転生して先ずした事。
それは、早熟する事だった。
生年は和人と同じ、平成20年の6月10日、SAO開始まで14年しかない。
零歳時から物分かりがよく、二歳で新聞を読み、三歳で物理学論文を読み解けるようになった僕を両親は異様に思ってたようだが、
三歳の時に普通の妹が産まれてからは、其方に係りきりになり僕は手の掛からない子として放任され始めた。
まあ、此方が母に甘えたり、普通の子供のように泣いたりと演技するのが面倒くさくなって、距離を取っただけなのだけど。
こんな不気味な子供なのに、三食不足無く出て来るし、僕の求める学術書を買ってくれたり、
両親はそれなりに愛情を注いでくれてるから、不満を言ったら罰が当たるだろう。
さて、そんな僕の活動であるが、先ずは父のパソコンを借りて論文を書き、企業や大学に送る事から始めた。
平成23年7月7日
新しいアプローチから始まる、小型高出力プラズマ核融合炉の実現可能性についての理論
公開されてる引用可能なデータから、それで検証可能な小規模実験装置の設計図を添付して、国内の企業や大学、研究機関に送信しまくった。
書式にも気を使った完璧な論文と、素人目にも分かりやすい要旨の二通を送ったのが良かったのか
レスポンスは直ぐに合った、原子力企業最大手の六菱重工と西芝だ。
西芝と六菱は、この世界の日本で国内の原子力プラント事業で勢力を二分する企業だが、
そのどちらもが小型高出力プラズマ核融合炉の実現性について、もっと詳しく聞きたいと言ってきた。
その会見は六日後、双方同時にとなった。
このチャンスを逃さない為に、発電可能な実験炉の細部を詰めていく。
使用可能な材料と加工技術、予算の制約を考慮して出来るだけ安く出来るだけ易く、見落としがないように論文などを確認しながら検証していく。
最終的に試行回数は八千を越え、四トントラックサイズまで実験炉のスケールを縮小できた。
脳内シミュレータ環境を授けてくれた神に感謝である。
さて、会見であるが、恙無く終了。
双方の連れてきた技術者同士のディスカッションは楽しかった。
終わりに六菱側から仮とはいえ契約の申し出を受けるも、可能なら西芝さんと合弁で事業にしたいと我が儘を言わせて貰う。
別れ際、実験炉の資料の全てを双方に渡す。
その後、数回の会合を経て、核融合研究開発の合弁会社の設立がなる。
決まってからは早かった、実験炉の製作と実証炉、商用炉の設計である。
実験炉は小規模であり、殆どが普遍的な技術の集まりで有るが故に3ヶ月で出来た。
その間に大手企業に繋がりが出来たことで、その伝手を使ってAIや医療関連も進めていく。
アンダーワールド人とか、面倒くさい物は作らせたくないので、さっさと進めるに限る。
ナノマシンによるゲノム編集法の確立を図るべく、ナノマシン製造装置の設計を開始。
平成23年12月8日
今日は記念すべき実験炉稼働の日
理論の検証や個別の実験は全て上手く行っている。
恙無く終了すると分かってるが、落ち着かない。
自分に年相応の情動があったと確認出来て喜び。
実験炉は、ホウ素と水素を燃料とする中性子を出さない核融合である。
燃料は、発展型タンデムミラーとでも呼ぶべき、全長1.5メートルの磁場の籠の中で、核融合してX線と荷電粒子を放出
磁場の突端から荷電粒子を放出して、変換機に集めて電力に変える。
こう書くと簡単だが、未だ人類には再現出来てない現象である。
実験炉は予定通り稼働し、予測通り12.4メガワットの発電に成功。
その後はチェックの為に停止。
これ以上無い成功。
次の山場は連続稼働試験。
マスコミ発表ついでに電力を使って、海水からホウ素や金などの目的元素を効率的に抽出する技術を発表する。
平成24年1月10日
実験炉の連続稼働試験開始。
同月22日
実証炉の製作を開始。
シミュレーション内で量子ネットワーク技術を確立。これを伝手を使って実用化して貰う。
巨大企業体の優位性を確信。
AIの人格プログラム一号、さくらを製作。
チューリングテストを始めとする各種知能テストを実施、対話型AIとして人間と比べても違和感は無い、
倫理感や羞恥心、無意識領域で動く情報整理の為の睡眠欲と人間に対する奉仕欲、危機を感じる為のストレス等も確認され、
設計通り知能面で少なくともユイに劣っては居ないと確認できる。
「さくら」
「何ですか?お父様」
モニターの向こうには12、3歳の黒髪の美少女がいる。
因みにモデルは某朝潮だ。
「宿題の成績はどう?」
宿題とはネットワークを利用した金稼ぎの事だ。
在宅ワークや株や為替等で、何でも良いから資産を増やせと宿題を出したのだ。
最初はホームページ製作やプログラミング、ネットワーク管理等、様々な事に手を出してたようだが、最近は効率面で優位な株取引に落ち着いたようだ。
結局、犯罪には手を出さなかったが、それは良心プログラムの働きの賜物と観測できたから問題ない。
「……ですのでこれからは先物取引へと挑戦してみたいです」
「分かった。手続きしとくよ」
平成24年6月15日
ファージ型ナノマシン製造装置第一号が完成。
特定細胞への遺伝子や薬剤導入を目指す。
まだまだ歩留まりやコストの問題が有るが、実用化すれば、ガンやエイズの特効薬になる。
幹細胞試験開始。
平成24年8月12日
今日は実証炉の完成、火入れである。
実験は恙無く完了。
40フィートコンテナサイズの装置で、408メガワットの発電実証に成功。
実験炉の規模を拡大しただけであるが、専用装置や技術を使用した事からより出力容積比が向上した。
発電コストは1kw/hあたり、2.1円。
商用型では、700メガワット1.7円の予定だ。
確実にエネルギー革命が起こるだろう。
同日商用型の仮発注が来た。
平成24年8月20日
今日は提供していた量子ネットワーク技術の発表会。
ハブを交換するだけで既存の光ファイバーネットワークの容量が一万倍以上に向上する画期的な物だ。
食い付きは上々。
報酬の株価も上々。
小型核融合炉を製品化する事になった。
実験炉をブラシュアップする方向で検討する。
大きさそのままで、対環境性や整備性を向上させる。
発電容量は22メガワット、発電コストは2.2円を予定。
平成24年9月1日
対話人格AI、さくらを発表。
リース販売開始。
さくらは、巷で溢れるようになった。
タワー型端末一台で動く多目的AIは、様々な場面で活躍し、
それに合わせて作られた作業ロボットの身体を得て、順調に人間を駆逐していく事になる。
平成24年11月29日
さくらの身体となる躯体製作開始。
「さくらが自由に動ける身体作ってやるからね。待っててな」
「はい、楽しみです」
最近は、さくらと話す事が多くなった。
情動の成長を観察できるのは楽しい、会社の皆や両親や妹とコミュニケーションさせている。
量産型が最近、テレホンアポインターやオペレーター、老人ホームの監視兼話し相手と様々な仕事をしてるようだが、特に問題は聞こえない。
寧ろ、予定通り環境に応じた多様性が出て来てるくらいだ。
さくらは、仕事に子育てに介護にと、全ての分野で活躍できる優秀なAIだ。
そろそろさくらの妹でも作るか。
平成24年12月28日
4歳児だが、師走も忙しさは関係なく訪れる。
躯体製作の片手間に作ってた、さくらの妹が先に完成した。
モデルとなる物が既に有ったから、簡単だったのだ。
「武蔵、お姉さんに挨拶して」
「初めましてお姉さま、対話人格AI武蔵です。以後、宜しくお願いします。――以上」
「うん、私こそ宜しくね」
武蔵は、あの某武蔵さんの容姿と性格をモデルにしたAIだ。
ユーザーからの声で、能力は兎も角、さくらより大人っぽい容姿のAIが欲しいとの要望が大きかった為にこうなった。
名前から分かる通りシリーズ化する予定。
因みに、この世界に境ホラも終わクロも無いので問題ないだろう。
平成25年1月30日
小型炉の火入れ日。
恙無く完了。
予定通りに22メガワット発電。
来年度からの販売を目指す。
自衛隊や米軍等からも引き合いが来てるらしい。
平成25年2月15日
炭素繊維製の骨格に骨格内に仕込まれた量子蓄電池、高分子繊維を編んだ人工筋肉、
筋肉の熱を取るために循環する冷却水機構、ラジエターの役割を担う肺と発汗機能
質感や陰影を再現された人工皮膚にカメラを仕込んだ眼球、植毛された人工毛。
不気味の谷を越えて、なごう事なき人間に見える。
後は頭脳部分に光子LSIとメモリを搭載すれば完璧だが、其方はまだ出来ていないので、現在は遠隔操作となる。
「さくら、ちょっと動かしてくれる?」
『はい、こうでしょうか?』
パチリと瞼を動かすと腕を持ち上げた。
「真似して、あ、か、さ、た、な」
「あ、か、さ、た、な」
右の口角が上がりすぎてるな。
31番と36番マイナス2、と。
「もう一回、あ、か、さ、た、な」
「あ、か、さ、た、な」
頬が不自然、52番プラス1これでよし。
「ニッって笑って」
「にーー、いたいれふ」
口に指を入れて少し引っ張ると、痛みに反応した。
痛覚系も正常。
「顔はバッチリだよ。次は身体だ」
「はい!」
「右手の人差し指を…………次は思いっきりジャンプ」
さくらは4メートル程垂直に飛び上がると、全身をバネのように使い音もなく着地した。
力の加減も問題ないし、連動試験は全てOKか。
「よし、おしまい。ご苦労様」
「ふう、ようやくですか、これで好きに動けるんですね!」
手を広げて、私楽しみですと表現するさくらには悪いが
「それはプログラムのチェックしてからな」
仮想体を操作する感覚と同じように操作できるように作ったけど、どういう不具合が起きるか分からないからな。
これからは、こまめにチェックしていく必要があるだろう。
平成25年5月2日
さくらを始め、武蔵、武蔵野、品川、浅草、多摩、村山、高尾、青梅、奥多摩、国分寺の11機の対話人格AIを作った。
因みに国分寺は、艦長さんズではなく、青髪の所謂量産型さんだ。
10機は、さくらの身体を作った経験を生かして、新たに製作した。
担当さんによると量産化は来年頭には始まる予定との事。
ラインは、人格AIを使った工程を大規模に入れる事でコストダウンとスピード化を図るらしい。
正に人間要らずだな。
さくら達の活躍でそろそろ貯金も大きくなって来たし、救済策の検討に入る段階かもしれん。
平成25年6月7日
ナノマシン製造プロセスの改善がひとまず終わった。
これで実用段階に行っても、コストは現実的な薬剤の範囲に収まるだろう。
未だに動物実験段階で、臨床段階に行ってないのが焦れったい。
平成25年8月10日
今日は自動人形11体の発表会。
自動車に自転車の運転、料理と掃除のデモを行ってマスコミの度肝を抜いた。
小型化した端末とバッテリーを背負う事で、スタンドアローン運用も可能。
正にメイドロボ、正に人類の夢。
なんかもうユウキとランも助かるだろうし、満足して来た。
宇宙開発や防衛分野にでも手を出して見るか。
というわけで、日本安全保障協力財団を設立。