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[36762] 習作:図鑑所有者の無駄口(ポケスペ)
Name: ひまお◆8bba8b43 ID:adda2dad
Date: 2013/02/22 19:28
ポケットモンスターspecialを題材にした、会話主体の日常モノです。

拙いですがよろしくおねがいします。



[36762] 無駄口金銀
Name: ひまお◆8bba8b43 ID:adda2dad
Date: 2013/02/22 19:30
「やっぱさ、イエロー先輩って癒しだよな」
「……肩書の話か?」
 ジョウトのある昼下がり。ワカバタウンのポケモン屋敷と呼ばれる民家のリビングで、そこの一人息子のゴールドと、居候のシルバーはのんびりと過ごしていた。
 怠惰に過ごしているように見えるその実、彼等は名うてのポケモントレーナーである。
 図鑑所有者。権威ある教授から、ポケモン図鑑を受け取り旅に出た子供はいつしかそう呼ばれるようになった。彼等はトレーナーとしての天賦の才があり、またその度の最中で強大な陰謀と立ち向かう。まるで意図して選ばれた訳でもないが、不思議とそういう運命に巻き込まれていくのだ。
 このジョウト地方には三人の図鑑所有者が居り、そのうち二人がこのゴールドとシルバーである。
 また、図鑑所有者はその特徴から二つ名をつけられる事がある。例えば、『孵す者』ゴールドや、『換える者』シルバー。会話に出てきたイエローもそのひとりであり、彼女は『癒す者』の二つ名を与えられたトレーナーである。
 その話題を振ったゴールドは、しかししたり顔でいやいやと否定した。
「そうじゃなくて、なんつーの、女の子的な可愛さっつーの? 側にいるだけで和むわ、って感じの」
「くだらん」
 実に楽しそうな口調のゴールドを、シルバーは一言で切り捨てる。しかしそれもゴールドは気になどしない調子で話を続けた。
「だって考えてみろよ他の面々。クリスなんかあの生真面目っぷりで、仕事となりゃ『捕獲します!』っておっかねーし、ホウエンの野生児ギャルなんかまず荒っぽそうだし」
 クリス。クリスタルという彼女は、ゴールド、シルバーと肩を並べるジョウトの図鑑所有者であり、二つ名は『捕える者』。
 野生児ギャルというのはゴールドが付けたあだ名であり、本名はサファイア。ホウエン地方の図鑑所有者である。ちなみに、ホウエン地方の所有者には未だに二つ名は付けられていない。
「まだブルー姉さんが居るだろう」
 なかなかなー、と述べるゴールドに、シルバーは仏頂面でけれどしっかりと言葉を挟む。
 ブルー。イエロー含むカントー地方の四人の図鑑所有者の内の一人であり、またとある事情から彼女はシルバーとは姉弟のような関係である。『化える者』の二つ名をもつ。
 言われ、ゴールドはふむ、と頭を捻る。が、出てきたのは溜息だった。
「ブルーの姐さんはなー」
「なんだ、文句があるのか? 女性的だろう、姉さんは」
 興味なさそうな先ほどの様子から一転して、おざなりなゴールドにシルバーは憤慨して見せる。慌てて、まあ落ち着けと宥めるゴールド。
「確かに姐さんは女っぽい。つーか女っぽ過ぎる。ありゃああれでおっかねーって。気付かぬうちに掌で転がらされてそうだぜ。確かにキレーかもしんねえけど、癒されるかっつったら小動物系のイエロー先輩じゃねえのって話だよ」
「……姉さんだって十分癒される」
「ほー。そうかねえ」そりゃオメーだけだと言う言葉をゴールドはしっかりと飲み込んだ。少なからずシスコンのけのある友人を下手に刺激するのはやめておく。
 そんなゴールドの内心を知ってか知らずか、シルバーはそれに、と言葉を続けた。
「イエロー先輩がたんに小動物系という評価は、如何なものかと思うがな」
「んだよ、姐さんを却下したからってけち付けんなよ。どう見ても可愛い系じゃねえか。慕われてるレッド先輩がチビっと羨ましいくらいだろ」
「あの人は、ワタルさんと一対一で死闘を繰り広げた事があるそうだ」
「……マジで?」
 ゴールドに脳裏に甦るのは、先日の騒動の始まりに、とあるカイリューと対峙した時の出来事。その時のカイリューは相当鍛えられてあったが、本調子でない事もあって制する事が出来たものの、その辺りの事情からそのカイリューの本来のトレーナーと、その手持ちポケモンについては色々と調べていた。調べるほどに本当におっかないトレーナーだと再確認させられていたのだ。
 そのトレーナーこそ、一時カントーのチャンピオンを名乗っていた男、ドラゴン使いのワタルである。
 方やイエローと言えば、小柄でポニーテールの似合う見るからに可愛らしい少女である。戦うのは苦手だし、得意ではないと言っていたが、まあそんな所も女の子っぽい点でありプラスだろうとゴールドは思っていた。普段からとても優しく穏やか少女であるためにそんな言葉も上辺だけでないと分かるのもある。
「勇ましかったらしいぞ。腕折れてもなお闘士は砕けずに、雄叫びをあげ真っ向から向かっていったと」
「すっげ……すげえけど、マジかぁ……」
 そんなゴールドのイメージに、シルバーの言葉が新たな一面を書きたしていく。予想外にも程がある一面だ。勿論、それで印象が悪くなるという事などはないが、それでも結構な衝撃だった。
 当り前だろう、とシルバーは憮然とした表情で言う。
「図鑑所有者の定めとでも言うべきか、皆、巨悪と戦う為に激闘を潜りぬけねばならなかったんだ。立ち向かう為の強さの一面を持っていない訳が無いだろうに」
 図鑑所有者が戦ってきたのは、いずれも激戦であった。どの相手も、広い地域を揺るがそうと言う大悪事を目論んでいたので、必然的にそうなっていったのだ。そんな中、最後には勝利してきたのもまた、図鑑所有者たちであった。
 トレーナーとしての手腕だけではない。折れずに只管抗い続けた故の勝利だったのだ。
「そりゃ分かってるけどよー。あー、今度後輩が出来んならやっぱ可愛い子が欲しいよなー。お淑やかな、可愛い系の。深窓のお嬢様って感じとか」
「ふん、分からんぞ。ジムやフロンティアなんかを片っ端から攻略していくような娘かもな。……おい、そろそろだ。リモコンを貸せ」
「うわー、ありそーだなおい。……あいよ。好きだねーお前も。元ネタなんてよーく知ってるだろうによ」
「これは凄いぞ。タウリナーΩは良いものだ」
「はいはい」



[36762] 続・無駄口金銀
Name: ひまお◆8bba8b43 ID:adda2dad
Date: 2013/02/23 11:16
「お前、将来どうすんの?」
「なんだ唐突に」
 ジョウトのある昼下がり。ワカバタウンのポケモン屋敷と呼ばれる民家のリビングで、そこの一人息子のゴールドと、居候のシルバーはのんびりと過ごしていた。
 怠惰に過ごしているように見えるその実、彼等は名うてのポケモントレーナーである。
 図鑑所有者。権威ある教授から、ポケモン図鑑を受け取り旅に出た子供はいつしかそう呼ばれるようになった。彼等はトレーナーとしての天賦の才があり、またその旅の最中で強大な陰謀と立ち向かう。まるで意図して選ばれた訳でもないが、不思議とそういう運命に巻き込まれていくのだ。
 このジョウト地方には三人の図鑑所有者が居り、そのうち二人がこのゴールドとシルバーである。
「いや、何となくシロガネで修行してた事思い出したんだけどよ、先輩らとか後輩どもとかクリスは将来的なもんが分かり易いけど、俺らってどうもちょいとあやふやじゃねえかな、と」
「訳が分からんが、お前と一緒にするな。俺はやる事くらい決めている」
「それは?」
「父さんを、ロケット団を……止める!」
 シルバーの表情は、揺るぎない決意にあふれた勇ましい表情であった。彼の意志の強さがその顔からありありと伺える。
 彼の父、サカキは犯罪集団ロケット団の首魁であり、誰もが認める悪党である。しかし同時に多くの人間から尊敬に値するとされる非常に優れた男でもあった。またやはり、違えようもなくシルバーの父親であるのだ。
 その男を悪の道から叩き直すことこそが、シルバーの現在の至上の目的であり――
「って、そうじゃねーよ! そんな人生の目的な話じゃねえよ。これから先何やって飯食ってくかって話だよ。お前、なんか考えてんの?」
「む、そうか。……それは、それは――」
「それは?」
 ふむ、と顎に手を当て思考に耽るシルバーであったが、一向に答えは返ってこない。
「んだよ、結局お前も決めてねえじゃねーか!」
「……正直、あまり考えてこなかったかも知れん」
 父親の問題が湧きおこるまでのシルバーの願いは、後ろ暗い世界に身を置いてきた彼だからこそ、ただ明るい世界で生きたいというささやかなものだった。
 しかし、だからこそ明るい世界でどう生きるかまでは考える事は無かったのだ。
 その辺りの事情は或る程度ゴールドも察しているし、だからこそ不承不承ながらも我が家にシルバーが居座っている事に文句はない。
 しかして、ずっとそうしていられる訳でもないのである。
「とりあえず、先輩方の例から考えてみようぜ。参考になるだろうし。まずレッド先輩! あの人は分かりやすい」
 レッド。カントー地方の図鑑所有者の一人であり、その巧みな戦闘やリーグ優勝の経歴から『戦う者』の二つ名を持っている。ゴールドにバトルの師事をしたこともある。
「『戦う者』のバトルの腕前があれば、どこかしらで雇われてもいいだろうし、その筋の講師も出来るだろう。極論、色々と放浪しながらファイトマネーだけで生活していくことも出来るんじゃないか」
「あー、できそう。っつうか何か間違えばそんな生活してそうだ。それにアレだ、他の地方だとチャンピオンって協会所属なんだろ? ワタルさんがどうするのか知らねえけど、カントーのチャンピオンとかに収まったりとかありそうだ」
「確かにな。それに、あの人にはタウリナーΩがある」
「別にレッド先輩のもんって訳でもねえだろうけど」
 タウリナーΩとは、今巷でちびっ子に大人気のロボットアニメである。フッシー指令の元、ピカ隊員ら勇敢な仲間たちが合体ロボタウリナーΩを操って、悪者、デモニッシュに立ち向かうのだ。
 そして、この物語に出てくる正義の味方のポケモンが、レッドの手持ちポケモンをモチーフにしている事は、彼の事を知る人間だけが知る事実である。
 更にちなみに、シルバーがゴールド宅に居候する目的の一つがこのタウリナーΩであったりもする。
「あれが、大ヒットすりゃあそりゃレッド先輩も有名人か。タレントの仲間入りとか? 実写版タウリナーとかやっちまったり?」
「実写版か……いいな、それは!」
「落ち着けシル公。もしもの話だっつの。しっかし、人気なったら続編とかやんのかねえ。んなことになったら……俺が後釜ってのも悪くねえかも。お! 俺にもテレビ界デビューのチャンスが来たか!」
「タウリナーの後継がお前などと言うのは認めん! 絶対だ!」
「だからもしもだって! よーし、話し変えるぞ。次、グリーン先輩。……っても、既にジムリーダーだもんな」
 グリーン。レッドと並ぶ、カントーの図鑑所有者である。嘗てポケモンリーグでレッドと決勝を競った彼は、トキワジムのジムリーダーである。『育てる者』の二つ名を持つ彼は、ポケモンの育成に非常に長けており、不在の際でもポケモンに任せるだけでジム戦を行えるほど。
「ああ。レッド先輩と並ぶバトルの腕、『育てる者』としてポケモン育成の技術。トキワジムは安泰だろう。もしジムを引退する事があっても、それこそそのまま育てやになれるだろうし、オーキド博士の所もある」
「あの人は相当な勝ち組だぜ。絶対に食いっぱぐれねえよ。……勝ち組過ぎて、話題がそれだけですんじまうな。んじゃ次、ブルーの姐さん。は、それはそれであんま語る事がねえか」
「姉さんを蔑ろにする気か……!」
 ブルーと姉と慕うシルバーは、結構シスコン気味である。
「そうじゃねーって! あの人はあんだけしたたかだから、結局最後には笑ってる類いだろ。つーか、お前もそのシスコンっぷり大概にしとけよ。姐さんだっていつかは結婚したりすんだろうに、そん時はどうすんだよ」
 やれやれと肩を竦めるゴールドの言葉に、シルバーはぐ、と言葉を詰まらせた。
「そ、それは……いや、あの人、あの人は……くっ」
 冗談で言ったつもりが本気で苦悩し始めるシルバーに、慌ててゴールドは待ったをかける。
「だから本気になるなってーの! 何にしろもう少し先の話だから! な! まず落ち着け!」
「あ、ああ、そうだな。そうだ、まだ先……すまん」
「きにすんな。が、お前にツッコミ入れ慣れてきた自分に違和感だ。まあいいか。で、イエロー先輩は……どうすんだろうな、あの人」
「……トキワの森の管理者とか、どうだ?」
「どうだって何だよ、あんのかよその仕事! でも似合ってるけど!」
「強ち冗談と言う訳でもない。トキワの森は、嘗て……ロケット団に荒らされた事があるそうだ。それに、あの人自身やワタルさんの様な特別なトレーナーが生まれる地と言うのもある」
「あー、なーる」
 トキワシティには、稀に特殊なトレーナーが生まれる事がある。それは、ポケモンの感情を、記憶を知り、その傷を癒す事の出来る特異な能力。ポケモンの命を育む穏やかなトキワの森が源泉とされるそれだ。
「あの人は、自分の能力について責任を感じている節があるだろう。それに」
「性格的に、一番良い人だもんなあ。そう言う事からはぜってえ正面からぶつかりそうだな。よーしお次はクリス。まあ、アイツももう捕獲屋してるな」
「ああ。安定性で言えばグリーン先輩に並んでトップだろう。それに、やはりオーキド博士の助手もあるしな」
「だよな。まあ、これまでも孤児院の立て直しとかで金銭面でもピッチリしてたみてえだし、アイツとくっつく奴は間違いなく尻に敷かれるよな」
「そうだな。……ふっ」
「なんだシル公、その含み笑いはよ」
「何でもないさ。次はホウエン組か」
「あいつらこそ分かりやすいぜ。まずオシャレ小僧! アイツはその方面だろ。ホウエンのコンテスト制覇したってったし」
 オシャレ小僧、ことルビー。ホウエン地方出身の図鑑所有者であり、強さを第一とするジムリーダーの父を持ちながら、ポケモンの魅力を何より第一に考える少年である。また、その一方で優れたバトルの技術も持っている。
「奴は見るからに小器用だからな。上手く立ち回るだろう。しかしホウエンのチャンピオンに師事を受けていると言う話もあるから、そちらの可能性もあるかもしれんぞ。サファイアはどうだ」
「野生児ギャルな。アイツ結構なバトルフリークだったから、トレーナー方面か? でも、オダマキっつー博士の娘で、知識の方も相当深いんだろ? 研究職とかも考えてんのかね。……正直、傍目に見てそんなイメージ湧かねえけど」
「最後はエメラルドか。奴もまた独特だが……あのフロンティアの面々と結構親しくなっていたようだし、フロンティアブレーン辺りか? 実際に、七日で攻略して見せるほどの戦略性もあるのなら適任だろう」
「だよなー。つーか最後は図鑑所有者トーナメントだったのに、一番のルーキーで優勝しやがったしな。俺も鍛え直すかなー」
 と、一通り語り終えた所で、二人の言葉が止まる。
「で、だ。ここまで鑑みて、俺らはどーよって話だ」
「ようやく本題か。……やはり、何かしらの形でトレーナーとして、と言うケースが多かったな。俺も、考えればその方面が良さそうだ。となると、どんなトレーナー職か、と言う事だが……」
 一口にトレーナーと言えど、その形は様々だ。逆に、どんな職でもポケモンを扱うのならばトレーナーであると言える。
「案外、警察とかあってんじゃねえの? それこそ好きなだけロケット団おっかけられるぜ?」
「馬鹿を言うな。一応とはいえ、指名手配されている身だぞ」
「いやいや、真面目だぜ俺は。それこそ、やりてえことで親父さんを追っかけるしか出て来ねえおめえなら、他の事よりかしっかり出来そうだろ。指名手配っても、あの、俺の傑作じゃねえか。いや、上手く描けているとは思うけどな」
「しかし……、いや、それもそうか。なるほど」
「よーし、決まりだな! さあトリは俺様だ! いやまーあ? 才能溢れすぎちゃってるから、何やったって上手くいくだろうけど、だからこそ悩むっつーか、なあ」
「いや、お前は考えるまでもないだろう」
「お、即答するじゃねえのシルバーちゃん。この才能の塊が何に向いてるって?」
「育て屋」
「嫌だ」
 その端的なシルバーの言葉にこそ、ゴールドは間髪入れずに否定した。
「……つうか、なんでそんな答えが出るんだよ」
「むしろ何故そこまで嫌がる? 育てや夫妻には世話になったのだろう? ましてお前は『孵す者』だろうに」
「だから嫌なんだよ! あのジジババ散々人をこき使いやがって! 嫌だね、もうあんな面倒くさい事はごめんだっての」
「そう言いつつ、結局いつも手伝いには行くじゃないか。それに、あの夫妻がこっちに残した空家の管理も任せられてるんだろう? どう考えても後継者の――」
「ち・が・う! 頼まれたのをほうり出すわけにもいかねえし、仕方ねえんだよ! 俺自身にはやる気はねえよ!」
「……まあ、世の中には嫌だと言おうと逃れられない事はあるものだ」
「お、おい、何だそれ! 俺が育て屋になるのは逃れられねえ見てえに言うんじゃねえよ! 俺はやらねーぜ、絶対! マジで!」
「意志を持つのは当人の自由だからな。……おい、リモコン」
「だからそういう怖い事を言うなっての! ……おらよ。と、とにかく俺はやらねえからな!」
「うるさい。オープニングが聞こえないだろう」
「ぜってーやらねえからなあーっ!」



[36762] 無駄口赤緑
Name: ひまお◆8bba8b43 ID:adda2dad
Date: 2013/03/02 21:40
「俺より強い奴……誰かいないかな」
「どうした、藪から棒に」
 カントーのある昼下がり。トキワシティのジムで、隣のマサラタウンから訪れたレッドと、ジムリーダーのグリーンがのんびりと過ごしていた。
 怠惰に過ごしているように見えるその実、彼等は名うてのポケモントレーナーである。
 図鑑所有者。権威ある教授から、ポケモン図鑑を受け取り旅に出た子供はいつしかそう呼ばれるようになった。彼等はトレーナーとしての天賦の才があり、またその旅の最中で強大な陰謀と立ち向かう。まるで意図して選ばれた訳でもないが、不思議とそういう運命に巻き込まれていくのだ。
 このカントー地方には四人の図鑑所有者が居り、そのうち二人がこのレッドとグリーンである。
「最近さ、カーッと熱くなるようなバトルしてないんだよ。だから、俺より強い奴どこかに居ないかな、と思ってさ」
 言う者によれば傲慢にしか聞こえないセリフであるが、しかしてレッドはカントー地方にてジムバッチを八つ集め、その上で地方最大のリーグを優勝した猛者。実際問題、彼に肩を並べるトレーナーはそういないのである。
「バトルフロンティアでも行けばいいんじゃないか? エメラルドこそ短期間で攻略していたが、あそこを制覇するのはすんなりといかないだろう」
 バトルフロンティアとは、レンタルされるポケモンしか使えないバトルファクトリー等を始めとした、通常のバトルとは違った様々な制限ルールの元で戦うバトル施設である。それぞれのルールは独特の戦略性を持っており、その中で勝ち抜く事でフロンティアブレーンと呼ばれる強力なトレーナーと戦う事が出来、彼らに勝利することで、その施設の攻略となる。
「バトルフロンティアかー……」
 グリーンの提案に、顎に手を当て自分がバトルフロンティアに行ったらどうなるかを考える。

   …
  ……
…………
「あ! 図鑑所有者だ!」
「本当だ、特設コーナーもある図鑑所有者だ! しかもアイツ、『戦う者』のレッドだぜ」
「『戦う者』だから、きっと見境なく何とでも戦うに違いない」
「きっとアイツにとって日常全てが戦いなんだよ」
「戦う者だもんな」
「飯食べる時も戦いなんだぜ」
「トイレで戦い」
「寝ながら戦い」
「食べながら戦い」
「むしろ毎秒毎秒戦ってるんじゃないか」
「時間との戦いか」
「そもそも戦う事自体と戦ってるんだよ」
「戦いとの戦い」
「勝利との戦い」
「敗北との戦い」
「引き分けとの戦い」
「さすが戦う者だ!」
「今も戦ってるに違いない」
「どう見ても普通にロビーで休んでるこの瞬間も」
「休む事と戦っているに違いないさ!」
「たたかう ものって すげー」
…………
……


「……なあグリーン。俺は別に、戦えさえすれば何でも良いって訳じゃないんだ」
「そうか? 昔から割といつでもどこでも戦っていたような気がするが」
「そ、そんな訳ないだろ! 俺だって何と戦うかくらい選んでるって」
「……それじゃあ、行った事のないシンオウに行ってみるのはどうだ? お前自身知らない土地ならば、普段とは違った感覚で戦えるんじゃないか? 生息しているポケモンもこちらとはまるで違うと言う話だ。きっと面白いぞ」
 シンオウは、彼等の住むカントーよりか遥かに北にある地方だ。雪深い事と、三つの湖が有名である。
「シンオウかー……」
 グリーンの提案に、顎に手を当て自分がシンオウ地方にに行ったらどうなるかを考える。

   …
  ……
…………
「おい、聞いたか? この辺りに凄いマニアが来たらしいぜ」
「ああ、聞いた聞いた。タウリナーΩのマニアだろ。完璧に同じパーティーで、あだ名まで同じだってんだから」
「しかも滅茶苦茶強いらしいぜタウリナーの人」
「余程ドハマりしてんだな、タウリナーに」
「……あ、いた。あいつだよ、タウリナーの人」
「へえ、アレがタウリナーの人か……」
「若いなー。いや、若いからドハマりしたのか、タウリナーの人」
「……俺、ちょっと戦ってこようかなタウリナーの人と。デモニッシュのフリして」
「いいな、何人か集めてコスプレして囲ってみようぜ。あのレベルのマニアだ、きっと完璧な反応を見せてくれるはずだ」
「そうだ。そんときに弟連れてこうかな。ヒーローショーみたいに喜ぶかも」
「きっと喜ぶぜ! あれだけのタウリナーマニアだ。そりゃあ番組格好よく戦うだろうしな!」
…………
……


「……タウリナーΩってさ、全国規模で大人気なんだってさ。俺、子供の夢を守り切るにはちょっと自信が足りないかな」
「確かに人気を博しているらしいが、考え過ぎじゃないか? 責任を持とうとするのは結構だが」
「いや、でも大事なことだと思う」
「そうか。後は……そうだな。それこそ、ホウエンもシンオウにもあるだろうが、ジョウトも含めてまだ持ってないジムを回ってみるのはどうだ? 質も量もかなりいい戦いができるんじゃないか?」
 地方と区分けされる地域には、それぞれ8つのジムがある。レッドも、かつてはカントー地方のジムを巡ってバッチを集め、そしてリーグに出場した経験がある。
「ジム巡りかー……」
 グリーンの提案に、顎に手を当て自分がシンオウ地方にに行ったらどうなるかを考える。

   …
  ……
…………
「……まちな! お前、ジムバッチを36個集めたらしいじゃねえか」
「そいつは俺たち○○団があり難く使わせてもらうぜ」
「お前は知らねえかもしれないが、ジムバッチを36個集めると、アレがこうしてこうなって、莫大なエネルギーが発生する」
「俺たちの野望の為には、そのエネルギーが必要なのさ!」
「もっとも、それを達するとこれがそうしてこうなって、余波で世界が大変なことになるが俺たちは知ったこっちゃねー」
「何より大切なのは、お前からバッチを奪って俺たちの目的を達成する事だからなー!」
「わざわざ地方を跨いで探すのは面倒だったが、こうして全部持ってる奴が居るなら話は早い」
「さあ、痛い目にあいたくなければそのバッチを渡してもらうぜ!」
…………
……


「……俺もさ、別に好き好んで諍いの渦を作って飛び込もうってつもりはないんだ。いやまあ、目の前で陰謀とか悪巧みとかあったら止めるけど」
「何を言っているのか最早訳が分からんぞ」
 はあ、と溜息をついたグリーンはそれっきり口を噤んだ。レッドも気だるげに溜息をつく。
「カーッと熱くなるようなバトルがしたい。俺より強い奴どこかに居ないかなー」
「そもそもお前のそれは贅沢な悩みだ」
「そうかなあ……」
 マサラタウンの午後は、今日もゆっくりと過ぎていく。



[36762] 無駄口黄青
Name: ひまお◆8bba8b43 ID:adda2dad
Date: 2013/03/03 11:37
『最近さ、カーッと熱くなるようなバトルしてないんだよ。だから、俺より強い奴どこかに居ないかな、と思ってさ』
「レッドさんが、戦う相手を探してる……」
 カントーのある昼下がり。トキワシティのジムの裏を通り縋ったイエローは足を止めた。
 普通の少女のように見えるその実、彼女は名うてのポケモントレーナーである。
 図鑑所有者。権威ある教授から、ポケモン図鑑を受け取り旅に出た子供はいつしかそう呼ばれるようになった。彼等はトレーナーとしての天賦の才があり、またその旅の最中で強大な陰謀と立ち向かう。まるで意図して選ばれた訳でもないが、不思議とそういう運命に巻き込まれていくのだ。
 このカントー地方には四人の図鑑所有者が居り、イエローもまたその一人なのである。
「やっぱり、レッドさんの近くにいるのなら、強い方が良いのかな」
 偶然、レッドとグリーンの会話を小耳にはさんでしまったものの、けれどそのまま聞き耳を立てていられるほど節操が無いわけではない彼女は、近くの自宅に帰り溜息をついていた。
 図鑑所有者と言えば優秀なトレーナーである。がしかし、彼女は図鑑所有者の中でも異質であった。 
 イエローは、バトルだの戦闘だのを避けているのだ。必要とあらば戦う事から逃げはしないし、その奥底に秘められた力は他の面々に決して見劣りするものではない。
 ただ、非常に優しい心の持ち主である彼女にとってはたとえ競技制のバトルでもポケモンたちが傷つく事に胸を痛めずにはいられないし、普段は戦わせること自体に尻込みするほど闘争心というものと無縁であるのだ。
 けれど彼女が心惹かれている相手であるレッドは、『戦う者』の称号を持つほどの手錬。その道のトップに居ると誰もが認める位だ。
 彼の隣に立とうと思えば、結局その辺りが懸念として頭を過るのだ。
 はあ、と自分へと向けた憂鬱の溜息が洩れる。
 そのときだった。彼女一人しかいないはずのその部屋で、突然背後声をかけられたのは。
「困っているようね、イエロー」
「ぶ、ブルーさん! いつの間に!」
 後ろに立っていたのは、イエローも良く知る相手、やはりカントーの図鑑所有者であるブルーであった。
「ちょっと近くに来たから立ち寄ってみれば、なあにアンニュイな溜息ついちゃってー。似合わないわよー」
「えっと、ごめんなさい?」
「別に謝れ何て言わないわよ。でも、イエローだって笑ってる方が可愛いんだから、そういう悩み事はサクサク解決する!」
「でも、いきなり強くなろうなんて、難しいですよ?」
「そんな事はないわ。私が送り出した頃ならいざ知らず、今のあなたはついに覚える時が来たのよ!」
 ブルーの自信満々な様子に、しかしまるで想像がつかないイエローはおずおずと問い返すしかない。
「覚えるって、何を……」
「ふっふーん。決まってるじゃない。女のブ・キよ」
「女のブキ……!」
 ウインク一つと共に妖艶な様子で言われたその言葉に、イエローはぴしゃんと十万ボルトに打たれたかのようなショックを受けた。
 一時、わけあって男装していた彼女にとって、女の武器と言う奴は憧れる事があっても非常に縁遠いものだったからだ。
 ましてや、目の前のブルーはと言えば、様々なピンチを女の武器で切り抜けてきたという実績を持つその道のプロフェッショナルである。それはもう色んな女の武器と、その使いこなし方を熟知しているに違いない。
「ほ、本当に、ボクでも使えるようになるんでしょうか……。そ、その、女のブキ、が……」
 そもそも、男装していた事自体滅多にばれなかったあの日々、それほど女性的魅力に掛けているのではないかと思わずにいられない自分であるが、けれど言うなれば女の武器の塊のようなブルーが言うのならば、自分にも覚えられるのではないかと言う希望が湧いてきた。
「当然よ。イエローだって可愛いんだから、どこぞのバトルフリークの一人や二人、一発でコロっと出来るようになるわ」
「いっぱつで……頑張ります!」
 こうして、彼女の過酷な女の武器習得の特訓は始まったのである。

lesson1.
「手っ取り早い所から行きましょう。イエロー、これをつけなさい」
「これって……」
 受け取った『これ』をみて、イエローはわなわなと震える身を抑えられなかった。
「ブラジャーじゃないですか」
「そうよ。御覧の通り、ボールつきブラジャーよ。いざという時、セクシーさを醸し出しつつポケモンを繰り出せるわよ」
 それはパットつきブラジャーが生易しく見えそうなくらい極端なブラジャーであった。なにせ普通は女性の双丘を多い保護する為の二つの器に、モンスターボールが二つくっついているのだ。そのボリューム感は尋常ではない。
「これを、ボクが着けるんですか……?」
「その為に渡したんじゃない」
 事も無げにブルーは言うが、しかし、実践していた彼女と自分の胸元を見比べてみれば、まるで三次元と二次元の比較が見えそうになる。
 しかし、そのブルーが言うのだ。自分だって、やってやれない事はないのではないか。
 意を決し、そのブラジャーの装着を試みる。そして、上からいつもの服を羽織ってみれば――
「あー、やっぱダメね」
「やっぱってなんですか!」
 結局、大切なのはバランスである。小柄でスレンダーな彼女に、二つのボールから生まれる膨らみは残念ながら不釣り合い過ぎたのだ。

lesson2.
「最初からダメそうならやらせないでください……」
「物は試し、よ。何に何を描ければ美味しくなるかなんて、やってみなきゃ分からないんだから」
「なんだか急に不安になってきました……」
「ごめんごめん。次からは練習すればできるのやるから、ね? それじゃあ、今度はしなを作ってみましょうか」
「しなを作るって、具体的にどんな事をするんですか?」
 そうね、とブルーがまじまじと改めてイエローの姿を見る。じっと見られのはどうにもくすぐったいような感覚で、たまらず身体を捻るように首の後ろを手で押さえる。
「あ、良いじゃないそれ。やっぱりイエローはそこよね」
「そこっていうと……」
「うなじようなじ。やっぱり麦わら帽子とポニーテールが印象的だから、麦わら帽子を取った時のあらわになった首元がやっぱり強いんじゃないかしら?」
「そうなんですか?」
 褒められても、イエロー自身は意識していた訳ではない点なので、すぐに納得まではできない。
「もちろん。後はどうやって見せるかね。イエローの小柄さは可愛さとリンクしてるからいい所なんだけれど、うなじを見せようとすると相手の視線よりちょっと低くなっちゃうのよねえ」
 それがそれこそネックなんだけど、と再度考え込むブルー。
「えっと、見せればいいんなら、麦わら帽子を被るのはやめたほうがいいんでしょうか?」
「だめだめ! せっかくのトレードマークなんだし、今でも良いギャップになってんだから。むしろ、今までよりも被ってた方が良いんじゃない?」
「もっとって、どれくらいですか」
「レッドにバレてから普段から結構はずして歩くようになっちゃったけれど、今度は逆に、レッドと二人で会う時以外なるべく被っててみなさい。レッドに対して特別感を作るのよ」
「な、なるほど。そうすればレッドさんに、その、ボクが思ってる事が、さり気なく伝わったり……」
「しないでしょうね。実際、アイツがそれに気が付くと思う?」
「思いません」
 レッドの事が大変気になるイエローの贔屓目から見たとて、とてもじゃないがレッドがそういう機微に聡いとは思えない。
「じゃあやっぱり意味が無いんじゃ……」
「そんなことないわよ。こう言うのは普段から気に掛けておくのが大切なの。罠ってのは色んな所に仕掛けておいて、相手がかかった所からこっちの攻め方を考えるのよ」
「麦わら帽子も罠の一つなんですか」
「そゆこと」
 そんな事を言われても、どういった罠なのか今ひとつピンとこない。帽子で罠を仕掛けようなんて、精々ポッポを取るための木の枝と餌を使った簡素なものしか思い浮かばない。
 そこまで考えて、ポッポのコスプレをしたレッドが、餌に惹かれながら帽子の罠にふらふらと歩み寄る情景が思い浮かんだ。
「ブルーさん。ポッポレッドさんって可愛いと思いませんか?」
「ごめん、何言ってるのかわからないわ」

lesson3.
「結局しなをつくる話がうやむやになっちゃったわね」
「ごめんなさい」
 最後の妄想の辺り、自分には集中力が足りなかったとイエローは自省する。せっかくこうして先輩が手解きしてくれていると言うのに、失礼な話ではないか。一方で、神妙なイエローをよそに当のブルーはからからと快活に笑って見せる。
「いいのいいの。こんなのは失敗して当然。試行錯誤が重要なのよ。自分に合う服を見繕うようなもんなんだから――勿論、服を選ぶのだって着こなすのだって、女の武器の一環なんだけどね。後でそこらへんも教えてあげる」
「はい、がんばります!」
 ぐっと胸の前で両こぶしを握り、気合を入れ直す。あの人に振り向いてもらう為の事を、てきとうにやろうなどというつもりは一切ない。全力を出したって足りないくらいだ。
「よし、良い返事ね。それじゃあ次は――奇襲のやり方を考えるわよ」
「奇襲!?」
 突然目の前の彼女に言われた殺伐とした言葉に、イエローの目が点になった。
 奇襲とは何事かいったい何をするつもりなのか。奇『襲』。襲うのか? 誰が? 自分が? 誰を? 彼を? 物陰に潜んで彼に襲いかかれと言うのか。いや、女の武器の一環と考えれば襲うと言うのもこの方面ではないのでは? むしろ物陰に彼を引きこんであれやこれや――
「はいはいはい、言葉が悪かったのは認めるから戻ってきなさーい。どの方向で考えてるか分かんないけど、絶対ずれてるわよー」
 やれやれと言った風のブルーの声が思考に割り込まれたところで、イエローははっと我に返った。
 今反省したばかりだったと言うのに、また妄想の渦中に飲み込まれてしまった。けれど、それだけ予想外の言葉だったのだ。
「ごめんなさい、また……」
「気にしないでいいってば。ここで言いたい奇襲っていうのは、丁度今みたいな事よ」
 要領を得ないその言葉に、イエローはキョトンとする。その様子を見てとったブルーは、相槌を待たずに言葉を続けた。
「今の今まで女としてどうの、って話をしていた時にいきなり奇襲とか言われてびっくりしたでしょう」
 そこなのよ、とニヤリと不敵に、そして妖艶に笑う。この人くらいきれいならば、と多少の羨望を覚えるほど様になっている笑みだった。
「重要なのは、どんな奇襲をかけるかじゃなくて、どう奇襲をかけるか。今考えるのは、どこから相手の予想を覆すか、思考の裏をかくかっていう話よ。そこで問題。次は何を考えたらいいと思う?」
 今回も一方的に教授されると思っていたので、突然問いかけられて言葉に詰まる。或いは、これも奇襲と言う事なのかもしれない。
「え、えっと、何をって、それは、相手の予想を覆すんだから、相手が何を考えるかです……か?」
 若干自信がなかったせいで、尻すぼみになってしまったが答えを返す。目の前の出題者は、その答えに我が意を得たりとばかりに、先ほどとはまた様子の違う楽しそうな笑みをにっこりと浮かべて――
「ざーんねん。ハ・ズ・レ」
 今日一番楽しそうに不正解を告げた。
「は、ハズレなんですか?」
「エスパーポケモンや超能力者じゃあるまいし、それが分かれば苦労しないわ。もっと能動的に考えるのよ。何を考えてるか、じゃなくて、何を考えさせるか」
「そっちの方が難しそうですけれど」
 それこそ、相手が何を考えているかが分からなければどうにもなりそうもない話だと、イエローは思った。その考えも、なんてことない風に否定される。それこそ本当に、ブルーに良いように手玉に取られっぱなしだ。
「そんなことないわよ。例えば――、そうね。レッドの前で初めて麦わら帽子を取った時、レッドはすっごく驚いていたでしょう。あれはなんで?」
「それは、ボクがそれまでずっと麦わら帽子で髪を隠していて、だからレッドさんはボクを男だと思ってたからで……」
「それも立派な奇襲じゃない? 私が言いだしっぺだけど、大きな麦わら帽子で他の人間に男だと『思わせて』、ずっと取った所を人に見せ無かった。だからみんな男だと思い込んで、だから麦わら帽子を取っただけでとても驚かれる」
 言われて、イエローも納得する。当時の状況は狙って作ったものではないが、帽子でずっと騙していた、男だと思わせていたのは事実だ。驚かれたのも当然だと思っていたが、しかしどうしてそうなったかを分解していくと、確かに自分は帽子をとるという方法で、たったそれだけで、レッドや他の人たちを奇襲したともいえる。
「要するに、当たり前と思わせる事実を意図的に作って、どこかでそれを裏切るのよ。覚えておいてね、これは女の武器の極意と言ってもいいほど大事なことよ? 最初のボールつきブラも、ただ胸が大きいと言うだけにしか思われない裏をかく為のもの。特別感を造るっていうのも、そのまんま新しい当たり前を作る事。相手が何を見ているかと同じくらい自分が何を見せるかを考えなさい。そうして、あえて見せ無かった点を油断させるのよ。駆け引きってのはそう言うものなんだから」
 最後の最後まで説明されて、イエローはブルーが何を言いたいのかようやく理解出来た。それこそ彼女が見せる世渡り上手さの秘訣だ。本当に彼女が実践し続けてきた実体験に裏打ちされたこれは、確かに極意と言って差し支えないものだろうし、聞いただけでもそう思ってしまう説得力があった。けれど。
「む、難しそうです……。なんだか一気に考える事がたくさん……」
 イエローは基本的に呑気な少女である。森の木漏れ日の中でまったりしたり、川辺海辺で釣り糸を垂らしてのんびりしたり。そういう行動が日常の大きな部分を占めている。はっきり言って、目敏く状況を推し量ったり、色んな情報を加味した状況を鑑みるなどと、頭の回転速度が必要になる事は不得意だ。今だって、ここまで聞いただけで頭がショートして煙が出そうな勢いである。
「そりゃあ難しいわよ。でも出来る所からやっていけばいいの。例えば……そうね、これまでよりもちょっと積極的に会う回数を増やしてみたら? せっかくマサラとトキワは隣なんだから。理由は何でも良いし、一度使った理由に何かかこつけてもいいから会う回数を増やして、アンタといるのを当たり前にしちゃいなさいよ」
「ボクとレッドさんが一緒なのが、当たり前……。が、がががが、がんばり、ます」
 簡単に言われたものの、そんな事考えただけで今度は頭から湯気が立ち上りそうだ。やっぱり自分にはまだ早いんじゃないか、と及び腰になってしまう。
「あはは、緊張しすぎ。まだ何もやってないじゃない。こう言うのはやっぱりイエローには向いてなかったかも」
 教えてくれたはずのブルーまでそんな事を言い出す始末。けれど、今度はイエローだって分かっている。これは、ブルーなりの激励なのだ。もし行動に移せなくとも、きっと彼女はイエローを責めないし、挑戦するなら応援してくれるという意志表示なのだ。出来るならばそれに応えたい。

「私はそろそろお暇するわ。急に押しかけちゃって悪かったわね」
「いえ、本当にありがとうございました。……その、どれくらいできるか解らないけれど、がんばります」
 決意を込めて、もう一度宣言する。ブルーは「……ま、無理にならない程度にね」と笑い飛ばし、イエローの家を後にした。
 気まぐれなところのある彼女は、けれどイエローにはいつも優しい。彼女には姉弟の絆で結ばれたシルバーという少年が居るが、イエローも姉と呼びたいほど彼女には支えられてきた。
 支えられるほどに、がんばりたくなるのだ。レッドとは違う意味で彼女は憧れである。
 自宅にはまた一人きり。
 それでも、今のイエローはこれからどうしたらいいかが少しだけ分かった気がしていた。
 せっかく後押しされたのだからと、さっそくどういう口実でレッドに会うか考える。
 そうして、ふと、今朝彼の話を耳にはさんだ事を思い出した。
 たしか、それは……
「……あれ? そう言えば、レッドさんが戦う相手を探していたからどうしようか悩んでたんだっけ……」
 そうしてイエローは思い至った。せっかく色々とブルーに教えてもらったあれこれが、最初に悩んでいた針路から盛大にずれていた事に気がついた。
 当分レッドは戦う相手探しに悩むのではないか。戦う者たる彼は、その方面に関する情熱は人一倍である。
 仮にレッドに会う口実を探すのならば、その方面が一番すんなりいくのだろう。
 しかし、だがしかしその戦いのうんぬんと言うのが、或いは女のなんとやらよりもイエローにとって苦手な項目であるのだ。どう口実にすればいいのかもわからない。
 結局、これから当分、イエローも口実探しに悩むことになるのだった。
 イエロー・デ・トキワグローブ。彼女の恋は、ちょっとだけ多難である。




[36762] 無駄口翠対紅蒼
Name: ひまお◆8bba8b43 ID:adda2dad
Date: 2013/09/30 22:07
「やあエメラルド。突然で悪いけど、匿ってくれない?」
「嫌だ」

 ホウエン地方のはずれにあるポケモンバトルのアミューズメント施設、バトルフロンティア。その一角で、エメラルドはルビーの頼みを一言で断った。
 何でもない少年に見えるその実、二人は名うてのポケモントレーナーである。
 図鑑所有者。権威ある教授から、ポケモン図鑑を受け取り旅に出た子供はいつしかそう呼ばれるようになった。彼等はトレーナーとしての天賦の才があり、またその旅の最中で強大な陰謀と立ち向かう。まるで意図して選ばれた訳でもないが、不思議とそういう運命に巻き込まれていくのだ。
 このホウエン地方には三人の図鑑所有者が居り、二人ともその一員である。
 いつかの騒動が過ぎてからも、なんだかんだとバトルフロンティアを拠点として日々を過ごしていたエメラルドの事をルビーが尋ねてきたのは何の前触れもない事だった。
 そうして出会い頭にコレである。きっと面倒なことだ、とエメラルドの頭脳は一秒かからずに判断を下した。

「まあまあ、そう言わずにさ。友達だろ、頼むよー」

 そう言いながら、肩に回される手を払う。
 ジラーチを巡る騒動が終わってから、ルビーがここを訪れたのは初めてではない。何度か友人として会いに来てくれている。
 その事は素直に嬉しかったし楽しかったが、今持ちだされるそれにはあまりにも裏が見え見えだ。
 今までルビーがバトルフロンティアに来た事は数あれど、一人で来た事など今日が初めてなのだから。
 その上で『匿ってくれ』なんて、彼が誰から逃げているのか最早説明されずとも、エメラルドの目にはあからさまであるのだ。


VSルビー

「だいたい、匿えっていったってなんでオレに話を通そうとするわけ? エニシダにでもブレーンの誰かにでも話せばいいだろ?」
「そうはいっても彼等はビジネスとしてここに居るじゃないか。そういった所まで迷惑をかけるのは忍びないし、でも何かあった時に話しは誰かに聞いておいてもらいたいしね。そんな訳で、フロンティアのヌシみたいなエメラルドにお願いしてるんだよ」
「ヌシってなんだよ、ヌシって」

 詳細の所が分からなくとも、事の大枠は既に掴めてしまっているから、エメラルドはルビーに更に話を聞く事も無ければ、求めに応じるつもりもない。
 彼が言えるのは一番単純な解決策のみだ。

「いいからさっさと帰って、謝るなり観念するなりしたらいいだろ」
「簡単に言うけどね、ボクにも意見があるんだよ。けれども彼女はロケット頭突きみたいに融通が効かないからねえ。今日だって、ボクはのんびりとcuteなボクのポケモンたちと戯れて過ごそうとしてたのにさあ――」
「いいよ話さなくても。大体分かるから!」
「――そんなときにいきなりサファイアが『果たし状を書くったい!』とか言い出して」

 エメラルドが言葉を遮っても、ルビーはまるで意に介さずに事情を語る。
 これは最後まで語るまで止まるまい。あからさまに溜息をついてやるが、それも当然のように無視された。

「そもそもミシロに戻ってからと言うもの、サファイアと父さんとの接点ができちゃってね。それはもうウマが合うらしくて、たーだでさえそれぞれ過分に暑苦しかったのが二倍って感じで、傍にいるだけでvery hot。当人たちは楽しいんだろうけどね」

 ルビーの父がジムリーダーだと言う話は既に聞かされていた。それはそれは強く、厳格であるらしい。
 やれやれだと、辟易しているとルビーは語るが、いつもその表情の中にどこか誇らしげなものが混じっているから、親子仲は彼が嘯くほど悪いものではないのだろうとも思っていた。

「まあ、それは良いんだ。そうなるだろうな、とは思っていたからね。問題はここであったあの事件――というよりか、最後にやったあのトーナメントからの話でさ」

 あの事件。エメラルドがこのバトルフロンティアに訪れ、ジラーチを見つけ出し、図鑑所有者としての先輩を助け、強大な海の魔物を退けた。そんな一連の事件の幕を締めくくったのは、エメラルド含む10人の図鑑所有者によるトーナメントだった。――その時の戦いと勝利した時の興奮は、エメラルドの記憶の中でも特に熱を持った思い出である。

「あれからキミとか先輩方とかの腕前に触発されちゃったらしくてね、サファイアの熱血成分が更に増加。そのオーバーヒートはバシャーモが撃ってるのかい? それともキミの自前かい? ってな塩梅でさ、広いホウエン中をまた飛び回って、やれジムリーダーだやれ四天王だって戦い歩いて。でもそんな事をするときは放っておいてくれればいいのに、ボクまで無理矢理引っ張りまわすんだよ。ダイゴさんとか師匠にまで勝負を挑むとかさ、勘弁してくれって話」

 目の前の少年、ルビーは戦うことに消極的である。必要があれば躊躇はしないようだが、けれど自ら率先して戦おうとはしないようだ。それでも、彼の腕前も人並み以上にある事をエメラルドは知っている。

「……それで? そこまでいったら本当に諦めちゃえばいいだろ。今度はバトルフロンティアも攻略しようっての?」
「そうじゃない、そうじゃないんだエメラルド。言っただろう、彼女は果たし状を書いたんだよ――ジョウトとカントーにね」
「あー、先輩たちに?」
「そうなんだ」

 図鑑所有者は、各地方に散らばっていた。それぞれ、ジョウトに三人、カントーに四人、そしてホウエンに三人。ホウエンとジョウト・カントーは結構な距離がある。その為、ここで起きた事件以降はホウエンの三人でしか会えていないけれど、仲間と呼べるその集まりは何より大切なつながりである。
 そして、彼等は皆、本当に優れたトレーナーだった。あのトーナメントで勝ったのも、自分にバトルトーナメントのシンボルを求めていた分の意気込みがあったからで、もう一度やったとして、同じように勝ち残れるかはまるで分らなかった。それこそ、一戦一戦がシンボルをかけて戦ったブレーンとのバトルと同等以上の濃密さだった。勿論、そうそう簡単に負けるつもりも毛頭ないが。
 それだけの戦いだったのだ。戦いに、強くなる事に熱意を持っている彼女――この場に居ない、ホウエン地方のもう一人の図鑑所有者である――にとって、あの戦いは種火とったのだろう。そしてまた再びやりたいと望むのは、エメラルドにも共感できる。

「ボクとしては別に先輩方がどうのって訳じゃ無くて、余所の地方までバトル行脚に引っ張られるのは流石に御免。まあ、ちょっとジョウトに帰ってみたくはあるけれど、もしも行ったら、先輩方だけじゃなくてまたそこかしこのジムリーダーや何やとのバトル、バトル、バトル、で着いて行くボクまで巻き込まれるのは必至」
「ああ、ジョウトの生まれなんだっけ?」
「一応ね」

 ジョウトと言えばエメラルドにとっても思い入れの深い所だ。ふと、昔の記憶を懐かしむ。
 クリスさんは今どうしているだろう、と自らの中で色んな意味で特別な一人に思いを馳せる。ルビーの話なんかそっちのけだ。一通りの事情も聞き終わったからそろそろ本当に聞くだけ無駄な話になるだろうし。

「まあ、それはとにかく。サファイアもさあ、見た目はcuteなんだから、もっと行動も大人しくして欲しいよ。ああ別にね、強く成ろうってのにそこまで文句がある訳でもないんだよ。彼女のやりたい事はやりたいようにすればいいし、躓いてへこたれたりそれでも立ち上がったときとかもまたcuteyだからね。ふとした時に見せる女の子らしさがvery goodなんだけど。とにかく、ボクとしては戦いだ特訓だにボクまで引っ張り回さないで欲しいんだよね。一緒に戦うってのも、まあ正直楽しくはあるけれど、それでもボクの本分としては戦いよりも美しさな訳。そんな汗水たらして泥だらけになってさあ。いやそう言うのが魅力になるというのも十二分に理解はできるし、そばで見てても思うんだけれど、やっぱりその原石な美しさよりも磨いた宝石の美しさが勝ると思うんだよね。だからサファイアにはもう少し女の子らしくして欲しいですよね、ってオダマキ博士と語る訳だよ。博士も苦笑いするけど同意してくれるし――」

 一通り記憶を振り返っり終わってみても、まだまだルビーは語っていた。語り続けていた。このまま放置して自分がどこかに行っても語っているんじゃないかとも思ったけれど、それはフロンティアに来るお客さんに迷惑になりそうだ。

「はーい、はいはいはい。わかったわかったもういい喋るな。ピラミッドに挑戦するなり、アトリエの穴に籠るなり好きなようにすればいいだろ。オレもね、暇じゃないの。というか暇が無くなってくんだよおまえらの話に付き合わされると」
「ごめんって、後で何か埋め合わせはするからさ。それじゃボクはアトリエの穴に居るから、サファイアが来たら適当によろしくー」

 言うが早いか、近くの水路からミロカロスに乗って、その姿はあっと言う間に見えなくなった。
 これでようやく一段落である。前半戦は収まったんだから、それこそ一息つける――

「ルビーっ! どこに居るったーい!」

 ――訳でもなく、どうやら後半戦は早々に始まるらしい。


VSサファイア

 小柄なエメラルドを吹き飛ばさんばかりの風を起こしながら、トロピウスに乗ったサファイアが目の前に降り立った。

「久しぶりったいエメラルド。あん人、ここに来なかったと――来ったたいね?」

 身軽く明るく挨拶をしながら、それでもきょろきょろと視線を彷徨わせ、けれど最後には鼻をひくひくとさせながら断定するように聞いてくる。
 エメラルドはまた溜息をつきながら、挨拶を返す。

「久しぶり。……匂いで分かるもんなの?」
「あん人は香水付けてるったい、居た場所にはそれが残ってるとよ。まったく、男のくせにそんなものをつけて……」

 試しにエメラルドもクンクンと匂いに意識を集中させてみるが、特徴的な匂いなど無い。そもそも、さっき話していた時にも香水なんて気が付くほどは匂っていなかったし、ひょっとしたら今トロピウスが吹き飛ばしてしまったのかもしれないが、それでも分かるサファイアは相当なものである。何が相当であるかは明言はしない。

「そんなんだからいつまでたってもなよなよして見えるんだって言っとう、ぜえんぜん変わらん。やればできるってのは私も知っとうけど、だったら普段からもう少しシャキっとしてればよかと思うのに、なっかなかそのスイッチを入れん。エメラルドはああいう人間になったらダメやけんね」

 トロピウスをボールに戻しながら、サファイアはやれやれといった体で溜息をついた。苦笑いだけ浮かべて、エメラルドは先ほどルビーから聞いた話を尋ねる。

「先輩たちに果たし状出したんだって?」
「ああそうそう、その話ったい。先輩たちは強かった、あの時の戦いはすごく面白かったとよ。あのくらいの戦いは中々なかし、エメラルドは勝ち抜いたけど、いちトレーナーとしてはまた戦いたかって思うでしょう?」

 その言葉にはエメラルドだっておおいに同意するし、より納得もいった。自分だってギリギリかつレベルの高い戦いができるなら、それを自分から望もうと思うくらいの意欲はある。そして、熱血と言う言葉が非常に似合いそうな目の前の彼女なら自分以上に心待ちにする事だろう。加えて言えば、このノリで手を引かれそうになったならあのルビーなら逃げもしよう。

「やけん、ただ行って戦ってくれんねじゃあ面白味が無かから、ちょこっと捻って果たし状ば出したったい」
「へえー。それでルビーも引っ張ってこうとして逃げられたの」
「そーばい。あん人は『バトルの為だけの大旅行は遠慮させてもらうね』とか言うて、ちょー目ば離した隙にnanaの『にげあし』ば使ったのかってくらいあっという間に逃げ切られて……」

 言いそうである。似たような事は実際についさっき聞いたばかりだ。
 そして――そろそろまた頃合いだな、と再び過去の記憶に思いを馳せる。
 先輩方の話題が出たせいもあっただろう、自然に振り返ったのは、自分がこのバトルフロンティアに足を踏み入れてからの七日間。濃密過ぎるほど事件の連続だった一週間。多くの人と知り合い、友と仲間と呼べる絆を作る事の出来た忘れ得ぬ日々。

「そもそも逃げる時もやり口がせこか! 綺麗な服ば渡して『ところで自信作なんだけど』とか言って人ば惑わしながらそん隙に逃げるなんて、男んする事じゃなか! そりゃあ、確かに可愛か服やったけど、乙女の純情ばなんだと……。そもそもこっちが勇気だしてあん時ん事ば確認しようとしてもはぐらかすし、服ばプレゼントされるのは嬉しかけど、そーゆうこつやなくて。私としてからは普段がらかっこよ……しっかりして欲しかゆうか、ここぞゆう時だけやなくてもっと普段がら真っ直ぐ向き合っちほしかっちゆうか、センリさんだって『進む道はとにかく、もっと男らしくしてくれれば』っち言うてるし、出来るなら時々は向こうから引っ張ってってほしかっていうのに。確かに普段の飄々とした所も、手先の器用で綺麗好きな所も、ぜーんぶまとめてルビーだいうのもわかっとうけど、でも、私は泥だらけにもなるし、着飾るのもなかなか慣れないし、あんまり私が違うから、本当に好いとうてくれてるのかちょっぴり不安になって……。……エメラルドはどう思う?」
「あ、ごめん聞いてなかった」
「そんな、エメラルド、人がこうして目の前で話しとうに」

 そうは言われたとて、自分でも思いの外記憶を振りかえるのに夢中になってしまったのだ。究極技を習得したときとか、皆で一斉にそれを撃った時とかは、振り返るだけでもぞくぞくしてくる。あれをこなせた自分がとても誇らしく思えるのだ。
 それに、聞いていようが聞いていまいがそう問題になる話でも無かったろうに。最近学んだ思い出を振り返る現実逃避は、バカップルと話していてもイライラしない防衛策としてその効果を遺憾なく発揮してくれている。

「とにかくルビーを連れていければそれでいいって話でしょ。アトリエの穴に行ったよ」

 エメラルドは、ルビーを売ることに僅かな躊躇いすら無かった。
 二人の中の良さを見せつけるような喧嘩は、本人たちはそのつもりはなかろうが見せつけられる側としては正直鬱陶しい。二人がそうそう本気で仲違いを起こしはしなかろうことについて十分すぎるほど見せつけられてきたエメラルドとしては、厄介事に巻き込まれそうなときは放置が基本方針である。
 それはそうと、先輩たちとバトルすると言うのは楽しそうだ。距離があるから今までは遠慮していたが、今度久しぶりにジョウトに行ってみるのもいいかもしれない。

「ありがと! それじゃあ後は出発の日まで三人で特訓たいね!」

 言うが早いか、先ほどボールに戻したばかりのトロピウスを再び出してその背中に飛び乗「ちょっと待て」
 ろうとした所で、その襟首に自慢の伸縮するギミックアームを伸ばして無理矢理止めた。

「なんね、用があるならすぐあの人ば引っ張り出してくるから――」
「……三人ってどういう事?」
「三人っていったら、ルビーと私とエメラルドのホウエン制覇トリオに決まっとうよ」

 ホウエン制覇トリオとは、ホウエンの図鑑所有者三人が、それぞれコンテストリボン、ジムバッチ、フロンティアシンボルを集めきっていることから、ホウエントリオまたは制覇トリオっと言う事にしようとルビーとサファイアが持ちかけた名称である。エメラルドは両方断った記憶があったが、今はそれよりも問題があった。

「なんでオレまで!? いいよ二人っきりで行ってこいよ。バトルは嫌いじゃないけど、自分のペースでやりたいっていうかさあ」

 綺麗な理由を言うとするのならば、まだ誰かと共闘することに照れや小っ恥ずかしさがあるから。
 それ以上の本音な理由は、脇でいちゃいちゃされるとまず間違いなく集中できないから。もしもそれが自分の片側で、二人がべたべたとくっついてやるのならばまだ我慢が出来よう、或る程度意識の外に追いやれるかもしれない。
 問題は、間違いなくこの二人は何故か自分を挟んで仲睦まじく痴話喧嘩をおっぱじめる所にある。何故か執拗に自分を挟むのだ。
 二人の事は憎からず思っていたと手、掘っておいてくれと何度思ったか分からない。ポチエナも喰わない痴話喧嘩をステレオで聞かされるなんて、最早拷問に近いんじゃあないだろうか。
 例えカントーやジョウトに行くとしても、今回は遠慮しておいてあとで一人でのんびり回るのも悪くない。一人だからこそ回りたい所もあるのだ。
 そんなエメラルドの考えを余所にニコニコと上機嫌で言われたその言葉は、完全に予想の外にあった。

「なぁに言っとうと。チームなんだから、むしろそのペースを合わせるったい。いやー、三人で息を合わせてって、究極技の訓練の時を思い出すたいねー」
「……はい? チーム?」
「前回はトーナメントをやったったいからね、今回は対抗戦に決まっとうよ」
「ちょっとまって、オレ聞いてないよそんな話。いつ決まったのさ!」
「え? いつって、そうったいね。センリさんに、ポケモン協会で新しい形式のバトルが制定されるって内緒話を聞いて、それがチーム戦に丁度いいなって思いついて、あー…………話してなかったったい。ゴメンね?」
「えええ……、聞いてないって、それ……」

 既に果たし状を出したと言うなら、今更自分がどうこう言おうが最早それは確定してしまった話なのだ。
 とりあえずルビーを捕まえてくる、と飛び去ったサファイアを力なく見送った。
 ……バトルについては、本当に楽しみである。楽しみであるが……。

「耐えられるかな……、チーム戦の練習」

 恐ろしい惚気の挟撃があまりにもありありと予測できる未来に、エメラルドは今日何度目かも分からない溜息をついた。
 果たしてこの溜息も何度つくことになるのやら。そう思ってしまい更にもう一度。
 10人目の図鑑所有者、エメラルド。彼の心労が癒える日は果たしてくるのか。



[36762] 無駄口金銀晶
Name: ひまお◆8bba8b43 ID:adda2dad
Date: 2013/09/30 22:03
「ようし、シル公! ジム巡りしようぜ!」
「……いきなりなんだ?」

 ジョウトのある昼下がり。ワカバタウンのポケモン屋敷と呼ばれる民家のリビングで、そこの一人息子のゴールドと、居候のシルバーはのんびりと過ごしていた。
 怠惰に過ごしているように見えるその実、彼等は名うてのポケモントレーナーである。
 図鑑所有者。権威ある教授から、ポケモン図鑑を受け取り旅に出た子供はいつしかそう呼ばれるようになった。
 彼等はトレーナーとしての天賦の才があり、またその旅の最中で強大な陰謀と立ち向かう。まるで意図して選ばれた訳でもないが、不思議とそういう運命に巻き込まれていくのだ。
 このジョウト地方には三人の図鑑所有者が居り、そのうち二人がこのゴールドとシルバーである。

「いや、俺らってジムバッチ集めなかったし」
「何の話だ」
「だから俺らが図鑑貰ったあたりのころさ、ジョウトは大体回ったけど、俺もお前もクリスもジム巡りはしてなかったんだよな」
「あの頃は、それぞれ目的があった。それの中にジム巡りはなかったのだから仕方ない。それに、ジムの方もスイクンら三匹やカントーとの交流戦と忙しかったようだしな」

 それ以前に一度カントーで壊滅した筈であったロケット団。その彼等のジョウトでの謎の復活を主軸とした一連の事件に、ゴールド、シルバー、クリスタルの三人は様々な立場で立ち向かう事となった。
 その中心を最初から追っていたシルバー。そのシルバーを追いかけていたゴールド。
 そして、図鑑を手にしていたのにもかかわらず碌にポケモンを取らない二人に変わり、ジョウトのポケモン捕獲を引きうけたクリスタル。
 彼等の目的はそれぞれにとって切実なのもであったが、けれどそれらの中にジム制覇を絡める必然性は無かったのである。

「そらそーだけどよ、でも、カントーはレッド先輩がジムバッチ集めてリーグ優勝してるし、ホウエン組なんか三人が三人とも色々やってるし。後輩としてやるべきことっつーか、先輩としての威厳っつーか、ハクが足りねえと思うんだよな、俺たちには」
「俺やクリスまで一緒にするな。威厳が無いのは、普段からおちゃらけているお前くらいなものだ」
「ああん!? おめーそういう事言っちゃう? 上等だコラ表出やがれ、バクたろうの『かえんぐるま』で黒コゲにしてやるぜ」
「出来ない事は言うもんじゃない。……そうだな、お前には必要かも知れないな。周りに追いつくためにそれくらいの武者修行は」
「舐っめんな、シロガネ帰り伊達じゃねえぞ! おめえこそそうやって余裕綽々としやがって。いつかのトーナメントじゃあ直接対決は無かった分、今やってやるか!」

 一触即発。第X次ワカバ大戦此処に勃発かと言うその時、あまりにもタイミングよく、二人の喧嘩に水を差す音があった。
 ピンポンと響くチャイムの音と、続いて聞こえてきた少女の声だ。

「すみませーん! ゴールド、シルバー、居るー?」
「「……クリス?」」



「……せっかくホウエンから届いたフエン煎餅とお手紙持ってきたっていうのに。今日はなんでケンカになったの?」

 三分後。先刻まで散らす火花を可視化せんばかりだった二人の間には、それ以上に怒っていますと言う表情を露わにするクリスが鎮座していた。
 ゴールドとシルバーは、互いに目を合わさず不機嫌そうに煎餅をバリバリと噛み砕く。

「いや、俺らってジム巡りしてねーなーって話から」
「なんでそんな所から喧嘩になるの……」

 まったくコイツらはとばかりのクリスタルに、しかし男どもは言葉を返す程の発言力は無い。
 普段の捕獲業務で培われた彼女の脚力は、反応することすら許さない制圧力を持っているのだ。

「確かにあの頃、誰もジム回ろうとして無かったけど、でも正直今更じゃない? それにゴールドはポケスロン制覇してたじゃない。あれじゃ満足できないの?」
「ありゃあお祭りみてーなもんだったからな。やっぱ全力勝負で必死に戦った証が欲しい訳よ。お前らは思わねえの、そう言うの」
「どうかしら。私は捕獲の仕事があるし、オーキド博士の所もあるし、結構それで充実してるけれど……」
「戦いはあくまで手段だろう。大事なのは目的を達成することだ」

 にべもない二人の言葉に、マジかよ、とゴールドは天を仰ぐ。

「お前らそれでもトレーナーの端くれかよ! もっとバトルに熱意出そうぜ。特にシル公! おめえはそれこそあの頃、俺と手に汗握るバトルしただろうがよ! 思い出せよ、あの熱意を!」
「それこそあの頃はな。俺もポケモンたちも、凄い速度で成長していた。マスクオブアイス――ヤナギを追う為に必死なのもあった。……まるで弱いくせに、うっとおしいほどに俺を追ってくる奴もいた。強くなる事自体、自分が前に進んでいる実感が湧いて楽しかったのは確かだ。が、一度色々と落ち着いてしまうとな」
「なぁにが落ち着いただ。親父さん追うんじゃねーのかよ! 将来のやりたいことを聞かれて『父さんを、ロケット団を……止める!』って格好つけて言いきったシルバー君はどこ行ったんだよ!」
「いや、ロケット団自体は現在本格的な活動はしていないようだ。変に急く事もないだろう。それに、その時の話で将来進む道も考えられたからな」
「あらなに、将来って。二人でそんな話してたの?」
「コイツが自分の将来どうするか悩んでいる、と言う話から、他の図鑑所有者の例と比較してな。確かに、俺も父さんを追う以外あまりハッキリとしたものは決めていなかったし、中々有益な議論だったと思う」
「結構面白そうな議題ね。私は今も仕事はしてるからとにかく、シルバーはどういう方面を考えたの?」
「あまりすぐには思いつかなかったんだが、警察という案を出された。……正直、今まで真っ当な生き方ばかりしてきたわけじゃないから気が進まない面もあるが、確かに、父さんを追うのにもそう言う立場があった方が良い事もありそうだしな」
「警察! あはは、良いんじゃない? 私も似合ってると思う」
「そうか?」

 ふふふ、と笑い合い和む二人に、除け者にされた疎外感の籠るゴールドのじっとりとした声が掛る。

「おーい、クリス、委員長。俺は気になんねーの? つーかお前も案出してくれよ、俺の将来の」
「え? ゴールドは育て屋さんでしょ?」
「お前もかっ!」
「……当然だな」

 なんでだよ、と突っ込みをれるゴールドを脇目に、クリスは然りと頷くシルバーへ頷き返す。

「だって、ねえ。今までせっかく見習いとして精進してきて、ご夫妻の御引越しを機にこれまでの所を預かることになったんじゃないの?」
「誰が見習いだ誰が。ねえよそんな事実!」
「なんだ。じゃあこっち、ワカバで新しく?」
「育て屋自体やるつもりがねえつってんの」
「本気? もったいないし、無責任じゃない?」
「何が」
「だって育て屋さんは、あのコガネのそばで長いことやってらっしゃったんでしょう。常連さんとか顔馴染みの顧客の方もいっぱいいるんじゃない?
「まあ、そりゃなあ」
「あの夫妻の人柄だからしっかりとした信頼もあるでしょうけれど、それって普通は築くのがすごく大変なのよ。でも、普段からお手伝いに行っていたゴールドならそういう人に顔も知れているだろうし、ご夫妻の後釜というのもすんなり納得してもらえる」
「う、うぐぐ」
「これくらいお膳立てが整ってるんだから、ねえ。シルバーもそう思うでしょ?」
「そうだな。いや、ここまでの状況になってしまえば、逆に外を歩いていても人から『育て屋のお仕事はお休みですか』と聞かれるかも知れん」
「ね……ねえ、よ……」

 口では否定しながらも、内心では、言われた状況に納得しそうであったし、シルバーの言う予測などもすぐにありありとその状況が思い浮かんだ。
 これは一大事である。
 何しろ周りの人間からのゴールドのイメージが、『ポケモン屋敷のボン』でも、『ジョウトの図鑑所有者』でもなく、『育て屋の若者』として認識されてしまいかねない状況と言うこと。
 少なくとも現在ゴールド自身はそんなアイデンテティを求めているつもりなど全くないにもかかわらず、だ。

「だから言っただろう。世の中には嫌だと言おうと逃れられない事はあるものだ」

 諦めろ、とばかりにシルバーに優しく肩を叩かれる。
 そこがゴールドの限界だった。

「駄目だ駄目だ! やっぱり、それこそ、だからこそ、でかいことしなきゃなんねえ、ジム巡りとかよー! 実績が必要だぜ、それさえあれば――」

 他の道が拓けるかもしれない。そう言いたかったし、思いたかったが言葉にならなかった。
 自分自身でさえ、自分が育て屋を経営している未来図がリアルに想像できてしまっていたからである。それでも、決められたような未来像にはどうにか抵抗したいのだが。
 うがあ、と抗えなさそうな未来予想図にもがくゴールドに、シルバーとクリスは、やれやれと苦笑いする。
 結局のところ、頼まれたら断れないたちなんだから、諦めればいいのに、と。

「はいはい、ジム巡りでも何でも、後で好きなだけやればいいから。そんなことより」
「そんな事じゃねえよ! オレの将来を左右する重大ななあ」
「そんなことより、私たち当てに手紙が来てるのよ。ホウエンのサファイアちゃんから」
「ああ、この煎餅と来たっつう。……野生児ギャルから?」

 つい数秒前までうだうだと叫んでいたゴールドも、予想外の名前にキョトンとする。シルバーも興味深そうにクリスに視線を向けた。
 クリスは懐から懐から出した封筒から手紙を一通取り出すと、咳払いを一つ。

「こほん。それじゃあ読むわね。えーと『はたしじょう』」

 いきなりのタイトルに、思わずゴールドとシルバーが吹き出して、煎餅のカスが部屋に舞う。
 予想していたのか、クリスはそれを意に介さずに読み進める。

「『せんぱいがた、とつぜんですがおてがみをおくらせていただきます』」
「タイトルの方がよっぽど突然だったぜ」
「『このまえのトーナメントはとてもたのしかったです、そこでセンリさんにきいたとですが、こんどポケモンきょうかいで、あたらしいけいしきのバトルができるかもしれないそうです』」
「そこでって話が繋がってねーよ。てか、センリさんて誰だよ」
「……ゴールド、一文ずつ突っ込むな。話が聞きづらい」
「おっと、スマンスマン。ツッコミどころについジョウト人として反射しちまった」
「『それは、トリプルバトルというそうです。トリプル、というのはさんにんといういみだそうです』」
「んなことは分かる――……悪い悪い」

 再びツッコミを入れてしまい、ゴールドは話が進まないと四つの目に半眼で睨まれた。

「『そんなわけで、ていあんなのですが、こんどはそれぞれのちほうで、チームせんをしませんか』……と、まあ大まかにはこんな所ね。後はいつごろの日時が良さそうか、とかそういう話」
「トリプルバトル、か。名前と手紙の内容から、どうやら3対3のバトル、という形なのだろうか。クリス、オーキド博士の所では何か聞いていないか?」
「そうね、小耳に挟んだくらいだけれど……、確かに3対3で、結構広いエリアで戦う形式みたいよ? ダブルバトルでは全員に効果が及ぶような技でも、避けられるくらいの広い範囲だとか」
「それであれば、かなり大掛かりなものなんだな。単に、ダブルバトルの拡張型、という訳でもないのか。…………どうした、ゴールド」

 手紙の中にあった『トリプルバトル』について考察するクリスとシルバーであったが、しかし手紙を読み上げる最中はしつこくツッコミを入れていたゴールドは今は何故か黙り込んでいた。
 かと思えば今度は顎に指を当て、ニヤリと、曰くありげな笑みを浮かべる。

「……なるほど、ほほう。コイツはひょっとして、チャンスなんじゃねえか?」

 ムフフ、と怪しげな笑い声まで漏らすその様子に、残りの二人は、「ロクでもないことを考えているな」と白けた視線を惜しみなく送る。

「チーム戦つうんだ、こっちだけじゃ無く、カントーの先輩方にも送ったんだろう。地方対抗戦。つまり最強の図鑑所有者チームはどこかって決める訳だな!」
「最強って……。私最近研究所で北のシンオウの方へのポケモン図鑑の計画を手伝ってるから、新しい子たちもいずれ決まるんじゃない?」
「この間のトーナメントだって、別に優勝したエメラルドが最強の図鑑所有者だという話にはなってないだろう」
「いやいや、だからこういうのは言ったもん勝ちなんだって。俺たちが優勝してから言うのは勝手だろ、しかも事実なんだし」
「事実も何も、勝てるかかなんて分からないじゃない。そう言う皮算用は得てして無駄になるんじゃないの」

 冷静なクリスの言葉に、コレだから委員長は、とゴールドは顔に手を当て天を仰いだ。

「だから、勝とうと思って、勝つと思ってやることが大事なんだって。そんな弱気じゃ初めから負けたも同然じゃねえか」
「弱気じゃ無くて、客観的に見ようとしてるだけ」
「いやいやいや、客観じゃねえだろ、クリスも出る当事者なんだから主観上等じゃねえか。そしてシルバー! お前もやれやれってすかしてねえでこういう時くらい熱意を見せろよな」
「俺もクリスも、お前が無駄にうるさいから、落ち着いて諌める側に周らざるを得ないんだろうに」
「逆だ逆。お前らが無難すぎるから、俺がこうして熱血側に周てんだよ。お前らだって先輩らとか後輩共とのバトルなら本気でやるって分かってるけどよ、モチベーションとして、熱意ってのは重要だろ」
「言う事は分からなくはないけれど。……ねえゴールド、あなた熱意とかを持ちだして、煙に巻こうとして無い?」
「なっ、なっ、何言ってんだよ委員長! 俺はそりゃもう、図鑑所有者がまた一堂に会すせっかくのイベントを盛り上げようとな、純粋な厚意であってそれ以外の何物でも」
「お前がそう簡単にボロを出すんだから本気じゃないんだろうが、名声なんてものは、後で自分でジム巡りでも四天王挑戦でも勝手にやればいい」
「そうそう。ゴールドの言うとおり、こういう事なら私たちだって全力でやるんだから、それを利己的に利用しようっていうのはアウトよ」

 厳しく釘をさす二人に、ゴールドも大きな溜息で了解する。

「……わーったよ。っま、バトル自体が楽しそうだってのは俺だってそうだしな。人生プランの見直しは別の機会にするよ」
「それでいいのよ。全く、何かあるとすぐ調子に乗るんだから。だいたいいつもねえ……」
「まったまった、委員長。今回は反省したんだから、御小言は止めてくれ。それよりか、新しいバトル形式っつ生んだからよ、作戦の一つでも相談しようぜ?」
「だからそうやって調子のいい事を言うから、もう。でもいいわ。私も今回は真面目にバトルやってみたいし」
「そうこなくっちゃ! おいシル公、こういう話ならお前も文句ねえだろ、ちっとは喋って案を出せよ」
「お前が面倒にひっかきまわしたんだろうに。構わないが……ちょっと待て。その前にやる事がある」
「どうしたの、シルバー?」
「後三分で、タウリナーΩだ」
「「……さいですか」」


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