガアァァァァァンッッ!!!

数百に及ぶ矢群の直撃を受けたシオンは、観客席にまで吹き飛ばされ……激突した。

正確に言えば、本来のシオンなら『避けられる筈』の攻撃だったのだが――無謀な決意の代償が、『避けられる筈』の攻撃を避けられず、『ダメージにならない』攻撃に、ダメージを受けることに――なった。

***********


「やったか!?」

いや、やっちゃマズイだろ?
俺はバルクに内心そうツッコミながら、土煙にまかれた将軍を見遣る。

――俺の見間違いじゃなければ、リビエラのあの魔法が直撃する瞬間、将軍はしっかり防御していた様に見えた。

贔屓目かも知れないが、シオン将軍ならあの気合い砲を使って避けられたんじゃないか?

それをしなかったのか、出来なかったのか――それは定かじゃねぇが。

……これって、シオン将軍の気が抑え込まれていることと関係あるのかねぇ?

あるんだろうなぁ……。

「で、そっちはどうだ?」

「大丈夫、気を失ってるだけみたい」

やっぱりな。

さっき落下してきた、エリックとレブナントをリビエラに診てもらっていたんだが、エリックは気を失ってるだけで目立った外傷は無く、レブナントに到っては軽く蹴り飛ばされただけの様だ。

目に見えて加減されてるわな。

シオン将軍は、その気になれば素手で岩石を粉々に出来るからな。

……本人は『多分、大地もバックリ砕けるんじゃね?』
とか、うそぶいていたけどな。

多分、さっきの気合い砲も思い切り手加減されている筈だ。

最初に放った一撃は、地表をえぐり取るくらいに強烈な物ではあったが、俺らに当たらない様に放っていたし――。

他の気合い砲は、更に威力を弱めていたらしく、その砲撃は途中で萎んで消えていやがったしな。

まぁ、手加減していようが、あのシオン将軍だからな。
あれだけの魔法を喰らっても、無傷なんだろうことは容易に予測できる。

「痛つ〜……ったく、容赦無いなぁ」

ほら、な?
土煙から出て来たシオン将軍は案のじょ……う?

「俺じゃなければ、死んでいたぞ?」

そう言いながら姿を現した将軍は、なるほど確かに無傷だ。

だが、それは将軍の着ている制服についての話だ。

土埃で汚れてこそいるが、制服には傷一つ付いていない。

それだけあの制服が頑丈だってことだな。

問題は将軍が自身に使った魔法だ。

シオン将軍は土煙から姿を現す瞬間、自身にある魔法を掛けていた。

それは、『キュア』――初級の回復魔法だった筈だ。

筈だ……って言うのは、俺自身が魔法に関してさほど精通してるわけでもねぇからなんだが。

もし、あれが『キュア』だったなら――少なからずシオン将軍はダメージを受けたってことになる。

益々もって分からねぇ。
一体、何の為にそこまで加減する必要があるのか。

「まぁ、それでも格段に別格の相手であることに違いは無い、か」

いくら手加減してくれてるとは言え、それによる油断を見逃してくれる程甘い相手じゃねぇ。

気を引き締めて掛からねぇとな。

***********


あ〜、焦ったな……。

よもやリビエラの魔力があれだけ上がっていたとは――正直、予想外デス。

ルイセ程では無いにしろ、単純な魔力の量と強さは訓練された日食のグローシアン並にあるんでは無いだろうか?

しかも連続魔法まで覚えているとか。

幾ら気を使った身体強化を使わなかったとは言え、やはりダメージは避けられないか。

寧ろアレだけの魔法を喰らっても、最低限のダメージしか喰らわなかった自身の肉体の頑強さに驚嘆すべきか?

――そう、俺は自身に枷を強いた。
気を使った身体強化を、一切使わなかったワケだ。

何故そんなことをしたのか?
自分の鍛えた力を、純粋に試してみたかったというのもあるが、1番の理由はルインの野郎に対する為の対抗策――みたいなものだ。

アイツは、様々な消費アイテムを創造する能力を持つ。

奴は俺の知っていたアイテムは勿論、俺の知識に無いアイテムまで使って来た。

ならば、それらのアイテムの中に、気や魔力を封じる類のアイテムが無いと言えるだろうか――?

よしんば、そういうアイテムが無かったとしても、だ。
奴の能力はそれだけでは無い。

ロマサガシリーズの技や術――それらを行使出来るらしい。

――幸い、あのシリーズには気という概念こそ存在するが、気を封じる類の技や術は無いだろう。

だが、それが奴の能力の全てと考えるのは早計だと思う――。

他にも何か能力を持っているかも知れない――。

故に、気や魔力を使わずにどれだけのことが出来るのか、試してみたかったというワケだ。

まぁ、オーラバスターは使っちまったけど……アレンジ技能も試してみたかったし……。

何より、エリックとレブナントは早めに潰しておきたかったから、な。

ちなみに、そのオーラバスターのアレンジ技――その名も『オーラブースター』と言う。

まぁ、端的に説明すると威力を弱めて、砲撃では無く飛行手段として応用した技。

もっとも、自由な飛行が出来るワケではなく、技の性質上どうしても軌道が直角になってしまうか、曲がれても小回りが効かない点と、元の技が技なだけに、技を放つ際にコンマ何秒だが、若干のタイムラグが生じてしまう点が欠点と言えば欠点か。

ある程度、軌道を修正しようとすると、どうしても両手を使うことになってしまう。

故に、武器は持てないし、魔法も使えなくなる。

ハッキリ言って、アリオストの作ったマジックボードの方が何倍も使い易いし、汎用性がある。

ちなみに、元ネタは某マフィアの10代目だが、発想としては龍玉の主人公の少年時代。

ほら、か○は○波で飛んでいたからね、彼。

せっかく気が使えるし、俺にも似たようなことが出来ないかなぁ……と、試しにやってみたら出来たってワケさ。

最初は少年時代の○空の体重が軽かったから出来た芸当だと思ってたけど、よくよく考えたら龍玉以外のキャラでも、似たようなことをしていた奴はそれなりに居たし――だったら、俺に出来ない道理は無いだろう?

――いや、無茶苦茶な理屈だってことは理解してるが――出来ちまったんだからしょうがねぇだろう?

と、そんなことより、だ。

今は目先の模擬戦に集中しよう。

多少ダメージは受けたが、直ぐに回復したし――そのおかげで包囲網を抜けることも出来たしな。
まぁ、抜ける必要は無かったんだが。

仕切直しという意味で、な?

「さぁて、と」

俺は崩れた観客席から、こちらを見上げている皆を見下ろして――。

「反撃開始だ」

ニヤリと不敵に笑い、臨戦態勢を整える俺。
無論、気や魔力を駆使するつもりは無い――多少の無茶は出来ることが分かったからな。

いつも通りの『全力は出さないが本気を出す』精神で――。

「行くぜっ!!」

油断はしない――自身の身体能力だけでも、ある程度の無茶を出来ることが分かったとは言え、枷を強いたことで少なからずダメージを受ける様になってしまったのだから――。

***********


「行くぜっ!!」

そう宣言したシオンは、観客席から跳躍。
一同に襲い掛かった。

「ちっ、考える暇も無ぇか――迎撃だ野郎ども!!プランBで行くぜ!!」

「「「応っ!!!」」」

一同に発破を掛けて迎撃に打って出るオズワルドと、それに追従する団員たち。

「今度は外さんっ!!」

「せりゃあっ!」

最初に襲い掛かったのは、先程シオンに投げ飛ばされたラッセルと、そのラッセルと激突したニールだった。

「悪いが、こっからは少しマジだぜ?」

シオンは一同に向かいながら、一本の大剣――クレイモアを取り出し、一気に駆ける。

そして、ぶつかった。

「うおおおおぉぉっ!!!」

「ウリャアアアアァァァァッ!!」


ラッセルとニールは、息もつかせぬ連続攻撃をこれでもかと繰り出す。

ただひたすらに、斬る、斬る、斬るっ!!!

しかし、その高速の斬撃をシオンはその手に持つクレイモアで、涼しげな表情を浮かべながら捌き、掃い、受け流す。

「これならばっ!」

「でやあぁぁ!!」

そこにマクシミリアンと、使い物にならない状態から復活したウェインが加わる。

大剣と双剣の乱舞に、長剣と大鎌も加わって――まるで嵐の様に剣戟が乱れ跳ぶ。

だが、それでもシオンを留めることは出来ず――。


前後左右、縦横無尽に動き回る4人に対して、シオンは前に進みながらも、円を描く様に陣取りつつ迎撃していく。

「くっ、四人でも止まらないか?」

「仕方ねぇ……俺たちも行くぞっ!!」

「こうなったらヤケクソよっ!!!」

尚も進撃するシオンを見て、マーク、ビリー、そして使い物にならなかったエレーナもソレに加わる。

ちなみに、エレーナは涙目で若干ヤケクソ気味だったことを明記しておく。

ビリーの長槍、マークの竿状斧、そしてエレーナの双剣――その攻撃は怒涛の勢いであると同時に、シオンの進撃を阻む為の投石となった。

七人の全力攻撃――それによる波状攻撃によって、さしものシオンも足を止めざるをえなかったのだ。

これが普段の彼なら、或いは相手がただの雑兵であったなら、話は違ったのかも知れない。

しかし、今の彼は枷を強いた状態であり、相手も彼が指導し、成長してきた面々なのだ。

「くっ……止められたか。けど、俺にはまだ一撃も当たっちゃいないぜ?」

言いながらも、シオンは自身の領域に入った攻撃を、掃い、逸らし、叩き落とす。

『制空圏』

奇しくも、自身は紛い物しか扱えなかったソレを――教えた友からラーニングして体得した、武の真髄。

それによって、七人掛かりにも関わらず、シオンに攻撃をいなされ続けている。

「行って――マジックフェアリーッ!!」

更に、リビエラによる魔力の妖精がシオンの頭上から襲い掛かるが――。

「当たるかよっ!!」

それすらも、また――叩き落とされる――。

まるで、円形のドームを形成するかの様に、攻撃を寄せ付けない――だが。

「今だっ!!」

「「バインドッ!!」

「う、ぉっ!?」

オズワルドの指示に従い、キルシュとレノアによるバインドが行使される――周囲は疎か、上空からも攻撃を受けているシオンに、真実避ける術は無く、魔力の蔦にその足を絡め取られる――。

「チャンスッ!!」

「貰ったあぁぁっ!!!」

絶好の好機を逃さぬ様、一斉に襲い掛かる蒼天騎士団の面々。

(ちょっ、これはマジでヤバい……)

これには流石のシオンも内心で焦りを見せる。

気や魔力を封じた状態でも、バインド単体を強引に打ち破ることは可能だが、重ね掛けされたとなると話は違ってくる。

重ね掛けされたバインドは、がんじ絡めにシオンの足を搦め捕り、その神経を麻痺させる。

しかも、重ね掛けされたことで、シオンはより強固に――大地に縛り付けられることになった。

流石にシオンでも、気も魔力も無しにこの強固な呪縛を打ち砕くのには、多少の時間を有することになる。

だが、その多少というのが致命的で、少なくとも蒼天騎士団メンバーの攻撃が届く前にバインドを打ち砕くのは―――不可能に近い。

(冗談抜きで死ねるな、こりゃあ……)

内心、冷や汗ダラダラのシオン。
一斉に襲い掛かるのは愚策と表したシオンだが、今現在下半身の動きが全く取れない状態のため、その言は撤回せざるを得ない。

しかも一斉に襲い掛かると言っても、蒼天騎士団のメンバーはしっかりと波状攻撃を仕掛けて来ているので、互いに邪魔になったりせず、スムーズに攻撃を行うことが出来ている。

そのうえ先程、少なからずダメージを受けることをシオンは理解した。
故に、これだけの一斉攻撃を受けて、無事で居られる筈が無く―――しかも、全員が全力投球ときている―――このまま気も魔力も制限した状態だと冗談では無く、死は免れないだろう。

――普通のやり方ならば。

「うおおぉぉぉぉっ!!!!」

ドガガガガガガガガガガッッ!!!!

「ぬぉっ!?」

「な、なんだぁっ!?」

咆哮一声――シオンは縛られていない上半身を動かし、前後左右の地面に――何処からとも無く取り出した無数の『何か』を投げ付けた。

それは――武器。

剣から槍――斧、杖など――実に様々なバリエーションの武器の数々であった。

それらが攻勢に出ていた蒼天騎士団の勢いを寸断、彼らの足を止めた。

「この武器は……」

「コレは、シオンの……」

「そう、俺がこれまでに手に入れてきた武器達だ」

シオンはメンバーの疑問に答えた。
シオンを護る様に大地に突き刺さったそれは、今までの旅でシオンが手に入れた武器達だった。

時には遺跡に潜って入手し、時には商人から購入し――時には自身で魔導具として製作したそれら――。

硬き物ならばその切れ味を増し、柔らかき物には切れ味を鈍らせる魔剣。

戦場を自ら駆け巡るという血に餓えた、炎の力を宿した魔槍。

血に塗れ、数多の命を奪って来た真紅の大戦斧。

そして――自身の体力がそのまま頑強さと、切れ味に直結する魔剣。

他にもあらゆる武器が、大地に突き刺さっている――。

「これだけの武器を……一体何処から――?」

「それは――ココからだ」

マクシミリアンの疑問に答える様に、シオンは腰に付けたポーチから、白く輝く大弓を取り出す。

明らかにポーチの許容量を超える物である。

「コレは旅人の必需品、『道具袋』の一種だ。かつて大賢者と呼ばれたアルヴィースが作り出した物らしい。コレは道具袋の出し入れ口を、異次元空間と繋げることにより、ほぼ無限と言っても良い収納量を実現した画期的なアイテムでな?かつては、それこそ道具袋!!って形をしていたが、研究を公開したアルヴィースの判断により、様々な研究者がコレを研究して、色々な形の物が作られて来たワケだ。もっとも、コレを作れる力量のある魔導師自体が少ないから、高級品であることに変わりは無いんだけどな?」

ちなみにカーマインも持ってるぜ?
と、付け加えるシオン。

思わず、その事細かな説明に聴き入ってしまう一同。

だが、シオンの魔力の流れをいち早く察知したリビエラは気付く――。

「これは――!?みんな「遅い」っ!!?」

パキイイィィィィンッッ!!!

リビエラが皆に警告するが、時既に遅く――シオンは自身を縛る呪縛を破壊した。

そう、シオンはバインドを破る為の時間を稼ぐ為に、敢えて事細かな説明をしていたのである。

これが実戦なら――真に敵対する相手ならば、彼らはこんな時間稼ぎに引っ掛からなかったのかもしれない。

だが、これが模擬戦であり、良くも悪くも相手がシオンだったことで、彼らに油断を生じさせたのだった。

「しまっ――」

「遅いと言ったぞ?」

そう言うや否や、シオンは手に持つ白い大弓――天弓を引き放った。

『天弓』――シオンが作り出した、魔力の矢を放つことを可能にした弓。
この弓は、使用者の魔力を効率良く還元し、攻撃手段として放つことが出来る。

魔導を学んだことが無い者でも、魔力自体は存在する。

天弓はそう言った者でも扱える様に作られており、少ない魔力でもマジックアロー並の威力の矢を数百以上は放てる。

また、篭める魔力量によっては砲撃と見紛う一撃を放つことが可能であり、一軍を薙ぎ払うことも不可能では無い。

もっとも、シオンの全力の魔力には耐え切れないので、現在進行型で色々と改良されている。
それ故に実戦では中々使用されていない。

……シオンの場合、『極光』という破壊砲撃魔法があり、幾ら天弓が自身の魔力をより効率的に使えるとは言え、使用に上限がある現状では、使用頻度が減るのは仕方ないことと言えよう。

ズドドドドドドドッ!!!!

「ぐああぁっ!?」

「く、そっ……!!」

武器群をかい潜って飛来する――鬼の様な魔力の矢の連射に曝され、思い切り吹き飛ばされるニールとマーク。

魔力を思い切り抑えているシオンの――その上に手加減された射撃なので、致命傷足り得ないが――怯ませるには十分だった。

「くっ、当たるかぁっ!!」

それ以外の面子は辛うじてその射撃を避ける。
ニールとマークにしても、吹き飛ばされただけでダメージは少ないため、直ぐさま立ち上がる。

しかし、包囲網は崩れ去り、大地に突き刺さる武器群の為に、迂闊に近寄ることも叶わない。

「良いのか?近寄って来なければ、俺に勝つことは出来ないぞ?」

言いながらも、シオンは天弓による牽制の手を止めない。
自身を中心に360°へ向けて連続射撃。
コレにより、オズワルドたちの陣形を蜘蛛の子を散らす様に崩し、更にシオンへ近寄ることを困難にしている。

「確かに、このままじゃ近寄れねぇ……って、あぶなっ!?」

ビリーが愚痴を零すが、そうこうしてる間にもシオンの射撃が襲い掛かって来る。

「悠長にくっちゃべってる場合じゃあねぇな、っとぉ!?」

言いながらも、無数の魔弾を避け続けるオズワルド。

(正直、このままじゃジリ貧だ――何とか打開策を見つけねぇと……!)

オズワルドは思案する。

当初は、数人が攻撃し――包囲網を固めてジワジワと消耗戦を仕掛け、隙を一気に突くプランA、バインドを掛けて数人で足止めしている間に、身体強化魔法を掛けて勝負に挑むプランBを用意していた。

しかし、プランAは要の――隙を突く役のエリックとレブナントを早々に潰され、プランBは身体強化魔法を掛ける前に、武器の一斉投擲と会話説明によって意図的に意識を逸らされることで、拘束を解かれた。

「あの、僕に考えがあるのですが……」

そうオズワルドに進言したのは、マクシミリアンだった。

「何だ?言ってみろ」

オズワルドも馬鹿では無いが、物凄い智将という訳でも無い。
故に、猫の手も借りたい様なこの状況――打開策があるならば知りたいというのが、彼の素直な心境だろう。

「はい、実は―――」

マクシミリアンは魔法の矢群を避けながら、オズワルドに自身の考えた策を提示しようとし――。

ズドンッ!!!

「…………」

「…………」

――当然、シオンがそれを良しとするワケが無く――思いっきり妨害されるのだった。

ズドドドドドドドッ!!!!

「うっ、のっ、わぁっ!!?」

「ちょ、まっ――うおぁ!!?」

二人が会話出来ない様に、鬼の所業とばかりに魔力の矢による雨霰を集中的に二人へ浴びせ掛けるシオン。
致命傷にこそならないが、塵も積もれば山となる。

チクチクとダメージを受けた上に分断され、とても会話など出来る状況ではなくなったのだった。

(マクシミリアンは、かなりの切れ者だからな……将来的には大臣になり、ウォレスの指揮するローランディア軍に対して、全く引けを取らない戦術を展開してみせた……まぁ、原作での話だが)

そんなマクシミリアンが思い付いたことだ、この状況をひっくり返すことは無理でも、拮抗させる様な案なのかも知れない。

そう考えたシオンは、その策とやらを潰したかったのだ。

――万が一が有り得る。

自分の状況、相手の力量等を考慮した上で出した結論だ。

この上、状況を覆す様な策を打たれたら――。

負けも、十分に有り得る――と。

故にシオンは、油断も慢心も無く――ただ勝利へのロジックを練る。

「ぶっちゃけ、策なんか練らせるかって話だな。そぉれ、逃げろ逃げろぉっ!!」

ズドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!

「ギャアァァァスッ!!?」

「痛いっ痛いですぅ!!でも……イイっ、かもぉ♪はぷんっ!!?」

このままではジリ貧だと、隙を伺って強引に特攻を仕掛けていたニールとエレーナのW双剣使い。
案の定シオンに撃墜されていた。

エレーナに到っては、その痛みに身悶えながらも、痛み以外の何かを感じ始めていた所を、少し強めの魔法の矢を顔面に頂戴してバタンキューとなった。

それを見て、ニヤリと悪い笑みを浮かべるシオン――どうやら悪い癖(ドSモード)が出た様である。

「うおおおおぉぉぉっ!!!」

「ぬっ!?」

痺れを切らせた様に、ラッセルが大剣を盾にしながら突っ込んで来る。

勿論、シオンは迎撃するが――急所はしっかりガードされており、後はどうでもいいとばかりに、距離を縮めてくる。

「最初から、たいした威力の無い攻撃と分かれば……耐えるのは、容易、だ!!」

ラッセルはシオンが元より威力の強い攻撃をするつもりが無いことを悟り、それ故の強行策。

だが、それは決して本人が言う様に容易では無い。

確かに、シオンのそれは致命の一撃にはなりえないが、それでも何十発も積み重なれば確実にダメージ足り得る。

その上、たいした威力が無いとは言っても、その威力はピンキリであり、シオンが放つ矢の中には――当たり処によっては、気絶させるくらいの威力がある矢も混ぜて放って来ているので、油断は即戦線離脱に繋がる。

魔法の矢を喰らう度に表情を曇らせていることから、ラッセルの言葉が痩せ我慢であることが伺える――だが、止まらない。

「貰ったあぁぁぁっ!!!」

大地に突き立つ武器群をかい潜り、シオンに肉薄したラッセルは渾身の振り下ろしを見舞う。

ガシッッ!!!

「その心意気は買うが――俺には届かんよ」

シオンは弓を握っていない方の手で、ラッセルの渾身の一撃をいとも簡単に掴み取っていた。

だが――。

スッ――。

「むっ……」

「ハアアァァァァッ!!」

ラッセルはこの展開を読み、剣を掴み取られた瞬間に自ら武器を手放し、更にシオンの懐の奥深くへ入り込んでいた。

(両手が塞がっている上に、その馬鹿力で剣を掴み止め――力んでいた所への肩透かしだ。今度こそ――貰ったっ!!)

ラッセルの飽く無きまでの闘争本能が、前へ前へと進ませ、一撃を見舞うことへの集中力を生んだ。

拳を握り閉め、全霊の拳を叩き込むために――眼前の獲物へと、それを叩き込む――。

ドゴォッ!!!

「か、は……!!?」

しかし、それは――。

「知ってるか?人間には足って物があるんだぜ?」

ラッセルの拳では無く、シオンの蹴り――膝蹴りが叩き込まれた音だった――。

比較的加減はされているが、カウンター気味に叩き込まれた蹴りは、悶絶するに十分な威力を叩き出すことになった。

「ご……はぁ……」

悶絶しながら崩れ落ちるラッセル。
そのまま、地に倒れ伏していく……。

ニィッ……。

ガシッ!!

「むっ……」

と、思いきや、ラッセルは獰猛な笑みを浮かべ、自身の腹に減り込んだシオンの膝――足を掴み取った。

「今だっ!!やれぇっ!!」

「ナイスだ新入りぃっ!!うおりゃあぁぁぁぁっ!!」

ラッセルの合図に、直ぐ後ろまで迫って来ていたビリーが、ラッセルの影から槍による渾身の一突きを見舞う。

ラッセルの脇から、えぐる様に放たれた一撃は、ラッセルをかわし――シオンへと届く――筈だった。

「シッ!」

ギュバッ!!!

シオンは軸脚を回転させ、身体を半身にさせて避ける。

「フッ!!」

ズドンッッ!!!

「ぐはぁ――ッ!?」

更にそのまま勢いに乗って回転、『ラッセルがしがみついた方』の足でビリーを蹴り飛ばす。

「うぐぉっ!!?」

――当然、その衝撃はラッセルにも伝わるわけで、予定調和の如くビリーと一緒に吹っ飛んで行くラッセル。

「さて、と」

天弓を『道具袋』に収め、ラッセルの剣を投げ捨てたシオンは――手近に突き刺さっていた炎を纏った槍――『ズフタフ』と、竿状斧――『ハルバード』を引き抜く。

ズフタフはシオンが以前、仲間たちとの集団訓練にも使っていた優秀な槍で、神話ではそこはかとなく物騒な逸話を残す魔槍である。

ハルバードは一般的な竿状斧で、槍と斧と鈎状の刃が一緒になった様な多機能武器である。

斧状の刃で敵を打ち切り、槍状の刃で敵を貫き――鈎状の刃で敵を引っ掛ける。
他にも多様な使い道があり、力が必要なのは勿論、使い手の技量が顕著に現れる武器であるとも言える。

どちらも重量級の武器であることに変わりは無い――。

そんな武器を軽く二刀流で構えているのだから、威圧感も倍率ドンッ!!である。

「いっちょ行きますかっ!!」

ドンッッ!!!

その場に、くっきりとした足跡を残し、シオンはその場から消えた――否、周囲から消えた様に見えた――が、正しい。

ドガガッ―――ズドドーーンッッ!!!

「がぁっ!?」

「うぁっ!?」

マークとマクシミリアンが、その場から弾き飛ばされ、錬兵場の壁に勢いよく叩き付けられる。

二人が居たその場所から僅か先――そこには武器を振り切り、まるで翼の様に腕を広げたシオンの姿があった。

「そこっ!!」

「当たってっ!!」

「えい……」

シオンの姿を確認したリビエラ、レノア、キルシュは、すかさずシオンに向けて魔法を繰り出す。

魔力の矢群、炎の球、破壊の槍――容赦無しに放たれたそれらは――。

「うりゃあぁぁぁぁっ!!!」

シオンが片手に携えたズフタフを風車の様に回転させて盾にしたことにより、全て叩き落とされる――。

「今だっ!!」

「うりゃあっ!!」

「貰った……」

シオンが魔法を迎撃している隙に、ラッセルとビリー、更にザムが襲い掛かる。

ザムがスローイングダガー数本を投げ付け、その後ろからラッセルとビリーが――。

「ふんっ!!」

更に片手に携えたハルバードを、ズフタフと同じ様に回転させてダガーを叩き落とす。

ドゴンッ!!ドゴンッ!!

「が……はぁ……!?」

「うご……ぇ……っ!?」

そして、その勢いのままにハルバードの柄を叩き付け、更に石突きでラッセルの鳩尾を強打し、ビリーの顎をかち上げた。

流石にこれには参ったのか、二人とも綺麗に意識を落とした。

「――これで後は七人……」

ドシュンッ!!

二人が倒れ伏すのを見ていたザムは、すかさずボウガンを取り出し、シオンに向けて放つ。

ガキンッ!!

だが、シオンはハルバードでそれをいともたやすく弾いて見せた。

(それは……予測済みだ)

弾かれることを予測していたザムは、直ぐさまボウガンを捨て、長剣を引き抜いて飛び掛かろうとした――。

「いや――」

だが、彼が見たのは――。

「これで、六人か」

目前にまで迫った、何処までも冷静なシオンの顔と―――腹に受けた強烈な衝撃のみ。

それがその日、ザムが見て感じた最後の光景であった――。

***********


ザムにソーラープレキサスブロー(鳩尾打ち)を喰らわせて気絶させた俺は、改めて周囲を見遣る。

今、まともに戦えるのはオズワルドとバルク、ウェインとリビエラ、レノア、キルシュの計六人。

正直、ヒヤッとした場面は何度もあった。

俺の力を制限していることを抜きにしても、全員の力量が着実に上がっている。

まぁ、個人差はあるが――これで熟練した連携でもされた日には、制限を若干解除せざるを得なかったかも知れない。

リビエラやオズワルド達以外はまだ付き合いが浅く、連携に若干の『ぎこちなさ』があったからな……。

兵として年期の入ったバルクは例外だが――。

「はぁっ!!」

ウェインがその金色の大鎌を振るって来る――。

ギイィィィンッ!!

「まだ武器に振り回されているな。大鎌って武器はな、ただぶん回していれば良いだけじゃないんだぜ?」

俺はその一撃をハルバードで受ける。
中々に良い一撃だ――けど、甘い。

大鎌はその形状から、超重武器と呼ばれるカテゴリーの中で、もっとも扱いが難しい物の中の一つだ。

破壊力を求めるなら斧、リーチの長さを求めるなら槍を、扱いやすさを求めるなら剣で事足りる。

ならば、大鎌の利点は何か――?

それはその形状から来る威圧感と、トリッキーな戦い方にある。

大鎌はデスサイス――死神の鎌をまんま連想させる形状をしており、仮に大鎌使いと戦場で出会ったなら、並大抵の奴は気圧されするだろう。

リーヴスが大鎌を好んで使っているのも、そういう理由からだそうだし――。

「くっ、このっ!!」

ギギィンッ!!ガキィンッ!!

戦い方にしても、鎌は『斬る』のでは無く『引く』。

そう考えたら、ウェインはまだまだ未熟と言わざるを得ない。

まぁ、オスカー・リーヴスという―――大鎌使いとしてある種の完成形を知ってるからこそ言えることだが――。

「力任せに振るうだけじゃあ――っ」

「うおおぉぉぉっ!!」

「ゼリャアアァァァァッ!!!」

ウェインを昏倒させようと、ハルバードの石突でウェインの顎をかち上げようとした俺だったが――すかさず、俺に切り掛かって来たバルクとオズワルド。

ウェインもそうだったが、二人の動きが早くなってる――クイック系の魔法を使ったか。

ガガキィィィィンッ!!!

「「っ!?」」

「――だが、まだまだ俺には届かんぜ?」

俺はズフタフで二人の攻撃を防いで、ニヤリと笑う。

それを見て、一瞬戦慄した様な表情を見せる三人――そんなに悪そうな顔をしていたか、俺?

まぁ、その一瞬が――。

「大きな隙になるっ!!」

ズガガガガガガガガガッッ!!!!

「ガッ!!?」

「ぐぅっ!?」

「がはぁっ!!?」

ハルバードとズフタフの石突きや柄を使い、無数の打撃を喰らわせてやる。

ウェインとオズワルド、バルクが勢いよく吹き飛んでいく。
加減はしたが、気絶するくらいのダメージは与えた筈――。

ズザザザザザッ!!!

――なんだけどなぁ。

「ま、まだまだぁ……」

オズワルドが踏ん張って耐えやがった。

「最低限、急所への攻撃を防いだか――流石と言いたいところだが、それだけダメージを受けたらまともに動けないだろ?」

バルクとウェインが気を失った中、踏ん張って見せたその根性はたいしたモンだとは思うが――。

「なら――私が相手をするわ」

「おっ!?」

ビシュッ!!

横合いから鋭い突きが放たれ、それを半身になって避ける。
視認したそれは――杖。

「――乗り気じゃなかったんじゃないのか?」

「私に出来る全力を尽くす――それが貴方の気持ちに応えることだと思うから――」

――見る迄も無い。

その声と気、そして杖を『得物』として扱う者――この面子の中では一人しかいない。

「なら全力で――倒す気で来い――リビエラッ!!」

「言われなくても――やあぁぁぁぁっ!!!」

ズババババババッ!!!

俺に発破を掛けられたリビエラは、直ぐさまその手に持つ長杖――『ヴィトの杖』を使い、鋭い踏み込みと共に突きを繰り出して来る。

『ヴィトの杖』とは、高名な魔術師であるヴィトが愛用していたとされる杖で、その杖にはヴィトの英知が封じ込まれていると言われている。

ヴィトの杖を持つ者は、幾つかの魔法を行使出来る様になる上に、魔法の発動体としても大変に優秀だ。

「はぁっ!!」

「ふっ!」

突きの軌道を変え、薙ぎ払ってきたソレを――俺は屈むことで避け、バックステップで距離を取る。

「随分と腕を上げたな……正直、驚いた」

「それでも当たらなきゃ、意味ないけどね」

俺の賞賛の言葉に、苦笑しながら答えるリビエラ。
だが、俺は本当に驚いていた。

リビエラは本来、短杖を好んで使っていた。
これはシャドー・ナイト時代からの癖の様な物であり、潜入任務が多かったので長物はむしろ邪魔になったそうだ。

まぁ、少し考えれば当然のことなんだがな?

だが、リビエラは近接戦も本格的に学びたいと、杖術に手を付けた。

俺は杖術使いとも戦ったことがあり、その技術をラーニングしてマスターしていたこともあって、『今日から君も大英雄』にしっかり技術を記しておいたし、リビエラが分からない所は直接指導したりもした。

―――それは良い。

リビエラが懸命に修練を積んだ結果、中々の使い手へと昇華したのだから――。

問題はリビエラの技量では無く、その胆力――噛み砕いて言うなら身体能力だ。

杖術を学んだとは言っても、どちらかと言えばリビエラは魔法に重点を置いて学んできた。

そんなリビエラが、アレだけの動きをしてみせたのだから、驚かない筈が無い――。

先程の攻撃を避けていて感じた疑問――それは、リビエラの技量と身体能力の釣り合いが取れていないってことだ。

本来、武術を学ぶ者の技量と力量は対になっていてしかるべきなのだが、リビエラの場合は技量の向上に比べて、身体能力の向上っぷりが段違いなのだ。

――単純な身体能力という意味では、現在のマーク、ニール、ザム、ビリーらよりも上に感じる。

――まるで、ドライバーはそのままに軽自動車がスポーツカーに化けた様な――。

「ボサッとしてると、危ないわよっ!!」

ガキィィィンッ!!

「問題無いさ。これでも、油断は微塵もしていないつもりだから――」

再び放って来た攻撃を受け流す。

――身体能力だけじゃない。
気も、魔力も――以前のリビエラとは比べ物にならない程に上がっている――。

先日、ジュリアが言っていたことが頭の中を過ぎる。

(まさか……な?)

俺は自分の考えを一笑に伏した。
あの時のジュリアの言葉が真実だった……なんて、な。

幾ら何でも有り得ない――よな?
何処のエロゲだっつーの。

内心、苦笑いを零しながら俺はリビエラを見据える。

――やる気満々って所か。
だが――。

「まだまだぁ!!やあぁぁぁっ!!」

「よっ、はっ、ほっ、ふっ――!」

再びリビエラは距離を詰め、怒涛の突きを浴びせて来る――俺はそんな突きを全て紙一重で避けて行く。

「はぁっ!!」

「甘いっ!」

時には薙ぎ払い、時には打ち込んで来る――正に変幻自在と言っても過言では無いだろう。

だが――まだまだ。

「ふんっ!!」

ズガンッ!!!

「キャ……ッ!!?」

俺はリビエラが放った突きの一つを選び、それに突きを合わせて放った。

結果、力で負けたリビエラは杖を弾き飛ばされ、また自身も弾き飛ばされた。

「くっ、マジックガトリングッ!!」

(って、何だそりゃあ!?)

リビエラは吹っ飛ばされながらも、頭上に魔法陣を形成――マジックガトリングを放ってきやがった。

本来、魔法を使うには足を止めて詠唱しなければならない筈――。

……確かめてみるか。

ズガガガガガガガガガッッ!!!

「ぐ、ぬぅ……!!」

「!?な、なんで……?」

リビエラが驚くのも無理は無いな。

何しろ、俺はリビエラの放った魔法の矢群を、急所に飛んでくる物以外は甘んじて受けたのだから――。

ズザザザザザアァッ!!!

くっ……リビエラの奴、手加減無しにぶっ放しやがって……だが、お陰で『分かった』ぜ……。

吹っ飛ばされながらも、踏ん張って耐えた俺は自身の異能『ラーニング』により、リビエラのやったことを理解した。

何のことは無い。

俺が魔法について誤解していただけだ。

俺は魔法を使うには立ち止まって詠唱しなければならないと思っていたが、厳密に言えば違ったらしい。

立ち止まって詠唱するのは、集中力を高めるためであり、呪文を一字一句間違わずに唱えるためでもあった。

極論を言えば、集中力を高め、呪文を一字一句間違わずに唱えることが出来るならば、必ずしも立ち止まって詠唱する必要は無いということだ。

言うのは簡単だが、実際にやるとなると中々に困難なことだ。

キュア等の簡単な呪文ならいざ知らず、上級以上の呪文になると効果に反して、詠唱する呪文も必然的に長くなる。

だが、その困難なことをリビエラはやってのけた。
『詠唱短縮』と『高速詠唱』を併用してな?

さて、何で今の今まで俺がこんな勘違いをしていたか――。

一般的な魔術師についての先入観があったというのが一つ。
もう一つは、ずばり――『原作知識』だ。

原作……ゲームのシステムと現実の法則は違うと思っていたつもりだったが、心の何処かでその知識に縛られていたんだろう。

目から鱗って奴だな……。

「しっかし、結構効くなぁ……」

「――どうして避けなかったの?」

「ん?」

「貴方なら、避けるなり弾くなり出来た筈なのに……」

どうやらリビエラは、俺が攻撃をまともに喰らったことに、心底疑問を抱いているらしい。
一応、最低限の防御はしたんだがね。

まぁ、せっかくなので俺はその疑問に答えることにした。

「何、リビエラがどれだけ成長したか――この身で体験してみようと思ってね?」

お陰で、俺は俺の中にある『先入観』を取っ払うことが出来たんだから、感謝しなきゃな――。

「そう――それで、感想は?」

「正直、ここまでとは思わなかったな……少しキツい」

代償はそれなりにデカかったが……この程度は必要経費って奴だ。

「私には、まだまだピンピンしてる様に見えるけど?」

「そりゃあ、最低限の防御はさせて貰ったし――何より、時間稼ぎだと分かっていてワザワザ付き合ったんだ。此処でやられたら格好がつかないだろ?」

「……気付いてたんだ」

気付かないでか。
リビエラの相手をしている間、弱り切っていた筈の気が――見る見る内に回復していったのは、感じていたからな。

「で、そっちの準備は万端か?――オズワルド」

「――おかげさまで」

そう答えたのは、ボロボロの傷を癒されて、気力体力共に充実した様子を見せるオズワルドだった。

纏っている魔力の流れからして、アタックやプロテクト等の強化魔法を一通り掛けられているみたいだな。

つまり、リビエラが囮になっている間に、レノアとキルシュがオズワルドの治療&強化をしていたっつーワケだ。

「分かっていてワザワザ時間稼ぎに付き合うとは――余裕じゃねぇっすか?」

「まぁな――お前らを舐めてるってワケじゃねぇぞ?――これは、俺にとっても意味のあることなんでな……この状況を打ち破れれば、尚更な?」

「そうですかい……なら、遠慮はいりませんね?」

「最初に言ったが――俺を相手に手心なんぞ加えたら――怪我するぞ?」

俺はズフタフとハルバードをしまって、近場に刺さっていた大剣――リーヴェイグを抜き放った。

俺がもっとも頼りにしている――我が愛剣だ。

「分かってますよ――全力で――行きますぜっ!!」

ドンッ!!

おっ、速い――。

オズワルドは強烈な踏み込み速度で、直ぐさま距離を縮めて来た。

ガキィンッ!!

俺は直ぐさま迎撃し、それに反応したオズワルドと鍔ぜり合いを演じる。

「成程――悪くない一撃だ」

「ぐ、ぬぅ……」

「だが――まだ温い!!」

ガキィィィィィンッ!!!

「ぬぉあっ!!?」

俺はオズワルドを弾き飛ばす――無論、オズワルドは踏ん張って耐えた。
そんなことは予測済みだ――だから。

「はああぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぬ!?うおぉぉっ!!?」

ズガガガガガガガガガッッ!!!

容赦無く追撃し、連撃を見舞う。
ソレをオズワルドは二振りの手斧で弾いていく。

十合、二十合――しかし、俺が徐々にスピードを上げて行くと、段々捌き切れなくなっていく――。

そして――。

「ぐぬぉあっ!!?」

文字通り、オズワルドの手斧を弾き飛ばしてやった。
素手となったオズワルドに剣を突き付け――。

「っと」

……る前に、俺は後方に跳びずさる。
すると、今まで俺が居た場所に魔法の矢群が着弾――リビエラのマジックガトリングと、レノアとキルシュのマジックアローだな。

「お返しだ――マジックガトリング」

ズガガガガガガガガガッッ!!!!

「う、ああぁぁぁっ!!?」

「きゃああぁぁぁっ!!?」

「あうぅぅ……っ!?」

先程ラーニングしたことを活かし、後方に跳びずさりながらのマジックガトリング。

リビエラの放つそれより二桁は矢数の違うソレは、文字通り彼女達を蹂躙していった……。

「悪いな……一応加減はしたから、勘弁しろよな?」

もちろん、気絶する程度のダメージで済ませたケドな?

「う、うぅ……」

――うん、気絶こそしていないが、立ち上がれないみたいだな。

「つーワケで」

ガキィンッ!!

「これで残りはお前一人だ――オズワルド」

弾き飛ばされた手斧を回収したオズワルドの攻撃を防ぎつつ、そう宣言してやる。

「くっ――容赦無いなアンタ……訓練とは言え、女子供相手に――」

むうっ、これでもちゃんと手加減したんだぞ?
でなければ、大惨事だったと思うんだが?

とか、思っていても表情には出さない。

あくまでこれは模擬戦――俺達はこの場においては敵同士なのだから。

「御託はいい……次で終わらせる」

「ぐっ……」

俺は剣を構え、ジリジリとオズワルドへプレッシャーを掛けていく。
気圧されているのだろう――オズワルドはジリジリと後退っていく。

トンッ――。

「っ!?」

「そら、もう後が無いぞ?」

錬兵場の壁際まで追い込まれたオズワルド――決めるなら頃合いか。

「ぬおぉぉっ!!!」

追い込まれたオズワルドは、二振りの手斧を投げ付けて来た。

だが――。

「言った筈だぞ?それは――悪手だとっ!!」

水平に並んで飛んでくる手斧を、低く身を屈ませて回避――そのまま一気に踏み込む。

「ぜあぁぁぁっ!!」

「何……っ!?」

オズワルドの奴、こっちに踏み込んできやがった――。
だが、無手のままでは――!?いや、無手じゃない?
武器を持っている――!

「うおぉぉっ!!」

ビュウン――!!

しかも、持っているのは俺が造った魔導具――。

ウォレスの使っている特殊投擲剣――レイスラッシャーを参考に造り上げた光の手斧――さしずめ『レイクラッシャー』とでも名付けるべきか。

ただの棒状だったソレを発動させ、光の斧を顕現させるオズワルド。

そして――交差する。

ドスッ!!

「――ったく、いつの間にガメやがったんだか」

「へへ、俺は元盗賊ですぜ?使える物は……使、う……」

ドサァッ――。

オズワルドの一撃は俺には届かず、地に伏した――。

しかし、たまげたな。
オズワルドがレイクラッシャーをガメたのは、俺が投げ付けた武器の中にソレがあったからだろうが――。

アレが、オズワルドがもっとも得意とする武器――手斧であると理解し、あまつさえソレを使いこなしたってんだからな――。

一見すると、本当にただの棒――敢えて例えるなら某ヴィクトリーな白い奴の敵役の武器の一つ――ビームトマホークと似た形状と言えば、分かる人には分かるだろう――なんだがな。

「何はともあれ――終わったか」

正直、結構しんどかったな……。
危ない場面もあったし……俺もまだまだ未熟ってことだな。

さて――。

「後片付けと――手当てもしなきゃなぁ……」

みんなして暴れたからなぁ――錬兵場がボロボロになるのも止む無しか。

けど、まずは治療だな。

錬兵場もそうだが、皆もボロボロだから――な。

***********

その後、俺は皆の治療に努めた後――錬兵場の瓦礫の撤去、地面に突き刺した武器の回収等を行った。

皆は錬兵場の後片付けが終わるまで起こさないでおいた。
――流石に疲れただろうからな。

尚、今回の訓練では全員が気を失っていたワケでは無く、レブナントだけは終始起きていた様で、気を失っていたエリックを守る様に寄り添っていたことを明記しておく。

***********

さて、訓練を終えた俺達はそれぞれ別の仕事をすることになった。

とは言え、俺とリビエラは戦勝祝賀会に関する会議に出席し、オズワルド達は王都周辺の哨戒任務へ向かっただけだが。

――俺は休んでも良いと言ったんだけど、皆してやる気になっていたからなぁ――本当、タフな奴らだよ。

会議についてだが、会場――城の警備体制についてとか、そんな議題について話し合った。

以前、お披露目会で仮面騎士が侵入してきた時があったので前回の教訓を活かし、今回は警備を更に厳重にすることになった。

で、会議も滞り無く終わって――俺の執務室に戻って来たワケだが。

「本当にやることが無くなった……」

机に突っ伏しながら愚痴を零す。
執務関係の仕事が無いって、こんなに暇なのか……。

訓練は終わったし、会議も終わった……急ぎの仕事が無いんだよなぁ――。
昼飯も食ったし、な。

「まだ、夕方にもなってないものねぇ」

そんな俺に苦笑いを浮かべながらも答えてくれるリビエラ。

「そうなんだよなぁ。どうしたもんかな?」

「ん〜、鍛練でもする?私も付き合うよ?」

「そうだな、それも悪くないけどな」

「……シオンが望むなら、別の鍛練をしても――良いよ?」

コラコラ……そんな真っ赤になりながら言うな。
浪漫ティックが止まらなくなっちまうだろう。

「――なんてね?流石に、みんなが任務に行ってるのに、そんなことできないよね?」

エヘッ♪という感じにウィンクしながら、ペロリと舌を出す。
ソレだけの仕草なのに、凄く様になってるのは流石だ。

「そうだな――俺としては、その『別の鍛練』をしても良いんだが――皆に悪いからな?」

「うぅ……シオン、タガが外れて来たんじゃない?そんな楽しそうに、そんなこと言って……意地悪よ?」

「リビエラ達のお蔭でな?」

「そ、そんなこと言われたら――何も、言えないじゃない……」

更に真っ赤になりながら俯いて呟くリビエラ。

別にからかってるワケでは無くて――。

――皆が俺を支えてくれている。
皆が居るから、頑張れる――守ろうと強く想う。

依存……っていうのとは少し違くって、皆が力をくれると言うか、上手く言えないけど――相乗効果って言うんだろうか?

文字通り、支え合える関係ってのが正しいんだろうな――。

だから、もっと知りたい――もっと、欲しくなる。

我ながら欲が強いこと甚だしいとは思うが。
俺は彼女達が好きだ――それは覆すことが出来ない事実で、摩訶不思議なことに、彼女達も俺を好いてくれている。
……俺なんかを振り向かせるために、『同盟』なんて馬鹿げた物を組む程に――。

――俺だけの片思いだったなら、こんなことにはならなかっただろう。
俺だけなら――自分自身を許せなかった。

それを救ってくれたのが、彼女達だ――。
陳腐な言い回しだが――その想いが、俺を素直に――大胆にさせているのかも知れない。

最近は調子に乗り過ぎだと、自分でも思っているんだが、ね?

「リビエラ」

「な、なに?」

俺はこれからも彼女達と歩んで行きたい。

「――ありがとう」

「――うん、どういたしまして」

この暖かい笑顔を向けてくれる――彼女達と共に。

「そういえば、さ」

「ん?」

「シオンって、もうみんなと――したの?」

ガクッ!!

肩を崩して机に突っ伏した俺は悪くない筈だ。

「お、お前なぁ……人がほっこりと決意を新たにしていたってのに……」

「ゴメンゴメン、でもホラ、私やジュリアはその、一杯してもらってるから……他のみんなに悪いかなぁって」

俺はバーンシュタイン所属のインペリアル・ナイトだからな。
どうしたって自由な時間は取りにくい。

必然、同じバーンシュタイン所属のリビエラやジュリアと一緒に過ごす時間が増えるワケだが――。

「こう言ったらなんだが、確かにリビエラやジュリアと一緒の時間は多い。でも、ちゃんと」

リビエラ、ジュリアもそうだが――レティシア、サンドラ、イリスとの時間も――。

「――あっ」

「シオン――?」

カレン……。

『ふふふ……どうせ、どうせ私なんて……原作でも人質要員なんて言われるだけの、それだけの女なんです……うふ、うふふふふ……』

『この野郎……カレンを悲しませやがって――覚悟は出来てるだろうな?』

『シオン君――少し私と話をしようか?なぁに、時間は取らせないよ?』

「っっ!!?」

ガタンッ!!!

「ど、どうしたの?」

「い、いや、ちょっと電波が……」

な、なんか……カレンがヤンデるイメージと、夜叉と鬼神と化したお兄サマとお父サマのイメージが……た、ただの電波……だよな?

「ちょ、ちょっと、本当に大丈夫??」

「あ、あぁ――悪い、用事が出来た。少しの間、留守番頼むっ!!」

「えぇっ!?ちょっと待ってよぉっ!!」

「この埋め合わせは必ずするからさっ!!」

「あっ、シオン!?――もうっ(せっかくジュリアに聞いて用意してたのに――メイド服)」

俺は慌てて立ち上がり、リビエラに後を任せて部屋を出た。
本来、国に仕える重臣である俺が、こんなサボりなんてあってはならないことなんだが。

カレンが寂しい思いをしているかも知れない。
――なんて思うのは傲慢かも知れないが、何かこう――直感にキュピーンッと来たんだ。

――まぁ、都合良く暇だし……良いよな?

***********

次回予告

かつて二人は友だった。

彼は青年の荒んだ心を癒した。
彼は青年の理解者になった。

運命の悪戯か、彼等は違う世界で再び相見えることになる。

青年は駆ける……愛すべき者のところへ。

青年は立ち塞がる……彼が悪だと信じて。

二人はぶつかり合う――互いに『友』であったことを理解すること無く。

互いの『信念』をぶつけ合う――。
二人の道が、決して違う物では無いと気付かずに――。

気付いた時には――。

次回、『遅すぎた再会』

***********

後書き

仕事が忙しかったのと、テンション駄々下がりな事があったので中々更新出来ませんでした。

既に、忘れ去られてるだろうと思いつつ――更新です。

m(__)m




[7317] 第128話―遅すぎた再会―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:4ba3d579
Date: 2011/12/22 17:10


シオンがリビエラに後を任せて、グランシルに向かおうとしていた頃。

少々時間を遡る――。

***********

――グランシル郊外、南の橋の境。

そこには、薬草が生い茂る場所があり、そこで薬草の採取を行っている一人の女性が居た。

長くしなやかなブロンドヘアーに、まるでコアラの耳の様なアクセントを加えた髪型――エプロンドレスと、ナース服と呼ばれるソレを纏った美しき女性――。

カレン・ラングレーその人である。

「うん、こんなものかな?」

カレンは満足気に頷きながら、今日の成果を見遣る。

彼女が持つ籠の中には、今日の収穫が確認出来る。
そこには様々な薬草が摘み取られており、回復薬等の材料になる物から、ハーブティー等にして楽しめる物まで、正に多種多様だ。

「――此処で、シオンさんと出会ったのよね……」

しんみりと呟くカレン。

約三年程前の出来事になるが――以前、彼女はこの場所で今の様に薬草採集をしていた時にモンスターに襲われ、危うい所を駆け付けたシオンに助けられたことがある。

(最初は兄さんが助けに来てくれたんだって――勘違いしたのよね。フフッ、あの人と兄さんは全然似ていないのに――)

実際、彼女の兄であるゼノスとシオンでは似通ってる部分は身長くらいのモノで、重なり合う様な部分は殆ど無いのだが――当時の彼女にとって、助けてくれる人=ゼノスという図式が成り立っていたのかも知れない。

……その当時のシオンの装備(大剣のクレイモアと白いプレートメイル)が、ゼノスのソレに似通っていた……というのも理由の一つかも知れないが。

「……3年、か」

シオンとラルフ――二人の青年と出会ったのが、約三年前。
そして一年間、彼等はグランシルに留まり、ラングレー兄妹と一緒の時間を過ごした。

当時から、傭兵をしていたゼノスは家を留守にすることが多々あり、少なからずカレンは寂しい思いをしてきたことだろう。
そんなカレンにとってシオン達との時間は、その寂しさを紛らわせても余りあるものだった。

(最初は、兄さんと重ねて見ていたのかも知れない……でも、彼の人柄に触れていく内に、私は彼を追い掛けていた……彼に惹かれていった……)

その時と、何ら変わらぬ――いや、更に強く想う様になった気持ち。
それが現状のカレンの心を締め付け、大いに持て余していた。

「……会いたいなぁ、シオンさん」

先程までの上機嫌が一転、重い溜め息を吐くカレン。

別段、今生の別れをしたワケでも無し――それどころか、数日前に実際に会っているのだが。

以前、シオンが居なくなる夢なんかを見たカレンとしては、不安に思う部分があるのだろう。

これで他に誰か――家族が家に居れば、また違うのかも知れないが――。

ゼノスはローランディアの騎士であり多忙、父であるベルガーは――。

(何があったのかわからないけれど、急に修行に出るとか言って何処かに行っちゃったし――)

闘技場でとある人物に負けたことが原因なのだが、カレンは知る由も無い。

尚、付け加えるならベルガーは修行ついでに自身の妻『達』の墓参りに向かったのだが、それは余談だろう。

とにもかくにも、カレンは今、一人というワケである。

「でも、すぐ会えるわよね」

カレンは思索に耽る。
思うのは近日迄に迫った戦勝祝賀会について。
カレンの元にも招待状が届いていたのだ。

(久しぶりにみなさんにも会えるし、兄さんにも、シオンさんにも会える……けど、私――お城のお祝い事に着ていける服なんて――)

カレンは自身の服を見遣る――所謂、ナース服(現代のそれでは無く、所謂近代ヨーロッパの労働階級の女性が来ていた服を、メイド服っぽくアレンジした様な服装)で、カレンが1番好んで着ている服だ。

勿論、他にも服を持っていて、よそ行き用の服なんていうのも持っている――だが、カレンにとってお城のパーティーなど、天上の出来事に等しく、そのよそ行きの服でもその場に似つかわしくない様に思えた。

エリオットのお披露目会に行った時に、それを痛い程に感じたのだ。

(かと言って、ドレスなんかを買うお金なんて無いし……)

ゼノスが騎士になったことにより、仕送りが増えて以前より懐具合が豊かになったとは言え、城のパーティーに着ていけるドレスみたいな超高級品を買う程の余裕は無い。

他にも、テーブルマナーとか、礼儀作法とか――気になることは山の様にある。

「ハァ……帰ろう」

かと言ってカレンには祝賀会に参加しない……という選択肢は無い。
久しぶりに共に戦った仲間や、兄に――そして何より、誰よりも愛しい人に会えるのだから――。

溜め息を吐きながら、カレンは家路に着こうと――。

ガサッ、ガサッ――。

「!?」

……したその時、近くの茂みが音を立てた。

(モンスター……?いえ、違う――!)

カレンは咄嗟に身構えながらも、自身の考えを否定する。
実は薬草採集に来てしばらく、案の定モンスターに襲われたカレンだったが、そこは今までに幾多の戦場を駆け抜け、仲間と共に修練を積んだカレンである。

この辺りのモンスターに遅れを取ることなど無く、返り討ちにして退けたのだ。

野生のモンスターは、縄張り意識が強いが――それ以上に弱肉強食を地で行く存在だ。

故に、再び戻って来る可能性はあっても、そこに自分たちより強い強者――この場合はカレン――が居たならば、決して敵対したりはしない。
少なくとも、カレンがそこに居る限りは――。

「……誰?」

油断無く構えながら、カレンは茂みに向けて声を掛ける。
すると、促された様に一人の人型が姿を現す。

ソレは顔全体を覆う仮面を付け、表情は伺えず――、その手には抜き身の剣を携えて――。

「な、なんなんですか、あなたは!?」

ソレの異様さに、神経を研ぎ澄ますカレン。
十中八九、友好的な相手では無いだろうことを予測、牽制のためにマジックアローを待機状態でスタンバっておく。

「くくく……我が主の命でしてね、一緒に来ていただきたい」

「あ、主……?」

(?この声、何処かで――?)

警戒しながらも、仮面の人物の声を何処かで聞き覚えがあると感じたカレン。
声からして男であると予測出来るが――。

「これは嘆願では無く――命令です」

「っ!?」

自身の記憶を確認していたカレンに、有無を言わさず襲い掛かる仮面のソレ――。

「えぇいっ!!」

思考を中断し、待機状態にしていたマジックアローを解き放った。

ズドドドッ!!

牽制の為に放ったマジックアローは、寸分違わずに仮面の男へと着弾――したかに見えた。

キィンッ!!ズドドドッ!!

「えっ!?キャアァァッ!!?」

直撃する瞬間、男の前に魔力の障壁が現れ――あろうことか、カレンのマジックアローを『反射』してのけたのだ。

咄嗟にその場から跳び退くカレンだったが、反射されたマジックアローが地面に着弾、その衝撃の為に軽く吹き飛ばされてしまう。

「くっ、うぅ……」

「くっくっくっ、どうしました?痛くも痒くもありませんよ?」

「っ、このぉっ!!」

眼前にまで迫っていた仮面の男に対して、身につけていた風の魔法瓶――ウィンダルを投げ付ける。

投げ付けた魔法瓶は、男の眼前で炸裂――封じられていた風の魔力が、荒れ狂った刃となって男に襲い掛かる――筈だった。

キィンッ!!

「なっ!?うあぁぁぁぁぁっ!?」

再び魔力障壁が展開、なんと魔法瓶の風の魔力をも反射してしまった。

よもや魔法瓶の攻撃まで反射されると思わなかったカレンは、反射された風の魔力の直撃を受けてしまい、後方に弾き飛ばされ――。

ドガァッ!!!

「か……は……っ!?」

樹木に激突して背中を強打、一瞬だが呼吸困難に陥った。

「おやおや、逃げないでいただけませんか?」

仮面を着けているので分からないが、雰囲気からしてカレンを嘲笑っているのだろう。
それを理解したカレンは、嘲笑を跳ね返す様に膝に力を入れて立ち上がる――。

「ふむ……随分と反抗的な顔ですねぇ……これは少〜し、お仕置きしておきましょうかねぇ?」

男は剣を携えながら――。

「何、腕の一本程度が使い物にならなくなっても、生きていれば良いわけですからね」

と、うそぶきながらカレンへと近付いていく。

(あ、諦めない――絶対に!)

正体不明の敵、謎の力――心が折れそうな不安、絶望、恐怖。

そんな感覚を全て捩伏せ、カレンは立ち上がる。

今までも、カレンは仲間達と共に多くの危機を乗り越えて来た――。
それはカレンの自負であり、心の寄り処でもあった。

故に、こんな仮面の男に屈するのは耐えられなかったし、この男に捕まるという選択肢も当然ながら有り得なかった。

(けれど……どうしたら――)

何故か分からないが、自分の攻撃は全て反射されてしまう。
それを理解しているカレンは、その思考を巡らせ――打開策を検討する。

(――今まで反射された攻撃は全部『魔力』を伴った攻撃だった……なら、物理的な攻撃だったら!)

カレンは専用ホルスターから注射器を取り出し、ソレを起動させた。

すると、注射器はカレンの身長程に巨大になる……そう、魔法の注射器『インジェクター』である。

しかも、これはシオンが改良したモノで『インジェクターⅡ』と言う名称で呼ばれている。

そのインジェクターⅡを脇に抱き抱える様に構え、眼前の男を睨みつける。

「ククク……よもやその巨大な注射器で、私と張り合うつもりですか?正気の沙汰とは思えませんよ?」

「くっ……!」

そんなことは、カレンも重々承知している。
そもそもカレンは、今までの戦いでも後方支援が殆どであり、訓練においても魔法関係を中心に行っていた。

最低限の護身術や、近接戦闘をかじってはいるが――眼前の仮面にソレが通じるかと問われたら、カレン自身も首を傾げざるを得ない。

(けど……やるしかっ!!)

覚悟を決め、カレンはインジェクターⅡを麻痺モードにし、仮面に向かって突撃する。

迫り来るカレンに、仮面の男は両腕を横に広げて立ち止まったまま――。

『攻撃出来るのなら、攻撃してごらんなさい』と、でも言う様に。

カレンのインジェクターⅡは、仮面の男に吸い込まれる様に突き刺さろうとして――。

キィィンッ!!

――空中で障壁に阻まれ停止していた――。

「そ、そんな……っ!?」

「くっくっくっ、そぉら返しますよ?」

メギィッ!!!

「!!?っああぁぁぁぁぁぁっ!!?」

インジェクターⅡによる刺突――その衝撃が反射され、カレンを三度弾き飛ばす。

二転、三転――地面を転げ回る。

「あ、ぐぅ……っ」

「おやおや、そんなに跳ね回られたら捕まえられないではありませんか」

くっくっ……と、馬鹿にした様に笑いながら、仮面の男がゆっくりとカレンに近付いて行く。

それに対してカレンは派手に吹っ飛び、あちこちボロボロにこそなってはいるが、実際はそれほどたいした怪我を負ったワケでは無い。

――だが、それは身体的な意味合いでの話であって、精神的なダメージは無視出来ない物となっていた。

(そんな……私の攻撃が、全部……反射されるなんて……)

自身の攻撃が届かないという現実を前に、内心で焦燥感と絶望感に苛まれていくカレンだったが――それでも、果敢に立ち上がろうとする――。

『カレンがピンチなら、この星の裏側からだって直ぐに駆け付けて来るさ』

(――今、あの人に助けを求めたら――あの人は助けに来てくれるんだろうか……?)

以前、カレンがこの場所で同じ様に襲われて、助けてくれた時にシオンが言った言葉。
それを思い出したカレンは、心が揺らぐ……。

しかし――。

(ダメ……シオンさんにばかり……頼っちゃ……)

それでもカレンは立ち上がる――揺らぐ心を奮い立たせて。

(隣に立つのは無理かも知れない……それでも、あの人の心を支えられる様になりたいって、誓ったから――だから……こんなことで弱音を吐かない!!絶対にっ!!)

攻撃が通用しない、それでも――心だけは決して折るものかと――眼前の仮面の男を睨み付ける。

「気に入りませんねぇ……その表情」

ヒュッ!!

「さぁ、泣き叫びなさい、命乞いをしなさい」

「………」

――例え、剣を突き付けられても、恐怖で体が竦み上がりそうになっても――自分を鼓舞し、敵を睨み付け続けるカレン。

「……良いだろう。ならば痛い目を見てもらおうかっ」

仮面の男は剣を振りかぶり、それをカレンに振り下ろした。

(――だめ、かな……)

きっと、自分は斬られるのだろう――幾ら虚勢を張ろうとも、幾ら対策を考えようとも――。

(恐い……それでも)

そう思っても尚、カレンの瞳に絶望は無かった。

(それでも、私は――っ!!)

カレンは炎の魔法瓶――『グリトニル』を手に取り、それを投げ付けようと構える。

先程の反射障壁は、カレンの攻撃の都度、何らかの魔法を詠唱していたのでは――?

そう考えたカレンは、相手が直接手を降そうとする瞬間を待ち、ソレを狙った。

――相打ち覚悟のカウンター。

否――この至近距離では、魔法瓶の爆炎に仮面の男だけではなく、カレンも巻き込まれてしまう上に、先に攻撃モーションに入って勢いのついた仮面の男の剣閃もまた、カレンに当たってしまうだろう――。

――それでも、カレンは引き下がらなかった。

結論として言えば、カレンの考えは間違っていたが、もし相打ちが成功していたら――カレンは一矢を報いていただろう。

何故ならば、仮面の男の使っていた障壁は『道具』の効果であり、時間の制限があるものだからだ。
そして、カレンに剣を突き付けていた時には――その効果は既に切れていたのだから――。

だが、その様な仮定は無意味だろう。

何故なら……。

ズガアァァァァンッ!!!

「な、なんだとっ!?」

「っ!?」

カレンと仮面の男の衝突は――一本の剣によって妨げられたのだから。

「ふはははははっ!!待てぇーーいっ!!」

響くは高らかな笑い声――。

「……何者です」

仮面の男は声の発生源――信じられないことだが上空――に視線を向けて問う。
そこには青年が居た。
青い髪、腰に携えた一本の大剣……そして何より眼を奪われるのは、彼の背中から発現した紫の光翼。

その姿には、一種の神秘性すら感じられた。

「何者です?と聞かれたら、答えてあげるが世の情けぇ!!」

……まぁ、その当人が色々と台無しにしていたので、プラマイゼロだったのだが。

「世界の破壊を防ぐためっ!世界の平和を守るためっ!!愛と真実の悪……あ、ゴメン、今の無し」

本当に、色々と台無しだった。

「愛と正義の究極主人公――リヒター!!推・参ッ!!!」

これが古き良き特撮物ならば、背景で爆発が起きているだろうって位にビシッとポーズを決めた青年――リヒター。

「…………」

「…………」

思わず、ポカーンと口を開けて闖入者を見上げるカレンと仮面の男――。

「とうっ!!」

そんなことなどお構いなしに、リヒターは突き刺さった剣の元にカレンを背に庇う様に着地。

仮面の男は咄嗟に距離を取る。

「やいやいやいっ!!こんな可憐な女性を襲うなんざ――例え天が許そうと、超絶オリ主である俺が――許・さんっ!!」

言葉の意味はよく分からないが、とにかく凄い自信を込めて言葉を紡ぐリヒター。

(ムフフ、決まった……これで可憐なカレンたんのハートは、鷲掴みだZE!『可憐なカレン』……ウププ、上手いこと言ったなORE♪○田く〜ん、座布団一枚持ってきてぇ〜!)

……本っ当に、色々と台無しだった。

そんな彼の心情とは裏腹に、仮面の男は距離を取る。

「邪魔が入ってしまいましたね……此処は退かせて貰いましょうか」

「逃げるのか卑怯者っ!!」

「私はこう見えて大変忙しい……それにその女を連れ去るというのは、優先順位の低い命令でしてね……あぁ、心配は無用ですよ?」

仮面の男がそう宣言したのと、ほぼ同じタイミングで幾つもの光の球が来訪し――膨脹して弾けた。
中から現れたのは、巨人族の中でも最上位に位置する巨人――ジャイアント。

そして上級悪魔であり、魔法を極めし大悪魔――アークデーモンだ。

「お前たちの相手は彼らがしてくれます――存分に楽しみなさい。では、ごきげんよう」

そう言い放つと、仮面の男は光に包まれ、小さな光の球となっていずこかへと去って行った――。

「今のは……テレポート!?」

カレンは驚愕する。
テレポートを使って、モンスターを呼び寄せたというのも驚きだが、テレポートを使うということは、相手はグローシアンだということになる。

――しかし、カレンにとってグローシアンの知人は数少なく、その中でもテレポートを使いこなすとなるとただ二人――ルイセとシオンだけだ。
カレンはその事実に、ただただ驚愕するだけ――。

しかし――。

「ふふふ――揃いも揃って……この俺を甘く見ているのかね」

青年――リヒターは違った。

「この程度の雑魚で――」

相手がグローシアンだろうとそうでなかろうと――。

「俺を倒せると思うなぁっ!!!」

その意思を貫き通す――!!

「そりゃああぁぁっ!!」

『GAAAAAAAッ!!!』

リヒターは手近に居たジャイアントの一体に切り掛かった。
その一撃をジャイアントは迎撃に出た――が。

「しゃらくせぇっ!!」

ズババババァッ!!!

『GUAAAAAAAAッ!!?』

そもそも速度が違い、擦れ違い様に幾度も切り裂かれたジャイアントは、断末魔の叫びを上げてその場に崩れ落ちた。

「す、凄い……」

(この人――強い。でも……何だろう?)

「ハッハァッ!!どうしたどうしたぁっ!!」

カレンが感じたのは、違和感。

残り二体のジャイアントが同時に襲い掛かり、その隙にアークデーモンが魔法を詠唱する。

「ハッハッハァッ!!そんなスロモーな攻撃が、至高のオリ主である俺に通じるかよぉっ!!」

立ちはだかるジャイアントを瞬時に薙ぎ払い、血飛沫に舞う――浮かぶ表情は――凄惨な笑顔。

「そーんなとろ長ぇ呪文なんざ――唱えさせるかよっ!!」

アークデーモンが最上級攻性魔法――メテオを唱えようとしている所を、瞬時に詰め寄ってその首を跳ね飛ばす。

(違う……みんなとは……)

カレンはリヒターに感じる違和感を悟った。
それは、リヒターの表情……戦闘におけるスタンスと言ったほうが正確かも知れない。

ゼノス等の様に、『純粋に強者との闘いを楽しむタイプ』でも、ましてやシオンの様に『本質的には闘争を望まず、競争を好むタイプ』とも違う。

むしろそれらとは真逆――所謂『弱者を虐げ、蹂躙することを楽しむタイプ』に近い。

これだけ聞くと、最低な奴に感じられるかも知れないが、彼の虐げる弱者とは即ち悪党であり、カレンが知る――弱者を虐げる者とも、また真逆なのだ。

強いて言うなら力に酔って、自身を妄信している、と表現したほうがより正確かも知れない。

そこに慈悲は無く、楽しげに命を屠る――。

まるで、喜々として蝶の羽をもぎ取る子供の様に。

故に感じる歪み……それがカレンの感じた違和感の正体。

――真っ直ぐで、無邪気で、それでいて歪つ。

「これでぇ……トドメだあぁぁぁっ!!!」

ズバァァッ!!!

『GOAAAAAAAッッッ!!!!???』

最後のアークデーモンを胴体から一刀両断にしてのけたリヒターは、その顔に若干の愉悦を張り付けながら、カレンへと振り返った。

「もう大丈夫だぜ?お嬢さん」

「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました」

カレンはそんなリヒターに、恐さに似た感覚を抱いたが――危ない所を助けて貰ったのは事実。
素直に頭を下げて礼を述べた。

(決まったぁ――今の俺、超ブリリアント!!これでカレンたんのハートはドガーンと命中ぅ!これを皮切りに、ハーレム作ってムフフでアハハで、ローション塗ってカワイコチャンたちと一緒に究極の技でドッカァーン♪)

そんなカレンとは裏腹に、リヒターはまぁ……舞い上がっていた。
妄想の翼を羽ばたかせ、違った意味でトリップしていた。

……それをお首にも出さないのは、ある意味称賛に値するが。

――だからだろうか。

倒したと思ったアークデーモンの一体が、その最後の力を振り絞って呪文を紡いだことに……気が付かなかったのは。

「魔力!?」

「なぬっ!!?」

カレンたちの頭上には何処までも巨大な魔法陣――中からは、これまた巨大な隕石――その数は五つ。

超上級攻性魔法――メテオだった。

リヒターは咄嗟に魔力の発生源を見遣る。
そこには、壮絶な嘲笑を浮かべて息絶えるアークデーモンの姿があった。

「くっ、この雑魚ヤローがぁっ!!」

(どーする?流石の俺でもメテオを喰らったら、少〜しはダメージを喰らっちまう……とは言え、この俺のボル○も裸足で逃げ出すくらいの神速の足を持ってすれば、そもそもあっさりと射程範囲外へ避けることも簡単だ。……しかし)

リヒターはチラリと後ろを見遣る……そこには、呆然とした表情を浮かべるカレンの姿。

(真のオリ主として……避けるって選択は選べないよなぁ……!)

リヒターは迎撃体勢を取る。
自身が誇る最高の切り札――それを切るために!!

(しかし、アレをやるには溜めが必要だからな……正直、メテオがこっちに届く前に放てるかどうか……って、弱気になるな俺っ!!俺はオリ主!!必ず成功する!!いや、させてみせる!!!カレンたんのハートをズッキュウゥゥゥンッ!!とさせるためにも!!)

……動機は何処までも不純だが、リヒターは決意を新たに両手の剣にエネルギーを溜めていく。

(これがメテオ……現在ある魔法の中で最大の攻撃魔法……)

一方、カレンは一見呆然としている様に見えるが、実際は冷静に思考を巡らせていた。

(実際に見るのは初めて……凄い威圧感を感じる。でも――引かない)

カレンはスッと構えを取る。
両手の平を、揃えて上空の魔法陣に向ける。

フォン――。

簡単な詠唱を終えると、その手の平からは魔力障壁が――。


「ま、待てお嬢さん――あんな石ころ程度、俺だけで……」

その障壁は眼前のリヒターをも庇う様に展開されており、それに対してリヒターは異を唱える。

いわく、自分一人で事は済むと――。

「貴方が何かをしようとしているのは、何となくわかりました……私が時間を稼ぎますから、その内にっ」

(私だって……これくらいやれなきゃ、あの人を支えるなんて……!!)

異論を唱えるリヒターを促す様に告げたカレンは、上空の隕石を睨み付ける。

無謀は百も承知。
呪文を唱えたアークデーモンは既に事切れているが、腐っても上級悪魔の放った最大級の攻性魔法だ――5発全てを凌ぐことは困難だろう。

(それでも、時間を稼ぐくらいは……!)

破壊の巨石は――眼前にまで迫っていた。

そして――。

ゴアアァァァァァァァァァッ!!!!!

「っっ!!!??」

魔力の障壁と破壊の巨石が――激突した。

(なんて、圧力……けど、これなら――)

耐えられる。

そう、思った――。
だが、それは五発放たれた内の一発を耐えられただけに過ぎず――。

それは即ち。

ドガアァァァァァァッ!!!!

「!?あ……ぐぅ……っ!?」

二発目以降の隕石の衝突を加味した場合――それはカレンの数少ない余力を削り取っていく結果となる。

誤解のない様に言っておくが、カレンの魔力は決して低くはない。

確かにグローシアンなどに比べたら及ばないかも知れないが、一般的な魔術師の基準を裕に超えている。

それはカレンの修練の成果であり、濃密な経験の賜物であった。

ただ――それすら、上級悪魔の命を賭した――呪いじみた魔力の前では、枯れ葉の様に頼りない物でしか無かった。

(に……二発目だけでこれじゃあ……長くは、保たな、い……っ!!?)

「は、早く……う、ぐぅ……っ!!?」

リヒターを促しつつ、三発目の巨石の衝突を防ぐカレン。
障壁の外は、絶対的な質量と魔力の渦が荒れ狂い、周囲にある草木が吹き飛び、薙ぎ倒される。

仮にカレンが障壁を張らなかったら、比べものにならない位の大惨事になっていたかも知れない。

具体的には周囲十数メートルに及ぶ、どデカイクレーター……いや、そもそもここは谷が近くにあるので、地盤が崩れて周囲が谷底に真っ逆さま……かも知れない。

グランシルからはそれなりに距離があるが、最悪……街の一部をも巻き込んでいたやも。

これも、カレンが引かなかった理由の一つ。

(苦痛に呻くカレンたんも……萌えるなぁ……イイッ!!――とか、言ってる場合じゃないよなっ!!)

そんなカレンを見て、またまた妄想の翼を羽ばたかせかけたリヒターだが、流石に空気を読んだのか、気合いを込めてカレンに応えた。

「いっくぜぇっ!!これが俺のぉ……全・力・全・開・ッ!!!」

両手の大剣に膨大なエネルギーが蓄積され、それを振りかぶり――思い切り振り切った。

「アビス・ブレイカー……デッドエンドシュートォォッ!!!」

ゴゴゴアアァァァァァァァッ!!!!

両の剣から放たれた紫色のエネルギー波は、極大の光の帯となってカレンの障壁を突き破り――眼前の隕石群を飲み込んだ。

「ハッハァ!!ざまぁカンカン!!究極オリ主の底力……思い知ったか!!」

「す、凄い……」

その紫紺の極光をカレンは畏怖の篭った瞳で見つめた。
魔力でも、気でも無い――未知のエネルギー。
それが破壊の巨石を駆逐する様は、圧巻の一言に尽きる。

いつぞや、シオンがゲヴェルに向かって放った『極光』という魔法があったが――威力的には引けを取らないかも知れない。

しかし――。

「っ、まだですっ!!」

「ウェ!?」

カレンは気付く……魔力の残滓がまだ残っている……いや、より強力になっていることを。

その反応にリヒターは奇声を発しつつ、カレンの視線の先――頭上を見上げる。

紫紺の極光が破壊の巨石を飲み込み、爆炎を散らした――その爆炎を切り裂き、更に巨大な巨石が飛来する。

「ちょwww待っwww」

「そ、んな……」

リヒターが駆逐した隕石は、五つの内の四つに過ぎず――その中で一番巨大な質量と魔力が込められたソレは削られこそすれ、打ち砕かれることなく残っていた。

(じ、冗談じゃねぇぞ!?あんなの消し飛ばすくらい当然出来るが、消し飛ばすエネルギーを溜めてる時間なんて……)

冷や汗を垂らしながら苦笑いを浮かべるリヒター。
俗に言う笑うしかないという状態だ。
幾ら(自称)最強オリ主リヒターと言えど、先程のエネルギー波――アビスブレイカー――を再度放つには先程の倍以上の時間を必要とする。

……当然だが、そんな時間をあの巨大隕石が与えてくれるとは、リヒターには思えなかった。

そして、カレンもまた似たようなことを考えていた。

(あんなの……今の私じゃあ……)

カレンが使った魔力障壁――まんま『マジックシールド』と言い、シオンが防御系補助魔法――『マジックシェル』をアレンジして生み出した魔法である。

防御系補助魔法――マジックシェルとは、対象一人に魔力の膜を展開――短時間ながら攻撃魔法を完全にシャットアウトする上級補助魔法である。

対するマジックシールドは、自身の周囲に魔力の障壁を展開――盾とすることで相手の攻撃を防ぐ補助魔法である。

端的に言うなら、マジックシールドはマジックシェルの劣化版だが、その分使い回しはかなり良好だ。

マジックシェルはあらゆる攻撃魔法を無力化するが、その分魔力消費量が多く、対象者一人のみを対象とする。
その上、持続時間が極端に短く、持続時間を長くしようとするなら、それこそ莫大な魔力を消費しなければならない――というデメリットが理由で、並の術者にはまず扱えない魔法。

一方のマジックシールドは、あくまでも魔力で作った盾――障壁なので、魔法、物理関係なく攻撃を防いでくれる。
魔力消費量もマジックアロー並に少なくて済む。

また、効果範囲は術者の匙加減である程度は決められるため、術者自身のみならず、複数を対象に出来るのも利点だ。

効果の持続時間も、断然長い。
ただし、あくまでも魔法を無力化するのでは無く、障壁で防ぐだけなので、より強力な攻撃を防ごうとするならば、より多くの魔力を込めてシールドを強化せねばならない。
防ぐ攻撃の威力によっては、マジックシェル以上の魔力を消費することになる。

つまり、何が言いたいかと言うと――。
先程、カレンが防いだメテオは……二発。
それを防いだだけで、カレンの魔力は大幅に削り取られてしまったのである。

何度も言うが、決してカレンの魔力量が少ないわけでは無い。

それだけ、あのメテオには膨大な魔力が込められていたということだ。

――カレンは愕然とした表情を浮かべる。
もう駄目なのか――自分に出来ることは無いのか――自身に問い、答えを紡いだ。

(諦めないって――決めたじゃない)

こんなところで死ねない――死んでやるものか!!
最後まで諦めず、あがき続ける……それがカレンの答えだ。

「……私がもう一度、防いでみます。だから――また、お願い出来ますか?」

「なっ……む、無茶だろ!?これより小さな奴を受け止めた時でもあんなに辛そうだったのに……あんなデカイの止められるわけが――」

「例え、そうだとしても……私は諦めません」

今から逃げたところで、アレに潰されるだろうし、よしんば逃げ切れたとしても周囲の被害が甚大なものとなるだろう。

マジックシェルを使えば、自分やリヒターだけは助かるかも知れないが、グランシルの街に住む人々にも被害が出るかも知れない。

故郷の街や人々を見捨てることなど、カレンには許容出来ることでは無かった。

ヴゥ……ンッ!!

再びマジックシールドを展開するカレン。
その瞳は何処までも力強く、光を称えていた。

(……最後になんて、しない。するつもりもない――なのに)

カレンの脳裏を過ぎるのは――これまでの思い出、過去、道程――。

友人、仲間、父親、兄、そして――。

(どうして……こんな……)

まるで、走馬灯の様に――。

(……いいえ、本当はわかってる……怖いんだ、私――)

此処まで自身を鼓舞してきたカレンだが、恐怖を感じなかったわけではない。
元来、カレンは『強い』女性ではない。
しっかりした、芯の強い女性に思われがちだが……その実、繊細で――脆い心の持ち主。

正史とも言うべき、『本来の流れ』の内の一つでは、カーマインと父親であるベルガーとの関連性を知り、大きく傷付いた。

シャドー・ナイツマスター……ガムランに呪いを掛けられ、兄であるゼノスの足枷となってしまい、絶望したこともあった。

この世界においては、それらはシオン達によって未然に防がれていたが。

――それが正史以上の『弱さ』と『強さ』をカレンに与えることになった。

ゼノスが傭兵家業をしていた頃、本来なら一人で家の留守を守っていたところを、シオンとラルフが傍に居て、共に過ごした時期があった。
一年間限定だが――。

これによりその間は寂しさを感じず、安らぎを得ることが出来たカレンであったが、本来養われる筈であった芯の強さ――心の強さに微かな陰りが生まれた。
そういう意味ではカレンは正史より『弱い』と言える。

兄へと向かっていた恋慕の情は、白銀を称えた青年に向けられ――それを本っっっ当に紆余曲折あった結果、受け入れられた。

カレンは青年の慟哭を聞いた――悲しみを知った。
だから、彼を支えられる様になりたいと努力し、結果として力を手に入れた。
それは間違いなく、カレンの『強さ』だろう。

しかし、故に、だからこそ――カレンは弱かった。

(引けない――そんなことはわかってる……でも、恐い……)

身体が微かに震える……自分は死ぬかもしれない――恐い。
危ない所を助けてくれた、この青髪の青年が死ぬかもしれない――恐い。
生まれ育った街が、その街に住む人々にも被害が及ぶかもしれない――恐い。

しかし何より――。

(みんなが、悲しむかもしれない……)

兄であるゼノス、父であるベルガー……旅を共にしてきた仲間たち。

――そして。

(シオン――さん)

最愛の、笑顔が暖かい青年――。

カレンは考える。
もし、自分が此処であの隕石に押し潰されたら……あの青年はどうなってしまうのだろうか?

――カレンの脳裏に過ぎるのは、青年の慟哭――初めて人を殺め、その事実に潰されそうになった――懺悔の悲鳴。

もし、自分がこの場で果てたら――あの暖かい笑顔は、曇ってしまうんじゃないだろうか……?

心が潰されてしまうんじゃないだろうか――?

また……あの慟哭を……。

「そんなの……嫌、だっ――!!」

カレンの張った障壁が、より力強さを増した。
それが絶対の意思である様に……その意思に呼応する様に。

「――っくそったれぇっ!!!」

そんなカレンを他所に、リヒターは悲鳴じみた、絶望を滲ませた声をあげた。

カレンの瞳は、まだ死んでいない。
ならば、自称至高のオリ主である自分が、諦めるわけにはいかない。

あの巨石を打ち砕く攻撃は――出せる。

だが、いかんせん時間が足りない――どう頑張っても、間に合わない。

(カレンたんの障壁――アレを相手にどれだけ保つ?――何分と保たないだろう。俺の感覚からしても、エネルギーが溜まり切るまでまだまだ時間が掛かる)

歯痒い想いを抱きながら、リヒターは冷静に考える。

(――カレンたんの気持ちは分かる、が、カレンたんに死なれたらフラグもクソも無い――)

そして決断を降した――カレンは助けよう。
自分も助けよう――だが、他がどうなろうと知ったことか……と。

リヒターは原作の知識を有している――その知識の中には、グランシルの人々が主人公であるカーマインを糾弾するシーンが存在した。

(優しいカレンたんのことだから、街の連中も助けたいと思っているんだろうが――幾らラスボスに脅かされているからって、原作主を糾弾する様な奴らに――助ける価値があるか?……いや、無い)

普段の彼なら、此処まで独善的な思考に至ったりはしない。
つまりは、それだけ追い込まれているということだ。

思い立ったら即吉日!!
と、ばかりにリヒターはエネルギーのチャージを中断……光翼を展開、カレンを掻っ攫おうとした。

――瞬間――。

翡翠の如き極光が――彼らの頭上に迫った破壊の巨石を――飲み込んだ。

「――は?」

その光景に、カレンを掻っ攫って飛び去ろうとしたリヒターは、両手を広げてカレンに飛び掛かろうとする姿勢のまま、頭上を見上げるというバレリーナみたいなポーズで固まり――。

カレンは――。

(……あっ……)

その膨大な魔力の奔流に、望んで止まない暖かさを感じていた。

マジックシールドを解き、魔力の源泉を辿る。
視線を頭上から下げる……カレンに不安は無い。

もし、カレンの望んだ通りなら――頭上の巨石は綺麗さっぱり吹き飛んでいるだろうから。

「あっ……あぁ……」

カレンの心から、絶望が消えていく。

「やれやれ、なんだか知らないが……間に合ったみたいだな。本当、ベタベタなシチュエーションだよな」

不敵な笑みを浮かべる、銀と蒼を携えた青年――シオン・ウォルフマイヤーが――そこに居た。

***********


危なかったな……。

俺がテレポートでグランシルに到着した時、デカい魔力反応を感知した。

咄嗟にそっちを見遣れば、巨大な隕石――メテオが、グランシルの郊外――あの橋辺りに墜ちていくのを視認。

――しかも、あの辺りから気を感じる――数は二つ。

その中の一つは馴染み深い――愛しい訪ね人の物。

「……俺の直感も、中々馬鹿に出来ないな」

俺はその場から瞬転を使い、急いで現場に向かって――今にも魔力の障壁を張っていた人物――カレンと衝突しそうになっていた隕石に極光をぶちかまして――現在に至るってワケだ。

「シオン……さん……?」

「ああ、シオンさんだぞ?」

カレンがゆっくり近付きながら、俺に問い掛けてきたので、俺はソレに満面の笑みで答えた。

「前にも言っただろ?カレンがピンチなら、この星の裏側からだって直ぐに駆け付けて来るってさ。……まぁ、我ながらもう少し早く来れたらとは――思ったけどな?」

「そんな……そんなこと……。嬉しいです、とても……」

カレンは俺の傍まで来ると、俺に身体を委ねて来た。

「――また、助けられちゃいましたね……」

「そうだな……本当に、無事で良かった」

「……悔しいなぁ」

俺がカレンを抱きしめ、安堵の声をあげた時――カレンがぽそりと口にした言葉。

「ん?」

「私――貴方の支えになりたいって頑張っているのに……いつも貴方に支えてもらっている。それが、どうしようもなく心地良いのが……悔しいんです」

「――俺だって、カレンに支えてもらってるさ」

凄く安らいだ表情を浮かべるカレンに、俺は掛値なしの本音を口にする。

カレンが支えてくれていなかったら……自分は壊れていたかも知れない。

本当に、感謝してもしたりないくらいだ。

「嘘……」

「本当だって……」

と、和やかで、少し惚気た空気に包まれて笑顔を浮かべる俺とカレン「ちょっっと待ったあぁぁぁぁっ!!!!」……うん、気付いてはいた。

ただ、優先順位的にカレンが最優先だっただけで。

「あっ、えっと、その……シオンさん。この人はリヒターさんです。危ない所を助けて戴いて――」

――どうやら、カレンは素で忘れていたらしい。
真っ赤な顔で慌てて俺から離れ、青年――リヒターを紹介してくれた。

にしても、コイツがリヒターか……。
青髪童顔、整った顔立ち、両手に握られた二本の大剣にプレートメイル。

一見した感じ、悪い奴には見えないな。
今まで、何度か聞いた噂を加味しても、そう判断出来る。

……っと、イカンイカン。

カレンを助けてくれた恩人なんだから――必要以上に警戒するのも失礼だよな。
――転生者疑惑やら、聞きたいことは山程あるが、今は礼を言うのが先……だな。

「俺はシオン、シオン・ウォルフマイヤーだ。彼女が危ない所を助けてくれたそうだな……俺からも礼を言わせてく「フフフフフ……」、れ?」

と、感謝の意を述べようとした俺の言葉を遮り、突如笑い出したリヒター……正直、不気味だ。

「リヒター……さん?」

その様子にカレンも困惑気味の様だ。

「フフハハハハハッ!!!遂に見付けたぞ、シオン・ウォルフマイヤー!!此処で会ったが百年目……覚悟ーーっ!!!」

なっ!!?

突如として殺気立ちながら、俺に切り掛かって来たリヒター。
俺は咄嗟に愛剣、リーヴェイグを引き抜いて彼の剣閃を防ぐ。

避けることも出来たが、近くにカレンが居たため迂闊に避けられなかった。

ギキイィィィィィンッ!!

甲高い金属音が周囲に鳴り響く――。

「……何のつもりだ?」

「黙れこの腐れ外道がっ!!テメェの様なゲス野郎は正義のオリ主である、このリヒターが成敗してくれるわぁっ!!」

俺が冷たい視線と共に、リヒターを睨み付けると、リヒターは鍔ぜり合いをしながら一気にまくし立てた。

「さぁ、カレンさん!!そこから離れてっ!!貴女は騙されているっ!!」

「何を……何を言ってるんですか……何でシオンさんを……」

カレンは突然のことに戸惑っているが、何処かリヒターを批難するような視線を向けている。

「騙すとは穏やかじゃない、なっ!!」

「ぐぬっ!!?」

俺はリヒターを弾き飛ばし、距離を取らせる。
リヒターは難無く着地してみせた。

「出来れば、詳しく話を聞かせてもらいたいな」

「O・HA・NA・SHIフラグですね分かります――だが、貴様に話すことなど無いっ!!」

問答無用か……。
仕方なく迎撃体勢を取ろうと構え――。

「と――、○ム兄さんばりにヌッコロスのはわけないが……此処は敢えて舌戦で憤死させるのもまた一興。究極オリ主足る俺の灰色の脳細胞で、事件は解決だぜっ!!」

肩透かしを喰った……まぁ、色々言いたいことはあるが、コイツは間違いなく転生者だな。
しかも、ノリが何処か懐かしいような……。

「フフフ……俺は知っているんだよ……好青年ぶっている貴様が、どうしようも無いゲスでクズで、女垂らしだってことをなぁっ!」

「なん……だと……?」

と、郷愁にも似た感覚の正体を探ろうとしていると、奴が聞き捨てならないことを言い出した。

誰も好青年ぶってはいないんだが……女垂らしという点では――否定出来ないな……。

「お前が自分の立場を利用して、仲間の女性にあんなことやこんなこと――揚げ句の果てにそんなことまでしちゃっていることはなぁ!!まるっとすぱっとお見通しだっ!!」

「な、何を言ってるんですか!!シオンさんはそんな人じゃありません!!――そうですよね?」

「……………」

カレンの真っ直ぐな視線が……痛い。
思わずスッ、と目を逸らした俺。
――よく考えたら、俺がリビエラ、ジュリア、サンドラ、レティシア、イリスと―――したっていうの、カレンは知らないんだよなぁ……。

いや、伝えようとはしたんだが――ほら、前回来た時はベルガーさん居たし、カレンは早々に酔い潰れたし……正確には酔い『潰した』なんだけどな。

他の皆にはちゃんと言ったぜ?
そういう描写があまり無い?
――影でちゃんと説明していたんだよ……ってか、メタ発言禁止。
いや、俺が言い出したんだけど……。

「シオン……さん……?」

「ふぅん、ぐうの音も出まい?信頼出来る筋からの情報だからな」

それがどんな情報源からの情報か……なんて、俺には分からないが。
――隠し立てはしたくない。
カレンには、ちゃんと伝えなきゃ――な。

「――すまん、カレン……実は……」

俺はカレンに事情を説明する。
俺がリビエラ達と――してしまったこと、そのことをカレンに説明しそこねたこと。

「本当に、ゴメンな……」

「……そんな、そんなことって……」

カレンは俯き、落ち込んだ様に声を――。

「そう!貴女は真実を知った!!さぁ、僕の胸に飛び込「私が……最後だなんて……」ん、で?」

リヒターが妙なポーズで固まって――まぁ、それはどうでもいい。

「やっぱり、あの時……私が酔い潰れなければ……私なんて……私なんて……腐った蜜柑みたいなものなんですね……あは、あはははは……」

「あ〜、いや……カレン?あまり自分を卑下すんなよ?つーか、この場合……批難されるのは俺の筈では?」

暗黒オーラを放ち始めたカレンに、俺は冷や汗と共に疑問を提示する。
――リヒターが物凄い勢いで頷いているが、そこはスルーで。

「だって……シオンさんを信じてますから――私が最後っていうのが、少し悲しいし、悔しいですけど――批難なんか、しないですよ。私たちが、好きでこういう形を受け入れたんですから――」

「いや、まぁ――それでもやっぱり、ゴメンな?」

俺は頬を軽く掻きながら、バツが悪そうに謝罪する。
――実の所、この答えは想像していた通りだったりする。

……何故なら、他の皆が似たような反応だったから。

皆の間には絆の様なモノが存在して、故に互いに敵対することは無い。

……まぁ、簡単に説明すると嫉妬とかはしても、互いを排斥したりせずに尊重し合い、認め合っているんだよな。

正直、その精神性は異常だ……けど、彼女達をそこまで追い詰めたのは――俺、なんだよな……。

そういう意味では、俺はリヒターの言う様に外道……なのかもな。

けど――。

「カレンだけ、寂しい思いはさせないから――」

もし、彼女達を狂わせたのが俺ならば――俺も一緒に狂うだけだ。
彼女達が俺を受け入れてくれたなら、俺も彼女達を受け入れる――。

ハーレム、ご都合主義――何でも来いっ!
皆で幸せになる……皆と一緒に、人生を生き抜いてやる。
それがアイツとの約束でもあるし、な。

「あの、それって……」

「今日は、その為に来たんだ――我ながら煩悩が強過ぎるとは思うけど」

「そんなこと……ないですよ?私、ずっと待ってたんです……貴方と、その――だから、嬉しいです……っ」

綺麗な笑顔だ……ほんのりと頬を染め、潤んだ瞳をこちらに向けて――。

駄目だよな、もう我慢なんか――出来ない。

俺はカレンを抱きしめ「フフフ……」る、ことは出来ず。

何やら笑い出したリヒターに視線を向ける。

「どちくしょう……どちくしょう……オリ主は俺なんだぞ?それなのに、なんだよアレ……ご都合主義はオリ主の特権だろ……?……ハッ!?そうか、幻術!?成る程、カレンたんが正気に戻らないのも……全てノストラダムスの予言に記されていたことだったんだよっ!!」

「な、なんだってーーっ!!?」

……………………。

………………。

…………。

……。

「シ、シオン……さん?」

「あ、いや、あそこは驚いておかなきゃいけないかなぁ……と、常識的に考えて」

カレンが凄く困惑してるが、俺も少し戸惑っていたりする。

普段の俺なら、あんなノリにはならない。

なったとしても、口には出さない。
せいぜい心の中で(キバヤ○かよ!?)ってツッコミを入れる程度だろう。

原因は分かっている――アイツ、リヒターのノリに引っ張られたんだ。
酷く懐かしいソレに――。

もう、何十年も前……俺が『シオン』では無く、『海道 凌治』だった頃に感じていたモノ。

――確信は無い、が……まさか、アイツは――。

「うおりゃあああぁぁぁぁぁっ!!!」

「くっ!!?」

俺が思考に更けることを許さぬと言う様に、リヒターは裂帛の気合いと共に剣を切り付けてきた。

直ぐさま迎撃する――!!

「幻術を解くには術者を倒す!!テンプレ過ぎるが、これ常識っ!!」

「生憎、俺は幻術なんか使った覚えは……ねぇっ!!」

再び弾き飛ばし、距離を取らせる。
――もし、俺の考えてる通りなら……アイツは……。

「嘘だっっっっ!!!!!!」

ドンッッ!!!!

リヒターが強烈な踏み込みで、俺に肉薄してくる……って、速っ!?

「下がってろカレン!!」

「シオンさん!?きゃぁ!?」

俺はカレンをその場から下がらせ、リヒターに討って出る。
あの速度――ラルフのソレに近い。
生半可では、受け切れない――!!

「ニコポナデポなど、貴様のような奴に相応しいものかっ!!アレはオリ主である俺の……特権だぁっ!!」

ギキイィィィィィンッ!!!

「っふざけたことを……吐かすなぁ!!」

ドガァッ!!!!

「ぬぐぇっ!!?」

一瞬、鍔ぜり合いになったが、直ぐさま体当たりを敢行。
問答無用で跳ね飛ばした。

「くぅ……俺の動きについて来た……?そんなこと……ある筈がなぁいっ!!」

再び奴が猛スピードで、こちらへ向かい――。

「喰らえ!!スピード地獄ッ!!!」

今度は直線では無く、縦横無尽に動いてフェイントを加えながらの攻め。
そのスピードは残像を残す程に、速い――。

確かに速いが――。

俺はもっと速く、強い奴を知っている――。
アイツの――ラルフの本気は、もっと速いっ!!

それが分かった以上――。

「俺には……温いんだよっ!!!」

ヒュンッ!!!

「!?消え――」

「――遅い」

俺は奴の猛攻を見切り、その攻撃が届く前に懐に入り込み―――。

ドガガガガガガガガガッッ!!!!!

「あがあぁぁぁぁぁっ!!?」

無数の――それこそ奴の残像を掻き消すくらいの連撃を叩き込んでやった――。

再度叩き飛ばされ、後方の木に激突するリヒター。
無論、加減はしたが……。

「がはっ……くそっ……俺はオリ主だぞ……なんで、こんな……」

ダメージはデカイ筈だが、それでも立ち上がるリヒター……。

「もう止めろ……お前くらいの実力者なら、彼我の実力差が分からない筈は無いだろう……」

もし、リヒターがアイツなら――いや、そうでなくとも、リヒターには俺の知らない所で幾つも借りを作っていたらしいし、これ以上は――。

「くそ……、せっかく、ドーピングまでして鍛えたのに……悪の権化に正攻法で勝てない、なんて――」

「――俺は、ただ話がしたいだけだ。なんか誤解されてるみたいだしな……」

このままじゃ、本当にO・HA・NA・SHI状態だよなぁ……そう思い立った俺は、剣を鞘に収め、こちらには戦う意思が無いとアピールを――『正攻法では』だと?

「アビスウィーングッ!!!」

「なっ……」

リヒターが高らかに叫んだかと思うと、奴の背中に紫の光翼が出現――宙高く舞い上がった。

考えていなかったワケじゃ無い。
俺にご都合主義的な力があった様に、リヒターにも同じ様な力があっても不思議じゃない。

奴のアレが、先天的な技能なのか後天的な努力の末に身につけた技能なのかは分からないが――確実に言えることは一つ。

――リヒターは、戦闘兵器としての能力を自在に扱えるってことだ。

厄介だな――。

自在に扱えるということは、未知のエネルギーを扱って空を自在に飛べるし、攻撃にも転用出来るし――。

何より反転――正確にはトータルエクリプス、だったか?

アレを使えるってことだ――。

それはつまり、カーマインやポール――ラルフの反転現象の危険性を意味している。

俺がリヒターに対して、もっとも危惧していたことだ。

「確かにお前の方が強い……悔しいが、今はまだ――な。だが、しかぁし!!俺の全力全開を喰らえば、お前は汚い花火と化すだろうさっ!!」

言うなり、奴はエネルギーを二本の剣に凝縮させていく――。

――本気か?

「お前、此処にはカレンも居るんだぞ……なのにそんなものをぶっ放すつもりか?」

「なっ、おのれ卑怯な……人質を取るつもりかぁっ!!?」

そんなつもりはカケラも無いっつーの……にしても、人の話を聞かない所と言い、益々アイツに似てるなぁ……。

「うぬぅ……や、やむを得まい!!此処は引き分けにしておいてやる!!だが、俺は必ずお前から彼女たちを開放する……必ずだっ!!」

集束させたエネルギーを霧散させ、リヒターは吐き捨てる様に言い放つ……って、逃げる気か!?

「ま、待て……まだ話が――っ!?」

この、気配は――っ!!?

「カレンッ!!」

「え……うきゃ!?」

俺は咄嗟にその場を跳びずさり、後ろに居たカレンを抱き抱えるのも忘れない。

すると、俺達が居た場所に爆炎――恐らくファイヤーボールだろうが飛来する。

周囲の木々を焼き払い、吹き飛ばされて――爆炎が晴れる。
そこから現れたのは――奴。

銀髪、赤眼、血の様に紅い剣を携えた眉目秀麗な青年――服装からして違うが、この気配……忘れやしねぇ!!

「ルインじゃねーか!?」

リヒターの言葉が、ソレを肯定した……。
フードの男――ルイン……!!

「リヒターさんに会いに来たんですが……何だか立て込んでいるみたいですね?僕が足止めをしますから、リヒターさんは逃げて下さい!!」

「ちょ、待てって!!相手が悪すぎる!!コイツ、お前の話以上に凶悪で――」

「大丈夫です!策は我にあり!ですよ♪――後で必ず合流します!だから……」

リヒターと知り合いだったのか……いや、それよりコイツがリヒターに何かを吹き込んだんだな……。

――ふざけた真似しやがって!!!

「おい、お前……っ!?」

「………♪」

俺がすかさず詰め寄ろうとすると、俺に向かってしーっ、と人差し指を口に宛てて、静かにしろと表現する――その顔に邪心に塗れた笑みを浮かべながら。

――何か、仕掛けてやがるのか……?

奴を葬り去るくらい造作も無いが……もし、アイツに何か細工をされていたら?

そう思うと、迂闊に動くことが出来なかった……。

「……すまん、恩に切るぜっ!!――シオン・ウォルフマイヤー!!この決着は必ず着ける――必ずなっ!!って、スゲェ悪役臭い台詞――だが……そこが良い。敢えてライバルフラグを立てて去る俺最高っ!!じゃあ――あばよぉっ!!」

そう言い残して、アイツは去って行った――。

俺は歯軋りをしながらアイツを見送り、眼前の奴を睨み付けた。

「どういうつもりだ――?」

「おや?その口ぶりだと、僕のことが分かっちゃってるんだぁ?君らの前で素顔を見せたつもりは無いんだけどね?」

やはり、リヒターの前ではネコを被っていたらしい。
何故そうするかは分からないが――。

「ちなみに、今の質問を返すけど、君こそどういうつもりなんだい?君にとって彼は打倒すべき敵の筈だ――何故、見逃したんだい?」

「確かにな――だが、奴以上に貴様の方が数倍厄介だからな――目を離した隙に何を仕出かすか分からん」

アイツと俺の関連性に、気付かせるワケにはいかない――。

「アハハ♪そんなに僕を警戒(評価)してくれてたんだぁ♪それは恐悦至極だねぇ……」

コイツは問答無用で始末するべきだ……。
俺の本能がそう告げている。
だが、理性の部分は告げる――コイツが何の対策も無く俺の前に姿を現す筈が無い……以前も、それで煙に撒かれたんだからな……。

ならば、情報を引き出せるだけ引き出すのが得策――。

「まさかリヒターと貴様がつるんでいたとはな――正直、予想外だぜ」

「つるむ――というのは正確じゃないね。あくまでも彼は手駒――この舞台を彩る有象無象の一つに過ぎないのさ。知っているかい?彼、自分が主人公だって――正義のヒーローだって本気で思ってるんだよ?本当は利用されてるとも知らずに――笑っちゃうよね?アッハハハハハハハハ!!」

……っ!!
落ち着け……冷静になれよ俺……。
悟られるな……。

「まぁ、よもやそこの彼女を都合良く助けるなんて……思わなかったケドねぇ?」

「!?どういう、ことですか?」

ルインの纏う異質な空気に、怯みながらも疑問を提示するカレン。

「カァンタンさ♪君を襲った仮面の彼ね――僕の、ひいてはヴェンツェル様の部下なのさ――」

「なに……!?」

「彼女は君にとって大事な人みたいだ……本当なら、君に対するアドバンテージにしたかったんだけど……いやはや、上手くいかないものだねぇ?」

コイツ……!?カレンを人質にしようと……!?

「本当、犯して壊して弄ることが出来なくて――残念だよぉ?ヒャハハハハハハハッ!!!」

――駄目だ。

コイツは駄目だ――。

不愉快で、不快で、不遜で、理不尽なこの男を――。

「そうだぁ、なんなら今から――」

奴がカレンに向けて手を伸ばす――――許容出来ない。

俺は――ユルセナイ。

「僕の玩具にして――「死ね――」げぎゅあ」

俺が放ったのは拳――魔力と気を極限まで込めた……ソレだけの――只々に全力の拳。

奴の言葉を聞くのも不愉快だ、同じ空気を吸うのも不快だ、不遜な態度は苛立ちを募らせる――。

そして何より……理不尽な理由でカレンを傷付けようとしたこの汚物を――打ち砕くために放ったソレは、奴の上半身を吹き飛ばし、その拳圧は後方の木々を薙ぎ、穿った。

その時の俺は、周囲の被害を気にするより、目の前で血飛沫を噴き上がらせる汚物のカケラを、完全に消し去れなかったことの方が気になった。

――俺は想像以上に怒っていたらしい、が……カレンに残酷シーンを見せたことを後悔する程度には理性を残していたらしいな。

おかげで気付くことが出来た――。

血飛沫を撒き散らす汚物のカケラが、どろどろに溶けていくのを――。

「――一杯喰わされたってワケだ」

奴らは封印されていたゲヴェルを手中に納めた……ゲヴェルは採取した細胞から複製を作り出す能力がある……。

つまり、そういうことなんだろう。

今さっき潰した奴は――複製だったってことだ。

「あ……あの……」

「――ゴメンな」

何が……とは言わない。

今の俺が放つ怒りの雰囲気にか、拳一つで人間一人を粉砕したことにか、それともその威力で巨大な龍が通り抜けた様な『道』を作り上げたからか――何れにせよ、カレンが震えている原因が、俺にあるのは否めない。

だから――。

「違うんです……」

「え――?」

「確かに……怖かったです。さっきのシオンさんも……あのルインって人も……でも何より、シオンさんが助けてくれたのが嬉しかった……守ってくれたことが嬉しかった……それで、その――ホッとしたら身体に力が入らなくなって――げ、現金ですよね……さっきは悔しいなんて、言っていたのに……あはは……」

――嘘だ。

まだ怖い筈だ――なのに、俺を気遣かって――我慢して、笑顔を浮かべている……。

「……本当に、ゴメン」

「あっ――」

俺はカレンをゆっくり抱き寄せた……。
包み込む様に、愛おしい彼女を――。
最初はビクッと震えたが、次第にカレンの震えは止まっていった――。

「あったかい……いつもの、シオンさんだぁ……」

カレンは嬉しそうに、愛おしそうに眼を細め――抱きしめ返してくれた。

「怖い思いさせて――ゴメン」

「フフ、今日のシオンさん……謝ってばかりです」

「ああ、本当にな……」

そう、互いに笑みが零れ……気付いたら俺の苛立っていた心は、緩やかに解されていた。

だが、それでも完全に心は晴れなかった――。
ただ一つの曇り――それは……。

(……本当に、お前だったのか……国彦――?)

何処までも懐かしい雰囲気を携えた、青髪の双剣士に思いを馳せ、空を見上げる……。

もし本当にお前だったなら……俺は――。

「確かめなきゃ、な」

「?何をですか?」

「いや、何でもないさ」

例え国彦だろうとそうでなかろうと――利用されてるって言うなら、助けてみせるさ。
アイツには、借りがあるからな――。

何処までも澄み渡る空を見上げ、俺はそう誓うのだった――。

***********

次回予告

男と女は一時の邂逅を果たす――。

互いに愛し合い、求め合う――。

それは大いなる流れの前の、穏やかな一時。

ソレは、終局へと向かう流れの始まりの一時――。

次回『胎動』

***********

後書き

既に忘れ去られているとは思いますが、神仁でございます。
m(__)m

伊達家のお膝元に居たので、更新とか中々出来ない状態でした。

(-.-;)

一応、嘘予告と×××バージョンも更新してありますので、お目汚しではありますが、目を通して戴ければ幸いでございます。

それではm(__)m




[7317] なんちゃって嘘予告―異世界転生者と天体戦士―&異世界転生者と剣立つ大地―どちらもネタバレ注意―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:4ba3d579
Date: 2011/12/22 17:29
※文章量が少ないので2本立てです。

***********

俺は、再び世界を越えた……コレで何度目になるのか……。

数え切れないくらいの回数の世界を越えて来た……。
つまり、安住の地を未だに見付けられていない……ということだが。

『MASTER……』

ソレが俺の運命だと言うならば、甘んじて受け入れようと思う……ただ、眷属になってまで俺に付き従う道を選んでくれた、彼女達には……悪いと思っている。

『MASTER……こんな格好までして……おいたわしいです……』

「……そうか?まぁ、仕事だしな……」

うん、現実逃避は辞めにしようか――。
俺は今、とある姿をしている――。

左右非対象の目が着いた白いマスク……額には『2』。

真っ黒な全身タイツの様なそのスーツの胸部には、輝かしい程の『F』マーク。

白いパンツと手袋、ブーツという出で立ち――。

まるで、何処かの戦闘員の様な格好―――いや、様な、じゃあない――。

正に、戦闘員なのだ――。

「やあ、いらっしゃい。今日はよろしくね?」

「はい、よろしくお願いしますヴァンプ様。キーッ!!」

悪の組織……フロシャイム川崎支部、アルバイト戦闘員――通称2号。

ソレが今の俺の役職である――。

***********

「――おい、今日の戦闘員……なんか違わねぇか?」

「ククク……何を言い出すかと思えば……我々はコレから命を賭けた対決をするのだぞ?戦闘員などに気を取られていると、あっという間にやられてしまうぞ……?やってしまえアーマータイガーよ!!」

「死ねぇ!!サンレッドォ!!デスラアァァァンスッ!!」

サンレッドと呼ばれた、赤いヒーローマスクの様な物を着け、『主人公』と書かれたTシャツを着たその男は、俺を見て疑問に思ったらしいが、上司であるヴァンプさん(立場上、仕事中は様付けで呼ぶ)は……いかにもな悪役風な台詞を吐き、鎧を着けた虎男――アーマータイガーさんをけしかけた。

――あぁ、無理だ。

あのアーマータイガーさんも、相当強いみたいだが……。

「オラァッ!!」

ドバキャッ!!!

「ぐぼぉふぅ!!?」

あのサンレッドって奴の方が強い……。
デスランスという技……というより武器の名前か……を、叫びながらその得物……槍を振り下ろしたアーマータイガーさんだったが、サンレッドはその槍を半身になって避け、その場で回転――勢いのまま裏拳一発で、文字通り叩きのめした。

あれだ……龍玉の宇宙の帝王編の、野菜王子と宇宙の帝王くらいに差があるなぁ――。

「ア、アーマータイガーくぅんっ!!?」

思わずヴァンプさんは、素に戻って悲痛な叫びを上げる。
どうやら、先程迄の雰囲気は『作っていた物』らしい。

まぁ、普段の雰囲気が……何と言うか、主夫?だからな……。
今、ヴァンプさんと一緒にアーマータイガーさんを介抱している戦闘員――1号さんいわく、近所の奥様方と仲が良いらしいし――。

「テメェらは……人が質問してるってのに、問答無用で襲い掛かってきやがってよぉ……」

ゴキリ……ゴキリ……と、拳を鳴らしながら近付いてくるサンレッド。

――やむを得ないな……。
俺はヴァンプさん達の前に踊り出て、サンレッドの前に立ち塞がった――。

***********


とりあえず、いつも通りヴァンプの所の怪人をボコッた俺は、これまたいつも通りにコイツらを正座させて、説教でもしてやろうと近付いた。

というか、それぐらいしなきゃ腹の虫が治まらねぇ……。

何しろ、今日は駅前のパチンコ屋で、『CR江戸の花嫁』シリーズを対象にしたイベントを朝一からやってたってのによぉ……。

この馬鹿どもはコッチの都合も考えずに襲ってきやがって……今から行っても、新台の『CR江戸の花嫁3』には座れねぇだろうな……。
2くらいなら座れるか?
――いや、月一イベントだから無理か。

あ〜……なんか余計に腹立つわぁ……やっぱ説教の前にもう少しボコるか……よし、そうしよう。

そう決めた時、ソイツは割り込んで来た。

「2号くん!?」

ソイツはヴァンプの所の戦闘員2号……だが、いつもの奴と違う。

戦闘員スーツの上からも分かる、鍛え貫かれた無駄の無い筋肉、見覚えの無い十字架を模したネックレス……そして何より、雰囲気が違う――。

「あん?何だテメェは?」

「正義の味方が弱い者虐めか?正直、見ていられないぜ……」

「はぁ?お前らは悪の組織だろ?悪の組織を正義の味方(俺)が倒して何が悪い?つーか、連絡も無しに問答無用で襲い掛かって来たのはソッチだろうが……批難される謂れはねぇぞコラ」

まぁ、倒すっつっても?コイツらを本当に倒すつもりは無いんだけどな。
今の所は……。

一応近所だし、かよ子の奴とも付き合いがあるし………悪い奴らじゃねぇからな。

悪の組織のくせに。

本当に悪の組織かコイツら……?
って位にお人よしだからな……コイツらは。

コイツら……弱くは無いんだが、俺が強すぎるからなぁ……俺のモチベーションが上がらねぇってのもあるし……。

……先輩たち……アバシリンの二人なら、容赦無くぶっ殺すんだろうな……。

……うわっ、思いっきり想像しちまったよ。

「ふむ……まぁ、正論だな。命を狙われた以上、この程度で済ますのはむしろ甘いとも言えるし……」

「だろ?何だお前、話が分かるじゃねぇか」

アレだ……周りの反応が反応だから、俺の対応がおかしいのかと思ってたが……どうやら俺の対応は正常みたいだな。

「とは言え、俺も雇われてる身だからな……雇い主を見捨てるとか出来ないんだわ……」

「なら――どうするってんだよ?」

「――決まってんだろ?」

そう言うと、目の前の奴は拳を握り締め、それを眼前に掲げて言った――。

「男なら―――ゲンコツで来い。まぁ、不安だったら武器を使っても良いケドな?」

「……面白ぇ」

俺は身震いした……ヒーローとしての直感が告げている……目の前に居る奴は――強い。

初めて――初めて全力で戦えるかも知れない相手を前に、俺は高揚を隠し切れなかった……。

「いくぞオラァッ!!」

「甘ぇよ」

!?いなされた……!?俺の拳が……っ!?

「本気で来い……或いはこの身に届くかも知れんぞ?」

「上等だぁ!!うおおぉぉぉぉっ!!!!」

『MASTER……幾ら格好つけても、その格好で全て台なしですよぅ……』

何か女の声が俺のレッドイヤーに聞こえた気がするが……関係ねぇっ!!

俺は!!今っ!!燃えているっ!!!

俺の身体を炎が包み込み……バトルスーツをその身に纏った。

さぁ……第二ラウンドだぜっ!!!

***********


「…………」

「…………」

「…………」

信じられない物を見ている。

「く……くそがぁっ!!」

「どうしたどうした?そんなパンチ――蝿が止まるぜ?ゼアッ!!」

ドゴンッッ!!!

「グハアァッ!!?」

あのレッドが……今まで散々自分たちをボロクソにしてきたレッドが……逆に追い込まれてる……。

今も2号(臨時アルバイト)に殴り飛ばされて、公園の塀に激突してる……。

「ヴ、ヴァンプ様……あの2号、凄いですね……」

「あの2号君……レッドの言う様にいつもと違うみたいっスけど……何者なんスか、ヴァンプ様?」

俺とアーマータイガーさんが、ヴァンプ様に聞く――あの2号を採用したのは、ヴァンプ様だった筈だし……。

「う、うん……皆も知ってると思うけど、今日の担当の2号君が急用で田舎に帰省してるのね?で、ちょうど都合悪く他の担当の子たちも、来れないらしくって……。で、今日のレッドさんとの対決に間に合わせないとって思って、本部に問い合わせたらちょうどアルバイト希望の子が居るって聞いてね?で、それならってことでその子をコッチに回して貰ったわけ」

なるほど……それで彼を面接して、採用した――と。

「でも、なんかイケそうですよね!俺、レッドがあんなに苦戦してるの初めて見ましたよ!」

「自分もッス!希望が見えて来たッスよヴァンプ様!!ウッス!!」

「そうだよね〜♪これは、このまま世界征服出来ちゃう勢いかも……あっ!?」

ゴオォォォォッ!!!

レ、レッドが炎の柱に包まれて……っ!?

ズバッ!!!

その中から現れたのは……レッド……なのか……?

「サンレッド!究極形態!!ファイヤーバード・フォームッ!!!」

巨大な炎の翼を噴出させて現れたのは、サンレッド……なんだろうけど、所々変化していた。

金色のガントレット、プロテクター、スーツに刻まれたファイヤーパターン……挙げれば切りが無い。

「あ、あれは……レッドさんのパワーアップ形態……ファイヤーバード・フォームッ!?」

「ご存知なんですか、ヴァンプ様!!?」

「以前、かよ子さんの家で押し入れの整理をしていたレッドさんが言ってたんだよ……レッドさんの究極戦闘フォーム……私も初めて見たケド……」

要するに、ヒーロー物で中盤以降に登場するヒーローのパワーアップ形態と、同じような物らしい……それだけ、レッドが追い込まれているってことか……。

「初めてだぜ……俺をここまで熱くさせた奴はな……」

「フッ……そうかい。なら、見せて貰おうか?その究極形態の力とやらを……」

「ああ、見せてやるよ……いくぞオラァッ!!」

し、痺れる……今まで戦闘員やってて、こんなに痺れる展開は初めてだ……!!

これが近所の公園じゃなく、ダムとか高層ビル群の近くとかなら最高のロケーションだったんだけど………そんな贅沢は言ってられないよな!

「ヴァンプ様!応援しましょうよ!!」

「そうだね!いまの私たちに出来るのって、それくらいだもんね!」

「自分も応援するッス!!」

俺とヴァンプ様とアーマータイガーさんは、お互いに見遣って――頷いた。

「頑張れーっ!!2号ーっ!!」

「頑張ってぇっ!!2号くぅんっ!!」

「レッドをぶっ飛ばせ2号君ーっ!!!」

***********


なんか、凄く応援されているんだが――。
正直、どっちが正義の味方なのか分からなくなる様な状況だな。

つか、此処って普通の児童公園なワケで……サンレッドの奴、あんなに炎の羽を広げて――あぁ、遊具が溶け出してるし――。

「とても正義の味方の所業には思えない件」

「よそ見してんじゃ――ねぇっ!!」

レッドが炎を纏った跳び蹴りを放ってくる。
俺はソレを魔力を纏い、更に圧縮変換させた拳撃で迎撃する。

「バーニングゥ……キィィィック!!」

「暗黒魔闘術奥義……魔神裂光殺っ!!!」

エネルギーとエネルギーのぶつかり合い……エネルギーが奔流となり吹き荒れ、強烈な光が互いを包んだ――。

「ぐっ……があぁぁぁっ!!?」

均衡を崩し、光から吹き飛んだのは――レッド。
空高く吹き飛ばされ、あわや遥か彼方まで弾き飛ばされる所を、背中の炎の翼を逆噴射させ、ブレーキを掛けて近場のビル群に着地したのが見えた。

――アレに耐えたか。
手加減したとは言え、並の奴なら只じゃ済まなかったんだが――要するに只者じゃねぇ……ってことだな。

俺はすかさず瞬転を発動、レッドの所に向かう。

「アレに耐えるとは、ね?まぁ、見るからにボロボロだが」

「……へっ、まだまだ……俺の太陽(コロナ)は……燃えてるぜ……っ!!」

「強がりは止せ」

「試して……みるかぁ……?」

あちこちボロボロになりながら、未だ闘志を失わぬレッドは、やってきた俺を見据えながら、腰に下げた銃の様な物を取り出し――次の瞬間、ソレは巨大な大砲の様な物に変化した。

ソレを肩に担ぎ、照準をコチラに合わせる。

「充電率100%だ……これが、最後の勝負だぜっ!!」

砲口に濃密なエネルギーが集中されていく――避けたり、撃つ前に止めるのはたやすいが――。

「……無粋だな」

俺は瞬時に呪文を紡ぎ、自身の中で上位に位置する砲撃魔法――『極光』を待機状態にする。

「付き合ってやるよ、その悪あがきに……な」

「へっ……後悔するな、よ……」

互いにエネルギーを高め、ソレが――臨界に達したっ!!

「行くぜぇっ!!」

「――来いっ!」

「コロナバス『あの、大変申し訳ないんですけど……』タ………あ?」

正にクライマックス……って時に、我が相棒ディケイドが待ったを掛けた。

「どうしたディケイド?」

『大変……言いにくいのですが……MASTER、時間です』

「マジ……?」

ソレを指摘された俺は、携帯を取り出す。

……マジみたいだな。

俺は携帯を開き、電話を掛けた。

「あっ、もしもし――ヴァンプ様ですか?……はい、はい……2号さんは……あっ、着いた?それじゃ、自分は定時通りにということで。はい、了解しました……はい――では、失礼します」

ピッ。

「と、まぁ――そういうワケなんで、スマンが今日は此処までだな」

『実はMASTERは今日のシフトでは無かったんですけど、本来担当の人が急用の為、代理で入ってたんです。それで、その担当の人が戻るまでの時間、MASTERが急遽シフトに入ることになりまして』

「で、時間になったんで一応ヴァンプ様に連絡してみたんだよ。そしたら、今日担当の2号さんが到着したらしくてな。間に合わなかったら残業で相手出来たんだが――悪いな」

「……………」

レッドは固まっている――まぁ、思いっきりKYだからなぁ……俺達。
だが、現代日本で生きる以上――時間というのは守らなければいけないワケで――。

『MASTER、次は定食屋の仕事です。急がないと――』

「あぁ、そうだな。じゃあ、俺らは行くから」

「…………」

俺は消える様にその場を去った。
尚、その後ヴァンプ様達はボロボロになったレッドと対決したらしいのだが………まぁ、手負いの獣ほど恐ろしいモノは無いってことだな。

――全治数週間で入院したとか。

ヴァンプ様いわく、「あの頃のレッドさんより恐かった……」らしい。
あの頃というのが、どの頃なのかは知らないが。

……何だかよく分からない罪悪感があったので、デパ地下の菓子を持って見舞いに行きました――どっとはらい。

**********

と、まぁ――ヴァンプ様達、フロシャイム川崎支部の面々や、レッドやかよ子さん……そして時々現れるヒーロー達による何処か平穏なドタバタ劇。

それに巻き込まれる俺達――だが、こういうのも悪くない。
ずっと、こんな時が続けば良い……本気で俺はそう思ったんだ。

***********

そんな俺達を襲ったのは――狂わされた転生者が率いる、異次元からの侵略者!!

「この星は我々が戴く……我々『グレートショッカー』がなぁっ!!」

狂わせた者は大幹部に扮する――かつて、あの世界に俺を招き寄せた男。

「鳴滝……!」

「遂に見付けたぞ……シオン。君を呼び寄せたのは私のミスだ。故に破壊者――ディケイドを継ぐ者よ――お前もまた、消えねばならないっ!!」

敵は強大……だが、異次元からの侵略者を退けるために、正義と悪が手を組んだ!!

「世界を征服するのは、我々フロシャイム!!――レッドさんを倒すのは私たちなんだっ!!あんな奴らに負けるワケには――いかないんだ!!」

「最後まで悪の組織らしくないなテメェらは……まぁ良い、行くぞお前らぁっ!!」

「「「「おおおおぉぉぉぉっ!!!!!」」」」

次元を越え、集うは――かつての旅の仲間。

「士、ユウスケ、大樹――それに夏美ちゃんまで」

「俺たちだけじゃないぜ?」

銀幕のカーテンから現れるのは、仮面ライダーの名を継ぐ者達――。

「再会を喜ぶのは……後にしようじゃないか?」

「今は――アイツらを片付けるのが先だなっ!!」

「行きましょう!!今度こそ終わらせなくちゃ――!」

そして、代行者である俺は……自身の眷属、仲間達と共に――狂わされた転生者と、妄執に囚われた調定者が率いる闇へと向かって行く。

日本の、限定的な場所で行われていたドタバタ劇は――世界の存亡を巡る物へと変わっていく――。

天体戦士サンレッド〜Double Cast〜with仮面ライダー

〜公開未定〜

***********

あとがき

色々ツッコミ処満載ですが、オールスルーの方向でm(__)m
まぁ、某が書く物は全部ツッコミ処満載ですが……(;¬_¬)

では次をどうぞm(__)m

**********

これは嘘予告である!

主人公の状況、その他のネタバレ等を含む、もしもの話である!!

それらに納得した者のみが、先に進むことを許可される!

……まぁ、要するにヤ○チャしやがって……的な生暖かい眼で見てやってくれってことだな。

覚悟は良いか?

では、開幕を告げようっ!!!

***********

〜遥かいにしえの戦いによって生まれた、剣立つ大地――アースティア。

この物語は、そんなアースティアを守るべく立ち上がった……勇者達の物語である――!〜

「……と言った世界にやってきたワケだが……」

『MASTER……この世界もご存知なんですか?』

「まぁな……あんなどデカい剣が刺さった大地……なんて、一つしかねぇよ」

またまた、世界を飛ばされた俺は……相棒のディメンション・デバイスであるディケイドに説明する。

遠目にも見える程の巨大な剣―――アースブレード。

それだけで分かる。

此処は――覇王大系リューナイトの世界だ。

――まぁ、TV版かOVA版か……或いは漫画版か……それは流石に分からないが。
……それによっては、随分と展開が変わる世界だからなぁ……。

まぁ、なんとかなるさ……今までだって、何とかしてきたんだしな。

「とりあえず、周辺のサーチを頼む」

『了解しました』

俺は俺のやれることをやる……そう誓ったのだから。
先ずは、与えられた使命を果たす……。
転生者を探し――見極めるという使命。

――その後、出来るなら平穏に過ごしたいなぁ……。

等と、つくづく思う俺だったが――その願いは叶わなかった。
何故なら――この世界は『混ざっていた』のだから――。

***********

こうして、剣立つ大地を旅することになった世界の代行者……そこで様々な出会いを経験する。

一族を想う、人魚族の少女――。

用心棒をする、さすらいの凄腕ガンマン――。

(……オイオイ、まさか……俺の生まれた、グロラン世界の時みたいに……『混ざって』やがるのか――?)

それを決定付ける出会いが――代行者に襲い掛かった。

「ふっ……この私に逆らうとは……身の程知らずめ」

白髪を帯びた黒衣の騎士――。

「おい、イクズス?コイツは俺がやるからな――邪魔するなよ?」

「好きにしろ――年寄りの冷や水にならなければ良いがな?」

一見、少年の様に見える魔族の剣士と、冷笑を浮かべる魔族の導師――。

(ガルデンに、ヒュントとイクズス……マジかよ……つまり、邪竜族と魔族が両方とも出っ張ってる状態……ってことは、ウォームガルデスとかも存在するってことか……?ソレってヤバくねぇか……?)

思案する代行者……ふと。

(待てよ……そうなると、サルトビの一族の仇って……どうなるんだ?ガルデンか?イクズスか?それにパッフィーは封印の魔女なのか、そうじゃないのか?)

そんなことが頭を過ぎりながらも、襲い来る脅威を退け……旅を続ける代行者。

答えは、いずれ現れるだろう……と。

そして、彼は出会う――もう一人の相棒と――。

「……お前は……ずっと、俺を待っていたのか……来るかも分からない俺を――?」

『…………』

「『ジャスティーン』か……良い名前だ……ん、分かった。一緒に行こうぜ」

彼は愛機と出会い、剣立つ大地を駆けていく。

そして出会う―――勇者の一行と。

「あなたもリューの使い手なのですね?」

「姫、此処は彼にも助力を願い出ましょう」

魔導師のリューを使役する姫君と、彼女に付き従う巨漢の僧侶。

「へぇ……アンタはソコの音速バカと違って、話が分かるじゃねぇか」

「誰が音速バカだこの野郎っ!?」

一族を滅ぼされた復讐の忍び……そして、自称・音速の騎士を名乗る騎士見習いの少年。

他にも、守銭奴だが悪どく成り切れない武器商人の少女、部族再興のために奮起する美貌の青年、剣を極める為に島国から旅立った若きサムライなど……様々な出会いがあった。

そして――戦いも。

「来い……リューナイト・ジャスティィィーン!!」

現れしは、蒼と白を基調にした騎士のリュー……。

「どうやら、アニメ版の様に動きを完全にトレースして動かすみたいだな……つまりは」

代行者は虚空より剣を取り出す……自身がもっとも頼りにする大剣を……。
すると、どうだ……自身の剣がリューにも投影され、スケールアップされた――全く同じ剣を、リューが握っていたのだ。

「どういう理屈かは知らないが……これで、俺も存分に……遠慮無く戦えるってワケだ!!」

『グオオォォォッ!!』

彼の気迫に呼応するかの様に、リューが雄叫びを上げる……。

代行者の能力を忠実に再現する騎士のリューは、獅子奮迅の働きをする――。

魔族、邪竜族――様々な思惑が絡み合う中、その剣と新たな力と仲間と共に駆け抜けた――。

「アデュー、お前はゼファーと本当の意味で一体になっていない。今のゼファーは、以前の乗り手の意思を体言しているに過ぎない」

「そ、それの何が悪いんだよっ!!」

「あのパラディンの力は、言わば借り物でしかないってことだ。――それが悪いとは言わない。だが、もしより強く、より高みに上り詰めたいのなら――お前は探さなきゃならない。お前だけの聖騎士の力を……それが出来たら、真の意味でゼファーと一体になることが出来る……まぁ、ジャスティーンの受け売りだがね」

「俺だけの――力、俺とゼファーの……力」

音速の騎士は、代行者と出会うことにより、更なる高みへと駆け上がることになる――。
それはOVAと呼ばれる媒体に出てくる、彼の聖騎士の姿だった。

そして、世界を破滅に導こうとする転生者と出会う――。

「クククッ!!闇の力も、精霊石の力も――全部、全部俺のモノだあぁぁぁぁっ!!」

「悪いが……お前の望みを叶えさせることは出来ない――俺が、お前を止める――ディケイド、セット・アァァーップッ!!」

リューに乗った代行者は、破壊者のアーマーコートを纏う――。

すると、リューが変異していく。

頭部に吸い込まれる様に突き刺さるプレート、鎧はマゼンタカラーに白と黒の十字。

代行者の物に瓜二つなアーマーコート――。

「リューブレイカー……ジャスティィーン!!さぁ、俺達の本当の力を……見せてやるよ」

「貴様ら……何者だぁ!!?」

「通りすがりの――代行者だ、覚えておけ――」

彼らは戦う――世界を滅びから救うため、立ち上がった。

遥かいにしえの戦いによって生まれた、剣立つ大地――アースティア。

この物語は、そんなアースティアを守るべく立ち上がった……勇者達――そして世界を滅びから救う為、安息の地を求めてさすらう……代行者達の物語である――!

***********

あとがき

どうしようもなく、おまけ臭が漂う今回の嘘予告――。
またまたスルーでお願いしますm(__)m
ちなみに、ジャスティーンの元ネタは、ワイルドアームズを知っている人には一目瞭然かも。
アデューがゼファーなので、こうしました。

それではm(__)m




[7317] 第129話―胎動―【15禁?】
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:4ba3d579
Date: 2011/12/22 17:51


あの後、色々と酷い有り様だったあの場所(カレン達が守っていたのか、薬草畑は無事だった)を、直し……いや、治してからカレンの家に向かった。

ん?どうやって治したのか……だって?

精霊達の力を借りてチョチョイッ―――とな。

ハァ?(゚Д゚)とか、思われるかも知れないが、別段難しいことはしてないんだよ。

元来、魔法ってのは己の精神力を使って行使するよな?
それプラス――術式や杖なんかの媒介を使って、より強力な魔法を行使したりするワケだが。

故に、魔力には限りがあって――無い物を修復するなど、それこそ膨大な魔力量が必要だし、特殊な術式が必要らしい。

グローシアン等は例外だが―――俺の場合グローシアンで魔力もバグってるくらいの量を保有しているが……自身の体質上、そんな修復魔法は覚えていないし――使えない。

ならば、俺が何をしたのか――?

簡単に言えば、精霊にこの馬鹿魔力をちょこっと提供して、修復して貰ったっつーワケ。

そう、実は俺――精霊が見えます。
今になって明かされる衝撃の事実――!!
って、既に明かされていることだが。

――忘れているかも知れないが、俺の実家で働いているメイドのシルクは、元・精霊(正確には妖精に成れずに膨れ上がった精霊の集合体)だったワケで――衝撃でも何でも無いと思う。

まぁ、精霊以外にも色々見えたりするが――それは割愛しよう。

要するに、俺には精霊使いの才能があるってことになる……。
とはいえ、ちゃんとした訓練を受けたワケでなく、精霊に好かれやすい――くらいのモノでしかないが。

元より、例えマトモな訓練をしたところで、俺の異能の影響で精霊使いの技能を完全に習得することは困難だったと思う。

話が横道に逸れたな……つまり、俺は森の精霊……とでも言えば良いのかな、彼らに自分の魔力を分け与えて、失われた自然を再生して貰ったワケだ。

正確には超が付くくらいの成長促進なんだが……それはこの際どちらでも良いだろう。

と、蛇足はこのくらいにして。

「お邪魔します――って、ベルガーさんは?」

「お父さんは――修業にいくって言って……」

えっ、何その超展開?

理由を聞いたが、カレンには分からないらしい――。
ただ、最近鈍った身体の感覚を取り戻す為に、闘技場に行っていたらしいのだが――。

「しかし、なんでまた急に?」

「それは……私にも分かりません――お父さん、無理していなければいいけど……」

――これは駄目だな。

当初、カレンとだけアレをシテなく、しかも他の皆とイタシテいたことを、これまたカレンだけ知らないという状況で――オマケに何やら直感にキュピーンと来たので、慌ててバーンシュタイン城を飛び出して来た……。

ぶっちゃけ、仕事もないからカレンともイチャイチャしようかなぁ――というカスの様な考えで来たワケだったりするが――。

――そういう雰囲気じゃあ……無いよなぁ。

ある意味では、ベルガーさんが居ないのは幸運だが――って、また下種な思考を……。

俺は、溜め息を吐いて頭を抱える……ったく、何様だよ俺は――さっき、カレンのお咎めが無かったからって、調子に乗ってるのかぁ……?

……いや、違う。

俺自身、そういう気が薄れてきているから――だろうな。

「シオンさん……?ど、どうしたんですか……?」

「ん?あぁいや、何でも無いよ」

そう答えながら、俺は別のことを考えていた。

もし――リヒターがアイツ……国枝 国彦だったとしたら。

『国枝 国彦』

俺が前世――海道 凌治だったときの――親友……いや、悪友か?

学生時代、『沙紀』を失い廃人同然だった俺は、催眠治療を受けて記憶を封じた。

それでも失意のドン底に居た俺は、ワケの分からない空虚感と、絶望感を抱き――それらが何処から来る感情か理解出来ず、只々苛立ちを募らせて反社会的な行為を行った。

ぶっちゃけ、グレたワケだな。

そんな俺だったが、両親や弟……周りの人々のお蔭で、卒業する頃にはなんとか立ち直ることが出来た。

代わりに、とんでもない無気力(グータラ)症になっちまったが――。
で、そのままサラリーマンになったワケだな。

アレだ……初期の某新聞社社員と、某社特命係長通常バージョンを足して2で割ったグータラ社員っぷりと言えば、分かりやすいか?

当事の口癖が『かったりぃなぁ……』だったことから推して知るべし――である。

……よくクビにならなかったな、俺。

で、そんなリーマン時代に知り合ったのが国彦だったワケだ。

『よおよお、海道だったよな?俺は国枝 国彦ってんだ。宜しくなっ』

グータラしていた(けど、仕事はノルマギリギリでこなしていた)俺に、そう言って話し掛けてきたアイツは、自然体で俺に接してきた。

『リョウちーん、金貸してくれよぉ……すぐに返すからさぁ〜♪』

『またかよ……なんでそんなに毎回金欠なんだよお前――』

『いやぁ、欲しいタイトルが重なっちゃってさぁ♪つい衝動買いを――』

『またゲームか――俺もやらないワケじゃないが――恋愛シミュレーションだったか?――所詮ゲームだろうに……面白いのか?』

『おのれリア充めが……お前は俺を怒らせた――良いだろう、ならばこれを貸してやる!この俺の寛大さに咽び泣くが良い!』

『……ダ・○ーポ?何故音楽用語?つか、リア充ってなんだよ?』

『絶望したっ!主人公気質な鈍感野郎に絶望したぁっ!!……ちなみに、リア充ってのはリアルに充実してる奴って意味の――』

……俺のヲタ知識はコイツからもたらされたモノであることは、疑いようがない事実。

幸い、ゲームは嫌いじゃなかったからな……。

アイツの策略にまんまと嵌められたのは、些か遺憾ではあったが……。

ダチらしいダチが居なかった『俺』の、親友……いや、やっぱりコイツの場合は悪友だな……うん。

『……グローランサー?今時PSかよ……』

『ククク……PSだからと侮るなかれ!今までに数多くのシリーズが出ているが……ストーリー、システム面共に歴代最高傑作と信じて疑われない……それがグローランサー無印なのだぁっ!!――ちなみに、PSPでリメイクバージョンが出ているが……どうせ主題歌を変えるなら新規でオープニング作れよと、小一時間問い詰めたい……せっかくゆかりん起用した新キャラなのに、オープニングムービーに新キャラ居ないとか、神作に胡座をかいたか製作スタッフ……まあ、リシャール救済エンドを作った心意気は買うが……』

『で、お前が奨める以上、恋愛要素有り――と……つか、もしかしてラングのキャラデザの人と同じか?コレ……』

『そう……その通りっ!!と、嵐を呼ぶ旋風児の様に断言する俺……フッ、イカすぜ……』

『いや、幾ら真似ても似てないからな?イカしてもいないし――後、俺は同じ中の人なら勇者王の方が好きだ』

『お前の指摘する通り、コレには恋愛要素があるっ!!まぁ、男との友情endなんてのもあるが……そして、キャラデザも同じ人……つーか、ラング時代のスタッフそのままだったりだが――』

『いや、聞けよ人の話を』

『まぁ、出てくる女性陣は全員俺の嫁だがなっ!!ナーハッハッハッ!!』

『……駄目だコイツ早く何とかしないと……』

……まぁ、無茶苦茶だったが、楽しかったな。
アイツと一緒だと飽きるということが無かったし、散々振り回されたのも良い思い出だ………コミケとかコミケとかコミケとか。

……って、何でカレンの家に来てまで野郎のことなんか考えてるのかね俺は……。

「あの人たちの……ことですか?」

「……まぁ、な」

時間にして数秒程度だったんだが、それでもカレンに勘繰られる程度には思考に耽っていたらしいな……。

「あの人……リヒターさんは、悪い人には見えませんでした」

「そうか――」

それに関しては俺も同意見だった為、頷いて肯定を示した。

「けど……あのルインという人は……恐い、です」

恐い……カレンは確かにそう言った。
それは非常に的を射た言葉だと思う。

――人は、あそこまで邪気に満ちた瞳で、他者を弄ぶことが出来るのだろうか……?

あんなにも歪に歪むモノなのだろうか……?

「あんなに濁った眼を……私、見たことなくて……」

「カレン……」

……カレンの言葉は正しい。
俺も、今まであんなに歪んだ眼をした奴は見たことが無い。

今までに、色んな奴を見て来たが――例えどんなクズ野郎でも、あそこまで濁った眼をした奴は居なかった――。

それは大なり小なり、正しいとか間違っているとか関係無く、ソイツが信念を抱えていたからだ。

だが、奴にはソレが無い――。

ドブ川が腐った様な眼……いや、それ以上だ。
強いて言うなら、悪意を圧縮したヘドロの様な何かを、より強く凝固したナニカ……とでも言えば良いのか。

あるのは何処までも歪な悪意と、邪気にまみれた愉悦だけ――。

「私……わた、し……」

「カレン」

「あっ……」

奴の狂気に触れたことを思い出したからか、恐怖で震えるカレンを俺は抱き締めた。

すると、カレンの震えはスーッと消えていく……。
ホッとしたように、身体の力を抜いて俺にその身を委ねてきた……。

「――私、恐いんです……あの人が、みんなを……貴方を奪って行く気がして……」

「いつだかの夢の話か?心配しなくても――「心配します!!」――む……」

「心配……します……貴方は、私たちのことばかり心配してくれますけど――貴方自身のことは二の次、三の次……心配しないわけ……無いじゃないですか……」

否定は……出来ないな。
自分をないがしろにしているつもりは無い――だが、自身の優先順位が低いのは確かだ。

分かってはいるんだが――自愛が足りないってのは――。

とは言え、これは昔からのクセみたいなモノだし……チート転生をして、その辺の感覚が鈍ったってのもあるかもしれないケドな――。

「心配するなよ――俺はあんな奴にどうこうされるつもりは無いし、カレン達も必ず守ってみせるさ」

幾ら自身の優先順位が低かろうが、ソレが彼女を悲しませるというのなら――俺は命をないがしろには、絶対しない……いや、出来ないのだから。

「でも……」

「本当にカレンは心配性だなぁ……」

俺はカレンを抱き締める力を強める。

「シオン、さん……」

「なぁ、カレン?俺が約束を破ったことがあったか?」

そう尋ねる俺に対して、カレンは首を横に振ることで答えとした。

――実際にカレンに対しては、約束らしい約束を破ったことが無い。
だから、俺は自信を持って告げた。

「約束する、俺はカレンを悲しませない――例えどんな障害があろうと、必ず生還してみせる――皆も死なせないし、俺も死なない――絶対だ」

それは贅沢な望みだ――そう上手く行くワケが無いってのは、理解している。

現実はそんなに甘くない……幾ら俺自身の運がご都合的に良いとしても、だ。

100%なんて、現実の事柄ではあり得ない――だが、自身を研鑽し、思考を巡らせることで、それを100%に近付けていくことは出来る――。

言うなれば、これは『誓約』だ。

自分自身を奮い起たせるための――約束を違えないための誓約。

「……信じます。貴方の言葉を」

カレンはそう言ってくれた。
それは絶対的な信頼の証――それを裏切るワケには――いかない。

「ああ、信じてくれ。なんなら、この前みたいに指切りするか?」

俺は自身の小指をカレンの眼前に掲げる。
それを見て、カレンはクスリと笑いながらも、ソレに応じた。

「指切りげんまん――」

その絡めたられた小指は、細くしなやかで――暖かくて。

「嘘ついたら針千本のーます――」

その暖かさが、否応なしに伝えてくれる――守るべき者の尊さを。

「「ゆーびきったっ!!」」

スッと離した小指に、若干の寂しさを感じながらも――腕の中の温もりは確かに存在する。

だから――俺はカレンに言った。

「これで、心配無し……だよな?」

ニカッ!と、笑みを浮かべて言う俺に対してカレンは――。

ふるふる――。

首を横に振って答えた――って、ほわい?

「ゆ、指切りだけじゃ……足らないです」

「え、え〜っと……」

まぁ、カレンの言いたいことは……分かる。
カレンの顔……真っ赤だし。
凄く、しがみつく感じだし。

――幾ら俺が鈍感泥付き人参だとしても、好き合った相手の機敏くらい理解出来る。

――まあ、なんだ。

さっきの『やる気が無くなってきた宣言』は撤回させて貰おう。
ぶっちゃけ、恥じらい100%なカレンを見てたら――みなぎってきた。

「――じゃあ、何が欲しい?」

「貴方の――ぬくもりが欲しい、です……」

「それは、こうして抱き締めてるだけじゃ駄目なのか?」

俺は白々しくもカレンに問いながら、包み込む様に、少し強めに抱き締めた。

カレンはただ優しく抱き締められるよりも、強く抱き締められる方が好みらしい。

その方が、自分が強く求められていると実感するから……だとか――。

「あ、んっ……もっと、もっと欲しいんです――もっと貴方を感じたいんです……ダメ、ですか?」

「――分かってるだろ?俺の心臓、バックンバックン言ってるのが」

カレンは更にギュッと抱き付き、俺を求めてくれた――。
ならば、自分が格好つける理由は存在せず、俺は自身の胸の高鳴りを吐露した。

「俺もカレンが欲しい……もっとカレンを感じたい――ソレが素直な気持ちだ」

「……もう、みんなと一杯――していたのに?」

「ソレとコレは話が別だ」

「……ずっと、本当にずっと待ってたんですよ……?なのに貴方は、こっちのアプローチに気付きもしませんでしたし……気付いてからも、ずっとお預け状態でした――」

「……それについては、弁解の余地も無いな」

俺達は互いに問答を交わす。
それは互いの高ぶりを静めるためか――否、互いの熱さを確認する為だ。

互いの高ぶりを、熱さを、想いを再認識した――だから。

「だから、待たせた分を取り戻させて欲しい――ダメか?」

「ダメなわけ……ないです、嬉しい――です、本当に――嬉しいです……っ」

抱き付く力を強めるカレン――歓喜に震え、涙を流しているのが、湿る胸元を通して伝わってくる――。

……そこまで喜ばれると、逆に申し訳なく思ってしまうな。

けれど、俺は自分を卑下しない……この場この時に限っては、何処までも自惚れることにした。

「良かった……それじゃ、存分に感じてくれ。そして、目一杯カレンを感じさせて欲しい――」

「はい、シオンさ――んっ……」

俺は、カレンは、待ちきれないとばかりにお互い口付けを交わした。

「んむ……ちゅ、んちゅ……」

舌をカレンの口内に割り込ませる――カレンはぴくりと身体を震わせたが、すんなりと受け入れてくれた。

「ちゅる、ちゅぷ……ねちゅ、くちゅ――ふあぁ……っ」

互いに舌を絡め、吸い付き、唾液を貪る――それが甘露である様に……実際、俺には堪らなく甘露なワケだが……カレンはどうだろう?

ふと気になった俺は、ふやける様な快感を与えてくれるカレンの口内から名残を惜しみつつ、ゆっくりと唇を離した……。

「はぁ……はふ……あふぁ……♪」

――聞くまでも無いかも知れないな。
凄くふやけきった笑顔――ぶっちゃけエロい表情を浮かべているカレンの顔を見れば、な。

多分、これは俺以上に――。

「キス……きもちいい……それに、シオンさんの唾液も……すごく……おいしぃ……♪」

……まぁ、以前にディープなキッスをした時も、再起不能一歩手前くらいにふやけたカレンだが――何か色々吹っ切れたらしい。

身体に力が入らない程、キスを感じているのは変わらないが――なんつーか、求め方が貪欲な気がする。

いや、素直になったと言えば良いのか?

まぁ、何だ――つまり辛抱堪らないっつーワケで――。

「カレン――」

「あっ……」

出来るだけ、優しくしようと……麻痺していく理性の中で決めた――。
――どれだけ遵守出来るか怪しかったが。

***********

で――カレンの部屋なワケで。

「結局、無茶させちまうんだよなぁ――」

我ながら自分の暴走っぷりには呆れ果てるしかないな……。
先程の決意は何だったのかと、小一時間問い詰めたい――。

「すー……すー……」

「なのに、こんなに満ち足りた表情してんだもんなぁ……本当、男冥利に尽きるよな」

カレンの幸せそうな寝顔を見て、ほっこりした気分になる。
――今のカレンの全身像を見たら、モッコリしちまうケドなっ!!

……親父ギャグですねすみません。

まぁ、状況は察してくれ。

「しっかし……下手くそだとは思わないが、ついこの前までチェリー君だった俺が、カレンをあんなに乱れさせたなんて……何か、変なフェロモンでも発してるんじゃないか――俺?」

……あながち、無いとも言えないのが恐ろしい。
俺自身、自分の能力については全てを把握しているワケじゃないからなぁ……。

「まぁ――良いか」

結果的に、痛い思いを少なくさせているのだから。
寧ろ喜ばしいことだよな――。

「っと、もうこんな時間か……我ながら、なんという――」

グランシルに来た時は昼近くだったのに、外から降り注ぐ光は既にオレンジ色だ。

つまり、それだけアレしていたってワケなんだが――。

「本当に……猿だな」

いや、猿もこんな長時間アレしたりしないか……。

無理を言ってバーンシュタインを飛び出して来たからなぁ……。
本当なら、直ぐにでも帰らなきゃあいけないんだが――。

「――ほっとけないよなぁ……やっぱ」

健やかな寝息をたてるカレンを見て、俺は今日は此処に残る決意を固めた。
――本当、ナイツとして相応しく無い所業だと思うが。
カレンが寂しい思いをしていたってのを、これでもかっ!というくらい理解してしまったから。

せめて今日1日くらいは――な?

「思い立ったら即吉日――ってな」

俺は転移の腕輪(EX)を取り出し、同じ腕輪を持つ者――ジュリアへとその旨を伝えることにした。

結果、上手く誤魔化してくれるという話になった――。
今度、何か礼をしなきゃな――。

***********


「うぅ、ん……?」

私は、寝てしまったんですか……?

「……って!?わわわ、私、はだ、はだ、裸――っ!!?」

な、何で――あっ……。

そうだ――私、シオンさんと――。

―――ボフンッ。

「はうぅぅ……お、思い出しちゃった……」

ダメ……恥ずかしくて死んじゃいそう……。
でも――うふふっ♪

顔がゆるんじゃう――。

思ってたより痛くなかったし――それどころか……。

「ーーーっ!!」

ヤダヤダ、私ったらっ!?

でも――フフフッ……♪

「まだ、残ってる――」

シオンさんの――感覚が……。

「っ、そういえばシオンさんは――」

もしかして、もう帰ってしまったんじゃ……?
それも、仕方ないんでしょうね……シオンさんは、本来忙しい人なんですから――。

ガチャ。

「カレン、起きたか――って……」

「あっ……」

シオン――さん?

バタンッ!!

「わ、悪ぃ……ノックくらいするんだったな……」

「い、いえっ、そんな……」

私がその――こんな格好だから、シオンさんは慌てて開いた扉を閉めました。
――昨日は、もっと隅々まで見られたかと思うと――あぅ……。

「あ、あの――入っても、良いです、よ?」

って、何を言ってるの私〜〜!?

「い、いや、そんなことしたら絶っっ対に!抑えが効かないから――今は止めとく。そ、それよか、夕飯の支度が出来たから呼びに来たんだ」

抑えが効かないなんて――抑えなくても、良いんですよ……?

な、なんて、やっぱり私ってば、おかしくなってるのかしら?

こんな、まるで誘う様な考え方……。

「って、お夕飯……ですか?」

***********


ヤバかった……。

物凄くヤバかった……。

あのままだったら、ルパンダイブを敢行してても可笑しくない状況だった……。

?もっと色々やってたくせにヤバいもクソも無いだろう……って?

それはアレだ……前にも言ったと思うが、ぐでんぐでんに酔っ払った翌日に、一緒に飲んだ奴と素面で遭遇したような……そんな感覚に近いんだよ。

ぐでんぐでんに酔っ払ったことが無いから、正確には違うのかも知れないケド。

あの時は何か色々とスイッチ入った状態だったから、テンションが色々変だったが、普段からあのテンションで居るワケ無いだろJK?

……って、俺は誰に言ってるんだか……。
内心で言い訳してたら色々オシマイな気がするなぁ……。

まぁ、それはともかく。

あの後、カレンが着替えるのを待ってから居間に向かった。
……カレンは何処か歩き辛そうにしていたが、敢えて触れないのも気遣いって奴だろう。

「勝手知ったる何とやら――ってね。カレンが寝てる間に用意させて貰った」

テーブルの上に用意した料理は、いわゆる家庭料理って奴で、和洋折衷当たり前な仕様の物だ。

まぁ、和洋折衷とは言っても――正確には『向こう』と料理の名前が違ったり、材料が違ったりと、些細な差はあるが――そこは割愛させてもらう。

「ありがとうございます……けど――起こして頂けたら手伝いましたよ?」

「――あまりに幸せそうに寝てるから、起こすに起こせなかったんだよ……」

礼を言いつつも、起こしてくれたら良かったのに……と、苦笑……というより困った様な照れ笑いを浮かべるカレン。

俺も、カレンと一緒に料理をするのも悪くないかな……とは思ったんだが――あの幸せそうな寝顔を見てたら、とてもじゃないが俺には起こせんよ。

「そ、そうですか――それじゃあ仕方ありません、ね……」

そう言って、照れてほんのりピンクに染まっていたカレンの顔は、ゆっくりと赤くなっていった――。

――抱き締めてよかですか?

……と、いかんいかん――抑えろ俺。
せっかく作った飯が冷めちまうだろうがっ。

「さて、冷めない内に食べようぜ?」

「は、はいっ!」

***********

それから――この日の夕食は、簡単な世間話や料理の感想等、他愛の無い話をしながら緩やかに時間が過ぎていった。

「ごちそうさまでした。なんだか、久しぶりにシオンさんの手料理を食べた気がします」

「お粗末様。まぁ、なんだかんだで皆で居る時はゼノスが作っていたし――」

皆で一緒に居た頃の料理は、我らがゼノっさんの独壇場だったからなぁ――。
勿論、俺を含め皆で手伝ったりはしたが、俺単独での料理――なんて、滅多に無かったな。
それこそ、ゼノスが出稼ぎに行ってた時くらいか?

「率先して作る必要が無かったとも言う――いつも張り切っていたからなぁ……ゼノスは」

「ふふっ、そうですね。兄さんは料理を作るのが趣味ですから――」

まぁ、だからと言ってあのエプロンはどうかと思うのだが――アレは野郎が着けるモノでは無いっ。
――もう慣れたケドなっ!

「……こうして、誰かとゆっくり過ごすのも――久しぶりな気がします」

「――かもな」

カレンもそうだが、俺もゆっくりマターリした時間が、無かったワケじゃないが。

ただ、それを実感出来る時間が少なかっただけで――。

いや、カレンが言いたいことはちょっと違うのかも知れない――。

「あの時は、カレンと俺と、ラルフにゼノスも一緒で――まぁ、賑やかではあったな」

以前、俺とラルフがグランシルに滞在していた時のこと――。
あの時の日々は、恐らくカレンにとっては掛け換えの無い大切な時間だった筈。

勿論、その後の仲間と過ごした時間や、再会した父親との時間がソレに劣る――なんて、言うつもりは無い。

俺だって、故郷で過ごした時間も、仲間と過ごした時間も、どちらも大切なんだってことに変わりは無い。

「そうですね――ラルフさんが居て、兄さんが居て――あの時は本当に楽しかったです」

ただ、カレンにとっては――あの時の日々が、一番安らげた日々だったのだろう――と、俺は思う。

「けれど、何より……貴方が居てくれたから、私は安心出来たんだと思います」

「なはは、そう面と向かって言われると、何か照れ臭いものがあるなぁ……」

軽く頬を掻きながら、若干照れ臭く感じる俺。

「本当ですよ?――前に言いましたよね?私は、永遠の片思いをしていた――って」

「――あぁ、そんなこともあったな」

当時はまだ、アイツの事故を吹っ切れていなかったから、『告白されたらその時の記憶が吹っ飛ぶぜ症候群』に苛まれていたんだよな。

「今だから白状しますけど、実はその片思いの相手って……ゼノス兄さんだったんです」

「そうか――まぁ、何となくそんな気はしていたケドな」

「気付いて、いたんですか?」

「まぁ、何となく――だけどな」

ぶっちゃけ、原作知識があったから――なんだがな。
正直、この知識が無かったら仲の良い兄妹にしか見えなかったかも知れないし――。

「……人のことに関しては鋭いのに、自分のことだと酷く鈍感になるんですね――シオンさんって」

「……面目ない、としか言えないな」

正確には、カレンが俺に向けていた気持ちには、何とな〜く気付いていた節もあるんだが……。
それが確信に変わる前に例の症候群が発動してたからな……。

ジュリアやリビエラの時も同様だ。

過程はどうあれ、結果としてカレン達の気持ちに気付けなかったのは事実。
故に、鈍感男の汚名も甘んじて受けるさ。

「――でも、そんな貴方がいなかったら、私は本当に永遠の片思いのままだった……かも、知れないですから――」

「そうか?そう言ってくれたなら男冥利に尽きるってモノだが――」

実際、カレンの様な良い女を、世の男共が放っておくことなど有り得ないと思う――。

まぁ、先ずはカレンの『優しいお兄さん』をどうにかするのが最前提だけどなっ!

いや〜、勘違いから勝負を挑まれたのも、今じゃあ良い思い出……なのか?

「私、本当に幸せです。幸せ過ぎて、怖いくらい……」

「――あぁ、俺もだ」

本当に、そうだ――幸せ過ぎて……怖い。
俺は三国一の幸せ者だって、胸を張って言える半面――いつかその幸せが、崩れてしまうんじゃないかって、不安になる。

けれど――。

「けれど、そんな怖さなんて――吹っ飛ぶくらいにハッピーになれば良いだけさ!」

「シオン、さん――」

「幸せにする――皆を、俺自身も。それくらいは、やってみせるさ。な?」

「――はいっ」

それは至極普通で、簡単で、難しいこと――。

だけど、やり遂げる――それが誓いで、約束なのだから――。

***********

この後、他愛の無い会話をした後に就寝した。

……まぁ、寝る前に――な?
敢えて語るまい――。
つか、我が事ながらry――。

なのでTPOを弁える意味で、夜は一気にすっ飛ばして翌日――。

***********

「えっ、シオンさんの家に……ですか?」

「ああ、戦勝祝賀会まで残り1日を切ったし、カレンさえ良ければ――な」

二人で朝食を摂りながら、今日の予定について話し合う。

俺はカレンを我が家に招待しようと誘った。
戦勝祝賀会も明日に迫ったので、カレンの移動の手間を省こうという意味合いがある。

ゲームだと何分も掛からないが、実際にグランシルからバーンシュタインまで徒歩だと、少なく見積もっても二、三日は掛かるからな。
強行軍なら1日掛からないが。

まぁ、各国を繋ぐバスの様な役割の馬車が、あるにはあるが――。

その乗車賃が、一般の人に軽く手が届く金額かどうか位――察しが付くだろう?

きっとカレンのことだから、無理してでも来るつもりだったのだろうが――。

「わ、私は問題ないですけど――シオンさんがご迷惑なんじゃあ……?」

「迷惑だったら誘ったりしないさ。ウチの家族も、きっと喜ぶと思うぜ?」

そう、ウチの家族は間違いなく喜んでくれる――色々ブッ飛んでるからな――主にウチの母上が。

「そ、そうですか……それじゃ、お言葉に甘えても――構いませんか?」

「あぁ、幾らでも甘えてくれって!」

こうして、カレンをバーンシュタインの我が家に招待することと相成った。

先程、カレンを誘ったのは、戦勝祝賀会も明日に迫ったので、カレンの移動の手間を省こうという意味合いがある。

――と言ったが、確かにそれも本音だ。

だけど、本来の意図はまた別――ぶっちゃけ、カレンを守るためだ。

もし仮に、俺だけがバーンシュタインに帰国した場合――奴が、ルインが動き出す可能性がある。

あの野郎のことだ――俺が居なくなったのを見計らって、カレンを拐うくらいのことを企んでいたとしても、何ら可笑しくはない。

とは言え、恐らくその可能性はほぼ無いのではないか?
とも、思っているのだが。

というのも、奴の思考――考え方が何となく理解出来てきたからだ。
……あまり理解はしたく無かったが。

奴は超が付くくらいのエンターテイナー気取りで、猟奇的なまでの快楽主義者。

今回、手下を使ってカレンを拐いに来たらしいが――言い換えるならそれは、自身が赴く様な重要案件では無かったってことだ。

奴には奴なりの美学が有り、それに従って行動している様に思える。

その美学自体、とても理解出来ないが――。

今回、カレンを拐いに来たのは――言うなれば『ついで』だったのだろう。

拐うことが出来れば、それはそれで良し――出来なければ、それはそれで良し。

――奴らが水面下で、何かを企んでいるのは間違い無い。
そして、それは明日の戦勝祝賀会の日に始まる――。

それは予感では無く確信。

奴らの――いや、奴の今までの行動パターン、言動から考えて、判断したからだ。

奴は、何かを仕出かそうとしている。

それが何かは分からないが、何度も奴と対峙した俺だからこそ分かることがある――。

あの野郎は――誰かの下に付く様な殊勝な奴じゃあ無い。

ヴェンツェルに従っているのにも、奴なりの理由がある筈――。

っと、長くなっちまったが――つまり俺が言いたいのは、あの野郎に対して警戒し過ぎってことは無い――ってことだ。

リヒターのこともあるし、頭が痛くなるねぇ――本当。

けれど、もう――失わないって決めたから。

俺は――……。

***********

――バーンシュタイン城・シオンの執務室――

で。

準備を終えたカレンを連れて、一旦家に戻った俺はカレンを家族達に紹介し、カレンを任せてこうして仕事にやってきたワケだ。

「事情はジュリアから聞いたわ。まぁ、色々とツッコミたいことはあるけど……それは置いておくわね」

執務室で待っていたのはリビエラ。
色々と聞きたそうにしていたが、そこはグッと堪えた。

ある程度はジュリアから聞いているらしいが……。

「まぁ、休んだ分は取り返させて貰うさ――で、今日の予定はどうなってる?」

「ええ、今日の予定は――」

こうして俺は束の間の日常を終えた。
また、こうして日常を謳歌出来る様に、今日も頑張っていきましょうかね――。

***********


――戦勝祝賀会を明日に控えたバーンシュタイン王国。

ワーカーホリックと化したシオンによって、仕事が激減したとは言え――流石に一大イベントが控えているならば、その限りでは無い。

では、シオン・ウォルフマイヤーの仕事風景をダイジェスト気味に追ってみたいと思う。

***********

case1

・前日会議。

「では、会場内の警備に関してはシオンの蒼天騎士団に一任したいと思う」

「無論、兵も配置に着ける――我々も陛下の護衛として祝賀会に参加することにはなるが――」

「いざ、という時に騎士団としては少数精鋭の蒼天騎士団が居てくれた方が、こちらとしてもやり易いからね」

上からアーネスト・ライエル、ポール・スターク、オスカー・リーヴス――各インペリアル・ナイトのコメントである。

重臣が集まり、明日の予定を話し合う。

その中で決まったことの一つが、会場内の警備担当として蒼天騎士団が選ばれたこと。

新人インペリアル・ナイトが率いる、新設の騎士団――。

それが会場内の護衛をすることに、反感を覚える者も少なくなかったが、先日行われた第8師団第2部隊との模擬戦の噂が広がり、結果として蒼天騎士団の実力は多くの関係者に知れ渡ることになった。

シオン本人に対しては、言わずもがな――である。

故に、表立って反対する者は殆ど居なかった。

尚、会議に出席した重臣の中には、件の模擬戦を仕掛けてきた将軍の父親も居り、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていたのを明記しておく。

「まぁ、確かに少数ではあるな。今回はそれが利点になってるワケだが」

(とは言え、エリック辺りは周囲の哨戒をさせた方が良いんだけどなぁ――)

小数であることを認め、またその利点を確認するシオンだが――こと、モンスター使いである蒼天騎士団員――エリック・ウェルキンスに限っては、その能力がフルに活かされる屋外任務の方が本来は望ましい。

とは言え、他の将軍が率いる騎士団は、ハッキリ言って大所帯だ。
それでも、インペリアル・ナイトが率いる直轄部隊は、比較的数が少なめではあるが――。

それでも、ライエルやリーヴス、ジュリアたちの様に――ナイツになってから一定以上の時間が経っている者たちは、最低でも数百人単位の人数の直轄騎士団を率いている。

会場内の警備には不向きだ――人員を選抜すれば良いだけの話しではあるが、彼等はいざというときの控えとして、バーンシュタイン各地の警護にあたっている。
無論、王城内や城下町の警備にも割り当てられているが――。

ならばポールはどうか?

ポールもシオン同様、新人インペリアル・ナイトであり、騎士団員もシオン程では無いが少人数だ。

だが、ポールの直轄騎士団もまた、各地の警護に回っている。

それだけ、敵の動きが神出鬼没であるということだが――。

(『原作』程では無いにせよ、国内を二分する戦争をやらかしたんだ――兵力不足は否めないよな……)

故に、原作においてバーンシュタインはとある傭兵団を頼ることになるのだが――それは置いておく。

とにもかくにも、当日の兵の配置や担当等、煮詰められる案件を煮詰めていった。

***********

case2

・段取り

それからしばらくして――。

バーンシュタイン錬兵場にて。

「と、言うワケで……パーティー会場内の警備を俺らが行うことになった。役割分担はさっき話した通りだ――何か質問はあるか?」

シオンは蒼天騎士団を召集、会議で決まった案件を団員に説明していた。

「先生っ!今の話から察するに――俺らもパーティーに参加する形になるわけっスか!?」

「誰が先生か。まぁ、そういうことになるな」

シオンの問いに、元気よく手を上げて質問するのはニール・アスタード。
蒼天騎士団の特攻隊長を自称する、正義感の強い若者だ。

ニールの問いにツッコミを入れつつ、シオンは答えた。

「つまり――ご馳走食い放題ってワケですね!?いぃよぉっしゃあ!!」

ガッツポーズをとって喜んでいるのは、ビリー・グレイズ。
最近、意外に倹約家だと判明した勢いのある青年だ。

「ど、どうしよう!?パーティーに着て行ける服なんて、持ってないよ私!?」

「い、いや……僕らはあくまで護衛ですから、普通に制服で良いんじゃないでしょうか?」

一人パニクッている少女が、レノア・ウィルバー。
それを苦笑いしながらツッコミを入れているのが、マクシミリアン・シュナイダーである。

「気を抜いてんじゃねぇぞテメエらっ!!将軍の説明を聞いてなかったのかぁ!?」

「そうそう。はしゃぐ気持ちも分からないでも無いが、あくまでもお仕事だからな――コレは」

と、そんなメンバーに喝を入れたのが――蒼天騎士団団長、オズワルドと――その豊富な経験から副団長ポジションに居る、バルク・ディオニースの二人だ。

ちなみにバルクは、パーティーで飲み食いする気満々である。

「わかっている。ヴェンツェルとかいうジジイの襲撃があるかも知れない――と言うのだろう?むしろ望むところだ」

「だけど、俺は襲撃が無いなら無い方が良いと思うけど――」

「ふん……臆病者の負け犬は引っ込んでいろ」

「な……なんだと!?」

と、意見の不一致から言い争いを始めたのが、レノアの弟であるラッセル・ウィルバーと、かつては名声を馳せたが、とある理由で廃れていった貴族――クルーズ家の血筋である、ウェイン・クルーズだ。

「俺のことを負け犬って呼ぶけど、それを言ったらお前だって負け犬じゃないか。今までシオン将軍やオズワルド団長と模擬戦をして、全然手も足も出なかっただろ?」

「あの二人は俺より強い――それは事実だからな。故に、今は力を蓄えてるに過ぎん」

「――この間のシオン将軍との模擬戦で、予想以上の奮闘をしたリビエラさんを見て、『実力を試してやる』とか言って返り討ちに遭ったのはどこの誰だっけな?」

「………今は、力を蓄えてるに、過ぎん……」

――この二人はこの二人で、それなりに上手くやっている様だ。
ウェインが少し大人になった――のかも知れないが。

「というわけで、みんな今日の訓練は軽く流す程度にして、ゆっくり身体を休めてね?当日に疲労や体調不良です――なんて言われたら目も当てられないからね?」

「バッサリ言うわねぇ――だけど、そういうリビエラもしっかり休みなさいよ?」

メンバーに釘を刺したのが、シオンの副官であるリビエラ・マリウス。
そのリビエラに釘を刺し返しているのが、エレーナ・リステル。

どちらもタイプは違うが、凄い美人である。

「まぁ、そんなワケで今日は軽く流して、各自明日に備えてくれ。んじゃ、今日の訓練始めっぞ!」

「「「了解っ!!!」」」

***********

case3

・明日に備えて

その後、軽く訓練を終えたメンバーは解散、それぞれ明日に備えることになる。

「いよいよ明日ですかぁ……頑張って下さいね、マスター!」

「……うん、がんばる」

「本当は私もマスターと一緒に行きたいんですけど……うぅ……ひ弱な自分が恨めしいですぅ……」

「……大丈夫、また……一緒に出掛けられるように……なるから……」

(あの人は……信じろって言った……真っ直ぐに……だから、信じる)

ある主従は、来るべき未来に思いを馳せて。

***********

『クアアァァ――』

「あぁ、お前は外で見廻りを、俺は将軍たちと城内の守りを――何、それを着けてれば他の兵に誤って攻撃されることも無いだろう」

『ゴアアァ……』

「ふっ、確かにな――よもや将軍がお前の制服も用意していたとはな――相変わらず用意周到な奴だよな?正確には制服じゃなくて鎧だが――どうだ、違和感ないか?」

『グワッ!』

「ああ、頼りにしてるぞ……相棒!」

(仲間……か。良いものだな――仲間のためにも、明日は気を引き締めていかないとな――)

あるコンビは、互いに明日に向けて気合いを込めて――。

そして――。

***********

「セェェェイッ!!!」

シュバアァッ!!!

「明日――か」

(いよいよ明日、『物語』が再び動き出す――俺や、恐らくアイツらのせいで随分と歪んじまったが――)

「絶対に勝ち取ってやる――運命って奴を」

(勝って、お前との約束を――『幸せになる』ってことを、果たすぜ――なぁ、沙紀)

彼は巨大な満月の月光に照らされ、一人剣舞を舞い――かつての幼なじみを月に見て、その誓いを掲げる。

幾多の思惑が交差する中――いよいよ、戦勝祝賀会が明日へと迫っていった。

***********

人は語る――平和の唄を。

人は語る――日常の尊さを。

されど、それは一時の淡雪のごとく。

――再び時代は混迷の渦に巻き込まれる。

絶望を撒き散らす者――希望を掴もうとする者――。

2つがぶつかり合うのは必定だった。

されど今は、平和の凱歌を高らかに――。

次回『光と闇』

***********

あとがき

え〜、仕事やら何やらで色々遅れました。

m(__)m

次回から、もう少し更新ペースも上がる――と、良いなあ……。
(;¬_¬)

もう少ししたら仕事も落ち着きそうなので、今年中にはグロラン編は終わらせたい――という野望が実現出来そうです。

――本当は夏の内には終わらせたかったのですが……それどころでは無かったので。

(-_-;)

それでは、また次回にて。
m(__)m




[7317] 生存報告!みにみにぐろ〜らんさ〜♪―番外編20―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:4ba3d579
Date: 2013/01/02 07:42

「「みにみに、ぐろーらんさー!」」

「みなさーん、あけましておめでとうございます!ルイセ・フォルスマイヤーです♪」

「燃え上がる程にヒート!!溢れ出る程にビート!!どうも、あけおめ!!シオン・ウォルフマイヤーでーす」

「……先生ってそんなキャラだったっけ?(苦笑)」

「……久しぶり過ぎて、自分のキャラを忘れてたわ(真顔)」

「そうだよねー……私も完全に……えーと、エタッた……?と、思ったもん」

「無理に現代のスラングを使わなくても良いぞ?――まぁ、これには理由があってだな。一応、その辺の説明を含めての、生存報告なんだ」

「作者さんは、ゲームと平行しながらこのSSを書いていたんだけど――ある時、事件が起きちゃって……」

「……あれは、まだ暖かい春の日だったか。作者はそれなりに忙しい仕事をこなしながら、チョコチョコとSSを書いていたらしい……まぁ、「これ懐っ!」とかいって○−フェニックスを格安で買ってプレイしていたらしいが……」

「ちゃんと序章編も買ったんだよね?――その時間で本編を書いてくれたら良かったのに……」

「モチベーションを維持する為でもあったんだろ?で、だ――その日も仕事から帰ってきて――久しぶりに、早く仕事が終わったからSSの続きを書く為にも、グロランをプレイしようとPS2(薄型ホワイト)の電源を入れようとして――気付いてしまったんだ」

「メモリーカードの差し込み口に、見慣れた黒いメモリーカードと……見慣れないオレンジ色のメモリーカードが刺さっていたことに……」

「――作者には甥っ子が三人居てな。上と下は問題無いが、真ん中の奴が度々作者の部屋に侵入する困ったちゃんなんだ……過去に、メモリーカードの中にワケのわからない、スロットとかパチンコとかのゲームデータを入れられ、メモリーカードが圧迫されるという事件があった作者は、駆け巡る嫌な予感に促されるままに、メモリーカードのチェックを始めた……」

「……そうしたら、嫌な予感が当たっちゃって、メモリーカードが圧迫されちゃってて……けれど、それだけじゃなかったの……」

「……最悪なことに、主要なゲームデータを全て消された上に、ワケのわからないゲームデータで圧迫されるという……過去の事件が可愛く見える程の大惨事を、その甥っ子は引き起こしていったワケだ」

「……しばらく、放心状態だったらしいよ、作者さん……」

「さもありなん――その後、何度もデータを確認したが、自身の持つゲームのデータは欠片も見付からなかったらしい。リアルに殺意を芽生えさせながら、作者に更なる絶望が襲い掛かることになる――」

「最初、怒り心頭になった作者さんも、子供のやったことだからって、無理矢理に心を落ちつけて、念のためにPSのメモリーカードもチェックしてみたの……そうしたら、PSの……メモリーカードのデータも……」

「――作者の持ってるグロランは、ディスク1が相当傷だらけでな――ディスク1からディスク2に移行する際に、バグって画面がフリーズしたりするぐらい酷い状態の物だ……正直、もう一回やり直したくても、出来るモノじゃない」

「………」

「……瞬間、頭が真っ白になった作者は、某引っ越しオバサンもビックリする様な雄叫びを上げて、部屋の中で暴れまくった……要するに、キレたんだな」

「……そうでもして発散しないと、本当に甥っ子ちゃんをどうにかしてしまいそうだったって……」

「――ひとしきり叫んで暴れるという、DQNな行為を行った作者は何とかクールダウンしたが――同時に、心も折れちまった……ってワケだ」

「もう二度と侵入される要素を無くそう、と――PS2を封印……SSを書く気力も無くなってしまっていたんだね……」

「まぁその分、空いた時間にバイトを増やしたり、ソウ○ハッカーズが3DSで復活と聞いて、3DS一式を購入したりしていたらしいが――それでも、このSSのことは忘れていなかったらしい」

「度々、展開を忘れない様にSSを見返したり――その先の展開を考えたりしていたらしいよ?」

「時間が解決する……とは、良く言ったもので――軽いトラウマ状態だった作者だが、夏頃辺りから再び執筆を再開したらしい――まぁ、バイトを増やしたことや、某戦車と荒野のRPGの3をやっていたりで、亀速度だったけどな」

「しかも、余程ハマったのか――そのゲームと、ゼロ魔のクロスSSまで書き出しちゃうんだもんね?」

「――そのせいで、今の今まで更新出来なかったことを考えると、作者じゃないが殺意を芽生えさせたくなるな……」

「だ、駄目だよ先生!おお、落ちついて……」

「安心しろ……半分は冗談だ」

「残り半分は本気なのっ!?」

「――それはともかく、件のゼロ魔SSを見てみたいって人が居たら、要望をくれれば曝すかも知れない。典型的な、原作主人公の代わりに召喚in最強物という、香しいスメルが漂う代物になっているので、閲覧は自己責任で頼む。――まぁ、それ以前にこのSSを見ている人が居なければ、意味がないって話だが――」

「前回の更新が2011年って時点で、もう、色々と――」

「だが、作者も色々と苦難を乗り越え――本編の更新の目処が立ったらしい、漸くな?」

「奇跡的にも、作者さんはPS版のグロランを新たに中古で入手――甥っ子ちゃんの驚異も遠ざかったので、最初からプレイを始めた様です」

「PSP版を参考にしない辺りは、作者の拘りだな――。まぁ、今日明日の更新は無理だが――あのペースなら今月中には最新話を挙げられるんじゃないか?」

「覚えてくれてる人、いるのかなぁ……?」

「分からん。けど、一度始めた以上は最低限完結まで話を持っていく――それが作者の責任って奴だろ?例え、批評はおろか、評価さえされないとしても……な」

「……うん、そうだね。私たちもグローシアンとして、頑張らなきゃ!」

「(グローシアンは関係無い気がするが……)そんなワケで、今日は此処まで。お相手はシオン・ウォルフマイヤーと――」

「ルイセ・フォルスマイヤーでお送りいたしました」

「「また見てね〜♪」」

***********

オマケツァルコアトル☆

「ところで、なんで今日のパーソナリティーはティピとhomoさんじゃなかったの?」

「強いて言えば、これが『ちゃんとした』番外編では無く、言い訳&生存報告の回だからだな――だから、当たり障りの無い師弟コンビとして、俺らが選ばれたんだろーさ」

「そういうものなの……かな?」

「そういうモノなの。所謂『大人の事情』という名の『ご都合主義』だな」

***********

後書き

皆様、あけましておめでとうございます――&お久しぶりでございます。
m(__)m

神仁で、ございます。

上記の様な事態になり、テンション駄々下がりだったワケですが――なんとか復活致しました。

次回更新は今月中を――予定しています。

その際はもし、お暇であればご一読頂けると嬉しく思います。

それではm(__)m



[7317] 第130話―光と闇―束の間の祝賀会―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:4ba3d579
Date: 2013/02/17 03:00

晴天が見渡す限り広がる今日――。

正にイベント事には絶好の日和である。

――ん?いつも晴れているだろう……って?

それはゲームの話だ。
この世界にだって、ちゃんと雨は降るんだぞ?

メタなことを言わせてくれるなら、ゲームでだって晴れ以外の気候になっているし――OPとかなっ!

と――まぁ、そんなトリビアにもならない無駄知識は置いておいて。

戦勝祝賀会当日――。

俺は今日という日が訪れたことを、改めて噛み締める。

今日、ヴェンツェルは原作通りに宣戦布告を行うだろう――。

恐らく、ルインが『そう仕向ける』のだろうが――。

コレを打倒すれば、漸く平和な日常が訪れる――。
まぁ……某傭兵団とかゲーヴァスとか――考えることは山積みなんだが。
因みに、言霊の面はガッチリ封印し直したので、マクシミリアンにフラグが立つことは無いだろう――多分、ね?

マクシミリアンも、悪い奴じゃ無いんだよなぁ……。
むしろ良い奴なんだが、良い奴過ぎるというか、苦労人というか――。

言霊の面に頼ったのも、争い合う人間に絶望したから……だしなぁ――。

とは言え、原作のアイツが目指したソレは人間の住む世界とは……到底言えないし。
ある意味では平和な世界だが――俺には許容出来そうも無い世界だからな。

因みに今更だが、マクシミリアンの声はしっかりひ○しでした。
綺麗な○ろしと言えば良いんだろうか?

いつだったか、訓練中に思わず――『野○一家ファイヤー!って言ってみてくれね?』とか、ほざいちまったしなぁ――。

キョトーンってなってたけどな、アイツ。

と――何をマクシミリアンについて熱く語っているんだか、俺は……。

とにかく、戦勝祝賀会当日である!

「ふむ、こんなものか……まぁ、いつもと変わらないんだけど」

俺は、我が家の自室にて身仕度を調えていた。
ぶっちゃけ何時ものナイツの制服(青)なんだが――普段より少しだけ身嗜みに気を付けてみたりした。

コンコン――。

と――自室のドアを幾分控えめに叩く音が響く。

「どうぞ、鍵は開いてるよ」

「お、おはようございます……」

扉を開け、遠慮がちに部屋に入って来たのは――カレンだった。

但し、その姿は何時もの『何処かメイドっぽいナース服姿』では無い。

優しい色合いを帯びたドレスをその身に纏い、その姿は慈母の女神と言っても過言では無いだろうっ!!

――何?贔屓目が入ってるって?
あぁ、それは否定しないさ――だが、それを抜きにしても今のカレンは、いつにも増して綺麗だってのは事実だ。

「あの……良いんですか?こんな素敵なドレスを頂いてしまって……」

「良いって良いって。どうせ俺が持っていても役に立たないし、ドレスも着てくれる人に着てもらったほうが幸せってもんだろうしな?」

カレンが着ているドレスの名は『癒しのドレス』と言って、世界樹の樹皮から採れる繊維を織って作られたドレスだ。

その淡く美しい――優しい緑色の光沢を放つドレスは、カレンの持つ美しさを更に光り輝かせていると言っても過言では無いだろう。

「なんだか、このドレスを着ていると、すごく暖かさを感じるんです――まるで、ドレスが私を癒してくれている様な……」

「何でも、それを身に付けた者には世界樹の持つ神秘的な生命力が分け与えられるらしい――まぁ、伝承に残る品みたいだからそういう神秘性があっても不思議じゃないだろうな」

メタな言い方をしちまえば、このドレスはカレンの最強装備であり、特に魔法の耐性を上げる様な効果は無いが、スキル『リジェネレート』の効果が込められており、また毎ターンごとに1/8の確率で回復魔法『キュア』の効果が発動する――という、正に『癒し』の名に相応しい力がある。

世界樹の樹皮から作られた繊維で織られ、それを触媒に魔力を込められた一品なので、当然ながら防御能力も高い。

ぶっちゃけ、生半可な全身鎧等より防具としては格上です。

と、そんなこと(メタな部分を除いて)を説明したらカレンは益々恐縮してしまった様だ……。

実際、本当に使い途が無かったから、貰ってくれた方がありがたいんだが――。

手に入れた経緯?
以前ラルフと旅をしていた時に遺跡荒ら――もとい、トレジャーハンティングをしていた時にGETしたアイテムですが何か?

大抵の手に入れたアイテムは、売り飛ばして稼いでいたが、こういう本当に貴重なアイテムは売らずに残してあるのだよ。

まぁ、それはともかく。

「それじゃあ――会場までエスコート致しますよ……お嬢さん」

そう言って気障ったらしい台詞を吐きつつ、手を差し出す俺を見て――。

「は、はい――宜しくお願いしま、す……」

カレンは緊張しながらも、微笑みと共に手を取ってくれたのだった。

***********

と、言うワケで――俺達はバーンシュタイン王城までやってきた。

――途中、俺達に向けて町人の皆さんから黄色い声が向けられたが――そこは割愛させて戴く。

「いらっしゃい、カレン」

「リビエラさん!」

俺達を最初に迎えてくれたのは、リビエラだった。
その姿は、いつもの蒼天騎士団の制服姿である。
まぁ、一応会場内の護衛の任務も兼ねているので、当然と言えば当然の装いであるが。

「――前から思ってたんだけど……カレンって、何で敬語なの?一応、私の方が年下なのに『さん』付けだし……」

「それを言ったら、俺やカーマインとかに対してもそうなんだけどな?」

リビエラは疑問を浮かべるが、俺はカレンの丁寧な言葉遣いの理由について、何となくだが把握していた。

それは――。

「いえ、その――皆さん年下に見えないと言うか「もういい分かった、みなまで言わないで……泣きたくなるから……」えっと、違うんですよ!?そういう意味じゃなくて――っ」

それは、見た目年下に見えない様な相手を呼び捨てにしない――いや、出来ないのだろうということ。

恐らくこれは、長い間一人で家の留守を守っていたことに起因することだと思うが……。

物心着く前から、母親を亡くし、父親は行方不明――兄のゼノスが出稼ぎの為に家を度々空ける様になり、一人で居る時間が増えたことで、否応無しに確りした性格に育っていったのだろう。

『さん』付けしない相手は、明らかに年下な相手のみ――判り易い所で言えば、ルイセやティピ、エリオット陛下等が挙げられる。

敬語に関しては、最早カレンの性格――個性故に仕方ない様な部分がある。
件のルイセ達にすら敬語を使うのだ――。

今更フランクな話し方をしろと言っても……正直、無理があると思う。

カレンが砕けた話し方をするのは、家族であるゼノスとベルガーさんに対して――ぐらいであろう。

「――いいのよ、いいのよ……どうせ私なんか、年齢に見あわない顔付きしてますよ……」

「あんまり自分を卑下するなよ。リビエラは美人なんだから、過ぎる謙虚は嫌味になるぜ?」

「うっ――まぁ、シオンがそう言うなら――うん、良い……かな?」

俺が思ったことを口にすると、リビエラはほんのり赤くなりながら、満更でも無さそう……というか、嬉しそうに笑みを浮かべた。

――俺にはブンブン振られる尻尾が幻視出来たぞ?

全く……。

「そう言う所が、お前の可愛い所だよな」

「……も、もう!そうやって私をからかって――!」

からかったつもりは無いんだけどな……自重していないだけで。
まぁ、周りがどう思おうと関係無いし。
寧ろ、リビエラの可愛さを知っているのが俺だけとか、超俺得だしな。

何と言うか、独占欲的な部分で。

「あ、あのー……」

「勿論、カレンも美人だぞ?」

「い、いえ、そうじゃなくて――いえ、そう言って貰えるのは……その、すごく嬉しいんですけど――」

顔を赤くして慌てるカレンに――萌えた。
流石に顔には出さないけどな。

――カレンが言いたいことは分かる。

「コホンッ!!」

俺の後ろに居る――アイツのことを言いたいんだろう。

「シオン――こんな所で何をしている?」

そう――ジュリア・ダグラスその人である。

「お前が誰と惚気合っていようと構わないが――人の目もあるのだから、自重してくれ」

因みにこんな所とは、バーンシュタイン城の広いエントランス――要するに原作でのパーティー会場――その入口付近のことである。

既に会場入りしている招待客は何人も居り――成程、確かに人の目がてんこ盛りだ。

「すまん、ジュリアを構ってやれなくて……勿論、ジュリアも綺麗だぞ」

「そ、そういう意味で言ったんじゃないっ!?……いや、嬉しくないわけじゃないのです……むしろ嬉しいのですが、その……あぅ」

俺が自重しない言葉を投げ掛けると、ジュリアは顔を赤くしながら――声を徐々に尻すぼみに小さくしていった。

――敬語が漏れているのに気付いているのかね?

気付いていないんだろうなぁ……。

「ジュリアの言いたいことは理解してるさ。けど、冗談抜きで綺麗だからさ――相変わらず似合ってるぜ?そのドレス」

「あ、ありがとうございます……」

そう、既にジュリアはドレス姿なのである。
それ故に公の場でありながら、俺は最初から『ジュリア』と呼んでいるワケだ。

――ジュリアの言いたいこととは、対外的なことだろう。

幾ら身内に俺の悪癖が知れ渡っている(あまつさえ、それが公認されている)とは言え、名誉ある立場と家系を与えられている者として――それは弁慶の泣き所になりかねない――ということだ。

鳴り物入りでナイツになった俺のことを、疑問視――悪く言えば敵視する輩はまだまだ居る。

以前、合同調練を行った似非金ぴか将軍と、その父親辺りはその典型と言えるだろう。

そんな奴等からすれば、俺のハーレム志向は――俺を蹴落とす絶好の理由となる。

確かに王族やそれに近い貴族の中には、側室の一人や二人を抱えている者は少なくないので、そういう意味では異端視されることは無いが――。

責任あるインペリアル・ナイトが、女遊びにうつつを抜かして職務を疎かにしている――なんて噂でも流されようものなら、我が家の家族に――ひいては、俺を推挙してくれたエリオット陛下にまで、迷惑を掛けることになる――。

まぁ、実際にその心配は杞憂なんだが――。

何故なら、俺は職務を疎かにしてはいない――寧ろ、他の誰よりも仕事をしている。

そう、仕事のし過ぎで事務担当の奴に『もう勘弁してください……』的なことを言わせる位には。

加えて『王家の剣』という特殊な家系。

更に、一応ゲヴェルを討伐した英雄の一人――ということにもなっている。

もう一つオマケに、このナイツという立場その物――この他にも様々な要因が重なり、少なくとも面と向かって糾弾されることは殆ど無いと言えるだろう。

(加えて、シオンは人間的な意味での『タラシ』なので、比較的早期に上や下に人望が生まれ、ナイツの息子故に培われた人脈がある)

それでも、俺を――ひいてはエリオット陛下を排斥しようと暗躍する連中は少なくない。

――が、そういう連中は必ずと言っても良い位、腹に黒い物を抱え込んでいるから――比較的、抑え込むのは容易だったりする。

蛇の道は蛇――では無いが、強請をしてくる様な輩には丁度良い脅しになるし、ね。


まぁ、そういう膿は徐々に排除されることになるんだろうが――今のバーンシュタインの国力では、無闇やたらにリストラ出来ないのが現状だからな。

特に、件の金ぴか親子等は能力的にも優秀故に――尚更な。

一番ベストなのが、俺達を『認めせる』っつーことなのだが――。

「っと、それはそうと――俺に何か用事か?」

「あ、いや――ローランディアからの出席者がまだなので、今から出迎えに行こうと――その途中でシオンたちを見掛けたものだから、な」

ローランディア組と言うと、カーマイン、ルイセ、ティピ、ウォレス、ゼノス――それにサンドラとレティシアか。

尚、ラージン砦のブロンソン将軍もローランディア組だが、彼は王都を拠点とするカーマイン達とは違って、国境付近の砦に勤務している。
だから、既に会場入りしていたりする。

他にもローランディアのお偉いさんが来るかも知れないな――。

いや、リシャールの戴冠式で起きたグレッグ卿の件もあるから、やっぱり原作通りカーマイン達だけかも知れないが――。

幾ら、バーンシュタインが新体制になったとは言え、な。

「よし、せっかくだから俺も同行させて貰うか――構わないよな?」

もし、ルイセが来るなら――ってか、確実に来るだろうが――渡しておきたい物がある。

まぁ、勘の良い奴なら大体想像つくだろうが――って、俺は誰に言ってる――いや、思ってるんだか。

俺にはテレパシーなんて――限定的には使えるな――。
って、そういうアレじゃなくて……。

「ああ、私は構わないが――」

ジュリアはチラリとカレンを見やる。

「私も構いませんよ?ここまで来れば、あとは一人でも大丈夫ですし」

「大丈夫、私が会場の中を案内してあげるから、ね?」

カレンは此処まで来れば平気と言い、そんなカレンを茶化す様にリビエラがエスコート役を買って出てくれた。

つか、もう会場は目と鼻の先だしな……文字通り。

本当はカレンも連れていきたい所なんだが―――また来た道を戻らせるのも酷いしな。

しかも、街の人々の黄色い視線と声のオマケ付き。

流石に、またアレを体感させるのは――な?
来た時も終始、顔を火照らせていたしな――カレン。

だからこそ、自分は此処に残ると言っているのだろうし。

「分かった。じゃあ後はリビエラに任せる――しっかり会場内をエスコートしてあげてくれよ?」

「了解しました、シオン将軍♪」

パチッとウインクをして、了解の意を示したリビエラ。
うむ、可愛らしくて大変宜しい。

「それじゃ、行くか?」

「あぁ」

こうして、カレンをリビエラに任せて、俺はジュリアと共に来た道を戻って行ったのだった。

――余談だが、やはり街の人々に黄色い視線や声を上げられた。

が、何故か嫉妬的なモノは一切無かった。

普通、美女を――しかも来る時と戻る時で違う美女を――連れて歩いていたら、嫉妬マスクが降臨しても可笑しく無いのだが――。

まぁ、良くも悪くも地元ってことだな。
俺の顔は、幼い頃から知れ渡ってるだろうし――。

ラルフの様にファンクラブ的なモノが存在していれば、話は別だが――生憎と俺にはそんなモノは無いからな。

※(シオンがそう思ってるだけで、シオンのファンクラブは存在し、シオンの家――ウォルフマイヤー家のメイドの何人かはコレに在籍している)

……なんか、電波が聞こえたような……まぁ、気のせいか。

***********

「――っと、到着っ!」

「やっぱり便利よねー、テレポートって☆」

――俺たちは、ルイセのテレポートでバーンシュタインへ赴いていた。

理由は、バーンシュタインから――というより、エリオットから戦勝祝賀会に招待されたからだ――。

バーンシュタインとローランディアは、位置的には大陸の端と端に位置する。
本来なら、何日も前にローランディアを出立しなければ間に合わないのだが――。

ティピの言う様に、俺たちにはルイセのテレポートがあるので、祝賀会当日に悠々と訪れることが可能という訳だ。

「くー……っ、ずっと城に缶詰めだったからなぁ……久し振りの骨休めだぜっ!」

「同盟会談の時以来だが――確かに、いい加減身体が鈍りそうだったからな」

そう愚痴を溢すのは、ゼノスとウォレス――。

まぁ、その意見には概ね同意したい。

……俺も正直、少々げんなりし掛けていたし――な。

俺たちがしていたことは、ゲヴェルとの戦いの軌跡を後世に残すこと――。

少し前にローランディア城を訪れたシオンは――。

『ちょっとした英雄叙事詩みたいなモンだな』

――と、気楽に言ってくれたが。
確かに大切な仕事であることは分かる――。

分かるが、ずっと母さんの研究室に缶詰め状態で【俺が王都を旅立ってから、ゲヴェルを倒すまで】の話を、事細かに説明しなければならなかったんだぞ――?

話好きのティピですら、半ば疲れを見せてきていたんだ――。
他の面子の疲弊感を察して欲しい――。

無論、簡単な休憩を挟んだりはしたが――マトモな休みというのは貰えなかった訳で……。

俺やウォレス、それにゼノスと言った男連中は、日課にしている訓練が出来なかったりで、ストレスがうなぎ登りだったからな――。

「――訳知り顔で頷いてるけどさぁ、アンタが寝坊しなければ――もう少し早く来れたんだからね?」

「――スマン」

――ティピの言う様に、俺が何時もの如く朝に弱かったのが、祝賀会に遅れかけた理由の一因ではある――。

久し振りに、ティピの蹴りを喰らったが――ミーシャが涙目になるのも頷けるな。

グレムリンやスケルトン位のモンスターなら、多分倒せる蹴りだ――。

……まだ、頭が痛い気がする。

「こうしてバーンシュタインを訪れるのは、2度目になりますけど――あの時はこうしてまた、この地に赴くことになるとは思いませんでしたわ――」

そう感慨深げに語るのは、レティシア姫だ。
――姫はあの時……バーンシュタインとの戦争が始まった時は、捕虜として捕らえられてしまったからな――。

色々な意味で複雑な心境なのだろう。

「とにかく、此処で立ち話をしていても始まりません。会場に向かうとしましょう」

「確かに、母さんの言う通りだな……」

こうして、俺、ティピ、ルイセ、母さん、ウォレス、ゼノス、そしてレティシア姫というメンバーで、祝賀会の会場であるバーンシュタイン城に向かうことに――。

「おっ、やっと来たな?」

――っと、その前に出迎えに来てくれたみたいだな……。

「あっ、シオンさんとジュリアンだ」

俺たちを出迎えてくれたのは、インペリアル・ナイツの制服を身に纏ったシオンと、いつぞやのお披露目会で披露された――ドレス姿のジュリアンだった――。

いや、この姿の時は『ジュリア』と呼ぶべきか?

「ルイセのテレポートがあるから、時間ギリギリに来ると思っていたぞ」

「予想通りってわけだ」

笑いながら告げるジュリアンに、肩を竦めておどけて見せるゼノス。

「ジュリアンさん、お披露目会の時のドレス姿なんですね」

「あ、あぁ……折角の祝いの席だから、陛下が是非にと言われてな。この格好は、まだ少し恥ずかしいのだが……」

「そんな、とっても似合っておいでですわ。ね、シオン様?」

「そこで私に振りますか?――でも、まぁ――似合ってるのは確かなんだから、もっと胸を張っても良いんじゃないか?」

ルイセの問いに、照れ臭そうに答えるジュリアンを褒め称えるレティシア姫。
そんなレティシア姫に話題を振られたシオンは、臆面も無くスラッと言葉を紡いだ。

――余談だが、シオンがレティシア姫に対して敬語なのは、対外的なモノを気にしてのことだろう。

――此処はバーンシュタイン王都の入口。
俺たち以外にも、番兵が居るからな。

「なななっ……そう言ってくれるのはう、嬉しいが――元はと言えば……貴方が、あんなこと……するから……余計に……うぅ……」

?最後の方は、か細くなって聞き取れなかったが――ジュリアンの顔が真っ赤だ。

「あー……なんだ。反省はしているが、後悔はしていない」

シオンには聞き取れたのか、バツの悪そうな苦笑いを浮かべながらも、ハッキリと断言していた。

この二人の間に何があったか分からないが――まぁ、何時ものことだと納得しておこう。

「それはそうと――ルイセ」

「はい、何ですか先生?」

ふと――シオンがルイセに声を掛けた。
ちなみに、シオンは俺たちと行動を共にしていた時、ルイセに魔法を教えていたので、ルイセから先生と呼ばれている――。

まぁ、それを言ったら俺たちは何かしらシオンから教えを受けているので、『俺たち』の先生と言うことになるのかも知れないが。

「ルイセに限ったことじゃないが、皆して普段着のままなんだな――格式ばった会合じゃないから、それでOKなんだけど」

正確には、城のパーティー等に着ていく類いの衣装が無かったからなんだが――。
母さんや、レティシア姫のそれは例外だけどな――。

「まぁ、男連中はともかく――折角のパーティーなんだから、ルイセも普段よりお洒落をしてみたいって思わないか?」

「それは、思うけど……わたし、ドレスとか持ってないんだ――小さい頃のならあるんだけど――」

ルイセは魔法学院に行っていたからな。

だからこそ母さん――宮廷魔術師サンドラの娘として振る舞うことが、あまりにも少なかった。

ルイセがドレスなんて着る機会は、滅多に無かったんだ。

「そうか、なら良かった。とらぬ狸の皮算用にならなくて済んだ――」

「ふぇ?」

何故か沁々と語るシオンを見て、首を傾げる我が妹――と。

唐突に、シオンは右手を掲げ――。

その指を高らかに鳴らすのであった――。

――って、何?

―――ドドドドドドドドドドッッ!!!!

「お待たせしました旦那さまー♪」

地響きを起ててやって来たのは、緑色の長髪を靡かせた元気そうな少女……確かシルクだったか?

「ま、待ちなさいって……」

「シルクちゃん、速すぎ……」

その後を、息も絶え絶えに追い縋って来たのは金髪をポニーテールにした、凛々しい雰囲気の少女と、ルイセよりも淡いピンクの長髪を靡かせた、ほんわかした雰囲気の少女だ――。

確か、この二人はシオンの家に勤めているメイドだった筈だ――。
何時だったか、『シオンのアジト』に居たのを見掛けたことがある。

「えっ?えぇ?」

その三人は――何故かルイセのことを囲み込んだ――。

――はっ?

「それじゃあ、歓迎してやれ――丁重かつ、盛大に……な」

「あいあいさー♪ですぅ〜♪」

「きゃあっ!?」

そして、三人はルイセを抱えあげ――。

「ちょ、きゃっ、お、おにいちゃーーーん―――……………」

来たときと同様に、いや、ルイセに気をつかってか、若干スピードを落として去って行った……。

……は?

***********

ポカーン――。

正にそんな擬音が、浮かび上がったりしていると、錯覚するような空気が蔓延している――。

十中八九、俺のせいなんだけどな?

「――はっ!?」

凍り付いた空気を最初に払拭したのは、意外にもティピだった――。

「ちょ、シオンさん――ルイセちゃんが……」

「心配すんな、別に取って喰うワケじゃないから」

「そ、そんなこと言われてもさぁ……」

ふむ、予めシルクにテレパシーで事の概容を伝えて、計画に及んだワケだが――。

サプライズのつもりだったが、いきなり過ぎたか?

「大丈夫、ちょっとしたサプライズだからさ」

「――本当に大丈夫なんだろうな?」

カーマインが睨みを効かせてくる――やはり軽率に過ぎたか。

考えてみれば、少し前にルイセはボスヒゲにグローシュを奪われたりしたし――カーマインが過保護になるのはやむを得ないか――。

いや、カーマインのそれが家族に対するソレなのかは――分からないけどな?

「当たり前だ。それとも、俺がルイセに危害を加えるとでも?」

「……そういうわけじゃないが……」

俺がそう告げると、カーマインは不承不承と言った風に食い下がった。

まぁ、不承不承と言うより、バツが悪そうな表情とでも言おうか――。

俺に敵意の様なモノをぶつけてしまったことに対して、罪悪感の様なモノを感じているのだろう。

それだけ、俺のことを信用してくれているのだろうが――。
どちらかと言えば、悪いのは俺なんだがな……。

(旦那さま旦那さまっ)

(おっ、シルクか)

内心で苦笑していると、シルクから念話が送られてくる。

(ルイセちゃんの準備、完了しましたですよー♪)

(って、早いなオイ)

三人がルイセを連れて行ったのは、ぶっちゃけ俺の家なワケだが――。

確かに、我が家はバーンシュタイン城下町の入り口から、目と鼻の先に位置する場所にあるが――。

高々、数分程度しか経っていないのに『準備』が終わっているとか――。
女性の『準備』は時間が掛かるというのが、相場なんだケドな。

(メイリーさんとシルビアさんと一緒に頑張ったですよ〜♪)

40秒で支度しなっ!という、某空飛ぶ海賊の婆ちゃんじゃないが、頑張ったで準備を済ませる我が家のメイド達は、半端じゃない優秀さである。

(お二人とも、バタリと倒れられたんですけども……)

(……休ませてあげなさい)

まぁ、シルクのペースに付き合ったらそうもなるか――お疲れさん。

――さて、と。

「カーマイン、今からルイセが戻ってくる。会場までエスコートしてやれよ。場所はバーンシュタイン城だから、分かるだろう?」

「それは分かるが、一体何の話なんだ……?」

「良いから良いから……俺達は先に行ってる。じゃあ、行こうぜ皆?」

困惑するカーマインを差し置いて、俺は皆を促して先に進む。

「ちょ、待てって……何が何やらわかんねーぞ俺は」

「そうだぞ、私たちにもきちんと教えてくれ」

「まぁまぁ、詳しくは後で教えるからさ――な?」

ゼノスとジュリアが疑問を浮かべるが、俺は笑みを浮かべながら頼み込む――。

「仕方ねぇな……何を企んでるか知らねぇが、シオンのことだから悪いようにはしねぇだろう。まぁ、俺たちは先に行ってるとするか」

企んでるってのは人聞きが悪いぜウォレスよ――まぁ、否定は出来ないケド。

「それじゃあ、そういうワケだから――頑張れよ?」

「……何を頑張れと……?」

何だかんだで、皆を丸め込んで――もとい、カーマインとティピを残して、皆を会場へ案内することにした――。

ティピに関しては、自主的にカーマインと一緒に残ることを決めていた。

まぁ、ティピはお目付け役だし――ってのは建前で、ルイセがどうなっているか気になったのだろう。

『準備』が早過ぎたのが、気になるが――我が家のメイド達を信頼するとしようか――うん。

***********

「行っちゃったね……」

「そうだな……」

俺とティピは、ただ漠然とした表情でみんなを見送った――。

「それにしてもシオンさん、ルイセちゃんをどうしたんだろーねー?」

「さて、な……まぁ、ウォレスも言っていたが、悪いようにはしないだろう」

さっきは、睨み付けてしまったが……別にシオンがルイセに何かをするとは思っていない。

思っていないが、睨み付けてしまった――。

これに関しては、俺自身理解している。

これは恐らく――嫉妬、いや、危機感とでも言おうか。

あぁ、そうだ――。

俺は、ルイセのことを――。

だからこそ、気が気じゃ無かったんだと思う。
シオンの――女癖と言うのか?
それは仲間内では知れ渡っているからな。

考えてみたら、シオンの女癖は誰も彼も――というモノでは無く、互いに想いを寄せあった相手を受け入れる――というスタンスのモノだ。

――正直、それもどうなのだろうかと、思わないでも無い。
その辺のことを、本人に尋ねてみたことがあるが――。

『振っても最低、受け入れても最低――同じ最低なら、俺は受け入れる方を選ぶさ』

という答えが帰ってきた――。
正直、俺には真似出来ない生き方だと思ったが、真剣な表情で答えたシオンを見て、こういう生き方もアリなのか――と、思った。

そんなシオンだが、ルイセに対してそういう感情を抱いていない。

妹の様な、娘の様な、教え子の様な――。

そういう感覚らしい――。
ルイセにしても、シオンは大切な仲間の一人で、先生という感覚みたいだし――。

「あっ、お兄ちゃん、ティピ――」

「あっ、ルイセちゃ……ん……」

だから、場違いな嫉妬をぶつけるのはお門違いだと気付いた時、気まずさというか、罪悪感というか――そんな感情で埋め尽くされてしまった。

「うっひゃあ〜……」

「ど、どう……変じゃない、かな?」

しかし、サプライズとは一体……。

「ねぇ、ちょっと!ねぇってば!!」

「……何だ、ティピ?」

どうやら、俺は随分と深く考え込んでいたらしい……。
ティピが慌てた様子で声を掛けてきた。

何事かと、声の方を見やると――。

「………っ」

「――お兄ちゃん……」

そこにはルイセが居た……居たのだが――。

「どう、かな……私、変じゃない……?」

そこに居たのは、普段のルイセでは無く――。

「変なんかじゃないよ!まるでお姫様みたいだよっ!」

ティピの言うことも、決して大袈裟じゃない。
事実、俺は見惚れていた――。

普段、両端に纏めた長くしなやかな二対の髪はそのままに、髪を纏めている髪止めは、上品な髪飾りに変わり――。

普段ルイセが着ている服と、色合いが似通ったドレス――。
スカートは二重構造になっており、薄い皮膜の様な外側の丈は長く、周囲を包み込む様に存在し、前面部にはその薄い外側は存在しない。

薄い布地の上からうっすらと見え、スリットとも言うべき前面部から覗く内側の丈は、普段着のそれと同じ位に短いが、あそこまでタイトではなく、よりヒラヒラとしたドレスらしいデザイン。

背中の――腰の辺りに大きめのリボンがあしらわれていて、そこから燕尾服の様に二対の帯が流れている――。

不思議なドレスだ――ドレスなのに、機能性がある様に見える。
恐らく、普段着として使っても支障は無いだろうと思われる。

何より、神秘的な雰囲気がある――。

まるでルイセに着てもらうのを、心待ちにしていた様な――。

そんな風に思えてしまう程に、そのドレスはルイセの持つ魅力を引き立てていた――。
いや、一体になったと言うべきか……。

ニーソックスだっけ?
普段着でも履いてるソレも、しっかり着用している――。

全体的に見て、普段の服装を意識しながら、雰囲気的には全く違ったものになっていた。

『大丈夫、ちょっとしたサプライズだからさ』

なるほど、確かにこれはサプライズだ――。

「ほら、アンタもなにか言ってあげなさいよっ!」

ティピにそう言って促されるが、言われるまでも無く、俺の口から言葉が紡がれた――。

「ティピの言う通り、よく似合ってるぞ、ルイセ」

「ほ、本当?」

「あぁ、正直見惚れるくらい……な」

「……そっかぁ。えへへ♪」

正直な感想を告げると、ルイセは嬉しそうに微笑んだ――。

「お兄ちゃんにそう言われると……うん、すごく嬉しいよ」

「っ……そうか」

本当に嬉しそうにハニかむルイセを見て、俺は自分の胸が高鳴るのを感じた――。

以前から、ルイセには兄離れしてほしい――と、常々思ってきたが――。

これは、無理だ――。

「それじゃ、お嬢さん――宜しければ私めが会場までエスコートしたく存じますが――よろしいでしょうか?」

「はい、じゃあお願いします――ふふっ♪」

芝居掛かった仕草は、自分の感情を隠すための物――幸い、ルイセは気付かなかったみたいだが。

俺が差し出した手を取り、楽しそうに、嬉しそうに、恥ずかしそうに――笑みを浮かべるルイセを見て、確信に近い想いを再確認した――。

これは、無理だ――俺の方が、妹離れ出来そうに無い……と。

「それじゃあ早く行こう!みんな待ってるよ」

「そうだね」

「あぁ」

ティピに促され、俺たちは頷いたが――。
俺は別のことを考えていた――。

繋がれた、温かく、思いの外小さい手を感じ――。
顔には出さない様にしていたが、思わず表情が緩むのを感じた――。

守ってやりたい――今までもそうしてきたが、その想いは益々強くなっていた――。

――こんなことじゃ、もしルイセが誰か好きな男でも連れてきた日には――俺は、立ち直れないんじゃないだろうか――?

そう思わずにはいられない程、俺はこの血の繋がらない妹君に、惹かれてしまっているのだろう――。

「よし、行くか」

「うん!」

俺自身、この気持ちを伝える気は――無い。
義理とは言え、兄妹だから――いや、義理だしアリだとは思うが――。
いざとなったら、ラルフに頼み込んで――って、そうじゃなくてだな。

元より、何時くたばるかわからない身だから……な。
気持ちを伝えて、もし俺が早死にでもしたら――ルイセの性格上、かなり長く引き摺りそうだし。

それに兄としては、もしルイセに好きな相手が出来たなら、ソレを尊重してやりたいからな――。

けどまぁ、今は……今くらいは、良いよな?

この笑顔を、すぐ傍らで見ていても……。

***********

バーンシュタイン王城・大広間(戦勝祝賀会会場)

「とまぁ、そういうワケだよ」

「では、シオン様はルイセちゃんにそのドレスをプレゼントする為に、あんなことを?」

皆を会場まで案内した俺は、先程の件を説明していた。

「その通りです、レティシア姫。自分が持っているより、ドレスも着てくれる者に着てもらった方が、幸せでしょうから」

「事情は飲み込めたが、何故ルイセなんだ?」

ウォレスの疑問はもっともだ。
ローランディア組には、ルイセを始め、サンドラとレティシア、ついでにティピも居るワケで。

ただ、サンドラとレティシアは普段からローブや、ドレス姿である。

サンドラは魔術師であり、所謂ローブ姿である――正確には白い外套の下に、エメラルドグリーンの洋装(チャイナ服風味な衣服)を着込んでいる。
全体的にはゆったりした装いだが、スカートは何故かスリットの入った物を着用していて、これがチャイナ服風味と言った理由だ。

正直、ドレスとしても通用するデザインである。
まぁ、城で働く宮廷魔術師の正装だから当たり前ではあるんだが。
魔術師然としていながら、そこはかとなく色気も醸し出している――サンドラの美を引き立てる装いと言えるだろう。


レティシアは言わずもがな、完全無欠にプリンセスである故、身に纏うドレスもまた完全無欠である。

淡い薄紫と白を基調にした上品なドレスは、レティシアの美しさを際立たせている。

これまたローランディアの姫君なので、当然の装いであろう。

ちなみにティピは、サイズ的に除外で。

と――まぁ、消去法で普段着でやって来たルイセにプレゼント……って、なったワケだが――。

勿論、ソレだけが理由ではない。

何しろ、アレはルイセの『最強装備』だからな――。

「ルイセに渡したドレスは『グローシュドレス』って言ってな、その昔――グローシアン支配時代に、王族の為に作られたドレスらしい」

俺がトレジャーハントでGETした、『使い途の無い貴重品』その2である。

「当時のグローシアンが、特殊な繊維にその魔力を込めて作った一品で、下手な鎧より防具としても優れている――しかも、その繊維の中に加工の難しいグローシュの結晶を織り込んでいるから、着用者の詠唱を補助することも出来るらしい」

メタな話、ゲーム中の特殊効果としては、『一定時間毎にMPを最大値の2%回復する効果』と、『魔法の消費MPを3/4にする効果』を秘めている。

「そんな貴重な物を、戴いてしまっても良かったのですか?」

「構いませんよ。先程も言いましたが、使ってくれる人に使って貰ったほうが良いですから」

娘がそんな貴重な物を貰ったことに、恐縮してしいるサンドラだが、本当に使ってくれる人に使って貰ったほうが良いからな――。

「なぁ、その様子だとまだ色々溜め込んでるんだろ?俺にも何か装備を見繕ってくれねぇか?」

「別に構わないが、ゼノスよ……せっかくの祝賀会なんだから、まずは楽しんでいけよ。カレンやベルガーさんも来ている筈だから――ローランディアで缶詰になっていて、家に帰れていないんだろう?」

「うっ……おう、それもそうだな」

で、ゼノスが新装備をせがんで来たので、一応の了承と共にパーティーを楽しむ様に促した。

――元より、『来るべき時』が来たら皆の装備を一新しようか――とか、考えていたからな。

「ベルガー隊長も来ているのか……後で挨拶にいかないとな」

「まぁ、まだエリオット陛下の挨拶まで時間があるし、各々好きに楽しんでいたら良いんじゃないか?」

ウォレスの様に、かつての戦友達と会話をするも良し、ゼノスの様に家族と談話するも良し――。

結局、各々好きに時間を過ごすことになった――これが束の間の物であると知って、或いは感ずいているのは、この場所に何人いるのか――分からないが。

「と、サンドラ様――少しお話が……宜しいでしょうか?」

「はい、なんでしょうか?」

束の間だが、俺は俺でやれることをしておこう――これもまた、『約束』だからな。

***********

「うわ〜♪」

「何だか、足がすくんじゃいそう……」

ティピとルイセ……互いに正反対の反応を見せる。

会場に着いた俺たちは、その会場内の賑わいに驚きを隠せなかった。

バーンシュタインの王候貴族は勿論、インペリアル・ナイトの4人、ランザックの将軍――ウェーバー将軍と、黒い鎧の老将――ガイウス将軍に魔法学院の関係者、そして俺たちローランディア組……。

他にも見知った顔がチラホラと――。

これだけの人間が一堂に会すというのは、正直壮観だ。

しかも、殆どが俺たちの知り合いときてる……。

「エリオットの奴、随分と頑張ったみたいだな」

「本当よね〜、これってこの前のお披露目会の時より多いよね?」

恐らく、各国重要機関の代表の他に、エリオット個人が世話になった面子も含まれているのだろうな――。

「あっ、ウォレスさんと……ランザックの将軍さん?」

「それとカレンさんのお父さんだね」

ルイセとティピが、ウォレスを見付けた。

どうやら、ウェーバー将軍とベルガーさんの三人で昔話に花を咲かせている様だ。

まぁ、あの三人はかつての傭兵団の仲間同士だからな――。

少し離れたところでは、ゼノスとカレンが話をしており、シオンは母さんと……?

「どうしたの?あっ、シオンさんとマスター……と、女の子……ルイセちゃんくらいの女の子だね」

「あぁ」

シオンと母さんが……いや、シオンがその女の子を母さんに紹介している様にも見える。

金髪を肩より少し長めに伸ばした、眠そうというか、まったりした雰囲気の少女だ。
青みがかった、ローブの様なゆったりした騎士服を着込んでいる。

「本当だ、誰だろう?」

「――彼女はキルシュ。バーンシュタインの天才魔術師にして、シオンの直轄部隊――『蒼天騎士団』の一員です」

ルイセが疑問を浮かべる中、その疑問に答えてこちらへやって来た少年――。

「やぁ、みなさん!元気そうですね」

「エリオット王も、お元気そうで何よりです」

「そんな、堅苦しい挨拶は抜きですよ?」

バーンシュタイン新国王であり、短い期間だが行動を共にした仲間――エリオットと――。

「あっ、ポールだ!お久しぶり〜♪」

「あぁ、久しぶりだな――そちらも壮健のようで何よりだ」

エリオットの傍らで、彼を守護するように控えていた仮面の少年――。
インペリアル・ナイトの一人で、ゲヴェル討伐の際に共に戦った仲間であるポールだ。

「それで、エリオット――天才魔術師とは?」

「彼女――キルシュはグローシアンでこそありませんが、魔導に関して多大な知識を有しています。魔法に関しても優秀で、あの歳で個人の研究室を持つ程です」

「ほぇ〜、凄いんだね〜……」

エリオットの説明に、驚きを顕にするティピ。
個人の研究室を持つ――つまり、宮廷魔術師である母さんと同じか、それに近いくらい優秀ということだろう。

「驚くのはまだ早いぞ?彼女の優秀さが全面的に認められたのは、彼女が『ホムンクルス』を創造したからだ」

「えっ!?アタシの他にもホムンクルスがいるの?」

エリオットの説明を継ぐ様にされたポールの説明を聞いて、更に驚くティピ。

――確かこういうのを『鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔』――と、言うんだったかな?

というか、イリスとミーシャのことはすっかり忘れている様である。

なんか、訂正するのも面倒だし――スルーしておく。

「今はシオンの部隊で研鑽を積んでいる。今の段階で次期宮廷魔術師の呼び声も高い――期待の新星という奴だな」

「そっか、凄いんだね、あの子――うん!私も頑張らなきゃ!」

ルイセは、母さんを目標にしている所があるからな――。
同じ位の歳の女の子が、そういう立場に居ると分かって、俄然やる気を出したのだろう。

――グローシアンとして復活してから、少し大人びた様に見えたが――こういう所は変わらない様で、非常に微笑ましい。

「それはそうと、折角来たのだから楽しんでいくといい」

「僕たちが案内しますよ」

「うん、でも……」

ポールとエリオットの申し出を受け、ルイセはこちらをチラリと見やって来た――。

「……行ってこい。俺はその辺をうろついてるから」

「……うん!」

俺が促してやると、ルイセは喜んでエリオットたちに着いていった。

折角の会合だ――俺にベッタリでは無く、色んな人と話すのも、ルイセにとって悪いことでは無いだろう。

――俺個人としては、若干の寂しさを禁じ得ないが――。

「――アンタってさ、損な性格してるわよね……性格というより、性質?」

「?何の話だ?」

「はぁ……もういいわよ。ルイセちゃんがかわいそうだなぁ……って、話だからさ」

――意味が分からん。

「おーいっ!」

「あっ、ラルフさんだ!」

首を傾げていると、こちらに駆け寄ってくる見知った顔――ラルフだ。
まぁ、自分と同じ顔だ……見間違える筈が無いんだが。

「ラルフも来ていたのか……」

「うん、家の方に招待状が届いていてね。正直、昨日行商から帰ってきたばかりだったからさ。慌てて準備をしてきたよ」

さっきのポールもそうだったが、ラルフも元気にやっているらしい……。

俺は安堵の息を漏らす――生き残った『俺たち』がまだ、誰も欠けていないことに。

「それはそうと、良いのかい?早く行かないと、折角のご馳走を食べ損ねてしまうかも知れないよ?」

「え〜っ!?それはヤバイよぉ!」

「大袈裟だな……見たところ、来客数も多いがそれに比例して料理の数も多い……慌てなくても「ヒャッハー!!ご馳走じゃあっ!!」…………」

ラルフの指摘に涙目で慌てるティピ――。
俺は大袈裟だと、一笑に伏すつもりだったが―――見てしまった。

「うめぇ!うめぇ!!ガツガツムシャムシャ!!あっ、これ持ち帰ったりできねぇかな?」

「美味いッス美味いッス!!普段食ってる物も美味いけど、コレは格別ッス!!モグモグ――!!」

「テメェら!!ハズカシイからガッつくんじゃねぇよ!!――騎士足る者、優雅に、余裕を持って食すべし!――けど、この酒は美味いな」

「いやいや、団長さんよ――そもそも俺らの仕事は会場の警護で、ついでにお相伴させて貰ってるだけだからね?――けど美味い酒だなコレ」

――何やら、蒼い騎士服に身を包んだ見知った顔(見知らぬ男も居た)の連中が、恥も外聞も無く料理や酒を食らっているのを――。

「――とまぁ、ああいうワケさ」

「ヤバイ、ヤバイよぉ!!早く行かないと……!」

「……慌てなくても大丈夫そうだぞ?」

「うぇ?」

慌てて、文字通り飛び回っているティピを制し、俺は二人の視線を促した。

その先には頭を抱えて、項垂れるシオンの姿が――。

――どうやら、母さんと少女に断りを入れてその場を離れ――。

「おい、お前ら……」

「「「「!!!??」」」」

「取り敢えずそこに座れ……な?」

……暴飲暴食していた面子に説教を開始したのだった。

「……どうやら、大丈夫そう……だね?」

「こっちが大丈夫じゃないみたいだが……」

「コワイコワイコワイゴメンナサイゴメンナサイ……(ガクブルガクブル!!)」

黒いナニカを滲ませながら説教をするシオンを見て、苦笑しながら事態の収束を確認した俺とラルフ。

ティピは、トラウマ的な何かを刺激されたのか、俺のジャケットに付いているポケットへ、頭から身体を突っ込み震えている。

……尻だけ出して。

「とにかく、僕らも行こうか?」

「そう、だな……」

食いっぱぐれるとは思わないが、此処でただ突っ立っているのも何だし……な?

***********

ふぅ……全くアイツらは……。

「個性的な者たちだな?」

「ポールか……いや、その通りだから否定しないが――個性的過ぎるっつーの」

我が蒼天騎士団の中でも『ハジケ過ぎていた』面々に、説教ぶちかました俺を出迎えてくれたのが、同じインペリアル・ナイトのポール・スタークだ。

「そう言うな。そんな個性的な面々を、お前は気に入っているのだろう?」

「まぁ、な」

確かに俺はアイツらを気に入っている――だが、団長と副団長が率先してハジケるのもどうなんだ……って、話だ。

まぁ、ハジケていたのはオズワルドとバルク、ビリーとニールくらいのモノで、後の面子はマトモに警備をしつつ、パーティーを楽しんでいたが。

「つーか、ポールはエリオット陛下に付いていた筈だが……良いのか?」

「陛下は今、開会の挨拶の為の着替えに向かった。それに、後のことはオスカーに任せてあるしな」

「さよか――なら良いがよ?」

正直、引き続き司会進行もやっちゃえよ――と、思わなくも無いが――。

実際、インペリアル・ナイトでこそあるが――ポールはあまり目立てない。

それは前王であり、大乱の元凶にしてゲヴェルの尖兵であった――エリオットの複製人間……リシャールが、ポールの正体であるからだ。

無論、目元をマスクで隠し、髪も茶色く染めているので、一見さんには(この程度の変装が、不思議なことに)見破られないだろうが。

流石に付き合いが長い人間は、そうはいかない。
――現にポールが初めて人前に姿を現した時、ライエルやリーヴス、アンジェラ様も一発で変装を見破ったからな。

まぁ、今に至るまでポールの正体に感づいた者は、付き合いの深い身内以外にいないが。

司会進行役なんてやった日には、王だった頃の癖が出るかも知れない――。
王様だった頃、仕える将兵や貴族の前で――まず間違いなく演説等もしている筈だからな……。

付き合いが深くなくても、リシャールを知る者がその癖を見たら首を傾げるか――最悪、正体に気付くかも知れない。

急遽、ナイツに抜擢された俺やポールを毛嫌いする者は未だに多い。

そういう連中に正体を知られたら、色々面倒なことになるだろう。

「陛下のお色直しと言うと――あの服か、前王が着ていた……」

「うむ。何故か陛下は普段は着たがらない……普段着が悪いとは言わないが……家臣への手前、身だしなみにも気をつかって欲しいのだがな」

まぁ、色々あるのだろうさ――。

堅苦しい格好は好きじゃない――とか、ポールに遠慮している――とか……。

前者は無いか……元々、エリオット陛下は貴族として、次代の王として教育を受けてきたのだから。

俺達と旅をして、より強く自由に憧憬を抱く様になったのかも知れないが――。

しかし、全てを蔑ろにしてまで自由を謳歌しようなんて――刹那的な性格を陛下はしていない。

ならば必然的に後者になる―――。

俺が思い付かないだけで、他に理由があるのかも知れないが――。

「まぁ、普段着に愛着があるだけかも知れないけどな――」

「だとしてもだな――」

「まぁまぁ、せっかくの祝賀会なんだ。今日はそういうのは無しにしようぜ?」

例え、これが形だけの戦勝祝賀会だとしても。
今はこの空気を楽しみたい。
……いきなり説教ぶちかました俺が、言える台詞では無いのかも知れないけどな?

「むぅ……止むを得ないな。私とて、この様な宴の席で小言を溢すのは本意ではない」

「愚痴ならその内聞いてやるさ――酒でも飲みながら……って、ポール酒飲めたっけ?」

「……君は私を馬鹿にしているのか?酒くらい飲めるぞ私は……」

そう言えばそうか……この世界って、『なんちゃって』ではあるがファンタジーな世界なワケで――。

ぶっちゃけお酒は二十歳から――なんて法律は無いんだよな。

極端な話、子供は子供でも14、5位の歳ならばギリギリ大人と見なされるワケだ。

「なら、今度暇な時にでも飲みに行こうぜ?……っと、どうやら始まるみたいだな」

視線をエントランスホールの上――大階段の先にある謁見の間へと続く大扉へ向ける――そこから、着替えを終えたエリオット陛下と、陛下に付き従うインペリアル・ナイト――オスカー・リーヴスが姿を現した。

さて、ここは静聴するのが常識って奴なのだろうな。

まぁ、流石にエリオット陛下の挨拶を無視して騒ぐ馬鹿は居ないと思うが――。

***********

「ご来場の皆さま――ご歓談中の所を申し訳ありません……人々の生活を脅かした、異形ゲヴェルが去ったことを祝し、ささやかながら宴を執り行いたいと思います」

という、リーヴスの前口上から始まった陛下の開会の挨拶は、おおよそ原作のソレと差が無いモノだった。

その内容を簡単に纏めると、怪物ゲヴェルを倒して得た平和を、皆で力を合わせて守り抜きましょうというモノ――。

ヴェンツェルのことについては、同盟会談に参加した者や、奴と直接関わった者以外には、この祝賀会が終わった後に説明する段取りになっている――。

無論、軍部の者や政に関わる者達には、事前にある程度のことは説明してある――他の国がどういう対応をしたかは知らないが。

しかし残念ながら、バーンシュタインの貴族連中が皆、剛胆な者ばかりというワケでは無い――。

ことなかれ主義というか、保身を第一に考える様な奴らも、少なからず居る――。

まぁ、流石に我が身可愛さでヴェンツェルに降る様な奴は居ないと――思いたいが……。

――幾ら、高潔な人間でも限界ギリギリまで追い詰められたら、掌を返す様に態度を豹変させることも、十二分にあり得るからな――。

――原作での、バーンシュタイン国民や、グランシルの町民――そして……。

「……?なんだ、シオン――何を見ている?」

――ポール――リシャールの様に。

「別に――ただ、お前さんが嬉しそうに笑ってたから、少し気になっただけさ」

「――嬉しいさ。改めて、私の目に狂いはなかったのだと……実感出来たからな」

まぁ、コイツは心配いらないだろう――。
元来、ポールは高潔な精神の持ち主だ――。

原作の時も、弱りきっていた所へ悪魔の囁きに耳を貸してしまったワケで――。
しかも、ゲヴェルに操られていた時の、闇の性格――簡単に言えば洗脳された状態にされ、これまた操られていただけだったのだから。

「……これで、私も覚悟が出来た――安心して後を任せて――」

「よいしょー」

「うぐぅっ!?」

何か、悲壮めいた面をしやがりやがったので、そこそこ強めにデコピンを喰らわせてやった。

おーおー、額を抑えて踞っておるわ。
まぁ、ドゴッ!!とかいう、おおよそデコピンらしからぬ音がしたからな――威力は推して知るべし。

「な、何をするかーっ!?」

「いや、何処かの誰かさんがネガティブな台詞を吐きそうな気がしたんで、先手を打ってみた」

「むっ……」

自覚があるのか――額を押さえながら押し黙るポール。

「そうならない為に、その腕輪を渡したんだぜ?もう少し信用しろって」

「信用していないワケではない――だが、いざという時のための覚悟は「いらねーよ」……むっ」

「いらねーよ――そんなもんは。いざという時なんか、起きないし起こさせない。俺が……させやしないさ」

そうだ――させるものか。
俺の仲間を、ダチを、家族を、惚れた女を――皆が取り巻くこの世界を――あの野郎に壊させはしない――!

「ふっ……えらく自信満々だな」

「当たり前だ……俺を誰だと思ってるんだ?」

自信なんて、正直な所――無いに等しい。

此処に至るまで、俺は『知識』に助けられてきた――が、既にその『知識』が及ばない領域にまで、物語は進んでしまっている――。

望んでそうなる様に動いて来たとは言え、『知識』がもたらすアドバンテージなんてモノは、既に食い潰したも同然だ。

「不遜な台詞の筈なのに……君が言うと、不思議と信じたくなってしまうな」

最初は、目が届く奴だけでも守れれば良いと思った。

けれど、旅をして……色々な奴等と出会って――。
守りたいモノが、増えてしまった……。

俺には力がある――この世界の誰よりも、大きな力が。
しかし、それでも不安に駆られる。

幾ら大きな力があっても、目の届く奴等、力の及ぶ範囲しか守れない……。

もしかしたら、俺の預かり知らぬ所で――大切な誰かを失ってしまうかもしれない……。
それが、俺にとっては何よりも怖い。

だが当然だ、俺は神様じゃないのだから――。

それでも――。

「おお、信じとけ信じとけ。損はさせねーからよ?」

皆が期待してくれる、俺だから、俺ならば――と。

だから、俺は強い俺で居なければならない――。
不遜だろうと、笑顔を浮かべて、自信に満ちた俺で居なければならない――。

「さて、せっかくの宴なんだ。小難しい話は抜きにして、楽しもうぜっ!」

「――あぁ、そうだな」

だから、弱気は見せない――せめて今だけは、この宴の空気を楽しまないと。

ゲヴェルから勝ち取った平和は、あくまで仮初めの物で――争乱の火種は、すぐそこまで迫って来ている。

それでも――この胸に絶望なんてモノは無い。

何とかしてみせるさ――俺が、いや――『俺達が』な。

***********

case1インペリアル・ナイト四人(男組)

「よぉ、お疲れさん」

「やぁ、シオンとポールじゃないか」

シオンはポールと連れ立って、先程エリオットの開会の挨拶の前口上を行った、オスカー・リーヴスの元へ赴いていた。

彼は同僚、アーネスト・ライエルと談笑に興じていた。

「前口上、しっかり聞かせて貰ったよ。流石はオスカーだな――上手く纏まっていた」

「いや、そんなことは……君たちだって、あれくらいは出来るだろうし。何より、陛下の挨拶あってのモノだしね」

ポールはオスカーを褒め称えるが、オスカーは自分では無くエリオットが頑張ったのだと、言外に語る。

「まぁ、な。確かに陛下は堂々としていたな……それを見て、ポールが咽び泣いた位だしなぁ?」

「なぁっ!?」

それに頷きつつも、クックッと笑いながら語るシオンと、その言葉に驚愕するポール。

「ほう……それは是非とも見てみたかったな」

「ア、アーネスト!?」

「そうだね。ポールは普段から、陛下のお目付け役みたいな部分があるから――感慨深いものがあったのかもね」

「オスカーまで……ち、違うぞ二人とも――いや、感慨深かったのは事実だが――私は決して泣いてなどいないからな?」

そこに乗っかって来たのは、アーネストとオスカー。
ポールは慌てて弁解するが、それは二人の笑みを深くするだけでしかなく――。

無論、二人とも眼前で慌てふためく親友が嘘をついていないことは、百も承知だが……。

正直、此処まで感情を顕にする彼を見るのは初めてに近く、ぶっちゃけ面白いので乗っかって来た次第である。

もっとも――。

「くっはははははっ!!ポール、おま……そんなに否定したら逆に怪しまれるだろーに……ぷくくく……!」

一番面白がっているのは、必死に笑いを堪える全ての元凶なのだが。

「シ、シオン!元はと言えば君がだなぁ!?」

「悪い悪い。けど、嬉しそうに見ていたのは本当だろう?」

「うっ……」

これには、ぐうの音も出なかった様で、追求しようとしていた筈のポールは押し黙ってしまった。

「まぁ、ポールの気持ちも分からんでもないな」

「そうだね――エリオット陛下は立派に大役を果たしていると思うよ」

アーネストとオスカーが、ポールの気持ちに同調したのを皮切りに、話題は自然とエリオットに関する物になる――。

エリオットが、如何に懸命に責務を果たしているのか、如何に民のことを考え、想いを馳せているのか――。

「だからっ!私は陛下に何度も申しておるのだ!民を想うのは良い、しかし城を抜け出すのは些か軽率に過ぎると!!」

「……誰だよ、ポールに酒を飲ませた奴は……」

「――僕の記憶に違いがなければ、君が飲ませたんじゃなかったかな?」

「……そうだ、責任を持って面倒を見ろ」

「いやいやいやいや――ポールはコレくらいの酒なら飲めるって言ったのは、ライエルだからな?リーヴスはリーヴスで、面白がって止めなかったんだから同罪だろーよ?」

「そこの三人!!聞いているのかっ!?」

――後半はポールが、愚痴を溢して絡んでくるという悪循環が生まれ――責任の所在を擦り付け合う、大の男が三人という――なんとも情けない構図が出来上がっていた。

全員本気では無く、半ば悪ふざけ的なノリではあるが。

尚、自分の話で(悪い方向に)盛り上がっているのを察知したエリオットが、それとなく距離を取ろうとした所をポールに発見され、この悪循環は断たれることになる。

「陛下、開会の挨拶は実に堂々として見事な物でした――が!だからこそ、敢えて申し上げたい!そもそも陛下は――」

「ひえぇぇ……三人とも見てないで、助けて下さいよーっ!?」

「――そうだ二人とも、さっき良さそうなワインを見つけたんだ。良かったらどうだい?」

「……悪くないな」

「右に同じ――ポール、宴の席とは言え……やり過ぎない様にしろよー」

「そ、そんなぁーっ!?」

哀れ、人身御供として捧げられたエリオット少年の助けを呼ぶ声をスルーし、青と赤と紫はそそくさとその場を後にした――。

ちなみに、お説教モードに入ったポールだったが、エリオットも腹を括ったのか、開き直ったのか――反撃として自身の意見を述べ、二人は宴の席でありながら激論を交わすことになるが――それは余談である。

更に余談ではあるが、この宴を期にシオンは同僚二人のことを姓である『ライエル』『リーヴス』では無く、名である『アーネスト』『オスカー』と呼ぶ様になったそうな――。

***********

case2 蒼天の騎士たち

「お前ら、ハメを外し過ぎてないだろうな?」

「し、将軍!勿論ですハイ!」

「だから、もうお説教は勘弁してほしいッス!!」

先程、最低限のマナーすら亜空間に放り投げていた蒼天騎士団の面々が気になり、様子を見に来たシオンを最初に出迎えたのがビリー・グレイズと、ニール・アスタード、二人の若き蒼天の騎士だ。

「大丈夫、今度は騒がない様に私がきっちり見張っているから」

そう言って胸を張っているのは、シオンの副官の様な立ち位置であり、シオンと想いを通わせた女性の一人である、リビエラ・マリウスその人だ。

ちなみに、先程彼らが馬鹿騒ぎをしていた頃、リビエラはカレンと談笑していたので、止めるに止められなかったりした。

「成る程、それなら安心だ」

柔らかな笑みを浮かべて、深く頷くシオン。

実質、蒼天騎士団の暴走を止めるストッパーはシオンないし、彼女なのだ。

他にも、常識人に入る人材が居るには居るが――。

「良いか、少年。若い内の苦労は買ってでもしろって言ってな――」

「バルクさん、少々飲み過ぎでは……」

「大丈夫だ、ちゃーんと周囲の警戒をしながらだから問題無い。で、だな――お前さんは真面目なんだが、いかんせん真面目過ぎる!いいか――」

蒼天騎士団の常識人その1、マクシミリアン・シュナイダーは迷惑オヤジと化したベテラン、バルク・ディオニースに絡まれている。

根っからの真面目君であるマクシミリアンは、しつこく絡んでくる迷惑オヤジをあしらえずに居て――。

「貴様は大鎌等という身の丈に合わない武器を使っているから、隙が埋まれるんだ――そもそも、大鎌なんて得物は扱いにくいだけだ」

「し、仕方ないだろう!リングを使って出てきたのがアレだったんだから――それに、インペリアル・ナイトのオスカー・リーヴス将軍だって大鎌使いじゃないか!」

「俺が言いたいのは、貴様には荷が勝ちすぎているんじゃないのかってことだ。リング・ウェポンだったか?無理して使う必要もなかろう」

「い、いいんだよ!俺も腕を研いてリーヴス将軍みたいな使い手になるんだから!」

「――口先だけなら、何とでも言えるな」

「!よーし、見てろよ……俺は必ずインペリアル・ナイトになってみせるからな!」

議論を白熱させているのが、常識人その2――ウェイン・クルーズと、蒼天騎士団随一の戦闘バカ――ラッセル・ウィルバーである。

普段は、常識人の範疇にいるウェインだが、ことラッセルとは最初の出会い方がよろしくなかったのか、蟠りが解けた現在でもこうして口論になることが多々ある。

ウェインにとって、親友はマクシミリアンだが、好敵手として認識しているのがラッセルだ。

そのラッセルも、最初の内はウェインを取るに足らない相手だと思っていた節はあるが、訓練を重ねる内に実力を上げていくウェインを認める様になっていた。

元々、自分の周囲には歳が近い相手が義理の姉しか居なかったので、手近に張り合える相手は貴重だったのだろう。

「もーっ、二人とも止めなよ!団長たちみたいに、将軍からお説教されても知らないからねっ!?」

――常識人その3であるラッセルの義理の姉、レノア・ウィルバーは二人の口論を止めようと奮闘するも、ことごとく失敗――最終的には『投げた』。

「……アイツら」

投げられた張本人――シオンは頭を抱える――此処は宴の席である故、騒ぐなとは言わないが――仮にも蒼天騎士団は、会場内の警備込みでの参加なので、もう少し自重して欲しいというのが、彼の心情だったりする。

再び、説教をするべきか思案していたが――それは杞憂に終わる。

「――そうだな、レノアの言うとおりだよな、うん」

「……ふん」

さすがに、公衆の面前で正座の上に説教という責め苦は耐え難かったのだろうか――。
シオンの存在をちらつかされた瞬間、二人の口論は収束する運びとなった。

「やれやれ……」

はぁ……と、ため息を溢すシオン。
彼とて、お説教がしたいワケでは無い。
元来、彼も騒ぐなら大騒ぎをしたいタイプではあるが、幾ら形式ばった会合では無いとは言え、此処は各国の要人が集う宴の席で、大勢の人の眼があるのだから、穏便に済むならその方が良いに決まっている。

「ったく、恥ずかしい奴らだな――ちったぁ周りの眼を気にしろってんだ」

得意気に語るのは、蒼天騎士団の団長であるオズワルドだ。
――もっとも、先程シオンが説教をした者の中に、しっかりとオズワルドも居たワケで。

「……お前が言う台詞じゃねーな」

シオンが疲れた様に台詞を吐き捨てるのも、ある意味仕方がないのだろう。

「まぁまぁ、さっきと違って真面目にやってますから、大目にみてくだせぇよ」

「自分で言うなし――まぁ、良いけどよ」

どうやらオズワルドは、本当にある程度自重している様で、先程の様な暴飲暴食はしていない様である。

「とは言え、それとなく会場内の警備をしちゃあいますがね……とりわけ怪しい奴らは見かけやせんでしたね」

「まぁ、城の警備自体を厳重にしてあるし、会場内の警備に至っては俺たちはもちろん、天下無敵のインペリアル・ナイツが勢揃いと来てる――俺が賊だとしても、ちょっとご遠慮願いたい布陣だな」

オズワルドの意見に同意して、軽く肩を竦めているのはエリック・ウェルキンス――蒼天騎士団唯一のモンスター使いである。

「――敵はそんな警備を、すり抜けてくる可能性があるんだ――張り詰めるのは良くないが……気を抜き過ぎるなよ?」

「重々承知しているさ」

シオンの忠告を聞いて、エリックは再び肩を竦める。
事実、敵――ヴェンツェルとその部下ルインの脅威について、シオンは耳にタコが出来るほど語っていた。

蒼天騎士団の中で、彼の者たちと接敵した者はほとんどいないが、それでもシオンの警戒ぶりに、騎士団員たちは只ならぬモノを感じたのだろう。

「けれど、大丈夫です!敵が如何に強大であろうと、私たちは――負けません!私、みんなを……何よりシオン様を信じてますから!」

「エレーナ……」

それでも自信を持って、負けないと告げたのはエレーナ・リステル――リビエラの同期で、シオンに憧憬以上の感情を抱く、潜在的ドM思考が些か強い女の子。

彼女は自分たちを――何よりシオンを信じると言った。
自分たちを導いてくれたのが、彼だと……だから信じられるのだと。

それはシオンにとって、重くのし掛かる重圧だが――同時に、気力を与える言葉でもある。

「――やれやれ……まぁ、頼られるのは悪い気はしないな」

「そうね。エレーナの言うとおり、私たちは負けない――貴方が居てくれるから、ね?」

「リビエラ……」

リビエラの言葉を期に、皆が強い気持ちの篭った瞳を向ける――。

「――当たり前だ。俺を――いや、俺らを誰だと思ってるんだ?」

強い瞳を受け止めたシオンは、ニカッと気持ちの良い笑みを浮かべて宣言する。

「よっ、大将!」

「まぁ、そこまで自信満々に言われちゃあねぇ……おじさんも頑張るしかないわなぁ」

そんなシオンを見て、皆が各々に頷き、各々に決意する。

――蒼天の騎士たちは、静かに燃え上がる――。
魂の炎を、絶やさずに――来るべき時を見据えて。

**********

case3 同郷の語らい

「マーク!」

「――!アリオスト……」

魔法学院の研究者であるアリオストが声を掛けたのは、蒼天騎士団の一員であるマーク・ブルースだ――彼らは故郷を同じくする、幼馴染み……いや、彼らの場合は兄弟の様なものと形容するべきなのだろう。

「聞いたよ。騎士になったんだって?凄いじゃないか!」

「あ、あぁ。けど、アリオストの方が凄いだろう?何しろ、魔法学院の天才学者だからな……村一番の出世頭だ」

純粋な賛辞を送るアリオストに対して、やや後ろめたい気持ちを隠しきれないマーク。

その感情は、今でこそ騎士などと言う華やかな立場に居る彼が、かつて賊だったことに起因する物だ。

それも、金品や食料などを強奪する類いの賊で――それこそ、罪もない人間の命を幾つも奪ってきた。

マークが賊に落ちぶれたのには、それ相応の理由があるのだが――しかし、彼らの故郷であるブローニュ村で、同じように育ち、けれども汚れることなく進んで行ったアリオストを前にして、それを理由にするのは――マークにとっては憚られた。

ましてや、アリオストはマークたち孤児をブローニュ村で引き取ってくれた、『父親』の実子である――そんな彼の前で言い訳を重ねるのは、『父親』に対する侮辱になる様な気がしたのだ。

「そんなことないさ。確かに、村のみんなにそう言われてはいるけれど、僕の場合……自分のための研究がたまたま評価されただけだし、その研究の大部分は危険だからって、公にされないし、ね」

結果、報奨金と言う名の手切れ金を渡され、それがブローニュ村の財政の一部を担っている。

アリオスト自身、金品に執着は無く、研究費も学院が免除してくれるので、報奨金を手元に残しておく意味も無い。

少しでも、村のためになればと思っているのも本当なので、報奨金は全額村のために使われるわけである。

「それに出世頭というなら、マークには負けるよ……何しろ、バーンシュタインの騎士なんだから」

「……それこそ、たまたま――だ。『たまたま』戦争があって、『たまたま』そこで活躍して、『たまたま』それが評価されて――しかもその戦争が『たまたま』内戦で、人手が足らなくなった――全部、偶然の産物さ」

更に言えば、彼――否、彼らは『たまたま』シオンと出会い、物語の渦中に巻き込まれて行ったが――仮にあの出会いが無かったなら、自分は何処かで野垂れ死んで居たのではないか……と、マークは思っている。

「……本当にそうかな?」

「……何?」

「確かに戦争があって、それが内戦だった――なんて、凄い確率だけど――そこで君が頑張ったのは、たまたまではないんじゃないかな?」

「………」

マークは思う――確かに、様々な要因が重なって自分は此処にいる。

しかし、その全てが偶然だったのか……と。

シオンと出会ったのは偶然かも知れない――しかし、彼に着いていくことを選んだのはマークの意思だ。

自身を鍛えることを促されたが、本当に嫌なら逃げ出すことも出来た。

それをしなかったのは、根本のところで彼も『ブローニュ村の息子』だったからだろう。

「――それは、さっきのお前自身の言葉と矛盾しているんじゃないか?」

「うっ……言われてみたらそうかもね――けど、自分で『僕は頑張ったぞ』……なんて、恥ずかしくて言えないじゃないか」

「くっくっ、違いない」

それを理解しているからこそ、こうした軽口も叩き合える。

彼らは、今までずっと歩いて来た。
諦めずに、目的のために。
あまりにも強い向かい風に、挫けそうになったこともあるが――それでもこうして、此処まで来ることが出来た。

「そう言えば、ウォーマーには会ったかい?彼も君の活躍を聞いたら喜びそうだけど」

「いや、中々暇が出来なくてな……アイツも元気なのか?」

――ブローニュ村の息子たちの会話は、尽きることなく続いていった――。

***********

case4 魔術師たちの会談

「さて、キルシュ――でしたね?」

見た目、15の娘が居るとは思えない麗しき美女――ローランディアの宮廷魔術師、サンドラ・フォルスマイヤーが声を掛けたのは、彼女の娘と同年代程の少女――。

バーンシュタインの魔術師、キルシュ・アンフィニール。

蒼天騎士団に所属する、不思議系魔術師だ。

キルシュはサンドラの問いに、コクリと頷いて返した。

「先程の件ですが、結論から言わせてもらうなら、上手くいくとは思います――ですが」

「……それは、普通のホムンクルスの、場合……?」

「……その通りです。シオンさんの持ってきた資料のおかげもあって、例の件に転用するのは、さほど困難ではないでしょう。ですが、貴女のホムンクルスの場合、どんな副作用があるのか――正直、判断が難しいところなのです……」

二人が話している内容は、ホムンクルスについて――だけでは無いようだが、魔法に精通している者でなければ、少し分からない様な内容らしい。

「将軍も――同じようなこと……言って、ました……」

「やはり、ですか……あの人には何か考えがある様ですが、万が一を考えて案を練るのは悪いことではないでしょう」

サンドラの言葉に、キルシュは首を傾げた。

「どうして、そこまで――?」

「――そうですね。あの人からの紹介ということもありますし、私もホムンクルスを創りましたので……貴女の気持ち、分からないわけではありませんから――」

そう語るサンドラの瞳は、真摯な光を湛えていた――。
それを見たキルシュは、喉元まで出掛かった言葉を呑み込む。

――自分とは違う、自分の何が分かるんだ――そんな負の感情を消し飛ばす程の光――。

「――それだけじゃ、ない――?」

「――ッ、そう、ですね……貴女とは置かれた状況は違いますが……私の身近に居る者にも、貴女のホムンクルスと似たような症状に見舞われる可能性のある者が……居ます」

「え……」

キルシュの呟きに、心情を吐露するサンドラ――キルシュはその言葉に耳を疑った。

自分のホムンクルス――トレーネと同じような症状――しかも、サンドラの言い回しから察するに、彼女のホムンクルスに関連することではないと推察出来た。

――すなわち、彼女の身近な『人間』が……トレーネと同じような症状に陥る、と。

「……今のところ、症状には出ていない様ですが、そう遠くない未来に……そうなる可能性が高いでしょう。だから、ですよ」

そう言って見せたサンドラの微笑みは、何処か悲痛な――けれど、希望に満ちたものだった。

何故か――キルシュにはその笑みが、彼女の願いを聞き届けてくれた者の笑みと、被って見えた。

「……わかりました。よろしく、お願いします」

「ええ――こちらこそ」

キルシュは信じることにした――似た様な痛みを共有する彼女を、優しい笑みを浮かべる彼女たちを――。

魔術師たちの会談は終わらない――それぞれが、希望を掴むために。

「そういう話をするなら、俺も混ぜてくれよ」

「シオンさん――私は構いませんよ。貴方の意見も、聞きたいですから――」

「是非もなーしー……一緒に、話しましょう」

そこに、蒼の近衛騎士が加わる――彼女たちの希望は、意外と直ぐに掴めるのかも知れない。

***********

束の間の平穏、束の間の温もり――。
それは容易く、崩れ去る――グローシアンの王の宣戦布告によって。

傲慢にして、絶対なる王――そして、本格的に動き出す傀儡の担い手。

開戦の狼煙として打ち砕かれんとする城――しかし、彼は立ち塞がる。

さぁ、王よ、傀儡よ、世界よ――心せよ。
これが彼流の――宣戦布告だ。

次回『介入』




[7317] 鋼鉄と杖の嘘予告―獣を宿した狩人と虚無の魔法使い―ネタバレ微注意―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:4ba3d579
Date: 2013/03/28 10:16

※今回、シオンはちょろっとしか出てきません。
あと、色々コレジャナイ感が漂っています。
ついでに今までの嘘予告より長いです。

――そういうのが好きな人は、見てもいいのよ?

(*´ω`*)←この顔文字は流行る。

***********


――地球。

――かつて人類は、科学の進歩と共にその星で繁栄してきた。

栄華を極め、このまま人類は子々孫々に到るまで栄え続けると――誰もが思っていた。

そんな夢の様な現実はしかし、儚くも打ち砕かれることになる――。

奇しくも、人類の繁栄を促した――科学に因って。

人類は繁栄したが、その結果……地球は深刻なダメージを受けていた。

それを打開するために、人類が作り上げたのが――スーパーマザーコンピューター『ノア』。
かつて神話の時代、選ばれた者達を乗せる為に作られた、方舟の名を冠したソレは――人類の運び手とは、なり得なかった。

自然環境を復活させるため、地球という星の繁栄のために『ノア』が導き出した答えは――人類抹殺。

コンピューターの暴走――その生活の多くを、科学に委ねていた人類が駆逐されていくのに、それほどの時間は掛からなかった――。

勿論、人類も抵抗を試みた……その結果、海は汚れ、大地は枯れ果て、そして……人類の過半数は死に絶えた。

僅か数ヵ月の出来事である――。

世界各地の主要な都市が破壊された、歴史の分水嶺――これを人々は『大破壊』と呼んだ。


しかしそれでも、人類は滅んではいなかった――。

僅かに生き残った人々は、廃墟に身を寄せあい、過去の文明の遺産を食い潰しながら、細々と――だが逞しく生き延びていた。

そして、『大破壊』が伝説となり、僅かながらも人類がその営みに因って人口を広げていくと――そんな人々の中から、やがて、失われた文明の遺物を使い、コンピューターの暴走により生まれた怪物――『モンスター』を倒す、命知らずな賞金稼ぎたちが登場することになる。

それが、モンスターハンター……通称『ハンター』である。

――そして今、世界の片隅で、数奇な運命に翻弄された一人の若者が、その運命に決着を着けようとしていた――。

**********

「これで――終わりだっ!!!」

俺は自身の駆る、真紅の戦車――『レッドウルフ』の全砲門を解放――目の前のクソッタレに、トドメの弾丸をくれてやった。

『グガアアアァァァァァッ!!?キ、サマ、キサマごときにいいぃぃぃぃっ!!?』

砲弾、ミサイル、レーザー……ありとあらゆる武装をぶちこんでやった――。

巨大な三つ首の竜と化した――あのクソッタレに――!

『バカな……バカナアアァァァァァッ!!?』

奴は、その無茶な変身のツケが来たのか、或いはダメージが蓄積した故か――三つあった首は一つとなり、その残った首もまた、胴体から白骨化していった――。

グラリと――。

その巨体はゆっくり後ろへ傾き――。

破裂する様な水音と共に、海中に没して行った――。

―――周囲の喧騒が、消え失せていく。

『……おいおい、マジでやっちまったよ――夢じゃあねーよな、おい?』

『……馬鹿だね、夢なもんかい……やったんだよ、アタシたちは!』

通信装置のモニターに映るのは、俺の仲間たち――。

プラチナカラーに塗られた車体が眩しい――『MBT77』という戦車に乗った男のハンター『クリント』。

『モトクロッサ』という名のバイクへ股がり、会心の笑みを浮かべる女ソルジャー『サラ』――そして。

『あっ、ちょ――コラァッ!?』

『ワンッ!!』

サラの通信モニターに映っていた顔が変わった……犬だ。
恐らく、サラのモニターの前に割って入ったんだろう――。

コイツがもう一人……いや、一頭か。
もう一頭の仲間――茶色い毛づやの中型犬――『ポチ』だ。

『ちょっと……狭いし、重いんだよアンタはぁ……その、背中の砲台が、何キロあると思って……とっくに積載量オーバーだよ……コノっ……!』

『だーはっはっはっ!!良いぞポチィ!!もっとやれーっ!』

『クリント……アンタ、後でシバく……!!』

このやり取りに、苦笑が浮かぶ。
アレだけの戦闘の後にコイツらは――いや、アレだけの戦闘の後だから――か。

と、そんな勝利の余韻に浸っている時に、モニターに新たな通信が入る。

『ちょっと、リーダー大丈夫!?』

心配そうな表情でこちらを伺うのは、銀の長髪を後ろで束ねた女メカニックの『あてな』。

『急に潜水艦が動き出したが――どうなってるんだぁ!?』

同じくこちらを心配しているのだろう――筋骨隆々な、モヒカンヘッドの男レスラー『ハンセン』が、問い質して来た。

……って、そうだったな。

「決着は着けた……んだが、どうにも船が爆発するみたいでな……」

そう、俺たち――正確には、俺とクリントとサラ、そしてポチは地上にいるワケでは無い。

俺たちが居るのは艦の上――超巨大潜水艦『ジャガン・ナート』の甲板の上なのだから――。

『爆発って……洒落になってないじゃない!!』

『うーん……ゲージツは爆発だとは言うけれど、君たちが爆死するという結末は、あまりゲージツ的ではないねー……』

こちらを咎めて来たのは、女ハンターの『サキ』、そして気障ったらしく言葉を紡ぐのはアーティスト男の『パブロ』だ。

「分かってるよ。コッチは全員無事だから、今から脱出する――。ソッチは無事か?」

『生憎と全員無事だぜ?他の連中は勿論、犬ッコロたちもな!つーワケだから、さっさと帰って来いよリーダー?奴を倒した賞金で祝勝会といこうぜ!』

「了解だ――ヌッカの酒場で待ち合わせよう。戻ったら浴びる程飲むぞ……覚悟しとけよ!!って、他の奴らにも伝えておいてくれ」

俺の問いに、ハンセンが答えてくれる――。

『クラン・コールドブラッド』――通称『冷血党』。

ここら一帯を、血と恐怖で震え上がらせた、ならず者の集団――。

俺たちは、その冷血党を潰す為――否、冷血党の首魁との決戦の為に、このジャガン・ナートに乗り込んでいた。

俺自身は、奴との因縁を清算する為に――そして。

(『約束』は果たしたぜ――爺さん)

今は亡き、約束を交わした者の為に――何より――誰よりも自由を望んだ……アイツの為に。

『もう、みんなその前にやることがあるでしょう?――リーダーも、戻ってきたら、私の所に来てね?どんな怪我でも、治してあげるから』

「そいつはありがたいな――俺やクリントはともかく、サラはバイクだから生傷が絶えないしな」

苦笑いしながらも、その瞳に慈愛を宿す女ナース……『フロレンス』。
俺たちもそうだが、流石にアッチも無傷では無いよな――。

当然だ。

このジャガン・ナートに乗り込む時、俺たちは二手に別れた。

俺、クリント、サラ、ポチはジャガン・ナートを止める為に中枢コアへ。

他の奴らは、そんな俺たちを先に進ませる為の陽動――。

敵の数が予想以上だったので、こういう作戦をとったのだが――お陰で本懐を遂げられた。

紆余曲折はあったけどな――。

「というワケだ、お前ら。このまま海の藻屑になる前に、脱出の準備を始めるぞ。ジャレ合うのは、戻ってからにしろ」

『『誰がジャレ合ってんだよ(のさ)!?』』

陽動班との通信を終えても尚、続いていた息の合ったコンビプレイに相変わらずだな……とは思うが、モニター越しに見える外の風景から、海面が近くなっていることを認識――浸水が大分進んでいるのが窺える。

だが、このペースなら、俺たちが脱出する余裕はある――。

「『ドックシステム』はどうだ?生憎、俺のドックシステムは使い物にならなくなっちまってな……」

『アイツ、リーダーを目の敵にしてたからね……アタシの方は……そもそも、ドックシステムは積んでないしね』

『ったく、仕方ねーな……俺の方のシステムは生きてっから、俺のシステムと連動させんぞ?つか、俺のシステムも壊されてたら御陀仏だったじゃねーかよ……』

『ドックシステム』とは、小型の車載転送装置のことだ。

以前までは、それぞれの街に設置された――大型の人間用転送装置が主流だったそうだが、転送事故が多発した為に今の車載型が主流となったらしい――。

俺も詳しいことは知らなかったが、あてなから聞いた話だと――。
宇宙に浮かぶ人工衛星から情報を得て、周辺の地形を記憶――目印となる街や建物の周辺へと量子跳躍させる――らしい。

軌道エレベーターなんて物があったのだから、人工衛星があっても不思議じゃないんだが――俺のiゴーグルも、人工衛星の恩恵を受けているわけだし。

この量子跳躍というのは、生物や物質を量子変換して空間を跳躍する――という物らしいが、詳しいことは知らん。

生憎、そっちの知識には詳しくないんだ――精々、何となく理解している――程度だからな。

『オッケー、クルマ三台、人間三人、犬一頭――確かに認識した。何時でも跳べるぜ?』

クリントからの報告を聞き、俺は頷く。

「分かった。じゃあ早速――」

その刹那――静寂が支配していた筈の海面に、爆音と違う程の水音が木霊した――。

次いで、クルマに走る衝撃――。

――油断があった……気が抜けていたのも認める――。

だが――何故――。

『――グギギギギ……』

何故、貴様がまだ――!?

簡単だ……奴はまだ、死んでいなかったんだ――。
あんな、骨だけの状態でありながら――!

『キサマダケハ……キサマダケハキサマダケハキサマダケハアアアァァァァッ!!!!』

「ぐっ……!?」

奴の骨だけとなった長大な首が、俺の戦車を締め付ける――ギチギチと、ミシミシと、戦車が軋みを上げる――。
此処までの激戦で、限界が近かった相棒は――ただソレだけで火花を散らし、モニターにノイズが走る――。


『リーダー!!?』

『あの野郎……まだ……!?』

サラの悲鳴に近い声と、クリントの驚愕する声が聞こえてくる――。

俺は何とか奴の拘束から逃れようと足掻くが、コレだけ密着されていたら、大砲も機銃も、S−Eも使えやしない――。

精々、海に引き摺り込もうとする奴に抗って、相棒のエンジンを吹かせるくらいだ。

『ウウゥゥゥゥ……!!』

『駄目だよポチ!あの位置じゃあ……リーダーのクルマにも当たっちまう……』

『おいどうすんだよ!?あんなの引っ付けたまま転送なんて出来ないぜ!?』

今にも背中の砲門を解放しようとするポチを、サラが宥めている中――俺はクリントの言葉を聞き、こんな状況でありながら―――その言葉の意味を、冷静に考えていた。

何故、転送出来ないのか――簡単だ。

転送事故――。

幾らドックシステムが、完成度の高いシステムだとしても、根本が量子跳躍というデリケートな技術であるのだから――結果として想定外の使い方は出来ない。

あくまでも、ドックシステムは『移動用』の転送装置だ。
応用で、洞窟や遺跡から地上へ脱出するといった用途にも使えるが――戦闘中での使用は想定されていない。

仮に、戦闘中にドックシステムを使用した場合、相手からの攻撃で誤差動を起こす可能性があり――今の様に敵が密着した状態だと、その敵を一緒に転送させてしまう危険がある――。

だが、何より危険なのは誤差動で何処に跳ばされるか分からないことだ。

――最悪、土の中に転送されて生き埋め――なんて事態も十分に考えられる。

――軽く知識を聞き齧った俺ですら、コレだけの可能性をあげられるんだ――他にも、何かしらの危険性があるのかも知れない。

――ならば、答えは一つ。

『!?おいリーダー、何やって……』

俺は、待機状態だった転送システムの連動を解除……アクセルをオートに、頭上のコクピットハッチを開け放ち――外へと顔を出し、奴へ装備していたロケットパンチを向ける――。

「いい加減に……くたばれっ!!」

両の手に装備されていた手甲――ロケットパンチが発射される。

ロケットパンチは奴の頭蓋に命中……その頭骨の一部を破砕する。

――しかし、それでも奴は力を緩めない。

それどころか――。

『ガアアァァァッ!!』

「ぐっ……!」

クルマに絡ませた首はそのままに――その首を伸ばし、こっちに襲い掛かって来やがった――。
俺は咄嗟に長物――レーザーバズーカを盾にした。

奴の鋭く揃った歯が、レーザーバズーカに食らい付く。

バチバチと火花が散り、メキメキと音を発ててひしゃげていくバズーカを見やる。

――これは、長く保ちそうにないな。

それは相棒も同じ様で、現にオートで吹かしていたエンジンが大破したのか、キャタピラの駆動が停止してしまっている――。

――このままでは、海中に引き摺り込まれる。

そう判断して、俺はレーザーバズーカを放棄、戦車から完全に飛び出し、腰に着けていた光剣――ライトセーバーを発動させる。

独特な起動音と共に、光の刃が出現――それを奴へと叩き付ける。
光刃は軌跡を伴って、奴を切り裂く――。
だが、確かなダメージになった筈のソレを受けても、奴は動じる様子を見せない――なら、何度でも叩き付けてやる!

「リーダー!!何してんのさ!?もうそんな奴は放っておいてこっちへ――」

「駄目だ……コイツは――グラトノスは此処で倒す!!」

サラが言う様に、コイツを放置してさっさと脱出するのがベストな選択なのだろう――。

こんな状態なのだから、もうコイツが長くないことくらい、想像は出来る――ジャガン・ナートの爆発がトドメになるだろうことも、予測出来る。

――だが、絶対じゃない。

聞き及んだ話だが、コイツはかつて瀕死の状態でありながら、それでも生き延びたのだという――。
その時とは状況が違うのも理解している――それでも、不安は拭えなかった。

言ってしまえば、これは俺の我が儘だ。

だから――。

「クリントォッ!!!」

俺は、『告げた』――もう、タイムリミットが近かったのを確認してしまったが故に――。

俺の我が儘に――仲間を付き合わせる気は――無かった。

『――っ、ちきしょうが……っ!!』

外部スピーカー越しに、口惜しそうに歯軋りする音が聞こえる。
――悪いな、憎まれ役を押し付けちまって――。

「!?クリント、アンタ何やってんだよ!?まだ、リーダーが――」

恐らく、サラのモニターに転送装置の作動を警告する画面でも表示されたのだろう――。

そして、何かに気付いた様にサラがこっちへ視線を向けたので、俺は視線を返し――笑みを浮かべた。

「ば――」

そして俺は、再び視線を奴に向け――。

「馬っ鹿野郎おぉぉぉぉっ!!!」

――ようとしたら、サラから罵声と共に何かを投げ付けられる――。

俺は咄嗟にソレを受け止め――って、コレは……。

俺はサラを見やる――転送寸前、最後に見た彼女の顔は涙で歪んでいた――。

――参ったね、どうも。

必ず生きて戻って来い――って意味だろうな。

無茶を――言ってくれる――!

『クキキキキキッ!実験体1313ゴオォォ!!?』

奴が、レーザーバズーカを噛み砕き、咆哮と共に再びその牙を向けてくる――。

「グラトノス――!!」

俺はすかさず、サラから受け取った大口径のリボルバー――その名も『マグナムガデス』を構えた。

マグナムガデス――クラン・コールドブラッドのナンバー3、『百銃のムガデス』が愛用した大口径リボルバー銃。

正確には、リボルバー銃型の生体パーツの一種。
その威力も、そこいらのバズーカ砲を軽く上回る程で、その上で驚異的な速射性と連射性を実現しており、如何な素人でも最低、瞬間4連射を可能としている。

だが、何より驚異的なのは――弾切れしないこと。

通常、リボルバーは五連装ないし、六連装が普通だが――この銃はシリンダーに当たる部分が特殊な機構をしており、その機構で、空気中の物質から弾を精製している――らしい。

「俺をその名で――呼ぶなあぁぁっ!!」

俺は感情のままに、引き金を引く――。

一発目――。

奴の頭蓋、右目の空洞部分が大きく吹き飛ぶ――。

二発目――。

左目の空洞部分を粉砕、眼の中央にドデカい風穴が空く。

それでも奴は止まらない――。

三発目――。

奴の額をぶち抜く――奴が揺らぎを見せる――。

そして――四発目――。

もう一度奴のドタマをぶち抜き、貫通させる――。

未だに残っていた、脳髄だか脳ミソだかの残りを、ぶちまけて――。

ピタリと……奴の動きが止まった。

俺は更にライトセーバーで、迎撃しようとして――奴はその顎で俺を噛み砕こうとして――。

互いが接触するまで、数センチ程度――。

「地獄への道連れに――と、思っていたんだがな」

俺は光刃を消して、奴だった骸に告げる――。

「一足先に逝ってろ――クソ野郎」

その言葉が契機だったのか、奴の身体は崩れ――文字通り灰塵と帰した。

今度こそ、本当に――。

「……もっとも、余韻に浸っている場合じゃないんだが――」

あの野郎のお陰で、浸水は大幅に進行し――既に甲板にまで海水が上がってきていた。

「……参ったね、どうも」

当初、俺は死ぬつもりは無かった。
最悪、この命と引き換えにグラトノスを打倒する気では居たが――。

で、その『最悪』になったので有言実行と言わんばかりに、ソレを行った――。

が、サラのあんな顔を見たら、意地でも生き延びてやろうって気になった。

とりあえず、悪役にしちまったクリントに、一発ぶん殴られる覚悟も決めた――。

ハンセンたちとも、浴びる程飲むと約束した――。

だから、我が儘を貫いた上で抗うことに決めた。

「……完全に大破、か。すまないな相棒……俺の我が儘に付き合わせちまって――」

しかし、先程の戦闘で相棒は完全に大破、これ程の損傷は、俺には直せない……。

俺は真紅の車体を、労る様に撫でる――。

そして――ついに、膝の辺りまで海水が浸る。

「クソッタレが……」

絶望的なこの状況に、諦めと悔しさが心の中で入り交じる……。

もう助からないと、理性では理解している――。

しかし、諦めたくなかった――。
仲間たちとの約束――そして……。

『うん、ありがとうドラムっち♪また、お弁当作ってあげるね?』

日向の様な、暖かさを持った優しいあの子――。

『それで、味はどう?――そう、よかったぁ♪ん?いいわよ、また作ってあげるから』

自由を得て、太陽の様に溌剌としたアイツ――。

この戦い、勝っても負けても、戻るつもりは無かった……。
俺には、あの子の暖かさをこの身に受ける資格も――アイツの謳歌する自由を奪う資格も、無いのだから――。

俺は、あの二人に惹かれているんだろう――。
だからこそ、俺はどちらの側にも居られない。

……俺は、咎人だ。

血に猯れた獣(ケダモノ)だ――。
俺なんかが側に居たら、彼女たちを不幸にしてしまう――。

「――……だからと言って、足掻くことを諦めるつもりは――っ」

――そんなつもりは、毛頭無い。
俺が此処でくたばったら、あの暖かい笑顔は涙で曇るだろう――アイツは、悪態を吐きながら泣きじゃくるかもしれない――。

――気付いていた……彼女たちが、自分に好意を抱いていてくれたことを――。

――その経過はどうあれ、俺はその好意に答えるつもりは無い……俺など、何処ぞで野たれ死ぬのが似合いだ。

だが――それは今じゃない筈だ……!

あの子と……アイツと……平穏を過ごす。

そういう選択も、あっただろうし――それは酷く甘美な響きを伴っている。

だが、俺はそれを選べない――選ぶには、色々と知り過ぎてしまった。

だが――こんな、血だらけの獣でも――。

「生き延びて、無事だって知らせること位は……許される筈だ……!」

腰まで浸かった海水――俺は相棒の上に飛び乗り……そこから勢いよく、跳躍した。

なるべく遠くへ、なるべく速く――。

海面へと着水し、後方を振り返る――。
最初の跳躍は、助走無しにしては相当の距離を稼いだ様だ――我ながら人間離れしていると思うが、今は自分の身体能力に感謝しよう――。

鋼鉄の艦が、沈んで行く――。
真紅の戦車を道連れに――。

「じゃあな……相棒」

俺は感傷もそこそこに、陸へ向けて泳ぎ出す。

――助かる筈が無い、それでも、そんな考えを拭い去る様に、がむしゃらに。

だが、そんな俺を嘲笑うかの様に……周囲に轟音が響き渡り――俺は突如として発生した激流に……呑まれた。

ジャガン・ナートが――爆発したのだろう。

相当の距離を稼いだ筈だったが、その爆発の余波が容赦無く俺を襲った――。

超弩級の巨大潜水艦が巻き起こした大爆発――それが生み出した激流だ――如何にこの身が、化物を寄せ付けないほど強靭で――いや、偽り無く『化物』だったとしても――抗いきれる物では、無かった。

……ここまで、なのか……?

激流に身体を引き裂かれそうになりながら、意識が徐々に薄れて行く――。

あぁ……この感覚は、覚えがある……。

以前、奴に――グラトノスに殺され、掛けた時に――……。

『意識』が薄れていく中で、俺は『記憶』が鮮明になっていくのを感じた……。

俺が何者であるのか……、グラトノスに抱いていた憎しみ、恐怖……操られていた時に、殺めた者たちのこと……爺さん、オズマとの約束……って、あの時の……やっぱり、オーバーリアクションだったじゃねーか……あの、ジジイ……。

失っていた記憶の蓋が、開かれた様に……でも、それでも……。

失っていた物以上に、新たに得た物の方が……俺の記憶で、より輝いていた……。

仲間たちと、馬鹿をやって……色々な人々と出会って……。
良いことだけじゃなくて、悲しいことや……辛いこともあったけど……。

……まだ、死にたくないって……思えるくらいには、このろくでもなくも、素晴らしい世界に……未練があった……。

「――……」

だから……だろうか?

激流の渦の中に、有り得ない物を見たのは……。

か、が……み……?

そう、鏡……だ。
決して豪奢では無いが……最低限の飾り付けがされた……鏡。

この激流の中にあって……微動だにせず、そこに佇んでいた……。

……ハンターとしての嗅覚か、組み込まれた遺伝子の本能か……俺はその鏡に、手を伸ばした……。

……それは、死の間際に見た……幻覚、かも知れない――。

だが、それでも……俺は……。

(……シセ……コー……ラ……)

……最後に過ったのは、彼女たちとの記憶……その記憶が俺を後押し、して……鏡に触れ、た――……。

――俺の意識は、そこで途絶えた――……。

***********

【パチンッ】

――話をしよう。

――君たちは、異世界という物があることを知っているか?

何をバカなことを……って?

いやいや、これがどうして――異世界とは本当に、実在する物なんだよ。

科学の進歩故に、人々が機械に蹂躙された世界もあるだろう――。

また逆に、科学の発展によって神秘が失われ、故に創られた幻想の楽園もあるだろう――。

もしかしたら、齢10にも満たない魔法使い見習いの子供が、現代中学校の教師をしている世界も、あるのかも知れない――。

ん?どれも、聞いたことがあるような話ばかりだって――?

それはそうさ――君たちの中には、こういった世界を創作物として、捉えている者も居るのだろうから――。

――まぁ、与太話と捉えるならそれでも良いさ。
だが、どんな与太話とて暇潰しにはなるだろう?
ご拝聴戴けると嬉しいね――。

さて、これから語るのはとある世界――君たちの住む、地球と瓜二つの星――。

違うのは、魔法が存在し、月が2つあるということ位かな?

おっと、もうなんの世界か分かった――なんて言わないでくれよ?
私の楽しみが、減ってしまうからね……。

……まぁ、君たちが想像した通りの世界なワケだが。

その世界のハルケギニア大陸――トリステイン魔法学院が、物語のスタート地点だ。

――そう、春の使い魔召喚の儀式だ。

物語は、生まれもった稀有な力――いや、この場合は血統かな?
ソレを背負った少女が、使い魔召喚の儀式を行う所から始まる。

彼女は、他の者たちが使える様な魔法が使えず、周りから蔑みの眼で見られていた――。

そんな状況を拭い去ろうと、彼女は声高らかに告げるんだ。

誰よりも、強く、神聖で、美しく、気高い使い魔を求めると――。

――その呼び掛けに答えたのが、平凡だけど、胸に熱い物を秘めた現代日本の少年だった――。

これが本来の流れ――なんだが、な。

そう、非常に確率は低いけど――彼女には違った運命の流れを掴むことも――可能性としてはあり得るんだよ。

もしかしたら、錬鉄の英霊と呼ばれた者が来るかも知れない……ん、いや、そうだな――彼は色々な所に呼ばれているみたいだけど、過労死はしないんじゃないかな?

彼女にあらゆる可能性があるように、彼にも様々な可能性があるのだから――。

では、話を戻すが――他にも、さっき言った子供先生が来るかも知れないし――。

もしかしたら、未来の世界のネコ型ロボットが来るかも知れない――。

案外、君たちの中の誰かが呼ばれる――なんてことも……。

――有り得ない、とは言い切れないさ。

それが彼女に呼ばれるのか、神による庇護を受けた転生による物か――分からないがね。

転生など、あるわけないって――?
そんなことは無いさ、神は絶対だからね。

君たちの世界では、まぁ、全体の内の100人が呼ばれれば良いほうじゃないかな――。
平行世界ごとの、何十億分の百だから――総合的に見たら凄い数だが――。

その数を凌駕する程に、世界は存在しているからな、問題ない。

大概の者は、輪廻の輪に加わるか――元より、力のある者は神の末席に名を連ねる者もいる。

私の知り合いの中にも、似たような境遇の者が居てね――良い奴なんだが、人の話を聞かなくてな――何度、私がサポートしたことか……。

そうだ、仮に君たちの中に神の庇護を受けた者が居て、その神をも凌駕する力を得たとしても――良からぬことは考えないことだ。

それが世界を滅ぼしかねない異物なら、『世界の代行者』が動きかねないからな――。


彼らと遭遇しても恥じぬ様に、自分の正しいと思った道を、自由に選択して行け。
後は己の魂を濁さぬよう、研鑽を積むことだな。

ん?『世界の代行者』とは何なんだ……って?
おいおい、それは昨日説明しただろう?

――――あぁ、すまない。
君たちにとっては、『明日』の出来事だったな――。

――話が逸れてしまったな。

要するに今回、彼女が掴んだ可能性は通常の流れとは異なる可能性――。

神聖――というには、血に猯れた道を歩んで来たが――。

強く、気高い――可能性を――。

……美しいかどうかは、感性の問題ではないだろうか?

――ふむ、実際に確かめて貰った方が良いかな。

ん?――私が誰かって?

そうだな……私は只の【パチンッ】――語り部さ。

**********

此処はハルケギニア大陸の『トリステイン魔法学院』――貴族の子息たちが一人前の貴族……一人前のメイジとなるため、日夜研鑽を積む学舎である。

晴天の最中、行われているのは『使い魔召喚の儀』。
学院の二年生が、進級の為に使い魔足る生物を召喚する為の儀式である。

学院の生徒たちは、召喚の呪文――『サモン・サーヴァント』によって、様々な生物を召喚していた。

カエルやネズミの様な小さな動物から、竜や火蜥蜴などの幻想の代表とも言える大型の種族まで――。

彼等は使い魔との契約の為の呪文、『コントラクト・サーヴァント』を行い、使い魔との契約を果たした。

彼らの学院生活は順風満帆と言えるだろう――。

ただ一人の、例外を除いて――。

桃色の――ピンクブロンドとでも言うのだろうか?
そんな色合いの、ウェーブの掛かったロングヘアー、幼さの残る顔立ちと体つきながら、その全体像は非常に整っており、俗に美少女と言われ讃えられる美を持っている。

――その瞳は、彼女の気の強さを表す様につり上がっているが、その実その瞳には様々な感情の光を宿していた。

悔恨、憤怒、諦念、悲哀――。

そう言った負の感情が渦巻いていた。

これには理由がある――。

――彼女が、使い魔を呼べないからだ。

正確には、召喚呪文を唱えたが、効果は発揮されず――変わりに爆発が起きた――だが。

(どうして……私には使い魔を呼ぶ資格すら無いって言うの……!?)

少女は自問する――。
何故、どうして――と。

自分は、貴族としての血筋に優れ、しかしそれに傲らず研鑽を積んできた――学院の誰よりも、努力をしてきたという自負がある。

それらに比例する誇りを持つ少女は、しかし――周囲に落ちこぼれの烙印を押される。

不名誉な揮名と共に。

「おいおい、いい加減にしてくれよ『ゼロ』のルイズっ」

「サモン・サーヴァントもまともに出来ないなんて、本当に『ゼロ』だなぁ――」

苛立ちをぶつける者、蔑み見下す者、或いは嘲笑を浮かべる者たち――中には、我関せずと言わんばかりに本を読み耽る者もいる――。

「――っ!」

少女――名をルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールという。
そして、彼女の揮名は『ゼロ』――ゼロのルイズ。

ルイズは、歯を食い縛る――。

今までに、何度となく言われてきた――しかし、決して慣れることのない、忌むべき揮名――。

情けなくて、悔しくて、涙が出そうになる――。
けど、涙は見せない。
彼女の貴族としての誇りが――内に眠る気高さが、彼女を奮い立たせる。

最早、それは――意地と言っても良い。

「ミス・ヴァリエール……残念ですが……」

監督役の教師は、召喚の失敗を告げようとする。
彼は、ルイズが並々ならぬ努力をしてきたことも知っているし、その成果が知識――言うなれば筆記の方――で、出ていることも知っている。

だが、如何せん魔法の実技に関しては、からっきしであることも――当然、知っている。

未だに野次を跳ばす生徒たちは、確かに褒められたものでは無いが。
しかし、彼女だけを特別扱い出来ないのも事実なのだ。
――幾ら彼女が国の有力貴族――その息女だとしても、だ。

「もう一度――もう一度だけお願いします!!」

それでも、彼女は強い眼差しを向けて来た――。
確かに特別扱いは出来ないが――それでも、貴族の中では比較的人格者――悪く言えばお人好し――である彼は、ルイズの嘆願を断れなかったのだ。

「――分かりました。但し、もう一度だけです。これ以上の例外は、認められない――宜しいですかな?」

「――っ、はい!」

願わくば、この直向きな生徒の成功を信じて――。
彼とて、生徒の留年など望んではいないのだから―――。

**********

一度だけ――。

もう一度だけチャンスを貰った私は、意を決して召喚の呪文に、ありったけの願いを込めた。

正規の詠唱と異なるそれは、酷く不恰好だったかも知れない――。

ただひたすらに、自分の理想とする使い魔を求める――。

強くて、美しくて、神聖で、気高くて――。

何処に居るとも知れない、理想を訴える――。

――でも、心の片隅では懇願に近い感情が犇めいていた。

この際、なんだって良い――。
ドラゴンなんて贅沢は言わない――犬でも、猫でも、鼠でも!
カエル――は……絶対に嫌だけど……。

と、とにかく、一部の例外を除いて高望みはしないから……なんて、弱気なことを考えていたからだろうか――。

周囲に響く轟音――爆発。

また、なの……?

どんなに願っても、私には届かないって言うの……!?

周りからの、蔑みの視線と罵詈雑言が、私の絶望に拍車を掛けた――。

留年――の、文字が頭を過る。

そんな私が、ソレに気付けたのは偶然だったんだと思う――。

「……塩の、匂い……?」

そう、それは塩の匂いだ……けれど、それは爽やかな物では無く、臭いという様な異臭――。

「うっ……なんだ、この臭い……」

周りも、この臭いに気づいたみたい……その臭いが、私が生み出した爆煙の先から発せられていることも……。

しばらくして、煙が晴れて――そこには……。
爆発で出来た微かな窪み――窪みに溜まる、澱んだ水――その中央に横たわる――人間。

……こんなのって無い。

確かに、私は例外を除いて高望みはしないって思ったけど――。

その人間は、燃える様な髪の色をしていて、顔立ちもそれなりに整っている様に見える――。

顔に変な紋様と、何かの突起物みたいなものが、見える――身なりが薄汚れているし、多分平民だと思う。

それだけなら、ここまで愕然とはしなかったと思う――。
人間の――それも平民を召喚なんてした日には、また周りから馬鹿にされるだろうし、何より私自身が納得いかなかったとも思う――。

最悪、召喚のやり直しを要求したかも知れない――。

けれど、ソイツは――。

「おい、あれは……人間じゃないか……平民か?」

「ピクリとも動かないけど――もしかして、死んでる……?」

そう、水溜まりに倒れているソイツは……ピクリとも動かない。
しかも、自分は一番ソイツの近くにいるから分かる――。

ソイツは、血の気が引いた様に顔色が悪い……。

「うわぁ!?ゼロのルイズが死体を召喚したぞーっ!?」

「いや、きっと『ルイズの爆発』で死んでしまったんだよ!」

私はその言葉に、ビクリと身体を震わせる。

……そうだ、その可能性もあるんだ――。
私が、コイツを召喚して……殺し――……?

「皆さん、静粛に!!」

周囲に召喚の儀の担当教員……ミスタ・コルベールの声が響き渡る。
普段の彼からは想像もつかない声色に、周囲に静けさが満ちていった。

彼はこちらに駆け寄って来て……直ぐに倒れているコイツを抱き起こした――。

その表情は真剣で、鬼気迫るモノで――。

ふと、その顔が安堵に緩んだ様に見えた。

「大丈夫――まだ、息はある……」

「――え……?」

私はその言葉に耳を疑った……息はある、つまり生きてるってこと、よね?

「とは言え、予断は許されないでしょうが……直ぐに治療を施さなければ――!!」

***********

――その後、試験は中断する運びになった――。

私としては、冗談じゃないって気持ちもあったが、平民とは言え、自分の魔法の失敗が原因で、誰かを死なせ掛けたのかも知れない……なんて可能性がある以上、ソレを見捨てることは出来そうになかった。

……出来れば、召喚のやり直しを希望したかったけど……。
さすがに、こんな死にかけた人間を、放っておくことは出来ないし――。

今、私が召喚した……と、思われるあの男は私の部屋の――それもベッドの上に横たわっている。

本当に、非常に不本意ではあるけれど――。
私のせいで、こうなったのかも知れないんだし――貴族として、果たすべき責任は果たさなければならないもの――。

一応、契約はしていないものの、私が召喚したということで、私が面倒を見ることになった。

怪我を治し、身体に付いた臭いと汚れを浄化したのは、腕の良い水のメイジだ。

――治療費他、諸々の出費は非常に痛かった。
幾ら、貴族としての責任を取らなければならないとは言え、契約もしていない平民の為に、ここまでしなければならないなんて――。

「――コイツ、本当に平民……人間なのかしら?」

自分の苛立ちを誤魔化すように、ソイツの顔を見る――。

――顔立ちは整っているけど、美形という程じゃない。
多分、年齢は私より少し上くらいだと思う――。

でも、気になるのはソコじゃない……。

遠目に見た時には、ボンヤリと輪郭が伺えただけだったけど、今は目の前にいるからハッキリ分かる。

顔に無数に羅列する赤い線――。
額に小さな、何かの突起物が埋もれている。

触ってみる――固い。

2つあるそれは位置的に角の様な、けど角とは違って丸みを帯びていて――なんというか、スベスベだ。

「っ……」

と、そんなことをしていたからか、ソイツは顔をしかめた――。
そして、その瞳をゆっくり開いて行った――。

***********

――夢を見ていた。

どんな夢かと聞かれると、返答に困るが――多分、俺がまだ『純粋な人間』だった時の頃の夢――というか、記憶だ。

あの世界では、何のへんてつもない旅のキャラバン――『トレーダー』だったんだと思う。

温かい家族だった、トレーダー自体、仲間=家族みたいな所があるし。

けれどそれは、脆くも崩れ去った。
冷血党の連中によって――俺の家族たちは奪われた。

運良く生き延びることが出来たのは、俺だけだった――。

……俺は、奴等に対しての憎悪に胸を焦がし――復讐を誓った。
そして、力ある者――『モンスターハンター』になることを決めたんだ。

あの世界で、ハンターになる奴には様々な動機があるが――。

俺のように復讐の為に――なんて話は、あの時代では珍しくもない。

俺には、才能があったのだろう――運良くクルマ――バイクも手に入った。
奴等を――冷血党の連中を次々に狩っていった。

そうすれば、多少なりとも名前が売れるのは必然で――。

まだ、駆け出しに毛が生えた程度の俺が、奴等に目を付けられるのも必然だった――。

冷血党の雑魚を蹴散らして、得意気になっていた俺にも油断があった。

――だから、まんまと罠に嵌まり――奴等に捕まったのも、必然だったんだ――。

そこから先は、考えたくもない――。

奴に――グラトノスに実験台にされて、薬物投与は勿論、身体の中から頭の中に至るまで、ありとあらゆる所を弄くり回された――。

そして、俺は冷徹なる獣――ブレードトゥースになった。

俺はグラトノスに操られ、かつて俺がされたことを――罪もない人の命を奪うという、下種な行いを――強いられた。

その悪行の度合いは、クランのナンバー3という立場でありながら、ナンバーズで一番の賞金額を付けられていたことから、推して知るべし……だ。

しかも、ご丁寧なことに操られてはいたが、完全に意識が無かったわけではなく――。

まるで、夢の中に居る様な――見えているのに、何も出来ない……自分の身体を制御出来ない有り様……。

俺に出来たのは、心の奥で叫びを上げることだけ――。

怯えて、身を寄せあっていた親子を手に掛けた――。

何かに縋る様に、最後まで希望を捨てずに抗ったハンターを牙で砕いた――。

トレーダーキャンプを幾つか全滅させたこともある――。

何度、心が折れそうになったか分からない――。

それでも、俺はしがみついた――。

俺がこんな目に遭っているのは、誰のせいだ……?
俺を化け物にして、傷付けたくなんてなかった人たちの、命を奪うことを強いられているのは……誰のせいだ?

――奴だ……グラトノスだ――っ!!

奴のせいで、俺は化け物になった――。
奴のせいで、俺は冷徹な獣に仕立て上げられた!!!

――憎い。

奴が……憎いっ!!!

奴に対する憎悪だけが、磨耗する俺の心を繋ぎ止め、辛うじて俺を俺で――ヒトで居させてくれた――。

誰かを傷付ける度に、俺はグラトノスへの憎しみを募らせて行く――。

責任転化だっていうのは分かってる――それでも俺は、憎み続けた。

いつか、いつか必ず――この牙を、爪を貴様の喉元に突き立ててやる――と。

奇しくも、そのチャンスは巡って来た――。

犬使いのハンター……魔犬のオズマとの死闘によって――!!

――そし――て――………。

***********

「っ………」

意識がゆっくりと浮上していく……どうやら、目が覚める様だ……。

目が……覚める――?

俺は、瞳をゆっくりと開いて行く――。

そこは、深い深い海の底――なんてことは無く、何と言うか……天井があった。

外から差し込む光が、窓の存在と、太陽の存在を教えてくれる……。
あの状況で……生き残った、のか……?

「ここ、は……」

「――気がついたみたいね」

何処だ?と、口にしようとして――それは遮られた。

声のするほうへ顔を向ける。

――女の子だ。

見た目、俺より年下で、長いピンクブロンドが印象的で――何故か。

何処かアイツと――コーラと雰囲気が被る。

全体像としては別人で、似ているのは気の強そうな眼だけなのだが――。

あっ、見た目の良さって意味では共通しているか……。

「キミは……誰だ?」

「……アンタねぇ、それはこっちが聞きたいわよ」

俺が尋ねたら、彼女は重い溜め息と共に言葉を紡いだ。
呆れてるような、困っているような――そんな感じだ。

「――まぁ、良いわ。最初から説明してあげる」

そう言って、彼女は徐にこの状況を説明してくれた――。

それは、俺の常識を遥かに越えた内容だった。

メイジ、貴族、魔法学院、使い魔召喚の儀式――。

――俄には、信じられない様な話だ。
魔法使いなんて、俺たちの時代では昔話どころか、お伽噺の類いでしかない。
まぁ、もしかしたら俺の居た大陸以外で、そういう技術が発達していたのかも知れないが――。

「魔法、使いか――」

「メイジも知らないなんて、何処の平民よ――トリステインは勿論、ゲルマニアやアルビオンだって、メイジを知らない奴なんて、いやしないのに」

平民――彼女曰く、魔法使い――『メイジ』は魔法が使えるため、人々の生活に無くてはならない存在であり、魔法が使える者は畏怖と敬意を持って――『貴族』と呼ばれているそうだ。

正確には――貴族の血筋は、『始祖ブリミル』という、魔法の産みの親であり、神にも等しい存在として崇められている者の血を受け継いでいて、その血脈が濃い程に、より貴い者で――要するに偉い立場や、役職に収まる場合が多いらしい。

それ以外の魔法が使えない者は、一様に『平民』と呼ばれていて、貴族がやらない様な雑務や仕事をこなしているらしい。

要するに、『貴族』とは特権階級であり、『平民』は労働階級である――と。

一概にそうは言えず、貴族には貴族の――平民には平民の役割があるとは思うが――。

おおよそ、『平民』などと言う蔑称を使っている辺り、多かれ少なかれ貴族が貴族以外を見下している部分があるのは……否定出来ないだろう。

……なんだか、シエルタのギンスキーみたいな連中なんだな、貴族ってのは。

「で、キミは俺を、その……召喚したと――」

「……不本意ながら、ね。やり直しさせて貰おうと思ったけど、さすがにアンタが平民でも、あんな状態で見捨てたら寝覚めが悪いし……」

何処かバツが悪そうに説明する彼女を見て、俺は思案する。

曰く、俺は彼女の召喚魔法で呼び出された――との、ことだが……これは恐らく事実なのだろう。

あの時、身を引き裂かれそうな程の濁流の中に、ポツンと佇んでいた鏡……夢や幻ではなく、あれが『召喚魔法』とやらの――ゲートだったのだろう。

要するに、俺は死にかけていた所を、彼女に救われた形になるわけだ――。

しかも、此処に来て意識を失っていた俺を、治療までしてくれたらしい――。

「すまない、キミのお蔭で助かった……ありがとう」

「……べ、別にお礼を言われる程のことじゃないわよ!これも貴族の義務だし――それに、アンタがそんなになったの……私のせいかも……知れないし……」

……?何で彼女のせいになるんだ?
むしろ、彼女のお蔭で助かったというのに……。

「キミ……「ルイズ」……?」

「私の名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。覚えておきなさい」

それはまた……長ったらしい名前だな……。
今まで俺が知り合った奴らの中にも、此処まで長い名前の奴なんて居なかったぞ。

「で、アンタの名前は?」

「俺の名前は――」

彼女に聞かれ、俺は再び思案する。
今回は、記憶が無い――なんてことはない様だし、以前の様に適当な名前を名乗る必要も無い、な。

「――アッシュ。そう、呼んでくれ」

だから、俺は今は亡き親から貰った――俺の名前を名乗った。

この名前は、灰って意味があるらしい……なんで、両親がこんな名前を付けたのかは分からないが……。

「アッシュ、ね――で、アッシュ。アンタに聞きたいことがあるの」

「……?」

「私はアンタを召喚したわけだけど、別に契約したわけじゃないわ。正直、人間を――しかも平民を召喚したなんて話、笑い話にしかならないのよ」

彼女――ルイズ曰く、契約した使い魔の力量は、そのまま契約者であるメイジの力量と=らしい。

……つまり、ルイズ的には――俺の大陸に居た生き物で言えば……凶鳥デスデモーナ辺りを呼べたら良かったのだろうか?
アレを呼んだら呼んだで、洒落にならないことになりそうだが。

「けれど、アンタを召喚した時が、最後のチャンスだったから――多分、もうやり直しは出来ないかも知れないし――」

「………」

「だから、アンタには私の使い魔になって貰いたいの。――本当は嫌だけど、背に腹は変えられないもの……」

「――人間の使い魔なんて、笑い話にしかならないんじゃなかったのか?」

「それでも、使い魔と契約出来なかった――なんて状況より、何十倍もマシよ」

――ルイズが言うには、使い魔の召喚と契約が出来なかった者は、学院の進級が不可になる――つまり、留年となるらしい。

「そもそも、使い魔って言うのは何をすれば良いんだ?」

「そうね、使い魔って言うのは……」

……使い魔。
主の目となり耳となり、手となり足となる。
そして、主を守る盾となり、脅威を払う剣となる――か。

いまいち抽象的な解釈だが、要するに召し使い兼、用心棒みたいなものか。

「――分かった」

「そうよね、アンタだって乗り気じゃないわよね……って、えっ?」

「分かった、って言ったんだ。こっちは命を助けて貰ったんだ――それくらいで借りが返せるなら、お安い御用だ」

そう言ったら、ルイズはポカンとした表情を浮かべた。

――なんでそんな顔をするかは知らないが。

「い、良いの?さっきも説明したけど、使い魔は生涯、主を守らなきゃいけないのよ?」

「まぁ、最低限『人』として扱ってくれれば十分。生涯――ってのが、どの程度の割合かは分からないが、ルイズが納得いくまでは守ってやるさ」

俺の居た所は、人を人とも思わないロクデナシ共が徘徊していた場所だからな――。
実験動物扱いはゴメンだし、『中身』が『中身』だから――化け物扱いされるのには、遺憾ながら慣れているけれど、気分の良いものじゃないので、人としての扱いを希望した。

それに一度、無事な姿をアイツらに見せたいとは思うが――元より、直ぐに旅立つつもりだった俺としては、新天地に居を構えるのは吝かじゃない。
こちらで一段落したら、休みを貰って会いに行けば良いんだし。
それくらいの自由は許してくれるだろう。

「け、けど、危ないこともあるかもしれないし、そもそもアンタ、戦えるの?」

「自慢じゃないが、腕っぷしには自信がある」

少なくとも、今の俺なら『変身』せずに、ドミンゲス程度なら――奴のクルマを含めても、素手で軽く捻れるだろう。

素手の戦い――という括りであるなら、サラたちソルジャーにも負けないと思う。

――まぁ、ハンセン辺りは変身しても勝てるか怪しい所だが。

「魔法の儀式に必要な鉱石や、魔法薬の材料になる薬草の採取にも行かせるかも――」

「それがどんな物か説明してくれれば、大抵の物は持ってこれると思う」

仮にも色々な人たちの『依頼』をこなしてきたんだ……。
よっぽど変な物じゃなければ、大丈夫だろう。

鉱石とかになれば、量によってはクルマが必要になるかも知れないが――まぁ、なんとかなるだろう。

「けど、だって――」

――どうにも、ルイズの歯切れが悪い。
この子の第一印象からして、思ったことはズカズカ言うだろうと思ったのだが――。

まるで、俺に使い魔をされたら困るとでも言う様な――……もしかして。

「――もしかして、俺が使い魔の件を断ったのを口実に、もう一回召喚の儀式をさせて貰おう、とか――」

おっ、ビクッとした――図星か?

「そそそ、そんなわけないじゃない!……それは、少しは考えなかったわけじゃないけど……で、でもよくよく考えたら、私がアンタの治療費を出した時点で、学院側も使い魔契約の意思ありって思ったかもしれないし……」

……どうも、意図していた内容と異なる様だ。

「そうなったらどう頑張っても手遅れだし、アンタもやる気になってるんだし……だったら、しょうがないじゃない!」

――何がどうしょうがないのか、今一つ理解できないが――。

恐らく、ルイズは俺があっさり使い魔になる――なんて、言うとは思わなかった――これは合っている筈だ。

けど、それは召喚の儀式をやり直したいワケじゃなくて、純粋な驚きと戸惑いから来るモノで……。

大なり小なり、俺が反対の意思を示すと思ったが故の、肩透かしでもあったのだろうと思う。


まぁ、要するに――ルイズは色々混乱しているんだろう。

「まぁ、落ち着け。ほら、深呼吸――吸ってー、吐いてー」

「すぅー……はぁー……すぅー……はぁー……」

――こちらの指示にすんなり従う辺り、相当混乱しているんだろうな。
何と言うか、根は素直なのかも知れない。

「落ち着いたか?」

「……うん」

「別に、俺はルイズの使い魔になることに反対はしない――むしろ、俺には命を救って貰った借りがあるから、それを返したいんだ」

「…………」

「頼む、俺に借りを返させてくれないか?」

これは偽りの無い、俺の正直な気持ちだ。
借りや、受けた恩は必ず返すのが俺の流儀だし――何故か、会う奴会う奴に変わり者扱いされたが――あんな世の中じゃ、仕方無いのかも知れないけどな。

「し、しょうがないわね……!アンタがそこまで言うなら、つ、使い魔にしてあげるわよっ」

――使い魔になってくれと頼んで来たのは、ルイズだと思ったが……そこは言わぬが華って奴だな。

俺の遺伝子に刻まれた野生の勘が、事実を言ったら面倒なことになると告げていやがる。

「ああ、宜しく頼む。ルイズ――いや、ご主人様とでも呼んでやろうか?お嬢様でも良いぜ?」

「――好きに呼びなさいよ。なんか、アンタにご主人様なんて呼ばれるのは、しっくり来ない気はするけど」

「じゃあ、ルイズで――敬語も使えないわけじゃないが、なんかむず痒いからな」

どこぞの屋敷へ侵入する際、一時的に敬語を使うことはあったけど、恒久的に使うとか、正直かなりキツいものがあるし――。

「で、ルイズ。契約って言うのはどうやるんだ?済ませられる内に済ませたいんだが……」

「わ、分かったわよ……少し痛むかも知れないけど、我慢しなさいよ?」

何故か少し赤くなりながらそう告げると、彼女は小さな棒の様な物を掲げ、何かを粛々と呟いた……そして。

「んっ……」

「っ!!??」

――唐突に唇を奪われた。
……そりゃあ、その道のプロのお姉さんにお相手してもらったことはあるけど……。
ただ唇が触れただけなのに……なんだこの胸の高鳴りは―――っ!!

などと、内心慌てていると――。

「……っ!?」

左手が、燃える様に熱……い……!?

「ぐっ、ぬっ……」

激しい熱と痛みを感じるが……俺はこれ以上の責め苦を味わったことがある。
耐えるのは容易だった。

そして、左手の熱と痛みが完全に引いた後、俺は痛みを発した部分――左手の甲を見やる。

そこには、何やら不可思議な紋様が浮かんでいた――。

「……これがルイズの言っていた使い魔の証って奴か」

「ええ、そうよ――よかった……契約はちゃんと出来て……」

「ん、どういうことだ?」

「な、なんでもないわっ!それより、これからアンタと契約したことを報告しなきゃいけないんだから、アンタも着いてきなさいよ!」

「――了解」

――やはり何処か既視感を感じる勝ち気な御嬢様に、俺は苦笑を浮かべながらも従うのだった。

……その後、此処が俺の居た場所とは根本的に『世界』が違うのだと気付くまで、もう少し時間を要し――更にその辺りの事情をルイズに説明するのに、更なる時間を要したことは――甚だ余談である。

***********

そんな彼等を、遥か遠方より伺う者が居た。

「……彼がそうか。まさか『サイト』が召喚されないとは、な――まぁ、ある意味では『よくある話』なんだが……」

『如何なさいますかMASTER?』

「何、今しばらくは様子を見るさ――パッと伺ってみた感じ、悪い奴ではなさそうだしな――それに比例してか、相当な力を持っている様だが……」

観察者は、フム――と顎先に手をやり思案する。

『……どうしました?』

「いや、彼が随分『歪な気の流れ』だったから気になってな……いや、『歪ながら清み渡った気の流れ』――か」

苦笑を浮かべながら、観察者は踵をかえす。

「今日の所は戻るとしよう――それらしき者の居場所も分かったし……あの子も待っているだろうしな?」

『了解しましたMASTER』

日の光に照らされ輝く銀髪を棚引かせた【1人】の青年は、小さな光の玉に包まれてその場所……空間より姿を消した。

***********

よし分かった、説明しよう(後書き)

はい、作者の神仁です。

まずは一言――すいませんっしたぁ!!

m(__;)m

今月の半ばには最新話を挙げると言っておきながら、月末になっても挙げられない有り様……。

くそぅ、全部……全部仕事が悪いんやぁ……( ;∀;)

いや、仕事があるのは喜ばしいことですけどね……。

……そこで急遽、生存報告の際に言っていたゼロ魔SSを嘘予告風にでっち上げて、投稿と相成りました。

ルイズさんが柔らか過ぎて、コレジャナイ感が半端無いと思いますが……自分、ルイズさんの行き過ぎた『ツン』には、才人氏の対応にも問題があった故だと思うのです。

まぁ、いきなり異世界に呼び出されて使い魔なんかにされた日には、普通の人は「ブジャケルナァ!!」「オレァクサマヲムッコロス!!」と、なっても可笑しくないのでしょうが。

因みにこのMM3主人公は、名前からステまで自分のゲームデータを元に構成しています。

レベルは薬を2つ使って限界突発していますが何か?

と、蛇足はこの辺にして――次回は本編を挙げられる様に頑張りますので、生暖かい眼で見守って戴ければ幸いです。

それではm(__)m



[7317] 第131話―介入―
Name: 神仁◆ea4a46c3 ID:c1dfa3f6
Date: 2014/11/07 15:24

宴はまだまだ続く――。

case5 元傭兵たちの集い

「隊長!お久しぶりです!」

「久しぶりだなウェーバー……お前も、しばらく見ない間に老けたな」

「隊長には言われたくない台詞ですね……それは」

大の男が三人、和気藹々と語り合っている。

白いプレートメイルに身を包んだ騎士――名をウェーバーと言い、『傭兵王国』の異名で知られるランザック王国の将軍。

その中でも、秀でた力を持つ三傑を『ランザック三将』或いは『三将軍』と言い、ウェーバーはその内の一人で『ランザックの英雄』と称され、実力的にはインペリアル・ナイトと互角に渡り合える、ランザック一との呼び声も高い実力者だ。

彼と会話を交わしているのが、年齢的にはウェーバーより若干上程度でありながら、禿げ上がった白髪からより年老いた印象を与える男性――。
しかし、その肉体は筋骨隆々――実にアンバランスな雰囲気を醸し出している――老いて益々盛んとはこのことか。

彼の名はベルガー・ラングレー。

ローランディアの騎士を勤める、ゼノス・ラングレーの父親であり、ウェーバーがかつて所属していた傭兵団の団長だった男。

かつては傭兵団の副団長をしていたウェーバーと、他二人の副団長を相手に軽くあしらう程の実力者だ。

今尚、その実力は高く――人知を超えた異形――ゲヴェルの腕を一刀の下に断ち切った程。

そのゲヴェルとも因縁深く、自身の傭兵団をゲヴェルによって壊滅させられている――。

もっとも、因縁はそれだけでは無いのだが――。

「――あれから随分と経ったんだ……年もとるさ」

そう言って、会話の輪の中に入っていったのは黒のレザースーツを身に付けた、左右のレンズが繋がった特徴的な眼鏡を掛けた男――その名はウォレス。
かつてベルガーの傭兵団の副団長の一人だった男。

傭兵団壊滅後は、行方不明となったベルガーを探す為、旅に出た――その時に付いた通り名が『放浪の剣士』。

その実力は、当時のインペリアル・ナイトと互角の勝負をする程。

現在はローランディアの騎士、カーマイン・フォルスマイヤーご一行のサポート役として、彼らと行動を共にしている。

――ちなみに、二人はベルガーのことを『団長』ではなく『隊長』と呼ぶが――これはまだ二人が駆け出しの頃、配属された隊を率いていたのが、当時のベルガーであったことに由来する。

「あれから20年近く、か……なるほど、年を取るはずだ――」

ウォレスの言葉に、しんみりとした表情でウェーバーは頷いた。
当時は、まだまだ若い盛りだったウォレスとウェーバー。
無茶もやったし、馬鹿もやった。

カーマインやシオンと同年代か少し上くらいの頃だが、それでもその頃から腕利きの傭兵団で副団長をしていたのだから、この二人の潜在能力の高さを伺わせる。

「ウォレスから聞いたぞ、生き残った仲間の面倒を見てくれたそうだな――改めて礼を言わせてくれ」

「いえ、私は私に出来ることをしただけです。幸い、皆の努力の甲斐あって正規軍として認められ、中には軍の重臣に名を連ねる者も出てきましたが――それも全て、隊長の教えがあってこそです」

礼を述べるベルガーに、ウェーバーはベルガーあってこそ、今の自分たちがあるのだと告げる――謙遜ではなく、本心なのだろう。

その表情が如実に語っている。

「その最たる例が、お前ってことだな」

「茶化すな、ウォレス」

「別に茶化してはいないさ。――お前の頑張りのお陰で、アイツらは食うに困らず……真っ当な職に就くことが出来たんだ。その結果が今の地位なら、もっと誇ってもいいと思うぜ、俺は」

ウォレスは言う――ウェーバーのお陰で部下たちは真っ当な職に就けたし、ウェーバーに与えられた地位はある意味、当然のものだと。

「ウォレスの言うとおり、お前はもっと胸を張っても良いんだぞ?」

これにはベルガーも賛同を示す。

傭兵団の仲間たちには、荒くれ者も多く居た――仮にウェーバーが彼らを導いてやらなければ、野盗に身を堕としていた者も、少なくなかっただろう。

「……ありがとうございます。しかし、それを言うならウォレス――お前こそ誇るべきだろう。こうして隊長を探しだしたんだからな」

「それこそまさか、だ。隊長を見付けたのは偶然だし、俺だけでは隊長を探しだせなかっただろう――現に、20年近くあちこちをさ迷ったが、その大半が徒労に終わった……挙げ句の果てには、こんな身体になっちまうしな」

ウェーバーの言葉に、ウォレスは義手と義眼を示すことで答えとした。

「――ウォレス、だがお前が最初に私に気付いてくれたんだ。だから、私は感謝している――すまなかったな、ウォレス」

「隊長……。ですが、やはり自分は、自分一人の力では隊長を見つけられなかったと思います。……アイツらが居たから、見つけられたんです」

ウォレスの視線の先には、話し込むカーマインとルイセ、それにティピの姿が。

「彼らか――」

「はい。彼らのおかげで、自分はここまで来れました。特にカーマイン――アイツからは、若い頃の隊長を彷彿とさせるモノがあります」

「うむ……」

ウォレスの言葉に、意味ありげに頷くベルガー。

この二人は勿論知っている――ベルガーとカーマインの【関係性】を。

だが、そんな【関係性】は抜きにウォレスはカーマインを評価し、信頼している。
それをベルガーも理解したのだろう――。

「ほう、あの青年はそれほどの者なのか――確かに只者ではない雰囲気を持ってはいたが」

「まだまだ、荒削りな部分はあるがな――だが、アイツには惹き付けられる何かがある――もう少し、俺はそれを見届けていたい」

ウェーバーの言葉に、自身の気持ちを顕にするウォレス。
人生の先達として、若い力を見守りたいという気持ちと、信頼出来る仲間として肩を並べたいという気持ち――。

そのどちらも、ウォレスが抱く感情なのだ――。

「そうか――では、ウォレスはローランディアに?」

「一応、将軍に推薦されていますが――全ての片が付くまでは、アイツらと行動を共にするつもりです」

ウォレスは、度重なるカーマインたちとの任務において、その功績を認められており、闘技大会で優勝した経験もある。
実戦経験の豊富さからも、実に得難い人材である。

ウォレス自身、ベルガーの捜索と、ゲヴェルとの決着という目的を果たしたので、何処かに身を寄せても良いかと考えてはいた。

しかし――。

「奴か――」

ウェーバーは険しい表情を浮かべる。
全ての事情を知り、また深く関わって来たことなので、その表情も当然と言える。

「奴?」

「――そうか、隊長は知らないんでしたね」

事情を知らないベルガーは、奴とは何者なのかを知れない。

「……実は――」

こうして、本来の歴史ではまだ先になる、過去の因縁の存在――。
ベルガーはそれを知ることになる――。

それが、彼の運命を変えることになるのかは――まだ分からない。

***********

case6 ラングレー兄妹の語らい
「カレン!」

「兄さん!最近、連絡がなかったから……心配していたのよ?」

「すまん、城のサンドラ様の研究室にずっと缶詰めでな。中々、手紙も出せなくて……」

申し訳なさそうに頭を掻くゼノス。
それを見て、カレンは苦笑を浮かべる――。

兄が変わりなさそうで、安心したのだろう――。

「ところで、親父は?」

「あっちで、ウォレスさんたちと話してるわよ」

見ると、何やら談話をしているのが窺える。

「確か、元・傭兵団の仲間なんだったか……」

「ウォレスさん、ずっとお父さんを捜していたんでしょう?」

「まさかそれが、親父のことだとは思わなかったがな」

ゼノスは苦笑しながら、カレンの質問に答えた。

ローランディアの騎士として――それ以前のフリーの傭兵だった頃から、カーマインたちの旅に同行していたゼノス。

なので、ウォレスの旅の目的も知っていた。

だが、まさかウォレスの尋ね人が、自身の父親のことだとは思わなかったのだ。

奇しくも、ゼノスも父親を捜す為に傭兵を始めた――偶然にしては、中々に出来すぎている。

「本当に不思議ね……何だか、色んな縁が重なっているみたい――」

「……そうだな」

カレンの言葉に、ゼノスは深く頷く。

ベルガーが母と結婚し、ゼノスたちが生まれ――ベルガーとウォレスは同じ傭兵団の仲間で、ベルガーはゲヴェルとの戦いで行方を眩ます。

それから十数年――ゼノスとカレンはカーマインと出会い、カーマインを通じてウォレスと知り合った。

その後、ゲヴェルとの邂逅にて、ベルガーとゲヴェル――そしてカーマインの関係性を知る。

――これらの何か一つが欠けていたならば、ゼノスは此処には居なかっただろう……。

「っと、そう言えば大事な奴を忘れてたな」

「大事な奴って?」

「シオンだよ。あいつが居なければ、多分俺はこうしてはいられなかっただろうからな」

カレンの言った『色んな縁』に、直接的な関わりこそいないが――節目節目で関わってくる男――シオン。

それとなく、ウォレスにベルガーの存在を仄めかせ、ゼノスにシャドーナイトの存在を知らせた。

カレンをシャドーナイトの手の者から救ったのも、シオンだ。

他にも、様々な要因に彼が絡んでいるが――これには彼の【隠された素性】が大きく関わってくる。

今の所、彼の真実を知るのは幼馴染みのラルフだけである。

「不思議な奴だよあいつは――俺より年下の筈なのに、時々ウォレスみたいな達観した雰囲気を出したりしていやがる――それを言ったらカーマインもそうだが、シオンの場合は何て言うか、こう――老練してるっつーか……」

「シ、シオン……さん……」

「ん?どうした、カレン?顔を真っ赤にして」

ふと、カレンの表情が真っ赤に染まっているのに気付くゼノス――。

何事か、思い出して赤面している様だが――ゼノスは当然、カレンとシオンの関係を知っているので、然程不思議には思わないのだが……。

(いつものパターン……にしては、恥ずかしがり過ぎじゃねぇか?)

いつものカレンなら、何事か思い出して嬉しそうに、いやんいやんと顔を振る――。

妄想を口に出さないだけ、どこぞの眼鏡っ娘よりまだマシとも言えるが――。

しかし、今のカレンはただひたすらに、真っ赤になりながら俯くだけだ。

ふむ……と、ゼノスは顎に手をやりながら考える――。

こと、色恋ざたには木石の如く疎いゼノスだが、それでもカレンに何かしらの出来事があったことは想像出来る。

それも、思いっきり大きな……。

「ははーん……お前さては――アイツと初体験を済ませたなっ!?……なーんつって」

「……………っ」

半ば冗談のつもりで言い放たれた言葉に、リンゴもかくや――という程に真っ赤になったカレンを持ってして、答えとなった。

「――マジか?」

……さて、皆さん覚えているだろうか?

かつてゼノスは、シオンのことを『カレンにまとわりつく悪い虫』と見なして、決闘を挑んだことがあった。

シオンの性癖、恋愛観にまつわる信念を聞き、激昂したこともある。

しかし、シオン自身の人柄を知り、またカレン自身の説得もあり――何よりゼノス自身が、旅を通じて仲間として、友としてシオンを認めるに到った――。

さてさて、このゼノスという男――認めた相手に対してはトコトン大らかだ。

本来の歴史の流れでは、カーマインに対してカレンと一緒になれと、促す程に――で、あるからして――。

「そうか、やったなカレン!遂にヤッたんだな!」

「!に、兄さん声が大きい!!」

「よーし、俺に任せとけっ!こういう時は『お赤飯』を炊くらしいんだ!ちょっと、厨房に行って作らせてもらってくるぜ!!」

「ちょ、兄さん!?待ってってば、兄さあぁぁぁぁんっ!?」

――こうなる可能性も、否定は出来ないワケで――。

結局ゼノスは、赤飯の材料の米が無かったのと、カレンの懸命な説得により赤飯作りは断念。

――神々しさ漂うドレスに身を包んだカレンは、人々の注目の的だったが――この件で、違った意味でも注目されてしまった。

終始クエスチョンマークを浮かべていたゼノスに、怒りを顕にしてその場を去り――。

――さめざめと涙せざるを得なかったカレンさん。

「うぅ……兄さんのばかぁ……」

如何に癒しのドレスと言えども、心の傷までは癒せませんでしたとさ――。

「やべぇ……怒らせちまったぜ……」

「お前、デリカシーって言葉を知ってるか?まぁ、俺が言えた台詞じゃないのかも知れないが……」

「お説教はごもっともだ――けど、恥を忍んで頼む!カレンにフォローするのを手伝ってくれ!」

自分の話をしているのを聞き付けたシオンが、項垂れるゼノスに事情を聞き――フォローを頼まれ、しっかりフォローをしたので、カレンの心の傷は癒されましたとさ――。

どっとはらい。

***********

case7 兄弟と兄妹

「ハグハグハグ!ングッ!?グググゥ……ッ!!」

「……ほら、水だ」

蒼天騎士団の一部の暴走により、危機感を感じた小さな魔導生命は……疾風怒濤の勢いで料理を平らげていく。

体積に見合わぬその量は――何処にそれだけ入るの?
と、尋ねたくなること必至である。

当然、小さな身体でそれだけの勢いを付けて食物を頬張っていれば、喉に詰まるという『お約束』を引き起こすのは、ある意味で当然の帰結だと言える。

呆れを隠さずに、水の入ったグラスを差し出す黒髪の青年。

ローランディアの宮廷魔術師、サンドラ・フォルスマイヤーの息子であるカーマインと、そのお目付け役であるホムンクルスのティピである。

――もっとも、これではどっちがお目付け役か分からないが。

「もぎゅ!?んぎゅ、んぎゅ――ンプハァ!!死ぬかと思ったわ――」

「少し落ち着いて食えよ……」

「ははは……ティピちゃんらしいね」

受け取ったグラス(その身体のサイズから、抱き上げる様な形になる)の水を一気に飲み干し、一心地つくティピ。

それを見て、溜め息を吐くカーマインと、苦笑を浮かべるカーマインと同じ顔の青年――。

彼の名はラルフ・ハウエル。

大陸一の豪商と謳われたハウエル家の子息であり、カーマインとは血を分けた兄弟のような存在――。

彼らの関係を語るには、ゲヴェルの存在や、ベルガーとの関連性にまで踏み込まなければならない――。

故に、普通の兄弟よりある意味では強い繋がりがあると言えるだろう――。

「まぁ、さっきの件があるからな」

「焦らなくてもいいのになぁ……」

再び慌てて食事を再開するティピを見て、苦笑を顕にする二人。

と、そこへ――。

「お兄ちゃーん」

「ルイセ――」

駆け寄ってくるのはカーマインの妹、ルイセ・フォルスマイヤー。

現在、この世界に存在するグローシアンの中でも数少ない、皆既日食のグローシアンだ。

「――さて、僕は他の人たちへ挨拶でもしてこようかな」

「あっ、おい……なんなんだ一体?」

それを見たラルフは、微笑ましいものを見る様な表情を浮かべながら、その場を後にした。

残されたカーマインは、ラルフが何故そのような行動に出たのか理解出来なかったが――。

ラルフ・ハウエル――彼の友曰く『御気遣いの紳士』――感情の機微を目敏く感じ、行動に移せる男であった。

……自身への好意には疎いのが玉に瑕ではあったが。

「ラルフさん、どうしたんだろ?」

「挨拶回りに行くって言っていたぞ?……まぁ、アイツも色々と付き合いがあるんだろ――」

その辺の機敏に、この二人が気付く筈もなく(カーマインは、ラルフが気を利かせたのは気付いたが、何に対して気を利かせたのかが分からない)――。

「で、そういうお前はどうしたんだ?」

「うん……お兄ちゃんを見つけたから、声を掛けただけなんだけど……め、迷惑だったかな?」

「――いや、迷惑なんかじゃないぞ」

「そ、そっか……良かったぁ……」

心底安心感を表す妹を見て、カーマインは微笑とも苦笑とも捉えられる曖昧な表情を浮かべた。

以前、ルイセのグローシュが奪われ――しかし復活を遂げて以来、ルイセが持っていた子供っぽさは成りを潜め、何処か達観した様な――そんな雰囲気を醸し出すようになった。

そんなルイセだが、カーマイン相手には未だに以前の様に接してくる。

いや、それは以前のそれとも異なる――。
それに気付いているのかいないのか……カーマインは複雑な心境を抱いていた。

ルイセが変化した様に、カーマインもまた変化したのだ――。

否、自分の気持ちに気付いたと言うのが正確だろう。

「――どうしたの、お兄ちゃん?」

「いや、どうもしないが――何でだ?」

「……なんだか、すごく辛そうな顔してたから……」

それでも、彼はその気持ちを明かさない……。
血が繋がらないとは言え、兄と妹だからとか――そんなことを気にしてはいない。

――自分には先が――未来があるのかすら分からないのだから。

「……もしかして、ゲヴェルが死んじゃったから……」

ルイセは顔を歪ませる――彼女も知っているからだ。
世を混乱させた異形の怪物――ゲヴェル。
そのゲヴェルと、カーマインの繋がりを……。

だが……。

「……ばーか」

「きゃんっ!?」

カーマインは呆れを滲ませた表情を隠さず、ルイセに痛烈なデコピンを喰らわせる。
勿論、加減はしたが――ルイセの額が赤くなる位には力を入れていたらしい。

「宴の席で、何て顔をしてるんだ?お前は」

「だ、だってぇ……」

額を抑えながら涙ぐむルイセ――その涙は、痛みからくるモノだけでは無いのだろう。

「もしもお前の危惧している通りだとしたら、俺が――ラルフだって、あんなにピンピンしているワケがないだろう?」

カーマインはやれやれ――と、苦笑を浮かべて説明してやる。
ゲヴェルが死に、その末端であったカーマインやラルフもまた、死に行く運命を抱えている。

故に、いつ身体が変調しても不思議ではない。

「で、でも……「ルイセ」……ッ!」

カーマインは柔らかい微笑みを浮かべながら、ルイセの頭を撫でた。

「心配するな。俺はお前を置いて死んだりしない――約束だ」

(何処かのお人好しが、何とかしてくれるって言ってくれたしな……)

――それでも、カーマインは諦めていない。
万が一があるかも知れないとは思っているが――あくまで万が一、である。

――その銀髪のお人好しを信頼しているという部分も大きいが。

「約、束……?」

「あぁ、約束だ――俺が約束を破ったことがあったか?」

不敵な表情で、ルイセに聞き返すカーマイン。
ルイセは思い返す――カーマインが約束を、決して破らなかったということを。
泣き虫だといじめられたことはあったが、そんな時でさえもカーマインはルイセの傍に居た……約束は、決して違えなかったのだ。

ルイセはゆっくり首を横に振った。

「なら、その顔はもう止めろ。お前には、笑顔の方が似合ってる……」

「おにい、ちゃん……」

熱の籠った視線がぶつかる――。
互いに互いの想いを込めた視線を交わし、場所が場所なら告白の一つもしてしまいそうな雰囲気を作り出す二人――そしてティピが『うっひゃ〜♪』と、ワクテカした表情で二人を眺めていた……そんな時だ。

『――聞こえるか、愚かな人間共よ』

二人に――否、二人だけではなく、この宴に参加している者たち全てに……冷や水をぶちまける様な声が響き渡ったのは――。

***********

私は姉さんたちと話し込んでいた――姉さんたちは元シャドーナイトだったことに負い目を感じていて、自分たちがこの宴に参加して良いのか不安になっていた。

私に言わせれば、気にしすぎだと思うが……姉さんたちが言うには、私がシオンの副官という立場に居るからそう言えるのだ……とのこと。

――言われて確かに、と思った。

シャドーナイト――その存在は、このバーンシュタインにおいて数ある汚点の一つで、その最たるモノと言ってもいい。
特に、エリオット新王が即位してからの新しいバーンシュタインにとっては尚更。

そんなシャドーナイトであったことは、消せない過去の悔恨であることは否定出来ない。
私やエレーナも汚い仕事の一つや二つは熟してきた。
……姉さんたち程では無いにせよ、罪の意識や負い目は今でも胸の奥にこびりついているし、その行いを決して忘れるつもりはない。

――それでも、私が胸を張っていられるのは間違いなくシオンの存在があるからだろう。

――あの人が居なければ、きっと私は此処に居なかったと思う。
多分、何処かで野垂れ死んでいたか――生き残ったとしても、新設の諜報部隊に回されて結局は日陰の存在になっていたかも――。

それは姉さんたちや、エレーナも同じ――元シャドーナイツだけじゃない。
蒼天騎士団の主だった面子は、ほとんどが前科持ちだ。
オズワルドやエリックたちは、盗賊として悪行を働いていたし――バルクたちや、ウェインたちは別口だけど。

――不思議ね。

まるであの人を中心に人が引き寄せられている様だ――。

そんなことを考えながら、私はクスリと笑った。
あの人はどうしようもなく『人タラシ』なのだと、そう考えたら笑えてきたから――。

そんなシオンの姿は何処かと、何気なく気になって視線をさ迷わせる――けど、視界に映る範囲内には居ないらしい。

……何処にいったのかしら?

首を傾げながら、再びシオンの姿を探そうとした時――その声は響いた。

『聞こえるか、愚かな人間どもよ』

この、声は――!?

「この声……御師様!?」

「頭の中に直接語りかけてるの――!?」

サンドラさんとルイセちゃんが驚いた表情を浮かべている――二人だけじゃない……ここにいる全員が同じ様に驚いていた。

『我が名はヴェンツェル――キング・オブ・グローシアン』

ヴェンツェル――真の黒幕と言ってもいい存在。
ソイツが自分を『グローシアンの王』と称した――。

『――ゲヴェルを倒したことで浮かれている様だが、我が力をあの程度と思ってくれるなよ?言わば、あれは旧型なのだからな』

旧型――そう言えば、前に遺跡に潜った時に、ゲヴェルについての資料があって――ゲヴェルには新型と旧型があるって話を皆から聞いたような――。

『グローシアンの王である私は言わば、全ての存在の王――よって、私は貴様ら愚鈍な人間を支配することにした』

「……勝手なことをっ!!」

インペリアル・ナイトの一人であるポールが、苦々しげに言葉を吐き捨てた。
……彼にとっては複雑な因縁を持つ相手だものね――。

『偉大なる王の復活を祝して……まず手始めに、このランザック王城を破壊してやろう……!!』

「なにぃっ!?」

「馬鹿な……っ!?」

ウェーバー将軍とガイウス将軍が声を上げた……彼らはランザックの将軍――その心中は決して穏やかでは無いはず……。

「奴め……ランザックを襲うつもりかっ!!」

「おのれ……そうはさせんぞっ!!」

二人の将軍が慌てて飛び出そうとする――そこにウォレスさんが止めに入った。

「待てウェーバー。今からランザックに駆け戻ったって、とても間に合うものじゃないぞ……」

「!!このまま黙って見過ごせというのかウォレス!?」

「そうじゃない。ウォレスは普通に行っても間に合わないと言っているだけだ」

そこに駆けて来たのは、カーマインとルイセちゃん……そしてティピだ。

「お主たちは……」

「相手がグローシアンの王さまだか知らないけど、コッチにだってグローシアンは居るんだから!!ねっ、ルイセちゃん?」

「うん!――私がテレポートで、ランザックまでお二人を御送りします!」

「なんと……そんなことが……」

ティピとルイセの言葉に、驚愕を隠せないガイウス将軍――ウェーバー将軍は、ハッとした表情をしている――。

「俺たちも手を貸す――一緒に行こうぜウェーバー!!」

「……すまん、ウォレス――!!」

こうしてカーマインたちは、ランザックの窮地に駆け付ける為に一緒に行く人間を募ることにしたみたい――時間は一刻を争うので、悠長にはしていられないけど――。

「勿論、俺は行くぜ?あの野郎はこの手でぶった切ってやらねぇと、気が済まねぇからな!!」

ゼノスが志願し――。

「僕も行こう――何かの役に立てるかも知れない」

「アタシもアタシも!まさか置いてきぼりは、ないですよね?」

アリオストとミーシャも志願する中――私はシオンの姿を探していた……彼ならこの状況で黙っているわけ無いんだけど……。

「あの人なら、もう行ってしまったわ――」

「エレーナ――」

エレーナ・リステル――仕事上の同僚であり、共通の想いを抱いている仲間――。
その彼女が言うあの人……シオンのことで間違い無いと思う。

そんな確信にも似た感情を抱いた次の瞬間――。

『貴様――ッ!?』

『よう、王サマ……邪魔しに来たぜ――文字通りにな!!』

その声は――響き渡ったのであった。

「この声――シオンか……!?」

「――あっ!?シオンさんが居ない!」

皆が周囲を見回す――居ない。
シオンの姿が……無い。

でも――。

「……やっぱり!先生、ランザックに居る!!」

「……そうだね。この気配はシオンだ――」

グローシアンであるルイセちゃんと、仲間内で一番『気』を読むことに長けたラルフが一番にその事実に気付いた――。

「シオンさん――!」

「あぁ……間違いない――あの方だ」

そして――『繋がり』を持つ、私たちも――。

***********

――時間は少々遡る。

ヴェンツェルが全ての人々に念話を飛ばした頃――当然、その声はランザックの人々にも届いていた。

『偉大なる王の復活を祝して……まず手始めに、このランザック王城を破壊してやろう……!!』

「おのれヴェンツェルめ……!!貴様の思い通りにはさせんぞ……ウェーバー殿とガイウス殿の留守は我々が任されているのだ!!陛下を!!民を!!国を!!我々が守るのだっ!!」

「「「「オオォォォォォォォッ!!!」」」」

赤茶けた鎧を見に纏った女性が、ランザック兵たちを鼓舞する。
彼女はリュクス・ハミルトン――このランザックで将軍にまで登り詰めた、若き女傑である。

その凛とした佇まいは、戦乙女と呼ぶに相応しく――兵たちの士気を大いに高めた。

……三国同盟会談の折、ヴェンツェルの危険性を聞かされ――戦勝祝賀会に合わせてランザックを襲う可能性を示唆されたことにより、それに備えて軍備を整えておくことが出来た。

如何なる大軍勢であろうと、迎え撃つ覚悟であった――しかし。

「クックックッ……勇ましいではないか」

「なっ……!?」

眼前より歩み来るは、確かに彼等ランザックの者が匿っていた存在――元バーンシュタイン宮廷魔術師長……ヴェンツェルの姿だった。

「……ヴェンツェル、よくもおめおめと姿を現せたモノだな。匿われた恩も忘れ、あまつさえランザック王城を破壊しよう等とは……恥を知れ!!」

「これは妙なことを言う……確かに匿われたのは事実だが、私は魔法を教えろと言うそちらの条件を呑み、匿われたのだ。そして私は貴様らに魔法を教え、その代価として貴様らは私を匿った……何も不義理に感じる要素は無いではないか」

「貴様ぁっ!!」

兵の一人が激昂を顕にするが、当のヴェンツェルはそれを嘲笑う。
怒りを顕にする兵に呼応し、ランザック兵たちは怒気はそのままに武器を構える。

「ヴェンツェル――貴様が我らに対して恩を感じず、我らを嘲笑っているのは分かった……貴様がそのままどこぞに隠れ住んでいたなら、我らも必要以上に貴様を刺激するつもりも無かった……だがッ!!」

リュクスは自身の得物である長剣を抜き放つ。

「我らが城を!!我らが王を害そうと言うのなら!!乾坤一擲ッ!!我らは力の限り――血の一滴まで振り絞り貴様を打倒するッ!!――貴様一人で姿を現したのは失敗だったな――ヴェンツェルッ!!」

リュクスの意気に呼応し、ランザック兵の戦意も沸き上がっていく――だが。

「ふふっ……許せないと言うならそれも良かろう――元より赦しを請うつもりもない」

そう言い切るや否や、ヴェンツェルの周囲に光の球――テレポートの光が複数飛来する。

「……何分、私は忙しい身でな――貴様ら相手に何時までも拘らって居るほど暇では無い……」

光の珠が弾け、中からは無数の小型のゲヴェル――ユングの姿が現れる。

その数、ランザック兵の数とそう違いは無い。

「暫しの間、こやつ等と遊んでおるが良い――私がランザック城を消すまで――な」

「おのれ!!貴様を先に進ませはせんぞっ!!」

「愚か者め――誰が先に進むと言った……?」

しかし戦意の上がったランザック軍はユングの群れにも臆せず、一気呵成に突撃しようとした刹那――ヴェンツェルはその場で両手を広げ……杖が中空へと浮遊した。

「貴様らを消す等、この場から動かずとも容易い――」

「な、なんだアレは……!?」

兵の一人がソレに気付き指し示す……。

ソレは杖の先……宙に浮かぶ、黒点の様だった――。

目を凝らさなければ見えない様なソレは、徐々に肥大化していく――。

やがてソレは、黒い太陽の様なモノへと変貌を遂げていく。
紫電を迸らせ、不気味に脈動するソレは――兵たちの士気を挫くには十分過ぎた。

「――怯むなっ!!我らの為すべきは一つ!!奴が何を企もうが関係ない――逆賊ヴェンツェルを討ち取るのみっ!!――私に続けぇッ!!!」

リュクスは怯む兵を鼓舞し、自ら先駆けとなる――そうしなければならないと感じたからだ。

(アレを――アレを使わせてはならないっ!!)

魔法は手触り程度しか学んでいないが、それでも戦士としての勘がリュクスに告げる――あの黒い塊が解き放たれたら……全てが終わると。

「グギギッ!!」

「ギギッ!!」

半ば焦燥感に駈られながらの突貫であるが、当然の様にユングの群れに阻まれる――。

「邪魔だっ!!」

一閃二閃――その斬撃はは的確にユングの硬い皮膚の急所を捉え、悲鳴を挙げさせる間もなく首を跳ね飛ばした。

「ッ!!我々もリュクス将軍に続けぇぇぇぇっ!!!」

「「「「うおおおぉぉぉぉっ!!!!」」」」

ランザック兵隊長の号令でランザック兵達もまた、ユングの群れに向かって行った――!

激突――ランザック軍はヴェンツェルの企みをやらせまいと……ユングの群れはその邪魔はさせまいと――。

斧が舞う、大剣が舞う――拳が、牙が舞う――。

血飛沫が舞う――赤、赤、赤――赤い飛沫が舞う……人の、化物の飛沫が舞い上がる。

正に乱戦と呼ぶに相応しい様相である――策も何も無い。

策など、介する余裕は無い……やることは分かりきっている。

ヴェンツェルを止めねば全てが終わる――しかしユングの群れも無視出来ない……ならば両方を相手取り――。

「ヴェンツェルッ!!覚悟っ!!!」

突破する以外に手立ては無い――。

ユングの壁を突破したリュクスは、疾風の様にヴェンツェルに向かう――。

リュクスはランザック三将と謳われる三人の中でも、かなり風変わりだった。

ウェーバー将軍は大剣、ガイウス将軍は大斧――他のランザック将兵も、似たような得物を扱う。

お国柄と言えばそれまでだが、ランザックでは『柔』より『剛』を尊ぶ風潮にある。

そんな中で、リュクスは全く別の道を選んだ。
自身の憧れであるウェーバー将軍と同じ道をと願った――しかし、それでも自身が女性であるというハンディキャップは拭えなかったのだ。

勿論、女性だろうと並の男以上の腕っぷしを身に付けることは可能だ。

現にバーンシュタインのインペリアル・ナイト――ジュリアは、血の滲むような修練を経て男顔負けの膂力を手にしている。

だが、リュクスは己の利点を最大限に活かそうと――剛を捨てた。

『柔』『速』『技』――コレ等を徹底的に磨きあげたのだ。

現在では、彼女の技はウェーバーにも並び――速度は……ランザック一である。

その最速の刺突は、寸分違わずヴェンツェルの喉元へと吸い込まれる――筈だった。

「ッ!?」

突然、リュクスの脚が引っ張られ――刺突はヴェンツェルの喉元手前で止まってしまう。

「ふむ……人間にしては中々の速さだったが――残念だったな」

「くっ!?一体なん……っ!?」

リュクスは違和感を感じる足元を見やる――そこには……手。

手が地中から生え、リュクスの足を掴んで居たのだ――。

ボコリと音を発てて出てきたのは――異形。

人型の異形だ。

ユング等より、ずっと人間に近い筈なのに……それ以上に禍々しい風貌をしている。

「GIGAAAAAA!!!」

「ぬぐ!?うわああぁぁっ!!?」

一気に地中から抜け出たそれは、人並み外れた剛力にてリュクスを振り回し――ユングの群れの方へと投げ返してしまった。

「うぐ……くっ……!!」

「人間、コロス、クウッ!!」

「グギッ!グギギッ!!」

目敏く自由落下するリュクスを見付けたユングは、リュクスをてぐすねひいて待ち受ける――。

「ッ!!セヤアアァァッ!!!」

背面落下するばかりであるリュクスだったが、空中でクルリと姿勢を変更――。

「グギャァ!!?」

「ギゲッ!!?」

待ち受ける数体のユングを刻んで除けた。

「リュクス将軍!!」

「私に構うなっ!!コイツらを突破することだけ考えろっ!!」

「は、はっ!!」

前衛を突破してきた数名のランザック兵がリュクスに駆け寄るが、リュクスはそれを一喝――。

(……それにしても、アレが話に聞いた『人の成れの果て』という奴か――厄介な……!!)

「ククク――本当に残念だったな……最後の一太刀すら浴びせられんとは――」

「なっ!?まさか――!?」

リュクスは見やる――ヴェンツェルの頭上の黒き太陽が巨大に、禍々しく輝き充ちているのを――。

「馬鹿な……こんなに速く……!!」

「――今、楽にしてやろう……ヌンッ!!」

ヴェンツェルの宣言と共に、黒き太陽は更に激しく紫電を放ち――輝く。

「あ……」

リュクスは悟った――悟ってしまった。

「おのれ!!やらせはせんぞヴェンツェルッ!!」

「クソッ!!どけ、化物がぁっ!!!」

「ぬおぉぁぁぁっ!!!」

やらせまいと、諦めまいとあがき続ける部下たちの声も遠く――ただ黒色の太陽を見つめる。

もう、間に合わないのだと――悟ってしまった。

自身の力が及ばなかったこと、兵たちの力が及ばなかったこと。
剣を捧げた王を守れなかったこと――あらゆる悔恨が渦になってリュクスを苛み……。

「では――さらばだ」

「――申し訳ありません、ウェーバー殿……」

黒色の太陽が弾ける瞬間、リュクスが一番に悔いたのは――最愛の恩師の期待を裏切ってしまったことだった。

その悔恨を最後に、リュクスは黒き閃光に呑まれてい「諦めてんじゃねぇよ、リュクス将軍!!」――かなかった。

「なっ……!?」

眼前に現れたのは――背中だ。
青い――蒼い背中。

「あ、貴方は――シオン、将軍っ!?」

「想い人じゃなくて悪かったな――けど、何とか間に合ったぜ!お約束通りになっ!!」

黒色の閃光は紫電を纏い、人の成れの果てやユング諸とも凪ぎ払い――それはリュクスやランザック兵をも呑み込み――背後のランザック城をも呑み込もうとした――しかしそれは阻まれた。

右手を突き出し、掌を前面に構え――その先に展開した魔方陣から放たれる、深緑の極光にて抑え込む――蒼天の騎士によって!

「貴様――ッ!?」

「よう、王サマ……邪魔しに来たぜ――文字通りにな!!」

***********

間に合った――いや、間に合わせた。
何故なら知っていたからだ――原作の知識として、ランザックの崩壊を。

ルインの野郎が向こうに居る以上――何かしらの対策を施すことも考えられたが……ゴチャゴチャ考えるのは止めにした。

原作知識が歪む?――ハッ、知ったことか!!

――俺は見てきた筈だ……俺の手の届かない所で傷付き倒れた――或いは、分かっていて見捨てた人々のことを。

手の届く場所、目の届く場所の人々を守るしか出来ない……そんなの百も承知だ。
けど、俺の手は届く――自惚れでも何でも無く……こうやって届くんだっ!!

原作の展開をねじ曲げることで、その弊害が仲間を――皆を巻き込むんじゃないかと……怖かったんだ。

皆との仲が深まる程――絆って奴を実感する程……その気持ちは強くなった。

――けどよ、今更だろうが!!
原作の展開をねじ曲げるのも、俺が臆病なのも――全部、全部が今更だ!!

俺の手が届く距離に、守れる奴が居る――助けられる人が居る……そして、俺には――その力があるっ!!!


――だったら、俺は迷わない――何処までもこの手を伸ばしてやる。

「約束したからなぁ……絶対、幸せになるってよぉっ!!!」

「何をゴチャゴチャと――貴様が出てきた所で状況は変わらぬ……諸とも粉微塵にしてくれる――ヌンッ!!」

「!?な、にぃ……!?」

俺の極光が――押されてる!?

オイオイ……こちとら全力でブッパしてんだぞ――!?
手抜き無しの俺の極光が……押し返される!?
あのヴェンツェルの技はランザック城を粉々に吹き飛ばすくらいの威力がある――だが、言い変えれば『その程度』の威力しか無い筈なんだが……。

「こうして相対して初めて分かった――貴様の魔力にはこの私も敬意を覚える。恐らく単純な魔力量では私を凌駕するのだろう……この私を、な――ククク……だがそれでも、貴様に勝ち目はないのだ!!」

「……へっ、確かに予想外だわ――この一発で終わる筈が、逆に押し返されてるんだからな――だがよぉ……」

押し返されてるって言っても、押し切られているワケじゃねぇ――ならっ!!!

「もう一本、追加したらどうよっ!!?」

「な、なんだと――っ!!?」

俺は更に左手を突き出し、掌に極光の魔方陣を展開――深緑の極光が先に展開していた極光と融合――更に太く、光輝く極星となる!!

『大極光』

両腕での極光の同時展開――その威力は相乗し、何倍にもなる――この世界で使うことは無いだろうと思っていた……俺のアレンジ魔法の中でも、とびきり威力の高い奴だ!!

「ば、馬鹿な……こんな――!?」

「――テメェは、宣戦布告のつもりでランザックを潰そうとしたんだろう?――だったら覚えておけよ……テメェは潰す――俺が、俺達が!!」

これ以上の犠牲は出させやしねぇ……世界がそれを望んでも反逆してやる!!それが、俺流の――宣戦布告だぜ!!

「消し飛びやがれ―――ヴェンツェルッ!!!」

「ぬ……が……ッ!!」

大極光はヴェンツェルの黒い光を一気に押し切り、その光はヴェンツェルの姿を呑み込んで行った――が。

「や、やったのか……?」

「――いや、逃げられたな」

背後に居るリュクス将軍が呟いたので、それに返した。

極光に呑まれる寸前――ヒゲ野郎を嫌な気配が包んで消えた――アレはルインの野郎の気配だ。

多分、例の影を使った移動術でヴェンツェルを逃がしたんだろう……それ以上の仕掛けをしてこないのは妙だが――。

「まぁ、当たっていれば――」

「――ッッ!!?」

「骨も残ってねぇだろうな」

俺はリュクス将軍の視線上から退いて、その惨状を見せる。

ヴェンツェルの背後にあった幾つもあった岩山が、綺麗サッパリ無くなっていた。

――禿山だったし、人の気は感じなかったが――モンスターやら野性動物やらの気は感じていた。

……地獄なんてもんがあるなら、俺は間違いなく地獄行きだと思った――今更だけどな。

……流石に城下町を背にされていたら、とてもぶっ放せなかったな。

「こ、これがグローシアンの力なのか……」

「あ、一応言っておくが……俺が異常なだけで、グローシアン皆がこんなこと出来るワケじゃ無いからな?」

「そ、そうなのですか……?」

ボスヒゲ野郎なら近いことは出来るんだろうけどな……ルイセは今後に期待って所だろ――。

……こんなの、期待するもんでもねーんだろうが――。

「それよか、残りの敵を蹴散らす方が先じゃないか?」

リュクス以下、前線に出ていたランザック兵数名が唖然としていたので、とりあえずそう突っ込んでみた。

「そ、そうだった!!これより掃討戦に移るッ!!気を抜くなよお前たちっ!!」

「「「お、応っ!!!」」」

「乗り掛かった船って奴だ――手伝わせてもらう」

「かたじけない――では、行くぞッ!!!」

こうして俺は、リュクス将軍とランザック兵数名と共に、乱戦冷めやらぬ戦場へと向かって行った――戦場が鎮圧されるのに、然程の時間は掛からなかった――。

***********

その頃――。

「――ご無事で何よりです、ヴェンツェル様」

「……ふん、余計な――」

「余計な真似……でしたでしょうか?」

「――いや、あの魔法の威力……過去のどのグローシアンよりも勝る。あれを受けていたら私もどうなっていたか……分かったものではない――褒めてやりこそすれど、咎めることでは無い……」

「光栄の極みにございます」

何処かの遺跡の中枢――そこにヴェンツェルと彼の配下――ルインは居た。

「……よもや、彼奴があれほどの者とは――貴様の忠告通りになったな」

「いえいえ……僕としても予想以上ですよ――彼がヴェンツェル様の障害になることは予測していましたが……この世界の人間が――いえ、生物が束になっても、彼には勝てないかも知れませんねぇ……」

「笑えぬ冗談だな……」

「冗談かどうかは――ヴェンツェル様が『試してみた』通りだと思いますが?」

「……ふん、だがお前のことだ――手は打っているのだろう?」

「勿論でございますともっ!!細工は隆々――今まで見に徹していたのは、彼や彼を取り巻く環境を見極めんが為――傾向と対策は万全ッッ……でございますよ」

両手を大きく広げ、愉快に――痛快に――奇怪に語り出すルイン――まるで己が世界の流れを支配しているかの様だ。

「――彼の力は想像以上でした……が、彼の内面は想像通り――ミルクセーキにマシュマロ入れて食ってそうなイジケ虫の様なモノです……恐らく、ハッピーエンドを至上とし、ソレを掴むつもりなのでしょうが……ノンノンノンッ!!!世界が!!僕が求めるモノは甘ったるい平穏ではなく、素敵に不敵な喜劇的悲劇ッ!!!ハッピーエンドなんて流行りませんよ――バッドエンドこそ至高ッ!!!惨劇こそ究極ッ!!!――そのための努力は、惜しみませんとも」

「――不遜な。我が覇道をバッドエンド扱いとは……脚本家にでもなったつもりか?」

「おっと、失礼――万人にはバッドエンドでも、ヴェンツェル様にとってはハッピーエンドでしたね――無礼を御許しください」

芝居掛かった台詞で頭を垂れるルインに、ヴェンツェルは可笑しそうに笑った。

「ククク――かつて私はガムランを残忍と評したことがある……だが、訂正しよう――お前ほど純粋に残忍な者は、この世界に存在せぬだろうな」

「お褒めに預かり、恐悦至極にございます……」

――空気に、澱みが漂う――彼等の居る場所に、更なる影が姿を見せたのだ――。

「お前か……首尾はどうだ?」

「ハッ……万事抜かりなく――」

「仕事が速いね〜♪……では、ヴェンツェル様の体力が回復次第、作戦開始といきましょうか――ククク、策は我にアリ……ですよ」

(フフフ……シオン君。何もかもが、君のタイムテーブル通りに動くと思ったら……大間違いだ。キミはランザックを救ったつもりだろう?けど、おかげでキミという人間がよぉぅく分かった……キミもボクを分かってくれるんだろう?まるで恋い焦がれる恋敵の様に、矛盾しながらも想ってくれてるんだろおぅ?――もうすぐだ……もうすぐ一つになれるよ……ボクの糧という形でネェ!!!ウヒヒャヒャヒャヒャヒャ!!!)

策謀は渦巻き――忍び寄る。
まるで、粘着質に絡み付く、質の悪い病原菌の様に――。

邪悪ですら生温い、悪意の塊が――表舞台に立とうとしていた……。

***********

オマケ

シオンが姿を消し、カーマイン達もランザックへ向かった中、居残り組となったリビエラは――隣に立つエレーナを見やった。

「……ねぇ、エレーナ……私、ずっと気になってたんだけど――」

「何、リビエラ?」

「――貴女、シオンと何してたの?」

「ッッ!!?な、何って?」

「……さっき貴女、『あの人なら、もう行ってしまったわ――』って言ったわよね?つまり、シオンがランザックに向かうまで一緒に居たってことでしょ?何より――貴女からシオンの匂いがするし」

「……えーと、ナニをしてました――なーんて……」

……………。

「ゴメン――抱いて、貰っちゃった……」

「……謝ることはないケドね。そうなるとは思っていたし……けれど、よくシオンが職務中にしてくれたわね――シオンって、そう言う線引きは守る人なんだけど――」

自分の行為を棚にあげて語るリビエラ――。

「あー……私が無理に迫ったというか……不謹慎だとは思うけど、気持ちを抑えられなくて――」

「あー……」

気持ちが痛いほど分かるリビエラは、バツの悪そうな顔で苦笑い。

「それで、その――私の気持ちを組んでくれたシオン様が……職務中だから、ゆっくり相手してあげられないって言って……速攻で――」

「なるほどね……足腰立たなくされた――と」

よく見ると、エレーナは真っ赤になって恍惚の表情を浮かべているが……同時に足が未だ微かにガクガク震えているのが窺える。

「……よく、気絶しなかったわね?」

「――しちゃったよ?あんなの、気をやらないわけ……ないじゃない」

「まぁ、ね」

それで何となく察したリビエラは、肯定の意を示してから一言――。

「茨の道へようこそエレーナ――後悔は……してないか、その顔じゃ」

「うん、後悔なんてない――それどころか、凄く満たされてるって感じるよ……私」

「……後でみんなにも伝えておかなきゃね――シオンが伝えるとは思うけど」

(それで私もまたシオンに……って思うけど、さすがに今はそんなことを考えてる場合じゃないものね)

エレーナの『仲間入り』を何処か嬉しく、何処か複雑に思いながら歓迎するリビエラ――同時にエレーナを羨ましく思いながらも、今が緊急時であることを理解している為――万が一に備えて会場の警備に専念するのであった――。

***********

彼は誓う――平穏を勝ち取ると。

彼は願う――破滅への幕開けを。

真逆の思考と願いを持つ者が、ぶつかり合うのは必定――。

男は知った――彼が真っ直ぐな人間だと。

歪んだ男はほくそ笑む――真っ直ぐだからこそ、彼は応じる……否、応じねばならないと――。

次回、『取り引き』

***********

更新するすると言い続けて幾星霜――私です。
前回更新から――1年近くですか?(すっとぼけ)

――m(__;)m

いや、仕事が忙しかったり息抜きSS書くのが楽しかったり、最近バルバレからドンドルマに拠点を移したry( ゜Д゜)シ\樋○カッター!!

――という訳で、ようやくの更新でつ(-_-;)
というか、覚えてくれてる人いるのかしらん(;´д`)

そして……舌の根渇かない内からなんですが……次回の更新は――来 年 で す (`・ω・´)キリッ

……またセコセコしこしこ書きますので、気付いたら見てやって下さいm(__)m

――あ、『裏』の方は年内に更新するかも……(するとは言ってない)



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