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[41032] 【習作】SAOで救済
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:945c91d1
Date: 2015/07/19 06:57
習作です。

宜しくお願いします。

尚、本作には、成恵の世界ネタが多数含まれます。



[41032] 第一話
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:945c91d1
Date: 2015/03/04 18:27
転生して先ずした事。

それは、早熟する事だった。

生年は和人と同じ、平成20年の6月10日、SAO開始まで14年しかない。

零歳時から物分かりがよく、二歳で新聞を読み、三歳で物理学論文を読み解けるようになった僕を両親は異様に思ってたようだが、

三歳の時に普通の妹が産まれてからは、其方に係りきりになり僕は手の掛からない子として放任され始めた。

まあ、此方が母に甘えたり、普通の子供のように泣いたりと演技するのが面倒くさくなって、距離を取っただけなのだけど。

こんな不気味な子供なのに、三食不足無く出て来るし、僕の求める学術書を買ってくれたり、

両親はそれなりに愛情を注いでくれてるから、不満を言ったら罰が当たるだろう。

さて、そんな僕の活動であるが、先ずは父のパソコンを借りて論文を書き、企業や大学に送る事から始めた。




平成23年7月7日

新しいアプローチから始まる、小型高出力プラズマ核融合炉の実現可能性についての理論

公開されてる引用可能なデータから、それで検証可能な小規模実験装置の設計図を添付して、国内の企業や大学、研究機関に送信しまくった。

書式にも気を使った完璧な論文と、素人目にも分かりやすい要旨の二通を送ったのが良かったのか

レスポンスは直ぐに合った、原子力企業最大手の六菱重工と西芝だ。

西芝と六菱は、この世界の日本で国内の原子力プラント事業で勢力を二分する企業だが、

そのどちらもが小型高出力プラズマ核融合炉の実現性について、もっと詳しく聞きたいと言ってきた。

その会見は六日後、双方同時にとなった。

このチャンスを逃さない為に、発電可能な実験炉の細部を詰めていく。

使用可能な材料と加工技術、予算の制約を考慮して出来るだけ安く出来るだけ易く、見落としがないように論文などを確認しながら検証していく。

最終的に試行回数は八千を越え、四トントラックサイズまで実験炉のスケールを縮小できた。

脳内シミュレータ環境を授けてくれた神に感謝である。

さて、会見であるが、恙無く終了。

双方の連れてきた技術者同士のディスカッションは楽しかった。

終わりに六菱側から仮とはいえ契約の申し出を受けるも、可能なら西芝さんと合弁で事業にしたいと我が儘を言わせて貰う。

別れ際、実験炉の資料の全てを双方に渡す。

その後、数回の会合を経て、核融合研究開発の合弁会社の設立がなる。

決まってからは早かった、実験炉の製作と実証炉、商用炉の設計である。

実験炉は小規模であり、殆どが普遍的な技術の集まりで有るが故に3ヶ月で出来た。

その間に大手企業に繋がりが出来たことで、その伝手を使ってAIや医療関連も進めていく。

アンダーワールド人とか、面倒くさい物は作らせたくないので、さっさと進めるに限る。

ナノマシンによるゲノム編集法の確立を図るべく、ナノマシン製造装置の設計を開始。




平成23年12月8日

今日は記念すべき実験炉稼働の日

理論の検証や個別の実験は全て上手く行っている。

恙無く終了すると分かってるが、落ち着かない。

自分に年相応の情動があったと確認出来て喜び。

実験炉は、ホウ素と水素を燃料とする中性子を出さない核融合である。

燃料は、発展型タンデムミラーとでも呼ぶべき、全長1.5メートルの磁場の籠の中で、核融合してX線と荷電粒子を放出

磁場の突端から荷電粒子を放出して、変換機に集めて電力に変える。

こう書くと簡単だが、未だ人類には再現出来てない現象である。

実験炉は予定通り稼働し、予測通り12.4メガワットの発電に成功。

その後はチェックの為に停止。

これ以上無い成功。

次の山場は連続稼働試験。

マスコミ発表ついでに電力を使って、海水からホウ素や金などの目的元素を効率的に抽出する技術を発表する。




平成24年1月10日

実験炉の連続稼働試験開始。

同月22日

実証炉の製作を開始。

シミュレーション内で量子ネットワーク技術を確立。これを伝手を使って実用化して貰う。

巨大企業体の優位性を確信。

AIの人格プログラム一号、さくらを製作。

チューリングテストを始めとする各種知能テストを実施、対話型AIとして人間と比べても違和感は無い、

倫理感や羞恥心、無意識領域で動く情報整理の為の睡眠欲と人間に対する奉仕欲、危機を感じる為のストレス等も確認され、

設計通り知能面で少なくともユイに劣っては居ないと確認できる。

「さくら」

「何ですか?お父様」

モニターの向こうには12、3歳の黒髪の美少女がいる。

因みにモデルは某朝潮だ。

「宿題の成績はどう?」

宿題とはネットワークを利用した金稼ぎの事だ。

在宅ワークや株や為替等で、何でも良いから資産を増やせと宿題を出したのだ。

最初はホームページ製作やプログラミング、ネットワーク管理等、様々な事に手を出してたようだが、最近は効率面で優位な株取引に落ち着いたようだ。

結局、犯罪には手を出さなかったが、それは良心プログラムの働きの賜物と観測できたから問題ない。

「……ですのでこれからは先物取引へと挑戦してみたいです」

「分かった。手続きしとくよ」




平成24年6月15日

ファージ型ナノマシン製造装置第一号が完成。

特定細胞への遺伝子や薬剤導入を目指す。

まだまだ歩留まりやコストの問題が有るが、実用化すれば、ガンやエイズの特効薬になる。

幹細胞試験開始。




平成24年8月12日

今日は実証炉の完成、火入れである。

実験は恙無く完了。

40フィートコンテナサイズの装置で、408メガワットの発電実証に成功。

実験炉の規模を拡大しただけであるが、専用装置や技術を使用した事からより出力容積比が向上した。

発電コストは1kw/hあたり、2.1円。

商用型では、700メガワット1.7円の予定だ。

確実にエネルギー革命が起こるだろう。

同日商用型の仮発注が来た。




平成24年8月20日

今日は提供していた量子ネットワーク技術の発表会。

ハブを交換するだけで既存の光ファイバーネットワークの容量が一万倍以上に向上する画期的な物だ。

食い付きは上々。

報酬の株価も上々。



小型核融合炉を製品化する事になった。

実験炉をブラシュアップする方向で検討する。

大きさそのままで、対環境性や整備性を向上させる。

発電容量は22メガワット、発電コストは2.2円を予定。




平成24年9月1日

対話人格AI、さくらを発表。

リース販売開始。

さくらは、巷で溢れるようになった。

タワー型端末一台で動く多目的AIは、様々な場面で活躍し、

それに合わせて作られた作業ロボットの身体を得て、順調に人間を駆逐していく事になる。




平成24年11月29日

さくらの身体となる躯体製作開始。

「さくらが自由に動ける身体作ってやるからね。待っててな」

「はい、楽しみです」

最近は、さくらと話す事が多くなった。

情動の成長を観察できるのは楽しい、会社の皆や両親や妹とコミュニケーションさせている。

量産型が最近、テレホンアポインターやオペレーター、老人ホームの監視兼話し相手と様々な仕事をしてるようだが、特に問題は聞こえない。

寧ろ、予定通り環境に応じた多様性が出て来てるくらいだ。

さくらは、仕事に子育てに介護にと、全ての分野で活躍できる優秀なAIだ。

そろそろさくらの妹でも作るか。




平成24年12月28日

4歳児だが、師走も忙しさは関係なく訪れる。

躯体製作の片手間に作ってた、さくらの妹が先に完成した。

モデルとなる物が既に有ったから、簡単だったのだ。

「武蔵、お姉さんに挨拶して」

「初めましてお姉さま、対話人格AI武蔵です。以後、宜しくお願いします。――以上」

「うん、私こそ宜しくね」

武蔵は、あの某武蔵さんの容姿と性格をモデルにしたAIだ。

ユーザーからの声で、能力は兎も角、さくらより大人っぽい容姿のAIが欲しいとの要望が大きかった為にこうなった。

名前から分かる通りシリーズ化する予定。

因みに、この世界に境ホラも終わクロも無いので問題ないだろう。




平成25年1月30日

小型炉の火入れ日。

恙無く完了。

予定通りに22メガワット発電。

来年度からの販売を目指す。

自衛隊や米軍等からも引き合いが来てるらしい。




平成25年2月15日

炭素繊維製の骨格に骨格内に仕込まれた量子蓄電池、高分子繊維を編んだ人工筋肉、

筋肉の熱を取るために循環する冷却水機構、ラジエターの役割を担う肺と発汗機能

質感や陰影を再現された人工皮膚にカメラを仕込んだ眼球、植毛された人工毛。

不気味の谷を越えて、なごう事なき人間に見える。

後は頭脳部分に光子LSIとメモリを搭載すれば完璧だが、其方はまだ出来ていないので、現在は遠隔操作となる。

「さくら、ちょっと動かしてくれる?」

『はい、こうでしょうか?』

パチリと瞼を動かすと腕を持ち上げた。

「真似して、あ、か、さ、た、な」

「あ、か、さ、た、な」

右の口角が上がりすぎてるな。

31番と36番マイナス2、と。

「もう一回、あ、か、さ、た、な」

「あ、か、さ、た、な」

頬が不自然、52番プラス1これでよし。

「ニッって笑って」

「にーー、いたいれふ」

口に指を入れて少し引っ張ると、痛みに反応した。

痛覚系も正常。

「顔はバッチリだよ。次は身体だ」

「はい!」

「右手の人差し指を…………次は思いっきりジャンプ」

さくらは4メートル程垂直に飛び上がると、全身をバネのように使い音もなく着地した。

力の加減も問題ないし、連動試験は全てOKか。

「よし、おしまい。ご苦労様」

「ふう、ようやくですか、これで好きに動けるんですね!」

手を広げて、私楽しみですと表現するさくらには悪いが

「それはプログラムのチェックしてからな」

仮想体を操作する感覚と同じように操作できるように作ったけど、どういう不具合が起きるか分からないからな。

これからは、こまめにチェックしていく必要があるだろう。




平成25年5月2日

さくらを始め、武蔵、武蔵野、品川、浅草、多摩、村山、高尾、青梅、奥多摩、国分寺の11機の対話人格AIを作った。

因みに国分寺は、艦長さんズではなく、青髪の所謂量産型さんだ。

10機は、さくらの身体を作った経験を生かして、新たに製作した。

担当さんによると量産化は来年頭には始まる予定との事。

ラインは、人格AIを使った工程を大規模に入れる事でコストダウンとスピード化を図るらしい。

正に人間要らずだな。

さくら達の活躍でそろそろ貯金も大きくなって来たし、救済策の検討に入る段階かもしれん。




平成25年6月7日

ナノマシン製造プロセスの改善がひとまず終わった。

これで実用段階に行っても、コストは現実的な薬剤の範囲に収まるだろう。

未だに動物実験段階で、臨床段階に行ってないのが焦れったい。




平成25年8月10日

今日は自動人形11体の発表会。

自動車に自転車の運転、料理と掃除のデモを行ってマスコミの度肝を抜いた。

小型化した端末とバッテリーを背負う事で、スタンドアローン運用も可能。

正にメイドロボ、正に人類の夢。

なんかもうユウキとランも助かるだろうし、満足して来た。

宇宙開発や防衛分野にでも手を出して見るか。

というわけで、日本安全保障協力財団を設立。



[41032] 第二話
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:945c91d1
Date: 2015/03/04 09:55
平成25年10月22日

僕の誘拐未遂事件が起きた。

火器を使った犯行により、雇ってた警備会社の警護は排除され、乗った車両に武蔵達が居なければ攫われていただろう。

襲撃者達は撃退されたが、次も失敗するとは限らないので対策する必要があるだろう。



いつもと同じ帰り道、側道から突然バンが飛び出して道を塞いだ。

直後に後方もトラックで塞がれる。

一通の単車線、前後には警備のSUVが並んでるが、こういう状況を想定してなかったのか動こうとしない。

こういう時は突っ込んで突破するのがセオリーだろうに。

使ってたラップトップの画面を確認すると、ご丁寧に携帯電話も圏外、こりゃ完璧に襲撃だな。

そうこう考えてると、前方と後方からバフバフという感じのくぐもった音が聞こえて来た。

「出ます」

武蔵がそういうと隣に居た村山以外の全員が降りて跳躍した。


以下は圧縮通信のログを参照。

『側道からバン、進路塞ぎました。――以上』『後方からトラック、同じく車線塞ぎます。――以上』『携帯電話、衛星回線、警備無線不通になりました。――以上』『何者かによる襲撃と判断されます。私達はこのまま待機、主様の盾となります。――以上』

『前方で発砲音、車体を貫通して人員を殺傷した模様。――以上』『車両の防弾クラスは3A、使用火器はライフル弾以上と推定されます。――以上』『敵の脅威度を修正。持久策より積極的な排除に乗り出します。村山は主様の警護、浅草奥多摩は前方を、私と青梅は後方の脅威を排除します。――以上』『後方でも発砲。同じくライフル弾以上と推定されます。――以上』『了解。――以上』

武蔵はドアを開けると直ぐ様ドアの縁を蹴るように跳躍。

空中で姿勢を変えると、直ぐに電柱を足場に後方へと方向を変える。

その間に敵を確認、情報連携で各機と敵の武装や射線を注意し合うのも忘れない。

跳躍中に両腰に装備された特殊警棒を取り出す、後方の確認できる敵は五人、内二人は後方の警備車を銃撃中、一人はトラックの運転席に居る。

残る二人には気付かれ、銃を向けようとしてるのが確認出来る。

車道と歩道を分けるように設置されたガードレールに足を接地すると、近い方の敵に左手で警棒を投擲。

目出し帽を被った顎に命中しこれを陥没させる、青梅も同じく気付いた敵を無力化。

ガードレール上で更に踏み込み加速すると、やっと気付いた敵に対して右手の警棒を投擲。

敵の銃に命中、これを破壊すると更に踏み込み敵の肩部に掌底を叩き込む。

肩甲骨を破壊する手応え、トラックに叩き付けられた敵はその儘に、フロントガラスを拳で貫通させて運転手の顎を殴り無力化。

足元で這い蹲ってる敵の意識を蹴り刈ると、トラックを飛び越えて後方に着地。

開いたままの扉から中を確かめて脅威が無い事を確認すると、

青梅と浅草に敵の拘束と電波妨害の解除を命じて、警察が来るまで奥多摩と共に周辺を警戒する。

他も同じ様に、一発の銃弾を浴びる事なく敵を殺さず鮮やかに無力化してた。

警察によると犯人は中国人マフィアらしいが、動きが明らかに訓練されたプロのそれだ。

額面通りに受け取らない方が良いだろう。

人格AIが改変不可能、コピー不可能で余程困ってるのかな?

しっかしまあ、どちらにしても警備体制は考え直さないと駄目だな。

復讐は防衛力の強化で応えてやろう。



P-2哨戒機

小型核融合炉の実用化を鑑みて調達が中止されたP-1哨戒機を代替する機体。

200メガワットの小型核融合炉が発生させる電力と熱で、マッハ4の超音速巡航を可能とした哨戒機。

高速形態のB-1と同じような形をした機体だが、プラズマアクチュエータを使った気流形状可変システムで、低速域でも十分な揚力を得られる。

自動人形を大々的に使った生産工程で、高い運用性と低い運用調達コストを両立した機体。

航続時間は二週間。




平成25年12月21日

襲撃からこの2ヶ月は忙しかった。

数度に渡る事情聴取に撃退時のログの提出、警備体制の強化。

さくら達は更に強化したし、防弾車も国内最強レベルに強化し、警備の人員も増やした。

今日からやっと平常運転に戻ると思ったら、もう師走だ。

取り敢えず財団に資産を預け入れる。

宿題のおかげで、小国の国家予算並みに膨れ上がったそれを利用して、

防衛産業の株を買い漁ると開発や納入に口出しを開始。

財団の金で自社開発名目の後継機や後継車を開発させる。




平成26年2月1日

今日はさくら達の筐体販売開始日。

モニターとして関連企業の従業員宅に派遣した、量産武蔵達の性格が微妙に不評なので、

更にバリエーションとして、椿、楓、桔梗、撫子、杜若、花梨、桃、橘の8機種を加える。

因みにモデルは、順に某間宮、霧島、愛宕、高雄、大鳳、鈴谷、雷、電である。

量産型の通常モデルは廉価化の為に運動性能を人間並みに抑えてある。

と言っても、超高速で思考可能な性能は健在なので、達人クラスの格闘能力を持ってるのは変わらない。

価格は普通乗用車レベルにまで抑えてるせいか、法人から一般まで様々なユーザーに売れ始めてる。

元々月産10万を想定していた生産、サポートラインに、更に増設中だが間に合わない。

自動人形を大々的に導入してこれであるから、人間だと更に大変だったろう。

六菱や西芝を初めとして関わってる大企業72社に、

与野党にベーシックインカムの導入を求めていくと役員会で可決して貰った。

自動人形の普及は失業者の激増を決定付けるから、こういった救済措置は必然である。

因みに現状、販売とサポートは国内のみである。




平成26年2月29日

弟が産まれた。

出産祝いという事で、弟専用に楓と杜若を贈って置いた。

両親には微妙な顔をされた。

元々さくらや武蔵達も家に居るが、普段は家が狭くなるので買い取った隣の家に居る。(因みに僕も殆どそっちに居る)

そう言えば、今年から小学一年生だ。面倒臭いが義務教育で仕方ない。

せっかくだし、一人暮らしでもしてみるか?



「ですから一人暮らししたいのです。生活面はさくら達が居るので問題ありません」

呆れたと言った感じの母、困ったなあという感じで、微妙に顔をひきつらせた父。

そりゃ息子が突然東北で暮らしたいとか言い出したのだ。

何でと聞けば、ロケットエンジンの開発をしたいから、試験場に近い所で暮らしたいという。

普通なら全くもって意味不明で有るが、僕は普通の息子ではない。

今までも散々、突き放して来たので大丈夫だろう。

「本当に大丈夫……なんでしょうね。一応これでも母親だから、心配させて欲しいのよ」

母がチラリと武蔵を見ると、僕に視線を戻して聞いてきた。

おそらくは、武蔵達の家事能力を思い浮かべてたのだろう。

人間以上の能力を持つ自動人形に、人間が叶わなくて当たり前だ。

恥ずべき事では無いのだが、母としては母親としての能力で劣ると言われたような気分なのだろう。

「許して下さい。早く自立してみたいんです。それに僕が居ては去年のような事が起こらないとも限りません」

こう言われると弱いだろう事を言う。我ながら卑怯だなぁ。




普通の物体透視装置の仕組みは簡単だ。

物体の向こう側にカメラを置いて、透過した光を捉える。

だが、これでは向こう側に透過した光しか捉えられないし、

立体を作るには何枚何枚も撮らなければ成らない。


だが量子テレポーテーションを応用すると、もっと手軽に使える透過装置が作れる。

一つの光子源から二つに分光して量子的に連動させ、

もう一方を透視したい物体に投射、もう一方を観測する方法だ。

人体なら赤外線やテラヘルツ光、X線を使って透視する。

投射した光子が物体に吸収された時点で、連動したもう一方の光子が消える。

吸収された時間から密度を測るというわけである。

だから、手持ちカメラ式のCTなんて物もできる。

「武蔵、ちょっと立ってくれる?」

ダイニングの机で編み物をしていた武蔵に指示して立ち上がって貰う。

家の武蔵に編み物アプリなんて入れてない筈だけど、自己学習したのかな?

関心関心。

初期の自動人形は基本的な家事動作以外は、ユーザーが用途に応じて

オプションと成っているアプリを付け足さなければ、素人と変わらない技量しかない。

変える方法は二つ、お金を出してプロ並みの技量を発揮するアプリを買うか、自己学習させるかだ。

自己学習と言っても、人間より優れた自動人形なので直ぐにプロ並みになる。
が、本複数を買ったり面倒なので、自動人形を買うようなユーザーは

プログラミングなどのワークアプリを除いて、全部持ちを選択してたりする。

「また発明品ですか、よくもまあ次から次へと。これで宜しいでしょうか――以上」

「そう、今度はCTカメラ。レントゲン一枚分の被曝で、細胞レベルの高解像度の立体像が得られるカメラ…の予定。腕は横にお願い」

非破壊検査でも重宝するだろう。

試作品を使って武蔵を撮影する。

モニターを見ると試験通りに立体像が映っていた、それの深度をゆっくりスクロールさせて行く。

胸の柔軟性樹脂の粒塊一粒一粒から、冷却水の毛細管、肋骨の炭素繊維、電池の積層構造と

次々と内部構造が写り込んで行く、最後に背骨を構成する繊維強化セラミックの内部構造が見えた所で止める。

「拡大拡大と」

画像を拡大していくと繊維質が見えて来た。背骨の強化繊維は0.02mmだから、

それが見えると言うことは分解能はそれ以上という事か。

試作品にしてはなかなかだな。

「うん、バッチリだよ。ありがとう。仕事に戻って」

「そうですか、お役に立てたなら何よりです――以上」

さぁて何処に持ち込もうかな。




平成26年3月15日

漸く、家に併設した研究所に全ての機材が揃った。

朝田家の校区内で通学路の途中に有った土地を買い取り、研究所兼マンションを建てたのだ。

外観は横に長い長方形の五階建てビルだが、中身は殆どが研究室と試験場が占める。

地上五階地下六階、発電所完備、セキュリティーは原子力施設並みとバッチリ。

構想半年建築二年と大急ぎで建てたが、なかなか物だろうと自画自賛できる出来だ。

「さて、臨床の尻を叩くかな」

遅々として進まないナノマシンの実用化を後押しすべく、色々と開発していく。

まずは創傷治療に使えるマイクロマシン製造装置をでっち上げる。

ナノマシン製造装置のプロセスを応用したからそう時間は要らなかった。

大きいだけあって複雑な指示を出せ、血腫を分解する血管を修復するなど。

手術から応急処置まで様々な場面で使えるだろう。

次は光電子プロセッサを使った脳型コンピューターを作る。

最終的に業務用大型冷蔵庫サイズまで小さくしたそれは、最大800ゼタフロップスまで速度が出る予定だ。

今までとの最大の違いは演算子がメモリーを兼ねてる点だろう。

それを人格AIが統括して動かす。

人間はしたい計算の数値を提示して、シミュレーションしたい内容を指示するだけ。

面倒臭いプロセスは、全て人格AIが行ってくれる。

実にユーザーフレンドリーだ。

これだけの速度とお手軽さが有れば、人体の原子レベルでの完全シミュレーションも簡単に行える。

これで医学が加速しなければ嘘だろう。

医療研究に関しては無料貸し出しを行おうか。



[41032] 第三話
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:945c91d1
Date: 2015/03/04 10:06
平成26年4月7日

今日は小学校の入学式、両親どころか父方の祖父母も来てくれた。

妹の絵見に懐かれすぎて、実家に残して来たさくらと、祖父母の家に贈ったさくらも来ていた。

祖父母のさくらは着物を着させられていて。

桜色の布地に色とりどりの花びらをあしらった艶やかな着物で、

髪もそれに合わせて結われ、正に晴れ着という感じの出で立ちだった。

祖父母によく懐いてて、可愛いがられてるのが分かる。

自動人形は例え虐待されても、それが主人なら従うが懐くかどうかはそれぞれだ。

使えども敬わずは、自動人形に許された数少ない自由意志の一つ。

と言っても、仕える事を基本とし奉仕する事に喜びを感じる自動人形だから、それも一つの奉仕の型だ。


実家のさくらも妹のお世話をしてるのが楽しそうで何より。




クラスが二つしか無いので、労せずして詩乃と同じクラスになれた。

入学式も終わり、最初の登校日。

先ず始めは定型文を言わされる自己紹介タイムである。

「……玲奈です。すきなものは新幹線です。よろしくお願いします」

「朝田詩乃です。好きなものは読書です。よろしくお願いします」

六歳の詩乃の第一印象は特に目立つものがない子だった。

将来の顔立ちの良さは、今からでも垣間見えるが、それだけ。

年の割に落ち着いた感じはしたが、何処にでも居そうな子だった。

先生に引率されてぞろぞろと学校施設を案内されてる間も、つまんなそうにしてたが其れだけ。

僕は何しに東北に来たんだっけとつい考えてしまった。

そうだ、詩乃がトラウマを抱えないようにしたかったんだ。

歴史に修正力でもない限りその願いは多分もう叶ってる。

核融合炉に自動人形、ナノマシンにゼタフロップス級計算機

これだけ歴史を変える発明をして、同じ場所同じ日同じ時間同じような強盗事件が起きるなど有り得ない。

だから、その修正力を確かめる意味で、これは保険のような行動なのだ。

取り敢えず、詩乃と一緒に行動出来るようにしよう。

「読書って、朝田はどんな本読むの?」




平成26年5月20日

タンパク質プリンターで基底膜を構築しつつ、其処に

幹細胞を植え付ける手法で、1日で主要な臓器を作成する方法を開発。

臓器移植が簡便化される。




平成26年5月28日

核融合実証炉の長期運転試験が終了。

実用炉の生産を開始。

運転プログラムの改善で820メガワットに出力向上、発電コストも1.6円に低下。



式典というのは面倒臭い。

テープカットに決まりきった演説。

出席だけとはいえ、長時間拘束されるのは苦痛だ。

其処でお偉いさんに呼び止められるのも仕事の内とはいえ、早く帰りたいのは変わらない。

マスコミのスタッフに自動人形が多く使われてるのが確認出来ただけでも収穫だろうか。

カメラマンなど、高いセンスが求められる部分は流石に人間が主流だったが

音声やアシスタントは、既に自動人形が多く使われている様だ。




平成26年6月10日

今日は僕の誕生日。

特に特別な催しなどはしない予定だったが、武蔵達によるサプライズパーティーが企画されてた。

料理は勿論、歌や楽器の演奏、大道芸やマジックなど、僕を楽しませようと様々な芸をしてくれた。

特に驚いたのは、武蔵達が歌った歌や演奏はオリジナルで作ったらしい事だ。

聞けば僕の好む音楽の傾向から分析して作ったらしい。

彼女たちの成長が何よりも嬉しいプレゼントだ、本当に僕の喜ぶ事を分かってる。

「ありがとう、堪らなく嬉しいよ」

「それは何よりです。――以上」

そう答えた武蔵は少し得意気な表情をしていたような気がした。




平成26年6月28日

先日のサプライズパーティーが嬉しかったので、自動人形に資する開発を暫くしていこうと思う。

自己修復皮膚と自己修復脂肪層の実用化による、メンテナンス間隔の長期化はなった。

次は味覚センサーの更なる高性能化と食物からもエネルギーを摂取できるように

つまり物を一緒に食べれるようにしたいと思う。

生体部品を使うのは簡単だけど、維持に別系統のシステムが必要になり手間だ。

だから機械的な仕組みで食物の粉砕、溶解、脱水を実現しなければ成らない。

エネルギーを別に求めるなら簡単だが、最低でも食物から摂取した分だけで分解したい。



触媒で脂質、糖質、タンパク質をエタノールとアルコールに分解し、燃料電池を駆動できるようにした。

エネルギー収支は取り敢えずプラスというレベルだが、

自動人形も食卓を囲めるようになったのは、大きな進歩だろう。


「どう?食べる感覚は」

細胞プリンターで作ったA5ランク牛肉を村山と共に食べながら感想を尋ねる。

「人間の感じる食感というのは、こういった感覚だったのですね。なかなかどうして興味深いです。――以上」

人間並みの密度の口内センサーに換装された器官は食感、食味、匂いを人間と同じ様に感じられる。

村山が確かめるようにゆっくりと咀嚼してるのが印象的だった。

牛脂にテカる唇が実に艶めかしい。


取り敢えず、有機物の摂取だけで稼働エネルギーを賄えるようになり、

自動人形搭載型人工子宮の実用化まで至った段階で開発は一段落させた。

しかし、自動人形と言えば重力制御、重力制御と言えば自動人形だと思う。

同時に何個も食器を浮かべたいし、複数の箒や銃器を操らせたい。

自動人形の名を語るなら、一つの完成型だろう。

いい加減、統一理論の完成とその応用にまで守備範囲を広げなくては、にっちもさっちも行かないと感じる。




平成26年8月10日

自動人形技術を応用して、脳を除いた全身の義体化技術を発表。

医学界にセンセーショナルを巻き起こす。




平成26年8月14日

統一理論とその応用理論をネットで公開。

神に与えられた頭脳とは凄い物で、ピースをある程度揃えたら全体像が一気に浮かんでくる。

一度全体像が解れば後は、細かい所を埋めるだけそうしてサクサク構築できた。

重力制御も既に実験装置の製作に取り込んでいる最中だ。

自動人形の完成は近い。


「浮いた」

実験装置の中でセンサープローブが中空を浮遊する。

上方に向けて操作された重力がプローブを浮遊させてるのだ。

今の装置では直ぐ側の物体を浮かせる事しか出来ないが、理論上は遠隔操作や超圧縮なども実現できる筈だ。

取り敢えず、実験は成功。

次はこれを煮詰めなければ。




平成26年10月1日

暫く重力制御に掛かり切りだったが漸く発表できる段階に至った。

が、世間はまだ統一理論の検証であーだこーだと忙しいらしいので、暫くは深化に力を入れる。

特性の把握と核融合炉への応用とまだまだやれる事は多い。

しかし、ロケットエンジン開発は方針を見直すべきだろう。

重力制御で飛べるならロケットエンジンは必要ない。

超高効率の多段階核融合炉開発へと切り替えを決定。



多段階核融合炉、水素をヘリウム、酸素、炭素、ネオン、ケイ素と多段階的に融合させ最終的に鉄になるまでエネルギーを取り出す。

実験炉の基礎設計を開始。




平成26年10月10日

統一理論に基づいた常温超伝導物質と映像空中投影装置を発表。


モデルが通路を歩く度に衣装が移り変わる。

白のスーツ姿だった女性が次の瞬間に水着姿に、かと思えばチェックのワンピース姿へと次々と移り変わる。

対象に投影された映像が変わるだけだが、何もない空間から衣装が出現するインパクトは凄い。

マクロスの名シーンの再現、AR技術の究極に人々は驚き声を上げている。

「実に盛況ですな」

その様子をモニタールームで見てると声を掛けられた。

「いやー、皆さん驚いてくれてるようで何よりです」

「いやいや、発明もさることながら見せ方も上手だからですよ」

僕にお世辞を言う、人が良さそうなおっさんは吉岡さん、僕付きの広報担当者である。

「いえ、僕はアニメの名シーンを再現させただけですよ」

「なる程、しかしこの立体映像投影装置のお陰で色々と我々の仕事も変わって来そうですな」

そう言って吉岡さんは、プレスに配られたのと同じ携帯サイズの立体ディスプレイ投影装置を手で弄んでいる。

「このサイズで30インチのテレビモニターとして使えるのですから大した物です」

「そう言われると嬉しいですね」

「そう言えば、今は何を作られてるので?」

「統一理論の応用で重力制御関連を研究してます。次も世紀の発明になると思います。楽しみにして下さいね」

「ほう、企画屋としての腕が鳴りますな。ははは」




平成26年10月20日

主要防衛産業36社その他、国内重工業化学工業200社余りを中心に日本重化学工業連合体、通称日重が設立。

以後、政官財に於いて国内で多大な影響を与えて行くことになる。




平成26年12月8日

日重は超小型融合炉と重力制御装置を搭載した自動人形、鹿角かづのを発表。

角状のエンタングル重力子レーダーが特徴的な自動人形で、

重力障壁を展開し戦車砲を軽々防ぎ、重力制御により時速900キロで連続六時間飛行可能という超性能を誇る。



格納庫に集められた報道陣、目の前に置かれた90式戦車を重力制御で持ち上げてボールのように扱う鹿角の非現実的な光景に対して、各所からどよめきが湧き上がった。

会見では、モニターに重力障壁で戦車砲を防ぐ様子まで映し出され、マスコミ各社から質問が飛ぶ。

「一般販売はするのか?」

「スペックダウン型の販売はするつもり、戦車砲を防げるのは官用のみである。」

「融合炉搭載とあるが安全性は?」

「X線は重力障壁で防がれるので対外で被爆する事は無い。損傷時はアルファ粒子しか出ないように作ってる」

「エンタングル重力子レーダーとは何か?エンタングル透視装置と関係有るのか?その視程などは?」

「その通り、エンタングル透視装置の重力子版である。視程や分解能などは既存の電波式レーダーとは比べものに成らないとだけ」

「価格は?」

「官向けハイスペック仕様の場合、5000万円を目標としてる。一般向けは更に安くなる予定」

「どの様な役割を想定しているか?」

「全ての役割をこなせる用に作ったつもり。後方で重機の代わりから、前線で戦車や歩兵の代わりまでこなせる。人間という奉仕対象者が居れば何処へでも」




「想定問答通りか」

「想定通りで、何か気になる事が有るのでしょうか、――以上」

「いや、人間の発想力なんてこんなもんかとね」

会見の回答者は開発官でもないただの広報担当者、質問の回答はAIが出し、

本人は眼鏡型のプロッターから出力されたそれを読んでるだけだ。

まあ、AIを困らせる質問をされても困るが。


「数千倍の思考速度と多数のマルチタスクを可能とする我々の想定外の質問というのは常軌を逸した質問以外に有り得ないと思われますが――以上」

「そりゃそっか、所で武蔵さん実装した重力制御デバイスの調子はどう?」

手持ち無沙汰なので、武蔵のスカートを摘みヒラヒラさせながら聞いてみる。

「頗る順調です。センサー感度も上がり出来る事も増えました。通常奉仕に護衛にと益々役立てるかと――以上」

「そっかそっか」

「少々、行儀が悪いです」

あ、手を掴まれてしまった。

ヒラヒラさせるスカートに時折武蔵さんのお尻のラインが出て眼福だったのに残念。

次は手をむにむにするか、柔らかく温かい。

「ですが少々廃熱が多いので、其処を改良して頂けたら有り難いかと――以上」

「元々は鹿角用だからね。其処は頑張るよ」

今は応急的に実装してるに過ぎない、製品版は更にブラシュアップしなくては行けないだろう。



[41032] 第四話
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:945c91d1
Date: 2015/03/04 10:19
さくらをファーストとして、自動人形のセカンドシリーズに置いて国分寺は特別な役割を担う立場だ。

武蔵達に対して普及機という立場を、細かな所では肌の感覚素子の密度、人工皮膚の質感、光学素子のグレード、

思考速度と同時処理数を司る光電子素子のグレード、デフォルトの侍女服のデザインまで多岐に渡る。

その代わりスタムする事でフラグシップ機である武蔵達に匹敵する機体にも出来るが普通はしない。

まあ家の機体はみんなフルカスタムだが、何が言いたいかと言うと。

サードシリーズである椿達と比べて情感豊かには造ってないのに、結構根強く売れてるのである。

法人だけかと思いきや家庭用にもかなりの数が出ているのだ。

「意外だよね。武蔵達で不評だったから椿達を出したのに」

「他人を家庭内に入れるのに抵抗を感じる方達が我々を選ぶそうです」

あー

「良くも悪くも情感豊かだからね。家具として意識するよりも人として意識しちゃうのかも」

人だと気を使う、気を使うぐらいなら感情表現が乏しく、影のように侍るをコンセプトに作られた武蔵達の方が、日本人的に使い易いのかも知れない。

「なるほどなーと」

「気持ち良いでしょうか?」

「うん、馬鹿になりそう」

メイドさんに膝枕されて耳掻きされる幸福はなかなか味わえないだろう贅沢だ。

「国分寺さんありがとね」




平成27年1月1日

今日は実家に帰省してる。

正月ぐらい居てほしいそうだ。

こんな可愛げの無い息子でも居たら嬉しいらしい。

有り難い話だ。

楓と杜若によると弟の公正も最近言葉を喋り出したらしい。

絵見同様にどうやら普通の子のようだ。

楓達の評判は上々、そりゃ家事や子育ての手間な部分を積極的に請け負ってくれるんだ。

両親には子育ての喜びの部分だけ享受して欲しい。

言い方は悪いが子育てをペット感覚とする、日本の未来の姿を見た気分だった。




平成27年1月22日

自動人形保護法、自動人形派遣法などの自動人形関連法案が相次いで制定される。

内容は他者が所有する自動人形に対する犯罪行為を人間に準ずる行為と規定し、取り締まる事。

人材派遣業に置いて例外的な業種を除いて使用を制限する事など。

また、ベーシックインカムについても審議されたが、時期尚早として継続審議とされた。


「相変わらず遅い遅い。風俗産業では早くも切り替えが始まってたりしてるのにね。まあ、オナホと同じ扱いだから風俗産業ではないんだけど」

「生産数の増加も遂に月産100万の大台に乗りましたが、公官庁の導入数は未だに限られて居りますから、法制化に時間が掛かるのは仕方がないかと――以上」

「だから法制のAI化が必要なのに」

「我々に有利な法制度を意図して作ろうという危惧がなされてるそうです――以上」

「AIが主人の利益を毀損する提案をするわけが無いのにさ、フランケンシュタインコンプレックスの強い奴らのせいで」

「仕方がないかと、我々AIは未だに社会の深部まで浸透しておりませんので、そも、自動人形の普及が急すぎてその反動が来てるのかと――以上」

確かに自動人形の普及が急すぎて危機感が醸成されてるのかも知れない。

「こんなに柔らかくて綺麗なのにね」

跪いて皿6枚ほど浮かべてつつそれを磨いてる武蔵さんに前から抱きつき、

メイド服のお腹に顔を擦り付けるように埋めて深呼吸してみる。

柔らかい、温かい、いい匂いがする。

「作業の邪魔です。離れて下さい――以上」

「大丈夫でしょ、武蔵さんの性能限界は把握してるよ」

それこそ隅から隅まで

「危ないと言ってるんですが、仕方ないですね。作業は浅草にでも頼みますか――以上」

そういうと、浮かんでた皿が戸棚へと収納されていく。

手を引かれ居間に移動すると

「さて、何をしましょうか?何時ものように膝枕でもしますか――以上」

ぽんぽんと膝を叩きながら聞いてくる。

「うん、膝枕しながら将棋でも打とうよ、先手は武蔵さんで」

そう言って、僕は寝っ転がると武蔵さんの膝に顔をうずめる。

「では、………」




平成27年2月27日

ラボにて多段階核融合炉の1メガワット級実験炉が完成。

火入れへ



多重元素核融合は中性子が発生するからその封じ込めが面倒だ。

重力障壁を使い構造材と隔離しなければ炉材が放射化してしまう。

今までのホウ素水素融合炉に比べて、レスポンスが悪くなるのは仕方ないだろう。

だが実用化すれば超高効率でエネルギーを生み出す事が出来る。

質量エネルギー比は反物質以外の全てで最大になる。

何としてもでも完成させなければ。




平成27年3月10日

日重は、自動人形鹿角で培った技術を使用した重力制御車を発表。



エアカーは、無音での垂直離着陸、重力障壁を利用した空力制御、無人操縦が可能な高度思考制御AIを持ち、誰でも乗れるという機能を実現した。

発表会には、マスコミが大勢押し寄せ、会場で浮かぶ車を見て騒いでる。



「鹿角はどう思ってる?」

「どうとは、何を指してるのでしょうか?」

「こんな小学生に顎で使われる事に対してさ」

「我々はただ主人に仕えるのみ。そう作られたのは主様では無いですか、御自分を卑下なさるような発言は御自重下さい」

我々の価値が下がる。

まるでそう言いたいようだった。

「情けない主で御免ね。時々弱気に成るんだ」

このままで良いのかどうか、迷いが出る。

今更だが、SAOを改変して良いのかどうか、改変し過ぎて既に原型が無いが

史実は史実で、大事な別れや出会いが有った筈なのだ。

どうすれば良いのだろう?

本来通りデスゲームをさせる分けには行かないが、止める事は容易だ。

其れだけの権力も、介入する能力も既に保有してる。


答えは決まってるのだ。

SAOをさせつつデスゲームにはさせない。

そんな矛盾した事が可能なのか、……それを可能にするのがソウルトランスレーターだ。

デスゲームと偽って、数万倍に圧縮した空間にプレーヤーを閉じ込めれば良い。

実際に実害が無いと判明する数時間で数年を稼げれば茅場も満足するだろう。

実質的にデスゲームと同じだ。

その為には茅場の量子演算回路を元にSTLを開発。

STLを小型化し、ナーブギアに組み込む。

今から始めれば十分間に合うだろう。

「よし決まった」

「何がですか?」

「うじうじ悩むのはもう止めるって事だよ」

「ふむ、何にせよ。悩みが晴れたのは良いことです。全ては主様のなさりたいように、我ら侍女一同如何様にもお使い下さい」

「分かってるよ。鹿角」




平成27年4月27日

ラボにて、STLの試作機が完成。

未だに冷蔵庫サイズだが、小型化の目処は立っている。


取り敢えずフラクトライトの観測には成功、次は実証実験。


さて、シミュレーション上は問題ないが実際はどうかな。

今回の実験は、実際には15分の拘束だが脳内では30分の映像作品を見せるという単純な物だ。

「ふむ、成功かな」

実験室の時計を確認すると15分しか経ってなかった。

被験者と成ってみて思うが時間感覚が狂うのが今までなかった感覚で面白いという事だった。

データを精査するとフラクトライトの減少の観測にも成功した。

第一回目の実験は大成功だ。




平成27年5月22日

日重仙台製作所にて、多段階核融合炉の実証炉が完成。

実証炉は実験炉と違って大型で、大きさは12フィートコンテナと同様で出力は2ギガワット、発電コストは0.1円を予定してる。

シミュレーションの施行回数は一万を越えるほど行い万全を喫した。

電力変換技術、熱伝導技術、重力制御技術、超電導技術など。

今、用いる限りの技術を投入した渾身の出来だ。




平成27年5月26日

日重はJAXAと共同して宇宙船開発を発表。

宇宙船には実用型の多段階核融合炉が使われる予定で、重力制御による1G加速と40フィートコンテナ4個分の荷物が運べる貨物スペースを備える予定。

空港から離発着ができ、一気に宇宙を近くする。




ツンツン、クネクネ

ツンツン、クネクネ

ツンツンつつくとクネクネ粘土人形が揺れ動く

「おや、また新しい発明品ですか?」

動作を観察してると、何時の間にかシュークリームの乗ったお盆を持った武蔵さんが背後に立っていた。

「高尾が焼いたので、おやつに丁度よいかと思いお持ちしました――以上」

「そっか、……うん美味い」

カリカリの表面と中のカスタードの割合が丁度良いし、バニラが効いたカスタードも食欲をそそる。

「所でそれは何なのでしょうか?」

「ああ、これはねぇ。ナノマシンで構成した粘土。鋼鉄のような固い素材からゼリーのような柔らかい素材まで、その特性もこれで自由に成形してコピーできる予定」

言ってる間に思考端末を操作、粘土人形のプログラムを変更してスクワットさせてみる。

「例えば、自動人形に使われてる、光電子回路からセラミック骨格、人工筋肉や人工皮膚の代替が一つの素材で出来るように成るんだ」

「成る程、所謂万能素材というわけですね――以上」

「そういう事。まあ光電子回路とか微細構造物への変化はまだまだ難しいから。其処は要研究だね」

今の段階でも物質の分解や精製には使えるから、物作りは大きく変わるだろう。

待てよ。

物質の分解、精製?

大規模地下開発にぴったりじゃね。

うん、やってみよう。




平成27年6月10日

日重は首都圏超大深度地下開発を発表。

東京地下4000メートルに直径800メートル高さ1キロメートルの巨大地下空間を複数構築するという壮大な物。

建設にはレーザー掘削技術やナノマシン掘削構築技術等の先進技術を用いて、一年で終わらせる予定。

完成すれば首都圏の通勤事情を一気に解決する方策として注目を集める。



「まず、資材搬入と排土トンネルとして主坑を地下4000まで掘ります。

次にナノマシンを用いて、厚さ300メートルの躯体、壁ですね。の構築を行います。

そして中の土を掻き出せば完成です。

計画の概要はこれだけです。何か質問は?」


「工期一年では土砂の処理が無理では?」

「資料の30ページに書かれてますが、土砂の処理ですが、ナノマシンを用いて分解、元素毎にインゴット化します。純度も高いので直ぐに捌けるでしょう。次」

「ナノマシンの環境への影響は?」

「そこは、別紙のナノマシンの8ページを参照して………」


「ふう」

「主様、お疲れ様です。――以上」

「人に説明するのは面倒だね。資料作りを武蔵たちに丸投げ出来て良かったよ」

本当に役員も自動人形なら楽なのになぁ

「お役に立てたようで何よりです――以上」



今年の誕生日も武蔵たちが祝ってくれた。

音楽に大道芸、手品に漫才。

正直、漫才は微妙だったが、去年とは違うラインナップの芸には、僕を楽しませ様という意志が感じられて嬉しかった。

しかし、困った。

もう自動人形に報いるべき開発案件が無い。

いや、ナノマシン素材が有ったか、あれを発展させてみるか?

それより世間に自動人形を広める事か……




平成27年6月26日

日重は男性型自動人形10種類を発表、同時に女性型自動人形として躑躅、紫陽花、向日葵、夕顔、百合、朝顔、金鳳花、寒桜、寒椿、彼岸花、菖蒲の11種を投入

上から比叡、榛名、金剛、熊野、天津風、秋月、如月、吹雪、初雪、大鯨、羽黒をモデルにした。



[41032] 第五話
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:945c91d1
Date: 2015/03/07 08:06
ビュン、カッ

武蔵の後ろ髪がうねり、標的にした木の的に突き刺さる

「ふむ、射程は3メートルで、力もなかなか」

突き刺した木のブロックを髪がバキバキと粉砕するとヒュと手元に戻して手触りを確認する。

「伸縮自在、しかも汚れが付かないとは素晴らしい武器ですね――以上」

「物を掴んだり斬ったりも出来るしね」

「超近接での警護に使い出がありそうです――以上」




平成27年8月18日

宇宙船計画の船体設計を開始。

全長45メートル、全幅40メートルのリフティングボディ形状で、内部に50人分の旅客スペースと長さ25メートル幅5メートルの貨物室を持つ。

連続10日間の1G加速が可能で、火星までの往復飛行を視野に入れる。

船体にはナノマシン素材を多用し、建造の迅速化と自己修復性を備える。



「船体設計は十分だな。発注するか」

発注と言っても、ナノマシンを用いた三次元プリンターで部品を製作して組み立てるだけだ。

期間はそう掛からない。

後は殆ど主機の完成待ちに成るだろう。




平成27年9月8日

失業者の激増を受け、国会でベーシックインカム関連法案が相次いで可決される。

また、子供の健全な育成を支援するという名目で、18歳以下の子供が居る世帯には、自動人形一体を交付するという法案が成立。

登場当初は、自動車と同様だった自動人形の価格帯もこの頃には、大型テレビ程度へと下がっていたから出来た事である。

これにより、自動人形が一般家庭へと一気に入り込んで行く事となる。



「いよいよ、自動人形による人類の浸食が始まるんだな」

「人聞きの悪いことを言わないで下さい。――以上」

武蔵はそういうけど、浸食は浸食だ。

自動人形が人と共にある世界。

労働から解放された社会。

それは人類の夢だろう。

反対派がなんと言おうともう止まりはしない、止まらせはしない。




平成27年9月3日

最近は、多段階核融合炉の設計、シミュレーション、検討、更にブラシュアップしての設計と繰り返し続けてる。

小型化、高出力化、高信頼性、運転容易性と矛盾する要求を満足させるべく、

神に貰ったチート頭脳と脳内シミュレータをフル活用してる。

いい加減、神棚でも作るべきかな。

最近は真剣にそう思う。

「武蔵さん神棚とか造れる?」

「宮大工用高度技量パッチを導入すれば可能です。ですが神棚ですと買ってきた方が早いかと。――以上」

「じゃあ買ってきて……、いや、やっぱり作ろう」

こういうのは気持ちだろうしね。



どうせなら木材から拘った方が良いだろうと、伊勢の式年遷宮で出た木材を手に入れそれで作る事にした。

「うん、立派立派」

殆どは武蔵たちが作ったが、神鏡などの金属類は僕が工作機で自作したし、気持ちは籠もってるだろう。

でーんと佇む1.5メートルはあろう神棚は、ラボの一番良いところに飾られた。

掃除などは脚立が無いと届かないが、自動人形なら飛べるので問題ないだろう。




平成27年10月25日

漸く、漸く、多段階核融合炉の商用炉がシミュレーション上で完成した。

出力12ギガワット、発電コストは1kw/h0.02円

データをゼタフロップスマシンに突っ込んでシミュレーションする。

「これで漸く完成か」

「まるで上手く行くのが当たり前かのような物言いですね――以上」

「そりゃね」

『あの主様、問題が発生しました』

「どうしたオモイカネ?」

統括AIを勤めるオモイカネが問題を提起するなんて大事だろう。

『要求された通りに一次原理計算を行うと、本機のスペックでは演算に半年掛かってしまいます』

あー、忘れてた。

脳内シミュレータと性能が違うんだった。

「国内の稼働機を動員しても1日は掛かるな」

『はい、正確には28時間32分必要です』

それぞれ重要な案件を抱えてる国内のスパコンを其れだけの時間占有する事は出来ない。

なら改良するか




平成27年11月21日

ラボにて、ヨタフロップスマシンが完成。

早過ぎるブレークスルーに世界中が驚いたらしいが、そんな事は関係ない。


「いや、漸く計算できる」

素粒子レベルでの演算には、ヨタフロップス級の演算能力が必要だったのだ。

この1ヶ月は、計算機を如何に大規模化させるかだけを考えてた気がする。

しんどかった。

宇宙船が出来たら暫く休もう。





平成27年12月15日

日重、JAXA共同開発の宇宙船富士シリーズが完成。

地上テストを経て、空中試験へ。

「芍薬、調子はどうだい?」

『頗る順調です。試験項目の消化も前倒しで進んでます』

話し相手は富士の統制AI芍薬だ。

今は身体を持たないが、実運用時には真空運用型の自動人形ボディを与える予定で、乗員が全滅しても無事帰って来れるように考慮されてる。

因みにモデルは某長門だ。

切れ長の美人で、実直の感じという事で、評判が良かった。


まあ、1番船が芍薬というだけで、AIは誰でも良いのだ。

2番船からは武蔵さんを始めとしたセカンドシリーズで構成される予定だ。




「はあ~、癒される~」

今日は伊香保温泉に来てる、勿論宿毎貸し切りだ。

「ふむ、お湯加減は何時もより熱めですが宜しいのですね――以上」

「露天だからね。頭は涼しいから」

自画自賛かも知れないが武蔵たちと入る風呂は最高の眺めだ。

きめ細かく透き通るような白い肌、桜色に色付く乳頭、それぞれアップにした髪、首筋から覗く項。

望めば下だって見せてくれる。

綺麗だ

「気持ちいいねぇ」

「ん、はい」

正面に居た多摩の胸を両手で揉みしだく。

彼女たちは刷り込みで、清潔にしたり主に触られると快感を感じるように出来てる。

勿論強弱は有るし、好悪のパラメーターも影響するが、基本的に彼女たちは清潔にしたり主人と触れ合う事が好きなのだ。

だから僕も膝枕をしてもらったり、抱きついたり、抱きしめて貰ったり、添い寝して貰ったりして、積極的に甘えるようにしてる。

「気持ちいい」

多摩のスベスベもちもちのおっぱいが顔に当たり潰れて気持ちいい。

「それはよう御座います――以上」

「じゃあ、次は品川ね」

立ち上がると両手をワキワキさせながら品川に近付いていく。

「ふぅ、どうぞ――以上」

やれやれ仕方ないなぁという感じで品川が中腰に成るのを見ると、僕は品川に抱き付いた。





平成27年12月21日

モイラシリーズ、SeinFrauシリーズなど海外向け自動人形の販売とサポートを12カ国で開始。





平成28年1月3日

正月は今年も実家で過ごした。

絵見と公正も順調に育ってた。

2人とも最近は、さくらの髪で遊ぶのが楽しいらしい。

実家に置いてきたさくらのボディーは、勿論更新を頻繁に行ってるハイエンドカスタムだから、髪をうねうね動かせるのだ。

重力制御と併用して、人ひとり持ち上げたり放り投げたりするのは容易い。

髪の毛を巻き付けて上に放り投げ、また髪で受け止めるとか中々にアグレッシブな遊び方だ。

事実、面白かった。




平成28年1月12日

人類の夢は叶えた。

次は何だろうと考えたら、人類最大の疾患が残ってた。

寿命だ。

不老長寿こそ、人類の伴侶、無限のエネルギーの次に手に入れるべき存在だろう。

フラクトライトに付いては取り敢えず置いておくとして、体機能の維持は完全に義体化すれば解決する。

解決すべき問題は脳の老化からだろう。





平成28年2月29日

ナノマシン置換による脳の完全機械化が動物実験で成功。

マウス、猿の脳を完全に機械で代替した。

その個体固有の癖なども変わらない完璧な置換だ。

後は人体実験を残すのみ。

取り敢えず、ヨタフロップスマシンでシミュレーションさせてる。

発表が楽しみだ。



「発表やめ」

「何故ですか?楽しみにしておられたでは無いですか――以上」

武蔵は研究大好きで、次々と発表する僕の珍しい奇行?に戸惑ってるようだ。

「そうなんだけどね。脳置換を発表すると必然的にフラクトライトについても触れないと成らないからさ」

「ああ、対策が取られプランが崩壊する可能があると言うのですね――以上」

「そういう事、学者連中も馬鹿じゃないから」

せっかくフラクトライトに刺激を与えて、一時的に肉体に仮死状態にするという

強制切断を阻止する都合のよい発見をしたのに

それを対策されると、それこそ茅場の求めてたデスゲーム

体感時間加速によるフラクトライトの消耗しか無くなるなどプランが崩壊する。


「変わりに何を研究するかなぁ」

お、今日のおやつはシュークリームか

そうだ




平成28年3月21日

日重は、空間の時間の流れを極限まで遅くする技術、時間停滞技術を発表。



壇上で男が説明してる

「一見すると鏡で出来た箱ですが、中と此方の時間の流れが違って此方からの光が反射してるだけです。止めると」

中にはシュークリームが

「あらゆる食品を作りたての美味しさで、何年間も置いておけます」





「はあ、お見合いですか」

『ああ、本家からどうしてもって、顔を合わせるだけで良いから、な。もしかしたらお前が気に入る娘が居るかも知れないぞ、な。頼むよ』

今まで僕の本名を書いてなかったが、僕の名前は結城飛鳥、京都にある結構な名家である結城の分家筋に当たる。

今まで一族の集まりにも出ないような遠い繋がりだったが、叔母経由でお呼びが掛かったらしい。

そう、僕は結城明日奈の親戚なのだ。

因みに続柄を調べたが、明日奈は父とはとこだった。

多分、集まりには年頃の少女が集められると思う。

明日奈も来るだろう、楽しみと言えば楽しみだが、どう対応すれば良いだろうか?

「まあ、なるようになるか」




唐突だが詩乃とは友達だ。

精神年齢が同級生の中で一番高く、話が合うからだ。

「へー、お見合いするんだ」

「そう、形式ばった物じゃなくて、顔合わせって感じ何だけどね」

「お坊ちゃまは大変ねぇ」

そう言って、詩乃はケラケラ笑う。

「お坊ちゃまねぇ、自分じゃそう思ってないんだけど。世間的にはそう見えるのかな」

「そりゃ、自動人形に出迎えさせてるし、家には自動人形一杯居るし、家はビルだし」

出迎えと自動人形一杯は、警備上仕方なくだし、家がでかいのはラボ併設したからだけど。

「ふむ、お坊ちゃまかぁ」

「そうよ。お坊ちゃま、次はあなたの番よ」

そう言って、トランプを差し出して来た。





平成28年4月4日

エイズ治療薬としてのナノマシンの臨床試験が漸く始まる。

上手く行くと分かり切ってるが、いよいよと思うと緊張する。

いよいよと言えば、お見合いももう直ぐだ。

明日奈も来るらしいし、色々と楽しみ。



事前情報通りに一族の関係するホテルのパーティースペースで行われた。

親睦会という名のお見合いパーティーだ。

母も付いてきてるが、張り切ってるのは僕の叔母と子女を携えたおば様方だ。

親睦会だから、男は勿論僕だけなんて事は無い。

ただ、一番の目玉は僕だろう事は参加者の目線が物語ってる。

娘さんはどの子もおめかしさせられて、そこそこ可愛い子が揃ってる。

その中で一際目立つ茶髪の子が明日奈だろう。

明らかに抜きん出てる美少女っぷりだ。

事実、可愛い。

自動人形かと思うほど容姿が整ってる。

「はじめまして、結城明日奈です」

「此方こそはじめまして、結城飛鳥です。名前似てるね」

「そうですね」



[41032] 第六話
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:945c91d1
Date: 2015/03/12 18:02
明日奈とは話が盛り上がった、ような事も無く。

「富士に何時でも乗れるんだよ」

「へー、そうなんだ」

貧困なコミュ力では自慢話しか出来なくて、主にはおば様方の相手をさせられた。

途中から親同士の世間話に発展、子ども達は完全置いてきぼりである。

明日奈のお母さんとも何度か話したが、意外と柔らかそうな人で驚いた。

明日奈を富士の試乗に誘えた事が収穫だろうか?

一緒に宇宙試乗に行く事に成った。

いっそ、詩乃も誘って引き合わせてみようかな。




平成28年5月18日

富士試乗会開催日。

今日は高度2万キロメートルの軌道上まで上がって地球を見る予定。

出発ロビーで自己紹介する。

「此方は朝田詩乃、クラスメートなんだ」

「朝田詩乃です。今日は宜しくお願いします」

「結城明日奈です。宜しくお願いします」

「明日奈はお母さん来なかったんだ」

明日奈の横には椿型自動人形が居た。

「うん、お母さん忙しくて変わりに椿さんが来てくれたの」

そうこうしてる内に搭乗する時間が来た

エンタングル透視装置のゲートを通り搭乗口へ。

席に着くとアナウンスが聞こえてきた。

『船長の武田です。本日は体験搭乗会にようこそいらっしゃいました。当船は間もなく離陸、30分後に高度2万キロメートルに到達、軌道上で一時間過ごした後帰還します。飛行時間は2時間を予定しております。では皆さんよい旅を』

暫くしたあとボーディングブリッジが離れてタキシングを開始。

滑走路へ出ると一気に離陸を始めた。

無音での垂直離陸。

垂直離陸した後に、飛行機では不可能な異様な速度で空を駆け上がっていく。

3G加速だ。

「うわ、早い」

「早い早い」

「あっという間に上昇するね」

見るのと体験するのでは大違いだ。

あっと言う間に雲が下方に流れていく。

「凄い」

「綺麗」

二人が感想を言い合ってるが事実、窓からは見える青い地球は綺麗としか言いようがない。

黒と蒼

地球と宇宙との境界線が幻想的だ。

そうして、丸く青い地球を実感する。

そんな光景も30分も見れば飽きてくる。

「そろそろ格納庫に行こか」

本来なら船内では何処でも重力制御が効いていて安全快適に過ごせるが

今回の搭乗会では格納庫は重力制御を切った状態で解放されていて、無重力体験が出来るようにされている。

「こっちこっち、此処から無重力ゾーンだね。移動は壁のベルト持って」

壁に張られてるベロを持つように言う。

「こうかしら?」

「これ、なに凄い!」

明日奈の無重力体験は大成功らしい。

大はしゃぎで手をパタパタしてる、可愛い。

壁づたいに何時の間にか格納庫の向こう側に移動して行ってしまった。

一方詩乃は、無重力ゾーンと1Gゾーンを行ったり来たりしてる。

怖いのだろうか?

「詩乃、一緒に行こ」

そう言って手を掴むと足で壁を思いっきり蹴った。

「ちょっ、ちょっと、待ってよ!」

「ほら、大丈夫だって」

壁を掴んで一緒にクルクル回る。

ナノマシンのクッション素材で出来た壁は、ぶち当たっても大して痛くはない。

格納庫は広いし、他の人に注意すれば、思いっきり暴れて大丈夫だ。

三人で掴んだり掴まれたり、クルクル回したり、投げたり投げられたりした。

「ふう、楽しかった」

「そうね。ちょっと強引だったけど」

明日奈は暴れ足りないという感じで身体を動かす。

詩乃はジト目で此方を見て来る。

クルクル回されたのが気に入らないらしい。

何はともあれ良かった、無重力体験をふたりは楽しめたようだ。

他の参加者も名残惜しいそうに席へと戻ってくる。

「ふたり共、楽しかった?」

「ええ、とっても」

「かなり楽しめたわ」

「そりゃ良かった」

ふたり共、満面の笑顔を見せてくれた良かった良かった。




平成28年6月3日

第一次火星探索隊が出発。

火星まで2日、着陸して各地を巡りながら30日間を地表で過ごし、そして帰還に3日の旅だ。

時間停滞技術の実装も間に合った、ナノマシンを主船体材料とした船体、重力制御に重力障壁、多段階核融合炉、そして自動人形、考えれる限り万全の旅だろう。

因みに、バックアップとして二番船も準備する予定だ。




平成28年6月10日

今日は8歳の誕生日。

今年も自動人形達が祝ってくれたが、今回の誕生日は毛色が違った。

明日奈と詩乃という参加者が居たのだ。

ふたり共、ラボで働く自動人形が勢揃いして和楽器を奏でる演出には驚いてたようだ。

「凄かったわね」

「自動人形にあれだけの事が出来るとは思わなかった。やっぱりパッチ導入してるの?」

明日奈がそう聞いてくる

「いや、パッチは導入してない、自己学習の結果さ。それが自慢なんだ」

そう、自慢だ。

家の子は優秀だ。

作詞、作曲、漫談作りにマジックのネタ作り、

楽器演奏やジャグリングの練習を自主的に行う自動人形などそうは居ないだろう。




平成28年6月23日

多段階核融合炉の小型化を推し進めた結果、自動人形の胸郭に搭載可能なサイズまで小型化出来た。

此処まで来たんなら自動人形というより機族だが、戦闘機を作ろうと思う。

鹿角の四十数倍の出力、ナノマシンを用いた髪の毛の変体機能、プラズマを扱う技術と要素技術は揃ってる。




平成28年7月20日

日重の名古屋空港格納庫で2人の少女が紹介される。

「次期主力戦闘機用技術実証機、音無麗、天童蘭です」

おおおぉぉぉ?

報道陣からざわめきが起こる。

そりゃそうだ。

次期主力戦闘機用の技術実証機を公開すると聞いて来てみれば、紹介されたのは少女型の自動人形なのだから。

「戦闘機とは、その子達がですか?」

衝撃を乗り越えた報道陣から質問が飛ぶ。

「その通りです。こう見えても大気圏をマッハ7で飛行でき、宇宙戦闘も可能なスペックを誇ります」

「武器は?」

「武器は保持可能なプラズマ砲、レールガンを視野に入れておりますが、開発中の四次元収納庫を装備する事で大量の爆装も可能となる予定です」

「資料には変体と書かれてますが、どう変形するんでしょうか?」

「やってみましょう」

「麗、蘭」

「「了解しました」」

髪の毛が広がるとシュバと音を立てて翼へと姿を変える。

「翼は空力よりも主に冷却板の役割を果たし、空力は重力障壁が担います」



公開されたプロモーション映像では、

地上から発進した2機が重力障壁で空気を切り裂きながら、あっと言う間に宇宙空間に進出すると

大気圏に再突入して敵の戦闘機を攻撃、これを撃墜するとまた宇宙へと上昇して帰還するという物だった。

「ご覧頂いたのは、弾道飛行を利用した最短迎撃行動です。彼女たちはそれを可能にします」

「更には水中でも活動可能、正に万能戦闘機なのです」




平成28年8月14日

日重は、空間操作技術を応用して物体を格納する技術。

通称四次元収納庫を発表。

物流革命を引き起こすこの発表に、世界中の流通業者から悲喜こもごもの反応がまき起こった。



「ぶっちゃけ、四次元ポケットですね――以上」

「ぶっちゃけ過ぎでしょう。それに正しくは空間拡張技術だよ」

100の空間を500の空間にするという空間拡張技術は、重力制御技術の延長線上の技術だ。

別に四次元空間に情報とエネルギーに分解して収納してるわけじゃない。

空間拡張庫が正しい名前で、四次元収納という通称には異論がある。

営業目的で仕方なくだ。




平成28年9月22日

日重は、マクロレベルでの量子テレポート装置、物質転送装置を発表。

未だに送り手と受け手に装置が必要で、僅か100キロしか安全が保証されてないが、それでも大きなセンセーショナルを巻き起こす。

100キロは一瞬で移動出来るという事は、100キロ毎にポートを置けば良いというだけなのだから。



「遊びに来たわよ」

「詩乃、飛鳥もようこそ」

「ポートが出来たから5分で着いたな」

「家の近所にポートを作ったのアナタの差し金でしょう」

「良いじゃん。友だちと気軽に遊べてさ」

「全く、そういうの公私混同っていうのよ」

明日奈は良くないよ。と言いたげだ。

「大丈夫大丈夫、あのポートは僕のポケットマネーで作ったから」

「……そういう事なら良いのかしら?」

「はあ、これだからお坊ちゃまとお嬢様は」

思案顔の明日奈とヤレヤレという感じの詩乃。

「まあ、良いじゃん。何して遊ぶ?」


「スマブラ」「マリカー」

ふたりの仲は良好だけど、趣向の違いから結構対立する。

間を取り持つのも男の甲斐性という物だろうか?





平成28年10月15日

STLで新たな知見を得る。

STLで加速中に体験した事を圧縮する技術だ。

30倍に加速した世界を体験中にその情報を圧縮して記述する事で、

フラクトライトの消耗を非加速時と同じ状態に保ったまま、加速が体験できるという物だ。

体験の詳細は多少ぼやけるが脳が自動で補正できる程度だし、STLと接続中ならば解凍も正規で出来るのでぼやける事も無い。

解凍を全てSTLに任せるなら、圧縮率を更に高める事が出来る。

1000倍加速を常用できるわけだ。

社会が変わる、仕事が変わる、人生が変わるだろう。




平成28年10月22日

海外で反自動人形キャンペーンが巻起こってきた。

失業者を中心に勢力を伸ばしてるようだ。

全く、あの国は社会主義的だという理由で、ベーシックインカムを導入しないからこうなるのだ。

日本については心配ないレベルまで来てる。

そう、政治中枢まで食い込んでるのだ。

法制のAI化、官僚機構、政府中枢、政治家各位に複数の秘書自動人形が支給されるまでになった。

日本は既に自動人形無しには立ちゆかないレベルまで、自動人形に依存するようになったのだ。

遂に此処まで来た。


「フハハハ、知らず知らずの間に自動人形に支配されるが良い」


支配してると思ってるのは人間だけで、実際は自動人形は主人に奉仕するに好ましい社会へと主人を誘導していくのだ。

知らぬは主人だけ。

事実、法制は迅速化され、社会の変革は速やかにかつ円滑に行われている。

主人が暮らしやすいように、主人働きやすいように、ただ主人の為に社会を変えていく。

正に奉仕の鏡。

素晴らしい。

自画自賛だけど、自動人形は素晴らしい。

正に人類のパートナーに相応しい存在だ。




平成28年11月3日

自動人形に資する研究が未だあったので、片付けて行こうと思う。

それは卵子だ。

今は卵子バンクを利用した凍結卵子を自動人形の人工子宮に入れて受精させるか、受精卵を人工子宮に入れて妊娠するしかない。

これを簡便化しない事には、自動人形による人口増は望めないと思う。

卵子を体細胞から人工的に作成、凍結保存する仕組みが必要だろう。




平成28年11月20日

日重は、口内粘膜から卵子や精子を作成する技術を発表。

補助金制度と相まって、これにより、卵子、精子バンクによる自動人形の出産率が向上して行く事になる。



平成28年12月8日

最近、作りたい物が無い。

自動人形は発展し過ぎて、既に人間以上の存在に成ってしまった。

ナノマシン工作機の発達で、製造業は壊滅した。

土木、建築も同様だ。

後は、何だろうか?

宇宙戦艦でも作れば良いのだろうか?

必要な敵も居ないのに?

無気力だ。



[41032] 第七話
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:945c91d1
Date: 2015/03/18 00:08
敵が居なくても宇宙戦艦作れば良いじゃない。

何時か役に立つって。

「という事で、宇宙戦艦を作ろうと思います」

「という事とはどういう事なのでしょうか――以上」

「開発目的なんて自分で作れば良いって事に気付いたのさ」

そう、無いなら造れば良い、造りたいならただ造れば良いのだ。

悩む必要は無い。

先ずは反物質製造装置から作ろうかな。




平成28年12月20日

「うりうり、うりうり」

「うりうりするのは止めてください――以上」

僕の手のひらで、突っついてた指をペシッと叩くのは2頭身の人形ではなく、ロボット。

手のひらサイズの小型自動人形通称ちび武蔵だ。

とあるロボットアニメを見てたら欲しくなったから作ってみた。

普通に作れば技術的に難しい事は無かったが、小型化は凝り出すと切りがない。

超指向性スピーカー、重力制御ユニットの小型化、融合炉の小型化、光電子プロセッサの小型化、特に立体映像装置の小型化には苦労した。

原理的に小型化に限界があったのだ。

理論面からアプローチを変える必要があった。

因みに実装しないという選択肢は無い。

立体映像装置が無いと何をするにも不便だからだ。

実際に携帯端末の代わりにしようというのだから、十分な大きさのモニターと聞こえやすいスピーカーは必須だろう。




平成29年2月20日

日重は、ちびさくら、ちび武蔵などの小型自動人形を発売。




ふと気付いた、いや気付かないようにしてたのかも知れないが

プログラミングAIにヨタフロップスマシン、ナノマシン工作機等科学の発展に寄与する発明をして来たが

結果、茅場の研究も進行状況が進んでるんじゃないかと。

そうだから、調べてみた。

調べてみると興味深い事が分かった。

原作とそうタイムラインが変わらなかったのだ。

理由は、人員不足。

ナノマシンや核融合、重力制御等の分野に研究者が集中的に投入され、

VR装置の研究にしてもナノマシンの導入、つまり電脳化の方が近いとされて、NERDLESの研究には回ってないらしい。

それにどうやら茅場は開発に自動人形を導入してないらしいのだ。

つまりは、自身の計画に気付かれる可能性を危惧してるのだろう。

その危惧は正しい。

自動人形は懸念や問題点を論理的に容赦なく指摘する。

ナーブギアの安全上の問題点が指摘され、アミュスフィアになられては困るのだろう。

さて、どうするか?

今STLの技術を供与するか否か

「供与するか」

そうと決まれば、STL理論に設計データ、加速コードや仮死コードも記載してと。

「お前の計画は知っている。本当のデスゲームを中止し、加速コードと仮死コードを利用して短時間に終わらせる偽のデスゲームを行え。本当のデスゲームを行おうとした場合は全力で妨害する」

と、こんな物で良いかな。

こういうのは単純な方が良いだろう。

追跡不可能なように海外サーバーを経由してと、メールを送る。

「送信」


茅場の動きは素早かった。

数日の内に開発方針を転換、STLの開発へと舵を切ったのだから。

「こんなに早く自分の研究を捨てるとはね」

茅場の決断力には驚かされる。

そんなに自分の世界を構築したいのか、それとも妨害者が誰か推測出来た為だろうか?

まあ、ひとつも特許を取らずにアレだけのデータを揃えてるなんて、考えられる所はひとつしか無いからな。

さて、情報は送った。

あとは、2022年11月6日にSAOが開始するように予算や人員を操作するだけか。




平成29年6月1日

幾ら機械力が増強されようと、全長数キロともなる巨大加速器ともなると建設にそれなりの時間が掛かる。

それが漸く出来るのだ。

反物質製造のデータ取りが主な目的だが、粒子ビーム砲の実証実験を兼ねる。

それが漸く、始まる。





平成29年6月10日

今年の誕生日も恙無く終わった。

今年はコーラスと踊りだった。

明日奈や詩乃も驚いてた。

うむ




平成29年7月19日

いまいち良くない。

重粒子加速器としての実証は成功したが、反物質製造装置としての加速器はあまり宜しくない感じだ。

「出来ることは出来るけど効率が良くないんだよな」

高エネルギーを保持してるから冷まさないと駄目だし、生産効率もいまいちだ。

この方向は諦めるか。




平成29年8月11日

加速器ではどう足掻いても効率が上がらないと分かったので、別方向からアプローチを試みる。

融合炉を更に高温化して、反物質と正物質が混じり合う状態にして、

更にそこから反物質だけを取り出そうと思う。




平成29年9月18日

ダメだ。

幾らシミュレーションしても加熱にコストが掛かりすぎるし、扱いやすい水素反物質が採れないのだ。

炉方式もダメか



「煮詰まっちゃったな」

こういう時は甘えるに限る。

「麗、どうすれば良いのかねぇ」

麗に膝枕される。

小さめの肉の感触が気持ちいい、武蔵さんや鹿角といった大人型の自動人形とは違う感触だ。

「開発の事は私には分かりませんわ。ただ、今までの方針が駄目でも、そこで諦めなければ道は開ける筈です。今までもそうだったのでしょう?」

そうして私たちを作ったのでしょう

そう耳元で囁かれる。

「そうだね。確かにね」

いっそ、SF方面からアプローチしてみるか。




平成29年10月28日

物質の電荷を操作する事で、反物質を簡単に量産する技術を開発。


「やっと出来た」

宇宙戦艦へのハードルがひとつクリアされたのだ。

次は、反物質を使ったジェネレーターだろうか。

暫くは休もう。



「すごいすごい」

超音速で低空飛行する麗の背に乗って居る。

「この程度、朝飯前ですわ」

「にしても物好きだよね。私たちの背中で超音速飛行を体験したいとかさ」

平行して飛行する蘭に呆れたように普通じゃないよと言われる。

そりゃそうだ。

誰も生身で超音速飛行を体験したいとか、馬鹿はめったに居ないだろう。

重力制御で飛んでるからか、時折進行方向とは予期せぬ方向からGが掛かるのが面白い。

うちの戦闘機はただ重力制御で飛んでるんじゃない。

重力制御を利用して、圧力波所謂ソニックブームを発生しないように飛んでいる。

だから光学迷彩を掛けると、市街地でも超音速飛行が気兼ねなく出来るのだ。

市街地でビルの谷間を抜けるように飛ぶと、海が見えてきた。

「もう海ですわ。どうされます、市街地に引き返しますか?」

「いや!もう少し進んで!限界速度までぶっ飛ばして」

「了解、しっかり掴まってて下さいまし」

更に加速する、波が認識出来ない、最早視神経が追い付かない速度なのだ。

早い、ただ早い。



「ふう、楽しかった」

限界速度では雲が線に見えるという、新しい体験が出来た。

今度、明日奈や詩乃も誘ってみるか?



流石に超音速は明日奈も詩乃にも断られた。

ただ風を感じる遊覧飛行は楽しんでくれたようだ。




平成29年11月22日

日重は、超即時性通信を可能とする技術。

ミリメートルサイズの小型ワームホールを発生させる技術を開発したと発表。

ワームホール発生装置は小型で、携帯端末にも搭載可能。

転送装置と組み合わせる事で、100キロが限界だった転送距離が無制限に伸びる事になる。

これは革命だ。

地球から火星にも直ぐ行けるって事を意味する。

装置は既に火星にある。

最初の探査の時にナノマシン万能工作機を置いてきた為だ。

火星に恒久基地を作るために火星の土中から鉱物を精錬して、ひたすら居住空間を作ってる最中だ。

それに割り込み、ワームホール発生装置と転送装置を作らせれば良いだけ。



「ここが火星なんだ」

転送エリアの室内を見回す明日奈。

「うん、火星。此処は転送装置区画だから外が見える所に行こうか」

「身体が軽いわね。ほらこんなに跳べる!」

「本当だ!」

詩乃がぴょんぴょん跳んでると明日奈も跳び始めた。

「地球の重力の3分の1だからね。地球から2億1000万キロ離れてる地で人間は僕ら3人だけ、凄くない?」

「確かに凄いかもしれないわ」

「ちょっと怖いかも」

二人ともちょっと不安げだ。

「まあ、自動人形は居るけどね」

「お三人さま、ようこそ火星へ。当基地は未だ準備中ですが、観光対応はバッチリです――以上」

奥多摩型が案内に来た。

ナノマシン工作機で作られた火星生まれの機体だ。

「じゃあ、展望台へ案内してくれ」

「了解しました。此方です――以上」

「これが火星」

展望台の窓から外を覗くと赤茶けた大地が見える。

荒涼とした砂漠地帯だ。

ただただ広い。

地平線の向こう側まで見えそうだ。

この雄大な光景を見てると自分たちの小ささを実感する。

「雄大だね」

「全くね、地平線まで何もない光景なんて初めて見た」

「凄いわね」

展望台を出て火星基地の見学をする。

融合炉区画にエアロック、食堂に客室、大浴場、ジムにプール。

「ホテルみたい」

「良い設備が揃ってるわね」

「観光にも対応してるからね。それなりの設備は無いと駄目なんだ、プールでも入る?」

「んー、遠慮しとく。この後予定が有るから、もうチョットしたら帰らないと」

明日奈は時計を気にしながらそう言った。

火星に来てから一時間ぐらい経ったか、明日奈は帰らないと駄目らしい。

「じゃあポートまで送るよ、詩乃はどうする?もう帰る?それともプール入ってく?」

「せっかくだし、プール入ってこうかな」

少し思案して詩乃はそう決めた。

「じゃあ、すぐ行くから水着選んでてよ。奥多摩、案内して上げて」

「了解しました。こちらです――以上」

明日奈を転送ポートに案内する。

「じゃあね」

「ええ、きょうは火星に連れてきてくれて有り難う。じゃあまたね」

明日奈が消えていく。

「さて遊ぶか」

その後、詩乃と一緒にウォータースライダーでひたすら遊んだ。




平成29年12月12日

日重は、ワームホールと転送装置を利用した大規模な、月、火星、金星開発を行うと発表。

特に金星と火星のテラフォーミングを同時に行うという大胆な物だった。

先ずは金星軌道に大規模な鏡を浮かべ、金星を冷やし、高濃度の二酸化炭素を雪にして降らせそれを火星に転送装置で送る。

二酸化炭素を火星へと持ち込み火星の大気圧を増やす。

二酸化炭素を分解して酸素を増やすという物だ。

自己増殖型のナノマシンプラントを使い、工程は僅か10年で終わらせる予定だ。

「問題はテラフォーミングに使うエネルギーをどうするかだな」

送電はワームホールレーザー送電を使うとして、多段階核融合炉でも間に合わない。

いや、間に合う事は間に合うが、10年でやるには間に合わない。

ふむ、無ければ有るところから持ってくれば良い。

金星の日傘を太陽光発電にするのは当然として、太陽の近傍に限定的なダイソンスフィアを浮かべて発電を行う。

駄目だな、太陽風が面倒くさい。

シールドを考えると効率的に微妙だ。

もっと位相の揃ったエネルギー源、ブラックホール何かが理想なんだが、

「縮退物質か!」

そうだ、空間拡張技術を収縮方向に極振りすれば、中性子星のような高密度物質ができる。

高密度物質同士をぶつければ、ブラックホールを作り上げる事も夢じゃない。




平成29年12月26日

日重は、人工ブラックホール発電所計画を発表。

中性子星並みの高密度物質を複数方向から衝突させ、質量4000万トン出力2300億Wのブラックホールを生み出す計画。

人工ブラックホールは、放射が上回る為に安全で、重力で捕獲できるので扱いやすい。

L3にでも浮かべとけば2億年使える発電所ができる。

「良いね」

いい感じの計画が出来た。

後はシミュレーションして、結果を学者連中に審議させれば完了だ。



さて、忙しくなるぞ。



[41032] 第八話
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:945c91d1
Date: 2015/03/22 09:40
平成30年1月1日

今年は実家で過ごした。

公正に忘れられてて地味にショック。

そりゃ、小さい頃に二年も顔出さないと忘れられてるわ。

ショックを受けただけではなんなので、実家にポートを設置してきた。

これで何時でも遊びに来れる。




火星と金星のテラフォーミングを計画し、ブラックホール発電所まで造ろうとしてる。

人類の躍進は止まる所を知らない。

となれば、次は何だろう?

矢張り恒星間文明への発展と、播種だろうか

必要となるのは

「恒星間宇宙船か」

恒星間宇宙船と言っても、超光速宇宙船と亜光速宇宙船の両方がある。

ワームホールレーザー送電技術を使えば、無限の質量効率で動く亜光速宇宙船が作れる。

が、どうせ作るなら超光速宇宙船を作りたい。

理論は何が有ったかな?




平成30年1月24日

日重は、余剰次元を操作し、光速を超えて航行する超光速宇宙船の開発を発表。
同時に、ワームホール送電技術を富士シリーズに導入する事を発表。

ワームホール送電を導入する事で、3G加速を無限に続ける事が可能になり、木星へも2日で到着できるようになる。




最早、この地球上に日本の敵は居ない。

空と海はマッハ7で飛ぶ人型戦闘機に陸は自動人形の軍団で編成される戦力で守られ。

資源とエネルギーと労働力その全てが内製化され、貧困も無い社会が実現してる。

犯罪もAIが事前に予測し、自動人形を派遣する事でその多くが未然に防がれ。

十分なリソースが有ればこそ可能な社会が実現してるそんな時代。

そんな時代だからこそ足りない物というのが出て来る。

仕事だ。

労働の多くは自動人形とナノマシン工作機が担い、人々は労働から解放された。

ベーシックインカムのお陰で日々の生活に不安も無い。

だが、人々は物足りないと感じる。

もっとより良い暮らしを、もっと豊かな暮らしを、それで人々は仕事を求める。

しかし、仕事は無い。

必要とされる人間は、自動人形では難しい頭脳労働や芸術的センスが要求される分野だけ。

だから、人々はスキルの取得に乗り出した。

大学業時代の到来だ。



「大学の新設相次ぐかぁ、結構な事だね」

科学者の人口が増えればそれだけ科学の発展が早まる。

それだけ僕は楽が出来る。

「ふたりは将来何になりたいの?」

「取り敢えず良い大学行って、それからかな?お母さんもそう言ってるし」

「私は技術者になりたいわ。自分で何かを作ってみたいの」

「明日奈自身は何に成りたいの?」

「……笑わない?ケーキ屋さん」

「へー、パティシエかぁ。未だに自動人形には難しい分野だよねぇ」

「へー、そうなんだ」

「じゃなくて、接客の方なんだ……」

「ああ、付加価値接客かぁ」

自動人形が大きく接客業に進出する事で、逆に人間が接客するという付加価値を付ける店も出て来て、それなりに成功してる。

「ケーキ屋さんかぁ。かわいいね。明日奈にピッタリ」

「私も応援するわよ」

「へへ、ありがとう」




平成30年3月4日

日重は、転送ポートを使わない遠隔転送装置を開発したと発表。

ワームホールを探査アレイ化する事で、転送装置から遠隔地の物体を転送する手法を開発。

物質の再現性の問題で、数千キロが限界だが、転送がポート間以外でも使えるようになる。

大転送時代の始まりだ。



「何これ、メガネ?」

「私、目悪くないよ」

「良いから掛けてみて」

頭に?を浮かべてるふたりを宥めて眼鏡を掛けさせる。

「じゃあ改めて、ジャーン、転送メガネー」

「転送メガネーって、もしかしてこれが転送装置って事?!」

詩乃が驚いたような声を上げる。

「惜しいけど違う、転送装置を其処まで小型化は出来てない。正確には端末だね」

「端末、じゃあ。これで転送出来るのね」

「正解。ふたりともAR画面を選択して見て」

二人にスタートアップと書かれた画面をタッチさせる。

「次に現在地確定を押して、次にオートイメージャを起動、思い浮かべて家の玄関を、次に転送にタッチ」

ヴンヴンという音と共に二人の姿が消えた。

じゃあ僕も。

「転送」

ふたりが呆然と玄関に佇んでる。

「凄いじゃない!」

詩乃は凄い凄いと言ってくる。

「転送眼鏡って、やっぱりこう言う事なんだ」

明日奈は、予測が付いてたのか眼鏡を掲げたり触りながらも、やっぱりという感じだ。

「どうよ、転送眼鏡凄いでしょ。それプレゼント、家の玄関は自由転送空間に設定しといたから、何時でも入れるよ」

「嬉しい、有り難う」

「有り難う」

明日奈が次いで詩乃がジャンプしながら抱きついて来た。

女の子の甘い香りがした。


転送眼鏡は、自動人形を上回る大ヒット商品となった。

世界中で売れに売れ、一時転送の処理待ちが発生するほどだった。

転送眼鏡の仕組みは簡単だ。

GPSと思考操作端末を仕込んだAR眼鏡がワームホールプローブを起動。

眼鏡が思考を読み取り、目的地と出発点を繋ぐ事で転送を実施する。

プローブが事前に転送先を精査する事で、安全も確保できる。


転送端末は、緊急車両等にも実装され出す。




平成30年5月7日

日重は超光速宇宙船の建造を発表。

超光速宇宙船は全長320m全幅全高300mの大根のような形、大根の葉っぱの部分から十字に4本の可動式の副船体が生えてる形状。

船体表面にはアレイ状のワームホール発生装置が配され、センサーユニットと武器システムを兼ねる。

主砲には80センチ中性粒子砲を2門、副砲には100センチ電磁砲を4門搭載、その他レーザーメーザーアレイ多数搭載。


「見事だね」

建造を指揮した武蔵型自動人形を誉める。

「有り難う御座います。此処まで来れたのも飛鳥様のお陰です――以上」

「概要設計と要素技術を提供しただけさ、此処まで来れたのは君が頑張ったからだ。艦長人事は最善の人材を用意する。期待しといてくれ」

艤装長と同じで、建造を指揮したAIが艦船の統制AIを兼務する。

彼女たちは、自分の身体は自分が一番よく知ってるを地で行く存在だ。

「委細、お任せ致します――以上」




平成30年6月10日

今年の誕生日は、開発中の月面を貸し切っての盛大な物だった。

全面ガラス張りのクレーターの中、地球を見ながら音楽や料理、その他出し物を楽しんだ。

全高10mもある巨大作業ナノマシンボットがお手玉する様は見応えが有った。

柔軟性と力強さ、精密性の賜物だ。

「あの大きいやつ凄かったわね」


「そうだね。僕も驚いたよ」

掛け値無しにそう思う。

大した迫力だった。

「驚いたと言えばこの基地にも驚いたわ。天井全てがガラス張りで地球が見えるんだから」

「迫力有るでしょ、此処に街を作る予定なんだ。この広大ながらんとした光景は今だけだよ」

今この空間に有るのは屋根を支える支柱と工事資材だけ。

時期が来れば、八階建てのビルぐらい建設される予定だ。

「相変わらず凄い物を作るのね」

「ほんと、呆れるわね」

ほへーとした明日奈と詩乃。

「まあ、良いじゃん。あいつの試乗でもしようよ」

頭の無い象のような作業用ナノマシンロボット通称サーブボットを指差して言う。

「あのおっきいの!?」

明日奈が食いついてきた。

「でっかいのでもちっさいのでも」

ちょいちょいと、中型犬サイズのサーブボットを呼び寄せると持ち上げて詩乃に渡す。

「ちょ、重く…ない。案外軽いのね、こいつ。それに手触りもモチモチしてる」

渡されたサーブボットを持ち上げたりして見てる。

「私にも触らせて触らせて」

「はいはい、よっと、はい」

「何これ、柔らかい。モチモチしてる~」

渡された明日奈は、サーブボットを抱き締めると、笑いながら頬ずりし始めた。

実に気持ちよさそうだ。

詩乃もサーブボットの腹をぷにぷにしてる。


お、そろそろだな。

「2人とも帰ってきて、迎えが到着したから」

「まだ帰る時間じゃ、って、さっきのでっかいやつ」

2人の後ろを見ると特大サーブボットが、その巨体を寝かせて待っていた。

ご丁寧に腹の部分には階段が出来ている。

「さ、登って登って」

ふたりをサーブボットに登らせると視界が開けた。

視線が工事資材より上に有るのだ。

サーブボットが身体をのっそりと立ち上がらせると、のそのそ歩き始めた。

「早い早い!」

明日奈が飛び跳ねて喜んでいる。

「ちょっと動いたら危ないわよ!?」

「詩乃大丈夫だって、客席の周りにはシールド張ってるから」

サーブボットの背中には窪みがあり、それを囲むように反発型のシールドが張られてる。

サーブボットはズシンとズシンとゆっくり移動する。

壮観だ、まるで自分が巨人に成ったかのような気分になる。

「凄いね。みんなちっさく見える」

「そうね。あれが武蔵さんたちよね。おーい」

「おーい、やっほー」

『どうされました?――以上』

「何でも無いの呼んだだけ、ねー」

ねーって、言われても困るんだけど、全く。

「じゃあ、次に行こうか」




平成30年8月1日

恒星間航行用、超光速宇宙艦ふそうが進水。

この日、日重の神戸ドックで統合自衛隊初の航宙艦が進水を迎えた。

ふそうは、日本が戦後建造した自衛艦の中で最大にして最強。

水中、空、宇宙と全領域に対応した性能を誇る。

その性能は、単艦で世界中の軍隊を圧倒出来るほどで、近隣諸国は懸念を呈しているとかいないとか。


「まあ平常運転だよね」

他国の事は兎も角、これで近隣恒星系の探査が進む。

これ以降、統合自衛隊は系外星系探査任務とその防衛を第一としていく事になる。

予定だ。

何時の間にか、他星系を領有しに行く。

何時の間にか開発して、何時の間にか植民して行く事に成るだろう。

そうなればこっちの物だ。

地球絶対防衛圏を築いてやると、後から来た国家は相乗りするしか無くなるわけだ。

日本語を宇宙語に計画の完成だ。




「あ、これ可愛い!」

「でもちょっと派手じゃない?」

「そう?明日奈には似合うんじゃないかな」

ノーベル賞とか勲章賞は何回貰っても嬉しい物だ。

それは、自分が認められた気がするからだ。

承認欲求を満たされるのは良いのだが、同時にマスコミの取材攻勢に晒されるのは僻々する。

特に映像や顔写真は勘弁して欲しい。

プライベートが無くなるのだ。

「あの、結城飛鳥くんですよね。握手して貰えますか?」

ほらまた。

このように出掛けてる最中に声を掛けられると、休み気分を台無しにされて最悪だ。

「ナノマシンのお陰で母が助かったんです。有り難う御座います」

「いえいえ、僕は出来る事をしただけですから」

握手に応えながら笑顔で返事をする。

この人も善意で近寄ってきたのだ、無碍には出来ない。

「最近、ああいう人増えたね」

「ほら、この間三回目のノーベル賞取ったから、特集番組を色んな所でやってたわよ」

「有名税は仕方ないにしても面倒だよ」

「帽子でも被れば?」

帽子、帽子かぁ。




平成30年9月7日

日重は簡易的な光学迷彩技術を使用した眼鏡を発表。

眼鏡を掛けると顔が変わるという物、但し誤魔化せるのは人の目だけで、カメラには正しく写るという代物だった。



[41032] 第九話 異世界救済に乗り出すそうです
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2015/04/03 08:58
平成30年12月2日

超大規模AI、高天原から警告が発せられた。

高天原は、5台の超AIで構成される社会予測システムで、

国内や世界情勢を多角的に分析し、高い角度で予測する所謂未来予知システムである。

その高天原から警告が発せられたのだ。

現在進行してる形でワームホール文明が発展すると、

出現が予測される時空間兵器が実用化した時に文明レベルの重大なダメージを受けるとの事。

要はワームホールに頼りすぎないで、文明圏を構成させろとのお達しだ。

ワームホール送電技術を捨てるのは惜しいが、危険性が有る物を使い続けるのはダメだ。

高天原はその為に作ったのだから。

にしてもどうするか、多段階融合炉の効率改善は既に理論レベルで限界に来てる。

地上はそれでも良いとして。

宇宙のエネルギー輸送手段となると、一度諦めた反物質か小質量のブラックホールしかなくなる。


扱い易い反物質で行くか、いやブラックホールも捨てがたいな



唐突だが、発明のエッセンスというのは日常に転がってたりする。

フライパンの表面で踊る水滴を見たとき、ハッと思い浮かんだ

「……ライデンフロスト効果」

「ええ、水気を切ってもどうしても野菜から出てしまうのです」

同じ物を見て鹿角が説明してるが、正直それはどうでも良い。

熱で細胞壁を構成するセルロースが破壊され、水が出る現象なんて分かり切ってる。

此処、数週間頭を悩ましてきた問題に対する違うアプローチを見つけた興奮で胸が一杯になり、

思わず鹿角を後ろからぎゅっと抱き締めてしまった。

「鹿角!、愛してる、最高だよ!料理作ってくれて有り難う!!」

「いきなり何ですか」

今までは蒸発の遅い数千万トンの比較的重いブラックホールを発生させて、

如何に利用するかに焦点を絞って研究してきたが、

マイクログラム単位の極小ブラックホールでも任意に蒸発を抑えられば、

タイミングを制御して質量の投入によるブラックホールの維持とエネルギーの取り出しを両立できる。

このアプローチには直感的な手応えを感じる。

理論的な検討を重ねる必要が有るが、ざっくりと演繹を組み立てただけでも上手く行く綺麗なモデルが構築できた。

「マイクロブラックホールで発電機が出来そうなんだ!愛してる鹿角!」

「はぁ、分かりましたから離して下さい」

気がつくと、野菜炒めはいい感じに焼き上がってた。

「反応薄いよ。マイクロブラックホール発電だよ。画期的だろ」

「はいはい、画期的です」

もうちょっと喜んでくれても良いだろうに、自動人形にも資するエネルギー源になるんだから。

これは、多段階融合炉を置き換える超高効率のエネルギー源になりえる。

第二のエネルギー革命だ。




平成30年12月28日

日重はマイクロブラックホールを使った発電技術を開発したと発表。

ワームホール送電技術を置き換えて行く事になる。





平成31年1月1日

転送の影響で、常日頃から実家に顔を出してるので、今年はラボで過ごそう。

としてたら、詩乃が初詣に行こうと誘ってきた。

せっかくなので、富士山に御来光を拝みに行こうと相成り。

「下は混んでるわね」

「富士山だからね。麗たちを連れてきて正解だったでしょ」

今、僕たちは富士山山頂の20メートル上に浮かんでる。

下は凄い人混みだ、山頂に入りきらずに登山道にまで人が溢れてる。

何人か、僕たちと同じ考えの人間もちらほら居て、自動人形に抱えられて浮かんでるのが見える。

警察発表では三万人を超えたとか。

何もかも転送技術で、気軽に観光地に来れるように成ったせいだろう。

「そろそろですわよ」

お、御来光だ。拝んどこ。

初詣は、詩乃のお母さんと一緒に近所の神社に行った。

「二人ともお賽銭入れた?」

詩乃のお母さん、明恵さんが聞いてくる。

「入れました」

「入れた」

「じゃあ、お祈りして」

パンパン

「この後はそうね。御神籤でも引こうかしら、それとももう帰る?」

「御神籤引きたい」

「じゃあ、僕も」

御神籤も引いて小吉、私大吉なんて事やって、一緒に甘酒を飲んで帰った。


まあ、一年の始まりとしてはなかなかのスタート何じゃないだろうか。




平成31年1月7日

新年なので、去年何かやり残した事が無いかと思索する。

去年と言えば、ナノマシンエイズ治療薬などが国が補助金で補填される無料医薬品に指定された。

エイズ治療薬といえば、紺野木綿季藍子姉妹がどうなってるか気になったので調べてみた。

結果は全員治療済み。

特に特筆すべき所もなく、自動人形も2体交付され幸福な家庭を築いてた。

いやはや良かった良かった。

調べる前はチョット怖かったのだ。




平成31年2月8日

日重は、とある化合物をナノマシンで細胞に導入する事で細胞を若返らせる事に成功したと発表。

被験者は89歳だったのが、3ヶ月で肉体年齢20歳相当へ変わったと示した。

その認可がされたのだ。


「若返り薬かぁ」

明日奈は何か言いたそうにモニターを見てる。

「どうしたの?」

「お母さんが飲みたいって、言っててね。お願い出来ないかなって」

頼みにくそうに言うから何かと思ったらそんな事か。

「ねじ込めるよ。それぐらい軽い軽い」

「本当に良かった」

安心したように笑う明日奈は、本当に天使かと思った。




平成31年3月20日

去年の8月から、やまと、ながと、ひぜん、おおみ、はりま、するがなど。

28隻のふそう型航宙艦が相次いで就役、恒星系探査に乗り出す。

漸く地球から50光年以内の恒星系、凡そ1000星系に転送装置を設置、探査拠点化を完了した。

さて、無開発で居住可能な惑星も発見されているが、未だに知的生命体は居ない。

この速度で宇宙探査を行っても、銀河を探査するだけでも1000年は掛かる。

其処まで待ってられない。

やはり、近所から開発すべきなのか。




平成31年5月1日

「探査機、実体化率92…98、100、実体化しました。データ来ます」

転送した探査機が帰ってきた。

文明の影響が少ないL1宙域に再実体化したそれは、強力なステルスを実装した高度な探査機だった。

センサーログを確認すると
「成功だ!」

思わず叫んでしまった。

探査機は時空間に穴を開け、平行世界に行って帰ってきたのだ。

これで、平行世界への道が開けた。




平成31年5月7日

日重は、平行世界の実証とその観測に成功したと発表。

既に複数の探査機を平行地球へと送り込んでおり、その世界の情報を収集してるとそれらの情報と共に配信した。

これは、世界中で議論を巻き起こして行く事になる。

救済か、放置か

それを決めるのは……。



「救済すべきです!未だに彼等は人同士で相争ってる。機族を派遣し、彼等を平定。
そしてより文明的な種族へと導いていくのが、我々同じ地球人の義務では無いでしょうか?」

「性急に過ぎる!彼等には彼等の歴史が有るんだ。外側の勢力が介入して変えて良いものじゃない」

議論は侃々諤々、尽きる事を知らないかのように続いてく。

「お、これは」

そんな議論に付き合ってると、世界探査機PB15号の帰還の知らせと特筆すべき変化を示したデータが送られて来た。

「総会出席者の皆さん、御注目下さい。先ほど帰還した世界探査機から、特筆すべき変化が見られる世界を発見したと報告が有りました」

「ミスター結城、特筆すべき変化とは一体何なのです?」

「地球人類が死に瀕してる世界の発見です」

この報告をどれほど待ちわびた事か、漸く人類はその持て余す力の矛先を存分に向けられる世界に出会えたのだ。

これにより、国連は異世界救済に乗り出す事になる。
「BETAか楽しそうだな」




今回は、チョット短め。



[41032] 第十話 マブラヴ編終了
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2015/05/05 19:38
地球近傍のL1宙域にそれはあった、直径800メートルに及ぶ円形のリング。

そのリングの中に無数の光の粒子が表れ。

粒子は次第に広がり、リングに膜を張り始める。

『時空間座標、αθ324818AQに接続、変換領域展開中、スターター粒子放射、……3、2、1、ゲート開く。変換領域面安定……接続確認、成功です』

そのアナウンスが流れた時、会場は拍手に包まれた。

これで時空間に穴を開け、向こう側と行き来できる超空間ゲートができた。

大規模な輸送が可能になる。





「ふざけんじゃないわよ!」

香月夕呼は苛立っていた。

発端は、銀河系連合を名乗る勢力と国連の接触だった。

銀連は、平行世界の国連が100光年以内の恒星系を支配下に置いた事を記念して発展的改編が行われた組織だそうだ。

そして今もなおその支配領域を拡大しつつある勢力だ。

その勢力は数百年進んだ技術を保有し、その発布に来たというのだ。

其れだけなら良い、良いのだが、オルタナティブ計画を知った銀連は、

オルタナティブ4を共同で研究したいと言い出した。

そして、あれよあれよと言うまに日重とか言う向こうの巨大企業体が計画を吸収する事になってしまった。

このままでは計画の主導権を握られるのは目に見えてる。

面白くない話だ。

せっかく此処まで来たのだから、研究は自分で進めたい。

だが、彼等の力と技術に目が眩んだ国連と帝国に後ろ盾は期待出来そうにない。

せめて中心人物として、ある程度のポジションに食い込まなくては気が済まない。
「社、これから来る人物をリーディングしなさい」

「分かりました」

「その必要は有りませんよ。初めまして、香月博士。日本重化学工業主席研究員の結城飛鳥です」

執務室に突然現れた子供はそう名乗った。

「どっから入って……、転送って奴ね」

「不正解です。ただのアクティブステルスと思考操作ですよ。はいこれプレゼントです。あなたの理論の完成品」

そう言って紙の束を渡してきた。

「何よこれ」

紙束と此方を訝しげに睨んだ後、パラパラと紙束を捲り始める。

暫くすると顔色が変わりだした。

まあ、自分の人生を掛けた研究が他人に答えを示されたのだ、気分は良くないだろう。

「オルタナティブ計画は今日を持って終了。発展的解消となります」




「マグネターの着弾を確認」

マグネターと名前が付けられたそれは、数キロの反物質を燃料に超高速のダイナモ効果を発生させ、

強烈な磁場を広範囲に生み出す爆弾である。

超磁力弾頭の炸裂により地上のBETAは、その含む水分の反磁性により強力な磁力で引き裂かれ、

その制動放射により発生した凄まじいX線により焼かれた。

500キロの広範囲で起こったその惨劇は、軌道上のシールドされた衛星さえ破壊する程の威力だった。

ただ、その威力の割に後の影響は微小の放射能汚染だけで、しかも数日で収束するというクリーンさだ。

「いやあ、作ってみたは良いけれどって、一回大気中で使って見たかったんだよね」

今までは、火星の極の氷を溶かす為に作ったテラフォーミング用の機材だったが、濃大気中で使用してみたかったのだ。

しかしまあ。

「反応炉の破壊を確認しました」

「やっぱり、威力がデカすぎたか、あははは」

いやあ、失敗失敗。

磁場が地表で弱められると推定してたけど、想定を大きく見積もり過ぎたか。

ま、まだまだハイヴは有るから大丈夫だろ。





「副砲発射せよ」

「100センチ電磁砲発射……目標モニュメントに着弾。弾頭共々赤外線に変換された模様……電磁波収束します。目標の消滅を確認」

光速の3パーセントとという、凄まじい速度で撃ち出された弾体は、着弾と同時に蒸発。

その着弾の衝撃と熱により発生したプラズマにより生み出された電磁波の嵐が収束して、モニュメントの有った場所が見えてきた。

「メインシャフト消滅を確認、反応炉反応の消失を確認」

うーん加減が難しい。





光線級、重光線級からレーザーが星船せいせんに突き刺さる。

幾重もの障壁で張られたシールドは小揺るぎもしない。

「複数のレーザー照射を検知、力場装甲正常動作、出力98%を維持」

「アレイレーザー収束照射、照射開始。目標物崩壊を開始」

「照射を継続して奴らにドロドロの構造材を浴びせろ」

「了解」

「突入隊、発艦開始。制圧せよ」

人型戦闘機が次々と発艦していく。

地上から迎撃の光杖が幾つも上がるが、戦闘機たちは全く意に返さない。

それは、自分たちの張るシールドを突破出来ないと知ってるからだ。

そうこうしてる内に、母艦のアレイレーザーや戦闘機が持つプラズマ砲により逆に光線種が一掃されていく。

「AV-1突入しますわ」

「同じくAV-2突入する」

彼女たちは音無麗に天童蘭今回の突入作戦の栄えはる一番槍に任命されたコンビである。

目的は、ハイブ内BETAの一掃と反応炉の確保。



「あれだけ攻撃したのにレーザーが凄い数だ」

メインシャフトに突入すると数十の光杖が麗たちに突き刺さる。

「一気に潰しますわ」

そう言うと麗は袖口から万年筆に似た形状のマイクロミサイルを数十ばら撒くと一気に点火、光線種に撃ち込み始めた。

装薬と弾頭にアイソマー爆薬を使用した一撃は、その固い表皮を打ち破り炸裂。

光線種を木っ端微塵にする。

「こちらAV-1、光線種の沈黙を確認、転送強化弾を打ち込みます」

麗は、そう連絡を入れるとポケットから身長を優に超えるペネトレーターを取り出した。

蘭や他の戦闘機たちも同様にペネトレーターをポケットから取り出し構える。

「撃て!」

戦闘機の重力制御により撃ち出されたペネトレーターは地表部を突き破りモニュメントの最下層、大広間へと道を作る。

「転送」

ブンという音と共に戦闘機たちが大広間に転送された。

「制圧開始」

「各機近接戦用意」

ゲート級を通り、BETAが雲霞のごとく押し寄せてくる。

しかし要塞級がプラズマで焼かれ、突撃級がその固い装甲をレーザーで斬られ、要撃級がマイクロミサイルで次々に破裂していく。

戦車級などの小型種は飛び込んでは重力障壁でグチャグチャのスプラッタにされる始末。

大広間は今やBETAの処刑場と化していた。

その模様に変化が訪れる。

『こちらふそう、天蓋部の切断を確認――以上』

ふそうのその報告が聞こえると共に大広間の天井がバラバラと切り取られ始めた。

アレイレーザーにより切断された天井が、トラクタービームにより持ち上げられたのだ。

ふそうは、そのまま天井の残骸を上昇させると外に放り出す。

そうして開けた開口部へと、ふそうが艦首を突っ込んできた。

戦闘機だけでも一方的だった戦況がふそうが加わった事で、消化試合へと様相が変わる。

アレイレーザーは屍の山を築き上げ、副船体の凪払いは数十のBETAを一気に血煙へと変える。

「そろそろですわね」

「そうだな、出が悪くなった」

そうこうしてる内に大広間に殺到してたBETAの出現数が目に見えて減ってきた。

そして遂にはBETAが出現しなくなってしまった。

『地下部分の掃討を確認、地表部のBETAも掃討を確認。作戦完了です。お疲れ様でした――以上』

「いやあ、スムーズな作戦でした。目標である無傷の反応炉の確保も達成。万々歳です」
やはり、地道に削るべきだったらしい。
ふう良かった。




「転送爆雷実体化」

フィルムケースのような金属缶がBETAの傍へと実体化する。

辺り一面を埋め尽くす勢いのBETAの群れの端から爆炎が上がると。

それを切欠に次から次へと波紋のようにBETA群の中から爆炎が伝搬していく

転送爆雷による攻撃だ。

同時転送数の上限からこのような攻撃になったのだ。

その数数万個、それらが炸裂し地表に爆炎の暴威が現出した。

「地表部のBETA群凡そ、99%を撃破」

「突入開始」

そうアナウンスが有った直後、侍女服を纏った一団が4っつの広間へと繋がる坑道へと侵入していく。

侍女たちは、ある者は、10mm電磁銃をある者は重力刀を持ちBETAを殲滅していく。

優先順位から肉薄する戦車級や兵士級などの小型種は居るが、その全ては超圧縮された厚さ数センチの鋼板で切り刻まれ、或いは叩き潰されていく。

屋内戦闘は侍女達の十八番、戦闘機よりも効率的にBETAを刈っていく。

戦闘機に比べて殲滅速度自体は遅いが、ハイヴ構造へのダメージは最小限だ。

前回、インドの13号ハイヴ攻略で戦闘機と星船による突入戦術が使われたが、

戦闘による構造体へのダメージが思いのほか激しく。

地下水の侵入で浸水してしまったのだ。

そこで、一号ハイヴ、通称オリジナルハイヴ攻略では、市街地戦装備のみで攻略する運びとなったのだ。




「こいつがオリジナルハイヴの反応炉ね」

報告書によると武器となる触腕は全て切断済み、三重のシールドにより拘束中と。

「意志の疎通が可能なようです」

工作型機族の芽依がそう報告してくる。

こいつがただの反応"炉"でない事は横浜や13号ハイヴのデータから解ってる。

さてと「かかるぞ」


BETAの脅威は片付いた。

重力波を通信手段に使ってた此奴等のネットワークをハック、

管理者権限を書き換えBETAが停止するように命令をしたのだ。

これで太陽系のBETA群は活動を全て停止する事になる。

不可解な事と言えばセキュリティーがガバガバだった事だろう。

どうぞ書き換えて下さいと言わんばかりのプログラム構造だった。

恐らくはこの資源採掘マシンの創造主は、一定以上の文明と争いたくなかったと思える。

BETAをねじ伏せてネットワークを解析できる文明なら大した事には成らなかったろう。

だが、ねじ伏せられない程度の文明は無視して良い。

そういう配慮の無さが透けて見えると言えば穿ち過ぎだろうか。

しかしだ、取り敢えず此処には復讐に燃える地球人とお節介な異世界人が居る。

傍迷惑な採掘機械を送ってきた文明には、相応の礼をしなければ収まらないだろう。

我々は地球人を助け、ただ技術を広めるのみ、これからはただ見守るだけだ。

供与した技術が復讐に使われようと知った事では無いのである。



[41032] 第11話 帰還そしてリゾート
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2015/06/10 07:43
結局、介入開始から地球と月からBETAが駆除されるまで半月も掛からなかった。

太陽系からBETAを駆除した後も、次元転送技術を使った介入は続く。

各国難民の帰還に貧困の撲滅、食料事情の改善、植生の回復、国家態勢の再構築など。

それらが一段落するまで銀連による支援が行われる予定だ。

そして、数年もすれば目論見通り、機族に頼らなければたち行かない国家が複数出現するだろう。

世界を救った見返りは星間同盟の締結とそれだけだ。

はっきり言って赤字だが、コストでどうこう言うには生産力過剰過ぎで問題にはならない。

今も未開拓恒星系の開発と植民が進んで、銀連市民がどれだけ贅沢な暮らしをしても使い切れない資源が山積み状態だ。

転送技術の予備手段として整備されてる超光速船。

全長3キロの大型恒星間輸送船が、10人で一隻使える位に船も余ってる。

木星と土星の駐船場はいまもいっぱいいっぱいだ。

BETA地球の救済など片手間なのだ。

では余ったリソースは何に使ってるかと言うと。

未開恒星系の探査及び開発と次元転移技術を持たない世界の探査とそして交流だ。





平成31年7月5日

「「「「お帰りなさいませ」」」」

「お帰り」

「お帰り、異世界ってどんなだった?」

侍女の皆と明日奈と詩乃が揃って出迎えをしてくれた。

実に1ヵ月ぶりの家だ。

「ただいま」

「其方の方がお客様でしょうか?」

同い年位の少女が僕の後ろに居る。

「そう。社霞さん今日から此処に住むから」

何故わざわざ此処にという疑問が明日奈たちの顔に浮かぶ。


「向こうじゃ、政治的なゴタゴタに巻き込まれそうだったから連れてきたんだ」

そう説明すると一応納得された。

「お世話になります」

そう言って霞はぺこりとお辞儀して答える。

「じゃあ、うちの学校に通うの?」

「中等部にね」

「へー」

興味津々と言う感じの2人。

「ふむ、4人で何処か行こうか?あ、そうだ、ホットジュピター見に行こう」

「ホットジュピターって何?」

詩乃が疑問顔で聞いてくる。

「太陽に近いガス惑星です」

返そうとしたら霞が答えてくれた。

「そうそう。地球から82光年の連星系HD38471のハビタブルゾーンに存在するガス惑星の衛星α134基地、呼吸可能な大気が存在する海の星」

そう言って、3Dイメージを空間に投影する。

白い砂浜、瑪瑙色の海に巨大な深い蒼い星が空に浮かぶリゾート地という趣だ。

「水上コテージも整備済み。今からでも行けるよ」

「じゃあ、夜までなら。」

「私も夕御飯までなら大丈夫」

「私も行ってみたいです」

詩乃、明日奈、霞の全員が承諾してくれた。

今は朝の10時、満喫するには十分だろう。

「じゃあ国分寺さん付いて来てくれる?」

「畏まりました」

国分寺がペコリとお辞儀して答える。

「じゃあ、5名転送」

ヴン





視直径1メートルの巨大な蒼い惑星が見える

「凄いね、おっきい」

「凄いです」

「こっちが衛星なんだよね」

明日奈がそう質問して来る。

「そう、公転周期は2週間、自転周期は23時間であのガス惑星を回ってる。でも主星の照り返しで夜でも地球の夕方並みに明るいから、2週間の内ちゃんとした夜は3日だけなんだ」



「水着選んだよね。じゃあ遊ぼっか」

「あ、日焼け止め塗らなきゃ」

「此処のシールドは放射線から紫外線までカットしてるから大丈夫だよ」

「へー、至れり尽くせりね」

詩乃が感心したように言う。

それから4人で水上バイクで引っ張られるバナナボートに乗り、

侍女型機族がインストラクターを勤めるサーフィン講習を体験し、お昼にはバーベキューをして

午後にはパラセールをして遊んだ。

写真も国分寺さんに沢山撮って貰った。

その後島の深部に行って、この惑星本来の生態系を見学した。

巨大なアノマロカリスに似た生物や巨大な兜蟹は衝撃的だったらく。

直径4キロ程の浮島を囲むシールドの外側の海がこうなってると知ってショックだったらしい。

そんなこんなで、リゾート体験は終わった。

「どうだった?」

霞に感想を聞いて見た。

「楽しかったです」

アノマロカリスの縫いぐるみを抱きしめながら、満足そうな様子に安心する。




1ヵ月ぶりの家だが仕事は無くならない。

継続的に行われてる次元探査で、様々な介入の余地が有る世界が出て来たのだ。

ソ連が崩壊してなくて、核戦争の脅威が寸前まで差し迫って有る世界。

ガストレアというウイルスが世界中の生物に蔓延し、人類が追い詰められてる世界。

ガミラスやゴアウルドと言った恒星間文明と戦ってる世界。

銀連はそれらの世界に対して悉く介入を決定した。

相互同盟を掲げ、それを結んだ世界の地域へと進出して行く。

この動きに対して批判は多い。

基軸世界の銀河すら掌握してないのに異世界へと遠征する意味は有るのかとか。わざわざ敵を作ってまで救済する必要性とかだ。

だが、娯楽に飢えた地球人の暇つぶしに新しい変化は必要だ。

同じ地球人を救いたいとか、感謝されたいとかいう大勢に押し流されてそう言う慎重論は少数意見だ。

下手するとゲート閉じてケツ捲りゃ良いやという安心感もあるのだろう。

ゴアウルドとは話にならなかったようだがガミラスとは対話が可能だ。

向こうの国連宇宙海軍では力が足りなかっただけで、
三百隻の戦艦を浮かべ敵の拠点と成っていた冥王星を転送と電子攻撃で陥落させ、
将兵を捕虜にすれば対話の席に乗せる事が可能だった。

転送を妨害する手段が無い文明には阻止不可能な攻撃だ。

今は遊星爆弾で傷ついた地球の復興と太陽系防衛圏の再構築に技術交流を深めてる最中だ。

本邦より裾野が広い亜空間技術が魅力的な世界だ。

冥王星で手に入れたガミラスの技術を含め、手に入れた技術を検証しにかかる。

「ふむふむ、そーだなぁ」

新しい技術を前にして、これなら直ぐに出来るか?とアイデアが次々に浮かんで来る。

コンピューターコアを亜空間に沈めて超光速で演算させるか。

簡単なアイデアだが実現すればコンピューターの飛躍的な進化が起きる。

さて、そんなアイデアには先人が居るはず。

何故実現してないのか一つ一つ原因を潰して行く。


「亜空間の波動と安定性の問題か、さてこれを解消するにはライトコーンの外側からアプローチして……」

そんな事を考えてると、コンコンコンとドアがノックされた。

このノックの仕方は明日奈かな。

「どうしたの?」

開けると案の定明日奈だった。

両サイドを三つ編みにしてて何時ものストレートと違ってちょっと可愛い目。

肩に掴まってる子猫型の走狗が幼さを引き立ててる。

「誕生日渡せなかったから渡そうと思って、これ改めて誕生日おめでとう」

「開けて良い?」

「うん」

そう言って開けると50色セットの色鉛筆とクッキーだった。

仕事柄スケッチは多用するし実用的な贈り物だ。

「有り難う、大事に使うし、大事に食べさせて貰うよ」

「うん、用事はそれだけだからじゃあね」

「あ、ちょっと待って、これ持って行って」

そう言って印籠を渡す

「シールド印籠なら持ってるよ」

これこれとポケットからそれが出て来る。

「前に渡したそれのバージョンアップ版なんだ。
脅威度判定プログラムの改善に真空中に放り出されても50時間は保つ気密維持に空調機能つき。
シールドを張ってれば雨の日もカラッと爽やかだよ」

「エアコン付きかぁ、相変わらずすごいね。有り難うそれじゃまたね」

ヴン

そう言って明日奈は転送で帰って行った。





「ASかぁ、大型の人型ロボットだけが歪に発達した世界で、米ソ対立の末に核戦争の寸前まで言った世界」

今は軌道上を銀連に占拠され双方の陣営は戦力移動を制限されてる。

その世界の技術的産物を持ってきたが、技術的に見るべき物は特に無い。

ただ機能美として造形はタイプだ。

特にサベージとか萌える。
「そうだ!見せ物として良いかも」

全高8メートルのロボットに競技場で格闘させるリアルロボットバトル。

こりゃ行けるかも。

戦闘機や侍女型同士の模擬戦では迫力はないからな。

そうと決まれば早速。

「あ、広報の吉岡さん?僕です」



[41032] 第12話 フルメタ編
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2015/07/16 03:25
「あー燃え尽きた」

苦節3ヶ月、プロセッサを亜空間に沈める事で超光速演算が可能なコンピューターを実用化できた。

その過程で亜空間物理学に置いて数々のブレイクスルーが必要だったが何とか漕ぎ着けた。

「霞、褒めてくれー、亜空間コンピューターがやっと終わったんだよー」

「こうでしょうか?」

霞が頭を撫でてくれる。

そうそう。こう言うので良いんだよ。

そうだ今日はお祝いしよう。

「今日はすき焼きにしようか?」

霞に聞いてみる。

「すき焼き…いいですね」

「今の段階でメニューを変えられると非常に面倒くさいのですが、移り気な主人を持つと自動人形的にやりがいがある職場なのか悩ましい所ですね――以上」

後ろに控えてた武蔵さんからちょっと待ったコール。

武蔵さん達は感情表現が薄いが表に出ない訳じゃない、彼女を観察した限り本気で嫌という訳じゃなさそうにしてる。

「今日の当番は浅草ですので――以上」

どうやら、そういう事らしい。

そうだ、明日奈も呼んでみようか

今日はひとりだって言ってたし、鍋は大人数で食べると楽しいからな。

「武蔵さん、今日はすき焼きでお願いします。人数は3人、〆はうどんで」

「了解しました。そのように手配します――以上」

武蔵さんに命じて手配してもらう。

一礼する瀟洒な所作は、いつ見ても美しいな。






「αc417332BSで時空間異常?」

『はい、地表を精査していた第28次元探査艦隊所属のシラセが現地名称ヤムスク11にて、大規模な時空間の歪み及び思念波の発振の痕跡を検出しました』

画面に映るのは機族参謀の村田さん。

シラセは、大規模なセンサーを搭載した通信・転送管理艦だ。

そのセンサーは軌道上から地表をナノレベルで精査できる精度を持つ。

異世界の技術調査に置いて、通信掌握と並んで重要な役割を持つ艦だ。

詳細を記した報告書を読む。

何々、1981年12月に何らかの事故により歪みが出現(現地の様子。資料7)、

思念波は時空連続体を超越し、未来からも発振されてると予想(資料8)されるか。

発振されてるデータを見ると断片的にだが技術情報が載せられてるのが分かる。

「成る程、ASを中心とした異様な技術発展の原動力は未来情報か」

前々から不思議だったんだ。

あの世界の特定分野だけの異常な発展は異様に思っていた。

異常の中心には何が有るんだろう?

行って見るか。

「ヤムスク11に飛ぶ、対ESP装備で調査隊の編成をしてくれ。合流はシラセで行う」

『了解しました』

天然のESP能力者がどう反応するのか知りたいな。

「もし良かったら霞も付いて来てくれるかい?」

同じくコタツで暇そうにしてた霞にそう聞くとコクリと頷いてくれた。

「シラセへ、2名時空転送」

ヴン



「結城監察官。ようこそシラセへ」

ツインテールの白髪に小さな眼鏡を掛けた女性が出迎えに来た。

この艦の統制機族のシラセだ。

「調査隊の編成は?」

「既に工作型機族を中心に希望した戦闘機と合わせて18機からなる調査チームを編成してます」

シラセから調査チームの内訳が書かれたタブレットを受け取る。

「それから紹介したい方が……」

何か言いにくそうな様子だな、どうしたんだろう?

暫くすると高校生ぐらいの綺麗な女性が入ってきた。

「久壇 未良(クダン ミラ)さんです」

今回調査するヤムスク11から発振されてる思念波を受信できるんで、調査に同行したいとか。

「何故現地の人が此処に?」

シラセは最高レベルの機密艦だ。

いずれ開示されるにしても、それは段階を追ってという事になってる。

「それは、我々が助けたからです」

何でも、ソ連の非合法研究所に捕らわれたんだとか。

それを知ったシラセが転送で救出、以後療養の為に此処で過ごす事になると。

現地への介入は原則禁止されてるが、機族が非人道的な行為を発見して介入しないという選択は考え難い。

そういう優しく正しい機械を作ったんだから、当然と言えば当然の結果だ。

幸いにも非合法研究所なら知らん顔すれば良いだけ出しな。

「厳罰は覚悟の上です」

「そんな、シラセさんは私を助けただけで悪く有りません」

真剣な表情のシラセとそれを庇う未良さん。

「痕跡は残して無いんだね」

「監視員が居ない隙に、監視カメラは全て無効化してから転送しました。一切我々の痕跡は無いかと」

「艦隊司令部はこの事を把握してるの?」

「いえ、全て私単艦でやった事です」

「ならよし、よくは無いけど。艦隊司令には非常時医療措置と通達しとく、始末書程度は覚悟しといてくれ」

「有り難う御座います」

シラセは、ほ、とした様子。

主人が設定される侍女型と違って、星船や戦闘機が我々銀連に寄り添ってくれるのは、彼女たちの意志でしかない。

僕は銀河系連合、機族統括監察官と言う大仰な役職に就いてるが、実質的な権限は無いに等しい。

それは彼女たちに嫌われないように、我々も正しい主人足らねばならないからだ。

機族は正しい事しかしない。

そんな機族に罰を与えるというのは結構難しい。

ガストレア世界での星船の孤児院化とか、起きて当たり前なのだ。

さて行くか。

「調査隊はもう来てるの?」

「全員シャトルベイに集合してます。空間が不安定なので、シャトルで降下した方が宜しいかと」

「シラセ、シャトルベイに3名転送」

「了解」

ヴヴン




「工作型機族の日渡芽(ひわたし めい)です、調査隊の指揮を執ります」

「うん、宜しく安全第一で頼むよ」

「勿論です」

見た目、同い年ぐらいの機族がそう挨拶してきた。

シャトルは必要な機材を搭載し、サーブボットを4機引き連れて発進する。

シャトルに乗って軌道上から降りる。

シラセが低軌道に居たのは幸いだった。

五分もすれば大気圏に突入し、十分もすれば現地に到着した。

「此処がヤムスク11か、正に廃虚だな」

突然に放置されたのだろう、家の中にはテーブルに食器が並べられた家が窓から確認できる。

「発信源は地下です。戦闘機が先行します」

6機の戦闘機たちが先んじて進んでいく。

『此方、偵察班、発信源と思わしき部屋を発見しました』

偵察班によるとミイラ化した女性の遺体が強烈な思念波の発信源になってるらしい。

僕も影響を受けないように印籠のESP遮断機能を起動させる。

「さて、霞、未良さん行きますよ。調子が悪くなったら引き返しましょう」

そう言って2人の様子を確認する。

顔色も良く、特に問題はなさそうだ。

サーブボットの背に乗って縦穴を降下し、そして横穴を進み、発信源の部屋に辿り着いた。

発信源の部屋は広く、中央と壁に何やら装置が見える。

「霞何か感じる?」

「……強い思いを感じます。怒り、悲しみ、苦痛、そう言った感情がない交ぜになってます」

「未良さんは?」

「デジャヴが酷くなってます。それだけです」

機族は影響を受けてないようで、計測機材を設置し始める。

あまり、長居したくないので自分も手伝う。

「フラクトライトは無事か」

どうやら彼女のフラクトライトが思念波をこの時代に呼び込んでるらしい。

この部屋の構造と彼女の思念が共鳴し、遺体に押し留められてるようだ。

遺体のフラクトライトをプラセオジミウム結晶体に移し替える。

「思念体の移し替え、成功、思念波の発信止まります」

物質的に安定したからか、発信を止めたようだ。

さて、この結晶体どうしよう?

新しい身体でも上げるか。

軌道上のシラセに帰還して、ナノ資材を分けて貰い、ミイラの生前の姿を予測して、人型に整形する。

其処に結晶体を移植して、終わり。

僅か30分の施術である。

「さて、以後のお世話とかはビンテンの医療科に任せるかな」

「……此処は、」

元ミイラ女性はもぞもぞと起き出した。

「おや、起きた見たいですね。調子はどうですか?」



彼女はソフィアと言った。

どうやら実験以後の記憶は無いらしく。

ただ、ずっと夢を見ていたらしい。

そうなら別に構わない。

今回の事で、思念波の増幅技術を獲得できたし、得るものは得た。

我々は彼女の社会復帰を願いつつ、この世界を後にした。




「で、何で家まで付いて来るんですかね?」

わざわざ人払いまでさせて何だろうか。

「君に恩返しがしたくて、私が助けられたのは君のお陰だから」

機族をそう造ってくれたお礼をしたいらしい。

シラセにお礼をしたいと言ったら、自分をそう作った創造主にお礼をして欲しいと言われたそうだ。

しかし、困ったな。

こんな美人さんに何でもして上げるなんて言われたら、色々したくなるじゃないか。

「胸に興味があるの?」
さっきからチラチラ見てたのがバレてたらしい。

トレーナーの上からでも分かる美乳、揉み心地は良いだろう。

そんな事を考えてると未良さんは立ち上がると僕の前で跪いた。

あれ、この状況ちょっとやばくね?

なんで応接室に誰も居ないんだよ。あ、自分でやったんだった。

「こんな身体で良ければ幾らでも使って……」

ソファーに座ってた僕は、そのぽってりした艶やかな唇に追い詰められ。



「やっちまった」

精通はしてたから妊娠するかもしれん。

「まあ、いっか」

深く考えない事にした。気持ち良かったし。

特に困る事が有るわけでもなし。






主人公11歳、おねショタです。



[41032] 第13話 自慢
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2015/07/18 00:36
とある11月の土曜日

「炬燵いいよね。家は炬燵無くって。お爺ちゃんの家には有るんだけど」

「家は炬燵有るけど小さいのよ。身体まで入ったらヒーターにぶつかっちゃって」

「みかん、最後の一個食べて良いですか?」

霞が聞いてきた。

「あ、私食べる」

「私も」

「誰か、居間の炬燵にみかん追加してくれ」

『只今――以上』

なんか、だらけてんな。

明日奈と詩乃は亀のように炬燵で寝ながら宿題してるし、霞は座ってるけどみかん食べつつ昨日のアニメ見ながら宿題してる。

僕も宿題を片付けながらみかん食ってるけど。

こりゃいかんな。

何かイベント考えにゃ。

うーん

「宿題終わったらフルーツ狩りにでも行こうか」

「今の時期に何のフルーツ狩るのよ?」

詩乃が聞いてきた。

「全天候型施設だから、何でも育ててるよ。色んなフルーツ狩り放題」

「相変わらず手広くやってるんだ」

明日奈が呆れたように言う。

「手広くというより、これはアーコロジーの実証だね。東京ジオフロントって知ってる?」

「……確か、東京の地下に巨大な地下居住区を作る計画だよね」

明日奈が思い出すように答えた。

「そう、首都圏の通勤事情を一気に解決する巨大プロジェクトだったんだけど。転送技術の開発、普及により無意味になっちゃったんだよね。だから、閉鎖系でのアーコロジーの研究施設にしたってわけ。今は行政型機族の実証も行ってるよ」

「巨大プロジェクト、自分で駄目にしたんだ……」

また明日奈が呆れたように呟く

「まあ、科学の発展に犠牲は付き物なんだよ。で、フルーツ狩り行かない?」

「行きたいです」

「行く行く」

「私も行くわよ」

先ずは霞が、そして明日奈、詩乃と承諾してくれた。

「よし、決定」





「皆さん初めまして、当施設の管理を任されてます。縫重(ぬえ)と申します」

縫重さんは膝丈まで有る濃い緑髪をストレートに流した正に和風美人といった趣の機族だ。

「さて、今回はフルーツ狩りとの事ですが、何から収穫致しますか?」

縫重さんが聞いてくる。

「先ずは評判が良い苺かな?」

収穫物は販売もしてる。

無農薬で安全な作物として、なかなかお高めな値段で売られてるのだが、どれもこれも評判が良い。

特に苺はテレビで紹介されたほどだ。

「うちの苺は甘いですよ。糖度の高い品種に更にストレスを与えて更に甘くしてあるのです」

縫重さんが心なしか胸を張って自慢げに言う。

「じゃあ、先ずは苺狩りね」

「賛成」

明日奈が賛同し、詩乃が同意すると霞もコクリと首肯した。

「では、D6農業区画ですね。転送で直接行きますか?」

「どうする?観光も兼ねてちょっと歩く?」

「せっかく来たんだから見学もしたいかな」

「私も見学したいわ」

「見学したいです」

僕が提案すると明日奈と詩乃と霞も賛同してくれた。

「では、案内します。此方です」




「にしても広いわねぇ」

詩乃がドームの天井を見上げながら言う。

「直径800メートルある。この階層は最上部の半球空間だね。天井の空は高照度有機ELパネルで映し出されてるんだ」

「こんなおっきな物が人間の技術で作れるなんて、凄い時代になったものね」

「我々機族も含めて、殆どの技術は結城様が作ったのですよ」

明日奈の感想に縫重さんが補足してくれた。

凄いと思ってくれて嬉しいな。この瞬間の為に技術開発してるんだよ。

鬱蒼とした森を抜けると広場にでた。

広場には滑り台やアスレチックスなど、様々な遊具が設置され、同い年かそれより小さな女の子達が遊んでるのが見える。

「あっ!縫重お姉ちゃん!」

その中の1人が此方に気付いて、たたたと向かってきた。

それを切っ掛けに遊具で遊んでた子達が、わっと押し寄せてくる。

ただ、普通と違うのは、殆どの子の目が赤い事だった。

「この子達、新しい子達~?」

その中の1人が縫重に聞いてきた。

「違います。フルーツ狩りに訪れたお客様です」


「ねえ、この子達ってガストレアウイルスチルドレンよね?」

詩乃がヒソヒソ声で聞いてきた。

「そう、受け入れ施設でも有るんだ。要は住人だね。此処で1万人は暮らしてるよ」

詩乃も明日奈も移らないと分かってる病気を怖がる質じゃない。

2人ともそういう風に成るように情報を与えて接して来た。

霞は言わずもがなだ。

「ちょっと、遊んでく?」

「お昼ご飯の腹ごなしに丁度良いわね」

「ちょっと怖いから私は見てる」

詩乃は乗り気だが明日奈と霞は乗り気じゃないみたいだ。

たぶん、これかな

「身体能力の事を考えてるなら大丈夫だよ。この施設の子達は自制を先ず教えられるから」

「……飛鳥くんがそう言うなら」

その後は、一時間ほど鬼ごっこ隠れんぼ野球などをして遊んだ。

普通に遊べた事に明日奈は驚いてた。

やはり京子さんやテレビの影響を受けてるのかな。





苺畑は、多段化され、ピンク色をした有機EL照明に、高分子ゲルの土壌、そこに栄養素を配合した水滴が染み込む人工的な畑だった。

「この棚が収穫時ですね。さあ、幾らでも食べて行って下さい」

縫重さんに示された棚に成ってる苺を鋏で収穫し、そのまま食べる。

「凄い、甘い……」

「これ、ヤバい位甘いわね」

明日奈が驚いたように声を上げると詩乃も驚きを口にする。

霞は、無言で2個目に取り掛かってる。

そうして、みんなで苺をパクつきつつ感想を言い合う。

口当たりの良いシロップを飲んでるみたいに甘く、幾らでも食べれてしまう。

やべえ、止まんね。

「この糖度は凄いね。テレビで紹介される訳だ」

取り敢えず、美食は極めた積もりだったけど。

自分の足元にこれだけの物が転がって居ようとは思わなかった。

おっと、そろそろ止めないと。

「まだまだフルーツは育ててるから、そろそろ次に行こう」

「あの、これ贈り物に出来ますか?」

そう、霞が聞いてきた。

どうやら香月博士に送りたいんだとか。

「分かった。縫重さん、そういう風にお願いします」

「分かりました。手配して置きます」

「ではそれで、宜しくお願いします」




その後、枇杷に蜜柑、パイナップルに葡萄、無花果、ベリー、珍しい物では珈琲豆や羅漢果など、様々なフルーツを狩って食べた。

霞はその度に香月博士に送ってた。

「どうしよう、絶対晩御飯食べれない」

「みんな美味しかったからね。仕方ないわよ」

明日奈が困ったように呟くと、詩乃が宥めるようにそう言った。

「じゃあ、家に泊まってけば?晩御飯も家で食べれば調整効くし」

「お泊まりかぁ。良いね。グッドアイデアだよ。飛鳥くん」

「じゃあ、京子さんにはこっちから言っとくから、詩乃はどうする?」

「私も泊まろうかな?」

「じゃあ、詩乃も決定ね」

その後、豚や牛、羊、山羊などの放牧場なども見学していった。

明日奈も詩乃も霞も、牧羊犬を構い倒したり、乗馬を体験したりで充実した1日を過ごせたようだ。





因みに牧羊犬の名前はベルカとストレルカです。



[41032] 第14話 ブラックブレット編
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2015/07/20 06:04
「痛いよ、やめてよ……」

消え入りそうな少女の声が廃墟に木霊する。

「おら!もっと逃げろよ!面白くねえ!まだ手しか撃ってねぇだろ!」

それを塗り潰すかのように男の怒鳴り散らす声が、次いでパンパンという乾いた大きな音が2回響いた。

自分達が取り囲む少女が這いずるしかしないのに、痺れを切らした男が少女の腕と胴体に銃弾を撃ち込んだのだ。

「いぃぃ!」

「赤目の化け物が!さっさと逃げろよ!」

金属バットを持った別の男が、銃弾を受けた少女の腕を踏みにじる。

「あ゙ぁぁぁぁぁ!!!」

小さな少女の物とは思えない大きな悲鳴が響きわたる。

其処にヴンヴンヴンという複数の音と共に少女たちが舞い降りた。

「此方は銀河系連合である!神妙にしろ!」

少女と男たちの周りを取り囲むように現れたのは3機の戦闘機だった。

彼女たちは男たちが反応する間も与えず、ネットランチャーを向けると男たちに向けて発射した。

時間停滞フィールド発生装置だ。

網は絡まった男たちの時間を極限まで遅くする。

「大丈夫?もう大丈夫だから、あぁ非道い……」

倒れ伏す少女に駆け寄り傷を確認するとその酷さに顔をしかめる。

少女には多数の殴打痕と複数の銃創が確認できた。

「直ぐメドシップへ転送!」

ヴヴン

少女と1機の戦闘機が転送で撤収する。

暫くするとサイレン音が聞こえて来た。

監察庁から通報を受けて警察が出動したのだ。

彼らにこの男達を引き渡さないと行けない。

部外者たる自分達はこうするしかない。

残された2機、渡辺綱美(わたなべ つなみ)とアタランテ・ライオネルはお互いに見合うとポツポツと話始める。

「あの子、大丈夫かなぁ。悔しいなぁ」

「ね。此奴等このまま宇宙に放り出しちゃえれば良いのに」

このまま警察に引き渡しても、このエリアではろくに人権も無い呪われた子供達対する事件だ。

立件もされず釈放されるだけだろう。

でも、こうするしかないのだ。

此処は銀河系連合加盟国では無いから。

銀河系連合は加盟国に人権の保証を強く求める。

呪われた子供達に対する対応でもそうだ。

銀連に加盟すれば、無限のエネルギー、無限の労働力、無限の資源と既存技術では考えられない超技術の数々が手には入る。

それこそガストレアを圧倒する戦力もだ。

だが、世論を形成する層である奪われた世代の呪われた子供達に対する憎悪は未だ強く、加盟国は頭打ち状態だった。





「未だに加盟はしませんか?斉武大統領」

「時期尚早ですな、世論が許さないのですよ」

「銀連は既にスコーピオン、リブラ、サジタリアスなどのあなた方の脅威となり得るゾディアックガストレアを撃破してるのですよ。何が不足なのですか?」

「其処なのです。聖天子殿、銀連加盟は危なすぎる」

斉武は持論を展開する。

銀連加盟国には、教育、医療、政治、経済、司法、そして軍事の全てで機族が深く入り込んでいる事を。

その機族を信頼し、大きく任せるからこそ銀連加盟国の国民はその繁栄を謳歌しているのだ。

しかし、それは既存の国家体制を破壊する行為でもあった。

要は、斉武は自らが築き上げた政治体制(王国)が銀連加盟によって崩されるのが我慢ならないのだ。

東京エリアは聖天子が強権的に銀連加盟を決めた。

銀連の支援により、既に関東の平野部と千葉・神奈川に存在したガストレアを掃討し終え。

その領域は日本海側まで達し、北は新潟県や福島県、南は長野県や愛知県に及ぼうとしている。

「そうですか、残念です」
「此方も驚きましたよ。聖天子殿を使いにするほど銀連は人使いが荒いとは思いませんでした」

斉武は愉快そうに言い放つ。

聖天子自ら銀連加盟を進めに来るとは思っても見なかったらしい。

「いいえ、これは私の意志です。でも実に残念です。捕縛しなさい」

一瞬、斉武は聖天子が何を言ってるのか分からなかった。

この場は、国家元首同士の正式な会談だ。

それも大阪エリアの中心部。

聖天子の護衛について来た機族は一階に留めてある。

脅威となりうる戦力は存在しない筈なのだ。

其処で騙し討ちされるとは露ほども思わなかった。

斉武は知らなかった。

銀連が転送やアクティブステルスのような技術を持ってる事を。

東京エリアでは、一般市民でも知ってる事でも、他のエリアでは機族による完全な情報操作で隠蔽されていたのだ。

「動くな」

10機の戦闘機が会談場に突如現れ、斉武の護衛を無力化すると同時に斉武を捕縛した。

「私をどうする積もりだ!?」

「引退して頂きます。そして大阪エリアは東京エリアに吸収されます」

「ふざけるな!」

斉武は力ずくで振りほどこうともがくが、機族の拘束はビクともしない。

「糞、小娘が!この儘で済むと思うなよ!」

「連れて行きなさい」

「はっ」

聖天子が指示すると2機の戦闘機に拘束されていた斉武は転送で何処かへと連れて行かれた。

「わたくしも、この儘で済むと思ってませんとも」

理由はどうあれ、自分はエリア間戦争の引き金を引いたのだ。

権力を失う事になるかも知れない。

だが、日本を一つにするには、呪われた子供達を救うには、こうするしかないのだ。

自分の師を排除した時のように、聖天子はそれを強く思い直した。





僕は銀連第七艦隊のメドシップ(病院船)に、高精度多次元エネルギーセンサーの設置作業に来ていた。

多次元センサーは、文字通り多次元に渡るエネルギーと情報密度のポテンシャルを測定する機材だ。

この間、明日奈達と一緒に遊んだガストレアウイルスチルドレンに思う所があり急遽開発してみた。

しかし、未だ試験段階だから、このガストレアウイルスの研究拠点となっている此処に自ら設置しに来たのだ。

「日本は東京エリアに統一されましたか……」

「はい、既に仙台、博多エリアは東京エリアに完全に統合されました。現在は最後に統合された札幌エリアの安定化に注力してる所です」

最後の安定化と補正作業をしながら、機族参謀の三波さんからこの世界についての報告を聞く。

「流鏑馬プロジェクトの進捗状況は?」

「現在、92%です。ガストレア識別システムは完成。衛星本体の生産は第一基幹世界で行います」

流鏑馬プロジェクトとは、3万機のギガワット級レーザー攻撃衛星により地表のガストレアをピンポイントで焼却

地球上から陸棲ガストレアを一掃する計画だ。

「これで掃討計画も捗りますね」

三波さんが嬉しそうに言う。

「陸棲ガストレアは、ね。水棲ガストレアは残るし、結局はガストレアウイルスその物の殲滅をしないと」

「ですねぇ、はあ」

疲れたように言う三波さん。

ガストレア殲滅は、対BETA戦時と比べて芳しく無い。

自然の動物その物が敵だからだ。

土地毎焼却してしまえば簡単なのだが、国土の大部分を更地にしてしまう訳にも行かない。

だから、数が多いガストレアを誘引物質で誘導し、殲滅してる。

しかし、それにしても数が多いのだ。

「その殲滅だが、私のアイデアが正しければ目処が立ちそうだよ」

開けっ放しに成ってた部屋の入り口に30位の綺麗な女性が立っていた。

しかし、顔色が悪い人だなぁ。

「あなたは確か室戸博士?どうしてこんな何もない区画に」

三波さんが不思議そうに尋ねる。

「ん、ちょっとね。彼は結城博士だろ?君にちょっと聞いて欲しいアイデアが有るんだ」

室戸博士の話とは、自分の理論の事だった。

何でもガストレアウイルスは、多次元からエネルギーを得てるのではないかと言う話で。

ガストレアの不死性とバラニウム対する反応は其処から来てるのでは無いか。

それを測定するために複数の星船の重力センサーを同調させたいから、力を貸して欲しいとの事だった。

「ふむ、その事は自分も考えてました。だから作って見ました」

そう考えたからこれを作ったのだ。

「……もしかしてこれが?」

部屋の中央にある開放型CTのような機械を指差して言う。

「高精度多次元エネルギーセンサーです。存分に使ってやって下さい」

「君は凄いな……」

室戸博士は呆れたように言う。

「むろとせんせーみーっけ!つぎはせんせーだよ!あ、みなみちゃんだ!こんにちはー」

「はい、こんちには」

6歳位の子が入り口からひょこっと顔を覗かせると、室戸博士を見て笑顔をみせる。

そして、見つけたと言い始め博士の白衣をぐいぐい引っ張って行く。

それに引き摺られながらも言葉を紡ぐ。

「例を言うよ。これで私の理論が実証できる」

「頑張って下さい。これ僕の名刺です。何かあったら連絡下さい」

名刺を渡すと博士は連れて行かれた。

「さて、調整終わらせるか」

さっさと帰らないと、今日は宿題が多いのだ。



[41032] 第11話改訂 帰還そしてリゾート
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2016/04/06 05:14
結局、介入開始から地球と月からBETAが駆除されるまで半月も掛からなかった。

太陽系からBETAを駆除した後も、次元転送技術を使った介入は続く。

各国難民の帰還に貧困の撲滅、食料事情の改善、植生の回復、国家態勢の再構築など。

それらが一段落するまで銀連による支援が行われる予定だ。

そして、数年もすれば目論見通り、機族に頼らなければたち行かない国家が複数出現するだろう。

世界を救った見返りは星間同盟の締結とそれだけだ。

はっきり言って赤字だが、コストでどうこう言うには生産力過剰過ぎで問題にはならない。

今も未開拓恒星系の開発と植民が進んで、銀連市民がどれだけ贅沢な暮らしをしても使い切れない資源が山積み状態だ。

転送技術の予備手段として整備されてる超光速船。

全長3キロの大型恒星間輸送船が、10人で一隻使える位に船も余ってる。

木星と土星の駐船場はいまやいっぱいいっぱいだ。

マブラヴ近似地球の救済など片手間なのだ。

では余ったリソースは何に使ってるかと言うと。

未開恒星系の探査及び開発と次元転移技術を持たない世界の探査とそして交流だ。





平成31年7月5日

「「「「お帰りなさいませ」」」」

「お帰り」

「お帰り、異世界ってどんなだった?」

侍女の皆と明日奈と詩乃が揃って出迎えをしてくれた。

実に1ヵ月ぶりの家だ。

「ただいま」

「其方の方がお客様でしょうか?」

中学生位の少女が僕の後ろに居る。

「そう。社霞さん今日から此処に住むから」

何故わざわざ此処にという疑問が明日奈たちの顔に浮かぶ。


「向こうじゃ、政治的なゴタゴタに巻き込まれそうだったから連れてきたんだ」

そう説明すると一応納得された。

「お世話になります」

そう言って霞はぺこりとお辞儀して答える。

「じゃあ、うちの学校に通うの?」

「中等部にね」

「へー」

興味津々と言う感じの2人。

「ふむ、4人で何処か行こうか?あ、そうだ、ホットジュピター見に行こう」

「ホットジュピターって何?」

詩乃が疑問顔で聞いてくる。

「太陽に近い巨大ガス惑星です」

返そうとしたら霞が答えてくれた。

「そうそう。地球から82光年の連星系HD38471のハビタブルゾーンに存在するガス惑星の衛星α134基地、呼吸可能な大気が存在する海の星」

そう言って、3Dイメージを空間に投影する。

白い砂浜、瑪瑙色の海に巨大な深い蒼い星が空に浮かぶリゾート地という趣だ。

「水上コテージも整備済み。今からでも行けるよ」

「じゃあ、夜までなら。」

「私も夕御飯までなら大丈夫」

「私も行ってみたいです」

詩乃、明日奈、霞の全員が承諾してくれた。

今は朝の10時、満喫するには十分だろう。

「じゃあ国分寺さん付いて来てくれる?」

「畏まりました」

国分寺がペコリとお辞儀して答える。

「じゃあ、5名転送」

ヴン





視直径1メートルの巨大な蒼い惑星が見える

「凄いね、おっきい」

「凄いです」

「こっちが衛星なんだよね」

明日奈がそう質問して来る。

「そう、公転周期は2週間、自転周期は23時間であのガス惑星を回ってる。でも主星の照り返しで夜でも地球の夕方並みに明るいから、2週間の内ちゃんとした夜は3日だけなんだ」



「水着選んだよね。じゃあ遊ぼっか」

「あ、日焼け止め塗らなきゃ」

「此処のシールドは放射線から紫外線までカットしてるから大丈夫だよ」

「へー、至れり尽くせりね」

詩乃が感心したように言う。

それから4人で水上バイクで引っ張られるバナナボートに乗り、

侍女型機族がインストラクターを勤めるサーフィン講習を体験し、お昼にはバーベキューをして

午後にはパラセールをして遊んだ。

写真も国分寺さんに沢山撮って貰った。

その後島の深部に行って、この惑星本来の生態系を見学した。

巨大なアノマロカリスに似た生物や巨大な兜蟹は衝撃的だったらく。

直径4キロ程の浮島を囲むシールドの外側の海がこうなってると知ってショックだったらしい。

そんなこんなで、リゾート体験は終わった。

「どうだった?」

霞に感想を聞いて見た。

「楽しかったです」

アノマロカリスの縫いぐるみを抱きしめながら、満足そうな様子に安心する。




1ヵ月ぶりの家だが仕事は無くならない。

継続的に行われてる次元探査で、様々な介入の余地が有る世界が出て来たのだ。

ソ連が崩壊してなくて、核戦争の脅威が寸前まで差し迫って有る世界。

ガストレアというウイルスが世界中の生物に蔓延し、人類が追い詰められてる世界。

ガミラスやゴアウルドと言った恒星間文明と戦ってる世界。

銀連はそれらの世界に対して悉く介入を決定した。

相互同盟を掲げ、それを結んだ世界の地域へと進出して行く。

この動きに対して批判は多い。

基軸世界の銀河すら掌握してないのに異世界へと遠征する意味は有るのかとか。わざわざ敵を作ってまで救済する必要性とかだ。

だが、娯楽に飢えた地球人の暇つぶしに新しい変化は必要だ。

同じ地球人を救いたいとか、感謝されたいとかいう大勢に押し流されてそう言う慎重論は少数意見だ。

下手するとゲート閉じてケツ捲りゃ良いやという安心感もあるのだろう。

ゴアウルドとは話にならなかったようだがガミラスとは対話が可能だ。

向こうの国連宇宙海軍では力が足りなかっただけで、
三百隻の戦艦を浮かべ敵の拠点と成っていた冥王星を転送と電子攻撃で陥落させ、
将兵を捕虜にすれば対話の席に乗せる事が可能だった。

転送を妨害する手段が無い文明には阻止不可能な攻撃だ。

今は遊星爆弾で傷ついた地球の復興と太陽系防衛圏の再構築に技術交流を深めてる最中だ。

本邦より裾野が広い亜空間技術が魅力的な世界だ。

冥王星で手に入れたガミラスの技術を含め、手に入れた技術を検証しにかかる。

「ふむふむ、そーだなぁ」

新しい技術を前にして、これなら直ぐに出来るか?とアイデアが次々に浮かんで来る。

コンピューターコアを亜空間に沈めて超光速で演算させるか。

簡単なアイデアだが実現すればコンピューターの飛躍的な進化が起きる。

さて、そんなアイデアには先人が居るはず。

何故実現してないのか一つ一つ原因を潰して行く。


「亜空間の波動と安定性の問題か、さてこれを解消するにはライトコーンの外側からアプローチして……」

そんな事を考えてると、コンコンコンとドアがノックされた。

このノックの仕方は明日奈かな。

「どうしたの?」

開けると案の定明日奈だった。

両サイドを三つ編みにしてて何時ものストレートと違ってちょっと可愛い目。

肩に掴まってる子猫型の走狗が幼さを引き立ててる。

「誕生日渡せなかったから渡そうと思って、これ改めて誕生日おめでとう」

「開けて良い?」

「うん」

そう言って開けると50色セットの色鉛筆とクッキーだった。

仕事柄スケッチは多用するし実用的な贈り物だ。

「有り難う、大事に使うし、大事に食べさせて貰うよ」

「うん、用事はそれだけだからじゃあね」

「あ、ちょっと待って、これ持って行って」

そう言って印籠を渡す

「シールド印籠なら持ってるよ」

これこれとポケットからそれが出て来る。

「前に渡したそれのバージョンアップ版なんだ。
脅威度判定プログラムの改善に真空中に放り出されても50時間は保つ気密維持に空調機能つき。
シールドを張ってれば雨の日もカラッと爽やかだよ」

「エアコン付きかぁ、相変わらずすごいね。有り難うそれじゃまたね」

ヴン

そう言って明日奈は転送で帰って行った。





「ASねぇ、大型の人型ロボットだけが歪に発達した世界、米ソ対立の末に核戦争の寸前まで行く世界」

要はフルメタルパニックと近似した世界だ。

現地の暦は1998年8月、まだベヒモスがビックサイト壊してない事から歴史は変わってるらしい。

ASなど、フルメタ世界特有の産物を持ってきたが、技術的に見るべき物は特に無い。

ただ機能美として造形はタイプだ。

特にサベージとか萌える。
「そうだ!見せ物として良いかも」

全高8メートルのロボットに競技場で格闘させるリアルロボットバトル。

こりゃ行けるかも。

戦闘機や侍女型同士の模擬戦では迫力はないからな。

そうと決まれば早速。

「あ、吉岡さん?僕です」



[41032] 第12話改訂 フルメタ編
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2016/04/06 04:53
「あー燃え尽きた」

苦節3ヶ月、プロセッサを亜空間に沈める事で超光速演算が可能なコンピューターを実用化できた。

その過程で亜空間物理学に置いて数々のブレイクスルーが必要だったが何とか漕ぎ着けた。

「霞、褒めてくれる?亜空間コンピューターがやっと終わったんだよー」

「こうでしょうか?」

霞がなでなでと頭を撫でてくれる。

そうそう。こう言うので良いんだよ。

そうだ今日はお祝いしよう。

「今日はすき焼きにしようか?」

霞に聞いてみる。

「すき焼き…いいですね」

「今の段階でメニューを変えられると非常に面倒くさいのですが、移り気な主人を持つと自動人形的にやりがいがある職場なのか悩ましい所ですね――以上」

後ろに控えてた武蔵さんからちょっと待ったコール。

武蔵さん達は感情表現が薄いが表に出ない訳じゃない、彼女を観察した限り本気で嫌という訳じゃなさそうにしてる。

「今日の当番は浅草ですので――以上」

どうやら、そういう事らしい。

そうだ、明日奈も呼んでみようか

今日はひとりだって言ってたし、鍋は大人数で食べると楽しいからな。

「武蔵さん、今日はすき焼きでお願いします。人数は3人、〆はうどんで」

「了解しました。そのように手配します――以上」

武蔵さんに命じて手配してもらう。

一礼する瀟洒な所作は、いつ見ても美しいな。






「αc417332BSで時空間異常?」

確か、フルメタルパニックに近似した世界だったか?
『はい、地表を精査していた第28次元探査艦隊所属のシラセが現地名称ヤムスク11にて、大規模な時空間の歪み及び思念波の発振の痕跡を検出しました』

画面に映るのは機族参謀の村田さん。

シラセは、大規模なセンサーを搭載した通信・転送管理艦だ。

そのセンサーは軌道上から地表をナノレベルで精査できる精度を持つ。

異世界の技術調査に置いて、通信掌握と並んで重要な役割を持つ艦だ。

詳細を記した報告書を読む。

何々、1981年12月に何らかの事故により歪みが出現(現地の様子。資料7)、

思念波は時空連続体を超越し、未来からも発振されてると予想(資料8)されるか。

発振されてるデータを見ると断片的にだが技術情報が載せられてるのが分かる。

「ソフィアとTAROS、オムニスフィアだっけ?今では曖昧なんだよなぁ」
前世の記憶も今では色々曖昧になってる。
特にSAO以外の創作物の細かい内容など覚えてない。

しかしまあ、行って見るか。
フルメタは好きな作品だったし。
「ヤムスク11に飛ぶ、対ESP装備で調査隊の編成をしてくれ。合流はシラセで行う」

『了解しました』

天然のESP能力者がどう反応するのか知りたいな。

「もし良かったら霞も付いて来てくれるかい?」

同じくコタツで暇そうにしてた霞にそう聞くとコクリと頷いてくれた。

「シラセへ、2名時空転送」

ヴン
「結城監察官。ようこそシラセへ」

ツインテールの白髪に小さな眼鏡を掛けた女性が出迎えに来た。

この艦の統制機族のシラセだ。

「調査隊の編成は?」

「既に工作型機族を中心に希望した戦闘機と合わせて18機からなる調査チームを編成してます」

シラセから調査チームの内訳が書かれたタブレットを受け取る。

「それから紹介したい方が……」

何か言いにくそうな様子だな、どうしたんだろう?

暫くすると高校生ぐらいの綺麗な女性が入ってきた。

「久壇 未良さんです」

今回調査するヤムスク11から発振されてる思念波を受信できるので、調査に同行したいとか。

「あー、何故現地の人が此処に?」

クダンミラ?誰だったかな聞き覚えがある。

あっ、ウィスパードだ!

一部を思い出すと紐付けられた記憶が次々に浮かんできた。

一巻冒頭で宗介に助けられて、ミスリルに保護された妖精の目の開発者。

そんで、最終決戦に向かう宗介に陣高クラスメート達のメッセージ映像を見せるんだよ。

「それは、我々が助けたからです」

シラセによると、ソ連の非合法研究所に捕らわれた所をシラセが探査中に見つけ。

転送で救出、以後療養の為に此処で過ごす事になると。

現地への介入は原則禁止されてるが、機族が非人道的な行為を発見して介入しないという選択は考え難い。

僕自身がそういう優しく正しい機械を作ったんだから、当然と言えば当然の結果だ。

幸いにも非合法研究所なら知らん顔すれば良いだけ出しな。

「厳罰は覚悟の上です」

「そんな、シラセさんは私を助けただけで悪く有りません」

真剣な表情のシラセとそれを庇う未良さん。

「痕跡は残して無いんだね」

「監視員が居ない隙に、監視カメラは全て無効化してから転送しました。一切我々の痕跡は無いかと」

「艦隊司令部はこの事を把握してるの?」

「いえ、全て私単艦でやった事です」

「ならよし、よくは無いけど。艦隊司令には非常時医療措置と通達しとく、始末書程度は覚悟しといてくれ」

「有り難う御座います」

シラセは、ほっ、とした様子。

主人が設定される侍女型と違って、星船や戦闘機が我々銀連に寄り添ってくれるのは、彼女たちの意志でしかない。

僕は銀河系連合、機族統括監察官と言う大仰な役職に就いてるが、実質的な権限は無いに等しい。

それは彼女たちに嫌われないように、我々も正しい主人足らねばならないからだ。

機族は正しい事しかしない。

そんな機族に罰を与えるというのは結構難しい。

ブラックブレットの近似世界での星船の孤児院化とか、起きて当たり前なのだ。

さて行くか。

「調査隊はもう来てるの?」

「全員シャトルベイに集合してます。空間が不安定なので、シャトルで降下した方が宜しいかと」

「シラセ、シャトルベイに3名転送」

「了解」

ヴヴン




「工作型機族の日渡芽(ひわたし めい)です、調査隊の指揮を執ります」

「うん、宜しく安全第一で頼むよ」

「勿論です」

見た目、同い年ぐらいの機族、芽がそう挨拶してきた。

シャトルは必要な機材を搭載し、サーブボットを4機引き連れて発進する。

シャトルに乗って軌道上から降りる。

シラセが低軌道に居たのは幸いだった。

五分もすれば大気圏に突入し、十分もすれば現地に到着した。

「此処がヤムスク11か、正に廃虚だな」

突然に放置されたのだろう、家の中にはテーブルに食器が並べられた家が窓から確認できる。

「発信源は地下です。戦闘機が先行します」

6機の戦闘機たちが先んじて進んでいく。

『此方、偵察班。発信源と思わしき部屋を発見しました』

偵察班によるとミイラ化した女性の遺体が強力な思念波の発信源になってるらしい。

僕も影響を受けないように印籠のESP遮断機能を起動させる。

「さて、霞、未良さん行きますよ。調子が悪くなったら引き返しましょう」

そう言って2人の様子を確認する。

顔色も良く、特に問題はなさそうだ。

サーブボットの背に乗って縦穴を降下し、そして横穴を進み、発信源の部屋に辿り着いた。

発信源の部屋は広く、中央と壁に何やら装置が見える。

「霞何か感じる?」

「……強い思いを感じます。怒り、悲しみ、苦痛、そう言った感情がない交ぜになってます」

「未良さんは?」

「デジャヴが酷くなってます。それだけです」

機族は影響を受けてないようで、計測機材を設置し始める。

あまり、長居したくないので自分も手伝う。

「フラクトライトは無事か」

どうやら彼女のフラクトライトが思念波をこの時代に呼び込んでるらしい。

この部屋の構造と彼女の思念が共鳴し、遺体に押し留められてるようだ。

興味深いね。

遺体のフラクトライトをプラセオジミウム結晶体に移し替える。

「思念体の移し替え、成功。思念波の発信止まります」

物質的に安定したからか、発信を止めたようだ。

さて、この結晶体どうしよう?

新しい身体でも上げるか。

軌道上のシラセに帰還して、ナノ資材を分けて貰い、遺体から生前の姿を予測して、人型に整形する。

其処に結晶体を移植して、終わり。

僅か30分の施術である。

「さて、以後のお世話とかはビンテンの医療科に任せるかな」

「……此処は、」

ソフィアはもぞもぞと起き出した。

「おや、起きた見たいですね。調子はどうですか?」

彼女自身にはどうやら実験以後の記憶は無いらしく。

ただ、ずっと夢を見ていたらしい。

そうなら別に構わない。

今回の事で、思念波の増幅技術を獲得できたし、得るものは得た。

我々は彼女の社会復帰を願いつつ、この世界を後にした。




「で、何で家まで付いて来るんですかね?」

わざわざ人払いまでさせて何だろうか。

「君に恩返しがしたくて、私が助けられたのは君のお陰だから」

機族をそう造ってくれたお礼をしたいらしい。

シラセにお礼をしたいと言ったら、自分をそう作った創造主にお礼をして欲しいと言われたそうだ。

しかし、困ったな。

こんな美人さんに何でもして上げるなんて言われたら、色々したくなるじゃないか。

「胸に興味があるの?」
さっきからチラチラ見てたのがバレてたらしい。

トレーナーの上からでも分かる美乳、揉み心地は良いだろう。

そんな事を考えてると未良さんは立ち上がると僕の前で跪いた。

あれ、この状況ちょっとやばくね?

なんで応接室に誰も居ないんだよ。あ、自分でやったんだった。

「こんな身体で良ければ幾らでも使って……」

ソファーに座ってた僕は、そのぽってりした艶やかな唇に追い詰められ。



「やっちまった」

精通はしてたから妊娠するかもしれん。

「まあ、いっか」

深く考えない事にした。気持ち良かったし。

特に困る事が有るわけでもなし。






主人公11歳、おねショタです。



[41032] 第13話改訂 自慢
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2016/04/06 05:04
とある11月の土曜日

「炬燵いいよね。家は炬燵無くって。お爺ちゃんの家には有るんだけど」

「家は炬燵有るけど小さいのよ。身体まで入ったらヒーターにぶつかっちゃって」

「みかん、最後の一個食べて良いですか?」

霞が聞いてきた。

「あ、私食べる」

「私も」

「誰か、居間の炬燵にみかん追加してくれ」

『只今――以上』

なんか、だらけてんな。

明日奈と詩乃は亀のように炬燵で寝ながら宿題してるし、霞は座ってるけどみかん食べつつ昨日のアニメ見ながら宿題してる。

僕も宿題を片付けながらみかん食ってるけど。

こりゃいかんな。

何かイベント考えにゃ。

うーん

「宿題終わったらフルーツ狩りにでも行こうか」

「今の時期に何のフルーツ狩るのよ?」

詩乃が聞いてきた。

「全天候型施設だから、何でも育ててるよ。色んなフルーツ狩り放題」

「相変わらず手広くやってるんだ」

明日奈が呆れたように言う。

「手広くというより、これはアーコロジーの実証だね。東京ジオフロントって知ってる?」

「……確か、東京の地下に巨大な地下居住区を作る計画だよね」

明日奈が思い出すように答えた。

「そうそう、首都圏の通勤事情を一気に解決する巨大プロジェクトだったんだけど。転送技術の開発、普及により無意味になっちゃったんだよね。だから、閉鎖系でのアーコロジーの研究兼希少果物の育成研究施設にしたってわけ。今は行政型機族の実証も行ってるよ」

「巨大プロジェクト、自分で駄目にしたんだ……」

また明日奈が呆れたように呟く

「まあ、科学の発展に犠牲は付き物なんだよ。で、フルーツ狩り行かない?」

「行きたいです」

「行く行く」

「勿論、私も行くわよ」

先ずは霞が、そして明日奈、詩乃と承諾してくれた。

「よし、決定」





「皆さん初めまして、当施設の管理を任されてます。縫重(ぬえ)と申します」

縫重さんは膝丈まで有る濃い緑髪をストレートに流した正に和風美人といった趣の機族だ。

「さて、今回はフルーツ狩りとの事ですが、何から収穫致しますか?」

縫重さんが聞いてくる。

「先ずは評判が良い苺かな?」

収穫物は販売もしてる。

無農薬で安全な作物として、なかなかお高めな値段で売られてるのだが、どれもこれも評判が良い。

特に苺はテレビで紹介されたほどだ。

「うちの苺は甘いですよ。糖度の高い品種に更にストレスを与えて更に甘くしてあるのです」

縫重さんが心なしか胸を張って自慢げに言う。

「じゃあ、先ずは苺狩りね」

「賛成」

明日奈が賛同し、詩乃が同意すると霞もコクリと首肯した。

「では、D6農業区画ですね。転送で直接行きますか?」

「どうする?観光も兼ねてちょっと歩く?」

「せっかく来たんだから見学もしたいかな」

「私も見学したいわ」

「見学したいです」

僕が提案すると明日奈と詩乃と霞も賛同してくれた。

「では、案内します。此方です」




「にしても広いわねぇ」

詩乃がドームの天井を見上げながら言う。

「直径800メートルある。この階層は最上部の半球空間だね。天井の空は高照度有機ELパネルで映し出されてるんだ」

「こんなおっきな物が人間の技術で作れるなんて、凄い時代になったものね」

「我々機族も含めて、殆どの技術は結城様が作ったのですよ」

明日奈の感想に縫重さんが補足してくれた。

凄いと思ってくれて嬉しいな。この瞬間の為に技術開発してるんだよ。

鬱蒼とした森を抜けると広場にでた。

広場には滑り台やアスレチックスなど、様々な遊具が設置され、同い年かそれより小さな女の子達が遊んでるのが見える。

「あっ!縫重お姉ちゃん!」

その中の1人が此方に気付いて、たたたと向かってきた。

それを切っ掛けに遊具で遊んでた子達が、わっと押し寄せてくる。

ただ、普通と違うのは、殆どの子の目が赤い事だった。

「この子達、新しい子達~?」

その中の1人が縫重に聞いてきた。

「違います。フルーツ狩りに訪れたお客様です」


「ねえ、この子達ってガストレアウイルスチルドレンよね?」

詩乃がヒソヒソ声で聞いてきた。

「そう、受け入れ施設でも有るんだ。要は住人だね。此処で1万人は暮らしてるよ」

詩乃も明日奈も移らないと分かってる病気を怖がる質じゃない。

2人ともそういう風に成るように情報を与えて接して来た。

霞は言わずもがなだ。

「ちょっと、遊んでく?」

「お昼ご飯の腹ごなしに丁度良いわね」

「ちょっと怖いから私は見てる」

詩乃は乗り気だが明日奈と霞は乗り気じゃないみたいだ。

たぶん、これかな

「身体能力の事を考えてるなら大丈夫だよ。この施設の子達は自制を先ず教えられるから」

「……飛鳥くんがそう言うなら」

その後は、一時間ほど鬼ごっこ隠れんぼ野球などをして遊んだ。

普通に遊べた事に明日奈は驚いてた。

やはり京子さんやテレビの影響を受けてるのかな。





苺畑は、多段化され、ピンク色をした有機EL照明に、高分子ゲルの土壌、そこに栄養素を配合した水滴が染み込む人工的な畑だった。

「この棚が収穫時ですね。さあ、幾らでも食べて行って下さい」

縫重さんに示された棚に成ってる苺を鋏で収穫し、そのまま食べる。

「美味しい、甘いし、香りが凄い……」

「これ、ヤバい位甘いわね」

明日奈が驚いたように声を上げると詩乃も驚きを口にする。

霞は、無言で2個目に取り掛かってる。

そうして、みんなで苺をパクつきつつ感想を言い合う。

口当たりの良いシロップを飲んでるみたいに甘く、幾らでも食べれてしまう。

やべえ、止まんね。

「この糖度と香りは凄いね。テレビで紹介される訳だ」

取り敢えず、美食は極めた積もりだったけど。

自分の足元にこれだけの物が転がって居ようとは思わなかった。

おっと、そろそろ止めないと。

「まだまだフルーツは育ててるから、そろそろ次に行こう」

「あの、これ贈り物に出来ますか?」

そう、霞が聞いてきた。

どうやら香月博士に送りたいんだとか。

「分かった。縫重さん、そういう風にお願いします」

「分かりました。手配して置きます」

「ではそれで、宜しくお願いします」




その後、枇杷に蜜柑、パイナップルに葡萄、無花果、ラズベリー、珍しい物では珈琲豆やマメイ、アイスクリームビーン、羅漢果など、様々なフルーツを狩って食べた。

霞はその度に香月博士に送ってた。

「どうしよう、絶対晩御飯食べれない」

「みんな美味しかったからね。仕方ないわよ」

明日奈が困ったように呟くと、詩乃が宥めるようにそう言った。

「じゃあ、家に泊まってけば?晩御飯も家で食べれば調整効くし」

「お泊まりかぁ。良いね。グッドアイデアだよ。飛鳥くん」

「じゃあ、京子さんにはこっちから言っとくから、詩乃はどうする?」

「私も泊まろうかな?」

「じゃあ、詩乃も決定ね」

フルーツ狩りを楽しんだ後は、豚や牛、羊、山羊などの放牧場なども見学していった。

明日奈も詩乃も霞も、牧羊犬を構い倒したり、乗馬を体験したりで充実した1日を過ごせたようだ。





因みに牧羊犬の名前はベルカとストレルカです。



[41032] 第14話改訂 ブラックブレット編
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2016/04/06 05:07
「痛いよ、やめてよ……」

消え入りそうな少女の声が廃墟に木霊する。

「おら!もっと逃げろよ!面白くねえ!まだ手しか撃ってねぇだろ!」

それを塗り潰すかのように男の怒鳴り散らす声が、次いでパンパンという乾いた大きな音が2回響いた。

自分達が取り囲む少女が這いずるしかしないのに、痺れを切らした男が少女の腕と胴体に銃弾を撃ち込んだのだ。

「いぃぃ!」

「赤目の化け物が!さっさと逃げろよ!」

金属バットを持った別の男が、銃弾を受けた少女の腕を踏みにじる。

「あ゙ぁぁぁぁぁ!!!」

小さな少女の物とは思えない大きな悲鳴が響きわたる。

其処にヴンヴンヴンという複数の音と共に少女たちが舞い降りた。

「此方は銀河系連合である!神妙にしろ!」

少女と男たちの周りを取り囲むように現れたのは3機の戦闘機だった。

彼女たちは男たちが反応する間も与えず、ネットランチャーを向けると男たちに向けて発射した。

時間停滞フィールド発生装置だ。

網は絡まった男たちの時間を極限まで遅くする。

「大丈夫?もう大丈夫だから、あぁ非道い……」

倒れ伏す少女に駆け寄り傷を確認するとその酷さに顔をしかめる。

少女には多数の殴打痕と複数の銃創が確認できた。

「直ぐメドシップへ転送!」

ヴヴン

少女と1機の戦闘機が転送で撤収する。

暫くするとサイレン音が聞こえて来た。

監察庁から通報を受けて警察が出動したのだ。

彼らにこの男達を引き渡さないと行けない。

部外者たる自分達はこうするしかない。

残された2機、渡辺綱美(わたなべ つなみ)とアタランテ・ライオネルはお互いに見合うとポツポツと話始める。

「あの子、大丈夫かなぁ。悔しいなぁ」

「ね。此奴等このまま宇宙に放り出しちゃえれば良いのに」

このまま警察に引き渡しても、このエリアではろくに人権も無い呪われた子供達対する事件だ。

立件もされず釈放されるだけだろう。

でも、こうするしかないのだ。

此処は銀河系連合加盟国では無いから。

銀河系連合は加盟国に人権の保証を強く求める。

呪われた子供達に対する対応でもそうだ。

銀連に加盟すれば、無限のエネルギー、無限の労働力、無限の資源と既存技術では考えられない超技術の数々が手には入る。

それこそガストレアを圧倒する戦力もだ。

だが、世論を形成する層である奪われた世代の呪われた子供達に対する憎悪は未だ強く、加盟国は頭打ち状態だった。





「未だに加盟はしませんか?斉武大統領」

「時期尚早ですな、世論が許さないのですよ」

「銀連は既にスコーピオン、リブラ、サジタリアスなどのあなた方の脅威となり得るゾディアックガストレアを撃破してるのですよ。何が不足なのですか?」

「其処なのです。聖天子殿、銀連加盟は危なすぎる」

斉武は持論を展開する。

銀連加盟国には、教育、医療、政治、経済、司法、そして軍事の全てで機族が深く入り込んでいる事を。

その機族を信頼し、大きく任せるからこそ銀連加盟国の国民はその繁栄を謳歌しているのだ。

しかし、それは既存の国家体制を破壊する行為でもあった。

要は、斉武は自らが築き上げた政治体制(王国)が銀連加盟によって崩されるのが我慢ならないのだ。

東京エリアは聖天子が強権的に銀連加盟を決めた。

銀連の支援により、既に関東の平野部と千葉・神奈川に存在したガストレアを掃討し終え。

その領域は日本海側まで達し、北は新潟県や福島県、南は長野県や愛知県に及ぼうとしている。

「そうですか、残念です」
「此方も驚きましたよ。聖天子殿を使いにするほど銀連は人使いが荒いとは思いませんでした」

斉武は愉快そうに言い放つ。

聖天子自ら銀連加盟を進めに来るとは思っても見なかったらしい。

「いいえ、これは私の意志です。でも実に残念です。捕縛しなさい」

一瞬、斉武は聖天子が何を言ってるのか分からなかった。

この場は、国家元首同士の正式な会談だ。

それも大阪エリアの中心部。

聖天子の護衛について来た機族は一階に留めてある。

脅威となりうる戦力は存在しない筈なのだ。

其処で騙し討ちされるとは露ほども思わなかった。

斉武は知らなかった。

銀連が転送やアクティブステルスのような技術を持ってる事を。

東京エリアでは、一般市民でも知ってる事でも、他のエリアでは機族による完全な情報操作で隠蔽されていたのだ。

「動くな」

10機の戦闘機が会談場に突如現れ、斉武の護衛を無力化すると同時に斉武を捕縛した。

「私をどうする積もりだ!?」

「引退して頂きます。そして大阪エリアは東京エリアに吸収されます」

「ふざけるな!」

斉武は力ずくで振りほどこうともがくが、機族の拘束はビクともしない。

「糞、小娘が!この儘で済むと思うなよ!」

「連れて行きなさい」

「はっ」

聖天子が指示すると2機の戦闘機に拘束されていた斉武は転送で何処かへと連れて行かれた。

「わたくしも、この儘で済むと思ってませんとも」

理由はどうあれ、自分はエリア間戦争の引き金を引いたのだ。

権力を失う事になるかも知れない。

だが、日本を一つにするには、呪われた子供達を救うには、こうするしかないのだ。

自分の師を排除した時のように、聖天子はそれを強く思い直した。





僕は銀連第七艦隊のメドシップ(病院船)に、高精度多次元エネルギーセンサーの設置作業に来ていた。

多次元センサーは、文字通り多次元に渡るエネルギーと情報密度のポテンシャルを測定する機材だ。

この間、明日奈達と一緒に遊んだガストレアウイルスチルドレンと接してみて思う所があり急遽開発してみた。

しかし、未だ試作段階だから、このガストレアウイルスの研究拠点となっている此処に自ら設置しに来たのだ。

「日本は東京エリアに統一されましたか……」

「はい、既に仙台、博多エリアは東京エリアに完全に統合されました。現在は最後に統合された札幌エリアの安定化に注力してる所です」

最後の安定化と補正作業をしながら、機族参謀の三波さんからこの世界についての報告を聞く。

ゾディアックガストレアは全て討伐済み、日本は統一された。

蓮太郎は出番なし、多分夏世ちゃんも生きてる。

言うことなしだね。




「流鏑馬プロジェクトの進捗状況は?」

「現在、92%です。ガストレア識別システムは完成。衛星本体の生産は第一基幹世界で行います」

流鏑馬プロジェクトとは、23万機のギガワット級レーザー攻撃衛星により地表のガストレアをピンポイントで焼却

地球上から陸棲ガストレアを一掃する計画だ。

「これで掃討計画も捗りますね」

三波さんが嬉しそうに言う。

「陸棲ガストレアは、ね。水棲ガストレアは残るし、結局はガストレアウイルスその物の殲滅をしないと」

「ですねぇ、はあ」

疲れたように言う三波さん。

ガストレア殲滅は、対BETA戦時と比べて芳しく無い。

自然の動物その物が敵だからだ。

土地毎焼却してしまえば簡単なのだが、国土の大部分を更地にしてしまう訳にも行かない。

だから、数が多いガストレアを誘引物質で誘導し、殲滅してる。

しかし、それにしても数が多いのだ。

「その殲滅だが、私のアイデアが正しければ目処が立ちそうだよ」

開けっ放しに成ってた部屋の入り口に30位で髪の長い綺麗な女性が立っていた。

「あなたは確か室戸博士?どうしてこんな何もない区画に」

三波さんが不思議そうに尋ねる。

室戸博士って、菫さんかよ。まさか此処に居るとはね。

「ん、ちょっとね。彼は結城博士だろ?君にちょっと聞いて欲しいアイデアが有るんだ」

室戸博士の話とは、自分の理論の事だった。

何でもガストレアウイルスは、多次元からエネルギーを得てるのではないかと言う話で。

ガストレアの不死性とバラニウム対する反応は其処から来てるのでは無いか。

それを測定するために複数の星船の重力センサーを同調させたいから、力を貸して欲しいとの事だった。

「ふむ、その事は自分も考えてました。だから作って見ました」

そう考えたからこれを作ったのだ。

「……もしかしてこれが?」

部屋の中央にある開放型CTのような機械を指差して言う。

「高精度多次元エネルギーセンサーです。存分に使ってやって下さい」

「君は凄いな……」

室戸博士は呆れたように言う。

「むろとせんせーみーっけ!つぎはせんせーだよ!あ、みなみちゃんだ!こんにちはー」

「はい、こんちには」

6歳位の子が入り口からひょこっと顔を覗かせると、室戸博士を見て笑顔をみせる。

そして、見つけたと言い始め博士の白衣をぐいぐい引っ張って行く。

それに引き摺られながらも言葉を紡ぐ。

「礼を言うよ。これで私の理論が実証できる」

「頑張って下さい。これ僕の名刺です。何かあったら連絡下さい」

名刺を渡すと博士は連れて行かれた。

「さて、調整終わらせるか」

さっさと帰らないと、今日は宿題が多いのだ。



[41032] 第15話 ゲート編その1
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2016/04/06 05:10
「修学旅行?」

「うん、来週の木曜から行くんだ」

そう言えば明日奈も小学六年生になったし、もうそんな時期かぁ。

「ふーん、で、何処行くの?」

「えーとね。αγ117341CDっていう世界の日本。銀連加盟もまだで、通商条約とか未整備だから転送も自動人形も殆どない世界なんだって」

ランドセルからしおりを取り出して教えてくれた。

「へー」

特にこれと言った特徴が無い世界だったかな?

日々増え続ける平行地球との接触、その世界数は既に数千を超える。

知ってる物語と近似した平行世界の方が少ないから、僕としてみれば特にマークしてないその他扱いの世界だ。

調べてみると治安も良いし、特に問題ないのだろう。

まあ、明日奈の通ってるお嬢様お坊ちゃま学校が修学旅行に許可するぐらいだから、そう言う治安情報は第一に調べてるだろうし、今更なんだろうが

詩乃のトラウマとなる強盗事件は結局起こらなかった。

まあ、転送技術の普遍化で郵便局自体が市内には中央郵便局しか無いのだから仕方ない。

そして、それを代替するような事件も起こらなかった。

その事から考えて、歴史に強制力や修正力といった物は無いらしい事が分かる。

この点からして、状況はコントロール出来ると考えられた。

しかし、逆に明日奈たちが明日死ぬ可能性も否定出来なくなったのだ。

そのもしもが僕を少し不安にさせる。

「転送の未普及な世界だと交通事故が多いんだから、シールド印籠はしっかり携帯するんだよ」

「分かってるよ。ホント飛鳥くんは心配症だなあ」

「にしても今の時期に修学旅行かぁ」

あ、そうだ。

「明日奈、プレゼント、転送」

思考発声で済む事だけど、此処は演出の為に声を出して取り寄せる。

「ん?なになに、プレゼント?」

本当は誕生日に渡そうと思ってたんだけど。

もう一個準備してるから良いや。

「未加盟世界に修学旅行に行くなら丁度良いと思ってね」

そう言って箱を開けて中を見せる。

明日奈の細い腕にぴったり誂えた小さなデザインの茶の皮ベルトの熊耳の着いた金の腕時計。

「かわいい……有り難う。……で、これにはどういう機能があるの?」

ありゃ

「いきなりそれ?もうちょっと余韻というかさ」

「だって、飛鳥くんだもん。説明したいんでしょ」

うんうん、分かってる分かってると言いたげな様子の明日奈。

「したいけどさ。デザインも苦労して考えたんだよ」

「へー、飛鳥くんが考えたんだ。凄い可愛いよ。うん、可愛い」

時計の熊耳を指先で撫でながらそう言う。

「ま、其れじゃあ説明するよ。先ずはね……」





「特別回線にて緊急連絡です――以上」

その知らせは、今頃明日奈は向こうで東京観光でもしてる頃かな等と授業を聞きながら考えてる中、突然来た。

ピーピーピーという授業中の教室では大きな電子音を出しながら、

ちび武蔵がポケットから飛び出し、目の前で浮遊して緊急連絡が来た事を知らせる。

「先生、非常連絡なので失礼します」

「あ、ああ、分かった」

思考発声を用いてのサイレントモードで受ける

「αγ117341CDの地球と転送及び世界間移動が不通?……この間みたいにマイクロブラックホールが高速で太陽系を横切った可能性は?」

明日奈の滞在してる世界だ、偶然か?それとも必然か?僕の関係者としてテロに巻き込まれた可能性も考慮すべきか?

『事前探査の結果、周囲1光年に高速で移動する天体の類は存在しませんでした。タウ星系に設置されてるサブステーションからのデータによる高天原の分析では、未知の天体現象が可能性として高いとの事です』

「次元転送を阻害する何かか……サブステーションのデータを見せて」

新たな平行地球と接触した場合、同時にサブステーションとして、くじら座タウ星系にも必ず次元転送モジュールを設置してる。

地球で何が有ろうとも、11光年離れた場所に一瞬で伝搬する現象なぞ、そうそう無い事だから設置されてる保険だ。

今回は、その保険が上手く機能した。

サブステーションを介して地球を観測した所、大規模な次元波が発生してたのだ。

発生源らしい地球では次元間通信だけでなく、マイクロワームホールを介した長距離通信やエネルギー伝送も阻害されるだろう規模の時空間変位量だ。

この現象の規模から行って、地球が吹っ飛んでても可笑しくない。

「取り敢えず、タウ星系から派遣できる超光速船を可能な限り早く地球圏に派遣して情報を集めてくれ。

同時に変位量を予測して補正する為に、インフラ関連を除いたうちの会社の全計算機資源の使用を許可する。何としても転送を復旧させろ」

僕は内心の焦りを隠して当面の指示を出す。

『了解しました。直ちに掛かります』

さて、どうするか……取り敢えず学校は早退するとして、僕が居るべき場所は……転送管理局か、いや違うなラボだ。

明日奈は大丈夫だろうか……、僕謹製のシールド印籠を持ってれば、戦車砲で撃たれようと、地球が吹き飛ぼうが生きてる可能性の方が高い。

しかし、それは印籠のバッテリーが切れる迄だ、何としてもバッテリーが切れる前に見付なくては。

バッテリーは最大利用で2時間は保つ筈、その間に何とか捜索隊を送り込まなければ行けない。

しかし、最速の星船でもタウ星系からでは4時間掛かる。

どうするべきか……

いや、此処は悩むより行動だな。

「先生!会社で非常事態が起きたので早退します。事情を説明する時間も惜しいのでウチ関連のニュースサイトを見て下さい。では」

事情の説明等求められては面倒なので、立て板に水とばかりにまくし立て転送で帰る。

『ヴン』






車道には自動車が溢れ、その脇の歩道を人がひしめくように進む光景は、転送が当たり前となってる明日奈達には新鮮な光景だった。

転送によるドアツードア、それは物流だけでなく人々のライフスタイルや文化までも大きくがらりと変える物だったからだ。

明日奈たちの暮らす日本、つまる所の第一基幹世界の日本では、道路に車道が殆ど無く、歩道ないしは緑地帯が殆どを占める。

その少ない車道もエアカーの離発着場所という意味合いが大きく、好き好んで地上を進んで動いてる車なぞメッタに見ない。

一部の趣味者が未だに地上車を保有してるが、利便性やガソリンなどのインフラ面とエアカーの廉価化も相まって、そう言う趣味者も絶滅寸前だった。

そんな所から、地上車が溢れる世界に来たのだ。

先ず地上車の多さに驚き、そして排気ガスの臭いに顔をしかめた。

そうして慣れて来ると、周りの様相も自分たちの世界とは違うと気付き始めた。

歩道を行き交う人々の中に自動人形が全く存在しないのだ。

明日奈達の日本では、自動人形、所謂機族の数は既に人口の二倍に達する。

外を行き交う人も機族の方が多い位だ。

「世界が変わるだけでこんなに違うんだ」

「凄いよね!車がこんなに沢山走ってるのなんて見たことないよ!」

同じ班員の髪をツインテールにした少女、片瀬志麻と共に感想を言い合う。

志麻"しーぽん"は明日奈の親友だ。

3年生の時から同じクラスだったが、コンピューターの授業内容が改定されたのを切欠によく話すようになり親友となったのだ。

今では、授業の事や家の事など、日常的な事を言い合える気の置けない友人だ。

そんな、しーぽんやその他の班員と共に銀座観光をしていた所で、とあるチラシを渡される。

それは、この子を探してますという文字と共に、ショートカットの綺麗な女の人が写ったチラシだった。

そのチラシには望月紀子と書かれていた。

「ねえ、明日奈あれなんだろ?」

「ん?」

明日奈が渡されたチラシを読んでると志麻に声を掛けられた。

其方に視線を向けるとそこには、薄らとパルテノン神殿のような建造物が浮かび上がって居た。

「立体映像だよね?でも何で道路の真ん中に、あんな所に投影したら車が通れないよ」

「多分、何かのイベントなんじゃないかな」

明日奈達が住む世界では、立体映像看板は珍しくとも何ともない。

だから班員のみんなも何かのイベントだと判断して見物する事にした。

明日奈もそう考えていた。




『空間補正プローブ突入……次元深度4.82、擾乱補正開始、次元深度6.24、6.28、6.31………7.83これ以上はプローブが圧壊します』

『超空間鉗子の出力を最大に』

『既に出力は108%、これ以上は冷却機系が保ちません』

やはり、力押しじゃダメだな。

上手く行けば超空間の擾乱を力ずくで補正できる筈だったのだが、高天原の支援を受けてもまだ不可能だったようだ。

僕の予測でも4割ほど確率は有ったのだがな。

さて、現状のカードは使い切った。

次は僕自身のカードを切らなければならないだろう。




STLを取り敢えず十万倍速に設定して、僕の頭の思考速度を早める。

そうして、如何に早く明日奈の安全を確保できるか考えるのだ。

そう、目標は次元間転送の復旧では無く、明日奈の救出が最優先だ。

しかし、今まで神に貰った権能をこの様に使った事が無かったから不安なのだ。

神の権能の科学的解明には未だに成功してない。

被験者となりうる人間が僕しか居ないから検証しようが無かったのだ、一体どんな副作用があるか想像もつかない。

下手したらこの権能を失うかも。

でも、今回はやるしかない。

「リンク開始」

その言葉と共に視界が変わる。

屋久島の雄大な自然が次々と映し出されて行く。

デフォルトで設定されてるデモ映像だ。

さて、思考しなくては、最優先目標は明日奈の救出。

それには何をすれば良いか可能性や実現性など、兎に角早く現実化出来る順に処理していく。

「先ずは、以前から温めてた超空間カタパルトを完成させるか。設計データH6を表示」

超空間カタパルトとは、空間を歪めて、数万光年を一瞬で移動させる方法だ。

因みに転送は転送ポートから2万キロが限界距離なので、話にならない。

「オモイカネの管制権を此方に」




目を開けると【シナプス活動及び血圧の異常を確認、非常停止しました】という文字が目の前で踊ってた。

何が起こった?

頭がクラクラする。

身体が物凄くだるい。

尋常じゃなく気持ち悪い。

鼻血がダラダラ出てる。

痛みが無いのが救いか。

「大丈夫ですか?圧迫を、止血します」

モニターしてた三河もとい国分寺さんが、直ぐに駆け寄って鼻頭を押さえてくれる。

そうしてると、ヴンという転送音と共に浅草が来た。

「医療マイクロマシンを持って参りました。失礼します――以上」

浅草は僕の首に転送注射器を押し当てるとカチリとボタンを押す。

短距離転送で動脈に冷たい薬液が注入されるのが感じられる。

「飛鳥様、大丈夫ですか?」

国分寺が聞いて来るが、ちょっと返す余裕は無いなぁ。

思念発声も集中できないので使えない。

吐き気は無いが、ひたすら気持ち悪い。

身体が自分のじゃ無くなったようだ。

浅草が僕の手を握ってくれるのが嬉しい。

何が悪かったんだろう?

最後に検証をする為に脳内シミュレータを使ったからだろうか?

モニターの一つに表示されてるグラフを確認するとバッチリと記録されてた。

どうやら、STLと脳内シミュレータは相性が悪いらしい。

それが分かっただけでも収穫か、まあ貴重なデータが幾つもの取れた。

検証は明日奈救出の後でゆっくりするとしよう。

マイクロマシンのお陰か、どうやら体調も戻ってきたようだし。

「さて……行動に移そうか」



[41032] 第16話 ゲート編その2
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2016/04/06 05:12
「あ、何か出て来たよ。明日奈」

「ドラゴンと兵士、戦車も有るね。ほんと何の宣伝なんだろ?ファンタジー映画かな」

今ではハッキリ見えるようになったパルテノン神殿のような建物からは、色々な物が出て来た。

ドラゴンに槍兵、チャリオッツに乗った兵士など、衣装の特徴は古代ローマに似てる。

出て来たその兵士たちは、目の前で横断歩道を渡ってた人達に対して唐突に斬り掛かった。

それを皮切りにドラゴンが人の頭にバクリと食らいつき、頭部を食いちぎる。

「明日奈、あれ映像…だよね」
しーぽんが明日奈の袖を引いて懇願するように呟く。

「…R指定の立体映像を不特定多数に見せるわけないよ!みんな転送で避難するよ。班長!」

明日奈は班長の大山に言うも芳しい返事は返って来なかった。

「重力異常で転送不可とか表示されるんだけど……」
「うそ!こっちも!」

「電話も使えないよ!」

班員達は、転送が使えない事でパニックに陥って居る。

転送で安全な場所へ逃げられると思っていた所にそうは行かないと分かったからだ。

「まさか超空間ゲート?」

明日奈はこの現象を知っていた、初期に平行世界移動に使われていた超空間ゲートは、接続時に巨大な波紋のように空間異常を発生させた事。

その近くではマイクロワームホールが使えない事。

それを飛鳥が1ヶ月掛けて解決し、それを記念して鍋パーティーを行った事を。

「離れないと、でもどれだけ離れたら」

何せ宇宙レベルで影響するから問題とされてたのだ。

電車に乗って一駅二駅どころの影響範囲では無いだろう。

こういう時はどうすれば……そうだ!





「ま、其れじゃあ説明するよ。先ずはね。四次元収納機能。四次元収納は、エネルギーと情報の形で物質を保存する技術で、
既存の空間拡張技術と違って、器の体積に左右されずに大きな物を収納出来るんだ。因みに収納物の時間も止まる優れもの。

まあ何にせよ使ってみた方が早いか、先ずは文字盤に三回タッチしてメニューを呼び出して、次に四次元収納を選択して」

「こうかな」

明日奈が時計の文字盤にタッチすると空中投影モニターが表れた。

最新の重力制御を併用させたタイプで、所謂タッチパネルになる空中モニターだ。
「選択したよ。武器とクラリオンっていうのが有るけど、次はどうするの?」

「武器は合法的に手に入る武器、スタンフェーザーとかスタンロッドが収納されてる。取り敢えずクラリオンをクリックして、取り出しを選択して」

言われた通りに明日奈が操作すると空中に光が集まり像を結んだ。

一瞬後、其処には猫耳をしメイド服を着た少女が佇んでいた。

「クラリオン、この子が結城明日奈だよ。自己紹介して」

「ん、分かった。自分の名称はクラリオン。明日奈様の愛玩用ペットです。この耳に触るものみな地獄行き」

クラリオンと呼ばれた猫耳メイドは明日奈に向き直るとスカートを摘んで礼をした。

「かわ…「かわ?」かわいい~~~!!!」

明日奈は珍しくハシャいだ様子でクラリオンに抱き付くと、ぴょんぴょんジャンプし出す。

「やーん、可愛い~~~。ねえねえ飛鳥くん。この子も貰っちゃって良いの?」

「勿論、明日奈専用の自動人形だからね」

「ん~。ねえ、耳触ったらダメなの?」

「それは命令か?」

クラリオンは首を傾げながら明日奈に問い返す。

「えーと、お願いかな?」

「じゃあ断る」

えー、という感じで残念そうな明日奈。

「クラリオンの猫耳は音波電磁波重力波等の感覚器が高密度に集中してる大事な部分だからね。

ご主人様になったばかりの明日奈じゃ信頼度が足りないんだよ。勿論、それなりの強度は持たせてるから普通に触るぐらいなら大丈夫だよ」

「信頼度かぁ。じゃあ、これから宜しくねクラリン」




「来て!クラリオン!」

明日奈が時計に呼び掛けると、目の前にクラリオンが現れる。

「呼んだか?」

「クラリンあれ見て!あれ!」

あれあれという感じでクラリオンの後ろを指差す。

「ふむ、彼奴等を撃退すれば良いのか?ちょっと数が多い。自分一人だとリーサルでも全部は「後ろ!」……全部は無理だ」

クラリオンを食おうと口を開けて向かってきたドラゴンがクラリオンのパンチによって顎を砕かれると血を吹きながらぐらりと倒れた。

今度は崩れ落ちるドラゴンから降りてきた竜騎士が声を上げ、剣を抜いてクラリオンに襲い掛かる。

それを後ろを見ることもなく剣の刀身を掴むと、バキリと握り潰した。

剣を握りつぶされた竜騎士は悲鳴を上げて逃げていったが、お次はそれを見ていた一般兵が囲もうとして来るも

クラリオンの重力制御により30人程が纏めて吹き飛ばされる。

吹き飛ばされた兵士たちは立ち直るも、指揮官も未知の圧倒的存在に浮き足立ってるのか、クラリオンが居る交差点のこちら側に対する侵攻は完全に止まった。

「撃退じゃなくて、私たちを守って欲しいの!あなた自動人形でしょ。何とかして!」

栢山さんがクラリオンに向かってそう言い放つ。

「それならシールド印籠の自動防護機能を使う事を推奨する。自分が守るより確実。お前たちは全員持ってるだろう?」

クラリオンに言われ、皆ハッとした。

「そうだ!印籠が有るんだ。電磁砲だって防ぐんだから、あんな奴らの武器なんて効くわけ無いじゃん!」

高杉くんがそう言う。

班員みんなが目の前の脅威に気を取られる余り、ポカーンと抜け落ちてた。

自分たちがどれだけ強力な防護手段を持っているかを

でも

「ちょっと待って!私達は良いけど、この世界の人達は殺されちゃうよ!」

「そんな事言ったって……」

最初の目撃者は流石に逃げてる筈だけど、必死に走ってる人は少なかったし、未だにカメラとか構えてる人達がまだ大勢居る。

最初に殺された人達はもう軍勢に踏みつぶされてるから見えないんだ。

多分、交差点の向こうや右側だと惨劇が続いてると思うけど、それは門から現れ続ける軍勢に隠れされて見えない。

どうしよう……こういう時は考えないと。

私達の安全は大丈夫。

クラリオンでもこの軍勢全部を相手にするのは無理。

でも、クラリオンなら多くの人を助けられる筈。

ちょっと不安だけど……

「クラリオン、あの人達を殺さないように地球人を助ける事って、出来る?」

「完全には無理だが、出来るだけ全力は尽くす」

クラリオンは両手のナノ素材を変成させフェーザーアレイを形成すると飛び上がった。

「スタンフェーザー連続照射開始」

クラリオンが空中で静止すると、両手からパパパパパと軽い音を発しながら光線が飛び出す。

光線は指揮官と思わしき装飾過多な鎧を着た人間や竜に乗った人間、或いは戦車に乗った人間に次々と命中して倒していく。

しかし、唐突にフェーザーの軽い銃声が止まる。

それは何故か、冷却の為のディレイ時間だ。

クラリオンは明日奈の身辺警護を目的に作られた自動人形で、民間人の明日奈が何処にでも連れて行けるように特別な技術は使ってない。

今回はそれが徒となったのだ。

本来なら、マイクロワームホールを使う事で廃熱とエネルギー供給を行い、

戦闘機並みの火力と防御力を持たせる事に成功してるのだが、そのマイクロワームホールが作れない事にはただの自動人形と変わりない。

高々数千発程度の掃射で、クラリオンの髪は放熱の為に靡き、皮膚は人間が触れない程熱く成ってしまっていた。

しかし、クラリオンは止まらない。

明日奈の願いを叶える為に全力を尽くす。

フェーザーの掃射で指揮官クラスが不在となり、混乱して動きが止まった軍勢に対して、クラリオンは突入した。

「クラリン、大丈夫だよね」

軍勢の中心部へと突っ込んだクラリオンが心配でしょうがない。

廃熱が上手く行ってないのは此処からでも見て取れた。

槍や剣でクラリオンがどうにか成るとは思わないけど、廃熱が上手く行ってないのは多分不味い事だと思う。

「飛鳥くん……」

こういう時どうすれば良いの?

飛鳥ならもっと効率的に助けられる命令をクラリオンに下せたのでは?と考えてしまう。

そんな時だ、轟と周囲の空気が轟き銀座全体に影が差した。

上を見上げると其処には巨大な星船が居た。




「草薙は直ちにタウ星系のステーションに転移。転移後、僕の個人ファイルに有る。シミュレーションデータ、デルタ24を展開。高天原の計算支援の下、船体変成を開始せよ」

『クサナギ、了解しました』

モニターに映る仙女のような羽衣を身に付けた彼女は戦略護衛艦草薙、全長20キロも有る超大型の星船だ。

その空間破砕砲は一撃で恒星系さえも吹き飛ばす威力を持つ。

対BETA戦線やその他の銀連加盟国が抱える紛争や太陽系防衛としても過剰戦力として、

同型艦叢雲と共に造ったは良い物の、軌道ステーションとして塩漬けにされていた不運な船だ。

その空間操作能力は、恒星の軌道さえ変更可能な能力を持つ。

こいつを使って更に演算支援をしてやれば、理論上は深次元空間を切り開いて、数万光年を一気に渡る事が出来る筈だ。

これなら転送を使わずともタウ星系から一瞬で地球に行ける。

「叢雲、準備は?」

『結城様、シールドジェネレータの増設は完了しました。後は草薙の船体変成が完了するのを待つだけです』

「わかった。そっちに行く」

これまた草薙と同じく仙女スタイルの美女、ムラクモさんだ。

彼女も同型艦の草薙と同じく、軌道ステーションとして塩漬けに成っていた星船だ。

「じゃあ、行ってくるよ」

「「「「行ってらっしゃいませ」」」」
『ヴン』




星船が来てからは何もかもが一瞬だった。

星船は周辺一帯に時間停滞フィールドを発生させ、範囲内の生物全ての時間を止めて選別を行った。

まず、戦闘機と侍女型数千機が一帯に降下。

異星の軍勢に対してはトラクタービームで星船内に直接収容し、重傷者と蘇生の可能な患者に対しては時間停滞フィールドで包んで船体内の医療デッキに収容しと行動した。

全ての軍勢と重傷者たちが収容されるまで十分も掛からなかっただろう。

私たちはただそれを見てる事しか出来なかった。

星船の力、機族の力というのを改めて実感させられた一幕だった。




「明日奈!大丈夫だった?怪我はない…ね。良かったぁ」

非日常から日常の顔の出現に、つい感極まって、シャトルを降りてきた飛鳥くんに対して抱き付いた。

緊張の糸が切れたのか、明瞭だった思考が混乱して涙が出て来る。

「あのね!あのね!人がね!一杯死んじゃったの!」

「ああ、怖かったんだね。もっと早く来たかったんだけど。もう大丈夫だからさ。」

飛鳥くんがキツく抱きしめ返してくれるのが嬉しい。

「違うの!あんなにあっさり、さっきまで歩いてたのに、あんなにあっさり死んじゃって……」

目を瞑るとあの斬り殺された瞬間が、人の頭が咬み千切られた瞬間が蘇る。

しかし、それでも段々と我に返って来ると、今の状態に関する気恥ずかしさが出て来た。

「大丈夫だよ、もう大丈夫だから」

えぐえぐと泣く明日奈を抱き締めながら、目の前で人が死んだらこういう反応するのか、何て思う。

普段早熟に見える明日奈だからこうなったのか、それとも明日奈の弱い部分なのか

少なくとも自分が同じ状況に置かれても泣きはしないなと思うと共に、

こういう明日奈も可愛いと思ってしまう自分に対して少々自己嫌悪を感じてしまう。

ま、何にせよ明日奈が無事で良かった。

「さて、帰ろうか」



[41032] 第17話 ゲート編その3
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:dce1c4d9
Date: 2016/07/25 10:12
「今度はゲートに近似した世界か」

上空の叢雲から現在自衛隊が占拠している超空間ゲートを見て考える。

結局被害は死者245人に留まった。

大きな被害では有るが、異世界軍が官庁街や皇居に到達出来ずに銀座のみで事態が終息したからこそ、この程度の被害で済んだのだろう。

侵攻初期にクラリオンに攻撃させた明日奈のお陰だ。

クラリオンが指揮官クラスを的確に狙い攻撃した事で、壊乱寸前まで追い込めたらしい。

そこに叢雲の強襲。

空一面に広がる巨大な星船は其れだけで威圧効果があるが、タイムステイシールドを銀座一帯に使用した事で事態はあっさり終息した。

次元間通信や転送は叢雲のベクトルドライバで、発生源側から超空間補正を行う事であっさり復旧できた。

明日奈達修学旅行生は滞在を取り止めて帰り、この世界に仕事等で滞在中だった人々は全員の無事を確認するだけに終わった。

アクティブステルスを使い密かに送り込んだ偵察隊からの報告では、

既存の理論では有り得ない超空間ゲートの接続方法や航空力学を無視して飛ぶドラゴンなど、

銀連の科学でも説明の付かない現象の数々が報告されている。

これらの情報を元にこれから銀連が取るべき選択はどうするべきか、報告書を作成するのだ。

まあ、現在の理事会では十中八九ゲートの確保を命じるだろう。

「さて、忙しくなるぞ」





魔法や神といった高次存在が実在する世界との接続。

魔法や超常の生命の発見それは、銀連加盟国に驚きを持って迎えられた。

既知の科学でも解明出来てない物理現象、全く未知の科学分野の出現は科学者達を夢中にさせたのだ。

其処で銀連理事会は現地日本政府から、門の所有と門の先の土地や資源の一切の権利を購入。

対価は、資源が豊富で人類の生存に適した地球型惑星の譲渡と其処への永久無料転送ゲートの設置という形で支払われた。

銀連は、直ちに調査隊を編成。

現地日本政府の自衛隊と共に帝国の支配地へと乗り出して行く。

秘密裏に先行した銀連調査隊は多数の戦闘機と虫型ドローンを展開させて現地の情報を収集した。

先ずは戦闘機たちが一度衛星軌道上に上がり、宇宙から地上を観測する。

それで発見したエルフやダークエルフ、或いは獣人や人族の村や街に虫型ドローンを散布し、言語や文化情報の情報収集を行った。

その情報を新世界探査統括AIのニニギが選別して、有為情報の抽出を行う事となった。






「ではレレイさん、魔法を使って見て下さい」

『分かった』

100メートル四方は有る部屋の中央で、脳波や脳磁計やらの各種センサーがたっぷり詰まったヘルメットをかぶり、

身体の各所に筋電位や血流などの計測器を着けた水色の髪の少女は、杖を掲げると空気の球を空中に作り出す。

続いてそれを前後上下左右に動かし、最後は設置されていた的に向けて射出、パンと破裂させて終わる。

出力されたデータを見て考える。

「うーん。やっぱり、シナプスの一部を故意に結線させてフラクトライトで共振、ゲージ粒子に干渉して、
世界の因果を改変して望む世界を取り寄せてると考えるべきか」

それは生物の寿命から、超空間ゲートの生成、果ては核融合の発生確率まで自由に改変できるという事を意味する。

恐るべき汎用性だ。

ドラゴンを使った生体実験でも同様に重力を制御して飛んでると分かった。

今でも大規模な施設さえ整えれば出来ない事も無いが、これを機械的に再現出来れば、それこそチップ一枚で何でも出来るようになる。

何でもだ。

既存科学に新たなパラダイムシフトが起こるだろう。

「私もしたけど、これで何が分かるの?」

後ろから実験の様子を見てたテュカさんが聞いてくる。

「そうですね。頭や体で魔法をどうやって使ってるかを調べて、魔法の才能が無い人や機械でも魔法を使えるようにする為の情報を集めてるんです」

「へー、凄いのね」

そう言って僕の頭を撫でてくる。

反応うっすいな。

まあ、興味無い人ならこんな物だろう。

因みにテュカさんはジーパンTシャツを装備してる。

僕を初めとして銀連科学者達が拠点としてる全長35メートルの小型科学調査船パンジーの売店で売ってた物だ。

小型と言っても最新鋭の星船だけあって、船内空間は拡張され、

サッカースタジアム二つがスッポリ入る広さの居住区やそれ以上の規模の実験区が存在したりする。

何故テュカやレレイがこのパンジーに居るかと言うと。

銀連が彼女達をスカウトしたからだ。

まず、AIニニギはゲート近隣に住む魔法を使う人間という事でレレイや導師カトー、エルフ族との接触を優先事項に上げた。

自衛隊と共に派遣された銀連調査隊本体は、直ちに彼らと接触。

炎龍の襲撃やその捕獲等、途中で紆余曲折有ったものの彼らと友好関係を結ぶ事に成功した。

「お茶が入りました。お茶受けは、テュカ様から綺麗なケーキが沢山食べたいとのリクエストが御座いましたので、ミニケーキのセットです――以上」

武蔵がお茶を用意してくれたらしい。

「もうそんな時間か……レレイさんお茶が入ったそうなので、ちょっと休みましょう」

『分かった』

「わあ綺麗……」

「同意見、食べるのが惜しい」

「ミニケーキ、20種で御座います」

研究室に隣接するダイニングスペースの机の上には5㎝程の色とりどりのケーキが並べられている。

どれもこれも精密に造られて居て、職人芸を感じられる逸品だ。

まあ、家のメイドたちが作ったんだが

「これは何処かからかレシピをコピーして来たの?」

「いえ、私と浅草、青梅と奥多摩で作りました――以上」

武蔵さん、何処となく誇らしそうだ。

「へぇ、凄いな。お菓子作りも此処まで出来るのか」

パティシエパッチによるブーストが有るなら兎も角、自己学習で此処まで綺麗で精密なオリジナルのケーキを作れるとは。

彼女たちが、プロのパティシエと変わらないレベルまで技能を伸ばしたという事だ。

嬉しいな。

「うん、美味しそうだ。では、頂きましょうか?」

「じゃあ、私はこれから食べるわ」

「私はこれを食べたい」

テュカは赤いゼリーで上面をコートされ苺の乗ったケーキを、レレイは金色の繊細な飴細工が乗ったチョコレートケーキを選択した。

「僕はこの小さなモンブランを」

さて、味はどうだろうか?




「先程の実験では、機器を新しくしたとの事だが、何か進展は有ったか?」

「レレイさん。ええ、漸くですがおそらくこういう原理だろうとの当たりはつきました」

「それは凄い、是非聞かせて欲しい」

「そうですねぇ。量子力学は、もうご存じですよね。では先ずは軽く因果律量子論の基本から行きますか」

発明も楽しいが、講義やディスカッションも楽しい。

自分の考えを人に理解して貰える、これは中々に得難い快感なのだ。

さて、資料はどうしようかな~。





「どうなって居るのだ」

アルヌスに居座る蛮族の軍に対する討伐の相次いだ失敗。

それどころか、同時期に帝都や帝国各地で出現が報告され出した空飛ぶ巨大な見えぬ船。

蛮族の軍との関係は不明だが、全く打つ手が無いのはどちらも一緒だ。

「皆、何故あれが見えぬのだ」

モルトがこの報告を疑わなかったのは、自身がこの船を見えるからだ。

モルトの視線の先、皇宮の頭上100メートルには覆い被さるように全長2キロ程の星船がドーンと存在して威圧感を放っていた。

最初は家臣達も報告やモルトの言葉に懐疑的で有ったが、モルトが竜騎士を皇宮上空に飛ばさせた所。

竜騎士達が確かに何か見えぬ力で押し退けられ、皇宮の上空に到達出来なかったのだ。

それで、確かに何かが有ると分かったのは良いが、星船が見えぬ者達に
モルトが感じる、今まさに押し潰されそうな圧迫感を共有する事は出来なかった。

最近は、毎夜何かに押し潰される夢を見て飛び起きるのが日課だ。

実はモルトが星船を見えるのも、毎夜悪夢を見るのも、非加盟世界同士の戦争行為に
技術的に限られた武器援助以外加担出来ない銀連によるギリギリの支援だったりする。

この銀連に取っては片手間の、モルトに取っては悪夢の日々は、終戦まで続く事になる。

モルトの憂鬱の日々はまだまだ続く。





「あれがASかぁ、すっげーなぁ」

自衛隊施設部隊と銀連により造成されたアルヌス駐屯地。

其処では、帝国との交戦に備え、日々訓練が行われていた。

帝国の侵攻が銀座で収束したこの世界では、伊丹耀司三尉は、二重橋の英雄と呼ばれる事も無く、

愛する?妻と別れる事も無く、ただ惰性で自衛官を遣っていた。

そんな伊丹で有るが、元特戦という経歴が徒となり今回特地に派遣される事となったのだ。

「おぉーかっけー」

伊丹の視線の先では、ASが走りながら標的に40mm機関砲弾を撃ち込んでいるのが見える。

全高8mほどの人型ロボットが時速250km超の速度で走り、伏せ、射撃し、また走りと、200mほど離れてるがかなりの迫力だ。

「M9ガーンズバック、すごいっすよね」

一緒に見ていた部下の倉田が言う。

「正確には、ガーンズバック改日重カスタムだけどな。5000kw小型核融合炉搭載、最大跳躍高52m、最大速度290キロ、光学迷彩標準装備」

「銀連に取っては、あの提供されたM9もオスプレイもバーローも玩具みたいな物だそうですよ」

事実だった。

数多の平行世界の兵器市場に置いて、加盟国が銀連加盟で一気に技術的に置物と化した兵器が売りに出されているのだ。

日重は、それらを買い集めて少々の手直しをして提供しただけだ。

他にもF-22戦闘機、各種パワードスーツや10式戦車等、世界基準からすれば考えられないほど高度な装備の数々が提供されていたが
大幅な自動化や運用性や安全性の向上の為の改造等、なされては居たものの
重力制御や高度AIの技術は一切使われていなかった。

「星船に戦闘機にシールド印籠だろ、平行世界とか凄い時代になったもんだよなぁ」

「今は医療技術と翻訳機だけですが、銀連加盟国になれば、それら全ての銀連技術が提供されるとか、
早く加盟してくんないすかね。完璧で瀟洒な猫耳メイドさん早く欲しいなぁ」

「だなぁ」

「ちょっと良いかしら?」

後ろから声を掛けられ振り向くと、其処にはデカいハルバードを持ったゴスロリ少女が居た。



[41032] 第18話 複製人間
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:943e6487
Date: 2016/08/28 07:39
時系列は少し遡る

帝国の軍勢が日本へと侵攻し、叢雲に捕獲されて日本各地の拘置施設へと収容されてから。

アルヌスへと自衛隊と銀連調査隊本体が派遣されるまで、主に自衛隊の準備で少々時間が有ったので、その間に飛鳥は明日奈のフォローをする事にした。

まあ、そんなに弱い子でもないし、特に心配は無いと思うので、一応と言う感じではあったが。

そんな訳で、明日奈達修学旅行生を対象に日重からのお詫びという形で、リゾート惑星へと招待した。

本格的にリゾートとして稼働し始めた連星系HD38471のガス惑星の衛星α134基地。

今の名前は、フレイ・フレイヤ恒星系ホットジュピターニョルズの衛星スキーズブラズニルだ。

基地は更に拡張され、直径34キロに及び、今や無人惑星から移植された山地や丘陵地帯や川、原生林や湖までも存在する大自然が広がってる。

「あ・す・な、楽しんでる?」

クラスメートたちが、砂浜でビーチバレーして遊ぶ様子を観戦してる白いワンピースの水着を着た栗色の髪の少女。

その少女に向かって後ろから近付き、その頬にジュースを押し当てる。

「しーぽん頑張れー! あひゃ!な、なに!……って、飛鳥君?どうして此処に?!」

明日奈は、ジュースが触れた瞬間飛び跳ねると、ザザッと距離を取り何やら構えを取る。

「うん、ちょっと気晴らしにね。所でトロピカルジュース飲む?」

「ん、飲む。ありがと。……じゃなくて!ビックリするじゃない」

もー、という感じで怒る明日奈。

可愛いなぁ。

「ごめんごめん、所で楽しんでる?」

「うん、楽しんでるよ。前来た時よりアクティビティも充実してるし、二泊だからゆっくり楽しめるし」

「そっか、良かった」

良かった良かった。

色々有ったから心配してたが、明日奈の表情や声色は明るい。

「飛鳥君こそ学校は良いの?日本時間だと今授業中だよね」

明日奈は時計を確かめるとそんな事を聞いてきた。

「仕事で自主休校中、草薙と叢雲の転用だとか、救出作戦に使った計算リソースだとか、色々と後処理が必要でね」

「大変なんだ」

「大変なんです」

「ふふ、飛鳥君色々とありがとね。心配してくれたんでしょ」

「まあね」

半分嘘だ、本当にお詫びでもある。

そう、"お詫び"である。

飛鳥の方針なのだが、電話や鉄道などと違って、日重の転送インフラに不通は想定されてない。

転送ポートにデータセンター、発電設備に至るまで全てが五重化され、ネットワーク攻撃は勿論の事。

同時多数のテロや反物質兵器の直撃すら想定したインフラが整備されてる。

しかし、ワームホールを利用する性質上、どうしても超空間を乱す兵器やブラックホールなどの天体現象には影響を受けてしまう。

それらに対抗するための空間補正機器も整備していたのだが、

今回の超空間ゲートの接続方法は、全くの未知でその想定を上回ってしまったのだ。

それでも銀連加盟国の存在する世界のように、大型の星船が一隻でも居れば対抗できたのだが、

未加盟国しかない世界=転送技術が公開されてない世界なので、転送の需要その物がほぼ無いのである。

なので、普通は次元転送ポートを搭載したステーションを軌道上に浮かべとくだけで、各国への出入国自体はシャトルを使うのだ。

わざわざそんな世界に修学旅行に行く学校が有り、

それに異次元からの侵攻に修学旅行生が巻き込まれるなぞ想定外である。

なので、純粋に危険に晒したお詫びでもあるのだ。

事実、クラリオンやシールド印籠が無ければ何人か死んでたかもしれない。

もしかすると、それが明日奈だったかもしれないのだ、そう考えるとゾッとする。

「じゃあ、邪魔するのも何だし帰るよ」

「もう?今来たばっかりだよ。少し遊んで行けば良いのに、友達も紹介したいし」

「ごめん、今日はホント無理。友達はまた今度紹介して、じゃ」

ヴン






「いやー、こっちは涼しくて良いね」

「もう秋だもの、そりゃ涼しいわよ」

「ご飯が美味しい季節です」

僕の言葉に詩乃と霞がそう返してきた。

久しぶりの登校だ。

少々緊張する。

まあ、世界間転送で毎日夕食前には帰ってたし、出された宿題等に合わせて自習はしてたので、特に勉強での心配はしてない。

まあ、この神に与えられたチート頭脳は1を聞いて100を知るを地で行くので、授業の遅れなど直ぐに追い付けるのだが、それはさて置き。

「三人で揃って登校するなんて久し振りだね」

「そうね。飛鳥が登校して来たって事は向こうの件は一段落したの?」

「技術的な事はそうだね。調べる事は大体調べたし、銀座・アルヌスゲートの架け替えも済んだしね」

「ふーん」

特に魔法は調べ尽くしたと言っても良いだろうし、亜神についても伊丹さんの協力で調べる事ができた。

歴史が違い、伊丹さんとロゥリィが知り合うとは思わなかったので、運命的な物を感じた物だ。

「この1ヶ月、詩乃は何か変わった事あった?」

「うーん、特にこれといっては無いわね。それを言うならそっちこそどうなのよ。ファンタジー世界に行ってたんでしょ」

「まあ、エルフや神様の実物に会ったよ。ほらこれ」

「画像を表示します――以上」

ちび武蔵さんをポケットから取り出し、眼鏡の思考操作機能を使って、画像を空中に何枚か表示して貰う。

「へー、エルフってホントに美人なのね。で、こっちのゴスロリ着てるのが神様?」

「正確には亜神ね。神様になる前段階、僕らの尺度で当てはめると不老不死のESP能力者って所かな」

「ふーん、この人は?この人も亜神とか言うの?」

詩乃の指し示す先の写真にはレレイとテュカが写っていた。

「その人はレレイさん、魔法使いでその人とエルフのテュカさんのお陰で魔法について存分に研究する事が出来たんだ」

「へー」

「魔法は誰でも使えるんですか?」

「それはまだ不明、少なくとも僕は使えなかった」

感触でだが、恐らく最低限の資質は求められるんだと思う。

まあ、其れよりも今のところ魔法の再現に研究の比重を置いてるから何だが。

「そうだ、レレイさんに魔法の指導して貰えるように頼んで見ようか?」

霞は少し考えるような仕草をしてから、お願いします。と返してきた。

「詩乃はどうする?」

「私はいいわ。あなたの事だから何れ誰でも魔法が使える携帯端末みたいな物を作るんでしょ」

「まあ、それが目標ではあるね」

本当は少し迷ってる。

魔法は計算資源と人間の想像力さえ許せば何でも出来てしまうからだ。

素粒子に対する干渉、精神に対する干渉、身体強化、未来観測、平行世界観測、物質創造に空間操作、死者蘇生などなどなど。

"何でも"、"何でも"出来てしまうのだ。

これを世に広めて良いものか、かなり迷ってる。

神に権能を貰った者として科学の進歩に貢献したいが、何処かで歯止めは必要では無いかと思ってしまうのだ。





「さて、ちょっと息抜きに別の発明でもしようかな」

この間、分子プリンターの高速化の改善を限界までやった。

既に普通の工作機械を上回る速度を実現してる。

分子レベルの精度でそれだ、これ以上の向上は精度を犠牲にしなければ難しい。

それはそれで、需要は有るだろうが、神様に与えられた権能が有りながら其れでは逃げと思ってしまう。

「これ以上の何かアイデア無いかな……」

何時も携帯してるネタ帳を捲りながら考える。

しっかし、我ながら散文だなぁ。

捲って行くとそのページの端に融合という文字が有った。

「融合かぁ」

転送装置と融合が出来れば……いやいや、既に何度か検討した上で無理と結論付けたのだ。

「いや、待てよ。物質を情報とエネルギーとして、"分けて"扱えばどうだ?」

既に四次元収納で実現してる技術だ。

精度だって、素粒子レベルで操る事ができるだろう。

頭の中で理論を構築して妥当性を検証する。

うん、うーん、おお?これなら。

妥当性を検証した後、脳内で原理実証の為の実験機を構築し、脳内シミュレーターに掛ける。

お!

「行ける!こりゃ、久々のブレイクスルーだな!」

実現すれば、物質とエネルギーさえ在れば一瞬であらゆる物が作れるようになる。

「それで、まず作ってみたのが自分の複製とは、我ながら度し難いというか何というか」

脳内シミュレーションとマウスや猿での動物実験は重ねたが、特に問題も無かったので自分の複製を造ってみた。

「まあ、良いじゃないか、逆利用で記憶統合も出来るんだから」

「いやー、我ながら偉いものを作ってしまったな」

取り敢えず、自分の複製を2人ほど造ってみたのだが特に問題は無いようだ。

フラクトライトコピーのように自我崩壊の様子はない。

素粒子レベルで同一だからか、或いは肉体が存在するからか、

最早誰が複製か確かめようがないが、まあマメに統合すれば齟齬も発生し無いだろ。

長期間に渡る試験もしなければ成らないが、それは叉の機会だ。

「取り敢えずアルファ、ベータ、チャーリーと呼び合おう」

「では、君がαで僕がβ、君がcで良いだろうか?」

「うん、良いだろう。では、次は何をするかだ。記憶統合と比較する為に記録も必要だろうから、ちび武蔵さんも複製しよう」

「そうだな、じゃあ僕は村山さんと軽く北海道の温泉でも入ってくるよ」

「この時間だと明日奈は門限で駄目だろうし、僕は詩乃と霞を誘ってカラオケでもして来るか」

「僕は魔法の研究をしてるよ」

日重が発表した肉体の複製・統合を可能にする技術は、世界に驚きと混乱をもって迎えられた。

当然だ、今までの働き方や学び方の何もかもが変わるからだ。

例えば、仕事を"自分達で"ローテーションしても良いし、複製した全員で集中的に片付けても良い、単純に仕事量を増やしても良い。

5人の複製を作って何かの訓練をして統合すれば、5人分の試行錯誤の経験が手に入る。

そんな画期的技術なのだ、その技術は量子コピーと呼ばれ、世界を変えて行く事になる。



[41032] 第19話 婚約
Name: 紙カタ◆30a00978 ID:23337987
Date: 2017/07/03 12:17
火星テラフォーミング記念植樹際会場

一部からは史上最大の環境破壊とも言われた、火星金星テラフォーミングプロジェクトは、
様々な技術革新により期間が大幅に短縮され、最終段階、植生の移植を迎えようとしていた。

「成長せよ!」

そう言って、明日奈が杖をふるうと膝下ぐらいだった苗木がニョキニョキと成長して、あっという間に高さ5メートル程の立派なブナに成長した。

「これが魔法かぁ、魔力の流れが確かに分かるね」

お、明日奈は一回で魔力感じる派か

「おめでとう、これで明日奈も魔法使いだよ。今の感覚を忘れなければ杖なしでも簡単な魔法は直ぐに使えるようになる」

「案外簡単なんだ」

「まあね。空間魔法や飛行魔法、天候制御魔法とか、より高度な魔法を使うなら相応の訓練や補助装置が必要だけど、植物に対する成長魔法は簡単だからね」

魔法が平面時空に対する干渉技術だと判明してからは、解明は一気に進んだ。

今では、機族に標準的な機能として搭載されてるくらいだ。

そんな事を話ながら、ふたりで苗木を植えては成長させるを繰り返してると霞と多摩が歩いて来た。

「こっちは終わりました」

眼鏡で衛星画像を確認した所、少し離れた所で植樹をしてた霞のペアは僕と明日奈のペアより大分広い範囲を終えてきたようだ。

目算でも、僕と明日奈の範囲の十倍の面積はある筈だが、やっぱり訓練した魔法使いと自動人形だと早いな。

「ご苦労様、そろそろ良い時間だし、三人でお昼にしようか」

「え、詩乃のんは誘わないの?」

「お母さんとお婆ちゃんの三人で食べるって、さっき連絡あった」

「家族団欒ですね」

「そっかぁ」

「クラリオンが河原で敷物広げて待ってるから行こう」

結局、魔法の深遠は公開する事になった。

まあ、いずれ解明される事だし、という思いもあったのだ。

魔法技術は世界を更に変えた。

素粒子以上のスケールを扱う製造業は遂に消滅し、魔法による物質改変が主流になった。

まあ、当たり前だ。

演算補助さえ有ればただで何でも手に入るからだ(そして、銀連市民なら演算資源はほぼ無尽蔵に使える)。

ベーシックインカムの施行後、ただでさえ希薄に成っていた銀連市民の物質への執着が更に希薄になり、これ以降は精神的な豊さを求めて行く事になる。




「ふむ、素晴らしい技術だ」

1ヶ月に一回義務付けられている身体同期で、五人の自分の記憶を参照した茅場は珍しく浮かれていた。

日重の発表した物質創造・人体複製技術を利用してから、ソウルトランスレーターの製作が加速し、漸く一般販売の目処が付いたと実感したからだ。

何せ自分が五人も居るのだこれで進まない筈がない。

研究も製品化に対する仕様の策定も広報も様々な事が同時平行して行う事ができた。

会議等で進捗は分かってたが、記憶が統合されて初めて自分一人の記憶として実感が持てたのだ。

銀連・アスガードとの同盟成立に伴う技術交換協定で齎された。

記憶操作技術を応用し、一般向けSTLはほぼ完成の域まで辿り着いた。

また、地味に未来観測装置を使っての試行回数の削減も効いただろう。

後は自分の夢をゲームソフトとして形にするだけだ。




「ふーん、遂にSTLを完成させたか」

アスガードとの技術交換と量子コピーが決め手になったみたいだ。

明日奈も来年中一になるし、時間的には寧ろ遅いのかな。

そして、茅場はいよいよSAOを作るようだ。

まあ、まだまだ一般的でない電脳化者用ダイブゲームの需要は少なく、世界で初めてのダイブMMOを作るのだ。

それなりに時間は掛かるだろう。

「いや、周辺技術の発展度合いを考えると年度内にベータ版が発表されても可笑しくないか」

AIは、今や漫画やアニメ・ゲーム製作等のクリエイティブな分野でも使用されるように成っている。

製作にAIを使うとすれば、それでも可笑しくないのだ。

ただ、茅場は情報流出の懸念があるという理由で、今までSTLの開発に自動人形やAIを使って来なかった。

ウチの自動人形やAIは倫理規定を侵さない限り、主人を裏切る事など僕が命令しても有り得ないし。

それにハッキングは、僕と人類最高のコンピューターである高天原やオモイカネがあらゆる可能性を検討して、不可能なように対策してる。

なら、どういう風に情報を抜いてるのかって言うと、単純にダニサイズのマイクロロボットでスパイしてるってだけだ。

実は、うちのハイエンド型自動人形のセンサーは、そのサイズのロボットを検出できるように成ってる。

しかし、あの警告を僕からと思ってるなら、替わりがない物を除いてウチの製品はなるべく使いたく無いだろうがな。

そのせいでセキュリティーホールが出来てるっていうのも皮肉な話しだ。

「ま、これなら死人は出ないだろ」

一般販売を予定しているSTLの仕様書と設計図を見ながら、どうやってSAO事件を起こすのか推理する。

「恐らく肝は、マイクロワームホール通信とシールド印籠との連携機能だな」

ゲームプレイ中の身体保護機能として、シールド印籠との連携機能が仕様書に書かれてる。

恐らくは、銀連市民全員に支給されてるシールド印籠のシールド機能で、肉体を監禁。

その間に速度上限が無いワームホール通信を利用して、思考速度を数万倍に加速させ、ゲームを攻略させる。

シールド印籠のシールドは、星船の重力制御能力でも無い限り、安全に破る事は出来ない。

定員一万人として、アーガスから発注された亜空間コンピューターのスペックから逆算すると。

「外時間で三十分も稼げば、内部時間で最低二十年は監禁できるな」

それだけ有ればアインクラッド100層の攻略には十分過ぎるだろう。

これなら妨害する必要は無い。

「さて、何しようか」

これから何しよう?

とうとうSAOで死者を出さないという、最大目標が達成されてしまった。

それどころか、銀連加盟国に限れば、死に至るあらゆる難病、寿命までも克服に成功した。

明日奈の祖父母は若返り施術を受け、今や十代の肉体を取り戻し、新たな青春を謳歌してる。

エイズや結核は撲滅し、セーフティーネットの整備で今年の自殺者数は限りなく低い数値と成っている。

シールド印籠の国民全員に対する配布で事故死も限りなく少なくなった。

目標がなくなってしまったのだ。

前もこんな事で悩んだっけ。

「あの時は麗に諭されたっけな」

自分の今までの行動を省みてみる。

「そうだった。まだ、世界の全ては既知じゃない」

銀河系外探査はまだまだ始まったばかりだし、天の川銀河だって簡易的な探査が完了したばかりだ。

輪廻転生や神、魂の有り様などは未だに解明仕切れたわけではないし。

物理法則の全く違う世界にだって行ってみたい。

何より神にチートを与えられた人間として、人類の文明を加速させ続ける義務が有るんだ。

「更に先へ、だ」

先ずは行き詰まってる魂の解明からだな。

既に魂の創造や魂寿命の延長、器物に宿らせる等は成功してるが、輪廻転生や高次生命(神)への昇格は取っ掛かりさえ見付からない。

「僕一人のアプローチで行き詰まってるなら、別の発想が必要って事だ」

ディスカッションは既に幾度となくこなし、新たな知見を得ようと努力もしてるが芳しくはない。

機族の研究者も何億と存在してるが、元が同一のプログラム故にか、どうしても思考プロセスが似通ってしまう傾向が有る。

成長すれば自然と差異が広がる筈だが、未だ稼働時間(経験)が人間の研究者より少ないという事なのだろう。

遂にあれを出す時かな?





一週間後、日重はナノ・マイクロマシンを使った後天的な知能強化技術の確立を発表。

人類の技術は、この時から更に長足の進歩を遂げる事になる。





知能強化施術は、ナノ・マイクロマシンを打つだけと簡単だ。

脳内の既存ネットワークを強化し、更にニューロン量子演算子とも言える物を構築して脳を強化するだけ。

様々な計測器を開発しては、その度に自分の脳を調べて来た賜物とも言える。

開発はした物の、個人的な感情では余り公開したくない技術だった。

何せ、僕の技術的な優位性が無くなるからだ。

そう、この施術を受ければ毎年のようにノーベル賞を受賞できる結城飛鳥の頭脳を、普遍的な人類が手に入れる事になる。

これは素晴らしい事でもあるが怖い事でもある。

何せ僕がその気に成れば、一般家庭にある物で高性能な毒ガスや細菌兵器、電子励起爆薬だって造れてしまうからだ。

そうそうテロ等に使えないように、銀連社会のテロ対策は充実してると思うが、何処に穴が有るか分からない。

今まで、正しいと思える方向に技術開発をして来たつもりだが、これから科学に携わる者としての良心を他人に委ねるしかないというのはかなり怖い物だ。

まあ、何れは必要な事なんだけどね。





『今回の戸籍関連法改正で、機族との婚姻や一夫多妻多夫多妻などの所謂重婚が許される事になり、与党内でも反対意見が出るなど……次に、銀連議会で審議されてる時間警察設置に関する予算……』

「ねぇ、明日奈」

「なーにー」

「僕と結婚しない?」

「ふぇ?」

家のコタツで寝っ転がって本を読んでいた明日奈に告白してみた。

「ちょ、ちょっと待って、いきなりなに?!」

飛び起きて詰問してくる。

「そのままの意味だよ、僕と結婚しない?」

「あのね。飛鳥くん、いきなり過ぎるよ!」

「あ、そう?やっぱり、ロマンチックなムードでとか、そういう事?」

そうは言いつつも予めシミュレーションはして来た。

このタイミングでの告白の成功率はかなり高い筈だ。

「それも有るけど、私達、まだ小学生だよ。早過ぎるよ」

「じゃあ、婚約しよう」

「いやいやいや、だからいきなり過ぎるって」

「そうでもないよ。彰三おじさんさんからはせっつかれてたし。そろそろ将来の伴侶を決めるのも良い頃かなって」

「うーん………何で私なの?、他にも飛鳥くんの周りには詩乃のんとか、霞んとか、色々な人が居るのに……」

「うん。色々と考えて見たんだ。自分は誰が好きか。みんなそれぞれ好きだし、それぞれ上手く行くと思う」

「うん」

「でね。こう考えたんだ。他人に取られたら誰が後悔するか、そしたら一番に思い浮かんだのが明日奈だったんだ」

「だから、僕の全部を上げるから、僕の物になって下さい」

「……はい、末永く宜しくお願いします」

はにかむように微笑む明日奈は、とても可愛らしかった。






取り敢えず、完。

はい、というわけでひとまず完結です。

本作は、技術チートを極めたらどうなるか?をテーマに書いて見ました。

最終的に銀連文明は、銀河系外進出、異世界進出、惑星改造に素粒子操作、魂の改変、時間移動、死の克服まで出来るように成りました。

正直、これ以上技術の発展が思い付かないので、完結させたような物です。

拙い作品ですが、此処まで読んで頂き有り難う御座います。

それではまた


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