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[4247] There is no angel (リリカルなのはsts×Fate R15)
Name: ゆきほたる◆2cf7133f ID:647a93e7
Date: 2012/03/25 16:02
この小説は、魔法少女リリカルなのはStrikerS、Fate/stay night、Fate/Zeroのクロスオーバーの物語です。


(注意!!)

日常編は本編と内容が密接に絡み合ってるので必ず読んでください。



【設定】

・Fate/stay nightの士郎(Fate End後から十数年後ぐらい)が魔法少女リリカルなのはStrikerSの世界に飛ばされる話です(シリアス多め)
故に、リリカルSTS、Fate/stay nightの内容を知らなければ話は分からないと思います。
Fate/Zeroは……未読でも大丈夫かもしれませんが、ネタばれは多数あるので気を付けて下さい。

・中心人物:なのは、ティアナ、そして士郎です(メインはなのは?かも)

・オリジナルの事件:今回の物語はJS事件と同時進行しているオリジナルの事件を描きます。
 (本作においてJS事件は、正史と若干のズレこそあれ、殆ど同じ結末を迎えることとなります。要するに何が言いたいかというと、スカリエッティやナンバーズに関しては、あまり触れません。ということです)

・戦闘シーン:あくまで物語展開に利用するためにあるもので、戦闘シーン自体で楽しませるという方針は取りません。戦闘シーンは多いのに反して、戦闘で魅せる作品では無いが故に、簡略することも多いです。
熱い戦闘、巧い戦闘をお求めの方、魔法・魔術の設定を気にする方は、この作品では楽しめないかと思います

・他作品キャラ:作者がオリジナルキャラを作ることが苦手なため、他の作品から出演させていますが、あくまでちょっとしたサブキャラ程度なので、知らなくても全然問題ありません。こういうのを気にする方は注意してください。

・時系列:物語はシャーリーが六課の新人たちに、なのはの過去を見せた所から始まります。

・公式設定に忠実ではない:人物の性格や強さ、世界観なども状況によって都合のいいように変化する、ご都合主義です

・R15:今後の話で一部、(稚拙ではありますが)残虐な表現や性的な表現があるためR15とすることにしました。

・死:メインキャラが死んだりします。

・視点:基本的にリリカル世界の人物となっています。

・日常編ではキャラクターの正確が少し変化します。会話をスムーズに行うために、特に衛宮士郎の性格が少し丸くなります。



【注意事項】

・割と重要な所でも、作者の判断で戦闘を省略することが多いです

・“どんなキャラ”でも状況次第では簡単にボロ負けします(不敗と呼ばれているキャラでも、最強と言われているキャラでも、不屈と言われているキャラでも)

・サーヴァントが過剰に強いです

・士郎も本来より強化されてます

・5次キャスターは万能

・なのは達は精神的にあまり強くない設定です

・オリキャラの代わりに、他の適当な作品からキャラを借りています






|2008年
| 9/23  番外編投稿
| 9/27  プロローグ前後半投稿、番外編修正。

|2009年
| 1/18  1話追加
|             プロローグ前後半、目次を修正
|             番外編を加筆
| 2/ 1  2話投稿
|             (プロローグ前半、目次修正)
|             プロローグ後半やや大きく修正
| 7/ 5  番外編part01 投稿
|             (プロローグ後編 微修正)
|             (2話      微修正)
|             (番外編     微修正)
| 7/15  3話投稿  
|             (番外編part01 微修正)
| 7/22  番外編part02 ←旧番外編編集 士郎サイドを追加
| 9/ 5  4話&設定集、投稿
| 9/ 7  5話投稿
|             (設定      加筆)
| 9/ 7  6話投稿
|             (5話  大幅表現修正)
| 9/11  7話投稿
|             (6話  表現修正)
|
|2010年
| 8/14  番外編part03
|     番外編part04 
|
|2011年
| 1/24  番外編part05(暫定版)(sage)
| 1/29  8話投稿(sage)
| 2/06  9話投稿(sage)
| 2/09  番外編part04追加、以降の番号は繰り下げ  
| 4/16  10話投稿
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[4247] prologue そして始まりを (前編)
Name: ゆきほたる◆56193382 ID:647a93e7
Date: 2009/09/11 03:01
【prologue そして始まりを (前編)】




「スターライト・ブレイカーーーーーー!!!」

絶対の自信を持てその名が放たれる。
全てを飲み干さんとする巨大な光の柱が魔法陣から今、まさに解き放たれた!!

「I am the bone of my sword」

対する男は悲しい響きをもったそれを、囁くように、しかし確実に世界に対して浸透するような声で紡ぐ。
星が落ちてくる。そう錯覚させるほどの圧倒的火力が迫りくるその時、
カッと、その鷹の目のような鋭い瞳を見開いた。

「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!!!!!!」

まるで、戦争が始まったかと錯覚させるほどの轟音が鳴り響く。周りの木々はその非常識な衝突に耐え切れず、根こそぎ吹き飛んでいく。

星と対峙するのは4枚の花弁。
そう、それはかつてトロイア戦争において、かの大英雄ヘクトールの投擲をも退けた絶対の盾。
その一枚一枚は古の城壁に匹敵する。概念すら積んでいないただの魔力の塊など通そうはずもない。

…………しかしっ!!!

「ぬっっうっっっっ!!」

亀裂が入る。何人たりとも犯すことのできないその領域を、ただの純粋な魔力、圧倒的な質量によって1枚、また1枚とその花弁が浸食されていく。

残す花弁は1枚、紅き騎士にもはや余裕はない。気合いで残る全ての魔力を注ぎ込む。

「あああああああああああああっっっっ」

そして、消え去った。
男は最後に弾き飛ばされながらも無傷。
足元には巨大なクレーターとなった惨状を残すのみ。

白き悪魔の思考が止まる。それも無理はないだろう。いったい誰が想像できただろうか?

「闇の書事件」以降、天才と呼ばれ、一時は怪我により戦線離脱していたものの、復帰してからはあらゆる事件を解決し早々にSランクを獲得。今や、全ての若い局員の憧れであり目標、エース・オブ・エースと呼ばれてきた彼女だ。
もちろん、それを奢る彼女では決してない。
しかし目の前の魔導士かすら分からなかった相手に、幾多もの敵を蹴散らしてきた“スターライト・ブレイカー”が破られるはずはない。その考えが、わずかではあるが確かに彼女の脳裏にあったことは事実だった。

そして、それが彼女の敗北の決め手となった。

「っっっっっ!!!」

遅い。僅かな逡巡。
それ故、僅かな風を割く音と共に、死角から迫りくる双剣に気付かなかった。
白黒の剣が無防備な胸元を抉る。
その衝撃で彼女の意識は途絶えた。

ただ月明かりが灯す中、魔導士は落ちていく。

それは、彼女の二度目となる挫折。

出会うはずの無かった2人の会合。

奇跡という名のソレが、世界を超えて与えるものがある。

彼女には過酷な日々を
そして彼には始まりを.

だが、彼女達がそれを知るのは全てが終わった時であった。






≪2日前≫

機動6課の一室。3、4人で使用するぐらいの円いテーブルを囲みながら、3人の少女は神妙な面持ちで会話をしている。

「連続失踪……?」

そう言って、高町なのはは眉をしかめた。

「そうや、最近局員で行方不明者が多いって知っとるやろ?」

「うん、うちの課はいないけど他のところで何人か聞いたことがある」

実はとはやては言う

「そう、まだほとんどの局員たちにはうわさレベルでしか伝わってないみたいだけどな。実はもう50人以上になってるって話や」

「50人!!」

なのはとその隣の少女フェイト・T・ハラオウンは驚いた

「うそ……そんなに?」

もはやこの数は異常である。
失踪事件自体は頻繁に、と言うほどではないがたまに起こっている。年間に十数人ぐらいはいるだろうか。

しかしそのほとんどは、あまりの訓練のきつさに逃げ出しただけであった。
正直 なのははそれが少し多い程度に考えていたのだが、どうやら甘かったようだ。

「その人たちの行方はつかめてないの?」

「まだ見つかってへん。けど何らかの事件が起こってるのは間違いないと思う。いなくなった局員のほとんどが仕事も普通にこなしてたし、変った箇所は無かったそうや。部屋にも持ち物は残っとたしな。でもそれだけの規模を管理局相手に拉致できるって言うのもおかしな話やとも思うんやけど……クーデターとかの線もあるかもと思ったけどそれぞれにさしたる共通点も無いしな」

「そう なんだ……もしかして、私たちが呼ばれたのって?」

「そや。ほんまは2人に話せる段階じゃなかったんやけどな。
けどAA+ランク魔道士2人もいなくなっとるから、最低でもAAA以上の人間が担当せなあかんけど、それだけの人間は簡単に動かせへんからな。だから臨時でなのはちゃんと フェイトちゃんにも要請がきたんや。もちろん限定解除はなんのペナルティ無しでできる」

緊張した面持ちで二人は頷く。

「捜索は別の部隊がしてくれるから2人は もし敵が潜んでた場合に突入してもらうことになる。やから何時動いてもいいように体調を整えといてな」

「うん わかった」

「他の部隊からも優秀な人がたくさん選ばれとる。その中で現地に最も近い隊員が数名選ばれるって話や。だから別に待機場所とかは気にせんでええよ」

ということは なのはやフェイトは参加しない可能性もあるわけだ。しかし そのようなことで緊張感を途切れさすことはない。

「でも……」

とフェイトはさっきから疑問に思ってたことを口にする

「これだけの事件なんだからすぐに警戒態勢をあげて、局員に呼びかけるべきじゃないのかな?」

そう言うと はやて は苦々しい顔で答えた。

「本局は陸にこのことを知られるのを嫌がっているんやよ。今は特に雰囲気が悪いからな。50人以上の失踪者なんて汚点が知れたら一気に付け込まれるからな……」

「人の命がかかってるかもしれないんだよ!!」

なのは は怒りの表情を浮かべ叫んだ。フェイトも同じような顔だ。

「私かてそう思うし、上も多くの人が今じゃそう考えてると思う。
けど誰も責任をとりたがらへんねん。これが一斉に失踪したんなら多分もう動いてたやろな。けど最初は数人から始まって徐々に徐々に膨らんできたことやからだれも踏ん切りをつけられへん。ここで解決するだろ、ここで解決するだろって感じでな。その分、今まで言わなかった責任は何倍にもなるからな……そんな場合じゃあらへんのに」

はやても今まで頭に来ていたのだろう。悔しげにそう言った。

「ごめん はやてちゃんが悪いわけじゃないのについ」

とつい声を荒げてしまったことになのはは謝った。

「ええよ、うちだって怒っとるもん。けど組織ってところはどんな所でも多かれ少なかれこういった事態は起こるもんな。けど だからといって納得はいかへん。完璧にというのは無理やろうけどそれでも少しでも良くしようと思っとる。
この六課はそのスタート地点や。だから一緒にがんばろな」

そういって2人に笑いかけた。

「うん!がんばろう」
「私にもできることがあったら言ってね」

そう2人も意気込みを見せて答える。今までどんなことにも乗り越えてきた3人だ。きっといつか叶えてみせる。彼女等の表情にはそう書いてあった。

「ほな、そろそろ仕事に戻ろか。」

そう言って、各自持ち場に戻ることとなった。





≪数刻前≫

夜の高速。そこを明らかに規定速度を無視したバイクがテールライトを棚引かせる。
浮かびくる景色が飛び込んでは消えていく。
しかし、この搭乗者にはそんな光景は眼にも入らない。

彼女が見ているのは空飛ぶ少女。彼女は若干9歳にして思うがままに空を飛びまわり、奇跡とさえ見える魔法を乱れ打つ。しかも、その少女は先日魔法を覚えたばかりだという。

アクセルを吹かし、また速度を上げる。

なんで、なんで??頭の中でその言葉ばかりが鳴り響く。
涙が溢れて止まらない。何をしているのかも分からなくなっていく。

彼女は凡人だった。
周りは歴戦の戦士や天才、レアスキルもちばかり、そんな中で凡人は唯独り。
それでも、それでも何とか追いつこうと必死でやった。
それがなぜいけないのか。皆と同じことをやってたんじゃ、その差は離れていくだけじゃない。
そう叫び上官に楯ついた。

けど、結局、間違ってたのは自分。

それは、不必要に仲間を危険な目にあわせたこと。

それは……………あの人に追いつこうなんて思ったこと。追い越そうと思ったこと。

あらかじめ定められた絶望的な地位。
努力という言葉が馬鹿らしくなるほどの才能。
9歳という女の子のスタートラインにすら、全く届かない、届く期待すら見えない今の自分。

それを受け入れられるほど、彼女の心は強くなかった。けど、諦めきれるほど弱くもなかった。

気が付いたら施設から飛び出した。バイクに跨り、エンジンを吹かす。そして非常口から飛び出す、いや逃げ出して行った。とてもじゃないが留まっておくことなんかできなかった。

ブレーキなど入れない。すでに周りには建物すら見えず、ただコンクリートの壁とその上から覗き見える木々がざわめくのみ。

彼女はひとり夜の海へ。あてもなく、ただ、ただ遠くへ











[4247] prologue そして始まりを (後編)
Name: ゆきほたる◆56193382 ID:647a93e7
Date: 2009/07/05 00:19
【prologue そして始まりを (後編)】


ミッドチルダ東部海上。

なのは、ヴィータ、フェイトがヘリでガジェットドローンの追撃に向かっている途中だった。

「なのはちゃん!!」

突然の交信がきた

「この前言ってた捜索隊が居場所を発見したそうや。そっから北北東に20㎞行った地点で現地からはなのはちゃん達が近いそうや。ここはヴィータとフェイトちゃんにまかせて応援いってもらえるか?」

「うん、わかった!
フェイトちゃん、ヴィータちゃん 任せてもいい?」

ヘリの音が木霊す中、了解を求める。

「おう、まかせろ」
「うん、大丈夫だよ。なのはも気をつけるんだよ」

2人の頼もしい返事が返ってくる。

「じゃ、行ってくる」

そう言って1人ヘリを飛び出し、バリアジャケットを装着。送られたデータを元に現場へと飛びだって行った。







管理局の本拠地である司法を司る街ミッドチルダ、マフィアの群がる娯楽とドラックの街ニブルヘルム。
その間にはいくつかの町と、両者を拒絶する巨大な山林が連なっていた。

現在地はちょうどのその山林地帯に差し掛かった所。
崖に囲まれた場所だった。木々のざわめきが、この暗雲立ち込める夜にはやけに不気味に聞こえる。

「そこ、かな?」

ただそこだけがわずかに光っているのが確認できたところで、現地の捜索局員に対して連絡を入れた。

…………

…………

「あれ?繋がらない」

相手が出ない、というよりも繋がらない感じだ。
まさか、結界!?それとも地形のせい?
微弱なAMF、もしくはそれに似たフィールド系魔法が張られているのだろうか?
いやな予感がする。

だんだんと、洞窟の入口らしきものが見えてきた。中から僅かな明かりが零れるだけで、人がいる様子がない。既に突入してしまったんだろうか?今回は命令が統一されていないので、先走って行動してしまう可能性もあった。

近づいていくとサーチャーまでうまく機能しなくなってきた。

まずいな………空中でいったん止まり、そう思考していた時だった。

「ああ゛ーーーーー!!!!」

いきなり、ナニかが穴の中から恐怖に打ちひしがれたような叫び声をあげて飛び出てきた。

何事かと思い、その方向を注視するが何か人のようなものが見えるだけで、薄暗くて詳しく分からない。
戦闘態勢を保ってそのもとへ急いだ。

「どうしたの!?」

びくっとこっちを振り向き体を異常に震わせながら警戒してくる。
さっきは薄暗くよく見えなかったが、局員のマークがジャケットに刻まれていた。どうやらなのはより少し年下ぐらいの男の子のようだ。

「大丈夫、こちら機動6課所属、高町なのは一等空尉です」

そう言うと、その男の子は警戒を解いたようだ。しかしよく見ると、その顔は青ざめ、体を過剰に震わしていることが分かる。

「いったい何があったの?」

「あ、あ、ううぅぅ」

声を出そうにもうまく出せないようだ。落ちついてと、両手に肩をのせる。そして、なんとか言葉を紡ぎ出した。

「こ、ここ、殺され、」

「えっっ!?」

「人が、ぐ、ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃで、死んで、たくさんで、ぐちゃぐちゃっっっ」

思考が止まった。目の前の局員がなんとか とぎれとぎれにも吐いた言葉はとても信じられないような内容だ。もしこれが本当なら、失踪した人はすでに………
そう沈みそうになる思考を強引に「今」に向ける。大切なのは今どう行動するのかだ。考え込むのは最後でいい。

「他の人は、他の局員の人は!?この中にいるってこと!?」

頷きながら、歯の合わない口でなんとか言葉を紡いでいく

「交戦中。紅い、コートの男と。犯人」

それだけ言うとまるで自分の役目は果たしたかというように気を失ってしまった。それだけショックが激しかったということだろう。
しかし、交戦中だったなんて。すぐに行かなかった自分を叱咤しながら その男の子を木の下において自分も向かおうとしたそのとき、穴の中からナニかが飛び出してきた。
長身で、白髪。顔は暗くてよくわからないが、男だろう。なによりその男は真紅のコートを羽織っていた。

「!!!」

緊急に戦闘態勢に入る。男はなのはを一瞬見たが、すぐに無視して逃走を謀る。

「逃がさない!!」

なのはは追撃態勢に入り、男を追う。

「こちら時空管理局、機動6課、高町なのは一等空尉です。現在あなたには殺人事件の容疑が掛かっています。今すぐ投降すればあなたには弁護の機会が与えられます」

その言葉にも反応せず、木々の中に潜ろうとする。そこでなのははスフィアを周りに展開。そして様子見で男に打った。

男は横にステップしてなんなく回避する。

「ちっ」

なのはは空戦魔導士。移動スピードでは勝てないと思ったのか立ちどまってどこからか黒塗りの弓をとりだし、戦闘態勢に入った。

「弓型デバイス!!」

なのはも空でスフィアを展開しながら旋回し攻撃に備える。相手は遠距離タイプ。高速でランダムに動き相手の照準を絞らせない。しかしっ!!!

「えっ!?」

そう、それはわずかに感じ取った違和感。それは経験からか、それとも天性の勘によるものなのか、とっさにバリアを展開することができた。

「痛つぅ、」

避けきれなかったのかバリアジャケットを貫通してナノハの左腹部に衝撃が響いた。
戦慄が走る。もちろん、この高速で移動している中、寸分の狂いもなく命中させたことも驚くべき技術だ。だが、なによりも彼女を驚愕させたことは、

「レイジングハート、今の攻撃!?」

「Yes,Master,。今の攻撃は魔力を使用しているものではありません。おそらく概存する矢の一種でしょう。デバイスにより射出を強化したものだと思われます」

そう、放たれたのは3本の黒塗りの矢。それが魔力も何も使っていないにもかかわらずバリアジャケット越しにダメージを与えた。まともに食らったら字程度では済まされないだろう。その威力に驚くと共に、最悪の特性に関して思考を巡らせる。

「矢が………ほとんど見えなかった」

そう、その音速すら軽く超えて放たれる漆黒の矢はさらに闇にまぎれ溶ける。それをわずかな明かりによって判断しなければならない。対するなのはの攻撃はすべて光を持ち、この闇の中では相手に攻撃を見てくださいとばかりに目立ってしまう。この差は……恐ろしく大きい。

「くっ」

そう逡巡している間に再び、矢が放たれた。それをまたバリアで弾く。
この高速で移動しているなのはを、まるで当たることが確定されているかのような神がかりな正確さで捕えていく。

「レイジングハート!」

いつまでも受けに回るわけにはいかない、

「アクセッ  」

アクセルシューター。反撃しようとした瞬間、再度矢が飛んでくる。
態勢を整え再びアクセルシューターを試みる。

「アク    」

また だ。また

「アクセ    」

矢が飛来する間隔を縫って攻撃しようと試みるが、まるでこっちの思惑を読まれているかのように邪魔され、反撃に転じる隙を許さない。間近にならないと矢が飛んでくるのがわからないためタイミングがとれない。

(この人、おそろしく戦い慣れている!!)

矢の命中精度、こちらの行動を読んでくるかのような洞察力、木々にまぎれ位置を特定させづらくする位置取り。そして闇に紛れるかのように黒く塗られた弓もこの夜の戦闘のためのものだろう。どれをとっても歴戦の勇士のそれ以上だ。

しかし、なのはも10年間戦い続けてき、エース・オブ・エースとまで呼ばれるようになった魔導士だ。威力は弱まるが、無詠唱で行える攻撃で反撃を試みる。その光球は20余、誘導弾を一斉に男にむかって襲い掛かる。

だが男はそれを落ちついて避け、また反撃に通じる。

(やっぱり無理か)

生い茂った木々に邪魔され相手の位置があいまいなうえ、誘導弾では威力やコントロールもあまり無い。直撃コースはせいぜい4、5個ぐらいのものだろう。なによりこっちの攻撃は光源体だから丸見えだ。相手の技量からすればあの程度の攻撃など避けられることは予想できた。いや避けて当然だろう。

「アクセ   」

再び、アクセルシューターを試みるが。相手は予想道理にこちらの攻撃の機会を潰していく。
そして徐々になのはの体に傷を刻んでいった。体にはバリアジャケットごしに衝撃が貫通し、いくつもの内出血が起きている。直撃こそないもののこのままでは時間の問題だろう。
低空飛行をして相手と同じように木々を利用するか、接近戦を試みるか、または一度離脱し体制を整えるかしないと相手の思うつぼである。

しかたない。今度は相手の射程距離圏外から一気に攻めるため今度は急上昇を始める。
ガードは張りつつ100m、200mと上昇していく。
だが、矢は途切れることを知らなかった。
高度300メートル、AMFにも似たこの状況下魔力測定は困難だ。相手を見失わないためにもこれ以上離れるわけにはいかない。
だというのに矢は全く変わらぬ精度でなのはに命中していく。もはや人間なのかと疑ってしまうような神がかった技術だ。

非常にまずい現状の中、とれる行動は思いつく限りで4つ

1・一時撤退
しかし相手は殺人鬼、今ここで逃したら大変なことになっちゃう。この案はダメだ。

2・このままの状態を維持し、援護を待つ。
もしかしたら矢が止むかもしれないけど、これ以上傷が増えたら動きがあきらかに鈍っちゃう。いつくるかもわからない援護を待つのは厳しい。

3・森の中に自分も入る。
絶対却下。相手を見失う可能性が高い上に、相手のホームグラウンドだった場合、罠の可能性もある。

4・接近戦
……これが一番無難かもしれない。相手は何をしてくるかわかんないけどロングレンジよりはましだと思う。

そう逡巡し接近性を選択する。と同時に20余の光球を展開させ放つ、男がそれを避けている間に一気に加速する。態勢を崩しながらもなお矢を討ってくるが、バリアを張つつ、さらに相手に突撃する。

今まさに届かんとしようとするその時だった。
目の前の男は持っていた弓をどこかへと消し去っていて、その手には新たに白と黒の双剣が握られていた。

(変形デバイス!?)

そう思ったのは一瞬、それでもかまわず更に加速を高め、相手に衝突した。

「レイジングハート!」

相手はレイジングハートを双剣で受け止める。
その威力に男の足元はすでに埋もれている。しかしその拮抗も束の間、

「ぬうっっ    」

威力に耐えられず、双剣が吹き飛ぶ。

(今だ!!!)

そうおもって、全力でレイジングハートをふるったが。

「えっっ!!???」

手に伝わるのは、鉄の感触。目の前の男の手には失われたはずの双剣が握られている。

「ぬぁぁぁっ」

訳がわからない。
勢いの失ったなのはの攻撃力より相手が上だった。レイジングハートをなのはごと吹き飛ばそうとする。何とか体制を保つが、男は刃を切り返して追撃に入った。それを勘に任せて避け、力任せに浮上する。

なのははまだ混乱の中だ。

まるで当たることが定められたような矢に、壊れたのに当然のようにそこにある剣。幻術などではない。この手にはまだ受け止めた感触が残っている。

全力全開。
強敵を相手にするときにはいつだってそうだった。どんな敵でも決してあきらめない、120パーセントのパワーを出してきたなのはだ。

しかし、今宵の敵はそれを許さない。奇怪でいて、恐ろしいほど戦いに慣れている。追撃戦だからどうしても相手のペースに合わさなければならない。
全力が出せない。そのもどかしさに焦ってしまう。

(この感覚はあの時の…)

訓練校の短期メニューを受けた際、自分たちに戦術指導をしてくれた教官を思い出す。
自分たちよりもランクは下なのにフェイトと二人がかりでも倒せなかった。その時の感覚に似ている

(でも、そのときの何倍も………!!)

状況が悪かったなんて言い訳にはできない。

目に張るのは弓を構えた姿。対抗策がない中、それでもあきらめずに向かい打つ。

(ぜったいにあきらめない)

しかし、このままではさっきの二の舞だ。結果は……見えている。
それを打破できるのは、

「ああああああああーーーーーーーーーっっっっ」

第三者の介入しかなかった。



そうそれはさっきなのはと話しているときに気絶してしまった少年。それがここにきて目を覚ましたのだろう。勇気半分、狂乱半分といった感じで男に立ち向かう。

「ちっ」

男は素早く双剣に持ち換え迎え撃つ。相手が混乱していたからだろうか、それとも彼女も目に入れつつ闘っていたからだろうか。その両方だろう、冷静に対処はしていたがそのでたらめさに少しやり辛そうにした。

「あがっっ」

僅かな時間で、その少年は腹に蹴りをいれられ吹き飛んでいた。

だが、それで充分だった。

男は急いで彼女の方に向き直る、と同時に剣を投げ捨てる。

空では大気が悲鳴を上げていた。星の如く光る光球。その1点に膨大な魔力が収束していく。スターライト、巨大な魔力球が隕石となり降りかからんとする。

そう、其は

「スターライト・ブレイカーぁぁぁぁ!!!!!!」








(side???)

危なかった………

今は、先ほどの場所からかなり離れた人気のない山奥を自動車道に沿って走っている。

こちらの魔力は既に尽きていた。対してあの少女はあれだけの砲撃にも関わらずまだ余力があったように見える。あの双剣を避けられていたら、手は無かっただろう。
場所、時間帯が良かったというのも大きい。
たかだか、20前後に見える少女にこれほどの力があるとは、驚愕も通り越して呆れが入ってくる。管理局というのはこんな化け物揃いなのだろうか?

残る勝因は経験の差だった。
片方は才能などなく、常に格上や、異質な能力を持った相手との戦闘を強いられてきた戦士。相手に切り札を使われたらそこで終わりだったかもしれない事など、使われて死にかけた事などいくらでもある。そう、エース切り札を出させない。それが衛宮士郎の戦い方の1つだった。
片方は天才といわれ常にトップを走り続けてきた少女。ここ数年では模擬戦を除けば同格、または格上の相手と戦ったことは片手の指で事足りる。
そういった2人の生い立ちの違いが、今回はこの男に勝利をもたらした。


(しかし、私の運の悪さは折り紙つきだな………)


管理局と相対することになってしまうとは。そう皮肉めいた笑いを浮かべ、考え事をしながら走っていると何かが見えた。

若い少女が倒れていた。
ガードレールがひしゃげ、向こうにはバイクが炎上している。

「交通事故か!」

男は彼の正義歪んだ夢を行うため、闇に浮かぶその灯をめがけ駈け出して行った。












[4247] 第01話  届かぬ夢
Name: ゆきほたる◆56193382 ID:647a93e7
Date: 2011/02/09 02:37
【第01話 届かぬ夢】





“side ティアナ”


「う……ん…」

とあるアパートの一室。そこのベットにティアナ・ランスターは横たわっていた。
ちょうど目を覚まそうとしているのか閉じていた瞳が徐々に開いていく。だが、夢見が悪かったせいだろうか、それとも元々寝起きが悪いからだろうか、暗い部屋を見渡すと覚醒していない頭で、のろのろと薄暗い部屋に明かりを灯そうとスイッチを探そうとしていた。

「うーん、あれ、どこ?……ん、………あれ、どこ………」

いつもあるはずの場所にスイッチがない。眠気眼ねむけまなこを擦りながらティアナはゆっくりと周りを見渡した。
そこでようやく自分の部屋ではないことに気が付いく。

「…………………っっ!!」

寝ぼけていた頭が一気に覚醒し、ベットから跳ね上がる。

「ここ、何処っ?」

見慣れない部屋。室内にはベットとタンスがあるがそれ以外には何もなく生活感にかける部屋だ。造りはあまりいいように見えなく、少なくとも機動六課の建物内のようには見えないし、ティアナの記憶にある部屋でもなかった。

「えっと…………」

ティアナは働かない頭をなんとか回転させて自分の現状を確認しようと試みた。

(あ そっか、私、飛びだしてそのまま………)

みんなの才能に嫉妬して、頑張ったけどうまくいかなくて…………
暗く、陰鬱なイメージが頭の中を駆け巡っていき頭の中が再び混沌としそうになってきたが、それより前にコトッという音と共に部屋のドアが開かれ、聞きなれない声がティアナの耳に届いた。

「目が覚めたか」

「だ、誰っ!?」

思わず後ずさる。目の前には知らない男が立っていた。そして明かりをつけるとティアナに近づいてくる。身長は190cmぐらいだろうか。髪は白髪のオールバック、肌は褐色という特徴的な外見をしていた。そんな男がいきなり目の前に出てきたのだから驚くのも当然だろう。

だがティアナの困惑を意に介せず、男は聞き返してきた。

「といわれてもな。君は昨日のことを覚えていないのか?」

淡々とした感じで男は身をすくめる。

「昨日のこと………?」

だからバイクで飛び出してそれから……あれ、どうなったんだろう。だいぶ走ったと思ったんだけどそこからの記憶が曖昧になっている。

「覚えてないのか。君は昨日ここから少し離れたところで倒れていたのだよ。バイクごとガードレールからはみ出していたし事故なのだろうな。運がいいことに軽傷ですんだようだ。一応医者にも見せたのだが、ただの軽い打ち身で問題ないと言っていた」

「そう……なんですか」

よく思い出せないが、ずっとあのことを考えながらバイクに乗っていたのだ。今考えるといつ事故してもおかしくなかった。

「すいません。ご迷惑かけて」

「いや、気にしなくていい。私が勝手にやったことだ」

目の前の男はそうそっけなく返答すると

「それよりまず食事にしようか。丸一日何も食べていないんだ、腹も空いただろう。詳しい話はその後にしようか。なにか食べれそうなものはあるか?」

と尋ねてきた。ティアナは男の突然の申し出にますます戸惑いながらも

「えっと、なんでもいいです」

「そうか、なら適当に作っておこう。その間にシャワーでも浴びてきたらどうだ?汗をかいて気持ち悪いだろう。まあ、見知らぬ男の家だ、入りたくなければ別にいいし好きにしたまえ」

着替えはそこに置いてあるといって、シャワーの場所を示すと部屋を出ていった。
ティアナはしばらく混乱する頭で悩んだのだが、ドロドロとした感情の中で何か考えるのが億劫になり、全身に感じる汗の気持ち悪さも手伝ってシャワーを浴びに部屋を出て行ったのだった。









「ごちそうさまでした。すごく美味しかったです」

「いや、口にあったようで良かったよ」

そう言って士郎さん(そういう名前らしい)は食器を片づけに行く。
シャワーを浴びて汗を流し、空っぽだったお腹の中が満たされたからか、ティアナは幾分気持ちも晴れて思考も正常に働くようになっていた。

「あ、わたしも」

「いいからそこに座っておけ。終わったら茶でも持ってこよう」

外見とは裏腹に慣れた手つきで洗っていく。
出てきた食事はほんとにおいしかった。お腹が空いていたということもあったが、それより本人の腕前によるところが大きいだろう。和食、地球の日本という国の料理らしく本人の得意料理だということだ。

食事の途中で簡単な自己紹介と今までの経緯の説明をしてもらった。
場所はマフィアの街、ニブルヘルム。それを聞いてゾッとした。たまたまいい人に助けてもらえたが、他の人ならどうなっていたか分からない。

いや、まだこの人が本当にいい人という保証は無いんだけど。でも悪い人じゃないって感じる………御飯もおいしかったし。

そんなことをぼんやり考えていると、士郎さんは洗い物が終わったのか戻ってくるとテーブルに紅茶を並べた。


出された紅茶に満足しながら士郎さんとテーブル越しに向かい合って座る。
たぶん今度はこっちが説明するすべきだろう。
何を話そうか、どう切り出そうかと迷って、しばらく沈黙が続いたが士郎さんから話を切り出してきた。

「で、何かあったのかね?君みたいな若い女性があんな山道をあの時間に通るっていうのは?もしかしたら力になれるかもしれん」

「………」

ティアナの表情は再び曇り沈黙が走る。
理由は簡単だ。
私が逃げ出したから………とんでもない高みを見せつけられてしまったから……
それを口に出すのはみっともなくて……でも、

「いや、無理に言わなくてもいい。別に個人のプライベートを覗こうとは思わんよ。言えないようなこともあるだろう」

「いえ………」

でも、自分の中に溜め込むのも辛かった。誰かに話したら少しは楽になるのかもしれない
……だから

「ちょっと仕事でしっぱいしちゃって、混乱して、わけわかんなくなっちゃって、気づいたらバイクで飛び出して、それで………………」

ぽつぽつと少しずつ、心の中に溜め込んだものを吐き出していった。


殉職していった兄が上官から汚名を着せられてしまったこと。

だから兄の目指していた執務官になって汚名を晴らそうと決意したこと。

でも空隊にも士官学校にも落ちたこと。

それでも頑張っていたら、管理局の機動6課という精鋭部隊に声をかけてもらえたこと。

そこでは天才や歴代の戦士ぞろいで自分がひどく凡人だったこと。

一生懸命努力したのにそれを否定されたこと。

だけどそれは違って隊長の部下を思いやってのことだったこと。

天才。本当の天才というものを知ってしまったこと。


始めたどたどしかった声は次第に激しさを増していく。今まで抑えてきたのだろう、溜まってきた感情がいっきに溢れ出す。それを隠そうともせずさらに続けていった。

「でも、それでも努力しなきゃ、無茶をしなくちゃ、夢はかなえられないんですよ!!わかってます。なのはさんの方が正しいんです。結局、私のやってたことは仲間を危険にさらして、体を壊していくだけだって。正しいです、どうしようもなく正しいんです。
 でも、じゃあ皆と同じだけやって、同じことをして本当に執務官になれるんですか!?9歳でAAA級のフェイトさんですら、2度も試験に落ちてるんですよ!!昔のなのはさん達が戦っている映像を見してもらって本当にわかりました。次元が違うって。噂には聞いてたんですけど、どうせ誇張されたものだろうって。でも実際はそれ以上で……」

涙声混じりの叫び声が途絶える。

「こんなに、こんなにも違うって思わなかった。無理なのかな。私なんかじゃ執務官になんてなれないのかな」

認めてはいけないことを、ティアナにとって絶対認めたくないことをつぶやくように吐き出した。大量の涙をこぼしながら。


「………」


士郎は何も答えない。難しそうな顔をしながらただティアナを見つめ続けている。
部屋には時計のカチッ、カチッという音と、ティアナの嗚咽交じりの息遣いだけが響き渡る。いくら針が時を刻んだろうか。

「何も……言わないんですね」

てっきり努力すればなんとかなるって励ますのかと思ってました。ティアナはそう継ぎ足した。

「そう言った方がよかったか?」

俯いたまま首を振る。

「そんな気休め、欲しくなんてありません」

だろうな。士郎はそう相槌を打ちながらながら話を続けた。

「……昔なら そう言っていたかもしれないがな」

士郎は自虐的な表情を浮かべそういった。その視線はティアナを見ていなく、それは己の過去を幻視いるように遠い表情をしながら、

「努力しても、頑張ってもどうにもならないことっていうのは………あるのかもしれないな。特に………途方もない夢をもっていたら、な」

なにを回想しているのだろう。懺悔、後悔、苦悩、多くのものがその顔に詰まっているようにティアナの目には見えた。

「………士郎さんにもあるんですか?」

「まあな。何をやっても一流と言うにはほど遠くて、でも俺は馬鹿だったから突き進むことしかできなかった。叶えたい夢があって、届きたい頂きがあって足掻き続けたよ。」

この人もなのだろうか。その内容はまさしく今のティアナと被る。目の前のこの人も本当にそんなことがあったのだろうか?なら………どうなったのだろう?
少しの静寂、そしてティアナは恐る恐る尋ねた。

「それで……諦めたんですか?」

士郎は眼を閉じ、一度深く息を吐くと

「さあ、もう自分でも分からなくなってきた。夢は幻想だと知り、理想はその形を歪めていった。今ではそれを言葉にすることも難しい」

「…………」

「だがそれでも、結局俺は未だに縋りついているのだろうな。ほんの僅かでも希望があるうちは足を止めることはできないだろう………」

努力では無く、縋るすがる 、か。それはいったい何を表しているのか。

「ティアナは……諦められるのか?」

士郎さんはそう聞いてくる。

執務官になり、ランスターの銃はどんな敵でも撃ち抜けるっていうことを証明する。それは自分にとってどのくらいのものなのだろうか。どれだけの実力差を見せつけられても諦めきれないものなのか。零に近しい可能性に希望を見出すことができるのだろうか?

「……わかりません、今はまだ」

そう、簡単に諦めるわけにはいかない。でも……現実は残酷だ。

「ああ、それでいいだろう。多分 俺はどうしようもなく間違えてしまったのかもしれない。だからティアナはよく考え、そして悩んだらいい。これからのことや自分の夢を」

「私の夢……」

「ああ、君の兄が本当にそれを望んでいるのか。君には戦いなんかに関わらないで過ごして欲しいんじゃないか………。そういったことも含めてな」

「………はい」

そういったことは考えたことがなかった。いや、考えまいとしていたのかもしれない。

悩む……か。
走って、走って、周りが見えなくなって。私はいったいどうしたいのだろう。どうすべきなのだろうか。考えなくてはいけない。

そう思わせるだけの重みが、士郎さんの言葉にはあった。

士郎さんを見る。きっとこの人もきっとまだ迷っている。
それは何なのだろうか? 聞かれたくないことなのだろうけど、それでも聞いてみたかった。


「あの、聞いていいですか?」

「なんだ?」

「士郎さんの夢ってなんですか?」

一瞬表情が固まって、数拍おいてから、苦味を潰したような顔をして、困ったように、だけどはっきりと自分の夢を口にした。

「正義の、味方だよ」



















   
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追記
あの作品の元ネタです。







[4247] 第02話  エース・オブ・エース
Name: ゆきほたる◆56193382 ID:647a93e7
Date: 2011/02/09 00:35
【第02話 エース・オブ・エース】






ミットチルダ 時空管理局本局。通称『本局』の大会議場。そこに集ったメンバーは全て佐官以上。元帥、将官の姿まで見える。それが今、かつて無いほどの異常な雰囲気にさらされていた。その原因となるものがまさに現在、パネルに映し出されている。

顔面を蒼白にさせる者、口を押さえて席を立つ者、怒りで肩を震わせている者、感情を抑え込み画像を睨むつけるように見る者、人それぞれであるが、あまりの光景に皆があてられていた。

それは先日発見された職員達の遺体の光景。
赤、一色で彩られた形はどれもがもはや原形を全く留めておらず徹底的に破壊されていた。

ここに集められたのは佐官以上の兵ぞろいだ。刺殺 絞殺 撲殺 惨殺 圧殺 斬殺 完殺 全殺、そういった惨劇をほとんどが体験している。

だが、今回ほど凄惨な光景に遭遇した者はいなかった。腸が飛び出て、顔には目がなく、胸や背は引き裂かれ、肢体には心臓がついておらず、手と足が付いている方が珍しい。そんな光景を目の当たりにして、激しい吐き気、嫌悪感というよりも拒絶感だけが浮かび上がる。それだけ異常な情景だった。

「これが現場の光景です。午前1時過ぎに先遣部隊が突入、そこで犯人と思わしき人物と遭遇した後、交戦。部隊の人物に対し自分が殺したなどとい言う主旨を供述していることに加え、被害者たちの死亡推定時刻は犯行時刻前後と判定された人物が何割かを占めており、その犯人による殺害と見て間違いないと思われます」

進行役といわれる青年は周りが落ち着きだした後、そう切り出した。

「先遣部隊はこの穴を封鎖していましたが、しかし男はこれを突破。ちなみに被害は軽傷4人のみで後は気絶させられたのみ。
 部隊は空戦AAA-ランク1人他Aランク3人、Bランク4人の計8人の二個小隊です」

息を飲む声が聞こえる。ランクからいってもこの小隊は相当レベルの高い小隊だ。それを一人で倒したのだから無理もないだろう。

進行役の青年は一息し………思い切って次の言葉を放つ

「その後、現場に応援に居合わせた高町なのは一等空尉と交戦しそれを退けた後、逃走し行方は分かっていません」

ただその一言で会場は騒然となる。高町ってあの白い悪魔が!?まさか。オーバーSランク魔導士を!?そういった声が会場を行き交う。

無理もないことだろう。
高町なのは。数々の大事件を解決し若手では最強、素質だけで言えば管理局の中でも5本の指に間違いなく入るだろう不屈のエース・オブ・エース。空にいるもの、空を目指す者にとって誰でも一度は聞いたことがあろう人物だ。

「説明不要かもしれませんが彼女は機動六課所属の、S+ランク魔導士。なお戦闘では肋骨が数本折れていただけで命に別条はありません。意識も戻っており数日で回復できるでしょう」

そう言い、会場の雰囲気を一度区切る。

「では犯人に対して現状で分かっていることを公開します」

さすが高階級の面々といったところか、不安、混乱、怒りそういったものを押し殺し意識をパネルに集中する。

「まず犯人の特徴ですが映像データはありません。視覚、通信阻害のミッドチルダやベルカ式のものではないオリジナルのフィールドが展開されていたためです。そのため以下の特徴は現場にいた人物の証言のみとなります。
特徴として挙げられるのは、身長190cm前後、体形は極端に太ったり痩せすぎたりということはなし。髪の色は白髪。服装は真紅のコートを着ており、胸には銀の甲冑。これが犯人のバリアジャケットだと思われます。
戦闘タイプはベルカ式でもミットチルダ式でもないレアスキルと想定されております。先遣部隊との戦いで使用したものは白と黒の双剣。魔法を使用した形跡はないそうです。この戦いでは、ほとんどの局員が先ほどの光景や血の匂いにあてられまともに戦える精神状態ではありませんでしたので接近戦の実力がどの程度なのかは単純に判断はできませんが相当高いものと思われます。
高町なのは一等空尉との戦いでは主に弓を使用。矢が漆黒に塗られており魔法による発光がなく魔法でなく物質だと推定されています。夜に視覚することが困難であり、また速度は音速を軽く超えてくるようです。魔力付加がないため攻撃力はそこまで高くないようですが、少なくともバリアジャケットを着ててもダメージを与えることのできるぐらいの威力はあるようです。また接近戦で使用した双振りの短剣はブーメラン状に投合することも可能なようです。他に双剣を手放しても、その次には再び手の中にあるといった現象が確認されております。
バリアに関してはオーバーSランクの攻撃を防ぐ楯のようなものも確認されています。
戦術も優れており、高町なのは一等空尉が強力な攻撃しようとするたびに邪魔をされ詠唱を必要とする魔法を出すことが非常に困難ということでした」

誰が見ても状況は悪い。犯人の手掛かりはほとんどなし、仲間がいるのかも不明。

「それでは次に亡くなった局員についてですが……………」

そうして不安と困惑が入り混じる中会議は続いていったのだった。











“side はやて”

「…………はぁ」

会議終了後、六課へ戻る途中だった。もう消灯時間は過ぎており、僅かな明かりの中にはやての足音だけがやけに響く。はやては先ほどの会議のことを思い出すと自然とため息を漏らしていた。その顔はいくらかやつれているように見える。無理もないだろう。この5日間、睡眠も食事もほとんど取ってないのだから。それはもちろん多忙ということもあるのだが理由は別にある。それはそれとして、

(まあ、最悪の事態にはならへんでよかったけどな)

最悪、はやてやなのはが何らかの責任を追及される事態になるかもしれなかったが、あの光景を見て誰もそんなことを言う気にはならなかった。それだけの惨劇だった。

(悪いことは重なるもんやな……それともなんか関連があるんやろか)

カリムの預言、その管理局が滅びるというとんでもない予言。それはレリック事件に関するものだけだと固定観念があったけど、管理局も崩壊という点ではこれも関係する可能性もある。

(でも、そうだっていう証拠も無いしな………でもな……はぁ)

再びため息。頭痛のタネはいくつもあるがさっきの会議で出た一つ。
この連続猟奇殺人事件の対策本部ができることが挙げられる。それはいい、問題なのはなのはが実際犯人と対面した者として、その一員に含まれるということだ。まだ本決定ではないのだが、六課として なのはが抜けるのはあまりに痛い。

(しかたない、ていうのはわかるけどな……)

長期的視野で見れば、カリムの預言のほうが大事件だろう。
しかし、それはあくまで預言。それもよく当たる占いぐらいの確率だ。
それよりも実際に起きている、きわめて異常な殺人事件に焦点を絞るのはむしろ自然な成り行きだろう。はやてだってそうは思うし、絶対こんな事件を見過ごすわけにはいかない。
そんなことを考えつつ角を曲がると窓からふと光がこぼれた。

(………?だれか夜間練習をしてるんやろか)

星の輝きの中、その光は縦横無尽に輝いている。まるで夜の車のテールライトのように空を彩っている……
このような高速飛行をできるものは局員でもほとんどいない。そしてこの光ははやてのよく知る魔力光だった。

(てっ…なのはちゃん?)

いつもと動きが違うことに気づく。外から見ると美しいとすら感じる軌道ではなく今の動きは秩序のないものに感じる。

(まだ、調子が悪いんや)

そう思い、訓練を止めようかと窓からなのはの方に飛んで行ったが、ふと気付いたことがあり、いったん空中で止まった。よく見るとなのはの動きは病み上がりで動きが鈍っているというよりも、あえてそうしているような印象を受けた。まるで目線の先には誰かがいて、その相手と戦っているような印象だ。

(…………………………)

恐らくそれは先日の事件の相手だろう。
はやてが近くに来ているのにもかかわらず気付かないほど集中している。その表情には必死さ、というよりも焦りの色が濃く伺えた。

しばらく見ていたがなのはは訓練を終える様子を一向に見せなかった。病み上がりの体でそこまでするのは体に負担がかかるだろう。だから、

「そこまでにしときや」

そう止めに入ったのだった。

「はやて……ちゃん」

「病み上がりやろ、このぐらいにしといたほうがええよ」

なのははまいったなという顔で

「うん、そうだね」

そう言うと2人は建物の中に入って行った。






「はい、コーヒーや」

「ありがと」

談話室のテーブルに真向かいに座る。コーヒーに口をつけ胃に流すとようやく気持ちが落ち着いてくる。そうしてなのはは顔を上げはやての顔を覗き込んだ。そこには

「あれ、はやてちゃん痩せた?」

そう、ものすごく目立つわけではないがそれでも以前よりはずいぶん痩せたように見える。それもあまり健康的とは言えないような痩せ方だった。

「わかる?」

「うん、大丈夫なの?」

「平気や、最近ちょっと忙しくてな……」

それは半分嘘だった。忙しいのも嘘ではないのだが、本当の原因はあの惨劇の現場に実際に行き、強烈な血の匂いとそこで起こった光景を目の当たりにしてしまったからだ。昨日まで胃が食事を受け付けようともしなかった。スクリーンですら凍りつく光景。それを実際に見てきたのだ。はやてはしばらく肉を食べたいなどとは思えないだろう。

「会議だったんだっけ、こんな時間までになったんだ」

「いろんな事件がいっぺんに来たからな、しょうがないんやけど」

そう言って、はやてはコーヒーを口に運ぶ。

「今日な、あの事件の対策本部ができることになったんや。それでな、なのはちゃんも実際に対峙した人間として、また戦力としても入って欲しいって話がきたんや。勧誘ってよりも強制やな、あの言い方は」

「そう……なんだ」

ある程度予想していたのだろう。素直にはやての言葉に頷いた。

「六課の仕事はどうなるの?」

「まだ分からん。だけど新人たちに教えるのはしばらくヴィータちゃんたちに任せるしかないやろ」

「そっか………ティアナどうしてる?」

ずっと気がかりだったこと。あの時、あんな別れ方をしてしまってからどうなったのか気になっていたのだ。じっくり話そうと思っていた矢先こんなことになったせいで会うもできないでいた。

「わたしにもわからへん。この5日間はずっと上とのやりとりに詰めっぱなしやったからな。まともに六課に戻ってへんねん」

「そっか」

そういって2人とも黙りこむ。紙コップの中のコーヒーはすでに空になった。

「………でも、ほんま無事でよかったよ」

「………そだね」

そう言うと なのはは俯いた。

「今どうなってるの?」

なのははまだ佐官に就いていないこともありほとんど扱いの難しいこの事件の詳細を聞かせてもらっていない。だが今回任務を受けるにつけ与えられる情報も増える。

「犯人については ほとんどわかってへん。なのはちゃんが知ってること以外ではないと思う。今回の会議も対策本部を立てるってことだけしか決まらんかったしな。
………今回の事件が陸にも漏れたらしくてな。まあこんだけの事態になれば当たり前やけど。今はその対策と責任の押し付け合いが激化しとる。大きな組織って言うのはこんなときもろいな」

怒りをこめてそう話した。以前からそうだったが今回の件でその性質が悪化したといえるだろう。まあ、世界の頂点に立つ巨大組織同士が仲が良かったらそれこそ問題ではあるのだが………

「………犠牲者の人たちは?現場にも行ったんだったよね」

「――――――22名が見つかっただけや。しかも半分近くは民間人やった。残りの人たちは見つかってへん。現場は…………地獄やったよ」

「っっ………!!」

ギリッと奥歯を噛みしめる音。

私が捕まえなければいけなかったのに、私が逃がしたせいで!!!そしたら少なくともこれ以上の犠牲が増えることは無かったのに!!!

そんな想いがなのはの中を駆け巡っていた。

「なのはちゃんのせいやあらへん。敵の戦力を甘く見てたうちらのせいやよ。大事なのは次に絶対捕まえることや。そのためにがんばろ、な」

そうはやてが言ったが、なのははいつものように気分を切り替えることが出来なかった。

「………次…勝てるよね」

「どうしたん?なのはちゃん、珍しく弱気やね」

今までどんな強大な敵とも、それこそ闇の書を相手にしたときだってくじけなかったなのはが今日はやけに不安定だ。

「うん、今回の相手はさ、なんか違うんだよ」

「違う?」

「そう、今まで対戦してきた相手はさ、すっごく強かったこともあったけどただそれだけだった。だから全力全開、みんなで力を合わせてやってこれたんだよね」

「………」

「でも今回は何もさせてもらえなかった。こっちがやろうとしてること全部読まれているような感じで、アクセルシューターとかも使う機会すら与えてもらえなくて。
……なんていうか、歯車がまったくかみ合わない感じですごく気持ち悪いって言うか。
昔も短期間の訓練で教官に習ってた時とかそういうことはあったんだよ。でもそれから訓練もたくさんしたし、戦い方もうまくなったつもりだったんだけど………
最後にはスターライト・ブレイカーまで防がれちゃうし」

挫折。彼女は管理局に入ってからそれを本当の意味で経験したのは1度しかない。天才と呼ぶしかないその才能でいくつもの事件を乗り越えてきた。特にSランクを取得してからは互角に戦えたのさえ彼女の仲間たちとほんの少しの管理局の上級局員だけ。それ故、自分が相手より未熟かもしれないというこの現状に不安を感じるのも無理はなかった。

「でも、それは山ん中で、しかも夜だし防衛戦だったからやろ。他の条件やったらそうはならなかったんやない?」

はやてはそう言って、なのはを元気づけようとするが

「そうなんだけどね……」

と なのは は続ける。そう、それは彼女が感じている不安の本質だった。

「一昨日、私と突入したメンバーと一緒にあの時の状況を説明したんだよ。その時さ、私が負けたって聞いてから突入したメンバーが、ほんと、すごく不安そうな顔になったんだよ。それまでも元気はなかったんだけど、もう、なんていうか顔色が変わったって言うか……
みんな私のこと知ってたみたいなんだよね。」

「…………」

「『エース・オブ・エース』か。
そう呼ばれているのは知ってたけど、今まで深く考えたことはなかった。そう言われても私は私だから関係ないって思ってた。
でも………今回感じたんだ。もしかしたらそれは私が考えてたよりずっと、ずっと重い敬称かもしれないって。
………絶対負けちゃいけないんだって思った。」


英雄。あるいはそれに類似するもの。

その栄光を得たものは須らく皆、尊敬と畏怖の念を抱かれる。組織においてそれは、権力では与えることのできない莫大な影響力をもたらすこともある。ソレがいるだけで戦場は一気に活気づき…………また、ソレの敗北による影響も計り知れない。

20歳にも満たないであろう彼女は、まさにその頂きに迫ろうとしていた。

そして今回、初めてその負の部分によって自覚したのだった。それはどんなに彼女に実力があろうとも、それを背負うには彼女はまだ若すぎた。

「そっか、だから」

病み上がりであんな訓練をしてたのか。

「うん……だけど、前みたいなことは繰り返さないよ。今日はちょっと、いろんなことがあってあれだったけど、明日からはちゃんとするよ」

なのははそう言い聞かせるように言って席を立つ。

「そろそろ戻ろうか。明日も忙しいんだし。」

「……そやな」

空になった紙コップを棄て、談話室から出る。

「大丈夫。なのはちゃんなら絶対大丈夫やよ。それに私達だっている。だからそんな抱え込まんでいいんよ」

別に根拠はない はやての言葉。だけどその言葉はとても暖かくて心に染み渡る。

「うん、ありがと」

そう微笑み返して、2人は別れた。



エース・オブ・エースという名の重責。
それは彼女に降りかかる悪災の序曲に過ぎない。
彼女は無意識ではあったが、運命の歯車が動き出したことを感じていたのだった。














(side ???)

「少々手違いはありましたがこれで当分の間は誤魔化せそうですね、キャスター」

ニブルヘルムにおけるホテルの1室。そこには2人の女性がいた。部屋は魔術師の工房と化しており近代の建物といったイメージは皆無だった。
口をあけた方の女性は漆黒の衣に纏っており、長い白髪が印象的だ。年は20代半ばだろうか。彼女は妖艶な笑みを浮かべながら、傍らのローブで身を纏ったキャスターと呼ばれる女性にそう話しかけた。

「そうですわねマスター。本当はサモナーを管理局に対する餌に使う予定でしたが、あの赤い男が勝手に引き受けましたから。まあ、どちらにせよあれには囮としての使い道以外は無いでしょうし、結局大して変化はしないでしょうが」

「そうですね………まあ、でも彼の芸術はなかなか趣深いものがありますから、私は使わないで済むんだったら、そのほうがいいですよ?
だから残念とも言えるけど。管理局の皆さんにあの芸術を見せてあげたかったのに」

彼女はくすくす、と面白そうに笑って言う。だが反面、キャスターと呼ばれた女性は苦々しい顔をしていた。恐らくそのサモナーという人物に嫌悪を抱いているのだろう。

キャスターは目の前のマスターと呼ばれる女性に対しては幾許の共感を感じていたが、こればかりは彼女にも受け入れることはできなかった。だからといって、わざわざ止める程のものとも感じてはいなかったのだが。

「それにしてもまさかあのアーチャーがこの世界にいるなんて、本当にすごいですね」

どうやら話はさっきの赤い騎士の話に移ったようだ。感慨ぶかそうにマスターと呼ばれる女性は言った。

「第5次、13年前の聖杯戦争におけるサーヴァントでしたか。俄かには信じがたいことですが………あの女なら可能かもしれませんわね」

「ええ、さすが姉さんって所です。何処の英雄か全く分からなかったと思っていたら、まさか並行世界の人間だったなんて。しかも現代の。真名なんて分かるはずないですよね~~~」

なにやらえらく上機嫌そうに笑っている。新しいおもちゃができた、そういった感じだ。

しかしそうは言ったがキャスターには唯の人違いとしか思えなかった。確かに全く可能性がないわけでは無い。
なにせ命を対価にしたにせよ、彼女の姉と呼ばれる女は、彼女達をこの世界に吹き飛ばしたぐらいだ。並行世界にリンクすることぐらいはしてのけるかもしれない。

だが、この世界に本当に英霊の座があるのか?管理局ののさばるこの世界、魔力は過去ではなく、超科学といった未来をもった物に使われている。抑止力というものがあるかは甚だ疑問だった。だが最高ランクの魔術師とはいえ奇跡に届いていないキャスターには確かめようも無かったのだが。

それに、あの男の追跡には失敗した。あの馬鹿力の魔力の打ち合いで監視していた媒介が消え去ってしまったからだ。だから確かめようもない。

懐疑的な彼女だったが、わざわざマスターの機嫌を損ねるようなことを言う必要も感じなかったため放っておくことにした。

「それにしてもキャスター大丈夫?はっきり言ってあの空飛んでた方、弱いサーヴァントよりよっぽど強いんじゃない?」

そんなことを言いつつ、だが別段心配してないような様子でキャスターに尋ねた。

「問題ありませんわ。マスター。
この世界のマナは神代と同等かそれ以上に豊富です。ここでなら神殿を作らなくても、それ以上の魔術行使ができますもの。それに対魔力はともかく抗魔力は軒並み低いですから、魔導士は。たかが小娘に負けるなどありえません」

プライドに触ったのか少々ムキになっているように聞こえたが、一方でそれを掛け値なしに本気だということも伝わってきた。

「そう?良かった。でも、あの子と戦うんだったら私がやりたいな。
高町なのは1等空尉。すごいよね。あの年で英雄扱いだよ。
あんな、かわいくて、美人で、性格が良くて、優秀で、みんなの憧れ………まるで誰かさんみたい」

だから

「壊したい。その顔を絶望に浸して、遊んで、犯してあそんで破壊してあそんで凌辱してあそんで大切なものを奪って あそんで   私と同じにしてあげるあそびつくしてあげる

歪んだ笑みで、顔を恍惚とさせ、間桐桜は言葉にしたのだった。
















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追記

サモナーは召喚士。オリジナルのクラスを作りました



[4247] 日常編part01 (注:日常編を飛ばすと本編が分からなくなります) 短編×3+没ネタ×1
Name: ゆきほたる◆56193382 ID:647a93e7
Date: 2011/04/16 12:08
【日常編その1 短編×3+没ネタ×1】





“side レジアス” 『弱み』


「では、本当に関係ないのだな」

「ああ、そう言っているだろう?信用してもらえないというのは悲しいものだね」

「どの口がほざくかっ!!!」

そう言ってレジアスは通信を一方的に絶った。

(ちっ、スカリエッティめ。)

そう忌々しく呟く。

当然であるが内容は先日の1件。海の局員の連続失踪事件ならび大量殺人事件である。
これは陸にとって絶対的なアドバンテージをとれる好機であることは間違いない。

だが、一方でレジアスは大きな癌を抱えていたのだった。

それが、スカリエッティであり、突き詰めれば犠牲を出してでも大勢を救うという彼の正義の在り方だった。

レジアスはスカリエッティの研究のため多くの局員を直接的であれ、間接的であれ、犠牲にしてきた。戦闘機人の租体としてや、その研究を邪魔してきた者。レジアスのかつての親友、ゼストもその1人である。

それに加え、今回の失踪事件は陸の局員には被害者はいなかった。少なくとも発見された局員の12人の中には1人も、だ。他の不自然な失踪者も陸からは出ていない。これでは逆にあまりにも不自然すぎる。

この不透明な状況下、あまり突っ込んで叩くと、本局の連中がレジアスの背後を本腰を入れて探ってくる可能性がある。今までは体裁もあり表立って攻撃を仕掛けてこなかったが、本局の優位を揺るがすような事態になると話は違ってくだろう。もともと海は優秀な人材やレアスキルもちの宝庫だ。下手につつき過ぎて本気にさせたならば、スカリエッティとの関係や、過去に隠蔽した事実を暴かれる可能性は非常に高くなる。

もともと黒い噂が絶えないレジアスであり、本局がレジアスを疑って反撃してくる可能性は十二分にあった。

その上、本当にスカリエッティが関与していないという証拠もない。科学技術こそ優れてはいるが、あの人間性はとてもじゃないが信じることはできない。スカリエッティの話を鵜呑みにするなどできようはずも無かった。

(ちっ)

現状維持、今の所はそれしか無い。責任は追及しつつ、本局が反撃に転じないぎりぎりのラインを読み取るような政治手腕が必要だった。レジアスはそんな切り札を生かしきれない状況に苛立ちを隠せないまま、次の会議へと向かっていった。














“side ティアナ” 『数日後』



木々が生い茂る雑木林
燦々と照らす日光も、その葉に遮られ地上までは落ちてこない
聞こえるのは、僅かな風に揺らされる木々のざわめきと、一人の少女の息遣い。

「はっ、・・・・はっ、」

彼女の愛銃、クロスミラージュを構えて照準を付けてはまた戻す。
何度も、何度も、何度も。
少女は高すぎる壁を迎えてなお、
心が折れそうになりながらまだ、
地道で、堅実な、反復練習を繰り返す。

こんなことをしていても、圧倒的な力の前にはなんの意味も成さないのではないかという思考が常に彼女を束縛するが、それでも止めることはしない。


非才の身でありながら進むのを止めたら、それこそ届かなくなってしまうから。


本当に諦めるまでは、走るのは中断しても、立ち止まってはいけない。
歩きながらでもいい、決して止まらないと決めた。


「はっ、はっ、………は、」


疲労が蓄積し、規則正しく吐かれてた息に乱れが生じる。
動きとしては六課の戦闘訓練よりも少ないはずだが、単調作業を続けることによる精神的なダメージからくる疲労蓄積は殊の外大きい。

数日間のブランクがある体に限界が近づき始めたと、体が悲鳴を上げ始めた頃、


「ティアナ」


後ろから呼びかけてくる声があった。


声の主は衛宮士郎。彼女の現在の居候先の家主である。

この場所に来た理由はティアナを迎えに来たためだろう。


この日は、ティアナが居候を決めたので生活用品を買うことになっていた。

その出かけるまでの数時間を無駄にしないために、士郎が使っているという訓練場で自主錬に励むことにしたのだった。

管理局の訓練場と比べ、お世辞にもいい場所とは言えないが、それでも結界が貼ってあり、破壊音を気にせずに思いっきり射撃もできるのは今の状況を考えると幸運とも言える環境だ。

「どうだ、調子は?」

振り返ったティアナからは汗が滝のように滴り落ちており、体中が疲労で震えていながらも、それを押し込めて返事を返した。

「大分いいですけど、本調子ではないですね。怪我の方はもう大丈夫ですけど、何日か動かなかったせいで体が鈍いかな」

「そうか………明後日は間に合いそうか?」

「大丈夫です」

即答

間髪入れず答える。迷いは無いという意思をしっかりと示しておかないといけない。

「そうか…………」

そう返事をする士郎が続いて何かを言おうとしているのは分かったし、それは都合の良くないことだと容易に推測できたのでティアナは話を強引に断つことにした。

「すいません、着替えてくるので少し待っててもらえますか?」

「ん……ああ、わかった」

まだ何かを言いたげだった士郎を余所に、ティアナはいったんこの場所から離れた。

流石に、汚い恰好で外に出るかけにも行かないし、汗臭い体で車に乗り込むことなんか恥ずかしくてとてもじゃないができない。

迎えに来た士郎には悪いと思ったが、結界のせいで連絡が着かなかったので仕方ないと思いつつ、ティアナは士郎を待たせることにした。






彼女達の向かう先はニブルヘルム近郊のショッピングモール。この街にしては比較的に治安のいい場所で、家族連れもちらほら賑わう。

目的は士郎の食材調達(居酒屋で働いているらしい)とティアナの生活用品の購入。
ここでは両方が揃うので都合のいい場所だった。


そう、ティアナは士郎の所に居候をすることにした。


管理局と離れて、落ちついてじっくりと考えたかったからだ。

そんなことをしたら昇進なんてもっと難しくなるだろう。下手をすれば訓練生に逆戻りかも知れないし、最悪解雇も考えられる。

現実的に考えて執務官を目指しているのであれば、管理局に戻った方がいいのは間違いない。悩み事はそこでもできるだろう。

だが、戻れなかった。

管理局にいたら間違えなくティアナの心はささくれ立ち、暴走し、悩み事をする所ではなくなってしまう。

傍から見ると目的と行動が矛盾している行動に思われるかも、何をしているんだろうって思われるかも知れない………

だけど今のティアナには、高町なのは達の顔を見ることはどうしてもできそうになかったのだ。

人はそれを逃避というのだろう………

それでも、管理局から離れて、よく自分のことを考えてみようと思った……士郎さんも言ったように。




そう決めた後、深刻な問題として、財布すら持っていなかったという事実が存在した(この前の夜は免許不携帯でもあった)

しかもティアナには家族もいないし、変わりとなる当ても思いつかない。

その旨を士郎に相談したらいくつか案が出てきたのだが、(お金だけ貸してくれるとか、他に住み込みのバイトを探すとか)、最終的に士郎さんの所に住むことにした。

理由はいくつかある。

まずは士郎の人格。ここ数日接してみて理解した士郎の人柄は、今のティアナにとって好ましいものだった。

寡黙ではあるが、話は真摯に聞いてくれ、でも下手に“こうすればいい”とか諭すようなことは言わない。そんな距離感が心地よかった。

それに「正義の味方」

本人はその言葉は使わないで欲しい(ここら辺の事情はまだ突っ込んで聞かない方がいいのだろう)と言っているが、それでも管理局とは関係なく戦っているらしい。

組織である管理局では手が出せない場所を叩く。違法ではあるが、少なくともティアナにはそれが倫理的には悪いことだとは、あまり思わなかった。

だからというか、訓練をする場所もあるし、それに………戦闘にもついていけば、実戦経験も積める。無理やりにでも同行する心算である。幸い幻術はティアナの得意分野だ。変装ぐらいならどうとでもなる。


衣食住に、訓練のための場所や実践の機会。正直、出来すぎであり、懐疑の念も出なくはない。


士郎の話が真っ赤の嘘であるという可能性も否めないし、そもそも出会ったばかりの自分に、ここまで話してくれるのもおかしいような気がする。

男女が一緒の所に住むのも………っていうこともある。


だが、ならばなぜティアナを助けたか?

面倒を見てくれたか?

選択肢を多く与えたくれたか?

そう考えれば、疑いと同じぐらい、信じる要因もある。


だから、信じることにした。何よりもティアナの勘が大丈夫だと告げていた。


士郎さんには迷惑をかけるだろう。だってティアナには何も返す者が無い。
でも、今は甘えさせてもらう。答えを見つけたら、その時にどんな形であれ絶対に恩を返すと誓った。

まあ、そういうわけで、士郎さんに住む所から生活用品まで頼ることになってしまった。本当に申し訳なく、そしてありがたく思っている。






車で30分ほど快適に飛ばしてシティモールに着いてからは、店を転々と見て回ることになった。

カジュアルショップにいったり、(服を選んでいるとき、『ティアナは奇麗だからなんでも似合う』などという主旨の感想を不意打ちで言ってきた。士郎さんは天然で女たらしではないのかという疑惑が浮上)

歯ブラシやシャンプー等の日常品を始めとする、ティアナの生活用品を買ったり、

居酒屋の食品の買い足しをしたり、(主婦に交じって、鷹の目のように鋭い瞳で野菜や肉を品定めをしている身長190cm(推定)で筋肉質の白髪オールバック男は、流石に異様な光景だった)

他にも雑貨、インテリア等を見て回ったり、喫茶店などで休憩するなど、ちょっとしたデート気分でショッピングモールを徘徊し、ティアナにとって久々の休息と言えるものを過ごした。




『その、とある喫茶店での話』


(うわ………機嫌悪そう)

彼、士郎さんは喫茶店で男の人にしては珍しく紅茶を頼んだのだが、一口飲むなり顔を顰めたのだ。

いつもムスッとしているので表情の区別は付きにくいが、そのオーラが明らかに『不満だ』と伝えてきている。(数日の付き合いだが、そのぐらいは分かるようになってきた)

やはり、コーヒーでなく紅茶を頼んだ所からしても味に拘りがあるらしい。

「やっぱり、士郎さんに飲ませてもらった紅茶の方がおいしいですよね」

不要かもしれないが、会話作りも兼ねて機嫌をとってみる。もちろん本音でもあるんだけど。

「む、そう言ってもらえると嬉しいが………」

多少お世辞が効いたのか、それともこっちに気を使わせたと気づいたのか、トゲトゲしたオーラが弱まった。(やはり表情は変わらないけど)
と、同時に

(やっぱり料理関係が趣味なんだな………)

と再確認する。
本人はこの前は否定していたが、自覚していないだけで好きなんだろう。

「別に味に拘るつもりはないんだがな………ただ注ぎ方次第で全然、味が良くなるはずだな、これは。まあ、アルバイトか何かなんだろう」

「まあ、チェーン店ですしね……この店」

チェーン店でも、凝っている所はあるだろうが、この店は違うらしい。
仕方ない、と言いながら士郎さんは再び紅茶に口をつけた。


そんな会話をしながら、ティアナはケーキを食べていると向こうの方でテレビが放映されているのが見えた。

(レジアス中将か………)

そのテレビの中では、ここ最近見慣れた、レジアス中将の質量兵器に関しての演説が行われていた。

前のティアナなら盲目的に彼を否定していたが、今は少し違う。
それは質量兵器云々の話の前に、おそらく彼が持っているであろう本局へのコンプレックスといった部分に幾ばくの共感を感じるからだ。

質量兵器に関しては………正直分からない。

ただ、今までは、ソレは悪い物として、世界を滅ぼした原因だとして、教育を受けてきた。

確かに海と陸の格差を埋めることができるかもしれないが、一旦、認められたならば、大量生産は免れず、犯罪を起こす者達にとっても容易に手に入れることができるようになる。

誰でもが扱える故に、その危険性は絶大である。

そして兵器の開発競争が激化し再び世界の混迷へ…

それが本局の懸念するシナリオ。



だが、そうなるとも限らない。レジアス中将の言ったように、(特に陸の)平和のために多大な恩恵をもたらすかもしれない。

また、質量兵器は誰もが扱うことのできる道具ゆえに、魔法が使えない人達にとっては、そのコンプレックスを埋めることができるだろう。

管理局に入り、平和のために闘う。そう思い描いても………魔法の資質で叶わない。日の当たらない所でしか働くことができない。
その、スポットライト達が当たることの叶わない人にとったら絶好の機会だ。

噂ではあるが、今までに、そういう人達によるテロが何度もあったと聞いている。

魔力資質だけで決まる現状に比べたら状況は改善するだろう。


今のティアナになら、テロを起こすそういった人達の気持ちもよく分かる。
いや、それに比べたらティアナは恵まれているといえるだろう。
少なくとも、不可能を叩きつけられた訳ではないのだから………


ぶんっ、ぶんっ、ぶんっ、と首を横に振る


考えない。考えちゃいけない。『自分が恵まれている』なんて考えてしまっては、先に進めなくなってしまう。


「どうしたんだ?」

いきなり首を振ったティアナを不審に思ったのだろう。士郎が疑問の声をかけてきた。

「あ、いえ、なんでもないですけど…………そうだ、士郎さんはどう思います?」

そう言って、思考を頭の隅に押しやってからテレビの方を指す。

「ああ、レジアス中将か………」

「ええ、質量兵器について士郎さんはどう思いますか?」

「そのことを考えてたのか。
正直私に政治だの思想だのを聞かれても分かるわけは無いんだが………まあ、強いて言うなら反対か。戦闘の規模が大きくなるのが目に見えている」

(まあ、それは一般論なんだけど………)

「でも、魔法が使えない人達にとっては、その、格差というか……そういった物が無くなるんじゃないかなって。質量兵器の導入で犯罪がどうなるかも本当の所は分かりませんし」

「まあ、それはそうだろうが………
だがそうなると、今度は生まれの差というものが、より顕著に表れるようになるだろうな。
今では魔法の資質が重宝されているから生え抜きでも、2世、3世などと互角に渡り合えているが、それが質量兵器で相殺されるとなると、今度は縦や横の繋がりが益々重要になってくる。そうしたコネの世界は、政府と何も変わらない。
現状では魔法による実力主義の傾向が強いから、新しい風を吹き入れ続けることができ、長期間続いている組織としては、比較的に管理局は健全性を保っているともいえるだろう、と思うがね」

閉じ切った組織というものは悲惨なものだ、と士郎さんは付け足した。

「そうですね…………なるほど」

ティアナは管理局以外の組織については殆ど知識は無いが……確かにそれは考えられる。今では、才能のある魔導士が嫉妬の対象であるが、今度は“生まれ“に対してコンプレックスの対象が変わるのか………あれ?でも

「さっき、今では生まれと魔法の資質が互角って言ってましたけど、今は実力主義の傾向が強いですよね?」

「そうだが、生まれがいい人間は基本的に魔導士ランクは高いらしいからな………」

「魔力は血筋によることが大きいということですか?」

「まあ、それも少しはあるが。
あくまで聞いた話だが、それ以上に大きいのは魔法を学ぶ環境だな。確かに努力は必要だが、生まれが良ければ最高クラスの講師により、幼少から英才教育を受けられる。それは大きなアドバンテージだろう」

余談ではあるが、その代表的な人物を挙げるなら、クロノ・ハラオウン提督が適当だろう。
ティアナと同じく、近しい者の死という『不幸』が行動倫理を形成しており(少なくとも過去は)、『凡人』かつ『努力の人』でありながら最高クラスの実力を手に持つ人物。5歳という年齢から、愚直なまでの猛特訓による成果により、若くして今の地位を手にしている。

では、その2人の差を分けるのは何か?

それは、魔法を学び始めた時期であり、環境であることは間違いない。

これは『正史』の未来の話ではあるが、ティアナは六課での訓練により飛躍的に能力が向上した。それまでBランクだったのが、短期間でAAランク相当の実力がついたといっても過言でないぐらいに、だ。

つまり、最高クラスの環境による訓練というのは、それ程の成果をもたらすのである。

それを5歳という年齢から受けた者との教育面での格差を考えたら計り知れないものがあるだろう。

「生まれも、育ちも、才能も、人の数だけ違うのだから、人間が人間である以上どんな形であれコンプレックスというものは発生して、それが争いの火種になる。私の世界では魔法の存在が隠されていたが、別の形でもいくつものテロが起こっていたしな」

「そうですか………もしかして、今までの話は士郎さんの経験からきたものですか?」

そう言うと、少し困った顔をして、士郎は返答した。

「そうだな。世界中を周っていたが、どこもそんなものばかりだった………
まあ、だが、いろいろ言ってはみたが、私などに本当の所はどうなのか分かるはずもない。
魔導士に対するコンプレックスが少なくなるのなら、それに越したことはないだろうしな。
こういったことを全く考えないのもどうかと思うが、今の段階であまり考え過ぎるのもどうかと思うがね」

そう言いながら首を竦めて、少し重苦しかった空気を霧散させる。

結局士郎さんは、あまり分かったようなことを言うのは好きではないのだろう。今回はティアナが悩んでいそうな顔をしていたから、自分の考えを述べただけなのかも知れない。

「はは、確かにそうですね………でも意外でした。士郎さんは今の管理局に対していいイメージを持っていない印象があったからてっきりボロボロに言うのかと思ってましたよ」

士郎さんはちょっと拗ねたような顔をしながらも、肯定する。

「むっ、まあ、私は組織とは相いれない人間だからな。私が唯の独り善がりなだけなのは自覚してる」

「あはは、そこまでは言ってませんよ」

ちょうどそう言った頃、ウェイトレスがデザートをティアナ達の席に届けにきた。

「デザートをお持ちしました」

なかなか繁盛している店で、結構待だされたが、ようやくケーキ一式がテーブルに並ぶ。というか作ってあったのを持ってくるだけなのに何故。飲み物より時間がかかったのだろうか?

まあ、そんなことはさておき、それからはケーキを食べたりちょっとした雑談をしながら過ごした。




その後、会計を済まして、店から出ようとした時、さっきのテレビの続きの映像が目に入った。

「………………」

ドクン、と心臓の音がした。

思わず立ち止まる。無視したいという心と裏腹に、それでも意識せざる負えない人物がそこには映し出されていた。

その人物は、空のエース・オブ・エース。高町なのは。最高ランクの実力に加え、圧倒的なカリスマ性、抜群の容姿で本局の顔としてメディアにも度々顔をのせている(本人は避けてはいるが)

今の自分とは、天と地ほどの差があるのだといやでも感じさせる。

その笑顔が、こんな所でくすぶっている自分を嘲笑っているかのように錯覚さえしてしまう。そんなわけはないのに…………

「どうした?」

「いえ……」

そう言葉を濁すティアナの視線の先にあるものを、士郎も見る。少し驚いたような顔をしていた。

「彼女は…………」

そう呟いた声に答える。

「ええ、なのはさんです。」

やりきれない思いから、声が低くなる。

「…………、そうか、彼女が…………」

士郎はそう言って声を詰まらせ押し黙る。

違和感のある返答だったが、気にする余裕は今のティアナには無かった。











“聖王教会”  『プロフェーティン・シュリフテン』



*注意
『なのは、Fateに出てこない登場人物その1
鎧衣左近(出典はPCゲーム:マブラヴオルタネイティブ)
オリキャラを作る代りに、登場させました
この人物を知らなくても全く問題ありません』







「それでは、また会える機会を楽しみにしているよ、クロノ提督」

「こちらはできれば2度と会いたくないんだがな」

なのはとフェイトは、騎士カリム達に招かれ聖堂教会に訪れていたのだが、ちょうど部屋の前に差し掛かろうとした時、中から話し声が聞こえてきた。

どうやら彼女達より前に先客がいたらしい。彼女達と入れ違いに帰ろうとしているようだ。

ガチャリと音を立てて開いた扉から、見覚えのない、スーツ姿の長身の男が顔を覗かせた。外見は、地球の日本人に似ているように思われる。年は40前後といったところだろうか。

彼女達と視線が合うと、おやっ、という顔をして話しかけてきた。

「おや、これは高町なのは一等空尉、フェイト・T・ハラオウン執務官。はじめまして」

初対面でありながら、さも当然といった様子でフルネームを呼ばれたことに多少驚きながらも、彼女達も有名人であることは多少は自覚しているので、少し変な人だなと思いつつも、気にせず返事をした。

「はじめまして………えと、あなたは……」

「ああ、このスーツかね?これはジェノバの古くからの仕立て屋で繕ったものなのだがなかなかいいだろう?」

「……………………………は???スーツ???」

え?なぜスーツの話になったの?といきなりの意味不明な展開に心の中で叫ぶ2人。
目の前の男は、呆然としている2人を余所に、どうやらお気に入りらしいスーツの自慢をさらに続けようとしている。

だが、とりあえず、会話をしようと2人は試みた。

「………いや、そうじゃなくて………名前を」

「私の名前かね?それならそうと早く言ってくれないと。そうだな、………私は微妙にあやしいも 
「サコン・ヨロイ課長。政府の情報局の人間だ」

後ろから出てきたクロノは、サコン・ヨロイというらしい人物の言葉に被せ彼の素性を明かした。

「あ、クロノくん」

「せっかく私から自己紹介をしていた所なのだが………」

肩をすくめ、少し恨みがましい目をして答えるサコン。

「『微妙に怪しい者』と言うのがお前の名前なのか?お前の脈絡ない話に彼女達まで付き合わせないでくれ。
それはそうと、高町一等空尉、フェイト執務官。よく来てくれた。入ってくれ」

サコンを無視する形でなのは達に話しかけた。クロノがこめかみをヒクヒクさせているところを見ると、その脈略ない話と言うのに彼は付き合わされたのだろう。

「やれやれ冷たいな、ではせっかくの機会だが私は退散するとするか」

そういって、反対を向き別れようとしたが、

「ああ、そうだ」

何かに気がついたように振り向き

「これはムー世界のおみやげだ。折角の機会だから君達にも渡しておくとしよう」

と、ぬいぐるみ型の、同一のキーホルダーを渡して、去って行った。





クロノと共に部屋に入り、待っていたカリムとはやてに挨拶した後に先ほどの話題になった。

「なんか変な人だったね……なんか会話が成立した気がしないような………」

「実際はあれ以上におかしなやつだ。話はコロコロ変わるし、飄々として掴みどころがなく何を考えているのかがさっぱりわからない。
だが、その実かなりの切れ者だからな。裏の世界にまでも独自のルートを持っているし、蔭に潜んで組織を動かしていくタイプだ。少しでも油断すれば、都合のいいように動かされてしまう。
まあ、悪い人間では無いんだが…………」

「そうなんだ………」

はやてやカリムもよく見ると多少疲れたような顔をしている。どうやら彼女達も同様に話に付き合わされてうんざりとした感じだ。

「まあ、その話は後で時間があったら話すとしよう」




クロノは仕切りなおして、顔をキッと引き締め、場を張り詰めさせる。
視界だけでなく音も漏れないように施された暗幕で彼女達を覆い、部屋が薄暗くなる。



『正史』よりも数カ月も早い会合が始まった。



「さて、今回集まってもらったのは、機動六課創設の表裏、そして例の事件と今後の話や」

そう言って、なのはとフェイトの2人に説明を始めた。

レリックの対策 独立性の高い少数部隊の実験例という表向きの理由。

そして、カリムのレアスキル“プロフェーティン・シュリフテン”による預言。

『古い結晶と無限の欲望が集い交わる地、死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇る。 死者達が踊り、なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る法の船もくだけ落ちる』

「それって、まさか」

カリムはうなずくと

「ええ、ロストロギアをきっかけとする、地上本部の壊滅と、そして管理局システムの崩壊」

2人共息を飲む。

「ですが、今回集まってもらったのはまた違う詩文がきっかけなんです」

カリムはそう続ける。

「一年ほど前に、不自然なほどに急に追加された詩文なのですが、解釈の難度も今まで以上に高く、まだ内容は全く把握できていない状態です。
何を表しているかも分からないので、とりあえず放置しておくしかなかったのですが、最近になり、ある事件と類似する部分が確認できました。これがその文章です」



『異界よりきたりし来訪者
其は神を子とし、産み落とさんと欲すだろう
数多なる法の番人を杯とし、稀代の死者と飲み交わす
彼の者に理はなく、ただ興あるのみ
宴に水を刺すは、半身は天使で、半身は死神
其より興は理となし、法の死者との逢瀬で無と帰すだろう』



「神……とか、異界とか分からないことが多いね。どういうことなの?」

なのはは3人に向かって尋ねた。

「残念ながら私達の方でもほとんど理解していません。今回の内容は通常に輪をかけて難解な点が多すぎますから。ただ、そこに出てくる法の番人。それを杯にするということは………先の事件を指すのではないか。そう考えられなくもありません」

杯……それを、生贄と捉えるということか………

「半身が天使で、半身が死神っていうのはなんだろう。水を差すって言うのは邪魔をするってことだよね…………これが一番重要になってくると思うけど」

「それに関しては見当もつきません。正直、この詩文から、さっき申しましたこと以外、何もわかっていないのです。実際、神を生むというものが世界にどう影響していくかも分かりませんし、その半身が…というものも探しようが無い、といったのが現状です」

だから、今まで放置するしかなかったのだ、とクロノが付け加えた。

「でも、不自然ってどういうことなんですか?」

もっともなことだ。フェイトの問いに対し、カリムは神妙そうな面持ちで答える。

「私の能力で作られた詩文はこれだけではなく、他に幾つもの詩文があります。
そして本来予言は出てきた順番に並べられているのですが、今回出てきた詩文は丁度管理局の崩壊を促した詩文の次に他の詩文に割り込む形で書かれてありました」

「それは確かに不自然だね………少しも理由はわからないんですか?」

「推測ぐらいならありますが………
私達は先の預言について機動六課の設立を始め、他にも対策をしてきました。
もしかしたらそのことにより未来を変えてしまったのかもしれません。本来予言を見なければ起こってだだろう未来を。だから改変した未来に合わせて詩文がそれに合わしたのかもしれません」

管理局崩壊についての詩文が無くなるどころか、逆に問題が増えてしまうなんてと悔しそうにカリムは呟いた。

「………私達のしたことが無意識に未来を変えてしまったってことか。予言の対策としてしてきたことは機動六課の設立が一番大きいよね………そしたら2つの事件は繋がってるってことかな?」

「断言はできませんが、わざわざ詩文が前後で並んでいる所からしても関連性があると考えてもいいと思っています」

カリムの答えに、なるほど、と頷く。確かにそう考えればつじつまが合ってくる。

「そうかもしれない。しかしあくまで予想だ。可能性の一つだろし断定しない方が賢明だろう。
だが2つの事件が繋がっているかもしれないということは無視できることではない。
だから なのは には今の部門と六課と両立してもらうことになる。2つの事件の橋渡し役も兼ねてるから、今まで以上に大変な役目になると思うが よろしく頼む」

「うん、わかった」

「教導はヴィータやフェイトちゃんにお任せする予定やから、フェイトちゃんも負担が増えて大変になると思うけどがんばってな」

「うん」

そうして他に細かい事項を確認した後、それぞれが不安を胸の内に残しつつこの日の会合は終了となった。











‘side はやて’


「ティアナがいない!?」

はやてがそのことを聞かされたのは事件があってから7日後だった。
先ほどの会議から帰って後、先日なのはに頼まれていたティアナのことをシャーリーに尋ねたのが始まりだのだが、そしたらシャーリーは言い難そうにして言ったのだった。

「いつ、いなくなったんや!?」

「高町一等空尉とのことがあった後、すぐです。朝になっても部屋に帰ってこなかったらしく、スバル・ナカジマ二等陸士が捜索したんですが、艦内にも見つからなかったらしくて。始めは何日かしたらすぐに帰ってくると思ったんです。でもそれからもずっと帰ってこなくて……
高町一等空尉のことで他の隊長、副隊長も把握するのも遅れて後手後手に回ってしまい……。
 すいません。でも、はやてさんやなのはさんは、今ものすごく忙しい時期だからって……これ以上の負担をかけれないと私達が勝手に判断しました」

「…………。で、手がかりは?」

言いたいことはあったが、それをさせたのは自分自身の行動せいだ。それに全然気付かなかったはやて自身が悪いし、実際聞いたからと言って何かができたわけでは無い。

「北口の裏門から深夜にバイクで誰かが外出した形跡がありましたので、たぶん間違いないと思います。その他はなにも……」

「…………」

脳をよぎるのは魔導士の連続失踪事件。あの凄惨な光景。
ぎりっ。はやては口を噛み締める。
今すぐにもティアナの捜索をしてもらいたい。しかし、今の管理局にそんな余裕はない上に、他にも50人を超える失踪者がいるのだ。それを押し除けて ただの家出かもしれないティアナだけを優先して捜索してくれとはとてもじゃないが言えない。

(無事でいててくれや)

ティアナは当然事件のことを知らない。だから現状から考えてみれば、ただの家出の可能性の方が遥かに高い。しかし、群れからはぐれた獲物ほど狩りやすいこのは周知の事実である。

(これは、今はなのはちゃんには言えへんな)

昨日の様子からして、相当精神的にきていた。これ以上なのはに負担をかけるわけにはいかなかった。シャーリー達がはやてを思ったのと同様、はやてもまた同じように思ったのだった。

それが、なにをもたらすかも知らないで………












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プロフェーティン・シュリフテンに関しては、どうしようか悩んだんですが結局適当に作ることにしました。異世界からやってきた人間が他の大きな事件を起こすなら書かないほうが変な気がしたので。うーん、他の作品と似ているかな………どのぐらいが許容範囲なんだろう。


また以下は、六課での出来事を描いた短編です。
私的に内容の出来が酷かったような気がしたので、掲載するか迷った末、番外編の番外編として載せることにしました。








“訓練場(没ネタ?)”



「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー」

ヴィータの叫び声と共に唸りくるハンマーの一撃は、隙だらけのスバルに直撃し、体が宙に舞い上がりそのままダンッ、ダンッと地面を跳ね転げて木に激突した。

もちろんバリアジャケットを装着しており対したダメージにはなっていないはずだ。

しかし今のスバルには、いつものような覇気が欠けており思うように体が動かなく、そのまま倒れたまま起き上がれないでいた。

緊急事態での対応に追われた事件から1週間。自主訓練期間を終え、教導官付きの訓練が再開した矢先のことだった。

別にヴィータにスバルが吹き飛ばされることは少なくない。そもそもから実力が違い過ぎるのだ。
だが今のは明らかに防ぐことのできた攻撃だったはずだ。そもそもあのような大きな隙を見せることからしておかしいかった。

一度ならまだしもここの所頻繁に見るようになった この精彩を欠くスバル。それは日に日に多く見られるようになってきた。


理由が何たるかは問うまでもないだろう。


ティアナ・ランスター。
訓練校に入ってからずっとコンビを組んでいた相方。
始めは、少しきつくて、きれいなルームメイトっていう印象。
でもなんだかんだで面倒見が良くて落ちこぼれで全然ダメだったスバルを文句を言いながらも世話を焼いてくれた。
お互いのこと、将来の夢、そう言ったものを語りながら少しずつ、絆が深まっていった。
スバルは甘えっきりだったけど、それでもティアナも自分のことを親友だと思ってくれてると感じていた。


でも、ティアナがいなくなってからもう一週間。


なんでいなくなったのかスバルには分からない。
スバル自身は、なのは達の過去を見て、何故あんなにきつく指導されたのかは納得がいったしティアナもそうだと思っていた。

だけど………ティアナは帰ってこなかった。

悩みを話して欲しかった。
頼って欲しかった。

しかし、そうしてくれなかったのは……ひとえにスバルが頼りなかったからだろう。

前にティアナが無茶をしていた時、スバルができたのは共に特訓をしたことだけだ。
ティアナの言った通りにして、それがどんな結果をもたらすかも何も考えなかった。ティアナの明らかなオーバーワークを止めることもできなかった。

結局できたのは、ただティアナに合わせて流されていただけ。

これで頼って欲しいと思うなんて…………おかしすぎて笑ってしまう






ヴィータは呆然と倒れこむスバルを見据えていた。
気持は理解できないでもない。親友がいなくなったのだ。

だが、頭の中だけでぐちぐち悩んでいたって何の解決にもなりやしない。それはスバル自身をもさらに腐らせていくだろう。

そんなことでいいはずがない。

それをスバルに分からせ、活を入れて尻を引っぱたいても前を向かせてやらなくては。


「ティアナは絶対戻ってくる。お前がそう信じてやんなきゃだれが信じるんだよ」

「………」

「それにな、今ではお前が一番年上だ。エリオやキャロも不安なんだ。そんな中おまえがそんなんでどうすんだよ?いつまでもティアナに頼って、おんぶや抱っこのつもりか?あいつが帰ってきたときにそれでいいのかよ?悩んだって何の解決にもなりゃしねーぞ!!」

ヴィータの檄を入れた言葉に響くものがあったのか、ハッとスバルはその顔を上げ、呆然とした眼に元の力強い色を取り戻し始める。

「そう……ですね。うん、そうだ」

スバルは自分自身に言い聞かせた。ここで自分がいつまでもぐちぐち悩んでいたらキャロやエリオが不安がるばかりだ。

この大変な時に自分だけへたれていていいはずがない。

それに、ティアナに頼りっきりだったせいで、自分がティアナの支えになれなかったからいなくなってしまったんだとしたら、同じことを2度と繰り返さないためには、もっともっとスバル自身があらゆる意味で強くならなくてはいけない。

今、スバルができることは信じて帰りを待つことだけ。その時ティアに恥ずかしくないくらい、支えてあげられるぐらいにならないと!!!

マッハキャリバーが唸りを上げ、周りの大気を震わせながらリボルバーナックル高速回転を始める。

「ウイングロード!!」
「そうこなきゃな!!」

再び始まった戦闘。しかし、さきまでの陰鬱な感じは消え失せた。
ティアナがいない事実は変わらない。さっき思ったことも単なる自分に対する慰めでしかないのかもしれない。

だけど、悩んでも何も始まらない。

今はただ、自分にできることを………やるだけだ。








[4247] 第03話  帰路~迷い子2人~
Name: ゆきほたる◆56193382 ID:647a93e7
Date: 2011/02/09 00:38







【第03話  帰路~迷い子2人~】









side”ティアナ”




圧倒的な光景だった。

白黒の双剣を持つ赤き騎士により、敵は一方的に蹂躙されていく。

斧を一つ振るうたびに、騎士は視覚できる限りでも十近くもの連撃を叩きこむ。

相手は、斧を、足を、重心を崩され、常日頃から自画自賛していたパワーを僅かにも誇示することができないままだった。

時は僅か、10秒足らず。

それだけで、AAAもの魔力量を誇る騎士が、為す総べなく意識を刈り取られてしまった。


原初の戦い。遥か昔、それこそ質量兵器の時代すら遡る、人が己が武器一つで戦っていた時代の戦闘だった。


その、幻想的とも言える光景は、きっと一生涯彼女の中に残っていくだろう。


時が経ち、記憶が色褪せようとも、心に受けた想いはきっと彼女に在り続ける。


だが、今の彼女には、ただ、ただ、遠巻きからその光景に魅入ることしかできなかったのだった。












事の発端は、ティアナが士郎の仕事に付いていくと士郎に願い出たことから始まった。

いや、仕事というのは語弊があるか。彼は其れを成すことによって何一つ得る者は無いのだから。

給料も無い、戦利品などもっての外。

ただ1人でも多くの人を救いたい。その願いを満たすため、『正義の味方』を目指すためだけに闘っているのだから。

その想いのみで、マフィアから始まり、裏で悪意を働いている管理局員まで全てを相手にしているのだった。



そこは、まさに文字通りの“命賭け”、“死闘”、すなわち、己の死が隣にあることを強いられている世界であることは予想に難くない。



公務である管理局においては万全な体制を可能な限り築くため、“命賭け“その言葉に相応しい戦闘を経験することはまず無いと言っていい。

超エース級と言われている人々は、最高難度の事件を担当するために、死線といったものに立ちあう機会も少なくなかろうが、少なくとも今のティアナにそんな仕事は回ってこないだろう。



だが………例え危険と隣り合わせであろうとも、死線というものを掻い潜ることによって、今の自分を変えることができるのではないのだろうか?


あの夜、士郎の話を聞いていた時、ティアナの頭の中にそんな思いが浮かんだ。


普通にやっていては追いつけない領域であるならば、普通でなければいいのだ。


普通、平凡と呼ばれる状況と乖離した経験を積んだなら、あるいは届くかもしれないんじゃないだろうか?


そんな藁にも縋る思いで、ティアナは士郎に同行するのを願い出たのだった。


次の標的は、管理局とマフィアの裏取引だった。政府の人物である人から入った情報だという。


始め、かなり士郎は渋っていたのだが、結局ティアナが拝み倒すことで許可したのだった。


しかし、現実は甘くなかった。


始めこそ、ティアナの幻術が役に立っていたのだが、士郎と別行動に入り、実際に相手を前にすると訳が分からなくなってしまった。


サポート、頼れる仲間、頼もしい隊長。それが無いという心許なさ。

殺傷設定であるだろう、闇の住人達。

自身の実力への不信。

そしてこの状況で、非殺傷設定を選んだ自身への懐疑。


ソレ達が相まって、平常心を失った。


自称AAAランクの陸戦魔導士もいる相手に、その状況は命取りである。


高い攻撃力任せに、斧型デバイスを振ってくるだけの相手だったから、どうにか訓練で体に染み込んだ動きで凌いだものの、それも長くは続かなかった。


ついに攻撃を避けられなくなり、壁に叩きつけられ、足が立たなくなった。



だが、時が来る。



追い詰められ、もう駄目だと思った時、颯爽とティアナの元へ駆け付けた男の姿は、


まさに『正義の味方』そのものだったのだ。





















“帰路“



「士郎さんは……強いんですね…」

強いだろうとは思っていた。だが、それはティアナの想像を果てしなく超えていた。

背中に背負われたティアナは先ほどの光景を思い出す。
圧倒的なパワーを持つ相手が何もできないほどの、絶対的な初動の差。回転の速さ。美しいとさえ感じるほどの双剣の乱舞。

今までティアナが遭遇してきたどんな魔導士とも異なる戦闘形式、それは魔法どころか質量兵器の時代すらも遥かに遡る原始の戦闘だった。

だが、それがなんと凄まじいことか。

己が持つパワーとバリアの強度という才能に頼りきった先の魔導士などその攻撃に反応することすら叶わない。

「それに比べて私は…………」

自分の足を見下ろす。士郎の体で見えはしなかったがそこには怪我した足があった。

「あのな……これでも君の倍は生きているんだぞ。比べられても困るのだがな」

「………でも、私が士郎さんの年になってもそんなに強くなれる気がしませんよ」

「そうか………だがな、ティアナの年の頃の私には今のティアナの領域に届くことすらも考えられなかったぞ?その頃の私は、魔法を使わない一般人の中で、喧嘩が少し強い程度のものだった。魔術の才能もからっきしで成功する確率が1%を切ってたくらいだしな」

だが士郎の言葉は、ティアナには、単なる慰めるための作り話のように聞こえた。

「………嘘ですよ」

「嘘ではないさ。才能もなく、少なくとも私を一時的に師事してくれた人からはへっぽこ、へっぽこと呼ばれ続けてたくらいだ」

我ながら情けない、と言いながら首を竦める。

「へっぽこって………」

なんてこの人に相応しくない名前なんだろう。でも、やけに具体的な話だ………ほんとにそう呼ばれてたのだろうか?

「弱かったんですよね……」

「ああ」

「じゃあ、士郎さんは悩まなかったんですか?
正義の味方を目指していたんですよね。本当にそうなれるのかって悩まなかったんですか?このままで本当に強くなれるのかって考えなかったんですか?」

「そうだな………」

真剣なティアナの言葉に対して、士郎は少しの間、考えるようにして言葉が途切れる。過去の自分を思い出しているのだろうか。背負われているティアナには顔色はうかがえないが、きっとそうなんだろう。

「馬鹿だったからな、迷いはしなかった。ティアナみたいな明確な目標と言うのが無いからな。だが、焦ってはいた」

「焦ってた………?」

「ああ」

それは少し前の、六課で暴走して訓練をしていた頃のティアナと同じということなのだろうか?

「聞かせてもらってもいいですか?……士郎さんのこと、聞きたいんです」

話し辛いことなのだろうか、士郎さんは少し悩む素振りをしたが、

「ああ………昔のことはかなり忘れてしまっているんだが……覚えている限りなら」

そう言って、彼の過去を少しづつ語り出した。

「きっかけは、俺がティアナよりも少し上の頃だったか。俺はまだ普通の学生だった。
『正義の味方』こそ目指していたが、魔術は死んだ親父に教わったきりで素人も同然。鍛錬はしていたが精々、魔術も使えない普通の人間の中で喧嘩が強いぐらいだった。

だがそんな時、ある魔術師達の騒動に巻き込まれてな……そこで彼女に出会った。

そいつは、凛として気高くて、誰よりも強く、正に俺の目指していた『正義の味方』そのものだったんだ。

彼女と共にあったのは、僅か2週間足らずだった。今はもう記憶が薄れて、あいつの声も、あいつの仕草も、もうほとんど覚えていない。だが、それでも騎士としての彼女の生き様は胸に残っている」

ほとんど薄れてしまった記憶しか無いのにも拘らず、士郎は絶対の自信を持って彼女の事を誇った。声からも、その彼女への敬愛がありありと感じられた。

「それからは“正義の味方”がより確固としたものになった。
そいつと別れてからは、高校に通いながら、その時知り合った魔術の師匠に享受されていたんだが、耐えられなかった。
親父やあいつが信念のもとに命を絶やして行ったというのに、平和な場所で惰性と感じる生活を送ることに耐え切れなくて家を飛び出したよ

祖国を飛び出し、世界を周った。

場所と問わず難民キャンプなどを転々として働いては、耳に入ってきた魔術関連の事件の情報を元に無鉄砲にそこに向かって行った。

だが、そこでは俺はあまりに無力だった。救いたくて幾度となく戦った。だが数えきれないほど負けたし、今生きているのが不思議なくらい死にかけたよ。力無き正義など、ただの足手纏いにしかなり得なかった。半人前の魔術師見習いがどうこうできるほど甘くはなかったってことだ。

だから、焦っていた。理想と現実があまりに違い過ぎて、届きたい2人の背中に追いつきたくて」

神妙に話を聞いていたティアナは聞き返した。

「でも………でも強くなったんですよね? 今日みたいに、悪を倒せるぐらいに強くなったんですよね。どうしたらそんなに強くなれたんですか? 」

先ほどの光景を再び思い出す。ティアナは、まさにあれこそが理想の“正義の味方“なんじゃないかと感じた。

だが、そのティアナの考えに反し、士郎はそれを否定する。

「強くなんてない」

ティアナの言葉を遮るように反論する。先ほどの戦闘をしてなお、彼はその言葉を口にした。

「強くなんてない、俺は………
いや、確かに昔よりは強くなったさ。闘って、戦って、ひたすらそれを繰り返して、昔では成しえなかったことも可能になった」

彼は戦い続けた。例え、骨が折れようが、全身から血がふき出ようが、片腕が吹き飛ぼうが、腹に剣が突き刺さろうが、再起不能と言われながらも、それらを気力でねじふせ立ち上がり続けた。

だが、

「だが、何も変わらないさ。足掻いても、足掻いても、さらに強い相手がいて、俺の力では救えない命が多すぎる。いや……それ以外も、届かないことだらけだ。“正義の味方”にも、彼女の背中も」


(あ……)


その、士郎の自虐的な答えを聞いて、やっと、ティアナは理解した。


(そうなんだ)


分かった、今まで感じた共有感。何故かこの人といると落ち着く理由。
そう、彼と会った初めての夜。確かに言っていたではないか、未だに夢に縋り続けているんだと。

届くはずのない絶対的な領域にたいする挑戦。

彼が今のティアナの比べてどんなに強い存在であろうとも、彼もまた絶対的な存在に対して挑み続けてるのだ。


……………いや、ここまで洗練された戦闘技術をもって、なお届かないのだとしたら、
それを身につけるほどの血が滲むだろう努力をしてきて尚、届かぬ高みを突き付けられているのなら………


それはなんて残酷なことだろう。







「降ろすぞ」

気がつくとバイクを止めている場所まで辿りついていた。背中からティアナを降ろすと士郎はヘルメットを放り投げて、バイクにまたがりエンジンを吹かす。

ティアナもバイクの後ろに跨り、士郎の背中に手をまわした。

(大きいな…………)

ずっと戦い続けてきた背中なんだ………

無償に泣きたくなった。

ティアナは恐らく生まれて初めて人を尊敬した。その人の実力でも才能でもなく、人の心の在り方に。遥か高みを知ってなお、迷わなかったと言うその童心に。そして絶望を知ってなお走り続けているというこの背中に。

ギュッと両腕に力を入いれる。頭を背中にあずけた。意識しなくとも、涙が零れ落ちていた。



『答え』では無い。だが生まれた思いが確かにあった。


(この人のようになれたら)


例え夢に届かなくとも、走り続けることこそが、途方もなく尊いものになるのかもしれない。

ティアナが士郎に感じたように、ティアナもまた誰かに伝えられることができたのなら、きった努力し続ける価値があるだろう。


漆黒の闇に、ようやく一筋の光が灯されたような気がした。


















だが………生まれた想いはそれだけでは無かったのだ。無意識のうちに、僅かではあるが、心に芽生えた声があった。


(この人のことを、もっと知りたい。この人と共に歩んでいきたい)


尊敬か、…………、初恋か………、


それとも羨ましかったのか?『正義の味方』という、美しいモノを目指すその生き様が。誰に誇るのでも無く、無償でする行為のその在り方が、キレイだと思ったからだろうか?


答えは分からない。いや、まだ生まれてすらも無いのかもしれない。


それでも、僅かに胸に在るその想いが、彼女を士郎の下に留めることになるのだった。


彼の話さなかった、本当の歪みを知らぬままに。






















“side 士郎”



(………まだ迷っているのか………)


今回の事件、1人の死傷者も出すこともなかった。犯人は今頃、管理局に取り押さえられているだろう。

どこも問題はない。

そう、結果だけを見れば。

しかし、他にもいくらでも方法はあった。手段を問わなければ。
それこそ、地下4階から宝具を打ち込めば、バリアジャケットの装着も許すこともなく、相手は為すすべなく倒れただろう。死という結果を持って。それが1番確実な方法だった。他にも毒殺、爆破、暗殺など、手段を問わなければ、いくらでも考えられる。

実際、彼は幾度もそのような行動をとってきた。


完全な悪など、いない。
そんなことはとうに理解している。
その人物がどんな悪行を犯しても、彼らにも家族があり、信頼してくれる仲間があり、信じているモノがある。
例え、それらが無くても、彼らを犯罪者に仕立て上げたのは、過ごしてきた境遇であり、取り巻く環境であり、そして世界である。彼等も1種の被害者であることは、経験上知っていた。知りすぎていた。

それでも彼はソレ達を屍へと変えていった。どんな非情な手段を使おうとも。

100を救うために1を殺した

…………100が救えるなら、99を殺していった。




―――――では、なぜ今回は?



背中越しに、寄りかかる彼女から確かに伝わる温もりがある。バイクから振り落とされないよう、しっかりとしがみ付いている。

彼女がいたから?彼女に汚いものを見せたくない、汚れてほしくない。そう思ったからだろうか。


――――――答えは、YesでもありNoでもある。


確かに彼女がいなかったら、そうしたかもしれない。相手がより強力ならばきっと手段を厭わなかっただろう。


だが、それらは二次的なことだ。


それなら元々彼女を連れてこなければいいはず。いや、そもそも自分の事を話した時点で魔術師殺しとしての彼の行動倫理からはかけ離れている。

危険に曝してまで彼女を連れてくるべきでは無い。

もしエミヤシロウが彼女を連れていくなら、それは正体を隠すために幻術を利用するため。そう、飽くまで道具として利用すべきであり、彼女のために死人を出さないなど愚の骨頂だ。


なら何故そうしなかった?


本当の理由、根源的な原因。


それは…きっと、諦めていないから。心のどこか、最後の最後でつながっている彼の原初の思いを。彼の父親が願った夢を。




世界を跳び越え、未知の世界に遭遇してから、半年以上もの時が経った。

居場所も、知識も、何もかもが無い状態からようやく、“魔術師殺し“として………いや、”魔導士殺し”として、動き出したばかりだ。

しかし、時が心を癒したのだろうか………それとも、出会って僅か数日のこの迷える少女が彼の心に再び幼き想いを思い起こさしたのだろうか………それとも、その両方が作用しあったのだろうか。

童心を封じ込めた鉄となった心に、小さな亀裂が生じていた。傷口から、再び原初の想いが溢れてきたのだろう。


「まだ、迷っていたのか…………」


父親を継ぐのか、それとも、親父の夢を紡ぐのか。


「俺は……………桜……………」


寝静まった街を、一筋のテールライトが走り抜ける。その漏れた呟きは彼の想いと共に、漆黒の闇へと消えていった。




























[4247] 日常編part02 短編×2
Name: ゆきほたる◆56193382 ID:647a93e7
Date: 2011/04/16 12:07



【偶然の出会い】










(困ったな)

「なあ、ちょっとお茶飲むだけだからさ、な?」

「いいじゃん、いいじゃん」

男達は3人でフェイトを囲んでいる。モヒカンに長髪、そしてピアスなどいかにも遊んでいそうな若者だ。ナンパのしかたも典型的な、いかにも頭の悪そうなナンパだった。

それをフェイトは苦笑いを浮かべながら迷惑そうに断る。

「いえ、用事がありますので」

しかし、男達は一向に諦めようとしない。

「そこでずっと立ってたじゃん、もしかして友達と待ち合わせ?」

「そんな感じです」

「じゃあさ、その友達と一緒でもいいじゃん。俺たちと遊ぼうよ」


(どうしよう、困ったな)




場所はニブルヘルムのメインストリート。彼女は仕事の一環としてこの街に来ていた。
それは先日ニブルヘルム近郊で起きた事件において、3ヵ月前になのはと戦った赤い騎士を見かけたという目撃情報が入ってきたため、フェイト達はこの街を捜索することとなったためだ。
と言っても、彼女達の仕事はどちらかというと犯人と交戦になった時の戦闘要員としての役割が大きい。
預言により、レリック事件との関係性も大筋で認められて、今回の犯人捜索の仕事が六課にも声がかかったのである。

ニブルヘルムは、マフィアの拠点がいくつもる裏の勢力が最も強い都市として知られており、管理局もおいそれと手を出せない地域だ。それに事件の犯行現場からそう遠くない。故に、犯人の潜伏先としては可能性が高いとされ、捜索の対象となったのだった。

今回、犯人を特定するにあたって、魔力がAAA+以上の人物を探すというのが現地調査員の任務だ。

なぜならば、犯人の身体的な特徴である
①190cm近くの長身 ②白髪 ③赤いコート
というのは、②の髪は染めれば分からないし、③に至っては論外だ。街中でそんな服装をするわけがない。となると身長だけだがそれだと多すぎる。
白髪で長身となればそこまで多くないだろうが………
それに可能性は低いが幻術を使っていた可能性も含めればきりがない。

よって残りの戦闘面での特徴だが、人を見ただけで戦闘スタイルなんか分かるわけがない。
なので頼りになる情報は魔力値ぐらいのものである。
犯人は、(エクセリオンモードでないとはいえ)なのはのスターライトブレイカーを止められるだけの魔力を持った人物。最低でもAAA+以上の人物を調べることになったのである。
(*この世界でAAA+もあって管理局に入っていない人物は、ほとんどいないため)

自分の魔力値を誤魔化す方法もあるが、今回デバイスに組まれた装置は、リンカーコアの大きさから魔力値を推測する形式なため、誤魔化すことはできない。
(その変わり、近距離でしか測定できず、また実際の魔力値と多少の誤差はでるという欠点はあるのだがそれは仕方ない)

作戦内容は、各自 魔力測定器を持ち歩き、AAA+以上の人物を発見したら、管理局に人物像を転送し、その人物について検索するといった手順だ。

故に彼女も私服でこの街の人通りの多い所を捜索していた。それで、ナンパされている訳であるが……

(管理局だとばらすわけにもいかないし、いざこざも起こしたくないし………)

管理局だと公言すれば、または実力行使に出れば全く問題はのだが、犯人に悟られないため、そしてニブルヘルムの裏側の人々を下手に刺激しないために下手に動けない。

「いいから来なよ」
「なっ!なっ!」
「遊ぼうぜ、いいとこ知ってるからさ」

目の前の男達はなんとかフェイトを釣ろうと必死に説得している。まあ、彼女の容姿を考えれば無理もないことではあるが………

フェイトがあれこれと考えていると、男のうちの一人がフェイトの肩を掴みだした。強引に連れて行くつもりだろう。

「あの、やめてください」

流石に、フェイトも少し声をあらげて拒否し、男の手を撥ね退けたが、今度は別の男が肩に手をかけようとする。

「まあ、いいからいいから」

男達はフェイトの意志は関係ないとばかりに行動し、それが だんだんとエスカレートしてくる。通り過ぎていく人達は、ちらちらとフェイト達を見るが意に介さず通り過ぎる。

「あの、ほんとに、」

さすがに、本気で抵抗しようと思ったその時だった。

「おい、止めろ」

そんな低い声が降ってきた。

「「ああぁ?」」

男達は因縁をつけるようにその声のする方を振り向き、そして少し遅れてフェイトも振りく。そして、

「!!!」

驚いた。なにに驚いたかってそれはまるでそのまんまだったからだ。
その男は190cmに近い長身、白髪のオールバック、そしてがっしりとした肉付きの良い鍛えられた体形をしていた。
そうした思考を余所に男達の雰囲気は険悪なものとなってくる。

「ああ?俺達は話し中なんだよ。どっかいってな」
「邪魔なんだよ!!」

がなり立てる男の言葉に煩そうに少しだけ顔を顰めながら、

「どこか行くのはお前たちの方だ。彼女はいやがっているだろう。ああ、すまなかったな。その悪そうな頭じゃ察することは難しいか」

そう、あからさまに挑発した。

「なんだと!!」
ぶちっ、と音が聞こえるかのように襲い掛かる。助けに入った男は、その攻撃を軽く避け、それぞれの腹に蹴りとパンチを加える。

「ぐふっ」「おえ」「うっっ」

あっという間に地面にはいつくばる。

「………」

助けに入った男が逆に呆然としている。なんて、手ごたえの無い、またなんて頭の悪い相手なのだろうか。正直ここまで分かりやすい馬鹿だと逆に感嘆の意を述べたくなる。そういった感じだ。

まあ、そんな彼の胸の内は置いて

「失せろ」

そう睨むと、男達は逃げて行った。
そして、放心しているフェイトの方を向き、

「おい、大丈夫か?」

「えっ、あ、はい。ありがとうございます」

「この街は治安が悪い。なるべく早くここから去った方がいいだろう」

それだけ言うと、去っていこうとした。フェイトは反射的に叫ぶ。

「待ってください!」

何か?と男は振り返る。

「えっと、その、」

とりあえず呼び止めたものの、何を言うのか考えてなかったが、頭をフル回転させ、

「お礼をさせてもらえませんか?」

そう口にだしていた。




ラークシャータワー40階。このタワーはニブルヘルムでも数本の指に入るほどの高さがあり、ここはその最上階だった。
エミヤさん(さっき聞いた)は始め お礼を断ったが、どうしてもってことで頷いてくれた。
お礼をどうするか何も考えてなかったが、以前雑誌で見た記憶を掘り起こしてこの店でランチを御馳走することにしたのだ。やや高級感のある、雰囲気を持つレストランだ。私服で出てきた2人の格好は少々浮いているかもしれない。

「あの、すいません」

フェイトは申し訳なさそうにいう。

「気にするな。それより、こういう店はなかなか1人じゃこれないからな。誘ってもらえてありがたかった」

と今までのぶっきらぼうな顔から一転して 思わず見とれてしまうような優しい顔で答えた。気にしてない、ということをアピールしているのだろう。

「えっ、う、そういってもらえらば嬉しいです」

その不意打ちで、フェイトの返事はまたしどろもどろになった。顔はほんのりと赤くなっている。

「それにしてもすごい景色だな」

来てよかった、そういうとエミヤさんは外をみる。ここからはニブルヘルム全域が俯瞰できる。暗黒街という割には施設は整っており(いや、だからこそなのだろうか)景観は美しいといえるだろう。空を飛ぶ彼女としてもこうしてじっくり街の風景を見下ろすことなんてないので新鮮なものだった。

そうして、フェイトは目の前のエミヤの顔をもう一度見て、


……………すいません……………


もう一度、今度は心の中で繰り返す。

彼を引き留めたのはいいが、結局 彼の魔力値は一般人と全く変わらなかった。
フェイトに罪悪感が走る。
目の前の人は、わざわざ自分を助けてくれたのだ。そっけなく去ろうとしたことから下心が無かったこともわかる。
なのに疑ってしまった自分、仕事だから仕方がないと言えばそうなるが、それでも恩を仇で返してしまったようなものだ。申し訳無さで、胸がいっぱいになる。

「……どうした?ああ、もしかして君の方が気になるか……」

心配しているようにフェイトの方を見る。暗い顔をしてしまっていたんだろう。

「いえ、そうじゃなくて。すいません、ちょっと」

そう言ってぼかすと、うんっ、と気合を入れる。

(後ろ向きなことを考えるのは止めよう。少なくとも彼の前では)

「そういえば、エミヤさんは………」

そうして、食事がくるまで2人で会話を楽しむこととした。





出てきた食事はおいしかった。地球で言うところのフランス料理に近いのだろう。エミヤさんも気に入ったようで良かった。

それに彼のことも少しわかった。このニブルヘルムに住んでいて、半年ほど前から滞在しているらしい。酒屋で調理師として働いているようだ。
性格はたぶん真面目。口数もそこまで多い方ではないだろう。それでも彼と話をするのは楽しかった。

……彼女もいないらしい。
何を考えてるんだろう、私。

それで、今は出身の話をしているとこだった。驚いたことに事故でこの世界に飛ばされたらしい。

「違う地球……ですか?」

「ああ、信じがたいだろうがな。しかし実際に確かめたがやはり違う。科学の発展度合いも変わらないし、日本などの国の名前も変わらないが、人物や都市の名前とか、起こった出来事とかは違っていたよ。私の家も無かった」

「いいんですか?今のままで。管理局に言ったら手助けしてくれると思いますよ」

「いや、別段困っていないしな。それにあまり管理局と関わりたくはない。こんな街に住んでいるしな」

「管理局と、関わっちゃまずいようなことが………」

この街に住んでるくらいだ。あまり信じたくはないが、この人ももしかしたら……

「半年も不法滞在してたしな。後はおそらく税金も払っていないと思う、よくわからないが」

…………あんまり深刻なことではなかった。

「でもそんなことなら融通をきかせてくれると思いますけど」

「そうか………管理局とは信頼できるとこなのか?」

そう懐疑的な質問をしてくる。なんでそんなことを言うのだろうか。

「ええ、この世界をまもっている組織ですし……なにか不信感を持つようなことがあったんですか?」

「管理局………というよりもまず、組織というものに対してちょっとな。どんな組織だって裏の面が必ずある。私のケースはおそらく稀だろうからな。ただ手伝ってくれるだけで済む保証はどこにもない」

それにと続ける。

「そもそも、管理局は子供まで戦闘に立たせている。彼らがどんな決意や、使命感を持っているか知らないが、それが危険にさらす理由にはならないだろう。いくら人員不足とは言えそんな組織を信用しろという方が難しい」

耳が痛い言葉だ。フェイトもエリオやキャロには戦ってほしくないとは思っている。でも結局は戦場に立たせてしまっている。フェイトも、なのはも、はやてもみんな2人の年には戦っていた。だから感覚がおかしくなっていたのかもしれない。

子供を戦場に立たせる。本来ならエミヤさんのように強い嫌悪を持つことが普通ではないのか……

(結局、なんだかんだ言いながら私はエリオとキャロに戦わしてしまっている………)

フェイトが口を噛みしめながらうつむいていると

「すまない、君は管理局の人間だったか………」

「えっ!!」

突然のことにフェイトは驚く。彼女が管理局員だということは隠していたのだ。だが今のフェイトの行動を省みると、むしろ当然の推測だろう。

「いえ……もっともなことだと思います。そうですよね、あんな小さい頃からなんておかしいですよね」

フェイトは恥じるような、自分自身を責めるような暗い声で、そう答えた。

「すいません、私が管理局の人間であることは……」

「言わないさ、それよりあまり悩まない方がいい。それは君だけの問題ではない。私は意見を撤回するつもりがないが、それが受け入れられてきた世界で育てば仕方がないことだともいえるだろう」

「………そう、ですね。でも、やっぱりあんな小さな子供が戦うって言うのは……私もおかしいと思います」

「……そうか…………………だが」

そうエミヤさんは続けた

「それは君自身もだぞ?」

「えっ?」

「君みたいな若い女性が戦場に立つということはどうもな。君みたいなきれいな人だったいくらでも道はあっただろうに」

それだけ目指したいものがあったんだろうっていうのは分かるけどな。そう付け加えた。

しかし、フェイトが反応したところは別の言葉だった。

「きっ、きれいですか?」

フェイトは顔には赤みが帯びる。

「?ああ、君ほどきれいな人はめったにいないだろう。絶世のと付け加えても遜色はない」

そんなことを真面目な顔をして言い放つ。
対するフェイトはさらに顔を紅潮させ、えっと、えっと、とか言いながらおろおろする。
その様子がおかしかったのだろう。士郎はおかしそうにクッと笑った。

「なにが おかしいんですか」

フェイトは普段彼女からはめったに見られない拗ねた顔で抗議する。

「いや、なに、君の様子があまりに微笑ましくてな。いや、君ぐらいの美人だったら言われ慣れているかと思った」

うーー とフェイトは何とも言えない様子で唸る。対する士郎はまだ笑い続けている。

(でもよかったかな)

さっきまで続いていた暗い雰囲気が吹き飛んでいた。あのことはまだ自分で考えることはある。でもそれは後でいいだろう。
今はこの心地よい空気に身を任せようと思った。






それからしばらくしてエミヤさんは管理局の人に聞きたかったことがあったんだと言って尋ねてきた。

「知り合いに管理局を飛び出してしまった者がいるのだが、そういった場合復帰はどうなるのか?昇進がきつくなるとかはどうだ?」

……意外な質問がきた。いや、そうでも無いのか。ドロップした人間がこの街で雇われるのも多々あるだろうし。居酒屋で働いている彼がそういう話を聞くって言うのもおかしい話ではないだろう。それに今のフェイトには他人事とは思えない話でもある。

「状況にもよると思いますけど………管理局は慢性的に人不足ですし復帰は割とできる可能性が高いです。どんな人ですか?訓練生を卒業したかどうかとか、年とか才能とかやる気とか素行とか」

「もう卒業していて、才能は本人いわく普通らしい。年は十代半ばを過ぎた所だ。性格は真面目だがちょっとあったらしくてそういう状況になっているらしい。やる気は……それが戻った時どうなのかっていうことだ。」

真面目な十代なのにこの街にいて居酒屋に来たのだろうか?ちょっとそう思ったけど、それは置いておいて、

「えっと、それなら復帰はできると思います。未成年なら割と寛大な所がありますし………さっき言った理由からなんですけど。
 昇進は試験において素行の面でハンデがあるでしょうが絶対的なものにはならないと思いますよ」

そうか、と言い少し安心したような顔をしていた。

もしかしたら、エミヤさんが管理局に疑念を覚る根本はここから来るのかもしれないな………その時の私はただぼんやりそう考えているだけだった。

この時確かに彼女のことが頭によぎりはしたのだ。もっとよく聞いておくべきだった。そう猛烈に後悔するのはまだ先の話である。






「…………」

またしばらくし、ふと気付くと、エミヤさんは外の一点をじっと見ていた。

「何か見えるんですか?」

「諍いがあるようだ。数人が口論になっている…かなり険悪な雰囲気だな」
「えっっ?」

あわてて外を見るが、どこにあるのかわからない。

「どこですか?」

「あちらの方だ、ただ遠いから見えないだろう。私は昔から眼だけは良くてね」

指をさしながらそういうが、やはりフェイトには見えない。

「ひどいですか?」

「いや、もう終わるな……ショートヘアの青い髪の女の子のナックルが男に炸裂しているよ………うわ、歯が折れてる………」

エミヤさんはひきつった顔で答える。口調もなんだか崩れているような気がする。

「ショートヘアの青い髪の女の子………」

嫌な予感が走る。そう、その容姿には覚えがあった。しかもそんなことをしでかせるだけの人物が。いや、でも彼女にはシグナムが付いているはずだ。だから だいじょ

「か、かかと落とし。今度はロングヘアの気の強そうな女性だ。すごい光景だなこれは………」

「…………」

「今度は、小さな赤髪の女の子だな。男の頭を踏みつけてる…………あの男達はよほどのことをしたんだろうな………」

「…………」

フェイトはもう何も答えない。


「あっ、男達が逃げたな………どうしたんだ?」

フェイトは遠くを見るような眼であさっての方向を向いていた。(実際遠くを見ているのだが)現実逃避をしているのだろう。

「あっ、すまん。君には見えないのだからつまらないな」

士郎はフェイトが退屈してると勘違いをして謝ってきた。またしても彼女は“いえ、そうじゃなくて”とあいまいな返事をすることになってしまった。


『いえ、見えてなくて良かったです』 と そのときフェイトは言いたかったのだと後に語った。



そのすぐあとフェイトに呼び出しが入り(シグナムからだった)、お開きになった。内容は言うまでもないだろう。

「では、また機会があれば」
「ああ、今日はごちそうになったな、ありがとう。今度はうちの店に寄ってくれ」
「ええ、是非」

そう再開を約束し、2人はそれぞれの方向に進んだ。




この後、フェイトは気付くことになる。自分が仕事そっちのけで楽しんでしまったことを。
そしてシグナム達の新たな、からかいのネタにもなったのだった。






















【珍しくギャグになってしまった士郎の1日】




“side 士郎”



(しまったな……)

フェイトと別れた帰路、快適に飛ばす車の中で士郎は疲れたように呟いた。

先ほどのことを少し思い出す







(回想開始)



フェイトと名乗る女性とレストランで話をしている時だった。

当り前ではあるが、2人は初対面である。相手はどういった人物なのかを知りたいのはお互い様。当然の如く、お互いの自己紹介をしていたのだが………

それがいけなかった。

どうせ、目の前の相手には今後も会うことも無いだろうと、士郎は完全に油断していたのだ。

「ああ、ここには半年ほど前からでな、前は地球の日本という管理局の管轄外という所にいた」

「え、嘘! ほんとですか!」

フェイトはかなり驚いたような顔をしながら、身を乗り出すような姿勢で問い返す。士郎は若干の戸惑いながらも、冗談だ、などと言うわけにもいかず、肯定の言葉を口にした。

「あ、ああ」

すると、フェイトはまだ驚いているような顔をしつつも、嬉々として、興奮を抑えられないような感じでこう言ったのだった。

「第97管理外世界ですよね?ほんと、こんな偶然って、あるんですね!私もなんです。日本の海鳴市ってとこに住んでたんでよ」

時が止まる。士郎側だけ一方的に。

(・・・・・

は?!!!!!!!!!!!!!!!!)

思わず叫びたくなる衝動を士郎は必死に抑えこんだ。

(落ち着け。焦りを顔に出すな。これまで、幾度もの試練に乗り越えてきた身。このぐらいの動揺、隠しきってみせる)

その少しピントのずれた、心の叫びからもありありと動揺が伝わるだろう。

「それは・・・・偶然だな」

なんとか、表情は(いい意味で)驚いたような顔をして、その言葉だけ絞り出す。

(待て。一体何の冗談だ?これは?いくつの次元からこの世界に集まってると思ってるんだ?100や200じゃ効かないはずだ。しかも地球は管理局の管轄外なんだぞ?こんな偶然があっていいのか?世界よ、それほどまでに俺が嫌いか?)

そう、この世界は数多もの次元、幾多もの世界から人と言う人が集まってくる。

そして、この闇の都市“ニブルヘルム”は、それこそどんな人種でも存在し、この世で一番混沌とした街、人種のるつぼと言っても過言では無い。

そんな中、同じ世界。しかも、同じ星、同じ国からの人間がであう確率なんて零に等しい。



いや、『本当に同じ世界なら問題などは無い』



では何が問題なのか?


「それで、エミヤさんはどこの出身なんですか?」


これである。この質問こそが士郎にとっての鬼門。


士郎は地球と言っても、この世界とは違う『並行世界』での地球の人間なのだ。


『並行世界』については詳しく語らなくてもよかろう。

あらゆる可能性世界がこの世にはあり、例えばある世界の士郎は“正義の味方”を目指しておらず、ある世界の士郎はそもそもエミヤの性を名乗っていない。そして、エミヤシロウという人物が存在しない世界も数多とあるわけだ。

それは当然人物だけに限った話では無い。

日本が無い世界、地球が無い世界などというのも存在する。



ではこの世界は?



地球はあった。日本もあった。だが、



“冬木”という土地は無い。

“エミヤシロウ”という名前の人物も存在しない。



また、彼の確認した限りでは、存在しないはずの都市が設立していたり、あるはずもない山があったり、総理の名、合衆国大統領の名も違っていた。



そう、彼の知っている日本、地球とは何もかもが違っていたのだ。



(適当に答えていく?ありえない。この話の流れからすると会話は絶対に地球のことになる。“冬木”という場所をフェイトが知らなくてもおかしくはないが、話しているうちに絶対話が食い違ってきて、不審に思われるだろう。
話を強引に変える?いや、不可能だ。あいにく口は達者では無い、彼女もペラペラしゃべるタイプではないだろう。どうしても共通の話題になってしまう。
いっそこのまま逃げてみるか?馬鹿な、彼女1人ここに残すなんてそんなことできるはずもない)


流石に心の中で混乱しすぎたのだろう。フェイトは純粋に不思議がって士郎に尋ねてきた。


「?どうしたんですか?」


どうしようかと思い、とりあえずフェイトの顔を見る。彼女はどう見ても悪い人間とは思えない。

そして、ふとした考えが浮かんだ。


(いや、いっそ、ありのまま話してみるか?)


事故で飛ばされたとでも言って、別の地球から来たと言えば……

数多ある次元世界だ。どんな世界があってもおかしくはない。確かに怪しまれるかも知れないが、下手に誤魔化し続けるより、いいかもしれない。

相手がどう思おうが、調べたところで証拠が出てくるはずもない。

そもそも、別の地球があったからと言って得をする人間なんてまずいないだろう。調べるインセンティブなんて無い。

そうだな、よく考えたら、意外に真実を話しても特に問題はなさそうだ。
あんなに取り乱す意味はなかった。

案外あっさり信じてくれるかもしれないしな。変に思ったら、思ったで地球の話題は避けてくれるだろう。

(ああ、これでいこう。不審に思われても、このまま話がおかしくなるよりはずっとましだ。別に面倒なことにはならないだろう。後でわざわざ調べるなんてこともするはずもない)


そして、


「実は………」


士郎は真剣な顔をしてフェイトに話し始めた。


そう、面倒なことになどなる筈もない


(まあ、相手が管理局の人間なら話は別なのだが…………)


その一つの場合を除いては。







そして、後に当然の如く彼はこう叫ぶことになる。心の中で・







(世界よ。そんなに私が憎いのか?)















(*自他ともに認める偽善者である士郎は、管理局というキーワードよりも、彼女が悲しそうな顔をしていることに気を取られ始めは気が付かなかった。しかし、彼女をからかった(?)後に、「ん?管理局だと?」と遅れて気がついたことを、ここに追記しておく)





(回想終了)








運の悪さは折り紙つきだとは思っていたが………それにしてもこれはないだろう。

偽名を使わず、本名を語ってしまったことも災いした。

もちろん、並行世界の存在のことが発見される心配などはないが、調べても情報が無かったらエミヤシロウという人物が、管理局の不審人物リストに入ってしまう危険性はとことんある。

(私は管理局を信用していないと言ったし、まあ、管理局に言いふらそうとはしないとは思うが……善意からでも調べられたら、例え彼女はそう思わなくとも、他の者が不審に思うだろう。
まあ、一介の魔導士程度では『似て非なる地球』なんて与太話のために、人なんて動かせないだろうし、調べられる情報は限られているだろうから………彼女の上の目にも止まることも、そうそうあるまいし、大丈夫だろうが………)


まあ、彼女があの年で、それこそ高町なのはクラスの権限を持った魔導士だったら話は別だがそんな例外中の例外など、まず無いだろう。

(いや・・・・・・・・・・・・・・この調子ならありえるかもしれんな)

2度あることはなんとやらだ。
冗談交じりの揶揄を自分にかけた。

「はぁ」

と盛大な溜息を呟く士郎だった。

フェイトとの話は楽しかったっていうことが唯一の救いだろう。







そして、あれこれ悩んでいる間に、車は安全に進み、士郎の仕事場の居酒屋に着いた。


基本的にこの居酒屋で調理をするのは、士郎と後1人であるが、もう1人の料理は正直味があれなので、士郎が早めに来て仕込みをし、ほとんど作っているのが現状である。

その替わりとして、急な用事が入った時は1人で入ってもらうので等価交換である。

駐車スペースに車を止めた後、買いこんだ食材を手に取ると店に入ろうとした。

窓の隙間から光が漏れ、電灯がついているのが分かった。本来士郎が最も早く仕事場に入るはずだが、この日はどうやら先客がいたようだ。


ドアを開いて見ると、この店の従業員でも無い男がカウンターに堂々と座り、鍵が閉まっていたはずの店の中で、堂々と飲んでいた。なぜかココアを。自分で注いだのか?


「遅いじゃないかエミヤ・シロウ。待ちくたびれたぞ?」


そのスーツ姿の男は士郎がドアを上げるなり、文句の一つでも言ってやろうという感じで声をかけてきた。


「いつ、誰が、お前と約束した?」


と士郎は言いはしたが、目の前の男。歩く変質者こと“鎧衣左近”にとっては、何を言っても全くの無駄なことはとうに分かっており、はあ、と、諦めたかのように無視して、そのまま厨房へ入っていく。

服を従業員用の物に着替えて、元からある材料を冷蔵庫から取り出し、買ってきた物を加えて、仕込みに入っていく。

その厨房は開けていて、カウンターの席の人間とは話ができるようになっていた。

要するに、調理している士郎の目の前には鎧衣の姿が見えるということだ。


「しかし変わったな」


鎧衣が徐に投げかけた言葉に、ぴくっと士郎は反応したが、素知らぬ顔で仕込みを開始しながら返答する。


「なにがだ?」


「いや、この店のことに決まっているじゃないか?前は、どう考えても悪の巣窟だったはずなのに、今では完璧にこの街の食の穴場と言ったところだ」


「うっ、そちらのほうか」


思わず自家製エミヤシロウオリジナル肉団子を握りつぶしながら、士郎は呻いた。


「ああ、行動が矛盾してるぞ?エミヤシロウ。情報収集が目的のはずだったはずだ。このままいくと、この店は普通の居酒屋どころか、経営者に高級料理店へと変更させられてしまうんのじゃないか?後、ココアの追加を頼む。うんと濃く入れてくれ」

「おまえには水で充分だ」

と、無言で即座に水道から原水をコップに水を入れ、鎧の前においた。


しかし、まあ、考えまい。あえて考えまいとしていたことと平気で言ってくる男。鎧左近(現在は少し悲しそうな顔をしながら水をぐぴぐぴ飲んでいる)


いや、だって仕方ないだろう?料理をあのままにしておくことはできなかった。

店内で暴動があれば即鎮圧するしか無いだろう?

なら、仕方ないじゃないか。そう、仕方ない。私はただそれを繰り返していただけなのだから。


結果として、家族連れすら、ちらほら現れるようになった現状がある。


だが、情報収集という観点では、明らかに以前の店の方が有用であったのは間違いがない。家族連れから、何を聞き出そうというのか………いや、家族連れと言っても真っ当な職についている人間では無いんだろうが、それでも無理だろう。


まあ、明らかに何か間違えた方向に進んでいるのは士郎自身も分かっていた。


だが、


「それは分かってる。だが………おまえに矛盾と言う言葉を言われるとひどく腹が立つには気のせいか?」


「君は失礼な男だな。私はただ事実を述べただけだろう?

いや、それにしても本当に変わったな、君は。こんな風に気軽に話せるようになるとは、以前なら考えられなかったよ」


「・・・ちっ」


いきなり、核心を突く言葉に舌打ちをする。


トボケていそうで、わざと牽制を入れてから本題に入るあたりこの男の性質が覗える。

「初めて会ったのは、もう10ヵ月近く前か。その時私は人生で初めて、死を覚悟した。ただ、君と向き合っていただけでだぞ?これでも修羅場を潜ってきたつもりだったが、君の殺気を浴びたらソレがなんて甘いものだったのかを一瞬で理解してしまったほどだよ」

「よく言う。その私に平然として声をかけてきたのは誰だ?」

はっ、はっ、はっと言いながら鎧衣は首を振った。

「いやいや、アレでも内心ひやひやものだったのだよ?だが、言いたいのはそんなことじゃない。あの頃の君は戦闘時でなくとも、常に殺気を孕んだものがあった。目は荒んでいて、まるで、心が鉄でできているのではないかと疑ったほどだ。少なくとも今、入ってきたときの顔のような穏やかな顔をする人間では決してなかった」

「・・・・・・・」

鎧衣の言葉に対しても、士郎は何も言わない。それは、自分でも気がついていたことである。沈黙は肯定の意趣返しだろう。

前の自分なら、例えば今日のフェイトとの昼食なども決して応じなかったはずだ。それだけ心に張り付いた分厚い鉄のメッキが剥がれてきたということなのかもしれない。


「やはり、彼女のおかげかね?」


彼女。それを指すのは1人しかいない。


ティアナ・ランスター

彼女と士郎が共に過ごすようになって既に4カ月を過ぎている。

その間に、目の前の男が見て一目瞭然というほど、士郎は変わったのだ




ティアナと共に行動するようになってから、士郎の取る行動は大きく変化してきた。

以前は一切情け容赦などしなかったはずが、今では出来るだけ殺さぬよう、最低限の儀は重んじるように行動している。


何も知らなかった頃に戻ったわけでは無い。


何人かはこの手で命を絶った。ティアナの目の前で。状況が状況で仕方なかった。事前に話をしてあったこととはいえ、ティアナには堪えただろう。

彼女が唇を噛みしめ静かにじっと耐えていた様子はよく覚えている。

だが、それでも士郎の所を去らなかった。

それは、彼女の前で人を殺したくないという気持ちを、より強くさせることとなる。




後は、本音を語れば、ティアナが当初想像していた以上に有能だったというのも大きい。

士郎の行動において、幻術という魔法は恐ろしいまでに役に立つ。それに、天性の指揮能力や、作戦立案の能力も持っている。

士郎よりも確実に効果的な手法を提案し、それが士郎の長期にわたり培った経験と融合することで、士郎1人の時よりも遥かに効率の良い戦いが出来ている。

その事実がより一層、士郎の心に妥協を生んだ。

『ティアナがいるから、より戦果を挙げることができている。
ならばその分は、彼女を汚れさせないためにも、非情な手段は避けてもいいだろう』


士郎は、ティアナと出会って少しずつではあるが、確実に変わってきた。


「しかし、君が………な」


思いに耽っていた、士郎に鎧衣が声をかけてくる。


「……なんだ」


「いや、君がロリコンだったとは。いや、なるほど。道理で今まで仏頂面をしていたわけだ」


「おい」


低い声。その睨みつける眼は、かつて鎧衣が受けたといった殺気よりも遥かに敵意を放っていた。

しかしそんなことには目もくれない鎧衣は、更に斜め上に会話を加速させていく

「私にも彼女ぐらいの、娘のような息子がいるが」

そういって、キッと士郎を睨んで

「もう、君には逢わせてやらん」

「いらん、俺はロリコンでは断じて無い!!!!!!しかも、何で息子なんだ!!!!!」

そう叫ぶ士郎に対し、ん?と鎧衣は首をかしげて

「いや、息子のような娘だったか?」

「・・・・・おい、聞いているのか?そもそも何で貴様が疑問に感じる」

「いやいや、私は息子が欲しかったのでね。いや、それはまあ、どうでもいい。大事なのは君がロリコンと言うことについてなんだが」

「お前……」

「では問うが、君はティアナくんと共にいて全く女性としての魅力を感じなかったといえるのか?」

「・・・・・」



士郎は、つい言葉を詰まらせる。


士郎がどんな人間であろうとも、彼もあくまで男である。

大分年下とはいえ、かなり美人といわれる分類に入るだろう彼女と数カ月も共にいればそれは、幾度かは…………いや、けっこうかもしれないが………


と、気がつくと鎧衣が、にやにやと士郎の方を向いていた。


「殺されたいのか?」


ギロッと睨みつける士郎に、とんでもないと鎧衣は首を振る。


「いやいや、長く共にいるならそういうこともあると思っただけだ。つまらない詮索だった(私的には面白すぎたが)
 ああ、そうだ。丁度彼女のデバイスの改良が済んだ所だ。少し遠いからな。次の休みにでもここへ行けばいい」

鎧衣はそう言い、住所の書いたメモを士郎の前に出す。まったくこの男。話の切り替え方はうまいというか、なんというか。

「また違法改造か。あまり無茶なことはさせないようにしろよ?」

心配する士郎であったが鎧衣はどこ吹く風だ。

「それなら、自分で彼女に直接言えばいいだろう?まあ、彼女を子供扱いしづらい君の気持もわかるがね。それとも自分も通った道だから人には言えないのか?まあ、どっちでもかまわないが」

苦味を潰したようにしてから、士郎はそのメモを覗いた。

「ああ、ここか。また時間がかかりそうな所まで」

「相手は管理局の人間だからな。副業として(もちろん無許可)ちょっと商売している人間でね。非合法な改良も金額次第で2つ返事だ」

その金は目下、この鎧衣自身が払っている。

金銭の施しは受けない士郎だが、あくまで仕事のサポートとしての行為は受け取ることにしているのだ。

他にも士郎のデバイスも用意してもらっている。

魔法は士郎は利用しない(試してみたが意外に難しくて諦めたと言う方が正しい)が、バリアジャケットを変装用として使用している。

士郎が連続殺人犯として手配されてしまったための対策だった。

2種類のバリアジャケットがあり、士郎が常用しているものに酷似したものと、漆黒の装束タイプのもの。

特徴としては、それぞれにバリアジャケットの一部として仮面が付いていることだろうか。これなら、幻術をわざわざ使わなくとも、在る程度まではごまかせる。

このようなものを用意してくれている点では、士郎も助かっているのである。

「それでは話は戻るが君がロリコン「いいかげんにしろ」  最近地上本部の長がきな臭い動きをしていてな。君にも頼んでおきたいことがあるのだがいいか?」

「…………」

なんという変わり身の早さ。

意識してやっているのか、地なのかは分からないが、これにはいつまでたっても慣れるということなんてないだろう。

じと目で睨む士郎に対し、鎧衣は再度聞き返した。

「おや、駄目かね?」

「駄目だ。と言いたいところだがな。まあ、聞くだけは聞いておく。だが、お前のことだ。私が断るような内容なら、こんな場所まで足を運んだりはしないだろうが」

そう言って、両者は些か真剣な顔をして話に入っていく。

「機動六課。この言葉に聞き覚えはあるだろう?」

「まあな」

当り前である。何せ、ティアナが務めていた部隊だ。

「まあ簡単に言うと、少数精鋭のチームなんだが、その僅か少数にニアSランク2人、オーバーSランク3人、その他にもAAランク相当の魔導士や、優秀なサポート、最新で貴重度の高い設備がそろっている。いくら機動部隊といえどもこれは明らかにやりすぎだ。そう思わないかね?」

「まあ、魔導士ランクについてはよく分からんが、相当なものだということぐらいは分かる」

「これは、今、君が考えている以上の異常事態と言ってもいい。はっきり言って、管理局最高の魔導士と呼ばれてもいいクラスの魔導士が3人だ。しかも、それがリミッターなどというものをしているから、このご時世で無駄なことこの上ない」

「レジアス中将がこれを聞いたら発狂しそうな内容だな。だが、なるほど。となると当然裏があるというわけか」

「ああ、機動六課の設立理由。知りたいかね?」

「いちいち、もったいぶるな。疲れるだろ。こちらも開店までには準備を済ませなくてはいけないんだ」

「はっ、はっ、はっ、では手短く話そう」

そう言って、機動六課創設の経緯を、鎧衣は話した。どこから入手してきたのか最新の情報であるジェイル・スカリエッティが絡んでいるかもしれないという件も加えて。






話し終えた後、士郎は鎧衣に当然の疑問を突き付ける。

「なるほど。で?それで、私に頼みたいこととは何だ?まさか私に機動六課に協力してくれと言うわけもなかろう」

「ああ、もちろんこの話には続きがある。さきほど、レジアス中将がきな臭いと話しただろう?」

「ああ、そこに繋がるのか……彼は、質量兵器使用を全面的に進めようとしていたな。その線でスカリエッティと言う人物と繋がっているかもしれんということか。だが、証拠はあるのか?」

「まさか、そんなものがあれば君の所に来たりはしないだろう」

そう、飄々とした感じで、だが確かににやっと士郎に笑いかける。

「なるほど、私の所に来るはずだな……で?何をすればいいんだ?レジアス中将を締め上げて、吐かせればいいのか?」

「おや、出来るのかね?それができれば、そうしてもらいたいものだが」

「まさか、言ってみただけだ。殺すことぐらいなら可能かもしれんが、地上本部から生きたまま誘拐するとなると不可能に等しいな」

「まあ、そうだな。だが、情報操作専門の私や他の者でも彼の背後を探れていないのが実情でね。今のところ決定的な証拠となりそうな、場所なども掴んではいない」

「?じゃあ、何を頼みたいんだ?」

「いや、なに。先ほども言っただろう?大したことではないと。
今後、何かあれば依頼を優先して受けてもらいたいだけだ。後は、君の情報網や、君自身が他の依頼を受けて行動した時などで何か手掛かりをつかめたら知らせて欲しい」

「なるほどな、それぐらいならいいだろう」

「それはよかった。何せ、正体不明の何処ぞの誰かが、犯罪に手を染めている管理局員を次々と摘発しているからな。もう、陸と海の仲と言ったらそれはそれは大変なことになってしまってる。おかげで情報がちょくちょく入ってこない事態が出てきているのだよ。今回の事件は隠蔽される前に情報を掴んでおきたいものでね」

「……」

皮肉で言ってるのか。
何処ぞの誰かと言うのが、どの人物を指しているのかは言う必要も無いだろう。




「しかし……」



鎧衣は、今までの表情から一転、神妙な顔になり、士郎の眼としっかりと見定めた後、士郎に揺さぶりをかけてきた。



「もし、君が、例えばスカリエッティに届きそうな証拠……スカリエッティの仲間を見つけたらどうするかね」

「……………」

「以前の君なら、間違いなく、手段を問わなかっただろう?捕獲して、拷問、脅迫、どんな非道な手段でもとったはずだ。女、子供であろうと関係無しにな。では、今のエミヤシロウなら?

間違いなく、今回の事件は世界の危機だ。君は、その時どう行動する?」



不意打ちだった言葉。士郎は、押し黙って、ゆっくりと目を閉じた。



浮かぶのは1人の女性。

世界のために失った……自ら手を下した、掛け替えのない家族。

彼女の最後の表情は未だに士郎の眼に焼き付いている。

彼女の冷たくなっていく感触が今の士郎をも蝕んでいる。

衛宮士郎の決して拭い去ることのできない罪。



再び眼を開く。



この時だけであったかも知れないが、その両眼は鎧衣が死を覚悟したという、あの頃の眼に戻っていた。




「答えるまでもないだろう。世界のためだと言うのなら、私に道理などという概念は一切必要はない。如何なる手段を使おうが、必ず世界を救ってみせよう」




魔導士殺しとして、確かに士郎はそう言葉を紡いでいた。







































そして、士郎も最近の状態に再び戻り、開店も近づいてきたので、鎧衣も店を出ようとした時だった。

士郎は尋ねたいことがあったのを思い出し、鎧衣に声をかけた。

「そういえば、暇だったらでいいのだが、調べて欲しいことがあるのだが?」

「何かね」

「フェイト・T・ハラオウンという管理局員について、どんな人物か、簡単でいいから情報が欲しい」

そして、鎧衣は少し不思議そうな顔をして士郎に尋ね返した。

「フェイト執務官?ファンにでもなったのかね。
まあ、あの美貌だから、しかたないかもしれないが……残念ながら、彼女はもう20歳に近いんだ。きっと写真かなんかで見たのかもしれんが、君が見た彼女は何年か前のころだろう。今の彼女はロリコンの君には」

と言いかけて、怒鳴り声で士郎に遮られた。

「さっきから、いい加減にしろといっているだろ……ん、執務官だと?」

「ああ、フェイト・T・ハラオウン執務官。知っていたんじゃないのか?高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての三人は若手の超有望株として、管理局内でも有名な存在だ。まあ、高町なのはに比べたら、他の2人は認知度では劣ってはいるが…………ん?どうした?変な顔をして」



呆然と立っている士郎。

その時の士郎の心境は当然


(世界よ、“以下略”)


であったそうな。















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………士郎がギャグにはしりすぎました。番外編だからこそという措置と思ってください。






[4247] 第04話  運命の悪戯・1/4 ~魔導士殺し~
Name: ゆきほたる◆56193382 ID:ff5a7143
Date: 2011/02/09 00:44
管理局は歪んでいる。

マフィアとの癒着を始めとする不祥事や、一極化された武力、魔法至上主義、特定宗教の優遇。

反管理局組織と名乗る武装集団も根強く存在し、特に魔力資質を持たない人間達の、抗議、デモ、テロも問題になっている。

現状、管理局は正しい状態ではありえない。





だが……それがどうしたというのか?





どんな組織にも歪みと言うものは存在する。


少なくとも、彼の見てきた組織と比較すれば、管理局は至って健全だとすら言えるだろう。


質量兵器を導入すればいい?聖堂協会との離別すべき?確かにそれは現状の不満を打開するべき策ではあるが、反面それを行ったことによってもたらせる危険も当然ながら考えられる。ただ、目の前だけの問題に囚われて、反抗するのは愚の骨頂である。そういった失態を幾度となく犯してきた馬鹿な男も、そのぐらいは分かるようになった。


ましては管理局は無くなるべきだという声は論外。


客観的に考えれば、管理局が世界を救っている事実は間違いないことであり、この世界には無くてはならない存在ということは言うまでも無い。


故に『管理局の崩壊』などと言うものが実現するなどということはあってはならないのである。






衛宮士郎はバリアジャケットを装着する。


マフィアなどから“死神”などと呼ばれるまでになった異名を象徴する、漆黒の装束ではなく、


『魔導士殺し』としての、紅いバリアジャケット。“魔術師殺し“の代名詞であった聖躯布を模した、新たな舞台での彼の衣装。


それは、如何なる手段を用いようが、何を犠牲にしようが、目的を果たすという覚悟の証であった。













【第04話 運命の悪戯・1/4 ~魔導士殺し~】









“戦況”


この物語は、先の事件による影響で数ヵ月ほど遅らせながらも、歴史は概ね正史をなぞっていくこととなる。

新人達の久方ぶりの休暇中に起った戦闘機人達との交戦。

別部隊に配属中のなのは、脱走したティアナを欠く六課の面々は、レリックを運んでいた少女とレリックを捕獲しようと奮闘する。

2人がいないながらも、何とかヘリや少女の救出と、戦闘機人の撤退に成功した。



だが、正史ではある筈のない出来事が起こってしまう。



新人とヴィータ、リインは、ナンバーズのセインによって、拘束していたルーテシアとレリックを奪われてしまったのである。

本来ならばティアナの機転により、レリックは偽物にすり替えられていたはずだった。

しかし現在、彼女はいない。

故に、セインの持っているレリックはまさしく本物だったのだ。












“side セイン”


ミットチルダ、市街地。高速道路の高架下。

戦闘機人No 06であるセインは、固有スキル“ディープダイバー”によりレリックの回収及び、ルーテシアの救助に成功したところだった。

「アギトは?」

共に行動していたユニゾンデバイスであるアギトを心配するルーテシアに対し、セインは安心させるように話しかける。

「アギトさんならさっきの一瞬で離脱しました、さすがいい判断です」

感情の起伏の少ないルーテシアではあるが、どうやら安心していることはセインにも感じられた。

「じゃあ 潜りますね~」

そう言って、まさに、地中に戻ろうとしたとき時。

「それはいいのだが、その前にいくつか話をしてもらおうか?」

どこからともなく声が聞こえてきたのだった。

















“side 六課”




「くっそーー!!!!」

悔しがり、地面に手を叩きつけて叫ぶヴィータ。ほんの一瞬、僅かな隙が生み出した失態だった。リイン、ギンガ、スバル、エリオ、キャロの5人も、その様子を呆然と見ている。

捕まえた犯人を逃がし、あまつさえレリックまで逃がしてしまったのだ。

それも仕方のないことだろう。



だが、最悪の状況は免れたようだった。

「ヘリは………無事か。良かった」

入ってきた連絡で、とりあえず、仲間の無事を確認しホッと安心する一同。

そこでようやく、「あれっ」と、リインは気付いた。いや、それは本来ならすぐ確認しなければいけないこと。しかし、逃げられたという、ある種の絶望感で見落としていた。そう、


「まだ、魔力反応続いています。反応は…………真下、これは……地下です!!!!」


「「「「「!!!!!!!!」」」」」」」」


言葉を聞くや否や、ヴィータが先陣を切り、思考を超えて、飛翔する。
敵はどうしてまだ留まっているのか?何故自分は確認しなかったのか、そういった疑問や自分への叱咤は後でいい。何があったかは分からないが、可能性があるならば一刻も速く敵の元へ辿り着か無くてはいけない。

高速道路の横側に飛び出し、重力に身を任せるのももったいないとばかりに、真下に加速。

不幸中の幸いか、地下への入り口は近く、全速で反応のある所へ向かう。

そして、あっという間に、反応の地点に辿り着き、現れた敵を見定めようとした時だった。



目の前にあるべきは、ルーテシアと呼ばれる少女、レリックを奪っていった青髪の少女、そして炎を司る融合型デバイスの3人のはず。



だが、目に入ったのは、予想だにしない光景だった。



いや、確かにいる。3人。



ルーテシアと青髪の女。

しかし、もう1人は先ほどの融合型デバイスでは無く、紅い外套と白い仮面に身を包んだ長身の男であった。


紅い外套の男は、その長い腕で青髪の女の首を握り片手で持ち上げ、体を壁に押し付けていたのだ。


「かっ、はっ……」

嗚咽を漏らす少女の足は地についてなく、敵であるヴィータ達に助けを懇願するような眼さえしている。よく見れば、指の一本があり得ない方向に曲がっている。正にそれは、拷問でも始めようかとする光景そのものであった。


加害者だと推定される男は、磔にされた少女を視野の片隅に入れつつ、突然現れた5人の出方を伺うように、頭だけヴィータ達の方を向いていた。


「お前、何をしている!!!!」


数刻前まで敵だったはずの少女が、今では一種の拷問を受けている。
男はいったい何者なのか、何の目的があるのか?
内心の動揺を隠しながらも、その非情ともいえる行動をとっている男に対して怒りを込めて叫んだ。

対して男は、仮面の下からでも口元を釣り上げているのが分かるような挑発する口調で、相手を小馬鹿にするように話す。

「見てわからないかね。少々聞きたいことがあったのでな。多少手荒な方法をとらせてもらったのだよ」

「………なんだと!?」

罪悪感のかけらもないそのいいように、切れて飛びかかりそうになるのを堪え、他のメンバーに注意を促す。

(おい、いつでも戦闘に入れるようにしとけ。それと周辺に仲間が隠れてないか十分注意しろ)

今、司令塔的存在のティアナがいない。他の3人は戦力としては育ってきたが、周りの状況を見ながら的確に指示を飛ばせるだけの能力は持っていない。
ギンガも同様に、こっちの能力を満足に把握していないのだから指揮をするのは不可能だ。

この場においてヴィータの判断が全てだった。

すぐにでも相手を叩きのめしたい気持ちを抑え、管理局員の義務を全うする。

「こちら管理局機動六課、八神ヴィータだ。その少女を放せ。その少女は、公務執行妨害等、複数の容疑で逮捕させてもらう。
お前も、過剰暴力行為、及び非人道的行為により拘束する。抵抗しなければおまえには弁護の機会が与えられる」

「ほう、私を捕まえるのかね」

君にできるのか?とでもいうように、またしても挑発するような口調で笑っている。そして次には意味不明な言動を口に出した。

「が、しかし、もう少し待った方が君達にも得だと思うのだが?」

と、そんな言葉を口に出した。

(何言ってるんだ?こいつ)

ヴィータは、全く意味の分からない言葉に困惑しつつも押し殺した声でその真意を聞き返す。

「どういう意味だ?」

「いや、今ちょうど、この娘を裏で操っている人間の正体と、居場所を聞き出そうとしていてな。
君達もそこで待っていれば、この事件の概要が分かるかもしれんぞ?
このまま捕まえてしまっては、お優しい管理局では吐かせることはできんのだろ?」

目の前で拷問するから、ここで待っていろ。この男は、そういう馬鹿げた内容の話をなんでもないことかのように言い放った。

「なめてるのか?んなこと認めねーに決まってるだろ!!!」

しかし、目の前の男はやれやれと言った顔で、

「何か不満なのかね?なに、いざとなったら捕まえようとしていたところということですむだろう?」

などと的の外れたことを口に出す。

「馬鹿じゃねーのか!?そういう問題じゃねー!!!アイゼン!!!」

『Raketenform』

クールダウンが間に合わない。ふつふつと沸騰していく頭で相手を打倒しようと臨戦態勢に入る。

直接攻撃であるラケーテンフォルムへと己を変えた鉄槌は傍目にもわかるほど力を誇示し始める。


ギンッ、と睨みつけるとともにヴィータの明らかな敵意が男に向けられた。

姿勢も極端な前傾姿勢。今にもその身を砲弾と化して、飛びかからんとする構えだ。

緊張感の中、男は全く意に介した様子を見せず、今までと変わらない口調で答える。
6対1のこの状況でこのような態度をとっているのは、強さに対する自信なのか、それとも恐ろしいまでに場慣れしているのか。

「やれやれ、頭が固いな。この娘の腕の一本や眼球がちょっと無くなるだけで、この後、大勢の命が救えるかもしれんぞ?犯罪者1人の人権と、大勢の命。どちらが大切か比べるまでもなかろう?」

「だからといってそんなことは許せねーんだよ!お前とそいつを捕まえて、被害者もぜってー出させねえ!!!」

ヴィータがそう言い放ち、他の面々の頷きながら男を睨み付け、さらに臨戦態勢に近づく。


その様子を見て男はやれやれといいながら、溜息を吐いた。


「所詮は組織の犬か。全てを助けようなどと甘いことを」


今にも場の空気が弾けんとする中、目の前の男は、ヴィータの方の方を真っ直ぐ見ると、にやっと笑い最後の『鍵言葉』を口にしたのだった。


「『そんなことではお前はまた、大事なものが守れないかもな』」


ヴィータから、まるで血管が破裂したのではないかと間違えんばかりの、『ぶちっ』、という何かが切れた音がリアルに発せられた。


爆せた。


もはや、話など必要ない。

体は爆風を纏い、その小さい体を弾丸と化して男に突っ込んでいく。

初速から最速。渾身の一撃をお見舞いしようと、彼女と共に駆け抜けてきた相棒、グロー・アイゼンを限界まで振りかぶり男に向かって突撃する!!

対する男は無防備そのもの。手にデバイスは持っていなく、その手をぶらりと下げているだけだ。

もはや、デバイスの武器の製造など間に合う筈も無い。


(もらったぁぁぁぁぁ!!!!!)


大槌を振りかぶり、怒り任せに渾身の一撃を男に加えんと振り下ろしたしたその時

突如

振り下ろしている手の、ほんの僅か先に“ナニ”かが現れたのだった。


「なっ!?」


驚きと、手に、ぐしゃりという感触がしたのが同時。


感触は、ハンマーが男の体に命中した感触では無く。

ヴィータ自身の手が砕ける音であった。


「ぐぅ、かぁ、あ」


痛みをこらえて相手の方を見ると、何故か、目の前の男はあるはずのない双剣を握っていた。


起こったことは単純である。


ヴィータが接近し鉄槌を振り落とすまさに直前、男は魔法陣も無しに双剣を取り出し、カウンターのように手の先に向けてそっと刃を添えて固定しただけ。


その結果、ヴィータは勢いを押し殺すこともできず、自ら剣に向かってその両手を振り落としてしまったのだった。


ギリギリ、本当にすんでの所で僅かに軌道を逸らし、手が丸ごと吹き飛ぶのは回避できたものの、ありったけの力を込めて振るった大槌の力がそのまま手に圧し掛かり、辛うじて手首が本体にひっついている程度。

手からは血が溢れんばかりに零れ落ち、とてもではないが鉄槌を握ることなどできない状態になっていた。


「ヴィータ副隊長!!?」


驚いたのは残りの5人だ。あのヴィータが一瞬で致命傷を負った。その信じがたい光景に、皆動きが止まっている。

(馬鹿、ちゃんと相手の方を見とけ!!!それと、迂闊に手を出すなよ)

心配する新人を余所に、ヴィータは手による苦痛に耐え、男の方を振り向きながら、この後のことを考える。

体の傷だったらまだなんとかなった。しかし、手にこれほどの傷を負えばもはや、まともにアイゼンを振るうことは不可能に近い。

手は全ての攻撃の起点である。少なくとも鉄槌を振るうヴィータにとっては。

下手に体に大傷を貰うよりも、手がまともに動かない方が遥かに致命的とも言える。


「致命傷を避けるとはな。思ったよりは場慣れしていたか……まあ、いい。これでは攻撃もまともにできんだろう。で、どうするかね?残りの君達が相手をするのか?」


落ち着き払った男の声に対し、ここにきてようやく、ヴィータはあることを確信する。


(くそっぉお!!そういうことかよ!!)


どうやら自分は嵌められたのだと。あの、人を挑発するような話し方や、管理局員としては、人として許容できないような提案。そしてどこから手に入れた情報かは知らないがヴィータにとって禁口中の禁口であるあの言葉。

それらの言葉によって、ヴィータはまんまと逆上させられたのだ。


普段のヴィータならば先ほどの無防備に立つ男の様子にも違和感を感じて警戒を取ることができただろうが、男の言葉によって、冷静な判断力を奪われてしまったのだ。本当なら、得体の知れない相手に対しては距離を取った攻撃で、まず様子見をすべきであったのに。


もちろん冷静さをただ失わせただけで可能な芸当では無く、魔法陣を使用しないで剣を作ったレアスキルらしきものと、直線の攻撃とはいえ完全に動きを見きったその洞察力の高さも伺えた。


しかも、しかも、まずいのは手に残る傷だけでは無い。


目の前の男を見定める。


先ほどは怒りで考えが飛んでしまっていたが、その男はある人物の特徴を全部揃えているのだ。


双剣、紅い外套、長身、突如現れるデバイス……そして残虐性も併せ持つ人物。


それは、管理局がこの数ヶ月間探し続けていた人物とぴったり重なっている。


(まさか……いや、間違いじゃねーって考えた方がいい。だとしたら、やべぇ)


唯でさえ、手の傷とリミッターと言う最悪の状況下、この男が例の殺人犯だとするならばあまりにも相手が悪すぎる。

なのはや決して練度の低くない先遣部隊を打倒した実力もさることながら、目の前の男は非殺傷設定など使ってはいないという事実。それは、今も続く彼女の手の痛みが、嫌がおうにも伝えている。

つまり、戦うならば本当の命がけの戦いとなるのだ。

強くなってきたとはいえ、とてもじゃないが新人達に戦わせてもいい相手ではあり得ない。



「私がっ!!!!」

怒りに燃えたスバルが飛び出し、他も続こうとするのを咄嗟に止めた。

「止まれっ!!!!!!スバル!!!!!!」

ヴィータの大声にビクッとして、なんとか足を止めるスバル。


(おい、お前らは倒れている奴を連れて逃げろ)

(でも、それじゃヴィータ副隊長は)

(大丈夫だ。時間稼ぎぐらいどうとでもなる。お前らも知らないわけじゃないだろ?私は人間じゃない。相手が殺傷設定だろうがどうとでもなるんだ。いいか、これは命令だ。今すぐここから離れるんだ。早くしろ!!!!)

(でも、怪我してるじゃないですか。そんな命令なんて聞けませんよ!!!!!)

(いいから、行けと言っているだろう)

(できません。いっしょに戦いましょう)

(だから、




「!?」

ヴィータ達が押し問答を繰り返している中、突如男が別の方を無理向いた。

そして、ソレと同時によく知る声がかかってくる。


「いや、お前ら全員ここから逃げろ。ヴィータ、お前もだ」


「「「「シグナム(副隊長)!!!!!それに、シスター・シャッハ!!!」」」」


そこには紫の甲冑を身に纏い、威風堂々と応援に駆け付けた騎士、シグナム、それに続いて来たシスターシャッハの姿があった。


(ここは私達に任せろ。いくらお前でもそれじゃあ戦えないだろ。お前は新人達と共にレリックと少女を持って行け)

そういうシグナムに対し、ばつの悪そうな顔をしながらヴィータは頷いた。

(ちっ、わかったよ。だが、気をつけろよ。あいつはなのはと戦ったあの殺人犯かもしれねー。いくらお前でも限定解除しないままじゃ厳しいぞ)

(こいつが……なるほどな。忠告感謝する)


そして、忽然と現れる双剣のことなどの簡単な注意を念話で伝えて、シグナム、シャッハと別れる。


(負けるんじゃねーぞ。おい、新人ども、ギンガもこの場から離れるぞ)


そう言って、レリックとセイン、ルーテシアを連れて5人は去っていった。



残ったのは、リイン、シグナム、シャッハの3人。


男は、それに何の声もかけることなく、ただその鷹の目で3人を捕えていた。


「追わないのか?」


不自然な男の様子にシグナムは疑問を投げかけてみた。


「なに、あのまま8対1の方が私には都合が悪かったのでね。君が現れた時点で、既にあの青髪の女に吐かせるのは諦めていた」

「ほう、自分の能力を過信しないか……あの連続殺人犯だというから余程の性格破綻者を予想していたが、意外とまともな判断だな」

連続犯確信を得ようとカマをかけてみたが、どうやら相手は引っかかったようだ。

「くっ。なるほど、そこまで検討は付いているのか。まあ、いい。このまま君と戦っても私には得るものが無いのでね。黙って見逃してもらえないかね?それなら君達を殺さないでも済むのだが?」

剣士としてのプライドを刺激するような物の云いよう。多少シグナムはいらっとしながらも、それが動揺を誘う挑発だと気が付き返答する。

「できるとでも思っているのか?いや、それは私を挑発させ、冷静さを削るためのブラフか……さっきのヴィータに対してと同じ手だな。まあ、いい。私は貴様を捕まえるだけだ」

シグナムは愛剣のレヴァンティン、シャッハは双剣型のヴィンデルシャフトを構え、戦闘態勢に入る。


「ほう私を捕まえると?管理局の狗ごときがよく言った!!」


醸し出された低い声色の言葉と共に、双剣を取り出し、2人に向けて今までとは比較にならないほどの殺気が放たれる。

その獰猛な殺気に、周りの空気が一気に凍りついたようにさえ感じさえする。

息を飲む。表情にこそ出さなかったが、歴戦の騎士であるシグナムさえ背中には大量の冷たい汗がつたっていた。


だが、彼女は最大級の警戒心を払いながらも、その純然たる殺気に美しささえ感じている。

純粋な殺気。

生きるため、守るため、理想を叶えるため、殺害という手段しか持ち得なかった者たちが、幾千もの屍を乗り越えて得た闘気。

復讐心、憎しみ、欲望、そんな不純物を交えた殺意とは一線を駕した純然たるもの。

過去、幾つもの戦闘を重ねてきた彼女だったが、これほどの雰囲気を醸し出す敵を相手に遭遇したことはただの一度もない。

頭の中に最大級の警戒音が鳴り響く一方、相手が連続殺人犯であることも忘れ不謹慎ながらも口元がつりあがる。
強者との戦闘できることへの歓喜。それはシグナムの戦士としての性なのだろう。


それ故に口惜しい、未だ限定解除で力が出し切れない状況と、3対1であるということが。

しかし、これは任務。しかも相手はあの連続殺人犯。そんなことは言っていられない状況であるということは承知だ。


(シグナム、ここは私が先に出ます)


そういって、シャッハの方が初撃の攻撃を示唆する。

魔力限定に、空というフィールドが活用できない今の状況ではシグナムよりもシャッハの方が実力が上と言うことは間違いない事実であり、彼女を軸に攻撃をした方が効率的だろう。

(ああ、わかった)

承諾の言葉と共に、場の緊張がさらに膨れ上がり、まさに一瞬触発。



だが、この今にも戦闘が開始されようかという場が高揚している時にとった男の行動は予想外のものであった。


男は、いきなり持っている双剣を投げつけたのだ。

それも、3人とは関係ない、天井へ向けて。

何事か?と思う暇も無く、次の言葉が紡がれたのだった。


「壊れた幻想」


爆発音と共に、それぞれの剣が、小規模の爆発を舞い起こす。


「なに!?」


驚いているのも束の間。天井が破壊され、ガタガタという音と共に、コンクリートと鉄の塊がその場に降り注いできた。


「しまっ、逃げるつもりか!!!」


だが、気がついた時には既に遅い。

辺りには粉塵が舞い散り視界を覆って、その上落盤が彼女と達を襲い、避けている間に方向性を失った。


「くそっ」


3人は一端立ち籠める煙から距離を取って、辺りを見回す。しかし、男の気配はない。


「ちっ、あっち側か!!」


爆発した場所が、崩落してきたコンクリートなどで埋まって地下のトンネルの道を防いでしまっており、おそらく現在シグナム達がいる位置と逆側にいる可能性が高かった。


「逃がしません!!!!」


シャッハはそう言いながら、シグナムを連れて、己の固有スキル旋迅疾駆で粉塵の中、そして崩落の壁までをも突き抜けたが、もはや男は地下の迷宮に身を隠した後。

「魔力反応は?」

シグナムの声に、あわててリインは確かめたが、そこでも予期せぬことが起きてしまう。

「………?あれ、分かりません……これは……ジャミング?」

なに?と驚いた表情を見せる2人。

「まさか、そんな魔法まで使うなんて………ですが、それなら空間転移で逃げてないで、近くにいるかもしれまんね。急いで探しましょう」

「はい」「ああ」

そうして3人は地下の迷宮をさまようことになる。だが、この日、3人は結局再びあの男の姿を見ることは無かったのだった。








“side ???”



唯独り起つは、漆黒の鎧に身を包んだ男。

その男は、片膝をつきデバイスを杖替わりとして辛うじて前を向く、白き衣を纏いし魔導士を見下ろしていた。

少し離れた所には、ヴィータ、スバル、エリオ、キャロ、はやて、フェイトが既に気を失っている。

はやて、フェイト、そして、なのは。

管理局最強と呼ばれる歴戦の勇士3人と戦ってなお、まるで何事も無かったかのように佇むこの男は、もはや正真正銘、人間という枠を完全に超えた存在であった。

実際に、この男は人間と言うにはあまりにも過ぎた怪物である。

とある儀式によって現世に呼び出されたサーヴァントと呼ばれる伝説そのもの。それは地球という星にある史実上の英雄。

取り分けこの男は、その中でも選りすぐりの実力と、この世界においては至高の宝具を持つ存在。

いったい、この世界の誰が知ろう?

彼こそは円卓の騎士に名を連ねるものの中でも最優と唄われた騎士。サー・ランスロット。

この前の紅い騎士すら霞んでしまうほど、いや、比べることすらおこがましいほどの圧倒的実力を持って、なのはの眼前でその存在を誇示していたのだった。























“side ティアナ”


なのは達が、最強の相手と戦っていた少し前、ティアナは士郎とは別行動で、改造されたデバイスの完成具合を確かめていた。

「どうだったかい?」

目の前の、銃の改造を依頼した女性が話しかけてきた。

「ええ、いい感じでした。ありがとうございます」

とある店の地下。そこには、簡易的な射撃場がある。そこで、ティアナは今しがた試射を終え戻ってきたところだ。

手には改造されたクロスミラージュ。原型は保っているが、外見からは元の形が想像できないように装飾されていた。

それ以外にも、改造された点は多々ある。そのどれもが、正式にはあまり使われない、使うことに厳重な規制がされている技術ばかりだ。

「礼はいいさ、こっちも金をもらっているからね。でも、あんた、管理局にまだ戻る気はあるんだろ?そんな技術あっても、ほとんど使えないと思うけどね」

「そう、かもしれませんね。でも、自分がどこまで強くなれるのか試してみたいんです。普通にやってたんじゃ、絶対届きませんから………」

「そうかい……私も魔法の才能が全く無いことに苛立った時期があったけど、中途半端な才能をもっているほうが、逆に辛いかもしれないね。いつまで経っても、夢を捨てられやしない」

ズケズケと発せられる女性の言葉。でも、不器用であるがティアナを気遣ってはいるのだろう。

「いえ、そんなことは……」

反対に言えば、選択肢があるという分だけ、まだ幸福だともいえる。そこをどう考えるかは個々人で分かれるところだろう。

「ま、いいさね。そんな暗い話は。それよりどうなんだい?」

「は?なにがですか?」

「いや、フジムラとはだよ。もう寝たのかい?」

「ま、まさか、そんなことありませんよ。ていうか何でそんな話になるんですか?」

途端に真っ赤な顔になって狼狽するティアナ。その声は上ずっていて困惑がありありと伝わってくる。

ちなみにフジムラとは士郎の偽名の1つである。

「はあ、まだなのかい?割とお似合いだと思うんだけどね」

とたんに、少し暗い顔をして、声を落としながらティアナは呟く。

「…………そんな、私なんて士郎さんには似合いませんよ」

あんなに強くて、かっこよくて、やさしくて、料理や掃除といったことまで、何でもできて(*どうやらティアナの目には士郎はかなり美化されて映っている模様)

機動六課の隊長陣達なら、釣り合うのかもしれないな。ティアナはそんな自虐的な考えをして、また落ち込んでしまった。

暗い顔をして自嘲するティアナにを見て、女性はクックックッと含み笑いをした。

じと目でティアナはそれを睨む。

「なんなんですか?」

「いや、この前、フジムラに同じことを聞いたら全く同じ答えが返ってきてね。いや、本当に似た者同士だね。お前達は」

「!!!!?」

心の中で驚くティアナ。

(えっ?えっ!!?
ていうことは………ん、どういうこと?
自分にはティアナは似合わないって、士郎さんが言ったってことだよね………
ということは、えっと、都合よく考えたら、少なくとも私のことを魅力的だと思ってるってこと……?
え?それは考え過ぎ?えっと?)

そう、ほけーとした顔で逡巡しているティアナを遠巻きから女性は見ていた。

その微笑ましい様子を見て、聞き取れないぐらいの声で呟く。


(この娘はこんな所にいるべきじゃないんだろうね)


そんな時だった。


コール音と共に、彼女の無線に連絡が入る。

「え?どうしたって?街で事件?は?そんなやばいのかい?ああ、ああ、分かった、ああ、とりあえず私も上に行くよ」

その慌てた様子を見ていたティアナが訪ねてくる。

「どうしたんですか?」

「よく分からないが、かなり大きな事件が街でおきているみたいだね。ここじゃ防音が効き過ぎてて分からないし、私はとりあえず地上に行って確しかめてみるけど、一緒にあがろうか?」

「はい」

そうして、2人は階段を駆け上り、店を出た。

中では聞こえなかったが、外は、爆音と、直接は見えないが戦闘の光が舞っていた。街全体で事件が起こっているのは確実だった。


(士郎さん!)


こんな現場に出くわして、何もしない人では無いだろう。


だが、急いで連絡を取ろうとしたが、繋がらなかった。


「しまった。もう動いた後なんだ。すいません、私、行きます」


ティアナは間髪いれず、バリアジャケットを装着し飛びだしていった。


昼間、管理局が来ているだろう中、危険な行為。もしかしたら彼女の所在がばれてしまいかねない状況。


だが、士郎の隣に立つという行為は、既に彼女にとって当たり前となっていたのだった。


















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・今回の士郎は、とりあえずレリックを奪い返すため、また情報を敵から引き出すために動いていました。前者は、管理局に渡ったのでとりあえず成功。後者は、できればやりたかったが、失敗。六課の面々を殺戮してまで、する価値はないと判断。ちなみに、今回の情報はまたしても鎧衣から連絡が入ったって設定です。




・ランスロット登場。

サーヴァントが登場です。

ちなみにランスロットはデバイスを使ってました。例の能力を使ってです。そこは次話でちょろっと書きます。

登場理由は、なのは相手に無双をできる可能性があるサーヴァントを入れたかったからです。

でキャラを考えた結果。

ギル→強いけど、絶対桜に従わないし動かし辛いから×
ヘラクレス(クラス:アーチャー)→ゴットハンド持ってたら倒すには恐ろしく強引な展開が必要になるし……ヒドラの弓は食らったら死んじゃうだろうし調整が厳しい×
セイバー→対魔力Aで無双……いやいや、流石に彼女を登場させると士郎関連で物語がおかしくなるし×
ランサー(5次)→ゲイボルグで無双。死んじゃいますね×通常攻撃じゃ無双は無理っぽいし……でも、性格からしたら動かしやすいから本当は使いたかったです。

というわけでランスロットwithデバイスが結局残りました。ちなみにクラスはセイバーです。しかも、対魔力Aが付いているという理不尽極まりない独自設定です。
そのぐらいしないと、無双はできなさそうですし。










[4247] 第05話  運命の悪戯・2/4 ~交差~
Name: ゆきほたる◆56193382 ID:ff5a7143
Date: 2011/02/09 00:45
ヴィータ達がフェイト、はやてと合流したその時、突然ロングアーチとの交信が途切れた。

まるで、4ヶ月前の事件の再現のように、通信手段が麻痺したのだった。


そんな混乱の最中、件の男は悠然と現れた。


禍々しい漆黒の鎧で、一切の隙間なく全身を覆い隠すように包まれたその男は、歴戦の勇士と言われる彼女達を前にしてもなお、最強。

レリック譲渡の交渉が決裂するや、比肩するものなど皆無だろう卓越した剣技を持ち、新人達、負傷しているヴィータを瞬く間に沈黙させる

次いで、フェイト、はやてが空から攻撃を仕掛けるが、彼女たちの魔法は全くと言っていいほど通じなかった。


『対魔力A』


彼の世界の“魔法”“幻想種”クラスの攻撃でなければ一切魔術を通さない絶対的な防御壁

ベルカ式の近接戦闘ならともかく、はやてとフェイトにとっての相性は最悪である。

殆どの攻撃手段が失われた彼女達。それでも決着がすぐつかなかったのは、不慣れな鉱物を利用した魔法を使用して応戦したことと、相手が空中への攻撃手段を持たなかったから。


だが、それも覆る。


陸戦魔導士としても信じがたいほどの剣舞をみせたこの男は、この時になって初めてデバイスを使用し己も空を翔けたのだった。

誰が信じよう?

つまり、この男は、なんのデバイスも使わずにギンガ達を圧倒し、彼女たちの攻撃を防いできたのだ。

空という舞台を手に入れたのは、彼の持つ固有スキル。男の世界では宝具とすら呼ばれている逸脱した力によるもの。


『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』


およそ武器となり得る万物に触れることで、自分の支配下に変えてしまうこの能力は、デバイスも例外ではあらず、これにより魔術とは全く違うこの世界の魔法まで使用を可能としてしまう。

完全に人知を逸脱した実力に、この世にあっていいはずのない馬鹿げた能力を加えた男を前にして、もはや勝機という言葉はただの1カケラも存在しなかった。

機動力に欠けるはやてがまず真っ先に地に伏し、フェイトも成す総べなく倒れる。



入れ替わるように、ようやく別部隊から駆けつけた、高町なのはも同様だった。

奮闘するも、しだいに劣勢に追いやられ、遂には地べたに追いやられる。

地面に叩きつけられ、ついに片膝がついたなのはを、漆黒の鎧を身につけた騎士は、それを待つように見据えていた。

男は既に、もはや必要ないとデバイスを解いている。


誰の目から見ても、もう勝敗は明らかだった。


だが、泣きたくなるほどの劣勢の中、転機は訪れる。


颯爽と現れたのは紅い騎士。


それは先の事件の犯人を連想させる紅いバリアジャケットに双剣を携え、漆黒の鎧の騎士に相対する。



こうして、渦中の2人による戦闘の幕が開いたのだった。















【第05話 運命の悪戯・2/4 ~交差~】








交錯する短剣と双剣。初撃から甲高い音を鳴り響かせ始まった戦闘は、開始の余韻に浸る暇が無いほど一瞬で次の音を鳴り響かせる。

三、四,五、と続けて繰り出される剣戟は、既に瞬きする暇がないほどのスピードに達していた。

遠巻きから見ているのにそれなのだ。もはや当事者達においては、本当に視覚できているのかを疑いたくなる。

1撃のスピードは、実はそれほどでも無い。それだけなら、なのはの同僚のフェイトやシグナムの方が速いし、ずっと重いだろう。

しかし、攻撃と攻撃の繋ぎのスピードは信じられないほど速い。

シグナム達魔導士をバズーカに例えるなら、こちらはさながらガトリングガンだ。

斬撃音と共に無数の火花を飛び散らし、息をも尽かせぬ連撃を応酬し合う。


魔導士が魔法を利用して強引にこんな動きをしようものなら、まず、間違いなく関節が外れ筋肉が引きちぎられ、中身の方がスクラップになるだろう。

だが、目の前の2人はそれをなんでもないかのように悠然とこなす。


つまり、信じ難いことに、この両者は、己が身体を、最高ランクの魔法の領域まで昇華させた存在であり

両者の戦闘は、質量兵器の時代すらさらに遡った原初の、それも最強と呼ばれた人々の戦いの再現であった。


互いが僅か数メートルしかないその距離を、音速に迫る領域の攻撃が変幻自在に行き交う光景は、もはや狂気としか言いようがない。


「すごい………」


なのはの口から、思わず言葉が漏れる。

敵であるはずの相手にも関わらず、思わずその光景に魅入っていた。

例えどれだけ文化が発展しても、人は自然という原点を愛するように、この原始の戦いは人の心に響くものがあるのだろう。


流麗のごとき剣閃で、並の者なら触れるだけで消し飛びそうな力とスピードを持って放たれるその短剣を、日輪のごとき刃が弾き返す。

舞を見ているように錯覚すらさせるその剣舞。耳を打つ剣音は、さながらよく出来た音楽のよう

リズムを刻み、いつまでも続くように思われたその舞は、ここにきてそのリズムが切り替わる。


先に、動いたのは漆黒の騎士


突如として描いていた剣の軌道を変化させ、端から見ていても理解できないほどの業を持って、ソレを起こしたのだった。


突然、紅い男が相手に放った双剣が動かなくなる


「何っ!!!!?」


驚愕する紅い男。

それはそうだろう。

まさか、あの一瞬たりとも気を抜いたら死が待っている状態で、並の者ならば触れただけで消し飛ぶだろう懐に迫り来る双剣を、弾くどころか掴み取ってしまったのだ。


「………くっーーーー!!」


紅い男が驚愕と共にその手を引きはがそうとするも、黒い騎士はそれを上回る業と剛を持って、あまつさえ、武器を奪い取ってしまう。

それも一振りでは無い。

白と黒の双剣、その両方を一瞬の間に奪い取ってしまったのだ。


黒い騎士は、短剣を捨て去り、新たに奪った双剣を携え、獲物を失い徒手となった紅い男の前に立つ。

神技という言葉すら陳腐に見られるその芸当を持ってして、もはや、勝利を確信した黒い騎士。


「お前の負けだ………」


相手に対する慈悲なのか、剣を突きつけ、勝敗を突きつけようとした。だが、


「甘い!!!!!!」

「!!!?」


今度、驚愕が走るのは黒騎士の方。


それはそうだろう。奪い取られ、徒手になったはずの男には、なぜか一瞬のうちに再び同一の剣が握られていたのだから。


「はぁあああああ!!!!!


黒い騎士が気を抜いた一瞬の隙をついて、渾身の力で剣を振るう紅い男の攻撃。


だが、その完全に隙をついたと思われたその攻撃も、黒い男の卓越した剣技により、ガキンッという音と共に難なく受け止められてしまう。


「これは珍妙な……」


多少困惑する黒騎士だが、その対応は落ち着いたものだ。その悠然とした様子からは、まさに百戦錬磨という言葉がピタリとはまる。


そして再会する剣劇。

その激しさは、明らかに先ほどを上回る。


黒騎士は初めて握ったであろう双剣を、持ち手である赤い騎士以上に使いこなし、
紅い騎士は、双剣を持ち実力を増した相手の攻撃で剣を弾き飛ばされながらも、次の瞬間には再びその手に持ち、また一つ前進する。


だが、ここにきて、さらに黒騎士の攻撃は激しさを増して行く。


重さが、速さが、回転が、刻々と上げられ、始め互角以上の戦いをしていたはずの紅い男は、ここにきて前進するどころが一合受けるごとに剣が弾き飛ばされ、新しい剣を取り出そうにも果てしなく開いていく実力差により後退し続けるしか無くなっていた。


「ぐっ」


遂には受け切れなくなり、全身が切り刻まれ、バリアジャケットのいたるところが破けて血が滲む。

遂には、相手の渾身の一撃により、紅い男は双剣ごと体がボールのように弾き飛ばされてしまった。

黒い騎士の追撃は無い。

戦いが始まってから初めての小休止が訪れた。


両者は、いったん呼吸を置く。


紅い男も致命傷までは無いようだがもはや差は歴然。いっぱいいっぱいな上に、何カ所も怪我を負っている紅い男に対し、黒い鎧の方の男はこれだけの差を見せてなお、上限を見せているわけでは無いのが見て取れる。


「ちっ」


忌々しげに舌を打つ紅い男。


同時に、ここにきて、なのはもようやく理解した。

この戦いは、どこかであったような展開だと思いきや、先ほどの自分の時と全く同じだということを。

ようするにこの黒い騎士の男。

何が目的かは分からないが、始めは明らかに手加減しておいて、徐々にレベルを吊り上げていったのだ。なのはに対しても、この男に対しても。

まるで、なのはと紅い騎士の実力を試すように。


「魔導士にしてはいい腕だ。奇怪なまじゅ、いや、魔法か。魔法を使うにせよ、久々に良い剣舞を堪能できた。例を言おう」


悠然と立つ黒騎士は、賞賛の言葉を告げる。


それは、よく言えば褒め言葉だが、明らかに見下した言い方だった。いや、違うか。この男は心から赤い騎士を絶賛している。だが、それは教師が教え子を褒めるに等しい関係。それだけの実力者差があるということをこの漆黒の騎士は語っていた。


一方の紅い男は、舌打ちしながらも、己が不利を全く感じさせない様子でいい放つ。


「フン、貴様のような奴がこの世界にいたとはな……。だが、たかがひとつ攻撃を当てたぐらいで勝ったつもりか?」

にやりと言い放つその一言に、興味深げに答える黒い騎士。

「ほう?まだ何かあるのか?」


すると紅い騎士は双剣を投げ捨てる。

そして、男は「投影開始」とボソッとつぶやき、まるで右手に全神経を集中したような様子をしたと思ったら、今度は先ほどの双剣とは違った一振りの長剣を取り出した。

今までとは明らかに違う一振りの剣。


なのはは知らないが、それは、この男の世界における最高クラスの武器の一つ。

『カラドボルグ』

男が普段愛用している螺旋状に変形させた矢としての道具ではなく、それは元の純粋な剣の形を模していた。

双剣とは比較にならないほどの威圧感を醸しだし、桁違いの魔力が込められているのが傍目にも見て取れる。

「ほう……不思議な能力だな。違う武器も出すか……………この双剣もそうだが、普通のデバイスとは随分違うように見える……。だが、それは私に対しては愚行かもしれんぞ?」

「愚行かどうかは、試してみてからいうのだな」

「なるほど道理だ。では、いこう」


黒と紅色が残像を残し、お互いの方に疾走する。


交錯する、双剣と一対の剣。

交わる3本の剣は、戦闘直後と真逆。アスファルトを砕かんと踏み込みながら双剣を振るう黒騎士にたいし、紅い騎士は剣の優位を前面に押し出し、双剣を砕かんと剛で勝負に挑む。

黒騎士の目にも止まらぬ高速の一打がここに来て、目に映ることさえ許さない神速の一撃へと昇華する。

獲物を振るう腕の動き、その足捌きさえもが、紅い男の鷹の目を持ってさえ、既に不可視の領域に加速しつつあった。

見えないならば、その攻撃を限定させるまでと、わざと隙を作り出しそこに誘い込むも、黒騎士の神速と化したその一撃は、重さも果てしなく上昇しており、まともに受けきることすらできはしない。

自信過剰の言葉とは裏腹に、数秒で圧倒的劣勢まで立たされる紅い騎士。

そして

「ふっ」

またしても、まるで理解できない手さばきで今度はカラドボルクまで奪い取ってしまう。

奪い取られた剣による攻撃を、虚空から取り出した双剣で何とか防ぐが、紅い騎士はその威力に押され再びピンポン玉のように吹き飛ばされてしまう。

「くっ」

反動を殺しきれず、ダンッ、と音をたてて地面に転がりこむ紅い騎士。

だが、そこで黒騎士は、先ほどと同様、追撃はせず、今度は手に取った剣を見据え、感慨ぶかそうに呟いた。

「これは……………いい剣だ。本当にデバイスなのか?この感触、むしろ私達の宝具にすら近く感じられる。いや、宝具と言われれば何の疑問も持たないほどだ……こんなものがこの世界にもあったのか………」


手にした武器が気に入ったのか。抑揚のない低い声が、僅かながら弾んだような感じもみせた。


反対に、紅い男は、絶対的な戦力差を見せつけられ、そして己が持つ最高とも言えるだろう武器を奪い取られて、もはや絶望…………のはずだった。


「それがそんなに気に入ったか?」

「…………?」

仮面越しで分からないが、にやっと笑った顔をしたかのような声で言った、その余裕のある相手の言葉に怪訝に思う。

「なら地獄への土産だ。持って行け」



刹那




「壊れた幻想」




あらゆる音が消しさられた。


なのははなんとか地面にはいつくばり、その衝撃に耐える。

聴覚が麻痺したのか、何も聞こえない。

なのはに理解できるのは体を震わせる大気の振動と、肌を焦がすような熱さ。

烈風で弾き飛ばされた様々な破片は四方に飛び散り、次々と襲いかかってくる。

突如として生まれた爆風は、黒い男を中心に、辺り一帯を火の海に包みこんでいる。

爆心地であったろう地面がクレーター状に窪んで、破壊と言うよりも、これは辺りを浸食しているイメージすらあった。


一瞬何が起こったのかが分からなかった。何故、爆発が起きたのか、冷静になって考えてみる。


(…………剣が……爆発した………の?多分、そうだよね。
突然現れる武器ってだけじゃなく、時限爆弾付きだなんて……最悪の時限爆弾だよ。持ってる武器が爆発したんじゃどんな強い人でも防げるわけがない。知ってたらともかく、知らなかったらあれ以上の武器は無いかもしれない………)


冷や汗が伝う。もし、4ヶ月前のあの夜。なのはが勝っていたりしたら、我が身だったかもしれないのだ。投降すると言って、差し出された武器が、あんな規模の爆発などでもしたら、待っているのは死。よくても、もう空を飛ぶことなんてできなかっただろう。


(あれ?)


その炎々と燃える劫火の中、黒い何かが蠢いて見えた。


(うそ………まさか)


煙が晴れて、次第にハッキリしてくる視界。見えたのは、未だ直立している男の姿だった。


その屈強な鎧は剥がれ落ち、全身を業火で覆われ皮膚がただれ、致命的だろうダメージを食らいながらも、それでも二つの足で立っていた。


(うそ……でも、流石にダメージはうけてるよね…………え?)


そちらの方に目を囚われていたが、気がつくと、紅い男は先ほど取り出した剣のように、今度は黄色い槍を手に持っており、相手の方へ疾走していた。

驚くべきことに紅い騎士は、相手が動けることを想定していたように追撃に向かっていたのだ。

爆発のダメージで動くことのできない男に向かい、その槍で思いっきり突き刺さす。

「くっう!!!!!」

とっさに横に飛び込む黒い騎士。

あれほどのダメージを貰いながらも、重要器官を狙ってきたその槍を辛うじて避けたが、左肩の部位を抉られる。

しかし、今度こそ手詰まり。

本当に、最後にしようと紅い騎士は渾身の一撃を突きだそうとする。


「待って!!!!!!」


なのはは叫んだ。

槍が迫るのは、その砕かれた鎧でさらけ出された心臓部。即ちそれは死を意味する。

もう決着はついてるはず。例え黒い男がどんな人物であろうとも、殺人を許すことはできない。

だが、その心配は杞憂に終わった。ゆらっ、と体が薄らいで見えると思ったら、突如、キーン、という微かな音と共に、忽然と大けがを負った黒騎士は消えてしまったのだ。


槍は、ぶん、とその軌道が虚空を描く。


「!???」


避けた?いや、違う。槍がまさにぶつかろうとしたその瞬間、まるで虚空に消えるかのごとく消えたのだ。

(空間転位なの?でも、魔法陣を描いていなかった……あの紅い男もだけど、魔法陣を利用しないで使えるスキルが存在してる?)


紅い騎士も困惑し、周りを見渡すが黒騎士はすでに消えていた。


・・・・


しばらくしても何の音沙汰も現れない。


恐らく、空間転位なのだろう。分からないが、この紅い騎士も魔法陣無しで剣を生成していた。もしかしたら、空間転位も似た術式で可能になるのかもしれない。


なのはは立ち上がり、自分の体の状態を確認する。


(うん、なんとか大丈夫)


魔力消費も激しく、体も軋むが、まだ動けない程ではない。


(残されたのは、多分、例の殺人犯。……このタイミングで現れた理由は分からないけど………やっぱり黒い男の人に奪われたレリックが目的なのかな?それとも別人で助けてくれただけとか?………でも………あまりにも似すぎている。その雰囲気まで。
……まず、確かめなきゃ)


相性が良かったにせよ、あの黒い男を倒しているのだ。

とてもじゃないが、今の状態で戦いたくない相手だが、もし本当にあの殺人犯なら、絶対に逃がしたらいけない相手。

負傷しているのは、お互い様だし、今回は前回と違って昼だ。

この前のように、矢が全く見えないなんてことはないはず。

それに、さっきのような戦いを知らなかったとはいえ、少なからず対策はこの4ヶ月でしてきたのだ。

離れて戦えば、勝算はある。

最悪、応援が来るまでの時間稼ぎが出来ればいい。


「つぅ」


軋む体を無理矢理起こし、1人残された紅い騎士の所まで飛翔する。例と男の方もなのはの方を振り向いていた。

対面する両者。先に言葉を発したのはなのはの方だった。


「あなたと会うのは二回目ですね」


カマをかける。まず確かめなくちゃいけない。この男が、何者なのか。

本当に、あの時の、あの凄惨な事件を引き起こした人なのか


「あの時の魔導師か……」


(やっぱり、間違いじゃなかった!!!)


「こちらは機動六課、高町なのは三佐です。あなたには連続殺人犯の容疑がかけられています。抵抗せずに捕まれば弁護の機会が与えられます」

「やれやれ、せっかく助けてやったというのにさっそくそれかね?」

(うっ)

ちょっと痛い所をつかれたと思いながらも平静を装って淡々と返す。

この人はあの事件の犯人………本当は、なのはを助けたわけではないはずだ。

あの黒い男に奪われてたレリックが目的で、たまたまタイミング良く現れたというのが妥当だろう。

ここで、やりくるめられるわけにはいかない。

本当なら………曲がりなりとも助けてくれた人に、あまり強引なことはしたくないが、この男は既に、推定される管理局員の被害者が100人に迫る、あの事件の重要参考人。

(ここは心を悪魔にしてでも、捕まえなくちゃいけない。ヴェロッサさんがいれば真実がわかるはず。もし、なにかの間違いだったら、後で死ぬほどあやまろう)

「それとあなたの容疑とは関係ありません。私にはあなたを捕まえる義務があります………それともあなたは、この前の大量殺人犯とは別人なんですか?」

「金を貰って働いているんだろう?自分で調べたらどうかね?」

「…………今から調べて、あの事件の容疑者を逃がすわけにはいきません。もしあなたが投降しなければ実力行使で捕まえさせてもらいます。犯人でないのならば、仮面を取って何もせず付いてきてください」

「どっちにしろ無断で危険魔法使用で捕まってしまうんじゃないのか?」

なんだかんだに、皮肉を言ってくる男。

「…………それについては、考慮してもらえるように配慮します。あなたがあの殺人犯でなければ。それで、あなたは殺人犯なんですか!?」

「まあ否定はせんよ」

肯定の言葉。

(間違えじゃ無かった………この人が、あの事件を!!!あの人達を!!!!)

それと同時に、あの凄惨な光景、未来を奪われた人たち、残された家族の涙、それらを思い出し怒りがふつふつとわき起こってくる

この4ヶ月、血眼になって探してきた犯人が、今、ここにいる。

「………なんであんなことを!!!」

なのはの怒りを意に介した様子もなく、男は皮肉を言う。

「………さてな、捕まえて聞き出してみたらどうかね?」

分かっていたことだが、相手はまともに話す気はないようだ。

「そうですか……もう、話は必要ありませんね」

「もとから必要なかったと思うが」


レイジングハートを構え相手に突き付ける。


対峙する両者


世界の主役である両者の第2ラウンドの鐘が鳴り響いた。

















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本篇の方はランスロット無双。テーマは“どうしようもない存在“。

なのはよりも純粋に強い存在を出したかったんです。

対魔力Aがある時点で、すでに反則です。

後から出てきますが、彼は、キャスター(元は桜がキャスターに命じた)になのはと士郎で遊びなさいと命令を受けてたので、この2人に対しては、最初は手加減してました。

後、冒頭の戦闘部分はナレーションになってしまいすいませんでした。あまりおもしろそうな内容でもなさそうですし、更新スピードを上げるために(こんだけ遅いのに……って思われるかもしれませんが)今回も03話に引き続きこうしました。

今後も、省略する部分が多々出てくるかとも思いますがご了承ください。










[4247] 第06話  運命の悪戯・3/4 ~白い悪魔vs死神見習い~
Name: ゆきほたる◆56193382 ID:ff5a7143
Date: 2011/02/09 00:46





この4ヶ月、目まぐるしい日々だった。

あの事件以降、なのはの生活は激変した。

六課の教導から、本局の連続失踪及び殺人事件の対策チームに移動。

そこでは、戦術面での考案や対策チームでの指南や失踪者の捜索がなのはの仕事だ。

現在の失踪者は、既に死んだ人も合わしたら100人以上に上っている。

始めの50人から膨れあがった理由は、失踪者と認定されていなかったケースや、ペースこそ落ちているものの、未だに失踪事件が続いているため。

対策を取っているのにも関わらず、手がかりも残さず忽然と消えていく。

空が必死に、それこそ次元規模で探しているのに失踪者も犯人も未だ見つからない。



反面、対策チームの仕上がりは悪くない。

かなり優秀な人材が選ばれていて、そもそも技術面に置いては、なのはが教える必要など無い人たちがほとんど。

連携もスムーズに取れるようになり、仕上がりとしては順調すぎると言ってもいいだろう。



しかし、なのはの仕事はそれだけではなかった。



対策チームの機動部隊のリーダーとして、会議に次ぐ会議に参加させられている。

本当に実のある内容ならばそれも良いのだが、ほとんどの場合責任の擦り付けなどの不毛な論争に発展し、時間だけが経過して、成果をなしていない。

内容も、同じことをなんども繰り返していることが多く、非効率的すぎたり、関係ない他の議題にまで参加しなければならないことも多々ある。

しかも、無い事実まで捏造するのだから始末に負えない。

特に、なのはが紅い男との戦闘の結果が、公式では、なのはが紅い男を逃がしただけとなって、『負けたという事実』はもみ消されてしまったことがある。

なのはとしては、あの男の強さを強調させるためにも事実を公表するべき思ったのだが、エース・オブ・エースが負けたとならば、管理局全体を不安にさせるということで結局そうなってしまったのだ。

それをいいことに、対外的な会議にもかり出され、若きリーダー、その抜群の容姿に加え、実力も伴った空の顔として、この事件で旗色が悪くなった地上本部との交渉ごとや、空のアピールのため民間人などにむけたインタビューの代表などにも頻繁に駆り出されるようになった。

それに加えて、会議に参加させるため、特例で試験もなしに佐官にあげられるなどもされてしまう。

ハッキリ言ってピエロの気分だが、上が決定したことに逆らえるわけもなく、またそれを覆せるだけの発言力や政治力は今のなのはにはない。

こんな老獪達がいる世界で、彼女の親友である八神はやては戦っているのかと思うと、あらためてそのすごさを思い知る。


休みは、週休一日程度。それも、突然佐官になった分の知識の埋め合わせのため消え、睡眠時間も今までよりもさらに減り、たまの休みもほとんど、眠って疲れを取るだけに終わってしまう。

六課に戻る暇などなく、始めは必要な荷物だけをフェイトに送ってもらった始末だ。


肉体的な疲れは少ない、だが精神的にかなりまいっていた。


犯人(もしくはその一味)だろう紅い男を逃がしたせいで、多くの人を危険にさらしているという事実。

なのはが負けた事実を知らないで、純粋に尊敬の目を魅せる、若い世代のその眼差し。

捕まえたい、紅い男を捕まえようと思っているのに、管理局という巨大な渦に飲み込まれ、遠回りをせざるえないという現状。


そのどれもがなのはの心に突き刺ささっていた。


彼女の親友のフェイトとほんとにたまに互いに都合がついた時だけできる電話と、六課との橋渡し作業で本局にくるはやてと話すことが、数少ない安らぎだった。



逸る心、動かない現実。



高町なのはは、そんな4ヶ月を過ごしていたのだった。











【第06話 運命の悪戯・3/4 ~白い悪魔vs死神見習い~】









先ほどの規格外の漆黒の鎧を身につけた男には劣るものの、この世界では最高クラスの2人の勝負は、息をも付かせぬほどの攻防戦。


になるかと思われた。

だが、あっけなく幕は閉じることとなる。


まず男に放たれた20もの誘導弾、それを男は黄色い槍で弾こうとし………何故か突然投げ捨てた。

この前の双剣を思い出し警戒するなのはだったが、軌道から考えてもそれはない。

そして、身体能力で誘導弾を交わそうとするその動きもおかしかった。先ほどの攻撃からすると明らかに違和感がでるほど、スピードが衰えていたのだ。

誘導弾を捌き切ることができず、男は何発もの攻撃を食らってしまう。


…………あれほどの動きをしていた男であるのに、いったいどうしたのだろうか?


結論から言うと、要するにこの男、まともに戦える状態では無かったのだ。


先ほどの黒い騎士との戦闘で、なのは以上に力と魔力を使い果たしていたのだろう。

あの黒い騎士との打ち合いだけで、燃費の悪い彼は優に成熟した魔導士数人分もの魔力を消費し、さらに数十になる剣の投影。それに加え、壊れる幻想の威力を高める為に出来る限りの魔力を注ぎ込んだのがから、魔力はほんの一滴しか残っていなかった。

魔力が無ければ身体能力も激減する。あのレベルの身体能力を保つには、実際かなりの魔力が必要なのだ。

あの黒い男から傷つけられたダメージも合わせたら、それこそ、平均的な陸戦魔導士程度までに低下していた。

当然、魔力が無ければ、剣を取り出すこともできない。


それでは、空のエース・オブ・エースを前に勝ことはおろか、善戦することすらできはしない。


確かに、対するなのはも、体もあちらこちらに異常がある。

だが、そもそも高町なのはは、中、長距離型の空戦魔導士だ。
移動するのも、防御するのも、攻撃するのも、体の動きが鈍かろうが、ほとんど支障はない。

体の痛みで影響が大きいのは近接戦闘ぐらいのものだが、そもそも先ほどの光景を見たら、ドッグファイトでこの男と戦うなんて選択肢などあり得ない。


故に、いくら男の戦術がすごかろうが、そんな状態では、高町なのはにとって、脅威ですらありえなかった。


逃がさない程度の距離を保ち、なのはが同時に放った20の誘導弾を、身体能力の落ちた男は捌き切れず、何発もくらってしまい、なのはの優勢のまま、ワンサイドゲームとなったのだった。






今は、男は数発の誘導弾をもらい気絶している。


正直、連続殺人事件の重要参考人であるにせよ、自分より負傷している相手に勝つというのはあまりいい気分では無い……公務でそんなことを言ってはならないのだが。


「…………殺人未遂容疑の罪であなたを拘束します」


もう動けない相手にその言葉を告げた。

静かに男の方を見下ろす。

なのはには分からなかった。


確かに、言動からは性格がねじ曲がっていることが分かるし、ただ相対しているだけで、なにか気持ち悪い、ムカムカした気分がこみ上げてくるものはあった。


しかし、先ほどの剣舞を思い出す。


剣の心得の少ないなのはには、あれがどんなものなのかは分からない。しかし、黒い男に対しては力足らずだったとはいえ、あの幻想的ともいえる剣舞を見せたこの男が、例の殺人犯だとは俄かに結びつかないのだ。

少なくともあの剣舞が、ただの身体能力任せの剣技であるはずがない。

どんなに才能がある人だろうと、血の滲む努力をしてきたであろうことは分かるのだ。そんな人間が、あんなことをするなんて………

この男があんなことをしたのは何故?
この世の者と思えない凄惨な光景を作り出した根元は?


(考えられるのは、反管理局団体の過激派の一員………恨み……かな。でも、考えてもしかたないか……)


そんなことを考えながら、この男がどんな顔なのか。その面を外そうとそっと男の仮面に手を置こうとしたまさにその時だった。




ヒュン、ヒュン、ヒュン


と何かが空気を裂く音を聞きつけ、迫りくる気配を寸での所で察知したなのはは、ぐるっと体を捻ってその方向を振り向く。

「!!!!!!!!」

視覚できた限りで弾丸が3つ。ギリギリのところでそれをバリアで防ぐ。


(しまった。仲間がいた!!!)


魔力弾に続いて、走ってくる1人の魔導士がいた。

背丈はなのはよりも低く、性別は女。男と同じく仮面をしたその女性は、漆黒の衣をまといながら、二丁拳銃でなのはを狙ってくる。

そして、そのままなのはに向かって威嚇射撃を続けながら、真っ直ぐに男の救済に向かっていった。

対するなのはも、残り少ない魔力で阻止せんと攻撃を加える。


先ほどの剣舞が原始の戦いの象徴と言うのならば、今度の女2人の攻防はまさに、現代を象徴する魔法合戦。


赤とオレンジの弾丸がお互いを行き交い、まるでそれ自体が生きているかのように相手の弾丸にぶつかり合う。


相手の少女は、狙いなど無視した即効性重視の魔弾と、命中や威力を重視した攻撃を絶妙に織り交ぜ、ビルなどの建物をうまく利用して移動し、戦いの主導権を握るのに長けた攻撃をする。


(強い……とうよりも、うまい)


相手の女性は、命中精度、威力は甘いものの、戦い全体を見通した効率の良い戦いをし、時に不意を打つようなパターンを見せつつ戦いの主導権を自分のものにしている。

管理局張りのよく訓練された動きに加え、フリーの魔導士独特の動きがうまく調和をとり、絶妙のバランスを飾っていた。


対するなのはは横綱相撲のそれ。落ちついて相手の攻撃を対処し、どのような敵なのかをまず、ゆっくり見極める。


(強い……けど、発展途上かな。まだまだ、隙が多いし、基礎も完全じゃない。それに魔力量も少なそうだから、一発逆転も無さそう。断言するのは危険だけど)


なのはの戦闘技術は、もともと超一級品の才能をさらに10年もの歳月を掛けて磨き上げたものだ。

例え、残り魔力が少ない現状での大技を使えない戦いだろうが、そうそう破られるものでは無い。


その証拠に、互角だった戦いは次第になのはの優勢に傾いてきた。


その戦況を受け止めて、このままでは不味いと思ったのか。このままで良しとしなかった相手は突然その銃口をなのはの上のほうに向け、十数個の弾丸を無造作にビルに向けて打ち込んだ。

続いて、他のビルの方にも次々と攻撃を繰り出す。


(なに???)


どこを狙っているのか?だが、すぐに狙いは分かった。


魔法弾による攻撃で、次々とビルが崩壊していき、なのはの上に襲い掛かる。


同時に、辺りには、崩れ落ちる瓦礫と粉塵が舞い散って、極端に視界が狭くなり、お互いの位置が確認できなくなった。


「目晦まし!?」


そう思ったのも束の間。いきなりその中から魔力弾が飛んできた。しかし、視界が悪かったからだろうか。その攻撃はなのはのだいぶ横を通り過ぎる。


(次は………どこ?)


次の攻撃を待ち構えるなのはに対し、突如後方からの気配が現れた。


(後ろ?……!!!!!!!!え????紅い男!!!!????)


そこには本来倒れているはずの男がまさになのはを仕留めようと向かってきた


(しまった、男の方も気がついたんだ!!!!)


もはや間に合わない。この男に、この距離に入られてはほぼ勝ち目など無い。

だから、初撃に全ての力を込める。1撃なら、なのはに分があるはずだ。故に、1合で全てを終わらせる気で叩きこんだ。

交錯する、剣と杖。

だが、

パリン

という音と共に剣のみならず、その男の姿までもが崩れ去った。

「フェイクシルエット!!?」

叩いたのは、幻術で作り上げた幻影だった。

(……本物は!?)

咄嗟に、男が元いた場所へ疾風のように急ぐ。

(まさか)

いやな予感がし、危険を覚悟で視界に入るまで近づいた。

「いない。逃げられた!!?」


あの魔導師は、なのはと対戦しつつ、うまい具合に男を助けることの出来る位置まで移動していたのだ。

そして、幻影になのはが気を取られている僅かな時間で男を連れ去った。

焦る気持ちの中、視界の完全に開けた所まで飛び、ぐるっと周囲を見回しながら、さっきよりも更に晴れた視界の中、逃げた2人を探す。


(でも、そんなすぐに逃げられないはず)


「いた!!!」


幸運にも、逃げた2人の姿が見えた。ちょうどビルの角を曲がろうとしているところだった。あと少しでも見つけるのが遅れていたら逃がす可能性が高かったかもしれない。恐らく、気絶している男を抱えているから速く動けなかったんだろう。


「逃がさない!!!!」


それに向かおうと爆発するが如く、なのはは飛んで行った。










(interlude    side ???)



(うまくいった!!!)


誘導弾による牽制と、士郎の幻術を模したものに完全に気を取られている隙に、士郎を担ぎだし、少しだけその場所から離れた後、そのまま幻術で自分と士郎を透明化する。


そして、なのはが、士郎がいないのを確認し、視界の開けた所にいこうとした。


それを確認したティアナは、フェイクシルエットを利用できる限界ギリギリの場所に自分と士郎をわざと見える所に出現させる。なのはが見て幻影がすぐビルを曲がったのは、極力魔力の消費を押さえるためだ。


そして、その反対方向に逃げようとする。


(私は移動速度も遅い……これは部の悪い賭け……なのはさんに見つかるまでに地下にいければなんとかなるかな……それか士郎さんが気が付いてくれるか、か)


まったく、馬鹿げている。こんな真正面から、高町なのはと敵対することになるなんて。


そして、駆けつけたばかりで詳細は知らないが、士郎が負けたということにチリッと胸が痛む。

そして、高町なのはの英雄像に磨きがかかる。


しかし、ここにきてティアナには自分が成長したという確かな実感があった。


以前ならば、例え相手が連戦であっても、一対一でまともにやりあうこともできなかっただろうし、とっくにティアナは捕まっていたはずだ。


それが、大人をかかえて逃げ切る可能性が少なからず見えるのだ。これは大きな進歩だろう。


(なのはさんが完全にあっちに向かって行ったら、全速力で逃げよう)


そう、考えた時だった。


何故だか、なのはがティアナの方向に向かってくる。


いや、少し違うか。あのシルエットを出した場所へ行くために、たまたまティアナのそばを通ろうとしているだけだ。


透明化しているティアナは見えていないはず。


別に何の心配も無い。


迫りくるなのは。視界は完全に幻影があった方。


(隙だらけ………)


まさしく、自分の真横を通り過ぎるだろうなのはは全くこっちを見ていない、これ以上ないだろう絶好の位置取り。


ここで、ガラ空きの所に、攻撃を叩きこめば………


(なのはさんに勝てる?)


別に卑怯なことは何一つしていない。この視界の悪さを作り上げたのも、フェイクシルエットで標的を作ったのもティアナ。


つまり、ここで決めることができれば、ハンデがあったとはいえ、あの高町なのはを倒すことができる。戦術で、あの超天才を倒せるかもしれない。


欲がでる


ただの思いつきが頭の中で正当化されていく。


別に殺すつもりは毛頭ない。少しの間、倒れててもらうだけ。


(ここで倒せば、逃げることも十分できる!!!!!!)


それと同時に、デバイスを、ダガーモードに変化させる。


そして、あのエース・オブ・エースが目の前に、まったくこっちを向いていない状態の、ガラ空きの隙が目の前に現れた。


飛び出す。


その体をめがけ、確実に決められるようダガーモードでがら空きの胴に叩き込んだ。


完全に取ったはずのその間合い。


しかし、










“side なのは“



「………残念だったね」


完全に不意を突いたはずの攻撃は

なのはのバリア越しに止められていた

いや、完全に止めたと言ったらそうでもない。完全には受け止めきれなかったのか、手からは多少血が流れている。しかし、その程度は問題など無い。

相手には、戦慄が走る。これ以上ないタイミングで放った奇襲を完全に止められたのだから当然だ。


(あぶなかった。本当に、戦い方がうまい。でも、)


「私、前に1度、見えない敵からの不意打ちでやられちゃったことがあってね。姿を消してくる攻撃はいつも意識してるんだよ。たとえどんな状況でもね」


意識していると言うよりは、意識してしまう。例え、体への負担が根本的な原因だったとしても。
それだけ、あの事件がなのはに与えた影響というのは大きいのだ。

仮面に隠れその表情は見えないが、今までとは打って変わったような乱暴な返し方衛なんとかその刃を返し、離脱しようとするが時既に遅し。


「!!!!」


相手を逃がさないよう、その両腕、両足をバインドで捉えていた。


「捕まえた」


同時に念のため倒れている男の方も拘束する。


「欲が出たね、あのまま逃げたら、逃げられたかもしれないのに」


本当に危なかった、サーチャーが使えない現状では、逃げられたらおしまいだった。


目の前の女性は必死に拘束を外そうとするが、そんなすぐに破られるほど、なのはのバインドは軟では無い。


「まずは、あなたの顔を見せてもらおうかな」


そう言って、相手の変装を解除する。


その仮面がパリンと弾け、その素顔をさらした。


「………え………」


何かの間違いだと思い、もう一度目を閉じてから相手の方を見返す。だが、そこにある光景は変わらなかった。


「ティ……ア……ナ?」


そこには、あるはずのない、なのはのよく知る、顔が出てきたのだった。




















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士郎が簡単に負けたことに対して、おかしいと思われる方もいるかもしれません。

しかし、私は、どんな人間でも状況によれば簡単に負ける、というのがこの作品の価値観です。


士郎なら戦術で勝てるはず、どんな状況にも勝機を見つけることができるはずと思われる方、不快に思われる方も多いのでしょうが、それが私の作品であるので、申し訳ありませんがこのまま通すことにします。


加えて、私が思うのは、士郎は絶望的な状況下で勝っていたのは、あくまで『悪』が相手だったから、『守らなければならないもの』があったからだと考えています。

しかし、今度は法の使者。この世界においては絶対的な正義である管理局員。

負けたことにより、失われるものは、士郎にとって最もどうでもいい存在である士郎自身の自由のみ

故に、士郎に強い動機が無いために、簡単に負けても不思議じゃない。と考えました。






士郎の魔力量に関しての考察。

士郎の魔力は300程(凛を500)

ランス戦:身体能力で70程消費(セイバーがバーサーカー戦で200,ランサーで50消費ということを踏まえてこれぐらいかな?士郎は燃費悪いと考えて)
投影(5)×30で、150消費
カラドボルクの威力拡大のために50の魔力を追加
計270程度消費

ヴィータ、シグナム、セイン戦:計30程。

で、すっからかん。って感じにしました。



・身体能力向上で魔力を多く消費(私的な見解です)

この作品においては、魔術師もやはりサーヴァントと同様に人間を超える動きをする時は魔力を消費すると考えます。
士郎は肉体を持っているとはいえ、魔力が無ければ、精々強い動物、ライオン程度?であり、それを超える動きをするには魔力を消費していくって感じです。
サーヴァントは、ランオンまでの動きをするのにも魔力を消費しますが、それは彼らの本気の戦闘のことを考えると微々たるもの。ランオン程度の動きは、彼等の戦闘時の一割にも満たない魔力消費ですむと考えてください。

もちろん、たくさん魔力があれば身体能力が高いわけではありません。
魔力は車で言う石油と捉えてもらえばいいかと思います。
例えば、凛と本作の士郎では、凛の方が魔力が多いですが、あくまで石油が多いだけということ。凛の肉体スペックを一般的な車、士郎がフェラーリと例えば、士郎の車には石油はあんまり入っていませんが、それが切れるまでは圧倒的に速いっていう感じです。

サーヴァントと違い、士郎は、魔力が切れたら元の身体能力に戻るだけって感じです。





ガジェットドローンIV型
なのはを襲ったらしいんですが、コレになのはが致命傷をもらったというなら、多分ヴィータの時と同様に姿を消していたはず、と思いました。(公式は詳細な状況は書いてませんよね???)







[4247] 第07話  運命の悪戯・4/4 ~運命の悪戯~
Name: ゆきほたる◆2cf7133f ID:647a93e7
Date: 2011/02/09 00:47




六課から離れて、もう4ヶ月
             

本当にいろいろなことがあった。本当に………





でも、その間、機動六課の皆のことを忘れたことはなかった。

スバルはちゃんと元気にしているかな。私がいなくても、ちゃんとやってるのかな、とか。

エリオやキャロも仲良くやってるのかなとか。

他の隊長たちや、副隊長たちも相変わらずかなとか。

そして、なのはさん。

この人のことを考えると、胸がざわめきだして、平常心を無くしてしまう。

でも、この人はティアナのことを気にかけていてくれてたはずだっていうのは、本当は良く知っている。

あの人は、優しいから。

今は別件で六課を離れているらしいけど、きっと心配してくれてるんだろうと、すごく責任を感じてしまっているのではないかと、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

ごめんなさい、ごめんなさい、と、何度も何度も心の中で謝っていた。

嫉妬と謝罪。ずっと、ずっとこの人のことを考えていた。






なのに、それなのに










【第07話 運命の悪戯・4/4 ~運命の悪戯~】










時が止まったかのように、表情が固まる。

頭の中が真っ白になるということはこういうことを言うのだろうか。

起こっている出来事がまるで理解できない。

「え……どういう……こと?」

紅い魔導師の味方であったその少女

変装を解いたその素顔は、なのはのよく知る顔だった。

「なんで、ティアナが…………?」

目の前のどう考えても彼女の教え子のティアナ・ランスターで間違いない。

今は、青ざめた表情で俯いている。


分からない、どうやっても理解できない事実が目の前に突きつけられる。


嫌な感じの汗がべっとり背中に染み付き、ド、ド、ドと動悸がおかしな音を立てて鳴り響く。

「ねえ……どういうこと?」

「…………」

返事は無い。

ティアナはなのはの視線に併せないよう俯き、口をギュッと結ぶ。

考える……信じたくない真相を必死に直視しようとする。

誰かの変装……のはずはない。いまそれを解いたばかりなのだから。


それに、先ほどの戦闘を思い出す。
幻術、2丁拳銃、戦闘形式は変わっているが、銃の構え方や足運びの癖。
簡単に真似などできない部分、それらは間違うことなきティアナの動きだった。


ようするに……本物


つまりティアナは……………敵?


裏切った……?


それとも………最初から………スパイ?

ううん、違う。後者はあり得ない。

だってティアナはあんなに頑張って執務官を目指していた。

ちょっと方法を間違えちゃって、あの時流した涙に嘘は無い。


なら………なぜ?


「どういうこと………?」

「……………」


馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返す。

でも答えない、ティアナは答えようとしない


「ねえ、何か言ってよ!!!!!」


処理できない頭で、つい声を荒げてしまう。

ティアナは、ビクッとなのはの叫びに体を震わせる。

それでもティアナは何も言わなかった。


「………知ってるの?その人は殺人犯なんだよ」


もしかしたら、もしかしたらティアナは何も知らずに騙されているのではないか?

分からないけど何か誤解があるんじゃないか?


そう思って放った言葉。

でも、沈黙は雄弁だった。

表情が悪いのはそのままだが……ティアナは特別驚いた表情を見せなかった。


つまり、すでにそれを知っているということ。


騙されているのではないかという、淡い希望は折れる。

もう何も考えたくない気持ちを必死に抑えて、さらに考える。


ティアナとは決して長い付き合いではない。

でも、ティアナはあんな事件に加担する子では決してなかった。

じゃあ、なんで?

なんで、こんな見たこともないバリアジャケット、改造された銃を身に纏い、あまつさえ管理局らしからぬ動きを身につけなのはに立ち向かったのか。


それは…………なのはが六課を離れていた間に変わってしまったていうことだろうか?


ティアナは何も話そうとしない。

今、なのはが推測できる範囲で考えられるのは………

最後の訓練のあの出来事。

それで………心の傷を負ってしまったとか…………

そこにつけ込んで……誑かされたとか?


考え過ぎ?


他には………元からこの男の人のことを知っていた……恋人とか。だから、好きだから管理局……私を敵にまわした……?

違う。それだけでは、この改造されたデバイスや、さっきの戦闘方法が説明できない。


結局、考えるだけでは何もわからない。


「ねえ、お願い。何かあるなら話してよ。このままじゃ……ティアナも犯罪者になっちゃう」


それも、ただの犯罪者ではない。

自ら、あんな事件に荷担していたってことになれば、もう更正の余地はないって思われる可能性は極めて高い。


「もう、管理局に戻ることも出来なくなるんだよ?それじゃティアナの夢も叶えられなくなるんだよ?ティアナは絶対に犯罪なんかしない。何かあるんでしょ、お願いだから話して!!!」


ティアナがぴくっと反応して、ようやく、そこで口を開いた。


「残酷なことを言いますね…………私なんかじゃ執務官になんて……………」


息を飲む。

まさか……本当に……あのことで……


「何で!?確かにあの時は失敗したのかもしれない。でも、ティアナは、本当に才能あるんだよ!?自分じゃ気づかなかったかもしれないけど、訓練中もどんどん成長していったんだよ。ティアナなら絶対執務官になれる!」


「………正直、なのはさん達みたいな才能を本当に持っている人に言われても説得力ありませんよ……昔のなのはさん達を見ました。なのはさん達の9才の頃にすら私はとどかないじゃないですか」


「…………」


あれを……見たんだ………でも


「………確かに私は魔力量は他の人よりもあったのかもしれない。
でも、魔導士って言うのはそれだけじゃ決してない。ティアナも十分凄いんだよ。私もたくさんの教え子達を見てきたけど、その中でもティアナは覚えが早いし、なによりも誰より努力してる。私は絶対に執務官になれるって思ってる!!!」


心からの思いで、必死になりながらも、まっすぐ澄んだ目で見つめるなのは。


真摯ななのはの言葉に感じるものがあったのか、ティアナの頑なな様子が、少しだけ和らいだようだ。


それはなのはが本音で話していることが伝わったことと、


『誰よりも努力している』


ということを、なのはが言ったからだろう







“side ティアナ”


なのはは知らないが、今のティアナにとって『夢に向かって努力し続ける』ということは、本当に大切な意味を持っていたから。


だから、努力していると言われて、敵として現れた自分にあんなに必死になって説得してくれて、感じるものがあったのだろう。


本当は分かっているのだ、高町なのはに対して、ただ嫉妬しているだけということは。
本当に分かっているのだ、高町なのはが優しい人であるということは。


4ヶ月前のティアナだったら、なのはが必死に説得すれば、反発心を抑え、再び六課に戻っていたかもしれない。


だが、4ヶ月の間に様々な価値観に触れてきた。管理局への疑問、本当に才能の持たない人たちの思い、正義の味方。

管理局で執務官を目指し続けることが本当に自分のやるべきことなのか?

分からなくなってきた。心が揺らいできた。



そして、それ以上に退けない理由がある。



なによりも、衛宮士郎を、彼女の背後にいる、不器用な生き方しかできない彼をほっとけないのだ。

この馬鹿な人は、今、管理局に捕まったら、“自分に都合の悪いこと”、だけしか話さないだろう。あの挑発する口調で。

もし、ティアナが弁解して、うまくいって刑が軽くなっても、管理局に使われるのがオチだろう。


ちらりと士郎の方に目をやる。

何者にも代え難い感情が蠢いて、心を満たす。

彼が何かに属するというのは考えられない。思ったように、信念に生きて欲しい。


そして、自らも共に………



“パリン“と音と共に、話ながら組んでいた術式でバインドを解除する。



うれしかった。

敵として現れた自分のことを一生懸命説得してくれて嬉しかった。

信じてくれて嬉しかった。

執務官になれるといってくれて嬉しかった。


でも


「でも………この人を見捨てるわけにはいきません」


ティアナの真っ直ぐなのはの瞳を見返した。


例え、どんなに分の悪い、戦いになるとしても


それでもやるんだと、覚悟を決めた。








“sideなのは“





分からない、何故この男のことを庇うのかがなのはにはわからない。

勝ち目はほとんど無いだろうことは分かっているはずなのに、それでも立ち向かってくる理由が分からない。

「なんで?なんでそんなにその人のことが大事なの?分かってるの?その人は殺人犯なんだよ?」

「それでも………です」


誤解、そこには小さな誤解がある。


なのはの刺しているのは例の連続殺人犯。

ティアナが捉えているのはニブルヘルムの死神


どちらも殺人犯であることには違いない。

故に、2人の間の微妙なずれが生じている。


「そんな…………」


なのはは思った。

この男が、ティアナの倫理観を破壊するぐらい、大きな存在になってしまったんだと。

非道にも心の弱い部分につけ込んで………


でも……いつのまに?


「いつのまに…………」


4ヶ月前には無かった、管理局では身に付かない動きや、改造されたデバイス。


「いつのまに………この男の人とそういうことになったの……六課の訓練もあったはずなのに」


なのはがいなくなったとはいえ、訓練は行われていたはずだ。そんな時間はいったいどこに………

いつのまに、この男にティアナは惑わされてしまったのか。

ずっと、ずっと、執務官を目指して頑張ってきた、兄の汚名を晴らすと頑張ってきたティアナの価値観を捻じ曲げるまでになったのか?

六課の仕事も大変なはず。管理局員でも無い人間に接触する機会なんて殆どとれるはずないのに。


だが、その問いに、思いがけない反応が返ってくる。


「え?」


ティアナは、ぽかんと、そうつぶやいた。


「え?」


ティアナの純粋な驚きに逆になのはの方が驚いた。


「どういう………ことですか?」


「どういうことって………?」


「六課の訓練って…………どういうことですか?」


「…………?だから…………訓練もあったはずなのにどうやって、その人と………デバイスも、あの動きも簡単に身に付くものじゃ………ヴィータちゃん達の訓練もすごく厳しいのに、いつのまに………」


言ってから、『しまった!!!!!』と総毛立つ。どんな失言をしたのかは分からない、

分からないが……まるで爆弾のスイッチを押してしまったかのようないやな予感がした。









“side ティアナ


『訓練もあったはずなのに…………』


一瞬言っている意味が分からなかった。

何を言っているんだろう………誰がどう考えても、士郎と会ったのはティアナが六課を出て行った後のことだと推測できる。

なぜ、六課にいた時のことをいうのか理解できなかった。

「・・・・ヴィータちゃんの訓練も厳しいはずなのに」

言葉からすると、高町なのはは現在もティアナが六課にいると思っていると考えて間違えない

(…………なんで?)

そこで、ふとある事実を思い出し、そこでようやくある一つの結論が導き出される。


『高町なのはは、あれからそのまま別部隊に配属された』


そのことは、鎧衣という男の人が話してくれた……というより勝手に喋った


あの日、ティアナが六課を飛び出したちょうどその日、かなり大きな事件が起こったらしい

なのはさんは偶然そこに居合わせ、それで、その対策として突如、そのまま本局の方の別部隊に異動になったと聞いた。

責任者の1人で、休む暇が全くないほど忙しいとも。


そして………どうやら………いや、そんな馬鹿なことあるのだろうか?

あり得ていいのだろうか?

あって、いいはずがない。でも……あの言葉から、推測できるのは………


乾いた声で、なのはに問いかける。


真実を確かめるために。


「…………は……は…はは、まさか…………知らなかったんですか?」


「………………何を?」


どうやら、なにか失言してしまったことに気がついたらしい。だが、それが何か分からずに、困惑している。


「何か分からないんですか…………?」


「………………」


答えられないなのは。おかしいぐらいに焦っているのが見て分かる。

そして、ティアナは事実を告げた。


「なのはさん、知ってました?私、なのはさんと最後に会ってから、六課から逃げたんですよ……それから4ヶ月、管理局にはずっと戻っていません。この人と、一緒です」


「………え………………え!!?」


狼狽し、さっと血が抜けたかのように青くなるなのはを見て、本当に知らなかったのだと、確認してしまう。


あっていいはずないことが、現実であると理解してしまう。


同時に、黒く、ドロドロした感情が沸々と浮かび上がってくる。

どうしようもなく、止まらないほどの熱に変わっていく。


「は……はは、ほんとに………そうなんだ。知らなかったんだ。心配してるようなこと言って………
そうですよね。私とのことなんか、大事件に比べれば河原の小石に過ぎませんよね………流石、空のエース・オブ・エース」


なのはは何か言おうとしたが、口をぱくぱくさせるだけで、言葉を見つけることが出来ないでいた。


ティアナは知らないが、六課に戻ることが出来ずとも、ティアナの様子を何度かはやてに聞いてみたりした。だが、大丈夫だと言われたし、電話で話したりする内容でもないと思った。

忙しい現状、電話で中途半端に蒸し返すのもティアナをますます混乱させるだけかもしれないから、今度、面と面を向えて時間があったときにじっくり話そう。

はやて達が、これ以上なのはに負担を掛けないため、ティアナのことを隠し続けていたことを知らなかったなのはは、そう結論づけていたのだ。


だが、そんなことはティアナの知る由もない。


冷静だったら、何か事情があったんだと考えることができるのかもしれない。


だが、この4ヶ月、ティアナは悩んで、悩んで、悩んで、ずっと、悩み続けてきたのだ。その中心にあったのは、高町なのはのことだったのは言うまでもない。


嫉妬であれ、謝罪の念であれ、ずっとなのはのことを考えていたのだ。


なのに、その肝心の高町なのはは、心配することはおろか、ティアナが六課から脱走したことさえ知らなかったという。


何の冗談だろう?


どんな忙しかろうと、電話なりなんなりでティアナの様子を聞くことぐらい出来たはずだ。

それをしなかったのは、所詮ティアナなど、彼女の大勢いる教え子の1人に過ぎないから。

この前のことも、所詮、数いる教え子とのトラブルの中の1つにすぎないから。


だから、知らないなんてことが起きた。


大事件を前にしたら、ティアナのことなんて些細なことでしかないのだから。


そう、たった2週間ちょっとの付き合いでしかない、特に優秀でもない凡人のティアナなど、気に掛ける価値はない。

所詮ティアナはそこらの訓練生にも埋もれるただの凡人なのだ。

スバルのような魔力も無い、エリオのように9歳でBランクといった才能も無い、キャロのようなレアスキルも持っていない、目の前の女なんて比べることすらもがおこがましい、ただの魔導士。


思考は悪循環し、ドロドロした感情にさらに拍車をかける。


ブチリと、なにかが切れたような音がした。


死んだ。理性が死んだ。感情が壊れた。


憎しみを通り越して、分けの分からない殺意にも似た感情がティアナの名かを駆けめぐる。



「クロスミラージュ……オールフリー」



『Yes………
自己制御停止
オールリミッター解除
許容値限界突破機能稼働
――――――――――非殺傷設定解除』


明らかな憎悪を持って、高町なのはを睨み付けた。







“side なのは”







「違うのティア「なにが違うんですか?知らなかったですよね、私のこと」

何か言わなきゃと思って、出した言葉を遮られる。

否定できない。どんな事情があれ、彼女がティアナのことを知らなかったのは本当だから。

ここでうまく、嘘を言えるほどの器用さはなのはには無い。言い訳が言えるなのはではなかった。


「もう……いいです」


そう言って、ティアナは大規模の魔法陣を描きながらなのはに向かって銃を構える。同時にガシャン、ガシャン、ガシャンと、ティアナのスペックからすると、過剰なまでのカードリッジロードが繰り返された。


「くぅっ」


明らかに許容値を超えた行使に、ティアナは痛みを堪えるように顔を歪ませる。

だが、苦痛に耐えながらも、それに構わず、銃を構え一点に集中させるように魔力を高めていく。


「やめてっ!!!それじゃティアナが………………えっ!!!?」


目の前の光景を見て、今度こそ、総毛立つ。

ティアナはなのはの言葉を完全に無視、いや、聞いたせいで余計に逆上したのかもしれない。

今度は、ティアナの周りから、光……魔力が構えた銃に向かって集まってくる。


(う………そ………いつのまに…………)


集束魔法。


戦闘中、周りに飛び散った魔力を集束し利用する魔法。

なのはのスターライトブレーカーもそれにあたる。

これだけでも、驚くべきこと。

その上、カードリッジロードも併用するなんて………


(このままいけば、魔力値は、AAA……いや、それ以上!?そんな………)


一体いつの間に、魔法までこんな成長したのか?


膨れあがる魔力。


だが、


突然、ぐにゃりと、その魔法陣が形を歪ませた。


「え?」


疑問に思う暇も無く、魔法陣はさらにその形を崩していき、魔力が集まっている丸い球体もアメーバ状にその形を変えていく。


それは何を意味するのか?


(暴…………走………!!!?)


そう、当たり前だ。

そんな芸当、不可能に決まっている。

集束魔法を使うことでさえ、たった四ヶ月で出来るはずがないのだ。

それをカードリッジロード、しかも限界を超えて併用するなんてできる可能性は皆無。自殺行為以外の何者でもない。

暴発するに決まっている。


ティアナは自分の負担を度外視していただけではなかった。

もはや、ティアナは怒りで完全に自分を見失っていたのだ。

制御できるかどうかなんて概念すらが頭からすっ飛んでいた。


「止めてえええええーーーーーーーー!!!!!!!」


声と同時に、なのははティアナに向かって翔ける。

一刻も早く止めさせないと、ティアナがとりかえしのつかない体になってしまう。


(お願い、間に合って!!!!!)


ティアナまで、ほんの僅か。


なのに、今まで歪みながらも何とか保っていた魔法陣が、ここにきて完全に壊れる。


同時に、1点に集約された魔力が弾けた。


ティアナの制御技術か、それとも偶然か、最悪なことに、その魔力はティアナの方向には行かず、目と先にであるなのはの方に解き放たれた!!!!


(しまっ…………た)


迫り来る魔力に反応し、オートで張られるバリア。


だが、それはあまりに展開の速さを重視しすぎた即席のモノ。


「くっうううううううう」


残り少ない魔力を込めるも、その攻撃はバリアを浸食し、バキ、バキ、バキ、という音と共に、亀裂が走る。


まずい


そう思った瞬間には、その守りを突破してしまっていた。


「きゃあああああああああ」


悲鳴とともに、吹き飛ぶ。まるでポールのように飛ばされて、ダンッという音と共に地面に叩きつけられ、さらに勢いで転がり廻っていく。

そして、ゴロゴロ転がった後、勢いが止まる。しかし、なのはは、一向に動く様子を見せなかった。

バリアジャケットは、至る所が破れ、あちらこちらが血で染まっていた。








その、光景を……ティアナは呆然と見ていた。


「嘘……………………勝った?なのはさんに勝っ………」


んだ。そう思うや、ティアナも緊張感が切れたのと、過剰な魔力行使からくる体への負担からふらっと倒れて意識が途切れてしまった。









「は……はぁ…うぅ」


対するなのはは、まだ意識はあった。


あの直撃を受けて、まだ生きていられたのは、なんとかバリアが間に合ったからなのと、暴発したのが、ちゃんとした魔法では無く、魔力をぶつけただけのモノだったから、貫通性を持たず、魔力が大分周りに拡散したからだろう。

それでも、殺傷ダメージで放たれたその魔法は、バリアジャケットをも貫通して、なのはの体に襲いかかり、致命的なダメージを与えた。


痛い。

全身血だらけで、痛みを感じない所なんて無い。

もはや、立つどころか、腕一本動かすことも出来やしない状態だ。


だが、精神に受けたダメージはそれをも上回った。


(ごめん、ごめん、ティアナ………)


彼女の愛する教え子にこんなことさせてしまったこと。

苦しいぐらい、悩みつくしたはずなのに……その原因を作ったのは、高町なのはであるのに。

それなのに、ティアナのことを知りもしなかったなんて………

しょうがなかったなんて、口を裂けても言うことはできない。


『なのはさんにとって私は河原の小石―――』


情けないぐらい、否定することができない。

だって、それは事実。あの凄惨な光景ばかりが目に浮かび、ティアナのことははやてと合う時などにたまに思い出す程度だった。正直、ほとんどの時間は忘れたままだった。

今までも他の訓練生と何回か似たようなことがあった……だから……決して軽視してた訳ではないけれど……なのはにとって“特別“なことではなかった。

才能の無さ……これが個人にとってどんなに大変な問題になるのか。そして、自分がどう見られるのかを、深く考えてなかったんだ。

あの無茶は、それでティアナが本当に追いつめられていたからこそ起こした行動だった。

あれはティアナからのサインだったんだ………それを私は………!!!!



(最低だ……私)



地面に体が崩れ落ち、もう指一つ動かすのも難しい状態の中、全身に痛みを尚超えて、己の怪我をも無視し、なのははただティアナに対しての謝罪だけを繰り返していた。











どのぐらいたったのかは分からない。

流血で意識が朦朧とする中、気がつくと………あの男が立っていた。片手にはさっき投げた槍を持っている。

しかし、なのはの体はピクリとも動いてくれない。

男は、ティアナを担ぎあげると、なのはの方に向かってくる。

(……殺すの?)

状況はさっきと真逆。今度は、なのはの方が圧倒的に不利……そもそも勝負すらできない状況だ。

男はティアナをおろして、地面に這いつくばっているなのはをおもむろに拾い上げ、傷口の所を見定める。

「何を……?」

何故か男は、体の状態を確かめ、簡単な応急処置をしたのだった。

「運がいいやつだ。これなら後遺症も残ることも無いだろう」

そう言って、なのはをまた地面に倒し、再びティアナを持ち上げた。

「なんで……?」

こんなことをするのか?男の予想外の行動に頭がついていかない。

一瞬男は黙り込み、何かを考える素振りを見せてから、なのはに言い放った。

「…………ただの礼だ。高町なのは」

「………え?」

「いや、君のおかげで随分優秀な駒を手に入れることができたからな。
君が徹底的に叩きのめしてくれたおかげで、ずいぶん落ち込んでいたよ。彼女は。
ちょっと甘い言葉をかけてやればすぐだった。
人殺しに加担しているとも知らないで健気に尽くしてくれたよ。
しかも、今回のことで、今まで以上に奉仕してくれるだろうな。いや、本当にありがたい。これはその礼だとでも思ってくれ」

「な」

何を………言ったのだ?この男は!?

「あ、あなたが、あなたのせいでティアナは!!!!!!!」

「くっ、地べたに這いつくばって言ってもなんの恐怖も無いな」

男の言うとうり、なのはは地べたに見っともなく這いつくばったままで叫んでいた。

手が、動かない。頑張っても、頑張ろうとしてもぴくりとも動いてくれない。

くやしい、くやしい、くやしい、くやしい、こんな男にティアナが!!!!!

「あなたみたいな人に!!!!!」

必死の形相で睨みつけるなのはだが、男は何処吹く風だ。

「く、自分で追い出しておいて今更。
もう彼女は、退路も断たされたからな。これから少しずつ調教していくことにしようか。
簡単に、人を殺すことができるように。
まあ、それが失敗すれば…捨てるだけか。
……これ以上は、管理局の応援が来るかもしれないからな。では、機会があればまた会おう」

そう最後ににやりと笑って、男は気絶したままのティアナを抱えて走り去っていく。


「待っ、ティアナあああああああああああ」


声にならない声で叫び続ける。だが、殺傷ダメージによる攻撃のせいか、魔力が全く持って無いせいか、どんなに願っても体は一向に動く気配を見せない。

いま、動かなきゃ、今動かなきゃティアナは取り返しのつかないことになってしまう。

分かっている。なのに、どんなに、どんなに思っても体は動かない。

くやしくて、くやしくて、情けなくて、もう壊れそうに。

それでも、何もできないまま、その男が逃げていくのを、ただ、ただ見ていることしかできなかった。








…………でも、どんな悔しくても、相手がどんなに悪党だろうが、結局悪かったのは自分。

ティアナをあの道に走らせたのは、高町なのは。

その事実は、決して変わらない。

















“side 士郎”



張り巡らされた地下道を士郎は走っていた。

(これでいい)

ここまで言えば、ティアナは完全に被害者だ。今後、管理局に捕まっても軽い刑で済むだろうし、おそらくかなりの地位にあるだろう高町なのはが全力で庇ってくれるはずだ。

高町なのはとティアナの間にどんなやり取りがあったのかは、分からない。だが、あの傷、おそらくティアナは殺傷設定の攻撃までしてしまったのだろう………

(くそっ!!)

なのはと同様に士郎も自分自身の不甲斐なさに憤る。

(ずっとティアナを連れまわしたばっかりに)

彼女が士郎と共に行動するのを是としなければ、管理局に返していれば。そうすれば、こんなことにはならなかった。

危険と思いつつも、結局止めなかった。

彼女と居る心地よさに流されてしまった。


だが、いくら後悔しても、どうしようもない。


高町なのはにも悪いことをした。士郎の言動は彼女の傷をこれ以上なく抉ってしまっただろう。

しかし、今の士郎にはティアナに最低限の立場を残してやることしかできなかった。

せめて、自己を責めず、士郎のことを恨んでくれるといいのだが。


(魔導士殺しとして動いたはずが、結局最後には感情に走ってしまったな………)





「ん」

その呻き声と共に、ティアナの目がそっと開く。

「えっと、私……」

何故士郎の腕の中にいるのか、少しの間逡巡した後、

「あ」

じわじわと先ほどのことを思い出してきたのだろう。目は潤みだし、顔がくしゃっと崩れていく。

「士郎さん、私、私、うっ、ううっ」

溢れんばかりの涙が零れ落ちてきた。

「―――――」

士郎は黙って、ぎゅっと、泣きじゃくるティアナを抱きしめる。

「わ、わたし……なんて、なんで、うっうう、」


ティアナは士郎の胸の中で、ただ、ただ、泣いた。

もはや、何に対して泣いているのかも分からない。

あらゆる感情が蠢いては消えていく。



別離の時がきた。



もう……帰る場所は無くなった。














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番外編1話での、はやての言葉は、この展開に対する伏線のつもりでしたが、どうだったでしょうか?

無理やりかも知れませんが、眼をつぶってください(>_<)

ここまで書いてようやく2合目……まだ先は長いです(汗)


多分、このタイトルや、今までの展開から分かったかと思うのですが、リリカル×Fateという熱い物語同士のクロスでありながら、目指すのは“天使のいない12月”や、“君が望む永遠”的な人間関係を弄っていくという方向性を考えています。

だからというか……戦闘は多いのにも関わらず、熱い戦いとかで魅せようとか思っていないから、戦闘は変なのになっていくかもしれません……

あからさまな、型月>>>リリカルは、暗くするための必須要素です。

バトル作品なら拮抗している方が面白いんでしょうけどね。














[4247] 日常編part03 短編×2
Name: ゆきほたる◆2cf7133f ID:b575a03d
Date: 2011/04/16 12:09
EpisodeB『脱落者達の出発点』






「なら………責任を取ってください」

「・・・」

衛宮さんは声を詰まらせる。


こんなことを言うのは、卑怯……なのかもしれない。

けど、それでも私には必要だった。

いや、違うか。欲しかったんだ。彼が。

だから、彼が離れていかないように言葉で縛る。


「じゃないと、私、グレちゃいますよ?」


そんな冗談めかせた軽口で、ちゃんと笑えてはないんだろうけど、でも心を込めて彼に伝える。私には彼が必要なんだってことを。


「…………………………………………ああ」


ようやく、ようやく、泣きそうな、苦渋に満ちた顔で、やっとそれだけを士郎さんは声に出した。

これは、私の、私たちの新しいスタートライン。夢潰えた者達の出発点。













【番外編その3  迷走 】



“聖王教会”



「以上が私からの報告だ」


シグナムが面々の中で報告を終えたところだった。

この場に集ったメンバーはクロノ、カリム、はやて、フェイト、シグナム、ヴィータの6人。

聖王教会。以前、フェイト達が予言について聞かされた部屋に再び集まっていた。

当然、議論の焦点は先日の3つの事件。

戦闘機人、黒い騎士、そして件の殺人犯。

一つでも頭が痛い大事件であることは間違いない。

そんな事件の情報交換及び対策に、一週間経ってようやく漕ぎ着けることが出来たのであった。


「高町三佐はどうだった?」

クロノは今もまだ入院しているなのはのことを尋ねる。怪我のことはある程度把握しているが、精神的な面では近しい人間しか分からない。

「………怪我は全治一ヶ月ぐらいって。後遺症は残らないだろうって担当医の人は言ってたよ。」

そうフェイトは応えて、一端視線を下に落とした。

全治一ヶ月。確かに大怪我ではあるが、あの状況で、それで済んだのは奇跡とも言えるだろう。

そして、それは皮肉にもあの紅い男が応急処置をしたということが大きいと言えたのだった。

何故殺人鬼であるはずの男がなのはを殺さなかったかは不可解といえば不可解であるが、“生きていたほうが高町なのはは苦しむだろう”という余興の一種だと考えれば理解できなくも無い。その証拠に、

「でも………精神的に相当まいってる。今までどんな辛いことがあっても無理矢理でも笑ってたのに、今はできてない。なのはは笑ってるつもりかもしれないけど、それはぎこちなくて………」

フェイトも自分のことのように辛そうな声で言う。

「そう………か。無理もないな」

ただでさえ、過酷な労働状況が続いて身体共に精神もやつれていたところに、圧倒的戦闘力を持つ騎士との遭遇、殺人犯の逃走を許してしまったことに加え、ティアナのことまで起きてしまったのだ。

取り繕おうとする意思があるだけでも驚きである。




『ギリッ』


全員が暗い表情をする中、微かにはやての方から歯を噛みしめる音がする。


恐らく彼女は“自分が嘘をついていたせいで”と自身に怒りを感じているのだろう。

この四ヶ月、最もなのはに会っていたのははやてであったし、加えて、なのはにティアナのことを伝えないよう最終的な判断をしたのも彼女だ。

『自分のせいで』という贖罪の念が重くのしかかる。

だが、はやてはこの場で『自分のせいだ』などと言葉に出すことは、ただの自己満足に過ぎないこと、
『はやての責任ではないよ』と皆に言わせて自分を慰めてもらう行為でしかないことも分かっており、だからこそその感情を言葉にだせず、ただ、ただギュッと唇を噛みしめているのだった。



淀んだ空気の中、フェイトはその重たい雰囲気を解消しようと言葉を続けた。

「でもね………あの時のレリックを持っていた子供、覚えてるかな。その子が同じ病院で治療してるんだけど、いろいろあってその子がなのはにすごく懐いてね。なのはもその子といる時は少し落ち着けてるみたい。だから、最初の数日の頃よりは良くなってるよ」

「そうか、あの時の子供か」

ホッと、少しだけ安堵を漏らす面々。


にもかかわらずフェイトは内心では不安も抱えていた。それは、なのはがその子どもに依存してしまわないかという懸念があるからだ。
もしかしたら、両親や引き取る人が突然現れるかもしれないという未来があるかもしれない。もともと正体不明の少女だ。もっと悪い事が起こるかもしれない。
そして、その時なのははどうなるか。

(でも、そうやって悪い未来を想像しても意味は無いか……)

そうやって、今のなのははそれを心配できるほど良い状況ではないのだと結論を付けた。とにかく今、なのはが元気になってくれるだけで十分だと。



「それでは……話を戻そうか。まず、例の黒い騎士についてだが、この男はレリックが目的で間違いはないんだな?」

その問いに、フェイトが答える。

「うん、それは間違いないと思う。真っ先にレリックを狙ってきてたし、本人も要求してきてたし」
 
「そうか………で、高町三佐の話では、その男はどういった理屈かわからないが、殺人犯が止めを刺そうとした時に突然消えたしまった。
黒い騎士かその仲間かは分からないが、そちらの方で逃げた、もしくは逃がしたと言うことか。魔法陣なしでの空間転移か、それに類似するものだろう………少なくともまだ死んでないと考えなくてはな。
最悪、あの時の状況まで回復した黒い騎士と再び戦うことも視野に入れる必要がある………か。
はやて、フェイト、僕は見ていないからおまえ達の感想を聞かせて欲しい。後、能力も確認しておきたいから、そちらの方の確認もよろしく頼む。」

そして、まずはやてが頷いてから応え出す。

「うん、わかった。まず、わたしが説明するな。フェイトちゃんは足りなかった所の補足をたのむ。」

「うんわかった。」

はやての言葉にフェイトは頷いた。

「なのはちゃんの話をベースに話をするけど、正直、実力は未知数や。私たち全員気絶しながらも軽傷ですんだって事は、相手にそれだけ余裕があったってこと。つまりそのぐらいの実力差があった。
相性のことを除いても、今の状況では一対一だと正直勝てる魔導師がいるとは思えへんほどや。超接近戦、特に陸戦ならSSSをつけるに値するかもしれない。」

「SSS………信じがたいな」

SSSの称号。それは、もはや人の領域を完全に逸脱した人外の領域。人間にその称号をつけるということはこの広い世界でもまず例を見ないことである。

 「ただ反面、圧倒的な攻撃力、例えばなのはちゃんのSLBとかそういった類の一撃必殺のものはなかった。強さ自体は驚異やけど、面制圧などの広範囲魔法が無い以上、総被害は限定されると思うのが救いと言えるかもな。
 まあ、うちらに使うまでも無いと考えたのかもしれへんし、もしくは大技を持ってるけど接近戦を好むタイプだったとかっていうのもありそうやから一概には言えんけど」

「………そうだな。遠距離タイプだと思っていたのが、接近戦もできたという例もすぐそばにあるしな。できればそうあって欲しくないものだが。考えた所で分かるわけはないか。では、続けてくれるか」

「わかった。まず要点を整理しようか。優れている特徴は
1.魔法無効化
2.超接近戦、剣の手数の大きさ、剣の重さ、技術、戦術を総合してSSS級クラス
3.武器の強化?鉄パイプ、コンクリートなど

反面、付け入る隙がありそうな所は
1.陸での移動速度はやや早い程度(空戦魔導師と比べたら)
2.魔法は超一流という程ではない
3.固形化された魔法や物質、ヴィータのハンマーや周辺のコンクリートによる攻撃は無効化されない

こんなものかな。フェイトちゃん、他にある?」

「ううん、これでいいと思う。」

「そっか、じゃあ、次に進めるな。とにかく問題なのは魔法の無効化。正直、私やなのはちゃん、フェイトちゃんはほとんどの攻撃が通じなくて話にならへん。Sクラスの魔法を直撃させたのに無傷やったし正直うちらじゃ対策を練っても勝つことは不可能やと思う」

クロノは眉間に一層皺を寄せる。

「完全な魔法無効化能力。まさか、そんなものが実在するとはな。
対策としては………現状では古代ベルカ式か。
現状あいつが出てきたらシグナムやヴィータを中心に対策をするしかないということか……………2人ともいいか?」

その問いに、間髪入れず二人は肯定の返事をした。

「「ああ」、問題ねー」

2人とも今までの話を聞いても全く気負いをせずにハッキリと応える。


それをフェイトは不安げに見つめる。

心の中で思ってしまっているからだ。“勝てない”、と。

確かに魔法無効化は最悪の能力であり、あの男の中でも特筆するべき能力であることなのは間違いはない。

だが、違うのだ。それだけではない。

実際、目の前で対面したからこそ分かる直感。

対峙していた際に感じた違和感が今なら理解かる。

フェイトは対峙しながらも、目の前の男は、超一流の魔導師や騎士といった、その延長線上の者と考え戦っていた。


しかし、そうではなく、例えるならば、『闇の書』のあの化け物と同位に考えたらどうだろう?


すると、しっくり来てしまう。そう、あれはこの世に存在しては成らない類のあってはならないものなのではないか。

対峙した相手が人間ではなく、怪異とも呼べる化け物。そう考えると、あのときの違和感の正体が解決されてしまう。


闇の書の時は、アルカンシェルという規格外の手段を使った。では今回はどうするか………


フェイトの杞憂の可能性もある。魔法無効化といった予想外の事態で、混乱しているだけかもしれない。

現状では、シグナム、ヴィータ2人しか相手をすることも出来ないのも事実であり、何もせずに放っておくというということもできない以上、フェイトはこの感情をどうすることもできない。

せめて思い違いであって欲しい、そう願う仕方なかった。


そして、はやてが話を続ける。

「後は……たぶん肉体自身を中身から強化できる魔法を使っていると思う。それもデタラメなやつを。
うちらが魔法でいくら防御を固めても1秒間に数十回も剣を振るうなんてことはまず不可能や。そんなコトしたら、中身の筋肉や骨が一瞬でいかれてしまうからな。
それを考えたら、体の中身自体を強化する魔法か、人体改造かなんかでうちらと違った体内の構造を持ってるか、そうとしか考えられへん」

バリアジャケットでは外面からの攻撃を防げても、関節技などの中身に対する攻撃が有効であるのと同様に、極度に肉体自体を動かすといった攻撃は肉体の強度が持てず現状は不可能だ。あの様な、剣道をそのまま早送りしたような攻撃を成すには、特別な魔法か何かが必要になってくる。

「あと、これはレベルこそは劣るけど、あの殺人犯の方も同様のことができるってなのはちゃんの話でもあった
 あの二人は、二メートルも離れていない位置から、音速を超える速さの攻撃、しかも一秒間に何十って攻撃の剣の応酬をしてたそうや。そういった、動体視力、反射神経も異常極まりない。」

「そんなにすごいのか………」

「私も信じがたいけど、なのはちゃんは間違いないって。だからやけど、もし戦うことになったら、ヴィータやシグナムは遠距離からの攻撃や、空戦のヒットアンドアウェイを中心として攻撃を組み立てて欲しい。いつもの二人のスタイルやから問題はないな。
 一撃の重さ自体は2人も負けていない、むしろ勝ってると思う。だから、それを生かす形で戦って、間違えても室内とかの飛行能力が生かせない限定された空間では戦ったらダメや。………2人には不本意かも試練けど、それは絶対守って欲しい」

「了解した」
「わかったよ」

二人こそ態度には出さない物の、やや不服といった所だろうか。強い敵相手に、真正面からやり合いたいというのがベルカの騎士だろうから。

然れども、百戦錬磨であるが故に相手の土俵で戦うべきでないことは十分承知しているし、普段から常にそれは念頭に置いて戦っている。

「他の対策は今のところないか………皆は何かあるか?」

クロノは他の面々に尋ねるが、特に意見のある者はいなく、首を横に振る。



そこで突然、カリムがずっと疑問に思っていたことを口にした。

「あの……対策ということではないのですが」

少し言い辛そうな様子で話す。

「今までの話………正直、信じ難い話です。………非常に言いにくいですが、全て幻術などの精神攻撃だったという可能性は無いのでしょうか?」

「「「…………」」」

それは、至極もっともな話だった。

魔法無効化を始めとする、奇跡のような魔法の数々よりも、広範囲の幻術といったほうがまだありえそうな話だ。

現に、闇の書の時にも、フェイト達は精神攻撃にさらされたこともある。

「私達は見たこと無い種類の結界系の魔法で通信手段で遮られ、中の様子が確認できていません。ありえない話ではないと思うのですが。」

「そうだな……」

クロノもそれに続ける。

「実は、管理局の上層部でもその意見は出ている。もっといえば今はそれが多数派だ」

「………」

はやて、フェイトは黙り込む。

彼女たちとてそれを全く考えなかったわけではない。だが、理性はともかく、感情が言っている。あれは“現実”そのものだと。

「ティアナのこともある。正直あれは、出来すぎな気がする。悪夢を見せられた。そう考えたほうが納得がいくんだ」

「それは………確かに」

そこだけははやて、フェイトも同意する。いや、そうあって欲しいとすら思う。

しかし、

「お前たちは、現実だと思うんだな」

恐らく、はやてやフェイトの表情を読んだのだろう。彼女たちが言葉を出す前に答えを言う。

「そうですね………それに、これほどの幻術があると考えるのもそれはそれで脅威以外の何者でもありませんし」

カリムもそう続ける。

「結局、どちらに転んでも対応できるようにしなければ成らないが………現状、これが幻術でもなんでも無かったときの対策を実際するだろうのは俺たちぐらいしかいないだろう。だから、出来る限りの対策を考えておく必要があるか」

「そやな。正直あれはほんもんだったってうちは思うとる。でも、その感覚も植え付けられた者かもしれへんし、断定するのは危険だとも思う。手間はかかるけど、両方の場合に備えた方がいいと私も思う」

はやてに続いてフェイトも賛同する。

「うん、私も同じ意見」


「よし。では、対策を考えるのは後々じっくり考えるとして、次に例の殺人犯についてだが………」


そうして話は移りゆく。

殺人犯の方で話題に上ったのは、近接戦闘も出来ることや、剣の爆破。
そして、ティアナのことだった。そのことは、揉める形にはなったが、最終的にはやてに一任するという形で話が付いた。

他にも当然、戦闘機人についてや、レリックを持った女の子のこと、さらにはニブルヘルムの死神、アイギスの組織図の大幅変更などへ話が派生していき話が終わりカーテンをあけたころには、明るかったはずの外がすっかりと日が沈んでおり、それぞれが急いで元の任務に戻っていったのであった。






“機動六課、休憩室”


「ふう、問題が山積みだな」

聖王教会から6課に戻り、新人達の指導にいったヴィータと別れた後のことだった。
シグナムとフェイトは椅子に腰掛け束の間の休息をとっていた。

「そうだね。事件がありすぎて何から手を付ければいいのか………
連続殺人事件、レリック問題、謎の黒い騎士に、アイギスの組織図の大幅変更に、それに加えてニブルヘルムの死神か。一つだけでも大事件なのに、これだけ重なるなんてね。」

ニブルヘルムの死神。
主にニブルヘルムに現れて、人身売買、麻薬密造、管理局員が関わる収賄、そういった問題が何者かによって壊されているという事件がここ数ヶ月多発しており、その犯人を死に神と称している。
1人とも2人組とも言われており、方法は殺害という手段も厭わない。
そして、管理局内の不祥事も暴き出しているため、海と陸の新たな火種となっている。

「ニブルヘルムの死神か………復讐か何か目的は曖昧だが、管理局の膿を出しているともいえるんだが、今は時期が時期だしな。現状では混乱が肥大して組織の機能が大幅に低下してしまっている」

「うん。不祥事の連発で海と陸の雰囲気が最悪になってるよね………どんな形であれ管理局内の犯罪者は放置しちゃいけないっていうことは思うけど、正直、今の時期には重なって欲しくなかったって思うかな」

不謹慎と思いつつも、現状の混乱を鑑みるとそう思わざる得ない。

「そうだな。だが、言ってもきりがない。とりあえずは、目の前の問題に立ち向かわなくては………」

そういって、いったん話を区切るとシグナムは少し険しい顔をして

「テスタロッサ、正直に言って欲しい」

「ん?………なに?」

「漆黒の鎧を纏った男。私とヴィータで勝てると思うか?」

「それは………」

つい、言葉をつまらせてから、しまったと思う。先ほどの会議中、どうやら顔に出てしまっていたらしい。

「いや、その返答で十分だ」

シグナムは端的にそう帰す。

だが、その顔はよりいっそうの険しい表情の中、隠しきれない高揚感が浮き出ていた。

まだ見ぬ強敵の遭遇の前に、不謹慎ながらも騎士としての高揚感を押さえきれないのだろう。

「無理しないでね。本当にアレは、今までの相手とは何もかもが違うから」

「ああ。だが、おまえこそ無理をするなよ。今までも激務だったのに、なのはの分のカバーまでして、ほとんど寝てないんじゃないか?ただでさえ、怪我から復帰したばかりだろう」

「うん、大丈夫だよ」

少なくともなのはやはやてに比べれば、まだ自分は大丈夫だ。

シグナムはそういった返事を受けて、やれやれといった感じで

「まあ、お前に言っても無駄か。だが、少しは気分転換でもしろよ。私でよければ愚痴なりなんなりつきあうしな」

あはは、見透かされてるなといった感じで感謝の念を

「うん、ありがとう」

そこで急にシグナムがにやりとしたかと思うと、


「ああ、もっといい相手がいたな。確か衛宮士郎、だったか?」

もう何度目か分からないシグナムの無茶振りに、ガクッとフェイトは頭を落とした。

「いや、だから彼とはそんな関係じゃないって。あれから、一度も会ってもないし、電話もしてないし」

これは本当だ。衛宮士郎は、本来ならただ一緒に食事をして楽しかったな、という単なる一つの思い出のはずだった。フェイトの中でもその程度の感情しかない。

ただ、男っ気の無かったフェイトが仕事をさぼってデートをしたということで、シグナム達が事あるごとにからかいのネタにしているのだった。

「そうか?なら、これをきっかけに逢いに行ったらいいじゃないか」

「逢いにいったらって、なんか字が違う気がする………」

微妙な顔をして答えるフェイト。それをにやにやしながらシグナムは続ける。

「いいじゃないか、嫌という訳では無いんだろう?なんだかんだ言ってこの前のお前は随分楽しんでたみたいだったが?」

「それは………まあ」

「まあ、なにもこの忙しい時期に積極的に会いに行けというわけじゃない。
ただ、これから捜査でニブルヘルムに行く機会もあるんだろう?そういった時に、少しでも会いに行ってみればいい」

少しフェイトは考えて

(あ、そういうことか)

と思い直す。

「……そっか、そうだね」

フェイトはシグナムが本当は何が言いたいのか少し納得した。シグナムは別に恋人を作れと言うことを言っているわけではなくて、そういった余分な時間を作れと言いたいのだ。

つまり、そういったことを考えられるだけの余裕を持てってこと。

この何ヶ月か、特にこの一週間はフェイトは確かに余裕が全くなかった。

数々の事件の対応もだが、それ以上に、自身がこれ以上ないと言うほど完敗をきっしてしまった初めての経験。そして親友の状況。

黒い騎士のことといい、考え疲れて、悪い方へ悪い方へと思考が移ってしまっていたかもしれない。

それを間接的にも心配してくれているのだ。………半分はからかっているだけかもしれないけれど。


衛宮さんのことを考える。

今度店に来てくれという言葉。ただの社交辞令なんだろうけれど、1人の客として会いに行ってみるのも悪くないかもしれない。彼がどんな料理をするのかは知らないけれど、食べてみたいとは思う。

(ああ、でも行ったらまたシグナム達にからかわれるかもしれないな)

そう思いつつ、フェイトはそれも悪くはないかなと感じたのだった。











Episode A 『想い』



私が完全に六課と決別してしまったこと。
そして、私に怪我を負わしてしまったこと。
暴走による限界を超えた魔法行使で、リンカーコアを含んだ体内の器官が修復不可能の寸前まで壊れてしまったこと。

その全てに士郎さんは責任を感じてしまっている。

もうこれ以上悪くならないように、私から離れるべきではないかと士郎さんは考えた。でも、それが無責任な行動であり逃げであるかもしれないとも思っていた。


だから、私は言葉で縛った。

あなたが私のことを考えてくれるのなら、責任を取ってくださいと。ずっと守ってくださいって。


…………もし、あなたが正義を飾る殺戮者であるというのなら、私を利用して使い捨てにすればいいと。


卑怯………だったのは十分すぎるほど分かっている。


士郎さんは自分のせいだと言うけれど、本当は全部私が招いたこと。

私があんな逆上しなければ、あの時欲を出さないで逃げに徹していれば、士郎さんの仕事に無理矢理ついて行かなければ、…………そもそも六課から逃げなければ、こんなことにはならなかった。

士郎さんにとって私は厄介者でしかなく、本当はおとなしく士郎さんの所を離れるか、……自首するかした方がずっと彼のためであり、負担をかけなくてすんだはず。

それをせずに、こともあろうに士郎さんの痛いところをついてまでそばにいると言った。


全部、士郎さんと共に在りたいから。それだけのために。































[4247] 日常編part04 短編×1
Name: ゆきほたる◆2cf7133f ID:814fc7e5
Date: 2011/04/16 12:09
【番外編part04 守るべきもの】



“side ティアナ“


「……………そうですか」

ティアナは医者に対して力なく呟いた。

断られたのは、もう、これで10件目。

それほどまでにティアナの様態は非常に深刻だった。

生成器官が変異しているせいで、リンカーコアが回復しない。そして、それを治療できるだけの腕を持った医者はほとんどいないらしい。

今回の医者で士郎や鎧衣が持っている裏稼業の医者へのツテは最後だった。

後は、新たにどこからか医者を見つけてくるか、もしくは表舞台、それも最先端の医者に見てもらうしかない。

いや、そこまでしてもだめかもしれない。


「………………………」


怖い、怖すぎる。

日増しに不安が増大してきている。

もし、このまま力が戻らなかったら、いったいどうなってしまうのか。

ティアナに残されているのは士郎に見捨てられるか、もしくは士郎のお荷物になるかの2択。

両者とも絶対に嫌だ。


(……………嘘)


本当はお荷物の方が何倍もいい。

自分自身にいい子ぶっても仕方が無い。

たとえ役立たずになりさがろうとも、このまま士郎と離れてしまいたくない。

でも…………!!


「だが、君を治せると思われる人物が1人知っている。どうだ?会ってみるか?」


「………………え?」


一瞬、医者の言葉が幻聴だと思った。ティアナの自己願望がそうさせたのだと。

だが、医者は確かにこう続けた。


「一応、私の方から連絡はとってみよう。まあ、ある程度の額は必要になるかもしれんが、そこまで法外になるということはあるまい」

希望が目の前に現れた。

「………本当ですか!?」

「ああ、ただ、確実に治るという保証は出来ないが。それでもいいか?」

「はい!お願いします!」

声が裏返りそうになりながら間髪いれずに返事する。

医者は頷くと、後で日程を連絡すると告げた。

(…………………)

正直、舞い上がりそうになる反面、もし期待してダメだったときのことを考えると、心にブレーキがかかる。

ドクッ、ドクッ、と心臓の鼓動が聞こえる。

不安だが、やはり期待せずにはいられない。

(お願い………!)

祈るように懇願する。

この手に再び魔法が戻るようにと。

真っ暗闇の中、ようやく一筋の希望の光が差し込めたのだった。










そして、ソレはティアナに力を取り戻させることになる。想像外の結果を伴って。











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ものすごい短編ですいません。

さらに描写が薄くなってしまいました。時系列的な制約で掘り下げることができなかった。力不足で申し訳ないです。

以下、没ネタ。









“side ティアナ”




聖王病院とは又別の、政府に容認されていない隠れ病棟の一室。

そこにティアナ・ランスターがいた。

ベットの上の彼女は手術後、目が覚めたばかりだ。

その手にはデバイスが握られ、張り詰めた表情で呟いた。


「……………クロスミラージュ」

すると

ぽう……というオレンジの光が輝き、目の前に小さな球体が現れた。

「っ………………………」

思わず涙が零れる。

「戻った…………私の魔法」

使えなかったのは一ヶ月にも満たない。

しかし、魔法が使えない焦燥感。

士郎との関係がどうなってしまうかという不安。

何よりも魔法というのは、これまのティアナの人生を培ってきたものだ。

ソレがなくなる、孤独感、虚無感というものは喩えようも無いものだった。

「…………よかった、本当に――――よかった」


声が震える中、深く息を吸った。


もうそろそろ士郎が入ってくる時間。

あまりに情けない姿は見せたくない。

満面の笑みを持って迎えよう。



だが、ティアナはその時は知らなかった。自分の体に起きているある変化を。

ティアナは直ぐ後に、ソレを知ることとなる。






[4247] 日常編part05 本当の依頼
Name: ゆきほたる◆2cf7133f ID:b575a03d
Date: 2011/04/16 12:09
【番外編その5 本当の依頼】



“side はやて”



深夜1時を回った頃。ニブルヘルムの中のとある居酒屋の前にはやては立っていた。

「ここ…やな…?」

目の前の居酒屋の名前を確認しつつ呟く。

この不案内な場所で目的地に辿り着けたことで安堵しつつ、その窓から居酒屋の中を覗きこんでみた。

「んー、明かりは……まだ、点いとるな。まだ帰ってへんみたいや、よかった。」

話に聞いたとおり、彼女の尋ね人は最後まで残っているらしい。もちろん今日は出勤しているということも教えてもらっていた。

(仕事がごたごたして予定より遅れてしもうたけど、間に合ったみたいでよかった。この街まで来て当人はいなかったじゃ洒落にもならへん)

一応明日は半日の有給をとっているとはいえ、それでは何かと都合が悪いのだ。

とまあ、思考にふけっても仕方ない。


そして、よし、と頷いてから、この街に似つかわしくない、レトロな雰囲気を出しているドアをカランという音をたて、開いた。


(……意外ときれいなとこやな……)


入ってみた第一印象はそれだった。

外観からも思っていたことだが、このあたりに立ち並んでいる柄の悪い店とは違い、彼女の出身の日本の普通の居酒屋に近い整った店だ。それに加え、タバコやその他の嫌な臭いなどがすることもなかった。

決して高級な店という感じではないし、規模も小さいのだが、それでも雰囲気を持っており、はやての好みにあっていた

てっきり柄の悪い所かと覚悟してきたはやてにとって、肩をすかしたようなかんじだ。

そして、そこらのイスはテーブルの上に逆さにして置かれており、営業時間が終わり、もう掃除もあらかた終えていることがわかる。


(………ん?奥から誰かくるな)


店の中をきょろきょろと見回していると、店の奥から足音とともに店員だろう男が出てきた。

男ははやてを見ると、少し困ったように声をかけてくる。

「…………一応、店はもう閉まっているのだが。」

ドアから出てきたその男は、そう曖昧に言葉を出す。どうやら、何故こんな時間に尋ねてきたのか、探るような意味も含まれていた。


はやての方もその男をじっとみる。

(白髪の長身の仏頂面。聞いたまんまやな。この人で間違いない)


反対にその相手は何かに気がついたかのように驚いたような顔をして、少しだけ困惑したかのような顔をした。

こんな夜更け、それも若くはやてのような容姿が優れている女性が出歩くには、いささか不自然な時間帯に尋ねてきたからだろうか。それとも、はやてのことを既に知っていたからだろうか。彼女の知名度を考えると不思議なことではないだろう。

その考えを余所にはやては、少しだけ間の遅れた返事を返した。

「すいません………でも、話があるんです。衛宮士郎さん…………ですよね?」

「………!」

ほとんど表情に出さなかったけど、動揺が走ったのが見えた。

(………? 自分を訪ねに来たと全く予想してなかったんやろうか? いや、そうじゃないような気がするな………)


狡猾な老獪達を日々相手にしているせいで、魔法よりもむしろ観察眼と思考力が発達してきたはやては、そう判断する。

そして、その成果は、ほとんど表情を変えることの無い士郎の微妙な変化を初対面で見破ったことからもそのが分かるだろう。


「……そこに座って何か飲むものでも決めておいてくれ。準備をしてくる」

衛宮さんは既に落ち着きを取り戻して、無愛想ながらも、メニューの方を指さす。

「え……わざわざそんなにしてくれなくても………」

だが言い終わる前に、はやてを余所にさっさと厨房のほうに歩いていってしまった。


(まあ、どうやら、話は聞いてくれるみたいでよかったかな)

一人取り残されたはやてだったが、とりあえず相手が話をする意思があることに一安心をすると、言葉に甘えて、すぐそこのカウンターに腰掛けた。

それで、メニューの最後のほうにあるドリンクの欄を見ながらあれこれ思案に耽ける。

(うーん、フェイトちゃんに聞いていたよりもずっとぶっきらぼうやな………警戒されとるんやろか?でも、なんだかんだで話を聞いてくれそうだし見かけ程怖くはなさそうやけど………あ、その前に飲み物決めな)

メニューには基本的にビールにカクテル、チューハイといったオーソドックスなものだったが、ややカクテルの種類が豊富なのと、何故だか紅茶の種類が多いところが特徴的だった。

(ソフトドリンク………でも、別にもう仕事は無いし、せっかく居酒屋にいるんやからカクテルぐらいならいいかな? 少なくとも始めのほうは注意しといて、酔わないように気をつけながら飲めばいいか……)

一応ミッドでもアルコールは20才以上だが、そんな規則はあって無いようなものである。

幸い弱いほうでも無いから、一杯ぐらいじゃ話すのに支障をきたすことは無いだろう。

(じゃあ、これにしとこうかな)


ちょうど決めたとき、衛宮さんが厨房からはやての目の前に出てくる。

はやての座っているカウンターの席は、バーのように目の前でお酒を作ってくれる所があり、カクテルを作ったり料理をしながらでも話せるようになっていた。

「何か決まったか?」

「メンズ・メイクでいいですか?」

「分かった」

はやてがそう注文すると、黙って衛宮さんは本職さながらの動きで、派手ではないが手際よく作っていく。

(なんか、男の人がカクテル作ってるところって無意味にカッコええよな。まあ、もとの素材がいいからかもしれへんけど)

そんなことを思いながら、ぼんやりと、衛宮さんがシャカシャカとシェイクしているのを見ているうちに声がかかる。

「待たせたな」

どうやら既に作り終えたようで、はやての前に、グラスが置かれた。

「わざわざ、ありがとございます」

お礼を述べ、カクテルを軽く口に含む。ほんのりとした苦味がとかすかな甘みが口の中に広がりなんともいえない幸せな心地になった。

「おいしい……」

どうやら見かけ倒しではなかったらしい。出されたカクテルの味は、高級な素材でごまかした者ではなく、本当においしく作られていた。

そしてもう一口、としたい衝動を抑えて、はやてはようやく自己紹介を始めるのだった。


「私、八神はやてといいます。えっと………衛宮さんとお呼びしていいでしょうか?」

衛宮さんは相変わらずの仏頂面で、でも不機嫌というわけでもない声で答えた。

「ああ。後、別に無理に標準語で話さなくていい」

「……イントネーション変やった?」

「多少窮屈そうだったな。まあ、他で八神はやてが関西出身だということは聞いたことがあったからそうきこえたのかもしれんが」

そう何でもないことのように話す。

どうやら最初に、はやてのことを見たときに驚いたのはそういうことのようだ。

「そっか。なら自由にさせてもらうな。あと、私のことは八神でもはやてでも好きな風に呼んでくれたらええ。」

「なら八神と呼ばせてもらおうか。それで……どういった用件か聞かせてもらえるか?」

単刀直入に、衛宮さんはそう切りだしたのだった。








~数日前~


「アンダーグラウンドで信頼が置ける人物………かね?」

数日前、はやては、あの事件のことを直に聞きに六課にやって来た鎧衣左近に、そう頼んだのだった。

「ええ……心当たりありませんか?」

「ふむ…………どうしてか……は聞かないほうがいいのだろうな」

「ええ、すいません。なるべく情報をもったひとがいいんですが」

むしのいい話だ。内容も何も話さず、いきなりそんな人物を紹介してくれとは。

「お願いします」

そういって、はやては頭を下げる。

正直、すぐ頷いてくれるとは思っていなかったのだが、反面すぐにいい返事が来たのだった

「ふむ……そうだな。ちょうどいい人物がいるのだが………

そうやって、鎧衣が紹介した人物がこの目の前の男だったのだ。

まあ、結局はやてはその内容を話の中で知られてしまうことになったのではあるが。










はやての尋ねて来た理由を聞く士郎の表情は困惑にも似た疑問に満ちている。

(まあ、当たり前やけどな)

普通に考えたら、はやてが士郎に頼むようなことなどは無い。

管理局のトップクラスの地位にいるはやてが手に入る情報で集められない情報自体が少なく、また、自分から直接会いに来ると言うことは不自然。

もちろん裏からしか探れない情報もあるが、いくら腕がいいといっても一匹狼に近い人間に頼むのは心許ないのだ。

はやてのような有名人がわざわざ出向く用事とはいったい何なのか?

士郎の断片的な情報しか知らないはやては、そう士郎自身が思っているだろうと考えた。

正直なところ、本当はもっと情報源を持つ組織に頼みたい気持ちがある。しかし、今のはやての危うい立場からすると、信頼できる人物ということが何よりも尊重された。

そして、目の前の衛宮士郎は、あの鎧衣左近が信用できるといった人物であり、有能だとも言った人間なのだ。その上、偶然にも彼女の親友も彼のことを知っていた。

完全に使用するには足らないが、そういった点で、他にあたるよりもずっと理想的な人物だったのだ。


だが………


少し間をおいてはやては言った。


「単刀直入にいうな」

「ああ」


「………フェイトちゃんのことどう思う?」


空気が固まった。


「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――は?」。

(あ……面白い顔や)

あまりに不意を撃たれたのか、今までの硬い表情がへんてこな顔になっている。

このたぬき。単刀直入といったにも関わらず、どうやら変化球を投げたようだ。

「フェイトちゃん知っとるよな?この前、フェイトちゃんと会ったんやないの?」

「いや、まあ、そうだが…………」

「やろ?じゃあ、フェイトちゃんのことどう思ってるかなって」

「どう……とは?」

「かわええな~、とか付き合ってみたいな~とか」


「……………………」

ある意味、直球を投げかけるはやての言葉に、どうやら、士郎は頭の中で処理が追いつかないらしい。完全に黙りこくって、フリーズしている。

「好みじゃないん?衛宮さんは意外と好みがうるさい人なん?」

「いや、そんなことは………というかどうしてそんなことを突然言い出すんだ?」

士郎は焦ったように、若干早口で言葉を出す。

「分からないわけやないんやろ?」

「分からん」

間髪入れず、士郎は応えた。

「今の会話の流れから言って分からないわけ無いですよね?」

逃げる士郎をはやては追求する。

「………好意を装って、不審者である私を調べようしているとか………か?いや……それなら私などにわざわざ執務官が出向くのはおかしいか………」

「・・・」

流石にその曲解に口をぽけんとあけてしまう。

「いや・・・流石に苦しいんやない?というか………どうしてそんなにひねくれたこというん?」

「いや、しかし流石に彼女が私に好意をもっていると考えるのも無理があるだろう。彼女の容姿や性格を考えれば相手はいくらでもいるはずだ」

「そう?衛宮さんもカッコええと思うよ?」

はやては誉めるが、いっそう苦々しそうな顔で士郎は答える。

「君は目でも腐っているのではないのか?」

「………ひどい言い様やね。なら、フェイトちゃんの目も腐ってるって言うん?」

「ああ、仮に君の話が本当だとすればだがな」

「………」

何故自身をここまで自分を否定するのだろうか?

「だが、仮にフェイト執務官が目が腐っているんだとしても、彼女は外見で判断する人種じゃないだろう?少し話しただけの私に好意を持つとは思えん。………本当に、ろくでもない人間だよ。私は。」

士郎は、そう目を横に落としながら自虐的に答えた。

自己嫌悪にしては度が過ぎるその態度。何か感じるものがある。


(……なんかあったのかもな。この人も)


後悔し続ける人間。そういう、人間ははやて自身が嫌という程知っている。


だが、あえてそれに気がつかない振りをして世間話好きの井戸端会議のおばちゃんのように話を続ける。

「うーん、恋っていうのは時間とかそんなのは関係あらへんものやない?むしろ管理局にいるからこそ、衛宮さんみたいな人に惹かれたんやないかな?」

「いや……しかしな…………」

「それとも、衛宮さんは恋は時間をかけて育まないものは恋じゃないって価値観なん?」

「……………そういうわけではないが」

困ってる。完全に困ってる。それに割と反応が面白い。


(意外とからかいがいのある人なのかもしれんな。
あの、一見近寄りがたい雰囲気は、わざと意識的にしてるんかな? 
うーん、けどフェイトちゃんが自分に気があるって言ってるんだから、普通の男の人ならもっと嬉しそうな顔してもいいんと思んやけど………
自分に自身が無いのか、自分のことが嫌いなのか………
あっ、それとも、もしかして彼女いるんかな?)

「もう彼女とかいるん?」

「…………いや、いないが………」

(間があったなー。彼女ではないけど、それに近い人はいるってことやろうか?)



とまあ、このままじゃ埒が明かないので、本当のところを話すことにする。

「まあ、正直に言えば、本当はそこまでやあらへんよ。うちが聞いたんは、一緒に食事をして楽しかったとか、いい人だった、とかでまだ本当に好きになった。とかじゃあらへんみたいやったかな。」

ようやく、士郎は力を抜いたように肩をすくめる。

「で、君はそれで私をおちょくろうと思ったのかな?」

少しにらんだような顔つきではやてを見る。

「あはは、ごめんごめん。
でもな、フェイトちゃんが家族以外であんなに楽しそうに他の男の人のことを話したのは初めてやったんやよ?」

「……………」

「今まで仕事仕事で、空いてる時間も保護した子なんかを引き取ったり世話したりとかにまわして、デートする暇も無かったからな………
けど、今までは、何かあったら親友だったなのはちゃんに寄りかかることができた。お互い支えあってられたんやけど、今は色んなことがあって、なのはちゃんにそんな余裕はないからな………
 だから、少しでも気分転換して、そして頼れる人がいたらなって思ったんやよ。余計なおせっかいやったかもしれないけどな………でも、放っておいたらそのまま疎遠になりそうやったし」

この話は本命の前の変化球だけど、でも反面これははやての本心でもあった。

正直、いまのなのはは相手の支えるだけの余裕はどこにも無い。無理して笑っているけど、いつ壊れてもおかしくないくらいに参っている。

そして、フェイトはそれを支える役に徹している。

もちろん、なのはのほうが大変な状況だということは間違いないのだが、フェイトの方も本来はかなり厳しい状況なのだ。そして、はやて自身もフェイトに気を使う余裕はほとんど無い。

だからはやては、せめてフェイトのほうだけでも、いい人がいて少しでも寄りかかれるような人がいたらな………と思う気持ちに偽りは無かった。

「……………」

「だめやろうか?」


少し期待した言葉に帰ってきたのは、否定の言葉だった。


「別に本人がそう言っているわけじゃないんだろ?それに私のような人間といても疲れるだけだ。悪いがそういったことは考えられんし、彼女に失礼だろう。」


「そっか………残念やな」


やっぱり、と思う反面、はやり残念だという気持ちがのこる。

しかし、そんなはやてを余所に士郎はこう付け加えた。


「だが、まあ、彼女にはこの前今度はご馳走をするとは言ったからな。気が向いたらここに来ればいいと言っておいてくれ。恋人云々はともかくとしても、私でも愚痴ぐらいは聞くこともできるだろう」


そう、さらっと発した言葉に、ぽかんとした後、はやてはジト目で答えた。

「……………なんでそんな捻くれとるかなぁ」

本当に素直じゃない。


「さてな。だが、君も大概に回りくどいとは思うがね………」


(やっぱり気がついとったんか)


「………わかる?」

「そのぐらい馬鹿でも分かる。まあ、今の話も嘘ではないんだろうが、流石に今の時期に騒動の中心である機動六課の長がわざわざ出向いてまで言う内容には不自然すぎる………」

「ま、そやな」

より詳しく言うならば、前置きで話したのは少しでも衛宮士郎という人物の人格を自分でも見定めたいという思いも兼ねていた。事前に、鎧衣課長、そしてフェイトに聞いていた人柄は知っていたのだが、念には念を重ねるためにも自分の価値観でも相手のことを図りたかった。

機動六課は、ものすごく不安定な状態だ。

親しい仲のものならともかく、赤の他人に彼女の本当の依頼を語るのは冒険が過ぎた。

そして、彼女の出した答えは。

「あなたのことは鎧衣さんに聞いた。居酒屋をやっているけど裏で情報屋もやっているっていうことも」

「そうか……しかし、それなら他を当たったほうがいいのではないのかね?」

そう、情報屋というだけならばもっと有能な人物は腐るほどいる。

「今、機動六課はかなり危ない状況屋からな。うちが、裏の人間と会ってる事とかを逆にスキャンダルにして売られたら終わりだし、なにを探しているかも知られたくないからな。その点、衛宮さんは鎧衣さんと、フェイトちゃんが気に入った人やったからな。うちも今話してみて、大丈夫だと思ったていうのもある」

「………ああ、そうか。それで、衛宮といったのだな」

「?どういうこと?」

「いや、衛宮の性を名乗った相手は少ないからな」

「ああ、普段は偽名を使ってるんや。それで始めに驚いてたん?」

「まあな………まあ、別に知られたところでどうということはないのだが」

とは言うものの、本名というのはそれなりにこの世界にいる人間なら重いもののはず。
それを衛宮さんはフェイトに話したと言うことは、先ほどの話。案外、うまくいくんじゃないかとはやては思った。


「ところで、“ニブルヘルムの死神”。聞いたことはある?」

「まあ………一応は…………おい……まさか」

あはは、とはやては笑いながら

「ピンポーン」

士郎は何かはやてを探るような懐疑的な目つきをする。

その目は、まさか自分の事を知っているのではないかといういう探りだったが、だが、はやてはまさか目の前に張本人がいるということは知る由もない。

「何故だ?」

この言葉にはいろいろな意味が含まれていた。

何故機動六課の長がそんなその人物を追うのか?もしかして、自分とのつながりを何か掴んだのではないか。

士郎は態度の変えず緊張を巧妙に隠したが、その実、士郎は相当に警戒を強めていた。

だが当然ながらはやてはそこまでは鎧衣に聞いていない。

「………これは………機密なんやけど……聖堂協会の能力者である予言があったんや」

「ああ……管理局の崩壊と、神がどうのこうのというやつか」

「え!?ああ………そうか。鎧衣さんか………」

「ああ」

「驚いた……あの人がそんなことまで話すなんてよほどあなたを信用しているや………じゃあ、この前の事件のことも知っとる?」

「まあ、ある程度は聞いたが…………」

「そうなんや。なら説明しやすいな。
で、その予言なんやけど、“宴に水を刺すは、半身は天使で、半身は死神“っていう文が書いてあったやろ?」

「……そうだな………そうか、それが」

はやては、頷く。

「そうや。ニブルヘルムの死神……次々と管理局じゃ手の届かない事件を解決していく正義の味方。やけど、殺傷設定か物理兵器か分からんけど、殺しという手段を厭わない殺戮者。これって『半身は天使で、半身は死神』という文に当てはまると思わへん?」

「……………」

「名前を聞くようになった時期といい重なる部分が多い。それに該当者は、今のところこのニブルヘルムの死神しかいないからな………。
表のルートじゃ絶対コンタクトは取れへん………だから、裏から探して欲しいんや………」

衛宮さんは顔をしかめる。

「それは…………………難題だな」

「そやな。けど、よくは分からへんけど、文章から考えると、その人が事件の何らかの鍵を持っているはずだと思う。もし、その人がこの連続殺人犯の問題を解決したいなら、向こうからも接触があるかもしれへん。
だから、どうしてもって時になったら。衛宮さんにはその時の接点になって欲しいんや。詩の内容を衛宮さんのとこから断片的にでも流してもらって向こうの出方を待つ………そういう形にして欲しい。正規のルートよりは、接点が作れる確率はずっと高くなると思う。
危険やと思うけど、報酬は弾むつもりや。どうかな?」

相当危険な仕事になる。魔導士でも無い衛宮さんに頼むのは酷な話だ。特に後者の話はいち情報屋にとってはあまりに負担が思い仕事。

本音を言えば、おそらく断られるものだとはやては思っていた。

だが、しばらく考え込んだ様子の衛宮さんが出した答えは意外な返答だった。

「可能性は少ないだろうが………そう言ってはきりが無いな………
正直、その死神とやらと結びつけるのも怪しいが、まあいいだろう」

「いいん!!?」

あまりにあっさりとした返事に驚いてしまう。

「……断れると思ってたのかね」

「だって衛宮さんも相当危険やのに……」

「……まあ、そうかもしれない。が、別に気にするな。いざとなったらさっさと逃げさせてもらうよ」

はやてに気を遣っているのだろうか、何でもないことのように軽く言う。

「………ほんまにええんな?」

「ああ」

「………ありがとう」

悪そうにはやてが礼を述べると、衛宮さんは居心地が悪そうな様子で応える。

「……。見つかる可能性は極めて少ない。あまりありがたがれても居心地がわるい。」

「そんなことあらへん。ほんま助かるわ…………それで、報酬はどうすればええん?」

実は、はやてにはかなりの貯金がある。コレはいざという時の為に、将来何かする時の為に貯めていたものであるがまさかこんな時に役に立つとは思っていなかった。

だが、そこで意外な返事が来る。

「別にいい………と言ったらそちらが困るか……そうだな。そしたら管理局内で隠されている情報はどうか?」

(情報?それよりも、別にいいって言ったのはどういうことなんやろう?)

多少の引っ掛かりを持ちながらも、その情報とは何なのかを問う。

「情報……?なんの?」

「別に何でもいいのだが……一応私は情報屋の端くれということなのでね。なるべく多くの情報を手に入れときたいのだよ。まあ、それもその男が見つかったときでいい」

「お金………では無くてですか?」

「別に、そちらがそれの方がいいというのならばそれでもいい。好きに決めてくれ」

「どういうことや?」

いったい何が目的なのか分からなくなりはやては士郎に尋ねた。

「まあ、別に情報屋をやっているのは、単にある程度の情報網を持っておきたいだけに過ぎん半端者だからな私は。特に金が必要というわけではない。まあ、だからそちらがよければ管理局での情報があれば何かと都合がいいだけだ。
今回のことも私としても何かと都合が良かったから引き受けたに過ぎん」

(営利目的ではない。ということは他に情報屋をやっている理由があるということやね。今回のことも都合がいいってどういうことやろ?でも、まだそこまで突っ込んだら駄目やな)

「情報ですか………正直、話せないものもあると思う。都合がいいのは分かってるけど。………何が知りたいか教えて貰えたら。出来る限りで話してみる」

管理局内部の事を話すのは当然御法度だ。守秘義務というものがあり、はやての立場上それがどんなに大切なものかは分かっている。

しかし、実質、ここで士郎に会いに来たこと自体ルール違反。

士郎に相当なリスクを冒させる以上、それなりのカードを切らなければならないが、管理局に迷惑がかかるようなことは言えない。

「ふむ………」

少々考える様子を見せてから、

「そうだな………なら、この前、君達を襲ったという男達。そいつらのことを教えて欲しい」

「?鎧衣さんに聞いたんやないん?」

「ある程度はな。だが、本人から聞いたら、また何か違うかもしれん…その程度ならちょうどいいだろう?」

(この前の戦闘………あの戦闘の内容は管理局内でも記録も取れていない、あんまりな出来事から本当に事実とも認定されていない情報。それに、ある程度は鎧衣さんに聞いているみたいだし、これなら、まだ話せなくもないかな………)

「そうですね、分かりました」

そう言ってはやては語りだした。その時の状況のことを。
もちろん、これだけではあまりに報酬が見合わないので、前金代わりにという形ですることになった。







「本当に、正体は全く分かっていないのか?その黒い男のことも、殺人犯も………………その共犯者も」

「………そうや」

「で、管理局全体としては幻術系の魔法ではないかと言うことになっているのだな………
推測でもいい……他になんか気がついたことは?」

「そうやな…………強いて言えば、あの殺人犯の方の目的があやふやなことやな………。一応レリックが目的ってしとるけど、それならもっと利口なやり方があると思うし………」

「……そうか。他には?」

探るように士郎は聞いてくる。まだ何かあることを確信しているような気配すら感じる。

(私の態度から読み取ったのか、それとも“何か“を知っているのか。もしくは私の深読みのしすぎか………)

はやてはまだ言っていないことがあった。だが、それはそう簡単には話せることではない。


話すべきか、まだ保留しておくべきか。

はやての感情的にはGOサインを出したいが、理性的には否定の文字がチラついていた。


「ううん、他には特に言うことはないかな」


結局、そう、そしらぬ顔で返した。

「………そうか」

士郎もそれ以上は深追いをしてこなかった。



言葉が途切れ、少しの沈黙。その魔の悪さを厭ったのか、はやてのグラスが空になったのを確認してから士郎が声をかけてきた。

「もう一杯作ろう。なにがいいかね?」

「……そやな。ならジントニックをお願いしてもいい?」

「ああ………それと賄いがまだ残っていたのだが軽く食べるか?」

「え?いいん?」

「ああ、今もってこよう」

そう言って士郎は再び厨房のほうに戻っていった。






それから、はやて達はとりとめの無い雑談をしていった。

アルコールで口が軽くなったのだろう。普段からたまっていた悩みや愚痴がはやての口から零れ落ちていった。

「なのはちゃんな。無理に笑うんよ。大丈夫って………強すぎるよ………」

「私が、ちゃんと言ってれば……………あんなことにはならなかったのに」

ああ、馬鹿だ。

酔っ払いながら愚痴を吐いているのに、肝心なところは話せないから、衛宮さんは何なのか分からないだろう。それなのに溜まっていたものを出すかのように言葉がこぼれていく。

衛宮さんは黙ってそれを聞いてくれる。

「わたしに、もっと力があったらっ!」

情けない。

そこでようやく衛宮さんは口を開いた。

「君のせいではない。」

「わたしのせいやよ。
なのはちゃんに秘密にしてたのも、何もできずに負けてしまってあの状況を作ったのもうちや。うちは、何もできなかった。もっと力があればあんなことにはならへんかったのに」


黒い騎士との戦い。

何もできなかった。本当に歯が立たなかった。

倒された教え子たち。隣で傷つくフェイトちゃん。

もし、相手に殺意があれば、皆が死んでいた。

自分に力が無いばっかりに

「私のせいなんやよ………」

救うと決めたのに、私の命はそのために使うと決めたのに、これでは何もできていないのと同じではないか。

「………君がどんなにすごかろうと、ただの一人の人間だ。できることには限りがあるし、万能ではない。八神は責任を過剰に感じすぎだと私は思うがな」

確かに、自分の責任と考えるのは驕りかもしれない。

「でも………それでも」

自身の無力さを痛感せずにはいられない。

「そうか………」

「傲慢かな?」

「………そうだな、その思いは君だけではない。誰かを守りたい、助けたい、夢を叶えたい、そのためには力が欲しいと思っている人間は山ほどいるだろう。
 その中で君は常人では考えられないほどの力を持っている。叶えられる夢も、助けられる人も、他よりもずっと多い。
 確かに助けられる範囲が多いいほど、助けられなかった人間への重みというものを感じるのかもしれない。
 だが、持てない者達が、君が力が欲しいというのを聞いたらどう思うか。………想像できないことはないだろう」


グサッと言葉が突き刺さる。

分かっているつもりだったのだ。知っていたはずだった。

持てない者がいるということは。

でも、結局理解はしていなかったのだ。

だから、だからあんなことになった。ティアナがあんな追い詰められていたとは全く気がつかなかった。いや、そもそもそんな事態を念頭に入れたことすらなかった。

「君は、いや、君たちはもっと自分の大きさを自覚した方がいい。傲慢になれと言うわけではない。ただ、自身の事を正しく認識しいないと、人を傷つけることもあるからな」

改めて言われると、やはりくるものがある。

「そ……やね。確かに私はこの身には過ぎるほどの力をもってる………これ以上を求めるのは傲慢や」

(ほんとう、どうしようもないな。私は)

力を十分持っているはずなのに、これ以上を求めるなんて。ほんと、最低だ。

「……悪い方に考えすぎだ。別にそれは悪いことではない。倒せない敵がいて、仲間が倒されて、それで強くなりたい、力があればと思うことは誰でも思うことだ。思うなという方が無理だろう。
ただ、自分の力に無自覚にならなければそれでいんではないか?
もし、無自覚に自分の力不足を嘆いてたら、それは誰かを傷つけることになる。
だからそういった時は、君の友人のフェイトや、家族に愚痴を聞いてもらえ。
それができなければ、この店に来ればいい。今みたいに愚痴ぐらい聞いてもかまわん」

(………そっか、そうやな。あーだめや、頭が働いてへん。)

何が悪かったのか。それを勘違いして反省するのは馬鹿げている。
どうやら、はやてが自覚している以上に、いっぱいいっぱいだったらしい。

そんな自分に苦笑しつつ、戯けた調子で衛宮さんに切り返した。

「あれ?うち、もしかして口説かれとる?」

「そういうつもりで言ったのでは」

ちょっと困ったように言う衛宮さんをはやてはさらにからかう。

「あはは、わかっとるよ。衛宮さんはフェイトちゃんがおるもんな」

「それこそ、違うだろう。だから彼女とは何も無い。そもそも、彼女が私のような人間に少しでも興味を持ったということさえありえない話だ」

「うーん、衛宮さん。結構もてると思うけどな………」

「そんなわけないだろう………」

(うーん、これはちょっと重要やな………)

衛宮さんのさっきからの態度から、これは自分がもてない云々ではなく、自分にたいして自身が無い。いや、むしろ嫌悪していると言った印象が根強い。

そして、はやては衛宮さんの目をじっと見る。

「衛宮さん。もしかしたら衛宮さんは自分の魅力に気がついてない………ううん、自分のことを低く置きたいのかな?かもしれないけど、でも、少しは自覚しといたほうがいいと思う。
 傲慢になれって言っている訳や無いよ?
 ただ、自分の魅力に無自覚にならなければそれでいいんよ。
ただ、もし自分の事を自覚してなかったり……気がつかないフリをしていたら、それが余計に誰かを傷つけることになると思う」


衛宮さんは、一瞬ぽかんとした表情をしたが、くっと苦笑いをする。


「……………やれやれ、先ほどはそうやら余計なことを口走ってしまったようだな」

これだから頭のいい人間は、とちょっとすねた雰囲気をかもし出しつつ、首をすくめた。

「あはは、仕返し、て言うわけや無いけどな。でも、言っとくけど本音でもあるってことは分かっておいて欲しいな」

衛宮さんはあまり肯定をしたくなさそうではあるが 「善処する」 とだけ返した。

わかってなさそうやなーと思いつつ、それは自分も同じことか、と思い直した。

結局、お互い根源的なことは代わらないのだろう。

でも、少なくともはやては対外的にはそうは振舞わないと、改めて思えた。

そして、たまった不安は……家族や親友や、その人たちが大変だったときは、どこかの居酒屋の店員にでも愚痴るとしよう。


もうはやては決めていた。ここにきた本当の理由を話そうと。でも、まあそれは別れる前でいいだろう。


まだもうちょっと、久しぶりの息抜きを味わうとでもしようか。













「じゃあ、お世話になりました」



時刻はもう正午に指しかかろうとしているところ。ようやくはやては店の門をまたぐことになった。


結局、昨夜、はやてはこの居酒屋に泊まってしまった。どうやら疲れていたせいか、いつもよりも酔いがはやくまわってしまい、そのうえ日ごろの疲れも重なっていつの間にか眠ってしまったのだった。

「それと君はもう少し用心したほうがいい。君みたいな女性が無用心すぎる。ああ、それとも試されていたのか?」

何を?というのは言わずもがなである。

「あはは、それはどやろうね?それにもし何かあったとしても、衛宮さんにメロメロにされてしもうて結局話してたかもしれへんよ?」

流石に無理やり襲われたらそんなことは無いが、酔ったあの調子だったらなんだかんだで、迫られたら流されていたかもしれない。

「やれやれ、忠告としては割りと本気だったのだがね?」

「それって、ちょっとはくらってきたってこと?」

「……………さてな」

「はは、それならよかったかな?何も無いは無いで女としてあれやし」

「はあ、別にいいがな。それより、時間は大丈夫なのか?」

「うわ、そうだった。それでは、本当にありがとうございました」

そう言って、最後は真面目に頭を下げる。

「ああ、では」

「ええ」

そういって、はやては去って以降とする時だった。

「最後に………一つだけ忠告だ。情報源は言えない。信じなくてもいいが一つ。
連続失踪事件。君たちの追っている男が殺人犯ということに代わりはないが、誘拐した者は別にいる。それだけは伝えておこうと思ってな」

「え!?」

あまりの事実に思わずはやては振り向いた。

「本当ですか!?そんな、どっから情報を?」

ドクン、ドクン、とはやて自身鼓動の音が聞こえる。今まで、全く出てこなかった情報。何故そんなことを目の前の男の人は知っているのか。

「情報源は言えん。が、確かな情報だ。だが、信じるかどうかは君次第だ。
まあ、敵は1人ではない。そう考えおいた方がいいという忠告と受け取ってくれればかまわない」

恐らく、出せる情報のギリギリの所を言っているのだろうとはやては思った。

そう、よく考えれば目の前の人は鎧衣さんが有能であると断言するほどの人なのだ。正直、甘く見過ぎていたのかもしれない。

そして、恐らくはやてのことを気に入ってくれて、無償で教えてくれたのだ。こんな貴重な情報を。

「ありがとうございました」

そういって一礼する。

「ではな」

衛宮さんはどうと言う訳でもなく、店の中に入っていってしまった。

はやては衛宮さんの言葉をもう一度考え直す。

(衛宮さんはああ言ってたけど、あの言い方だと、まるで仲間がいると言うよりは全く別のグループというようなニュアンスを含んでいたような)

どこまでが確かな情報かは分からない。

しかし、はやては既に理性の方はともかく感情は信頼していた。

(と、止まって考えてもきりがないな。もういかな)

そうしてはやては店を後にする。


昨晩でずっと抱えていた悶々とした心の濁りは消え去り、しかし、実はさっきから晴れることのない若干の二日酔いを抱えながらも仕事に向かうのであった。










“side 士郎”



「ティアナ・ランスターの捜索……そうか……それが本当の依頼か」

変だとは思っていたのだ。

鎧衣の話を聞いた限り、先日、黒い騎士とは別に表れたのは、自分1人ということになっていた。

そして、昨夜の八神の話もそうだった。

それに加え、ニブルヘルムの死神を捕まえるという依頼。士郎のような情報屋に頼むのは、リスクにたいして成功率があまりにも少ない。

始めは何かかしら士郎との関わりを感づいているかとも思ったが、だが、これで合点がいった。

そう、ティアナが殺人犯の仲間であるということは高町なのは他、一部しかし知らない。よって、情報操作も難しくはない。

そして、八神はやてによって情報は閉ざされていた。


『それは……危険だぞ。もし、事が発覚すれば、上の方は八神が自分の不祥事を隠したと考える。そんなことが発覚すれば君はもう』


士郎の忠告したその言葉。


『覚悟の上です』


彼女は簡潔にそう返した。

真っ直ぐな、士郎からすれば思わず目を背けてしまいたくなるような真っ直ぐな瞳でこっちを見る。

自分の将来など知ったことではない。教え子の将来を閉ざしたくない。

愚行とも言えるその行動。


だが、そのおかげで


(ティアナにはまだ帰れる場所がある……ということか)


今のティアナの状況からすれば、簡単に戻ろうとは思えないだろう。しかし、少なくともまだ、戻ることはできるのだ。


(……………)


『お願いします』


結局、士郎はそれを受けることになる。どうすればいいのか、士郎自身も分からずに。
























[4247] 日常編part06 守るべきもの 
Name: ゆきほたる◆2cf7133f ID:814fc7e5
Date: 2012/03/25 15:57
カタカタカタカタ。

聖王病院のある一室にタイピング音が響いていた。

ベッドの上にいる少女は、ひたすらパソコンに向かって入力している。その表情は真剣そのもので、時折険しく、そして苦しそうな表情すら見せていた。

カタカタカ………

急にタイピングが止まる。

少女はそのままうずくまり、何かにじっと耐えているような苦悩の表情を浮かべた。

「だめだ…………だめ、だめなの!!!こんなんじゃ!!!」

手で頭を抱えながらぶんぶんと首を揺らす。

少女、高町なのははまたしても手で顔を覆って項垂れる。

パソコンに打ち込まれているのは、先日の黒い騎士、そして殺人犯への対抗策。

しかし、それは途中で止まっていた。

『なのはさんにとって私は河原の小石―――』

『…………ただの礼だ。高町なのは』

『六課から逃げたんですよ』

強烈なフラッシュバック。

あの時の光景が、頻繁になのはの思考に映り出す。

もう既に二週間以上も前のことであるのに、脳裏に張り付いて離れない。

あれは既に終わったこと。それよりもこれからどうするか、どう反省して活かすかが大切なのだと分かっている。

しかし、そんな理想論では感情は落ち着かない。



高町なのはは人生でこれほど、自身を嫌悪したことはなかった。


周りの人たちは、はやては自分が悪かったって言う。他の人も、なのはは悪くは無いって言う。


本当に?


断じて違う。


そう思ってるはずなのに。


もし、ティアナが普通の教え子だったら。

もし、はやて達がなのはに伝えていてくれたのなら。

僅かでも、思考にそう過ぎってしまう自分に吐き気がする。


(ダメだ………)

思考の循環が悪いほうへと進み、このまま再び錯乱状態になりそうになる。


その時だった。


キー、という扉の開く音と共に現れた小さい少女の姿が現れた、

「ママー」

金髪の女の子はなのはをママと呼び、ベットの方へ駆け寄った。

彼女は先日、戦闘機人に追われていた少女だった。

同じ病院に運ばれてきたのだが、その時なのはに懐いて、なのはのことをママと呼ぶようになった。

暗い思考がよぎる毎日。

しかし、この小さい女の子の相手をしているときだけは、心なしか、なのはも安らぐことができていた。

「ヴィヴィオ」

なのははブンブンと顔を振り、なんとか笑顔の表情を作った。

「あのね、いまけんしんがおわってね、なのはママのところにいってもいいよって」

なのはのベットによじ登り、隣にちょこんと座った。

「そっか、ありがと、ヴィヴィオ」

なのはは思う。

純粋に会いたかったというのもあるんだろう。だけど、この子はよくは分かっていないのだろうけど、ヴィヴィオなりになのはのことを心配してくれているんだろうと思う。子供は意外と鋭いところがあるから。

(小さな手)

ぎゅとヴィヴィオを抱きしめる。

「わふ」

そう言いながらも、ヴィヴィオも嬉しそうな顔になる。

暖かい気持ちになる。

問題が解決したわけじゃない。でも、何が何でも、この小さい手は守っていかなくちゃ。



フッと意識が揺れる。



張り詰めていた神経が途切れたのだろう。

暖かなぬくもりを感じながら、次第に次第に目の前が真っ白になっていく。

親子のように抱き合いながら眠り始める二人。

そんな光景を、ただ、一羽の鳥が見ていたのであった。




















「いいこと考えちゃいました」

くすくすと笑いながら突然そんなことを呟く少女。

「いいことですか?」

そんな彼女を、どうせろくでもないことを考えているんだろうと分かりながらも、ローブの女は聞き返した。

「ええ。前から思ってたんですよ。私も、このままじゃいけないって」

「はあ」

「ほら。サモナーは常に自分で美を研究しているじゃないですか?毎度毎度同じような感じじゃなくて、私も向上心を持とうって思ってたわけですよ。なんか最近飽きてきちゃったんで」

桜は部屋の端を見渡す。

そこには裸の少女が蟲に犯されていた。始めは泣きわめいたり、助けを呼んだり、悲鳴をあげたりとそこそこ面白かったのだが、既に正気ではなく、ただ快楽にいそしむ人形に成り果てていた。

この世界に来てもう何度繰り返された光景か分からない。

その被害者達はどことなく、彼女の姉に似ているという共通点を持っていた。

「あれは、あれあれなりに楽しいんですけど、何度もやってると新鮮味がかけちゃって。だからもっと工夫してみようかなって。日進月歩ってやつですよ」

「………そうですか」

正直どうでも良さそうにキャスターは生返事をする。

でも、どうせ彼女も退屈はしていた。彼女達も計画を持つとはいえ、急を要さないため別に回り道をしても問題は無い。

流石にサモナーみたいな者が2人もいたらそれはそれでうるさいが、彼女のマスターの嗜好性は自分寄りであるとは認識している。

「ええ………この前の仕込もありますし、これはおもしろくなりそうです♪」

今にも鼻歌を歌いだしそうにマスターははしゃいでいる。

「仕込み? ああ、あの女の手術ですか………」

前回のアーチャーの連れの少女。

彼女の元教官であったらしい高町なのはとの一戦において、彼女は回復不可能といえるほど、リンカーコアに損傷を残していた。

彼女とそのアーチャーが、それを治せるだけの医者を探しているという情報を、桜達が乗っ取ったアイギスというマフィアの組織の情報網を通じて仕入れ、わざわざ裏から手を回して、キャスター自身が手術を施したのだった。

彼女の主の意図がどこにあるのかは分からない。

それに加え、仕込みと簡単に言うが、あれはあれでかなりの労力を使った。

数十の魔導士を解体し研究してみたとはいえ、魔術回路の変わりにリンカーコアを持つなど器官に大きな違いがあるこの世界の人間を扱うにはまだ研究不足だ。

もはや変質したといってもいいリンカーコアの再生は、キャスターといえど手術は困難を極めた。

結局、彼女のリンカーコアを元に戻すことはできず、代用品として擬似的な魔術回路を生成しリンカーコアの破損部分の欠落を強引に治したのだった。

違和感は感じるだろうが、落ち着けば元のように魔力行使ができるようになるだろう。

(…………たぶんですけど)

それに加えて、桜の注文でフィジカル面での身体強化も出来る限り施しておいた。もちろん本人の原型を保ったままだったのであまり大手術までとはいかないのだが。これである程度肉体的なスペックは向上しただろう。

「ええ。まあ、台本道理に進めることは難しいかもしれないけど臨機応変にやってみましょう!」

どうやらマスターの中ではストーリーが出来ているらしい。

(まあ、別にどうでもいいですけどね)

「で、キャスターにお願いしたいですけど。―――――とーーーーーー、それにーーーーーーーーーーをお願いできます?」

その注文にキャスターは首をかしげる。

その中身もさることながら、最後のものにいたっては必要性を感じないからだ。

「………いいですが、最後のはあなたので十分なのでは?」

彼女のものでも十分だろうのに、わざわざランクを下げたものを準備する理由がわからない。

「んーーーーーーーそれはいろいろとあるんですよ。まあ、それは後のお楽しみってことで♪
あ、あとスカリエッティさんでしたっけ?彼への交渉もお願いします。
 本当は”本物”が良かったんですけど、あの人達はあの人達で面白いことを見せてくれそうですしね。完全に複製は出来ないみたいですけど、ガラクタなら判別できないと思いますしね♪」

まるで子供がサプライズを企んでいるかのように微笑む。



「あっ、忘れてました。そういえばセイバーの傷はどうですか?」

キャスターは嫌なことを思い出したかのように不機嫌そうに答える。

「………治る気配はありません。私の治療でも無理ということは………これは宝具クラスの呪いの類ですね」

忌々しいことこの上ないが、魔術を極めたキャスターですら、セイバーが槍で攻撃を受けた部分を治すことが出来なかった。

呪いであるのならば、彼女の宝具ならば恐らく解除は可能だろう。

しかし、その場合令呪の繋がりまでが消えてしまう。

その繋がりが無くなったが最後。彼の性格を踏まえれば、キャスター達に敵対することは容易に考えられる。

契約破棄により弱体化し、キャスター達に勝ち目は無いだろうが、聖杯という目的が無い今、最悪セイバーが自害を選ぶという可能性も十分考えられる。

死に際こそ酷いものだったが、それでもやはり、セイバーは高潔な騎士であることには間違いがない。これ以上、自分を好き勝手させるまいとするだろう。

それでも桜自身が聖杯の器なので取り込めばいいと思うかもしれないが、それでは対魔力Aが無くなってしまう。

この世界においては、腕の一本が動かしづらいという理由ごときで、対魔力が無くなってしまうリスク、可能性は少ないものの反撃をもらうリスクを負うのは割りにあわない。

故に使えない。

プライドをひどく傷つけられたと同時、あの男が前回のアーチャーであるということに真実味が帯びてきた。しかし、

(これは、こちらの世界にも概念武装、それも宝具クラスのものが存在するということなのか。もしくは逆。そう、あの男もこの世界に飛ばされてきた。むしろそう考えるほうが違和感がありませんね………まだどちらも不確定要素が多すぎますが)

あの槍は確かに彼女世界の宝具と考えたほうが納得がいく。

しかし、次から次へあのような武器を出すのはキャスターの世界では考えられない現象であり、武器をああも簡単に爆発させるということも不自然極まりない。

彼女の結界内で空間転移が使われた形跡も無かった以上、どこからか転移で取り寄せているということも考えられない。

(考えてもきりがありませんね………あの男は使い魔を全て見破ってしまいますし、情報が取れないのが痛いですか。マスターはそれすら楽しがっているようですけどね………)

貴重な前衛の駒の戦力低下は痛いが、そこまで気にする必要も無い。そもそも彼女達に大きな目的は無く、この計画も所詮はただの余興。暇つぶしだ。

のんびりと構えても何の問題も無い。

(まあ、それに必要とあれば、こちらの魔導士にでも味方についてもらえばいいでしょう)













そして、時は過ぎ行く。







地上本部の崩壊。

それは時こそ遅れど、正史をなぞることとなる。

この戦い。衛宮士郎、ティアナ・ランスターは主役どころか登場人物になることすらなかった。そして、病院で最終調整を行っていた高町なのはも同じ。

違うとすれば、彼女の大切なヴィヴィオは戦闘機人ではなく、ローブを纏った女にさらわれたことをが映像記録に残されていたということだけだった。










さらに時は過ぎる。









深夜、士郎の元に緊急の通信が入る。

送信者は鎧衣左近

内容は………

読み終わるや否や直ぐに席を立つ。

傍らにいたティアナも、その内容も知らないはずだが、無言で彼女のデバイスを用意しそっと、士郎の横に寄り添った。






同時刻、六課の長。八神はやての元にも一つの命令が下された。

「了解しました。動ける者は、直ちに現場に向かわせます」

通信を切る。後ろを振り向き、収集がかかった、なのは、フェイト、シグナム、ヴィータに向けて命令を伝えた。

「例の殺人犯の拠点を突き止めたそうや。機動六課で動ける5人、直ちに現場に向かってもらう」















////////////////////////////////////////////////////


地上本部の崩壊を期待されていた方はすいませんでした。

本当は士郎がはやてやフェイトと再開。ティアナが戦闘機人相手に活躍する姿を書こうと思っていたのですが、物語全体としてはあまり意味はない場面なので省略しました。

今の更新ペースで余分な贅肉を付けていたら、いつまでたっても終わらないので……ご容赦下さい。












[4247] 第08話  羽を捥がれた騎士VS剣を持つ銃使い
Name: ゆきほたる◆2cf7133f ID:814fc7e5
Date: 2012/03/25 15:50
【第08話 羽を捥がれた騎士VS剣を持つ銃使い】



第46管理外世界。

その大地には緑や草木などは無く海なども無い。ただ、砂漠と岩石だけがその世界を覆ってい

る。

人など到底住もうと思える地形ではないが、その中の山脈の一角に、地中に張り巡らされた洞

窟の入り口が巧妙に隠されていた。

先の通報。彼の連続殺人犯がそこを拠点としているというのだ。



その1つの薄暗い洞穴の中。機動六課の副隊長であるシグナム、ヴィータは先の見えない暗闇

の中、自らが放つ魔力光を頼りに前へと進んでいた。


分岐地点で彼女の同僚達と最後に別れてからどれほど経過したのだろうか。

静寂な洞窟内に、やけに2人の足音が響き渡る。


(潜入してから丁度2時間………それらしい痕跡は無いか………こちらは外れだったか?)


シグナムはそれとなく呟く。

直径4メートル程度の空洞を黙々と進む作業にじれったさを感じつつ、出来ることならこちら

に敵が潜んでいて欲しいと願う。


今回派遣された管理局員の数は少ない。

戦闘人員は全部で10余人。シグナム、ヴィータ、なのは、フェイト、はやての機動六課のメ

ンバー5人と後は余所の部隊のエース達。もちろんその全てがAAA以上である。

他に補助で協力員はいるが、彼らは一人のSランク魔導師と共に入り口で見張りをしている。

地上本部の事件があったのを踏まえればこの戦力でもかなり優遇された方だろう。


だが、この洞窟は幾重にも張り巡らされていた。


この地に集結した10余人の精鋭も、洞窟内の分岐路で別れることになり、2,3人のチーム

編成で進んでいくこととなった。

六課はなのは、はやて、フェイトが1チーム。シグナム、ヴィータでもう1チーム組むことに

なったのだった。



「………?明かりか?」

光など一切無い暗闇の中、魔力光を頼りに歩いてきたが、奥のほうから僅かな明かりが微かに

視界に入る。

(こちらが当たりだったか?)

同時に、彼女の共、レヴァンティンが魔力反応を捕らえた。

今までより一層細心の注意を払う。

『シグナム、2人いるぞ』

『ああ。向こうもこちらに気がついているな』

ヴィータと念話でやりとりする。

相手の気配から、向こうもシグナム達の様子を伺っていると予想が付いた。

『道が分岐しているな』

『ああ、それに、背が高けーのが1人、少し低いのが1人だな。……ちょうど一致するじゃね

ーか』

相手がいるのは、丁度、洞窟が2手に分岐しているところだった。そして、進むごと探し人と

酷似したシルエットが目に入ってくる。

ジリ、ジリと慎重に進みつつも距離を縮めていき、やがてお互いの視線が交錯する距離になる



そして、見知った人間の顔がシグナム達の目に映った。


「「ティアナ!!!」」


ヴィータ達がそう叫ぶ声と同時。

バッ、と

両者は別々の方向へ向けて駆け出した。

ティアナらしき女性は右側の道へ。

そして、隣にいた男。こいつは間違えなく、あのティアナを誑かした殺人犯だ。その男は左の

方へと走っていく。


「シグナム、ティアナは任せたぞ!!!」


どうするか。シグナムがそう考える前にヴィータはあの男のほうへ駆け出していった。

「馬鹿、早まるな!」

だが、

『ティアナは連れ戻さなきゃいけねーだろ。それに、奴には借りがあるからな。今回は絶対に

負けねー!』

シグナムが何も言う暇もなくヴィータは飛び出していってしまった。前回での敗戦。それが余

程効いていたのだろう。弾丸のごとくこの狭い通路を壁を擦るほど限界までスピードを上げて

追いかけていく。

(……………仕方ない)

一瞬だけ躊躇したが、シグナムはティアナの方へと走った。

『絶対無理するなよ』

『ああ、わかってるって』

しかたないとシグナムはあきらめ、己が戦友のことを信じることにした。

ヴィータは病み上がりではあるがリインとユニゾンしている。そう簡単には負けないだろう。


頭を切り替え、微かに見えるティアナを追い、全力で飛ぶ。

限定された空間とはいえ、スバルのウイングロードなどの移動系のスキルを持たない限り飛翔

能力を持つシグナムの方が速い。

本来ならばすぐに追いつけてしかるべきだった。


だが、


「………速い」


追いつけない。何とか離されていないものの、差をつめることが出来ていない。

狭く、しかも曲がりくねった空間で飛行能力が相当制限されているという事実はあるが、それ

でも以前のティアナの能力を鑑みれば不自然なスピードだ。


(本当にティアナか?)


暗闇で確証が持てない。先ほどの女は本当にティアナだったのだろうか。


だが、そうしているうちに、今度は前方から人工的な明かりが見えてくる。


(空洞か?)

よく見ると、このまま進んだ先の奥に、やや広まったホールのようなものがあるのが確認でき

た。

ティアナがそこに入っていき、続いてシグナムもその空間に飛びこんだ。

(なんだ、ここは?)

その空間に照明が点いているだけで、他にこれといったものはない。

広さは狭い体育館ほどだったが、飛べるほどの高さはなかった。


そして、そのやや奥の方にティアナは立っていた。


どうやら、この広間は突き当たりのようだった。脱出口は今、シグナムが背にしているもの一

つ。他に逃げ場は無い。


「ティアナ………」


声を掛けられたティアナはシグナムの方をゆっくりと見据える。ここでようやくティアナだと

いうことが確信が持てた。

漆黒のバリアジャケットを着ているが、聞いていた様な仮面は被っていない。

薄暗い洞窟の中、そのままでは視界が十分に確保できなかったからだろう。


一つ気に掛かるのは、腰に質量兵器に含まれるだろう、剣がぶら下がっているということだ。


「………………」


対する、ティアナは無言だった。


「……………」


沈黙が訪れる。


(しまったな………なにを言うべきかが分からん)


正直な話。シグナムは何を言えばいいのか判断ができなかった。

そもそも、同じ機動六課に所属していたものの、ティアナとシグナムの間には特に交流があっ

たわけではない。

ティアナが六課にいたのは実際は一ヶ月にも満たない。教導官でもなく、ライトニングでもな

い、特に性格の波長が合うわけでもないティアナとの接点は薄かったからだ。

ティアナがどんな人物なのかはだいたいわかるが、それはなのはやヴィータ達から聞いたこと

があるだけだ。

シグナム自身がティアナ・ランスターという少女を把握するには情報が少なすぎた。



だから、本音を言うならば腹が立っていた。



子供みたいに命令を無視して、仲間を危険にさらした挙句に勝手に六課を飛び出して、挙句に

果てには殺人犯の仲間になっている。


なのはがどんなに苦しんでいるかシグナムはこの眼で見てきた。

スバルがどれだけ心配してるか、はやてがどれほど責任を感じているか。他のものたちにどれ

ほど迷惑をかけているのか。シグナムはよく知っている。


ティアナは力がないことを悩んでいるのかもしれないが、それを言えば管理局内では、ティア

ナよりも才能が無い人間の方が多い。

ティアナと同様の理由で悩んでいるものは大勢いるだろう。

そういった人間でも、他の者たちはそれなりに自分の職務を全うしているのだ。

ティアナだけ特別なんてことは赦されない。


無いものねだりをし、自分勝手な理由で、仲間を苦しめているティアナ。シグナムの眼にはそ

う映っている。


おそらく、親しい者ならシグナムの心内もまた変わったかもしれない。しかし、顔見知り、一

時の元部下と上司という関係程度のシグナムでは、本当の意味でティアナの立場になって考え

ることはできなかった。


だが、シグナムとて、ティアナは馬鹿だと思うが、悪い人間では無いことは理解できる。

彼女なりに悩んで、そこにゲスな男に漬け込まれて、さらに巡り合わせ間で最悪だったからこ

そのこの状況。

目の前に敵として立っている彼女だが、一方的に腹を立てることも筋違いだ。

馬鹿をつけ上がらせれば増長するが、過去に殴った結果が今の状況を作った要因であるかもし

れない。


前のように力で制裁を下しては、完全にティアナはこちらの敵となってしまう可能性が高い。


(どうするか)


敵と戦うことは脳内でシミュレートしてきたが、2人きりでティアナと遭遇するという事態は

思いもよらなかった。

力ずくで捕獲することは簡単だ。

しかし、あまりに無理やり捕まえてはティアナの反発心がさらに脹らみ、より一層敵視するよ

うになる。


高町やはやては、彼女を更生させたいと思っているだろう。

出来れば穏便に事を済ませたい。

だが、あいにくとシグナムは口達者ではない。だから、


「ティアナ、高町がティアナのことを知らなかったのは私のせいだ」


どうせ、難しく考えても仕方ない。

シグナムはそんなに器用な人間ではない。

だから、直球勝負。飾ることなく、ティアナの誤解を解くことを試みる。


「………………」


相変わらずティアナは無言だったが、俯いていた顔を少し上げた。

ティアナが話を聞く気があるのを確認すると、シグナムは続ける。

「高町は、あの夜に起きた連続殺人犯の対策部署にそのまま移動することになって機動六課に

戻る暇が無かった。
非常に重い任務で、精神的にも参っていた。だから、私達がこれ以上負担をかけない為に、高

町が六課に戻ってこないことをいいことにティアナのことを隠していたんだ。
 高町はティアナのことを気にかけていた。
話さなかったのは私達だ、だから」


「わかってますよ、そんなこと」


シグナムの言葉をティアナはバッサリと遮った。


「……………そんなこと、少し冷静になれば分かります。普通なら、高町なのはがそんな失態

をするはずありえませんよ。私なんかとは違うんですから」

誤解が解けているという事実に驚く反面、ティアナの口調は皮肉が混じっている。

「なら、なぜ戻ってこない?なぜお前はその殺人犯の仲間になっている?」

高町への反骨心からの行動でなければいったいなんだというのか。それとも、もう完全にあの

悪魔に心を奪われているのだろうか。


しかし、返ってきた言葉はさらにシグナムを困惑させるものだった。


「違います。彼は連続殺人犯ではありません」


「何?」

(何を言っているんだ。ティアナは?)

何を言うかと思えば、今更になって連続殺人犯ではないのだと?

「今更、違うだと?あの男も認めたというのに?」

「……………………それは彼の嘘ですよ」

「馬鹿な、そんな必要どこにある?」

「それは………………売り言葉に買い言葉って奴です」

はぁ、とシグナムは溜息をつく。

「あの猟奇事件の殺人犯扱いされる理由がそれだと?冷静になれ、ありえないだろう」

盲目的というのはこのことを言うのだろうか?

殺人犯扱いされるリスクを負ってまで、そんな挑発をする馬鹿がいるはずが無い。

「ティアナ、いい加減に眼を覚ませ。お前はあの男に騙されているんだ!」

「そんなことありません!」

あくまで姿勢を崩さないティアナに、再びシグナムは、はぁ、と溜息をついて、声を落ち着か

せながら提案する。

「……………………分かった。仮にあの男が冤罪だと、どうしても主張するなら管理局に2人

で来い。無実だというなら、支障は無いはずだろう?記憶を読むレアスキル持ちがいる。そい

つに見てもらえばすぐに真相がどうかわかる」

「それは………できません」

「何故?」

問い詰めるようにシグナムは言う。

「彼は殺人犯ではありませんけど、少しは法を犯すこともしているので管理局へはいけないと



「殺人犯と間違われて追われ続けるよりはましだと思うが?それとも、それと同等かそれ以上

の大罪を犯しているのか?そもそも、関係がないというのなら何故この場所にいる。ここは連

続殺人犯のアジトだぞ?」

「それは………………」

「ティアナ、お前は騙されている。人の弱みに付け込む外道に」

「………………」

断罪するシグナムの言葉にティアナは黙り込む。

そしてキレたかのように開き直った態度で答えた。


「だから、なんですか」


「何?」

「私は彼がそんな人間ではないってことを知っています。
それに……………もし彼が連続殺人犯であっても私には関係ありません」

「……………」

「いろいろなことがありました。兄が死んでから多くのことが。執務官になりたいのに自分の

才能が無いことに悩んだり、絶望したり、嫉妬したり。だから、六課を離れた。離れてからも

悩みました。
………………でも、もうそんなことはどうでもいいんです」


一度目を瞑ってから深呼吸する。腰に下げていた漆黒の剣を手に持ち、シグナムの方へと突き

指した。


「彼を愛してます。彼の隣に在りたい。今の私はこれだけです」


一遍の迷いすら感じられない、決意の言葉だった。


(何を言っても無駄か)


昔のシグナム達がそうだった。闇の書事件。主のためにと、余所からの声を全て聞かずに我が

道を突き進んでしまった。

あの時のシグナム達は他人を信じるということができなかった。

ティアナもきっと、嘗ての自分たちのように、何を言っても耳を傾けることはないのだろう。

「そうか…………………なら、首根っこを捕まえてでも管理局へ連れ戻す」

シグナムはレヴァンティンを構える。

「………できると思ってるんですか?飛べないあなたで」

シグナム相手に大口を叩くティアナ。

ピリピリと張り詰めた雰囲気が場を支配する。

シグナムはレヴァンティン。ティアナの方は質量兵器だと思われる漆黒の剣を握る。

(何を考えている?剣で勝負して勝ち目はあるまい)

持っている剣は何か独自の効果があるのだろうか。

シグナムが思考した瞬間だった。

集中しきっていないと見たのだろうか、ティアナが地面を蹴ってシグナムの方に駆け出した。

シグナムも呼応して向かい打つ。


キーン、という音と共に交錯する剣と剣。


「!?」


だが、シグナムの予想していた衝撃ではなかった。

重さが無い。いや、違う。横からの衝撃が剣に響く。

受けるのではなくシグナムの剣を流したのだ。


一合で終わらせようと大振りしたのが仇となった。

ティアナにそんな正確に剣をあわせる技術などないと完全に油断していた。

その衝撃で若干の重心のずれが生じたと思ったのも束の間。

そのほんの僅かな隙を狙い、ティアナの第二波の攻撃がシグナムの目前まで迫っていた。

かろうじて剣を上げてその攻撃を防ぐ。

「ちっ」

シグナムの体勢が崩れている機会を逃すまいと、続いて矢継ぎ早に繰り出される連撃。

キン、キン、キン、キンとなり響く交錯音。

重さ、速さではシグナムに遥かに及ばないが、一度劣勢になったシグナムの隙をうまく突き続

け、主導権を渡さない。シグナムは受けに廻ってその悉くを辛うじて受けきることしかできな

い。

「ちい」

完全に後手後手に回ってしまっている。

崩れた重心を戻す前に、次の攻撃が来る攻撃がシグナムに反撃を許さない。

その上

(動きが読み難い………!)

反撃できないのはティアナが主導権を握らせないからだけではない。

ティアナは体を僅かに上下に揺らすリズムをとりつつ、フェイクを織り交ぜ、その動きの中に

剣を振るう予備動作を隠している。

剣を振るう動作がどれなのか判別がつかず、本命の刃がやってきてようやくシグナムは反応で

きる。

対するシグナムの攻撃は恐らく相手に見切られていると考えていい。

技の速さとキレ、重さに特化したその攻撃は、その実モーションが大きくなり動きが見切られ

てしまう。空ならばそれでも問題ないだろうが、数メートル内で争う地上での戦いならば致命

的な隙となる。

ボクシングでの大振りのパンチが当たらないのと同様だ。

度重なる剣戟。気がつけばシグナムは後退を余儀なくされている。

「くっ」

裁ききれず、ついに完全にシグナムのバランスが崩された。

完全に無防備になってしまう胴。

剣は流れたまま追撃が間に合わない。

「はあああああああ」

ティアナはここぞとばかりに大きく振りかぶってその剣を胴に叩き込み、

「!」

ガッという音と共にティアナの剣が弾かれた。

剣と交錯するは、透明の壁。

シグナムの体を覆うフィールドバリア。

「はああああああああああ」

逆に好機と捉えたシグナムは思い切り横なぎに剣を振り払う。

「くっ」

トンッと、ティアナはバックステップでそれを避けた。

「……………………」

「……………………」


両者のファーストコンタクトはそれで終わった。


シグナムは驚愕していた。

ティアナの身体能力は以前より遥かに向上している。

先ほどの走りも間違えでは無かったのだ。

いったい何故こんなことが可能になったのだろうか。


だが、それだけではシグナムがこんなに押されはしない。

(この感じ…………あれに似ている)

高町の父親という高町士郎。彼と道場で剣道をした時に酷似している。

高町士郎は肩の動き、目線、足運び、相手の細かな動きからシグナムの攻撃を予測し、シグナ

ムの剣は悉く空を切った。

さらに士郎の攻撃は、剣を振るう肩や足捌きなどの動きを、体全体の流れの中に隠し相手の反

応を遅らせる。

シグナムの速さと重さを重視した剣術に対し、士郎の攻撃は一撃の威力などはさほど重視せず

、いかに相手に剣を当てるかに特化した剣道独自の戦い方。

シグナムの僅かな隙を見つけ、無ければ作り出しそこを付く。

魔導士、ベルカの騎士の剣とはまた別の動き。

高町士郎と剣道をした時は、剣のキレではシグナムが勝っているはずなのにもか関わらず、そ

れ以外の要素により、剣道においては全く相手にならなかったのは今でも覚えている。


今回のティアナはまさにそれ。

詰め将棋のような剣術でシグナムに主導権をつかませなかった。

(……………強くなったことは認めざるおえんな…………)

この1年弱の間にこれほどまでに成長したのかと舌をまく。


(だがな……………)


シグナムは、大きく剣を真横にどっしりと構えた。

抜刀術のような構え。

一撃必殺の代償に、素人目に見ても完全に隙ばかりだ。

「…………………」

にも関わらず、ティアナは打ち込んでこない。

「こないのか?」

シグナムはそうティアナに問いかける。

「……………」

ティアナに反応はない。

(だろうな)

先ほどの戦闘。傍から見れば、シグナムが劣勢だったかのように感じるかもしれない。

だが、事実は真逆。ティアナがどう足掻いてもシグナムに勝てないことが浮き彫りになっただ

けだった。


「ティアナ………お前は間違えた。見せ掛けだけの技にすがりつき、戦闘が何たるカを見失っ

ている…………愚かだな」


先ほど挙げた剣術。

魔導士ではなかなかその道のスペシャリストに出会うことは無い。


それは何故か?


答えは単純だ。

魔導士には効果が薄いのだ。

フィールドバリア、魔導士にはこれがある。


例えどんなに隙を作り出し、相手の剣の隙間を縫って相手を切りふせようとしても、目に見え

てさえいればフィールドバリアで防ぐことができる。

フィールドバリアは他のバリアに比べると硬度は弱いが、その実、接近戦のSランク同士の戦

闘でも、通常攻撃ではこれ突破することはなかなか簡単ではない。

ましてや、フェイクを入れたり、予備動作を隠しながら攻撃しては、十分な威力は確保できな

い。

それでも突破しうるとしたら例の漆黒の騎士ぐらいか。ティアナを誘惑している男も、もしか

したら突破してくるかもしれない。

故に、ティアナの当てることのみに特化した軽い攻撃では残念ながら全く通じない。

ティアナの動き、剣道に近い動きは、刃が相手に当たった時点で勝ちがほぼ確定するからこそ

のの戦いだ。

バリア技術の発達した今の魔導士の中では重要なスキルとは成り得ない。


フィールドバリアを突破する手段は2つ。

その強度を上回る攻撃を加えるか、

もしくは、視認すらできないスピードによる攻撃。


ティアナの攻撃は確かに巧くはあるが、残念ながらただそれだけ。

残念ながら、ティアナの剣での攻撃では思いっきり振りかぶってきった一撃でもAランクのフ

ィールドバリアを突破できるかどうかだろう。


腰を入れて、魔力を高め、全力で切り捨てる。

一撃のために全てを捧げる修練が必須だ。


そうでもしなければ、Sランク。それも魔導士や騎士の中では最高ランクの強度を誇るシグナ

ムに通用するはずが無い。

シグナムは剣道ができないのではない。必要ないから取り入れなかっただけだ。少なくとも、

その修練の時間に値するだけの効果は無いと判断した。


全く価値の無い技術とは言わない。

だが、ティアナはまだ15歳。まだまだ、基礎の地盤を固める時期だ。

こういった邪道な動きは基礎ができ、己の限界が見えた時に取り入れればいい。

野球で言えば、まだストレートが伸びる時期なのにも関わらず、変化球に力を入れてしまった

ようなものだった。

これで大成するはずが無い。

しかもティアナは中距離の銃使い。全く畑違いの分野に手を出してどうするのだ。

だが、


「それはどうでしょう……………?」


不適な笑みと同時に、再びティアナが飛び出した。

シグナムに向かって疾走する。

シグナムが刀を振る暇を与えるまいと、その剣をシグナムに向けた。


(馬鹿が)

ティアナの剣の軌跡。シグナムは確実にそれを捕らえてフィールドバリアを展開させた。

(攻撃を受止めた刹那、カウンターで終わらせる)


その、はずだった。


「ぐっ、はっ」

次の瞬間にはシグナムはくの字に折れ曲がっていた。

(なん…………だと!?)

確実にバリアで防いだはずだった。

その刃が何故かシグナムの横っ腹にのめり込んでいた。

(どういう……)

そう思うのも束の間、もはや今度こそ機を逃さぬと怒涛の勢いで剣を振るう。

「くっ」

再びその攻撃をバリアで受止めようとするが再びフィールドバリアを擦り抜け今度は逆の脇腹

に直撃する。

「ぐっ…」

矢継ぎ早に繰り返される攻撃の雨が続く。

バリアを展開させても何故かそれを突きけてくる。

軋む体。いくらシグナムと言えど、そう何度も食らうことなどできない。


「調子に」


シグナムは体の痛みを耐えて、


「のるなあああああああああああああああああああ」


形勢などお構いなし。体制など知ったことかと剣を振るった。

だが、それはあまりにバランスを崩した一撃。

威力などでようはずもない。

破壊力などでないと考え、余裕を持ってティアナは剣でその一撃を受止める。しかし

「なっ………………!」

驚愕の声と同時に、ティアナの体が浮き上がった。

「はああああああああああああああああああああああああ」

その手ごたえにシグナムは力の限り最後まで振り抜いた。


剛、とティアナは後方へ吹き飛んだ。

ダッ、ダッ、ダッ、と地面を転げ10メートルほど先でようやく体が止まる。

しかし、直ぐに起き上がり、シグナムに隙は見せまいと睨みつける。

だが、直ぐに動くことの出来る状況ではないようだ。

そして、それは連打を浴びたシグナムの同じ。


(何が…………起きた?)


頭の中をフル回転させ、現状把握に努める。

(確実に防いだはずだ)

フィールドバリアでティアナの攻撃は確実に防いだはず。

(バリアを突破した……………いや、そんな感じはなかった……)

そうでないとするならば。

ティアナ……射撃、………幻術………そうか。

「幻術か………いや、それだと何故すぐに気がつかなかった………」

恐らく、幻術を作りだし、それにシグナムを切らして、その幻術の背後から攻撃した………し

かし、それならばもっと早く気がついていいはず………

「…………そうか……腕と剣だけ幻術で作り出した。これならば辻褄があうか」

体全体ではなく、腕のみの虚像を作り架空の攻撃をする。実態の方は虚像を利用してシグナム

の目線から巧妙に隠れるように攻撃。

これでシグナムを誤魔化し、誤ったバリアを張らせ、その隙に別の箇所から攻撃したのだろう



一瞬、しかも腕だけの幻術なら魔力消費も激しくない。

(なるほど………そのための持参の剣か)

ティアナのデバイスはダガーモードも持っていた筈なのに、剣をわざわざ持ち歩いているのが

気になっていたが、そういうことだろう。

幻術以外にデバイスの演算を使わないための質量兵器だったのだ。

そして、剣術の一連の動きを鍛えたのも、この幻術による攻撃でフィールドバリアを突破でき

る目算があったから。

(………………)


ここにきてようやくシグナムは理解した。

あくまで飛べない空間という条件付だが、

目の前のティアナは対等な立場の敵なのだと。











“side ティアナ”


(冗談じゃない………なんて化物)

焦っていたのはティアナも同じだった。

バランスの崩していたはずだ。それなのになんて破壊力。

まともに剣をあわせることすら困難。

ティアナのバリアなど紙も同然だろう。

つまり、一撃でも貰えば即終了。


さらにあの耐久力。

正直、自分の振りかぶった一撃がフィールドバリアを突破できなかったこともショックだった

が、今はその比ではない。

バリアジャケットのみの防御だったのにも関わらず、なんて手ごたえ。

素手でタイヤを殴っているかのような感触だった。

完全に不意を付いて完璧に入ったはずなのにも関わらず、ボクサーが軽いジャブをボディに入

れられた程度の効果しかなかった。

(こっちは一発まともに入れられたら、それで終わりだって言うのに………………)

その間にこちらは何十回攻撃を入れればいいのか。下手したら三桁に上るかもしれない。

それまで全ての攻撃をかわし続けるなど、冗談も大概にして欲しい。


さらに、ティアナの攻撃にも慣れてくるころだろう。初見だからこそ翻弄することが出来たが

、今からはそうはいかない。

相手を侮ってはいけない。向こうだって歴戦の将だ。対策の1つや2つはしてくるだろう。


(…………動き自体は見切りやすいけど…………何十発も避けるのは無理ね…………)


そこでティアナはふぅ………と息をする。


(予定変更………本当は勝って思いっきり殴って、あの時のお返しをしてやろうと思ってたけ

ど………勝てる確率が低い。
今回の目的はあくまで殺人犯を捕まえること。幻術を使って逃げるべきね………)


そこでようやくだがティアナは気がついた。


(馬鹿………なに熱くなってたのよ。
そもそも殺人犯を倒すんだったらシグナム副隊長も目的は同じ………それが潰しあってるなん

て………初めから逃げることだけ考えとくべきじゃないのよ……そしたら誤解もとけるはずな

のに)


本当にどうかしていた。

あの時、一方的にシグナムに殴られたこと、そして先ほど士郎を悪く言われたことに想像以上

に腹を立ててしまっていたらしい。

そして、気持ちを切り替えて逃げる算段を立てようと考えた時だった。


突然、ソレは起こった。


「嘘だ……………」


シグナムが突然呟いたかと思うと、ガクッと膝を突いた。

(………意外と効いてたの………?いや、違う。そんな感じじゃない)

「まさか…………ありえない……………」

あのシグナムが青ざめた表情で、手足をがくがくと震わせている。

(えっ………なんなの?)

あまりに蒼白なシグナムにティアナはただ驚くが、反面これはチャンスだとばかりに駆け出し

た。

「………………………」


あまりに隙がありすぎて攻撃していいか分からない。

シグナムの性格を鑑みれば罠ではないだろう。あまりに隙だらけなその姿だったが、念のため

だ。ティアナは逃げることに専念することにした。


「………………………」


まるで電池が消えたおもちゃのようにフリーズするシグナム。

(機動六課の他のメンバーに何かあった?)

ティアナはそう思いつつもシグナムを置いてタッ、タッ、タッと出口の方へと駆け出した。


優先順位はもう間違えない。

今度の目的は連続殺人犯。

ソレを倒すためにティアナ達はこの地へと訪れた。

もし、管理局がいるというならば、むしろ利用するべきだ。

私怨は挟むべきではない。


ティアナの想いは、彼と共に生きることなのだから。



































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今回のテーマはティアナの成長でした。



イメージしたのは

H×HのヒソカVSカストロ
ホーリーランドの神代VS山崎です。

前者はティアナをカストロに似せました。

彼の幻影は本体ごとある上に、物体に触れますが、感覚的には似たような感じです。

また、身体能力の向上(キャスターによる)

あと、士郎を模した接近戦での戦闘技術。

これらを組み合わせて、羽を持たないシグナムと渡り合いました。


後者のホーリーランドの神代vs山崎。

強力な大砲を持つ神代ですが、ボクシングだと山崎に手も足も出ない。その技術の差が今回の

ティアナとシグナムの差というイメージです。

ただ、その技術と言うのが、今の魔導士の中ではあまり意味を持たないために、異質であると

考えました。

所謂、武士が刀で戦う時代から鉄砲の時代に移ったようなイメージで、技術はすごいけど、鉄

砲の前にはあまり意味が無いので、技術の価値が廃れていったという感じです。






[4247] 第09話  螺旋回廊  
Name: ゆきほたる◆2cf7133f ID:814fc7e5
Date: 2012/03/25 15:53
注)キャスターは5次キャスター(メディア)のことのみを指します





【第09話 螺旋回廊】



ヴィータ、シグナムが洞窟内を彷徨っていた頃、なのは、フェイト、はやても同様に洞窟内を進んでいた。

3人ではあるが、1人は病み上がり、1人は明らかに接近戦には不向きな魔導士。決して戦力が十分だとは言い難い。


「なのは………大丈夫?少し休みいれたほうがいいんじゃない?」

「いい、大丈夫だから」


なのははそっけなく心配するフェイトに返事する。

そこには、いつもある余裕を全く感じることが出来ない。


『ヴィヴィオが攫われた』


それを聞いてからのなのはは一切感情を表すことなく、ただ『そう……』と、呟いて、泣くことも、怒ることも無く無表情を貫いていた。

冷徹すぎるその態度。しかし、その実、触れれば壊れてしまうのでないかと錯覚させるほどの儚さがあった。

親友であるフェイトやはやての言葉すら心に響かない。

一度でも弱さを見せてしまったら立ち上がれなくなってしまうと、本能が知っているからかもしれない。


暗闇の中、歩き続ける3人。

そこで、前方から、微かな光が漏れてきた。

「明かり………?」

フェイトは呟いた。

はやても確認すると頷く。

「……やね…………犯人がいるのか、もしくは何かある場所なのか………まあ、なんも無いってことはないやろうな」

3人は頷くと、警戒態勢を強めてさらに奥へと進む。


進むに連れて、その光を放つ場所が広い空間となっていることが分かってくる。


廊下からドアの無い部屋に入ったように、その空間に躍り出た。


「………………………なっ!?」


あまりのことに、言葉が続かなかった。



一面に、芸術達が立ち並んでいた。



フェイト達も歴戦の魔導士だ。

死骸など目にすることは珍しいことでは無いし、この連続殺人犯の事件現場も見た。

どんな不意打ちで“死”を目の当たりにしようとも、決して動揺するまいと覚悟を決めてここに来たつもりだ。

たとえその数が膨大であろうとも、その形が人体としての意味合いを喪うほどに破壊されていても,死体はあくまでただの死体だ。

その酸鼻さと惨さに眉を顰めるこそすれ、許容しきれないことは無い。

そう、思っていた。今この瞬間までは。



だが、目の前の光景は、それよりも先の領域にあるものだった。



喩えるなら、そこはさながら雑貨店の様相だった。

家具がある、衣料品がある。楽器があり食器がある。用途すら判らぬ諸々は、ただの絵画やオブジェなのかもしれない。いずれも丹念に意匠を凝らし、放埓な遊び心と完成を存分に尽くした製作者の情熱が見て取れる。

これらを手がけた職人は、その素材、その作業の工程をきっと愛して止まなかったに違いない。

暴力に快楽を見出すものがいるのは解る。それが高じて殺人を犯す者もいるだろう。だが、この血みどろの空間にある死体は違う。いや、死体ですらないものすらある。生きているのだ。

ここには、破壊された残骸など1つもない。全てが創造物であり、芸術だ。ヒトとしての生命、ヒトとしての形骸はその工芸の過程において無意味とされ打ち切り捨てられた。それがここで起きた事象だった。

こんなにも創意工夫に興じた殺害、人体加工。人体を創作物の素材とする行為は、はやての精神の許容量を超えていた。恐怖や嫌悪と言う生々しい感情よりも、もっと生々しく由々しい衝撃で、はやて達は真っ直ぐと立っていることすら出来なくなった。気がつけば血まみれの床に両手両膝を付き、胃の中身をありったけぶちまけていた。


「こんにちは、魔導士さん。プレゼントは気に入っていただけましたか?」


突然声が振ってくる。

「!!!!」

ばっと振り向くと、そこには女性が2人いた。

一人は漆黒の衣を纏った女性。もう1人は、紫のローブに身を包んだ、こちらもまた女性だった。

明らかに常人とは異質な雰囲気を醸し出している。

「初めまして、私は桜と言います。彼女はキャスター」

漆黒の女性は桜と名乗りでて、そして隣の女性の紹介も続けた。

「すばらしい芸術でしょう?ほら、見てくださいよ」

桜はにこにこしながら、並んだ死体の方へと近づいく。

この空間の中では珍しく内臓が轢き出ているだけの真っ当な死体だった。

十字架に張り付けられた女性から、ただ、ぬめぬめと艶光る帯状の腸が、飛び出ている。

何を思ったのか女はソノ目の前に立つと、「えい」と手を内臓の部分に当てた。

「ぎぇ」

人の声。痛ましい苦悶の声がじわりと闇に広がる。

「ぐえ、うええ、げ、ぐお、」

桜はポンポンポンと、臓器に次々と触っていく。

十字架の上には、絶え間ない痛みに啜り泣く少女。この声の持ち主は彼女のようだった。

「っ……………」

あまりに現実離れした光景に3人の理解が追いつかない。

が、1つだけ分かったことがある。

そう、死骸だと思っていた物体から声がする。つまり………死骸だと思っていたそれは、少なくとも生物学上は生きているという事実。

「ぎゅええ、ふぇ、ぐお、ぎぇ、ぎょあえ、ぎゃぎゅええ、じゅ、ぎょ」

さらにポンポンと死体に触れていき、その度に奇声が上がる。

その女は、手を止めると3人の方を見る。

「……………?判りませんか?あなた達日本人ですよね?
ほら、さーくーらー、さーくーらー、やよーいーのーそーらはー。ほら、あってるでしょう?」

そう言うともう一回同じことを繰り返す。

ぐぇ、ぎゅえ、ぎゅえー、ぎゅ、ぴぎぇい、ぎゅえー

死体から出る呻き声を繋ぎ合わせると確かに、音程だけはメロディを奏でていた。

「でしょ?いやーこれでも練習したんですよ?ピアノなんて音楽の時間に習ったぐらいでしたし」

なにやら子供がハーモニカを吹けたのと同じレベルで自慢げに話す彼女。


完全に人を弄ぶ行為。

ただの“娯楽”のために用意された鋼材たる人間。


だが、そんな残虐極まりない行為に対し、フェイト達は怒り、悲しみ、嫌悪。浮かべるべき感情が浮かんでこなかった。

彼女の芸術はあまりにフェイト達が辿ってきた人生と懸け離れすぎて、どのような感情を持って接すればいいのかすら理解が出来ない。

人体実験とは違う、拷問とも又違う。ただ、遊ぶためだけの殺戮。


現実味がないとは、こういったことを言うのだろう。

まるで悪夢を見ているかのように錯覚してしまう。


だが、はやて、フェイトが固まっている中、ただ1人。高町なのはだけは違った。


元より感情を凍結させていたせいか、目の前の光景を無視し、冷たい声で目の前に現れた女に詰問する。


「あなた達はあの連続殺人犯の仲間。そういうことですね?」


なのはの強い視線を受けた女性は、まじまじとなのはを見つめると、にこりと笑いながら返す。

「いい顔ですねぇ。高町なのはさん。触ったら壊れそうなぐらいに儚い。ああ、腐る前の果実と言うのはなんておいしそうなんでしょう」

高揚した表情で女性は舐めるようになのはを見渡した。

「質問に答えなさいっ!」

なのはは自らのレイジングハートの切っ先を女性に向ける。するととぼけたような声で桜は答えた。

「えーと、なんでしたっけ?あなたに見惚れていて聞いてませんでした」

「………あなたがあの連続殺人犯の仲間であるのか確認しました」

「ん?違いますよ?」

なのはは眉を顰める。

完全に予想外の言葉だった。
こんなデモンストレーションをしたのだ。今更、隠すも何も無い。
なのは達を嘲笑うように肯定するものだとばかり考えていた。

「ふざけないでください。こんなことしでかしておいて、あんな死体を甚振っておいて、今更関係無いと言うんですか?」

「うーん、確かに連続殺人犯の仲間といえば仲間なんですけど。でも、あなた方が言ってるのは、あの紅い人でしょ?」

「…………………………………それ以外に誰が?」

すると桜は悪戯っ子の様な顔をして答えた。


「残念ですけど彼とは関係ないんですよね~
だって、魔導士を誘拐したのも遊んだのも私達なんですもの。
あの騎士様はあなた達と同じように私達の邪魔をしてくるって関係です♪」


「…………………え」

唖然とした表情のなのはを見てくすくすと女性は笑う。

「誤認捜査ごくろうさまです♪誘拐したのも殺したのも皆私達です」

対するなのはは今度こそ怒気を含んだ声で叫ぶ。

「嘘をつかないでください!」

信じられる訳が無い。そんなこと信じられるはずが無い。

「私が嘘をつく意味は無いような気がしますけど?」

「………………」

必死でなのははあらゆるケースを想定する。

………………

混乱しているせいか、それとも元々答えなど無いだろうか。咄嗟に考えることが出来ない。

だが、信じるわけにはいけない。もし、信じてしまえば、これまでなのはを支えてきた意思がガラガラと崩壊してしまう。


だが、そんななのはの意思に反するように、今度は今まで蚊帳の外だったはやてが話に参加してきた。


「本当やろうな……………ごめん、なのはちゃん。黙ってたけど、私の情報源にもそういう話はあったんや。
そして多分………あの紅い人は“ニブルヘルムの死神“………そうやろ?」

桜は驚いたようにはやてを見る。

「へえ………すごいですね。意外でした。管理局も馬鹿ばっかりではないんた。そこまで分かってるなんて想定外です」

純粋に感心したように肯定する。

「………あなたの言葉があるまでは可能性の少ない推理だったんやけどな………」

はやては自虐的に呟く。そう、今更分かったところで、何の意味もないのだから。


「うそ………うそ………そんなはずない。だって、あの男はハッキリ自分が犯人だって………」

対するなのはは混乱の渦中にあった。

無理も無いだろう。

ずっと追いかけていた、いや、憎悪を向けてきた人物が、敵ではありませんでしたなんて済まされない。

そんなこと到底受け入れられるはずが無い。

「それは、あなたの大切な教え子のために付いた嘘なんじゃありませんか?」

桜はじっくりと甚振るように、されど優しい口調でなのはを諭す。

「そんな…………………」

それでもなのはは理解することができない。

「惨めですねえ、エース・オブ・エースさん。ずっと見当外れの人を恨み続けていたなんて。もう、笑うしかありませんよね?」

ずっと、ずっと恨んできた相手。どうしようもない悪だとし、その人を倒すことばかりを考えてきた苦悩と絶望の日々。

その、恨みとも言える執念を支えに、何とか立ち上がることができたのにも関わらず…………それが全くの事実と反対なのだとしたら。

なんと滑稽なことだろうか?


しかも、嘘とは言い切れない。

あの男の行動は矛盾が多すぎた。

レリックを狙ってあの最強ともいえる漆黒の騎士に立ち向かったはずなのに、あっさりとレリックを置いていった。

ティアナを回収するときに、わざわざなのはを挑発したのは何故か。
なぜ、慢心創意の体で、なのはの傷の手当までしたのか。やってくるだろう管理局の救援もあるだろうに。

何よりも、ティアナだ。

彼女が単なる殺人狂なんかに本当に心酔するだろうか?


今まで、目を背けてきた事実がここに来てピタリと当てはまる。


「は……はは、馬鹿みたい………」


乾いた声で呟いた。

何を思えばいいのか、考えがまとまらない。

だが


なのはは思わず崩れそうになる体をそれでも地面を両足で踏ん張って倒れない。

体は痙攣し、頭が狂いそうになって尚、2本の足で大地に立つ。


「レイジングハート」

杖が光を持ち始める。

対する桜は不思議そうな顔をする。

「?」

「私が理解できることは、あなたをここで捕まえればいいということ。今は、それだけで十分です」

なのははレイジングハートの矛先を女に向けた。有らん限りの力で食いしばって毅然とした態度で睨みつける。泣き顔になりそうなその顔を鋼鉄の仮面で覆いこんだ。

「へえ、撃つんですか?大したものですね。もっと取り乱すと思ってました」

心底感心したような声で賞賛する。

「………………」

なのはは、それを無視して一撃で終わらせんとばかりに魔力を集中させ。


「でもね………この声は聞こえないんですか?」


後は“ディバインバスター“そう叫んで終わらせるはずだった。

だが


「マ…………マっ」


なのはのよく知っている、本当によく知っている声が耳に入ってきたのだった。


「……………!!?」


女の隣、この猟奇作品のなかの一つ。人体を木に見立て、内臓や目玉のイルミネーションを飾っている人間クリスマスツリーというべきもの。


確かに、ソレから、声が聞こえた。なのはが絶対に連れ戻すと誓った、愛しい女の子の声。

決してここに存在してはならないモノ。


「ま……ま…………」


「ヴぃ……ヴィお」

目は既に飛び出ており、切開されたお腹から、腸がツリーに張り巡らされた針のように体に絡みつき、枝のように骨がとびで、どう考えても生きていると言えないその死骸。

だが………その死体は、ヴィヴィオという名前をしていた死体は……………それでも生きてママと呼ぶ。

その傍らの女。ソイツが

「気に入っていただけましたか?」

「あ、あ…………」

絶望に打ちひしがれた表情で、顔は蒼白を過ぎ、もはや血も失せ、現実を見てしまった。


「………いや、いやああああああああああああああああああああああ亜ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


糸が切れた。

今まで磨り減らして、磨耗させて、それでも奮い立たせてきた想いが、完全に断ち切られた。

悲痛な叫び声が洞窟内に木霊する。


「ほら、今です♪」

同時に、黒い影が背後からなのはを襲った、


「なのはちゃん!」
「なのは!」


ヴィヴィオのことを深く接してこなかった2人は、何とかまだ動くことが出来た。

フェイト、はやてはなのはを助けようとするが。


2つの固体によりそれは阻まれることとなった。


「ジャンヌ!おお、ジャンヌ!生き返っておられたか!!!」


突如、フェイトの前に現れたのは、2m近くにもなる大男。気持ちの悪い模様をした魔導書らしきものをその手に備え、感極まる醜悪な表情でフェイトを捕らえていた。

サーヴァント・サモナー。青髭と呼ばれる、オルレアンの戦いにおいては、『救国の英雄』と呼ばれた男。

同時に、少年等への陵辱、虐殺に性的興奮を抱く、4桁にも上る犠牲者を出した大量殺戮者。

この部屋の芸術を完成させし男。

フランスの英雄。『ジル・ド・レイ』




「嘘や…………」

対するはやての前に現れたものは絶望。

最強最悪。間違ってもこんな場所で出会っては成らない怪物。

人の形をしながらSSSに値する超越者。

いつぞやの戦いで現れた漆黒の騎士。

イギリスの円卓の騎士が1人。『サー・ランスロット』だった。










影に捕らえられたなのは。

それでも、その手をプラプラと愛しいヴィヴィオのほうに覇気無く伸ばす。

最後の最後の悪あがき。

どんなに異型になろうとも、声がするならまだ救える。

そんな儚い夢物語。


「そーれ♪」

そんななのはの元に、桜は人間ツリーを“よいしょっ“と掛け声を出して持ち上げてなのはの目前に持っていき。

「ヴィ………ヴィ……オ!」

影に捕らえられているなか、その朽ち果てた姿の娘に何とか障ろうと、手を伸ばそうとした瞬間。

「えい♪」

ぐちゃっと、桜はそのツリーをへし折った。人間だったころはヴィヴィオという人間を。

ごろんと頭がもげて地面に落ちる。まるでスイカかのようにグシャリという音をたてて血飛沫を挙げた。


「あ、ああ、ああああああああ、」


声が擦れ、もう奇声を上げることもできない。

完全に高町なのはという人物は壊された。


「はあ、いい、すごくいい。なんて顔してくれるんですか貴方は。ああ、もうぐちょぐちょに濡れてしまったじゃないですか」

女性は股間を押さえながら恍惚の笑みを浮かべる。

「あ………あ………」

絶望、怒り、嫉妬を通り過ぎ、馬鹿みたいに口をパクパクとすることしかできない。涎が垂れ堕ち、失禁し、体の機能という機能が制御ができなくなった。

既に、BJなど保つことは出来なくなっており、もとの制服姿。

捕らえられてる足元に、ポタ、ポタとアンモニア臭の放つ水滴が落ちているだけだ。

そんな、エース・オブ・エースとは懸け離れたあられも無い様子に満足したのだろうか。

「では、少し眠ってもらいますね……」

そういって何も出来ないなのはの意識を刈り取る。


桜は、もう聞こえていないだろうなのはに向かって語りかけた。


「安心してください。実はまだ、あなたにはチャンスはあるんです。
……………でもね?これで終わりじゃないんですよ。もっと、もっと、遊んであげますから、楽しみにしててくださいね?」










「ジャンヌ!ジャンヌ!おお、なんという嘆かわしき有様。器がこんな魔女に捕らえられ」

なのはを助けたいフェイトだったが、訳も分からないうちに、大男との戦闘に入ってしまった。

フェイトのことをジャンヌと訳のわからないことを言っていたが、直ぐに表情が変化する。

「………ジャンヌ?いや、貴様はジャンヌではない。ジャンヌは自ら光り輝く太陽の如き存在。
決してお前のような己で輝くことも出来ぬ月に甘んじるものではない!」

すると、思いついたかのように。

「おお、そうか。ジャンヌの体を乗っ取ったのだな?ジャンヌの器を乗っ取りし魔女。お前の精神を追い出し、再びジャンヌを呼び戻そう!!!」

会話が成立しないまま、フェイトを敵と認識したのか、内側の狂気質が変化する。

ただの精神異常者ではありえない。それまでの様子とは打って変わり、別人のような威圧感があった。

一度ならず大地を血で染め上げてきた者のみが纏う威風。英雄と崇められ、あるいは暴君と畏怖される者ならではの気迫だ。


サモナーの手にはいつの間にか一冊の分厚い装丁本があった。濡れ光るような艶を帯びたその表紙は、人間の皮を貼ったものだ。

魔力が本の中心を基点として、膨大な魔力が脈動し、放射されている。

同時に、異界より呼び込まれた“海魔“が出現した。

出現したのは一匹だけではない。

青黒くうねくる、夥しい数の蛇の群れ、いや、小さな顎のような吸盤にびっしりと覆われたソレは、そんな生易しい代物ではなかった。烏賊か、もしくはそれに類する異形の生物の触手を纏い、フェイトに襲い掛かってきた。


寒気を催すほどの異形。生理的嫌悪を感じずには入れれない。


しかし、戦闘面でのフェイトとは相性は悪くなかった。

その巨体、触手の多さは厄介だが、巨大な剣を模したザンバーフォームならば一撃の下に葬り去れる。

フェイトは、おぞましい触手の群れを相手に一歩も譲らない。獅子奮迅の戦いを見せて次から次へと薙ぎ払う。

だが、相手の海魔は一面を多い尽くすほどの物量を誇る上、完全に切断しないと、すぐさま再生する。

「時間が無い……」

やはり数の多さが問題だ。いずれは倒せるかもしれないが、時は一刻を争う。

チラッとはやてを見る。あちらもどうしようもなく不味い状況だ。

(出し惜しみしているときじゃない)

「オーバードライブ。真・ソニックフォーム」

薄くなる装甲。だが、反比例するかのように機動力は格段に上がる。

スピードだけならフェイトに勝るものはいない。

多少のダメージは覚悟で海魔の隙間を潜り抜け、2人を回収し撤退する。今はこれしか道が無い。


だが、その決意が仇となった。


ヒュン


音もなく、気配も無く、視界に入ることすら無く、フェイトの背後に何かが立っていた。

ドスンという、衝撃。

限界まで装甲を薄くしたフェイトの腹部に剣が飛んできていた。

「くっ……は」

薄くなった装甲の上から、尋常じゃない衝撃に思わず足を突く。

「しま………た」

唸り狂うか海魔の群れ。その合間、フェイトの死角を突くようにして漆黒の騎士が剣を投げていたのだった。

この近距離。そもそもの実力差。あの騎士にははやてと戦いつつもフェイトの警戒を怠らないことなど朝飯前だった。


崩れ落ちるフェイトは、そのまま海魔に囚われる。

そして、触手に掴まれ釣り下がっているフェイトを目の前に、青髭は語りかける。


「聖少女よ、不詳、このジル・ド・レイ。必ずやこの器の元へ、あなたの魂を呼び戻しましょう」








フェイトが海魔と奮戦している最中。

こちらは既に勝敗は決していた。

はやてはもともと接近戦のスキルがほぼ無い上に、相手は魔法無効化まで持っている。

この空間においては、ランスロットにとって赤子に等しい存在だった。

ランスロットに羽交い絞めされて身動きが全く取れない。

「………あなたが機動六課の長ですか。そして闇の書の主でもあると」

先ほど話していた女性の傍らにいた、キャスターと呼ばれていた女性がはやての前までやってくる。

はやてはキャスターを見て睨む。情けないことだが、これがはやての出来る唯一の抵抗であった。

「おやおや、勇ましいこと。けど、理解してないんじゃなくて?あなた方に勝ち目はないってこと」

「……………」

唇を噛み締める。

そんなことははやても分かっていた。

まさか、あの時の怪物が真犯人の仲間であるとは思いもしなかった。

この状況下では、この男1人でも逃げ切ることすら危うい。

「なんで、こんなことをしたんや!」

憤怒の篭ったはやての詰問に、キャスターの方はどうでもよさそうに告げる。

「なんで………と言われましてもね。まあ、強いて言うならマスターが暇だったらしくて、その娯楽のためですね」

「……………………………………………は?」

言ってる意味が全く理解できない。


“暇”……………暇?


「ああ、ちなみにこの殺人現場を作ったのは、今、あの金髪の小娘と戦っている男ですよ。流石に私もここまで趣味は悪くはありませんし………まあ、どうでもいいですけどね
マスターはあの男の行動を退屈しのぎにでもしてたのでしょう」


「………………」


……………はやては今まで悪と呼ばれる存在と戦ってきたが、ここまで純粋な存在はいなかった。

今までの殺人犯は己の欲望のために殺人と言う手段を取る。人体実験、口封じ、邪魔者の排除、それらを行うための手段として、殺人を行っていた。

ただ、殺人により快楽を得る人間は全くいないと言うわけではない。

はやては目にしたことが無いが、麻薬中毒のように殺人を犯す人もいるらしい。

だが…………よりにもよって暇だからなんて………………完全にはやての理解を超越している。


「さて、あなたの騎士が2人はまだ残っているんでしたね」

どこかサーチャーでも放っているのだろうか、キャスターが呟く。


(そうや、まだシグナム達がおる)

一縷の望みはまだ繋がっている。

シグナム、ヴィータ。彼女達ならば、はやてを拘束している男にも攻撃が通じる。

どうやら腕の傷が戻っていない彼からなら、きっと逃げるきっかけなら作れるはず。


そして


(……………ニブルヘルムの死神………………)


味方とはいえない存在。

この場に来るかどうかも分からない。

だが、目の前の敵と対立している以上、この場に訪れる可能性も少なくは無い。

………それに、もしかすれば………

完全にはやての直感だ。

だが、そのような奇跡が起こらない限り、形勢逆転のチャンスは訪れない。


(大丈夫、まだ終わってない)


そんな希望を持つはやてを余所にキャスターは短刀を取り出した。

ジグザグに折れ曲がった歪な短剣。

「?」

なんの効果があるのだろうか。

はやてを殺すならば、そんなものを何故使う必要がある?

はやてが見つめる中、キャスターは無造作に手を振り上げ、その剣をはやてに突き刺した。

そして



“パキン”という音と共に、はやてのBJが霧散した。



「え?」


一瞬にして制服に戻る。

何がなんだか分からなかった。バリアジャケットの強制解除か、そう考えた。


「………………!!?」


遅れたやってきたある感情。

正体は分からない。

だが、絶望的なまでの虚無感がはやてを襲う。


はやてがその正体を見つけるまで、いや、その現実を受け入れるまでにたっぷり数分を要していた。


「嘘や……………」


ずっとあった繋がり。家族も同然に、血を分けた兄弟以上により深く繋がっていた、契約の絆。

どこにいても感じることの出来る暖かな温もり。

苦楽を共にし、笑いあってきた大切な存在。

それが、はやての中から消え去っていた。


「嘘、嘘、そんなこと、そんなことあるはずない」


自分の感覚が信じられない。

何かの間違えであった欲しい。切にそう願う。


「マスター」


いつの間にかキャスターは、彼女がマスターと呼んでいる桜のところへ向かい、よく分からない術式を組んでいた。


「くす………これで、守護騎士達は私のモノってわけですか」

満足そうにそう言ってのける。

「どういう………こと?」

はやては呆然とした顔で桜に問いかけた。

「いえ、あなた方の契約は断ち切らせてもらいましたから。繋がりを完全に無くした使い魔など弱いもの。後は私のものにするだけです」

桜は守護騎士プログラムの変わりに、はやて達にできた新たなライン。それを断ち切ったといってきた。

「そんなこと……………」

できるはずがない。そう簡単に契約などできるはずが。

だが反面、この規格外の連中ならばきっとできてしまう。そう納得している自分がいるのにはやては気がついていた。


(私の家族が?この連中に?)


そんなの


「ダメ…………ダメ、ダメ、ダメダメダメダメ。私の家族なんや……返してっ、返して!!!!!」


傍から見たらなんて間抜け姿なんだろう。

男に拘束されながら、赤子のようにじたばたを続ける

言ってる内容もただの泣き叫ぶ子供のようだ。


「返して、返して!お願いだから………………私…………私の……………」


あまりの絶望感に思考が回らない。


「では、あなたははマスターに渡しましょうか。守護騎士共に犯させるのも面白いかもしれませんね」

キャスターが手で頬を挟み、はやての顎を持ち上げながらそう言った時だった。



瞬間、空気が凍った。



洞窟内の大気が圧縮されたかのような錯覚。それと声らしきものが聞こえたのが同時だった。


『偽・螺旋剣』


魔弾は流星となって降り注ぐ。

大気を根こそぎ狂い曲げ、その軌跡を禍々と見せ付ける。


はやてがソレを認識したときには、既に体は宙に舞っていた。はやてが気がつくよりも更に前に漆黒の騎士は察知し、邪魔なはやてを放り投げ、その追撃に剣を割いたのだった。

コンマ以下を切る速度で舞い降りた魔弾とセイバーによって強化された剣との衝突は凄まじく、はやての体は爆風で更に遠くへと飛んでいってしまう。

バリアジャケットもないはやての肉体は、十数メートルの飛翔に耐えうるだけの強度は備わってない。

(あ…………)

何が何だかわからない。だが、そんな状況で、はやてはこれは死んだな………とぼんやり考えていた。

だが

ボスッという衝撃。

床か壁に激突するにしては、あまりにやわらかな感触。

でも、マットなどのようなものとは違う。そう、これは


「……………嘘」


はやては抱えられたいた。

ガッチリとした肉質。

手を伸ばしても届くかと言う長身。

真紅の外套を羽織った白髪の男性。


だってその顔は、はやての知っている顔だった。


「なんで………………」


いや、なんでも何も無い。

目の前にあることが真実だ。


だが、はやてはこれが現実か認識できずにいた。

親友2人が絶体絶命のピンチ。そして、はやては力すら失ってしまう。

だが、そこに現れたのは何時ぞやの男性。

まるでヒーローのように現れる正義の味方。

それはなんてベタな漫画のような展開。

でも……………


「やっぱりそうだったんですね………」


そうじゃないかとは思っていたのだ。


士郎は少し驚いたかのような顔をする。


「気がついていたのか…………」


こくりとはやては頷いた。


士郎と別れてからもう一度よく考えていた。

何故、士郎はあの情報を手に入れることが可能だったのかと。

正直、多量の情報網を持っているというようには見えなかった。

実は非常に優秀情報屋だったのかと一時は考えていたのだが、やはり無理がある。


そして、はやては今まで引っかかっていた事象を整理した。


フェイトが士郎を連続殺人犯だと誤認したこと。

何故、この情報を手に入れることができたのかということ。

なぜ、ティアナを探すのに、鎧衣は士郎を選んだのかということ。

なぜ、連続殺人犯がなのはの怪我の治療をしたのかということ。

なぜ、連続殺人犯が漆黒の騎士に立ち向かったのかということ。

なぜ、連続殺人犯は管理局員が救援に来るリスクを負ってまで、なのはに嫌味を言ったのかということ。


さらには、はやてが感じていた大きな違和感。

はやてに言った、強者独自の奢りという内容。

確かに、あの時はその通りと思っただけだったが、よく考えてみれば変だ。

あの時話した限りの性格では、そんな説教などをわざわざするような人ではないと感じた。

それが、ある人物に由来する事柄だったからこそ、あえて忠告したのではないか?


これらの情報を俯瞰して見れば、1つの仮説が生まれる。


5%にも満たない結論かもしれない。


だが………その僅かな可能性が現実として、今、はやての目の前に存在していた。


「私はデバイスを取られて魔法を使用できません。なのはちゃん、フェイトちゃんは既に敵に捕まっていて、さらに、私の守護騎士は敵に取れれてしまっています」


聞きたいことは山ほどある。

あまりの虚無感から士郎にしがみついて泣いてしまいたいという衝動もある。

だが、全てを押し殺して、簡潔に状況を説明した。

現状、はやてが出来ることといったらそれしかなかったのだから。


「分かった」


士郎は簡潔にそう返すと、はやてをそっと地面に降ろし、あの敵のほうを悠然と向いた。


「……あの程度の武器で、今の一撃を受止めるか……………」


衝撃による白煙が晴れたその場所に、あの騎士の姿は今尚健在だった。

多少はダメージを受けたようだが、戦闘に支障はないレベルだ。

馬鹿げているとしかいいようがない。


「状況は最悪のようだな………」


さらに周りの死体、サモナーに捕まっているフェイトの状況を確認。そして、士郎はさらに視線を奥にやり、なのはの方へと視線を送った。


「な………………………」


視線の先には、当然ながら桜というあの女の姿もあった。桜は悠然と、まるで来るのを確信していたかのように、士郎を招いた。


「こんにちは、ニブルヘルムの死神さん。会いたかったですよ………」


優雅ともいえる態度で場にそぐわない挨拶をする女。


「………………………」


対する士郎は無言だった。

だが、ソノ態度は無視を決め込んでいるからではない。

焦りと驚愕が、入り混じった唖然とした表情。
あまりのことに体がガクガクと震えてされいる。


「…………?どうしたんですか、そんなに驚いちゃって」


この男らしからぬ態度に首を傾げる桜。

唖然としながら、士郎は震える声で呟いた。


「殺したはずだ……………確かにこの俺が、この手で………………」


士郎はガクガクと手を震わせ、苦悩が混じった困惑を浮かべた。


対する桜はきょとんと言う顔をして、しかし直ぐに興味深そうな顔になる。


「へえ、おもしろいこと言いますね…………私を殺した………ね。どういうことでしょうか」


まるで、新しい遊びを見つけたかのような子供みたいな反応。

「………………」

反して、士郎の方は直ぐに感情を捨てて、落ち着きを取り戻したかのように、元の無表情に戻り

“I am the bone of my sword”

ボソリと聞こえない声でそう呟いた。


「さてな…………自分で考えたらどうだ?」

もう元の調子に戻ったのか、目の前の女性を挑発する。

桜は、それもそうですね、と愉快そうに頷いた。

「不思議ですねえ……………私は殺された覚えは無いですし。そっくりさん…………いや、もう1人の私が可能性世界にいたってことでしょうか? 」


“Unknown to Death.Nor known to Life”


洞窟に響く言葉。

………周囲に変化は無い。

呪文ではないなのだろうか。魔法が発動する様子も、何か起きる様子も無い。


「……………答える義理は無い。ただ言えるのは、もう一度同じことを繰り返すだけだ」


左手が上に上げられる。


“―――――Unlimited blade works.”


明確に言霊を吐いて、世界を変動させた。



―――炎が走る

灼熱の火が視界を覆い、洞窟を塗りつぶしたあと。
その異界は、忽然と洞窟にすり替わっていた。


「なんなんや………………これ」


はやては呟いた。

怪異と言う名の非日常の連続。その終焉の地であるかのように極上の異形が存在した。

燃えさかる炎と、空間に回る歯車。

一面の荒野には、担い手の無い剣が延々と続いている。

その剣、大地に連なる凶器は全てが名剣。

無限とも言える武器の投影。

夥しいまでの武器は、それだけで破棄場じみている。

その、瓦礫の王国の中心に、赤い騎士は君臨していた。


「―――固有結界。
心象世界を具現化して、現実を侵食する大禁呪。
……………なるほど、あの槍もこれの派生形ということですか…………」

キャスターはこれから起こるだろうことに警戒しつつ、忌々しそうに呟く。

士郎は答えるまでも無いと、返事をすることも無く、手を振り上げる。

突如、大地に突き刺さっていた無数の剣が空へと浮かんだ。

「しま……………」

キャスター叫ぶ、それよりも前に、その最悪の雨が血の雨をも降らせんと舞い落ちた。

放たれる無数の剣。

魔剣、名剣、聖剣という極上の弾丸が、キャスターに、ランスロットに、ジル・ド・レイに、そして…………あの最悪の魔女、桜に降り注いだ。

キャスターは幾重にも防御結界を敷き、ランスロットはその徒手空拳で舞来る剣を握っては追撃しより良い剣に取り替える。サモナーは海魔の盾に隠れる。

だが、一様にいえるのは、個々がその追撃に全精力を使っており、他の事に気をつける余裕など無かった。

そして、その攻撃に反応できなかったものが一名。


「あ……………………」


ぼんやりと景色を眺めていた桜の目前、既に無数の剣があった。


「………………これで、おわり?」


はやてはその光景が信じられなかった。あっという間の出来事。

あの、最悪の、ゲームで言えばラスボスをも上回る存在かと思われた魔女がこんな簡単に串刺しになってしまった。


だが


「え………!」

気がついた時には、士郎が串刺しになったはずの桜の目の前に詰め寄っていた。


剣の弾幕による煙の合間からよく見ると、そこには剣の牢獄が存在した。


桜を丁度取り囲むかのような形で幾重もの剣が列なっている。

そして、はやてが確認したときには、既に士郎は止めをさそうと桜に対し剣を振り上げていた。


いや、剣と言うにはあまりに小さい短刀だ。

ギザギザに折れ曲がっており、細く、脆く、およそ人を殺すことなどできないだろう。

あれは…………間違いなく、はやてがキャスターに刺された魔剣だった。


「これで…………終わりだ」

士郎はそう言って桜の胸に振り下ろし

「ぐっ…………!!?」

まるで新幹線にでも跳ねられたかのように、衛宮士郎の体が吹き飛んだ。

「ちいっ………!」

なんとか体勢を持ち直して着地するが、その顔は苦悩の表情が見て取れる。

その視線の先には、例の漆黒の騎士がいた。


「何故!?……………………………ちっ………令呪か」

自分で答えに見当をつけたのか、士郎は舌打をする。


「へえ、令呪のことも知っているんですね…………
まあ、いいです、でも惜しかったですね」


セイバーに剣を薙ぎ払ってもらった桜は悠々と立ち、士郎を見据える。


「……………」


対する士郎の方にある表情は硬い。と、同時に剣の世界が霧散した。

恐らく、世界を維持できなくなったのだろう。


「剣の雨、あの時、直接私を串刺しにしてたなら、キャスターが令呪なんて使う暇ありませんでした。
あなたがご丁寧に拘束してくれたおかげで、助かっちゃいましたね♪
非常な人かと思ってましたが、本当は甘いんですね~~~戦場で見せたらだめじゃないですか、その甘さは」

ニヤニヤしながら笑いかける桜。そして、横からキャスターも呟く、彼女も体に傷はあるものの、致命傷は受けていない。

「名剣、魔剣を製造する固有結界があなたの切り札ですか……………
流石に英雄になれるだけの素質は備えてるわけですね。
私の短剣まで模倣できるなんて、なんてデタラメ……」

己の剣を複製されたことにプライドが傷ついたのだろう。戦況は有利であるのにキャスターは刺々しい声だった。

「すごいなあ。固有結界なんて初めてみました。でも、1度見せちゃったら次ぎはいくらでも対策できちゃいますね。
それとも他にも何か切り札があったりするんでしょうか?
でも、今日はこれまでです」


桜がそう言うと同時に、世界が発光した。


「これは…………転移魔法!!!」


はやてが叫ぶ。この魔方陣は大きな強制転移の魔法を行うためのものだ。これは、粉ごうこと無くミッドチルダにおける魔法。


「ええ、こっちの世界の人に作らせました。まあ、研究もキャスターにしてもらいましたしね。じゃあ、これ返してあげます」


そういって桜が拘束していたなのはを士郎の所へ投げ捨てる。


「!?」


突然渡されたことに困惑する士郎。


「相方さんも、ぎりぎり間に合ったようですね」


入り口を見る桜。

そこには駆け込んでくるティアナの姿があった。。


「ティアナ!八神についていろ!」


ティアナは状況すら分からないだろうに、頷く姿勢すら見せずに、愚直にはやての方はと駆け出した。

桜に駆け寄るシグナム達を見ているはやてを回収するのと同時だった。


光が最高潮に達する


「では、未来の英雄さん。お楽しみを一回で終わらせるのはもったいないですし、今日のところはこれまでにします。またお会いしましょう。
その時はもっと楽しませてくださいよ?」


士郎はなのはを抱え、ティアナははやてに寄り添い、フェイトはジル・ド・レイに捕らえられたまま、後の守護騎士やサーヴァント達は桜を中心として消えていく。


瞬、という光と共に、皆が消えていった。


空洞には、静けさだけが取り残された。



絶望の終焉地。


果たしてそれは希望への出発点か。


それとも、永遠と続く負の螺旋となるのだろうか。




































[4247] 第10話  不協和音
Name: ゆきほたる◆2cf7133f ID:814fc7e5
Date: 2011/04/16 14:39
“Dream 1”


煉獄


気が付けば、焼け野原にいた

みな死んだ。

みなが死んでいた。

炎の中、彷徨っていたのは自分だけ。

家々は燃え尽き瓦礫の下には黒焦げになったトカゲみたいな死体あふれており、至る所から泣き声が聞こえていた。

1人で歩いた。助けを求めて、誰でもいいから助けて欲しくて脇目も振らずに歩き続けた。


助けて、助けて、助けて、待って、待って、待って、返して、返して、返して


数多の懇願を無視して、ただ、ただ自分が助けを求めるためだけに歩いていた。

自分には助けることは出来ないと割り切って、必死の声を振り切った。

醜悪なる炎、皮膚が爛れ落ち、この体も直ぐに取り残したものと同じになるのだろうかと、なりたくないと必死に彷徨った。


赤に染め上げられた世界の黒ずんだ太陽が見下ろす中、ただ、ただ歩き続けていた。
















【第10話 不協和音】




「っ!」

高町なのはは一瞬で眠りから覚醒した。

「んぷっ」

(………!!!)

同時に胃の中から熱いものが咽上がってくるのを感じる。

(吐き、そう)

ベットに横たわっていた体を慌てて起こして、両手で口を押さえてトイレか何処かへ駆け込もうと周りを見回した。

(バケツ……!)

すると、ベットの端に丁度バケツのようなものがあるのを確認して、身を乗り出す。

「うぇええ」

体はベットに預けたまま、頭だけバケツの上に持っていき、両手で床を押さえて体を支えた。なんとか間に合ったようで、シーツにぶちまけてしまうことは無かったようだ。

ただ、吐いたといっても既に胃の中には何も残っていなく、胃液と黒ずんだ血のようなものしか流れ出てこなかった。

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」

断続的に続く呼吸を整える。

同時に、丁度横においてあったミネラルウォーターのペットボトルの水を含んで、口の中の苦い感触を洗い流した。

「はあ………はあ」

なんとか呼吸を落ち着かせ、周囲を見渡す。

ホテルの一室のような場所だった。

広くも無ければ狭くも無い洋風の部屋。

2つのベットが並んでおいてあり、もう1つのベットは殻だ。


「なんか………明るいような」


既に見慣れたはずのこの風景だが、なのはの目には、なんだか妙に鮮明に写っていた。


それも、仕方ないかもしれない。

この地に来てからのなのはは、精神が完全に錯乱状態に陥っており、それは酷いものだった。

彼女の大切な子供である“ヴィヴィオ”の死。
その首の転げ落ちる光景をフラッシュバックのように思い出して、時に発狂し、嘔吐した。それこそシーツの上にもおかまいなしに。

そして時に、壊れたかのように『ヴィヴィオ、ヴィヴィオ』とうわ言を繰り返す。そんな有様だった
若干19歳の高町なのはには、とてもではないが受け入れることの出来る光景ではなかったのだ。


そして、もう1つ。体の異常な暑さ。
下半身を中心におかしくなるほどの疼きが生じていた。

始めはとにかく体が熱かった。何も考えることのできないほどの、異常なまでの火照りに気が狂いそうだった。

特に熱を帯びているのは股。女性の大切な部分。
発狂しながら、ソノ部分を掻き毟ったが、それでも体の暑さは収まらない。

暴力的な衝動。

その渇きを潤したのは、1人の男性だった。

なのはは無意識のうちに男性を求め、男性もなのはを抱きしめると、時に荒々しく、時に優しく抱いた。何度も何度も。

5度にもわたる行為が終わった後、とりあえずは体の火照りは収まった。

だが、しばらく経てば再び同じ衝動が現れる。


快楽と絶望の入れ混じった混沌は、なのはの精神を奈落の底に突き落としていった。


もはや、もうこのまま壊れてしまうのではないか?

その最中に見たものがあの夢をだったのだ。


「なんだったんだろう、あの夢は」

醜悪なる炎が渦巻くあの光景。

夢と言うにはあまりに鮮明だった。

皮膚が爛れ堕ちるかのような黒ずんだ大気と取り残された者たちの絶叫は、それこそなのはがあの場で見た死体の山の光景にすら匹敵する地獄だった。


だが、毒薬には毒薬をということなのだろうか。

混沌に堕ちたなのはの精神は、煉獄の世界でのショックで強引に現実世界へと引き離されたのだった。



「ヴィヴィオ………」

愛する娘の名前を呟いた。

(あれ………おかしいな、悲しくない)

現実感がわかない。

あれだけリアルに目の前に浮かんでいた光景が、今ではまるで夢だったかのような曖昧さだ。

「本当に死んだのかな」

どうしたんだろう。

ヴィヴィオが死んだというのに、他人事のようにしか感じられなくなっている自分に気がついた。

死んだ?

死ぬって何?

もうヴィヴィオがもう抱きついてこないってこと?

え?

それってどういうことなんだろうか。

分からない。

全然分からない。

死んだってことことの意味が分からくなっている。

次の瞬間には、普通に今までみたいに抱きついてきそうな気がしてならない。

「あれ?」

なんで、あんなに悲しんでたんだろう。

死んだっていう現実が理解できなくなっていた。

「でも、死んだんだよね………」

狂いすぎて心が麻痺したのか、そもそも始めから死ぬという現実を知らなかったのかとさえ思えてくる。

「はっ、ははは」

自虐的な笑いがこみ上げる。

あまりにおかしすぎてどうしようもなかった。

(最悪だ、私)


そんな時だった。


「目が覚めたか」

気が付くと、目の前には長身の男が立っていた。

「…………ええ」

なのはは自虐的な笑みを消し、気だるげな声で返事をした。

服も肌着も身に着けていない肢体を晒していたが、そんなものは今更だった。何度も肌を重ねた相手に対し、恥じる意味も、気力も無い。

「正気に戻ったようだな………」

「はい………」

抑揚の無い声で答えた。

今の状況が正気だとは笑える話だが、少なくとも会話が出来るレベルにまでなったことは確かだ。

「あれからどれぐらい………」

「丁度一週間になる………もう動けるのか?」

なのはは自分の体の状態を確かめる。

手、足を動かしてみるが、特に異常は見当たらない。

さらにベットから下りて立ち上がってみた。

「大丈夫みたいですね………」

両足でよろけることなく立てたことを確認してから返事をする。

「そうか、ならシャワーでも浴びるといい。私は、ここのかたずけと食事の用意をしておこう」

相手はそう言うと、バケツを持って出て行ってしまった。

「あ……………」

自分の吐いた汚物ぐらい自分で処理しようと思ったが、思考がそこに至るより先に持っていってしまう。

「………いいや、シャワー行こう」

今更恥じてもしょうがない。

そして、かけてあったバスロープを手に取るとシャワーに向かって歩き出したのだった。










シャワーを済ませた後、備え付けてあったバスロープを羽織って部屋のテーブルにつき、男に勧められるままにオートミールを口にする。ホテルのルームサービスで注文したのであろう。

久しぶりにまともに食事をとったため、収縮した胃がなかなか受け付けようとしなかったが無理矢理流し込んだ。

一通り食べ終わると紅茶が出される。

男の方も席について、ようやく会話する体勢に入ったのだった。


「ありがとうございました」

なのははまずは感謝の言葉を口にして、頭を下げる。

状況は未だあやふやなままだが、なのはを助けてくれたことと、世話を焼いてくれたことだけは間違いない。

混乱する最中に吐いた汚物の処理や、狂いかけのなのはの世話も付きっきりでしてもらっていたのだ。

「別にいい。あの大規模な転移魔術で君の仲間やティアナともはぐれたからな。私も君が目覚めてくれないことにはこの世界から動きが取れなかっただけだ。別に君のためというわけではない」

男はそっけなく返答する。

「そうですか……………」

謙遜なのか、本心なのか、どこまでが本当なのかは分からない。それを判断しうるだけの情報をなのはは把握していなかった。ただ、恩着せがましくしないという点ではいい人なのかなとも思う。

(この人がどんな人なのか………この人……?あ………)

そこでようやく相手の男の人の名前も知らないことに気が付いた。

「すいません、まだ名前も聞いていませんでした。なんてお呼びすれば?」

「藤村…………」

なのはの問いに対していったん男は言いかけたが、途中で口を止めた。そして少し考えた様子を見せた後、訂正して言い直した。

「衛宮だ。衛宮士郎。地球の日本、君と同じ出身だ」

「士郎………?」

この風貌でなのはと同じ日本人というにも驚きだが、それ以上に士郎という名前に反応する。

士郎というのはなのはの父親の名前だからだ。

(偽名………?名前を言い直したし、出身地や名前が被るなんて出来すぎてるよね。
………こっちのことを家族構成まで調べてるっていう牽制なのかな?
でも、話してる言葉は日本語だし……………)

言葉は翻訳魔法ではなく、素の言葉で日本語を話している。一朝一夕ではできることではない。でも、それにしては出

来すぎている感が否めない。

なのはが怪しんでいるのに気が付いたのか、衛宮士郎は言葉を付け足した。

「ああ、この髪や肌は魔法使用の代償だ。10年ほど前はそこまで日本人としてはおかしくない風貌だったさ。まあ、信じなくとも一向に構わないが」

「そうですか………」

とぼけているのか、本音なのか判別がつかない。

名前など特に重要なことでもないので、聞き流すことにする。


「後………“あの“こともすいませんでした。嫌な思いさせて」

なのはは少し目線を降ろして言った。

“あの“とは、なのはの体の異常を処理をしてもらったことだ。

普段のなのはならいざ知らず、顔も青白く、髪もボサボサ、化粧も当然ながらしていないし、まともな会話も通じない。

おまけに、行為中に男に向かって数回、胃の中のものを吐き出した始末だ。

とてもではないが、楽しいことではなかっただろう。

「君が悪いわけではない………君の方こそこんな形で不本意だっただろう」

士郎の方もなのはから目線を外すようにして答える。

(不本意か………)

「別に……………それはどうでも」

恐らくなのはが初めてをこんな形で散らしたことをいっているのだろうが、そんなどうでもいいこといちいち気にするまでも無い。

もともと男が思っているほど特別なものでもないし、むしろ遅いのを少し焦っていたぐらいだ。そもそもこの状況で、そんなくだらないことに気に留める余裕なんて無い。

「おそらく、薬か………何かが体の中に入ったのだろう。呪いの類ではないはずだ。とりあえずの応急処置はしたが、管理局に早く帰って処理してもらうことだな。長引けば治らなくなる」

「そうですか……………」

大体そんなところだろうとは思っていた。尋常じゃない性的衝動。おそらく麻薬系統のなにか、媚薬に近い効果があるものだと当たりをつけてはいた。

「そう……ですか。でも、なんであの人達はそんなことを………」

すると衛宮さんは首を横に振る。

「………意味があることだとは思えんな」

「……………遊ばれてるってことですか」

相手は、殺人を趣味でやるような人間だ。こういった嗜好があってもおかしくない。

なのはの体を弄んで、なのはが悶えているのを想像して、ほくそ笑んでいるのだろう。


だがいくら桜という女が悪いといっても、なのは自身の中から罪悪感は拭えない。


「すいません………衛宮さんにはティアナがいるのに私………」

「ティアナ………?」

訝しげに衛宮さんはなのはのことを見た。

「だから………ティアナがいるのに私のために…………その、しちゃって………」

(本当、最悪だ私)

自己嫌悪が隠しきれない。

ティアナに償いきれないことをしたのに、その上、一時的であれティアナが好きな男と寝てしまうなんて。もはや高町なのははティアナにとって疫病神以外の何者でもない。


ところが返ってきたのは思わぬ返答だった。

「それは君のせいではないし、そもそも、私とティアナは君が思っているような関係ではなない」

「え?…………………恋人、ではないんですか?」

「違う」

そっけなく士郎は返答するが、なのはには信じられなかった

「嘘、そんなはずない………」

あの時、ティアナが見せた感情。士郎を庇おうとしたあの決意の表情。

『でも…………この人を見捨てるわけにはいきません』

あの時の顔は確かに………

「確かにティアナとは共に行動しているが、かといって必ずしも色恋沙汰になることもあるまい」

衛宮さんは溜息をついて肩をすくめた。

「それはあなたがっ………………いや、そうですね………」

『それは貴方が勝手に思っているだけじゃないんですか?』そう言いそうになり、なんとか押し留めた。

それでなくとも、もっと悪い、”浮気心”や”遊び”。なのはは思わず女性に対する不誠実なことまで邪推してしまっていた。

(馬鹿だ私………何度も間違えてるのに………
思い込んで、勝手に決め付けて………それがこんな結果になったのに………!)

危うく何の根拠もない自分の考えを押し付けようとしていた。

自分の身勝手さに頭を抱えてしまう。

(きっと、ティアナとこの人はそういったものとは違う純粋な何かで惹かれあってるんだ………それなのに邪推して………)

男と女が一緒にいる。そんなことだけで、勝手に決め付けてしまった。

重ね重ね高町なのはという生き物が自分で嫌になってくる。

「すいません………勘違いしてしまって」

「別に誤解がとけたならそれでいい」

衛宮さんは特段、怒った様子も気にした様子も無かった。

(でも、そういうことなら良かった)

これで一つ肩の荷が下りた。


「………ティアナとはどうやって出会ったんですか?」

「林道で事故を起こしていたのを拾っただけだ。君との戦いの直ぐ後だったな」

「そうですか………あの時」

とりあえず、ティアナが六課を離れてからすぐに拾われたことに安堵する。マフィアの町を彷徨った末に辿り着いたとかではないかと不安だったからだ。

「あれからティアナは元気ですか?」

なのはの失言でどれほど傷つけてしまったのか。それに、あの過度に体に負担のかかる魔力行使。あれで体がどうにかなってしまったのではないかと心配だった。

「………とりあえず特に異常は無い」

「そうですか…………精神的には」

「始めは落ち込んでいたが、今はとりあえず立て直してる……………今の君の方がよっぽど危ういと思うが?」

やれやれと呆れたような衛宮さんの言葉。その中には人の心配をしてる余裕は無いんじゃないかという意味が暗にこめられていた。

「あはは………」

なのはは乾いた笑いをするしかない。

でもティアナの体が大丈夫そうで良かった。それに、とりあえずは精神的にも持ち直したということか………

(……………)

「私に………あんなことを言ったのはティアナのためですよね…………」

「……………まあな。失策のようだったがな」

「…………っ」

その言葉に思わず肩を奮わせる。

(失策ですませられるもんだいなんかじゃないですよ………)

不満が一気に爆発しそうになる。

『そんなことしてなんになるんですか!』

思わず、自分の失敗を棚に上げて食らいつきたくなった。

あれはあんまりじゃないか。そう泣き言を言いたくなってしまう。

あんな自己犠牲をしたところで、何の意味もないことだ。

あの時衛宮さんが誤解を解こうとしていたら、管理局は無駄な犯人探しに膨大な努力と対策をしなくてすんだはずだ。

それに………なのはもあんな思いをしなくてすんだ。

(でも、それだけティアナのことを考えてくれたってことなんだよね)

部下が、上司に逆らった上に逃げ出したという事実は、上司から見たらとてもではないが好意的に見れるものではないだろう。さらに敵対したとなってはどうしようもない。

加えて、管理局から去ったティアナがなのはのことを彼に良く言っているはずもないのだ。

(衛宮さんが、私がティアナのことを敵意をもって見ていると勘違いしても不思議じゃない。むしろそれが自然かもしれないな)

ティアナを管理局から守ろうと思えば、“悪い男に誑かされている被害者”という立場においたほうがいいにきまっている。

確かに良いとは言い難い行為ではあるが、結局それをさしてしまったのはなのは自身なのだ。

(衛宮さんを責めるのはお門違いだ………)

衛宮さんは身の危険を省みずにティアナのことを優先したのだ。それはどれほどすごいことだろうか?

そう、結局悪いのはなのは自身。八つ当たりしたい気持ちをぐっと押さえ込んだのだった。


「それであなたはニブルヘルムの死神と呼ばれているんですよね?」

念のために一応確認する。

「………まあ、否定はしない」

ふう、吐息を吸い始めわざと避けていた核心に迫ることとした。

「あなたの目的は何なんですか?」

「……………」

正直、衛宮士郎という人物がなのははわからなかった。

今もなのはの問いを返答するだけで、人物像がいまいち見えてこない。


ずっと、憎んできた相手だ。

恩人でもあるし、なんとか平常心を保つように心がけているが、それでも蟠りを消すことが出来ない。喩えようもない攻撃的な衝動と、誤ってしまったことへの懺悔が同時に犇めき合っている。

「私怨ですか?」

「いや、違う」

一番可能性が高いと思っていたがどうやら違うらしい。

「何処かの組織の命令………いや、どこからの依頼ですか?」

「いや、あくまで自分でしていることだ」

「なら、何故?」

「………………」

衛宮さんは視線を降ろす。

その様子だと言いたくは無いのだろう。

(私怨じゃない………命令、依頼ではない………まさか)

そんなものを抜きにして、悪を退治しているという結果だけを純粋に見れば一つの答えが導き出された。

「正義のため………?」

「……………」

士郎は押し黙る

続く沈黙は肯定を示していた。

「管理局が手につけられない事件を裏から解決するっていうことですか?」

なのはの声がつい棘の入ったものになる。それに対し、意に介した様子も無く淡々と衛宮さんは答えた。

「別にそういうわけではない。君達が優秀だから残り物しか掃除できないだけだ」

「………」

(なんて子供な考え………)

ギュッと唇をかんで、なのはは苛立ちを落ち着かせる。


なるほど、確かに管理局、いや、組織には必ず悪い人間がいる。合法的に裁くのが困難な人間が中枢に蔓延っている。

それを叩くには組織に組する人間では困難だ。外部からの、なんの制約もない人間でなくてはならない。

(……………でも…………)

相手は恩人である。そして悪人というわけではない。でも、これだけは言わないではいられなかった。

「衛宮さん。あなたは正義を行っているつもりかもしれないですけど………あなたのしていることは犯罪なんです」

なるべく落ち着かせた声で言う。

「………確かに、間違えている部分も管理局にはあります。
それを歯痒く思っています。私だけではなく、大勢。
だけど、だからといってルールを無視していいわけが無いんです。
一個人が善悪を決めることはできません。
社会というものがあって、組織というものがその代表として形成されるんです。
個人がそれぞれ独自の判断で動いてしまっては、テロとなんの違いもありません。特に、人を殺しているんだったらなおさらです」

善悪など、個人が決めれることではない。そんな偏った価値観で物事の判断を許せば秩序は崩壊する。

たとえ、一時的に間違えた方法で解決しても、後にきっと歪みが生じるだろう。衛宮さんの行動は法治国家におけるテロリズムとなんらかわらない。

「君の言っていることは何も間違えていない。
私の行動が悪だということも、私が犯罪者であることも理解している。私はあの殺人犯となんのかわりも無いさ」

そんな風に自虐的に衛宮さんは言ったが、それはおかしな話だ。

「自分のことを犯罪者とか、悪人だと思っているなら、何故あなたはそんなことをしているんですか?
欲のためでもお金のためでもないのに悪事を働く理由がありません。衛宮さんは自分の中で結局は正しいことだと正当化してるんじゃないんですか?」

正義を行うということと、悪であるということは行動理念としては相容れないものだ。

本人がどんなに自分を悪といようが、最終的に正しい行為、つまり自分の中の正義だと思っているからそんな行動をする。

汚い言葉で、はっきり言ってしまえば

『あなたは悪を持って善を成すという事実に、自己陶酔しているだけの子供なんです』

思わずこう言ってしまいたくなる。


(イライラする)

まるで子供のように自分勝手に正義を行おうとする行為も、自分を悪だとして罪悪感を逃れようとしているところも。


そんなことは管理局員の誰もが望み、在りたい姿だ。

自分が悪だと思った相手を縛りも無く捕まえることができたらどんなに楽だろうか?

自分に素直になることがどんなにすばらしいことだろうか。


だが、それを破ってしまっては社会が崩壊する。

ルールを無視してしまっては、あらゆるところで歪みがでてしまう。

だからこそ、歯を食いしばって耐えているのだ。


いつか自分が中から変えてみせるという信念を抱きながら。


だから、苛立つ。

子供のように社会を、世界を見ない行動が。


ずるいではないか。そんなこと誰もが成したいことなのに。

睨みつけるなのはに対し、士郎は臆することも無く、しかし睨み返すわけでもなくなのはを見据える。


「そんなのは愚問だな。私は最も効率のいい方法をとっているに過ぎない。結果はどうあれ、過程は間違えなく悪であってもな」

「結果さえ善なら、過程で悪を行ってもいいと?」

「悪を行うのが良いはずはあるまい。だが、組織というものから完全に悪いものを消し去れるものだと思うのか?」

「それは………」

思わず言葉が詰まってしまう。

「無理に決まっている。君の言うことはもっともだが、そんなものは夢物語だ」

「だからって間違えたやりかたでやってもいいと思ってるんですか?」

「まさか、私自身が犯罪者であることは自覚してるといっただろう?」

両者とも落ち着いていたはずの声が荒々しいものとなってくる。

「それは、本当はあなたはただ自己陶酔して“正義の味方”気分を味わってるだけじゃないんですか!?本当は犯罪者なんて自分で思ってないからできるんですよ!」

「思っているさ。だが、君の方法よりも結果として多くのものが救われる。これはどう考えるのかね?」

「救うって事は、正義を飾ってるってことなんじゃないんですか?
それに結果で判断するんですか?なら10人のために何の罪も無い1人を殺していいとでも?」

「いいとは言わない。だが、私は勿論殺す。たとえ10人のために9人殺さなくてはいけなくともな」

「そんなこと許されない!」

「もちろんだ。だが、結果として多くのものが助かる、君の方法よりもな」

「やっぱりあなたは自分が正しいと思ってるんじゃないですか!」

「君がどう思おうが、結果的に効率のいい方法をとるだけだ」

「それだと、その時だけは解決するかもしれませんけど、後からきっと歪みがでてしまうんですよ!」

「その時は、歪みとやらを今度は潰せばいいのだろう?。もしくは君が潰せばいい」

「……………」

「……………」

平行線。

全と個。

正義という同じ土俵にたっているはずのお互いの立位置はあまりにも対照的だった。


(………そんな身勝手な………)


ぎりっと唇を噛みしめる。

目の前の人が本当に悪い人ではないと分かっているから尚のこと腹が立つ。

これが根っからの悪人だったら、意見が食い違ってもすぐに諦めは付く。

だが、目の前の人は人一倍正義感を持っているのだ。

それが伝わってくるからこそ、尚更もどかしい。

「………………」

「………………」

お互いにらみ合いながら沈黙を保つ。

「ならば君が私を捕まえることだ。そうすれば全てが片付く」

「…………………」

イライラする。

子供が正しさを理解してくれないかのような、歯痒さ。

きっと、この人は子供のまま大人になってしまったんだろう。


恩人ではあるが、その姿を認めるわけにはいかない。


はやてならば、もしかしたら強かに利用したかもしれない。

フェイトなら、答えを出せずに迷っただろう。


だが、高町なのはの在り方は、衛宮士郎とは対極に位置する。高町なのはは、全という名の歯車となり動く者だ。反発するより他はない。


コインの裏と表。2人は、決して交わることの無い対極の存在だった。


ぐっと感情を抑える。どうせこのまま話しても収集が付くはずがない。


「……………この話は、この状態が打開してから話しましょう」

「ああ」


敵意を越えた何かを感じるが、今それを言っても平行線で終わるだけだ。

なのはももう子供じゃない。割り切って、次の話題へと進むことにしたのだった。










お互い頭を冷やすために、小休止を入れることにした。

衛宮さんは紅茶を入れなおし、なのははその間、窓を開けてどこか日本っぽくない街の景色をぼんやりと眺めながら、熱くなった頭を落ち着かせる。

なのはがあんな喧嘩腰になってしまうとは、どうやら通常よりも感情の起伏が激しくなっているらしい。



席について今度話したのは、あの敵のことについてだった。


やはりというべきか、衛宮さんは彼女達と同じ魔法形態の人間だったようで、魔術という魔法体系らしい。

概念武装や結界の在り方などを始め、なのは達の魔法よりも変化球なものが多いようだ。


「可能性世界ですか……………」


聴きなれない言葉を耳にする。

なのは達の地球とは違う別の地球。それが無限大に広がっているらしい。

似たような、然れども異なる世界から衛宮さんと、あの殺人犯達はやってきたそうだ。

そして、この事実を既にフェイトに話しているということにも驚いた。

この人らしくないが、つい口を滑らせたらしい。

もしそのことが無ければ、なのはには管理局が知らない別世界から来たという程度の説明で終わらせただろう。

衛宮士郎という人物は必要最低限のことしか話さない、どこか子供っぽいところがあるから。


「それにサーヴァント………俄かには信じ難いですね」


過去における英雄………アーサー王やヘラクレスなんかも例外でないらしい。

歴史は得意ではないなのはですら耳にしたことがある英雄だ。

(ヘラクレスっていうのはゼウスの子供……だったはず。ギリシャ神話かな?
アーサー王はイギリスの王様……………歴史だったか、それとも童謡か神話?)

詳しくは分からないが、それでも映画や本に多くなっている人物達だ。

クーなんとかという人や、ギルなんとかというのは残念ながらなのはの知識では分からなかったが、きっと偉大な人達なのだろう。

しかし、そんな偉人達を蘇生させるなんて信じることは難しい。


「すいません、自分で聞いておいてなんですけ、簡単に信じることはできません」

「それが当然の反応だろう。信じたらむしろ正気を疑うな」

衛宮さんはまるで意に介してないようだ。


(嘘には聞こえなかったけど………現実味が無いし。それに、何かまだ隠してる感じがする)

そう簡単に全てをさらけ出すような人とは到底思えない。


「でも、もっと同じサーヴァントがいればよかったんですが………」


衛宮さんの経験した第六次聖杯戦争のサーヴァントと、あの桜という女性のサーヴァントはアサシンと呼ばれている山の翁1人しか同じ英雄はいなかったそうだ。

桜という女性についても分からないらしい。


実は、衛宮士郎はキャスターとよべれていたコルキスの王女メディアを第五次聖杯戦争において見たことがあったのだが、セイバーの顔すら思い出せなくなっている今の状況で覚えているはずなどない。


「ただ、あの大男は、フェイトのことをジャンヌ、ジャンヌと叫んでいたのは聞いたな」

「ジャンヌって、まさかジャンヌダルク?フェイトちゃんが?」

なんで?どいうこと?

流石に意味が分からない展開である。

同様に衛宮さんも訳がが分からないという様子で首をすくめた。

「なんとも言い難いが、仮にフェイトのことをジャンヌと間違えていると仮定すれば、長身や海魔を見るに、ジル・ド・レイという可能性が高いかもしれん」

「ジルどれ?」

残念ながらまたしても分からない。

魔術士にとっては、過去の偉人達については重要な知識であるが、なのははミットチルダの魔法使い。そんなもの分かるはずがない。

「歴史に詳しくなければ知らんだろう。
通称青髭。ジャンヌに忠義を誓っていた部下だったが、彼女の死後に狂気に落ち、少年や少女を中心に大量虐殺を繰り返していた奴だ」

あの戦場を思い出す、………転がる肢体、虐殺された人間。…………

「それがあの男………」

確かに桜さんは自分がやった訳ではないと言っていた。

その人物像とあの大男は合致する。

「そして丁度あつらえたかのようにここはフランスだ」

「フランス!?」

確かに洋風の部屋だし、おかゆとかではなくオートミールがでてきたことに違和感は感じていたのだが、まさかフランスとは。

「ああ、どうやら………手がかりは見つけたようだ」

休む暇も無く、時は動き行く。

新たな旅路へ向け、新たなスタートラインに立たされたのだった。













[4247] 設定・時系列、等
Name: ゆきほたる◆56193382 ID:ff5a7143
Date: 2011/04/16 12:43
ここでは、本篇の時系列紹介。登場人物の性格などの設定。両作品の強さの擦り合わせに対しての紹介。使えなかった没ネタなどを紹介しています。

別に読まなくても大丈夫ですが、気が向いた時はご覧ください


【目次】

1.時系列
2.登場人物紹介
3.本作品における強さに関しての説明
4.没ネタ



【1.時系列】


この作品は、物語の進み方がとびとびなため、簡単な時系列を載せました。見にくいでしょうが、よければ参考にしてください。





・機動六課が本格的に機動→訓練開始


(2週間程度経過)


・ティアナ、スバルが高町なのはに徹底的に叩きのめされる→ヘリで、なのは達出陣の見送りの際、ティアナがシグナムにぶたれる→なのは達の過去の映像をシャーリーに見せられる。

⇒本作プロローグ、第01話、第02話、番外編01話、第03話(内容:なのは墜落、ティアナ脱走、なのは別部隊へ、士郎とティアナのデート(?)、ニブルヘルムでの戦闘)


(4ヶ月程度経過←アニメでは2週間後ですが改変しました)*この間特に大きな事件は無し。ティアナは士郎についていき様々な事件に関わる。


⇒番外編02話(フェイトと士郎の出会い、鎧衣と士郎の会話)

(数日経過)

・新人達の休日時、ヴィヴィオ&レリックの発見。ナンバーズとの戦闘。この時、高町なのはは別部隊所属のため、ティアナは脱走のため不在

⇒第04話(士郎vsヴィータ)、第05話(士郎vsランス)、第06話(ティアナvsなのは)、第07話(ティアナvsなのは)

(2週間経過)

番外編03話(作戦会議、ティアナ・士郎の語り)、番外編04話(ティアナの病院での出来事)番外編05話(はやてが士郎の居酒屋へ)、

(1週間経過)

番外編06話(なのはとヴィヴィオ、桜とキャスター)

(1ヶ月経過)

本編08,09話(シグナムVSティアナ、六課崩壊)

(1週間経過)

本編10話


【2.主な登場人物設定】

この作品特有の登場人物設定などを載せています。


“衛宮士郎“

凛だかゼルレッチだかにこの世界に飛ばされてプロローグから半年ほど前にやってきた(書くのがめんど………もとい、テンプレ過ぎて皆さん飽きているだろうから省略)
アーチャー化、というよりは切嗣化している。

スペックとしてはかなり強い設定。とりあえずその経緯は以下の通りです。

⇒プロローグの一年と少し前までは、彼の義父と同レベルの魔術師としての強さを持っていた。

だが、第6次聖杯戦争時に、HFルートのように凛が呼びだしたアーチャーの腕を自分の腕をつけて、スペックが上昇(ただし、HF同様に腕から固有結界に侵食されていった)

それでも桜達を倒しきれなかったため、世界と契約することとなり、それにより腕が完全に自身に同化し、ペナルティが無くなったという本当にご都合設定(すいません(>_<)。)この時のスペックは、サーヴァントとガチでやりあえるかそれ以上。

リリカル世界に来てからは、世界からの魔力供給が無くなったが、腕による恩恵でシエルと同レベルぐらいかやや下ぐらいのスペックが残った




現状の性格は、切嗣がアイリやイリヤによって変わったように、士郎もティアナのよって一時期よりも大分雰囲気は丸くなった。
ただ、魔術師殺しとしての自分を忘れておらず、ティアナと行動を共にしない時は性格が残忍になるケースが多い。


反面、ティアナに対してはかなり心を許していて、睡眠中に彼女が横を普通に歩いても起きないほどに。

ちなみに、ティアナとは同棲しており、ティアナをベットに眠らせ、士郎はソファーで眠っている。

ティアナのことは、最近、女性として意識しつつある。しかし、自分など好かれるわけないという思いと、自分は幸せになってはいけないという思い、また年の差などの問題から、現実的に考えてはいない。

セイバーと別れてからは、特定の彼女はいない。ただ長い間、カレンがそれに近い関係だった。

他のことは、本篇の通りである。





“高町なのは“


他の二次創作家の方よりも、精神面で弱めの設定。

スペックはそんなにいじってなく、特筆することはない。(なのはが弱く見えるかもしれませんが、それは型月側のスペックを高く設定しているため)

この作品において、これでもかというぐらい、作者にいじめられ続ける可哀そうなヒロイン。

でも、誰が主人公だかよく分からないこの作品の中で、一番主役に近い存在かもしれないという事実も。

現在は、連続失踪、及び殺人事件の対策チームに入り、戦術面での考案や指南、失踪者の捜索、対外的な人気稼ぎのため空の顔として代表等に借り出されたりもしており(実はこれが一番忙しい)、寝る暇もなかなかないほどの忙しい日々を送り、あの日から一度も六課には帰れていない。連絡は主にはやてを通じて行っている。








“ティアナ・ランスター”


この人も、精神面で弱めの設定。

スペックとしては、士郎の所にいた4ヶ月で能力が上昇したが、士郎を参考にしているため管理局ではあまり意味が無かったり使えなかったりするスキルも結構多い。

上がったスキルは、戦闘時における状況判断や、間の取り方などが中心。

最近では威力や命中率よりも、タイムラグが極力少なくなることを重視し、成果が出つつある。

相手を、自分の勝っている部分での勝負に誘い出す技術については飛躍的に上昇した。相手に勝っている部分で勝負するというのは、聞けば当たり前だが、当然相手も同じことを考えるわけで、結構難しいのである。
格上と戦い続けてきた士郎はこれが絶妙にうまい(独自設定ですけど)ため、士郎の動きを参考にしたり、また実践の中などから身に付けていった。

オールランダーで魔力が少ないといった共通点を持つ士郎の動きはティアナにとって、貴重な参考となり、また幾度となくあった命がけの実践を潜り抜けたことで、ティアナは格段と成長していった。

剣技も教わり、その実力は上がっているが、ベルカ式の人たちに勝てるほどでは無く、中途半端な状態。

で、目下取り組んでいることは、士郎の魔術、特に身体を強化する魔術の習得。

士郎のような剣技を習得するには、現状では無理だからだ。

魔導士はBJの中は普通の人間で、つまずくだけで足も挫いてしまうほど。

そんな状態で、士郎の動きなど無理やりマネしようものなら、間接が外れて、筋肉がズタズタに引きちぎられてしまう。

また、動体視力や、反射神経もこのままでは足りない。

だから士郎を真似するためにも、魔術の習得は必須だが、現状では、士郎が魔術回路無しにどうやって教えればいいか分からず、色々試している状態で、まだティアナは習得していない。

魔術を使えている以上、この世界に魔術基盤はあり、魔力を扱えるならできると思うんだが……というのが士郎の話であるが、真偽のほどは分かっていない。

また、反対にティアナも士郎に魔法を教えようとしていたのだが、こちらは士郎が才能なく魔力運用が下手で、とてもではないが実践では使えない出来である。


また、他には火力不足を補うために、デバイスのリミッターを外し、なのはのフルドライブに似たものを取り付けたり、収束系の魔法に挑戦するなど、かなり体に負担がかかることに取り組んでいる。


また、最悪の場面に備えての、完全に違法している魔法もこっそり練習していたりする。


ちなみに、魔法に関しては基本的に管理局が最先端を走っているが、フルドライブ系の体に過剰に負担をかける危険な魔法に関しては、法の外で生きる者たちの方が進んでいるのである(これも独自設定)


ちなみに、士郎はティアナのやることにいちいち詮索したりはしていない。


士郎のことを心から尊敬している。

士郎の実力の高さは知ってても、自分と同じ果たせぬ夢を追い求めている人だと分かっているので、実力や魔術の存在を知っても嫉妬したりしていない。
また、年が大分離れていることや、異性だということも、嫉妬をしない要素になっているのだろう。

士郎が人を殺すことも見ている。

死体を目にしたティアナは、士郎に、畏怖と恐怖の念を感じたが、一瞬だけ見せた泣きそうな、悔しそうな何とも言えない表情を見てしまい、士郎の弱さも知り、逆に士郎から離れることができなくなってしまった。


4ヶ月過ぎた2人の関係は、始めのころからほとんど変わっていないが、ティアナは士郎に恋愛感情を持っていることは既に自覚している。

ただ、4ヶ月も同棲しているのに、士郎からなんのアプローチも無いため自分は魅力が無いのかもと、少し落ち込み気味。


4ヶ月も一緒に住んでいればお互い恥ずかしい場面も見てしまうことがあるわけで、士郎がソファーで寝ているとき、ふと見てみると男性特有の生理現象が起こっているのを見てしまい、赤面しつつも士郎も普通の男なんだなということを感じてしまったのだった。


それからは、士郎はああいうのをどうしているんだろうかとか、ああいうのを発散させる相手……恋人とかはいるのかなとか、気が気じゃないティアナなのであった。


反面、高町なのはに関しては複雑で、嫉妬などの思いも強いが、黙って管理局から離れてしまっていることを申し訳なく思っていたりもする。



“鎧衣左近”

出典は“マブラヴ”
作者がオリキャラを作るのを断念したため、他作品から出演した人物。
政府機関の情報局の人間。スパイっぽいことをしている。
必要なキャラだが、重要なキャラでは無い。





“サー・ランスロット”

クラスはセイバー。マスターは5次キャスター。
臓硯がマスターだったのだが、桜が彼を殺した際に、桜のサーヴァントであるキャスターが頂戴した。
対魔力Aを持っており、フェイトのザンバーですら効かないというチートなうえ、もともとのスペック自体が圧倒的で、デバイスにより空も飛べてしまうという理不尽極まりない人物。




“フェイト・T・ハラオウン”
中心人物の3人以外は、鯖だろうが六課だろうが不遇の扱い(空気的な意味で)を受ける傾向が強いこの作品の中で、比較的しっかりした立場がある。
士郎のことは、いい人だな、とは思っているが、別に惚れたわけではない。また、立場上のこともあり、もう会うことも無いだろうとも思っている。








【3.強さに関しての設定】


以下、サーヴァント、リリカル隊長陣、士郎に関しての強さ設定の解説です。

あくまで、私がこう設定したという解説です。矛盾もあるかもしれませんがご了承ください。



前衛系 (サーヴァントはランスロットを、リリカルメンバーはシグナムを考える)
パワー    リリカル隊長陣≧サーヴァント>>>>>士郎
速さ(移動) リリカル隊長陣>>サーヴァント>>>士郎
速さ (剣速)  サーヴァント>>>リリカル隊長陣>>士郎
速さ(手数) サーヴァント>>士郎>>>リリカル隊長陣
経験     士郎>>>サーヴァント>>リリカル隊長陣
(*単純に戦闘回数を示すのではなく、いかに命がけの戦いをしてきたかも吟味される。つまり、同じ戦闘回数でも、弱いのに戦い続けた方が経験は上と考えるということ)
反応速度   サーヴァント>士郎>>>>リリカル隊長陣
魔力量    リリカル隊長陣≧サーヴァント>>>>>士郎




その他、士郎のスペック

弓の速度:マッハ2~3

矢の種類:夜に、漆黒の矢を使うなど、状況に合わせたものを使う。

魔力量:通常戦闘中に、なんとか真名解放が一回できるぐらい。ただし、エクスカリバーなど、大量に魔力を消費するのは不可能。固有結界、完全なアイアス(7枚)は、全く魔力消費をしていない状態でぎりぎり成功。

アヴァロン:本作の士郎は鞘の投影はできない。これは数々の後悔の念などの負の感情から、『自分はセイバーの横に立つに相応しくない人間だ』という想いが日に日に強くなり、彼女との一番の絆であるアヴァロンを投影することが、セイバーに対する冒涜に思え、心が拒否してしまったからである。簡単に言えば、チートはあかんよー。ってこと。







【4.没ネタ】

本当にどうでもいいことを載せました。
暇な方だけ、気が向いたらご覧ください。価値は無いですけど。



【没設定その1】

『当初は、はやてがメインヒロイン』

だったんです。1番好きなキャラだったので。
はやての立場は、今の鎧衣的な位置で士郎の裏の仕事を頼んだりするという感じでした。
今となっては、準ヒロインすら考えられない位置になってしまった(泣)
プロット立てていくうちに、どんどん出番が無くなってきて………なんでだろう?

で、その対抗馬としてフェイトがいました。出会いは本作とあんまり変わりません。その後、はやてとちょっとしたライバル関係になって、微笑ましい士郎の取りあい(このころの設定では士郎は結構原作のままで唐変朴な性格だった)みたいな話にしようと………もう、かけらも無いですけどね。そんな展開。

*反面、なのは、ティアナには殆ど興味無かったんです。登場予定もあんまり無かったという。でも、創作していくうちに何故かどんどん出番が増えてきて、この2人中心の物語になってしまったんです。今では、愛着が湧いてきて、この2人が1、2位を自分の中で争うほど好きなキャラになってきました。世の中、不思議なものですね(笑)



【没設定その2】

“SHIROU”

でした。いや、めちゃくちゃ強かったんですよ。初期のはやて、フェイトがヒロインの頃は。アルクとガチンコできるぐらいに、無茶苦茶設定でした。
『斬撃皇帝』持ってたり、アチャの腕があったりとか。
いや、最強ものの方が妄想している分には楽しいんです。絶対に作者善がりな作品になると思いますけど………



【没設定その3】

『過去編』

“SHIROU”になるための過程の、過去編(士郎がこの世界に来る前)があり、月姫とD.C.とのクロスだったという。

簡単にどんなストーリーだったかと言うと、芳野さくらヒロイン?の話でした。


(以下プロットをさらに短くしたもの)

さくらの家系は、代々魔術刻印を桜の木に宿し、それを枯らすことで受け継いでいくという、特殊な魔術刻印の受け渡しをする家系でした。

それが島全体を覆った浸透固有結界*1『枯れない桜』。人の心(願い)を具現化させるという能力を持つ固有結界です。
(*1:世界を侵食するというよりも、世界に浸透していく作者が勝手に作った固有結界。それにより、世界にも、人にも異常を異常と感じさせないことに成功している)

さくらは、(音夢編で)桜を枯らすことによって、魔術刻印を受け継ぐこととなります。

しかし、純一に振られたことにより、心のバランスが取れなくなっており、しばらくして固有結界が暴走。

真摯な人の願いを叶えるという魔法だったはずが、心のもっと別な部分、悪しき願いまで叶えるようになり、遂には人まで死んでいきます。

それを『正義の味方』として止めようとしたのが、士郎(未熟)だったとうわけです。


その後、なんやかんやあり、士郎はさくらを救いだし、2人は子弟関係になっていきます。


で、数年後、アルクが限界を超え、赤い月が降臨し暴走するという大惨事が発生。


アーチャーを始めとした守護者が呼ばれますが敗退。


その時、士郎にアーチャーの腕が付くこととなります。


暴走し続ける、アルク。


何とか食い止めようとする、さくらと士郎は、お互いの固有結界『枯れない桜』『無限の剣製』を融合させ、

『人の心の在り方を具現化させた剣』、もっと言えば“人間を守るために世界を滅ぼすという、人間種の在り方そのものを具現化した剣”を作り出す。


『斬撃皇帝』


能力は鋼の大地の『魔剣・斬撃皇帝』と同一だが、別モノ。


(*以下、この剣を知らない方に簡単に説明:character materialより抜粋)
星を食うもの。
対象の大きさに合わせて刀身を増大させるだけの単純な剣(剣構成前は種子状態で待機している。持つ時は手の中に収まってる。使う時に、種が成長して草木になるが如く、剣の形ににょきにょきと成長する)
その反動として、魔剣は増大すれば増大するほど大地を削っていく。
アド・エデムという人物が所有し、“黒いアリストテレス”を一撃のもとに両断した剣(*出典・鋼の大地。今から何千年後ぐらいの新人類の話)
その荒廃した世界の“赤い空“を切り裂いて真実(青い空)を垣間見せる。
(説明終了)


その剣を持って、“月落し”をアルクごと切り裂き勝利します

しかし、真・エーテルも無い世界で使ったため、その反動は果てしなく、国が丸ごと一つなくなるほどの大地が削られることに。

あまりの危険性ゆえに、それを厳重に封印し二度と表の部隊に出てこれないように、地下深くに埋める。

はずだったのが、どんな因果かその前に、気まぐれ爺さんにリリカル世界へ士郎だけ飛ばされてしまった。魔剣を持ったまま。




という話でした。

キャラマテのみの情報で、青本を見てない時期だったので、魔剣の製造過程を知らなかったために起った妄想。

(ちなみに、D.C.Ⅱからの設定は完全に無視してます)

リリカル世界じゃ士郎強くできないなー。どうにかして強くしたいなー。斬撃皇帝とか持たしちゃおっか。
という動機で作ったんですが、ノリノリでプロットを書いていたら、もはやリリカルが関係なくなってしまいそうな気がして封印。
後に、魔剣の製造過程を知って、完全に無理があると気がついた。

しかも、30話は必要だったので。これは過去編で、当時の本篇を越してしまうだろう大惨事。

余談ですが、この話の前半部分を考えたのはダカーポ2が出る以前。予備校時代にノートにこっそりとコツコツ書いていました。2をやった時に、魔法が暴走するっていう設定を見て、似たような設定で驚いたのを覚えています。いや、考えることってみんな似てくるんですね。



【没設定その4】

『士郎が2人』

桜の使役する鯖でアーチャー(エミヤ)を登場さして、それを士郎と交代で出していくっていうトリックを使うつもりでした。
この話は基本的にリリカルのキャラ視点なので、なのは達は交代で出てくる士郎の性格の違いに違和感を覚えていくって展開です。
例えば、上記の今回の話の士郎の魔導士殺しとしての行動が、アーチャー。前話でフェイトと会談したところとかが士郎って感じになる予定でした。
読者には、その違和感を、士郎が切継的な感情の切り替えをしてるんだろうと勘違いしてもらって。
で、話が進んでアーチャーになのは達が敗れそう(殺されそう?)になる所に士郎が登場するという展開になり、そこでネタばれという感じでした。

また最後にラスボスの黒桜に対し、なのはが
『まだ気がつかないんですか?士郎さん(アーチャーの方だけど)はいつもあなたのそばで見ててくれたんですよ?』
ってセリフを言うラストになる筈でした。
昨年の9月に投降した時点ではこの設定は生かされていました。
ただ、この設定を出すと、物語としての質が落ちるってことがプロットをさらに細かく練っているうちに分かってきて、結局泣く泣くボツにしました。
ああ、一番悩んだんですよ、本当に。使いたかったな、このネタ。
伏線とラストの終わり方っていう点だけでいくと、この設定の方が今よりいいんですよ。ああ、世の中うまくいかないものです。






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