それは、偶然だったのか、必然だったのか。
決まっていたことなのか、たまたま選ばれただけだったのか。
運命か、それとも運命の気まぐれか。
いずれにしても、あたしたちは、いつの間にかその村に迷い込んでしまいました。
『地図から消えた村』かもしれないと、お姉ちゃんは言いました。
入ってきたはずの道は、古ぼけた鳥居を残して草むらの中に消え、そこから一望できる村に行けば、きっと誰か人がいるハズだと、当ても無く歩きました。
そして人がいそうな気配を感じて入ってみた古い家から、いつの間にか出られなくなっていたのです。
入った時は、きしんだ耳障りな音を立てながらも、さほど力を入れなくても簡単に開いたのに、出ようとしたら何か強い力で押さえつけられでもしたかのようにビクともしません。
まるで、閉じ込められたかのように。
「…開かない」
何度試してみても、やっぱり開かない。開く気配も無い。不安になって、傍らに立つ姉を見ます。
「どうしよう、お姉ちゃん」
「…澪」
お姉ちゃんは少し考えた後、ゆっくりと口を開きました。
「これはきっとドッキリだね」
…は?
「ずいぶん凝ったセットだよね。この不況下でよくこんなの造れたよね」
「…え? ちょっと待ってお姉ちゃん?」
「うん? 何、澪?」
何か変なコト言った? とでも言うような顔で、あたしを見返してきます。
「ドッキリとかセットとかって、何のコト?」
「何のコトって…」
しょうがないなあ、とお姉ちゃんは苦笑します。 …いや、飲み込めないんですケド?
「こんなの、テレビの企画に決まってるじゃない」
いやいやいやいや! ちょっといきなり何言ってるの!?
「きっとそのうちオバケの格好した芸人さんとか出てくるんじゃないの?」
「お姉ちゃん、そんなの無いって!」
「なんで?」
聞き返されましたよ? あれ? あたしがおかしいのかな?
「だって澪、こんな大掛かりな仕掛けっていうか、セットっていうか… そんなのテレビしかありえなくない?」
「違うよ! いろいろと変すぎるよ! あたしたち、別に芸能人とかじゃないじゃない。なんでいきなりテレビのドッキリになっちゃうの?」
「そうだねえ…」
お姉ちゃんは、んー とアゴに指を当てて考え込みました。そして何か思いついたらしく、ポン、と手を打って。
「友達の誰かが勝手に応募したとか?」
…あっれえ?
「困るよねえ。いくら双子美少女だからって、勝手にそんなコトされたらさぁ。ねえ?」
困るよねえ、とか言ってるわりに、なんとなーく嬉しそうだねお姉ちゃん… いやいや、そうじゃない。
「仮にそうだとしても、ココ絶対ヘンだよ。この村に来る前はまだ日が高かったのに、いきなり夜になってるし、人の気配はするのに姿は見えないし」
「じゃあ、澪はなんだと思うの?」
「だから… 本物のオバケとかじゃないかなって…」
「オバケって… 澪…」
お姉ちゃんは、やれやれとばかりに肩をすくめました。
「いいかげん、そういう妄想は卒業したほうがいいよ?」
ちょーっとお!?
「現実で考えなよ。オバケなんているわけないって」
「え? でも、お姉ちゃん、霊感強かったよね? よく金縛りに合ってたりとかしてたじゃない?」
「ああ、あれ設定」
「設定!?」
「こんなあたしカッコイイ! みたいな。アレよ、中二病ってやつ」
ええええええええええええええ!? そんな、こんなトコロであっさりとカミングアウトされてもお!?
「あたしみたいに幸薄そうな美少女だと、『世界を救う力』とかより、『理不尽に降りかかるこの世ならぬ災い』のほうがしっくりきたりするのよ」
…今、あたしに理不尽な災いがピンポイントで降りかかってますよ… って言うか、自分で美少女とか言っちゃうんだお姉ちゃん…
「そんなわけだからさ、この家の中うろつきまわっていろんな仕掛けに怯えたリアクションとか取ってたら、芸人さんが『ドーモドーモ、ドッキリで~す』とか言って出てくるよ」
なんかもう、そんな気もしてきた… で、この家の中を歩き回ってみたのですけれど。
「お姉ちゃん、このメモ… あたしたちみたいに迷い込んだ人が、他にもいるんだよ」
「ありがちな設定だね… もうすこし(あたしの理解をはるかにこえた次元の話題になったので、省略します)ぐらいのでなきゃ、視聴率取れないんじゃない?」
「…お姉ちゃんって、そんな知識をどこから仕入れてくるの?」
『ますみさん… どこ…?』
「ホラあ! やっぱりオバケいるじゃん! あたしの言った通りだよ!」
「だーかーらー、演出だってば。もっと気合の入ったリアクション返さないと、これから先使ってもらえないよ?」
「射影機… コレでオバケと戦えるっぽいよ…」
「つまりコレで、チェックポイントを回った証拠を撮って来いってことだね!」
「お姉ちゃん… どうあってもテレビの企画で通す気なんだね?」
「この歳でオバケとか言い出す澪の方が変だよ? もう何年もしないうちに高校生なんだから。ちゃんと受験とか将来のコトとか考えてる?」
「ゴメンちょっと黙って… なんかもう、射影機が鈍器に変わりそうだよ…」
「襲ってきたあ! さっきのオバケ、襲ってきたよおおおおお!?」
「ホラあ! 澪が使えないリアクションばっかするからADさん怒っちゃった」
「違うよ! ADさんじゃないよ! 射影機めっちゃ反応してるよ!」
「頑張って、澪。ここがこれから先、あたし達がテレビに使ってもらえるかもらえないかの境目だよ」
「むしろ生死の境目だよ!」
と、色々ありまして… 色々で済ませられないようなコトばっかりだったけど。むしろお姉ちゃんが色々でしたけど!
気がつくと、あたしは一人で倒れてました。すぐ近くに射影機が転がっている以外には、何も。
「…お姉ちゃん?」
いない。
「お姉ちゃん!?」
さっきより大きな声で呼んでみるけど、何も返事が帰ってこない。
「お姉ちゃん …お姉ちゃん!?」
あたしは何度もお姉ちゃんの事を呼びつつ、倒れていた二階の部屋から廊下に向かって飛び出しました。と、
「お姉ちゃん!!」
いた。いました。廊下から見下ろしたその先。どうやっても開かなかった玄関の扉を開けて、お姉ちゃんはそこに立っていました。そして、どこか寂しそうな目を向けて、ぽつりと、申し訳なさそうな声で言いました。
「ゴメン、澪。やっぱりあたし、行かなきゃ」
「…お姉ちゃん?」
行く? こんな不気味な村の、一体どこに?
そう尋ねるより早く、お姉ちゃんの口が動きました。
「やっぱり今どき双子ってだけじゃ、インパクトが弱いと思うの」
…は?
「これからの時代、一人でなんでもこなせるオールマイティーなアイドルが必要だと思うの」
…はあ?
「だから、行くね。お姉ちゃん、ソロで頑張るからね」
そう言って、お姉ちゃんは行きました。心の中に『?』が浮かびまくっているあたしを置いてけぼりにしたままで。
…なんかもーどーでもいーやー。
《あとがき》
手元にソフトと設定資料集はありますが、Wiiを持ってませんので『眞紅の蝶』は未プレイです。