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[42777] 【一発ネタ】神眼の転売ヤー(アイドルマスターシリーズ 転生)
Name: えぐる◆4d3a15a0 ID:89526495
Date: 2017/08/04 12:33
まず初めに、第一前提として言っておこう。
オレはアイドルが嫌いだ。
奴らは人に貢がせるだけ貢がせといて、自分からは何一つとして返しはしない。
グッズ、CD、ライブチケットにバスツアー。
あのクズどもはファンという名の養分から搾取することしか考えちゃいない。
女も男も、そこは共通だ。
そして恐ろしいことに搾取の波は三次元に留まらない。
二次元においてもアイドルという名の化け物どもはファンから金を奪っていった。
DLC、ガチャ、課金、声優イベントに人気投票。
かつてファンだった残り滓が夢から醒めたとき、そいつの手元には千円札一枚残っちゃいなかった。
いや、奪われたのは金だけじゃない。
時間もだ。
貴重な人生を何年もの間、無為なミーハー行為に費やし続けたのだ。
ようやく全てを失ったと気付いたときは、ただただ空しさだけが募ったものだ。

―――何?
それは自制できないクズの八つ当たりに過ぎない?
そうだな。
その通りだ。
オレはクズだった。
それは確かだとも。
だが!
アイドルという存在がなければ、自分が道を踏み外すこともなかったというのもまた事実!
故にこれは正当なる復讐。
アイドルという存在を、陳腐な金銭の塊に変貌させるための無血の戦争なのだ。











アイマス、デレマス、ミリマス、ホモマス。
皆にも聞き覚えがあるだろう。
この世界には奴らがいる。
忌々しいことに。
何?
一部に蔑称が混じってる?
知るか。
オレはジュピターが嫌いだ。
奴らの存在は死んでも認めん。
というか、実際死んだからな。
アイドルという存在に狂い、持ちうる財産を全て捧げた愚者の魂は確かに天に召された。
……はずだった。
驚くべき事に神は実在したらしい。
アイドルへの憎しみを死して尚断ち切れなかったオレは、解脱を許されずこの世界に転生するハメになった。
数百を優に超える水増しアイドルどもが跋扈するこの地獄変、アイドルマスターシリーズの世界にな!
……数多の凡俗な転生者ならここで狂喜乱舞し、無謀にもアイドルを目指したり、プロデューサーを志したり、原作キャラに接近したりとミーハー丸出しの浅ましい行為をするのだろうな。
オレは違う。
アイドルは憎むべき対象、敵だ。
血尿が出るまで搾取され続けた恨みは決して忘れん。
今度は自分がアイドルを利用し、搾取する番だ。
復讐するは我にあり。

そういうわけで、オレは転売に手を染めた。
メインターゲットはデビュー直後の原作キャラ。
どれだけ輝かしい才能を持つアイドルの卵であっても、最初は全員無名。
人気が出る出ない以前の問題だ。
単純に知名度がない。
そんな連中のいかにも書き慣れていないサイン、ほとんど流通してない初版のCD、売る気の感じられない微妙なグッズを片っ端から集めていった。
ネームドの新人が出るたびに足繁く握手会へ通い、購入したばかりのTシャツや弾く気ゼロの楽器にサインを書かせたりもした。
気分は農家、あるいは投資家。
オレはアイドルという名の果実が実るのをひたすら待ち続けた。

―――そして遂に!
満を持して!
収穫の刻来たれり!
765プロの大躍進!
複数のSランクアイドルの誕生!
オーガ以来のビッグウェーブ!
第二次アイドルブームの到来だ!

フフ、この時を待っていたのだ。
オレはこれまで溜めに溜め込んだアイドルグッズを一気に放出した。
最初のうちはオークションサイトでライトなファンを釣り、比較的価値の低いサイン色紙を十万単位で売り払っていった。
そしてある程度の集客が叶ったら、金に糸目を付けない馬鹿を個別にピックアップし、独自に商談を持ちかける形式へとシフトさせた。
いやー売れる売れる。
ボロ儲けにも程がある。
笑いが止まらなかったぜえ。
あんな紙切れ一枚や量産型手抜きグッズに数十万から数百万ポンと出すなんてどうかしてるぜ。
中でも一番高く売れたのは765プロ初期メンバー全員の直筆サインが書かれた『蒼い鳥』の初版CDだった。
なんとお値段1000万円!
馬鹿でしょ?
こうしてオレは一躍億万長者へと成り上がったのだった。
ああ、次はシンデレラガールズだ。
オレの復讐は終わらない。
アイドルという偶像を完膚なきまでに穢し尽くすまで決して―――

「踊れ踊れ、皆踊れ。容姿だけが取り柄のアイドルも、ブヒることができれば満足しちまうファンも、恋愛のタブーを侵すプロデューサーも、全てオレの掌の上だ」











アイドルの思い出の品が次々と転売されている。
そんな情報が流れたとき、業界は当然のごとく激怒した。
当事者たるアイドル達は転売ヤーの行動に心を痛め、プロデューサー等の経営陣は良識あるファン達に不買を訴えた。
そしてファンもまた転売というルール違反ではないが、マナー違反である行為を非難し、かの転売ヤーを排斥しようと試みた。

……最初のうちは。

転売ヤーは人気アイドルと化した少女達の元へは二度と現れなかった。
彼が出現するのは決まって無名の駆け出しアイドルの元。
身内以外は誰一人として期待していないヒヨッコ以前の少女達の存在をどこからともなく嗅ぎつけ、まんまとサインを奪っていくのだ。
これには業界もお手上げ。
神出鬼没にも程がある。
まるで手の打ちようがない。
そして、彼の毒牙に掛けられたアイドルに限って大成してしまうのだ。
最近売り出し中の346プロだけでも既に十数名もの被害が出て―――

―――被害?

そうではない。
その言い方はふさわしくない。
程なくして彼らは気付いた。
その異常に。
その法則に。
かの転売ヤーに見出されたアイドルは必ず成功する、と。












某日、某所にて。
新人アイドル小日向美穂のファン交流会がひっそりと開催されていた。

「みっ、みしっ! みしろっ! コホンっ! み、346プロよりデビューさせて頂きました小日向美穂です! 少ないですけどCDも出してますっ! どうか応援よろしくお願いします!」

が、肝心の客入りは皆無。
営業中にも関わらず閉店ガラガラ状態。
芽が出るかも分からない下積みのために駆り出されたスタッフ達もあまりやる気がなく、彼女は一人空回りしていた。

(うぅ、お客さん全然来ないよ……。プロデューサーさんの口車に乗せられるんじゃなかった……。そもそも私にファンなんているはずなかったんだよ……。もう熊本に帰りたい……)

この小日向、なかなか愛らしい顔立ちをしているのだが、その壊滅的私服センスが全てを台無しにしていた。
あろうことかライブ衣装ではなく、普段着のクソダサTシャツで今回のイベントに臨んでしまったのだ。
あまり緊張しないよう自然体で仕事ができるようにと、新人に配慮した結果の判断だったのだが、見事に裏目に出てしまったようだ。
これは完全なるプロデューサーのミス。
戦略的失敗であった。

「この場所借りられるのってあと何時間?」
「2時間。そろそろ撤収の準備に入ってもいいかもな」
「それな。どうせ誰も来ねえよ」
「……う、うぅ~」

誰も自分に期待していない。
針のむしろ、好い面の皮。
飛び抜けた個性など一切持たない、飽くまで普通の女の子でしかない小日向美穂はもう泣きそうになっていた。

「すまない。まだ交流会はやっているか?」
「……え?」

そのとき。
一人のくたびれた男がスッと現れた。
アイドルとファンとの間を仕切る無粋なテーブルを一枚挟み、何の感情も映さぬ昏い瞳でこちらを見ている。

「やっているようだな。これらの色紙とシャツにサインを貰えないだろうか。それとCDもあるだけ買おう。サインも付けてな」

そのあんまりにもあんまりな物言いたるや。
心温まる交流の余地などまったく存在しない。
ここを競り市場か何かと勘違いしているのではなかろうか。
時と場所と立場さえ違えば、無礼千万と叩き出されてもおかしくない。
実に失礼な男だった。

(まさか……?)

しかし、小日向はある噂を思い出した。
いわく、彼は何の前触れもなく無名な新人の元へフラリと現れる。
いわく、彼はそこで大量のサインをねだり、グッズ等も見境無しに購入していく。
いわく、彼との接触に成功したアイドルは100パーセント成功する。
そんな噂を思い出した。

「あっ、あのっ! あなたはっ!」
「すまない。日程にブッキングがあって急いでるんだ。早く書いてくれ」
「え、あ、はい……。すみません……」
「別に綺麗な字でなくとも構わないが、なるべく丁寧にお願いする」

未だ慣れないサインをいそいそと書きながら小日向美穂は思考する。
彼は本物?
だとすれば自分はアイドルとしての才能を持っている?
いや、そんなまさか……。

「で、できましたっ!」
「うん。まあ、いいだろう。それでは失礼する」
「あ……」

なんとも無しに、スッと目の前に差し出された男の手。
それを小日向はまじまじと見つめる。
時間にして数秒。
その不自然な間に違和感を覚えた男が手を引っ込めようとしたとき、彼女は男の手をギュッと握りしめた。

「あのっ! 私、がんばりますからっ! がんばって立派なアイドルになってみせます!」
「……? ああ。頑張って」
「はいっ! がんばりますっ!」

男が「それはキャラと台詞が違うだろ」と、苦笑いしながら去って行く。
その煤けた後ろ姿を、小日向は何度も頭を下げて見送った。

(まだまだデビューしたばかりなのに落ち込んでばかりじゃダメだよね。もっとたくさんレッスンして噂を真実にしなきゃ!)

アイドル業界にて、真しやかに囁かれる生ける都市伝説。
まったくの無名から未来のトップアイドルを見つけ出す神の眼を持つ男。
その名も神眼の転売ヤー。
この世の誰よりも理不尽にアイドルを憎む彼の存在は、本人の与り知らぬところでガッツリ認知されてしまうのであった。







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